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( ^ω^)ブーンはガンダムのパイロットのようです

1 ダメな子 :2006/05/20(土) 23:47:35 ID:zOgHKKkU
これ以降、( ^ω^)ブーンはガンダムのパイロットのようです、の本スレはここになります
毎週土曜日、午後十一時過ぎに本分を投下します
気軽に感想などを書き込んでくれると、励みになります、物凄く

では、終結までしばらく、付き合ってくださいな

77 ダメな子 :2006/06/17(土) 20:34:51 ID:9H9yDngk
「やぁ、整備の手伝いかい?」
背後からの聞きなれない声に、ツンは振り向かず少し眉をしかめた
エリュシオンにきて三日、声をかけられることは少なくはなかった
つまりナンパ、彼らは欲求不満なのだろうか
まったく猿のような奴等だと、ツンはそういう人間を嫌悪していた
それは裏返しに、自分が魅力的であるということ証明でもあった
それ自体少し嬉しくもあったが、時と場合を少しは考慮すべきだと思う
いい加減うんざりしている
ξ゚⊿゚)ξ「言っとくけどね、私はアンタみたいな軽ぅい男が大っ嫌いなのよ! 他の人をあたってもらえるかしら!?」
ツンは振り返ると、ヒステリックに怒鳴った
ドッグという場所柄、元々騒がしかったので、周囲には悟られないだろうとここぞとばかりに大声を出した
少し、すっきりとした
相手には悪いが、身から出た錆びだ
しかしとうの男の様子を伺うと、全く動じた様子はなく、逆に、何を言っているんだと言いたげに眉を寄せていた

78 ダメな子 :2006/06/17(土) 20:37:51 ID:9H9yDngk
(´・ω・`)「別にそう言うつもりじゃないけど。ただ、君とは以前から話をしたいと思っていたんだ」
男はそう言うと、ふっと笑みをたたえた
ツンは改めて男を見直して、ぎくりと口元を抑えた
ξ゚⊿゚)ξ「アンタ……じゃなくて、あなたは……」
どこかで見覚えがある
そう、確か戦艦の中、ネルガルと話をしていた人だ
ξ゚⊿゚)ξ「もしかして、ブーンがいた艦の……」
(´・ω・`)「そうだよ。"イシューリエル"の艦長、ショボンです。ナンパじゃないから安心してね」
ξ゚⊿゚)ξ「あは、は……」
含みのある微笑みに、ツンは苦笑を漏らすほかなかった
しまった、また後先考えずに、しかも自意識過剰で罵声を発してしまうとは
きっと真面目な話をしにきたのだろう、今更に後悔する
誤魔化しの笑みも、ひくひくと引きつっている

79 ダメな子 :2006/06/17(土) 20:39:52 ID:9H9yDngk
ξ゚⊿゚)ξ「すいませんでした……私、てっきり……」
(´・ω・`)「いや、いいよ、気にしないから。僕も不躾だったしね。それに君は確かに可愛いから、ナンパされてると勘違いしても仕方ないよ」
ξ゚⊿゚)ξ「え……」
その言葉に、思わず顔を赤らめる
ショボンはそんなツンを見て、くすりと笑った
(´・ω・`)「じゃあ、少しだけ時間をもらえるかな? 色々話をしたくて」
ξ゚⊿゚)ξ「え、あ……ちょっと!」
ショボンはそれだけ言うと、ツンの返答を聞かずにドッグの出口に向って歩き出した
まだ、いいとは言っていないのに
意外と強引な人なんだな、とツンは思った
それからもう一度"レイジ"を見上げて、ショボンを追って歩き出した

80 ダメな子 :2006/06/17(土) 20:40:50 ID:9H9yDngk
ショボンはどうやら何処かに目的地があるらしいのか、こちらを振り返りもせずどんどんと進んでいってしまう
それでも歩く速さはこちらにあわせているらしく、置いていかれるようなことはなかった
しばらくすると、ショボンは昇降用エレベーターに乗った
ツンも付き従って中に入ると、既に1Fのボタンが押されていた
外へ出るつもりらしい
ξ゚⊿゚)ξ「あの、何処へ?」
(´・ω・`)「うん、ちょっとそこまでね」
ξ゚⊿゚)ξ「そこまで、ですか……」
それだけ話すと、会話は止まってしまった
エレベーターの中というものは、かくも皆無口になるものだ
気まずい沈黙を、操作ボタンの上にある緊急時の注意書きを見ることで紛らわせた

81 ダメな子 :2006/06/17(土) 20:48:35 ID:9H9yDngk
外へ出ると、ショボンは伸びをし、潮風を思い切り吸い込んでいた
そんな彼の行動を見ながら、ツンは顔をしかめている
ξ゚⊿゚)ξ「で、結局何処へ?」
(´・ω・`)「そこだよ」
潮風になびく髪を抑えながら、ショボンの指差す方に顔を向ける
海の家のような小汚い娯楽施設の付近に、ぽつんと小汚いベンチが設置されていた
(´・ω・`)「海辺でお話って、告白みたいで素敵だと思わない?」
ξ゚⊿゚)ξ「素敵ですけど、潮風は髪が痛むので嫌です。しかも、あれ汚いじゃないですか」
(´・ω・`)「海はいいよね。海は地球が生み出した自然美の極みだよ」
ショボンがベンチに向って歩き出してしまったので、しぶしぶついていく
ああ、この人は話を聞かない人なんだな、とツンは溜め息をもらした
(´・ω・`)「どうぞ。レディーファースト」
すっと手を差し出して、ベンチに座るよう促される
仕方なくちょこんと端のほうに座ると、ショボンが隣に深く腰を降ろし、疲れを吐き出すように息を漏らした
そっと髪に手を触れると、ざらりとした砂の感触があった
ああ、最悪だ

82 ダメな子 :2006/06/17(土) 20:50:09 ID:9H9yDngk
(´・ω・`)「さっき、そのあたりを走ってたよね」
そう言って、ショボンは砂浜の少し離れたところにある道路を指差す
昼間に昼食に入った食堂を抜け出した後、一心不乱に走っていた道だった
(´・ω・`)「昼間、ブーン君となにか言い合いしてたよね」
ξ゚⊿゚)ξ「見てたんですか」
(´・ω・`)「うん、まぁね。というか、現場にいたんだ。あそこの食堂、とんこつラーメンが美味しいらしいから連れてけ、ってうるさい奴がいてさ」
まぁ、そんな話はいいんだけど、とショボンは溜め息をついた
(´・ω・`)「とにかく驚いたよ。ブーン君と喧嘩でもしてるのかな」
ξ゚⊿゚)ξ「な、なんでそんなこと……」
ばつの悪いところを言及され、ツンは言い淀んで目を伏せた
ちらと海に目を向けると、夕日に照らされ、青は朱に染め直されていた
今朝見たときとは違う趣に、ツンは小さく感動を覚えた
しかし感動に浸る暇もなく、ショボンは言葉を続ける

