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【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 七冊目【SS】

1ルイーダ★:2008/05/03(土) 01:08:47 ID:???0
【重要】以下の項目を読み、しっかり頭に入れておきましょう。
※このスレッドはsage進行です。
※下げ方:E-mail欄に半角英数で「sage」と入れて本文を書き込む。
※上げる際には時間帯等を考慮のこと。むやみに上げるのは荒れの原因となります。
※激しくSな鞭叩きは厳禁!
※煽り・荒らしはもの凄い勢いで放置!
※煽り・荒らしを放置できない人は同類!
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。
※どうしてもageなければならないようなときには、時間帯などを考えてageること。
※sageの方法が分からない初心者の方は↓へ。
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1117795323.html#562


【職人の皆さんへ】
※当スレはあくまで赤石好きの作者・読者が楽しむ場です。
 「自分の下手な文章なんか……」と躊躇している方もどしどし投稿してください。
 ここでは技術よりも「書きたい!」という気持ちを尊重します。
※短編/長編/ジャンルは問いません。改編やRS内で本当に起こったネタ話なども可。
※マジなエロ・グロは自重のこと。そっち系は別スレをご利用ください。(過去ログ参照)


【読者の皆さんへ】
※激しくSな鞭叩きは厳禁です。
※煽りや荒らしは徹底放置のこと。反応した時点で同類と見なされます。
※職人さんたちを直接的に急かすような書き込みはなるべく控えること。


【過去のスレッド】
一冊目 【ノベール】REDSTONE小説うpスレッド【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1117795323.html

二冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 二冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1127802779.html

三冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 三冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/game/19634/storage/1139745351.html

四冊目 【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 四冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1170256068/

五冊目【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 五冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1182873433/

六冊目【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 六冊目【SS】
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/game/19634/1200393277/

【小説まとめサイト】
RED STONE 小説upスレッド まとめ
ttp://www27.atwiki.jp/rsnovel/

217黒頭巾:2008/06/23(月) 22:54:18 ID:fou9k2gM0
「ばっか……PTだろうが……」

精一杯の返答。
思ったより被ダメがでかいのか、その声は自分でも驚く程に小さく掠れていた。
それでも彼女に伝わったのは、風の神獣が伝えているんだろう。
本音は女だけ置いて逃げれるか、ってとこだ……こんな少女ですら俺を護ろうとしてんだぞ。

「嫌われてると思ったのに……」

彼女の大きな瞳から涙が零れ落ちた。
あーもー、泣くな。
うん、正直俺が悪かったから。
てか、こんな事してる場合じゃなくね?
ほら、神獣一体倒されたし。
頭痛と眩暈が漸く収まってきたから立ち上がろうともがいてみるも、自分の身体じゃないみたいに重い。
くっそ、ヘイストでもあれば!
……ヘイスト?
引っ掛かりを感じた俺の脳内に、先日の彼女の声が木霊する。

――凄いです! こんなに精霊に好かれてる人、見た事ないですよ!

そうだ、“精霊の友”を称する彼女が“精霊に好かれてる”と言ったんだ。
風の精霊が回りにいてもおかしくはない。

「……なぁ、いるんだろう?」

よろよろと立ち上がりながら、俺は呟く。
まだまだ声は掠れて小さかったが、彼女の言う通り俺が“精霊に好かれてる”なら、きっと問題ない筈だ。

「……頼む、力を貸してくれ」

こんな俺を変えてくれそうな、こんな俺でも護ってくれようとする、そんな大切な人を失いそうなんだ。
如何か、俺にもう一度アンタらを信じる勇気をくれた彼女を護る為の力を。

「……なぁ、お願いだ!」

――大丈夫、貴方の声は聴こえてる。

血を吐く様に叫んだ俺の耳元で、“声”が聴こえた。
聖母の様な慈悲と威厳を感じさせる“声”が。

――愛し子よ、時は満ちた。

途端に俺の鼻腔を擽るのは、懐かしい風の匂い……あの村の、あの森の、香り。
……嗚呼、本当にずっと傍にいたんだな。

――我らの寵愛を受けし貴方に、風の“祝福”を。

“声”と共に、後ろから何者かに優しく抱きしめられるのを感じた。
同時に、鉛の様に重かった身体が普段のそれより軽くなる。
それは、望んでいたウィザードのヘイストを強力にした感覚で。

「……よし、いける」

俺は遠い守護鎧に向けて、強烈な突き出しを放った。
高速で打ち込んだ拳圧が烈風となって、少女にその手を伸ばそうとしていた守護鎧を襲う。
いつもよりよく聞こえる俺の耳に、硬い鎧に亀裂が入る音が響いた。
こちらに向きなおした敵に安心した俺は、風を乗せた攻撃を無数に放った。
守護鎧は反撃さえ出来ないまま、硬い鎧を亀裂だらけにする。
一足飛びで懐に飛び込み、0距離から放った俺の渾身の三連回し蹴りが守護鎧の動きを永遠に止めた。
今まで苦戦したのがアホらしい程、俺の圧倒的勝利だった。
今の俺の姿を見たら、きっと師匠は嬉しそうに目を細めるんだろうな。
ふっと笑った俺の前、嬉しそうに俺を見詰める彼女の頭の上にちょこんと座った風の精霊も、彼女と同じ嬉しそうな優しい笑みを浮かべた。
もう動かなくなった守護鎧の足元に目をやれば、求めるシグの剣が落ちていて。
かの有名な冒険者はその死の間際、何を思ったのだろうか。
……今となっては、誰も知る事は出来ないけれど。

218黒頭巾:2008/06/23(月) 22:55:02 ID:fou9k2gM0
数日後のアリアン。
鏡の様に光る巨大なオアシスの畔に俺はいた。
あの戦闘で負った傷は知り合いの司祭の回復で総て癒え、体調は万全だ。
今の俺の目には、ただの綺麗なオアシスだけではなく水辺で戯れる精霊達の姿も見える。
これ程の数の精霊達の憩いの場になっているから、このオアシスは枯れる事はないのだろう。
そのオアシスの前、初めて見かけた場所に今日も彼女はいた。
俺の肩に座っていた精霊が嬉しそうに彼女の周りを飛び回る。
俺は右手を上げて彼女に挨拶すると、彼女も笑顔で「こんにちは」と手を振った。
話し込むと切り出せなさそうで、さっさと手短に用件だけ伝える。

「……村に帰る、ですか?」
「あぁ、遠すぎて長く帰ってないから、一度両親の墓参りをしようと思う」

そう言った俺に、彼女は「是非そうした方がいいです」と微笑んだ。

「ほらほら、武道家さん! 善は急げです…早く準備しないと」

正直、彼女と別れたくなかったからまだ準備してないなんて、言える筈がない。
彼女の言葉に何とも思われていないのかと哀しくなった俺の手を引っ張りながら、彼女は更に言葉を紡いだ。

「何しろ、二人分の長旅の準備なんですからね!」
「……へ?」

我ながら間抜けな声が出たと思う。
ぽかんとする俺に、またまたぽかんとした顔の彼女が首を傾げた。

「え、一緒に連れてってくれないんですか?」
「え、だって……迷惑じゃね?」
「何で迷惑なんです?
 PTでしょ、一緒に行きましょうよ!」

え、いつの間に固定PTになってんの?
いや、嬉しいけど!
落ち着け、俺。
負けるな、俺。
これ、もしかしてまだチャンスあんじゃね?

「ね、武道家さん!」

目の前には、満面の笑顔を浮かべる彼女の姿。
出会った頃より距離が縮まった彼女だが、未だに俺を武道家さんと呼ぶ。
そりゃそうだ、俺はまだ彼女に名前を教えてないんだから。

「おい、ロマっ子」
「ロマっ子って呼ばないで下さい! 私にはちゃんと名前が……」

不満そうに頬を膨らませる彼女を遮って俺は続ける。

「……わかってる、メイ」

砂漠で道すがら聞かされた彼女の名を、古代ロマ言語の法則に則った愛称に略して呼ぶ。
頬を染めた彼女が「やっぱりお詳しいのですね」と驚きの声を上げた。
そうだな、俺の村の昔話も彼女に話してやらないとな。

「いいから、よく聴け……一度しか言わないぞ」

続く言葉を悟った精霊が、彼女の頭の上に座りながらくすくすと可笑しそうに笑う。
何だよ、そんなに笑うなよ。
一緒に長旅をするなら、名前くらい知らないと不便だろ?
言い訳を脳内で組み立て、慌ててそんな言い訳はもういらないと打ち消した。
むしろ、俺は彼女に知って欲しいんだ。
そんな自分の変化には、俺自身が一番驚いてる。
今までは、絶対に俺の名前を教えるなんて事は考えられなかった……特にロマには。
何故なら……。

「俺の名前はな……」

……古のロマの言葉で“精霊に愛されし子”という意味を持つ俺の名を聞いた彼女は、「貴方にお似合いの素敵なお名前です」とふんわり嬉しそうに笑った。

219黒頭巾:2008/06/23(月) 22:57:08 ID:fou9k2gM0

……話を終え、俺は横の息子の顔を見た。
いつからだろう、既にぐっすり夢の中。
何だよ、俺一人で惚気てたのかよ。
そう思うと、何だか可笑しかった。
まだまだコイツには早かったかな……苦笑した時、扉の向こうでは小さな物音。
扉を開けると、そこには当時の面影を残す愛しい彼女の姿。

「寝かしつけてくれたのね、ありがとう」

息子の顔を覗きこみ、今では俺の妻になったあの少女は……あの時と同じ、幸せそうなふんわりとした笑みを浮かべる。

「起きてていいのか?身体に障るぞ」

身重の彼女の肩にストールをかけて、咎める様に声をかける。
病気じゃないのに相変わらず心配性だわと彼女がくすくす笑う。

「そりゃぁ、心配ってもんだ……愛しい人の身体だからな」

仕返しに本音を漏らしてやれば、途端に頬を染める彼女が愛おしくて、その桜色の唇にそっと優しい口付けを落とした。
真っ赤な顔の彼女は、既に息子までいるって言うのに、いつまで経っても初々しいったらありゃしない。
まぁ、息子も寝たし、俺達も寝るとするか。
彼女の手を取り、寝室に向けて歩き出す。
扉を閉める寸前、振り向き様に見た息子の傍らには……あの日と同じ、優しい笑みを浮かべた精霊の姿。
寝台に眠る息子のミドルネームは、“精霊に祝福されし子”を意味する古い古い言葉。
……任せたよ、もう一人の母さん。
俺の小さな呟きを聞き取って嬉しそうに微笑んだ精霊に手を振り、俺は扉を閉めた。
もしかして、俺の力が封印されてたのは、彼女と出会う為だったんじゃないかなって今では思うんだ。
だとしたら、運命の神様はとんだ曲者だ。
まぁ、何にせよ……紆余曲折を経て、俺は可愛い嫁さんと可愛い息子ともう一人を得た訳だ。
そのもう一人……横を歩く彼女のお腹に宿ってる新しい家族の名前も、そろそろ考えないといけないしな。
難しい、もの凄い難題だ……何しろ、それはその子の人生をも左右する。
今は亡き両親もきっと、俺の名前をこうして考えてくれたんだろう。
難しくも贅沢なこんな悩みを持てる俺はきっと、世界一の幸せ者なんだろうな。



【精霊のご加護】...fin


***********************************************************


サブタイトルは、農家が武道家になった訳(ちょ)
こんなSSでも、武道×サマナと言い張ってみるテスト。
過去ログ見てたら、急にもくもくと武道熱が!
何かネタ降ってこねーかなと祈ったら降りてきたはイイモノの、長くなる長くなる。
ある程度はしょったので展開に無理が出てると思われますorz
クエのモデルは現在未実装(多分)の連作称号クエ『砂漠の支配者』の最終章から。
アリアンって難易度高いクエ少ないんですもの(´・ω・)
あらすじは国道さんを、某馬鹿は白猫さんをリスペクトです(お前)


コメ返し。

>68hさん
そうそう、バンブサマナは物理職との相性バッチリですからねー!
武サマG素敵ですねぇ…何かGチャでまったりと今晩の晩御飯のメニューとかお花の育て方が語られてそう(どんなイメージ)
Σてか、てか、黒頭巾触手って! 何ですかソレ!!爆笑
今だから言います、68hさんが武道家ネタだとテンション上がってたので68hホイホイとしてこの作品書き上げました(何と)


ちょろっと感想。

>ESCADA a.k.a. DIWALIさん
えっちぃのは『めっ』なのよ〜っ!!!>(p>д<)==p)`ν゚)・;'.、(イメージ/えぇ)
ちびっこ楽しみにしております…笑

220◇68hJrjtY:2008/06/24(火) 17:28:35 ID:EUTNfdx60
なかなか出現できず申し訳ないorz
小説はアレアレですが、ヲチだけはしてます(*´∀`)b

>ESCADA a.k.a. DIWALIさん
第二次ミリアお子様計画発動!…の前兆といいますか。なにやら怪しげな二人組が。
今回はそれ以外にもミカエルとエルフの里との繋がりも明らかになりましたね。やっぱりエルフは良い人たちだ!
異次元の黒箱とはまたなんとも怪しげなアイテムの出現。でもフィナ姉、その状態じゃ全然迫力が(ノ∀`)
フィナ姉という女王様のいる兄弟、その弟と妹に掛かるトラウマと過去なんかも気になりながら。
次回楽しみにしています。

>黒頭巾さん
そうか、冒頭の昔話シーンはこんな風に繋がるんですね。「名前」って本当に大事だと思います。
今回の小説、「精霊のご加護」は今までに無いほど戦闘シーンに力が入っていたように感じました!
68ホイホイ!?…そうですね、読み始めたハナから"武道キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!」と悦んでいましたが
もちろんそれだけじゃなくてなんだか最初はくっつきそうも無かった(?)この二人がどうなるんだろうとか
武×サマとか関係なく純粋にラブラブ小説として堪能させていただきました(*´д`*)
そしてお約束、「乙!!!1」には吹きました(笑)
次回作も楽しみにしております!

221国道310号線:2008/06/25(水) 02:11:50 ID:Wq6z33060
ご無沙汰しております。
現在、第三話が出来上がって清書の段階なのですが、
黒頭巾さんの『精霊のご加護』と激しくネタが被ってしまいました。
サマナー主人公で自然界の声が聞こえる聞こえないネタのシリアスもの(半分ギャグ)です。
本来なら投稿は控えるべきな上、大した内容じゃないのですが、もし許しを願えるなら投稿させていただけませんか?

222黒頭巾:2008/06/25(水) 17:39:27 ID:fou9k2gM0
>68hさん
そうです、最初と最後で繋げてみました(*´∀`)ウフフ
名前は親からの最初の贈り物とはよく言いますものね…私は名前負けしているので本名苦手ですが…orz
ギャグ書きなので戦闘シーンって普段はあまり触れない部分、触れてもネタに走ってしまったり…折角なので、勉強がてら書かせて頂きました。
力が入っていると感じて頂けたなら幸いです。
最初からラブいのもイイですが、くっ付きそうでくっ付かない関係もまた大好物です。
1ネタはGチャでよく目にするのでつい…最初から最後までシリアスに出来ない天邪鬼な私です(ノ∀`*)ペチン
次回作、ギャグのとシリアス再挑戦のを最終チェック中なので、ご希望なければアミダでどっち投稿するか決めておきます(待って)


>国道310号線さん
わー、お久しぶりですー!
ファンタジー系では被りやすいネタだとは思いますし、お気になさらず!
私も過去ログと被ってないかヒヤヒヤモノですし…チェックで見逃してないとイイなぁ(´・ω・)
お気遣い感謝ですが、投稿を控えるなんて言わないで是非是非ぺたりと投稿して頂ければ嬉しいですよー!
国道さんファンな私、モニタの前で正座して楽しみにしております(*´∀`)ウフフ

223黒頭巾:2008/06/25(水) 23:36:08 ID:fou9k2gM0
ふぁみりあいーえっくすシリーズ番外編?
 未知との遭遇 〜ESCADA a.k.a. DIWALIさんチのコの場合〜

******************************************************

――ある晴れた日の午後。
古都の喧騒の中を歩く一人の青年。
右手に持つ杖は捻じ曲がり、彼が魔術師である事を物語る。
左手には先程手に入れたばかりの魔術書が。
GHへ戻るまで耐え切れず行儀悪くも読みながら歩く彼を、人々は避けて歩く。
魔術師という人種は、自らの興味を示す分野には並々ならぬ情熱を燃やし恐ろしいまでの集中力を見せる事を……一般市民ですら知っているからだ。
GHまで後100m――そろそろ本を閉じようとした彼は興味深い一文を見付け、つい食い入るように見てしまった。
自然と足も止まる。
そして、往来の真ん中で突然止まると如何なるかと言うと。

「うにゅ!」

くぐもった悲鳴と同時に、背中へ走る衝撃。
――そう、ぶつかるのである。
軽くよろけた衝撃でも落とさなかった本を慌てて閉じ、彼は振り返る。
その動きに合わせて、陽光を受けた眼鏡がキラリと光る。

「あぁ、申し訳ない……怪我はないかな」

目の前で鼻を押さえる少女の目線の高さまで屈み、しっかりと目を見て謝罪する。
そんな彼に、少女は抑えていた手を放し、笑顔で両手をぶんぶん振る。
大丈夫と言うアピールなのだろうが――若干、鼻の頭が赤い。

「ふみゅっ,ミリア大丈夫なの!これからは気をつけるの〜,ごめんね,おにいたんっ」

一息に言った後、少女はぺこりと頭を下げて駆けて行ってしまった。
その後を、「ミリアはドジなんだから、もっと気をつけないと危ないさ〜」とか言いながら、緑の悪魔が追いかける。

「嗚呼……止める間も、きちんと謝罪する間も、なかったな……」

既に小さくなった少女とファミリアの後姿に、Gメンにして幼馴染の少女を思い出し、苦笑する。

「ファミたんとあのコみたいですね……って、今……あのファミリア、喋って……ました?」

ファミリアが喋ったという事実に固まった彼は、答える者のない問い掛けを口にする。
もし訓練次第で喋れるのだとしたら、あのコの連れているファミたんとも会話出来るのだろうか。

「これは……試す価値はありそうですね……」

驚きに少し下がった眼鏡をくぃと上げて、微笑んだ彼はGHテレポーターへ向けて再び歩き出す。
彼の脳裏は、あの小さなファミリアと会話出来たら嬉しいという事で一杯で。

「ファミリアが喋るなんて有り得ないー!」
「真昼間から寝てるんじゃないのー?」
「これだからマスタは……立ったまま夢を見るなんて危ないじゃない」

――そんな彼がGメンに一斉に非難されるまで、後5分。

******************************************************

ちょっぱやで書き上げてみました。
先程、チャットで少々お話して頂いた時のESCADA a.k.a. DIWALIさんの発言を元ネタにアレンジさせて頂きました。
こんな感じで、また他の作家さんのキャラお借りしても宜しいかしら…(゚д゚ノ|

224防災頭巾★:削除
削除

225防災頭巾★:削除
削除

226ESCADA a.k.a. DIWALI:2008/06/26(木) 22:49:45 ID:fXH8Jej60
>黒頭巾さん
ちょっ,いけめんさんが何だかカワイイぞwwww
彼ってひょっとするとロリコンどころか『小さくて可愛いもの好き』なのでは,と思いました。
それに勢いだけで書いた駄文をここまでアレンジして頂けて嬉しいです,ありがとうございます〜

それと昨日はいきなり退席してしまい申し訳ありませんでした,また機会があれば色々おしゃべりしたいですね^^

227◇68hJrjtY:2008/06/28(土) 16:37:40 ID:FYKDTrxw0
>黒頭巾さん
ミリア+ファミィがゲスト登場゚+.(○´∀`ノノイエーイ
こうして見るといけめんさんとミリア、案外相性抜群だったりして(笑) えっちぃのには二人とも耐性無さそうですし!(何
蚊帳の外ながらあの書き手さんとこの書き手さんのこのキャラとあのキャラの相性はどうなんだろうとか色々妄想しています(*・ω・)
そういう意味でも白猫さんには是非とも武道会小説を頑張って!と言いたいところですが
だったらお前も小説書け!と返されそうで怖いので言いません…orz
しかし水面下ではチャットの方は盛んなのでしょうか…常駐参加できず申し訳ない(*- -)(*_ _)

228国道310号線:2008/06/29(日) 05:59:43 ID:Wq6z33060
第三話は黒頭巾さんの『精霊のご加護』と被った内容となってしまいました、申しわけございません。
投下のお許しはいただいたものの、実質私の我がままで投稿しています。
それはNGだろう、という方はスルーお願いします。



◆ストーリー紹介
この物語はオアシス都市アリアンを拠点とするギルド「セレスト・クルセイダーズ」を中心としたドタバタ劇です。
飽きやすい作者の都合により毎話ごとにストーリーと主人公が変わっていますが、大体、剣士ブルーノが出張っています。
一話だけでも読める作品を目指しているものの、細かいネタなどは前の話を読んでいただいた方が分かりやすいという事態に陥ってまいりました。

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・小説スレ六冊目

 第一話 〜 ミニペットがやってきた! 〜
 前編 >>487-490 後編 >>563-569

 第二話 〜 狼男と魔女 〜
 1 >>784-787 2 >>817-820 3 >>871-874 4 >>910-913

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こんにちは、私の名前はミモザです。
ギルド「セレスト・クルセイダーズ」の飼育係兼サマナーをしています。
あの時、私を助けてくれたのは誰だったんだろう。


第三話 〜 赤い呼び声(1)〜


―ファウンティンス・ハイランド
古都ブルンネルシュティングの遥か北にあるこの土地は、未だ人の手が及ばぬ未開の土地である。
そこはハイランダーという亜人の魔物が支配しており、冒険者であっても安々とは近づけない。
ハイランダー達が住むハイランド洞窟、その更に奥深くに隠された空間があった。
切り立った断崖の上に存在する石造りの遺跡内を魔力の炎が揺らめきながら照らしている。
自然が生み出した岩窟に突如現れる巨大な人工物は、とうの昔に打ち捨てられ朽ちかけた煉瓦が過ぎた年月を物語っている。
ただ、半永久的に消えることの無い灯火と錆付いた古の機械人形が帰らぬ主人を待ちわびていた。

薄暗い遺跡の通路に風のうなる音と獣の悲鳴のような鳴き声が反響する。
ミモザは狼が竜巻の風圧になぎ倒されたのを見るや否や右に飛びのいた。
胸の辺りまで伸ばした薄い金髪と赤いフードつきのマントがなびく。
襲い掛かってきた別の狼の牙は彼女の露わになっている左上腕の皮膚を切り裂き血をにじませた。
「っ!」
緑色の瞳がわずかに歪められたが、腕をかばいつつ狼からバックステップで距離を取る。
「おらぁ! おめぇの相手はオイラだってぇんだ!!」
着地した狼の正面に彼女の召喚獣ケルビーが回り込んだ。
火と鎧を纏った魔人の姿をしているケルビーの腕は槍のように先鋭に変形しており、炎を上げて狼の口腔を貫き上げる。
口から串刺しにされた狼はビクリと痙攣すると体の内と外から焼かれていった。
彼女が使役する召喚獣は自然界の元素を具現化したものだ。
一般にサマナーと呼ばれる者達は森羅万象の声に耳を傾け、心を同調させることにより、その大いなる力の燐片を操る。
また、中には人よりも自然に近い存在である魔物も味方にできる者もいた。

仲間を倒され、周りを囲んでいた狼達の動きが止まる。
これで残りの狼の数は前方に三匹、後ろに四匹。
対するこちらはケルビー、同じく魔人の姿をした風の召喚獣ウィンディーとペットの巨大なスッポンの三体。
三体はミモザを守るように彼女の周りを固めていた。
狼一匹一匹はそれほど脅威ではないが、群れで行動する彼等は統制の取れた攻撃を仕掛けてきた。
今も闇雲に攻撃せずにこちらの出方を伺っている。
しかし、それはこちらとて同じ、サマナーの戦術の優れた点はしもべ達との息の合ったコンビネーションにある。
飾り気は無いが素朴な感じの木製の笛を握りなおすとミモザは大きく息を吸う。
そして、ゆっくり吐き出すことで心を静め、不安や恐れといった雑念を払っていく。
「ケルビー、ウィンディ、金ちゃん。 いくよ。」
静かに、しかし、力強く囁かれた言葉に召喚獣達もしっかりした声で応えた。

229国道310号線:2008/06/29(日) 06:02:01 ID:Wq6z33060
ミモザと狼が動いたのはほぼ同時だった。
「突撃!」
笛で相手を指し示し、三体それぞれに異なる命令を出す。
前と後ろから1匹ずつ飛び掛ってくる狼、それぞれをケルビーとウィンディで迎え撃たせた。
金太郎も前方へ向かわせたが、歩みが遅いので狼へすぐには達しない。
弾丸のように駆けてゆくケルビーの後ろをミモザは付いて走った。
(まずは相手の陣形を崩さなくっちゃ。)
狼との間合いを詰めたケルビーは纏っている炎を激しく燃え上がらせ腕の槍を狼へ突き刺す。
若干大振りなこの一撃を狼は体勢を低くして召喚獣の右手へかい潜り、そのまま懐へ飛び込み反撃しようとするが灼熱の炎の壁に阻まれる。
火そのものとなっている下半身への攻撃を諦め、離脱しようとする狼をケルビーは返す刃で薙ぎ払った。
それならばと応援に入った狼二匹がケルビーの両側から彼の喉笛目がけて火を飛び越える。
「甘ぇぜ!」
意気のよい声を上げると、ケルビーは片腕だけでなく両腕を刃へ変化させる。
大口を開けて迫ってくる2匹の牙を硬質化した腕で頭をガードする形で防いだ。

ケルビーが前方の狼達を相手にしている隙にミモザは更に前へと逃れる。
これで狼達に挟まれていた状態を突破することに成功した。
ミモザは踵を返すと金太郎の位置を確認する、もうすぐ彼はケルビーに追いつこうとしていた。
「ウィンディ! 来て!」
すぐに笛で指示を出し、後方の狼四匹と乱闘しているウィンディを自分の方へ呼び寄せる。
「追いつけるもんやったら、追いついてみぃ!」
噛み付いてくる狼達の間を風のようにすり抜け、召喚獣は戦線を退く。
その後を狼達はぴったりと追いかけた。
途中、狼達はのろのろ歩くスッポンの巨大な体を通り抜けようとしたが、異常な威圧感に足を止める。

威圧感の主は金太郎だった、大岩と見紛う甲羅を背負ったスッポンは水掻きの付いた耳を逆立てて威嚇する。
これは只の威嚇ではない、ミモザが金太郎に下したのはペットに特技を使わせる命令。
ペットが技を出そうとした時に発される気で相手の注意を向けさせることが出来る。
それを脅威と見た狼達は標的を変えると、関を切ったように金太郎を襲う。
金太郎は特技は出さずに手足首を甲羅に引っ込めると猛攻に耐えた。
(まだ… まだだよ。)

十歩、九歩…

今度はケルビーを金太郎の元へと移動させる。
ケルビーは狼に自分を追わせるように牽制攻撃をしながら、指定された位置に進む。

…六歩、五歩、四歩…

意のままに群れを操る羊飼いのごとく、こちらが有利な陣形へと相手を誘う。
気づいた時には逃れられない篭の中へ相手を捕らえる。

…二歩、一歩、…零!

<<フレームリング>>
<<ゲイルパンチ>>

カウント・ゼロと同時にミモザと召喚獣の張り上げた声がシンクロする。
指定位置の金太郎にケルビーが接触すると、彼を中心とした円周上に炎が巻き起こった。
それに合わせて、ウィンディの竜巻が金太郎を攻撃していた狼とケルビーを追ってきた狼を巻き込む。
強い風に煽られ火の嵐となった起爆点はすべての狼を呑み込み、とぐろを巻きながら激しく炎上した。
身を焼かれる狼達の断絶魔が遺跡中に響き渡る。
その声にミモザは眉をひそめ顔をゆがめたが、笛を握り締め紅蓮の嵐をまっすぐに見つめていた。


嵐が過ぎ去った後、物言わぬ狼達の亡骸がボトボトと落下する。
「ふぅ…」
緊張の糸が切れたミモザは、その場にペタリとへたり込んだ。
ハイランド洞窟の遺跡に足を踏み入れてから、戦闘回数は両手の数を超えようとしていた。
「おぅ、ミモザ。 腕はでぇじょうぶか?」
ケルビーは彼女に近づくと顔をのぞき込む。
「平気だよ、そんなに深くないもの。」
傷口から溢れた血液は一筋の流れを作っていたが、気に病むほどではない。
ズキズキした痛みはあるが、ちゃんと腕も動く。
この程度なら召喚獣達の負った傷の方が深いほどだ。
彼女はカバンから消毒薬と包帯を取り出すと、テキパキと傷の処置にあたった。

230国道310号線:2008/06/29(日) 06:04:12 ID:Wq6z33060
ミモザの治療を受けているケルビーにウィンディは詰め寄る。
「おんどれの攻撃が遅れたからミモザが怪我してんど、分かっとるんかいコラ。」
「んだと、この鳥頭! だいたいおめぇの風は温ぃんだよ。 ちゃきちゃき倒さねぇからオイラがトドメを刺してやってるんじゃねぇか。」
「攻撃しか能無い単細胞に花持たしてやっとるに決まっとるやろが、この犬っころ。」
至近距離で眼つけ合う二体の召喚獣、その巨体の間に剣呑な雰囲気が漂う。
洞窟特有の湿り気を含んだ風が両者に吹きつけ、岩の切れ目をくぐり抜けると寒々しい音を鳴らした。
「てやんでぇ、やるってぇのか?」
最初に動いたのはケルビーだった、人と同じ形に戻していた腕を再び鋭い槍に変形させると半身をずらし構える。
「泣き見るんは、おんどれじゃ。」
受けて立つとばかりにウィンディはカギ爪をむき出すとファインティングポーズを取った。
一発触発の召喚獣の間にミモザは割って入り、二体を片手と背中で押しやる。
「もう、ケンカしないで。」
こういう事態は慣れているのか、彼女は三体の手当てを完了させたうえ、自分の腕にはしっかりと包帯を巻き終えていた。
ぐいぐいと押すも、何かとすぐに小競り合いを始める二体は武器を収めない。
「ほら、金ちゃんはしっぽを探してくれているよ。」
彼女は狼達の死骸の中から、焼けていないしっぽ毛をのそのそと選っているスッポンを誉めた。

金ちゃんこと金太郎という名のスッポンは、彼女のギルドメンバーである剣士が金を産むスッポンと偽られて買ってきたものだ。
案の定、水洗いをすると普通のスッポンだった金太郎はたまにミモザと冒険に赴いている。
金太郎は戦闘で乱れた狼の毛皮から綺麗なしっぽ毛を見つけると、それを誇らしげに咥えてみせた。
バチリと火花を散らせ、ケルビーとウィンディは競うように狼へと駆け出す。
仲が良いのか悪いのか、肩を並べて目的の物を探す召喚獣にミモザは笑みをこぼした。


彼女達が採集しているのはギルド紋章を作るために必要な筆の材料だ。
紋章品と呼ばれるそれらの材料は、いずれも人里離れた辺境でしか手に入らず、量もあまり取れない。
希少価値が高ければ値段も張る、そのためセレスト・クルセイダーズでは現品収入を図っていた。
各人それぞれが少しずつであるが七種類ある紋章品を集め、残るはここハイランダー洞窟の狼から取れるしっぽ毛のみである。
ギルド紋章用の上質な物は一見しただけでは見分けがつかないが、戦闘でも痛まずしなやかさを保っていた。

ミモザ達は通路から少し外れた鉄格子の影に場所を移し、休憩を入れることにした。
抜け落ちた煉瓦の上に座った彼女は、首にかけてある布袋へしっぽ毛を入れると大切そうに胸元へ仕舞う。
「もう少しあった方がいいのかな。」
集まった毛束は彼女の細い小指ほどしかなく、布袋はぺちゃんこのままだ。
「狼なら飼っているってぇのに、そいつの毛じゃダメなのけぇ?」
「ここの狼じゃないとダメみたいなの。」
さっきの戦闘で取れたしっぽ毛は元の一匹分にも満ちていなかった。
遅々として進まないアイテム収集にイライラしているケルビーをミモザはなだめる。
一匹から取れる量が少ない以上、もっと多くの狼を狩らねばならない。
「よし、休憩終わりっ。」
彼女はマントに付いた土埃を掃って勢い良く立ち上がる、しかし、突然の目まいにタタラを踏んでしまった。
なんとか転ばずにいた彼女にウィンディは肩を貸す。
「なんや、フラフラしよってからに。 …もう帰った方がエエんちゃうか?」
紋章品集めをやり出して以来、我が家にしているギルドホールへ戻る日は段々と少なくなっている。
召喚士と言えどミモザは十五歳の少女だ、長旅と慣れない土地での戦闘続きで疲労が溜まっているのであろう。
「…まだ、大丈夫。」
ミモザは寄りかかっていたウィンディから身を離し、自分の足で体を支える。
既に他の材料を集め終えたギルドメンバーが、こちらに合流するとギルドチャットで言っていた。
ギルドチャットとは耳打ちの一種で、全ギルドメンバーと同時に会話し合うことが出来る。
彼女はギルドメンバーがたどり着く前に、少しでも多くのしっぽ毛を集め彼等の負担を減らしたかったのだ。

231国道310号線:2008/06/29(日) 06:05:14 ID:Wq6z33060
その時、鉄格子の影から狼が飛び出してきた。
「こんな場所にも出よるんかっ。」
彼女達を見つけ、遠吠えをする狼にウィンディーは舌打ちをする。
この遺跡の通路は数日間歩き回って、狼の通り道を把握したつもりだったが目算が甘かった。
彼女は自分の失態を悔やむと、笛をホルスターから取り出し右手に構えた。
「一昨日来やがれってんだっ!」
身を炎に包み、ケルビーは飛び掛ってくる狼へと突進した。
現れた狼は二匹、大した脅威ではない。
片方をケルビーに任せるとミモザはもう一匹にウィンディと金太郎を向かわせた。
ウィンディの放った竜巻で足止めされた狼に金太郎が噛み付く。
戦局は完全にこちらの優勢だ、彼女は追撃を指示すべく召喚獣との媒体である笛に意識を集中させる。
「ミモザっ、左だ!」
ケルビーの叫びにミモザはハッとそちらの方向を見やる。
いつの間にか彼女に忍び寄っていた狼が飛び掛らんとしていた。
(先に襲った狼は囮!?)
彼女はとっさに後ろへ飛びのいた、右腕を負傷してしまった時より遠くへと無意識にジャンプする。
しかし、それがいけなかった。
狼は避けれたが着地した地面が崩れ、彼女はバランスを失う。
「きゃっ」
石の破片がぶつかり合いながら落ちる音に少女の悲鳴が混じる。
踏み止まろうとした先は石畳がなく、彼女は通路の脇にポッカリ空いた闇の中へと飲み込まれてゆく。
刹那の間、飛び掛ってきた狼と目が合った。

‐落チロ‐

憎しみに染まった瞳がそう言ったような気がして、ミモザは伸ばしかけていた腕を下ろす。
「「ミモザ!!」」
主を助けようと召喚獣達は彼女の後を追い、奈落の底へと飛び込んだ。


空中でミモザを受け止めたウィンディは彼女を抱いたままハイランダー洞窟の深淵をゆっくりと降りていった。
50メートルほど落ちただろうか、通路は遥か頭上にあり、ぼんやりとした明かりが闇に境界線を作っている。
岩肌は切り立っている上、染み出す地下水のため湿っていて滑りやすい。
落ちれば一巻の終わりだと理解しているのか狼達は追ってこないようだ。
「おんどれは飛べん癖に意気っとんちゃうど、しかも、わしにしがみ付きよってからに。」
ごつごつした岩肌の地底に着いたウィンディは煩わしげにケルビーを見た。
「誰がおめぇにしがみ付くってんだ、オイラはミモザを抱いてたんでぃ!」
着地するやいなや、ウィンディから離れたケルビーはケッとそっぽを向く。
ケルビーの手は彼女をガッシリつかんでいたが、飛行能力を持たない彼はウィンディにぶら下がっていた状態だった。
「うっ…」
苦しげに彼女がうめく、意識を失ってしまった彼女の額にはうっすら汗が浮かんでいた。
「ちぃとばかし熱があるな。」
手のひらを彼女の額に乗せると、ウィンディーは顔をしかめる。
先程肩を貸した時に違和感があったため、帰還を勧めたが少々遅かったか。
「そぉか? しかし、人間てぇのは生温くていけねぇなぁ。」
同じく体温を見たケルビーだが、彼は首を傾げた。
「おんどれが熱すぎるんじゃい、ボケ。」
火の召喚獣、言わば火そのものであるケルビーと人間を比べるのが間違っているのだ。

