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ちょっと短めのSS投下スレ
1
:
KINO </b><font color=#FF0000>(.KINOKeY)</font><b>
:2004/03/19(金) 23:49
ちょっと短めのエロなしSSの投下スレです。
2
:
KINO </b><font color=#FF0000>(.KINOKeY)</font><b>
:2004/03/19(金) 23:50
そんなわけでエースとマキノさんのお話で凄く短いものを。
天体観測を聞きながら読んでもらえれば幸いです。
3
:
KINO </b><font color=#FF0000>(.KINOKeY)</font><b>
:2004/03/19(金) 23:51
◆天体観測◆
「背が伸びるにつれて、伝えたいことも増えていった」
久しぶりに俺はフーシャ村に帰ってきた。
聞けばルフィのやつも旅立ったらしい。
何の因果か、俺もあいつも悪魔の実を食っちまった。
結局俺らは似たようなもんってことか?
俺は目的の場所を目指した。
昔よく行ったあの思い出の場所。
まだ、あの人は元気かな〜とか時々は思ったけれども、結局は逢わなきゃ分からないから。
だから、俺はここに来た。
重そうに酒樽を運ぶ姿。
「マキノさん」
俺の声に振り返る姿は、何も変わってなかった。
「エース……?」
「あはは、マキノさん俺のこと忘れた?」
村を出て数年。俺の背も伸びて、顔つきも変わった。
でも、忘れられてるかと思うとなんか悔しい。
ルフィやシャンクスのことは絶対に忘れてないと思うから。
「大きくなったわね、エース」
「マキノさん、俺にも酒出してよ」
「そうね、お酒も似合うようになったわね」
でも、マキノさんは俺を子供としか見てくれない。
今に始まったことじゃないけども、ちょっとばかり男としちゃ悲しいんだよね。
4
:
KINO </b><font color=#FF0000>(.KINOKeY)</font><b>
:2004/03/19(金) 23:51
「深い闇に飲まれないように 精一杯だった」
貸切みたいにしてカウンターでビール飲んで。
色んなところの話をして。
そのたびにマキノさんは笑ってくれた。
「エースもすっかり大人になったのね。何時までも子供だと思ってたのに」
懐かしそうに笑わないで。
「マキノさん」
俺はマキノさんの手を取ってみた。小さくて、少し硬い手。
この手が俺を育ててくれた。
「マキノさん。俺、大人になったよ。背だってあの頃のシャンクスよりも大きくなったよ」
ねぇ、いつになったら俺はあなたの息子から卒業できるんだ?
マキノさんの手は、多分同じくらいの女の人よりもずっと傷がある。
刻まれた皺、少し節くれた指先。
いつも短く切られてマニキュアなんか塗った事のない爪。
でも、俺にとっては世界で一番優しくて、綺麗な手だ。
「エース、いい男になったわね」
はぐらかしの天才は、いつだって俺の背伸びを上からたしなめる。
だから、それに対応できるように俺も少し修行を積んだ。
海賊は奪って何ぼの商売。
俺だって、海賊なんだよ。
「マキノさん、これ」
重ねた手の中に、そっと小さな小瓶を。
色々悩んで選んだのは「キラメキ」って名前の色。
コバルトブルーに、銀色のラメの入った子供の好きそうな色のネイル。
俺の飛び出した海と、最初に見た銀の星を見せたくてこの色にした。
「綺麗ね……どうしたの?」
「マキノさんにプレゼント。海に沈む星みたいで綺麗でしょ?」
この小さな村がマキノさんの全ての世界。
出来るなら、連れ出してこの海を一緒に進みたいんだ。
「マニキュアなんて貰ったことなかったわ。ありがとう、エース」
分かってる。マキノさんはそんなのをつけないってことくらい。
料理人らしく、化粧とかも殆どしないくらいだ。
「マキノさん、星、見に行こうよ。きっと綺麗だよ」
お酒なんか飲んで、少しご機嫌になろうよ。
「そうね、行こうか」
奇跡と、魔法。起こしてみせるから。
5
:
KINO </b><font color=#FF0000>(.KINOKeY)</font><b>
:2004/03/19(金) 23:52
「君の震える手を 握れなかったあの日を」
見上げた夜空はまるで銀粉と硝子の粉をぶちまけたような星空だった。
「……綺麗ね……」
マキノさん、憶えてる?
あの日の夜もこんな風な空だったよ。
船を笑顔で見送って、あなたは一人で夜……この丘に来たんだ。
気付かれないようにこっそり後を付けて、俺もここに来た。
声を殺して、泣いてたあなた。
その手を握ることも出来ない俺。
早く大人になりたいって、あの時思った。
見上げた空に走った星に、俺はそう願いを掛けたんだ。
「マキノさん」
十年かかったかれども。
「ずっと好きだった」
言えなかった告白。
「……エース。あなたの初恋の女になれて光栄だわ」
ああ、マキノさん。
そんな風に笑わないで。
どうしてそんな慈しむような顔で見つめるのさ。
「でもね、エース……」
そっと手が伸びてきて、俺の頬に触れる。
「初恋は叶わないから、綺麗なのよ」
片道の恋は、とっても綺麗だって港の女が言ってた。
片思いは永遠に叶わないから、胸が熱くなるって。
「知ってる。それでも、言いたかったんだ」
俺があなにたにとって「彼」ではなくて「仲間」であっても。
「言わなきゃ、いけなかったんだ」
この恋を終わらせて、進むためにも。
自分に言い訳をしながら。
そっと指先だけを絡めて、俺たちは空を見上げた。
こぼれたこの光を閉じ込めて、あなたの指を彩る宝石に変えたいのに。
でも、あなたはきっとそんなもの要らないって言うんだ。
「エース、私……きっとこの空を忘れないと思うわ」
「…………………」
「十年前、木陰から見守ってくれた騎士が、立派に成った日だもの」
連れ出せないくらいに、優しい顔。
ここはあなたの聖域だから。
誰も侵すことの出来ないあなたの聖域だから。
手を繋いで、星を見上げて。
「俺も、忘れない」
俺の失恋の日だ。忘れたくたって忘れられない。
バイバイ、マキノさん。
バイバイ、大好きだった人。
6
:
KINO </b><font color=#FF0000>(.KINOKeY)</font><b>
:2004/03/19(金) 23:52
「僕は元気でいるよ 心配事も少ないよ」
手配書の俺の写真、イマイチ気に入らない。
これをマキノさんが見るかと思うとちょっと、かなり憂鬱だ。
たまに手紙なんか書いてみるけれども結局出さずに積み重なってる。
もうちょっと、背が伸びればもっと違う景色が見れるんだろうか?
苦手だった煙草も、もうなれちゃったよ。
(マキノさんて、全然年とらねぇ……ま、俺が追いつければいいだけだ)
ポケットの中には一枚だけあなたの写真。
しわくちゃで、色あせてきちゃったけれど。
(いい男になって、掻っ攫おうかな。俺も、海賊王って奴を狙ってみるか)
テンガロンハットって奴は凄くいい相棒だ。
泣きたい時には、隠してくれる。
この海で一人で見上げる星と月。
どうしようもなく寂しい気持ちになった時は、あなたのことを思うよ。
(キスくらい、しておきたかったな。出来ればその先も……)
でも、ベッドまで運んでもきっとできないだろう。
マキノさんにとっちゃ、俺はずっと子供のエースなんだろうから。
(いつか、後悔させますよ……と)
書き上げた手紙。
口ずさむでたらめの歌。
名前も何も入れずに瓶に入れて、力一杯遠くに投げ飛ばした。
「イマというほうき星 今も一人追いかけてる」
7
:
KINO </b><font color=#FF0000>(.KINOKeY)</font><b>
:2004/03/19(金) 23:53
そんなわけで一本投下させていただきました。
そのうちに本スレにシャンロビかスモたしで参上しますんで。
忙しくて、今はこれしか無理っぽい(*゚▽゚)
8
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/03/20(土) 18:52
・・・正直。やられました。
KINO様・・・やっぱり貴方は神ですね。
オリンポスの住人・・・レベルが・・・レベルがぁ!!!
神が書くとBUMPはこうなるか。すげぇ。
感動しました。マジで。綺麗過ぎる。すごい・・・
大変おいしくいただきました。ご馳走様です。ありがとうございます。
BUMPさいこー!KINO様マンセー!
9
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/03/24(水) 16:46
……旨く言葉が出ないです……KINOさん、GJです!!!
初恋って……いいなぁ。
美しい思い出で、盲目的で、切なくて……エース、いい男だなぁ。
なんか胸が熱くなりました。
マンセー!!
10
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/03/26(金) 03:19
ナミ視点でサンジ×ナミを投下します。SSにもなってない小ネタのようなものですが。
サンジ×ナミなのにゾロ×ロビンがベースで、多分に入ってます。
実は本スレでいつか投下しようとしているゾロ×ロビン書いてる時に思いついたネタなので。
ナミが素直じゃなくて全然サンナミになってるのか微妙なところです。
お嫌な方はスルーでお願いいたします。
11
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/03/26(金) 03:20
「VICE VERSA」
つくづく、自分の性格が嫌になることがある。
どうして素直に言えないんだろう。
プライド? それだったら、まだよかった。
でも私はただのひねくれ者だ。つまらない子供の駄々。
ああ、嫌になる。
前からこんなこと思っていたわけじゃない。
たぶん、ロビンが仲間になってからだ。
同年代しかいなかったこの船に、突如現れた大人の女だったからだ。
ロビンが嫌いっていうんじゃない。
最初こそ警戒していたけれど、話してみるとよく喋るし、よく笑った。
機智に富んでいて、いろんなことを知っていた。
私はロビンが大好きだし、今ではかけがえのない仲間だと思ってる。
でもね、ロビンはあまりにも大人だから。
並んで立っていたら、いやでも私の子供っぽさが目立つんじゃないかって不安になるの。
もちろんこの船にはもっと子供っぽい船長や砲撃手がいるけどね。
それでも同じ女として比べられるのは、なんだか、そうね、嫌。
うちのクルーたちはそんなこと考えてないだろうけど。
ラウンジでのんびりとくつろぐ面々を、ぐるりと見回してみる。
12
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/03/26(金) 03:20
ルフィは。何を考えてるのかわからない。でも恐らく男とか女とか考えないんだろう、この船長は。
ウソップは。女はおとなしくなければ、とか言ってたような気がする。
このふたりは別に、私とロビンであまり態度を変えることがない。
ゾロは。ああ、たぶんこいつが誰よりもロビンを意識している。
認めたくないだろうけど、たぶんお互いに。
チョッパーは。ロビンには懐いているように見える。
私にはそうでもないわね。可愛くない鹿だわ。
じゃあ、彼は? 彼はどう思っているんだろう。
「ナミさん! ロビンちゃん! 貴女たちのためのスペシャルデザートです!」
彼はいつもこうやって私たちを呼ぶ。
必ず、私の名前を最初に言ってくれる。
そんなことで、些細な安心感を感じるなんて、おかしなことかも。
「あら、コックさん、ありがとう。とても美味しいわ」
途端に、相好を崩してだらしない顔になる。
これさえなければ、もっとモテると思うんだけれど。
「ロビンちゃんに、そう言っていただけたなら大満足です!」
「ふふふ。料理ができる男の人は素敵だわ」
にこやかに笑うロビンが、彼、サンジ君を褒める。
途端にサンジ君がメロリンになって、ハート型の煙をぽぽぽと吐き出す。
そんなふうに素直に称賛できるロビンがうらやましい。
ぼうっとしていたら、心配そうな顔をしてあれこれ口説き文句ともつかない言葉を並べたてられた。
大抵はくだらない内容。だから、私はいつもほとんど覚えていない。
でもその言葉を聞いているだけで、嫌なものや汚いものが自分の中から抜けていくような気がするの。
優しいのだと思う。時には優しさこそが残酷になるけれど。
13
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/03/26(金) 03:21
サンジ君がキッチンの片づけを、私が航海日誌を書く横で、ルフィたちがトランプを始めた。
ゾロは座って見ているだけで、面子はルフィ、ウソップ、チョッパー。
ロビンはチョッパーの隣に座って、本を読んでいる。
「なあなあ、スペードって変な形してるな」
チョッパーがふとした疑問を口に出す。
「スペードは剣の形を表しているのよ。先が尖っているでしょう?」
「へえ〜、そうなのかぁ。じゃあ、スペードはゾロのマークなんだな」
ロビンが答えて、チョッパーがこくこくと頷いている。
博識なロビンに訊ねる好奇心旺盛なチョッパーという光景は、最近のメリー号でよく見られるようになっていた。
「クラブは農民が使った棍棒に飾ったクローバーを、ダイヤは貨幣をそれぞれ表しているのよ」
「ははは。それじゃ、ダイヤはナミのマークだな」
ウソップが笑いながら、私のほうを見て、言った。
「サンジがよく出すハートはなんなんだ?」
「ハートは正しくは聖杯なのよ。
聖杯という意味の“クープ”をハートの“クール”と間違えて、そのまま心臓を表すハートのマークを使っているの。
だからマークの意味としては、愛情のハートで問題ないと思うわ」
「じゃあ、ハートは俺のマークですね」
いつの間にか片づけを終えたサンジ君がへらへらした顔で話に加わる。
「ふふ、どうかしらね。もともと4つのマークは身分階級を表しているの。
スペードは剣を帯びる貴族。ハートは聖職者。ダイヤは商人。クラブは農民よ」
「ははっ。じゃあスペードはこいつのマークじゃねえな。マリモの貴族なんて聞いたことねえや」
「百辺死んでも坊主にゃなれねえ男が何言いやがる」
相変わらず、サンジ君とゾロは言い合ってばかり。うるさいわね。苛々するわ。
黙って、と怒鳴ろうとした瞬間、ゾロが立ち上がってラウンジを出て行こうとする。
「どこ行くんだよ、ゾロ」
ルフィの問いかけに、ゾロは苦々しげにロビンを見て吐きすてた。
「どっかの女のくだらねえ講釈なんか、聞きたくねえんだよ」
「お前っ! ロビンちゃんに向かってなんてことを!」
声を荒げるサンジ君を無視して、ゾロは扉から出て行く。
14
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/03/26(金) 03:21
「あんの、クソマリモ! 一発蹴ってくる!」
勇んで追いかけようとするサンジ君の足を、床から咲いた手が止めた。
「うわっ」
「コックさん、いいわ、私が」
「ロビンちゃん、でもっ!」
「こんな話題にした私が悪いの。気にしないで。剣士さんの様子を見てくるわね」
少しだけ眉根を寄せて、微笑むロビンはとても悲しそうに見えた。
何やってんのよ、あの男は。毛を逆立てる獣みたいに吠えてりゃいいってものじゃないのよ。
「お前が行っても逆効果じゃねえか?」
あー、もう。ウソップ!
あんたの言うことは確かにいつも的を射ているけど、今回はてんで見当外れよ。
「そうですよ、やっぱり俺が海に沈めて…」
「あんたたちっ!」
気がついたら叫んでいた。何でこいつら、わからないのよ。
「ゾロとロビンのことなんだから、放っときなさいよ。あんたたちは部外者」
サンジ君とウソップの顔を指差して言ってやった。
ゾロの態度なんて、極端な照れ隠しなんだから、部外者が入れば入るほど意固地になるだけ。
そんなこと普通に考えればわかるじゃない?
「ありがとう、航海士さん。行くわね」
「ロビン!」
チョッパーが心配そうな顔で、ロビンを見上げる。
ふわりと微笑み、チョッパーの頭をぽふっと叩いて、ロビンは出て行った。
15
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/03/26(金) 03:21
覗きにいこうとするウソップの首根っこを掴まえる。
「うげっ」
「関わるなって言ってるの!」
睨むと、すごすごと席に着く。黙っていたルフィが口を開いた。
「ロビンに任せとけば大丈夫なんだな?」
「ええ」
「ならいいじゃねえか。ナミがそう言うんだ、間違いねえよ」
その言葉に嬉しくなった。ルフィに、ありがとう、と言って笑った。
サンジ君が慌てて、また口説き文句をぺらぺらと喋ってくる。
「しつこいわ。サンジ君のそういう科白、聞き飽きたのよね」
ああ、まただ。自然とこういう言葉が口に出る。固まるサンジ君。
「ゾロより、ナミの言葉のほうがよっぽど剣みたいに尖ってるぜ」
ぼそっと言ったウソップの言葉がのしかかった。
わかってるのよ、自分でも。
「こんの長っ鼻! ナミさんに何てコトを!」
サンジ君の蹴りが飛ぶ。
もっと酷いことを言われたのは、あなたのほうなのにね。
いつでも私を気遣ってくれる。
私が少しでも居心地よくなるために全神経を使ってくれている。
期待してしまうから。そんなふうに私の居場所を作らないで。
16
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/03/26(金) 03:22
「ナミさん」
みかん畑から、ログポースの指針を見ているとサンジ君がにっこり笑いながら近づいてきた。
「何?」
「さっきはごめんなさい。当人同士で話してよかったみたいですね」
そうだ。あの後、しばらくして帰ってきたロビンはにこやかに笑っていた。
ゾロも特に変わりはない。何を話したかはわからないけど。
「俺、ちょっとカッとなっちゃって。止めてくれてありがとうございます」
首を振ると、サンジ君が笑った。
「だって、サンジ君だってわかるでしょ。ゾロのあれは照れ隠しよ?
誰よりロビンのこと、気になってるのは、どう見たってゾロじゃない」
そう言ったらサンジ君はとても驚いた顔をした。
「ロビンちゃんは気にしてたと思うけど、ゾロも? ナミさん、よくわかりましたね」
「え? だって…」
言われて、はっと気がついた。
ああ、そっか。ゾロは私に似ているんだ。
興味のあるものに素直に好意を示すことができない。
ひねくれた天邪鬼な子供。
だから素直なあいつらや、この人は気づかなかったんだ。
バカな私。バカなゾロ。好きなものを傷つけることしかできないの。
「…スペードなんだね、私の言葉」
呟いたらサンジ君が勢いよく首を振った。
「な、何言ってるんですか、ナミさん! ナミさんはスペードじゃないです! 輝くダイヤのように素敵な女性だ!」
もちろん、私だってスペードよりダイヤのほうが好き。でも。
「私はロビンじゃないから。あんなに柔らかく喋れないから」
「当たり前じゃないですか!」
17
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/03/26(金) 03:22
え?
「ナミさんはナミさん。ロビンちゃんはロビンちゃんです。ナミさんの口調も言葉も全部ひっくるめてナミさんの魅力なんです!
