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【ま】まーくん小説スレ【ま】

1隣りの名無しさん:2006/11/08(水) 00:15:57 ID:9CQI7ldE
喰らえ

60 ◆xE0miVYJNk:2006/11/12(日) 18:15:49 ID:DFTntD5I

第一章でのキャライメージ
黒神シン(くろがみしん)
ttp://imbbs5.net4u.org/sr3_bbss/22645tonainu/171_1.jpg
高橋澪(たかはしみお)
ttp://imbbs5.net4u.org/sr3_bbss/22645tonainu/172_1.jpg
雛淵隼人(ひなぶちはやと)
ttp://imbbs5.net4u.org/sr3_bbss/22645tonainu/173_1.jpg
御那月桜(みなつきさくら)
ttp://imbbs5.net4u.org/sr3_bbss/22645tonainu/174_1.jpg
巫名無子(かんなぎななこ)
ttp://imbbs5.net4u.org/sr3_bbss/22645tonainu/175_1.jpg

適当&鉛筆だがそのへんは気にしない
文章での描写がなかったのはイメージの詳細考えたの今日だかrアボッ

61 ◆xE0miVYJNk:2006/11/14(火) 09:41:32 ID:Ei82TdVY
第二章
 
 
 
朝日に照らされた通学路、いつもの場所で彼は待っていた。
気のせいか、昨日と少し雰囲気が違うように見える。
 
 
――聞けば判る通りに自慢じゃないが、桜は他人と話すのが少しばかり苦手だ。
周りからは寡黙、冷静、大人しい、などと言われはしたが、短所と長所は全く同じものである。
事実、桜自身はそれをコンプレックスに思っていた。
 
だが、自身の能力を悟り、それに諦観を決め込もうとした頃――彼と出会ってしまった。
 
社会から隔絶されているという実感により、桜は昔から空想に耽る事が多々あった。
そこからオカルトに興味を持ったのは自然な流れで、
同じく怪奇現象について調べている――と言っても、暇潰し程度にだが――隼人と話が合ったのも必然と言える。
インドア派故にTVゲームの話題に多少ついていけたのもあるかもしれない。
 
ともかくして、彼とは唯一とさえ言える親友同士の仲となった。
彼も本当に親友と思っているのかどうかを疑うこともない程に、だ。
 
「おはよー!」
 
数年前の自分からは想像もつかないような弾んだ声で、通学路に立つ隼人に声を掛ける。

62 ◆xE0miVYJNk:2006/11/14(火) 13:00:12 ID:S9TxxPPc
……。
 
おかしい。
何かが違う。
 
今歩いているここは、いつもの通学路であって、その真逆だ。
確かに見た目は同じだが、何一つ共通していない。
……直感的に感じた事だが、気のせいと言う感じもしない。
 
よく周囲に目を凝らす。外見は何も変わらない、それはそう思い込んでいるだけではないか?

案の定、嘗てのその場所との明らかな違いが見つかった。
物質に、存在感が無い。モノに触れている実感すらなく、気配は見当違いな方向から流れてくる。
それだけではなかった。空気が異様に冷たいのだ。と言っても、温度の話ではない。
まるで硝子の中にいるような、閉塞感にも似た、異様に静謐な空気。ここにはそれが満ちていた。

やはり不審に感じ、隼人に話してみようと思考を切り上げる。

「――――。」

声が出なかった。
話そうとした瞬間、視界に入った異常な光景に、桜は言葉を忘れてただ魅入っていた。

63 ◆xE0miVYJNk:2006/11/14(火) 13:25:13 ID:S9TxxPPc
空が黒い。
暗いのではない。夜色を超えた、完全な黒だ。
 
隼人の姿は見えなかった。
桜の立ち尽くしている緩やかな坂道には、もはや人影は見当たらない。
ふと、足下に違和感を感じ、何も考えないままに視線を移す。
 
 
一瞬では、理解に及ばなかった。
 
川が、流れていた。
緩やかな坂を下り、緩やかな川が、桜の足の間を縫うように。
溝も何もないアスファルトを、ただ流れていく――赤い、赤い川。
どろりと生暖かい“それ”は、桜の足下を包囲するように揺らぎ続ける。
上流にあるのは、その赤色に塗れた白色の塊。
 
 
――桜は、全てを理解した。

64 ◆xE0miVYJNk:2006/11/14(火) 13:50:51 ID:Ei82TdVY
突如、派手な電子音がけたたましく鳴り響いた。
桜は暫くそのまま呆然と床に転がっていたが、すぐにベッドから落ちた自分の状況に気付き、枕元に置かれた携帯の側面のボタンを押した。
アラーム音が鳴り止み、次第に意識が覚醒していく。
 
……漸く、さっきまでの景色が夢であったと認識できた。
ふぅ、と安堵の溜息をつく桜。時計を見るとまだ5時だが、二度寝する気にはなれない。
 
 
うん、目覚めは最悪。
でもそんな事は気にしない、今日も一日頑張ろー。

65 ◆xE0miVYJNk:2006/11/14(火) 15:51:16 ID:S9TxxPPc
桃色のパジャマを脱ぎ捨て、小振りな下着を胸に装着すると、その上から真っ白なワイシャツを羽織る。
シャツを掛けていた針金ハンガーをベッドの上に放り投げて、次は制服のハンガーへと手を伸ばしていく。
 
「無情にーも朽ーちーてくー 短し命ー 舞うー♪」
 
無邪気な声で歌いながら、着替えを続ける桜。
多少選曲に問題があるような気もするが、喉の調子はいつもよりいいようだ。
 
「最後にー見ーた記憶ー 笑う君ー 殺ーめー♪」
 
首にリボンをつけ、仕上げにくるりと舞って服を馴染ませる。
寝癖の状態は概ね良好だ、少し櫛を通せばいいだろう。
 
「PSYCHO 歪む 廻ーるー中ー PSYCHO 残酷ーのーまーまー♪ あひゃはははははは うぇ」
 
なにやらテンションが面白い事になってきた。
先刻の悪夢を紛らわそうとするあまり、勢いがつきすぎていたらしい。
一度落ち着き、深呼吸。
 
……不安と言うのは、なかなか落とせないものなんだな。

66隣りの名無しさん:2006/11/15(水) 13:18:23 ID:DRdCN3fw
結論から言えば、不安は当たらなかった。
だが、その不安は方向性を変え、桜の中で大きく膨れ上がっていく。
 
いつもの通学路、いつもの場所に、いつもと違って隼人はいなかった。
彼は電車を使うような場所に住んではいない。
確かにアラームを一時間間違えて設定しはしたが、出かけた時間自体は通常と同じだ。
 
それなのに、隼人はそこにいない。
 
二年近く付き合ってきて、隼人の方が遅れる事など初めてだった。
例外などなく、これが一回目だ。
 
不安のあまり送ったメールも返らず、電話にも出んわ。
 
…………。
 
古い事を言っている場合ではない。
一度や二度の遅刻などどうでもいい。ともかく、隼人の家に行ってみよう。
でんわいそげって言うし!
 