ぐったりした少女の体は徐々に熱を帯びていき、彼女を抱いているウィンディの体温もどんどん上がっていくようだ。
いや違う、高温の源は彼女ではない。
「早よインシナ切れや、暑苦しゅうてかなわん。」
「い、今切ろうとしていた所でぃ!」
戦闘時に使う高温の炎を纏う術を発動したままだったことを指摘されたケルビーは急いで術を解く。
自身の魔力を落とすと、ガクッと全身の力が抜け、ケルビーの周りに魔力の光が散った。
ケルビーは召喚獣第一形態である、長いしっぽを持つ真紅の犬に戻ってしまった。
彼の炎で明るく照らされていた周囲は一瞬にして闇に包まれる。
「アホ、誰がパワーアップまで解け言うた?」
思わぬ事態に愕然としている彼にウィンディは呆れた声を出す。
「違わい! 勝手に解けちまったのよぉ。」
大分身長差が開いてしまった相棒を見上げ、ケルビーは吠えた。
召喚獣のランクは術者の精神力に依存する。
第三形態を保てなくなったほど、ミモザは衰弱しているのか。
そうこう考えているうちに、ウィンディからも魔力が光となって抜け落ちる。
つむじ風の上にトンガリ帽子を被せたような姿に戻ったウィンディは驚く間もなく地面へ落下した。
「ぐべぇ。」
ミモザを支えられるだけの体を失った彼は、そのまま彼女の下敷きになった。

232国道310号線:2008/06/29(日) 06:06:42 ID:Wq6z33060
気を失っている主人、ランクが落ちてしまった自分達、おまけにここは人が寄り付かぬ魔境の地下深く。
道具類が入っているカバンは何処かヘ吹き飛ばされたようで見当たらなかった。
絶体絶命の危機的状態を打開しようと、召喚獣達は知恵を絞る。
「こういう時はチャットで助けを呼ぶぜ!」
「ケルビーにしては冴えてるやんけ。」
ケルビーは早速チャットを試みたものの、やり方が分からず眉間にシワを寄せる。
ミモザが楽しげに会話しているのを見ていただけで、彼自身やったことがなかったのだ。
こう、目を瞑って精神を統一して…、そこからの手順が全く分からない。
それはウィンディも同じだったようだが、何か思い出したようにバッと顔を上げた。
「アレや! 半角スラッシュの後に名前+半角スペースや!」
「…何言ってんのか全然分からねぇぜ。」
意味不明の暗号を唱え始めるウィンディにケルビーは、平常を装っているが実はべらぼうに焦っていやがるなと思った。
そんなケルビーの冷めた視線に気が付いたのか、焦ったようにウィンディは空高く飛び上がる。
「エエか、わしが助けを呼んでくるさかい、ミモザを頼むで!」
そう言い残し、彼は闇の彼方へ消えていった。
しばらくウィンディが去った方向を見ていたケルビーは、横たえさせたミモザに視線を移す。
熱っぽい息づかいで胸を上下させている少女に、彼は静かに寄り添うと地に伏せた。
(こいつが辛い時に、また何もしてやれねぇのか…)
ケルビーの脳裏に昔の苦い思い出が蘇る。
彼は己の歯痒さにケッと息を吐き出すと、そびえ立つ漆黒の壁を忌々しげに見上げた。



つづく


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修正に手間取ってしまい投下が遅れました、すみません。

>黒頭巾さん
投稿のお許しとお心遣いありがとうございます!
あんなあらすじで良ければいくらでもリスペクトしてください。(笑
隠れ黒頭巾ファンの私が本人からファンと言われた日にゃあ、赤面爆死しそうですよ。
武道サマナ小説はにへにへしながら熟読させていただきました。
歌からSSシリーズは2曲目は知らない曲だったのでチェックしてみました。
原曲の端から見たらギャグなのにリアルでありそうなうすら寒い世界観が赤石の世界と見事に融合しています…

>68hさん
先のチャットでいただいた68hさんのリクエストもあり、
今までとは違うシリアス色の濃い作品を目指しました。
しかし、キャラ付けのために方言を使ったせいか初っ端からギャグの臭いがプンプンします。
力不足を反省しつつ、いつの日か完全シリアスものでリベンジできればと思います。

>スメスメさん
クエストで狩りに行った蟲の洞窟のカニに苦戦した懐かしき思い出が蘇りました…
騒ぎながらも夢を語り合ったアイナーが変貌してゆく様が物悲しいです。
アルとキリエの2人組みの冒険談を楽しみにしています。
スメスメさんの一人称の書き方は場面の見せ方が好きで参考にしています。

>みやびさん
初めまして、ひよっこ小説書きの国道と申します。
メインクエ関連データの書き出しありがとうございます。
私もメインクエは進めてはいるものの、記憶は薄れつつあるのでとても助かります。
リレー小説の企画立ち上げもお疲れ様です! 丁寧な書式やキャラ設定の話はとても参考になりました。
私はご覧の通りの遅筆のため、リレー小説参加は難しいかと思います… 草葉の陰からヒッソリ応援しております。

233国道310号線:2008/06/29(日) 06:08:15 ID:Wq6z33060
>ESCADA a.k.a. DIWALIさん
ティエラさんのカッコ良さに痺れつつもラフィーナさんの行動にいけない気持ちになってしまいます。
ミカエルとミリアに忍び寄る妖しい影… 特にミカエルを狙う相手は強敵そうです、ガンバレミカエル!
ギルド・ウォー・コラボ! 面白そうと思いつつもいいネタの提供できるか不安です。
もし、キャラを使っていただけるのなら、好きなように扱ってください!

>姫々さん
セラとタスカのギクシャクした関係が解決するのだろうかとハラハラしていましたが、
両者が両者を思っていたという展開にじーんときました。
クールなタスカとルゥの戦闘シーンがカッコイイです! 
姫が変身したピンク色の武器は可愛いくて好きなので、登場すると嬉しくなります、続き楽しみにしています!

>177さん
初めまして、こんな透明感のある作品に惚れる国道と申します。
淡々とした語りの中に見え隠れする寂しさや愛情がなんとも儚いです。
理想は理想、現実は現実と割り切っている女性の強さに憧れを抱きました。
またの投稿お待ちしています!

>aY5Buyq.0さん
初めまして、戦闘シーンになるとパッタリ筆が止まる国道と申します。
戦闘シーンって難しいですよね… 私も他の方の戦闘描写を見るたびに尊敬の思いを募らせています。
主人公くんのシュールなキャラが見ていて楽しいです。
まだ十代なのに浮世離れしている彼の今後の活躍が気になりまくります、続き楽しみにしています!

>白猫さん
戦いが終結に近づき一息入れている修行編にもかかわらず、読んでいると高揚感が高まります。
それにしても、「今の"倍"強くなれ、」とは… あらためてルヴィラィの強さに戦慄を憶えました。
最大の山場を迎えるルフィエとネルの物語、天下一コラボの執筆頑張ってください!
そして、早くも次回作のお話が…!
盗賊や山賊がいるんだから海賊もいてもおかしくないですものね!
船に乗ってもテレポーターと同じく一瞬で現地に着いてしまうのが寂しい国道でした。

234◇68hJrjtY:2008/06/29(日) 16:36:11 ID:5az2n5xw0
>国道310号線さん
サマナたん主人公な小説ですが、セレスト・クルセイダーズ物語の続編でもあるわけですね!お待ちしてました。
さてさて、今回はシリアス戦闘シーンが光っていましたが、サマナの戦闘シーンというのもやっぱり楽しそう。
黒頭巾さんの武サマ話でも思いましたが、新キャラではサマナをやってみたくなるくらいでした(*´д`*)
それだけではなく召喚獣たちの個性的な事。本来協力関係なハズのケルビーとウィンディがケンカ仲良し&浪速系兄さんになってる(ノ∀`)
個人的には金ちゃんが気に入りました!って、また騙されたんかいブルーノ(笑)
個々の話は短編ながら、セレスト・クルセイダーズが成長していく国道さんの小説。続きお待ちしています。

235黒頭巾:2008/06/29(日) 22:31:53 ID:fou9k2gM0
ふぁみりあいーえっくすシリーズ番外編?
 未知との遭遇2 〜国道310号線さんチのコの場合〜

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僕の名前はふぁみりあーえっくす。
とってもとっても(中略)とーっても素敵なごしゅじんさまのぺっとだ。
僕のごしゅじんさまがどれだけ素敵かお話しだしたら止まらなくなっちゃうから……気になる人は過去ろぐ参照で!
今日はそんなごしゅじんさまとお買い物に来てるんだよ!
おあしす都市ありあんは、今日も盛況だ。
ごしゅじんさまは僕が逸れないように、抱っこしてくれてる。
途中でばんへせるさんのお店に寄って、きゃんでぃーを買ってくれたごしゅじんさま。
目指す装備を売ってる露店を探して、裏通りを歩く。

「うーん、惜しいなぁ……これじゃ、ちょっと補正が足りない」
「あちゃー、それは残念だなー。 ねーちゃんの探してる補正のもん、見付かるの祈ってるよ!」
「ありがとう」

露店主さんと会話しながら、露店をぐるぐる。
たまにはこんなお買い物も楽しいね。

「あ、いいかも」
「はい、らっしゃーい」

このお店は、気さくなごきぶりさんのお仲間さんがお店番。

「これ、ちょっと気になるけど……ちょっと勉強してくれないかな?」
「お、お嬢ちゃんプロだねぇ。 わかった、ちょっと座りーね」
「交渉おっけーなのね、ありがとう!」

難しい数字のお話をしだしたごしゅじんさまのお邪魔にならないように、僕は近くをきょろきょろ。
あれ、ちょっと離れたとこに何かある。
何だろう?
恐る恐る近寄ってみたら、何か茶色い塊。
じーって観察してみたら……あ、動いた。
ってことは、生きてるのかな?
僕の視線に気付いたのかぱちりと目を覚ました茶色いこは、浮かび上がろうとして……落ちた。
まるでお腹が空いて元気が出ないみたいに、しおしおやつれてる。
それを見詰める僕の手の中には、大好きなごしゅじんさまがくれたきゃんでぃー。
食べたい、凄く食べたい……けど。
目の前のこのこの方が、凄くお腹が空いてるみたい。
だから。
はい、どうぞ。
僕が差し出したきゃんでぃーを眺めて、茶色いこは困ったように空中でくるんと回った。
遠慮しなくていーよ?
そう言ったけど、茶色いこはふるふる首を振るだけ。
困ったなぁ。
そこに、ご用事を済ませたごしゅじんさまがほくほく顔でやってきた。

「あら、ファミちゃん……そのコ如何したの?」

そこで行き倒れてたの。
僕の答えにごしゅじんさまの目が驚きに見開かれた。

「……捨て子?」

必死にぷるぷる首を振る茶色いこ……何処にそんな元気があったんだろう。
あ、やっぱりへろへろ地面に落ちた。

「ご主人様と逸れたのかな? お腹空いてるのね」

きゃんでぃー差し出してるのに、食べてくれないのー。
虫歯さんなのかなぁ?

「ファミちゃん、このコはミニペットって言って、キャンディーは食べれないのよ」

ご飯は装備品なのよー、だって。
おー、このこが最近噂のみにぺっとさんだったんだね!
確かに、ごしゅじんさまの言葉通り……茶色いこの目線は、僕の槍に釘付け。
こ、これは代わりがないからだめ!
可哀想だけど、僕は槍を後ろに隠した。

「あ、さっきの狩りで出た店売り品、まだあるよ」

ごそごそ鞄を漁ったごしゅじんさまは、防具をいくつかと武器をいくつか並べた。

「うーん、このコ……何型なんだろ」

悩むごしゅじんさまの姿に、僕は前に聞いたお話を思い出した。
みにぺっとさんは何種類かあって、種類によってご飯が違うって事を。

「いつもご主人様に貰ってる系統のを選んで食べてくれる?」

ないすなごしゅじんさまの言葉に茶色いこは頷いて、全部を取り囲むようにぐるぐる回った。

「あら、雑食なのね。 はい、どうぞ」

ごしゅじんさまの差し出す剣を、茶色いこはんごんご飲み込んだ。
凄い……びっくり人間しょーみたい。
人間じゃないけど。

236黒頭巾:2008/06/29(日) 22:32:39 ID:fou9k2gM0

「ん、かなり元気になったわねー」

すっかりつやつやになった茶色いこは、ありがとうって、ごしゅじんさまの周りをくるくる回った。

「ご主人様にご飯貰ってないの?」

心配そうに首を傾げるごしゅじんさまに、茶色いこは必死でぷるぷる首を振った。
ご飯を貰ってるのに、何で行き倒れてたんだろう。
僕もごしゅじんさまも、頭の上に?まーくだ。
と、茶色いこがはっと何かに気付いて、慌てて飛んで行った。
向かった先には、はんらさんの姿?
あ、似てるけど違うはんらさんだ。

「お、てるみつくん、こんな所にいたんだな!」

探したんだぞーと豪快に笑ったはんらさんの周りを、てるみつくんと呼ばれた茶色いこがくるくる回る。

「君達は?」
「そこでそのコがいるのを見掛けて、迷子かなと……ご主人様が見付かってよかったです」
「そっか、ありがとう!」

にっこり笑ったごしゅじんさまに、そのはんらさんが笑顔を浮かべた。
あ、てるみつくんが、こっそりはんらさんの鞄にお金を入れてる。
もしかして、貰ったご飯を売ったのかな?
はんらさんはごしゅじんさまとのお話に夢中なのか、気付いてない。
と、そのはんらさんは自分を呼ぶ声に気付いたのか、後ろを振り返って声を上げた。

「ここだよ、テラコッタ! すぐ行くよ!」

遠く女の人に手を振ったはんらさんは、振り返って僕達にお別れのご挨拶。

「じゃ、行かないと。 またな!」
「はい、また」

ばいばーい。
見送る僕達の目線の先、はんらさんとてるみつくんは楽しそうにお喋りしながら歩いていく。

「お、てるみつくんてかてかじゃないか。 そんなに餌美味しかったか?」

うんうん頷くように尻尾を振るてるみつくんに、はんらさんは嬉しそうに笑った。

「貰った餌、如何してるんだろ……」

ぼそりと呟いたごしゅじんさま、やっぱり気付いてなかったみたい。
でも、これはないしょないしょなんだよ!
あの時目が合ったてるみつくん、言わないでって言ってたような気がするもん。
きっとね、ごしゅじんさまを思う気持ちは、みにぺっともぺっともご一緒。
また会えたら、きっといいお友達になれると思うんだ。
いつか、そんな日が来ればいいなぁ。

******************************************************

第二弾は国道さんチのコをお借りしました。
コレ、初めてチャットイベントでお会いした時から書きたかったんですよねぇ(*´∀`)
てるみつくん大好きだよ、てるみつくん(*´д`*)ハァハァ
快く許可して下さって、ありがとう御座いました(*ノノ)


さて、レス返し。

>ESCADA a.k.a. DIWALIさん
いけめんさんは何処を目指しているのでしょうねwww(ちょ)
ロリコンというよりは、“自分より小さな庇護すべき存在”に対して優しいんだと思います(ノ∀`*)ペチン
いえいえ、あれがあったのでつい妄想が膨らんで☆―(ノ゚д゚)八(゚д゚ )ノ―☆
あれは仕方がないですし、また機会があるのを楽しみにしておりますー(*゚д゚)b

>68hさん
二人ともえっちぃのは耐性ないっぽいのできっと気が合いますよ!笑
ぶっ飛ばすミリアちゃんと、真っ赤になって固まるいけめんさん!(後者情けないだろ←)
色んな作家さんの誰と誰で○○したらきっと△△…とか色々想像してしまいますよね!(ぇ)
68hさんの筆が進まないのに無理にとは言いませんので安心して下さいませ(*´∀`)
書き上がったら全力で読ませて頂きますが!(ぁ)
いえいえ、常駐は義務でないのでお気にならさず…お時間ある時にお会い出来ましたら嬉しいです(ノ∀`*)ペチン

>国道310号線さん
ぎゃぁ、こちらこそ赤面です!(*ノノ)
あの曲は現実では本当にありそうで恐いですよね…今度はまたSHでやりt(ry
わっほーい、金ちゃんってあのコですよね、第一話のオチのコ!
読んだ瞬間、即座に思い出してしまって(・∀・)ニヤニヤが止まりませんでした(自重)
G紋章の材料は、スウェブしか集めたコトないんですよね…他はそんなに大変だったのか!ガクガク(((((゚д゚;)))))ブルブル
ケルビーとウィンディの喧嘩漫才にもう笑いが止まりませんですよ!
こう来たか!爆笑
サマナーって実は育てたコトないので、戦闘シーンとか凄く勉強になりました…うぅ、サマナ作りたい!
個人的にツボだったのは、ミモザが手を降ろした理由です(´;ω;`)ウッ
ミモザの変調の原因と過去話、そわそわしながら続きを待っております!(ΦωΦ)フフフ

237国道310号線:2008/06/30(月) 00:00:23 ID:Wq6z33060
遅ればせながら、天下一コラボ用キャラクター設定です。
よろしくお願いします。


ブルーノ・グランディ 男 19歳

にぶい色の青髪に青眼、中肉中背の良く鍛えられた身体。
あまり身なりは気にしないので、髪の毛はボサっています。

ギルド「セレスト・クルセイダーズ」所属の剣士。
笑顔がたえない温厚な性格だが、仲間や弱い者を傷つける者は容赦しない。
元気で何事にもバカ正直に突っ走ります、人に騙されること多数、
しかし、ポジティブ思考なので本人はそんなに気にしていません。
ボケかツッコミかと聞かれたらボケです。
天下一参加理由は腕試し。

一人称:俺

口調は穏やかめ、イメージは体操のお兄さん。
相手を呼ぶ際は、君(女の子)、おまえ(男の子)、その人の名前(敬称なし)等。

戦闘方法:
一発の威力より、スピードを活かした手数重視の速度型。
そのため防具はショルダーパット・イージスといった軽装で、剣はグラウディス。
単体物理です、剣士スキルは一通り使えます。



以下レス返しです

>◇68hJrjtYさん
実は今回戦闘シーンも力を入れてみましたが、蓋を開ければギャグが半分を占めておりましたorz
サマナーは好きなキャラなので、そう言っていただけると嬉しいです!
召喚獣の方言は現地民の方が聞いたら怒り出しそうなくらい適当にしゃべらしているので、
ノリと勢いで読んでいただければありがたいです。(笑

>黒頭巾さん
うひゃー! てるみつくん&ブルーノ使っていただきありがとうございます!
きゃんでぃーを差し出すふぁみりあとてるみつくんの掛け合いが可愛くてイイ!
こんな、ほのぼのながら少し切ない物語に仕上げてくれるなんて、 …感激です。
ニヤニヤしながら読ませていただきました。
はい、ご察しの通り、スッポンは例のコです。 
紋章品集めクエは多少誇張している部分もありますが、面倒臭さが伝わればいいなと思って書きました。

238◇68hJrjtY:2008/06/30(月) 12:23:17 ID:b0o6OAWA0
>黒頭巾さん
てるみつくんキタ━o┃*´・ω・┠o━! そして食べたー(笑)
ふぁみたんの短編、なんだか久しぶりに読んだ気がします。でもやっぱり和ませてもらいました(*´д`*)
そうか、ふぁみたんの視点でははんらさんはどれも同じなんですよね(笑) 闇はんらさんも居ましたっけ(ノ∀`)
---
小説は…筆が進まないというよりあまりにもブランク長すぎて自分の書き方を忘れたというかorz ←それが進まないって事や!
書きたいと思っているネタの地点まで進めないんですよね…でも、皆さんに期待されてる(?)ようですし
いずれなんとか一作品だけでもUPできたらいいなとは思っております( ̄^ ̄ゞ

>国道310号線さん
おぉ、サマナ好きさんでしたか!
武道やっててもなかなか周囲にサマナ友人が居ないもので悲しい限り。イイ娘がいたら紹介して下さい(待
私も現地人ではないですがしかし関西弁を召喚獣が喋るという設定が面白いので良いじゃないですか!
そんなの気にせずガンガンどうぞー(笑)

239防災頭巾★:削除
削除

240ドワーフ:2008/07/01(火) 20:34:04 ID:AepyIIHk0
『梅の花』

彼がうちを訪ねてきたのは、随分と昔のことですね。今でも鮮明に覚えていますよ。
ええ、その頃にはもう両目を閉じていましたよ。杖をついてやってくる客なんて初めてでした。
しかも、その杖に腰の刀の刃を仕込んでくれなんて注文ですからね。嫌でも覚えてしまいますよ。
当然尋ねましたよ。目も見えないのにそんなものを扱えるんですか?護身用にしては物騒すぎやしませんかってね。そうしたら…いやはや、店の中を飛んでいた蝿を斬ってしまったんですよ。あれには参りました。
誠心込めて、精一杯の仕事をさせて貰いましたよ。
仕事を終えて杖を引き渡すときに、彼に尋ねたんです。その目は一体どうしたんですかって。全く不謹慎なことですよね。しかし、私としても仕事をした相手のことをちょっとでも知りたかったのです。あれほどの腕前の方なら、さぞかしすごい武勇の果ての負傷なのだろうと。
彼は私の質問に苦笑していましたよ。私の期待している答えは出せないという感じでね。今までも散々尋ねられていたのでしょう。
”自分で潰した”
そう言ったんです。私はさらに尋ねました。どうしてそんな事をしたのかと。
彼は話せないと言いました。ただの気の迷いだと。
そうなると益々知りたくなりましてね。お代は結構だから教えてくれとせがみました。
長々と説得しましたら、ついに彼も根負けしましてね。その日は早くに店をたたんで、店の奥で酒を酌み交わしながら彼の話を聞きました。
”助けたいと思っていた女を、逆に斬ってしまった”
彼はそう言って語り始めたのです。

ザトーとハナが出会ったのは南端の田舎町からブリッジヘッドへと向かう街道でのことだった。
ハナは父親に借金のカタに売られた女。買い取ったシーフどもによって幌馬車に荷物などと一緒に乗せられ、ブリッジヘッドへ運ばれていく途中だった。
街につけばハナには女郎の末路が待っていた。彼女自身そのことは良く分かっていたが、抵抗する事も無く諦めていた。シーフどもは物分りがいい女だと、さぞかし喜んだ事だろう。
さて、その幌馬車を襲撃する一つの影があった。義賊ザトーである。
彼は尋常ならざる剣さばきでシーフどもを切り伏せると。幌馬車の進路をブリッジヘッドからアウグスタへと変えてしまった。
ハナはというと、外の異常は騒ぎで聞きつけてはいたが、得体の知れぬ何者かに対する恐怖から荷物の陰に隠れ潜んでいた。
アウグスタの近くまでくると、ザトーは幌馬車を停めて急に中を改め始めた。
ザトーの目的は当時シーフどもの手によって広がりを見せていた麻薬のルートを絶つこと。南方の肥沃な土地に麦の栽培に紛れて麻薬の原料が作られているという情報を受けての襲撃だった。それは都市内への麻薬の流入を危惧したアウグスタからの依頼であったが、それが偶然にもハナを奴らから解放する事になったのだ。
結果としてザトーは麻薬の原料を発見。そして同時に隠れて震えていたハナも発見する。
ザトーにしてみれば全く予想だにしない発見であった。彼は動揺を押し隠し、怯えているハナをまず落ち着かせるために言った。
「安心しろ。助けに来た」
ザトーはハナを幌馬車から降ろし、彼女を落ち着かせようと努めた。
「君はどこから連れてこられたんだ。無事に送り帰してやるから教えてくれ」
そうザトーが尋ねた時、ハナの強烈な平手打ちが彼の頬に炸裂した。彼女は突然泣き出し、助けたはずのザトーを責めるように大声で喚き始めた。
「帰るですって!?一体どこに帰れっていうのよ!あたしは父親に売られたのよ。帰る場所も、行く場所も、もうどこにもないわ。これからどうすればいいの?どうやって生きていけばいいの?助けに来たですって…どこが助かったっていうのよ!」
そう言って彼女はへたり込むと、顔を手で覆った。
「生きていかれるだけ、女郎にでもなったほうがまだマシだった…」
そう言ってハナは泣き続けた。
ザトーは頬を抑え、泣いている女をじっと見つめながら誓った。自分の言ったことを守るため、義賊の誇りにかけて彼女を助けようと。

241ドワーフ:2008/07/01(火) 20:35:44 ID:AepyIIHk0
ザトーはハナを連れて旅に出ることにした。今までも旅がらすとして生きてきたが、今回は目的地の定まった旅だった。目指す場所は新興王国ビガプール。彼の国では南に豊饒な土地を見つけ、耕地開拓のための人手を必要としていた。
農家の手伝いをしていたことがあるというハナならば、受け入れてくれるかもしれない。それにシーフどもがメンツのために彼女を連れ戻そうとする可能性があったが、ビガプールであればその点も安心だった。外国のシーフを城下町に立ち入らせるほど衛兵も甘くはないだろう。
旅に出る準備をしている間、ハナは幾度と無く本当にいいのかとザトーに聞いてきた。名前しかろくに知らぬ女のために、何故そこまでするのか分からないという感じだった。通常であればハナのような女など捨て置いてしまうか、アウグスタの教会にでも預けて厄介払いをしてしまうところだろう。だが、それでは全く助けた事にはならないという彼なりの信念のためにそうしなかった。
海路を避けてアウグスタから北上し、陸を街道に沿って砂漠まで迂回してビガプールを目指す。かなり長い旅路を女を連れて行かねばならない。しかし、もう決めてしまった事だった。
ザトーとハナはアウグスタを発って一路鉱山街ハノブを目指した。
街の外を行くなら普通は護衛に傭兵を雇うものである。しかしザトーはそんな事はしなかった。他人の助けを金で借りるなど彼の誇りが許さなかったし、ハナを一人でも守れる自信があった。
だがその自信は彼女にとってはかなりの不安となっていたようだ。たった二人きりで行く街道は、彼女にとって心細いことだったろう。
それにハナは決して丈夫な女ではなかった。道中で何度も休むことになったが、彼女自身それを良しとせずすぐに歩みを再開してはまたすぐに休むことになるのだった。ザトーに世話になっているという意識からか、足手まといにはなりたくないという様子だった。
予定通りとはいかなかったが、なんとか二人は日が沈むまでには鉄の道を渡りきった。

242ドワーフ:2008/07/01(火) 20:36:23 ID:AepyIIHk0
ハノブに着くとザトーはすぐに宿を取り、ハナをそこで休ませて自分一人だけ宿を出てしまった。ザトーに対して心のどこかでまだ疑いの気持ちを持っていたハナは彼の後を追いかけた。もしかしたら彼は自分を騙しているのではあるまいか。遠くの国へ行くといっていたが、もしかしてそこで自分を売るつもりなのではないか。ザトーに対してそんな疑念を抱きつつ追いかけた。
ザトーの行き着いた先は、街の一角にある小さな一軒家だった。中からは女性と小さな子供が出てきて彼を出迎えていた。彼の家族だとハナは思った。小さな我が子の頭を撫でて、妻と楽しそうに話している。それはハナの心にとってとても遠く眩しい光景だった。
ザトーはお金の入っているらしい小さな包みを妻に渡すと、家を後にした。男の子がずっと手を振っている。
しかしザトーの用事はそれでは終わらなかった。別の家に行き、別の家族に出迎えられ、またお金を渡して去っていく。そうして数件を同じようにお金を配って回った。中には夫の居る家族も見えた。
ようやく用事が済んだのか宿のほうへ歩き始めたザトーの前に、我慢できなくなってハナは姿を現した。
「一体何をしてたの?」
「鉱山での事故で亭主を亡くした家族、怪我で働けなくなっている家族に生活のための金を配っていた。アウグスタからの報酬でね」
ザトーは驚いた風もなく平然と答えた。ハナが追いかけてきているのに気づいていたのか、それとも予想していたのか。
「何でそんな事をしてるの?何の得にもならないのに」
「得ならあるさ。彼らの感謝の言葉が聞ければ、それこそが俺にとっての本当の報酬なんだ」
ハナは理解できないという風に首を振った。
「ただの自己満足でしょ」
「意外と難しい言葉を知ってるんだな」
ザトーは少し困ったような表情で笑った。
「人の一生の中で、心から満たされる瞬間はどれだけあるだろうか。人それぞれだろうとは思うが、俺にとってそれは他人の言葉に勇気付けられるときに他ならない。たとえそれが他の人にとって変に見えたしても、俺は自分自身のために、他人に尽くす」
ハナはぼうっとザトーの横顔を見ていた。彼の言う事が理解できないわけではない、だが彼女のこれまでの生き方が彼を否定していた。
「それより丁度良かった。宿に戻る前に買い物をしていくぞ。君も来るんだ」
そう言ってザトーはハナを連れて一軒の店に入った。
「好きなものを選べ」
そう言われた彼女の前に並んでいたのは杖だった。魔法使いのための物ではなく、旅行用のものだ。
「君はあまり足腰が丈夫ではないようだからな。杖の一本でもあったほうがこの先少しは楽になるだろう」
ハナは老人じゃあるまいしと内心思った。しかし、道中度々休憩を取って足を遅らせていたのは事実だった。仕方なく彼女は杖を選び始めた。
彼女の目は小さな梅の花が描かれた一本の前で止まった。

243ドワーフ:2008/07/01(火) 20:37:15 ID:AepyIIHk0
それからの道中、ザトーが買ってやった杖は思った以上に効果を発揮した。体重を分散できるためか、足への負担が減ってハナはあまり休む事も無くなったのだ。
そこからの道程は順調になると思われたが、今度はザトーが歩みを遅らせた。ブルンネンシュティグが近づくにつれて人が増え、人が増えると人助けをせずにはいられないザトーの性分が災いしたのだ。
おかげで彼らはしばらく古都に留まる事になってしまった。ハナは他人のために動くザトーに困惑し、目的を忘れてやしないかと心配していたが、次第にこれでいいのではないかと思い始めた。
自分が生きる事だけに精一杯だったハナにとって、ザトーの生き方は理解し難いものから憧れの対象に変わっていたのだ。それほどに彼は自由に生きていた。
しかしあまり長く留まり過ぎた事が最初の過ちだった。ブリッジヘッドのシーフどもがハナを取り戻しにやって来たのだ。
その時はザトーがいち早く気配に気づき、シーフどもを追い払ったが彼はそこでまたミスを犯してしまう。シーフを一人取り逃がしてしまったのだ。しかもザトーの正体に気づかれてしまった。
ザトーはシーフどもの間ではかなり名の知れた存在だった。それだけに今度はハナを狙ったりはしないだろう。足手まといを得た彼の元に必殺の刺客を送り込んでくるに違いなかった。
こうなると流石のザトーも道を急がざるを得なかった。自分と一緒に居るとハナにも危険が及ぶ可能性があったが、今更他人に任せて行けと言っても彼女は首を縦には振らなかった。
しかも、彼女はビガプールへ行くことを嫌がってしまったのだ。決して足手まといにはならないからと、ザトーと共に居たいと言い出したのだ。
ザトーは嫌がる彼女を説得し、引っ張るようにブルンネンシュティグを発った。
しかしその時にはすでに彼らの行く先ではシーフどもが送り出した刺客が待ち構えていた。
そいつは人間ではなかった。

244ドワーフ:2008/07/01(火) 20:38:00 ID:AepyIIHk0
砂漠のオアシスにある小さな町リンケンに立ち寄ったザトーとハナを訪ねる人物があった。その人物は町の住人で、娘が連れ去られてしまったと言って一枚の紙を彼らに差し出した。その紙には娘を返して欲しければ、ザトーという旅の男を北の地下墓地へ向かわせろとあった。
ザトーは罠であると知りつつもそこへ向かわざるを得なかった。ハナには町に残るように言ったが、やはり彼女は頑として聞かなかった。連れ去られた女性を連れて逃げる事を約束させて、ザトーはハナを連れて向かった。
墓の中は暗く、嫌な死霊の気配などを感じつつもザトーたちは墓の奥へと進んで行った。
連れ去られた町人の娘は意外と簡単に見つかった。意識もしっかりしており、乱暴をされた様子はどこにもなかった。
「そいつは連れて行け。ただし貴様は残れ」
低い声が聞こえてきた。刀を抜いて構えるザトーの前に、小さな仮面の悪魔が現れた。
「早く連れて行け」
ザトーは悪魔から目を離さずハナに言った。ハナは気をつけてとだけ言って女性を連れて出口へと急いだ。
ハナと女性の姿が見えなくなると、ザトーは悪魔に聞いた。
「人質に使うんじゃなかったのか」
「人質?たかが人間相手に?」
悪魔は嘲るように笑った。
「そのたかが人間に従って俺を狙ってきたんだろう」
「違うな。ゴミを利用して原石を探しているんだよ」
悪魔はそう言ってまた笑った。くぐもった不快な声だった。
「良い原石だ。長い戦いに鍛えられた強さが見える…実に、美味そうな魂だ」
ザトーはその悪魔に激しい嫌悪感と恐怖を感じた。そしてそれを振り払うかのように刀を振るうと、悪魔に向かって駆け出した。
ザトーが一太刀を浴びせようとしたとき、悪魔は手の平から小さな光を発した。すると、ザトーの目の前に彼の両親の姿が現れた。
驚いて動きを止めたザトーに向かって、母親の腹から刃が突き出してきた。ザトーは咄嗟に刀で受け止めて後ろに飛び退いたが、わき腹に浅く傷を受けてしまった。
両親の姿が崩れて消え去ると、剣を差し出している悪魔の姿が現れた。
「あっさり決まると思ったんだがな、そうもいかなかったか」
そう言って悪魔は剣を振り払って血を落とすと、ザトーに近づいてきた。

245ドワーフ:2008/07/01(火) 20:38:44 ID:AepyIIHk0
ハナと町娘が墓から出てくると、地上には町の人々が待っていた。心配して来たのだろう。
娘の無事な姿を見ると、皆が歓声を上げた。娘を抱いて泣いている父親の姿を見て、ハナも自然と涙が出そうになった。しかしハナは溢れそうになった涙を拭い去ると、再び墓の中に戻ろうとした。
「どこへ行くんだい」
町の人が言った。
「あの人がまだ中で戦っているのよ。すぐに助けに戻らないと!」
「ちょっと待った。あんたに何が出来るんだい?足手まといになるだけじゃないのかい」
しかしそんな町人の声を無視して彼女は墓の中へと入っていった。
墓の中の暗い通路を急いで進みながら、彼女は思った。
自分にもきっと何か助けになることが出来るはず。足手まといになんかならないと証明すれば、そうすればきっとあの人も認めてくれる。きっと、ずっとそばに居る事を許してくれるはず。
そう思うと、暗い地下墓地すらも怖くなくなった。

戦況は一変していた。
ザトーは最初苦戦を強いられてはいたが、悪魔を確実に追い詰めていた。
恐らくこの悪魔は人間を相手に長く戦った事が無いのだろう。今までの者は最初に見せられた幻に動揺してあっさりこいつに殺されてしまったに違いない。それだけに、何度も見せられてそれがただの幻だと気づくと驚くほど脆かった。
幻影を無視して陰に隠れているこいつを斬ればいいのだ。
人気のない墓場に呼び出したのはこの悪魔にとっての最大の間違いだろう。死霊の魂によって力が得られるなどと言っていたが、結局他に人が居ないと分かれば幻など全く問題にならなかった。
悪魔はもう戦う気力もほとんど無い様子で、身体のあちこちの傷跡から黒い液体を血のように垂れ流していた。
「とどめだ」
ザトーは悪魔に向かって刀を構えた。勝利が決まったも同然のこの状態が、彼の注意力を奪っていた。
悪魔が目を反らして、何かに気づいたというその様子を見逃していたのだ。
ザトーは悪魔との間合いを詰めていった。攻撃の間合いに入ったとき、悪魔の手が光った。
刀を振り上げたザトーの目の前にハナが両腕を広げ、横飛びに飛び出してきた。
「また幻か!」
ザトーは構わず刀を振り下ろした。
刀はハナを切り裂き、返り血を彼に浴びせた。

246ドワーフ:2008/07/01(火) 20:39:28 ID:AepyIIHk0
「なんで…どうして…」
「ごめ…ん…なさい」
血まみれでハナを抱きかかえ、これまで見せた事もない混乱した様子でザトーはハナに問いかけていた。
「あなたが…やられそうになってるのが…見えて。……それで」
「だからって飛び出してくる奴があるか!」
ザトーは涙声で叫んだ。
「それより…あいつが逃げる……」
「あんな奴なんかほっとけ。今はこっちが先だ」
ザトーはハナの身体を抱きかかえると、這いずって離れようとする悪魔を無視して駆け出した。
「下ろして…」
「すぐだ、すぐに地上に出られる。町に戻ってすぐに治療するんだ」
ハナの言葉など聞こえていない様子でザトーは走った。だが不思議な事に、いくら速く走っても地上の光は見えてこなかった。
「もういいの」
「いいものか!俺はお前を助けると言った。だから、何が何でも助ける!」
「あたしはもう助かった。人は人を利用するものだと思ってた。あたしは…人に利用され続けて生きていくんだと思っていた。でもあなたは違う。あたしの生きたいと思える生き方を見せてくれた。初めて誰かのために尽くしたいと思った。初めて、人を好きになれた…あたしの心は、あなたに救われた…」
ハナがそう言うと、ザトーの視界に眩しい光が差し込んだ。
まるで先ほどまでそこに見えなかったかのように、突然地上への出口が現れて彼を照らしていた。
「おいハナ。出口だ」
ハナは小さく、静かに息を吸って、それきりだった。

いやはや…、なんとも悲しい話ですね。
きっとあの杖もハナさんに買ってあげたものだったんでしょう。
汗で掠れてしまったのかもしれませんが、うっすらと梅の花が描いてあったような気もします。
そうそう、ここからは余談なんですけどね。
彼が出て行ってから数年もすると杖を持った冒険者を見かけるようになりましてね。
中には目をつぶってる人なんかもいたんですよ。はっはっは。
おや、あなたも杖なんか持っちゃって。流行はとっくの昔に過ぎちゃってますよ。
ん……?
その杖……あ!ちょっと待ってくださいよ!
ちょっとー!!