83 ダメな子 :2006/06/17(土) 20:51:13 ID:9H9yDngk
(´・ω・`)「僕の勘違いだったのかな? なんだか喧嘩してるように見えたんだけど」
ショボンが口元に笑みを浮かべながら首をかしげ、こちらを覗きこんでくる
いきなり呼び出しておいてこんなことを聞くのは不躾だろうと、ツンは眉を寄せた
だがそれでも、先程のドッグでの無礼があったので何も言えないが
ツンはショボン気付かれない程度に肩を落とした
ξ゚⊿゚)ξ「喧嘩って言うか、なんていうか。最近、ブーンはたるんでるんじゃないか、って」
ブーンを独り占めにしているマナに嫉妬しているんです
などとはとても言えず、咄嗟にもっともらしい理由を後付けした
そして同時に、こうしてこそこそと陰口を叩くようなまねをしている自分に嫌気がさす
はっきりとブーンに自分の気持ちを伝えれば簡単なことなのだが、受け入れてくれるという確証がもてない今、怖くてそんなことは出来ないのだ
情けない、いつから私はこんなに臆病になったのだろうか
というか、ただこんな話をするためだけにわざわざこんな所に呼び出したというのか
昼間の出来事もあいまって、また怒りが湧いて、そして落ち込んできた

84 ダメな子 :2006/06/17(土) 20:52:14 ID:9H9yDngk
(´・ω・`)「要するに注意だった、ってこと?」
ξ゚⊿゚)ξ「え、ええ、まぁ……」
(´・ω・`)「ふうん、そうだったんだ」
ショボンの何処か含みのある相槌に、ツンは忸怩たる思いを抱いた
何が注意だ、馬鹿な
注意どころか、一方的で理不尽な理由で当り散らし、自分が引き起こしてしまった面倒の事の後処理まで押し付けてしまった
客観性と冷静さを取り戻した今となっては、自らの首を締めたくなるような思いに駆られる
嫌われたいのか、私は
(´・ω・`)「うん、まぁ、たしかにたるんでると言えばそうかもね。ここ三日間、彼はずっとマナちゃんと一緒にいるしね」
ξ゚⊿゚)ξ「え!?」
思わず語気を荒げてしまい、ツンは慌てて口元を抑えた
悟られてはいけない、気があるなんて思われたら、冷やかされるだけだ
出来るだけ平静を装って、努めて澄ました声を出す

85 ダメな子 :2006/06/17(土) 20:54:55 ID:9H9yDngk
ξ゚⊿゚)ξ「ず、ずっと一緒なんですか?」
(´・ω・`)「うん。起きてる時は大体一緒にいるんじゃないかな?」
ξ゚⊿゚)ξ「そ、そんなにべったりなの? ……ですか?」
(´・ω・`)「ですよ」
心なしか、ショボンはどこか楽しげに話している
それよりなにより、ブーンとマナが常時行動を共にしているとは知らなかった
確かにブーンを見かければ大体隣にマナがいたが、まさかそれほどまでに親密だったというのか
(´・ω・`)「でも、仲がいいことはいいことだよね。二人とも楽しそうにしているし。……まぁ、嫉妬してる奴もいるけどさ」
ツンは、ショボンが最後に何気なく足した言葉が自分のことを言っているのかと思い、どきりとした
嫉妬か、たしかにその通りだ
マナは自分より容姿も性格も優れているから、欠点を探して乏しめることも出来ない
彼女は自分にとって敵だったが、今は同志だし、ブーンにとっては私と同じく仲間だった
マナを否定できない以上、理不尽な怒り方しか出来ず、あんなことをしてしまって
私の立ち入る場所などないではないか
ツンは自分が極端なネガティブスパイラルに陥っていることにも気付かず、表情は翳りを色濃くしていった
横からツンの表情を観察してたショボンが、そんなツンの苦悩を感じ取って、納得したように頷き、口の端を持ち上げた

86 ダメな子 :2006/06/17(土) 20:57:31 ID:9H9yDngk
(´・ω・`)「うん……一つだけ聞いていいかな。君は、なんでここに残って戦うことにしたんだい?」
尋ねられたツンは、当惑した表情でショボンに顔を向けた
(´・ω・`)「ブーン君に聞いたけど、君は宇宙連合のエースだったそうじゃないか。それなのに何故なのかな、ってね」
ξ゚⊿゚)ξ「それは、その、えっと……」
ここに残ったのは、ブーンが残ったからだ
などとはいえず、再び咄嗟にもっともらしい理由を、と思ったのだが、いい案は浮かんでこなかった
今まで、こうして誰かに真意を問われたことなどなかったのだ、仕方がない
しっかり建前を考えておくべきだったかもしれない
ξ゚⊿゚)ξ「私も戦争はよくないな、って思って、それで……」
(´・ω・`)「……ホントにそれだけ?」
ξ゚⊿゚)ξ「それだけですけど……」
本当は皆のように、高尚な大義など持ち合わせなどいないのだ
戦争だって、私に影響を及ぼさないのなら、どうだっていいと思っている
誰が苦しもうが悲しもうが死のうが、私には関係ない
中立で戦争を止めようだなんて、流されただけの私は立派でもなんでもない
ξ゚⊿゚)ξ「ってか、さっきから何をニヤニヤしてるんですか?」
先程からこの男は、ずっと口元を緩ませたままでいる
気付かれないようにしていたのだろうが、私にはそんなものお見通しだ

87 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:00:09 ID:9H9yDngk
(´・ω・`)「え、そう?」
などと、とぼけるように笑うショボン
ツンは目を細め、眉間に皺を寄せた
ξ゚⊿゚)ξ「キモいです」
(´・ω・`)「え、ちょ、それは流石に酷い……」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなに私がおかしいですか?」
じとっとしたツンの剣幕は、子犬すら裸足でそっぽを向く程の迫力だった
むきになるツンに、ショボンは失礼だったねと苦笑した
また笑った! とその苦笑いにすら反応し噛み付くツンに、とうとうショボンは噴き出した
(´・ω・`)「やっぱり似てるよ、君は。僕の彼女に」
つぼにはまったのか、くつくつと笑い続けている
突然何を言い出すのかこの男は、わけがわからない
脈絡もなく、意味もわからない理由で笑われていたとわかったツンは、更に顔をしかめた
はじめ自分が彼に失礼をしてしまったことなど、ツンの頭には既にない
ξ゚⊿゚)ξ「彼女なんていたんですか」
(´・ω・`)「悪かったね、冴えない男でさ……」
先程までの笑顔と一転して、ショボンはがっくりと肩を落とした
ざまあみさらせ、人を笑った仕返しだ
しかしその辺りは大人の男の余裕なのか、ショボンはすぐに気を取り直し、話を続けた

