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DQBR一時投下スレ

1ただ一匹の名無しだ:2012/05/01(火) 18:33:27 ID:???0
規制にあって代理投下を依頼したい場合や
問題ありそうな作品を試験的に投下する場所です。

前スレ
投下用SS一時置き場
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/30317/1147272106/

719 ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:41:12 ID:Z.uZw2LI0
投下します。

720その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:42:12 ID:Z.uZw2LI0
今一度状況を確認しよう。

つい先刻まで有象無象が集まっていたこの場所だが、今は自分を合わせて5人しかいない。

ほとんどがこの地を去ったか、戦いの果てに死んでしまった。




「私達は城へ戻る。ジャンボ、ホイミン。後を頼んだ。」
「オレでいいのか?」
「貴様しかいないのだからな。」
「うん。必ずターニアを連れ戻すよ。」

軽く言葉を交わして、二人は遠くへ行った。

それをアンルシアがぼんやりと眺めている。

残りは、自分も入れて3人。
加えて一人はなおも気絶している。


そして、目的の道具が目の前にある。

結論を言うと、今がロザリーのもとに帰る、千載一遇のチャンスと言える。


今一度周りを確認する。
誰も自分の動きには注目していない。

ゆっくりと、ゆっくりとティアのザックに手を伸ばす。
おわかれのつばさは、何の苦労もなく、自分の手に収まった。
そのまま、自分のザックにしまい込む。



「我々は城に戻る。二人共大丈夫だな。」

「…………。」

「ヤンガスの話によると、城には月の世界へ行ける窓があるらしい。脱出の手がかりもあるかもしれん。」


アンルシアは黙ってティアを抱え、ピサロについていく。

だが、一つ気がかりなことは。

今、ここにいる二人の安否だ。

正直なところ、見ず知らずの小娘二人、どうなろうと構わない。

だが、急に二人を置いて消え去れば、怪しまれかねない。
またおわかれのつばさを奪って消えるところを見られれば声を上げられる。
それが何者かに盗聴される可能性だってある。

721その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:42:40 ID:Z.uZw2LI0
自分としてはすぐにでもこの道具を使いたいところだが、一度城に戻り、月影の窓とやらを確認し、
そして二人から離れて使うべきだ。

ピサロがそう考え続けていたところで、


3度目の放送が流れた。



――――――「まずは禁止エリアの………」

どの道脱出するのだからどうでもいい。

アンルシアはジャンボが走って行った方をじっと眺めている。なおも変わらないままだ。

―――――「続いて、この地で死者の仲間入りになった………」

私にとって、生死が気になるのはこの戦いに参加した者ではない。

「ス…ら…い……m」
ティアのザックから、光る翼を取り出す。


「D……rあ…ン」

本物だ。図鑑で見たと同じものだ。

「と………n…ヌ……ら」

煩いノイズだ。


「お兄ちゃん!?」

ティアが突然目を覚ました。

全く持って忘れていた。
この少女の兄が呼ばれたとは。


「ティアちゃん!?」
アンルシアも意識を向け始めた。

「お兄ちゃん……どうして……なの?」

兄を失って、予想通りと言えばそうだが、ティアは錯乱状態だ。
アンルシアの背中の上で暴れ始める。

722その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:43:36 ID:Z.uZw2LI0
「落ち着け!!小娘!!」
ピサロとアンルシアの声も聞かずに、ティアは泣き始める。


どうにかアンルシアがティアをなだめるも、どちらも精神的に極めて不安定な状態だ。

こんな時に別の敵からの襲撃が来れば、大変なことになる。
どさくさに紛れておわかれのつばさのみを持ち逃げするというやり方もあるが。


早くこの場から離れないと十中八九面倒なことになる。


城が見えてきた。

(……!?)

だが、その城からは何とも邪悪な気配が伝わってくる。

元々ヤンガスの話によると、あの城はかつて呪われた時の姿になっていたという。
だが、そんなものではない。
昼間とは全く気配が違う。


他の二人は気付いていない。

一つはかつての自分の部下、ヘルバトラー……のようだが圧迫感が全く違う。
もう一つ、さらに城に近づいてくる邪悪なオーラを感じる。


城は今でも安全だとばかり思っていたが、そうでないことがすぐに伝わった。

月影の窓を見つけるどころか、以前現れたという場所である図書館に行くことさえ難しい可能性が高い。

だが、どうすればいい?
城が安全じゃないなら、他の場所が安全だということにはつながらない。


「止まれ!!」
城へ向かおうとしている二人に警告をする。

「城から邪悪な気配を感じる。しかも、二つもだ。」


「え!?」
アンルシアが慌て始める。


更に、城の中から、巨大な竜巻が巻き起こる。
バギクロスよりはるかに巨大なサイズだ。

ここにいてもいつ敵に感づかれるか分からない。

723その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:44:14 ID:Z.uZw2LI0

しかもタイミングの悪いことに、ティアが泣き始めた。
「おにいちゃん!!たすけてぇ!!どこにいるの!?おにいちゃぁん!!」

「静かにしろ!!キサマの兄は死んだ!!」

言ってすぐに、自分の行動を後悔した。

「おにいちゃんはどこぉ!?おにいちゃんが……しんじゃうはずがない………。」

子供をあやしたことなんて、一度もない。
どうにもできない状況で、予想外な周りの状況の変化に頭が回らない。

厄介な事態はさらに続く。


「そうだ!!お城にかえれば、おにいちゃんも、みんないるはずだよ!!」

ティアが自分のザックを探り始めた。

「待って!!ティア!!」

アンルシアがそれを止めようとする。
全く持ってこれは予想外だった。

私はてっきりティアがおわかれのつばさの使い道を知らずに、しまっていたのだとばかり思っていた。
だが、既に知っていたとは。

大方、仲間と共に使いたいとか、人間特有のくだらない理由だろうが、今更理由などはどうでもよい。


「あれ……!?どうして……ないの?」
当然ながら、ティアがおわかれのつばさがないことに慌て始める。


しかし、アンルシアは、もう一つのことに気付いていた。

「あなた……どうして……?」
その目線は自分のザックからはみ出ていたたおわかれのつばさに注がれている。


(!!)


これはまずい。

こうなってしまったが最後、おわかれのつばさを用いて脱出するしか道はない。

だが、おわかれのつばさを手に入れたのはよかったが、それの使い方までは知らない。
また使用した後、いつになれば帰ることが出来るのか。

一瞬で帰れるなんてことは、誰も言っていない。

724その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:44:50 ID:Z.uZw2LI0

「ジャンボの味方のフリして、私達を騙していたのね!!」

アンルシアはティアを地面に置き、戦乙女のレイピアを構える。


しかし、突然アンルシアの呼吸が荒くなり、手が震え、武器を落としてしまった。


(なんだ……これは……。)

恐らく仲間が人殺しをしていたという事実を、自分の行いが大量殺人を招いてしまったという事実がフラッシュバックしているのだろう。


(これは……まるで……)
全てを知り、ぬけがらのようになった、あのユーリルだ。


ティアはどうなっているのか後ろを振り返る。

先程の戦いの、エイトとかいう青年のように後ろから刺されてはたまったものではない。

予想通り、ロトの剣で斬りかかってきた。
しかし、所詮は修行もろくに積んでいない少女の太刀筋。
攻撃してくることを見れば、よけるのも簡単だ。

「……ぎが……でいん」

抜け殻となった勇者は、歯をガチガチ言わせながら、呪文を紡ぐ。
だが、雷の力はそれに答えてくれない。


アンルシアの状態こそは気になるが、今気になるべきはロザリーだ。


とにかく、これをどうすれば元の世界に戻れるのか。

(!?)

