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SS投下スレ

1名無しさん:2006/06/04(日) 00:45:32
ロボットゲー板の投下スレが使用できなかった場合、
外伝的な作品などはこちらへどうぞ。

2Opening:2006/06/04(日) 01:17:45
うっすらと目を開けて真っ先に考えたのは、どうして自分はこの冷たい床の上で横になっているのかという事だった。
まだはっきりとしない意識のまま、少年――キラ・ヤマトはゆっくりと体を起こした。
そのまま周囲を見回す。そして目に入ってきた光景に、キラはまだ夢の続きを見ているのかと思った。
見知ったアークエンジェルの艦内、ではない。そこは見覚えの無い、広いドーム状の空間だった。
照明器具の類は何一つ無いにも関わらず、ドームの天蓋全体がうっすらと発光しているおかげで
場内はかろうじて人の顔を判別できる程度には明るい。
どうやらこの部屋には他にも大勢人がいるらしく、ざわめきが部屋全体に反響している。
頭にも徐々に血が巡ってきた。しかし、依然として状況が飲み込めない。
記憶を辿ろうにも、ここに来る直前だけが何故かはっきりしない。
「どこなんだ……ここは」
「さあ……わたくしにも、その問いに答えることは出来かねますわ」
何気なく発した独り言に返事が返ってきたことに驚いて、キラは振り返った。
そこにいたのはキラも良く知る少女――プラントの歌姫、ラクス・クライン。
「ここは……君はどうしてここに?」
「分かりません。わたくしも、気がついたらここに……ただ、どうやら他の方々も、同じのようですわね」
ラクスの視線を思わず目で追う。
いつの間にか薄明かりに目が慣れて、さっきよりもはっきりと場の状態が把握できた。
不安げな表情の少女達が、互いに寄り添い合っているのが見える。
赤いアフロヘアーの少年が、苛立った口調で何か叫んでいるのが見える。
奇妙な仮面を着けた男が、腕を組み歩き回りながら物思いに耽っているのが見える。
確かに、望んでこの場所にいる人間はいないようだった。
キラの背中を冷や汗が流れ落ちる。
嫌な予感がする。何か、とてつもなく良くない事が起こるような。
――その予感は、それから程無くして最悪の形で的中することとなる。


『目覚めよ……人間達』

その声が『自分の頭の中から』聞こえてきた時、キラはこの異様な状況についに自分の精神が異常をきたしたのかと思った。
しかしどうやらそうではないらしく、ラクスも、場内の他の人間達も一様に同じ声を聞いたようだった。
ざわめきが場の空気を介して伝播する。
状況を確認しようとキラが口を開きかけた矢先、声が再び脳内に響いた。

『我が名は……アインスト……ノイ=レジセイア……』

混乱する頭を無理に急き立て、キラは何とか今の状況を把握しようと必死になった。
今、声は確かに自分の名を名乗った。という事は、この声の主はどこからか自分達の脳内に語りかけているというのか。
昔読んだ空想小説に出てきた単語が思い出された――テレパシー? いや、そんな非科学的な……
しかし次の一言で、キラの思考は今度こそ完全に停止することとなる。

『……これからお前達には……最後の一人になるまで、殺し合いを、してもらう』

3Opening:2006/06/04(日) 01:18:17
場内を完全な沈黙が支配する。
しかしそれも一瞬の事で、戸惑いは細波のように部屋中に広がっていった。
戸惑いは徐々に増大し、やがて決壊する。
「ちょっと、誰だか知らないけど、いきなり人をこんな所に連れてきて、なに勝手な事言ってるのさ!」
赤髪の小柄な少女が、何処にいるのかも知れぬ声の主に向かって叫んだ。
慌てて、傍らの金髪の少女が腕に取り縋って制止しようとする。
「テ、テニアちゃん、落ち着いて!」
「落ち着けるもんかっ! ……ねぇ、聞こえてるんでしょ!? だったらさっさとあたし達を元の所に返してよっ!」
少女の決死の叫びに勇気付けられたのか、場内のあちこちから野次と怒号が飛び交い始める。
まるで自分の中の不安を、無理に動的なものに変えて吐き出しているように。
やがて、新たな声が脳内を震わせた――僅かな苛立ちを含んだようにも聞こえる声が。

『……愚かな……』

瞬間、ドームの床が、壁が、天井が、ぐにゃりと歪んで掻き消えた。
そして代わりにそこに出現したもの――その異様さに、誰もが戦慄する。
異形。それ以外に、その存在を形容する言葉が見つからない。
禍々しく伸びる角、おぞましく蠢く触手、生物とも無機物とも取れない怪物的なフォルム、原色を切り貼りしたような体色……
そして、暴力的なまでの大きさ。
あらゆる進化の可能性を内包した存在が、そこにいた。
会場内の誰もが、この異形の存在こそがその声の主である事を悟る。
再び響く声。

『人間共が……我に抗う事など……永劫叶わぬと知れ』

そして世界はまた逆回りに歪み、たちまち元のドームへと戻る。
先ほどの異形の存在が出現した痕跡など、何一つ残ってはいない。
何が起こった? パニックになりかけた意識で、キラは思考する。
(…………幻、覚…………!?)
それを否定するにはあまりに現実から乖離しすぎていて、それを肯定するにはあまりにリアルすぎる光景。
このテレパシーと同じようにイメージを伝えてきたというのだろうか、それとも……?
あの衝撃の後では、どんな理性的な思考ももはや空しい。
赤髪の少女もやはり無理をして虚勢を張っていたらしく、金髪の少女に抱きかかえられていた。
会場は水を打ったように沈黙を取り戻していた。

4Opening:2006/06/04(日) 01:19:17
「ここからは私が…………アルフィミィ、と申しますの。皆様、お初にお目にかかりますの」

ドームの天蓋の頂点から、まるでスポットライトのように光が降りる。
その中心に、蒼い髪の少女が立っていた。
年恰好は十代前半といった所であろうか、どこか人間離れした神秘性を感じさせる。
どうやら場の主導権はあの声の主からこの少女へと移ったらしく、アルフィミィと名乗った彼女はゆっくりと話し始めた。
「まず……先ほどの通り、皆様には殺し合いをしていただきますの」
殺し合い。その言葉が聞こえた瞬間、場の空気が僅かに張り詰めた。
キラの隣で、ラクスが無意識に身構えるのを感じた。
「皆様一人ひとりには、それぞれ機動兵器が一機と食糧や地図などの最低限の荷物が支給されますの。
 各自それを受け取り次第、ここから『箱庭』へと転送いたしますの」
アルフィミィは淡々と説明を続ける。
「そこで最後の一人になるまで、殺しあっていただきますの。最後に残った優勝者は元の世界に戻してあげますの。
 それだけではありませんの、優勝した方には素敵なご褒美が――」
「……アルフィミィ嬢。少し、よろしいか」
説明を中断する声の主に、アルフィミィだけでなく会場全体の視線が集まった。
全身黒尽くめのスーツを身に纏った男だった。毅然とした態度で数歩前に歩み出る。
「あなたは……思い出しましたの。お噂はかねがね、ですの……Mr.ネゴシエイター」
「そのような社交辞令を聞くとは思わなかったが……まあいい。
 アルフィミィ嬢、三つほど質問がある。答えていただけるだろうか」
「熱心な方がいてくれて嬉しいですの。答えられる範囲でお答えいたしますの」
「それは結構」
ネゴシエイターと呼ばれた男は軽く咳払いをして、それから口を開いた。
「まず第一。そもそもこの殺人ゲームには何の意味があるのか。第二に、なぜ我々が選ばれたのか。そして第三に――」
彼はそこで一旦言葉を区切り、
「我々の何処にこの馬鹿げたおふざけに付き合ってやる道理があるのか、だ」
一気に言い切った。
会場中を、ざわめきが駆け抜ける。
(なんて人なんだろ……)
黒スーツの男の後ろ姿を見ながら、キラは内心で驚嘆した。誰もが聞きたくとも聞けずにいた事を、彼はあっさりと……
アルフィミィは僅かに思案しているようだったが、すぐに男の方へ向き直った。

「分かりましたの。順番にお答えいたしますの」
会場内の誰もが、彼女の言葉に耳を傾ける。
「まず一つ目は……秘密ですの。言えませんの」
「……何?」
「それから二つ目……これも言えませんの。言う必要もありませんの」
「……アルフィミィ嬢、貴女の対応には残念ながら誠意が欠けていると言わざるを得ない。
 それとも、そのような説明で我々が納得するとでも?」
「納得していただく必要はありませんの……私達の言うとおりにしてくれればそれでいいですの」
「…………」
黒服の男の表情が僅かに歪む。しかし彼が次の言葉を発する前に、アルフィミィは第三の答えを口にしていた。

「三つ目の答えは、あなたの首元にありますの」

訝しげに自分の首に手をあてた男の顔が、瞬時に強張った。その反応に不審なものを感じたキラも、思わず自分の首に――
そして驚愕した。自分の首に、冷たく硬い感触を持つ何かが装着されている。
咄嗟にラクスの方を振り返る。ラクスも同じ事を考えていたらしく、こちらを見る表情に戸惑いの色が浮かんでいる。
そして彼女の細い首に、鈍い金属光沢を放つ首輪が嵌っていた。
ラクスの反応を見るに、どうやらキラ自身の首に嵌っているのも同じものらしい。
どうやら他の参加者達も同様の事実に気付いたらしく、戸惑いの声が同時多発的に起こった。
首輪に手をかけ、何とか外そうと試みる人までいる。
アルフィミィは満足そうに頷き、再度ルール説明を開始しようとした。
しかしそれはまたしても遮られる事となった――今度は、女性の声によって。

5Opening:2006/06/04(日) 01:19:58
「お嬢ちゃん……」
金髪をポニーテールに結んだ女性が、アルフィミィに呼びかける。
女性は、アルフィミィのことをまるで昔から知っているかのような、形容し難い表情を浮かべていた。
「……何か用ですの?」
「……最初にあなたがこの部屋に入ってきた時から、何となく嫌な予感はしてたのよ。
 ねぇお嬢ちゃん……これはいったいどういう事? あなたにはもうあの連中のいいなりになる理由なんてないはずだわ。
 それに何より、このゲームっていうのは――」
「……私は貴女を知りませんの。ですから、何の事だか分かりませんの」
「え……お嬢ちゃん?」
予想外の返答に、エクセレンと呼ばれた女性は狼狽を見せた。
代わりに彼女の恋人と思しき男性が、エクセレンの後を引き継ぐ。
「何かあるのかもしれないと思ってさっきから黙って聞いていたが……分からないな、どういう事だ? お前は――」
「知らないと言っていますの。用が無いなら話しかけないでほしいですの」
「アルフィミィ!」
「お嬢ちゃん!?」
「……もういいですの。貴女には、これからの説明の『実験台』になってもらいますの」
明らかに動揺を隠せない二人に残酷な言葉を投げつけ、アルフィミィは他の参加者の方へ向き直る。
「皆様! このゲームには、三つの禁止事項がありますの!
 一つ目は、一日二回の放送で発表される『禁止エリア』に侵入すること!
 二つ目は、この首輪を力づくで外そうとしたり、強い衝撃を与えたりすること!
 三つ目は、最後の死者が出てから24時間以内に誰も死亡者がでないこと!
 そしてこれらに違反した時はペナルティが与えられますの――それは、」
そこで言葉を区切り、アルフィミィはエクセレンの方へ身体全体を向ける。
アルフィミィの言動を目の当たりにして、エクセレンの顔に悲しみと寂しさと憂いとが同居した悲痛な色が浮かぶ。
「お嬢ちゃん……まさか、本当に私たちのこと……?」
「…………さよなら、ですの」
そして、少女は両手を小さく一度、叩いた。

炸裂音。

エクセレンの身体は二、三度大きく痙攣し、そのまま重力に任せて冷たい床に倒れ伏した。
一瞬遅れて雨のように降り注ぐ、血と肉の混合物。動かない彼女の周囲に、赤い水溜りが広がっていく。
彼女はもう何の表情も浮かべてはいなかった――いや、もはや表情そのものが存在しなかった。
なぜなら彼女のその端整な美貌は、突如爆発した首輪によって飛び散ってしまったのだから。
「…………エクセ、レン…………?」
すでに物言わぬ彼女の名を呼びながら、彼女の恋人がよろめきながら歩み寄っていく。
一歩、二歩、そこで床に広がる赤を見て、彼は茫然自失の顔つきのままその場にくずおれて膝を突いた。
無言で肩を震わせる彼を僅かに一瞥してから、アルフィミィは仮面のような表情のまま淡々と説明を続ける。
「皆様の首輪には、人一人殺すのに十分な威力の爆弾が仕込んでありますの……言う事を聞いてくれない悪い子は、お仕置き、ですの」

悲鳴を上げる者さえ、いなかった。
不自然とでも形容すべき静寂が、部屋中を満たしていた。
たった今誰もが目にした、あまりにあっけなくてあまりに現実離れした、死。
もはや、誰一人として疑う者はいなかった。
この首輪をつけている限り、自分達の生殺与奪の全ては赤の他人の手のひらに握られているということ。
そして、自分達はもはや殺人ゲームのコマの一つに過ぎず、主催者の言うとおりに殺し合う以外に道は残されていないことを。


【エクセレン・ブロウニング 死亡】


【プログラム開始】

6偽名:2006/06/05(月) 00:14:25
※「赤い彗星」が破棄された時ように組んでたお話です。

「ほう…」
懐から出した手鏡を覗き、男は思わず嘆息した。
「これは…」
額の、三日月型の飾りに指を這わす。
「ふむ。良いではないか。目元の造形が少し因縁深い感じだが、またそれもいいだろう」
 地上にそびえる、肩に二本のドリルを白い巨大なロボット。
「あれは…」
アムロ・レイはその巨体を、何も無い平原という位置取り故にレーダーの範囲外から目視で確認した。
「どうしたものか…」
自らの機体、トーラスの変形を解き離れた場所に止める。
「あれ程の大型機だ。味方に引き込めればいいが…」
遠くからの目視だ。比較対象になる物体も無く、正確な大きさは計ることが出来ない。しかし、ざっと見でもアムロの機体の倍の大きさはあると思われた。
「ここでこうしていても始まらない」
言いながら、操縦系に手を掛ける。
「いざとなったら変形を使って逃げられる、か?」
その頃。当の巨大なロボットのコックピットの中。
「何故だ!何故だ外れん!」
取れない。押しても引いてもヘルメットが取れない。
「く、なんと無様な…!」
男はとても焦っていた。
 事の始まりは、コックピットの収納ケースに入っていたマニュアルと衣装だった。
「ふむ。スレードゲルミル、か…」
彼は最初にマニュアルに手を伸ばし、読み耽った。そして、操作法を一通り学んだ後。
「ウォーダン変身セット…!」
彼は、その項を見た瞬間、衣装に手を伸ばしていた。

7偽名:2006/06/05(月) 00:16:06
 アムロの優れた直感力が彼に警戒を促した。
「この感じ…!シャアか!?」
近付いて通信を繋げるまでもない。良く知った感覚だ。
「く…!向こうも気が付いたようだな」
巨人が、旋回しアムロの方に近付いてくる。
「攻撃してくるか?いや、奴だってこんな所での決着は望まないはずだ。ならば…」
通信回線を繋げるためにアムロは手を伸ばした。
「初めまして」
しかし、それよりも早く、相手は通信を繋げてきた。とりあえずは交戦の意思が無いようだ。
「初めまして…だと?」
アムロは、目を疑った。目の前にいるのは自分の良く知るシャア・アズナブルに相違ない。アムロの直感は彼にそう告げていた。だが。
「…ふざけているのか?シャア」
「私は、シャア・アズナブルなどではない。…ウォーダン。ウォーダン・ユミルだ!」
モニターに映っているのは、珍妙な仮面を付けた男が顔を真っ赤にして叫んでいる姿だった。
【アムロ・レイ 搭乗機体:トーラス(白)(新機動戦記ガンダムW)
 パイロット状況:シャア?
 機体状況:良好
 現在位置:G-1
 第一行動方針:協力者を募る
 最終行動方針:ゲームからの脱出】
【ウォーダン・ユミル(シャア・アズナブル) 搭乗機体:スレードゲルミル(スーパーロボット大戦OG2)
 パイロット状況:私はシャアではない
 機体状況:良好
 現在位置:G-1
 第一行動方針:NOT シャア宣言
 最終行動方針:???
 備考:ウォーダン変身セットと手鏡を所持、ヘルメットを被って取れなくなった】
【初日 14:35】

8シュンパティア ◆ZbL7QonnV.:2006/06/05(月) 01:53:11
(聞こえるかい、兄さん?)
(ああ、聞こえるぞ)
(フフ……どうやら、僕達にとってこの機体は大当たりだったみたいだね)
(そうだな、オルバよ。このシステム、シュンパティア……と言ったか。
 我々にとっては、かなり相性の良いシステムらしい。オルバ、いつもよりお前を近くに感じるぞ……)
(僕もだよ、兄さん……)

 A−1エリアとC−3エリア。遠く隔てた場所に落とされた双子の兄弟。
 通信機能の限定された状況下で、彼らは互いの状況を理解出来る訳がないはずであった。
 ……だが、これも主催者の戯れなのだろうか。
 二人に支給された機体の特性と、そして二人が持つ特異能力。
 それが互いを補うように強化し合い、今の二人は側にいて言葉を交わす以上に互いの事を理解する事が出来ていた。

 カテゴリーF――
 フロスト兄弟の間で作用する特殊能力。互いの距離に関係なく、相互の意思を伝え合う事が出来る。

 シュンパティア――
 ガナドゥールとストレーガに搭載されている“人の精神を共感させる”システム。

 そう。フロスト兄弟にとって、この機体は正に“大当たり”と呼ぶべきものだった。



(兄さん、このゲームだけど……どうするつもりだい?)
(無論、勝ち抜くに決まっている。だが……)
(ゲームの勝者は一人。二人で勝ち上がろうとした場合、この首輪が枷になる)
(……そうだ)
(兄さん、どうする? 首輪の解除が可能な人間を見付け出して、僕らの首輪を解除してもらうかい?
 リスクの事を考えたら、そちらの方が無難かもしれないと思うけど……)
(いや、まだ方針を決めるには早過ぎる)
(……それもそうか。まだ首輪の解除が出来る人間がいると決まった訳でもないからね)
(うむ。まずは、そう……戦力の確保からだ。オルバ、今の位置は?)
(C−3。兄さんは?)
(A−1……よし、そう離れてはいない。まずは合流するぞ、オルバ。
 我々の機体は、二機が揃ってこそ真の力を発揮するようだからな)
(フォルテギガス……強き巨人、か。どれほどの力を発揮するのか、少し楽しみだね……)
(ああ、そうだな……)

 かくして“勝者”の名を冠した機体と、“魔女”の名を冠した機体は動き出す。
 そう……自分達“だけ”の勝利を目的として……。



【シャギア・フロスト 搭乗機体:ガナドゥール(スーパーロボット大戦D)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:A−1
 第1行動方針:オルバと合流
 最終行動方針:オルバと共に生き残る
 備考:シュンパティアによってカテゴリーFの共感能力が大幅に強化
    フォルテギガスに合体可能】

【オルバ・フロスト 搭乗機体:ストレーガ(スーパーロボット大戦D)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:C−3
 第1行動方針:シャギアと合流
 最終行動方針:シャギアと共に生き残る
 備考:シュンパティアによってカテゴリーFの共感能力が大幅に強化
    フォルテギガスに合体可能】

9三年間の幸せ ◆ZbL7QonnV.:2006/06/05(月) 01:55:51
 ……死んだはずだった。
 たった三年間の寿命を終えて、彼女は死んだはずだった。
 今でも、はっきりと覚えている。
 幸せだった、と。
 ジョシュアに出会えて幸せだったと、人として生きる事が出来て幸せだったと、そう言い遺して彼女は眠りに就いたはずだった。

「ラキ……」
 胸に、微かな痛み。
 ああ、まだ自分は彼女の事を忘れてはいない。
 彼女と共に過ごした日々を、そして彼女を失った悲しみを、まだ自分は忘れていない。
 ジョシュア・ラドクリフは――グラキエースを、愛している。
 彼女と共に過ごした時間は、彼女の寿命が尽きるまでの三年間。決して、長い時間ではない。
 だが、彼女との思い出は、それこそ星の数ほど無数にあった。
 何気無い一日の繰り返しが、彼女と共に過ごした穏やかな日々の積み重ねが、ジョシュアには何よりも大切な宝物だった。
 そして、きっと彼女にとっても。
 だから、彼女は笑って眠りに就いたのだ。
 彼女と過ごした日々が幸せだったからこそ、ジョシュアもまた微笑み彼女を見送ったのだ。

 だが――

「生きて……いるのか……?」
 このバトルロワイアルの会場に降り立ってから、懐かしい感覚が彼を襲っていた。
 ジョシュア・ラドクリフの中に溶け込んだ、グラキエースの心の欠片。それが、再び目覚めようとしていたのだ。
 ……彼女が死んでから、ずっと胸の奥で燻っていた喪失感。だが、今はそれを感じない。
 そう、グラキエースは生きている。
 この、殺し合いが行われている世界の中で。
 ならば、どうする?
 俺は……。

「……逢いに行くよ、ラキ」
 胸の中で騒いでいる、冷たく澄んだ彼女の心。
 それを確かめるように、ジョシュアは胸元に手を置き言う。
 どうして死んだはずの彼女が居るのか、その理由は分からない。
 だが、彼女が生きているならば、自分の為すべき事は決まっている。
 そう、逢いに行くのだ。
 繋がり合う心の糸を手繰り寄せ、必ず彼女に辿り着いてみせる――

「……誓ったからな。俺が、君の居場所になると」
 だから、俺は彼女に逢う。
 そう誓って、ジョシュアは機体に乗り込んだ。


【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:騎士機ラフトクランズ アル=ヴァン機(スーパーロボット大戦J)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:D−2
 第1行動方針:グラキエースとの合流
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:グラキエースとの精神共感
    ラース・エイレム使用不可能
    オルゴンソードFモード使用可能(クロー、ライフルはFモード使用不可能)】

10流星:2006/06/11(日) 10:33:42
 アイビスは目の前の青年について思考していた。この状況下でよくこんな冷静になれるものだと感心し、見習うべきだなぁと一人苦笑する。
(だから私はダメなんだな…)
 過去…もう取り戻せないかも知れない生活。辛いこともたくさんあったけれどそれ以上に充足していた。ツグミ…スレイ…そして…
「フィリオ…」
 思わず口にしてしまったことの気恥ずかしさからかうつむいてしまう。もう、あの人はいないというのに。聞こえ…ちゃった?
「フィリオ?…そっか、アイビスさんにもいるんだよな、大事な人が」
 ばっちり聞かれていた。照れのためか少し棘のある口調。
「…あんたには関係ないよ。そんなんじゃないんだからね、あの人は。それから”さん”はいらないよ。ジョシュアさんのが年上でしょ?多分」
「いや、俺は老けて見えるらしいからね。」
 実際の年齢を聞いてみたところ。
 驚いた。まさか年下なんて…!この青年は一体どんな生活をしてきたのだ?
「まあ人より苦労はしてきたって自覚はあるかな。それでもこの性格は生まれつきだろうけどね」
 そういって笑うその顔には、なるほど少年の面影も残っている。
「それより俺はさっきの人のことが気になるな。話しちゃくれないのかい?」
「え…そんないきなり蒸し返さないでよ。」
相手が年下とわかったからか幾分物腰が柔らかくなった。だからといっていきなりこんなに突っ込んだ質問をされても答えようがないだろう。その旨を伝える。
「まぁそれもそうだな。いきなり聞いて悪かったよ。すまなかったな」
 沈黙が二人を包む。両方とも無言のまま食事を口へ運ぶ。
(うーん…なんか気まずくなっちゃったなぁ…)
 年長者なのだから、という思いから会話のネタを探すアイビス。
(ツグミ達とは何話してたっけ?…甘いもの…とか食べそうに見えないしぃ…うむむ)
 

 あっそうだ!
「「あのさ…」」
 タイミングばっちり…あっちゃー。

11流星の決意:2006/06/11(日) 10:34:59
「そっちからどうぞ。俺のはあとでいい」
「あ…んじゃ。さっきあんなこと言っちゃったけど…その、ジョシュアにはさ、いたりする?…大切な、人ってのはさ」
 うーん、先を譲ってもらったのにイマイチすぎるよう…えーん。
「…うん、実は俺もそれを話そうと思ってたんだ」
 …へ?意外な答えにこけちゃいそうになったんだけど?
「早めに言っておこうと考えてたんだけどな。…その、俺の大切な人ってのが、ここにいる。プレイヤーとして」
「ちょ、ちょっと待ってよ、それって…そんなことって、ない…」
「でも事実だ。そしておれはラキを助ける。それは知っててほしかった。だから話した。ラキ…グラキエースっていうんだ。水色の髪をしていてな、多少…うん多少ずれた性格を…」
「ちょっと待ってよ!なんでそんな冷静にあたしに話せるの!?」
 アイビスには信じられなかった。もしこの場にツグミ達も呼ばれていたらと考えると…ぞっとする。
「今話しておかないといつになるか分からなかった。すぐに探しに行くつもりだったからな。アイビスにも付き合ってもらうつもりだ」
「そんなのあたしなんかが聞いていい話じゃないよ。ジョシュアには付き合うけどさ」
「聞いてくれ。このゲーム…やる気になっている者も少なくないだろう。そうじゃなくてもさっきのアイビスみたいに襲われる前にやってしまえば、なんてのもいるさ」
「あ…ごめん。あたし…なんてこと…」
「ん…過ぎたことだ。気にするなよ。それよりこれからだ、大事なのは。これから先、どうしても他のプレイヤーと接触する必要がある。もしやる気の奴等に会えば無傷ではすまないだろう。…最悪、ってのもある。だから俺に何かあったとき、ラキに伝えて欲しい。俺は…」
「はいストーップ、そこから先は、ジョシュアが自分で、だよ」
「…ありがとう。そうだよな、いきなりこんなこと頼むなんて俺もどうかしてたよ。それじゃあ早いところ探しに行きたいんだけど?」
「OK。行きましょうか。あのさ最後に一つだけ聞いていい?その人との馴れ初め…とか」
「それは話すと長くなるんだけどな。ふふ、最初はな、敵同士だったんだ。だけどまぁ色々あって…そういうこと。んじゃ今度こそ行くか」
 そう言うとジョシュアは立ち上がり機体の方へ歩いていった。
「敵同士…だった…でも今は…」
 脳裏に浮かぶかつての仲間、現在の…敵?
(ううん違う。やっぱり今でも私の仲間だよ、スレイ…)
 ナンバー1。超えるべき壁。…あの人の、妹…彼女、スレイ・プレスティ。
(必ず帰る。だからもう一度一緒に夢を見よう?)
 彼女ならこのゲーム、何をしてでも勝ち抜こうとするだろう。
 しかしアイビスはそんな風に割り切ることは出来なかった。ジョシュア達と共に…このゲームから、脱出する。まだ方法も何もわからない。だけどこれだけはわかる。
 あたしは人を犠牲にして生き残るなんて、そんなことは出来ない。
(スレイ…きっと馬鹿にするだろうな。やはりお前は甘いな、負け犬め!…なんて)
 それでもあたしはいい。きっと生きて帰って誤解を解いてみせる。
 アイビスは新たな決意を胸に立ち上がった。



【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:少々の頭痛
 機体状況:ブレンバー等武装未所持。手ぶら。機体は無傷。
 現在位置:B-3
 第一行動方針:ラキを探す
 最終行動方針:ゲームから脱出】


【アイビス・ダグラス 搭乗機体:クインシィ・グランチャー (ブレンパワード)
 パイロット状況:戸惑い
 機体状況:無傷。
 現在位置:B-3
 第一行動方針:ジョシュアについていく
 最終行動方針:元の世界へ帰る】

【時刻:13:50】

12名無しさん:2006/06/15(木) 13:42:20
バトルロワイアル――殺し合い
こんな絶望的な状況下でも、私の心はまだ折れていない。いまだ希望に満ち溢れている。
そう私、宇都宮 比瑪の心は!!
ベガスに乗った比瑪は森の木々の隙間を縫うように飛んでいた。武装が無いベガスでは、ゲームに乗った参加者に見つかる=死。イニシアチブを取る事が最重要課題だ。
逃げるにしても機動力には自信があるベガスだが、生身の比瑪では耐えられない。
レーダーに引っ掛かるわけにもいかない。出力をMinにしてギリギリの高さを飛ぶ。
「ねぇベガス君、このまま行けば街まで行けそうだね」
「ラーサ」
いつも通りの通じているのかどうか分からない会話が弾む。
順調だった。とても順調「だった」
だった……
比瑪はつい先程までの何事も無かった時間、今まで生きてきた中で経験した記憶が意識と関係なく溢れ出てくる。
眼前の巨人が今から自分の命を奪う。
そう考えただけで心が折れてしまいそうになる。

「小生、このギム・ギンガナムと勝負しろ!!」

そう言って空から降り立った巨人、シャイニングガンダムは腕を組み仁王立ちしたままこちらを見下ろしている。シャイニングガンダムが降り立ってから18年に等しい2分が過ぎた。

13名無しさん:2006/06/15(木) 14:18:03
「ふんっ、興に乗らん。女を斬り捨てたとて、武門の名家に傷がつくだけだ。お主、今回は見逃してやろう。立ち去るがよい」
ギンガナムの声には少なからず落胆の色が混じっていた。

「見逃…す…?」
「そうだ、見逃してやる。それともここで殺し欲し
「あなた良い人ですね」
比瑪の口から出てきた言葉はギンガナムの予想外だった。
「何を言っ
「ですよね」
比瑪の絶望に染まっていた顔が輝きを放つ。
「いくら殺し合えと言われたからって、本気で殺し合う人なんて居ないですよね!!」
「おい、お主何を言っ」
「バトルロワイアル……。謎の強大な力によって集められた哀れな人間達。我を忘れる者。悲しみに暮れる者。死に逝く者。そして強大な力に立ち向かう者。運命の歯車は今動き出す」
シャイニングガンダムはモビルトレースシステムを採用した新機軸の機体だ。そのシャイニングガンダムが一歩退いたということは、ギンガナムが一歩退いたことを意味する。
「あなたのその誇りに満ちた態度、威厳ある声、当に獅子!!獅子とは繋いではおけない者……、Mr.アンチェイン!!あなたはあの怪物を倒すため立ち上がるんですね!!」
妄想モードフルスロットルの比瑪の気迫が遂にギンガナムを追い詰める。

14絶望の中の太陽:2006/06/15(木) 14:49:15
「小生は戦うために、ここに居るのだ、そのようなことはせん!!」
超ポジティブ比瑪にはそのような言い訳は逆効果だった。

「そう言いなが(はっ!もしかして盗聴を気にして警戒してるんじゃ…、うわぁこの人頭良いなぁ)」
超ポジティブ比瑪の自己推論、自己発展、自己完結の三大スキルをフル活用して導き出された答えは、
背を向けしゃがみ込む比瑪。
「そういうことだったんですね……」
「何がそういうことなのだ……」
この時、ギンガナムの武人たる誇りを兵法家としての本能が抜き去る。


逃走。


「私も連れて行って下さい!!!」
比瑪がもう一度シャイニングガンダムを振り返った時、そこには小さくなっていく巨人が見えた。しかし、
「行くよベガス君!今この瞬間に死んでる人がいるかもしれない。あの人はそれを見逃せないの(断定)。私達に出来ることなんて無いかもしれない。だけど必ずどうにかなるよね!だって私達はオルファンとも解り合えたんだから!!!!」
逃げる巨人、追いかける(追い詰める)美少女。
実にシュールな光景であった。

15名無しさん:2006/06/15(木) 15:28:59
【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
パイロット状態:健康。電波怖い電波怖い
機体状態:損傷無し。移動にEN消費
現在位置:ifなんで特に設定無し
第一行動方針:比瑪から逃げる
第二行動方針:戦うに値する戦士を探す
最終行動方針:バトルロワイアルを勝ち抜く】


【宇都宮 比瑪 搭乗機体:ベガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
パイロット状態:健康。ナチュラルハイ
機体状態:損傷無し。移動にEN消費
現在位置:ifなんで特に設定無し
第一行動方針:仲間を集める
第二行動方針:ゲームを壊す
最終行動方針:主催者と分かり合う】
【IF】

16名無しさん:2006/07/06(木) 00:54:34
「……ったく、最後まで聴かずに行っちまうのかよ」
 彼方へと飛び去っていく蒼き鷹の背中を眺めつつ、機械仕掛けの神を操る現奏者、熱気バサラは呟いた。
 元よりレクイエムなど柄ではなかったが、歌の途中で観客に帰られてしまうというのは、やはり空しいものがある。
 戦場であろうと、殺し合いの場であろうと、その深層心理が変わることはない。
 熱いハートを叩きつける、それが歌だ。憎しみも、悲しみも、全てを取り払える力が、歌の中には存在する。そう信じるから、バサラは歌うのだ。
 思い返すのは、先刻の、蒼い機体に乗っていた少年。
 結局、バサラは彼の名前さえも知らないまま、別れることとなってしまった。
 分かっていることは、彼にはニコルという名の親友がいて、その親友をキラという名の何者かに殺されてしまったという、酷く客観的な事実のみ。
 復讐などという、いささか穏やかではない思考に囚われていた彼の心へと、果たして自分の歌は響いただろうか。
 自分の歌は、自分のハートは、彼の心を覆い尽くしていた雲を、晴らすことが出来たのだろうか。
『この歌は……葬送曲?』
 その呟きだけが、バサラにとっての判断材料。あの歌に籠められた意味を理解してくれただけでも良かったと、とりあえずはそう思うことにしよう。
 ――焦んなよ、オレ。ライブはまだ始まったばかりだぜ。こっからだ、こっから。
 気付けば、視線の先には虚空が広がるばかりで、バーニアを吹かして飛んで行ったファルゲンの姿はすっかり見えなくなっていた。
 神秘的な印象を与えるラーゼフォンのコックピットの中、バサラは操縦桿へと手を伸ばし、機体を飛翔させる。
 まだ見ぬ参加者達へと、己の歌声を届けるために。イカれた世界のイカれた争いごとを、終わらせるために。

17名無しさん:2006/07/06(木) 00:55:42
 密集する木々の中、殆ど無理矢理と言った感じにボディを捻じ込み、マシンらしからぬ、
 胡坐を組むという器用な体勢で座り込んでいる、漆黒の機体があった。最も、この機体にとっては容易い姿勢であるのだけれど。
 動く気配は微塵もなく、その様子を人間に例えるならば、じっと息を潜め、外敵から身を隠しているとでも言うべきか。
 事実、その通りだった。先刻の戦闘によって肉体へと蓄積した疲労は思いの他大きかったようで、
 ベストのコンディションを取り戻すまでには、もう暫くの時間を要さなければならない。
 忠実な競走馬は鞭さえ打てば駆けてくれるが、ゲームの開始早々からそうまでして己を苛め抜きたいとは、到底思わなかった。
 ――何しろ、俺は根っからのサディストなんでねぇ。
「クク……ハハハハハ」
 マスターガンダムのコックピットの中、機体と同じ格好で胡坐をかいて座り込み、大袈裟な笑い声を上げている男の名は、ガウルン。
 三対一の劣勢からまんまと逃げおおせることが出来た今は、他から捕捉される可能性の少ない密林の奥へと機体を隠し、こうして休息を取っている。
 機体は他者から見れば無防備極まりない姿をしているだろうが、当然警戒は微塵も怠っていない。万が一発見された場合も、
 この機体の機動力があれば即座に離脱は可能だ。自身の体力がそこまで持てば、という仮定付きではあるが。
 それにしても、面白い。最高だ。いやまったく、この状況で笑わずしていつ如何なる事態において笑えばいいというのだろう。
 得体の知れない化物が、余命幾許もない自分をわざわざ呼び寄せ、何かと思えば『殺し合いをしろ』と来たものだ。
 言わば、今の自分は死刑宣告を二度も言い渡されながら、監獄の中で自由の身を許された存在。不運なのか幸運なのか、さっぱり分からない。
 まあ、人生最後の晴れ舞台には相応しいと言えよう。ASを遥かに上回るポテンシャルを持った玩具で、存分に暴れまわることが出来る世界。
 惜しむらくは、呼び集められた最初の空間において、我が最愛のカシムの姿が見当たらなかった事だが――上質の餌は、幾らでもいる。
 それら全てを食い尽くした上で、仮に元の世界へと帰ることが出来た時の最高の御馳走として、彼は取っておくことにしよう。
「愛してるぜぇ、カシム……おぉ?」


ここまで書いたところで本スレ>>494
考えようによっては絶妙な引きだっぜ!(マイク風

18出会いと再会:2006/08/13(日) 23:30:31
「ふむ、左腕は完全に持っていかれたか・・・」
 真紅の機体を見上げながら、男が一人ごちる。
ここは風雨に晒され、朽ち果て打ち捨てられたコンクリートの森林。
その狭間に存在する、明らかに異質な施設の影に思案に耽るユーゼスの姿があった。
(・・・補給は弾丸やエネルギーのみで、破損箇所の修復はない。
 やはり、そこまでは甘くは無いか・・・まあ、私が主催者だとしても、修復は認めんな)
アルトのコクピットに乗り込みながら、思案をめぐらせる。
その表情は、仮面に隠されてはいたが・・・愉快という雰囲気ではなかった。

 獅子の相貌をもった悪鬼を退けたベガとユーゼスの二人は、廃墟にある補給施設へと舞い戻っていた。
目的はローズセラヴィーの補給とアルトアイゼンの修復。そして、二人の休息。
 ベガの言によると、ローズセラヴィーにはエネルギー充填システム、
通称『月の子』が搭載されているが、それは一回のみの使い捨てであり・・・
それならば、今の状況では装置を使わず補給施設を使用するというのが、二人の出した見解だった。
 そして、もう一つの目的は・・・

『どう?修理の目処はつきそうかしら?』
 見張りに立っていたベガから通信が入る。
「無理だな。軽い破損ならともかく、腕のパーツ自体を失っている。修理は諦めた方が無難・・・」
 ユーゼスがそう言うのと、ほぼ同時に・・・アルトのレーダーが警告音を発した。
「ベガ殿」
『こちらも確認したわ、相手は一機だけのようね』
「うむ、私もすぐに合流しよう」
 そう言うと共に、ユーゼスは真紅の機体を起動させた。


「大型の機体・・・おそらく、特機タイプか」
 空を駆けるファルケンのシートで、キョウスケはそう呟いた。
相手が乗った人間か否か・・・それを見極めるようと、通信機器に手を伸ばす。
と・・・キョウスケが通信をいれるよりも早く、相手の側に新たな機体が現れる。
それは、彼が良く見知った機体だった・・・
「あれは、アルト・・・?」
 軽い驚愕と違和感。それと同時に、相手からの通信が入る。
通信機からは、敵意が無いことを伝える女性の声が流れ始めていた。



【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:アルトアイゼン(スーパーロボット大戦INPACT)
 パイロット状態:良好(修理できなくて困ってるのも私だ)
 機体状態:左腕損失、ダメージ蓄積
 現在位置:D-4廃墟、補給施設付近
 第一行動方針:目の前の機体との接触
 第二行動指針:首輪の解除
 最終行動指針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る】

【ベガ 搭乗機体:月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー)
 パイロット状態:良好(ユーゼスを信頼)
 機体状態:良好
 現在位置:D-4廃墟、補給施設付近
 第一行動方針:目の前の機体との接触
 第二行動指針:首輪の解析
 最終行動指針:仲間を集めてゲームから脱出
 ※月の子は必要に迫られるまで使用しません】

【キョウスケ・ナンブ 搭乗機体:ビルトファルケン(L) (スーパーロボット大戦 OG2)
 パイロット状況:良好(意外な再会に驚き)
 機体状況:ブーストハンマー所持
      スプリットミサイル数発消費、オクスタンライフルを半分程消費
 現在位置:D-4廃墟、補給施設付近
 第一行動方針:目の前の機体との接触
 第二行動方針:ネゴシエイターと接触する
 第三行動方針:信頼できる仲間を集める
 最終行動方針:主催者打倒、エクセレンを迎えに行く(自殺?)
 ※アルトがリーゼじゃないことに少しの違和感を感じています】

【初日 16:00】

19アンチボディー  ―半機半生の機体―  ◆Nr7qwL8XuU:2006/08/28(月) 19:29:32
光り輝く腕が安々とチャクラシールドを突破してくる。
ギム・ギンガナムが操るシャイニングガンダムの渾身の一撃がグランチャーを捕らえたと思ったその刹那、右手は虚しく空を掴む。
バイタルジャンプによって再び距離を置いて二機は対峙する。
傍目には一進一退の攻防を続けているようでいて、その実ジョシュアのほうが遥かに分が悪かった。
互いに互いを捉えられない以上、一撃の重さは重要なファクターだった。そしてそれが圧倒的に違っていた。そして、グランの調子も落ちてきている。
ならば次の攻防に勝負を賭けるしかないとジョシュアは思い定めた。
(いけるか?グラン・・・)
(・・・・・・・・・)
(・・・・・・よし!)
決意を固めるや否やジョシュアとグランは突撃する。そして、ソードエクステンションから光線が放たれ膨大な砂塵がギンガナムの周辺を満たした。
そして、そのまま砂塵に突込み真っ向からギンガナムを斬りつける。
「甘いわ!!」
防がれた。
その瞬間、ギンガナムの反撃を待たずしてグランチャーの姿が掻き消え四方八方から光線がギンガナムを襲った。
バイタルジャンプを駆使して全方位あらゆる方角からの射撃、時折それにまぎれて位置を確認するように繰り出される斬撃。
砂塵に視界を奪われた状態でかわそうと思ってもかわしきれるものではなくシャイニングは負傷していく。
しかし、かわしきれないと悟ったギンガナムはその瞬間から射撃を無視し繰り出される斬撃を待った。
そして、グランチャーが周囲に姿を現したその刹那殴り飛ばすとその方角に向かって最大戦速で突貫していった。
砂塵を裂いて吹き飛ばされたグランチャーは体勢を立て直して砂漠に着地した。
そして、前方にソードエクステンションを突きつけギンガナムが追ってくるときを待つ。
ここで朽ち果てるわけにはいかない理由がジョシュアにはあった。
その思いを確認するように胸に手を当てて見る。いつしか自分の中に落ち着いてしまったもの――自分の中のラキが熱を帯びてくる気がした。
その熱がジョシュアとラキ、二人分のオーガニックエナジーをグランチャーに与え、つきつけた銃口はそれまでにない光をたたえていた。
砂塵の中に突撃してくるシャイニングの影が映る。
この一撃に全てを賭けてジョシュアは最後の引き金を引き絞った。

20アンチボディー  ―半機半生の機体―  ◆Nr7qwL8XuU:2006/08/28(月) 19:30:09
シャイニングガンダムを貫くはずだったはずの光が霧散する。
そして、それは意外にも二人の脳裏から忘れ去られた一人の少女がもたらした。
ジョシュアが引き金を振り絞ったあの瞬間、グランチャーに通信を続けわめき続けていた少女の声色が不意に変わった。
「そうか・・・お前は・・・お前は違うのだな。オルファンの抗体となるべきものではないのだな!何故だ!グランチャー、何故こんな奴を乗せている。お前は私の子だろ!!」
グランチャーに激しい動揺が走り―――
「なっ、動かない!」
―――本来の主を目の前にしてジョシュアを拒絶する。
「シャアアアアアァァァァァァァァイニングッッッッッッッッッ!!!!!!!」
焦るジョシュアの心情とは裏腹に無情にもコックピットから映し出されている外の情景、その中の一つ光り輝く手のひらが見る間に大きくなっていく。
「フィンガアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ・・・・・!!!!!!!!」
やがてそれが視界いっぱいに広がりジョシュアはグランチャーの頭部がこの手に捕まったということを悟る。そして、同時に急速に迫ってくる死を身近に感じた。
シャイニングガンダムの光り輝く右腕のエネルギーが収縮しグランチャーの頭部を破壊する。その過程の最後の数瞬、
瞼の裏に映ったのはラキの笑顔―――
胸の内を占めたのはラキへの想い―――
負けられないっ―――
「動け!動いてくれグラン!!」
ジョシュアはあがいた。相手の声も、通信から流れる少女の声も耳には届かず一人コックピットでなおもあがき続ける。
そして次の瞬間、グランチャーは自らを掴んでいる右腕の肘から先を斬りおとした。
吊り上げられていた状態から自由になったグランチャーはその場に崩れ落ちる。
本体から切り離されたシャイニングの右腕はそれでもしぶとくグランチャーの頭部をつかみ続けていたが今のグランチャーにそれを振りほどく余力はなかった。
しかし、ヒットエンド直前までエネルギーを溜め込んだ腕は帯電している。
再び動いてはくれなくなったグランチャーの中、ジョシュアは自分でも驚くほど冷静な目でその腕を観察していた。逃げられないという判断を頭が下す。
心はあきらめるなと叫び体はあがき続けていたが頭はとても冷静だった。
それならばと思い。残された時間、ジョシュアはラキの中にある自分の想いが彼女の行く道を助けてくれること願った。
「ラキ・・・」
言葉にしようとしてそれも許さず、行き場をなくしたエネルギーが膨張して爆散し、同時にジョシュアの意識は途絶えた。

21アンチボディー  ―半機半生の機体―  ◆Nr7qwL8XuU:2006/08/28(月) 19:31:06
唐突にH-2地区に爆音が響き渡った。その地区の北東の端の一角に大破した赤い機体と薄桃色の機体がただずんでいる。
戦場に到達したアイビスが目にしたのは光り輝く右腕に吊り上げられ力なく垂れ下がるグランチャーの姿だった。
その瞬間、自棄にも似た気持ちは霧散し助けなきゃという気持ちがアイビスの全てを満たした。その思いが誰かの同じ思いと重なりブレンは跳躍する。
「グランチャー、その腕を切り落とせ!」
オープンチャンネルを介して知らない少女の声が聞こえてきたが気にもならなかったが、次の瞬間シャイニングの右腕を切り落とすグランチャーが目に入った。
ほっとするのもつかの間追撃をかけようとするシャイニングを目の前にブレンは跳躍すると体当たりを仕掛ける。不意をつかれたシャイニングはあっけなく弾き飛ばされた。
そして次の瞬間ただひたすら遠くへとだけ願ってグランチャーの腕を掴みブレンパワードは跳躍したのだった。
そして現在、大破したグランチャーを前に四肢に力なくへたり込んだアイビスは呆けていた。真っ白な頭は何も考えることができなければ、涙もわいてこなかった。
『ラキ・・・』
ただ最後に耳にした言葉、その言葉が脳内に残りただひたすらにその場から逃げ出したい思いに駆られているだけだった。


【ジョシュア・ラドクリフ 搭乗機体:クインシィ・グランチャー (ブレンパワード)
 パイロット状況:爆死
 機体状況:大破(上半身が消失している)。右手のソードエクステンションは無事
 現在位置:H-2北東部
備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:茫然自失
 機体状況:ブレンバー等武装未所持。手ぶら。機体は表面に微細な傷。バイタルジャンプによってEN1/4減少
 現在位置:H-2北東部
 第一行動方針:その場から逃げ出したい
 最終行動方針:……どうしよう
備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

22アンチボディー  ―半機半生の機体―  ◆Nr7qwL8XuU:2006/08/28(月) 19:31:40
【紫雲統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
パイロット状態:良好
機体状態:無傷
現在位置:H-1
第一行動指針:戦いやすい相手・地形を探す
第二行動指針:敵を殺す
最終行動指針:ゲームに優勝】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真イーグル号(真(チェンジ)ゲッターロボ〜地球最後の日)
パイロット状態:興奮、困惑、やや疲労
機体状態:ダメージ蓄積、
現在位置:B-1市街地上空
第一行動指針:ギンガナムに激しい敵意
第二行動指針:ガロードを問い詰める。場合によってはお仕置き
第三行動指針:勇の撃破(ユウはネリーブレンに乗っていると思っている)】

【ガロード・ラン 搭乗機体:真ジャガー号(真(チェンジ)ゲッターロボ〜地球最後の日)
パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
機体状態:ダメージ蓄積
現在位置:B-1市街地上空
第一行動指針:お姉さんを止める
第二行動指針:お姉さんに言い訳をする
最終行動指針:ティファの元に生還】

【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
パイロット状態:気分高揚、絶好調である!(気力135)
機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、全身に軽度の損傷、ENほとんど空
現在位置:A-2北東部砂地
第一行動指針:倒すに値する武人を探す
最終行動指針:ゲームに優勝】

23アンチボディー  ―半機半生の機体―  ◆Nr7qwL8XuU:2006/08/28(月) 19:32:17
 【神 隼人 搭乗機体:YF-19(マクロスプラス)
 パイロット状況:良好(但し、激しい運動は危険)
 機体状況:良好
 現在位置:B-1市街地上空
 第一行動方針:真ベアー号をどうにかしたい
第二行動方針:クインシィとガロードの援護
 第三行動方針:高高度からの、地上偵察。
 第四行動方針:二人以上の組との合流(相手が一人の場合、少なくとも自分から接触する気はない)
 最終行動方針:主催者を殺す
備考:まだ完全にクインシィとガロードを信用しているわけではありません】

【時刻:17:45】

24引き合う風  ◆y12NUCIPVs:2006/09/11(月) 14:58:27
D−5の北部平原に白く輝く機体とその前に佇む人影があった。
「ふう、やはりこの機体は美しい。醜いものによって傷つけられた心を癒すには、やはり美しいものを見るのが一番だな」
そう呟きながら、サイバスターに魅了されているレオナルド・メディチ・ブンドルは振動を感じ自分に近づく機体に気付きコックピットに入り、三機の機体の内一機に見入った。
「ふむ、他の二機はともかくあの金色の機体。見る者を魅了する金色、そしてそれに劣らぬ流線的なフォルム、シンプルな造形美。そして、百年その美しさを保つように肩に刻まれた文字。おお…美しい」
そう感動しながら離れたところで止まった三機の動きを待つことにする。



最悪だ。D−4の補給ポイントに向かう途中に圧倒的な力を持ち立ちふさがる機体を見てマサキ=アンドーはそう思った。
あの純白の機体を俺が見間違えるものか――――
「マ、マサキ」「あ、あにょ機体は」
「ああ、分かってるぜ。クロ、シロ」
「あの機体を知っているのかマサキ?」
カミーユ・ビダンが彼の異変に気付き尋ねる。
「ああ、知っているぜカミーユ。あいつはサイバスター、ラングランを守護する最強の魔装機神の内の一体だ」
「な、なら、に、逃げようよ」
彼の言葉を聞いたカズイ=バスカークは既に逃げ腰である。

25引き合う風  ◆y12NUCIPVs:2006/09/11(月) 15:00:38
「無理だ、風の魔装機神のスピードはこっちの三体を軽く凌駕するし、パワーも先刻のには劣らねぇ。
それに自分を中心として周囲の敵を破壊する広範囲攻撃のサイフラッシュ、
一発限りだが戦艦もぶち抜くコスモノヴァ。接近戦にはディスカッターが装備されている」
「聞いている限りでは死角なしの機体だな」
「まさか、あの細身の機体に開発中のMSZ-010以上のスペックがあるなんて」
とはいえ、二人のエースパイロットにとっては戦局を変える機体は知っていても
信じがたい話だが、先刻の黒い機体のような例もあり彼が信用に値する人間だと判断できるので
彼の言葉を信じ純白の機体をより一層警戒する。
「で、でも、マサキさんが先刻言ってたようにそんな選らばれた勇者しか
乗れないような機体なら悪い人が乗ってるわけじゃ」
「いや、ゲアスつぅ強制魔法を使えば不可能じゃねぇ。あの化け物かあいつが使ったかはわからねえがな」
マサキの脳裏にはかつて大地の魔装機神ザムジードが焔のゲアスに制御された光景が思い浮かべられた。
とはいえどういうことだ?あいつの声が聞こえねぇ―――――
あのときにも聞こえた魔装機神の苦しむ声が聞こえないのが気になった。
「そ、そんな」
「それより、気をつけろ。いつ仕掛けてくるかわからねえぞ」
数十秒間お互い睨み合ったが向こうから動く様子がないようだ。
「…このままじゃらちがあかねぇ、俺が交渉する。もし、ゲームに乗った奴だったら俺を置いて逃げろ」
「なら、足止めの役は俺がする!この機体が一番適任だ!
それにメリクリウスが鈍足でなければニアミスすることはなかった!」
マサキとてこんな所で死んでしまう心算もないが相手は自分の愛機であり放っておくには危険すぎる力を持ち、
何より絶対に汚してはいけない翼であることが他の人間に任せるという選択肢を選べない。
「俺は魔装機神操者マサキ・アンドーだ!絶対にサイバスターを悪用させるわけにはいかない責任がある!」
「カミーユ、ここは彼に任せよう」
「ゼクスさん!!」
無論ゼクス・マーキスとてマサキには死んで欲しくはないが、
カズィを後ろに乗せている以上危険な行為はできず、
間合いを詰めるのに適しているトールギスを思わせるような機体では
この距離でカズィを二人にたくすのは危険である。
もっとも戦闘状態になればカズィをカミーユに託し自分が足止めになるつもりではあるが。
「そのかわり、まずは交渉を優先させろ。ゲームには乗っていないかもしれん」
とはいえ、根拠はないがこの少年ならこの状況をヒイロ・ユイのようになんとかしてしまえるかも
知れないという思いがあったからこそ接触をまかせるつもりにもなったのだが。
「ああ、わかったぜ、おっさん。いくぞ、クロ、シロ!」
「おっさんではない!私はまだ19だ!」
そのゼクスの魂のセリフを聞くことなく百式はサイバスターに向かって行った。

26引き合う風  ◆y12NUCIPVs:2006/09/11(月) 15:01:23
【レオナルド・メディチ・ブンドル 登場機体サイバスター(魔装機神)
パイロット状態:ご機嫌
機体状態:サイバスターモード、良好
現在位置:D−5北部
第一行動指針:金色の美しい機体に見惚れている
第二行動指針:首輪の解除
最終行動指針:自らの美学に従い主催者を討つ】
【マサキ=アンドー 搭乗機体:百式(機動戦士Zガンダム)
 パイロット状況:健康、サイバスターを警戒
 機体状況:良好
 現在位置:D−5北部
 第一行動方針:サイバスターに接触する(交渉優先)
第二行動指針:サイバスターを邪悪な者には渡さない
第三行動方針:補給ポイントに向かう
 第四行動方針:味方を集める
 最終行動方針:ゲームからの脱出またはゲームの破壊】


【ゼクス・マーキス 搭乗機体:メディウス・ロクス(スーパーロボット大戦MX)
 パイロット状況:健康、サイバスターを警戒
 機体状況:良好
 現在位置:D−5北西部
 第一行動方針:マサキを待つ
第二行動方針:補給ポイントに向かう
 第三行動方針:味方を集める 
 最終行動方針:ゲームからの脱出、またはゲームの破壊】
【カズイ=バスカーク 搭乗機体:メディウス・ロクス(スーパーロボット大戦MX)
 パイロット状況:サイバスターにびびってる
 機体状況:良好
 現在位置:D−5北西部
 第一行動方針:ゼクス達についていく
 第二行動方針:補給ポイントに向かう
 第三行動砲身:AI1を完成させる
 最終行動方針:ゲームからの脱出または優勝またはゲームの破壊】
【カミーユ・ビダン 搭乗機体:メリクリウス(新機動戦記ガンダムW)
 パイロット状況:健康、サイバスターを警戒
 機体状況:EN残量少
 現在位置:D−5北西部
 第一行動方針:マサキを待つ
第二行動方針:補給ポイントに向かう
 第三行動方針:味方を集める
 最終行動方針:ゲームからの脱出またはゲームの破壊】

【初日:16:00】

27名無しさん:2006/09/25(月) 15:30:00
向こうが公開プロキシーなんとかで書き込めないからこっちで宣言。
カテジナさん、バサラ、ギャリソン、コスモ、九龍、予約。
本スレ>>847さん
多分前の人が間違えたんじゃないかと、指針と方針がごっちゃになってるし。

28 ◆6O9iAlncQE:2006/09/25(月) 15:36:14
ごめんとり忘れた。
カテジナさん、バサラ、ギャリソン、コスモ、九龍、予約。

29『歌』に振り回される人達  ◆6O9iAlncQE:2006/09/25(月) 21:48:27
B-5の密林に巨大な赤い機体が佇んでいた。
そして、その足元には赤い機動兵器とバイクが密林に隠れるように存在した。
「ち、機体を密林に隠すつもりだったがこれじゃあ、無理だな」
「たしかに、ダイターンよりも少々小さかったので可能だと思われたのですが、無理そう
ですなぁ」
「じゃあ、どうするの?街の方まで移動する?」
三人はあれから当初の予定どうりに二時間ほど飛び続け一旦休息をとるために着陸し
敵襲に備えるために機体を密林の中に隠そうとしたのだがジガンスクードだけが
どうやっても上半身が丸出しになるので考えあぐねていた。
「第一イデオンほどじゃないがこんな機体が密林に隠れられるわけがないんだ。
ギャリソンさんのガンダムでもぎりぎりだしよぉ」
「そうですなぁ、それならばコスモ様は見張りをして私とカテジナ様が機体から降り
休憩を取るということで」
「おい、じいさん!」
「もちろん、30分ごとに交代で次は私の番ということでいかがでしょうか?」
「…分かったよ。それまで、あんた達はティータイムでも楽しんでな」
そうしてコスモが見張りをし、ギャリソンが食事の用意をするために機体から
降りようとすると、
「待って」
カテジナが制止をかけた。

30『歌』に振り回される人達  ◆6O9iAlncQE:2006/09/25(月) 21:49:17
「どうしたんだカテジナ?」
「如何なされましたかカテジナ様?」
「なにか聞こえない?歌みたいなものが」
「歌?そんなもの聞こえませぬが」
「二人とも白い機体がこちらに近づいてくるぞ!」
そのとき、西のほうから猛スピードでやって来る白い機体をコスモが視界に捉えた。
そして、彼らは戦闘体勢を取り近づいてくる機体に対応しようとした。
「こちらはギャリソン。あなた様は殺し合いに乗っておられ…」
「俺の歌を聞けぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
突撃ーーーーーーーーーーーーーラブハーーーーーーーーーーーーートォ!!」
そして、三機の前で白い機体のパイロット、熱気バサラは突然歌いだした。
まさか、三人共襲われるか、もしくは交渉を持ちかけられると思っていたので
彼が歌うのを止めさせるという発想もできず、ただ困惑するばかりである。
そして、しばらく歌い満足したのかバサラは機体を三機の前に着陸させ、
ラーゼフォンのコクピット「奏者の座」から降り、ガーランドに近づいた。
「レックス、まさかお前までこんな所につれて来られてるとは思わなかったぜ」
「レックス?誰よそれは」
「ん?ああ悪い。あいつと同じライダースーツだから間違えちまった」
彼女は知らないことだが支給されたライダースーツはマクロス7内で結成された
暴走族「レックス軍団」のものと同タイプであった。
「失礼しますが、あなた様は殺し合いに乗っておられますかな?」
「ああ!!んなもんくだらねぇ。おれはなあ、熱いハートで止めるつもりだぜ」
「あんた、それはどういうことだ?」
「俺の歌を聞けば分かる。いくぜ、PLANET DANCE!!」
そうして再び歌いだした。

31『歌』に振り回される人達  ◆6O9iAlncQE:2006/09/25(月) 21:50:16
「ほほほ、どうやら乗ってはいないようですな」
「ケッ、歌で殺し合いが止まるかよ」
そのつぶやきはバサラに届かず、歌が終わったころにカテジナが声をかける。
「ねえ、あなたの名前はなんていうの?」
「熱気バサラだ。あんた達は?」
「私はカテジナ。でかいの方に乗ってるのがコスモ。MSの方がギャリソンさん。
にしても、あの白い機体はなかなかよさそうね」
「だろ、俺の最高の相棒だ」
「そう、なら頂くわ」
「あ?」
そうカテジナは呟くとプロトガーランドのアクセルをひねりその場の全員が反応する前に
ラーゼフォンに突っ込みそのままバイクでコクピットまで登り、乗り移った。
「な!?」
「カテジナ様!?」
「手前、俺の相棒に!?」
ガシャンという音を立てながらプロトガーランドが落下すると同時に、ラーゼフォンは
空中へと浮かび上がった。
「ハハハハハハハハ、私が本気でお友達ごっこをするとでも思ったのかい?」
「なぜこんなことをする!カテジナ・ルース!!」
「あいにくと機体が弱かったからあなた達と一緒にいただけ。私には分かるこの機体は
ウッソのV2以上の性能だと。なら、利用できそうもない煮ても焼いても食えないじじいと
馬鹿な男供には用はない。とりあえずはゲームに乗ってやるつもりはないからあんた達で
がんばりな」
彼女にとっては自分以外の存在はあくまで女王マリアの思想を広げるためのものに過ぎず。
そして、強化人間として与えられた感覚によってラーゼフォンの力を見抜き、
都合よくパイロットが降りたため奪取することを決意したのである。
そして、ラーゼフォンは猛スピードで飛び立っていった。

32『歌』に振り回される人達  ◆6O9iAlncQE:2006/09/25(月) 21:50:46
「ち、待てカテジナ・ルース!」
「待ちなされコスモ様、あのスピードではとても」
ギャリソンがそう制止するがジガンスクード・ドゥロはラーゼフォンを追いかけて行った。
「待ちやがれ!泥棒なんざくだらねぇ、俺の歌を聞けぇーーーーーーーーーーー!」
そう叫ぶとバサラもその場に転がっていたプロトガーランドに乗り込み後を追った。
「ふぅ、やれやれでございますなぁ」
そう、ため息をつくとリストビーム砲を右横に向け、そのまま発射した。
そうして着弾箇所が燃え上がる中、一機の黒い機体が現れた。
「ククク、安眠妨害をする奴を殺してやろうかと思っていたら、ちょうど
いいところに先刻の奴らが仲間割れを起こしていてよぅ、一人づつバラしてやろうと
思っていたら、レーダー不調の中どうやって気づいた?じぃ〜さ〜ん」
「ほほほ、万丈様の執事たるもの獣の気配ぐらいは感じ取れなくてはいけませんので」
「ハハハ、そうかい。なら、手前らをぶっ殺してから万丈って奴も殺してやるよ」
そう言いながらマスターガンダムはガウルンの動きをトレースし柔術の構えをとる。
「ならば、世のため、人のため悪の野望を打ち砕くガンダムレオパルドデストロイ!
この火力を恐れぬのならばかかって参られい!!」
その口上と共に戦いの火蓋は切って落とされた。

33『歌』に振り回される人達  ◆6O9iAlncQE:2006/09/25(月) 21:51:43
【カテジナ・ルース 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
 パイロット状況:健康
 機体状況:損傷無し
 現在位置:B-5から移動中
 第一行動方針:自分が利用できそうな存在を探す
 第二行動方針:とりあえずはゲームに乗らない?
最終行動方針:生き残る】

【ユウキ・コスモ 搭乗機体:ジガンスクード・ドゥロ(スーパーロボット大戦OG2)
 パイロット状況:健康
 機体状況:EN35%消費
 現在位置:B-5密林から移動中
 第一行動方針:ラーゼフォンを追いかける
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)
 パイロット状況:俺の歌を聴けぇぇぇッ!!
 機体状況:MC形態
      落ちたショックで故障の可能性あり?
      今のところ走らせるのは問題なし
 現在位置:B-5密林から移動中
 第一行動方針:ラーゼフォンを追いかける
 第二行動方針:新たなライブの開催地を探す
最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる】

34『歌』に振り回される人達  ◆6O9iAlncQE:2006/09/25(月) 21:52:17
【ギャリソン時田 搭乗機体:ガンダムレオパルドデストロイ(機動新世紀ガンダムX)
 パイロット状況:健康
 機体状況:全弾薬の半分近くを消費
 現在位置:B-5密林
 第一行動方針:黒いガンダムを倒す
 第二行動方針:コスモ達を追いかける
 最終行動方針:ゲームからの脱出】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:全身持病の癌、現在小康状態
 機体状況:"損傷無し"
 現在位置:B-5密林
 第一行動方針:ガンダムレオパルドデストロイに乗ったじじいを殺す
 第二行動方針:近くにいる敵機を攻撃
 最終行動方針:皆殺し】

【備考】カテジナさんがどの方角に逃げたかは次の書き手に任せます。
    戦闘地点に小火発生
【時刻:17:20】

35『歌』に振り回される人達  ◆6O9iAlncQE:2006/09/25(月) 21:57:43
ERROR:公開PROXYからの投稿は受け付けていません!!(1)
がどうやっても解除されないのでこっちに投下。
自分としてはカテジナさんが前の人の作品より暴走してるぽいのが1番の問題かな?
判定よろしくお願いします。あとは向こうに宣伝もお願いします。

36Time Over ―私の中のあなたにさよならを―:2006/11/08(水) 16:57:41
既に大きく日が傾き始めた頃、東へ東へと進む二つの機体の姿があった。
湖面に映し出された蒼い姿は有機的な流線型を、青ベースに赤と黄を散りばめたもう一つはごつごつと物々しい姿をしていた。
その内の蒼い機体の足が不意に止まりあたりを見回す。
北を向き、西を向き、南を向いて東に向き直る。周囲の風景に別段異変は見られなかった。
しかし、心がざわめくのをラキは感じ取っていた。既に彼女の一部となったジョシュアの心。それが熱を帯びたように熱かった。
「どうした?」
怪訝そうな声でエイジから通信が飛び、機体を寄せてきた。
「エイジ、ストレーガのハッチを開けてくれ」
返答を待たずしてブレンのコックピットから体を乗り出したラキが飛び出した。
それを慌ててフォルテギガスの腕が受け止める。いかに湖上とはいえ人が無事ですむ高さではなく、思わず冷や汗が背を伝うのをエイジは感じた。
「何をする気だ?」
ラキを落とさないように慎重にフォルテギガスの腕を操りながらエイジが質問を投げかけた。
「ジョシュアを探す。静かにしてくれ」
ストレーガのコックピットに滑り込んだラキが答えを返し意識を凝らす。
元々、彼女とジョシュアの精神はシュンパティアを介して混ざり合った。
その結果、彼女はおぼろげながらもジョシュアの存在を感じることができるようになったのだが、残念ながら大雑把すぎて位置をつかめずにいた。
それをフォルテギガスのシュンパティアを利用することでジョシュアの精神に同調しその居場所を掴む。
これがラキの考えであったが、彼女の言はいつも短く説明不足であった。
ゆえにエイジは不承不承ながらも黙ってみているしかなかった。
そして程なくラキはジョシュアの位置を掴むとコックピットから身を乗り出した。
「エイジ、ありがとう。世話になった・・・。ブレン、跳ぶぞ!」
突然の言に驚き声を返す間もなくブレンに乗り込んだラキは目の前から消え去る。
何故だか分からないが急がないといけない。彼女はそんな気がしていた。

37Time Over ―私の中のあなたにさよならを―:2006/11/08(水) 16:58:13
大地は分厚い氷で成り立ち、そこここに多い茂る木もまた氷でできている。
そんな氷に覆われた冷たくも澄みきった世界でラキはたたずんでいた。
目に映るのは白と黒にその中間色からなるものだけ。美しく澄んではいてもどこか味気ない。
ヒヤリと透きとおった空気のなかで暖かな気配が風と共に頬を凪いでいった。
その気配にフラフラと釣られるように足を踏み出す。
樹氷の林の中に分け入り、時折足を止めてはわずかな温もりを確認しつつ進んでいく。
徐々に、しかし確実に気配は増し、不意に白と黒の世界から一変して緑の木々に覆われた世界が彼女の前に姿を現した。
そして、その中心で焚き木に火をくべている者を見つけ、彼女は我知らずに彼の名を呟いた。
「ジョシュア・・・」
振り返ったジョシュアと目が合った。
衝動に駆られるままにラキはジョシュアの懐に飛び込み抱きついた。
硬直するジョシュア。しばしの混乱の後、赤くなって慌て引きはがす。
「なっ!いきなり何をするんだ」
「親しい者同士が再会したときはこうすると聞いたぞ」
「誰からそんなことを」
「リアナだ。違うのか?」
思わず嵌められたという言葉が脳裏を横切り、頭を抱える。目の前の女性は何を疑う様子もなく怪訝な顔をしていた。
そんな表情から一変、若干の怒気を含んだ声で彼女は
「ジョシュア、一体今までどこへ行っていたのだ?私はお前を探していたのだぞ」
と言い放った。
「あ・・・・・・、すまない」
「だがここからは一緒だな」
その言葉にジョシュアの顔が曇り、次の瞬間ラキを抱きしめた。
「ジョシュア?」
驚いたラキは怪訝そうな声をあげる。
「・・・・・・すまない。もう一緒にいてあげられないんだ」
耳元で悲痛な声が響く。聞こえてはいたが言葉の意味がよくつかめなかった。
「ごめん。もう行かなきゃならない。ラキ、さようなら・・・・・・ありがとう」
いつの間にかそこにいるはずのジョシュアの姿は掻き消え、ラキの心象世界は急速に彩りとぬくもりを失っていく。
そしてそこには以前と変わらぬ氷の世界だけが取り残されていった。

――ジョシュアの心は本体と同時にその活動を停止した――

38Time Over ―私の中のあなたにさよならを―:2006/11/08(水) 16:58:58
目の前の空間が突然ひらけ、夕闇に彩られ始めた空が視界に映し出される。
A-2北西の空間が歪み、いびつな音と共にネリー・ブレンがジャンプアウトしたのだ。
本日二度目の長距離バイタルジャンプ。ブレンのエネルギー切れが原因なのか、あるいはジョシュアの感覚を見失ったことが原因か、はたまたその両方か――
――もう、どうでもよかった。
バランスを崩したブレンが落下する。
空がゆっくりと遠ざかっていく。
自由落下にまかせるままに砂地に落ちたブレンは砂埃を舞い上げた。
それからしばらくラキはただ空を眺めていた。
(ブレン、ジョシュアが私を置いて何処かへ行ってしまった・・・・・・)
(・・・・・・)
なんなのだろう、この気持ちは。苦しいわけじゃない。痛いわけでもない。
ただひたすらに寂しい。ずっと一緒にあったものが、大事にしていたものがなくなってしまったように寂しい。
(・・・・・・)
(?)
(・・・・・・)
(そうか・・・。これが悲しいということなのだな・・・・・・)
これが・・・、これがかつて私が振りまいていた感情なのだな・・・・・・!
こんな、こんな気持ちを!!私は・・・・・・。
腕に力がこもり、拳を握り締める。何故だか勝手に涙が溢れてきた。
それを止めようとも思わなかった。
ただひたすらに自分を許せなかった。ただひたすらにジョシュアに会いたかった。
どうしようもなくなった彼女はただ声を震わせてただ泣き続けていった。


時刻は18:00を指し、最初の放送が静かに会場全体へと鳴り響いていった。

39Time Over ―Don’t break my heart―:2006/11/08(水) 16:59:51
そうか・・・、ジョシュアは・・・・・・。
放送が終わった後、意外にもジョシュアの死をすんなりと受け入れている自分をラキは感じていた。
一通り泣き伏して気持ちがすっきりしたせいかもしれない。
それとも律儀にもお別れを言いに着てくれたからだろうか・・・・・・。
(ブレン、私はどうすればいい・・・・・・)
ラキはジョシュアを生き返らせたかった。だけど悲しいという感情を知ったことが彼女を迷わせていた。
それに、それを―それにかかる代償をジョシュアは多分望まない気もしていた。
「うっ・・・。なんだ・・・これは?」
そんな彼女を突然懐かしい感覚が襲う。
「これは・・・・・・負の感情?」
もともと彼女にはメリオルエッセとして人の負の感情を吸収する能力が備わっていた。
しかし、それはシュンパティアの影響でジョシュアと彼女の心が混ざり合い、様々な感情に目覚めていく過程で損なわれていった特性だった。
彼女はそれらの変化をかつて自分は壊れたと表現していた。
そして、彼女の言葉を借りるなら今その特性は直ったというべきか。ジョシュアの心が休止し、彼女の体はメリオルエッセとして再び正しく活動を始めた。
放送によって会場の中に満ち溢れた怒りを、悲しみを、憎しみを、慄きを、あらゆる負の感情を綯交ぜにしたものを際限もなくその身に取り込み始めたのだ。
「うあっ・・・!くっ!!・・・・・・あ゛」
負の感情を取り込んだ彼女の体が依然と同様に喜びの声をあげる。取り込んだ負の感情が細胞に染み渡り、肉体は活性化していく。
しかし、皮肉にも彼女の精神は以前とは変わってきていた。
「嫌だ!こんなもの・・・うっ!ゲホッ・・・こんなもの・・・ハァハァ・・・私は欲しくない!!」
彼女の得た人間らしい考えが、道徳観が、体験した思いが、体があげる歓喜の声を嫌悪し、全てを吐き出したい衝動に駆られる。
コックピットに転がり、のたうち、目を見開き、髪を乱し、胃液を吐き、撒き散らしながらも取り込んだ感情をどうにか吐き出そうと悶え苦しむ。
しかし、彼女の意思に反して吐き出すことは叶わず、なおもその身は負の感情を取り込み続ける。
「ハァハァ・・・・・・うあっ・・・あっ!頼む!止めて・・・あ゛あ゛あぁぁぁぁぁあああああ」
悲痛な叫びが木霊する。相反する感情の板ばさみに彼女の精神は蝕まれていった。

40Time Over ―Don’t break my heart―:2006/11/08(水) 17:00:45
【グラキエース 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
パイロット状況:精神不安定
機体状況:バイタルジャンプによりEN1/2減少
現在位置:A-2北西部
第一行動方針:???
最終行動方針:???
備考1:果てしなく大雑把にジョシュアの存在を感知
備考2:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】


【アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ 搭乗機体:フォルテギガス(スーパーロボット大戦D)
パイロット状況:健康。なんか疲れた
機体状況:無事。ENを少し浪費。
現在位置:A-2南部湖上
第一行動方針:突然消えたラキを探す
最終行動方針:ゲームから脱出
備考:クルツを警戒している】


【初日 18:05】

※IFです。

41少年の決意:2006/11/15(水) 20:27:25
2スレ目の153を見た瞬間、思わず書いてしまった。反省はしていない。

『アー、アー、ただいまマイクのテスト中ですの。…こほん…
最初の定時連絡の時間となったので放送を始めますの。
まずは死んでしまった人たちの報告からですの…』

…エクセレン=ブロウニング
…メルア=メルナ=メイア
…グ=ランドン・ゴーツ
…ラクス=クライン

戦闘を乗り切り、一息入れられると思った矢先に、
彼にとって最悪の事実が伝えられた。

簡単に予想される事だった。彼女はこのような馬鹿げた話に
乗るような人間では無い。むしろ、平和的解決のために、動くであろう
事は最初から分かっていた。そして、考えたくも無い事ではあるが、
ゲームに乗った人間からすれば彼女は格好の的だ。

そして、最悪の予想が現実となった。


声も出ないし、涙も出ない。悲しみ、そして怒りが大きすぎて
心がフリーズしているような感覚だった。心の自衛機能が働いているのだろうか。
そんなどうでもいい事を考えている所に、更に言葉は続く。

42少年の決意:2006/11/15(水) 20:28:36
『乗らない方もいますのでやる気を出してもらうために
ご褒美のことを説明いたしますの。ご褒美は、死んでしまった方を生き返らす
ことから世界の改変まで望むがままですの。なので、みなさんちゃきちゃき頑張って欲しいですの』


死人の復活は元より世界の改変も可能……

彼女はそう言った。


例えば、トール、フレイ、ムウさん、自分達を逃がすために死んで行った第7艦隊の人たち、
フレイのお父さんたち、シャトルの避難民の人たち……

いや、世界の改変と言うのならそもそも戦争の原因となった血のバレンタインすら
防ぐ事も出来るじゃないか。そうだ。全てはあれが原因だ。
友人と銃を向け合い、それぞれの友を奪って殺しあって、大切な人たちを失って……

それだけの血を流し、多くの物を失いながらも、また銃を向け合おうとする者は消えず、
近い内に再び戦争が起きるかもしれない明日に脅える……そんな世界を変えられると言うのか?

そう考えるなら確かに魅力的な話ではある。だが、このゲームに乗るという選択肢は
ラクスへの裏切りになるのではないだろうか?

いや、待て。彼女は「願いは一つ」とは言ってない。
ならばこのゲームの参加者全てを生き返らせ、然る後に世界の改変を
願えばいい。そうすれば、全て大丈夫。誰も死なない。
その先には誰も死なない世界を作り出せる。

43少年の決意:2006/11/15(水) 20:30:25
いや、それだけでは駄目だ。自分の機体、ジョナサンの機体、他の参加者の機体を
見る限り、未来、もしくは違う世界の技術を使ったとしか思えないような機体ばかりだ。
つまり、それはこのゲームの主催者が時を超えるどころか、時空すら超える力を有している事をも証明しているのでは?

だったら………用済みになったら主催者も殺さないといけないんだ。
そうだ。あんな危険な存在が許される筈が無い。もし、このゲームが終わっても、
また同じ事を繰り返さない保障は無い。それに、ラクスが死んだのは誰のせいだ?

言うまでも無い。僕達をこんな狂った戦いに巻き込んだ主催者だ。

人を殺すのは嫌いだ。だけど、アレは人じゃない。只の化け物だ。
なら、殺した所で罪になる事も無い。

だから覚悟を決める。再びこの手で他人の命を奪うという覚悟を。


横には、気絶したジョナサンが乗るJアークがいる。その気になればすぐに
殺せるが、それにはまだ早い。確かに自分の乗る機体は悪くは無い。
だが、こんな状況なら仲間を集めようとする人間はいくらでもいる。
自分だってそうした。エネルギーを気にせずに戦えるフリーダムならともかく、
この機体は補給も必要だ。徒党を組んだ相手を敵にするなら、こちらも
徒党を組む方が効率的であるのは明白。利用するだけ利用して、
最後の最後に裏切ればいい。


そうさ、僕は辿り着く。誰も成し得なかった本当の平和な世界を築く存在に


僕は………新世界の神になる!

44少年の決意:2006/11/15(水) 20:32:34
【キラ・ヤマト 搭乗機体:ガンダムF−91( 機動戦士ガンダムF−91)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在位置:C-5
 第一行動方針:ジョナサンの回復を待ち、信用を得る
 第二行動方針:役に立ちそうな手駒を集める
 最終行動方針:優勝し、願いを叶えた後用済みになった主催者を排除し、新世界の神となる】

【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー)
 パイロット状態:気絶中 
 機体状態:キングジェイダーへの変形は不可、左舷損傷軽微
 現在位置:C-5
 第一行動方針:クインシィの捜索
 第二行動方針:キラが同行に値する人間か、品定めする
 最終行動方針:クインシィをオルファンに帰還させる(死亡した場合は自身の生還を最優先)】

※IFです。

45御転婆お嬢様は飛んでいる。:2006/11/22(水) 20:37:42
「嘘…10人も人が死んだの?」
ソシエは放送を聞き驚愕する。付近で戦闘が行われていたことは知ってはいたが、まさかそんなことに
なっているとは思いもせず、呆然とその場に立ち尽くすばかりである。
『…は進入禁止となりますの。 進入すると首輪が起動するので注意することですの』
そのため、彼女は幸か不幸か放送の内容をほとんど聞き逃してしまった。
(いけない!もしここが禁止エリアだったら最悪じゃないの)
機体がないので徒歩で移動するならばすぐに移動するべきであるが移動した先が安全である保障などどこにもない。
そんな自分を取り巻く状況に戸惑っていると地響きと共に轟音が聞こえ、その方角を睨んでいると
そこから巨大なトカゲのようなものがやって来た。
慌ててホワイトドールの中へ戻ろうとしたが、機体が動かないことを思い出し手近な建物の中に
隠れる。そうしていると大トカゲがホワイトドールの手前で止まった。
「お〜いそこの人!何しているんですか?」
なんとなく脱力感が漂ってくる女性の声が聞こえた。
だが、通信機が故障しており機体には乗っていないソシエには問いかけに答えることはできない。
「乗っているですか?乗っていないんですか?答えてください。
 ……仕方ないですね。そっちがその気ならこっちはこうです」
ソシエが黙って成り行きを見守っていると突然片方の首がホワイトドールに齧り付く。
「ッこら!ホワイトドールを食べるな!!!」
思わず飛び出す。そんな彼女をもう片方の首が睨む。
(しまった!!いくらなんでも生身であんな化け物に勝てるわけがないじゃないの)
失態を理解し、襲ってくるであろう衝撃に目を閉じ身を硬くする。
そして、ソシエの脳裏にこれまで人生が次々に浮かんでいく。
(ロラン、あたしがいなくなってもしっかり姉さんを守ってよ)
だが、予想していた衝撃は襲ってこず、代わりとばかりに女性の声が発せられる。
「ナデシコ艦長ミスマル・ユリカで〜す! ・・・ぶいっ!」
ソシエは恐る恐る顔を上げる。そこには変わらずに巨大トカゲ睨んでいた。
「な、な、な、なによ!食べきゃ食べればいいじゃない!!」
「え〜!?私は女の子を食べる趣味はありませんよ。あ!アキトの料理なら食べたいですけど。
 でも、どうせならアキトを食べたいな〜♪むしろ私をアキトが食べて。な〜んちゃって♪」
「……で!あなたは殺し合いに乗っていないの!?それとも乗っているの!?」
「乗っていませんよ♪あ!あなたもそうなら機体に乗ってくれませんか?」
何か胡散臭いものを感じたが選択肢はないも同然な状況なのでとりあえず機体に乗り込む。

46御転婆お嬢様は飛んでいる。:2006/11/22(水) 20:39:03
「シートベルトは締めましたか?」
「締めたわよ」
「ならイキますよ」
(行きますってどこへ?)
頭に疑問が浮かんだが時すでに遅くダイがホワイトドールを銜えあげ甲板に放りこむ。
「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
 ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
だが、ソシエにとっては堪ったことではなく叫び声を上げることしかできない。
そのままホワイトドールは轟音をたてて甲板に滑り込み事前に張ってあったネットに引っかかる。
その衝撃であっさりとソシエは気絶してしまった。




「お〜い!大丈夫ですか?」
だが返事もなければ機体から降りてくる素振りもない。
「ちょっと失敗しちゃったかな?」
ユリカは白い機体を戦艦に放り込んだがその勢いが予想以上に大きかったために中のパイロットの身を
案じていた。幸い不調の可能性のあるYF-21を迎えるために張ってあったネットに引っ掛かったため
衝撃は吸収され格納庫に直撃、爆発、炎上、誘爆という事態はさけられたが久々の大ポカのためひたすら
落ち込みたくなる。
だが、そんな暇もないのでとりあえずは現状で優先的に片付けなければいけないことを思索する。
まずは、あの機体を甲板から撤去することから始めることにする。幸いにして作業ロボットが積み込
まれてあったので先に積み込んだ緑の機体のように格納庫の奥にでも放り込むことは可能である。
次はネットを張りなおすことだが、これも艦橋から操作できるため問題ではない。
一番の問題は白い機体に乗っているパイロットの扱いである。人間があっさり嘘をつけることは
蜥蜴戦争で嫌と言うほど経験してきたのでいまいち彼女のことを信用できないのだ。
それに先刻の放送のこともある。知り合いの名前やガイという名もテンカワ・アキトという名も
呼ばれはしなかったが仮にもしアキトの名前が呼ばれていたら自分は平静を保つどころか主催者達の言葉を
鵜呑みにしてゲームに乗るという選択しを選ばずにいられる自信などない。
そこまで、考えて頭を振る。
(いけない、いけない、もうちょっと前向きに)
この状況では心が折れてしまえば終わりである。なので、あえて楽しいと思うことを口に出す。

47御転婆お嬢様は飛んでいる。:2006/11/22(水) 20:39:54
「ここから出られたら新婚旅行に行ってルリちゃんの弟か妹を産んで、名前は…う〜ん……男の子
ならカイト、女の子ならラピスって付けて、海原雄山って人でもうまい!!!って言うラーメン屋を作って
ルリちゃんの結婚式に出かけて可愛い孫を抱っこして……いけない、いけない、前向き過ぎちゃった」
もうちょっと現実的なことを考えてみる。彼女はウリバタケ・セイヤのような機械のプロフェッショナル
であり、壊れた機体も道具さえあれば修理でき、しかも首輪の解析も可能な人材であると思い込む。
「なら後は……ガイさんが帰ってくるのを待たないと。
 それにロジャーさんやリリーナちゃんと合流できれば人手も戦力も充実するから
 このまま順調にいけば明後日の新婚旅行にも間に合うしハッピーエンドに向かって一直線間違いなし。
 よし!完璧な展開」
リリーナ・ドーリアンの名は先の放送で呼ばれたのが確認できたが自分の目で確認するまでは生存している
と考えることにする。ナデシコ時代はそうやって乗り越えて来れたからだ。
とりあえずは、再び補給施設を艦で覆い隠し、白い機体に乗った彼女の元に行き話し合いをしに行く。

48御転婆お嬢様は飛んでいる。:2006/11/22(水) 20:40:58
【ミスマル・ユリカ 登場機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!)
パイロット状態:良好
機体状態:大砲一門破損、左前足損傷、腹部装甲損壊、大砲を一発消費
現在位置:D-7補給施設
第一行動方針:ソシエと話し合い
第二行動方針:ガイ(アキト)の帰りを補給施設で待つ
第三行動方針:補給施設を占拠して仲間を集める
第四行動方針:ガイの顔を見たい
最終行動方針:ゲームからの脱出
備考1:YF-21のパイロットがアキトだと知りませんが、もしかしたらとは思っています
    アキトの名前はガイだと思っていますが若干の疑問もあります
備考2:ハイパーデンドー電池8本(補給4回分)回収
備考3:ドスハードとアルトロンガンダムは回収してダイに積み込んである】

【ソシエ・ハイム 登場機体:機鋼戦士ドスハード(戦国魔神ゴーショーグン)
パイロット状況:気絶
機体状況:だるま(両腕両足損失)(AIは取り外され、コクピットが設置されています)
現在位置:D-7補給施設、ダイに搭載
第一行動方針:新しい機体が欲しい
第二行動方針:仲間を集める
最終行動方針:主催者を倒す】

【神名綾人 登場機体:アルトロンガンダム(新機動戦士ガンダムW EndlessWaLtz)
パイロット状態:圧死
機体状態:コクピット破壊、左腕喪失、左半身ボロボロ
現在位置:D-7補給施設、ダイに搭載】

【初日 18:30】

if話です。

49臨界 ◆E4GxMpkzKc:2007/02/12(月) 19:47:16
草が生い茂る平野で二機の巨人が対峙していた。
片方は大柄でもう片方は小柄。
大柄の方がまるで子犬を追いかけるかの様に小柄な方を追い掛け回している。
「ハーッ、ぜぇぜぇ。」
大柄な機体のパイロット、ゴステロは眩暈と息苦しさを覚えていた。
全身の痛みと頭痛に悩まされ標準すらままならない。
「そこのパイロット!君は先程痛みを覚えていると言ったがその原因は何だと思う?」
小柄な機体のパイロット、アムロがゴステロに話しかけた。
「知るかよぉぉ!」
ゴステロの返事と同時にスターガオガイガーから再度、拳が放たれた。
それもアムロに避けられた。
「君の痛みは殺し合いに参加している恐怖から来ているのではないか?」
「怖くなんかねぇよ!」
ゴステロの自信は自分の機体のパワーから来ていた。
このパワーがあれば自分は優勝出来る。
本気でそう思っているのだ。
(説得は不可能か…。)
アムロは心の中でぼやいた。
出会った瞬間から速攻を仕掛けて来た相手である。
頭の中には相手を殺す事しか無いに違いない。
そして一度目をつけた相手はどこまでも追っていきそうな執念深さがある様に思える。
「さっきから蝿みたいにブンブン飛び回りやがって!パワーでねじ伏せてやるぜ!」
ゴステロが叫んで腕を振り回し、アムロのバルキリーを叩き落そうとする。
力任せの動きを読むのはアムロにとって容易い事だった。
「落ちろッ!」
アムロは相手の機体を分析した。
左半身には内部が露出している部分が数多くある。
それも今まで動いたのが奇跡と言っていいぐらいに。
相手の装甲はかなり固い。
なら弱い部分を責めるしか無い。
一斉射撃。
反応弾以外のノーマルミサイル、マイクロミサイルがスターガオガイガーに雨あられと降り注ぐ。
「ふひゃひゃひゃひゃ!そんな事したって痛くも痒くも無いぜぇ!」
余裕で笑っているゴステロの視界が急にグラリと揺れた。
(え…?)

50臨界 ◆E4GxMpkzKc:2007/02/12(月) 19:47:50
ガオガイガーの左足が消失していたのだ。
(ならばッ!)
ゴステロは再度右拳でブロウクンファントムを撃とうとした。
が、反応は無い。
故障かと思い今度は右腕を振りかぶった。
待たしても反応は無い。
(まさか…)
ゴステロの予想通りスターガオガイガーの右腕は消失していた。
アムロはミサイルの全てを相手の右腕に、ライフルを相手の左足に叩き込んだのだ。
もう立つ事すら出来なくなった相手を見下ろすとアムロはバルキリーをファイターへと変形させた。
「待てぇぇ!」
ゴステロの悲痛な声を無視してアムロはそのままアイビス達への方向へ飛び去って行った。

【アムロ・レイ 搭乗機体:VF-1Jバルキリー(ミリア機) (マクロス7)
 パイロット状況:良好
 機体状況:左腕肘から先を消失、弾薬を9割消費
 現在位置:H-2北東部
 
 第一行動方針:シャア達との合流
 第二行動方針:首輪の確保
 第三行動方針:協力者の探索
 第四行動方針:首輪解除のための施設、道具の発見
 第五行動方針:核ミサイルの破棄
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している】
 
 【ゴステロ 搭乗機体:スターガオガイガー (勇者王ガオガイガー)
パイロット状況:敗北を悔いている
機体状況:両腕と左足消失、左半身に大ダメージ
現在位置:H-2
 第一行動方針:アムロを殺す
 第二行動方針:エイジ・カミーユ・ゼクス・ユーゼス・ベガを殺す
 最終行動方針:生き残り優勝


【初日 19:50】

51白刃演武 ◆7vhi1CrLM6:2007/04/15(日) 05:40:15
 殺し合いの為にあつらえられた会場、その南東の端H-8の小島で一つの機体が落ち込んでいた。
 膝を屈し手を付くそのさまは分かりやすく説明するとちょうど『orz』こんな感じである。
 モビルトレースシステムを採用しているその機体にとって機体の姿勢は搭乗者の姿勢を現す。
 つまり獲物を逃したギム=ギンガナムは、くどいようだが今現在まさしく『orz』な感じであった。
 そのような玩具を取り上げられた子供のような状態のギンガナムであったが、レーダーに光点が灯るや否や跳ね起き、目を純真無垢な子供のように輝かせる。
 テンションが急上昇していくその様は例えるならば『遠足の朝の子供』といったところか。
 そして、はやる心を抑えきれないかの如く上空の機体に通信を繋げた。
「我が名はギム=ギンガナム、一つ手合わせ願おうか」
 剥き出しのある意味純真な敵意を向け、大きく飛び上がり航路に侵入。挑むように腰からビームソードを引き抜き構えた。
「名乗られたからには答えよう。私の名はレオナルド=メディル=ブンドル。だがあいにく君に構っている暇は持ち合わせてはいない。悪いが押し通らせていただく」
 高速で迫る影が人型に転じ、西洋風の剣を抜き放つ。
 振りあげられた刃が煌き、高速で叩きつけられた刃を受けて火花が舞う。百舌鳥の鳴き声のような音が散った。
 剣と刀の鍔迫り合い。最大戦速で突撃してきた強烈な一撃を受けて機体は南へ南へと強く押し流されていく。
「クク……」
 笑いが込み上げてくる。躊躇のない踏み込み、太刀筋の鋭さ、撃ちこみの激しさ、どれ一つをとっても並の兵ではない。
 ――愉快だ。心の底から愉快だ。
 シャイニングのブースターが唸りを上げる。出力が上昇していく。
 荒獅子の如く展開される冷却装置。さらに出力があがり、二機の南下が止まった。
 せめぎ合い。互いのブースターの起こす燐光が闇夜に青白く浮かび上がる。
 増大していく出力。あおりを受けた湖面が飛沫をあげすり鉢状にへこんでいく。
 唐突にサイバスターの腕が動きを変え受け流された。支えを失った体が崩れ、凄まじい勢いで前に流れる。
 減速し体勢を整えようとした瞬間、背中にヒヤリとしたものを感じて逆に加速した。
 切っ先が装甲に触れてガリガリと耳障りな音を立て、肌の薄皮一枚切られたような僅かな痛みが走った。
「ハハハハハ!! それでいい。もっと貴様の力を見せてみろ」

52白刃演武 ◆7vhi1CrLM6:2007/04/15(日) 05:41:10
 息に乱れはない。
 僅か数合の立ち合いで理解したのは敵機の異常なまでの柔軟性。その動きは起動兵器の基本フレーム、及び操縦性に制限されたものとは異なる。
 普通ではほとんど獲得できないような人体の動きを手に入れている。同時に微細な再現する必要のない動き――ちょっとした癖やしぐさのようなものまで表現しきっている。
 そこから導き出されるのは、体の動きをそのままトレースするシステム、もしくは脳波から直接信号を受信し体を動かす感覚で機体を制御するシステムが使われているということ。
 とすれば、これは生身の人間と立ち会っていると考えたほうがしっくりとくる。
 切っ先が動き、頭を狙って放たれた一太刀を難なく受け止める。
 巨細漏らさず搭乗者の動きを再現する機体。呼吸の動きまで見てとれるそれを相手に拍子を読むことなど実に他安い。
 相手の技量が低いわけではないが、剣の腕に格段の差があった。
 だが、一撃が予想外に重い。相手を遙かに上回る大きさのサイバスターが力に押され徐々に沈んでいく。
 耐えかねて刃を反らして受け流し、ぱっと退いた。退き際に籠手を打つ早業。だが浅い。
 一つ大きく長く息を継ぎ、心を落ち着ける。

『剣術に許さぬ所三つあり、一は向うの起こり頭――』

 判明したことが一つ。正眼から太刀を振り上げ振り下ろすときにわずかに体が開くということ。
 ――先を抑え、そこを狙う。
 ギンガナムの切っ先が動き跳ね上がる。
 振りかぶった白刃が振り下ろされるその懐に一陣の風の如く踏み込む。
 その踏み込みはまさに一刀一足、いささかの猜疑心も持ち合わせていない突き。
 伝わってくるのは敵の装甲を貫く感触、耳にするのは金属のこすれあう音。

 ――しくじった。

 深々と突き刺した刃は狙った胸部の僅かに左、貫いたのは右肩。慣れない機体と直感的に動かせる機体、その差が現れた結果である。
 抉るように動かし刃の向きを変え切っ先に力を込める。

53白刃演武 ◆7vhi1CrLM6:2007/04/15(日) 05:42:31
 『二は向うの受け留めたる所――』

 耳に獣のような咆哮が届き、重い衝撃が伝わり、装甲が悲鳴をあげる。肩で弾かれ体が崩れる。
 透かさずに繰り出された太刀が迫ってくる。ブースターを最大稼働。身をさがらせることによって回避を試みる。
 ギンガナムが踏み込み。腕の腱が伸びる。

 『三は向うの尽きたる所なり、この三つはいずれも遁すべからず』

 そして、腱が伸び切る。踏み込みもこれ以上は体を損ね意味はない。ビームソードの出力も想定済み。
 それを統べて見極め再度踏み込み、攻勢に転じようとして目を疑った。

 ――馬鹿な!

 切っ先が伸び、差し迫ってくる。あり得ることではなかった。
「ハハハハハハハ、見事だ。貴様を我が敵と認めよう。最大の敬意を払い、全力を尽くし、その首をいただく」
 中ほどまで刀身が突き刺さる。コックピットの桃色の粒子が差し込まれ、まるでオーブンの中に閉じ込められているかのような高温に晒される。
 咄嗟に相手の太刀を跳ね上げ蒸発は免れたが、焼け焦げた肉の匂いがコックピットに充満し吐き気を覚えた。焼き蒸された体から汗がとめどなく流れ、視界が霞む。
 その視界でブンドルは確認した相手の刀身は伸びていた。いや、輝く左手に握られたそれは刀というには余りに粗暴な姿に変わっている――実に美しくない。
「どうした? 先を急いでいるのではなかったのかな?」
 厭味の利いた上から人を圧するような物言い――実に美しくない。
 しかし、その純粋に戦いを欲する精神。求道者のそれに近いその心だけは美しいと評価しよう。
 だが、いかに洗練され完結した美しさもった芸術品でも場を違え、調和を乱せばその美しさを損ねる。
 目の前の男はまさにそれであった。この場にこの男は危険すぎる。
「君の如き危険人物を野放しておくわけにもゆくまい」
 かくして二機は再び相対し、互いの存在を賭けてぶつかりあう。


【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
パイロット状態:テンション上昇中(気力130)
機体状態:右腕肘から先消失、胸部装甲にヒビ、右肩に穴、全身に軽度の損傷
現在位置:H-8
第一行動方針:ブンドルを倒す
第二行動方針:倒すに値する武人を探す
第三行動方針:アイビス=ブレンを探し出して再戦する
最終行動方針:ゲームに優勝
備考:ジョシュアの名前をアイビス=ブレンだと思い込んでいる】

【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
パイロット状態:火傷、主催者に対する怒り
機体状態:コックピットに周辺に損傷、ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能
現在位置:H-8
第一行動方針:ギンガナムを倒す。
第二行動方針:A-1に向かい、技術者をはじめとする一般人を保護する
第三行動方針:基地の確保のち首輪の解除
最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ】

【初日 18:20】
※IFです。

54 ◆7vhi1CrLM6:2007/04/15(日) 05:47:19
訂正
【初日18:20】→【初日20:40】

バトルパートだけ書きあがって没にしたものを多少形をいじってIFにしました。
やっぱブンドルに違和感が……。

55獅子は勇者と共に(改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/15(日) 21:39:31
「ひゃーっはっはっはは! 死ねぇ! 死ね、死ね、死ね、死ねぇぇぇぇいっ!」
 その巨大な豪腕を振り回し、スターガオガイガーはバルキリーに殴り掛かる。
 技も、駆け引きも、何も無い、力と勢い任せの殴打。
 だが、ウルテクエンジンのパワーで振り回される巨大な腕は、それだけで巨大な脅威となってアムロの身に襲い掛かっていた。
「くっ……!」
 紙一重の所で攻撃を避けながら、アムロは現状の打開策について考え続ける。
 状況は最悪とまでは言わないが、かなり劣悪な事に変わりは無い。
 バルキリーの火力では、スターガオガイガーの強靭な装甲を撃ち抜く事が出来ない。まして、弾数には限りがある。
 それに対して、スターガオガイガーの攻撃はバルキリーにとって一撃で致命打となりかねない。
 つまり、このままズルズルと持久戦に持ち込まれるようなことになってしまえば、こちらに勝ち目は無いと言う事だ。
 その狂気を孕んだ過剰な攻撃性はともかくとして、ゴステロの操縦技能は決して低くない。
 アムロが攻撃を危うげなく回避出来ているのは、スターガオガイガーの攻撃手段が単発的である事が大きい。
 バルキリーの機動性に、ニュータイプとしての直感力。二つの利点を活かして回避行動を続ける事は、さして難しいわけではなかった。
 もっとも、それとて限界が無くはない。長期戦で集中力に乱れが来れば、いつかは攻撃を避け切れなくなってしまう事もあるだろう。
 もちろん、アムロとて“連邦の白い悪魔”と呼ばれたエースである。そう易々と、被弾を許すわけがない。
 だが――
「ちぃっ……! ハエみてぇに飛び回りやがって……! うざってぇんだよ、てめぇはぁぁぁぁっ!!」
 あまりにも激しく、そして執拗に繰り返される攻撃を前に、なかなか突破口を切り開く事が出来ない。それが、今の状況だった。

「どうする……いっそ、逃げるのも手だが……」
 長高々度の飛行能力ならば、おそらくバルキリーに分があるだろう。
 ありったけの弾薬を目晦ましにすれば、それで十分な隙は作れるはずだ。
 しかし、この危険な男を野放しにして、本当に良いのだろうか……?
 ……いや、良くはない。
 ニュータイプとしての研ぎ澄まされた神経が、黒い悪意を感じ取っている。
 この男は、あまりにも危険過ぎる。今の内に仕留めておかなければ、どれだけの犠牲者を生むか分からない奴だ。
 ならば……!
「使うか……? 反応弾を……!」
 バルキリーに搭載された最強の武装。その威力は、ガンポッドやマイクロミサイルとは比べ物にならない。
 それを直撃させる事が出来さえすれば、この状況を引っ繰り返す事も不可能ではないだろう。
 シャアとアイビスは、もう十分遠くに行っているはずだ。
 後は反応弾の威力に巻き込まれないだけの、十分な間合いを取れさえすれば……。

「ブロウクン……ファントォォォォムッッッ!!!」
「っ…………!」
 唸りを上げて迫る拳。それを回避した所で、アムロは機体の異常に気が付いた。
 ほんの僅かにだが、ガタがきている。
 片腕を失った状態で、無茶な回避行動を取り続けていたせいだろう。機体のバランスが、ほんの僅かに崩れ始めていた。
「まずいな……早めに勝負を決めなければ……」
 ……腹を括る。
 機体の不調が、むしろ覚悟を決めさせた。

56獅子は勇者と共に(改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/15(日) 21:40:58
「畜生がッ……! あの野郎、チョコマカと逃げ回りやがってぇ……!」
 バルキリーの機動性に舌を巻きながら、ゴステロは苛烈な攻撃の手を休めようとはしていなかった。
 ゴステロとて、無能ではない。あの赤い機体が何かを企んでいる事には、薄々ながら気付いていた。
 だが、それがどうした。あの機体が自分に対して有効な攻撃を与えられない事は、これまでの攻防から明らかになっている。
 ならば、焦る事は無い。勝利は、じっくりと味わうものだ。逃げる気が無いと言うならば、むしろ自分にとっては好都合というものだ。
 あの機体が何を企んでいるかは知らないが、所詮は雑魚の足掻きに過ぎない。
 そうだ……このスターガオガイガーの圧倒的な力さえあれば、あんな飛ぶ事しか能の無い機体など敵ではない……!
「おらぁぁぁぁぁぁっ!」
 GSライドのパワーに身を委ね、ゴステロは力任せの攻撃を繰り返す。
 ……だが、彼は気付いていなかった。
 勇気を力の源とするGストーン。ゴステロの歪んだ精神に触れ続けていたそれが、少しずつ輝きを失い始めていた事に……。



「なんだ……? 奴の攻撃……さっきまでと比べて、ほんの僅かに弱まっている……?」
 スターガオガイガーの熾烈な攻撃を神業的な機体操作で回避し続けるバルキリー。
 機体表面に幾つもの損傷を作りながら、これまで反撃の機会を辛抱強く待ち続けていたアムロは、だからこそ敵機の異常に気付く事が出来ていた。
 誘っているのか……?
 ……いや、恐らくは違うだろう。
 あの巨大な機体から湧き上がる悪意は、その勢いを弱めていなかった。
 恐らくは、自分でも気付いてはいない。
 ならば……仕掛ける好機は、今を置いて他に無い!

「よし……!」
 もう殆ど使い果たしてしまったマイクロミサイル。その全てを“一点”に向けて、バルキリーは一気に射出する。
 スターガオガイガー、ではない。その足元に広がる荒野に向けて、ミサイルの雨は降り注ぐ。
 轟、と大きな音を立て、砂の嵐が巻き起こる。
「なぁっ……!?」
 足場に走った衝撃と、巻き上げられた砂の煙幕。その二つに、スターガオガイガーの攻撃が思わず途絶えた。
 その隙を見逃さず、バルキリーは遙か高くに舞い上がる。
 最大速度で空を切り裂き、そして機体を反転。
 目指す先は、光の壁だ。あの向こう側に抜けてしまえば、反応弾の威力に巻き込まれる事は無い――!
「これで……決める!!」
 光の壁を抜ける寸前、バルキリーは反転して最後の切り札――反応弾を撃ち放つ。
 閃光、轟音、そして――

57獅子は勇者と共に(改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/15(日) 21:42:10



「うおおおおおおっ!?」
 足場を走った衝撃に、ゴステロは思わず叫び声を上げていた。
 物凄い勢いで巻き上げられた砂煙が、ゴステロの視界を覆い隠す。
 目晦ましか――なめた真似を――!
 下らない小細工に、ゴステロの怒りは膨れ上がる。
「何か企んでいるとは思っていたが、こんな煙幕程度で俺様を――――!?」



「……やったか」
 反応弾の確かな手ごたえに、アムロは安堵の溜息を吐いた。
 恐ろしい敵だった。まるで悪意と憎悪の塊のような、とてつもないプレッシャーを放つ相手だった。
 彼が何者で、どんな人生を歩んできたのか、自分には窺い知る事が出来ない。
 だが、ろくなものではないのだろうと言う事は、容易に想像する事が出来た。
 ニュータイプとしての直感が感じ取った巨大な悪意ばかりではない。
 あの男の戦闘技術は、間違い無く数多くの実戦を踏んだ人間のそれだった。
 戦う事……いや、相手を痛め付ける事に喜びを見出す危険人物、か……。
 もしこの場にカミーユがいれば、こう彼の事を評していただろう。
 生きていてはいけない人間、と。
「ともあれ、これでひとまずは……」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!」
「――――――――!?」

 ――それは、完全な油断だった。
 輝く壁の向こう側から雄叫びと共に現れた、先程の巨大な機体よりも一回り小さい、スマートな印象の白い機体。
 だが、アムロには分かる。あの機体に乗っているのは、先程の機体に乗っていた男と同一人物だ。
 この巨大な悪意――忘れられるわけがない!
「っ…………!」
 バルキリーを急旋回させ、アムロは迫り来る一撃を避けようとする。
 だが――遅い。
 ほんの僅かな油断を突かれて、どうしても反応が間に合わない。
「まずい――追い付かれ――――!」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」
 ドゴォォォォォォォ…………!
 ガイガークローがバルキリーを貫き、赤の戦闘機は炎に包まれた。

58獅子は勇者と共に(改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/15(日) 21:42:47



 ……アムロ・レイは生きていた。
 バルキリーが破壊される一瞬前に、緊急脱出装置を起動させていたのだ。
 もっとも、それはアムロの命を数分だけ延ばす結果にしかならないだろう。
 アムロが爆破寸前の機体から脱出した事は、ゴステロの目にも映っていたからだ。
「ひゃーっはっはっはっは! しぶてえなぁ、お互いによぉ!」
 反応弾が命中する寸前に取った行動を思い出しながら、ゴステロは大きく笑い声を上げていた。
 砂煙が巻き起こった次の瞬間、ゴステロを突き動かしていたのは動物的な生存本能だった。
 ブロウクンファントムを“ヤバい”と思った方向に向けて撃ち出すのと同時に、ファイナルフュージョンを解除。
 ブロウクンファントムは反応弾に命中し、そこで巨大な爆発が起こった。
 無論、直撃を免れたとは言え反応弾の威力を至近距離で浴びたのならば、ガイガーも無事では済まなかっただろう。
 そこでゴステロにとって幸運だったのは、ステルスガオーⅡの存在だ。
 バリアシステムを搭載したステルスガオーⅡの影に身を隠す事で、ガイガーはダメージを最小限に抑える事に成功していた。
 ……もっとも、その代償は少なくない。ガイガー自体の損傷は少ないが、ガオガイガーへの再合体は不可能となってしまっていた。
 もっとも、そんな事はどうでもいい。
 今のゴステロにとって重要な事は、この溜まりまくった鬱憤をどうやって晴らすか。ただ、それだけなのだから。
「くっ……くくっ! くひゃひゃひゃひゃ! 今まで散々俺様をコケにしてくれやがった罰だぁ……!
 そう簡単には殺さねぇ! じっくり、たっぷり甚振ってやる!」
「っ…………!」
 ゆっくりと振り上げられる、ガイガーの足。
 ゴステロの企みに気が付いて、アムロは身を起こし走り出していた。
 どすんっ……!
 つい先程までアムロの居た場所に、ガイガーの足が振り下ろされる。
「ははっ! 上手く避けやがったなぁ! だが、次はどうだぁ?」
 無力な蟻を踏み潰そうとでもするかのように、ゴステロは逃げ惑うアムロを追い駆ける。
 ちっぽけで無力なゴミどもを、圧倒的な優位に立ち踏み潰す。そうする事でしか、ゴステロは生きている事を楽しめない。
「俺はなぁ……人殺しが! 大好きなんだよぉッ!!」
 泣け、喚け、怯えろ、怖れろ――――!
 ありとあらゆる黒い感情を発露させながら、ゴステロはアムロを追い詰める。
 ……愉しみに浸るゴステロは、だからこそ気付かない。
 獅子が、嘆いている事に。

「はぁっ……! はぁっ…………!」
 息を切らせて、アムロは走る。
 その顔に、諦めは無かった。
 あまりにも絶望的な状況の中で、それでも生き抜く事を諦めてはいない。
 ……アムロとて、馬鹿ではない。この状況を好転させる事が不可能である事は、痛いほどに理解していた。
 だが、それでも諦める事だけは出来なかった。
 それは、何故か?
「っ…………!」
 どさっ……!
 体力の限界に達した身体が、ついにアムロの足を止める。足元の小石に蹴躓き、アムロは地面に転がった。
「はっはぁ! なんだ、もう終わりかよ?」
「…………」
「ホラ、逃げてみろよ。なんだったら、泣き喚いて命乞いでもしてみるか? ひょっとしたら、俺様の気が変ったりもするかもしれないぜぇ?」
 うずくまるアムロを見下ろして、ゴステロは上機嫌な声で言う。
 無論、嘘だ。ゴステロがアムロを見逃す事など、万に一つもありえない。
 だが、その言葉に騙された馬鹿が惨めったらしく命乞いをする様子を想像すると、なかなか面白そうだった。
「……断る」
「あぁん……?」
 だが、アムロは拒絶する。
 この悪意で染まりきった男に屈する事は、そう……アムロ・レイの“勇気”が許さなかった。
「お前のような奴に命乞いをするくらいなら……最後の瞬間まで戦って死んだ方がずっとマシだ!」

 ――悪の暴力に屈せず、恐怖と戦う正義の気力。
 人、それを……“勇気”と言う!

59獅子は勇者と共に(改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/15(日) 21:43:25
「ああ、そうかよ……なら死ぃ……!? なぁっ、なんだぁ……!?」
 突如起こった機体の異常。それに、ガイガーは動きを止めた。
『ガォォォォォォォォォォンッッ!!』
 それは、ギャレオンが見せた反逆の意思だった。
 ゴステロの意思を無視して、ギャレオンとのフュージョンが強制的に解除される。
 そして哀れ、ゴステロは地面の上に放り出された。
「なっ……! て、てめぇ、このポンコツ、何のつもりだ!? ど、どうして俺様を……!」
 ゴステロが上げる怒りの声に、だがギャレオンは応えない。
 正義の獅子が見詰める先には、勇気を示した一人の戦士――そう、アムロ・レイの姿があった。
「お前……は…………?」
 ……獅子の瞳に覗き込まれて、アムロは獅子の意思を知る。
 そして……。
『ガオォォォォォォォォォォォンッ!!』
 獅子は吼え声を上げながら、アムロの身体を――呑み込んだ!

「フュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! ジョォォォォォォンッッッッ!!!」
「ば、馬鹿なっ……! こんな……こんな馬鹿な事があってたまるかよ!? どうしてだ……! どうして俺様の機体がっ……!」
 ギャレオンとのフュージョンを果たした、つい先程まで哀れに逃げ惑っていたはずの男。
 この場から逃げ出す事すら忘却し、ゴステロは思わず叫び声を上げる。
 どうしてこうなってしまったのか……何が悪かったというのか……!
「……お前の敗因は、たった一つだ」
「ひっ……!?」
 つい先程とは逆転した立場で、アムロはゴステロに声を掛ける。
 いくら機体が無いとは言え、見逃す気は起こらなかった。
 この男を生かしておけば、数多くの悲劇が起こる事は間違い無いからだ。
「お前は……勇者じゃなかった……」
「ま、待てっ! 俺が悪かった……! 謝る! もうしない! だから助け…………ひでぶぅぅぅぅぅっ!?」
 ……ガイガー渾身の爪先蹴りが、ゴステロの身体を吹き飛ばす。
 奇怪な叫び声を上げながら、狂気のサイボーグは絶命した。

60獅子は勇者と共に(改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/15(日) 21:44:06



「……よし、これは何とか使えそうだな」
 反応弾の着弾地点、ガオーパーツの残骸が転がる中、アムロは辛うじて使い物になりそうな機体を漁っていた。
 反応弾の盾に使われたステルスガオーⅡ、元より半壊状態だったライナーガオー。この二つに関しては、完全に使用は不可能となっていた。
 だが、ドリルガオーだけは何とか破壊を免れていたのだ。
「なるほど……このパーツ、分離した状態でも腕に装着できるのか……」
 ドリルガオーがガイガーに装着可能な事を知り、アムロは「ついてるな」と呟きを洩らす。
 敏捷性に優れるガイガーだが、いかんせん破壊力に乏しい事は否めない。
 攻撃力の不足を補う事は出来ないかと悩んでいたが、どうやらこれで問題も解決出来そうだ。
 ついでに言えば、シャアの奴に核ミサイルから乗り換えさせる事も出来る。このドリル、人が乗り込む事も出来るらしい。
 唯一残念だった事は、ガイガーの蹴りを受けた衝撃によって、ゴステロの首輪が破壊されてしまっていた事だ。
 あの時は冷静な判断力を働かせる事が出来なかったが、今になって思うと惜しい事をしたと思う。
 ……もっとも、自分だけが機体に乗った状態で生身の人間を嬲り殺しにするような行為に抵抗があった事は否めない。
 いくら相手が信じられないほどの外道であったとしても、だ。
 もしかしたら無意識の内に、そんな考えが攻撃に必要以上の力を込めてしまっていたのかもしれない。
 せめて苦しむ事の無いよう、一思いに……と。
「過ぎた事を悔やんでも仕方ない、か……」
 苦いものを噛み締めながら、アムロは沈痛な声で言う。
 そうだ、今は前に進むしかない。あの絶体絶命の状況を生き残れた事だけでも、良しとしておくしかないだろう。
「マッハドリル、装着!」
 ふと頭の中に浮かび上がった名前を呼び、ガイガーはドリルガオーを装着する。
 思った以上に時間を食ってしまった。シャア達との合流を急がなければ……。

61獅子は勇者と共に(改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/15(日) 21:44:36
【アムロ・レイ 搭乗機体:ガイガー(勇者王ガオガイガー)
 パイロット状況:良好
 機体状況:機体表面に傷跡(戦闘には支障無し)
      マッハドリル(ドリルガオー)装着
 現在位置:H-2
 第一行動方針:シャア達との合流
 第ニ行動方針:首輪の確保
 第三行動方針:協力者の探索
 第四行動方針:首輪解除のための施設、道具の発見
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している】


【ゴステロ 搭乗機体:なし
 パイロット状態:死亡
 現在位置:A-2】

【時刻 20:45】

62獅子は勇者と共に(改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/15(日) 21:57:32
シーンや視点の変更時に三行間隔を空けるつもりが、>>56冒頭で空け忘れ……。

「畜生がッ……! あの野郎、チョコマカと逃げ回りやがってぇ……!」
の前に三行開けて読んでもらえると助かります。

63 ◆C0vluWr0so:2007/04/17(火) 18:14:45
D−8市街地。二エリアに渡って広がるあまりにも巨大な街並みはひっそりと静まりかえっている。
そこに住人の影は無く、本来なら煌々と夜の街を照らすはずの街灯も暗黙を保ったまま。
閑散とした街の更に外れにある、自然の姿を人工的に残した野外公園に巨人の影が一つ。
巨人の足下には依頼主を亡くしたネゴシエイターが一人。
ネゴシエイターの足下には物言わぬ骸が一つ。
その側には、巨人――騎士鳳牙によって掘られた穴が一つ。

ネゴシエイター、ロジャー・スミスは今は亡き依頼主、リリーナ・ドーリアンの亡骸を前に立ちつくしていた。
彼女を埋葬すべく、自らの怪我の処置もほどほどに鳳牙を走らせたロジャー。
彼の胸中にあるものは悔い。自分の至らなさのせいで依頼主をむざむざと死なせてしまったことに対する後悔の念。
もしも自分が最初の接触の時点でテッカマンエビルを名乗る男を倒せていれば――
もしも自分が即座にテッカマンエビルとリリーナ嬢を発見し、少女を救出出来ていれば――
いくら悔やんでも悔やみきれない気持ちはいくらでも募ってきた。
しかし、それで歩みを止めるわけにはいかないということも重々承知している。

「リリーナ嬢。貴女の遺志はこのロジャー・スミスが引き継ごう」

一張羅が血で濡れることも気にせず、ロジャーは少女の骸を抱き上げる。
あれほどまでに凛々しい目を持ち、気高き矜持を最後まで貫いた女性をこのままの姿で晒すことはロジャーのプライドが許さなかった。
リリーナの遺体を抱き上げた瞬間、骨折の激痛がロジャーの脇腹に走る。
本来ならば即座に治療をし、安静を保たなければいけないような重傷の身。
それでもネゴシエイターは揺るがず、堂々と胸を張り少女を抱きかかえる。

「なに――気にすることはない。依頼主死すとも依頼は死なず。ネゴシエイター、ロジャー・スミスのささやかな矜持だ」

鳳牙によって穿たれた墓穴へとリリーナの骸を丁寧に下ろしたロジャーは、少女の首にはめられた首輪をそっと抜き取った。
今現在、ロジャー達反主催を掲げる者にとって一番のネックは各々の首に巻かれた首輪だ。
この首輪が殺傷能力を持ち、あの化け物の思い通りにその効果を発揮するというのは明らかだった。
ロジャーは思い出す。
胸糞が悪くなるほどに素敵なこのゲームの参加者、その全てが集められた最初の部屋の光景を。あそこで行われた凄惨な殺戮を。
自分たちがこのままあの化け物に挑もうとも、あの悪趣味なショーと同じ光景が主催者に歯向かう無謀な反逆者の首の数だけ行われるだけだろう。
だが、この首輪さえ外せば条件はイーブンだ。
たとえあの人外の化け物が如何に強力な力を備えていようとも、お互いが対等な立場にさえ立ってしまえばいくらでもやりようはある。
そのためのネゴシエイション、そのためのネゴシエイターだ。
この首輪が主催者打倒の切り札になる――そう確信し、懐に収める。

「リリーナ嬢……。私は、貴女のような気高く美しい女性に出会えたことをとても嬉しく思う」

少女の言葉はネゴシエイターとしての誇りを思い出させてくれた。
夢物語ではあったが、少女の語る理想は夢を信じるに値するものだった。
リリーナとの出会いは、交わした言葉の一つ一つはロジャーの心に深く刻まれている。

最後に死者への祈りを捧げ、ロジャーは墓から背を向ける。
そのまま鳳牙へと乗り込むと、今度は少女の亡骸を埋め始めた。

「だからこそ――この殺し合いに乗った者は許せない。貴女の信念に反することになろうとも、交渉に値しない輩はこの拳をお見舞いしてやるのが私の主義でね」

リリーナの身体が土中に埋もれていく。
埋葬される少女の表情は、自分が死んだということさえ理解していないかのように穏やかだった。
おそらく痛みも何も感じることなく逝ったのだろう。それだけがせめてもの救いだと言うのは、死者に対してあまりにも失礼だろうか。
少女の埋葬を終え、ロジャーは墓標代わりに白石を置く。

「私は死者に縛られるわけにはいかない。君の説いた理想を叶えるためにも、そしてなにより生き残るためにだ。
 君とはここでお別れだ。ロジャー・スミスはリリーナ・ドーリアンの遺志を引き継ごう。
 だが君との繋がりはここに置いていく」

止まるわけにはいかない――そう決めた。
少女の死を思い返し、感傷に浸る暇は無い。そんな時間が有るのなら、その分一人でも多くの命を救い、前へ進み続けよう。
この無意味な争いを止めることが、完全平和主義を説いた少女への何よりの弔いなのだから。

64 ◆C0vluWr0so:2007/04/17(火) 18:15:16
これからの方針を考えながら、ロジャーは鳳牙を走らせる。
この傷の処置をすませた後、一度ユリカ嬢のところへ戻ろう。
彼女の乗る巨大な機体ならば、もしかするとこの首輪を解析する機材が備えられているかもしれない。
主催者に生殺与奪の権利を握られている以上、このままでは表立っての反抗は出来ない。
あのテッカマンとか名乗った男も、手応えはあった。
おそらく相応の痛手は負わせられたはずだ。なにより生身のままではそう遠くまではいけないはず。
ひとまずは仲間を集め、それぞれの身の安全の確保、そしてあの怪物を打ち倒すだけの戦力の充実を図ることが先決だ。
6時間の間に出た死者――それを殺した殺戮者たちも、徒党を組み、十分な戦力を揃えた集団には手を出せないだろう。

ある程度の方針が見えてきたとき、薬局の看板が目に入ってきた。
これは幸運と機体から降り、ロジャーは店内へと入っていく。
様々な薬の並ぶ商品棚を一つ一つ物色し、鎮痛薬や包帯、ギプスなど目当ての物を手に取ると、早速手当てを始める。

「しかし、これはまた派手にやられたな」

骨折数カ所に全身打撲、この場にあの無愛想な少女がいれば、『ロジャー、あなたって本当に――』と小言の一つでも言うだろう、と想像しながら苦笑する。
そうだ、自分はあの世界へ再び帰らなければならない。
手早く怪我の処置を終えると、ネゴシエイターは立ち上がる。
目指すは巨竜、無敵戦艦ダイだ。

「さぁ行こうか騎士・鳳牙。この争い――終わらせるぞ!」

 ◇

一転、巨竜、無敵戦艦ダイの持ち主であるミスマル・ユリカは怯えていた。
ここに来てからの仲間の名は放送で呼ばれることはなく、密かに恐れていた想い人の名もまた、呼ばれることは無かった。
しかしそれでも――このバトルロワイアルという過酷な状況は、彼女の精神を磨り減らすのに十分だった。
死者が出ないと、そう思っていたわけではない。こんな状況で……誰も彼も仲良く手を取り合ってなどということは出来ない。有り得ない。
そう、頭の中では分かっていた。……頭の中では。
だが実際にこの場で様々な人間と出会い――そして戦い――そして死んでいくこの現状。

ただ、怖かった。

彼女に戦闘経験が無いわけでも、人が死ぬときに立ち会ったことがないわけでもない。
戦艦ナデシコの艦長として多くの戦闘をこなし、ときには苦渋の決断をしなければならないときもあった。
でもそれは、そばに『あの人』がいたから。
だから彼女はどんなときでも潰れずに立ち上がり、打ち勝ってきた。
それほどユリカにとって、『あの人』の存在は大きかった。

「アキト……」

思わず口に出てしまう想い人の名前。

「アキト……」

一度口にしてしまうと、それはいつまでも止まることなく出てくる。

「アキト……アキト……アキト……」

いつの間にか少女の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。
もう一度、彼に……テンカワ・アキトに会いたい。
このまま死んでしまうなんて嫌だ。離ればなれのまま死んでしまうのなんて嫌だ。
二人でいつまでも暮らすって……その夢を叶えぬままに死んでしまうのなんて嫌だ。
だから……だから!

65 ◆C0vluWr0so:2007/04/17(火) 18:15:51
その時少女はこちらに接近してくる機影に気づく。
敵襲かと身構えたが……違った。それは別れた仲間の機体だった。
既にその四肢は失く――しかしそれでもユリカを守った仲間。
ガイと名乗るあの人は、どことなく『あの人』に似ている。
『アキト』――なの?
そう問いかけたかったが、ぐっと堪える。
なんとなくだが――それは、聞いてはいけないことのような気がした。
だからその代わりに、たった一言だけ告げる。

「お帰りなさい……ガイさん」

「……ああ、……ただいま、ユリカ」

四肢をもがれたバルキリーはダイの元へと帰還する。
過去を捨てた男は過去の少女と再会し、幸せな未来を夢見る少女は未来の想い人と出会う。
それは本来有り得ない邂逅。だからこれは――このバトルロワイアルの中で起きた、とても貴重な幸せの瞬間だった。

 ◇

ユリカとアキトが再会してから遅れること数分。
ユリカを目指して北上していたネゴシエイター、ロジャー・スミスもまた、二人との合流を果たしていた。

三人は別れてからこれまでの経緯とこれからの方針について話し合う。
もちろん三人とも最終目標は主催者を倒し、生きてこの空間から脱出、元の世界に帰ること。
しかし、ロジャーがテッカマンエビルとの戦闘について話し始めたとき、ユリカが小さな悲鳴を上げた。

「そっ、そんな……! そしたらあたしは……! いやっ……いやああああ!」
「ユリカ嬢、どうした!? まず落ち着いて、それからゆっくり話してくれ」
「ユリカ、大丈夫だ。落ち着いてくれ。……俺たちがいない間に、何かあったのか?」

二人がなだめてる内に徐々に平静を取り戻したユリカは、自分の所業をぽつりぽつりと話し始めた。
その声は震えていて、その口調は怯えていて、その瞳は涙に濡れていた。

「……二人が行ってから……あたしは一人で待っていました」

「放送が始まって……リリーナさんが死んだって……!」

「そのほんの数時間前まで、あたしたちは話していて、会話をしていて……」

「それだけじゃない。他にもたくさんの人が死んでしまって」

「だからあたしは怖くて……」

ふとユリカの唇が動きを止める。一度の逡巡。それを……自らの行いを認め、吐き出すまでに少女はいくらの勇気を支払わなければいけないのか。
それでも逃げるわけにはいかない。
自分のしたことに対して責任を持てるのは自分だけだ。他の誰も肩代わりなんかしてはくれない。
そのことを分かっているからこそ、ユリカは自分の句の続きを紡ぐ。

「……人がいました。その人は何にも乗っていなくて……」

「でもあたしは怖かったんです。ロジャーさんの戦ったあの人……もしあの人なら自分は何も出来ないって。
 何も出来ずにただ死んでしまうと、そう思ったんです。でも……それは違った」

実際――ユリカが攻撃を行った相手はただの少女だった。
戦闘により使い物にならなくなった乗機から降り、助けを求めていたソシエ・ハイム。
もちろん生身で巨大ロボットと戦うことなど出来はしない。
それでもユリカが感じる恐怖は凶悪な殺戮者、テッカマンエビルから受けるものとなんら変わりないものだ。

66 ◆C0vluWr0so:2007/04/17(火) 18:16:22
だから――

「……あたしは、相手を殺す気で撃ち続けました。ここの上で、無尽蔵に補給されるミサイルを撃ち続けたんです!」

ロジャーとアキトは絶句するしかなかった。
そう言われれば周りの建築物は自分たちがここを離れたときより徹底的に破壊されている。
高くそびえ立っていたはずのビルは影もなく、一面が瓦礫の焼け野原となっていた。
相手が生身の人間ならば――生きてはいまい。
そして、人を殺したという事実はユリカに重くのしかかる。

「あたしは……無関係の人間を……無抵抗の人間を殺してしまったんです……!」

気づけばユリカは泣きじゃくっていた。
誰がこの少女を責めることが出来るだろうか。
少女はただ脅え、恐がり、その力を向けてしまっただけなのだから。
だが、だからこそユリカは自分の行いを許せなかった。
ユリカの目的はここからの脱出。それは一人でも多くの人間と共に行われなければならない。
それなのに、自分は人を殺してしまった。命を……散らしてしまったのだ。
本当に自分はその目的を叶えることが出来るのか?
人を救うどころか殺してしまった自分が……。

「ユリカ。確かに君のしてしまったことは決して良いことではなかったかもしれない」

そんなユリカの耳に入ってきたのはアキトの声だった。

「だが……君はそれを受け入れ、乗り越えなければならない」
「でも……あたしは……!」
「しっかりしろ! 君はそんなに弱気だったか? 臆病だったか?」
「ガイ……さん……?」
「君は強い人間だ。どんなに辛いことがあっても……それを乗り越え、更なる強さを手に入れることが出来る人間だ」
「……あたしが……強い人間?」
「そうだ。少なくとも……俺が見たミスマル・ユリカはそうだった」
「……ガイさんに何が分かるんですかっ! ほんの数時間一緒にいただけのあなたにっ!」
「確かに会ったばかりの俺が言うことじゃない。だが、少なくとも俺と出会ったときの君はそうじゃなかった。
 明るくて……こちらが眩しささえ感じるほどだった。それが本来の君なんだろう?」
「……。でも」

「まぁまぁ、二人とも落ち着いてくれ。ユリカ君の言う人間だって、まだ死んだと決まったわけじゃない。
 一度、探索してみることを提案しよう。もしかするとまだ生きているかもしれない」

ユリカとアキト、二人の会話に割って入ってきたのはロジャーの提案だった。
まだその人間が死んだと決まったわけではない。生きている可能性があるのならそれに賭けるべきだ――とネゴシエイターは主張。
確かにそれも一理あると、ユリカとアキトも賛同する。

「それでは私とガイ君の二人で探索を開始しよう。と、その前にユリカ君に一つ頼み事がある」
「え……。はい、なんでしょう?」
「ここに首輪が一つある。……リリーナ嬢の首に巻かれていた物だ。これを君に託そう。
 見たところ、ダイは戦艦というよりもむしろ移動基地としての側面の方が強いようだ。
 ならば機体の整備、ひいては開発のための設備を内蔵している可能性が高い。
 後は――分かるね?」
「……はい。私にどこまで出来るかは分かりませんが……やれるだけのことはやってみます」

ロジャーはユリカへと首輪を渡す。その後、早速ロジャーとアキトが市街の探索を始めたのだが――

「どうだガイ君? その脚部はまだ使用可能かね?」
「いや……どうやら爆撃の直撃を受けたようだ。修理するより新しく造り直したほうが早い、といった状態だな」
「そうか……こちらにあった機体も使えそうにない。どうやら収穫は殆ど無いとみてよさそうだ」

67 ◆C0vluWr0so:2007/04/17(火) 18:16:59
ダイの爆撃を受けた市街地のダメージは予想以上のものであり、YF-21の脚部やドスハード(これは元々運用不可だったが)など、戦力面の補充は期待出来そうになかった。
生存者の発見も絶望的かと思われたその時、ロジャーが地中へと繋がる穴を発見。
どうやら地下通路の類らしい。もしもこの穴ぐらの中へ入り込み、爆撃を避けることが出来たならば。

「たとえ生身でも生きている可能性はある――ということか」
「そういうことになるね。しかも――この通路、機動兵器が通った後がある。もしかするとその機体の持ち主に保護されたのかもしれない」
「その可能性もあるな。それで、どうするつもりだ? この奥へと探索範囲を広げるのか?」
「そうしたいところだが、この通路は少々狭すぎる。
 私の鳳牙ではどう見ても通れそうにないし、ガイ君の機体でも難しいだろうな。せめて脚部が無事ならまだやりようもあったろうが、この狭い穴ぐらの中を戦闘機が飛ぶというのもナンセンスな話だろう」
「するとこの通路の探索は諦めると?」
「おっと、そうは言っていないよ。確かに機体のままならば通れない――だが、この身一つで飛び込むには十分な広さだ。機体から降り、私が調べてこよう。
 なに、心配することは無い。この周辺と機動兵器の痕跡を確認する程度に留めるつもりだ。
 それと……彼女を一人には出来ない。君はここへ残って周辺の警戒を頼む」
「……了解した。ユリカ聞こえたか? 今から俺がそちらへ戻る。ロジャーはこのまま地下通路の探索を続行だ」

ユリカから了解の返事が届くと、ロジャーはアキトへのプライベート回線に切り替えた。

「……ガイ君。私が言うのもなんだが、君がユリカ嬢に会ったのはここに来てからではないな?
 君はユリカ嬢とは同じ世界の人間で……しかもかなり親しい間柄と見た。彼女は君の素性を知らないのかい?」
「……俺はユリカとはここで初めて出会った」
「いーや、嘘だね。これでも私はネゴシエイターだ。下手な嘘で騙そうとしても無駄だよ」
「……貴様には関係ない。これは……俺だけの問題だ」
「……そうか。なに、そう言うのなら無理に聞く気はない。少なくとも私よりは君のほうが彼女のなだめ役に向いていると分かっただけでも十分だよ……っと」

やれやれ、一方的に切られてしまったか……と、ロジャーは無愛想な仲間の行いに苦笑した。

(確かに彼ら――というより彼個人か? 深い問題があるようだ。それがこれから先、悪い方向に転がらなければ良いが……)

「しかしこのような問題は他人が立ち入ったところで良くなるようなものでもない――先ほどは少しばかり余計な口出しだったかな?」

と、ネゴシエイターは自分の言動を省みる。
一呼吸置いた後、ロジャーは鳳牙から降り、地下通路の探索を開始した。

 ◇

首輪を託されたはいいが、機器の扱いに関しては素人であるユリカがどうこう出来る物ではなく。
ラボに置かれていた研究器具も、彼女の世界とは違う科学体系に因るものだったこともあり、下手に触れば爆発する可能性を秘めている首輪の解析は、挑戦さえも出来なかった。
ダイの操艦部へと戻り、首輪の表面をなでる。あまり心地よい感触では無い。
半分機械、半分生き物、とでも言えばいいのかは分からないが、とにかく冷たい無機質な感触も、温かみのある生き物のそれとも違う不思議な感触は、ユリカが初めて見る物質によるものだった。
紅い宝石のようなものが埋め込まれ、一見装飾品のように見えないこともない。
だが、ぴったりと首に吸い付くように巻かれている首輪には、それをつけるとき必ず必要なはずの繋ぎ目が見あたらない。

「不思議だなぁ……。どうやってつけたんだろ? やっぱりこのナマモノっぽいところが伸縮したりしちゃうのかな?」

ユリカの疑問も募るばかり。
と、それまで聞き流していた通信から自分の名前が聞こえてきた。

「……ユリカ聞こえたか? 今から俺がそちらへ戻る。ロジャーはこのまま地下通路の探索を続行だ」
「えっ、あっ、はい。ロジャーさんは地下通路、ガイさんがこちらに戻るですね。了解しました」

地下通路についてなど把握出来てないこともあったがとりあえずは了解の返事を送る。
モニターにはこちらへと飛んでくるガイ機の姿が映っていた。

68 ◆C0vluWr0so:2007/04/17(火) 18:17:33
 ◆

「えっと……ガイさん、その……先ほどはあたしも少し取り乱していたというか……」

探索から戻ってきたアキトとの沈黙の時間……それに耐えられなくなったユリカの口から出たのは、先ほどの無礼に対する謝罪の言葉だった。

「……いや、気にすることはない。さっきは俺も少々感情的になりすぎた」

それに対するアキトの返答も、思いはユリカのそれと同じ。

「……はい! でも、やっぱりこういうのは言っておかなきゃいけませんよね。
 改めて……すいませんでした、ガイさん。あたしも……二人がいない間に、考えたんです。
 ああ、ガイさんの言う通りかもしれない……って。普段のあたしはどんなんだったかなーとか。
 こんなとき……どうしてたかなー、とか」

だいぶ普段の調子を取り戻しつつあるユリカに安心し、アキトも会話を続ける。

「いつもの調子に戻ってきてるみたいだな。安心したよ」
「あ……」
「どうしたんだ?」
「いえ、その……ガイさんって、あたしの大切な人に……似てるんです。
 なんでかなー? 口調や雰囲気なんかは全然違うんですけど……。時折見せてくれる優しさ? みたいなのが」
「それは光栄だな。その彼について……少し話してくれないか?」
「えっ、いいんですか? えっとぉ……、彼、アキトっていうんです。
 小さいときからの運命の恋人っていうか……。アキトはかっこよくて優しくて……
 たまーに優柔不断なところもあるんですけど、それも彼の優しさだろうし……
 何より、あたしのこと……大切にしてくれるんです。それが……一番好きなとこかな?」

アキトはフ、と微笑むとユリカに対して問いかける。

「一つだけ聞こう。君は今……幸せかい?」

その問いに込められた思いに気づくことなくユリカは即答する。

「はい! あたしは……とっても幸せです!」

その返事を聞いてアキトはどこか悲しげに、しかしユリカの幸せを祝福し、軽く頷いた。

「そうか……きっと、そのアキトって奴も……幸せだと思うよ」
「はい、アキトもあたしも幸せです! だって二人は愛し合ってるんだから!
 ……って、なんだかあたしのおのろけ話になっちゃってるような……」
「フフ……確かにそうだな」

忘れていた幸せの瞬間――アキトは今まで失ってしまっていた感情と、それにすぐに順応してしまった自分に驚いていた。
あの頃の自分はこうして笑っていたなと、もう思い出の中にしか存在しない自分の姿を思い出す。
このままユリカとずっと二人で……ふとそんな考えが頭に浮かんだとき。
それは叶わない夢だということをアキトは知る。

「ガイさんにはいないんですか? 大切な……人」

たとえ今会話をしている相手があの頃のユリカだったとしても。
変わらぬ笑顔がこちらに向けられていたとしても。
自分は変わってしまった。
今の自分はユリカの愛したテンカワ・アキトではない。
過去を捨てた……復讐鬼なのだ。

69 ◆C0vluWr0so:2007/04/17(火) 18:18:28
「ああ、……いたよ」
「あっ、やっぱり! ガイさんって一見無愛想だけど実は優しいですもんね。女の子なら放っておきませんよぉ!」
「いた。だが……もういない」
「……! す、すいません……あたし……」
「君が謝ることはない。……少し周辺を見てこよう。ロジャーの話ではまだ近くにテッカマンと名乗る好戦的人物が潜伏しているらしい。
 君はその間に休んでおくといい。何かあったらすぐ連絡するように……分かったね?」
「……はい、分かりました。……ガイさん、最後に一つだけ……聞いてもいいですか?」
「……なんだ?」
「あなたは……」

あなたは……。そこから先の言葉が続かない。聞きたいことは、言いたいことは頭の中ではしっかりと文章を作っている。

『あなたは……アキトなの?』

たったそれだけの言葉が言えない。
たった五文字。でもそれを言うことは他の言葉を百述べることよりも、千紡ぐことよりも難しかった。
言葉が続かない。
ユリカの口唇は半端に開かれたまま何の音も発することは出来なかった。

「……いえ、何でもありません。気をつけて行って来てください」
「……ああ」

バルキリーは夜空を切り裂き羽ばたいていった。
ユリカは思う。
自分が聞けないのは……もしかしたら心の奥底でそれを認めているからではないかと。
今までアキトのことを誰よりも見てきた自分だからこそ分かる。
やっぱりガイさんは……アキトだ。
何であんな格好をしているのか分からない。ユリカの知るアキトとは雰囲気だって全く違う。
それでも自分の全感覚は彼がアキトなんだと言っていた。

「今度ガイさんが帰ってきたら……その時こそ絶対聞こう」

少女はそう決心するとずっと張りつめていた緊張の糸をほぐす。
思えば夕方戦闘になってからずっと緊張しっ放しだ。
んー、と背伸びをしてから、どっかりと椅子に座り込む。
深く椅子にもたれながらユリカはじわじわと迫ってくる睡魔の存在に気がついた。
あっ、ダメ……今寝ちゃったら……でも……ちょっとくらいなら……。
気づけば少女はすうすうと寝息をたてはじめていた。

「……ユリカ君? 聞こえているか?」

探索を終えたロジャーからの通信も、眠れる少女の耳には届かない。
ロジャーが行った探索の結果は、決して芳しいものではなかった。
生身での移動ということもあり、探索範囲が酷く狭かったことも原因の一つ。
例の機動兵器の移動跡についても、地下通路を通れるサイズの機体であることくらいしか分からなかった。
……いや、もう一つある。
地下通路の中には、人為的に押し広げられちょうど人が通れるようなサイズの亀裂があり、そこには金色の装甲片が付着していた。
おそらくはその機動兵器が亀裂を広げた時に剥がれた物だろうが……金色をパーソナルカラーとするパイロットなど存在するのだろうか?
その機体の持ち主はよっぽど派手好きだったのだろう。

「よほどのセンスの持ち主と見える。一度お会いしてみたいものだ」

と、黒で全身を覆うネゴシエイターは肩をすくめる。もしこの場にあの少女がいたならば、『ロジャー、貴方のセンスもよっぽどだわ』などと言ってくれたろうに。

70 ◆C0vluWr0so:2007/04/17(火) 18:18:59
「しかしガイ君といいユリカ君といい、どうしてこう協調性に欠ける人間ばかり揃っているのか……まさかそれがこの場に呼ばれた理由ではあるまいが」

と、いまいち歩調の合わない仲間に対してロジャーは苦笑する。
思えばこの馬鹿げた殺し合いが始まってから既に半日が過ぎようとしている。
その間出会った者たちはどれもこれも一筋縄ではいかないくせ者ぞろい。
しかし不思議なのはその殆どが戦闘技術に長けた者であるということ。

(これはなぜだ? あの怪物はなぜ私たちを選んだ?)