俺、いっつも、そんなナミさんが素敵だって言ってるじゃないですか。好きだって…」
そんなふうに愛の言葉を束ねて、私に捧げないで。
素直じゃないのよ? 意地っぱりなのよ?
「しつこくっても、何度でも言います。俺はそのままのナミさんが好きですから!」
私、あなたのこと好きだなんて、本気で伝えたことなんてないのよ?
わかっているの? わかってないの?
「俺はいつでもナミさんを守るから。ルフィなんかに任せておけないから」
…わかってないのね。
「サンジ君じゃ力不足かな」
またショックを受けて、涙目になるサンジ君。嫌ね、ゾロの応用利かせてよ。
「俺、世界中のハートを全部ナミさんにプレゼントしますから!」
「ダイヤのほうが嬉しいわ」
わかってくれるまで、変わらないわ。
駄々でも意地でも、それが私ね。そうなんでしょ? サンジ君。
「いいですっ! そんなナミさんが大好きだー!」
メリー号にサンジ君の声が響く。いつもの光景。
私は、はいはい、と流していつも通り彼に興味のないフリをするの。
ルフィたちの仲間になるまでは。
私の心は荒れはてた野原のようなものだった。
枯れた木々と、吹き抜く冷たい風、花も咲かない寂しい場所。
喉が乾いたって、潤す水を湛える泉もない。
疲れたって、眠りを与えてくれる木陰もない。
荒野。寂しい大地。
18
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/03/26(金) 03:23
けれど、ルフィが救ってくれて。
ゾロとウソップも一緒に戦ってくれて。
チョッパー、ビビ、ロビンが仲間になって。
そして乾いた心に、愛の言葉を潤すように注いでくれたサンジ君。
寂しい大地を癒すように、優しくしてくれた。
別に、色恋なんて甘やかな関係になるわけじゃなく。
つかず離れず、他の仲間と変わらないように接するようにしている。
ああ。でも、ゾロだけは気づいてるのかな。ひょっとしたらロビンも。
私が、サンジ君に仲間以上の感情を持っているって。
仲間以上の存在になりたい、と思っているなんて。
でも、そんなこと絶対私からは言ってやらない。
それは私の最後のとっておきの切り札だもの。
そうよ。
だって私はひねくれ者で天邪鬼。可愛い女じゃないわ、わかってる。
でも、そんな女がいいと言ったのはあなたでしょう?
尖った剣を表すスペード型の私の心。
早く見抜いて逆さまにして。
あなたを愛するハートになるわ。
━終━
19
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/03/26(金) 03:23
以上です。
タイトル「VICE VERSA」は「逆もまた真なり」という意味です。
可愛いナミとかっこいいサンジが書けなくて困ってます。
もっと修行を重ねねば。日々精進。
読んでくださった方、ありがとうございました!
20
:
どろんぱ </b><font color=#FF0000>(zSSkwO.2)</font><b>
:2004/03/30(火) 22:38
>苺屋さん
上手いな〜!!
ナミの素直になれない可愛さがすっごくいいです。
切れのいい、ほんのり甘い小粒のビターチョコ(産地限定)をいただいた気分。
21
:
どろんぱ </b><font color=#FF0000>(zSSkwO.2)</font><b>
:2004/04/08(木) 22:45
オエビに素晴らしいイラストを投下されているDさんと、苺屋さんのゾロビに
刺激されまして、短いお話を書いてみました。
22
:
どろんぱ </b><font color=#FF0000>(zSSkwO.2)</font><b>
:2004/04/08(木) 22:47
『背中合わせの真実』
穏やかな航海が続いている。
凪いだ海は、穏やかな暖かい風と共に、皆を夢の中へと誘(いざな)っていた。
私は、というとさしてすることもなく、先日寄港先で購入した本や航海士さんが所蔵する書物を積み上げて、それらをゆったりと読んでいた。
そんな時、私はふと背後に気配を感じて顔を上げた。
「ふふっ。剣士さん、なあに?」
先程まで鉄アレイ片手に眠りこけていた剣士さん──いえ、今はふたりきりだからゾロ──が眠そうな目を
擦りながら、本を覗き込んでいた。
「目が覚めたの?」
「──腹、減った」
「コックさんがそろそろおやつを──あら、寝てるわね」
時間に正確なコックさんが、珍しく眠っている。みかんの木の下で、航海士さんと仲良く背中を合わせて。
私は軽く肩を竦めた。
「コックさんのような素敵なものは無理だけど、何か作りましょうか?」
本を閉じて立ち上がろうとすると、手を掴んで引き留められた。
23
:
どろんぱ </b><font color=#FF0000>(zSSkwO.2)</font><b>
:2004/04/08(木) 22:48
「待て」
「いらないの?」
ぐいと引き寄せられ、気が付くと私は彼の腕の中へと収まっていた。
「ちょっと背中貸せ」
「──え?」
私が答える間もなく、ゾロは私の背に寄りかかった。
「お前は暖かいな」
私が冷血動物だとでも言いたいのだろうか?
なんと答えたらいいのだろうと考えているうちに、豪快な鼾が聞こえてきた。
こちらが呆気にとられるような素早さ。
「──ふ、ふふっ」
もう。なんだったの?
背中越しに伝わる暖かさを感じながら、私はもう一度視線をみかんの木の方へとやった。
もしかして、これは彼なりの甘えだったのかも、と思いつき私はようやく胸落ちした。
のどかな午後の穏やかな航海。
背中越しに伝わってくる愛情を受けながら、私は再び本の世界へと戻っていった。
- FIN -
24
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:17
>どろんぱさん
理想の! 理想のゾロビです!
ほんわかとした、のどかな光景と、言葉足らずだけれど素直に甘えるゾロ。
とても素敵です。いい物語をありがとうございます。
ゾロ視点でゾロ×ロビンを投下します。
昔書いたものを加筆修正したものになります。
素敵なゾロビの後に…暗いゾロビです、ごめんなさい。
ゾロ×ロビンですが、ゾロの片想いのような感じです。
途中、BLUEの女王ナミ姉やんの四コマネタが入ってます。
SSというよりも書き散らした文章です。
甘くなく、完結していない終わり方ですので、お嫌な方はスルーでお願いいたします。
25
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:17
「月の下に柔らかい女」
夜、見張りをしながら甲板で月見酒をしていたところに後ろから声がかかった。
「見張り、ご苦労様」
この女は苦手だった。ナミやビビのような若さ特有の堅さ…頑なさがない。
女が持つ柔らかい雰囲気に取り込まれそうで、苛立った。
「そんな眼で見ないでほしいわ」
女が俺に視線をはせて軽く笑った。
「…お前はまだ信用してねえ。かといってすぐ殺したりするほど単純じゃねえさ。安心しな」
「邪魔なものは排除すればいいのよ。不安要素を抱えて険しい道を進もうとするなんて甘いのね」
からかうように笑う女を威嚇するように睨みつける。
「それができないあなたたちを私は気にいっているけど」
柔らかく微笑む女の顔はとても美しく、俺は所在なさげに腹巻の中で手を握った。
硬質で冷たい言葉を吐くくせに、やはり雰囲気はどこまでも柔らかい。
「ねえ、剣士さん。私、今とても楽しいのよ」
その言葉に、身体からフッと力が抜け、知らず苦笑を返していた。
懐に飛び込んだ柔らかな言葉は、俺の心を柔らかく抉っていた。
26
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:18
「この船のクルーは目的と行き先が一致しているのね」
俺に近づきながら、女が独り言のように呟く。俺に問いかけているらしい。
「この船に乗り続けることが自分の夢への道なんでしょう?」
夜風が冷たいというのに、薄着で話しかける女に座ればいい、と目で促す。
「けれど夢を叶えたら、叶えそうになったら、どうするのかしら?」
女は俺の隣に座し、続けて問う。
「あ?」
「コックさんはオールブルーをみつけたらそこで船を降りるのかしら?」
「…コックのことなんか知るかよ」
杯をあおる。自分以外の男を呼ぶ女の声にひどく腹がたった。
「王女様は自分の目的を叶えたからこの船を降りたんでしょう?」
まだ淡々と話す女に、ひとつ思いやり、その細い身体を抱き寄せた。
「お前は夢を叶えたらこの船から降りるのか?」
逆に問う。
「…さあ」
淡白なその声音で気づく。こいつは船をいつか降りる。
黒い髪に手を差しこんで梳く。指から零れる細い髪に苦い気持ちが込みあげる。
女は黙って、俺の首に腕を絡めた。
白い、細い、柔らかい。身体はただの女なのに。
「…お前を、降りるなと引き留めてもいいか」
止められはしないのだろう、当たり前だ。ひどい話だ。
降りてほしくないとこんなにも願ってしまっているのに。
「構わないわ」
視線を合わせて女は掠れた声で囁いた。目をすがめ、指を腰へとすべらせた。
「その剣を、私のために捨ててくれるなら」
俺の胸板にそっと手を置く女は無表情にそう言った。
「それは、できねえ」
脇に置いた3本の刀に触れた。とても冷たく感じられた。
27
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:18
この女の過去なんて俺は知らない。
クロコダイルと、それよりも以前に共にいた奴らと何があったかなんて知りたくもない。
世界一の剣豪を目指すのに、女なんて邪魔になるだけなのに。
世界の高みを目指すのに、障害にしかなりえないだろうに。
この女はいたずらに俺の近くに踏み込んでくる。
どうしてこの女が傍にいると心が落ち着かなく浮き立つのだろう。
敵だった。信用の置けない人間だった。
今思えばビビも、もともと敵だったから、その流れとしてはまったく不自然なものではなかったのかもしれない。
しかしビビともナミとも違うこの女が気になって仕方がなかった。
年齢の離れた女、少女ではない女。
こいつを一言で表現するならまさしく花、いいや華。
艶やかに咲きほこる、柔らかな華。
クルーともすぐに慣れ親しんだ。
こいつが一番仲がいいのはおそらく、ルフィ。
夢と命を諦めたこいつを救ったらしい。
詳しくは知らないが、20年も追い続けた夢を諦める瞬間とはどんな気持ちになるんだろうか。
それを救ってくれた人間のことをどう思うのか。
この女はルフィとは、とても強い絆ができている気がする。
気のせいだと思えればいい、けれど確かな。
ナミとは同じ女だから、多少気心が知れるのだろう、気軽に喋る。
チョッパーのことは家族の一員のように可愛がっている節がある。
コックの口説き文句やウソップの嘘を流すのも堂に入っている。
その光景を見るたびに言い知れない焦燥感が襲うのは気のせいなのかもしれない。
28
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:19
けれどルフィとこいつが話すだけで、近くにいるだけで息苦しくなるのは。
柔らかく笑うこの女の顔と、柔らかく語りかけるその声に苛立つのは。
認めてしまえばいい。
俺はルフィに嫉妬している。
この柔らかな女に、認められたことを悔しがっている。
どこまでも柔らかさを失わないこの女を欲しいと思った。
例えば別の海賊船が攻めてきた時だって、こいつはあくまでも柔らかなのだ。
俺やルフィやコックが甲板で暴れまくる。
ウソップとチョッパーは柱の陰に隠れながら、援護にならない援護をする。
ナミは俺たちが戦ってる隙に、敵の宝を漁ってやがる。
この女はそんな俺たちを高みから見下ろすんだ。
船縁に腰かけて、陽の光を、時には月光を受けて笑いながら。
その手だけで戦いに参加する。
血や埃に塗れた俺たちとは対照的に、汚れのない姿で、柔らかく笑うのだ。
この柔らかい女を腕に抱いているのが、この俺でいいのだろうか。
女の黒髪を鷲掴みにして、こちらを向かせる。
綺麗なブルネット、柔らかい髪と肌、ユニセックスな顔。
これだけ整った顔も珍しい。整っているがゆえに、女と少年、どちらの表情ともとれないような顔。
端正な唇に噛みつくように口づけた。
口内を蹂躙すると、俺の尖った歯が傷つけたのか、鉄の味がじんわりとした。
けれど女は気にしていないようだったから、俺も気にしないことにした。
こいつに口づけている理由が俺にはわからない。
何だ、この俺の様は。みっともねえ。
何だ、この女は。俺がこいつに抱く思いが特別だからだとでもいうのか。
29
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:20
この女に抱く感情? ひどい気分だ、わからねえ。
これは慕情、それとも恋情、はては愛情。
違う。そんな甘ったるいものじゃない。そんな綺麗なものじゃない。
初めての感触だが、痛さを伴うこれは、そんな言葉で括られるものじゃない。
こいつはどう思ってるんだ。何を思って俺に抱かれてるんだ。
俺の腕の中にいる女はこの感情すら柔らかく包んでくれるのか。
また俺に腕を絡める。俺も力いっぱい腕の中に細い柔らかい身体を抱きしめる。
「やっぱり俺は引き留めるかもしれない」
女の手が俺の頬に触れた。
「剣以外のものを持とうとするのは贅沢なことなのか?」
女の唇が引きつったように笑いの形になった。
女は答えず、口づけた。まだ血の味がする。
何か言え。否定でも肯定でも。怒りでも嘲りでもいい。
この考え自体がとても愚かなことなのか。
止められないのかよ、止めても行くのかよ。
酷い話だ。止めさせてくれなければ、殺させてもくれないくせに。何もできないなんて。
ならばこの女の夢が叶わなければいいと、さらに酷いことを考えてしまう。
俺のことだけ考えてくれりゃあいいのに、と。
「俺はお前を…」
畜生、何を言うつもりだ、俺は。これは恋でも愛でもないとさっき自分で思ったじゃねえか。
この俺たちの行為は何だ? 慰め合いか、貪り合いか。
「…剣士さん」
何だよ、お前はこんな時にすら俺を俺として呼ばないのか。
ルフィのことは名前で呼ぶくせに。畜生、畜生。
「名前を呼べよ」
そう言ったら素直に小さな声で呼んだ。
その瞬間、恋よりも、愛よりも、激しい感情の奔流が心を襲った。
例えるならばそれは、欲情。
または欲情とはかけ離れた生粋の欲。
馬鹿か、お前は。呼ぶなよ。抜け出せなくなるじゃねえか。
さらに小さく名前を返してやった。
びくりと震えたその身体をもっと深く抱き寄せようと身体を捻った。
足が雪走に当たって、冷たい音が転がった。
30
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:20
晴れた月の夜、俺は今夜も見張り番だった。
見張りともなると、昼間みてえに寝てるわけにもいかないのでもっぱら鍛錬の時間と化している。
ダンベルを置き、汗を拭った。
今日は気分が乗らねえ。
酒を取りに厨房へ行き、何かつまみでもと思い、冷蔵庫を開ける。
調理せずに食えるものが何もなかった。コックのルフィへのつまみ食い対策だろう。
あの女がまだ来ない。今日は来ないのかもしれないが。
昼間仕事のない俺たちは見張りになることが多い。
俺は昼寝をしているし、女は見張りの後の2、3時間の睡眠で事足りるようだ。
俺たちはどちらかが見張りになった時に、たまにふたりで過ごす。
大抵は深く抱き合う。でなければただ飲み交わしたり、話をしたり、何もしなくともただ傍にいる時もある。
それで満足だった。
俺たちは特に約束事をしていない。気が向いたら会いに行く。
会ってしまえば、不思議と追い返したり返されたりすることはなかった。
あの夜に、自分の感情を理解してから、そんな関係に苛立ちばかりが募っていく。
「くそっ!」
ドアをバンッ、と閉めて甲板へ出た。
31
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:21
酒を瓶から直接あおっていると、頭の中を占めていた女が前甲板の縁に肘をついて夜空を見上げているのが見えた。
俺が厨房に入っている時にやってきたのだろう。
白いシャツと細身の黒のパンツ。そのシルエットがぼんやりと月明かりに浮かぶ様が儚く見えた。
背後から近づいて声をかけた。
「おい。何して…」
女が黙って振り向いた。驚いて声が出なかった。
白い頬に光る雫。声も出さずに泣いていた。
「ごめんなさい…何でもないわ」
無理に笑顔を作って、涙を拭う姿にいたたまれなくなって目をそらした。
「お酒、取りにいっていたのね」
何事もなかったように話しかけてくる。
「ああ」
「こっちへ来て」
ロビンはそのまま甲板へ座り込み俺を誘った。
「一緒にいましょう、ひとりでいるのは寂しいものね」
引き寄せられるように俺も隣へと腰を降ろした。
32
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:22
瓶に直接口をつけて酒を飲む俺と、それをじっと見つめる女。
静かな夜の背景にモノトーンで出来上がった女が溶けてしまうかと思った。
「…お前、よく泣いているのか?」
上手く言えねえ。そんなことを聞きたいんじゃない。
「こんな月の綺麗な夜は自分の汚さが露呈されるから」
伏せたまつげが震えていた。こいつのどこが汚いというのだろう。
「淡い月の光の中で自分が消えてしまえばいいと思ってしまうの」
額に手を当てて、女は月を見上げる。
そういえば俺の故郷での昔語りにこうあった。
「月は人を、夜毎に惑わせる」
なぜだか俺は女の顔を見ることができず、ひと口酒を含んでさらに続けた。
「その光で弱さと愚かさを、克明に浮かばせるそうだ」
「弱さと愚かさ…」
さっきより近い位置から声が聞こえた。視線をやると、女の顔が近くにあった。
「…生きていくことに疲れたときに、彼が明るい太陽に見えた気がしたの」
彼? 太陽? しばし考えて、ルフィのことを言っているのだと直感した。
「私は彼に救われたわ…」
微笑んでいた。幸せそうな顔で。そんな顔初めて見た。
「この船に乗るまでは月を見ていると虚しかったのだけれど、今夜はそうはならなかったの。
見上げたら、なぜか自然に涙が出たのよ。泣いたのはこの船に乗って初めてだわ」
「俺が啼かせた」
きょとんと、子供のように目を丸くした。そんな表情も初めて見た。
「ふふっ、馬鹿ね」
ころころと笑う女。ガキみたいに無防備な笑顔。
「ルフィは…」
気がついたら口走っていた。言葉を継げられず、また酒を飲む。
「どうしたの?」
「無茶な奴だ。仲間のためなら自分の死のことなんて欠片も考えちゃいねえ」
「そうね」
「…だが、そういう奴だからこそ、俺もついて行くし、信頼してるのかもしれねえな」
女はにこりと微笑んだ。
脈絡のない会話。俺の真意にこいつは気づいているんだろうか。
嫉妬する俺のことを嘲笑っているかもしれない。
33
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:23
「『お前は月のようだ』と言われたことがあるわ」
誰にだよ。そんな話を聞かせるんじゃねえ。
「お前は月じゃない。俺は…」
女の肩を引き寄せた。抵抗もなく、俺にしなだれかかる格好になる。
「お前に手が届く。お前は柔らかい華だ、ここで咲け」
上手く言えない。何を伝えたいのかもわからない。
こいつはこんなところで咲くものじゃない。
もっと艶やかに鮮やかに零れるほどに咲き乱れろよ。
愛しているから、と継げそうになり慌てて思いとどまった。
こんな痛々しいモノを愛と騙って何になる。今夜の俺は狂ってるのか。
こいつの涙を見た瞬間から月夜の魔力にかかったようだ。
「ふっ…」
小さな声がもれた。
俺の肩口にじんわりと温かい水の感触。
ああ、何でこいつはまた泣いているのだろう。
黒髪が震えながら俺の頬を撫でる。
いつものように、きつくではなく、そっと壊れ物を扱うように背に腕を回し抱きしめた。
ぴくりと震えた柔らかい身体はとてもとても小さかった。
髪に触れ、撫でてみる。女が顔を上げた。
涙に塗れたその顔が、どうしようもなく愛しく思えた。
舐めずにそれを吸い取って、触れるように口づけた。
額に、頬に、鼻に、瞼に、唇に。
小鳥が餌をついばむよりも軽く唇で触れた。何度も。何度も。
ルフィの顔が頭をよぎる。こいつとルフィがじゃれ合うシーンがフラッシュバックする。
「ロビン」
ただ名前を呼んだ。
俺が呼んだところで、何も答えない女に向けて。
涙は枯れ果てることがなく。流れる。心のうちを晒したくなる。
愛だとか恋だとか、そんな感情じゃねえ。もっと醜くて、どうしようもねえ感情だ。
ただ、この涙はこの女の真実で、俺はそれを止めたいと願うだけなんだ。
34
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:23
ようやく泣きやんだ女は、そのまま俺の腕に抱かれていた。
馬鹿みたいにふたりして黙って夜空を見上げていた。
「…あ、流れ星」
落ちていく星に女が眼を細める。
「長鼻くんが言っていたわ」
「ウソップか?」
変なあだ名をつけやがる。
「『勇敢な海の戦士になれますように』と3回言おうとしたんですって」
「へえ」
必死に願うウソップの姿が想像できて思わず含み笑いをもたらす。
「長すぎて言えなかったそうよ」
「ま、一瞬だからな」
「でもね、航海士さんもそこにいて、彼女は願い事を言い切ったのですって」
「何て?」
くすくすと笑いながら楽しそうにロビンが話す。
「『金金金』」
「はっはっは!」
いかにもナミらしい。
「合理的よね。『お金持ちになりたい』と3回言うよりもはるかに成功率が高いわ」
「願い事は簡潔にってことか」
35
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:24
「あなたなら何を願うの?」
「俺?」
俺は何を?
