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新ストーリーです♪

1あずみ:2004/10/21(木) 19:52
第一話 (天才軍師の孫)
 蒼月国は大陸南部に南部に位置する国である。すぐ隣国の尭安国にはおよばないが、温和な気候のため穀物は豊富で民はよく忠節をつくしている。蒼月国はそれほど大国ではないが、この国が大陸の三大国である尭安・天祐・柳江から一目おかれている。賢君といわれる現君主の桐祐宗重も呼び名は高いが、三国がもっとも一目を置いているのは宗重の軍師として用いられる立花清茂である。清茂はその才を振るい、三国の圧力のかかるなかでこの蒼月を三国に一目置かれるほどに成し遂げた。
 立花家は主君である桐祐家と縁が深い。蒼月を立ち上げた初代当主・桐祐宗安と立花家初代当主の立花清成は親友であり、宗安の旗揚げを助けた。また、清茂の子の清忠と宗重の妹が結婚し、縁戚関係でもある。
 清忠は三人の子を授かった。長子・清治、次子・清澄、そして末っ子の清光である。天才軍師は三人の孫を授かったのだった。
 「よし!この手で行こう。ユウとテルはあそこの草むらに伏せてて。リュウ従兄上は中央で敵をさそいこんでね!」
「さすがだなヒカル。みんなこの作戦で行くぞ!」
草原では数人の子達が合戦遊びをしていた。
黒くつやのある髪でパッチリとした瞳の子が軍配をもって指揮をとっている。かわいらしい顔だが、作戦を立案する顔は清茂そっくりだった。この子こそが清茂が孫で末の子の清光である。
 清光のことをヒカルと読んだ少年は強靭な体躯をしており、きりっとした目は威厳を感じさせる。合戦遊びをする前の顔は笑みを浮かべて優しい表情だったが今は違う。この子は現君主・宗重が子の宗隆である。宗隆は正室の子ではないが、宗重は宗隆をとてもかわいがっている。
 清光がリュウ従兄上とよんだように二人は従兄弟同士である。幼少より二人はこうして仲良く遊んでいる。
 清光が軍配を振り下ろす。両陣からいっせいに模擬刀槍を持った子らが打って出る。
「俺についてこいよ!」
宗隆も合図とともに中央に向かって走りだした。宗隆の隊は強かったが、相手のほうが数は多く次第に旗色が悪くなる。
「もういいでしょう。リュウ従兄さん!」
清光が合図を送る。
「おう!みんなさがれーっ!」
宗隆の隊は散り散りに逃げた。
「今だ!今日こそ宗隆たちに勝てるぞー!」
追うほうはそういって散った宗隆たちをわかれて追い始めた。先ほどまで数の多かった相手は追っ手を分けたためにそんなに多くない。宗隆たちは清光が残りを伏せた草むらのほうへうまく誘い込んだ。
「今だ!みんなうちかかれー!」
清光の合図とともに伏せていた残りの子がいっせいに討ちかかり、敵は混乱に陥った。
「それ!みんな反転だ!」
宗隆隊も追っ手に向かって反転して散々に討ちかかった。
「ま、まいったよぉ!まったく、リュウなんかにゃあ天才参謀がいるもんなぁ。」
清光の作戦が大成功して勝利をおさめてこの日はお開きとなった。
「ヒカル。またしても成功だな!さすがは俺の従弟だ。」
「ありがと従兄上。ぼくなんかまだまだだよ!」
帰り道は従兄弟同士で仲良く話しながらかえる。都門が閉まる前に二人は蒼月の都・玄城についた。宗隆は宮殿に帰り、清光は玄城の一の郭内にある立花家の館に帰った。