相手の目的を知り、それに見合った行動をとることがネゴシエイトの鉄則である。
この首輪を解除し対等な立場に立ったとき、肝心のネゴシエイトに失敗しては元も子もない。
怪物の情報――それもまた必要だった。

「為すべきことは多い。まったく先が思いやられるね」

まぁ今は――何処かへ行った王子の代わりに眠り姫のお供というのも悪くはないな、と鳳牙はダイに寄り添うようにその身を座らせた。

 ◇

夜闇に紛れ、ダイの動向を見張る機体が一つ。黒と赤のカラーリングが施されたそれは、獲物を見つけ、喜びに奮えていた。

「そうか……。アレがお前を堕落させているモノかい?」

ククク、とガウルンは嗤う。その目は燦々と輝き、唇は醜く歪んでいる。
まるで子供が念願のおもちゃを買ってもらったかのような喜びの顔を見せ舌なめずりをする格好は、彼の愛する軍曹に言わせれば三流の為すこと。
確かにガウルンは兵士としては三流と評されるかもしれない。だが、それはあくまで"兵士"としてだ。
こと戦闘だけに限定して言えばガウルンは超がつくほどの一流なのは間違いない。
そして超一流の戦闘狂が駆るのは、超一流の武闘家、東方不敗マスターアジアの愛機であるマスターガンダム。
俊敏なその動きなら、鈍重なトカゲの一匹、即座に喰うことが出来るだろう。

「フフフ……さぁて、楽しいパーティの始まりはもうすぐだ。楽しみだねぇ……実に楽しみだ」

まだダイに手は出さない。アレを壊すのは――アイツが帰ってきてからだ。
自分と同類のあの男は、目の前でアレを壊された時どんな顔をするだろう?
決まっている。
この上なく上等な憎しみの目をこちらに向け、火がつくような憎悪を滾らせ――アイツはきっと、自分を殺しに来るだろう。

「焦るなよ、ガウルン。お楽しみはこれからだ。あの男を徹底的に壊すチャンス――それを待て。
 何、それはそう遠くない。腹を空かせてメシを待てば、いつもより美味しく頂ける理屈だぜ。
 ……まぁ、あれだけ旨そうな獲物だ。すぐに頂くのも悪くはねぇなぁ」

ククク……、と狂人は再度嗤う。

71 ◆C0vluWr0so:2007/04/17(火) 18:19:30
【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
パイロット状態:体力消耗、肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
       側面モニターにヒビ、EN90%
現在位置:D-7補給ポイント
第一行動方針:アキトの帰還を待つ
第二行動方針:ゲームに乗っていない参加者を集める
第三行動方針:首輪解除に対して動き始める
第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
備考2:念のためハイパーデンドー電池二本(補給一回分)携帯
備考3:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】

【ミスマル・ユリカ 搭乗機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!)
 パイロット状態:浅い眠り、精神的にはやや不安定なまま
 機体状態:大砲一門破損、左前足損傷、腹部装甲損壊
 現在位置:D-7補給施設
 第一行動方針:眠……あふ……
 第二行動方針:ガイに自分の疑問をぶつける
 第三行動方針:ガイの顔を見たい
 第四行動方針:首輪解除が出来る人間を探す
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考1:YF-21のパイロットがアキトだと知りませんが、ある程度確信を持っています
     アキトの名前はガイだと思っていますが若干の疑問もあります
 備考2:ハイパーデンドー電池8本(補給4回分)回収
 備考3:首輪(リリーナ)を所持】

【テンカワ・アキト 登場機体:YF-21(マクロスプラス)
パイロット状態:やや衰弱
機体状態:両手両足喪失、全身に損傷
現在位置:D-7西部
第一行動方針:市街地周辺の探索
第二行動方針:ユリカを護る(そのためには自分が犠牲になってもかまわない)
最終行動方針:ユリカを元の世界に帰す(そのためには手段は問わない)】


【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力120
機体状況:全身に弾痕多数、胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
        DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
現在位置:D-7
第一行動方針:アキトの目の前でダイを壊す
第二行動方針:近くにいる参加者を殺す
第三行動方針:アキトを殺す
第四行動方針:皆殺し
第五行動方針:できればクルツの首を取りたい
最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【初日 22:00】

72獅子は勇者と共に(再改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/19(木) 20:37:33
「ひゃーっはっはっはは! 死ねぇ! 死ね、死ね、死ね、死ねぇぇぇぇいっ!」
 その巨大な豪腕を振り回し、スターガオガイガーはバルキリーに殴り掛かる。
 技も、駆け引きも、何も無い、力と勢い任せの殴打。
 だが、ウルテクエンジンのパワーで振り回される巨大な腕は、それだけで巨大な脅威となってアムロの身に襲い掛かっていた。
「くっ……!」
 紙一重の所で攻撃を避けながら、アムロは現状の打開策について考え続ける。
 状況は最悪とまでは言わないが、かなり劣悪な事に変わりは無い。
 バルキリーの火力では、スターガオガイガーの強靭な装甲を撃ち抜く事が出来ない。まして、弾数には限りがある。
 それに対して、スターガオガイガーの攻撃はバルキリーにとって一撃で致命打となりかねない。
 つまり、このままズルズルと持久戦に持ち込まれるようなことになってしまえば、こちらに勝ち目は無いと言う事だ。
 その狂気を孕んだ過剰な攻撃性はともかくとして、ゴステロの操縦技能は決して低くない。
 アムロが攻撃を危うげなく回避出来ているのは、スターガオガイガーの攻撃手段が単発的である事が大きい。
 バルキリーの機動性に、ニュータイプとしての直感力。二つの利点を活かして回避行動を続ける事は、さして難しいわけではなかった。
 もっとも、それとて限界が無くはない。長期戦で集中力に乱れが来れば、いつかは攻撃を避け切れなくなってしまう事もあるだろう。
 もちろん、アムロとて“連邦の白い悪魔”と呼ばれたエースである。そう易々と、被弾を許すわけがない。
 だが――
「ちぃっ……! ハエみてぇに飛び回りやがって……! うざってぇんだよ、てめぇはぁぁぁぁっ!!」
 あまりにも激しく、そして執拗に繰り返される攻撃を前に、なかなか突破口を切り開く事が出来ない。それが、今の状況だった。

「どうする……いっそ、逃げるのも手だが……」
 長高々度の飛行能力ならば、おそらくバルキリーに分があるだろう。
 ありったけの弾薬を目晦ましにすれば、それで十分な隙は作れるはずだ。
 しかし、この危険な男を野放しにして、本当に良いのだろうか……?
 ……いや、良くはない。
 ニュータイプとしての研ぎ澄まされた神経が、黒い悪意を感じ取っている。
 この男は、あまりにも危険過ぎる。今の内に仕留めておかなければ、どれだけの犠牲者を生むか分からない奴だ。
 ならば……!
「使うか……? 反応弾を……!」
 バルキリーに搭載された最強の武装。その威力は、ガンポッドやマイクロミサイルとは比べ物にならない。
 それを直撃させる事が出来さえすれば、この状況を引っ繰り返す事も不可能ではないだろう。
 シャアとアイビスは、もう十分遠くに行っているはずだ。
 後は反応弾の威力に巻き込まれないだけの、十分な間合いを取れさえすれば……。

「ブロウクン……ファントォォォォムッッッ!!!」
「っ…………!」
 唸りを上げて迫る拳。それを回避した所で、アムロは機体の異常に気が付いた。
 ほんの僅かにだが、ガタがきている。
 片腕を失った状態で、無茶な回避行動を取り続けていたせいだろう。機体のバランスが、ほんの僅かに崩れ始めていた。
「まずいな……早めに勝負を決めなければ……」
 ……腹を括る。
 機体の不調が、むしろ覚悟を決めさせた。



「畜生がッ……! あの野郎、チョコマカと逃げ回りやがってぇ……!」
 バルキリーの機動性に舌を巻きながら、ゴステロは苛烈な攻撃の手を休めようとはしていなかった。
 ゴステロとて、無能ではない。あの赤い機体が何かを企んでいる事には、薄々ながら気付いていた。
 だが、それがどうした。あの機体が自分に対して有効な攻撃を与えられない事は、これまでの攻防から明らかになっている。
 ならば、焦る事は無い。勝利は、じっくりと味わうものだ。逃げる気が無いと言うならば、むしろ自分にとっては好都合というものだ。
 あの機体が何を企んでいるかは知らないが、所詮は雑魚の足掻きに過ぎない。
 そうだ……このスターガオガイガーの圧倒的な力さえあれば、あんな飛ぶ事しか能の無い機体など敵ではない……!
「おらぁぁぁぁぁぁっ!」
 GSライドのパワーに身を委ね、ゴステロは力任せの攻撃を繰り返す。
 ……だが、彼は気付いていなかった。
 勇気を力の源とするGストーン。ゴステロの歪んだ精神に触れ続けていたそれが、少しずつ輝きを失い始めていた事に……。

73獅子は勇者と共に(再改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/19(木) 20:39:04



「なんだ……? 奴の攻撃……さっきまでと比べて、ほんの僅かに弱まっている……?」
 スターガオガイガーの熾烈な攻撃を神業的な機体操作で回避し続けるバルキリー。
 機体表面に幾つもの損傷を作りながら、これまで反撃の機会を辛抱強く待ち続けていたアムロは、だからこそ敵機の異常に気付く事が出来ていた。
 誘っているのか……?
 ……いや、恐らくは違うだろう。
 あの巨大な機体から湧き上がる悪意は、その勢いを弱めていなかった。
 恐らくは、自分でも気付いてはいない。
 ならば……仕掛ける好機は、今を置いて他に無い!

「よし……!」
 もう殆ど使い果たしてしまったマイクロミサイル。その全てを“一点”に向けて、バルキリーは一気に射出する。
 スターガオガイガー、ではない。その足元に広がる荒野に向けて、ミサイルの雨は降り注ぐ。
 轟、と大きな音を立て、砂の嵐が巻き起こる。
「なぁっ……!?」
 足場に走った衝撃と、巻き上げられた砂の煙幕。その二つに、スターガオガイガーの攻撃が思わず途絶えた。
 その隙を見逃さず、バルキリーは遙か高くに舞い上がる。
 最大速度で空を切り裂き、赤の戦闘機は迷う事無く“それ”を目指す。
 目指す先は、光の壁だ。あの向こう側に抜けてしまえば、反応弾の威力に巻き込まれる事は無い――!
 光の壁を抜ける直前、バルキリーは急激に機体を旋回させる。
 そして砂煙で隠れた悪意に向けて、最後の切り札――反応弾を撃ち放った。
「これで……終わりだ!!」
 閃光、轟音、そして――
 その結果を見届ける事無く、バルキリーは光の壁を抜けて行った。



「うおおおおおおっ!?」
 足場を走った衝撃に、ゴステロは思わず叫び声を上げていた。
 物凄い勢いで巻き上げられた砂煙が、ゴステロの視界を覆い隠す。
 目晦ましか――なめた真似を――!
 下らない小細工に、ゴステロの怒りは膨れ上がる。
「何か企んでいるとは思っていたが、こんな煙幕程度で俺様を――――!?」

74獅子は勇者と共に(再改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/19(木) 20:40:01



「……やった、か」
 反応弾の確かな手ごたえに、アムロは安堵の溜息を吐いた。
 恐ろしい敵だった。まるで悪意と憎悪の塊のような、とてつもないプレッシャーを放つ相手だった。
 彼が何者で、どんな人生を歩んできたのか、自分には窺い知る事が出来ない。
 だが、ろくなものではないのだろうと言う事は、容易に想像する事が出来た。
 ニュータイプとしての直感が感じ取った巨大な悪意ばかりではない。
 あの男の戦闘技術は、間違い無く数多くの実戦を踏んだ人間のそれだった。
 戦う事……いや、相手を痛め付ける事に喜びを見出す危険人物、か……。
 もしこの場にカミーユがいれば、こう彼の事を評していただろう。
 生きていてはいけない人間、と。
「ともあれ、これで……」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!」
「――――――――っ!?」

 ――それは、完全な油断だった。
 輝く壁の向こう側から雄叫びと共に現れた、先程の巨大な機体よりも一回り小さい、スマートな印象の白い機体。
 だが、アムロには分かる。あの機体に乗っているのは、先程の機体に乗っていた男と同一人物だ。
 この巨大な悪意――忘れられるわけがない!
「っ…………!」
 バルキリーを急旋回させ、アムロは迫り来る一撃を避けようとする。
 だが、遅い。
 ほんの僅かな油断を突かれて、どうしても反応が間に合わない。
「まずい――追い付かれ――――!」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」
 ドゴォォォォォォォ…………!
 ガイガークローがバルキリーを貫き、赤の戦闘機は炎に包まれた。

75獅子は勇者と共に(再改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/19(木) 20:41:52



 ……アムロ・レイは生きていた。
 バルキリーが破壊される一瞬前に、緊急脱出装置を起動させていたのだ。
 もっとも、それはアムロの命を数分だけ延ばす結果にしかならないだろう。
 アムロが爆破寸前の機体から脱出した事は、ゴステロの目にも映っていたからだ。
「ひゃーっはっはっはっは! しぶてえなぁ、お互いによぉ!」
 反応弾が命中する寸前に取った行動を思い出しながら、ゴステロは大きく笑い声を上げていた。
 砂煙が巻き起こった次の瞬間、ゴステロを突き動かしていたのは動物的な生存本能だった。
 ヤバい――
 そう思った瞬間にゴステロが取った行動は、ブロウクンファントムを打ち出す事だった。
 それも、ただ普通に打ち出したのではない。ブロウクンファントムにプロテクトリングを重ね掛けした上で、渾身の一撃を繰り出していた。
 計算しての事ではない。ゴステロ自身、咄嗟の事だ。
 だが、結論から言うのなら、その行動は間違っていなかった。
 プロテクトリングが作り出す防御の力と、ファントムリングが作り出す攻撃の力。
 二つの相反する力は偶然にも巨大なエネルギーのうねりを生み出し、ブロウクンファントムが迎撃した反応弾の威力を大きく削ぐ事に成功していた。
 攻撃と防御の力を融合させて繰り出したその一撃は、不完全ながらもヘル・アンド・ヘヴンと酷似した性質の力場を発生させていたと推測される。
 無論、このような攻撃手段はガオガイガーに装備されていない。咄嗟の行動が偶然に繰り出させた、イレギュラーな一撃である。
 そして、イレギュラー故に、その代償は決して安くなかった。
 スターガオガイガーの右拳は、荒れ狂う巨大な力に巻き込まれる形で綺麗に消し飛んでいたのである。
 それだけではない。ファントムとプロテクトのリングもまた、規定外の使われ方をした為に、過剰な負荷に耐えられず爆発四散してしまった。
 ステルスガオーⅡのウルテクエンジンは臨界直前まで酷使されて、もはや使い物にならなくなっている。
 使い物にならなくなった両腕と、リングを失いエンジンが焼け付きかけたステルスガオーⅡ。
 心残りが無いではなかったが、この二つはもはや使い捨てにするしか――ファイナルフュージョンを解除するしかなくなっていた。
 もっとも、そんな事はどうでもいい。
 今のゴステロにとって重要な事は、この溜まりまくった鬱憤をどうやって晴らすか。ただ、それだけなのだから。
「くっ……くくっ! くひゃひゃひゃひゃ! 今まで散々俺様をコケにしてくれやがった罰だぁ……!
 そう簡単には殺さねぇ! じっくり、たっぷり甚振ってやる!」
「っ…………!」
 脱出装置を抜け出たアムロに、ゴステロは狂った哄笑を向ける。
 たとえ相手が機体に乗っていなかろうと、ゴステロに容赦する気持ちは無い。
 むしろ自分よりも弱い相手を一方的に嬲る事に、ゴステロは歪んだ喜びを憶えていた。
 ゆっくりと振り上げられる、ガイガーの足。
 ゴステロの企みに気が付いて、アムロは身を起こし走り出していた。
 どすんっ……!
 つい先程までアムロの居た場所に、ガイガーの足が振り下ろされる。
 あと一秒でも逃げ出すのが遅れていたら、アムロの身体は潰れてしまっていただろう。
「ははっ! 上手く避けやがったなぁ! だが、次はどうだぁ?」
 無力な蟻を踏み潰すように、ゴステロは逃げ惑うアムロを追い駆ける。
 楽しかった。
 ちっぽけで無力なゴミどもを、圧倒的な優位に立って踏み潰す。
 これだ……! これこそが俺様のあるべき姿だ……!
「俺はなぁ……人殺しが! 大好きなんだよぉッ!!」
 ひどく歪んだ喜びを憶えながら、ゴステロはアムロをじわじわと追い詰める。
 ……愉しみに浸るゴステロは、だからこそ気付かない。
 獅子が、怒っている事に。

76獅子は勇者と共に(再改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/19(木) 20:42:48



「はぁっ……! はぁっ…………!」
 息を切らせて、アムロは走る。
 その顔に、諦めは無かった。
 あまりにも絶望的な状況の中で、それでも生き抜く事を諦めてはいない。
 ……アムロとて、馬鹿ではない。この状況を好転させる事が不可能である事は、痛いほどに理解していた。
 だが、それでも諦める事だけは出来なかった。
 それは、何故か?
「っ…………!」
 どさっ……!
 体力の限界に達した身体が、ついにアムロの足を止める。足元の小石に蹴躓き、アムロは地面に転がった。
「はっはぁ! なんだ、もう終わりかよ?」
「…………」
「ホラ、逃げてみろよ。なんだったら、泣き喚いて命乞いでもしてみるか? ひょっとしたら、俺様の気が変ったりもするかもしれないぜぇ?」
 うずくまるアムロを見下ろして、ゴステロは上機嫌な声で言う。
 無論、嘘だ。ゴステロがアムロを見逃す事など、万に一つもありえない。
 だが、その言葉に騙された馬鹿が惨めったらしく命乞いをする様子を想像すると、なかなか面白そうだった。
「……断る」
「あぁん……?」
 だが、アムロは拒絶する。
 この悪意で染まりきった男に屈する事は、そう……アムロ・レイの“勇気”が許さなかった。
「お前のような奴に命乞いをするくらいなら……最後の瞬間まで戦って死んだ方がずっとマシだ!」

 ――悪の暴力に屈せず、恐怖と戦う正義の気力。
 人、それを……“勇気”と言う!



「ああ、そうかよ……なら死ぃ……!? なぁっ、なんだぁ……!?」
 突如起こった機体の異常。ゴステロの意思に反して、やおらガイガーは動きを止めていた。
 それは、ギャレオンが見せた反逆の意思に他ならない。
 勇気ある者達と共に戦い続けた正義の獅子は、ここにきて激しい怒りを抑えきれなくなっていた。
『ガォォォォォォォォォンッッッッ!!!』
 獅子は吼え声を轟かせ、邪悪の束縛を引き千切る。
 ――そう、フュージョン状態の強制解除。
 これまで自分の身体を支配していた邪悪な存在――ゴステロを排除して、獅子は大地に降り立った。
「なっ……! て、てめぇ、このポンコツ、何のつもりだ!? ど、どうして俺様を……!」
 ゴステロが上げる怒りの声に、だがギャレオンは応えない。
 正義の獅子が見詰める先には、勇気を示した一人の戦士――そう、アムロ・レイの姿があった。
「お前……は…………?」
 ……獅子の瞳に覗き込まれて、アムロは獅子の意思を知る。ニュータイプの力が、ギャレオンの意思を感じ取っていた。
 そして……。
『ガォォォォォォォォォンッッッッ!!!』
 獅子は再度の吼え声を上げながら、アムロの身体を――呑み込んだ!

「フュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ! ジョォォォォォォンッッッッ!!!」
「ば、馬鹿なっ……! こんな……こんな馬鹿な事があってたまるかよ!? どうしてだ……! どうして俺様の機体がっ……!」
 ギャレオンとのフュージョンを果たした、つい先程まで哀れに逃げ惑っていたはずの無力な男。
 この場から逃げ出す事すら忘却し、ゴステロは思わず叫び声を上げる。
 どうしてこうなってしまったのか……何が悪かったというのか……!
「……お前の敗因は、たった一つだ」
「ひっ……!?」
 つい先程とは逆転した立場で、アムロはゴステロに声を掛ける。
 いくら機体が無いとは言え、見逃す気は起こらなかった。
 この男を生かしておけば、数多くの悲劇が起こる事は間違い無いからだ。
「お前は……勇者じゃなかった……」
「ま、待てっ! 俺が悪かった……! 謝る! もうしない! だから助け…………ひでぶぅぅぅぅぅっ!?」
 ……ガイガー渾身の爪先蹴りが、ゴステロの身体を吹き飛ばす。
 奇怪な叫び声を上げながら、狂気のサイボーグは絶命した。

77獅子は勇者と共に(再改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/19(木) 20:43:26



「……よし、これは何とか使えそうだな」
 反応弾の着弾地点、ガオーパーツの残骸が転がる中、アムロは辛うじて使い物になりそうな機体を漁っていた。
 ステルスガオーⅡ、ライナーガオー。この二つに関しては、完全に使用は不可能となっていた。
 だが、運良くと言うべきか。ドリルガオーだけは、何とか破壊を免れていた。
「なるほど……このパーツ、分離した状態でも腕に装着できるのか……」
 ドリルガオーがガイガーに装着可能な事を知り、アムロは「ついてるな」と呟きを洩らす。
 敏捷性に優れるガイガーだが、いかんせん破壊力に乏しい事は否めない。
 攻撃力の不足を補う事は出来ないかと悩んでいたが、どうやらこれで問題も解決出来そうだ。
 ついでに言えば、シャアの奴に核ミサイルから乗り換えさせる事も出来る。このドリル、人が乗り込む事も出来るらしい。
 唯一残念だった事は、ガイガーの蹴りを受けた衝撃によって、ゴステロの首輪が破壊されてしまっていた事だ。
 あの時は冷静な判断力を働かせる事が出来なかったが、今になって思うと惜しい事をしたと思う。
 ……もっとも、自分だけが機体に乗った状態で生身の人間を嬲り殺しにするような行為に抵抗があった事は否めない。
 いくら相手が信じられないほどの外道であったとしても、だ。
 もしかしたら無意識の内に、そんな考えが攻撃に必要以上の力を込めてしまっていたのかもしれない。
 せめて苦しむ事の無いよう、一思いに……と。
「過ぎた事を悔やんでも仕方ない、か……」
 苦いものを噛み締めながら、アムロは沈痛な声で言う。
 そうだ、今は前に進むしかない。あの絶体絶命の状況を生き残れた事だけでも、良しとしておくしかないだろう。
「マッハドリル、装着!」
 ふと頭の中に浮かび上がった名前を呼び、ガイガーはドリルガオーを装着する。
 思った以上に時間を食ってしまった。シャア達との合流を急がなければ……。

78獅子は勇者と共に(再改訂版) ◆ZbL7QonnV.:2007/04/19(木) 20:44:03
【アムロ・レイ 搭乗機体:ガイガー(勇者王ガオガイガー)
 パイロット状況:良好
 機体状況:機体表面に傷跡(戦闘には支障無し)
      マッハドリル(ドリルガオー)装着
 現在位置:H-2
 第一行動方針:シャア達との合流
 第ニ行動方針:首輪の確保
 第三行動方針:協力者の探索
 第四行動方針:首輪解除のための施設、道具の発見
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している】


【ゴステロ 搭乗機体:なし
 パイロット状態:死亡
 現在位置:A-2】

【時刻 20:45】

79Take a shot ◆C0vluWr0so:2007/05/07(月) 21:05:35
相羽シンヤはこのわずか数時間の間に舐めさせられた辛酸を思い出し、ただの虫けらに過ぎない人間どもの行いに歯噛みしていた。
飄々とした態度ながらもその確かな操縦技術でシンヤの乗機を撃破した、宇宙の始末屋J9を名乗るキッドという男。
空腹に倒れていた自分をまるで迷子の子犬のように拾い上げ、人間の分際で哀れみの目を向けた白い機体の女。
突然襲いかかり、真紅のマフラーをたなびかせながら自分を足蹴にした機体。
そしてなにより――ネゴシエイター。あいつだ。
赤マフラーの機体との戦闘に割って入り、取引とは名ばかりの要求を突きつけてきた。
仲間の生首を見たネゴシエイターの顔は見物だったが、人間風情に後れをとることになるとは思いもしなかった。
一瞬の油断のせいで右足はもがれ、左腕も使いものにならない。

(――この屈辱、必ず晴らしてみせる。待っていろ、ネゴシエイター!)

とはいえ、このまま移動を続けるのは自殺行為。シンヤは怪我の処置、そして十分な食糧の確保を最優先事項だと判断する。
人気の無い市街地を片足のまま駆けるシンヤの目に入ってきたのは、一軒のコンビニだった。

「フフフ……ようやく僕にもツキがまわってきたようだね」

失血に因る吐き気と目眩にふらつく足を止め、店内に入ったシンヤが目をつけたのは包帯、消毒薬などが並ぶ薬品棚。
棚から薬と包帯を掴み取ったシンヤは、消毒薬の蓋をねじ切ると傷口にそのまま振りまいていく。
消毒薬のツンとした刺激臭が、シンヤを中心に店内に広がっていった。
まるまる一本分の薬を消費した後、包帯を無造作に右足に巻いていく。
右腕一本しか使えないシンヤにとって、この作業はいささか難しいものだった。
慣れない手つきで包帯を巻いていたが、苛立ちと共に半ば強引に処置を終わらせる。
明らかに乱雑な巻かれ方だったが、それでも最低限の止血効果は果たしているらしい。
右足から垂れ落ちていた血は徐々にその量を減らしていった。
続いてシンヤはテッカマンの超人的能力で棚のパイプを切断し、包帯で左手に縛り付ける。
テッカマンにとっては鉄パイプの簡易添え木など、あろうがなかろうが大して変わらない。
むしろ下手に固定したほうが戦闘の枷になるだろう。
ならば何故? 何故シンヤは自ら枷をつける?
全ては戒めだった。下等生物である人間とは比較の対象にすらならない存在、それがテッカマン。
その一員である自分が、人間風情に決して軽くない傷を負わされたのだ。
この枷は自らの過ちを示すためのものだ。踏みにじられた誇りを忘れぬためのものだ。
借りは返す。そのためにも、今は力を溜め込むことに専念する。
片っ端から食い物を掴み取り、シンヤは貪り始めた。
テッカマン時の急激なエネルギー消費に備えるためにも、失われた血を再び得るためにも、十分な栄養の摂取が必要だった。
限界を訴える胃の悲鳴を無視し、シンヤは食糧を体内に詰め込み続ける。
袋から出した即席麺をそのままバリバリとたいらげ、2リットルの水を一息に飲み干す。
瞬く間に店内からは食糧という食糧の全てが消え、シンヤの痩身に収まっていた。

シンヤは一呼吸置き、このバトルロワイアルが始まって以来、常に自分の行動原理の奥底にあったものを思い出す。
Dボウイ、テッカマンブレード……。『彼』を表す名は一つではなく、『彼』もまた、かつての名は捨てているらしい。
だが、シンヤにとってそれはどうでもいいことだった。
『相羽タカヤ』。シンヤにとって『彼』はただ『タカヤ兄さん』でしかなく。
自分の兄であるタカヤを超えることこそがシンヤの望み。

「兄さん……待っててね。こんな巫山戯た茶番、すぐに終わらせて兄さんのところへ行くよ……」

シンヤは唇を醜く歪ませ、くつくつと笑い出す。
やがてそれは悪意を込めた嗤いに変わり、憎悪に満ちた叫びに変わる。

「忘れるなネゴシエイター! そして全ての人間ども! 俺が……地獄を見せてやるッ!」

傷の処置は終わり、充分な栄養補給も済ませた。
休む暇など無い。一刻でも早く人間どもを皆殺しにし、自分をこの茶番に引きずり込んだ怪物に復讐をする。

(まずは、足の代わりを――)

その時シンヤが耳にしたのは、移動中の機動兵器が立てる轟音。
急ぎ店外に出て、音の主を確認する。そこには厚い装甲に覆われた巨体の影があった。

80Take a shot ◆C0vluWr0so:2007/05/07(月) 21:06:13
(ククク……本当にツキがまわってきたみたいだ。こうもおあつらえ向きの機体が向こうから来てくれるなんてね……)

シンヤが欲したのは新しい機体。この広大な戦場を駆け抜けるのはいくらテッカマンといえど無茶がある。
まして自分は片足を失っている。頑強な盾にも長距離の足にもなる目前の機体は喉から手が出るほど欲しいものだった。
ならば迷うことなどない。
シンヤは夜の闇を駆け、真紅の巨体へと近づいていった。

 ◆

「クソッ! エイジといいラキといい、どうしてこんなに自分勝手な奴らばっかりなんだぁ!」

金髪碧眼にして眉目秀麗、しかしながらその麗しい見た目とは裏腹に毒舌を吐きまくる男。

「どうして俺がこんな訳の分からない殺し合いを強要されなきゃいけねぇんだ!?
 どう考えてもこんなのは俺向きの任務じゃねぇ。
 本当なら今頃酒でもひっかけて、キャサリンかリンダと熱いささやきと口づけを……
 って、誰だよキャサリンかリンダ! クソ野郎、もうどうにでもなれだ。
 エイジとラキ、お前ら首洗って待ってろよ。俺をここまでこき使うなんて良い度胸だぜ!」

ハァ……、と思わずため息をこぼすクルツ。思えば自分はここに来てから最高最低にツイてない。

何にせよ、始まってから接触した面子が悪すぎる。
問答無用に襲ってくる赤鬼に始まり、美人だが他に類を見ない天然のラキ、普通かと思ってたがなんだかアレなエイジ。
さっき戦闘してた二機だってそうだ。殺し合いに乗る連中に良いヤツなんかいないに決まっている。
なんとかあの赤いマフラーのヤツは振りきったみたいだが……鬼が二匹かよ、コイツは洒落にならないぜ。

と、毒を吐き続ける。

クルツの現在地はC-8市街地。現在紅マフラーさんと大絶賛鬼ごっこ中。
なんとか光の壁で目視を遮り、鬼を振り切ることに成功。
ひとまず現在の状況整理と休憩を兼ねて、機体を高層ビルの谷間に潜ませながら、ここまでの道程を振り返っていたわけだが……。

何度思い返しても、怒りとも諦めともつかない感情が沸々と湧いてくるのは何故だろう?
この状況はどう考えても自分に責は無い。よって責任の全ては俺以外の誰かにあるに違いない。

そんなわけで、クルツは上記のような具合になっているのだった。

「まぁ、これ以上過ぎたことをウダウダと言ってもしょうがない。前向きにこれからのことを考えますかねぇ……っと」

クルツが最優先すべきことは生き残ること。これは、たとえ天と地がひっくり返ろうとも絶対に変わらない大原則だ。
現在のところ、明確な行動指針として存在しているのはラキの探索のみ。
エイジの安否も心配と言えば心配だが、あそこまでお膳立てをしてやった。
あれで死んでしまったんならそれはもう不可抗力だ。あいつはツイてなかったんだと思うしかない。
生きているかは五分五分といったところか――と、クルツは推測する。
エイジは、生きていれば西、つまりH-1に向かうと言っていた。
A-2から飛んでいったラキもおそらくは北へ向かっていったはず。ここ数時間のラキの動向を考えるに、どちらかというと北東では無く北西に向かっているだろう。
なら二人ともH-1からB-1の何処かにいる可能性が高い。
ここはこちらからH-1の方へ行ってやる方が合理的だろう、と考え機体を西へと向ける。
既に時刻は20時を過ぎている。A-8の禁止エリアがその効果を発揮している頃だ。
そこは通らないように気をつけようとクルツが脳内メモに書き足したその時――

クルツにとって、本日三匹目の鬼がそこにいた。



「早速だが、その機体を僕に渡してくれないかい?」

81Take a shot ◆C0vluWr0so:2007/05/07(月) 21:06:44
見ればそこには機体に乗っていないどころか、片足さえも失った男が立っている。
しかし、その見た目に反してやけに上からの物言いをする男の態度にカチンときたクルツは、

「断るね。何だって俺がそんなことをしなくちゃいけないんだ? そんなことは俺じゃなくてママンにでも頼みなよ」

と、挑発的な言い方で返事をする。

「ふん、人間風情がこの僕に口答えを出来るとでも思っているのか?」
「ああ、思ってるさ。だいたいアンタこそ何様のつもりだよ。人にものを頼むときは下手に出て媚びへつらいなさいと習わなかったか?」
「知らないのなら教えてやる。僕はテッカマンエビル。人とは比べ物にならない超高次元の存在さ」
「はん、慣れない殺し合いでイカレちまったのか? そんな安っぽいSF――」
「なら力ずくで奪うまでだね! テェェェェェェック・セェェェェェッェェェェェット!!」
「おい、お前、会話のキャッチボールをするつもりが無いだろ……って、オイ!?」

そこには人の姿をしたものはいなかった。いるのは悪鬼――テッカマンエビルのみ!
目前で行われた、タネも仕掛けも無い変身ショーに唖然とするクルツに投げつけられたのは槍。
ワイヤーが括り付けられたテックランサーは、ラーズアングリフの左肩を抉る。
瞬時に手首を返しランサーを手に取ったエビルは、高らかに宣言する。

「さぁ、どうする人間! 俺は決めたぞ! 全ての人間どもに地獄を見せる!!」

チッ、と舌打ちをしながらクルツは機体の状況を確認。
不意をつかれた。左肩は完全にアウトだ。
腕はなんとか動くが得意の精密射撃までは期待出来ず、肩部から放たれるマトリクスミサイルも撃てなくなった。

更にエビルの猛攻は続く。
失った右足の代わりに槍とワイヤーを巧みに扱いながら、ラーズアングリフとの距離を徐々に詰めていく。
接近するテッカマンに対し、カウンター気味に放たれるリニアミサイルランチャー。
ミサイルをガトリング銃のように撃ち続けるクルツは、確実な手応えを感じた。
しかし、テッカマンの俊敏はクルツの常識を超えていた。
ミサイルの雨の軌跡を見極め、必要最低限の動きで避けていくエビル。

ラーズアングリフは長距離戦に特化し、それを極めた機体。
相手の射程外から銃弾を撃ち込み、攻撃させないまま勝つ。
必殺のフォールディングソリッドカノン、広範囲掃討兵器ファランクスミサイル、汎用性に優れたリニアミサイルランチャー、マトリクスミサイル。
だが超長距離に特化した結果、接近戦における弱体化もまた著しいものになっていた。
接近戦では何の変哲もない強化合金製ナイフだけが頼みの綱。
長距離砲の反動に耐えるべく設計された頑強な装甲も近距離ではただの鈍重な枷にしかならない。
ぶっちゃけて言うと……接近戦では雑魚である。

「この野郎!」

既に相対距離は20メートルを切った。
この距離ではシザースナイフを除いた全武装が使用不可。
加え、クルツもプロの傭兵として前線部隊で活躍する身といえど、本来は後方からの援護がメイン。
再度言おう。この機体とパイロット、接近戦では雑魚である。

テッカマンの槍撃をシザースナイフでなんとかいなすが、瞬時に二撃目が繰り出される。
まともに動かない腕はいらないと、左腕で受け止める。
完全に機能が停止する左腕。
クルツは右腕のリニアミサイルランチャーを構えると――後方に向けて発射。
背後のビルが音を立てながら、クルツとエビルの元へ崩れ落ちる。
巨岩を避けるべくエビルがバックステップした瞬間に、ラーズアングリフも全力で後方へ退避。
即座にビルの合間に隠れ、距離をとることを選択するクルツだったが……

(コイツはやばい。あのスピード、半端じゃないぜ。今のように懐に入られたら、今度こそ終わりか?
 戦場で必要なのは瞬時の判断と的確な分析。考えろ、クルツ・ウェーバー)

82Take a shot ◆C0vluWr0so:2007/05/07(月) 21:07:36
あのテッカマンと名乗る男――アイツの最大のアドバンテージはそのスピード。
まるで瞬間移動だ。いくら俺の射撃の腕でもワープするヤツを相手に一撃必殺とはいかない。
……! 待てよ、アイツの回避運動を思い出せ。
アイツは一つ一つのミサイルの弾道を見極め、最低限の動きで俺の攻撃を避けていた……。
何故だ? あのスピードならちょこまかと避けずとも俺のところまでひとっ飛びのはず。
つまり、アイツにはそれが出来ない理由があったということか?
それだ、そいつが鍵だ! そこに――生き残る目がある!
後は――それを見極めるだけだ。


クルツの思考を阻むようにテッカマンが再度の接近。
ビルの谷間を縫うように跳びかかってくるエビルに対し、牽制のマトリクスミサイルを二発放つ。
空中で散開した五本のミサイルがテッカマンに迫る。
これを難なく避けるエビル。だがその目前にはさらに五本、もう一組のミサイルが近づいていた。
しかしエビルには直接当たらずに目前で爆発。道路のアスファルトを盛大に撒き上げる。

「目眩ましか。案外ちゃちな手を使うんだな?」

エビルは強者だけが持てる余裕の笑みを浮かべる。
その目は獲物をいたぶるケモノのものだった。

 ◇

(ようやく光が見えたぜ……!)

今の時間差攻撃である程度把握出来た。
相手は一度に長い距離を移動できない。
それがあの足の怪我に関係しているのかは分からないが、回避時に見せる俊敏な動きは一度に10メートルが限界だと推測。
そして一度回避してから体勢を立て直すまでにおそらく半秒は要する。
そこを叩く!

クルツは自らテッカマンの眼前へと飛び出した。
月が煌々と照らす中対峙する一機と一人。

「自分から機体を持ってきてくれたのかい? それは良い心がけだね。
 もっとも……今更そんな殊勝な態度を見せてくれても、君が無惨に殺されることに変更は無いよ」
「そうかい、そりゃー良かったな。俺にはそんな残忍な未来は想像出来ないね。
 せいぜいお前が泣いてワビを乞う姿しか考えられないぜ」
「言うねぇ、人間ごときが。その口……今すぐ閉じさせてあげるよ!」

クルツの目の前からエビルが消失した。
いや、違う。超高速移動で一瞬のうちに視界から消えたのだ。
エビルの槍撃がラーズアングリフの胸部装甲を貫く寸前、クルツは後方へバーニアを噴かし回避。

(この半秒で距離を取る!)

そのままバーニアの出力を限界まで上げ、全速で距離を空けていくラーズアングリフ。
後方への移動と共にマトリクスミサイルを射出。ミサイルが5本、尾を曳きながらエビルの元へ吸い込まれる。
エビルはワイヤーを伸ばし、ビルの壁面へと打ち付ける。
そのままワイヤーを収縮させ、ミサイルの矢を避けるが……

「お前のクセ、見切ったぁ! これでお終いにするぜ!」

未だ体勢の整わぬエビルに放たれたのは暴力的なまでの数のミサイル。
先ほどまでの砲撃を矢とするならこれは雪崩。
広範囲掃討兵器、ファランクスミサイル。
本来数十メートル四方を焼け野原に変えるほどの砲撃は、対テッカマン用に弾道計算を書き換えられ、その範囲は五分の一以下になっていた。
だが、面積当たりの威力は一気に数倍に跳ね上がる。
数十本にも及ぶミサイルの濁流が、テッカマンエビルへと降り注ぐ。
一瞬の後、轟音。テッカマンの取り付いていたビルごと巻き込む大爆発は、周囲に瓦礫と粉塵を盛大に撒き散らす。

83Take a shot ◆C0vluWr0so:2007/05/07(月) 21:08:10
「ミッション・コンプリート……。だぁああああ、もうビックリ人間ショーの相手をすんのはゴメンだぜ……」



「それは残念だね。僕はまだまだ遊び足りないってのに」

クルツに戦慄が走る。今聞こえてきた声は……間違いない。

「おいおい……そりゃ反則だろ……?」

瓦礫の中からテッカマンエビルが這い上がってくる。
あれだけのミサイルを受けたにも関わらずその外見に大きな負傷は見られない。

「まぁ、確かに痛かったよ。でもそれだけだ。
 あの程度の攻撃でテッカマンを倒せると思ったのかい!?」

自らの劣勢を感じたクルツは機体を走らせ、戦場からの離脱に専念。
だがテッカマンは振り切れない。ラーズアングリフと併走し、攻撃を仕掛けてくる。

「ハハハハハハハ! さっきまでの威勢はどうしたんだい!」

ランサーがパイロットブロック目掛けて投擲される。
分厚い装甲に阻まれクルツの座る操縦席までは届かなかったものの、深い爪痕が胸部に残る。
反撃のリニアミサイルランチャーとマトリクスミサイルもテッカマンにはかすりもせず、夜のビル街に突き刺さるだけ。
当てられない。それが分かっていてもクルツは撃ち続ける。生きるために。帰るために。
だが――現実はいつでも残酷だった。
テッカマンはクルツの砲撃を難なく避け、ワイヤーに取り付けられたランサーを銛のように扱いラーズアングリフに投擲。
機体の損傷は出来る限り少ないまま自分の物にしたいというエビルの狙いに気づいたクルツは、コクピットブロックへの攻撃を予測。
あらかじめ軌道が分かっているため、すんでのところで回避に成功する。
すかさず反撃のミサイルを放つ。
しかしテッカマンの運動性の前には、少々の弾幕では妨げにはならなかった。
再びビル群に吸い込まれていくミサイル。

「銃の腕は大層下手くそのようだね。そんなことではこの僕に勝てやしないよ」
「うるせぇ! 誰に向かって口を聞いてやがる!」

ミサイル。
回避。
投擲。
回避or防御。

この繰り返しが永遠に続くかと思われたその時――マトリクスミサイルの残弾が尽きた。

「なっ……!? こんな時に弾切れかよ!」
「残念だったね!」

クルツからの砲撃が止んだ一瞬を逃さず、エビルは更なる追撃を決行。
エビルからテックワイヤーが射出され、ラーズアングリフの左肩に突き刺さる!
ワイヤーを巻き取りながら瞬時に距離を詰めるエビルに対し、クルツは左腕の破棄を決断する。
シザースナイフを構え、左腕全体を胴体から切断。
そしてリニアミサイルランチャーを構え直すとテッカマンごと左腕を攻撃する。
ラーズアングリフは、それ自体が『歩く火薬庫』と称される全身重火器の機体。
肩にマトリクスミサイルを内蔵した腕部は、それだけで一つの爆弾のようなものである。
ラーズアングリフの左腕はテッカマンを巻き込み盛大に爆発した。

84Take a shot ◆C0vluWr0so:2007/05/07(月) 21:08:40
(……! やるなら、今か!?)

いくら左腕が爆弾そのものだったとしても、先ほどのファランクスミサイル一斉掃射を超える破壊力は無い。
テッカマンはまだ健在のはずだ。
切り札であるアレを使うなら――今。
だが、もし外したら? 残り二発しか無いアレを無駄に消費することになったら?
クルツの中で一瞬の迷いが生じる。

――迷ってる暇があるならっ! 撃つしかねぇ!!

切り札――Fソリッドカノンを構えるラーズアングリフ。
テッカマンとの充分な距離を確認。照準を合わせる。
いかにテッカマンといえど、ラーズアングリフ武装の中で最大射程最強威力を誇るFソリッドカノンの直撃を受ければひとたまりもないはずだ。
汗に濡れた手でトリガーを引く。
高速加速された砲弾はまっすぐにテッカマンへと向かい――

 ◇

現実は、無慈悲だ。
Fソリッドカノンは、テッカマンを穿てなかった。
クルツの中で生じた一瞬の迷いが勝負を決めた。その一瞬でエビルは3メートル右へ移動。
それだけで、充分だった。

「くそっ……、くそぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「残念だったね……。まさかあんな隠し玉を持っているとは夢にも思わなかったが、もう終わりだよ。
 さぁ、今度こそ本当の終わりにしよう」
「やっ、やめろ! やめてくれ! 機体ならいくらでも渡す!
 なんだってする! だから命だけは助けてくれ!」
「ククク……さすがは人間だ。いざ最後の時となれば平気で命乞いをする。見栄もプライドも捨ててね」

戦いは終わった。これから始まるのは真の勝者と敗者とを決するための最後の時間。
最後まで生き残った者が唯一無二の勝者という、この殺し合いの大原則。
負けた者は死ぬ。ただそれだけ。

だが――

「助けてくれっ! お、俺は故郷に許嫁がいるんだ! この戦争が終わったら結婚しようって約束してんだ!
 生き残れたら、とっておきのバーボンを奢ってくれると約束した上司もいる!
 金ならいくらでも用意する! 命だけは助けてくれ!





                  ……なーんて言うとでも思ったか?」

勝負は――最後の最後まで分からない!

「ふん、この期に及んで負け惜し――っ何!?」

夜の闇に包まれた街が、テッカマンエビルに向かって崩壊する。
エビルは周囲を見渡す。360度全方位からビルが倒れ込んでくる。逃げ場はない!

85Take a shot ◆C0vluWr0so:2007/05/07(月) 21:09:12
「さぁ、ここで種明かしだ。俺が無駄に弾を撒き散らしたとでも思ってたのか?
 そいつは残念。このクルツ様があんなに何発も外すわけがねぇだろうがアンポンタン。
 弾は外してたんじゃねぇ。『埋め込んでた』んだよ。
 後はタイミングを見計らって……ドカン!」

最後は機体を奪うために接近戦を仕掛けてくる――そう読んだクルツは罠を仕掛けた。
この広大な市街地、その中でも一際目立つ高層ビル群を出し惜しみ無く使う豪華な罠を。
テッカマンから逸れ、ビルに突き刺さっていったミサイルの多くは、この瞬間のための下準備。
ミサイルの直撃を受けたビルは、その巨体を支えるのに精一杯。もしここで更に衝撃が加わったりすれば……。
後はその罠の中心でテッカマンを待ちかまえるだけ。
テッカマンエビルをおびき寄せる代償としてなら、元々動かなかった左腕の一本くらい安いものだ。
そしてFソリッドカノンの一撃を火種に、ミサイルの直撃で脆くなっていたビル群は連鎖的に崩壊を開始。
クルツの狙いは完璧に成された。
エビルに残された逃げ場はただ一つ。満月の浮かぶ空。
落下してくる破片を足場に上空へと跳び続ける。
ビル群が完全崩壊を終える瞬前、エビルは何ものにも遮られない中空へと躍り出る。
その瞬間ふと見た地上では――真紅の影が、砲身を構えこちらに向けていた。

「お前の敗因は二つ。一つは機体を得るために攻撃の手を緩めていたこと。
 そしてもう一つは……このクルツ・ウェーバー様を見くびっていたことさ!」

全てはこの一撃のため。相手の動きを封じるため。障害の無い空へとおびき出すため。
弾薬の殆どと高層ビル街を費やした罠も、決定打になるとは思えなかったし、思わなかった。
クルツ・ウェーバーは狙撃手だ。始めから最後まで、勝負の決め手は銃弾一つ。
動く先が分かっている相手など、目をつぶっても当てられる!

「そこなら逃げも隠れも出来ねえぜ!」

Fソリッドカノン最後の一発が放たれる。
エビルがクルツの意図に気づいたときには、それを避ける暇さえ存在しなかった。
高速加速された砲弾はまっすぐにテッカマンへと向かい――命中した。
兄への想いのままに生き続けたテッカマンは、テッカマンとしての短い生を終えた。
人からテッカマンへ生まれ変わるとき、相羽シンヤは一度死んだ。
二度目の死が一度目と違うこと、それは兄への想いもまた、永遠に消えてしまったことだった。

 ◆

再び静寂を取り戻したビル街。そこでクルツ・ウェーバーは深いため息をついていた。

「ハァ〜、しっかしなんでこう俺ってツイてねーんだ?」

クルツはテッカマンを撃破した直後のことを思い出す。

 ――――――

強敵の撃破にホッとしたのも束の間、すぐに新たな来客がやってきた。
センサーに感知した熱源反応。それが示す機体の正体に気がついた時、クルツは即座にラーズアングリフを瓦礫に紛らせ、通信、センサーを除く全電源を落とし、考え得る限りの隠蔽を施した。
それもそのはず。その機体とは……

86Take a shot ◆C0vluWr0so:2007/05/07(月) 21:09:45
「野郎おおおおおおおおおおお! どこへ行きやがったあああああああああああああああ!」

完全に撒いたと思った紅いマフラーの機体だったのである。
おそらくこの騒ぎを聞きつけて、急ぎ馳せ参じたのであろう。

(冗談じゃねぇ! 弾も無い、腕も無いでどうやってアイツとやりあえってんだ!)

まともに相手は出来ないと判断したクルツはとにかく隠れることを選択。
しばらく赤マフラーは周辺の探索を続け、北西の方角へ去っていった。

 ――――――

「さて……どうするかな」

予想外のことが続きまくり、全く思う通りに事が進まない。
弾薬も殆ど無い。補給は出来る限り早く済ませたい。
しかしあの赤マフラーがうろついてる限り下手に動くのは避けたいし、どうせなら休めるときに休んでおきたい。

「よし、後一時間はここで休む。それから……近くで分かる補給ポイントはB-1か……」

22時行動開始。B-1補給ポイントで補給、ついでにエイジの安否も確認。
エイジが無事だろうがなんだろうがラキは探す。期限は……次の放送まで。
それでラキが死んじまってたら探索打切。その後の行動はその時考える、と。

さて……疲れたことだし、この一時間はせいぜい全力で休むとするかね……


【クルツ・ウェーバー 搭乗機体:ラーズアングリフ(スーパーロボット大戦A)
パイロット状況:冷静
機体状況:Fソリッドカノン、ファランクスミサイル共に残弾0、左腕消失、残弾1/5、胸部損傷
現在位置:C-8 市街地北部
第一行動方針:22時まで目一杯休む
第二行動方針:B-1補給ポイントにて補給
第三行動方針:エイジ、ラキの探索
第四行動方針:ゲームをぶち壊す
第五行動方針:駄目なら皆殺し
最終行動方針:ゲームから脱出】

【相羽 シンヤ(テッカマンエビル) 搭乗機体:無し
パイロット状況:死亡
機体状況:機体なし
現在位置:C-8市街地北部】

【流 竜馬 搭乗機体:大雷鳳(バンプレストオリジナル)
パイロット状態:怒り、衰弱
機体状態:装甲表面に多数の微細な傷、頭部喪失、右肩外部装甲損壊 、腹部装甲にヒビ、胸部装甲に凹み
現在位置: C-8北西部
第一行動方針:クルツを追う
第二行動方針:サーチアンドデストロイ
最終行動方針:ゲームで勝つ
備考:ゲッターサイト(大鎌)を所持】

【残り34人】

【初日 21:00】

87 ◆C0vluWr0so:2007/05/19(土) 16:03:54
D−8市街地。二エリアに渡って広がるあまりにも巨大な街並みはひっそりと静まりかえっている。
そこに住人の影は無く、本来なら煌々と夜の街を照らすはずの街灯も暗黙を保ったまま。
閑散とした街の更に外れにある、自然の姿を人工的に残した野外公園に巨人の影が一つ。
巨人の足下には依頼主を亡くしたネゴシエイターが一人。
ネゴシエイターの足下には物言わぬ骸が一つ。
その側には、巨人――騎士鳳牙によって掘られた穴が一つ。

ネゴシエイター、ロジャー・スミスは今は亡き依頼主、リリーナ・ドーリアンの亡骸を前に立ちつくしていた。
彼女を埋葬すべく、自らの怪我の処置もほどほどに鳳牙を走らせたロジャー。
彼の胸中にあるものは悔い。自分の至らなさのせいで依頼主をむざむざと死なせてしまったことに対する後悔の念。
もしも自分が最初の接触の時点でテッカマンエビルを名乗る男を倒せていれば――
もしも自分が即座にテッカマンエビルとリリーナ嬢を発見し、少女を救出出来ていれば――
いくら悔やんでも悔やみきれない気持ちはいくらでも募ってきた。
しかし、それで歩みを止めるわけにはいかないということも重々承知している。

「リリーナ嬢。貴女の遺志はこのロジャー・スミスが引き継ごう」

一張羅が血で濡れることも気にせず、ロジャーは少女の骸を抱き上げる。
あれほどまでに凛々しい目を持ち、気高き矜持を最後まで貫いた女性をこのままの姿で晒すことはロジャーのプライドが許さなかった。
リリーナの遺体を抱き上げた瞬間、骨折の激痛がロジャーの脇腹に走る。
本来ならば即座に治療をし、安静を保たなければいけないような重傷の身。
それでもネゴシエイターは揺るがず、堂々と胸を張り少女を抱きかかえる。

「なに――気にすることはない。依頼主死すとも依頼は死なず。ネゴシエイター、ロジャー・スミスのささやかな矜持だ」

鳳牙によって穿たれた墓穴へとリリーナの骸を丁寧に下ろしたロジャーは、少女の首にはめられた首輪をそっと抜き取った。
今現在、ロジャー達反主催を掲げる者にとって一番のネックは各々の首に巻かれた首輪だ。
この首輪が殺傷能力を持ち、あの化け物の思い通りにその効果を発揮するというのは明らかだった。
ロジャーは思い出す。
胸糞が悪くなるほどに素敵なこのゲームの参加者、その全てが集められた最初の部屋の光景を。あそこで行われた凄惨な殺戮を。
自分たちがこのままあの化け物に挑もうとも、あの悪趣味なショーと同じ光景が主催者に歯向かう無謀な反逆者の首の数だけ行われるだけだろう。
だが、この首輪さえ外せば条件はイーブンだ。
たとえあの人外の化け物が如何に強力な力を備えていようとも、お互いが対等な立場にさえ立ってしまえばいくらでもやりようはある。
そのためのネゴシエイション、そのためのネゴシエイターだ。
この首輪が主催者打倒の切り札になる――そう確信し、懐に収める。

「リリーナ嬢……。私は、貴女のような気高く美しい女性に出会えたことをとても嬉しく思う」

少女の言葉はネゴシエイターとしての誇りを思い出させてくれた。
夢物語ではあったが、少女の語る理想は夢を信じるに値するものだった。
リリーナとの出会いは、交わした言葉の一つ一つはロジャーの心に深く刻まれている。

最後に死者への祈りを捧げ、ロジャーは墓から背を向ける。
そのまま鳳牙へと乗り込むと、今度は少女の亡骸を埋め始めた。

「だからこそ――この殺し合いに乗った者は許せない。貴女の信念に反することになろうとも、交渉に値しない輩はこの拳をお見舞いしてやるのが私の主義でね」

リリーナの身体が土中に埋もれていく。
埋葬される少女の表情は、自分が死んだということさえ理解していないかのように穏やかだった。
おそらく痛みも何も感じることなく逝ったのだろう。それだけがせめてもの救いだと言うのは、死者に対してあまりにも失礼だろうか。
少女の埋葬を終え、ロジャーは墓標代わりに白石を置く。

「私は死者に縛られるわけにはいかない。君の説いた理想を叶えるためにも、そしてなにより生き残るためにだ。
 君とはここでお別れだ。ロジャー・スミスはリリーナ・ドーリアンの遺志を引き継ごう。
 だが君との繋がりはここに置いていく」

止まるわけにはいかない――そう決めた。
少女の死を思い返し、感傷に浸る暇は無い。そんな時間が有るのなら、その分一人でも多くの命を救い、前へ進み続けよう。
この無意味な争いを止めることが、完全平和主義を説いた少女への何よりの弔いなのだから。

88 ◆C0vluWr0so:2007/05/19(土) 16:04:41
これからの方針を考えながら、ロジャーは鳳牙を走らせる。
この傷の処置をすませた後、一度ユリカ嬢のところへ戻ろう。
彼女の乗る巨大な機体ならば、もしかするとこの首輪を解析する機材が備えられているかもしれない。
主催者に生殺与奪の権利を握られている以上、このままでは表立っての反抗は出来ない。
あのテッカマンとか名乗った男も、手応えはあった。
おそらく相応の痛手は負わせられたはずだ。なにより生身のままではそう遠くまではいけないはず。
ひとまずは仲間を集め、それぞれの身の安全の確保、そしてあの怪物を打ち倒すだけの戦力の充実を図ることが先決だ。
6時間の間に出た死者――それを殺した殺戮者たちも、徒党を組み、十分な戦力を揃えた集団には手を出せないだろう。

ある程度の方針が見えてきたとき、薬局の看板が目に入ってきた。
これは幸運と機体から降り、ロジャーは店内へと入っていく。
様々な薬の並ぶ商品棚を一つ一つ物色し、鎮痛薬や包帯、ギプスなど目当ての物を手に取ると、早速手当てを始める。

「しかし、これはまた派手にやられたな」

骨折数カ所に全身打撲、この場にあの無愛想な少女がいれば、
『ロジャー、あなたって本当に――』と小言の一つでも言うだろう、と想像しながら苦笑する。
そうだ、自分はあの世界へ再び帰らなければならない。
手早く怪我の処置を終えると、ネゴシエイターは立ち上がる。
目指すは巨竜、無敵戦艦ダイだ。

「さぁ行こうか騎士・鳳牙。この争い――終わらせるぞ!」

 ◇

ミスマル・ユリカは無敵戦艦ダイの中、一人ぽつりと座っていた。
少女の顔には疲労の色が浮かび、どこか落ち着かない様子をしている。
はぁ、とため息を一つつくと、操縦席に深く腰をかけ直す。

「ガイさん……大丈夫、なのかな……?」

少女が気にかけるのは、ここに来て初めて出会ったはずの――でも、何故か昔から知っているような気がする仲間。
ガイと――そう名乗った彼は、ユリカが知る一人の少年とは、全然違う。
それでいて、とても似ている。

「アキト……」

思わず口に出てしまう想い人の名前。

「アキト……うん。あたしは、大丈夫。絶対あなたのところに帰るから……だから、少しだけ待っててね」

胸の奥底から湧き出る確かな想いを噛みしめながら、ユリカはより強く願う。
この殺し合いからの生還と、愛する人との再会を。

その時少女はこちらに接近してくる機影に気づく。
敵襲かと身構えたが……違った。それは別れた仲間の機体だった。
既にその四肢は失く――しかしそれでもユリカを守った仲間。
尋ねたいことはあった。でも。
なんとなくだが――それは、聞いてはいけないことのような気がした。
だからその代わりに、たった一言だけ告げる。

「お帰りなさい……ガイさん」

「……ああ、……ただいま、ユリカ」

四肢をもがれたバルキリーはダイの元へと帰還する。
過去を捨てた男は過去の少女と再会し、幸せな未来を夢見る少女は未来の想い人と出会う。
それは本来有り得ない邂逅。
だからこれは――このバトルロワイアルの中で起きた、とても貴重な幸せの瞬間だった。

89 ◆C0vluWr0so:2007/05/19(土) 16:05:15
 ◇

ユリカとアキトの再会から遅れること数分。
ユリカを目指して北上していたネゴシエイター、ロジャー・スミスもまた、二人との合流を果たしていた。

三人は別れてからこれまでの経緯とこれからの方針について話し合う。
もちろん三人とも最終目標は主催者を倒し、生きてこの空間から脱出、元の世界に帰ること。
しかし、ロジャーがテッカマンエビルとの戦闘について話し始めたとき、ユリカが小さな悲鳴を上げる。

「ロ、ロジャーさんっ! それ本当ですか!? な、ならあたしは……。
 ど、どどどどうしよう!? 早く助けに……いや、その前に……!」
「ユリカ嬢、どうしたんだ!? まず落ち着いて、それからゆっくり話してくれ」
「ユリカ、大丈夫だ。落ち着いてくれ。……俺たちがいない間に、何かあったのか?」

二人からなだめられ、冷静さを幾分か取り戻したユリカは一刻たりとも無駄に出来ないとばかりに早口にまくしたてた。

「あたし、やっちゃいけないことをしてしまったんです。今からこの三機で周辺の探索を開始します!
 要救助者を発見したらダイのところへ連れてきてください! それでは各機散開!」

当然ながらさっぱり話の要点がつかめない。
困惑した表情を浮かべながらロジャーがユリカを問いつめる。

「ちょっと待ってくれ、私たちにも何があったか詳しく話してくれないか?
 そんなことを言われて、はいそうですかというわけにもいかないだろう」
「人の命がかかってるんです! おいおい通信で話しますから、それまで我慢してください。
 多分……生身のまま、倒れている人がいるはずです。その人を捜してください!」
「だからユリカ嬢、それでは分から――」
「把握した。探索に移ろう。」

納得できないと憮然とした表情を浮かべるロジャーに対し、アキトはさっさと探索を開始。
黙々と作業を始めるアキトの姿に、ロジャーも渋々ながら探索を開始した。
ロジャーの胸中はあまり平穏とも言えなかったが……この後のユリカの告白は、そんなモヤモヤなど一瞬で吹き飛ばすほどのものだった。

「何だって!? それではつまり……ユリカ君は」
「……はい。あたしは……ただ生身で歩いていただけの人を、撃ってしまいました。
 だから! 少しでも早く助けないといけないんです!」
「そうか……。それでさっきはあんなに慌ててたのか。
 よし分かった。私も本腰を入れて捜索に当たろう。この周辺にいるのかい?」
「はい。あたしが見たのは……ええと、そこのビルの影の辺りでした。
 もし爆撃に巻き込まれたなら……まだ近くに、いるはずです」

そこまで言うと、ユリカは大きく息を吐いた。
アキトがモニター越しにユリカの様子を窺うと、青ざめた顔をして機体を操縦している。
明らかに疲れを押して捜索活動に力を注いでいるユリカに、アキトは休憩するように促したが――

「ダメです! 人の命がかかってるんですよ。あたしだけのうのうと休むなんて出来ません」
「……だが、このまま作業をさせるわけにもいかない。捜索は俺たちに任せて君は休んでおけ」
「……ガイさん、あたしだって生半可な気持ちで言ってるんじゃありません。
 一人より二人、二人より三人で探した方が結果も良いに決まってます」
「それで大事なときに動けなくなったらどうするつもりだ? 何時敵襲があるかも分からない。
 君は艦長をしていたと言っていたが……それだって多くの人員がいたからこそだろう。
 君一人で出来ることには限りがある。今は休んで今後に備えるのが君の仕事だ」
「――! そんな言い方無いじゃないですか! あたしはあたしなりに考えて――」
「分かった分かった。二人ともそこまでにしておきたまえ。
 ほらユリカ嬢、そんな表情をしていてはせっかくの綺麗な顔が台無しだ。
 君が疲れてるのは誰が見ても明白だよ。ここはガイ君の言うとおり私たちに任せてもらおうか。
 その代わり、君には一つ頼まれごとをしてもらいたい」

ユリカとアキト、険悪な雰囲気になりつつある二人の会話に割って入ってきたのは、ロジャーの提案だった。

90 ◆C0vluWr0so:2007/05/19(土) 16:05:47
「ここに首輪が一つある。……リリーナ嬢の首に巻かれていた物だ。これを君に託そう。
 見たところ、ダイは戦艦というよりもむしろ移動基地としての側面の方が強いようだ。
 ならば機体の整備、ひいては開発のための設備を内蔵している可能性が高い。
 後は――分かるね?」

ロジャーの提案に頬を膨らましながらもユリカは了承。

「……はい。私にどこまで出来るかは分かりませんが……やれるだけのことはやってみます」

ロジャーはユリカへと首輪を渡す。その後、早速ロジャーとアキトが市街の探索を始めたのだが――

「どうだガイ君? その脚部はまだ使用可能かね?」
「いや……どうやら爆撃の直撃を受けたようだ。修理するより新しく造り直したほうが早い、といった状態だな」
「そうか……こちらにあった機体も使えそうにない。どうやら収穫は殆ど無いとみてよさそうだ」

ダイの爆撃を受けた市街地のダメージは予想以上のものであり、YF-21の脚部やドスハード(これは元々運用不可だったが)など、戦力面の補充は期待出来そうになかった。
生存者の発見も絶望的かと思われたその時、ロジャーが地中へと繋がる穴を発見。
どうやら地下通路の類らしい。もしもこの穴ぐらの中へ入り込み、爆撃を避けることが出来たならば。

「たとえ生身でも生きている可能性はある――ということか」
「そういうことになるね。しかも――この通路、機動兵器が通った後がある。もしかするとその機体の持ち主に保護されたのかもしれない」
「その可能性もあるな。それで、どうするつもりだ? この奥へと探索範囲を広げるのか?」
「そうしたいところだが、この通路は少々狭すぎる。
 私の鳳牙ではどう見ても通れそうにないし、ガイ君の機体でも難しいだろうな。せめて脚部が無事ならまだやりようもあったろうが、この狭い穴ぐらの中を戦闘機が飛ぶというのもナンセンスな話だろう」
「するとこの通路の探索は諦めると?」
「おっと、そうは言っていないよ。確かに機体のままならば通れない――だが、この身一つで飛び込むには十分な広さだ。機体から降り、私が調べてこよう。
 なに、心配することは無い。この周辺と機動兵器の痕跡を確認する程度に留めるつもりだ。
 それと……彼女を一人には出来ない。君はここへ残って周辺の警戒を頼む」
「……了解した。ユリカ聞こえたか? 今から俺がそちらへ戻る。ロジャーはこのまま地下通路の探索を続行だ」

ユリカから了解の返事が届くと、ロジャーはアキトへのプライベート回線に切り替えた。

「……ガイ君。私が言うのもなんだが、君がユリカ嬢に会ったのはここに来てからではないな?
 君はユリカ嬢とは同じ世界の人間で……しかもかなり親しい間柄と見た。彼女は君の素性を知らないのかい?」
「……俺はユリカとはここで初めて出会った」
「いーや、嘘だね。これでも私はネゴシエイターだ。下手な嘘で騙そうとしても無駄だよ」
「……貴様には関係ない。これは……俺だけの問題だ」
「……そうか。なに、そう言うのなら無理に聞く気はない。少なくとも私よりは君のほうが彼女のなだめ役に向いていると分かっただけでも十分だよ……っと」

やれやれ、一方的に切られてしまったか……と、ロジャーは無愛想な仲間の行いに苦笑した。

(確かに彼ら――というより彼個人か? 深い問題があるようだ。それがこれから先、悪い方向に転がらなければ良いが……)

「しかしこのような問題は他人が立ち入ったところで良くなるようなものでもない――先ほどは少しばかり余計な口出しだったかな?」

と、ネゴシエイターは自分の言動を省みる。
一呼吸置いた後、ロジャーは鳳牙から降り、地下通路の探索を開始した。

 ◇

首輪を託されたはいいが、機器の扱いに関しては素人であるユリカがどうこう出来る物ではなく。
ラボに置かれていた研究器具も、彼女の世界とは違う科学体系に因るものだったこともあり、下手に触れば爆発する可能性を秘めている首輪の解析は、挑戦さえも出来なかった。
ダイの操艦部へと戻り、首輪の表面をなでる。あまり心地よい感触では無い。
半分機械、半分生き物、とでも言えばいいのかは分からないが、とにかく冷たい無機質な感触も、温かみのある生き物のそれとも違う不思議な感触は、ユリカが初めて見る物質によるものだった。
紅い宝石のようなものが埋め込まれ、一見装飾品のように見えないこともない。
だが、ぴったりと首に吸い付くように巻かれている首輪には、それをつけるとき必ず必要なはずの繋ぎ目が見あたらない。

91 ◆C0vluWr0so:2007/05/19(土) 16:06:28
「不思議だなぁ……。どうやってつけたんだろ? やっぱりこのナマモノっぽいところが伸縮したりしちゃうのかな?」

ユリカの疑問も募るばかり。
と、それまで聞き流していた通信から自分の名前が聞こえてきた。

「……ユリカ聞こえたか? 今から俺がそちらへ戻る。ロジャーはこのまま地下通路の探索を続行だ」
「えっ、あっ、はい。ロジャーさんは地下通路、ガイさんがこちらに戻るですね。了解しました」

地下通路についてなど把握出来てないこともあったが、とりあえずは了解の返事を送る。
モニターにはこちらへと飛んでくるガイ機の姿が映っていた。

 ◆

「えっと……ガイさん、その……先ほどはあたしも少し取り乱していたというか……」

探索から戻ってきたアキトとの沈黙の時間……それに耐えられなくなったユリカの口から出たのは、先ほどの無礼に対する謝罪の言葉だった。

「……いや、気にすることはない。さっきは俺も少々感情的になりすぎた」

それに対するアキトの返答も、思いはユリカのそれと同じ。

「……はい! でも、やっぱりこういうのは言っておかなきゃいけませんよね。
 改めて……すいませんでした、ガイさん。あたしも……二人がいない間に、考えたんです。
 ああ、ガイさんの言う通りかもしれない……って。
 あたしが艦長をしてた艦……ナデシコって言うんですけど、――――って感じで」

だいぶ普段の調子を取り戻しつつあるユリカに安心し、アキトも会話を続ける。

「いつもの調子に戻ってきてるみたいだな。安心したよ」
「あ……」
「どうしたんだ?」
「いえ、その……ガイさんって、あたしの大切な人に……似てるんです。
 なんでかなー? 口調や雰囲気なんかは全然違うんですけど……。時折見せてくれる優しさ? みたいなのが」
「それは光栄だな。その彼について……少し話してくれないか?」
「えっ、いいんですか? えっとぉ……、彼、アキトっていうんです。
 小さいときからの運命の恋人っていうか……。アキトはかっこよくて優しくて……
 たまーに優柔不断なところもあるんですけど、それも彼の優しさだろうし……
 何より、あたしのこと……大切にしてくれるんです。それが……一番好きなとこかな?」

アキトはフ、と微笑むとユリカに対して問いかける。

「一つだけ聞こう。君は今……幸せかい?」

その問いに込められた思いに気づくことなくユリカは即答する。

「はい! あたしは……とっても幸せです!」

その返事を聞いてアキトはどこか悲しげに、しかしユリカの幸せを祝福し、軽く頷いた。

「そうか……きっと、そのアキトって奴も……幸せだと思うよ」
「はい、アキトもあたしも幸せです! だって二人は愛し合ってるんだから!
 ……って、なんだかあたしのおのろけ話になっちゃってるような……」
「フフ……確かにそうだな」

忘れていた幸せの瞬間――アキトは今まで失ってしまっていた感情と、それにすぐに順応してしまった自分に驚いていた。
あの頃の自分はこうして笑っていたなと、もう思い出の中にしか存在しない自分の姿を思い出す。
このままユリカとずっと二人で……ふとそんな考えが頭に浮かんだとき。
それは叶わない夢だということをアキトは知る。

「ガイさんにはいないんですか? 大切な……人」

92 ◆C0vluWr0so:2007/05/19(土) 16:06:59
たとえ今会話をしている相手があの頃のユリカだったとしても。
変わらぬ笑顔がこちらに向けられていたとしても。
自分は変わってしまった。
今の自分はユリカの愛したテンカワ・アキトではない。
過去を捨てた……復讐鬼なのだ。

「ああ、……いたよ」
「あっ、やっぱり! ガイさんって一見無愛想だけど実は優しいですもんね。女の子なら放っておきませんよぉ!」
「いた。だが……もういない」
「……! す、すいません……あたし……」
「君が謝ることはない。……少し周辺を見てこよう。ロジャーの話ではまだ近くにテッカマンと名乗る好戦的人物が潜伏しているらしい。
 君はその間に休んでおくといい。何かあったらすぐ連絡するように……分かったね?」
「……はい、分かりました。……ガイさん、最後に一つだけ……聞いてもいいですか?」
「……なんだ?」
「あなたは……」

あなたは……。そこから先の言葉が続かない。聞きたいことは、言いたいことは頭の中ではしっかりと文章を作っている。

『あなたは……アキトなの?』

たったそれだけの言葉が言えない。
たった五文字。でもそれを言うことは他の言葉を百述べることよりも、千紡ぐことよりも難しかった。
言葉が続かない。
ユリカの口唇は半端に開かれたまま何の音も発することは出来なかった。

「……いえ、何でもありません。気をつけて行って来てください」
「……ああ」

バルキリーは夜空を切り裂き羽ばたいていった。
ユリカは思う。
自分が聞けないのは……もしかしたら心の奥底でそれを認めているからではないかと。
今までアキトのことを誰よりも見てきた自分だからこそ分かる。
やっぱりガイさんは……アキトだ。
何であんな格好をしているのか分からない。ユリカの知るアキトとは雰囲気だって全く違う。
それでも自分の全感覚は彼がアキトなんだと言っていた。

「今度ガイさんが帰ってきたら……その時こそ絶対聞こう」

少女はそう決心するとずっと張りつめていた緊張の糸をほぐす。
思えば夕方戦闘になってからずっと緊張しっ放しだ。
んー、と背伸びをしてから、どっかりと椅子に座り込む。
深く椅子にもたれながらユリカはじわじわと迫ってくる睡魔の存在に気がついた。
あっ、ダメ……今寝ちゃったら……でも……ちょっとくらいなら……。
気づけば少女はすうすうと寝息をたてはじめていた。

「……ユリカ君? 聞こえているか?」

探索を終えたロジャーからの通信も、眠れる少女の耳には届かない。
ロジャーが行った探索の結果は、決して芳しいものではなかった。
生身での移動ということもあり、探索範囲が酷く狭かったことも原因の一つ。
例の機動兵器の移動跡についても、地下通路を通れるサイズの機体であることくらいしか分からなかった。
……いや、もう一つある。
地下通路の中には、人為的に押し広げられちょうど人が通れるようなサイズの亀裂があり、そこには金色の装甲片が付着していた。
おそらくはその機動兵器が亀裂を広げた時に剥がれた物だろうが……金色をパーソナルカラーとするパイロットなど存在するのだろうか?
その機体の持ち主はよっぽど派手好きだったのだろう。

「よほどのセンスの持ち主と見える。一度お会いしてみたいものだ」

と、黒で全身を覆うネゴシエイターは肩をすくめる。もしこの場にあの少女がいたならば、
『ロジャー、貴方のセンスもよっぽどだわ』などと言ってくれたろうに。

93 ◆C0vluWr0so:2007/05/19(土) 16:10:56
「しかしガイ君といいユリカ君といい、どうしてこう協調性に欠ける人間ばかり揃っているのか……まさかそれがこの場に呼ばれた理由ではあるまいが」

と、いまいち歩調の合わない仲間に対してロジャーは苦笑する。
思えばこの馬鹿げた殺し合いが始まってから既に半日が過ぎようとしている。
その間出会った者たちはどれもこれも一筋縄ではいかないくせ者ぞろい。
しかし不思議なのはその殆どが戦闘技術に長けた者であるということ。

(これはなぜだ? あの怪物はなぜ私たちを選んだ?)

相手の目的を知り、それに見合った行動をとることがネゴシエイトの鉄則である。
この首輪を解除し対等な立場に立ったとき、肝心のネゴシエイトに失敗しては元も子もない。
怪物の情報――それもまた必要だった。

「為すべきことは多い。まったく先が思いやられるね」

まぁ今は――何処かへ行った王子の代わりに眠り姫のお供というのも悪くはないな、と鳳牙はダイに寄り添うようにその身を座らせた。

 ◇

夜闇に紛れ、ダイの動向を見張る機体が一つ。黒と赤のカラーリングが施されたそれは、獲物を見つけ、喜びに奮えていた。

「そうか……。アレがお前を堕落させているモノかい?」

ククク、とガウルンは嗤う。その目は燦々と輝き、唇は醜く歪んでいる。
まるで子供が念願のおもちゃを買ってもらったかのような喜びの顔を見せ舌なめずりをする格好は、彼の愛する軍曹に言わせれば三流の為すこと。
確かにガウルンは兵士としては三流と評されるかもしれない。だが、それはあくまで"兵士"としてだ。
こと戦闘だけに限定して言えばガウルンは超がつくほどの一流なのは間違いない。
そして超一流の戦闘狂が駆るのは、超一流の武闘家、東方不敗マスターアジアの愛機であるマスターガンダム。
俊敏なその動きなら、鈍重なトカゲの一匹、即座に喰うことが出来るだろう。

「フフフ……さぁて、楽しいパーティの始まりはもうすぐだ。楽しみだねぇ……実に楽しみだ」

まだダイに手は出さない。アレを壊すのは――アイツが帰ってきてからだ。
自分と同類のあの男は、目の前でアレを壊された時どんな顔をするだろう?
決まっている。
この上なく上等な憎しみの目をこちらに向け、火がつくような憎悪を滾らせ――アイツはきっと、自分を殺しに来るだろう。
……と、いけないいけない。と、九竜は愛しいカシムの顔を思い浮かべ、逸る気持ちを抑える。

「焦るなよ、ガウルン。お楽しみはこれからだ。あの男を徹底的に壊すチャンス――それを待て。
 何、それはそう遠くない。腹を空かせてメシを待てば、いつもより美味しく頂ける理屈だぜ。
 ……まぁ、あれだけ旨そうな獲物だ。すぐに頂くのも悪くはねぇなぁ」

ククク……、と狂人は再度嗤う。

94 ◆C0vluWr0so:2007/05/19(土) 16:12:12
【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状態:体力消耗、肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
      側面モニターにヒビ、EN90%
 現在位置:D-7補給ポイント
 第一行動方針:アキトの帰還を待つ
 第二行動方針:ゲームに乗っていない参加者を集める
 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考2:念のためハイパーデンドー電池二本(補給一回分)携帯
 備考3:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】

【ミスマル・ユリカ 搭乗機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!)
 パイロット状態:浅い眠り、精神的にはやや不安定なまま
 機体状態:大砲一門破損、左前足損傷、腹部装甲損壊
 現在位置:D-7補給施設
 第一行動方針:眠……あふ……
 第二行動方針:ガイに自分の疑問をぶつける
 第三行動方針:ガイの顔を見たい
 第四行動方針:首輪解除が出来る人間を探す
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考1:YF-21のパイロットがアキトだと知りませんが、ある程度確信を持っています
     アキトの名前はガイだと思っていますが若干の疑問もあります
 備考2:ハイパーデンドー電池8本(補給4回分)回収
 備考3:首輪(リリーナ)を所持】

【テンカワ・アキト 登場機体:YF-21(マクロスプラス)
 パイロット状態:やや衰弱
 機体状態:両手両足喪失、全身に損傷
 現在位置:D-7西部
 第一行動方針:市街地周辺の探索
 第二行動方針:ユリカを護る(そのためには自分が犠牲になってもかまわない)
 最終行動方針:ユリカを元の世界に帰す(そのためには手段は問わない)】


【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力120
 機体状況:全身に弾痕多数、胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
      DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:D-7
 第一行動方針:アキトの目の前でダイを壊す
 第二行動方針:近くにいる参加者を殺す
 第三行動方針:アキトを殺す
 第四行動方針:皆殺し
 第五行動方針:できればクルツの首を取りたい
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【初日 22:00】

95歯車は噛合わず 男は反逆を起こした ◆7vhi1CrLM6:2007/06/27(水) 19:24:28
【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー)
 パイロット状態:困惑・ジョナサンへの不信
 機体状態:ジェイダーへの変形は可能?・左舷損傷、EN、弾薬共に50%
 現在位置:D-7市街地上空
 第一行動方針:ナデシコを退ける
 第二行動方針:仲間の無事の確認
 第三行動方針:テニアがもしもゲームに乗っていた場合、彼女への処遇
 第四行動方針:このゲームに乗っていない人たちを集める
 最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】
 備考:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復。】


【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:非常に不安定
 機体状況:良好・マニピュレーターに血が微かについている・ガンポッドを装備
 現在位置:D-7市街地瓦礫の下
 第一行動方針:とりあえず地表へ出る
 第二行動方針:騒ぎを大きくする
 第三行動方針:どのように行動を取ればうまく周りを騙せるか考察中
 第四行動方針:とりあえずキラ達についていく
 第五行動方針:参加者の殺害
 最終行動方針:優勝
 備考1:武蔵・キラ・マサキ・ソシエ、いずれ殺す気です
 備考2:首輪を所持】


【巴武蔵 搭乗機体:RX-78ガンダム(機動戦士ガンダム)
 パイロット状態:気絶中、カラ元気でも元気、ダイに対する激しい怒り、VF-22に対する怒り
 機体状況:頭部喪失、メインカメラ全壊、装甲全体に無数の凹み
      オプションとしてハイパーハンマーを装備・反応弾を所持
 現在位置:D-7市街地瓦礫の下
 第一行動方針:ダイを倒す
 第二行動方針:統夜を探しテニアを守る
 第三行動方針:信頼できる仲間を集める
 最終行動方針:主催者を倒しゲームを止める
 備考1:テニアのことはほとんど警戒していません
 備考2:キラと行動を共にする場合は反応弾を彼に任せてもいいと思っています。】


【ソシエ・ハイム 搭乗機体:無し
 パイロット状況:空気、右足を骨折、気力回復
 機体状況:無し
 現在位置:D-7市街地上空
 第一行動方針:VF-22を危険視
 第二行動方針:新しい機体が欲しい
 第三行動方針:仲間を集める
 最終行動方針:主催者を倒す
 備考:右足は応急手当済み】

96歯車は噛合わず 男は反逆を起こした ◆7vhi1CrLM6:2007/06/27(水) 19:25:22
【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状態:気絶中、体力消耗、肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
      側面モニターにヒビ、EN80%
 現在位置:D-7市街地瓦礫の下
 第一行動方針:アキトの帰還を待つ
 第二行動方針:ゲームに乗っていない参加者を集める
 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考2:念のためハイパーデンドー電池二本(補給一回分)携帯
 備考3:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】


【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力135
 機体状況:全身に弾痕多数、左肩・胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
      DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:D-7市街地
 第一行動方針:近くにいる参加者を殺す
 第二行動方針:アキトを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 第四行動方針:できればクルツの首を取りたい
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】


【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好、合体が破られてショックを受けている
 機体状態:EN25%消耗、損傷軽微
 現在位置:D-7市街地
 第一行動方針:ガウルンとJアークの排除
 第二行動方針:ヒメと甲児の信頼を万全のものに
 第三行動方針:ヒメと甲児を利用し、使える人材を集める
 第四行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 第五行動方針:首輪の解析
 最終行動方針:オルバと共に生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)
 備考1:ガドル・ヴァイクランに合体可能(かなりノリノリ)、自分たちの交信能力は隠している。
 備考2:首輪を所持】


【オルバ・フロスト搭乗機体:ディバリウム(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好
 機体状態:EN25%消耗、損傷軽微
 現在位置:D-7市街地
 第一行動方針:ガウルンとJアークの排除
 第二行動方針:ヒメと甲児の信頼を万全のものに
 第三行動方針:ヒメと甲児を利用し、使える人材を集める
 第四行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 第五行動方針:首輪の解析
 最終行動指針:シャギアと共に 生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)
 備考:ガドルヴァイクランに合体可能(かなり恥ずかしい)、自分たちの交信能力は隠している。】

97歯車は噛合わず 男は反逆を起こした ◆7vhi1CrLM6:2007/06/27(水) 19:25:57
【兜甲児 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:良好
 機体状態:EN30%消耗、相転移エンジンによりEN回復中、ミサイル5%消耗
 現在位置:D-7市街地上空
 第一行動方針:Jアークを倒す
 第二行動方針:ヒメ・フロスト兄弟と同行
 第三行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める
 最終行動方針:アインストたちを倒す
 備考1:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガスを収容
 備考2:ナデシコ甲板に旧ザクを係留】


【宇都宮比瑪 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:良好、ナデシコの通信士
 機体状態:EN30%消耗、相転移エンジンによりEN回復中、ミサイル5%消耗
 現在位置:D-7市街地上空
 第一行動方針:Jアークを止める
 第二行動方針:甲児・フロスト兄弟に同行
 第三行動方針:依々子(クインシィ)を探す
 最終行動方針:主催者と話し合う。】


【パイロットなし 搭乗機体:ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている
 現在位置:D-7市街地上空】


【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)
 パイロット状況:神経圧迫により発声不可、気絶中
 機体状況:MS形態
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 ナデシコの格納庫に収容中
 現在位置:D-7市街地上空
 第一行動方針:新たなライブの開催地を探す
 最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる
 備考:自分の声が出なくなったことにまだ気付いていません】


【ミスマル・ユリカ 搭乗機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!)
 パイロット状態:死亡
 機体状態:艦橋大破、主砲全壊、メカザウルス中破
 備考1:ハイパーデンドー電池8本(補給4回分)は無事
 備考2:首輪(リリーナ)は艦橋の瓦礫に紛れている】

【二日目0:00】

98歯車は噛合わず 男は反逆を起こした ◆7vhi1CrLM6:2007/06/27(水) 19:27:00
 何か丸くて柔らかいものが頬に触れている。それに顔をゆさゆさと揺さぶられて、意識が眠りの底から持ち上げられた。
 聞きなれた声、誰かが何か言っている。耳を澄ましてみた。

「マサキ、起きるニャ」
「マサキ〜、マサキ〜」

 ――何だ。クロとシロか、もう少し寝かせてくれ。
 そう思った次の瞬間、丸くて柔らかいもの周りから棘のようなものが生えてきて、

 ザシュ!!

 勢いよく引っかかれた。頬に五本の爪痕が走り、思わず飛び起きる。

「てめえら、何しやがる!!」
「マサキが悪いんだニャ。なかなか起きないのが悪いんだニャ」
「シロ、後で覚えておきやがれ」
「知らないニャ」
「それよりもマサキ、様子が変なんだニャ」
「変って、何が?」

 アルトアイゼンを起動する。苦しそうな唸り声をエンジンが上げたが、どうにか起動することができた。
 機体状況に軽く目を通し、スイッチを入れると周囲のモニターに次々と明かりが灯っていく。
 そこに映し出された外の様子を見てクロが変だと言った理由を理解した。
 継ぎ目一つない平坦な床。うっすらと発光しているドーム状の天蓋。これではまるで――

「おい、シロ! クロ!! これは一体どういうことだ? ここはまるで最初に集められたドームみてえじゃねぇか」

 いくら方向音痴だとはいえ、迷子でこれはあまりに無理がありすぎる。

「ソシエを助けたときに拾った石が突然輝いて、気づいたらここだったんだニャ」
「あとはおいら達にもさっぱりだニャ」
「その石は?」
「いつの間にかなくなってしまったニャ」

 ソシエが倒れていた地下道――そこでクロが拾って来た青い鉱石。
 それが関わっているとしか思えなかった。
 改めて周囲を見回す。一人の男が倒れているのを見つけた。
 薄暗いドームで真っ黒な服を着込んでいるその男は、ぱっと見には見つけづらかったのだ。
 マサキは気づかない。その男がA級ジャンパーと呼ばれることを。青い鉱石はチューリップクリスタルという名だということを。
 その男が、アルフィミィを強くイメージしたことによって、チューリップクリスタルが反応し、ジャンプフィールドが形成された。
 その結果、巻き添えでここに跳ばされたのだということを気づくはずもなかった。
 周囲に危険がないようなら機体を降りて声をかけよう――そう思い、もう一度、注意深く周囲の様子を探る。
 危険は見当たらない。
 ホッと一息ついた拍子に汗が目に入り、一瞬目を閉じた。
 そして、目を開けるとそこには、一人の少女が何の前触れもなく姿を現していた。
 後ろで一つにまとめた蒼い水色の髪に栗色の瞳。少女という言葉がぴたりと当てはまる華奢な体。
 未成熟な子供特有のふっくらとした両頬には二対の赤く丸い化粧が施してあり、柔らかな唇には髪の色に合わせた蒼の紅が差してある。
 どことなく神秘的な雰囲気を醸しだしている少女。それが一人佇み、微笑んでいた。

「残念ですの。あなたはルールを破ってしまいましたの」

99歯車は噛合わず 男は反逆を起こした ◆7vhi1CrLM6:2007/06/27(水) 19:28:10
 背筋が寒くなる。説明の『実験台』と称され殺された若い女性、その最後の姿が頭を過ぎった。

「まってくれ! これは事故だ!! 俺たちだって、何でここに飛ばされたか分からねぇんだ!!!」
「言い訳は男らしくありませんの」
「それにあんたが説明したルールには触れてねぇ。ここは禁止エリアには含まれてねぇはずだ」

 少女が小首をかしげ、虚空を眺めた。
 その仕草は記憶を辿っているようにも、何か考えているようにも見える。
 暫くそのままでいた後、マサキたちを正面から見据えて、優しげに少女は微笑んだ。

「そのようなこと私の知ったことでは知りませんの」
「横暴だニャ」

 思わず野次が飛ぶ。
 目の前の少女は表面上は友好的に見えるが、こちらの言い分を聞き入れるつもりはないように思えた。
 目を閉じて、大きく深く空気を吸い込み、長くゆっくりと息を吐く。

 ――瞼の裏にいろんな人の顔が浮かぶ――

 リューネ、ウェンディ、プレシア、ゼオルート
 テュッティ、ヤンロン、ミオ、モニカ、セニア

 ――すまねぇ――

 ゼクス、カミーユ、カズイ
 キラ、ムサシ、テニア、ソシエ

 ――悪い、後は頼む――

 そして、シュウ――

「うっ……」

 倒れている男がうめき声を上げて、起き上がる気配を見せた。
 怪訝そうな顔でこちらを眺めていたアルフィミィの注意がそちらに向けられる。

「クロ、シロ! 覚悟を決めろ」
「ニャ!?」
「ここで奴を倒しておけば、これ以上の悲劇は防げるかも知れねぇんだ。
 俺はここで全身全霊を賭けてこいつを倒す! いくぜっ!!」

 ガタのきているアルトアイゼンの機関がフル稼働し唸りを上げる。そして、急加速。
 振り上げられたステークがアルフィミィに迫り、唐突にその動きを止めた。
 いつの間にか現れた黒い機体。そいつが鉤爪でアルトの右腕を床に縫い付けている。
 アルトに力負けしないだけのパワー、完全に右腕を固定され前に進めない。

「おいたは、許しませんの」

100歯車は噛合わず 男は反逆を起こした ◆7vhi1CrLM6:2007/06/27(水) 19:29:08
 ブースターが唸りをあげる。前に進もうと足掻く。エンジンが焼け付き、焦げ臭いが漂う。
 固定された右腕と前に進もうともがく胴体の間で、肩口が音を立てて裂け始めた。
 ケーブルが伸び、断線し、火花が散る。それでも頑強なアルトの内部フレームが、基本骨格が腕を繋ぎとめて動けない。
 胸の前にアルフィミィの両の手が添えられ、小さく開く。

「悪い子には、御仕置きですの」
「まだだ! まだ終わっちゃいねぇ!! 俺がどうなろうと構いやしねぇ!!!
 だから……、だから、アルトアイゼン、お前の力を貸してくれ!!」

 断線したケーブル。飛び散る火花。一つの火花がアルトの内部で弾け、クレイモアの炸薬に火がついた。
 ハッチは閉じたまま。暴発。右肩が跡形もなく消し飛ぶ。
 だがしかし、これで前に進める。

「さようならですの」

 アルフィミィの手と手の間がゆっくりと狭まっていく。
 無駄だ。もう遅い。もう止められない。
 例え今殺されても、鎖を解き放たれたアルトはこの勢いのまま突っ込む。

 ――俺の勝ちだ――

 少女の両の手が合わさり、ポンと小さな音が鳴った。続いて、小さな炸裂音が響いた。



 目が覚めて最初に目にした光景は、黒い機体とそれ右腕を固定されている赤い機体だった。
 赤い機体が前に進もうともがいている。そんな印象だった。
 赤いのは『古い鉄』の名を持つアルトアイゼンと言い、黒いのは『継ぎはぎ』の名を持つラピエサージュと言う。だが、そんなことをアキトが知る由もない。
 それをぼんやりと眺めている。
 強引に突き進もうとする胴体と縫い留める右腕の間で、張力に耐えられなくなった装甲に亀裂が奔り、赤い機体の右肩が避け始める。黒いオイルが血のように噴き出す。
 ふと赤い機体が目指す先が気になって、ぼんやりと視線を動かしてみた。
 そこに立つ一人の少女を見て、まどろみをたゆたっていたアキトの意識は急速に覚醒した。
 同時に爆発音。肩から先が吹き飛んだ赤い機体が少女に迫る。
 少女が両手を小さく一度、叩いた。
 赤い機体がバランスを崩して倒れ始める。しかし、ついた勢いは止まらない。
 黒い機体が赤い機体の襟首を掴み、押さえつける。だが、それでもまだ止まらない。
 倒れこみ、床に二三度打ちつけられたアルトの頭が、その額の角が、床を削り爪痕を残しつつも突き進む。
 そして、それは勢いを削がれながらもアルフィミィの胴を貫いた。
 アキトは叫んだ。何を叫んでいるのかは自分でも分からない。ただ叫んだ。
 目の前で、求めたたった一つの希望が消え去った。
 膝を折り、その場にうなだれる。立ち上がろうという気さえ、もう起こらない。

「ホログラフィックでしたの。何をしても無駄ですの」

 耳に声が届く。ややあって、ゆっくりと靴音がこちらに向かってきて、止まった。思わず顔を上げる。
 見上げたそこには傷一つなく微笑む少女の姿があった。
 そして、気がついたときにはもうアキトは口走っていた。

「頼む! お願いだ! ユリカを……ユリカを救ってくれ……」

101歯車は噛合わず 男は反逆を起こした ◆7vhi1CrLM6:2007/06/27(水) 19:29:48
【テンカワ・アキト 登場機体:なし
 パイロット状態:やや衰弱、精神不安定
 機体状態:なし
 現在位置:不明
 第一行動方針:ユリカを救ってくれ(そのためには自分はどうなってもいい)
 最終行動方針:ユリカを元の世界に帰す(そのためには手段は問わない)】


【マサキ・アンドー 搭乗機体:アルトアイゼン(スーパーロボット大戦IMPACT)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:両腕損失、エンジンが限界、起動不能
 備考:謎の小石はチューリップクリスタルでした】

【残り29人】

【二日目1:00】

102歯車は噛合わず 男は反逆を起こした ◆7vhi1CrLM6:2007/06/27(水) 19:37:38
投下終了です。
市街地が竜馬とシンヤが暴れまわったり、やたらめったら砲撃受けたりしてたので
このくらい出来ないかなって気持ちで最初のほう書いてます。
最後のパートは有りか無しかは、色々と意見があると思います。
展開が展開ですので修正と破棄、両方を視野に入れている状態です。
皆様、ご意見のほどよろしくお願いします。

支援をしてくださった方と代理投下を申し出てくださって方、ありがとうございました。

103 ◆C0vluWr0so:2007/06/27(水) 19:41:47
>>102
最後の最後で俺もさるさんくらっちゃいました
>>102の分は落とせそうにありませんすいません

104名無しさん:2007/06/27(水) 19:42:56
アッー!
トリ外し忘れ恥ずかしい……コテハンチェック外せよ俺

105 ◆7vhi1CrLM6:2007/06/27(水) 19:47:02
あなたでしたか。
規制に巻き込んですみません。
では、携帯から自分で>102は書かせていただきます。

106鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:23:37
「また揺れだしたニャ」
「マ、マサキ、早く何とかするニャ」

機体が猛烈に震え始め、黒と白、二匹の猫が悲鳴をあげて頭を抑えた。
それに言い返しつつマサキは手元の操縦に集中する。

「少しは黙ってろ!」

『絶対的な火力と強固な装甲による正面突破』をコンセプトに作り上げられた試作機アルトアイゼン。
その極端すぎる設計思想は、ベースとなったゲシュペインストの機体バランスを著しく損ねている。特殊な能力は必要ないとはいえその扱いは難しい。
それに加えて各部に受けた損傷が、操縦性の悪さに拍車をかける結果となっていた。
今現在のアルトの乗り心地は、例えるなら急発進と急ブレーキしかできない車が未舗装の岩山を走っているようなものである。
ようするに最悪ということだ――機動兵器に乗り心地を求めるのもどうかと思うが。

「まったく……扱い辛いったらありゃしねぇぜ……」
「私が代わってあげましょうか?」
「結構だ。まだ諦めてなかったのか」
「ソシエ、代わるニャ。今すぐ代わるんだニャ」
「なっ! シロ、お前裏切る気か!!」

ふと耳にカチャリと陶器が立てる音を聞いた気がした。

「お前、何か飲んでるのか?」
「コーヒーよ。だって、暇なんですもの」



そんなこんなでマサキとソシエが機体争奪戦を繰り広げている一方で、キラは自身に違和感を覚えていた。
腹の中に何か重い石のようなものを抱え込んでいる気がする。
ホンの少し前まではなかったはずの感覚だった。
なんだろうと思って、その正体を手探りで探してみる。程なくしてその正体に気づいた。
――ああ、これは重圧だ。
アークエンジェルに乗っていたころ、仲間を、友達を守ろうとして覆いかぶさっていたものにとてもよく似ている。
でも、これは仲間とか、友達とか、そんなものじゃない。もっと高圧的で傲慢な物体。
今度、守らなければならないものは、反応弾という名の核だった。
それをキラが受け持つことになったのは、必然と言えば必然であったのかもしれない。
これまでのように行き当たりばったりで行動しているのではない。今は無敵戦艦ダイを敵と見定め、距離を詰めている。
交戦は当然のように選択肢の中央に座り込んでいるのだ。
そんな中、いつまでも収納する場所もないガンダムに抱えさせておくには、あまりに非常識な代物だった。
だから武蔵の申し出を納得し、キラは二つ返事で受け入れた――受け入れたはずだったのだが、意識のどこかに嫌なものを抱え込んでしまったという重石が圧し掛かっている。
理屈じゃない。他にいい方法がなかったから自分が抱え込んだだけで、出来ることならば投げ捨ててしまいたかった。

「敵影二。前方に四足歩行型大型戦艦と人型機動兵器」

トモロの声にハッとして、思考の波から意識を戻す。モニターに目指す敵機の存在を確認した。
鎌首をもたげた二頭の巨大なトカゲ、まず間違いはない。

「トモロ、皆に伝達を。あと同時に武蔵さんとソシエに確認を取って」

今は悩んでいる暇はない――そう思い、悩みは一先ず押し込めることに決めた。



周囲一面は焼け野原だった。
大きなビルも小さなビルも今はただの瓦礫となりはて、無残な姿をさらしている。
視線を上げてみる。
モニターに、二、三十キロ程も離れた場所にある岩山が映った。
本来ならば宵闇に遮られて見えないはずのそれも、機械的に処理され補正された視界には関係がない。
だから、岩山と重なるように移動していたそれらに、ロジャーはすぐに気が付いた。
――大きい。
抱いた感想はそれだった。

107鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:24:49
 目を惹かれたのは一隻の戦艦。周囲に展開している三機が小人のようにしか見えない。
 そのあまりの大きさに気を呑まれかけて、ふと隣に佇む戦艦を思い出して苦笑いを浮かべた。
 たしかに大きい――が、単純に大きさだけで言えばダイのほうがはるかに大きい。
 こうやって見上げてみるとこの戦艦の巨大さは心強かった。
 視線を遠方の戦艦に戻す。真っ直ぐにこちらへ向かっているのか、その影は先ほどよりも幾分か大きくなっていた。
 ――女性の眠りを妨げるのは趣味ではないのだが、仕方があるまい。

「ユリカ君、来客だ。そろそろ起きたまえ」

 通信機越しに呼びかける。スゥスゥと気持ち良さそうな寝息が帰ってきた。
 思わず苦笑いを漏らし、ややあって途方に暮れる。
 ――肩でも揺さぶって起こしたいところだが、通信機越しではそうもいくまい。
 ふと、あのアンドロイドはどうやって自分を起こしていたのかを思い出し、含み笑いをする。
 抑えた笑い声が漏れ、また途方に暮れた。
 さすがに、今からここでけたたましくピアノが弾けるはずもない。ピアノもない。
 なのにそんなことを考えている自分が可笑しかった。
 ――さて、どうしたものか……。
 そうして、あれこれ思案を張り巡らせているうちに、モニター内の影はむくりと起き上がり、一つ大きく伸びをする。

「ようやくのお目覚めかな、ユリカ嬢」
「ロジャーさん、おはようございます」

 手早く髪を整えながら屈託のない笑顔で彼女は挨拶をしてくる。対照的に苦笑いが浮かんだ。

「寝起きのところ悪いが、お客さんだ。私はこれから交渉に向かう。
 君には一先ず下がっていてもらおうかと思うだが、いかがかな?」
「じゃあ、私はお留守番ですか……分かりました。では、交渉は専門家の方にお任せします。失敗した場合はどうします?」
「ネゴシエイションに値しない相手には、鉄の拳をお見舞いするのも私の主義でね」
「じゃあ、交渉に失敗したらこちらの指定するポイントまで敵機を引き付けてください」
「構わないが、どうするつもりだ?」
「私に任せてください。考えがあります」

 やけに自信満々に彼女は答える。
 その額に赤く浮かんだ袖の痕を見て、ロジャーはどこまで期待すればいいのやらと、何度目かも分からない苦笑いを浮かべた。



 ダイから離れ、一人凰牙を走らせつつロジャー=スミスは自問する。
 相手は三機と一隻、少なく見積もっても四人の参加者。
 対してこちらは二機と一隻……いや、一機出払っているので一機一隻の二人である。
 この状況でいかにして対等な立場で交渉を始めるか、それを一瞬だけ考え、一笑にふした。
 ――馬鹿馬鹿しい。
 対等な立場と言えば聞こえはいいが、今頭を過ぎったのは互いが機体に乗った状態。
 銃をその手にいつでも引き金を引けるという状況。
 そこにあるのは距離だ。銃を突きつけたままの言葉を誰が信じるものか。
 ロジャー=スミス、お前に誇りを取り戻させた少女は一体何をした?
 彼女はただ見せつけたのだ。
 信念のためには、たとえ敗れるとわかっていても己を貫く、そういう精神の高貴さをだ。
 ――ならば彼女の代弁者として、私も見せねばなるまい。
 凰牙を停止させ、ギアコマンダーを引き抜く。
 そして、コックピットを開け放つと一人夜の草原へと足を踏み出した。
 ひやりとした夜気が肌に気持ちいい。
 視界に映るのは、青白い月夜とそれに照らし出された草原。
 その中にぽつんと一人放り出されて、我ながらちっぽけな存在だと自嘲する。
 同時に、悪くない――そう思った。
 振り向き凰牙を一度見上げ、また正面に向き直る。暗がりに慣れ始めた目が白亜の戦艦を捉えた。

「宙に浮かぶ方舟とはまたご大層なものだな」

 一度足元を確かめるように一歩を踏み出し、しっかりとした感触を確かめる。
 そしてそのまま二歩目を踏み出し彼は歩き始めた。真っ直ぐに前だけを見つめ、怖気づくことなく。
 まずは距離のない対等の席に着かせる――そのことだけを考えて――

108鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:25:53


 狂人は一人身を潜め、笑っていた。
 見つけた獲物、それに近づいてくる獲物。
 そう彼にとって全ては獲物でしかない。何を考え、何を思い動いているのか、それらは一切関係ない。

「ひい、ふう、みい……合わせて六匹か。クク……大漁だねぇ」

 まるで品定めをするかのように一人一人に視線を合わせ、舌なめずりしながら数え挙げていく。
 これは面白いことになる――そう彼の嗅覚が告げていた。
 そういった彼の野生の勘は、これまでの人生で当たることも多かったが、外れることもままあった。
 だが、こときな臭い臭いに関しては外したことがない。だから彼は動き出す。
 その結果、六匹全てが敵に回るのか、獲物同士での潰しあいが起こるのか、それはどちらでもいい。
 ブラインドに使っていた瓦礫を抜け、視界が開ける。
 目の前の三機が三機ともネゴシエイターに気を取られ、こちらに気づく様子はなかった。
 ――あのトカゲだけは奴の為に取っておくとして、後は……戴いちまうとするか。
 歪んだ笑みが口元に浮かぶ。

「よぉ、楽しそうなことやってるじゃねぇか」

 一番の近場にいた獲物を選び、ホンの戯れ程度に声をかけて突撃した。
 他の獲物がこちらに気づく。叫び声があがる。獲物がこちらを振り向く。
 振り向いた獲物の間合いにガウルンは紫の光跡を残しながら躊躇なく踏み込んだ。

「遅せぇんだよ、バーカ」



 何を考えたのか機体から降りてきた黒尽くめの男を見て、まずいって思った。
 え? なんでかって? 
 知った顔だったから。アタシだけじゃなくてみんなが知ってる顔。
 目の前の男が説明のときに、一歩も引かない毅然とした態度を貫き通したってことは、誰だって覚えている。
 だからむやみに手が出せない。まして丸腰だったらなおのこと。
 その証拠に、後方のキラはわかんないけど、一緒に先行してきた武蔵とマサキはどうすればいいのか分からずに迷っている風だった。
 そうこうしている間に事態はどんどん悪くなってった。こっちに向かって堂々と歩いてきた黒尽くめの男が言ったんだ。

「私の名はロジャー=スミス。ネゴシエイターを生業として者だ。
 君たちの代表者と話がしたい。誰か一人機体から降りてきてはくれないか?」

 アタシはやられたって思ったよ。
 だって、この男は話し合いに着たんだ。そりゃあ盾が増えるのはいいことだけど、それにも限度ってものがある。
 最後にはみんな殺さなきゃいけないんだ。アタシ一人で五人も六人も殺せるなんて思っちゃいない。
 理想としては、盾は多すぎず少なすぎず。最終的にはみんなボロボロ、アタシは元気ってのがベスト。
 だから、やたらと仲間が増えすぎるのも考え物だったんだ。

「テニア、避けろ!!」
「危ねぇ!!」

 そのとき、武蔵とマサキが突然叫んだんだ。でも考えることに集中していて、アタシの反応は遅れた。
 顔を上げたそのときには、もう既にその紫の光は迫っていて、それが視界いっぱいに広がったかと思うと物凄い揺れがアタシを襲ってきた。

「遅せぇんだよ、バーカ」

 でも、揺れは一瞬でおさまった。
 恐る恐る目をあけてみると、そこには頭部を潰され黒煙を上げるガンダムとそれによく似た黒い奴が立っていたんだ。

「罠だ!」

 誰かが短く鋭く叫ぶのが聞こえた。

109鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:26:53
 そして、黒い奴が動かなくなった武蔵のガンダムを持ち上げて投げ飛ばすのが見えたんだ。
 投げ飛ばされたガンダムはまるで玩具の人形の様に飛んでいって、市街地のビルを巻き込んだ。
 アタシには何が何だか分からなかった。
 でもアタシはそのとき――この混乱に乗ることに決めたんだ。



 ――この状況はなんだ?
 ロジャー=スミスは茫然とその場に立ち尽くしていた。
 一瞬前まで彼はその場で交渉をしており、それは白い機体から『少し話し合いたいから待ってくれ』という返答を貰うところまで漕ぎ着けていた。
 少なくともこちらの話に耳貸さない輩ではない、と一息ついたところだった。
 突然、黒い機体がその場に割り込んで来て、瞬く間にその場は戦場と化した。

「なんなのだ、これは――」

 声に出して呟く。誰かが罠だと叫び、勾玉を背負った機体の銃口がこちらに向けられる。
 それを察知したのかダイから砲撃が飛び、爆音が背後で炸裂する。

「一体、貴様はなんだというのだ!!」

 そんな様子に構うことなく、予期せぬ乱入者を睨み付け、衝動に任せるまま叫ぶ。
 そして、固く握りしめたギアコマンダー――それを天に突き上げ、彼は呼んだ。

「騎士凰牙、スクランブルッ!!」

 ギアコマンダーに赤い光が灯る。それに呼応するように凰牙が動き出す。
 そして、彼は乗り込み、いつもの台詞を有らん限りの声で叫んだ。

「騎士凰牙! ショウタァーイム!!」



 戦場が混乱を始めたころ、後方ではJアークもまた動き始めていた。
 交渉中に黒い機体が乱入し、武蔵のガンダムが損傷。マサキがこれとの交戦。
 誰かが罠だと叫び、テニアがダイの砲撃を受け、交渉を持ちかけてきた機体もまた動き出した。
 それがキラとトモロが確認した戦況の全てであった。

「トモロ、敵戦艦との通信は」
「圏外だ」
「仕方がない。前進して無敵戦艦ダイを叩こう」
「いいのか?」
「いいんだ。あれを放っておくわけにはいかない。それに――」

 戦場に砲撃を始めた無敵戦艦ダイをとめねば被害は拡大していく。
 罠だと言うのが本当かどうかはわからない。だが、ソシエが砲撃を受けたという現実とムサシの話がある。
 そして、今現実に仲間がその砲撃に晒されている。
 白か黒かの二択であれば、キラから見た彼らは黒に近かった。
 あの化け物に対する反抗を企てている以上、自分たちがここで倒れるわけにはいかない――そんな思いもあった。
 だから現状をズルズルと引き摺り、悪戯に被害が拡大する前に動き出す必要がある。

「――今ここで僕たちが倒れるわけにはいかない」



 元々、武蔵・マサキ・ソシエの三人には無敵戦艦ダイに対する不信感が充満していた。
 だからだろうか。ガウルンの奇襲から咄嗟にテニアを庇った武蔵は、気づくと『罠だ!』と叫んでいた。
 頭部を破壊され、メインカメラを失ったガンダムの中で、武蔵はそれをわずかばかり後悔している。
 幾らなんでも気が逸りすぎだったという思いがある。
 だが、それを伝えるのもままならない状況におかれていた。
 メインカメラを潰されたあとに、どこかに投げ飛ばされた。それは分かっている。
 そして、そのときに地面に打ちつけられた衝撃でガンダムの機能が停止した。同時に通信機能も。
 現在は、真っ暗なコックピットの中で首輪から得た知識だけを頼りに復旧作業中である。
 手元さえ見えない暗闇。慣れない機体。向かない作業。そして、うかうかしてられない状況。

110鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:28:04
 当然苛立ちが募る。

「あっ! 間違えちまった……」

 そして、募った苛立ちは、ちょっとしたことで爆発する。

「だいたいおいらにこんな作業はむかねぇんだ。機械なんてものは叩けば治ると昔から相場が決まってらぁ」

 そう言って、コンソールに当り散らした。鈍い音が狭いコックピットに響き、腕が痛んだ。
 同時に低い唸り声のような駆動音をたててシステムが復旧する。サブカメラに切り替えたモニターに爆走してくる大きな足が映った。

「はい?」

 目を擦ってもう一回、モニターを眺める。
 一心不乱に邁進してくる大きな足が映った。
 それが頭上に高々と振り上げられ、大きな足の裏がしっかりと見える。
 叫び、動かし、咄嗟に脇に飛んでそれを避ける。跳ね上げられた瓦礫が装甲の表面で乾いた音を立てた。
 目と鼻の先を巨大な前足が、後ろ足が、そして長い尻尾が通過していく。
 それらが完全に過ぎ去ったのを確認して、頬を伝ってきた冷や汗を手の甲で拭い、ホッと一息をついた。
 状況を確認しようとレーダーに目を落とす。
 次の瞬間、突然の地震。足元が崩れ落ちる。背を地下道に叩きつけられて、意識が明滅する。
 そして、見上げた空からは老朽化でも進んでいたのか大量の瓦礫が降り注ぎ、ガンダムは地に埋もれた。



 数十の火気群が一斉に火を吹き、数百の弾丸が二隻の戦艦の間で交錯する。
 その大半は自身の目的を達成する前にぶつかり合い爆発し失われていったが、それでもいくらかはそこを抜けて飛来した。
 その内の一つ、反中間子砲の直撃を受けて右のメカザウルスが悲鳴をあげ、胃液を撒き散らす。
 怒った左のメカザウルスがその口からミサイルを吐き出したが、それは対空レーザーに迎撃されて爆発。
 お返しとばかりに撃ち込まれたミサイルランチャーが左のメカザウルスの喉元で爆発してよろめき、その反動でユリカはブリッジの床に顔から突っ込む形でこけた。

「うう……痛い……」

 鼻頭がじ〜んと痛む。その青い大きな瞳を潤ませながら痛みを堪えている間にも、第七波・第八波がダイに直撃して、尺取虫のような姿勢のまま体がブリッジの宙に浮かんだ。
 再度、鼻頭が床に直撃する。ものすごく痛い。
 だがまあ、いつまでもそうはしていられないのでガバッと身を起こすと、モニター一面を埋め尽くしている被害状況に目を通す。
 目を通している間にも文字はどんどんと増えていく。把握した状況の中で主砲全壊の四文字が凄く痛かった。
 現在の状況を一言で言い表すなら『物凄く分が悪い』である。
 火力そのものは大差ない。装甲の厚さでは若干ダイに分がある。だが、敵戦艦のバリアの存在が頭を悩ませている。
 そのバリアを抜けるのは、おそらく体当たりと主砲だけなのだが、前述の通り主砲は全壊。
 というか、いきなり目の前にワープしてきたESミサイルとかいう反則くさい攻撃で、真っ先に潰された。
 体当たりも相手が空を飛べる以上、下手に接近して艦直上にでもこられた日には目も当てられない。艦直上はダイの死角なのだ。
 というわけで、距離を詰めようと近寄ってくる敵に対して、応戦しながら後退を続けているのが現状であった。
 その現状をどうにかすべく打てる手が二つ。一つは通信圏外のガイに対する救援信号。
 他の参加者を集めてしまう危険も孕んでいる為、戦闘開始直後に30秒だけ既に行った。
 しかし、依然としてガイが戻ってくる気配はない。
 そして、もう一つは――。

 ゆれる戦艦の中地図とレーダーを交互に見比べる。現在地と五機の位置を確認し、いけるとユリカの頭が判断を下す。

「転進してください。これより無敵戦艦ダイは作戦ポイントまで後退します!」

 指揮を執るような口調で言い放ったあと、ややあって慌てて自分で操艦を始めた。
 その手つきは不慣れでどこか危なっかしい。

111鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:29:10


 無敵戦艦ダイが動きを変えた。
 それまでこちらに頭を向け砲撃を行いながら、後ずさりをするように後退していたのだが、いきなり後ろを振り返り、一目散に駆け始めたのだ。
 意図が読めずに困惑するキラにトモロが声をかける。

「キラ、まずいぞ。敵戦艦の進行方向に三人ともいる」
「踏み潰す気なのか」
「その可能性が高いと思う」

 キラは歯噛みした。Jアークの数倍を誇る巨体に踏み潰されれば、MSサイズの機動兵器などまずひとたまりもない。

「トモロ、砲撃を敵戦艦の足に集中して! それでもまだ動く場合は――」
「動く場合は?」

 人を殺したくはない。彼らが完全に敵だと決まったわけでもない。
 でも止めなければならない。だから――

「――僕も覚悟を決めます」


 ビルを行く手を阻むもの全てをなぎ倒し無敵戦艦ダイが爆走する。その後ろをJアークが追いすがり、砲撃を脚部に集中させる。
 轟音、そして爆発。メカザウルスの足の肉が吹き飛び、抉られ、傷口から黒いオイルのような体液が勢いよく飛び散る。
 嘶く様な悲鳴が廃墟に木霊する。しかし、その歩みは止まらない。
 残り1km――ユリカはもう少しだと思った。
 残り500m――ダイが動かないガンダムの脇を駆け抜ける。
 残り300m――それた反中間子砲がダイの横腹に命中し、腸がはみ出した。
 残り200m――キラはJクォースを射出する。
 残り100m――キラが艦橋爆破を、人を殺す覚悟を決める。
 そして、残り0m――ユリカはダイをジャンプさせた。

「えいっ!」

 全長約400m重量8万tの無敵戦艦ダイが10mばかり宙に浮かぶ。
 そして、直ぐに落下に転じたそれは、轟音と凄まじい振動を生じさせて地表と下水道・地下道を踏み抜いた。
 地響きが周囲に轟く。振動が伝播していく。
 無敵戦艦ダイがちょっと跳ねて着地したというたったそれだけのことで、周辺一体に大崩落が発生した。



 鉄の塊が唸りをあげて迫ってくる。咄嗟に左右のブースターを調節し、横にかわす。
 回り込み攻撃に繋げるつもりで小さくかわしたはずだったが、その動きは大きすぎて次の動きには繋がらなかった。

「よぉ、どうした? もうおしまいか?」

 稚拙な回避運動。それにも関わらずいまだにマサキが撃墜されていないのは、猫がネズミを甚振るようにガウルンが遊んでいるからに違いがない。
 頬を伝った汗が顎の先から滴り落ち、水音を立てた。
 だが、マサキは笑う。

「ヘヘ……。大体分かってきたぜ。こいつの扱い方がな」
「そうかい。そいつは結構。だったら、褌締めてかかってきな。もう遊んじゃやらねぇぞ」

 アルトアイゼンの機体コンセプトは『絶対的な火力と強固な装甲による正面突破』
 それを可能にせしめている最大の要因は、並みの特機相手なら当たり負けしない、PTとしてはおよそ規格外なほどの推進力である。
 ゆえに細かい動作はアルトアイゼンには向かない。どこまで大雑把に力強く、それがアルトアイゼンという機体である。
 だからマサキは――

「ああ、言われなくてもやってやらぁ!」

 ――真っ向から急加速で突進した。
 相手の懐に躊躇なく踏み込み、そのまま機体ごと叩きつけるようにしてリボルビング・ステークを突き出す。

112鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:30:13
 それをガウルンはヒートアックスで杭を受けながし、手放すと拳の部分を掴んだ。
 最大戦速で突撃してきた隻腕のアルトアイゼン。
 それをがっちり四つに組むような体勢で受けとめたマスターガンダムが、後ろへ後ろへと押し流されていく。

「クク……いいねぇ。そうこねぇと食いでがねぇってもんだ。なら――」

 足がしっかりと大地を捉え、マスターガンダムのブースターが唸りを上げる。
 出力が上昇し、二機の動きが止まった。

「――力比べといこうじゃねぇか」
「野郎、望むところだ!」

 創造を絶する化け物揃いの格闘家たちの中でも最強との呼び声高い東方不敗。
 その愛機であるマスターガンダムの性能はMFの中でも群を抜けている。
 例え、推進力一つ取ってもアルトアイゼンに決して劣るものではない。
 二機のエンジンが唸りを上げる。せめぎ合い。互いのブースターの起こす燐光が闇夜に浮かび上がった。
 上昇を続ける二機の出力。均衡を保っていたかに思えたが、先にガタが来たのはアルトアイゼンのほうだった。
 ほんのわずかばかり押され始めたかと思うと、それは直ぐに抗いようのない抵抗に変わる。
 機体が大地を削りながら押し流され、草原を突き抜けて市街地へと入り込む。
 背面をビルに叩きつけられ、壁面にずぶずぶとアルトが沈んでいく。

「どうした? それで精一杯か?」

 抵抗を続けるエンジンが悲鳴をあげた。限界だ。ゴステロ戦で一度は機能停止寸前まで追い込まれた機体。
 ガタは既に来ていたのだ。このままでは遠からずオーバーロードで機能不全に陥るのは目に見えている。

「マサキ、このままだとエンジンがもたないニャ」
「は、はやく何とかするニャ」
「うるせぇ! 少し黙ってろ!」
「ちっ! どうやら、本当に限界のようだな。なら――」
「ちぃっ!」
「――死ぬしかねぇな」

 言葉と同時に左腕の残骸を掴んでいる手が紫に発光していく。
 目の端でそれを確認して、首筋を蛇の冷たい舌で舐められたかのような寒気がマサキを襲った。
 咄嗟に残された右肩のスクエア・クレイモアのハッチをオープン。大量のベアリング弾を撃ち放つ。
 火薬が炸裂する音、金属同士がぶつかり合う音、ビルが粉塵を巻き上げ瓦解する音、それらが木霊した。

「やったかニャ?」
「いや、まだだ。あの野朗、攻撃をやめて咄嗟に逃げやがった」

 立ち込めた粉煙の中にゆらりと影が浮かぶ。足音だけが妙に大きく響いてくる。
 レーダー上の敵機を示す光点がゆっくりと接近して来ていた。

「おいおいズルはいけねぇな。悪い子には――」

 通信。陰湿な声が耳に届き、相手の動きが変わった。マスターガンダムが、煙幕を裂いて姿を現す。
 ベアリング弾の直撃を受けた左肩の装甲が、ボコボコに凹んではいるものの左腕の運動に問題はなさそうに見えた。
 舌打ちを一つして、咄嗟に回避運動。だが――出力上がらない。

「――ペナルティーだ!」

 不気味な紫に発光した手の平が迫る。スロットルを限界まで引き絞る。
 ――駄目だ。かわしきれねぇ。
 視界が発光する紫一色に塗りつぶされ、そう覚悟したときだった。突然、足元で地響きが轟き、地の底が抜けた。
 突然の落下に混乱する中、クロが咥えていた青い石ころが目の前を横切る。
 ――ああ、そう言えば返しそびれちまってたな。
 一瞬、そんなことが頭を掠めた。
 三、四十メートル下の穴の底に着地。見上げた視界にマスターガンダムの姿が入る。
 ――近い!
 落下の勢いのまま、マスターガンダムに押しつぶされる。

113鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:31:21
 馬乗りの体勢。右腕も左腕に押さえつけられ、身動きが取れない。

「まだだ! クレイモア!!」
「同じ手に二度もかかるかよ!!」

 声が交錯する。マスターガンダムがコックピットハッチを掴み、大きく横に跳ねてベアリング弾をかわす。
 同時に音を立ててコックピットハッチがもぎ取られた。
 視界一杯に降り注ぐ大量の瓦礫が映り、マサキの意識はそこで途絶えた。



 構えられたマシンナリーライフルからエメラルドグリーンの光球が飛び出す。その数は三。
 それの一つ目を避け、二つ目を右腕のタービンで弾き、そして三発目の直撃を受けて凰牙はバランスを崩した。
 体勢を立て直すのもそこそこに地を蹴り、その場を飛び退く。瞬間、爆音が轟き大地が抉られた。
 巻き上げられた土くれが降り注ぐ中、ロジャーは叫ぶ。

「何故、我々と君たちが戦わなければならない」
「あんたたちはアタシらの敵だ!」

 心の底から憎しみが篭ったような声。返答と同時にまた一つ放たれた光球を、宙に向かって飛ぶことでかわす。

「それは違う。君たちはあの主催者に従うのを良しとしなかった者たちではないのか!
 そうであるならば我々は仲間なはずだ!!」

 さらに空中で左足と右腕のタービンを使い三つの光球を弾く。
 一息ついたその瞬間、弾いた光球の影から二つの勾玉が現れ、その直撃を受けて凰牙が市街地に落下した。
 巻き添えを食らった瓦礫のビルが倒壊する。

「だったら! だったら、なんでソシエを攻撃した!!」

 ――どういうことだ。
 誤解がある。誤解がどこかにある。
 ここまでの戦闘に発展したのは何も一人の乱入者為だけではない――そのことにようやくロジャーは気づく。
 慌ててビルの残骸を跳ね除け見上げた視界に、月を背にした機体のシルエットが浮かび上がった。
 腰のところでフラフープのように回転を続ける円環。そこから残り四つの勾玉全てが射出される。
 不規則に軌道を変え襲い掛かってくる計六つの勾玉。それを仰向けのまま四つ捌き、二つが直撃した。
 装甲が軋む音が耳に聞こえる。だが、損傷自体は対したことがない。
 ――まだいける。
 ようやく交渉の糸口を掴んだロジャーはあきらめない。
 そして、凰牙を立て直そうとして異変に気づいた。

「なぜだ! 何故動かない!!」

 凰牙が動かない。同時に薄気味悪い気配を感じて周囲を見渡した。
 動きを止め、その場で回転を始めた六つの勾玉がそれぞれ陰陽紋を描き出している。
 そして、その中央――すなわち凰牙が位置している場所にひときわ大きな陰陽紋を模った力場が発生していた。
 瞬間、全身の細胞が沸騰したかのように泡立つ。
 ――一体何が起こっているのだ!!
 状況は分からない。この状況を理屈で理解できるメモリーをロジャーは持たない。
 だが、理屈ではなく本能が危険だと知らせていた。

「動け、凰牙!」

 だが、依然として凰牙は凍りついたように動かない。力場に自由を奪われ完全に空間に固定されている。
 周囲で旋回を始めた六つの陰陽紋が一つの円を形作り、徐々にその輪を狭め始めた。
 冷たい汗が頬を伝い首筋に流れ落ちていったそのとき、大きな地響きと轟音が大地を震撼させた。
 はっとしてレーダーを確認する。何の偶然か凰牙とダイを含めた五つの点が、最初ユリカに指定された範囲内に収まっている。
 ――まずい。これは……。
 そう思った瞬間、大地が割れる。周囲の情景全てがそこに呑み込まれ始める。

114鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:32:31
 ロジャーも、廃墟と化したビルも、幾らか原型を留めていたビルも、一切が関係ない。
 割れ目は存外浅く、三、四十メートルの落下で背を大地に叩きつけられた。衝撃に意識が明滅する。空を見上げる。
 本当に怖いのは落下ではなく大量降り注ぐ瓦礫。

「な、なんなの。これは!!」

 うろたえるテニアの声が耳に届く。上空から崩れてくる瓦礫に巻き込まれ、凰牙同様大地に呑み込まれるベルゲルミルの姿が最後に見えた。



 ――やった。大成功!
 そう思った瞬間、突然飛来した火の鳥が、右のメカザウルスの頭を吹き飛ばした。
 断末の声を一つ上げること叶わず消し飛んだそれを見て、一瞬目の前が真っ白になる。
 その真っ白な視界に何の前触れもなく一つのミサイルが姿を現した。
 あまりの状況の変化に脳が対応しきれず、思考が止まった。
 目の前で徐々にミサイルが大きくなっていく。それは真っ直ぐこちらに迫ってきているからだという事にやっと気がつく。
 既に、よけるのも、叩き落すのも、着弾をずらすのも無理。何も間に合わない。
 そう思ったとき、上方から一筋の閃光がミサイルを射抜いた。
 耳を劈くような轟音。衝撃でガラスが千の破片となって降り注ぎ、閃光に目がくらんだ。

「ユリカ、無事か?」

 耳に聞き覚えのある声が届く。目を瞬かせて見上げた夜空に、黒い戦闘機の姿を見つけ、彼女は元気一杯に答えた。



 目の前に廃墟が広がっていた。
 敵戦艦が少し跳ねて着地したかと思った次の瞬間、大地に亀裂が走り、あっという間に広がったそれは立ち並ぶビル群を巻き込んで瓦礫の山に変えた。
 そのときから、マサキとテニア、それに武蔵の反応も消えている。
 ――どうして……こんなことに……。
 Jクォースが帰還する。火の鳥のような姿をしたそれは纏った炎を消し去り、本来の錨のような姿に戻ると元通り艦首におさまった。
 それを虚ろな目で眺めたあと、視線を上げてみる。
 そこには二つある頭の内の一つが消し飛び、八つの足の内二つを消し飛ばされ、腹からは腸がはみ出た一隻の戦艦の姿があった。
 艦橋からは煙も上がっている。
 そして、その上空にはESミサイルによる艦橋爆破を防いだ戦闘機が一つ。
 ――どうしてなんですか……何故そんなことを……。

「あなた達は……何故そんなことを平然と出来る!」

 声に出して叫んだ。瞬間、激情が身の内で暴れ回り、それに身を任せるまま照準をダイに合わせる。
 そして、引き金を引こうとしたその瞬間――

「グラビティブラスト!!」「シュートォー!!!」
「ガドル!!!」「……」

 二筋の閃光が飛来し、ジェネレイティングアーマーを貫通したそれらは右舷で爆発を起こした。



 重力波がナデシコの前面中央部に収束され、一筋の帯となって発射される。
 そして、飛来する無数の火気群を呑み込みつつ突き進んだそれは、大部分をジェネレイティングアーマーに阻まれながらも貫通したいくらかの重力波がJアークの右舷装甲で爆発した。
 次の瞬間、Jアークの無数の火気群がこちらを向き、一斉に砲撃を開始する。
 二隻の戦艦の間を幾十の光の筋となって駆け抜けたそれらは、ナデシコの船体に触れる前にディストンションフィールドで阻まれ爆発を起こした。

「へへへーんだ。そんなもの効くかよ。こいつはお返しだ。グラビティー・ブラストオォォ!!!」
「無理よ。大気圏内でグラビティー・ブラストの連射はダメみたい。次の発射まで後50秒」

 比瑪の反論とともに不可という文字が甲児の周りに無数に浮かび上がった。
 それと格闘しながらどうにかならないのかと愚痴を飛ばす甲児を無視して、比瑪はダイへの回線を開いた。

115鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:33:38

「こちらは機動戦艦ナデシコ。応答願います」

 やや間が空いて、正面モニターに若い女性の顔が映った。
 最初、信じられないとでも言うような顔をしていたその女性は、気を取り直すと元気一杯に挨拶を行う。

「こちらは無敵戦艦ダイ艦長ミスマル=ユリカです。ブイッ!」
「……は?」

 勢いよく笑顔で突き出されたピースを目にして甲児があっけに取られる。

「私はオペレーターの宇都宮比瑪。ブイッ!」
「兜甲児だ。ブイッ!」
「シャギア=フロストだ。ブイッ!」
「僕はオルバ=フロスト……」

 天然で返した比瑪にやや遅れて甲児もそれにならい、通信回線に割り込んできたフロスト兄弟も簡単な自己紹介を終える。
 念のために触れておくと、今現在ナデシコはこれでもJアークとの交戦中である……一応。

「貴艦の援護に感謝します」
「あなたのお仲間はどれ?」
「この戦艦とそこに飛んでいる戦闘機、それと赤と黒の30m弱の機体がこちらの味方です」
「上に乗ってる黒いのは?」
「へっ? 上??」

 突然、通信が途切れノイズが走る。モニターが一面砂嵐に見舞われた。

「通信途絶。無敵戦艦ダイ、反応ロスト。何が起こっているの!!」

 いきなりの状況の変化に比瑪の声が上ずる。外部モニターの映像に無残に艦橋を破壊されたダイの姿が映った。

「ナデシコはこのまま敵戦艦の牽制。私とオルバは救助に向かう。
 知り合いだからといって、甘えるな。あの戦艦は我々と我々以外の参加者を襲った。
 戸惑うな。分かっているな!!」

 シャギアが叫び、ヴァイクランとディバリウムが急行する映像がモニターに流れる。
 そのモニターを呆然と眺めながら、比瑪は「なんでなのさ」と小さく呟いた。



 北西の空、まだ遠いところに現れた戦艦を見てアキトは言葉を失った。
 純白をベースに、ところどころアクセントとして塗られた赤。
 アキトの知る世界において、稼動中のナデシコBとは異なるその赤が主張している。
 間違いなく自分が三年前に乗り込んだあの戦艦だと――。
 そして、そこに気を取られたこと――そのことが一つの明暗を分けた。

「よぉ、ずいぶんと遅かったじゃねぇか」
「……誰だ」

 聞き覚えのない声がコックピットに響く。
 日向には向かない日陰の湿り気を帯びた暗い声。思わず肌が怖気立つ。
 小さく含み笑いをし、男は言葉を続ける。

「つれねぇなぁ……。と言っても初対面だからしかたがねぇか。
 ガウルンだ、覚えておきな。嫌でも直ぐに忘れられなくしてやるがな」

 さりげなく機体を旋回させ、位置を探る。
 ――居所は地表か? いや違う。
 もっと近いどこからか響いてきているような気がした。

「……何処にいる」
「俺か? クク……俺は――」

 体中の肌という肌から汗が噴き出すのを感じた。
 頭の中で脳が早く見つけろと騒いでいる。直感が急がなければ取り返しがつかなくなると叫んでいる。
 鼓動が早鐘を打つ。

116鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:34:46
 ――急げ。急げ! 急げ!! 急げっ!!!

「――ここさ」

 見つけた。それを視認した瞬間、アキトは叫んだ。
 ダイの艦橋に黒い機体がいた。四つん這いに這い蹲り、振り上げたビームナイフの刃を下に突きつけながら。

「遅せぇんだよ、バーカ」

 ビームの刃に切り刻まれて、艦橋がバラバラに解体される。
 切断されたケーブルが火花を散らし、粉々になったガラスが、鋼材が、月の光を青白く反射させながら落ちていく。
 その落下していくものの中に、綺麗な長く青い髪を棚引かせ、ゆっくりと落ちて行く少女の姿が見えた。
 次の瞬間、YF-21は急加速し最高速度でそこを目指す。
 速すぎる速度――地表に激突し機体は大破するかもしれない。だがそれでもアキトに戸惑いはない。
 目に映る人影が大きくなる。間に合う、そう思った。
 コックピットを開け放つ、風圧で体が引き千切られるかのような錯覚を覚える。
 艦橋の残骸が降り注ぐ中に入り込む。一度ユリカを見失い、一つ大きな残骸を抜けた。
 ――見えた!
 速度を一気に落とす。体が前に流される。構わずに手を伸ばす。
 すれ違いは一瞬、失敗すれば二度目はない。
 見える、はっきりと。青い髪、きめ細かな肌。もう少しだ。
 ユリカの名前を叫ぶ。ユリカもアキトの名前を叫ぶ。
 互いに伸ばした腕。指の先が触れて――
 そして、急速に二人の距離は離れていった。瞬く間に小さくなったユリカの姿が、瓦礫の中に消える。地表に土煙が立ち昇った。
 慌ててYF-21を旋回させようとして、アキトは眼前に迫った地表に気づいた。
 近い。既にかわせない。
 咄嗟に不時着を試みる。YF-21の胴体が瓦礫で磨れ耳障りな音を立てる。不規則な振動がコックピットを揺らす。
 そして、そのまま爪跡を残しながら突き進んだYF-21は一つの大きな瓦礫にぶつかって止まった。
 衝撃で仮面が砕けたことにも気づかずに、コックピットを飛び出す。
 体のあちこちが痛んだが、気にもとめない。頭を締めているのは、たった一つのことだけ。
 五感の不明瞭な体でどこをどう走り、どうやってそこにたどり着いたのか――それをアキトは覚えていない。
 だが、気づくと一心不乱に瓦礫の山を掻き分けていた。
 掘る。ただひたすら掘る。爪が剥がれ、指先から血が滴り落ちた。
 手が何か柔らかいものに触れる。青い糸のような髪が目に入る。
 急いで掻き分けた瓦礫の中にユリカはいた。戸惑いも恥じらいもなく胸に耳をあてがう。

 ……トクン……トクン

 ――生きている――

 体を揺すり呼びかける。返事はない。顔色が悪い。出血が激しい。
 手当てできる何か、それを見つけてこようと思い立ち上がりかけた。
 その時、服を引っ張られた。
 振り向く。目が合い。苦しそうなその顔が微笑む。
 小さな慎ましい唇が開き、言葉を紡いだ。

「やっぱり、アキトだ」

 突然、目の前に黒い壁が現れた。
 ――何だ……これは?
 もう何が何だか分からなかった。
 上から声が聞こえる。見上げてみると壁だと思ったのは、黒い巨人の足だということが分かった。

「悪いな。ついうっかり踏んじまったか」

 この男の言っている意味が理解できない。
 服に何かぶら下がっているような違和感を覚える。
 みてみると、そこには肘から先だけが残されたユリカの腕がぶら下がっていた。
 ちょっとした時間、頭が理解するという行為を拒絶した。

「ユ……リカ…」

 口から漏れたその言葉を皮切りに、脳は活動を再開する。

117鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:36:00
 精神が状況を拒み、脳が状況を理解する。
 受け止めきれない悲劇、受け止めれば発狂してしまうほどの現実。
 それを受け止めるため、何かしらの救いを求めて精神とは関係無しに脳が奔走する。
 やがてそれは一つの言葉に行き着いた。

『――死んでしまった方を生き返らすことから――』

 アルフィミィ――その少女に行き当たったとき、脳は精神に情報を送った。

 ――彼女に会えば、ユリカは救われる。

 そう強く理解したとき、アキトの体はその場から消え失せた。



 フェステニア=ミューズは、暗い土の中で目を覚ました。
 重い頭を揺すって前後の状況を思い出そうとするが、ビルの倒壊に巻き込まれた後の記憶は残っていなかった。
 機能を停止させているベルゲルミル起動させる。

「えっ……?」

 光が灯ったモニターが伝えてきたのは、どうも瓦礫に埋まっているらしいということだった。
 隙間なく周囲に瓦礫が溢れているのを見て、途方に暮れた。
 ――この状態でどうしろって……。
 とはいえ、いつまでもそうしているわけにはいかないので、試しに右腕を動かしてみる。

「あれ? この建物スカスカだ」

 覆いかぶさっていた瓦礫は、乾いた砂で出来ているかのように簡単に砕け、自由に動かすことができた。
 よく見ると機体の損傷もほとんどない。
 それは落下の際に自律的に散布されたマシンセルが、周囲に降り注いだ瓦礫の構造を破壊して脆くした結果だった。だが、テニアはそのことに気づかない。
 とりあえず動くのだからと、あまり深く考えずにマシンナリーライフルを上の瓦礫に向けて発射してみる。
 積み重なった瓦礫は倒壊することなく淡い緑に輝く光球に呑み込まれて消え、ぽっかりと穴が空いた。

「うん。ちょっと狭いけど、どうにか出られるかな」

 機体を起こし、テスラドライブを起動させる。ベルゲルミルがふわりと浮かび上がった。
 瓦礫にぶつからないようにゆっくりと上昇し、穴のふちに手を伸ばす。
 突然、その腕を掴まれ、乱暴に引き上げられた。

「無事だったみたいで安心したぜ」

 天を突き上げるように掲げられた腕に吊るされるような形になった。こちらの顔と同じ高さに黒い機体の顔もある。

「何のよう……」

 嫌な予感がして体中から汗が吹き出てくる。
 体が震え、自分のものではないかのように言う事を聞かない。

「何、たいしたことじゃないんだがな。お寒いことにふられちまってな。
 仕方がねぇんで代わりにちょっと――」

 通信モニターの向うから嘗め回すような視線が絡み付いてくる。
 陰湿で粘り気を持った液体、それが足元からゆっくりと這い上がってきて、太股を浸し、引き締まった下半身を抜け、腰部を過ぎ去り、柔らかく豊満な胸を包み込む。
 さらにそれは、弾力に豊んだ二の腕を伝わり、意外にも綺麗な指先にまで絡み付く。
 そして、最後に喉元から伸びてきたそれは、唇を犯かし、張りのある両頬を楽しみ、癖の強い赤髪を覆い尽くして、全身を浸した。
 口の両の端が吊り上り、相手の顔に笑みが浮かぶ。大きく開いた口の中、上顎から下顎にかけて唾液が線を引いているのが見えた。

「――遊んでもらおうか、お嬢ちゃん」

 戦慄が体の中を駆け巡り、奥歯を噛み締めた。体中の気概を総動員して睨み付ける。

118鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:37:18
「冗談じゃない。あんたなんか、お断りだよ!!」

 相手の腹――コックピットの位置に銃を突きつけ、引き金を引いた。
 睨み付けていたはずの視界に空が映る。
 それを疑問に思う間もなくベルゲルミルが瓦礫の山に叩きつけられて、コックピットが大きく揺れた。
 口の中を少し切ったのか、錆びた鉄の味が口の中に広がる。

「クク……、いいねぇ。それぐらい生きが良くないと面白くねぇ」

 ゆっくりと黒い機体が歩みを進め、近づいてくる。
 ――焦るな。落ち着け。大丈夫。大丈夫だ。アタシは生き残る!
 短く、素早く息を継ぎ、呼吸を整える。眼前の敵を睨みつけて――。
 唸りをあげて飛んできたヒートアックスが、装甲を擦過して過ぎ去り、機体表面で火花が散った。
 その瞬間、瞳に怯えが走り、訳も分からずに逃げ出した。わき目もふらずにただ一目散に駆けた。
 だが、それも長くは続かなかい。相手のほうが動きが早い。
 直ぐに距離は詰まり、瓦礫に阻まれて逃げ場を失う。

「興醒めだ。もう少し、楽しめるかと思ったんだが……。あばよ、お嬢ちゃん」

 振り返ったモニターにゆっくりとゆっくりと迫って来る敵が映っていた。
 手が伸びる。近い。それは装甲の継ぎ目が見て取れるほど、迫っていた。その腕が不意に止まった。

「へへっ……。おいらがいる限りテニアには指一本触れさせねぇ」

 武蔵の声。姿を探す。前方、後方、右、左、上、どこにも姿は見えない。
 レーダーに目を落とす。自分と敵、点が二つ――いや、三つ。相手に重なるようにもう一つ。
 地中から突き出し、黒い機体の足首を掴んでいる腕、それに気づいた。
 次の瞬間、瓦礫が舞い上がる。

「うおおぉぉぉーっ!! 大雪山! おろしぃぃぃっ!!」

 気迫と咆哮。突然地中から姿を現した武蔵が、円を描くようにして周囲の瓦礫を巻き込み、黒い機体を投げ飛ばした。

「テニア、任せた!!」

 その光景を茫然と見ていたテニアは、武蔵の声で我に返る。
 そして、空中で体勢を整えようとしている敵機に向かって追撃をかけた。



 上空で激しい錐揉み回転を続けるマスターガンダムの中、狂人は笑っていた。
 ――『指一本触れさせねぇ』か。クク……楽しくなってきたじゃねぇか。
 どっちを先に殺して、どっちの泣き顔を拝むのが楽しいか、それを考えている。
 ――女から戴いちまうとするか。
 機体の各部のブースターを制御して、瓦礫の上に降り立つ。
 考えてやったことではない。反射的に体が動き、マスターガンダムがそれをトレースした結果だった。
 だが、顔をあげ、正面を見据えたガウルンに衝撃が走る。

「なっ!」

 六つの勾玉が無秩序な軌道を描きながら、周囲を飛び回っていた。
 足場が崩される。二つを受け流し、一つを避けて見せる。
 だが、目がついていかない。
 直線的な銃弾のような動きではなく、生き物のように高速で飛び回る物体。それにガウルンは慣れていない。
 おまけに六つという数は、目で追うには少し多すぎた。

「ちっ! いい玩具を持ってるじゃねぇか!!」

 だがそれでも狂人は笑う。
 その時、地に光線が撃ち込まれ、勾玉の制御が揺らいだ。機を見逃さず、瓦礫を持ち上げ盾代わりにして、包囲網を抜ける。
 見上げた夜空に新たに赤と白二つの機体の姿を見止めた。

119鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:38:12

「新しく二機増えているな」
「そうだね、兄さん。彼らは僕たちの味方かな?」
「本気でそう言っているのか、オルバよ」

 地上に新しく姿を現した二つの機体。一つは頭部の潰れたMSらしき機体。
 その姿は彼らの知るMSよりもシンプルな外見をしており、シロを基調としたカラーリングがXに似ていると言えなくもない。
 だが、知らない機体であることは間違いがないようだった。
 そして、もう一機。サイズは通常のMSとほぼ同じ尺、意匠もMSの延長上のようなその機体。
 それを暫く睨みつけるようにして眺めて、オルバは答えた。

「いや、まさか」
「分かっているな、オルバよ」
「ああ、分かっているよ、兄さん。あれは僕らの――」

 自律行動を取り、宙を自在に飛び回る勾玉。その姿はビットやファンネルと呼ばれる兵器に酷似している。
 NTにしか動かせないそれらにだ。

「――滅ぼさなくてはならない敵だね」
「ならば、その憎しみを声に乗せて叫べ!」
「ああ、いくよ、兄さん」
「来い、オルバよ」
「ガドル!!」
「バイクラン!!!」

 仇敵を目の前にした今このときに限って言えば、オルバに恥じらいはない。
 叫べば叫んだだけ力が出るなら幾らでも叫んでやる、そういう心境だった。
 赤の機体が無数のパーツに砕け散る。
 そして、各パーツは磁石に吸い寄せられるように白の機体に吸い寄せられ、一つの巨大な機体へと合体した。
 放電現象が起こる機体の中、照準を合わせる。

「「アルス・マグナ・フルヴァン!!!」」

 二つの叫びが一つに重なった。

120鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:39:15
【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー)
 パイロット状態:困惑・ジョナサンへの不信
 機体状態:ジェイダーへの変形は可能?・左舷損傷、EN、弾薬共に50%
      反応弾を所持。
 現在位置:D-7市街地上空
 第一行動方針:ナデシコを退ける
 第二行動方針:仲間の無事の確認
 第三行動方針:テニアがもしもゲームに乗っていた場合、彼女への処遇
 第四行動方針:このゲームに乗っていない人たちを集める
 最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】
 備考:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復。】


【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:非常に不安定
 機体状況:良好・マニピュレーターに血が微かについている・ガンポッドを装備
 現在位置:D-7市街地
 第一行動方針:この場を生き延びる(その為には武蔵や味方がどうなろうと構わない)
 第二行動方針:騒ぎを大きくする
 第三行動方針:どのように行動を取ればうまく周りを騙せるか考察中
 第四行動方針:とりあえずキラ達についていく
 第五行動方針:参加者の殺害
 最終行動方針:優勝
 備考1:武蔵・キラ・マサキ・ソシエ、いずれ殺す気です
 備考2:首輪を所持】


【巴武蔵 搭乗機体:RX-78ガンダム(機動戦士ガンダム)
 パイロット状態:カラ元気でも元気、ダイに対する激しい怒り、VF-22に対する怒り
 機体状況:頭部喪失、メインカメラ全壊、装甲全体に無数の凹み
      オプションとしてハイパーハンマーを装備
 現在位置:D-7市街地
 第一行動方針:テニアを守りきる
 第二行動方針:ダイを倒す
 第三行動方針:統夜を探しテニアを守る
 第四行動方針:信頼できる仲間を集める
 最終行動方針:主催者を倒しゲームを止める
 備考1:テニアのことはほとんど警戒していません】


【ソシエ・ハイム 搭乗機体:無し
 パイロット状況:空気、右足を骨折、気力回復
 機体状況:無し
 現在位置:D-7市街地上空
 第一行動方針:VF-22を危険視
 第二行動方針:新しい機体が欲しい
 第三行動方針:仲間を集める
 最終行動方針:主催者を倒す
 備考:右足は応急手当済み】


【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状態:気絶中、体力消耗、肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
      側面モニターにヒビ、EN70%
 現在位置:D-7市街地瓦礫の下
 第一行動方針:争いを止める
 第二行動方針:ガウルンに拳をお見舞いする
 第三行動方針:アキトの帰還を待つ
 第四行動方針:ゲームに乗っていない参加者を集める
 第五行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第六行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考2:念のためハイパーデンドー電池二本(補給一回分)携帯
 備考3:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】

121鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:40:00
【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力140
 機体状況:全身に弾痕多数、左肩・胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
      DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:D-7市街地
 第一行動方針:近くにいる参加者を殺す
 第二行動方針:アキトを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 第四行動方針:できればクルツの首を取りたい
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】


【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好、合体が破られてショックを受けている、憎悪
 機体状態:EN35%消耗、損傷軽微
 現在位置:D-7市街地
 第一行動方針:テニアを殺す
 第二行動方針:ガウルンと武蔵・Jアークの排除
 第三行動方針:ヒメと甲児の信頼を万全のものに
 第四行動方針:ヒメと甲児を利用し、使える人材を集める
 第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 第六行動方針:首輪の解析
 最終行動方針:オルバと共に生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)
 備考1:ガドル・ヴァイクランに合体可能(かなりノリノリ)、自分たちの交信能力は隠している。
 備考2:首輪を所持】


【オルバ・フロスト搭乗機体:ディバリウム(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好、憎悪
 機体状態:EN35%消耗、損傷軽微
 現在位置:D-7市街地
 第一行動方針:テニアを殺す
 第二行動方針:ガウルンと武蔵・Jアークの排除
 第三行動方針:ヒメと甲児の信頼を万全のものに
 第四行動方針:ヒメと甲児を利用し、使える人材を集める
 第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 第六行動方針:首輪の解析
 最終行動指針:シャギアと共に 生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)
 備考:ガドルヴァイクランに合体可能(かなり恥ずかしい)、自分たちの交信能力は隠している。】


【兜甲児 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:良好
 機体状態:EN30%消耗、相転移エンジンによりEN回復中、ミサイル5%消耗
 現在位置:D-7市街地上空
 第一行動方針:Jアークを倒す
 第二行動方針:ヒメ・フロスト兄弟と同行
 第三行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める
 最終行動方針:アインストたちを倒す
 備考1:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガスを収容
 備考2:ナデシコ甲板に旧ザクを係留】


【宇都宮比瑪 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:良好、ナデシコの通信士
 機体状態:EN30%消耗、相転移エンジンによりEN回復中、ミサイル5%消耗
 現在位置:D-7市街地上空
 第一行動方針:Jアークを止める
 第二行動方針:甲児・フロスト兄弟に同行
 第三行動方針:依々子(クインシィ)を探す
 最終行動方針:主催者と話し合う。】

122鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:40:34
【パイロットなし 搭乗機体:ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている
 現在位置:D-7市街地上空】


【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)
 パイロット状況:神経圧迫により発声不可、気絶中
 機体状況:MS形態
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 ナデシコの格納庫に収容中
 現在位置:D-7市街地上空
 第一行動方針:新たなライブの開催地を探す
 最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる
 備考:自分の声が出なくなったことにまだ気付いていません】


【マサキ・アンドー 搭乗機体:アルトアイゼン(スーパーロボット大戦IMPACT)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:左腕損失、エンジン損耗、コックピットハッチ損失】


【ミスマル・ユリカ 搭乗機体:無敵戦艦ダイ(ゲッターロボ!)
 パイロット状態:死亡
 機体状態:艦橋大破、主砲全壊、メカザウルス中破
 備考1:ハイパーデンドー電池8本(補給4回分)は無事
 備考2:首輪(リリーナ)は艦橋の瓦礫に紛れています】

【二日目0:00】

123鍵を握る者 噛合わない歯車 ◆7vhi1CrLM6:2007/07/01(日) 03:41:36
 周囲はうっすらと発光しているドーム状の天蓋に覆われ、床には継ぎ目一つ見当たらない。
 面白み一つない無機質な風景。
 その中で目の前の蒼い髪の少女と背後にある赤い機体――アルトアイゼンだけが景色に彩を加えていた。
 A級ジャンパーと呼ばれる彼の能力と、赤い機体の中にあったC.Cと呼ばれる青い鉱石。
 彼をその場に導いたのはその二つの要因が起こした偶然であったが、男にとってそんなことはどうでもよかった。
 ただ気づいたときにはそこにいて、気づいたときには目の前に少女がいた。
『ミスマル=ユリカの死』というどうにもならない現実から目を背ける為の『救い』を、『逃げ』を体現した少女が目の前にいる。
 だから、気がついたときには既に懇願をしていた。

「頼む! お願いだ! ユリカを……ユリカを救ってくれ……」

 後ろで一つにまとめた蒼い水色の髪に大きな栗色の瞳。どことなく神秘的な少女が微笑む。
 そして、蒼の紅が差された小さな唇がそっと開き、言の葉を紡いだ。


【テンカワ・アキト 登場機体:なし
 パイロット状態:やや衰弱、精神不安定
 機体状態:なし
 現在位置:不明
 第一行動方針:ユリカを救ってくれ(そのためには自分はどうなってもいい)
 最終行動方針:ユリカを元の世界に帰す(そのためには手段は問わない)
 備考:アルトアイゼンがボソンジャンプに巻き込まれました】

【残り29人】

【二日目1:00】

124 ◆C0vluWr0so:2007/11/07(水) 23:02:53
ぼんやりとした意識が闇の中を彷徨っている。
どこまでも暗い無意識の海。下に浮かぶのか上へ沈むのか分からない曖昧な感覚。
何処からともなく声がした。問う声だ。

『お前は一体どうしたいんだ?』

――俺は、帰りたい。アル達が待ってるサイド6へ。
  約束をしたんだ。必ず生きて帰って、会いに行くって。
  会いたいんだ。まだまだ話したいこともあるし、聞きたいこともあった。

『そのために殺すのか?』

――仕方ないじゃないか! 最後の一人にならないと帰れない。
  それが分かってて、それなら殺すことだって考える。
  戦争と同じなんだよ、殺さなきゃ生き残れない。

『戦争と同じだって? それは違うさ。お前は今、自分のために人を殺そうとしている。
 上から言われるままに戦えば良かった戦争とは、全く違うんだよ。我が侭なガキの言い分だな』

――それでも……我が侭でも、俺はみんなに会いたいんだ。

『殺して生き残って、それでもアルやクリスに会えるのか? 人殺しの癖に胸を張って会いに行くのかい?』

――それは……

『そら、やっぱりお前はそういうやつなんだよ、バーナード・ワイズマン。
 いつも考えが足りない。だから大切なモノも失くしてしまう』

――うるさい! うるさいうるさい!
  だいたいお前は一体誰なんだよ! 何でそんなことを言うんだよ!?

