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【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 七冊目【SS】

1ルイーダ★:2008/05/03(土) 01:08:47 ID:???0
【重要】以下の項目を読み、しっかり頭に入れておきましょう。
※このスレッドはsage進行です。
※下げ方:E-mail欄に半角英数で「sage」と入れて本文を書き込む。
※上げる際には時間帯等を考慮のこと。むやみに上げるのは荒れの原因となります。
※激しくSな鞭叩きは厳禁!
※煽り・荒らしはもの凄い勢いで放置!
※煽り・荒らしを放置できない人は同類!
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。
※どうしてもageなければならないようなときには、時間帯などを考えてageること。
※sageの方法が分からない初心者の方は↓へ。
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1117795323.html#562


【職人の皆さんへ】
※当スレはあくまで赤石好きの作者・読者が楽しむ場です。
 「自分の下手な文章なんか……」と躊躇している方もどしどし投稿してください。
 ここでは技術よりも「書きたい!」という気持ちを尊重します。
※短編/長編/ジャンルは問いません。改編やRS内で本当に起こったネタ話なども可。
※マジなエロ・グロは自重のこと。そっち系は別スレをご利用ください。(過去ログ参照)


【読者の皆さんへ】
※激しくSな鞭叩きは厳禁です。
※煽りや荒らしは徹底放置のこと。反応した時点で同類と見なされます。
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。


【過去のスレッド】
一冊目 【ノベール】REDSTONE小説うpスレッド【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1117795323.html

二冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 二冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html

三冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 三冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1139745351.html

四冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 四冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1170256068/

五冊目【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 五冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1182873433/

六冊目【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 六冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1200393277/

【小説まとめサイト】
RED STONE 小説upスレッド まとめ
ttp://www27.atwiki.jp/rsnovel/

43白猫:2008/05/14(水) 22:56:04 ID:HQcswubo0
Puppet―歌姫と絡繰人形―


第一章〜第五章及び番外編もくじ 5冊目>>992
第六章〜第十八章もくじ 6冊目>>924
第十九章 -愛しき君への言葉 迫り来るもう一つの敵- >>5-16



第二十章 激戦の、一歩手前








太陽の日も届かない、地下深くの大迷宮。
 「ッ退けえ!!」
襲い来る狼の胸を爆砕し、ネルは前方にグングニルを放つ。
ガギャン、と見事壁に突き刺さったグングニルは、一瞬後に[爆風]を発動――前方の壁一面を吹き飛ばした。
標的を失ったグングニルが地面に落ちる前に掴んだネルは、目の前に空いた巨大な穴からさらに前進する。
 「ブリッジヘッドにこんな地下があるとは、驚きます」
壁の向こうにいたシーフ達を瞬時に薙ぎ払い、辺りを見回して溜息を吐く。
その後をゆるりと前進していた覆面男は、その無茶苦茶な破壊力に息を呑む。
此処、団長クレリアが発見し、数年前からアジトとして機能している地下道――ブリッジヘッド地下迷宮。
長さは数キロにも渡るこの地下迷宮の最深部に、クレリアがいるはずである。
だが、最深部へ行くには無数の魔物達の攻撃をかいくぐり、進まなければならない。
普段はこの大迷宮を通る必要はない。だが"数千人のシーフ達の探知をかいくぐってクレリアの元へ行く"には、この方法しかないのだ。
作戦の内容はこうだ。

   《戦闘換算レベル450を超える魔物達の群れを抜け、クレリアの元へと行く。
    集団戦闘、個人戦闘、広い場所、閉鎖空間、どちらでも圧倒的な破壊力を誇るネルが先頭を走り、まっすぐ進む》