「あなたの夢を聞いてみたいと思ったの」
俺の夢は。
「昔っから夢はひとつだけだ」
刀に触れた。女が続きを、と目で促す。
「世界で最強になる。大事な奴との約束もあるしな…」
幼い親友の姿が浮かんだ。黒い髪の少女。
腕の中の黒い髪の女とはまったく違う女。
この女は自分が女であることを疎ましく思うことなんてないのだろう。
そこに惹かれた。どうしようもなく。
「夢は自分で叶える。自分の力だけで」
自分の力だけで叶えられないものがある。どうしても欲しいものがある。
けれど、それは口に出して言えない。
この想いはきっと必要なすべてを含むのに。恐らくはそれだけが足りない。
俺に対するこいつの思いと、こいつに対する俺の想いに、それを願うのは間違いなんだろうか。
無様に吐き出すことなどできやしねえから。ふざけてこう言うんだ。
「だから願うとしたら『酒酒酒』か?」
眼を細めて、笑いやがった。
「あなたらしいわ」
とんとん、と指先で俺の胸を叩く。女の顔をみつめると俺の腕を撫でながら言った。
「剣士さんならいつか、人が奇跡と呼ぶものでさえ起こせるはずよ」
す、と今日初めて女から口づけられた。
掠めただけなのに、甘く蕩けるようだった。
「あなたの夢が叶うように、私からも願ってあげるわ」
ふふっと笑う女に今度は逆に肩を借りた。
泣かないけれど泣きたくなった。
36
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:24
こいつは何を願うんだろう。
今抱きしめていても、いつかどこかへ飛んでいってしまいそうなこいつは。
逃げないように強く強く抱いて、深く深く口づけたい。
ルフィがこいつにじゃれつくのも、コックがこいつを口説くのも、切り捨てられれば楽なのに。
それでも今夜は羽根のように優しく触れた。
きつい抱擁も、熱い噛みつくような口づけも。
今夜だけはなくていい。
そうすることでルフィとの柔らかい触れあいを少しでも忘れてくれたら。
俺はどこまで愚かになったのだろう。
子供染みた嫉妬にもほどがある。
それでもこの腕の中の女が消えないでいてくれるのなら。
いくらでも、星でも月でも、祈ったことない神にでも。
願ってやるから消えてくれるな。
こいつが俺のことなど願わなくても、俺が願えば叶うのだろうか。
どうしようもねえ俺と、何もできねえこの女にひとつの感情を与えてほしい。
そう考えた瞬間に。
柔らかい肩越しに落ちていく流星に「愛愛愛」と心が叫んだ。
━終━
37
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/04/16(金) 22:25
以上です。
投下用に多少こじつけた感じになり、すっきりしていなくて申し訳ありません。
初めて書いたゾロビですので、現在の自分のゾロビのイメージと異なっているんですが。
空島ラストを読む前に書いたもので。
こんなロビンと、こんなふたりの関係を想像しておりました。
読んでくださった方、ありがとうございました!
38
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/04/28(水) 20:37
めっちゃ遅レスながら……どろんぱさん、いいなぁ。
日常の一こまを切り取ったような話がいいです。萌え〜〜……
甘くて素敵です。
苺屋さん、ゾロビ……いい……。
情景が想像できます。ゾロがカコイイ!と叫ばせてくださいw
最後の一文に、にやけてしまいましたよw
そして、エーヒナを投下します。
本スレに以前……エーヒナを投下したのですがw、その二人の続きです。
39
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/04/28(水) 20:39
エース×ヒナ「BLUE」
紺碧の海。
汚れなき広大な青は、わたくしと彼が生きる場所。
彼はその中を自由奔放に駆け巡る海賊。
わたくしはそれを正義の名の下に護る海軍。
本来なら相対する間柄であるべき、わたくしと彼。
けれど惹かれあい、……恋に、落ちた――――。
「ヒナさん、はい。遅くなったけど、誕生日のプレゼント」
3月3日…わたくしの誕生日をひと月以上も過ぎてから、わたくしの元を訪れたエース。
彼が差し出したのは、皺だらけの色あせた茶色い紙袋。
エースは前に逢った時より随分と日焼けしていた。南の方へ行っていたのだと言う。
彼はまだあどけなさの残る顔をほんのり赤らめ、誇らしげだった。
「なぁに? ……期待してもいいものかしら?」
「ん、まぁ……大したもんじゃないけど、」
何度も開け閉めしたらしいシールは簡単に剥がれ、中から出てきたのは青く透き通ったバレッタ。
海の青。
わたくしと彼が生きる海の色。
「……ヒナさんの髪、長くて綺麗だけど仕事のとき邪魔にならないかな、って思って。」
誕生日のプレゼントとしては、ひどくささやかなものだった。
けれど、彼なりに一生懸命考えてくれたのだと思うと、……胸が、ぎゅっと締め付けられる。
40
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/04/28(水) 20:39
「―――もしかして、盗品?」
「失敬だな、ちゃんと買ったよ。……確かにその髪留め買うのに売っ払った指輪は戦利品だけど……」
わたくしの言葉に、エースはぷ、っと頬を膨らませた。
―――馬鹿ね、わたくしって。
素直にありがとう、嬉しいって言えばいいのに……。
わたくしは手ぐしで長い髪を整え、バレッタで挟んだ。
ぱちんという音と共に、髪は一纏まりになる。
「これでいいかしら?」
首筋が涼しくなり、背中が幾分かすっきりとする。
「……うん、ヒナさん、すっげえ綺麗」
腕組みをしたまま、エースが嬉しそうな顔をした。
「……エース、ありがとう……」
ようやく言えた、お礼の言葉。
「どういたしまして」
エースは帽子を取って、恭しく頭を下げた。
「店に入って、すぐにこれが目に付いたんだ。ヒナさんには絶対これが似合うって、……思ったんだ」
それは屈託のない、少年の笑みだった。
41
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/04/28(水) 20:40
エースは一晩、わたくしの部屋で泊まり、次の朝早く旅立った。
一夜の甘い思い出と、ブルーのバレッタをわたくしに残して。
逢う度に逞しくなっていく身体。増えていく全身の傷と、懸賞金の額。
頬に散る雀斑がかろうじてあどけなさを残すのみ。
二十歳という年は、大人の扉を己の力で開き、足を踏み入れる時期。
これから彼は、この海で大海賊として、ますますその名を上げていく筈。
エース自身は、海賊王を望んではいない。白髭を、海賊王にさせてやりたいのだという。
けれど、白髭の歳と、決しておもわしくないという健康状態を考えるとそれは恐らく……無理なこと。
むしろ、否応なしに、エース自身が海賊王の地位に近づくのだろう……。
次の日、エースにもらったバレッタで髪を一纏めにし、わたくしは海軍基地へと向かった。
いつもなら門のところで待ち構えているジャンゴとフルボディがいないのを不思議に思っていると、
基地の中は朝だというのに妙に慌しかった。海兵たちが走りまわっている。
「お早う、早くからご苦労様ね。何かあったの?」
一人の三等兵を呼び止めると、年若の青年は姿勢を正し敬礼の後、わたくしに理由を述べた。
「申し上げます、今朝早く沿岸海域にて白髭海賊団2番隊隊長、火拳のエースこと、ポートガス・D・エースを
巡視船が発見、捕らえるべく全力を尽くしたのですが……」
「……火拳?」
エースが。どきん、と心臓が軽く跳ねた。
馬鹿な子……この辺りの海域は危ないから見つからないようにと、いつもきつく言い聞かせているのに。
わたくしにプレゼントを渡した嬉しさで、今朝はつい注意が疎かになってしまったのだろうか。
「……それで、火拳はどうなったの?」
ああ、いけない。声が上ずっている。
42
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/04/28(水) 20:41
「はっ、……巡視船からの連絡を受け、拿捕専用船含め計10艘、
当直の兵250名余りが火拳のエースを捕らえるべく尽力しましたが、
あと一歩のところで逃げられてしまいまして……2艘の軍用船が焼失、3艘が半焼、
計25名が重軽傷を負いました」
「死者はいないのね?」
「はっ、幸いにも」
「そう、……分かったわ。ありがとう」
三等兵は再び敬礼をし、忙しそうに自分の持ち場へと戻っていった。
ドックには、無残に焼けた軍用船。そこから降りてくる、傷を負った海兵たち。
「……みんな、ご苦労様……」
ねぎらいのつもりで掛けたわたくしの声に、力はなかった。
ジャンゴとフルボディは、戦闘の後の始末に駆り出されているらしかった。
「……ヒナ大佐、お早うございます」
わたくしの姿を見つけ、直接の部下の軍曹が駆け寄ってきた。
「あら、お早う。朝から大変ね……」
「デスクに、今朝の火拳の件に関する書類置いてありますので、目を通してくださいませんか」
「……わかったわ、上に報告しなくてはいけないものね、報告書はわたくしが作ります」
「はっ、よろしくお願いします」
―――改めて、認識せざるを得なくなる。
自分の愛した男が、海賊……それも大物であるという事実。
わたくしは海兵として、犯してはいけない罪を犯しているのだと。
罪の意識。でも、抑えることの出来ないエースへの思い。
43
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/04/28(水) 20:41
それは恐らくエースにしても同じこと。本当なら、10艘程度の船など全て燃やしつくし、
海兵全員を焼死させることさえ簡単だったはず。それを、わたくしの駐屯地だからと……必死で逃げ、
被害を最小限にしたのだ。
これはわたくしのせいなのだと、痛む胸を押さえ、執務室へ入る。
部屋に入るとすぐに事務の子が、朝のコーヒーを持ってきてくれた。
「ヒナ大佐、お早うございます……あら、綺麗なバレッタですね」
やはり女の子だ。ちゃんと見てくれる。
「あら、ありがとう。一寸派手すぎやしないかしら?」
「いいえ、そんなことないです。とてもお似合いです……綺麗な青ですね、ご自分で買われたんですか」
「ええ、……まぁ、ね」
恋人がくれたのよ、といいたい気持ちをぐっと抑えた。
「……褒めてくれて、有難う」
事務の子が部屋を出た後、苦いコーヒーをすする。
この苦さはわたくしの心の中そのままだ。
きっとエースも今頃、逃げ切った安堵感とともに、わたくしに対しての申し訳ない気持ちをきっと抱いたまま……、
船を進めているのだろう。
次にあったら、気まずいかも知れないわね。
席を立ち、壁の姿見の前に立つ。
鏡に映った自分の顔。
なんて、泣き出しそうな顔をしているのかしら。
44
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/04/28(水) 20:43
「こんなことくらいで、なんて顔をしているの? 最初から分かっていた事じゃないの」
そう、……これから先はきっと、もっと……。厳しいはずだもの。
海兵と海賊。最初から、ハッピーエンドなんて望んではいけない。
こんなことくらいで落ち込んでどうするの?
エースを愛した瞬間から、それは覚悟のことではないの?
いずれは、きっと、どちらかが………。
自分を叱咤し、ぱんぱん、と頬を叩く。
駄目ね、弱いわたくし。もっと強くならなくては。
折角エースが、こんなに綺麗なブルーのバレッタをくれたのに。
「……折角のプレゼントが台無しだわ」
髪を纏めるバレッタに触れる。
45
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/04/28(水) 20:44
きっといつか、その時は嫌でも訪れる筈。
そのときこのバレッタは、わたくしの涙に濡れ、海に沈むエースを見送るのだろうか。
わたくしと共に、エースの業火に包まれるのだろうか。わたくしとエースと共に、海に沈むのだろうか。
その日はきっと、やってくるはず。
エースが海賊で、わたくしが海兵である限りは。
青いバレッタ。
それは、海の青の色。
わたくしたちを繋ぎ、そして突き放す美しく残酷な海の色だった。
(END)
46
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/04/28(水) 20:45
以上です。したらばにSS初投下w(社長以外で)
ますますのご発展をお祈りして……へそゞ
セクハラでした〜〜ノシ
47
:
どろんぱ </b><font color=#FF0000>(zSSkwO.2)</font><b>
:2004/05/06(木) 00:02
切なくて美しい物語、すごくいいです〜!