 
………………。

67 ◆xE0miVYJNk:2006/11/15(水) 13:45:00 ID:MMvhUTtQ
隼人は焦っていた。
 
ヤバい。非常に危険な状況だ。このままでは殺される。
昨日までとは訳が違う。現在対峙している敵とでは、あまりにも力量差がありすぎるのだ。
持っているものを駆使してどうにか耐えてはいるが、それも限度がある。
 
深呼吸をし、呼吸のペースを調える。
冷静さを欠いてはダメだ。落ち着いて、見ろ。
 
視界の隅で、小さな影が動きを止めた。
 
――今だ!
 
 
「ってなにやってんのー!!」
 
……戦闘は、桜の盛大な昇竜拳により幕を閉じた。

68 ◆xE0miVYJNk:2006/11/15(水) 14:08:27 ID:DRdCN3fw
「さ、桜? 何をするか、せっかくFDフレイ単独撃破できそうだったのに」
 
幼フレイのエーテルストライクが直撃し、ゲームオーバーに陥ったTVゲームの画面を前に、隼人は後頭部を擦りながら言った。
必死にここまで走ってきた桜は、息を切らしながら壁の時計を指差し叫ぶ。
 
「バトコレ集める前に時計を見なさい、時計をッ!」
 
言われるままに、桜の指の延長線を視線で辿る。
 
一瞬の硬直。
その場には、針がカチカチと秒を刻む音とPS2のディスク読込み音だけが響いている。

「……やっべ☆」
「やっべ☆ じゃねえ―――ッ!!」
 
三本の針が示す時刻は、八時半……1限目の始まりを伝えていた。

69隣りの名無しさん:2006/11/15(水) 14:22:23 ID:gEsO8RlM
(´ω`)

70 ◆xE0miVYJNk:2006/11/17(金) 11:26:38 ID:w4mbK31M
――隼人らしくないなぁ、なんで気付かなかったの?
 
 
そう、全く隼人らしくない話だった。
隼人は時間にはちゃんとしている方なのだ。
待ち合わせには遅れず、サボり以外に遅刻はしない。
 
……だが、今回ばかりは精神の疲弊がそれを赦さなかった。
 
正直に言えば、恐怖していた。戦慄していた。
それはそうだ、あんな存在と対峙した直後なのだから。
この状況で平然としていられる高校生はあまりいないだろう。
 
――やー、なんか久々にやったら熱中しすぎたみたいだ……マジめんご。
 
だから、その問いに、隼人は笑ってそう答えた。
案の定、桜は呆れたように「謝る気ないでしょ?」と苦笑を返す。
 
 
……彼女の心は、敏感すぎる。
 
初めて話しかけた時、彼女は妙に驚いていた。
まるで、言葉をかけられる事自体に慣れていなかったかのように。
 
会話内での目の動きや口調の変化から、そういった類の人間を判別するのは容易だ。
 
彼女は恐らく、優しすぎたのだろう。
不安定な社会のシステムから心を守るために、外界との干渉を拒んでいたのだ。
 
……他人ならともかく、彼女が唯一心を開いている隼人がそんな事を口走れば、
彼女はそれを正面から受け止め、異常なまでに心配してくれる事だろう。
 
――それこそ、精神を蝕み狂わせてしまうほど。

71 ◆xE0miVYJNk:2006/11/17(金) 13:03:30 ID:w4mbK31M
オカルトを研究するには、心理学をそれなりに学んでおく必要がある。
勿論、高校生の付焼き刃程度の知識だ。隼人もあまり深くまでは学んでいない。
 
だが、隼人の見たところ、彼女は十分“そう”なる素質を持っていた。
 
だいぶ明るくはなってきたが、三つ子の魂百までとも言う。
隼人と出会ったのは15歳なのだから、その時点で既に五百くらいまで。
 
……計算法が合っているかどうかはおいといて、
どんなに明るくなったように見えたとしても、注意するに越したことはない。
一度染み付いた性質は、それだけ消えにくいのだから。
 
 
と言っても、これでは却って気を使いすぎか。
もう少し甘えを見せてもいいような気もするのだが……
 
どっちもどっちだな、と隼人は自嘲の溜息をつき、通学用の鞄を肩に掛ける。
 
 
……桜だって、隼人と対等な位置にいる人間だ。
この感情はただのエゴに過ぎない。
 
…………。

72 ◆xE0miVYJNk:2006/11/19(日) 16:25:28 ID:HYFdr7DM
何故だろうか、嫌な予感がする。
特定の物事に対する予測ではない。ただ純粋に、これまでの均衡が崩れてしまうと言う予感。
いや、正確に言うならば既に崩れているのだ。あの“贋物”と遭遇した瞬間から。
 
「隼人、さっきからどしたの?」
 
心配そうに隼人の顔を覗き込む桜。
全く気付かなかったが、どうやら何度も話しかけられていたらしい。
 
「やっぱり、元気ないよね……?」
 
ああ、これだから本当の事は言えないんだ。
逡巡する間もなく、隼人は桜の頭に掌を乗せ、笑いながらだがはっきりと答える。
 
「ごめん、考え事してた」
 
その言葉に桜は一瞬硬直したが、すぐに「わかった」と一言呟いて、再び歩き出す。
 
遠回しだが完全な否定。可哀想な気もするが、これでいい。
怪異を知っているのが自分一人なら、世間に取っては無いのと同じ。
このまま忘れよう。それが正しい筈だ。
 
……そう、思っていた。

73 ◆xE0miVYJNk:2006/11/21(火) 13:57:17 ID:/xxdCU5A
予想外に早く、怪異は現世に牙を剥いた。
その浸蝕はとてもゆるやかなもので、誰かが気付く事は無かっただろう。
だが確実に、それは隼人の世界を歪めていた。
 
最初に感じたのは、学校の廊下での奇妙な違和感。
見慣れたものとの僅かな違い。この視界は不自然であると、無意識の内に悟る感覚。
 
すぐに気付く。
廊下を歩いている隼人達が、位置的には全く進んでいない事に。
景色は進んでいる。突き当たりへの距離も縮んではいる。だが、このままでは向こうに辿り着けない。
それはとても奇妙な感覚で、シュールリアリズムの絵に入り込んだかのようだった。
 
桜を見ても、平然とした顔で足を進めている。
これだけ歩いているのに気付いていないらしい。
 
「……桜、ちょっと止まれ」
 
言って、自分も立ち止まる。
桜が不思議そうな顔で隼人の顔色を伺うが、当の隼人は気にせず廊下を見回していった。
 
この感覚には覚えがある。
忘れようと思っても、忘れられるものではなかった。
 
無音。
絶対的な静寂。
 
それはつい昨日、あの黒い影が現れた時と、全く同じものだった。

74 ◆xE0miVYJNk:2006/11/21(火) 15:32:00 ID:/xxdCU5A
塗装の剥落が目立つ左右の壁。
掃除の甲斐なく埃だらけの床。
数週間前に張り替えたばかりの天井。
どこにも異常は見当たらなく、再度壁に目を向ける。
 