これだけ。
その[まっすぐ]に嫌な予感を覚えた男は、自分の予感が的中してしまったことを呪う。
ネルは文字通り、壁や階段を無視し[まっすぐ]進んでる。グングニルの破壊力に任せ、全てを破壊しながら進み続けていた。
ルフィエとマイはネルと一定の間隔を保ちながら進んでいる。彼女たちもある程度気配を察知できるので、やられる前に逃げることは可能だろう。
……だが、ネルは本当にムチャクチャな戦い方をしている。
敵は全てモリネルタワーのそれを超える凶暴な魔物達ばかり。並の冒険者なら魔物と遭遇した地点で殺されてしまっているだろう。
だが、ネルはグングニル一本で数十の魔物達を薙ぎ倒してゆく。迷宮に入ってから、まだ一撃ももらっていない。
加えてその体力。
迷宮に入り込んで早一時間。その間彼はずっと、先のペースで驀進を続けている。
彼なら[ドラゴン]も一人で倒せるのではないか、と男は思わず呟いた。
 「覆面、後どれくらいまっすぐ進めば良いのですか」
 「……後、30メートルといったところか」
いつの間にか自分の呼び名は覆面になったらしい。確かに特徴らしい特徴といえばこの覆面とツンツンした髪の毛ぐらいだが……
 (もう少しネーミングセンスというものを――む)
と、その前方。
 「……扉?」
今まで扉だろうと壁だろうと爆砕して進み続けていたネルが、そこでふと立ち止まった。
全長5mほどの、巨大な巨大な扉。
錆びた鉄のような色をしているあたり、かなり古い時代のものに見えるが――
 「地下迷宮にこんなものが……? 無駄に大きいですね」
 「どうしたのネルくん――うわ、でか」
 「ふむ、かなり古い扉だな」
ようやく追い付いてきたルフィエとマイが、ネルの両脇で立ち止まる。
二人とも目立った外傷はない。まぁ、ネルが前方であれほど爆音を鳴らしながら進んでいたのだから、当たり前と言えば当たり前。
その二人を少しだけ見やり、男は扉に触れる。
……冷たい。だが、特に罠の気配もない。
 「罠の気配はないです。行きましょう」

44白猫:2008/05/14(水) 22:56:26 ID:HQcswubo0


 (――よし、来い)
その扉の向こう側、巨大な砲台を構えていた男が薄ら笑いを浮かべる。
自分の位置は扉と2mほどしか離れていない。この、近距離からの砲撃。
幽霊鎧すらも一撃で打倒す威力の砲台である。これほど至近距離で放たれれば、まず間違いなく致命傷を負う。
 (扉を開けた瞬間が、お前らの死ぬときだ――)

   ――ゴッ!!!

ネルは鋭い左まわし蹴りで、その扉を蹴破る。
とてつもない重量のはずの扉が、ネルの蹴りによりバガンと淵ごと外れ、倒れる。
 「へっ!?」
突如傾いてくる扉に、砲台を構えた男が目を見開く。
慌てて逃げようとするが、安全ベルトによって砲台と繋がれており、動かない。
 「――――――!!!」

物凄い音量と土煙と共に、厚さ20センチほどの扉は見事向こう側に倒れた。
見れば、ネルの蹴った部分が凹んでいる。なんというムチャクチャなキック力だろう。
と、
 「……どうやら向こう側に、伏兵がいたようです」
真っ先に扉を飛び越えたネルは、扉と床のわずかな隙間を覗き、言う。
ぇ、と立ち止まったルフィエとは対照的に、やっぱりかとマイは苦笑する。
 「通常の罠ではなく伏兵を仕掛けていたということか。しかし扉の下敷きとは可哀想に」
ええ、と冷や汗をかくルフィエの横を通り過ぎ、男は溜息を吐く。
 「随分と長い回廊だ――主の元へ繋がっていそうだな」
 「こんな場所に一人だけ配置していた……ということは、かなりの実力者だったわけですか?」
 「そんな奴が扉に押し潰されるか? 普通」
 「…………」
なんとも後味の悪い勝ち方に、ルフィエは小さく溜息を吐いた。

45白猫:2008/05/14(水) 22:56:47 ID:HQcswubo0



 「…………」
ヴァリオルド邸、第二武器庫。
ほぼ毎日此処に入り浸っているカリンは、目の前の剣にグクリと唾を飲み込む。

   [哀咽剣]