2あずみ:2004/10/21(木) 23:38
第二話 (偉大な狐)
清光が自室に入って着替えをすませ、夕食を食べに行こうかとしたとき、大軍師で祖父の清茂に呼び止められた
「ヒカリや。帰ってきよったか。ま、ちと座って話そう。」
「えぇ・・じぃ様、僕はおなか減ってるんだよ〜」
清光はじぃ様の説教であろうとすでに気づいている。
「今日のざまはなんじゃ?あぁ・・このじぃ様が骨身を削って教えてやったのに何もわかっとらんのぉ・・」
袖で涙をぬぐうまねをする。
「えっ!?じぃ様はどこで見てたの??」
「はぁ・・あのような伏兵なぞすぐ見破られるわい。相手が下手だったからよかったものの・・」
清光は食事の前に嫌というほど兵法のおさらいをさせられた。
「まったく!どこで見てたんだよ!しかもおなか減ってるのに兵法のおさらいだなんてーあの狐じぃ様!」
「だれが狐じゃ?」
「わっ!じ、じぃ様!!急に出てきてビックリするじゃないかぁ」
(どこで聞き耳立ててるかわかりゃしないな・・この年になってますます狐だなぁ)
清茂は今年で御歳60をむかえる。若き頃から度肝を抜く数々の奇策で、三国からは清狐と呼ばれているが、年を重ねるにつれて日ごろの生活でも狐振りを発揮している。
「そうじゃ、明日はヒカルの元服であったな。ちとわしの部屋へこい」
そういって清茂は先に歩いていった。
 蒼月では一般に男子は15で元服することになっている。先週ようやく15になった清光も明日元服の儀礼を受けることになっている。
「・・また急に呼び出すなんて・・なんだろうなぁ・・」
不安そうに清茂の部屋へむかう清光であった。
「いよいよヒカルも明日からわしと同じく出仕せねばなるまいな」
「はい。じぃ様に追いつけるようにがんばるよ!」
なにを言われるか心配だった清光はキラキラした目に喜びがあふれる。
「こやつ、ぬけぬけと」
清茂もかわいい孫が元服を迎えることがうれしいようだ。ヒカルの頭をクシャっとなでる。
 しばらく孫に出仕することの心構えなどをうれしそうに諭していた清茂が表情を厳しくして言う。
「よいかヒカルよ・・。ぬしはまだまだ力が足りておらぬが、いずれ・・いや。なにがあっても軍師たるものが、己を見失ってはならぬぞ。主のあやまりには命にかえてでもいさめるつもりでかかるのじゃ。常に変化に備えておくこともわすれてはならぬぞ」
いつもと違う様子でかたるじぃ様を前にヒカルも緊張した様子で聞き入った。
「はい。じぃ様の言葉は肝に銘じておきます。」
神妙な表情で答える。
「うむ。やっぱりヒカルはいい子じゃの!ほっほっほ・・」
厳しい表情から一転してもとにもどってまた頭をクシャっとなでた。
 話を終えて清光は明日の準備をしに自室へもどった。清茂は障子を明けて夜空をながめる。夜空にはちりばめられた星が輝いている。
(ヒカルには強く結ばれるべき星があるな・・力強く輝いているが、ちとしんぱいじゃ)
星よみをしながら清茂の顔が曇った。しばらく夜空を眺めた後、清茂は室内へ戻った。
月と周辺の恒星へ影がさしたことには気づかなかった。この国を揺るがす足音にはまだ誰も気づいてはいない・・

3あずみ:2004/10/24(日) 22:55
第三話 (月陰る時)
 清光と同じく家へ帰った宗隆も自室で過ごしていた。この日は宮中の部屋に滞在する総隆だが、宮中の雰囲気が苦手な宗隆は普段、幼い頃に預けられていた但馬安房のところで寝起きする。
安房は蒼月国譜代の臣で、蒼月第一騎馬隊の将軍である。厳格な面構えに見事な口ひげをたくわえ、歳は40をむかえるがその武はまだまだ盛んで、宗隆の武芸の師匠をする。
 書を読んでいた宗隆はふと書から目を離して室内を見回した。
「・・・!?俺の刀が消えている!」
夕食に行く前に刀を室内へ残しておいたはずだが、室内には鞘も落ちていない。
「・・・誰がこの部屋に・・元服のときに父上からいただいたものだったからすぐわかるはずだが・・」
三年前の元服で宗重が宗隆へ柄に竜の紋を装飾して贈った銘刀・兼重だ。
 そのとき小者がやってきて、宗重様がお呼びですと告げにきた。了解の旨を伝えて立ち上がった。
「父上に申し上げてみるか・・・」
宗隆は本殿へと向かった。
 
 宗隆の刀が紛失したころ、一の郭にある邸内の一室に影のように人が降り立った。
「うまくいったか?」
「は・・これに」
「うむ。よし、次の手順にかかれ。」
軽くうなずいて影はまたスッといなくなった。
「ぬしは本気か忠明よ?」
老齢の者が言う。
「・・もはや流れ出したものはとめられぬさ和幸殿。」
「そうか・・されどあの狐に悟られはすまいか?」
「くっくっく・・あの老いぼれに今度ばかりは手をださせぬ」
 揺らめくろうそくの明かりに浮かんだ顔は鋭い切れ目で冷たい表情をした中年の者。九条忠明だった。忠明は蒼月の内務宰相をまかされ、切れ者として重宝されている。文官の仕事をしているが一軍の将をしていたときもあり、ひ弱な文官ではない体躯をもっている。
 忠明のほかに一室に集うのは寺内和幸をはじめとする忠明の省の部下達であった。
「月が陰るときこそ我らが動く・・」
 月とその周りの恒星に黒く影がさし忠明の顔に冷笑が浮かんだ。