と――見つけた。
 
窓に移った、虚像としての隼人と桜。その背後に……ぬらりと光る二つの眼球。
その異様な物質感は、決して光の反射による幻影などではなく、確かにそれは窓の中に存在していた。
 
「何か……あるの?」
 
桜は隼人の視線を追い、おずおずと小声で問い掛ける。
気付かないのか、それとも最初から視えていないのかは判らない。
 
一瞬、隼人は逡巡した。
知らせずに済むなら知らせない方がいいだろう。
だが、このままでは状況は停滞するばかりだ。
 
間、数秒。
 
「あの窓、なんか目玉みたいなの見えねぇ?」
 
その言葉に、桜は再度目を細めて窓を凝視し、
「うわ」
と、小さく悲鳴をあげて後ずさる。
 
再び静寂に包まれた空気の中、二人は窓の中の眼球と対峙して立ち尽くしていた。

75 ◆xE0miVYJNk:2006/11/23(木) 00:00:44 ID:lmNe9PCg
その静寂を破ったのは、こつん、と小さく響いた叩音。
藍い硝子玉のようなそれは、クリーム色の床を跳ねて隼人の視界を掠める。
 
――刹那。
 
「現(ウツツ)に芽吹きし蘖(ヒコバエ)よ、幽(カクリ)への途、冥黯(クラヤミ)の裡(ウチ)へと!」
 
甲高い少女の声が張り詰めた空気を裂き散らし、
一刹那の後、藍い珠より光芒一閃、窓中の双眸を貫いた。
瞬間、五感に感じていた違和感が大きくなる。
それと同時に、眼前に飛び出す二つの影。
右に立つ男は、長い黒髪に馴染んだ漆黒のコートを痩躯に纏い、
左に立つ女は、少し大きめな純白のコートに、頭には大きなリボンを乗せていた。
 
「やはり本体は貴様のモノだったか、雛淵」
 
男――黒神シンは、唐突に訳の判らない事を呟き、次第に黒く染まりゆく窓を睨みつけた。
 
「澪、扉を開け! この二人は別の場所に移す!」
 
澪と呼ばれた少女は、その命令を予測していたかのように素早く腕を振り上げ、
立てた人差し指を隼人達に突き付けるようにして宙を舞い、唱う。
 
「聲(コエ)よ届け、遥か昊(ソラ)にして鏡面の世へ、迷い路の果てを導かん!」
 
……何も理解できないまま、その詠唱を最後にして二人の姿は掻き消えた。

76 ◆xE0miVYJNk:2006/11/24(金) 10:59:01 ID:impYyZCU
 
わーい
 
おはなばたけのなかに
たくさんのわかもとのりおが

77 ◆xE0miVYJNk:2006/11/24(金) 11:48:03 ID:impYyZCU
…………。
……。
 
特に重くもない瞼を開く。
視界の中央には、床に接触しているような低い視点から見た、先刻の廊下が伸びていた。
周囲の様子を見ると、どうも気絶していたらしい。
……いや、それにしては前後の記憶が明確すぎる。
隼人は緩慢とした動作で立ち上がり、改めて周りを見回した。
 
さっきまで眼前に立っていた筈のシンは、彼に澪と呼ばれていた少女と共に、既にこの場から消えていた。
あの眼球ももはや姿無く、そこにある窓は、不思議そうに、また不安気に自身を見返す隼人の顔を平然と映していた。
いつの間にか、全て正常に戻っていたのだ。
 
――ただ、それは“窓自体は正常であった”と言うだけである。
その向こう側に広がる景色は、凡人の……少なくとも隼人の想像できる範疇を遠く超えていた。
 
 
昼間にも関わらず、空は闇に包まれていた。
それも並大抵の黒色ではない。無造作にスプーンを突き入れれば暗黒の塊が掬い取れそうな、濃密度の、本物の黒。
そして、その空の色に逆らうかのように天を突き、赫焉として輝く、ワカメに似た巨大な草の叢。
地面に敷かれた派手な原色の群は目まぐるしく変化を続け、その上を、人型だが半透明なゲル状の畸形が伸び縮みしながら歩いていく。
何か動くモノを視界の端に感じ、今一度空を見てみると、
鰭の部分のみ異様に巨大な、深海魚にも見える畸形の軍隊が悠々と泳いでいた。
 
それは明らかに現世ではなく、かと言って死後の世界とは考えられない、
まるで悪夢の中に入り込んでしまったような、奇妙で暗鬱な“もう一つの世界”だった。

78 ◆xE0miVYJNk:2006/11/24(金) 13:18:59 ID:sBsC.2K2

……なんかMissingみたいな文になってきt
 
 
 
 
 
 
/^o^\フッジッサーン

79 ◆xE0miVYJNk:2006/11/28(火) 09:29:38 ID:RSk6zv9A

テストきかんちゅう につき しばらく おまちください

80 ◆xE0miVYJNk:2006/12/02(土) 13:26:06 ID:xLJ.ZS3.
暫し、呆然と立ち尽くす。
その度が過ぎた異質を理解しようともせず、凍った脳にはただそのままの視界が投影され続けていた。
あまりにも統制がとれていないが故か、この頭は違和感を感じることさえ忘れているらしい。
いや、抑もこれは“視界ですらない”のか?
 
そんな事を考えていると、突如として右袖を引かれ、ぎょっとして振り返る。
そこには、同じく理解不能と言った顔で、隼人の肩に隠れる桜の姿。
いつの間にか目覚めていたらしい。
それとも、彼女も最初から気絶などしていなかったのだろうか。
 
「……なにこれ」
 
彼女は絞り出すような声でそれだけ呟き、隼人の袖を握った手に自らの不安を込める。
たったそれだけの動作が、もともと大柄ではない彼女をより小さく見せた。
 
どうにか安心させようと言葉を模索するも、どうにもいい単語が浮かんでこない。
一度凍った脳を解凍するには、未だ幾許かの時間が必要らしい。
 
と、桜が何かに気付いたように顔を上げ、廊下の奥を見据えた。
隼人も本能的にその視線を追う。

81 ◆xE0miVYJNk:2006/12/02(土) 21:18:54 ID:xLJ.ZS3.
何の変哲もない、見慣れた廊下。
細部に何かあるのかとも思ったが、いつもと違う箇所などあの奇妙な窓の外ぐらいだ。
若しくは、全て微妙な相違に囲まれているために違和感に気付かないだけかもしれない。
 
刹那、背後より錫杖を鳴したような音が小さく響き、反射的に振り返る。
ひょっとしたら、桜は先刻もこの音を聞いていたのだろうか。
だが、やはりそこには見慣れた景色だけが広がっており、音を発するようなものは見当たらなかった。
 
 
「――まっすぐに迷う人達、その迷い路に気付いていますか……?」
 
唐突に響いた声に、再三振り返る。翻弄されるようにぐるぐる回っている隼人達の姿は、遠目に見たら滑稽に映る事だろう。
振り向いたその先には、見覚えのない一人の少女が立っていた。
色白を通り越して蒼白なまでの貌に、長い黒髪がよく映えている。
白を基調にして所々に冴えた赤色を覗かせた巫女を思わせる服も、純和風の美しさを引き立てていた。
身長はかなり低いが、年の頃は隼人達と同程度に見える。
目鼻立ちも整っており、ここまでの娘は探してもそうはいないだろう。
だがその姿は、この学校の廊下と言う場所に立つには些か不自然であった。
 