247ドワーフ:2008/07/01(火) 20:48:01 ID:AepyIIHk0
梅の花>>240-246
あとがき
お久しぶりです。覚えてくれてる人いるかなと不安になりながらも、
久々に書きあがったものを出してみます。
ちゃんと短く切って改行しとかないといけませんでしたね…。
読みにくかったらごめんなさい。

今回はユニークアイテムの一枝梅の刀をモデルに書いてみました。
一枝梅の刀→ソードスティックのU→杖の仕込み刀→座頭市
という連想から主人公の名前をザトーにして、盲目の剣客の話を書いてみようと…
とはいえ、剣客ではなくユニークの説明文にしたがって義賊ですが。
本当はもっと道中の話なんかを長々と書いてみたいななどと思ったんですが、
そこまで気力が持たず、短くまとめてしまいました。
マルチェドと違って救いのない話ですが…いえ、救えてはいるんですがね…。

248白猫@報告:2008/07/02(水) 17:49:12 ID:y.2k6V060
どうも、意味もなく湧いて出てきた白猫です。
天下●武道会の設定がほぼ完成し、後はトーナメント表の作成のみとなっています。
参加キャラは計17名。@参加職人さんは私を含め9名。各職人の方々、ほぼ2キャラずつ出演させています。
次回チャットイベントの際、トーナメント表を決定したいと思っています。
その時までなら、天下●への飛び入り参加も歓迎しています。是非どうぞ!

……さて、[Puppet]最終章が先ほど完成しました。後は投稿を待つだけとなっております、

が。

サイズがなんとまぁ 102KB もあります。確実に30レスは消費してしまう量。
ということで、最終章を分けて投稿するか一気に投稿するか現在葛藤しています。
皆様がよろしければ一気に投稿しようと考えていますが(一つの流れになってるので切りにくい、っていう…)、やはりこの場合は分けて投稿すべきですかね。
一応前後編に分けて投稿を検討していますが、その辺りの意見を頂きたく。

今日はとりあえず報告をば。
白猫の提供でお送りしました。

249◇68hJrjtY:2008/07/02(水) 18:46:11 ID:UdFsnD5.0
>ドワーフさん
Uアイテムの歴史シリーズキター♪そしてドワーフさんお久しぶりです。
今回のUは一枝梅の刀。RSで数少ない和名Uですが、それがまた座頭市の話とドンピシャ。
一枝梅の刀を仕込み杖にしてしまったというアイディアも驚きました。
でもあのグラフィックを見る限りではとても細くて一見杖に見えてもおかしくないですよね。あるいは本当に仕込み杖だったのかも。
こんな悲恋話があると思うと、今後一枝梅の刀を使う時にフイッと思い出しそうです(ノ∀`*)
ドワーフさんの次回作、お待ちしています。

>白猫さん
武道会&Puppet最終章、ほぼ完成ということでお疲れさ…と、この言葉は読んでからまた改めて(笑)
そしてまた30レス分とは…今までも相当な長さを誇っていた白猫さんの投稿ですが、これは最長記録ですね!?
私個人としては最終章ということもありますし、流れに乗ってだんだん高まるようにラストまで読み抜きたいという
個人的願望も含めて、一気に投稿するという案に一票。
ただ、ちょっと分からないですがこのしたらばBBSの仕様的に「連続投稿が可能かどうか?」というのがありますね。
試した事が無いので詳しい人に是非教えてもらいたいとは前々から思っていましたが。。
本家(?)2chの掲示板では連続した投稿が規制されている事もあります。ただ、ここが2chと全く同じとも思えませんしね。
以前出た改行数同様、このしたらば管理人さんが設定しているとは思われますが…この辺がクリアになれば是非。。

250憔悴:2008/07/04(金) 18:15:07 ID:Wv5HCA4E0
黒い地を音も立てず、人と思える物が歩く。
「此処も、久しぶりね」
人物は、黒いローブを脱ぐ。
その下には薄緑色の長髪が体の半分を覆っていた。
「風も、地形も、山も…変わらない」
兎が呼吸をするようなため息を付くと突風か、長い髪が左に揺れる。
「変わったのは…そう、この風くらいかしら」
聞いたら数分で忘れてしまいそうな蕭蕭とした声。
長くカールをした睫は大きな瞳をより一層と大きく見せる。
服の殆には小さな光る…宝石の様な物が散りばめられていた。
彼女は小さく息を吸い、腰から深緑色の笛を口に当てる。
声と同じく、笛の音も小さく高すぎる音で、すぐに風に消されてしまう。
「私も、変わってしまったのかも知れない…」
分厚い本を2冊、胸に抱える。
その本は血なのか、そういった模様なのか、赤く染まっていた。

昨日の場所が嘘のように黒い地は橙の太陽で照らされていた。
何もないように思われた土地は、家が数軒と、小さな店も並んでいた。
「あら、チェルちゃんじゃないの?」
「アレナのおばさま。元気でいらしたのですね、久しぶりです」
チェルと呼ばれた緑の髪の女性は微笑み、頭を下げる。
「大きくなったわねぇ。そういえばビカプールの東の方を調査されてたんですってねぇ。何か分かったの?」
「…い、いえ。何故か中に入れなくて。何かに守られているようですの」
「そうー。大変だけどがんばってねぇ。私はいつでも相談に乗るからねぇ」
「ありがとうございます。では、また」
チェルは其処から遠ざかると、人気の無い場所でコンパクトらしき物を開く。
そこには20代前半の青年が此方を睨んでいた。
「総帥直々にそんな危ない所に行くなんて…なにを考えてらっしゃるのですか!」
「他の隊員が言っても怪しまれるだけですわ。元々住んでいた私なら平気でしょう?」
「そうですが…ッ」
まだ何かを言いたそうにするが、チェルが区切り、
「それに、太陽が隠れると鬼になる住民…考えられませんわ。私の顔見知りばっかりですのよ?」
チェルはちら、とアレナの居る方向を見る。
「ですが、総帥も昨晩見たでしょう。夜は誰も居ないでしょう?その上アリアンの隊員の数人が見てるのですよ、リンケンの中で鬼を!」
「…もう少し調査して、何か分かったら連絡します…」
返事を待たず、コンパクトを閉じると、西の方角から空が黒く染まっていくのを目にする。

251憔悴:2008/07/04(金) 18:16:38 ID:Wv5HCA4E0
↑sageるの忘れていてすみません;

まだ最近のことだった。
その頃はまだ少し名の知れたビーストテイマーなだけだった、
そんなチェルの元に一通の白い便箋に入ったシンプルな感じの手紙が届いた。
総帥として活動することについて。
母がフランテルを治めていた者から総帥という地位を貰っていたことは知っていたが、まさかこんな自分に地位が移るとは思わなかった。
母はまだ都心で活動していたと思っていたから…
しかし、この頃にはもう彼女は感情を無くしていた為、然程のショックは受けなかった。
総帥としての活動はすぐ、というわけではなく、3,4ヶ月経ってからだった。
周りは年上ばかりの中、母の顔からか組織の全員は親しくしてくれた。
そんな中、ビガプールの貴族から依頼が来た。
その依頼の内容はこうだ。
ここ数日、町の若い女性達が夜中にビカプールの西にある地下遺跡へいくこと。
着いていき、自分らが入ろうとしても入れないこと、
そこへいった女性はいつの間にか家へ戻っていること、
しかし何回か夜が明けるたびにやつれ、終いに依頼主の妻が死んだこと、
まだその怪奇事件は収まってないため調べてほしい、とのことだった。
最初の内、付いたばかりの総帥、チェルは危険なため着いていかなかった。
しかし誰も入れないので、入り口まで行くことにした。
「ここが、その入り口?」
チェルが指差す場所には、大きな洞穴があった。
「そうです、しかしここを潜ってすぐ、扉が有り人一人入れないのです」
確かに、穴から中に入ることはできそうだった。
チェルは指示を出し、穴の中に入ってみることにした。
中は明らかに誰か、人間じゃないかもしれないが自然ではない造りをしていた。
「───…」
チェルは例の扉に右手を当てる。
静まり返った中、他の隊員は頭に疑問符を浮かべるが、チェルはあることを感じ取っていた。
"この扉は鼓動がするのだ"
「…なにもないですわ。けれど、少し調べたいことがあるので先に帰ってくださるかしら?」
その言葉を聞き、危ないんじゃないか…と少し心配顔を見せる隊員も居たが、総帥の明らかな確信を見、その場を去った。
(鼓動をする扉…いえ、鼓動じゃなくても振動でも…なにか手がかりがあるはずですわ…)
ふと、あるところを目にする。
扉と少し離れた場所に建っている石碑である。
其処には文字は書かれておらず、ただ石か何かをはめ込むようなへこみが4つあるのみ。
(…この大きさ…)
何か思い当たりがあるのか、鞄を少し漁ると、緑色の宝石らしき物をつかみ、左上のへこみにはめる。
カチ…と鈍い音がし、ぴたりとはまったと思うと、石碑のある反対方向の場所に入り口が開く。
「…なぜ父上が残してくれたエメラルドが…」
チェルは疑問を持ちつつも、奥の空間に進む。
…其処には一枚の紙が置いてあった。

252憔悴:2008/07/04(金) 18:21:46 ID:Wv5HCA4E0
途中途中穴が開いている紙は、見たところかなり古い物らしい。
チェルはくしゃ、と紙を握り締める。

そして今、だ
まだビガプールの事件は解決していないが、とりあえずリンケンの噂について調査を始めた。
その噂というのが、太陽が沈むと町人が鬼になる、という物だった。
リンケンに何度かいったことのあるチェルには信じられない話だった。
人が鬼に?そんなまさか。
そういったところだった。

゚・*:。.:・*:..:☆.+゚*゚+.。+゚゚.+:。.+:。☆゚+.。+゚゚.+:。.+:。+.。+゚゚.+:。.+:。☆

初めまして。
憔悴(しょうすい)と申します
今までROM専でしたが、
描きたくなったので描いてみました。
下手文ですが、暇つぶしにどうぞです。

253◇68hJrjtY:2008/07/04(金) 20:53:38 ID:rvBV3p4k0
>憔悴さん
初めまして&ROM専さんの執筆、ありがとうございます!
時折のROM専さんの投稿が実に嬉しい限りです♪
二代目総帥となったチェルの前に不思議な導きと共に口をあけた屋敷…
たった一人で入ってしまった(?)彼女ですが、この先に何が待ち受けるのか。
「父上のエメラルド」に反応した扉というわけで彼女にまつわる何かがあるのでしょうか。
続きの方、お待ちしています!

254国道310号線:2008/07/05(土) 03:34:02 ID:Wq6z33060
・小説スレ六冊目

 第一話 〜 ミニペットがやってきた! 〜
 前編 >>487-490 後編 >>563-569

 第二話 〜 狼男と魔女 〜
 1 >>784-787 2 >>817-820 3 >>871-874 4 >>910-913

--------------------

 第三話 〜 赤き呼び声(2) 〜
 1 >>228-232


前回のあらすじ: 紋章品集めの途中、ミモザが崖から落ちて遭難した


―― 呼んでいる、誰かが、私を ――

古都ブルンネルシュティングの西に位置する深い森は、街を包むように広がっている。
温暖な気候と肥沃な大地は豊かな自然を生み出し、様々な生命を育む。
人々はいつしか、広大な緑の土地をこう呼んだ、「グレートフォレスト」偉大なる森と。

木漏れ日が揺れる森の小道を、少女が大きな赤い犬と散歩していた。
薄い金髪を二つに下げ、萌ゆる草木と同じ色の瞳を持つ彼女は、何かをしきりにしゃべっていたかと思うと明る
い笑い声をあげる。
「それでね、ケルビーったら、おかしいんだよ。」
彼女は連れている犬ではなく、誰の姿も見えない空中に話しかけていた。
暖かい風が木々の間をすり抜け、ざわざわと葉音を鳴らす。
まるで、少女の言葉に応えるかのように。
「あー、そうなんだ。 うふふ。」
そして、彼女も見えないモノの返答に微笑みかける。

幼い頃、私は色んな声を聞くことが出来きました。
それは風の囁きだったり、花のおしゃべりだったり、動物のつぶやきだったり…
ありとあらゆるものが私に語りかけ、私の話を聞いてくれていました。
物心付いた頃から自然との会話は当たり前のことで、私にとっての日常でした。


歩いている道の脇から、今まで話していたものとは別のかすかな声を聞き少女は立ち止まった。
「ミモザ、どうしたってんだ?」
森の奥をじっと見つめる彼女に合わせ、隣を歩いていたケルビーも歩を止める。
「だれかが、痛い痛いって言ってるの。」
悲しそうな顔をしてそう告げると、ミモザはぎゅっと右手で自分の左腕を握った。
遠方から響く助けを求める声は、痛みも彼女の左腕に伝えさせた。
声の主を目指して茂みの中へ分け入る彼女をヤレヤレといった風にケルビーは見やる。
「気をつけろよ。」
彼は彼女を見失わないように、すぐさま後を追った。

青々した広葉樹の葉は太陽の光を浴びて宝石のようにきらめいている。
進むにつれ悲痛な声と森の住人達のざわめきが大きくなっていった。

−いるよ きたよ 大きいヤツ だれかいる もう動けない こっちいる いるよ いるいる−

「だれがいるの?」

−大きいの 黒いよ 知らない あんなの見たことない すごく大きい 怪我してる−

いつになく騒ぎ立てる声達、いつの間にかミモザは早足になっていた。
空が見えないほどに繁ったうす暗い雑木林を抜けると、少し開けた場所に出た。
小さい広場になっているその先は急な斜面が始まっており、木立に隠れて洞穴がポッカリ口を開けていた。
「この中だ。」
ミモザは迷う事無く洞穴の中に入る、
トゲが刺さった程だった腕の痛みは、まるで刃物で切り裂かれたように強くなっていた。
洞穴の入り口は小さかったが、中へ入るほど広くなっている。
訴えかける声はもうすぐそこから聞こえた。

少し歩いた洞穴の奥、闇の中にザワザワと蠢く巨大な影がある。
今まで感じたことの無い気配にケルビーはミモザの前へ一歩出ると低く唸り声をあげた。
「大丈夫だよ、ケルビー。」
彼女は勇敢なボディガードを下がらせると、相手を刺激しないようにゆっくり近づいた。
やがて暗闇に目が慣れていき、こちらを凝視する四対の単眼が浮かび上がる。

255国道310号線:2008/07/05(土) 03:34:56 ID:Wq6z33060

−近づくな、人間−

それは5メートルを優に超える深紫色の蜘蛛だった。
威嚇のため前脚を持ち上げるが、動作はひどく遅く、だいぶ弱っているのが見て取れる。
蜘蛛の制止にミモザは足をとめたが、自分の何倍もある巨大な相手を恐れる事無く見上げた。
「あなたが呼んでいたのね。」
この声、それに、振り上げている左前脚の大傷、間違いない。
痛みを感じる左腕に手を当てる、少女はあの声の主はこの蜘蛛だと確信した。
「あのね、痛いよ助けてっていう声が聞こえたの! だから、ミモザね、痛いの治しにきたの!」

やや興奮気味に話し出した彼女に、巨大な蜘蛛は戸惑った。
−おぬし、わらわの言葉が分かるのか?−
「うん!」
ハッキリと自分に答えた人間の子供を見て、蜘蛛は仲間から聞いたことを思い出す。
ビーストテイマー、魔物を使役し操る人間。
その者たちの中には、自然と共感し魔物の言葉を理解する者もいるという。
「…ねぇ、そっちに行ってもいい?」
ミモザは蜘蛛の傷ついた前脚をチラチラ見ながらたずねた。
左前脚の傷は脚の先から中ほどのまでバックリと口を開け、脚は今にも千切れそうだ。
痛いのを治しにきたということは、この左脚を治療したいのだろう。

彼女のやりたい事を蜘蛛は察したが、すぐに返答はしなかった。
ビーストテイマーに気を許すということは、自身が服従させられる危険性がある。
人間の下僕に成り下がることなど、彼女のプライドが許さなかった。
そうとは言え、今の脚さえ動かすこともままならなぬ衰弱した体では、自力での回復は絶望的だ。
屈辱的な生か誇りある死か、彼女は選択を迫られた。


−……かまわぬ、好きにしろ−

しばしの沈黙の後、吐き出す息とともに前脚を下ろす。
彼女は生を選んだ。
「うん!」
嬉しそうにパッと顔を輝かせたミモザは急いで蜘蛛に駆け寄ると、かけていたカバンから救命道具を取り出す。
そして、体液が流れるままに放置していた彼女の傷を治療し始めた。

「おめぇ、ここいらじゃ見かけねぇ面だが、何者だ?」
今まで成り行きを見守っていたケルビーが、大人しく治療を受けている蜘蛛に尋ねる。
蜘蛛を脅かさないようにとのミモザの配慮で彼女と距離を置いているが、万が一、蜘蛛が襲ってきた時に備えて
警戒は怠っていない。

−アラクノイド…、人間達がそう呼んでいる種じゃ−

この地より遥か北方に住んでいたが人間に追われ逃れてきた。
そう語る間、彼女はミモザの方を見ることは決して無かった。
蜘蛛から伝わってくる静かに燃える怒りにミモザはビクリと手を止めたが、そのまま傷薬を塗り続ける。

「はい、終ったよ。」
最後の包帯を巻き終わり、ミモザは笑顔でそう告げた。
傷は全身に及んでいたため、アラクノイドは蜘蛛のミイラのようになっている。
「しばらくは絶対あんせいだからね。 それから…。」
「おい、ミモザ、そろそろ帰るぜぃ。」
他に注意事項は無いかと思案していた彼女をケルビーは急かした。
洞穴の入り口から漏れる光は、すでに赤みを帯びている。
ミモザは慌てて散らかしていた道具をしまうと、ケルビーと共に外へ駆け出す。

−人間よ−

立ち去ろうとするミモザをアラクノイドは呼び止めた。
振り返った少女の半身は夕日を浴びて茜色に染まっている。

−他の人間にわらわの事を黙っていてはくれぬか? わらわを恐れて退治せんと此処に現れぬともかぎらん−

こちらを見すえるアラクノイドの瞳には、切実さが込められていた。
「うん、分かった。」
ミモザはうずくまったままの彼女に手を振ると、黄昏迫る森の中へと家路を急いだ。


あの頃の私は、森に入っては母から教わった治療術で生き物の怪我を治して回っていました。
彼女との出会いはそんな日常の一コマにすぎませんでした。
アラクノイドの頼み通り、彼女の事は私とケルビーと森のみんなだけの秘密にしました。

256国道310号線:2008/07/05(土) 03:35:52 ID:Wq6z33060
ーオアシス都市アリアン

「ミモザが遭難した。」
ギルドホールのラウンジに入ってきたアッシュが開口するなり言った言葉がそれだった。
黒い革の帽子マントとズボンにブーツといった全身黒ずくめの少年は、スタスタとラウンジ内を横切る。
ミモザと合流するため、出発の荷物をまとめていたブルーノとテラコッタは手を止めると視線で彼を追った。
「な、なんだってー!?」
呆気に取られていたブルーノは、ガシャーンと音を立てて傍の椅子に立て掛けていた剣を倒した。
彼は自分の鈍い青色の髪に比べて鮮やかな青色の目を驚きに見開いている。

「ど、ど、ど、どうしよう。」
「探してくる。」
焦燥した様子のアッシュはラウンジから外へ繋がる扉を開けた。
「待ってよ! どこから連絡が来たの?!」
一人先走るアッシュを追い、濃いブロンドの髪と赤目の少女テラコッタとブルーノもギルドホールの外へ出る。
アリアン郊外にあるギルドホール前は閑静で人通りがそれほど多くない。
只ならぬ彼等の雰囲気は、ニ、三人いた通行人の注目を集めるには充分だった。

「いや、あいつからの耳が来ないんだ。」
「へ?」
イライラした口調の彼にテラコッタは間抜けな声を返してしまった。
彼女から耳打ちチャットが来ないことと遭難がどう結びつくと言うのだろうか。
「…話が見えないんだけど。」
考えてみたが、テラコッタには見当がつかなかった。

彼は懐から高速移動用の魔法カーペット召喚巻物を取り出し、居ても発っても居られない感じであったが、早口
で説明し始める。
「最初は二時間おきに耳をしていた。」
その言葉にテラコッタとブルーノは二人して感嘆の声を上げる。
前々からアッシュはミモザに好意を寄せていた節はあったが、そこまで親密な関係になっていたとは。
冷やかしの視線を向けられる中、彼の説明は続く。
「だが、返事がなかったから、一時間後に耳をした。 それでも返事が無かったからその三十分後に…」
心なしか話の雲行きが怪しくなっている気がして、テラコッタは冷や汗を流す。

「…今は五分おきに耳をしているが返事が無い。 遭難の他に考えられないじゃねぇか!」
一気に話した為か息切れしている彼とは対照的に、テラコッタは冷静にツッコミを入れる。
「それ、一歩間違うとストーカーよ。」
「コミュ拒否にでもされたんじゃないのか?」
アッシュの話を聞いているうちに、落ち着きを取り戻したブルーノも悪戯っぽく言った。

「バッ…! そんな事あるかっ!!」
酷くショックを受けたアッシュは激しく取り乱すと、ブルーノをビシッと指差した。
「だったらブルーノ! お前も耳してみろ!」
「ああ、いいよ。」
彼は目を閉じると意識を集中させ、ミモザに呼びかける。
しかし、十秒、二十秒とたっても、彼女からうんともすんとも反応は無かった。
やがて彼は情けない表情で顔を上げた。
「返事が無い…。 俺もコミュ拒否された?」
「ふん、ざまないな。」
すっかり気落ちしたブルーノに、アッシュは何故か勝ち誇ったようにふんぞり返った。

「ちょっと、おかしいわね。」
テラコッタは怪訝そうに眉間にシワを寄せる。
犯罪に片足を突っ込みかけているアッシュはこの際置いておいて、お人好しのブルーノまでミモザがコミュ拒否
するとは考えにくい。
テラコッタも彼女に耳打ちをしてみたが、同じく反応はなかった。
タイミングが悪いだけなのか、ひょっとして本当に耳打ちできない状態なのか…。
「念のためマスター達にも伝えるわ。」
耳打ちからギルドチャットにテレパシーの回線を切り換えると、テラコッタは事の次第を話し始めた。

257国道310号線:2008/07/05(土) 03:36:30 ID:Wq6z33060
―ハイランド洞窟B2

垂直に近い切り立った断崖絶壁をケルビーの赤い体がよじ登っていた。
しかし、もろく崩れる岩に足を取られ、ガラガラ音を立てながら彼は滑り落ちる。
「ちっとも登れないぜ、こんちくしょう。」
気が長い方ではないケルビーは、助けを呼びに行ったウィンディを待っているなど到底出来ず、ロッククライミ
ングを試みていた。
だが、岩肌は湿気に濡れていて滑りやすくて、ケルビーの四本の足を持ってしても登ることは困難を極めている。

落石に当たらないように離れた場所で眠らせているミモザを彼は見返る。
崖下に落ちてから数時間たっているが彼女は目覚める気配が無い。
そのことがケルビーの焦りを募らせていた。
打ち所が悪かったのか病気なのか、どちらにしろ一刻も早く医師に見せなくては危険な状態なのかもしれない。
(いっそのこと死に戻らすか…?)
帰還アイテムが無いこの状況で、それは彼女を町に連れて行く最速の方法である。

冒険者の中には旅先で魔物との戦闘やダンジョンの罠などで命を落としても、いつの間にか町中で復活するとい
う不思議な事が起こる者がいる。
俗に『死に戻り』と呼ばれる彼等の存在は冒険者の間で真しやかに囁かれていた。
だが、それは稀な事で殆どの者は死亡、最悪の場合はゾンビやワイトといった不死者に身を堕とすため、自ら
試そうという愚か者はいない。
ミモザは死に戻れる事が分かっていたが、彼はその考えをすぐに振り払う。
蘇るとは言え、幼い時よりずっと共にいた、心を通わせてきた彼女の命を絶つことなど出来る訳がなかった。


他に登れそうな場所を探そうとした時、こちらに向かってくる足音を聞いたケルビーは身構えた。
ファウンティンス・ハイランドの魔物はいずれも強敵、第一形態のままでどこまで通用するのか。
近づいてくるのっしのっしといった鈍重なリズム、これは狼のものではない。
聞き覚えがあるそれにケルビーは体中の緊張を解いた。
「何でぇ、カメじゃねぇか。」
闇の中から姿を現したのは、ミモザの一大事にすっかり失念していたペットの金太郎だった。

金太郎は巨大な体に見合った緩慢な動きでケルビーに歩み寄ると、彼を頭からかぶりついた。
「痛ぇ! 放っておいて悪かったって! こちとら立て込んでいたんでぃ!」
頭を丸ごとかじられた状態でケルビーは暴れたが、金太郎のクチバシは彼をペンチのように挟んで放さない。
なおも不機嫌そうに金太郎は口をもごもごさせた。
「何っ? ”カメじゃなくてスッポン”だぁ?! 似たようなモノだろ!」
忘れられたことよりも種族にこだわる金太郎にケルビーは思わず脱力する。
彼の言葉が気に障った金太郎はより強く無礼な犬を噛んだ。

<プロストバイト>

「痛ぇ! 冷てぇ! 痛ぇ! 冷てぇ!」
冷気を含ませたスッポンの得意技が遠慮なく炸裂する。
気が済んだ金太郎にケルビーが解放された時には、彼の赤い体は寒さのため真っ青になっていた。



つづく

258国道310号線:2008/07/05(土) 03:37:15 ID:Wq6z33060
前回タイトル間違えました、”赤き”呼び声が正解です。
登場するたびにキャラが壊れていくのは仕様なので、お気になさらずに…。
アラクノイドは正確には「アラクノーイド」ですが、縮めた方がカッコ良く思えたので前者にしました。


>◇68hJrjtYさん
実は私の周りにもサマナは居ませ(ry
サナマは大人しいキャラという独断と偏見があったので、逆に周りの召喚獣達はにぎやかにしようと思いましたら
漫才が止まらなくなりました。
ウィンディが関西弁な理由は、鳥 → 鷲 → 一人称:わし → 関西弁 です。

>ドワーフさん
お久しぶりです、しっかり憶えていますよ。 作品お待ちしてました!
改行は難しいですね…。 私は五行くらいで切るよう心がけていますが、八行くらいになる場合が多いです。
ドワーフさんのキャラクターの心理描写や読み手の想像力をかき立てる手法は憧れます。
ハナの最期の言葉が目を潰してしまったザトーの光になることを祈りたい心持です。
個人的にザトーの名前の由来になるほど! と思いました。

>白猫さん
Puppet最終章完成&100KB超えおめでとうございます!
Puppetだけでなく、天下●の設定まで… その執筆力はただただ尊敬するばかりです。
小説は一気投稿で良いかと思います、白猫さんの表現したい方法で読ませていただきたいです。
それにしても、連続投稿規制は気がかりですね…。2chですと別の人の書き込み(別スレでも可)があれば
規制回避になるようですので、手伝えることがあれば協力します。

>憔悴
はじめまして、ここの投稿作品を見るたびに制作意欲がムラムラ湧く国道と申します。
ビガプールとリンケンで起こっている事件の関連性が気になります。
突然、母から総帥の地位が譲られたということは、まさかチェルのお母さんは…。
若くして総帥という地位についてしまったチェルの物語、続き楽しみにしています。

259憔悴:2008/07/05(土) 17:23:49 ID:Wv5HCA4E0
夜。
暗く風の冷たいリンケンの夜が来た。
チェルはあのまま、町の中を調査していた。
一つ気になったことがあったのだ。
跡継ぎの居なかった町長が死んでいたこと。
そして、見たことの無い少女がそのあとを継いでいた。
名前は、リーネというそうだ。
話を聞くと、リーネは町長がある日リンケンの東にある砂漠で倒れていたところを拾ってきたらしい。
町長の家へいくと、リーネは一言も話さずチェルの髪を見ていた。
緑色の髪のビーストテイマーなんて珍しいのだろうか、
それとも自分と同じ"異種の職"だと思っていたのだろうか。
チェルは表面テイマーと名乗っているが、
他人の回復、治療、蘇生というビショップに似ている技術が備わっていた。
極稀に、親がもし、テイマーとビショップならばそういった技術を持った子が生まれるらしい。
そして、リーネも同じく、中世の姫君の様な姿はしているが、髪がピンクだった。
聞く話、プリンセスとリトルウィッチに加え、高度な移動速度上昇や、炎の付加ダメージをつける技…
ウィザードの技も備わっているらしい。
もしかしたら、あの子は…
「チェルちゃん…」
ふ、と呼ぶ声がして振り返る。
其処には、鬼が居た。
しかし、声は確かにアレナだった。
「…鬼ですわね」
「…いくらチェルちゃんでも、こんなに早く仲間を見つけてしまうとは思わなかったわ…」
「仲間…?」
アレナ…いや、鬼は町長の家を指差す。
「リーネは貴方と同じ、異種職…私達に困る存在。消去しなくてはならない人物」
「異種職…気づいてらしたのね」
「リーネは一言もしゃべらない…殺す前に聞こう、お前らは地下界を調査して何をしようとしている?」
地下界…あの地下遺跡に入ったことについてらしい。
「…地下界はもう壊滅したのでは?記憶を失ったネクロマンサーや悪魔が放出されてるのはそれのせいでしょう?」
「まだいるさ…ネクロマンサーと悪魔の頭は天上界を襲うことに反対したが…我々鬼は違う…バカな事を考え追放されただけの奴らとは…」
と、鬼は空を見上げる。
「誰にも気づかれぬよう、この世界を鬼の住みかにし…後は…」
「…なんですの」
「4人いる異種職を殺すのみ。お前を含め、異種職を殺す前に探し出すもの…いや返してもらうものがある」
指で楕円を作ってみせると、それを4つ手に乗せる仕草をする。
「天上界の野郎達は…俺達の源を奪った後、検討もつかねえ所に隠しやがった…」
悪魔の住処に。
自分達の住処に隠された源は、つい最近それについて気づいたらしい。
しかしそこをあける4つの鍵は天上界のものによって、より力の強い者4人に渡された。
それが、異種職。
異種職はただ2つの職が混ざってるだけではなく、天上界のお偉いさんが考えて作り出したらしい。
たとえばプリンセスのただでさえ早くて痛いボトルにさらにダメージが乗り、速度が増したら。
ただでさえ本体は倒せないテイマーに、仲間の回復や蘇生ができたら。
4人がもし一緒に戦うようなことになったとしたら、強豪になるだろう。
「いくら人数がある鬼でも…倒せないだろう?あいにく記憶は無いようだから一人ずつ殺そうと…おもったわけだ」
「だから………私達を一人ずつリンチするわけですのね」

260憔悴:2008/07/05(土) 17:25:17 ID:Wv5HCA4E0
チェルは本に触れる。
と、ペット…リザードキリングが現れる。
「リーネは後でゆっくり追い詰める…まずはお前からだッッ」
鬼の鋭く、長い爪がチェルの居た場所に食い込む。
第三段階のケルビーが素早く召喚され、それに飛びのる。
そして、緑色の笛の音が鳴らし、
「がんばって…貴方達は凄いの。さあ、スリープ、ビューティ…いきなさいっ」
励まし、誉め…攻撃命令をだす。
ペットの周りを風雨が巻き起こり、素早く鬼に襲い掛かる。
しかし、鬼は鋭い牙を剥くと、チェルの居る方に走る。
「ペット相手していたらきりがないのでな…さあ、持っている魔石をよこせ!」
魔石とはエメラルドのことだろう。
どうやらあの鼓動の鳴る扉は4つの魔石が集まらないと開かないらしい。
いくらビショップの技術があったとしても、あの牙に噛まれたらひとたまりも無いだろう。
すると、チェルは鞄から唐辛子を出すと、ペットに向かって投げた。
上手くキャッチをして食べると、リザードキリングは赤い鎧だけではなく、体全体を赤く染めた。
「ッチ…ッ」
鬼が高く跳ぶ、しかし。
「…ッ!?」
リザードキリングの槍が鬼の背に刺さる。
その激痛で空中でもがくが、地に待ち構えたリザードキリングに…

「…アレナさん…」
いつから鬼だったのだろう。
今日はもう鬼だったのだろうか
それともずっと前にあったアレナも鬼が化けてたのだろうか
とにかく、今はリーネを探すことが第一だと思えた。
町長の家へ向かおうとする、と
「チェルさん、まって」
振り向くと、リーネが桃色の魔石らしき物を手に持っていた。
「…やっぱり、異種職だったんだ、私と一緒…」
「…リーネさんも親はプリンセスとウィザードですの?」
首を横に振る。
「分からない…何も覚えてないの…面倒見てくれた町長様は多分鬼に…」
だんだん声が小さくなり、俯く。たった1人の頼れる存在が殺されたのだから、仕方ないだろう。
「鬼は…私達の魔石を狙っている。きっと、源が壊れない限り」
一緒に居てくれないかな、と少女が笑う。
「頼れる人が居ない…支援もかける、一緒に戦う、だから、鬼と戦う仲間を一緒に」
「それは出来ないんですの」
「え…どうして、一緒にがんばろうよ…仲間…じゃないの?」
「私は父がどうして、何を調べようとしていたのか知りたかっただけですの…貴方と一緒になんて、行動できませんわ」
その言葉にリーネは又俯き、其処から水が零れる。
きっと、チェルが自分と一緒にいってくれる、と思っていたのだろう。
その姿をみてチェルは満更でもなかった。
断った理由があるからだ。
彼女が自分の大切だった人に似ているから、まだ幼い彼女を危険な目に晒すなら、自分一人で行こう、と。
父の件も嘘ではないが、他にも地下遺跡を調べたい理由があった。
なにも考えてない父とは違う、自分は考えて、彼女は連れて行けない、と思ったのだ。
「…ここは危険だからアリアンまで送っていきますわ。幸せになってください」
送っていく途中、終始リーネは泣いていた。