 宗重の部屋の前についた宗隆は声をかける。
「父上。宗隆、まいりました」
ところが室内からは何もかえってこない。
「父上?おやすみですか?」
(部屋に明かりがまだともっているからそれはないはずだが・・)
「失礼します」
宗隆は戸を開ける。
 前にみたシンプルな宗重の間であるはずが畳には赤黒いしみが広がり、室内は血臭にみちている。何が起こったのか把握しかねていた宗隆は伏している者を見た。
「!?ち、父上!!」
宗重は机を前にして伏しており、胸には刀が突き立てられていた。宗隆はいそいでかけより助け起こす。
「父上!!どうされました!」
宗重はわずかに意識をもどした。
「ぐっ・・リュウ・・か・・気をつけ・・よ。」
それだけ言って宗重は再び意識を失った。
「父上!!くっ、だれがこのようなことを・・」
宗隆は父・宗重の胸に刺さる刀を抜こうと手をかけた。
「!?こ、これは・・俺の刀・・?」
 そのとき宗重の間の戸が開いた。
「宗重さ・・!!なにごとぞ!?ご、ご乱心であるか!!」
「ち、ちがうぞ!これは俺の部屋から何者かがこの刀を・・」
「宗隆様のご乱心であるぞ!!誰か!捕らえよ!」
弁解の余地もなく宗隆は捕らえられた。
 宗重は懸命な蘇生処置を受けたが、その命が戻ることはなかった。名君とうたわれし宗重はここで倒れた。月は影に覆われた。
「ふっふっふ・・あとは狐狩り・・」
忠明邸に宗重死すの知らせが入った。忠明は宗重の死はまだ清茂の知るところではない。明日は予定通り元服の儀がとりおこなわれる。

4あずみ:2004/10/27(水) 00:21
第四話 (争乱の元服)
 清光は元服の儀のため、白の束帯姿になっている。そのような格好をしてもまだまだかわいらしい少年の清光。なれない服装をしてちょっと戸惑っている。
「なんでこんなややこしい服着るのかなぁ・・」
「まぁちょっとの辛抱だ。がまんしろよヒカル」
清光の元服のために着任地より帰ってきた次兄の清澄は言う。
「兄上もこんなかっこさせられたんだ・・なんかつかれるなぁ」
「ほら!できたぞ。じぃ様と一緒にでるんだってな?普段なら父上が同伴しそうだけどなぁ・・」
「なんでも城から直々のお呼びみたいだそうで・・」
「・・ふーん。それなら仕方ないか。さ、しっかり受けてこいよ」
清澄に着付けをさせてもらった清光は礼をいって清茂の元へ行った。
 清茂は何か沈思していたので清光が部屋へやってきたのにしばらく気づかなかった。
「じぃ様?準備できましたけど・・」
「む。おお!にあっとるぞヒカル。かわいらしいのぉ!では早速まいるか」
表情を一変させていつもの表情に戻った清茂は用意させておいた馬に乗るために門へと歩いていった。
 日ごろ馬にも乗って遊んでいる清光だが、この日みる城郭内の様子は改まった様子に見えた。時々じぃ様の後をついていって入ったり、宗隆に誘われてくぐった城内への門が今日は厳しく見える。
(なんだか今日は城門が重苦しいなぁ・・)
 ふと清茂に目を向けてみると、日ごろ見られないような険しい表情をしている。
(じぃ様ったらあんなしかめっ面しなくったっていいのに・・)
 ゆっくりと城内へ入った二人は馬を預けて儀礼の間へ向かう。
「ヒカル・・わしとしたことが・・気をつけよ。なにも問い返すな・・!」
清茂は儀礼の間へ向かう途中に清光へ耳打ちした。立ち止まって聞き返そうとした清光だったが、清茂が制止したのでそのまますすんだ。
 儀礼の間には文武諸官が20人ほど集まっている。今日は元服も兼ねて、諸官の昇官の日でもあった。清光も元服のあとに官位をもらう。
ふすまを開け、一礼をして用意された席に二人はついた。