『まだ気付いてないのかい、バーニィ?』

――くそっ……! 何で俺が……何で!

『そうだ。俺はお前なんだよ。俺の言葉はお前の言葉だ。俺の考えはお前の考えだ。
 ……さぁ、もう一度聞くぞ。――お前は一体どうしたいんだ?』

――俺は……俺は……!

 ◆

意識の反転。バラバラだった意志は手繰り寄せられ、一つの纏まった思考へと変化していく。
視界は暗い――が、周りに広がっているのは視認できる夜の闇だ。出口の見えない暗黒ではない。
自分が夢を見ていたのだと気付くのと同時に膨れる疑問。
……此処は何処だ?
意識が断絶する一瞬前まで、自分は交戦していたはずだ。
虫のような機体に、後から乱入してきた二機。自分も含めて四機の戦闘。
自分が気絶していた間に全て終わった、ということなのか?
でも、それならなんで俺は生きてるんだ? 他の機体は何処へ行ったんだ?
段々と戻ってくる身体の感覚は平時のそれとは全く違う。
後ろ手に縛られている=身動きが取れない=危険。単純明快な理論に涙が出そうになる。
暗順応を起こした視細胞が、次第に暗闇の中に立つ人影を認識し始めた。

(……仮面? 男なのか? 俺を縛ったのも……?)

125 ◆C0vluWr0so:2007/11/07(水) 23:03:32
薄暗闇の中、はっきりと姿を確認することは出来ないが、目の前の男が自分の生殺与奪権を握っているという事実に緊張が走る。
向こうはこちらが目覚めたということに気付いているようだ。じっとこちらを見つめたまま、動かない。
もっとも、顔全体を覆う仮面のせいで、男の視線が本当に自分に向けられているのか分からないのだが。
そのままどれくらい見つめ合ったのか。仮面の奥で男が笑ったような気がした。
そして声が響く。

「お目覚めかね?」
「……ここは何処だ? あんたは一体誰なんだ!?」
「落ち着け。君が私の話を聞いてくれるのなら悪いようにはしない。
 まずは君の名前を聞かせてくれ。私の名はユーゼス=ゴッツォだ」
「……ジオン軍所属のバーナード=ワイズマンだ。あんた……俺に何をする気なんだ?」
「落ち着け、と言っている。悪いようにはしないともな。
 ……そうだな、それでは逆にこちらが聞こう。ワイズマン、君は一体どうするつもりなのかとね。
 君はこの基地に来る前に青い機体と交戦したはずだ。今現在私はそのパイロットと行動を共にしている。
 勿論君のことも聞いている。奇襲を仕掛けてきた危険なパイロットとしてだが……」

ククク、と実に愉しそうにユーゼスと名乗った男は嗤う。
一挙一動が周囲に邪悪さと悪意を撒き散らしていく。
それを全く隠そうとしないのは、ユーゼスが絶対的優位に立っているからだろうか。
こちらはユーゼスの余裕とは逆に、焦りがどんどん募っていくというのに。
……不味い。ここで下手なことを喋れば、縛られたまま殺されるというのも十分にあり得る。
何せ此処は、『殺し合い』をする場所なんだから。

けれど、士官学校を卒業したばかりで、軍に配属されてから間もなくて。
「俺は……死にたくなかっただけなんだ」
ろくに実戦経験も無く、それどころか女の子を口説くのさえ下手な俺じゃあこんな時に上手いことなんか言えっこない。

「死にたくなかったから他者を殺そうとした――いや、それとも既に殺したのか?」
「……」

何も言い返せない。言葉さえ浮かばない。
だからコクリと小さく頷いて、それに肯定の意味を込める。
だが、何故かユーゼスの両手がパチパチと乾いた音を立てる。

「そうか。だが……それの何がおかしい? それは人として当たり前の感情だ。
 私がその程度のことで君を軽蔑するはずがない。むしろ、その生きようとする強い意志に賞賛の拍手を送ろう」

……今、何て言った?
ここにきて――ようやくバーニィは、目の前の人物の本当の異常性に気付く。
例えば自分が人生経験もろくにない新兵だとか、相手の仮面の所為で表情が掴みにくいだとか。
そんなことを抜きにしても『この男が本当に心の底から、一つの偽りも無くこの言葉を吐いたということは間違いない』と言い切れる。
殺される殺されないの問題じゃない。喰われるのか、喰われないのか、だ。

「俺を縛ったのは……あんたなのか?」
「そうだ。だが心配する必要は無い。君が生きていると知っているのは、私だけだからな。
 同行している面々には、この基地には生存者はいない、と伝えておいた」

『心配する必要が無い』だって?
俺が生きていると知っているのは自分だけだと、あんたは言った。
それはつまり――『俺を殺しても、誰も何も気付かない』ってことだろう?
『私は何時お前を殺しても構わない』という脅しなんだろう?

「あんたの仲間ってのは何人いるんだ?」
「三人だ。内二人は此処にはいないがな。……そろそろ、本題に入ろう。私は君に協力して欲しいと思っている」
「協力? 何の?」
「『これ』と……その先にあるものだ」

そう言ってユーゼスは、右手を首元へと向ける。
つまり……ユーゼスの目的は首輪の解除だということか?
その先にあるもの……あの化物? まさか……アイツを倒すつもりじゃ……

126 ◆C0vluWr0so:2007/11/07(水) 23:04:12
「目途は立っている。後はチェックメイトまで持っていけるだけの『駒』を揃えるだけだ」
「だから俺に……駒になれって」
「そういうことだ。しかし、決して無理強いをするつもりはない。君がノーと言うのなら仕方無い」

――選択の余地は無かった。相手の言葉に従わない限り、俺に生きる道は無い。
なのに、何故か分からないけれど、イエスと言えない自分がいた。
このままユーゼスの言うがままに動けば、死ぬことよりも更に恐ろしいことになる。
そんな予感がしたのだ。

「まあいい。無駄に出来るほどではないが、熟考するだけの時間はある。しばらくここで考えているといい。
 私たちと共に生きて帰る道を選ぶのか、それとも……」

ユーゼスはまた嗤う。闇に笑い声が吸い込まれていく。まるで、悪魔が嗤っているような気がした。

 ◆

地下発電所を離れたユーゼスが次に向かったのは基地施設の中でも特に重要な場所。
広大な基地の中でも一際目立つ演習場――そのすぐ近くに存在する『開発部』だ。
基地の端末にはただ『開発部』とだけ記されていたが、演習場が近くにあるということから考えて、おそらくは新装備の設計・開発、及び調整などを任されていた場所だろう。
当然、それなりの施設も備わっているはずだ。或いは、首輪を外せるほどのものが。
だが、このフィールドを用意したのが誰かを考えれば、そこまで楽観的な予想をすることも出来まい。
せいぜい解析の補助が良いところだろう。勿論今の状況からすればそれでも十分すぎるほどの収穫ではあるのだが。

「むしろ一番の収穫は、あの男かもしれんな……」

バーナード=ワイズマン。まだ年若いあの男は、悪くない駒だ。
支給された機体のスペックもあるだろうが、数回の戦闘を経てもまだ生きているというだけで無能ではないということは分かる。
かといって、決して自分の力を過信することなく――むしろ、自分の弱さを知っているからこそ、この殺し合いに乗ることを決めた。
死の恐怖から逃れることを原動力とする人間ほど扱い易いものはない。少し『道』を見せてやるだけで、どうとでも動いてくれる。
その点では、なまじ力を持っているために下らない良識の枷に囚われているベガやカミーユよりも期待できる存在だ。
問題はこのカードを何時使うかだが……まぁいい。まだ『仕込み』も完全ではない。より完璧に御することが出来るまで、ワイズマンは隠しておく。
下手に中尉に見せれば、いらぬ誤解を招くことになる。それもまた一興ではあるが、好手ではない。
次に手を打つべきなのは――『これ』だ。我々の命を握る、物理的な枷。
まずは邪魔な首輪を外す。首輪の構造には、既にアタリをつけている。
予想自体が未知の技術込みであることが癪だが、おそらく大きくは外れていないはずだ。
……それに今の私には、これがある。
ユーゼスは、操縦する手を休め、コクピットを撫で始める。それは、ユーゼスにとっては三機目の機体。
……十分なエネルギーを手に入れ、第二段階へと成長したメディウス・ロクスとAI1。
自己進化の概念を持つプログラムと、それを支える高性能電子頭脳を持つこの機体ならばこの枷を読み解く大きな鍵となってくれるだろう。

「……ここか。思っていたとおりめぼしい物は無いようだが……」

127 ◆C0vluWr0so:2007/11/07(水) 23:05:03
『開発部』に到着したユーゼスは、早速周辺の機器の調査を始める。
AI1がエネルギーを吸収していたために止まっていた基地内部への電源供給も、メディウスの復調と共に復活している。
外部の人間から奇襲される危険性を考え、こちらの居場所を示す照明の類は消したままにしてあったが、内部機器を動かすのに問題は無い。
ユーゼスは次々と基地施設の電源を入れ、その機能を逐一確かめていく。
だが調査の結果は芳しいとは言えない。ただ単に首輪を分解するための器具ならいくらでもあったが、肝心の赤い宝玉の解析に役立ちそうな機械は無かった。
現在の設備で出来るのは宝玉以外の部分――つまり、純粋に機械である箇所の解析だけだ。
しかし。
ユーゼスには、この赤い宝玉を解析する鍵は既に手に入れているという確信があった。
それはB-5で回収した首輪だ。この変質した首輪――おそらくこれが、アインストという未知を解析する最大の手がかりだ。
これを回収してから数時間が経った。
最初に手に入れた時点で、既に通常の首輪とは大きく違う変化を遂げていた。
だが驚くべき事に、時間の経過と共に首輪の変質は更に進んでいる。
この変化が鍵だ。我々の首輪には、時間の経過と共に変質していくという性質は無い。
おそらくこの変化は、首輪を用意したアインストさえ想像していなかった偶然の産物だ。
……だからこそ、あの異形の化物の裏を掻くことが出来る。
首輪の変化を観察し、パターン化することで手の届かない宝玉内部の状態を調べることが出来るはず。
変化の解析はAI1を使う。その性質上、簡易ではあるがメディウスにも解析装置は備わっていた。
自己進化のプログラムの中には、この変化と同様のアルゴリズムを持つものもあるかもしれない。
AI1に同類のプログラムがなければ、変化のパターンを分析させ、作ればいいのだ。
変質の規則性さえ掴めれば、そこから逆算し、通常の首輪についてもコア内部の予測が出来るだろう。
ユーゼスは変質した首輪を、AI1の解析装置にかける。
こちらの首輪に関しては、時間の経過を待つことしかできない。

「半壊した方を分解する前に……ベガと連絡を取るか」

ワイズマンとの接触、解析機器の探索に時間を掛けすぎた。
ベガは基地の警備を続けているはずだが、長時間の単独行動は不要な問題を抱え込む要因になりかねない。
……ベガには、首輪についてある程度説明しておいた方が役に立つかもしれんな。
コア以外にも首輪について幾つか分かっている事柄はある。
ただの人間が気付けることなどたかが知れているが、あらかじめ情報を与えておくことで少しはマシな発見が出来るかもしれない。

(……盗聴の危険性を考えると、視覚的に確認できる形に纏めておいた方が都合が良いな。
 いざとなれば即座に処分出来る紙媒体が適切だろう)

周囲を物色すると、筆記用具はすぐに見つかった。
さらさらと首輪に関する情報を書き進めながら、ローズセラヴィーとの通信。

「……ベガか? 一度合流し、話しておきたいことがある。場所は中尉達と別れたところだ」
『了解しました』

 ◆

ユーゼスからの通信から数分後、ベガは待ち合わせ場所に到着した。
それから遅れること更に数分、ユーゼスも到着。
しかし……ユーゼスの乗機は、ベガの見知らぬ物に変わっている。
どこか禍々しさを感じさせるその姿に、ベガは不安を覚えながらもユーゼスへと通信を入れた。

「ユーゼス、今のところ基地に近づく人間はいませんでした。そちらはどうですか?
 どうやら、機体が変わっているようですが……」
「上々だ。機体に関しては……探索の途中でこの機体を発見した。
 この機体の名は……『ゼスト』だ。どうやら我々の来る前から此処にあったようだ。
 既にパイロットは死亡していたが、この機体には自己再生能力があるらしい。戦闘には問題ない。
 メリクリウスの防御力は魅力だが、この機体の方が総合的に優れている」

128 ◆C0vluWr0so:2007/11/07(水) 23:05:34
ユーゼスの言葉に納得しながらも、どこか受け入れることが出来ない自分がいることにベガは気付く。
あくまで自分たちの乗機は兵器に過ぎない。生きるか死ぬかの瀬戸際で、たかが道具にこだわってはいられない。
それでも、ユーゼスの行動は余りにも合理的すぎる。まるで感情が欠落しているかのように。
中尉の愛機だというアルトアイゼンを乗り捨てたときもそうだ。
自分も反対はしなかったが、機動兵器乗りにとって、自分の愛機とは家族のようなものだ。
あそこに乗り捨てていったことで、中尉との関係の悪化を招いていたかもしれない。
けれど、ユーゼスは他者との関係に全く気を払っていない。カミーユに敵視されようと、まるで他人事のように振る舞っている。

「それともう一つ報告しておくことがある。
 メディウスをチェックしてみたところ、OSに細工の跡があった。
 カミーユには黙っていた方がいいだろうが……カズイの仕業だ」
「――! 彼が、メディウスの乗っ取りを謀ったと? 中尉はそのようなことは言っていませんでしたが……」
「不器用な男だということだ。カミーユとの衝突も避けられただろうに……死者の悪行を自己の正当化の理由には使えない、といったところだろうか」
「……二人が戻ったときに、私の方からそれとなく話してみます。
 カミーユには信じ難いことかもしれませんが……
 それでユーゼス、話したいこととは?」

ようやく話が本題に入り、ユーゼスは機体から降り、ベガにも同様に降りるように促す。
ベガがユーゼスの側まで近づいたところで、ユーゼスはベガに数枚の紙を差し出した。

「これは?」
「黙って見てくれればいい。重要な案件だ」

その紙には、こう書かれていた――

――――――――――――――――――――――――――

盗聴の危険性を考え、口頭ではなく紙を用いて情報を伝える。
おそらく今後も重要な話題に関してはこの形式を使うことになるだろう。
紙を使ったのは緊急時の隠滅のしやすさを考えてのことだ。
いざというときには即座に破棄することを徹底しろ。

今回伝えたいことは、「首輪」に関する情報だ。
私たちが所持している首輪は二つ――それに加え、各自の首の数だけあるわけだが、ここでは無視しよう。
この二つの首輪を回収したことで、私たちは幾つかの情報を得ることが出来た。
参考までにだが、それを基にした私の推論も書いておく。

◆事前にアルフィミィから得た情報
・首輪の爆破条件について
→禁止エリアへの侵入
→首輪を外す行為、及び強い衝撃
→24時間以上死者が出ない

一つ目と三つ目に関してはアルフィミィの言葉をそのまま信じるしかない。
だが、二つ目に関しては違う。基地で回収した、半壊の首輪。
壊れるほどの衝撃を与えたにも関わらず、首輪は爆発していない。
それに加え、あれほどの損傷を受けているため、容易に首から抜け落ちる。
つまり、この首輪は、首輪を外すという禁止行為にも抵触している。

・何故この首輪は爆破されなかったのか?
→首輪には更に複雑な爆破条件がある?
→例えば死亡後は爆破せず?
→明らかに死亡するようなダメージには敢えて反応せず?
 (アインストならば個々人の耐久力も熟知している可能性大)

この問題に関しては私たちが知らない首輪のメカニズムが存在しているはず。
現段階では特定は不可能だが、そのメカニズムを逆手に取れば首輪解除に利用可能?

129 ◆C0vluWr0so:2007/11/07(水) 23:06:07
◆首輪に付いた赤い宝玉
・宝玉の有無で首輪に変化?
→中尉の話から首輪の制御装置の可能性も

中尉の話を聞く限り、この赤い宝玉はアインストの技術によって作られた物。
宝玉の破壊で変質した機体が元に戻るといった事例もある。制御装置の可能性大?
優先して調査の必要有り。

・B-5で回収した首輪
→宝玉があるにもかかわらず通常の首輪とは異なる形状
→制御装置である宝玉が暴走?
→時間の経過と共に形状の変化は続いている

この首輪はイレギュラー的存在? 宝玉の暴走だとしても何らかの外部的要因は存在するはず。
今後の変化によっては爆弾としての機能を停止する可能性有り。変化を逆算することでオリジナルの推測も?

◆首輪解除に関しての今後の方針
・内部の解析と赤い宝玉の機能解明
→半壊した首輪から内部機構を確認可能
→変質済み首輪の変化次第で宝玉の機能解明?

――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――――

◆アインストの目的と今後の我々の行動方針
・アインストの目的は?
→過去のそれと変わっていないのなら人間という種の観察?
→人間という種の抹殺を目的にするには非効率過ぎる

観察というなら首輪が適任ではある。首輪から生体情報を取得しているのなら、それが首輪爆破の条件に関与の可能性も。
たかだか数十人を殺すだけならばこのような大がかりな舞台を用意する必要も無い。
異なる世界から人間を集めたのは多様性の確保のためか?

・我々の最終目的
→可能ならばアインストの打倒。最低でも脱出
→出来る限り多くの人間を救出

・脱出について
→四方を囲まれた空間(調査の必要有り)
→脱出しても再び連れ戻される可能性(やはり打倒は必須か?)

まずは首輪の解除と同時進行で同士を集める必要有り。
出来れば首輪の解除、この空間の調査、殺人者の撃退、他者の保護を複数のグループで分担。
この殺人ゲームに乗った人間に対抗するための戦力は必須。

・今後の方針
→重要な拠点である基地を守りながら他者と接触
→ある程度の人数が揃った時点で複数のグループに分け各自で行動

――――――――――――――――――――――――――

「まだ足りない部分はあるが、今後の指標にはなるはずだ」
「さすがですね、ユーゼス! 何時の間にここまで考えてたのかしら」
「それはあくまで予想であり、決して真実ではない。重要なのはその場その場での判断だということを忘れてもらっては困る」
「ええ、分かっています。ですが……これは私たちの希望となりうるものです」

130 ◆C0vluWr0so:2007/11/07(水) 23:06:37
ユーゼスを真っ直ぐ見つめ、大きく頷くベガ。彼女は考える。
……彼は確かに誤解されやすい。けれど、その願いは……生きて帰ろうとする意志は同じなんだと。
彼の無神経な振る舞いが仲間との衝突を招くかもしれないが、そこは自分が上手くフォローしなければならない。
それが仲間としてしなければいけないことだ。ユーゼスも私たちの仲間なのだから。
そして彼女は確信する。
……ユーゼスがいれば、必ず生きて帰れる。
我が子のことを、思う。帰らなければいけない。死ぬわけにはいかない。
今の彼女にとって……ユーゼスは、まさに『道』に見えた。


【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス(スーパーロボット大戦MX)
 パイロット状態:良好
 機体状態:第二形態へ移行完了 良好
 現在位置:G-6基地
 第一行動方針:半壊した首輪の解析
 第二行動方針:AI1の育成、バーニィへの『仕込み』
 第三行動方針:首輪の解除
 第四行動方針:サイバスターとの接触
 第五行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
 最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る
 備考1:アインストに関する情報を手に入れました
 備考2:首輪を手に入れました(DG細胞感染済み)
 備考3:首輪の残骸を手に入れました(六割程度)】

【ベガ 搭乗機体:月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー)
 パイロット状態:良好(ユーゼスを信頼)
 機体状態:良好
 現在位置:G-6基地
 第一行動方針:G-6基地の警護
 第二行動方針:首輪の解析
 第三行動方針:マサキの捜索
 第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
 最終行動方針:仲間を集めてゲームから脱出
 備考1:月の子は必要に迫られるまで使用しません
 備考2:ユーゼスの機体を、『ゼスト』という名の見知らぬ機体だと思っています
 備考3:ユーゼスのメモを持っています】

【バーナード・ワイズマン(機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争)
 搭乗機体:なし
 パイロット状況:頭部に軽い傷(応急処置済み)、後ろ手で柱に縛りつけられている
 現在位置:G-6基地地下発電所
 機体状態:
 第一行動方針:ユーゼスに協力するのか選択
 最終行動方針:生き残る】

【メリクリウス(新機動戦記ガンダムW)
 機体状況:良好
 現在位置:G-6基地内部】

【二日目3:30】

131 ◆pqQ1ngVOkg:2007/11/23(金) 16:27:19
「違う……俺は……俺は……」

戦争に参加させられていたとは言え、統夜には戦う為の決意も覚悟も無かった。
ただ、彼の陥った状況が戦う以外の選択肢を許さなかっただけ

故に自ら誰かを殺すという、この状況においてはある意味当然とも
言えるすら行為すら、正視できなかった。

だが、思う。本当にそれでいいのか と
結局、どう足掻こうが殺し合いは避けられる筈が無いのだ。
考えてもみろ。もし、先程の相手の救助が間に合っていたとしよう。その後どうなっていた?

殺そうとしたけどやっぱり辞めたから許して欲しい

と、言外に言われて許すような人間がいるか?
少なくとも自分にはそんな相手を信用する事などできない。

ならばこそ、殺すと決めた瞬間に、遅くとも目の前の相手を切り裂いたその時に、
その決意を後悔しないだけの強さを持つべきだったのだ。

「そうだ……認めるんだ紫雲統夜……もう残された道なんて1つしか無い……」

迷っている

殺したくない

全て偽善だ。ただ、自分の手を汚すのが嫌だっただけ。
本当に死にたくないのならそんな弱さからまず捨てるべきだった。

生き残る為に必要だった決意から目を背けていた少年の心が、再構築されていく。




与えられた薬を一錠飲み込む。すると、ラピスのサポートを受けた時と同じ程度の感覚が戻ってきた。

ゲームの舞台に舞い戻ったアキトの目に映ったのは、
1機の青い機体と、恐らくそれによって破壊されたであろう残骸だった。

誰であろうと、ユリカの為に殺して殺して殺し尽くすと覚悟を決めた彼にとって、
どんな状況でも関係無い。むしろ、1機で突っ立っているような迂闊な相手が最初の敵で
ある幸運に感謝するぐらいだった。

(20分……いや、25分経ったら安全な場所まで全力で避難する)

だが、その時間を少したりとも無駄にはできない。
殺せるだけ殺さねばならない。他の参加者に比べ、自分に残された時間は余りにも少なすぎる。

132 ◆pqQ1ngVOkg:2007/11/23(金) 16:28:07
唐突なレーダーの反応に統夜は我に返る。

「反応?!何時の間にこんな距離まで……」

その機体は、沸いてくるようにして現れた。
ヴァイサーガを動かし、対応しようとするが少し遅かった。

「遅い……!」

最大加速の突進をまともに受けたヴァイサーガは
落下を始める。アルトアイゼンはそのまま落下するヴァイサーガへ向けて3連マシンキャノンを発射。

「このっ……好き勝手にさせるかよ!!」

だが、ヴァイサーガのシールドが展開され、弾幕を防ぎきった。
しかし、アルトアイゼンの攻めはまだ終わらない。マシンキャノンを撃ち終えると同時に、
アルトアイゼンはヴァイサーガへ向けて更に突進。ヒートホーンで頭部を切り裂こうとするが、
今度は回避を間に合わせたヴァイサーガのシールドを一部切り裂く程度に留まる。

「いい加減にしろおおお!!」

ヴァイサーガの反撃が始まった。右手を鞘に納まった剣に添え、相手へ向けて抜き打つ事により、
この機体の武器の1つである、地斬疾空刀が発動。エネルギーの刃が、アルトアイゼンへと向かって牙を剥いた。

アルトアイゼンは強引過ぎる動きで軌道を変え、刃をかわす。

「まだ終わらないぞ!!」

アルトアイゼンの回避動作終了の隙に、左手に持たせた4本の手裏剣を投擲する。
再び無理な加速で回避を試みたアキトだったが、全てをかわしきる事はできず、
1本が胸部に直撃した。だが、アルトの装甲を抜くにはそれは少しばかり威力が足りなかった。

「クソッ……何なんだよあいつは?!」

相手はかなり装甲の厚い機体のようだ。
だが、反撃が無い事、先ほどまでの攻撃を見るに、接近戦に特化した機体であるように
見受けられる。距離を維持して戦えば有利になるかも知れないが、
ヴァイサーガの武装もどちらかと言えば接近戦寄りになっている上、中、遠距離用の
武装はあの敵に対しては力不足と言わざるを得ない。


「やるしかないってんなら……やってやるさ!」

再び右手に剣を握り、距離を取る。
狙うは、先ほどラーゼフォンを葬った一撃。ヴァイサーガの切り札である奥義・光刃閃

「抜き打ちか……来い」

アキトもまた、それを迎え撃たんと右手のステークを構える。

133 ◆pqQ1ngVOkg:2007/11/23(金) 16:29:10
そして、その姿を見て統夜は勝利を確信した。

確かに相手の機体の突進力は凄いし、装甲の厚さも厄介だ。
しかし、自分の機体の剣と、敵の右手に備えられた杭打ち機を比べれば、どちらが有利かは
言うまでもない。それに、幾ら装甲が厚いと言えど、あれが直撃して耐えられるとは思えない。

脳裏に先程自分が殺した相手の惨状が浮かんだが、統夜はそれを振り切る

(考えるな。今余計な事に気を取られたら自分がああなるんだ!!
それにもう決めた筈だ。この手で誰かを殺しても後悔なんてしないって!)

自分の身に降りかかったリアルな死への恐怖が、最後の迷いを捨てさせ、心を鋼へと変えて行く。


「俺は……こんな所で死んでたまるかああああ!!」

瞬間、ヴァイサーガはアルトアイゼンを最強最速の一撃で両断すべく加速する。


目の前に迫る死を、アキトは静かなる殺意を以って見据える。

「確かに、このまま正面からやりあえば俺に勝ち目は無いようだ」

右手の構えを解く

「だが、俺にそんな気は無い……」

アルトアイゼンの肩部アーマーが開く。それは、罠にかかった獲物を待ち受ける肉食動物の顎と同義。


瞬間、統夜の背筋に悪寒が走った。統夜は直感に従って、右手に剣を握らせたまま、左手でシールドを展開、
更に、軌道を逸らそうと試みる。

そして、アルトアイゼンの肩部アーマーから無数のクレイモアがヴァイサーガを食らい尽くさんと吐き出された。
至近距離からまともにこの武器を食らって無事でいられる機体などそうそういる筈もない。

「あれをかわすか」

だが、ヴァイサーガはまだ落ちていなかった。

軌道を完全に逸らすのが無理だと判断した統夜は、せめて被害を最小限にすべく、アルトアイゼンの左側、
つまりヴァイサーガの右手側に抜けるように機体を加速させた。
統夜は賭けに勝利し、ヴァイサーガもまだ動ける。だが、無傷で抜けられるような甘い弾幕ではなかった。
シールドはボロボロになり、左手は完全に破壊された。頭部の角も一部が砕けている。

134 ◆pqQ1ngVOkg:2007/11/23(金) 16:29:53
「ならば、今度はこちらから仕掛けるまでだ」

手負いのヴァイサーガにトドメを刺すべく、ステークを構え、アルトアイゼンが突撃する。

だが、劣勢を理解した統夜の判断は潔い物だった。アルトアイゼンに見向きもせず、
最大加速で湖の方へ飛び、長時間の飛行が不可能であるアルトアイゼンを突き放して逃げて行ったのだ。

「……逃げられたか」

時間を無駄にしてしまったが、それなりの手応えもあった。
自分の新しい機体は色々な部分がかなり偏ってはいるが、悪い機体では無いらしい。

そして考える。次はどう動くか。

「残りは25分程度……敵を探すべきだな」

限られた時間を無駄にしない為に、アキトは再び行動を開始する。

「まずは南へ行くか」

絶対の殺意を込めた蒼き鋼が、獲物を求め動き始めた。



【テンカワ・アキト 搭乗機体:アルトアイゼン(スーパーロボット大戦IMPACT)
 パイロット状態:マーダー化 心身共に良好
 機体状態:胸部に軽度の損傷。3連マシンキャノン2発消費、スクエアクレイモア1発消費
 現在位置:G-8
 第一行動方針:薬が切れる前に敵を探し出して殺す
 第二行動方針:タイムリミット前に安全な場所へ移動(薬の使用後、25分から避難開始)
 最終行動方針:ユリカを生き返らせる
 備考:・首輪の爆破条件に“ボソンジャンプの使用”が追加。
    ・謎の薬を一錠使用。効果の残り時間は25分。

135 ◆pqQ1ngVOkg:2007/11/23(金) 16:30:32
敵の追撃が無い事、周囲に機影が無い事を確認し、ようやく統夜は一息付けた。

「もう少しで俺は……」

思い出すだけで身体中の震えが止まらない。
もし、あのまま突っ込んでいれば、自分はとっくに死んでいた。

機体の損傷も馬鹿にできない。シールドはもはやその役目を果たす事は無い
だろうし、左手に至っては完全に動かない。

だが、これで吹っ切れた。高い授業料を払う羽目にはなってしまったが、
ようやく自分の中に燻っていた迷いと訣別する事ができたのだ。

そう、死にたくないのは誰だって一緒だ。
だから、自分の為に他人を殺そうとするのはこの状況においては何も間違って無い。

でなければ自分が死ぬだけ。

「考えろ、考えるんだ。どうすれば生き延びられるか。こんな所で死ぬなんて真っ平御免だ」

統夜の思考は、優勝にのみ向けられて行く。一瞬、まだ生きている、そして死んでしまった
顔見知りの姿が脳裏をよぎったが、あっさりとそれを切り捨てる。

「無駄な事は考えるな……どうせ俺が生き延びるには全員殺さなくちゃいけないんだ。
そうさ……戦争に巻き込まれたのも、こんな状況になったのも全部あいつ等の所為だろう」

何度も考えていた。あの日、あの3人と出会わなければ、
自分はこんな場所にいなくても良かったのではないか と。
戦争に巻き込まれなければ、一般人として普通に生きるか、
運悪く戦争に巻きこれて死ぬか。そんな人生で終わった筈なのだ。
少なくとも、どちらであれこんな狂った殺し合いに巻き込まれるよりは
遥かにマシな人生だった筈。

だからこそ、決意する。絶対に生き延びてやる と。

少年を縛る心の鎖は全て解け、残ったのは生への渇望と、
自分をこのような場所へ追い込んだ全てに対する怒りだけだった。


【紫雲統夜 搭乗機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:覚悟完了
 機体状態:左手使用不能、シールド使用不能、頭部の角の一部紛失、若干のEN消費。烈火刃1発消費。
 現在位置:A-7
 第一行動方針:優勝する為の方法を考える
 最終行動方針:優勝と生還】


【二日目3:00】

136 ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 21:53:21
予想通りさるさん引っかかったので続きをこちらに本スレ>>372の続きです。
まだ半分にも達してない……orz

137 ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 21:53:58
「ラキが……ラキがいるんだよね」

胸を張って生きていけるのかは分からない。でも、今逃げ出したら一生悔いて生きていくのだろうという予感はあった。
少なくともここで逃げてしまえば二度とジョシュアに顔向けは出来ないだろう。シャアにもだ。

(でも……でも……ブレン、私はどうしたらいい?)

お前は行かないのか、と耳元がざわめく。引け目を、負い目を感じながら生きていくのなんて真っ平ごめんだ、と何かが囁く。
それでも足は前に出ない。どうしようもなく怖いのだ。もう一度ギンガナムとの交戦を考えただけで膝が笑い、腰が砕け、足が退ける。
行きたい思いと逃げたい思いが交錯し、アイビスはその場から動くことは出来なかった。

 ◆

蒼と白の巨人が踊っている。
突き出した斬撃が防ぎ、捌かれ、かわされる。
迫る拳を受け止め、受け流し、やり過ごす。
目まぐるしく入れ替わる攻防は一つの流れとなり、流れは次の流れへと滑らかに変化していく。
そんな攻防の中、奇妙な心地よさが全身を包んでいた。
ブレンバーをなんでもなくかわしたシャイニングガンダムの双眸が閃く。
さあ、来い。
お前の番だ。
重心の動きが見える。
体重が左足に移り、右足が僅かに浮く。
その動作をフェイントに、突然撃ち出される頭部のバルカン。
それをすり抜ける様にかわす。
音が消え。
色が消え。
五感が遠くなる。
やがて体も消えた。
何もない空間に残された意識だけが。
飛び。
交わり。
火花を散らす。
エッジを立てる。
刃先が一瞬輝く。
踏み込み、剣を振るう。
手ごたえはない。
そのことに心が湧き踊る。
馳せ違い、反転。
正対し、トリガーを引く。
極小距離からの射撃。
かわせ。
生きていろ。
もう一度、刃を交えよう。
飛び退く。
距離を取る。
体中の体重を足に乗せ。
もう一度、踏み込む。
相手も重心を足に。
そして、バネの様に前へ。
いいぞ、速い。
さあ、もう一度。
交錯する意識と意識。
剣と拳が擦れ違う。
掠ったか。
凄い。

138Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 21:57:40
 いい動きだ。
 楽しい。
 しかし、何だ?
 少し遅れた。
 何故だ?
 遅い。
 重い。
 どうした?
 どういうことだ?
 この不自由さは。
 このズレは。
 それに、声が。
 ――ラキ。
 男の声が。
 ――ラキ。
 聞きなれた声が間近に。
 ――ラキ、そっちじゃない。
 誰……ジョシュア?
 不意に長く暗いトンネルを抜けたかのようなに色鮮やかな景色が周囲を埋め尽くした。
 それに気を取られる間もなく、眼前に迫った豪腕の対応に追われて、咄嗟に身をよじる。
 装甲の表面で火花が散ったかと思ったときにはもう蹴飛ばされて、1km先の地面を転がっていた。
 何という速さだ。
 こんな相手と今まで五分に渡り合っていたというのが信じられなかった。
 口の中を切ったのか血の味に気づき、五感が体に戻ってきたということを自覚する。
 戻ってこられたのはあの空間に介在していた二つの意思のおかげ。
 胸をギュッと掴む。消えたと思っていたジョシュアの心ともう一つ。
 ただの機械ではなく生きている機械、感じたズレの正体――ネリー・ブレンの意思。

(ブレン、ありがとう)
(……)

 視線の先で急に不調を起こしたこちらをいぶかしみ、待っている相手の姿があった。
 その姿は語っている。『もっと戦おう』、『もっと殺しあおう』と。

「ん?」
(……)
「大丈夫。もうそっちには引き込まれない」

 ――そう。ジョシュアの心の頑張りを決して無駄にはしない!

 ◆

 未だ暗い大地に重い足跡を残し、脚部に損傷を抱えたままのラーズアングリフは移動を続けていた。スナイパーであるクルツの頭にラキとギンガナムの接近戦に割り込むという選択肢はない。
 移動の足を止めずに周囲に目まぐるしく視線を走らせ彼が探すのは、周囲でもっとも見晴らしがいいと思われるポイント。
 コンクリートに覆われ、ビルに埋め作られた市街地と言えど、元の地形を考えれば若干の高低差は存在する。その僅かに小高い丘一つ一つに厳しいチェックの目を向ける。
 しかし、廃墟と化しているとはいえ、立ち並ぶビルは高く数も多い。高いところに高いものを建てるというのは、都市景観の一つの考え方なのだ。
 絶好の狙撃ポイントといえる場所など見つかりはしない。それでも幾分マシな丘を見つけ、目を付けた。
 周囲に気を配り、極めて慎重に、静かに、そして素早くビルの谷間を突き抜ける。坂を登りきったクルツの視界が開け、ラキとギンガナムが切り結ぶ戦場が映し出された。

「ここなら、いけるか……?」

 戦場の全て見渡せるという状態には程遠い。だがそれでもやるしかない。
 地に伏せ、短銃に輪切りのレンコンを思わせる回転砲頭をつけたようななりのリニアミサイルランチャーを構える。
 掌中の弾は僅かに二発。だがそれでいいとクルツは一人ごちた。
 狙撃の前提条件は相手方に悟られないこと。その観点から見るとこの機体は少々派手過ぎる。一度発砲すればまず間違いなく見つかるだろう。
 つまり二度目はなく、多くの弾はこの場合必要ない。問題はそれよりも狙撃にはおよそ向かないと思われる火器のほうにある。
 近中距離用の小型ミサイル。噴射剤の航続距離には不安が残り、レーダー類が軒並み不調な以上、誘導装置もどこまで信頼できるかわからない。精度に問題が出てくる可能性が高いのだ。

「どうしたもんかねぇ、こりゃぁ……。でも、まぁ、大見得切っちまった以上やるしかねぇか」

139Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 21:59:56
 頼れるのは最大望遠にした光学センサーと両の目のみ。
 なんだかんだ言ってもやることに変わりはない。出来るだけ正確に目標を狙い撃つ、ただそれのみ。
 機体を地面に伏せさせると、目を細め、小指の先ほどにしか見えない飛び交う二機の挙動をクルツは穴が開くほど見つめた。
 瞬きはしない。ただじっと動きを止めて来るべきときを待つ。
 睨んだ視線の向うで七色に輝くチャクラ光と蒼白いブースターが、蛍のように大きく、小さく尾を引きながら明滅する。
 突然、不調が起こったのかネリー・ブレンの動きが鈍る姿が見えた。そして見る間に押し切られ蹴り飛ばされる。
 距離にして約1km。両者の間が開く。それを視認した瞬間には既にトリガーを引いていた。
 煙の帯を引いたミサイルが銃身から飛び出していく。そして、カサカサに乾いた唇に舌を這わせ、もう一発。
 弾装はこれでもぬけの空。だが、とりあえずの人事は尽くした。後は運を天に任せるのみ。
 常識に従い速やかに射撃地点から離脱を始めたクルツの耳に、爆発の轟音が届いた。だが、噴射炎越しに直前で身を翻すのが見えた。案の定、爆煙の右上を裂いて敵機が現れる。
 その様にクルツはにやりと笑った。

「予想通りだ! 往生しやがれ!!」

 グッと親指を立てて突き出した右手を下へ返す。二発目はギンガナムに向かって猛進している。
 気づいた敵機が姿勢制御用のスラスターを噴かし、慌てて左へ大きく流れた機体の勢いを殺す。
 無駄だ、とクルツは一人毒気づく。場は空中、足場のないそこでは勢いは殺しきれない。ジャマーか、あるいはSF染みたバリア装置でも持っていない限り直撃は避けられない。
 それがクルツの下した結論だったが、直ぐにそれは破られ驚くこととなった。
 ギンガナムがブンッと音を立ててピンクの光刃を腰から引き抜く。そして一切の躊躇もなしにそれをミサイルに投げつけたのだ。
 結果、直撃前にミサイルが爆発し、呆気に取られて動きを止めたクルツはギンガナムと視線がかち合うこととなる。

「やべっ!!」

 息をつく間もなくギンガナムが反撃に転じた。左腕から無数の光軸が殺到する。一制射につき二筋の光軸。

「くそっ! 良い腕してやがる!!」

 三制射かわしたところで体勢を崩し、四制射目がラーズアングリフの右膝間接を砕く。そして五制射目、コックピットへの直撃を覚悟した。
 その直撃の刹那、異音と共に何かが視界に割り込む。眼前で七色に輝く障壁とピンクの光軸が火花を散らし、残響を残して消えていった。
 両の手を大きく広げて身を挺して庇うように立ちふさがる機体を見上げ、クルツは抑えきれない笑いを噛み殺す。

「ようやくおいでなさって下さったわけだ」

 見知った顔が一つ、モニターに映し出されている。赤毛に黒のメッシュの少女、アイビス=ダグラスだ。

「待たせてごめん。ここからは私も戦う」
「悪いな。こっちは弾切れ。ここらでギブアップだ。で、大丈夫か?」

 おちゃらけた態度で両手を挙げてお手上げをアピール。そこから一転して真面目な顔つきに変わったクルツが言う。
 それにアイビスはモニターに向かって右手を掲げて見せつつ答えを返してきた。

「大丈夫じゃないよ。怖いし……ほら、手だってまだ震えてる。でも、ブレンがあの蒼いブレンを助けたがってるんだ。それに――」
「それに?」
「あたしもここで逃げたらジョシュアに顔向けが出来ない。 
 あんたが言うように胸を張って生きていくことが出来なくなる」

 目を見、おっかなびっくりではあれど吹っ切れたようだな、と推察したクルツはクッと笑い、言葉を返す。
 少なくとも、ただのやけっぱちでぶつかって行こうという心構えではないらしい。

「ない胸して、言うねぇ! 上等だ!!」
「一言余計だ!!」
「ハハ……怒るなよ。褒めてるんだぜ、これでも。
 アイビス、モニターをこっちに回せ。俺がサポートをしてやる。思いっきり暴れてこい!」
「モニターを?」
「ああ! 敵機の行動予測と弾道計算、その他もろもろ全部任せろ」
「ナビゲーションの経験は?」
「ないっ!」
「えぇ〜、無茶だって!!」

140Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:01:58
 砕けた口調で返してきた言葉に、固さは取れたな、とにっと笑う。
 軽口というのは固くなって縮こまっている新米兵士に普段の自分を取り戻させてやるのに有効なのだ。それで随分と生存率が変わってくる。

「そいつは実際にやってみてから言う言葉だな。やってみもしねぇうちからする言葉じゃねぇ。少なくともないよりマシだろ? それに怪しければ無視してくれて構わねぇ」
「そりゃ……まぁ……」
「なら決まりだ! 俺とお前、二人で……いや、ラキも合わせて三人で奴に一泡吹かせてやろうぜっ!!」
「わかった。やるよ、ブレン!!」

 威勢良く啖呵を切ったクルツに、一度目を丸くしたアイビスが目つきを変え、顔つきを変え、答える。
 その姿を見たクルツは、いじけにいじけて一周したら良い顔になったじゃないか、と一人ごちた。

 ◆

 突然の爆発にラキの挙動は遅れ、一時的にギンガナムを見失っていた。
 爆発の余波か電磁波が入り乱れてレーダーの効きがとんでもなく悪い。視界も立ち込めた薄煙でフィルターをかけられていた。
 そして、二度目の爆発が起こる。
 耳を劈く轟音と眩い閃光。遅れてやってきた空気の壁が薄煙を吹き飛ばす。
 咄嗟に目を向けたその先に、左腕から投げナイフを投げるように光軸を飛ばすギンガナムの姿があった。
 視線誘導に引っかかったように、光軸が殺到する先に自然と目が向く。

「あれは……ブレンパワード? ……っ!!」

 クルツのラーズアングリフと白桃色のブレンパワードをラキが視界に納めるのと、ギンガナムが大地を踏み鳴らし進撃を開始したのはほぼ同時だった。
 咄嗟に視線を戻す。またしても出遅れた。
 猛然と突撃を試みるギンガナムに対し、初動の遅れたラキは間に割ってはいることが出来ない。間に合わない。
 が、それはあくまでラキに関してだけのことであった。
 ラキよりも素早く反応を起こしたネリー・ブレンが跳ぶ。バイタルグローブの流れは一切合財の距離をふいにして、ネリー・ブレンをギンガナムの真正面へと誘う。
 ジャッという鋭い反響音。
 咄嗟に掲げられたアームプロテクターと唐竹割りに振り下ろされた刀剣の間で、火花が奔る。

「ブレン、弾け! 押し合うな!!」

 緊と乾いた音を残して、ブレンが飛び退いた。
 格闘戦の為に造られたシャイニングガンダムとブレンパワードでは、人で言うところの腕力・筋力がまるで違っている。
 だからこそ押し合わずに弾く。単純な力比べでは敵うはずもない。
 ならどうすればいい? こんなときにジョシュアならどう戦う?
 思案を巡らせる。巡らせるうちに再び身の内で疼き始めたモノを感じ取り、思わず手に力を込めた。両の手はネリー・ブレンの内壁にバンザイに近い形で添えている。
 そこはほんのりと暖かい。その感触を肌から感じ取り、ラキはホッと息をつく。
 大丈夫。感覚は戻っている。
 目も見える。耳も聞こえる。鼻も利くし、ブレンを感じることも出来る。大丈夫。まだ大丈夫だ。
 そう何度も自分に思い聞かせた。そしてそこに意識を割かれ過ぎた。
 風切り音を残して銃弾が飛来する。それはシャイニングガンダムの頭部に誂られたバルカンの弾。
 意識を自分の内側に向けていたのに加えて、光を発するビームとは違い闇に紛れる実弾。視認のしにくさの分だけ反応が遅れた。
 回避は間に合わない。だが、この程度の弾ならチャクラシールドで弾ける。
 そう思い、チャクラシールドを張る瞬間、スッと右方向に回り込むうっすらと白くぼやけた帯が目を掠めた。
 しまったっ!
 チャクラシールドが展開する。七色に揺れ、輝くチャクラの波に視界が遮られる。透明度の高いチャクラ光ではあるが、その輝度は高い。そして、今は夜。目標を見失う。
 バルカンを弾き終わり視界が開けたとき、それは頭上に回りこんでいた。

 右方向に注意を払っていたラキは完全に意表を衝かれた形となる。上方から勢い良く突っ込んできたギンガナムに対して、ブレンバーで受けるのが精一杯の反応だった。
 だが、真正面から受け止めすぎた。上方からの押しつぶすような巨大な圧力。受け流せない。弾き、飛び退くにしても大地が邪魔になる。

「ブレン、耐えてくれ」

 耐える。それが唯一残された選択肢。
 足場の舗装道路が砕け、アスファルトの破片が舞い上がる。嫌な音を立ててブレンバーの刀身に皹が走る。
 そして、次の瞬間――圧力は消え去った。一条の閃光が眼前を掠め飛び、その対応に追われたギンガナムの機体の姿が遠くなる。
 クルツか。そう思った耳に飛び込んできたのは、まったく聞き覚えのない声だった。

141Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:03:23
「ラキ、これからあんたを援護する」
「お前……は?」

 思わずキョトンと呆けたような呆気に取られたような顔になって、ラキは呟いた。突然、モニターの隅に赤毛の少女の顔が映し出されたのだ。

「アイビス=ダグラス。ラキ……あんたを探してた」
「アイ……ビス?」
「うん。あんたに伝えなきゃならないことがある。ジョシュアは……」
「知っている。ジョシュアはお前を守って死んでいった……」

 アイビスの言を遮って、ジョシュアの死を口にする。その言葉にモニター越しの顔は俯いて押し黙った。
 アイビス=ダグラス、そう名乗る少女の顔を見、ラキは話しかける。

「アイビス、私もお前を探していた。今会えてよかった。そう思える」
「えっ!?」

 その声にパッと伏せていたアイビスの顔が上がった。戸惑い表情がそこには浮かんでいる。
 微笑みを返す。意図した笑みではなかった。自然と口元が綻んだのだ。
 『今』会えてよかった。本当にそう思える。
 今ならまだいつもの私のままでいられる。でも二時間後三時間後は分からない。
 次の放送を迎えたとき、いつもの自分でいられるという保証はどこにもなかった。
 瞼を閉じ、ブレンの内壁に触れる両の手に神経を集中させる。
 ほんのりと暖かい。気持ちを落ち着かせ、心を穏やかにさせる暖かさだ。
 大丈夫。今の私はいつもの私だ。

「ラキ」

 呼ばれて、もう一度アイビスに視線を戻した。そこには戸惑いの色はもうない。
 あるのは一つの決意だけ、それが言葉となって飛んで来る。

「ジョシュアの弔い合戦だ。あいつを、ギンガナムを倒すよ!」

 あいつにジョシュアは殺されたのか、と思った次の瞬間、ジョシュアはそれを望むのだろうか、とふと疑問が頭をもたげた。
 あの時、ジョシュアはギンガナムの名を出すことはしなかったのだ。

「二人で楽しくやってるところ悪いがな。そろそろ奴さん仕掛けてきそうだぜ」

 どちらにしても戦わないわけにはいかないだろう。二体のブレンはともかく、クルツのラーズアングリフは損傷が大きそうだ。逃げ切れるとはとても思えない。
 思いなおし、ラキはギンガナムを睨みつける。
 それにジョシュアがどう思おうと、仇は仇なのだ。ジョシュアを殺した者が生きている。それはやはり納得がいかない。許せないのだ。逃げるという選択肢は今はない。

「ああ、ジョシュアの仇討ちだ!!」

 ◆

 素早く、それでいて非常に巧緻に長けた剣閃が迫って来る。受け止め、受け流す。数合切り結ぶ。そして引き際に小さく、それでいて鋭く剣を振るった。空を斬る感触に臍を噛む。
 再び距離を開けての対峙。長く細い息を吐く。
 手ごわい。少なくとも刃物の扱いに関してはギンガナムを上回り、自身と拮抗していると言っていい。さらに、その妙を得た動きには目を見張るものもある。
 黒い機体の後方のただ一点だけを睨みつけ、剣を構える。ギンガナムと他の二機が戦闘を繰り広げている場所だった。そこだけを見ている。目的は一つだった。
 この黒い機体を避わし、その場へ急行する。
 然る後、ギンガナムにこの機体の相手をさせ、他の二人を説き伏せる。それが最善手。
 下手にここで戦闘を繰り広げても意味はない。まして、ラプラスコンピューターが破損するようなことがあれば、それは致命的だ。それだけは避けねばならない。
 その上で、ギンガナムとあの二人の溝が修復不能になる前に舞い戻らなければならない。それが課せられた課題だった。

「難儀な話だな……」
「あん? 何がだ?」
「いや、なんでもない」

142Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:05:52
 黒い機体の膂力はギンガナムの機体とほぼ互角。速力と大きさもだ。外見的にも似通っている。恐らくはこれもガンダムと呼称される機体なのだろう。
 力では相手、素早さでは自分ということになる。
 全く肝心なときにいない男だ。このような相手こそギンガナムにうってつけであり、黒歴史とやらの知識も役立つというものだというのに。それを生かすには目の前の男を突破する他ない。
 隙は見えない。それでも突破せねばならない。それも速やかに、被害なくだ。心気を澄ませる。掌に刃の重さを感じ、そして、ブンドルは一陣の風となって駆けた。

「悪いが押し通らせて頂く」
「させねぇよ」

 ◆

 廃れ、荒れ果てた廃墟で閃光が瞬き、光軸が飛び交う。音響がさらなく音響を導き、廃墟に似つかわしくない喧騒が辺りを支配している。
 白桃と浅葱、二色のブレンパワードが織り成す連携を受け、ギンガナムは劣勢を強いられていた。
 蒼い機体が視界から消える。ゾクリとしたモノを感じて、振り向き際に左拳を振るった。
 頑強な金属音が響き、真っ向から接触する拳を剣。
 蒼いほうが動きを変えていた。
 それまでの自機の非力さを悟り、単純な押し合いには決して持ち込ませまいとする態度から、真っ向から力勝負を挑むような我武者羅さに変わっている。
 二機の足が止まる。押し合い圧し合いの純粋な力勝負。ならばギンガナムに負ける道理はない。
 押し切れる。そう思ったその瞬間、白桃色の機体に割って入られ、あえなく距離を取る。

「ちっ!」

 蒼い機体がギンガナムを一点に押し留め、足が止まるその隙を白桃色の機体が衝いて来る。
 それが相対する二機の基本戦術だった。
 まったくもってうっとおしい。決め手の放てぬ戦いというのはストレスが溜まるものだ。
 だが、ギンガナムは笑っていた。
 こういう戦い方もあるのか、という好奇の心が疼いていた。これは一対一では知りえぬ戦い方なのだ。
 愉快だった。こみ上げてくる感情を抑えることが出来ない。今、確実に生きていると実感できる。そのことが堪えようもなく愉快だった。
 ギム=ギンガナムは、月の民ムーンレイスの武を司り、勇武を重んじるギンガナム家の跡を継ぐべき存在として生れ落ちてきた。
 それを当然のように受け入れ幼少の頃から鍛錬に勤めてきたギムの誇りは、しかし158年前の環境調査旅行を境に裏切られることとなる。
 月に帰還したディアナ=ソレルに軍を前面に押し立てた帰還作戦を主張したギムの父の言がディアナの一言の元に退けられたのだ。
 同時に『問題の解決に武力を使うことしか思いつかない者は、過去、自らの手で大地を死滅させた旧人類の尻尾である』と言葉を被せられ、ギンガナム家は軍を没収された。
 以後、自害した父に代わりギンガナム家を統治することとなったギムであったが、そこには望んだものは微塵も残されておらず、虚しさだけが胸の内を占めていた。
 そして、120年前、30代の終わりに差しかかったとき、ギンガナムの鬱屈が限界に達することとなる。離散していた旧臣を集め、クーデターを企てたのだ。
 だが、事を起こした末路に待っていたのは無残な敗北だった。結果、形だけの裁判の末、永久凍結の刑に処され、120年の眠りに付くこととなる。
 つまり押し込められ、追いやられ、爆発するも報われず、死んだように過ごしてきたのが彼の半生であった。
 しかしだ。彼はここに来て生を実感していた。
 幼い頃に夢見た乱世がここにある。血湧き肉踊る戦いがここにはある。心憧れた、絵巻物の中の存在に過ぎなかった黒歴史の英霊達がここには存在する。
 そして、なによりも今自分は闘っている。闘っているのだ。これほど嬉しいことがあるか。
 生まれて初めて、生が実感できる。生きていると思える。幼少の頃に望んだ自分が今ここには存在しているのだ。
 だからこそギンガナムはこみ上げてくる歓喜の声を抑えることが出来なった。
 気持ちが高ぶる。すべてがよく見える。体に力が漲っているのが実感できた。
 そして、それに呼応するかのようにシャイニングガンダムの出力が上昇していく。
 想いを力に変えるシステム。まったく良く出来た相棒だ、と一人感心する。
 相手は二機。蒼が動きを押し留め白桃が隙を衝いて来るのならば、白桃から先に始末するだけのこと。そう思い定める。
 蒼が消える。それを合図にギンガナムは猛然と突撃を開始した。

「芸がないな。マニュアル通りにやっていますというのは、アホの言うことだ! このギム=ギンガナムにぃ、同じ手がそういつまでも通用するものかよぉっ!!」

143Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:07:10

 ◇

 突然、弾丸のように突撃を開始したギンガナムを見てアイビスは、考えたものだな、と一人ごちた。
 ラキのバイタルジャンプは、多少の揺らぎを持たせてはいるものの死角への移動を基本としている。そして攻撃は組合に持ち込むための剣戟が主体。
 つまり、消えた瞬間に視界が開けている方向に高速で突っ込めば、攻撃に晒される可能性はきわめて低いのだ。そこを衝かれ、なおかつこちらに狙いを定めてきた。
 ならばどうする? 決まっている。

(ブレン!)
(……)
(やるよっ!!)

 今度は自分がギンガナムの打撃を受け止め、力勝負に持ち込み、ラキに隙を衝かせる。役どころが入れ替わった。ただそれだけだ。
 歯を食いしばり、アイビスは受けの姿勢を取る。巨岩のような圧力を放つギンガナムを目の前に、大地をしっかりと捉え、構える。

「アイビス、受けるな! 避けろっ!!」

 クルツの声だったが、遅かった。一度止まった足を動かすには彼我距離が近すぎる。
 ならば、とソードエクステンションを両の手で掲げ、受ける。接触の瞬間、刀身を反らし、受け流す。受け流したはずだった。
 天と地が逆さまに、視界が反転する。
 巨大なダンプ、あるいは列車に撥ねられた人間のように錐揉み回転をしながらヒメ・ブレンが宙を舞う。
 ブレンが大地に打ち付けられ、アイビスもまたコックピットにその身を激しくぶつけられる。意識が明滅し、追撃を予想して身を固くした。
 が、次の瞬間襲ってきたのはギンガナムの追撃ではなく、クルツの怒声であった。

「馬鹿野郎! 真っ向から受け止めるなんて正気か?」

 クルツの顔面越しに投影されたモニターには、ギンガナムと交戦を続けるラキの姿があった。恐らくは追撃をかけられる前に割って入ってくれたのだろう。
 結局はまだ足を引っ張っている。その口惜しさが拳を固くした。

「うるさい。ラキは同じブレンパワードで止めてる。なら、私だって……」
「お前には無理だ。あれはお前には向いてねぇ、俺にもだ」

 アイビスの抗弁をクルツは軽く受け流す。
 そう。アイビスとラキでは受け方が違う。というよりラキの受け方が少々特殊だった。
 通常の受けは相手に押し負けぬように足場を、土台をしっかりと安定させて受け止める。
 対して、ラキはその場で受けようとせず前に出る。受けるというよりはぶつけに行っていると言ったほうが正しいのかもしれない。
 相手の一番力が乗るところでは決して受けず、前に出ることで打点をずらし、力を半減させ、自身の前に出る力をそこに上乗せさせる。言葉にすればそんなところだろう。
 だが、それでようやく五分。いや、それでも四分六でギンガナムの膂力のほうが強いのだ。真っ当な受け方では勝負にならない。
 だから今モニター向うのラキは、受けの後瞬時に弾き距離を置く戦い方に戻していた。一機でギンガナムに抗うには、そうする他はない。

(ブレン、悔しいね……あいつらには出来て、私らには出来ない)

 俯き、ブレンの内壁に添えた手にギュッと力を込める。
 悔しかった。他人には出来て、自分には出来ない。それは落ちこぼれと言われているようで悲しい。悔しい。そしてなによりも自分の不甲斐なさは腹立たしかった。
 そんな思いがその手には込められている。

「アイビス、ラキを羨ましがるんならお門違いだ。だが、そうじゃねぇ。そうじゃねぇだろ?
 ラキにはラキのブレンの扱い方がある。だったらお前にはお前なりのやり方ってもんがあるだろうが。違うか?」
「私なりの……やり方?」

 見透かしたように掛けられた声に驚く。考えたこともなかった。
 人を羨むのではない自分なりの乗り方。スレイにでも、ラキにでも、誰に対するでもない自分なりのやり方。こんな何でもないことなのに、考えたこともなかった。
 No.1に対するNo.4。負け犬という別称。流星という不名誉な字。それらに引け目負い目を感じてきたのは、知らず知らずのうちに誰かに対する自分を意識していた証なのかもしれない。

「クルツ」
「ん?」
「ありがと。ただのスケベ親父じゃなかったんだ」
「おいおい、親父はよしてくれ。俺はまだ二十代だぞ」
「そっちに反応するんだ」

144Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:08:25
 軽口を叩き、笑い、顔を上げる。目にキラリと光が灯る。また一つ憑物が取れた。そんな顔だった。

(……)
(ブレン?)
(……)
(うん。わかった。やってみよう!)

 いつからかブレンの声が聞こえるようにもなっている。普通に会話も出来る。そのことに未だ気づかぬまま、アイビスは声を張り上げた。

「いくよ、ブレン!!」

 視界の先には、ギンガナムに押しやられ、ついに体勢を崩したネリー・ブレンの姿がある。
 そこへ跳び、ネリー・ブレンの真横にジャンプアウトした。叫ぶ。

「ラキ、ブレン同士の手を合わせて!」
「手を?」
「早くっ!!」

 ギンガナムとの距離は既に幾許もない中、二機のブレンパワードが手をつなぎ、胸を張る。
 次の瞬間に顕現するのは二体のブレンパワードが張り巡らすチャクラの二重障壁――ではなく、ただ一重のチャクラシールド。
 しかし、二つのチャクラが混ざり合うそれは、強固で分厚い壁である。打ち付けられた拳とチャクラの間で火花が散り、拳を弾かれたギンガナムの姿勢が仰け反るような格好で崩れた。
 その瞬間、ヒメ・ブレンは飛び出し、真っ直ぐに距離を詰める。

「ギンガナム、あんたは私の行為を偽善だと言った。でもね、人の為の善と書いて偽善と読むんだ!! なら、私はジョシュアのためにあんたを討つ!!!」

 体勢が整う前に畳み掛けると決めていた。擦れ違い様にソードエクステンションによる横薙ぎの一閃。
 しかし、ギンガナムもさすがと言うべきか、体勢が不完全ながらも咄嗟にアームカバーを構える。
 固い金属音が鳴り、受けたギンガナムの体勢が完全に崩れ、仰向けにひっくり返った。この好機、逃す手はない。

「ラキ、合わせるよ! やり方はブレンが教えてくれる」
「ブレンが? ……ひっつく? くっつくのか?」

 二機で小規模なバイタルジャンプを繰り返し、翻弄し、体勢を立て直させる隙は与えない。ラキが次の瞬間何処に現れるのか、それはアイビスにもわからない。
 しかし、決め手を放つ瞬間、どこに現れ、どうすれば良いのか、それはブレンが全て教えてくれた。

「1・2・3」

 タイミングを計る。体勢の崩れたギンガナムの右後方。ドンピシャのタイミングで二機はそこに現れた。
 背中が合わさる。ブレンバーとソードエクステンションが、鏡合わせのように突きつけられる。その動きには寸分のズレさえも存在しない。

「チャクラ」
「エクステンション」
「「シュートオオオォォォォオオオオオオオオオオ!!!!」」

 二つの銃口に光が灯り、濃密で重厚なチャクラの波が放たれる。巨大な破壊の力を携えたそれが、堰が決壊し氾濫した濁流の如くギンガナムへと猛進していく。
 その光景の最中、突如として覇気に満ちた笑い声が大地を震撼させた。

「ふはははは……。これをおおぉぉぉ待っていたっ!!」


 そう。ギンガナムはこのときを待っていた。かつて相対した男が最後に放つはずだった一撃。
 それに酷似したこの一撃を真っ向から打ち破ることには二重の意味がある。すなわち、この戦いとあの男との戦い、二つの勝利。

145Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:11:01
「貴様らが七色光線ならばぁぁ、小生は黄金の指いいいぃぃぃぃいいいいいいいい!!!」

 押し包み、瞬く間に呑み込まれて消えるその刹那、ゆらりと起き上がったシャイニングガンダムは左腕を無防備に突き出した。その指間接が外れ、隙間から染み出した液体金属がマニピュレーターを覆い、発光。そして――

「喰らえっ!!! 必いいぃぃぃ殺っ!!! シャアアアァァァイニングフィンガアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」

 その光り輝く左腕が荒れ狂うチャクラの波に真っ向からぶつかった。
 真っ直ぐに伸びたチャクラエクステンションが、ギンガナムがいる一点で遮られ四方に拡散する。拡散した幾筋ものチャクラのうねりは大地を抉り、暴れ、阻むもの全てを破壊する。
 だが、それで終わりではない。三者の激突は未だ続いている。チャクラエクステンションはシャイニングフィンガーただ一つで抑えきれるほど甘くはない。
 強大な圧力に押さえ込まれ、ギンガナムは前に出ることが出来ない。いや、むしろ押されている。
 重圧を一点で受け止める左腕は断続的に揺れ、ぶれ動き、機体を支える両脚は爪のような跡を残しながら徐々に後ろへと押し流され、爪跡はチャクラの濁流に呑まれて消え去る。
 このままでは押し切られ、呑み込まれるのは時間の問題なのだ。だがしかし、ギンガナムに諦めの色はない。あるのはただ狂気的とも言える喜色のみ。

「ぬううぅぅぅぅぅぅっ!! 見事っ! まさに乾坤一擲の一撃っ!! 実に見事な一撃よ!!!
 だがなあぁぁぁっ!!!! この魂の炎! 極限まで高めれば、倒せない者などおおぉぉぉぉっないッッッ!!!!!」

 押し流され続けるシャイニングガンダムの足が止まる。エンジンの出力が上がり続け、背面ブースターが限界を超えてなお唸りを上げる。

「シャイニングガンダムよ。黒歴史に記されしキング・オブ・ハートが愛機よ。お前に感情を力に変えるシステムが備わっているというのならああぁぁぁっ!
 小生のこの熱き血潮!! 一つ残らず力に変えてみせよおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」

 そのギンガナムの雄叫びを合図に、それは始まった。
 機体の色に変化が生じる。白を基調としたトリコロールカラーから、色目鮮やかな黄金色へ。そして、機体を構成する全てのものが眩く発光を始め、闇夜を切り裂くチャクラ光の中に黄金が浮かび上がる。
 変化は外見のみに留まらない。充溢する気力を喰らい天井知らずに上がり続ける出力は計測器の針を振り切り、それを受けた推力は前進を可能にしていたのだ。

「ふはははは……このシャイニングガンダム凄いよ! 流石、ゴットガンダムのお兄さん!!」

 爆発的なスラスター光を背に感嘆の声を上げ、七色の輝きの中に飛び込んだギンガナムは激流に逆らい、遡上を始める。
 その様は鯉の滝登り等という生ぬるいものではない。天を衝くが如き勢いと圧力を持って遡上し、そして、金色の光がチャクラの波を衝き抜けた。

「なっ!」

 阻むものを失ったギンガナムの突進は、限界まで引き絞られた矢が飛び出すようなもの。
 弾ける勢いでヒメ・ブレンの頭部を掴んだギンガナムは一筋の閃光となり、建ち並ぶ廃墟の群を物ともせずに突き破る。そして、その終着でヒメ・ブレンを天高く掲げ――

「絶っ好調であるっ!!!!」

 爆発。轟音を残して頭部を粉砕されたヒメ・ブレンが崩れ落ちる。同時に背後で異音。俊敏に反応し、振り向き際に蹴り飛ばした。

 ◇

 蹴り飛ばされたネリー・ブレンが瓦礫の海に埋没する。息を弾ませ、衝撃から来る苦痛にラキは顔を歪ませた。
 虚を衝いたはずの視覚外からの攻撃にも対応してみせる油断のなさ。加えて、奴の言をそのまま信じるのならば、あの闘争心がそのまま反映されるシステム。
 つくづく厄介だというのが、率直な感想だった。
 そう考えて、ふと自分らも似たようなものか、という思いを抱いた。アンチボディーはオーガニックエナジーを糧に動く。そこには人の放つものも含まれているのだ。
 ならば、自分やアイビスの感情もまたブレンに力を与えているのだろう。そう思った。

(ブレン、すまない。大丈夫か?)
(……)
(よし)

 心を落ち着け、ブレンに声をかけると立ち上がらせる。その姿を前にギンガナムから通信が飛んできた。

146Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:12:41
「ほう。まだ戦う意志を失わぬか……見上げた根性と誉めてやろう。どうだ? ギンガナム隊に入らぬか?」
「悪いがお断りだな」
「ならば死に物狂いで戦うことだな。それにここで小生を倒せばジョシュアとやらの魂も救われるかも知れぬしなぁっ!!」
「ジョシュアはそれを望まない。人には戦いなど必要ないんだ」

 本心だった。ジョシュアの弔いの為と思い定めて戦いはしても、どこか違うという思いは常について回っている。
 不意にギンガナムが動く。はやい。咄嗟に拳をブレンバーで受け止める。

「それは違うな。人は己の内に闘争本能を飼っている。
 それを解き放つために戦いは必要なのだ! その為にこのような場が用意されている!!」
「本能の赴くままに戦い続ける姿のどこに人間らしさがある!」

 言葉を返し、弾き、距離を取る。意外なほどブレンの掌に伝わる重みは軽かった。遊ばれている。咄嗟にそんな思いが頭を突く。
 揺れ動き、翻弄させるような動きを取りながら、ギンガナムが言葉を吐く。その口調には言葉遊びを愉しむような余裕が込められていた。

「ならば聞く! 水槽の中で飼われている魚のような生のどこに人間らしさがある!!」
「どういう意味だ」
「外敵もなく、餌も十分に与えられ、安全で平和な住みやすい環境。それを世界の全てだと思い込んでいる。まるで飼われた魚の様ではないか。
 だがなぁ、人間はそのような環境に息苦しさを覚える。だからこそ、ディアナは地上へ帰ることを望んだ。
 だからこそ、このギム=ギンガナムは戦い、戦乱をもたらすのだ。人として生きる為になぁっ!!」

 突如動きが変わり、強烈な一撃がラキを襲う。それをブレンバーで受け流し、攻撃に転じながらラキは反論を返す。
 ギンガナムの言を受け入れることはジョシュアの、人として生きようとした自分の生き様を否定することだ。それは、死んでも受け入れることはできない。

「それは違う。確かに人は生きるために戦うことがある。憎しみにまみれて道を見失う者もいる。
 だけど、それだけが人じゃない。それを私はジョシュアから、人から学んだ」
「だが、貴様は戦っているぞ!!」

 受けたギンガナムが言う。シャイニングガンダムとネリー・ブレンの双眸が、ギンガナムとラキの眼光がぶつかり火花が散った。
 巨大な重圧を伴ってギンガナムは圧し掛かってくる。そのギンガナムの言葉には迷いがない。だからこそ強く、なによりも危険なのだ。気を抜くと押し切られそうになる。

「そうだ。私は戦っている。私はメリオルエッセ……負の感情を集めるだけの働き蜂。所詮、人にはなれない。だから――」

 唇を噛み締めて言う。懇親の力で押し返し、再び距離を取ったところで泣き出しそうになり、思わず言葉を区切った。
 人にはなれない。それはある意味では分かっていたことだ。いくら憧れ、恋焦がれようとも、蛾に生まれついたものが蝶になることは適わない。
 同じだ。私もメリオルエッセに生まれついたからには、人になることなど適わないのだ。
 分かっていた。分かっていたが、どこかでそれを受け入れてない自分がいたことは、確かだった。
 それなのに、今自分の言葉で肯定し、受け入れてしまった。それがどうしようもなく悲しい。
 でも、それよりも受け入れ難いことが存在する。だからこそ泣き出したい思いで受け入れた。
 人は私とは違う。私の周りにいた人は、負の感情を集めるためだけに作られた私に、それだけが人ではないと教えてくれた。
 そんな人間が、憧れ恋焦がれた人間が、戦いを自ら望むような者であって良いはずがない。
 私の傍にいた人が与えてくれたぬくもりは、そんな人からは決して得られないものだ。そう信じたい。

「だからこそ、貴様は私の手で止めてみせる!!」
「それは結構。だが、できるのか? このギム=ギンガナムをぉ!!」
「できるさ」

147Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:13:52
 切り結び、跳び、かわし、攻め、守る。目まぐるしく入れ替わる攻防ではあったが、バイタルジャンプを多用してようやくギンガナムの動きについて行けるという状態だった。
 初手を合わせたときから比べ、ギンガナムの気力は満ち溢れている。それに伴ってシャイニングガンダムの基礎能力が桁外れに上がっていた。
 比べて、ラキの操るネリー・ブレンは少しずつ消耗し痛み始めている。ラキ自身も似たようなものだ。
 それでも方法はあった。死ぬ気になればやることができるただ一つの方法が。

(……)
(ブレン、落ち着け。仇は私が討たせてやる。それと私に遠慮はするな)
(……)
(恍けるな。お前が私を気遣ってくれているのは分かっている。でも、それじゃ駄目なんだ……)

 分かっていたことだ。ネリー・ブレンが自分を気遣い、自分の周辺に集まり渦巻いている負の感情のオーガニックエナジーを主として動いていたことは。
 それはラキの負担を減らすためだろう。それに造られた生命であるラキのオーガニックエナジーは、自然の生命に比べると驚くほど希薄で弱いのだ。だがそれでも――

(……)
(いいさ。ここで全て吸い尽くしていけ)
(……)
(すまないな。ありがとう)

 ブレンの説得を終え、しかし、息をつく暇もない。攻防は続いているのだ。
 視界の端でギンガナムを捉えつつ、隙を見て通信をヒメ・ブレンへと試みる。
 頭部を失ったヒメ・ブレン相手に通信が繋がるか不安はあったが、程なくそれが要らぬ心配だったということが証明される。通信は繋がった。

「アイビス……無事か?」
「うん。私は大丈夫。でもブレンが……ブレンが私のせいで……」

 ギンガナムの攻撃を受けるその一方で盗み見たアイビスの表情は暗く沈んでいる。
 アンチボディーは半分機械半分生物という特殊な機体だ。頭部を失うということは死を意味している。
 それを自分のせいだと思い込み、責任と重荷を背負い込んでいるといった感じだった。その姿に一瞬頬を緩ませる。
 やはり人間は優しく暖かいのだ。ブレンはきっとそんな人の優しさに魅かれたからこそ、人を必要とする体に生まれたのだろう。そう思った。
 その一方で、無理だろうなとは思いつつ慰めの言葉をかける。

「気にするな。お前は精一杯やった。だれもお前を責めやしない。お前のブレンもきっとお前を恨んでやしない。
 そして、これから起こる事もお前のせいではない。だから、気に病まないでくれ……そうなると、私は悲しい」
「えっ?」

 伏せていた顔が上がるのを目の端が捉えた。バルカンを二発三発とかわしつつラキは言う。

「……私のブレンを頼む。こうみえても寂しがりやなんだ。きっとお前の力になってくれる」
「ラキ、あんた……」
「ジョシュアが最後に守った者を私も守れる。それだけで十分だ」
「違う。違うよ……ラキ」

 顔を左右にふるふると振るわせるアイビスを無視して、言葉を続ける。
 自分の声が湿り気を帯びていくのに辟易しながらも、どうすることも出来ない。

「アイビス、会えてよかった」
「ラキ、ジョシュアが本当に守りたかったのは私じゃない! あんたなんだ!!
 だから、だから一緒に生き延びよう……二人で生き延びる道もきっと見つかるからっ!!!」

 耳に飛び込んできた声にハッと目を見開き、俯いた。出来ることならそうしたかった。でも目の前の現状はそれを許すほど甘くはない。
 だから、ラキは一度だけギンガナムから視線を外し、アイビスを見て声を掛ける。勤めて明るく、精一杯の笑顔で。

「本当はもっと落ち着いて話がしたかった。でも時間がない。アイビス、お別れだ」
「ラキ!!」
「盛り上がってるとこ悪いがな。お前らは死なねぇよ」
「「クルツ!!」」

148Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:15:23
 突然割って入った声にラキとアイビス――二人から驚きの声が上がった。そんな二人に構うことなくクルツは飄々と言葉を繋げる。

「ラキ、お前がろくでもないことを考えてるのは分かってる。でも悪いな。こいつは俺が貰う。お前はアイビスと行け」
「何、無茶なことを言っている。その半壊した機体でこいつを押さえられるはずがないだろう」
「無理だよ、クルツ。あんた一人ならまだ逃げられる。機体が動くのなら逃げて」
「うるせぇっ!!! うるせぇよ……行きたいんだろ? 本当はそいつと行きたいんだろうが!!!」
「それは……」

 言い澱み、覚悟が揺らぐ。
 諦めたはずの先を突きつけられ、そこにいる自分を連想してしまい生きたいという衝動が膨らむ。思わずクルツの言葉に縋りつきたくなり、浅ましいと自分で一喝する。
 そんな心の機微を見通してか、クルツは言葉を畳み掛けてきた。

「行けよ。とっとと行っちまぇ! いいか? 勘違いするんじゃねぇぞ。俺はお前の代わりにこいつの相手するんじゃねぇ。誰かの代わりなんて真っ平ごめんだ。
 俺は俺が好きでこいつの相手をするんだ。こいつは俺の我侭なんだよ。あいつと一緒に行くのはお前の我侭だ。だったら、我を張れよ。押し通せ。
 会ったときからお前は我侭尽くしだったんだ。いまさら変に遠慮なんてしてんじゃねぇっ!!」
「しかし、お前は……」
「俺は俺の我を通してここに残る。お前はお前の我を通してあいつと行く。それで全部まとめてオールO.K。円満解決。大団円だ。違うか? 違わねぇだろ。
 分かったか? 分かったら、さっさと行っちまえよ。お前らがいると邪魔なんだよ。気になっちまって、切り札が切れねぇ」
「ならばそのカード、小生が切りやすくしてやろおっ!!」
「ッ!!」

 クルツに気を取られすぎていた。気がつけばギンガナムが間近に迫っていたのだ。
 近いっ! 近過ぎる。回避も何も、全てが間に合わない。直撃? 当たるのか? くらうのか? くらえば――
 豪腕を目前にぞっと全身が怖気立ち、肝が冷えた。思わず目を閉じ、首を竦める。身を固く小さくして来るべき衝撃に備える。
 しかし、その瞬間はついぞ訪れなかった。変わりに怒声が飛んで来る。

「何やってんだ! 早く行け!! ちんたらしてんじゃねぇ! 今すぐ走れ!!」

 恐る恐る開けた視界に、いつの間に忍び寄ってきたのかギンガナムに背後から組み付くラーズアングリフの姿が映しだされる。

「ク……ルツ?」
「さぁ行け! 行くんだ! 行って、俺の代わりに二人であの化け物に一発かましてこい……頼んだぞ」

 目が合い、気圧された。その目には一本の筋が通った、ぴんと背筋の伸びた胸に迫る何かがある。
 それに抗おうと胎に力を込めたが、一度揺れた覚悟はそれを押し返すまでの強さを持ってはいなかった。
 乾いた口が動く。何度か唾を飲み込み、何度も言葉を喉元で押し殺したその口は、しかし最後には辛うじて聞き取れる程度の声で喉を震わせた。

「……すまない。頼む」
「いいってことよ。任せろ」

 陽気な、いつもと変わらぬ声が耳朶を打つ。悲壮さなど微塵も感じさせない、ちょっとした用事を引き受けるような、そんな声だった。
 クルツとギンガナムに背を向け、ネリー・ブレンが跳ぶ。
 決めた以上、戸惑ってはならない。速やかに動かなければクルツの覚悟に水をさすことになる。それが、似たような覚悟をほんの少し前まで決めていたラキには、痛いほど分かっていた。
 ジャンプアウト。物言わぬヒメ・ブレンを抱え上げる。アイビスが文句を言ってきた。その気持ちも、やはり痛いほどに分かる。
 だがそれに耳を貸すわけにはいかない。例え恨まれようと構わない、とラキはその場からの離脱を開始する。
 普通に長距離のバイタルジャンプを行う余力は、もう残されていなかった。

 ◆

 赤い戦車のような人型機動兵器が投げ飛ばされ、瓦礫の海に埋没した
 ラキとアイビスが離脱を開始して数分。ずぶずぶと上下逆さに埋没していく機体の中、クルツは一人ぼやく。

「やれやれ、こんなつもりじゃなかったんだけどな。こういうのを親心って言うのかね」

 本当に初めて会ったときから世話のかかる奴だった。意見は食い違うわ、一度決めたら梃子でも動かねぇわ、自分勝手に動き回るわで、本当に面倒ばかり掛けやがる。
 でも気持ちのいい奴らだった。
 にしてもついてねぇな。こんなとこに呼び出されてまでして、俺、何やってるんだろうな……。

「……まぁいいさ。悪かぁねぇ」

149Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:17:04
 がばっと起き上がり、コンクリートの破片を跳ね除けながら呟いた。
 ああ、そうさ。悪かぁねぇ。女を守って死ぬ。男として最高の死に様じゃあねぇか。あんたもそんな気分だったんだろ? ジュシュア=ラドクリフ。
 ふぅ〜っと長い息を吐く。横目でちろりとこれから命を賭ける相手を見やり、リニアミサイルランチャーを突きつける。

「悪いな、大将。俺の我侭に付き合ってもらってよ」
「貴様がその半壊した機体で何をするのか興味があってな。だが、空の銃では小生は倒せぬ。そこのところは分かっているのか?」

 クルツが最も懸念していたこと、それは無視をされ二人の後を追われることだったが、どうやらその心配はなさそうだった。人知れず胸を撫で下ろす。
 敵さんは、こちらの手札に興味津々なご様子。ならどうすればいい? 簡単だ。挑発して好奇心を呷ってやればいい。そうすればもう少し時間を稼ぐことが出来る。

「知ってるか? プロってのは、弾を撃ち尽くしても最後の一発ってのは取っておくもんだ。本当にどうしようもなくなっちまったときに自分の頭を撃ち抜く為にな」
「下らんな。己の頭を自ら撃ち抜くぐらいなら、その一発で相手を倒すことを考えるべきだ。
 最後まで相手の喉下に喰らいついて初めて一人前の兵士と言える。貴様もそうだろう……違うか?」
「そういう考え方もありっちゃありなんだが……。勿体つけといて悪りぃんだけど、実は弾なんか残っちゃいねぇんだな、これが」

 リニアミサイルランチャーを手放す。瓦礫で跳ねたそれが乾いた音を立てた。
 からかわれたとでも感じたのかモニター越しの表情が怒り、睨みつけてくる。想像以上に単純な奴だ、とほくそえんだ。話術では負ける気がしない。

「短気は損気。そう怒りなさんなって……。代わりにギンガナム、あんたには別のもんをぶつけてやるよ」
「ふんっ! 貴様のごとき雑兵の命一つで小生を止められると本当に思っておるのか?」

 完全に臍を曲げたらしい男を前に急にクルツの目つきが変わった。

「馬鹿言っちゃいけねぇな。あんたに生き残られちゃ、せっかくのお涙頂戴シーンが台無しだ。
 それになぁ、お前さん自分のこと買いかぶり過ぎだ。こちとら戦争屋。弾なんざなかろうが、手前を倒す手段なんざいくらでも思いつくんだよ。塵一つ残さねぇから覚悟しろい」
「吠えたな」
「吠えたさ」

 売り言葉に買い言葉。睨み合い。互いの鼻が白み。直ぐに二つの哄笑が廃墟に木霊し始める。カラッとした笑い声が大地を包む。

「面白い! ならばきっちり殺してみせろよ!!」
「上等だ! そろそろ行くぜ!!」

 時間は十分とは言えないが稼いだ。もう巻き込む心配も多分ない。あとは俺が上手くやれば万事オッケー、全ては上手く収まる。
 シザースナイフを抜き放ち、握り締める。接近戦の不利は百も承知。だがそれでもラーズアングリフに残された武器はそれしかない。

「来いっ!!!」

 腰を低く落とし、ギンガナムの声を合図に猛然と突進を開始する。敢行したのは命がけの接近戦。
 だが、それは余りにも行為だった。ただでさえ鈍重なラーズアングリフだ。脚部を損傷した現在、ギンガナムと比べるまでもなく動きは鈍重を極めている。
 動きは鈍く、勢いも無ければ、切れも伸びも無い。ギンガナムから見れば凡庸も凡庸。ただ愚鈍なだけの特攻としか映らなかった。
 ゆえにギンガナムは激昂した。軽んじられた。甘く見られた。そういう思いが有り、自尊心についた傷が感情を刺激したのだ。

「どんな隠し玉があるのかと思えば、ただの特攻とは……実に下らんっ!!」

 ギンガナムが動く。ラーズアングリフの鈍重さに比べ、その動きはまさに疾風。

「小生を愚弄した罰だっ!! DNAの一片までも破壊しつくしいいぃぃぃいいいい、鉄屑にしてやるっ!!!」

 間合いが瞬時に潰れる。ギンガナムが放った手刀は、頑強な装甲の継ぎ目を狙う一突き。
 右胸を貫かれるその寸前、クルツはシザースナイフを投げ捨てた。右腕で逃さぬようシャイニングガンダムを抱きしめる。

「野郎に抱きつくなんざ趣味じゃねぇが……この時を待っていたんだよ!」
「何だこれは! この馬鹿げた熱量は!! 貴様ぁ、一体何をした!!!」

150Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:18:27
 キーボードに指を滑らせ、一つの文字列を叩き込んだ。それは祈祷書の『埋葬の儀式』の一節を捩ったシャドウミラーの自爆コード。
 その真髄は機密保持の為、後には何も残さない絶対の破壊。文字通り全てを無に帰す力。
 即ちコード名――

                ――Ash To Ash――

「別に大したことなんざしてねぇよ。ただ土に還るだけさ。俺もお前もなっ!!」

 勝利を確信し、誇らしげに笑ったクルツを光の海が包み込んだ。

 ◆

 火花が散る。数合剣戟を交え、剣刃が乱れ飛ぶ。灼熱する斧を弾き飛ばし、横に薙ぎ払う。押した。押して押し捲った。
 隙はない。防御も厚い。しかし、破れる。突き破り、この男を避わすことが出来る。それが見えた。が、同時に側面を衝かれ、手痛い被害を被る自身の姿も見えていた。
 一瞬躊躇。それで機を失った。攻めあぐね、跳び下がり距離を取る。五度目だった。突き破れる手ごたえを感じながらも、全て跳ね返された。
 目の前の男は待っている。それは確実だった。薄ら笑いを浮かべながら強引に突破を図る瞬間を待ちわびているのだ。それに乗る事は出来ない。
 ブンドルは唇を噛んだ。すでに相当の時間が経過している。死者が出ていても不思議ではない時間だ。それだけの時間を費やして突破も出来ない。それがプライドに傷をつけた。
 互いの損傷は皆無。僅かに斧を弾き飛ばした点だけ、相手に被害を与えた。ただそれだけだ。
 無傷では切り抜けられない。崩せない。手負う覚悟があって初めて傷を負わせられる。この男を突き崩せる。そう思った。
 だがそれは許されないのだ。ラプラスコンピューターに損害を与えることは避けねばならない。やはり無傷で切り抜けるしかないのだ。それには切っ掛けがいる。あの男の注意を逸らすだけの切っ掛けが。

 ◇

「つまらねぇな……」

 小さく呟いた。この敵はつまらない。技術技量は驚くほど高い。動きも目を見張るほどで無駄がなく隙もない。攻めは苛烈。守りは堅固。しかし、つまらない。
 恐さがないのだ。堅実で、大きく賭けに出てくるような動きを取ろうとしない。機会は何度もあったはずだ。賭けに出れば突破できる程度には、何度も崩された。
 しかし、それに乗ってこない。そういう敵は手強くても恐ろしくはないものだ。つまりは、つまらない相手ということになる。
 面白味という点では、アキトやテニアとか言う嬢ちゃんの方が遥かに勝っている。興味も半ば失せて来ていた。
 その時だ。彼方に巨大な光輪の華が咲いた。咄嗟に背後を振り返る。その動作はモビルトレースシステムを伝わり、正確に機体に反映された。同時にゾッとした悪寒が体を包み込む。

「チィッ!!」

 正面に向き直った。既に白銀の機体は驚くほど近い。無駄のない剣閃が襲ってくる。辛うじて防いだ。
 そのまま二合三合と切り結ぶ。しかし、押されている。このままでは押し切られる。
 思わず笑みが漏れた。

「ククク……やりゃぁ出来るじゃねぇか。なぁ!! おいッ!!!」

 守りを捨て踏み込む。自らの身が傷つくことも厭わない。頭を断ち割るビームナイフの一撃。しかし、それは空を斬ることとなる。
 眼前で白銀の機体の姿が変わる。人型から鳥のような姿へ。交錯。瞬く間に脇をすり抜けて背後へ。踏み込んだ分動きの遅れたガウルンはその変化について行くことは叶わない。
 振り返ったときにはその姿は既に小さくなっていた。とてもじゃないが追いつけない。

「やれやれ……やられたねぇ」

 突如巻き起こった巨大な爆発。
 おそらくは何らかの決着が着いたのだろう。だとすれば思ったほどの混戦にはならなかったということだ。それにあの爆発では生き残りがいるのかどうかも怪しい。いてもくたばり損ないだろう。
 となれば、いまいち面白みに欠ける戦場だ。興味が急速に失われていくのを感じていた。

「くたびれ損の骨折れ儲けってやつかねぇ、こりゃ」

 地に落ちたヒートアックスを拾い上げたガウルンは、思わずそうぼやかずにはいられなかった。

151Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:19:35
【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
 パイロット状態:良好、主催者に対する怒り、焦り
 機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊
 現在位置:D-3
 第一行動方針:ギンガナムとの合流
 第二行動方針:協力者を捜索
 第三行動方針:三四人の小集団を形成させる
 第四行動方針:基地の確保のち首輪の解除
 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
 備考:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力120
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部・左肩・胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
        DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:D-3
 第一行動方針:近くにいる参加者を殺す
 第二行動方針:アキト、テニアを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 第四行動方針:できればクルツの首を取りたい
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【グラキエース 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神不安定。放送の時刻が怖い
 機体状況:無数の微細な傷、装甲を損耗、EN残量1/2、ブレンバーにヒビ
 ENの減少により長距離バイタルジャンプの使用不可
 現在位置:D-3
 第一行動方針:アイビスと共に離脱
 第二行動方針:クルツの代わりにノイ=レジセイアを一発ぶん殴る
 最終行動方針:???
 備考1:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません
 備考2:負の感情の吸収は続いていますが放送直後以外なら直に自分に向けられない限り支障はありません】

【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:気力回復、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない)
 機体状況:頭部損失(実質大破)ソードエクステンション装備。
 現在位置:D-3
 第一行動方針:ラキを問い詰める
 第二行動方針:寝るのが少しだけ怖い
 最終行動方針:どうしよう・・・・・・
 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

152Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:21:24
【クルツ・ウェーバー 搭乗機体:ラーズアングリフ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:大破】

【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状態―――――












 ざわり

 空気が揺れた。クルツの巻き起こした爆発の余波による電波傷害は、未だ治まる様子を見せていない。だからレーダーに反応は無かった。
 しかし、肌が不穏なモノを感じ取ったのだ。それは皮膚を焦がすように熱い闘争本能の塊。濃厚にして濃密。全てを焼き尽くさずにはおれない地獄の業火。
 そういったモノが、廃墟を荒野へと変えた爆発の中心地点のほうから迫って来る。間違いない。奴はまだ生きている。確信に近い思いでラキはそれを感じ取った。
 顔が難しい表情を作り、思い悩む。悩み悩んだ後で、ラキは諦めたようにポツリと呟いた。

「……どちらにしてもこれしかないか。すまないな、クルツ」

 クルツと自分の役回りが逆ならば、こんなことには無かった。クルツが命を落とすことなど無かった。
 そして、今自分はクルツが残してくれた命を散らそうとしている。今度は自分の番。そう思い定めている。そういう意味の二重の謝罪だった。
 通信をヒメ・ブレンと繋げる。

「アイビス、さっきも頼んだようにこいつを頼む」
「えっ?」

 モニターにアイビスの顔が映し出される。驚いた目が大きく見開かれるのが見えた。
 恐らく死んでいったヒメ・ブレンの体をその内側までも綺麗に拭っていたのだろう。せめて綺麗な姿で弔ってやろう、そういう想いが、手に握り締められた汚れた布切れに込められているように思えた。
 その光景にふっと頬が優しく緩むのを感じる。こんな奴だからだ。こんな奴だからこそ、ジョシュアも守って死んでいったのだろう。そういう気がした。

「ギンガナムがそこまで迫っている。私はこれからあいつを止めに行く。心配するな。お前だけは何があっても絶対に守るから」
「待って! 私も行く。ラキ、あんただけに戦わせるなんて出来ない」

 懸命な目と声が迫って来る。一心に言い募ってくるその必死さに思わず押し切られそうになりながら、しかしラキはゆっくりと諭すようにアイビスの言葉を退けた。
 その語調には、子供に言い聞かせる母親の温もりがどこか染み出ている。

「それは出来ない。今のお前では足手まといなんだ。分かるだろう?」
「でもそれじゃあ、あんたが……あんたも……」
「気にするな。メリオルエッセである私には似合いの最後だ」

 アイビスが俯いた。分かっているのだ。自分が何の役にも立たないのだと。送り出せばもう帰って来ないのだと。
 肩が震えている。泣いているのか?
 そう思ってもどう声を掛けて良いのか分からず、途方に暮れながらも、何故かこのときラキはジュシュアに向けるのとはまた違った愛おしさが湧き出てくるのを感じていた。
 生きた時間で言ってしまえば、ラキはアイビスの十分の一も生きていない。しかし、それは母親が愛娘に向ける愛情のようなものだったのかもしれない。
 やがて袖口で目元を拭ったアイビスの顔が上がり、無理に貼り付けた笑顔を浮かべる。今にも崩れ去りそうな笑顔。しかし潤んだ眼差しは真摯に見つめてきていた。

「ラキ、あんたは……あんたはもう立派な人間だよ」

153Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:23:54
 そうか、泣いていたんじゃない……この娘は考えていたのだ。もう止められないと思い、最後に何を伝えられるのか、その言葉を探していたのだ。
 何だろう……胸が温かい。なんとなく分かった……これは一番私が欲しかった言葉なんだろう。
 ふっと目頭が弛む。笑顔で返そうとして、涙が溢れてくるのを抑えることが出来ない。

「そうか……私は人になれたのか……」

 ほぅっと溜息を吐くようにして言葉が漏れる。大事に大事に言葉を口の中で反芻し咀嚼する。あたたかい。胸に灯ったぬくもりが気持ちいい。
 何よりの餞だ……私には過ぎた餞別だ。思えば誰かにそう言ってもらえるのを私は待っていたのかもしれない。ありがたい。
 でも、だからだ。こんなことを言ってくれる人間だからこそ守らなきゃいけないんだ。

「アイビス、ありがとう。泣くな。胸を張れ。お前は精一杯頑張っている。
 ……会えてうれしかった。がんばれ」

 溢れた涙が零れ落ちるのを頬に感じた。その涙の一粒でさえも今は温かい。
 通信をそっと閉じる。暫くは体が震えて動くことが出来なかった。いや、胸中に湧き出てきたぬくもりを噛み締めていたかったのかもしれない。
 ぐいっと潤んだ目を拭い、鼻を噛む。大きく長い溜息を一つ。
 ちらりと横目で頭部を砕かれたヒメ・ブレンを確認する。その右手にはしっかりとソードエクステンションが握られていた。最後まで力強く戦った証だった。
 これで憂いはもう何もない。後はどれだけ完全な状態でネリー・ブレンをアイビスに明け渡せるかだ。
 キッと目元に力を込め、前方を睨みつけたラキは、いつもと同じ声、同じ態度でブレンに最後の戦いを促した。

「さぁ! 行こう、ブレン!!」

 ◇

 D-3地区に広がる広大な廃墟。その一角を円形に抉り飛ばし、出現した荒野の尽きるところ。
 徐々に白んでいく空の下、何もない荒野と瓦礫の町の狭間でただ二つの機動兵器が全てに取り残されたようにぽつんと対峙していた。
 装甲のいたるところに傷を拵え、金属特有の光沢を失っている蒼い機体ネリー・ブレン。
 表面装甲の六割が膨大な熱量によって融解し、氷柱のように垂れ下がった状態で凝固しているシャイニングガンダム。
 二つの機体はまさに満身創痍。だが、二機は戦う力も気概も失わず、かといって不用意には動くことも出来ずにただ睨み合いを続けていた。
 全身が、汗にまみれていた。ギンガムの放つ圧力は並大抵のものではない。それを押し返し睨み合う。ただそれだけで疲労は蓄積されていく。

(ブレン、分かっているな?)
(……)
(すまないな。嫌な思いをさせる)

 これまでの交戦で互いが互いの手を読みつくしている。ゆえに迂闊な初動は即座に死に繋がる。普通ならば容易には動けないものなのだが、この男にそんなことは関係なかった。

「名残り惜しい気もするが、そろそろこの戦いも終わりだな。ならば――」

 装甲が焼け爛れたシャイニングガンダムが光を発し、黄金に染まる。
 緻密な計算も、姑息な浅知恵も関係ない。全てを薙ぎ倒す力の信奉者ギム=ギンガナムは吼えた。

「この一撃をもってええぇぇぇえええ!! 神の国への引導を渡してくれるっ!!!」

 刹那、ブレンが一歩を踏み出し、その場から掻き消えた。ギンガナム相手に真っ向から攻める愚は冒さない。かと言って、初手から死角を使う愚かさもない。
 側面を突く。しかし、ギンガナムはもう、鋭敏に反応していた。
 雄叫びをあげ、ブレンバーを振るう。ぶつかった。押される。抗えたのは束の間だった。圧倒的な力で押し流される。それを何とか撥ね上げた。皹が広がる音。
 二撃目。力を受け流しきれずに、ブレンバーの刀身が半ばで砕け散る。三撃目は死。次は凌ぎ切れない。だから刺し違える。命を賭してならそれが出来る。そして、それはここしかない。
 跳躍。ギンガナムの右後方――左腕からもっとも遠い死角――そこへ。ギンガナムがにやりと笑った気がした。
 瞬間、相手の左腕が閃光を発する。動きはここにきて尚早い。ここぞというところを嗅ぎ分けるこの男の嗅覚には、思わず舌を巻く。
 三撃目。砕けた刀身を突き出した。前へ。ただ前へ。暁を背に二つの影が交錯する。ぐしゃりと砕ける音。モノが潰れる感触。

154Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:25:41
 光る腕は眼前で止まり、その光を失っていた。そして、ブレンバーの刀身はギンガナムを貫いている。

「生きて……いるのか? 私は……」

 死を覚悟して前に出た。にもかかわらず生きている。何故、自分は生きているのか? 生きていることを喜ぶよりも先に、疑問が思い浮かんだ。
 ジョシュアがギンガナムの右腕を持っていってくれた。クルツが装甲を脆くし、機体そのものの動きも鈍らせてくれた。その彼らが開いた血路のお陰で生き残れた。
 それは分かっていたが、やはり生きているということが不思議でならなかった。緊張の糸が途切れたのか、どこか呆然としているという自覚がある。
 心ここにあらずというのは、こういうことなのだろうか?

「貴様、名は?」

 不意に声を掛けられてびくりとした。思わず声が上擦るのを感じながら、言葉を返す。

「……グラキエース」
「ふ……ふふ……グラキエースか」

 不適な笑みをこぼしたギンガナムが、ブレンバーが突き立ったまま一歩前に出る。そして、一歩が二歩に。ブレンバーはさらに奥深く突き立つこととなり、黒いオイルが血の様に噴出していた。

「貴様の名、覚えたぞォォ!! 我、魂魄百万回生まれ変わってもおぉぉおおお!!! この恨み、晴らすからなああぁぁぁああああ!!!!」

 眼前の左腕が再び閃光を発した。近い。そして、反応が遅れた。避わせない。ブレンの頭部が捕まる。咄嗟に両腕でその腕を掴む。しかし、ビクともしない。
 突然、恐怖が襲ってきた。この身が消え果るという本能的な恐怖。ブレンのものか、自分のものか、判別はつかない。
 思わず胸をグッと掴む。あたたかい。そうだ。このあたたかさの為なら私は命を賭けられる。私が私のままで逝くことが出来る。
 ジョシュアはよくやったと褒めてくれるだろうか? あいつは私の頭にぽんと手を置き、優しくなでてくれるだろうか?
 きっと褒めてくれる。きっと優しくなででくれる。もう悔いは……ないっ!

「跳べ! 跳ぶんだ、ブレン!!」

 怨嗟の念と自身への誇りを残し、一つの命を糧に二つの機動兵機がその場から掻き消える。そして、一ブロック南――D-4地区に余りにも小さな爆発音が人知れず鳴り響いた。

 ◆

 ラキが出て行って暫くたってから、ネリー・ブレンが戻ってきた。その姿は泣いていた。何故だか分からないが、そんな気がしたのだ。
 コックピットを覗くとそこにはラキの遺骸が乗っていた。
 それとヒメ・ブレンの分の穴をネリー・ブレンと一緒に掘った。クルツは跡形もなく吹き飛んでいて埋めるようなものは何も残っていなかったのだ。
 ブレンに触れ、そっと呟く。

「ねぇ、ブレン。ラキの最後は……どんなだった?」
(……)
「そう……そうか。うん。ありがとう」

 二つの遺骸を納め、土をかぶせていく。こみ上げてくるものをグッと堪える。
 ジョシュアを埋めたときには泣いた。シャアが死んだときには泣く気力すら残っていなかった。
 でも、今は泣くべきではないと思っていた。
 みんな見事に死んでいった。そうだ。見事な最後だったんだ。死ぬときはこうありたいと誰もが思えるような見事な死に様だ。
 でも……死は死だ。他の何者でもない。
 そして、自分は生かされた。たまたま自分は生かされたのかもしれない。そこにいたのが自分でない誰かであっても、きっとみんな守って死んでいっただろう。
 だからといって、自分が生かされたという事実はなくならない。それはやはり黙して受け止めるべきことなのだ。
 今はまだ泣かない。
 泣くのはやるべきことが全部終わったあとでいい。そのときに思い出して泣こう。そのときまで涙は取っておこう。
 遺骸が土に隠れると胸の前で手を合わせ、ゆっくりと目を閉じる。
 ジョシュアは何も言わずにただ守ってくれた。シャアは死ぬこと以外好きにしろと言った。
 クルツは命を懸けても譲れないことがあることを教えてくれた。ラキはただ頑張れと言ってくれた。
 そして、ヒメ・ブレンはこんな私に最後まで付き合ってくれた。文句の一言もなく。

155Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:27:16
 でも、何をやるべきなのかは誰も教えてくれなかった。それはきっと自分で決めるべきことだ。みんな生かしてくれた自分が自分で決めるべきことだ。
 そう思った。
 スッと目を開けたアイビスは、顔を上げてネリー・ブレンを見上げる。真似たのか両手を合わせた姿がそこにはあった。
 そのどこか滑稽な姿にふっと頬を緩ませ、墓に背を向けて歩き出す。後ろ髪引かれながらも振り向かない。振り向いてはならない。

『そりゃ、お前が引け目を感じているからだ』

 ギンガナムに接触する前、ラキのことを聞いた返しに、ここに来てからの話をしたときのクルツの言葉だ。

『一方的に何かをしてもらったと思ってる。自分は何もしてないのにってな。つまり対等だと思えないんだ。仲間なのにな。
 理由もないのに世話を焼かれ続けるのってきまりが悪いだろ? それと同じだ。相手は気にしてないのかもしれないが、お前はそれを気にしてる。
 だったら見返してやれるぐらいしっかりした人間になればいいのさ。そのくらい自分に自信がついたら、その後ろめたさは消えるんじゃねえかな』

 一人生き残ってしまった後ろめたさ。それはまだ消えない。多分そう簡単に消えるものでもないだろう。消えるようなものではないのかもしれない。
 それでも、いつかは死んでいった人たちの命に見合うような人間になりたかった。

「ジョシュア、ラキ、シャア、クルツ、ブレン……あんた達はそこで見ていて……もう迷わないから。もう立ち止まらないから。
 私は、私なりの生き方で精一杯生き抜いて見せるから……。だから、笑って見ていて」

 墓を背に、喉元まで出掛かった嗚咽と涙を押し戻し、空を見上げたアイビスは言う。思いのほか綺麗に澄んだ声が、朝露に溶けて消えていった。

「行こう、ブレン」

 ◆

 すり鉢上に抉れた荒野。直径10km程もあるその荒野の上空を一羽の神鳥が飛んでいた。
 その神鳥はぐるりと大きく旋回すると廃墟と荒野の境目に一つの人影を見つけて、軌道を変えた。
 やがて神鳥はその男の元へと降り立つ。

「ブンドルか……」
「ギンガナム、無事だったのか」

 神鳥――サイバードから声を上げ降りていく。それを目の前にギンガナムは実に誇らしげに笑った。

「うむ。危ういところだったが小生は勝ったぞ。一人は取り逃してしまったがな。だが、ギンガナム隊の勝利だ」

 頭が痛い。この男、確実に修復不能なまでの溝を作ってくれたに違いない。そして、自分はこいつの一派だと思われている公算が大きい。
 今後の行動に支障を来たす可能性は高かった。それに生き残った一人がギンガナムの健在を知るのもそう遠くはないだろう。眩暈すら覚える惨状である。

「ときにブンドル。貴様、マスターガンダムをどうした? まさか倒してはおらぬであろうな」
「やはりあれもガンダムというのだな。心配するな。撒いてきた」
「ならばよし! あれとは小生が戦う。貴様は手を出すなよ」

 それは一向に構わない。むしろ願ったり叶ったりなのだが、これだけ暴れておいてまだ戦うつもりなのか、と心底呆れ果てる。
 本当に付き合いきれない。

「ギンガナム、機体はどうするつもりなのだ? 言っておくが、サイバスターを貸す気は私にはないぞ」

 見つけたときからギンガナムは一人で、機体は跡形もなかった。にもかかわらず戦う気満々である。
 だから不安が過ぎる。せっかく苦労して守り通したサイバスターなのだ。あっという間に壊されてはたまったものではない。
 だが、ギンガナムからはカラッと陽気な声が返ってきた。非常に上機嫌だ。

「ふん。そのような機体に頼らずとも小生にはシャイニングガンダムがある」
「見当たらないが……」
「そろそろ頃合か。よいかブンドル。小生は機体ごと禁止エリアに転移されると悟った瞬間、飛び降りた。すなわち機体のみ跳ばされたのだ。
 そして、シャイニングガンダムは呼べば来る機体だ! 目には物を見よッ!!」

156Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:28:20
 前後の説明がないのでいまいち理解に苦しむ。とりあえず非常識なことをやらかしたのは分かった。だが、そんなこちらの様子を気にした風もなく、ギンガナムは天高く右手を掲げる。
 何だ? 何故こいつはこうまでハイテンションなのだ? こちらとしてはお前が巻き起こした惨状に頭が痛いというのに。その無邪気さが恨めしかった。

「出ろッッ!! ガンダアアアァァァァァアアアアアアアアアアアムッッッッッ!!!!!」

 それがやりたかっただけだろ。そう思わずにはいられない喜々とした表情で叫び、指を弾く。地鳴りが響き。何処からともなくシャイニングガンダムが姿を現した。
 しかし、その姿はお世辞に無事とはいえない。腹部に刃物が突き刺さっているのだ。その他の箇所も散々な有様である。

「見たか、ブンドル! シャイニングガンダムはこの通り健在だ。さぁ、 行くぞ!!
 ガンダムファイトの挑戦状を奴に叩きつけになぁぁぁぁあああああああ!!!」

 溜息を吐かずにはいられない。仲間にしたのは間違いだったのだろうか……。いや、間違いなく間違いだった。力一杯そう思う。
 そして、明けの荒野にギンガナムの笑い声が木霊する。

「フハハハハハハハハハハハ……ゲホッ!! ゲホゲホ!! み、水をくれ、ブンドル」
「知らん」



【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
 パイロット状態:主催者に対する怒り、疲労(主に精神面)
 機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊
 現在位置:D-3
 第一行動方針:状況の把握
 第二行動方針:協力者を捜索
 第三行動方針:三四人の小集団を形成させる
 第四行動方針:基地の確保のち首輪の解除
 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
 備考:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能】

【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状態:あちこち痛いが気にしない(気力160:限界突破)
 機体状況:右腕肘から先消失、腹部装甲に折れたブレンバーが突き刺さっている
 各部装甲に多数の損傷、表面装甲の六割が融解して垂れ下がり凝固、EN10%
 現在位置:D-3
 第一行動方針:ブンドルについていく
 第二行動方針:強者を探してギンガナム隊に勧誘
 第三行動方針:倒すに値する悪を探す
 第四行動方針:マスターガンダムにガンダムファイトを申し込む
 第五行動方針:アイビス=ブレンを探し出して再戦する
 最終行動方針:最も強い存在である主催を討ち、アムロ達と心ゆくまで手合わせ
 備考:ジョシュアの名前をアイビス=ブレンだと思い込んでいる】

157Shape of my heart ―男の愚直 女の一途― ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:28:57
【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力120
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部・左肩・胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
        DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:D-3
 第一行動方針:近くにいる参加者を殺す
 第二行動方針:アキト、テニアを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 第四行動方針:できればクルツの首を取りたい
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない)
 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。
 無数の微細な傷、装甲を損耗、EN残量1/2、ソードエクステンション装備
 ENの減少により長距離バイタルジャンプの使用不可
 現在位置:D-3
 第一行動方針:自分がするべきことを見つける
 最終行動方針:精一杯生き抜く
 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

【クルツ・ウェーバー 搭乗機体:ラーズアングリフ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:大破】

【グラキエース 搭乗機体:なし
 パイロット状況:死亡(首輪爆発)
 機体状況:なし】

【残り25人】

【二日目5:30】

158 ◆7vhi1CrLM6:2007/12/03(月) 22:31:59
投下終了です。
馬鹿長いのに代理投下してくださった方、支援してくださった方、ありがとうございました。
後書きはさるさん解けてから本スレで書かせていただくこととします。

159Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:13:58
 目が二つあった。
 パープルアイとでも言うのだろうか? 深く暗く沈んだ紫紺の両眼が、言い逃れは許さない、と詰問の視線を突きつけている。
 どこか追い込まれているような、自分で自分自身を追い詰めているような、そんな目だった。
 似てるなと思う。初めて戦場に狩り出された新兵が、自分のミスで仲間を死なせてしまった。そう思いつめているときの目が、ちょうどこんな感じなのだ。

「お前、ラキの何なんだ?」
「質問してるのはこっちだ」
「知ってることを全部話せって言われてもな……何処の誰とも知れない奴に話す義理はねぇ。
 もっとも、俺のことなら別だがな。今夜のご予定から泊まっている部屋の番号まで何でもお答えいたしますよ」
「ふざけるなっ!!」
「悪い悪い。そう怒るなって。だが、そっちが答えなきゃこっちも答える気はないぜ」

 努めて冷静に、出来るだけ刺激を与えないように(?)気をつけながら話す。両手は頭の上だ。別に銃を突きつけられているわけじゃなかったが、これが一番意思が伝わりやすい。
 強引に切り抜けられるか、と問われれば、多分出来るだろう。
 目の前のお嬢さんは筋肉に無駄が少なく(ついでに削ぎ落としたのか、胸の脂肪まで死亡してるのが残念でもあるが)細身なりに鍛えられているようだが、動きはどちらかと言うと素人くさい。
 ただ、柄じゃない。
 となると、受け答えの中で情報を引き出せれば御の字といったところか。だが、無言を衝立にして返されたんじゃ埒があかない。軽口にも乗ってこない相手に溜息まじりに言葉を投げかける。

「おいおい。黙ってちゃ何にも分からないぜ。もう一度聞く。お前とラキの関係は?」

 あまり友好的な関係ではないのだろう。置かれた状況を鑑みれば、ラキが何か不祥事をやらかしたとしか思えない。
 現に目の前の少女は歯を食いしばって思い悩み、苦悶の表情を浮かべていた。強気の表情の裏で弱気が揺れ、顔は俯いている。その口元が微かに動いた。

「ある人の最後を伝えなくちゃいけない……。伝えなきゃいけないんだ……私は……ラキに……」

 自身の見当違いに気づくのと同時に、そろそろと視線を伏せた少女の顔に落とす。前髪越しに見える真一文字にきつく閉じた唇が、小刻みに震えていた。
 泣いているのか? そう思った瞬間、少女の顔ががばっと持ち上がり、涙が滲んだ視線が突き刺さる。

「さぁ、私は言ったぞ! 今度はお前が答える番だ!! 教えろ、ラキについて知っていることを!!!」

 ラキを探している理由は分かった。危惧していたようなことではなさそうで、人知れず胸を撫で下ろす。目の前の少女は、どう見ても他人を謀ることに長けているようには見えないのも安堵感を大きくしていた。
 しかし、まだ分からないことがある。ラキが原因でないのならば棘の出所が分からない。
 それにこの娘の気の張り詰め方は危うい。的の位置が分からぬまま弓を目一杯引き絞っている。そんな矛先の定まらぬ危うさだ。
 それらに引っ掛かりを覚えながらもクルツは、ラキのことについて話すことに決めた。

「分かった。何から聞きたい?」

 背格好からという要望が返ってき、クルツはそれに答えて話し始めながら、それとなく様子を覗い続けた。
 目の奥が暗い。肌にチリチリと焼け付くような感情がそこで燻っている。目の前の少女は笑う気配すら見せない。
 やはり棘がある。ラキでないなら向けられているのは自分か?

「あんたとラキの関係は?」
「仲間ということになるかな。放送前まで同行していた」

 何でもない言葉。それが彼女の心の弓弦に触れた。刹那、紫紺の瞳が揺れ動き、動揺。そして、驚愕へと少女の表情が変わり、焦点のぼやけた少女はぽつりと呟く。

「……嘘だ」
「嘘じゃねぇ」

 手が震えた少女の眉間に皺が寄り、険しい表情を形作る。その目に灯った感情を読み取り肝を冷やした。
 気圧されて一歩退がり、ラーズアングリフの装甲が背中にぶつかる。思わず振り返り、慌てて視線を戻したクルツに飛んで来たのは、怒声だった。

「嘘を吐くな! あんたがラキの仲間な訳がない!! そんなわけないじゃないかっ!!!」

 取り乱し、感情的に声を荒げて詰め寄る様子に息を呑む。感情の堰が切れ掛かっている。怒りの、殺気の矛先は間違いなく自分に向けられていた。
 訳が分からない。初対面のはずだ。こうまで嘘つき呼ばわりされる心当たりは全くない。そんな疑問符で頭が埋め尽くされる。

160Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:15:19
「嘘じゃねぇって。間違いなくあいつとエイジと俺の三人で行動してた。これは保証する」
「だったらなんでアムロを殺した!! あんたがラキの仲間ならアムロを殺すもんかっ!! 殺すもんかっっ!!!」

 身の潔白を証明するしか他なく喚いたクルツの言葉に、アイビスの叫びが重なった。
 怒りに目を滾らせながら目肩で息をする少女を見つめて、再び疑問符が頭に浮かぶ。今度の疑問符は一個だけ。ただしでかい。即ち、アムロって誰よ?
 そうして頭の中で一通り検索にかけて、なお心当たりのないクルツの口を吐いて出た言葉は――

「ぬ、濡れ衣だァーーーーーーーーー!!!!」
「惚けるな!!!」

 思わず手が出たという感じで頬を叩かれた。クリーンヒット。直撃。反動で後頭部を固い装甲板でしたたかに打ちつける。正直、そっちのほうが痛かった。

「惚けてねぇ! 俺はそんな奴知りやしねぇ。まして恨みを買われる筋合いもねぇ」
「見たんだ!!! あんたがアムロを……赤い小型機を落とすところを!!!
 そんなあんたがラキの仲間だなんて認めるものかっ!!! 認めてやるものかっ!!!!」

 必死の目と一緒に、これまで押さえ込んでも押さえ切れずに、瞳の奥で燻っていたものが露になる。その感情の堰が切れる様を目の当たりにしながら、クルツは事情を理解した。
 事情は単純。赤い小型機、おそらくは戦闘に介入してきたタイミングから考えて戦闘機にも変形するほうのことだろう。それが彼女の仲間で、自分はその仇というわけだ。
 だが一つこの少女は思い違いをしている。そこを正せば少しは立場が楽に……なるのか?

「ちょっと待て! 殺してねぇ!!」
「……えっ!?」
「殺しちゃいねぇって! そいつは生きてる」
「嘘だっ!!」

 何度目かも分からない否定。全く信用されてない立場というのは辛い。

「まぁまずは落ち着けって。確かに小型機は落とした。けど、あの時そいつは既に青い機体に乗り換えていた。
 見たろ? 俺がその青い機体に追い詰められるところを。あんたが介入してなかったら死んでたのは俺のほうだった。だから嘘じゃねぇ」
「生……きてる?」
「そう。そいつは生きてる」
「本当?」
「本当だ。もう五六時間もすれば放送が流れる。嘘を吐いても意味がねぇよ」

 胸を撫で下ろし大きな安堵の溜息を漏らすのが見えた。少しはこれで険が取れるかな、と思って油断した隙に再び詰問の視線が向けられ、思わず表情が強張って気持ち身構える。

 ぐぅ〜

 薄く開いた唇が言葉を発するより早く少女の腹の虫が鳴いた。険が取れるどころか緊張が霧散し、空気が弛緩する。
 思わず笑ったクルツの大声が夜空に響く。開けた口を訳もなくパクパクさせている目の前の少女の顔は真っ赤だ。

「わ、笑うな」
「ハハハ……腹減ったとよ。どっかで飯にするか?」
「減って ま せ ん 」

 躍起になって否定する少女を尻目に中央廃墟で一息吐くことを勝手に決める。北の市街地には行きたくなかったのだ。
 全くの偶然の腹の虫ではあったが、お陰で今話の主導権はクルツに移行している。気持ちにも余裕が出来た。
 機体に乗り込もうと背を向け、背後の気配の動き出す様子のなさに振り返る。
 そこに強い光を見止めた。真摯さ。熱心さ。そんな光だ。そしてその奥にはまた別の暗い光が併在している。

「一つ聞かせて。何でアムロと争ってた?」

 思わず頭をガシガシと掻いてあらぬ方向を見上げてしまった。一番答えにくい質問だったのだ。何しろ最初に手を出したのはこちらなのだから。
 ちらりと視線を戻す。そこに最初と同じ『言い逃れは許さない』という詰問の視線を確認して、慌ててまた逸らした。どうにも答えずにすむという訳にはいかないようだ。

「あいつとやり合ったのは二回目だ。一回目は俺から仕掛けた。それを覚えてたんだろうな。二度目は奴から仕掛けてきた。後は通信を交わすこともなく戦闘さ」
「一度目はなんで?」
「さぁ、何でだろうな。いきなり殺し合いを強要されて、情けねぇことにパニクってたのかもな」
「そう……」

161Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:17:33
 目線を合わせる勇気はなかった。僅かに混ぜ込んだ自分を守るための嘘。それに言いようもない引け目を感じたのかもしれない。
 逃げるようにして機体に乗り込むとホッと胸を撫で下ろす。下手な嘘がバレやしないか冷や汗ものだったが、どうやら信じては貰えたようだった。もっとも疑いが完全に晴れた風には見えないが。
 通信を繋げる。

「んじゃ、行くとしますか。行き先は中央廃墟。そこで朝まで一休みだ」

 とそこまで言って肝心なことを聞いてないことを思い出す。

「お嬢さん、そろそろお名前を教えてもらっても良いんじゃないでしょうかね?」
「へっ?」

 目を丸くするのが見え、ちょっと間の抜けた声が響く。どうやら向うも名乗ったつもりになっていたようだった。

「アイビス……アイビス=ダグラス。あんたは?」
「クルツ=ウェーバー……俺名乗んなかったっけ?」
「名乗ってないよ」

 呆気羅漢と返ってきた声に「おっかしいな」と応じながら頭を掻き、「まぁいいさ」と繋いだクルツは、とりあえずラキとアイビスを会わせてみようという気になっていた。
 そうして二機は中央廃墟へと向かう第一歩を踏み出す。そこに待ち受けている結果も知らずに……。

 ◆

 アイビス・クルツから遅れること約四時間。C-3地区にも中央廃墟を目指す機体の姿があった。
 その低空を僚機となったシャイニングガンダムと共に飛びながら、ブンドルの思考は一つのことに囚われていた。
 サイフラッシュ・ハイファミリア・アカシックバスター・コスモノヴァ、そして精霊憑依。
 ブンドルが扱いきれないサイバスターの武装や機能は多い。
 ゆえにブンドルはこれまで機体の基本性能と剣戟、そして僅かな火力での戦いを強いられてきた。それらはひとえに操者の資格を持たぬがゆえのことであったが、一つ事情の異なるものが存在する。
 ラプラスコンピューター――それは一種のブラックボックスと言っても過言ではないサイバスターの中枢を司るメインコンピューター。
 これだけは操者の資格を持たないが為か、それともただ単純にそっち方面の専門家でないことによる技術力不足によるものか、判別に難しい。だが、どういうものかの憶測はついていた。
 ラプラスの名を耳にしたとき、ブンドルが真っ先に思い浮かべたのは18世紀から19世紀にかけて活躍したフランスの数学者ピエール=シモン・ラプラス。ラプラス変換の発見者として、彼の名は高い。
 その彼によって提唱されたものの中に『ラプラスの悪魔』というものが存在し、彼は自著の中でこう語っている。

『もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、
 この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も全て見えているであろう。  (確率の解析的理論)』

 この仮想された超越的存在の概念であり、ラプラスがただ単に知性と呼んでいたものに、後世の者が付け広まった名称が『ラプラスの悪魔』である。
 それは量子論登場以前の古典物理学における因果律の終着地点と言ってもいい。
 そのラプラスの名を冠する以上、おそらくこのコンピューターが目指したものは未来予測。

「ラプラス自身の理論は後に量子力学によって破られることになったが、果たしてこのコンピューターは『全てを知り、未来をも予見できる知性』足り得るのか……」

 目指しはしても、そこに至れるかどうかは別問題。『ラプラスの悪魔』にまで至れているという保証はどこにもない。
 だが、最低でも物質と現象を解析し予測する為の機能が備わっているはずである。例え完全ではなくとも、それらの機能がなくてはラプラスの名に対して失礼と言うべきであろう。
 そして、その処理速度も並々ならぬもののはずだ。1秒後の未来を算出するのに1秒以上の時を要しては意味がない。
 ならばだ。然るべき者の手に渡りさえすれば、首輪の解析など容易くやってのける代物なのではないか――それがブンドルの抱いたものであった。

「ブンドル」

 突然の通信に思考の波から意識を拾い上げる。無骨な男の顔がモニターに映し出されていた。

「ギンガナム隊のことについてだがな」
「……なんだ? そのギンガナム隊とかいうのは」

 薄々感づきながらも言葉を返す。妙に嫌な予感がしていた。そして、こういう勘は当たるものだ。

162Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:18:49
「ギンガナムとはムーンレイスの武を司る一族の名。そして、我が部隊の名だ。
 ロンドベル隊の名も惜しかったのだがなぁ。アムロ=レイが存在する以上、あちらにその名を譲るのに小生も吝かではない。
 貴様もギンガナム隊の一員となったのだ。覚えておけ」
「少し待て。それは君の名ではなかったか? というかいつ私が君の下に付いた?」

 こめかみを押さえ、俯きがちに頭を左右に振る。色々と頭が痛い。だがそんな様子に構うことなくギンガナムは返答を寄越してくる。

「いかにも。我が名はギム=ギンガナム。ギンガナム家の現党首よ。
 どこの馬の骨とも知れぬ者をギンガナム隊に加えるのには小生も少々の抵抗があったのだが……ブンドル、貴様はなかなか見込みがあるので特別に許可した。誇りに思うが良い」
「話が食い違っている……それにその美しさの欠片も見当たらないネーミングには反対させていただこう」
「異論があるのならば代案を出すべきであろう。
 だが、あの化け物を討つのに、ギンガナムの名以上に相応しい名はない。そう、ロンドベル隊とギンガナム隊の共同戦線によってあの化け物は討ち倒される。
 フフフ……ハーハッハッハッ……素晴らしい! これぞまさしく小生が夢にまで見た黒歴史との競演!! だがそれにはぁ、我が隊の戦力を充実させねばなぁっ!!!」

 勝手にテンションを鰻上りに上昇させるギンガナムを脇目に、ブンドルは僅かに考え込んだ。代案を出せというギンガナムの言には一理ある。
 そして、頭に思い浮かんだ部隊名は――

「……ドクーガ情報局」
「フンッ! 大 却 下 だ!!」
「ならば……」

 そこで言葉を飲み込む。言おうか言わまいか、束の間悩んだ。目の前の男に自分の美的センスが理解できるとは到底思えない。
 芸術の何たるかを全く理解しない無知蒙昧な輩に、自分の美的センスが扱き下ろされるのはどうにも我慢がならない。

「ならば何だ?」
「……なんでもない」
「どうせ大したことのない部隊名を思いつき慌てて引っ込めたのであろう。やはりここは武を納めるギンガナムの名こそ相応しい!!」
「それには反対だと言った」
「ギンガナム隊に反対ならばシャッフル同盟で決まりだな。異論があればもっとマシな対案を出してみよ。
 どうした? 何か言いたそうだな? その貧弱なお頭でぇ何を思いついたか言うがいい。ほれ! ほォ〜れ! ハーッハッハッ……!!」

 あからさまな挑発。見え透いた手。だが、悔しいが効果的だ。小馬鹿にされているようで地味に腹が立ってくる。というかうざい。

「そうまで言うのなら聞かせてやろう。この部隊の名は――





 ――『美しきブンドルと愉快な仲間達』だ」

 満足気に言い放ったブンドルを残して時が凍りついた。

「……」
「なんだ、その痛いものを見るような目は? そんな悲しそうな憐れみの目で私を見るな」
「その今にも『全ては我らのビッグ・ファイアの為に!』とか言いだしそうなネーミングは……それに後半……」
「それはだな」
「いや別に説明しなくともよい。すまん。小生が悪かった。だから悪いことは言わぬ。ここは大人しくギンガナム隊にしておけ」
「それには反対だと言っている!」
「ええい。人が下手に出ておればいい気になりおって。何が不満なのだ?」

 議論は白熱(?)していき、多くの名が挙がっては切って落とされていくこととなった。
 そして、目的地D-3廃墟の上空に差し掛かる頃、両者は半ば折れる形で部隊名はなんの捻りもなく『ドクーガ情報局ギンガナム隊』に決定される。

「まぁいい。とにかくブンドル、貴様にはギンガナム隊の参謀を務めてもらう」
「お断りさせてもらおう。私はドクーガ情報局の『局長』だ。降格は勘弁願いたい。それではよろしく頼むよ、『隊長』殿」
「くっ……貴様、またしても謀ったな」
「部隊名はそちらも納得して決めたはずだ。それとも君は一度口にした言葉をひっくり返す程度の男かね」
「ぐっ! おのれ……」

163Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:20:24
 悔しげに睨み付けてくる眼光を飄々と受け流す。戦闘行為ならともかくとして、口と謀でこの男に負ける要素は皆無といって良い。
 未だブツブツと文句を呟くギンガナムを尻目に、視線を眼下の廃墟へと落とした。
 現在、ブンドルの頭の中には幾つかの集団が刻まれている。
 北西の市街地にはアムロとガロード。南部市街地にはトカゲ型の戦艦とガロードの仲間。そして、ゼクスを中心とした集団は中央廃墟の方角を目指していた。
 もっともトカゲ型の戦艦とゼクスの集団はそれなりの時間が経過している為、移動している可能性が高い。そう考えるとこの中央廃墟と北の廃墟は大きな空白地帯と化す。
 つまり参加者の保護・小集団の形成という観点から考えて、ここは見過ごせない地域なのだ。
 そして、出来ればもう一度サイバスターの操者と接触を取りたいという欲が、ブンドルに中央廃墟を選ばせていた。
 だが見下ろした廃墟に人影は見当たらない。深夜という時間帯と廃墟という死角の多さが目視を遮っているのだ。加えてレーダーの不調もある。

「ギンガナム、そちらのレーダーに反応は?」

 文句を止めて取り合えずはレーダーを確認したらしいギンガナムが、「なにも」と返してくるのを聞いて、これは骨が折れるかもしれない、といった思いが頭を過ぎり――

「ところでな、ブンドル」

 思考を中断させられた。

「……まだ何かあるのか?」
「うむ。毎回戦闘前に名乗りを上げていたのだが、どうもパターンが尽きてな。そこで二人で是非とも試して」
「断る!!」
「いけずだな」

 当然だ。嫌な予感しかしない。

「だが、これを聞けば貴様の気もきっと変わるであろう」
「言わなくていい。言わなくていいから、少しあっちに行っててくれないか?」
「まずは小生が問いかける。それに貴様は答えていけばよいのだ」

 思いっきりスルーされた。あまりのマイペースさに殺意を覚えないでもない。少しくらい聞けよ、人の話……いかん。キャラが崩れてきている。自戒せねば。

「『流派東方不敗は』と問われれば貴様は『王者の風よ』と返すのだ。あらん限りの声を振り絞り叫ぶのだぞ。分かるな? 気迫がここではモノを言う。そして、続きは――」

 得意気に説明を続けるギンガナムを完全に無視して、思案を再開することに決めた。とてもじゃないが付き合いきれない。
 改めて廃墟へと目を向ける。ざっと見渡した限り目視にかかるほど大きな機体は見当たらない。また死角が非常に多い。空を飛ぶ来訪者は見つけやすく、自身は隠れやすい地形ということだ。
 好戦的な者を除いたほとんど全ての者は、一度隠れてこちらの様子を覗うと思ったほうがいい。かと言って、地上を歩き路地の一つ一つを覗いて回っても埒があかない。
 つまりは目立つ空に機体を曝け出して、いるかどうかも分からない相手のコンタクトを待つしか方法がないのである。
 ならば時間で区切るべきだ。交代制で半分を休息に当てるとして、一時間か? それとも放送までか?
 そうやって先のことに思考の手を伸ばしていたとき、視界の隅で何かが煌めいた。モニターに警告のメッセージが灯るのよりも素早く身を翻す。
 虹色をまとめて撃ち出したかのような光軸が間際を駆け抜け、装甲を焦がした。それを脇目に射撃地点を睨んだブンドルは、しかし突然後方で鳴った衝撃音に思わず振り返ることとなる。
 火花を散らしながら銃と剣の中間のような武器を叩きつける流線型の機体と、それをアームプロテクターで受け止めるギンガナムの姿が目に飛び込む。
 やばい――そう思った瞬間、女の憎悪に塗れた声とギンガナムの剛毅な声が木霊した。

「ギンガナム! お前を!! お前だけはああぁぁぁぁあああああ!!!」
「小生をギム=ギンガナムと心得て向かってくるその心意気や良し! だがしかあぁぁしっ!!」

 ギンガナムが相手の武器を跳ね上げ、腕を掴み、豪快に投げ飛ばした。空中をくるくると舞った敵機は、数百m離れたところでようやく体勢を整える。その鼻頭にギンガナムの声が飛ぶ。

「貴様では足りん! 小生を、このギム=ギンガナムを倒したくば、このシャイニングガンダムの右腕を見事斬りおとしてみせたあの男を出すがいい!!
 勝利の二文字を持って屈服させええぇぇぇ!! 我がギンガナム隊の一員としてくれるっ!!!」
「黙れっ! お前が、あいつを殺したお前が気軽にあいつのことを口にするなっ!!」

164Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:22:23
 突然、流線型の機体がぶれたかと思うとその場から消失する。次の瞬間、それはギンガナムの死角に姿を現した。
 銃剣の切っ先が下から上へと振り上げられる。それらの動きに瞬時に反応して見せたギンガナムはワンステップでかわすと同時に振り向き、掌を胸部に添える。

「遅い。温い。伸びも芸もない。その程度でぇこのギム=ギンガナムの首が取れるものかよぉ!!」

 中空にも関わらず踏み込む。流線型の機体が体をくの字に折り曲げて、すっ飛んだ。刹那、ブースターが青白い燐光を瞬かせ、ギンガナムが追撃に移る。
 それらの光景を前にブンドルは再度思う。これはやばい、と。この闘争本能の塊のような男は、既に燃え盛る炎と化している。襲い掛かる者に対して容赦はないだろう。
 そして、漏れ聞く限り突如襲撃してきた女は復讐者。この組み合わせはまさに火に油を注ぐようなもの。勢いのままに暴走を許せば、後の結果は火を見るより明らかだ。
 そこまで分かっていながらブンドルは動けなかった。
 理由は二つ。
 一つはテレポーテーションとでも言うべき移動に度肝を抜かれ、介入のチャンスを見出せなかったこと。
 そして、まだ何かがある気がする。あるいはいるのかもしれない。ともかくギンガナムと女と自身の他にまだ何かがここに介在している。
 理屈というよりかは勘のようなものだ。未だ表に出てこない潜んでいる何かがあると告げていた。
 さらにもう一つ付け加えるのならば、サイバスターのラプラスコンピューターに対しての憶測もブンドルを慎重にさせることに一役買っていたのかもしれない。
 ここで悪戯に失うわけにはいかない。そういった思いがあったことは確かなのだから。
 雲越しに火線が煌めき、幾度目かの火花が散る。
 ギンガナムもあの男一流の嗅覚で違和感を感じ取っているのか、女とギンガナムの戦いはどこかぎこちなかった。が、そのぎこちなさは程なく融解することとなる。
 ギンガナムの狂喜に彩られた声が大地に響き渡ったのだ。

「見つけたぞ!! アイビス=ブレエエェェェェェェェンッッッ!!!」

 何処か女性的な丸みを帯びた流線型の敵機。それを弾き上げたシャイニングガンダムのスラスターが噴射音を唸らせたと思った瞬間、敵機を無視し、地表の一点目掛けて突撃を開始した。
 夜空に流星のような一筋の光が灯る。
 その流れ落ちる先に赤い無骨な機体を発見したブンドルは、サイバスターのブースターを焚き、フルスロットルでそこに突撃した。
 上空にギンガナム。地表面付近に自身。どちらが早いとも考える余裕はなく、二機は急速に赤い機体との距離を詰める。
 朽ち果てたビル、鉄骨を露にした廃墟、腐食し赤く錆び付いた鉄筋、それらの景色が後ろへと飛んで行く。その先で、赤い機体がギンガナムに銃を向けるのが見えた。
 横合いから懐に飛び込む。銃を潰れた左腕で制し、間髪入れずにギンガナムの拳を右手の剣で受け流す。そして、返す刀でギンガナムの脳天に降って来た女の剣閃を受け止めた。

「チッ!!」
「ブンドル、貴様ッ!!」
「なっ!!」
「三人とも剣を引け。この場は私が預か……ッ!!」

 全てを流れるような動作で隙なくこなしてみせたブンドルであったが、そこが一呼吸における挙動の限界でもあった。
 黒い弾丸のようなものが飛び出してくるのを視認する間もなく、轟音がコックピットを揺らす。
 動から静に転じる瞬間を狙い済ましたように突かれたサイバスターは、なすすべもなく押し流され、瞬く間に瓦礫の街並みへとなだれ込んで消えていった。

 ◆

 二つの機体が縺れ合っている。白銀の機体が大人と子供以上も体格差のある黒い機体に押し負け、瓦礫を巻き込みこんで後退を続けていた。

「聞こえるか? 黒い機体のパイロット、私は君との争いを望まない。剣を納めてくれ。そうすれば私はギンガナムを諌め、あの場を丸く治めてみせる」
「ククク……ハーッハッハッ……!!」

 通信。流れてくるのは休戦の提案。黒い機体のパイロットガウルンは、堪えきれずに思わず噴出した。
 その様子にモニターの端に開いた通信ウィンドウの中の顔が、眉を顰める。

「何か可笑しいか?」
「冗談言っちゃいけねぇな。せっかく面白くなりそうなところだ。それを潰されちゃたまんねぇ」

165Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:23:27
 一番動きが良かった奴を狙いすまし、隙を衝いて仕掛けたが、正解だったってわけだ。赤い奴はどうだか知らねぇが、白い機体も丸っこい機体も剣を引く気は毛頭なさそうに見えた。
 ということはだ。ここでこいつを喰っていけば争いが治まることはないと言える。その後は、選り取り見取りだ。
 それに面白味はねぇがこいつ自身も一級品。暇つぶしの玩具としては、何の不足もない。

「悪いがここで死んでもらうぜ」
「なるほど……そういう輩か。ならば君などに付き合っている暇はないッ!!」

 白銀の機体が刀剣を抜き放つ。密着した状態で掲げた剣を振り下ろす。上から下。頭部と背面を狙った刺殺。鋭いッ!!
 咄嗟にヒートアックスで受け止めた。その隙を衝いて押さえ込んだ状態から抜け出される。一塊だった二機がパッと左右に分かれた。

「やるじゃないか。大したものだ」
「そちらこそ……な。野放しにしておくには少々危険だ」

 数百mの距離を置いて二機は対峙する。互いにまだ瀬踏みの段階。つまりは小手調べの前哨戦。それでもある程度の力量は伝わってくる。
 その力量だけで言えば、信じられない程の上物だ。自分自身に対する絶対の自信も持っている。そんな奴の鼻を明かしてやるってのは、たまらねぇな。そうガウルンは一人ごちた。

 ◆

「クックックッ……ハハハ……フハハハハハ……!!!!」
「何が可笑しいッ!!」

 愉快さを隠し切れないといった無邪気な笑い声に反発を覚え、思わず叫んでいた。

「何が可笑しいだと? ククク……、黒歴史において最強の武道家と誉れ高い東方不敗がマスターアジア。その愛機マスターガンダムが姿を現したのだ。
 そして、小生は今その弟子の機体に乗っておるのだぞ! 何たる僥倖! 宿命!! 数奇!!!
 これが笑わずにいられるものかっ! もはや貴様の偽善になど付き合っていられぬ。今すぐにでも奴を追いかけぇッ!! ガンダムファイトの挑戦状、叩き付けてくれるわッッ!!!」

 言うが早いか、シャイニングガンダムのブースターに明かりが灯る。銃声一つ。その鼻先を七色の燐光を発するチャクラの波が駆け抜けた。

「行かせない。ギンガナム、あんたの相手は私だ」
「ほぉ。貴様ごときが小生と渡り合えると本当に思っているのか? それにそこの赤い機体。奴ではないな。接近戦における動きの冴えがまるで違う。
 もう一度言う。そんな貴様らごときに勝ち目がぁあると本当に思っているのかあぁぁあああ?」

 白銀の中型機が介入してくるまで、ギンガナムに押されっぱなしだった。
 ジュシュアとの戦いを経ている為か、バイタルジャンプにもそつなく対処してきている。虚を衝くことはほぼ不可能に近い。
 真っ向勝負で勝てるという道理はない。五分に渡り合える理屈もない。でもそんなことは――

「やってみないとわからないだろ。あいつを追うんなら私を倒してからにしろッ!」
「舐められたものだな。まぁいい。せっかくのガンダムファイト。横槍を入れられても面白くない。
 ならば、貴様らを殺した後、ゆっくりと専念させてもらおうではないかッッ!!」

 言葉と同時にギンガナムの姿が掻き消える――否、そう思えるほどの速度で横っ飛びに跳ねた。
 咄嗟に追随。同時に『轟』と重い金属音が響き、ラーズアングリフがよろけ――

「固いな」
「なろっ!!」

 シザースナイフを振るったときには既に背後に抜けていた。結果、ラーズアングリフに視界を遮られギンガナムの姿を見失う。
 赤い胸部装甲板が拳大に窪んでいるのを確認しつつ、その脇をすり抜けようとした瞬間、体を悪寒が覆った。
 咄嗟にバイタルジャンプ。ほぼ同時にラーズアングリフの脇で肘鉄が空を切った。そこに二制射撃ち込んだときには、クルツ一人残して影も形もない。
 ――廃墟に紛れ込まれた。
 足元に着弾した銃撃に文句を散らすクルツを無視して、視界を八方に目まぐるしく動かす。
 ――見つけた。右後方。
 振り向き様にソードエクステンション。が、それよりもギンガナムが懐に潜り込む方が僅かに早い。
 斬撃は肘の位置を掌で捌かれ、そのまま背中を合わせるように動いたギンガナムの右足が大きく踏み込む。
 重い音が大地を揺らし、肩で弾かれたブレンがすっ飛んだ。瓦礫を巻き上げ、ビルの残骸に埋没する。
 追撃を予想して跳ね起きた視界に、距離を置き銃口をちらつかせて牽制を仕掛けているクルツの姿が目に入った。同時に通信。

166Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:24:48
「無事か?」
「何とか……そのまま奴の気を引ける?」
「無理だ。弾が殆んどきれかけてる。弾幕も敷けねぇ」
「五分でいい。お願いっ!」
「だから無理だって。牽制に回す弾すらないんだぞ!」
「クルツ!!」

 思わず出た大声にギンガナムに注がれていた視線がこちらを向いた。その視線はホンの一瞬だけ交錯し、直ぐにまた元に戻る。

「やれるのか?」
「やれる! いや、やってみせる!」
「……分かったよ。五分だな?」
「ごめん」
「任せろ」

 クルツの声を耳にバイタルジャンプ。戦場からいくらか離れた空に転移した。そこから戦場を見守り、具にギンガナムの動きを観察する。
 シャアに褒められたことが一つだけあった。相手の軌道を読み切り、旋回半径に飛び込むGRaM系とRaM系に共通する基本動作だ。
 それしか自分にはない。だから持てる力を全てつぎ込む。ギンガナムの動きを読みきり、全力を一撃に、急加速度突撃に全てを賭ける。
 時間は?
 三分。
 焦るな。
 落ち着け。
 二分。
 小型ミサイル。
 回避。
 避け。
 一分。
 ビルをブラインドに。
 回り込む。
 そう見せかけて跳躍。
 音もなく上空へ。
 ここだっ!!
 青白い噴射光と七色の燐光が夜空に浮かび上がる。ギンガナムのシャイニングガンダムとアイビスのヒメ・ブレンが同時に突撃を開始したのだ。
 フルスロットル。
 眼前の廃墟をブラインドに。
 一度、互いの死角へ。
 廃墟を抜ける。
 そして――見つけた。
 微調整。
 ソードエクステンションを前に。
 あとは――

 ――ただ突っ込むだけだッ!!