88 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:02:05 ID:9H9yDngk
(´・ω・`)「まぁ、僕が冴える冴えないはどうでもいいんだよ。とにかく似ててさ、少し懐しくなったんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「はぁ……。どんなところが似てるんですか?」
(´・ω・`)「んー、まぁ、簡単に言えば、嫉妬深いところとか、世間知らずなところとか、視野が狭いところとか、自己中心的なところ……などなどかな」
一つ一つ指折りに数えながら、ショボンは空に目を向けて言葉を紡いでいく
それらを聞いて、ツンは更に深く深く眉根を磁石のように近づけた
ξ゚⊿゚)ξ「欠点ばっかりじゃないですか」
というか、そんなのと付き合っているこの男は、マゾヒストの馬鹿なのか
そして、そんなのと同系等の人間といわれた私は、馬鹿なのか
まったくもって憤慨だ
(´・ω・`)「たしかにそうだね。でも、少しは心当たりがあるんじゃないかな?」
ξ゚⊿゚)ξ「なっ……!」
好き勝手に言ってくれる
だがまぁ、たしかに自覚がないわけではないが
自分勝手な理由で嫉妬し、怒って、八つ当たり
あれ、まさに私じゃ……

89 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:04:20 ID:9H9yDngk
(´・ω・`)「……僕の彼女はさ」
ξ゚⊿゚)ξ「長くなるんですか?」
(´・ω・`)「ま、まぁ、そう言わずに聞いてよ」
ショボンは不満げなツンの顔から目を逸らすと、こほんと咳払いをして気を取り直した
(´・ω・`)「僕の彼女はさ、自分で物事を考えない人なんだよ。誰かに依存しないとダメなんだ。それでいて、その依存相手に嫌われないよう、無くさないように必死でもがく。それは愛情かもしれないし、確かに好意から来るもので嬉しいんだ。でも……」
ショボン言葉を、ツンは口を閉じて聞いていた
夕日が飲み込まれるように、海に沈みかけている
綺麗だ、と感じた
(´・ω・`)「彼女は自分の世界の中心に、他人を据え置いてしまっているんだ。そしてその周囲に、彼女が漂ってる。彼女の世界はそれだけ。それは彼女の生い立ちのせいでもあるんだけれど、愚かなことなんだ」
ショボンが何を言いたいのかを掴みかね、ツンの頭は軽く混乱していた
(´・ω・`)「彼女は誰かの目からしか世界を見ていない。だからその依存相手を盲目的に信じ、行動する。彼女は、自分の目で世界を見つめ、考えなくちゃいけないんだ。何が正しくて、自分はどうするべきなのかを。そして依存してしまっている相手を知らなくちゃいけない」
ショボンは、そこで言葉を切った
それから黙り込んでしまったので、二人の間に沈黙が流れる

90 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:07:50 ID:9H9yDngk
ξ゚⊿゚)ξ「……よくわかんないですけど。私がそうだ、って言うんですか?」
(´・ω・`)「さぁ、それはわからないな。人の心の中って言うものは、かくも計りがたいものだからね」
自分から話したくせに、と突き放すような言い方をするショボンに、ツンは釈然としないものを感じた
彼の言う彼女と、自分には共通する部分があるのだろうか
依存、好き
私はブーンの価値観に依存しているだけだ、と言いたいのだろうか
(´・ω・`)「話はおしまいだよ。ごめんね、つき合わせちゃって」
ショボンはベンチからし腰を浮かし、ぐっとのびをした
そして、座り込んだまま難しい顔をしているツンを、慈しみを込めた目で見下ろした
(´・ω・`)「最後に一つ。世界は、全てが対になって出来ているんだ。だから、どちらかだけでは、何かをすることは出来ないんだよ。まだよくわからないと思うけれど、君たちはまだ間に合うはずだから」
それだけ言うと、ショボンは片手を上げて帰っていってしまい、ツンは海岸に一人取り残されてしまった
夕日の朱が、名残惜しむようにゆっくりと水平線に引いていく
ブーンの価値観、意思、想い
私は知った気になっていただけなのだろうか
太陽が完全に没し、月明かりが差すようになったころ、ツンはベンチから立ち上がった
ぼんやり海を眺めている場合ではない
私はちゃんと、彼と話す必要があるはずだ

91 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:10:43 ID:9H9yDngk
ツンは一度自室へと戻り、シャワーを浴びてからブーンの捜索を開始した
面動で仕方なかったので、髪のセットはせずに部屋を飛び出した
大方ブーンはトレーニングルームにいるだろうと考え、ツンは足を速めた
しかし予想は裏切られ、トレーニングルームには誰もおらず、そもそも開いてすらいなかった
中から何か大声が聞こえたが、ブーンのものではないと判断し、ツンはそこを離れた
ブーンのことだから、ここに篭って訓練でもしていると思ったのだが
ならばドッグだろうかと思い至り、ツンは小走りでそこへ向った
ξ゚⊿゚)ξ「あ、あれって……」
ドッグへ向う長い廊下の前方に、長い黒髪をたたえた女が歩いていた
マナ「あ、ツンさん、こんばんは」
やはり、と思った
マナはツンの足音に気がついて振り返ると、軽く頭を下げ、ツンに近づいた
気まずさからツンはマナを正視できず、小さく頷いて挨拶を返す
マナは先程のことなど気にしていないのか、相変わらず普段の優しげな表情をしている

92 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:11:27 ID:9H9yDngk
ξ゚⊿゚)ξ「昼のことだけど、悪かったわ。……私、馬鹿だった」
目を逸らせたまま、謝罪の意を告げる
マナは予想通り、気にしていないですよ、といい人振りを発揮して、私の愚考を許した
やはり私ではかなわない
私はこの人のように優しくもないし、綺麗でもない、ショボンの言うとおりのダメ女
彼女こそ、ブーンに愛されるべき人間なのだ
自然と頭が下がって、伏目がちになる
敗北者の様相だ
マナ「あの、私ツンさんに一つ、言っておきたいことがあるんです」
マナの言葉に、ツンは顔を上げる
マナ「内藤さんは、私のことが好き、というわけではないんですよ」
少し残念そうに微笑みを浮かべると、マナは言った
突然の告白とその内容に、ツンは当惑し、眉をひそめた