5あずみ:2004/10/27(水) 00:22
「・・」
(緊張するなぁ・・それにしても静かだ・・)
清光は緊張した表情でそのときを待っている。
(あれ??そういえば・・僕の元服には必ず出るっていってたリュウ従兄さんは城中でも会わなかったなぁ・・どうしたんだろ?)
清光はふと宗隆のことを考えた。
 そのとき、上座のふすまが開かれた。諸官は皆平伏しようとしかけたが、上座より現れた者が制す。
「そのままで結構。諸卿らのご列席まことに痛み入る。しかし、今日の儀は中止となった」
そう切り出したのは九条忠明。諸官がどよめき始める。
「困惑されたことはよくわかり申す。実は・・昨夜殿が、宗重様が殺害された」
室内はうってかわってしんとなる。
(う、うそだろ・・宗重様が・・)
清光も同じく驚きを隠せない表情になっている。清茂はじっと目をつむりその表情は窺えない。
「もちろん犯人は捕らえました。しかし・・その犯人というのもまた問題でした・・その犯人は宗重様が妾、側室のお子・宗隆様でありました」
「まさか!!」
 清光はついに耐え切れずに静寂をやぶって声をあげた。
「おや?このような童がなぜここへ?・・そうか、清茂殿の孫か。今日が元服であったか。残念だがまたの機会だ」
忠明は興味も示さずに冷たく答えた。
「従兄上がそんなことするわけない!」
「いやいや。我々も始めはそう思ったが、犯行を計画した書がでてきた。それに・・これ以上小童が口を出さないでもらいたい。」
忠明は不機嫌な表情になった。
「そんなこと!従兄上が・・」
さらに反論しようとした清光の袖を清茂が引いて制止する。
「ヒカル・・やめよ」
周りには聞こえないような声だったが、清光には厳しく響いた。
「じぃ様、だって・・そんなのおかしいよ・・」
「・・今は場が悪い・・うかつじゃった」
清光は無念そうに目を伏せる清茂の表情を始めてみた。
「じぃ様・・」
「さて。さらに追い討ちをかけるように我国にはもう一つ凶事が見つかりました」
 宗重の死を重く止めた様子もなく忠明は続ける。
「今ここにおわします軍神とあがめられる清茂殿は・・軍神などではない!」
淡々とした口調がしだいに憎悪を帯びた強い口調になった。
「過去に偉大な功績を残したのは素晴らしい。しかし、戦乱が少し落ち着いた現在・・清茂殿は隣国・尭安の者と密書のやり取りをし、あろうことに殿の暗殺を企てていたのです!」
忠明は手に清茂が書いたという密書をひろげて見せた。再び室内は騒然となる。
「宗隆様が殿を殺害したのと関係があるかはわかりませんが、目的は達されたのです。密約によると、殿の死をもって尭安は国境を越えて押し寄せる手はずとあります。その後幼き宗義様を擁してこの国の実権を手に治めるつもりだったのです!」
 最後まで語り終えた忠明は満足そうに冷ややかな目を清茂に向けた。今度の清光はあまりの衝撃で呆然としている。
「はっはっは・・そんな紙切れがなんの証拠かの?」
騒然とする中、清茂は臆することなく問い返す。
「これは清茂殿の直筆であろう?」
「はて?わしの字を手本に書の稽古をしたか。どれ、もっと手本はいるか?」
清茂の一言に忠明の顔は一瞬怒りがさしたが、もとの冷たい顔にもどる。
「貴殿が戦いで捕虜にした将兵から話は伝わっております。この通り証言の書も」
「ふむ。よほど筆の練習がしたいのか。はっはっは」
「どういっても証拠はあります。残念ながら貴殿を拘束します。・・やれ!」
 忠明の指示により待機していた警士が清茂をくくる。
「国の英雄とあがめられた方を処刑はできません。牢でごゆっくり余生をお過ごしください。北離宮の牢へ収監だ」
「じぃ様!!このーじぃ様をはなせ!」
これまでのいきさつを聞いていた清光が清茂を行かせまいとして警士につかみかかる。
「なんだ、まだいたのか。そんな小童は城外につまみ出せ」
清光は軽く抱えあげられて城門の外へ連れ出された。
「このような悪行を諸卿らは繰り返さぬことを願っております」
くぎをさすように言い放った忠明も退出していった。
 この日城下にこの件が公表され、城下に衝撃が走った。

6あずみ:2004/11/01(月) 00:06
第五話 (下された裁断)
 翌日も宗隆・清茂の反逆の知らせが広まった街では、騒然となっている。英雄とあがめられた清茂を非難する声もいたるところで聞こえる。宗隆に対しても主君殺しの大罪人として非難されている。公表によると今日、処断が決められる。
 裁きの間は畳敷きで腰ほどの柵によって罪人の場と傍聴人の場が区切られており、上座の一段ほど上がったところが裁き役奉行の位置となっている。その城内の裁きの間にはすでに文武諸官が詰め掛けている。その中には清光の父・清忠、次兄・清澄、清光の姿もある。長兄・清治は任地が北の国境の県と離れているために間に合わない。立花父子の表情は険しい。そんな立花父子に諸官らは興味の目や哀れみ、怒り、憎悪といった様々な視線を送っている。
 裁き役が室内に入ってきた。その後に続いて忠明も入る。
「皆、おあつまりいただき感謝する。さっそく罪人を召喚する。連れてこよ」
入り口付近に待機する警士はすぐさま外にいる宗隆と清茂をお裁き役の前に引き出した。
「うむ。さて、そのほう達は許されぬ大罪を犯した。しかし、申し開きは聞くとしよう」
はじめから犯人と決めたような様子で裁きは始まった。
「ふむ。申し開きとな?飾りだけのこととはいえご苦労じゃの。白に黒を塗るのがおぬしの仕事のようだのぉ。左官屋にでも転職したらええのにのぉ」
清茂はちっとも悪びれずに強烈な皮肉を言い放つ。裁き役の顔がゆがむが、ここはがまんして聞き流したようだ。
「清茂殿。まじめにしてくださらないと潔白が証明できませんぞ」
冷たい口調で忠明が言う。
「おや?裁き役でもないおぬしが口をだすのか?まったくもって不思議な茶番じゃ」
それでも毅然とした口調はやまない清茂。
「清茂殿は裁判を侮辱しておられるのか?このような態度だと罪を認めるということですかな?」
裁き役のがまんに限界がきたようだ。
「よろしい!清茂殿にはこれ以上の発言は必要ないであろう。次に・・宗隆殿。なにか申し開きは?」
「・・ない。俺がやってないという証拠が今のところはな・・」
 静かに毅然とした態度で答えた宗隆の言葉は場を静めた。
「ええ、ということは罪を認めるということだな?」
「耳も悪いようじゃの」
清茂がすぐに言い出す。
「清茂殿!またも侮辱するようなことを!余計なことに口をはさまないでもらいたい。両者とも特に申し開きが無ければ早速刑を言い渡す!」
がまんの限界を超えた裁き役が厳しい口調で言う。周囲の諸官も判決をまつ。
「両者とも死罪とす!きわめて極悪、酌量の余地なしである!!」
場がどよめいた。立花父子は拳を硬く握り締めている。
「ちょっとお待ちください」
 ここで忠明が口を開いた。
「確かに両者とも犯した大罪は許されません。しかし・・側妾といえども宗隆殿は宗重様のお子。清茂殿はこれまでの我国を支えた英雄。この二人を死罪とはあまりにも非道ではあるまいか。どうか死罪だけはお許しいただきたい」
立花父子だけではなく場にそろう諸官は皆驚きを隠せない。
「父上、どうして?」
「・・くっ!そうか、そういうことか。やるのぉ忠明」
「兄上、どうなってるの??」
「ヒカル・・とんだ茶番だよ・・すべては忠明のおもう通り」
 忠明の一言に再び判決を考えていた裁き役が顔を上げた。
「忠明殿のおっしゃることは一理ある。死罪当然だが、これまでのことを考慮に入れて再び刑を言い渡す」
場が静まる。
「清茂殿。そのほうは北離宮に収監する。宗隆殿・・そのほうは、蒼月より追放処分とする。以上!」