261憔悴:2008/07/05(土) 17:25:49 ID:Wv5HCA4E0
後2人がどこにいるかの検討なんて、まったく無かった。
リーネは一晩たって、何を思ったのか
「死んでもついていく!」
と言い切るリーネに、チェルは頭痛がしていた。
「危ないですわよ」
「いい!」
「怖いですわよ?」
「へーき!」
「…死ぬかもしれませんわよ?」
「おねーさんと一緒なら大丈夫!」
…全く、そっくりである…
「…勝手にどうぞ…」
もうこう言うしかなかった。
そんなこんなで、いくあても無く組織へ戻ると、
「総帥…この子はだれです…」
コンパクトに出た、あの青年がリーネの頭をつつく。
「…お子様ですわ…」
「ほう、総帥には隠し子が居ましたか。それはそれは…」
「私はリーネですっ!チェル様と一緒に居るのですっ」
チェルと無理やり腕を組む。
身長差は然程無いらしい。
「…総帥…がんばってください」
「…まったくですわ」
二人のアイコンタクトに疑問符を浮かべる。
そして、何かに気づいたように青年を見る。
「青い髪の…アーチャーさん?」
「あ、嗚呼。何故か生まれたときからこうでしてね」
青年は髪をつまむ。
「剣士みたいですよね、よく剣士さんっていわれるのですよ…」
リーネはチェルを引っ張ると、
『この人、異種職じゃないの?』
『ロンサムのことなら、アーチャーの技しか使えないはずですわ』
『そっかあー…』
髪の色なんていくらでも変えられるもんね、と右手でぐーをつくり、自分の頭を小突く。
「じゃあ…お嬢さんには総帥を守るように、がんばってもらいましょう」
「えへ!リーネがんばりますーッ」
こうして、組織にリーネが入った(無理やり。

゚・*:。.:・*:.'.:☆.+゚*゚+.。+゚,゚.+:。.+:。☆゚+.。+゚,゚.+:。.+:。*:。.:'・*:.':+.*。+゚.゚.+:。.*:。☆

2話目(?)です。
私もメインはテイマーなのですが、
以外にウィザードよりビショップの技がほしいと思ったのでこうくっつけてみました。
そしてプリンセスならウィザードかな、と。

コメントありがとうございます。

>◇68hJrjtYさん
68hさんに呼んでもらい、感想までもらえて光栄です。
父よりもう一人、大切な人がいた…
そのエピソードは必要なピースがそろってから、ですかね

>国道310号線さん
関連性は…やっぱり魔石についてでしょうか。
母はどうしたのか、それもピースがそろってから書くことにします。

262◇68hJrjtY:2008/07/05(土) 19:39:04 ID:rvBV3p4k0
>国道310号線さん
ケルビーとミモザの信頼関係はもちろんのこと、アッシュとミモザの熱々な親密関係(*´ω`*)
ミモザ幼少時の描写ですが、自然界の声やアラクノイドとの出会いなど「動物や自然と語り合える存在」を
改めて神秘的なものとして読めたような気がします。幼女ミモザ自体もそれはそれでイイ_| ̄|●ポッ
そしてウィンディ関西弁秘話まで暴露させてしまいましたね(笑)
愛に燃えるアッシュたちの探索が間に合うか、ケルビー&金太郎コンビが何を仕出かすか。
続きお待ちしています。
---
なるほど、何人かが協力して投稿のお手伝いをすれば30レス分くらいわけないかもしれませんね。
というわけで白猫さん、私ももし宜しければお手伝いしますよ!(*´∀`)b

>憔悴さん
おぉ、だんだんと世界観や設定が浮き彫りになってきましたね。
しかしテイマー+ビショップやプリンセス+ウィザードという構想は無かった。実質4つのジョブということに…!
そしてアレナではなくて鬼と呼ばれる存在の出現。今後鬼たちに付け狙われることになりそうですね。
残る二人の「異種職」さんの実態、さらに追い求める魔石ことエメラルド。
読み手にとっては謎が尽きませんが、急ぐ必要はありません。
ゆっくり煮詰めながらの執筆をお待ちしていますヾ(*´∀`)ノ

263白猫:2008/07/05(土) 22:23:14 ID:W4Rh7kXM0
Puppet―歌姫と絡繰人形―


第一章〜第五章及び番外編もくじ 5冊目>>992
第六章〜第十八章もくじ 6冊目>>924
第十九章 -愛しき君への言葉 迫り来るもう一つの敵- >>5-16
第二十章 -激戦の、一歩手前- >>43-50
第二十一章 -断罪者の覚醒 迫る最後の戦い- >>178-190









 最終章 -Epilogue-歌姫と絡繰人形






(まえがき。
どうも、ご無沙汰しております、白猫です。
この最終章は803レスに投稿しようと思っていましたが、思ったよりも早く予定が進み、したらばのサポート?的な

人も来てるようなので、早めの投稿に踏み切りました(投稿される前に使用停止は堪らない)。

えーっと、まず言っておきます。長いです、スサマジク長いです。
一気に読むと多すぎるので、何度か分けてお読みください。

なんとまぁ104KBもあります。文句なしでPuppet最長の章となるでしょう。
よっておまけのガチバトル、68hさんリク入れ替わりネタは後日ということで。ご了承ください……。


それでは、Puppet最終章、ごゆっくりお楽しみください――)

264白猫:2008/07/05(土) 22:23:42 ID:W4Rh7kXM0


ブルン歴4922年、1月19日、深夜。
ラグナロク発生まで――残り、3時間。
この夜が明けたとき、ルヴィラィか世界か、どちらかが――滅びる。
古都へと帰還したネルは深紅衣に付いた埃を払いながら、闇に染まった景観を見回して白い息を吐く。
この長い夜を、自分たちは越えなければならない。
 「…………」
物音一つ聞こえない辺りの様子に、ネルは沈黙を貫いたまま目を閉じる。
時計はもうすぐ2時を指そうとしている。集合は確かに1時半のはず、なの、だが。
よりによって今日、しかも三十分の大遅刻。
有り得ないだろう。というか空気読めよ。
と、
 「待たせたな」
そのネルの背後、地面からまるで生えてくるように、一人の男が現れた。
口と鼻を隠す覆面に、ツンツンに立った黒髪のシーフ――通称「覆面」。
覆面の声を聞き、ようやく一人目かとネルが睨みながら言う。
 「待たせ過ぎです。どういうことですか全く」
カツカツと歩み寄るネルの姿に、覆面は少しだけ目を細める。
外見は八ヶ月前に見たときと大差ない。変わっているのは、全身が紅色のローブに覆われていること……そして背

に、衣に包まれたグングニルが掛けられていることだけ。
だが、雰囲気がまるで別人である。いつの日か見た彼の父にすら見紛う、そんな威圧感と存在感を持った姿に成長

していた。
 「[イグドラシル]の所在地は?」
早速本題へと入ったネルに、覆面も小さく頷いて言う。
この戦いに自分は参加しない。自分ができる最善の手を尽くし、そして彼は"それ"を発見した。
 「実のところ、もう他の連中は其処へ向かっている。どうにもじっとしていられなかったようでな」
 「……は」
ドイツもコイツも、と溜息を吐いたネルも、しかし思う。
もし場所を知れば、恐らく自分もそうしていただろう。世界の滅亡を前に、一分一秒も無駄になどしていられない


そんなネルに、覆面は小さく「だが」と付け加えた。
 「実は……その、一人まだ来ていない奴がいてだ、な」
 「――ああ」
言いにくそうな覆面に、ネルは小さく溜息を吐いて理解した。
こんな状況でのうのうと遅刻してくる者など、自分の知る限り一人しかいない。


 「ご、ごめーん!」
そんなネルと覆面を見つけるや否や、フードを被った人物が手を振って駆け寄る。
遅刻ですよ、と不機嫌そうに唸るネルに両手を合わせ、覆面に笑いかけた人物は、土色のローブを取り、小さく微

笑んだ。
 「ごめんね、マイさんの絨毯が途中でほつれちゃって」
 「絨毯がほつれるってどういう状況ですか」
枝にひっかかってどんどん座るところが無くなっていくの!と騒ぐ少女に、覆面は思わず頭を抱えた。
こんな状況でもやっぱり能天気な少女――ルフィエ=ライアットに、ネルは小さく溜息を吐く。
だが、もうこれ以上無駄な時間は食っていられない。
 「それで、何処ですか」
覆面へと向き直ったネルとルフィエ、その姿に覆面は小さく頷く。
そして、指した。

自分たちの――上空を。
 「――あそこだ」
覆面の指の先、ネルとルフィエの視線が捉えたもの。


それは、古都の遥か上空を悠々と浮かぶ、巨大な鉄の、立方体だった。

265白猫:2008/07/05(土) 22:24:02 ID:W4Rh7kXM0


以前見たときとはまるで違うその形に、ネルは少しだけ目を細める。
 「以前僕とリレッタが閉じ込められたとき、本当に「樹」の形をしていたんですがね――」
 「それにしても高いねー……みんなちゃんと行けたんだ」
苦虫を噛み潰したような顔のネル、素直に感心するルフィエに覆面はそっと補足する。
 「黒髪の女は龍に乗って、蒼髪と茶髪の奴は浮遊靴と浮遊魔法、赤毛の女は――知らん。気付いたら既に飛んで

いた」
碧龍と浮遊靴、リビテイトと[翔舞]か。と理解するのも数秒。
軽く地面を二度蹴り、返す手で浮遊魔法を発動する。
ルフィエの方もフワリ、と難なく空中へと浮き、覆面はそんな二人に小さく溜息を吐いた。
通常、ウィザード以外の者が空中を浮遊することなど不可能に近い。それだけ魔力を統御することが難しくなるか

らだ。
――まぁ、難易度7だの8だのの術をぶっ放す彼らにしてみれば、空を飛ぶことなど朝飯前なのか。
 「悪いが俺が助力できるのはここまでだ――後は頼んだ」
そう小さく頼んだ覆面に親指を立て、ネルはルフィエに手を差し伸べる。
 「[神の母]は使わないんですね」
 「まだ――ね。びっくりさせたいから」
ネルの手を握り返し、ルフィエはそっと微笑み、言う。
それは楽しみです、と笑うのも束の間、

次に風が覆面の体を叩いたとき、既に二人は果てなく続く大空へと打ち上がっていた。






ぐんぐん近づく巨大な立方体を見、ネルは目を細める。
ただの鉄ではあるまい。生半可な威力の攻撃では弾かれるか。
 「穴を空けます、[女神]の腕は落ちていないでしょうね」
 「歌唱力はばっちりだよ」
烈風が全身を叩くのも気にせず言うネルに、ルフィエも暢気にそう答える。
そのルフィエの言葉に微笑み、ネルは背に掛けていたグングニルを掴み、布を一払いで放り捨てる。
途端に夜空に晒される、白き光を放つ美しい槍――グングニル。
同時に紡がれたひどく美しく、どこか哀しいルフィエの歌声。その歌声がネルの体を包み、金色に彩り、異能の力

を与える。
空中で、初手から最強の力を撃つつもりはない。切り札は、切らないことも使い道の一つなのだから。
 「まぁ――まずは挨拶、ですね!」
そう言うが早いか、 ネルは手に持ったグングニルを払い、投擲の構えを取った。
途端に凝縮される白い光に、ルフィエはネルの手を離し数回旋回した後、両の手に金色の光を溜め込む。
 「『 ――[破槍] 』」
 「『 スーパー……ノヴァ 』」
空中から繰り出された白と金色の怒涛が、鉄の箱――イグドラシルへと一直線に伸びてゆく。
その怒涛はイグドラシルの外壁に激突した途端、辺りの大気を飲み込み、膨らみ、縺れ合い――

大爆発を起こした。

空中で起こる大爆発に目を細め、しかしネルとルフィエは全く上昇の速度を緩めず、その爆炎の中に突入した。

266白猫:2008/07/05(土) 22:24:23 ID:W4Rh7kXM0



 「――来た」
 【ヒヒッ……奴ラガ、来タ】
イグドラシルの内部、突如起こった巨大な揺れに、ルヴィラィは目を細める。
先ほどどこからか侵入した四人組――あの四人の気配は今は、地下の魔物小屋の近く。
千体の魔物による、壮大な足止めを食っているだろう。千体全ての魔物を倒した頃には、力を取り戻した傀儡たち

の一斉攻撃を受ける。
"万が一"向かわせた傀儡が全て倒されようとも、自分の作り出した最もおぞましいあの傀儡は、絶対に倒せないだ

ろう。
人の姿を覗き、映す鏡の傀儡――マジシバ。
そう心中で思考を流しながら、ルヴィラィは目の前に浮かぶ薄汚い髑髏……パペットを見やる。
 (パペットを、私を倒すことができるのは――グングニルを持ったワルキューレだけ……)
ワルキューレ。
まさか、自分の思考の中で再びその単語が現れようとは。
パペットが最も恐れていたこと――マペットの力の本質、それを理解し操る者の出現。
そしてその"契約者"を護る、[破壊神の槍]を携えた者――ワルキューレの覚醒。
その二つに当てはまるもの。
それが他でもない――ルフィエ=ライアットとネリエル=ヴァリオルドの二人。
ひょっとするとあの二人がお互いに恋い焦がれたのも、単純な感情の問題ではない――もっと本質的な部分から来

ているのかもしれない。
 「[グングニル争奪戦]と大戦のときに、ワルキューレ"と思われる"者たちは殺したつもりだったけど、ね」
 【パペットノ力ヲ受ケ継イダ傀儡ヲ壊セルノハ、ワルキューレトマペットノ契約者、グングニルニ選バレタ者ダ

ケダヨ】
 「分かってるわパペット。この世に偶然なんてない――あの四人組も、十中八九ワルキューレね」
そこまで考え、ルヴィラィはふと考える。
傀儡の数は十三体。ならばワルキューレの数も十三人のはず。
まずルフィエ=ライアット――傀儡、ムームライトを消滅寸前まで追い込んだあの力。ワルキューレの可能性は捨

てきれない。
次にネリエル=ヴァリオルド――彼は間違いなくワルキューレ。グングニルを扱えている地点でそれは確定してい

る。
ルゼル=アウグスティヌス――[神格化]も可能であり前回の大戦で自分をしつこく妨害してきたあの正義感――彼

もまた、ワルキューレ。
カナリア=ヴァリオルドとその妻――言うまでもない。彼らをワルキューレに挙げずして、他の誰を挙げる?
そして今、イグドラシルに入り込んでいる四名――これで、九名。
前回の大戦でアドナを殺し、ルゼルの有能な補佐も数名殺している――これで、丁度十三人だろうか。少々お釣り

も来るが。
まぁ、要するに。
 「この戦いを制すれば、私たちを省くものは無くなる――」
 【ヒヒッ……アノ二人、探索ヲ開始シタヨ……】

 「フフ……歓迎するわ、フェンリル、ルフィエ――こうして"招き入れて"あげたんだから、いい前夜祭にして頂

戴」

267白猫:2008/07/05(土) 22:25:09 ID:W4Rh7kXM0


 「グァアアアアアアアアッッッ!!!」
イグドラシルに突入したネルとルフィエは、早速無数の魔物達による奇襲を受けていた。
感じられるだけで三桁、視界に入る魔物だけでも十五体はいる。
 「右に4、後ろに8」
目の前の魔物を爆砕し、その爆音の中で小さくネルは呟いた。
その言葉に返事はせず――しかしルフィエは、的確に光弾を生み出し、ネルの指示通りの方向へと全て放った。
ネルはともかく、ルフィエは戦っているというより踊っているに近い。
フワリと壁から壁へと跳び、舞い、返す手で光弾を生み出し、撃つ。
ルフィエの弾が全て魔物に着弾したのを感じ、ネルはそろそろか、と槍を旋回させる。
240日間では大した威力にはならなかったが、今はグングニルとルフィエの唄が底上げをしてくれるだろう。
宙を舞うルフィエに合図し、目の前の魔物の集団を睨み、叫ぶ。
 「――行きますよ、[ワーリングアサルト]ッ!!」
瞬間、
槍を旋回させたまま、ネルは魔物の集団へと突進する。何の防御態勢も取らず。
当然の如く魔物がドス黒い炎を吐き出してくるが、[深紅衣]を纏うネルには何の障害にもならない。
迫り来る炎を槍の回転で搔き消し、槍の破壊力に任せて魔物達を物凄い勢いで薙ぎ払ってゆく。
同時に発動する[爆風]がネルと魔物達の姿を包み隠し、傍から見れば爆弾をばら撒きながら進む、無駄に小回りの

利く戦車にしか見えない。
と、
 「――早速お出まし、ね。傀儡」
ネルを追おうとした矢先、後方に感じる、巨大な魔力。
魔物たちはネルが薙ぎ払っていってしまったというのに、ルフィエは大軍の中に置いてけぼりを食ったような感覚

に陥る。
それもそうだろう――後方の魔物から放たれる魔力が、まるで包み込むように自分を狙っている故に、気配がその"

何者かの魔力"以外感じられない。
だが、この魔力には記憶があった。
 「……あのときの、ハーピー」
 【ハーピーと呼ぶんじゃないよ】
ルフィエが振り向いた先、紫色の翼を広げ、地面へと舞い降りた一体の鳥人。
古都で自分が倒したはずの――しかし倒すことのできていなかった、一体の傀儡。
 【ムームライトと呼べ。虫唾が走る】
 「……行くよ、マペット」
 〈はい〉
傀儡――ムームライトを見やり、ルフィエは胸の十字架に手を当てる。
[唄]はまだ必要ない。一年以下の修行による付け焼刃では、自分は[三人唱]しか覚えることはできなかった。
しかも使いすぎれば喉が潰れてしまう――満足に使えるのは精々四回、それ以上は発動できる保証はなかった。
 「神格化――『 [神の母]、発動 』」
瞬間、
ムームライトは、ルフィエの体から放たれる凄まじい閃光に、思わず翼で顔を防いだ。
強すぎる光に目を抑え、ムームライトは心中で呟く。
 〈なんだアレ……前となんかチガくないか〉
徐々に収まってゆく光に翼を直し、ムームライトはルフィエの姿を見据える。
地面にまで付いてしまいそうな長い茶髪、
海の色の様でもあり、空の色の様でもあるような、思わず見惚れてしまいそうな水色の瞳。
戦うことには適していない、[目で見る美しさ]――その場に余りに不釣り合いな、クリーム色のドレスローブ。
その手には、そこにあるべき神器はなく、ただ十字架が握られていた。
以前戦った時と違う点といえば、髪の長さに――威圧感。
放たれる威圧感が、前回とは桁違いに上がっている。一体、どこでこれほどの力を得てきたというのか。
と、
握りしめていた十字架をゆっくりと離し、ルフィエはそれを胸へと戻す。
両の掌をゆっくりと重ね合わせ、呟いた。
 「 ――これが、"私"。ルフィエでありマペット。貴方達を裁く、[断罪者] 」
ひとつの口から紡がれる、ルフィエとマペット、二つの声。
その言葉にようやく戦闘体勢へと入ったムームライトは、その両の翼で空中へと飛び出した。

268白猫:2008/07/05(土) 22:25:34 ID:W4Rh7kXM0
イグドラシルは一階一階が異様に広い。ムームライトが飛んで戦うことに、何の不便も無いようにだろうか。
が。
 「 『 ノヴァ 』 」
ルフィエの前方で生み出された光弾が、無造作に一発ムームライトへと放たれる。
その光弾の瞬きを見やり、ムームライトは即座に術へと意識を向ける。
ムームライトの能力の一つ。[術の支配]。
相手の攻撃魔法であろうが防御魔法であろうが、ムームライトの前は全てが無意味となる。
 【さぁて――お返しだ】
そう言うが早いか、ムームライトはノヴァの軌道を操り、ルフィエへと放つ――

寸前。
 「 遅い、ですよ 」
既にルフィエは、ムームライトの背後へと飛翔し、追い付き、その手をムームライトの背に翳していた。
 「 『 スーパーノヴァ 』 」
 【ッ】
それを見やったムームライトは、しかし笑みを浮かべる。
自分の背後を取ったのは何人目だろうか。プリファーほどではないが、自分も速さをウリとする傀儡。背後を取ら

れたことなど滅多になかった。
 【いいねぇ、ッだりゃァ!!】
ルフィエが術を放つ寸前に、その背後へと回り込み蹴りを放つ。瞬間的に移動速度を高める[陣風]――多くは使え

ないが、四の五の言ってられる場合ではない。
信じがたいことだが、彼女の速さは――プリファーにも匹敵する。自分では恐らく止めることもできない。
パペットから力を受け取ったといっても、所詮ヒトの成り損ない――此処までが限界なのだろうか。
そう、一瞬の間だけ、弱気になった。
 「 ……雑念と戦う前に、目の前の敵と戦いなさい 」
その、一瞬。
その一瞬でルフィエは、ムームライトの左の翼に光り輝く鞭を絡ませていた。
 「 ッヒュ! 」
その鞭を軽く払い、ムームライトの身体を壁へと叩きつける。途端に上がる鈍い音に、ルフィエはさらに光弾を数

個、生み出す。
それらをムームライトへと放ち、両の手を開いた。
 「 ――おやすみ 」
ムームライトが起き上がる寸前、それらの光弾は全て彼女に直撃し、凄まじい爆発を巻き起こした。
その爆発の中、紫色の瞬きが一瞬それらを押し退け、しかし白の怒涛に押し込まれ、消えた。


 【一体脱落……残ル傀儡ハ、九体】
 「……ムームライト、か。やっぱり弱い者から殺されてゆく。この世の哀れな法則ね」
灯されている十本の蠟燭、そのうち一つが消えたのを見、パペットとルヴィラィはそう言葉を交わす。
彼らが突入してきてから、まだ数十分しか経過していないはず。
それなのにもう、一体の傀儡が倒された。あまりに呆気無く。
やはりあの二人――ルフィエ=ライアットとネリエル=ヴァリオルドは、以前に比べて格段に強くなっているよう

だ。
 「あの子たちは、今何所?」
 【地下ニ、イル。ダケド、ルフィエ=ライアットガココニ来ル方ガ、傀儡タチヲ呼ビ戻スヨリモ速イ】
 「そう」
パペットの言葉にあまり関心を持たず、ルヴィラィはすっと立ち上がり、言う。
 「さて――私も、参戦ね」

269白猫:2008/07/05(土) 22:26:01 ID:W4Rh7kXM0


イグドラシル、最下層。
室内とは思えないほどの広さ――現代で言う東京ドームほどはあるだろうか――のこの最下層。
傀儡の一人――ベルモンドが[移動要塞]と形容したのも頷けるほどの魔物の大軍が、この最下層に収容されていた


数自体は一つの軍隊並。此処に運悪く突入してしまったアーティ、カリアス、アネット、カリンの四人は、当然の

如く千体からなる魔物の大軍、その襲撃を受けていた。
 「『 [閃刃(シャイン)]ッ!! 』」
飛び掛かってきたヴァンパイアの身体を一閃、光り輝く槍で薙ぎ払ったアーティは小さく舌を打つ。
壁をぶち破って突入したにも関わらず、魔物達はそれに動じずすぐさま襲いかかってきた。
故に逃げ道を確保するどころか、体勢を整える暇なく戦闘開始、というなんとも調子の狂う始まり方になってしま

っている。
 「……『 碧龍、剣 』」
そのアーティの背後、今まさに襲いかかろうとしたミイラが、巨大な蒼の龍に呑み込まれた。
ミイラを呑み込んだ龍はそのまま空中を舞い、突然方向を変え、魔物の群れへと突っ込んでゆく。
その龍の頭に乗っていた黒髪、黒い鎧、黒マントという黒一色の剣士――カリンは、龍の頭を蹴り、跳ぶ。
魔物達の丁度上空へ跳んだカリンは、八ヶ月前までは持っていなかった小型で円型の盾を掲げ、叫んだ。
 「『 トワーリングプロテクター!! 』」
カリンが盾を薙いだ途端、その盾から凄まじく巨大な竜巻が生み出され、まるで蛇のように魔物達へと放たれた。
素早い魔物たちは即座にその場から逃げてしまうが、愚鈍なサイドウォーカーやエクソシストなどの魔物は、その

竜巻に呑み込まれた。
自分の背後に着地したカリンに微笑み、アーティは槍を構える。
 「あんがと」
 「礼を言う暇があったら手を動かせ」
不機嫌そうな声にムッとしつつも、アーティは槍を急激に旋回させた。
そして紡がれる、ひとつの呪文。
 「『 ファイアー・アンド・アイス・アンド――ライトニングッ!! 』」
途端、アーティとカリンを中心に、炎と氷、そして稲妻の嵐が吹き荒れる。
その嵐の中に入っていた魔物達は瞬時に燃え上がり、凍り付き、感電し、地面に崩れ落ちていった。
 「行くわよッ!!」
 「上等だ」
この嵐は長くは保たない。威力が弱まれば、魔法耐性を持つ魔物がすぐにでも襲いかかってくるだろう。
そう一歩踏み出したアーティ、
その足を、巨大な手が掴んだ。
 「!?」

 〈ギ、ガガ……〉
地面に崩れ落ちていたメタルゴーレムが、彼女の足を掴んでいる。
まだ生きていたのか、と槍を振り上げたアーティ、
その背後から、三体のガーゴイルが飛び掛かった。
嵐の被害が少ない上空からの襲撃に、アーティは目を見開いた。
逃げようにも、反撃しようにも、両足を掴まれていてはどうすることもできない。
マズイ、と顔を歪ませたアーティの眼前で、
ギリギリで滑り込んだカリンがゴーレムの腕を切り払い、アーティの体を蹴り飛ばした。
 「ッ!?」
嵐の外へと蹴り飛ばされたアーティは、しかし吹っ飛びながらも体勢を立て直した。
嵐の中がどうなっているかは分からない。――ただ言えることは、カリンが自分を助けたということ。
せめて彼女の無事だけでも確認し――
 「ッアーティ!! さっさと先へ行け! お前にはすべきことがあるだろうッ!!」
 「!!」
嵐の中から届いた声に、アーティは目を見開く。
そうだ、こんな場所で足止めを食っている暇はない。
一刻も早く、先に進まねばならない。ラグナロク発動まで、もう時間がない。
此処はカリンに任せて、行くべきなのだ。
 「……っ」
槍を払い、アーティは浮遊の力を持つ靴を脱ぎ棄て、裸足で走り出した。

270白猫:2008/07/05(土) 22:27:12 ID:W4Rh7kXM0


 「……それで、いい」
ガーゴイルの血飛沫を浴びたカリンは、左腕に突き刺さったガーゴイルの爪を引き抜き、笑う。
滴り落ちる血を拭い、カリンは剣を構え直した。
 「全く、私も落ちたものだ……人を、世界を守るなどとは、下らん」
自分を変えたのは、誰だろうか。
小さくは、ネリエルやルフィエ、アーティだろう。
彼らの生き方は本当に清々しく、影の世界で生きてきた自分が常に羨んでいた世界の、まさに体現だった。
だが彼らよりも――そう、ヴァリオルドの、あの四人の子供たち。
あの子たちと日々を暮らす内に、のんびりと一つどころで暮すことも、悪くないと思い始めていた。
それどころか、あの生活を守りたい――壊したくない。そう思ってすらいた。
 (……私も、ここまでかもしれんな)
嵐が晴れ、再び露になる数百を超える魔物の大軍。
二人でなんとか回せていたレベルの魔物達だったというのに、一人で――しかも手負いの状態では、まず間違いなく勝ち目は無い。
だが、尻尾をまいて逃げるという選択肢は、ない。
ここで逃げて万が一生き延びたとしても、"生きた心地"というやつがしないだろう。
自分のプライドはそれほど、安くはない。
 「さあ……来い、魔物ども」







 【『 ――竜巻堕落・旋風! 』】
 「うぉあっと!?」
同じく、イグドラシル最下層。
巨大な鎌を払い、少女の姿をした傀儡――サーレが巨大な白と黒の濁りあった竜巻を生み出し、放つ。
それを慌てて避けたカリアスの眼前に躍り出たプリファーの攻撃を杖で受け止め、[リビテイト]の力を加減し空中へと飛び上がった。
茶色い長髪と白いマントがはためくのも気にせず、カリアスは杖を回転させ魔力を溜める。
と、その背後に白髪の男が追いついたのを見、カリアスは空中でクルリと回転し、呟く。
 「『 ウォーターキャノン 』」
 【チッ!】
カリアスの"背中"から放たれた水の怒涛が、カリアスへと飛び掛かろうとしていたベルモンドへと放たれる。
その水の怒涛を大剣で受け止め、ベルモンドは地面へと下りていく。
と、今度は入れ替わるように跳んだサーレが、巨大な二本の鎌を掲げ、カリアスに向かって飛び掛かった。
そのサーレを見やったカリアスは、しかし突如リビテイトの力を弱めた。
突如失速したカリアスに目を見開き、サーレは空中で突如逆進して壁に鎌を突き刺し、止まった。
それに一拍遅れて、何処からともなくアネットがサーレへと飛び掛かる。凄まじく長い剣を構え。
それを不敵な笑みと共に見上げたサーレは、残った一本の鎌で鋭く、三日月形の衝撃波を放った。
迫り来る衝撃破を軽くいなし、アネットは返す手で無数の矢を生み出し、サーレへと全て打ち放つ。
その矢雨を見やり、サーレは鎌を壁から引き抜き、叫ぶ。
 【デュレ!!】
その言葉と同時に壁をぶち抜いて現れた巨人――デュレンゼルが、左手で矢雨からサーレを護り、右手をアネットに向けて振り上げた。
全ての矢がデュレンゼルの肌に弾かれたのを見、アネットは苦笑しながらも靴を黒く燃え上がらせ、その場から退避する。
が、

271白猫:2008/07/05(土) 22:27:40 ID:W4Rh7kXM0

 【[トリプル――アクセル]!!】
アネットの動体視力でも捉えられないほどの速さでその背後へと跳んだプリファーが、その右腕を背中へと食い込ませた。
バガン、と手甲と鎧のぶつかり合う音が響き、しかし双方、痛みの表情も苦しみの表情も見せない。
それどころか、瞬時に身体を回したアネットは剣を鋭く薙ぎ、プリファーの横腹を裂いた。
 【ッ――】
驚きに目を見張るプリファーに微笑み、アネットはカリアスへと叫びかける。
 「万年病人、早くなさい!」
 【ッハ! 逃がしゃしねぇッ!!】
空を往くアネットを睨み、白髪の戦士――ベルモンドが"壁を走り"、アネットへと斬り掛かる。
さらに、反対側からはプリファーがアネットへと拳を振り上げる。挟み打ちとは厭らしい。
それを見たアネットは空中でステップを踏み、ベルモンドの大剣を剣の腹で滑らせクルリとその背後へと回り込んだ。
自分の目の前に飛び込んできたベルモンドに舌を打ったプリファーは、その頭を踏みつけアネットへ飛び掛かる。
それを見やったアネットは、腰に差してあった短剣を抜いた。
そんな行動にもプリファーは何の反応も示さない。ただ、凄まじい速度で拳を繰り出していく。
その、僅かな残像が辛うじて捉えられるかどうかという速度の拳。それをアネットはほぼ直感と感覚だけで避け、受け、流す。

実際のところ、アネットの能力は既にほぼ完成してしまっていた。
この八ヶ月間、彼女が行った修行は――特に、何も。
のんびりとヴァリオルド邸でお茶を啜ったり、掃除を手伝ったり、部屋の模様替えをしてみたり、カリンを連れてブリッジヘッドまで買い物に行ってみたり。
"修行"というより"長期休暇"に近い。腕も、磨くというより鈍らせているようなものだった。
だが、それでもアネットは四人の傀儡を相手に戦い、余裕すら見せている。
彼女は特別な強化術などは持っていない。そのはずなの、だが。
 〈ヴァリオルドで戦ったときより――手ごわい〉
 〈コイツ――マジで人間かよ。どう見たって人外じゃねぇか〉
 〈私の[アクセル]を流すか……一体どういう身体をしているのか〉
 〈我の攻撃が、当たらぬ……〉
と、傀儡四人にある一種の恐れさえ抱かせるものだった。
アネットの隣へ舞い上がったカリアスは、荒い息で小さく言う。
 「万年病人言うな」
 「フフ……この戦いで生き延びられたら、そうね。考えてあげるわ」
そう言うが早いか、アネットとカリアスは数多くの通路の内、一つの道へと飛び込む。
あの道は、と目を見開いたサーレは、即座に思考を働かせ、叫んだ。
 【ベル! デュレはここに残って! プリっち、私と一緒に来て!!】
 【グ?】
 【俺に、残れだ……?】
 【…………】
首を傾げるデュレンゼルとベルモンドとは対照的に、逸早くその真意を理解したプリファーは、瞬時に壁を駆け上がって通路へと着地した。
同じく通路の入り口に舞い降りたサーレは、二本の鎌を二人に向け、指示を飛ばした。
 【ソイツ、よろしく】
そう言うや否や通路の奥へと消えた二人に、ベルモンドとデュレンゼルは頭に疑問符を浮かべる。
が、一瞬後。

272白猫:2008/07/05(土) 22:28:05 ID:W4Rh7kXM0


 「っはぁああああ!!!」
 【のぅあっ!?】
二人と入れ替わりに、天井をぶち破って二つの塊が二人の前に落下し、轟音と土煙を舞いあげた。
ギョッとするベルモントとデュレンゼルの眼前、地面に散らばる砂の塊が突如立ち上がり、人の姿を象る。
数秒も経たないうちにひ弱そうな男性の姿になった砂の塊は、頭を摩って二人に頭を下げる。
 【いやはや。ボロボロにやられております】
 【……なんだよ、アンドレか。脅かしやがって――エッッ!!?】
白衣の男、アンドレの姿にホッとしたベルモンド。
その丁度真横に、巨大な槍が突き刺さった。
一瞬遅れて大爆発を起こすその槍。その爆風に吹っ飛ばされ、ベルモンドは十数メートル吹っ飛び、壁に激突して止まった。
何だ、と身体を起こした、その眼前。
先の爆発の中心、白い槍が突き刺さり、クレーターのようになってしまった床に、一人の少年が舞い降りる。
紅色の髪、額と右頬を覆う形の奇妙な仮面。背を護るマントに巨大な全身鎧と、神殿騎士服。
左腕を護る、ビッグシールドほどの大きさの、三枚の刃が付いた盾。
ブレンティルで見たときとは少し風貌の違う、その少年――ネリエル=ヴァリオルド。
途端に湧き上がる闘争心に、ベルモンドは大剣を握る手の力を強め、地を蹴った。
 【ハッハァ! ちっとは面白そうなのが出てきたなァッ!?】
 「――!?」
凄まじい勢いで振り下ろされた大剣を、ネルは咄嗟に手に持った槍で受け止める。
踏ん張った両足にか、負荷のかかった床にいくつかの亀裂が入る。それを見、ネルは舌を打つ。
ビシ、と額に青筋が走ったベルモンドはしかし目を細め、両手握りの大剣にさらに力を込める。
さらに広がる亀裂に少し危機感を覚え、ネルはグングニルの力を僅かに抜き、その大剣を弾いた。
が。
 【[爆鎚]――ッ!!】
 「ック!?」
背後から振り下ろされた炎を纏った拳に、ネルは瞬時に横っ飛びに跳ね、その一撃を避ける。
轟音・爆発と共に床へと直撃したその拳に、ベルモンドは拳の主へと叫ぶ。
 【デュレンゼル! 邪魔すんじゃねぇッ!!】
 【悪い、が、コヤツは元より我とサーレの獲物――】
 【ホッホ……悪いですが、私はパスさせていただきますぞ。あなた方の戦闘は荒っぽすぎて身が保ちませんからなぁ】
ゴチャゴチャと喚き出した三人に目を細め、しかしネルはグングニルを構え直す。
グングニルを両手で握り、ネルは感覚で今の大体の時間に目星を付ける。
 (3時――でしょうか。後2時間あるかないか……此処でどうにかこの傀儡たちを倒すしかない)
と、
[先制攻撃]の範囲内に、一人の気配が入った。
こちらへとかなり速い速度で向かっている。そしてこの魔力は――

 (……"いける"、か?)
"この魔力"とは、初めての連携である。
だが、相手を信用して、やるしかない。
この一撃が決まらなければ、この後ネチネチと戦闘を続けられ、アトムが起動してしまう。
そうなれば、終わりである。
やるしかない。"彼女"を信用し、撃つしかない。
足の間隔を広げ、槍を投擲する構えを取る。
 【……アン?】
その構えに気付いたベルモンドが、ネルの方を向いて首を傾げる。
ネルを中心に、凄まじい魔力が渦巻いている。いつの日か見た女ランサーと同規模――いや、それ以上の魔力が。
だが。
 〈俺に魔術で攻撃しようってか……? 残念だが、俺にそんなモンは効かねぇよ〉
 「『 トライ―― 』」
瞬間、

   「『 ネオ・ライトニング=ジャベリン――!!! 』」

 【!?】
 (……来ました、か)
呪文の詠唱を中断したネルは、耳に入ったその言葉に笑みを隠し切れなかった。
途端、ベルモンド達の背後の壁をぶち抜き、蒼い稲妻の怒涛が押し寄せた。
何だ、と目を見開いたベルモンドとただ驚くしかないデュレンゼル、稲妻の怒涛にすら気付いていないアンドレ、
その三人に向けて稲妻の怒涛が押し寄せ、その姿を呑み込んだ。