93 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:15:06 ID:9H9yDngk
ξ゚⊿゚)ξ「な、何を言ってるの? そ、そもそも、いつ私がアンタとブーンの関係を教えてくれなんて言ったのよ」
大体、その口ぶりでは、私がブーンのことを好きだと知っているようではないか
しかも妬いているのを知っているような言い方だ
マナ「すみません、私が言いたいんです。少し、聞いていただけますか?」
だがまぁ、聞いて欲しいなのら、聞いてあげようじゃないか、仕方ない
それに、元々気になっていたことでもあったので、ツンは首を縦に振った
マナはある程度、ツンの扱い方を理解していた
ツンが頷いたので、マナはありがとうございます、と頭を下げた
マナ「内藤さんは、私ことが好きだからという理由で、私を気にかけてくれているというわけではありません」
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあなんで。まさか、既成事実……」
マナ「いえ、そういうわけでは……。内藤さんは、私の兄を殺してしまったんです……。ですから、彼はそれで自分を責めているんだと思います。私を大事にしてくれるのは、兄を奪ってしまったせめてもの償い、ということなんでしょう」
ξ゚⊿゚)ξ「お兄さんを……!?」
マナの話を聞き、ツンは絶句して言葉を失った
そんなことがあったのかと、同情を孕んだまなざしでマナを見つめる
だが、ということは、ブーンが宇宙連合軍を裏切ったのは、マナが脅したからではないのか?
まさかこの女がとも思ったが、口にしてみる

94 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:17:33 ID:9H9yDngk
マナ「いえ、私は自分の口から、内藤さんが私の兄を殺したとは言っていません。内藤さんの記憶が戻った時に、内藤さん自身の口から、それを私に伝えてきました」
それなら何故と、ツンは釈然せず、話を続けるよう目で促した
マナ「内藤さんは、とても責任感の強い人なんですよね。自分に出来ることがあるのに、それをしないのはダメだと、そう感じたんだと思います。劣勢にあった私たちを、助けずにはいられなかったのでしょう」
ξ゚⊿゚)ξ「……そう、だったんだ」
そのことを、ツンは誇らしく思った
あの時、敵として現われたブーンと対峙した時、殺してしまいたいと憎んだことすらあった
私たちを裏切って、敵軍に協力するなんて、と
だがその実、やはりブーンは、たしかに私の好きなブーンだったのだ
人のためになるならと、一心不乱に頑張る人間
今も昔も、記憶がなくなったときでも
マナ「内藤さんは、嫌なんだと思います。戦争で人を殺して、仮初めの平和を手に入れたとしても、本当に心から幸せだとは感じられなくなってしまうことが。それでは、私と内藤さんのように、決定的な、癒えない隔たりが出来てしまうから」
ブーンは優すぎるのだ
おそらく地球連合兵として、元々は仲間だった私たちと戦っている間も、きっとずっと辛い思いをしてきたのだろう
それでもだましだまし、実際に手の触れられる、声が届く場所にいた彼女たちを助けるために戦った
ブーンは本当に、心の底からのお人よしの、馬鹿だ
そう罵りつつも、ツンはそれを嬉しく思った

95 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:18:36 ID:9H9yDngk
ξ゚⊿゚)ξ「そっか。全部、私の勘違いだったってことか……」

彼にとって、世界に生きる全てのものが、等しく愛しい、守りたい、死なせたくない存在なのだ
それが彼の価値観、だからこそ、片方しか守ることの出来ない二極を抜け出して、ここにいる
彼がこの道を選んだのは、偽善でも利害でもなく、必然だった
全てが幸せを享受する世界でこそ、彼は幸せになれる
私もやはり彼と、彼の守りたいものを守りたい
結局、結論は同じだ
だが、これは彼への依存ではなく、私の意思
全ての中から特別として選んでもらうのは、全てが終ってからでも遅くはない
このとき初めて、ツンはショボンの言わんとするところを理解できた
全体があるから、特別が存在する
世界があるから、愛しい人がいる

96 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:20:01 ID:9H9yDngk
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっとついてきて」
マナ「あ、え……?」

ツンはマナの腕を掴むと、ぐいぐいと引っ張って歩き出した
ドッグへと入ると、ツンは確信めいた足取りで進んでく
マナはツンの意図を解することが出来ず、半ば引きずられるようにしてドッグを横切っていく
しばらく進んだところで、ツンは歩くのを止めた
そこはドッグの隅、彼女の使っていた剣が佇んでいる場所
淡紅の機体を見上げ、ツンは満足げに微笑んだ

ξ゚⊿゚)ξ「V-103"レイジ"よ。マナが乗ってた地球連合の機体なんかより、ずっと強いわ」
マナ「え……これを、私に?」
ξ゚⊿゚)ξ「ええ、マナが使って」

ツンの申し出に、マナは困惑した表情をみせた
マナが乗っていた機体は、"ヘル"の試作機
スペックも武装も、"レイジ"の方が、圧倒的ではないにせよ上だ
ツンは表情を和らげると、マナの片手を取った

97 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:22:08 ID:9H9yDngk
ξ゚⊿゚)ξ「私も、あなたには死んでほしくない。だから、この子を使って」

肉親を殺されて、仇が目の前に現われて、私ならきっと絞め殺していた
だが彼女は微笑み、凛として、憎しみの感情など微塵もうかがわせない
何故私は気付かなかったのだろう、マナという人間が、こんなにもき然として美しい人間なのだと
無理もない、気がつけるはずがない
彼女を敵として見ていた自分に、真に彼女が見えるはずがなかったのだ
その視点からでは、敵という認識以外生まれない
突然手を握られたマナは、少し驚きつつも、ツンの態度の変化を好意的に受け止めていた
マナはありがとう、と微笑みを漏らし、あいていた手でツン手を包んだ

ξ゚⊿゚)ξ「い、言っとくけど、貸すだけなんだからね! 壊したりしたら、絶対に許さないわよ?」
マナ「はい、わかりました。約束は、絶対に守りますよ」

二人は、互いに顔を見合わせると、破顔一笑した
友情の発露を、ツンは感じていた
彼女とは戦争が終ったあとも、ずっといい友人でいられると、奇妙な確信があった
守ろう、この人も
きっとそれは、彼女のためだけではなく、私のためでもある
自分が幸せになるために、相手を幸せにするために、愛があり、絆がある
規模は異なれど、それは全てに通ずること、全てを巻き込むこと
そう、きっとブーンも、同じ想いなのだ