「待って……返しなさい……!」

アンルシアの呼びかけも無視して、おわかれのつばさが光り始めた。

光はピサロを包み始める。


大きくなった光は、そのまま天空へと飛んで行った。

ティアが、アンルシアが何かを言った。
だが、最早どうでもよいことだ。

ロザリーの安否を確かめる。それだけだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

725その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:45:13 ID:Z.uZw2LI0

(ここは……?)
おわかれのつばさが発した強い光に、まだ目がくらんでいる。


一瞬、首輪を確認する。
大丈夫だ。特に変化はない。

「ピサロ様!?」
懐かしい、とは言っても1日ほど聞いてなかっただけの声が、耳に響く。


「ロザリー!?無事だったか?」

「ピサロ様こそ、そんなに慌てて、どうしたのですか?」

徐々に目が慣れている。

間違いない。ここはロザリーヒルの塔の中。
そして目の前にいるのは、ロザリー。

鈴のように透き通った声、きめ細やかな肌、宝石のように綺麗に輝く赤毛。

間違いなく彼女だ。


心を安堵が芯まで包み込む。
エビルプリーストの魔の手から、今度は彼女を守れたようだ。

「大丈夫だ。もう安心しろ。」


「安心しろって……どういうことですか?」

「聞いてくれ。ロザリー。あの忌々しい魔導士、エビルプリーストが復活したのだ……。」

だが、こうして戻れた以上、ロザリーに指一本触れさせることはない。

「そんな……。勇者様と、倒したのじゃなかったのですか?」

「何故かは分からん。だが、今はロザリーを守ることが先だ。」

「……ピサロ様、その首輪、一体何ですか?」

首輪。
今もなお動かずに首下で留まっている
今までは脱出することばかり考えていたが、これもどうにかしなければならないだろう。

だが、一たびエビルプリーストの作った鳥籠の中から逃れられれば、直す方法なんていくらでも思い当たる。

726その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:45:56 ID:Z.uZw2LI0

既に首輪の仕組みは、大魔道の手紙によって、簡素であることが分かっている。

「ああ……これは……。」
「逃げられると思っていたのですか?」

ロザリーの顔が邪悪に歪む。
彼女がこのような邪な表情を浮かべるはずがない。


「貴様!!ロザリーではないな!?」

「もちろん、その通りだ。あの程度の道具で、逃げられると思ったか?」

口調はロザリーのものではない。
だが、姿はロザリーである以上、誰なのか分からない。

そしてなによりまずいことがある。

体が、全く動かない。
首輪から流れ出る何かが、自分の体を縛っている。

これは、人間が呪われた武具を身に着けた時にかかるという、呪いか?

ロザリーは自分のザックから、私がトロデーンの図書館から拝借した本を出す。勿論、「勇者死すべし」に挟まっていた手紙も。
「やはり、この本を読んだか。全ては私の思惑だがな。
奴も愚かだ、あの程度の手紙を紛れ込ませたこと、知られないとでも思っていたのか。」



目の前にいる存在。
エビルプリーストか。別の想像もしない何かか。


まだ口だけは動く。

「貴様は、なぜこんなことをする?」
「こんなこととはどういうことだ?」

「貴様は、私達をこの戦いに巻き込んだのはよい。だが、なぜこのような書物を私に読ませた?」


そこから返ってきたのは、自分の予想もつかない一言。

「ピサロという魔王が、そしてロザリーが、一つの大きな可能性の媒体だからだ。
そして貴様は予想通り、この戦いにおいて大いに活躍してくれた。図書室でずっと本を読んでいるより、な。」
「待て!!それは、どういう……。」

自分を覆っている、闇が濃くなる。もはや周りさえ見ることが出来ない。

「それ以上言う必要はない。」

指をパチンと鳴らす音。
意識が、闇に包まれた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

727その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:46:16 ID:Z.uZw2LI0
一方で、トロデーン付近の草原。


「ねえ、どうするの?おねえちゃん……」

ティアは、なおも泣き叫び続ける。

「逃げるのよ、ティア……。」


にげる。いざという時に必要なことだと、ジャンボから教わった言葉。
あの時こそ、ジャンボの考えには反対したが、今の自分は力がない。




アンルシアはティアを連れて逃げる。

ピサロがどうなったのかも知らずに。


【ピサロ@DQ4 死亡?】
【残り?人】

※ピサロ、およびピサロが所持していた本以外の支給品の消えた先、(死亡、行方不明、会場のどこか)などは次の書き手にお任せします。

【D-4/トロデーン地方 草原/2日目 深夜】

【勇者姫アンルシア@DQ10】
[状態]:健康 MP1/8 情緒不安定 自信喪失
[装備]:戦姫のレイピア@DQ10
[道具]:支給品一式 とつげき丸@DQ10 不明支給品0〜2(本人確認済み)
[思考]:トロデーン城から逃げる
ティアを守る
最後まで戦う
彼に会いたい
彼を守りたい
彼の隣に居たい

[備考]:全てのスキルポイントが一時的に0になっています。それに伴い、戦闘力の低下とギガデイン・ベホマラー等の呪文が使えなくなっています。

【ティア@DQ2(サマルトリアの王女)】
[状態]:健康
[装備]:ロトの剣 氷柱の杖(残5)@トルネコ3 ようせいのくつ@DQ9 
[道具]:支給品一式 脱いだ靴 パーティードレス@DQ7
[思考]:恐怖
※第二放送の内容を聞いてません。

728その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/02(水) 20:50:39 ID:Z.uZw2LI0
投下終了です。言うまでもありませんが、一時投下スレを使った理由は、
・おわかれのつばさの使用と
・ピサロの会場脱出からの流れです。
この2点の意見を聞きたいです。

この2点及び他に反対意見がない場合は、1月4日の21:00に本投下しようと思います。

729ただ一匹の名無しだ:2019/01/03(木) 09:48:10 ID:OOQQzTMk0
一時投下乙です…が
これで通すにはおわかれのつばさがなんで発動したのかとか、ピサロの安否とか、色々情報をぼかしすぎてて続きを後の話に委ねるにはハードルが高すぎかなあと思います

730その翼、絶望か希望か ◆qpOCzvb0ck:2019/01/03(木) 21:41:33 ID:MvKKHGCw0
ご意見ありがとうございました。
仰る通りおわかれのつばさの使う過程に大分雑なところがありました。
それから行方不明になったピサロを引き継ぎで使うのも大分はばかられるのも言われてみて共感できることなので、
以上の点から投下破棄します。
仮に修正するとしても、時間がかかるはずなので、このパートを書く際に他のアイデアがある方は先に書いてください。
お騒がせしました。

731 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:27:41 ID:gYmjXASs0
不慣れですがよろしくお願いします。出来たものを貼ります

732 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:29:47 ID:gYmjXASs0
 
闇夜が眩しく輝いていた。


【E-4/トロデーン〜トラペッタの川沿い/黎明】


ざあざあと流水音が谷間から響いている。城での戦闘後、アベルはトロデーンとトラペッタを繋ぐ橋近くに
移動し一時の休息をとっていた。橋は、呪われし王と姫に付き従い旅を始めたばかりのエイトが山賊ヤンガスと
初めて出会った場所でもある。

草むらに横たわり夜空を眺めていたアベルは、首を回して大地に目を向けた。
彼の傍らには袋が二つ無造作に放り置かれている。うち一つは先の戦闘の鹵獲品だった。

名はアスナと言ったか。
アベルは袋の持ち主を回想した。仲間を守ろうとして命を落とした勇士の姿。夢の中で幾度と見た、痛ましい
その様。いつでも彼に吐き気を催させてきた、愛情深きその生き様。

だがもう始末した。胸に広がる確かな満足感はアベルの心を和ませる。

アベルは上体を起こし袋を掴んだ。
ここまでの疲労は大きく、ただ横になっているだけでは回復は期待出来ない。やらねばならない事はまだ
沢山ある。
若干の水や食料が残っている事を期待して彼は中身を探る事にした。

なめらかな布が手に触れる。広げてみると、花嫁の為の純白のドレスだった。続いて一端の尖った戦鎚が
現れた。

今頃まで袋の中で眠っていた道具たちだ。持て余されたものばかりだろうとアベルは予測していた。
二つの装備品は名もそのままの『ウエディングドレス』、ライフル弾薬のようなものを二つ並べたデザインの
『バレットハンマー』だった。予想通りの無用な品を脇へやり、彼は検分を続ける。

733愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:30:55 ID:gYmjXASs0
 
次に出て来たのは大きな赤い宝石の付いた指輪だった。

「随分と大きな石を付けたものですね…」

宝石には特に魔力を感じない。飾りの大きさに見合わず細い径は女物である事を示していた。

「…エル…トリオから、ウィニアへ…」

アベルは目を凝らしリングの内側に刻まれた小さな文字を読んだ。


"愛を込めて。"


突如閃光のように広がる記憶。頭に締め付けられるような痛みを覚えアベルは指輪を取り落とした。

痛みにきつく閉じた筈の視界に一人の女の姿が浮かんだ。純白のヴェールが黒髪に流れている。
彼女が紡いだ言葉。その目が語った言葉───。

「ああ」

意識が追い付くよりも先にアベルは谷間に歩み寄っていた。足元で水がざあざあと音を立てている。アベルは
谷間に手を差し出すと、アルゴンリングを掌から零した。

ある若者の愛の結晶は、静かに川へ飲まれて行った。

(さようなら)

アベルは続いてウエディングドレスを放り投げた。

細密な刺繍に彩られたドレスが虚空に広がり、ゆっくりと落ちて行く。
眺めていると、頭痛もまたゆっくり引いて行くのを感じた。アベルは踵を返すと、残る支給品の確認に取り掛かった。

734愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:32:50 ID:gYmjXASs0
 
 
 

