みんなのSSスレ - 1156144687 - したらば掲示板

1：隣りの名無しさん：2006/08/21(月) 16:18:07 ID:aplTghec: なんか最近過疎ってるから立ててみた。
「書いてみたいけどスレ立ての勇気が無い」とか「ＳＳ書いてもうｐるとこが無い」というそこのあなた、書きましょう。
書くことはちっとも怖くないです。
必要なのはほんの少しの勇気やアイデア、そしてきっかけです。（たぶん）
このスレをきっかけに書いてみましょう。もちろんコテの人の投下も大歓迎です。
最後に一つ、投下されたＳＳを元に絵を書いていただくのも大歓迎、むしろお願いします。

以上、ではじゃんじゃん投下してみんなでとな板を盛り上げましょう。
2：隣りの名無しさん：2006/12/09(土) 00:02:26 ID:yqsZckK6: あるところに、沢山の羊を連れて旅をする男がいました。
そしてその隣には、茶色い垂れ耳の犬娘がいました。

その男は犬娘を仕事仲間として信頼していましたし、
犬娘も、その信頼に答えるように男に従いました。
3：隣りの名無しさん：2006/12/09(土) 00:11:58 ID:Eusvc1HE: ある月の無い、夜遅くの事です。
遠くからオオカミの遠吠えが聞こえてきました。
男は、オオカミ避けに焚き火を焚きましたが、
オオカミはそれを目掛けてやってきているのか、どんどん近づいてきます。

男は焚き火を大きくし、犬娘は羊の群れの方に走って行きました。
4：隣りの名無しさん：2006/12/09(土) 00:16:53 ID:zhNCJies: そしてやって来ました…
銀色の毛をした大きく、スラリとしたオオカミです。
男は腰に挿していた小刀を抜き、オオカミに斬りかかりました。
――キラリ。と小刀の刃が輝きます。
――ヒラリ。とオオカミはかわします。

キラリ、キラリ。
ヒラリ、ヒラリ。
5：隣りの名無しさん：2006/12/09(土) 00:21:05 ID:QSSYArDs: 何分も、何十分も、男とオオカミは戦い続けています。

キラリ、ヒラリ、キラリ、ヒラリ。

男の刃がオオカミの体に食い込む事はありません。

キラリ、ヒラリ、キラリ、ヒラリ。

そのうち、男もオオカミも、息を乱し、疲れきってしまいました。
6：隣りの名無しさん：2006/12/09(土) 00:27:39 ID:BImjS6hk: 基礎体力はある旅人…
とはいえ、体力で野生動物に敵うはずがありません。

――ドスリ。

男は、木の根に足をとられ、地面に転がりました。
男が一瞬、完全に無防備になった瞬間、
初めてオオカミが攻撃に出ました。

そのしなやかな躰と、鋭く輝く牙は、
男の小刀より美しく、鋭く男に襲いかかりました。
7：隣りの名無しさん：2006/12/09(土) 00:34:40 ID:BImjS6hk: 牙が男の喉笛を食いちぎろうとした、その時、
茶色い影がオオカミを突き飛ばしました。

オオカミと茶色い影…男の相棒の犬娘は、
互いにうなり声をあげ、噛みつきあいながら地面を転げまわります。

一瞬――
ほんの一瞬、オオカミに隙が出来ました。
その一瞬に、男は小刀を鋭く、真っ直ぐにオオカミの眉間に突き立てました。
8：隣りの名無しさん：2006/12/09(土) 00:41:34 ID:TaZWfEc6: オオカミは、声もあげずに息絶えました。

男はオオカミが完全に死んだのを確認すると、犬娘を抱き締め、
その忠誠心と勇気を心の底から称えました。
犬娘も、男からの言葉に素直に喜び、
ふさふさの尻尾をちぎれそうなほどに振っていました。
9：隣りの名無しさん：2006/12/09(土) 00:56:46 ID:yqsZckK6: 男は犬娘に礼を言い続けました。
何度言っても言い足りない…と、
何度も何度も、犬娘が止めても言い続けました。

犬娘は男に、どんな時であろうと、どんな命令であろうと、絶対に従う。
と、改めて男に強い忠誠心を示しました。
10：隣りの名無しさん：2006/12/09(土) 00:58:34 ID:af47Nm8E: しかし、ある朝、犬娘は男の元から姿を消しました。
11：隣りの名無しさん：2006/12/09(土) 01:02:54 ID:TaZWfEc6: 犬娘が去った後に、一通の手紙が残されていました。

『勘弁してください。』

と、たった一文だけ。
12：隣りの名無しさん：2006/12/09(土) 01:06:59 ID:PHBWgf12: 僕は後にその男に話を聞きました。

なぜ、犬娘は貴方の元を去ったのですか？

なんでもするって言うからさ。

はい。

羊を押さえさせたんだ。

？

だってさ、羊って、俺がヤろうとすると逃げるんだぜ？

…はぁ。

んで、あいつに押さえさせたんだが…
兄ちゃんどう思う？それが原因なのか？

僕は無言でその場から去りました。

以上、羊飼いの男と犬娘

～完～
13：にゃぅ ◆ICEAGEyUu.：2006/12/09(土) 02:19:58 ID:jmuj2Q.Q: 赤く染まる道路。
二つの転がったタンパク質の固まり。
たまにピクピクと震えるそれはまるで、地上に揚げられたばかりの魚のよう。
あぁ、愛しき父よ。
出来れば私の追っていた、あなたのその背中。
赤く染まった姿で見たくはなかった。
あぁ、愛しき姉よ。
出来れば私を包んでくれた、あなたの優しさに満ちたその体。
赤く染まった姿で見たくはなかった。

見たくなかった――。

ミタクナカッタ――。

そして皮肉にもそれが、私の見た最後の目に映った『ビジョン』だった。
14：にゃぅ ◆ICEAGEyUu.：2006/12/09(土) 02:54:34 ID:lIeXBtGA: コン、コン。
ドアがノックされる。

「どうぞ」

ガチャ。
ドアが開かれ、ヒールを踏む高い足音。
女だとわかるが――誰だろうか。少し警戒をする。

「調子はどうですか？」

この声は、いつも回診にくる看護婦の声。
それに安心し、警戒を解く。

「悪くはない」

「いつもそれですね」

フフッと僅かな笑い声と、サラサラっとボールペンを走らせる音が僅かに聞こえる。
カルテに『良好』とでも書いているのだろうか。
それとも俺の回答通りに書いているのだろうか。

「くしゃみや咳はしてませんか？」

「全くだ」

冬のこの季節になると風邪がひきやすくなる。
それに配慮してなのだろう。

「大丈夫そうですね」

「心配されるようなことはしてないがな」

「それもそうですね」

またも笑い声。
聞く度に頭痛がするが、それは心理的なもの。
下手に薬を渡されると困るので言わないでおいている。
15：にゃぅ ◆ICEAGEyUu.：2006/12/09(土) 03:11:06 ID:0L/.39LA: 「っと、そうそう」

何かを思い出したかのように手を叩く音が響く。

「長谷川さんと面会したいって人がいますけど、どうしますか？」

俺と面会したいとは、物好きな人間もいるもんだ。
一体何が目的なのかわからないが、このまま暗闇の中で一日を過ごすのも退屈だ。
少し刺激があったほうがいい。

「かまわないが、看護婦さんも一緒に頼む」

「わかりました。　ではどうぞ」

ドアが開かれる。

「失礼しまーす」

第一声。
礼儀正しいのはさておき……。

「……！」

声を聞き、俺は驚くばかりだった。
ふと、フラッシュバックする。
思い出したくない、あのビジョンを。
16：にゃぅ ◆ICEAGEyUu.：2006/12/09(土) 03:31:57 ID:q16JUjzY: 「姉……さん……？」