273白猫:2008/07/05(土) 22:28:28 ID:W4Rh7kXM0

 【ッチィ!!】
稲妻の怒涛が自分に直撃する寸前、上空へと脱したベルモンド。
自分の眼下でアンドレとデュレンゼルが飲み込まれたのを見、小さく舌を打つ。
デュレンゼルはあの程度の雷ならばまだ絶えることはできる。だがアンドレは――恐らく、消滅する。
元々アンドレの能力は、身体が砂で構成されている。それだけ。
その核も、単に他の砂と同じく凄まじい小ささなだけで、攻撃に対する耐性を持っているわけではない。
ルヴィラィに作り直してもらうまで我慢しとけ、と心中でアンドレの精々の冥福を祈り、ベルモンドは壁へと着地し、大剣を突き刺した。

が。

 「『 ――トライ 』」
その前方で、いつの間にか飛び上がっていたネルが槍を構え、唱える。
それに気付いたベルモンドは、大声で怒号を上げた後大剣を引き抜き、構えた。

   「『 デントッッ!!!! 』」

呪文と共に放たれたグングニルが、ベルモンドへと一直線に飛ぶ。凄まじい量の魔力を引き連れて。
その怒涛は、しかしベルモンドの剣により吸収される。以前のブレンティルでの戦いのように。
これこそがベルモンドの力。どんな強力な相手の魔法だろうとも、それを吸収し、跳ね返す能力。

だが、ネルの[破槍]はその程度で防ぐことができるものではなかった。
 【……そう、いうことか】
観念したように、ベルモンドは小さく笑う。
その胸に突き立つ、白銀の美しい槍――グングニル。
自分を守るように構えた大剣を砕き、その槍は自分の核を――小さな人形を貫いた。
そういう、ことか。
 【手前は――そうなんだな、[名も無き最高神]……オーディンさんよ】
冷たい視線で自分を睨むネルに笑い、ベルモンドの体は稲妻の怒涛へと落ちていく。
傀儡、ベルモンド。余りにも呆気無い最期に、ネルは溜息を吐く。
 「[オーディン]……その名を口にできる者は、一体何人いるのでしょうね――」


 「やっぱフェンリルだった、か」
 「はい」
槍を番えて穴から入り込んだアーティは、部屋の中心でグングニルを引き抜いたネルに笑いかける。
感じていた忌々しい魔力は、もう辺りには感じない。どうやら自分たちの攻撃は成功したようだ。
 「アンドレ・ベルモンド両傀儡を撃破……デュレンゼルも恐らくは、致命傷を負っているでしょう」
 「そ……あの白髪男は、私の手でやりたかったけどね」
 「トドメはアーティさんでしたし、アーティさんがやったようなものじゃないですか?」
そんな、なんだか適当な返事に、アーティは少しだけ笑って辺りを見回す。
久々の[ライトニングジャベリン]、しかも技をアレンジし五回のチャージを行ったせいで、向こう側の壁は消し飛んでしまっている。
まぁ、床をぶち抜くよりはマシ。とアーティは頭をガリガリと掻いた。
 「ナイス攻撃でした」
 「そっちもね。この調子で行きましょ」
御互いに手を叩き、互いに武器を構え直す。
アーティがぶち抜いた壁から、ゾロゾロと魔物の群れが溢れ出している。感じられるだけで、百数十。
それを厳しい顔で見やり、ネルはアーティに言う。
 「アレ、任せられますか」
 「……さっさと行きなさい」
槍を払ったアーティに苦笑し、ネルはグングニルを番えて走り出す。
アネットとカリアスの通った通路へと飛び込み、全速力で駆け抜ける。

274白猫:2008/07/05(土) 22:28:56 ID:W4Rh7kXM0


……胸騒ぎがするのだ。



この先に、何か嫌なモノがある。



いったい、いったい、何があるというのか。



むかつく胸を抑え、ネルは狭い通路を可能な限り速く駆けた。








通路を抜け、再び凄まじく広い部屋へと入ったネルは、目の前の光景に目を見開いた。
目を見開いて、次に鼻を刺す凄まじい臭いに鼻を抑えた。
床に、サーレとプリファーが倒れている。サーレの方は血塗れの状態で、プリファーは左腕がもがれ。
その光景にも驚いたが――だが、その目の前。
 「遅かった、わね……ネリエル」
凄まじく巨大な何かが、アネットを足で踏み潰さんとしている。
辛うじてその一撃を剣で受け止めている状態だが――いったい、いったい、これは。
 「ごめ、んね――[白の魔術師]と私だけじゃ――こいつを、倒せなかっ――」

そのアネットの言葉が終わる、寸前。
凄まじい重量に耐えられなかった[黒懺剣]が、折れた。

剣が音を立てて折れる前に、既にネルは駆け出していた。
思考など働いていなかった。
ただ、"姉の死が訪れる"――その光景を、見たくなかっただけだった。
自分の可能な限り早く駆け、可能な限り遠く手を伸ばす。
もう見たくない。自分の大切なものが、砕かれる場面など。
ネルの右手がアネットへと届き、腕を握る――

 【――ダメですわ、お兄様】

寸前――止まった。
止まらされた。たった一言で。
一瞬後、巨大な脚が地面へと踏み降ろされ、鈍い音が辺りに響いた。
 【お兄様はお姉様なんて見てはいけない――私だけなの】
地面に跪いたネルのズボンを染める紅を見、声の主――セシェアはゆっくりとそこへ歩み寄る。
目を見開いてその脚を見るネルを愛おしげに見つめ、しかしこの数年の間に、その彼が他の者に奪われたことに強い憤怒を抱く。
あの女――ルフィエ=ライアット。
あんな女に、自分の愛しい兄を奪われたなど、有り得るはずが――ない。
 【なのに、今日もまた――私を見ないで】
 「…………セシェ、ア……?」

275白猫:2008/07/05(土) 22:29:24 ID:W4Rh7kXM0

焦点の合っていない目がようやくこちらに向いて、セシェアはネルに対する愛おしさが湧き上がるのを感じる。
狂っている――そう、狂っていた。
少女――セシェア=ヴァリオルドは、兄を慕い、兄を愛しく想い、既に[兄]として見ることはできなくなっていた。
巨大なあの足はズルズルと引きずられながら、どこかへと消え去っていく。だが、セシェアはそんなものに興味を抱かない。
 【はい……私です。お兄様、やっと……やっと、二人で暮らせるんです。ルヴィラィ様がきっと、素晴らしい新居を作ってくれますわ――】
 「――――ルヴィ、ラィ」
その単語に、ネルの体がピクリと動く。

此処は、何処だった?
       ――イグドラシルだ。

自分は、何のためにここへ来た?
       ――大量破壊兵器である[アトム]を破壊するために。

今失った大切な人は、どうして此処にいた?
       ――彼女が、自分の姉だから。


この戦いの発端は――誰だった?


   ドスッ

その音を、セシェアは最初理解することができなかった。
その音が、自分の胸から聞こえたことを理解するのに、半秒掛かった。
その音は、ネルの手に握られたグングニルからも聞こえたと理解するのに、二秒掛かった。
その音で、自分の胸がグングニルによって貫かれたのだということを理解するのに、五秒掛かった。
 「お前は――違う。セシェアじゃない」
だが、愛しい兄のその言葉を、理解することはできなかった。
 「セシェアは優しい子だった……誰よりも優しくて、誰よりも可愛い、僕のたった一人の妹だった」
"だった"――ネルがそう言うのを、セシェアは聞いていて、聞いていなかった。

ヴァリオルドへ向かう道中に魔物と遭遇し、殺され、
ルヴィラィに気まぐれに拾われ、傀儡として再び命を与えられ、
そして今、破壊の槍によってその命が燃やし尽くされようとしているのを感じ、戦慄いていた。
 「お前は――セシェアなんかじゃ、ない。お前はただの――名前すら持たない、哀れな傀儡だ」
立ち上がってグングニルを引き抜いたネルは、頬を伝う涙すら拭わず、冷たくそう言い放った。

本物のセシェアなら、アネットの死に何も感じないわけはなかった。
本物のセシェアなら、ルヴィラィに媚びるような言葉を使うわけはなかった。
例え彼女が本物のセシェアだったとしても――自分はこんな妹を、妹だと思うことはできなかった。
例え彼女が、自分が数年間探し続けていた愛しい妹だったとしても、自分の誇りだったあの姉を、愚弄することは許せなかった。
ドサリ、と地面へと崩れ落ちたセシェアは、一瞬後に凄まじい勢いで燃え上がり、煤すら残さずに、燃え尽きる。
彼女の断末魔をネルは聞いていて、しかし聞かないふりをしていた。
これで残った傀儡は――先の巨大な足の持ち主と、デュレンゼルの二体だけ。
"それよりも"。
 「……アネ、ット」
あんな一撃を受けたというのに、アネットはまだ人の形を保っていた。
だがあれほどの一撃で、生きている方がおかしい。事実、既に[先制攻撃]で彼女の気配を、感じることはできなかった。
安らかな表情で目を閉じるアネットの傍に跪き、そっとその手を取る。
血に塗れた、しかし白く美しいその手にそっと口付けし、ネルは小さく呟いた。

276白猫:2008/07/05(土) 22:29:47 ID:W4Rh7kXM0


   「……必ず、必ず勝ちます…………姉さん」


折れた黒懺剣の刃を腰に差し、ネルはゆっくりと立ち上がり、呟いた。
今こそ、使うべきだ……自分が使うのを拒み続けた、最後の力を。
 「『 エリクシル――[最終段階(ファイナル)] 』」
瞬間、
ネルを中心とした凄まじい魔力の渦が、突如部屋中を覆い尽くした。

地面に倒れ、動くことすらままならないサーレとプリファーは、その光景にただ驚くことしかできなかった。
 〈な、ん――なんだ、あれは――〉
 〈ネル、ぽん……〉
既にネルの体は、直視することができないほどの光で包まれていた。
と、そんな光の中。

奇麗に整えられたネルの紅色の髪が、突如伸び出した。
ゆっくりと、ゆっくりと髪の長さが伸び、脇の辺りまで伸びたところで、ようやく止まる。
今まで幼さの残っていた顔からそれらが抜け、ひたすらに冷酷な[戦人]の表情へと、変わる。
今まで背を護るように広がっていた[深紅衣]も変化し、その体全体を覆うローブへと変化した。
そして、グングニル。
グングニルは突如紅色の炎に包まれ、その形を[フィルルム]の姿から、より強力な[ランス]の姿へと変わった。

先までとはまるで違う魔力の塊――まるで"生きた傀儡"を見たような錯覚に陥り、サーレとプリファーは恐怖する。
巨大なランス――グングニルを払い、少年――否、青年は、地面へとゆっくりと降り立った。

 「ようこそ僕へ……改めて名乗りましょう、僕の名は――



   ネリエル=リマ=オーディン――"名も無き最高神"」


世界最古の神話とも呼ばれる[開闢神話]。
その開闢神話において、"名も鳴き最高神"――[オーディン]の書き出しは、こう綴られている。

   《人がその名を口にすることは、この世界の創造主たる彼に対する冒涜とされていた。
   その名を口にすることができるのは、彼が従えていた[ワルキューレ]たちだけであり、
   その[ワルキューレ]たちもまた、人々にとってしては神にも等しい存在だったのだ。
   故に人々はその名を口にすることはできず、ただ彼のことをこう呼び、崇めた。

   曰く、"名も無き最高神(オーディン)"》







同刻、スバイン要塞。
そこで小さく酒を啜っていた老人――"老師"は、小さく微笑みながら呟く。
 「エリクシルの[最終段階]……かー。まさかアレが[神格化]、しかも"名も無き最高神"へと神格化するものだったとはねぇ。
 未完成のエリクシルで創られた[パペット]と[マペット]……なるほど、グングニルであの二つの人形を破壊することができるとは、そういう意味か」
再び酒を啜り、老師は自分の右腕を見やる。
修行の最終段階においてようやく目覚めた"それ"は、老師の想像を遥かに超えたものだった。
回避行動どころか、気付くことすらできず――ネルの一撃は、自分の腕を砕いた。
 「カナリア――君の子は、強くなったさ……たぶん、フランテル東大陸でイッチバンだろうな」
老師――ラサリア=アラスター=ヴァリオルドはもう一度酒を飲み、スバインの空を眺める。
いつの日か兄、スティリアと見た夜空は、もっと澄んでいただろうか。
それとも月日を重ね、汚れたのは自分の目なのだろうか。

277白猫:2008/07/05(土) 22:30:19 ID:W4Rh7kXM0


イグドラシル、上部。
 「『 ルリマ・ウルトラノヴァ! 』」
 「『 デリマ・バインドブレイズ 』」
互いの術同士が激突し、金色の光と黒の光が混ざり合い、大爆発を起こす。
余りに巨大な爆発に幾分か吹っ飛ばされたルフィエは、しかしクルリと回り、着地した。
その爆発を見据えた、ルフィエの反対側――顔に無数の傷を走らせた紅色の髪を持つ女性――ルヴィラィ=レゼリアス。
ルヴィラィは即座に鞭を払い、脇の石柱に絡ませるや否や、その石柱を、
 「――はいやぁッ!!」
ルフィエに向けてぶん投げた。
それに目を見開いたルフィエは、しかし鋭く腕を払い、石柱を光弾で爆砕した。
その爆発の合間に間合いを詰めていたルヴィラィは、唄を口ずさみながら鞭を払う。その鞭に炎の力が宿り、ルフィエは戦慄した。
 「『 カステア・バインドブレイズッ!! 』」
デリマのように拡散しない、凝縮されたバインドブレイズ。
それに危機を感じたルフィエは、しかし逃げずに両手を掲げ、叫んだ。
 「『 スーパー、ノヴァ! 』」
ゴシャン、と光の壁に炎が激突した音が、部屋全体に響き渡る。
辛うじて攻撃を受け切ったルフィエは、しかしそこからギリギリと押し込んでくるルヴィラィの力に顔をしかめ、術の力を強める。
速攻の一撃で決めるつもりだった攻撃を受け切られたルヴィラィは、しかし無理やりにその一撃を押し込み、力勝負に持ち込んだ。
両者の魔力が互いに弾け、燃え上がり、燃え盛り、鬩ぎ合う。
徐々に押され始めたことを感じたルフィエは、唄を数度挟みつつノヴァを数個、生み出した。
 「……ちっ」
それを見て舌を打ったルヴィラィは、躊躇無くルフィエから離れ、放たれたノヴァを全て鞭で弾いた。
両者、全く譲らない攻防。だが、やはり地力の差か、ルヴィラィが僅かに押し始めている。
それに少しだけ恐怖を覚え始めたルフィエは、心中で言う。
 (後どれくらい!?)
 〈一時間……あるかないかです。このままネチネチ続けられては負けます〉
勝負自体に決着は付かないだろう。それほど実力自体は拮抗していた。
押されているのは自分の焦り――"タイムリミットがある"という、こちらの圧倒的に不利な点。
既に戦況は勝っている、はずなのである。それなのに、彼女と、その後ろにいるマペットの存在が、"勝っているのに勝っている気分がしない"という心理状況を生み出していた。
 (決める……決めないと、負ける)
 〈ええ――行きましょう、[三人唱]〉

 「ッ!?」
ルフィエの紡ぐ旋律が、突如変わった。
一つの口から高音、低音、更に男声までもが紡がれている。

一体、何だというのか? いったい、"あの唄"は何だ?
半歩下がったルヴィラィは、しかし唄を紡ぐことを止めない。
自分も唄の第二段階である[二人唱]程度なら紡ぐことはできる。今まで互いに唄っていたのはそれなのだから。
だが、ルフィエのが突然歌い出した唄は――今までの[二人唱]では、ない。
一つの口から三つの声が紡がれる、言うならば[三人唱]。
 「『 ――ジャッジメント 』」
ルフィエが左手を払った瞬間、無数の十字架がルヴィラィを取り囲むように出現――一瞬後、凄まじい速度でルヴィラィへと殺到する。
それを見たルヴィラィは、しかし鞭を鋭く払い自身を取り囲むような、巨大な炎の壁を造り出した。
全ての十字架が炎の防壁へと突き刺さり、勢いが幾分か削がれ……しかし、止まらない。
徐々に押し込まれてくる十字架に不敵な笑みを浮かべ、ルヴィラィは叫ぶ。
 「無駄よ、ルフィエ! この私は"殺しても死なない"!!」
ルヴィラィの言葉を聞き、しかしルフィエはそれがハッタリでないことを察する。
彼女の笑みは余裕のあるものに変わっていた。自分が圧倒的に押しているはずだというのに。
 「……例えそうだとしても、」
そのルフィエの言葉に、ルヴィラィは炎の防壁を強めつつも目を細める。
ルフィエの詠唱が中断したからか、ルヴィラィを囲む光の刃が、僅かに揺らいだ。

 「こうでもしないと、私の気が……収まらないの」
そして、一閃。

ルヴィラィの防壁を難無く打ち破り、無数の十字架が彼女の体を貫いた。
全ての十字架がルヴィラィに違わず突き刺さり、悲鳴すら上げずに彼女は崩れ落ちた。
 「ケホッ……行くよ、マペット」
 〈――はい〉
三人唱で歌うことができるのは、せいぜい後三度。しかも、一度歌う度に喉に負担が掛かってゆく。
それを分かってて、しかしルフィエはもう一度[三人唱]の歌声を紡ぐ。
ルヴィラィを打ち倒し――全てを、終わらせる。否、始まらせなければならない。
その眼前で、血みどろの姿で、しかし余裕の笑みを浮かべたルヴィラィが立ち上がった。

278白猫:2008/07/05(土) 22:30:50 ID:W4Rh7kXM0


 【ヨウコソ、ト言ウベキカナ……ネリエル=ヴァリオルド。ヒヒッ】
 「…………」
イグドラシルの最奥部、最後の最後まで無駄に広い部屋、そこへ入ったネルは、早速嫌な声を聞いた。
嫌そうに振り向いた先に佇んでいたのは、巨大な――そう、巨大な四肢を持った骸骨頭の魔物――デーモン。
先に見たあの巨大な脚がそのデーモンのものだと理解し、ネルはすぐさま槍を構えた。
が、
 「――――ッ!?」
突如感じた凄まじい気配に、ネルは咄嗟に床を蹴り、逆進した。
一瞬遅れて、ネルが今まで立っていた床に数本の斧が轟音と共に突き立った。その斧に目を細めてから飛んできた方向を睨み、
ネルはその場に、硬直した。

 【フン――下らん。貴様程度の男が此処まで辿り着けたなどとは――俄かに信じ難い】
ネルの目の前に立っていた青年――銀髪のアサッシン、クレリア=ヴァリオルドはゆっくりと斧を構え、唾を吐いた。
 【この傀儡、[マジシバ]の手を煩わせるとはどういうことだ? 絡繰人形】
 【ヒッヒッヒ……招キ入レタノサ。君ノ能力ヲプレゼントシテアゲタクテネ】
パペットの言葉に鼻を鳴らしたクレリア姿の傀儡――マジシバは、ゆっくりと斧を構え、首を傾げた。

途端、

突如その輪郭が崩れ、目の前で再び組み上がり――次の瞬間、目の前には銀髪、碧眼の容姿端麗な男性が立っていた。
その姿に瞠目し、ネルはしかし槍を構え直す。
落ち着け。
落ち着くんだ。
深呼吸をし、ネルは冷や汗を拭いグングニルを払う。
 「……成程、数が合わないと思ったらそういうことですか。"相手の嫌う姿"であるクレリア、"相手の敬う姿"であるカナリアへと姿を変える傀儡――恐らく後一つの姿は」
的確に傀儡の能力を見抜き、ネルはそこで言葉を切った。
彼の目の前で歪にねじ曲がった体が、バキンゴキンと嫌な音を立てながら組み上がる。
自分の最も愛しい人の姿へと――ルフィエ=ライアットの姿へと。
いつの間にかクレリア、カナリア、ルフィエの三人に囲まれていたネルは、しかしグングニルを払って目を閉じる。
力が湧いてくる――巨大な、巨大な力が。
全てを壊す、或いは創る、莫大な、無限とも思える力が。
その力がある意味では、彼に自信と平常心を与え、混乱を防いでいた。
 「さあ――来なさい、創られし人間、傀儡マジシバ。僕が相手です」
グングニルを払い、ネルはゆっくりと体勢を立て直した。
その周りで、クレリアは斧を、ルフィエはワンドを、カナリアはレイピアを構え、止まった。
そして、一跳。
鋭く空中へと打ち上がったネルへと、ルフィエが数発のノヴァを放った。
そのノヴァを[深紅衣]の一払で打ち消し、ネルは空中でグングニルを旋回させ、叫ぶ。
 「『 ――ラジアルアークッ!! 』」
槍を媒体に召喚された巨大な稲妻の柱が、地の三人へと迸る。
が、
 【――『 [絶対聖域] 』】
カナリアを中心として発生した巨大な庭園が、その稲妻を受け止め、呑み込み――?き消す。
彼の持つ最強の能力、エリクシル第三段階[絶対聖域]。
あの聖域の中ではほぼ全ての術が吸収・無効化されてしまう。しかも聖域の中に存在する無数の剣や天使を模った石像は、聖域内の任意のものを攻撃する能力を持っている。
魔術師ならば相手にすらならない、剣闘士でも苦戦を強いられる、効果範囲は一つの村を囲めるほど――と、カナリアの誇る最強術に足る能力だった。
だが――所詮は、[第三段階]の力。[最終段階]へと移行したネルにとって、あれは何ら脅威ではない。
地へと着地したネルは、即座に槍を構えて聖域の中へと突っ込む。
途端に襲い来る剣や天使を全て打ち払い、その中心に佇むカナリアへと飛び掛かった。

279白猫:2008/07/05(土) 22:31:30 ID:W4Rh7kXM0
と、その横。
 【[ダブルスローイング]】
 「ッ!」
突然放たれた八本の斧を見、ネルは[深紅衣]を盾状に広げ、それらを受け止める。
その眼前でレイピアを構えたカナリアが腕を振り上げ、そのレイピアが閃光に包まれた。
 (来るか!?)
 【『 ホーリークロスッ!! 』】
グングニルを構えたネルの前、閃光の包まれたレイピアから放たれた鋭い十字斬。
並の冒険者なら防御ごと消滅せられるほどの威力の攻撃。それをネルはグングニルで受け止めた。
自身の足が地面に幾分かめり込み、しかしその一撃を受け切ったネルは不敵に笑い、言う。
 「どうしました? これで終わりですか?」
 【……"いや"】
意味ありげな言葉を呟いたカナリアに目を細めたネルは、
一拍後、瞬時にグングニルを弾いて飛び退った。
その眼前に巨大な光弾――スーパーノヴァが着弾するのを見、ネルは一旦聖域の外へと脱する。
空中へと打ち上がったネルへ、数人に分身したクレリアが飛び掛かる。全員が全員、赤銅色の斧を構えている。
 「ふん」
それを鼻で笑ったネルは、飛び掛かるクレリアを全て薙ぎ払い、打ち崩し、斬り裂いてゆく。
攻撃を受けた分身たちは空中で不格好に回転、音もなく空気と同化、消滅した。
その分身たちの向こう、斧を構えたクレリアはネルへと向けてそれを放ち、同時に叫ぶ。
 【『 アトラス、スローイング 』】
途端、投擲された斧が十数倍に膨れ上がり、数メートルもの直径となってネルへと飛ぶ。
が、それを逃げず見据えたネルはグングニルを繰り、小さく呟いた。
 「『 万華鏡分身 』」
ネルの体から生み出された無数の分身、それが巨大な斧を取り囲み、グングニルを構える。
そして、斧が分身の生成から一歩も動いていなかったネル、その本体を貫く寸前。
 「――はいやぁっ!!」
十数人のネル、その手に握られていたグングニルが斧を貫き、[爆風]により爆砕した。
本人にしてみればなんということもないただの[突き]、だがそれを全方向から、爆発のおまけつきで喰らえば粉々になるのも無理はない。
その光景を無表情で眺めていたクレリアは、しかし追撃せずに退く。接近戦では、まず勝ち目はなかった。
が、こちらにも"そういう相手に対するプロの魔術師"はいる。
 【『 ――サルスト・ウルトラノヴァ 』】
地の聖域、そこから放たれた無数の光弾。
それをネルはルフィエのウルトラノヴァ、その強化術である[サルスト]だと瞬時に看破する。
どれもこれも自分の見たことのある術ばかり――やはり、彼らは"自分の知る姿で自分の知る術"しか使ってこない。
ルフィエの新技を見ていなくて良かった、と情けない安心感を覚えつつ、ネルは迫り来る無数の光弾を全ていなし、避けてゆく。弾の去り際にそれを[深紅衣]で貫くことも忘れない。
ルフィエのノヴァ系統の術は[絶対命中攻撃]……それを、彼は忘れていなかった。
その周りで分身たちが光弾に貫かれるのを感じ、しかしネルは何の感情も抱かない。
ルフィエ相手に十数人の分身を操りながら戦うのはほぼ不可能。せめて分身を破壊する労力を使わせなければならない。
グングニルを回転させ最後の光弾を弾き、ネルは額に浮かぶ汗を拭う。
やはり古代魔法の威力はかなりのもの、[第三段階]のままでは恐らく術を防ぎきれず、何発か食らってしまっていただろう。
[最終段階]により統御する魔力の絶対量が格段に上がっているのがせめてもの救い。"名も無き最高神"の力を卸している間ならば、[ルリマ]クラスを撃たれない限りルフィエの存在、それは脅威にはならない。
カナリアは聖域を展開している、ルフィエは聖域から出てこない、となれば。

280白猫:2008/07/05(土) 22:31:58 ID:W4Rh7kXM0
ネルは地へと下りてゆくクレリアを睨み、グングニルを肩へと番える。
聖域に入られると拙い。三人にあそこへ篭られれば、こちらも"アレ"を使う羽目になる――それは、なんとしても阻止しなければ。
グングニルを中心に白い光が渦巻き、ネルの視線がクレリアを完全に、捉えた。
 「『 ……トライ、デントッ!! 』」
右腕から放たれた凄まじい投擲、白き光を帯びたその投擲は、一寸違わずクレリアの背を打ち抜いた。
同時に[爆風]が発動したグングニルに、ネルは少しだけ目を細める。
ネルは三つあった気配の内一つが消えるのを感じてから、地面に突き刺さったグングニルの元へと下りた。
地面深く突き刺さっているグングニルを引き抜き、ネルはゆっくりと聖域を睨む。
と、
その聖域が、突如光に包まれたかと思うと一瞬後に霧散……消滅する。
 「……ようやく鬱陶しいその術を解く気になりましたか」
グングニルを構えるネルの前で、レイピアを払いカナリアが対峙する。
そのカナリアの背後に浮かぶルフィエは見もせずに、ネルはゆっくりと槍の切っ先をカナリアへ向ける。
 「父の姿を映し、父の術を使うとは何とも面倒な傀儡です……ですが、やはり偽者は偽者」
 【なんとでも言うがいい。我の"1/3"を倒したところで、どうせ貴様は勝つことは出来ない。"時間的な問題"でな】
その言葉に、ネルは目を見開く。
拙い。この傀儡を相手にし、時間の経過を忘れていた。
恐らく残り時間は一時間も無い。精々あって四十分――こんな短時間でこの傀儡とパペットを倒し、アトムを止める――こんなことが、本当にできるのか。
答えは、決まっている。
 【貴様はパペットを倒すどころか……我を倒すことすらできん。ここで敗北し――世界と共に消え失せる。それだけだ】
 「…………ッ」
今更コイツを無視してパペットと対峙したところで、ルフィエ・カナリア・パペットを相手に勝てる見込みは少ない。[最終段階]へと移行したからといっても、相手は[四強]に匹敵する。しかもそれが三体となれば……
 【アガクノハ良イケド――ワンテンポ遅イヨ、フェンリル】
 「!?」
振り向いたネルの先、デーモン姿のパペットが、二十センチほどの黒水晶を手にしていた。
そこに渦巻いていた魔力に少しだけ意識を向け、ネルは途端に苦虫を噛み潰したような顔になった。
凄まじく膨大な魔力が、あの黒水晶に渦巻いている。恐ろしいほど膨大な魔力が。
あの水晶――というより、ほぼ卵に近い宝石を見やり、ネルは気付いた。
 (まさ、か……"レッドストーン"? アリアンで強奪したものか!?)
二月の上旬だったか、アリアンの地下遺跡から強奪された赤き宝石――レッドストーン。
あれほど美しい光を放っていたというのに、今となってはその光は、ドス黒い、濁った色に変わってしまっている。
 【パペットノ対内ニ在ル[エリクシル]トレッドストーン、ソシテ傀儡タチガ滅ボシタ者ノ魂ヲ詰メタコノ黒水晶――[アトム]。ジキニ、必要ナ魔力ハ集マリ、[ラグナロク]ハ発動スル】
その言葉を聞いた途端に飛び出したネルは、しかし目の前で光る無数の光弾、十字の斬撃に目を見開いた。
咄嗟に衣を払うも一泊、間に合わない。無数の光弾と十字斬に押し返され、ネルはパペットと反対側の壁に激突した。
 「――――ッ」
痛みに顔をしかめ、口の中に広がった鉄の味を吐き出す。
が、どうやら相手は休ませてすらくれないらしい――自分の体が白い光に包まれるのを感じ、ネルは戦慄した。
 (ここで[絶対聖域]の展開――ですか。このままじゃ)
ネルの心中を理解したのか、デーモン姿のパペットがバカにするように、しかし真面目に言う。
 【ドウダイ、ルヴィラィノ仲間ニナルツモリハナイカイ? オ前ナラ、ルヴィラィノ右腕ニナレルヨ……ルヴィラィモキット許シテクレルダロウ】
 「……例え可能性は無くても、絶対にそんなことはしません」
パペットの言葉を切り捨て、ネルはグングニルを構え直す。
そう。例え勝ち目のない戦いだとしても――自分は、諦めない。諦めるわけにはいかない。
護るのだ。そう、護るために、自分という存在はあるのだから。
 「僕は世界が滅ぶかお前達が滅ぶかその時まで――戦うことを、止めはしません」




   「それでこそ……ネリエルさまです」

281白猫:2008/07/05(土) 22:32:22 ID:W4Rh7kXM0


その言葉と、同時。
巨大な姿のパペット、その四肢を無数の光り輝く十字架が貫く。
同時に出現した凄まじく巨大な鎚、それがパペットの胴体を捉え、そのままの勢いで吹っ飛ばした。
凄まじい轟音と共に壁を突き破り、隣の部屋へ吹き飛んだパペットに、ネルとマジシバは目を見開く。
その、二人にして三人の前に舞い降りた、金色と白の美しい翼を羽ばたかせる一人の天使。
追放天使ではない――"そうであるはずがない"と確信するほど美しい、その姿。
金色の髪を靡かせ、天使でありビショップであり、アウグスタの現最高責任者でもある少女――リレッタ=アウグスティヌスが、ゆっくりとネルの隣へ舞い降りた。
 「……リレ、ッタ…?」
半ば呆けたように呟いたネルに、悪戯っぽい笑みを浮かべたリレッタがそっと言う。
 「あなたなら、きっとそう言ってくれると思いました。ネリエルさまなら、きっと」
その言葉と感じる魔力に、ネルは狼狽しながらも小さく頷く。
だが、今一つ状況が飲み込めない。
リレッタは[邪道解放]した自分によって翼を貫かれたはず――それなのに、どうして。
そんなネルの疑問に気付いたのか、リレッタは困ったようにそっと言った。
 「詳しいことは話せませんけど……天上界が、ルヴィラィ=レゼリアスを無視できなくなった、ということです」
 「?」
 「簡単に言えば、天上界が私にルヴィラィの討伐を命じた。その代りに、私はもう一度空を往く力と、"もう一つの力"を賜ったんです」
そう言うが早いか、リレッタはフワリと空中を舞い、両手を広げる。
先から襲いかかってくる光弾や剣たちの全ては、リレッタの展開したサンクチュアリによって完全に阻まれている。ネルですらあの二つにかかられると面倒だったというのに、それをリレッタは、まるで裁縫をするかのように簡単に。
 「――ネリエルさま、パペットは私がなんとかします……あなたは傀儡を早急に破壊、ルヴィラィを討ってください」
今まで聞いたことも無いリレッタの冷静な声。
それに強かな笑みを浮かべたネルは、鋭く槍を払いサンクチュアリごと天使の人形共を吹き飛ばす。
何かのスイッチでも入ったのか、ネルはグングニルをまるで棒のように繰り、言う。
 「今は時間が惜しい……リレッタ、できれば君の力でパペットを撃破――或いは捕縛しておいてください」
 「厳しいですね……私の力が持たない可能性の方が高いです。長期戦に持ち込まれると逆にこっちがやられかねないかもしれません」
 「……負けは許されません。少なくとも、僕たちとルフィエには」
そう言い、ネルはグングニルを払い聖域の濃い、中心部へと消えていった。
その後ろ姿に途方もなく焦がれたリレッタは、しかし頭を振って目を閉じる。
自分もやらねばならない。神々に賜ったこの力を、今こそ開放すべき。
 「どうか私に、力を――『 ディバインアーチ=エレメント 』」









 「少しずつ威力が弱まってきてるわよ、ルフィエ――『 バインドブレイズ 』」
 「ッ――『 スーパーノヴァ!! 』」
ルヴィラィが炎を纏わせた鞭を払うのを見、ルフィエは咄嗟に巨大な光弾を生み出し、放つ。
が、その光弾は鞭に打ち払われ、その炎を幾分か逃しながらも相殺すらできない。
咄嗟にその鞭を?い潜ったルフィエは、先より強まってきた喉の痛みに、徐々に危機を感じ始めていた。
それはそうである。起動戦闘を行いながら唄を紡ぐということは、凄まじい魔力と精神力を必要とするほか、長時間唄い続けるために喉を酷使することになる。
簡単に言うならば、普通の人間の喉で拡声器を使った声と同じ音量を引っ張りだすようなものである。[神格化]で多少は融通が利いているとしても、長時間唄を歌うということはほぼ自殺行為に近い。
先も詠唱が途切れがちになり、バインドブレイズを一撃、左腕に喰らってしまっている。もう左腕はほとんど動かない。
片腕だけでルヴィラィと戦い、唄も[二人唱]すら満足に紡げない。これではもう、勝負は決まったようなものだった。
だが、戦いをやめるつもりはない。
例え喉が潰れようとも、戦うことを止めはしない。
もう逃げない。絶対に――絶対に、逃げない。
 「どのみち使えて後一撃でしょう? ルフィエ。これで仕舞にしましょう」
鞭を振り上げたルヴィラィを睨み、ルフィエは一本だけの腕でワンドを構える。
 (勝つ……勝って、みせる――!!)
 「『 デリマ――バインド、ブレイズ 』」
 「ッお願い、持って――私の声!!『 ルリマ・ウルトラノヴァ!! 』」
序盤に打ち合ったものとは桁違いの大きさの火柱と閃光が、部屋中を包み込み、照らす。

ルヴィラィの姿もルフィエの姿も、紅色と金色の光に包まれ――そして、見えなくなった。

282白猫:2008/07/05(土) 22:32:56 ID:W4Rh7kXM0



この光の中、ルヴィラィだけは見ていた。

光り輝く白銀の槍が、こちらに向けて放たれたことを。

その槍が自分の腕を打ち抜き、鞭と術ごとその腕を消滅させたことを。

それと同時に一人の青年が、少女の元へと駆け寄っていったのを。




デュレンゼルは向かう。
もうすぐ傍に、ルヴィラィの魔力を感じる。
あそこまで、あそこまで行けば、もう一度自分は戦える。
恐怖していた。サーレの気配が、どんどんどんどん小さくなっていく。
このままでは――死んでしまう。確実に。自分が、助けねばならない。
自分に様々なことを教え、一緒に様々な事をした、あの小さな少女を、助けなければ。

そんな考えを巡らせながら通路を飛んでいたデュレンゼル。
その人形を、何処からともなく現れた触手が絡め取った。




 「――ッハ、ッハハハハハハハハハハハ!!!!」
ルフィエへと駆け寄ったネルを見やり、ルヴィラィは大声で笑い声を上げる。
彼は、自分を狙っていたはずだ。傀儡マジシバを倒し、すぐそこまで来たのは知っていた。
知っていて、ルヴィラィは何の対処もしないという賭けに出た。
世界を選び、少女を見殺しにするか。
少女を選び、世界を見捨てるのか。
そして――彼は、少女を選んだ。
残り少ない魔力の一部を込めた[破槍]を撃ち、自分のデリマをぶち抜いたのだ。
彼の[破槍]は、核を"とある場所"に隠しているルヴィラィであろうが、不死の者であろうが、平等に[破壊]をもたらす。
彼のあの術に貫かれていれば、例え核を別に隠しているとはいえ、確実に消滅していた。
それを彼も知っていて、しかし彼は自分の利き腕――つまり、"少女を殺さんとしている部位"を破壊したのだ。
と、笑い声を上げていたルヴィラィの背後に髑髏――パペットが舞い降りる。
 「パペット? 丁度よかったわね、ラグナロクまで残り何――【魔力ガ足リナクテサ……モラウヨ】
ルヴィラィの言葉を遮った、パペットのその言葉。
そのパペットの言葉に、ルヴィラィの笑みが、止まった。