98 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:23:59 ID:9H9yDngk
( ^ω^)「おーい、マナちゃーん!」

視界の外から声が聞こえてきて、二人はそちらに目を向けた
どことなく疲れた様子のブーンが、こちらに向って走ってきていた

( ^ω^)「あ、ツンも一緒だったのかお? って、どうしたんだお?」
ξ゚⊿゚)ξ「なにがよ?」
( ^ω^)「手なんかつないじゃって……」

ブーンは視線を落とすと、二人の繋がれた手に目をやった
ツンとマナはそこで急に気恥ずかしくなって、ぱっと手を離した

マナ「あ、そ、それで、一体どうしたんですか? 私に用があったみたいですけど」

話題をらせようと、マナがブーンに言った
するとブーンは気まずげに口ごもり、もじもじとしだした

ξ゚⊿゚)ξ「なによ、気持ち悪いわね。さっさと言いなさいよ」
( ^ω^)「いや、実はそのね……やったのは僕じゃないんだけどね、実は、その……」
ξ゚⊿゚)ξ「だからなんなのよ、焦れったいわねぇ!」
( ^ω^)「"ヘル"、壊しちゃったんだお……」

その言葉にマナがピクリと反応を示すと、ブーンは弾かれたように膝を折り、額を油の浮いた床に擦り付けて土下座した
思えば、あの時トレーニングルームに響いていた怒声は、ブーンが叱責されていたときのものだったのかもしれない
気付くと、マナがあわててブーンに駆け寄り、そんなことしないでくださいとなだめていた

99 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:25:37 ID:9H9yDngk
マナ「"ヘル"のことは気にしないで下さい。元々、もらい物でしたし……。それに今は、この機体を譲っていただいたので、まだ私も戦えますから」

マナの言葉に、ブーンは頭を上げた
そして"レイジ"を見上げると、驚いたようにツンの方に目を向けた
その視線にツンは照れて、さっと目を背けた

( ^ω^)「この機体って、確かツンのじゃ……」
ξ゚⊿゚)ξ「そうよ。なんか文句あるの?」
( ^ω^)「いや、ないけど……。でも……」

もう一度ブーンは"レイジ"を見上げると、首を捻った
そのうちなにかに気がついたのか、ぽんと手を打ち合わせた

( ^ω^)「ツンがトランプで負けたんだお! ツン、昔から引き運がなかったお」
ξ゚⊿゚)ξ「それはひっとしてギャグで言ってるのかしら?」
( ^ω^)「冗談ですお……」

そうは言ったものの、半分本気でそう思っていたのか、ブーンは再び首をひねった
一向に答えが出てきそうになかったので、ちょんとマナを小突く
わかりました、とマナは小さく笑った
悪かったわね、自分で言うのは恥ずかしいのよ

100 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:27:08 ID:9H9yDngk
マナ「内藤さん、この機体は私とツンさんの……そう、友情の証なんです」
( ^ω^)「友情? 仲良くなったのかお?」
マナ「ええ、そういうことです。和解、といったほうが正しい気もしますけれど……」

話を進める二人を眺めながら、ツンは苦笑していた
友情の証だなんて、なんと恥ずかしいことを言うのか
案外抜けているところもあるんだな、などと思いながら、ツンは"レイジ"を見上げた
ねぇ"レイジ"、アンタ兵器なのに、友情の証になれたわよ
初めてアンタに会った時、私はアンタを要らない、なんて思った
でも、今こうしていると、アンタと一緒に戦ってきた時間は、決して要らないものなんかじゃなかった
感謝してる、これからは、私の大切なものを守って戦ってほしい
ありがとう、今まで、そしてこれからも、よろしく

( ^ω^)「ツン、そういえば可愛い服着てるお。凄く似合ってるお」
ξ゚⊿゚)ξ「……言うのが遅すぎるのよ、馬鹿ブーン」

"レイジ"の表情は、光の加減かどこか、嬉しそうに微笑んでいるように見えた

101 ダメな子 :2006/06/17(土) 21:29:41 ID:9H9yDngk
今週分の投下終了です
セリフと地の文の間隔をあけるのを忘れてました、すみません

えー、来週の投下はお休みさせていただきます
色々用事が立て込んでいるので…
では、そろそろ雨ばかりの季節を迎えそうですが、くじけず頑張ろうと思います
また再来週に会いましょう

ノシ

102 名無しに変わってブーンします :2006/07/01(土) 22:35:19 ID:lSnK9C5I
と、再来週なわけですが、ちょっと無理だったっぽいです、試験がありまして……
期待してくれていた方、すいませんでした
今週中に一本と、また土曜日に一つあげますので……出来たらですが

ところでキョンラジおもすれー( ^ω^)
では、申し訳ありませんでした
ノシ

103 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:06:08 ID:0wsA7BlM
成績不振で呼び出されそうです
ということで全然約束守れてない上夏休み前に終えるなんて夢のまた夢ですが、頑張ります

では、いまから投下です

104 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:08:55 ID:0wsA7BlM
( ^ω^)「ツン、そういえば可愛い服着てるお。凄く似合ってるお」
ξ゚⊿゚)ξ「……言うのが遅すぎるのよ、馬鹿ブーン」

モニターの中で、ツンとブーンが笑っている
立派な出歯亀行為だったが、まぁ気付かれないのなら問題ないだろう
前回の戦闘以、険悪な関係になっていた二人だった
どうやら、マナという地球連合軍の兵がうまく仲を取り持ってくれたらしい
個人的にはどうでもよいことだが、それによって戦力の向上に繋がるのなら一向に構わない
まったく暢気なものだ
ヱアは小さく溜め息をつくとシートにもたれかかり、目を伏せた

105 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:09:41 ID:0wsA7BlM
ネルガル「やっぱり行かないほうがいい方がいいと思う。せめて、ついていけたらいいんだけど」

空港の一角に、周囲と同じように見送りにきている家族があった
しかし彼等は一様に沈んだ表情をしており、家族の旅立ちを歓迎はしていないようだった
沈黙の破ったのは、そろそろ中年に差しかかろうかという、優しげな顔立ちをした男だった

ヱレ「大丈夫ですよ。国司を殺すようなこと、しないでしょう」

言葉を向けられた女性は、ダダをこねる子供を見るように苦笑した
それでも諦めきれず、ネルガルは食い下がった

ネルガル「でもやっぱり、君が行くことないと思う。だれか他の人を……」
エレ「どうせ、いつか誰かが言わなければならなかったことです。なら、私が行きたいのです」
ネルガル「ヱレ……」