【E-4/平原/早朝】


親に子が殺される。

およそ人間が体験し得る中で最も悲惨な死に方だとジャンボは思う。

彼は草の上に腰掛け、サフィールがジンガーに語る話を黙って聴き続けていた。ホイミンも同様にジャンボの
傍らでふよふよと浮かんだまま、共に少女の邪魔をせぬよう少し離れた位置に陣取っている。
その中でネプリム、先程味方に付けたもう一体のキラーマジンガだけが、サフィールの隣で武器を構えたまま
微動だにせず立っていた。

「ジンガー、これが私の知るお父さんの、アベルと言う人の全てです」

サフィールに向かい立つジンガーはネプリム同様、少女の言葉を微動だにせず聴いていた。違いと言えばこの
対話に先立って武器が取りあげられている事。

少女は語った。サンチョやオジロン先王、そして行方不明の間グランバニアに残されたアベルの仲間モンスター
達に聞かせて貰い、そして再会して旅を共にする中で知り得た事を。

735愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:33:29 ID:gYmjXASs0
 
「誰もが彼の帰る日を待っていました。リュビと私、そしてグランバニアの子供達はサンチョおじさんや
ピエール達が聞かせてくれる、父の冒険のお話が好きでした。捜索の旅に出る事を許して貰えた時は、
本当に嬉しかった」

「サフィール……」

声を漏らしたのはホイミンだった。ジャンボが隣を見ると、涙ぐんだホイミンがサフィールの傍へ行きたそうに
手(または足)をゆらゆらさせている。ジャンボはそれを掴むと軽く引き戻した。まだ、割って入る時ではない。

ジャンボはじっと眺めていた。十やそこらの娘が、実の親に殺意を向けられている子供が、極力感情的にならぬよう
静かに語る様子を。そしてどう覚悟を決めるのかを。

「私はお父さんを探します。何度でも探します。彼が何もない暗闇に向かって行こうとするなら、止めます。
命を奪う事になっても」

(───その一言が聞きたかった)

ジャンボは息をゆっくりと吐いた。掴んでいたホイミンの手足を放す。

サフィールは、俺達が遠からずアベルと戦う上で不確定のリスクだと言わざるを得なかった。父親への愛情に
よって動きが鈍るようなら引き攫って逃げるしかないと思っていた。しかし彼女は確かな覚悟を決めていた。
本当なら望まれるべきでない覚悟。
だが最悪の事態を避ける為には逃げ続けるか、さもなくば徹底して戦うしかない。

「そういう事だジンガー。俺達はアベルを止めるが、お前はどうする?サフィール、少し離れろ」

立ち上がって言うとジャンボは一歩近づく。

退るよう言われたサフィールは、ジンガーのモノアイを真っ直ぐに見つめて動かなかった。代わりにネプリムが
一歩進み出る。ホイミンがサフィールの隣に寄り添った。

ジンガーは回答を出せずにいた。少なくとも音声での返答では。

736愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:34:11 ID:gYmjXASs0
 
「…オ前ハワタシノ問イニ、マダ答エテイナイ」

目の前の小さい人間は、主のアベルについて話したいと言った。それはジンガーの中で高い必要性を評価されている。
故に彼は一時的にサフィールと話をすると言うコマンドを割りこませる事が出来た。

「いいえ、答えました。私はあなたとアベルと言う人の話をしたかった。そして私の話はこれでおしまいです。
聞いてくれてありがとう。ジンガー、心から感謝します」

「ソウカ。…ソウダナ」

ジンガーは理解した。
彼には、アベルについて話せる事が何もなかった。よって彼は当初の役目に復帰しなくてはならない。

「ジンガーよ。酷だとは百も承知で言わせて貰うぜ…破壊だけを求めてやり通したとして、お前はそこで不要になる。
アベル本人も自身の存在を必要としなくなるだろう。残るのは無だけだ」

ジャンボが天使の鉄槌を携えながら進み出る。行き場のない苦渋の色が顔に浮かんでいた。

「…ぼく、きみの敵になりたくないよ。友達になれたらいいのに。だけど、だけど…」

ホイミンはその先を言えなかった。

「ワタシトシテモ本意デハナイ。個人的ニ武器ヲ返シ全力デ戦ッテミタカッタガ、ソレハ叶ワナイ。許セ、同胞」

沈黙を守っていたネプリムが声を掛ける。同じキラーマジンガだからこそ彼は知っていた。与えられた命令を
自分の判断で破棄する方法は存在しないという事を。

(シカシソコヘ行クト、今ノワタシハ何ナノダローカ。マッ、イイカ)

「───我ガ主ノ娘ヨ、修理ヲシテクレタ事ニ感謝スル」

サフィールは頷いた。そして一歩後ろへ下がった。その顔にはジャンボと同じく苦渋が満ちている。

不可避の戦いを前に張り詰める緊張を破ったのは、鼓膜を叩いた僅かな振動だった。

737愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:34:44 ID:gYmjXASs0
 
「…何だ今の…人の声か?」

音に最初に気付いたのはジャンボだった。

「熱源感知。距離:310メートル」

ネプリムの頭部がぐるりと旋回し、西を向いた所で静止する。「300メートル。熱源解析開始」

「ジャンボさん、何か見えますか?」訊かれてジャンボはネプリムの見る方角へ目を凝らす。しかし一帯は
暗く、闖入者らしき姿は遠景の黒に溶け込んでいる。

ジャンボは目を凝らすが何も見えなかった。「ネプリム、どうだ?」

「290メートル。熱源解析ぷろぐらむ更新:71%ノ確率デ人間、個数2」

「頼もしいじゃねえかお前はよ」

ジンガーもまたネプリムと同じく接近する動体を感知し、その細部を捉えようとしていた。

(アレハ、アノ人間ハ、モシカシタラ)

「280メートル。解析更新:人間2体ト判断。さふぃーる、攻撃スルカ?」

「い、いえネプリム。まずは誰なのかを───」そこでサフィールは言葉を中断した。

「───あべる様!!!」

大音量の機械音声が響いた為だった。

「何だって!?おい待てジンガー!!!」

ジャンボは制しようとしたが既にフルスロットルにアクセルを開放したジンガーは爆音を上げて発進した。
バックファイアの火の粉を浴びてジャンボは悪態をつく。

「クソッ!本当に奴だとしたら───良いんだな!?サフィール!」

サフィールの顔は青褪めていたが、強く頷いた。その隣でホイミンも青い顔をさらに青くしている。
彼らの目にも徐々に人の形をした輪郭が見え始めた。

「確かに二人居るようだが……」

二人分の人影のうち、片方の足取りがおかしい。まるで無理に引き歩かされているような………

738愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:35:37 ID:gYmjXASs0
 
 

「久しぶりだねジンガー。武器はどうしたんだい?」


耳に心地いい声だ、と感じた事をジャンボは後にも思い出す事になる。

悪魔とは意外にも穏やかでよく通る声を持っているのだなと。


「奪ワレマシタ。申シ訳アリマセン───マスター、ヨクゾ御無事デ」

「ありがとう。お前もよく無事でいてくれた。武器ならお前に適当なものがあるから使うといい。
今取り出すから、少し待ってくれ」

お互いがはっきり見える距離まで歩み寄ったサフィール達は「もう一人」の様子に絶句した。
髪の毛を掴まれ、無理矢理歩かされている。

「さふぃーる、ドッチガ『あべる』ダ?鎧ノ方カ?青服ノヘバッテル方カ?」

「馬鹿野郎!男の方に決まってんだろうがッ!」ジャンボは激情に任せて怒鳴った。

「ついに会えたなアベル……てめえ、ターニアに何しやがったッ!!!」

少女から手を離すと、アベルは袋から戦鎚を取り出しジンガーに手渡した。

「お前にぴったりだな。いい時に居合わせてくれた」

そう言ってアベルは手をはたいた。何本もの青い髪がはらはらと地面に落ちる。

「答えろこの野郎ッ!!!」

「貴方が『ジャンボさん』ですか?察するにうちの娘を保護してくれていたようだ。礼を言いますよ。
そしてサフィール。しばらく振りでしたね、元気そうで何よりです」

アベルはにこりと微笑んだ。何の屈託もない、優しげな微笑だった。
サフィールは戸惑った。以前会った時に見せた冷酷な表情とは全く違う。まるで、一緒に旅をしていた
あの頃のような……。

「……ターニア、解るか?俺だ。あの時は怖がらせちまってすまなかった。お前の兄貴やその仲間を
どうこうしようなんてもう思っていない。誓って言う。だから、頼むからこっちへ来るんだ」