「孰れにせよ、迷い路からはもう出られない……無愧を識る事が必要でした」
 
少女は謳うように言葉を紡ぎ、どこか不安定な身体を少し揺らす。
その言葉は全く意味の判らないものだったが、隼人達にとって歓迎できる内容ではない事は何となく察知できた。

82 ◆xE0miVYJNk:2006/12/03(日) 01:16:31 ID:k0bbhMeE
「生と死は表裏などではなく、完全に同一のものです」
 
何の脈絡も無いような言葉を、少女は次々と謳い上げてゆく。
 
「死無き所には生も無く、逆もまた然り。不滅とは滅される存在を持たないが所以。生を受けた瞬間とは死の確定した瞬間でもあり、生とは死にゆく過程を指す言葉」
 
ゆらり、ふわり。
小さな身体が揺れるその動作に、隼人は微かな既視感を覚えた。
 
「貴方達が今視ているのは、生と死を“表”にとった場合の“裏”……それを認識してしまった今、貴方達は生きながらにして死後・生前の存在と同質となっています」
 
……全く理解の及ばない話だった。
理解しようとしていないわけではない。だが、隼人の頭で処理するには過ぎた内容のようだ。
直接的な意味なのか、それとも何かの喩えなのか、その判断すらつかない。
表現が詩的すぎて、どうしても深読みし過ぎてしまうと言うのも理由の一つにある。
 
「戻る術はありません、貴方達が謂う所の“生死”という括りから溢れてしまったのですから。覆水盆に返らず……It is no use crying over spilt milk、とも言いますね」
 
そう言って微笑を浮かべる少女に、隼人は何か薄ら寒いものを感じ、
威圧するように睨み付けながら口を開く。
 
「お前……何者だ」
 
対する少女は怯む様子もなく、懇ろにお辞儀をすると、にこりと微笑んだ。
 
「私は形骸を持った未知数の歌。存在を認識できるのは、私が“名前”を持っているから。定義と言う意図から、X-Ariaと名付けられています」
 
やはり言葉の大半が理解不能だったが、辛うじて“名前はイグザリアと言う”と、それだけは汲み取れた。
純和風なその風貌からは予想し難い名前である。

83 ◆xE0miVYJNk:2006/12/05(火) 10:01:22 ID:TIsQ5vJI
「こうなった経緯は、だいたいですが推測できます。彼女等の“遮断”に巻き込まれたんでしょう?」
 
柔らかな微笑みを浮かべたまま、イグザリアは言う。
その声は異様に透明な旋律を以て頭に響いており、
有り得ない事だが、まるで空気を振動させずに声が伝わっているようにも思えた。
 
「私達のせいで巻き込まれた人を見捨てるような真似はしません、貴方に助言を与えましょう」
 
イグザリアはそう言って隼人のすぐ前に立ち、その手を取って両掌で包みこむ。彼女の冷えきった手の、ひやりとした感触が伝わってきた。
だが、確かなその感覚でさえも、この場所ではまるで張りぼてのような不自然さを感じる。
 
「……これ以上、彼等と関わらないように。そして、不自然なことからは関心を逸らすようにしてください」
 
理解し易くするためか比較的緩慢な口調でそれだけ言うと、イグザリアはそっと目を閉じた。
 
「これは、私の出せる限界の“解答”であり、貴方達にとって“助言”となり得るものに過ぎません……ですが、決して忘れませんよう」
 
その言葉を聞いた刹那、世界が急に暗転し、隼人の意識はそこで途切れた。

84 ◆xE0miVYJNk:2006/12/05(火) 10:53:02 ID:zF6A51Mc
………………。
…………。
 
 
あの時、鏡面世界に引き込まれてから丁度一年が経った。
……この身体の変質を、感じなかった訳ではない。
はっきりと自覚できる程に、シンの体躯は改竄されていたのだ。
 
今のシンは、生命体でもそれ以外でもない中途半端な存在となっていた。
見せかけだけの形骸を気にするような性格ではないが、本質から変えられていくのには多少の抵抗を覚える。
 
ノイズも酷くなってきた。
人が化生と呼ぶものに変わり果てるまで、恐らくあと数ヵ月とないだろう。
隣りにいる澪と同じように、シンもバケモノになってしまうのだ。
 
だが、シンは後悔などしていなかった。
それどころか、この状況を心底楽しいと感じることさえある。
 
このまま狂気の世界に馴染み囚われるのも一興かも知れない……と、
そんな退廃的な事さえ考えるようになってきているのだ。
……そして、そうやって狂っていく自分を客観的に見ているのが一番楽しかった。
 
今形成されている社会に頼り馴染んでいる人間から見れば、それこそ狂っているのだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
シンは飽くまで主観を以て物事を考えることを前提としている。
割合で言うなれば、シンはもうこの世界に属する者ではないのだ。
故郷である“異世界”の住人からどう思われようと、知った事ではない。
 
……いや、本当はただ、そうやって自分に言い聞かせているだけなのだろうか?

 
その哀しげな自嘲の笑みは、誰にも見られる事なく、行き場を無くして夕闇へと消えていった。

85 ◆xE0miVYJNk:2006/12/05(火) 22:14:02 ID:Zo12RYR2

ttp://imbbs5.net4u.org/sr3_bbss/22645tonainu/188_1.jpg
修学旅行に発つ前にX-Aria(イグザリア)貼り。
言ってたほど和風でもないが後悔はしていない。

86 ◆xE0miVYJNk:2006/12/06(水) 17:09:32 ID:HthQxj.A
「ねぇ、シン」
 
澪の声を聞き、何事もなかったかのように装って振り返る。
もともと感情が希薄であるが故に、こう言う時にすぐさま表情を無に帰すのは楽なものだ。
しかし澪はその微細な気配を察知したのか、少し気圧されたように縮こまり、上目遣いにこちらを見ているだけだった。
シンは言葉を促すこともなく、すぐに踵を返して歩き出す。置き去りにされた澪も、暫し逡巡するような素振りを見せ、結局後に続いた。
 
漆黒のロングコートを風に揺らしながら歩くシンに、そのすぐ後を小走りについていく澪。
オレンジの太陽光と黒い影の二色で染め上げられた民家が、後ろへ後ろへと流れていく。
逢魔ヶ刻の通学路には、他に歩く影は見えない。
 
気持ちの悪い沈黙が続く。

87 ◆xE0miVYJNk:2006/12/07(木) 08:55:58 ID:/Y0WD.Fo
響無鏡界が発現した訳でもないのに、靴がアスファルトを擦る音だけが妙に大きく聞こえていた。
 
勿論、遠くを走る車の排気音も、民家の中で主婦が夕餉の支度に勤しむ音も、広葉樹が風に揺れて話し合う音も、全て聞こえている。
確かに聞こえているのだが……殆ど耳に入ってこない。
 