48
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/06/14(月) 19:32
遅くなりましたが、どろんぱさん感想有り難うございます_| ̄|○
えー…連投になりますが、一本投下させてください。
ワイパー←コニス で。ルフィ達が空島に来る前のお話だと思ってください。
それでは。
=====================
叶わぬ恋とは知りながら(ワイパー←コニス)
初めてあの方と出会ったのは、6年前……エネルが神として君臨する半年ほど前のこと。
季節の花を求めアッパーヤードを訪れた、うららかな春の日だった。
森の奥で花を摘んでいるところを、巨大な羽虫に襲われかけた。
注意していたつもりが、いつの間にか虫達の巣へ足を踏み入れてしまっていたのだ。
巨大な羽虫が、私めがけて上空から一気に急降下してきた時は、正直、食べられてしまうと覚悟した。
49
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/06/14(月) 19:33
そのときだった。
「危ないッ!!」
号砲一発、閃光と共に羽虫が吹き飛び、私は難を逃れた。
「……あ……」
少し離れた巨木の上に、あの方はいた。
自分の背丈と変わらぬ程大きなバズーカを肩に……半身を覆う刺青と特有の衣装。
一目で、シャンディアだと分かった。
「……ちっ、空の民か……」
彼はどうやら、私を自分たちの仲間だと勘違いして助けたようだった。
相対するスカイピアの住人だと知ると、忌々しげに咥えていた煙草を吐き出した。
「あ、ありがとうございますっ、お陰で命拾いいたしました、あのっ、」
慌てて、言葉がなかなか巧く出てこない。
「神兵なら殺すところだが、……一般人、それも女なら仕方ない。見逃してやる。但し次は助けん! 」
碌に礼を言う間もなく、彼は私に背中を向け、瞬く間に森の奥へと消えていった。
「………あ……」
私は一人、取り残された。
あの方の姿。あの方の声。ほんの一分足らずのことだったのに、それは鮮烈な出来事だった。
隙無く鍛え上げた身体。意志の強い、鋭い眼差し。
威圧感のあるバリトン。
半身を覆う刺青は、一人前の戦士の証だと聞いた。
50
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/06/14(月) 19:34
相容れない立場にあると、頭の中では理解しながらも。
私の心は、あの方にすっかり奪われてしまった……。
そう、私はあの方に恋をした。
叶わぬ恋とは、知りながら。
あの方の名は、ワイパー。
それは数日の後に分かった。
ガンフォール様率いる神兵達とシャンディア達とのいざこざの中心にはいつもあの方の姿があり、
嫌でもその名は聞こえてきた。
精一杯の譲歩をしようとした『当時の』神・ガンフォール様。
それを頑なに拒む、シャンディア最強の戦士……それが彼だった。
食い違う意見。埋められない溝は深まるばかり。
400年という長い長い、長すぎた時間が、私達と彼らの間に埋まらない溝を作ってしまっていた。
アッパーヤードは元々彼らのものであったのに、それを奪った私達スカイピアの住人達には、
最早その恩恵はなくてはならないものとなってい、もう、全てを返すことなど不可能になってしまっていた。
戦いは数え切れないほど繰り返された。
死人も怪我人も、数え切れないほどだった。
父上も何度か徴兵された。幸いにも生きて帰ることはできたけれど。
毎日のように、アッパーヤードからは号砲が轟いた。
51
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/06/14(月) 19:34
代々君臨した神の中で唯一、ガンフォール様だけはシャンディア達と和解しようとした。
けれどそれはとうとう纏まることがないまま……新しい神・エネルが突然君臨し、
エネルによる恐怖政治が始まった。
―――シャンディア達との戦いは、今までの歴史の中で最も苛烈となった。
今日もまた、遠くで号砲が聞こえる。
窓の外を見ると、アッパーヤードのほうが騒がしい。
煙が立ち昇り、焔が森を焼いている。
「……また……戦いが……」
あの方はまた、バズーカを担いで戦士達を率い、最前線にいるのだろう。
傷を負ってはいないだろうか。
捕らえられてはいないだろうか。
部屋の片隅に跪き、私は一人祈った。
あの方の、ご武運を。
どうかあの方が、死なないように。
「ワイパー……」
神の裁きを恐れながら、小さく小さく、あの方の名を呟いた。
叶わぬ恋とは、知りながら……。
======================
52
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/06/14(月) 19:35
以上ですノシ
コニス という固有名詞が出てこなかった_| ̄|○
また投下させてくださいませ。ではでは。
53
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/06/15(火) 22:39
>見習Bさん
コニスの想いと切なさが文章から滲み出てきます。
苦しく、それでも幸せな恋だなぁ、と感じました。
素敵な物語をありがとうございました。
そして、自分は毎度のゾロ×ロビンを一本投下します。
ゾロ視点で、ゾロロビというよりも、ゾロ→ロビン気味。
空島とWJ本誌21号からの流れについて、語っている感じ。
時間としては、WJ本誌25号のラストから。
コミックス派の方は、ネタバレにご注意ください。
思考が後ろ向きなゾロです。
このカプと、苺屋の文が、お嫌いな方はスルーでお願いいたします。
54
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/06/15(火) 22:39
「Can't help myself」
デービーバックファイトが終わって、あっという間の出来事だった。
海軍大将? 最高戦力? んなもん知るか。
理解したのは、あの女がエネルと対峙した時よりも怯えていたこと。
実感したのは、俺がエネルと対峙した時のように敵わなかったこと。
ふたりの心臓が動いたと、チョッパーから聞いたとき、これ以上はないというくらい安堵した。
諸手を挙げて喜び叫ぶウソップやコックの姿に、やっと現実が戻ってきたと感じた。
「…あんな強ぇのがこの先…俺たちを追ってくるのかな」
ウソップの独り言ともとれる呟きが、俺の耳に木霊した。
「…俺はただ…バタバタ騒いで終わったよ…」
疲れてるんだ、こいつも。いや、ウソップだけじゃない、全員だ。
騒ぐどころか、何もできなかった俺。
あの女が凍らされていくのを眺めるしかできなかった俺。
一騎討ちだというルフィに従うことしかできなかった俺。
最強を、と願った。世界一に、と望んだ。敗けない、と誓った。
だが、俺の様は。
神を名乗る雷を斬れず。凍らせた剣すら、受け止めることしかできず。
最後は結局、ルフィに頼ることしかできずに。
55
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/06/15(火) 22:40
ラウンジで、皆で寝ようと言い出したのは誰だったか。
こんな日くらい、そういうのもいいかもしれないと、壁に寄りかかって座った。
けれど寝られない。頭の中で回る考えと、浮かんでくる思いと。
机に突っ伏すウソップとコック。床に寝転ぶチョッパーと、それを枕にするナミ。
さっきまで凍っていたくせに、酷え寝相でいびきをたてるルフィ。
その隣で眠る女は、とても静かだ。
寝てんのか、起きてんのか、それすらもわからねえ。
ふいに、女が動いた。ゆっくりとその身を起き上がらせる。
慌てて目を閉じて、寝たふりをする。
しばらく動かないでいたが、やがて立ち上がり、のろのろとラウンジを出て行ったようだ。
毛布はそのままに、薄着のままで。
軽く舌打ちして、毛布を掴んで、後を追った。
静かにラウンジの扉を閉めて、見回せば、舳先のところに女が座って海を見つめていた。
「…冷えるだろ」
近づいて、毛布を身体にかけた。振り返って女は笑った。
「ありがとう…起こしてしまった? ごめんなさい」
「いや」
女はまた海を見る。ひどく遠い眼をしている。
「…まさか、船を降りるとか、くだらねえこと考えてねえよな?」
女は何も言わない。俺を見ようともしない。
「迷惑になるとかいう、くだらねえ理由で降りようとするなら、あいつら全員死ぬ気で引き留めるぞ」
「あなたは?」
急に俺の目を見た。焦って、鼓動が跳ねた。
「あなたは、私が降りると言ったら?」
「……」
何も言えなかった。降りるな、という言葉は喉まで出かかっていたのにも関わらず。
「それとも、信用していない私は、降りてくれたほうが厄介払いになるかしら?」
「信用? そんなもん、とっくに…」
言って気づいた。いつから俺はこの女を仲間として認めていたんだろう。
56
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/06/15(火) 22:41
「…隠れ家じゃないだろ? ここはお前の家なんだろ?」
女は俺の目を見たまま、何も言わない。少しだけ口角が上がったような気がした。
「違うのか? だから、いつもひとりで向かっていくのか?」
仲間と思っていないのは、お前のほうなのか?
だから、エネルにも、海軍にも、俺が傍に居るのにひとりで抗おうとしたのか?
首をゆっくりと振る。どっちの意味だよ、わからねえよ。
“私はもう…”
あの時、女が何を言おうとしたかはわからない。その続きが答えなのかもしれない。
だが、あんな悲痛な叫びは、俺はもう聞きたくない。
そう思うのは、仲間だからか? 違う。俺はそう思う理由を知っている。
こいつが雷に打たれて、頽れた時、仲間だからではなく、女だから抱きとめた。
エネルは女だからといって容赦はしないと、ゲリラの女がやられて知っていたはずなのに。
つい馬鹿なことを言った。気がつけば、動いた体と、出た言葉。
エネルに背を向けて。それもわからぬほどに、必死に女の身体を掴んだ。
海軍が現れて、こいつが怯えて腰が抜けた瞬間、手はすでに刀に触れていた。
女に氷の剣が迫った時も、自然と俺の刀はそれを受け止めていた。
正直、大将と言われても、敗けない自信があったのかもしれない。
だが、女が目の前で凍らされていく瞬間に、心臓が鷲掴みにされたかと思った。
恐怖を感じた。自然の力と、女を失くすかもしれないということに。
仲間だからという言葉で片づけられれば楽なのだろう。
しかし、それだけではない。この女に俺が担う感情は。
けれど、俺は何も言えない。
女に手を伸ばす。頬を撫でれば、冷たかった。
顔がところどころ赤くなっていて痛々しい。雷に打たれたときも、こいつの顔は黒くなって。
綺麗な顔なのに。俺が気に入っている顔なのに。
女の身体を毛布ごと抱き寄せる。細い身体だ。空島で抱きかかえた時にも思った。
崩れ落ちる女の身体を抱きとめた俺は、凍っていく女に何もできなかった。
57
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/06/15(火) 22:41
黒い柔らかい髪をそっと撫でる。
「なぜ…抱くの?」
小さな声が俺を咎めるかのように聞こえた。びくりと、髪を掬った手を止める。
「あなたの両手は塞がっているのに」
呆然として、女を胸に抱いたまま、両の掌を見てしまった。
女の手が俺の脇腹を辿って、腰の刀に触れる。
この両手には剣しか、野望と約束に関わることしか、掴めないと?
“ナミさんは俺が守る!”
なんで今、クソコックの口癖を思い出す?
ウソップから聞いただけだが、実際あいつはナミを守ったらしい。
わかっている。それは、コックにとってナミが至上だからだ。
俺はコックのように生きられない。
圧倒的な力にも立ち向かわなければ、その瞬間に俺は俺ではなくなる。
剣しかこの手に持てない俺は、女を支える時でさえ、剣を握ったままだった。
俺は、この女を守れない。俺は、守ろうとしても傷つけてしまうかもしれない。
「でも…剣を持たないあなたは、あなたじゃないわね」
女の言葉に目を眇めた。それは理解か、それとも拒絶か。
「いっそのこと、その剣で傷つけてくれたら、私が居る理由になるかしら?」
女が嘲けるように笑った。
「馬鹿やろ…」
58
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/06/15(火) 22:42
ゆるゆると唇を、女のそれに近づける。
軽く触れ合って離すと、女の眼が俺を見ていた。眼を閉じてはいなかったのか。
「ロビン…」
腕の中の女は何も言わない。
「俺は…」
この手には剣しか持てない。そのくせ、お前を傷つける圧倒的な自然の力を、何ひとつ、斬れないまま。
「お前が…」
その続きは言えない。
俺がまだ最強ではないから。俺はルフィではないから。俺が俺であるから。
何も言えない。言えるわけがない。
何も言えやしねえんだ。
「眼を閉じてくれ」
無様な懇願。
ゆっくりと閉じられる瞼に安心して唇を落とす。
この女は瞳の印象が強すぎる。
ただ、見られているだけなのに、責められているような気分になる。
顔中に唇を降らせる、極力、柔らかく。
剣を捨てられないくせに、傷つけることのできない俺を、お前は笑うか?
「…卑怯ね」
おざなりな罵りを放つ口を塞いで、そっと身体を抱き続ける。
そうだ、俺はこの口にもすでに野望と約束を咥えていた。
それでも。
どうしていいかが、わからないから。
俺は口づけと抱擁をやめることはできない。
腕にいる女は何も言わない、動かない。黙って俺の行為を受け入れる。
やがて、空が白み始めるまで、俺たちはひたすらに、そのまま口づけていた。
59
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/06/15(火) 22:42
新しい島に着いた。ウォーターセブンというらしい。
ルフィとウソップとナミが、張り切って出かけた後、女が近づいてきた。
「…何だ? その格好は」
ひどく挑発的な格好をしている。胸なんか半分見えてるじゃねえか。
「あら、似合わない?」
眉根を寄せて問うから、一瞬、言葉に詰まった。
こんな短えスカート、こいつ今まで履いたことがあっただろうか?
見たことは、ある気がする…どこでだ、かなり以前の…ああ。
敵だった頃の服に近いんだな。理解した。
だから、どうしたと言われればそれまでだが。ただ、少しだけ心に引っかかる。
「いや…コックが喜びそうな服だと思っただけだ」
「ふふ、そうかしら。私、船医さんと、買物に行ってくるわね…あなたは?」
女の声音に、何か言外の意味がほのめかされているように思える。
俺に期待をしないでくれ。
卑怯者だと、言ったのはお前だろう。
「…俺は、いい」
「そう」
眼が伏せられたように思ったのは、気のせいだろうか。
行ってくるだけだよな、帰ってくるんだろ?
ただの俺の希望だけどな。
「気をつけて、行ってこい」
「…ではね」
それが、別れの言葉に聞こえた。女が俺に背を向ける。
60
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/06/15(火) 22:43
今、何か言えば、女は立ち止まるだろうか。
今、その身体を抱きしめれば、女は出かけるのをやめるだろうか。
愚かな考えだ。この船に乗るのも、降りるのも、女が決めることであるのに。
女が俺に、何かを望んでいたとしても。
俺は、それに応えることはない。いや、応えられない。
抱擁だけなら、いくらでも。口づけだけなら、何度でも。
あの夜から重ねた触れ合いは、俺たちを繋ぐものではなかった。
では何だ、と問われれば答えることはできないが。
慰めにも似た、酷く憂鬱な幸せではなかっただろうか。
しかし女は何も言わない。だから俺は何も言えない。
決して女は振り返らない。だから俺は何もできない。
剣を捨てることも。
自然を斬ることも。
傷つけて、所有の証を刻むことも。
行かないでくれと、引き留めることも。
この心のうちを、見せることさえも。
何もできやしねえんだ。
━終━
61
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/06/15(火) 22:44
以上です。
こんな暗い話を書きましたが、ロビン下船はあってほしくないです。
かといって他のクルーの誰かが降りるのも嫌なんですが。
毎週ハラハラしながら読んでいて、ついこんな話を書きたくなってしまいました。
読んでくださった方、ありがとうございました!
62
:
Σ
:2004/06/20(日) 17:41
ちょっと切なくなる物語。
ありがとうございます(*_ _)人
メールでも同じような事言ってたんですが、
私は、ジャンプでの該当話を読んでいて、
ロビンたん、えらいセクスィーだなぁ…。
とか、その前の、青キジが発言した言葉も気になりはしましたが、(手におえない)
もっと後の伏線かなー。などと、まったり考えていた私ですから、
ロビン下船。それを止めたいが、止めれないゾロ。
文才というか、想像力がない私には、思いつけない話だったので、衝撃をうけました。
苺屋さんの次回作が楽しみだぁー(´∀`*)ウフフ
それではヾ(゚ω゚)ノ゛
SSうpを知らない方もいるかも知れないんでageときますた。
63
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/07/03(土) 10:19
今日はナミさん誕生日。
というわけで、サンナミSSを投下しますノシ
********************
ナミ誕・サンナミ「心から」
誕生日を心から嬉しいと思ったのは、これが初めてのことだった。
深夜の甲板。7月3日になって、まだ5分しか経っていない。
私はひとつ歳を重ね、大人に近づいた。
「ナミさん、」
サンジ君に誘われ、やってきた深夜の甲板。
「……なぁに?」
ちょっとだけ強い風が、髪を乱し二人の声を掻き消そうとする。
サンジ君はちょっと照れ臭そうで勿体ぶってて……いつものサンジ君と、随分違う。
「何よ、サンジ君」
「ん、……あのさ」
64
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/07/03(土) 10:19
明日……正確には今日、は。
朝から私の誕生パーティーがあるから、早めに寝ようとしたのに。
『ナミさん、ちょっといい?』
サンジ君はいつもよりもちょっと強引に私を誘った。
『なぁに? シャワー浴びたらもう寝ようかと思っているんだけど……』
『……大事な、話なんだ』
サンジ君の切羽詰った表情に、私は睡眠時間を削ることを了承した。
「……誕生日、おめでとう」
目線を合わせないで、サンジ君は言った。
「ありがとう、サンジ君」
随分とぶっきらぼうな台詞。いつもとは様子が違う。
いつもなら、目をハートにして、歯の浮くような台詞を並び立てるのに。
「誰よりも一番最初に、ナミさんにおめでとうを言いたかったんだ」
続ける言葉は、視線を下に落としたまま。
「……なぁに、変なサンジ君……」
くすっ、って笑ったら、ようやく視線を上げた。
「……サンジ君?」
なんでそんなに、神妙な顔。
「……どうしたの?」
私、何かサンジ君の気に触るようなこと……言ったかしら?
「サンジ君、」
「ナミさん、あのさ」
思いつめたような声。
どうしたの、と、もう一度聞くその前に。
65
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/07/03(土) 10:21
「サンっ…」
サンジ君に、抱きしめられた。
「………サンジ君?」
ぎゅ、って、力強く。
メンソールのタバコの匂いに包まれる。
「ナミさん……あのさ、」
「ん、……」
「俺、誰かの誕生日を、心から嬉しいって思ったの、これが初めてなんだ」
「……え?」
「……ナミさんの誕生日、俺、すっげえ嬉しいんだ」
耳元で囁かれる声。優しい、声。
「どうして? 私の誕生日、そんなに嬉しい?」
「ん、嬉しい。嬉しくて嬉しくて、世界中のどんな記念日よりも素敵な日だって思うんだ」
自分の誕生日なら、プレゼントを貰えたりパーティーを開いてくれたりするから、
嬉しいのは当たり前なんだけど。
「……どうして?」
「だって、そうだよ」
「……俺の愛するナミさんが、生まれてきた日なんだから」
66
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/07/03(土) 10:22
「……………」
「俺の愛するナミさんが、この世に生まれた日。だから、嬉しいんだ。素敵な日なんだ」
私の誕生日。
勿論本当の、誕生日じゃない。
ベルメールさんが、戦争孤児だったノジコとともに私を助けたその日が、19年前の今日。
本当はもう何ヶ月か前の筈だけど……今日が誕生日、ってことになっている。
「"ナミさん"が、生まれた日。嬉しくねえ訳がないじゃん」
「サンジ君、……」
「ナミさんのこと、愛しくて愛しくてしょうがないんだ。そんな愛しいレディの誕生日を、
嬉しく思わない野郎なんていやしないさ。世界中で一番、輝いている日だって思うんだ」
ぎゅ、っと抱きしめる力が……強くなっていく。
「俺の愛しいナミさんを、19年前のこの日この世に存在させてくれたベルメールさんに、本当にありがとうって言いたい。」
「…………」
「それから……ナミさん」
「ん、」
「心の底から、……おめでとう」
67
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/07/03(土) 14:09
そして、重ねる唇。
情熱的なキス。
こんなに誰かに愛されるなんて。私……、なんて幸せなんだろう。
ベルメールさん、聞こえる?
あなたにありがとうって、言っている人の声。
官能的なキスに翻弄されながら、「幸せ」という言葉を反芻する。
湧き上がり溢れるのは、……嬉しいという感情。
誕生日を心から嬉しいと思ったのは、これが初めてのことだった。
誰かに愛されることの幸せを改めて知った、19回目の誕生日。
****************
以上ですノシ
最後の1レス(これですね)を投下し忘れていました_| ̄|○
ナミさんお誕生日おめでとうですノシノシ
68
:
774万ベリーの賞金首
:2004/07/03(土) 19:24
久々に覗いてみたらタイムリーなSSが!
ハードな少女期を送ってきたナミだからこそ、まるっと包んでやって欲しいなーと思います。
ほんわかしました。見習BさんGJ!
便乗して、ナミおめで㌧!
69
:
よむこ
:2004/07/03(土) 23:42
ナンてことない誕生日が
イミのあるかけがえのない大切な日に。
そうおもえて、感謝するサンジくんが素敵。
二人、めぐりあえたこと
これからであう様々なこと、スペシャルな日々を増やしつつ、
ずっと、手と手を取り合って、歩いていって欲しいと思いました。
Bさま、暖かい気持ちになりました。ありがとう。
そして、あたしも便乗してみました♪
70
:
きゃべ </b><font color=#FF0000>(CSB/3Q32)</font><b>
:2004/07/05(月) 00:36
つД`)・゚・。・゚゚・*:.。
Bさまぁ乙ですゞそして、素敵なナミ誕「心から」ありがとです。
71
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/07/14(水) 01:16
すっごい中途半端なものを落とします。
まぁアレです。リハビリ。暇な人は付き合ってねw
ウソカヤです。例のごとくBUMPw
気付く人は気付いてねw
で。オイラが嫌い。オリジナリティ無いの嫌い。ウソカヤがいや。
その他見る気しない、時間無い人はスルーよろしくです。
---------------------------------------------------------------------
***カタリベ***
遠くを見つめる私の瞳。
誰も見ていない。私の視線。
小さな窓からしか見えない私の小さな世界。
変わることなく。いつもと同じ表情の景色。
私の人生は・・・
キットコノママカワラナイ。
72
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/07/14(水) 01:18
病弱な体。ベッドから起きることもできない。弱い私の肉体。
小さな窓から見える変わらない風景を眺める。そんな毎日。
私は・・・私は・・・
気付かず流れる涙。小さな音を立てて落ちる、雫。誰にも聞こえない。私の悲しみと絶望の音色・・・。
「おい!なぁ!そこのお嬢さん?」
・・・突然の声。いきなり訪れる、世界が変わる瞬間。
「だ・・・誰ですか?なんですか?貴方!」
「おいおい・・・随分ご挨拶だな・・・何にもしないよ。怪しいもんでもないってw」
微笑むその人の鼻は随分と目立つ。
「あのよぉ。ちょっと聞きてぇんだけどよ?」こともなげに質問してくる彼を。私は怪訝な瞳で見つめ。
「・・・なんですか?」
「このあたりでよ?なんつーか・・・涙の落ちる音が聞こえたんだよな?おたく、心当たりないか?」
・・・え?