姉さんの声。
トーンも口調も、姉さんと一致。
単なる偶然か、それとも……。

「やっぱり言うと思った」

やっぱり……だって！？
もしかして姉さん……！？
「知明君」

そんなわけがない！
姉さんは目の前で轢かれて……！

「知明君？」

でも万が一助かったとしたら？
でも、あの姿で助かるわけがない！

「知明君！」

姉さんに似た人の声でハッと気付く。

「大丈夫？」

「……あぁ、とにかく用件はなんだ？」

頭痛がするが、話をしてもらう。
17：にゃぅ ◆ICEAGEyUu.：2006/12/10(日) 01:32:50 ID:JJjP8Fpo: ぬるぽ（´・ω・｀）
18：隣りの名無しさん：2006/12/10(日) 23:50:46 ID:/S5sPsfk: ガッ
19：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:05:25 ID:srS5t4uE: 朝日が眩しかった。
空気は冷たかった。
体は震えていた。
気分は最悪だった。

そして

目の前に居る男の顔は、満面の笑みを湛えていた。
20：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:06:02 ID:srS5t4uE: 迷惑な隣人、などと言うのはちょっと酷いかな、とは思う。だが被る迷惑と言っていいレベルの生活侵害は流石に精神に堪えるものが強い。というか、流石にこの馴れ馴れしさにはいい加減辟易なのだ。マジ勘弁して欲しい。居留守を使おうかとも思ったけど、そこに至る段階にはまだ一歩手前かな。多分、こんな事がもう一回あったら、データも出揃う。居留守には計画性が必要だ。相手の出方や用件がある程度見えるようになってからではなくてはならない。人を嫌うには本来それくらいの覚悟が必要なのだ。一人で何でもかんでもできる奴は別としても、私のようにどんなに注意してもどこか抜けてしまう人間は、ヒューマンエラーをカバーする機構が必要。人嫌いじゃなくて良かった、とつくづく思う。だいたいの人間とは円滑に付き合える自信はある。けど、こいつのように……無邪気に馴れ馴れしい奴は、そもそも嫌いなタイプだったし、そして我慢の限度のHPはこいつの行動の一発一発により大きく大きく抉られてゆく。
立ち技上段のコンボをガード、最後のつかみ技が来る直前で足元を狙う。浮いた瞬間に超必をぶち込めばOK、そうでなくても、出の早い技で半分以上ゲージを削れる。私の我慢の限界はよく頑張った。だが最初の一撃によって中間のT.O.Pエリアまで侵され、じりじりと後退を続け、しかもこのコンボだ。いつか来る我慢の限界の際は、いかに相手をへこませてやろうかとその文句を考えるほうが楽しくなってきている。要するにムカついてるのよね。理で蓄積されるポイントだけではなくて。感情的にも、嫌いではないが……という鬱屈が先端に増え続ける。
だが残念だったな、私はその過重に折れてやるような人間じゃない。
手ひどいしっぺ返しとして、跳ね返りを起こしてやる。
それはもうユーラシアプレートの氾濫だ。原爆のいくつかを束ねたような衝撃が、こいつには見えないような深い深い地の底というべき私の心で生じて襲い掛かる。人は自分の足が付く地の下になにが眠っているのかを意識するだろうか。私はする。する人はする。そんな事に考えを及ばせず、ただただ前だけを見る様な、俯かない人間にはいい薬だ。手酷くやり返して、手痛く凹ませてやる。その執念はある種の抑止効果を持って、マンションのドアを開けた、カーディガンを羽織った私の心を突沸から守っていた。

ああ畜生……

寒い。
21：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:06:42 ID:srS5t4uE: -good morning-

私――岩波香澄（イワナミ-カスミ）は不機嫌だった。
寒い寒い朝に呼び鈴をならされ、パジャマの上にカーディガンを羽織って魚眼レンズを覗くとそこにはいつもいつも笑っている隣人が居た。二ヶ月前に越してきた隣人は、妙に馴れ馴れしく近所中の人間に愛想を振り撒いている。好青年と言ってもいいだろう。笑うたびにキラリと輝く清潔な白い歯。笑顔の皺がくっきり浮かび上がる色黒で少し油が張った顔。そして朝晩とランニングし、マンション横の公園の鉄棒で大車輪をかます健康な運動習慣。しっかり洗濯されたシャツは純白で、厚い胸板が浮かび上がっている。マッチョな男だ。正直ここまで行くとキモイ。アメリカの通販番組に出てきそう。
オープンな性格で、地域の行事にも積極的に参加する。公園で子供が泣いていたら、あやしてすぐ笑わせてやる。ゴミ捨て場が荒れていたら、頼まれても居ないのに率先して片付ける。花壇の花に水をやる。落書きを消す。捨て猫の飼い主を探す。喫煙中の中学生を見つけて捕獲して叱る。屋上から飛び降りようとしていたサラリーマンを思いとどまらせる。いやはやまったく、これ以上ない隣人だね！
皆に好かれ、皆に愛されるスーパーマンに近い存在だった。
と同時に多趣味で、部屋にはスポーツ用品が綺麗に収納され、キャンプの際には頼りになる男が演出されている。音楽もやるらしく、隣の部屋に住む私は時折エレキギターやらトランペットやらマリンバの音を聞いていた。
そしてその趣味の中にはフィッシングも含まれており……
大漁の日などは、そのおすそ分けを持ってきてくれることがしばしばあった。
これが。
そう、コレが悩みの種なのだ。
本人としては親切心なのだろうが、いや違う。親切心ですらない。当然のことくらいの感覚なのだろう。そりゃそうだ、売れない女性同人作家の稼ぎなんかたかが知れてる。実際にそのおすそ分けに助けられたような気分になったことだってある。もし、見越してやっているならものすごい屈辱だ。そこまで哀れまれるほど落ちぶれちゃいない。
ともかく。その朝も、深夜に船をチャーターして沖釣りを同好の輩とやっていたに違いない。最初のうちは地元のカジカ会の末席に名を連ね、鱒やら岩魚を釣っては持って来た。それが過ぎると鱈や鯛などの大物を笑う犬の原田泰三よろしくそのまま持ってきたり。最近はイカの沖漬けをクーラーボックスで寄越して来た。わざわざキャンプ用のナイフを通販してそれらを捌いてその日のうちに刺身で食べたところ、なんとも言えず美味なのだ。魚は釣りたてより釣ってから六時間から十時間ほど経ってからの方が美味しくなるという。アミノ酸やらたんぱく質だかなんだったかの分解が進んで身が柔らかく旨みが増すとかなんとか。ちゃっかりとおいしく頂いておいてなんだが、餌付けされるほど落ちぶれちゃ居ない。本当だってば。そんなに食い意地張ってないのよ？

で。
なんだかんだで食料は食料で惜しい。わざわざ起き出したのはそういう事情もなくはないのだった。
大家さんに教えていたメールアドレスは、若い男好きの中年ババアのもーロクのおかげであっさりこの男にも流出し、まず口頭で確認を取った上で私の携帯アドレスはこの男のM702iSに登録され、すぐさま着信が響き、目の前で交換が行われる羽目となった。