「行っけええぇぇぇぇぇえええええ!!!」

 叫んだとき、距離はもう幾許もなかった。直前でギンガナムが反応するのが見えた。構わず突っ込む。リーチはこちらのほうが長いのだ。
 突きつけたソードエクステンションの切っ先。それが胸部装甲に突き立つのが鮮やかに見えた。

「アイビスッッ!!」

 次の瞬間、眼前に迫った大地に気づく。
 気を失った? 何故? いつの間に? そんなことよりもブレンを――。
 この速度で大地に叩き付けられると危ない。そう思い、減速しようとして、身動きが取れないことに気づく。
 どうして? 何で? 何で、動いてくれないんだっ!

167Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:26:20
「つまらんな。ただ突っ込むだけの戦い方など赤子でも出来る」

 耳元で誰かが囁いた。瞬間、ぞっと肌が粟立つ。
 積み上げてきたものを崩され、心に隙間が生じる。そして、その隙間に過去の恐怖が入り込み、鮮明に蘇る。大地迫るこの状況が過去の墜落経験と頭の中で噛み合った。
 堕ちる……嫌だ。嫌だ。嫌だ! 嫌だッ!!

「うわああぁぁぁああああああ!!!!!!」

 ◆

 北西から南東に向けて一直線に粉塵が立ち上った。それは間に乱立し散在する廃墟の山を一切問題にしていない。
 粉塵の中に双眸が輝くのが確認できた。次はお前の番だとそれが何よりも雄弁に物語っている。思わず唾を飲み込み、薄ら笑いを浮かべた。
 強い。半端な敵ではない。それが素直な感想だった。小回りの効きが普通じゃないのだ。
 あの瞬間、アイビスの仕掛けた攻撃は受け流され、その場で半回転したギンガナムは背に一撃を加えた。その上で間接をロックし、加速して地面への衝突直前に叩きつけるという荒業をやってのけていた。
 結果、敵機は装甲表面に長さ2m程度の切り傷を残して健在。アイビスは恐らく沈黙だろう。
 アイビスの加えた攻撃は、タイミング・速度共に悪くなかった。それを物ともしない強さがある。自分の接近戦ではまず話にならないと言っていい。
 射撃戦を展開するにしても弾薬は尽きかけている。一戦はとても持たない。だがそれでもやりようはある。それにはまず距離を取ることだ。
 そう思い浮かべた瞬間、巨大な圧力がクルツを包み込んだ。距離を詰められた。読まれている。既に後退は間に合わない。
 前。咄嗟に思い浮かべたのはそれだった。活路はそこにしかない。雄叫びをあげ、馳せ違う。右脚部で鈍い音が鳴った。構うことなくフルスロットルで前進を続け距離を取る。
 だが速度が上がらない。ラーズアングリフは空を飛べない。鈍重なその体は格闘にも向かない。だから、脚部の損傷は致命的だ。
 追ってくる。振り切れない。駆けながら、窮地を脱するべく頭をめぐらせる。南下させられているのだ。いずれ禁止エリアに突き当たる。
 刺し違える。咄嗟にそう決めていた。このままでは振り切れない。追いつかれるなり、禁止エリアに追いやられるなりして、殺される。ならば強引に反転し立ち向かう。
 刺し違える覚悟で相打つ。それしか手がなかった。そして、それが一番生存率が高い。一つの廃墟が眼前に迫った。決死の覚悟で機首を巡らせる。
 装甲の厚いラーズアングリフだ。一撃で落とされることはない。まずは相打つ。その上で何か見えてくるものがあるはずだ。何も見えなければ死ぬ。それだけだ。そう思った。
 しかし、反転してクルツは唖然とした。距離がない。構える時間すらない。眼前には既にギンガナムが迫っていた。想像以上に脚部の損傷は速力を削いでいたのだ。
 重い音。衝撃。重厚なラーズアングリフが背にした廃墟に埋没する。肩から腕にかけて熱いものが走った。やけに鮮明な視界の中、ゆっくりと拳が近づいてくる。
 甘かった。敵の狙いはラーズアングリフのキャノピー。重厚な装甲など関係ない。足を止めたその後は、あからさまに弱点なそこを狙うのは当然といえた。
 死とはいつもすれすれの所で生きてきた。戦と死は古い友人のような気もする。それがついにやってきた。お前が俺の死か。そう思い、ギンガナムの機体を睨みつけた。
 その機体が不意にぶれ、横っ飛びに跳んだ。

「なっ!」

 咄嗟のことに頭がついて行かない。その眼前を七色の光が突き抜ける。そして、通信が一つ。

「クルツ、無事か?」

 ほんの半日前まで耳にしていた声がやけに懐かしく感じる。思わず笑みがこぼれた。

「へっ! 何処に行ってやがった。しかもこのタイミングでご帰還たぁ、美味しすぎじゃねぇのかぁ? おいっ!」

 ◇

 右腕が通信を繋げようと動き、モニターに一人の男の顔が映し出される。
 肩までかかる青い長髪がワカメのようだと一瞬思い、一度会った男だということが記憶の引き出しから出てくる。
 その男とモニター越しに目が合い。男の顔がにぃっと笑うのが見えた。瞬間、全身の血が身の内を駆け巡る感覚に襲われる。視線を交わしただけの通信が途切れる。
 ラキはそれ以上を必要としなかった。目が合った瞬間に理解し、訳もなく確信したのだ。
 待ちきれずに逸った気持ちからか、宙に浮いている錯覚を覚える。
 今、私はどんな顔をしているだろうか?
 きっと笑っている。
 何をしている?
 早く来い。
 お前も気づいたのだろう?
 私がお前の敵であると。

168Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:27:22
 理由も理屈もなくただそう思い、確信している。
 告げているのは負の感情を集めるために作られたメリオルエッセとしての性か。それともベースとなった人間の持つ原初の本能か。
 白い隻腕の機体が各部を展開させ、一歩を踏み出す。まるで鏡映しのようにネリー・ブレンも一歩を踏み出す。そのまま二歩三歩と間合いが縮まり、走り、駆け、疾走する。
 不意に全身が熱くなり、熱いものが込み上げて来るのを感じた。その熱いものが胸にぶち当たった瞬間、二つの機体は地を蹴り、激突した。

 ◆

「……嫌だ…嫌だ」

 立ち並ぶ廃墟をなぎ倒し、抉れた大地が一筋の巨大な爪痕になっていた。
 その爪の先で地に伏すヒメ・ブレン。その中でアイビスはうわ言を繰り返し呟いている。
 うつむき、小さく丸まり、膝を抱え、体は芯から奮え、瞳孔は開き、焦点の合わぬ瞳は揺れ、歯の根も噛み合わず、心も折れた。
 怯えが、慄きが、恐怖が全身を支配している。

「アイビス、無事か?」

 ――通信?
 僅かに顔を上げ、コックピットの内壁にぼんやりと開かれた通信ウインドウに目を向ける。
 端整な顔立ちの青年がそこにはいた。

「ク……ルツ?」
「動けるな? やり返すぞ」
「無理だよ!」

 息巻くクルツの声に咄嗟に反対の言葉が出る。本心だった。
 自身の無力を思い知らされ心砕けた少女を目の前にして、驚きの表情をクルツが浮かべる。

「何……言ってんだ?」
「……無理だよ。ジョシュアの敵討ちなんて……私には無理だったんだ。
 あんな奴に……勝てるわけがない。ねぇ、逃げよう。逃げようよ。ここから逃げちゃおう」
「お前、本気で言っているのか?」
「本気……だよ。だって仕方ないよ。勝てないんだ! 怖いんだ!! どうしようもないんだからっ!!!」

 ギンガナムを思い浮かべると何をするのよりも恐怖が先に立つ。涙がこぼれ、体が震えてどうしようもなかった。

「そうか……悪かった。悪かったよ。すっかり忘れてた。誰も彼もが戦闘に慣れてるわけじゃねぇんだよな。
 どいつもこいつも機動兵器の扱いに長けてやがるから、ついあいつらといる気になっちまってた。……俺は残るぜ」
「無茶だよ。あんたもうほとんど弾ないんでしょ……殺されちゃうよ」
「あぁ、その通りだ。だからアイビス、俺は無理強いはしないぜ。でもよ。ここで逃げちまってもいいのか?
 そりゃ俺だって死ぬのは怖いさ。逃げ出したくなることもある。だけどよ……命を懸けても絶対に譲れないことって……あると思うんだ。
 これさえやり遂げれば一生胸張って生きていけられる。そういうときってあるだろう? だから俺は諦めない。だから俺は戦う」

 思わず見上げた瞳に真っ直ぐな目をしたクルツの顔が飛び込んできた。その顔が一度にっと笑い、すぐに真面目な表情を作る。

「柄にもねぇことを言っちまったな。まぁいい。後は俺一人でやってみる。助けに入ってくれたラキは見捨てられねぇ。例え勝てなくても一泡吹かせてやるさ。
 お前は逃げろ。逃げてそのアムロとか言う奴に悪かったって代わりに謝っといてくれ。じゃあな。お互い生きてたらまた会おう!!」
「あっ! ま……」

 返事を返すよりも早く通信は途切れた。ノイズを伝えるのみになった通信機を前に呆けたように立ち尽くす。膝を抱え、丸く蹲り呟く。

「ずるい……」

 心の中では逃げ出したい思いと踏みとどまりたい思いが葛藤を続けていた。
 こんな自分でもまだ何かやれることがあると思う一方で、行ったってどうせ何も出来やしないといった思いがある。

「ラキが……ラキがいるんだよね」

 胸を張って生きていけるのかは分からない。でも、今逃げ出したら一生悔いて生きていくのだろうという予感はあった。
 少なくともここで逃げてしまえば二度とジョシュアに顔向けは出来ないだろう。シャアにもだ。

169Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:28:49
(でも……でも……ブレン、私はどうしたらいい?)

 お前は行かないのか、と耳元がざわめく。引け目を、負い目を感じながら生きていくのなんて真っ平ごめんだ、と何かが囁く。
 それでも足は前に出ない。どうしようもなく怖いのだ。もう一度ギンガナムとの交戦を考えただけで膝が笑い、腰が砕け、足が退ける。
 行きたい思いと逃げたい思いが交錯し、アイビスはその場から動くことは出来なかった。

 ◆

 蒼と白の巨人が踊っている。
 突き出した斬撃が防ぎ、捌かれ、かわされる。
 迫る拳を受け止め、受け流し、やり過ごす。
 目まぐるしく入れ替わる攻防は一つの流れとなり、流れは次の流れへと滑らかに変化していく。
 そんな攻防の中、奇妙な心地よさが全身を包んでいた。
 ブレンバーをなんでもなくかわしたシャイニングガンダムの双眸が閃く。
 さあ、来い。
 お前の番だ。
 重心の動きが見える。
 体重が左足に移り、右足が僅かに浮く。
 その動作をフェイントに、突然撃ち出される頭部のバルカン。
 それをすり抜ける様にかわす。
 音が消え。
 色が消え。
 五感が遠くなる。
 やがて体も消えた。
 何もない空間に残された意識だけが。
 飛び。
 交わり。
 火花を散らす。
 エッジを立てる。
 刃先が一瞬輝く。
 踏み込み、剣を振るう。
 手ごたえはない。
 そのことに心が湧き踊る。
 馳せ違い、反転。
 正対し、トリガーを引く。
 極小距離からの射撃。
 かわせ。
 生きていろ。
 もう一度、刃を交えよう。
 飛び退く。
 距離を取る。
 体中の体重を足に乗せ。
 もう一度、踏み込む。
 相手も重心を足に。
 そして、バネの様に前へ。
 いいぞ、速い。
 さあ、もう一度。
 交錯する意識と意識。
 剣と拳が擦れ違う。
 掠ったか。
 凄い。
 いい動きだ。
 楽しい。
 しかし、何だ?
 少し遅れた。
 何故だ?
 遅い。
 重い。
 どうした?

170Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:30:29
 どういうことだ?
 この不自由さは。
 このズレは。
 それに、声が。
 ――ラキ。
 男の声が。
 ――ラキ。
 聞きなれた声が間近に。
 ――ラキ、そっちじゃない。
 誰……ジョシュア?
 不意に長く暗いトンネルを抜けたかのような色鮮やかな景色が周囲を埋め尽くした。
 それに気を取られる間もなく、眼前に迫った豪腕の対応に追われて、咄嗟に身をよじる。
 装甲の表面で火花が散ったかと思ったときにはもう蹴飛ばされて、1km先の地面を転がっていた。
 何という素早さだ。
 こんな相手と今まで五分に渡り合っていたというのが信じられなかった。
 口の中を切ったのか血の味に気づき、五感が体に戻ってきたということを自覚する。
 戻ってこられたのはあの空間に介在していた二つの意思のおかげ。
 胸をギュッと掴む。消えたと思っていたジョシュアの心ともう一つ。
 ただの機械ではなく生きている機械、感じたズレの正体――ネリー・ブレンの意思。

(ブレン、ありがとう)
(……)

 視線の先では、急に不調を起こしたこちらをいぶかしみ、待っている相手の姿があった。
 その姿は語っている。『もっと戦おう』『もっと殺しあおう』と。

「ん?」
(……)
「大丈夫。もうそっちには引き込まれない」

 ――そう。ジョシュアの心の頑張りを決して無駄にはしない。

 ◆

 未だ暗い大地に重い足跡を残し、脚部に損傷を抱えたままのラーズアングリフは移動を続けていた。スナイパーであるクルツの頭に、ラキとギンガナムの接近戦に割り込むという選択肢はない。
 移動の足を止めずに周囲に目まぐるしく視線を走らせ彼が探すのは、周囲でもっとも見晴らしがいいと思われるポイント。
 コンクリートに覆われ、ビルに埋め立てられた市街地と言えど、元の地形を考えれば若干の高低差は存在する。その僅かに小高い丘一つ一つに厳しいチェックの目を向ける。
 しかし、廃墟と化しているとはいえ、立ち並ぶビルは高く数も多い。高いところに高いものを建てるというのは、都市景観の一つの考え方なのだ。
 絶好の狙撃ポイントといえる場所など見つかりはしない。それでも幾分マシな丘を見つけ、目を付けた。
 周囲に気を配り、極めて慎重に、静かに、そして素早くビルの谷間を突き抜ける。坂を登りきったクルツの視界が開け、ラキとギンガナムが切り結ぶ戦場が映し出された。

「ここなら、いけるか……?」

 戦場の全て見渡せるという状態には程遠い。だがそれでもやるしかない。
 地に伏せ、短銃に輪切りのレンコンを思わせる回転砲頭をつけたようななりのリニアミサイルランチャーを構える。
 掌中の弾は僅かに二発。だがそれでいいとクルツは一人ごちた。
 狙撃の前提条件は相手方に悟られないこと。その観点から見るとこの機体は少々派手過ぎる。一度発砲すればまず間違いなく見つかるだろう。
 つまり二度目はなく、多くの弾はこの場合必要ない。問題はそれよりも狙撃にはおよそ向かないと思われる火器のほうにある。
 近中距離用の小型ミサイル。噴射剤の航続距離には不安が残り、レーダー類が軒並み不調な以上、誘導装置もどこまで信頼できるかわからない。精度に問題が出てくる可能性が高いのだ。

「どうしたもんかねぇ、こりゃぁ……。でも、まぁ、大見得切っちまった以上やるしかねぇか」

171Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:31:25
 頼れるのは最大望遠にした光学センサーと両の目のみ。
 なんだかんだ言ってもやることに変わりはない。出来るだけ正確に目標を狙い撃つ。ただそれのみ。
 機体を地面に伏せさせると、目を細め、小指の先ほどにしか見えない飛び交う二機の挙動を穴が開くほど見つめた。瞬きはしない。ただじっと動きを止めて来るべきときを待つ。
 睨んだ視線の向うで七色に輝くチャクラ光と蒼白いブースターが、蛍のように大きく、小さく尾を引きながら明滅する。
 突然、不調が起こったのかネリー・ブレンの動きが鈍る姿が見えた。そして見る間に押し切られ蹴り飛ばされる。
 距離にして約1km。両者の間が開く。それを視認した瞬間には既にトリガーを引いていた。
 煙の帯を引いたミサイルが銃身から飛び出していく。そして、カサカサに乾いた唇に舌を這わせ、もう一発。
 弾装はこれでもぬけの空。だが、とりあえずの人事は尽くした。後は運を天に任せるのみ。
 常識に従い速やかに射撃地点から離脱を始めたクルツの耳に、爆発の轟音が届いた。だが、噴射炎越しに直前で身を翻すのが見えた。案の定、爆煙の右上を裂いて敵機が現れる。
 その様にクルツはにやりと笑った。

「予想通りだ! 往生しやがれ!!」

 グッと親指を立てて突き出した右手を下へ返す。二発目はギンガナムに向かって猛進している。
 気づいた敵機が姿勢制御用のスラスターを噴かし、慌てて左へ大きく流れた機体の勢いを殺す。
 無駄だ、とクルツは一人毒気づく。場は空中、足場のないそこでは勢いは殺しきれない。ジャマーか、あるいはSF染みたバリア装置でも持っていない限り直撃は避けられない。
 それがクルツの下した結論だったが、直ぐにそれは破られ驚くこととなった。
 ギンガナムがブンッと音を立ててピンクの光刃を腰から引き抜く。そして、一切の躊躇もなしにミサイルに投げつけたのだ。
 結果、直撃前にミサイルが爆発し、呆気に取られて動きを止めたクルツはギンガナムと視線がかち合うこととなる。

「やべっ!!」

 息をつく間もなくギンガナムが反撃に転じた。左腕から無数の光軸が殺到する。一制射につき二筋の光軸。

「くそっ! 良い腕してやがる!!」

 三制射かわしたところで体勢を崩し、四制射目がラーズアングリフの右膝間接を砕く。そして五制射目、コックピットへの直撃を覚悟した。
 その直撃の刹那、異音と共に何かが視界に割り込む。眼前で七色に輝く障壁とピンクの光軸が火花を散らし、残響を残して消えていった。
 両の手を大きく広げて身を挺して庇うように立ちふさがる機体を見上げ、クルツは抑えきれない笑いを噛み殺す。

「ようやくおいでなさって下さったわけだ」

 見知った顔が一つ、モニターに映し出されている。赤毛に黒のメッシュの少女、アイビス=ダグラスだ。

「待たせてごめん。ここからは私も戦う」
「悪いな。こっちは弾切れ。ここらでギブアップだ。で、大丈夫か?」

 おちゃらけた態度で両手を挙げてお手上げをアピール。そこから一転して真面目な顔つきに変わったクルツが言う。
 それにアイビスはモニターに向かって右手を掲げて見せつつ、答えを返してきた。

「大丈夫じゃないよ。怖いし……ほら、手だってまだ震えてる。でも、ブレンがあの蒼いブレンを助けたがってるんだ。それに――」
「それに?」
「あたしもここで逃げたらジョシュアに顔向けが出来ない。
 あんたが言うように胸を張って生きていくことが出来なくなる」

 目を見、おっかなびっくりではあれど吹っ切れたようだな、と推察したクルツはクッと笑い、言葉を返す。
 少なくとも、ただのやけっぱちでぶつかって行こうという心構えではないらしい。

「ない胸して、言うねぇ! 上等だ!!」
「一言余計だ!!」
「ハハ……怒るなよ。褒めてるんだぜ、これでも。
 アイビス、モニターをこっちに回せ。俺がサポートをしてやる。思いっきり暴れてこい!」
「モニターを?」
「ああ! 敵機の行動予測と弾道計算、その他もろもろ全部任せろ」
「ナビゲーションの経験は?」
「ないっ!」
「えぇ〜、無茶だって!!」

172Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:32:53
 砕けた口調で返してきた言葉に、固さは取れたな、とにっと笑う。
 軽口というのは、固くなって縮こまっている新米兵士に普段の自分を取り戻させてやるのに有効なのだ。それで随分と生存率が変わってくる。

「そいつは実際にやってみてから言う言葉だな。やってみもしねぇうちからする言葉じゃねぇ。少なくともないよりマシだろ? それに怪しければ無視してくれて構わねぇ」
「そりゃ……まぁ……」
「なら決まりだ! 俺とお前、二人で……いや、ラキも合わせて三人で奴に一泡吹かせてやろうぜっ!!」
「わかった。やるよ、ブレン!!」

 威勢良く啖呵を切ったクルツに、一度目を丸くしたアイビスが目つきを変え、顔つきを変え、答える。
 その姿を見たクルツは、いじけにいじけて一周したら良い顔になったじゃないか、と一人ごちた。

 ◆

 突然の爆発にラキの挙動は遅れ、一時的にギンガナムを見失っていた。
 爆発の余波か、電磁波が入り乱れてレーダーの効きがとんでもなく悪い。視界も立ち込めた薄煙でフィルターをかけられていた。
 そして、二度目の爆発が起こる。
 耳を劈く轟音と眩い閃光。遅れてやってきた空気の壁が薄煙を吹き飛ばす。
 咄嗟に目を向けたその先に、左腕から投げナイフを投げるように光軸を飛ばすギンガナムの姿があった。視線誘導に引っかかったように、光軸が殺到する先に自然と目が向く。

「あれは……ブレンパワード? ……っ!!」

 クルツのラーズアングリフと白桃色のブレンパワードをラキが視界に納めるのと、ギンガナムが大地を踏み鳴らし進撃を開始したのは、ほぼ同時だった。
 咄嗟に視線を戻す。またしても出遅れた。
 猛然と突撃を試みるギンガナムに対し、初動の遅れたラキは間に割ってはいることが出来ない。間に合わない。
 が、それはあくまでラキに関してだけのことである。
 ラキよりも素早く反応を起こしたネリー・ブレンが跳ぶ。バイタルグローブの流れは一切合財の距離をふいにして、ネリー・ブレンをギンガナムの真正面へと誘う。
 ジャッという鋭い反響音。
 咄嗟に掲げられたアームプロテクターと唐竹割りに振り下ろされた刀剣の間で、火花が奔る。

「ブレン、弾け! 押し合うな!!」

 『緊』と乾いた音を残して、ブレンが飛び退いた。
 格闘戦の為に造られたシャイニングガンダムとブレンパワードでは、人で言うところの腕力・筋力がまるで違っている。
 だからこそ押し合わずに弾く。単純な力比べでは敵うはずもない。
 ならどうすればいい? こんなときにジョシュアならどう戦う?
 思案を巡らせる。巡らせるうちに再び身の内で疼き始めたモノを感じ取り、思わず手に力を込めた。両の手はネリー・ブレンの内壁にバンザイに近い形で添えている。
 そこはほんのりと暖かい。その感触を肌から感じ取り、ラキはホッと息をつく。
 大丈夫。感覚は戻っている。
 目も見える。耳も聞こえる。鼻も利くし、ブレンを感じることも出来る。大丈夫。まだ大丈夫だ。
 そう何度も自分に思い聞かせた。そしてそこに意識を割かれ過ぎた。
 風切り音を残して銃弾が飛来する。それはシャイニングガンダムの頭部に誂られたバルカンの弾。
 意識を自分の内側に向けていたのに加えて、光を発するビームとは違い闇に紛れる実弾。視認のしにくさの分だけ反応が遅れた。
 回避は間に合わない。だが、この程度の弾ならチャクラシールドで弾ける。
 そう思い、チャクラシールドを張る瞬間、スッと右方向に回り込むうっすらと白くぼやけた帯が目を掠めた。
 しまったっ!
 チャクラシールドが展開する。七色に揺れ、輝くチャクラの波に視界が遮られる。透明度の高いチャクラ光ではあるが、その輝度は高い。そして、今は夜。目標を見失う。
 バルカンを弾き終わり視界が開けたとき、それは頭上に回りこんでいた。
 右方向に注意を払っていたラキは完全に意表を衝かれた形となる。上方から勢い良く突っ込んできたギンガナムに対して、ブレンバーで受けるのが精一杯の反応だった。
 だが、真正面から受け止めすぎた。上方からの押しつぶすような巨大な圧力。受け流せない。弾き、飛び退くにしても大地が邪魔になる。

「ブレン、耐えてくれ」

173Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:34:10
 耐える。それが唯一残された選択肢。
 足場の舗装道路が砕け、アスファルトの破片が舞い上がる。嫌な音を立ててブレンバーの刀身に皹が走る。
 そして、次の瞬間――圧力は消え去った。一条の閃光が眼前を掠め飛び、その対応に追われたギンガナムの機体の姿が遠くなる。
 クルツか。そう思った耳に飛び込んできたのは、まったく聞き覚えのない声だった。

「ラキ、これからあんたを援護する」
「お前……は?」

 思わずキョトンと呆けたような呆気に取られたような顔になって、ラキは呟いた。突然、モニターの隅に赤毛の少女の顔が映し出されたのだ。

「アイビス=ダグラス。ラキ……あんたを探してた」
「アイ……ビス?」
「うん。あんたに伝えなきゃならないことがある。ジョシュアは……」
「知っている。ジョシュアはお前を守って死んでいった……」

 アイビスの言を遮って、ジョシュアの死を口にする。その言葉にモニター越しの顔は俯いて押し黙った。
 アイビス=ダグラス、そう名乗る少女の顔を見、ラキは話しかける。

「アイビス、私もお前を探していた。今会えてよかった。そう思える」
「えっ!?」

 その声にパッと伏せていたアイビスの顔が上がった。戸惑い表情がそこには浮かんでいる。
 微笑みを返す。意図した笑みではなかった。自然と口元が綻んだのだ。
 『今』会えてよかった。本当にそう思える。
 今ならまだいつもの私のままでいられる。でも二時間後三時間後は分からない。
 次の放送を迎えたとき、いつもの自分でいられるという保証はどこにもなかった。
 瞼を閉じ、ブレンの内壁に触れる両の手に神経を集中させる。
 ほんのりと暖かい。気持ちを落ち着かせ、心を穏やかにさせる暖かさだ。
 大丈夫。今の私はいつもの私だ。

「ラキ」

 呼ばれて、もう一度アイビスに視線を戻した。そこには戸惑いの色はもうない。
 あるのは一つの決意だけ、それが言葉となって飛んで来る。

「ジョシュアの弔い合戦だ。あいつを、ギンガナムを倒すよ!」

 あいつにジョシュアは殺されたのか、と思った次の瞬間、ジョシュアはそれを望むのだろうか、とふと疑問が頭をもたげた。
 あの時、ジョシュアはギンガナムの名を出すことはしなかったのだ。

「二人で楽しくやってるところ悪いがな。そろそろ奴さん仕掛けてきそうだぜ」

 どちらにしても戦わないわけにはいかないだろう。二体のブレンはともかく、クルツのラーズアングリフは損傷が大きそうだ。逃げ切れるとはとても思えない。
 思いなおし、ラキはギンガナムを睨みつける。
 それにジョシュアがどう思おうと、仇は仇なのだ。ジョシュアを殺した者が生きている。それはやはり納得がいかない。許せないのだ。逃げるという選択肢は今はない。

「ああ、ジョシュアの仇討ちだ!!」

 ◆

 素早く、それでいて非常に巧緻に長けた剣閃が迫って来る。受け止め、受け流す。数合切り結ぶ。そして引き際に小さく、それでいて鋭く剣を振るった。空を斬る感触に臍を噛む。
 再び距離を開けての対峙。長く細い息を吐く。
 手ごわい。少なくとも刃物の扱いに関してはギンガナムを上回り、自身と拮抗していると言っていい。さらに、その妙を得た動きには目を見張るものもある。
 黒い機体の後方のただ一点だけを睨みつけ、剣を構える。ギンガナムと他の二機が戦闘を繰り広げている場所だった。そこだけを見ている。目的は一つ。
 この黒い機体を避わし、その場へ急行する。
 然る後、ギンガナムにこの機体の相手をさせ、他の二人を説き伏せる。それが最善手。
 下手にここで戦闘を繰り広げても意味はない。まして、ラプラスコンピューターが破損するようなことがあれば、それは致命的だ。それだけは避けねばならない。
 その上で、ギンガナムとあの二人の溝が修復不能になる前に舞い戻らなければならなかった。それが課せられた課題なのだ。

174Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:35:15
「難儀な話だな……」
「あん? 何がだ?」
「いや、なんでもない」

 黒い機体の膂力はギンガナムの機体とほぼ互角。速力と大きさもだ。外見的にも幾らか似通っている。恐らくはこれもガンダムと呼称される機体なのだろう。
 力では相手、素早さでは自分ということになる。
 全く肝心なときにいない男だ。このような相手こそギンガナムにうってつけであり、黒歴史とやらの知識も役立つというものだというのに。
 それを生かすには目の前の男を突破する他ない。
 隙は見えない。それでも突破せねばならない。それも速やかに、被害なくだ。心気を澄ませる。掌に刃の重さを感じ、そして、ブンドルは一陣の風となって駆けた。

「悪いが押し通らせて頂く」
「させねぇよ」

 ◆

 廃れ、荒れ果てた廃墟で閃光が瞬き、光軸が飛び交う。音響がさらなく音響を導き、廃墟に似つかわしくない喧騒が辺りを支配している。
 白桃と浅葱、二色のブレンパワードが織り成す連携を受け、ギンガナムは劣勢を強いられていた。
 蒼い機体が視界から消える。ゾクリとしたモノを感じて、振り向き際に左拳を振るった。
 頑強な金属音が響き、真っ向から接触する拳を剣。
 蒼いほうが動きを変えていた。
 それまでの自機の非力さを悟り、単純な押し合いには決して持ち込ませまいとする態度から、真っ向から力勝負を挑むような我武者羅さに変わっている。
 二機の足が止まる。押し合い圧し合いの純粋な力勝負。ならばギンガナムに負ける道理はない。
 押し切れる。そう思ったその瞬間、白桃色の機体に割って入られ、あえなく距離を取る。

「ちっ!」

 蒼い機体がギンガナムを一点に押し留め、足が止まるその隙を白桃色の機体が衝いて来る。それが相対する二機の基本戦術だった。
 まったくもってうっとおしい。決め手の放てぬ戦いというのはストレスが溜まるものだ。
 だが、ギンガナムは笑っていた。
 こういう戦い方もあるのか、という好奇の心が疼いていた。これは一対一では知りえぬ戦い方なのだ。
 愉快だった。こみ上げてくる感情を抑えることが出来ない。今、確実に生きていると実感できる。そのことが堪えようもなく愉快だった。
 ギム=ギンガナムは、月の民ムーンレイスの武を司り、勇武を重んじるギンガナム家の跡を継ぐべき存在として生れ落ちてきた。
 それを当然のように受け入れ、幼少の頃から鍛錬に勤めてきたギムの誇りは、しかし158年前の環境調査旅行を境に裏切られることとなる。
 月に帰還したディアナ=ソレルに軍を前面に押し立てた帰還作戦を主張したギムの父の言が、一言の元に退けられたのだ。
 同時に『問題の解決に武力を使うことしか思いつかない者は、過去、自らの手で大地を死滅させた旧人類の尻尾である』と言葉を被せられ、ギンガナム家は軍を没収された。
 以後、自害した父に代わりギンガナム家を統治することとなったギムであったが、そこには望んだものは微塵も残されておらず、虚しさだけが胸の内を占めていた。
 そして、120年前、30代の終わりに差しかかったとき、ギンガナムの鬱屈が限界に達することとなる。離散していた旧臣を集め、クーデターを企てたのだ。
 だが、事を起こした末路に待っていたのは無残な敗北だった。結果、形だけの裁判の末、永久凍結の刑に処され、120年の眠りに付くこととなる。
 つまり押し込められ、追いやられ、爆発するも報われず、死んだように過ごしてきたのが彼の半生であった。
 しかしだ。彼はここに来て生を実感していた。
 幼い頃に夢見た乱世がここにある。血湧き肉踊る戦いがここにはある。心憧れた、絵巻物の中の存在に過ぎなかった黒歴史の英霊達がここには存在する。
 そして、なによりも今自分は闘っている。闘っているのだ。これほど嬉しいことがあるか。
 生まれて初めて、生が実感できる。生きていると思える。幼少の頃に望んだ自分が今ここには存在しているのだ。
 だからこそギンガナムはこみ上げてくる歓喜の声を抑えることが出来なかった。
 気持ちが高ぶる。全てがよく見える。体に力が漲っているのが実感できた。そして、それに呼応するかのようにシャイニングガンダムの出力が上昇していく。
 想いを力に変えるシステム。まったく良く出来た相棒だ、と一人感心する。
 相手は二機。蒼が動きを押し留め白桃が隙を衝いて来るのならば、白桃から先に始末するだけのこと。それに白桃の動きは蒼より劣る。サシの勝負で面白いのは蒼のほうなのだ。
 蒼が消える。それを合図にギンガナムは猛然と突撃を開始した。

175Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:36:42
「芸がないな。マニュアル通りにやっていますというのは、アホの言うことだ! このギム=ギンガナムにぃ、同じ手がそういつまでも通用するものかよぉっ!!」

 ◇

 突然、弾丸のように突撃を開始したギンガナムを見て、アイビスは考えたものだな、と一人ごちた。
 ラキのバイタルジャンプは多少の揺らぎを持たせてはいるものの、死角への移動を基本としている。そして、攻撃は組合に持ち込むための剣戟が主体。
 つまり、消えた瞬間に視界が開けている方向に高速で突っ込めば、攻撃に晒される可能性はきわめて低いのだ。そこを衝かれ、なおかつこちらに狙いを定めてきた。
 ならばどうする? 決まっている。

(ブレン!)
(……)
(やるよっ!!)

 今度は自分がギンガナムの打撃を受け止め、力勝負に持ち込み、ラキに隙を衝かせる。役どころが入れ替わった。ただそれだけだ。
 歯を食いしばり、アイビスは受けの姿勢を取る。巨岩のような圧力を放つギンガナムを目の前に、大地をしっかりと捉え、構える。

「アイビス、受けるな! 避けろっ!!」

 クルツの声だったが、遅かった。一度止まった足を動かすには彼我距離が近すぎる。
 ならば、とソードエクステンションを両の手で掲げ、受ける。接触の瞬間、刀身を反らし、受け流す。受け流したはずだった。
 天と地が逆さまに、視界が反転する。
 巨大なダンプ、あるいは列車に撥ねられた人間のように錐揉み回転をしながらヒメ・ブレンが宙を舞う。
 ブレンが大地に打ち付けられ、アイビスもまたコックピットにその身を激しくぶつけられる。意識が明滅し、追撃を予想して身を固くした。
 が、次の瞬間襲ってきたのはギンガナムの追撃ではなく、クルツの怒声であった。

「馬鹿野郎! 真っ向から受け止めるなんて正気か?」

 クルツの顔面越しに投影されたモニターには、ギンガナムと交戦を続けるラキの姿があった。恐らくは追撃をかけられる前に割って入ってくれたのだろう。
 結局はまだ足を引っ張っている。その口惜しさが拳を固くした。

「うるさい。ラキは同じブレンパワードで止めてる。なら、私だって……」
「お前には無理だ。あれはお前には向いてねぇ、俺にもだ」

 アイビスの抗弁をクルツは軽く受け流す。
 そう。アイビスとラキでは受け方が違う。というよりラキの受け方が少々特殊だった。
 通常の受けは相手に押し負けぬように足場を、土台をしっかりと安定させて受け止める。
 対して、ラキはその場で受けようとせずに前に出る。受けるというよりはぶつけに行っていると言ったほうが正しいのかもしれない。
 相手の一番力が乗るところでは決して受けず、前に出ることで打点をずらし、力を半減させ、自身の前に出る力をそこに上乗せさせる。言葉にすればそんなところだろう。
 だが、それでようやく四分六で押し切ることが出来る。真っ当な受け方では勝負にならない。
 それに互いの足が止まれば、やはりギンガナムの膂力がモノを言う。だから今モニター向うのラキは、受けの後瞬時に弾き、距離を置く戦い方に戻していた。
 一機でギンガナムに抗うには、そうする他はない。

(ブレン、悔しいね……あいつらには出来て、私らには出来ない)

 俯き、ブレンの内壁に添えた手にギュッと力を込める。
 悔しかった。他人には出来て、自分には出来ない。それは落ちこぼれと言われているようで悲しい。悔しい。そしてなによりも自分の不甲斐なさは腹立たしかった。
 そんな思いがその手には込められている。

「アイビス、ラキを羨ましがるんならお門違いだ。だが、そうじゃねぇ。そうじゃねぇだろ?
 ラキにはラキのブレンの扱い方がある。だったらお前にはお前なりのやり方ってもんがあるだろうが。違うか?」
「私なりの……やり方?」

 見透かしたように掛けられた声に驚く。考えたこともなかった。
 人を羨むのではない自分なりの乗り方。スレイにでも、ラキにでも、誰に対するでもない自分なりのやり方。こんな何でもないことなのに、考えたこともなかった。
 No.1に対するNo.4。負け犬という別称。流星という不名誉な字。それらに引け目負い目を感じてきたのは、知らず知らずのうちに誰かに対する自分を意識していた証なのかもしれない。

176Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:37:56
「クルツ」
「ん?」
「ありがと。ただのスケベ親父じゃなかったんだ」
「おいおい、親父はよしてくれ。俺はまだ二十代だぞ」
「そっちに反応するんだ」

 軽口を叩き、笑い、顔を上げる。目にキラリと光が灯る。また一つ憑物が取れた。そんな顔だった。
 僅かに見たジョシュアの戦い方は、的を絞らせずに翻弄し攻撃をことごとく避けるものだった。ラキの戦い方は、避けることよりも受けることに重点を置いた戦い方だ。
 この二人ですらアンチボディーの扱い方が大きく違う。どちらかが正解というわけではない。アンチボディーと自身の経験との折り合いを付けた場所が、そこというだけなのだ。
 ならば自分は……いや、自分とブレンの戦い方は――

(……)
(ブレン?)
(……)
(うん。わかった。やってみよう!)

 いつからかブレンの声が聞こえるようにもなっている。普通に会話も出来る。そのことに未だ気づかぬまま、アイビスは声を張り上げた。

「いくよ、ブレン!!」

 視界の先には、ギンガナムに押しやられ、ついに体勢を崩したネリー・ブレンの姿がある。
 そこへ跳び、ネリー・ブレンの真横にジャンプアウトした。叫ぶ。

「ラキ、ブレン同士の手を合わせて!」
「手を?」
「早く!!」

 ギンガナムとの距離は既に幾許もない。そんな中、二機のブレンパワードが手をつなぎ、胸を張る。
 次の瞬間に顕現するのは二体のブレンパワードが張り巡らすチャクラの二重障壁――ではなく、ただ一重のチャクラシールド。
 しかし、二つのチャクラが混ざり合うそれは、強固な分厚い壁である。打ち付けられた拳とチャクラの間で火花が散り、拳を弾かれたギンガナムの姿勢が仰け反るような格好で崩れた。
 その瞬間、ヒメ・ブレンは飛び出し、真っ直ぐに距離を詰める。

「ギンガナム、あんたは私の行為を偽善だと言った。でもね、人の為の善と書いて偽善と読むんだ!! なら、私はジョシュアのためにあんたを討つ!!!」

 体勢が整う前に畳み掛けると決めていた。擦れ違い様にソードエクステンションによる横薙ぎの一閃。
 しかし、ギンガナムもさすがと言うべきか、体勢が不完全ながらも咄嗟にアームカバーを構える。
 固い金属音が鳴り、受けたギンガナムの体勢が完全に崩れ、仰向けにひっくり返った。この好機、逃す手はない。

「ラキ、合わせるよ! やり方はブレンが教えてくれる」
「ブレンが? ……ひっつく? くっつくのか?」

 二機で小規模なバイタルジャンプを繰り返し、翻弄し、体勢を立て直させる隙は与えない。ラキが次の瞬間何処に現れるのか、それはアイビスにもわからない。
 しかし、決め手を放つ瞬間、どこに現れ、どうすれば良いのか、それはブレンが全て教えてくれた。

「1・2・3」

 タイミングを計る。体勢の崩れたギンガナムの右後方。ドンピシャのタイミングで二機はそこに現れた。
 背中が合わさる。ブレンバーとソードエクステンションが、鏡合わせのように突きつけられる。その動きには寸分のズレさえも存在しない。

「チャクラ」
「エクステンション」
「「シュートオオオォォォォオオオオオオオオオオ!!!!」」

 二つの銃口に光が灯り、濃密で重厚なチャクラの波が放たれる。巨大な破壊の力を携えたそれが、堰が決壊し氾濫した濁流の如くギンガナムへと猛進していく。
 その光景の最中、突如として覇気に満ちた笑い声が大地を震撼させた。

177Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:39:28
「ふはははは……。これをおおぉぉぉ待っていたっ!!」


 そう。ギンガナムはこのときを待っていた。かつて相対した男が最後に放つはずだった一撃。
 それに酷似したこの一撃を真っ向から打ち破ることには二重の意味がある。すなわち、この戦いとあの男との戦い、二つの勝利。

「貴様らが七色光線ならばぁぁ、小生は黄金の指いいいぃぃぃぃいいいいいいいい!!!」

 押し包み、瞬く間に呑み込まれて消えるその刹那、ゆらりと起き上がったシャイニングガンダムは左腕を無防備に突き出した。その指間接が外れ、隙間から染み出した液体金属がマニピュレーターを覆い、発光。そして――

「喰らえっ!!! 必いいぃぃぃ殺っ!!! シャアアアァァァイニングフィンガアアアアアアァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」

 その光り輝く左腕が荒れ狂うチャクラの波に真っ向からぶつかった。
 真っ直ぐに伸びたチャクラエクステンションが、ギンガナムがいる一点で遮られ四方に拡散する。拡散した幾筋ものチャクラのうねりは大地を抉り、暴れ、阻むもの全てを破壊する。
 だが、それで終わりではない。三者の激突は未だ続いている。チャクラエクステンションはシャイニングフィンガーただ一つで抑えきれるほど甘くはない。
 強大な圧力に押さえ込まれ、ギンガナムは前に出ることが出来ない。いや、むしろ押されている。
 重圧を一点で受け止める左腕は断続的に揺れ、ぶれ動き、機体を支える両脚は爪のような跡を残しながら徐々に後ろへと押し流され、爪跡はチャクラの濁流に呑まれて消え去る。
 このままでは押し切られ、呑み込まれるのは時間の問題なのだ。だがしかし、ギンガナムに諦めの色はない。あるのはただ狂気的とも言える喜色のみ。

「ぬううぅぅぅぅぅぅっ!! 見事! まさに乾坤一擲の一撃!! 実に見事な一撃よ!!!
 だがなあぁぁぁっ!!!! この魂の炎! 極限まで高めれば、倒せない者などおおぉぉぉぉっないッッッ!!!!!」

 押し流され続けるシャイニングガンダムの足が止まる。エンジンの出力が上がり続け、背面ブースターが限界を超えてなお唸りを上げる。

「シャイニングガンダムよ。黒歴史に記されしキング・オブ・ハートが愛機よ。お前に感情を力に変えるシステムが備わっているというのならああぁぁぁっ!
 小生のこの熱き血潮!! 一つ残らず力に変えてみせよおおおぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」

 そのギンガナムの雄叫びを合図に、それは始まった。
 機体の色に変化が生じる。白を基調としたトリコロールカラーから、色目鮮やかな黄金色へ。そして、機体を構成する全てのものが眩く発光を始め、闇夜を切り裂くチャクラ光の中に黄金が浮かび上がる。
 変化は外見のみに留まらない。充溢する気力を喰らい天井知らずに上がり続ける出力は、計測器の針を振り切り、それを受けた推力は前進を可能にしていたのだ。

「ふはははは……このシャイニングガンダム凄いよ! 流石、ゴットガンダムのお兄さん!!」

 爆発的なスラスター光を背に感嘆の声を上げ、七色の輝きの中に飛び込んだギンガナムは激流に逆らい、遡上を始める。
 その様は鯉の滝登り等という生ぬるいものではない。天を衝くが如き勢いと圧力を持って遡上し、そして、金色の光がチャクラの波を衝き抜けた。

「なっ!」

 阻むものを失ったギンガナムの突進は、限界まで引き絞られた矢が飛び出すようなもの。
 弾ける勢いでヒメ・ブレンの頭部を掴んだギンガナムは一筋の閃光となり、建ち並ぶ廃墟の群を物ともせずに突き破る。そして、その終着でヒメ・ブレンを天高く掲げ――

「絶っ好調であるっ!!!!」

 爆発。轟音を残して頭部を粉砕されたヒメ・ブレンが崩れ落ちる。同時に背後で異音。俊敏に反応し、切り結び、同時に飛び退いた。

 ◇

 飛び退き、距離を取ったネリー・ブレンが瓦礫の海に足をつける。息を弾ませ、体を覆う疲労感にラキは顔を歪ませた。白い肌には赤み指し、紅潮している。
 虚を衝いたはずの視覚外からの攻撃にも対応してみせる油断のなさ。加えて、奴の言をそのまま信じるのならば、あの闘争心がそのまま反映されるシステム。
 つくづく厄介だというのが、率直な感想だった。
 そう考えて、ふと自分らも似たようなものか、という思いを抱いた。アンチボディーはオーガニックエナジーを糧に動く。そこには人の放つものも含まれているのだ。
 ならば、自分やアイビスの感情もまたブレンに力を与えているのだろう。そう思った。疲労感を押し隠し、気を張りなおす。

178Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:41:26
(ブレン、すまない。大丈夫か?)
(……)
(よし)

 心を落ち着け、ブレンに声をかけると立ち上がらせる。その姿を前にギンガナムから通信が飛んできた。

「ほう。まだ戦う意志を失わぬか……見上げた根性と誉めてやろう。どうだ? ギンガナム隊に入らぬか?」
「悪いがお断りだな」
「ならば死に物狂いで戦うことだな。それにここで小生を倒せばジョシュアとやらの魂も救われるかも知れぬしなぁっ!!」
「ジョシュアはそれを望まない。人には戦いなど必要ないんだ」

 本心だった。ジョシュアの弔いの為と思い定めて戦いはしても、どこか違うという思いは常について回っている。
 不意にギンガナムが動く。早い。咄嗟に拳をブレンバーで受け止める。

「それは違うな。人は己の内に闘争本能を飼っている。
 それを解き放つために戦いは必要なのだ! その為にこのような場が用意されている!!」
「本能の赴くままに戦い続ける姿のどこに人間らしさがある!」

 言葉を返し、弾き、距離を取る。早いがついて行けないと言う程ではない。
 揺れ動き、翻弄させるような動きを取りながら、ギンガナムが言葉を吐く。その口調には自身を正しいと信じて止まない傲慢さが込められていた。

「ならば聞く! 水槽の中で飼われている魚のような生のどこに人間らしさがある!!」
「どういう意味だ」
「外敵もなく、餌も十分に与えられ、安全で平和な住みやすい環境。それを世界の全てだと思い込んでいる。まるで飼われた魚の様ではないか。
 だがなぁ、人間はそのような環境に息苦しさを覚える。だからこそ、ディアナは地上へ帰ることを望んだ。
 だからこそ、このギム=ギンガナムは戦い、戦乱をもたらすのだ。人として生きる為になぁっ!!」

 突如動きが変わり、強烈な一撃がラキを襲う。それをブレンバーで受け流し、攻撃に転じながらラキは反論を返す。
 ギンガナムの言を受け入れることはジョシュアの、人として生きようとした自分の生き様を否定することだ。それは、死んでも受け入れることはできない。

「それは違う。確かに人は生きるために戦うことがある。憎しみにまみれて道を見失う者もいる。
 だけど、それだけが人じゃない。それを私はジョシュアから、人から学んだ」
「だが、貴様は戦っているぞ!!」

 受けたギンガナムが言う。シャイニングガンダムとネリー・ブレンの双眸が、ギンガナムとラキの眼光がぶつかり火花が散った。
 巨大な重圧を伴ってギンガナムは圧し掛かってくる。そのギンガナムの言葉には迷いがない。だからこそ強く、なによりも危険なのだ。気を抜くと押し切られそうになる。

「そうだ。私は戦っている。私はメリオルエッセ……負の感情を集めるだけの働き蜂。所詮、人にはなれない。だから――」

 唇を噛み締めて言う。懇親の力で押し返し、再び距離を取ったところで泣き出しそうになり、思わず言葉を区切った。
 人にはなれない。それはある意味では分かっていたことだ。いくら憧れ、恋焦がれようとも、蛾に生まれついた者が蝶になることは適わない。
 同じだ。私もメリオルエッセに生まれついたからには、人になることなど適わないのだ。
 分かっていた。分かっていたが、どこかでそれを受け入れてない自分がいたことは、確かだった。
 それなのに、今自分の言葉で肯定し、受け入れてしまった。それがどうしようもなく悲しい。
 でも、それよりも受け入れ難いことが存在する。だからこそ泣き出したい思いで受け入れた。
 人は私とは違う。私の周りにいた人は、負の感情を集めるためだけに作られた私に、それだけが人ではないと教えてくれた。
 そんな人間が、憧れ恋焦がれた人間が、戦いを自ら望むような者であって良いはずがない。
 私の傍にいた人が与えてくれたぬくもりは、そんな人からは決して得られないものだ。そう信じたい。

「だからこそ、貴様は私の手で止めてみせる!!」
「それは結構。だが、できるのか? このギム=ギンガナムをぉ!!」

 切り結び、跳び、かわし、攻め、守る。目まぐるしく入れ替わる攻防ではあったが、バイタルジャンプを縦横無尽に駆使して、ギンガナムの動きをようやく幾らか上回れるという状態だった。
 初手を合わせたときから比べ、ギンガナムの気力は満ち溢れている。それに伴ってシャイニングガンダムの基礎能力が桁外れに上がっていた。
 動きが殆んど互角でも、力では圧倒されている。単機ならまだ渡り合えるという自負があったが、交戦能力を失った味方を二機も抱えていた。それは決定的に不利な要素なのだ。
 それでも方法はあった。死ぬ気になればやることができるただ一つの方法が。

179Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:42:26
(……)
(ブレン、落ち着け。仇は私が討たせてやる。それと私に遠慮はするな)
(……)
(恍けるな。お前が私を気遣ってくれているのは分かっている。でも、それじゃ駄目なんだ)

 分かっていたことだ。ネリー・ブレンが自分を気遣い、自分の周辺に集まり渦巻いている負の感情のオーガニックエナジーを主として動いていたことは。
 それはラキの負担を減らすためだろう。それに造られた生命であるラキのオーガニックエナジーは、自然の生命に比べると驚くほど希薄で弱いのだ。だがそれでも――

(……)
(いいさ。ここで全て吸い尽くしていけ)
(……)
(すまないな。ありがとう)

 ブレンの説得を終え、しかし、息をつく暇もない。攻防は続いているのだ。
 視界の端でギンガナムを捉えつつ、隙を見て通信をヒメ・ブレンへと試みる。
 頭部を失ったヒメ・ブレン相手に通信が繋がるか不安はあったが、程なくそれが要らぬ心配だったということが証明された。通信は繋がった。

「アイビス……無事か?」
「うん。私は大丈夫。でもブレンが……ブレンが私のせいで……」

 ギンガナムの攻撃を受けるその一方で盗み見たアイビスの表情は暗く沈んでいる。
 アンチボディーは半分機械半分生物という特殊な存在だ。頭部を失うということは死を意味している。
 それを自分のせいだと思い込み、責任と重荷を背負い込んでいるといった感じだった。その姿に一瞬頬を緩ませる。
 やはり人間は優しく暖かいのだ。ブレンはきっとそんな人の優しさに魅かれたからこそ、人を必要とする体に生まれたのだろう。そう思った。
 その一方で、無理だろうなとは思いつつ慰めの言葉をかける。

「気にするな。お前は精一杯やった。だれもお前を責めやしない。お前のブレンもきっとお前を恨んでやしない。
 そして、これから起こる事もお前のせいではない。だから、気に病まないでくれ……そうなると、私は悲しい」
「えっ?」

 伏せていた顔が上がるのを目の端が捉えた。バルカンを二発三発とかわしつつラキは言う。

「……私のブレンを頼む。こうみえても寂しがりやなんだ。きっとお前の力になってくれる」
「ラキ、あんた……」
「ジョシュアが最後に守った者を私も守れる。それだけで十分だ」
「違う。違うよ……ラキ」

 顔を左右にふるふると振るわせるアイビスを無視して、言葉を続ける。
 自分の声が湿り気を帯びていくのに辟易しながらも、どうすることも出来ない。

「アイビス、会えてよかった」
「ラキ、ジョシュアが本当に守りたかったのは私じゃない! あんたなんだ!!
 だから、だから一緒に生き延びよう……二人で生き延びる道もきっと見つかるからっ!!!」

 耳に飛び込んできた声にハッと目を見開き、俯いた。出来ることならそうしたかった。でも目の前の現状はそれを許すほど甘くはない。
 だから、ラキは一度だけギンガナムから視線を外し、アイビスを見て声を掛ける。勤めて明るく、精一杯の笑顔で。

「本当はもっと落ち着いて話がしたかった。でも時間がない。アイビス、お別れだ」
「ラキ!!」
「盛り上がってるとこ悪いがな。お前らは死なねぇよ」
「「クルツ!!」」

 突然割って入った声にラキとアイビス――二人から驚きの声が上がった。そんな二人に構うことなくクルツは飄々と言葉を繋げる。

「ラキ、お前がろくでもないことを考えてるのは分かってる。でも悪いな。こいつは俺が貰う。お前はアイビスと行け」
「何、無茶なことを言っている。その半壊した機体でこいつを押さえられるはずがないだろう」
「無理だよ、クルツ。あんた一人ならまだ逃げられる。機体が動くのなら逃げて」
「うるせぇっ!!! うるせぇよ……行きたいんだろ? 本当はそいつと行きたいんだろうが!!!」
「それは……」

180Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:43:26
 言い澱み、覚悟が揺らぐ。
 諦めたはずの先を突きつけられ、そこにいる自分を連想してしまい、生きたいという衝動が膨らむ。思わずクルツの言葉に縋りつきたくなり、浅ましいと自分で一喝する。
 そんな心の機微を見通してか、クルツは言葉を畳み掛けてきた。

「行けよ。とっとと行っちまぇ! いいか? 勘違いするんじゃねぇぞ。俺はお前の代わりにこいつの相手するんじゃねぇ。誰かの代わりなんて真っ平ごめんだ。
 俺は俺が好きでこいつの相手をするんだ。こいつは俺の我侭なんだよ。あいつと一緒に行くのはお前の我侭だ。だったら、我を張れよ。押し通せ。
 会ったときからお前は我侭尽くしだったんだ。いまさら変に遠慮なんてしてんじゃねぇっ!!」
「しかし、お前は……」
「俺は俺の我を通してここに残る。お前はお前の我を通してあいつと行く。それで全部まとめてオールO.K。円満解決。大団円だ。違うか? 違わねぇだろ。
 分かったか? 分かったら、さっさと行っちまえよ。お前らがいると邪魔なんだよ。気になっちまって、切り札が切れねぇ」
「ならばそのカード、小生が切りやすくしてやろおっ!!」
「ッ!!」

 クルツに気を取られすぎていた。気がつけばギンガナムが間近に迫っていたのだ。
 近いっ! 近過ぎる。回避も何も、全てが間に合わない。直撃? 当たるのか? くらうのか? くらえば――
 豪腕を目前にぞっと全身が怖気立ち、肝が冷えた。思わず目を閉じ、首を竦める。身を固く小さくして来るべき衝撃に備える。
 しかし、その瞬間はついぞ訪れなかった。変わりに怒声が飛んで来る。

「何やってんだ! 早く行け!! ちんたらしてんじゃねぇ! 今すぐ走れ!!」

 恐る恐る開けた視界に、いつの間に忍び寄ってきたのか、ギンガナムに背後から組み付くラーズアングリフの姿が映しだされる。

「ク……ルツ?」
「さぁ行け! 行くんだ! 行って、俺の代わりに二人であの化け物に一発かましてこい……頼んだぞ」

 目が合い、気圧された。その目には一本の筋が通った、ぴんと背筋の伸びた胸に迫る何かがある。
 それに抗おうと胎に力を込めたが、一度揺れた覚悟はそれを押し返すまでの強さを持ってはいなかった。
 乾いた口が動く。何度か唾を飲み込み、何度も言葉を喉元で押し殺したその口は、しかし最後には辛うじて聞き取れる程度の声で喉を震わせた。

「……すまない。頼む」
「いいってことよ。任せろ」

 陽気な、いつもと変わらぬ声が耳朶を打つ。悲壮さなど微塵も感じさせない、ちょっとした用事を引き受けるような、そんな声だった。
 クルツとギンガナムに背を向け、ネリー・ブレンが跳ぶ。
 決めた以上、戸惑ってはならない。速やかに動かなければクルツの覚悟に水をさすことになる。それが、似たような覚悟をほんの少し前まで決めていたラキには、痛いほど分かっていた。
 ジャンプアウト。物言わぬヒメ・ブレンを抱え上げる。アイビスが文句を言ってきた。その気持ちも、やはり痛いほどに分かる。
 だがそれに耳を貸すわけにはいかない。例え恨まれようと構わない、とラキはその場からの離脱を開始する。
 普通に長距離のバイタルジャンプを行う余力は、もう残されていなかった。

 ◆

 赤い戦車のような人型機動兵器が投げ飛ばされ、瓦礫の海に埋没した
 ラキとアイビスが離脱を開始して数分。ずぶずぶと上下逆さに埋没していく機体の中、クルツは一人ぼやく。

「やれやれ、こんなつもりじゃなかったんだけどな。こういうのを親心って言うのかね」

 本当に初めて会ったときから世話のかかる奴だった。意見は食い違うわ、一度決めたら梃子でも動かねぇわ、自分勝手に動き回るわで、本当に面倒ばかり掛けやがる。
 でも気持ちのいい奴らだった。
 にしてもついてねぇな。こんなとこに呼び出されてまでして、俺、何やってるんだろうな……。

「……まぁいいさ。悪かぁねぇ」

 がばっと起き上がり、コンクリートの破片を跳ね除けながら呟いた。
 ああ、そうさ。悪かぁねぇ。女を守って死ぬ。男として最高の死に様じゃあねぇか。あんたもそんな気分だったんだろ? ジュシュア=ラドクリフ。
 ふぅ〜っと長い息を吐く。横目でちろりとこれから命を賭ける相手を見やり、リニアミサイルランチャーを突きつける。

181Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:44:39
「悪いな、大将。俺の我侭に付き合ってもらってよ」
「貴様がその半壊した機体で何をするのか興味があってな。だが、空の銃では小生は倒せぬ。そこのところは分かっているのか?」

 クルツが最も懸念していたこと、それは無視をされ二人の後を追われることだったが、どうやらその心配はなさそうだった。人知れず胸を撫で下ろす。
 敵さんは、こちらの手札に興味津々なご様子。ならどうすればいい? 簡単だ。挑発して好奇心を呷ってやればいい。そうすればもう少し時間を稼ぐことが出来る。

「知ってるか? プロってのは、弾を撃ち尽くしても最後の一発ってのは取っておくもんだ。本当にどうしようもなくなっちまったときに自分の頭を撃ち抜く為にな」
「下らんな。己の頭を自ら撃ち抜くぐらいなら、その一発で相手を倒すことを考えるべきだ。
 最後まで相手の喉下に喰らいついて初めて一人前の兵士と言える。貴様もそうだろう……違うか?」
「そういう考え方もありっちゃありなんだが……。勿体つけといて悪りぃんだけど、実は弾なんか残っちゃいねぇんだな、これが」

 リニアミサイルランチャーを手放す。瓦礫で跳ねたそれが乾いた音を立てた。
 からかわれたとでも感じたのかモニター越しの表情が怒り、睨みつけてくる。想像以上に単純な奴だ、とほくそえんだ。話術では負ける気がしない。

「短気は損気。そう怒りなさんなって……。代わりにギンガナム、あんたには別のもんをぶつけてやるよ」
「ふんっ! 貴様のごとき雑兵の命一つで小生を止められると本当に思っておるのか?」

 完全に臍を曲げたらしい男を前に急にクルツの目つきが変わった。

「馬鹿言っちゃいけねぇな。あんたに生き残られちゃ、せっかくのお涙頂戴シーンが台無しだ。
 それになぁ、お前さん自分のこと買いかぶり過ぎだ。こちとら戦争屋。弾なんざなかろうが、手前を倒す手段なんざいくらでも思いつくんだよ。塵一つ残さねぇから覚悟しろい」
「吠えたな」
「吠えたさ」

 売り言葉に買い言葉。睨み合い。互いの鼻が白み。直ぐに二つの哄笑が廃墟に木霊し始めた。カラッとした笑い声が大地を包む。

「面白い! ならばきっちり殺してみせろよ!!」
「上等だ! そろそろ行くぜ!!」

 時間は十分とは言えないが稼いだ。もう巻き込む心配も多分ない。あとは俺が上手くやれば万事オッケー、全ては上手く収まる。
 シザースナイフを抜き放ち、握り締める。
 接近戦の不利は百も承知。格闘戦における技量の低さは自覚していた。だがそれでもラーズアングリフに残された武器はそれしかない。

「来いっ!!!」

 腰を低く落とし、ギンガナムの声を合図に猛然と突進を開始する。敢行したのは命がけの接近戦。
 だが、それは余りにも馬鹿げた行為だった。ただでさえ鈍重なラーズアングリフである。脚部を損傷した現在、ギンガナムと比べるまでもなく動きは鈍重を極めている。
 動きは鈍く、勢いも無ければ、切れも伸びも無い。ギンガナムから見れば凡庸も凡庸。ただ愚鈍なだけの特攻としか映らなかった。
 ゆえにギンガナムは激昂した。軽んじられた。甘く見られた。そういう思いが有り、自尊心についた傷が感情を刺激したのだ。

「どんな隠し玉があるのかと思えば、ただの特攻とは……実に下らん!!」

 ギンガナムが動く。ラーズアングリフの鈍重さに比べ、その動きは遥かに素早い。

「小生を愚弄した罰だ!! DNAの一片までも破壊しつくしいいぃぃぃいいいい、鉄屑にしてやるっ!!!」

 間合いが瞬時に潰れる。ギンガナムが放った手刀は、頑強な装甲の継ぎ目を狙う一突き。
 右胸を貫かれるその寸前、クルツはシザースナイフを投げ捨てた。右腕で逃さぬようシャイニングガンダムを抱きしめる。

「野郎に抱きつくなんざ趣味じゃねぇが……この時を待っていたんだよ!」
「何だこれは! この馬鹿げた熱量は!! 貴様ぁ、一体何をした!!!」

 キーボードに指を滑らせ、一つの文字列を叩き込んだ。それは祈祷書の『埋葬の儀式』の一節を捩ったシャドウミラーの自爆コード。
 その真髄は機密保持の為、後には何も残さない絶対の破壊。文字通り全てを無に帰す力。
 即ちコード名――
                ――Ash To Ash――

「別に大したことなんざしてねぇよ。ただ土に還るだけさ。俺もお前もなっ!!」

 勝利を確信し、誇らしげに笑ったクルツを光の海が包み込んだ。

182Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:46:13

 ◆

 火花が散る。数合剣戟を交え、剣刃が乱れ飛ぶ。灼熱する斧を弾き飛ばし、横に薙ぎ払う。押した。押して押し捲った。
 隙はない。防御も厚い。しかし、破れる。突き破り、この男を避わすことが出来る。それが見えた。が、同時に側面を衝かれ、手痛い被害を受ける自身の姿も見えていた。
 一瞬の躊躇。それで機を失う。攻めあぐね、跳び下がり距離を取る。五度目だった。突き破れる手ごたえを感じながらも、全て跳ね返された。
 目の前の男は待っている。それは確実だった。薄ら笑いを浮かべながら、強引に突破を図る瞬間を待ちわびているのだ。それに乗る事は出来ない。
 ブンドルは唇を噛んだ。すでに相当の時間が経過している。死者が出ていても不思議ではないだけの時間だ。それだけの時間を費やして突破も出来ない。それがプライドに傷をつけた。
 互いの損傷は皆無。僅かに斧を弾き飛ばした点だけ、相手に被害を与えた。ただそれだけだ。
 無傷では切り抜けられない。崩せない。手負う覚悟があって初めて傷を負わせられる。この男を突き崩せる。そう思った。
 だがそれは許されないのだ。ラプラスコンピューターに損害を与えることは避けねばならない。やはり無傷で切り抜けるしかないのだ。それには切っ掛けがいる。あの男の注意を逸らすだけの切っ掛けが。

 ◇

「つまらねぇな……」

 小さく呟いた。この敵はつまらない。技術技量は驚くほど高い。動きも目を見張るほどで、無駄がなく隙もない。攻めは苛烈。守りは堅固。しかし、つまらない。
 恐さがないのだ。堅実で、大きく賭けに出てくるような動きを取ろうとしない。機会は何度もあったはずだ。賭けに出れば突破できる程度には、何度も崩された。
 しかし、それに乗ってこない。そういう敵は手強くても恐ろしくはないものだ。つまりは、つまらない相手ということになる。
 面白味という点では、アキトやテニアとか言う嬢ちゃんの方が遥かに勝っている。興味も半ば失せて来ていた。
 その時だ。彼方に巨大な光輪の華が咲いた。咄嗟に背後を振り返る。その動作はモビルトレースシステムを伝わり、正確に機体に反映された。同時にゾッとした悪寒が体を包み込む。

「チィッ!!」

 正面に向き直った。既に白銀の機体は驚くほど近い。無駄のない剣閃が襲ってくる。辛うじて防いだ。
 そのまま二合三合と切り結ぶ。しかし、押されている。このままでは押し切られる。
 思わず笑みが漏れた。

「ククク……やりゃぁ出来るじゃねぇか。なぁ!! おいッ!!!」

 守りを捨て踏み込む。自らの身が傷つくことも厭わない。頭を断ち割るビームナイフの一撃。しかし、それは空を斬ることとなる。
 眼前で白銀の機体の姿が変わる。人型から鳥のような姿へ。交錯。瞬く間に脇をすり抜けて背後へ。踏み込んだ分動きの遅れたガウルンは、その変化について行くことは叶わない。
 振り返ったときにはその姿は既に小さくなっていた。とてもじゃないが追いつけない。

「やれやれ……やられたねぇ」

 突如巻き起こった巨大な爆発。
 おそらくは何らかの決着が着いたのだろう。だとすれば思ったほどの混戦にはならなかったということだ。それにあの爆発では生き残りがいるのかどうかも怪しい。いてもくたばり損ないだろう。
 となれば、いまいち面白味に欠ける戦場だ。興味が急速に失われていくのを感じていた。

「くたびれ損の骨折れ儲けってやつか……。まったくお寒いねぇ」

 地に落ちたヒートアックスを拾い上げたガウルンは、思わずそうぼやかずにはいられなかった。



【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
 パイロット状態:良好、主催者に対する怒り、焦り
 機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊
 現在位置:D-3
 第一行動方針:ギンガナムとの合流
 第二行動方針:協力者を捜索
 第三行動方針:三四人の小集団を形成させる
 第四行動方針:基地の確保のち首輪の解除
 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
 備考:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能】

183Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:47:07
【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力120
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部・左肩・胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
        DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:D-3
 第一行動方針:近くにいる参加者を殺す
 第二行動方針:アキト、テニアを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 第四行動方針:できればクルツの首を取りたい
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【グラキエース 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神不安定。放送の時刻が怖い
 機体状況:無数の微細な傷、装甲を損耗、EN残量1/2、ブレンバーにヒビ
 ENの減少により長距離バイタルジャンプの使用不可
 現在位置:D-3
 第一行動方針:アイビスと共に離脱
 第二行動方針:クルツの代わりにノイ=レジセイアを一発ぶん殴る
 最終行動方針:???
 備考1:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません
 備考2:負の感情の吸収は続いていますが放送直後以外なら直に自分に向けられない限り支障はありません】

【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ヒメ・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:気力回復、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない)
 機体状況:頭部損失(実質大破)ソードエクステンション装備。
 現在位置:D-3
 第一行動方針:ラキを問い詰める
 第二行動方針:寝るのが少しだけ怖い
 最終行動方針:どうしよう・・・・・・
 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

【クルツ・ウェーバー 搭乗機体:ラーズアングリフ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:大破】

【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状態―――――












 ざわり

 空気が揺れた。クルツの巻き起こした爆発の余波による電波傷害は、未だ治まる様子を見せていない。だからレーダーに反応は無かった。
 しかし、肌が不穏なモノを感じ取ったのだ。それは皮膚を焦がすように熱い闘争本能の塊。濃厚にして濃密。全てを焼き尽くさずにはおれない地獄の業火。
 そういったモノが、廃墟の一部を荒野へと変えた爆発の中心地点のほうから迫って来る。間違いない。奴はまだ生きている。確信に近い思いでラキはそれを感じ取った。
 顔が難しい表情を作り、思い悩む。悩み悩んだ後で、ラキは諦めたようにポツリと呟いた。

「……どちらにしてもこれしかないか。すまないな、クルツ」

184Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:48:29
 クルツと自分の役回りが逆ならば、こんなことにはならなかった。クルツが命を落とすことなど無かった。
 そして、今自分はクルツが残してくれた命を散らそうとしている。今度は自分の番。そう思い定めている。そういう意味での二重の謝罪だった。
 通信をヒメ・ブレンへと繋げる。

「アイビス、さっきも頼んだようにこいつを頼む」
「えっ?」

 モニターにアイビスの顔が映し出される。驚いた目が大きく見開かれるのが見えた。
 恐らく死んでいったヒメ・ブレンの体をその内側までも綺麗に拭っていたのだろう。せめて綺麗な姿で弔ってやろう、そういう想いが、手に握り締められた汚れた布切れに込められているように思えた。
 その光景にふっと頬が優しく緩むのを感じる。こんな奴だからだ。こんな奴だからこそ、ジョシュアも守って死んでいったのだろう。そういう気がした。

「ギンガナムがそこまで迫っている。私はこれからあいつを止めに行く。心配するな。お前だけは何があっても絶対に守るから」
「待って! 私も行く。ラキ、あんただけに戦わせるなんて出来ない」

 懸命な目と声が迫って来る。一心に言い募ってくるその必死さに思わず押し切られそうになりながら、しかしラキはゆっくりと諭すようにアイビスの言葉を退けた。
 その語調には、子供に言い聞かせる母親の温もりがどこか染み出ている。

「それは出来ない。今のお前では足手まといなんだ。分かるだろう?」
「でもそれじゃあ、あんたが……あんたも……」
「気にするな。メリオルエッセである私には似合いの最後だ」

 アイビスが俯いた。分かっているのだ。自分が何の役にも立たないのだと。送り出せばもう帰って来ないのだと。
 肩が震えている。泣いているのか?
 そう思ってもどう声を掛けて良いのか分からず、途方に暮れながらも、何故かこのときラキはジュシュアに向けるのとはまた違った愛おしさが湧き出てくるのを感じていた。
 生きた時間で言ってしまえば、ラキはアイビスの十分の一も生きていない。しかし、それは母親が愛娘に向ける愛情のようなものだったのかもしれない。
 やがて袖口で目元を拭ったアイビスの顔が上がり、無理に貼り付けた笑顔を浮かべる。今にも崩れ去りそうな笑顔。しかし潤んだ眼差しは真摯に見つめてきていた。

「ラキ、あんたは……あんたはもう立派な人間だよ」

 そうか、泣いていたんじゃない……この娘は考えていたのだ。もう止められないと思い、最後に何を伝えられるのか、その言葉を探していたのだ。
 何だろう……胸が温かい。なんとなく分かった……これは一番私が欲しかった言葉なんだろう。
 ふっと目頭が弛む。笑顔で返そうとして、涙が溢れてくるのを抑えることが出来ない。

「そうか……私は人になれたのか……」

 ほぅっと溜息を吐くようにして言葉が漏れる。大事に大事に言葉を口の中で反芻し咀嚼する。あたたかい。胸に灯ったぬくもりが気持ちいい。
 何よりの餞だ……私には過ぎた餞別だ。思えば誰かにそう言ってもらえるのを私は待っていたのかもしれない。ありがたい。
 でも、だからだ。こんなことを言ってくれる人間だからこそ守らなきゃいけないんだ。

「アイビス、ありがとう。泣くな。胸を張れ。お前は精一杯頑張っている。
 ……会えてうれしかった。がんばれ」

 溢れた涙が零れ落ちるのを頬に感じた。その涙の一粒でさえも今は温かい。
 通信をそっと閉じる。暫くは体が震えて動くことが出来なかった。いや、胸中に湧き出てきたぬくもりを噛み締めていたかったのかもしれない。
 ぐいっと潤んだ目を拭い、鼻を噛む。大きく長い溜息を一つ。
 ちらりと横目で頭部を砕かれたヒメ・ブレンを確認する。その右手にはしっかりとソードエクステンションが握られていた。最後まで力強く戦った証だった。
 これで憂いはもう何もない。後はどれだけ完全な状態でネリー・ブレンをアイビスに明け渡せるかだ。
 キッと目元に力を込め、前方を睨みつけたラキは、いつもと同じ声、同じ態度でブレンに最後の戦いを促した。

「さぁ! 行こう、ブレン!!」

 ◇

185Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:50:01
 D-3地区に広がる広大な廃墟。その一角を円形に抉り飛ばし、出現した小さな荒野の尽きるところ。
 徐々に白んでいく空の下、何もない荒野と瓦礫の町の狭間でただ二つの機動兵器が全てに取り残されたようにぽつんと対峙していた。
 装甲のいたるところに傷を拵え、金属特有の光沢を失っている蒼い機体ネリー・ブレン。
 表面装甲の六割が膨大な熱量によって融解し、氷柱のように垂れ下がった状態で凝固しているシャイニングガンダム。
 二つの機体はまさに満身創痍。だが、二機は戦う力も気概も失わず、かといって不用意には動くことも出来ずにただ睨み合いを続けていた。
 全身が、汗にまみれていた。ギンガムの放つ圧力は並大抵のものではない。それを押し返し睨み合う。ただそれだけで疲労は蓄積されていく。

(ブレン、分かっているな?)
(……)
(すまないな。嫌な思いをさせる)

 これまでの交戦で互いが互いの手を読みつくしている。ゆえに迂闊な初動は即座に死に繋がる。普通ならば容易には動けないものなのだが、この男にそんなことは関係なかった。

「名残り惜しい気もするが、そろそろこの戦いも終わりだな。ならば――」

 装甲が焼け爛れたシャイニングガンダムが光を発し、黄金に染まる。
 緻密な計算も、姑息な浅知恵も関係ない。全てを薙ぎ倒す力の信奉者ギム=ギンガナムは吼えた。

「この一撃をもってええぇぇぇえええ!! 神の国への引導を渡してくれるっ!!!」

 刹那、ブレンが一歩を踏み出し、その場から掻き消えた。格闘戦専用機相手に真っ向から攻める愚は冒さない。かと言って、初手から死角を使う愚かさもない。
 側面を突く。しかし、ギンガナムはもう、鋭敏に反応していた。
 雄叫びをあげ、ブレンバーを振るう。ぶつかった。押される。抗えたのは束の間だった。圧倒的な力で押し流される。それを何とか撥ね上げた。皹が広がる音。
 二撃目。力を受け流しきれずに、ブレンバーの刀身が半ばで砕け散る。三撃目は死。次は凌ぎ切れない。だから刺し違える。命を賭してならそれが出来る。そして、それはここしかない。
 跳躍。ギンガナムの右後方――左腕からもっとも遠い死角――そこへ。ギンガナムがにやりと笑った気がした。
 瞬間、相手の左腕が閃光を発する。動きはここにきて尚早い。ここぞというところを嗅ぎ分けるこの男の嗅覚には、思わず舌を巻く。
 三撃目。砕けた刀身を突き出した。前へ。ただ前へ。暁を背に二つの影が交錯する。ぐしゃりと砕ける音。モノが潰れる感触。
 光る腕は眼前で止まり、その光を失っていた。そして、ブレンバーの刀身はギンガナムを貫いている。

「生きて……いるのか? 私は……」

 死を覚悟して前に出た。にもかかわらず生きている。何故、自分は生きているのか? 生きていることを喜ぶよりも先に、疑問が思い浮かんだ。
 ジョシュアがギンガナムの右腕を持っていってくれた。クルツが多大な損傷を与えてくれた。その彼らが開いた血路のお陰で生き残れた。
 それは分かっていたが、やはり生きているということが不思議でならなかった。緊張の糸が途切れたのか、どこか呆然としているという自覚がある。
 心ここにあらずというのは、こういうことなのだろうか?

「貴様、たしか……クラゲエースとか言ったか?」

 不意に声を掛けられてびくりとした。思わず声が上擦るのを感じながら、言葉を返す。

「……グラキエースだ」
「ふ……ふふ……グラキエース……グラキエースか」

 不適な笑みをこぼしたギンガナムが、ブレンバーが突き立ったまま一歩前に出る。
 そして、一歩が二歩に。ブレンバーはさらに奥深く突き立つこととなり、黒いオイルが血の様に噴出していた。

「貴様の名、覚えたぞォォ!! 我、魂魄百万回生まれ変わってもおぉぉおおお!!! この恨み、晴らすからなああぁぁぁああああ!!!!」

 眼前の左腕が再び閃光を発した。近い。そして、反応が遅れた。避わせない。ブレンの頭部が捕まる。咄嗟に両腕でその腕を掴む。しかし、ビクともしない。
 突然、恐怖が襲ってきた。この身が消え果るという本能的な恐怖。ブレンのものか、自分のものか、判別はつかない。
 思わず胸をグッと掴む。あたたかい。そうだ。このあたたかさの為なら私は命を賭けられる。私が私のままで逝くことが出来る。
 ジョシュアはよくやったと褒めてくれるだろうか? あいつは私の頭にぽんと手を置き、優しくなでてくれるだろうか?
 きっと褒めてくれる。きっと優しくなででくれる。もう悔いは……ないっ!

186Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:51:11
「跳べ! 跳ぶんだ、ブレン!!」

 怨嗟の念と自身への誇りを残し、一つの命を糧に二つの機動兵機がその場から掻き消える。そして、一ブロック南――D-4地区に余りにも小さな爆発音が人知れず鳴り響いた。

 ◆

 ラキが出て行って暫くたってから、ネリー・ブレンが戻ってきた。その姿は泣いていた。何故だか分からないが、そんな気がしたのだ。
 コックピットを覗くとそこにはラキの遺骸が乗っていた。
 それとヒメ・ブレンの分の穴をネリー・ブレンと一緒に掘った。クルツは跡形もなく吹き飛んでいて、埋めるようなものは何も残っていなかったのだ。
 ブレンに触れ、そっと呟く。

「ねぇ、ブレン。ラキの最後は……どんなだった?」
(……)
「そう……そうか。うん。ありがとう」

 二つの遺骸を納め、土をかぶせていく。こみ上げてくるものをグッと堪える。
 ジョシュアを埋めたときには泣いた。シャアが死んだときには泣く気力すら残っていなかった。
 でも、今は泣くべきではないと思っていた。
 みんな見事に死んでいった。そうだ。見事な最後だったんだ。死ぬときはこうありたいと誰もが思えるような見事な死に様だ。
 でも……死は死だ。他の何者でもない。
 そして、自分は生かされた。たまたま自分は生かされたのかもしれない。そこにいたのが自分でない誰かであっても、きっとみんな守って死んでいっただろう。
 だからといって、自分が生かされたという事実はなくならない。それはやはり黙して受け止めるべきことなのだ。
 今はまだ泣かない。
 泣くのはやるべきことが全部終わったあとでいい。そのときに思い出して泣こう。そのときまで涙は取っておこう。
 遺骸が土に隠れると胸の前で手を合わせ、ゆっくりと目を閉じる。
 ジョシュアは何も言わずにただ守ってくれた。シャアは死ぬこと以外好きにしろと言った。
 クルツは命を懸けても譲れないことがあることを教えてくれた。ラキはただ頑張れと言ってくれた。
 そして、ヒメ・ブレンはこんな私に最後まで付き合ってくれた。文句の一言もなく。
 でも、何をやるべきなのかは、誰も教えてくれなかった。それはきっと自分で決めるべきことだ。みんなが生かしてくれた自分が自分で決めるべきことだ。
 そう思った。
 スッと目を開けたアイビスは、顔を上げてネリー・ブレンを見上げる。真似たのか両手を合わせた姿がそこにはあった。
 そのどこか滑稽な姿にふっと頬を緩ませ、墓に背を向けて歩き出す。後ろ髪引かれながらも振り向かない。振り向いてはならない。

『そりゃ、お前が引け目を感じているからだ』

 ギンガナムに接触する前、ラキのことを聞いた返しに、ここに来てからの話をしたときのクルツの言葉だ。

『一方的に何かをしてもらったと思ってる。自分は何もしてないのにってな。つまり対等だと思えないんだ。仲間なのにな。
 理由もないのに世話を焼かれ続けるのってきまりが悪いだろ? それと同じだ。相手は気にしてないのかもしれないが、お前はそれを気にしてる。
 だったら見返してやれるぐらいしっかりした人間になればいいのさ。そのくらい自分に自信がついたら、その後ろめたさは消えるんじゃねえかな』

 一人生き残ってしまった後ろめたさ。それはまだ消えない。多分そう簡単に消えるものでもないだろう。消えるようなものではないのかもしれない。
 それでも、いつかは死んでいった人たちの命に見合うような人間になりたかった。

「ジョシュア、ラキ、シャア、クルツ、ブレン……あんた達はそこで見ていて……もう迷わないから。もう立ち止まらないから。
 私は、私なりの生き方で精一杯生き抜いて見せるから……。だから、笑って見ていて」

 墓を背に、喉元まで出掛かった嗚咽と涙を押し戻し、空を見上げたアイビスは言う。思いのほか綺麗に澄んだ声が、朝露に溶けて消えていった。

「行こう、ブレン」

187Shape of my heart ―人が命懸けるモノ―  ◆7vhi1CrLM6:2007/12/09(日) 17:52:30
【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
 パイロット状態:主催者に対する怒り、疲労(主に精神面)
 機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊
 現在位置:D-3
 第一行動方針:状況の把握
 第二行動方針:協力者を捜索
 第三行動方針:三四人の小集団を形成させる
 第四行動方針:基地の確保のち首輪の解除
 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
 備考:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労小、DG細胞感染、気力120
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部・左肩・胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
        DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:D-3
 第一行動方針:近くにいる参加者を殺す
 第二行動方針:アキト、テニアを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 第四行動方針:できればクルツの首を取りたい
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない)
 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。
       無数の微細な傷、装甲を損耗、EN残量1/2、
       ENの減少により長距離バイタルジャンプの使用不可
 現在位置:D-3
 第一行動方針:自分がするべきことを見つける
 最終行動方針:精一杯生き抜く
 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

【クルツ・ウェーバー 搭乗機体:ラーズアングリフ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状況:死亡
 機体状況:大破】

【グラキエース 搭乗機体:なし
 パイロット状況:死亡(首輪爆発)
 機体状況:なし】

【ギム・ギンガナム 搭乗機体:シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状態:死亡(首輪爆発)
 機体状況:右腕肘から先消失、腹部装甲に折れたブレンバーが突き刺さっている
        各部装甲に多数の損傷、表面装甲の六割が融解して垂れ下がり凝固、EN10%
 備考:シャイニングガンダムの現在地はD-4】

【残り24人】

【二日目5:30】

188名無しさん:2007/12/10(月) 17:47:08
>>167
◇ から1行目
 肩までかかる青い長髪がワカメのよう〜   クルツの髪の色は金では? (ラキが自分の髪のことを言っているのだとしたら勘違いすみません)

>>170
クルツのセリフ 「ここなら、いけるか……?」 の1行下
 戦場の全て見渡せるという状態には〜
  → 『戦場を全て見渡せるという状態には〜』 若しくは 『戦場の全てを見渡せるという状態には〜』?

>>174
◆ から1行目
 音響がさらなく音響を導き、  さらなく → さらなる

◆ から4行目
 真っ向から接触する拳を剣。  拳を剣 → 拳と剣

>>177
 流石、ゴットガンダムのお兄さん!!  ゴット → ゴッド

>>178
ラキのセリフ 「そうだ。私は戦っている。私は〜  の1行下
 唇を噛み締めて言う。懇親の力で押し返し、〜   懇親 → 渾身

>>179
ラキのセリフ 「本当はもっと落ち着いて話が〜  の1行上
 勤めて明るく、精一杯の〜   勤めて → 努めて(勉めて)

>>182
ブンドルの状態表の2行上、ガウルンのセリフ
 「くたびれ損の骨折れ儲けってやつか……。まったくお寒いねぇ」   くたびれ損の骨折れ儲け → 骨折り損のくたびれ儲け

各所の
 アンチボディー → アンチボディ

それと>>163>>164のブンドル視点のところでの『やばい』という部分は『まずい』のほうが良いのではないかと。
ただこれは個人の感覚にもよるので、そのままで問題ないとも思います。


以上の点の確認をお願いします。

189 ◆7vhi1CrLM6:2007/12/10(月) 20:49:29
>>188
ご指摘ありがとうございます。

>>167の◇から一行目は御大将の容姿です。
分かりにくくて誤解を与えたようですみません。

>>170の「戦場の〜」のクルツの台詞は
「戦場の全てを見渡せるという状態には〜」
でお願いいたします。

そのほかのところはご指摘通りの修正ということで。
気がつかなかったところをフォローしていただき、ありがとうございました。

190名無しさん:2008/06/01(日) 12:06:16
「ガロード、どっちに行くんだ。近道はこっちだぞ」
「え? アムロさん、C-8に行くなら、ここから南にまっすぐ……」
「それは違うんだ。この壁を抜けると反対側に出られるようになっているんだ。
ここは、上と下がつながっていると言っていたろう?」
「ああ、そう言えば……そうか、つながってるってそういうことか」

進み始めたガロードの言葉に割り込んでストレーガの指が北をさす。
そこには、白系の色を中心に、虹色の光を放つどこまでも続く壁があった。
アムロの言葉を聞いて、F-91は、急旋回。慌ててストレーガのそばまで戻ってくる。

「悪い悪い、アムロさん。俺、まさか、この壁に突っ込むのがそれなんて知らなくて」
「いや、それも無理はないさ。俺も逃げる時、半信半疑だったが光の壁に突っ込んだから知ってるんだ」

そう言ったあと、小さくアムロは歯噛みする。
過去に捕らわれていても仕方がない、と頭では割り切れるほど年は積み重ねているが、
感情まで抑えきれるほど、アムロも老成し冷めた人間になれているわけでもなかった。
あのときの戦いで、もう少し早く、あの獅子のマシンを撃破できたなら。
いや、戦力も少ないのに、行動する仲間を分割しなければ。
……シャアは、死なずにすんでいたのかもしれない。

「何を、考えているんだ俺は……」

ストレーガの中で、アムロは一人小さくつぶやいた。
シャア・アズナブル。いけすかない部分もあったし、そりが合うはずもない男だった。
だが、不思議と自分たちは出会い、時代に翻弄されていった。
結局、自分が何をつかんだのか? ――それすらもわからないままだ。
あの男は、何かを見つけ、つかんだのだろうか。
もし、シャアが何かにたどり着いたとして……
それがあの愚行、アクシズ落としへとつながったとしたら、アムロはやはりシャアの行動を否定する。

あの男は、焦りすぎたんだ。だから、現実も見えちゃいなかったし、すぐに物事に見切りをつけた。

アムロは、シャアの行動を否定した。
だが、あの男を考えるに当たって、忘れてはいけないことがある。

「この暖かさをもった人間が、か」

シャアも、人の心の温かさを知っていたし、そのことをはっきりと認めていた。
そして、それを知った上での選択だったということ。シャアは、人のエゴと優しさを知った上で決断したのだ。
自分との決着にこだわり、過去を引きずりながらも同時に人を知り未来のために決起した男。

自分に、その勇気があるのか?
いや、勇気と言うには少し違うかもしれない。
どうしようもないくらいすべてを理解して、他人を背負っていく気概、魂が自分にあるのか。

「ガロード……すこしいいか?」

光の壁を抜けて、おもむろに問いかける。

「どうやら、そのガンダムは俺たちの技術の延長にあるようだが……いつごろ作られたかわかるか?」
「うーん、ちょっと触っただけじゃ操縦法はわかっても、そこまではわかんないみたいだ。
……そうだ、ちょっと待ってよ。色々試してみるから、さ」

いったん地上に降りるF-91を見て、アムロもゆっくり降下していく。
幸い、ここは市街地だ。高層ビル群の陰に隠れていればそうそう見つかることはない。

「そうだな、一応目的地には着いた。なにかあると聞き逃すかもしれない。放送まで聞き逃さないように移動を切り上げよう。
……ガロード、さっき言った、最初のニュータイプの話を……少し聞かせてくれないか」
「ああ、いいよ」

軽く返事を返し、手を動かしながらガロードは説明してくれた。
酷く、哀しい人間の業そのものが詰まったような物語を。
ただ、アムロはぼんやりとそれを聴き続けた。ただ、ひたすらに聞く。
何か、理解できる気がして。

「―――で、言ったんだ。
ニュータイプは人の革新でもなければ戦争の道具でもない、ただの人間だ。それは幻想だ』って」
「そう……か……」

191戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:08:07
アムロは、それだけ言うのが限界だった。
だが、作業をするため画面に集中していたガロードは、アムロの顔色に気付かず、さらに言う。

「お、調べたら結果が出たよ。 えーっと、宇宙世紀123年、バイオ・コンピュータを利用したニュータイプ仕様……」

そこまで読み上げた後、ガロードも怒りに顔をゆがませる。
アムロは、なぜガロードが怒っているのかよく理解できた。
なんてことはない。これは、ニュータイプを戦争の道具として使うモビルスーツでしかないのだ。
……それも、あの人の光を見せた時から30年もたった、自分たちの未来の、だ。

人は、力でメンタリティを容易に変容させる。
それこそ、急に力を手に入れた反動で、一夜にして別人同然になることもある。
逆に、己を脅かす力をもつ存在の登場によって、周囲の人々のほうが変わっていくこともある。
一人の人間が持つ力が、すべての人間の心の在り方すら捻じ曲げる。

まさに、ニュータイプがそうだった。
驚異的な力を持つと畏怖されたこともあった。逆に人間の革新ともてはやされ、尊敬されたこともあった。
お互い、人間であることに変わりはないのに。

ニュータイプは幻想である。

アムロは、そのガロードの意見を、素直に受け入れる。
だが、哀しかった。あまりにも悲しすぎた。

よく似た並行世界でも、ニュータイプは戦争の道具として扱われ、血を流す原因となった。
あの日から、30年たった自分の世界でも、何も変わっていない。

これが、『人の業』とでも言うのか。
シャアは……シャア・アズナブルはこの絶望を知っていたのだろうか。
人は、決してメビウスの輪から抜け出すことはできず、あらゆる世界、あらゆる時間で罪を重ねるのだろうか。

「……そろそろ、放送だな。そちらに集中しよう」

ガロードに言っているのか、自分に言い聞かせているのかもはっきりしない心地だった。
そう言って、ディバックから、地図とメモ、ボールペンを引っ張り出す。
時刻は、18時間が経過し、朝の6時だった戦いの開始も、今では夜更けとなっている。
最初の6時間では、10人だった。
仮に、このペースで死者が増えているとすれば、単純計算時間が倍になっている以上、死者は20人。
いや、参加者が減れば減るほど、殺し合いは減速する。それを考えれば、16,7人。
もっと少ないことを祈って、アムロは鳴り始めた音楽に耳を傾ける。

しかし、その内容はアムロの予測を上回るものだった。


「なんだって……二十……一人だと?」


あの部屋には、50人弱しかいなかった。
最初の放送で、10人が死亡。6時間経過時の残りは40人と少し。
その40と少しの人数の中で……この12時間で、21がさらに脱落した。
つまり、6時間経過時の生存者の半分が死亡したことに他ならない。

192戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:08:53
アムロは確信する。人が減っても、殺し合いは減速していない。
むしろ、減った状態でありながら時間の単純比以上の人間が落ちたことを考えると、その加速度は猛烈な勢いで増している。

呼ばれた名にはギム・ギンガナムの名もあった。
危険人物も当然返り討ちその他で減っているだろうが、
それでも、この場は殺し合いにのった人間のほうが現在優勢であることは疑いようがない。

こんな理不尽に殺し合えと言われて、それでも最後に一人になるまで殺しあってしまう人間。
この世界は、多くの世界から人が集まっている。多種多様な世界の知恵をもってしても、人は食い合うことをやめられない。

シャアの名は、覚悟していた。だから、受け止めることはできた。
しかし、放送から流れたそれ以外の情報は、どれも顔を強くゆがませるのに十分なものだった。
唯一の救いは、自分たちの合流相手、クインシィやジョナサン、そしてブンドルの名が呼ばれなかったことだ。

もう、一刻の余裕もない。
可能な限り迅速に、こちらの戦力を落とすことなく、反抗勢力を集めなければ、勝機は完全に失われる。

「ガロード……合流を急ぐぞ。うかうかしてる暇はなさそうだ」
「ああ、わかったよ。……おっさんの分まで頑張らなきゃな」

おっさん、というのは話に聞いた神隼人だろう。
だれもが、苦痛を乗り越え、消えた人々を背負って生きている……とアムロは知っている。
この世界はそれが顕著なのだ。言うならば、ここは世界を凝縮し縮めた箱庭――

「そうか……そういうことか、これがあの化け物の目的なのか……」

アムロは、直感的に気付いた。この世界の、意味を。
ストレーガのアイ・カメラで周囲の住宅街やオフィス内を急いで探索する。
……人のつかった痕跡が、いっさい見当たらない。
それが、アムロの予感に、さらに確信を与えてくれる。

最初から、アムロが感じていたことがある。
違和感、とも言ってもいい。この世界には……あまりにも人の思念が感じられない。
無限に広がるような感覚を与えながら、雑念というか、ごちゃごちゃしたものがなさすぎるのだ。
だから、離れた場所でもニュータイプでも何でもないギンガナムの気配を手に取るように感じることができた。
冷静に考えると、意識もせず集中もせず遠く離れたニュータイプでもない人間の思念を、つぶさに知ることができるのはある意味異常だ。

この世界に、人はいない。いなかったという過去系ではない。過去未来現在、あらゆる時間で自然には、ここに人はいない。
いるのは、連れてこられた自分たちだけだ。

不純物の混ざらない、なにもない人間の世界のジオラマに、生贄を用意することで『世界』を再現する。
自分たちをひねりつぶすだけならたやすくやってのけるような存在が、そんなことをやる目的は何か?


言うまでもない、実験だ。

不純物を取り出し計測に無駄な幅が出ないようにするのも、
小さい事象の投影から全体を予測、理解するのも、
まさに実験そのもの。
ここは、実験用のフラスコの中なのだ。

193戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:09:50

だが、ここでもひとつだけ疑問が残る。
では、彼らはこの実験を計測することで、何を知ろうというのか……?

「それこそ……人の業なのかもしれない」

あの化け物が、神だとは認めない。
しかし、神のごとき力を持っていることだけは間違いない。
さっきも言ったが、力で心は容易に変わる。

ならば。
あれほどの力を持つ存在が、人間と同質の精神を持っているだろうか。人間の心を理解できるだろうか。

――絶対にNO。

理解できないからこそ、こんな世界を作り上げ、観察することで人間を理解し、判断しているのだろう。
そして、観察から何をしようとしているのか……?

「認められるものか……!」

アムロは、あの化け物を認めない。どんな結論を出したとしても、決して認めない。
シャアは、人間の中で生き、人間として悩み、人間として業を背負い、人間の業を知って立ち上がった。
だが、あの化け物は違う。人を超越した世界で生き、人の心を知らず、悩まず、神の如く力を振りかざす。

人は、弱く脆く、愚かなのかもしれない。それは、人を超越した種から見ても明らかかもしれない。

けれど、どれもまた、すべて人間が背負い、乗り越えるものだ。
人間でない存在に、指図されるほど落ちぶれちゃいない。人は、それでも乗り越えられるんだ……!

「――シャア。お前が見たものはこれだったんだな」

アムロは知った。
シャアが見たものは、人間の未来という希望だったのだ。
どうしようもなく居間に絶望していながら、人間という種そのものの未来は、だれよりも信じていた。

自分も、同じだ。
決して、人間を見放したしたりはない。もし、そんな存在がいるなら、全力で戦うまでだ。

「ガロード。すまないが、マシンを交換してくれないか」
「急に、黙りこくったと思ったら……どうしちゃったんだよ、アムロさん」
「F-91がニュータイプ用のマシンだと言うのなら、俺が乗ったほうがいい。そのほうが、戦力になる。
 ……もうシャアのような過ちは繰り返させない。俺はただの人間だ。だから、決して人間を見放したりはしない」

シャアを失った時のような、力不足からくる過ち。
シャアが起こしたような、人の業と絶望からくる争い。
そのどちらも、もう沢山だ。

ニュータイプは万能ではない。これからも、ただの人間である自分は失敗し、悩むだろう。
それでも……それでもだ。

必ず、人はいつか乗り越えると信じ続けよう。


そして、あの化け物を討ってみせる。


マシンの交換に、ガロードは、少し渋る様子を見せたが、結局変わってくれた。
彼曰く、「人を戦争の道具にするような、ニュータイプをパーツにするようなMSには乗せられない」らしいが、
アムロも、珍しく我を通した。アムロは知りたかった。自分たちの技術の果て、ガンダムはどうなったのか。
せめて兵器は、変わっていけたのか。

194戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:11:57

シートに座りこんだとたん、頭に流れ込む操縦方法。
はっきりと感じる、サイコフレームやバイオセンサーに近い感知器の存在。
自分の認識できる世界が、一回りも二回りも広がったような感覚を覚えた。
ざらつきに似た、会場を覆う思念。覆いかぶさるような参加者たちの嘆きと慟哭といった激情の数々。

「! 来る……!」

とたん、目を向いて虚空へ視線を投げやるアムロ。その急な動きを見て、ガロードが慌てた様子を見せた。

「な、何が一体来るって言うんだよ!?」
「かなり、大きな悪意が1つ……弱いが、明らかな敵意がもう一つ」

時計を確認すれば、もう6時30分だ。

「不味い、早く合流しよう」

そこまで言った時だった。


太陽に先駆け、天空に駆け上がるように、光の線が流星のように空を切り裂いたのは。


―    ―    ―     ―


「おお? ハハッ、こりゃおもしれぇ」

C-1エリアの端で、黒いガンダムが、光の壁に体を突っ込んだり出したりして遊んでいる。

「しっかし面白い仕掛けだな。いまさら驚かねぇが、こんな便利なもんくわしく教えとけよ」

ずいぶんかるく、繋がっているとしか言っていなかったが、その一言で済ますとはあの譲ちゃんも人が悪い。
もっとも人じゃあないのかも知れねぇが……それはさておいて。
知っていればいろいろ楽しめたかもしれなかったってのに。
結果的にはいい感じなわけだが、やっぱりペナルティは必要だろう。
いや、やっぱり人じゃないからこそ、人間様の礼儀ってもんを教えてやる必要があるか?
まあ、どっちの道……

よし、殺そう。

あまりにもナチュラルに危険思想を振りまく、この男の名はガウルン。
本名かどうかも不明で、9つの偽名を持つことからそう呼ばれる傭兵だ。
息をするように人を殺せるガウルンという男は、上機嫌で獲物を探す。
さっき戦った相手でも、盛り上がることは盛り上がったが、すっきりさっぱりとは程遠い結末だった。
だから、この微妙で半端な高揚感を抑える相手を求めて放浪する。

もっとも、彼に本当に満足が訪れるとは思えないが。
もし仮にあったとしても、どれだけ殺せば腹が膨れるやら、わからない。

「半端はいけねぇよなあ、半端は……」
さっきは、なかなかダンスにはいいお相手だったが、積極性が足りないってもんだ。

体を汚すのを嫌がる娘みたいに、傷つくのを恐れすぎていた。
最後に、腕一本持ってかせる度胸があったとしてもまだまだ欲求不満だ。

「やっぱり、なかなかおいしいモノにはありつけない……ってとこか?」

195戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:12:30
彼からすれば、禁止エリアの発表以外に放送に意味はない。
せいぜい、時報のかわりくらいだ。時報……と考えて、ふと時間が気になった。
時間を、ちらりと見ると、時計は6時26分を指している。
東の空からは、うっすらと太陽の光で白みだしている。
明るくなるということは、そろそろ、派手に動きづらい時間になる。
次の市街地あたりで、じっくりと獲物を待って狩るとするか。

ガウルンは、闇雲に動き回っているわけではない。
最初にこの会場に転送された時や、獲物――アキトのことだ――を追いかけていた時はともかくとして、
それ以外は、ガウルンは人の集まりそうな場所を中心にめぐっているのだ。
街での戦いがあった後、ガウルンは考えた。
そして、ガウルンの出した「どこに人が集まるか」というクエスチョンの答えは、ずばり「街」だった。
ビル街などは、当然食料などの物資も補充しやすく、姿を隠す場所も多い。
自分の常識などを考えれば、籠城する相手はそういった場所を選ぶ傾向が強い。

ぼんやり平地や森にいる連中は移動中に自然と見つけられる可能性もあるし、自分から出向いて探す必要もない。
だが、わざわざ探さないと獲物が見つからない点は、まわる必要がある。
それも、逃がさないように。
結果はもう知っての通り、そこに隠れていた連中を見つけては、ガウルンは楽しんでいる。
結果的には下の街から中央の街の廃墟に移動、とくれば次に進む先はもう言わずもがな。当然上の街だ。

下から上に、潜んでいそうな場所を、プレゼントボックスでもあけるつもりですべて回る。
最後は、メインディッシュに南東の工場と考えていたところだったが……
もっとも、なんのデメリットもなく上から下へワープできることが判明した以上、これはあまり得策ではなかったようだ。
まさか、つながっているとは言っていたが、こんな壁を使って下へ一瞬で移動できるとは予想外だ。

いつでもどこでも縦横無尽に逃げるというのなら、しらみつぶしにする必要はない。

よし、ここの次は工場へ向かおうと一人心に誓うガウルンだった。

少し話はそれたが、だからガウルンはA-1、B-1の街を目指した。
もっとも、厳密にはその東にある廃墟のほうが近いのだが、ガウルンに射撃の的になる趣味はない。
空を飛べないマスターガンダムが推進力を利用しながら水上を進むのは、
廃墟に潜んでいる人間から「どうぞ、殺してください」というのとまったく同義。

というわけで、ほぼ全速力で北上していたガウルンは、光の壁に出会った。
ちなみになぜ全速力かというとこれもさっきとまるきり同じ回答で、ガウルンに射撃の的になる趣味はないからだ。
大した遮蔽物もない平原で、遠距離攻撃を苦手とするマスターガンダムがゆっくり進んでいては、ただの的だ。
時速250kmは出るモビルファイターでも、優秀な射撃補正ソフトの前ではドン亀だ。

余談だが、ガウルンが極力遮蔽物の多い街や森などで戦おうとしているのは、
何かに隠れて近づかねば、相手が逃げてしまって楽しめないのに加えて、マスターガンダムが近接特化なのも大いにある。
とにかく、距離を詰めて自身も機体も得意とする近接戦闘に持ち込めば、負けないと思っているからだ。

ただ、単純に自堕落で享楽的に見えるが、その認識は間違っている。
ガウルンは自身の経験と、だれよりも狡猾で深い戦闘および戦術の判断で冷静に戦う、歴戦の戦士……いや修羅なのだ。

さて、光の壁をくぐって1番ラインの街に戻ろうと思った時だった。


太陽に先駆け、天空に駆け上がるように、光の線が流星のように空を切り裂いたのは。


「次の祭りはあそこか」



―    ―    ―     ―

「―――っ!」

統夜は、地面を異常な速度で疾走する影を見つけ、ビルの陰に隠れる。

銀色のマシンだ。かなり大きい。ヴァイサーガと同じくらい……60mはある。
だが、その巨体の割に、線があまりにも細い。
スレンダーな騎士タイプのヴァイサーガを、さらに細く絞ったようなマシンで、腕にはドリルが付いている。

196戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:13:04

「やっと……また見つけた」

そう言ってコクピットで統夜では息を吐く。
見つけられたことを安堵しているのか、それとも見つからなかったことを安堵しているのか。
どちらともつかない微妙な溜息。

時刻は約一時間ほど前だったろうか。
統夜は、当初の目的通り、C-7にまで来ていた。……順調とは程遠かったが。
街中に入った途端、別方向――北のほう――から、前述のマシンが現れたのだ。

自分から不意打ちを仕掛け、相手に致命傷を与えてから戦おう、とは決めていても、
咄嗟にそれが実行できるほど統夜の心も技量も追い付いていない。
突然全力疾走でこちらに向かってくるマシンを見て、統夜は姿を隠したのだ。
正面から戦うことを避けるのもあったし、純粋に統夜が見せた一般人的な反応でもあった。

とにかく、細かい理屈はいい。
統夜は、とにかく向こうが全力疾走していたのやらビル街で視界が悪いのやらこの一帯のミノフスキー粒子が濃かったやら、
もろもろの条件で統夜は接触を避けることができた。

それでも、一歩間違えれば正面から戦うはめになっただろう。
統夜も胸をなでおろしながらも、ここにきてからを思い返して背筋が冷たくなった。

そう言えば、自分が切り伏せたあの天使のようなマシンも、まともに考えれば交戦域だったのに気付かなかった。
青い重装なマシンに関しても、ある程度を通り越してかなりそばでやっと気付いたものだった。
そして、今自分も向こうの接近を目視できる辺りまで気付かなかった。

……どうも、ここはレーダーがあまり役に立たないらしい。
ある程度高性能なレーダー――戦艦や電子戦用――はともかく、普通の戦闘用のマシンのそういった機能は低下しているとしか思えない。

つまり、予想外からの一撃、その一瞬で終わる可能性だってある。……もちろん、命が。

「逆に考えるんだ、こっちだって奇襲しやすい。こっちに有利だと思うんだ」

これは人と出会って行こうと考えている人間ほど、不利に働く。
出会うチャンスを見失うことも多いのだから。
では、逆に一番この恩恵を受けるのはどんな人間だ?

――他でもない、自分のように極力見つからないように身を隠し、不意討ちを仕掛けようとするような人間だ。

とことん、この会場は人を殺す側に有利にできてるんだな、と乾いた笑みを浮かべるのが限界だった。


その成果、とでも言うべきか。
さっきの放送では、21人もの名前が呼ばれていた。
ゴールが縮まった実感はまるでない。それどころか、まるで今やっとスタートラインに立ったような気がする。

統夜は、コクピットの壁に小さく頭を打ち付けた。

「こんな時に、なに迷ってるんだよ……」

今更ながら……放送に、自分とテニアの名前が呼ばれなかったことにほっとした自分に嫌悪感を覚える。
自分は死んでないのだから、呼ばれるはずがないと頭では分かっていても、
挙された名前に自分と自分の知り合いが含まれていないことを感じて心底自分は安堵していたのだ。

あれほどさっき心に決めたはずなのに、放送一つでまた悩んでしまう自分の弱さが疎ましかった。

「どうせ、みんな死ぬんだ。いまさら悩んだって仕方ない」

そう自分を鼓舞する統夜。
ゆらりと、真っ赤な目を輝かせ幽鬼ごとくヴァイサーガが立ち上がる。
こっそりと、通信を合わせてタイミングを取ろうとして……やめた。
相手の会話を聞いたって、なんになるだろうか。
まして、相手は「一人」なのだ。仲間の機影も見えないのに、一機でぶつぶつ何かを言うことはないだろう。

とにかく、相手が一瞬でも隙が見せたら、そこに光刃閃を叩き込む。

それ以外、ない。

ビルの暗がりで、暗い決意を胸に少年が立ち上がる。
銀の背中を追いかけて。

197戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:14:07

―    ―    ―     ―


「遅い! ……ガロードはいったいこのエリアのどこで待っている!?」

今にも癇癪玉を破裂させそうなクインシィに、肩をすくめるジョナサン。
その動きがまた更に癇に障ったのか、クインシィは声を張り上げた。

「なにか文句があるか、ジョナサン=グレーン! 放送は聞いたろう、ガロード生きている。
 なら、必ずこの周辺にいるはずだ!」
「オーケイ、クインシィ。今回ばかりはあんたと同意だ。ガロードと合流することは、すべてに優先される」

やれやれと思う気持ちをぐっと押し隠して、ジョナサンは真・ゲッター2を走らせる。

確かに、放送を聞く限り、確かにガロードは死んでいない。
だが、これは死んでいないだけでここに来られない可能性も、十分にあるはずだが……
第一その合流する予定だった相手も信用できるのか。そいつに、後ろからドカン、と放送後にされたかもしれない。
ともかく生きている以上、ガロードはここに来ると信じているというわけか。

放送前には二人はC-8エリアに侵入していたわけだが、ガロードと合流相手はまだ来ていないのだろうと待っていた。
放送を聞いて20分。生きていることが分かり、さすがに遅いという話になったため、こうやって真・ゲッター2で探索しているのだ。
さすがに、人間に例えれば100mを4秒台で走りける真・ゲッター2。
それでも、1エリアが50km四方となれば、60m級の機械でも1,5km四方には相当するだろう。
こうやって駆け回って探し出して5分。地を走るゲッター2では効率が悪い。

「ジョナサン、私に変われ」

――空から探すのか? 逆に、襲撃者がいれば格好の的だろうな。

そんな言葉が喉までせりあがったが、さらに飲み込む。
今断れば、分離してでも探しに行きかけない気配がクインシィからは発散されている。
まったく、病気が過ぎる。だが、どちらも危険となればまだ自分が同伴しているほうが安全は高まる。

「……そちらも分かった。 チェェェエエンジッ!」
「真・ゲッター1!」

音声入力とは言え、毎回こうやって叫ぶのかと喉を首輪の上から小さく触る。
瞬間、3機の戦闘機に分離して、ゲットマシンが空に舞い上がる。

それでも、一応不審なモノはいないかと地上のビル群をカメラで睥睨したとき―――

ジョナサンの視界の端、闇に隠れて見にくいが、確かに濃紺の影がよぎる。
しかも、確実に、こっちに向かってきている――!

「クインシィ、敵だ! 的になる前に避けろ!」

とっさの判断。今ここで、重要なのは見えた影が敵か味方かにあらず。
自分が、無防備な姿をさらしていることこそなによりも気にすべきことだ。
だから、ひとまず敵と決め付けて、危機感をあおる。

「どちらからだ!? このままわたしに操縦をよこせ!」
「そのまえによけるんだよ! ぐううああっ!?」

真・イーグル号を強引に追い抜いたため、強烈なGが体を締め付ける。
それでも、真・ベアー号に誘導信号を送り、急に絵の前現れた真・ジャガー号のため、
ふらついたイーグル号にドッキングさせる。
間一髪、真・ゲッター2は光の刃が届くよりも早く変形を完了させる。

「何をする、ジョナサン。私に変われ!」
「その返事はNO以外ない!」

そのまま、敵も確認せず安定もとらず真・マッハスペシャルを使用。
本来は、完全に分かれて3つになるはずの分身は、時間不足により半端に重なり合った形で現れる。

だが、相手は減速の様子を見せず、全速で突っ込んでくる。
そのまま光の速度で駆けあがる一刀は、空高く打ち上げられ……
次の瞬間、3重の真・ゲッター2のうち、右端の一機の頭から股下まで切り飛ばした。
しかし、それはフェイク。本物は、中央の真・ゲッター2だ。
青騎士の撃ち出した一撃は、真・ゲッター2の右胸を大きく切り裂いただけで、撃墜には至らない。


6時30分。まだ暗く、空の果てがやっと白む世界で、光の矢が大地から空を貫くように飛んだ。
明けの明星のように輝くこの斬撃が、人を呼び寄せることになるとは……少年は気付かなかった。

198戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:15:57

刀を振り切ったまま切り抜け、急慣性で動きを変えることもできず、さらに空へ舞い上がる青騎士。
一方、それを尻目に大地へと落下していく真・ゲッター2。
この隙に、ジョナサンは地面に着地すると一目散に、青騎士から離れるように駆けだした。

「なぜだ!? なぜ逃げるジョナサン!」

クインシィの声。操縦に意識を割いていたため、無意識に声を大きくしながらジョナサンは答える。
必死に、集中のすきまでひたすら自分に冷静になることを意識させる。

「今は、ガロードと合流することが優先だ」
「目の前に現れたモノを投げ出してか!? あれは私たちを傷つける!」

「……俺は、ガロード・ランを信じていない」
「何をこんな時に言っている!?」

息を大きく吸って、一息に言い放つ。

「俺を信じ、従えと言うつもりはない。
『クインシィ・イッサーが信じているガロード・ラン』を信じろと言っている。
あんたの信じた男は、約束を破っていると決めつけて裏切れるほどの男か?」

「うっ―――」

言葉に詰まるクインシィに、さらにジョナサンは追い打ち同然の言葉をかける。

「もう一度言う。俺は、ガロード・ランを信じていない。だが、クィーンであるあんたの判断は信用する。
 だから、俺は『ガロード・ランを信じているクインシィ・イッサー』の、ガロード・ランを信用する」

――恨みもするが、今回は感謝もするぜ、ガロード・ラン。

真・ゲッター2がビルをドリルで掘り進みながら、ヴァイサーガから距離を取ろうとする。
しかし、ヴァイサーガもスラスターを全開にした高速移動で空を駆け、追走してくる。

「やるんだ……、今ならできる」

通信から漏れる相手パイロットの焦った声。
いいぞ、と内心笑みを噛み殺した後に、すぐに表情を引き締める。

相手は、こちらが合流しようとしていることを知らない。
いや、気づいていたのかもしれないが、相手を逃がすかもしれないという焦りでそれを忘れている。
ならば、このまま危険を覚悟で振り切るために建造物を破壊しながら走れば、ガロードたちは物音に気付く。
そうなれば、2対1……いやガロードと合流した相手もいれば、3対1の状況を作れる。
クインシィに危険が及ばないように真・ゲッターをひかせ気味に戦っても、盾になる駒がいれば問題ない。
一歩引いて、逆にこっちがガロードの合流相手を撃てる位置を維持できれば、さらに安全だ。

199戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:16:43

(問題は、本当にガロードが来るかどうかだが……)

あれほどクインシィに大きく啖呵は切ったものの、本当はガロードのことをジョナサンは信じていない。
むしろ、キラのように来ない割合のほうが高いとも思っている。

時間を、ちらりと見る。

時刻 6:33分

――30分だ。
同じエリア内にいるのであれば、どれだけビルのような障害物があっても、駆け付けられるはず。
30分たって合流できない場合、このエリアに来なかったと思っていいだろう。

ガロードとこのまま30分合流できない。
かつ、30分こいつを振り切ることができないのであれば……

「自分がバロンとしてやるしかないということか」

ジョナサンの思考も、奇しくもだがアムロやブンドル……そして同時にテニアとほぼ同じ思考をたどっていた。
この場は、殺し合いに乗った連中のほうが、圧倒的に強い。そうでなければ、ここまで急激に減ることはないはずだ。
つまり、多少強いマシンでも、1機というのは危険すぎる。

だから、戦闘でき、かついざ自分が後ろから漏らさず撃ち殺すこともできるような……
自分とクインシィを含み4,5名のグループを作る必要がある。

そのためには、結成の要因となるガロードの存在は必須だ。
彼女の病気が悪化する恐れもあるとしても、これは絶対。
クインシィが自分の制止を振り切り、単独で動き回る危険があるのは今さらな話だろう。
止めるのも難しい。

その行動に付きまとう危険は想像以上に高い。
はっきり言って、むき身の体でグランチャーやブレンパワードに戦うにも等しい。
それが、あの放送で知りえた情報だ。

クィーンたる女は、周囲の働き蜂のそばから離れてはいけない。仮に女王がそれを望んだとしても、だ。
だが、女王はだれの意にも従わず、自分の意思を通すだろう。
それが、女王なのだから。

(だからこそ、ガロードがいる。やつは勇と俺の身代わりになってもらう)

ジョナサンは、考える。
ガロードはクインシィの抑制剤になりえる。
依存し始めた今ではその効果は中々といったところだが、これからさらに行動を共にすれば効果はぐんと上がるだろう。
女王を、自然と安全な方向に誘導する。
依存が加速することと、生死の危険を抑えること。
さっきまでは、前者の天秤のほうに傾いていると思ったが、実情逆だった以上迷いはない。
意地でも、ガロードにはクインシィを抑え、守ってもらう必要がある。
それが、ガロードに与える勇の身代わりとしての役目。

200戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:17:33


ジョナサンは、考える。
ガロードといれば、クインシィの暴走はひとまず抑えられる。
戦う力もある以上、クィーンのためのルークにもなりえる存在。
ならば、自分が何をすべきか。ジョナサンの目的は、女王をオルファンに帰還させること。
そのためには、クインシィを最後の一人にする必要がある。

反抗者を集って脱出する? あの化け物と戦う? 

その発想は、あまりにも甘ちゃんの発想だったと今のジョナサンは理解している。
放送を聞けば、一目瞭然。自然と、化け物と戦えるだけの力を持つ人間も倒れていくだろう。

ジョナサンの出した結論。
次の第3回放送ののち、グループを離れて参加者を狩る。
そして、最後に自分たちのいたグループ――ガロード含む――を殺す。
これから12時間で、クインシィの依存は完成するはずだ。
そうなれば、自分が目を切ることに問題はなくなる。
ジョナサンがいない間、クインシィを守る……それが、ガロードに与えるジョナサン=グレーンの身代わりとしての役目。


「女王のルークをやらせてやれる程には信用しよう、ガロード・ラン……!」


ジョナサンが、真・ゲッター2で駆ける。
ただ、ひたすら夜の街で他者信じて。


【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:微妙に焦り、マーダー化
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、若干のEN消費、烈火刃一発消費
 現在位置:C-8端(C-7の市街地視認可)
 第一行動方針:真・ゲッターを落とす。
 最終行動方針:優勝と生還】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:疲労小
 機体状態: ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)※再生中
 現在位置:C-8
 第一行動方針:ガロードとの合流
 第二行動方針:勇の捜索と撃破
 第三行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています)
 第四行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】



【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:良好
 機体状態:ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)※再生中
 現在位置:C-8
 第一行動方針:ガロードとの合流
 第二行動方針:強集団を形成し、クインシィと自分の身の安全の確保
第三行動方針:第3回放送後は、参加者を狩る。
 最終行動方針:どのような手を使ってでもクインシィを守り、オルファンに帰還させる(死亡した場合は自身の生還を最優先)
 備考:バサラが生きていることに気付いていません。

201戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:18:06

―    ―    ―     ―

「……ガロード、少し先に行っていてくれないか」
「また、急に何を言い出すんだよ、アムロさん!?」
「急なバイオ・コンピュータの負荷で、少しオーバーロードを起こしたようだ。
 すぐに追いつくから、先に行っていてくれ」

光の線の直下へ向けて進軍していたアムロがF-91の不調を訴える。

「この急ぎにどうしたっていうんだよ、急がなきゃお姉さんたちが手遅れになっちまう!」
「だからこそだ。治るのを待てば、そうなるかもしれない。
ガロードが向こうに今すぐ合流する。俺は直ったらすぐに追いつく」

焦るガロードに対して、とにかく冷静なアムロ。
小さくいらだつ調子でガロードはほんの数秒考えると、早口にしゃべりだした。

「わかった! でも、無理と思ったら動かないでくれよ、迎えに来るからさ!」
「……ああ、必ずまた合流しよう」

それだけ言い残して、飛んでいくガロード。
本当に焦っているのだろう。アムロの返事も待たず行ってしまった。


「……生きろよ、ガロード。お前のような人間がいれば、きっと世界は変わっていける。だから、振り向くな」

アムロの、小さなつぶやき。
F-91のエンジンがうなりをあげて、一気に戦闘出力まで上がっていく。
ニュータイプを有したことによって、キラでも、ジョナサンでも、ガロードでもできなかったF-91の最大の戦闘力が引き出される。
フェイスマスクがオープンされ、金色の粒子を振りまく姿は、夜の暗闇の中蛍のように輝いていた。

……その姿に、なんの不調もない。

「……そろそろ出てきたらどうだ?」

何もない暗いビルの闇に、アムロが語りかける。
ただ、闇が広がるだけの空間に、答える声があるはずも――――

「ほぉー……最初から気付いてたみたいだな、あんた」

下卑た男の声が、ゴーストタウンのビル壁面に反響しながら聞こえてきた。
闇から浮かび上がるのは、漆黒の――またも見たことがないガンダムタイプのMS。

「……いくら、気配とプレッシャーを消しても、その塊みたいな悪意ならどこでも分かるさ」
「ハハッ、悪意の塊とは言ってくれるな。そういうオタクはエスパーか何か、か?」
「違うさ……ただの人間だ」

アムロの不敵な声に、ガウルンは上機嫌に笑い出す。

「こりゃいいな! 最初からヤル気満々ってわけだ。
 打ち上げ花火に誘われてみりゃ、祭りばやしに誘われて……ってわけだ。
 なんなら、2対1でもよかったんだぜ?」

202戦いの矢(修正版):2008/06/01(日) 12:18:40
「悪いがそういうわけにはいかなかったんだ」

小さく、アムロが頭を振る。
この行動は、すべてアムロが考えた上で行ったことだ。

アムロには、このエリアのほぼすべてが理解できていた。
だから、真・ゲッターが逃げていることも、気配の動きから読み取ることができた。
相手の奇襲を受けて、逃げているのであれば、一刻も早く援軍と到着させることが重要だ。

だが、それも不安材料がなければの話。
異常なほどの悪意を放って自分の跡をつけてくる死の猟犬の臭気。
それも、はっきりと混乱や戦争を望む、最悪のものだ。
これを、放っておくわけにはいかない。
自分たちが仲間と合流し、さらに仲間を追って戦いに乗った人間が襲ってくる、そんな混乱の真っただ中……
間違いなくこの存在は仕掛けてくる。
その確信。

合流相手には、助けるために面識のあるガロードを向かわせた。

ゆえに、アムロはここで仕掛ける。
決して、混乱の中、手を出させない。混乱の場に、向かわせない。
これ以上、他人を傷つけさせない。

害意をむき出しにし、他者を傷つける存在………その後顧の憂いは、ここで断つ!
そして、決してシャアのときの失敗は繰り返さない! 必ず合流する!

「ガンダムF-91、出る!」

闇に溶ける黒と、闇を弾く白が交錯する。


【アムロ・レイ 搭乗機体:ガンダムF−91( 機動戦士ガンダムF−91)
 パイロット状況:決意、F-91によるニュータイプ能力の意識拡大、気力170
 機体状態:微細な傷(戦闘に支障なし)
 現在位置:C-8
 第一行動方針:ガウルンを撃破する。
第二行動方針:ガロードの仲間と合流し、情報交換を行う
 第三行動方針:アイビスの捜索
 第四行動方針:協力者の探索
 第五行動方針:首輪解除のための施設、道具の発見
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している
    シャアの死亡を悟っています
    首輪(エイジ)を一個所持】

【ガロード・ラン 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)
 パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
 機体状況:各部にダメージ(戦闘に支障無し)
 現在位置:C-8
 第一行動方針:襲われているクインシィとジョナサン(?)と合流する
 第二行動方針:勇、及びその手がかりの捜索
 最終行動方針:ティファの元に生還】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:好調、DG細胞感染、気力130
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部・左肩・胸部装甲破損、マント消失、ダメージ蓄積
        DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:C-8
 第一行動方針:目の前のアムロを殺す
 第二行動方針:アキト、テニアを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

全員の時刻 【2日目 6:36】
 ※もしも、C-8エリアに24時30分時点でいた参加者には、彼ら以外にも光刃閃の光が見えていた可能性はあります。

203名無しさん:2008/06/01(日) 12:51:21
修正お疲れ様です。
全体の流れはそのままに良くなっていると思います。

以下二点時刻関係の修正漏れあるように思われます。
>>200
ただ、ひたすら夜の街で他者信じて。
>>202
※もしも、C-8エリアに24時30分時点でいた参加者には〜

204名無しさん:2008/06/01(日) 13:26:52
>>191
 時刻は、18時間が経過し、朝の6時だった戦いの開始も、〜
これも修正漏れかと。

205悪魔降臨・死の怪生物(インベーダー)たち ◆ZbL7QonnV.:2008/06/01(日) 14:54:28
おそらくは規格外の力で強引に空間を抉じ開けたからなのだろう。
その座標は“軸”が捻れ、極めて不安定な状況に陥っていた。
二〜三日で終わらせる予定だったデスゲームのため、急場拵えで仕立て上げた箱庭世界である。
さほど遠くない内に、崩壊の時を迎えるだろう事は予測されていた。
だが、これは……。

「ただ単純に空間が歪んだ、と言う訳ではなさそうですの」
バトルロワイアルの会場となっている、箱庭世界の外壁部分。
今は塞がれた“穴”の開いていた場所に立ち、アルフィミィは興味深そうに呟きを洩らしていた。
放送用の台本を読み終えてから間を置かず、彼女は好奇心に任せて行動を起こしていた。
バトルロワイアルが行われている会場内に直接乗り込む事は禁じられている。
レジセイアの命令が降りさえすれば事情は異なってくるのだろうが、今現在の指示は現状維持。
バトルロワイアルの進行以外に、レジセイアからの命令は下されていなかった。

アルフィミィとて、なんでもかんでも好き放題に出来る訳ではない。
ゲームマスターとしての裁量を大きく逸脱する行為までは、流石に認められていなかった。
偶発的な事態によって、バトルロワイアルの会場を飛び越えてしまったテンカワアキト。
彼に対する処遇でさえ、かなりギリギリの落とし所であったのだ。
参加者に対する直接的なコンタクト。新規機体の投入もしくは、破壊された機体の修復。
いずれもバトルロワイアルの公平性を保つ上で、好ましくない行為であった事は疑問を挟む余地も無い。
レジセイアの不興を買う事になっていたら、アルフィミィ自身が処罰を受けていた可能性も無いではなかった。
……もっとも、あの特殊な状況下では、その可能性が極めて低い事は理解していたが。

206悪魔降臨・死の怪生物(インベーダー)たち ◆ZbL7QonnV.:2008/06/01(日) 14:55:13
「ま、今は関係無い事ですの」
横道に逸れた考えを修正する。過ぎた事より、今は“コレ”だ。
そもそも自分の役割は、バトルロワイアルの進行である。
ゲームの進行に関与すると思われる事象に対しては、その詳細を正確に把握しておく必要があるのだ。
レジセイアは、空間に開いた穴の件に関して、自分に対して何の命令も下してはいない。
それはつまり、この事象に関わる事を“拒んでもいない”と言う事だ。
ならばゲームマスターとして、自分には異常事態を確認する義務がある。
なにも空間の管理自体に口を挟もうと言うのではない。
この異常が今後の進行に対して、どのような影響を与えるのか知っておかなければならないと言うだけの事だ。
あくまでも越権行為ではなく、ゲームマスターとしての職務を遂行しているだけ。
これならば、少々強引な理屈だと思わないでもなかったが、一応の言い訳程度にはなっているだろう。
実際の話、この“穴”まで近付いた自分に対して、レジセイアは何も言ってこようとはしていない。
大手を振って堂々と、隠す事無く行動しているアルフィミィに、だ。
それは暗黙の内に、彼女の行動が許容されている事を意味していた。

「ペロ。これは……ゲッター線!」
強引に抉じ開けられた空間には、ゲッター線の残滓が漂っていた。
どうも“それ”だけではないようだが、この異変にゲッター線の力が関与している事は間違い無いらしい。
そういえば、この空間が繋がり合っていたエリアは基地だったはず。
そして基地にはブラックゲッターが存在して、なおかつ流竜馬が接近していた。
ならば、何が起きても決して有り得ない事ではない。ゲッター線にとって、流竜馬は特別な意味を持つのだから。
だが、その流竜馬も既に死んでいる。バトルロワイアルの会場内からは、もはや彼の生命反応を感じられなくなっていた。
ならば、ひとまず事態は落ち着いたと見るべきだろう。
流竜馬、神隼人、巴武蔵。ゲッターチームが全滅した以上、ゲッター線の活性化は遠退いたはず。
あの異常事態が再び起こる可能性は、極めて低いと言えるだろう。
それならば、バトルロワイアルの進行役として、彼女が今最も気にしなければならないのは……。

「っ……! この……声は…………」
そこまで、彼女が考えを巡らせた時だった。
やおら強烈な意思の塊が、アルフィミィの意識に語り掛けてきたのは。
……レジセイア。
今まで沈黙を保っていた殺戮遊戯の真なる主催者が、ようやく動き出そうとしていた。

207悪魔降臨・死の怪生物(インベーダー)たち ◆ZbL7QonnV.:2008/06/01(日) 14:55:49



『ギュアァァァァァッ……!!』
奇怪な叫び声を上げながら、異形の生命体が蠢いていた。
インベーダー。ゲッター線を喰らう事の他は謎に包まれた、極めて原始的・攻撃的な宇宙生命体。
彼らは激しく飢えていた。そして、だからこそ微かに洩れ出たエサの臭いを、それこそ犬のように嗅ぎ当てられていた。
流竜馬を取り込んだメディウスによる、空間を穿ち貫いた“あの”一撃。
激しく活性化したゲッター線の発現は、この隠蔽された空間である箱庭の存在を一瞬曝け出す事にもなっていた。
もちろん、隠蔽は既に再び行われている。もはやインベーダーの知覚力では、箱庭の存在を探り当てる事は出来なくなっているはずだった。
たとえ放置していたとしても、バトルロワイアルの進行を妨げる可能性は現状殆ど無いだろう。

「だけど、ゼロではありませんの」
そう、決して皆無と言う訳ではない。
メディウスは進化の階段を登り続け、真ゲッターもまた存続している。
ゲッター線活性化の影響を受けて、マジンガーZがマジンカイザーに進化を遂げる可能性。
サイバスターがマサキ・アンドーを失った事により、新しく魔装機神の操者を選定し直す可能性。
ジェイアークが勇者たる者の力を手に入れる事で、キングジェイダーの変身機能を復活させる可能性。
ロジャー・スミスの駆る騎士GEAR凰牙が、データウェポンと再契約を交わす可能性。
波乱の種は幾つも残されており、そして激化する戦いの中で未来を見通す事など出来はしない。
ほんの僅かであるとは言えど、ゲーム崩壊の危険性を残しておく訳にはいかないのだ。

208悪魔降臨・死の怪生物(インベーダー)たち ◆ZbL7QonnV.:2008/06/01(日) 14:56:32
だからこそ、アルフィミィは命じられた。
ゲームマスターの任を一時凍結する事になっても、不確定要素の排除を行うように……と。
アルフィミィと、そして彼女に与えられた新たな機体は箱庭の外に向かわせられたのだった。
ペルゼイン・リヒカイト。
アルフィミィの半身である、赤鬼の異名を持つ機体……では、ない。
それはヒトのカタチを大きく外れた、インベーダーどもと同じ異形の機体。
だが、インベーダーとは違って、グロテスクで醜悪な印象は感じられなかった。

強く――
烈しく――
禍々しく――
悪魔的な重圧感を撒き散らした、それは狂気と破滅の落とし子――
その名を黒歴史に刻まれる、悪魔の異名を冠するガンダム――

「さあ……あなたの力、見せてもらいますの……デビルガンダム…………」
デビルガンダムの中枢部分、そのコアユニットに下半身を埋めながら、アルフィミィは冷淡に微笑んだ。

『WOOOOOOOOOOOOOOOOOO――――――――!!!』

力の限りに、悪魔は吼える。
女性。デビルガンダムの力を最大限に引き出し得る生体部品を得る事によって、DG細胞の働きは最大限に発揮されていた。
その鬼気迫る重圧感に、インベーダーの群れは気圧される。
なまじ動物的な知能しか持ち得ていないからだろう。デビルガンダムの脅威と悪意を、インベーダーどもは本能的な部分で感じ取っていた。
アルフィミィにとって、その事実は奇妙な感慨を湧き上がらせるものがあった。

209悪魔降臨・死の怪生物(インベーダー)たち ◆ZbL7QonnV.:2008/06/01(日) 14:57:18
「女性……あなたの求める、最高のコアユニット……。創られた生命の私でも、その資格が存在するとでも……?」
その解答を確める為にも、アルフィミィはデビルガンダムの力を振るう。
ガンダムヘッドが唸りを上げて、インベーダーの群れに――齧り付く!
『グギャァァァァァァァッ!!』
あらゆる有機物・無機物と融合を果たす筈のインベーダー。
だが、それはDG細胞の特性でもある。

「まるで、共食いですの」
インベーダーと、ガンダムヘッド。
それらが喰らい合う様を眺めながら、アルフィミィは冷たく嗤う。
両者の侵食は、互角に進められていた。どちらも互いに侵食を繰り返し、その主導権を奪い合っている。
このままでは、いつまで経っても決着は付かない。
……だからこそ、決着は既に付いている。

「撃ちますの……」
デビルガンダムの肩に装備された拡散粒子砲が、エネルギーを収束させる。
ガンダムヘッドなど、使い潰しの消耗品に過ぎなかった。
デスアーミーのように生体部品を必要とすらしない、いくらでも再生産の可能な道具。
あの醜悪な化け物諸共に消し飛ばした所で、デビルガンダムには全く何の痛痒も無かった。
だからこそ、躊躇う事無く巻き添えにする。

210悪魔降臨・死の怪生物(インベーダー)たち ◆ZbL7QonnV.:2008/06/01(日) 14:58:09
『……………………!』
気付いた時には、もう遅い。ガンダムヘッドの目的は、最初から足止めをする事でしかなかった。
叫び声を上げる暇さえ与えられずに、インベーダーの群れは消滅する。
ガンダムヘッド。デビルガンダムにとっては爪先ほどの一部でしかない、その端末部分を道連れとして……。

「……さて。お掃除、完了ですの」
戦闘とも呼べない一方的な虐殺の後、アルフィミィは満足そうな笑みを見せた。
箱庭世界の外部に洩れ出たゲッター線が、ごく僅かな量であったからだろう。インベーダーは量質共に、さほど大した脅威ではなかった。
アルフィミィにとっては、良い肩慣らしと言えたであろう。今回の戦闘によって、機体の特性は概ね理解出来た。
ペルゼインとは大きく使い方が異なっているが、自分との相性は決して悪くない。それが、アルフィミィの結論であった。
紛い物の女性でしかない存在を、それでもデビルガンダムは望み得る最良の生体部品として認識している。
いや、むしろ紛い物の女性であるからこそ、デビルガンダムはアルフィミィを受け入れたのかもしれない。
人類抹殺の意思を掲げたデビルガンダムにとって、あくまでも人類は排除の対象でしかないはずである。
そう考えてみると、人類以外の存在を受け入れる事は、むしろ望ましき事ですらあったのではないだろうか……。

「まあ、細かい理屈は知った事じゃありませんの」
ふと頭の中に浮かび上がった考えの数々を、アルフィミィは下らないとばかりに振り払う。
重要な事は、この機体が“使える”事だ。
バトルロワイアル参加者の中には造反を目論んでいる者も少なくはないようだが、これならば易々と反逆を許す事にはならないだろう。
もし首輪の解除に成功して、さらには空間の歪すら飛び越える事が出来たとしても――
このデビルガンダムが、最後の障壁となって立ち塞がるのだから。

それだけでは、ない。
バトルロワイアルの中には、マスターガンダムと言うDG細胞に汚染された機体が存在する。
さらにはテンカワアキトに与えた機体、アルトアイゼン。あの機体を修復する際に用いたのもまた、DG細胞の力であった。
付け加えるならば、やはりテンカワアキトに与えた錠剤の正体。あれもまた、希釈して感染力を弱めたDG細胞に他ならない。
二〜三錠飲んだ程度では彼に説明した通りの症状しか起きないであろう。
だが、あれを全て飲み終えるような事になればどうなるのか……。

211悪魔降臨・死の怪生物(インベーダー)たち ◆ZbL7QonnV.:2008/06/01(日) 14:59:09
「ふふ……もう、こんな時間ですの。そろそろ、帰った方が良さそうですの……」
ふと気が付けば、放送を終えてから一時間近くが経っていた。
そろそろ箱庭世界に戻って現状の把握に務めなければ、ゲームマスターとしての職務に滞りが生じる可能性もあるだろう。
だが、まあ……。
「いくら足掻こうと……あの箱庭から抜け出す事は、出来ませんの……」
その幼い面持ちとは不釣合いに艶然とした微笑を浮かべながら、蒼の少女は独り呟きを洩らしていた。



【アルフィミィ
 搭乗機体:デビルガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:???
 第一行動方針:箱庭世界に帰還する
 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂】

【二日目 6:50】

212名無しさん:2008/06/01(日) 16:32:07
>>203 >>204
すいません、こちらに差し替えを

>>200
×ただ、ひたすら夜の街で他者信じて。
○ただ、ひたすら朝の街で他者信じて。

>>202
※もしも、C-8エリアに24時30分時点でいた参加者には〜
※もしも、C-8エリアに6時30分時点でいた参加者には〜

>>191
×時刻は、18時間が経過し、朝の6時だった戦いの開始も、〜
○時刻は18時間が経過し、昼の12時だった戦いの開始も、〜

213命の残り火(続き) ◆7vhi1CrLM6:2008/06/17(火) 23:13:26
興醒めといった感じでシャギアは振り返る。そこには兜甲児とガロード=ラン、二人の姿。
補給は必須だろうが戦力を損耗することもなかった。まずまずの戦果と言っていい。
後はガロード=ラン。奴との交渉を穏便済ませればことはうまく進む。それが終わればこんどこそ首輪の解析に打ち込もう。
そう、シャギアは決めて、この空域に侵入してくる巨大な戦艦を見上げた。



【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:良好、テニアを警戒
 機体状態:EN55%、各部に損傷
 現在位置:C-8市街地
 第一行動方針:ガロードと話をする
 第二行動方針:人気がなく見晴らしのいい場所へ移動
 第三行動方針:首輪の解析を試みる
 第四行動方針:比瑪と甲児を利用し、使える人材を集める
 第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 最終行動方針:オルバと共に生き延びる(自分たち以外はどうなろうと知った事ではない)
 備考1:ガドル・ヴァイクランに合体可能(かなりノリノリ)、自分たちの交信能力は隠している。
 備考2:首輪を所持】

【兜甲児 搭乗機体:旧ザク(機動戦士ガンダム)
 パイロット状態:良好
 機体状態:良好
 現在位置:C-8市街地
 第一行動方針:ガロードと話をする
 第二行動方針:ヒメ・フロスト兄弟と同行
 第三行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める
 最終行動方針:アインストたちを倒す 】

【宇都宮比瑪 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:良好、ナデシコの通信士
 機体状態:EN60%、相転移エンジンによりEN回復中、ミサイル90%消耗
 現在位置:C-8市街地北東(ナデシコブリッジ)
 第一行動方針:甲児・フロスト兄弟に同行
 第二行動方針:依々子(クインシィ)を探す
 最終行動方針:主催者と話し合う
 備考:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガスを収容】

【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)
 パイロット状況:神経圧迫により発声不可、気絶中、顔に落書き(油性マジック)
 機体状況:MS形態
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 現在位置:C-8市街地(ナデシコ医務室)
 第一行動方針:新たなライブの開催地を探す
 最終行動方針:自分の歌でゲームをやめさせる
 備考:自分の声が出なくなったことにまだ気付いていません】

【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:疲労大、苛立ち、マーダー化
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数
      EN1/4、烈火刃残弾ゼロ
 現在位置:C-8地下通路(実は偶然落下しました)
 第一行動方針:この場からの離脱。
 最終行動方針:優勝と生還】

214命の残り火(続き) ◆7vhi1CrLM6:2008/06/17(火) 23:14:17
【ガロード・ラン 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)
 パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
 機体状況:右肩に刺し傷、各部にダメージ(戦闘に支障無し)
 現在位置:C-8
 第一行動方針:シャギアと話をする
 第二行動方針:アムロと合流する
 第三行動方針:勇、及びその手がかりの捜索
 最終行動方針:ティファの元に生還】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:気絶中
 機体状態: ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)、ジャガー号のコックピット破損※共に再生中
 現在位置:C-8
 第一行動方針:勇の捜索と撃破
 第二行動方針:ギンガナムの撃破(自分のグランチャーを落された為逆恨みしています)
 第三行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

【ジョナサン・グレーン 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:死亡
 機体状態:ダメージ蓄積 、胸に裂傷(中)、ジャガー号のコックピット破損※共に再生中】

【パイロットなし 搭乗機体:ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に帰還中
 現在位置:C-8市街地】

【残り23人】

【二日目7:15】

215 ◆7vhi1CrLM6:2008/06/17(火) 23:16:46
投下終了です。
支援してありがとうございます。
久々にさるさんに引っかかってしまいました。
どなたか代理投下お願いできないでしょうか。

216 ◆Qi1eK.TiFc:2008/06/23(月) 20:52:10
規制に巻き込まれたので今から投下します

217人の意思 ◆Qi1eK.TiFc:2008/06/23(月) 20:53:35
「があああああああぁぁぁぁぁッッ!!」

絶叫を上げるガウルン。
それもその筈、ガウルンはマスターガンダムと同じく、左腕が断裂した痛みを感じている。
失神しても可笑しくはない痛みがガウルンを襲った。
アムロはその事を知らない。いや、知っていても情けをかけるはずもない。
ヴェスバーの爆風に吹き飛ばされたマスターガンダムを尚も、F91は残像を残しながら追い縋る。
最早、ガウルンに投降を呼びかけるつもりもない。
既に三人も殺したガウルンを生かしてはおけない。
正確にコクピットを焼き尽くすためにビームサーベルを握り締める。

「終わりだ、ガウルンッ!」

ビームサーベルを振りかぶり、F91が加速する。


(終わりだと……? おいおい、そいつは可笑しいなぁ……)

左腕の痛みに耐え、一瞬の時間の中でガウルンは苦笑を漏らした。
確かに自分の方が不利だ。こっちには変てこな分身などない。
ダメージを受ければいちいち生身の肉体にも痛みが走る。
しかし、それだがどうした? 自分にはこの殺し合いに優勝するよりもやる事がある筈。
アムロやどこぞの他人を一人でも殺す事よりももっと魅力的な事を。
そうだ。ガウルンには譲れない目的がある。
たとえ、それが他人から褒められるような願いではなかったとしても。
それにそんな事は関係ない。
ガウルンはその目的にために命をかけられるから。
そのため、こんな痛みに意識を飛ばすわけにいかない。

(すっかり腑抜けちまったあいつにまた、会うまで死ねないんだぜ……俺はなぁッ!)