73
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/07/14(水) 01:19
顔が熱くなるのを感じる。見透かされたような気がした。
「し・・・知りません!私には関係ないです!出て行ってください!」
一気にまくし立てた。これ以上ここにいて欲しくない。私の弱いところを誰にも気取られたくない・・・
「な・・・なんだよ?随分邪険じゃんか・・・。てゆーかよ・・・?」
じっと見つめる彼の瞳から目をそらし。
「なんですか!?いいから・・・出て行って!」
「わかったけどさ。・・・お前。随分赤い目してないか?」
・・・私の心に滑り込む。彼の言葉。私はすぐには受け入れられなくて。
74
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/07/14(水) 01:19
あ・・・貴方には関係ないでしょ!早く!出て行ってください!」
「まぁそう言うなよw・・・そうだな。よし!これから俺がお前に物語を聞かせてやるよw」
「やめてください!そんな・・・」
「遠慮すんなってw俺はおせっかいなんだw
いいか。よく聞けよ?これはな。俺の5歳の時の話だ。」
その人は。勝手に話し始めた。夢のような。わくわくするような冒険の話。
「俺はな。村の隅っこで宝の地図を見つけて・・・」
その後・・・彼は色んな話をしてくれた。
偽物の地図を握り締め、航海にでて、伝説の海賊になった男の話。
小さな村で。忌み嫌われた少女と、その少女がたった一人心を許した青年の話。
強がりの音楽家と。それを支えた優しい少女の話。
小さな少女の想いを受けて。優しさの温もりに気付いた戦士の話。
75
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/07/14(水) 01:20
そのほかにもたくさん。たくさんの夢のような物語。
私は・・・いつの間にか彼の紡ぐ物語に吸い込まれるように・・・
76
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/07/14(水) 01:22
ここで終わりです。ね?中途半端でしょ?(開き直るな)
えっと。この感じで続きます。
長鼻君が語った物語はキットカキマス。タブンカキマス。ガンバッテイイ?
呼んでくれた人。ありがとうでした。うん。頑張る。
77
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/14(水) 03:00
>ABCさーん
来ました、復活ですね!
待ってましたよ! BUMPですよ!
長鼻君の物語、楽しみにしております。
カヤの切ないモノローグがとても胸に響きました。
素敵な物語をありがとうございます!
78
:
きゃべ </b><font color=#FF0000>(CSB/3Q32)</font><b>
:2004/07/15(木) 13:27
ABC様
復活投下乙でしたゞ
とっても久しぶりのABC印SSを読んでキュン。ってなりました。
有難う御座いました。
といいますか、
続きキボン。マジキボン!焦らしプレーはイヤンw
ウン!応援するわ!ガンガレー(*´Д`)ノ゛
79
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/15(木) 22:46
3の人×GW
自分も一本投下させていただきます。
今さら、Mr.3×ミス・ゴールデンウィークです。
需要もないでしょうが、ミス・ゴールデンウィーク視点でどうぞ。
糖度低めで、Mr.3が意外と紳士です。
このカプと、苺屋の文が、お嫌いな方はスルーでお願いいたします。
80
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/15(木) 22:47
「Mummy Ringに花束を」
キャンバスに水に濡れた色のついてない筆をそっと這わせて撫でてみた。
絵の具が固まる前にいくつかの色が混じりあい、期待していた滲み出るような効果を生む。
ガラスも嵌っていない窓から、部屋に吹き込む風は穏やかだった。
先ほど、パートナーが飲んでいたアールグレイの茶葉から甘い香りが漂ってくる。
ホットだと匂いがとてもきつくなるのに、彼はアールグレイのホットが好きだった。
「アールグレイのアールとは伯爵という意味でね、昔グレイ伯爵が紅茶に着香する製法を紅茶商に教えたのだガネ」
「ふーん」
「特にベルガモットの香りを着けたアールグレイは『香りにおいて並ぶものなき絶品』と謳われたのだ」
「確かにいい香りだね」
「貴族もよく好むこのお茶は私にぴったりだと思わんカネ」
「そお?」
窓からの明るい陽射しに少し目を細めて、私は筆を置いた。
椅子に座って得意げに話す彼の言葉は流して聞くくらいがちょうどいい。
薀蓄を語り始めると長いから。
「今日は機嫌がいいようだな」
その薀蓄好きな男、Mr.3が自分で作った蝋の椅子に座りながら聞いてきた。
「どうして?」
「珍しいからな、キミが朝からせんべいも食べずに絵を描くのは。何を描いていたんだ? 景色か?」
「うん。緑が綺麗だからね」
からかうように笑うMr.3に気にせず、普通に返した。
81
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/15(木) 22:47
Mr.3と出会ったのは3年以上前だ。
写実画家として日々のんびり過ごしていた私の前に、ミス・オールサンデーという女性が現れた。
綺麗な人だった。いつか絵のモデルになってもらいたいくらいに。
バロックワークスという会社の社員にならないかという誘いだった。
私のちょっとした特技が、ある男にはとても役立つというから。
その男のパートナーにならないかと。
退屈だったから話に乗った。
犯罪会社ということだったけれど、別にどうでもよかったから。
善とか悪とか、興味がないし。忙しくなくて、絵を描けて、美味しいものが食べられればそれでいい。
紹介されて会った男は、第一印象、変な男。
髪の毛の形がまずおかしい。かりあげなのに、頭上で見事なまでの3という形。
下半身こそ、ワークジーンズだけれど、上半身は派手。
青と白のストライプのシャツ。それだけならいいのだけれど、ノースリーブでフリル付き。
おまけに蝶ネクタイまでつけている。
そしてシャツとお揃いの色の眼鏡。
眼鏡の奥から覗く狡猾そうな目つきと、大きめの鼻と、厚ぼったい唇。
その男は私を見て訝しげに言った。
「ミス・オールサンデー、こんな子供が本当に役に立つのカネ?」
「ふふ、造形美術家のあなたにとっては最適のパートナーよ」
「写実画家と言ったカネ…」
「あなたの作品に色をつけてもらったらどうかしら」
しぶしぶといった様子で、ひとつの置物を私の目の前に差し出した。
へえ。外見に合わず、繊細で緻密な仕事だ。
木や石膏ではない変わった材質。聞けば蝋だという。
ある種、鮮烈なまでの印象を受け、イメージが頭の中で膨らんだ。
彼の作品には、鮮やかな圧倒するまでの威厳が、似合っているだろう。
82
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/15(木) 22:48
「色をつけたからといって、何がどう変わるわけでもないだろうガネ」
まだ、ぼそぼそと文句を言う男を無視して、絵筆を取り出す。
マホガニー製のパレットの上で、絵の具を躍らせる。
膨らませた色のイメージと、この作品のあるべき姿が、合致した。
ぞくぞくする。この瞬間が一番楽しい。
あとはイメージのままに、絵筆を滑らせるだけだ。
すっかり固まって蝋とは思えないような表面に、私の頭の中のイメージを具現化させていく。
息吹を込めるように、ではない。その作品自体の息吹を感じて、引き出すのだ。
最後の色を塗り終えて、製作者を振り返った。開いた口が塞がらないといった表情。
「…いや、これは…素晴らしい!」
ぶんぶんと手を掴まれ、情熱的な握手をされた。どうでもいいけど、痛い。
「先ほどまでの失言は取り消そう。私のパートナーになってくれないカネ?」
鼻息荒く頼む男に、それもいいかな、と考えた。
そして、ミス・ゴールデンウィークという名前を与えられ、私はMr.3の正式なパートナーになった。
悪魔の実の能力者だと教えられ、その能力を初めて見た時には、目を瞠った。
時折来る指令を忠実にこなして、絵を描いたり、Mr.3の作品に色をつけたりして。
指令は、私が働かなくても、彼がその分働いてくれるから、とても楽だった。
私は彼が追及する美学の何たるかを語るのを、横で聞きながら、おせんべいを食べていればいい。
「キミもたまには、動いたらどうカネ?」
レジャーシートを広げてお茶を飲む私に、呆れたように呟くMr.3の声が優しいことを知った。
彼の邪魔にならなければ、足手まといにならなければ、何をしていても咎められることはない。
指令遂行には姑息なまでの手を使うけど、それも彼の信念なんだろう。
彼と過ごす日常が楽しくて、でも私は表情に出ないから、きっと彼は気づいていないだろう。
83
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/15(木) 22:49
そういえば先日、スパイダーズカフェで、久しぶりにミス・オールサンデーと会った。
「こういう場所で緑茶を注文するのはあなたくらいね」
店主のポーラが笑いながら出してくれたお茶をすする。
カウンターに乗せられたミス・オールサンデーの手が、手土産にとMr.3が作ったカップに触れる。
「私はそれほど芸術に詳しくはないけど、少しMr.3の作品、変わったんじゃない?」
「そお?」
「温かみがでてきたというか…あなたの影響かしら」
「まさか」
彼の作品は何かに影響されることはないだろう。
何にも縛られないからこそ、私もイメージしやすいのだ。
「実を言うと、私、今までの彼の作品が、あまり好きではなかったのよ」
内緒ね、と思い出すように遠い眼をして話す彼女の笑顔は、変わらず綺麗だった。
でも初めて見た時のような、高揚感は不思議と消えていた。
とても寂しそうに見えたのだ。
「ミイラという意味の“mummy”ね。元々、蝋という意味だったのよ。
マミーという名の蝋の作品からは、その通り、乾いた印象を受けたわ」
「乾く…?」
ひとつの国を、文字通り乾かせている私たちなのに、それが好きではないと?
「けれど、これからは温かさを感じるの。同じ“mummy”でもママの温かさかしら」
「ママ?」
それはMr.3とは、かけ離れた単語ではないのか。
「良いパートナーに会えたわね」
あっさりと言った彼女の言葉に頷いた。たぶん、それは事実。
私と彼を引き合わせた彼女は、こうなることをわかっていたんだろうか。
狭い店内、カウンターの隣に座る彼女が、違う世界の住人のように見えた。
今の彼女には、そういった温かみがないのだろうか。それとも失ったのだろうか。
84
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/15(木) 22:49
「ミス・ゴールデンウィーク?」
ぼんやりと思い出していたら、Mr.3に声をかけられた。
どうやら、食事の準備ができたらしい。
彼は、食事は一から作ったり、出来合いのものでも工夫したりと、意外とマメな男だ。
ふたりで彼お手製の食卓につくのも当たり前になっている。
「美味しいね」
素直に褒めると、鼻高々にこう言うのだ。
「当然だガネ」
凝った料理ではなく、簡単なものだけれど、そしてささやかな時間なのだろうけれど。
私は、この日常をやはり、楽しんでいるのだろう。
「さっきは、何を考えていたのカネ?」
「うん、Mr.3とママの関連性」
「は?」
簡単に話すとMr.3は、ふっと笑った。
「あの副社長も何を考えているんだか…確かに、キミと組んでから作品の幅は広がったガネ」
彼の言葉は、思いがけない強さで私の胸に響いた。
「ありがとう」
誰かにこんなふうに、感謝の言葉を言うのは何年ぶりだろう。
「キミには、そんな言葉は似合わんガネ」
笑う彼の口調も、ぶっきらぼうだったけれど、温かかった。
85
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/15(木) 22:50
「副社長にも、何か今度作っていくか…そういえば、長い付き合いだが、キミに何かを作ったことはないな」
食事も終わって、お茶を飲んでいたら、急にそんなことを言われた。
「いつも一緒にいるし。持ち運ぶのに重いのは嫌よ」
「そう言われると…」
少し考え込む仕種をして、まっすぐに見つめられた。
「アクセサリーなら、どうカネ? そのネックレスのような」
首もとを指さされる。うろたえてしまう。
もし、ミス・オールサンデーが言うように、ママのような温かさのものだったとしたら。
身につけたが最後、離すことはできないのではないだろうか。
もし、それを失くしたら、彼女のように寂しくなるのではないだろうか。
「…いいよ、無理しないで」
慌てて首を振ると、怪訝そうな顔になる。
「遠慮なんてキミらしくない。これからも長い付き合いになるだろうから、素直に受け取ればいい」
この楽しい日常がいつかなくなるかもと、不安だったのかもしれない。
パートナーとして、これからもこんな日が続くのだろうか。
少なくとも、Mr.3はそうだと信じて疑ってないのだ。それが嬉しかった。
そして、わかった。ミス・オールサンデー自体は変わっていない。
彼女が寂しそうに見えたのは、私が温かさを知ったからだ。
嬉しくて泣きそうだ。でも、私の表情も変わっていないのだろう。
86
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/15(木) 22:50
「じゃあ指輪がいい。右手の薬指に」
「構わないが、その指でないといけないのカネ?」
「うん、この指にリングをつけると、インスピレーションを刺激するらしいよ」
「ほう…」
私の右手を取って、薬指に人さし指をかざす。
まるで、魔法のように何もなかった指に精巧なリングが現れる。
「これくらいなら5分も待てば、完全に固まる。色はキミの好きなように。
それにしても、キミは写実画家なのだから、創造性は必要ないと思うガネ」
「Mr.3の作品をもっとよく知りたいの」
「…充分に理解してくれていると思っているガネ」
素っ気ない中に温かみ。ごまかすようにカップを口に運ぶ彼は、やはり優しい。
「ありがとう」
二度目の感謝の言葉。小さな、私だけの芸術品。
「どうも、キミに礼を言われると落ち着かないな。我侭なくらいがキミの持ち味ではないカネ?」
困ったような顔で照れるMr.3に、悪戯心が湧いてしまった。
「なら今度は左手の薬指にも、指輪くれる?」
驚いて、紅茶を噴き出しそうになるMr.3が、慌てるのがおもしろかった。
「冗談も大概にしないカネ…幼女趣味かと疑われてしまう…」
「ん? 私、Mr.3と結婚してもおかしくない年齢よ」
「は…?」
馬鹿みたいに口を開けている彼に、上体を近づけて、耳元で囁いた。
「その気になったら、作ってね」
固まった彼に背を向けて、固まった指輪にキスをした。
並ぶものなき絶品の、マミーリングに愛を込めて。
━終━
87
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/15(木) 22:51
以上です。
このカプを読んでくださる方がいるかどうかはわかりませぬが。
バロックワークスのパートナーたちが好きなもので。
ミス・ゴールデンウィークがいくつなのかは謎ですね。
読んでくださった方、ありがとうございました。
88
:
774万ベリーの賞金首
:2004/07/16(金) 22:08
えーと、パロ初心者なのですが
サンナミ・シリアス書いてしまいました。
サイトもちじゃないので、できたらこちらに
投下したいのですが、大丈夫ですか?
89
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/07/16(金) 23:35
オールウェイズ(屮゚Д゚)屮 カモーン
90
:
88@柊
:2004/07/17(土) 01:03
ABCさま、ありがとうございます。
柊といいます。よろしくお願いします。
付き合って間もない二人という設定です。
暗い気持ちになりたくない方は、スルーを推奨。
それでは。
91
:
柊
:2004/07/17(土) 01:04
「有明月」
その日は、キスだけして二人でベッドに横になった。
立ち寄ることになった島で、泊まった宿。二泊目の夜。
サンジくんは、「もったいないから、ナミさんの寝顔見てから眠るよ」なんていってたけど、
疲れていたのかしばらくすると、こてっと寝てしまった。
その寝顔を見ながら、私も目を閉じた。
・・・・・・・・・・目の前で踊る緑とオレンジ、そして降り注ぐ光
ああ、あの人の畑だ。
あの人がその指で慈しむように育てていたものの色だ。
それは、今まで数え切れないほど見てきた夢。
そして、サンジくんと一緒にいるようになってからは、はじめて見る夢だった。
92
:
柊
:2004/07/17(土) 01:06
・・・・・・・・・・また・・・あの夢・・・?