妻の言葉と瞳に、ネルガルは強い意志を感じ、口をつぐんだ
ヱレは膝を曲げると、立ち尽くしているネルガルの隣にいる双子の少年と少女を、そっと抱きしめた

ヱレ「すぐに帰ってくるから、心配しないで。いい子で待っててね」

微笑みを向けられ、少女はうん、と首を縦に振った
少年は感極まってしまったのか、歯を食いしばり、うっうっと泣き出してしまう

106 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:12:31 ID:0wsA7BlM
エレ「大丈夫だから、ね? 帰ってきたらまた、一緒にお散歩に行きましょう?」

ヱレが困り顔でそう言うも、少年は首を横に振る
ネルガルの落ち着きのなさや、ヱレの顔に漂うかすかな悲哀から、ヱアはただ事ではないと子供ながらに感づいていた
地球連合の代表に中立国家の国司として、ヱレは物申しに行くのだ
年々緊張化が進んでいく地球民と宇宙民の関係、無言の圧力、秘密裏に、かつ着実に増強される軍事力
事態の悪化を懸念したエリュシオンは、地球総連議長ヴィネの元へと国司を派遣し、会談の場を設ける手筈となっていた
国司とはすなわち彼女、ヱレ
ネルガルの妻であり、そして双子の親でもある

ヱア「だって、母さん……! ちゃんと……本当に、帰ってくるの……?」

優しく微笑むエレに、、ヱアが嗚咽を堪えながら言葉を吐き出す
後から後から溢れ出してくるヱアの涙を、ヱレは人差し指でそっと拭ってやった
ヱアの隣で難しい顔をしていたヱイルも、ヱアの悲しみにあてられ、顔を俯けた

ヱレ「大丈夫、約束するわ。……そうだ、これ、あなたが持っていて」

そう言ってヱレはヱアの手を取ると、エレはその上に銀色の輪を落とし、そっと握らせた

ヱレ「お父さんに貰ったものなの。私が帰ってきたら、返してね?」

突然指輪などを渡され、ヱアは呆けた顔で自分の手とヱレの顔を交互に見比べた
自分の大切にしているものを残していくということがどういうことか、ヱアにはよくわからなかった
ヱアが指輪をに意識をやっているうちに、ヱレはヱイルに顔を向けた

107 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:13:04 ID:0wsA7BlM
ヱレ「ヱイル、ヱアのこと、お願いね?」
ヱイル「うん……。必ず、帰ってきてね……」
ヱレ「ええ」

こくりと頷き、ヱレはすっと立ち上がった
ネルガルを振り返り、ふっと微笑みかけ、口を開いく

ヱレ「では、そろそろ行きますね」

しかしネルガルはヱレと目を合わせることをせず、強く拳を握っていた
そして思いつめたように伏せていた顔を上げると、決然と言う

ネルガル「やっぱりダメだ、こんな。会談は中止しよう。危険が大きすぎる」

言うと、エレは少し眉を寄せた
そう、危険が大きすぎるのだ
元々この会談を提案したのはヱレであり、ネルガルの本意ではなかった
中立という立場ゆえ、せめての戦力を溜め込んでいるエリュシオンだ
隠蔽に気を払ってはいるが、それも完全には隠しきれてはおらず、何かと昔から目をつけられていた
会談を受けたのも、推測ではあるが、おそらくは誘い込むためだろう
行って余計なことを言えばば殺される、口を出すなと見せしめにされるのは明白だ
それはヱレだってわかっているはずなのに

108 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:14:46 ID:0wsA7BlM
ネルガル「僕達は中立の国家だ。勝手に始めようとしてる戦争なんか放っておけばいい! 僕たちには関係ない!」

そう、搾り出すように叫ぶ
関係ないのだ
どうせ蚊帳の外の戦争、おそらく巻き込まれることもないだろう
十中八九、地球連合の大勝で戦争は結末を迎えるだろうから
放っておけばいいんだ、そんなものは
わざわざ危険を冒してまで、止めようなんて馬鹿げている

ヱレ「そういうわけにはいかないでしょう」

しかしヱレはネルガルを真っ向から見据え、言った

ヱレ「中立とは、ただ黙ってみているだけが許されるという立場ではありません。何も言わないのは、黙認と同じ事。間違っていることは、言及しなければいけません。止めてください、と」
ネルガル「でも、それじゃあ、君が……!」
ヱレ「私のことはいいのです。それより大切なのは、平和を訴えること。戦争を望まない力ない人間の、代弁をしなくては」

私たちこそが、とヱレは言葉を続け、再びふっと笑んだ
口調も立ち振る舞いも柔和な彼女は、しかし自分の意見だけは、こうと決めたら頑として譲らない
そうと知っているから、ネルガルはぐっと唇を噛んだ

ヱレ「大丈夫ですよ。言葉は伝えるためにあるのですから。だから、きっと上手く、平和なままでいられるはずです」

それが、彼女の最後の言葉となった

109 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:19:43 ID:0wsA7BlM
母は、飛行機事故で死んだことになっている
当然連中が殺したのだ、波風を立てないように申し訳程度の隠蔽工作をして
母が死んだと聞いて、俺は何を感じ、どうなったのか、よく覚えてはいない
ただ憎悪があり、殺意があった
何故と、何故平和を願って殺されなければらないのだと、そう思った
そして今も、これからも感情は変わらない
だが母は、平和を望んでいたのだ

110 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:21:59 ID:0wsA7BlM
ヱイル「……ア、エア! どうした、大丈夫か?」
エア「……姉さん……?」

不意に暗闇から姉の声が聞こえてきて、目を開けるとハッチの上にヱイルが佇んでいた
そうか、僕はいつのまにか眠ってしまっていたらしい

ヱイル「うなされていたぞ。本当に大丈夫か?」

覗き込むようにしてこちらの様子を伺うと、ヱイルは狭苦しいコックピットの中にずかずかと入ってきた
パイロットシートに張り付いていた体を起こそうとすると、額に手を当てて止められる
熱でまいっているとでも勘違いしているのだろう、心配性な姉だ
大丈夫だよ、となるべく優しげな声を出す
それで安心したのか、ヱイルは心配げな表情をしながらも、手を引いた

ヱイル「まったく、余計な心配をさせないでくれ」
ヱア「ごめんね。ちょっと、昔のことを思い出しちゃって」
ヱイル「昔のこと?」
エア「母さんのことだよ」

言うと少し、ヱイルの顔が引きつった

111 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:22:46 ID:0wsA7BlM
ヱイル「……そうか」