7あずみ:2004/11/01(月) 00:06
二人の沙汰を聞いてどよめく諸官らを制して裁き役が言う
「静まれ。さて、二人への沙汰は決まったが・・法度には罪人の御家にも罰を課するとある。だが・・宗隆殿は国主である桐祐家であるのでこれに罰を加えることはできん。なので・・育ての親としてきた但馬安房殿。その方をかわりに一の郭内の屋敷にて蟄居を命じる。」
宗隆のことが気になり裁きの間へ詰めていた安房はこの沙汰を神妙に受けた。
「次に立花家。その方達は宗重様のお膝元の封地をもらいながらこのような罪人が出るとは、許しがたし。現在の封地・玄州12万石より南端の永越3万石への転封を命ずる。これにてこの件の裁きを終わりとする」
清忠は顔をしかめていたが、安房同様に神妙に承るしかなかった。
 清茂と宗隆が警士に引っ立てられていく。これまで二人を見守っていた清光は会えなくなるという思いに抑えきれずに、柵をこえて二人のもとへ駆け出した。
「あっ!ヒカル!!」
隣にいた兄・清澄が止めようとしたが手をすり抜けていった。
「こらっ!小童がこのようなところへくるんでない!」
警士が出てきて止めようとする。
「よいよい。ふふふっ・・もう宗隆殿やお爺さまと会えなくなるからなぁ」
忠明が冷笑を浮かべながら言う。
「あにうえ従兄上!じぃ様!絶対にまた会えるよね??僕が絶対に二人の潔白を証明するよ」
「やっぱりヒカルはいい子じゃ。うむ、いつまでもまっとるからの!」
「ヒカル・・俺はしばらくこの国を離れる。お前と一緒にいれないのが残念だ。いつかまた会おう」
清光は二人としっかり抱き合った。
「さてさて、その辺で終わりにしてもらわないと困りますよ。さ、つれてゆくのだ」
三人の抱擁をさえぎるように忠明が言った。再び警士が二人を引っ立てていく。清光は別れまいと宗隆の手を握っていたが引っ張られていくと同時に手が離れる。
「・・僕は絶対にあの二人を助ける!お前の悪事を暴いてみせる!」
目に涙を潤ませながら清光はきっと忠明を見据えながら言った。
「それはそれは根も葉も無いことを。できるのならやってみるがいい」
例のように冷たい薄ら笑いを浮かべて言ったが、最後の方は射るように鋭い語尾になった。
 清光は兄・清澄に抱えられるように退出していった。
「ヒカル・・つらいとは思うがここは耐えるんだ。俺だってあの薄ら笑いを浮かべる野郎にお前みたいに言ってやりたかったな。よく言った」
清澄は優しく弟の頭をなでる。父・清忠は裁きの間から出たときからじっと黙り込んでいる。
(清光のあの眼光・・若かりしの親父にそっくりだ。やはりあやつは・・)
 立花父子が玄城を出る頃には日が沈みかけあたりは夕闇が迫っていた。館にさしかかろうとしたところで清光が立ち止まった。
「ん?ヒカル?どうした?」
清澄も心配そうに立ち止まる。
「・・僕、従兄上についていく!!従兄上の軍師になる」
「なに!?それはだめだヒカル!」
清澄は慌てて反対する。
「・・本気かヒカル?」
 これまで口を閉ざしていた父・清忠が口を開いた。
「お前はじぃ様そっくりだな・・父は止めはせぬ。じゃが、決して弱音は言うな。宗隆様をしっかり支えよ」
反対すると思っていた父が許してくれたのに清光は驚きを隠せない。同じように清澄も驚いている。
「なれど、父上!ヒカルがついていくのは・・」
「いや、それでよい。我ら一族は桐祐と切っても切れぬ縁。昔より代々参謀として仕えてきた一族だ。ヒカルも元服したからそれでよい」
反論する清澄を制して清忠は言う。あたりはすっかり夜に包まれている。三人は話を切り上げて館へ急いだ。宗隆の出立は明日。