やぁ！大家さんにキミのアドレスを教えてもらってね！僕のアドレスも教えておこうと思ってさ！
だけど、いきなり知らない人からメールが着たら驚くかと思ってね！確認に来たんだ！
そして朝も早くに着信音がガナル時は、大抵において釣果のおすそ分けが発生する日で。
22：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:07:13 ID:srS5t4uE: 「おはよう！今日も、新鮮な魚が取れたから、良かったら食べて欲しいな！」

やっぱり、メールに書いてあった時刻どおりにピンポンとなり、開けてニコニコ顔がそこに居た。

「あー……おはようございます。今日は寒いですね、うん寒い」
「乾布摩擦とかどうかな！僕は小学校の頃から気が向いたらやってるよ！」
「今日も大漁だったんですか？今回は沖釣りでしたっけ？夜は寝るほうが好きですよ私」
「昨日は知り合いのアンコウ漁に同行させてもらってね！寒かったけど、楽しかったなぁ！」
「そうっすか。そうっすか。エチゼンクラゲは居ましたか？居たでしょうね。お疲れ様でした」
「いやぁぼろもうけさ！ぼろもうけ！コレを見てくれ！」
「どうでもいいけどあんた鶴屋さんに――ってデカぁ！？」

でかいものが現れた。

「だから、アンコウだよ！」

60cmはあろうかというアンコウの尾を掴み、片手で軽々持ち上げて掲げて見せたいた。滑って持ち難いと思うのだが。

「え？え？コレをどうしろと？」

困惑面丸出しの私に、キラキラ輝く笑顔を朝日にきらめかせてうま味紳士……じゃなかった。マッチョ木村（仮名）は軽く唾を飛ばしながら、

「あげる！」

心なしか、グロテスクな顔したアンコウが笑いかけていた。ヘヘヘ、嬢ちゃん、よろしくたのんますぜ的な。
23：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:15:52 ID:srS5t4uE: -open combat-

決して台所は狭くない。だが、このアンコウを乗せられるスペースは生憎と無かった。
だがしかしほかにどこにこいつを置けばいいのかという考えも浮かばず、そういえばアンコウを捌くの初めてで、だいたいに捌き方なんかググっても出てくるものではない。
適当にやってもいいのだが、それだとものすごい手間がかかる上に廃棄率が高くなってしまう。
一応ばらして食べられそうなところだけ取ればいいかな、とも思ったが、よくよく考えてみればアンコウって毒とか無いよね？無いよね？
疑心暗鬼が始まってしまってさぁ大変。
一応、全部食べる人は食べるだろうが、それだって手間のかかる調理法を経てこそであって、素人がいきなりアンコウを一つ渡されたらそれをどうするかなんて選択肢は概ね決まっていると言っていい。常識的に考えて。

答え：魚屋さんに持っていく

だよね。うん。
24：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:17:01 ID:srS5t4uE: が、問題が無いわけではない。まずはこのアンコウを持ち込む手段が無い。また、アンコウを捌けるかどうかも怪しいものだ。どうせだったら自分でやったほうがいいかもしれない。
それに、その方がなんだかんだあったとしても諦めがつくというものだし。
アンコウの捌き方というとアレだろうか。例の、つるし切り。だがあいにくとアンコウを吊るすスペースなど無い……かと思いきや。そうだそうだとよく考えてみれば一箇所あるではないか、そう、ベランダが。
フックなどない。だがいくらでも代用になるものはある。なに、深く考える事はない。身を傷つけるとか気にしてたら素人にアンコウは捌けない。
包丁は通常のものでも問題はないだろう。このぶにぶにした感触。ぬめぬめした皮膚。そうだなぁ、ハンガーは何を使おう。
そうだなぁ……ハンガーを使おう。直径が太目の針金を使った奴がある。
そいつを口当たりに引っ掛けて……ホースは洗濯機のものを使おう。確か水をいっぱい注ぐのだ。腹いっぱいに。アンコウか、アンコウなァ。楽しみだなぁ。
まァ、いいのだ。折角だから捌くという行為自体を楽しもう。サディストではないけれど、なかなか出来ない体験である事に代わりはない。
いきなりアンコウを捌く二十台半ばのフリーター女性がベランダに現れたらそれは話的にも唐突に過ぎるし、シュールという意味ではなるほどシュールだろう。
生臭い汁を階下に垂れ流す事になるかもしれないが、そこはやはり雨樋に物を言わせる事にしよう。
25：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:18:38 ID:srS5t4uE: 一応雨どいの修理はこの間の台風で壊れた際に業者がしっかり直していったので、超過量が流れ出もしない限りには景気だろう。
このマンションの屋根面積はどれくらいだろうか？確か敷地は……知らない。だが、25mプールくらいはある。幅を10mとすると250m^2、壷換算で約75坪。
降水量から考えても、今この晴天時に私の部屋のベランダからホースの水を流し続けたとしても溢れる事は無いだろう。
流れた血や臓物が地に落ちる事になるのだが、まァそれは……知らん。猫が片付けてくれるだろう。
そうと決まれば話は早い。アンコウをどうにかこうにかあまり不愉快じゃない方法でもってベランダに運び込む。
そいつを物干し竿の中央に、リングのほうを中に入れた棒を曲げて作られたハンガーのフックに吊る……そうとして失敗した。
簡単には通じない。いったん穴を空けたほうがいいだろうか？
しかしそれで傷口が広がって行って最終的に破けるような事になったら不愉快だし。仕方が無いから先にハンガーをやや強引に突っ込んで、そのハンガーごと持ち上げる事にした。
それをさかさまにして……物干し竿に通す。
26：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:20:22 ID:srS5t4uE: こうして、アンコウは吊るされた。結構な手間だった。だが、実に腕力には自信が無いわけではない。あるとはいえない。
ただ、成人女性としては十分に強い方だと行っていいだろう。
それは一重にバイト先で大量の書籍を運搬しているからであったり、あるいは学生時代にやっていたハンドボールのおかげかもしれない。
どっちにしろ、それが功を奏する場面は多い。むしろ、損をする場面はないと言ってもいいだろう。
まァ、強いと言っても所詮は――いや、コレは本題じゃない。それよりも、早く次の作業に移ろう。
洗濯機のホースを外して、それがホースとして機能する事を確かめる。水は流れている。問題ない。それを伸ばして口に突っ込む。なるべく奥深くまで。そして、蛇口を捻った。
ごぼぼぼぼーーー、という音がして、徐々にアンコウの腹が膨れてゆく。
どこからか水が溢れてゆき、それはやや変色して何か濁った液体を含んで流れてゆく。しばらくそれを続けると、口から溢れてきてしまった。コレだけやれば十分だろう。
水を止めて、ぐぐーーっと押してみると水が溢れた。水っぽくならないかしら？