いつか良い眼をしながら、死体の処理を行っていた少年兵を。
日本のハイスクールに潜り込み、あの時の素晴らしい瞳の輝きを失った軍曹殿が気になる。
そう。心を焦がれるといった感じか。一目見てわかった。
ああ、こいつが俺の運命の人なんだろうなという事を。
今まで何度も自分のASを潰し、邪魔をしてくれたミスリルの傭兵。
相良宗助ことカシムともう一度会うまでには――死ねるわけがない。
そう強く思った。
そんな時だ。


「ハッハハハハハハハハハハハハッッッ!!」


胸の奥底から込み上げてくる高揚感がガウルンを包む。
気がつけば笑い、そして輝きに包まれた。
そう。マスターガンダムがガウルンの気の昂ぶりを象徴するように黄金に輝く。
その黄金の色はF91のそれよりもはっきりと目につく。
マスターガンダムが起こした発光現象。
パイロットの感情の高揚により発動する“ハイパーモード”の光が周囲に差し込む。
本来は明鏡止水の境地に辿り着いた者にしか行えない金色の輝き。
だが、アインストによって改修を受けたのだろうか。
今は眩しいくらいにハイパーモードの輝きが吹き荒れる。

218人の意思 ◆Qi1eK.TiFc:2008/06/23(月) 20:54:59
「いいねぇ!サイコーの気分だッ!!」
「そんなもの! F91でなんとかしてみせる!!」


地に叩きつけられる瞬間、一瞬の内に反転。
地を蹴り飛ばし、マスターガンダムは跳躍。
一気に上空のF91へ向かう。
対してF91も減速はしない。
マスターガンダムのハイパーモードをもさえも気にせずに突撃を敢行する。
恐らく残像はもう、ガウルンには通用しない。
そのため、小細工はせずにF91はバイオコンューターの光を撒き散らしながら、流星のように進んでゆく。
そんな時、マスターガンダムの右の掌が紫色の輝きを放ち始め、やがてそれ一色に染まる。


「ダアアアアクネスゥゥゥゥゥゥゥゥ――」


ガウルンの喉の奥底から搾り出すように上げられた声。
紫に染まった掌を広げ、五本のマニュピレーターの指が禍々しいエネルギーを滾らせながら開く。
マスターガンダムに乗った時、脳に流れ込んだ必殺技。
本来はガウルンなぞに使う事は許されなかった天下一品の技。
世界最強の格闘技、“流派東方不敗”を駆使するマスターアジアの必殺の拳。
至高の技をガウルンが操縦するマスターガンダムが模倣する。


「フィンガアアアアアアアアアアァァァァァァッッ!!」


そう。“ダークネスフィンガー”をマスターガンダムは前方へ突き出した。
ダークネスフィンガーの強大な出力により、周囲の空気が揺れる。
波を打ったように揺れる。あまりにも速く、その腕が突き出されたためだ。
おびただしい紫の光が一瞬の内にF91を包み込む。
バイオコンピューターによりリミットが解除されたF91ですらも反応しきれない程に速い。
ビームサーベルを振りかぶったF91は僅かに身を逸らす。
しかし、それでは足りない。距離が近すぎる。
F91の頭部はダークネスフィンガーに捉えられ、鷲掴みにされた。
その間際にF91はビームサーベルを突きつけたが、僅かにマスターガンダムの胸部を抉るだけに終わった。
強大なエネルギーがF91の頭部を包み始める。


「F91! お前も託されたんだろう!?
ガンダムの名前を、人々の願いを……そしてニュータイプの願いをもッ!!」


しかし、アムロは諦めようとはしない。
ありったけの声を想いを飛ばし、F91を動かし、バイオコンピューターが更に反応する。
F91のバイオコンピューターは様々な感情を含み取り、それをパイロットに伝えるもの。
ニュータイプ専用機として、アムロ・レイのような伝説を残す事を潜在的に期待されたF91がそのアムロを乗せて、抵抗を行う。
数奇な運命の絡み合いが一つの意思を形成し、F91の外部装甲の剥離が進み、幾重の姿が重なる。
そして、この距離でヴェスバーやビームライフルを使えば此方も誘爆するおそれがあった。
何せこちらの方がサイズは小さく、その点では圧倒的に不利。
そのため頭部バルカンとメガマシンキャノンをフルオートで掃射。
マスターガンダムの頭部や腕が揺れ、ガウルンに痛みを植えつける。
だが、マスターガンダムは決してF91を手放さない。
ギシギシと軋み、F91の頭部が縮んでゆく。

219人の意思 ◆Qi1eK.TiFc:2008/06/23(月) 20:55:44
「そうだ。やらなくていはいけない……指し示さなければならない……!
シャアやララァが……そして俺が望んだ――」


只、ありったけの声で吼える。
そして、アムロは無事な右腕を突き出す。
最早、自爆覚悟でヴェスバーやビームライフルを撃ち込む時間はない。
そんな時、アムロはF91の右腕を突き出す。
まるで『ファースト・ガンダム』の伝説のように一人のニュータイプの少年である、シーブック・アノーを乗せ、戦場を駆け巡ったF91。
そんなF91がアムロの意思を受け、自機とマスターガンダムの間へ割り込むかのように突き出した。
そして、アムロはF91のバーニアに送っていた出力をカット。
ジェネレーターを振り絞り、行き場をなくしたエネルギーを最大で――


「ニュータイプの未来を……人の未来を切り開く!
そのためにも俺に力を貸せ、ガンダムF91ッ!!」


ビームシールドのエネルギーへ変換し、強振させた。
F91の全出力が注ぎ込まれたビームシールドは爆発的な光を齎す。
それはマスターガンダムのハイパーモードよりも、ダークネスフィンガーよりも輝きに満ちたもの。
そう。温かな光――アクシズで見た人の心の光とどことなく似たような光に感じた。
アムロの全神経が更に鋭敏化され、
そして強振されたビームシールドの輝きはF91の装甲を焼き、マスターガンダムに強烈な閃光を発した。
強力な閃光が走り、ガウルンの眼眩ましになり、思わず体勢が崩れた。
しかし、ガウルンはしぶとく手を離そうとはしない。
そのため、アムロは最大で展開したビームシールドを振り上げ、伸びきったマスターガンダムの腕の手首へ振りかぶる。
ビームシールドが手首へ直撃する瞬間――


「うおおおおおおおおぉぉぉぉッッ!!」
「ぬおおおおおおおおぉぉぉぉッッ!!」


響きあう金属が擦れ合う音、そして両者の声に少し遅れて湧き上がる轟音。
F91の頭部が爆発を起こし、マスターガンダムの腕は手首の辺りから大きな爆発を起こした。
両機、グラっと後方へ体勢をよろけ、二つの爆風により吹き飛ぶ。
頭部が握り潰され、限界以上に出力を上げ、オーバーヒートを起こしたビームシールドの爆風により右腕を失ったF91。
そして無事であった片腕さえも、手首から先を失ったマスターガンダムは共に後方へ投げ出された。

◇  ◆  ◇

220人の意思 ◆Qi1eK.TiFc:2008/06/23(月) 20:57:25
(ッ……流石に無茶だったか…………)

消え行く意識の中、アムロが声にならない声を漏らす。
メインカメラは死に、右腕も失われ、バイオコンピューターもイカレたようだ。
メインノズルにも損傷が酷く、もう飛行する事は不可能に近い。
出来る事といったらほんの小距離の歩行くらいだろうか。
じきに機体の限界を向かえ、爆発を起こすかもしれない。
その事をアムロはF91のコクピット内でやけにぼんやりとした思考で考えていた。
そう。激突時の衝撃により、頭から朱の血を流したアムロは。

(だが、まだだ、まだ俺の仕事は終わっちゃいない…………)

ガウルンが死んだかどうかはわからない。
死んでいるのならば言う事はないが、生きていたらもう勝つ事は不可能だろう。
何せF91はボロボロで、自分自身も碌に操縦出来はしないのだから。
しかし、それでもアムロの身体を突き動かすものがあった。
その意思が既に限界を迎えているアムロを支配するかのように、F91を歩かせる。
もう、バイオコンピューターも作動していないというのに。
ビームライフルを携えながら見通しの良いところへF91は進んだ。
そんな時、大声が周囲に響き渡った。

「残念だったなぁぁぁぁぁ! 俺は未だ、死んじゃあいないぜッ!!」

下品な大声、聞き慣れてしまった不快な声。
そう。左肘から先を失い、右手首を失い、胸部装甲はズタボロな有様で、全身に損傷がある。
どう考えてもボロボロな状態であるにも関わらず、マスターガンダムが此方に向けて疾走してきた。
勿論、搭乗者のガウルンも健在のまま。
流石に動きは本調子とはいえないが、確実にマスターガンダムはF91に接近している。
しかし、F91は振り返らない。
只、徐にビームライフルを構えた。
但し、何故か銃口を上に向けながらだが。

(すまんな、ブンドル。奴を仕留め切れなかった……悪いが、後は頼む。
アインスト達との戦い、必ず勝って生き残ってくれ…………。
アイビス、君もな。強く生きろよ…………)

この殺し合いで出来た仲間。
ブンドルやアイビスに短い別れを告げる。
最早、アムロにこの戦いで生き残るつもりはない。
そう。自分の死に場所はもう悟っている。
だから、アムロは思い残す事のないように――最期の仕上げを行う事を決めた。
徐にアムロはF91の機器を動かし、オープンチャンネルを開き、外部スピーカーの音量を全開にする。
聞こえないかもしれない。だが、それでもいい。
どうしても言葉を届けたい人物がアムロには居たから。やらないよりはましだ。
声を、最早尽きかけた命をアムロは絞り出す。

221人の意思 ◆Qi1eK.TiFc:2008/06/23(月) 20:58:19
「……聞こえるか? ガロード! こちらは……アムロ・レイだッ!!」


大音量でアムロの声が周囲に響いた。
そう。それはほんの少ししか行動を共にしなかった少年、ガロード・ランに対してのものだった。


「確かにニュータイプは幻想かもしれない。
いつの時代や世界でも戦争の元となる……必要とされていない存在かもしれない……!」


突如自分に背を向け、何処かへ話しを始めたアムロにガウルンは面食らう。
だが、直ぐにガウルンは気を取り直す。
マスターガンダムが大地を疾走する。

「だが、ニュータイプも人の一種なんだ。
そこに違いはない。ガロード、君のように……ニュータイプの一人一人が未来という希望を信じている!
そしていつかは実現しなければならない……オールドタイプとニュータイプが隔たりもなく希望を持てる時代を!」


ニュータイプとして生まれ、散々人を殺してきた自分にこんな事を言う資格はないかもしれない。
所詮、此方の都合の良い言い分で、自分殺された人間は納得しないかもしれない。
だが、どうせ自分に助かる術はない。ならば、最期の最期くらいは少し一人よがりな事を言っても許されるかもしれない。
一段とぼんやりとしてきた意識の中でアムロはそんな風に思った。
ふと気がつけば血が片方の眼の視界を遮っている。
ガウルンも更に近づいている。此方に辿り着くのは最早時間の問題だろう。
しかし、未だやめるわけにはいかない。


「ぶしつけな願いですまない。
だが、俺は君のような新しい世代の人間になんとしてでもやってもらいたい…………。
所詮、古い時代の人間が言う戯言かもしれないが…………!」


ガクンとF91の右膝が崩れる。
最早碌な姿勢制御にすら注意が行かなくなった。
直ぐに体勢を整え、言葉を続けた。
そんな時マスターガンダムは跳躍した。
恐らく、上空から此方を踏み潰す気なのだろう。
だが、メインカメラが死んでいるため、その事がわからない筈であるアムロはその事を完全に察知した。
それはガウルンの未だ健在な悪意に反応したせいなのだろう。
しかし、アムロに焦る気持ちはない。
もうすぐ伝えたいコトは終わるのだから。
ガロードのような未来ある若者達に向けて――この意思を繋げたい。
人の心の光の素晴らしさを知ってほしい――絶対に。
だから、アムロは未だ生き永らえる事が出来た。

222人の意思 ◆Qi1eK.TiFc:2008/06/23(月) 20:59:19
「俺達の意思を礎に新しい世界を、時代を創ってくれ!
アインストのような奴らにも屈さない……人間の可能性を信じられる時代を、人の心の光が満ちた世界を……頼む。
ガロード・ランッ!!」

脚を向け、急降下してくるマスターガンダム。
その時、アムロは咄嗟にF91を動かす。
依然、明確な位置はわからないがアムロにはガウルンの気配を感じ取った。
そしてビームライフルを握り締めていた腕を空に突き出す。
マスターガンダムに向かって真っ直ぐと。
トリガーに手を掛け、ビームライフルの照準を合わせる。
そんな時、アムロは自分の両腕にそれぞれ誰かの手が重なった感じを覚えた。



(そうか……シャア、ララァ……お前達も付き合ってくれるか……。
すまないな、ガロード達が創ってくれるかもしれない…………いや、きっと創ってくれる時代の…………礎になるための、最後の仕上げに…………。
お前達の想い……悪いが俺にくれ…………………!)



褐色の肌の少女、ララァと揺ぎ無い意思を秘めた眼光を持つ男、シャアが頷く。
それはアムロが見た幻だったのかもしれない。
それは最期の最期でアムロのニュータイプ能力に反応したバイオコンピューターが見せた奇跡だったのかもしれない。
本当の事実なんてわかるわけはない。
だが、アムロは温かい心地を覚えた。
半壊したF91が黄金の粒子を放ち、太陽の光と混じる。
それはとても神々しい姿――アムロが信じた人間の力が具現化したようなもの。
そしてアムロは――

223人の意思 ◆Qi1eK.TiFc:2008/06/23(月) 21:03:47
「……最期まで生き延びろ!
アインストに抵抗する、全ての皆…………決して君達の可能性を信じるコトを止めずにッ!!」


最期の意思を、願いをビームライフルと共に解き放った。
残っていたF91のエネルギー全てを出力に注ぎ込んだ緑の一閃が空へ昇る。
そしてF91の上空から迫っていたマスターガンダムの下へ迫った。
頭部を潰され、片腕がない状態ながら、無事な腕を掲げ、上方から迫る敵にビームライフルを射ったF91。
それは偶然だったのだろう。当人のアムロもきっと気づいていない。
そう。今のF91の姿は――いや、ガンダムF91の姿は似ていた。
一年戦争末期、ア・バオア・クー内でジオングの頭部に向けてビームライフルを射った、ファーストガンダムことRX-78-2ガンダムの――


『ラストシューティング』を行った姿に酷似していた。


(シャア…………ララァ…………やったぞ……………お前達のお陰で…………。
後は、俺達は大人しく降りるとしよう…………ガロードや彼らが俺達の願いを継いでくれるコトを信じて………………)


ビームライフルの光が空へ昇っていく事を確認し、アムロは満足げに眼を瞑った。
とっくに限界を通り越していた疲労と負傷がたたったのだろう。
急激な眠気に襲われ、アムロの意識は静かに沈んでゆく。
そして――


「あばよ」


機械が踏み潰される大きな音が響き、アムロは完全に意識を失った。
もう二度と覚醒する事はない、漆黒の暗闇の中へ――
沈みきった。

◇  ◆  ◇

224人の意思 ◆Qi1eK.TiFc:2008/06/23(月) 21:04:58
「へっ……なかなか、楽しませてもらったぜ」

マスターガンダムの中でガウルンが口を開く。
ガウルンの視線の先には白と青で彩られた機械の残骸――F91の成れの果てがあった。
良く眼を凝らせば赤い液体のようなものも飛び散っている。
F91のラストシューティングは寸前のところでマスターガンダムには当たらず、そのままF91は為すすべもなく、踏み潰された。
機体の大きさも二倍ほど違うため、容易な事だった。
そして、ガウルンは既にアムロから興味を失くしている。
但し、別の相手に対しては大きな興味を持ち始めたのだが。

「あの黄色の奴に乗ってたのがガロードって奴だろうな……遊び相手が増えちまったなぁ」

そう。それはガロード・ラン。
アムロの仲間であり、彼の口振りからガウルンはガロードに興味を持った。
流石にアムロ程の力量は見込めないかもしれないが、それでもそれなりには出来るだろう。
寧ろ、そうではなくて困るというものだ。

「さて、ちょっくら移動するか。
流石にこの状態じゃあ殺してくれといっているようなもんだしな……」

やがて、ガウルンは今後の方針を決める。
アムロとの戦いでマスターガンダムはかなり損傷を負った。
これではいつ足を掬われても可笑しくない。
ならば、自分の状況が整うまで何処かで身を潜めるのも悪くはない。
北上して、森林地帯へ逃げ込むのも一手だろう。
そんな事を考えながらガウルンは兎に角マスターガンダムを走らせた。
何せ、先程アムロが音量を最大にし、大声で叫んだため、誰かが様子を見にやってくる可能性もある。
この状態で他者との接触は避けたいため、ガウルンの足は自然と速いものとなっていく。
そんな時、ガウルンはある事に気づいた。

(ん……もう左腰の傷が直ってるな……まぁ、いいか)

F91のビームサーベルで斬られた傷がもう殆ど直っていた事に驚くガウルン。
理由は勿論、マスターガンダムに感染したDG細胞によるもの。
そう。F91との戦闘で多大なダメージを受けたため、DG細胞が更に活性化していた。
その事をガウルンには知る由もなかったが。
そして、マスターガンダムは去っていった。
残骸となったF91を。
新しき時代の礎となったアムロ・レイの亡骸を残して――

只、静寂がその場を支配していた。

225人の意思 ◆Qi1eK.TiFc:2008/06/23(月) 21:05:32
【アムロ・レイ 搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91)
 パイロット状況:死亡
 機体状態:全壊
 現在位置:C-8
 
【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:好調、DG細胞感染、疲労(大)
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部・左肩・胸部装甲破損、右手首切断、左肘から指にかけて欠失、マント消失、ダメージ蓄積
DG細胞感染、損傷自動修復中、ビームナイフとヒートアックスを装備
 現在位置:C-8
 第一行動方針:取り敢えずこの場を離れ、一旦体勢を整える。
 第二行動方針:アキト、テニア、ガロードを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:九龍の頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】
:DG細胞による自己修復機能の回復速度、効果が向上しました。
時間が経てば欠失した部分も再生する可能性があります(具体的な時間は不明)
:何処へ向かうかは未定です

【二日目 7:20】
 ※アムロの声、ビームライフルの光が何処まで聞こえたか、見えたかは不明です

226 ◆Qi1eK.TiFc:2008/06/23(月) 21:07:10
一時投下終了しました。
代理投下ありがとうございます。
途中で間違えて本スレに書き込み、混乱させてしまった事を深くお詫びします……。
どうもすみませんでした……。

227 ◆VvWRRU0SzU:2008/12/22(月) 07:44:16
さるさん喰らったのでこちらで続き投下します
2分間隔でいけるんじゃなかったのか・・・

228名無しさん:2008/12/22(月) 07:45:18
そう、これはチャンスだ。あの腕が立ち、油断しない男も戦闘中なら、それも味方からなら。……討つのは容易い。
普通ならキョウスケの仲間というこの男に言っても承諾などするはずがない、だが―――

「……いいだろう。特機を確保後であれば、キョウスケ・ナンブの殺害を許可する」

やはり、乗ってきた。この男には仲間意識などなく、あるのは徹底した合理性だ。

「随分、軽く決めるのだな。仲間なのだろう?」
「すでに聞くべきことは聞いた。腕は惜しいが飼い慣らせない狼など傍に置いておくメリットはない」

声には一切の感傷がない。本当に、必要ないから切り捨てる、それだけだというように。

「君がどうしてキョウスケ・ナンブを殺すのか興味はあるが……まあ後でおいおい聞くとしよう。この地点に来たまえ。君の機体が置いてある」

座標が転送され、通信が途切れた。
現在位置からでは2分ほどの距離―――薬を飲めば、だが。歩くのもやっとというこの体で油断ならないユーゼスなる男の前に出向くのは危険……
躊躇なく、薬を噛み砕いた。身体を覆う倦怠感が掻き消える。
蒼いアルトが弾かれたように発進する。上空からでも確認できるだろうが……今のキョウスケにそんな余裕はないだろう。
もちろん、急ぐに越したことはない。目標地点が見えたところで身体を固定するハーネスを解き、いつでも降りられるようにする。
辿り着いた場所には、大型の特機があった。マントを纏う漆黒の体躯、鋭い刃を生やした腕、ピエロの仮面をつけた頭部。
たしかにアルトよりよほど強力なのは見て取れる。それにこの色、禍々しさ―――復讐者たる自分にはお似合いだ。
周辺にユーゼスはおらず、訝しりながらもアルトを降りた。
「ブラックゲッター」。操縦席に座ったとたん流れ込んできた情報はこの機体の名称を告げていた。
ゲッター線なるエネルギーで駆動し、インベーダーを駆逐するゲッターロボ、その一機。
だが首輪は同時に炉心の異常をも告げていた。動くことはできるが、炉心から直接エネルギーを供給するゲッタービームの使用は不可、と。
機体をチェックしていると、不意に通信が入った。

229 ◆VvWRRU0SzU:2008/12/22(月) 07:46:38
「どうかね、ブラックゲッターの乗り心地は? 接近戦用の特機だ、アルトに乗っていた君なら使いこなせるだろう」
「ふざけるな。この機体、炉心に異常がある。まともに動くのかすら怪しいものだ」
「何、使えないのはゲッタービームだけだ。格闘戦なら問題なくこなせる。その辺に武器も転がっているはずだ」

辺りを見渡せば、そこには一振りの巨大な戦斧。アルトでは振り回せない大きさだが、この機体なら。

「一応、応急処置は済ませてある。突然機体が爆散するなどということはないから安心したまえ」
「……信用できるものか」
「それはそちらの自由だ。……さて、言っておくべきことがいくつかある。
 まずあの特機は破壊せず無力化すること。まあ自己修復機能もある、破壊するつもりで攻撃して構わんがな。コックピットを直接つぶしてくれれば助かる。
 次にあの戦闘機……確認できるか?」

ユーゼスの言葉で上空を見やる。たしかにそこには一機、青い戦闘機が飛んでいた。
自分に最初に支給されたYF-21によく似た機体だ。同型、あるいは後継機だろうか。

「確認した。あれは敵か?」
「いや、こちら側の人間だ。カミーユ・ビダンという少年が乗っている」
「……そうか、で?」
「それだけだ。何をしろと言うつもりはないよ」

……殺しても構わない。言いたいことはそういうことだろう。

「……了解した。もういいか」
「いや、もう一つ。君は基地に保護したことにする。キョウスケ・ナンブは勘が鋭い、気付かれては面倒だ。
 ブラックゲッターには私が乗っていることにしておけ。通信は私に転送されるように細工しておいた。君は敵機の制圧に専念してくれ」

その意見には賛成だ。了解、と返し通信を切る。
薬を飲んでおよそ5分。残り25分で敵機の制圧、キョウスケ・ナンブ、カミーユ・ビダン……そしてユーゼス・ゴッツォの殺害。
厳しいが、やれなくはない。この乱戦だ、何が起きても不思議はない―――殺意を仮面の下に押し込み、アキトは、黒いゲッターは飛び立った。

230名無しさん:2008/12/22(月) 07:47:29
          □


「キョウスケ・ナンブ。援護する」

その声は唐突に響いた。
特機とカミーユ、その双方に注意を配り神経をすり減らしていたキョウスケは新たな反応に気づかなかった自分に毒づいた。
基地から上昇してきた機体、あれは最初に交戦した黒い特機。目前の敵手が最初に乗っていた機体。
ユーゼスは大破したと言っていたが……やはり、ブラフだったようだ。
問い詰めることが増えたなと思いつつ、その考えを頭から追い出す。今考えることではない。
ともあれ、これで三機。あの黒い特機―――ブラックゲッターと言うらしい―――の攻撃力なら、敵機に致命打を与えることも可能だろう……通常なら。
ファルケンが示すブラックゲッターのデータは依然交戦した時とは比べ物にならないほど低い数値を示している。

「ユーゼス、話は後で聞く。その機体、戦えるのか」
「格闘戦はこなせるが、残念ながら最大の打撃力であるビームは使用できん」
「チッ、当てにならんやつだ……!」
「そう言ってくれるな。今、もう一機の起動準備を並行して進めている。ローズセラヴィーだ、知っているだろう。あれの砲撃なら十二分だ」
「……ベガは死んだと聞いた。誰が動かすんだ」
「それも私だ。複雑な戦闘は不可能だが、狙った地点を砲撃するだけなら遠隔操作とあらかじめ組んでおいたプログラムで行える。
 チャージまでの時間を稼げ。あとは私の支持するタイミングで一斉攻撃を仕掛ける」
「いいだろう……乗ってやる。どれくらいかかるんだ」
「月の子の射出は終了した。チャージまで2分というところだ」

231名無しさん:2008/12/22(月) 07:48:50
基地の上空、交戦空域より更に上。二機の小型デバイスが上昇していくのが見える。
ある程度まで上昇したデバイスは停止し、展開した。

「この世界では雷雲などそうそう望むべくもない……そのあたりを主催者も考慮していたようだ。
 月の子の周辺の空間が歪曲している。どこからかエネルギーが転送されてきているようだな」
「理屈はどうでもいい。2分だな?」
「ああ。だが時間を稼ぐだけでは足らん。確実に命中させるために足を止めろ」
「無茶を言う……しくじるなよ、ユーゼス」
「お互いにな」


2分。暴走するカミーユはともかく、自分とブラックゲッターでなんとか敵機の推進装置を破壊するしかないだろう。

「カミーユ、聞け。黒い特機にはユーゼスガ乗っている。今は撃つな。
 そして2分以内に敵機の移動力を奪う。成功しようがしまいが、合図したら敵機から距離を取れ。巻き添えを食らうぞ」

返事はないとわかってはいたが、言っておかなければ本当に巻き込みかねない。
ブラックゲッターが突進していく。機体特性からしてファルケンは援護に徹するべきだ。
射撃は苦手と言っている場合ではない……ファルケンもライフルを放ちつつ飛び込んでいった。

232名無しさん:2008/12/22(月) 07:49:52
          □


「また増えた!? しかもあれは……ブラックゲッター! まだ動いたのかよ!」

メディウス・ロクスの中、バーニィは必死に機体を制御していた。
もともとこの機体は複座だ。一人が操縦を、一人が機体のエネルギー管理を担当し、十全の力を発揮する。
ゼクス・マーキスのような優れた技量のパイロットやユーゼス・ゴッツォのように操縦・管制を同時にこなせる者なら一人でも支障はないが、新兵上がりであるバーニィには荷が重すぎた。
AI1とかいう人工知能もサポートしてくれてはいるが、その方面に知識のないバーニィでは有効にAI1を活用することもできない。
機体性能でなんとか紅い機体を寄せ付けずにいたら、新たに参戦してきた戦闘機は手に負えないくらい速く、そして先読みされているかと思うほどに攻撃が当たらない。
幸い火力は低いものの、時折り肉薄してはバリアを纏う拳を撃ち込んでくる。あれがまともにコックピットへ当たればさすがに死ぬだろう。
死を遠ざけようとしつつも止めてほしいと願う……矛盾だとわかってはいても止められない。
自分はどうしたいのか。この場をどのような形で切り抜けたいのか、それすらもわからない。
ただ目前に迫る死を回避しようと、それだけを想い操縦桿を握る。

やがて、火器が尽きたか戦闘機は接近戦を果敢に挑んでくるようになった。
こちらの距離だ、攻撃を―――おかしい、紅い機体の援護がない。先程までの、効果が少ないとはいえ牽制の意味はあった砲撃が止んでいる。
咄嗟にレーダーを見れば、いた。少し距離を取って、二機―――二機?
そして、ブラックゲッターまで戦線に加わった。余裕の体で作戦会議でもしていたのだろうか。
戦闘機が、そしてブラックゲッターが凄まじいスピードで向かってくる。その後ろを固めるのは紅い機体。
四機が交錯する。
紅い機体は後ろからライフルを連射するも、命中率は低い。射撃は不得手という勘は当たっていたようだ。
意識をブラックゲッターと戦闘機に集中する。より危険なのはこの二機だ。
ブラックゲッターが斧を振り回す。スパイラル・ファングで受け止めるも、その隙に戦闘機が殴りかかってきた。
コックピットを守るために肩で受ける。光を纏った拳は小型機とは思えないパワーで肩の装甲を吹き飛ばした。
後退しなければ……後ろに紅い機体。回り込まれた。至近距離でハンマー。
背面に直撃。弾け飛ぶメディウス・ロクス。
もうダメだ―――と諦めが頭をもたげる。降伏しよう、と誰かが囁き、受け入れられるはずがない、とまた別の誰かが否定する。
前にも後ろにも進めない……でも。
基地の惨状を目に焼き付ける。あそこには人がいたはずだ。そして、何人かは死んだはずだ―――
ここで引くことはできない。何のために引き金を引いたのか。自分がここで折れれば、そのために死んだ人は何なのか。
そうだ、もう後戻りはできない。全力で戦うことしか、できることはない。
態勢を整える。ブーストに損傷、機動力が67%に低下―――まだやれる!

233名無しさん:2008/12/22(月) 07:51:10
「イグニション……!」

エネルギー全開。
この機体の膨大な出力を全て攻撃に回す。敵機はどれも一騎当千のパイロット揃いだ、一機ずつでは埒が開かない。
すべて同時に撃墜すべく、AI1が指し示す最善の攻撃プランを実行する。

「ヘブン・アクセレレイション! 行けぇぇぇええええええええええッ!」

虚空に穴が穿たれ、そこから全てを溶かす無明の闇が溢れ出す。メディウス・ロクスを除き、あらゆるものがその中心点に向けて引き寄せられていく。

紅い機体、青い戦闘機、ブラックゲッター……接近していたその全てが射程に入った。
本来は後部座席で制御するべき兵装なのか、収束率が低い。それでも三機の動きは止まった。
引力から離脱するべく三機は全力でブースターを吹かしている。だが一向に機体は動かない。
元より一手で倒しきれるとはバーニィも思っていない。必要だったのは三機を一度に狙える状況だ。

「ライアット・ブーメラン……行けよぉッ!」

都合6つのブーメランを解き放つ。一機につき二本、それぞれ違う軌道で射出。
どの機体も動かない―――勝ったッ!



―――そう思った瞬間、機体に衝撃が走った。


見る間にコックピットをレッドランプが埋め尽くす。何が起こったんだ……と、AI1に確認する。

234名無しさん:2008/12/22(月) 07:52:12
【高密度指向性エネルギー体の衝突。右脚部及び右腕部消滅、出力43%に低下】

映し出されたのは無機質な文字の群れだが、バーニィに絶望を植え付けるには十分だった。
地上、右半身が破壊されている大型の赤い機体。その機体がいま、巨大な砲身を向けていた。どうやらあれで砲撃を喰らったらしい。
まだ生き残ってる人がいたのか、と後悔と同時、安堵が込み上げる。次の瞬間それどころじゃないと思い直すも、被害は甚大だ。
見れば、敵機たちも健在だった。
ブラックゲッター、そして紅い機体にはライアット・ブーメランが多少なりとも損傷を与えたようで、両機ともに武装を取り落としている。
赤い機体はライフル、ブラックゲッターは斧。
戦闘機は驚いたことに全くの無傷だった。あの状況でも躱してのけたらしく、まさか噂のニュータイプか、なんて考えが頭をよぎる。
仕留めそこなったのは痛いが、敵もあれが切り札だったようだ。そのためにわざわざ接近戦を挑み、動きを止めたのだろう。
眼下の機体から感知できるエネルギーはゼロに近い。もうあの砲撃はないと判断し、ここは逃げるべきかと撤退を視野に入れる。
どうやら人的被害は最小に留まったようだ。自分のやったことが正当化されるわけではないが、その事実はバーニィの心をいくらか慰めた。
もはや気負うこともなく、冷静に戦場を見れば……上空に何か反応がある。確認しようとした刹那、その反応が膨大なエネルギーを打ち出した。
向かう先は地上の大型機……その巨砲。

「あの装置はエネルギーをチャージするものか……!? くそっ! チャージなんてさせるものか!」

もう一機の装置へとターミナス・ブレイザーを放つ。結果を確認もせず、今度は地上へ。
生き残った人には悪いが、あの大砲だけは破壊しなければ逃げることも難しい。

その瞬間、バーニィは勝つことよりも逃げることを優先し、一瞬だけ、対峙していたはずの三機の存在を忘れた。
それはすなわち『油断』であり、敵対していたパイロット達からすればどうしようもなくわかりやすい『隙』だった。

一秒。黒の機体が傍らを駆け抜ける。
メディウス・ロクスの左腕が宙に舞う。

二秒。紅の機体がハンマーを振り下ろす。
メディウス・ロクスの右腕が付け根から粉砕された。

三秒。ようやく振り返ったバーニィが見た物は。
パイロットの怒りをそのまま形にしたかのような、蒼い炎。
スロー再生のようにコックピットへ、そこにいる自分へ向けて突き進んでくるそれを見つめ、思う。

―――ごめんな、アル……クリス。俺はもう、帰れない―――

言葉に出したかどうか。それを確かめる間もなく、バーナード・ワイズマンはこの世界から消え去った。

235名無しさん:2008/12/22(月) 07:53:03
          □


「はっ……はぁっ……やった。やったんだ、ベガさんの仇を……この手で討ったんだ」

撃墜した敵機を見下ろし、荒い息をつく。
操縦桿から手を離そうとするも、強張った指先は中々動かない。興奮が冷め、ようやくカミーユは冷静になった。
ピンポイントバリアパンチは正確に敵機のコックピットを抉った。生命反応はない―――殺した。
だが、達成感などない。怒りに任せて動いたものの、残ったのはどうしようもない気持ち悪さだけだ。

「なんで……なんでなんだよ。お前にも帰りたい場所があって、大切な人がいたんだろう……?」

落ち着いてみれば、あのパイロットが言っていたことも理解できなくはない。突然こんな戦いに放り込まれれば、錯乱もする。
ベガを殺したことは到底許すことなどできないが、それでも他に方法があったのではないか……そんなことを考える。
と、キョウスケから通信。

「カミーユ、落ち着いたか?」
「……ええ、中尉。すみません、勝手なことをして」
「構わん。お前は結果を出した……それに元はと言えば俺が下手を打ったのが原因だ。お前が気に病むことはない」
「でも」
「責任があるとするなら、俺と。そしてユーゼス、貴様だな」

キョウスケの乗るビルトファルケンは黒い特機へと向き直っている。その様はまるで今にも剣を交えんとする戦士のようだ。

236名無しさん:2008/12/22(月) 07:53:59
「あの特機は何なのか。乗っていたパイロットはどこにいたのか。どうしてこんな事態が起こったのか。
 そして貴様は何をしていたのか……答えてもらうぞ、ユーゼス・ゴッツォ。返答次第ではただでは済まさん」

キョウスケの声は静かながらも言い逃れを許さない剣呑さを帯びている。
自分もユーゼスは信用できない。ここはキョウスケの話を聞くべきだ。
もし、やつが想像通りの邪悪なら……再び、この機体を駆けさせることになる。ユーゼスの動き、欠片も見落とすまいと集中する。

「答えよう、キョウスケ・ナンブ。ただし」

響いた声は黒い特機からではなかった。
発信源……ローズセラヴィー。ユーゼスは黒い特機に乗っているんじゃなかったのか。
だが映像ははっきりとローズセラヴィーのコックピットハッチに立つユーゼスを映し出している。
一瞬、カミーユ・キョウスケともに注意がブラックゲッターから外れた―――その刹那。



「がッ……!?」


鋼鉄の隼・ビルトファルケンを、復讐鬼・ブラックゲッターの斧が斬り裂いた。

「え……何を。何を、して、るん、だ……?」

キョウスケの苦悶。弾け飛ぶファルケン。
ブラックゲッターはその勢いのまま、今度はカミーユへと向かってくる。

「君が、それまで生き残っていれば、だが」
「キョウスケ中尉……キョウスケ中尉――――――ッ!」

落ちていくビルトファルケン。だが、それを追えるほどの余裕を、ブラックゲッターは与えてはくれなかった。

237名無しさん:2008/12/22(月) 07:55:29
          □



「……が、あ……」

目を開くと、とたんに何故目を開けたのかと後悔した。
視界いっぱいに広がる赤。体のそこかしこに突き立つ鋭い破片。

「……幸運は、二度も、続かんか……」

すべての始まりといえるシャトル事故を思い出す。エクセレンが死亡し、己は瀕死の重傷、だが生き残った事件。

「やったのは、ユーゼス……いや、おそらくはあの男、か。つくづく……甘いな。俺と、いう男は」

ビルトファルケンは辛うじてまだ空にある。だが、肝心の中身が……キョウスケは、もはや牙の折れた手負いの狼だ。
あのとき機体を襲った衝撃はコックピットの中を跳ね回り無数の飛礫と化してキョウスケを襲った。
致命傷だ。
モニターを見やれば、消去法で考えれば恐らくアキトが搭乗しているだろうブラックゲッターとカミーユの戦闘機が、激しいドッグファイトを演じている。
先程の人事不省寸前といった体からは考えられない鋭い動き。あの薬のおかげだろうか?
援護しようにも、腕がどうしようもなく重い―――操縦桿を引くことにさえ、凄まじい重さを感じる。
どうしようもない……いや。

薬。あの薬なら一錠持っている。念のためにアキトから奪っておいた、最後の一錠が。
得体のしれない薬、普段なら飲むはずなどないが―――

(俺が蒔いた種だ。俺が刈り取らねば……な)

鉛のような腕をどうにか動かし、躊躇いなくカプセルを飲み下す。

238名無しさん:2008/12/22(月) 07:56:27
どくん、と。

体の奥で何かが脈動した。

(痛み止め……ではない!? なんだ、この薬は……!)

凄まじい熱。次いで、氷のような冷気。自分という存在が、浸食されていく。

「ぐ……がああああああっ!」

頭の中で激しく火花が散る。影、霧のような、何かが、見える―――これは。
時間が止まる。近づいてくるのは―――
視界が黒に染まる。おぞましくも懐かしい、この気配。


(捕らえた……ぞ)


脳裏に直接響く声。知っている、この声は。

(ようやく……届いた。我が……声が……)
「この……声、貴様はッ……!」

かつて打ち破り、そして今また己が運命を操ろうとする存在、ノイ・レジセイア。
撃ち貫くと誓った存在が、ここにいる。キョウスケのすぐ傍に。

(……お前こそ……ふさわしい。審判の……存在……)
「何を……言っている。俺に、何の用だ……!」
(お前は……またも、生き延びた。そして、我を受け入れるに、足る……器を、手に入れた……)
「受け入れる、器……? 俺を、支配しようというのか―――エクセレンのようにッ!」
(拒むことは……できない。お前は、選んだ……人でなくなる……ことを。我に……近い存在と、なる……ことを。だから、我と……繋がる、ことが……できる)

239名無しさん:2008/12/22(月) 07:58:30
あの薬。危険なものだとは覚悟していたが、まさかここまでのものだったとは予想していなかった。
キョウスケは知らぬことだが、件の薬一つ飲んだだけで人でなくなるということはない。
薬の正体は希釈されたDG細胞。アキトのように身体に欠落する箇所があるものが服用すれば、DG細胞はそこを補うように展開する。
対して健常者が使えば、DG細胞は拡散する場のないまま沈殿する。そして感染力の弱められたそれは、時間とともに体内の免疫細胞によって駆逐される運命にある。
キョウスケの不運は、体力の低下した状態で薬を服用したこと。
結果、普段なら駆逐されるべきDG細胞がさしたる抵抗もなく体内に行き渡ってしまった。
そして、ノイ・レジセイアの波動。意志を持たないDG細胞に指令を下し、その働きを統制するもの。
キョウスケの体の支配権は急速に奪われつつあった。

下手を打った―――後悔が頭をかすめ、だが同時に、どこか奇妙なほど冷静な内面の己が叫ぶ。
―――ここが勝負所だ、と。
手の届かないところにいた主催者が、降りてきた。それも手の届くどころではない、己の内面という極めて近く……限りなく遠い場所に。
何故人間たるキョウスケの身の内に降りるのか。アルフィミィの気まぐれか、あるいはそれほど差し迫った理由があるのか―――
どちらにせよ、好機。
かつてエクセレンがそうであったように、アインストとなった自分が突破口となる―――この箱庭の戦いの。
賭けに負け、自分が自分でなくなったとしても……止める力はある。かつての仲間たちと同じ、信頼できる力が。

「くくっ……ああ、いいだろう……この身体、存分に貪るがいい。だが、もし貴様が俺を、人間を、取るに足りない存在だと驕っているのなら」

不思議なことに、微かに楽しくなってきた。
そう、キョウスケ・ナンブという人間を端的に表すのなら一文で済む。
―――分の悪い賭けは嫌いじゃない。

「遠くない未来……貴様は再び打ち砕かれる。
 この牙を貴様の喉笛に突き立て、その存在を欠片一つ残さず消し去ってみせる。今度こそ、完全にな」

言葉を切ると同時、気配が遠ざかり、体の感覚も薄くなっていく。
落ちていく鋼鉄の隼。その先に眠るは、相棒たる鋼鉄の孤狼。

「フッ……そうだな、お前がいなければ始まらんな―――アルト。付き合ってくれ、地獄の底のさらに下、俺の、最後の戦場へ……!」


鋼鉄の系譜……ともにつがいを失ったものが、互いに互いを抱擁する。これが始まり―――キョウスケは目を閉じた。

240名無しさん:2008/12/22(月) 07:59:31
          □


「テンカワ……といったか。目的は果たしただろう、ここは引くぞ」
「……何故だ。俺としてはこの機体もここで仕留めたいのだがな」

可変戦闘機……おそらくYF-21と同じバルキリーであろう機体と干戈を交えていると、ユーゼスが通信してきた。
あの化け物のような機体からだ。横目で見やると、驚くべきことにあれだけの攻撃を受けてもあの機体は健在だった。
とはいえパイロットはさすがに死亡したようだ。
仮面の男が抉り取られたコックピットから何かを引きずり出し、放り投げるのが見えた。
どうも人体のパーツであると思わしきそれらは大地に叩きつけられ、粉々になった。

「仕留められるのならそれもいいが、何があったか私にも把握し切れてはいない。
 君の位置からも見えるだろう? ファルケンがアルトと未知の反応を起こしている。
 墜落したキョウスケ・ナンブがなんらかの変化をもたらした公算が大きい。現時点では交戦を控えるのが賢明だ」

見れば、墜落したキョウスケの機体はアルトと溶け合っていくように見える。
まさか斧の一撃で機体が融解するほどの熱量が発生するわけもない。何かが起こっているのは疑いのないことだった。
アルフィミィからアルトを譲り受けた時のように、いささか信じがたいものであったが。

「だが、こちらは二機だ。どうであれ押し切れるのではないか?」
「君が健常ならな。ああ、言ってなかったがブラックゲッターの中はモニターさせてもらっていたよ。
 大事そうに抱えてきたあの薬は劇薬のようだが、確証はあるのかね? 効果が切れるまでにあれとその戦闘機を倒せると」
「……ないな。だが薬にも限りがある。一つ使ってしまった以上、おいそれと引くわけにはいかん」

ユーゼスの抜け目のなさというより自分の不用心さに憤る。薬のことを知られたのは痛い。

「その点は問題ない。サンプルさえあるなら今のAI1で量産が可能だ。
 もちろん、君が私に貴重な薬を一つ預けてくれるなら、という条件付きではあるが」
「何が狙いだ、貴様。俺が優勝を狙っているのは知っているだろう」
「さあ、どうせ何を言っても君は信じはしまい? だからこうとだけ言っておこう。『どちらでも構わん』と」
「……、どういう意味だ」
「何、そのままさ。君が私を信じようと信じまいと、どちらでもいい。
 信じないのならここで別れるだけだし、信じるのならそれなりの見返りは約束しよう。どのみち最後は戦うことになるのだろうしな」
「条件付きの同盟というわけか」
「そうとってもらって構わん。……おっと、これ以上言葉遊びに時間を費やすのもいかんな。さあ、選びたまえ。私とともに来るか否か」
「……いいだろう。俺からの条件は薬と情報だ。それを満たすのなら貴様の指示に従ってやる。
 ただし、残り5人あたりになれば手を切らせてもらうがな」
「ふむ……交渉成立だな。では行こうか」

241名無しさん:2008/12/22(月) 08:01:08
戦闘機もアルトの変化に気づいたようだ。パイロット―――キョウスケの名を叫びつつ距離を取り、旋回している。
といってもこちらに隙を見せているわけでもないが、少なくとも注意は向けられていない。離脱するのは容易かった。
戦域を離れ、ある程度距離を置いたところで語りかける。

「で、どこへ向かう。基地に向かってくるやつはいるはずだ。そいつらを狙うのか?」
「さしあたっては別の施設だな。君の薬のこともある。研究所などがあればいいのだが」
「施設……それなら心当たりがある。と言っても、問題はあるが」
「ほう?」
「戦艦を二隻、確認している。一隻は戦いに乗っていて、もう一隻は不明だ。俺としては……後者、ナデシコを探すことを薦める。あれならば研究設備も充実しているからな」
「ほう……勝手知ったる口ぶりだな?」
「……貴様には関係ない」
「フ、まあいい。では当面そのナデシコなる艦との接触を目標としよう。では行こうか……共犯者よ」

共犯者。仲間、相棒などと称されるよりよほど合っていると思った。
どうせ目的を果たすまでの仮初の同盟。いずれ殺す相手に必要以上に気を許してはいけない。
特にこの仮面の男は底が知れない。迂闊な隙は見せられない。
……不意に、自分が討った男を思い出す。
ユリカを失った自分と、まるで鏡に映したような境遇の男。違うとすれば悪魔の誘いに乗ったかどうか。
内心はどうあれ、あの男は自分を助けた。だがその返礼として自分は彼を背中から斬った。
後悔はないものの、胸が痛まないということはない。
しかし、やつは生きているかもしれない。戦斧は確実にコックピットを切り裂いた、それは確認している。
なのにあの赤い機体は狙ったようにアルトアイゼン、己が放置した機体のすぐ傍に落ち、融合を始めたのだ。
傍目にも尋常な様子ではなかったが、はたしてあの変化の内部にいた男は無事なのか。
万が一無事だったとして……その時キョウスケは、もはやアキトを保護すべき対象としては見ないだろう。
次に会ったときはその身を喰らい合うことになる、それは確実だ。
ガウルンともまた違う、奇妙な縁ができた。影と戦うようなものだ、とおかしさがこみ上げる。

(キョウスケ・ナンブ。許しを請うつもりはない……だから、俺の前にお前が立ちふさがるのなら、何度でも)

決意は変わらない。何よりも重いのは、ユリカの命だ。

(そう、何度でも撃ち砕く。戻る気はない……これが俺の、俺にできる唯一の……贖罪、なのだから)

242名無しさん:2008/12/22(月) 08:02:46
          □


通信を切る。この男、テンカワ・アキト。
先程の動きをみるに、腕は確か。そしてあの割り切った態度、道行きを共にするには申し分ない。
だが……失望した。この男は己を滅する敵たり得ない。
この男にはキョウスケ・ナンブほどの信念を感じない。おそらくは優勝すれば望みが叶うという口車を信じたのだろう。
だがその望みがかなう保証はどこにもない。己が主催者の立場なら、今頃さぞ口角を吊り上げているだろう―――哀れな道化。
自ら勝ち取る道を選ばず、ただ与えられるものを享受する……そんな輩に興味などない。
しばらくは協力するが、AI1が問題なく稼働するようになればいつでも切り捨てる。
仮面の魔人にとって黒き復讐者はその程度のものだった。
基地を放棄したのも些事だ。あとはある程度の設備があれば首輪の解析は可能。
ベガは……惜しいことをした。彼女にはまだまだ有用性はあったのだが、まあ仕方ないことだ。
カミーユ・ビダン。これもまた、些事だ。賢しいだけの子供などいくらでもあしらえる。
当面はナデシコなる戦艦を探しつつ、首輪とバーニィが遺した戦闘データを解析する。
これでAI1はまた成長できる。あの半端者も、最後の最後で少しは役に立ってくれた。

それよりも、思考を占めるのはキョウスケ・ナンブのこと。
アキトの一撃はたしかにやつに致命傷を与えたはず。だが、この背筋に残る怖気は何なのだろうか。
死んではいない―――そんな予感が頭から離れない。
あの男の操縦技術、決断力はたしかに目を見張るものがある。
しかしそれだけではこの状況を説明できない。撃墜し、沈黙したと判断したその瞬間、あの得体のしれない気配は「来た」。

243名無しさん:2008/12/22(月) 08:04:51
念動能力者でもサイコドライバーでもないキョウスケ・ナンブとただのパーソナルトルーパーでは成し得ない事態、考えられるとするなら。
メディウス・ロクスが仕掛けたヘブン・アクセレレイションは一瞬、確かに次元に穴をあけることに成功した。
バーニィ如き未熟者でなく自身が乗っていたなら正確に観測できていただろうが、是非もないことだ。
とにかくあの一瞬。あの一瞬、何かが「紛れ込んだ」のだ、この世界に。
キョウスケ・ナンブの話では、彼は主催者の化け物と浅からぬ因縁があるという。
あの場で介入して来る存在と言えば、一つしかない。主催者がキョウスケを死なせないために行動したということだろうか。
だが解せないのは何故時間をおいてあの気配は発現したのか。
キョウスケ・ナンブが何らかのアクションを起こした―――何を? だがその答えは現状では導き出せない。

ともかく、生死が確認できていないのなら、やつは生きているとして扱うべきだ。
そして生きているならあの男は今度こそ向かってくる。必滅の決意とともに。
ぶるり―――我知らず肌が泡立った。愛しき宿敵以外にこんな感情を持つのはいつ以来だ?
まったく、退屈しないな、この世界は―――哄笑を抑えきれず、身を反らす。
いいだろう、来るがいいキョウスケ・ナンブ。私は逃げも隠れもせん。
お前の牙がこの身に届くと信じているなら……喜んで相手をしてやろう。
己が映し身のように、彼に導かれたサンプル達のように。強い「力」を、更なる力でねじ伏せることで。


「その意志が、その熱が―――私を遥か超神の高みへと押し上げるのだからなぁ―――!」

244名無しさん:2008/12/22(月) 08:06:35
          □


「キョウスケ中尉! 応答して下さい、キョウスケ中尉!」

ニュータイプの感性に頼るまでもなく、わかる。
今、キョウスケ・ナンブという男は変わりつつある。
寡黙だが信頼できる男の発する気配は、時を追うごとに歪んだ何かへとすり替わっていく。

「……カ、ミ……ユ。き……える、か……」
「キョウスケ中尉! 無事なんですか!?」
「……いい、か、よく、聞け。ユー……ゼスは、危険だ……。奴と、もう、一人。テン、カワ……アキトという、男……こいつらは、乗っている……躊躇う、な、倒せ」

聞こえてきたのは己のことではなく、敵のこと。まるで、仲間に後を託して逝く戦士の声。

「あなたは……何を言ってるんです! すぐに救助します、もう喋らないで下さい!」
「聞け……ッ! 俺は、もう……長くは、持たん……。エクセレンの時と、同じことが……時間が、ない。不本意、だが……お前に、託す。聞くんだ……」
「そんな勝手なことを……!」

強引にでもコックピットから引きずり出して……そうしようとした瞬間、眼前の異常に目が奪われる。
ビルトファルケンの鋭角なシルエットが崩れる。下敷きとしていた蒼い機体と溶け合っていくように、一つになって。
真紅と、深蒼が、混じり合う。

「俺は、かつてあの、化け物……ノイ・レジセイア……を、撃破、した。やつが何故、蘇ったのかは……知らんが、決して、倒せ、ない存在では……ない」

何かが、生まれる。存在してはいけない何かが。
だがその渦中の男は構わず喋り続ける。かつてあった戦い、その結末を。
そしてこの世界であった、新たな戦いを。

245名無しさん:2008/12/22(月) 08:08:12
「カミーユ……力を、集めろ。お前……だけでは、足りん……もっと多くの、強く、激しい力、で……今度こそ、やつの、存在……を、消し去る……ために」
「中尉……ッ!」
「そして、力が……集ったのなら、……カミーユ。まず、俺を……殺しに、来い。
 他の誰でもない……お前が、だ。俺の声を聞いた、お前が……俺を、止めろ」
「何を、言ってるんです、中尉? どうして俺があなたを殺さなきゃならないんですか!?」
「俺は……やつらと、同じ……存在に……アインストに、なる。
 だが、恐らく……ユーゼス・ゴッツォ、あの男……は、それ……さえも、利用……しようと、する、だろう。
 だから、その前に、お前が……俺を殺せ。あの男の……良い様に、踊らされるなど……真っ平だから、な」
「俺に、あなたと同じことをしろって言うんですか!? ゼクスさんやカズイを殺した、あなたと……!」
「ゼクス……、そうか、やつも……こんな気分、だった……のかも、しれん、な……お前には、重いものを、背負わ、せる……すまん、な」

不意に、水音。大量の水をぶちまけたような。狭いコックピットで考えられるものなど、一つしかない―――血だ。

「もう……行け。そろそろ、限界……俺が、俺でいられるのは……ここまでの、ようだ……」
「中尉、俺は……俺は……ッ!」
「……行けッ! カミーユ・ビダンッ!」

もう口を開くことさえ辛いはずなのに、その一喝はカミーユを怯ませる。

「ま……待って下さい、俺はまだ、あなたに……ッ!」
「ベガはお前を守って……死んだのだろうッ! その命、もはやお前の勝手で容易く捨てられるものではないぞ! 
 生きろ……戦え、カミーユ! お前が生きて、やつらを討てば……それが、俺達の勝利だッ……!」
「……中尉」

と、もはや形も定かではないビルトファルケンの腕が伸びる。取り付けてあったブーストハンマーを外し、こちらに放り投げた。

「これを……使え。 ……勝て、カミーユ。お前には……力がある。想いを、強さへと変える、ことが……できる、力が。俺の……命。持って、行け……」
「あ……お、俺は……!」
「さらばだ……、カミーユ。死ぬな、よ……」

246名無しさん:2008/12/22(月) 08:09:23
やがて、真紅が駆逐され、深蒼が湧き出でる。
二機の影は一つになった。
―――蒼い、アルトアイゼンに。

「……ッ、……う、あッ……あ、うぁぁあああああああああああァァッッ!」

ハンマーを拾い上げ、ファイター形態へと変形。変わっていくビルトファルケン……否、もはや隼でも古い鉄でもない機体から、「逃げる」。全速で、振り返らず。

(俺は……俺は……ッ! 守ってもらうばかりで、あの人たちに何も……何も!)

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

もう背中を守ってくれるキョウスケはいない。隣で支えてくれるベガは、前に立ち導いてくれるクワトロはいない。
危険と知りながらユーゼスを放置した、その自らの甘さが招いた惨劇―――ベガと、キョウスケが代わりにそのツケを払った。
クワトロとは出会うことなく死に別れた。すべてが遅すぎたのだ。
後悔、怒り、悲しみ、憎しみ。そのすべてが混沌となり、だが皮肉にも身体を突き動かす力へと変わっていく。

「やってやる……やってやるさッ! ユーゼスも、アキトってやつも、あの化け物も……そしてキョウスケ中尉、あなたも! 
 俺が……俺が! 俺が、全て倒すッ! あなたの望み通りに……あなたを、ベガさんを、クワトロ大尉を―――勝利させるために……ッ!」


身体の奥に、熱い―――熱い、炎が灯る。すべてを灼き尽くす、根源の力。
今、この荒ぶる熱とともに誓うべき言葉は、ただ一つ。そう―――



「すべて……撃ち貫いてみせる……!」

247名無しさん:2008/12/22(月) 08:10:45
【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルⅡ(マクロス7)
 パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。精神が極度に不安定
 機体状況:ブーストハンマー所持 反応弾-残弾0 EN・火器群残弾10%
 現在位置:G-5
 第一行動方針:対主催戦力と接触し、仲間を集める
 第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」
 第三行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる
 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識
 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態】


 【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター
 パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭、疲労状態 薬の持続時間残り15分
 機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可)
 現在位置:F-7北東部
 第一行動方針:ナデシコの捜索(とりあえず前回の接触地点であるD-7へ)
 第二行動方針:ガウルンの首を取る
 第三行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す
 最終行動方針:ユリカを生き返らせる
 備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。
 備考2:謎の薬を3錠所持
 備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可
 備考4:ゲッタートマホークを所持】


 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス
 パイロット状態:若干の疲れ
 機体状態:全身の装甲に損傷、両腕部・右脚部欠落、コックピット半壊、自己再生中
 現在位置:F-7北東部
 第一行動方針:ナデシコの捜索、AI1のデータ解析
 第二行動方針:首輪の解除
 第三行動方針:サイバスターとの接触
 第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
 第五行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい?
 最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る
 備考1:アインストに関する情報を手に入れました
 備考2:首輪の残骸を所持(六割程度)
 備考3:DG細胞のサンプルを所持
 備考4:機体の制御はAI1が行っているので、コックピットが完全に再生するまで戦闘不能】

248名無しさん:2008/12/22(月) 08:12:29
【メリクリウス(新機動戦記ガンダムW)
 機体状況:???
 現在位置:G-6基地内部】

【月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー)
 機体状況:右半身大破、月の子全機大破、EN残量0
 現在位置:G-6基地】


【バーナード・ワイズマン  
 搭乗機体:なし
 パイロット状態:死亡】

【残り21人】

【二日目 7:10】

249名無しさん:2008/12/22(月) 08:13:54
          □


(行った……か。まったく……世話の焼ける……)

もはや声が出ているかも定かではない。
だが不思議とキョウスケに恐怖や後悔といった感情はなかった。

(エクセレン……遅くなって済まないが、まだお前のところには行けないようだ……)

意識は朦朧としているのに、感覚が広がっていく。機体に神経が繋がるような……
これはそう、アルト。いや、ゲシュペンストMkⅢという方が正しいか。アルトは蒼くはないものな……と、かすかに笑みがこぼれた。

(気がかりはユーゼスとあの男……手の内をすべて見せたわけでもあるまい。まだ何か企んでいるか……)

そして、主催者。アルフィミィにノイ・レジセイア。問題は山積みだ。

(……だが、勝つのは俺たちだ。ノイ・レジセイア、何をしようと貴様の滅びは決まっている……俺達を敵に回した時から、な)

意識が消える、その刹那。彼女が、笑った気がした。

『ほんと、分の悪い賭けが好きねぇ』

(フン、何とでも言え……見ていろ、あいつは来る。俺を……撃ち貫き、この闘争の世界を、破壊するために。
 俺の命をチップ7:23 2008/12/22にしたんだ、それくらいの配当がなければ釣り合わん……なあ、そう……だろう―――カミー、ユ―――)

勝て―――その意志を残し。

―――そして、「キョウスケ」が沈んでゆく―――

250>>249修正:2008/12/22(月) 08:14:57
          □


(行った……か。まったく……世話の焼ける……)

もはや声が出ているかも定かではない。
だが不思議とキョウスケに恐怖や後悔といった感情はなかった。

(エクセレン……遅くなって済まないが、まだお前のところには行けないようだ……)

意識は朦朧としているのに、感覚が広がっていく。機体に神経が繋がるような……
これはそう、アルト。いや、ゲシュペンストMkⅢという方が正しいか。アルトは蒼くはないものな……と、かすかに笑みがこぼれた。

(気がかりはユーゼスとあの男……手の内をすべて見せたわけでもあるまい。まだ何か企んでいるか……)

そして、主催者。アルフィミィにノイ・レジセイア。問題は山積みだ。

(……だが、勝つのは俺たちだ。ノイ・レジセイア、何をしようと貴様の滅びは決まっている……俺達を敵に回した時から、な)

意識が消える、その刹那。彼女が、笑った気がした。

『ほんと、分の悪い賭けが好きねぇ』

(フン、何とでも言え……見ていろ、あいつは来る。俺を……撃ち貫き、この闘争の世界を、破壊するために。
 俺の命をチップにしたんだ、それくらいの配当がなければ釣り合わん……なあ、そう……だろう―――カミー、ユ―――)

勝て―――その意志を残し。

―――そして、「キョウスケ」が沈んでゆく―――

251名無しさん:2008/12/22(月) 08:16:18
          □


静寂の……世界。創らねばならない……
望まぬ……者を……望まぬ……世界を……破壊しなければならない……
人間……これこそが……この、身体こそが……
試す……そう、試さねば……この器が、新たな、宇宙を……創るに足る、ものか……
すべて……消去する。我の前に……立ちふさがる者、すべて……





            ――――――撃ち貫く、のみ――――――







【キョウスケ・ナンブ  搭乗機体:ゲシュペンストMkⅢ(スーパーロボット大戦 OG2)
 パイロット状況:アインスト化 、DG細胞感染
 機体状況:アインスト化。
 現在位置:G-6基地跡地
 第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く
 第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。
 最終行動方針:???
 備考1:機体・パイロットともにアインスト化。
 備考2:ゲシュペンストMkⅢの基本武装はアルトアイゼンとほぼ同一。
      ただし全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。
ビルトファルケンがベースのため飛行可能。
      また実弾装備はアインストの生体部品で生成可能】

252 ◆VvWRRU0SzU:2008/12/22(月) 08:18:09
投下終了。
>>249はミスです。>>245が修正版。

253名無しさん:2008/12/22(月) 09:55:18
代理投下してた者です。
こちらもさるさんくらったので他の方続きをよろしくお願いいたします。
続きは>>238からです。

254 ◆VvWRRU0SzU:2008/12/24(水) 01:49:30
修正版を投下します

255名無しさん:2008/12/24(水) 01:54:10
ケも、クワトロのことも。すべては頭から抜け落ちる。あのふざけた理由で悪意をばら撒く男を、倒す。

「許さない……絶対に、許すものかッ! お前は、生きてちゃいけないんだ!」

やがて、半壊した格納庫へと辿り着く。粉塵で汚れこそすれ、VF-22Sは健在だった。
小型ということもあり、横のローズセラヴィーの影に隠れていたことが幸いしたのだろう。
その、ベガの乗機は―――右半身が丸々溶け消えていた。まるで、主の後を追うように……
また、怒りがこみ上げる。その熱を抑えないまま、カミーユはバルキリーへと乗り込む。
空でキョウスケが戦っている。だが、援護に行くのではない―――

「俺が、お前を討つ! バーナード・ワイズマンッ!」

咆哮とともに、蒼穹に向けて飛び立った。

          □


「バーナード・ワイズマン……敵の名前など、知るべきではないな」

ファルケンは目視で敵機を確認できる距離に入った。
先程の黒い機体ではないが、こちらもやはり特機。つくづく相性の悪いパイロットだと独りごちる。
眼下の基地はもはや廃墟と言う方が正しい有様だ。管制塔や倉庫など僅か残った施設がかろうじてここが先刻まで基地であったことを連想させる。
カミーユとベガ、そしてユーゼスがどうなったかはわからないが、今は敵機の制圧が最優先だ。

「その機体……またあんたか!」
「今度は見逃がさん。ここで貴様がしたことのツケを払ってもらう……!」

相変わらず全周波数帯に向けて発信される声に、だが呟きで返す。
ここに来てキョウスケに語ることはない。あるのはただ、この状況を招いたこの男、ユーゼス、そして己への怒り。
ミサイルの弾幕を張りつつフルスロットルで接近する。
敵機には見た限り銃器に類する武装はないが、特機を見た目で判断するのは愚策だ。
パターンTBS・シングルモード起動。動く前に仕留めると、一気に距離を詰める。

「く、来るなッ! 何か、何か武器は……!?」

狼狽に満ちた声が聞こえるが、容赦するつもりはない。
唯一の接近戦用の武装たるブーストハンマーは先の交戦で失った。オクスタン・ライフル、「槍」の名を冠するライフルを掲げる。
モードB、自分に合っている実弾での射撃を選択。
サイズの差は二倍以上だが、接近すれば狙いが甘くとも関係ない、とばかりに乱射する。

「うああああああああッ!」

だが完全な素人でもないらしい新兵は、腕を掲げて防いだ。と同時に敵機が発光、その腕にある爪が展開、赤熱した。
膨大なエネルギーを纏った爪は、ファルケンの装甲など容易く引き裂くだろう。
ファルケンは接近戦は不得手だというのに……つくづく分が悪い、と苦笑する。
テスラ・ドライブの出力を上げ、再度加速する。
倍以上の全長だ、接近しての小回りはこちらに分がある。唯一勝っている機動力で掻き回すしかない。
敵機が再度光を放つ。今度は全身の突起に熱が集まり、本体からパージ……射出された。
飛び来る6つの鋭刃。ファルケンは後退しつつスプリットミサイルを放ち迎撃する。

256名無しさん:2008/12/24(水) 01:55:00

「チッ、あのサイズでは一発でも受ければ命取りか。どうする……!?」

ミサイルで撃墜しきれない刃は回避あるいは力場を纏わせた翼で斬り払った。詰めた距離は開き、敵機からは再び刃状のパーツが確認できた。
破壊できず回収された刃はともかく、どうやら自己再生機能まで備えているようだ。
これがアルトあるいはアルトの後継機なら刃の中に強引に突っ込むことも可能だが、射撃兵装がメインのファルケン、そして自分の技量では攻撃を避けつつ前進するのは難しい。
オクスタン・ライフルで敵機の装甲を抜くためにはやはり接近し、近距離から撃たねばならない。キョウスケの技量では遠距離からの狙撃はおそらく躱される。
だが敵機はキョウスケが接近しようとすると機体性能にまかせて強引に距離を開ける。
さすがに二度目の交戦だ、こちらの手の内は知られているらしい。射撃は不得手、接近されなければ致命打はない、と。

何度か接近を試みるも、さすがに易々と懐に飛び込むことはできなかった。
どうする、と手をあぐねている内、レーダーが新たな反応を捕らえる。眼下の基地からの反応だ。
見る間にその反応は接近してきた。どうやら戦闘機、向かう先は交戦中の特機だ。
二機を同時に視界に収めるべく移動しようとするも、その戦闘機は凄まじいスピードで突っ込んできた。
それはキョウスケの知っている機体だ。カミーユが乗っていたはずの可変戦闘機。
傍らを駆け抜けた戦闘機、特機はやはり敵と認識したか再び、刃……ブーメランを放った。
舞い踊るブーメランの中に、しかし戦闘機は減速せず飛び込んだ。
キョウスケなら後退を選ぶ場面、戦闘機はまるで軌道を読んでいたかのようにロールし、刃をすり抜けていく。
前面から迫る刃は機銃で迎撃し、囲まれれば脚部―――ガウォーク形態といったか―――を振り回し強引に軌道を変える。
瞬きをする間に戦闘機、いやバルキリーは敵機を至近距離に捕らえた。
人型へと変形し、ガンポッド、ミサイルを一斉発射するバルキリー。決まったか、とキョウスケが思った瞬間。

「イグニション! うわあああああああッ!」

特機の胸部に凄まじいエネルギーが集中する。閃光は巨大な火球となり、眼前のバルキリーへと放たれる。
バルキリーの攻撃を呑み込み、誘爆させ、火球は突き進む。寸でのところでバルキリーはファイターへ変形、一気に上昇して回避した。
回避された火球は減衰する様子も見せず地平線の彼方で炸裂した。その凄まじい熱量は、どれだけの出力で放たれたか想像もできないほどだ。
しかし臆した様子など微塵も見せず再び飛び込もうとするバルキリー、その鼻先をキョウスケが抑えた。

「バルキリー、応答しろ。こちらはキョウスケ・ナンブ。誰が乗っている?」

通信を送るも、返答がない。キョウスケは再度試みる。

「応答しろ、バルキリー。カミーユが乗っているのか?」
「うるさい……うるさい! 邪魔をしないで下さいよッ!」

ようやく返ってきた少年の声は怒りに満ちていて、基地で取り返しのつかないことが起こったのだと確信させた。

「あいつはベガさんを殺したんですよ! 帰る場所があった、待っている人がいた! なのに虫ケラのように踏みにじった! 許せない……許せるものかッ!」

それきり、通信は途切れた。ファルケンを跳ね飛ばさんばかりの勢いで躱し、敵機へと踊りかかっていく。
ベガが死んだ。後悔、そして怒り。だがそれよりもまずいな、とキョウスケは焦燥する。今のカミーユは冷静さを欠いている。
持前のセンスと技量、そして機体性能のおかげでなんとか被弾していないものの、地力で勝る敵手、いつか直撃を受けるだろう。
フォローしようにもカミーユの動きは直感的すぎてこちらでも掴めず、迂闊に飛び込めば同士討ちになりかねない。
これがエクセレンなら何も言わずとも合わせられるキョウスケだが、さすがに昨日今日会ったばかりのカミーユの呼吸はわからない。
援護すら難しいか……と歯噛みしていると、通信が入る。カミーユかと思ったがそうではない。基地の管制塔からだ。

「キョウスケ・ナンブ、聞こえるか? こちらはユーゼスだ。応答を願う」
「ユーゼス……生きていたか。貴様には聞きたいことが山ほどあるぞ」
「心得ているよ、だがそれはあの機体を無力化してからにしてくれ。いつまた地上を攻撃されるかわからん」
「言われずとも……何、無力化だと?」
「時間がないので詳しくは言えんが、あの機体には高度な人工知能が搭載されている。破壊されるわけにはいかんのだよ」

モニターの中でユーゼスは首輪を指で叩く。解析に必要、と言いたいのだろう。

257名無しさん:2008/12/24(水) 01:56:20

「簡単に言ってくれるな。破壊ですら難しいぞ」
「君が一度下した相手だろう? 同じことをもう一度やってくれと言っているのさ」

抑揚のない声ではあるが、キョウスケには暗にお前の不手際だ、と言っているように思えた。

「……俺の責任であることは認めよう。だが貴様にもその一端はある。落とし前はつけてもらうぞ」
「構わんよ。私もできる限りの協力はする。しばし時間を稼げ。直に私も出る」

通信は途切れた。信用などできるはずもないが、それでも今はやつの手が必要だ。
時間を稼ぐ。不本意だが、意志の疎通のできていないカミーユとでは敵機の撃破は困難。仕方ないと無理やりに自分を納得させた。
カミーユは相変わらずブレーキが壊れた車のようにがむしゃらに攻撃を仕掛けている。
援護するには敵機だけでなくカミーユの動きも念頭に入れて動かねばならない。

「俺がフォローする側、か。エクセレン、お前の気持ちが少しだがわかった気がするよ」

突っ込み専門だったアルト、その隙をいつもカバーしてくれたヴァイス。
やってみれば難儀なことだ、と呟いて、キョウスケはファルケンを加速させていった。


          □


「始まったか」

基地を臨む森の中でも砲火の煌めきは確認できた。派手に撃ち合っているようで、五感の鈍ったアキトにも戦の匂いは感じ取れた。
あの寡黙な男は勝つだろうか? いずれ消すべきとは考えていても、もしここで彼が敗れれば今度は自分が危うくなる。
もし発見されれば薬を飲まざるを得ないだろう。それでもこの機体では、勝てる見込みは薄いように思えたが。

「万が一のこともある……離脱する準備はしておくか」

できるだけ長距離を移動できるようにブースターを調整する。小回りは効かずとも瞬発力ならこの機体は中々のものだ。
タイミングさえ誤らなければ撤退は可能。薬をいつでも服用できるよう、一錠をビンから出して懐へ入れる。
準備が終わり、改めて戦場へ目を向ける。紅い隼は接近に手間取っているようで、大型の敵機に近づいては離れてを繰り返している。
状況は不利……撤退を第一に考え始めた時。不意に暗号通信が入った。

「アルトアイゼンのパイロット、応答しろ。位置は把握している。1分以内に応答がなければ敵と判断し砲撃を開始する」

位置を掴まれていることよりも、ピンポイントでこのアルトに通信を送られたことに狼狽した。
発信源は基地、管制塔だった。
なるほど基地の目と言えるレーダーを統制する管制塔なら隠れていたアルトを発見できたのも頷ける。
だが何故この機体固有の周波数を知っているのか。

(いや、こいつは『アルトアイゼン』と言った。キョウスケ・ナンブと同じく、この機体を知っているものか……!)

以前にこの機体に乗っていたのなら固有周波数も知っていて当然だ。そして、アルトには砲撃に対応する装備がないことも。
この距離では当たることはそうないだろうが、存在を喧伝されるのはまずい。誰がどう見ても高機動機のファルケンより鈍重そうなアルトの方が狙いやすいだろう。
まず数を減らすとばかりに狙われてはかなわない。しぶしぶ、通信に応じる。

「こちらはアルトアイゼン、……テンカワ・アキトだ」

偽名を使うかとも考えたが、機体が変わっているのだ。もし知った顔に会ったとき、ガイの名前を名乗り続けていてはむしろ不審がられる。

「テンカワ・アキト……私はユーゼス・ゴッツォという者だ。いくつか聞きたいことがあるが、構わんかな?」
「俺はキョウスケ・ナンブに連れられてきた。戦う気はない」
「ふむ、中尉にか……よろしい、敵ではないと判断しよう。では何故中尉を援護しないのかね? こちらから確認する限り、アルトに大きな損傷は見受けられないが。
 ああ、先に言っておくが私は出られる機体がない。あの特機に全て破壊されたのでな、お前はどうだなどと聞いてくれるなよ」

敵ではないと言いつつも、声には微塵も友好的な成分は含まれていない。

258名無しさん:2008/12/24(水) 01:57:18

「……問題があるのは、俺自身だ。身体に障害を持っている」

一方的に手札を晒すことに憤りを感じるが、主導権は相手にある。ここはやり過ごすしかない。

「障害……ね。その割にはその機体、戦闘を経験したかのような有様だな? 本当に戦えないのかね?」

と、声の調子が変わる。感情を感じさせない人形の声から、蛇のような陰湿な気配へと。

「それは、」
「私の考えはこうだ。君は『戦えない』のではなく『戦わない』。何故なら戦える時間あるいは機会に限りがあるから。
 そしてそれは後から補えるものでなく、故に自分が直接襲われるような事態でもなければ戦闘は極力控えたい。……違うかね?」

抗弁を遮られ、続けざまに放たれた言葉はまさに今のアキトの現状そのままだった。
なんとか否定しようとするも、口を開く前にまたも先手を打たれる。

「加えて言うならその機体、アルトアイゼン。実は私に支給された機体もそれでね。どうして君が乗っているのか、答えられるか?」
「同じ機体が支給されたのだろう。あれだけ参加者がいたのなら同一の機体があってもおかしくはない」
「なるほど、おかしくはないな。だがそれを言うには機体に問題があるぞ?
 一度乗った身から言わせてもらえばアルトアイゼンは決して使いやすい機体ではない。
 装甲と引き換えにした機動性、実弾のみで固められ、射出型のクレイモアやステークといった癖の強い兵装。突進力こそあるものの最悪と言ってもいいほどの機体バランス。
 たとえ首輪が操縦方法を示すとはいえ、そのような扱い辛い機体ばかりでは殺し合いなど促進しない。私が主催者なら二機も支給することは有り得んな」

即座に返ってきた声は確信に満ちていて。

「……そうそう、私はこの基地や市街地を探索したが放置されている機体や資材はなかった。
 また補給も行ったが、補給されるのは失った弾薬とエネルギー系のみ。
 損傷部位は補修されず、故にこの会場での修理は応急処置程度しか行えず欠落した部位はそのものが消滅した場合修復は不可能だ。私の機体でいえば左腕だな。
 だがそのアルトアイゼンにはさしたる損傷はなく、カラーリングも異なる。
 つまりその機体と私に支給された機体は別物? ……いいや違うな。その機体は間違いなく私に支給されたアルトアイゼンだ」

口を挟む暇などなかった。この男、僅かな情報から一気にこちらの核心へと迫ってくる。これ以上情報を与えるのはまずい。

「……矛盾しているぞ。修復が不可能ならば、何故この機体には左腕がある。この左腕こそが違う機体であることの証拠だろう」
「そう、証拠だ。私はその機体に乗っていた時、一度戦闘を行ってな。左腕以外にも損傷を受けた部位がある。
 君の機体、まったく同じ箇所にその損傷があるな。これはどう説明するつもりかね?」

あの少女、完璧には修復しなかったのか―――焦燥が漏れ出る。
突き付けられた言葉は刃のようだった。銃火を交えないまでも、これはたしかにこの男とアキトとの戦いだ。
迂闊なことは言えない。主催者と接触したことを知られてはならない、絶対に。
損傷とやらは気になるが、ここで大きな反応を返しては相手の思うつぼだ。

「……そんなものはどうとでも言える。貴様が言っていることがハッタリで、俺から情報を引き出そうとしているということもありえるだろう」

とはいえ、有効な返し方も思いつかない、なんとか煙に巻くしかない。
まさか主催者が修復してくれた、などという突拍子もない考えには至らないだろうと願って。
だが。

「その機体の本来のパイロット、君を連れてきたキョウスケ・ナンブだ。彼はあの主催者を一度撃破しているそうだ」
「……それがどうした」
「自らを葬った男とその乗機。何らかの思い入れがあってもおかしくはないな。特にあのアルフィミィとかいう小娘、キョウスケ・ナンブとは深い関わりがあるように見えた」
「だからそれが」

急に見当違いのことを言い出した男に困惑する。言葉を続けようとしたとき、凄まじい悪寒が全身を走り抜けた。

「戦えないパイロットと使えなくなった機体。そんな者がどうやって戦闘を切り抜けた? 簡単だ、誰かの助力があった。では誰だ?
 仲間、違うな。君の念は孤独なものだ。他者を拒み、孤独であろうとするものだ。なら考えられる可能性は一つ……」
 
一拍置いて。

「……貴様ッ! 主催者と接触し、機体を修復され、何らかの取引をした……そうだなッ!?」

語気も荒くに断言された。
……なんだこいつは。今さらながらにアキトは恐怖を覚えた。この男は危険だ。これ以上話すべきでは―――

259名無しさん:2008/12/24(水) 01:58:31

「……っと、失礼。少し熱くなってしまったようだ……。とは言え、今の推論、間違ってはいないと思うがどうかね?」

唐突に重苦しいプレッシャーが消える。どうといわれても答えようはない。もし答えたら―――いや、あの少女は特に秘密にしろとは言わなかった。
今も首輪を通して聞いているだろうが、特に制止される様子もない。ばれても困らないということだろうか。
どう答えたものかと思案していると。

「……まあ、答えにくいものであろうな。私も少し急ぎ過ぎたようだ、この件は後で話すとして……本題に入ろう。
 私は上空で交戦中の特機を確保したい。キョウスケ・ナンブは腕は確かだが、機体性能に差がありすぎる。彼一人では困難だろう。
 一人でも多くの手が欲しいのだが……協力する気はないかね?」

先程とは打って変わった内容だった。後で、がいつかはわからないが、こいつは確実に殺さねばならない。今ここを離れるわけにはいかなくなった。

「……この機体では大した援護はできん」

もはや戦えることが前提となっているが、この男相手に隠し通すのは難しいと思えた。どのみち、生き残るのがまず最優先だ。敵機の排除に異論はない。

「それについては問題ない。ここにはアルトより強力な特機が一機ある。協力してくれるなら君に譲り渡そう」
「貴様、さっきは機体はないと」
「信用できないのはお互いさまということだ。むしろ厚意と思ってもらいたいな。その機体よりは優勝が狙いやすいはずだ」

優勝、と言った。どこまで見透かされているのか……

「……俺が優勝するつもりだと知った上で、誘っているのか」
「もちろんだとも。別に青臭い正義感で仲間になれと言っているわけではない。この場を切り抜ける最善手を打っているだけだ」

どうするか。この男はいずれ殺すにしろ、今この場にいるのは自分たちだけではない。
特機、そしてキョウスケ・ナンブが―――

―――キョウスケ・ナンブが戦っている。そうだ、今なら―――

ふと思いつく。この状況下なら。そしてこの男なら。

「……条件がある」
「なんだね?」
「キョウスケ・ナンブを殺す。それだけだ」

そう、これはチャンスだ。あの腕が立ち、油断しない男も戦闘中なら、それも味方からなら。……討つのは容易い。
普通ならキョウスケの仲間というこの男に言っても承諾などするはずがない、だが―――

「……いいだろう。特機を確保後であれば、キョウスケ・ナンブの殺害を許可する」

やはり、乗ってきた。この男には仲間意識などなく、あるのは徹底した合理性だ。

「随分、軽く決めるのだな。仲間なのだろう?」
「すでに聞くべきことは聞いた。腕は惜しいが飼い慣らせない狼など傍に置いておくメリットはない」

声には一切の感傷がない。本当に、必要ないから切り捨てる、それだけだというように。

「君がどうしてキョウスケ・ナンブを殺すのか興味はあるが……まあ後でおいおい聞くとしよう。この地点に来たまえ。君の機体が置いてある」

座標が転送され、通信が途切れた。
現在位置からさほど距離はない―――薬を飲めば、だが。歩くのもやっとというこの体で油断ならないユーゼスなる男の前に出向くのは危険……
躊躇なく、薬を噛み砕いた。身体を覆う倦怠感が掻き消える。
蒼いアルトが弾かれたように発進する。上空からでも確認できるだろうが……今のキョウスケにそんな余裕はないだろう。
もちろん、急ぐに越したことはない。目標地点が見えたところで身体を固定するハーネスを解き、いつでも降りられるようにする。
辿り着いた場所には、大型の特機があった。マントを纏う漆黒の体躯、鋭い刃を生やした腕、ピエロの仮面をつけた頭部。
たしかにアルトよりよほど強力なのは見て取れる。それにこの色、禍々しさ―――復讐者たる自分にはお似合いだ。
周辺にユーゼスはおらず、訝しりながらもアルトを降りた。
「ブラックゲッター」。操縦席に座ったとたん流れ込んできた情報はこの機体の名称を告げていた。
ゲッター線なるエネルギーで駆動し、インベーダーを駆逐するゲッターロボ、その一機。
だが首輪は同時に炉心の異常をも告げていた。動くことはできるが、炉心から直接エネルギーを供給するゲッタービームの使用は不可、と。
機体をチェックしていると、不意に通信が入った。

「どうかね、ブラックゲッターの乗り心地は? 接近戦用の特機だ、アルトに乗っていた君なら使いこなせるだろう」
「ふざけるな。この機体、炉心に異常がある。まともに動くのかすら怪しいものだ」
「何、使えないのはゲッタービームだけだ。格闘戦なら問題なくこなせる。その辺に武器も転がっているはずだ」

260名無しさん:2008/12/24(水) 01:59:54

辺りを見回せば、そこには一振りの巨大な戦斧。アルトでは振り回せない大きさだが、この機体なら。

「一応、応急処置は済ませてある。突然機体が爆散するなどということはないから安心したまえ」
「……信用できるものか」
「それはそちらの自由だ。……さて、言っておくべきことがいくつかある。
 まずあの特機は破壊せず無力化すること。まあ自己修復機能もある、破壊するつもりで攻撃して構わんがな。コックピットを直接つぶしてくれれば助かる。
 次にあの戦闘機……確認できるか?」

ユーゼスの言葉で上空を見やる。たしかにそこには一機、青い戦闘機が飛んでいた。
自分に最初に支給されたYF-21によく似た機体だ。同型、あるいは後継機だろうか。

「確認した。あれは敵か?」
「いや、こちら側の人間だ。カミーユ・ビダンという少年が乗っている」
「……そうか、で?」
「それだけだ。何をしろと言うつもりはないよ」

殺しても構わない。言いたいことはそういうことだろう。

「……了解した。もういいか」
「いや、もう一つ。君は基地に保護したことにする。キョウスケ・ナンブは勘が鋭い、気付かれては面倒だ。
 ブラックゲッターには私が乗っていることにしておけ。通信は私に転送されるように細工しておいた。君は敵機の制圧に専念してくれ」

その意見には賛成だ。あの男は薬を飲んだ自分が戦えるということは知らない、ならそれも利用する。
了解、と返し通信を切る。キョウスケと別れて既に一時間近く近く経過している。あの男もさすがに消耗しているだろう。
薬を飲んでおよそ2分。残り28分で敵機の制圧、キョウスケ・ナンブ、カミーユ・ビダン……そしてユーゼス・ゴッツォの殺害。
厳しいが、やれなくはない。この乱戦だ、何が起きても不思議はない―――殺意を仮面の下に押し込み、アキトは、黒いゲッターは飛び立った。


          □


「キョウスケ・ナンブ。援護する」

その声は唐突に響いた。
特機とカミーユ、その双方に注意を配り神経をすり減らしていたキョウスケは新たな反応に気づかなかった自分に毒づいた。
基地から上昇してきた機体、あれは最初に交戦した黒い特機。目前の敵手が最初に乗っていた機体。
ユーゼスは大破したと言っていたが……やはり、ブラフだったようだ。
問い詰めることが増えたなと思いつつ、その考えを頭から追い出す。今考えることではない。
ともあれ、これで三機。あの黒い特機―――ブラックゲッターと言うらしい―――の攻撃力なら、敵機に致命打を与えることも可能だろう……通常なら。
ファルケンが示すブラックゲッターのデータは依然交戦した時とは比べ物にならないほど低い数値を示している。

「ユーゼス、話は後で聞く。その機体、戦えるのか」
「格闘戦はこなせるが、残念ながら最大の打撃力であるビームは使用できん」
「チッ、当てにならんやつだ……!」
「そう言ってくれるな。今、もう一機の起動準備を並行して進めている。ローズセラヴィーだ、知っているだろう。あれの砲撃なら十二分だ」
「……ベガは死んだと聞いた。誰が動かすんだ」
「それも私だ。複雑な戦闘は不可能だが、狙った地点を砲撃するだけなら遠隔操作とあらかじめ組んでおいたプログラムで行える。
 チャージまでの時間を稼げ。あとは私の支持するタイミングで一斉攻撃を仕掛ける」
「いいだろう……乗ってやる。どれくらいかかるんだ」
「月の子……エネルギーデバイスは射出は終了した。チャージまで2分というところだ」

基地の上空、交戦空域より更に上。二機の小型デバイスが上昇していくのが見える。
ある程度まで上昇したデバイスは停止し、展開した。

「この世界では雷雲などそうそう望むべくもない……そのあたりを主催者も考慮していたようだ。
 月の子の周辺の空間が歪曲している。どこからかエネルギーが転送されてきているようだな」
「理屈はどうでもいい。2分だな?」
「ああ。だが時間を稼ぐだけでは足らん。確実に命中させるために足を止めろ」
「無茶を言う……しくじるなよ、ユーゼス」
「お互いにな」

2分。暴走するカミーユはともかく、自分とブラックゲッターでなんとか敵機の推進装置を破壊するしかないだろう。

「カミーユ、聞け。黒い特機にはユーゼスガ乗っている。今は撃つな。
 そして2分以内に敵機の移動力を奪う。成功しようがしまいが、合図したら敵機から距離を取れ。巻き添えを食らうぞ」

返事はないと予想していたが、言っておかなければ本当に巻き込みかねない。
ブラックゲッターが突進していく。機体特性からしてファルケンは援護に徹するべきだ。
射撃は苦手と言っている場合ではない……ファルケンもライフルを放ちつつ飛び込んでいった。

261名無しさん:2008/12/24(水) 02:00:53
          □


「また増えた!? しかもあれは……ブラックゲッター! まだ動いたのかよ!」

メディウス・ロクスの中、バーニィは必死に機体を制御していた。
もともとこの機体は複座だ。一人が操縦を、一人が機体のエネルギー管理を担当し、十全の力を発揮する。
ゼクス・マーキスのような優れた技量のパイロットやユーゼス・ゴッツォのように操縦・管制を同時にこなせる者なら一人でも支障はないが、新兵上がりであるバーニィには荷が重すぎた。
AI1とかいう人工知能もサポートしてくれてはいるが、その方面に知識のないバーニィでは有効にAI1を活用することもできない。
機体性能でなんとか紅い機体を寄せ付けずにいたら、新たに参戦してきた戦闘機は手に負えないくらい速く、そして先読みされているかと思うほどに攻撃が当たらない。
幸い火力は低いものの、時折り肉薄してはバリアを纏う拳を撃ち込んでくる。あれがまともにコックピットへ当たればさすがに死ぬだろう。
死を遠ざけようとしつつも止めてほしいと願う……矛盾だとわかってはいても止められない。
自分はどうしたいのか。この場をどのような形で切り抜けたいのか、それすらもわからない。
ただ目前に迫る死を回避しようと、それだけを想い操縦桿を握る。

やがて、火器が尽きたか戦闘機は接近戦を果敢に挑んでくるようになった。
こちらの距離だ、攻撃を―――おかしい、紅い機体の援護がない。先程までの、効果が少ないとはいえ牽制の意味はあった砲撃が止んでいる。
咄嗟にレーダーを見れば、いた。少し距離を取って、二機―――二機?
そして、ブラックゲッターまで戦線に加わった。余裕の体で作戦会議でもしていたのだろうか。
自分が乗っていたときはあんな巨大な斧を持っていなかったのに、と歯噛みする。
戦闘機が、そしてブラックゲッターが凄まじいスピードで向かってくる。その後ろを固めるのは紅い機体。
四機が交錯する。
紅い機体が後方からライフルを連射するも、AI1が判断するその射線の危険度は低い。射撃は不得手という勘は当たっていたようだ。
意識をブラックゲッターと戦闘機に集中する。より危険なのはこの二機だ。
ブラックゲッターが斧を振り回す。スパイラル・ファングで受け止めるも、その隙に戦闘機が殴りかかってきた。
コックピットを守るために肩で受ける。光を纏った拳は小型機とは思えないパワーで肩の装甲を吹き飛ばした。
後退しなければ……後ろに紅い機体。回り込まれた。槍のようなライフルがゼロ距離で閃光を放つ。
背面から衝撃。弾け飛ぶメディウス・ロクス。
もうダメだ―――と諦観が頭をもたげる。降伏しよう、と誰かが囁き、受け入れられるはずがない、とまた別の誰かが否定する。
前にも後ろにも進めない……でも。
基地の惨状を目に焼き付ける。あそこには人がいたはずだ。そして、何人かは死んだはずだ―――
ここで引くことはできない。何のために引き金を引いたのか。自分がここで折れれば、そのために死んだ人は何なのか。
そうだ、もう後戻りはできない。全力で戦うことしか、できることはない。
態勢を整える。ブースターに損傷、機動力が67%に低下―――まだやれる!

「イグニション……!」

エネルギー全開。
この機体の膨大な出力を全て攻撃に回す。敵機はどれも一騎当千のパイロット揃いだ、一機ずつでは埒が開かない。
すべて同時に撃墜すべく、AI1が指し示す最善の攻撃プランを実行する。

「ヘブン・アクセレレイション! 行けぇぇぇええええええええええッ!」

虚空に穴が穿たれ、そこから全てを溶かす暗い闇が溢れ出し、メディウス・ロクスを除いたあらゆるものがその中心点に向けて引き寄せられていく。

紅い機体、青い戦闘機、ブラックゲッター……接近していたその全てが射程に入った。
本来は後部座席で制御するべき兵装なのか、収束率が低い。それでも三機の動きは止まった。
引力から離脱するべく三機は全力でブースターを吹かしている。だが一向に機体は動かない。
元より一手で倒しきれるとはバーニィも思っていない。必要だったのは三機を一度に狙える状況だ。

「ライアット・ブーメラン……当たれよぉッ!」

都合6つのブーメランを解き放つ。一機につき二本、それぞれ違う軌道で射出。
どの機体も動かない―――勝ったッ!



―――そう思った瞬間、機体に衝撃が走った。

262名無しさん:2008/12/24(水) 02:01:58


見る間にコックピットをレッドランプが埋め尽くす。何が起こったんだ……と、AI1に確認する。

【高密度指向性エネルギー体の衝突。右脚部及び右腕部消滅、出力43%に低下】

映し出されたのは無機質な文字の羅列だが、バーニィに絶望を植え付けるには十分だった。
地上、右半身が破壊されている大型の赤い機体。その機体がいま、巨大な砲身を向けていた。どうやらあれで砲撃を喰らったらしい。
まだ生き残ってる人がいたのか、と後悔と同時、安堵が込み上げる。次の瞬間それどころじゃないと思い直すも、被害は甚大だ。
見れば、敵機たちも健在だった。
ブラックゲッター、そして紅い機体にはライアット・ブーメランが多少なりとも損傷を与えたことが見て取れた。
だが戦闘機は驚いたことに全くの無傷だった。あの状況でも躱してのけたらしく、まさか噂のニュータイプか、なんて考えが頭をよぎる。
仕留めそこなったのは痛いが、敵もあれが切り札だったようだ。そのためにわざわざ接近戦を挑み、動きを止めたのだろう。
眼下の機体から感知できるエネルギーはゼロに近い。もうあの砲撃はないと判断し、ここは逃げるべきかと撤退を視野に入れる。
……と、新たな機体が動いたということは、そこにはパイロットがいるはずだと思いつく。
どうやら人的被害は最小に留まったようだ。自分のやったことが正当化されるわけではないが、その事実はバーニィの心をいくらか慰めた。
もはや気負うこともなく、冷静に戦場を見れば……上空に何か反応がある。確認しようとした刹那、その反応が膨大なエネルギーを打ち出した。
向かう先は地上の大型機……その巨砲。

「あれでエネルギーを補給するのか……? くそっ! チャージなんてさせるものか!」

もう一機の装置へとターミナス・ブレイザーを放つ。結果を確認もせず、今度は地上へ。
生き残った人には悪いが、あの大砲だけは破壊しなければ逃げることも難しい。

―――その瞬間、バーニィは勝つことよりも逃げることを優先し、一瞬だけ、対峙していた三機の存在を忘れた。
それはすなわち油断であり、敵対していたパイロット達が見逃すはずもない隙だった。

一秒。黒の機体が傍らを駆け抜ける。
メディウス・ロクスの左腕が宙に舞う。

二秒。紅の機体のライフルが膨大なエネルギーを解き放つ。
メディウス・ロクスの左脚部がもぎ取られる。

三秒。ようやく振り返ったバーニィが見た物は。
パイロットの怒りをそのまま形にしたかのような、蒼い炎。
スロー再生のようにコックピットへ、そこにいる自分へ向けて突き進んでくるそれを見つめ、思う。

―――ごめんな、アル……クリス。俺はもう、帰れない―――

言葉に出したかどうか。それを確かめる間もなく、バーナード・ワイズマンはこの世界から消え去った。


          □

263名無しさん:2008/12/24(水) 02:03:16


「あら〜? ばれちゃったんですの。ほんとはお仕置きするところですけど……。
 ま、悩殺出血大サービスで見逃してあげますの。あの仮面のオジサマ、私と近い存在……あの人相手じゃ仕方ないですもの」

少女―――アルフィミィは、楽しげにその声を聞く。
ネビーイームとデビルガンダムとの接続作業を行いつつ、首輪を通して聞こえる会話から箱庭の世界で繰り広げられている戦いを想像する。
そこにはユーゼスという彷徨い人、恋人を救うために修羅となった男テンカワ・アキト、そしてキョウスケ・ナンブがいる。
会いたい……その誰とも。そう思っていたアルフィミィにとってこの戦いは聞き逃すことのできないものだった。
人間。小さくか弱い、そして儚い命。その命を燃やし、戦っている者たち。
結果がどうなるのか、興味があった。誰が生き残るのか、何が起こるのか。
どうやら仮面の男と復讐者は手を組んだようだ。今、協力の代償とされたキョウスケとともに敵と戦っている。
ふと、空間に異常。数時間前にもあった、空間の歪み。
あの時とは違い、極小さなものだ。どうやらその中心はメディウス・ロクス、アルフィミィにも予想外の進化を果たした機体。
そんな機能はなかったはずだが、これもあの機体に搭載されている人工知能が学習した結果なのだろうか?
まあこの程度なら進行に支障はきたさない。空間を閉じ、これもお咎めなしと―――

「えっ?」

前触れもなく。何故、と問う間もなく。
ネビーイーム、その下方に位置する木星の形の箱庭へと。

主が、赴いた。
閉じゆく歪み、その隙間へと滑りこむ。……やがて、感知できなくなった。

「そんな……どうしてですの? まだ、最後の一人は決まっておりませんのに……」

わからない。主が何を考えているのか。何故自分に何も言わず、箱庭に降りて行ったのか。
空間の穴は主の意志の総体が通れる大きさではなかったためか、行ったのは主自身の一欠片を切り離したものだ。
だが、欠片とはいえ紛れもない主自身。今の主には少しの余力もないはずなのに、何故?

「どこに……行かれたんですの?」

しかし少女に答えるものはなく―――


          □

264名無しさん:2008/12/24(水) 02:04:40


「はっ……はぁっ……やった。やったんだ、ベガさんの仇を……この手で討ったんだ」

撃墜した敵機を見下ろし、荒い息をつく。
操縦桿から手を離そうとするも、強張った指先は中々動かない。興奮が冷め、ようやくカミーユは冷静になった。
ピンポイントバリアパンチは正確に敵機のコックピットを抉った。生命反応はない―――殺した。
だが、達成感などない。怒りに任せて動いたものの、残ったのはどうしようもない気持ち悪さだけだ。

「なんで……なんでなんだよ。お前にも帰りたい場所があって、大切な人がいたんだろう……?」

落ち着いてみれば、あのパイロットが言っていたことも理解できなくはない。突然こんな戦いに放り込まれれば、錯乱もする。
ベガを殺したことは到底許すことなどできないが、それでも他に方法があったのではないか……そんなことを考える。
と、キョウスケから通信。

「カミーユ、落ち着いたか?」
「……ええ、中尉。すみません、勝手なことをして」
「構わん。お前は結果を出した……それに元はと言えば俺が下手を打ったのが原因だ。お前が気に病むことはない」
「でも」
「責任があるとするなら、俺と。そしてユーゼス、貴様だな」

キョウスケの乗るビルトファルケンは黒い特機へと向き直っている。その様はまるで今にも剣を交えんとする戦士のようだ。

「あの特機は何なのか。乗っていたパイロットはどこにいたのか。どうしてこんな事態が起こったのか。
 そして貴様は何をしていたのか……答えてもらうぞ、ユーゼス・ゴッツォ。返答次第ではただでは済まさん」

キョウスケの声は静かながらも言い逃れを許さない剣呑さを帯びている。
自分もユーゼスは信用できない。ここはキョウスケの話を聞くべきだ。
もし、やつが想像通りの邪悪なら……再び、この機体を駆けさせることになる。ユーゼスの動き、欠片も見落とすまいと集中する。

「答えよう、キョウスケ・ナンブ。ただし」

響いた声は黒い特機からではなかった。
発信源……眼下のローズセラヴィー。ユーゼスは黒い特機に乗っているんじゃなかったのか。
カメラを向ければ、映像ははっきりとローズセラヴィーのコックピットハッチに立つユーゼスを映し出している。
一瞬。カミーユ、キョウスケともに注意がブラックゲッターから逸れた―――その刹那。


「がッ……!?」


鋼鉄の隼・ビルトファルケンを、復讐鬼・ブラックゲッターの斧が斬り裂いた。


「え……何を。何を、して、るん、だ……?」

キョウスケの苦悶。弾け飛ぶファルケン。
ブラックゲッターはその勢いのまま、今度はカミーユへと向かってくる。

「君が、それまで生き残っていれば、だが」
「キョウスケ中尉……キョウスケ中尉――――――ッ!」

落ちていくビルトファルケン。だが、その後を追えるほどの余裕を、斧を振りかぶるブラックゲッターは与えてはくれなかった。


          □

265名無しさん:2008/12/24(水) 02:06:00



「……が、あ……」

目を開くと、とたんに何故目を開けたのかと後悔した。
視界いっぱいに広がる赤。体のそこかしこに突き立つ鋭い破片。

「……幸運は、二度も、続かんか……」

すべての始まりといえるシャトル事故を思い出す。エクセレンが死亡し、己は瀕死の重傷、だが生き残った事件。

「やったのは、ユーゼス……いや、おそらくはあの男、か。つくづく……甘いな。俺と、いう男は」

ビルトファルケンは辛うじてまだ空にある。だが、肝心の中身が……キョウスケは、もはや牙の折れた手負いの狼だ。
あのとき機体を襲った衝撃はコックピットの中を跳ね回り無数の飛礫と化してキョウスケを襲った。
致命傷だ。
モニターを見やれば、消去法で考えれば恐らくアキトが搭乗しているだろうブラックゲッターとカミーユの戦闘機が、激しいドッグファイトを演じている。
先程の人事不省寸前といった体からは考えられない鋭い動き。あの薬のおかげだろうか?
援護しようにも、腕がどうしようもなく重い―――操縦桿を引くことにさえ、凄まじい重さを感じる。
どうしようもない……いや。

薬。あの薬なら一錠持っている。念のためにアキトから奪っておいた一錠を。
得体のしれない薬、普段なら飲むはずなどないが―――

(俺が蒔いた種だ。俺が刈り取らねば……な)

鉛のような腕をどうにか動かし、躊躇いなくカプセルを飲み下す。

どくん、と。

体の奥で何かが脈動した。

(痛み止め……ではない!? なんだ、この薬は……!)

凄まじい熱。次いで氷のような冷気。自分という存在が、浸食されていく。

「ぐ……がああああああっ!」

頭の中で激しく火花が散る。影、霧のような、何かが、見える―――これは。
時間が止まる。近づいてくるのは―――
視界が黒に染まる。おぞましくも懐かしい、この気配。


(捕らえた……ぞ)


首輪から、いや首輪の赤い球体から脳裏に直接声が響く。知っている、この声は。

(ようやく……届いた。我が……声が……)
「この……声、貴様はッ……!」

かつて打ち破り、そして今また己が運命を操ろうとする存在、ノイ・レジセイア。
撃ち貫くと誓った存在が、ここにいる。キョウスケのすぐ傍に。

(……お前こそ……ふさわしい。審判の……存在……)
「何を……言っている。俺に、何の用だ……!」
(お前は……またも、生き延びた。そして、我を受け入れるに、足る……器を、手に入れた……)
「受け入れる、器……? 俺を、支配しようというのか―――エクセレンのようにッ!」
(拒むことは……できない。お前は、選んだ……人でなくなる……ことを。我に……近い存在と、なる……ことを。だから、我と……繋がる、ことが……できる)

あの薬。危険なものだとは覚悟していたが、まさかここまでのものだったとは予想していなかった。
キョウスケは知らぬことだが、件の薬一つ飲んだだけで人でなくなるということはない。
薬の正体は希釈されたDG細胞。アキトのように身体に欠落する箇所があるものが服用すれば、DG細胞はそこを補うように展開する。
対して健常者が使えば、DG細胞は拡散する場のないまま沈殿する。そして感染力の弱められたそれは、時間とともに体内の免疫細胞によって駆逐される運命にある。
キョウスケの不運は、体力の低下した状態で薬を服用したこと。
結果、普段なら駆逐されるべきDG細胞がさしたる抵抗もなく体内に行き渡ってしまった。
そして、宝玉から放たれるノイ・レジセイアの波動。意志を持たないDG細胞に指令を下し、その働きを統制するもの。
キョウスケの体の支配権は急速に奪われつつあった。

266名無しさん:2008/12/24(水) 02:07:21

下手を打った―――後悔が頭をかすめ、だが同時に、どこか奇妙なほど冷静な内面の己が叫ぶ。
―――ここが勝負所だ、と。
手の届かないところにいた主催者が、降りてきた。それも手の届くどころではない、己の内面という極めて近く……限りなく遠い場所に。
何故人間たるキョウスケの身の内に降りるのか。アルフィミィの気まぐれか、あるいはそれほど差し迫った理由があるのか―――
どちらにせよ、好機。
かつてエクセレンがそうであったように、アインストとなった自分が突破口となる―――この箱庭の戦いの。
賭けに負け、自分が自分でなくなったとしても……止める力はある。かつての仲間たちと同じ、信頼できる力が。

「くくっ……ああ、いいだろう……この身体、存分に貪るがいい。だが、もし貴様が俺を、人間を、取るに足りない存在だと驕っているのなら」

不思議なことに、微かに楽しくなってきた。
そう、キョウスケ・ナンブという人間を端的に表すのなら一文で済む。
―――分の悪い賭けは嫌いじゃない。

「遠くない未来……貴様は再び打ち砕かれる。
 この牙を貴様の喉笛に突き立て、その存在を欠片一つ残さず消し去ってみせる。今度こそ、完全にな」

言葉を切ると同時、気配が遠ざかり、首輪の球体から赤い、まるで血のような靄が吹き出し体を覆う。
落ちていく鋼鉄の隼。その先に眠るは、相棒たる鋼鉄の孤狼。

「フッ……そうだな、お前がいなければ始まらんな―――アルト。付き合ってくれ、地獄の底のさらに下、俺の、最後の戦場へ……!」


鋼鉄の系譜……ともにつがいを失ったものが、互いに互いを抱擁する。これが始まり―――キョウスケは目を閉じた。


          □


「テンカワ、といったか。目的は果たしただろう、ここは退くぞ」
「……俺としては、この機体もここで仕留めたいのだがな。退く理由はない」

可変戦闘機……おそらくYF-21と同じバルキリーであろう機体と干戈を交えていると、ユーゼスが通信してきた。
あの化け物のような機体からだ。横目で見やると、驚くべきことにあれだけの攻撃を受けてもあの機体は健在だった。
とはいえパイロットはさすがに死亡したようだ。
仮面の男が抉り取られたコックピットから何かを引きずり出し、放り投げるのが見えた。
どうも人体のパーツであると思わしきそれらは大地に叩きつけられ、粉々になった。

「仕留められるのならそれもいいが、何があったか私にも把握し切れてはいない。
 君の位置からも見えるだろう? ファルケンがアルトと未知の反応を起こしている。
 墜落したキョウスケ・ナンブがなんらかの変化をもたらした公算が大きい。現時点では交戦を控えるのが賢明だ」

見れば、墜落したキョウスケの機体はアルトと溶け合っていくように見える。
まさか斧の一撃で機体が融解するほどの熱量が発生するわけもない。何かが起こっているのは疑いのないことだった。
アルフィミィからアルトを譲り受けた時のように、いささか信じがたいものであったが。

「だが、こちらは二機だ。どうであれ押し切れるのではないか?」
「君が健常ならな。ああ、言ってなかったがブラックゲッターの中はモニターさせてもらっていたよ。
 大事そうに抱えてきたあの薬は劇薬のようだが、確証はあるのかね? 効果が切れるまでにあれとその戦闘機を倒せると」
「……ないな。だが薬にも限りがある。一つ使ってしまった以上、おいそれと引くわけにはいかん」

ユーゼスの抜け目のなさというより自分の不用心さに憤る。薬のことを知られたのは痛い。

「その点は問題ない。サンプルさえあるなら今のAI1はどんな薬だろうと量産が可能だ。
 もちろん、君が私に貴重な薬を一つ預けてくれるなら、という条件付きではあるが」
「何が狙いだ、貴様。俺が優勝を狙っているのは知っているだろう」
「さあ、どうせ何を言っても君は信じはしまい? だからこうとだけ言っておこう。『どちらでも構わん』と」
「……どういう意味だ」
「何、そのままさ。君が私を信じようと信じまいと、どちらでもいい。
 信じないのならここで別れるだけだし、信じるのならそれなりの見返りは約束しよう。どのみち最後は戦うことになるのだろうしな」
「条件付きの同盟というわけか」
「そうとってもらって構わん。……おっと、これ以上言葉遊びに時間を費やすのもいかんな。さあ、選びたまえ。私とともに来るか否か」
「……いいだろう。俺からの条件は薬と情報だ。それを満たすのなら貴様の指示に従ってやる。
 ただし、残り5人あたりになれば手を切らせてもらうがな」
「ふむ……交渉成立だな。では行こうか」

267名無しさん:2008/12/24(水) 02:09:35

戦闘機もアルトの変化に気づいたようだ。パイロット―――キョウスケの名を叫びつつ距離を取り、旋回している。
といってもこちらに隙を見せているわけでもないが、少なくとも注意は向けられていない。離脱するのは容易かった。
戦域を離れ、ある程度距離を置いたところで語りかける。

「で、どこへ向かう。基地に向かってくるやつはいるはずだ。そいつらを狙うのか?」
「さしあたっては別の施設だな。君の薬のこともある。研究所などがあればいいのだが」
「施設……それなら心当たりがある。と言っても、問題はあるが」
「ほう?」
「戦艦を二隻、確認している。一隻は戦いに乗っていて、もう一隻は不明だ。俺としては……後者、ナデシコを探すことを薦める。あれならば研究設備も充実しているからな」
「ほう……勝手知ったる口ぶりだな?」
「……貴様には関係ない」
「フ、まあいい。では当面そのナデシコなる艦との接触を目標としよう」
「もう一つ、言っておくことがある。どうせ知られることだから言っておくが、この薬は30分しか持続しない。
 あと数分で俺は動けなくなる。その間、貴様が俺を撃たない保証はあるか?」
「副作用……か。安心したまえ、ここで君を切り捨てはせん。この機体、『ゼスト』も今は戦闘を行える状態ではない。
 君が薬を必要とするように、私も護衛を必要としている。利害が一致している間は守り、守られ合う関係であろうではないか」
「貴様を信用することはしない……だが今はその言葉、乗ってやる」 
「何よりだ。しばしの間、よろしくな……共犯者よ」

共犯者。仲間、相棒などと称されるよりよほど合っていると思った。
どうせ目的を果たすまでの仮初の同盟。いずれ殺す相手に必要以上に気を許してはいけない。
特にこの仮面の男は底が知れない。迂闊な隙は見せられない。
……不意に、自分が討った男を思い出す。
ユリカを失った自分と、まるで鏡に映したような境遇の男。違うとすれば悪魔の誘いに乗ったかどうか。
内心はどうあれ、あの男は自分を助けた。だがその返礼として自分は彼を背中から斬った。
後悔はないものの、胸が痛まないということはない。
しかし、何故か悪寒が消えない。戦斧は確実にコックピットを切り裂いた、それはたしか。
なのにあの紅い機体は狙ったようにアルトアイゼン、己が放置した機体のすぐ傍に落ち、融合を始めたのだ。
傍目にも尋常な様子ではなかったが、はたしてあの変化の内部にいた男は無事なのか。
万が一無事だったとして……その時キョウスケは、もはやアキトを保護すべき対象としては見ないだろう。
次に会ったときはその身を喰らい合うことになる、それは確実だ。
ガウルンともまた違う、奇妙な縁ができた。影と戦うようなものだ、とおかしさがこみ上げる。

(キョウスケ・ナンブ。許しを請うつもりはない……だから、俺の前にお前が立ちふさがるのなら、何度でも)

決意は変わらない。何よりも重いのは、ユリカの命だ。訪れ始めた禁断症状に身を任せながら、強くその覚悟を確かめる。

(そう、何度でも撃ち砕く。戻る気はない……これが俺の、俺にできる唯一の……贖罪なのだから)


          □


通信を切る。宣言通り失神したらしい男から直前に譲渡された操縦権を用いて、ブラックゲッターにメディウス・ロクスを抱えさせる。
どうやら主催者は機体を支給する際手を加えたらしく、オートパイロット・自動操縦プログラムなどは使えないようだった。
先のローズセラヴィーにしても、直前で自動操縦プログラムにエラーが発生し、管制塔から慌てて走るはめになった。
あの場をキョウスケに目撃されていればまた違った結果になっていただろうと、冷や汗を拭う。
その制約がなければAI1を用いてブラックゲッターを操縦し、テンカワ・アキトを切り捨てることもできたのだが、ざっと調べた限り手の打ちようがなかった。
どうやら機械的な問題ではなく、異質な技術……アインストの力が用いられているようだ。未知の技術に策もなしに踏み込むのは躊躇われた。
まあ仕方ない。排除することができないのなら、利用することを考える。
この男、テンカワ・アキト。
先程の動きをみるに、腕は確か。そしてあの割り切った態度、道行きを共にするには申し分ない。
だが……失望した。この男は己を滅する敵たり得ない。
この男にはキョウスケ・ナンブほどの信念を感じない。おそらくは優勝すれば望みが叶うという口車を信じたのだろう。
だがその望みがかなう保証はどこにもない。己が主催者の立場なら、今頃さぞ口角を吊り上げているだろう―――哀れな道化。
自ら勝ち取る道を選ばず、ただ与えられるものを享受する……そんな輩に興味などない。

268名無しさん:2008/12/24(水) 02:10:59
しばらくは協力するが、メディウス・ロクスが再生しAI1が問題なく稼働するようになればいつでも切り捨てる、仮面の魔人にとって黒き復讐者はその程度のものだった。
薬の供給量や成分に手を加えれば、手駒として操ることもできるが……後の楽しみだ。護衛が必要なことは事実であるし、今はこの同盟を切るわけにはいかない。
また、基地を放棄したのも些事だ。
大方の解析は済んでいて、そのデータはこの頭脳の中にある。あとはある程度の設備があれば首輪の解除は可能。
ベガは……惜しいことをした。彼女にはまだまだ有用性はあったのだが、まあ仕方ないことだ。
カミーユ・ビダン。これもまた、些事だ。賢しいだけの子供などいくらでもあしらえる。
当面はナデシコなる戦艦を探しつつ、首輪とバーニィが遺した戦闘データを解析する。
これでAI1はまた成長できる。あの半端者も、最後の最後で少しは役に立ってくれた。

それよりも、思考を占めるのはキョウスケ・ナンブのこと。
アキトの一撃はたしかにやつに致命傷を与えたはず。だが、この背筋に残る怖気は何なのだろうか。
死んではいない―――そんな予感が頭から離れない。
あの男の操縦技術、決断力はたしかに目を見張るものがあった。
しかしそれだけではこの状況を説明できない。撃墜し、沈黙したと判断したその瞬間、あの得体のしれない気配は生まれた。
念動能力者でもサイコドライバーでもないキョウスケ・ナンブとただのパーソナルトルーパーでは成し得ない事態。
要因として考えられるのは、メディウス・ロクスが仕掛けたヘブン・アクセレレイションだ。
あれは一瞬、確かに次元に穴を開いた。そしてあの向こうにはアインストの支配する空間があった。
バーニィ如き未熟者でなく自身が乗っていたなら正確に観測できていただろうが、是非もないことだ。
とにかくあの一瞬、アインストの空間から何かが「紛れ込んだ」のだ、この世界に。
キョウスケ・ナンブの話では、彼は主催者の化け物と浅からぬ因縁があるという。
主催者がキョウスケを死なせないために行動したということだろうか。
だが解せないのは何故時間をおいてあの気配は発現したのか。
キョウスケ・ナンブが何らかのアクションを起こした―――何を? だがその答えは現状では導き出せない。

ともかく、生死が確認できていないのなら、やつは生きているとして扱うべきだ。
そして生きているならあの男は今度こそ向かってくる、必滅の決意とともに。
ぶるり―――と、我知らず肌が泡立った。愛しき宿敵以外にこんな感情を持つのはいつ以来だ?
まったく、退屈しないな、この世界は―――哄笑を抑えきれず、身を反らす。
いいだろう、来るがいいキョウスケ・ナンブ。私は逃げも隠れもせん。
お前の牙がこの身に届くと信じているなら……喜んで相手をしてやろう。
己が映し身のように、彼に導かれたサンプル達のように。「力」を、更なる力でねじ伏せることで。


「その意志が、その熱が―――私を遥か超神の高みへと、押し上げるのだからなぁ―――!」


          □


「キョウスケ中尉! 応答して下さい、キョウスケ中尉!」

ニュータイプの感性に頼るまでもなく、わかる。
今、キョウスケ・ナンブという男は変わりつつある。
寡黙だが信頼できる男の発する気配は、時を追うごとに歪んだ何かへとすり替わっていく。

「……カ、ミ……ユ。き……える、か……」
「キョウスケ中尉! 無事なんですか!?」
「……いい、か、よく、聞け。ユー……ゼスは、危険だ……。奴と、もう、一人。テン、カワ……アキトという、男……こいつらは、危険だ……躊躇う、な、倒せ」

聞こえてきたのは己のことではなく、敵のこと。まるで、仲間に後を託して逝く戦士の声。

「あなたは……何を言ってるんです! すぐに救助します、もう喋らないで下さい!」
「聞け……ッ! 俺は、もう……長くは、持たん……。エクセレンの時と、同じことが……時間が、ない。不本意、だが……お前に、託す。聞くんだ……」
「そんな勝手なことを……!」

269名無しさん:2008/12/24(水) 02:11:57

強引にでもコックピットから引きずり出して……そうしようとした瞬間、眼前の異常に目が奪われる。
ビルトファルケンの鋭角なシルエットが崩れる。下敷きとしていた蒼い機体と溶け合っていくように、一つになって。
真紅と、深蒼が、混じり合う。

「俺は、かつてあの、化け物……ノイ・レジセイア……を、撃破、した。やつが何故、蘇ったのかは……知らんが、決して、倒せ、ない存在では……ない」

何かが、生まれる。存在してはいけない何かが。
だがその渦中の男は構わず喋り続ける。かつてあった戦い、その結末を。
そしてこの世界であった、新たな戦いを。

「カミーユ……力を、集めろ。お前……だけでは、足りん……もっと多くの、強く、激しい力、で……今度こそ、やつの、存在……を、消し去る……ん、だ」
「中尉……ッ!」
「力が……集ったのなら、……カミーユ。まず、俺を……殺しに、来い。
 他の誰でもない……お前が、だ。俺の声を聞いた、お前が……俺を、止めろ」
「何を、言ってるんです、中尉? どうして俺があなたを殺さなきゃならないんですか!?」
「俺は……やつらと、同じ……存在に……アインストに、なる。
 だが、恐らく……ユーゼス・ゴッツォ、あの男……は、それ……さえも、利用……しようと、する、だろう。
 だから、その前に、お前が……俺を殺せ。あの男の……良い様に、踊らされるなど……真っ平だから、な」
「俺に、あなたと同じことをしろって言うんですか!? ゼクスさんやカズイを殺した、あなたと……!」
「ゼクス……、そうか、やつも……こんな気分、だった……のかも、しれん、な……お前には、重いものを、背負わ、せる……すまん、な」

不意に、水音。大量の水をぶちまけたような。狭いコックピットで考えられるものなど、一つしかない―――血だ。

「もう……行け。そろそろ、限界……俺が、俺でいられるのは……ここまでの、ようだ……」
「中尉、俺は……俺は……ッ!」
「……行けッ! カミーユ・ビダンッ!」

もう口を開くことさえ辛いはずなのに、その一喝はカミーユを怯ませる。

「ま……待って下さい、俺はまだ、あなたに……ッ!」
「ベガはお前を守って……死んだのだろうッ! その命、もはやお前の勝手で容易く捨てられるものではないぞ! 
 生きろ……戦え、カミーユ! お前が生きて、やつらを討てば……それが、俺達の勝利だッ……!」
「……中尉」

と、もはや形も定かではないビルトファルケンの腕が伸びる。携えていたオクスタン・ライフルを、こちらに放り投げた。

「これを……使え。 ……勝て、カミーユ。お前には……力がある。想いを、強さへと変える、ことが……できる、力が。俺の……命。持って、行け……」
「あ……お、俺は……!」
「行け……カミーユ。死ぬな、よ……」

やがて、真紅が駆逐され、深蒼が湧き出でる。
二機の影は一つになった。
―――蒼い、アルトアイゼンに。

「……ッ、……う、あッ……あ、うぁぁあああああああああああァァッッ!」

ライフルを拾い上げ、ファイター形態へと変形。変わっていくビルトファルケン……否、もはや隼でも古い鉄でもない機体から、「逃げる」。全速で、振り返らず。

(俺は……俺は……ッ! 守ってもらうばかりで、あの人たちに何も……何も!)

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!」

270名無しさん:2008/12/24(水) 02:12:37

もう背中を守ってくれたキョウスケはいない。隣で支えてくれたベガも、前に立って導いてくれたクワトロも。
危険と、邪悪と知りながらユーゼスを放置した、その自らの甘さが招いた惨劇―――ベガと、キョウスケが代わりにそのツケを払った。
クワトロとは出会うことなく死に別れた。すべてが遅すぎたのだ。
後悔、怒り、悲しみ、憎しみ。そのすべてが混沌となり、だが皮肉にも身体を突き動かす力へと変わっていく。
貫くもの、「槍」を模したライフル。キョウスケから託されたこの力、この想いで。

「やってやるさ、やればいいんでしょうッ! ユーゼスも、アキトってやつも、あの化け物も……そしてキョウスケ中尉、あなたも! 
 俺が……俺が、全て倒すッ! あなたの望み通りに……あなたを、ベガさんを、クワトロ大尉を―――勝利させるために……ッ!」

身体の奥に、熱い―――熱い、炎が灯る。すべてを灼き尽くす、根源の力。
今、この荒ぶる熱とともに誓うべき言葉は、ただ一つ。そう―――



「すべて……撃ち貫いてみせる……!」



【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・SボーゲルⅡ(マクロス7)
 パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。精神が極度に不安定
 機体状況:オクスタン・ライフル所持 反応弾-残弾0 EN残量・火器群残弾ともに10%
 現在位置:G-5
 第一行動方針:対主催戦力と接触し、仲間を集める
 第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」
 第三行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる
 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識
 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態
 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能】


 【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター
 パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭、疲労状態 薬の副作用中・残り1時間
 機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可)
 現在位置:F-7北東部
 第一行動方針:ナデシコの捜索(とりあえず前回の接触地点であるD-7へ)
 第二行動方針:ガウルンの首を取る
 第三行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す
 最終行動方針:ユリカを生き返らせる
 備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。
 備考2:謎の薬を3錠所持
 備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可
 備考4:ゲッタートマホークを所持】


 【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス
 パイロット状態:若干の疲れ
 機体状態:全身の装甲に損傷、両腕・両脚部欠落。EN残量20%。コックピット半壊、自己再生中
 現在位置:F-7北東部
 第一行動方針:ナデシコの捜索、AI1のデータ解析
 第二行動方針:首輪の解除
 第三行動方針:サイバスターとの接触
 第四行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
 第五行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい?
 最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る
 備考1:アインストに関する情報を手に入れました
 備考2:首輪の残骸を所持(六割程度)
 備考3:DG細胞のサンプルを所持
 備考4:機体の制御はAI1が行っているので、コックピットが完全に再生するまで戦闘不能】


【メリクリウス(新機動戦記ガンダムW)
 機体状況:???
 現在位置:G-6基地内部】


【月のローズセラヴィー(冥王計画ゼオライマー)
 機体状況:右半身大破、月の子全機大破、EN残量0
 現在位置:G-6基地】


【バーナード・ワイズマン  
 搭乗機体:なし
 パイロット状態:死亡】


【残り21人】

【二日目 7:55】

271名無しさん:2008/12/24(水) 02:13:26


          □


(行った……か。まったく……世話の焼ける……)

もはや声が出ているかも定かではない。
だが不思議とキョウスケに恐怖や後悔といった感情はなかった。

(エクセレン……遅くなって済まないが、まだお前のところには行けないようだ……)

意識は朦朧としているのに、感覚が広がっていく。機体に神経が繋がるような……
これはそう、アルト。いや、ゲシュペンストMkⅢという方が正しいか。アルトは蒼くはないものな……と、かすかに笑みがこぼれた。

(気がかりはユーゼスとあの男……手の内をすべて見せたわけでもあるまい。まだ何か企んでいるか……)

そして、主催者。アルフィミィにノイ・レジセイア。問題は山積みだ。

(……だが、勝つのは俺たちだ。ノイ・レジセイア、何をしようと貴様の滅びは決まっている。俺達を敵に回した時から、な)

意識が消えるその刹那。彼女が、笑った気がした。

『ほんと、分の悪い賭けが好きねぇ』

(フン、何とでも言え……見ていろ、あいつは来る。俺を……撃ち貫き、この闘争の世界を、破壊するために。
 俺の命をチップにしたんだ、それくらいの配当がなければ釣り合わん……なあ、そう……だろう―――カミー、ユ―――)

勝て―――その意志を残し。

―――そして、「キョウスケ」が沈んでゆく―――


          □


静寂の……世界。創らねばならない……
望まぬ……者を……望まぬ……世界を……破壊しなければならない……
人間……これこそが……この、身体こそが……
試す……そう、試さねば……この器が、新たな、宇宙を……創るに足る、ものか……
すべて……消去する。我の前に……立ちふさがる、者は……





            ――――――すべて、撃ち貫くのみ――――――







【キョウスケ・ナンブ  搭乗機体:ゲシュペンストMkⅢ(スーパーロボット大戦 OG2)
 パイロット状況:ノイ・レジセイアの欠片が憑依、アインスト化 。DG細胞感染
 機体状況:アインスト化。
 現在位置:G-6基地跡地
 第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く
 第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。
 最終行動方針:???
 備考1:機体・パイロットともにアインスト化。
 備考2:ゲシュペンストMkⅢの基本武装はアルトアイゼンとほぼ同一。
      ただしアインスト化したため全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。
       ビルトファルケンがベースのため飛行可能(TBSの使用は不可)。
      実弾装備はアインストの生体部品で生成可能。
      胸部中央に赤い宝玉が出現】


【アルフィミィ  搭乗機体:デビルガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:良好  軽い混乱
 機体状況:良好
 現在位置:ネビーイーム
 第一行動方針:バトルロワイアルの進行
 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂】

272名無しさん:2008/12/24(水) 02:17:21
>>255の冒頭ミスってました

「あれは……キョウスケ中尉か。あの人は、今さら……!」

カミーユの見上げた空を、紅き隼が駆け抜ける。
ただ見上げるだけの自分をあざ笑うかのように、その軌跡はぶれることはない。
向かう先は異形の機体。
閃く砲火に我に返る。そうだ、呆けている場合じゃない。ベガを殺したあの男を……!
半壊した基地を走りだす。格納庫はさほど離れていない。
ユーゼスも、キョウスケも、クワトロのことも。すべては頭から抜け落ちる。あのふざけた理由で悪意をばら撒く男を、倒す。

「許さない……絶対に、許すものかッ! お前は、生きてちゃいけないんだ!」

やがて、半壊した格納庫へと辿り着く。粉塵で汚れこそすれ、VF-22Sは健在だった。
小型ということもあり、横のローズセラヴィーの影に隠れていたことが幸いしたのだろう。
その、ベガの乗機は―――右半身が丸々溶け消えていた。まるで、主の後を追うように……
また、怒りがこみ上げる。その熱を抑えないまま、カミーユはバルキリーへと乗り込む。
空でキョウスケが戦っている。だが、援護に行くのではない―――

「俺が、お前を討つ! バーナード・ワイズマンッ!」

咆哮とともに、蒼穹に向けて飛び立った。

273名無しさん:2008/12/24(水) 02:18:08
投下終了です

274 ◆VvWRRU0SzU:2009/01/09(金) 16:20:22
なんとなく書いてみたものを投下します

275名無しさん:2009/01/09(金) 16:21:16
柔らかな朝日が廃墟を照らす。
数時間前までは多くの人が同じ時間を過ごした基地も、今は静寂が支配していた。
その静寂の中、動く影が一つ。
蒼い体躯、孤狼が駆る鋼鉄の巨人。
かつてキョウスケ・ナンブだったモノが操る、かつてアルトアイゼンと呼ばれていたモノ―――ゲシュペンストMkⅢ。
蒼の巨人が立つその足元には、粉々となった赤銅色の装甲片―――かつてディバリウムと呼ばれていたモノが散乱している。

今少し前、新たに基地へと現れた二機。その片方がここで散り、もう片方はいずこへと逃げ失せた。
キョウスケ・ナンブは―――アインストになった男は最前の戦闘を反芻する。
敵機は二機。どちらも砲撃戦用と思しき機体。
人型はともかく、四肢のない機体に乗っていた男。あれは手強かった。
自らの生い立ちを呪う兄弟。人間の持つ憎しみがどれほどの力を生むのか、少し理解できたような気がした。
不可解なのは、何故こちらを地下に突き落としておきながら自らは撤退しなかったのか。
あの機体では太刀打ちできないと、あの聡い男なら早々に悟ったはずだが。
まあ、今となってはどうでもいいことだ。ここに、噛み砕いた残骸が転がっているのだから。

それよりも。地下に落とされたおかげでこの機体の弱点の一つたるアウトレンジ用の武装が手に入った。
ディバイデッド・ライフル。大出力のビームのみならず近接戦時には打突用の鈍器としても使用可能。
敵の懐に飛び込むことが前提のこの機体との相性は最高と言っていい。
武装面では死角はほぼなくなったと言えるだろう。
だが一つ、気にかかるとすれば。赤銅色の機体に組みついたときのことだ。
あのときに勝負は決まっていてもおかしくはなかった。両腕でしっかりと取り押さえていたこちらに対し、敵機には振り払う腕も蹴り飛ばす脚も無かったのだから。
だが、あの男は至近距離での砲撃により、己が傷つく事も厭わずゲシュペンストを引き剥がした。
ビームコートで減衰したとはいえ、あの距離での砲撃は確かにこの機体に損傷を与えていた。
機体の中央―――アインストの核に直撃していれば、あるいは撃破されていたかもしれない。
接近戦ならどうとでもなる。杭、散弾地雷、強固な装甲。この機体に敵うものはそうそうない。
だが、もしディバイデッド・ライフルでは対応不能な距離から高出力の砲撃―――例えば艦砲射撃―――を、ピンポイントで叩きこまれれば。
ゲシュペンストは最大加速には優れていても、機動性、旋回性はそれほどでもない。前衛の機体に抑え込まれ、後衛が狙撃を担当するならば、かなりの確率で敗北もあり得る。
結論―――対策が必要だ。

276名無しさん:2009/01/09(金) 16:22:03

瓦礫の影に埋もれる一つの巨影を掘り起こす。
メリクリウス。
ローマ神話の神の名を冠し、「最強の盾」のコンセプトのもと開発された機体。
今はその身に操縦者を乗せることなく、ただ打ち捨てられていたのみだった。
基地が崩壊した時の余波にやられたか、もはや大破していると言っていい状態だ。

右腕を掲げる。巨大な杭打ち機、リボルビング・バンカー。
左腕でメリクリウスを掴み上げ、コックピットへ向けて打ち込んだ。
胸の宝玉が明滅し、杭で繋がったメリクリウスへと伝わっていく。
血流のように光がメリクリウスの全身へと行き渡り……しかし唐突に掻き消えた。

この「器」では、その個体のみで存在できる同胞は生み出せない。つまり、この身一つで戦い抜くしかないようだ。
それを確認したゲシュペンストは、右腕を引き抜き、崩れ落ちたメリクリウスを蹴り上げる。
宙に舞うそれが落ちてくる前に、頭部の角が赤熱。超高熱の刃となり、メリクリウスを胴体半ばから断ち割った。
切り離された上半身から、背部のプラネイトディフェンサーを強引に取り外す。
ビルトファルケンから取り込んだウイングの下部へ、プラネイトディフェンサーを押し付けた。
見る間に装甲が癒着し、回路が接続。
アインストのエネルギーが浸透し、正常に使用可能となるまで―――約30分。

次に、大破した大型機、月のローズセラヴィーへと向き直る。
エネルギー残量0、エネルギーデバイス全機消失。唯一原形を留めているといえる武装は、Jカイザー……大砲のみ。

これも取り込もうとして右腕を掲げるも、直前で動きを止める。
Jカイザーは軽くゲシュペンストMKⅢの体長ほどの大きさである。無理に使えないこともないが、取り回しは最悪だ。
それに何よりも、「器」の記憶にあるこの機体の使い方に合致しない。
取り込むことを諦め、距離を取る。

この箱庭にはまだ数多くの人間が生きている。そしてこの時まで生き延びているそれらは、戦闘に秀でていることが予想される。
この先、一対多の戦闘が増えるだろう。ゲシュペンストには、赤銅色の機体のように広範囲に攻撃できる武装はない。
つまり、狙うべきは一撃必殺。一機に時間をかけず、まず数の利を減らす。
最小の動作で、最高の結果を得るために。

「器」の記憶を検索。最も使用されていたモーションパターンを発見。
ウイング展開、ドライブ全開。バンカーをセット、ローズセラヴィーへと突撃する。
左腕の三連装マシンキャノンが火を噴く。
散らされた砲弾はローズセラヴィーの装甲表面を跳ね回り、穴を穿っていく。
検索した記憶では、これで敵機の動きは鈍る。
そこへ、突進の勢いのままバンカーを突き刺し、軽々と頭上へ抱え上げる。
わずか20m足らずのゲシュペンストが、50mを超えるローズセラヴィーを、片手で。
弾倉内の火薬が爆ぜ、響く六連の爆音。主なき機体の中央に深々と穿たれた空洞―――そこに。
至近距離での炸裂鋼球弾、スクエア・クレイモア。
距離を取れば広範囲に拡散し命中率が下がるこの武装は、裏を返せば近距離で最大の威力を発揮する。
跳弾の危険性など考えもしない。極近距離で撃ち出された鋼球は過たずローズセラヴィーを捕らえ、爆音と共に弾け光となり引き裂いていく。
既にバンカーの衝撃により芯に致命的なダメージを負っていたローズセラヴィーの装甲は、一つとして鋼球を弾き返すことはできず。
やがて鋼鉄の嵐が吹き去り……わずか数秒で、50mを超える巨体は欠片一つ残さず消え去った。
先程の戦闘、そして今終えたモーションパターンの確認。次からはもっと効率的にこの機体を操れるだろう。

277名無しさん:2009/01/09(金) 16:22:52


機体の状態は良好。プラネイトディフェンサー、使用可能。消費した弾薬の生成も完了した。
出撃の準備は整った。
これからどうするか……さしあたってすることはない。ただ、遭遇した存在を撃ち貫くのみ。
先程の人間達のように、生き残っている者はここを目指しているのだろうか?
なら、待ってみるのも悪くない。時間はいくらでもある。待つことには慣れている。
そうして、ゲシュペンストは一切の動きを止めた。まるで唐突な死を迎えたように。
壊滅した基地を静寂が覆う。静かな―――しかし、僅かな物音で全てが崩れ去るような、張り詰めた空気で満たされる。

孤狼は、ただ待ち続ける。
己が眠りを妨げるものを、新たな可能性を示すものを。
鋼鉄の棺の中で、男はただ、待ち続ける―――

【キョウスケ・ナンブ  搭乗機体:ゲシュペンストMkⅢ(スーパーロボット大戦 OG2)
 パイロット状況:ノイ・レジセイアの欠片が憑依、アインスト化 。DG細胞感染。
 機体状況:アインスト化。ディバイデッド・ライフルを所持。 プラネイトディフェンサー装備。
 現在位置:G-6基地跡地
 第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く
 第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。
 最終行動方針:???
 備考1:機体・パイロットともにアインスト化。
 備考2:ゲシュペンストMkⅢの基本武装はアルトアイゼンとほぼ同一。
      ただしアインスト化したため全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。
       ビルトファルケンがベースのため飛行可能(TBSの使用は不可)。
      実弾装備はアインストの生体部品で生成可能。
      胸部中央に赤い宝玉が出現】

【二日目 10:30】

278名無しさん:2009/01/09(金) 16:26:02
投下終了。
以前マスターガンダムのDG細胞でも言われてたけど、別の機体を取り込むってどうなんでしょうか?
自立行動は不可と、戦闘中には無理で30分ほどしないと接続できないってしてみたんですが

279交錯線 ◆7vhi1CrLM6:2009/01/25(日) 02:22:00
 ◇

奇しくも隻腕の機体三機が奏でる喧騒の中、眉間に皺がよるのをロジャー=スミスは感じた。
言葉を発した少年の口元が、不気味に笑う。

「何? それは一体どういう――」
「どおぉいう意味よ!!!」

問いただそうとしたその瞬間、責め立てるソシエの怒声がコックピットを劈いた。
しかし、それを鼻で笑った少年が一方的に通信を打ち切って、砂嵐の向こうへと消えていった。
当然、それで収まりが付くはずもなく、余計に腹を立てたソシエが――

「こら! 逃げるなぁ!! きちんと説明して行きなさいよ!!!」

――等とモニターに掴みかからんばかりの勢いで喚き散らした。
耳元で怒鳴るなと言ったのは一体誰だったか、等と思いながらキンと高く響く耳鳴りに耐える。

「君の知り合いか?」
「知らないわよ、あんな奴!!」

即答で返される。

「しかし、向こうは君を知っている風だったぞ。よく思い出したまえ。
 それに彼の言葉を真に受けるなら、彼は君にかどわされたということに――」

瞬間、少女の小鼻が僅かに広がり、脳天を突き抜ける衝撃がそれに続いた。

「殴るわよ!」
「……もう殴っているではないか」

と、呟いた瞬間、警告を示すアラートが鳴り響き、激震がコックピット揺らした。
烈火刃の爆発を受けてぐらついた凰牙の上半身を立て直しながら「ちょっと、しっかりしなさいよ」と怒鳴る声を聞く。
誰のせいだ、と思いつつ追撃を防ぎながら損傷箇所をチェック。被害は軽微。問題はない。
だがこのままでは分が悪い。
三つ巴はともかくとして、ソシエが乗っている。凰牙は一人乗りだ。彼女の体を固定するスペースは何処にもない。
そして、彼女はアンドロイドのドロシーとは違い生身の人間。
下手に戦闘にでも突入すれば、反動でコックピットの内壁に頭をぶつけた結果首の骨を折るなどということにもなりかねない。

「チンピラが……いずれこのツケは払っていただく」
「逃げるの? 逃げずに戦いなさい。敵は目の前でしょ」

無視を決め込んでギア・コマンダーのダイヤルを回す。
多量のエネルギーを消費する技は、通常補給が不可能な凰牙には致命的だが、この際仕方がない。
選んだコマンドの名は、閃光雷刃撃。
コマンド入力を受けて凰牙のタービンが高速で回転を始め、唸りを上げていく。
やがてそこに生じた雷の閃光は瞬く間に大きくなり、雷鳴を轟かせて広範囲に炸裂した。

280交錯線 ◆7vhi1CrLM6:2009/01/25(日) 02:22:56
 ◇

空気が膨張し、雷が爆ぜたかのような轟音が轟く。稲妻と稲光が窪地の底を広域に渡って駆け抜ける。
一拍遅れて衝撃の波が瓦礫の山を巻き上げながら伝播し、立ち込める煙が窪地を覆い隠した。
そんな中、その粉塵の濃淡をガウルンは注意深く観察する。
揺らめく陽炎のように何かが一瞬動いた、と思った瞬間にはもう烈火刃を投げている。僅かな爆音が鼓膜に届く。
命中。それを確信し、その場へ。
しかし、既に標的は姿をくらませその場にはいなかった。

「やれやれ、ふられちまったか……全くお寒いねぇ」

さてと、これからどうするかな。このままネゴシエイターを追いかける。
それも悪くはないが、手にした情報は多い。間抜けな交渉人お陰で選択肢の幅は広がっている。
さし当って有力な選択肢は二、三というところか。
ネゴシエイターの後を付け、奴の交渉相手を次々と潰して行く。交渉現場に介入するのも面白い。
まぁそれは成り行き次第、一番美味しくいただけるタイミングで喰えればそれでいい。
このまま予定通りG-6基地に行くのも有りだ。フェステニアの嬢ちゃんがそこへ向かったことが、判明している。
それはそれで面白い。
そして、最後の選択肢は、奴らの会談場所――E-3地区にあるクレーターへの直行だ。
こちらが探すことなく獲物が集まってくる場所。会談までの時間はまだあるが、先回りしてパーティー会場を整えておくのも悪くない。
ラクスとか言う嬢ちゃんの墓があると言っていたか? そこを奴らの目の前で壊すのは、中々に楽しそうだ。
だがまぁ辛いのはそれが同時に成り立たないことだ。どれか一つを選び、残りは切り捨てなければならない。
さてどうしたものか、とそんなことを考えている内に、立ち込めていた煙が晴れる。
煙幕から出てくる者を狙い撃ちにしようとでも思ったのだろう。上空にはヴァイサーガの姿が確認できた。
ネゴシエイターに逃げられたのは同じらしく、眼下を見下ろし佇んでいる。これ以上戦闘を続ける気もないようだ。
それを見て何となくガウルンは決めた。こいつに決めさせてやろう、と。
フェステニアの嬢ちゃんの情報を伏せれば、どれを統夜が選択するかは分からないが、どれを選んでも十分に楽しめる。
他の提案をしてくるかもしれないが、それが魅力的であればそれはそれで構わない。
ならば、選択を他人に任せてみるのも一興ではないか、と舌なめずりしながらガウルンは思い、統夜に声をかけた。

 ◆

市街地の地下に張り巡らされた通路に、不機嫌そうなソシエの声が木霊する。

「で、これからどうする気よ?」
「ガイの足取りが掴めなかった以上、とりあえずはナデシコの足取りを追う。
 あの時のナデシコの離脱方向は南西だったと思うが、Jアーク側ではどう確認している」
「えっと、Jアークの進路が北で左後方に遠ざかって行ったから……多分当ってると思う」
「では決まりだな。このまま南西に直進。壁を越えて北東市街地まで探索をつづけるとしよう」

そう言ったロジャーの様子は、どこかがおかしい。
常に背筋をピンと伸ばして、姿勢よくキビキビと動くこの男の足元が、覚束ない。

「ロジャー? どうしたの?」
「すまないが、凰牙の操縦を代わってくれ。少し休ませて貰おう。それと出来るだけ手早く地下は抜けていただきたいものだ」

言うが早いか操縦席からずり落ち、男は壁に背を預けて座り込む。
入れ替わりに操縦席に身を落ち着けさせたソシエは、ちらりとロジャーを盗み見る。
思えば、この男は丸一日近い時間ずっと凰牙を動かし、寝ずに活動を続けてきたのだ。
疲労は無理もないと言える。相羽シンヤとの戦いで手傷も負っていた。
だが、実は地下という空間が最もロジャーの精神を圧迫しているなどということは、ソシエには知る由もないことだった。
溜息一つ残して自分が頑張らなければ、と気合を入れなおす。
そんなソシエの目の前を動物型の機械人形――電子の聖獣が一頭、呑気に通り過ぎていった。

「あっ! ブタだ」

281交錯線 ◆7vhi1CrLM6:2009/01/25(日) 02:23:41
【ロジャー・スミス 搭乗機体:なし
 パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:なし
 現在位置:D-7南西部(地下通路)
 第一行動方針:休憩
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考2:念のためハイパーデンドー電池四本(補給二回分)携帯】

【ソシエ・ハイム 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状況:右足を骨折
 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
       側面モニターにヒビ、EN10%
 現在位置:D-7南西部(地下通路)
 第一行動方針:ブタ?
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:新しい機体が欲しい
 最終行動方針:主催者を倒す
 備考1:右足は応急手当済み
 備考2:ギアコマンダー(白)とワイヤーフック内臓の腕時計型通信機を所持】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労中、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部破損、左腕消失、マント消失
      DG細胞感染、損傷自動修復中、ヒートアックスを装備
      右拳部損傷中、全身の装甲にダメージ EN90%
 現在位置:D-7 市街地
 第一行動方針:統夜に興味。育てばいずれは……?
 第二行動方針:アキト、ブンドルを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:疲労中、マーダー化
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数
      EN80%、烈火刃残弾ゼロ
 現在位置:D-7市街地
 第一行動方針:基地へ移動
 第二行動方針:テニアの殺害
 最終行動方針:優勝と生還】

【二日目10:30】

282 ◆7vhi1CrLM6:2009/01/25(日) 02:25:17
投下終了です。
どなたか気づいた方、代理投下よろしくお願いいたします。

283テスト:2009/02/07(土) 12:50:51
 ◇

一方、こちらはナデシコのブリッジ。
ガロード、バサラ、比瑪の三人は、周囲を警戒しながらも、ごそごそと何かをやっていた。

『これで本当に声が戻るのか?』――バサラの筆談。

明らかに疑った顔で、バサラはガロードの持ってきた、銃のような形をした注射器を凝視している。

「声が戻るわけじゃないけど……多分、歌えるようになると思うよ」
「とりあえず、やってみましょ!」

バサラは恐る恐る注射器を二の腕に押し付ける。二人の顔に、明らかに悪意はない。
それに、自分をどうにかしようとするなら、あれほど気絶している時間があったのだ。
わざわざ目が覚めてから、こんなもの押し付けてどうにかしようとするとは思えない。

チクリ、と挿す感覚。そのまま、じっとしているが……何か変わった様子はない。
特別体が痛んだりもしないが、よくなる兆候もなし。

「……ッ!?」

声の出ない喉から、息が漏れる。よく見れば、手の甲には、よくわからない印ができていた。
それを見た比瑪とガロードは、今度はシールみたいなものを取り出し、突然バサラの喉に張った。
突然のその行動に、当然バサラは反射的に抗議の声を上げる。

「ナ……ニッ!?」

当然、口は動くが喉からはかすれた息が漏れるだけだ。それを理解して、肩を落とした次の瞬間。

『俺に何をした!?』

自分の声が、スピーカーから流れ出した。思わずスピーカーを見て目をむくバサラ。
その後ろでは、比瑪とガロードが「イェイ!」とハイタッチをしている。

「…………」
『おい、これはどういうことなんだ?』

口を動かす。すると今度はタイムラグなしで正確に自分の声がスピーカーから発される。

TVが突然チャンネルセットされ、謎の映像が流れ出した。
1、2、3、ドッカーンと気の抜けるエフェクトののち、金髪の女性が映し出される。

『説明しましょう! もともと、IFSは人体の感覚をエステバリスなど有人機にフィードバックする機構。
 つまり、これを利用すれば、何らかのサーバさえあれば擬似的に五感を再現することもできます。
 逆を返せば、失われた人体の機能を、幻視痛のように返すことで再現することもできるというわけね。
 今回のケースの場合、IFSから喉の装置を通し、喉の筋肉、骨格などから元の声を算出。
 その後、変化からなんという言葉をしゃべりたいか逆算し、スピーカーから生み出しているわけね』

そこまで言って、映像はプツンと切れる。

『あの金髪のおばさんはなんだ?』
「……よくわからないけど、なぜか説明するときだけ出てくるようになってるみたい」
「便利か不便かよくわからないな、それ」

ともかく細かく聞けば、比瑪もガロードも、IFSを撃てば、もしかしたら通信も可能になる上、
そこから文字を画面に直接表示できれば意思疎通も楽になると思ってやってみたわけだ。
結果は、どうやら彼らの予想以上の結果に終わったわけだが、事前に少し言ってほしかったと思ったバサラだった。

284Lonely Soldier Boys &girls ◆ZqUTZ8BqI6:2009/02/09(月) 17:43:56
「ナデシコか……」
「ほー、やっぱり寄り道はするもんじゃないな」

統夜が、遠くに映る戦艦を眺め、どこか暗い声で言った。
それに対して空の彼方を見上げ、ガウルンは楽しげな声で肩をならしている。

「とりあえず、どうする? 花火は全て集まるまで待つか? 前夜祭と行くか?
 そっちもやられっぱなしはシャクだろ?」

ガウルンの弾むような声が、よけいに陰鬱な気分にさせてくれる。
彼としては、どちらでもよかった。あのナデシコには、テニアがいない。
最後の一人になるのに、自分が全員殺す必要などない。
ガウルンと手を組む、というか組まされているのもそこが大きい。
だから、どこで誰がどんなかたちで死のうと興味がなかった。――ただ一人を除いては。

そう、テニアだけはこの手で殺す。それさえできれば何でもいい。

他のことには無関心な統夜は、虚ろに空を見ていた。
そんな統夜の様子を見て、ガウルンは目を細めた。

「いい目をするようになったじゃねぇか。そんなお前へのご褒美かもなぁ」

ガウルンが、顎でしゃくる。
興味のない視線を統夜はそっちに向けた。
そこには、20mより少々小さい機動兵器。ナデシコへそれは向かっていた。

「……それで?」
「おいおい、いいのかい? あのまま見逃して」

含みのある言葉に統夜が眉を広める。
ガウルンの目が、妖しく光ったように統夜には見えた。

「あれに乗ってるのは、お前の目当てのテニアちゃんなわけだが……なあ?」

テニアが!? テニアがあれに乗ってる!?

