したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |
レス数が900を超えています。1000を超えると投稿できなくなるよ。

【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 七冊目【SS】

811蟻人形:2009/07/11(土) 21:41:08 ID:MpOwosug0
 最初にエニサの魔力が一度小さく揺れた。
「まず火がからきしダメってのが論外。使えねぇ。土はいいとして、風が使えるくせにヘイストできないなんてありえねぇって話よ」
 段々と声が低く大きくなり、黒をバックにうねる魔力の動きも激しくなっていく。エニサは体を前に乗り出し、握りこぶしで床を打った。
「そうだ! ウィザードのくせに支援できないでどうすんだ? なんで土に拘ってるのか知らねぇが、ちったぁ自分以外のことも考えろ――」
「で!? 自分はどうなんだ! 色のある魔法を一度でも使ったことがあったか!?」
 オウバも負けじと声を張り上げた。エニサは僅かに、しかし確かにたじろいだ。鋭く切り込んだ反撃はエニサの弱点を見事に突き当てていた。
 相手の怯みを見逃さず、オウバは切り口をより深く攻めた。
「魔力を元素に換える方法すら知りもしないくせに、偉そうにしてりゃ世話がないな!」
 まるで電気が走ったようにエニサが立ち上がる。
 やや遅れてオウバも杖を構えたが、そのとき既にエニサは彼の視線の先から消えていた。

「っヅぅ!」
 硬い床が奇妙な声を発する。正確には、そこに体を重ねたエニサの声だが。地面に立っていたのは彼が倒れる前後で変わらず二人だった。
「まっったく!! どうして顔合わせるたび喧嘩吹っかけるの!?」
 起立はエニサ一人の行動ではなかった。新調した履き慣れない靴ではあったが、レナンの脚は万全の状態であった。
「……てっ、てめ……っ」
「オウバもよ! ガキじゃないんだから、いい加減場所と状況考えなさいよ!」
 レナンは地べたから聞こえる呻きを無視し、呆気にとられた面持ちのオウバに左手の人差し指を突きつけた。
 面食らったオウバだったが、一つ一つの動作に不満を散りばめつつも大人しく杖を置いた。
 談話室が完全に静まったとき、入り口の戸が再び開いた。

「あれ、どしたの? 三人とも、こんなに暗くして……」
 今度こそ二人が待っていた女性だった。その女性は扉を大きく開け、廊下の光が部屋の中に入るように角度を調節していた。
「誰かマッチ持ってない?」
 女性が暗がりの中の三人に尋ねた。
「あぁ、ダイジョブ。私、左手使えるから」
 レナンが人差し指を立てると、宙に浮く形で小さな火が生まれた。オウバは完全に機嫌を損ね、その光景が出来るだけ視界に入らないよう努めていた。
 光が三人を照らし出した途端、戸口に立つ女性が目を見開いた。
「うわっ、エニサ鼻血っ! 鼻血ヤバいよ!」
 他の二人が見ると、エニサは這いつくばったまま鼻を押さえていた。実際彼はオウバと違い、レナンの火を気にしている余裕などなかった。
「鼻っ……レナンッ! 鼻! 鼻折れたぞっ!」
 指の隙間から漏れた血の雫が、床の赤い水溜りに飛び込んだ。その量を見る限り相当の重傷だと判断できる。
「そんなはずないって。多分強く打っただけでしょ」
 燭台から燭台へと指を動かしながら、レナンは冷静に反論する。次に彼女はその場に突っ立ったままの女性に向き直った。
「シベル、エニサの鼻診てくれない? 火ィ点け終わったら代わるから」
 言い放たれた一言によって、頼まれた女性の顔に動揺と不安が浮かぶ。
「でもあたし、手当てとか全然できないよ……」
「いいのいいの、ただ死なないように目の前で見てるだけで。そもそも明かりがないと見えないからさ」
 恨みがましい表情を包み隠す余裕もないほど出血に慌てふためくエニサの様子を、レナンはえもいわれぬ顔で眺めていた。
 しかも踵をめぐらす一瞬、彼女の口元が小刻みに震えていた。
 それらは新たに部屋に入った女性――つまりシベルに対し、レナンの思考を悟らせるのに充分な役割を果たしていた。
 とはいえ、不機嫌そうに押し黙っているオウバや己との戦いに臨んでいるエニサまでが気付いたかどうかは言うまでもない。
 シベルは呆れるというよりは困惑した表情で、テーブルの上に置いてある燭台とちり紙を掴み、エニサの元に駆け寄った。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板