そして、包丁を取り出し……どう捌こうか、と考えた。

実は、アンコウは先に皮をはいでから捌くものなのだが、今回はその作業をするスペースさえなかった。
だから合わせてやってしまおうと言う事になり、さてどこから取り掛かればいいかと考え、まずは邪魔な背びれを切り落とした。
尻尾の方をくるりと回してきり、底から少し筒浮かせてゆくと、面白いように引っぱるだけで剥けていった。やや力を込めて引き、竿がしなり、それでもなんとか完了。えろいな。
こう見ると、ああ、ここは食べられそうだな、という場所が見えてくる。サジタル面を見い出しいくい面構えだが、構造を理解するうえで背骨が見えるというのは有利だ。
ここから三枚におろしてやろう。
包丁を入れると、すぐに骨にぶつかった。つるし切りでは無理に切断しようとはしないのだろうが、そこは素人の仕事だ。サクサクと切り裂いて右半身を切除。
同様に左半身を切除すると、側面は綺麗になった。
そして内臓が覗いている。コレのどれが肝臓でどれがなのかがハッキリしない。一応アンキモというくらいだから目立つとは思うのだが……色や配置から推察するしかない。
一応、白くてでかいのが肝臓だろう。
サメなどの場合は浮き袋の役割も持っている為に肝臓がやたらと大きくなる。それと同じように……とにかく、コレが肝臓だろう、と、ちぎるようにそれを回収。
赤身の部分がエラだろう。こいつも、綺麗に一本でとることはできなかったが、ザクザクと切り取った。そして……この、でかいのは、なんだ。
一頭広く分布している白いブツ。コレが胃だと知ったのは、それを切り開いてからだった。なにか中に入ってるな、と思って包丁を突き立て、
遊ぶようにざっくりと穴をあけ、そして取り出されたのは小魚と、いくつかの海草と、消化不良を起こしたビニールの切れ端だった。なるほど、ソコモノってのはこういうことか。
なんでもかんでも底にあるものを食べてしまう習性。よくよく見ると吸盤のようなものがいくつか。タコやイカも食うのか、こいつは。おおよそ、顔の通りの雑食ッぷりだ。
そうして、胃から出てきたあれこれをどうしようかと考え、しかしどうしようもないのでさっさとゴミ袋に入れてしまおうと考えたとき、ふと硬質な感触が指先に当たった。
小さかったが、それがなんだか随分、ぶよぶよしたものの中では際立っていたために気になった。
どうにかそいつを確かめたいと思って更に包丁を振るう。そうして、いくつもノ不純物の溶解液から出てきたのが……

金属のわっか。
指輪だろうか？
台座にすえられた、透明な結晶が光る。
指輪だった。
27：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:21:08 ID:srS5t4uE: へぇ、指輪ってアンコウの腹から採れる物だったんだ。なるほどそれは高価なはずだぁ。お給料の三ヶ月分とは昔の話だけど、ダイアモンド流通を確立したデビアンは、それと同時に品質の均一化の為に産地の非公開という体質を残した。それがダイヤモンド研究の上では障害になる事も多々あったが、アンコウやヴィトンが流通に乗り出してきてからというもの透明化が進み、性質による数値の誤差の補正は容易になった。いちいちブラックライトを当てるのも億劫だしね。アンコウ産のダイヤモンドは、なんだか傷がやや……多いような……あれ。
ダイヤモンドカットというのが、具体的にどういった形になるのかはよく知らない。だが傷……たてせんが目立つ構造というのもおかしな話だ。綺麗といえば綺麗だが美観の為に作るならもっとやり方があるだろうに。研磨が足りない？いいや違う。明らかに付けられた傷。いったいなんの為に？だいたいにその手間はあまりに大きい。というか、コレ。

「ダイヤモンド……なワケねーか」

そうなのだ。ダイヤモンドなワケはない。だいたいに、アンコウの腹から指輪が出てくるって言う事自体おかしな話じゃん。七つの海のティコだったかなんだったか忘れたけれども、いけ好かない記憶である幼い頃観ていたアニメの中に、タコが指輪を吐き出すという話があったが、それにしたってキッチョム（金朝群）が馬に小銭を食わせなければどうにもならないことなんだよね。

自然界がもたらす富は様々ある。だが勘違いしてはならない。それは富ではなく糧なのだ。それでも金のなる木というのが実際に存在しないわけではない。実在する金のなる木はホリエモンが持っているものくらいだが、確かに存在するのだ。しかし富というものは言うまでもなく人間固有の感覚で、カラスは光物を集める。栗鼠は団栗を溜め込む。犬は骨を埋めるように、ストックの利く糧というものを富というべきか、腹以外のエンプティーを満たすものを富というのかは解らないがしかし、現金換算するのは、いつだって人間だ。人間以外に信用を基にした貨幣を要する生き物は居ない。この星を熱学的な系として考えた場合、既に人類の活動は些細なものだとか非自然的とか言って切り離されて考えられるものではなく、大気と地中を行ったりきたりする炭素とも、生命発生と活動のための必要物質としての生気とも例える事のできる官能基こそが、マネーなのだ。地球の支配者は人間であり、宇宙を統べるのも人間だ。ならば、人間を動かすものが形となって現れた現金とはまさに……カミというべき存在ではないか。ああ、紙だよ、紙。神？知らね。
とまぁ、穴だらけな話もあったもんだ。金はいつだって金でしかない。問題は人がどう動くかなのだ。穿った捉え方ばかりしていては本質にはたどり着けない。ここでもう一つ説（エアガン持ってないほう）を挙げるならば、金は力、だ。おっかない中華系アメリカンが言いそうな事だが実に的を得た話ではある。もっとも、力は脳を持っていてこそ能を発揮するものである事を忘れてはならない。金以外にも力はいくらでも世に溢れている。その中で言えば金なんて使いにくいもいいところだ。そして力もまた、ただの量でしかない。結局なにが言いたいのかというと……世は並べてこともなし？ッて感じ。シメとしては最悪の部類な上に、締まるような内容もない。そもそも話なんかしていない。

「んなぁんだー……ダイヤじゃないのか。模造品かしら？」

アンコウを捌き終わった私は身を鍋に突っ込み、白菜を切りながら少々がっかりしていた。
なにせ、またとはない偶然である。アンコウの腹から指輪だなんて！
28：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:23:03 ID:srS5t4uE: それは流石に海に指輪をばら撒けばそういった事も起こるかも知れないけど、それにしたって世界まるみえや仰天ニュースに引っぱりダコなお話じゃないか。低俗番組になど姿を晒す気は毛頭ないが、それでも駅の階段で女子高生が折角パンチラしたのにスパッツを穿いていた、みたいな失望感だ。ええすいません、私の方が低俗ですね。でもそうでしょ？
春菊を盛り付けつつ……、もしかしたら結婚指輪をポセイドンアドベンチャーで失った新婚夫婦が地球の反対側で指輪を探していて、そんでもってたまたまそれを見つけた私はクリスマスに併せて匿名でその指輪を送りつけてやる、といった妄想を膨らませていた。ウチモモの肉が気になるからミニスカサンタにはなれないけどさ。もちろんカードには『from the sea』である。残念なのは、私に潜水艦の知識が無いということだろう。最後のSだけあっても仕方がないのよね。その前の三つのSこそが大事なのだから。
まァなんだかんだで私の素性もばれちゃうのよね。でも、ある意味サイレントシークレットサービスをやってのけた私の行動は世界的に評価されるわけよ。そりゃもう、街を歩けば人気者よ？でも私は日陰者だからさ、そういう生活はあんまり好きじゃないわけね。んだから、そうねー……引越しでもしようかしら。その先でショタっ子に囲まれて暮らすのよ。うふふふ。
アンコウの余った部分、骨やら皮やらは、コラーゲンも豊富な事だし粗汁にしようか。いや、その前に鍋の出汁をとらなきゃいけないんだっけ。あれ、どっちにしろ出汁は出ないの？軟骨だから食えるの？アンコウ丸々一匹捌いて食う女ってどうよ？とったどー！みたいな？私の方向とはちょっと違う気がするなぁ。いいけどさ。で、出汁は……肝か、そうかなるほど。八丁味噌が確か残っていたはずだ。そいつを使って鍋で炒めて……水で溶いて……春菊から入れるかなぁ。白菜とぉ、ネギとぉ、キノコは嫌いなのよねぇ。だから、麩を入れましょう。豆腐もいっぱい必要かなぁ。ちょっと材料たんないかも。
今日は一日アンコウ鍋の前で過ごす事にしようかしら。
うわぁ……なんだか、凄く乗り気な気分。
折角アンコウを捌いたんだし、案外いいかもしれない。
実を言うと、コタツがあるのだ。カーペットの上に三人用のコタツが一台。ノートPCは七年前の98だが、チャットをやるには十分だ。メインを使うためにはコタツから出なくてはならないので最近はこっちに入り浸っている。今の時期、日本、いや世界中の同人作家は血涙流しながら時計が止まる瞬間を待っていることだろう。が、私は違う。今年はゆっくりしようと決めていた。バイトも入っていないし、みかんも買ってきたし。お雑煮でも食べながら優雅に正月を過ごすつもりだった。そう、コレはセレブと言っていいんだろうなぁ。クリスマスは言うまでもなく一人だけど、一応ライブチャットの仕事の為に空けてある。一夜限りの恋人役。股を開く気は無い、ただ華としてそこにいる。そういう仕事で……お飾りとも人数あわせとも言うが、概ね好評を得た実績も有ったり無かったり。化粧次第でどうにでもなるから、少々知識に偏りはあっても話し上手で、そして何より『誰とでもそこそこ仲良く』技能は役に立っている。器用な女じゃない事は解っている。だけど、器用に生きている。いつか落とし穴が来る、とは思っている。とはいえ、この道を歩けるうちは歩いていたい。線引は明確ではない。表明と自負の問題もある。その上で、私はいったい何者なのか？と考えた時、コミケに関心を示さない作家がいていいかどうかは定かではない。フォトショップも数日起動していない。年金は納めているし、税金も然りだ。だが、現状維持。それこそがフリーターの落とし穴。あーあーあーーーーー