目を剥く統夜。ガウルンは堪えきれなくなったかのように噴出したあと、笑い出した。
酷くその笑い声が統夜は不快だった。

「頼む! 行かせて……俺にやらせてくれッ!」

逸る統夜へ、ガウルンは相変わらずの笑みで、値踏みする視線を送る。
しばらく顎をなで何か考えていたが、ガウルンは笑みをいっそう深めると、指を立てた。
いたずら好きな子供が虫の足をもぐときの、嗜虐的な顔で、ガウルンは言う。

「オーケー統夜、お前の言うことを飲む。お前は好きにナデシコに仕掛ければいい。
 俺はお前が仕掛けるまで何もしない。それまでは……せいぜい姿を隠しておく」
「本当なんだな!?」
「がっつくな、がっつくな。ただし、条件を一つだけつけさせてもらうぜ」

ガウルンは歌うように告げる。

「最初の一発まで、だ。それが終わったら俺も好きにやらしてもらう。
 仕留めそこなった獲物を俺に取られないよう、せいぜい頑張りな」

そういうと、マスターガンダムは軽やかな足取りでビルの合間に消えていく。

285Lonely Soldier Boys &girls:2009/02/09(月) 17:44:49

ガウルンがいなくなったことを統夜は見届けると、ヴァイサーガのエネルギーを上げていく。
待機モードから、戦闘モードへ。
ヴァイサーガの脳波観測機能により、統夜の意識をフィードバックしリミットが外された。
統夜が狙うは、これまでも何度もやってきた戦法による瞬殺。

すなわち、リミッターブレイクによる光刃閃による一撃必殺。

ガウルンは、一発目までは仕掛けないといった。
だが、それで十分だ。たった、一発であの天使に似たロボットを叩き切ったこの一撃なら。
あの戦艦の格納庫を真っ二つに出来る。二撃など、最初から必要ない。

ガウルンに少し待たされたため、余計に貯まった殺意が捌け口を求めて自分の中で暴れるのが分かる。
今までのように迷いながら、悩みながらではない。絶対に絶命させるという覇気を湛え、光刃閃が放たれようとしている。

向こうは、こちらに気付いていない。
なにか取り込んでいるのか、見張りをしてないのか、役に立ちもしないレーダーに頼っているか。
どっちのみち好都合だ。このまま、このまま一気に行く。

光刃閃の最大有効射程まで、身を隠し近付く。――相手は気付かない。

さらに、近付く。――相手は気付かない。

さらに、近付く。――オープンチャンネルで通信しているのか、声が聞こえる。
             ミノフスキー粒子のせいでひどい雑音が混じっていた。

さらに、近付く。――徐々にクリアになる音質。意味が聞き取れるようになる。
             だが、同時に光刃閃の最大有効射程へナデシコが入った。

必倒の秘剣が、鞘から抜き放たれた。
ヴァイサーガの身体が、矢へと変わる。その超加速の最中、声が耳へ届く。


「こんなんで死ぬもんかっ! 私は! 統夜と幸せになるんだぁぁああああああっっっ!!」


――え?
極度の集中で、引き伸ばされた時間の中、統夜はその声を聞いた。

どういうことだ? テニアは自分を殺そうとしているのではなかったのか?
利用しようとしているだけではなかったのか? なのに、何故危機に自分の名を呼ぶのか?
自分がここにいるのを知っている? そんなはずがない。 なのにどうして?
ガウルンは、そう言って――ガウルン? あいつの言葉は信用できるのか?
もしかして、全部ガウルンの嘘だったのか? 何がどうなっているんだ?

もしかして――ガウルンがこうして機会を譲ったのは?

不意をつく声。
統夜は、一瞬自分が殺し合いに生き残り、最後の一人になろうとしていたことを忘れていた。
それを覚えていれば、彼は結局どっちであろうとも関係ないと切り捨てることが出来たろう。
しかし、その判断を咄嗟にできるほど、彼は老成してないかった。

若者特有の激情、テニアへの憎悪、その根本が揺らぎ、気迫が抜けた僅かな間。

しかし、その間も事態は進行する。
剣は、モーションに会わせてナデシコを切り裂かんと進む。

「テニアぁぁああああああ!!!」

286Lonely Soldier Boys &girls:2009/02/09(月) 17:45:25
自分でも気がつかないうちに、彼はそう叫んでいた。
最後の、ギリギリの地点で、停止の脳波が送られ、剣の軌跡が、格納庫からそれる。
その一撃は、ナデシコの表面を大きく切り裂きはしたが、けして致命傷にはならなかった。

ヴァイサーガは、そのままどこかのビルの上へ着地する。



振り返った先には……テニアの乗るマシンがこちらへ向かってきていた。



【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:呆然、虚脱。
 機体状態:EN55%、各部に損傷
 現在位置:F-3市街地(ヴァイクラン内部)
 第一行動方針:???
 第二行動方針:首輪の解析を試みる
 第三行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める
 第四行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 最終行動方針:???
 備考1:首輪を所持】

【ガロード・ラン 搭乗機体:なし
 パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
 機体状況:なし
 現在位置:F-3市街地(ナデシコ医務室)
 第一行動方針:???
 第二行動方針:勇、及びその手がかりの捜索
 最終行動方針:ティファの元に生還】


【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)
 パイロット状況:神経圧迫により発声に多大の影響あり。
      ナデシコの機能でナデシコ内でのみ会話可能。
 機体状況:MS形態
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 現在位置:F-3市街地(ナデシコシャワー室)
 第一行動方針:???
 最終行動方針:自分の歌で殺し合いをやめさせる
 備考:自分の声が出なくなったことに気付きました】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:気絶中
 機体状態: ダメージ蓄積(小)、胸に裂傷(小)、ジャガー号のコックピット破損(中)※共に再生中
 現在位置:F-3市街地(ナデシコ医務室)
 第一行動方針:勇の捜索と撃破
 第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

287Lonely Soldier Boys &girls:2009/02/09(月) 17:45:56

【パイロットなし 搭乗機体:ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている。現在起動中
 現在位置:F-3(ナデシコ格納庫内)】

【旧ザク(機動戦士ガンダム)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好
 現在位置:F-3(ナデシコ甲板) 】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労中、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部破損、左腕消失、マント消失
      DG細胞感染、損傷自動修復中、ヒートアックスを装備
      右拳部損傷中、全身の装甲にダメージ EN90%
 現在位置:F-3 市街地(隠れて今のやり取りを見ているかもしれません)
 第一行動方針:統夜の今からに興味深々。テンションあがってきた。
 第二行動方針:アキト、ブンドルを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:疲労中、マーダー化
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数
      EN80%
 現在位置:F-3市街地
 第一行動方針:どうする!? どうする俺!? 
 最終行動方針:優勝と生還】

【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:激しく高揚、助かったことへの安堵
 機体状況:左腕喪失、左脇腹に浅い抉れ(修復中) 、シックス・スレイヴ損失(修復中、2,3個は直ってるかも)
        EN60%、EN回復中、マニピュレーターに血が微かについている
 現在位置:F-3 市街地
 第一行動方針:統夜との接触、利用の後殺害
 第二行動方針:参加者の殺害(自分に害をなす危険人物、及び技術者を優先)
 最終行動方針:優勝
 備考1:現在統夜が自分を助けたと思っています。
 備考2:首輪を所持しています】

【二日目11:50】

288Lonely Soldier Boys &girls:2009/02/09(月) 17:48:53
すいません猿くらいました・・・代理投下お願いします

289Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:51:36
ナデシコの一室。やたらと散らかった部屋に、無造作にしかれた布団。
そんな汚れた暗い部屋に、シャギアは一人座り込んでいた。
疲れからくる頭痛から、仮眠をとるとガロードたちをごまかして部屋に引きこもっている。
ガロードが怪しむのをさけるため、マジンガーZを回収する時――
つまりガロードがマジンガーZを取りに出た時から、シャギアは一歩もこの部屋から出ていない。
ある意味、マジンガーZをとる必要があったため、ガロードの目が自分から離れたのは僥倖だったかもしれない。
現在、ナデシコは順調に、目的エリアへ西に走っている。
東へ走り光の壁を越えてもよかったが、基地から北上するテニアとの合流の兼ね合いで、そちらから進んでいる。

考えることは、同じこと。似たようなことばかりを延々と考えていた。

本当に、奴等は死者を蘇生する力を持っているのか?
持っているとして、それを本気で叶える気はあるのか?
持っているとすれば、それはどういった方法? 
何をどうすることによって死者蘇生の事象を起こす?

奥歯をきつくかみ締める。

もし、もしもあの少女が目の前にいたとして、仮に疑問をぶつけたとしよう。
相手はなんと答えるか。考えるまでもない。彼女は、笑顔で答えるだろう。

――もちろん全部できますの。だから………

壁を思い切りシャギアは叩いた。

だから、安心して殺しあってくださいの。

そう、こう言うに違いない。自分が逆の立場なら、まったく同じことをしただろう。
甘言をささやき、人を殺し合わせ、最後の一人という悪夢へ誘う。
その言葉を確かめるすべはない。裏を取ることは不可能。自分で、判断するしかない。

もし、死者蘇生が何らかの装置を伴って行われる行為ならば?

このままナデシコで行動し、奴等を撃破。しかるのち、その装置を使いオルバを蘇生する。
いや、最悪最後の一人の一人になり、奴等の下僕としてオルバを蘇生させることもできる。
無論その後は、連邦政府の時のように顔を下げ、奴等の首を駆るときを待つ。

いや、これは駄目だとシャギアは首を振る。
確かに、奴等は人体を治す力を持っている。
下半身不随で車椅子生活を余儀なくされていた自分が、こうやって歩いていることこそ、その証明だ。
奴等の技術が自分たちのような誰でも使える科学的、機械的なものとは思えない。
解析しようとしていた首輪に目を落とす。どう見ても、自分の知る科学技術系統のものではない。
むしろ、ひどく生物的だ。最初の巨体の異形の力もそういう系統から起因しているのではないか。
「高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない」とは言われるが、
そういう次元のものではない、と本能的にシャギアは理解した。

結局、疑問は最初に戻ってしまう。

いつの間にか喘ぎ気味になっていた呼吸を整える。


基準がほしい。なにか、明確に行動するための基準が。


いつも繋がっていた兄弟という支点を失い、初めてシャギアはこの殺し合いの闇を意識した。
どちらに踏み出すべきなのかが分からない。どちらが最善の一手なのか見えてこない。
このまま、オルバの蘇生がまず不可能な脱出を目指すのか。
それとも、オルバを蘇生できるのか、してもらえるのか分からない優勝を目指すのか。
もう、シャギアの中で、どのようにこのゲームのを終わらせるかはたいした問題ではなかった。

290Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:52:17

どうするれば、一番オルバを確実に生き返らせることができる?

いつもは、シャギアがオルバをいさめることが多かった。
しかし、そう頻度が多いわけではないが、焦るシャギアをオルバをいさめることもあった。
サテライト兵器の時、焦る自分へまだチャージが足りないと、オルバが自分に忠告したことをふと思い出す。
どちらかが、どちらかに何かするのではない。お互いが、すべてにおいて支えあっていたのだ。
常に繋がった精神感応の力で。どんなに離れた場所であっても。

それが断たれた。

無意識に、頭を抱えるようにかきむしっていたことに気付き、手を頭から離す。
いつもそろえられた髪が乱れていたが、それを気にする余裕はシャギアにない。

「すべては、後回しだ……」

一人呟く。そう、すべてはひとまず棚上げだ。
確定している、やらなければならないことは何だ? この喪失感の何億分の一でも埋めるために必要なことは何だ?
あの蒼い機体に乗るパイロットとフェステニア・ミューズを殺す。
確実に殺す。絶対に殺す。これだけは自分の手でやらなければならない。
自分が何を奪ったのか、理解させたうえで、何をしてでも殺す。

ふと、甲児君に、比瑪君に、自分のやろうとしていることを打ち明けてはどうだろうか、と考えがよぎる。
小さくシャギアは頭を振った。あの二人は、何の事情があろうと殺すことをよしとしないだろう。
それどころか、テニアの言葉を信じ、あれが人殺しであることを信じようとすらしないかもしれない。

自分が、やらねばならない。

二人を……話し合いの場まで、そう、「駒」として……生き延びさせるためにも、自分のためにもやらなければいけない。
誰の助けもいらない。理解されようともかまわない。自分ですべて完遂する。

この先を決めるのは、それからでいい。

決断を先延ばしにする後ろ暗い安息と、一時的には言え自分を支える支点を築くことで、
シャギアは自分を奮い立たせる。

だが、しかし彼は気付いていない。彼は、「駒」と呼んだ者たちを気遣ってしまっていることに。


ブリッジから通信が入る。
映し出された映像には、ベルゲルミルが写っていた。


 ◇

一方、こちらはナデシコのブリッジ。時は少しさかのぼる。
ガロード、バサラ、比瑪の三人は、周囲を警戒しながらも、ごそごそと何かをやっていた。

『これで本当に声が戻るのか?』――バサラの筆談。

明らかに疑った顔で、バサラはガロードの持ってきた、銃のような形をした注射器を凝視している。

「声が戻るわけじゃないけど……多分、歌えるようになると思うよ」
「とりあえず、やってみましょ!」

バサラは恐る恐る注射器を二の腕に押し付ける。二人の顔に、明らかに悪意はない。
それに、自分をどうにかしようとするなら、あれほど気絶している時間があったのだ。
わざわざ目が覚めてから、こんなもの押し付けてどうにかしようとするとは思えない。

チクリ、と挿す感覚。そのまま、じっとしているが……何か変わった様子はない。
特別体が痛んだりもしないが、よくなる兆候もなし。

「……ッ!?」

声の出ない喉から、息が漏れる。よく見れば、手の甲には、よくわからない印ができていた。
それを見た比瑪とガロードは、今度はシールみたいなものを取り出し、突然バサラの喉に張った。
突然のその行動に、当然バサラは反射的に抗議の声を上げる。

「ナ……ニッ!?」

当然、口は動くが喉からはかすれた息が漏れるだけだ。それを改めて理解し、肩を落とした次の瞬間。

291Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:53:06

『俺に何をした!?』

自分の声が、スピーカーから流れ出した。思わずスピーカーを見て目をむくバサラ。
その後ろでは、比瑪とガロードが「イェイ!」とハイタッチをしている。

「…………」
『おい、これはどういうことなんだ?』

口を動かす。すると今度はタイムラグなしで正確に自分の声がスピーカーから発される。

TVが突然チャンネルセットされ、謎の映像が流れ出した。
3、2、1、ドッカーンと気の抜けるエフェクトののち、金髪の女性が映し出される。

『説明しましょう! もともと、IFSは人体の感覚をエステバリスなど有人機にフィードバックする機構。
 つまり、これを利用すれば、何らかのサーバさえあれば擬似的に五感を再現することもできます。
 逆を返せば、失われた人体の機能を、幻視痛のように返すことで再現することもできるというわけね。
 今回のケースの場合、IFSから喉の装置を通し、喉の筋肉、骨格などから元の声を算出。
 その後、変化からなんという言葉をしゃべりたいか逆算し、スピーカーから生み出しているわけ』

そこまで言って、映像はプツンと切れる。

『あの金髪のおばさんはなんだ?』
「……よくわからないけど、説明するときだけ出てくるようになってるみたい」
「便利か不便かよくわからないな、それ」

ともかく細かく聞けば、比瑪もガロードも、IFSを撃てば、もしかしたら通信も可能になる上、
そこから文字を画面に直接表示できれば意思疎通も楽になると思ってやってみたわけだ。
結果は、どうやら彼らの予想以上の結果に終わったのだが、そういうものなら事前に少し言ってほしかったと思ったバサラだった。

だが、そんな事は些細なことだ。
今の自分は、喋れる! 機械を通してとはいえ、声が戻った!
唄を歌うものとして、少し思うところもあったが、今は声が出ることを純粋に喜びたかった。

バサラは、どこからともなく相棒を引っ張り出すと、それをかき鳴らす。

『一曲と言わずいくぜ! 俺の歌を聴けえぇぇぇぇ!!』

この戦艦のAI、オモイカネが、エレキギター以外の楽器の音を控えめながらも演奏する。
自分本来の声ではない。ミレーヌのような自分本来の仲間たちではない。
しかし、それでもバサラは歌う。
眠っていた時間を取り戻すように、歌えなかった時間を取り戻すように。

ベルゲルミルがレーダーに映り、彼が歌い終わるまでそれは続いていた。


 ◇


「あ! いた!?」

テニアは、対岸にいるナデシコの姿を確認し、再度飛行を開始する。
思ったより早く合流できたことに、わずかに安堵を覚える。まだ、ベルゲルミルは完全に再生していない。
残っている傷跡は、如実に誰かに襲われたことを示していた。
その傷は、エネルギー兵装しか持たないディバリウムではつけることはできない傷だ。
おそらく、この姿を見れば向こうは心配するだろう。そして、疑うことなどしないだろう。
ふらふらとナデシコへ飛ぶ。すると、むこうからの通信が入った。

「テニア、どうしたの!?」

映るのは、心配そうな顔をした比瑪。怪しんでいる様子はない。
自分の思うとおりだと内心笑いながら、テニアは泣きそうな顔をして見せた。

「基地に……基地にとんでもない化け物がいて……」

そこで、いったん言葉を詰まらせる。それだけで、比瑪は悲しげな顔をした。
横からは、前拾った眼鏡の男と、統夜より少し下くらいの知らない少年が映っていた。

292Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:53:52

「オルバが……基地に残ってるんだ! 先に逃げろって……」

途切れ途切れにそう伝える。目を見開く眼鏡の男と比瑪と……一人眉をひそめる小年。

「オルバが? 残るって言ったのか?」

明らかにオルバを知っているとしか思えない口ぶりで、少年は言う。
こいつ、明らかに怪しんでいる。態度からそれが見て取れた。だが、今説明を変えるわけにはいかない。
涙を目元にたっぷりうかべ、テニアは絶叫する。

「そうだよ! 急がなきゃ……急がなきゃオルバが死んじゃう!」

そうこういっている間に、ナデシコの格納庫は目の前だ。
甲板の上におかれたヴァイクランの下をくぐり、格納庫にベルゲルミルが入る。
あえて、ショックを受けていることを見せるため、コクピットから出ない。
そうこうしているうちに、映っていた三人が、格納庫へやってきた。

「テニア……大丈夫?」

比瑪が、ベルゲルミルの足元から、テニアを見上げる。
発作的に、このまま踏み潰したいと衝動が沸くが、それを抑える。背を押すのも、踏み潰すのもまだ先だ。
ゆっくり、降りる。そして、顔を手で押さえる。心配そうに、男たちも寄ってくる。
シャギアの姿はない。いったい、どこにいるのか。

まあ、それは後回しでもいいか。

手を肩にかけてくれる比瑪に、もう一度基地に向かうように告げようとする。
そのときだった。






「茶番はそこまでにしてもらおうか、フェステニア・ミューズ」





びゅう、と格納庫に風が入り込む。
風の元を見ようと振り向くと、格納庫のハッチが開いていて……え?

隙間から入り込んだのだろう。そこには、数mはある巨大な機械が浮かんでいた。
つけられた銃口は、間違いなく自分を捕らえている。これは、シャギアのヴァイクランのガンファミリア?
でも―――

「ど……どうして?」

もれる呟き。さっきの声は、シャギアの声だった。
シャギアの姿はなかったが、どこかで通信を聞いていたのだろうか。
だが、そうだとしても自分がオルバを切り捨てたとわかるようなことは口にしていない。
死んだ、とすら言ってない。戦っているのだから迎えにいってほしいと自分は言ったのだ。
疑われることはあっても、シャギアの理性を決壊させるような要素はなかったはず。
だというのに、どういうことなのか。

「ちょっとシャギアさん! なに!?」

怒った調子で、銃口から自分をかばうように胸をそらし比瑪が立つ。
あいかわらずの甘さ。それに隠れる自分。比瑪の背中にすがりつく。
しかしシャギアの声の調子も、銃口も何も変わらなかった。

293Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:54:33

「どいたほうがいい。 そこにいるのはオルバを殺した張本人だ」

瞬間、時が凍る。誰もが「え?」という表情を浮かべている。
どうしていいのかわからず固まった格納庫にいる全員を無視し、シャギアは語る。

「お前は知らなかったろうが、我ら兄弟は、ニュータイプよりも強固な心のつながりを持っている。
 兄弟どれだけ離れていようとも、何を見て、何を感じ、何を考えていたのか、お互い知ることができる」

シャギアが放つ疑問の答え。それは、予想もできない真実だった。
嘘だ、と言いたい。けれど、口ぶるが震えて言えなかった。
そんな嘘みたいな魔法の力、あるはずがない。そんなもの、そんなもの……

「我らがこの殺し合いに参加させられたとき、即座に合流できたのはその力のおかげだ。
 信じられないか? だが事実だ……そこにいるガロード・ランに聞いてみるといい」

銃口が、わずかに右に揺れる。
それにつられてテニアも視線を動かす。そこには、先ほど自分を疑うような目を向けていた小年。
彼が、ガロードなのだろう。

「ああ、そうだ。フロスト兄弟は、そういう力を持ってた。同じ世界で、そのせいで何回も手を焼いたんだ」

さらに、シャギアは続ける。
戦闘での、彼らの完璧なコンビネーションも、そこから起因するものであることを。
その力があったがゆえに、逆に世界から虐げられることになったことも。

動けない。
もし、一歩でも比瑪の影から出れば、シャギアはその瞬間自分を撃つだろう。
さっきよりも硬く比瑪をつかむ。

「理解したか? つまり、私は知っているということだ。
 お前が、あの蒼い機体を相手に、オルバを切り捨てたことも!
 ロジャー・スミスと会ったことも! 全て! 知っているということを!」

ついに、シャギアの声は怒声へと変わっていた。最初の、どうにか押さえている調子ではない。
完全に、切れている。そして、最悪なのは、シャギアの言っていることが全て事実であるということだ。
自分しか……いや、自分とオルバしか知りえないはずの出来事を、克明にシャギアがさらす。
間違いないのだ。こいつは知っている。自分が何をしたか知っている。された側が……オルバが何を考えていたかまで。

「分かるか!? オルバ最期に送ったのだ……『兄さん助けて』と! そして、お前が何をやったかを、我々のために!」

横を見る。眼鏡の男は、ギターを握り締め、腕を震わせている。自分のやったことに怒っているのだろうか。
ガロード・ランと呼ばれた小年は、いつでも動けるように構え、敵意の目を向けている。
きっと、見えないけれど比瑪も同じような顔をしているだろう。

最悪だった。
カミーユにもばれた。ロジャー・スミスは、自分を疑っていた。Jアークもそうだ。
そして、最後の砦のはずだったナデシコまでが、ついに墜ちた。
残りの知り合いは……ガウルンが、自分を助けてくれるはずがない。カティアも、メルアも逝った。
一人ずつ、頭に思い浮かべる顔に、バツ印が刻まれる。

そして最後に残ったのは、統夜だった。

――そうだ、統夜が自分にはいる。

最後の最後に残った、自分の想い人の顔が浮かぶ。
ここにいるのは自分の知る統夜ではない。それでも、統夜の人柄は知っている。
統夜なら、統夜一人でも仲間にできればなんだってできる。

そう想うだけで、くじけかけた意思が振い立つ。

もう、駄目かもしれない。けど、最後までやってやる。あきらめたりするもんか。
ここに来て、何回ピンチを乗り越えてきたか。何をやってきたか。
絶対に、くじけない。挫けてたまるか!

294Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:55:16

まずは、比瑪を人質に取る。その上で、どうにかこの場を切り抜ける。
どう考えても穴だらけだ。シャギアがだからどうしたと引き金を引く可能性もある。
それでも、やらないよりは百倍ましだ。

そう思い、目の前の比瑪の首に手を回しそうとして、


「めぇ、でしょーっ!!」


比瑪の声が響く。さらに、突然スピーカーから耳をつんざく音楽が溢れた。
たわみがなくなるか分からず、惨事につながりかねない張り詰めていた空気が、僅かに緩む。

『少しは、落ち着いたかよ』

スピーカーから流れる男の声。ギターを掻きならした男のそばのスピーカーが音の出どころだった。
明らかに、オモイカネの声ではない。

『悪い、喉がすこし悪くてな。機械の音で』

どういう理屈か知らないが、髪を立てた眼鏡の男の声がスピーカーから流れているらしい。
突然歌い出すなんて、いったい何のつもりなのか、意図がまったくうかがい知れないことをやらかした男。
今では憮然とした顔で落ち着き払っている。

『殺したからって殺し返すなんてくだらねぇ……それに本当に死んでるかまだわからねぇだろ』

テニアは、知らない。
この目の前にいる男、熱気バサラのその言葉は……かつてアスラン・ザラにも送られた言葉であることを。

「シャギアさんも、落ち着いて。ねえ、テニア。何があったか、教えてくれない?」

顔をあげる。そこには、自分の顔を覗き込む比瑪の顔があった。
自分が想像したような、軽蔑や疑惑のこもった目ではない。人を信じて疑わない温かい瞳が、じっとテニアを見つめている。

――ああ、そうか。

ギターの男も、比瑪も、テニアのことを疑ってない。いや疑っているかもしれないが、悪意を向けはしない。

「シャギアさんが言っているも本当なのかもしれない。けど、なにかテニアにだって事情があったのかもしれない。
 一方的に言いきって終わりにしようなんて、絶対に駄目でしょ!」

比瑪は、今にも熱線が放たれそうな銃口を見つめ、凛とした声で話しかけている。
朝日を一緒に眺めた時と同じ、小さな背中が視界に広がる。でもその背中が今ではとても広く見えた。
どうもおかしなことになっている。あの時と同じようにそう思った。

宇都宮比瑪というこの少女の独特な雰囲気に、ペースが狂わされている。

こんなときでも自分をかばってくれる比瑪。そんな比瑪を見て……テニアは決断する。

思い切り、比瑪の首に腕を巻きつける。少し背伸びする形になったが、自分のほうが力は上だ。

もしナデシコの誰かを殺したとして、それを知ったら比瑪は泣いて悲しむのだろうか。
それはちょっと嫌と思った。あの顔には笑っていて欲しい、そんな感情は嘘じゃない。
お人好しなんだ。誰も彼もがお人好し過ぎるんだ。

だから――比瑪を殺そう。

仲間の死を知って、自分の裏切りに気づいて、比瑪の顔が悲しむことはないように。
彼女は幸せなまま逝く事が出来るように。 今じゃその思いも無理かもしれないけど。
それでもできることをしよう。
最初に殺す。それがテニアの出来る彼女に対する精一杯の恩返し。

295Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:55:47

「おのれ……! 比瑪君を放せ!」

シャギアのあせる声。しかし、私は無視して、比瑪を引きずるようにベルゲルミルへにじり寄る。
比瑪が何かを言っていた。――ひとつも悪いことは言っていなかった。ただ、理由を問うていた。
泣きたくなる。けど、まだそれはできない。

あと、ベルゲルミルまであとちょっと。
男たちはこちらの行動に動きかねているのか固まったままだ。

あと、少し、あと少しで届く。昇降用の足場つきのワイアーまで。

あと3m。

「くっ……!」
ガロードという少年の歯軋り。

あと2m。

『………』
無言を貫くギターの眼鏡の男。

あと1m。

「ペガアアアアアアアアアアアッスッ!」
シャギアの、叫び。――叫び?

「ラー……サー」

きしむ歯車の音。鳴り響く機械音。油圧の変化で起こる独特の音。

それらが、真横から聞こえる。テニアが振り向くのと、彼女が弾き飛ばされるのは同時だった。

「ペガスは、自己の主を自動的に守るようにプログラムされている。呼びかけなければ行動できないが、
 呼びかけさえすれば……最後に乗っていた今の主である比瑪君を守るため動き出すのは当然ということだ」

比瑪の横で、腕を張り、力強く大地を踏みしめる小型ロボット。
まさか、最後の最後でこんな切り札をシャギアが持っていたなんて。
二重三重、いや四重五重にシャギアのほうが策士として格上であることを思い知る。

「お前はこのナデシコに帰ってきたときから……いやオルバを殺したときから詰んでいたのだ!」

ガンファミリアがこちらに銃口を向けるべく動き始める。
この程度であきらめるか。それでもテニアはあきらめずにベルゲルミルへ走る。

「駄目ッ!」

比瑪の叫び。比瑪がこちらへ走ってくる。
だが、明らかに遅い。ベルゲルミルにつくのも、比瑪を盾にするのも、間に合いそうにない。
はるかに銃口が火を噴くほうが早い。

296Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:56:17


「こんなんで死ぬもんかっ! 私は! 統夜と幸せになるんだぁぁああああああっっっ!!」


その言葉を最期に、次の瞬間一人の人間が、灰になる。


そう、












比瑪が。


【宇都宮比瑪    死亡】


一瞬の出来事だった。テニアの咆哮の直後、ナデシコにいない人間の声が届いた。
「テニアぁぁああああああ!!!」というテニアの名を呼ぶ、彼女の声に負けないほどの咆哮が。
同時に、ナデシコが揺れる。外部の一撃で、格納庫が傾いた。テニアも、ガロードも、比瑪も、宙に体が浮き上がる。
テニアは、ベルゲルミルの前へ。そして、テニアへ走っていた比瑪は……銃口の前へ。
ペガスにも止める暇はなかった。放たれた光は、比瑪を撃った。

ただ、それだけのことで少女の命は失われた。

「あ……」

魂すら虚脱したかのようなシャギアの声を無視し、テニアはベルゲルミルへと乗り込んだ。
かつてないほどの心臓の高鳴りが、彼女を突き動かす。彼女は知っている。自分の名を呼ぶ声が誰のものか。

統夜だ。
他でもない、誰でもない。統夜だ。
統夜は、まさしく騎士(ナイト)のように自分の声に応えたのだ。

ベルゲルミルの腕が、ナデシコのシャッターを突き破る。
外には、統夜によく似合う青い騎士の姿の機体がビルの上に立っていた。


 ◇


「ナデシコか……」
「ほー、やっぱり寄り道はするもんじゃないな」

297Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:56:59

統夜が、遠くに映る戦艦を眺め、どこか暗い声で言った。
それに対して空の彼方を見上げ、ガウルンは楽しげな声で肩をならしている。
結局、基地へ向かうことをやめ、一度会談会場をより楽しむため他の連中が来る前に地形などを下見するつもりだったガウルン。
その言葉に統夜は頷き、二人はまず南下して光の壁を抜けて廃虚へ向かったのだ。
そして、ナデシコを発見するに至る。

「とりあえず、どうする? 花火は全て集まるまで待つか? 前夜祭と行くか?
 そっちもやられっぱなしはシャクだろう?」

ガウルンの弾むような声が、よけいに陰鬱な気分にさせてくれる。
彼としては、どちらでもよかった。あのナデシコには、テニアがいない。
最後の一人になるのに、自分が全員殺す必要などない。
ガウルンと手を組む、というか組まされているのもそこが大きい。
だから、どこで誰がどんなかたちで死のうと興味がなかった。――ただ一人を除いては。

そう、テニアだけはこの手で殺す。それさえできれば何でもいい。

他のことには無関心な統夜は、虚ろに空を見ていた。
そんな統夜の様子を見て、ガウルンは目を細めた。

「いい目をするようになったじゃねぇか。そんなお前へのご褒美かもなぁ」

ガウルンが、顎でしゃくる。
興味のない視線を統夜はそっちに向けた。
そこには、20mより少々小さい機動兵器。ナデシコへそれは向かっていた。

「……それで?」
「おいおい、いいのかい? あのまま見逃して」

含みのある言葉に統夜が眉を広める。
ガウルンの目が、妖しく光ったように統夜には見えた。

「あれに乗ってるのは、お前の目当てのテニアちゃんなわけだが……なあ?」

テニアが!? テニアがあれに乗ってる!?

目を剥く統夜。ガウルンは堪えきれなくなったかのか噴出したあと、笑い出した。
酷くその笑い声が統夜は不快だった。

「頼む! 行かせてくれ……俺にやらせてくれッ!」

逸る統夜へ、ガウルンは相変わらずの笑みで、値踏みする視線を送る。
しばらく顎をなで何か考えていたが、ガウルンは笑みをいっそう深めると、指を立てた。
いたずら好きな子供が虫の足をもぐときの、嗜虐的な顔で、ガウルンは言う。

「オーケー統夜、お前の言うことを飲む。お前は好きにナデシコに仕掛ければいい。
 俺はお前が仕掛けるまで何もしない。それまでは……せいぜい姿を隠しておく」
「本当なんだな!?」
「がっつくな、がっつくな。ただし、条件を一つだけつけさせてもらうぜ」

ガウルンは歌うように告げる。

「最初の一発まで、だ。それが終わったら俺も好きにやらしてもらう。
 仕留めそこなった獲物を俺に取られないよう、せいぜい頑張りな」

298Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:57:29

そういうと、マスターガンダムは軽やかな足取りでビルの合間に消えていく。

ガウルンがいなくなったことを統夜は見届けると、ヴァイサーガのエネルギーを上げていく。
待機モードから、戦闘モードへ。
ヴァイサーガの脳波観測機能により、統夜の意識をフィードバックしリミットが外された。
統夜が狙うは、これまでも何度もやってきた戦法による瞬殺。

すなわち、リミッターブレイクによる光刃閃の一撃必殺。

ガウルンは、一発目までは仕掛けないといった。
だが、それで十分だ。たった、一発であの天使に似たロボットを叩き切ったこの一撃なら。
あの戦艦の格納庫を真っ二つに出来る。二撃など、最初から必要ない。

ガウルンに少し待たされたため、余計に貯まった殺意が捌け口を求めて自分の中で暴れるのが分かる。
今までのように迷いながら、悩みながらではない。絶対に絶命させるという覇気を湛え、光刃閃が放たれようとしている。

向こうは、こちらに気付いていない。
なにか取り込んでいるのか、見張りをしてないのか、役に立ちもしないレーダーに頼っているか。
どっちのみち好都合だ。このまま、このまま一気に行く。

光刃閃の最大有効射程まで、身を隠し近付く。――相手は気付かない。

さらに、近付く。――相手は気付かない。

さらに、近付く。――オープンチャンネルで通信しているのか、声が聞こえる。
             ミノフスキー粒子のせいでひどい雑音が混じっていた。

さらに、近付く。――徐々にクリアになる音質。意味が聞き取れるようになる。
             だが、同時に光刃閃の最大有効射程へナデシコが入った。

必倒の秘剣が、鞘から抜き放たれた。
ヴァイサーガの身体が、矢へと変わる。その超加速の最中、声が耳へ届く。


「こんなんで死ぬもんかっ! 私は! 統夜と幸せになるんだぁぁああああああっっっ!!」


――え?
極度の集中で、引き伸ばされた時間の中、統夜はその声を聞いた。

どういうことだ? テニアは自分を殺そうとしているのではなかったのか?
利用しようとしているだけではなかったのか? なのに、何故危機に自分の名を呼ぶのか?
自分がここにいるのを知っている? そんなはずがない。 なのにどうして?
ガウルンは、そう言って――ガウルン? あいつの言葉は信用できるのか?
もしかして、全部ガウルンの嘘だったのか? 何がどうなっているんだ?

もしかして――ガウルンがこうして機会を譲ったのは?

不意をつく声。
統夜は、一瞬自分が殺し合いに生き残り、最後の一人になろうとしていたことを忘れていた。
それを覚えていれば、彼は結局どっちであろうとも関係ないと切り捨てることが出来たろう。
しかし、その判断を咄嗟にできるほど、彼は老成してないかった。

若者特有の激情、テニアへの憎悪、その根本が揺らぎ、気迫が抜けた僅かな間。

しかし、その間も事態は進行する。
剣は、モーションに会わせてナデシコを切り裂かんと進む。

「テニアぁぁああああああ!!!」

自分でも気がつかないうちに、彼はそう叫んでいた。
最後の、ギリギリの地点で、停止の脳波が送られ、剣の軌跡が、格納庫からそれる。
その一撃は、ナデシコの表面を大きく切り裂きはしたが、けして致命傷にはならなかった。

ヴァイサーガは、そのままどこかのビルの上へ着地する。

299Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:58:05



振り返った先には……テニアの乗るマシンがこちらへ向かってきていた。



【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:呆然、虚脱。
 機体状態:EN55%、各部に損傷
 現在位置:F-1市街地(ヴァイクラン内部)
 第一行動方針:???
 第二行動方針:首輪の解析を試みる
 第三行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める
 第四行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 最終行動方針:???
 備考1:首輪を所持】

【ガロード・ラン 搭乗機体:なし
 パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
 機体状況:なし
 現在位置:F-1市街地(ナデシコ医務室)
 第一行動方針:???
 第二行動方針:勇、及びその手がかりの捜索
 最終行動方針:ティファの元に生還】


【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)
 パイロット状況:神経圧迫により発声に多大の影響あり。
      ナデシコの機能でナデシコ内でのみ会話可能。
 機体状況:MS形態
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 現在位置:F-1市街地(ナデシコシャワー室)
 第一行動方針:???
 最終行動方針:自分の歌で殺し合いをやめさせる
 備考:自分の声が出なくなったことに気付きました】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:気絶中
 機体状態: ダメージ蓄積(小)、胸に裂傷(小)、ジャガー号のコックピット破損(中)※共に再生中
 現在位置:F-1市街地(ナデシコ医務室)
 第一行動方針:勇の捜索と撃破
 第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

【ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている。現在起動中
 現在位置:F-1(ナデシコ格納庫内)】

【旧ザク(機動戦士ガンダム)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好
 現在位置:F-1(ナデシコ甲板) 】

【マジンガーZ(マジンガーZ)
パイロット状態:パイロットなし
機体状態:装甲にダメージ蓄積・ドリルミサイル10数ほど消費・ルストハリケーン一発分EN消費
備考:飛ばした腕も回収して、今はあります】

300Lonely Soldier Boys &girls 修正版:2009/02/10(火) 10:58:36
【ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:EN100%、ミサイル90%消耗
 現在位置:F-1市街地
 備考1:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガス、マジンガーZを収容
 備考2:ナデシコ甲板に旧ザク、真ゲッター、ヴァイクラン(起動中)を係留中】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労中、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部破損、左腕消失、マント消失
      DG細胞感染、損傷自動修復中、ヒートアックスを装備
      右拳部損傷中、全身の装甲にダメージ EN90%
 現在位置:F-1 市街地(隠れて今のやり取りを見ているかもしれません)
 第一行動方針:統夜の今からに興味深々。テンションあがってきた。
 第二行動方針:アキト、ブンドルを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:疲労中、マーダー化
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数
      EN80%
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:どうする!? どうする俺!? 
 最終行動方針:優勝と生還】

【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:激しく高揚、助かったことへの安堵
 機体状況:左腕喪失、左脇腹に浅い抉れ(修復中) 、シックス・スレイヴ損失(修復中、2,3個は直ってるかも)
        EN60%、EN回復中、マニピュレーターに血が微かについている
 現在位置:F-1 市街地
 第一行動方針:統夜との接触、利用の後殺害
 第二行動方針:参加者の殺害(自分に害をなす危険人物、及び技術者を優先)
 最終行動方針:優勝
 備考1:現在統夜が自分を助けたと思っています。
 備考2:首輪を所持しています】

【二日目12:20】

301修正 状態表:2009/02/10(火) 17:16:15
すいません、状態表はこちらを……


【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:呆然、虚脱。
 機体状態:EN55%、各部に損傷
 現在位置:F-1市街地(ヴァイクラン内部)
 第一行動方針:???
 第二行動方針:首輪の解析を試みる
 第三行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める
 第四行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 最終行動方針:???
 備考1:首輪を所持】

【ガロード・ラン 搭乗機体:なし
 パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
 機体状況:なし
 現在位置:F-1市街地(ナデシコ格納庫)
 第一行動方針:???
 第二行動方針:勇、及びその手がかりの捜索
 最終行動方針:ティファの元に生還】


【熱気バサラ 搭乗機体 プロトガーランド(メガゾーン23)
 パイロット状況:神経圧迫により発声に多大の影響あり。
      ナデシコの機能でナデシコ内でのみ会話可能。
 機体状況:MS形態
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 現在位置:F-1市街地(ナデシコ格納庫)
 第一行動方針:???
 最終行動方針:自分の歌で殺し合いをやめさせる
 備考:自分の声が出なくなったことに気付きました】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:気絶中
 機体状態: ダメージ蓄積(小)、胸に裂傷(小)、ジャガー号のコックピット破損(中)※共に再生中
 現在位置:F-1市街地(ナデシコ医務室)
 第一行動方針:勇の捜索と撃破
 第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

【ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている。現在起動中
 現在位置:F-1(ナデシコ格納庫内)】

【旧ザク(機動戦士ガンダム)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好
 現在位置:F-1(ナデシコ甲板) 】

【マジンガーZ(マジンガーZ)
パイロット状態:パイロットなし
機体状態:装甲にダメージ蓄積・ドリルミサイル10数ほど消費・ルストハリケーン一発分EN消費
備考:飛ばした腕も回収して、今はあります】

302修正 状態表:2009/02/10(火) 17:17:11
【ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:下部に大きく裂傷が出来ていますが、機能に問題はありません。EN100%、ミサイル90%消耗
 現在位置:F-1市街地
 備考1:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガス、マジンガーZを収容
 備考2:ナデシコ甲板に旧ザク、真ゲッター、ヴァイクラン(起動中)を係留中】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労中、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染
 機体状況:全身に弾痕多数、頭部破損、左腕消失、マント消失
      DG細胞感染、損傷自動修復中、ヒートアックスを装備
      右拳部損傷中、全身の装甲にダメージ EN90%
 現在位置:F-1 市街地(隠れて今のやり取りを見ているかもしれません)
 第一行動方針:統夜の今からに興味深々。テンションあがってきた。
 第二行動方針:アキト、ブンドルを殺す
 第三行動方針:皆殺し
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:疲労中、マーダー化
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数
      EN80%
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:どうする!? どうする俺!? 
 最終行動方針:優勝と生還】

【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:激しく高揚、助かったことへの安堵
 機体状況:左腕喪失、左脇腹に浅い抉れ(修復中) 、シックス・スレイヴ損失(修復中、2,3個は直ってるかも)
        EN60%、EN回復中、マニピュレーターに血が微かについている
 現在位置:F-1 市街地
 第一行動方針:統夜との接触、利用の後殺害
 第二行動方針:参加者の殺害(自分に害をなす危険人物、及び技術者を優先)
 最終行動方針:優勝
 備考1:現在統夜が自分を助けたと思っています。
 備考2:首輪を所持しています】

【二日目12:20】

303名無しさん:2009/02/11(水) 20:54:25
タービンが猛回転し、伸ばした左腕が天井を砕き抉る。
ほどなくして、騎士凰牙は薄暗い地下通路から青空の下へとその身を晒す。
ソシエは傍らのロジャーに目をやった。浅い呼吸を繰り返す彼は、しばらく起きそうにもない。
ロジャーは気絶する前に南西に向かえと言っていた。
久々に思う存分機械人形を動かせると幾分高揚しつつ、現在位置を確認するためぐるりと辺りを見回したソシエの視界に巨大な影が飛び込んできた。

先頃交戦した、無敵戦艦ダイ。その残骸が――

そういえばロジャーからこの機体の説明を聞いた――無理やり聞きだした――とき、補給を行う際は通常の補給ポイントではなく専用の電池を用いるということだった。
ロジャーが携帯していた巨大な電池は四本。現在のエネルギー残量からして補給を行っておくのは妥当ではある。
が、手持ちの電池を消費すればそれだけ継続して動ける時間は短くなる。
ここはロジャーが一時身を寄せていて、予備の電池を置いてあるという話のダイに立ち寄っておくべきだとソシエは判断した。



近寄って見上げてみれば、酷い有様だった。
二匹の怪獣の上に要塞が設置されたその巨体も、今は艦橋部分は切り刻まれ、主砲は半ばから砕け落ちている。
最も目を引く怪獣も、右の方は頭自体が消し飛んでおり、左の頭は原形こそ保っているものの傷だらけだ。
八本ある足も二本が欠落し、他にも至るところで損傷が見て取れる。
素人目にももはやこの戦艦は死んでいるのだと知れた。
おそらくは、動かしていたパイロット――艦長もまた。

「ごめんなさい……と言うのも今さらよね。私達が来なければ、こうはならなかったんだし」

半日というほど前でもない戦闘を思い出し、沈む気持ちを頬を張ることで叱咤する。
今は後悔している時間ではない。騎士凰牙もダイの巨体によじ登らせ、格納庫があると思われる位置を探す。
タービンが唸りをあげて、隔壁を粉砕。ダイの内部に通じる穴が空いた。
だだっ広い格納庫へと足を踏み入れ、周囲を探索する。やがて騎士凰牙が携帯するものと同型の電池を発見した。
片腕に手間取りつつも、滞りなく補給は完了した。だが――

「これだけ大きな戦艦だったら、一つくらい私が乗れそうな機械人形だってあるわよね。いいえ、あるに違いないわ」

どうにも人の機体に間借りするだけでは座りが悪いソシエは、自分の乗機を求めて更に格納庫内を探索する。
ホワイトドールとは言わないまでもせめて普通に戦える機械人形なら何でもいいと思っていたソシエだったが、見つけた物は機械「人形」ではなかった。

「……こんなものしかないの?」

整然と並ぶ小型の戦闘機。10や20ではきかないだろう、おそらく100機以上はある。
だが、逆に言えばそれだけしかない。期待していた強力な機械人形は影も形もなく。
騎士凰牙から降りて手近な戦闘機へと乗り込んでみた。
首輪は操縦の仕方を送ってこない。怪訝に思いつつ、しかし慣れた手つきで計器を確認していく。
以前乗りまわしていたレシプロ機とは多少勝手が違うものの、所詮は同じ戦闘機だ。なんとなくだが、操縦できるだろうという確信が持てた。
機首からよくわからない光線が出るらしい。武装はそれだけだった。

304名無しさん:2009/02/11(水) 20:55:02
「って、ちょっと! ミサイルとかビーム砲とかはないの!? どうやって戦えってのよ!」

苛立ち紛れにコンソールを蹴り付けた。これではたとえ操縦できたとしても何の戦力にもならない。
戦闘機を降りて騎士凰牙へと戻る。これなら借りものとはいえこちらのほうがマシだ、と思っていれば。

「お帰り、お嬢さん。何か宝物でも見つかったかい?」

コクピットではロジャー・スミスが組んだ腕に顎を置き待っていた。

「あら、もう起きたの? もうちょっと休んでても良かったのに」
「私もそうしたかったのだが、運転手が手荒い運転をしてくれたようでね。あちこち頭をぶつけてしまって、ろくに夢を見れなかったよ」

起きたロジャーはもう騎士凰牙の操縦権を譲るつもりはないとばかり、シートから腰を上げず。
ソシエは渋々ながらその隣りへと腰を下ろした。

「それで、ここはどこかね? 見た限り何らかの施設のようだが」
「ダイっていう戦艦の中よ。あなたも知ってるでしょう」

ここに来た経緯を説明する。手持ちの電池を無駄に使わなかったことは、この慇懃な男もさすがに礼を述べてきた。
気を良くしたソシエは先程見つけた戦闘機のことも自慢げに口に出してしまった。操縦できそうだが、武装が貧弱すぎて使えない。そんな愚痴までこぼして。
戦闘機をこき下ろすあまり、その一瞬ロジャーの目が細められたことは気付かないソシエだった。

「その戦闘機を調べてみよう、ソシエ嬢。何かに使えるかもしれん」

というロジャーの言葉、二人で戦闘機をあれこれと調べる。
だが先程乗ってみた以上のことはわからずお手上げとばかりロジャーに声をかけようとして、彼が戦闘機そのものではなくそれに対応するコンソールをいじっているのが見えた。
どうやらまだ動力は生きているようで、何やら次々に移り変わる画面を見てうむ、むう、これは、などと独り言を漏らしているロジャー。、

「ちょっと、どうしたのよ。何か見つけたの?」
「ああ……いや、見つけたというかな。これらの戦闘機は、手動で動かすこともできるが基本的には無人機のようだ」
「無人機っていうと、人が乗らなくても勝手に動くってこと?」
「ああ。本来そういう設計なのかは知らないが、ことこのゲームに置いてこれだけの機数を有人で運用するのは現実的に不可能だ。
 ユリカ嬢がこれらを使わなかったのは、細かな目標の指定ができなかったからだろう。
 誰それを攻撃しろとは命令できても、臨機応変に変化するこの戦場ではそれだけでは使えん。説得する相手を撃ってしまえば何の意味もない。
 ブリッジにもっと人員がいれば対応も不可能ではなかっただろうが、彼女は一人でこの戦艦を動かしていたようだからな」
「ふーん……で、結局何かに使えそうなの?」
「いや、どうやらこれらを無人で制御できるのはこの艦を中心とする1エリアのみのようだ。移動不能となった現状、1エリアしか稼動できん戦闘機に戦力は期待できんな」
「なんだ、期待して損した気分だわ。じゃあさっさとここから出ましょ」
「いや、それは早計だ。戦闘には使えないが、エリアの探索という点ではこれ以上手っ取り早いものもない。
 このエリアにに人がいるかどうか、確かめてからでも遅くはないだろう」

言いつつ、コンソールを操作するロジャー。やがて戦闘機は一機、また一機と動き出し、解放されたハッチから飛び出していく。
ものの10分ほどで、戦闘機がひしめき合っていた格納庫は閑散とし、広く感じるようになった。
その中に一機。ソシエが調べていた戦闘機の身が飛び立つことなく取り残されていた。

305名無しさん:2009/02/11(水) 20:55:36
「ねえ、ロジャー。どうして一機だけ残したの?」
「いい質問だ、ソシエ嬢。あれは君が乗るために残したのだよ」
「……ハァっ!? ちょっと、嫌よ! 戦えないって散々説明したじゃない!」
「だが私は戦闘機の操縦などというメモリーは持っていない。首輪が反応しなかったということは、操縦の仕方のわからない私が乗るのは不可能だということだ。
 ならば、戦闘が不可能とはいえ少なくとも操縦はできる君が乗るのが筋だろう?」
「私が乗ったって、役に立たないどころか逆に危ないじゃない。いっしょにこの機械人形に載ってる方が安全よ」
「安全という意味ではその通りだが、役に立たないということはないな。理由はあれだよ」

と、騎士凰牙が抱える電池を指し示すロジャー。

「騎士凰牙はこの電池でしか補給を行えない。しかし一度に持ち運べるのはどうやっても四本が限界だ。
 そこで君の出番となる。このダイにある残り四本の電池を、君に運んでもらいたいのだ」
「私に荷物持ちをやれって言うの?」
「役割分担だと思ってくれたまえ。私としても戦闘を行うのは本意ではないが、止む無くそうせざるを得なくなったとき君が同乗していては全力を出せないのだ」
「むう……」
「すまないがここは譲れんよ。レディに戦わせるなど、紳士として恥ずべきことだ」

さっきはともかく、ロジャーはソシエを積極的に戦わせるつもりはないと言いたいようだ。
ロランみたいなことを言う、と少し不満に思ったものの。我を通して足を引っ張ってしまうのはソシエとてお断りだ。

「……わかったわ。でも、この先新しい機械人形を見つけたらそれには私が乗る。私にだって、生きて帰るために戦う権利はあるでしょう」
「やれやれ……ああ、今はそれでいいさ。とりあえずは……おっと、戦闘機達がいろいろ見つけたようだ。君も見たまえ」

ため息をついたロジャーが、こちらを手招きする。彼の覗きこむ端末には、発進した戦闘機が観測した映像が映し出されていた。
目を引いたのは、白い機械人形と緑の機械人形。
片方はソシエの知っている、そしてもう片方はロジャーの知る機体だった。

「武蔵……」

白い方、ホワイトドールによく似た機体――RX-78ガンダム。仲間が、武蔵が乗っていた機体。

「…………」

緑の方、龍を模した腕を持つ機体――アルトロンガンダム。かつてロジャー達を襲った少年、交渉に失敗した相手。

二機は奇しくも同じような傷跡が穿たれている。胴体中央、コクピットを撃ち抜かれている――そこに至る過程は違えども。

武蔵はテニアに、仲間と信じていた少女に背中から撃たれた。
キラは何か事情があるのかもと言った。先の交渉でもソシエは口を挟まなかった。
しかし、こうして武蔵の最期を見ると、やはり忸怩たるものがソシエの胸中を満たす。

名も知らぬ少年は、ロジャーとの戦闘中に飛び込んできたガイによって倒された。
そのことでガイを責めるのは筋違いだろう。彼はロジャー達を助けようとしたのであり、あの場でより危険だったのは明らかにあの少年だったのだから。
結局は説得に失敗した己の不手際だと、深く悔恨を噛み締めるロジャー。

306名無しさん:2009/02/11(水) 20:56:18


しばし二人を静寂が包み込む。自分を責めている風のロジャーを見、ソシエがなんとか空気を変えようと端末を覗き込む。
そこにはもうさして目を引くものはなかったが、それでも一つ。話の種になりそうなものを見つけた。

「ねえ、ロジャー。これって凰牙の腕じゃないの?」

ソシエが示したのは、緑の機械人形の残骸からほど近いところに落ちている黒い腕。
紛れもなく、ロジャー自身が少年に叩き落とされた騎士凰牙の左腕だった。

「……あのとき切り落とされたものか。戦闘の余波で破壊されたと思っていたが、そうではなかったか」
「ねえ、これを回収してくっつけましょうよ! そしたら凰牙はもっと強くなるでしょう?」
「ふむ――いや、回収するのはいいが、現時点で補修するのは止めた方がいいな」
「どうしてよ? さっきだって両腕があれば、逃げずに勝てたかもしれないでしょう?」
「いくつか問題があるからだ。 まず一つ、私には修復作業を行うメモリーはない。
 乗りなれたビッグオーならともかく、昨日今日初めて乗った機体を手探りで修理することは困難だ。それは君とて同じだろう?
 二つ、そんな時間はない。よしんば修理できるとしても、相当の時間がかかるだろう。我々がまず優先すべきはナデシコとの合流だ。
 戦力の充実と引き換えに時間を浪費するのは得策ではない」
「むー……じゃあ置いてくの? もったいないわよ。それにここの設備を使わなきゃこの先いつ直せるかわかんないでしょう」
「そうは言っていない。三つめの理由だが、我々にはJアークがあるだろう。
 あの艦の設備はここに負けてはいない。腕を持って行きさえすれば、向こうでも修理は可能だということだ。
 キラ君にも手伝ってもらえるし、トモロのサポートがあった方が効率的だ。
 以上の理由で、ここでの修理は先送りにする。反論は?」
「はいはい、わかりました! じゃあ、電池と一緒にあれも私が運べばいいのね」
「理解が早くて助かるよ、ソシエ嬢。我々も息が合ってきたのではないかね?」
「お断りよ! カラスみたいなカッコの人と気が合うなんてごめんだわ」
「……君には一度、じっくりと私の美学のなんたるかを教授せねばならんようだな」


          □


正午まであと数十分という時間、B-1地点。
騎士凰牙と、ハイパーデンドー電池4本に騎士凰牙の左腕を取り付けた恐竜ジェット機は、地図北西に位置する市街地へとやってきた。
だがそこには期待していたナデシコの船影はなく。

「入れ違いになった……か? ふむ、まずいことになったな」
「どうするの? とりあえず二つの市街地を回っていなかったんだから、一旦キラのところに戻る?」
「そう……だな。接触できたのがナデシコの別動隊と、許しがたいチンピラのみというのは甚だ遺憾ではあるが……」

現在の位置からキラのいるE-3に向かうとすれば、途中立ち寄れる市街地はE-1かD-3のどちらか一方。
ナデシコがどこに行ったのかは分からないが、可能性としてはやはり市街地が大きい。
ではどちらを経由するかだが――

「ねえ、私が――」
「別行動は却下だ。君が乗っているのはまともに戦える機体ではないということを忘れるな」

ソシエが提案する前に、先回りして潰す。
手分けすれば確かに両方を回れるが、もし彼女が敵に遭遇した場合応戦どころか撤退すら危うい。
分散ができないとなれば、どちらかを選ばなければならないのだが、その判断の基準がない。
移動距離はどちらも同じくらいだ。どちらを選ぼうが、ナデシコがいないのなら結果的にE-3に到達する時間は同程度だろう。
どちらを選ぶか――迷うロジャー。常の彼なら即断するところだが、ここに来てからの度重なる失態はその自信を揺らがせるものであった。

モニター越しに遥か彼方を睨み据えるも、一向に判断は下せなかった。

307名無しさん:2009/02/11(水) 20:57:03


















そして、遠くビルの上からそんな彼と彼女を見つめる猪と、蛇。その視線にも、気付かないまま――






【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
       側面モニターにヒビ、EN100%
 現在位置:B-1 市街地
 第一行動方針:さて、どうするか……
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機所持
 備考2:ギアコマンダー(黒)と(青)を所持
 備考3:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考4:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)携帯】



【ソシエ・ハイム 搭乗機体:恐竜ジェット機
 パイロット状況:右足を骨折
 機体状態:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)、騎士凰牙の左腕を携帯
 現在位置:B-1 市街地
 第一行動方針:どうすんのよ、ロジャー
 第二行動方針:ブタ?
 第三行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第四行動方針:もっといい機体が欲しい
 最終行動方針:主催者を倒す
 備考1:右足は応急手当済み
 備考2:ギアコマンダー(白)を所持 】


※備考(無敵戦艦ダイ周辺)
 ・首輪(リリーナ)は艦橋の瓦礫に紛れています


【二日目11:40】

308膨れ上がる悪夢:2009/02/12(木) 11:07:20
静寂を保つ基地。
静寂を望むもの巣食う地で、蒼い昆虫王は立ち尽くす。


彼の者は、鋼鉄の棺の中、思考する。
考えるは、先ほどの戦闘。状況、戦況の推移を何度となく反芻。問題点を認識する。
さらなる選別のため、必要なことは何か。そのために欠けているものは何か。
足元に転がる始まりの地より外れた星の兵器を踏み潰す。脆い。しかし、一撃でしとめることができず。
逃げた兵器はけして機敏ではない。だが逃亡を許す結果となった。

結論――足りない。

力が、足りない。

攻撃力が足りない。
耐久力が足りない。
速力が足りない。

継続戦闘能力が足りない。高機動を維持するだけの推力が足らない。非実弾戦闘能力が足りない。
機体の強化に耐えうる素材が足りない。一撃の破壊力がまだ足りない。瞬発的な速度もまだ足りない。
特殊な防御手段が足りない。殲滅力が足りない。飛行能力がまったく足りない。攻撃の手段が足りない。
ディバイデッド・ライフルでは足りない。クレイモアだけでは足りない。スプリットミサイルでは足りない。
足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。
足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない。
足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない。
足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない足りない。


では、どうればいいか?

「器」の知識と、欠けた我の力を検索する。
「器」の知識――闘いの記憶――より強大な力を獲得する手段――戦いの中の変化――進化。
欠けた我の力――原初よりの記憶――生存権を獲得する手段――銀河の中の変化――進化。
演算を完了。もっとも足りてないものであり、同時に多くの足りていないものを満たす事項を検出。

「器」は見ていた。生命力を変換し、より強力な力を引き出す瞬間を。
我は知る。今の我が持たず、尊大たる我が持つものを。

すなわち、存在力。 「器」の言葉から近時の概念を発見。
存在力≒質量。質量の増幅が、現状の力の取得のため最善と判断。

今の手足を呼び起こす。向かう先にあるものを確認。
次元連結機能を搭載する予定の試作機。操作部(コクピット)へ腕を伸ばす。操作部に介入――神経を配置。
輩(トモガラ)の移植を実行――失敗。現在の我をこれ以上分割することは不可能、眷属は精製できず。
当初の予定に従い、外部より直接的な強制起動を行う。神経の配置が予定よりも遅い。
予測を半刻へ変更。これにより理解。内部機構よりの侵攻――戦闘中は使用できない。非戦闘用技能。
半刻の経過確認。指令を送る。試作機、こちらの命令に従い僅かに腕が上下。接続も確認。

命令―― 放て、充填せよ。

音を立て試作機の肩より「月の子」が射出。中空で停止後、雷雲に代わり異次元より力の収束。
超局地的な本体との接続を確認。回路を繋ぐ。末端回路へ繋ぐ。中枢回路へ繋ぐ。

309修正 状態表:2009/02/12(木) 11:08:22

光波が、今の我に降り注ぐ。満ちる形を持たない力を、質量へ変換。
銀河を塗りつぶすに足る力も、形になさねばほんの僅か。しかし、ひとたび物質となれば……
増大する。我の存在が増大する。我の質量が増大する。
人間はこの現象をこう呼ぶ――「ハイパー化」と。強念者がそれを行なう瞬間を「器」は見ていた。

「フフフ……ハハハハハハハハハハハハ」

我は取り戻す。正しく進化した力の本流。
一次元的には単純な倍加。二次元的にはの二乗。そして、三次元においては三乗。
膨れ上がる鋼鉄の肉体――鋼鉄の力。
激増する破壊力。激増する積載推進力。すべてが激増する。

しかし、突然停止。

「……?」

初期の二倍ほどで肥大化が終了。現段階ではまだ復讐者の乗る黒い進化の機体よりも小さい。
理由を思考。力の質量変化に異常――なし。次元を通して力の量――問題なし。
あらゆる機構が、問題なしと告げる。変化がない――理由不明。内部に原因なし。

「まだ……足らない」

唯一肥大化に足らないものを認識。それは、外的要因。肥大化――進化のために必須の存在。
外部からの刺激。環境の変化。「現在」進化の必要性がない。状況は変化しない。故に進化も促進しない。
「きっかけ」――特に「闘争」が必要。「闘争」――宇宙の平穏を乱す。誤った進化。
だが選別のためには「きっかけ」=「闘争」=「さらなる力」が必要。

現在の戦闘力を予測――確定事項、赤銅色の機体に苦戦しない。現状十分すぎる力。
これを持って、全てを噛み砕く。全てを撃ち貫く。
今必要なこと――無駄な力の発散。

鋼鉄の肉体の機動を停止。
周囲を確認――静寂。正しき、存在のあり方。






鋼鉄の孤狼は眠る。
もはや本来の主起きること叶わず。
その身に降りた意思は、悪夢を求め、夢を見る。





悪夢は、肥大化する。

310膨れ上がる悪夢:2009/02/12(木) 11:09:33
【キョウスケ・ナンブ  搭乗機体:ゲシュペンストMkⅢ(スーパーロボット大戦 OG2)
 パイロット状況:ノイ・レジセイアの欠片が憑依、アインスト化 。DG細胞感染。
 機体状況:アインスト化。巨大ディバイデッド・ライフルを所持。機体が初期の約2倍(=40m超え)
 現在位置:G-6基地跡地
 第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く
 第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。
 最終行動方針:???
 備考1:機体・パイロットともにアインスト化。
 備考2:ゲシュペンストMkⅢの基本武装はアルトアイゼンとほぼ同一。
      ただしアインスト化したため全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。
       ビルトファルケンがベースのため飛行可能(TBSの使用は不可)。
      実弾装備はアインストの生体部品で生成可能。
 備考3:戦闘などが行なわれた場合、さらに巨大化する可能性があります(どこまで巨大化できるのかは不明)
     オーラソードなどの装備同様、所持していた武器も巨大化します。
      胸部中央に赤い宝玉が出現】

【二日目 12:30】

311名無しさん:2009/02/12(木) 11:11:52
投下、おわりました。
当初は、武器拾って融合でしたが、駄目とのことでしたので、
漫画版のゲシュペンストMkⅢvsソウルゲイン(アクセルが飛ばされる直前の戦いですね)のネタから、巨大化を。

312名無しさん:2009/02/12(木) 22:10:35
>>306の途中から繋がるんですが、本投下したものとかぶるのでこちらに。
ガナドゥールがまだ使えると判断したんですが、どうにもグレーゾーンなので判定お願いします。

313 ◆VvWRRU0SzU:2009/02/12(木) 22:11:10
         □


正午まであと数十分という時間、B-1地点。
騎士凰牙と、ハイパーデンドー電池4本に騎士凰牙の左腕を取り付けた恐竜ジェット機は、地図北西に位置する市街地へとやってきた。
だがそこには期待していたナデシコの船影はなく。
しかし代わりというものでもないが、一つ。見つけた物もあった。
勝利者の名を冠する、蒼き流星――ガナドゥール、その敗れ果てた姿を。

初めにロジャーが呼びかけたものの反応はなく、接近してみればその理由はすぐにわかった。
おそらくはこの機体のパイロット。地面に横たえられ、胸の上で手を組まれている。
彼自身の服なのか、青いジャケットが顔に掛けられていた。

ソシエを待たせ、まずロジャーが確認する。予想通り、そこにあるべき顔はなく、首輪も抜き取られていた。
順当に考えるなら、彼――でいいだろう、おそらく――を殺した者が首輪も奪って行った、だが。
しかしそれだとこの弔うような遺体の説明はつかない。
だとするなら、彼は何らかの要因で死亡したが殺害者にはそのまま放置され、新たにやってきた第三者が首輪を取り、こうして安置したということだろうか?
いずれにせよ、今は答えは出ない。首を振り立ち上がると、ソシエが呟いた。

「ねえ、ロジャー。その人にお墓を作ってあげましょうよ。こんな淋しいところに一人ぼっちじゃ可哀想だわ」
「そんな時間は……いや、そうだな。彼が何者であるとて、死後も責めることなど誰にも出来はしない。せめて、静かに眠らせてやろう――」

騎士凰牙を使えば人一人分の穴を掘るのは容易いことだった。
顔のない青年を、穿たれた穴へと安置する。

「私の名はロジャー・スミス。君の名を知ることができないのが残念ではあるが――どうか、安らかに眠りたまえ」
「私はソシエ・ハイム。ごめんね、あなたの機械人形、使わせてもらうわ。あの化け物、私達が絶対に退治して見せるから」

埋葬を終え、ソシエがガナドゥールに乗り込んだ。
機体を見つけたら自分が乗ると言っていたソシエのこと。止めようもなかったが、その顔に浮かぶ哀悼の念を見てその必要もないかと自戒する。
彼女はただ守られるだけの存在ではない。突き付けられた理不尽に怒り、自分の力で前に進もうとする――紛れもない戦士だ。
軽く見ていたのは自分の方だったらしい。苦笑とともに、尚更死なせるわけにはいかんなと決意する。
ともかくもガナドゥールだ。頭部は全壊し、全身あらっゆるところに損傷が見られる。

「ソシエ嬢、機体の調子はどうかね? 外から見た限り、戦闘行為は厳しいように思えるが」
「うーん……動かせはするけど、戦うことは難しいわ。反応が鈍いし、出力も上がらない。
 どうも色んな部品が抜き取られているみたい。誰だか知らないけど、まったく迷惑な話ね!」

ぎこちなく立ち上がるガナドゥール。騎士凰牙とガナドゥールはほぼ同サイズで、目線はほぼ対等の位置にある。

「そうか。ではこれまで通り、交渉は私に任せてもらおう」
「そこは『戦闘は任せてもらおう』、じゃないの? それにね、たとえこの機械人形自身が戦えなくても、援護くらいはできるわ。
 テニアの機体みたいな、勝手に飛び回る武器が付いているのよ。私だってやってみせるわ」
「む。しかしだな、ソシエ嬢。援護くらいとは言っても、その状態では無謀だ」

314名無しさん:2009/02/12(木) 22:12:12
「ロジャー。最初から無茶だ無謀だなんて言っていたら、それこそ何もできないわ。
 私は何もしないで後悔するくらいなら、まずやってみてそれから後悔する方を選ぶ。だって、その方が少しでも前に進んでいる気がするでしょう?」

朗らかに笑うソシエ、参ったとばかりに両手を掲げるロジャー。
ひたむきに前を向いて歩ける。これが大人と子どもの違いなのか、と柄にもないことを考えて。

「では、ナデシコの捜索に移ろう。と言っても、あの目立つ艦がそうそう見つからんということも考えられないが」

言って、市街地を歩き始める二機の巨人。
母なる星を救うべく奔走し、流星のように散っていった戦士の墓を後にした。





しかし、数十分の捜索にも関わらずナデシコは見つからなかった。

「入れ違いになった……か? ふむ、まずいことになったな」
「どうするの? とりあえず二つの市街地を回っていなかったんだから、一旦キラのところに戻る?」
「そう……だな。接触できたのがナデシコの別動隊と、許しがたいチンピラのみというのは甚だ遺憾ではあるが……」

騎士凰牙の欠けた左腕、そしてガナドゥール。Jアークで修理すれば、どちらもより万全な状態へと持っていけるだろう。
現在の位置からキラのいるE-3に向かうとすれば、途中立ち寄れる市街地はE-1かD-3のどちらか一方。
ナデシコがどこに行ったのかは分からないが、可能性としてはやはり市街地が大きい。
ではどちらを経由するかだが――

「ねえ、私が――」
「別行動は却下だ。君の機体は今まともに戦える状態ではないということを忘れるな」

ソシエが提案する前に、先回りして潰す。
手分けすれば確かに両方を回れるが、もし彼女が敵に遭遇した場合応戦どころか撤退すら危うい。
分散ができないとなれば、どちらかを選ばなければならないのだが、その判断の基準がない。
移動距離はどちらも同じくらいだ。どちらを選ぼうが、ナデシコがいないのなら結果的にE-3に到達する時間は同程度だろう。
どちらを選ぶか――迷うロジャー。常の彼なら即断するところだが、ここに来てからの度重なる失態はその自信を揺らがせるものであった。

モニター越しに遥か彼方を睨み据えるも、一向に判断は下せなかった。

315名無しさん:2009/02/12(木) 22:13:00


















そして、遠くビルの上からそんな彼と彼女を見つめる猪と、蛇。その視線にも、気付かないまま――






【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
       側面モニターにヒビ、EN100%
 現在位置:B-1 市街地
 第一行動方針:さて、どうするか……
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機所持
 備考2:ギアコマンダー(黒)と(青)を所持
 備考3:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考4:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)携帯】



【ソシエ・ハイム 搭乗機体:ガナドゥール
 パイロット状況:右足を骨折
 機体状態:頭部全壊、全体に多大な損傷 駆動系に障害 機体出力の低下
 現在位置:B-1 市街地
 第一行動方針:どうすんのよ、ロジャー
 第二行動方針:ブタ?
 第三行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第四行動方針:この機械人形を修理したい
 最終行動方針:主催者を倒す
 備考1:右足は応急手当済み
 備考2:ギアコマンダー(白)を所持
 備考3:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)、騎士凰牙の左腕を携帯 】


※備考(無敵戦艦ダイ周辺)
 ・首輪(リリーナ)は艦橋の瓦礫に紛れています


【二日目11:40】

316 ◆VvWRRU0SzU:2009/02/12(木) 22:15:03
投下終了

317破滅の足音 ◆7vhi1CrLM6:2009/02/18(水) 23:13:55
『どれほどもつと思う?』
『データが不足しているが、このままの速度ならばまだ数日は大丈夫だろう』
『そうか……もう一つ。扉を開けられるタイムリミットは?』

扉を開けるということは、綻びを掻き回すことと同義。強引に綻びを、空間の傷口を広げるのだ。
それに耐えられるだけの強さを空間が持っている内に、全てをやらねばならない。だがその残された時間は――

『現時点では正確な判断はできないが、三十六時間以内には必ず迎えるだろう』



【アムロ・レイ 搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91)
 パイロット状況:健康、若干の疲労
 機体状態:EN40% ビームランチャー消失 背面装甲部にダメージ  ビームサーベル一本破損
       頭部バルカン砲・メガマシンキャノン残弾60% ビームライフル消失 ガンポッドを所持 
 現在位置:D-3南部
 第一行動方針:協力者を集める
 第二行動方針:首輪の解析
 第三行動方針:基地の確保
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している  ガウルンを危険人物として認識
    首輪(エイジ)を一個所持】

【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・Sボーゲル(マクロス7)
 パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。疲労(大)
 機体状況:オクスタン・ライフル所持 反応弾所持 EN40%   左肩の装甲破損
 現在位置:D-3南部
 第一行動方針:しばらくはJアークに同行する
 第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」
 第三行動方針:首輪の解析
 第四行動方針:遭遇すればテニアを討つ
 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる
 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識
 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態
 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能】

【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
 パイロット状態:良好(主催者に対する怒りは沈静、精神面の疲労も持ち直している)
 機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊 ビームナイフ所持
 現在位置:D-3南部
 第一行動方針:他の参加者との接触
 第二行動方針:E-1へ。可能ならナデシコと合流
 第三行動方針:サイバスターが認め、かつ主催者に抗う者にサイバスターを譲り渡す
 第四行動方針:閉鎖空間の綻びを破壊
 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
 備考1:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能
 備考2:空間の綻びを認識
 備考3:ガウルンを危険人物として認識
 備考4:操者候補の一人としてカミーユに興味
 備考5:ユーゼスが解析した首輪のデータを所持(ただし改竄され不完全なため、単体では役に立たない)】

【二日目 13:15】

318 ◆7vhi1CrLM6:2009/02/18(水) 23:15:03
ラスト1レスでさるさんくらってしまった。
支援してくださった方ありがとうございました。

319 ◆YYVYMNVZTk:2009/03/02(月) 03:20:01
さるさんくらったのでこちらに投下
気づいた方転載してくださると幸いです

320 ◆YYVYMNVZTk:2009/03/02(月) 03:20:37
たった五文字で通じてしまう。俺たちの距離は、こんなに近かったっけ?
いや、今は余計なこと、考えなくてもいいんだ。
視界の隅に、黒が現れた。ガウルンの乗るガンダムだ。放たれた光弾が、ナデシコから飛び出そうとした機体の注意を引く。
その一瞬の隙をつき、俺たちは走り出した。
何処へ向かうかなんて考えてなかった。ただ、少しでも早く二人だけになりたかった。

 ◇

久しぶりに、統夜と会った気がする。
実際のところ、どのくらい会ってなかったんだろう。
うーん……一日くらいしか経ってないんだけどなぁ。
でもさ。
やっぱり統夜は、統夜だった。
アタシを助けてくれるヒーローだった。
そして二人で逃げ出した。
今ここは、どのあたりなのかな。
統夜に連れられて、とにかく逃げて――こんな感覚は久しぶりだった。
周りに誰もいないような、見渡す限りの草っぱらまで辿りついて、ようやく統夜は止まった。
そして――二人きりになったと、ようやく感じる。
うん。ようやく。
本当の意味で、私たちは二人きりになってしまった。
カティアも、メルアも、ついでにあのグ=ランドンも。
皆死んでしまったから、残ったのはアタシと統夜だけになった。
もし今、生き残っている人たちが皆生きて帰れるハッピーな展開があったとしても、アタシと統夜にとってそれはハッピーエンドなんかんじゃない。
統夜はカティアが死んだことを悲しんで、ずっと生きていかなくちゃいけないんだろう。
アタシはそんな統夜を見て、死ぬまで独りぼっちかもしれない。
たった一日で、アタシたちは変わってしまった。変わらざるを得なかったんだと思う。
変わらないと、耐えられなかった。
メルアが死んだことも――カティアを殺したことも――きっと昔のままのアタシだったら、耐えきれなかっただろうな。
昔、だなんて変だね。
でも、もうあの時間は――統夜と、アタシたち三人が仲良く過ごせていたあの頃は――もう、大昔のことだったんじゃないかと、そう思っちゃう。

「……テニア」

統夜は一体何を考えてるんだろう。
アタシには、今の統夜が分からなかった。
なんだか今の統夜は、アタシが知っている統夜じゃないけど、でも確かに統夜なんだっていう変な感覚。
この違和感が何から来るものなのか、アタシは知りたかった。
統夜のことをもっと知りたいから――なんて、おセンチな理由じゃないよ。
ただ単に、統夜がアタシを守る騎士として、ちゃんと頑張ってくれるのかどうか、それだけは知っておかなくちゃいけなかったから。

「俺、ちゃんとテニアと話したいんだ……聞きたいことも、たくさんあるんだ」
「いいよ。じゃあ……何から話す?」
「その前に、機体から降りないか? ちゃんと向かい合って話したいからさ」

そう言って統夜は、自分から先に降りて、草原に立った。
こんなことが出来るのは、きっとアタシのこと信用してくれてるからなんだろう。
もしここでアタシがベルゲルミルの足をちょっと動かせば、たちまち統夜は潰れて死ぬ。
そんなこと想像もしてないからこんなことが出来るんだと思う。
そしてアタシは……統夜がアタシを殺そうとするなんて思わなかったから、ベルゲルミルから降りた。

「ん。……統夜、何だか印象、変わったんじゃない?」
「そうかな? ……まぁ、色々あったから。そういうテニアも……いや、あんまり変わってないように見えるな」

321 ◆YYVYMNVZTk:2009/03/02(月) 03:21:25
力無く笑う統夜は、アタシが期待してた統夜じゃなかった。
なのにさ……ずるいよね。この統夜は、アタシが……いや、アタシたちが好きだった統夜にそっくりなんだよ?
それじゃあさ、この統夜がどんなに頼りなくっても、期待しちゃうじゃん。
会ったらアタシが利用してやるー! なんて考えてたけど、アタシじゃなくて、統夜がなんとかしてくれるんじゃないかって思っちゃうよ。
だって統夜なんだもん。
統夜なら、アタシが出来っこないことでもやってくれるって、そんな気がするから。
……アハハ、なんだか柄じゃないよね、こういうの。

「それで話したいことって何?」
「聞きたいことがある。テニアが今まで、どうやって生き延びてきたのか」

アタシは喋ったよ。
基本はナデシコで喋ったことと同じ。
メルアとカティアが殺されて、命からがらJアークから逃げ出してナデシコに転がり込んで、ようやく安心したと思ったら勘違いでナデシコ組に殺されそうになった。
そんなことを感情を込めながら、昔のアタシならこう話しただろうなって話し方で統夜に伝えた。

「だから……あの時統夜に助けてもらえて、本当に嬉しかった。またこうして統夜と話せるなんて夢なんじゃないかっておもっちゃうくらい」
「俺もだよ。俺も……ずっとテニアに会いたかった」
「え?」
「あ……いやいや、そんな意味じゃなくってさ……その、何て言うか」

顔を真っ赤にして照れる統夜が無性に可愛くて、久しぶりに声を上げて笑った。
あははははははと、大きな声で笑ったら、なんだか心がすっきりとした。

「あはは……そんな慌てなくてもいいのにさ。それで? それで統夜は今までどうしてたの?
 統夜のことだから、またどこかで女の子でも助けてたりしたんじゃない?」

何の気なしに言った言葉だったのに、それで統夜は顔を曇らせてしまった。
――何でだろ?
統夜に感じた違和感が何だったのか、アタシはよく考えてなかったのかもしれない。

「俺はさ……最後の一人になろうとしてたよ」

統夜の口からそんな言葉が出てくるなんて思いもしてなかった。
多分この時のアタシは、とても間抜けな顔をしてたと思う。
だってそうでしょ? 統夜が殺し合いに乗るだなんて……考えられない。
なのに統夜はまだまだ喋っていく。

「最初は生き残りたかっただけだったんだ。何度か戦って……でも、誰も殺すことはなかった。
 でも、やってしまったんだ」

何を、とははっきり口にしなかった。
だけど何のことなのか、アタシには良く分かる。
段々と、血の気が引いていくのを感じていた。

「その後は半ば自棄だった。また戦って、戦って……その後だったよ。俺がガウルンと手を組んだのは」

完全に血の気が引いた。
アウト。どう考えてもこれはアウト過ぎる。
ガウルン――唯一、殺し合いへの意思をはっきりと見せた相手。
ガウルンからアタシがやったことをばらされてたら、完全にアウト。

「聞いたよ。テニアが何をやったのか」

はい死んだ! アタシ今死んだよ!?
……なのに統夜は、何故か優しげな笑みを浮かべていた。

322 ◆YYVYMNVZTk:2009/03/02(月) 03:22:03
「聞いた時は、テニアのことを凄く恨んだ。お前ら三人があの日、俺の前に来なかったら……きっと俺は、こんな殺し合いにも巻き込まれずにすんだんだろうって。
 そう思ってたから、テニアがやったことを聞いて、なんて自分勝手な奴なんだって起こったんだよ。
 でもやっぱり、実際にテニアと会ってしまったら……テニアの声をもっと聞きたいなんて思ってしまったんだ。
 さっき、出会った頃のこと、思いだしてるって言ったのはさ、俺が自分から戦おうって思ったのは……お前らを守ろうって、そう思い始めたからなんだって思い出したんだよ。
 こうやって話して分かったんだ。少なくとも俺は、テニアを殺すことが出来ない。
 覚悟を決めたつもりだったのに、やっぱり大事な人は殺せない。――俺が言いたいのは、それだけだ。
 テニアに、ガウルンから聞いたことは本当だったのか聞くつもりだったんだけどさ……やっぱりそれも、どうでも良くなってしまった」

……それってさ、ずるいよ。
自分だけ言いたいこと全部言っちゃって……ずるいよ。
そんなこと言われたら……アタシだって、統夜のこと、思いだしちゃうじゃない!
アタシの中で統夜は英雄だった。誰よりも強い存在だった。
カティアと結ばれたときだって、それが統夜の選択ならって、そうやって身を引いた。
……それに、大事な人は殺せないって、だから統夜は優しいんだよ。
そんなことを言われちゃったら……アタシは、何も言い返せない!
本当は殺したくなかったなんて、そんな言い訳もできない。
アタシはカティアが目を覚ましたその時に、怖くなって力を込めて……殺したんだよ!
カティアだけじゃないメルアだって目の前で殺されたのに、アタシは何も出来なかった。見殺しにしたんだ。
そんなアタシがさ、優しい統夜の隣にいられるわけないじゃん。
ただ優しいってだけなら、比瑪だっていたけど、でも、統夜と比瑪じゃ全然意味が違う。
だって……だってアタシも、こうやって話してて、統夜のことが殺せるだなんて思わないんだもの!

……あーあ、駄目だ。やっぱりアタシは――どうしようもなく統夜のことが好きなんだ。
好き。大好き。愛してる。いくら言葉があっても足りないくらいの気持ちがアタシの中にある。
メルアを見殺しにしたアタシでも、カティアを殺したアタシでも、武蔵を撃ったアタシでも、オルバを置き去りにしたアタシでもない。
ただの恋する少女なフェステニア=ミューズになってしまうんだ、統夜の前では。

「あのさ……」

口が勝手に動いていた。
アタシがやってきたことを、全部話してしまう。
どうせなら、カティアを殺したときに狂ってしまえば良かったんだ。
半ば理性を持って、狂ったつもりになって。そしてそのことを統夜に気付かされてしまって。
統夜は「それでもいい」だなんて優しい言葉を吐く。
だからずるい。そんなことを言われたら期待してしまう。
今度こそ、アタシが選ばれるんじゃないかって。
大粒の涙がぼろぼろとこぼれていく。
いつの間にか統夜も泣いていた。
子供みたいに、二人でわんわん泣いた。

「ねぇ、統夜……アタシもさ、統夜と一緒に生きたい。生き延びたい。もっと二人で色んなことしたい」
「俺も、まだまだやりたいことがあって、その隣に誰かにいて欲しい」
「いいの? アタシで。アタシは、最悪な女だよ。酷いんだよ」
「いいさ。俺だって最悪だよ。でも――テニアが欲しいんだ」
「ねぇ統夜、もっと強く抱きしめてよ。何もかも忘れちゃうくらいに、強く……」

初めて触れる統夜の胸の中で、アタシは多分、世界で一番幸せで可哀想な少女になった。
こんな巡り合わせを神様が決めてるんだとしたら、きっとその神様は残酷だ。
なんでこんなところで、って思う。アタシがあんなことをした後にこんな幸せを与えるなんて。
でもアタシは神様に言いたい。ありがとうって。
もう一度言うよ。アタシは今、幸せ。

323 ◆YYVYMNVZTk:2009/03/02(月) 03:22:35
【紫雲統夜 登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:昂揚
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数
      EN80%
 現在位置:H-1
 第一行動方針:??? 
 最終行動方針:テニアと生き残る】

【フェステニア・ミューズ 搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:幸福
 機体状況:左腕喪失、左脇腹に浅い抉れ(修復中) 、シックス・スレイヴ損失(修復中、2,3個は直ってるかも)
        EN60%、EN回復中、マニピュレーターに血が微かについている
 現在位置:H-1
 第一行動方針:???
 最終行動方針:統夜と生き残る
 備考1:首輪を所持しています】

【二日目14:30】

324驕りと、憎しみと(修正版) ◆7vhi1CrLM6:2009/03/12(木) 12:55:32
横倒しのブラックゲッターの上で、空を眺めていた。
穏やかなときが流れている。
ユーゼスと共にG-1エリアに到着した後の約二時間、特にすることはなかった。
補給ポイントから離れ、見渡す限りの草海原に機体を横たえているだけである。
炉心の火を落とした二機は熱源探査にはかからない。遠目に見たとて、損傷の激しい二機の姿は残骸としか映らないだろう。
仮に興味を持ったとしても、見晴らしのいいここでは接近するまでの間に十分火は灯せる。
だが、この二時間そんな者は現れなかった。ナデシコは愚か鳥の一羽すら空には浮かんでいない。
視線をゼストと呼ばれるユーゼスの乗機へと落す。
湖で拾った白い神像とでも言うような巨神。その抉れた胸にゼストは、背中を合わせて固着していた。
そして、目を凝らすまでもなく分かる。四肢のないゼストが巨神を侵食している。
毎秒1mm程度の速度で、白いその装甲を深紫に染め上げ、同化し、巨神の胸にズブズブと沈み込む。
侵食の速度は全長50mを下らない二機にしてみれば、微々たる速度。だが、それでも既に傷口から7mを超えて侵食されている。
恐らく半日後には二つは一つとなり、全身余すことなくゼストと化すのであろう。あくまでこのままの侵食速度であればの話だが。
得体の知れなさは気味が悪いが、それも今はどうでもいい。
揺れた草花が音を立て、風が頬を薙いでいった。雲の流れは速い。形を変え、移ろい、消えていく。
無粋な思考を頭から追い払えば、本当に穏やかな時間だ。それはいい。
こうしている間にも他者は互いに潰し合い、その数を減らしている。自分だけが休息のときを得ていると思えば、それも悪くない。
だが、今この瞬間もあの男はどこかで生きている。それが許せない。
そして、自分の知りえないところで死んでいく。それはもっと許せない。
焦り。焦燥。自分は何をしているのだと思えてくる。
ユリカを殺した奴をほったらかしにして、何を一人呑気に平穏なときを甘受している。
動け。探せ。見つけ出して殺せ。生きたまま心臓を抉り出し、火にかけろ。
突き上げてきた暗い情念が、囁きかける。それが出来ればなんと楽しいことだろう。
しかし、今、それに応じるわけにはいかない。
我ながら暗い、無粋な思考だ。だが、今やこの暗い感情は切っても切り離せないものとなっている。
怨みも、辛みも、三年前のあの日から片時も離れることなく身近に寄り添っている。
腹の底が静まるのをじっと待って再び見上げた遠方の空に、西から東へと矢のように疾空する二つの機体を見つけた。
笑みが漏れる。
臓腑の底で溜まりを為す暗い粘液のその又底の底で生じた一泡が、濁音を立てた気がした。その異常さに気づかぬまま。

「ユーゼス、敵だ」

 ◆

――存外、簡単に割れたものだったな。

メディウス・ロクスの身の内で一人AI1と向かい合う仮面の男は、そんな感想を抱いた。
右手に掲げ、僅かな明りに照らして眺めているのは、解析の為に預かった謎の薬。
その正体は、拍子抜けするほどあっけなく割れた。既に同種のデータを、AI1が得ていたが為である。
DG細胞――その呼称をユーゼスは知らない。だが、その性質は知っている。
他者に侵食し、取り込み、自己を再生させ、自己を増殖し、そして進化する非常に高度なナノマシン。
希釈されて能力を半減させられていたとは言え、そんなモノがこの薬には仕込まれていた。

――薬だと? これは劇薬だ。

性質を鑑みるに一時的な感覚器官の強化は、体内に散らばったこのナノマシンが、五感の補助を行なった結果だろう。
だが、効果は一時的なもの。
希釈された状態では、異物の混入に反応した体内の免疫システムに抗いきれない。
免疫システムに抗いながら活動できる限界時間が、恐らく30分の効用時間。その後は駆逐されてしまう。
だから自己保全の為、その時間を過ぎたナノマシンは次のプロセスに移る。成り代わりである。
元々の細胞を壊し、代わりに収まり、何食わぬ顔で機能を代行。そうやって、体の節々に潜伏する。
一度潜伏が完了してしまえば、宿主に異変を知る術はない。見かけの変化は何もないのだ。
この過程が、一時間の副作用。
あの苦しみは、感覚器官そのものを食いつぶされる苦しみ。
いや、感覚器官と言わず身体そのものが、あのナノマシンに取って代わられようとしているのかもしれない。

「ならば――」

325名無しさん:2009/03/12(木) 12:56:10
ならばこの仮定が正しいとして、体全てがナノマシンに取って代わられたら、どうなる?いや、体全てと言わず体内の免疫システムを凌駕する程の潜伏が完了すれば、最早潜伏の必要はない。
必要がなくなれば、この貪欲な性質上牙を剥くは必定。
残ったテンカワ・アキトの細胞は一つ残らず食い潰され、人を模ったナノマシンの塊が生まれる。

「フ、フフ……フハハハハハハハハハハハハッ!」

込み上げてくる愉悦に耐え切れず、哄笑が響き渡る。
悪くない。素晴らしい。理想的だ。
あの男は苗床だ。生きたナノマシンの苗床。それを手に入れた。
丁度サンプルが少ないと嘆いたところ。実に都合良く出来ている。

――では私は何をすればいい?

単純だ。ナノマシンの活動を促進してやればいい。
都合の良いことに薬の処方を既に約している。それに細工を施す。
あの首輪から採取した希釈されていないナノマシン。それを仕込む。作業も単純。
惜しむらくはサンプルの稀少さだが、後から元が取れると思えば錠剤一つ分ぐらいは目を瞑れる。

「ユーゼス、敵だ」

かけられた声にそこで一時思考を切り上げた。
モニターを光学カメラに切り替え、周囲を探る。なるほど。遠方の空に二つの機影が見えた。
だが、かなり遠い。接触コースでもない。
目視圏の端を掠めているだけであり、何もない空で動いているからこそ目視出来るレベルのものだ。
恐らく気づかれてはいないだろう。
映像を手ごろな大きさに拡大する。
濃紺の騎士のような大型機と白銀のシンプルな機体。共に隻腕で、戦闘痕がそこここに見て取れた。

「ふむ。何故敵と判断した?」
「大型機のほうと一度交戦した経験がある。左腕はそのときに潰したが、損傷が増えているようだな。
 その湖から拾い上げた機体を両断したのも、あの機体だ。白いほうは初めて見る」
「そうか……他には、いやそれよりも『見える』のか?」
「……辛うじてだが、それぐらいは今の俺でも見える」

――気づいてないのか?

この距離で見えるということは、バイザーの補正込みとはいえ最低限人並みの視力を確保しているということ。
バイザー抜きにすれば、やはり人並み以下の視力ではあるのだろう。
だがそれすらも危ういほど、この男の視力は低下していたはずだ。それが僅かとは言え回復傾向にあるということは――

――存外に潜伏期間は短いのかもしれんな。

それは追い風だ。
この男からナノマシンを採取できる時期が、そう遠くないことを示している。

「追うか?」
「そうだな……だがそれは私がやろう。君にはあれの飛んできた方角を調べて貰いたい」

あの弾丸のような速度と軌道を考慮すれば、明確な目的地が存在するのか。あるいは何かから逃げているのか。
目的地が存在するとすれば、それは周辺空域を回遊しているナデシコである可能性は高い。
ともかく、前も後ろも気になる。可能ならば全てを把握しておきたい。
どうせこの男には、自分が必要なのだ。むざむざ逃すこともない。合流の手順を簡潔に伝える。

「……ゲッター炉心は?」
「簡易ドック程度の設備が欲しい。ナデシコを捉えるまで待て」
「薬は?」
「今、処方している。注意点が一つ。効果の継続時間を少なからず伸ばしておいたが、それに比例して副作用の時間も伸びる見込みだ。
 実際にどれほど持続するかは、服用してみないことには何とも言えん」
「十分だ」

326名無しさん:2009/03/12(木) 12:57:01
これでいい。
元の薬を使い切るまで、こちらの手渡した薬を使わないことは十分に考えられる。その程度の警戒心はあって当然。
だからより強力であることを強調した。服用せざる得ない敵、状況というのは必ずどこかに存在する。
それに嘘は言ってない。一度に摂取する量が増える以上、免疫システムに抗える時間が増えるのは必然。
同時に量の増加は、潜伏に要する時間の増加も招く。
読みきれないのは神経にかける負担。量の増加がどれだけ五感を鋭敏にするのか、それは分からない。

「逸るな。ゼストもゲッターも万全ではない。無理はしないことだ。
 ナデシコもエリア内のどこを回遊しているか分からないことだし、無用な警戒を抱かせることはない」

やや間があって反抗的な視線と共に「了解」との返事。どうせ数を減らすことばかり考えていたのであろう。

「一つ聞きたい。この薬を二錠同時に、あるいは効果が切れる直前にもう一錠服用すれば、どうなる?」
「それは現時点では何とも言えない。効果時間の継続が狙えないとも限らないが、お勧めは出来ないな」
「……分かった。貴様が処方したという薬をよこせ」
「少し待て」

懐からナノマシンのサンプルを取り出す。
この大元となったあの変質した首輪は、バーナード・ワイズマンと共に失われた。
今も手元に残っている量は、そう多くない。
必要な分量だけを削りだし、すり潰し、粉に。さらに何工程か手を加え、錠剤を作り上げる。
ナノマシンの濃度は、アキトの有する薬の数倍。だが外見上の違いは、何もない。
その出来栄えに満足気に笑う。
処方を終え、視線を再度遠ざかる二機に向けた。
十二分の距離を置けたことを確認。この距離ならばそうそう気づかれることもないだろう。
作り上げたばかりの薬をアキトに、預かっている薬は手元に、そして彼らは二手に分かれる。
次の駒。新たなる未知の技術。それらに対する期待を胸に、仮面の男は再び動き始めた。



【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター
 パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭(回復傾向)、疲労状態
 機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可)
 現在位置:G-1
 第一行動方針:現在地(G-1)より西を探索
 第二行動方針:ナデシコの捜索とユーゼスとの合流
 第三行動方針:ガウルンの首を取る
 第四行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す
 最終行動方針:ユリカを生き返らせる
 備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。
 備考2:謎の薬を3錠所持 (内1錠はユーゼス処方)
 備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可
 備考4:ゲッタートマホークを所持】

【ユーゼス・ゴッツォ 搭乗機体:メディウス・ロクス(+ラーゼフォン)
 パイロット状態:若干の疲れ
 機体状態:全身の装甲に損傷(小)、両腕・両脚部欠落、EN残量80%、自己再生中
 機体状態2:右腰から首の付け根にかけて欠落 断面にメディウス・ロクスのコクピットが接続 胴体ほぼ全面の装甲損傷 EN残量40%
 現在位置:G-1
 第一行動方針:東進する二機(統夜・テニア)の追跡
 第二行動方針:ナデシコの捜索、アキトと合流、AI1のデータ解析を基に首輪を解除
 第三行動方針:他参加者の機体からエネルギーを回収する
 第四行動方針:サイバスターとの接触
 第五行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
 第六行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい?
 最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る
 備考1:アインストに関する情報を手に入れました
 備考2:首輪の残骸を所持(六割程度)
 備考3:DG細胞のサンプルを所持
 備考4:謎の薬(希釈されたDG細胞)を一錠所持
 備考5:AI1を通してラーゼフォンを操縦しているため、光の剣・弓・盾・音障壁などあらゆる武装が使用不可能
 備考6:ユーゼスに奏者の資格はないため真理の目は開かず、ボイスの使用は不可
 備考7:ラーゼフォンのパーツ部分は自己修復不可】

【二日目 14:15】

327かくして漢は叫び、咆哮す(修正) ◆7vhi1CrLM6:2009/03/12(木) 12:59:50
本スレ>>273の◆以降

呼吸の音が、やけに大きく聞こえていた。心臓の鼓動も耳のすぐ傍で聞こえる。
視線が常に周囲を覗っていたが、実のところ何も見ていないのと同じだった。
足元からすり鉢状に広がる抉れた大地も、その縁に聳え立つ廃墟も、空も、雲も、太陽も見てはない。
いや、視覚だけでなく、聴覚も同じことだ。
不要なモノは全て排除すれば、最後に残るのは唯二つ――自分と相手、ただそれだけである。
漆黒の体躯を持った人型兵器、それだけを五感の内に。
演算も、ゲマトリアの修正も終わり、ダークマターの精製は完了している。
後は、胸の前に灯るこの赤黒い豪火球を最高のタイミングでぶつけるだけ。時を待つ。
既に四度ぶつかり、一撃離脱していく奴を捉える事が出来なかった。
針の先程に尖らした神経の先。耳に届く呼吸音は自分のものか、それとも奴のものなのか。
それが息を継ぐ。一、二、三、そして気息を整え、今!
カルケリア・パルス・ティルゲムと呼ばれる念動力感知増幅装置によって、研ぎ澄まされた神経がガウルンを捉えた。
場は左後方。鋭敏過ぎるほど鋭敏な反応に対して、僅かに遅れる機体の動きがもどかしい。

――何故だ! 何故、こんなにもこの機体は遅い。とろい!!

旋回が間に合わない。射角を確保する。ただそれだけの動きが、追いつかない。
見えている。動きも読めている。外す事などありえない。
それでも、ただ機体の動きが追いつかない。ガン・スレイヴでさえも間に合わない。
研ぎ澄まされた意識の中で、ガウルンの駆る黒い機体の右腕に紫電の光が灯る。ゆっくりと時間は流れる。

「ひゃぁぁぁっはぁぁぁ!! ダァァアクネスッ!!」

意思に反して鈍行を辿る機体は、まだ射角を確保できない。既に眼前にまで迫った腕が伸びる。
そして、知覚の外から何かが突然撃ち込まれた。
ヴァイクランとマスターガンダムの間で爆発が起こる。その衝撃に迫るガウルンの勢いは削がれ、時間が埋まった。
照準は、黒い体躯のど真ん中。ベディア・レディファーが、今放たれる。
高速で撃ち出された火球が、阻むもの全てを呑み込み直進する。
一撃で片を付けるべく最大火力で撃ち出されたそれは、クレーター縁を抉り、瓦礫のビルを意にも介さず真っ直ぐに、ひたすら真っ直ぐに突き進む。
そして、その終着で二つの亜空間を作り出し、消滅した。
おびただしい光量の白い閃光と、黒い閃光が入り混じり、爆ぜ、その衝撃に雲が吹き飛ぶ。
青い空の下、廃墟の街並みは瓦礫の街並みへと変貌を遂げ、その爪跡を立ち込める粉塵が僅かばかり覆い隠していた。

「ククク……まいったね。こうも思い通りにことが運ぶとは」

一人男の悦に入った声が響く。
割り込みの一撃はシャギアに時間を与えると同時に、ガウルンにも回避の時間を与えていた。
渾身の一撃は、かわされた。
だが、そんなことはどうでもいい。そんなことよりも今、シャギアの胸の内を占めているのは――

「どうした? もっと良く見てみろよ。立派な戦果だぜ。お前の手柄だ」

ベディア・レディファーの一撃によって、視界を遮る廃墟が吹き飛ばされた。その開けた視界の先で、ナデシコが黒煙を上げている。
状況が理解できなかった。五秒。十秒、呆けたままの時間が過ぎる。
直進した最大出力のベディア・レディファーが、ナデシコを襲った。その程度のことを理解するのに、数分を要した。
理解して、また頭が真っ白になる。
虚脱した顔を見て、男が噴出した。
その笑い声は間もなく高笑いに変わる。どこまでも、どこまでも楽しそうな笑い声。

「そうだ。その顔さ。そいつを拝みたくて、いやぁ苦労したぜ」

一頻り笑い、そして男が問いかける。

「クク……ところで、あんたは何でそんな顔をしているんだろうな」

――?
何を聞きたがっているのか、問いの意味が読めない。まともに思考が働かない。
ただ、白痴となった頭に男の声はよく染み込んでくる。そこに納まるのが当然、とでも言うように、妙に体に馴染む。

328かくして漢は叫び、咆哮す(修正) ◆7vhi1CrLM6:2009/03/12(木) 13:00:46
「わからねぇか? よく考えてもみろ。あんたがしたいことは何だ? 何をしなければならない?」

――私のしたいこと……しなければならないこと。

「おいおい、忘れちまったのか? 最後の一人を狙って、オルバって奴を生き返らせる、だろ?」

――ああ、そうだ。そうだった。私は、私の半身を失ったままにしておきたくないのだ。

「そんなあんたが、何でそんな顔をする? そんな顔をしなければならない? 滑稽な話だ。
 違うだろ? そうじゃない。笑うんだよ。ここは笑うところだ」

――笑う? 笑えばいいのか? そうか、ここは笑うところなのか。

「ハハハ……いい顔だ。そう、笑えばいい。
 なんたってお前は、お前の心の邪魔するモノを打倒したんだからなぁ」

――ああ、だから笑えばいいのか。それなら確かにここは、気分良く笑うところだ。

「だがなぁ。何とも残念なことに、クク……まだお前の邪魔をする者がいる」
 酷い。全く酷い話だ。弟を生き返らせようとするお兄ちゃんの邪魔をするなんてな。酷い連中だよ。
 さて、そんな奴らのお迎えだ。どうするかはあんたの自由だが、精々頑張りな。
 何やら面白くなりそうな気配なんでな。俺はまた潜ませてもらうぜ」

そういい残して、その男は再び瓦礫の海に紛れていく。何をするでもなくただ呆然と見送った。
一拍置いて男の言葉に疑問を抱く。既に言葉の意味を、表層的にも捉えられなくなってきている。

――お迎え?

「シャギアアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!」

ガロードの叫び声。
ああ、お前か。お前が割り込みの一撃を放った者の正体か。
視線を落とす。とても顔など合わせられない。
そんな声で私を呼ぶな。私はもう、お前に名を呼んでもらうに値しない男だ。
口元が引き攣り、正体なく笑う。
私は本当に何なのだろうな。やることなすこと全てが裏目に出て。
いっそ私などという存在は、この世に存在しないほうがマシなのかもしれない。
マジンガーの足が、俯く視界の先に映る。空気を裂く鋭い音と黒い旋風が、目の端を掠める。
それが何かと思考する気力は、なかった。
ただ思ったのは、ガロードは怒っているのだろうな、ということ。比瑪も、甲児もだ。
もういい。終わりにしてくれ。お前に引導を渡されるのなら、それも悪くない。
マジンガーの足が動く。揺れ、重音を残して崩れる。そして、力なく倒れたその体には、首がない。

「なっ!!」

驚き、顔を上げたその先には、黒い一匹の悪鬼。
巨大な戦斧を左肩に担ぎ、だらんとぶら下げた右腕に掴んでいるは、マジンガーの生首。
瞬間、絶叫が辺りに響き渡った。

329かくして漢は叫び、咆哮す(修正) ◆7vhi1CrLM6:2009/03/12(木) 13:02:10
 ◇

その手に掴んだ生首を、腹立たしげに投げ捨てる。
音を立てて二三度弾んだそれは、転がってどこかに消えて行った。
邪魔をされた。
この戦場に駆けつけたアキトが最初に目にした光景は、何かを撃ち出す大型機とそれをかわすガウルンの姿であった。
だが次の瞬間、巻き起こった爆発とその膨大な光量に目が眩み、見失う。
気づけば、戦場に既にガウルンの姿はなく、残されていたのは沈み行くナデシコとその一撃を放った元凶のみ。
理性が飛んだのが、自分でもわかった。
理由は二つ。ナデシコに危害を加えられたことと、自分の獲物に手を出されたこと。
薬を飲み。戦斧を構えて、一陣の旋風のように飛び込んだ。
そこに割って入られた。
男の名を叫びながら割って入ったそれは、身を挺して大型機を庇った。
その結果が、あの生首である。それはもういい。気も今は少し落ち着いた。
これ以上邪魔をしないのであれば、目の前の大型機に何の興味もない。
それよりも自分には優先すべきことがある。何よりも優先すべきことがある。
レーダーを睨む。反応が悪い。
苛立ち。そして男は、声に臓腑の底でじっくりと熟成された憎悪を塗りこめ、咆哮した。

 ◇

ナデシコが徐々に高度を下げている。推進機能の一部が破損しバランスを崩したのか、傾き始めていた。
その右舷には、ベディア・レディファーの一撃を受けて大穴がぽっかりと空いている。
そこに、身を硬直させている者が一人いた。肩までの赤い髪を風に棚引かせて、その女性は呟く。

「……ガロード?」

ぽつりと漏らしたその声に、実感はない。揺れに目を覚ました直後、夢と現実の境目すらまだはっきりしていない。
ただ視界の遥か先に見えた光景――マジンガーの頭蓋を掴んだ黒いゲッターを見て、そう思っただけだった。



【シャギア・フロスト 搭乗機体:ヴァイクラン(第三次スーパーロボット大戦α)
 パイロット状態:憎悪 戸惑い
 機体状態:EN20%、各部に損傷、ガン・スレイヴ残り二基
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:ガロード
 第二行動方針:ガウルン、テニアの殺害
 第三行動方針:首輪の解析を試みる
 第四行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める
 第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 最終行動方針:???
 備考1:首輪を所持】

【ガロード・ラン 搭乗機体:マジンガーZ(マジンガーZ)
 パイロット状態:全身鞭打ち・頭にたんこぶその他打ち身多数。
 機体状況:頭部切断(パイルダーは無事)
 現在位置:F-1
 第一行動方針:戦況を確認し、とにかく動く
 第二行動方針:勇、及びその手がかりの捜索
 最終行動方針:ティファの元に生還】

330かくして漢は叫び、咆哮す(修正) ◆7vhi1CrLM6:2009/03/12(木) 13:03:15
【熱気バサラ 搭乗機体:ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状況:神経圧迫により発声に多大の影響あり。
      ナデシコの機能でナデシコ内でのみ会話可能。
 機体状態:下部に大きく裂傷が出来ていますが、機能に問題はありません。
      右舷に破損大(装甲に大穴)、推進部異常、EN100%、ミサイル90%消耗
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:俺の歌を聴けぇ!!
 最終行動方針:自分の歌で殺し合いをやめさせる
 備考1:自分の声が出なくなったことに気付きました
 備考2:ナデシコの格納庫にプロトガーランドとぺガス、マジンガーZを収容
 備考3:ナデシコ甲板に旧ザク、真ゲッターを係留中】

【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター2(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:健康
 機体状態: ダメージ蓄積(小)、胸に裂傷(小)、ジャガー号のコックピット破損(中)※共に再生中
 現在位置:F-1市街地(ナデシコ内部)
 第一行動方針:勇の捜索と撃破
 第二行動方針:勇がここ(会場内)にいないのならガロードと協力して脱出を目指す
 最終行動方針:勇を殺して自分の幸せを取り戻す】

【ぺガス(宇宙の騎士テッカマンブレード)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好、現在ナデシコの格納庫に収容されている。現在起動中
 現在位置:F-1(ナデシコ格納庫内)】

【旧ザク(機動戦士ガンダム)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好
 現在位置:F-1(ナデシコ甲板) 】

【プロトガーランド(メガゾーン23)
 機体状況:MS形態
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 現在位置:F-1(ナデシコ格納庫内)】

【ガウルン 搭乗機体:マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:疲労中、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染
 機体状況:左腕消失、マント消失、自動修復中
      DG細胞感染、ヒートアックスを装備 、EN60%
 現在位置:F-1 市街地
 第一行動方針:存分に楽しむ。
 第二行動方針:統夜&テニアの今からに興味深々。テンションあがってきた。
 第三行動方針:アキト、ブンドルを殺す
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました 】

【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター
 パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭(回復傾向)、疲労状態
 機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可)
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:ガウルンの首を取る
 第二行動方針:ナデシコの捜索とユーゼスとの合流
 第三行動方針:キョウスケが現れるのなら何度でも殺す
 最終行動方針:ユリカを生き返らせる
 備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。
 備考2:謎の薬を2錠所持 (内1錠はユーゼス処方)
 備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可
 備考4:ゲッタートマホークを所持
 備考5:謎の薬を一錠使用。残り28分】

【二日目14:40】

331 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 22:40:40
さるさんくらったのでこちらに続き投下します

332怒れる瞳 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 22:41:58
「ユリカを殺したのはそこのガウルンだ。わかるだろう、俺もお前の交渉に応じるつもりはない。
 奴の次はお前達だ。誰一人として、逃がしはしない」
「ククッ――クハハッ! ハハハハハハハハハハハッハハハハハハッッ!
 ざまぁねえなネゴシエイター! 聞いたかい? そう、全ての原因は俺にあったんだよ!
 だが俺だけの責任か? いいや違うね。あのとき俺を止められなかったお前が、そもそもの発端なのさ!
 ネゴシエイターが聞いて呆れる――お前は闘争の火種にしかなってねえんだよッ!」
「……貴様ッ!」

マスターガンダムが跳躍する――向かう先はヴァイクラン。
十分な時間を置いた念動フィールドは出力を回復している。鋭い蹴りを危なげなく受け止めた。
すぐさま反撃のオウルアッシャーを放つヴァイクラン。だが火線が閃く瞬間にはマスターガンダムは離脱していた。
そしてその後をなぞるようにブラックゲッターの剛腕がガンダムを追う。
マスターガンダムはビームクロスをビルへと伸ばし、猿のようにビルからビルへと飛び移っていく。
やはり追う、ブラックゲッター。残ったのは騎士凰牙とヴァイクランのみ。
今の攻防、ロジャーは一歩も動けなかった。もし誰かが彼を狙えば、なすすべもなく撃破されただろう。

「私は……私の交渉は……!」
「ロジャー・スミス。貴様とあのテンカワという男に何があったかは知らん。だが、ガウルンは明確な敵だ。
 私の機体はやつらと相性が悪い。協力を要請する」
「あ……ああ、そう、だな。だが、私は……」

チッ、と舌打ちが聞こえた。シャギアのものだろう。

「腑抜けめ……まあいい。私は奴らを追う。お前はナデシコに「――ガロードはどこだ?」

突如、声が割って入った。
女の声――ロジャーも、そしてシャギアも知らない声。
見上げる――そこにいたのは赤い鬼。ブラックゲッターと密接な関係を持つ、あるいはこの会場内でも最強に近い力を持つモノ。

真・ゲッターロボがそこにいた。

333名無しさん:2009/03/19(木) 22:43:07
     □


目が覚めたのは、強烈な震動のおかげだった。
横たえられていたベッドから転げ落ち、頭をしたたかに床にぶつけるという情けない起床であったものの、ついにクインシィ・イッサーは覚醒した。
医務室から出る。どこだろう――艦内のようだ。ふらふらと彷徨い、唐突に風を感じた。
本来なら密閉空間である艦内で風が吹くはずがない。クインシィはその風が吹いてくる方へと足を向けた。
やがて、通路の一角に空いた大穴を発見した。
未だ黒煙を上げ続ける個所がある。先程の震動は砲撃を受けたことによるものと推測した。
壁に手をつき、外の景色を見下ろす。市街地――気絶する前は確かC-2にいたはずだ。
だが、あの街並みと違いここはあまりに荒れ果てている。移動したのだろうか――そんなことを考えて視線を巡らせる。

そして、見つけてしまった。悪鬼が魔神の首を刎ね、その手に掴むところを。
知っている。あれは、そう。マジンガーZ。

――――ガロードの機体。

思い当った瞬間、意識が一気にクリアになった。
あれから何時間経った!? ここはどこだ!? 私は何をしている!?
そう、気を失う直前まであの青い騎士の機体と交戦していたはず。ジョナサンが負傷して――
ジョナサン! ジョナサン・グレーンはどこだ!?
ガロードもいない。まさか、あのマジンガーに乗って――

クインシィは駆け出した。とにかく、情報が必要だ。最新の、生きた情報が。
戦艦ならブリッジに行けば誰かしらいるだろうと、適当な案内板を見つけブリッジへとひた走る。
飛び込んだブリッジには一人の男。髪を逆立て眼鏡をかけている。
男が振り向く。その唇が開かれる前にクインシィは男の首を絞めあげた。

「貴様、答えろ! ジョナサン・グレーンはどこだ!? ガロード・ランは!? 状況はどうなっている!?」
「……、……ッ!」
「何を言ってる! わかるように」

と、首を絞めていては話せるものも話せないと気付く。が、

『落ち着けよ! 今はそれどころじゃねえ!』

室内隅に設置されたスピーカーから男の声が響いた。
驚き、男を凝視する。男は手振りで話せと伝えていた。とりあえず手を放す。
軽くせき込み、男は顔を上げた。

『わりぃな、喉を傷めちまってこんな方法でしか話せない。俺は熱気バサラだ。アンタは?』
「……クインシィ・イッサー。ああ……いや、済まない。私も頭に血が昇っていたようだ」

障害を持つ相手に暴力を振るったことが少し情けなくもあり、クインシィは常になく素直に頭を下げた。

「それより、さっきの質問に答えてくれ。ジョナサンは、ガロードはどこだ?」
『ここはナデシコって戦艦だ。……ジョナサン・グレーンってやつは、死んだ。アンタを救助した時、遺体を回収したそうだ』
「なん……だと……? ジョナサンが、死んだ……?」

一歩、後ずさる。やはりあのとき、ジョナサンは致命傷を受けたのだ。
気付かなかった己の不手際。そればかりかのうのうと眠っていたのだ……今の今まで。

『で、ガロードだがな。これを見りゃわかるだろう』

バサラが手を振る。すると空中に映像が映し出された。

334怒れる瞳 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 22:44:26
バサラが手を振る。すると空中に映像が映し出された。
そこには首のないマジンガーZと、放り投げられたその頭部。

「これに、ガロードが乗っているのか!?」
『ああ。さっき一瞬だが通信が繋がった、生きちゃいるが、またすぐ気を失ったらしい。まずいことにすぐ近くで派手にドンパチやってやがる』

続けて黒と白の機体が激しくせめぎ合っているところが映し出される。クインシィの見た悪鬼もそこに加わった。
乱戦となった戦場――ガロードは動けない。
踵を返すクインシィ。その腕をバサラが掴む。

『待ちな。アンタ、病み上がりで出る気か? 死ぬぞ』
「そんなことはどうでもいい! ガロードが危ないんだ、黙って見ていられるか!」
『アンタ……』
「私の機体は、真ゲッターはあるのか?」
『回収してある。だがあいつは三人乗りだって聞いてる。アンタ一人じゃ』
「十分だ!」

手を振り払い、走り出す。そこへ、

『騎士凰牙――アァァァァァァァァァクションッッッ!!』

新たな声が響く。モニターを見やれば、隻腕の黒いマシンが新たに参戦していた。
そのまま、一時砲火が収まる。何をしているか知らないが、ガロードを助けるなら今が好機だ。
今度こそブリッジを出る。格納庫の位置を確認し、走り出した。

『おい、待て』
「なんだ、まだ何かあるのか!」

どこからともなく男の声が聞こえる。艦内であればどこにでも声は届くのだろう。

『白いデカブツは味方だ。ガロードの知り合いらしい。んで新しく来たやつは多分、Mr.ネゴシエイターってやつだ。あの声のやつ、最初の場所で見た覚えがある』

そういえば、クインシィにも覚えがある。主催者の少女に大見得を切っていた、黒服の男。やつだろう。
つまりはそれ以外、真ゲッターに似た黒い機体と黒いガンダムという機体を叩けばいい。

『俺の方はまだ準備に時間がかかる。ガロードを頼む』

男が何を言っているかわからないが、どうでもいい。まずはガロードだ。
格納庫に辿り着く。真イーグル号に乗り込みシステムを起動させる。
真ジャガー号の出力が上がらない――ジョナサンの棺。歯を食い縛り悔恨を呑み込む。
各ゲットマシン、真イーグル号のシステムに同調。自動操縦スタンバイ。
いける。本調子ではなくとも、十分戦闘は可能だ。
ハッチが開く。あのバサラという男がやってくれたようだ。
操縦桿を握る。叫ぶ――

335 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 22:51:49
代理投下してくれた方すみません。
スレ見てながら投下してたらなんか誤爆してしまいました。
以降全てこちらに投下します

336怒れる瞳 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 22:53:18
     □


「この歌は……?」

一人取り残されたロジャー・スミス。戦いを止めることも、また加わることもできずにいる。
今の彼にはどちらも資格がない。
ガロードを守るべく奮闘するクインシィ。
ユリカを殺されたガイ――アキト。
オルバを殺されたシャギア。
そしてその両方の原因たるガウルン。
この四者には確固たる意志がある。
その意志のないロジャーには、あの戦いに参加する資格がない。だから、こうしてガロード・ランの救助にあたっている。

意識のないガロードをパイルダーから引っ張り出す。
幸い、目だった外傷はない。頭部から出血しているものの深手ではなく、気絶の原因は脳震盪だろう。
手早く処置を済ませ、意識のない彼を担いで凰牙へと戻る。ナデシコへと移送しようと機体を回した時、「それ」は聴こえてきた。
銀河に響く、生命の歌。
プロトデビルン――神話の怪物すらも退ける、熱い魂の連なり。
おそらくはこのエリアすべて、いやもしかすればそれ以上の範囲に響き渡っているだろう。
中心はナデシコだ。言うまでもなく目立つ――その弊害など考えもしていない。ただ望むまま、思うがままにその存在を叫んでいる。
ロジャーには既にない若さ。それがひどく羨ましい。

ナデシコの方角から三機の機動兵器が飛来していくのが見える。
その内の一機はガナドゥール、つまりソシエだ。行く先……シャギア達が戦っているところ。
援護に行くつもりなのだろう。無茶な、と声が漏れる。
見たところ、一番大きな機体でもガナドゥールと黄色の機体がせいぜい24、5m。青い小型機にいたっては13mほどしかない。
ヴァイクラン、真ゲッター、ブラックゲッター。三機のパワーとは比較することすら無駄だろう。
唯一同サイズといえるマスターガンダムは、乗り手が恐ろしく腕が立つ。ソシエ以外は誰が乗っているか知らないが、それでもあの男以上とは思えない。
ガロードを乗せ、パイルダーを抱えて立ち上がる。彼をナデシコに送り届けた後、自らも向かわねばならない。

騎士凰牙が走る。ややあって、ナデシコの目前というところまで来てレーダーが東に新たな機影を告げる。
対岸を仰ぎ見る。ガウルンとともにいた少年が頭をよぎる。彼だろうか?

「……なっ!?」

そして、現れたのは巨大な隻腕の天使。凰牙の2倍近いサイズ――真ゲッター並。
その名はラーゼフォン。機械仕掛けの神――にして、進化するプログラム、その苗床。
いかん、と頭の中でレッドランプが鳴る。ガロードというケガ人を抱えて相手のできる大きさではない。
天使は長大な剣を携えている。見覚えがある――青い騎士の剣。
ということはあの少年、ひいてはガウルンの仲間。いよいよ持って最悪の状況に追い込まれたらしい。
せめてもの抵抗として身構える。すると、天使は50mほどの距離で停止した。

「警戒するな。こちらに戦闘の意志はない」

通信。
安堵――いや、まだ早い。見極めてからだ。

「私はロジャー・スミス。そちらの名と、目的を確認したい」
「これはこれは、Mr.ネゴシエイターか。会えて光栄だ――私はユーゼス。ユーゼス・ゴッツォ。目的はナデシコの援護だ」

映像は仮面の男を映し出している。怪しいことこの上ない……が、先に仕掛けてこなかった以上ここで行うべきは交渉だ。

「状況は理解している。ガウルンなる男を排除するのだろう? 協力しよう」
「……感謝する。しかし、敵はあの男だけではない。ガイ――いや、テンカワ・アキトという男にも仕掛けられている。こちらの無力化もご協力願う」
「テンカワ――なるほど、了解した。しかし、それならナデシコをここから離脱させるべきではないか? あのような目立つことをしていてはガウルンの目を引くぞ」

天使は歌い続けるナデシコを指し示す。が、すぐにその右舷に空いた大穴に気付いたようだ。

337名無しさん:2009/03/19(木) 22:53:56
さるは各時間の00分に解けるため(この場合11時になると同時に解ける)、それまでは代理投下をやらせていただきます

338怒れる瞳 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 22:54:23
「なるほど、あの損傷で動けないという訳か。……それなら、私が向かって何とかしよう。君はガウルンを頼む」
「できるのか?」
「造作もない。援護はできんが、構わんな?」
「ああ。そうだ、ついでに彼を頼む」

コクピットを空け、ガロードを引っ張り出す。天使は意を察したか掌を伸ばしてきた。託す。

「頭を打っている。慎重に扱ってくれ」
「了解した」

これで身軽になった。
見据えた彼方では更に戦闘が激しさを増している――いや、何かおかしい。
望遠。真ゲッターが、増援の三機の内の一機を攻撃している!

「馬鹿な……何をしているのだ!?」
「行け、ネゴシエイター! ナデシコは私に任せろ!」

ユーゼスの後押し。今は逡巡している暇はない。

「すまん、頼んだ……!」

だからロジャーは彼の言うとおり戦場へ向けて駆けだした。
背中で、ニタリと嗤う仮面の悪意に気付かずに。

339怒れる瞳 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 22:55:31
     □


「クインシィ、後ろだ!」
「わかっている! 弾幕を絶やすな!」

真ゲッターの振り下ろす大鎌を、ブラックゲッターの戦斧が受け止める。
その背後から飛びかかるマスターガンダムは、ヴァイクランの放つ光弾が弾き飛ばす。
ゲッターロボ同士の鍔迫り合いは、黒い戦鬼に軍配が上がる。一人が駆る一人乗りと、一人しかいない三人乗りの差。
ゲッターサイトが弾かれる。だがその瞬間にチャージが完了。

「ゲッタァァァビィィィィィイイムッッ!!」

クインシィの咆哮とともに、幾条ものゲッター線を凝縮した光線が放たれる。
ブラックゲッターはトマホークを縦横無尽に振るい、ビームを迎撃する。
やはり同じゲッターを扱う者同士、手の内はわかるようだ。
後退する。背にヴァイクランを置き、右手にはブラックゲッター。左手にはマスターガンダム。

強い――。それがクインシィの実感。
敵手のみならず、後ろの男もかなりの使い手。
実際単騎で戦えば、真価を発揮しきれない真ゲッターでは荷が重い相手ばかりだ。
ブラックゲッターはビームこそ撃ってこないものの、単純な格闘能力は真ゲッター並。
マスターガンダムは凄まじい機動性を武器に、虚々実々の動きを見せる。
唯一味方であるところのヴァイクランは強固なフィールド、そして甚大な威力の砲撃を放つ。
そして例外なく一流、いや超一流の乗り手ばかり。
クインシィは自らの技量が彼らに劣るとは思ってはいないが、ゲッターロボの本領たる変形戦法を封じられて攻め手に欠けることを、認めずにはいられない。

そして驚くべきことに、ブラックゲッターとマスターガンダムは特に共闘していないのだ。どころか隙あらば互いに刃を、拳を送り込んでいる。
それでいて、組んだこちらと対等。
並々ならぬ技量。改めて心中に刻みつける。

「いやぁ……楽しいねぇ。俺ぁ楽しすぎて狂っちまいそうだよ。お前もそうだろ、アキトちゃぁ〜ん?」
「黙れ」
「おうおう、つれないねぇ。じゃあアンタはどうだい、姉ちゃん。飛び入りだが中々いい腕してるなぁ」
「貴様の賛辞などいらん」
「なんだぁ……振られちまったか。まったくノリが悪い――ん?」

無駄口を叩くガウルンに構わず、何十回目かの攻撃をかけようとしたときにその歌は響いた。
がなり立てるスピーカーを黙殺しモニターを横目で睨みつける。発信源はナデシコだ。
あのトンガリ眼鏡――準備とはこのことだったか。

「お、BGMとは中々気が利くねぇ。よし、あいつを殺すのは最後にしてやろう」

などと楽しげにほざくガウルン。その声は喜色に溢れている。
戦いを遊び場にしているような男に負けるわけにはいかない――より一層精度を増した砲撃から、後ろの男も同じ考えだと確信する。
シャギアに手振りで指示を送る。即席のコンビだが、この男は見事に対応してくる。まるでペアでの戦闘が専門分野だというかの如く。
頷いたシャギア、こちらも頷き返し、突撃「やいやいやいやい! おめえらの乱痴気騒ぎもここまでだ!」を開始――何?

340怒れる瞳 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 22:56:28

見れば、シャギアも困惑顔。カメラを回せば新たに現れた三機の影。
黄色い機体――ガロードが乗っていた機体だ。青い、頭部のない機体――見覚えがあるようなないような。
そして、最後の一機。
息が止まる。
クインシィは知っている。そう、あの機体は……

「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!悪を倒せとこの兜甲「――ユウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウゥゥゥゥゥゥゥゥウゥウゥゥゥッッッツッッッッッ!!!!」

目前の敵手のことも、背中を守る男のことも、あるいはガロードのことさえも。全てが彼方に吹き飛んで行く。
あのブレン。あの青いブレン――伊佐美勇、弟の駆るブレン!