その理由は、シン自身が一番よく判っていた。
そのような感情だと自覚できない程に微細なものだが、シンは苛ついていた。
靴音を妙に大きく拾ってしまうのは、そう言う時のシンの癖なのだ。
何に対しての苛つきかは全く判らない。“何に”なのか“誰に”なのか、それすらも。
 
それまでと変わらない、長い長い僅かな間。
その刹那が幾つも重なり、それに従って様々な形をした個性の無い家々が川のように流れゆく。
 
 
 
結局、二人は家に着くまで無言のままだった。

88 ◆xE0miVYJNk:2006/12/07(木) 12:01:47 ID:/Y0WD.Fo
…………。
………………。
 
部屋に入り、廊下を歩くシンを見送った後、
澪は茶色いドアを後ろ手に閉め、それに寄り掛かって静かに溜息をついた。
 
 
「……ごめんなさい」
小声の懺悔。
 
今言っても遅い、彼に聞こえるはずがない。
そんなことは判っている。
例え自己満足と欺瞞に過ぎなくとも、どうしても言っておきたかったのだ。
……だが、残ったのはただの自己嫌悪の情のみであった。
 
尤も、彼が聞いていたとしても「過去を悔いるのには他人に伝える言葉など必要ない」などと言って一蹴することだろう。
 
彼の思考は主観を重視している。
と言うか、客観を極端なまでに排除して考える性格なのだ。
懺悔の言葉は、彼にとって“過去を反省し、自分の教訓とするための儀式”に過ぎない。
 
……この気持ちは、彼に伝わらないと意味が無いのに。
 
 
人間としての彼を殺してしまった。
鏡の向こうに見えた彼を、自らの寂しさが攫ってしまった。
いくら化生と成り果てても、澪だって嘗ては人間だったのだ。
若い青年の残り数十年の未来を奪い去っておいて、それでも平気な顔をしていられるような神経は持ち合わせていない。
 
“寂しさから人間を攫い、同族へと変えてしまう化物”なんて、怪談にはありがちな話ではないか。
ここにいる女は、もはやただの女子高生だった高橋澪なんかじゃない。
人間社会の敵、ただのバケモノでしかないのだ。
 
 
……この謝罪は、自分の為の謝罪だ。
だけど、きっと彼はわかってくれない。
 
背中をドアに擦り、ずるずるとその場にへたり込む。
俯いた顔から、再び細く震えた溜息が漏れ、それに合わせて頭の真っ赤なリボンが揺れた。
 
……逢ったばかりの頃、彼は「目印のようなものだ」と言って、これをつけてくれた。
全ての説明は済ませていたのに、一度として怒ることなく優しく接してくれたことが
とても嬉しくて、また憤ろしくて、どうしようもなく哀しかった。
 
 
……そう、このリボンは、猫の鈴だ。
私は彼のペット。だから、彼は自分の意思で私を置いてくれている。
そう思い込むしか、自分を保つ術はなかった。
 
 
「……ごめんなさい……ごめんなさい、シン……」
 
泣きながら、呟き続けた。
その涙声、聞くものは誰もいない。

89 ◆xE0miVYJNk:2006/12/08(金) 22:19:24 ID:QtYFuao.
……。
…………。
………………。
 
暗い部屋。
パソコンのモニタから出る病的な光だけが、散らかった書類の山を照らしている。
そのモニタを覗き込むのは、同じく病的な容貌をした痩躯の男。
歳は約三十前後と見え、身に纏った大きなぼろぼろの白衣が、その存在を特異なものに見せていた。
肩の辺りまで伸びた茶髪混じりの黒髪は、寝起きのままのように出鱈目な方向へと走っている。
 
「あーあー、どうするかな……」
 
男は渋い顔で小さく呟き、右手に持ったマウスを机上に走らせた。
黒縁眼鏡に映り込んだ文字列には、到底常人には理解できない単語ばかりが並んでいる。
 
と、男の背後の暗闇から、もう一人の男の声。
 
「やァっぱり、“奴”の計画は何の問題もなく進むかァ……」
 
ぼりぼりと頭を掻きながらスリッパで近付いてきたのは、同じく三十前後の男。
こちらは服や髪を整えると言うことを少しは知っているようで、
ラフな格好ではあるが、常識的な程度にきちんとした服装をしていた。
 
「……なぁ、そろそろ“奴”が誰なのか判らないのか?」
 
その声に反応して、白衣の男は回転イスを勢いよく回して反転し、もう一人の男と向き合う。
 
「現時点では特定不可能さ、この件に絡んでるヤツが多過ぎるんだ!」
 
若干オーバーリアクション気味に両手を上げ、科白のような口調で言う。
 
「高橋澪、黒神シン、巫名無子、鏡の中の少女……最近では雛淵隼人や御那月桜まで! 皆が“現象”の発現に関わってるんだよ!」
 
もう勘弁してくれ、と言わんばかりに頭を振り、白衣の男はイスの背に凭れかかった。
よく見てみれば、緑色の光を放つモニタの上には、上記の名前がちらほらと散らばっている。
 
 
「現象、共感、遮断、そして崩壊。どれが誰の仕業なのかも判らない……早く見つけて、殺さなければならないのに……」
 
 
………………。
…………。
……。

90 ◆xE0miVYJNk:2006/12/09(土) 00:42:08 ID:3ICU/yZg
…………。
……。
 
――終わらせないよ。
→ だって、まだ始まったばかり。
――終わらせないよ。
→ だって、私が終わらせるから。
――終わらせないよ。
→ だって、望まれていないから。
 
望まれていないものは
突き詰めれば、存在を持つ事のないもの
望まれているものだけが
実現し得る――
 
 
この望みは“望み”を望む。
 
 
 
→ これが 始まり だよ――――

91 ◆xE0miVYJNk:2006/12/09(土) 01:08:23 ID:C6yKZf9.
「嗚呼……」
 
嘆息にも似た、溜息。
 
「終わりが、始まった……」
 
少女によく似た少女が呟いた。
 
「流星が一つ落ちる……鎖の輪の中、悠久の刹那へと……」
 
少女によく似た少女は、少女によく似た少女の為に、一粒の涙を流す。
 
「……くすくす」
 
 
 
 
そこには、誰もいない。
ただ、“無”が“有”るだけの世界。
 
 
…………。
 
 
世界は往々にして欠落を生じ続ける。
それは皆が気付き、誰もが悟れない速度で
この世界を崩壊の道へと誘い込んでいた。
 
「消滅まで……あと……」
 
その言葉は、硝子のように冷たく静謐な空気へと溶けて消えていった。

92 ◆xE0miVYJNk:2006/12/09(土) 01:17:47 ID:3ICU/yZg

第二章おわり。
なぜか携帯で見るのに適した間の取り方になってしまっているよ!
 