うっさい、アンコウの邪魔をするな。

楽しいときに嫌な事を考えて鬱になるのは、馬鹿のやること。
決めた。今日はずっとアンコウと過ごそう。
このまま年越しちゃおう。
矛先は遠くに過ぎ、その距離は時間と生活によって広がってゆく。
行き場を失った情熱は受け取る熱源を無くし、騎手は何度と無くその度に気圧と重力に打ちのめされる。巌然とした法則の前になす術はなく、ドンキホーテはそれに抗い、狂った。するり、するりと上空を飛ぶのは誰だろうか。それは誰だろうか。私じゃない。
制限時間はいつでも定まっている。時間はすべてを支配する。圧力も、熱も。一つを決めればあとはすべてが定まる。生まれついた宿命ではないと信じたい。だが、何故私が？そう考え、すぐに思い直す。それが普通なんだ、と。結局跡に残るのは……僅かな思い出と、負債と、相対的に減った時間。ならば今はどうしようか？決まってる。

アンコウを食べよう。
おいしく食べよう。
29：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:23:51 ID:srS5t4uE: それが出来る事。それがしたい事。それが全力。それが、選択によって減った自由が定める取りうる相。
さて……ああ、豆腐買ってこなきゃ。あとお菓子も。
既にあらかたの鍋の準備は終わっていた。
時刻は昼にさしかかろうとしており、ちょうどいい頃合であった。
自転車の鍵を取り、財布を持ち、携帯は……いいか。スーパーまではすぐだし。コタツもつけっぱなしでいいよね。

「いってきます」

スニーカーを裸足のまま履いて部屋を出る。
気持ちのいい陽だ。春の日差しに似ている。だが匂うのは枯れる草の匂いだ。春は、芽吹く草の匂いがする。
食えば解るようになるよ。

自転車じゃ、風が冷たかった。
30：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:24:24 ID:srS5t4uE: -LiNbO3-

「ただいまー」

おかえりー、と心の中で復唱し、ビニール袋の中身を広げる。冷蔵庫に入れるものは冷蔵庫に。豆腐はカットしてタッパーに。すでに鍋のセットは終わっている。台所で具材をタッパーに入れ、リビングへ行く。
コタツとテレビがある。マジックハンドは3mに改造してあり、DVDの入れ替えも楽々、コタツから出ずに行える。HDDに録り貯めた映像も有るし。お菓子も有るし。今日はこのまま過ごそぉっと。
だが、主役はアンコウだ。

「さぁーて、食べるぞぉー」

がらがらがらがら……

「あ」
「え？」

『…………………………』

香澄、脳内会議ッ！
ざかかかかかかかかかっ！
説明しよう！
香澄脳内会議とは、急を要する決断を迫られた際に香澄がとる損得勘定である！脳内に生息するそれぞれの部族の長によって構成される、緊急意思決定機関である！
実際、一つの側面しか持たない場合はスケジュール管理さえ出来ていれば問題はない。だが複合的な問題……例えば、今のような。

居間の戸を開けたら不審な男が居たよ！どうしよう！

みたいな事態に対処するには、例え答えが決まっていても後々の事を考えた決定が必要である。
と同時に、いくつかの脳内部族からの情報提供が進む。
一人娘香澄、チーフ香澄、ライブチャットKASUMI、P.N.カスミ、イカスミ、出席番号17番香澄、東方不敗ッ香澄……彼女達は一様に、すぐさま逃げて隣のマッチョに、と言いだした。それに対して聴衆は猛反発。危機感の無い、利を追求する聴衆は奴に助けを求めるなんてゴメンだ、と言っている。議会は就職を見せず、どんどん時間は過ぎ、自体を認識して二秒というでかいタイムラグを経て、どんどんと切羽詰り、ついには押しつぶされた。
議会、崩壊。
31：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:24:56 ID:srS5t4uE: 「きー……きゃあーーーー？」
「え、疑問系なの！？」
「居直り？居直りなの？ですか？」
「いや、すいません用事済ませたらすぐ出て行きますんで」
「え？泥？公然略奪？」
「あ、いえ、いえあー……そうですけど」
「きー
「あ！待った待った！タンマ！お願い！」
「五秒あげる」
「指輪ここに有るでしょ、アレだけくれない？」
「キャーーーーーーー！タスケテーーーーー！！」
「ええ！？なんでぇ！？」

そりゃ叫ぶよ。
当たり前じゃん。

「話聞いてよ！頼むよ！」
「知りません。あなたも泥棒ならさっさと逃げてください。私の休日を返せバカヤロウ」
「あなた次第ってばよ。指輪くれたら帰るからさぁ」
「訳解んないっていうかなんで指輪のこと知ってるの？」
「ああ、そｒ

どかーーーん！

「ぎゃぁーーーーー！？」

突如爆発する壁。
32：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:26:07 ID:srS5t4uE: 「けほっ…けほっ…うえ、なんなのぉ？」
「やぁ！こんにちわ！」
「誰こいつ？」
「あんたが言うなよ」
「シュークリーム作ったんだ！食べないかい！？」
「助けに来たんじゃないの！？」
「ところでこいつ、今壁破らなかった？」
「冷静に分析するなよ」
「じゃあどうしろってんだよ！」
「シュークーム食べない？」
「ってああーー！？壁ぶっ壊れてる！」
「あ、アンコウ鍋じゃん」
「おや？キミは誰かな？彼氏君かな！」
「おい、オイマッチョ！名前忘れたけど、マッチョ！壁どうにかしろよ！」
「あ、俺はあれッスよ。空き巣」
「汚い手で触るな！それは私の鍋だ！」
「今日のはホイップがイイ感じなんだけどな！」
「マッチョってそのまんまなネーミングだなｗｗｗ」
「警察呼んでいい？なんかもう面倒くさい」
「あ、俺一応仕事中なんでシュークリームは……」
「僕の名前は冬村幸男だよ！」
「ところで壁はどうなるの？ねぇ？」
「そろそろ話進めていい？俺は指輪捜しに来たんだってば」
「シュークリーム！」
「壁ぇー……」
33：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:27:03 ID:srS5t4uE: きらん