8あずみ:2004/11/04(木) 22:21
第六話(出国)
 立花父子が館につく頃、忠明邸では和幸ら側近を招いて小さな酒宴を行っている。
「このたびはすべてうまくいきましたようで何よりでございます」
和幸が忠明へ酌をする。
「ふふふ・・皆もよう手を回してくれたのぉ」
薄明かりの部屋に忠明の冷笑が浮かぶ。
「明日あのこせがれが国をでるようで」
和幸の隣に座する爽炎和尚が言う。爽炎は書の名人であり、清茂の文書を偽造したことに助力している。和幸と同じく忠明の謀臣として重宝されている。
「影を放て。しかと後をつけさせよ。いずれ・・闇へ葬ってもらう」
「御意・・」
右目から頬にかけて鋭い切り傷がある隻眼のこの男は、忠明の隠密・影組の頭である壱岐幽才。
「うるさい立花も僻地へ左遷できましたのでご安心ですな」
「立花が封地・永越に落ち着いた頃尭安に攻め取らせ、立花を討ち滅ぼす・・我が願望が成就するのももう少しじゃ」
月の出ぬ夜に忠明邸でのひっそりとした酒宴は夜通し続いた。

 翌朝いつもより早く起きた清光はすでに宗隆を追うしたくを整えている。いつもは狩衣姿で過ごす清光だが、身分がばれないように今日は庶民の格好をしている。大人の着るものを着ているが庶民の子供のようにしか見えない
「ゆくか・・ヒカルよ。元服の儀は受けられなかったにしてももう15じゃが、やっぱりまだかわいらしいのぉ。されど・・宗隆殿をしっかり助けるのだぞ」
父・清忠が見送りに念をおし、路銀を十分に持たせる。
「ヒカル・・これを持っていけ。兄からの餞別だ」
清澄は自分の脇差を清光に贈った。
「父上、兄上ありがとう。僕は絶対に二人の無実を証明するよ!」
「ヒカル。母の分もしかと頼みます。宗隆は私の甥子でもあります・・」
昨夜は猛烈に反対していた母・小夜も目を潤ませながら清光の手を握る。この母ともしばらく会えなくなる。小夜は永越へは行かずに玄都にとどまることになっている。旧主の妹君である者を僻地へ行かせては失礼とのことだが、人質に違いない。
 朝日がのぼり、あたりに日が差してくる頃に清光は父や母、兄としっかり抱き合って宗隆の通る道へ向かった。

 日が高くなり始めたころに玄城から宗隆は移送されてきた。拘束はすでに解かれていたが、護送する警士は10人全員が完全武装の具足姿で鉄砲を持つ者もいる。移送される宗隆はまち城郭の中では民から多くの罵声を浴びせられた。
「よくも殿様を!!側妾の子のくせに!!」
だが宗隆は眉一つ動かさずにじっと耐えている。
「哀れなものよのぉ・・宗重様にあないに可愛がられていたのになぁ!民ともよく接し、慕われていたのが今日では手のひらを返すようになってのぉ!」
側に付き添う警士の頭が意地悪そうに言う。
「・・主人に餌をこびるだけのお前さんらより向こうのほうがずっと人間らしいじゃないか」
強烈な皮肉を返す。
「なにぃ!!こいつ調子に乗りやがって!?ふざけるなよ!」
顔を真っ赤にした護送頭が手を上げる。
「隊長!おやめください!」
 一人の警士が怒った頭をなだめる。
「ふんっ!いいか、次にそんな口利いてみろ!その馬から引き摺り下ろして引き回すからな!」
頭はしぶしぶ引き下がった。なだめた警士が宗隆のもとに馬を寄せる。兵にしては小柄な体躯の者だ。兜の中には子供っぽさが残る丸い顔がのぞく。
「おかげで殴られなかったよ。ありがとう」
「・・いえ。しかし、宗隆様も置かれた立場をお考えなさいませ」
頭に聞こえないように声を落として言った。続けてその警士はつらそうに言った。
「・・なぜそのような罪を・・私はあなたをお慕いしておりました。今でも信じられません・・」
「・・今弁解してもすべて言い訳にしか聞こえないだろう。だが・・父上を殺めたものは絶対に許さない」
宗隆も声を落としていったが、最後のほうは語気が強まっていた。
「宗隆様・・やはりそのようなことはやってないと?」
「・・信じてはもらえないだろうがな」
信じてはもらえまいと思い、宗隆はここで口をつぐむ。
「・・私がお力にはなれませんが、幸運を祈っております。その言葉を聞いてやはりやってということがわかりました」
宗隆ははっと顔を上げる。
「ありがとう。そうだ、そなたの名は?」
「申すほどの者ではありませんが、堀部源蔵と申します」
そう名乗って愛嬌のある丸い顔で少し微笑んだ。
「いい名だ。いつかまた会えるといいな・・」
少しさびしそうに言ってまた宗隆は口をつぐんだ。