普段は気丈なヱイルらしくない、翳りのある複雑な表情を見せる
元来、彼女はそれほど強い人間ではないのだ
ただ母から僕のことを任されたから、こうして口調まで変えて演技をしている
どこか母の面影の残るその悲しげな顔に、いたわるようにそっと手を伸ばす
ヱイルは目を細ると、僕の手を握った

ヱイル「大丈夫だ、私は……。それより、エアは大丈夫なのか、本当に?」
エア「僕は大丈夫だよ。……むしろ、いい気分だ」
ヱイル「エア……?」

ヱイルがこちらに訝しむような視線を、こちらに向けている
僕はいつのまにか、普段彼女の前ではしないような表情をしていたらしい

エア「いや、もうすぐ戦争が終ると思うと、嬉しくてさ」

慌てて自身で助け舟を出す
それでヱイルは納得したのか、そうか、と言って普段の仏頂面に戻った
気分がいい、本当のことだ
次こそきっと、この"パニッシュ"を存分に操ることが出来るだろう
その一瞬のためだけに、今までを生きてきたようなものだ
気分よくならない方がおかしいだろう

112 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:23:34 ID:0wsA7BlM
エア「……あのさ、姉さん」

言いながら、自分の左手を広げ、見つめる
一本だけ不恰好に細くなった指がある
あの日あの時母に貰った指輪を、母がしていた指と同じ指にずっとはめ続けていたのだ
その細い薬指はめられたそれを、宝物を扱うようにそっと取り外す

エア「これ、姉さんが持っててよ」

手のひらに乗せて差し出すと、モニターの光を受けて指輪はきらりと光った
ヱイルは困ったような表情をしている
どう反応していいのか、わからないでいるのだろう

エア「MSを操縦する時、危ないんだ」

適当に嘘を並べる
MSに乗る時はそもそもパイロットスーツなので、指輪程度で危険にはならない
嘘をついてでも、この指輪はヱイルに持っていて欲しかったのだ
いや、そうではない、自分でが持っていてはよくないからだ
当のヱイルは、こくりと頷いていた

ヱイル「そうか。ならば、私が預かっておこう」

ありがとうと言い、差し出された手の上に銀色の輪を落とし、そっと握らせた
いままであって当然だった位置から指輪が失われ、なんとなしに落ち着かない気分になる

113 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:24:26 ID:0wsA7BlM
エア「姉さん……」
ヱイル「なんだ?」

ヱイルが指輪を手の上で弄りながら、こちらに顔を向けた
平和を願って死んでいってしまった母の指輪
自分に持つ資格が、果たして戦後に残っているだろうか
それよりも、それ以前に……
なればヱイルに、きっと綺麗なままでいるだろうヱイルに持っていて欲しい

エア「その指輪、汚さないようにね」

そう微笑みながら言うと、ヱイルはさも当然といったように頷き、無論だ、と指輪を握り締めた

114 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:25:54 ID:0wsA7BlM
暗い部屋の中、ヴィネはベッドに腰をかけ、一人すすり泣いていた
胸に硬く一枚の写真を抱いて、唇を噛み締めている

ヴィネ「ショボン、私……」

幾度となく悲しみの波が押し寄せてきて、涙は先程から留まるところを知らない
目を閉じれば嫌でも思い出す、あの光の柱
多くの人を飲みこんで死に追いやり、ショボンを殺した悪魔の所業
あまりに理不尽すぎる暴力
奴らは人間じゃない、悪魔だ
何故、あんなことが平然と出来るのだ
悲しみと怒りが入り交ざり混沌として、ヴィネは炸裂しそうになる感情を歯を食いしばって必死に抑えた

SP「ヴィネ様、時間です。こちらへ」

不意の声に顔を上げると、いつのまにかSPが部屋に入ってきていた
慌てて袖で涙を拭う
しかしSPは私の挙動などには全く興味がないのか、何故と尋ねることすらしなかった
もっとも強い黒のサングラスをしていたので、何を考えているのかは推し量れなかったが
SPは淡々と言葉を続ける

115 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:27:04 ID:0wsA7BlM
SP「暗唱に問題はないですか」
ヴィネ「はい……問題ないです」
SP「では、早急に化粧を。その姿は人々の前に立つには相応しくない」
ヴィネ「すみません……」

SPの言葉には、一片の感情も含まれてはいなかった
あくまで事務的な、機械を相手にするような話し方だ
所詮私は父の人形、それも当然といえば当然か
いや、人形でも持ち主からの愛を受けることは出来る
ならば私はさしずめ、手段として存在する選択肢の一つでしかない

SP「ではこちらへ。時間は余りありませんゆえ、急いで下さい」

それだけ言うと、SPは部屋から出るように促し、先に出て行ってしまった
その後ろを、付き従うようにして歩く

116 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:27:40 ID:0wsA7BlM
SP「オットフリート様は、次回の戦闘で全てに決着を受けることを望んでいます。あなたのミスで士気に影響を及ばせぬよう、頼みますよ」
ヴィネ「はい、わかっています……」
SP「では、私はこれで」

SPはすっと小さく会釈をすると、面倒がやっと片付いたとでもいうように溜め息をつき、議会堂の方へと消えていった

侍女「では議長、こちらへお願いします。化粧の手配が出来ております」
ヴィネ「わかりました……」

議長である私、マリオネットである私、オットフリートの娘である私
ただそれらは役割と、立場でしかない
ショボンが死んだ瞬間に、ヴィネという人間もまた、生きる場所を失ってしまったのだ
ならばせめて、一矢報いたい
私とショボンを殺した敵に、復讐を
敵に同じ苦しみを、悲しみを、死を与えてやるのだ
怨敵が滅び行く瞬間を夢想して、ヴィネはくつくつと口元を歪めた
とうに先程までの泣き顔はなく、恰幅のいい侍女に連れられて、ヴィネは狂乱の宴の火付け役を遂行するための準備に向った

117 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:29:27 ID:0wsA7BlM
ヴィネ「先の戦闘で、我々は多くのかけがえのない命を失いました。何故、こんなことを平然と出来るのでしょうか!? 我々はただ平穏に暮らし、日々を幸せにすごしたいだけだというのに! それなにの彼らは兵器を作り上げ、我々を滅ぼさんとしています!」

ヴィネは四方を人に囲まれるようにして壇上に立ち、言葉を紡いでいた
周囲は静寂に包まれ、深い怒りとヴィネに対する賛同の感が漂っている
先に攻撃を仕掛けたのはこちらだという事実を、既に彼らは失念していた
ヴィネは先を続けた