間違いない。
遥か古代に打たれ、現代まで誰一人として扱うことのできなかった呪われた剣。
血と嘆きにより汚れた刀身は、まるでカリンの心を映すように、黒く煌いていた。
 (これだけ大量に剣があるんだ、一本くらい無くなっても――)
そう思いかけたカリンは、しかしブルブルと顔を振ってその思いを断ち切る。
が。
 「…………」
少しだけ。
少しだけなら、大丈夫。
そう心中で思い、カリンは哀咽剣に手を伸ばす。
 「カリンお姉ちゃん?」
 「!」
剣まであと数センチ、というところで、後ろからメアリーの顔をかけられる。
その方向を見やり、物凄い形相でメアリーを睨む。
が、メアリーは首をかしげ、カリンの横へ歩く。
 「きれいな剣だね、カリンお姉ちゃん」
 「……きれい?」
メアリーの言葉に、カリンは剣へと視線を戻す。
哀咽剣は真っ黒に穢れているように見える。目を細めて凝視しても、お世辞にも[きれい]とは言えなかった。
 「カリンお姉ちゃんとおんなじ、黒くてつやつやしてる」
 「……!」
その言葉に、カリンは目を見開いた。

   "カリンと同じ"。

 「…………フン」
鼻で笑い、カリンは上げていた手をゆっくりと降ろす。
なんだか気分が削がれてしまったカリンは、踵を返して倉庫から出て行ってしまう。
それを見たメアリーは、慌ててカリンの後を追う。
 「カリンお姉ちゃん、待ってよー」
 「うるさい、付いて来るなチビ」






アリアン、傭兵ギルド。
 「だ―――――――――――ッッッ!!!!!!!」
ガシャーン、と机をひっくり返し、蒼髪のランサー……アーティが椅子から立ち上がった。
机の上に乗っていた無数の書類、羽ペン、インク、ついでにコーヒーカップが辺りに散らばり、やかましい音を立てる。
イライラした様子で部屋の端に立てかけてあった槍を掴み、窓の額縁に手をかける。
 「アーティはん、何処行くねん?」
 「…………」
その後ろ姿を呼び止めたカリアスは、部屋中に散らばっていた書類だか紙屑だかを見やり溜息を吐く。
手に持っていた書類の山を棚に置き、アーティへ詰め寄る。
 「一人だけ逃げようなんて虫のええこと考えてへんやんなー?」
 「……書類多い。無理。死ぬ。書類死する」
 「書類死て何やねん書類死て。まだ半分も終わってへんねんから、頼むから暴れんといて下さい」
 「……フッ、甘いわっ!!」
カリアスの言葉に、アーティは手に持ったランスを旋回させる。
途端に巻き起こる旋風に、カリアスは「げ」と一歩下がった。

   「『 シャベリンテンペストォッ!! 』」



 「ててっ……」
地面に突っ伏し、立ち上がったカリアスは痛む体で辺りを見回す。
先に持ってきた書類諸共、部屋中は紙屑で無茶苦茶な状態になっている。室内で嵐なんて起こればそうなっても不思議ではない。
そしてやっぱり、アーティの姿はどこかに消えてしまっていた。
 「……これで何回目の脱走やねん」
お転婆にも程があるアーティの行動に、カリアスはゆっくりと溜息を吐いた。
ちなみに、アーティはまだ怪我人である。

46白猫:2008/05/14(水) 22:57:11 ID:HQcswubo0



ブリッジヘッド地下迷宮に突入してから、早二時間。
 「だーかーらー! 絶対右のボタンですって!!」
 「いーや違うな! 絶対左のボタンだこれは!!」
ようやくクレリアの部屋の前まで到着した四人は、最後の最後で奇妙な仕掛けに足止めを食っていた。
目の前にはクレリアの部屋へと続く扉。
表面が焦げているのは、最初にネルが[爆風]で破壊しようとした跡。
いや、グングニルどころか、マイの[唄]で上乗せされたルフィエの[スーパーノヴァ]や覆面男の持っていた手榴弾数発、ネルの超人的な破壊力の攻撃を持ってすら、この扉は破れなかった。
戻る道はない。扉に攻撃を加えた途端、背後の扉にロックがかかってしまった。
背後の扉も前方の扉と同じことを行ったが、結果は散々である。