9あずみ:2004/11/04(木) 22:22
 宗隆達が出発する前に立花の屋敷を出た清光は、一行が通る予定の中央街道にある茶屋についた。宗隆達が来るまで一休みに茶と団子をほおばっている。
(日が高くなったからそろそろかな・・)
最後の団子を口に入れたとき、街道に隊列を組んだ集団がやってくるのが見えた。茶で流し込んで代金を置いた。
 中央街道の北には尭安国に続くが、宗隆が送られる先は街道の南の外れで、その先は獣や蛮族の住む未開の地である。清光が休んだ茶屋の近くに小さな砦があるほかには南には関所はない。そのため清光は人に見られることなく一行より先に国境を越えることができた。清光は宗隆が来るまで岩陰に伏せる。
 隊は国境の近くで止まった。
「さあ、わしらはここまでだ!あとは好きに行くがいい。こっちに戻ってくる以外はな!おっと!馬はここまでだ。ここからは徒歩でいくんだ」
頭が嫌なものを放り出せたことでうれしそうにいう。堀部源蔵が用意された旅道具の入った袋を渡す。
「ありがとう。いずれまた」
源蔵がうなずいて手を差し出した。宗隆も手を出して固く握手して別れを告げた。
「ふん!源蔵!とっとと行かせろ!」
頭の怒鳴り声が聞こえたので宗隆は足早に南の森へ向かった。
(宗隆様・・どうかご無事で)
源蔵は小さくなる背中に向かって静かに祈った。

 森に入った宗隆は木陰を見つけて腰をおろした。
「さて・・これからどこへ行くかな・・」
疲れた口調でつぶやいた。
 しばらく仰向けで木々の間からのぞく空を眺めていたが、ふと周囲が気になって見回した。岩陰の方で目が止まった。
(誰がいる!?)
すると、岩陰のほうから人影が走りよってきた。
「従兄上!ご無事でしたか?」
とても懐かしく、一番聞きたい声だったがなぜこんなところで聞こえたのか宗隆は驚いた。
「ヒカル!?なぜお前がここに?」
「従兄上のお供に参りました」
清光はあどけない顔でにっこり微笑んだ。宗隆はだめだと反論しようとしたが、その笑顔にすっかり丸められてしまった。
「ふぅ・・お前が決めたなら止めてもついてくるなぁ」
苦笑いを浮かべながら宗隆は言った。
「はい!従兄上の軍師としてお供いたし・・あっ!」
「ん?どうした?」
「ぼ、僕・・元服の儀を受け損ねたから軍師は名のれないや・・」
元服しそびれたことを思い出して清光は悲しそうな顔になった。
「そうか・・俺でよければここで冠を授けよう。一応俺も父の血を引いているぞ」
宗隆が落胆する清光の肩をたたいて励ます。
「ほんとに?」
清光の顔がぱっと明るくなった。大きくて綺麗な黒の瞳が輝く。
「ああ。では・・汝は元服の年を迎え、主家に奉公することを許す」
「ありがたく承ります」
膝をついて臣下の礼をとろうとした清光を宗隆は止めた。
「いや・・ヒカルを臣下には迎えない。臣下ではなくこれからも俺のよきおとうと従弟としてこの満たない従兄を支えてくれ」
 宗隆の思いがけない言葉で清光はうれしさで胸がいっぱいになった。
「はい!もちろんです従兄上」
うれしさでいっぱいのとびっきりの笑顔を浮かべた。
「よし!これからも頼りにしているぞ」
宗隆もうれしそうに笑う。木漏れ日の差す道を二人は国を背にして歩いていった。宗隆18歳・清光15歳の秋、二人は旅立った。