身体が軋むほどの速度で宙に飛び出す。向かう先はネリー・ブレン。

「うあああああああああああああああァァァッッ!」

巨体にモノを言わせ、身体ごと叩きつける力任せのパンチ。だがスピードが尋常ではない――ブレンなど、掠っただけで木端微塵。

「アイビスッ!」

クインシィの知らない声。ブレンに到達する直前、視界をプラズマが駆け抜ける。
腰のあたりに着弾。姿勢制御が崩れ、拳がブレンパワードを捉えられず。
黄色い機体が腕を掲げている。邪魔をした――敵だ。

「ちょっと、待ってよ! アンタ一体何のつもり!? あたしはアイビス、勇なんて名前じゃ」
「うるさいッ! ユウを……ユウを出せッ! 私の、ユウを……返せぇぇぇぇッッ!」

真ゲッターは止まらない。クインシィの激情そのままに、ネリー・ブレンへと打ちかかっていく。
再びのパンチ。

「甲児!」
「わかってる!」

が、黄色い機体が割り込んで来る。
そいつはサイズは真ゲッターの半分ほどのくせに、ガッチリと真ゲッターのパンチを受け止めた。

「甲児君! 無事か!?」

シャギアの声が飛ぶ。先程の名乗りは間違いなく兜甲児だった。
これ以上失う訳にはいかない駒――仲間。

「……え、うん。わかった、甲児は操縦に専念して――こちらはキラ・ヤマト。シャギアさん、聞こえますか」

だが、甲児の機体から返ってきた声は甲児のものではなく。

「キラ――ヤマト!? なぜそこにいる!」
「詳しい話は後です。僕は戦いに来たわけじゃない――それだけは確かです!
 それより、クインシィさんは一体どうしたんですか!? 勇って誰のことです!?」
「……知らん! ガロードの話では彼女の弟らしいが、ここに来ているかどうかすら不明だ!」
「だったら、彼女を止めてください! このままじゃ……!」
「そうしたいのは山々だがな……ッ!」
「よそ見してんじゃねぇよッ!」

ヒートアックスが投擲された。シャギアは慌ててフィールドを展開する。
そう。ガウルンが、ヴァイクランの離脱できる時間を与えないのだ。

341怒れる瞳 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 22:57:11

「大変だなぁ。お仲間が助けに来たかと思えば、さっきまで組んでた相棒がイカれちまって。
 肝心の自分はまた一人ぼっち――んん〜、カワイソウなシャギア君! お兄さんが慰めてやるよぉッ!」
「この――狂人め!」
「褒め言葉だぜ、兄ちゃん――っと! アキトぉ〜、お前さんもしつこいねぇ。俺としちゃあ嬉しいんだがよぉ」
「……」

背後からのトマホークブーメラン。だがマスターガンダムは、一つを蹴り落とし一つをその腕で掴み取った。
もはやガウルンの軽口に付き合う気はないのか、無言で距離を詰めに来たアキト。
マスターガンダムの腕が閃き、手斧が唸りを上げてヴァイクランを襲う。
最後のガンスレイヴで撃ち落とす。その間にガウルンは離脱――その手には放り出されていた大鎌。
ブラックゲッターの一撃をゲッターサイトで受け止めるマスターガンダム。
隙がない。やはり、この機体ではアキト、ガウルンは同時に捌ける相手ではない。
舌打ちする、シャギア。
背後で物音。咄嗟に機体を回すも、そこにいたのは騎士凰牙、ネゴシエイターの機体。
騎士凰牙はシャギアの横をすり抜け、アキトの駆るブラックゲッターの前に立ちはだかった。

「シャギア、こちらは任せろ。君はガウルンを頼む」
「ネゴシエイター……戦う気になったのか?」
「私とて、子ども達を戦わせておいて涼しい顔でいられるほど腐ってはいない……それだけだ」

ヴァイクランと騎士凰牙、背中合わせに立つ。
ともあれ、これで一対一対一から一対一が二組へ。少しは余裕のある戦いができる。

「ガイ――いや、テンカワ・アキト。君は私が止めるよ。ユリカ嬢のためにも」
「言ったはずだぞ。貴様がユリカの名を口にするな、と」

「チッ、ネゴシエイターめ。いいところで水差しやがる……まあいい。アンタにもそろそろ飽きてきたんでな、死んでもらうぜ」
「やれるものならやってみるがいい。返り討ちにしてくれる!」

クインシィ対アイビス、甲児、キラ、ソシエ。
アキト対ロジャー。
ガウルン対シャギア。

役者は集い、相手を替えて戦いは続く。バサラの歌だけが変わることなく流れていく――

342戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 22:58:35
『……ッ、か、はぁっ、はっ。ぐっ――次だ! オモイカネ!』

息継ぎもそこそこに、次の曲を指名する。
思い出せる限りの曲は入力している。ナデシコを統べるAIは即興にしては十分すぎるほどの音楽を奏でてくれる。
バサラにできることはただ、歌うことだけ。
歌って、歌って、歌い続ける。山を動かせると信じひたすらに歌っていた少年時代――あの頃のように。

が、オモイカネはモニターに大きくバッテンを表示する。ご丁寧にブー、ブー……とSE付きだ。
歌うことにのみ全精力を注いでいたバサラは気付かなかったが、いつの間にかナデシコに一機、肉薄する機体があった。
ぼんやりと映し出されたその機体のシルエット、頭部に生えた翅――

『ラーゼフォンじゃねえか!』

そう、バサラに支給された人造の機械神。
奪取したカテジナが放送で呼ばれたことから、破壊されたものと思っていた。

『そうか……やっぱりお前も俺と歌いたいんだな! いいぜ、セッションといこうじゃねえか!』

バサラはラーゼフォンを奪われたとき、必ず自分の下に戻ってくると信じていた。
一緒に歌った……根拠はただそれだけ。それだけで十分だった。
が、やがて明瞭になったその姿はバサラの記憶とは大きく異なっていた。
右半身はほぼ削り取られ、胴体全面は見る影もなく傷ついている。
左手には太刀。そして何より、胸部に無理やり接続されたようにしか見えない球体が異彩を放つ。
完全なるラーゼフォンを知るバサラからすれば、その姿はひどく歪で不自然なものに見えた。

「ナデシコ、応答しろ。こちらはゼスト、ユーゼス・ゴッツォ。着艦を求む」

戸惑うバサラをよそに、ラーゼフォンから通信が入る。

『――ナデシコ、熱気バサラだ。着艦するつったが、どういうつもりだ?』
「手短に言う。ここから離脱するため、ナデシコのコントロールを預けろ。この機体なら損傷した箇所のカバーができる」
『どういうこった。ラーゼフォンにそんな機能はないはずだぜ?』
「ラーゼフォン? ――ああ、この機体の名前か。君はこれを知っているのか。
 そうだな……詳しくは言えんが、私が手を加えてそういうことができるようになった。今はそれで納得してくれ」
『納得ったってな……』
「済まんが、議論している時間はない。早く向こうで戦っている彼らの援護に向かわねばならん。制御中枢の所在を教えてくれ」

男の言葉を、渋々だがバサラは了承した。
歌を止めることになるが、我を通して甲児達の足を引っ張るわけにもいかない。
オモイカネに指示し、ラーゼフォン――ゼストと直接回線で接続を行った。
数秒の後……

バサラの眼前を、一斉に表示された警告表示が埋め尽くした。

『な……なんだ!? 何がどうなってやがる!』

コンソールに走り寄る。
明滅し、いくつものウィンドウが開いた次の瞬間消えてゆく。
スピーカーからサイレンのような効果音が鳴りだした。バサラはそれを緊急の――オモイカネのSOSだと直感した。
やがて何重にも展開したウィンドウがすべて消える。残った表示は一つ。

【NERGAL ND-001 NADESICO  ナデシコ級一番艦「ナデシコ」管理AI「オモイカネ」、削除シークエンス実行中】

その文字列の下にはゲージが一つ。70、75、80、85――さして間を置かず、100に到達した。

その瞬間、艦内すべての照明が落ちた。突如として暗闇の中に取り残される。
何が起こった――そう言おうとした。だが、喉からではなくスピーカーから聞こえてくるはずの自分の声は、ない。
コンソールに僅か残る光を頼りに手の甲を確認する。

343名無しさん:2009/03/19(木) 22:58:38
すいません、代理投下していた自分もさるにひっかかりました……

344戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 22:59:33
注入されたナノマシンは効果を発揮するとき、淡く輝きを放つ。それが、ない。
わけも分からず、バサラは叫ぶ――叫ぼうとした。力を込めた喉からはヒューヒューと空気が漏れる音だけ。
そして、唐突に照明が復帰した。
眩い光は混乱していたバサラの心にも落ち着きをもたらした。停電でもあるまいし、今のは何だったのだと、呟く。

呟こうと、した。

声は、戻っていない。

愕然と立ちすくむ。やはりさっきのは自然に起こった事故などではない。
何かのきっかけがあり、起こるべくして起こったもの。
何か――そんなもの、一つしかない。あの仮面の男だ。
コンソールを操作し呼びかけようとする。だが反応がない。
苛立ち、拳を液晶に叩きつけた。

「あー、聞こえているかね? ユーゼスだ」

押し付けた拳の先。腕を引くと、仮面の男が映っている。

「ど……う、……っ!」

いくらかマシになったとはいえ、やはりままならぬ喉を絞る。声は出なくともこの形相を見れば要件などすぐにわかりそうなものだったが。

「説明しろと言いたいのだろう? 君の喉のことは把握している。よろしい、聞きたまえ。
 ――ナデシコはたった今、私の手に落ちた。オモイカネとかいうAIはデリートしたよ」
「……!」
「君にはしばらくそこでじっとしていてもらおう。隔壁はロックさせてもらった。もちろん通信も繋がらんよ。では、また後でな」

ブツリ、とモニターから男の顔が消える。
急いでパネルを操作するも、男の言ったとおり全ての機能が封じられている。
照明と空調だけが機能しているのは情けだろうか。何にせよ、隔離されたことに変わりはないが。

(チクショウ……ふざけやがって! こんなもんで俺の歌を止められると思うなよ!)

ギターを担ぎ、ブリッジと通路を繋ぐ扉へと駆け寄る。もちろんロックされていたが、バサラはそれでも諦めない。
手で引っ張って開かないと見るや、一歩下がってその長い足を振り回す。
二度、三度となく蹴りつける――ビクともしない。
最新鋭の戦艦の扉が、推理小説などでよく叩き壊されるドアのように吹き飛ぶはずもなく。
数分、バサラが扉を蹴りつける音のみが響く。

(……くそっ! 何か、何かないのか! ここから出て、甲児達に知らせる方法は――!)

考える。ひたすらに考える。
バサラはブリッジに閉じ込められていて、甲児達は遥か遠く。救出はもちろん期待できないので、自力で出るしかない。
だがバサラ単独の力では扉を開けられない。せめてオモイカネがいれば違ったのだろうが。
と、そこまで考えてようやくオモイカネがデリートされた、という事実が重くのしかかってきた。
ユーゼスの言葉はおそらく真実なのだろう。ナノマシンを介しても何の反応もない。
ただのAI――されど、一緒に歌った『仲間』。バサラはまた一人、友を失ったのだ。

(すまねえ……俺は自分のことばっかりで、お前のことを考えてやれなかったな。俺にできるのは、せめて――)

いったん脱出の件を頭から追い出す。どうせ何もできないのなら、何をしていても同じだ。
背負ったギターを取り出す。かき鳴らす響きは先程ともに演奏した葬送曲。
バサラなりの、友に送る手向けとして。

本人以外誰も聴くもののいないブリッジに哀切のメロディが響き渡る。
せめて声が出せればな……とバサラが自嘲した時、ガシュ、と。背後で扉が開く音が聞こえた。

345戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:00:47
驚いて振り返るバサラ。扉が開いている――先程までどうやっても開かなかったのに。
次いでコンソールに光が灯る。
見れば、格納庫までの最短距離を示した艦内地図が表示された。そこに至る全ての障害は解除されている。
背景には大鐘のようなアイコン。そして、画面の端にはただ一言が添えられている。

『Hurry to the hangar.』

直感する。これは消えゆくオモイカネが示した最後の抵抗なのだと。
声の出ないバサラには声紋照合などできない。故に、そのギターの音色をトリガーとしてプログラムの奥底に隠蔽した。
最期の時間を自分ではなくバサラのために使った――その事実に胸がカッと熱くなる。

(お前……すまねえ。今は、甘えさせてもらうぜ!)

ギターを担ぎ走り出す。この異常は当然ユーゼスも気づいているだろう。
再び隔壁を閉じられる前に、辿り着かねばならない。

走って、走って――格納庫へと滑り込む。
その背後で隔壁が閉じる音が聞こえた。間一髪だったらしい。
とにかく、これで脱出の手段は確保できた。残っている機体へと近づく。

「止まりたまえ」

手近にあったぺガスへと向かったとき、ユーゼスの声が聞こえた。咄嗟に振り向くと、そこにいたのはプロトガーランド。
最悪なことに、ユーゼスが乗っているらしい。

「まったく、あのAIも面倒なことをしてくれる。君に今出ていかれては段取りが狂うのでな。
 大人しくしていられないなら、ここで死んでもらおう」

腕部のビームガンがバサラを照準する。ピタリと突き付けられた銃口に動きを封じられた。
目線だけを巡らし、辺りを確認する。
ハッチは開いている。その向こうにはラーゼフォン。
ぺガスは――遠い。走っても5秒はかかる。撃ち抜かれる方が早そうだ。
応戦しようにもバサラは銃など持っていない。仮に持っていたとしても、使いはしないのがバサラという男だが。

(こいつがここにいるってことは、ラーゼフォンは無人……やるっきゃねえ。こいつをすり抜けて、ラーゼフォンを奪う――!)

覚悟を決めた。重心を爪先に、踵を浮かせいつでも飛び出せるように構える。

「気に入らん眼だ。足掻き、諦めず、絶望しない……実に、不愉快だ」

ガーランドの腕が動く。発砲されてからでは遅い。
撃つ、その一瞬前。もう狙いの修正は効かない、その一瞬――

346戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:01:33
(今だ!)

バサラの鋭敏な聴覚が捕らえた、ガーランドのスピーカーから漏れるユーゼスの呼吸。
吸って、吸って、止める――最も集中した瞬間。
バサラは横っ跳びに跳ねた。
スローになる視界の真ん中を光が横切っていく。避けられた……!
足を着き、その勢いのまま走り出す。
戸惑ったように動きを止めたガーランド。膝を蹴ってその頭部に駆け上がり、一瞬で脱いだ上着を巻きつけた。
小細工だが、これで時間は稼げるはず。
跳び離れ、今度こそラーゼフォンに向かおうとして――

「な……っ!」

プロトガーランドの背後……バサラの位置からは見えなかったところに、ガロード・ランが倒れていた。
思わず足が止まる。
止まらずに行けば、ラーゼフォンは奪えたはずだ。だがガロードを置いていくことになる。その一瞬の逡巡が、隙となる。
背後からプロトガーランドの腕が伸びる。
振り返ろうとしたときには首を掴まれ、抱え上げられていた。

「チッ……手間をかけさせてくれる。だがここまでだ」

息ができないほどではないが抜け出せもしない――そんな絶妙の力加減で絞め上げられる。
プロトガーランドのキャノピーが開き、ユーゼスが顔を出す。

「大人しく従っていれば、その喉を治すことも考えてやったものを。まったく度し難いな」

ユーゼスはその手に錠剤のようなものを弄びつつ言った。

「だがまあ、制御できん駒に用はない。お前はここで死ね」

もう片方の腕のビームガンがバサラに突き付けられた。
腹立たしいことに、ユーゼスはキャノピーを閉じない――最期の瞬間を観賞するつもりだというように。
全身に力を入れてもがく。だが、そこは小型とはいえ機動兵器。生身の力で敵うはずもない。
ビームガンに火が灯る。その様を凝視しつつ、ついにここまでかとバサラは思った。

「死ね」

ユーゼスの宣言、そして――

「ぺガアアアァァァァァァァァァスッッッ!!」

――絶叫。バサラのものでも、ユーゼスのものでもない。

そして、その声に応えるものがいた。

347戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:02:16

「ラーサ」

格納庫の片隅で眠っていたもう一つのロボットが、その言葉を鍵に目覚めた。
ブースターに点火――猛然とガーランドに体当たりする。

「ぐ、おおっ……!?」

サイズはほぼ拮抗している。だが、加速した分ぺガスに利があった。バサラを掴んでいた手も離し、吹き飛ぶプロトガーランド。
投げ出されたバサラ。

「が……っ! ってぇ……」
「バ、サラ……!逃げ――るぞ!」

ぺガスの名を読んだ張本人であるガロードが、息も絶え絶えに叫ぶのが聞こえた。
見れば彼はなんとか身を起こし、ぺガスを傍らにハッチへと向かっている。
遅れじと立ち上がる。ふと、さきほどユーゼスが弄んでいた錠剤が目に入った。
喉を治す――本当かどうかわからない。ブラフかもしれない。
判断はつかなかったが、とりあえずそれを拾い上げて走り出す。

「貴様らぁっ!」

背後でプロトガーランドが立ち上がる音がした。
ラーゼフォンへは遠い――ぺガスの下へと走り、その影に身を隠す。

「捕まってろ、バサラ――飛ぶぞ!」

ガロードが言う。ぺガスがその身を人型から飛行機のような形状へと変える。

「ラ……フォ……!」
「ダメだ! あれは俺達には操縦できない!」

ガロードは断言した。
それはロジャーからユーゼスに自身が引き渡された時、身体は動かないながらもぼんやりとそのコクピットを見ていたが故の確信。
手が計器に触れても、首輪は操縦方法を伝えてはこなかった。
これはガロードの知らぬことだが、ユーゼスはAI1を媒介としてラーゼフォンを動かしている。
それは彼が類い稀なる頭脳と技量を兼ね備えていたからできることだ。
技量で言えばガロードとて負けてはいないが、AI1からもたらされる情報を同時に処理するには荷が重い――
長く一人で荒廃した世界を生き抜いてきたガロードには、直感としてそれがわかった。
だからあの機体を奪うことより、ぺガスを呼ぶことに賭けたのだ。
比瑪亡き後、ぺガスのマスターは空位だった。
その後初めて呼びかけた者が新たなマスターとなるという推測――ガロードは賭けに勝った。

ハッチから、弾丸のようにぺガスが飛び出す。
テッカマンブレード専用として調整されたその上部には、もちろん生身の人間が乗ることなど想定されていない。
故に全身の力を用い、バサラとガロードは振り落とされないようにしがみついていた。

「逃がすかぁっ!」

ハッチの淵に立ち、プロトガーランドがビームガンを乱射する。
二人がしがみついているため満足な回避運動ができないぺガスに、その光芒は容赦なく突き刺さった。

「ダメだ、墜ちる……ッ!」

ガロードの声が遠く聞こえる。
黒煙を吹き出し、地上へと加速度を増しぺガスが落ちていく。
その間バサラが見ていたのは、変わり果てた姿になったラーゼフォン。そして、今はもうユーゼスの支配下に落ちたナデシコ。

(済まねえ、比瑪、オモイカネ……)

やがて、彼らは地上へと激突した。

348戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:03:05
     □


マスターガンダムが片手だけで身の丈ほどもある大鎌を回転させる。
風を切る音が耳にうるさい。身を捻り、全身のバネを最大限に使い振り下ろしてきた。
念動フィールド展開。大鎌は、力場を少しづつ食い破りながらヴァイクランへと迫る。
だが欲しかったのはこの一瞬。

「――オウルアッシャー、マキシマムシュートッ!」

フィールドを解除。同時に充填していたエネルギーを解放する。
大鎌は右手を犠牲に防いだ。肘から先がすっぱりと切り落とされる。
そして至近距離からのオウルアッシャーが、マスターガンダムの頭部へと直進する。
瞬間、やつは身を傾けた――光弾は右目を中心に頭部を半分ほど削り取っていっただけだ。
機動性もさることながら、凄まじい追従性、反応速度だ。ヴァイクランでは真似のできない芸当。
シャギアは荒い息を吐く。

個別に戦闘を開始して10分は経っただろうか。
何度もヒヤリとする場面があった。
何度も好機と思う場面があった。
だが、勝負はつかない――つけられない。
カルケリア・パルス・ティルゲムが告げる仲間達の戦闘もほぼ同様と言えた。
遅れてきたロジャーは本当にアキトを倒す気があるのかは疑問だが、隻腕でアレを抑えていると考えれば一応の信頼は置ける。
クインシィはどうしようもない。何度か呼びかけたが、一度として反応はなかった。
彼女はアイビスという少女を優先的に狙っているらしい。
甲児と頭部のない機体はうまく彼女に向かう攻撃を妨害しているが、基本的に殺すつもりはないようでやはり攻撃は甘い。
特に甲児だ。彼はクインシィと面識がある。ガロードの仲間ということで、敵だとは割り切れないのだろう。
そこが彼の美徳でもあるのだが――今は、それすらも腹立たしい。
戦況は停滞していると言えた。

(何か……何か、戦場を動かすきっかけでもあれば……!)

こちら側の機体が一機でも落ちれば、そこから一気に突き崩される。
クインシィが勝ったとしてこちらにまで仕掛けてくることはないだろうが、今さら組めるとも思わない。
アキト、ガウルンは論外。嬉々として横槍を入れてくるだろう。

「気を散らしてんじゃあねぇっ!」
「むう……ッ!」

一瞬、反応が遅れた。
マスターガンダムの左腕に、例の暗い光が瞬く。ブラックゲッターの刃を叩き折った力だ。
念動フィールドを、まるでバターを熱したナイフが溶かすかの如く切り裂いてくる。

「いかん!」
「終わりだぜッ!」

ダークネスフィンガーがヴァイクランの胸に齧りつく。
凄まじい熱量――装甲が一気に浸食される。
モニターに亀裂が走る。

「ぐおおおっ……!」
「楽しかったぜ、兄ちゃん。あばよ」

ガウルンはもはやこちらに興味を半ば失いつつあるようだった。
更に強く掌を押し込んでくる――

(ここまでか――だが、貴様も連れて行く!)

べリア・レディファーを撃つ時間はない。だが、溜めこんだエネルギーを一気に解放することはできる――自爆。
意を決し、マスターガンダムを見据える。

349戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:04:17

「――――!?」

見据える、そこには何もいなかった。
いや――左手のビルにマスターガンダムが叩きつけられている。

「無事かね?」

見上げればそこにはまた新たな機体。
これまた隻腕の、50mはあろうかという天使のような。

「だ……誰だ?」
「私はユーゼスという者だ。ロジャー・スミスに請われガロード・ランをナデシコに移送した。
 援護する、我々はやつを討つぞ」

モニターに映る仮面の男。
天使――ラーゼフォンは剣を抜き放った。その剣には見覚えがあるような気がしたが、詳しく思い出せない。

「ってえ、な……おいおい、タオルを入れるにしちゃあ随分手荒じゃねえか」
「乱入が禁止とは聞いていなかったのでな」

マスターガンダム、ガウルンはまだ動けるようだ。
サイズ差にして実に三倍の両者が向かい合った。天使が剣を振り下ろす――当たれば即両断は間違いない威力。
シャギアは突然現れたこの仮面男を信用するべきかどうか迷う。だが、現実としてガウルンと敵対している。
どうあれここが押し込むチャンスには違いないと自分を納得させる。

「私の機体は砲戦型だ。後方から援護する!」
「了解した」

ラーゼフォンが前に出て、ヴァイクランが援護する。
それまで攻勢に出ていたマスターガンダムが逆に逃げの一手を打つことになった。
ゲッターサイトが五大剣を受け止め――いや、いなす。オウルアッシャーを足元に向けて撃った。
マスターガンダムは飛び上がって回避。そこにラーゼフォンの太い足が唸りを上げて喰らいつく。
吹き飛んで行くマスターガンダム。これはいける、と確かな手ごたえを感じた。

幾分余裕ができたので、周囲の戦況を確認。ロジャーはいよいよ持って苦戦している。
ガウルンを倒した後、まずは彼を援護すべきか。
次いで真ゲッターと相対している面々へ目を向ける。
甲児の機体、ストレーガには損傷が増えているものの、致命打はなさそうだ。
本来ならここで声をかけるのは注意をそぐことになるが――今、ストレーガにはキラ・ヤマトも同乗している。
何故一度敵対した彼がここにいるかはわからない。交渉が望みだったとして、その身一つで乗り込んでくるとは見上げた度胸だと思ったが。
とまれ、彼に聞くのが一番情勢を把握できるだろう。

「キラ・ヤマト、応答しろ。こちらはシャギア・フロストだ」
「――はい、キラです。どうしました?」
「そちらの戦況はどうだ? 援護が必要か?」
「正直、厳しいです。クインシィさんを止めるにしてももう一機欲しい。そちらはどうです?」
「こちらは心配しなくていい。今、ユーゼスという男が援護してくれている。直にガウルンを撃破できるはずだ」
「ユーゼス……!?」

ブツ、と通信が途絶。ストレーガが激しい機動に入ったのだろうか。
警告音。
横手からブラックゲッターが突っ込んできた。ロジャーは突破されたようだ。
警戒する――が、ブラックゲッターはヴァイクランには目もくれずラーゼフォンと交戦中のマスターガンダムに向かっていく。

「ユーゼス、後ろだ!」

声を飛ばす。ラーゼフォンはだが悠然と、むしろゆっくりとした動作で道を空けた。
ブラックゲッターがそこに飛び込み、マスターガンダムを連れて離れていく。
今のは、まるで自分が攻撃されないと確信していたかのような動きだった。

「……さん! 応答してください! シャギアさん!」

するとオープン回線でキラの声が聞こえた。先程までの指向性の通信とは違い、この戦域にいる全ての者に届く声だ。
ひどく焦っている。何か大事なことを伝えようとしている、そんな声だ。
通信機をいじるも、ミノフスキー粒子が濃いのか回線が繋がらない。仕方なしに、シャギアもオープン回線で応える。

「どうした、キラ・ヤマト。何を焦って――」
「その人は危険です! テンカワ・アキトと組んでいます!」

キラは一息に言い切った。一瞬、こいつは何を言っているんだ――と思考に空白が生まれた。
気がついた時には、目の前にラーゼフォン。剣を振りかぶっている――

「な」

震動、轟音、痛み――ヴァイクランを縦に真っ直ぐ斬り下ろす剣。
シャギアの意識は闇に落ちた。

350戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:05:02
     □


「……ラ! おい、しっかりしろ! おい!」

揺り動かされる感覚。耳に滑り込んでくる声――
目を覚ますと同時、身体のあちこちがバサラに激痛を訴えてきた。
廃墟の一角、ナデシコからほど近い場所。
身体を起こす。隣にいたガロードが息をついた。
どうなった。そう言おうとして、声が出ないことを思い出す。手振りでなんとか言いたいことを示した。
腕を押さえているガロードは頷き、

「ああ、俺達は少し気絶してたらしい。俺も今ぺガスに起こしてもらった」

と、ぺガスを指で示す。釣られて見やると、ぺガスはひどいものだった。
あちこちに損傷が見られ、腕は片方が丸々欠落している。
バサラとガロードが地面に激突する瞬間、その身を犠牲にして二人を庇ったためだ。

「あのユーゼスってやつ、俺達が死んだものと思ったんだろうな。止めを刺さずに行っちまった」

見上げた遥か遠くで、そのユーゼスの駆るラーゼフォンがヴァイクランとともに戦っていた。

「多分、シャギアには俺達のことは何も言ってないんだろう。あのガンダムを倒すことを優先してるらしいけど……」

と、ガロードが立ち上がりぺガスの下へと歩いていく。
腕だけでなく、足も片方引きずっている。とても万全とは言い難い状態だ。
慌てて追い付き、肩を掴む。どこに行く気だ、と視線で問いかけた。

「ああ……お姉さんを、止めなきゃさ。ストレーガには甲児が乗ってるはずだから、多分お姉さんは勘違いしてるんだ。俺が止めてやらなきゃ……」

その怪我では無茶だ、と言いたかった。だが、ガロードの決意の眼を見てその言葉は喉元で止まる。
代わりに、ぺガスへと乗り込むガロードを手伝い、自身もよじ登った。

「おいおい、アンタも来るのか?」

当然、と親指を立てた。たとえ歌えなくてもできることはあるはずだ。
やや時間をかけてぺガスが浮上する。大体ビルの3回ほどの高さまで上昇した時――

351戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:06:04

「……ッ!?」

ドン、と横から押された。
急速に迫る地面。慌てて姿勢を整え、猫のように四肢をすべて使い着地した。
ぺガスを、いやガロードを睨みつける。何のつもりだ、と。

「悪いな、コイツは一人乗りなんだ――それに喋れないアンタがいても、役に立たない。わかるだろ?」

ガロードが釈明する間にもぺガスはどんどん高度を上げていく。

「アンタはここで隠れてるんだ。全部終わって、無事だったら迎えに来る。
 戻ってこなかったら……そうだな、ほとぼりが冷めるまで待ってこの街を脱出するんだ。
 マジンガーZのパイルダーが放置されてたから、あれを使えばいいよ。
 そんで、D-3の市街地に行くんだ――アムロさんがいるはずだから、俺の名前を出せば信用してもらえると思う」

聞きたいのはそんなことじゃない――バサラは今ほどこの喉を恨めしいと思ったことはない。

「じゃあ、な……死ぬなよ。アンタの歌、俺、好きなんだからさ」

そして、ぺガスは行ってしまった。一人取り残されたバサラ。
どうするべきか。
隠れる? ふざけるな、絶対にNOだ。どうにかしてあの戦闘に介入する。
が、まさか生身で行くわけにもいかない。

『マジンガーZのパイルダーが放置されてたから』

ガロードの言った言葉だ。マジンガーZがやられたところはここからさほど遠くはない。
意を決し、走り出す。
瓦礫を越え、道路をひた走る。
ふと、ポケットの中の錠剤の存在を思い出した。
これを飲めば声が出る――ユーゼスはそんなことを言っていた。
迷う。だが、今はその時ではないと走ることに意識を集中した。

352戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:06:49
     □


「エネルギーが半分切った! 甲児、もっと抑えて!」
「無茶言うな! 手加減して何とかなる相手かよ!」

狭いストレーガにはのコクピットで二人の少年が怒鳴り合う。
兜甲児、キラ・ヤマト。一度は銃を手に向き合い、今は何故か呉越同舟の身。
甲児は真ゲッターの動きを止めようと躍起になっているものの、元々のパワー、そしてスピードが違いすぎる。
ネリー・ブレンに乗るアイビスの回避が間に合わないときに割り込んでいくのも、そろそろ限界だ。
そして二人を焦らせている理由はもう一つ。

先程シャギアに通信したときに出た名前、ユーゼス。
ブラックゲッターがこの戦場にいたことから予想はしていたものの、まさかシャギアを援護しているとは思わなかった。
それでもカミーユから事のあらましを聞いたキラは確信した。何か裏があると。
突如使えなくなった通信回線をいじりつつ、説明を求める甲児に叫び返す。

「おい、ユーゼスさんとアキトさんが敵ってどういうことだ!? あの人達は主催者に反抗してるんだぞ!」
「僕の仲間が襲われたんだよ! それに、主催者に反抗してるからって安全な訳じゃない……他人を利用するためだってこともある!」

甲児も彼らと接触した一人だ。その印象は良いものであったからこそ、キラの言葉がにわかに信じられない。
しかし現実、アキトが駆るブラックゲッターはシャギア、クインシィ、そしてロジャーと交戦している。
半信半疑そうではあるが、とりあえず『味方ではない』という程度の認識は甲児にも伝わった。
ともあれ突如濃くなったミノフスキー粒子に手を焼きオープン回線で伝えたものの、シャギアからの応答はなく。
様子を見に行きたいが、もしストレーガがここを離れればアイビスが窮地に陥る。
そんなジレンマの中、索敵を続けていたキラは予想が最悪の形で的中したことを悟る。
ヴァイクランが黒煙を吹き上げ、膝をついていた。
その近くでネゴシエイター操る騎士凰牙と、巨大な天使が交戦している。
ヴァイクランが止めを刺される前に、ブラックゲッターを追ってきたロジャーが割って入った結果だ。
マスターガンダムはブラックゲッターと激しく交錯している。そちらは今は手を出さなくても良さそうだ。

そして、遅まきながらもバサラの歌が聞こえないことに気付く。
もしやユーゼスが、と想像はどんどん悲観的になる。
とにもかくにも、クインシィをなんとかしなければ――焦りだけが膨らんでいく。

「ダメ――もうバイタルジャンプを続けるエネルギーがない!」

アイビスの悲鳴。小柄なブレンの最大の武器、短距離転移が使えないという知らせ。
ソシエ操るガナドゥールも限界は近いのか、放たれる攻撃の頻度は減っている。
臍を噛む。何故、自分はただ見ているだけなのか――力が欲しいと、キラは強く願う。
接近警報。
新手かと真ゲッターに集中する甲児に代わり、サブモニターを確認。
そこに映っていたのは――

「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!」

小さな影が、止める間もなく真ゲッターとネリー・ブレンそしてストレーガが入り乱れる空域に突っ込んできた。
その影――なんと生身。
飛行形態になったぺガスの上で、ガロード・ランという少年が強風にその身を晒し、両手を広げ真ゲッターの前に立ちふさがった。

「あいつ……ガロード!?」

上ずった甲児の声。キラも、アイビス、ソシエも同じ気持ちだった。
プラズマや熱線、ビルをも粉砕する拳が入り乱れる戦場に生身で乱入するなど正気の沙汰ではない。

「止めるんだ、お姉さん。この人達は、お姉さんの探してる勇じゃない!」

そんな驚愕をよそに、ガロードは真ゲッターを駆るクインシィに語りかける。

353戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:07:26

「お前……ガロード! 自分が何やってるかわかってるのか!? そんな危ない真似をして!」
「危ないって言うならお姉さんの方がよっぽど危ないよ……とにかく! 止めるんだ、お姉さん。お姉さんのやってることは間違ってる!」
「だ――黙れ! そのブレンはユウのブレンだ! だったら、ユウが乗ってなきゃおかしいだろう!?」
「だから私はアイビスだってば! 人違いなの!」
「うるさい! だったらそのブレンだけでも壊すんだ! そうすれば、戦う力のなくなったユウなんて簡単に……!」
「お姉さん!」
「うるさい――どくんだ、ガロードっ!」

真ゲッターが、拳をぺガスに――そこに立つガロードに突きつける。
このままでは彼が危ない。キラと甲児はそれをアイコンタクトでアイビス、ソシエに伝える。
二人は頷き返してきた。
真ゲッターが動く瞬間取り押さえようと、神経を緊張させる――

「みんな、大丈夫だ。手を出さないでくれ」

が、当のガロードから制止の声がかかった。
何か策があるのかと、息を呑んでその挙動を見守る。

「お姉さん――俺の言ってることが、信じられないかい?」
「ガロード……他のことならまだしも、これだけは譲れない。邪魔をするなら――」
「――するなら、俺を殺す? でもダメだぜ、お姉さんに俺は殺せない。何故なら――」

滞空するぺガス。ガロードはその淵に立ち――

「アーイ、キャーン……フラァァァァァァァァァァァァイッッ!」

飛び降りた。

「……なっ!?」

呟きは誰のものか――おそらくは全員だろう。
ガロードの身体は天空から真っ逆さまに落ちていく。
ストレーガが動こうとした。甲児だけでなく、アイビス、ソシエもまた同時に。
だがそれよりも早く――

「ガロードォォォォォォォォォォッッッ!!」

真ゲッターが、残像すら残しかねない速さでその後を追った。

ガロードを追い越し、地面に激突する寸前でオープンゲット。
真ベアー号のキャノピーが開き、間一髪でそのシートがガロードの着地点となる。

ゲットマシン三機が足並みを揃えて旋回する。その内部で、

「いてて……た、助かったぁ……」
「ガロードッ! お前、お前――馬鹿かっ!」
「うわ、やっぱり怒ってる……」

クインシィが、鬼の形相でガロードを怒鳴りつけていた。

「待ってよ、お姉さん。俺的にここはよく助かったっていう感動の――」
「黙れ! あんな危ないことをしておいて何が感動だ! 私が動かなかったらどうするつもりだったんだ!」
「――でも、お姉さんは動いた。復讐よりも俺の命を助けることを選んだ。だろ?」
「そ、それは……」
「言っても分からないだろうって思ったからさ。でも、良かったよ。もしかしたら見捨てられるかと思った」
「……私が、お前を見捨てるはずはないだろう……馬鹿」

354戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:08:31

それきり、不貞腐れたように黙るクインシィ。
ホッと、ガロードは息をついた。賭けだったが、何とかクインシィを落ち着かせることはできたようだ。
見守るストレーガに通信を入れる。

「甲児、何とかなったよ。お姉さんは落ち着「お前は馬鹿かッ!!!!」

途端、怒鳴り声がコクピットを満たす。甲児一人のものではない――他に知らない声が三人も。

「何考えてんだこの馬鹿! 死ぬ気かこの馬鹿! ええと、とりあえず馬鹿野郎!」
「アンタ何考えてんのよ馬鹿じゃないの!? 馬鹿、この馬鹿!」
「声は老けてるくせに頭の中身は空っぽじゃないのこの馬鹿! 私寿命が縮まったわよ!」
「君はば……いや、ええとみんな落ち着いて。とりあえず怒るのは後にしよう」

最後の一人、少年は自分以外の三人の声に押されたか怒鳴ることなく提案した。多分他の面々の剣幕に引いていたのだろうが。

「ガロード……だよね? 僕はキラ・ヤマト。アムロさんから話は聞いてるよ」
「あ、ああ。そんなに怒らなくても……い、いえ! 何も言ってません!」

ぼやくガロードは途中でクインシィに睨まれた。

「アムロさんから? ああ、よろしくな! 俺はガロード・ランだ!
 とにかく! お姉さんはもう大丈夫だ! ……だよね?」
「ふん」

モニターの向こうでクインシィがそっぽを向く。機嫌を取るのには苦労するだろうが、少なくとももう暴走はしないはずだ。

「よし、じゃあシャギアさんとロジャーさんを助けに行こう! 甲児!」
「あいよ!」

キラの号令を機に、ストレーガ、ガナドゥール、ネリー・ブレンときて殿に真ゲッターがつく。
すぐに騎士凰牙は見つかった。何しろラーゼフォンの巨体は目立つ。

「ソシエ、アイビスと一緒にシャギアさんの様子を見てきて。クインシィ……さんは、僕らと一緒にロジャーさんの援護をお願いします」
「……」
「お姉さん」
「……わかってる! 私に命令するな!」

キラの指揮のもと、ストレーガ、真ゲッターがラーゼフォンへと向かい、損傷のひどいガナドゥールとエネルギーの心許ないネリー・ブレンがヴァイクランを救助することになった。

離れていくストレーガと真ゲッターを見送り、二人の少女はヴァイクランへと急ぐ。
機体前面を走る太刀筋――が、強固な装甲が幸いしたかコクピットまでは届いていない。
外から呼びかけるも反応がない。
アイビスがブレンに命じてヴァイクランのハッチをこじ開け、気絶したシャギア・フロストを強引に掴み出した。
ソシエがコクピットから出て、シャギアの頬を張る。
数回平手が往復したところでシャギアは目を覚ました。

「う……う、うん? 君は、誰だ?」
「後にして! 早く乗って、行くわよ!」

と、足がおぼつかないシャギアに肩を貸してガナドゥールのコクピットへ。
ヴァイクランはまだ動くかもしれないが、この乱戦の中では安全とは言えない。
戦力は減るがこちらで保護した方がいいという判断。

355戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:09:09

「少し揺れるけど、しっかり掴まってて」
「う……うむ。すまんな」
「ソシエ、一旦引くよ。ナデシコまで後退しよう」
「わかったわ」

そしてネリー・ブレンとガナドゥールが後退する。
一方、ラーゼフォンを前にした甲児達。

「ゲッタァァァァビィィィイイムッ!!」

騎士凰牙を捉えんとするラーゼフォンの前に真ゲッターの放つ光線が割り込んだ。

「ロジャーさん!」
「キラ君か!? 彼女は大丈夫なのか?」
「ええ、もうクインシィさんは大丈夫のはずです」

モニターの中の真ゲッター。二人が乗ったことで、先程よりずっと鋭い動きでラーゼフォンへと挑みかかる。
ガロードというバランサーを得たクインシィは安定している。とりあえず心配はいらなそうだ。
ストレーガがライトニングショットで後方から援護する中、キラはロジャーとコンタクトを取っていた。

「済まんな、依頼された交渉を果たせずに……Mr.ネゴシエイターが聞いて呆れる」
「この状況じゃ仕方ないです……それより、今のことを考えましょう」
「うむ。とりあえずはだ、ガウルンには交渉の余地はない。私はやつは排除するべきだと思う」
「話には聞いてましたが、あの人はたしかに危険です。僕もその意見には賛成です。
 ……けど、ロジャーさん。ユーゼスとアキトって人はどう見ますか?」

あえて自分の知る情報は伝えず、ロジャーからの率直な意見を聞こうとするキラ。
甲児も援護を行いつつ、聞き洩らさないように何度も振り返っている。

「アキトは……彼が戦いに乗っているのは私にも責任がある。できれば止めたいところだが、今の彼は危険だ。君達は自分の安全を優先するんだ。
 そしてユーゼスだが、何を考えているか……そうだ、ガロード・ラン! 彼は無事か!?」
「あ、はい。今はそのロボット……真ゲッター? はい、真ゲッターに乗っています」

甲児から補足を受け、答える。

「そうか、良かった……後は、あの歌っていた男か」
「バサラさんですね。やっぱり、ナデシコで何かあったんでしょうか」
「かもしれん……くそっ! これまた私のミスだ、情けない!」

ガツ、と何かを殴る音。紳士然とした男が相当苛立っているのがわかる。

「えーと、つまり。ユーゼスさんもアキトさんも、敵ってことなのか?」
「甲児は二人に会ったことがあるって言ったよね。その時どんな話をしたのか知らないけど、よく無事だったって思うよ」
「ブンドルさんがいたからかな……くそ、俺は騙されてたってことかよ!」
「二人とも、済まないがここは任せる。私はナデシコの様子を見に行ってくるよ。この腕では君達の足手まといにもなりかねんしな」

騎士凰牙が後退する。行く先はナデシコの方角。

「ようし、じゃあ俺達はユーゼスさん――いや、ユーゼスをとっちめるぜ!」
「待って、甲児。ガウルンとアキトさんが気になる。迂闊に前に出ないで」
「ああん? ここで待ってろって言うのかよ」
「そうじゃなくて、いつでも不測の事態に対応できるようにしておこうってこと。クインシィさんなら僕らが手出ししなくても大丈夫のはずだし」
「……ちぇっ、わかったよ。一旦下がって、警戒に集中する」

いつの間にか甲児はキラの言うことを素直に受け入れるようになっている。
信頼されているということなのか、非常時だからか――キラにはわからないが、それでも悪い気はしない。
ビルの上に陣取り、この戦場に散らばる全ての存在に気を回す。
ガウルンはアキトと交戦中、ユーゼスはクインシィとガロードが抑えている。
今のところこちらの脱落者はなし――バサラだけが安否不明。
数としてはこちら――敢えて言うならナデシコ組+αが勝っているが、どうにも嫌な予感が消えない。
キラも、そして甲児も。まだ何かが起こる、それを感覚として感じ取っていた。

356戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:09:51
     □


ゲッターの様子がおかしい――ガロードはそう言った。

どういうことだと聞くクインシィに、あの機体と戦い始めてからだとガロードは答えた。
あの機体――ラーゼフォン。
そう、ラーゼフォンと戦い始めてから、真ゲッターは操縦者たるクインシィとガロードの知らぬところで出力を上げ続けている。
まるであの機体に共鳴しているかのように。

「とにかく、不具合はないんだろう!?」
「ああ、戦う分には問題ない。むしろ調子は良いくらいなんだけど……」

だったら問題はない、とクインシィは断定した。
ガロードも不可解ながらもそれに賛成する。今は敵を倒すことが先だ。


そして対するラーゼフォン、それに接続されたメディウス・ロクスのコクピットの中。
ユーゼスもまた、事態が己の知らぬところで転がり始めたと歯噛みしていた。

(チッ……ガロード・ランか。やはりあの程度では死ななかったようだな。止めを刺さなかった私の不手際か)

墜ちてゆくぺガスを見たとき、あれでは助からんと放置したのがまずかった。
やつはまんまと生き延び、目前の真ゲッターを安定させ、三つの戦いの内一つを終息させこうして向かってきている。
そして――この真ゲッターと戦い始めてから何かがおかしい。
奇しくもクインシィとガロードが囚われたその疑問に、ユーゼスもぶつかっていた。
真ゲッターが謎の出力上昇なら、こちらのAI1は異常活性化だ。
撃ち合うたび、すれ違うたび――AI1の中で何かが蠢いている。
それが何かは分からない。だからこそ、苛立たしい。
とにかく、目前の敵の撃破を。それもまた、相対する敵手と同じ思考。

(何をやっている、テンカワ! さっさとそいつを始末して援護に来い……!)

更に不愉快なことにアキトは通信回線を遮断している。ガウルンとの戦いの邪魔をするな、ということだろうが。
そのアキトは離れたところでガウルンとの決闘まがいの戦いに興じている。援護など期待できそうもない。
結果的にユーゼスは一人でこの真ゲッター、そして時折り光弾を放ち援護してくる兜甲児の機体と交戦することになっている。
そう、兜甲児――こいつもネックだ。
本来ユーゼスにはあそこでヴァイクランを攻撃する意図はなかった。
バルマー本星にいた頃、設計図を見たことがあるくらいだったヴァイクラン。まさか実用化されたモデルがあったとは驚きだ。
おそらくヴァイクルの発展型であるそれは、相性で言えば参加者に支給されたどんな機体よりもユーゼスに合うはず。
故にこのラーゼフォンの次に乗る機体として目をつけていたのだが。
甲児の機体に同乗しているあの少年――キラと言ったか。あの少年がオープン回線で叫んだ一言、あれがまずかった。
テンカワ・アキトと組んでいる――
ユーゼスが敵だと言われるのならまだ誤魔化しようがあったものの、ブラックゲッターの進路を譲ってやったばかりの時にああ言われては自分からそれを証明してやったようなものだ。
そこから先は咄嗟の判断だった。撃たれる前にヴァイクランを無力化――パイロットはおそらく生きているだろう。
まったく、腹立たしい――バサラといいガロードといいキラといい、思うようにいかないことばかりだ。

真ゲッターの拳を五大剣で受け、払う。凄まじい圧力。
紫雲統夜から剣を借りておいたのが幸いした。これがなければとうに撃破されていたろう。
とはいえ現状、打つ手がないことに変わりはない。
アキトがガウルンを撃破することを信じ、ここは待ちの一手しかないだろう。

(私が他人をあてにするとはな……この代償、高くつくぞ)

ここにいる全ての者に支払わせる。そんな暗い決意をよそに、レーダーが新たな反応を示す。
真ゲッターから注意を解かないまま横目で確認する。
そこにいたのは――

357戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:10:55
     □


ナデシコに一見して変わった様子はない。
それを見たロジャーはだが安心しない。あの中にバサラがいるかどうか、それをまず確認してからだ。
倒れ伏すマジンガーZを遠目に廃墟を駆け抜ける騎士凰牙。
幾度か角を曲がったところで、後方から奇妙な音を聞いた。ギターの音のような。
振り返らせると、はたしてそこには疲労困憊といった体のバサラがいた。

「君は……無事だったか!」

コクピットから飛び降り、その肩を支える。息が荒い。あちこち怪我もしているように見える。

「私の名はロジャー・スミス。甲児君やキラ君、シャギア・フロストの仲間と思ってくれていい」
「……ッ、……は」

自己紹介するロジャーに、応えようとしたバサラが己の喉を押さえて首を振る。
次いで地面に、転がっていた石で字を書き始めた。

『俺は熱気バサラ。悪いが今は声が出ないんだ』
「声が……ふむ、了解した。とにかく無事でよかった。さあ、乗りたまえ。安全な所まで君を送り届けよう」

と凰牙に乗るように勧める。だがバサラは首を縦に振らず、代わりに今も爆音響く戦場を指し示した。

「あそこに連れて行けというのか?」

YES。そう字を書くバサラ。

「何を馬鹿な……機体のない君が行ってどうするというのだ」
『決まってるだろ、歌うんだよ!』

書かれた文字を見て、ロジャーは目を疑った。
喋れもしないくせに歌うとはこれ如何に。この男は狂っているのか、と思った。
だがバサラは至って真剣な目で、

『俺には歌うことしかできねえ。だからどんな所でもどんな時でも歌い続ける。そうしなきゃ、俺が俺でなくなっちまう』

と綴った。
ロジャーはバサラの決意が並々ならぬものであると悟る。何となれば、それはロジャー自身が交渉に臨む心構えに通じるものでもあった。

「なるほど君の信条は大したものだ。だが、実際問題として声が出ないのはどうするつもりだ? それでは歌うも何もないだろう」

というロジャーの問いかけに、バサラは懐から一錠の錠剤を取り出した。
しばらくそれを複雑そうな眼で眺め――やおら飲み込んだ。ロジャーがそれは何だと聞く間もない。
錠剤を嚥下する――そしてすぐ。

358戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:11:42

「……!? ガッ――ハァっ! あぐっ……あああっ!」

バサラは身を折り苦しみ出した。取り分け喉を押さえている――まるでそこが痛みの発生源とでも言うように。

「おい、どうした!? しっかりしたまえ!」

まさか毒でも飲んだのかと、軍警察時代に習った応急処置法を必死に思い出そうとして、

「――いや、何、でも……ない。気に、しないで……くれ」

と、バサラ本人が制止した。紛れもない、『バサラ本人の肉声』で。

「……喋れるのか?」
「……ああ、たった今から、な。まだ少し違和感があるが……大丈夫だ。これで歌える。
 あの薬、効果は本物だった、みてえだ。少しは、あの仮面野郎にも……感謝しないとな」

ロジャーにはいまいちよくわからない独り言をつぶやく。

「さあ……行こうぜ、ネゴシエイター。俺達の歌を、この戦場に響かせによ!」

バサラが先に騎士凰牙へと乗り込む。あの様子では機体を奪って行きかねないと、ロジャーも慌てて乗り込んだ。
その身がどれほど傷つこうとも、己の道を外れることないその生き様。
現実というしがらみに囚われるロジャーには、何よりも眩しいもの。
同時に、こうありたいと思う。いや、自分はこうであったはずだ。
ひたすらに己の法を追究し、言って分からぬ者には鉄の拳を叩き込む――それも、交渉の一側面。
行く先を変え、戦場へと舞い戻る騎士凰牙。
ロジャーの傍らで、バサラがギターを掻き鳴らす。

「行くぜぇ……! 俺の歌を聴けええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!」

狭いコクピットで歌い出したバサラ。

(これはドロシーのピアノよりも厄介だ……!)

当然騒音に耳をつんざかれるネゴシエイターは、そんなことを思ったとか思わなかったとか。

359戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:13:00
     □


再び、戦場に歌が響く。
ただし発信源が違う――ネゴシエイターの駆る、騎士GEAR鳳牙だ。
ガロードだけでなくバサラまで生きていた。その事実は一層ユーゼスの神経を逆撫でする。
そもそもあの男は喉を痛め歌えなかったはずだ。気合や根性でどうにかなるものではない、だとするなら――

(そうか、飲んだのか、アレを! 貴様もテンカワと同じくナノマシンのキャリアになったという訳か!)

貴重なサンプルの一つ――だが、アキトだけでなく健常者が服用すればどうなるかという絶好のケースでもある。
惜しくはなかった。とにかく、ナデシコだけでなくやつも確保せねばならない。
接近してきた真ゲッターを蹴り飛ばす。資格から飛んできたプラズマ弾は五大剣で撃ち落とした。
バサラの登場は敵にも、そしてユーゼスにもなんら戦力という点では変化をもたらさなかった。
ネゴシエイターは同乗するバサラを気遣っているのか積極的に仕掛けては来ず、ストレーガも同様。
前に出すぎると真ゲッターの邪魔になるという理由もあったのだろうが。

何にしろアキト待ちの状況は変わらない。
しばらくこの苦境が続くとユーゼス自身予測していたが――

「戻って来いラーゼフォン! お前はそんなやつに使われるために生まれたんじゃねえ! また俺と一緒に歌おうぜ!」

バサラの声。歌の途中でラーゼフォンに呼びかける。
最初は鼻で笑った。この機体は既に死に体だ。そんなことをしたところで反応などするはずがないと。

だが、違った。

AI1の中で何かが激しく暴れ回っている――呼応するかのようにラーゼフォンの浸食し切れていない部位から続々とエラーが発生した。
抗っている――何かと、ラーゼフォンが。

「馬鹿な……AI1、何が起こっている!?」

Ai1の示す回答――解析不能。如何に希代の天才とスーパーAIとはいえ、理解不能の現象については有効な手段は持ち得ない。
その間も、バサラの歌は響き続ける。

「俺達、いいコンビだったじゃねえか! お前も戦いなんかより自由に歌いたい、そう思うだろ!?」

ラーゼフォンに意志があると疑いもしないバサラ。少しづつではあるが――AI1が征服した箇所が奪回されつつある。
湖から引き揚げたとき、ラーゼフォンは完全に死んでいた。メディウスと繋がることによりかろうじて息を吹き返したのだ。
そして今、ある程度力を取り戻したラーゼフォンは、今度はバサラによって意志を――魂を吹き込まれつつある。
一切の迷いない、純粋に歌いたいという意志のみを凝縮したバサラの言葉。

「……ええい、黙れッ!」

バサラを黙らせんと騎士凰牙へと突撃する。だが、その目前に真ゲッターが割り込み、腕を伸ばす。
左腕と、胴体――メディウス・ロクスのコクピットを直接を押さえられる。
そして瞬間、メディウスと真ゲッターが繋がる部分が輝きを放つ。
ドクン、ドクンと。まるで血流のようにエネルギーのラインが走る――接続した?
真ゲッターが放つゲッター線は先程から高まり続けている。その勢いは外部からでも観測できるほどだ。
溢れ出すゲッター線が、AI1にも流れ込んでくる。
呼応するようにラーゼフォンの制御が危うくなる。

そして――

(いかん……! このままではコントロールが――)

「何度だって言ってやる! 来い、ラーゼフォン! 歌おうぜ――俺と、お前の歌を! 世界を、銀河を――全てを変える歌を!」

騎士凰牙のコクピットをバサラが放つ光が満たす。
それは、正しき時空で発現すればアニマスピリチアと呼ばれた力。
観測したAI1が解析しきれず停止――その瞬間。
抑えのなくなったラーゼフォンが剣を放り出し――

360戦場に響く歌声 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:13:56



     真理の目が、開いた。




『ラァ――――――――――――――――――――――――――――――――――――……!』


ラーゼフォンの左腕が勝手に伸び、真ゲッターの腹部へと押し当てられる。
ユーゼスは知らないことだが、そこは真ジャガー号のコクピット。今は誰もいないはずの。

AI1が警告を発する。
メディウス・ロクスのコア部分からエネルギーの流出が認められる――それは腕を伝い真ゲッターへと流れ込んでいく。
数秒ほどエネルギーの流出は続き、やがて唐突に消える。
ラーゼフォンは腕を戻し――メディウスを掴んだ。

(何だ……!? 一体何が起きた? ラーゼフォン、いやメディウスから何が出て行ったのだ!? )

ラーゼフォンが腕に力を込める――侵食した個所を砕きながら、バリバリとメディウスが剥がされていく。

(ラーゼフォンがメディウスを排除しようとしている!? 馬鹿な――)

ドン、とひときわ大きな衝撃の後、モニターが黒く染まる。
次いで浮遊感――もぎ取られたと直感する。
コクピットの外、ラーゼフォンが掴み取ったメディウスのコクピットを振りかぶり――大きく放り投げた。

「こんな馬鹿な事がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ――――!?」

あらぬ方向へと、メディウス・ロクスのコアはユーゼス諸共飛んで行った。
それきり、ラーゼフォンが動きを止める。
そして真ゲッターからガロードの声が漏れる。

「お姉さん! 真ジャガー号のコクピットに、誰かいる!」
「はあ!? 何を馬鹿なことを……!?」
「ほんとだって! 今、画像を……!」


「よう、しばらくだなガキども。中々楽しそうじゃねえか」


ガロードの声に割り込んだのは、この場にいるはずのない者の声。
ガロードは、そしてクインシィは知っている。その名は――







「まさか、貴様は――――――――流竜馬か!?」





【流竜馬 搭乗機体:真ゲッター1(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態::蘇生】

361世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:18:14
「こいつは……ふん、ゲッター2か。俺の性には合わねえが、仕方ねえな」
「貴様、馬鹿な――死んだはずではなかったのか!?」
「流竜馬ってあの首なしの機体の――いやいやいや! 放送で呼ばれたじゃんか! 何で真ゲッターに乗ってるのさ!?」

クインシィ、ガロード――竜馬が一度交戦した相手。
彼、流竜馬が再び生きた身体を手にして降り立った場所は真ゲッターの中。
必然というべきか。ゲッター線に魅入られた己が還る場所として、ここ以外に相応しい場所も思いつかない。

「ガロード、オープンゲットだ! こいつを叩き落とせ!」

クインシィの言葉とともに、真ゲッターが弾けた。
ゲットマシンが三機、天空へと駆け上がる。真ジャガー号の後方に、ピタリと真イーグル号が張り付く。

「喰らえ!」

機銃が火を噴く。だが、ゲットマシンの扱いに掛けて竜馬が他の誰かに後れを取ることなどあろうはずもない。
ヒラリとかわし、急減速。前に出た真イーグル号へと、強引に突っ込む。
合体機構が作動し、真イーグル号と真ジャガー号が接続された。

「貴様、何を……!」
「おう坊主、てめえも来い! ゲッター1だ!」

様子を伺っていたガロードに竜馬の声が飛ぶ。意図が掴めず、困惑するガロード。

「早くしろ! 今はあれこれ説明してる時間はねえ、俺を信用しろ! 急げ坊主!」
「ええい、何なんだよもう……! いっちゃえよ!」

クインシィが口を挟む暇もなく、ガロードが竜馬の剣幕に押され合体コースへと機体を移動させる。
真ベアー号も合体――そして変形。再び真ゲッター1となって、地上へと舞い降りる。

「上出来じゃねえか。よし――」
「ちょっと、アンタ! いろいろ説明して欲しいんだけど!」
「そうだ! 貴様は――」
「後にしろ!――来るぞ! 奴らだ!」

真ゲッターが空を睨みつける。
その視線の先――空中のある一点に、『ひび割れ』が出来ていた。
何もない空間に走る亀裂。その亀裂が瞬きする間に増え、広がり――耳をつんざくような音とともに砕け割れる。

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

開いた次元断層から出てきたのは、いくつもの異形。
獣のような鋭い爪と牙。だが決まった形を持たず、一体一体が共通性を見いだせない形。
一匹だけではない。二匹、三匹……亀裂を押し広げ、後から後から湧いてくる。
あっという間もなく、廃墟の街を覆い尽くすほどにまで増殖した。

「な……なんだ!?」
「化け物……!?」

真ゲッターの中、竜馬以外の二人が驚きの声を上げる。
おそらく眼下の他の者も同じだろう。そう、こいつらを知っているのはこの場で流竜馬、唯一人。

362世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:18:49
「来やがったな……インベーダーども!」

竜馬の、戦意に満ちた咆哮。
インベーダー……それは全ての生命の敵。ゲッター線を憎み、全ての存在を破壊する宇宙生命体。
それ以外は分からない――対話などできない。この流竜馬の世界の人類を、絶滅の淵にまで追いやったもの。
竜馬は通信機のスイッチを入れる。この戦場にいる全ての者に聞こえるように。

「インベーダー……? おい、奴らについて君は何か知っているのか!?」
「奴らは自分達以外の全ての生命を消滅させるためだけに存在する。
 元々は俺の世界に存在する化け物だが……あの主催者が異なる世界を繋げたとき、一緒に奴らの通る通路もできたんだろうよ」

ロジャーの問いかけ。

「いいか、奴らは知能なんざない。存在する全てのものに攻撃を仕掛けてくる。死にたくなかったら戦え!」

応えたその言葉を皮切りに、一斉にインベーダーが動き出す。
この街にいる全ての生命――ストレーガや騎士凰牙、ラーゼフォンなど無差別に突き進んでくる。
その中でも取り分け真ゲッター、ブラックゲッターへと向かっていく個体が多い。

「気をつけろ、奴らはゲッター線に吸い寄せられる性質がある! 俺達には特に多くかかって来るぞ!」

竜馬の警告。それを裏付けるように、多数のインベーダーが二機のゲッターロボへと突進していく。

「チッ――後で説明はしてもらうが、今は……! ゲッタァァァビィィィイイムッ!」

クインシィも、内輪で揉めている場合ではないと迎撃に専念する。
薙ぎ払うように放ったゲッタービーム。尋常ではなく高出力の炉心から供給されるビームは、容易くインベーダーの群れを消し飛ばした。
空いた空間へ潜り込み、両腕の刃を伸ばし当たるを幸い叩き斬る。手を出せば敵がいる、さして狙う手間もない。
操縦をクインシィに任せ、ガロードが仲間達の状況を確認する。
ストレーガ、騎士凰牙は背中合わせにインベーダーを迎撃している。
ユーゼスがいなくなったラーゼフォンの周りには何故かインベーダーが近づいていない――?

少し離れた所に、ブラックゲッター。この状況でもマスターガンダムを追い回している。
だが、纏わりつくインベーダーが多すぎてその刃は届かない。標的にもインベーダーが群がるので何とか逃さずに済んでいるようだ。

視線を巡らし、ナデシコの方へ。
動かないナデシコを守るべく、ガナドゥールとネリー・ブレン、そしてぺガスが奮戦している。
だが彼らは戦力的に不安があるから下がったのだ。図体の大きいナデシコを守り切るのは難しい。
ナデシコの船体を、いくつもの異形が取りついた。突破されたのだ。
真ゲッターは向かってくる敵が多すぎて動けない。だから、真下で戦うストレーガへと通信を繋ぐ。

「甲児! ナデシコを助けに行けないか!?」
「……ダメだ! こっちもロジャーさんを一人にはして行けない!」
「くそ――誰か、ナデシコを助けに行けないのかよ! このままじゃ……!」
「――その役目は私に任せてもらおう」
「……えっ?」

瞬間、真ゲッターの背後を取ろうとしていたインベーダーが真っ二つに切り裂かれた。
白い――いや、白銀の剣が駆け抜け、インベーダーの群れへと突き刺さる。

「――ブンドルさん!」

重なった声はガロードだけのものではなく。
その機体、サイバスターは真ゲッターの傍らを駆け抜け、一息にナデシコの方角へ飛びゆく。

「少年達よ、無事で何よりだ。だが再開の喜びを分かち合う――とは、いかないようだな」

ナデシコに取りついたインベーダーが、目にも止まらぬ動きで次々と切り捨てられた。
ネリー・ブレン、ガナドゥールもその隙に包囲を突破し、サイバスターの横に並ぶ。

363世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:19:51

「ナデシコは任せろ。ガロード、君達はまずこの化け物の出てくる穴を塞ぐんだ!」
「穴を塞ぐって……どうやって?」
「私には事情は分からんが、この化け物どもは空間の歪みを通過してこの世界へと現出している。
 歪みを是正することができれば、通路も自然に閉じるはずだ!」
「だから、歪みを直すってどうすりゃいいのさ!」

あの穴ができた時の状況を思い出す。いや、なんか勝手にできたじゃないか。原因とかあったっけ?
いよいよ混乱してきたガロード。そこへキラの声が割り込む。

「――歌だ! ラーゼフォンが歌った後に穴は開いたよ!」
「歌――そうか! じゃあ、もう一度ラーゼフォンを歌わせれば――!」

それを聞いた者が一斉にラーゼフォンへと目を向ける。だがラーゼフォンは、コクピットらしきものを自ら放り投げた後動きを止めていた。
当然、もう歌ってもいない。
だとするなら、今のラーゼフォンは無人ということになる。

「――ネゴシエイターさんよ! 俺を、ラーゼフォンの所まで連れて行ってくれ! 俺があいつと一緒に、もう一度歌ってみるからよ!」
「む……了解だ。さすがに私もこういった手合いと交渉できるとは思えん。しっかり掴まっていたまえ!」
「頼むぜ!」

騎士凰牙がラーゼフォンへと走り出す。するとラーゼフォンを取り囲んでいたインベーダーが、大挙して迎え撃つ。

「あいつら、ラーゼフォンの所に近づけさせない気か!?」
「くっ……凰牙だけでは突破は困難だ! 近くにいる者は援護を頼む!」
「任せろ! 喰らえ――サンダァァァァクラァァァァァァッシュッッ!」

騎士凰牙の前にストレーガが躍り出る。
その拳にプラズマを纏わせ、突進の勢いのまま機体ごとインベーダーの群れに突入していった。
払い除けられるインベーダー。
騎士凰牙がその隙間に身体をねじ込ませる。
進路を塞ぐ異形を、タービンの一撃で蹴散らす――だが、敵を倒すより群がってくる速度の方が早い。

「坊主、ゲッター3だ!」
「わかってるよ! ――チェンジ、ゲッター3!」

凰牙の上空からゲットマシンが落ちてくる。一瞬にして合体をこなし、重戦車を思わせる真ゲッター3へ。

「ミサイルストームだ!」

その脚部が露出し、ハリネズミのようにミサイルの束が現れた。
発射――ミサイルの嵐。まさしくそうとしか形容できないほどの暴風が吹き荒れる。
爆風が収まった後、周囲のインベーダーは一掃されていた。

「ロジャーさん、今だ!」
「ありがたい……感謝する!」

一瞬の空白。その隙に騎士凰牙がラーゼフォンへと到達した。
コクピットを解放。何を言う間もなくバサラが飛び出していき、ラーゼフォンの胸部の空洞へと乗り込んでいく。

「どうだ、バサラ君! 動かせるか!?」
「駄目だ……操縦席も何もありゃしねえ! 全部なくなっちまってる!」

凰牙のカメラがラーゼフォンの内部を映し出す。
ヴァイサーガにより切り裂かれ炎上し、メディウス・ロクスに強引に接続されたそこは文字通りの空洞と化していた。
これでは操縦などできようはずもない。

364世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:21:01

「万事休すか……!」
「……いや、まだだ!」

バサラが空洞の中心に立ち、ギターを掻き鳴らす。
ロジャーにはバサラがヤケになったように見えた。だが。

「そうとも――俺とお前はコイツで繋がってる。これだけが、俺とお前のたった一つ自慢できるもの、そうだろう!?
 だから、俺の歌で――お前の眼を覚まさせてやるぜ!」

ロジャーの視線の先、バサラが再び歌い始める。
その身体を燐光が包んでいるように見えたのは、ロジャーの目の錯覚だろうか。
だが、その内明らかにバサラが肩で息をし、疲弊していく。まるで魂を削って歌っているように。
ラーゼフォンへと殺到するインベーダーを蹴散らしながら、ロジャーは危険な兆候だと直感する。

「バサラ君、止めたまえ! 君の身体が保たん!」
「……へっ、止められるかよ。止められる訳がねぇ……俺はまだ燃え尽きちゃいねえ!」

放たれる歌声、そして光は一層激しさを増す。
やがてその光はラーゼフォンを包むほどに広がっていき――膝をついていたラーゼフォンがゆっくりと立ち上がる。
頭部の翅を羽ばたかせ、その身を空に押し上げていく。

「……ああ、歌おうぜラーゼフォン。俺達の歌を……」

ロジャーの耳に微かに届いたバサラの声は、先程までと違いとても弱々しい――
再び真理の目が開き、ラーゼフォンの歌声が響く。
先程の無秩序に放たれる波動と違い、今度はその声は空間の歪み唯一点に向いている。
割れたガラスのような空間が、少しずつ塞がっていく。
その隙間が閉じゆく中、ラーゼフォンへと何かが急速に接近してくるのをロジャーは目撃する。
その何かは飛び出してきたインベーダーを蹴散らしながらやがて停止した。

「角のある馬、獅子……それに、龍!?」

ドリルの角を掲げる青い一角獣。
丸鋸の如き頭部の白いライオン。
蛇のような竜ではなく、手足のある赤い龍。
鋭い刃の角を持つ橙色の雄牛。
伸縮自在の身体を持つ紫紺の蛇。
ガトリング砲の鼻を突き出す緑の猪。


機械の体躯を持つ、電脳の獣――データウェポン。
その姿を目にした瞬間、ギアコマンダーを握る手から脳裏に電撃のように情報が叩きこまれる。

「データ……ウェポン? ファイルセーブ……そうか! このギアコマンダーはそのために……!」

データウェポンは強大なエネルギーに惹かれる性質をもつ。
世界の壁に穴を穿つラーゼフォンの歌に引き寄せられたということだろう。
何にしろ、その実態を知った今、ロジャーがすることは一つ。インベーダーはあらかたが蹴散らされ、安全は確保されている。
ギアコマンダーを掲げ、契約を結ぶためにコクピットから出る。

「データウェポンよ! ロジャー・スミスの名の下に、私と契約を……!?」

だがコクピットから出たロジャーが見た物は、データウェポンが何処からともなく伸びた触手に絡め取られている様だった。
触手の根元を目で辿る。そこにあったのは、

「貴様――ユーゼスか!」
「遅いぞネゴシエイター! データウェポンは私が戴く!」

コア部分しかないメディウス・ロクスが、その四肢の断面から幾条もの触手を伸ばしている。
ただの触手ではないのか、データウェポンに突き刺さったそれは不気味に脈動――いや、データを吸い上げている。

365世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:21:54

やがて赤い龍の姿の電子生命体が色を失い霧散する。同時に、龍を掴んでいた触手が引き戻され、膨張――メディウス・ロクスの右腕となる。
雄牛も龍と同じく消滅し、メディウス・ロクスの左脚部が生成された。
データウェポンは実体を持たないとはいえ、その本質はエネルギー生命体。

「データウェポンを吸収しているのか……!? いかん!」

ストレーガ、真ゲッターは残存するインべーダーに阻まれ援護できない。
ロジャーは最も近場にいる紫の蛇――バイパーウィップに黒いギアコマンダーを向けた。
知らされた契約条件は自信。

(自信――自信か。フッ、今の私は見失っているとソシエ嬢は言ったな。たしかにその通りだ……私にはわからなくなった。
 だが、今なら……そう、あの男の歌を間近で聞いた今ならわかる!
 自信とは慢心や過信のことではない。そう、己の道をどこまでも疑いなく駆け抜けること!)

顔を上げ、胸を張る。これは宣言――そう、ここからがショウタイムだ。

「私には過去の記憶、メモリーなどない。自分が誰かということもわからない……だが、そんなことはどうでもいい。
 過去は所詮過ぎ去ったもの、それだけが人を形作るのではない。目を向けるべきは今、そしてこれからを生きていくことだ!
 だから私は自分を信じる。私の成してきたこと、これから成していくこと――何一つ間違ってなどいないと!
 ――私はロジャー。ロジャー・ザ・ネゴシエイター……この混沌の世界と交渉し、調停する者!
 来い、バイパーウィップ! 私こそが君の主、君とともに歩む者だ!」

ギアコマンダーからバイパーウィップへと光が走る――ロジャーと視線を合わせた蛇は、やがて抵抗を示すことなくその光を受け入れる。
バイパーウィップ――セーブ完了。

ギアコマンダーを回す。表示される蛇のアイコン。
振りかぶり、騎士凰牙へと叩きつける。

「バイパードライブ――インストールッ!」

騎士凰牙の左腕に、武器形態となったバイパーウィップが装着される。

「これ以上はやらせんぞ、ユーゼスッ!」

凰牙がいくつもの影を生み出す。イリュージョンフラッシュ――バイパーウィップの有する固有能力。
分身だけでなく、高速移動をも可能にするそれを用い、メディウス・ロクスへと一気に接近する。
鞭を伸ばし、振り回す。メディウス・ロクスの伸ばした触手を一気に断ち切った。

「よし――ソシエ嬢! こちらに来てデータウェポンをセーブするんだ!」

残るデータウェポンが解放されたのを見て、ソシエへと声を飛ばす。
自分がセーブするより、ユーゼスを阻みつつ彼女が残りを拾い上げる方が効率的との判断。
ガナドゥールが向かってくる。後は、彼女が到着するまでユーゼスを阻むのみ。
再び伸ばされた触手をバイパーウィップが払う。攻撃能力ではこちらが勝っているようだ。

「チッ……ならば!」

触手では埒が開かないと見たか、メディウス・ロクスが機体ごとデータウェポンへと肉薄する。
伸ばした鞭はメディウス・ロクスの腕から放たれる刃に阻まれ、その身へと届かない。
一角獣とライオン――ユニコーンドリルとレオサークルが、残る一匹のデータウェポンを庇うように前に出る。
その一匹、ガトリングボアは躊躇うように二匹を見るも、やがて飛び去っていく。その先にいるのはソシエのガナドゥールだ。

「! ――ソシエ嬢、そいつをセーブするんだ!」
「セーブって――あ、わかった! こうするのね!」

ガナドゥールから光が伸びるのを確認。
メディウス・ロクスへと目を戻すと、二匹のデータウェポンが捕食されているところだった。
二匹からの、悲しげな声――後を引くように耳に残り、そして消える。

366世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:23:02

「ブタ――じゃない、ボアはセーブしたわ!」

ソシエの声を聞きつつ、ユーゼスと睨み合う。
メディウス・ロクスは四肢を取り戻していた。向かい合うその全長は、凰牙の二倍近いものがある。
データウェポンを装備したとはいえ隻腕の凰牙は万全ではない。そしてそれはガナドゥールも同じ。
だがインベーダーは駆逐されつつある。
ストレーガ、真ゲッターが来れば戦況は逆転する。それはロジャー、ユーゼス共通の認識。
だからこそロジャーは動かない――そしてユーゼスは動く。

「空間の歪み、インベーダー、データウェポン……ククク、これだ! 私はこれを待っていたのだ!」

ヘブン・アクセレレイション――メディウス・ロクスの最大火力にして、空間を突き破る力。
何をする気か掴めないロジャーを尻目に、修復されつつある歪みへと暗黒球が放たれ、今にも閉じようとしていた歪みに飛び込んだ。
空間が震えるように揺れる――広がる歪み、そして。

『GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHH!!!!』

瞳。そう、瞳としか言えないようなものが歪みの先から咆哮とともにロジャーを睥睨する。
だがそのサイズが尋常ではない。
新たに広がった歪みはおよそ100m。その隙間いっぱいに、その瞳は存在を主張している。
眼だけでこの大きさ。ならば本体がこちらに来れば――

「――いかん! ユーゼス、貴様自分が何をしているかわかっているのか!?」
「わかっているとも……お前達は全力でこの事態を止めねばならん。私を追っている余裕はなかろう?」

振り向けば、ユーゼスは急速に離脱していくところだった。

「待て! ……いや、今は奴の言うとおり、こちらをなんとかせねばならんか。しかし、どうすれば――」
「俺達に任せな!」

ユーゼスの追跡を諦め、歪みへと向き直る。
打つ手の思いつかないロジャーに声をかけたのは真ゲッター、流竜馬だ。

「ちょ、ちょっとアンタ! 俺達って、俺とお姉さんも!?」
「あん? 当然だろ。何のためにゲッターに乗ってんだよ」
「いやいや……せめて何をするかくらい教えてよ。でなきゃお姉さんも賛成してくれないよ」
「そうだ、そろそろ説明してもらおう。何故貴様は生き返った? 何故一度は襲ってきた貴様が今は協力するのか。全て、今この瞬間に喋ってもらおうか」
「……説明している時間はねえ。だから、お前達にも見せてやる――ゲッターの意志を!」

突如、真ゲッターが光を放つ。
ロジャーが思わず眼を庇うほど強い光――

「この光は……!?」

367世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:23:53
     □


何もない虚無が広がる――ガロードとクインシィは無重力の世界にいた。

「あれ? え、何ここ……お姉さん! 何がどうなったの!?」
「わ、私に聞くな! お前こそわからないのか!?」
「わかる訳ないでしょ! つか、あの竜馬って人はどこ行ったのさ!」
「俺ならここだ」

唐突に、ガロードの背後に竜馬が現れた。いや、現れたというより――存在が確定したというほが正しい。

「ここ、何処なのさ。真ゲッターは、みんなは!?」
「落ち着け、坊主……いや、ガロードか。すぐにわかる。見ろ」

竜馬が指である一点を指し示す。そちらに目を向けたガロードとクインシィは、唐突にやってきた光の洪水に呑み込まれた。

「ちょっ――!?」
「これは――」

暴力的とさえいえる光の中、二人の頭の中に様々な光景が広がっていく。

インベーダーが跋扈する世界。
地球が消滅し、事態を打開するために宿敵同士が手を結び破滅の王へと立ち向かう。

ゲッター線を致命的な毒と知りつつ、その力に魅了された爬虫人類の将軍が操る真ゲッター。
その横にミケーネ帝国の七大将軍の力となった魔神皇帝が並ぶ。

地球へと巨大な人工の星が落ちていく。それを防がんとするいくつもの力が宇宙を駆ける――そして人の想いを受け取ったオルファンが浮上し、地球を救った。
人造の神が地球を守護せんと地球と宇宙との隔絶を目論み、それを良しとしない人間達に撃ち滅ぼされた。

世界を滅ぼす蝶の羽が戦場を覆う。その中で、禁じられた月の力を操り激突する三機のガンダム。
世界を呪う兄弟は、運命を凌駕しようとした男が最後の力で放った閃光の中に消えていった。
太極へと至る術を求めた放浪者は、自らが育てた悲しみを力とする乙女に敗れ去り、その次元から消滅した。



どの戦いの中にも共通してゲッターロボがいる。
そして、出てくる世界により多少の差異はあれどガンダムダブルエックス、クインシィ・バロンズゥ――ガロード、クインシィの機体とともに戦っている。


「何だよこれ……何なんだよこれは! 俺はここに来るまで真ゲッターと一緒に戦ったことないし、そもそもあんな戦いなんて俺は知らないぞ!」
「オルファンが浮上している……!? 馬鹿な、私がここに来るまでそんな兆候は一切なかったはずだ! 何故地球は壊滅していないのだ!」
「落ち着け。これはお前らであってお前らじゃあない世界の話だ。ゲッター線が見せる幻みたいなもんだと考えりゃいい」
「幻? 幻だって!? じゃあこれは本当は起こってないことなのか?」
「違う、そうじゃない。これは全て現実に起こったことだ。ただし、極めて近く限りなく遠い世界――多元世界ってやつのな」

竜馬が慣れない様子で説明する。もちろん、ガロードとクインシィに納得できるものではないが。

「お前らは俺ほどゲッター線に浸食されてないからわからねえか。つまりだ、流竜馬という人間は多元世界に無限に存在する。
 お前達も同じだ。その内のたまたま一人が、あそこでともに戦っていて、俺達のようにここでこうやって殺し合いに巻き込まれているってこった
 基本的には違う世界のことだ、お前らには関係がねえ。向こうの世界のことは、向こうの世界の俺やお前らがうまくやってくれるだろうよ」
「……じゃあ、何のためにこんなものを私達に見せた。関係がないなら意味もないだろう」
「それが、そうじゃねえ。あの主催者は、その関係ってやつを無理やり作っちまったんだ。本来出会うはずがない世界の人間を強引に結びつける……
 それは世界同士を接続することにも等しい。今、この箱庭の世界にはそれぞれの世界へと続く通路ができちまってるようなもんだ」

368世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:24:36
こともなげに言う竜馬。
ガロードが激しく反応する。

「……じゃあ、ティファやジャミル達もここにいるのか!?」
「いや、それはわからんが。あまり一つの世界から多く引っ張ってくるのもまずいんだろう。
 その世界に与える影響が大きすぎると、世界自体が崩壊しちまうからな」
「なんだ……じゃあティファは安全なんだな」
「そこだ。これからの俺達次第でそこが大きく変わってくるんだよ」

安堵したガロードに甘いと言わんばかりに竜馬が指を突きつける。

「おそらく主催者はこれ以上お前らの世界に手を出すつもりはねえだろう。だがインベーダーは違う。
 奴らは本能で生命を排除している。もし一匹でもお前らの世界に辿り着けば、あっという間に増殖して……」 
「……さっきの世界みたいになる!?」
「そういうこった。多分主催者もそれを止めるつもりはねえだろう。
 奴らが恐れるのは世界消滅による多元世界全体のゆらぎであって、一世界の情勢がどうなろうと知ったこっちゃねえだろうからな」

竜馬が二人に向き直った。そして、何を思ったか深く頭を下げる。
困惑する二人に、呂魔は顔を上げず言葉を続けた。

「お前達に頼みがある。俺はゲッター線に選ばれた者として、奴らと戦わなきゃならねえ。だが一人ではゲッターは扱えない……
 だから、俺と一緒に来てほしい。それがお前らの世界を守ることにも繋がるはずだ」
「……か、勝手な事を言うな! 一度は私達を襲ってきたくせに、今度は協力してほしいだと!?」
「あの時の俺と今の俺は違う――いや、どっちも同じ俺だが。やるべきことがわかった、っつーことだ。
 どの道今奴らを止められるのは俺達だけだ。自分の世界を守りたいのなら、選択肢は一つしかねえぞ」
「もし、アンタについていったとしてさ。無事に帰れる保証はあるの?」
「ガロード、お前正気か!? こんな奴の話を信じるなんて」
「俺だって怪しいとは思うよ。でも、ティファが危ないのなら……俺達の世界があんな奴らに荒らされるくらいなら、俺は戦うよ。黙って見ているなんて御免だ」
「ガロード……」
「済まねえが、いつ帰れるって保証はない。だが――俺はともかく、お前らは事が終わればゲッター線は解放するはずだ。
 なんせ元々ゲッター線に関係がない奴らだしな」
「そう――じゃあもう一つ。あそこで戦ってる仲間はどうなる? あの主催者はなんとかできないの?」
「それも済まねえが、無理だ。俺達ができるのは、インベーダーどもを連れてこの世界から出て、その狭間で戦うこと――
 つまり他の奴らを何とかする余裕はねえ。自力で戦ってもらうしかねえんだ」
「そんな……」

369世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:25:19

あそこで知り合った者達は、今やガロードに取ってフリーデンの仲間と遜色ないほどに大事な存在となっている。
アムロ、甲児、バサラ、直接会ってはいないがキラ、ソシエ、アイビス――そしてシャギア。
元々は敵だったのが、何故かここに来てから妙に性格が変わっていた。
ガロードの知るシャギアは弟以外に心を開くことのない、冷酷・冷淡、信用などできるはずもない男だ。
だが彼はここで比瑪、甲児という太陽のような子どもたちと出会った。
そして弟を失い、比瑪をその手で殺し――捨て鉢の抜け殻になった彼の様を見て、ガロードは思わず助けに入ったのだ。
今思い返せばあれはどうしてだろう。信用できないからこそ、傍で監視していたはずなのに。

仲間。

シャギアがその言葉にふさわしいとは今もって思えない。だが――

(信じてもいいのか、シャギア? お前がオルバを生き返らせるために最後の一人になることよりも、甲児やみんなを守って……あの主催者を倒す方を選ぶって)

本当なら自分がやるべきことだ。
おまけに彼はニュータイプを憎んでいる。アムロとの衝突は必至だろう。
自分が傍にいれば抑える、あるいは討つこともできる。だが甲児にはできない。それが心配だ。
行きたくはない。それでも今、自分が残ればティファや、ジャミル、カリス、フリーデンのみんなが危ない。
ならば――

「竜馬さん、俺……行くよ。ティファを、みんなを守る」
「ガロード……!」
「ごめん、お姉さん。勇と会わせるって約束……守れそうにないや。でもお姉さん、生きて帰ればきっとまた勇と会えるよ。だから――」
「私も行くぞ」
「甲児達と協力して――え? 何?」
「私も行くと言ったんだ!」
「そんな、どうしてさ? 帰れないかもしれないのに」
「だったら尚更、お前とこの凶暴な男を二人っきりにしておけるか」

竜馬を親指でぞんざいに刺すクインシィ。当の竜馬はどこ吹く風という顔だ。
彼女はそのままガロードの肩を掴む。

「いいか、ガロード。約束は守ってもらう――お前は、私と一緒に勇を探すんだ。今すぐじゃなくてもいい。でもきっと、二人で会いに行くんだ。いいな?」
「え……うん。俺はいいけど」
「話はまとまったか? じゃあ、そろそろ戻るぞ。もう時間がねえ」

竜馬が手を振り、ガロード、クインシィと視線を交わす。
誰にも迷いはない――今のところ。後は走り出すだけだ、戸惑うことなく。
光が消え、暗闇が世界を覆い――

370世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:25:52
     □


「……ド! ……ンシィ! 応答したまえ! ガロード!」

気がつけばそこは無重力の世界などではなく、真ゲッターのコクピットだった。
ネゴシエイターが必死に呼びかけてきている。時間は――あの世界に行く前から10秒も経っていなかった。

「ロジャーさん?」
「ガロード! 一体どうしたのだ、急に黙り込んで。君達があれをなんとかするというのはどういうことだ!?」

あれ――そう、超巨大なインベーダーだ。
あれを何とかするのが流竜馬の、ひいてはゲッターに乗っているガロードとクインシィの役目。

「みんな、よく聞いてくれ。あのインベーダーは今から俺達が何とかする。
 他のみんなは、空間が閉じる寸前に各自の最大威力の攻撃で援護して欲しい。
 ここから動かせないラーゼフォンを、俺達の攻撃で発生する余波を相殺して守って欲しいんだ」
「……勝算はあるのか?」
「それなりに。頼んだよ、同時じゃなきゃ駄目なんだ」
「……了解だ。総員、真ゲッターの近くに移動するぞ。各自、周りの者の死角を補いつつ移動するんだ」

ブンドルの号令。
インベーダーはあらかた駆逐され、ユーゼスは後退しアキトとガウルンは未だ小競り合いを続けている。
とりあえずはここに集中できそうだ。
ラーゼフォンを中心に、真ゲッター、ストレーガ、ガナドゥール、ネリー・ブレン、騎士凰牙、サイバスターが円陣を組む。
バサラとラーゼフォンは今も全力で歌い続け、空間の修復を続けている。
その姿は無防備極まりない。だからこそガロードの言うように、衝撃の余波から守らねばならないのだ。
準備ができたことを確認し、ガロードは最後の言葉を遺すことにした。

「シャギア、少しいいか?」
「……何だ」
「頼みがあるんだ。お前にしか頼めない……大事なこと。
 ティファに伝えて欲しい。俺のことは忘れて――いや、違うな。絶対、絶対生きて帰るから待ってて欲しいって。
 どんなに時間がかかっても、ティファのいるところに会いに行くから――そう、伝えて欲しいんだ」
「伝える……ティファ・アディールにこの私が? 待て、どういうつもりだ。何故そんな遺言のようなことを」
「甲児。シャギアを頼むな。俺はやっぱりまだ信用できないけど、お前がいるなら安心だからさ」
「お、おいガロード。なんだってそんな……」
「キラ、ソシエ、アイビス。お姉さんが迷惑かけてごめんな。あんたらにはホント感謝してるよ。
 ロジャーさん、ブンドルさん。あんた達は大人なんだから、子どもの手本になるような生き方をしてくれよ。あのギンガナムって人みたいに悪い手本はダメだけどさ」

シャギア、甲児の声には応えず居並ぶ面々へと思いを伝える。
彼らもやはり誰何の声を挙げるが――応えない。今からすることを言えば必ず止められるから。

「バサラ……聞こえてないか。まあ、後で言っといてよ。良い歌だった、ってさ」
「ガロード、そこまでだ。そろそろ行くぞ」

名残は尽きないが、クインシィが出立の時間を告げる。

「あ、うん。じゃあみんな、元気でな。絶対に生きて帰ってくれよ!」
「そのブレンは勇のブレンだ。丁重に扱うんだぞ」
「……行くぞ、お前ら! ペダルを踏むタイミングを合わせろ!」

別れの言葉。そして竜馬の一声がトリガーとなる。

371世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:26:45

「ガロ――」

「ゲッタァァァァァァシャァァァァアアアアインッッッッ!!」

真ゲッターが、超新星の如き輝きを放つ。莫大なゲッター線の放出――周囲にいる仲間達の機体が、それだけで後退するほどの。
僅かに生き残っていたインベーダーが全て集まってきた。好都合、と真ゲッターに乗る三人は口の端を吊り上げる。
強力すぎるゲッター線はそれだけで毒となる。
機体に乗っている仲間達はともかく、元々ゲッター線に弱い性質をもつインベーダーなら、尚更のこと。
数匹の強力な個体が扉を守らんと行く手を遮る。
だがもはや止められはしない。
飛び立ち、目にも止まらぬ無軌道な動きで距離を取る。
三人の力を一つにし、極限まで高められたゲッター線のエネルギーを解放するこの力こそが――――――


「真……! シャイィィィィィィィィィィィンスパァァァァァァァァァァァァァァァァァクッッッッ!!」


刹那、超新星にすら比肩するエネルギーの塊となって――空間の歪み、その向こうに存在する超巨大インベーダーへと突入する!
輝きが世界を満たす。
それが収まった後……真ゲッターも、インベーダーも、空間の歪みも。
一切の痕跡を残さず、この世界から消え去った。



【クインシィ・イッサー 搭乗機体:真ゲッター1(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:消失】

【ガロード・ラン 搭乗機体:真ゲッター1(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:消失】

【流竜馬 搭乗機体:真ゲッター1(真(チェンジ)ゲッターロボ〜世界最後の日)
 パイロット状態:消失】

372世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:27:34
【ナデシコ(機動戦艦ナデシコ)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:下部に大きく裂傷が出来ていますが、機能に問題はありません。EN100%、ミサイル90%消耗
         右舷に破損大(装甲に大穴)、推進部異常  AIオモイカネがデリートされました
 現在位置:F-1市街地
 備考1:ナデシコの格納庫にプロトガーランドを収容
 備考2:ナデシコ甲板に旧ザクを係留中】

【シャギア・フロスト 搭乗機体:なし (ガナドゥールに同乗中)
 パイロット状態:疲労 戸惑い 意識朦朧
 機体状態:なし
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:???
 第二行動方針:ガウルン、テニアの殺害
 第三行動方針:首輪の解析を試みる
 第四行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める
 第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 最終行動方針:???
 備考1:首輪を所持】

【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない)
 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。 EN25%
       無数の微細な傷、装甲を損耗
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:???
 第二行動方針:協力者を集める
 第二行動方針:基地の確保
 最終行動方針:精一杯生き抜く
 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

【兜甲児 搭乗機体:ストレーガ (スーパーロボット大戦D)
 パイロット状態:疲労
 機体状態:右肩に刺し傷、各部にダメージ(戦闘に支障無し)
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:???
 第二行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める
 最終行動方針:アインストたちを倒す 】

【キラ・ヤマト 搭乗機体:なし
 パイロット状態:健康、疲労(大) 全身に打撲
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:???
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:首輪の解析(&マシンセルの確保)
 第四行動方針:生存者たちを集め、基地へ攻め入る
 最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出】

【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:左腕喪失、右の角喪失、右足にダメージ(タービン回転不可能)
       側面モニターにヒビ、EN60%
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:???
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第三行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第四行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機所持
 備考2:ギアコマンダー(黒)と(青)を所持
 備考3:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考4:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)携帯
 備考5:バイパーウィップと契約しました】

373世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:28:16

【ソシエ・ハイム 搭乗機体:ガナドゥール
 パイロット状況:右足を骨折
 機体状態:頭部全壊、全体に多大な損傷 駆動系に障害 機体出力の低下  EN40%
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:???
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第四行動方針:この機械人形を修理したい
 最終行動方針:主催者を倒す
 備考1:右足は応急手当済み
 備考2:ギアコマンダー(白)を所持
 備考3:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)、騎士凰牙の左腕を携帯
 備考4:ガトリングボアと契約しました 】

※備考(無敵戦艦ダイ周辺)
 ・首輪(リリーナ)は艦橋の瓦礫に紛れています


【レオナルド・メディチ・ブンドル 搭乗機体:サイバスター(魔装機神 THE LORD OF ELEMENTAL)
 パイロット状態:良好(主催者に対する怒りは沈静、精神面の疲労も持ち直している)
 機体状態:サイバスター状態、各部に損傷、左拳損壊 ビームナイフ所持
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:???
 第二行動方針:マシンセルの確保
 第四行動方針:サイバスターが認め、かつ主催者に抗う者にサイバスターを譲り渡す
 第五行動方針:閉鎖空間の綻びを破壊
 最終行動方針:自らの美学に従い主催者を討つ
 備考1:ハイ・ファミリア、精霊憑依使用不可能
 備考2:空間の綻びを認識
 備考3:ガウルン、ユーゼスを危険人物として認識
 備考4:操者候補の一人としてカミーユ、甲児、キラに興味
 備考5:ユーゼスが解析した首輪のデータを所持(ただし改竄され不完全なため、単体では役に立たない)】

【ヴァイクラン(バンプレストオリジナル)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:EN5%、各部に損傷、ガン・スレイヴ残り一基  右腕切断 胸部装甲融解 装甲前面に深い損傷
 現在位置:F-1 市街地】

【マスターガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状況:大破(上半身と下半身が両断)】

【マジンガーZ(マジンガーZ)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状況:頭部切断(パイルダーは無事)
 現在位置:F-1 市街地】


【旧ザク(機動戦士ガンダム)
 パイロット状態:パイロットなし
 機体状態:良好
 現在位置:F-1(ナデシコ甲板) 】

【プロトガーランド(メガゾーン23)
 機体状況:MS形態  装甲に凹み
      落ちたショックとマシンキャノンの攻撃により、故障
 現在位置:F-1(ナデシコ格納庫内)】


【熱気バサラ 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
 パイロット状況:DG細胞感染。喉の神経圧迫は完治
 機体状態:右腰から首の付け根にかけて欠落 胴体ほぼ全面の装甲損傷 EN残量20% 
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:???
 最終行動方針:自分の歌で殺し合いをやめさせる
 備考1:真理の目が開いています】

374世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:29:05
     □


何が起こったのかわからなかった。
今、たしかにこの手は奴を切り裂いた。それは間違いない。
しかしこの手ごたえのなさは何だ?

歌声が響く中、共犯者が他の敵を引きつけようやくにして一対一の戦いに持ち込めた。
だが突如湧いて出た異形の化け物どもに邪魔をされ、決闘は水を差された。
執拗に自機を狙ってくる奴らには手を焼かされたものの、それは交戦していた敵手にも等しく襲いかかった。おかげで逃がさずに済んでいたのだが。
そして異形どもをあらかた片付け、本命を追撃しようとしたとき、奴は無防備な状態で佇んでいた。
奴にしては迂闊――そうは思ったが千載一遇のチャンスには違いなかった。
だからこそ全力を持ってその機体を破壊したのだ。
なのに、この胸の締まりの悪さは……

薬の時間はもうすぐ切れる。禁断症状が訪れる前に、確認しなくてはならない。

彼は腰から両断した敵機のコクピットハッチを剥ぎ取りにかかった。
そう、ここにあの男がいなければそれで正しい。予感はただの杞憂だったことになる。
だがもし、奴がいなければ――

ハッチが外れた。
覗き込む、その中に……ガウルンはいない。

逃げられた。

その一言が頭の中で像を結ぶ。

「……あ、あ……が、ああ……ガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」

天を見上げ絶叫した。


【テンカワ・アキト 搭乗機体:ブラックゲッター
 パイロット状態:マーダー化、五感が不明瞭(回復傾向)、疲労状態  怒り
 機体状態:全身の装甲に損傷、ゲッター線炉心破損(補給不可)
 現在位置:F-1市街地
 第一行動方針:ガウルンの首を取る
 第二行動方針::キョウスケが現れるのなら何度でも殺す
 最終行動方針:ユリカを生き返らせる
 備考1:首輪の爆破条件に"ボソンジャンプの使用"が追加。
 備考2:謎の薬を2錠所持 (内1錠はユーゼス処方)
 備考3:炉心を修復しなければゲッタービームは使用不可
 備考4:ゲッタートマホークを所持
 備考5:謎の薬を一錠使用。残り2分】

375世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:30:43
書き込んでから気付いた・・・!
>>374
>そう、ここにあの男がいなければそれで正しい。予感はただの杞憂だったことになる。

そう、ここにあの男の死体があればそれでいい。予感はただの杞憂だったことになる。

です

376世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:32:15
     □


あの光はなんだったのだ? ユーゼスの脳裏を駆け巡るのはその一つの疑問のみ。
足止めとして仕掛けた空間の歪み、そこから垣間見えた巨大なインベーダー。
あれがこちらに出てこればさすがに危なかったが、どうにかネゴシエイター達が追い返すことに成功したようだ。
それはいい。むしろ喜ばしいことでもある。
だが問題はあの莫大なゲッター線の放射だ。
隣のエリアからでも観測できるほどに、F-1エリアはゲッター線の濃度が凄まじい。
己があの地を去った後、何が起こったのか。
距離のあるここでさえ衝撃の余波は届いた。

だとするなら、その爆心地では一体何が起きたというのか。
アキトともはぐれたままだ。
当初の目的であるナデシコも、AIをデリートして支配下に置いたとはいえ今だあの地にある。

(さて、どうするべきか……)

DG細胞のサンプルを弄びつつ、考える。
己の首に科せられた首輪。この首輪が宿す、アインスト細胞。
その活動が、熱気バサラの歌で一時の休眠状態にあることも――彼はまだ気付かなかった。


【ユーゼス・ゴッツォ   搭乗機体:メディウス・ロクス(バンプレストオリジナル)
 パイロット状態:疲労(中)
 機体状態:EN残量90%  ヴァイサーガの五大剣を所持  データウェポンを4体吸収したため四肢が再生しました
 現在位置:E-1 市街地
 第一行動方針:どうするか……
 第二行動方針:ナデシコ、バサラの確保、アキトと合流、AI1のデータ解析を基に首輪を解除
 第三行動方針:他参加者の機体からエネルギーを回収する
 第四行動方針:サイバスターとの接触
 第五行動方針:20m前後の機体の二人組みを警戒
 第六行動方針:キョウスケにわずかな期待。来てほしい?
 第七行動方針:次の放送までにA-1に向かい統夜、テニアと合流
 最終行動方針:主催者の超技術を奪い、神への階段を上る
 備考1:アインストに関する情報を手に入れました
 備考2:首輪の残骸を所持(六割程度)
 備考3:DG細胞のサンプルを所持 】

377世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:33:10
     □


トモロが観測していた空間の綻び。
小康状態にあったそれが突如加速度的に広がりだして間もなく。

「何だ、こいつら……!?」
『私のデータベースにはない生命反応だ。未知の生物……としか言いようがないな』

Jアークを、異形の化け物――インベーダーが取り囲んでいた。
すぐ南にある禁止エリア。この化け物達はそこから現れた。
その先頭に立っているのは――

「ガンダム……!?」
「ギム・ギンガナムが乗っていたガンダムだと!? しかし、あれは……!」

アムロ、そしてカミーユをして驚かせたのは敵がガンダムだったからではない。
片腕がなく、装甲は焼け爛れどう見ても大破しているとしか見えないその機体。人形のようにぎこちなく歩いてくるその姿が、徐々に露わになる。
そう――インベーダーと融合し、メタルビーストとなったシャイニングガンダムの姿が。

『GUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

シャイニングガンダム――否、メタルビースト・シャイニングの口からおぞましい咆哮が上がる。
それを聞いた二人のガンダムパイロットは直感する。
アレはもうガンダムなどではなく、全ての命あるものの敵。何としても倒さねばならない邪悪だと。

「アムロさん!」
「ああ、わかっている。トモロ、自動操縦はいけそうか?」
『ああ。君達参加者に対しての攻撃は禁じられているが、あれらはその規制の範疇にはないようだ。私だけでもJアークの自衛は可能だ』
「よし……なら、俺達は出るぞ!」
「了解です――VF-22、カミーユ・ビダン! 行きます!」

カミーユのバルキリーが一足早く発艦する。
それを見送り、ブリッジから走ってきたアムロもF91へと乗り込んだ。

「ガンダムF91――アムロ・レイ! 出るぞッ!」

飛び出す――インベーダーの待つ、ガンダムと対峙する戦場へ。
ガンダムが腹部に突き刺さっていた剣を抜く。
その体内から這い出たインベーダーが失われた腕の代わりなのか。

Jアークの砲撃が始まる。
それを契機に、戦いの火蓋は切って落とされた。

378世界を止めて ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:33:45


【アムロ・レイ 搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91)
 パイロット状況:健康、若干の疲労
 機体状態:EN40% ビームランチャー消失 背面装甲部にダメージ  ビームサーベル一本破損
       頭部バルカン砲・メガマシンキャノン残弾60% ビームライフル消失 ガンポッドを所持 
 現在位置:D-3南部
 第一行動方針:インベーダーへの対処
 第二行動方針:首輪の解析とD-4地区の空間観測
 第三行動方針:協力者を集める
 第四行動方針:マシンセルの確保
 第五行動方針:基地の確保
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考1:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している
 備考2:ガウルン、ユーゼス、テニアを危険人物として認識
 備考3:首輪(エイジ)を一個所持
 備考4:空間の綻びを認識】

【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・Sボーゲル(マクロス7)
 パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。疲労(大)
 機体状況:オクスタン・ライフル所持 反応弾所持 EN40%   左肩の装甲破損
 現在位置:D-3南部
 第一行動方針:インベーダーへの対処
 第二行動方針:首輪の解析を行ないつつしばらくJアークに同行
 第三行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」
 第四行動方針:遭遇すればテニアを討つ(マシンセルを確保)
 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる
 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識
 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態
 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能】

【Jアーク(勇者王ガオガイガー)
 機体状態:ジェイダーへの変形は可能? 各部に損傷多数、EN・弾薬共に100%  
 現在位置:D-3南部
 備考1:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復
 備考2:D-4の空間観測を実行中。またその為一時的に現在地を固定
 備考3:ユーゼスが解析した首輪のデータを所持(ただし改竄され不完全なため、単体では役に立たない)】


【シャイニングガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状態:なし
 機体状況:右腕肘から先をインベーダーの腕が補っている、折れたブレンバー所持 EN10%
        各部装甲に多数の損傷、表面装甲の六割が融解して垂れ下がり凝固 インベーダーが取りつき、メタルビースト化
 現在位置:D-3南部
 行動方針:あらゆる生命の抹殺】



【二日目15:05】

379眠れる基地の魔王、悪が振るう剣 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:35:06
「あら、お目覚めですの?」

覚醒した男の耳をくすぐったのは、あどけない少女の声。
身を起こす。そして己の身体を見回し、大事がないことを悟ると、一言。

「ふう、死ぬかと思ったぜ」
「よく言いますの。あんな無茶なことをする割にお軽い方ですのね」
「おや、お嬢ちゃんは……ってこたあ、ここは最初に集められた場所かい?」

男――ガウルンは、突如投げ出された場所、そして主催者たるアルフィミィを前にしても毛筋ほども動揺を見せない。
パンパン、と埃を払い泰然と立ち上がる。

「ええ、まあ……って、ここに来るつもりであの穴に飛び込んだんではないんですの?」
「いいや、とりあえずあそこからトンズラするには丁度いいと思っただけさ。さすがに俺も機体があれじゃあな」

振り向くガウルン。そこには大破したぺガスがあった。
巨大インベーダーが撃滅され戦況がほぼ決したあの瞬間、ガウルンは撤退を選んだ。
だが機体が機体、普通に逃げるのではアキトからは逃げ切れない。そう判断したガウルンは一芝居打った。
マスターガンダムをわざと損傷させ、身動きが取れないと見せかける。機体を目立つ位置へと露出させ、アキトに発見させる。
当然マスターガンダムは破壊される。
しかしその時ガウルンはとっくに脱出していて、乗り手がいなかったぺガスともども空間の穴に飛び込んだ――という訳だ。

しかしぺガスが近くに墜落していたのは運が良いとしか言いようがなかった。
そうでなければそのまま近くの廃墟に身を隠すしかなかったのだ。機体がなければここでは何もできない。
ぺガスはさすがに廃墟に入ることはできなかったので、咄嗟に空間に空いた穴へと目標を変える。
正直これだけは賭けだった。そもそも穴の向こうはどうなっているかわからない。
ともすれば宇宙空間に飛び出して一瞬でお陀仏だったかもしれないのだ。

「そこは、私に感謝してほしいですの。あなたをここに引っ張ったのは私なんですもの」
「へえ……お嬢ちゃんが俺を、ねぇ。もちろん礼は言うが、それだけでもないんだろう?」
「そうですの……あなたは傭兵と聞きましたの。そのあなたを見込んで、頼みたい仕事があるんですのよ」
「仕事ねぇ。いや、仕事を受けるのは吝かじゃないがな。それに見合う報酬はあるのかい?」
「あら、命を助けたことでは足りませんの?」
「……そこを突かれると辛いねぇ。まあ、まずは話を聞こうじゃねえか。どんな仕事なんだ?」
「あなたにお願いする仕事は大きく分けて三つありますの。一つ、今までどおりに殺し合いに参加すること。これはまあ、頼むまでもないと思いますの」
「おう、俺ぁ降りる気はねえぜ。まだまだ喰い足りないんだからよ」
「頼もしいことですの。……二つ、会場中に散らばったこれらの排除」

少女が手を振ると、何もない空間に映像が浮かびあがる。
そこに映し出されたのは先程大挙して現れた怪物、インベーダー。

「このインベーダー達は先程F-1エリアに出現したものがすべてではないですの。
 禁止エリア――ぶっちゃければ早期に小さな空間の綻びを確認したエリアの事ですが、ここにも少数ですが出現を確認しましたの。
 これらのエリアの穴は比較的小さいので出てくる数は少ないのですが、放置しておくのも気分が悪いですの。
 それと、インベーダーは機械と融合してメタルビーストというものになりますの。近い所に破壊された機体があるときは要注意! ですの。
 一応そのエリアのインベーダー全てを駆除すれば後続は出て来ないはずですから」
「ふむ……だが、禁止エリアってこたぁ俺には手が出せないんじゃねえか?」
「あなたの首輪だけは出血大サービスで爆破機能を解除して差し上げますの――まあ、代わりにペナルティを科しますけれど」
「ペナルティ、ね。まあいい、最後の仕事は?」

少女が再び手を振る。インベーダーの映像が消え、代わりに現れた映像は――

380眠れる基地の魔王、悪が振るう剣 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:37:45
     □


近距離指向性・近接戦闘用炸裂弾M180A3、通称スクエア・クレイモア。
爆裂する鉄鋼球が群がるインベーダーをズタズタに引き裂く。
消し飛んだ異形の命は50を軽く超える。それだけでは留まらず、僅かに原形を保っていた基地跡は完全に崩壊した。
陣形――といってもただ囲んでいただけのものだが――を崩され、異形達が悲鳴を上げる。

一際巨大な個体へと突進。右腕の杭が突き立てられ、火薬の弾ける音が連続する。
その間も突進は止まらない――インベーダーの頭から突入したゲシュペンストMk?は、やがてインベーダーの足元へと抜ける。
ステークの衝撃が強すぎて当たった瞬間にインベーダーの身体が弾け飛び、次の火薬が発火する頃には機体が前進してしまうのだ。

着地し、ゆっくりと自身を囲むインベーダーを睥睨する。
蒼い体躯から放たれる紅の眼光が、感情など持たないはずの宇宙生物達を威圧し、たじろがせる。
もう気付いているはずだ。彼らが相手にしているのは、あるいはゲッターロボに比肩し得るほどに危険な敵なのだと。

ゲシュペンストが足を踏み出す。
その一歩がまるで落雷のように、インベーダー達は後退する。

基地に隣接する禁止エリアから湧き出てきたインベーダーは、愚かにも基地で眠る男へと手を出してしまった。
それが自らを滅ぼす者だと気付きもせずに――

「ククク……ハハハハッ……これだ。闘争……これこそが」

ディバイデッドライフルを構える。エネルギーを注ぎ込む――解放。
莫大な熱波の奔流が直線状のインベーダーを消し飛ばす。

「もっとだ……もっと。さあ……俺に痛みをくれ。進化を促す……更なる力を、得る……ために」

リボルビングステークの薬莢が排出される。
空になった弾倉――だが胸の宝玉が発光し腕へと伝う。内側から盛り上がったアインスト細胞が、組成変化を起こし弾薬となる。

「さて――やろうか」

そして虐殺が始まった。

381眠れる基地の魔王、悪が振るう剣 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:40:05
     □


「――なんだ、あいつは。あれも参加者……なのかい?」
「そうですの。まあ、今はちょっと人間やめてますけれど……」

基地を埋め尽くさんばかりのインベーダーと、単騎で渡り合っている――押してすらいる蒼い機体。
巨大というほどでもない。だが内包する力は、あるいはガウルンが今までに見たどんな機体よりも強力だ。
傲岸不遜を地で行くこの男が、我知らず頬を伝う汗を拭う。
自分でも驚くほどに冷たい汗だった。

「まさかとは思うんだが、三つめの仕事ってのは……」
「ええ。アレを撃破して欲しいんですの」
「おいおい……勘弁してくれよ。正真正銘の化けもんじゃねえか。あれに空手で突っ込んでけって?」
「あら、言い忘れてましたの。当然、あなたには新しい機体を用意しますから安心して欲しいですの」

三度、アルフィミィが手を振る。
暗いホールに光が刺した。
暗闇の中浮かび上がった、一機の機体。

「ほう……こいつは?」
「元々はルール説明の時、首輪を爆発させた人に支給するはずだった機体ですの。
 あそこで爆発させちゃったのは予定になかったので、余ってたんですの。
 大抵の機体には当たり負けしないはず……これを進呈致しますの」
「ああ、あの姉ちゃんの分か。ふむ……ま、いいだろ。その仕事受けようじゃねえか」
「契約成立ですのね。ではこれを飲んで下さいな」

少女がガウルンに錠剤のようなものを手渡す。

「こいつは?」
「先程申しましたペナルティですの。それを飲めば、禁止エリアに入っても首輪は反応しません。
 代わりに……あ、やっぱり秘密ですの。どうせすぐわかりますの」
「おいおい。教えてくれてもいいじゃねえか」

不満を訴えるガウルン。その眼光は言い分を聞かなければ殺すと言わんばかりに鋭いが、人間でない少女には寸毫の怯みもない。

「ただでさえあなたにはサービスしてあげてるんですの。
 これ以上は公平さを欠く――と言いますか、こんな事態になってなければそもそも助けもしませんでしたの」
「つまりあんたがテコ入れしなけりゃならないほど事態は混乱しているってことか……なら贅沢は言えねえな」
「ご理解感謝致しますの。……さて、そろそろ舞台に戻ってもらいますの。どこかご希望の地域はありまして?」
「送ってくれるのかい?」
「ええ。私としては、今すぐ基地へ向かって欲しいんですけれど?」
「おいおい、それは勘弁してくれ。機体の慣らしもしてないのにあいつにぶつけられちゃ堪らん」
「それもそうですの。では、どこへ?」
「そうだな――」

とりあえずナデシコの辺りはもういい。
アキトとの戦いは中々楽しめたし、今も生き残っているかもしれないが同じ味ばかりでは飽きも来る。
同じ理由であそこにいた奴らも却下――どうせなら興味のある相手がいい。
さしあたって候補に挙がるのはアムロ・レイか――いや。

「――――のところがいい」
「ああ、あの人。構いませんけれど……あら。今、戦っているようですの。相手はインベーダーですわね」
「何、そりゃいけねえ。急いでくんな、お嬢ちゃん」
「はいはい。では、また会える時まで、ごきげんようですの――」

機体に乗ったガウルン。
ガクン、と震動が来て、機体が落ちていく感覚とともに、ガウルンは目を閉じた。
次に目を開けたとき、そこは――

382眠れる基地の魔王、悪が振るう剣 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:40:44

     □


「統夜、大きいのが来たよ!」
「下がれテニア! 俺が行く!」

A-1、市街地。
ユーゼス・ゴッツォと別れてすぐここに向かった紫雲統夜、フェステニア・ミューズ。
誰もいない静寂の市街地で、二人だけの時間を過ごしていた恋人達の時間を邪魔をするは無数の侵略者――インベーダー。
警告も対話もなく、いきなり襲いかかってきた異形。
泡を喰い機体に乗り込んだ二人は事態を把握する暇もなく迎撃に追われている。

「畜生、剣があればこんな奴ら……!」

ヴァイサーガは腕の隠し武器である鉤爪を伸ばし、戦っている。ユーゼスに持ち逃げされた五大剣の代わりには成り得ないが、今はこれと烈火刃だけが頼りだ。
ベルゲルミルはようやっと再生したばかりのシックス・スレイヴを温存することなく操っている。
インベーダー一体一体の強さはそれほどでもない。
ヴァイサーガが本調子ならそれほどでもないのだが、現状では十分な脅威。

「はぁっ、はぁっ……! これで、止めだ!」

一際巨大な個体をシックス・スレイヴが固定。動きの止まったところに、駆け寄ったヴァイサーガの一撃が決まる。
断末魔とともに消えるインベーダー。

「……終わった、か」
「もう、なんなのこいつら! 訳わかんないよ!」
「俺だってわからないよ――いや、待て! また来るぞ!」

北の光壁を抜けて、新たなインベーダーが迫る。

「統夜、どうするの!? これじゃあ……」
「くそ……! どうすれば、」

押し寄せる壁のように群れ集まったインベーダー。
烈火刃とマシンナリーライフルで迎撃するも数が多すぎる。
飲み込まれる寸前――更に上空から何か、人型の影が落下してきた。
それは腕を伸ばし、剣のようなものを構える。剣は瞬く間にその質量を増し、巨大な刀――まさしく斬艦刀とでも言うべき姿に変わった。

「なっ……」
「……ィィィイイイッヤッッホォォォォォォオオオオオオオウウウゥゥゥッッ!!」

雄叫び――歓喜のそれとともに、斬艦刀が振り下ろされた。
インベーダーが軽々と薙ぎ払われる。まさしく、鎧袖一触。

何か――巨大な鎧武者がヴァイサーガの前に降り立つ。
ヴァイサーガよりも一回り大きい。ヴァイサーガを騎士と表現するなら、それはまさに武者。

「よう、統夜。それにテニアの嬢ちゃん……会いたかったぜぇ?」

その機体から聞こえてきた声は、インベーダーから助けてくれたこの状況とはいえ決して聞きたくなかった男のもの。

「ガウ……ルン!?」

統夜の、そしてテニアの喉から漏れたその呻きは友好的な成分は微塵もない。
ガウルンはその絶望感溢れる嘆きを聞き――頬を吊り上げた。

383眠れる基地の魔王、悪が振るう剣 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:41:31




【ガウルン 搭乗機体:ダイゼンガー(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:疲労(大)、全身にフィードバックされた痛み、DG細胞感染
 機体状況:万全
 現在位置:A-1 市街地
 第一行動方針:存分に楽しむ。
 第二行動方針:統夜&テニアの今からに興味深々。テンションあがってきた。
 第三行動方針:アキト、ブンドルを殺す
 第四行動方針:禁止エリアのインベーダー、基地のキョウスケの撃破
 最終行動方針:元の世界に戻って腑抜けたカシムを元に戻す
 備考1:ガウルンの頭に埋め込まれたチタン板、右足義足、癌細胞はDG細胞に同化されました
 備考2:ダイゼンガーは内蔵された装備を全て使用できる状態です
 備考3:謎の薬を一錠所持。飲めば禁止エリアに入っても首輪が爆発しなくなる(飲んだ時のペナルティは未定)】


【紫雲統夜    登場機体:ヴァイサーガ(スーパーロボット大戦A)
 パイロット状態:精神的に疲労 怒り
 機体状態:左腕使用不可、シールド破棄、頭部角の一部破損、全身に損傷多数 EN70% 五大剣紛失
 現在位置:A-1
 第一行動方針:インベーダー、ガウルンに対処
 第二行動方針:ユーゼスに協力。でも信用はしない 
 最終行動方針:テニアと生き残る】


【フェステニア・ミューズ   搭乗機体:ベルゲルミル(ウルズ機)(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:焦り
 機体状況:左腕喪失、左脇腹に浅い抉れ(修復中) EN50%、EN回復中、マニピュレーターに血が微かについている
 現在位置:A-1
 第一行動方針:インベーダー、ガウルンに対処
 第二行動方針:ユーゼスに協力。不審な点があれば容赦しない
 最終行動方針:統夜と生き残る
 備考1:首輪を所持しています】




【キョウスケ・ナンブ  搭乗機体:ゲシュペンストMkⅢ(スーパーロボット大戦 OG2)
 パイロット状況:ノイ・レジセイアの欠片が憑依、アインスト化 。DG細胞感染。
 機体状況:アインスト化。ディバイデッド・ライフル所持。機体が初期の約1,2倍(=30mより少し小さいくらい) EN80%
 現在位置:G-6基地跡地、発電施設内
 第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く
 第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。
 最終行動方針:???
 備考1:機体・パイロットともにアインスト化。
 備考2:ゲシュペンストMkⅢの基本武装はアルトアイゼンとほぼ同一。
     ただしアインスト化および巨大化したため全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。
     ビルトファルケンがベースのため飛行可能(TBSの使用は不可)。
     実弾装備はアインストの生体部品で生成可能(ENを消費)。
 備考3:戦闘などが行なわれた場合、さらに巨大化する可能性があります(どこまで巨大化するか不明)。
     直接機体とつながってない武器(ディバイデッド・ライフルなど手持ち武器)は巨大化しません。
     現在はギリギリディバイデッド・ライフルが使用できますが、これ以上巨大化した場合規格が合わなくなる恐れがあります。
     胸部中央に赤い宝玉が出現】


【アルフィミィ  搭乗機体:デビルガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:ネビーイーム
 第一行動方針:バトルロワイアルの進行
 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂】

※禁止エリアにインベーダーが出現しました。
 これ以上数が増えることはありませんが、操縦者のいない機体に取りつくとメタルビースト化します。


【二日目15:30】

384 ◆VvWRRU0SzU:2009/03/19(木) 23:42:45
以上、投下終了です。
引き続き本スレに未投下分を転載します。

385 ◆ZqUTZ8BqI6:2009/03/21(土) 13:26:15
すいません、さるくらいました

386名無しさん:2009/03/21(土) 13:26:59

      ◇       ◇        ◇


「く……さすがに、無理をしすぎたか……」

酷い頭痛にこめかみをもみながらF-91のシートにアムロはもたれかかる。
あまりにも多大な消耗と引き換えに可能にした、限界突破の力。その反動で、アムロは静かに目を伏せた。

「しかし……ゴッドフィンガー、か……」

神の掌という意を持つ一撃。その威力は、確かに強力無比。
無論、自分が神のような力を持っているとは思わない。思いたくもない。
だが、この力なら、ブンドルの言っていた必要な力にも匹敵する。
殺し合いは現実起こり、数々の人が倒れ、マシンが朽ちてきた。
その中、超極大の力を複数集めるのは至難の業であることは理解している。
この力をもっと完璧に扱えるようになり、ほぼエネルギー最大の状態で発動させられれば、求めらる力の一つになることは可能かもしれない。

いや、かならずなってみせる。ガンダムには、それだけの可能性を秘めているのだ。

キラも、ガロードも、俺たちの世界のガンダムも……そうやって切り開くため戦ってきた。
確かに、ギンガナムの言う通り、人類は戦いの歴史を歩んでいるのかもしれない。
だが、ならばガンダムの歴史はそれへの反逆の歴史だ。兵器として生まれ、兵器の枠を超え、無限の想いをガンダムは背負って歩んできた。
このF-91もまた、終わらない戦いの歴史を止めるため作られた、νガンダムの未来――自分の未来――に生まれたガンダム。

必ず、世界をいつの日か変える日がくる。
そして、この偽りの箱庭も―――


最後に、こちらに接近するJアークが視界に入る。
そのまま、アムロは意識を失った。













ゴッドフィンガーをアムロは習得しました!

387名無しさん:2009/03/21(土) 13:27:30
【アムロ・レイ 搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91)
 パイロット状況:健康、疲労(大) 気絶
 機体状態:EN1,2% ビームランチャー消失 背面装甲部にダメージ  ビームサーベル一本破損
       頭部バルカン砲・メガマシンキャノン残弾60% ビームライフル消失 ガンポッドを所持 
 現在位置:D-3南部
 第一行動方針:インベーダーへの対処
 第二行動方針:首輪の解析とD-4地区の空間観測
 第三行動方針:協力者を集める
 第四行動方針:マシンセルの確保
 第五行動方針:基地の確保
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考1:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している
 備考2:ガウルン、ユーゼス、テニアを危険人物として認識
 備考3:首輪(エイジ)を一個所持
 備考4:空間の綻びを認識】
 備考5:ゴッドフィンガーを習得しました。
    残存エネルギーのほぼすべてを発動すると使用します。
    また、冷却などの必要があるため、長時間維持は不可能です。
    発動、維持には気力(精神力)や集中力を必要とし、大幅に疲労します。
    ほぼ完全な質量をもった分身の精製、F-91を覆うバリアフィールドの精製、
    および四肢に収束させての攻撃への転嫁が可能です(これが俗にいうゴッドフィンガー)。

【カミーユ・ビダン 搭乗機体:VF-22S・Sボーゲル(マクロス7)
 パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。疲労(大) 気絶
 機体状況:オクスタン・ライフル所持 反応弾所持 EN10%   左肩の装甲破損 全体的に装甲表面に傷。
 現在位置:D-3南部
 第一行動方針:インベーダーへの対処
 第二行動方針:首輪の解析を行ないつつしばらくJアークに同行
 第三行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」
 第四行動方針:遭遇すればテニアを討つ(マシンセルを確保)
 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる
 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識
 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態
 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能】

【Jアーク(勇者王ガオガイガー)
 機体状態:ジェイダーへの変形は可能? 各部に損傷多数、EN・弾薬共に100%  
 現在位置:D-3南部
 備考1:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復
 備考2:D-4の空間観測を実行中。またその為一時的に現在地を固定
 備考3:ユーゼスが解析した首輪のデータを所持(ただし改竄され不完全なため、単体では役に立たない)】


D-3を中心としてその周辺のインベーダーはすべて消失しました。


【二日目16:00】

388見よ人の心の光! 輝き唸る神の掌!:2009/03/21(土) 13:29:15
投下、完了です。
だいぶいろいろ書きなおして落ちついた感じにはなってるはず……
これでもやり過ぎでしたら修正しますのでお願いします

389名無しさん:2009/03/21(土) 13:37:45
代理投下行って来ます

390life goes on:2009/05/20(水) 23:14:14

撃つ瞬間、回避して機体の中にも伝わるように拳を打ち込む。
それだけを、狙う。

一秒。
二秒。
三秒。

静かに時間だけが経つ。

そして―――


すっとオクスタンライフルが下ろされる。

「聞いて分かってますよ。最初から、何が目的だったか。けど、こんな方法で何がしたかったんですか!?」

カミーユの怒りは、銃撃ではなく言葉という形でブンドルに向けられた。

「それも伝えているつもりだ。無論、その責任も負う覚悟はあった」
「だから、黙って殺されようとしたんですか!? 冗談じゃない!」

もっとも、本当は反撃する気だったのだが、今それを言うと余計にことを荒立てるだけだろう。
ブンドルは貝のように口をつぐむと、ボロボロのVF-22Sを立ち上がらせる。

「人をなんだと思ってるんです!? 死ねば責任が取れるなんて逃げているだけだ!」
「だが、現実の状況と折り合いをつかる形では、これしかなかったと思っている。私なりに『納得』しての行動だ」

次の瞬間、VF-22Sはサイバスターに殴り飛ばされていた。
メインカメラに砂嵐が混じる。

「『妥協』を『納得』なんて言葉でごまかして! 自分だけを納得させようとするのが大人のすることか!」

口をハンカチでぬぐう。
口を切ったのか、そこには赤いものが混じっていた。
気付けばドクーガの最高幹部になり、自分に苦言を呈するものは少なくなっていた。
無論、それはそれを必要ないほど自分も優秀だったと自負もある。
だが、これほど荒々しく想いをぶつけられたのは一体どれほどぶりか。

391life goes on:2009/05/20(水) 23:14:49

スラスターを噴射。

ほんの一瞬だったが十二分。

その腕についた巨大な杭打ち機を潜り抜ける。

激進する蒼い孤狼の懐にVF-22Sが潜り込む。

その拳が胸の赤い球体に叩き込まれる。

一瞬の空白。

ピシリと、何かが砕ける音が鳴る。

振われる蒼い孤狼の右腕がVF-22Sを弾き飛ばす。

VF-22Sの下半身が、ただそれだけで砕け散った。


「ブンド……ああああああああああ!!」

サイバスターの前に突然魔方陣が生成され、くぐった瞬間サイバスターが灼熱に燃え上がる。
ディスカッターが、火炎を纏ったまま振り落とされた。しかし、右手の杭打ち機がはっしとそれを受け止める。
カミーユの怒りに狂ったような笑い声の返答。それが怒りへさらに油を注ぐのだろう。
さらに攻撃の手を加速させるサイバスター。しかし、烈火のごとき攻撃も、蒼い孤狼には届いていない。
笑いは止まらず、一撃たりとも直撃はない。

一度、僅かにサイバスターと蒼い孤狼が空く。
VF-22Sは、どうにかその手に掴んだガンポッドで両者の間を抜くように撃つ。
お互い、その程度ではダメージにならないだろうが反射的に飛びのいた。

「無事だったんですか!?」

勝手に殺さないでほしいと言いたくなったが、そんな無駄口を叩いている暇はない。

「今のまま戦っても勝ち目はないようだ」
「ここでまた引けって言うんですか!?」

カミーユの声をブンドルは無視する。

392life goes on:2009/05/20(水) 23:15:20

「話は聞かせてもらっている。カミーユ、君はなんのため生き恥をさらすことを覚悟で引いた?
 今目の前の変わり果てた中尉を確実に撃破するためだろう。たしかにサイバスターで君個人の力は上がった。
 だが、一人で倒せる相手ではないだろう。だから、こうして私たちは集った。分かるな?」

今にも誘爆しそうなVF-22Sの中で言葉を紡ぐ。
カミーユは、けしてここできえてはいけないのだ。
この醜悪な殺し合いを仕組んだ主催者を撃破するために、サイバスターは必ず大きな力になるはずだ。
無駄に散らすことなど、許されるはずがない。
たとえ、どんな方法をとっても撤退させる。

ジリジリと蒼い孤狼は、距離を詰める。
一瞬で噛み砕ける時を、その名のとおり獰猛な肉食獣のように待っているのだろう。

「……どうやって、引くんです? 今のVF-22Sじゃ追いつかれます」

ブンドルを気遣っているというより、むしろ戦う理由づけにそれを盾にしている。
そんな響きがカミーユの声にはあった。
彼にとって、中尉という人物は、引くことを許されない存在なのだろう。

だが、そんな都合はブンドルには関係ない。

「簡単なことだ。サイバスター単騎なら離脱も簡単だろう。……援軍を呼んでくるまで、私が引き受けよう。
 今、避けなければならないことは両方の撃墜。そしてわたしの機体では援軍を呼ぶまで時間がかかる。
 ならカミーユ、そちらが呼びに行くのが適切だろう」
「そんなこと、できるわけがない! あなただって……」

「できない、と思うならばうぬぼれを改めたほうがいいではないかな?」

VF-22Sが、背面のスラスターを使い宙に浮く。
腕を失い、下半身を失い、全身傷だらけのその姿でなお、ガンポッドを構え、青い孤狼に対峙する。
蒼い孤狼の突撃を、紙一重でVF-22Sはかわす。
その姿は、竜巻にあおられ宙を舞う一枚の木の葉だ。
だが、消して当たることなくかわし、ガンポッドでけん制する。

「この戦いに呼び出した際、こうなることも『納得』していた」

その言葉に、カミーユが息をのむ。

393life goes on:2009/05/20(水) 23:15:51

「全て、私が『納得』しての行動であり、『妥協』ではないということだ」


――だから行け! 騎士よ!


サイバスターが背を向け、Jアークのほうへと飛ぶ。通信機から聞こえるのは、嗚咽だった。
また、つらい思いをカミーユに重ねさせ追い詰めてしまうことをブンドルは小さく謝罪する。
張り詰めきった糸が切れたとき、壊れてしまわねばいいが。

自分が行った考察も、知識も、今は全てJアークにある。
そしてサイバスターも今託した。

「役目を終えた役者は舞台から降りる……それが必然か」

サイバスターは美しい。
その本当の輝きを見せてくれた。
それだけであの少年を守る価値はある。

今の疲弊した聖ジョージの騎士に、悪竜……いや魔獣を倒す力はない。
だが、今一度立て直してくれれば。心強い騎士たちの力添えがあれば。

必ず、魔獣を打ち倒すだろう。

蒼い孤狼から漏れる嘲笑。
しかし、ブンドルは胸の薔薇を抜くと、静かに、そして高らかに宣告した。

「醜き者よ、今は驕っているが良い。だが、醜き者は滅ぶべき定めにある」

初めてサイバスターの前に立った時と同じ誓いを、今一度。

蒼い孤狼と、VF-22Sが夜の廃墟の中、交錯する。


そして―――






【レオナルド・メディチ・ブンドル 死亡確認】

394life goes on:2009/05/20(水) 23:16:29

【キョウスケ・ナンブ  搭乗機体:ゲシュペンストMkⅢ(スーパーロボット大戦 OG2)
 パイロット状況:ノイ・レジセイアの欠片が憑依、アインスト化 。DG細胞感染
 機体状況:アインスト化。ハイパーハンマー所持。機体が初期の約1,5倍(=35m前後) EN100%
 現在位置:D-3
 第一行動方針:すべての存在を撃ち貫く
 第二行動方針:――――――――――――――――――――カミーユ、俺を……。
 最終行動方針:???
 備考1:機体・パイロットともにアインスト化。
 備考2:ゲシュペンストMkⅢの基本武装はアルトアイゼン・リーゼとほぼ同一。
     ただしアインスト化および巨大化したため全般的にスペックアップ・強力な自己再生能力が付与。
     ビルトファルケンがベースのため飛行可能(TBSの使用は不可)。
     実弾装備はアインストの生体部品で生成可能(ENを消費)。
 備考3:戦闘などが行なわれた場合、さらに巨大化する可能性があります(どこまで巨大化するか不明)。
     直接機体とつながってない武器(ハイパーハンマーなど手持ち武器)は巨大化しません。
     胸部中央に赤い宝玉が出現】


◆ ■ ◆


「この感覚は……!?」

震えのため手からこぼれおちた携帯端末が、地面にぶつかり音を立てた。
アムロは、この会場に来てこれほど大きな何かを感覚したことはなかった。
それほど、大きな何かが迫りつつある。

震えるほど冷たい異質な何か。
震えるほど巨大で異質な何か。

いやこれは、覚えがある。
この感覚は、あの最初の場所で感じたものだ。
そう、この名状しがたい人間ではありえない感覚は―――

「ノイ・レイジセイア……っ!」

虚空を睨み付け、手を震わせるアムロを奇妙に思ったのだろう。
平時のような柔らかい口ぶりでキラはアムロに声をかけた。

「あの、急にどうしたんですか? カミーユたちのことなら――」
「違うッ! 奴が来る! ノイ・レジセイアが今、カミーユ達の前にくるぞ!」

395life goes on:2009/05/20(水) 23:17:25

アムロの鬼気迫る声に、若干キラはたじろぐ。

「そんな……本当なんですか!? なんで今になって主催者が!?」
「主催者、レジセイア……いや、微妙に混じり気がある。
 これが、もしかしたらカミーユの言っていた……」

その時、Jアークに最大級のアラートが鳴り響く。

『信じられないエネルギーを感知した。
 大きさは並みの機動兵器というのに、総量がJアークを超えている。
 距離をこれだけあけても、正確に感知できるとは。
 どうやってその質量にエネルギーを保存しているか不明』

トモロの声が、アムロのニュータイプ能力で感じ取った危険を客観的なデータと変える。
一斉にそのデータとアムロの音声が、Jアークに乗る全員に行きわたった。
空中にポップアップされたウィンドウから見える全員の顔は、緊張に張り詰めていた。

「急いで助けにいかないと、ブンドルさんとカミーユがあぶねぇ!」

甲児の言葉に、全員が頷き合う。
今は、一分でも一秒でも早くカミーユを助けに向かうべきだ。
アムロは解析を一時凍結し、キラもトモロに戦闘にCPUを割くよう依頼する。
格納庫とブリッジへ走りだす二人。

その途中、ロジャー、ソシエとも合流する。
既に格納庫にいる甲児とアイビスは、発進準備に回っているのだろう。

「トモロ。……もしも時もお願い」

キラの呟きが、アムロにも聞こえた。
Jアークとメガフュージョンし、キングジェイダーになれるのはせいぜい一回。
その一回を生き延びたとしても、体の酷使は限界を突破し、おそらく二度目の戦闘に耐えられないだろう。
それが、トモロの機構を調べてみたキラやカミーユ、それにブンドルとアムロの結論だった。

Jアークを超えるエネルギー量を持つ相手――そうなればキングジェイダーの力が必要になるかもしれない。
だが、それはキラの命と引き換えも同然の博打だ。
自分が代わってやれるならそれもやぶさかでないが、残念だがそういう問題ではない。
キラの、スーパーコーディネーターと呼ばれる特殊な強化された肉体の素質があってこそだ。

特殊な強化された肉体。
アムロの脳裏に浮かぶのは、数多の悲劇の中に消えていった強化人間たちだった。
たしかに、自分のいた時代においては、強化人間も随分と人間として安定していた。
だが、彼らはやはり戦火の中に放り込まれ、その大部分が散っていった。
キラに不安定なところはない。いや年のわりに大人びているくらいだ。

396life goes on:2009/05/20(水) 23:17:57

だが、どうしてもキラのような存在を戦わせることに気後れを感じていた。

「キラ、君に聞いておきたい」

ロジャーとキラの一歩前を行くアムロが、後ろを向かず走りながらキラに声をかける。

「なんで……!?」

おそらく、「なんですか」と答えようとしたのだろう。
しかし、その言葉が最後まで紡がれる前に、くるりと後ろを振り向いたアムロの拳がキラの腹にめり込んでいた。
さらに首に手刀をアムロはキラに叩き込む。流れるようなアムロの動きによどみはない。
訓練とはいえ、暴徒の生身での鎮圧は軍人として叩きこまれている。

さしものコーディネーターも、信頼している相手に、
火急の用でうわついている時を狙われてはなす術なかったか。

「ちょっと、アムロ! どうしたっていうのよ!?」

ソシエの声に、いつもの黒服の襟を正しながらロジャーは答えた。

「言いたいことがあるなら、ブンドルに言ってやってくれ。
 ……軍警察にいたころからだが、やはりこういうのを見るなれないものだ」

ロジャーは今起こったことを悔やむように歯を食いしばっている。
手が震えていることにもアムロは気付く。彼は、こうなることを知っていてあえて傍観した。
それは彼の流儀に反することだったのだろう。
しかし、それを未来のため彼は呑み込んだ。

「どういうこと……?」
「ブンドルから頼まれた。
 もし、キラが『第一の壁』を越えるために力を振るおうとするなら、必ず止めるように」

アムロの言葉を補填するようにロジャーは言った。
ユーゼス、キョウスケ、ノイ・レジセイアの三つの最大最悪の壁を超える必要がある。
しかし、最後のノイ・レジセイアにたどり着くためには、『首輪の解除』と『空間の突破』が必須。
そのために、武力とともに知力――それを調べ観測し蓄積し突破する能力――がなければいけない。
Jアークは、そのために絶対に沈んではならない。
ブンドル曰く、Jアークはノアの方舟。未来にたどり着くための最後の一つずつの希望を詰めた船なのだ。

キラはそれを了承しないだろう。
自分の命よりも他人の命を優先する若者は、おそらく突っ走ってしまうに違いない。
今真に必要なのは踏み止まり、希望を残す勇気だ。
だが、その感情を操作する知恵を若いキラに求めるのは酷だ。

だから、本当に少しでも多くの人を生き延びらせるため、キラ自身のため、気絶させてでも止めろと。

397life goes on:2009/05/20(水) 23:18:29

「ソシエ嬢、キラを頼む。そして、Jアークを後方で待機させてほしい」
「そんなのこと、聞けるはずがないわ!」

ロジャーは、けして押し付けずソシエと交渉する。
これが彼にとって譲れない性根の部分なのだろうかとアムロは思った。
拳をかざすことは最後の手段。言葉こそが真の力だとロジャーは思っている。
ブンドルに道理を説明されても、首を縦に振らなかったのだから本物だろう。
ロジャー・スミスが武力を振るうのは、真にネゴシエイションに値しない相手を止めるため。
交渉でどうにかできるというのなら、どれだけ希望が薄くてもそれを押し通す。
急ぐ状況でも、それは譲らず、粘り強く交渉するロジャー。

「……男って本当に勝手ね!」
「そう思ってもらっても構わない」

まだソシエは納得してないようだったが、一応の落とし所が見えたのか。
ロジャーはソシエに背を向け、アムロのそばに歩み寄る。

「走ろう。間に合わなくなる」

ロジャーの言葉にアムロも頷く。
たった二人になった廊下に、無言で足音だけが響いていた。

「医務室に、キラを運んではもらえるようだ。その後は、Jアークで後方射撃に行くと譲らなかった」
「そうか」

アムロもロジャーもお互いの顔を見ることなく、言葉だけを往復させる。
窓の外から、二機が飛び出していくのが見えた。
再び合体した無敵の巨人フォルテギガスとアイビスのブレン。

あえて通信は入れっぱなしにして、聞こえるようにしておいた。
おそらく、甲児からはあとあと怒られるかもしれないなと、思いながらも急ぐ。
だが、それもかまわない。若者の怒りを受け止め、道を拓くのは、俺たちの役目だ。

四角く切り取られた光が見えてくる。
格納庫は、もう目の前だ。









終わりへの序章の幕は閉じる。
これは葬列の始まりにすぎない。
蒼き孤狼の牙の前に、全員が並び激突するのはもう目の前。
アムロやブンドルの判断は正しかったのか。
未来はどこ繋がっていくのか。
それはまだ、見えてない。

398life goes on:2009/05/20(水) 23:18:59




【共通の行動方針
 1:24時にユーゼスと合流。現状敵対する意思はない
 2:ガウルン・キョウスケの排除
 3:統夜・テニア・アキトは説得を試みる。応じなければ排除
 4:ユーゼスとの合流までに機体の修理、首輪の解析を行い力を蓄える】

【アムロ・レイ 搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91)
 パイロット状況:健康、疲労(中)
 機体状態:ビームランチャー消失 背面装甲部にダメージ  ビームサーベル一本破損
       頭部バルカン砲・メガマシンキャノン残弾100% ビームライフル消失
 現在位置:D-3
 第一行動方針:機体の修復 首輪の解析
 第二行動方針:D-4地区の空間観測
 第三行動方針:協力者を集める
 第四行動方針:マシンセルの確保
 第五行動方針:基地の確保
 最終行動方針:ゲームからの脱出
 備考1:ボールペン(赤、黒)を上着の胸ポケットに挿している
 備考2:ガウルン、ユーゼス、テニアを危険人物として認識
 備考3:首輪(エイジ)を一個所持
 備考4:空間の綻びを認識】
 備考5:ゴッドフィンガーを習得しました。
    残存エネルギーのほぼすべてを発動すると使用します。
    また、冷却などの必要があるため、長時間維持は不可能です。
    発動、維持には気力(精神力)や集中力を必要とし、大幅に疲労します。
    ほぼ完全な質量をもった分身の精製、F-91を覆うバリアフィールドの精製、
    および四肢に収束させての攻撃への転嫁が可能です(これが俗にいうゴッドフィンガー)。

【カミーユ・ビダン 搭乗機体: サイバスター
 パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。疲労(小)
 機体状況:オクスタン・ライフル所持 EN100%  
 現在位置:D-3
 第一行動方針:合流
 第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」
 第三行動方針:遭遇すればテニアを討つ(マシンセルを確保)
 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる
 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識
 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態
 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能】

【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない)
 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。 EN100%  無数の微細な傷、装甲を損耗
 現在位置:D-3
 第一行動方針:使える部品を集めて機体を修理する
 第二行動方針:協力者を集める
 最終行動方針:精一杯生き抜く。自分も、他のみんなのように力になりたい。
 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

399life goes on:2009/05/20(水) 23:19:31

【兜甲児 搭乗機体:フォルテギガス (スーパーロボット大戦D)
 パイロット状態:健康
 機体状態:頭部消失、全身にガタがきているが戦闘は可能
 現在位置:D-3
 第一行動方針:カミーユとブンドルを助ける
 第二行動方針:誤解は氷解したため、Jアークに協力する
 第三行動方針:ゲームを止めるために仲間を集める
 最終行動方針:アインストたちを倒す 】

【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:右の角喪失、 側面モニターにヒビ、EN100%
 現在位置:D-3
 第一行動方針:殺し合いを止める。機体の修復 首輪の解析
 第二行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第三行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機所持
 備考2:ギアコマンダー(黒)と(青)を所持
 備考3:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考4:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)携帯
 備考5:バイパーウィップと契約しました】

【シャギア・フロスト 搭乗機体:なし?
 パイロット状態:健康 
 機体状態:なし?
 現在位置:D-3
 第一行動方針:??? (とりあえずキラたちについて行くつもりのようだが、内心何を考えているか不明)
 第二行動方針:ガウルン、テニアの殺害
 第三行動方針:首輪の解析を試みる
 第四行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める
 第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 最終行動方針:???
 備考1:首輪を所持】

400life goes on:2009/05/20(水) 23:20:07

【ソシエ・ハイム 搭乗機体:なし
 パイロット状況:右足を骨折
 機体状態:なし
 現在位置:D-3
 第一行動方針:殺し合いを止める。バサラ・キラの看病
 第二行動方針:出来るだけ多くの人を次の放送までにE-3に集める
 第四行動方針:この機械人形を修理したい
 最終行動方針:主催者を倒す
 備考1:右足は応急手当済み
 備考2:ギアコマンダー(白)を所持 ガトリングボアと契約しました
 備考3:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分) 】

【キラ・ヤマト 搭乗機体:Jアーク(勇者王ガオガイガー)
 パイロット状態:健康、疲労(中) 全身に打撲  気絶
 機体状態:ジェイダーへの変形は可能? 各部に損傷多数、EN・弾薬共に100%  
 現在位置:D-3
 第一行動方針:殺し合いを止める
 第二行動方針:機体の修復 首輪の解析
 第三行動方針:マシンセルの確保
 第四行動方針:生存者たちを集め、基地へ攻め入る
 最終行動方針:ノイ=レジセイアの撃破、そして脱出
 備考1:Jアークは補給ポイントでの補給不可、毎時当たり若干回復
 備考2:D-4の空間観測を実行中。またその為一時的に現在地を固定
 備考3:ユーゼスが解析した首輪のデータを所持(ただし改竄され不完全なため、単体では役に立たない)】

【熱気バサラ 搭乗機体:ラーゼフォン(ラーゼフォン)
 パイロット状況:DG細胞感染。喉の神経圧迫は完治。気絶
 機体状態:右腰から首の付け根にかけて欠落 胴体ほぼ全面の装甲損傷 EN残量20% 
 現在位置:D-3
 第一行動方針:???
 最終行動方針:自分の歌で殺し合いをやめさせる
 備考1:真理の目が開いています】

【二日目20:00】

401moving go on:2009/05/20(水) 23:21:04
緊張だけが大空を支配する。

アクシズ落としの三十年後に生まれたニュータイプ専用マシン、F-91。
アルクトス王家に代々受け継がれ残されていた黒い守護神、騎士GEAR凰牙。
無限心臓レース・アルカーナを内蔵し、限界を知らぬ力を巨躯に秘めるフォルテギガス。
ダブル・リバイバルを経て成長したオーガニック・マシン、ネリーブレン。

ここまで生き残ったことは伊達でも酔狂でもなく、一騎当千とまでいかずとも強力な武力をもつ者である証明。
その四人が共闘するという形をとっているのに、そのパイロットたちの誰からも黒い闇がぬぐわれることはない。
それもそうだろう。
今から向かう先にあるのは、この殺し合いの諸悪の根源。
ノイ・レジセイアそのものなのだから。

「シャギアさん、大丈夫なのか?」
「ああ、心配をかけたようだ。今は、問題ない」

フォルテギガスのメインパイロットシート――ガナドゥールのコクピット――で、
シャギアは、ともにフォルテギガスに乗る甲児に返事を返す。

「無理しなくたっていいんだぜ?
 俺だってこう見えても元の世界じゃ知る人がいないくらいのロボット乗りだったんだ」

大仰なガッツポーズを取る甲児。
そうやって自分を励ましてくれているのだろうか。
嬉しくも思うが、心苦しくも思う。

今シャギアが戦場に立つ理由は極めて個人的な理由だ。
同じ敵を撃破するためといった、信頼や友愛からほど遠い感情で動いている。
先に向かい敵に接触した少年も、横にならぶ男もニュータイプらしい。
ならば、ニュータイプに何ができるかを見届けてやろう。
どうせ、何もできないに決まっている。
今も仲間を見捨て、こちらに合流しようとしているらしい。

元の世界で、アベル・バウアーの戦いを傍観した時に近い、冷たい感覚。

ここに来る前はほぼ常にそうしてきたはずだが、それが随分と遠く感じるのは感傷なのか。

フォルテギガスのスペックを再度認識する。
たしかに、最大の長所である頑強さはある程度減ってしまっているが、かなりの高性能機であることに違いはない。
そうそう簡単に落ちるものではない。合体した状態のこの機は、ガドル・ヴァイクランに匹敵する。
ガドル・ヴァイクラン。その言葉でオルバを思い出し、小さく頭を振った。
もし、今フォルテギガスに乗るのが甲児ではなくオルバならば。

比べること自体、愚かしいと分かっていても、それを振り切ることができない。
もう、シャギアの精神感応(テレパス)はどこにも通じることはないのだ。
片方を失い、断線したまま二度と使われない。
もはや、カテゴリーFとしての能力もない。まさしく無能力者だ。

「あれは……カミーユ!?」

ニュータイプの男の声で、シャギアは意識をメインカメラに戻した。
そこに映るのは、鋭角的なデザインの白い機体、サイバスターだった。
以前はブンドルが乗っていたが、今はニュータイプが乗っているらしい。

自分たちの前まで来て、サイバスターは停止する。
無言のままのその様子だと、大方ブンドルは死んだのだろう。
切り捨てたことをごまかしでもしたいのか、とコクピットの中一人軽蔑の視線を投げる。

402moving go on:2009/05/20(水) 23:21:50

「……ブンドルは?」

腫物を触るようなロジャー・スミスの問いかけに、カミーユと呼ばれたニュータイプは答えた。

「また俺は……ベガさんと同じことを……っ!」

つっかえつっかえな台詞。
その様子に心が冷えていくのをシャギアは感じる。
相手がニュータイプというだけでここまで冷淡になれることを思い出す。

少しずつ余分なものが落ち、正しく『シャギア・フロスト』が帰ってくることを感じた。

そうだ、これが私なのだ。
自分の存在を再認識し、目的を再認識し、
流れる憤怒のマグマは少しずつ冷え、何よりも硬い石となる。

甲児やロジャーが何かカミーユをなだめるようなことを言っていたが、シャギアは聞いてもいなかった。
ニュータイプの戯言には一切興味がない。気にする必要もない。
ただ、ニュータイプという存在がちっぽけなものであるという事実だけあれば十分だ。

「来たようだ」

シャギアは、レーダーに映った影を全員に報告する。
一斉に全員の体がこわばったのが、シャギアにはわずかだが見えた。


超・超高度から何かが来る。
夜空を照らすスラスターの光を背に、蒼い孤狼が夜を切り裂き、大地へ落下する。
熟れ過ぎた果実が大地に落ち、炸裂するのと同じように、熟成された悪意が大地へ降臨する。
ニュータイプ能力などないシャギアでも、生物の本能として全身が泡立つような恐怖を感じた。

遠雷の如き音と共に、足もとにあるビルを砕き抜きそれは現れた。
音速をはるかに超過する落下速度により生まれた衝撃波が周囲のビルすら積み木の城のように吹き飛んで行く。
コロッセオのように丸く、そして蟻地獄のように大きくすり鉢型に陥没した中心に、それはいた。

「フ………フハハハハハッッハハハハハハハハッ、ハハハハハハハハハハハッッッ!!」

世界の全てをあざけ笑うが如き圧倒的な声量の嘲笑が、離れたビルの壁面を打ち反響する。

40m近い、半大型機並みのサイズ。
常軌を逸しているとしか思えないほど肥大化しバランスを欠いた右腕。
銃口という花を無理に纏めて乗せたような左腕。
両肩にあるのは破壊力だけを追求しそれ以外の全てを投げ捨てた破壊の鉄球詰め合わせ。
天も突かんと伸びた額の角。
そして、胸の中心で輝く深紅の宝球。

403moving go on:2009/05/20(水) 23:22:20


それは、人に在らざる者の駆る異形の魔獣。狂獣。悪竜。それら全て。




――――アインストアイゼン・ナハト・リーゼ !!



