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すぱろぐ大戦BBS・SS投下スレ

168人気者なんです:2008/03/15(土) 00:13:08 ID:Jn8/8YfU
――喫茶TIME DIVER 閉店後
 閉店時間になり、看板となった喫茶店で厨房の掃除から開放されたトウマは同じく、フロアの清掃をやり終えたフー=ルーを捕まえた。
「フー=ルー。さっき、イングラム少佐が来てお前に贈り物を置いていったぞ」
「少佐が? 何かしら」
「先月の礼だってさ。ちょっと待っててくれ。今、持って来る」
 それは先程、先生によって託されたものを渡す為だった。
「ああ、あの時の。……律儀ですのね、あの方は」
 先月のチョコビーンズの礼だと言う事が判ったフーは薄く笑う。
 別にお返しなど期待していなかったのに、それを態々持って来たワカメが微笑ましく、また少し嬉しかった。
「こいつだよ」
 トウマは厨房に戻り、冷蔵庫の中からそれを持ってくる。
 片手に白い、小さめの箱。もう片手には皿とデザート用のナイフとフォークが握られていた。

「拝見しますわ。……これは」
「どれどれ、へえ。ケーキだ」
 その箱を開き、フー=ルーはその美味そうな姿に唾を飲み込んだ。
 中に入っていた物。それは小さめのラウンドの黒々とした色をしたシフォンケーキだった。
「これは、市販……ではないわね」
「ああ、微妙に形が不揃いだ。きっと、少佐の手作りだよ」
 トウマは厨房担当としてその見てくれから、フー=ルーの疑問に答える。見た目は及第点だ。
 だが、これ以上は実際に食べてみてからの評価となる。
 絹の様な軽さと食感が売りのケーキは油とメレンゲのバランスがかなり難しいのだ。
「食べましょうか」
「俺ににも一切れくれないか? ちょっと少佐の腕に興味がある」
 フー=ルーは適当にナイフでラウンドを切り分けると、トウマの皿と自分の皿にケーキを置く。
「では」
「おう」
 そして、試食の瞬間。
「っ……はむ」 
 口元にケーキを運ぶフー=ルーは強いブランデーの香りを確かに感じる。だが、次の瞬間に来たのは黒胡麻のまったりとした香ばしい香り。
 微妙にミスマッチっぽいがその二つの香りが混ざると何とも言えない不思議な美味しさに変わった。
「……おいしいわね、これ」
 フー=ルーは嚥下した後にそう零した。騎士としてではないが、余り甘い物を食べないフー=ルーですら、それを美味いと言わしめた。
「ああ。大胆な材料の使い方だ。黒いのはココアの色だと思ったけど、違った。レーツェルさんの味とはまた違う美味さだよ、これ」
 トウマは嘗てレーツェルの作ったケーキを食べた事がある。それでも先生のそれにはレーツェルものとは違う美味さがあった。
「でも、これ甘さがちょっと控えめ過ぎるって言うか、アルコールが完全に飛んでないのか? 少し苦いけど」
「あら、私は好きでしてよ? この味。大人向けね、これは」
「少佐は酒好きらしいけど、あの人らしいっちゃあの人らしいかな」
 問題点があるとすれば、それは少しだけアルコールの苦味が残っている事だろうか。だが、フー=ルーはこの味が好きだった。
 そんな彼女の顔を見ていると、トウマは何となくフー=ルーと言う人間が自分の想像と違う事に気付いたらしい。
「何にせよ、有難く頂くわ。……私が、こんなモノにうつつを抜かす時が来るなんて、ね」
「・・・」
 嬉しそう、また少しだけ照れ臭そうなフー=ルーに声を掛けようとしたトウマだったが、それは止めた。
 ……そんな彼女も偶には良い。
 ギャップと言うモノが齎すモノが何かは知らないが、そんな女騎士様も別に良いんじゃないかと思うトウマ。
 そして、男前な彼女にそんな顔をさせるイングラムと言う男にも、トウマは些かの興味を持つに至ったのだった。


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