絶賛クォリティ低下中\(^o^)/

93 ◆xE0miVYJNk:2006/12/15(金) 11:23:06 ID:kWVvykSk
………………。
 
 
      色褪せた鏡の境界(サカイ)へ
 
 捧ぐ魂魄は謌(ウタ)いて流れ
 
           赫(カガヤ)く雫を在可き場所へと――
 
 
 
                ――そして“彼女”は、名を受ける。
 
    其には偶然も必然も無く
    事実のみが其にあり――
 
 
………………。
 
 
 
 
――――第三章。

94 ◆xE0miVYJNk:2006/12/22(金) 01:09:47 ID:Lxsnr9vg
アストラル。
 
現代に於て、様々な創作物に現れる名である。
だが、普遍化しすぎた言葉であるが故に、使われている意味が
本来のそれから外れたものとなっている事も多い。
勿論、魔術体型や理論により細分化され、定義が食い違うこともよくあるのだが。
 
 
 
近代魔術に於て、人間とは体躯、魂魄、霊体の三態の集合体として考えられている。
 
集合体とは言ったが、その三態は互いに重なり合っていながらも、
油と水のように、決して混じり合うことはない。
 
そして、この三態のうちの魂魄にあたるのが、アストラル体と言うものである。
 
アストラル界とは、このアストラル体を構成する、より綿密な物質により構成された世界である。
(飽くまで魂魄と同質の物質でできた世界と言うだけであり、魂魄そのものが構成しているわけではない)
 
この世界は、通常の五感では捕捉することは不可能だが、
偶発的事態ないし意図的な投射によりアストラルプロジェクション(俗に言う幽体離脱)を行うことで、
僅かだが干渉を行うことも可能となる。
 
無論、そのような体験の殆どは自己催眠によるものだが、
その“自分は死んだ”と言う無意識下に於ける自己催眠が霊視能力を授けることもある。
これは、プラシーボ効果と同じように、思い込みによって
“死後の世界”がその人のイデアに認識されてしまうからだ。
 
無論、死後の世界などと言うものが存在する筈はない。
意識とは脳の働きに組み込まれた一要素にすぎないのだから、
脳が活動を停止した時には跡形もなく消え去ってしまうだろう。
 
ただし、アストラル界はその魂と“同質”のものなのだ。
イデアにインプットされた完璧な図形は、多少歪んだものであっても、それを同一の図形として認識させる。
この場合もその例に漏れず、思い込みの中の“死後の世界”に代わって、
それに酷似しており、かつ確かに存在しているアストラル界を視せてしまうのである。
 
 
だが、そうなれば、その人の半分はもはや現世以外に属していることになる。
さらに、アストラル界での多くの事象を観測し続ける事で、より“あちら側”に傾いてゆくだろう。
 
ではその時、その人は本当に生きていると言えるのだろうか?
 
回復する事のない意識の消失を死とするならば、それではない。
だが、多くの人は現世にいない者を生きていると認識していない。
 
生ではない。かと言って、死でもない。
それは限り無く永遠の生に近いが、隔絶されたそれは一瞬の死に等しい。
 
 
 
 
彼女は言う。
 
形骸に拘るのは愚者の為す事だが、
形骸を無視するもまた愚の骨頂。
何故、両二極でしか思考できない。
中途半端な途はそんなに好ましくないのか――と。
 
 
その言霊の 向かう先は 言語化できない どこか、遠く――――

95 ◆xE0miVYJNk:2007/01/04(木) 18:13:12 ID:UMNX/qP2

放置っててゴメス
年末年始は纏まった時間が(´・ω・`)

96 ◆xE0miVYJNk:2007/01/04(木) 19:56:21 ID:lyAosJh2
「そ、世界は永劫回帰の連鎖で成り立ってるとも言えるワ」
 
にやにやと悪巧みでもしているかのような微笑を浮かべ、名無子はぼんやりとした口調で言葉を並べる。
彼女が座っている色褪せた安楽椅子は、時折軋む音を立て、周囲の少し古びた景色を強調していた。
この昭和の図書館のような部屋に来る度に、シンは全く覚えのない郷愁に心を奪われそうになる。
どうやら、名無子の調度品の趣味は、シンともよく合うらしい。
 
 
「……でも、それがどうしていけないことなの?」
 
隣に座っていた澪が、不思議そうに口を開いた。
その口調は、どこか無理に元気な声を出そうとしているように思える。
 
彼女の頬に残った涙の跡に、気付かなかったわけではない。
だが、向こうが何も言わないのならば、無理に干渉する必要はないだろう。
 
 
名無子は微笑を少し強めて、思考する時間も無しに答える。
 
「事象に正解も不正解もないヨ、それは思想によって変動し続けるものダカラ」
 
軋む背凭れに寄り掛かり、続ける。
 
「さっきのもそう、永劫回帰……輪廻転生、永遠の命は、キリスト教に於ては最終目標であり、仏教に於ては最も忌避すべきモノとなる」
 
難解な言葉により思考停止状態に陥った澪を見て、シンが詳細説明を引き取った。
 
「キリスト教では、転生を繰り返し永遠に生きられるのは幸福と考える。
しかし仏教では、俗世での輪廻から解き放たれてより高次の世界に逝くのを幸福と考える。
まぁ、要は“物は考え様”と言うことだ」
 
「わ、わかったようなわからんような……」
 
きっとわかってないんだろうな、と思う。
シンから見るに、澪の言動には主観での考えに基づいたものが多い。
このように双方を肯定した見方は向いていないのかもしれない。

97 ◆xE0miVYJNk:2007/01/09(火) 11:04:45 ID:a/zoe4gI
シンは軽く息を吐き、微笑う名無子に向き直った。
 
「で、その永劫回帰を善く思わない奴がいるわけだ?」
「うん。性質の悪い事に、それに見合うだけの力を持った、ネ」
 
表情一つ崩さずに、名無子は感情の読み取れない声で言う。
その空虚すぎる微笑から、シンは思わず目を逸らした。
 
……いつもそうだ。彼女の表情はまるで能面のような変化を繰り返す。
一つ一つの表情をパターンとして記憶し、必要に応じて呼び出すだけ。
それは決して感情から呼び起こされる自然な表情とは違い、空しく虚ろな貼り付けられた貌。
傍目から見れば表情豊かな女性に見えるが、その実は真逆なのだ。
何故そのような事をするに至ったかは判らないが……ともかく、その微笑はいつもシンを不安定にする。
 
「成程」
 
気にも留めていないかのように、続ける。
その虚構に、名無子はきっと気付いているのだろう。
 
「今の俺にとっては正反対の意見だな……できるなら止めたいものだが」
 
シンは口許の皮膚に手を宛い、独言のように呟いた。
……真面目に議論するのもいいが、少し面倒だ。早めに結論へと導いてしまおう。
 
「うん、私も同意見。協力してくれるかナ?」
 
少し身を乗りだし、両掌を合わせてにこりと笑う。
予想通りに進む名無子の仕草を見て、シンは目を伏せて静かな笑みを浮かべた。
 
それがどのような意味を持った笑みであったのかは、本人ですら判らない。

98 ◆xE0miVYJNk:2007/01/11(木) 20:58:52 ID:QS7ETgM.
 