そう思ったけれど、私は懐かしくてたまらなくて、ただじっとその光景を見ていた。
緑の影から、あの人の声が聞こえる。いわゆる「おかあさん」って感じの声や話し方じゃない。
でも、それでも私には忘れられない声だった。今でも思い出す。
そしてその後ろから、私とノジコがなにか話しかけている。
でもよく聞こえない。いつものように、はっきりわかるのはあの人の声とタバコの匂いだけ。
場面はどんどん切り替わっていく。ただじっと見ているだけの私を置き去りにして。
どの場面にも覚えがあった。
この後、本を万引きして怒られた。ケンカしたけどすぐに仲直りした。
次にどうなるか予想がついた。夢なのに。
そう、夢なのに。
まるで映画を見ているような、ただの傍観者。
あの人の声が聞こえる。
私は目を閉じて、耳を傾けた。
海の底にいるようだと思った。
まぶたの裏でゆれる緑とオレンジ。
ずっとこのままこうしていたいと思ったのに、これは夢だと知っていた。
悲しく、冷たい予感がした。
93
:
柊
:2004/07/17(土) 01:07
目を開けると、場面の中の私はゲンさんのところで、あの話を聞いていた。
もうここまで来てしまった。この先はもう知っている。
だから、もうやめて。
知ってるから。
思い出させないで。
でも、私には何も出来ない。ただ見ているだけ。
場面はどんどん進む。
私の心臓も早鐘のようになっていく。
おねがい。
あの人を死なせないで。
私が代わりになるから。
私は駆け出そうとした。
走って走って走れば、間に合うかも。
もう、いつものように夢の中で死なせずに済むかも。
あの人の声を、また聞けるかも。
あの笑顔をもう一度見られるかも。
でも、足はまた動かなかった。前にこの夢を見たときと同じように。
おねがい。動いて。
どうしても死なせたくないの。
この足さえ動けば、きっと間に合う。
だから、おねがい。
・・・・・・そして、大きな銃声が響いた。
94
:
柊
:2004/07/17(土) 01:08
「・・・・・・・・っ!!」
私は、ばっと飛び起きた。
もう何度目なのか。
自分でもわからないほどの数なのに、慣れることはない。
きっと一生。
また まにあわなかった
おねがい
つれていかないで
かえりたいの
あのひとのいたばしょへ
だれか たすけて
95
:
柊
:2004/07/17(土) 01:09
・・・・・・・・・隣で、ナミさんが勢いよく起き上がる感覚で、オレは目を覚ました。
まだ夜は明けきっていない。
青く透明な光で部屋は染まっていた。日が昇る前の清冽な色。
でも、空気がおかしかった。なにか異質なものが混じっていた。
体を起こして隣に目を向けると、ナミさんはオレの足元のほうで
抱きかかえた膝に顔を埋めるようにして、肩を震わせていた。
希望や光なんていうものから、とても遠いところにいる人の泣き方だった。
深い深い絶望と取り戻せないもの。それらが沈む深淵。
その背中が、いつもよりずっと小さく、白く、この世のものではないように思えて
オレは思わず肩に手を伸ばし、触れた。
(よかった、あったけェ・・・)
そう思った次の瞬間、彼女はぱっと振り向き、オレの首にすがり付いてきた。
一瞬見えた、彼女の目はまだ夢の中にあった。
そして、泣き叫ぶように、きれぎれにこういっていた。
96
:
柊
:2004/07/17(土) 01:10
「おねがい、つれていかないで・・・ おねがい・・・・・・」
おねがい おねがい おねがい
ああ、あの人のことだ。
そう思うと同時に、オレは愕然としていた。
こんな風に泣くまで気づいてやれなかったなんて。
こんな永遠に続くような、真っ青な時間の中で彼女を一人にしていたなんて。
どんなに助けて欲しいと思っただろうか。
彼女の口からこぼれる言葉は、もはや祈りだった。
大きな運命の流れのようなものと、それを司る意思に向けた祈り。
そしてそれは、『戻ってきて欲しい』というやりきれない祈りだった。
なんてつらい祈りだろう。
小さくしゃくりあげる声を聞きながら、オレはただ彼女を強く抱きしめていた。
理不尽な理由で殺されたあの人。
それからの長い永遠のような日々。
消えそうになる魂の光。
どれだけ人生は不条理だと思っただろうか。
そう思うと、何を言っても白々しい気がした。
本当なのは、こうしていて伝わる互いの体温だけだという気がしていた。
97
:
柊
:2004/07/17(土) 01:10
なあ、ナミさん。
オレは絶対に君を残していなくなったりしない。
ずっとそばにいる。
いつか、ナミさんがあの人に生かされた意味を知ることができるときまで。
君が今、信じきれずに迷う光。それがあるかもしれないと思えるときまで。
この祈りは、きっとあの人にも届くだろう。
オレの胸に染みていく、透明な涙。
夜はもう明け始めていた。
日の光が混じり始めた空には、うっすらと月が残っている。
薄れていく青い空気の中で、彼女はただあの人を思って泣いていた。
−終−
98
:
柊
:2004/07/17(土) 01:15
・・・・・・以上です。
タイトルの「有明月」というのは、
夜明けの消えかかってる月のことです。
どなたか読んでくださったら、嬉しいです。
99
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/17(土) 02:31
>柊さん
素敵な物語をありがとうございます。
ナミのやるせない想いと悲しみ。サンジの温かさと愛。
流れるような文章から、切ない思いが伝わってきました。
ふたりの祈りが、幸福への導きになることを願って。
次回作も、期待しております。
100
:
柊
:2004/07/17(土) 02:52
>苺屋様
苺屋様に、そんな言葉をかけていただけるとは・・・
うれしすぎて、なんか・・・どうしよう・・・!
苺屋様のSSは、いつもすごく楽しみにしています。
この話は突然思いついて書いてしまいました。
初投下、とにかく緊張しました!!
101
:
774万ベリーの賞金首
:2004/07/17(土) 23:09
今週投下分だけですが感想を。
>ABCさま
復活お待ちしてました!!
切ない寂しさの中にいたカヤに無理やり、だけど優しく手を差し伸べたウソップと、
変わりばえのない生活から、彼が語る夢のような話にどんどん引き込まれていくカヤ。
そして涙を零したカヤを元気付けるためにウソップが話した物語の数々。
カヤじゃなくても引き込まれそうです。
これからどうなっていくんでしょうか?続きがとても楽しみです!!
>苺屋さま
意外なカップリングに驚かされましたが、思いがけずいい話で(すいません)さらに驚きました。
Mr.3は、狡猾で他人より自分という印象があったんですが、
心を許せる相手、ミスGWへかける何気ない言葉に含まれる温かさに
こういう3の人なら本誌でももっと好きになれてたかもしれないな、と思いました。
そしてミスGWの微妙な心境の変化に、読んでて心をくすぐられる感じがしました。
楽しく読ませていただきました。どうもありがとうございました!
>柊さま
初投下お疲れ様です!!
つらさ。痛み。切なさ。悲しみ。憤り。やりきれなさ……
ナミの経験してきた、過去への思いの込められた話に胸が痛くなりました。
そして深い悲しみの淵に立つナミを抱きしめ、しかし声に出さず、
側にいることを心から約束するサンジの熱く静かな愛に心を打たれました。
素敵な話をありがとうございます。次作もお待ちしてます!!
102
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/07/19(月) 11:35
>ABCさん
ウソカヤキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!
うっとりとするような、二人の物語、素敵でした。
恋に落ちるというのはこういうことなんだろうな、と思いました。
心に滑り込んでくる、まさしくそれですよね。乙でした!
>苺屋さん
乙でした! とても心が温かくなるお話でした。
GWは今頃どうしているんだろうかとか、そんなことも考えてしまいました。
3の人の紳士ぶりも、とても素敵でした!
>柊さん
初投下、お疲れ様でした!
ナミの辛い過去、そしてそれを包み込んで癒そうとするサンジ、とても素敵でした。
辛いことがあったナミだけど、サンジがいるからきっと幸せになれる、と思いました。
またの投下をお待ちしています!
103
:
柊
:2004/07/20(火) 07:14
あわわわ・・・
今読み返してみたら、自分相当緊張してたようで。
苺屋様へのレス、「はじめまして」も言ってないし。
大変失礼致しました。
>101さま
感想ありがとうございます。
ナミって、どんな夢見るんだろうとか考えてたら思いつきました。
第2弾、できたら書きたいです。
>見習Bさま
はじめまして。感想頂けるなんて嬉しいです。
職人様方を見習って、ちょっとずつ精進したいと思います。
ありがとうございました。
104
:
きゃべ </b><font color=#FF0000>(CSB/3Q32)</font><b>
:2004/07/27(火) 16:39
>苺屋様
Mr3×ミス・ゴールデンウィーク乙で御座いましたゞ
ものすごく和みました。
ええ。お仕事しなきゃ。なのですが…読んじゃったわぁ。
まさにGWカラートリップ和み!から抜け出せず…最後まで読んじゃいました。
Mr3素敵でした。アラバスタで水に浮いていたことを忘れたほど素敵でした!
ナイスなコンピに花束を∠※そして有難う御座いました。
>柊様
初投下お疲れ様でしたゞ
ナミの悲しさをサンジが包んでくれて、しっかりした愛!を感じました。
素敵なサンナミ有難う御座いました。
そして、したらばへはもちろん。本スレへの投下も楽しみにお待ちしております。
105
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:37
Mr.3×ミス・ゴールデンウィークに感想をくれた皆様ありがとうございました。
意外に受け入れられたようで、ほっと一安心です。
そしてまた微妙なものを一本投下します。
ゾロ×ロビン風味の、チョッパーとロビンがメインの話。
チョッパーは明るくていい子だけど、もし未だ葛藤があったら。
いささか暗い仕上がりです。
暗いチョッパー、並びに苺屋の文が、お嫌いな方はスルーでお願いいたします。
106
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:37
「仮想の国のコンダクター」
どこかの木で、蝉が苦しそうに鳴いている。
空気はじっとりと蒸して、喉に詰まりそうに濃い。
森を見上げれば黒々とした木々の梢に、黄色い月が霞んでいる。
夏島に降リ立ったチョッパーは、人気のない浜辺をひとりで歩いていた。
夏の暑さは彼にとって、決して慣れるものではない。
昼間は水風呂に入り、なんとか冷をとった。
ルフィたちについて行き、探検や買物に出かける元気はなく、船で過ごした。
まだ昼よりは涼しい夜に散歩しようと思いつき、ゆっくりとした足取りで歩く。
ひとりでは街中には行きづらいので、汗がじんわりと出てくるのを風に晒しながら歩いていた。
誰かと共にいれば獣型になり、ただ鼻が青い珍しいトナカイでいればいい。
しかし、人型でも、半獣型でも、獣型でも、口を開けば奇妙な生き物として扱われてしまう。
メリー号のクルーたちは、普通の人間と同じように接してくれている。
それでも、やはり彼を初めて見た者に、たやすく理解されるわけではないのだ。
二本の足で、半獣型で歩くチョッパーは、ふっと溜め息をついた。
他のクルーたちの前で、こんな顔は見せられない。
だからこそ、たまにひとりになりたい時があるのだ。
「帰ろう…」
時折訪れる悲しみを、忘れさせてくれる仲間たちのもとへ。今は、毎日が楽しいのだから。
ルフィを筆頭に、温かい彼の仲間たちは、彼自身にとっての救いだった。
107
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:38
船に向かって歩みを進めると、突然近くの茂みから何かが飛び出してきた。
「うわっ!」
チョッパーが驚きの声を上げると、相手も面食らったようで、動きを止める。
そこに居たのは年端の行かない子供たち。
島民であろう、数人の子供たちが、チョッパーを見つめていた。
チョッパーの心臓のリズムが、どくどくと激しくなってくる。
予期せず、知らない人間たちと出会ってしまったことが、彼をうろたえさせた。
「…なあ、今、このたぬき、喋んなかったか?」
その言葉に手が震える。気づかれていなければいいと、びくびくしながら次の言葉を待つ。
「たぬきが喋るわけないじゃん、気持ち悪い」
“キモチワルイ”
たぬきと間違われたことより、その言葉のほうが辛く感じた。
久しく感じていなかった、孤独と寂しさが、チョッパーの心に去来する。
「おかしいなあ…」
少年が、チョッパーに近づいていく。
頭の中が混乱して、どうすればいいかの判断をする余裕すら持てなかった。
「おかしくなんかっ…!」
もう少しだけ、心の準備ができていたなら、不用意にそんな言葉は吐かないはずだった。
「うわぁっ! 喋ったっ!」
「バッ…バケモノだ!」
後退る子供たちに、彼らが放つ言葉に、昔の記憶と痛さが蘇る。
「近寄るなっ!」
「死ねっ! バケモノッ!」
「殺せ! 殺せ!」
恐怖に満ちた表情の子供たちは、砂や石を、チョッパーに投げつけた。
心の痛みに喉が鳴りそうになり、チョッパーは息を詰めた。
罵声が怒号のように胸を駆け巡る。
きいんと頭の中が白熱して、気づくとチョッパーは駆け出していた。
すぅっと上がってきた塊が、喉をゆっくりと塞いでいくような気がした。
“死ね!” “死ね!” “殺せ!” “殺せ!” “殺せ!”
ヒルルクに出会うまでに投げかけられた言葉が、先ほどの少年たちの言葉と一緒に耳の中で木霊する。
108
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:39
隠れるように森の中を迷走する。
ヒルルクやくれは、メリー号のクルーたちが癒してくれた寂しさが急激に噴き上がった。
誰が何と言おうと自分は自分だと、思うようにしていたはずなのに。
こんなにも、まだ過去に縛られていたという事実に、チョッパーは冷静になることなどできなかった。
「おい、チョッパー!」
罵声ではなく、自らの名前を呼ばれたのだと気づいて、立ち止まる。
声のした方へ身体ごと向くと、ゾロがゆっくりとチョッパーへ歩みを進めているのが見えた。
「どうしたんだ、そんなに走って。何か、あったか?」
チョッパーと目が合うと、ゾロは平素なら鋭い目を細めて笑った。
胸元をとんと押されたような気がして、チョッパーは息を呑む。
ふいに泣きわめきたいような衝動が込みあげる。
ゾロが驚いたように眉を寄せて、チョッパーは自分が混乱した気持ちをそのまま顔に出したことに気づく。
ちくりと心臓が痛んだかと思うと、その痛みはどんどん大きくなった。
「…どうせ」
チョッパーはぐいと目を逸らした。
「俺はバケモノなんだ」
怒りや悲しみが、腹の中で暴れ狂っているようだ。
耐え切れず、チョッパーは喘いだ。
「何もしなくても嫌われる! 悪意に満ちた目で! 悪魔と俺を罵って!」
不思議なほど、声が詰まることなく、今まで溜めていた澱を吹き散らすように叫んだ。
「早く殺せって周りを急きたてるんだ! 早く死ねって俺を責めたてるんだ!」
身体が飛び跳ねるほどに、激しく鬱憤を吐き出した。
109
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:39
「…チョッパー」
名を呼ばれて顔を上げ、チョッパーはびくりと身を硬くした。
見れば、ゾロは、すさまじい感情をぎりぎりのところでせきとめているような、張りつめた無表情だ。
「…ごめん」
こんな顔をさせたいわけではない。
ゾロは酷い痛みを堪えるように目を細めると、チョッパーを抱き上げ頭を撫でた。
ゾロの肩口に顔を押しつける形になり、チョッパーは表情を歪める。
だが、そこから離れる気にはなれなかった。ゾロの心臓の音が聞こえる。
嗚咽が込みあげ、チョッパーは声を殺して泣いた。
ゾロはただ、チョッパーが泣くのに任せた。
次第に落ち着きを取り戻したチョッパーは、先ほどまでの自分の言動が照れくさくも、恥ずかしくもあった。
「もう…大丈夫。いきなり…バケモノって言われて、びっくりしただけなんだ」
目を擦り、へへへっ、と笑ってみせる。
ゾロはチョッパーを腕に抱きかかえたまま、頭をぽんぽんと優しく叩いた。
どうしたらチョッパーを慰められるのかがわからなかった。
「人は…寂しがりだから…自分と違うものを恐いと思うんだよ…だから…」
自らに言い聞かせるようなチョッパーの言葉に、ゾロは唇を噛んだ。
言いながらも、チョッパーの蹄は、ゾロの肩口に食い込んでいる。
チョッパーを抱き締める腕に力を込めた。
「…それでも、お前は俺たちの仲間だぞ」
「うん」
何の慰めにもならなくても、ゾロにはそれしか言えなかった。
「うわあっ…バケモノッ…!」
風に乗って聞こえた小さな叫びに、チョッパーの身体がぎくりと硬直した。
「…いや、声が遠すぎる。お前のことじゃない」
安心しろ、と笑うゾロに、少しだけ冷静になった。
「行ってみよう、ゾロ。何かあったのかもしれないし…」
「よし。なんだったら、お前、俺の後ろに隠れてていいぞ」
「…平気だっ」
揶揄したつもりではないが、そう聞こえたかもしれない。
悪い、と呟き、真剣なチョッパーを地面に降ろし、声のした方へふたりは駆け出した。
110
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:40
木々が繁る道をかき分けて進むと、視界が開けた場所に出る。
波の音が聞こえ、海に面した崖の上だとわかる。
離れた場所に、崖から身を乗り出して、海を覗き込む人影があった。
目を凝らせば、その黒髪がたなびく影が見覚えのある仲間のひとりであることに気がついた。
「バ…ケモ…」
「何でもいいから、捕まりなさい。死にたいの?」
右手を伸ばし、さらにその先から手を咲かせて、崖下へ伸ばしているようだった。
「…ロビン?」
チョッパーの呟きに、ロビンが驚いたように振り向いた。
ガラ、と岩が崩れる音。同時にロビンが胸の前で両手を交差させる。
ゾロとチョッパーが駆け寄り、見下ろせば、少年の身体が崖から咲いたロビンの手に支えられていた。
何本もの手が少年の身体を、崖の上へと運んでいく。
ふたりにはわかることではないが、考えるよりもはるかに精神力の要る作業だった。
ロビンは額に汗を浮かべて、なんとか少年を地面に横たえる。
目を瞑り、恐怖に震えていた少年がやっと口を開いた。
「…さっきの…たぬき」
チョッパーに目をやって、呟きながら、もつれそうな足と手で必死に後退る。
浜辺で、チョッパーを罵り、石を投げた子供のうちのひとりだった。
「…お前もっ! お前もバケモノじゃ…ないかっ!」
手に触れた大きめの石を、今度はロビンに向かって投げる。
ロビンは顔に向かってきたそれを、手で払った。鈍い音がして、左手の甲に血が滲む。
「っ、おい!」
ゾロが歩を進め、ぎろりと少年を睨み、怒鳴りつけた。
111
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:41
「ひいっ!」
慌てふためいて、まろびつつ走り去る少年の後を追おうと踏み出すゾロの腹巻きをロビンの手が引っぱった。
「剣士さん、待ちなさい」
「…お前、やられっぱなしでいいのか!」
「なんて声で怒鳴るのよ。あなた、追ってどうするの? あのコを斬るつもり?」
呆れた口調でさらに腹巻きを引き寄せる。
「構わないわ。大した怪我じゃないし。たまたま、あのコが落ちそうなのが見えたから、手を貸しただけよ」
「だが助けたのに、あの言い草は…」
「と、言われてもね…珍しかったのでしょう。いいのよ、慣れているから」