アベルを詰問しても埒が明かないと判断したジャンボはターニアに直接声を掛ける。少女は解放された後も
その場に力なくへたり込んで動こうとしない。

「心配ねえ、お前が動けば俺達がそいつらを抑える。頼むよ、そいつから離れてくれ…!」

しかしジャンボの訴えも虚しく、ターニアは再び髪の毛を掴まれ強引に立たされた。

「!…そ、その女性の顔は…お父さん…それに、その鎧は…」

「彼女が教えてくれました。この辺りに貴女達が居ると」

飽くまで優しい笑みを湛えてアベルは言う。

「有難うターニア。短い道中でしたが楽しかったですよ」

ジャンボは歯噛みした。こうなるともう迂闊に手出し出来ない。しかも立たされた事で見えたターニアの顔は、
見るも無残に腫れ上がっていた。

739愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:36:30 ID:gYmjXASs0
 
「会いたかったですよ、サフィール」

「…何故ですか、お父さん。私を殺し損ねていたからですか」

猛烈な憤怒を滾らせ睨むジャンボとは対照的に、サフィールは静かな怒りをその目に宿していた。少女への
無体な振る舞いを冷静に非難する、そんな眼差しだった。

「いいえサフィール。いつかの時は本当に酷い事を貴女に言ってしまい、すまなかったね。私は、もう愛と
言うものを否定したりしません。その事をまず貴女に伝えたくて探していました」

「なに言ってんだてめえ…」

この男、どこか様子がおかしい。初対面ながらジャンボはそう感じた。サフィールの方をちらりと振り返ると、
彼女もまた怪訝な顔をしている。

「貴女も気付いていたことでしょう。実際私は愛を捨て切れてなどいなかった。そんな事は人として
産まれた者には不可能だと、ようやく解ったんです。
大切な娘よ、私は貴女を愛しています」

「……なにを…なにを言ってるんですか…あなたは…」

父の愛の言葉に少女は頭を抱えて後じさる。

「…おい、よせ、何をするつもりだ。ターニアを離せ…」

ジャンボの肌に冷たい汗が伝う。アベルは剣を抜いていた。

「そして気付きました。愛する者と引き離される苦痛こそが私を前進させ、戦う力の源になっていたのだと。
────だから」

「やめろオォーーーッ!!!!」

どん、と背中を押されてターニアが前のめりによろけた。その左肩目掛けてアベルが破壊の剣を振り下ろす。
ケーキでも切るように、少女の肉と骨は難なく断たれた。心臓まで袈裟切りにされたターニアは夥しい血を
散らしながら一度膝をついた。そしてゆっくりと地面へ倒れてゆく。

「ぅぅうあぁあああああああああああーーーーッ!!!!!」

ジャンボは叫んでいた。唱和するようにホイミンも叫んでいた。そんな絶望の合唱を飲み込んで
爆轟が炸裂した。

「イオナズンッ!!!」

放った直後、閃光に目が眩む前にサフィールはジンガーがアベルの前に身を挺するのを見た。
だから父はまだ生きているだろうと確信する。

740愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:37:01 ID:gYmjXASs0
 
"愛している───だから"

だから?

もう聴きたくなかった。何も言って欲しく無かった。父は生きたまま地獄に落ちたのだと確信した。
サフィールは再び魔力を集中させる。

「───思い切った事をしますね。彼女は、まだこと切れていなかったでしょうに」

煙の向こうから聴こえる声。それを目掛けサフィールは両手の間に完成した呪文を放とうとした、矢先。

「危ねえ!!」

がきん、と鉄同士がぶつかる音が耳を刺す。サフィールは顔を顰めつつも自分が太い両腕にさっと
抱き取られた事に気付いた。

前方を見る。二体のキラーマジンガがそれぞれハンマーを手に競り合っている。サフィールは状況を
理解した。まず最初に父はジンガーを自分にけしかけたのだ。

とにかくもう一度!

半身をジャンボに庇われたままサフィールは既に仕上がっている呪文、マヒャドを放った。極大冷気は
キラーマジンガ達の脇を通り抜け、守るものの居なくなったアベルを襲うはずだった。

「不可解だぜ。いくらジンガーが庇ったとしても、さっきの声はずいぶんとへっちゃらそうだった。
その上ジンガーを離すなんて」

「あの鎧に何かがありそうです。前回会った時あんな鎧は身に着けていなかった。違う属性の呪文を
ぶつけてみましたが、もしかしたら呪文そのものに強い抵抗力があるのかも」

ジャンボは少女の冷静な分析と行動に瞠目した。そして言われてみれば確かに、アベルの佇まいには
本人の凶悪さだけでない禍々しい何かを感じていた。ターニアの無残な有り様にすっかり気を取られて
いたが、そもそもターニアは人質としてまだ使えたはずだ。敢えて捨てる必要があったとは思えない。

(呪いの装備だとしたら……いや、そいつは後だ!)

天使の鉄槌を握り締めジャンボはネプリムの加勢に飛び出す。驚くべき事に、両腕に武器を装備した
ネプリムがバレットハンマーのみを手にしたジンガーに押され始めている。

「おいネプリム!遊んでんじゃねえぞ!」

ジャンボが戦列に加わった事でジンガーは猛攻を止めて飛び退る。

「バカヲユーンジャナイ。単純ナ事、コイツガ強イノダ」

戦闘機械の本分だからなのか、ネプリムの音声は心なしか楽しげだった。

「くっそ、ご主人に会えて力が湧いたってか?」

あり得る事だ。ジンガーには確かに心があったのだから。しかしそれだけでなく、彼が与えられた
バレットハンマーは機械の体に対して特別な威力を持つ。一発いいのを貰ったらネプリムでも
かなり危ないだろう。

「ジンガー、受け取れ」

癒しの光が忠臣を包む。薄れ始めた煙幕を割ってアベルが姿を現した。

741愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:38:37 ID:gYmjXASs0
 
「私は愛し続けようと思う。そして失い続けようと思う」

爆発と冷気を受けて髪は乱れ、細かい傷が幾つもその顔に見えている。しかしさしてダメージを受けた
様子はなかった。

「やはり、その鎧は」

改めて観るその姿にサフィールは恐怖を覚えた。

アベルが装備しているのは『じごくのよろい』。元はアスナの世界に在った呪われた鎧で、地獄から
来た悪魔の骨で作られた物と伝えられている。一目でそれと解ったアスナが袋に仕舞いこんでいた
支給品だった。

「思った通りではありますが、行きずり程度の縁ある人を失った処で何の痛痒も感じない。やはり、
より強い共感と親しみが必要ですね」

アベルは穏やかな目でサフィールを見詰めた。
鎧の胸元には怪物の頭骨が飾られていた。それが、斬り捨てられた犠牲者の血を浴びて嗤っていた。

少なくともサフィールにはそう見えた。



【F-3/平原/2日目 早朝】

【サフィール@DQ5娘】
[状態]:HP:7/10 MP 1/5 左足矢傷(応急処置済み)
[装備]:ドラゴンの杖
[道具]:支給品一式×3、へんげの杖、ショットガン、999999ゴールド
[思考]:父の狂気を治める。不可能ならば倒す。
怖い人を無視してマリベルさんの遺志に流される
みんな友達大作戦を手伝う

【ジャンボ(DQ10主人公・ドワーフ)@DQ10】
[状態]:HP7/10 MP1/8
[装備]:天使の鉄槌@DQ10
[道具]:支給品一式、道具0〜4 四人の仲間たち(絵本)@DQ5、道具0〜1(ゲレゲレの支給品)
支給品0〜1(ヒューザの支給品)ナイトスナイパー@DQ8 名刀・斬鉄丸@DQS 悪魔の爪@DQ5 
天空の剣、罠抜けの指輪 罠の巻物×2 ドラゴンローブ 砂柱の魔方陣×1 折れた灼熱剣エンマ@DQS 
メガトンハンマー@DQ8 ビッグボウガン@DQ5
[思考]:基本方針:エビルプリーストに借りを返す。
1:アベルを倒す
2:首輪解除を試みる
[備考]:※職業はどうぐ使いです。弓スキルは150です。ハンマースキルは100以上です。

【ホイミン@DQ4】
[状態]:健康 MP1/8 仲間死亡によるショック
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 道具1〜3個 ヒューザのメモ(首輪解除の手掛かりが書いています)
[思考]:ジャンボとサフィールを手伝う
『みんな友達大作戦』を成功させる ヒューザがくれた手掛かりを守る。

742愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:39:07 ID:gYmjXASs0
 
【ねぷりむ@DQ10キラーマジンガB】
[状態]:HP1/3
[装備]:聖王のつるぎ@DQ10 聖王のハンマー@DQ10 壊れた聖王の弓@DQ10 アクセルギア@DQ10
[道具]:支給品一式×3、魔封じの杖、道具0〜2個(ブライの不明支給品)、道具0〜2個(ゴーレムの不明支給品)
[思考]:サフィールについていく。ガンガン戦う。
[備考]:DQ10のキラーマジンガの特技を使いこなします。
ゴーレムの記憶を持っています。

【ジンガー@DQ6キラーマジンガ】
[状態]:HP1/3
[装備]:バレットハンマー@DQ10
[道具]:なし
[思考]:アベルに従う
 
 
 
 
 
 
時は少し遡る。



「娘の所在を教えてくれて有難うございます。貴女が通りがかってくれて、助かりました」

にこりと微笑みかける男の足元で、ターニアは蹲っていた。ローラを刺した恐怖から走り続けていた
彼女は、トロデーンとトラペッタの間に架かる橋へ辿り着いた所で最悪の存在に出会ってしまった。

口の中にごろごろした感触を覚える。

殴られた頬が焼けた石を当てられたように熱い。

「さて、娘に会いに行かなくては。解りますか。あの子とは話したい事が沢山あるんです」

これで解放される?そう思ったターニアの考えは甘かった。

「ッ!いたッ…!」

突然髪の毛を鷲掴みにされ、引き上げられる。

「さあ立って。どうか貴女も一緒に」

何を言っているの?どうして私が?なんなの、この人はなんなの?