ヴィネ「彼らの侵略を、これ以上許してはなりません! 我々の生きる権利を、彼らに理不尽に奪われるいわれなどないのですから! 我々は勝ち取らなければなりません! 平和を、幸せを、世界を! 敵から!」

そうだ! という同調の声が、諸所から聞こえてくる
だが公明正大な戦争など、ありえないのだ
敵にも奪う権利はない、なれば当然自分たちにも奪う権利などないのだ
悪と正義の二項対立
わかりやすく単純で、全てを正当化できる唯一の論理
ヴィネは気付かない、気付けない

118 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:30:11 ID:0wsA7BlM
ヴィネ「悲しみと怒りの怒号が奏でる暗澹たるこの世界に、再び平和の歌が響かんことを、私は心から祈っています」

話が区切りをみて、ヴィネは一歩壇上から下がった
すると弾かれたように皆が立ち上がり、歓声が巻き起こした
不思議な心地よさを、ヴィネは感じた
多人数による狂気的な連帯感、敵に対する憎悪と殺意で結ばれた共同思念体
抑えがたい高揚に、ヴィネは体をうち奮るわせた
そう、勝ち取らねばならないのだ、平和を、幸せを
SPに連れられて、ヴィネは控え席へと戻って行った

オットフリート「上出来だ。後は行政府で待っていろ」

VIP席に戻ると、こちらに顔を向けずにオットフリートが言った
そのすぐ傍で、余命いくばくもないような老人たちが、着飾った格好で下卑た笑い声を上げている
残存した宇宙民をどうするだとか、人間市場でもしようか、事後処理の省を作って予算を割こうか、など
その他は大方、戦後の利権話でもしているのだろう、私にはよくわからない話だ
その時、背後からドスの聞いた声が拡声器に乗って聞こえてきた
おそらく何処かの部隊の隊長なのだろう、兵を鼓舞するような内容の話をしている

119 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:33:05 ID:0wsA7BlM
オットフリート「私は行くぞ」

オットフリートは最後まで話を聞く気などないのか、席を立って、議会堂の出口へと向っていった
行政府で待っていろ
それが私の次の仕事、役目だ
ヴィネは手を握り締め、オットフリートに追いすがり、言った

ヴィネ「父上……。次の戦闘、どうか私も連れて行ってください」

オットフリートは振り返らず、その場で立ち止まった
その後姿に威圧を感じて、ヴィネは少したじろいだ
だが、ここで引き下がるわけにはいかない
ヴィネが二の句を継がないので、オットフリートは仕方なしといったふうに口を開いた

オットフリート「何故だ」

なんど聞いても慣れない声だと、ヴィネは感じた
幼いころから聞き続けている声なのに、今でもこの声を聞くと緊張してしまう
これが厳格な父に対しての感情なのか、それとも操り主に対する敬意からなのか、それとも
ヴィネには、どちらかわからなかった

120 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:34:06 ID:0wsA7BlM
ヴィネ「わ、私も、私たちが勝利する瞬間を、この目で見たいのです」

おずおずと、それでも力強くヴィネは言った
味方が敵を砕く瞬間を、焼き払う瞬間を、少しでも多く目に焼き付けたい
そうしないと、ショボンも私も報われないから
落ち着かない空気に、ヴィネは綺麗な赤いスーツのすそをきゅっと握り締めた

オットフリート「……好きに、するがいい」

オットフリートは小さく溜め息をつくと、そのまま出て行ってしまった
その言葉に、ヴィネはぱっと顔を上げる

ヴィネ「あ、ありがとうございます……!」

既に閉じてしまっている扉に、ヴィネは言った
父が許可をくれたことが、ヴィネにとって何より嬉しかった

ヴィネ「ショボン、戦争が終ったら私も……」

ヴィネは胸に手をやると、そっとポケットから一枚の写真を取り出した
時の止まった空間の中には、ショボンの笑顔が閉じ込められている
次元の違う世界
手は届かず、胸が詰まる
全てが終ったら、器を捨てて、私もあなたのところへ逝くよ
だから、そのときはまた、いつもみたいに笑顔でいてね
ヴィネは写真を胸に抱き、誰にも気付かれないようにしまってから、自分の席に戻った
今度こそ、全てを終らせるために

121 ダメな子 :2006/07/09(日) 14:36:16 ID:0wsA7BlM
はい、今回はこれで投下終了です
また来週会いましょう、会えたらですが…

馬鹿なのでPC取り上げられる可能性があるんですよね…
では、読んでくれた方、ありがとうございました

では
ノシ

122 ダメな子 :2006/07/12(水) 23:51:23 ID:0wsA7BlM
えー突然ですが、ブーンは(ry)は、しばらく更新停止とさせていただきます
読んでくださっていた方(いるのか不明だが)、申し訳ありません
執筆やら読書やらやらに精を出しすぎ、学業の方がとうとう最下層に着地してしまいました
やばいです、大学いけません、ていうか自主退学? みたいな状況です
何の意味があるのかわからないくだらない勉強の為に、自分のしたいことがままならないって悲しいですね
まぁ、俺の能力不足と怠けのせいなんですが
あとこういう斜に構えた態度のせいですね、中二病です
これからはシコシコ受験勉強に励む所存です

ということで、再開は未定です
ちゃんとした形で完結させたいとは思っていますが、それもどうなるか…
この小説のまとめを引き受けてくださった管理人さん、今まで本当にありがとうございました
長いことつき合わせてしまったのに、この結果で申し訳ありません
今現在、このまとめサイトではこの小説以外に現行スレがありません
ですので、この再開未定の小説のために、サイトを継続していただくのは心苦しいです
どこか他のまとめサイトに作品を引き取っていただけるよう、どうか掛け合っていただけないでしょうか…
よろしくお願い致します

では、またいつかどこかでお会いしましょう
ノシ

123 あぼーん :あぼーん
あぼーん

124 あぼーん :あぼーん
あぼーん

125 洋二郎 :2008/03/05(水) 21:23:12 ID:C8AMf5.c
半信半疑で試したらマジだった件w
騎乗位してあげただけで万冊くれるとかww
最近の若者は分からんわww
ttp://jbbs.livedoor.jp/movie/8433/?ose2HUDy

126 はんだごて :2008/03/09(日) 19:48:12 ID:C8AMf5.c
この前言ってたのってこれだよね?
ttp://deai-baby.com/me/Nm0k2v7r
3つほどやってみたけど、クンニなんちゃらってやつが一番面白かったかな
寝てるだけ〜ってのは楽なのはいいけど、俺は攻める方が好みだし
またこういうのあったら教えとくれ〜ノシ


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