ルヴィラィの笑い声に薄らと目を開けたルフィエ。それに気付いたネルは彼女の体を抱き起こし、ギュッと抱き締める。
 「すみません、ルフィエ……僕は」
泣きそうになっているネルの顔を見やり、ルフィエは全てを悟った。
ネルが、ルヴィラィを倒す最初で最後のチャンスを狙い、そしてそれを見つけたということを。
そしてそれを見過ごし、自分を助けるためにそのチャンスを棒に振ったということを。

どうして。
どうして彼は、こんなにも優しいのだろう。
怒ってないよ、と知らせるために、ルフィエは右腕でネルの手を取り、微笑む。
まだ、終わったわけではない。
まだ信頼のおける仲間たち、そして大本命の[最終段階]へ移行したネルがいる。全員で叩けば、まだ可能性はある。
 「ネ……ル、くん? 大丈夫だ、から、……ルヴィラィ――を、倒して」
 「……はい、必ず」
返す手で回収したグングニルを払い、ネルは片手でルフィエを部屋の隅へと寝かせる。
槍を携えて戻ったネルはルヴィラィに向き直り、

固まった。

283白猫:2008/07/05(土) 22:33:24 ID:W4Rh7kXM0

 「……ッ何、を」
左腕だけで触手を堪えるルヴィラィは、ケラケラと笑うパペットに低い声で言う。
先の[デリマ]でほとんどの魔力は使い切ってしまっている。精々後一発[バインドブレイズ]を放つ程度。
だが神器を破壊され喉を締め上げられていては、十分な威力を放てない。
触手を絡めていたパペットはルヴィラィの眼の前まで浮かぶと、途端に笑うのを止めた。
 【元々オ前ノ馬鹿ゲタ企ミニ加担スルツモリナンテナカッタヨ……。当初ノ目的ハ今デモ変ワッテナイ……複数ノ[エリクシル]ヲ一挙ニ手ニ入レルコトナンダカラネ】
 「……契約、はッ…切れていないはず、よ」
メキメキと締め上げる触手に息を詰まらせながらも、しかしルヴィラィはそう言う。
そう、海底の深みからパペットを取り上げたときに、自分はパペットと契約を交わしたはずだ。
その言葉にケラケラと笑ったパペットは、触手の力をさらに強めながら言う。
 【契約ナンテ最初カラ結ンデイナイヨ? 勝手ニオ前ガソウ思イ込ンダダケ……】
 「…………ッ」
身体全体の骨が拉げるのを感じ、ルヴィラィは唇を引き絞る。
これは、どうこう言っている場合ではない。
 「『 ッバインドブレイズ!! 』」
体内の魔力を瞬時に集め、自身を縛っていた触手を焼き払う。
が、離れ際にパペットの触手が一本鋭く薙がれ、その身体を貫いた。
 「ッ」
下腹部を貫く鋭い痛みに目を見開き、ルヴィラィはパペットを睨む。
しまった。
パペットは、既に自分の命を握っている。
あの髑髏の中に隠した自分の核を――恐らくパペットは、もう破壊してしまっている。
核と身体はほぼ完全に独立しているため、核が破壊されても、再生と回復は不可能になるが自分が死ぬことはない。
いわば彼女の核は"復活の巻物"に近い。致命傷を受ければ自動的にそれが消費され、再び息を吹き返す。
それを破壊され、自分はもうただの人間と変わらない。そこにパペットの触手が腹を貫いたのだ。
"魔力を失った魔術師"が、大陸一つを滅ぼした化け物に勝てるわけが、ない。


 「……」
ルフィエを庇うように立つネルは、突如乱入してきたパペットに目を細める。
リレッタの魔力はかなり上の階で感じる。恐らく撒かれたのだろう。
以前見たときとは雰囲気が全く違う。しかも今、自分の目に狂いがなければ――ルヴィラィに致命傷を与えた。
一体どういうことなのか。とにかく、隙を突き双方を倒すだけの威力の[破槍]を、いつでも撃てるよう体勢を整える。
ルフィエの、あの掠れた声ではもう唄による援護は期待できない。さて、どうすべきか――
 〈ネリエル君〉
 「わっ」
突如頭の中に響いた声に、ネルは普通に驚いてしまう。
それに苦笑しながら、ルフィエは胸に掛かった十字架――マペットを取り出した。
 〈ネリエル君、使えるようになっているはずです。グングニルの"最後の一撃"を。今がチャンス……パペットが[最終形態]を発動する前に仕留めて下さい〉
最後の一撃。
その言葉に目を細めたネルは、しかし槍を肩に番えてそれに答えない。
ただ、マペットの言葉で気になった単語だけは引き出す。
 「[最終形態]、とは?」
 〈以前お話した通り、私マペットと奴パペットは、エリクシルを核に造られた人形です。エリクシルはその段階によって強さを変える。
 パペットのエリクシルは現在[第四段階]……つまり[邪道解放]されている状態なのです。邪に魔力を求めている。
 奴もかつては[最終段階]。完成されたエリクシルを身に秘めていましたが、古代民との戦いによりそこまで力を落としてしまった――。
 故に大陸一つを滅ぼしてでも魔力を求め――結果、聖者と私によって海底深くへ落とされたのです。それをあの呪術師が発見し、どうやらパペットとイカサマの契約を結ばされた……。
 恐らくパペットの目的は、あの水晶に込められた魔力を吸収し[最終段階]へと移行し――そして我々を破壊、完成されたエリクシル3つを手に入れるつもりなのでしょう。それさえあればこの世界をどうにでもできるようですから……。
 天上界があの天使を再び遣わせたのもそれが理由でしょう。天地創造の石が複数にでもなれば、天上界すらも破壊しかねない〉
 「……つまり、[最終段階]へと移行させるなということですね」
 〈その通りです……"彼"を絶対に[最終段階]へ移行させてはならないのです〉

284白猫:2008/07/05(土) 22:33:53 ID:W4Rh7kXM0


マペットの言葉が終わった時、既にネルは大地を蹴りパペットへと飛び掛かっていた。
"最後の一撃"は使わない。撃てて一発なのだから、急いて撃つ意味はない。
ネルの突撃に気付いたパペットが即座に触手を放つが、ネルはそれを避け、斬り払い、爆砕し前進を続ける。
脇目に、地面へと倒れるルヴィラィを見やる。が、すぐに視線を外しパペットへと斬りかかる。
その髑髏を刃が貫く、その寸前にパペットはカタカタと笑い上空へと飛び上がった。無数の触手を連れて。
 【吸収スルツモリダッタ魔力ヲ消費サレタナンテイウ本末転倒ナ結果ニナルトハネ……ルヴィラィモトンダ大馬鹿ダッタヨウダネ。大人シク魔力ヲ分ケ与エテイレバ助ケテヤッタノニ】
そう言った途端、パペットは触手に絡めていた黒水晶。それを"喰らった"。
バリン、と呆気無く砕ける水晶に目を見開いたネルは、ふと異変に気づく。

揺れている。地面が。否――イグドラシル、全体が。
 (主が魔力を失って意識まで無くしたから――崩壊が起こっているのか!?)
そうネルが心中で推論を弾き出した瞬間、すぐ傍の壁に亀裂が走る。
と、その上空。
凄まじく巨大な"何か"が、ネルへと襲いかかった。
 「ッ!?」
一瞬反応が遅れたネルは、しかし咄嗟にグングニルを上空へと掲げる。
が、上空から迸ってきた"それ"は重く、強く、そして大き過ぎた。当然のように、崩壊を始めていた床をぶち抜き、ネルごと"それ"は階下へと落ちていった。



 「……な、に。今の」
目を見開いてその光景を見やっていたルフィエは、這々の体で立ち上がり呟く。
その胸の十字架――絶句していたパペットも、その声に意識を取り戻し言った。
 〈……マペットです。黒水晶に込められていた[アトム]を喰らい、とうとう[最終段階]へと移行したのです〉
 「…………」
ルフィエはこのときほど、[神の母]を解除したことを恨んだことはなかった。
奴を一目見ていたら。もし[断罪者]が発動していたら。
自分はまだ戦えていたはずだ。アレはマペットの力。自分の魔力が尽きていようとも発動が可能なのだから。
精々使える呪文は後一発のノヴァ程度。こんな魔力の残量では、自分はまともにすら戦えない。
 「……私が、もっと強ければ」
 〈君は強くなりましたよ――ただ、足りなかっただけです〉
 「――足り、ない?」
はい、と答えるマペットにルフィエは目を閉じる。
何が足りないというのだろう。力? 覚悟? 思い?
 〈足りないのです――ルフィエ。あなたは私に対する理解が、全く足りないのです〉
その言葉に、ルフィエは目を見開く。
確かにそうだ。自分は、マペットのことを何も知らない。
知ろうとも思わなかった。彼女と日々を暮らしていたため、そんなことは思えなかったのだ。
子が両親のことを知ろうとは、きっかけでも無い限り思わない。そのきっかけが、ルフィエにはまるでなかったのだ。
 〈あなたは心の中で、私に対して遠慮している点がある……まるで上司に対するように。
 私の言うことに従い、疑問を抱かない――それでは、ダメなのです。私とあなたは二つで一つ。どちらかがどちらかに依存しては、新の力など出せるわけがないのです。
 私たちはなれていないのです……貴方達の言う、"ともだち"に〉
 「…………」
マペットの真面目な言葉に、ルフィエは少しだけ微笑む。
そういうことならば、話は早い。自分が最も得意とすることなのだから。
マペットの十字架にそっと手を添え、ルフィエはネルが消えていった大穴へと歩く。正確には、その脇に倒れて意識を失っているルヴィラィの元へ。
その気配を感じ取ったのか、目を閉じていたルヴィラィはゆっくりと目を開く。
ルヴィラィの脇へと座ったルフィエは、両足を抱えてそっと言う。
 「失敗したね、[ラグナロク]」
 「そう、みたいね」
止め処なく溢れる血に目を細め、ルヴィラィは再び目を閉じる。
初めて見た彼女の柔らかな笑みに、ルフィエはキョトンとしながらもその手を握る。
目を見開いたルヴィラィに微笑み、ルフィエはすぐに手を離し、

その頬を思い切り、ひっぱたいた。

285白猫:2008/07/05(土) 22:34:16 ID:W4Rh7kXM0

 「っ〜〜〜…………」
目を丸くして頬を抑えたルヴィラィを睨み、しかしルフィエはすぐに目を背ける。
 「ほんとは詰め所に連れて行きたいけど……その傷で詰め所に運ぶのもアレだし。私がするのは、これだけ」
 「…………そう」
ルフィエの言葉に微笑んだルヴィラィは、再び目を開いて辺りを眺める。
最後に確認した灯は、サーレとプリファーのものだけ。デュレンゼルの灯が消えたのは、恐らくルフィエの仲間か――パペットに打ち倒されたのだろう。
自分が意識を失ったからか、イグドラシルも崩壊を始めている……この調子なら、数分で跡形もなくなるだろう。
と、
 「!」
突然、自分の体に微量だが魔力が流れ込んだ。
慌てて見れば、ルフィエが自分の腕を掴み、彼女の残った魔力を自分に流し込んでいた。
何を、と言いかけた口を塞ぎ、ルフィエは小さく呟く。
 「……これで、傷口くらいは塞げるでしょ。此処から逃げて――無様に這いつくばって、孤独に生きて」
 「……私に、生きろって? 正気?」
ルヴィラィの怪訝な言葉に、しかしルフィエは軽く答えた。
 「少なくとも、あなたよりは」
ルフィエの言葉にクスリと笑い、ルヴィラィは「違いないわね」と呟いた。
簡単な治癒魔法で傷口を塞ぎ、ルヴィラィは何十年かぶりに"娘"と向き合う。ルフィエもまた、ルヴィラィの――"母"の視線を受け止め、言った。
 「私にはまだ、やることがあるから」
"やること"――ルフィエのその言葉に、ルヴィラィはまた笑う。
自分ならばさっさと逃げおおせるところである。それなのに、全くこの子は。
本当に、自分ではなく"彼"に似てしまった。どこまでも真っ直ぐな志を持った、彼に。
 「そうね……あなたはその方がいいわ。"らしい"もの」
そのルヴィラィの言葉にルフィエは応えず、マペットを握り締め、大穴の中へと飛び込んだ。
崩壊の進むイグドラシルの中、久々に一人になったルヴィラィはそっと目を閉じ、思い返す。
 (――やっぱり、駄目ね)
穴の縁へ立ったルヴィラィは、心中でそう呟いた。








 「――ぉ、おッ!!」
自分を押し潰さんとする"何か"を睨み、ネルはグングニルを捻り、弾き飛ばす。
正確にはグングニルの[爆風]により、自分の体を吹き飛ばしたのだが。それほどまでに"それ"は、重量があった。
クラクラする頭を振り、ネルは最下層らしきフロアの中心に降り立った。
ボロボロの体に喝を入れ、グングニルを払い戦闘体勢に入り直す。
その目の前、まるで黒い銃弾のような形をした2mほどの"それ"は、突然空中で回転を始めたかと思うと、

パン、という音と共に、ネルの目の前で弾け飛んだ。
勿論、ネルはその程度の現象には何の感情も抱かない。ただ目を細めるだけ。
弾け飛び、黒い布のようなものが舞う視界の中、ネルはようやく"それ"を捉え、不敵な笑みを浮かべた。
 「……"それ"が、お前ですか」
そのネルの視線の先。
黒いショートの髪、真っ黒のクロークを被った姿。時折覗く肌は、人のものとは思えないほど白い。
そして、その瞳。
例えるならば――"血を腐らせたような紅"、である。見ているだけで気分が悪くなるような色の瞳が、じっと自分を見据えていた。
間違いない。
この魔力は――パペットのものだ。
 【ああ、やっと戻れたよ……本来のボクに】
わざとらしく首を捻るパペットを見、ネルはゆっくりとグングニルを構え直す。
援護は期待しない方がいい。あくまでも単身で、こいつを打ち倒す覚悟で臨まなければ。
早くも臨戦態勢に入ったネルを見、パペットは溜息を吐いて手を天に翳す。
 【喧嘩っ早いねぇ……まぁ、いいけど? お前を殺したら、次はマペットを奪うだけだし】
 「……それは無理です。お前はここで、僕が破壊する」
 【エリクシルを破壊できるのはその槍だけ……ボクはエリクシルから生まれたから、ボクを殺したかったらその槍で攻撃しないとね】
ご丁寧に倒し方まで教えるパペットに目を細めるが、しかしネルは次の瞬間、目を見開いた。

286白猫:2008/07/05(土) 22:34:39 ID:W4Rh7kXM0

天に翳したパペットの手に、"黒いグングニル"が握られたのだ。

目を見開いたネルに笑いかけ、パペットは得意げにグングニルを構える。
 【驚いた? グングニルって二本あるんだ。白いグングニルと黒いグングニル……。
 白のグングニルは全てを滅ぼし、黒のグングニルは死者を呼び戻す――だから、このグングニルはこんなこともできる!】
両手でグングニルを掴んだパペットがグングニルを薙いだ、途端。
空中に広がった黒い波紋が集束し、一体の"死者"が生み出される。
紅色の髪、スラリとした体、その手には一本の長剣が握られている――
 「『 [爆風] 』」
波紋が広がった瞬間に間合いを詰めていたネルは、瞬時にその死者へと槍を突き出し、爆砕する。
"アネットの姿をした死者の肉片"が飛び散るのにも全く気にせず、ネルは死者の向こう、パペットへと槍を突き出す。
それをグングニルの一薙ぎで弾いたパペットは、黒いクロークをゴムのように伸ばし、先を刃のように硬化させネルへと放った。
無数の刃の殺到を見やり、しかしネルは冷静に[深紅衣]を払って弾き飛ばし、槍を鋭く回転させる。
 「『 エントラップメント―― 』」
その詠唱を聞いた途端に飛び退ったパペットに、しかしネルは追いすがる。既にパペットは、九人のネルに取り囲まれていた。
 「『 ピアシングッ!! 』」
詠唱が終了すると同時に放たれた九本の槍。それをパペットは、黒のグングニルを鋭く回転させた。
見れば、"一人のように見える九人のパペットとグングニル"が、ネルの槍を全て受け止めている。
自分が攻撃した瞬間――いや、恐らく詠唱を開始した時から、パペットも同じ呪文を口ずさんでいたのだろう。
だが、力押しならばこちらに分がある。得意な能力を持っているとは言え、パペットは十歳ほどの少年の姿をしているのだ。
 「ッ……」
 【へ、ぇ……やるジャン】
ギリギリとグングニルを押し込むネルに、パペットは冷や汗混じりに笑う。
が、ここでネルは戦局を見誤った。
この土壇場で、"相手を外見で判断する"という愚かな行為を行ってしまったのだ。
ネルは一度、ここで距離を取っておくべきだったのだ。
 【惜しいね……手下になれば絶対ルヴィラィにも勝てたのにさ】
そう笑うパペットの一薙ぎ、
九本のグングニルが鋭く薙がれた途端、全ての分身たちが一気に崩れ、霞となって消滅した。
ち、と軽く舌を打ったネルは、九人のパペットから繰り出される刺突を避け、グングニルを地面に突き刺し[爆風]を発動した。
凄まじい爆発をモロに浴びた分身は即座に消滅するが、やはりパペットにそんなものは通用しない。グングニルを払い、自分目掛けて飛び掛かってくる。
 (……厄介な!)
グングニルを受け止めたネルは、再び力勝負に持ち込みつつも、その腕力に目を見開いていた。
スピードでは僅かにこちらが勝っている。だが、腕力や魔力は圧倒的にパペットの方が上。そして、それは戦闘においてほぼ勝敗を決すると言っていい差だった。
唯一パペットを打ち倒せるであろう一撃――グングニルの秘術、難易度8クラスの[神罰ノ邪槍(ゲイボルグ)]は遠距離攻撃、しかも数秒間の溜めが必要なのだ。
このまま消耗戦を強いられれば勝ち目はない。[神罰ノ邪槍]ではなく、[破槍]を使うしか――
 【[破槍]を使う気だろ?】
 「!!」
ギリギリと槍を押し込んでくるパペットの余裕の笑みに、ネルは目を見開いた。
見透かされている。――だが、[破槍]の破壊力ならパペットでも無事では済まないはずである。
 【やりたきゃやってもいいけど……[破槍]は"この"グングニルでも、使える】
そのパペットの台詞を、ネルは理解できなかった。
槍を弾いて空中へと舞い上がったパペットを見、ネルはようやくその言葉を理解し、グングニルを構えた。
 【『 ――トライ、デント!! 』】

287白猫:2008/07/05(土) 22:35:01 ID:W4Rh7kXM0
パペットの手から放たれた、黒い光を引き連れたグングニル。
それを見たネルは、即座にグングニルを地面へと突き刺し、[爆風]で退避した。
半秒前までネルが立っていた地点にグングニルが突き刺さり、しかしそれで止まらない。
全く勢いを衰えた様子を見せずに円状に床をぶち抜いたグングニルは、そのまま二人の視界から消える。
6mほどの大穴が空いてしまった床を見やり、ネルは唇を引き絞る。
グングニルで受け止めようとしていれば、確実に死んでいた。[破槍]の威力は、自分が一番よく知っている。
そして、今の一撃で同時に痛感させられた。
 (――勝てない……僕の力では――勝てない)
 【さーて……それじゃあ、もう一発いかせてもらおうかな。手駒にするつもりだった傀儡全滅喰らって、結構怒ってるんだよね。ボク】
パペットは再び"グングニルを"構え、溜めの態勢を取る。
今度こそ逃げられないだろう。[爆風]を発動する暇なく、潰される。
――"でも"。
 (ここで諦めたら……怒られてしまいますね)
誰に、というわけでもなく。ネルはグングニルを番え、人には理解できない言語を呟く。
グングニル、最終奥義――[神罰ノ邪槍]。
間に合う確率はゼロに近い。[破槍]の方が圧倒的に溜めは短い。
それでも、ここで逃げるわけにはいかなった。
 【さよならだよ、ネリエル=ヴァリオルド――『 トライ 』】

   ――――……

 「!!」
パペットの詠唱の途中、方向から突如放たれた凄まじい光量の弾丸。
それがグングニルの刃先を弾き、パペットは空中で僅かによろける。
 【……んー?】
 「今の術は……[スーパーノヴァ]――ですか?」
首を傾げるパペットと目を見開くネルの目の前、
先に二人がぶち抜いた大穴からこのフロアに降り立った一人の少女が、ゆっくりとワンドを払う。
光を放ち、柔らかく空中と溶け合う栗色の長髪。
空のものと見紛うほど澄んだ、スカイブルーの瞳。そして、胸に輝くパペットの十字架と――細長い宝石、タリズマン。
 「……待たせちゃったかな、ネルくん」
その言葉に目を見開き、しかしネルは首を振り、グングニルを肩に番えた。
 「遅刻ですよ――ルフィエ」


ルフィエの[神格化]も、マペットの[第一段階]により開花した能力の一つでしかない。
ルリマやサルストを発動と可能としている[古代民の知恵]、そして[断罪者]もそのひとつ。
つまり、
ルフィエの[神格化]は第一段階、[古代民の知恵]は第二段階、[断罪者]は第三段階により発動したものなのだ。
第四段階は[邪道解放]の例外であるため除くが、それでもルフィエはマペットの[最終段階]を扱うことができなかった。
その原因こそが、マペットに対する敬遠だった。
ルフィエは心のどこかで、マペットに対して一種の畏怖を抱いていた。それは目上の者に抱くものだとしても、"仲間"に抱くものではない。
結果として同調がうまくいかず――第三段階の発動が、限界だった。
だがこの土壇場に来て、ルフィエはようやくマペットに対する畏怖を取り除いた。
そう。"ともだちになる"。それだけだったのだ。
今まで噛み合っていなかった歯車が突如回り出した様な、清々しい気分だった。
どうして、こんな簡単なことに今まで気付けなかったのか。
――いや、恐らく"今だから"気づけたのだろう。この土壇場でだからこそ、気付けるというものもある。
 「……マペット、行こう」
 〈はい〉
ワンドを軽く回し、ルフィエはまさに誇るように、自分の名を口にする。


   「[戦乙女(ワルキューレ)]ルフィエ=ライアット。ネリエル=ヴァリオルドの求めに応じ、この戦いに参戦します」

288白猫:2008/07/05(土) 22:35:31 ID:W4Rh7kXM0


ネルの横に舞い降りたルフィエを見やり、パペットは小さく笑う。
 【ようやく役者が揃ったね……完成されたエリクシルがここに3つも存在するんだよ? 信じられるかい?】
そのふざけた言葉に目を細め、ネルはしかしグングニルを払う。
ルフィエが参戦すれば、状況は一変する。恐らくパペットも持てる魔力をフルに使用してくるだろうが、自分の戦闘力とルフィエの魔術があれば、戦況を五分以上に持っていくことは十分に可能である。
 「ルフィエ」
 「分かってるよ、ネルくん」
ネルの求めに頷き、ルフィエはワンドをネルへと向ける。
途端、その身体を数本の光り輝く輪が包み、彼に異能の力を与える。
それを見やったパペットもようやく余裕の笑みを消し、グングニルを数回空振りさせ、数体のアンデッドを生み出した。
身体から痛みや疲労が拭い去られていくのを感じ、ネルはゆっくりとグングニルを構え直した。
 「パペットは僕がやります。ルフィエは取り巻きと援護を」
 「うん」
ルフィエが頷くのを見、ネルは鋭く跳躍しパペットへと飛び掛かった。
紅色の長髪が空中に揺れるのを見、ルフィエも即座に[二人唱]を紡ぎ出す。
ネル達に飛び掛かるアンデッドたちが空中で縫い止められ、返す手で発動したノヴァに貫かれ、爆砕される。
それを見もしないパペットはネルに向けて[破槍]を一撃放ち、空中で飛退き壁へと着地する。
迸る[破槍]をグングニルの[爆風]で反らせ、捌き切れない衝撃は[深紅衣]で弾き飛ばす。
壁側へと退避していたパペットに無数の光弾を放ち、ルフィエも空中へと舞い上がった。
ただの球体とは違う、まるで鏃のような形の光弾にパペットは目を細め、瞬時に引き戻したグングニルで全て打ち落とす。
[破槍]などで投擲したグングニルは、本人が望めば一瞬で持ち主の手に戻る。ネルやパペットが遠慮なくグングニルをぶん投げているのは、それが理由だった。
 「『 ――ウルトラノヴァ!! 』」
光弾を弾かれても全く気にする様子もなく、ルフィエはしつこくしつこく光弾を放ち続ける。
 「っはぁああああッ!!」
光弾と共にパペットへと飛び掛かったネルは、光弾を避けようとしたパペットへと突きを繰り出し、そのクロークの端を貫き、爆砕した。
 【っち……っぉおおお!!】
何発か光弾の直撃を受けグングニルの爆風を浴びたパペットは、体内で魔力を凝縮させた。
 〈――! ルフィエ!!〉
 「ネルくん、下がってッ!!」
パペットの言葉に目を見開いたルフィエは、咄嗟にネルへと叫ぶ。
それを聞き、追撃を行おうとしていたネルはパペットのグングニルを蹴り、逆進した。
 【『 アトム 』、発動――!】

瞬間、
パペットを中心とした黒い球体が出現、全てのもの飲み込まんと広がり、辺りの物質を消滅させながらネルへと迫る。
逃げ切れないか、と咄嗟にグングニルを構えたネル、

その足に、鋼製の鞭が巻き付いた。
 「ッ!?」
その鞭に引っ張られ[アトム]の威力圏外へと脱したネルは、危なっかしい足取りでルフィエの傍へ着地した。
 「危なっかしい子ね……性急は褒められたものではないわ」
その鞭の主――赤い髪を靡かせ、鞭を手にした呪術師――ルヴィラィが、ゆっくりとパペットへと向き直る。
空中である程度膨らんだ[アトム]はやがて縮み始め、クロークを被ったパペットの姿が再び現れた。
ネルとルフィエの前に立つルヴィラィの姿を捉え、パペットはケラケラと笑う。
 【一体今更何をしに来たんだい、ルヴィラィ? 折角ただの人間に戻してやったのに】
 「フェンリル、よく聞きなさい」
パペットの言葉を完全に無視し、ルヴィラィは背後のネルへと呟きかける。
その言葉に目を細め、しかしネルは頷く。今は争っている場合でもない。
 「パペットは[エリクシル]を核として造られた人形。もとは人間らしいけど……兎に角、エリクシルが心臓になってるから、他の部分をいくら攻撃しようとも奴は死なないわ」
 「それは理解しています。ですが直にエリクシルを狙うには、どうしても[神罰ノ邪槍]だけじゃない……"後一撃"、難易度8クラスを叩き込まないといけないんです」
先の戦闘により、ネルはパペットの本質を幾分か理解していた。
身体の外をいくら傷付けても、エリクシルにより瞬時に治癒されてしまう。エリクシルも莫大な魔力を秘めているため、外側を攻撃して消滅させようと思ったら、それこそ[破槍]クラスの術を何千発と叩き込まなければならない。
だが、その一歩先――[難易度8]クラスの力で身体を一時的に消滅させ、露になったエリクシルを[神罰ノ邪槍]で撃ち抜くことが出来れば。
 「ですがルフィエの[ルリマ]は破壊力に今一つ欠ける。あれは元々光魔法ですし……単純な破壊力のある"火"の力が必要なのです」
 「……[デリマ]、ね」

289白猫:2008/07/05(土) 22:36:06 ID:W4Rh7kXM0
と、
 【余所見なんて、随分余裕だねッ!!】
 「ちっ」
空中からグングニルを放ったパペットを見、ネルは小さく舌を打つ。
二人の前に立ち塞がったルフィエが唄を紡ぎ、ワンドを上空から迸ってくる[破槍]へと向けた。
 「『 ルリマ・ウルトラノヴァ 』」
ワンドから繰り出された凄まじい量の光の怒涛。それが[破槍]を捉え、弾き飛ばした。
弾き飛ばされたグングニルを掴み、ルフィエへと飛び掛かったパペット。その眼前でウルトラノヴァを放った。
 【ちっ】
 「私と遊びましょ、パペット」
ウルトラノヴァの光量に目を細めたパペットの背後に回り込んだルフィエは、その脇腹に足を食い込ませ、同時にノヴァを発動させた。
凄まじい爆発と共に吹っ飛ぶパペットへと追いすがり、ルフィエは叫ぶ。
 「時間を稼ぐ!」
 「――頼みます!」
ネルの言葉に頷き、ルフィエはワンドを払い数発のノヴァを生成、パペットの消えた壁の穴、そこへノヴァを全て投げつけた。
壁の穴から響く爆発音、それに手応えを感じなかったルフィエは、地を蹴り穴へと飛び込んだ。


 「あなたには魔力が残っていない。だから僕の魔力を使って下さい。僕はエリクシルを使います」
ネルの言葉に目を細めたルヴィラィは、少し考えて頷く。
が、
 「……待ちなさい、フェンリル。エリクシルの魔力を使えるなら、何故さっきから[破槍]って術を連発しないのかしら」
 「…………」
目を背けたネルの真意を見抜き、ルヴィラィは溜息を吐いて鞭を払う。
 「残念だけど、私は騙されないわよ……あなたの魔力なんて必要ない」
ズカズカと壁へと歩いてゆくルヴィラィを見、ネルは目を見開く。
本気なのか。本気で自分の魔力を使わず、[デリマ]の術を撃とうというのか。
まさか。
彼女が、自分と同じことを考えているとしたら。
 「待っ――」


 【――逃がさない、よ】
 「ッ……」
パペットの槍を避け、ルフィエは地面に手を付き空へと飛び上がる。
空しく空を切ったグングニルは、しかしその波紋からアンデッドを生み出す。生み出されたアンデッドは、その手に持った杖から炎を生み出し、放つ。
 「『 サルスト・スーパーノヴァ!! 』」
巨大な火球ごとアンデッドを飲み込むほどの光弾を生み出し、ルフィエはそれをその場で炸裂させる。
と、
その背後に回り込んでいたパペットが、その体にグングニルを突き出す。完全な死角から繰り出されたその刺突は違わずルフィエの胸を貫いた。
 【!?】
が、そのルフィエの体が突如揺らぎ、霞となり消え失せる。
目を見開いたパペットは、いつの間にか十数人のルフィエに囲まれていることに気づき、舌を打った。
リトルウィッチが得意とする撹乱術――[ガールズパラダイス]。
自分の分身を無数生み出し、相手を混乱に陥れる高等幻術。
 「逃げる? 逃げるのはあなたじゃないの」
 【小賢しい真似をしてくれたのはいいけど、ボクが全方位を攻撃できる術を使えるのは忘れてないよね】
 「……」
笑みを浮かべるパペットに応えず、十数人からなるルフィエが全員、ワンドをパペットへと向ける。
 「『 ルリマ 』」
 【『 ――アトム 』】
ルフィエの詠唱が終わる前に呟いたパペットが、再び[アトム]を発動させる。
今まさに攻撃を行おうとしていたルフィエたちがその球体に呑み込まれ、パペットは笑い転げる。
 【ヒッヒヒヒヒヒヒ!! やっぱりこうじゃないとねぇッ!!】
瞬時にアトムを霧散させ、パペットはグングニルを払う。
パペットは戦闘開始から僅か十数分で、もうこの槍の扱い方を会得していた。
ネルのグングニルも扱うことのできる[爆風]と[破槍]は勿論、
軌跡からアンデッドを生み出す[死者召喚(マリオネット)]、
そして、全てを食らい、無へと帰す[アトム]。
このアトムは、一度発動してしまえば全てを飲み込み、消滅させる。
再生能力があろうが、どれだけ魔法耐性を持っていようが関係ない。この術は全てを喰らう。
 「……やっぱり、ちょっと荷が重いかな」
地面に着地したルフィエは、その無茶苦茶な破壊力に目を細めた。
既に体中は[爆風]や[破槍]の余波により傷だらけになっている。治療を施す時間的余裕がない証拠だった。
パペットはエリクシルを使い半永久的に身体と魔力を保持し続けている。最も、魔力の点ではこちらもエリクシルを使っているため対等だが、流石に体力も半永久的に、というのは無理な相談である。
と、
 「ルフィエ! 頭を下げなさい!!」

290白猫:2008/07/05(土) 22:36:28 ID:W4Rh7kXM0
 「!」
遠くから届いたその言葉に、ルフィエは咄嗟に頭を下げる。
その僅か数センチ上を何かが通り過ぎるのを感じ、ルフィエは低い体勢のまま横っ飛びに跳ねる。
離れて通り過ぎたものを見やったルフィエは、少しだけ目を細める。
 「……ルヴィ、ラィ」
ルヴィラィが自分が空けた穴から入り、パペットの上半身を鞭で捕えていた。
ギリギリと締め付ける鞭を見やり、パペットは首を傾げて言う。
 【で? これがどうかした?】
 「……パペット、知ってるかしら? 古い武術書の記述なんだけど。[武術家たる者、己が技量を超える力を得たり、使おうとすれば、その肉体は滅びることとなる。決してそのようなものを求むべからず]――ってね」
ルヴィラィの言葉に目を細め、その真意を察せないパペットは首を傾げた。
 【で?】
 「それを逆に返せば――"その肉体を滅ぼせば、己が技量を超える力を扱える"……ってこと、じゃないかしら?」
 【……!! っち、『 トライ―― 』】
その台詞に目を見開いたパペットは鞭を断ち切ろうと自由な左手で槍を振り上げる、
寸前。

   「お前はここで死ぬ運命なのよ――『 デリマ・バインドブレイズ 』」

ルヴィラィが放った獄炎が鞭を伝い、パペットの身体を茜色に彩る。
同時にルヴィラィの体にも獄炎が燃え移り、ルヴィラィは目を閉じる。
目の前の、数メートルもの火柱は轟々と燃え続け、その身を焼き払ってゆく。
グングニルを離しもがくパペットと、目を閉じゆっくりと灰燼へと帰してゆくルヴィラィを見、ルフィエは目を見開く。
いったい、いったい。
 「すまないわね、ルフィエ」
 「!」

身体がゆっくりと黒く崩れてゆくルヴィラィの口から紡がれた言葉に、ルフィエはワンドを握り締める。
今まで自分は、これほど優しい、ルヴィラィの口調を聞いたことがなかった。
彼女の口調はそう――まるで、母が子に語りかけるように優しく、柔らかかった。
 「私は……母親、失格だったわね――本当に、ごめんなさいね」
ルヴィラィの小さな謝罪に、ルフィエは小さく頷く。
結局、彼女と心が通じ合うことはなかった。どうして彼女が世界を滅ぼそうとしたのか、どうしてこの局面でパぺットに捨て身の攻撃を行ったのか。
だが、ひとつだけ言えることがある。
 「…………どんなに酷いことをしても、あなたは私の母さん。母さんの罪は――私の罪だから」
その、小さな小さな言葉。
ルヴィラィはその言葉を聞いていて、聞いていなかった。既に炎は彼女の身を焦がし、消え去ろうとしていた。
灰燼と化しかけたルヴィラィの手が、ボロボロと崩れながらルフィエの頬にそっと触れる。
 「 ――――…… 」
既に声らしい声も出ないらしいルヴィラィに、ルフィエはそっと彼女の手に両手を添えることで応えた。

 【ま、だ……この程度の火力じゃ、崩れない、よ……】
身体全体が爛れ、崩れかけながらも、パペットは存命していた。
ルヴィラィの命そのものを糧とした[デリマ]も、その命そのものが尽きかけていたため威力が十分乗らなかったのか。
空へと散っていく灰を見、ルフィエは頬を伝う液体をそっと拭い、ワンドをパペットへと向ける。
   「――、『 ノヴァ 』」
回復を開始していたパペットに光弾が直撃し、パペットはその爆発をモロに浴び、吹っ飛ぶ。
地面へと突っ伏すパペットへとさらに光弾を連続して打ち込み、ルフィエは目を閉じる。

