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羽娘がいるからちょっと来て見たら?

575二郎剤 ◆h4drqLskp.:2007/02/17(土) 20:15:02 ID:OVKeGQEU
 へぇ、と長ったらしい相づちを打った。ソフィアの眠気は同時に流れて広がり、空気に拡散してしまうような錯覚を覚える。
「両親による義務なんですよぉ。倫理教育三年を小学校までに受けてぇ、最後に筆記試験してから小学校に入るんですぅ」
「成る程ねぇ……あたしらんとこは小学校で全部やるからなぁ……。別に圧力をかけてるわけじゃないんだね」
 シヴィルは感心したのか、皮肉混じりなのか、誰にも解らぬ曖昧な返答をした。
「それがありゃ、あたしみたいな身の上も無くなった、か」
 感想代わり、ベリルは小声でつぶやく。誰にも聞こえぬその声はため息のようで。
「うぅん……教育体制って全然違うんだねぇ。ボクの所なんかドルイドやスカールドに言葉と歴史とか聞くのだけだよ」
 腕組みして感心を体で示し、エルヤが唸る。隣のナンナもうなずき。
「習うより慣れろ、そんな教育ですからね……」
 先ほどかすかに聞こえた、ベリルのつぶやき。シヴィルはそれを転がし、技術資料に没頭するベリルを見つめつつ、何かを考える。結局、沈黙という結論にしか至らぬ事は、今の資料に目を輝かせるベリルを見つめることで忘れることにした。

 会談場も一区切りの様相を見せていた。長く続いた会談、それのまとめをジェロームが告げる、そのような時間にある。
「先ほども告げましたとおり市街地の概要及び配置はこのように。では、明後日の交渉完了までのお手伝いをお願い致しますぞ」
 ジェロームが向かい合う、五名のうなずきを確認。
「では、長くなりましたが会談はこれにて……」
 まとめの言葉を告げ――
 きることはなかった。
 電子音が鳴り響いている。出入り口の壁、そこへと据え付けられた内線電話が犯人だ。少々顔をしかめつつ、補佐として部屋の隅にて待機していた助役がそれを取り。
「うむ……。了解した」
 長い通達があり、その返答は短かった。彼は受話器を戻すと素早くジェロームに耳打ちを開始、そして告げられた言葉を理解した執政官はかすかに表情を変え、
「失礼、今少しお時間を頂きます」
 かすかに沈痛な表情と重々しい声が、事態の概要を語っているかのように響く。

 文化庁に存在する巨大な書庫がある。本の森はそれを収容するビルの三フロアを支配し、先ほどアンジェラが伝えた事によれば、耐荷重のために書庫の構造は徹底的に補強されているという。それほどまでに所蔵された書物は、それでも公営私営の図書館と比較して中規模程度であると彼女は言っていた。
 現在、案内者と客人はそこに備えられた資料閲覧室の一室を借り、そこで会話を交わしていた。
 そしてその部屋には、筆記の音が休み無く続く。
「すいません、どなたかノートを……」
 申し訳なくそう告げるラプンツェルの言葉と共に、筆記の音は止む。視線を文字で埋め尽くしたノートから申し訳なさそうに前方へ。言葉が言いきられる前に、小さなメモ帳が机に差し出された。ラプンツェルの視線がそれを射抜き、それに添えられた手をつだえば、アンジェラの笑顔があった。
「全部メモするなんて……ラプンツェルさんって凄いですね」
 毛恥ずかしそうに目を細め、照れ笑いでその笑顔に返事を向ける。
「特技なんです。……あれ?」
 疑問の内容はユニーより。
「名乗ってませんよね。失礼でした」
 いえ、との言葉と共にそっと空気を手のひらが押す。アンジェラの手は指さしとなり、同時に視線を動かす。
「資料は見てますよ! ユニー中尉にセリエ准尉、そして……」
 数えるような指の動きが、言葉と共に空を跳ねる。そっと下ろされた指先は過たず最後の一人へ向き、
「ラプンツェルさん」
「あれー? ラプちゃんだけ階級無しなんですかー? ……年下だから?」
「え、いや! 違いますよ! 言葉のあやですってば!」
 ひっくり返らんばかりに慌てるアンジェラを見、ラプンツェルが笑う。
「そんなに慌てなくても、気にしてませんよ」
「え、あ、あのー……」
 慌てぶりから一転して頭を掻きながら赤面するアンジェラの背後、ドアより彼女を呼ぶ声がした。
「アンジェラ、アトラスからお電話。内線二番ね」
「はーい!」
 かすかに開いたドアより、閲覧者が総出で『静かに』のジェスチャーをするのが見える。
 ラプンツェルも、セリエも、ユニーも、皆が吹き出し、改めてアンジェラが恥じた。


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