『！』

がばーーーっ！

「え？きゃああああああああああ！！！！！！！！」

突如として空気が一変した。
一瞬窓の外がきらめいたかと思ったら、雪村と空き巣は飛び跳ねるように動いた。
空き巣は即座に腕を伸ばしカーテンを引いた。それでも足りないくらいに急ぎ足で、跳躍中の動きがそのすべてであった。身を壁に潜め、一瞬で外の状況を記憶する。
雪村は岩波にタックルをかまし、そのまま床に押し倒す。外の状況を確認する暇はなかった。わざわざ押し倒したのは言うまでも無い、岩波を案じての事だった。

「いやあああああああああああああ！！！離して！！離して！！筋肉いやぁあああああああああああああ！！！！！！！！」

空き巣に遭遇しても動じなかったのにこのザマである。あ、これまで地の文は一人称だったけど、彼女は今パニックしてるので代わりに普通の地の文がお送りいたします。

「いやぁ！いやぁ！離して！殺すぞ！！！」
「落ち着くのだ、岩波さん！頭を上げちゃいけない！」

普段から一方的な雪村の随分と緊迫した声が響く。だがそこには聞く者が聞けば解る、解る者にしか解らない喜色があった。

「いやぁ参ったね……おい、にーちゃん。その嬢ちゃんなんとか正気に戻してくれんか？」
「離せ！離せ！五秒だけやる！さも無きゃ全力で殺すからな！聞いてんのかこの肉達磨！！！」
「解った、解ったから、頭を上げちゃダメだよ！いいね！」
「はぁーー、はぁーー……はぁーー……。……はぁ……はぁーー……。……死ぬかと思った」
「いややー？まだ窮地は脱してねーぜ」
「頭を上げてはいけないよ！すぐ済むから、辛抱してくれ！」
「で、いったい何事なのよ？狙撃とか言ったら殴るよ？ますのよ？」

どうにか落ち着きを取り戻した岩波は、まだ体に残るゴツゴツした温かい筋肉の感触に寒気を殺しながらも状況を把握しようとする。ここは自分の家で、自分の居場所なのだ。そこでなにが起きているかを逐一把握し、対処し、その方向を決めるのは常に岩波自身でなくてはならない。その自覚があったからこそ湧き上がる闘志はそこにあった。それは同時に外敵への武器に変わる。どうやらこの二人は敵ではないらしい。それは岩波の勘だったが、隣人としてはそこそこ信用していたのだろう。雪村の事を。
34：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:28:38 ID:srS5t4uE: 「お嬢さん、指輪はどこだい？」
「指輪物語かな！？」
「だから、まずあんたは誰よ？フー？」
「それさえ渡してもらえれば問題は解決するよ、事後処理は残るけどね」
「あ、シュークリーム食べない？落ち着くよ？」
「外に居るのはなんなワケ？なにか居るワケ？っていうかいるって言う根拠に『きらりん』は弱くね？」
「ああ、壁は今度修理するよ！去年は工務店で働いてた！」
「俺の素性かぁ……教えられないけど、まぁ、堅気に迷惑掛ける気はないから、どうか頼むよ」
「んああもう、指輪指輪って……目的が解んねーわよ」
「んー……っと。ふむ。おいあんたも見てみなよ。正面のビル四階に一人。見えないけど、あと一人がどっかに居ると思うんだ」

空き巣は手鏡を器用に回して外の状況を継続的に掴もうとしていた。ちょうど、部屋の両側の窓から見えない位置に二手に分かれた形。空き巣と、マッチョ。
マッチョはなかなかどうして見る目がありそうだと見抜いたのだろうか、それとも当てにはしていないが一応、程度なのか、ともかくも言われたとおりその辺に有った鏡面を拾い上げて雪村が外を鑑みる。向こうもこちらの動きに気が付いてはいるだろうが、無駄に撃つ気はないようだった。それもそうだ。発砲は、最後の手段。事を穏便に済ませる事は何においても優先される。

「うん、四階に一人。あのビルは七階まであって、印刷会社の資材倉庫なんだ。屋上って事はないとおもうよ。流石に目が届かないからね」
「…………」
「あー……そっか。じゃあもう一人は……どこかな、とにかく正面に二人いると思うかい？」
「居るんじゃないかな。光は二方向からだったと思うよ。一瞬だったけどね」
「…………」
「狙撃はそれだけだろうな。この県にそんなに兵隊いないし。多分、どんなに多くても六～七人、そのうち二人が狙撃位置に居る……アタリを引いたかな」
「警察、呼んだほうがいいんじゃないかい？」
「…………」
35：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:29:19 ID:srS5t4uE: いきなり話に参加し始めた雪村のおかげで、結局取り残されてしまった岩波は、しかしその邪魔をする事はせず、ただ聞いていた。自分の置かれてる状況を知り、見極める。未だにドッキリを疑っているのだ。だが、壁の穴はなんだかんだ言って自分の身を案じた隣人が駆けつけた証拠であり、そこまでした芸に付き合わされるいわれはない。

「うんまぁ、警察呼んでもいいんだけどね。でもその時は君たちの目の前にいる俺も指輪を『奪う』為に動かなきゃいけなくなる」
「そうそう、それだよ。岩波さん、指輪ってなに？」
「あんたは、それを最初に確認しなさいよ……」

かくかくしかじか

「なんてことだ！アンコウの腹から指輪だなんて！」
「あんた、あれどこから獲って来たのよ？」
「日本海」
「空き巣ー、あんた日本海の底にある指輪探してた訳？」
「ンなワケない。本当なら港で片をつけるはずだったよ」
「そういえば、君はどっかで見たと思ったら、今朝港の競りで騒ぎ起こしてた人だよね？」
「詳しくは言えないけど、まぁそういうこと」
「競りって、あの市場？あそこで？」
「海から帰って、漁船の方々にお酒を奢って帰宅するときに、なんか揉めてるなぁって思ったら」
「まさかねえ。取引が行われるって言うからそこを狙おうとしたんだけどさ」
「ん？ちょっと待った。じゃあ何でそのアンコウがここにあるの？もしかしてこのマッチョってなんかヤバイ事に一枚噛んでる？私巻き込まれた？」
「その場で関係者締め上げたら、どうやら別ルートで流出したアンコウに入れたって言うもんだから。すぐそこには警察来ちゃって腹から出たほかのブツ紛れで大騒ぎになって……」
「いやぁ！参ったね！僕はただ漁に同行してアンコウを貰ってきただけさ！モグリでね！」
「…………」