感じる。

遠くで、ネルが魔力を溜め始めている。

タイミングを計っているのだ。

外部に再起不能の攻撃を加え、核――エリクシルが現れる瞬間を。

 「……『 スーパー、ノヴァ 』」
パペットへと特大の光弾を打ち込み、ルフィエは大きく息を吸う。

紡げ。癒しの唄を。
悪しき者の体を浄化し、魂を黒き穢れから解放せよ。
その口から紡がれる、三つの高さの異なる、ひどく美しい歌声。
[三人唱]――ルヴィラィでも会得し得なかったこの力ならば、弱い自分の力でも、十分に威力を上乗せすることができる。
グングニルを構えた、ほぼ完全に治癒してしまったパペットを見、しかしルフィエは微笑む。

   「行くよ―― 『 ルリマ・ウルトラノヴァ 』」

291白猫:2008/07/05(土) 22:37:06 ID:W4Rh7kXM0


――来た。
ルフィエが特大の[ルリマ]を放つのを見、ネルは腕に全神経を注ぐ。
辺りに尋常ではない量の魔力が渦巻くのを感じ、ネルは目を閉じて精神を集中させる。

少し、手が震える。

この一撃に総てが掛かっている。この一撃をしくじれば、全てが――全てが、終わる。
……"いや"。
終わらせはしない。
例え外したとしても、何年かかろうとも――パペットは、この手で葬り去ってみせる。
自分には仲間がいるではないか。沢山の、信頼に値する仲間が。
 「――ふ、ふ……まさか、この僕が怖気づくとは」
肩を揺らして笑い、ネルはゆっくりとグングニルへと力を込める。
辺りの魔力がゆっくりとグングニルへと集束されていき、その光がゆっくりと強まってゆく。
全てを、終わらせる。
この一撃で、全てを。


   「『 ――神罰ノ(ゲイ)、邪槍(ボルグ)――――ッッ!!!! 』」

ネルの手から放たれた、凄まじい光量を引き連れたグングニル。
[破槍]と形状そのものは似通っていたが、纏っている魔力がそれでこそ桁で違っていた。
まるで磁石に引き寄せるようにパペットへと向かうグングニルを見、ネルは叫んだ。
 「終わらせる……終わらせるッ!!」

ワンドを握り締め、光の怒涛を放ち続けるルフィエは、その気配を感じワンドを払う。
霧散した光を見やり、ルフィエは即座にその場から退避する。"あの技"は、感じただけでも威力が強すぎる……巻き込まれかねない。
パペットがどうなっているかは分からない――が、後はネルのことを、信じるしかない。
 (お願い……お願い!)
と、
振り向いた視線の先、全ての魔力を放出し切ったらしいネルの体が、地面へと真っ逆さまに落ちてゆく。
慌てて地を蹴ってネルの元へと跳び、地面に直撃する寸前にその体を咄嗟に抱き止めた。
ドシャ、と鈍い音と共に地面へと突っ伏したネルとルフィエ。ルフィエなんかモロに地面に顔をこすり付けた。
 「……なにやってんですか、ルフィエ」
その様子に呆れたネルは、ルフィエの体を抱き止めつつも溜息を吐く。
えへへ、と頭を掻くルフィエに笑いかけ、ネルは目を細める。

グングニルが、パペットに直撃したのを感じたのだ。
此処からではその光景は見えず、音も辺りの崩壊音が五月蠅すぎて聞こえない。
だが今確かに、手応えを感じた。
 「…………ルフィエ、行きましょう」
 「……うん」
ネルの言葉に頷いたルフィエは、危ない足取りでゆっくりと立ちあがり髪を払う。
ここからではパペットの気配は感じられない。消滅してしまったのか、或いは――
確かめましょう、と呟きかけたネルに頷き、ルフィエはネルの手を取り歩き出した。

292白猫:2008/07/05(土) 22:37:31 ID:W4Rh7kXM0


パペットは崩壊しかけた体、その核に[神罰ノ邪槍]を喰らい、しかしかろうじて生きていた。
エリクシルには無数の亀裂が入っているが、それでもパペットは意識を保ち、エリクシルも砕けてはいなかった。
 「……まだ、生きていますか」
グングニルを払い、壁に縫い止められたパペットにネルは目を細める。
白きグングニルの能力、[全てのものを破壊する力]の力か。パペットのエリクシルからは、もうほとんど魔力は感じられない。
 【…………まさか、ここまでやるとはね】
掠れた声で笑うパペットは、ゆっくりと自分の足元を見やる。
その足元には、ネルによって打ち砕かれたグングニルの残骸が散らばっていた。あの名匠の一品を、こうも簡単に砕くとは。
パペットにゆっくりとグングニルを突き出したネルは、目を閉じて呟く。
 「終わりです、パペット」
 【…………冥土の土産に、ひとつだけ、教えといてあげるよ】
白銀の刃がエリクシルに押し込まれていくのを感じ、パペットは笑う。
 【ボク如きを倒して、いい気にならないことだね……東の冒険者は大陸内でも最も程度が低い……。
西、北、南の四強はこんなものじゃない……そして、西と南の四強は、確実にこの東を飲み込もうとするだろう――】
その言葉に、ネルの槍が、止まる。
西と南の四強。彼らは武術家でありながら、一国の重役である。東の今の荒れ様を見れば、確実に攻め入ってくる。
――が、そんなことは関係がない。
 「例えそうだとしても……、――例え[古代民]を敵に回すこととなっても、僕は戦い続けます」
その言葉に、ルフィエは息を呑みパペットは笑う。

古代民。
今のフランテルの基盤、それを作った大陸の"創造主"とも言われる者たち。
その魔術は大自然を揺るがすほどの力とされ、ルフィエやルヴィラィの[ルリマ][デリマ][カステア][サルスト]も全て、古代の術なのだ。
そんな古代民と"戦う"――それは、人々の中で口にしてはならないこととして通っていた。

ネルの宣言に面白そうに微笑むパペットは、しかし続ける。
 【今のおまえたちでも、四強を倒すことは難しい……それほど彼らは、強い……東はそれほど恵まれている場所なのさ。
 精々気張ることだね……どうせ、結末は見えているけどね】
 「いいえ」
パペットの言葉を、ネルは遮る。
目を丸くするルフィエを見、微笑んでからパペットへと向き直り、グングニルに力を込めた。

 「決まっている結末などありはしない……何故なら僕らは、今こうして生きているんだから」







エリクシルが鈍色の欠片となって地面に転がるのを見、ネルは小さく溜息を吐く。
終わった。
全て――終わった。
感じる。リレッタの魔力が、他のたくさんの魔力を連れてイグドラシルから退避するのを。
皆、皆無事だ。
 「……良かっ、た……」
地面にへたり込む愛しい人を見、ネルは少しだけ微笑む。
崩壊が進み、あと数分で全てが崩れ去るイグドラシルの中で、ネルはゆっくりと目を閉じ、小さくルフィエに呟きかけた。
 「……ルフィエ、先に脱出していてください」
 「えっ」
慌てて自分の方を見やったルフィエを愛しく想い、しかしネルはグングニルを払う。
 「アネットを……姉さんを、迎えに行きたいんです」
 「私も――」
 「お願いです」
ネルの真意を悟って声を上げたルフィエの言葉を、ネルは無理やり遮る。
これ以上、自分の弱い面を見せたくなかった。
好きな人の前では強く在りたい――子供っぽい、少年の見栄だった。
 「姉さんのところへは、僕一人で」
ネルの言葉に圧され、ルフィエは小さく頷く。
反論する余裕すらない。それほどネルは、真剣に自分を見ていた。
 「…………わか、った」
ネルに小さく頷いたルフィエは、小さく溜息を吐いた。
大丈夫。彼は自分を置いて――どこかに消えることは、ない。
寂しく微笑むネルに背を向け、ルフィエはイグドラシルの壁へと数発のノヴァを撃ち放った。
突入とは対照的に、呆気無く空いた大穴。そこへ立ったルフィエは、一度だけこちらを見――空へと飛んだ。
空の彼方へと消えてゆくルフィエの姿を見、ネルは踵を返して歩き出す。壁に突き刺さったグングニルを無視して、ただ歩く。
 「……すみません、ルフィエ。僕は――」
ネルの小さな、小さな謝罪の言葉。
その言葉は、大崩落の始まったイグドラシル……その巨大な轟音に遮られ、誰の耳にも届かなかった。

293白猫:2008/07/05(土) 22:37:55 ID:W4Rh7kXM0

原型を崩し、消滅してゆく要塞――[イグドラシル]。
皆をヴァリオルド邸へと避難させ、崩壊の様子を遠巻きに見つめていたリレッタは、傍に舞い降りたルフィエに頭を下げてから視線を戻した。
ネルが一体どうなったのか……それを、聞いてはいけない気がした。そして同時に、自分が一番"認めたくなかったこと"を認めつつあった。
 「……終わり、ですね」
崩壊を続ける立方体を見、リレッタは小さく呟く。
朝日に照らされ、空に消えてゆくイグドラシル。そう――戦いは、終わった。19年もの長きに亘る戦いが今、終わった。
 「でも、私達にとって、今日のこの朝が、始まり」
じっとイグドラシルの崩壊を見続けていたルフィエは、小さくリレッタにそう呟いた。
その言葉に頷いたリレッタも、しかし答えずにその光景を見続けていた。




一人の天使と一人の歌姫の見る先で、イグドラシルは朝日の中に崩れ、消滅した。


ゴドムを蹂躙し、大陸を滅ぼそうとしていた一人の呪術師と人形と共に。




二人の少女が待つ一人の少年は、戻らなかった。















ブルン歴、4925年――三月。

まだ日も低い早朝。ヴァリオルド邸の自室で珍しく羽ペンを取っていたルフィエは、傍の鳥籠に入れられた伝書鳩に微笑みながら、ペンを走らせる。
その羊皮紙の横に置かれたカバンには、数少ない自分の私物が押し込まれている。既に部屋は、自分が入る前の状態に戻っていた。

しばらくしてから、できた! と立ち上がったルフィエは羊皮紙に書かれた字にもう一度目を通す。

294白猫:2008/07/05(土) 22:38:18 ID:W4Rh7kXM0



---

この世界のどこかにいる、ネルくんへ。

あのイグドラシルでの戦いから、三年が経ちました。
ネルくんも今年で20歳! 本当に時間が経つのは早いね。
今となっては戦の残り火も消えて、古都の復興も順調に進んでます。
昨日までは私とマイさんで唄を歌って、必死に観光客を引き入れていました。
でも君の20歳の節目でもある今日――私、旅を再開することにしたんだ。


ねぇ、ネルくん?
君は……この世界のどこかでちゃんと、生きてるよね?
あのイグドラシルの崩壊に巻き込まれたり、しちゃってないよね?
リレッタちゃんは今でも、あのときのことを悔やんでるみたいです。
ううん、リレッタちゃんだけじゃない。アーティさんも、カリアスさんも、カリンさんだって悔やんでた。


でもね。私、信じることにしたんだ。
君が生きて、この世界を旅して回ってるんだって。
そしていつの日か、私の前にきっと現れてくれるんだって。
だから、その日まで、どうか元気で。

ルフィエ=ライアット

---





伝書鳩に手紙をくくり付け、ルフィエはゆっくりと鳩を窓へと導く。
窓際へと連れて行かれた鳩は窓が開いた瞬間、その翼で羽ばたき遠い空へと消えてゆく。
 「どうか、見つけて――彼のこと」
空の彼方へと消える鳩の姿に、ルフィエは小さくそう呟く。
そして、自分は机の上に置いていた小さなカバンを持ち、扉へと歩み寄った。
トン、と部屋の隅で立ち止まったルフィエは、部屋を改めて見回し、思う。
 (この部屋とも、今日でお別れね)
いつの間にか長い間暮らしていた、この部屋。
いつの間にか自分の家同然となっていた、ヴァリオルド邸。
此処を今日、自分は出る。
 「元気でね」
誰に言うわけでもなく、ルフィエはそう呟き、扉を開いた。






 「行くのか」
部屋の外で立っていたカリンが、ルフィエに向けてそう呟いた。
まさかこんな時間に起きていたとは思いもしなかったルフィエは、少し驚いて頷く。
その姿に溜息を吐き、立ち上がったカリンはルフィエに向き直った。
 「まさか三年もお前のような娘と暮らすことになるとはな」
 「セバスさんからお金、もらっちゃえばいいのに」
カリンが契約の金を未だにセバスから受け取っていないことを、ルフィエは知っていた。
そしてそれを理由に、未だに此処に留まっていることを、ルフィエは知っていた。
ルフィエの内心を知ってか知らずか、カリンはフンと笑って剣に手をかける。
 「金は依頼主から貰わねば意味がない」
それに、此処であのチビガキどもの面倒を見るのも悪くない。
そこまでカリンは、付け加えなかった。
クスリと笑ったルフィエに背を向け、カリンは一度だけ手を挙げた。
それが彼女なりの別れの挨拶なのだろうと思ったルフィエは、ぺこりと頭を下げる。
 「さよなら、カリンさん」
ルフィエの言葉に、カリンは応えなかった。

295白猫:2008/07/05(土) 22:38:41 ID:W4Rh7kXM0


 「ルフィエ」
厨房を通り過ぎようとしたルフィエに、リンゴを持ったマイが歩み寄った。
朝早くからつまみ食い? と苦笑するルフィエの頭を小突き、マイはリンゴを齧る。
 「お前がこんなに朝早いのは有り得んな。普段なら昼まで寝てる」
 「……昼まで、ねぇ」
そんな生活してる自覚ないんだけどなぁ、と苦笑するルフィエを見、マイは溜息を吐いた。
 「行くんだな、とうとう」
その言葉に込められた小さな感情を感じ、しかしルフィエは力強く頷く。
 「……うん。戦いが終わってからすぐ、決めたことだから」
 「また遊びに来い。しばらく私もこの家にいる」
マイに頷きかけ、ルフィエは胸の十字架を握る。
彼女に唄を教わらなければ、ルヴィラィと対峙することはできなかった。
それに、古都の復旧にも、彼女は彼女なりに尽くしてくれたのだ。
 「ありがとう、マイさん……さよなら」







 (ネルくんと出逢って、もう四年)
早朝にも関わらず騒がしい雑踏の中、ルフィエはフードを被ったまま歩き続ける。
今となっては、自分は大陸を救った英雄扱い。フードを取って歩いたら、違う意味で騒がれてしまうだろう。
それでも、差別扱いされるよりはきっと……マシ、だろう。
 (ネルくんに出逢ってから、色んなことがあった)

星の瞬く聖夜が齎した、偶然の出会い。
瀕死の少年を介抱し、彼の魘される声から、彼の大切なものを知った。
天使の少女を見たとき、何故か沸き出た対抗心。
思えば、あの頃からずっと恋い焦がれていたんだろう。

ビガプールでの戦い。
改めて、少年の強さを目の当たりにした。目の当たりにして、それでも傀儡に傷を負わされた。
彼との一旦の別れ。彼から渡されたタリスマンのお陰か、不思議と不安はなかった。

アリアンでの再会、初めての口付け。
喜びも束の間、ルヴィラィとの遭遇、真実の発覚。
レッドストーンを奪われ、当人には逃げられ、町は壊され――自分たちはまた、敗北した。

そして、ブレンティル。
初めての[神格化]、傀儡との総力戦――そして、またもや敗北した。
勝たねばならない戦いだった。それでも、彼女の力の前に自分たちは、またしても打ち倒されたのだ。

――古都、ブルンネンシュティング。
出来れば思い出したくはない、忌々しい記憶。
護ることができなかった――ただ、護りたかっただけなのに。
あの日、誓った。もう誰も、殺させはしないと。

ブリッジヘッド、初めて知った喜び。
その喜びもやはり、すぐに戦いの中に呑まれた。
ヴァリオルドの本邸は消滅し、自分は初めて――人を、殺めた。



そして、今。
 (私は、ネルくんに出逢ってたくさんのことを教えてもらった。
 人との関わり方、社会のルール、道徳、店での値切り方、
 戦いで最も優先すべきこと、やっちゃいけないこと、――それに、人を愛すること)
いつの間にか古都を出てしまったルフィエは、小さく、ほんの小さく溜息を吐く。
風が自分の体を打ち、フードが取れた。
昼空の元に晒された白い肌と茶色い髪、水色の瞳。
胸に輝くは、白色の淡い光に包まれた十字架と、愛しい人からの贈り物。
 「きっと、見つけるよ……何年かかってでも」
ゆっくりと、ゆっくりと彼女の身体が浮く。
当てはない。急いで探さなければならないことでも――ないだろう。たぶん。
それでもこのときだけは、全力で、そう、全力で飛んだ。一秒でもそこに留まっていると、泣いてしまいそうだったから。
空へと飛び上がった金色の光は、やがて太陽の光の中へ飲み込まれてゆく。
飲み込まれて、その光は二度と戻ってくることはない。
今度戻ってくるときは、紅色の瞬きと共に戻ってくるはずなのだから。

296白猫:2008/07/05(土) 22:39:03 ID:W4Rh7kXM0


 「――!」
空へと打ち上がった金色の光を見、銀色の髪を揺らしながら少年は目を見開いた。
あの光には、興味がある。どこか懐かしい感覚すらあった。だが、あの速さには追いつけない……追うだけ無駄だろう。
それよりも今は――あの懐かしい、懐かしいあの屋敷へと戻るのが先決。
 「……懐かしいですね、ヴァリオルド邸は。主人不在で潰れていると思いましたが」
その青年――ネリエル=ヴァリオルドは、ゆっくりと古都への道を歩く。
空へと打ち上がった光のことはもう思考の隅へ追いやられていた。今彼の頭にあるのは、あの屋敷にいるであろう、一人の少女のことだけ。
 「ルフィエ……君は、僕におかえりと言ってくれるんでしょうか、ね」



ゆるりとした歩調で歩く青年は、知らない。
一人の少女が、西へ西へと飛翔を続けていることを。
その少女が自分のことを探し、自分が探しているということを。



凄まじい速度で空を往く少女は、知らない。
一人の青年が、ついさっきヴァリオルドへ到着したことを。
自分が想い、焦がれている青年が自分のことを知り、慌ててヴァリオルド邸を飛び出したことを。










彼らは知らない。












Puppet-歌姫と絡繰人形-


END

297白猫:2008/07/05(土) 22:39:27 ID:W4Rh7kXM0
あとがき




どうも、白猫です。
本章を持ってPuppet-歌姫と絡繰人形-は完結となります。今までの皆様のご愛読、本当に有難う御座いました。
しかし完結に七か月もかかってしまいました。おうのうorz
何度も言っているようですが、当初この小説は短編小説の予定でした。クリスマスに出逢ったシーフとリトルウィッチの話の予定でした。
そして、やっぱり回収できない伏線がたくさん。誤字脱字もたっくさんorz
現在自HPで修正・加筆を行っている最中です。現在プロローグが完了。
区切りがつけば公開しようかと思っています。

コメ返し

>68hさん
いやもう……半分スランプ状態だったので、展開が急だわ無理やりだわでもう……orz
ネルくんは四代目だからⅢじゃないしスティリアと口論してたのはカナリアだよぅorz
アネットとアーティはよく間違えるし……次回作ではこんな下手はこきません! たぶん!
老師の存在は最後まで誤魔化そうと思ってしまいましたが結局若干のカミングアウト。まぁこれくらいいい……よね?うん。
---
思えば68hさんには全本編、全番外編、全短編に感想をいただいているわけですが……なんというかスゴイです。ホントにスゴイです貴方。
最初の内は設定もガタガタ、最終章でも拾いきれなかった伏線が放置状態になっているというのにいやはや。
きっと68hさんの小説も凄いんだろうなぁ。きっとメチャクチャ上手いんだろうなぁ。と一人でニヨニヨしている白猫です。いつ投稿なさるんでしょうか、楽しみです。楽しみでしょうがないです。
小説スレのレギュラー感想屋である68hさんの小説ともなれば、きっと小説スレ全住民から感想が……ゲフンゲフン。
そのときはバッチリ私も感想書かせてもらいますよー! 期待してまっすー……ハッ。ラストがあるではないか、七冊目ラストが!
兎にも角にも、七か月間お付き合い有難う御座いました。新作の投稿の目途は立っていませんが、また投稿するときは是非。


>黒頭巾さん
はーい!パパでーす!(誰
クレリア。凄いというより狡い……(ちょ)?
嗚呼……最初のアレですね。まぁアレは……そう、そうです。私の実力ですね!(←絶対後付け
じぃちゃんはですねー。まぁなんというか……パワーアップの道具、的な?ごめんじいちゃんorz
このじいちゃんのモデルは私のじいちゃんでした。異様に若い、というか……幼い人でした、はい。
本当はブリッジ編でもめんこい笑リレッタを出す予定でしたが……まぁ、まぁ、まぁ……。
格ゲー[Puppet]ですか……ネルくんの圧勝で終わってしまいそうな――あ、戦闘補正ですね、無敵の笑
隠しキャラ……入手条件はそうですね、「長電話8時間」で(ぇー)
---
ルフィエのデフォルメ、カリアスのコス……ウォッホン! などなど、自分の我侭や思いつきにお付き合いいただきありがとうございました。そして無茶ブリごめんなさいです。
これからもふぁみりあいーえっくすを応援しています。いけめんさんも応援しています。こっそりファンなごしゅじんさまはもっと応援しています。
個人的にはごしゅじん王z……ウォッホン! なんでもありません。お持ち帰りなんてしたくありませんよ、ええ。
天下一ではあのお二人の描写をハズさないよう頑張ります。。変なところがあればバシバシご指摘をば。
そしてハロウィンネタはワクワクしながら待ってます。まだ半分も出来てないんですけどね苦笑


>みやびさん
はい、ばっちり期待してます笑
きっと68hさんはやればできる子。いや、私の方が年下なので……できるお方?できるお方です。
……はい、天下一がんばります。設定自体はほぼ完成しているので、後はあっみだくじ!ですね。
リレー小説はのんびり見させていただきます。ネルくんとルフィエは適当にパーティーから外しておいてください(待って
皆様の期待に添えられるような作品にできるよう頑張ります……はい。




さて。それでは今回はこの辺で。
大量のスレ消費申し訳ありませんでした&ご愛読ありがとうございました。
いつになるかは分かりませんが、次回作もご期待下さい。
それでは、白猫の提供でお送りしました。

298◇68hJrjtY:2008/07/06(日) 02:02:28 ID:rvBV3p4k0
>白猫さん
まずは。まずは言わせて下さい。Puppet完結編、本当にお疲れ様でした。
飽きさせない、息をつかせない怒涛の傀儡、ルヴィラィ、そしてパペットとの戦闘。
白猫さんの小説では戦闘要素を主に堪能させてもらっている私ですが、もちろんそこにはたくさんのドラマがあり…。
ネルとルフィエ。戦いに次ぐ戦いの中でお互いの存在をしっかりと感じ合い、
別の点では「エリクシルを持つ者」として他に比肩できないほどの能力を手に入れた二人。
思えば古都でのあの出会いから長かったようで短かったようで、短期間の成長ぶりは白猫さんの執筆速度と相まって驚かせてもらいました。
なるほど、「エル」という言葉には「神」という意味があるという話を聞いた事がありますが、「名も無き神」とリンクしていますね。
傀儡たちも当初は敵として見ているだけでしたが、それぞれがそれぞれの想いを持って戦っているという点では
ネルたちとなんら変わりない、人間味溢れる奴らだったようにも思いました。できる事なら真っさらに人間として転生して欲しいとか(苦笑)
ヴァリオルド家代々に渡る戦いであり、ルフィエにとっては母ルヴィラィとの戦いでもあったフランデル大陸の存亡をかけた戦い。
なにやら続編の余韻を漂わせながらの堂々完結、ありがとうございました!
---
さて、白猫さん自身は毎回の文章量含めて全く疲れを感じさせないスピードでの執筆でしたね。
もちろん実際には文章構成のチェック等だけでも想像できないほど時間がかかっているとは思います。
そして白猫さんが今まで書かれたPuppet本編だけでもまとめたらそれは長大な物語になりますが
さらにHP公開の予定まで立っているとは…つくづく頭が下がる思いです。完成の折はぜひ訪問させてくださいね♪
---
>小説スレのレギュラー感想屋である68hさん
以前いらっしゃった初代感想屋のアラステキさんに敬礼しつつ感想書かせてもらっています(・ω・;A)
絶対全作品に感想をつける!なんて気持ちでやってるわけではないのですが、自然とこうなってしまいました(ノ´∀`*)

>きっと68hさんの小説も凄いんだろうなぁ。きっとメチャクチャ上手いんだろうなぁ。
この想像は早々に脳内から消した方が良いですよ!?
実はみやびさんスタートのリレー小説の続きなどを考えてたりしましたが、できたのは何の関係もない短編orz
しかも尻切れとんぼ。。

>68hさんはやればできる子。
うっ…がんばるよママン(´;ω;`)

チャットで無責任にもリクしてしまった入れ替わりネタ、ちゃんと考えてくれてるようで嬉しいです(*´д`*)
もちろんいつになっても構いませんし天下一とかいろいろUPした最後の最後でOKですよ!
そして長文感想、失礼しましたー!

299憔悴:2008/07/07(月) 08:54:12 ID:Wv5HCA4E0
ここは…どこだろう
嗚呼…あの子と一緒に遊んだ、場所。
そう、3年前、あの子は今みたいに笑顔でお花を摘んでたっけ。
無邪気に笑って。警戒心なんてこと、知らないように。
まるで純粋な天使みたいだった。
「リデル…」
そんな悲しそうな顔をしないで。
涙なんて流さないで。
その顔を苦痛に歪めないで…。
どこかに、いってしまわないで。

「………ッ」
朝。
小さい四角い窓からは梅雨明けの暑い太陽が、燦々と部屋を照らしていた。
バルコニーへ出れば前面光の世界。
「…おはようございます」
大きく深呼吸をすると、全世界への挨拶を交わす。
ローブと同じく、灰色のパジャマには小さな宝石が散りばめられていた。
あの子が大好きだった宝石の数々。
特に誕生石のエメラルドはお気に入りだったっけ。
私と同じ、薄緑色の髪を風に揺らしながら、小さい宝石を眺めていた。
…もう見ることはないだろうけど。
「おそよう!もう10時だよっ総帥様ッ」
桃色の髪をなびかせた少女が、ドアを勢いよく開ける。
「その…総帥っていうの、やめてくださいません?普通にチェルで結構よ」
「わかったー、チェル姉おそようっ」
可愛い妹のようなリーネは髪と同じ、桃色のドレスの裾を両手で持ち、丁寧におじぎをする。
ここは笑顔でおはよう、と返すところなのだろうが。
先程まで見ていた悪夢が頭の中を蝕んでいる…
素直に笑うことなんて、出来なかった。
いつだってそうだ、誰かの機嫌をとるためには作り笑顔を絶やさないようにしていたっけ。
特に、彼女に対しては笑えない、優しい態度なんて、とれっこなかった。
彼女があの子に似ているから。
どこか、すっぽりと空いた穴に彼女が入ってしまうから。
彼女と生活し始めて1週間と、短いが何度涙をこぼしそうになったか。
毎日の悪夢はもちろん、彼女自信に冷たく当たるようにしてきた。
なのに何で、毎日私を迎えに来るの?一緒にいるの???
極度のお人よし、というものはこういう人のことを言うのだろう。
「そういえばね、ロンサムさんが、自分と同じように、髪の色が違う人見つけたって!」
「本当ですの?」
パジャマからいつもの服に着替えつつ、リーネの言ったことに半分耳を向ける。
「むー、全然興味ない様子!」
「そんなこと、ないですわよ」
苦笑しつつ、総帥室を出る。

300憔悴:2008/07/07(月) 08:54:45 ID:Wv5HCA4E0
リンケンから出、総帥に任命されてからはこの組織が共有している館の数個ある内の1つに住んでいた。
特に、この総帥室があるB棟は一番格が上だった。
何故かリーネもここに住んでいた。
「貴方はなぜB棟に住んでるんですの?入ったばかりなら高くてもD棟でしょう?」
聞いた話によると、ロンサムがリーネをたいそう気に入り、その上誰とも接点を持ちたがらないチェルに軽々と話しかけているため、組織のお偉いさんが此処に住まわしたらしい。
(私は話してないのですが…というかロンサムはロリコンだったのですわね…)
そして、B棟中央ホールに来ると、もうロンサムを始めB棟の捜査委員が集まっていた。
「遅いですよ、総帥…今日は8時から話がある、と言っておいたでしょう」
「最近誰か様のせいで寝るのが遅くなって…申し訳ありませんわ」
ぎくり、とリーネが反応し、ロンサムの後ろに隠れる。
「だって、だって、みんな9時消灯だから、怖くて、チェル姉の部屋で遊びたくなるんだもん!」
「じゃあ今度から僕の部屋で遊びます?」
「…それで、話というのは?」
ああ、と思い出したように手を叩くと、
「私の知り合いにボニーという者がいまして。そいつがリーネちゃんから聞いた、職と髪の色が違う者かな、と思いまして」
異種職。
極稀に、2つの職の技術が使用出来る者。
そして、大半は姿の職と髪の色が異なる。
例に、薄緑色の髪をしたテイマー、桃色の髪をしたプリンセス。
「その、ボニーさんの職はなんですの?」
「シーフでして、髪の色は金なのですよ」
シーフにて金髪。
きっと、他の技術も使えるに違いない。
「そして、そのボニーの住んでいるところがバリアートなのですが…」
バリアート。
西方を山に囲まれた、静かな村。
東には誰も奥まで言ったことのない洞窟がある。
中には竜の子孫がいるだとか…
「それで、どうしましたの?」
「その、東にある洞窟から、今までは外へ出てこなかった竜の子孫が、少しずつバリアート方面に出てきているのです」
この報告には吃驚を隠せなかった。
街などにはロマからダメルまで、ウィザードによるモンスターの入れないように、ポーターが置かれているのだ。
そのため、街にモンスターが現れた例は今まで一度も無い。
「それは…洞窟に何か異変か、もしくはポーターが壊れてしまったのかしら」
「分からないです。この間、1度バリアートに竜が入ってきたそうです。そのボニーを中心に退治されたらしいですが…バリアートと洞窟の間にある沼には、もう竜が倒してもきりが無いほど居るらしいのです」
「それの退治依頼なのですの?」
「いえ、沼の色もおかしいですし、きっと何か洞窟にあったに違いないので、組織から数人、調査に来てほしいということです。ボニーに会いたいのなら総帥も一緒にいきましょう」
洞窟からあふれ出す沼の変色。
竜が洞窟から外へ出る異変。
それは…きっと、鬼による何かだと、チェルは確信めいていた。

301憔悴:2008/07/07(月) 08:55:11 ID:Wv5HCA4E0
「きてくださって、ありがとうございます。私がバリアートの警備隊長のボニーともうします」
ロンサムのいうとおり、姿はシーフだが、髪だけは金髪となっていた。
「一つ、お聞きしても宜しいでしょうか?貴方はシーフや武道による技術以外にも何か使えます?」
頭に疑問符を浮かべるボニー。
「それでは、このくらいの…石、いえ宝石のようなものをお持ちですか?」
「いや…もっては居ないが、あの洞窟の奥に、その、魔石があると言い伝えられてきました」
その話が本当なら、洞窟には入らなくてはいけないらしい。
しかし…
「痛た…」
洞窟に入った瞬間、無数の竜の子孫に突かれてしまう。
いくらペットが強く、回復や蘇生などが出来ても本体が死んでは意味がないのだ。
ここを、何も攻撃されずに奥までいけるのは…
「………」
楽しそうにピクニック気分で鞄に飴やお菓子を詰め込むリーネを見る。
…いや、無理だろう。普通に。

しかし、彼女しか頼めなかった。
「いって…くれますか…?」
「合点承知の輔!がんばってきまーす!」
注意などを聞く耳も持たず、鞄を背負い兎が駆けていった。
…大丈夫なのだろうか?