本人にそう言われては黙るしかなく、どうしていいかわからずに、ゾロはロビンから目を逸らした。
生きている時間がそもそも違う。それでも、そんな立場にどうしたって慣れるものだとは思えなかった。
「ロビン、早く手当てしよう…船まで戻らなきゃ」
震えた声のチョッパーに、ロビンが微笑み、妙な緊張感を漂わせながら並んで、帰路に着いた。
「ロビン、痛くない?」
「平気よ? かすり傷だもの…」
「…手じゃなくて、ここが」
小さな手で胸を押さえるチョッパーに、ロビンは少し眉根を寄せて微笑んだ。
「優しいのね、船医さんは。身体のものではない傷のことも考えてくれるお医者様に初めて会ったわ」
笑うロビンの顔に、チョッパーとゾロは何も言えず、また黙って歩くしかなかった。
112
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:41
メリー号に着くと、サンジがしっかと船縁に張りついて手を振った。
「ロビンちゃん、お帰りなさい! 夕飯の支度できてますよ!」
梯子を下ろして、ロビンが甲板に降りるのを手を取り助けたサンジは、傷を見て騒ぎ始めた。
肩を震わせて、チョパーとゾロに向き合う。
「ああ! 何でロビンちゃんの美しい御手に傷が! お前ら、一緒にいながらロビンちゃんに怪我させたのか?」
「なんだと?」
睨み合うゾロとサンジの間に、チョッパーが入って怒鳴った。
「ごめん! 俺のせいだから!」
俯きながら叫んだ。その声に、船内に居たルフィやウソップ、ナミも出てくる。
「…行こう、ロビン。手当てしなきゃ」
男部屋に降りていくチョッパーの後に着いていくロビンは、ゾロに不安げな視線を飛ばした。
頷いて返すと、小さく笑ってロビンも男部屋へ降りていった。
「ゾロ、何があったんだよ?」
「…島の子供にバケモノだと言われて、石を投げられたんだ」
聞いてきたウソップに苦々しく答えると、サンジが自らの言を恥じるように、目を伏せた。
「ロビンが?」
ナミが心配そうに、男部屋の入り口に視線をはせる。
「チョッパーもだ…そっちは居合わせてねえから、詳しいことはわからねえが…」
113
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:42
チョッパーの吐露した言葉と、ロビンが怪我した経緯を、かいつまんで話すと、皆、押し黙った。
「俺は…何言っていいかわからなかったよ」
ゾロが頭をかきながら言うと、ぱたんと音がして、男部屋からチョッパーとロビンが出てきた。
甲板の微妙な空気に、そろそろと訊ねる。
「…どうしたんだ?」
突然、今まで黙っていたルフィが、チョッパーを右腕で抱き上げ、ロビンに左腕で抱きついた。
力強くふたりの顔を自分にぐっと引き寄せる。サンジが怒って叫ぶ。
「何してんだ! この、クソゴム!」
「おう! 俺はゴム人間だ! バケモノだ!」
チョッパーの鼓動がどきん、と跳ね上がった。だが、やがてそれは、穏やかで安らかな鼓動に静まっていく。
「それでもって、この船の船長で、お前らの仲間だ! 文句あるかよ!」
唐突な言葉に乗せられた気持ちに、嬉しいくすぐったさを感じてしまう。
「…ふふ、あははは」
たまらず、ロビンが笑い出したのを切欠に、チョッパーも歯を剥き出して笑った。
「俺とルフィと、ロビンと、仲間かぁ…」
悩んでいたところで、明るくあっけらかんと言われ、こだわっていた自分がおかしかったのかと思う。
「そうだぜ、チョッパー。ドラムでも言っただろ? それにバケモノはルフィだけじゃねえ」
ロビンに身を寄せたチョッパーの、頭の上あたりで笑いを含んだサンジの声がした。
「ゾロを見ろ。見事なまでのマリモのバケモノだ」
「そう言うお前は眉毛のバケモノだろうが」
反論はせず、互いをバケモノと言い合うふたりに、チョッパーはますます笑い出す。
胸倉を掴んで睨み合うふたりから顔を巡らせば、ナミと目が合った。
「ナミは違うよな…」
小さく呟くと、ウソップが肩を掴んで首を振った。
「俺が教えてやろう。金に執着のあるカネゴンというバケモノがいてな。ナミはその一族の…ぐえっ」
すべてを言い終わる前に、ウソップは鼻を掴まれ、ナミの凄みのある顔に睨まれながら冷や汗をかく。
「長っ鼻のバケモノが、何を言ってるのかしらぁ?」
チョッパーの隣では、ロビンが笑いを噛み殺している。
114
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:43
「ししししっ! 何だよ、皆バケモノじゃねえか。なあチョッパー! 俺ら皆、仲間で家族だぜ!」
「家族…?」
惜しみない笑顔で、船長は高らかに伝える。
「ああ! 俺達は家族さ! 同じ船で、一緒に暮らしてんだからよ!」
「…そうかぁ…家族なんて、ドクターとドクトリーヌにしか言われたことないや…」
くすくす笑いながら、ナミがチョッパーに近づいた。
「…息子って呼んでくれてたものね…いいんじゃない? ドラムにも、この船にも、あんたの家族は居るのよ」
「そうそう、なんだったら寝るしか芸のない腹巻男を親父だと思えばいいさ」
少し離れた場所から、サンジがゾロを嫌みったらしく指さしながら声を飛ばした。
「何で俺だよ?」
「親父くせえから、ちょうどいいだろ」
「まあ、親父でも何でもいいけどよ。バケモノ家族も悪くないよな?」
また掴み合うふたりを尻目に、ウソップが話を戻す。
「う、うん! でも…皆、優しいし、バケモノなんて言うのは…」
「だったら、あなたも同じことでしょ?」
「え?」
きょとんとするチョッパーに笑いながら、ロビンは優しい声で語りかける。
「あなたはとても立派な船医さんよ、バケモノなんて禍々しい響きは似合わないわ。
それをわからない他の人がどう言おうと、あなたは私たちの家族で、私たちの大切な人なの」
115
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:44
船内で、自分が役に立てているかがわからなかった。
だから褒められたのが嬉しく、その言葉が誇りに思えた。
「…ロビンはお母さんみたいだ…あったかい」
「あらあら…」
そんな歳ではないけれど、というロビンの表情と口調は驚くほど優しかった。
「よかったじゃない、チョッパー。お父さんも、お母さんもいて」
「ああ! ナミさん、そんな言い方をしては! まるで…まるで、ロビンちゃんとマリモが…!」
「夫婦みたいだな」
「皆まで言うなあ! この、長っ鼻ぁ!」
ぽかんと口を開けたゾロは、ロビンと目が合うと照れたように頭を、がりがりとかいた。
「一丁前に照れるな! チョッパー、ゾロより俺がパパに相応しいぞ!」
「お前が言い出したんだろうが!」
「なあ! 早く、飯食おうぜ! 腹減ったよ、俺」
お腹をさすりながら、ルフィがラウンジへとチョッパーを促す。
「うん、飲んで嫌なことなんて忘れましょ!」
ナミが右手で酒を飲む仕種をして、ルフィの後へ続く。
「…外が涼しいから、今日は甲板で食べたい」
「そうするか! おい、サンジ、ゾロ! 飯にしようぜ、食事運ぶの手伝えよ」
まだ掴み合いの喧嘩をしているふたりに、ウソップが声をかける。
いつもの光景なので、他のクルーは気にせず、食事の準備にとりかかる。
116
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:45
そして、始まる楽しい夕餉の時間。
バケモノ家族記念日だ、と叫ぶ船長の鶴の一声で、その場は宴会へと変わる。
そうだ、初めてこの船に乗った時も、こんな宴会だったと、チョッパーは思い出した。
ここでは皆が自分を迎えてくれて、いつでも帰りを待ってくれている。
「…ドクター、ドクトリーヌ…俺、大事なもの…宝石より輝いてるもの、手に入れた…」
早く帰りたいと思える場所があることが、当たり前になりすぎて、忘れそうになっていた。
「…もう忘れない…」
はしゃぎ疲れたチョッパーの呟く独り言がだんだんと小声になっていき、眠りへと落ちていった。
甲板に寝そべる姿に気づき、ロビンが歩み寄った。目を細めて、優しく見つめる。
起こさないように、そうっと抱き上げる。
「うーん…」
むにゃむにゃと何やら口にするチョッパーに笑みを零して、しばらくそのままの状態でいた。
酒をあおりながら、その姿を見ていたゾロがロビンに近寄って話しかける。
117
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:45
「どうかしたか?」
「いえ…とても可愛い寝顔だと思って。バケモノなんて言葉、船医さんには似合わないわ」
ロビンの肩越しに、チョッパーの寝顔を覗き込み、ゾロも薄く笑った。
「泣きたい時は、泣いていいと思うわ。例え本物ではなくとも、受け止めてくれる家族がいるのなら」
どこがどうとはわからないが、微笑むロビンの顔が優しいものから寂しそうなものに変わって見えた。
「お前には、いないとでも言うのか?」
僅かに苛立ったような声で、ゾロが呟いた。
「剣士さん?」
「…もし、お前が泣きたくなったら、いつでも受け止めてやる…」
照れくさそうに言うと、ロビンの伏せられていた澄んだ黒い瞳が、大きく瞬いた。
「ありがとう…こんなふうに抱きしめてくれるのね、お父さん?」
「ばっ…!」
大声を出しそうになって、慌てて口をつぐむ。
くすくすと笑うロビンの頭を引き寄せて、真っ直ぐな黒髪を梳く。
「偽者の旦那でよければ、胸くらいは貸してやれる…」
撫でられる髪から伝わる優しさに、遥か昔に忘れた温もりを思い出す。
「寂しくなったら、その胸に案内してね」
「ああ、いつでも」
平和に生きているわけではないから、このひと時もいつかは終わりを告げるかもしれない。
それでも、例え夢物語でも、思う気持ちが本物なら。
黒い闇の上空を、足のはやい雲が流れていく。
チョッパーを抱えるロビンの手と、ロビンを抱き寄せるゾロの手に、力が込められた。
しばらくそのままで、彼らはそこにそうしていた。
━終━
118
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/07/30(金) 23:46
以上です。
ワンピの世界にカネゴンがいるかどうかは定かではないです。
海賊という商売は、安穏とした暮らしを望めないだろうと考えたら、このようなラストになりました。
チョッパーは、既にこの不安を乗り越えているとも思いますが。
うん、でもロビンは今後どうなっていくんでしょう。
ロビン以外にもいろいろ最近の本誌の展開は心臓に悪いです。
読んでくださった方、ありがとうございました。
119
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/07/31(土) 00:12
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
ごめん。言葉は要らないよね。
単刀直入に。
「ご馳走様でした。とてもおいしかったです。」
ぼきゃぶらりぃなんて無いよ?伝えきれないので簡潔に。
すごくいい。苺屋様のSSはいつでも綺麗にまとまっていて。
読み出したら止まらないのはなぜかしら。
ちょっぱーの心の痛みとか。ロビンの言わないけれどきっと抱えてる痛みとか。
想像してしまいました。それを包み込むゾロに激しくどきどきw
じさくも激しく期待しています。あー・・・言葉が足りない・・・
120
:
柊
:2004/07/31(土) 00:40
投下お疲れ様です。
今読ませていただきました。
苺屋様の文章は、いつも最後の部分が目に浮かぶようで
ただただ感心して読んでいます。
素敵なお話をありがとうございました。
121
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/07/31(土) 19:39
苺屋さん
投下乙でした! 親子3人、素敵です!!
癒される存在、癒される場所。
居場所があるって素敵なことだと思いました。
宝石よりも輝いている存在は、なによりもかけがえの無いもの。
この3人の光景が目に浮かんできました。
苺屋さんのゾロはホント、かっこいいです……
122
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/08/12(木) 23:08
ウソップとカヤです。
中途半端です。雑談821さま。
これでいいかな・・・
123
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/08/12(木) 23:08
状況はどうだ?
自問自答する。
あいつらとの決別を宣言した俺は。
一人取った宿で。ベッドに横になりながら。
そんなことを繰り返していた。
俺の様子を見に来てくれたチョッパーを追い返して。
どうしてこうなっちまったんだろう。
今でも思い出せる。
あいつがこともなげに。当然のことのように言った言葉を。
「俺たちもう仲間だろ?」
・・・うれしかった。一緒に旅に出たことに後悔はない。
きっと。間違っていない。あいつらの船に飛び乗ったあの日の俺は。
あいつらとの旅はそりゃ退屈しなかった。
退屈なんてできないくらい、スリリングで。
命がけで。でも・・・楽しかった。生きてる実感があった。
たくさんのとんでもねぇ化け物たちと出会って。そいつらを倒して。
すこしづつ海賊としての名を上げて。
俺が夢見た海の男にどんどん近づいている気がしてた。
俺があの子に語った嘘を。本当に体験してた。
124
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/08/12(木) 23:09
・・・書きかけのあの子への手紙を破り捨てようとしたけど・・・
霞んだ目のせいかな?破りそこなっちまった。
俺はこの後どうするつもりなんだろう・・・
俺の夢に向かってたポースは・・・いま動いていない。
あいつらを失った旅の中で・・・俺は何を求めるんだろう・・・
125
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/08/12(木) 23:10
状況はどうですか?
そばにいないあなたに。たずねるように空を見上げます。
私の気持ちは。今もきっとこの海を笑いながら旅しているあなたに。届いてくれるしょうか?
あなたと私の間にある海を。私の思いは泳ぎきれるでしょうか?
私は。あの日のあなたのぬくもりが。体が覚えていたあなたの気持ちが。
この間から少しづつ薄れてきているのを感じています。
あなたは今どんな思いでいますか?
私を置いて旅に出たときの気持ちを。今も持っていますか?
どんな夜をすごしたら。あなたはあのときの気持ちを思いだせますか?
126
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/08/12(木) 23:11
遠ざかるあなたの背中に。できうる限り力強く。
手を振って。さよならと。叫んだ私を。あなたは覚えていますか?
あのときの笑顔は・・・作るの大変だったんだから。
私は。あなたが帰ってきた時に。胸を張って会えるようにがんばっています。
・・・あなたはどうですか?
あの麦わらの少年と。きっと楽しく旅を続けているんでしょうね。
あなたが選んだその夢が。正しいことを祈って。
そして私の思いが届くことを祈って。
今日も星空を見上げています。
127
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/08/12(木) 23:12
sageてないし・・・
これで終わりです。
どうなるんだろうね!本誌!
かなりドキドキしています!
・・・ごめんね?
128
:
774万ベリーの賞金首
:2004/08/13(金) 00:09
>ABC様
わー!bumpだ!ロストマンだ!
今、聞いてましたよ(´ー`)
雑談821=281ですか…?
129
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/08/13(金) 00:44
///
細かいこと気にしちゃイヤンw>128
はいご指摘のとおりです。
あうぅ・・・
感想ありがとうw
130
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/08/13(金) 03:20
>ABCさん
ウソップ・゚・(ノД`)・゚・
本誌の状況と相まって、泣けました。
>あなたが選んだその夢が。正しいことを祈って。
どんな結末を選んでも、歩き続けてほしいです、彼には。
素敵な物語をありがとうございました。
>ABCさん、柊さん、Bさん
感想ありがとうございます。
ワンピの登場人物は、皆辛い過去を持っているから、
深く書こうと思っても、書ききれないんですが、そこが表現できたらと思います。
131
:
雑談281=128=柊
:2004/08/13(金) 17:36
でした…。
名無しで雑談してごめんなさい。
今までbump好きなこと黙っててごめんなさい。
実は1枚目のアルバムから聞き続けててごめんなさい。
>ABC様
>あいつらを失った旅の中で・・・俺は何を求めるんだろう・・・
ウソップー!どうなるんだろう…。悲しいけど、いいお話でした。
ありがとうございました。
132
:
B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/08/17(火) 17:00
ABCさん
ウソップ話、切なくて…泣きました(つД`)
やるせないウソップの心境を思うと……。
素敵なSS、お疲れ様でした!
そしてこれから、どうなっちまうんでしょう。激しく気になります。
133
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/08/18(水) 20:01
えー、Mr.1×ミス・ダブルフィンガーを投下させてください。
…というか、ダズ・ボーネス×ポーラというべきか。
***************
「告白」
毎週水曜日は、スパイダース・カフェの定休日。
本当ならば今日も水曜だから、お店は休みなのだけれども。
一寸した事情で開けている。
店を開ければ不思議と誰かは来るもの。
Mr.2が任務の帰りに立ち寄ってくれた。
この店の数多い常連客の中でも、一番にぎやかで面白い人。
「今度の任務はどうだったの? Mr.2?」
「それがねぇ〜〜ん、もぉ聞いてよポーラッ!! ゼロちゃんたらこのあちしに、
パシリよっ、パ・シ・リ! チョー心外だわッ!!」
Mr.2はカウンターを叩きながら、好物のタコパを口いっぱいに頬張って、
張り切って出かけたのに大した任務でなかったことの愚痴を零す。
「まっ、小さな仕事の積み重ねが大事だって思うことにするわん……それにしてもポーラ、
今日は定休日なのにな〜〜〜〜んだってお店開けてるわけぇー?」
「えっ……? ああ、ちょっと……特に用も無いから、開けていれば誰か来るかしらと思って……」
134
:
774万ベリーの賞金首
:2004/08/18(水) 20:02
「そーお、働きすぎは身体に毒よぉん、休みの日にはゆっくり休養しないとねん?」
「そうね、……今度からそうするわ」
「その上辛気臭い曲なんか掛けてぇ〜〜ん、駄目よぉ、ポーラ!」
……辛気臭い?
今日のBGMは、あの人の好きな、古いブルース。
明るく楽しいことが大好きなMr.2には、この憂歌は辛気臭く聞こえるのかもしれない。
あの人の好きなお茶も、いつでも出せるようにちゃんとセッティング済み。
リトグラフも、あの人が一番気に入ってたものに替えて……。
今日の全ては、十日前のあの人への返事。
明確な言葉は無かったけれど、あれは立派な告白だった。
"……ポーラ"
柄にも無く改まって、俯いて……閉店後の店の前だった。
"大切な、話があるんだ"
"……Mr.1? ……どうしたの?"
"Mr.ではなく、ダズ・ボーネスとして……だ。ポーラ"
"……えっ?"
