したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

羽娘がいるからちょっと来て見たら?

638二郎剤 ◆h4drqLskp.:2007/03/05(月) 00:31:47 ID:TFlfCwF6
 時間を置いたアトラス内部は斜陽から逃れ、自然の暗闇を窓ガラスから通し、天井より降り注ぐ人工の光と争いを見せ始めている。
「うへー……」
 疲れ、半目で脱力した歩行を見せるエルヤの隣では、苦笑したナンナがねぎらいの言葉を定期的にかけていた。
「口約束だしねー」
 流石のシヴィルも楽天的に物事を捉えず、しかし質問攻めに会ったエルヤには同乗していた。
「ドリさんのおかげ、っすね……」
「まーね……」
 時間を少し遡る。
 再び会議室にて、ニコラスを初めとしたミュトイの面々と、スピネン、ノルストリガルズの大使が一堂に会し、ライラの残した言葉について、そしてストラマについてをエルヤに問うていた。
「……そんなもんだよ。ボクが聞いたのはそれだけ」
 受け答えに疲れたエルヤは、プライベートの口調でそう締めた。困惑のうなりは誰の元にもあり、だが、この場で活躍すべきドリスは気丈で。
「以上でよろしいでしょう。他に調べられることはありません。……皇子?」
「なんでしょう、少佐」
「宜しければ、襲撃予定時刻まで時間をいただけますか? 地の利を得るべく、我々に街を歩くことを許可していただきたいのです」
「解りました」
「半休状態でよろしいですか? 旅先ですし、休まらぬ状況は次回に響きます」
「……お上手ですね」
 ニコラスの苦笑にも笑みを崩さず、ドリスは表情をそのままに。
「この国を好きになって頂けますように」
「ありがとうございます」
 一礼の後、後ろに控える面々を見つめ、小さくブイサイン。
「姉さん、やるぅ」
 小さく言葉を紡いだドミナに、夕子が笑う。
「ひとまず、本日はこの辺にいたしましょう。休憩を願います」
 隊長の威厳を護るべくか、ティアの言葉があった。
「はい。お疲れさまでした。本当に助かりました……」
「有難う御座います」
 アナスタシアがニコラスに続き、恭しく礼を行い。
「無事で良かったです」
 誰ともなく、そんな言葉がある。
「それでは、お開きに」
 ニコラスの言葉を始まりに、三々五々の解散となった。

 ある一室にて。
「や……いやーっ! 許してぇー……」
「うふふ。大人しくなさって? 軍曹、さぁ……」
 アンジェラの懇願と夕子の楽しげな声があった。
「はい……ごめんなさい、アンジェラさん……よいしょ!」
「ぅう――――っ!」
 食いしばった歯から苦悶が生まれ、うつぶせの手だけが必死に空を掴んで震える。
「これで応急処置は完了ですわ。検査も早くて、やりやすい所ですわね……うふふ」
 満面の笑みが白衣の夕子にあり、力尽きたと言った様子の顔がそれを見つめていた。
「は、はあ……技術国ですから……たたた……」
「処置は終わりましたけど、安静になさってくださいませ。軍曹、あとはお任せ致しますわ」
「はい。了解です」
 目配せの後、治療という任務と楽しみを兼ねた物を追えた白衣が部屋を去り、取り残されたのはラプンツェルと息も絶え絶えのアンジェラのみ。
「あの……先ほどの……」
「あ……えっと……ごめんなさい。まだ言えません……」
「解りました」
 気まずい空気があった。
「……すぐに、お話しできるときが来ると思います」
「はい」
 即答に頭を上げるのは何度目か、そんな事を思ったアンジェラの行為はそのままで。
「ごめん……なさい」
 申し訳ないと頭を下げ、視線を下に向けた。向けるだけ下に向けたい視線はうつぶせの状態ではベッドが邪魔をし、敷き布団のかすかなへこみは顎が作る。
「内緒にしていたことを、無理に使ったんでしょう?」
「え……?」
 また浮き上がった頭を見つめ、ラプンツェルが笑う。その笑みをアンジェラが認めれば赤面し、首元に押し込まれた枕に口元を埋め。
「解っちゃいますよ」
「凄い人、ですね」
「いいえ?」
 ラプンツェルが目を閉じる。
――相手にだけは余裕を見せる、でしたね。
 はしたなくも鼻息が少し漏れた。笑みの息だ。
「隠し事って、自分以外には良く分かるものですから」
「あはは……」
「えへ」
 アンジェラの苦笑に、思わず笑みがこぼれた。
――余裕はまだまだ、かな……。
 成長はまだ完了を見せず、進歩は終わらない。ポジティブに考えればそう言うことで。
 今のラプンツェルにはそう思うことが出来る。
 故に、遠慮無く笑みを見せた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板