そして、扉横にある2つのボタン。

そこにはかわいらしい文字で「どっちかを押すと扉が開いて、どっちかを押すと死にます☆」と書かれている。
それを見るや否や右のボタンを押そうとしたネルを引きとめ、今しょーもない口論が起こっていた。
 「僕はこういう二択は得意なんです! いいから黙って右のボタンを押させなさいっ!!」
 「信用ならんなお前は! そもそも出口が閉まったのはお前が攻撃を加えたせいだろう!!」
 「それはそれです! そもそもこの中だと僕が一番運がいい!!」
 「スターライトを使えば私の方が上だッ!! そこを退けえッ!!」
ネルがボタンを押そうとすればその手をはたき、
マイがボタンを押そうとすればその手を蹴り上げ、
ボタンをけり押そうとすればその足に光弾を投げつけ、
その隙にボタンを押そうとすればその眼前にグングニルが突き刺さる。
なんだか徐々に危険な空気になっている。

部屋の端っこで体育座りをしていたルフィエは、溜息を吐いて空中に絵を描く。
右側に「右」、左側に「左」と書き、中央に区切りの縦線をシャッと走らせる。
 「ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な、て、ん、の、か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、り」
右左右左と交互に指すルフィエは、首を傾げながら言い続ける。
 「か、き、の、た、ね、ちゅっちゅくちゅーのちゅ、ちゅ、ちゅ」
ピタリ、と止まった指は、左を指した。
 「決まりー! 左を押そう!」

   「「ルフィエうっさい!!」」

ネルはともかく、左を押すと言っていたマイにまで怒鳴られルフィエはむすっとする。
再び体育座りで地面に座り込み、今度は地面に光の線を描いていく。
 「右に倒れたら右。左に倒れたら左ね……」
スターワンドを地面に立て、えい!と手を離す。
パタリ、と倒れたワンドが指す方は、右。
 「決まりー! やっぱり右押そう!!」

   「「どっちだよ!!!」」

覆面男は寝てる。

 「………………………………………………………」
異様に長い沈黙の中、クレリアはイライラしながら目の前の扉を睨む。
その扉の向こうにはネル達がいるはず――というか、いる。
先からやかましい声が聞こえてくる。このときほど、扉に防音設備を整えなかったことを後悔した。
実のところ、ボタンはどちらを押しても即、天井が落ちるという仕組みになっている。
要するにボタンさえ押してくれれば、彼らはお陀仏なわけだが――

 「だーかーらー! こういうのは僕に任せればいいんですよっ!!」
 「ええい! うっさい、四の五の言わずに私に押させろっっ!!」
 「ねージャンケンで決めようよ〜」
 「「うっさい!!」」

 「……いつ終わるんだこいつらのコレは」

47白猫:2008/05/14(水) 22:57:39 ID:HQcswubo0



十分後。

 「……もうこうなったら、ボタンを押さずに扉をぶち抜くしかないようですね」
 (何故そうなる!?)
(ノヴァが体に数発炸裂した跡のある)ネルの殺気立った声に、クレリアは目を見開く。
慌てて扉から離れようとするが、しかし思い出す。
この扉はミスリル合金製。さらに防護魔法を数十加えることで、無双の防御力を誇る。
いくら攻撃力が高い武器を使おうとも、この扉は破れない。
 「ルフィエ、女神を」
 「うん」
ネルに頷きかけ、(とばっちりで火傷した)ルフィエはスターワンドを鋭く払う。
途端にネルを包み込む、金色の光。
それを目を細めて見やり、(全身ズタボロな)マイは端のほうで寝ていた(やっぱりというか無傷の)覆面男を蹴起こした。
 「……どちらを押すか決めたのか?」
 「いいや。扉をぶち抜くことにした」
 「…………」
絶句する覆面男を引きずりながら、部屋の奥へと下がった。