「話をしましょう。貴女の事を聞かせてください。どこで生まれ、どんな風に暮らしていたのか…」

訳が分からないままターニアは歩くしかなかった。男が髪を掴んだままずんずん歩き出したからだ。

「聞こえましたか?」

743愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:41:01 ID:gYmjXASs0
  
言うが早いか、ターニアの顔面に拳が突き入れられた。

「うぶッ!」

「聞かせてください。私は、とても頭が痛むんです。でも、和らげる為のヒントはさっき手に入れました。
貴女の名前は?」

「た、たーにあ…」

答えるしかなかった。喋らなければこうやって殴るつもりなのだ。

「よろしくターニア。私の名前はアベルです。出身は?」

再び髪を引っ張りながらアベルは歩き出す。

「ライフコッド…です。レイドックのお城の北、ずっと山奥にある…小さな村」

「いいですね。続けて。どんな所なのか、あなたの言葉でもっと聞かせてください」

口の中に溜まった血と一緒に歯を吐き出しながらターニアは懸命に話した。


ライフコッド。空気と日射しがとても綺麗な村。

よそから来た人にはすごく構えてしまうけれど、本当はとても優しい人ばかり。

両親をなくしてひとりになってしまった自分にも、皆とてもよくしてくれた。


「素晴らしいですね。私も、出来る事なら行ってみたいものです」


そう。大好きな村。不満はなにもなかった。

…いいえ、一つだけ。

平穏な一日の終わりにごはんを食べながら、その日のちょっと楽しかったこと、可笑しかった
ことを聴いてくれる人がいたらいいのになと思っていた。

例えばきょうだいがいたら、なんて。

贅沢をいえば、上のきょうだい。

うん、やっぱりお兄ちゃんがいいなぁ、って……。

「…お兄、ちゃん……」

ターニアの目に涙が溢れた。

黙り込んだターニアをアベルは繰り返し殴打した。しかし、その一言を最後にターニアは口を
開かなくなった。

その目からは光が失われ、表情も消えた。疲労と恐怖の果てにターニアの精神は、ここではない
別の場所へ肉体よりも先に旅立っていた。幻の大地とも違う、どこか遠い夢の世界へ。

744愛さえも、夢さえも ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:41:43 ID:gYmjXASs0
 
【アベル@DQ5主人公】
[状態]:HP1/4 手に軽い火傷 MP1/6 ※マホキテによる回復
[装備]:破壊の剣 地獄の鎧@DQ3
[道具]:支給品一式 剣の秘伝書 ヘルバトラーの首輪 毒針
[思考]:過去と決別する為戦う。力を得る為、愛情をもって接する(そして失う為に)

※破壊の剣と地獄の鎧の重複効果により、更に強力になった呪いを受けています。
動けなくなる呪いの効果が抑えられている反面、激しい頭痛に襲われています。

※ターニアの支給品一式(愛のマカロン×6 砂柱の杖@トルネコ3 道具0〜1)は、袋ごとE-4の
橋の架かる谷底に捨てられました。

※「アスナの不明支給品0〜2 本人確認済み」は地獄の鎧のみ、アスナの袋に入っていた
「サヴィオの不明支給品0〜1」は、0個だったものとして処理しました。


【ターニア@DQ6 死亡】

【残り18人】

745 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 22:48:35 ID:gYmjXASs0
間違いなく全文置けたようです。このロワを知らない友人にもチェックして貰いましたが
誤字脱字の他、自分で気付いてないおかしなところがあれば教えて下さい。
大丈夫なようであれば、まとめ更新は自分で出来ますのでさせて頂きます。
とても楽しかったです。予約スレでは沢山質問してしまいすみません、有難うございました。

746 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/01(日) 23:27:22 ID:gYmjXASs0
読み返して気付きましたが、彼らが合流したのはF3のところをE4になっていました。
失礼しました。

747ただ一匹の名無しだ:2019/09/02(月) 17:32:29 ID:7NXlBI6k0
投下乙です
ターニアの死ぬまでの過程がなかなかむごい…
身体より先に心が死ぬなんて

特に問題はないと思います

748 ◆vV5.jnbCYw:2019/09/02(月) 18:35:01 ID:VWI/VfW60
投下乙です、初参戦とは思えないキャラの動かし方、支給品の使い方、お見事でした。
幼女を精神的に殺害し、呪いの装備で身を固め、いよいよアベルさん魔王化終わりって気がしますね。

私が見る限り特に問題点はありませんでした。
面白かったので、また時間が空いた時でいいので別の話の投下してくれると嬉しいです。


今私は日常生活と、「ゲームキャラ・バトルロワイヤル」の執筆にかまけて中々こちらに投下できませんが、今書いているロワが切りの良い所まで行ったら戻ろうと思います。

749 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/02(月) 20:01:41 ID:ExveRP6I0
確認恐れ入ります。ついでのご連絡ですが、予約期間と延長期間についてですが、ざっと探した範囲に
見当たらなかったので、まとめに新規ページを置かせて頂いてよろしいでしょうか?
ドラクエは魅力的な作品ですししょっちゅう公式が何かよこしてくるので、新規の人もまだ
来ると思います。
現在リンクされている2ndの手引きと違う点は予約期間の時間のみのようですから、そこだけ変えて
コピペさせて頂く事になるとは思います。

原作バトロワもパロロワも好きで読み手として居た期間は長いですが、こうして書いてみて、
これで大丈夫なのかと不安があり緊張しましたが楽しかったです。
それから、「管理人への連絡」のスレで初めてまとめ更新をした旨を書いたのも自分です。その書き込みで「よくわからな
かったので更新していない」と言ったマップについては、管理画面を見たら非常に複雑で、ミスした場合を考えると怖かったので
手出しできませんでしたが、今回投稿させて頂いた話がこのまま大丈夫なようでしたらそれも
自分でちゃんと片付けて置こうと思います。
長文失礼しました。

750ただ一匹の名無しだ:2019/09/02(月) 21:00:09 ID:0TL7yoJk0
投下乙です。
前からターニアが悲惨な最期になりそうな雰囲気してたから覚悟してたけどこれは辛い…
レックがターニアの最期を知ったらどうなってしまうのか、気になるところですね。

751 ◆EJXQFOy1D6:2019/09/04(水) 00:19:20 ID:Pmp4Y3mw0
自分で書いたものをまとめに更新するのは「本当に良いのか!?」と迷いましたが、
諸々更新させて頂きました。スレ趣旨に逸れて連絡を続けてすみません。
>>746の表記ミスの他、文法がおかしい気がした所1箇所を修正させて頂きました。
そして昨日気付いたんですが…キラーマジンガの背面ってつるつるだったんですね…何故か排気マフラー
的なものがあるように思い込んでいました…ですのでバックファイア云々の部分を削除しました。
あまり細かい事を言わなくてもとは思ったのですが、自分の所為でこの先マジンガの
デザインを誤解する人があっては申し訳ないと個人的に考えました。

752 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 22:55:58 ID:RUDAQ9iE0
投下させていただきます

753転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 22:58:53 ID:RUDAQ9iE0
【C-4/平原/深夜】


エイトが『その場所』に足を向けたのは、その地形に彼の記憶と著しく異なる変質が見られた為だった。

「ゼシカ……ここに居たのか」

それは物言わぬ遺体との再会だった。
かつての戦友は窪んだ土の上に横たわっていた。仕立ての良い服は所々が焼けて汚れている。
顔と肩は、このままでは寝違えてしまうのではないかと心配するほど左右真逆を向いていた。エイトは
そっと手を添えて戦友の寝相を修正しようとしたが、硬くちぢこまった筋肉は彼の善意を押し返した。