数時間たつ。
洞窟の入り口に仁王立ちするチェル。
そんなに奥深いのだろうか。もしかしたらどこかで息絶えてるかも…
いや、まあ何とかなるだろう。一応異種職だし。
其処へ、小さな兎が行きの半分の量になってる鞄を背負って帰ってきた。
横には何故か傷だらけのボニーがいた。
そして、元の姿に戻ると、鞄からいそいそと満面の笑顔で黄色の魔石をとりだした。
話を聞くと、奥まではそう数十分もかからなかった。
しかし、一番奥には魔石などなく、ただ1つの扉があった。
チェルとはすれ違いでボニーを洞窟の奥まで命がけで連れて行き、彼が扉の真ん中をいじくっていたら空き、目の前の壁には龍の姿を彫った石画があり、そこの真ん中にはめ込まれていたのが、
この黄色い魔石…トパーズらしい。こうくるともうお分かりだろう。
薄緑の髪のチェルが持ち主のエメラルド。
桃色の髪のリーネが持ち主のアクアマリン。
そして、トパーズ、黄色もしくは金色の髪。
「誰かに絶対誰にもいうな、と言われたのでしょうが…教えてください。貴方は複数の技術をもっていますね?」
金色の髪を黒い帽子で隠している、少年に向かう。
「…やっぱり、ばれましたか。まあ貴方達もでしょう?俺の本職、シーフに加え悪魔、ネクロの技もこなせる。といってもあまり使わないが」
最初からチェルは気づいていたのだ。
宝石がありますか?と聞いただけで魔石、と答えたからだ。
きっと自分が持つべき魔石のことを知っていたのだろう。
その時、バリアートの西から巨大な爆発音らしきものが轟いた。
山から流れているはずの滝の水が、バリアートの村へ降り注ぐ。
「何が…!?」
降り注ぐ水と、そして空を覆う黒い雲。
…鬼が来た。

302憔悴:2008/07/07(月) 08:55:41 ID:Wv5HCA4E0
「あ…あれは…」
リーネの顔がみるみる真っ青になる。
リンケンの町長を殺された時を思い出してるのか、はたまた…
考えてる暇なんて無い。
そう、もうバリアートをリンケンの二の舞にしないためには戦うしかないのだ。
「ボニーさん!ロンサム連れてきてくださいッ」
「は、はい」
それまでに、あの数を2人で食い止められるか…
「…ぅ…鬼なんて…私が…ッ」
「あんまり一人で前にでちゃだめですわっ」
飛び出すリーネの左腕を引っ張る。
ぐい、と体が傾き、一刹那前にリーネが居た場所に落雷が落ちる。
「ひっ…」
目に零れない程度の涙をため、硬直する。
これは一人でやるしかない、と感じ取る。
すぐさま真紅に染まった本に閉じ込められた古代竜を開放する。
(…スリープ、ビューティ、任せる)
励まし、誉めるをし、唐辛子を与え攻撃命令を放つ。
すぐさま前方に出てきている鬼の数匹に取り掛かる。
その間、チェルは回復だけを専念し、2匹の支援にかかっていた。
数分経っても鬼の数は経るどころか増え、一人じゃ抑えきれないようになってきた。
(この数は…なんですのっ!)
洞窟の方角からは鬼があふれ、スリープに致命傷を与える。
(ちょっと…まずいですわね…)
その時、後方から数本の矢と、斧が鬼へ飛ぶ。
「うわ、これは酷いですな…総帥、大丈夫でしたか?」
舌をぺろ、と出すと背から矢を取り、鬼に確実に当てていく。
「これは…キリがないな、あの洞窟に何があったんだ?」
ロンサムの隣に居るボニーも、腰から小さな斧を取ると、周辺の鬼に投げつけていく。
「…う…もう、大丈夫。私に任せて」
後ろで硬直していたリーネが動き、ピンクのドレスを赤いコスチュームに変えた。
小さな魔女は自分の中に宿っているもう一つの技術、魔法使いの力を4人に振り掛ける。
彼女は星型のワンドを取り出すと、小さい声で星を集める。
そして。
「メテオノヴァッ」
小さい星たちが集まり、大きな隕石と変わる。
大きな隕石の塊は4つにわかれ、鬼にぶつかり爆発を起こす。
(これが…異種職の技…)
チェルにはこういった、ウィザードのメテオと、リトルウィッチのウルトラノヴァの効果を併せ持った技は持っていなかった。
目の前に輝く隕石は鬼に爆発を起こし、その後は小さな星の砂と変わる。
そして、リーネは高く跳び上がる。
「チリングスペシャルッ」
氷で出来た霧は4人を中心に渦となり、鬼を襲う。
その霧が収まる頃には、鬼も居なくなっていた。
「リーネちゃん…すごいですなー…初めて見ました、こういうの」
「俺にもできんのかな…」
絶賛する2人に対し、チェルは誉めることはできなかった。
すごすぎて、固まっていたからだ。
(…私にももっと力があれば…彼女を救えたのでしょうか…)

303憔悴:2008/07/07(月) 08:56:07 ID:Wv5HCA4E0
結局、洞窟はリーネの霧によって入り口が凍り、二度と竜が出てくることは無くなった。
しかし、もう既に洞窟の外に出ていたリザードキリングは巣を作ったらしく、何匹倒しても居なくなることはない。
「まあ、あいつらくらいなら大丈夫でしょう。今日はお疲れ様でした。先に帰っています」
久しぶりに疲れたのか、ロンサムは頭を抱えてB棟へ戻っていった。
「で…俺の力を借りたいわけか」
異種職についての役割を話すと、ボニーは斧と鞭を出す。
「俺もいつかさっきみたいな技使えるようになるんだよな、まあついてくよ。楽しそうだしな!」
「わーいっ」
喜ぶリーネを、まじまじと見つめるボニー。
「ほんっとさっきのお前嘘みたいだよなー。こんなガキんちょなんて」
人差し指でリーネの額を小突く。
「いたっガキってゆーなっ」
これでもねーと話し始める。
チェルは興味なさげに聞いていたのだが…
「これでも18なんだから!今年で19だよっ」
「はい?」
凍りつくチェル。
笑えない冗談だ。
彼女と同い年だなんて。

゚・*:。.:・*:.'.:☆.+゚*゚+.。+゚,゚.+:。.+:。☆゚+.。+゚,゚.+:。.+:。*:。.:'・*:.':+.*。+゚.゚.+:。.*:。☆

第三の異種職ボニー。
そして、複合技術。
メテオノヴァ、チリングスペシャル…
なんて語源力のないつまらない小説になってしまったことをお詫びいたします。



コメント返し

>◇68hJrjtY様
アレナはこちらの設定ではなく、リンケンに実際いるNPCの名前でした。
そして、魔石はエメラルドのみではなく、他にも登場させる予定です。
誕生石の12個分ですね…長い。
月がエメラルドから始まって5月、というわけではなく、
チェルのエメラルドで5月、
アクアマリンが3月、
トパーズが11月…と。

毎回コメントありがとうございます。

304防災頭巾★:削除
削除

305黒頭巾:2008/07/07(月) 22:05:01 ID:fou9k2gM0
滑り込みセーフc⌒っ゚Д゚)っズサー


******************************************************


ささのはさらさら、のきまにゆれる――。


【ふぁみりあいーえっくすしりーず、たなばた編 〜そして、未知との遭遇(?)3〜】


僕はふぁみりあいーえっくす。
ちょっと愉快なぎるどの副ますさんなごしゅじんさまのぺっとだ。
僕の素敵なごしゅじんさまや愉快なぎるどめんばーさん達のご様子は、過去ろぐってやつをご参照でどうぞ。
出し渋りのつんでれろまさんからせしめた攻速石を倉庫に詰め詰めしようと、ぎるどほーるにやって来たごしゅじんさまと僕。
海の匂いのしゅとらせらとから木の香りのぎるどほーるへ飛んだ瞬間、僕の目の前は緑一色になった。
何、何、ぎるどほーる緑化運動!?
しかも何かわさわさちくちくするの!
やーん。
じたばたする僕の視界が急に開けたと思ったら、目の前にはわさわさの正体を持ったごしゅじんさまの姿。

「笹なんて持ち込んだのは誰ー?
 ちゃんと固定しとかないと、倒れてて来て危なかったじゃない!」

どうも、わさわさのお名前は笹って言うらしい。
初めて見る植物だ。
うー、お顔をちくちくされたから痒い痒い。
お顔をこしこし。

「おー、すまんすまん。
 固定する紐を捜してる間だけ立て掛けといたんだが……中々見付からなくてな」

怪我しなかったか?
奥から出てきたはんらさんが、そう言って僕の頭を撫でた。
気にしないで、大丈夫。
にひる笑ってに右手をぐってしたら、「よし、偉いぞ。男の子は強くなくちゃな」ってご満足そうな笑顔。
わーい、褒められちゃった!
でもね、笹とやらを立てかけるはんらさんに見えないように、まだお顔をこしこししてるのは内緒内緒なんだから。
そんなぎるどほーるに、ひゅんと現れたのはおじょうさまとごきぶりさん。
そのお手々には、色取り取りの紙の束が握られていて。

「ナイトさーん、飾りと短冊の材料買って来たよー!」

しまーを回してくれるはんらさんは騎士様みたいだって言うおじょうさまは、はんらさんをないとさんって呼んでる。
僕もはんらさんみたいに、ごしゅじんさまのないとさんになりたいなぁ。

「――ちゃん! ファミちゃーん?」

未来に思いを馳せる、そんな僕を呼ぶ声。

「おいでー、一緒に飾り作ろー?」

いつの間にか机の前にいるごしゅじんさまとおじょうさまの呼び声に、僕はわくわくと駆け出した。

306黒頭巾:2008/07/07(月) 22:06:08 ID:fou9k2gM0

――二時間後。
ぎるどめんばーの皆の手によって、笹はくりすます限定のつりーみたいにお綺麗になった。
反対に、おどりこさんのお手々は傷だらけになってたけど。
ただ、紙を切って折って貼るだけなのに……ここまで不器用だったのは驚いたなぁ。
まっするさんに治して貰ってお手々はすっかりお綺麗だけど、笹のお飾りの一部にある生生しい血の染みからは……皆が目を逸らしてる。
勿論ね、その他のお飾りも沢山!
ごきぶりさんお手製のみにちゅあのお飾りは凄い繊細でそのままお店で売れそうなくらいだし、いけめんさんが仕上げに魔法を掛けたお星様はきらきら輝いてる。
皆で作ったわっかのお飾りも、お星様の川みたいで楽しい。
それでね、それでね……作ってる間に七夕さまのお話を教えて貰ったんだよ!
むかしむかーしの、天上界の天使さんのお話。
神様のお洋服を作る天使さんと神様の乗り物の世話をする天使さんが、らぶらぶになってお仕事をさぼるようになったんだって。
それに困った神様が、そんな自堕落な生活はいかーんって、お二人を離れ離れにしたそうなの。
でも、両方とも天使さんだから……ぱーてぃー組んでこるで会えちゃうのにって思うよね?
お二人もそう思ったみたいで、こっそり会ってはお仕事さぼってたらしいんだけど……やっぱり見付かっちゃってさぁ大変。
追放されるされないまでお話が拗れちゃったんだけど、それは流石に可哀想だってんで、喧嘩両成敗で両方が一年毎に交代で牢屋に入れられて強制的に離れ離れにされた状態でお仕事に専念する事になったんだって。
で、一年我慢したご褒美に、一年に一度の交代する前の晩だけご一緒に会えるようにしてくれたらしい。
そしたら、お二人とも頑張ってお仕事するようになってめでたしめでたし。
で、会えて嬉しいお二人が幸せのお裾分けに小さなお願い事を叶えてくれるってんで、その記念日は皆でどさくさに紛れてお願い事してみよーってのが七夕さまの由来らしい。
一年に一度しか会えないのに皆のお願い事を叶えてばっかりじゃ、お二人でゆっくり出来ないんじゃないかなぁ。
そんな疑問が浮かんだけど、ごしゅじんさまは楽しそうだからお口にちゃっくした……言わぬがお花って言うしね!
僕も含めて一人一枚ずつ短冊を持って、皆それぞれお願いを考える。
一番最初に思いついたのは、ごきぶりさんだった。

「飛虎を拾えますように、と」
「お前、即物的すぎるだろ!」
「ずっと欲しがってたもんねー」
「同期は皆、ロト飛虎とか持ってるんだよ……もうNでいいから欲しい」

半泣きのごきぶりさんのお願いは切実すぎた。

「じゃぁ、俺は……バディのエンチャがいい加減成功しますように、で」

はんらさん、現在13連敗中。

「私は……若くて強い下僕が手に入りますように、かしら」

おねーさまの冗談に聞こえない言葉に、男性陣は必死に目を逸らした。

「今年こそ、探し人が見付かりますように」

おどりこさんは何処か遠くを見詰めるように、呟いた。

「うーん、今年のお願いは何にしよーかなー」

そんな中、おじょうさまはぺんをくるくる回しながら楽しそうに呟く。
そんなおじょうさまに、去年の騒動を思い出したらしい皆が思い出し笑いをする。

「去年は、お花とお菓子でお部屋を一杯にしたい……だっけ?」
「そうそう、本当にお部屋一杯に埋まっててビックリしたわー」
「今年のお願いも叶うといいな」

皆はにやにやと笑いながらいけめんさんを眺めて、いけめんさんはその皆の視線から目を逸らした。
貯金をはたいて可愛い妹のめるへんなお願いをこっそりと叶えた兄と、それを知らずにお願いが叶ったと舞い上がった妹。
そのぷれぜんとを上機嫌でもんすたーに投げつけまくったおじょうさまは……一日の狩りで全部使い切っちゃったと、ぷれぜんとの主のいけめんさんを半泣きにさせたんだよね。

「よし、決ーめた!」

さらさらと羽ぺんを走らせるおじょうさまに、皆の(特にいけめんさんの)目線が飛ぶ。

「おにーちゃんに素敵な彼女が出来ますよーに、と!
 うふふ、ずっと素敵なお姉ちゃんが欲しかったんだよねーv」

満面の笑顔で言うおじょうさまから目を逸らしたいけめんさんは、聞こえないと耳を塞いだ。

307黒頭巾:2008/07/07(月) 22:06:40 ID:fou9k2gM0

……時間は流れて、空には大きなお月様と綺麗な天の川。
七夕にかこつけた宴会も終わり、床に広げた敷物やソファーで眠るギルドメンバー達とファミリアの姿。
そんなギルドホールの入口に飾られた穏やかに光る星飾りが、きらりと瞬いた。
――と、光ったまま空中に浮かび、笹に下がった短冊の周りを飛ぶ。

『何だか強い想いを感じたから、来てみたけど・・・』

どれも即物的すぎるわねー、と嘆くように呟いた。

『恋人がーとか、ちょっと面白いけどねー』

こればかりは、いくら最高精霊とは言え一晩で如何こう出来る問題ではない。

『あーあ、がっかり・・・、帰ろうかなー』

そう言いながらも、見難い所に三つ並んだ短冊を最後に見付けて近付く。
内容を読み取ったのか、その星は嬉しそうに瞬いた。

『あ、これとかいいわねっ! うん、感動の友情ってやつだわ!』

如何やら、お気に召すお願いを見付けた模様。
ふわりとギルドメンバー達の上を飛んで、幸せな夢を授ける。
願わくば――遥か未来、本当にそんな願いが叶う日が来れば、と思いながら。
そのまま上空で少し考えた星の精霊は、オマケとばかりに祝福を授けた。
幸運を授けるスターライトを受けたメンバーは、きっと明日はドロップもよければエンチャの成功率もいい事だろう。

『さ、夜が明ける前に帰ろーっと。
 そう言えば・・・皆が七夕をやったら、何をお願いするのかなー?』

一緒に旅をする仲間を思い出して笑った精霊はその気配を消し、後には穏やかに瞬く星飾りだけが残った。
星飾りの光に照らされた三つの短冊はそれぞれ違う筆跡で……特に一枚は、幼い子どもが書いたようなミミズののたくった文字。
その三枚にまるでお揃いのように「皆とずっと仲良く一緒にいれますように」との一文が書かれているのを知っているのは……星の精霊と飾った張本人達だけ。
ソファーで眠るその三人――二人+一匹は、幸せそうな笑顔を浮かべて夢の中。

「おにーちゃん、おねーちゃんとファミちゃんと一緒に寝てるの、ずるーい!!」

二人の真ん中に寝ているファミリアにいけめんさんと呼ばれている青年とごしゅじんさまと呼ばれている少女が、青年の妹の抗議で目を覚ますまで……後、数時間。


******************************************************


未知との遭遇第三弾&七夕編をお送り致しました。
ご本人様の承諾を取れないままに勝手にお借りしてしまいました(自重)
七夕で如何してもあの精霊が浮かんで…申し訳ない/(^o^)\
一応過去ログ全部漁って口調は調べたつもりですが…イメージ壊れてないのを祈ります^p^
書き上げて気力が尽きたので、皆様への感想は次回に回します\(^o^)/

308復讐の女神:2008/07/08(火) 02:29:54 ID:Raw2JgF20
 砂漠の村に、花が咲き乱れた。
 小さく透き通っており、砂漠にそぐわぬほど冷たい花。
 氷だ。
 氷は、雲ひとつない空から振っていた。 
 先は鋭く刃と化し、その威力はレンガであろうとたやすく貫いていく。
「あああああああああ!!!!」
 氷の花園に、赤黒いものが混じった。
 血だ。
 村を歩く者たちが、突然の雹に串刺しにされたのだ。
 家の中にいたものなど、何が起こったかすらわからず死んでいった。
 こんな砂漠の村で雹が突然襲い掛かるなど、誰も思いつくことができるはずがないのだ。
 いや、雹でなくとも、突然死が襲い掛かってくるなどと、誰が想像できるだろう。
「うぁ…」
 幸運にも、雹の槍に刺されながらも生き残った者がいた。
 彼はこの現場を、現実として受け入れることができただろうか。
 太陽の熱が猛威を振るっているはずの場に、大量の氷があるのだ。
 それら氷は太陽光を反射してキラキラと輝き、一部からは白い冷気を放出していた。
 暑いはずの村が、寒かった。
「おおおおお ……おおおおぉぉぉぉ!」
 彼の耳には、ただ女の甲高い泣き声だけがこだましていた。

309復讐の女神:2008/07/08(火) 02:30:53 ID:Raw2JgF20
 古都ブルネンシュティングの街中において、冒険者を手っ取り早く雇う方法がある。
 掲示板への張り紙だ。
 政府直下の掲示板があり、そこにはランク別に冒険者への依頼が張り出されている。
 多くの冒険者は、この掲示板の紙をとって契約し、依頼を果たすことで報酬を稼いでいる。
 そんな掲示板に、新たな紙が張り出された。
 滅多に出ない、賞金首の依頼だ。
 賞金首には2種類あり、政府が危険人物と判断し金をかけるものと、公募によってかかるものがある。
 もっとも、公募の賞金首の多くは人探しであり、普通は賞金首とは言われない。
 政府が出す賞金首は、危険が大きく難度も高いのだが、そのぶん金額が公募より1桁2桁も高い。
 金が無限にあるわけでないため、賞金首は厳選に厳選を極め、よって賞金首の数はあまり出てこないのが普通だ。 
 張り紙がされたときの現場の色めきあいは、非常に高いものとなる。
 ゆえに
「久々の賞金首ね」
「だな」
 ジェシとラディルもまた、周りの雰囲気に飲み込まれるように興奮していた。
 二人はお金に対する欲求が少ない。
 つまり、強敵の出現が、二人を高ぶらせているのだ。
「ジェシは賞金首レース、参加するの?」
 テルは、あまり乗り気でない様子。
 彼女にとっては、人間よりも珍しいモンスターのほうが価値が高いらしい。
 3人は、掲示板のすぐ近くにある店のテーブルについていた。
 ちょうど昼食が終わったところへの、騒ぎだったのだ。
「しないわ。興味はあるし、戦ってみたいけど、お金に困ってるわけでもないしね」
 この世界は広い。
 しかし、政府と協会の力はそれらをほぼ全て包み込んでいる。
 賞金首の張り紙は、あらゆるネットワークを使用して全ての街や村に届けられ、張り出される。
 相手はそれに気づくだろうし、それなりの対策はしているはずだ。
 一人を探し出すだけで、どれだけの時間と費用を必要とするのか、考えるだけでもばかばかしいのだ。
 全ては運。
「そもそも、賞金首っていっても…顔絵がないじゃない、探しようがないわ。今回たまたま生存者が…ううん"元生存者"
が証言したからこそ、小さなヒントが得られたくらいよ」
 そう、今回の賞金首の張り紙には、特徴が書かれているだけで一番重要な"顔"が描かれていないのだ。
 特徴とて「女・弓使い(氷系統魔道使用)・泣き声」の3つだけだ。
 もっとも、ジェシも含めて冒険者のほぼ全員が、それ以上の情報を自分の中で付け加えていた。

”炎系統魔道使用”

 すでに2つの村が炎で焼かたという情報は、冒険者全てに知れ渡っていた。「けちな政府が、やっと重い腰を上げた」というのが
共通認識なのである。

310復讐の女神:2008/07/08(火) 02:31:25 ID:Raw2JgF20
「両系統を完全に使いこなす弓使いの魔道師なんて、この世界に何人いるのかしらね?」
 魔法は、体内に廻る魔力を変換して放たれる奇跡だ。
 もともと性質などないエネルギーである魔力は、回路を通ることで性質を帯びる。
 4大精霊の水、風、土、火に光と闇を足した6系統は、それぞれが別の形をした回路だ。
 特に性質が真っ向から対立するものは、ほとんど逆向きの回路となっている。
「効率も悪いな」
 1系統を極めることですら、難しく長い道のりを必要とする。2系統を操るということは、魔法の威力が落ちることにつながる。
 ウィザードの連中が全ての系統を満遍なく使いこなせているよう見えるのは、外部に魔方陣として回路を生成することで、自身への
影響を極力抑えているからにすぎない。それにしたって、個人個人の得意系統は分かれてしまうのだ。
「弓魔道師の炎や氷って、そんなに残留なかったと記憶してるんですけどー」
 魔力とは、霧散しやすく集まりやすいエネルギーだ。魔力で作られた炎や氷などは、すぐに気化してしまう。そのため、物質に
与える影響力は非常に小さいものなのだ。唯一例外ともとれるのがサマナーの4大精霊召還だが、彼らの魔力の質は特殊で精霊を
物体化させることと、自分の魔力にしか影響を与えることができない。呼び出された精霊が使う魔法は、精霊が使うものとしてやはり
気化が早くなってしまう。
「そうね、影響は与えるけどすぐに魔力に気化してしまって、物理的な殺傷とまではいかないわ」
 属性の与えられた魔力は物に当たると気化してしまうが、その際に与えられた属性を相手に押し付けていく性質がある。水系統の
魔法をうけて寒さや熱さを感じるのは、一時的に体内魔力の方向性を強制されるせいだ。
「魔力を高純度に練る時間さえあれば、できなくはないのかもしれないけど…弓魔道師の雨って、ものすごい魔力を使うのよ。村一つを
焼き払うだけの魔力を練る時間なんて、考えたくもないわ」
 霧散しやすい魔力は、練る事で残存しやすくなる。冒険者などはよく小さな魔力を練って薪に火をつけるが、それは熱で発火させている
だけにすぎない。それにしたって、発火しやすいものに火をつけてからなのだ。
「ま、考えてもしょうがない、それより本題に入ろう。ジェシの分がこれ。そして、これがテルの分だ」
 ラディルは紙切れを取り出し、二人に渡した。
「ありがと、ラディル。いつも面倒言ってごめんね」
「サンキュサンキュ! いやー、ギルドって便利だねぇ」
 ジェシがもらった紙には、人の名前が書かれていた。おそらくそれだけを見ても、周りの人間はなんのリストかわからないだろう。
「まったくだ。何度も言うが、うちのギルドに所属しろよ。そうすれば全て自分でやれるし、効率もいい。ジェシの実力なら誰も反対
しないさ」
 ラディルは、とあるギルドに所属していた。人数はかなりのもので、そのおかげで多くの情報が手に入る。見返りとしてギルドのために
動かなければならないこともあるのだが、それを考えてもメリットは莫大だ。
「わかってるでしょ、私は他のギルドに所属する気はないって」
 ジェシもまた、ギルドに所属していた。
 ラディルの所属しているギルドと違い、所属している人数は少ないが、自分勝手に動けて束縛もまったくないギルドだ。
「残念だなぁ。ラディルの誘いが早ければ、私はそっちに所属してたかもしれないんだけどね」
 テルもまた、この街に来てすぐにギルドへ所属していた。
 ただ、ギルドへの所属には契約条件があり、一度所属したギルドは数日は離れることができないことになっているため、簡単に所属を
変えることができない。

311復讐の女神:2008/07/08(火) 02:31:53 ID:Raw2JgF20
「はは、しょうがないさ。契約期間が過ぎたら自由に移籍できるんだし、そのときに声かけてくれよ」
 話は終わったと、立ち上がるラディル。
 ラディルは所属ギルドの副ギルドマスターをしており、なかなかの人望を集めている。そのため、普段はそれなりに忙しい人なのだった。
「まあいいや。とにかく、また情報が集まったら渡すよ。じゃあな」
 店を出て行くラディルを見送り、ジェシとテルは向き合った。
「まさか、あなたもラディルに情報を集めさせているとは思わなかったわ」
 テルが何かを探しているそぶりを、何度か目撃していた。確かにお金を集めているようすもあるが、それが一番の目的とは思えなかった。
「うん? あぁ、うん。そんなつもりじゃなかったんだけどねー。前に街で会ったときに少し話したら、調べておいてやるよって…」
 落ち着かなさそうに手をもじもじさせて、恥ずかしそうにうつむいているのが卑怯だと思った。
 テルもまた、ラディルに恋しているのだろう。
「さて、もらうものももらったし、依頼主のところへ行きましょうか」
 ジェシが立ち上がるのに続いてテルも立ち上がる。
 もともと今日は、依頼を受けに行くために出たのだった。
 掲示板で依頼を選んだときに偶然ラディルと会わなければ、今日情報をもらうことはなかっただろう。
「護衛や荷物運びの依頼多かったよね。いつもあんななの?」
「そんなことないわよ。むしろ、普段は少ないくらいなんだけど」
 キャラバンを襲う盗賊や山賊のたぐいは、それほど多くはない。上級モンスターを倒したほうが、お金になるからだ。
 そもそも、キャラバンを営む人間の多くが、元冒険者だったりするため、簡単な魔物程度なら自分で追い払うことができる。
 そのため、護衛の仕事は楽なものという認識があり、人気は高い。
「賞金首効果かしらね」
 賞金首が出たということは、それだけ物騒であるということにほかならない。
 それだけで、説明は十分であろう。
「んでもさー、ジェシ。この依頼って…ちゃんと見た?」
 ジェシにはしては珍しく、依頼内容を詳しく見ていない。
 護衛の依頼を避けて探したため、良い条件のものが少なかったのだ。依頼は無限にあるわけではないので、よさそうなものを見つけて、
さっさととっただけであった。
 だから、テルの「いいのかなー」というつぶやきも、ジェシはあまり気にしていなかった。

312復讐の女神:2008/07/08(火) 02:41:43 ID:Raw2JgF20
第二章というかなんというかです。
今回は私の「スキル使用におけるCPの役割」的な妄想を重点に書いてみました。
妄想なので、後々設定を変えるかもしれません。
変えないかもしれません。
なので、そこら辺はテキトーに流してくださると、ありがたかったり。

他作者さまのキャラを登場させたい!とか、なんとなく思っていたのですが、実際にやり始めるとあら大変。
キャラを大切にしたいと思い始め、過去ログ読み直しの修行です。
失礼にもさらっと読み飛ばしてた場所などが発見されると、もうなんというか。
反省の行として、無課金徒歩で手紙クエを実行してきます><

313◇68hJrjtY:2008/07/08(火) 08:46:52 ID:vWCgkkT60
>憔悴さん
合成スキル、つまらないなんてとんでもない。これは妄想が止まりませんぞ(*´д`*)
宝石というのもRSのサーバーを表すものですし、つくづく面白い設定だと思います。
髪の色も実際の話でかなり重要な要素で、金髪の者でなければ王族と認めない…なんて話もあるらしいですよ(笑)
新登場ついでに仲間に加わったボニー。金髪と来たのでアチャランサかな、と思ったらネクロ悪魔とは!
でも毒スキルとか即死系とかシフと悪魔って繋がる部分も多そうですしね。さて、どんな合成スキルが出るか。
続き楽しみにしています。

>黒頭巾さん
久しぶりのダークメルヘン…ですがダークではなく、今回は素敵な七夕物語。
そういえば七夕なんてすっかり忘れてました。うーん、でもこういうイベントこそ忘れてはいけないと思います。
ごしゅじんさま、いけめんさんをはじめみんなのお願い。某精霊さん(笑)に届いたようですね。
ギルメンたちのワイワイっぽさがとっても楽しそうで、ファミたんの可愛さとそれだけでおなかいっぱい(*´д`*)
次回のイベントモノ小説も楽しみにしています。今度はなんだろう(笑)

>復習の女神さん
適当に流せません!(笑) というわけで、魔法学というかスキル学というか、女神さん設定の方に目が釘付け。
と同時に面白いと思ったのが賞金首システムですね。本当にファンタジーっぽくて(・∀・)イイ!!
ギルドというものも本来の意味はこのように特定の人々が情報を流通させるための団体といった意味みたいですし
そこにファンタジー要素を絡めることでワクテカするくらい今後の物語が楽しみになってまいりました。
しかしそれ以上に気になるのが2系統の魔力を操る弓使い…ジェシたちの新たな冒険の始まりですね。
続きお待ちしています。

314ESCADA a.k.a. DIWALI:2008/07/08(火) 11:19:53 ID:OhTl4zsk0
>>212 からの続きですよ〜

さてさて,シュトラセラトへと異次元の黒箱を届けるために,ミリアとファミィ,サーファイユにミカエル達は森の小道を進んでいく。
道中で木の実を採取していたエルフの民の一人,ジャファイマからたくさんの木の実を分けてもらったところだ。時刻は正午近い。
「ふみゅぅ〜,ミリアお腹空いたのぉ〜・・・お昼ごはん食べよっ?ね〜?」愚図りながらミリアが兄のミカエルにせがむ。
彼はしょうがないなぁ〜と呟くと,背負っていたリュックサックを下ろして,そこからシートや簡易式の調理器具,さらには
チョコレートや乾パンなどの軽めの食材を取り出した。彼曰く,サバイバルには持って来いという品々だとか・・・
サバイバルナイフで乾パンを切り,チョコレートを砕いてボウルに移し,相棒のケルビーを召喚してそれを溶かす。

「ようマスター,今日の昼飯はチョコレートフォンデュなのか?」「あぁ,糖分もちゃんと摂取しておかないとな。」
「ん〜,ミカエルがつくるチョコフォンデュはおいしいから大好きさ〜♪サーファイユ,食べ方わかる?」
「えっと・・・あぁ!!パンをチョコに浸すんだね?へぇ〜,これが人間の食べ物かぁ・・・初めて食べるよ,えへへ」
「うにゅ〜・・・ふみゅっ,モグモグ・・・やぅ,やっぱりお兄ちゃんのチョコフォンデュはおいしくて大好きなの〜♪」
無邪気な笑顔を携えてミカエルに擦り寄るミリア。「こらこら」と苦笑を浮かべながらも,甘えてくる妹を抱きしめる腕は温かい・・・

だが一行を尾行する影が,茂みの中から彼らをマークしている最中でもあった。小柄で太った火鬼と,それとは対照的で大柄なレイス。
火鬼はというと,どこから手に入れてきたのか・・・ピンク色の奇妙な色合いをした木の実を手に,悪どい笑みを浮かべている。
「クヒヒヒヒ・・・あのガキ,ミカエルの妹だけあってタイマンじゃぁ勝てる見込みはねぇが・・・こいつがあれば戦力ダウンだぜぇ〜」
「えっ,ちょっ先輩?そのピンクの実って一体何なんスか?それをミリアたんに食べさせるんスか?」レイスが恐る恐る訊ねる。
「あぁん?てめぇそんなこともわからねぇのか!?この実はなァ,食った奴を若返らせる『ヤングバック・ベリー』って種の実だ。
 つまりこれをあのガキんちょが食べれば・・・そういや実一つで8〜10歳ほど若返るらしいし,5歳児になっちまうだろうよ!!
 クヒヒ〜ヒヒヒヒ!!!あぁ〜オレって頭い・・・ん,アレ?おいダリオ,おめぇヤングバック・ベリーをどこに・・・あぁ!?」

驚嘆する火鬼が見たものは・・・ダリオという名のレイスがヤングバック・ベリーを手に鼻息荒く猛ダッシュしているとこだった!!
「みっ,みっ・・・・ミリアちゃぁああぁああぁああぁぁぁあぁぁあああぁぁんっ!!!幼女幼女幼女ぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉ!!!」
「あんのクソったれのロリコンレイスっ!!!あいつの幼女フェチのせいで何度窮地に立たされたと思ってやがる!?ちきしょうがっ」
舌打ちをかまして,火鬼もまた暴走気味なレイスの後を追う・・・・・・


―――・・・昼食を終えたミリア一行。地面に座り込んで腹を休めている最中だ。ミリアとファミィは満腹のあまり眠ってしまった。
「うぅ〜っぷ・・・ゲプ,あぁ〜食った食っ・・・お,そうだ。サーファイユ,この辺に何か果物が生ってる場所とか知らないか?」
「あっ,それなら丁度ここから西の方にパッションピーチが生ってる木があるよ!案内してあげるよ,ミカエルさん!!」
「だけどよぉ・・・ミリアとファミィを寝かせたままにしても大丈夫か?それにさっきから誰かに尾けられてる気がするんだが・・・」
「大丈夫だって,きっと森の生き物の気配かもしないし・・・パッションピーチの木はここから歩いて1,2分くらいだし,早く行こうよ!!」
「まぁそれもそうだわな・・・うっし,じゃぁちゃちゃっと行ってデザートにでもすっか!!」「うんっ,急ごう!!」
駆け足でその場を離れるミカエルとエルフ戦士のサーファイユ・・・だが,このわずかな時間に思わぬ事態が起ころうなど
誰が予想できようか。可愛らしい寝息を立てるミリアの元に,巨大な影が忍び寄る・・・!!!

315ESCADA a.k.a. DIWALI:2008/07/08(火) 11:59:03 ID:OhTl4zsk0
―――・・・ミリアたちが休息中の場所から少し西へ。ミカエルとサーファイユの二人はパッションピーチの木の麓へと到着した。
「ほぉ〜,これが噂に聞く幻の果物『パッションピーチ』か〜・・・夕焼けのような鮮やかなオレンジ色,はじめて現物で見たぜ。」
ミカエルが感嘆の声を漏らす。燦々と輝く夕日のような色をした桃の実が,所狭しと木の上に生っている。誰でも溜息を漏らすだろう。

「すごいでしょ,パッションピーチは20年に一度しか生らないレア中のレアな果物なんだ。食べた人にはこれまでにないくらいの
 至上の幸運が訪れるって言われてて,高値で取引されるんだ。だから密猟者が多くて,僕たちエルフはこの木を守っているんだよ。」
「ほへぇ〜・・・なァ,オレも一個食べてみてもいいかな?ングっ・・・やっべぇ,よだれが止まらねぇよぉ〜///////」
顔をほころばせて,よだれをボタボタとミカエルは垂らす。そんな彼に苦笑を浮かべるも,サーファイユは一個だけ食するのを許した。
早速木によじ登り,パッションピーチの実を採ろうとするミカエル。だが果実のあまりの大きさに彼の興奮は余計に高まる・・・!!
「うっひょぉ〜!!!近くで見るとこんなにもデケぇのかよ!?まるでウチの姉貴のおっぱいだな・・・ん?姉貴のおっぱい!?」
そう自問自答する彼の目の前には・・・肌色をした二つの大きな球体,そしてそれぞれ中心部にはピンク色の突起。まさか・・・

イヤ〜な予感が彼の頭の中を過ぎる。だが確かめてみないことにはわからない,今目の前にしているのが姉貴の乳房なわけがない。
そうだ、これはパッションピーチが突然変異したやつなんだ,きっとそうに違いない。だったら,このピンク色の突起を摘んでも・・・

だが,その憶測は所詮は彼の思い込みに過ぎなかった。ピンクの物体を指先で突付いて擦って・・・そして出てきた反応は・・・

「ふぁ・・・んっ,あぅっ・・・んゃ,いやァ〜ん/////////////////」「・・・・・・・・・・・はぁ?」

異常にエロ可愛い喘ぎ声と乾き切った声が順番にその場に木霊する・・・そしてミカエルから『ブチィっ!!!』何かが切れる音が。

「てぇんめぇええぇぇぇええぇぇぇええええぇえぇぇぇえ!!!!何してやがるあぁあぁぁああぁぁぁああぁ!!?」
怒りのあまり闇雲にジャブやらストレートやらをブン回すミカエル,そして彼と対峙しているのは・・・姉,フィナーア!!!(ドーン)
「あぁ〜んっ,ミカエルちゃん怒っちゃいやァ〜んっ!!!お姉ちゃんの軽いジョークでしょぉ,カルシウム摂ってるぅ?」
「うっせ,空気読めよこのエロ姉貴っ!!!人が嬉しそうにしてるのにブチ壊しやがって,マジKYだなこのバカ姉貴っ!!!」
「まっ,お姉ちゃんに向かって『バカ姉貴』ですってぇ〜!?そんな悪い子はァ・・・あたしのバストでお仕置きよぉ〜んっ!!!」
いきなり弟の顔を掴み,それを自身の胸の谷間へと強引に挟み込む!!!もがくミカエルだが,逆に息苦しさを増してしまう・・・
「んむぐ!!?むごぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉ!!?!ぱべぼぽぼばばはぺびぃ〜!!!へくはばはんぱ〜い!!!!!」
「あらあらァ,セクハラ反対だなんてぇ・・・これはお姉ちゃんから弟への愛の印なのよ!?ちゃんと受け取らなきゃダメよぉ〜!?」
「うんごぉぉおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉぉ!!?!」「(ごめんねミカエルさん,僕にはどうしようもできな・・・ん!?)」
二人を余所に合唱しているサーファイユが,木々の声を感じ取り表情を険しくした!!ミカエルを引っ張って彼を助け出すと
彼の耳元で囁き,急いで戻るように促した。二人はフィナーアのことに気もくれずに走り去っていく・・・・

「まぁっ,いきなりセクシーでキュートなフィナちゃんをシカトだなんて,いい度胸だわっ!!フィナちゃんプンプンよぉ〜!!!」
相変わらず露出度の高い格好,今日はV字型のギリギリ水着を着ている彼女は腰をくねらせプリプリと憤慨する・・・すると
ボトリ。と何かが落下する音が・・・彼女が足元を見ると,そこには黄金に輝く一つの桃の実が・・・
どうやらただのパッションピーチではないのは確かなようだ。しかしそんなことも考えずに,彼女はまじまじと果実を見つめ・・・

一口で平らげてしまった。

「あんっ・・・はふぅ,なかなか情熱的な味だったわァ。それに何かとてつもないパワーが沸いてくるような・・・あぁ〜んっ!!?!」
後に,この実を食べたことにより彼女はとんでもない体質になってしまうのを,彼女自身はまだ知らない。

316ESCADA a.k.a. DIWALI:2008/07/08(火) 12:10:07 ID:OhTl4zsk0
そして場所はミリアとファミィが休んでいた場所・・・そこへ戻ってきたミカエルとサーファイユが目にしたものは・・・
「ふゃぁ〜んっ,えぅ・・・ふみゅぅ〜,ふぇえぇ〜ん!!?!」ミリアが泣いているのだが・・・何と,5歳児のような体格に
なってしまっているのだ。その傍らではファミィが彼女をあやそうと必死に奮闘している最中だった。

「な・・・おいおいファミィ,一体こりゃ何があったんだよ!?何でミリアが子供に戻ってるんだ!?」
「ん〜・・・オイラが起きたらいきなりこうなってたさ〜,何でなのかオイラもわかんないさ〜!!!!」
「まさか・・・これはあくまで推測だけど,誰かがミリアに『ヤングバック・ベリー』を食べさせたに違いない!!
 気をつけて,ファミィにミカエル・・・近くに敵が潜んでいるかもしれないよ!?ミリアを皆で守るんだ!!!」
「あぁ・・・ちくしょう,オレの妹をこんな目に遭わせやがって!!!ぜってぇ許さねぇっ!!!」
怒りの炎を瞳に燃やすミカエル,だが側で微笑む小さな妹にはキープするのも難しく,優しい笑顔へと戻っていく。
「ふみゅ・・・おにいたんだいちゅきなのよ〜,うみゅ〜♪」「あははは,よしよ〜し。まずは元に戻す手段を考えようぜ。」
「ミカエル,ちょっと村に戻ってエストレーアを呼んでくるよ!!彼なら治し方を知っているはずだから待っててね!!」
サーファイユはというと,エルフの村にいる医者,エストレーアの助けを求めるためにその場から離れた。
木の枝を駆け回る音が森に木霊する・・・

to be continued...


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