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【ノベール】RED STONE 小説upスレッド 七冊目【SS】

173黒頭巾:2008/06/06(金) 20:59:38 ID:fou9k2gM0

翌年、偶々村を訪れた冒険者を師と仰ぎ、村を出て一緒に世界を旅しながら武道の心得を習う事にした。
もう村にはいられなかった。
俺の精神は、村人の憐憫の眼差しに耐え切れなかったからだ。
日々の農業で俺の身体は基礎的には鍛えられていたし、他の村人と比べて足りない能力を補う様に人間としての感覚は鋭かった。
元々素質があったのだろうか、俺はめきめきと力をつけ、あっという間に皆伝の称号を得た。
冒険者としてもある程度名が売れ、続々入るクエスト依頼もこなして比べ物にならないくらい実力もついたし裕福になった。
それでも……村人の様に、あるいは村人とは違い武道家として自然を知り尽くした師の教えの通りに、風を、自然を、感じる事だけは出来なかったが。


そんなある日、立ち寄ったオアシス都市アリアン。
その名の通り巨大なオアシスが町の中央に鎮座する、砂漠の中にある商業の中心都市だ。
受けたクエストを終わらせた報告と同時に、また明日新しいクエストを貰うという約束をクエスト屋と取り付け、宿へと向かう。
横目に眺めるアリアンの象徴、巨大なオアシスが日光を受けて輝く。
ふと、その水際で遊ぶ一人の少女の姿が俺の目に留まった。
途端に心臓が早鐘の様に打ち鳴らされ、冷や汗が頬を伝う。
……“駄目”だ、あの少女は“駄目”だ。
嗚呼、願わくば……俺に気付かないでくれ。
俺の一族と同じ色の瞳を逸らされても、見詰められても、どちらにせよ正気でいられるとは思えない。
何しろ、彼女は精霊の力を召喚獣の姿に変えてこの世に留めているのだから。
動悸のする胸元を押さえて立ち去ろうとした俺に、少女が気付いてしまった。
……最悪のパターンだ。
瞳を輝かせた少女が、俺に詰め寄ってきた。
ちょ、近い近い!
嬉々として俺の顔を覗き込んだ少女は、挨拶もしないまま開口一番こう言った。

「凄いです!こんなに精霊に好かれてる人、見た事ないですよ!」

……この女は、何を、言っているんだ?
精霊に祝福された村で唯一、精霊に愛されなかったこの俺が、“精霊に好かれてる”だと?
脳裏に、村人達の声が過ぎる。
それは、まだ両親が健在だった頃の周りの言葉。

「流石、精霊に好かれてるわね」
「名前の通り、この村の未来を担う凄い力だわ」

それは、両親がなくなって俺の能力がない事に気付かれてからの周りの言葉。

「精霊が見えないなんて、信じられない」
「名前負けなのね、がっかりだわ」

俺に能力がないとわかったら、即座に掌を返した親戚の仕打ちは忘れ様にも忘れられない。
少女の興奮気味の声とは裏腹に、俺の心は急速に冷えていく。

「……ない」
「はい?」
「……見えなきゃ、聞こえなきゃ、意味なんかねーんだよ!」

吐き捨てる様に叫んだ俺の声は、鼓膜を伝わって何処か他人事の様に俺の脳内に響く。
突然声を荒げた俺に驚く少女を残し、俺は踵を返した。


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