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羽娘がいるからちょっと来て見たら?

650二郎剤 ◆h4drqLskp.:2007/03/07(水) 23:36:44 ID:TVHhKElM
20.百を超えさせないで
 ――自分ではなんとかできない自分の事。
    寿命が縮まっても感じていたいのは、やっぱり。

「というわけで、本日のミーティングは終了。各員は地域把握と待機に別れてね」
 あれから三日。全く同じ言葉は三度目で終わる朝のミーティングは通過儀礼だけの、ほぼ意味を為さぬ集会に近い。
「本当になんもないな……。暇だし」
「今の内に何かしときゃいいんすけどね、調査くらいしかできねっす」
 愚痴るシヴィルに、倦怠の色を乗せるベリル、二人の言葉は誰もたしなめる者がおらず、ただ日常の言葉として一同の耳を通り抜け、無言の通過は肯定を示す暗黙の了解となる。
 暫定対策本部となった会議室、そこより流れ出る人波の中、動かぬ長机には三人の人影。
「んー……?」
 手をひらひらと遊ばせるセリエの表情は疑問を彩り、隣の存在を伺う。
「今日も雨、多分」
 短く、的確に告げる真理の言葉は天気予報ではなく、珍しい事態になっているこの三日を指している。
「でも、降らないんですよねー。こっちが普通だったりして」
 疑問の表情を悪戯っぽい笑みに変化させ、セリエの手のひらは踊り続けた。
「はー……」
「そろそろ起こして。任務いく」
「りょーかいっ。ラプちゃーん? 朝ですよー!」
「え? あ……ごめんなさいっ!」
 気を取り直し、ラプンツェルが椅子より立ち上がる。集中できぬ事態は珍しいことではなく。
「今日も白紙ー? ちょっと休んだら?」
「す、すいませんっ! 頑張ります! やれます!」
「准尉。曹長のお相手。実地調査行く」
「はーい。任されましたっ!」
 無表情、真理がラプンツェルに与えるのは普段と変わらぬ雰囲気のそれだ。
「曹長には休息を命じる。ですね」
 三人の背後、穏やかなままのドリスが居る。彼女は平坦な日々に休息を与えること、それに誰の問題も無い事を思い、責任者を通すまでもなく指令を与えた。
「さっすがドリス少佐! 話が分かるぅ!」
「うふふ。加えてラファール准尉、お二人で書類整理をして頂けます? 私は都市の見取り図を暗記しますので」
「はーいっ!」
 うろたえ、しかし声も出せずに慌てるラプンツェルを余所に、周囲は動く。
「少尉はどうしますかー?」
「ん、見回りで良い」
「えー。ラプちゃんと仲良しだし、良いと思うんですけどね」
「すいません……」
 見限られた、そのような恐れを抱き、ラプンツェルの謝罪。
「ん。大丈夫。軍曹は一人でも立ち直れる子。二人も手助け、要らない」
 言うなり会議室を出る。
 迷わなきゃ迷路じゃない。そんな言葉を残し。
「うーん……信頼ですねぇ。意味解ります?」
「いえ……」
 書類整理係の二人が揃って右へ首を捻る。

 書類整理。普段の軍部で行う作業ならば、すべてドリスが済ませてしまうこと。それは膨大で、ほぼ半日を費やしす毎日を二人は記憶している。それが今日の書類整理は一人で行っても三時間もかからない分量だ。停滞は書面として、平積みされた紙束として、目に見える形で現れている。そのような分量を二人でこなせば。
「あっさり終わっちゃいましたねぇ……」
「まあ、いいんじゃないですかー?」
 いつも通りの伸び。デスクワークに手を抜いて過ごす定時においても、実務を終え、今日の千切り記録を達成したときにも行われるセリエの伸び。両手を頭上で組み、羽根は左右でバランスを取る、おきまりのポーズだ。
「あの……」
 勢いよく開かれた翼に困り顔を見せながら苦笑する。勢いよく伸びた翼がラプンツェルの眼前まであり、それは整理したばかりの書類を幾枚か一時の飛行を与えている。
「あ、ごめーん」
 小さなはためきを繰り返す翼が、下から上へ風を送り、遊覧飛行の紙片を弄ぶ。哀れな旅行者を空で掴み、ラプンツェルは吐息を一つ。吐き出した吐息と一緒に紙の山へ遭難者を帰すと、改めてため息を吐く。先ほどまで浮き上がっていた軽やかな旅行者も飛び立てぬ、上から下の風は、湿っぽく、そして重い。
「恋煩い?」
 いつもの直線思考だ。
「え? え? や、やですよー! なんで任務中に!」
 反応だけは異例だった。
「ははーん」
 直線軌道すら回避できぬラプンツェルの瞳に、意地の悪い笑みが映る。


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