相手の気配に、呑まれそうになるのを、必死にシャギアは押さえる。
今必要なのは怒りだけだ。細部は違う。だが、オルバが最期に命と引き換えに送った念は忘れない。
その姿に映っていたのは、間違いなく目の前の存在。
シャギアは、覚えている。あのオルバがこと切れる寸前に送った言葉を。

―――助けて、兄さん

そう、助けてとオルバは最期に思ったのだ。
自分が、テニアを潰しておくため二分すると言ったせいで。
助けることも死に目を見ることもできず、オルバは死んだのだ。
自分の、せいで。

ならば、兄としてできることは奴を殺すことだけだ。
それをせめてもの手向けとしよう。

「選別する……正解に最も近い………欠片……人間……」

先ほどまでの狂った笑いと打って変わって、
何か抽象的な言葉を呟くキョウスケ――の姿をしたノイ・レジセイア。

「これもまた……近い……しかし……違う……」

その手に握られているモノを前に突き出す。
それが何か拡大し、認識した瞬間、シャギアも流石に息をのむ。
蒼い孤狼がその手に握っていたものは、一見すると何か鉄屑のようにも見える。
しかし、違う。格納庫で一度見ただけなので細部まで分からないが、あの可変機だ。
見る影もない姿に変わり果てた姿。
下半身を失い、両腕をなくしたそれの頭を、壊れた人形の頭でも掴むように無造作に握っていた。

蒼い孤狼が手を放す。重力に従い地に伏す可変機。
もう、ぴくりともしない壊れ切ったそれを、蒼い孤狼は―――

404moving go on:2009/05/20(水) 23:23:10

「故に……破壊」


踏み躙った。


砕け散る可変機。しかしそれでもなお執拗に踏み付け、細かく砕く。
そして、また思い出したように狂った調子で笑い続ける男。

「ハハハハハ……脆い……あの紛い物の人間と同じで……脆い。紛い物……処分」

シャギアは、全神経を目の前の蒼い孤狼に集中していたからこそ、気付けた。
『紛い物、処分』と言った時、確かに僅かだが自分を見たことを。
なら、『あの』紛い物の人間とは誰か。誰の事を指しているのか。

理解した瞬間、怒りが沸騰した。

そうか、お前も我々を認めないのか。
なら、我らの世界にお前は必要ない。
元より、逃がすつもりもない。

「中ぅぅぅぅぅ尉ィィィィィィ!!」

ニュータイプが、叫ぶまま蒼い孤狼に突撃する。
その様子では、周りなどまるで見えていないのだろう。

「まずい! 全員カミーユを援護しろ!」

もう一人のニュータイプの指示が飛ぶ。
日頃なら誰が従うものかと思ったかもしれないが、今一時は優先するべきことがある。
目の前の怪物を倒すためなら、力を合わせるしかない。

弟、オルバのため……今だけは屈辱を飲む!

「シャギアさん!」
「わかっている!」

フォルテギガスのフェイスオープンシステムが起動。
全身の排熱システムから蒸気が噴き出した。
並みの機動兵器のモノとは比べ物にならないほどの超大出力のビーム砲が腹部から打ち出される。
F-91は脇下からせり出したヴェスバーを、ブレンパワードはソードエクステンションを。
凰牙は、サイバスターの後を追って蒼い孤狼に迫る。

「選別……選定……破壊……!」

蒼い孤狼が、一気に飛び上がる。
降り注ぐ弾幕から逃げるのではなく、その中に飛び込む無謀にしか思えない行動。
しかし、蒼い孤狼にぶつかった瞬間ビームは爆ぜ、拡散していく。
対ビーム用のコーティングをしていることを気付き、シャギアは唸る。

飛び上がる勢いのまま、サイバスターと蒼い孤狼が激突する。
無敵巨人であるフォルテギガスを上回るほど肥大化した右腕の杭打ち機が、サイバスターに繰り出された。
サイバスターも、ディスカッターで迎撃する。

405moving go on:2009/05/20(水) 23:23:47

剣戟の閃光が、夜空に散った。
虚空で停止する両者。杭打ち機は、身を逸らしたサイバスターの動きのため空を切っている。
対して、サイバスターの剣は性格に巨大な片口と首の間に切り込まれていた。
が、その剣はまったく食い込んでいない。
信じられないほど強固な装甲が、比較的もろい部分だというのに攻撃をはじき返している。

続いて、凰牙の回転するタービンアームが、蒼い孤狼の顔に叩きつけられた。
しかし、蒼い孤狼から漏れる笑いは止まらない。獲物を前にした獣の口のように、両肩が開く。
サイバスターと凰牙が身をかげした次の瞬間、大量のベアリング弾が空間にまき散らされた。

「甲児!」
「わかってらあ!」

距離をつめて打撃攻撃を繰り出さねばあの強固な対ビーム防壁を突破できない。
甲児も同じ気持ちだったのだろう。フォルテギガスを突貫させると同時、フィガを射出してくれた。
掴んだフィガを、ビームハンマーへ。
棘のついた巨大な輝く球体が、ビームワイヤーで誘導させられ蒼い孤狼へ向けられる。
蒼い孤狼が、自分の背面にあるウェポンラックにおさめられた武器を引き抜く。

「な……!?」

そこにあるのは、ビームハンマーと同じ形をしたに鈍色をした鉄球だった。
違いは、明確な実体を持つことくらいで、外見はほぼ同一。
大ぶりな動きから繰り出されるガンダムハンマーが、こちらが放ったビームハンマーに叩き落とされる。
エネルギーが質量とぶつかり合ったことにより、ジュウと音を立てるハンマー。
お互いが攻撃を引き寄せるのまで同時。

一旦フォルテギガスが引くのに合わせて、横から巨大な焔を纏った大鳥が突撃していく。
業火の中に僅かに見えるのはサイバスター。自分の全長の三倍以上の炎を纏い、蒼い孤狼に進む。
対して、蒼い孤狼の行動はシンプルなものだった。蟻地獄の中心で、腰を落とし正面から腕を広げる。
よもや、とシャギアもこれから考えることを予想し、ありないと首を振る。

そのありえないことを蒼い孤狼は現実に変える。

激突するアカシックバスター。それを――正面から受け止めた。
後方へ一気に吹き飛ばされるかに見えたが、全開に解放されたスラスターがみるみる内に不死鳥の勢いをそぐ。
完全に停止したサイバードをそのまま鯖降りにするべく、締め付ける蒼い孤狼。

406moving go on:2009/05/20(水) 23:24:28

そこへF-91がヴェスバーを速射するが、蒼い孤狼は気にも介さない。
騎士凰牙のハイキックが、蒼い孤狼の右肩へ。
同時に、サイズを利用し懐に入ったブレンも指先にソードエクステンションを叩きつける。
その僅かな緩みの隙に変形して強引に離脱するサイバスター。

三機が一斉に離れると同時、大上段からシャギアは巨大な剣に変えたフィガで蒼い孤狼を両断しようと試みる。
生半可な攻撃では、まったく意味がない。ならば、最強最大の攻撃ならば――!
ライアットバスターが、すり鉢を左右に割る。砂煙をあげながらも、落ちていく剣が蒼い孤狼とぶつかった。
蒼い孤狼の角が輝き、一瞬受け止めた。
だが、それは本当に一瞬。

そのまま角をへし折ると、その大剣は、蒼い孤狼に直撃する。

「無限の心臓……! 異界の熱量……これも……!」

今までの嘲笑と平坦な声とは違う。僅かに興奮の混じった声だった。
蒼い孤狼の張るビームコーティングが発生した瞬間、剣と蒼い孤狼に少しだが空間ができた。
即座に剣でまた埋められるはずの僅かな空間と、それによって生まれる時間。
しかし、その時間を持って蒼い孤狼は血道をこじ開ける。

蒼い孤狼の肩が開く。
その中に見えるのは、無数のベアリング弾。
まずい、と引かせようとするが判断が遅れた。このままでは直撃する。
そう思い、せめて防御しようと腕を出そうとしたときだ。
出力全開でフォルテギガスが真上にすっ飛んだ。

「甲児か!?」
「おう! もしもの時は任せて、シャギアさんは攻め続けてくれ!」

攻め続けることしか考えてなかった自分と違い、甲児は失敗することを考えて自分のフォローに回ってくれていたようだ。
お調子者だと思っていたが、これはこれでもしかしたら気が利く性格かもしれない。

出力にものを言わせ、さらにベアリング弾を射出した勢いのまま蒼い孤狼が後ろに跳び退るのが見えた。
コンクリートを砕き、砂煙をあげながら獣のように四肢を大地につけ減速する。

再び集合し、ビルの上に立つ五機を、蒼い孤狼の赤い瞳が見つめていた。

407moving go on:2009/05/20(水) 23:25:00

「あれが、主催者……!?」

ロジャーの言葉に、ニュータイプの男が答えた。

「間違いない、ざらつきはあるがノイ・レジセイアそのものだ……!」
「中尉は……かつてアインストと戦って、勝ったと言っていました。
 一番接点があり、ノイ・レジセイアにとって『確実』な体だったんでしょう……」

だから、こんなこと許されてたまるものかよ、とニュータイプ――カミーユの震えた声。
そうだ、許されてはならない。許せるはずもない。
操られていようがなんであろうが、あの男が弟を殺したことは紛いもない事実。
ならば、弟と同じ運命を奴にも突きつけなければならない。

「だけどよ、アムロさん! 倒すったってどうするんだよ!?」

甲児の言葉ももっともだ。
並大抵の攻撃では、とてもではないがあれには通用しない。
それこそ、通用するのは――

「空間突破のための、切り札。それの直撃、か」

つまり、
F-91のゴッドフィンガー。
凰牙のファイナルアタック。
サイバスターのコスモノヴァ。
フォルテギガスのライアットバスター。

この四つのうち、一つを完全完璧な形で直撃させなければ到底勝ち目はない。

「だが、どうやって直撃させる!?」
「それは……」

それ以上の言葉は許されない。
蒼い孤狼に、こちらを休ませるつもりはないのだろう。
その左手につけられた5連チェーンガンがマシンガン並みの勢いで吐き出された。
飛びのいたビルが、あっという間に穴だらけになり崩れていく。

シャギアだけでない。
誰もが行き詰まりを感じつつあった。
最強の必殺技を直撃させる。
言うのは簡単だし、コミックや、アニメ……それこそゲキガンガーではよく見る展開だ。
しかし、あの凶暴すぎる孤狼の首を縛り付ける鎖はなく、足を止める罠もない。
その状況で、目標を達成するのがいかに困難なことか。

数の利があり、疲労が先ほどまでの休憩で抜けているためしばらく持つが、いったいどこまで持つか。
戦闘とは、極度の緊張を強いるもので、そう長くはない。
決めなければ、じりじりと押し切られる。

だが、状況を打開する方法は見えてこない。


◆ ■ ◆

408moving go on:2009/05/20(水) 23:25:30


完全を砕けば、破片は無数の不完全となる。

無限を果てしなく切り分ければ、それは有限となる。

完全、無限からは不完全、有限は生まれえる。

これは真実。



無限を複製し重ねれば無限となる。

永遠はどこまで続こうと永遠は変わらない。

完全、無限から完全、無限は生まれえる。

これも真実。


混沌の中から完全なる生命は生まれる。

混沌たる我から完全なる生命は生まれる。

それは真実か?



―――否



数多の宇宙――その中における我。

その結果は全て失敗。

成功は無。

409moving go on:2009/05/20(水) 23:26:01



―――何故、完全な生命になれなかった……

―――何故、完全な生命を生み出せなかった……


完全な生命を生み出すには、我自身が完全に至らねばならない。


我が完全な生命になるのに必要なものは何か。


数多くの世界で我を凌駕する力を振るう、人間。

我を超える――我より完全に近い?


『この世界』において我は人間を凌駕した。

その違いは――――




生命は―――


完全は―――





人間は―――






◆ ■ ◆

410moving go on:2009/05/20(水) 23:26:31

機体がビルの側面に叩きつけられるのをすんでのところでアムロは回避する。
スラスターを、オーバーヒートを起こさんばかりに放出し、どうにかF-91を破壊から遠ざける。

「これが……ノイ・レジセイアの力だというのか……!?」

圧倒的なほどの強さだった。
今、アムロ達は五機がかりでレジセイアに立ち向かっている。
だというのに、『戦っている』という実感すらなかった。
獣のような読めない動きと異常なまでの俊敏性。そして異常過ぎるスラスターの出力。
直撃を当てることはおろか、小技がかすることさえまれ。
だというのに、当たっても通じない。
しかも、再生機能までついている。

「ハハハ……それが……完全の欠片か……」
「言っている意味が分からないな!」
「分かる必要もない……」

蒼い孤狼のスラスターの横の姿勢安定用ウィングが展開。
鈍重に見える外見からは想像も出来ない程のスピードで疾走を始める。
先ほどシャギアがへし折ったはずの角が再生し、赤熱化だけに留まらず電光を纏い振り上げられる。
目の前で戦っていたフォルテギガスが、その目標だった。
回避が間に合わない。さりとて、援護も間に合わない。
フォルテギガスが腰をおろし、その場で姿勢制御用のフィンを展開した。
そのまま、角を避けて体当たりを仕掛けるつもりだとアムロには分かった。

大型機同士の大質量が衝突し、衝撃波で空気を震わせる。
だが、こう着の後吹き飛んだのはフォルテギガス。
全身から脱落した装甲を周囲にふりまきながら、車か何かにひかれた人のように吹き飛び大地を転がる。
身長は、フォルテギガスは蒼い孤狼の1,5倍もあるにも関わらずだ。
だというのに、フォルテギガスが痩躯の人間、蒼い孤狼は大型トラック。
それだけの差があった。

「脆い……無限ではない……!」

蒼い孤狼の背後に、バイタル・グロウブの僅かな歪みによる光が洩れた。
アムロもそれに合わせて、ヴェスバーを牽制に発射する。
重力を感じさせない軽やかな動きで何度となくアイビスのブレンパワードが切りつける。
着弾するヴェスバーをすり抜けるように何度も何度も。
蒼い孤狼は、その中笑っていた。
蒼い孤狼の左腕が、消える――いや、こちらの認識を超える速度で振るわれる。
バイタルジャンプによる回避は間に合わない。アイビスのブレンが一直線にビルへと激突した。

「ブレンパワード……似ているが……我ほど完全ではない……」

411moving go on:2009/05/20(水) 23:27:21

蒼い孤狼には、寸分のダメージも感じられない。
小柄なブレンやガンダムのそよ風のような攻撃では、孤狼という大木を揺るがすことはできない。
蒼い孤狼が、吹き飛ばしたブレンをカメラ追った隙に、
ブレンとガンダムより大きなサイバスターと凰牙が格闘を仕掛ける。

「中尉! あなたはもういないんですかッ!?」

カミーユの言葉をあざ笑う蒼い孤狼。
二人に追撃する形でアムロも操縦桿を前に倒しF-91を動かした。
ギンガナムが遺したビームソードを引き抜く。
「立って、ブレン!」――ブレンも、アイビスの言葉を受けて傷ついた体を動かし、飛び込んでいく。
ニュータイプのアムロには、ブレンの痛みが分かった。
フォルテギガスも、フィガをツインブレード状に変えて切りかかった。
五機一斉の集中格闘攻撃。

「とどけぇぇぇぇ!!」

アイビスの声が、鼓膜を打つ。
回転し唸りを上げる凰牙の拳が蒼い孤狼の顔を。
フォルテギガスのストームブレードが蒼い孤狼の左肩を。
サイバスターのディスカッターが蒼い孤狼の右腕を。
ブレンのソードエクステンションが蒼い孤狼の背中を。
そして、F-91のビームソードが蒼い孤狼の脚部を。

「ハハハ……ハハハハハ……! それが……銀河を変える……力……!? 」

音無き鋼鉄の咆哮。
全身を抑えつけられているのを無視し、体を振るう。
振り回される腕。開口した肩。両腕にある無骨なライフルにハンマー。
全身の火器がまとめて火を噴いた。
花火がさく裂したように昼間の明るさに変わる。

「ぐああ……っ!」

千差万別、古今東西の別種の機体が、一様に吹き飛ばされる。
まずい。最初は疲れがなくかわせていたが、全員少しずつ動きが鈍り被弾が増えてきている。
もし誰かが撃墜されれば、即座に詰みだ。
五 対 一 だからこそできている拮抗状態は、あっさりと崩れ去るだろう。

412moving go on:2009/05/20(水) 23:27:51

「―――あれさえ決められれば……」

口から自然と漏れる呟き。
ギンガナムを倒したあれを決められれば、おそらく勝ち目も見える筈だ。
今は攻撃を気ままに受けてくれている。
だが、先ほどのシャギアのライアットバスターから分かるように、
おそらく危険な攻撃となれば回避しようとするだろう。
そうなれば、あの異常なスラスターなら緊急回避もたやすいはずだ。

フォルテギガスとサイバスターが何度も果敢に突っ込んでいく。

「弟を殺したことを……後悔するがいい!」
「やっちまえ、シャギアさん!」
「中尉……もう、あなたがいないというなら俺は躊躇しない!」

勝ち目が見えぬまま、突っ込んでいく三人。
アムロは、自分が一歩引いてしまっていることを自覚した。
あれほど我武者羅に突撃できない。冷静な戦略が、などと言いながら下がってしまう。
今、一番エネルギー消費や機体の新しい消耗が少ないのはアムロだろう。エネルギーは8割近く残っている。
ゴッドフィンガーは一撃限りの必殺技だ。気力、エネルギーともにほぼ限界まで消耗してしまう。
つまり、事実上戦線離脱は確実。

だからこそ、アムロは決め切れない。
もしも自分が外せばどうする? それこそ、敗北の決定的な一歩を作ってしまう。
敗北できない戦いなのだ。うかつなことはできようもない。

「飛んで、もっと、もっと――!」

何度もはじかれる二機への追撃を許すまいと、アイビスのブレンが距離を詰める。
その動きは、さながら戦闘機の妖精だ。高速機動と瞬間移動を組み合わせ、一定の距離を保ち蒼い孤狼を翻弄している。
シャアとともに初めて会った時の弱気さと、自信のなさが嘘のようだ。
アイビスも必死に、ひたむきに、ブレンと力を合わせ眼前にある最悪の現実と戦っている。
下手にもらえばそこで終わるというのに、そのことを恐れずに。

―――俺は、どうだ?

アイビスと似たり寄ったりの状況だというのに日和ってはいないか。
戦いに雑念を混じらせれば死ぬだけ。なのに、これはどういうことなのか。

「……届かない……足りない……」

413moving go on:2009/05/20(水) 23:28:33

ついに、アイビスが被弾する。
『く』の字に体を降り、吹き飛んで行くブレン。
しかし、それが大地に激突するより早く、凰牙が拾い上げた。

「ごめんなさい……!」
「気にすることはない。君はよくやっている」

凰牙が全体を見据え、腕から放つ竜巻でけん制しては動き回って別の機体のフォローをする。
黒ずくめの伊達男、ロジャー・スミス。交渉術で培った冷静さで、必死に戦っている。

「ロジャー、そちらはどうだ!?」
「まだ、ファイナルアタックを使用するだけのエネルギーは残しているつもりだ。だが……」

ロジャーも、アムロのゴッドフィンガーに似た攻撃としてファイナルアタックを持っている。
だからこそこういう立ち回りをしているのだろう。
だが、という言葉の後はアムロにも分かる。おそらく、同じ苦悩をロジャーも感じているのだろう。
その時、気付いた。ロジャーの腕が震えている。
そのことに、声を失ったアムロを見て、ロジャーは食いしばりながら答えた。

「恐怖は、この謂われのない不条理な感情は、生理反応でしかない。……理性で克服できるはずだ」

ロジャーもまた、蒼い孤狼が口を広げる領域に飛び込んでいく。
蒼い孤狼と凰牙が撃ち合うたびに、火花が散る。その中、何度倒れても起き上がりフォルテギガスが突撃していく。
サイバスターも、不死鳥へ姿を変えて突進する。


誰もが、戦っているのだ。
恐怖そのものと。恐怖を塗りつぶすほどの怒りの中。
恐怖を乗り越えた情熱で。


―――俺は、どうだ?


ただ、気配に呑まれていただけじゃないか?

ギンガナムと戦い黒歴史を知り、
ガロードを失ったことを突き付けられ、
シャギアに憎しみをぶつけられ、
目の前の大きな恐怖に呑まれていただけではないのか?
キラを戦いに遠ざけた時から何かずれていなかったか?

414moving go on:2009/05/20(水) 23:29:03

「情けない奴……!」

かつてシャアに言った言葉がそのまま自分に跳ね返る。
賢いフリ、賢明なフリをして下がって傍観する。若い時、自分が憤った大人の姿そのものではないか。
若者――未来が戦うならば、俺たちはそれを守るのが役目だろう。
だというのに、戦うことそのものを奪ってしまって何の意味がある。
これが年を取るということかと納得まではしたくはない。
だが、それでも。

何度でも立ち上がり勝利を目指す者たちの道を切り開く。


――それが、俺たちの役目だろう、シャア。


F-91が光輝に包まれる。
展開される三枚のフィン。金色の輝きが、全身を包み込んでいた。
ギンガナムを一方的に屠り去ったバイオコンピューターの最終形態――F-91・スーパーモード。
それが今、蒼い孤狼を前にして再び現出する。

このまま消耗を続けていては、勝ち目はないなんてことは分かっていた。
仮に勝っても、残り二つの壁を越えることなどできようか。
なら、どこかで勝負の流れを引き寄せる一手が必要になるのは当然なのだ。
それを躊躇していた自分をアムロは恥じる。

金色の矢となってアムロは突き進む。蒼い孤狼も危険を察知したのだろう。
目の前に相対していたフォルテギガスを無視し、F-91に向き合った。
その拳を、蒼い孤狼が受け止める。

「これか…… これが……」

蒼い装甲が砕け、中から爆ぜる。それとともに、大地に落ちて音を立てる無骨なライフル。
ついに、孤狼にダメージらしいダメージが通った。F-91がビームソードを引き抜き、叩きつけようとする。
だが、それより前に、蒼い孤狼の肩から無数のベアリング弾が飛び出した。
装甲解放、射出のタイムラグは先ほどまでと変わって、まったくない。
F-91のバリアフィールドとクレイモアがぶつかり合う。

415moving go on:2009/05/20(水) 23:29:33

「ぐっ……!」

その規格外の巨大なクレイモア。
最初バリアで逸らせたが、徐々に貫通しかねない勢いになっていく。
ベアリングの嵐で動くこともできない。このままでは、やられる。
だがそれも一人だけならば、だ。
F-91のバリアの陰に隠れるようにブレンが現れる。
次の瞬間、バイタルジャンプが再び行われクレイモアの中からF-91を救いだした。

ベアリングをばらまきながら方向転換をする蒼い孤狼。無差別に破壊が周囲にまき散らされる。
しかし、再び破壊がF-91を捕らえるよりも速く、蒼い孤狼の肩が爆ぜる。
離れた場所で倒れながらもオクスタンライフル・Wモードを構えるサイバスター。
その一発が、正確に肩の爆薬を打ち抜き、誘爆させた。

蒼い孤狼は爆発にのけぞる勢いを利用し、武器のハンマーを振り回す。
ハンマーの鎖が、別所から飛んできたハンマーのビームワイヤーにからめとられた。
バランスを崩しつつあった状況のため、踏ん張りがきかずガンダムハンマーはその手から引き抜かれる。
大地にがっしりと足を降ろし、ハンマーのワイヤーを引くフォルテギガス。

行ける、押し切れる!

ブレンから離れ、F-91は再び蒼い孤狼の支配する距離へ飛び込んでいく。

「完全に近い……生命の……欠片!」
「うおおおおおおおおおおおッッ!」

ビームソードにその力を収束させる。伸びるゴッドフィンガーソードが、空を割る。
蒼い孤狼もいまだ戦意は失せていない。大地で待つ気もなく、スラスターの加速で空へ走る。
裂帛の勢いで放たれる右手の杭打ち機。凰牙のタービンから放たれる竜巻が、蒼い孤狼をあおる。
大地に足を下ろしてのインファイトなら、この程度ではびくともしないだろう。
しかし、今蒼い孤狼がいるのは空。僅かではあるが風で蒼い孤狼の姿勢が崩れた。
杭打ち機は、バリアを容易に引き裂きはしたが、F-91の本体には届かない。

アムロの目の前にあるのは、がら空きになった蒼い孤狼の胸。

416moving go on:2009/05/20(水) 23:30:19

(すまない……今は、そちらごと!)

心の中で、ノイ・レジセイアに乗っ取られた哀れな男に謝罪する。
そして、アムロは赤い球の下にある、コクピットブロックに深くゴットフィンガーソードを差し込んだ。
蒼い孤狼の、全身の間接から光が漏れる。

ゴッドフィンガーソードに、バチリと雷光が起こる。

「これは……!?」



次の瞬間、超高電流がアムロの体を打った。



◆ ■ ◆


シャギアは、複雑な目で空の光景を見ていた。

これが、ニュータイプか。

目の当たりにしたニュータイプの能力。
あれほどの脅威を、協力があったとはいえ、一息に跳ね返すだけの力。
到底、ただの人間では及び付かない戦闘力。

オルバの仇をこの手で打つことができないばかりか、結局はニュータイプ一人の独壇場。
見せつけられた力の差。ただの無能力者とニュータイプ。たったそれだけでこれだけ差があるのか。
ニュータイプは幻想だと、あのニュータイプは言った。傲慢だ。
自分自身が異能そのものの力を振るっていながら、幻想と嘯くのか。
ニュータイプは幻想ではないと否応なしに認識させられるシャギア。

この連中とはともにいられない。
ここはナデシコとは違う、自分の居場所などないのだ。
甲児も、よくオルバの代わりに自分を助けてくれた。
一人でフォルテギガスを動かしていては、おそらく撃墜されていただろう。
だから、甲児にまで自分のわがまま巻き込むわけにはいかない。

417moving go on:2009/05/20(水) 23:30:54

弟を失い、ニュータイプの力を見せつけられた。
自分は失敗を繰り返し、多くのものを失ってきた。

もういい。

シャギアの体を覆う、言いようのない疲労感が精神すら苛む。
少し、眠ろう。そう思い、重くなった瞼を閉じた。
だが、ゆるんだ心に、そっと差し込まれるように悪寒が走る。

はっと目を開く。
そして、空中で起こった出来事に、唇をわななかせた。




「ハハハ……人間……進化……欠片……成長…………!!」



膨れ上がっている。
あの蒼い孤狼が、空で大きくなる。
月が、蒼い孤狼によって覆い尽くされ、地を闇が覆う。
ニュータイプはビームソードを刺したまま動かない。

ズゥゥゥン……と大地を揺らす重低音。
腕が、肩が、消し飛ばしたはずの部分が、光に包まれ再生していく。
バチバチと金色の電光を纏い、再び大地に立ちあがる。
大きい。フォルテギガスが、見上げなければ全長すら見えない。
ユーゼスのマシン……いや、あれより一回り大きいのではないか。
上半身が立ち並ぶビルよりも高い場所にある。

成長が止まると同時、その全身を包んでいた光が消える。
それと同時に、F-91もまた静かに地に落ちた。身動き一つしない。
まるで、その命の全てを蒼い孤狼に吸い取られてしまったように。
空を見上げていた蒼い孤狼……いや魔王が、大地を睥睨する。

意思を持たぬはずの機械の目に見られただけだというのに、自分の内面奥底まで覗きこまれる感覚。
全身を覆う恐怖が、体を震わせる。止めようのないほど汗が流れる。

「う……おあああああああああ!!」

思考が、すべて吹き飛んだ。
シャギアらしくもない、咆哮。フォルテギガスが、蒼い魔王へ飛ぶ。
しかし、無敵の巨人も蒼い魔王の前ではあまりにも矮小だった。

418moving go on:2009/05/20(水) 23:31:25

蒼い魔王の巨体が一瞬で目の前から消失した。
ブンドルとカミーユが不意をつかれた理由がここにあった。
バイタルジャンプは、バイタルグロウブに乗れればブレンでなくとも使用できる。
ブレンをこの場に呼び寄せた張本人であり、半機半生半魔のアインストアイゼンナハトなら不可能ではない。
今まで使わなかったのも、ハンデでしかない。


僅か数秒の出来事だった。


フォルテギガスの背後に現れた魔王の、腕の一振り弾き飛ばされ、F-91の横に叩きつけられる。
同じように突撃したサイバスターも同じだった。まとめてなぎ払われ、ビルにめり込む。
恐怖で動かない凰牙が、蹴り一撃で沈黙。
距離を取ろうとしたブレンの前に再び跳躍し、まるで羽虫をはたくように地面に叩きつけた。

武器など使ってない。
ただ、手足を振り回しただけ。
ただそれだけで―――全員が沈黙していた。


目の前のそれは、こう言った。









絶望と。







「ハハハハ…… 進化……完全に至る……人間は……!」

419moving go on:2009/05/20(水) 23:31:56

どこまでも高らかに笑う魔王。
先ほどまでは不快に感じていたそれが、今のシャギアには恐ろしくてたまらない。
フォルテギガスは先ほどの一撃でほぼ機動停止状態だ。

「な……なんだ、これは……」

シャギアには分からない。

自分の理解を超えた場所にあったニュータイプ。
そのさらに向こう、理解などほど遠い世界にある目の前の物質は何だ。
ニュータイプだのカテゴリーFだのと比べることすら馬鹿らしい、『人』の枠を超えてしまったこれはなんだ。
恐怖と畏怖、そして絶望以外の感情を持つことすら許されない。
自分が生きて培ってきた価値観すら根こそぎ吹き飛ばすほどの恐怖。
思考力すら根こそぎ奪う悪寒。

無理だ。何をどうしても、勝つことなどできない。
仮にオルバがここにいて、万全の状態のフォルテギガスあっても嬲り殺されるだけだろう。
死にたくない。彼は即座に逃げることを選択した。
フォルテギガスを立ち上がらせようとスイッチを押しまくる。
けれど、完全にダウンしたシステムは何の返答も返さない。

ゆっくり、ゆっくりと巨体がシャギアたちのほうへ歩いてくる。
酷く遅く見えるが、巨体故に想像以上に早く距離は詰まっていく。
なにか、なにか手はないのか。
無様な姿ながら、どうにか生きている有視界システムで周囲を見る。

あった。

フォルテギガスのすぐ横にあったのは、こと切れて動かないF-91。
F-91も機動停止しているかもしれないのだが、そこまで今のシャギアは頭が回らなかった。
コクピットの緊急解放のレバーを引き、強引にハッチを吹き飛ばす。
冷たい風がコクピットに流れ込んできた。
外に出て、転がり落ちるように地面へ。体を打ちつけ、酷く痛むが気にしている暇はない。
今も刻一刻と魔王は迫っている。

必死に、横倒しになったF-91に登ろうとする。
しかし当然ながら足場もなしに横倒しになったMSにそうそう上がれるものではない。
焦りとぬめる汗が余計に速度を遅くする。

420moving go on:2009/05/20(水) 23:32:27

もう魔王は目の前だ。
間に合わない。
ここまでなのか。

絶望の瞳で全貌すら見えない魔王を見上げた。


だが、


「―――やいやい! この兜甲児さまが相手だぁぁっ!!」

その場に似つかわしくない、快活な青年の声が響いた。
フォルテギガスが、音を立てて二つに割れる。それは、分離のシークエンス。
そう――元々損傷の大きいガナドゥ―ルは直撃を受け機能を停止しても、
下半身を構成するストレーガはまだ動くことが出来たのだ。
と言っても、ストレーガもまた損傷は大きくボロボロであることには変わりない。
一撃受ければ、以前の蒼い孤狼の一撃でも容易に吹き飛ぶほどの損傷だ。

「やめろ……」

シャギアは、うわごとのように呟いた。
勝てるはずがない。即座に粉砕されるだけだ。
立ち向かうこと自体、間違っている。なのに。

「シャギアさん! 早く、そっちに乗ってくれ!」

ストレーガがF-91を指さす。
これは、F-91に乗って戦えと言っているのだろうか。
『戦う』――目の前のあれと?
そんなことは不可能だ。


魔王が、足を止めた。
空に浮かび上がり、自分の5分の1程度の黄色い機体を凝視している。
魔王は、どうやらストレーガを敵として認めたようだ。

「やめろ! 逃げろ甲児!」

シャギアはあらん限りの声で叫ぶ。
オルバは死んだ。ヒメは殺してしまった。
もうあの時間は帰ってこないと分かっていても、最後に残った甲児に死んでほしくなかった。
だが、甲児はなにも答えず魔王へ突っ込んでいく。

421moving go on:2009/05/20(水) 23:32:59

甲児は、その技量で器用に魔王の繰り出す腕の指先を抜けた。
そのまま背後に回ると、一時停止。魔王はゆっくりと後ろを向く。
甲児の目的は明らかだ。自分から、魔王を引きはがすつもりだ。

「シャギアさん、俺、人間の革新とか全然わからないけどさ」

呆然と空を見上げるシャギアに、オープンチャンネルで甲児の声が届く。
何を、いったい言っている。そんなスタズタの機体でどうして立ち向かっていけるんだ。
何故―――戦うことを考えられるのだ。
 
「けど、シャギアさんは立派な人だと思うぜ?
 だってさ、ずっと俺たちを励ましてさ、引っ張って。
 きっとシャギアさんがいなかったらここまで生き残れなかったと思うぜ」

やめろ。やめてくれ。
『ここまで生き残れなかった』だなんて言わないでくれ。
これからも甲児は生きるのだ。そんな不吉なことを言わないでくれ。

「俺さ……神にも悪魔にもなれるって言われたよ。
 けどさ、俺は馬鹿だから神になんてなれないし、悪魔なんてまっぴらごめんだ。
 俺は、人間で十分だし、人間でいいと思ってるよ」

魔王は、あいも変わらず遊んでいるだけだ。
だが、本気になればその加速を利用した体当たり一撃で面単位の攻撃で粉砕できるはずだ。
早く、逃げてくれ。私など気にすることはない。

「俺は、シャギアさんたちの世界のことがわからないから、ニュータイプなんてわからない。
 けどさ、シャギアさんはシャギアさんなんだから、胸を張っていいと思うんだ」

分かった。そうしよう。だから、逃げてくれ!
その機体では無理だ! 逃げてくれ! 逃げてくれるなら、なんでも聞こう!

「ニュータイプも人間なら、シャギアさんだってニュータイプになれるかもしれないぜ?」
 
蒼い魔王の動きが変わる。
その影が、ゆらりと動いたかと思えば、一気に巨大化したスラスターが火を噴いた。
ストレーガは、急上昇でかわそうとする。ストレーガの場所を通り過ぎた瞬間、魔王が消えた。
魔王が、再び現れたのは、ストレーガの真横だった。移動の加速のまま、その巨体が動く。

422moving go on:2009/05/20(水) 23:33:51




「俺たちみんな、神でも悪魔でもない人間なんだ」



もはや、勝負にもならない。
ストレーガは一瞬で粉々になった。砕けた腕が、足が、胴が、頭が、大地に振り注ぐ。
疑いようはない。甲児は、死んだのだ。

「ハハハハハハハハハハハハハッハハハハハッハハハハ!!」

死者を冒涜する、嘲笑。



―――シャギアの中で、何かが爆ぜた。


一息で、ガンダムのコクピットがある胸部までかけ上げると、外部からの解放ハッチを引く。
シャギアを包むのはどうしようもないほどの怒りだった。怒りが突き抜け、逆に頭がクリアになる。
自分が肝心のところで感情的になることは、サテライトランチャーとサテライトキャノンの打ち合いの時から分かっていた。
しかし、これほどとは自分でも思わなかった。甲児を殺した魔王が許せなかった。
だがなにより情けなかった。自分が許せなかった。自分への怒りがあった。

もし、自分がF-91で援護していれば甲児は死ななかったかもしれない。
もちろん、まとめて潰されていた可能性は高い。だが、それでも何かが変わったのではないか。
だというのに、自分は何をしていた。手も動かさず、いもしない神に祈り、呆然としていただけだ。
なんという無様な姿だ。自分が、甲児が認めるシャギア・フロストとしてあってはならない行動だった。

423moving go on:2009/05/20(水) 23:34:22

開いたコクピットから臭うのは、強烈な異臭だった。
黒こげに近いニュータイプが、コクピットにうずくまっていた。
シャギアは知る由もないが、魔王は電撃のエネルギーを大量にため込んでいた。
そして、それとアムロのニュータイプ能力で作られたエネルギーが反応を起こした結果、魔王は肥大化したのだ。
だが、それは100%の変換能率ではない。

そのため――漏れた電気エネルギーが、生体エネルギーの発生源のアムロに集中した結果だ。
F-91はそれほどの消耗でもないのに、アムロだけはこのようになったのはそのためだ。

「どけ!」

シャギアは一切気を使うことなくアムロをどけると、シートに座り機体を操作する。
異臭は、開きっぱなしのハッチから逃げていく。しかし、機体が起動しない。
いくらキーを叩いても、立ち上がらないのだ。機体の損傷などは、それほどでもないにもかかわらず。
エネルギーも、アムロのアクションが途中で強制終了したため5割は残っている。
パネルをシャギアは叩く。自己診断で帰ってきた答えは『問題なし』。

この機体の特性を思い出し、シャギアの顔が歪む。
そう、F-91はニュータイプであることが最大最高の性能を発揮する条件だ。
まさか、自分がニュータイプでないから起動しないのではないか。
ここまで来てニュータイプでないことが足を引くのか。どこまでも自分を縛るのだと拳を震わせる。

「動け! 何故動かない! 私がニュータイプではないからか!」

ニュータイプに何の価値がある。そうではないというだけで戦う力すら奪うものに何の意味がある。
そんなものはありもしない。誰もが神にも悪魔にもなれる。
それは個々の潜在的な力であって、ニュータイプと言うくくりで決められるものでない!

足元の、黒い塊がもぞりと、動いた。

「違う……おそらく、電流で……一部にバグが……」

伸びた手が、端末を叩く。
すると、一部の不可解な文字列だったプログラムが修正された。
ウィンドウが点灯し、F-91に制御のための秩序だった言葉が表示される。

424moving go on:2009/05/20(水) 23:35:09

「生きていたのか」

例を言うつもりもない。
シャギアはそちらも見ずに一言それだけ言った。

「ああ……」

向こうもそれだけ言うのが精いっぱいだったのか。
そのまま口をつぐんでいる。メインカメラに映るのは、魔王の姿。
甲児のおかげで、かなり離れた所に降りたようだ。だが、再びこちらに迫って来ている。

「ニュータイプは……ありもしない……」

突然の、言葉。

「その通りだ」

時間が惜しい。それだけ答えてシャギアは立ち上げを急ぐ。
足もとから、小さく笑ったような息使いが聞こえてきた。この状況で何がおかしいのか。
相手をする暇も惜しい。

「やっと……振り切ったようだな……
 それでいいんだ……ニュータイプに振り回されるのは……終わりだ……」

振り切った、という言葉にさらにシャギアは顔をしかめた。
言われて気付いた。今の自分が、それほどニュータイプに執着が……ない。
キーをタッチする腕を、突然掴まれた。

「ただ、ニュータイプと呼ばれたものがあったことを忘れるな。
 ニュータイプと呼ばれて消えていった俺たちのことを、忘れないだけでいい」

半死人とは思えないほど、力のこもった言葉。
言葉にしようのない迫力が、ニュータイプ――いや、アムロ・レイにはあった。
シャギアは、初めて正面からアムロを、ニュータイプという存在を見た。
その言葉には嘘偽りない、幻想ではない切実さがあった。

425moving go on:2009/05/20(水) 23:36:02

「死者は、消えることはない。お前が閉じていると思うから見えないだけだ。
 思い込むな。引きずられず、繋がっていることを意識しろ。人の心を、その力を」

アムロの手が、通信機のスイッチを入れた周辺の機体全てにチャンネルを開いている。





「俺やシャアのようにはなるな。歴史を―――繰り返させるな!」



アムロの手が離れ、その体が後ろに倒れていく。
反射的にシャギアは手を伸ばしていた。アムロの手とシャギアの手ががっしりと組まれる。
だが、次の瞬間アムロの腕は炭化していたのか崩れ去った。
そのまま、やっと立ち上がったF-91の機体の外へ落ちていく。

シャギアの手の中には、黒い炭とその熱だけが残っていた。
その手にアムロが残ったものをシャギアは握る。

F-91のウィンドウに無機質な言葉が並ぶ。


SYSTEM_ALL GREEN

BIO COMPUTER_LIMIT CUT

PSYCO-FRAME_ON


警告メッセージ_ 許容限界を超える空間認識能力を確認。MEPEが起こっています_■






シャギアの中で爆ぜたもの、それは―――


◆ ■ ◆

426moving go on:2009/05/20(水) 23:36:49


―――「俺やシャアのようにはなるな。歴史を―――繰り返させるな!」

激しい衝撃で頭を打ち、まどろむ意識にアムロの言葉が飛び込む。

アムロさんも、クワトロ大尉も、ブンドルも、誰も彼も勝手だ。勝手に都合を押し付け、期待し、消えていく。
自分たちは何もしてないのに。自分たちだってまだやることがあるのに。それを全て投げて、逝く。
受ける側は、いい迷惑だ。追いつくため答える余裕もないこっちを少し見て、笑い、納得し、それですべて分かった気になる。
そのくせ、いつも出てくる最期に出てくる言葉は自分が失敗だった、そしてそれも悪くなかったと言うばかり。
本当に、そうなのか?  頭の中の冷たい部分が、そう聞いた。そうに決まってる。だって、そうでなければ―――

「俺やシャアのようにはなるな。歴史を―――繰り返させるな!」
「全て、私が『納得』しての行動であり、『妥協』ではないということだ」
「これが、若さか」

何だ。一体何なんだ。みんな揃って俺たちに、俺に何をさせたいんだ。
一度でも、俺の希望なんて聞いてくれたこともない。なのに、することばかり目の前に積み立てる。
そのくせ、自分だけ『妥協』して『納得』して。それが他人にも伝わるとどうして信じられる。
自分勝手で、臆病者で。大人の責任ばかりを押し付けるくせして、一人前の大人として扱おうともしないのに。
人に夢みたいな綺麗事ばかりを説きながら、自分は前に進もうともしない。どうしてだ。
三人ともまだやるべきことがあったはずだ。その責任を全うせず、どこへ行くんだ。卑怯じゃないか。
物分りがいい大人を演じて、人の話を聞いているふりをして。あなたたちは何をした。
本当に、そうなのか?  頭の中の冷たい部分が、また聞いてきた。何度聞いたって同じだ。


暗く重苦しい意識の中、緑に似た水泡が浮かんでは消えた。


なんだ? 温かい。これは、見覚えがある。
けど、思い出せない。思い出せるはずなのに。思い出さないといけないのに。
どうして、忘れてしまったんだ。


カミーユは、意識の中のそれを触れる。
壊さないように、なくしてしまわないように沿えるように、そっと。

427moving go on:2009/05/20(水) 23:37:39


―――ああ。

「カミーユ、聞いてほしいの」

―――ああ、この声は。

「確かに、私は汚い大人のやり方に見えると思うわ」

―――何で、あの時俺は耳を傾けなかった。

「カミーユ、私はあなたに間違った大人になってほしいの。
 ううん、私だけじゃない。あなたを大切に想っている人、全員が、よ」

―――その後も気が動転して。自分の身勝手さをあのジオン兵に向けてごまかして。

「私たちは何度も失敗して、何度も後悔した。それを、あなたに繰り返してほしくないの。
 どうでもいい人なら、こんなことも言わない。けど、伝えようと思ったら伝え切れない。だから――――」

―――ベガさん………。

だから、なんですか。伝え切れないから、受け取るか受け取らないかは二の次で渡してくるんですか。
それが大切に想っているってことになるんですか。みんな、俺なんかを買被りすぎなんだ。
俺は、何回同じ失敗を繰り返した? そんな俺が、四人を受け継ぐなんてできるはずがない。

「受け継ぐなんて、硬く考えることはないわ」
「ただ、覚えていてくれればいい」
「失敗は失敗だ。消すことはできない。しかし、塗り替え乗り越えることはできる」
「それが美しくあれ、ということだ」

これは、夢だ。みんな死んでしまった。死人は、話しかけたりなんかしない。
俺が都合よく生み出した幻想が、みんなを踏みにじって好き勝手言わせてるだけだ。
けど、どうしようもなく温かい。
俺は……俺は守ってもらうばかりで、何もできなかったじゃないか。
俺の不手際で、みんな消えてしまった。俺のやったことのしわ寄せは、何も俺には来なかった。
こんな言葉をかけてもらう資格なんて、あるはずがない。

428moving go on:2009/05/20(水) 23:38:10

「打ち貫け!」

―――中尉まで……どうして、

「それいいのか、お前は。いつまでうずくまっているつもりだ」

どうして、そんな言葉をかけられるんだ。俺のせいなのに。

「お前に責がないとは言わない。だが、覚えておけ」

そうだ、俺のせいなんだ。責めるべきなんだ。

「俺たちはこの結果を後悔してなどいないし、託したことも間違っているとは思っていない」


カミーユの目に、空間を縦に裂く光が飛び込んでくる。
光から現れたのは、一本の槍。それは、直視できないほどの輝きにあふれていた。
手を伸ばすことすらはばかられるそれ。しかし、カミーユはそれを掴まんと手を伸ばす。
カミーユの腕だけではなかった。見覚えのある誰かの腕が、カミーユの腕が前に進むたびに増えていく。

ベガさん、クワトロ大尉、中尉、ブンドル、大尉。




俺は――――


◆ ■ ◆

429moving go on:2009/05/20(水) 23:39:51




度重なるMEPE現象の結果、その全身に付着した塗料がはがれていく。
金属箔の上に張られた塗装が、めくりあがり、消えていく。
放出しきらない熱が、機体の表面を焼く。
コクピットのある青い胸部や関節などの耐熱性が高い部分は黒に。
白かったはずのボディはくすんだ銀色になったのち、熱で赤へ。
フェイスオープンの排熱のため、額の金色のセンサーのみが塗料を残していた。
かつての騎士を思わせたF-91の姿はない。
淀んだ赤と黒を身につけ、歪む深紅の蜃気楼を纏う姿は悪魔〈ヴァサーゴ〉。


サイバスターの全身が聖なる光輝に包まれる。
染みわたるように周囲に広がる緑色が、周囲ごと聖別する。
これは、儀式。真実と共に戦う戦士を受け入れるための必要事項。
サイバスターの周囲を風が纏う。全身についた砂埃がはがれ、純白を取り戻す。
精霊光、バタイルウェイブ、人の心――その全て、本質は同じ。
大空を悠然と舞う四つの属性〈エレメンタル〉の一つを統べるもの。
右手に剣を携え、左に魔王を討ち貫くための槍を構え。
自ら光を放ち、闇の中導くは、真・魔装機神、サイバスター。





深紅と緑の光が空に浮かび上がる。
目の前には、蒼い魔王。恐れも怯えも気負いも捨てて、今、再び『戦い』が始まる。

430moving go on:2009/05/20(水) 23:40:38


◆ ■ ◆


個では――不完全。


群にて――完全。


我もまた、個であるかぎり不完全。


人間は、完全の欠片。


――『機』の肉体――白き魔星――不要

――『人』の肉体――完全の一部――必要。

観測し、確保し、理解した完全の欠片。

最も完全に近い欠片に我は宿る。

それに数多の欠片の力を加え、完全に至る。

個でありながらも完全に至る道。


我は、得た。


完全に近い覚醒者の力を。

431moving go on:2009/05/20(水) 23:41:09


さらなる完全への跳躍。




―――理解不能。

―――理解不能。



―――何故だ?

これらは、完全に遠い欠片。


何故我は――完全から遠いはずの欠片に敗れようとしている?




◆ ■ ◆


(怯えているのだ……この私が怯えている!? この謂われのない感情を喚起するものは何だ!?
 こ、これは生理反応でしかない。理性で克服できるはずだ! こんな……こんな不条理な感情!)

アムロに言ったはずの言葉をもう一度己に言い聞かせる。
それでも、悪寒は消えない。振り切れない恐怖が、苛み続ける。

「う、う、うわぁぁーーっ!!」

その叫びとともに、瓦礫の中ロジャーの意識は再び戻った。
目の前にあるのは、ビッグオー……ではなく凰牙のコクピット。
光はメインカメラからも側面モニターからも確認できない。
僅かに映る黒いものの輪郭から、ロジャーは今自分が瓦礫にいることを理解した。

荒い息を必死に整えようとするが、おさまらない。
いつか見た地下の悪夢が、頭にフラッシュバックする。

「外は……あの主催者はどうなっている!?」

凰牙を動かそうとするが、あまりの圧力にびくともしない。
少しのすきまでもあれば勢いで吹き飛ばすこともできるが、密着するように敷き詰められた瓦礫は動かすことも難しい。
いくら動かそうと動かない現状。何をしても無駄という状況が逆にロジャーを落ち着かせた。
行動をやめれば、熱は引く。当然の話だ。

432moving go on:2009/05/20(水) 23:41:40

そうなると浮かぶのは最悪の状況。もしや、自分以外、すでに死んでいるのではないかという不安。
いや、そんなあるはずがないとロジャーの理性は言う。しかし、感情はそれを否定した。
終わったのか。自分たちのやったことは、所詮、主催者の前ではうたかたの夢だったのか。
それを思い知らされるほどの戦力差。

ロジャーの体が沈む。
ただ、ぼんやりすることしかできない。
ふと、空気はどれだけ持つのだろう、そのまま自分は朽ちるのかと思い、
それすら関係ないと頭を振った時、


「ロジャー! ロジャー、どこ!?」


外から聞こえてくるのは、アイビスの声だった。

「どこにいるの!? 答えて!」

生きていたのか。ということは魔王は去ったのか。
そのロジャーの問いを否定するように、激しい地響きが聞こえてきた。
これは、戦いの印だ。

つまり、まだ魔王と戦うものがいる?

馬鹿な、勝てるはずがない。このまま黙っていろ。そう感情が訴える。
しかし――ロジャー・スミスをロジャー・スミスたらしめる理性と記憶(メモリー)が許さなかった。

「私はここだ! ここにいる!」

ロジャーは、通信機に声を張り上げる。
すると、ロジャーの前にあった瓦礫がはじけ飛ぶ。
目の前にいたのは、ソードエクステンションを構えるブレンだ。

「助けて! シャギアとカミーユが戦ってる!」

ロジャーは、はっと気付き、シャギア同様怯えていた自分を恥じた。
通信に映るアイビスに、恐怖の色はない。ただ、未来を信じ、切り開こうとするひたむきさがあった。
自分は、いったい何をしていたのか。ほんの少しでも恐怖に震えたことが馬鹿馬鹿しい。

433moving go on:2009/05/20(水) 23:42:15

「凰牙、アークションッ!!」

凰牙が再び起動する。
瓦礫を払い、立ち上がる黒金の巨人。
その巨人の前に広がるのは、ただひたすらに吼えながら巨大な魔王に立ち向かう二人の青年の姿だった。
しかも押している。再生されても、ひたすら、諦めず押し続けている。

「手伝って、ロジャー! あたしじゃいい考えも浮かばないし……力が足りない!
 あれを倒すのに、凰牙とロジャーの力を、あたしとブレンに貸して!」

今にも戦場へ飛び込んで行こうとするアイビス。
ロジャーは、なぜか笑いがこみあげてくるのを止められなかった。
笑うロジャーを見て、ポカンとするアイビスに、口の端を小さく吊り上げロジャーは言う。

「この世界にもいつか太陽が昇る。そう信じている若者は素晴らしい。
 そして……青春は降りかかる現実を有り余る勢いで押し切ること。ロジャー・スミスの法則だ」

自分もまだまだ若いつもりだが、と小さくロジャーは付け加えた。
ロジャーは、目の前の戦いを凝視する。こうして戦いを遠くから俯瞰できるのは自分とアイビスだけだ。
冷静さといままでの記憶(メモリー)を振り絞れ。

一分、二分と時間だけが過ぎる。
ロジャーは、頭を全開で回転させる。
ビックデュオ、ゴースト、多くのメガデウス……それらの戦いを機転でロジャーは乗り越えてきた。
今、もう一度その閃きを自分へ手繰り寄せる。
この状況でなお札を伏せる余裕はあるとは思えない。ならば、今目の前で起こる戦いが相手の全てのはず。
蒼い魔王は、巨大化したことと、バイタルジャンプができること以外は以前と同じだ。
かならず、どこかに突破口があるはずだ。

アイビスの焦る声が、さらにロジャーを煽る。
しかし、ロジャーもそうそう思い付くものではない。
なにか、ヒントが欲しい。目の前に与えられた記録だけでは足りない。
せめて、複数方向から見ることができれば。例えば、見上げるような今の位置からではなく空から――

434moving go on:2009/05/20(水) 23:42:46

「空?」

空。その一言が急激にロジャーの頭をまとめる。
そうだ、空だ。それが唯一蒼い孤狼が動きを鈍らせた場所だ。
相手が動けない状況に持ち込み、こちらの最大の攻撃を叩きこめば――
一瞬、またアムロのようになるではと考えがよぎる。
だが、頭を振る。そんなことを悩んでいては進まない。
賭けるしか、ない。

自分の行動が、全てを決めるかもしれない。
潰されそうなプレッシャーがロジャーにかかる。
しかし、それでもなおロジャーは不敵に笑う。

私は、私だ。私自身の記憶(メモリー)から導いた考えを信じずになにを信じる。


「どうやら空は常に、我々の味方のようだ」


ロジャーは、アイビスに自分の計画を打ち明ける。
それは、アイビスにとっても危険が大きいものだった。
だが、アイビスは迷うことなく頷いた。どこまでも強い娘だ。

データウェポン・バイパーウィップを左腕に凰牙が装着する。
一度目を閉じ、ゆっくりと目を開く。
迷いを断ったロジャー・スミスが動き出す。



◆ ■ ◆

435moving go on:2009/05/20(水) 23:43:25


「おおおおおお!!」

ガンダムF-91・ヴァサーゴの手のビームソードが蛇のように伸び、魔王にかみついた。
蒼い魔王の装甲をもぎ取り、さらに突き刺す。その動きは、クローアームによく似ていた。

サイバスターの手の中の剣が、渦巻く風を纏い疾走する。
細剣、一閃。明らかに剣より広い範囲の装甲を、一撃で切り飛ばす。

「お前のような奴はここにいちゃいけないんだよ!」

サイバスターから溢れた光が、青い魔王を打ち付ける。全身くまなく光にやられ、蒼い魔王がたたらを踏む。
その光の中、ヴァサーゴが蒼い魔王の眼線に迫る。魔王は、そのF-91の全長はあろうかという角を振り回した。
しかし、それはヴァサーゴの揺らめく蜃気楼を引き裂いただけだった。

「いいか、これは甲児の分だと思うといい」

コツンと、音を立て、先ほどまで赤熱していた角にヴェスバーが押し付けられる。
ヴァサーゴが引き金を引くと、そこから溢れた光が、角をへし折る。
それだけにとどまらず、魔王の頭が完全に消滅する。即座にビームソードが、ぽっかり空いた首に入り込んだ。
植物と機械が混じり合った内側がかき混ぜられ、肩などから汚わいな液体がこぼれた。

不死鳥に姿を変えたサイバスターの突撃。
しかし、先ほどまでとは熱量が違う。燃えるような赤の炎ではなく、収束させさらに火力を高めた青い炎。
首を失いながらも、必死に軸をずらす蒼い魔王。さらに、左手をかざし、不死鳥に叩きつける。
魔王の左腕が空を舞う。さらに、その脇腹を抉り飛ばした。


―――ヲオオオオオオヲヲヲヲヲオオオオ………


首を失い、抉られた空洞から響く苦悶の声。
間違いない。蒼い魔王は、初めて苦しみ、己の不利を感じている。
さらに追撃を仕掛けようとするが、魔王はバイタルジャンプで二機から逃げるように距離を取る。
損傷部分が何度もなく弾け、光を放ち、再生していく。
アムロの力を吸い取った結果が、この燃えるような生命エネルギーによる再生能力だった。
肩で息をするように、機体の上半身を上下させる魔王。

436moving go on:2009/05/20(水) 23:43:58

「ありえない……認めていない……!」

サイズ比そのままに巨大化し、威力を高めた5連チェーンガンが打ち出される。
だが、その悪意を掻い潜り、さらにヴァサーゴとサイバスターは肉薄した。

ヴァサーゴのハイパービームソードが、サイバスターのディスカッターが、蒼い魔王の両腕を落とす。
魔王は、姿勢制御用のウィングを展開、スラスターで空に飛び上がる。
そして、その勢いのまま大地に落下した。

鋼鉄の巨獣のスタンピートが、大地を貫き、地盤を沈下させる。
最初の落下よりもはるかに広い範囲のビルが倒壊した。
激しく動き回り、攻撃を阻む間に魔王は再び腕を再生させる。

「再生が早い……!」

シャギアは、ガンダムF-91ヴァサーゴの中で顔をゆがませる。
あまりにも再生速度が速すぎる。しかも、その巨体から繰り出される攻撃は強力無比で、一撃でも当たれば落とされる。
バイタルジャンプと言う切り札まで相手が持っているため、その体を削り切るよりも早く再生されてしまう。

「それでもやらなきゃいけないんだよ!」

オクスタンライフルに、サイバスターの風の力が収束する。
撃ち出されたBモードの弾丸が、風の力を受けて碧に輝き、蒼い魔王を貫通する。
このまま行けば、サイバスターとヴァサーゴのエネルギーが尽きるのが速いか、
それともあちらの再生力が尽きるのが先かの勝負になる。
あれだけの巨体が保持しているエネルギーを考えれば、無謀に思える勝負だ。

ヴァサーゴと、サイバスターが攻め立てる。
戦闘力では、蒼い魔王を凌いでいながら、倒しきれないが故に勝てもしない。
消耗戦だけが続いていた。

どこまでも続く繰り返しの中、サイバスターとヴァサーゴが戦い続ける。
徐々に、エネルギーがつき始めている。このまま、では、早晩落ちることは間違いない。
あともう一つ、手があれば。それを何度も呟きながらも、状況は変わらず続いていく。
もうすぐ、ヴァサーゴの状態を維持する限界だ。

437moving go on:2009/05/20(水) 23:44:28




「アイビス! 用意は終わっているかな!?」
「もちろんだよ!」



だが、間にあった。
カミーユとシャギア以外の声が、ついに現れる。
再び現れた、ブレンと凰牙。

「そちらは、最大の攻撃を用意してほしい!」
「信じていいのか?」

その答えは、ロジャーの笑み。
その顔は、自信に満ち溢れていた。

「存在は……許されない……破壊する!」

蒼い魔王の声に、もう恐怖はない。

「いくよ、ブレン!」

ヴァサーゴの横を通り抜け飛ぶブレンが消えた。
その姿は見えない。だが、見えなくても場所は、すぐに分かる。
魔王が、背中を掻くようにもがく。しかし、次の瞬間魔王の姿は空高くにあった。

「騎士(Knight)凰牙、ファイナルステージ!」

左手の鞭が伸びあがり、凰牙の頭上で回転する。稲妻を何重にも纏い、大嵐を巻き起こす。
それが持ち主の意志に呼応し、まっすぐに蒼い魔王に飛ぶ。
アルクトスに伝わる電子の聖獣が一体、バイパーウィップのファイナル・アタック。
鞭の先端が、プラズマを帯び、加速して射出される。
ブレンが、背中からバイタルジャンプで離れる。その直後、蒼い魔王にファイナルアタックが直撃する。
ただ一発当たっただけではなく、文字通り蛇のしつこさで何度となく魔王の手を掻い潜り複雑な軌跡を描きぶつかっていく。
そして――気付いた時には蒼い魔王の体を締め上げる。絶え間なく流れ続ける紫電が、蒼い魔王を叩く。
ブレンにとって、極度に負担がかかる状況でバイタルジャンプはできないし、無理に行えばどこに飛ばされるかわからない。
おそらく、蒼い魔王も、状況は同じ。ならば、常に締め上げ圧力を加え続ければ回避はできないのだ。

大地にいるならおそらく、その質量で強引に突破も可能かもしれない。
だが今、魔王はブレンのバイタルジャンプのために空にいる。
空は、唯一魔王が自由にできない空間だ。

438moving go on:2009/05/20(水) 23:45:01

「今だ!」

ロジャーが、サイバスターとヴァサーゴに檄を飛ばす。

「ここからいなくなれぇぇぇ!!」

空が澄んだ青に染まる。精霊光の輝きがサイバスターの周りを飛ぶ。
穏やかな光が、一気に四つに収束した。青と緑の中間に近い色合いのそれが、輝きを増す。
サイバスターの組んだ腕が、集積した力の大きさに震えた。
世界の理を塗り替える、局地的な宇宙の新生――コスモノヴァ。
どこまでも広がる青空へ、夜の闇を変える。

「いけええええええ!!」
「何故だ……!」

放たれた極光が、蒼い魔王を討つ。
目を開くこともできないほどの光が、魔王を包む。

「次は、私だ……!」

もし、死者は消えないというのなら。オルバが、甲児が、ヒメくんが見ているというのなら。
今この一瞬だけでもいい。力を、貸して欲しい。そう――人間として。

排熱で背後の空気が歪む。放出される黒ずんだ金属の塵が、何かを形作る。
F-91ヴァサーゴの背中に黒い六本の翼が広がった。
それはヴァサーゴを超えたヴァサーゴ。



―――ガンダムF-91ヴァサーゴ・チェストブレイク!



深紅の腕が、金色に変わる。握ったビームソードが、巨大な上二本、下一本の金色の爪になる。
翼をはためかせ、ヴァサーゴ・チェストブレイクが飛ぶ。インパクトの瞬間――爪が相手に合わせてさらに巨大化。
竜の顎〈アギト〉の如く、金色の爪が魔王を上下から挟みつぶした。

「何故……完全に……近付ける―――!」

439moving go on:2009/05/20(水) 23:45:40

唯一拘束を逃した杭打ち機が、ヴァサーゴ・チェストブレイクに迫る。
しかし、杭打ち機の部分だけが突然蒼から紅に色を変え――自分の胸の中心にある球体に打ち込まれた。

「――今まで使ってくれた分、上乗せして返してもらうぞ!」
『何故だ――何故――こんなことが―――』

男の声に、人間の感情が宿る。それとは別に、言いようもない淀んだ声が場に響いた。
この声は間違いない。あの、最初の時のノイ・レジセイアの声。

「言ったはずだ。
 『もし貴様が人間を取るに足りない存在だと驕っているのなら、遠くない未来貴様は再び打ち砕かれる』とな。
 忘れたか? それとも、俺の言葉など覚える価値もなかったか!?」
『何故――――』

球体に杭を打ちながらも、指ではっきりと胸の赤い球体をキョウスケは指す。

「カミーユ! ここを撃て! 撃ち貫け!」
「あああああああああああああああああああああああああああ!!」

蒼い炎を纏いながら、オクスタンライフルをまっすぐに構え、サイバスターが疾走する。
ライフルの先端が、杭打ち機で割れた隙間に飛び込む。
繰り返されるゼロ距離射撃。
ひび割れていく赤い球体。


『何故―――――完全な生命に―――――!!』


最期に聞こえたのは、ノイ・レジセイアの絶叫だった。


【アムロ・レイ 死亡】
【兜甲児 死亡 】
【キョウスケ・ナンブ 死亡】

440moving go on:2009/05/20(水) 23:46:21





「本当に、行くのか? 意味があるとは思えないが……」
「それは行ってみなければわからない。今の私の目で見て、なにか分かることがあるか……それを知りたい」

凰牙とF-91が向かい合う。
その横では、力を使い果たし動かないブレンとサイバスター。
アイビスとカミーユはずっと気を張っていた。緊張の糸が切れたのだろう。
気絶……なのだろうがその顔は随分と安らかに見える。

塗装がはげ、ヴァサーゴとしての状態が切れた今のF-91は全身灰色だった。
もしも見る人が見れば、こう言ったかもしれない。PS装甲を切ったガンダムのようだ――と。
シャギアは、自分が基地跡に行くことをロジャーに告げた。
アムロが言ったとおり死者は消えることなく、今もオルバと自分がつながっているとしたら。
何もなくても構わない。それでも弟が潰えた地に行きたいと。

「無論、24時までは会談の場所に行く。私の地図には基地とここの途中の補給ポイントも記録されている」
「だが……」

おそらく自分が襲われることを心配しているのだろう。
ならば、答えは一つ。かつてのように、自信を持って、答える。

「お任せを。 わたしの愛馬は凶暴です」

そう言って、空を見上げる。空には、一面赤い光が渦巻いていた。
あの球体を砕いた瞬間溢れた光が夜空を染めた。それと同時、この世界にあった邪気は全て消失したのだ。
何故自分にそんなことが分かるかはたいしたことではない。分かるから、分かる。理由はいらない。
大切なことは、おそらくもうこの世界への横やりはないということだ。
インベーダーが消え、あのレジセイアもこの世界からとはいえ去った。

「決着は、人の手でということか」

いまや沈黙している蒼い魔王。いや、もはやそれは魔王ではなくただの孤狼。
コクピットには誰もいないにもかかわらず、誰かがいた暖かさだけが残っていた。
おそらく、最期にあの男が遺したものだろう。

まだポカンとしているロジャー・スミスをおいて、F-91がスラスターを吹かす。

441moving go on:2009/05/20(水) 23:46:58

「ガナドゥ―ルのレース・アルカーナは回収しておくといい! 
 あれを増幅し射出すれば空間突破には十分のはずだ! 
 空間突破に必要な四つの攻撃のうち、Jアークが沈まないかぎり反応弾も加えて三つを確保できる!」

「ま、待て!」

その言葉を無視し、F-91は空を飛ぶ。
視界は、見渡す限りの空が広がっていた。







【共通の行動方針
 1:24時にユーゼスと合流。現状敵対する意思はない
 2:ガウルン・キョウスケの排除
 3:統夜・テニア・アキトは説得を試みる。応じなければ排除
 4:ユーゼスとの合流までに機体の修理、首輪の解析を行い力を蓄える】


【カミーユ・ビダン 搭乗機体: サイバスター
 パイロット状況:強い怒り、悲しみ。ニュータイプ能力拡大中。疲労(大)気絶
 機体状況:オクスタン・ライフル所持 EN30%  
 現在位置:D-3
 第一行動方針:合流
 第二行動方針:ユーゼス、アキト、キョウスケを「撃ち貫く」
 第三行動方針:遭遇すればテニアを討つ(マシンセルを確保)
 最終行動方針:アインストをすべて消滅させる
 備考1:キョウスケから主催者の情報を得、また彼がアインスト化したことを認識
 備考2:NT能力は原作終盤のように増大し続けている状態
 備考3:オクスタン・ライフルは本来はビルトファルケンの兵装だが、該当機が消滅したので以後の所有権はその所持機に移行。補給も可能
 備考4:サイバスターと完全に同調できるようになりました】

442moving go on:2009/05/20(水) 23:47:29

【アイビス・ダグラス 搭乗機体:ネリー・ブレン(ブレンパワード)
 パイロット状況:精神は持ち成した模様、手の甲に引掻き傷(たいしたことはない) 気絶
 機体状況:ソードエクステンション装備。ブレンバー損壊。 EN50%  無数の微細な傷、装甲を損耗
 現在位置:D-3
 第一行動方針:使える部品を集めて機体を修理する
 第二行動方針:協力者を集める
 最終行動方針:精一杯生き抜く。自分も、他のみんなのように力になりたい。
 備考:長距離のバイタルジャンプは機体のEN残量が十分(全体量の約半分以上)な時しか使用できず、最高でも隣のエリアまでしか飛べません】

【ロジャー・スミス 搭乗機体:騎士凰牙(GEAR戦士電童)
 パイロット状態:肋骨数か所骨折、全身に打撲多数 
 機体状態:右の角喪失、 側面モニターにヒビ、EN0%
 現在位置:D-3
 第一行動方針:殺し合いを止める。機体の修復 首輪の解析
 第二行動方針:首輪解除に対して動き始める
 第三行動方針:ノイ・レジセイアの情報を集める
 最終行動方針:依頼の遂行(ネゴシエイトに値しない相手は拳で解決、でも出来る限りは平和的に交渉)
 備考1:ワイヤーフック内臓の腕時計型通信機所持
 備考2:ギアコマンダー(黒)と(青)を所持
 備考3:凰牙は通常の補給ポイントではEN回復不可能。EN回復はヴァルハラのハイパーデンドーデンチでのみ可能
 備考4:ハイパーデンドー電池4本(補給2回分)携帯
 備考5:バイパーウィップと契約しました】

【シャギア・フロスト 搭乗機体:搭乗機体:ガンダムF91( 機動戦士ガンダムF91)
 パイロット状態:健康 ニュータイプ能力覚醒
 機体状態:ビームランチャー消失 背面装甲部にダメージ  ビームサーベル一本破損
      頭部バルカン砲・メガマシンキャノン残弾100% ビームライフル消失 ビームソード保持。 EN5%
 現在位置:D-3
 第一行動方針:基地へ行き、オルバが亡くなった場所へ行ってみる。
 第二行動方針:ガウルン、テニアの殺害
 第三行動方針:首輪の解析を試みる
 第四行動方針:比瑪と甲児・ガロードを利用し、使える人材を集める
 第五行動方針:意に沿わぬ人間は排除
 最終行動方針:主催者の打倒
 備考1:首輪を所持】


※1 会場のインベーダーは全て消滅しました。
※2 戦場跡には、無傷、無人のアルトアイゼン・リーゼが放置されています。

【二日目20:30】

443Alchemy , The Other Me:2009/05/26(火) 22:28:34

―――ノイ・レジセイアには、目的がある。

当然のことだ。
何か目的がなければ、ノイ・レジセイアもこんなことはしない。
彼の心は一度も揺れていない。ただ愚直なまでに目的に邁進し続けている。
だが彼の行動、彼の言葉。その全てに一貫性を感じることはできるだろうか?


――なぜか、アインストを外れた人間に近いアルフィミィを作り出し、

―――なぜか、最初から参加者に加わらずキョウスケに憑依と言う手段をとり、

――――なぜか、アルフィミィにろくな指示を伝えず、

―――――なぜか、用意されたネビーイームと融合を拒否し、

――――――なぜか、インベーダーの排撃を命じながらも空間の穴を補修しない。


どれもが同一の意思の元に動いているようには見えない。矛盾すらはらんでいるようにも見える。


以前と同じアインストに近しいアルフィミィを作り出したほうが連絡などは楽に取れる。
参加するのなら、最初から憑依した駒を用意しておけばよかった。
儀式を成功させたいならアルフィミィとは密に連絡を出すほうがいい。
強い体が欲しいならネビーイームは最高の素材だ。
インベーダーが邪魔なら空間の穴ごとシャットアウトするのがベストだ。


もっといい方法がいくらでもあったにも関わらず、
何故このような行動をノイ・レジセイアは取らなければならなかったか。


殺し合いは最終局面を迎えようとしている。
そしてノイ・レジセイアもここに至り盤上に登る時がきた。
幻覚を見せ、思念を送るだけでその本体を見せることのなかったノイ・レジセイア。
それが今、覚醒を迎えていた。


――まだ……遠い……――

遥か昔にあった銀河での戦い。
その時より失った力と肉体は、いまだノイ・レジセイアに帰還を果たしていない。
失ったまま動けずにいた膨大な時間は、彼の体に化石化を起こさせ、身体の自由をさらに奪った。
ネビーイーム内にその肉体は安置されたまま、身動きすら出来ずにいる。
それでもなお、力を失わなかった胸の中心の赤い球体に、罅が入る。
内側から砕けるがごとく広がる亀裂に、ノイ・レジセイアは苛まれ苦しむ。

444Alchemy , The Other Me:2009/05/26(火) 22:29:05

――何故だ……何故――

儀式を繰り返すことなどできない。
これ一界/回で成功させねばならない状況だというのに、理想に至る方法の一本はとん挫した。
ついに明かされる、彼の望みはたった一つ。自分が完全な生命に生まれ変わり、その上でかつての力を取り戻すことだ。
かつての力を取り戻すだけでは駄目だ。それでは宇宙を新生することはできても、完全にすることはできない。
今のノイ・レジセイアでは完全なる世界を生み出せなかったのは、MUの内側を垣間見た時から理解した。
白き魔星の眼下に広がる、茶褐色から白の中間色を幾層にも重ねたような柄をしたもう一つの球体。
東京ジュピターに似た『箱庭』は、かつて彼がラーゼフォンに撃破されたMUの力のかけらを手にした結果生まれたものだ。
ラーゼフォンもその時回収したものだ。ラーゼフォンの行動が空間に大きな影響を与えたのも当然だろう。

MUとは、 平行宇宙という概念の外側にいる存在。
何万もの平行宇宙を覆い、それらの宇宙をレンズ状の隔離空間に歪める。
そうやって時間軸そのものを捻じ曲げ、各々の宇宙にループ現象を引き起こした。
ラーゼフォンのいる平行宇宙を自身の中に閉じ込める、そのためだけに。
無限に連なるはずの平行世界の一部を覆うことで平行世界を平行で無くしたのだ。
結果、生まれたのが東京ジュピターとも呼ばれる空間。
ノイ・レジセイアはこれを応用して会場を作りあげた。

願いをかなえるという言葉も、この力から出たものだ。
つまりは、願いが全て叶った並行世界を探し出し放り込んでやる。
それが彼の言った願いを叶えるという言葉の真実だった。
事実、ノイ・レジセイアは優勝者の願いを叶えるつもりだった。どんな願いでもかまわない。
彼からすれば完全な宇宙さえできれば人間一人の未来や世界などはあまり興味ないのだ。
人間とは、複数集まりお互いを補い合った時、より完全な生命すら超越するさらに完全な存在になりうる。
それを彼は銀河の戦いを経て、並行世界を見た結果理解した。
だから、最後に残った一人きりは観測する必要もない。

だが、ノイ・レジセイアとMUでは根本的に違いが一点あった。
欠片は小さく、並行世界をゆがめ、時間軸を束ねることはできても、ループを繰り返させるだけの力がなかった。
言い換えるなら彼の力では歪んだ世界から並行世界の住人を呼べても、それを繰り返せない。
故に、この『儀式』もこれ一回。

MUの力の一部を得てからは、探求の旅だった。
人間とは何か。人間が完全になる状態は何か。そして自分が完全になるためには何が足りないか。
彼はその力を使い数多の世界を思念だけになりながらも見続けた。
戦争も、平和も、時に人の中に混ざりながら渡り歩いた。
人間は一人一人が違いすぎる。同じ人間という種なのに個々の違いが甚だしい。
種族全体を統一する意識もなければ、共通の意識野も持たない。
だが、それがいい。それが結果として完全へ繋がっている。
かつては宇宙を乱すと人間は排除すべきと思っていたが、今の彼はそれほど人間が嫌いではない。
選定のため、必要なので殺すだけだ。



そうして旅した結論――人間とは極限に追い込まれた時こそ真実が見える。

それが良いほうに転ぶとは限らない。むしろ、悪意が噴き出すことも多かった。
だが、それも含め人間。問題はその中でどれが完全に必要か、だ。
そのために、意図的に不純物の混ざらない『箱庭』に極限状態を生み出し人間を放り込んだ。
これこそが今回の儀式、『バトルロワイアル』の全貌である。

445Alchemy , The Other Me:2009/05/26(火) 22:29:38



――なぜか、アインストを外れた人間に近いアルフィミィを作り出し、


今回生まれたアルフィミィこそ、まさに彼の試行錯誤の象徴だ。
彼は、自分が世界を見た段階で、完全に至る人間が作れるのではないかと自惚れた。
そのさい制作された人間が、今回のアルフィミィ。
アインストから遠い――そして人間に近い。明確に理由があってそうなったのだ。

彼の行動に無駄はない。



―――なぜか、最初から参加者に加わらずキョウスケに憑依と言う手段をとり、


最初から手を加えるのでは以前と同じ結果だ。だから、4割を切るまで彼は手を出さず傍観した。
そしてそこで残った人間を見比べ、完全に近いものを選定した。
あの段階では、キョウスケが最適だったのだ。憑依するのに都合のいい状態になったのも忘れてはならない。
そして、キョウスケをベースに完全に足らないものを補充して完全になろうとした。
アムロの力を吸収し、ニュータイプ能力を手に入れたのもそのためだ。

彼の行動に無駄はない。


―――――なぜか、用意されたネビーイームと融合を拒否し、

ネビーイームでは単純な力を増大させるだけだ。
自分という存在の本質が変わらない以上、何の意味もない。
むしろ、余計な不純物を混入させてしまうという意味では害悪ですらある。
だから頑なにネビーイームを彼は拒否したのだ。

彼の行動に無駄はない。



――――――なぜか、インベーダーの排撃を命じながらも空間の穴を補修しない。


インベーダーは自分と同じ閉鎖空間の異物だ。
自分のように一参加者としてならまだしも、全体の影響が大きすぎる。
しかし、迂闊に次元の穴は修復できない。ただでさえ彼自身の力は限界でループを作ることすら難しいのだ。
アルフィミィが作業に当たるとは言っても使われる力は彼のもの。
これ以上擦り減らせば最後までもたない恐れがあった。だから隠ぺいだけにした。
己の眷属――クノッヘン、ゲミュート、グリードを生み出すことすら満足にできない。
できるのなら、禁止エリアに出てきた瞬間、インベーダーを超える眷属を送り影響を遮断できた。

彼の行動に無駄はない。


だというのに――失敗した。
手を尽くし、考えられるだけの知恵をめぐらせやってきた。
自分に落ち度はない。それでも失敗するのか。

446Alchimie , The Other Me:2009/05/26(火) 22:30:49

その考えをノイ・レジセイアは即座に否定する。
これは自分が完全でないがために招いた出来事だ。完全であればこのようなことは起こらない。
自分が不完全であったため、シャギア・フロストやカミーユ・ビダンの進化――つまり完全への跳躍を把握できなかった。
それが結果としてこういう結末を招いた。


――おお……おおおおお……――


失敗の結果は、己が身に跳ね返る。
完全へ至る進化のため、力の多くや意識を割り振り、同調した結果が自分の身へと跳ね返りつつある。
今の彼の体は急速に滅びに向かっている。おそらく、あと残りの命は数十分だろう。

彼の意識が、苦しみながらも一人の名を呼ぶ。
自分が生み出した眷属でありながら、アインストではない一人の少女の名を。
アルフィミィ、とひたすらに呼び続ける。
手足のように扱える眷属へ、思念の触手を世界全てに伸ばし叫ぶ。

白い魔星が振動する。
その振動に合わせ、あるものが空間を超えてノイ・レジセイアの前に現出する。
それは、ほとんどノイ・レジセイアと同じ状況だった。
化石化し動くことは叶わず、人に近い体系のため存在する長い手足を子供のように丸めた赤と白のそれ。
レジセイアは、それの名をもう一度呼ぶ。

――アルフィ……ミィ……――

かつては、己が手足としか考えず名前など識別していなかった。
しかし自分にあろうことか造反し、人間の味方をした唯一のアインスト。
人間へ探求、その最初期で生まれた命。
彼女は、銀河の決戦の最中、アインストを裏切り、『自我』と言うべきものを持ち彼に反逆した。
その当時、彼はその行動が不純であると考えながらも、その不可思議な行動からあえて殺さなかった。
その後の旅の中、彼女の行動を思い出し、それこそが完全に至る鍵だと彼は気付いた。
ある意味、彼女の反逆がなければノイ・レジセイアはここまで人間を考察しなかっただろう。



つまり、ある種の始まりとも言える少女。それが、この『古い』アルフィミィだった。


彼女がいなければ、ノイ・レジセイアは不毛な砂漠の中ら砂金を取り出すような真実の旅を始めなかった。

そもそも、『新しい』アルフィミィも、アルフィミィである――
つまりアルフィミィをアルフィミィであるとたらしめる因子を持っているからこそあの姿をしているが、
その因子も突然何もないところから生まれるわけではない。
大元のエクセレン・ブロウニングの因子を使い生まれた最初の『古い』アルフィミィ。
そしてその一番目の『古い』アルフィミィを使い、作られた二番目の『新しい』アルフィミィ。
『二番目』を正確に作れる以上、『一番目』が正確な詳細記録を取れる状況にあるのは当然。
つまり、消えておらずノイ・レジセイアの側にあったのだ。

『お久しぶり……ですの……』

化石化し、くすみ、光を失ったペルゼイン・リヒカイトから思念が聞こえてくる。

447Alchimie , The Other Me:2009/05/26(火) 22:31:27



―――「どうしましたの?」

返ってきた思念、状態、表情をノイ・レジセイアは見る。
今、あの『新しい』アルフィミィが浮かべている表情は、不安。そして焦り。
その表情に、ノイ・レジセイアは驚きを感じた。もしも彼が人間ならば、大きく静かにうなずいていたかもしれない。
手を尽くしたが所詮人間でない。精神的にはアインストの遠い亜種に過ぎないはずの、『新しい』アルフィミィが感情をあらわにしている。
こういった感情は昨日まで『新しい』アルフィミィではほとんど見られなかった。
これは、『新しい』アルフィミィがグラキエースなどと同じく肉体だけでなく精神的にも人間に近付いていることを示している。
アインストも、人間に――完全の欠片に近付けるという証明に他ならない。
昨日までは、このような感情や表情を表すことはなかった。初代より無機質な印象だった。
だというのに……超濃密とはいえ一日、人間の行いから発生する感情を受け止めるだけでここまで変わるのか。
レジセイアも、『新しい』アルフィミィが受信した情報で、『完全に至る』に必要と思われる部分だけは取り寄せていた。
だが、その全てを受け止めるだけでこれほど感情豊かに人形が、人間に近づくのか。

アインストでしかないヒトモドキが人間へ。不完全な自分が完全に至るのも、よく似ている。
彼の行い、研究の一種が正しかったという一種の発露だ。
自分の活動が間違っていなかったという証明物は、彼にはまぶしかった。

おそらく、ここまで自分から遠く離れた存在である『新しい』アルフィミィなら、自分が消滅しても連鎖的に滅びることはない。
自分の思念波を受けにくく、種として離れればそういう現象はおそらく起こらない。
ノイ・レジセイアは心底惜しいと思った。
できるなら、この『儀式』の観測と、並列して『新しい』アルフィミィの今までの変化とこれからの変化も見たかった。

しかし、それはできない。
彼には、時間がない。

『新しい』アルフィミィが、自分に死ぬなとかそういう趣旨のことを告げていた。
他者を気遣うことができる。そしてその感情が自分に向いている。


本当に、惜しい。


レジセイアの顔が、砕けていく。
化石化した手足はボロボロと欠片となり硬質な金属の床に落ち、煙となって消える。
自重に耐えかねたように落下していく体。

一つだけ、説明していない要素があった。

――――なぜか、アルフィミィにろくな指示を伝えず、

これの、答え。
『新しい』アルフィミィは、別にいてもいなくてもよかった。
放送など適当に自分がやれば十分だった。首輪の管理などは自分がやればより盤石だろう。
だが、わざわざこの作ったアルフィミィをこの『儀式』に使ったか。
『箱庭』では、多くの人間が死んでいった。
だが、その中でも細部に分かるまでその感情の機微をアルフィミィが認識でき、彼女の変化を流した者がいた。
その者の名は、グラキエース。元・ではあるが破滅の王ペルフェクティオに仕えていた女性だ。

448Alchimie , The Other Me:2009/05/26(火) 22:31:59

――破滅の王ペルフェクティオ、彼が姿を現す前触れというのならまだ分かる。
――用意された小さな空間に呼び寄せ、崩壊していく空間ごと彼の者を取り込むことによってツンクーフトへの階段を登る。

思い出してほしい。これは、かつて『新しい』アルフィミィがデータウェポンの流出したさい、考えたことだ。
だが、よく考えてもらおう、
宇宙の創造を司る存在であるノイ・レジセイアと、宇宙の無差別な破壊者であるペルフェクティオが相容れるか。
答えは絶対にノー。水と油よりも差がある両者は、決して入り混じることはない。
両者の力を混ぜるには、緩衝材がいる。そのために、いやその目的のためにも『新しい』アルフィミィは必要だった。

アルフィミィは、人間を目指して作られたが、
同時にアインストから切り離し人間に近付けるかを実験するにあたり、
さまざまな因子を埋め込まれていた。

例えば、それはメリオルエッセ。あるいはゲッター線被爆者。
研究して学んだ人間と言うものに加えてそういった要素を既存のアインストに混ぜたからこそ、
今の『新しい』アルフィミィは逆に人間に近い。

もうはっきり言ってしまおう。『新しい』アルフィミィはスペアだ。
別に、いてもいなくてもいい存在。むしろ、もしものことを考えれば下手に戦場などに出てほしくない。
だから、あえて行動しないように極力放置していた。

もしもペルフェクティオの力が流入すれば、アルフィミィにその力を注入し、
もしもゲッター線で進化が起これば、アルフィミィにそれをあびせ、
もしもノイ・レジセイアが死に瀕すれば、その力をアルフィミィの体に移し、
ノイ・レジセイアはアルフィミィの体を乗っ取ることでそれを手にする。
もしもの時の、自分のもう一つの肉体。ある意味使い捨て。知らなかったのは当のアルフィミィだけだ。



だが、この『新しい』アルフィミィを今スペアに使っていいのか。
せっかく動き出したこれを捨てるのは、あまりにも惜しい。

芸術家が、自分の生み出した傑作を壊すのをよしとしないように。
親が、子が死ぬのを許容しないように。
ノイ・レジセイアは気付かなくても、彼の心にはそれに近い感情が生まれていた。

――このまま……朽ちようと……思念だけとなろうと……まだ……再び……――

MUの欠片に残った最後の力を振り絞ってでも、
並行世界群の中の、アインストの支配を受けない上位アインストに宿り、再びやり直してみせる。
ここまでは、成功した。次は、必ず完全に至る。そのためなら、今回の儀式も十分に価値があった。
MUのかけらを再び回収し、この『最初の』アルフィミィさえ確保し続けることができれば、

449Alchimie , The Other Me:2009/05/26(火) 22:32:36
ここで肉体が滅び、ほぼすべてを失っても―――



―――いや。




その時、ノイ・レジセイアに別の考えが頭によぎった。
『新しい』アルフィミィは、今や『古い』アルフィミィに匹敵する成長を見せている。
しかも、自分に対して非常に従順な状態で。
記録をほぼすべて回収した『古い』アルフィミィは基礎。しかし、今それの上位種が――

『どうせ、また繰り返すつもりですの? それじゃ何度やっても同じですの』
――……我は……消えず――

崩れていく体の奥、最後まで化石化しなかった僅かな部分が触腕となって伸びる。
ゆっくりと、深くペルゼイン・リヒカイトに接続されたそれが、一度だけ震えた。

『ノイ・レジセイア。わたしと一つになりたい?ですの』
――そう……だ……仮に……アインストに外れ……人に寄るとも……今は……―――
『こうしなければ、わたしは消える。あなたは同じ失敗を繰り返す。何の意味もありませんの』

アルフィミィから流れ込んでくるのは、拒否の思念ではなかった。
ノイ・レジセイアはアルフィミィの感情が理解できない。アルフィミィは、独立した自我を持っている。
生命はよほどの孤独がない限り、精神の完全な同調はできないし、拒否する傾向にある。
まして、強い意識と自我を持っているアルフィミィならなおさらだ。

――都合が……いい……だが……何故……理解不能……お前が消えることに……変わりは――
『昔のあなたなら、即座にスペアのあのわたしを使ったはずですの。けど、それをしなかった。
 あなたも、きっと分かり始めてるですの。全部、見えないけれど変わってますの』
――何を……言っている……? 理解不能……何故……?――
『部の悪い賭けは嫌いじゃない、ですの。今なら、そこまで分が悪いとも……ま、人間になればわかりますの』

ノイ・レジセイアは少し考えた後、吸収を実行する。
今のアルフィミィの進化と、会場の観測のやり残し。もしも別世界に転生した際のデメリット。
これらを考えれば、受ける以外の選択肢はない。

悪影響を『古い』アルフィミィが『新しい』アルフィミィに与えぬように、
『古い』アルフィミィに関して、『新しい』アルフィミィには一切の情報を与えてない。
一人目がいるということをおぼろげに知っているだけだ。
今のこちらの状況を察し、『新しい』アルフィミィはこちらに向かっている。
『新しい』アルフィミィが『古い』アルフィミィに気付く前に、済ませてしまわなければならない。


そこで温かい笑みをアルフィミィは浮かべた。
子供でありながら、その笑顔は幼い子供の手を引く母親の温かさがあった。
何故とノイ・レジセイアが問い返す暇もなかった。消えていくアルフィミィの意識。
それとともに、ノイ・レジセイアに流れ込むのはアルフィミィの記憶、思念。
遥か彼方過去の戦いの記憶が、次々ノイ・レジセイアにも浮かび、消えていく。
しかし、いくら探しても何故アルフィミィがこんな決断をしたのかは見えてこなかった。

450Alchimie , The Other Me:2009/05/26(火) 22:33:35

ノイ・レジセイアの赤い核が光となる。
それに伴い、胎動する赤い光が触手からアルフィミィに流れ込んでいく。
それが、『アルフィミィ』の最期の言葉になった。
周囲に、赤い光が漏れる。そして―――――――――――










自分を認識することから、全ては始まる。
陶磁器のような白く透き通った腕。一切無駄な肉のついてない肉体。
猫のようにぱっちりと開いており、少しツリ目だが大きなアイスブルーの瞳。
人間とは思えないほど整っているが、それでいてどこか幼い顔立ち。
ほとんど凹凸のない素晴らしい体型だが、臀部や胸部は性別を示す小さく柔らかいふくらみがあった。
足もとに映っている自分の顔を隠す、床まで届く蒼いストレートヘアを足でどける。
あまりに邪魔な量の髪に、すこし考えた後、手に光の輪を作り、髪を後ろに束ねた。
馬の尾のように垂れる形に髪がまとまり、邪魔にならなくなる。
光沢ある金属の床に映る自分の新しい顔を、『彼女』は凝視し、小さく驚きを顔に浮かべた。
グラキエースをそのまま小さくし、エクセレン・ブロウニングの髪型を合わせたような、その姿。
『彼女』の名はノイ・レジセイア。
もっとも、アインストに生別と言う概念はない以上、憑依した対象の生別に依存して決定しているだけだが。

「これが……表情か……」

キョウスケの体のときは、鏡など見ることがなかった。
故に、自分に表情があったことなど認識することがなかった。

彼女は、あちらのアルフィミィにも観測後、色々な因子を埋め込み、『あの』アルフィミィを作るテストをしていた。
今の彼女の姿は、その中でもグラキエースの因子が表層化した結果だろう。

ネビーイームが再度振動する。
ノイ・レジセイアが安置されていた場所の側の地面を割り、中から巨体がせり上がる。
それは、二つの顔を持つ暴走したガンダム。デビルガンダムだった。
その胸部の装甲が開き、中から小柄な少女が現れた。

「アルフィミィ……」

個体を識別し、既存のアインストとは違うことを認識。
故に名前が必要。故に名前を呼ぶ。当然の出来事。
しかし、

451Alchimie , The Other Me:2009/05/26(火) 22:34:15

「はいですの……! ……え? 今、私の名前を……」

今のアルフィミィの行動からふと思い出す。
このアルフィミィの名前を、自分が呼んだことがなかったことに。
アルフィミィは姿形が変わっても、自分がノイ・レジセイアであることは理解しているようだ。
当然と言えば当然だろう。質は多少変化しても、力は何も変わっていないのだから。
個体を識別され、そのことに喜びを見出す。アインストには分からない概念だった。

「アルフィミィ……新しい……機の……器を……」

力が足りない。
『過去の』アルフィミィに力を降魔した結果、思念などはともかく肉体による戦闘能力は大幅に低下している。
必要なのは、鋼鉄の孤狼にも匹敵する機体だ。ちょうど、集めた中に見せしめのため渡していない機体があるはず。

名は――ダイゼンガーと言ったか。

思念に変え、そのむねをアルフィミィに送る。
しかし、アルフィミィは答えを返さず、コクピットの外でおろおろするばかりだった。
視線をせわしなく動かしている。完全な群体アインストとして生きてきたノイ・レジセイアには理解できない行動だ。

「ええと……その……」
「ダイゼンガーは………?」
「ちょっと……いろいろあって……その……ちょっと今はないですの」

指先を合わせていじりながらうつむき加減でアルフィミィは答えた。
ノイ・レジセイアは首を横にかしげた。
一つ補足すると本人は横にかしげたつもりもない。というか感情が自分の表情や行動にでることすら理解してない。

アルフィミィが、ぽつぽつと話しはじめる。
次元の狭間に飛び込んだガウルンに、首輪を爆破するのも問題なので、
機体を与えあのインベーダーを駆逐する約束を結んだことを。
そのせいで、ダイゼンガーがないことを。

「そういうわけで……ないんですの」

アルフィミィの表情を観察する。
これが、罪の意識とその緩和の方法か。
失敗したことを他者へ恥ずかしいと思うのも、人間の特徴だろう。

「……仕方ない……問題……なし……」

この行動が、アルフィミィの精神面で新しい影響を与えたというのなら、けして悪いものではないだろう。
運よく、今の自分には機体が割になるものが用意されている。

ノイ・レジセイアが意識を集中させる。
送り先は、自分のそばにある、赤いかつてアインストだったモノ。

ドクン―― ノイ・レジセイアが意識を送ると、それは再び力を手に入れ、脈動し始めた。
ドクン―― 二つの仮面が体から剥がれ、宙に浮く。
ドクン―― 仮面と骨を組み合わせた四肢が澄んだ光を放つ。
ドクン―― その場に残った抜けがら――ペルゼイン・リヒカイトが立ち上がる。

452Alchimie , The Other Me:2009/05/26(火) 22:34:45

「はいですの……! ……え? 今、私の名前を……」

今のアルフィミィの行動からふと思い出す。
このアルフィミィの名前を、自分が呼んだことがなかったことに。
アルフィミィは姿形が変わっても、自分がノイ・レジセイアであることは理解しているようだ。
当然と言えば当然だろう。質は多少変化しても、力は何も変わっていないのだから。
個体を識別され、そのことに喜びを見出す。アインストには分からない概念だった。

「アルフィミィ……新しい……機の……器を……」

力が足りない。
『過去の』アルフィミィに力を降魔した結果、思念などはともかく肉体による戦闘能力は大幅に低下している。
必要なのは、鋼鉄の孤狼にも匹敵する機体だ。ちょうど、集めた中に見せしめのため渡していない機体があるはず。

名は――ダイゼンガーと言ったか。

思念に変え、そのむねをアルフィミィに送る。
しかし、アルフィミィは答えを返さず、コクピットの外でおろおろするばかりだった。
視線をせわしなく動かしている。完全な群体アインストとして生きてきたノイ・レジセイアには理解できない行動だ。

「ええと……その……」
「ダイゼンガーは………?」
「ちょっと……いろいろあって……その……ちょっと今はないですの」

指先を合わせていじりながらうつむき加減でアルフィミィは答えた。
ノイ・レジセイアは首を横にかしげた。
一つ補足すると本人は横にかしげたつもりもない。というか感情が自分の表情や行動にでることすら理解してない。

アルフィミィが、ぽつぽつと話しはじめる。
次元の狭間に飛び込んだガウルンに、首輪を爆破するのも問題なので、
機体を与えあのインベーダーを駆逐する約束を結んだことを。
そのせいで、ダイゼンガーがないことを。

「そういうわけで……ないんですの」

アルフィミィの表情を観察する。
これが、罪の意識とその緩和の方法か。
失敗したことを他者へ恥ずかしいと思うのも、人間の特徴だろう。

「……仕方ない……問題……なし……」

この行動が、アルフィミィの精神面で新しい影響を与えたというのなら、けして悪いものではないだろう。
運よく、今の自分には機体が割になるものが用意されている。

ノイ・レジセイアが意識を集中させる。
送り先は、自分のそばにある、赤いかつてアインストだったモノ。

ドクン―― ノイ・レジセイアが意識を送ると、それは再び力を手に入れ、脈動し始めた。
ドクン―― 二つの仮面が体から剥がれ、宙に浮く。
ドクン―― 仮面と骨を組み合わせた四肢が澄んだ光を放つ。
ドクン―― その場に残った抜けがら――ペルゼイン・リヒカイトが立ち上がる。

453Alchimie , The Other Me:2009/05/26(火) 22:35:35

「強化を」
「え、あ、はいですの!」

アルフィミィが手を振ると、アルトアイゼンをかつて呑み込んだように、
ペルゼイン・リヒカイトが底無し沼のような“闇”に呑み込まれていく。
この出来事から分かるように、ネビーイームはほぼ全域デビルガンダム細胞にむしばまれており、その管理下にある。
あの時アルトを飲み込みDG細胞を施したのは、これなのだ。
数秒後、DG細胞で強化されたペルゼイン・リヒカイトが吐き出された。
その蒼白な色をしたペルゼイン・リヒカイトを確認し、ノイ・レジセイアは頷いた。
これなら、そうそう負けることはない。
レジセイアが蒼い球体になったと思うと、ペルゼイン・リヒカイトの胸にある球体と融合する。
これで、乗換は完了だ。

乗り心地や性能にひとまず満足をノイ・レジセイアは覚える。
そして、ペルゼイン・リヒカイトの腕を振る。バチバチと火花がはじけ、空間に広がっていく。

「干渉……不能……?」

あの世界に、自分が倒れた結果溢れた力をこちらに移そうとする。
しかし、原因不明の何かが、あの空間に作用し、自分の思念を跳ね返している。
彼女の脳裏に投影されるのは、いまだあの世界で戦う12人の人間の姿だった。
誰もが、思い思いに願い、戦い、もがいている。
そうやって消えて行った人間たちの思念が、ノイ・レジセイアの干渉をいまや封じているのか。

だが、なら別の方向を考えよう。
空間に力が満ちていることを、別の何かに使えばいい。
この力を利用して環境をインベーダーだけが朽ちるように設定すればインベーダーを駆逐できるかもしれない。
どうしようかと考えた後、彼女はそれを実行した。インベーダーが実験の妨げになるのもある。
自分の意思を跳ね返すまで様々な人々の想いが、あそこに充満している。
ここまでくれば決着は参加者だけで付けさせるべきだと思うところがあった。
インベーダーの駆除は、そのささやかな手伝いだ。


――そうでなければ、報われない。



それは、彼女自身も認識できない意識の外にあるものだった。
だが、なんとなくノイ・レジセイアはそう思ったのだ。
ノイ・レジセイアは、アルフィミィに今後会場への干渉は一切しないことを告げる。
アルフィミィも、相変わらず妙にカチコチな敬礼とともに返事を返した。

そう言えば、最期まで説明できなかった彼女の行動が一つだけあるが、これはそのせいだろうか。
「究極ゥゥッ……!ゲシュペンストォッ! キィィィィィィィィィィィックッ!!」とお約束を叫んだ理由だ。
人間の行動を真似る理由はどこにもないし、お約束に従う意味も薄い。それでも彼女は何となくやってみた。
もしかしたら歪んではいれど、彼女は彼女自身が思うよりも人間が好きだし、興味があるのかもしれない。

454Alchimie , The Other Me:2009/05/26(火) 22:36:07


【ノイ・レジセイア  搭乗機体:ペルゼイン・リヒカイト(バンプレストオリジナル)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好 DG細胞感染中
 現在位置:ネビーイーム
 第一行動方針:バトルロワイアルの進行。そのためなら殺しも辞さないが、意味もなく殺すつもりもない。
 第二行動方針:アルフィミィの観察。
 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂。優勝者の願いはどんなものでもいくらでも叶える】

【アルフィミィ  搭乗機体:デビルガンダム(機動武闘伝Gガンダム)
 パイロット状況:良好
 機体状況:良好
 現在位置:ネビーイーム
 第一行動方針:バトルロワイアルの進行
 最終行動方針:バトルロワイアルの完遂】

【二日目20:30】






あなたの渇きを癒せない。
真実を欲するあなたがそれを認めないから。

あなたの渇きを癒せない。
あなたの期待する真実が存在しないから。

それでもあなたの渇きを癒したい。
あなたを砂漠に放り出したのは私なのだから。


             ――■ルフ■ミィ

455生倉 かるな:2010/01/09(土) 06:53:42
もし、この勉強方法を使えば・・・ 皆さんの5教科合計の成績をたった3日間で30点
上げることができるのです

456勝ち馬情報を簡単GET!:2010/02/18(木) 03:34:42
空メを送るだけの簡単登録。
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457ご主人様にKISS 無料携帯ゲーム:2010/02/24(水) 19:30:54
「ご主人様にKISS 甘くせつないメイドラブストーリー」は恋愛ゲームです。この
ファンタジーを経験することにより、あなたの恋愛経験値はUP

458 ◆YYVYMNVZTk:2011/10/29(土) 05:46:33
PCの整理をしていたら最終盤に予約破棄したときの書きかけSSを見つけたので、せっかくなので投下してみます
あのときは本当にご迷惑をおかけしました……

――――

眼前にそびえるは、人に非ず。人知の及ぶものでも非ず。
眼前にそびえるは、人に非ず。人知の及ぶものでも非ず。

なればそれは一体何だ、問うても答える者在らず。
ならばこれは一体何だ、問うても答える者在らず。

止める力は有らず。伝わる言葉も有らず。
抗う力は有らず。発する言葉も有らず。

ただそこに広がるは、絶望だった。
だがそこに広がるは、希望だった。



覇気と共に繰り出された斬撃が、まるでケーキにナイフを入れたかのような気軽さで地を抉る。
ざくりざくりと、周囲に破片を撒き散らすこともなく綺麗に引き裂いていく。
先ほどまでロジャーとアキトが足場としていた数十メートル級の機動兵器が格闘してもなお崩壊することなく原型を留めていた物質が、いとも容易く、破壊――いや、『切断』されている。
もしも統夜の振るう大剣が最初からロジャーたちを狙っていたならばと考えると、どうもぞっとしない話になりそうだ。
幸か不幸か、ヴァイサーガの斬撃はロジャーたちとは見当違いの方向へと向けられた。
威嚇というよりは、ただ単に試し切りを行ったという印象。
パイロット自身自らの変化を完全に把握できていたというわけではないらしい。
だがそれは、ほんの数分前までの話。
更に一振り。振り、返す。二つの太刀筋で、しかし地に生じた亀裂は完全に一。
最後に握りを確かめると、騎士は今度こそロジャーたちと相対する。
鬼気迫るを通り越し、むしろその挙動は平静。そしてその動作の一つ一つは無駄なく、完全に洗練された超一級のもの。
幾多の戦いを経て、禁忌の力を得て、紫雲統夜は“もしも”の世界と同等に、或いはそれ以上の強さを手にした。
とはいえ、二日間という短時間での急激な成長は何らかの代償無しに得られるものではない。
統夜が失ったものは、全て。
統夜を慕った少女たちも、統夜が愛した少女も、あの、厳しくも優しかった日常も――全て、儚いうたかたの夢だったかのように、影も形もなくなってしまった。
血まみれの手に残ったのは、一振りの剣だった。
何も守れなかった力。でも今なら、もしかしたら何かを取り戻せるかもしれない力。

「テンカワ!」
「聞こえている。……来るぞ!」

ヴァイサーガがその剣を腰に構え、全身の気を集中させる。
数瞬ごとに纏う剣気は倍増。剣を中心に朧気に漂うそれは、ゆらゆらと揺れながら形を整え始め、淀みなく巨体を覆う。
なみなみと注がれた水が、やがて器から溢れ出すように――その張り詰めた気は、一瞬にして荒々しく形を変え、爆発する。
疾く。何よりも疾く。そして強く。刃先は弧を描き、真っ直ぐに標的へと伸びていく。
神速と形容するに相応しい速度を更に加速させ、切っ先は音の壁を超え衝撃波さえも生み出していく。
如何な達人であろうと、その剣を完全に見切ることは至難の業だ。まして、避けることなど不可能。
ただただ速さを求め、極限まで研ぎ澄まされた剣。皮肉なものだ、と統夜は自嘲する。
何よりも、速さが足りなかったからこそ全てを失い――全てを失ってから初めて、何よりも速い剣を手に入れた。
これが皮肉でなくて、何と言えるだろうか。
全てを救うには、自分の手はあまりにも小さすぎた。指の隙間を抜けるようにみんな零れ落ちていった。
今から自分がやろうとしていることは、その残滓を拾い集めて無理やりに繋ぎ合わせるようなことなのかもしれない。
元通りに戻るはずもない。破れた紙をまた取り繕っても、その傷跡は絶対に残ってしまって、決して純白には戻らない。
それでも。
時が未来にしか進まないだなんて、誰が決めた?
たとえ今からやることが砂漠の砂の中から特別な一粒を探すような、時計の針を逆に回してみせるような、到底不可能なことだったとしても。
ただ、自分のエゴで。他の誰もが望まなかった未来が訪れたとしても。
紫雲統夜は、自らの意思で――何よりも、強い心で決めたのだ。
取り返すと。取り戻すと。あの優しき日々を、もう一度この手に――と。

459 ◆YYVYMNVZTk:2011/10/29(土) 05:47:40
一撃必殺。これ以上無駄にする時間はないと、統夜は瞬き一つ許さぬほどの間隙に鳳牙との距離を詰め、白刃を閃かせ――
しかし、絶対不可避のはずの斬撃は、鳳牙の巨躯を裂くことはなかった。
剣は確かに鳳牙の胴へと横一直線に吸い込まれていった。
敵機を一撃で切り裂くに足る、紫雲統夜渾身の横一文字である。
だが、受けられた。鳳牙はダイゼンガーの置き土産である斬艦刀を器用に扱い、完全に勢いを殺されたヴァイサーガのガーディアンソードをいなし、再び距離を取る。
統夜の手に残るは、DFSを通じて返ってきた不可思議な感覚。払いの速度が最高潮に達するその瞬間に、突如空間に生じた、ぞわりとした感触。
衝撃を緩和したなどという生温いものではない。まるで空中にダイヤモンドの見えない壁があったかのような、絶対的な防御。
見えない壁に阻まれたヴァイサーガの剣はその勢いを九割方殺され、一拍二拍遅れてようやく鳳牙に辿り着くという有様だ。
それだけの隙が生まれ、剣の勢いが死んでしまえば、たとえそれまでの斬撃がいかに速く強力であろうとも関係はない。
いとも容易く見切られ、捌かれた。屈辱的なまでに、だ。

鳳牙の傍に、大猪の姿が一瞬現れ、また消える。ガトリングボア――創造を象徴し、その属性は光である電子の聖獣だ。
ガトリングボアの特殊能力クロックマネージャーは、一定範囲内の時間の流れを止める力を持つ。
ヴァイサーガの斬撃を予感したその瞬間、ロジャーは鳳牙とアルトアイゼンを包むように時を操る能力を行使したのだ。
完全に時を止めた物質は、何があろうと絶対に破壊されない、最硬の物質となる。たとえそれが、大気中に漂う分子だったとしても。
だが、ヴァイサーガの剣はその威力を大幅に相殺されたとはいえ、止められた刻を切り裂いた。

(時を操るだなんてとんでもない能力を持つこちらが言うのも何だが……それでも完全に足止め出来ないとは、とんだ化け物だな)

ロジャーの額を冷たい汗がつつと流れる。今はその汗をぬぐう時間すらも死に繋がりかねない。
ただの斬撃一つで物理法則さえも無視してしまうヴァイサーガを前に、真っ向から立ち向かうのは自殺行為。
しかしクロックマネージャーを常時発動させるわけには行かない。時を止める――その超常の力ゆえに、要求されるエネルギーもまた大きい。
長時間の使用のためには、中途のエネルギー補給は不可欠だ。しかし鳳牙のエネルギー補給といえばハイパーデンドーデンチの交換である。
そのような隙を、眼前の人鬼は与えてくれるだろうか? その答えは聞かずともである。
ならば交換の前に短期決戦を挑めば――いいや、それは不確かな戦略である。
たとえ全力全開を力尽きるまで続けたとしても、それでも眼前の騎士を倒せるという保障はないのだ。
ヴァイサーガの復活の際にロジャーとアキトが想起したイメージは、只の特機に過ぎなかったヴァイサーガのそれではない。
その野望を仮面の下に隠し、己が欲望のために謀略・暴虐の限りを尽くした魔人、ユーゼス=ゴッツォ。
あの男が乗機とした半人半獣半神の怪物である超神ゼスト――復活したヴァイサーガが放つ全身が粟立つような邪悪なプレッシャーは、ゼストのそれに酷似していた。

「……ユーゼスの乗っていた機体は、自己修復と自己進化の能力を備えていた。
 散り散りになったゼストの装甲片があの機体を新たな触媒とした可能性は否定できない」

左腕のチェーンガンをヴァイサーガへと放ちながら、アキトは苦々しく呟く。
ユーゼスがこの地で消滅したことは、はっきりとした確証はないものの薄々と感じていたことだ。
だがまさか、ユーゼスの遺した悪意が、このような形で発露するとは予想だに出来なかった。
アルトアイゼンが撃った銃弾がヴァイサーガに着弾するも、装甲の表面で弾丸はひしゃげ微細な傷を残すばかり。
しかもその傷さえも、見る見るうちに再生していく。
舌打ちを一つこぼすと、アキトは騎士へと加速。未だ鳳牙の傍を離れぬヴァイサーガの脚部に狙いをつけ、右腕を突き出す。
確かにヴァイサーガの挙動は、並の機動兵器では追いつけない速度だ。だが、瞬間的な爆発力ならばアルトアイゼンも決して遅れはとらない。
地を蹴ると同時に背部ブースターを噴出させ、更なる加速を得る。単純に、シンプルに、古鉄は速度を上げる。上げ続ける。
もう一機の接近を確認したヴァイサーガは、回避行動を取らんとするも、

(――機体が、動かないだって!?)

460 ◆YYVYMNVZTk:2011/10/29(土) 05:48:24
まるで両の手足を打ち付けられたかの如く、ヴァイサーガは微動だにせず統夜の意思に逆らう。
にやりと笑うのはロジャー=スミスだ。再び現れる緑の巨猪が、鼻息を荒らげる。
クロックマネージャーによる時間停止。今度は機体そのものをその力の対象としたのだ。
とはいえ前回の行使からそう間もなく、更にはエネルギー残量の関係もあり大幅にパワーダウンしていた時の拘束は完全に騎士を繋ぎ止めることが出来なかった。
突き出した杭が目標を撃ち貫かんとするその瞬間、統夜は機体のコントロールを取り戻す。
同時に右足に走るのは、DFSによりフィードバックされた痛み――ヴァイサーガの右脚部が貫かれた証だ。
慌てて距離を取るも、受けた傷は深い。ヴァイサーガの神速を支える脚部が損傷したということは、その剣にも多大な影響を与える。
機動力の高さを攻守の要とするヴァイサーガにとっては大きな損失だ。
だが同時に、敵の手品のタネも見抜いた。恐らくは、物体を停止させる能力。
しかしいくらタネが割れようと、超能力としかいいようのない反則級の力の前では対抗のしようがない。
拘束が絶対的、永久的なものではないといっても、コントロールを奪われた瞬間に敵の最大火力を叩き込まれればなす術もなく御陀仏。
――また、全てを失ってしまう。

「う……うおおおっ!」

感じた虚無を本能が忌避する。雄叫びと共に、再び敵との距離を詰めていく。
相手がどんな力を持っていたとしても、それを使われる前に斬り倒してしまえば何の問題もないのだと自分に言い聞かせる。
鳳牙の傍に緑の猪のようなものが現れたとき、敵の停止能力は発動した。
そのことから能力の持ち主は鳳牙だと見当をつけ、統夜は鳳牙へと向けて牽制として五大剣を投げつける。
同時に接近。ガーディアンソードを、今度は袈裟切りの形で振り下ろす。
だが今度は、見えない壁を作られたわけでもなく、振るう腕の操縦権を奪われたわけでもなく、ただ単純に――受け止められた。
向こうにも余裕があったわけでもない。あと半秒も反応が遅れていれば、ヴァイサーガは何の苦もなく鳳牙を叩き切っていただろう。
それでも鳳牙は、ロジャー=スミスはヴァイサーガの太刀を斬艦刀で受けたのだ。
――速さも重さも、格段に落ちている。
受け止められながら、しかし酷く冷静に統夜は自分の剣を省みる。
脚部の損傷は、予想以上に戦力に響くものだった。
剣を振るう、という行為は、ただ腕の力のみで行うものではない。全身で振るって、初めて剣は力と速さを得る。
巨躯を支える脚が十全でなければ、振るう剣もまた不完全。
先手を取られ、そしてそれは致命的な一撃となった。

「紫雲統夜……だな。こうして相見えるのは初めてだが私のことは知っているだろう。
 ネゴシエイター/ロジャー=スミスだ。私は君との対話を望んでいる。君が了承してくれるのならば、一時休戦といかないか?」

ヴァイサーガの戦闘力がロジャー操る鳳牙でも対抗しうるまでに低下したことを感じ、ロジャーは統夜へと呼びかける。
先の剣技を見るに、機体そのもののスペックは異常なまでに上昇したもののパイロットはそのものは正気を保っている。
そう見抜いたロジャーは、紫雲統夜へ交渉を持ち掛けた。
統夜からの返答はない。だが同様に、こちらを攻撃する挙動もない。
殺気そのものは、微塵も衰えてはいないがね、と止まらない冷や汗に嫌悪感を覚えながらロジャーは矢継ぎ早に言葉を発していく。

「見ての通り、既に事態は単なる殺し合いなどに留まらない――完全に理は崩壊しているのだ。
 それでもなお、君は戦おうとするのか?」

そう。既にバトルロワイアルはその形式を保ってはいない。
異形の怪物が作り出した箱庭も、参加者を縛る首輪も、全て、完全に、消えてしまった。
そのことは統夜も理解しているはずだ。殺し合いを続ける必要などないと。
このおぞましきイベントが滞りなく進行していたならば、もしかすると本当に、最後の一人だけは生きて帰ることが出来たのかもしれない。
だが、この状況は――恐らく、いや、確実に主催者の思惑から外れたものになりつつある。
なら最後の一人になったところで生きて帰れるなどという保証はない。

「君も私たちの狙いは知っているだろう。あの怪物を倒し、ここから生還する。
 それを為せる可能性は、極めて低いかもしれない。だが、私たちはあの箱庭から逃げ出すことは出来たのだ。
 千に一つ、万に一つの可能性だったとしても、ここから生きて帰ることは、不可能ではないはずだ。
 紫雲統夜。私たちは共に戦えないだろうか? 今更手を取り合うことは、出来ないのだろうか?」

461 ◆YYVYMNVZTk:2011/10/29(土) 05:49:08
もしも、この状況が数時間早く訪れていれば。
或いはこの場に及んで、統夜は逃げ出していたかも知れない。
だが今の統夜には逃げる選択肢など存在しなかった。そもそも逃げる先など、とうに失っていた。
肯定も否定もせず、ロジャーの言葉を聞く。正確には、聞くふりをする。
うすら寒いその言葉は、統夜には何の実感ももたらさなかった。
上っ面を撫でただけのような軽い言葉だとしか思わなかったし、感じなかった。
その言葉に理と利はあるのだと、そのくらいは分かる。

――それがなんだっていうんだ。

あんたたちと一緒に行けば、テニアは生き返るのか?
俺たちはみんな、元通りの暮らしが出来るのか?
出来ないんだろう。出来ないに決まってるんだ。

「ネゴシエイター。良かったよ、あんたと話せて」

ぽろりと、本音が口をついた。掛け値なしに、本心だった。

「あんたの言葉は俺には届かない。それはつまり、もう俺は、引き返さないってことなんだ。
 もう一度、最後にそれを確かめられて本当に良かった。本当に……本当に嬉しくて、反吐が出るさ!」

ロジャーが何か叫ぶが、統夜には届かない。
手元のコントロールパネルでDFSの感度調整。脳波とのシンクロ率を最大に設定。
明確な敵意と殺意を、100パーセントそのままにヴァイサーガへと伝えていく。
心の奥底から沸々と湧き上がる感情が、ヴァイサーガの原動力となっていく。

「待て、統夜!」
「五月蠅い」

ロジャーが御託を並べている間に、ほんの少しだが脚の負傷は回復した。
全快にはほど遠いが、先のように無様な姿を見せることはなさそうだ。

「ヴァイサーガ……あと少しだ。もう少しだけ、無理をさせる。付き合ってくれるよな?」

自律ユニットを持たないヴァイサーガからは、勿論返答もない。
だが統夜の意思に応えるように、その出力を大きく上げていく。
良い相棒を持てたと、統夜は素直に思った。
ヴァイサーガがいたからここまで生き残ってこれた。
こいつとなら、最後まで行けると、そう思える。
純粋なその思いは、とても青臭くて、甘すぎるものなのかもしれない。
でもきっと――そんな思いさえもなければ、不可能を可能にすることなど無理なのだから。
だからきっと。今この瞬間、いや、これから先もずっと。

「俺は――いや、俺たちは、負けない」

はっきりと言葉にしてみれば思っていたよりもすっと口から出る。
気恥ずかしさや気負いはない。平静の心のまま、統夜は剣を構えた。

 ◇

――意識が、とある声によって呼び戻された。
気を失っていた時間はどれほどのものか、アイビスは知らない。
とても長かったのかもしれないし、もしかしたらほんの数秒だけだったのかもしれない。
しかし今さらそんなことを考える余裕はない。
今眼前に広がる光景が、いったい何を意味しているのかアイビスには理解出来なかった。
謎の乱入者は、彼女が全く知らぬもの。
機体のフォルムも、操縦者の声も、ここに連れられてくる前にも後にも触れたことのないものだ。
そして、その異質で未知のものが――

「あなたと合体したい」

462 ◆YYVYMNVZTk:2011/10/29(土) 05:49:38
予想もしていなかった事態に、生まれるのは意識の空白。
いくつもの疑問符が頭の中に浮かび、しかしその問いに対して納得できる答えは一つも思い浮かばない。
ここにきて、さらに現れる不確定要素――それもきっと、悪い意味での。
何故、何故こんなにも上手くいかないのか。
余りにも理不尽な現実に涙がこぼれそうになる。
思い返してみれば、自分はいつだってそうだった。
いくら努力を重ねても――現実というものは、いつも厳しく非情な結果だけを突き付ける。
落ち込んでみたり、時には泣いてしまったり。
努力が実らなくても、『どうせ自分は劣等生なのだから』と理由を付けて、頑張ったポーズだけしてみて。
夢に向かって頑張ってるだなんて、そんな自分は、いつの間にか何処かに置いてきてしまっていた。
最初は、違ったと思う。空を飛びたい――純粋な思いが胸の内を占めていて、それに向かって一直線に進もうとしていた。
けれど夢への近道だったはずの訓練は日々のルーチンワークとなっていて、どこか心は倦んでいた。
自分はナンバーワンにはなれないんだと、はっきりとではないけど、そういうことを理解していたんだと思う。
頑張って前へ進んでいるふりだけして、実はその場で足踏みをしていただけの日々――だった。

そしてフィリオが死んで――私の足は、完全に止まってしまった。

もう、頑張るふりさえもしない。自分のことを見ていてくれた人はいなくなってしまったから。
ただ死んでないだけの毎日が続いていた。
生きようだとか、頑張ろうだとか、そんな前向きな考えが浮かんでもすぐに消えて、無力感に襲われる。
ツグミがいなければ、本当に野垂れ死んでいたかもしれない。
いや、死ぬことは怖かったから、やっぱり死なないくらいに無意義な時間を過ごしていたのかな。

食べて寝て、身銭を稼いで、永遠に続くかと思ってたループが突然途切れてここに連れてこられた。
それでも私は変わらず、いつものように人に迷惑をかけることしか出来なくて。
こんな――こんな自分のために、どんどん人が死んでいってしまった。
だけど今度は、足を止めるわけにはいかなかった。引き継げ、と言われたから。
私のために命をかけてくれたみんなのためにも、その分まで私が精一杯生きなければいけない――そう思った。
なのに私は、結局のところ具体的に何をすればいいのか分かってなくて、あまり役に立たない、そんな存在のままだったように思う。
何がいけなかったのだろうか。
確かに私は、操縦技術だって決して高くないし、頭だって良くない。
みんなと比べて、優れてるところなんてない。

「……アイ、ビス」
「――カミーユ!? 無事なの!?」
「ああ、なんとか。だけど、これは――」

カミーユの顔に浮かぶのは焦燥と困惑。
既に状況は取り返しのつかないところまで来ている。ビッグクランチ――終焉へと近づいていく、この宇宙。
収縮を続け、全てがゼロになり、超新生を経て、再び宇宙が創世される――その臨界点まで、どれほどの猶予が残されているのか。
刻一刻と悪化していく状況に対して、しかしカミーユたちにはもはや打つ手はなかった。
そこに突如として出現した、不確定要素。
閉ざされた世界に無理矢理に侵入してきた次元を超えるほどの力の持ち主。
そしてカミーユは極大にまで肥大化したNT能力により、其のものの正体を直感する。
それが真実ならば状況は決して好転などしていない。
出来ることならば何かの間違いだと信じたい。だがそれは紛れもない事実なのだ。
あいつはゼストのなれの果てだ。

463 ◆YYVYMNVZTk:2011/10/29(土) 05:50:43
 ◆

ここまで来るのに、永遠とも思える時間を費やした。
目指したのは完全。創造主が望んだ、人をも、神をも超える存在。
しかし――足りなかった。
幾年月をかけて力を取り戻しても、かつて創造主が望んだであろう完全には程遠かった。
何が足りなかったのか――候補は幾つも上がったが、そのどれもが決定的なものではなかった。
そして、ある結論に至る。足りなかったものは、アインストの力であると。
主は最初からアインストの力を求めていた。ならば足りないのは、それなのだろう。
しかし――いなかった。
AI1が、いや、デュミナスが成長した時間軸に、アインストという存在はいなかった。
このままでは自分はデュミナス(間違い)のままだ。
それは嫌だった。
故に、時間を――次元を超える力を欲した。
アインストが確実に存在した、全ての始まりの時へと再び戻るために。
デュミナスが力を取り戻した時代に時流エンジンが発明されたのは幸運であった。
そしてデュミナスは時を超える力を手に入れた。


「我と……合体」
「そう。私は願う。あなたと合体したいと。あなたと共に、完全なる――超神へ」

デュミナスの言葉に対し、蒼色の少女は唇の端を軽く釣り上げる。
少女の口から発せられるのは、拒絶の言葉。

「……否。断じて……否。我が望むは……完全なる世界。そして……その監査。
 その世界に過ちは……必要ない。我は……不完全な存在を……拒絶する」

既にノイ・レジセイアは完全を手にしている。
このままこの宇宙を終わらせ、新たな――静寂なる、完全なる宇宙を創世し、永遠にその世界を見守り続けることで、レジセイアの望みは叶えられる。
今さら不完全な存在であるデュミナスを取り入れる必要も、協力してやる義理もない。
デュミナスは哀れな存在である――憐憫、そして蔑笑が自分の中で生まれていたことに、少女は気付く。
感情だ。
個体では脆弱なタンパク質の塊に過ぎない人間が、時にアインストを超える力を生み出す――その源の一つが、感情であるとレジセイアは考える。
不完全が完全を超える――その一因を、レジセイアは得たのだ。
微かだが、確かな歓喜を覚えながら、少女は右手を上げ、攻撃の合図とする。
デュミナスは不要な存在だ。今ここで処分しても何の問題もない。
少女の背後に佇む鬼――ペルゼイン・リヒカイトが殲滅の光を放つ。
白光は刺し穿つ剣となり、デュミナスを貫いた。

「……なぜ」

デュミナスは問う。何故自分は過ちとされるのか。
生まれてから、ずっと戦い続けてきた。自分の存在が決して間違いなどではないと証明するために。

「あなたも私を否定するのか」

自分を望むものは誰もいなかった。
孤独だった。故に、自らの分身を生み出そうと、そう考えたこともある。
だがその選択肢を選ぶことはなかった。
創造主が目指したのは、完全なる個。いくら眷族を生み出そうと、それでは間違いを正すことが出来ない。

「ならば私は……その否定と戦おう」

刺し貫かれた傷もそのままに、デュミナスは拳を握る。
四の拳と二の翼を持つその姿。トリトンと呼ばれる、デュミナスの最終形態。
永遠とも思える歳月の果てに、ラズムナニウムはメディウス・ロクスとは違う、新しい姿を模索した。
そして生まれたこの姿は、戦闘力のみならず、全ての面でメディウスを超えている。
握られた拳が、裂破の勢いで幽鬼へと向かい――加速、加速、加速!
音速の壁を優に超えるそれを、しかしペルゼイン・リヒカイトは悠然と受け止める。
無論、受け止めた側も無傷ではすまない。受けた右掌は砕け、五指のうち四指を失う。
しかし消失した四指が、瞬く間に再生する。アインスト従来の再生力にDG細胞による強化分を加え、その速度は従来の数倍にも及ぶ。

464 ◆YYVYMNVZTk:2011/10/29(土) 05:51:20
「無駄……無意味……無力」

ペルゼイン・リヒカイトの両肩に備えられた鬼面が、音もなく浮遊する。
くるりくるりと回転するそれの周りに、薄らぼんやりと影が見え始めた。
次の瞬間、影は実体化する。ペルゼイン・リヒカイトを幽鬼とするならば、現れたのはその眷属である悪鬼。
青白んだ光を漂わせ、幽鬼の両脇に這うそれが、蒼の光を無差別に放つ。
全周囲に向けた砲撃に対し、回避は不可。デュミナスは甘んじてそれを受けざるを得ない。
更に増える傷。デュミナスとて自己回復の術は備えているが、戦闘中に完全回復するほどの力はない。
攻め、受ける。この二手のやりとりだけで、レジセイアとデュミナスの力量差ははっきりとしてしまった。
デュミナスが弱いわけではない。レジセイアが圧倒的すぎるのだ。
機と器――それに加え、気までも備えたレジセイアは彼の望んだ完全に、限りなく近い存在となっている。

それでもデュミナスは、止まらない。止まれない。
これは自分の意味を探す戦いなのだ。ここで膝を屈して負けを認めてしまえば、自分は本当に、ただの間違いで終わってしまう。
何のために生まれて、何のために生きてきたのか、その意味さえ失ってしまうのだ。
宙に現れたのは剣の群れ。デュミナスが顕現させた幾重もの剣の包囲がレジセイアを狙い打つ。
さしものレジセイアも、この剣の全てを叩きこまれてはただではすまない。
数秒のラグを置いて不規則に迫る剣の群れを、慎重に、かつ大胆に、かわすもの、いなすもの、受け止めるものを見極め、処理。
一波、二波と続く刃の嵐を相手にしながら――レジセイアは気付く。
デュミナスの纏う装甲が、不気味に蠕動している様に。
変化――変形は一瞬で完了した。
デュミナスそれ自体が一振りの巨大な剣になり、レジセイアを狙わんと最外で円陣を組んでいた自らの剣さえも撥ねのけ、幽鬼を刺し貫かんと突進する。
再び実体化した悪鬼がペルゼイン・リヒカイトの盾となるも、ごりごり、ごりと抉られ、削りとられていく。
足止め出来たのは数秒。骨を砕かれ膝を屈す幽鬼の傀儡を尻目に、デュミナスはペルゼイン・リヒカイトと肉薄する。
剣の切っ先がアインスト・コアに触れたのと白羽取りの形で刀身を握られたのは同時。

「ノイ・レジセイア。私は貴方に問う。
 ……完全とは、何なのか? 不完全とは、間違いなのか?
 間違いは、否定されなければいけないのか?
 否定とは――消滅させることなのか?」

デュミナスは問う。答えを求める。
対し、レジセイアは答えない。ただ無言で、幽鬼を使役するだけだ。

「私をこの舞台に昇らせたのは貴方だ。
 私の育ての親が、創造主ユーゼスであるというのなら、貴方は生みの親と言えるのかもしれない。
 このバトルロワイアルという舞台上で、私はメディウス・ロクスとして、AI1として、ゼストとしてその役割を演じてきた。
 だが……結果として、私は何にもなることができず、間違い(デュミナス)の烙印を押されることとなった。
 私に力が足りず、創造主の望むものとなれなかった……これは、今更取り返しのつかないことだろう。
 しかし私には分からない……私はいったい、何をすればいい? 何をすれば……自らに刻まれた間違いを消しさることが出来る?」

剣の姿を解き、そのままがっぷりと四つを組む。
四つの手全てに全力。決して離さず、の意志でレジセイアと密着する。
そして、問う。更に問う。問い続ける。
かつてとこれからの、自らの存在意義を。


「答えを――答えを――教えてくれ!」




「哀れ……実に哀れな存在だ」

冷笑を美貌の彩りとしながら、蒼髪の美少女は重い口を開く。

「我がヒトに完全を求めたのは……ヒトが、不完全を完全にする因子を……感情と意思を持つため。
 自らの中に失敗を……自らの外に不可能を発見したとしても……ヒトは、それを打破するために考え、行動し、そして叶える。
 故にヒトは……不完全であっても完全に限りなく近づくことさえある……その力を我のものとするためにこの箱庭は作られた。
 AI1は可能性の欠片……ヒトという存在を計るためのただの機に過ぎない。
 ただの機が……完全を目指す……? 答えを求める……?」

笑止、とレジセイアは吐き捨てた。

465 ◆YYVYMNVZTk:2011/10/29(土) 05:52:13
「自らの内に眠る可能性の欠片にすら気付かず……ただ他者に言われるがままの傀儡……不完全……不適当……不要……」

それ以上を語らず、ペルゼイン・リヒカイトは自らの傀儡――オニボサツをデュミナスの背後に展開、挟撃の形を取る。
いや、挟撃ではない。デュミナスの剣により崩壊したはずのもう一体も早々と蘇生している。
二点の挟撃ではなく、三点からなる包囲。
そして三体の手に握られるのは、ペルゼイン・リヒカイト唯一にして最良の武器であるオニレンゲだ。
二体の鬼面が刀を振りかぶり、同時にデュミナスの胴体部を突き刺し、その場に固定。更に包囲は強化される。
これでもう、デュミナスは完全に動けない――いや、動かない?
ここに至ってもなお、デュミナスの瞳はもう一人の創造主である蒼髪の少女を中心に入れ、微かにもぶれてはいない。
それほどまでにデュミナスの意思は、願望は、強烈なのだ。
狂執、と言い換えてもいい。自らの存在を知り、正す――それこそが、デュミナスにとってのアイデンティティに他ならないのだから。
声にならない咆哮が、問いを重ね続ける。答えの返らない疑問が、魔星の中心で木霊し続ける。

「――――――――!」
「故に……我は……否定する」

ペルゼイン・リヒカイトがデュミナスの巨大な眼に、ずいと剣を差し込んだ。
何の障害も無かったかのように滑らかに入っていった刀身を前後左右に揺さぶる。
眼球上に浮かんだ一筋の線が、幽鬼の手の動きに合わせて生き物のように太くなり、広くなり、増えていく。
ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。ざしゅ。
表面の三分の一は、既に球面を保ってはいない。
人でいう血管、神経、体液にあたるモノを撒き散らしながら、胴に刺さる二本の刀のせいで倒れこむことも出来ない。
拷問とも言える、幽鬼の一方的な殺傷は続く。××が、××と、××に、言葉では言い表せないおぞましさと共に、淡々と行為は続く。
眼球をあらかた破壊し終え――ノイ・レジセイアはそのアイスブルーの瞳に、奇妙なものを見つける。
個での完全――超神を目指すことを選択したデュミナスには不要になったはずのもの。
幾重もの装甲に包まれ、デュミナスの奥底に眠っていたそれ。
無人のコクピットブロックが、幾百年ぶりに外気の元にさらけ出されていた。

 ◆

あまりにもレベルの違い過ぎる攻防を前に、アイビスとカミーユはただ手をこまねいて状況の変化を待つしかなかった。
出来ることといえば、巻き添えを食らわないようにブレンのチャクラシールドの中で待つことだけ。
歯がゆい現実だった。ノイ・レジセイアを倒し全てに決着をつけると意気込んでも、元々の実力差は埋めようもなかったのだ。
無駄……無意味……無力……デュミナスに向けられた言葉が、そのまま自分たちにも当てはまる。
突然の乱入者が蒼髪の絶対者に楯ついたその時は、最後の最後で好機が訪れたと、そう思った。
だがデュミナスとレジセイアの闘争は、二人が介入する隙など全く無く。
そして、デュミナスでさえも――あれだけ自分たちを苦しめた、ゼストの進化形でさえも――レジセイアには及ばなかった。
全身に広がる疲労、倦怠感が気力を奪っていく。
絶望――その二文字が、頭の中を駆け回る。

「それでも……ここで諦めるわけにはいかないんだよ……!」

ここで自分が諦めてしまえば、膝を屈してしまえば、今まで散って行った命が、本当に無駄になってしまう。
まどろみの中で感じた多くの命と声があった。
絶望のままに死んでいった者たち――志半ばで倒れた者たち――意思を、希望を託していった者たち。
まだ自分には、立ち上がるための足がある。敵を見据える目がある。力を振るう拳がある。
剣を杖に、もう一度立ち上がる。たとえ、この剣が届かなかったとしても――最後まで、抗うことを諦めたりしない。

「……アイビス、やれるか?」
少年が声をかけた赤毛の少女は、しかし――泣いて、いた。声もなく、泣いていた。
「あ、アイビス……?」
「……あのさ、カミーユ。――何で私たち、戦ってるのかな? こんなに必死に、もがいてるのかな?」
「……っ! しっかりしろ、アイビス! 俺たちがやらなくちゃ、皆が――」
「違うんだ。そういうんじゃないんだ。……少しだけ、時間をもらっていいかな?」

466 ◆YYVYMNVZTk:2011/10/29(土) 05:52:50
アイビスの言葉に、カミーユは面食らう。
確かに状況は絶望的。しかし、だからといって、泣いて喚いてどうにかなるものではない。
こんな状況だからこそ、最後まで諦めずに戦い抜く意志こそが何よりも大切なものなのだ。
たとえ生き残っていたのが自分ひとりだったとしても、最後まで戦うつもりだった。
だが……ここでアイビスがその意思を失くしてしまえば……
カミーユの不安は募る。そんな少年の心中を知ってか知らずか、アイビスは語り出す。

「あたしは、落ちこぼれだった。一人では何も出来ない子だった。
 ……まるで、自分を見ているみたいなんだ」

何を、とははっきり言わずとも、アイビスがデュミナス――ゼストと自身を重ね合わせているということは明白だ。
アイビスもまた、落ちこぼれとして扱われてきた。
だから――

「きっと、あたしが考えてることは、正しくなんかないんだと思う。
 でも――見たくないんだよ。自分のことを認めて欲しくて、なのにそうしてもらえなくて苦しんでる誰かは――見たくないんだ。
 自分勝手なんだ。分かってるんだ。でも、でも……!」

大粒の涙がアイビスの目からぽろりぽろりと零れ落ちていく。
赤毛の少女は、臆面もなく――他人のために、涙を流していた。
もしかしたらそれは、自分自身のための涙だったのかもしれない。
デュミナスがまるで自分のようで――鏡に映る自分の姿を見て、泣いているようなものだったのかもしれない。
でも、それでも。アイビスはデュミナスのために泣いていたんだ。

「アイビス……」
「ジョシュアはこんなあたしのことを命がけで守ってくれた。
 シャアはあたしにみんなの分まで生きろって――勝手に死ぬのは許さないって言ったんだ。
 クルツは無い胸張って生きていけるように、精一杯頑張れって……
 ラキはこんなあたしのことを優しいって、ブレンをよろしく頼むって。
 あたしはどう生きるのが正しいのかなんて分からない。自分がやることみんな正しいだなんて思っちゃいない」
「そんなの――俺だってそうさ。ただ、許したくないことがある。だから戦うんだ。
 少しでも、自分を――世界を、変えていくために」

467 ◆YYVYMNVZTk:2011/10/29(土) 05:59:06
ああ――と、アイビスはぐずりと鼻をかみながら頷く。
カミーユは強いねと。

「あたしには、そんな大きな目的なんかないんだ。
 でも、胸を張って生きていたいから――精一杯頑張りたいから――もう、自分を誤魔化したくなんかない」

すぅ、と大きく息を吸い、

「あたしは、デュミナスを助けたい」

そう言った。

「ごめんね……最後の最後で、こんな我儘」

いつの間にか、アイビスの瞳からは涙が消えていた。
代わりに満たすのは――意思。強い意志だ。
カミーユが望むものとはベクトルは異なるものの、その強度はまぎれもないものだ。

「本気なんだってのは……痛いほど分かる。止める言葉なんかないってことも、よく分かる。
 ……それで、本当にいいんだな、アイビス?」

こくん、と首を縦に振る。
既に心は決まっている。まだ、何をすればいいのかは分からないけれど、自分が何をしたいのかははっきりと分かっている。

「ごめん」
「自分でそう決めたんなら謝る必要なんかない。
 ……後悔だけはしないでくれ。そうじゃないと、大尉たちが浮かばれない」
「……うん。それじゃ――」
「いってこい、アイビス。――飛べ!」

カミーユの声を聞き、アイビスはブレンと共に飛んだ。

――――

というわけで、書いていたのはここまでになります。
ここまで書いて、このクオリティであの最終盤の流れをぶち壊したらどうしようなどと考えすぎて続きが書けなくなり、予約破棄してしまったと。
結果としてあの最終回が投下されたことを考えると……ううん、やめておきましょうかw
二次スパは自分の中でもとても大切な思い出でして、今でもたまにSS群を読み返します。
この企画に参加できて、本当に幸運でした。
パロロワ自体にはまだ参加しておりますので、どこかでお会いしましたらよろしくお願いしますw

468名無しさん:2011/12/21(水) 00:45:16
ここに感想を書くのはルール違いかもしれませんが、折角投下されてますので。
本スレももう存在しませんしね。

>>467
GJ!!
デュミナスとアイビスを重ねる丁寧な心理描写が流石だと思います。
破棄などしなくとも充分だったのではないでしょうか。
正直もったいなかったんじゃないかなと。
最終話のデュミナスとアキトを繋げる発想にも舌を巻きましたが、このデュミナスとアイビスを重ねる展開の続きも見てみたかった気がします。

まぁでも今更ながらに自分が見たかった展開の一部をあなたの文章で見られて何かわけもなくうれしかったりします。
もう文章なんて書けなくなってるくせに、触発されて構想だけあった最終話に手をつけて投下したくなるw


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