遺体の周辺を土と岩が不自然にぐるりと囲んでいる。どういう魔法か知らないが、激しい戦いがあった事
だけは察せられた。浅く掘られた土に眠るように横たえられた様子からは、ゼシカが誰かと共に何者かと
戦い、そして倒れ、生き残った誰かにひとまずは埋葬されたのだろうと考えられる。自分がアルスや
ブライと共にデボラを弔ったように。

その後何かがあって、彼女が不格好に露出する次第になったのであろう事は見知らぬ両隣の遺体からも見て
取れた。

754転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:00:27 ID:RUDAQ9iE0

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2019-12-23 22:56:34
 
 
 
【C-4/平原/深夜】


エイトが『その場所』に足を向けたのは、その地形に彼の記憶と著しく異なる変質が見られた為だった。

「ゼシカ……ここに居たのか」

それは物言わぬ遺体との再会だった。
かつての戦友は窪んだ土の上に横たわっていた。仕立ての良い服は所々が焼けて汚れている。
顔と肩は、このままでは寝違えてしまうのではないかと心配するほど左右真逆を向いていた。エイトは
そっと手を添えて戦友の寝相を修正しようとしたが、硬くちぢこまった筋肉は彼の善意を押し返した。

遺体の周辺を土と岩が不自然にぐるりと囲んでいる。どういう魔法か知らないが、激しい戦いがあった事
だけは察せられた。浅く掘られた土に眠るように横たえられた様子からは、ゼシカが誰かと共に何者かと
戦い、そして倒れ、生き残った誰かにひとまずは埋葬されたのだろうと考えられる。自分がアルスや
ブライと共にデボラを弔ったように。

その後何かがあって、彼女が不格好に露出する次第になったのであろう事は見知らぬ両隣の遺体からも見て
取れた。

彼女が日頃誇らしげに露出していた胸も、脇のあたりには紫のシミがぼつぼつと広がっている。
硬直具合から見るに彼女が亡くなったのは、あのホイミスライムを連れた少女が持ち込んだいざこざに
首を突っ込んだ頃だろうか。

「…本当に、済まない。私は急がなくては」

立ち上がり、踵を返した処でエイトは足を止める。
暫く逡巡した後、彼は僅かな時間を自分に許す事に決め、露出した遺体全てに軽く土を掛け直した。
済ませるとエイトは足早に立ち去った。焼けた肉の残り香はやがて海風が浚ってくれるだろう。
 
 
 
 
【D-6/荒野/黎明】
 
 
地平線へと月が傾きつつあるさなか。トロデーンの王女ミーティアは俯いて歩いていた。
かつて通った場所として彼女が南北を繋ぐトンネルへの案内を買って出たのだが、絶壁の行き止まりに
出てしまったのだった。

来た道を引き返しながら、先頭を歩くキーファが沈黙を破った。

755転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:01:36 ID:RUDAQ9iE0
すみません、確認のため張っておいた場所から関係ないものまでコピーしてしまったようです。
張り直します。

756転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:03:32 ID:RUDAQ9iE0
彼女が日頃誇らしげに露出していた胸も、脇のあたりには紫のシミがぼつぼつと広がっている。
硬直具合から見るに彼女が亡くなったのは、あのホイミスライムを連れた少女が持ち込んだいざこざに
首を突っ込んだ頃だろうか。

「…本当に、済まない。私は急がなくては」

立ち上がり、踵を返した処でエイトは足を止める。
暫く逡巡した後、彼は僅かな時間を自分に許す事に決め、露出した遺体全てに軽く土を掛け直した。
済ませるとエイトは足早に立ち去った。焼けた肉の残り香はやがて海風が浚ってくれるだろう。
 
 
 
 
【D-6/荒野/黎明】
 
 
地平線へと月が傾きつつあるさなか。トロデーンの王女ミーティアは俯いて歩いていた。
かつて通った場所として彼女が南北を繋ぐトンネルへの案内を買って出たのだが、絶壁の行き止まりに
出てしまったのだった。

来た道を引き返しながら、先頭を歩くキーファが沈黙を破った。

757転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:04:48 ID:RUDAQ9iE0
「そんなに落ち込むなよ。姫さんの案内が助かるのは元よりの事だし、ちょっとくらいの寄り道
構いやしないって」

最後尾を行くレックも努めて明るい調子で言った。

「良いさ。あんまり速いと竜王に追いてしまったかも知れない。あいつも案外迷ってたりしてさ」

「そうだな。そこで出会っちまったらお互いバツが悪いぜ」

「まあ。…うふふっ。でも、早くまた会いたいですね」

今のミーティアには二人の優しさが有難くも申し訳なかったが、落ち込んだ顔を見せたところで
何にもならないと思い直す。顔を上げると、切り立った岩棚の向こうに月が見えた。ミーティアは
頭の中で方角を整理する。今度こそは大丈夫そうだと思えた。

和やかなムードのまま三人は歩く。ただ、口数は再び少なくなった。皆それぞれにもう会えない者と、
まだ出会える希望が持てる者が居る。言っては悪いが竜王にかまけている間に失われたり、探す暇も無いままで
いたりする人々。黙々と歩いているれば嫌でも彼らの顔が頭に浮かんだ。
かと言って無理にお喋りをして頭から閉め出す事もしたくなかったし、そんな必要を感じずにいられるのは
目指す所に脱出の希望があるが故だった。

思考が悪い方へ向きそうな時、彼らは仲間に話しかけた。いずれもがちょっとした雑談。ミーティアに
とって衝撃の事実が齎されたのは、そんな中だった。

「…そういえばさ、姫さん。君って兄弟はいるのか?」

「いいえ?一人娘ですけれど」

前を向いたままポツリと呟かれたキーファの問いにミーティアは小首を傾げる。

「じゃあ……君の許嫁になってるって言う王子には兄弟がいるって事だよな?」

続いて質問されたその意図がミーティアには解らなかった。あのチャゴス王子がどうしたと言うのだろう。
彼もまた一人っ子で、そのせいかたっぷり甘やかされて───

「───あっ…」

ミーティアは気付いた。

そうなのだ。トロデーンにもサザンビークにも王の子は一人しか居ない。そこで王を失ったトロデーンの
ただ一人きりの王女が他国に嫁ぐ事など出来はしない。

「そう、ですわ…サザンビーク唯一の王子の彼がトロデーンの婿になる事も出来ない…」

トロデ在位のうちにミーティアとチャゴスの子を一人トロデーンに養子に出すと言う流れも御破算。
両国の婚姻話は、すでに破綻しているのだ。

758転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:06:19 ID:RUDAQ9iE0
「やっぱりか。世界が違えばそれでもアリな所が有るのかとも思ったが、普通どこでも無理だよな。
こういう事になっちまったら…」

「そうか。ミーティアは女王になるしかないって事か…」

妹にその立場を押し付けてしまったキーファと、自覚する暇もなく次期国王の座に就いてしまったレックは
それぞれ複雑な表情をしている。

無理もない事だがミーティアは混乱していた。あれほど嫌でたまらず、しかし受け入れるのが自分の責務と
悩み続けたチャゴスとの婚姻。それは逆に彼とだけは出来ないと言う話に変わってしまっていた。

(どうして気付かなかったのかしら。お父様が名前を呼ばれてから、今の今まで…)

いや違う。と、そこまで考えてミーティアは首を振った。いろんな事があったにせよ、今思えば新しい事実は
視界のすぐ端にチラついていたように思う。ただそれが余りにもあっさりと現れ、それでいて確定的な変化
だったから、目を向けるのを無意識に避けていたのだと彼女は思った。

(なんて事。私、もうとっくに自由でしたのね。誰でも好きな人を選んで、選んで貰えたなら…あのお城で
皆とずっと一緒に暮らしていける…)

それを幸運と言う程ミーティアはあさましくなかったし、父が一手に抱えていた責務は今彼女の中にある。
引き換えに、生まれつきどうしても持ち得なかった「自分で選ぶ」自由が突然得られた事に、ただ混乱ばかり
していられる程彼女は幼くも弱くもなかった。
 
 
 
 
【C-6/西のトンネル南側/黎明】
 
 
竜王は道に迷う事こそなかったものの、傷ついた体は歩みが遅かった。
ミーティア達が道を一つ間違えなければ、加えて竜王がここでもう一人の人物と出くわしていたならば、
彼らはまとめて再会していたかも知れない。

