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【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 七冊目【SS】

242ドワーフ:2008/07/01(火) 20:36:23 ID:AepyIIHk0
ハノブに着くとザトーはすぐに宿を取り、ハナをそこで休ませて自分一人だけ宿を出てしまった。ザトーに対して心のどこかでまだ疑いの気持ちを持っていたハナは彼の後を追いかけた。もしかしたら彼は自分を騙しているのではあるまいか。遠くの国へ行くといっていたが、もしかしてそこで自分を売るつもりなのではないか。ザトーに対してそんな疑念を抱きつつ追いかけた。
ザトーの行き着いた先は、街の一角にある小さな一軒家だった。中からは女性と小さな子供が出てきて彼を出迎えていた。彼の家族だとハナは思った。小さな我が子の頭を撫でて、妻と楽しそうに話している。それはハナの心にとってとても遠く眩しい光景だった。
ザトーはお金の入っているらしい小さな包みを妻に渡すと、家を後にした。男の子がずっと手を振っている。
しかしザトーの用事はそれでは終わらなかった。別の家に行き、別の家族に出迎えられ、またお金を渡して去っていく。そうして数件を同じようにお金を配って回った。中には夫の居る家族も見えた。
ようやく用事が済んだのか宿のほうへ歩き始めたザトーの前に、我慢できなくなってハナは姿を現した。
「一体何をしてたの?」
「鉱山での事故で亭主を亡くした家族、怪我で働けなくなっている家族に生活のための金を配っていた。アウグスタからの報酬でね」
ザトーは驚いた風もなく平然と答えた。ハナが追いかけてきているのに気づいていたのか、それとも予想していたのか。
「何でそんな事をしてるの?何の得にもならないのに」
「得ならあるさ。彼らの感謝の言葉が聞ければ、それこそが俺にとっての本当の報酬なんだ」
ハナは理解できないという風に首を振った。
「ただの自己満足でしょ」
「意外と難しい言葉を知ってるんだな」
ザトーは少し困ったような表情で笑った。
「人の一生の中で、心から満たされる瞬間はどれだけあるだろうか。人それぞれだろうとは思うが、俺にとってそれは他人の言葉に勇気付けられるときに他ならない。たとえそれが他の人にとって変に見えたしても、俺は自分自身のために、他人に尽くす」
ハナはぼうっとザトーの横顔を見ていた。彼の言う事が理解できないわけではない、だが彼女のこれまでの生き方が彼を否定していた。
「それより丁度良かった。宿に戻る前に買い物をしていくぞ。君も来るんだ」
そう言ってザトーはハナを連れて一軒の店に入った。
「好きなものを選べ」
そう言われた彼女の前に並んでいたのは杖だった。魔法使いのための物ではなく、旅行用のものだ。
「君はあまり足腰が丈夫ではないようだからな。杖の一本でもあったほうがこの先少しは楽になるだろう」
ハナは老人じゃあるまいしと内心思った。しかし、道中度々休憩を取って足を遅らせていたのは事実だった。仕方なく彼女は杖を選び始めた。
彼女の目は小さな梅の花が描かれた一本の前で止まった。


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