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新ストーリーです♪

8あずみ:2004/11/04(木) 22:21
第六話(出国)
 立花父子が館につく頃、忠明邸では和幸ら側近を招いて小さな酒宴を行っている。
「このたびはすべてうまくいきましたようで何よりでございます」
和幸が忠明へ酌をする。
「ふふふ・・皆もよう手を回してくれたのぉ」
薄明かりの部屋に忠明の冷笑が浮かぶ。
「明日あのこせがれが国をでるようで」
和幸の隣に座する爽炎和尚が言う。爽炎は書の名人であり、清茂の文書を偽造したことに助力している。和幸と同じく忠明の謀臣として重宝されている。
「影を放て。しかと後をつけさせよ。いずれ・・闇へ葬ってもらう」
「御意・・」
右目から頬にかけて鋭い切り傷がある隻眼のこの男は、忠明の隠密・影組の頭である壱岐幽才。
「うるさい立花も僻地へ左遷できましたのでご安心ですな」
「立花が封地・永越に落ち着いた頃尭安に攻め取らせ、立花を討ち滅ぼす・・我が願望が成就するのももう少しじゃ」
月の出ぬ夜に忠明邸でのひっそりとした酒宴は夜通し続いた。

 翌朝いつもより早く起きた清光はすでに宗隆を追うしたくを整えている。いつもは狩衣姿で過ごす清光だが、身分がばれないように今日は庶民の格好をしている。大人の着るものを着ているが庶民の子供のようにしか見えない
「ゆくか・・ヒカルよ。元服の儀は受けられなかったにしてももう15じゃが、やっぱりまだかわいらしいのぉ。されど・・宗隆殿をしっかり助けるのだぞ」
父・清忠が見送りに念をおし、路銀を十分に持たせる。
「ヒカル・・これを持っていけ。兄からの餞別だ」
清澄は自分の脇差を清光に贈った。
「父上、兄上ありがとう。僕は絶対に二人の無実を証明するよ!」
「ヒカル。母の分もしかと頼みます。宗隆は私の甥子でもあります・・」
昨夜は猛烈に反対していた母・小夜も目を潤ませながら清光の手を握る。この母ともしばらく会えなくなる。小夜は永越へは行かずに玄都にとどまることになっている。旧主の妹君である者を僻地へ行かせては失礼とのことだが、人質に違いない。
 朝日がのぼり、あたりに日が差してくる頃に清光は父や母、兄としっかり抱き合って宗隆の通る道へ向かった。

 日が高くなり始めたころに玄城から宗隆は移送されてきた。拘束はすでに解かれていたが、護送する警士は10人全員が完全武装の具足姿で鉄砲を持つ者もいる。移送される宗隆はまち城郭の中では民から多くの罵声を浴びせられた。
「よくも殿様を!!側妾の子のくせに!!」
だが宗隆は眉一つ動かさずにじっと耐えている。
「哀れなものよのぉ・・宗重様にあないに可愛がられていたのになぁ!民ともよく接し、慕われていたのが今日では手のひらを返すようになってのぉ!」
側に付き添う警士の頭が意地悪そうに言う。
「・・主人に餌をこびるだけのお前さんらより向こうのほうがずっと人間らしいじゃないか」
強烈な皮肉を返す。
「なにぃ!!こいつ調子に乗りやがって!?ふざけるなよ!」
顔を真っ赤にした護送頭が手を上げる。
「隊長!おやめください!」
 一人の警士が怒った頭をなだめる。
「ふんっ!いいか、次にそんな口利いてみろ!その馬から引き摺り下ろして引き回すからな!」
頭はしぶしぶ引き下がった。なだめた警士が宗隆のもとに馬を寄せる。兵にしては小柄な体躯の者だ。兜の中には子供っぽさが残る丸い顔がのぞく。
「おかげで殴られなかったよ。ありがとう」
「・・いえ。しかし、宗隆様も置かれた立場をお考えなさいませ」
頭に聞こえないように声を落として言った。続けてその警士はつらそうに言った。
「・・なぜそのような罪を・・私はあなたをお慕いしておりました。今でも信じられません・・」
「・・今弁解してもすべて言い訳にしか聞こえないだろう。だが・・父上を殺めたものは絶対に許さない」
宗隆も声を落としていったが、最後のほうは語気が強まっていた。
「宗隆様・・やはりそのようなことはやってないと?」
「・・信じてはもらえないだろうがな」
信じてはもらえまいと思い、宗隆はここで口をつぐむ。
「・・私がお力にはなれませんが、幸運を祈っております。その言葉を聞いてやはりやってということがわかりました」
宗隆ははっと顔を上げる。
「ありがとう。そうだ、そなたの名は?」
「申すほどの者ではありませんが、堀部源蔵と申します」
そう名乗って愛嬌のある丸い顔で少し微笑んだ。
「いい名だ。いつかまた会えるといいな・・」
少しさびしそうに言ってまた宗隆は口をつぐんだ。


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