白く煌くグングニルを肩に番え、ネルは両足の間隔をさらに開く。
腰を低く落とし、右手に込められるだけの力を込めた。
 「ッスゥ――――」
肺いっぱいに息を吸い込み、小さく吐く。
右手の甲に埋め込まれたエリクシル、その輝きを見やり、ネルは少しだけ微笑んだ。
 (おまえの力が必要だ、エリクシル)
その紅に煌く宝石の中、
無限とも思える膨大な魔力の渦。その中から、一握りの魔力を取り出し、燃やす。
この扉をぶち抜くには、単なる[槍の力]だけでは足りない。
唯一無二の[破壊神の槍]たる、その力を極限にまで引き出す。
それが、必要不可欠なのだ。
 「……エリクシル、[第三段階]」

ネルの呟きと同時、

ネルの体を紅色の炎が覆い尽くし、その全身を紅色に彩る。
その光景を目を細めて見やったルフィエは、胸の十字架を握り締め、心中で呟く。
 (どうして、なの)
徐々に形作られていく全身鎧や[深紅衣]、巨大な仮面にルフィエは顔を俯かせる。

   怖い。

そう思ってしまった。ネルのことを見て。
それほどの魔力が、部屋全体を渦巻き、包み込んでいた。
以前見た[第三段階]とは違う――なにかが。
と、
 「――!!」
ネルの髪の色が、染め上げられてゆく。
見惚れてしまうほど美しい、紅色へと。
いつの日か見た――[第四段階]のときと同じだ。
 〈ルフィエ、[断罪者]にはならぬよう〉
 (分かってる)
むかつく胃を抑え、ルフィエは深呼吸をする。
最初は早く、徐々にゆっくりと。
ようやく落ち着いた後、ルフィエはネルの姿を見やる。
ネルの左側に立っているルフィエは、その仮面のせいで顔を見ることができない。
だが、彼がどんな顔をしているか――それは、簡単に分かった。
 「ルフィエ、信じてて」
その言葉で、分かった。
 「僕が、護るから――君を」
 「……うん」


 「――アアアァアアアアアアッッッッ!!!!!」
体中に溜めた力を、一気に解放する。
右手に番えた槍に全神経を注ぎ、右足をさらに深く、左足をさらに強く踏み込んだ。
 「――『 破(トライ)、槍(デント)ッ!! 』」
そして、グングニルが放たれた。
ルフィエの力たる金、ネルの力たる紅、グングニルの力たる白の混ざりあった、魔力と共に。