「行ったようですね。素早く気づいてくれて有難うございます、お爺様」

見覚えの無い人物がトンネルへ入るのを見送り、その足音もやがて消えるとエイトはトーポを掌に載せ、
身を潜めていた岩棚を滑り下りた。

余計な面倒事は二度と御免だ。トンネルを出てすぐに、鼠に姿を窶した祖父グルーノがいち早く南から
歩いてくる人影に気づかなければ、海側を禁止エリアで狭められたこの場所では否応なく対面する羽目に
なっていた。

何か気にかかるでも事があるのか、見知らぬ人物が去った方を眺めている祖父をポケットに戻して
エイトは声を掛ける。

「行きましょう。その調子で姫の事も見つけて貰えると助かりますよ」

慎重に行かなくては。この先の荒野は何度歩いても、空から観た記憶すらあってもなお得意ではない。
そびえ立つ岩壁と起伏の激しい地面には方向感覚を狂わされやすく、気付くと逆方向へ進んでいる事も
過去にしばしばあった。
禁止エリアが増えたお陰で南東部が寸断され、南からリーザス村へ行けなくなったのはむしろ有難いくらい
だった。そちらからミーティアがやってくる可能性が無くなるのだから、今回の捜索が終わればもう二度と
この難所に来る必要も無くなる。

759転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:07:18 ID:RUDAQ9iE0
長い一日だった。随分と傾いてきた月を見遣りエイトは思う。
けれど色んな事を変えてしまうには短すぎる一日だった。
こんな僅かな時間に、旅の仲間たちは一人残らず逝ってしまった。
何よりも、身命を賭して使えるべき王がどこにも居ない。呪われてもめげず、五十路を超えてまだ自身を
おっさんじゃなくお兄さんだと言い張った、タフでひょうげた王の姿は本当に何処にも居なかった。

狂わずに済んでいるのは寸での所で引き止めてくれたアルスやブライ老、赦してくれたデボラの存在だけ
ではない。ゲームと称されたこの空間と、ここに放たれた人々が自分以上に狂っていたからだ。

ゼシカの側にあった遺体が最たる例だ。あの遺体の異常さは紛れもなく死後に蹂躙された結果だ。
最初はそれが何なのかさえ解らなかった。黒く焼け焦げた皮膚は直接の死因なのだろうが、それが悉く裂けて
桃色の肉が露出し、更に棒で叩いたか足で踏み散らかしたかで滅茶苦茶な有様だった。誰が何のために、そして
何故ゼシカとその隣にあった別の男性の遺体は無事だったのかと言う疑問はさて置いても、あんなものの傍に
ゼシカを放置するのは流石に躊躇われた。
まかり間違えば優しいミーティアの目に触れるやも知れない懸念があっての事、ではあるが。

「──姫。ミーティア姫!!」

丹念に周囲を見回しながら歩くエイトは、いつしか我知らず大声を上げている自分に気付いた。
あの遺体の惨状に引き比べる事で安堵を得ていた己の正気も、こうして彼女を見つけられずに居れば危ういらしい。
ドラゴンに変身出来れば探しやすいのにと思う。大きな背に姫を乗せ、遠くに飛んで行けたなら───だが所詮、
混血の身には叶わない。

何と中途半端な生き物だろうか。
竜にもなれず、そして人間の男なら──そうと思い込んだままで居られたなら──誰もが腹を括って掴めるので
あろう選択肢にも自分は────
 
 
 
 
【C-6/荒野/黎明〜早朝】
 
 
「──エイト?」

人らしき声を耳にして三人は足を止めた。

そして見た。荒野の出口、砂の地面から草地に変わる坂の上から姿を現したエイトの姿を。彼の方もまた
向かう先に立っている探し人の姿を見止める。

「…ッ!エイト!」

「ミーティアッ!!!」

互いに斜面を駆けていく二人。エイトは勢いが付き過ぎたのか、挿し伸ばした両手はミーティアを抱き
かかえる形になった。ミーティアもまた後ろに倒れそうな姿勢になってエイトの首にしがみ付く。

「……ん、良かったねミーティア」

「…熱いねえ」

不安定な足場のせいもあろうが通常より割増しに情熱的なハグを目の当たりにしたレックとキーファは、
少し離れた所から苦笑い半分の笑顔を浮かべている。

「エイト、嬉しいですけどちょっと苦しいですわ」

「あっ…失礼しました!」

我に返ったエイトはミーティアの背から手をほどき、彼女の足元に跪いた。

760転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:09:09 ID:RUDAQ9iE0
「よくぞご無事で……畏れ多くも陛下より賜った近衛兵長の役にありながらこのエイト、今の今まで
姫のお側に馳せ参じる事が出来ず、申し訳次第もございません!」

「良いのですエイト。あなたも無事でいてくれたのですから…さあ立って、私たちは道中を急いでいる所
なのです。向こうのお二人の事も紹介しなくては」

促されてエイトは二人の男の方を見る。ようやくか、と言った風情でレックとキーファは蚊帳の外の位置から
歩み進んだ。

「私とレックさん、キーファさんはお城を目指しているのですが、先ほども言った通りあまり時間が
ありません。進みながら説明しますね」

「解りました姫。私はトロデーン近衛兵長、エイトと申します。どうやらお二人とも姫を守って下さって
いた様子。深く感謝します」

その名を聞いたエイトは一瞬眉を顰めた。しかしすぐに了承し、型通りの挨拶と謝辞を述べる。
そして一路トロデーンへと歩き出す道すがら、ミーティアはこれまでの経緯と目的をエイトに説明した。
一時離れていた間の事などもレックとキーファが補足する。黙って聞いていたエイトが再び口を開いたのは、
トンネルを抜けた直後の事だった。

「皆さんの話は一つ一つ納得出来ましたし、悪くない考えだと私も思います」

その声に前方を歩いていたレックとキーファが振り返る。すると、エイトはその場に立ち止まり
ミーティアを片手で制している。

「ですが、これ以上姫を危険に晒す事を許容出来ません。私はここで姫と共に残ります」

「エイト!それは駄目です!」

ミーティアはすかさず反駁したが、レックとキーファはさして驚いてはいなかった。この短時間に
目の当たりにしたエイトの忠臣ぶりから見れば、さもありなんと言った所だ。

「うーん、実は俺もそうした方が良いかもしれないと思ってたんだ。俺とキーファだけなら走ればまだ
充分に間に合う。その間君がミーティアを守っててくれるとなると、むしろ好都合なんだよな」

「それはそうだがレック、姫さんがいないと場所が解らないぜ?」

ミーティアとしては意外な事に二人は同意を示した。反論しようとした矢先、エイトが更に提案する。

「それについても考えがあります。この鼠、トーポと言うんですが普通よりずっと頭が良く城内の
事なら全て理解しています。この子を案内にお貸ししますよ」

エイトはポケットから顔を出していたトーポを手に乗せると、素早く一言囁いた。

(レックさんには一応気を付けて下さい。何かあったら、すぐ引き返して)

そして二人に差し出す。

「エイト、お爺…トーポに私たちの役目を押し付けるだなんて…あ、待って!」

しかしトーポは一言きゅっと鳴くと、差し伸ばされたレックの手を伝い肩に飛び乗った。

761転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:10:16 ID:RUDAQ9iE0
「可愛いな。解った、大切に預からせてもらうよ。それと一つ頼みがあるんだけど」

「ターニアさんについては、残念ですが本当に一度会ったきりです。今も城周辺から東の辺りには
居るのではと思いますが…」

「そうじゃなくてさ、剣を余分に持ってないかな?俺のは結構前に折れちゃって。あるなら出来れば
貰いたいんだけど」

要望を聞いてエイトは暫し値踏みをするようにレックを見詰めた。竜王と言う存在が人間を試そうと
ミーティアを人質に、彼らと一戦交えたと言う話に嘘は無いだろう。だが気になるのはやはり
ジャンボと言う縁もゆかりもなさそうな人物に狙われている理由だ。

「…あいにく剣はこれ一振りしか持ち合わせませんでした。代わりと言っては何ですが、これまでの
お礼に差し上げたい物が」

言うとエイトは袋から「魔法の聖水」を二つ取り出した。元々六個入りでエイトに支給されていた
物で、すでに二個消費している。

「おお、良かったじゃないか!けどエイト、俺は魔法を使えないから二つともレックにやっていいよな?」

「そうでしたか。ええ勿論、どうぞレックさん」

「ありがとなエイト。けどさん付けでなくて良いよ」

礼を言うとレックはその場で瓶を開けて一気に飲み干した。不用心な行動にエイトは少し面食らう。

「…ぷはーッ!丁度喉も乾いてたから美味かったぜ!じゃ、行くかキーファ」

「おう。じゃあ姫さん、何かあったらトーポに手紙を持たせるから、安心して仲良くやっててくれよ」

「あ……どうかお気をつけて!」

なし崩しに置いて行かれる形になったミーティアは名残りを惜しむ間もなく、走り去っていく仲間の背に
手を振った。そしてエイトに向き直り、毅然とした顔で問い質す。

「済んだ事は仕方ありませんし、貴方の立場上言う事は理解出来ます。でもなぜ私の意見も聞こうとして
くれないのですか?」

確かに歩きどおしで疲れているし、自分が付いたままでは間に合わなかったのではないかとも思う。
その理由で置いて行かれるのならやむを得ないが、仮にたっぷり時間があろうとエイトは同じ事を
言ったであろうとミーティアは確信していた。