岩波は状況を整理していた。
今現在生じている厄介ごとはまさしくあのアンコウに端を発しており、そのアンコウの腹から出てきた指輪を求めて自分の家で、しかも休日を潰されてまで頭を下げていなくてはならない。これはなかなかにムカつく話だった。貴様らは貴様らの都合で引っ掻き回してくれているが、だったらこっちもこっちで都合を優先させてもらう。そう指標を立てたはいいものの、混乱する現状でいったいどう自分自身の安全と今後の面倒を避けるか。それが行動を躊躇わせる原因だった。悩む事はない、さっさと渡してしまえばいいのではないか。ああでも壁どうしよう。そんな思考の堂々巡り。よくない傾向だ。
36：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:30:01 ID:srS5t4uE: 「ねー、この指輪を何で欲しがる訳？そこ説明して欲しいな」
「説明は出来ない。あんまり漏らしたくない情報だし？」
「でも、仮に渡したとして、それで私が現状切り抜けられるって保証はどこにあるの？」
「そうだなぁ……じゃあ、説明は出来ないけど、一方的な解説はするよ」

空き巣はそう言うと身をよじらせ、伏せた姿勢のままポケットから何かを取り出し、それをひょい、と投げて寄越した。転がってきた物を岩波が拾う。雪村は外の観察を続けていた。岩波が自体を自分の言いように解決しようと図っているときに、雪村は何を言っても面倒ごとしか引き起こせない。それを彼自身よく知っていた。だから黙っている。

「飛び出しナイフだよ、それ使って、指輪の台座あるっしょ？それをリングから外してみな」
「うわ、なんか胡散臭い展開だぁ……あ、なんか隙間あるし」

しぶしぶといった体で切っ先を隙間に食い込ませ、捻る。間金、という音がシ、簡単に片側が折れ、もう片方も同じようにナイフでこじ開けると、どうやら断面を見るにアロンαによる接着だったのか、あっさりとリングは落ちた。

「結晶には傷をつけないように。裏側見てみな。黒いの入ってるでしょ」
「……ほんとだ」

大した器用である。小さな指輪を分解すると、中からは豆粒大のコンデンサと5mm四方の基盤が収まっていた。ルパン？ルパンなの？

「それは引っぱっちゃダメだよ。結晶に繋がってるから」
「で、これはなんなの？」
「俺がここに来れた理由、かな？」
「なんでこんな面倒くさい、しかも動くかどうかも怪しいギミックが？」
「ほかに流出した同じような結晶を探すため、なんてどうだろう？」
「そんな面倒くさい事をする連中が群がるこの結晶は、なに？」
「さぁね。たまたま綺麗に見えたから指輪に加工したけど、実際はどこにでもある石ころさ」
「で、これを私に見せて、あなたは何を言いたいの？」
「うふふふ……警察は呼べない、ってさっき言ったよね、だけど、今は、まだ、『何も起こっていない』といえなくは無いか。つまり俺がそれを持って逃げれば、窓の向こうで85式構えてるおっかない人たちは俺のほうに来る。そのあとあなた方は予定通り、休日を楽しめばよろしい」
「壁は？」
「知らないね。開けた人に言いなよ」
「あんたが来なけりゃ開かなかった」
「壁ならすぐにでも修理するよー！」
「んー……でも仕方ないなぁ」

流石にすべてを信じたわけではない。
だが現状打破する方法を警察以外に求めるなら、取れる方法としてくれてやるのも悪い話ではないのではないか。だいたいに、欲しければとっくに奪っていてもおかしくない。やはり事を荒立てるのが嫌だと考えるのが自然だ。確かに部屋は散乱してるが、まだアンコウ鍋をやるのに不都合が生じているわけではない。いらない客にはさっさと帰ってもらう。それが出来る。
37：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:31:02 ID:srS5t4uE: 「解ったわよ……じゃあ好きにして」
「助かるよ。……ああ。なんか補償の必要はある？現金の持ち合わせはあんまり無いけど」
「いい。いらない。早く消えて。すっぱりと。ここにあなたは来なかった」
「それはさすがに無理があるけど……ちょうどよく穴が開いてるから、こっちから帰るけど、いいよね？」
「もちろんだよ！ただし、置いてあるファービーには触っちゃダメだよ！噛み付くから！」

解体した指輪を思い切って投げて寄越す。外から見えるかな、とも思われたが、岩波の知ったことではなかった。

「ん、じゃぁ、これで俺は消えるよ。念のため、しばらくは身を伏せたままでお願いね」

身を起こし、外から死角になっている壁際に立つ空き巣。

「早く消えて……頼むから」
「んじゃー、おじゃましましたー」

ちゃちゃっちゃちゃんちゃかちゃんかーと音を立ててドリフ的に姿をくらます謎の空き巣。ﾓﾙｽｧｰﾓﾙｽｧｰととか言う効果音が混ざっていた気もするが、まァいい。

「え、で、いつまでこうしてればいいのかしら……？」
「まだ陽は高いからね！落ちるまで待った方がいいんじゃないかな！」
「マジで？」
「なりたての狙撃手でも二日は粘るよ！」
「仕方ないか……ま、漫画でも読んで待つかな……あと二時間くらいかしら？」
「今日は冬至だからね！」
「何でこんな事に……あなた本当に壁直しなさいよ？」
「もちろんさ！あの程度の壁なら三時間で直せるよ！防音性能上げるし！」
「少年愛シリーズでも読むか……」

一方その頃

「あ、すいません」

マンションの入り口で。
例の空き巣が、住人を呼び止めていた。

「え？あ、なんですか？」
「申し訳ないんですが、この台車にダンボールを乗せるので、それであの、ここ少し行ったとこに炉註してる青いバンがあるんで、そこまでお願いできませんかね？」
「はあ」
「お願いします、ああ、これを……」

そう言って懐から茶封筒を取り出し握らせる空き巣。
金の匂いを感じたか、マンションの住人はあっさりOK。
流石に、そのダンボールに依頼人本人が入るとは思わなかったようだが、しかし

「いやぁ、自分芸能関係者でして。業界用語で『サッチー法』って言うんですよ」
「ああなるほど」

こうして空き巣は脱出した。
38：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:31:33 ID:srS5t4uE: -potato chips-

暗くなり始めた頃。

「もうそろそろ大丈夫かしら？」
「んー、そうだね。どうやら撤収したみたいだね！」

なんだか、散々な一日だ。
折角アンコウを捌いたというのにそれを目の前にして鍋をやることも出来ず、折角の時間も潰された。録り貯めた映像も消化できず、同じ空間には筋肉達磨だよ。流石に最悪というほどではないが、嫌な時間だった。そう言って良い。マジ勘弁。

「はぁ、もうお菓子もなくなっちゃたしね。……ポテチを、食べるッ」
「シュークリーム食べればよかったじゃないか！ははは！」

最後のポテチを食べながら、つくづくと、疲れきった体を起こす。
疲れていた。本当に疲れていた。

「あのさ……壁、直してよね」
「もちろんだよ！」
「あと、マジ、馴れ馴れしいのとかなんとしてくれない？」
「馴れ馴れしかったかな！それはごめんね！」
「うん、そして私はあなたはそういうだろうと思ったのよ。解ってる？解ってるの？」

切れかけていたわけです。実際。
ここぞとばかりに言ってやろう、と。
39：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:41:04 ID:srS5t4uE: 「あんたは、いつもいつも、自分の善意を押し付けている。私の都合をこれっぽっちも考慮せずに。モノには限度ってモノがあるでしょう。みんなはあなたを好いてるだろうけど、私は実際迷惑とか思うことも有るのよ？マジでマジで」

そこまで言い、そして、ポテチを取り、食べるッ！

「これまで何度と無く言おうと思ってましたが、自分のやってる事が人に肯定されてきているから勘違いしているのではないかと思ぉのですよ。すべてはあなたがやりたいからやっていることであるという前提はいつだって変化しません。もちろんですね。そこでですが、あなたは自分のやっている事が人にどう思われているかを考えた事はありますか？空気嫁などとはいいません。空気なんか読めるはずは無いんですよ。解ります？私が言いたいのは、自重しろッてことですよ」