10あずみ:2004/11/08(月) 23:53
第七話(湯煙の中)
 木陰で元服の儀をとりおこなった後二人はひらけた道を探して進んだ。中央街道から先は道がないと聞いていたが、小さくではあるが人が切り開いた道があった。きこりや森の住民が使う道のようだ。
「従兄上、どこへ向かっているの?」
やや疲れた様子で清光がたずねる。
「そうだな・・確かこの森にすむ人々のことを聞いたことがある。まずはそこにいってみようと思っているんだがな・・」
「道はこのままであってる?なんだかさっきから同じ風景だから心配・・」
清光は不安がっていたが、宗隆も実は不安であった。
 しばらく二人は同じような道を歩いていたが、川に出ることができた。その川にそっていくと小さな小屋が見えてきた。
「あ!従兄上、人がいそうだね!」
疲れが見えてきた清光は顔を輝かせていった。
「そうだな。いってみるか」
二人は小屋に向かって歩いた。
 小屋にたどりついたがどうやら無人のようだった。
「あれ?誰もいないのか・・」
気落ちしたように清光が言う。
「ふむ・・いつも使っている所ではないな。狩の時期に使うのかもしれん」
さいわい戸は開いたので今日はここで休ませてもらうことにした。
「ん?裏から湯気がでているな・・なんだ??」
小屋の裏に回ってみると、温水の湧きでる泉があった。
「従兄上、今日は湯につかれますね!」
歩き通しで汗にまみれていたので清光は喜んだ。
「そうだな!さっそく風呂にするか」
こんなところで湯につかれると思っていなかった宗隆もうれしそうにいった。
 湯の近くに脱いだ服を置く小さな棚があったのでそこで二人は服を脱ぐ。棚は比較的新しく、どこも壊れていないので近頃まで誰かがやはりこの小屋にいたのであろう。服を脱いで素っ裸になった二人はすぐさま湯に飛び込んだ。
「ふぅ・・やっぱり風呂は気持ちいいな!ヒカル」
「そうだね従兄上」
ここまで歩いた疲れがゆっくりと抜けていくようないい湯であった。
「ヒカル。元服したんだから少しは成長したかな?」
宗隆がいたずらっぽい口調で言う。
「え?・・・あー!?従兄上!!もう!」
宗隆が言ったことがわからずに一瞬ぽかんとした清光だったが、意味を悟った清光は顔を真っ赤にして宗隆に背を向けた。
「あはは!どうしたヒカル?俺の軍師がそんなんじゃだめだぞ」
笑顔で清光をなだめようとする。
「だってぇ・・」
まだ赤い顔をする清光はブクブクと顔を半分水に沈める。
「そのしぐさは相変わらずだな!さ、そろそろ上がるか」
 まだふくれっつらをしている清光の肩をたたいてなだめながら上がろうとしたとき、湯気の向こうに湯に入る人影が見えた。

11あずみ:2004/11/08(月) 23:54
「あ・・従兄上、だれかいるよ?」
「だよな・・?」
二人の間にも警戒の表情がただよう。
「あれれ?こんなところに他の人が??」
 湯煙の向こうからあらわれたのは少し日に焼けた褐色の肌で、肩まで伸びたやや茶色がかったしっとりした髪を揺らし、利発そうな顔でくりっとした瞳にも茶色がまじる女性、いや歳は二人と同じぐらいであろう少女だった。
「わっわわわ!?」
湯から上がりかけていた二人は慌てて湯の中に戻る。
「このへんでは見かけない人たちだね?」
対して少女は不思議がっていたが、ちっとも怯まない。
「す、す、すまん・・ここは女湯だったかな?」
さきほど清光をからかっていた宗隆も赤面しながらたずねた。
「ん?ああ・・別に私は気にしないわ」
「僕たちは気にするよね・・」
小さく清光がつぶやく。
「あら?あんたは女の子みたいに綺麗な顔だねぇ!髪も肌も綺麗だね。もう少し髪が長かったらわからないよ」
その少女が清光を見ながら言う。
「そ、そんなことないよ!」
言われた清光はさらに顔を赤らめながら返す。
「あの・・な・・お嬢さん。俺らはそろそろ湯から上がりたいんだが・・申し訳ないがちょっと背を向けててくれないか?」
 湯につかるのが限界に近づいてきた宗隆がすまなさそうに言う
「あらー?私にお気遣いなく。別に大して違うところなんて無いじゃないの。あ、最近はこの胸が膨らんできたから邪魔だな」
「いや・・やっぱり俺らが気にするんだが・・お嬢さん」
相変わらずちっとも気にかける様子のない少女に対して宗隆も同じことを言った。
「まったく、大してはずかしがるようなものでもないのにねぇ・・いいわ、しばらく後ろ向いてるから。そうそう、あなた達はあの小屋で休むんでしょ?私も行くから待っててね。名乗りおくれたけど、私は蓮花っていうの。よろしくね」
蓮花と名のった少女は言われた通りに二人に背を向けてくれた。そうして二人は急いで湯を飛び出した。
「あ、従兄上・・すごい娘でしたね」
「ああ・・都では、いや・・蒼月にはあのような女性はいなかったぞ・・」
 長湯した二人は旅の疲れとは別の疲れがあらわれていた。二人は少し落ち着いてから服を着て、言われた通りに例の小屋で待つことにした。


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