「…すみませんでした、姫。ご不満は承知の上で差し出がましい真似を」

畏まりながらもエイトは言えなかった。あれから時間は経っているが、城では戦闘が起きていた。
あの二人に話さないまま送り出し、あまつさえ祖父まで付けた事は。

(結局、レックについてはよく解らなかった。アルスの知り合いである所のキーファ共々、見た通りの
ただのお人好しと判断して良いのかどうか…)

762転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:12:43 ID:RUDAQ9iE0
エイトは疑念の発端である例の混戦が起きたややこしい事情は伏せつつ、ターニアとその前に別れた
アルスについて二人に話して置いた。どちらも東に居たのだから早晩会えるかもしれない。甚だ
投げっぱなしで申し訳ないが、レックに付きまとう色々の事はキーファや彼らの知己に任せる事にした。

これでもう、良い。脱出出来ようが出来まいが、最後までミーティア姫を守り続けられれば私は───

「エイト。顔を上げて聞いてください」

静かな声にエイトの思考は中断された。

「長年の友人としてお願いします。どうか私に彼らの後を追わせて下さい」

「姫!ですが…」

言葉と共にエイトは息を飲んだ。姫君の手にはそこに有るまじき物、両刃の短剣が携えられていた為だ。

「私、ようやく解りましたわ。王族としての矜持と責任──それは安全なお部屋に飾られて、起きる事をただ
眺めるお人形では決して成し得ません」

エイトは黙ってミーティアの顔を見ているしかなかった。その表情は悲しそうでもあり、どこか清々した
様子でもあった。

「確かに危険も有るでしょう。貴方が私を一人にはしない事も、そして貴方を危険に晒す事も承知で言います。
私は人の尊厳を踏みにじるエビルプリーストと名乗る者を許せません。父の名誉にかけて抵抗します。その為に
ここを脱出すると言う希望を持ちながら人任せになど出来るでしょうか。
聞き入れて貰えないのなら、エイト、貴方と一戦交えてでもミーティアは行きます」

「本気……なのですか」

問うまでもなくミーティアの目は決意を物語っていた。

「…解りました。姫、お供します」

折れるしかなかった。馬の姿にされ馬車を引かされ、それでも文句ひとつ言わなかったミーティアが
全存在をかけて拒否しているのだ。どうあっても彼女の身を守りたいと言う自分の矮小な願望を押し付ける
事は、彼女の言う通り王族の矜持を汚す事と同じだ。

「それでもどうか約束して下さい。御身の安全を最優先に行動すると」

「ええ。貴方の判断に従いますわ」

エイトはほっとしたように肩を落とした。そして預かったままのミーティアの袋を背中に下げ直すと、
「では失礼を」と一声かけてミーティアを抱え上げた。

「きゃっ…待って下さいエイト、自分で歩けますから!」

いわゆるお姫様抱っこにされ、ミーティアは慌てて言い募る。

「お言葉ですが、彼らに追いつくならこの方が速いですから」

ミーティアは何か言いたげに口を開きかけたが、すたすたと歩いていくエイトの腕にやがて身を預けた。

763転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:13:46 ID:RUDAQ9iE0
──エイト。私、貴方に会えたら訊きたい事が一つありました。

結婚式前夜に貴方がサザンビークの亡き王子様の息子だと言う証をもって現王に会いに行ったその時、
何を話したのか。

でも、もうそんな事は知る必要が無くなりました。

今までミーティアは自分で選ぶ勇気が無いまま、貴方に手を引いて貰って逃がして貰う事ばかり考えていました。

そして、自分で選ぶ事が出来るんだと悟った今、反省しました。

だって貴方にも等しく選ぶ自由があったのに。私は不自由な身を嘆くだけで何もしなかった。

私は満足です。例え貴方が責任感の為だけに私を守ろうとしているのだとしても──それは悲しいけれど、
貴方の自由なんですもの。そして私は貴方の傍に居られさえすれば…。
 
 
 
【C-5/平原/早朝】
 
 
【レック@DQ6】
[状態]:HP1/2 MP1/3
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、大魔神の斧@DQJ 蒼炎のツメ@DQ10モリーの支給品13個 
    確認済み支給品1〜2個 魔法の聖水×1 トーポ(DQ8)
[思考]:竜王と協力する。アベルを追う、ターニアを探す。
 
【キーファ@DQ7】
[状態]:HP2/3 
[装備]:はやぶさの剣・改@DQ8
[道具]:支給品一式、月影のハープ@DQ8、支給品1〜2個、ユーリルの不明支給品0~1個
[思考]:竜王を追ってトロデーン城へ行く。イシュマウリに会う。
 
【エイト@DQ8】
[状態]:健康 MP1/2
[装備]:奇跡の剣
[道具]:支給品一式 魔法の聖水×2、激辛チーズ(DQ8)
[思考]:ミーティアを守る。トロデーン城へ向かう。レックとその仲間チャモロに対して疑問が残る。

※現状ではミーティアはチャゴスと結婚出来なくなった事に気づいていません。

【ミーティア@DQ8】
[状態]:健康
[装備]:アサシンダガー@DQ8
[道具]:支給品一式、あぶないみずぎ、レースのビスチェ、あぶないビスチェ、祝福の杖@DQ7 その他道具0~1個
[思考]:レック、キーファを追う。トロデーン城に向かい、月影の窓を探す。

※トーポは元の姿に戻れなくされています。

※ターニア、アルス、竜王の情報を交換しました。


【竜王@DQ1】

※時系列上171話開始直前の為割愛

764転がり込んだ幸運 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/23(月) 23:21:43 ID:RUDAQ9iE0
全て貼れたようです。こちら一時投下スレに置かせて貰ったのは、
本当にトロデが死んだらミーティアとチャゴスの婚礼は無理筋になるのか?と言う事です。
そもそも一人娘を嫁にやるのがすごいなって話なんで、原作内にトロデーンの血筋を絶やさない
上手い案でも提示されていたのかな?と思いつつ調べきれませんでした。
それにしても、その方が早かろうとお姫様抱っこさせてますが、空の上のローラ姫に呪われないか心配です。

765 ◆vV5.jnbCYw:2019/12/24(火) 20:20:44 ID:b6alsEW60
投下乙です。
今回は特に見た限り問題はなかったので、このまま本投下して問題ないと思います。

エイトやミーティア達のフィールドが丁寧に描写されていたのが面白かったです。
私も荒野で迷った人(しかも2周目も)なので良く分かります。
エイト、やはりレックには疑い持っているのですね。
いよいよ佳境。どうなるのか気になります。

766 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/25(水) 12:05:37 ID:hfcKEYVs0
確認ありがとうございます(それと、書き手紹介ページの件遅ればせながら有難うございました)。
疑問点についてですが自分も自分の周りのプレイヤー一名に訊いてもそういう話は出た覚えがない状態で、
vV5.jnbCYwさんもご存じないようならもう良いかなあと思っている次第です。何らかの抜け道が無い場合辿り着く結論として
ミーティアが嫁に行った後は子を一人トロデーンに養子に出さないと行けないのではと言うのは、個人的にかなり嫌でしたし
もう死んでるトロデのイメージに合わないしこの話で大した意味を持ってないので削除しておこうかと考えています。
ではぼちぼちと諸所ページを編集させて頂きます。

767 ◆EJXQFOy1D6:2019/12/25(水) 20:58:47 ID:hfcKEYVs0
編集終わりました。本投下と聞いてそれは一時投下じゃない方に置く事を指すのではとも思いましたが、
毎回してる質問回数を出来るだけ減らしたく自己判断でそのまま編集させて頂いています。
現状脱出フラグはおわかれのつばさとかカマエルとか月影の窓とか解呪とかありますね。パロロワは終盤になると
レギュラー的な書き手さんらが密かに相談して方針を決めているのだろうと想像をしてるんですが
こちらはまだそんな感じではなさそうですね。もしかしたらこの先、ちゃんと予定があったのにと言うフラグを
潰してしまうかもしれませんので投下の後でもいいので止めて頂ければ喜んで受け入れます。
完結を心から期待しています。

768 光の中に消え去った : 光の中に消え去った 
 光の中に消え去った 


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