 
 
人気の無い通学路を、ただぶらぶらと歩き続ける。
時刻は既に昼の12時を回っている。今から学校に向かう気にはなれない。
 
……名無子の話を聞いていると、いつも気付かぬ内に時間が過ぎてしまう。
これも彼女の持つ一種の才能と言えるだろうか。
 
まぁ、名無子の家を“尋ねる事ができた”のだから、それは正しい選択なのだと思う。
このような身となってしまっては、学校に行く理由など惰性しかないのだ。一日サボるくらい、どうと言う事はない。
 
 
心を思考モードから観察モードに切り替え、狭い路地に建ち並ぶ家々を眺める。
この辺りにも漸く近代化の波紋が広がって来たな、と思う。
都庁のビル街などと比べればまだまだだが、少なくとも、あの田舎で昭和で雛見沢な匂いはすっかり消え失せたものだ。
地域の環境保護のおかげか、特に緑が減ったようには見えない。
 
……移り変わる時代を見て感慨に耽るなんて、老けた思考だ、と自嘲する。
それに合わせて、横を歩く少女が目に入った。
常に歩幅を大きく取るシンに追いつくため、ずっと早歩きでついてきている。
見たところ、少しペースが乱れてきているようだ。
 
「大丈夫か?」
「あ……うん。平気だよ」
 
シンの唐突な問い掛けに驚いたのか、澪は数秒の間を置いてそう答えた。
……確かに大丈夫には見えないが、平気な風にはしている。

99 ◆xE0miVYJNk:2007/01/11(木) 22:21:20 ID:QS7ETgM.

ごめん推敲前に送信した
さっきの修正
 
 
 
人気の無い通学路を、ただぶらぶらと歩き続ける。
時刻は既に昼の12時を回っているため、今から学校に向かう気にはなれない。
 
……いつも思う事だが、名無子の話を聞いていると、気付かぬ内に大量の時間が流れさってしまう。
これも彼女の持つ一種の才能……と言えるだろうか。
ひょっとしたら、本当にそう言う魔法なのかもしれない。そう思わせるだけの前提が名無子にはあるのだ。
 
まぁ、名無子の家を“尋ねる事ができた”のだから、こうしているのは正しい選択なのだと思う。
死なずの身となってしまっては、学校に行く理由など惰性しかないのだ。一日サボるくらい、どうと言う事はない。
 
 
心を思考モードから観察モードに切り替え、狭い路地に建ち並ぶ家々を、ただ呆然と眺めていく。
 
気付けば、この辺りにも漸く近代化の波紋が広がって来ていたようだ。
都庁のビル街などと比べればまだまだだが……少なくとも、あの田舎で昭和で雛見沢な匂いはすっかり消え失せたものだ。
地域の環境保護のおかげか、特に緑が減ったようには見えない。
 
……時代の変化を見て感慨に耽るとは老けた思考だ、と
自嘲の笑みを浮かべて軽く首を振ると、ふと横を歩く少女が目に入った。
常に歩幅を大きく取るシンに追いつくため、ずっと早歩きでついてきている。
見たところ、ほんの少しだが出発時点よりも歩調が乱れてきているようだ。
 
「大丈夫か?」
「あ……うん。平気だよ」
 
シンの唐突な問い掛けに驚いたのか、澪は数秒の間を置いてそう答えた。
……あまり大丈夫には見えないが、確かに平気な風にはしている。

100 ◆xE0miVYJNk:2007/01/13(土) 05:02:22 ID:V8AwiWtA
「……おい」
「は、はいっ!」
 
少し声のトーンを落としてみると、澪は髪の先まで細かく振動させてびしりと直立した。
すぐ近くの電柱に親和性を見出だせるほど微動だにしないその姿は、
視線を合わせたまま動かなくなった猫と酷似しているように思える。
 
その、猫の瞳のように不安げな眼をした少女の頭に、シンは若干乱暴な動作で掌を置いた。
微かに蒼みを帯びた黒髪に触れると、澪はまさに猫がそうするように縮こまり、
反射的な動作だろうか、瞼を固く閉じた。
 
「こんな事を言うのも、ただの気紛れだが」
 
さらさらの髪を指に絡ませ、梳くように撫でる。
 
「無理をするな。現状ではだが、お前の側には必ず俺がいるだろうが」
 
シンがそう言うと、澪は心情の推察できない顔を、緩慢な動作でこちらに向けた。
自らが特異であり、また怪異である事を隠そうと黒よりも黒く染まった瞳に、
シンの冷たい眼光が合わせ鏡のようにして映り込んでいる。
こちらもまた、感情など見抜けそうにない顔だ。
 
ややあって、澪はどこか希薄な悲壮感を湛えた微笑を浮かべながら、その桃色の唇を開いた。
 
「表情から他人の考えが読めて、その上人が好いなんて……」
 
はぁ、と溜息を一つ吐き、途端に拗ねたような表情を作って上目遣いにシンを見上げる。
 
「ずるいよ。見掛けによらずいいひとなんだもん」
「……一応、褒め言葉として受け取っておく」
 
言ってから、シンは少し大袈裟に左手を振り上げ、コートに風を入れて元の道を歩き出した。
先刻よりは幾許か表情が柔らかくなった澪も、その後に続く。
これで切っ掛けは作った、後は彼女自身がやる事だ。
 
 
「褒め言葉だよー、だって一見クールな人かと思ったら優しいしっ 知恵や知識も豊富でさらにかっこいいっ! 貴様どこの完璧超人か!」
「……物語的に見れば間違いなく死ぬな……それと俺は運動が全く」
「いや君もう死んでるし、それに戦闘ができる体力あるなら充分すぎるよ。いやはや、そんな人と一蓮托生なんて考えようによっては幸福かも」
「そんな無理に自分を鼓舞しなくても……」
「うるさいなー!褒めてるんだから大人しく褒められててよっ!」
 
……切っ掛けだけのつもりが、予想以上に元気がついてしまったらしい。
いや、それともただの照れ隠しか、はたまた何かもっと別の感情を隠しているのか……
ともかく、これから溜息を吐くのは主にシンになりそうである。
 
 
 
教訓:迂闊な行動は死にちゅながる。

101 ◆xE0miVYJNk:2007/01/18(木) 08:13:10 ID:Gbv1zRZE
…………。
………………。
 
 
 
理由は何か。
 
学校に来たら、机上に「これ以上関与しないよう」と、見覚えのない癖の文字が書かれていたからではない。
あの後の記憶が全く無く、気付いてみればベッドの中から今日をやり直しているからでもない。
無論、時間が無くて朝食を食べ損ねたからでもない。
 
では、何故隼人はこうして授業に身が入らず、頭を抱えているのか。
 
答えは一つ。
 
「……ねぇ」
 
前に座った桜が、小声で話しかけてきた。
 
「なんでだろ、なんか中途半端に生臭くない? まるで凍らせたアジみたいな匂い……」
「気のせいです」
「でも」
「気のせいです」
 
いや、気のせいではないのだ。決して。
そしてまさに、理由はこれである。
 
 
なんで……なんでアレが鞄に入ってるんだよ……ッ!
 