凄まじい勢いで、ほぼ零距離から放たれた槍は、

とてつもない音と共に、前方の扉をぶち抜いた。

48白猫:2008/05/14(水) 22:58:03 ID:HQcswubo0




 「……ひゃー。私たちがあれだけやっても壊れなかった扉を、ああも易々と壊すか」
言葉と裏腹に、マイはやけに嬉しそうである。
そのマイと対象に、覆面男はぐったりとした顔で目の前、扉の縁ごと消滅し、ポッカリと空いた穴を見やる。
 「ネルくん、やったね」
 〈見事です。この短期間で[破槍]まで覚えてしまいましたか。やはり貴方はワルキュ――〉
 「ほら、いいからさっさと先に進みますよ」
向こうの部屋、すぐ傍の床に突き刺さっていたグングニルを引き抜き、ネルは辺りを見回す。
シーフギルドの団長が使う部屋――にしては、特に何も置かれていない。
唯一目に入るのは、部屋の奥に置かれた肘掛椅子、そしてその後ろに飾られた、ヴァリオルドのタペストリー。
ご丁寧にも逆さまに飾り、真っ二つに裂かれている。最も、ヴァリオルドを憎む者は少なくない。こんなもの、今まで捨てるほど見てきたが。
それよりも、今はクレリアがどこにいるか――
 ([先制攻撃]で探知できる範囲内にいない――!?)
扉を破る前までは、奇妙な気配を感じていた。
この上なく忌々しく、そしてどこか懐かしい気配――クレリアの気配。
[先制攻撃]の範囲から瞬時に離脱することなど有り得るはずがない。
 「――覆面! 奴はポータルスフィアを所持しているのですか!?」
ポータルスフィア。
瞬時に大陸間を移動できるほどの魔力を込めた宝玉。
さらに持主の運字体を上昇させることもできるが、この宝玉一つで家が5つは立つため好き好んで買おうとする者は少ない。
だが、自分がグングニルから意識を離した一瞬――[先制攻撃]が解除された一瞬――の間に、クレリアの気配が消えた。
 「それはない。第一、この地下迷宮でそんな物は使えん」
 「……僕以上の速度で移動はない、スフィアが使用不可能、となると――」
そう呟き、ネルは己の足元を見やった。

そこに刻まれている、血で描かれたような赤の線。
その線は部屋の床いっぱいに続き、まるで何かを描いたかのような――
 「――マイ! "これ"、解読できますか!?」
 「ん」
ネルの言葉に、マイは部屋の中へゆっくりと入る。
目を細めてその線を眺め、
 「ああ、分かった」
 「早っ」
即答した。
ルフィエの呟きに苦笑し、マイはネルを通り過ぎて部屋の中央に立つ。
 「これはエナジーフィールド――平たく言えば魔方陣だな」
 「マホージン――て何ですか?」
首をかしげてルフィエの方を見やるが、ルフィエも首を横に振る。
まぁ無理もない。と肩を落としたマイは、部屋の奥の肘掛椅子に腰かけた。
 「魔方陣は簡単に言えば――魔力の"場"みたいなものだ」
 「場――範囲のようなものですか?」
ネルの冒険者、武術家としては至極真っ当な答えに、マイはしかし目を閉じる。
 「似て非なるものだ。"それが影響を及ぼすことのできる場"が範囲ならば、魔方陣の"場"は「魔力そのものが影響を及ぼすことができる場」だ」
 「…………?」
どうにもマイの言い回しは難しい。ネルはその半分も理解できない。
かろうじて理解できたらしいルフィエも、こめかみに指を置いてうーんと唸っている。
覆面男は鼾をかき始めてる。どこででも寝れるのかこの人は。
 「魔方陣はその場の魔力を自動的に起動する力を持っている。まぁ、例えばの話――」

49白猫:2008/05/14(水) 22:58:27 ID:HQcswubo0

@わかりやすい(?)マイ先生の魔方陣講座@

マ:仮に、私とネル公が戦ったとする。神器の使用は不可とするぞ。

ネ:100パー僕の圧勝ですね。

マ:やかましい。……でだ。私とネルが15mの距離を空けて立っていたとする。私の射程は10m、ネル公の射程を5mと仮定するぞ。

 :このとき、双方の攻撃は相手には届かない。攻撃範囲の中に相手がいないからだ。これは理解できるな?

ネ:ええ、まぁ……。

ル:だいたいは、ね……。

マ:だが私が一歩も動かなくても、ネル公に攻撃を当てる方法がある。それが[魔方陣]だ。

 :魔方陣はいわば"即席の神器"だ。魔方陣を描き、そこに魔力を込めるだけで、魔方陣は自動的に発動する。

ネ:具体的にどうなるんですか?

マ:魔方陣は、その形と描かれるルーン文字によって効果は異なる。地雷のように中に入った者を攻撃することも、逆に回復することも可能。

 :さらに、術者の魔力を増強させることも減衰させることも思いのまま――分かったか?

ル:術者を強くできちゃうんだ――どれくらいの効果があるの?

マ:効果は式が高度なものであればあるほど増す。私の魔方陣はそうだな、精々70%といったところか?