ポテチを取り、食べるッ

「常識範囲を守れってことなんですよ。それであれば私も黙っていますよ。でも普段からあなた、ちょっとやりすぎなんじゃないですか？私に対してもそうです。手を出さないほうがいいことだっていくらでもあるんですよ、世間には。それが私です。解ったらもう放っておいてください……私に関わらないで」
40：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:42:02 ID:srS5t4uE: 「それは、申し訳ない事をした」

そしてポテチを取り、食べる

「じゃあお詫びに……、シュークリーム食べないかい！？」
「…………なんかもういいです……さっさと壁直してください……」

勇気を持った告白は熱のこもった部屋に霧散し、鬱屈した感情はシュークリームの薄皮に遮られ、本人に届く事は無く、ただ続く地獄は終わったものとして、抗った自分自身に満足するしかない。

「私は言いましたからね。これからは節度ある対応を……でも」

言う事はすべて言った、かどうかはまだ解らない。だが今日一日で言うべき文句は過ぎた。
そして、今度は、また別に言う事がある。
41：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:43:12 ID:srS5t4uE: 「鍋の材料は多めにあります」
「そうか！アンコウ鍋か！おいしく頂くにはそれが一番だね！」
「あなたが獲ってきたんです。招待しますよ……不本意だけど。ウチで食べませんか？」

文句を言うだけ言ったあとはどうするか？
常識人としてどう動く？貰いっぱなしでいいのか？そう考えたとき、そして、一人暮らしの女性として、やる事は一個だ。節度を保ってな！

「言っときますけど、へんなことしたら殺しますからね」
「キノコが好きだなぁ！榎はあるかい！？」
「ねーよ。キノコ嫌いだから」
「じゃあスモークチーズはあるかい！？」
「ねーよ。C4もねーよ」

昼に受け取ったままだった飛び出しナイフで軽く脅しをかける。もっとも、何の効果も無いようで……畜生コノヤロウ。

「いま鍋作りますからあんたは壁直して下さい」
「今道具とって来るよ！」

冬至の夕方は一瞬にしてすべての光を奪われ、外はすでに真っ暗闇。
鍋を囲むには良い時間であった。台所で具材を取り出し……
部屋に戻った。戻ったところ……
42：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2006/12/23(土) 23:43:49 ID:srS5t4uE: 「早かったね！」
「か、壁直ってるーーーッ！？」
「このくらいならすぐに直せるさ！たまたまベニヤ板が余っていたからね！」
「えーでもこれ本当に直ってんの？」

ごつごつ、と壁を叩く。真新しい壁紙。ここだけ白い。
どこを叩いても硬質な感触。これはマジか？
マジらしい。

「いやぁ、女性の手料理は久しぶりだなぁ！」
「どうでも良いけど、あんたそろそろキモいよ……」

春菊。白菜。豆腐。葱。
皮。胃。卵巣。えら。ヒレ。

鍋に潰したアンキモを入れる。八町味噌は期せず室温に晒し続けた為に十分柔らかく、アンキモとよく混ざった。

「ま、いいでしょ。キモくても、鍋は複数人で食べたほうがおいしいもの」
「ははは！そうだね！」

アンコウ鍋は好きなものの好きに応える濃厚な味を持つ。
それは誰の舌にも響き、誰の胃をも温める。
同じ鍋を囲むという事は、同じ味と気持ちを共有する機会を得る事に他ならない。

「アンコウの身が煮えたわよー」

果たして、キモく、馴れ馴れしく、やたら陽気でウザったらしい隣人だが。
仲良くしておいておけばなにかと得なのではないか。

そんな気持ちにさせる、鍋だった。

END
43：ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw：2007/06/04(月) 02:41:10 ID:TlvHylj.: なんか知らんけれど、投下しろって保冷さんに脅されたので投下しますね？ｗ
44：保冷剤 ◆xl4B3i0CLs：2007/06/04(月) 02:41:37 ID:gt/9dCVs: 誰がゆすり魔か誰が
45：ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw：2007/06/04(月) 02:41:52 ID:TlvHylj.: 遠くから見れば点のような。近づけば綿のような雪が降る。
空は夜の暗がりで、照らすのは月明かりのみ。
瞬く星は遠すぎて小さく、寂しさを増してくる。
「寒いね」
彼女は口にした。
長いマフラーと帽子は毛糸のふわふわとしたもので、厚手のコートは丈よりも少し大きくてくるくると巻いた袖口に愛嬌がある。
はぁ、と手の平に自分の吐息を乗せて、もう一度、
「寒いね……」
辺りに人影はない。彼女の独り言。
ふるふると、身体に震えが走り、彼女はきゅっとコートの首を閉じた。
目を瞑り、そのまま。
そのまま。
そのまま、すぅ、と一息吸い込み、
「けほっ……やっぱり、タバコくさいや……」
とはにかんでコートを開く。
えい、とばかりに彼女は雪を蹴り上げる。
街中を歩くための洒落た赤の靴は、水がしみて色とにじませていた。
カーン、と遠くで鐘が鳴る。
彼女は手首を返し――ふと気がついて、手を甲の向きに戻す。
時計は、十二時を指していた。
46：ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw：2007/06/04(月) 02:42:38 ID:TlvHylj.: 「……ハッピバースディ」
空を仰いで、彼女は言った。
「こんな感じで、よかったんだよね……？」
語りかける相手は、居ない。

「ううん、違うな」
しゃがみこみ、雪球を作る。
雪球を転がし、大きくする。
大きな球をふたつ作り上げる。
重ねて、小石を広い目と口に。太い首にマフラーを巻いて、彼女は満足そうにうなづいた。
「めりーくりすまーすだ、大ばか者♪」
雪だるまを小突いて、彼女は笑った。

鼻に小さな宝石を光らせて、雪だるまは申し訳なさそうに、照れた。
47：ミミ to I eva 聴音器官 ◆8VM5xLK5jw：2007/06/04(月) 02:43:16 ID:TlvHylj.: という感じでよろしいでしょうか、保冷大権現様orz
48：隣りの名無しさん：2007/06/04(月) 02:47:37 ID:gt/9dCVs: 誰が大権現かは知らんがともかく乙
ちょいと季節をはずしたかな？
49：隣りの名無しさん：2007/06/05(火) 06:56:54 ID:GK73RMHc: 宝石、宝石か
困った雪だるまちゃんだぜ
乙
50：隣りの名無しさん：2010/07/23(金) 19:22:07 ID:US1p.9jY: テス。見ているものがいるならば返信を請う
51：cel ◆3i.7zy5ZPY：2010/07/24(土) 22:38:01 ID:???: ふむ
52：隣りの名無しさん：2010/07/25(日) 10:25:53 ID:tThEtw7U: みてたのか！？
こりゃ迂闊なことはできねーな、としまいこむ
53：cel ◆3i.7zy5ZPY：2010/07/30(金) 01:45:19 ID:???: 逃げられた
54：隣りの名無しさん：2012/10/15(月) 22:17:42 ID:EvyXYOYA: せっかくだからここになにかを建てよう。キマシタワーとか
55：隣りの名無しさん：2014/04/19(土) 18:01:27 ID:uuFNj6Do: 完成しないキマシタワー
56：ミミ ◆8VM5xLK5jw：2015/02/11(水) 03:29:35 ID:???: タワー
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