これが人知を超えた不思議のパワーなのか、そうなのか。
時間を操るなんて悪魔化した小林賢太郎でも体力使うのに、
そこまでして E:れいとうアジ と表示させたい理由って何だよコンチクショウ。
 
 
教室がざわ……ざわ……ってなってるのもどうにか4限までは耐えたが……昼休みには抜け出そう、うん。

102 ◆xE0miVYJNk:2007/01/18(木) 08:58:23 ID:jVHvjRpo
しかし、どうも気になる。
 
もちろんこの場違いなアジ臭もだが、今言っているのは今朝(と形容してよいのかは些か疑問だが)出会った少女のことだ。
隼人だけでなく、同じ状況下に置かれれば気にならない者はいないだろう。
だが、隼人の懸念している事柄は、この状況での気になり方としては少しベクトルが違う。
 
それは、確かに彼女を“見たことがある”と言う記憶。
 
只のデジャヴとは、どうやら違うらしい。あれは前頭葉に生じた異常が起こす幻影だが、これはそんな朧気なものじゃない。
 
何かが、引っ掛かる。
だが、まるで誰かが意地悪に記憶を覆い隠しているかのように、該当する記憶だけが思い当たらない。
と言うか、身体が無意識のうちに拒絶しているような感覚すらするのだ。
 
 
少女のシルエットが、誰かと重なる。
 
このシルエットに、名前はあっただろうか。
 
片方はX-aria、もう片方は……いや、直感的に思うことを信じるならば、名前なんて始めから無いのではないか?
これは、名無――
 
 
 
鐘が鳴り、思考は中断された。
不思議な事に、今まで何を考えていたのかも、すべて霧散している。
 
「……禁忌、ってか」
 
隼人は小さく呟き、既に纏めてあった荷物を持って立ち上がった。
不思議そうにそれを見ていた桜も、どうやら察したらしく後に続いてくる。
 
 
ああもう、このアジどうしよう。

103 ◆xE0miVYJNk:2007/01/28(日) 15:33:12 ID:hedNcM5.
 
 
 
耳元でキイキイと不定期に響く、錆びた、寂びた鎖の音。
冬枯れもだいぶ進行した景色に、綺麗に晴れた青空がよく映えている。
いくら真冬とは言え、昼時の陽射しはやはり暖かい。
 
静かに揺れるブランコから見上げる空色に、アジ型の影を作ってみる。
それは日の光を浴びて銀色を強め、凍り付いたままの鱗を不気味に光らせた。
 
……なんで解凍されないんだろう、これ。
 
「うはーなんだこれおもしろー! 180゚くらいいってるよいぇーい!」
「ブランコくらいではしゃぐな、やかましい!」
 
隣のブランコをがったがた言わせながら楽しそうに立ち漕ぎする桜を咎め、隼人はアジに関する幾多の問題に再度向き合う。
 
このアジは元々、あの謎そのものを具現化したような名無子に渡されたものだ。
何か不思議な点があってもおかしくない……と言うか、不思議な点がなければおかしい。
最たる問題は、その不思議の正体が皆目掴めないことだ。
いや、まず何故アジなのか。選択肢に出すなよそんなもん。
 
「あははははは、あいきゃんふらーい!」
「…………」
 
一時思考を中断して、異様に高電圧な隣席の少女を冷めた眼で眺める。
 
「……ブルマくらい穿いとけよ、このしまぱんが」
「わ、わ!?」
 
桜は慌ててしゃがみ込み、小さな革靴の踵で土を擦って、慣性を削り地面に逃がした。
ブランコが止まった後も、彼女はスカートを押さえたままで、紅潮した頬を隠すように俯いている。
 
「……み、見えてたなら早めに且つ周りに聞こえないように言ってよぉ……」
 
左手を顔に宛行い、恥ずかしそうに小声で言う桜。
見えてる事に気付いた後も暫く眺めていた事には敢えて言及しないのか、それとも気付いていないのか。
 
「もう、そこに人いるんだからね……?」
 
その指差す先には、どう見ても会社員っぽいスーツを着たおっさんが端のブランコに揺られている。
ああもう、なんか悲しい気分になるじゃないの。

104 ◆xE0miVYJNk:2007/02/16(金) 08:26:34 ID:1EQkS/PI
「あの、ところでおじさんは何してるんですか」
桜、訊いちゃダメだよそう言うことは。
「おじさんはねぇ……これから善玉菌を養殖しに行くんだよ」
まともな嘘にもなってないぞおっさん。
「あ、宇宙プラズマ研究会の方ですか」
そんな怪しい会のことは今すぐ忘れなさい桜さん。
「フフ……元、だけどね……フヒヒヒヒ」
いや本当にそうだったのかよ。あとキモいから泣き笑いは止めろおっさん。
「フヒヒフヒヒ……キンキリキッキー、トンキリトーン」
「メラゾーマ」
 
どーん。
 
「ぬわーーーっ!!!」
 
灰燼と化すオヤジ。
吹っ飛ぶブランコ。
きらめくアジ。
 
「パパァ――――ス!!」
 
 
熱く叫ぶ桜を引きずり、隼人は公園を後にした。
もうダメだこの物語。

105 ◆xE0miVYJNk:2007/02/16(金) 11:11:40 ID:2paGgVSQ
――そして、見覚えのある黒い影に遭遇したのは、まさにその直後だった。
学校を休んでいた筈のクラスメートと町でばったり……状況を説明するならまさにそれだが、四人を包む雰囲気はそんな軽いものではない。
 
「シン……」
「パパス……」
 
切れそうな程にまっすぐ心を張って呟く、隼人と桜。
 
「……あんなぬわーーーっと一緒にするな、御那月」
 
相対するシンは、相変わらずの冷たい眼光と底冷えするような声で二人を射抜いた。
昼の陽に、血紅色の眼帯が僅かに光を帯びる。

106 ◆xE0miVYJNk:2007/02/20(火) 16:01:56 ID:TEfqdHnQ
「……と言うかお前ら、何をしているんだ? 学校はどうした?」
 
シンは右手を腰に宛行い、怪訝な顔をしてそう言った。
昼間の暖かな陽射しの中では、あの鋭い目付きが不思議と和らいで見える。
背後についている、とてもシンには似合わない少女のせいもあるかもしれない。
と、こちらが返しの台詞を考える前に、その白服の少女がおずおずと口を開いた。
 
「えっと、それは私らもじゃないかな……」
「うるさい黙れ」
「……ゴメンナサイ」
 
少女はかくりと頭を垂れて、小柄な身体をさらに萎ませた。
彼女――名はなんと言っただろうか、あまり扱いがいいとは言えないようだ。

107トリノガシ:2007/04/19(木) 19:53:03 ID:21xhG6aw
(゚з゚)イナイカナ…

108 ◆xE0miVYJNk:2007/06/16(土) 03:02:52 ID:m54qIFv.
ごめんね受験生だからこっちまで手が回らなくてごめんね
って言い訳だよねうん

もういっそ一旦消しといてくれると嬉しい

109トリノガシ:2007/06/16(土) 10:29:08 ID:DcN8eO.6

むりせんでええっすよー


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