ネ:術の威力も射程も七割増……おっそろしいですね、魔方陣。

マ:ま、実際の戦闘で魔方陣なんぞ使えんがな。書く時間ないし。

 :だがやろうと思えば衣服に魔方陣を描いておくことくらいわけない。実際、私も背中に魔方陣のタトゥーを入れてるからな。



   :要するに私の圧勝だ、ハッハッハッハ!!!

ネ:………………。

ル:(絶対これが言いたかっただけだ……)

@わかりやすい(?)マイ先生の魔方陣講座でした!@

50白猫:2008/05/14(水) 22:58:53 ID:HQcswubo0


 「で、魔方陣のことは分かりましたから……問題は、これが何の魔方陣かってことです」
 「ああ、これ。私がず――――――――っと前に……修業時代お遊びで書いた魔方陣だ。瞬移の」
ネルの言葉に、思い出したようにマイが頷く。
うんうん、と何度も首を縦に振るマイを見、ネルはそうですか――と頷きかけて、

止まった。

 「……………………瞬、移?」
 「……瞬間、移動?」
 「テレポートのことか?」
三者三様の反応に、マイは頭をガリガリと掻いて笑う。
 「あー、そ。テレポート。これなら魔力さえあれば、フランテル中どっこにでも飛べるだろうな。ハッハッハ。若い頃の私の才能が憎いなー!」
が、
ドズン、とネルの足が、一歩部屋の奥へと踏み出される。
コンクリートで固められているはずの床にネルの足が埋まり、マイはビクッとする。
全身からまさに憤怒のオーラを撒き散らすネルは、ゆっくりとマイに微笑みかける。
 「要、する、に。あなたが書いたこの魔方陣がいつの間にかクレリアの手に渡って、いつの間にかシーフギルド内で使われるようになって、いつの間にかクレリアはこれで逃げ出したってことですかねぇ? マイ?」
 「あー……いや、えーっと……」

   「往生せいや―――――――ッッッッ!!!!!」
   「勘弁しろ―――――――ッッッ!!?」







十五分後。

 「なんで最初から後を追えるって言わなかったんですか」
グングニルを煤だらけの床から引き抜き、ネルは溜息を吐く。
その目の前、小声で「若干チビッた……」と震えるマイは、慌てて立ちあがって涙目で怒鳴る。
 「言う前に襲いかかってきただろうがッッ!!!」
 「そうでしたっけね? いいから早くやってください」
抜け抜けと言うネルを睨み、マイはブーツで床を二度、カンカンと叩く。
途端、抉れたり盛り上がったりしていた床が平らに均され、赤色の文様――魔方陣が再生する。
 「"逆転魔法"で行き先を特定する」
 「逆転魔法くらいなら、私が――」
 「いい」
ルフィエの言葉を遮り、マイは魔方陣を撫で、笑う。
 「あなたには、大仕事があるだろう?」
 「…………?」
微笑んだマイに首を傾げ、しかしルフィエは黙ったままその姿を見やる。
しばらく魔方陣に手を当て黙っていたマイは、やがて立ち上がり、言った。
 「古都ブルンネンシュティングへ繋がっていたようだな」
 「…………!」
その言葉に目を見開いたネルは、しかし頷く。
クレリアは十中八九ヴァリオルド邸だ。一体、何を考えている。
 「この魔方陣、今すぐ起動できますか」
 「できる。――が、生憎と私の魔力では"ふたり"が限界だ」
 「ふた、り――」
 「そう。ネル公と小娘の二人」
心配そうに俯くルフィエに微笑み、その背中をぐいと押す。
 「ほら、さっさと行ってこい」
微笑むマイを首を傾げて見やりルフィエは、しかしとりあえずその指示に従う。
ネルとルフィエ、二人が魔方陣の中に入ったのを見、マイはゆっくりとしゃがみ込み、両手を魔法陣に当てた。
そして、一瞬。

音もなく、その場からネルとルフィエの姿が掻き消えた。



FIN...


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