彼がこんな風に改まることなんて今まで無かった。
その上、仕事上のパートナーとしてのMr.1としてでなく、ダズ・ボーネスとしてだなんて。
135
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/08/18(水) 20:03
"……十日後の定休日、店を開けて、待っていてくれ"
彼はただ、それだけ告げて去っていった。
……大事な話の見当くらいは付いた。
女の勘? ……いいえ、違うわ。
私も、同じ気持ちだったんだもの。
張り詰めた糸の、両側を二人でずっとずっと、引っ張り合っていたんだもの。
長い間……ずっと。
分かるわ……だって私は、待っていたんだもの。
あの人が去った後、店の前にぼんやりと立っていた私。
トクン、トクンと、心臓が早くなるのが分かった。
少女のように頬が赤くなった。胸が熱くなった。
「ボーネス…」
口にしたその名。声は、震えていた。
だから今日はこんな風に、あの人好みに店の中をしつらえて、あの人を待っているの。
Mr.2の帰った後、食器を片付けていると、不意に店の扉が開いた。
「……あら、来たようね……」
136
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/08/18(水) 20:03
「ポーラ……」
「自分で言い出した割には、来るのが遅いんじゃない?」
「悪い、ポーラ」
照れたような彼の両手には、溢れんばかりのバラの花。トゲのある、美しく赤い花。
この砂漠の近辺で、これだけのバラの花を手に入れるのは、さぞや骨の折れたことだろう。
「これを探していて、遅くなった」
彼はそれをカウンターに置いた。
「綺麗なバラね……」
「この辺りの街の花屋のバラをみんな買い占めた」
……こんな強面の賞金稼ぎが、花屋でバラの花を求めて歩き回ったなんて。
何て似合わないのかしら。……おかしくて、でも、心から嬉しくて……。
「お前のような花だと思ってな」
赤い、トゲのあるバラ。そうね、確かに私の花。
「ありがとう、ダズ・ボーネス……」
カウンター越しに背伸びをして、………彼の頬に、キスをした。
「ポッ、ポーラ!」
彼は驚いて真っ赤になって、思わず飛びのいた。
「……あなたの話の見当くらいは付いてるわ、ボーネス」
「ポーラ……」
「だって私も同じ気持ちだったんだもの……」
そして私たちの遅咲きの恋は始まった。
砂漠の果てにある、小さなカフェの女主人と、常連客の賞金稼ぎの恋。
******************
137
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/08/18(水) 20:04
以上ですノシ
途中で名無しになってる_| ̄|○
またかけたら持ち込みますーノシ
138
:
ABC </b><font color=#FF0000>(N/jOXPek)</font><b>
:2004/08/18(水) 22:44
・・・
いいやもう。なんでも。
言葉にできないですね。はい。
うん。ありがとうございました。おいしくいただきました。
・・・大人の女性の少女な一面は大好きです。
精一杯です。あー・・・よく眠れそうだ・・・
139
:
たまき
:2004/08/21(土) 23:11
ごちそうさまです。
幸せな気持ちになりました。
こういう幸せ物、私にはまだまだかけそうにありません。
でもこんな素敵なSSの後に投下します(がぼーん)
初投下は勇気が必要なのだ(どーん)
というわけで以下よろしくお願い致します。
ルフィ話?です。
140
:
たまき
:2004/08/21(土) 23:12
あるところにとてもかわいらしいお嬢様が住んでいました。
真っ黒な髪、キラキラした大きな目。そして、カモシカのような脚。
まっすぐ伸びた手。
でも、そのお嬢様はこれ以上なく我侭でした。その上、人の気持ちと
いうものがあまりわかりませんでした。何でも、お金で済ませればい
いと思っていました。
お嬢様は愛情を知りませんでした。ご両親はいつも仕事といって彼女のこ
とは全てSPに任せっぱなしでした。投資に夢中だったからです。
お嬢様のお屋敷には常に20人以上のSPがいました。
そのSPはとても強い人たちでした。
でも、それよりもお嬢様を誘拐しようと輩がたくさんいました。
海賊や山賊も襲ってきたこともあります。
そして、彼女を守って亡くなった人も沢山いました。
彼女はそれもあまり気にもとめずに遺族に惜しみなく金品を与えていました。
怖くて辞めた人も当然沢山おりました。
屈強な彼らの中にお嬢様に特別な感情を持った者が6人いました。
その6人は勇敢に戦うことによってお嬢様への愛情を表現していました。
我侭で人使いの荒いお嬢様でしたが、見かけではない不思議な魅力がお嬢様
には生まれながらにして備わっていたのです。
141
:
たまき
:2004/08/21(土) 23:13
彼らは誰もお嬢様や他のSPに思いを打ち明けることは決してしませんでした。
そんな、恐れ多いことは出来ないと考えていたからです。
そんな思いが手伝ったのか彼らは特に屈強でした。
闘い方は違えども事が起こるたびに先陣を切ってお嬢様を守っていました。
お嬢様は彼らに莫大な報奨金を与えようとしましたが彼らは決して受け取ろうと
しませんでした。お金で全てが解決できると思っていたお嬢様には、ねぎらい
の言葉一つかけてあげることはできませんでした。
彼らはお嬢様の笑顔が見られるだけで幸せだったのです。
そんな彼らの気持ちはお嬢様には理解できませんでした。
お金をもらわないで何でそんなに、命を張って守ってもらえるのか全く
解りません。いつのまにかそれが当たり前の行為となっていくのに時間は
かかりませんでした。
そして、そんな幸せな日々はあっという間に過ぎ去って行きました。
お嬢様の両親の投資がどんどん功を成していき、「鉱山王」といわれるように
なりました。そして、その財産を狙う輩が凶悪化していきました。
凶弾に倒れるSPが増えていきました。かの6人も例外ではありません。
一人、また一人と減っていきました。
さすがにお嬢様はこれには少しだけ堪えたみたいで寂しいと思うときが
増えていきました。そして、6人の中の最後のSPが散っていきました。
142
:
たまき
:2004/08/21(土) 23:14
その後、ご両親の投資が失敗し、お嬢様は屋敷や金品を手放し
ました。悪いことは続いておきるもので、お嬢様は不治の病に冒され
てしまいました。命の灯火が消えようとするときにお嬢様は考えました。
一体何人が私の為に亡くなって行ったのでしょう。特になんで、あの6人は
私のためだけに命を落としていったのでしょう。それなのに、私は彼ら
の為に何もしてあげることが出来なかった。優しい言葉をかけることも
出来なかった。これから私もみんなの所に逝くのでしょうけれど、恩返しが
したい。ああ、神様。次に私が生まれてくることが出来るのならば人を助け
る人生を送らせてください。
お嬢様の目から涙が溢れていました。初めて涙というものを流しました。
皮肉なことに、こうなってから初めて彼女は、優しさという感情を知りました。
そして、狂ったように何度も何度もそれを繰り返し念じました。今更ながら自
分の生き方を深く反省し後悔しました。生まれて初めて孤独を感じ
ました。そして、お嬢様の命の灯火は消えていきました。
傍らには医者しかいませんでした。不思議と死に顔は安らかでした。
数十年後。真っ黒な髪、キラキラした大きな目をもった男の子が誕生しました。
そんなに裕福ではないけれど、成長していくにつれて不思議な魅力を身につけ
ていきました。そして、彼はとても優しい子でした。
その子は後に「麦わら」とよばれ、6人の「仲間」という宝物を手に入れ、
沢山の人を幸せにしていきました。
おしまい。
143
:
たまき
:2004/08/21(土) 23:17
以上です。
完成したのは初めての作品です。
(途中が大量にありますが)
皆様とはレベルが遠いのは自覚しておりますが、
精進の場として、使わせていただきたいと思います。
144
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/08/23(月) 21:27
ABCさん、たまきさん、感想ありがとうございました。
甘いお話で、初書きカプ…緊張するw
BWその後とか、考えると色々と沸いてきます。この二人には
幸せになって欲しいなと願いつつ……。
>たまきさん
初投下お疲れ様でした。前世話で、ルフィが今と逆の性格というお話、最後まで
読んで、「なるほど」と唸りました。
前世での後悔の分を、現世で……GJです!
またの投下をお待ちしています!
145
:
きゃべ </b><font color=#FF0000>(CSB/3Q32)</font><b>
:2004/08/31(火) 17:45
>たまきさん
初投下お疲れ様でしたゞ
おとぎ話のようなスタイルで興味深く拝見させていただきました。
途中の作品も大量にあるんですね!
楽しみにお待ちしております。
そして、Bさまチャットでお会いしましたら、よろしくおながいしますです。
ここにいらっしゃるみなさんも、Bさまチャットで
「あなたの知らない世界」を体験しましょうよ!
ね、Bさん!(・∀・)!
146
:
きょん
:2004/09/01(水) 01:12
はじめまして
なんだか書いてみたくなって書いてみました。
皆様の素晴らしいものの後で緊張してます。
サンナミ ナミ視点での話を行ってみますね!
147
:
きょん
:2004/09/01(水) 01:13
男なんてただの道具だった。
今までの私にとっては。
使っていらなくなったら捨てておしまい、
そんなただの「物」だった。
だから彼の事も最初は利用するだけ利用して
捨ててしまおうと思っていた。
いや、捨てるはずだった。
今まで生きてきた私にとって必要だったのは
少しの勇気と少しの素直さだった。
だから誰にも私の本当の心をすべて見せた事は無い。
すべてを見せると私は強く生きていけないと思ったから。
148
:
きょん
:2004/09/01(水) 01:13
いつからだろう、彼の姿を自然に目が追っている自分に気が付いたのは。
「ナミさん、寝る前にコーヒーいかが?」
私の思考をふさぎるように声がする。
「ありがとう」そっけなく答えたつもりでも声が震えているのが
自分にはわかる。
意識してはいけない、と思うたびに心が意識してしまう。
こんな気持ちは生まれて初めてだ。
みんなでいても、いつも彼を探して見つめてしまう。
こんな気持ち私は知らない。
このところキッチンで毎晩のように航海日誌をつけるようになって
自然と二人きりの時間が増えた。
航海日誌をつけている私の手が震えてうまく字がかけない。
「はい、ナミさんどうぞ。航海日誌も毎日書かなくちゃならないから
大変だね〜、ま、オレに出来る事っつったらこんなことだけどもさ」
コーヒーのいい香りが彼のタバコの匂いとまじって私を包み込む。
「今日一番の自信作です、どうぞ召し上がれ」
目の前にはコーヒーと一緒に美味しそうなオレンジ色のケーキがおいてあった。
「美味しそう」
思わず口から出た言葉に彼はとても嬉しそうな顔をした
「早く食べてみてよ。ゼッテーうまいからさ。」
笑顔で私にケーキを勧めてくれる彼を見てなぜかとんでもない事を言ってしまった。
「いらないわ、こんなもの」
とたんに彼の笑顔が曇ってきた。
「私、一人で日誌書きたいのにサンジ君、邪魔よ。
もう仕事終わったんなら出てってよ!」
心とは裏腹の言葉
だって私にとって男は便利な道具。
道具に対して特別な気持ちをもつなんてそんな事は絶対にない。
絶対にしちゃいけない。
149
:
きょん
:2004/09/01(水) 01:16
でも、私は気づいてしまった。
ここ何日かで、私の本当の気持ちに。
それは、夜、二人きりで日誌を書く時間をとても楽しみにしている自分がいると言う事。
彼の事をとても好きな自分がいると言う事。
「・・・そっか、迷惑だったんならゴメンよ。
じゃ、オレ部屋に戻るから」
チョッと悲しそうな顔をして彼が背を向けた。
「でもよ、オレはナミさんが大好きだから」
テーブルの上を片付けながら彼が言う。
私も、私も、
私もあなたが好き 今ならわかる、私のこの思い。
いっそ口に出していえたら・・・
「ど、どうしたの!ナミさん、何で泣いてるの?」
「!?泣いてる?」
頬に冷たい物が流れてる、涙だ。
不安定な私の心の海はついにあふれてしまった。
彼に言われるまで泣いているのもきが付かなかった。
スッと目の前の視界が遮られた
タバコの匂いがいつもより強烈に鼻につく。
彼の手が私の手を握り胸元に引き寄せた。
そして彼の顔が一気に私に近寄り、唇が私の唇に重なる。
「ちょ、ちょっと!何するのよ。離し・・・」
両方の腕で力いっぱいに彼の胸を押して見たものの
また彼に抱きしめられてしまった。
「離してよ」
「イヤだ」
「やめてよ」
「イヤだ」
「サンジ君なんてキライよ」
どうしても私の口は心とは別のことを言ってしまう。
本当は違う事をいいたいのにどうしてもいえない。
言ってしまうと今までの私がいなくなってしまう。
「でも、オレは好きだよナミさんのこと」
やさしい言葉のシャワーが私の頭の上から降ってくる。
「ナミさんもオレの事が好きだから泣くんだよ」
「オレにはわかるんだよ」
「だってナミさんのことが大好きだから」
この人なら私は素直になっていいのだろうか?
今まで生きてきた昔を捨てて、この人と新しい幸せを見つけていいの?
必要なのは少しの勇気と少しの素直さ。
彼のシャツが私の涙でぐっしょりと濡れてしまった。
「ナミさん?」
彼のやさしい声に顔を上げた
「いいんだよ、無理しなくて」
そう、あとは少しだけ勇気をだして私が言えば言いだけだ。
その中に私のこれからの未来が待っているから。
「サンジ君、あのね・・・・・・」
150
:
きょん
:2004/09/01(水) 01:17
は〜
読むのと書くのじゃあ大違いですね。
でもこれからも頑張って書いていきますので
どうか読んでくださいね。
151
:
ABC
:2004/09/01(水) 11:02
お疲れさまです。
何だろう。素敵です。
あのね・・・のあとの言葉を勝手に妄想しています。素敵。
初投稿とは思えない出来栄えに微ジェラしつつ。
次作も期待しています。お疲れ様でした!
152
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/09/01(水) 21:11
>きょんさん
投下、お疲れ様でした。
素直になれないナミさんと、それも含めて受け止めてあげようとするサンジ。
これからのふたりの幸せを暗示するラスト。
じん、としました。
次作も期待しております。頑張ってください。
153
:
たまき
:2004/09/01(水) 22:51
>きょんさん
お疲れ様でした。かっこいいサンジ、そして、変わっていこうとするナミの
可愛らしさ。今日はゆっくり寝られそうです。ご馳走様でした。またの御投下
お待ちしております。
154
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/09/02(木) 17:12
>きょんさん
初投下、お疲れ様でした!
あのね…の後の二人を想像して、ドキドキしています。
ナミさんが幸せになれるといいなぁと願いつつ。
良かったです! 次もお待ちしています!
155
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/09/27(月) 18:43
お久しぶりですノシ
というわけで、SS投下させてください。
エース→マキノです。
******************
「17歳のBLUES」
生まれて初めて飲んだ酒は、別れの杯だった。
そしてそのとき、生まれて初めて嘘をついた。
「エースの未来に、乾杯」
「……乾杯」
カウンター越しに、古いグラスがカチンと音を立てた。
棚の奥から出してきた年代モノの酒を、マキノはカウンターの向こうで一気に煽った。
いつもは酒を振舞うだけで、勧められても一口も飲まない癖に。
「…ホラ、エースも飲みなさい」
「……あ、うん」
「あなたのお祝いなんだから、今日は」
「……そう、だよな、うん」
「海賊になるんだもの、お酒くらい飲めないとね」
言われて、グラスに口をつける。
生まれて初めて飲んだ酒は、沸かしてもないのに喉が焼けるほど熱かった。
「……すっげえ味…」
「美味しいでしょ? うちの店の取って置きよ。一杯何千ベリーもするんだから」
「そんなにすんのか?……よくわかんねえ……」
「そのうち分かるわよ」
156
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/09/27(月) 18:43
ほんのり頬を赤くして、マキノは二杯目を自分で注いでいる。
……俺は明日、この島を出る。
生まれて初めてのウソをついて。
「……なあ、マキノ」
「なぁに?」
「ルフィのこと、頼むな。迷惑掛けるけど」
「迷惑だなんて、思ったことはないわ……私にとっては、ルフィもエースも弟みたいなものだもの
身寄りのない俺とルフィにとって、マキノは母でもあり姉でもあった。
「それよりもエース」
「ん?」
「明日には島を出るのよ、心残りはない?」
「………」
そう、明日の朝には島を出る。
自分で半年かかって作った手漕ぎ船で、海賊になるために俺は海に出る。
今度いつ、この島に帰ってこられるかなんて分からない。
ジジイになるまでこの島の土を踏むことはないかもしれない。
いや、もしかしたら、一生………。
「……心残りは、あってはだめよ」
小さな子供に言い聞かせるように、マキノは言った。
マキノは今までこの店で、たくさんの船乗りや旅人を見送ってきた。
157
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/09/27(月) 18:44
わけあって故郷を離れた者、旅路で一生を終えることを決意している者……色んな人間が来た。
その誰もが口をそろえて言ったこと。
『心残りはよくないことだ』と。
旅に出る前に、船に乗る前に、故郷を離れる前に。
やり残したこと、言い残したこと。
残したことはいつまでもいつまでも、心に付きまとい、離れず、それは自分を苦しめるのだと。
『好きな子には、好きだと言ってから航海に出るんだよ、坊主』
寄港した商船の年老いた船乗りは、そういって固目を瞑った。
『航海から戻ったときにその子が他の男と幸せになっていても、ダメージは少しで済むからね』
言われた時、俺は12だった。
その時、心に浮かんだのはマキノのこと。
母でも姉でもない、第三のマキノを俺の中に認めたのは、その時だった。
「……ん、無いよ、なんにも」
目を、逸らして言った。
「ルフィのことは心残りって言うより心配の範疇だしな……俺自身のことは、何もないよ。マキノ。
やり残したことも、誰かに言い残したことも無いよ」
「そう、ならいいの……」
笑ったマキノの顔。この島の女の誰よりも綺麗だ。
もう、この笑顔は見られないかもしれない。
「エースには、素敵な航海をして欲しいから」
いつも優しく、でも時々しかられたこの声も、もう……。
158
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/09/27(月) 18:45
生まれて初めてついたウソ。
それを隠すように、焼けるような酒を一気に煽った。
散々飲み食いして、日付が変わる前に家に戻った。
ルフィは早々と鼾かいて寝てた。
俺の部屋は明日の出発を控え、少しの手荷物以外は何もなく片付いていた。
……初めて飲んだ酒のせいで、頭がちょっとぼーっとしてる。
ベッドに大の字になり、薄汚れた天井を見上げ、マキノの顔を思い浮かべる。
「……心残りなんて、一杯あるよ……」
搾り出すように呟いた。
「だって俺、まだマキノに好きだって言ってねぇし……」
言ってない……言えない。
遠く記憶の奥深く、いつだったかこの島に来たあの赤い髪の男のように。
マキノに愛を告白してその心を掴んだまま旅立って、それきり何の音沙汰も無く……
店の裏でマキノを一人泣かせたくはないから。
俺が苦しんで済むのなら、この気持ちは言わない方がいい。
……マキノを悲しませるんなら、嘘ついたほうがずっといい。
マキノにはいつだって、カウンターの向こうで笑っていて欲しいから……だから。
……生まれて初めて、嘘をついた。生まれて初めて、酒を飲みながら。
あの酒の味は、きっと嘘の味なんだろう。
(END)
*****************************
159
:
見習B </b><font color=#FF0000>(7imV2WLo)</font><b>
:2004/09/27(月) 18:47
以上ですノシ
また書けたら持ち込みます〜。
もう直ぐ10月ですね……10月。
パラレルで運動会ネタとか……?
160
:
774万ベリーの賞金首
:2004/09/29(水) 00:01
見習Bさん乙です!
エースの思いやりと決意が切ないっす。
ほろ苦く胸に染みる、SSに酔った気分です。
美味しいSSゴチでした!
161
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/10/03(日) 16:42
>Bさん
お疲れ様でした! いいものを、ありがとうございます!
エース→マキノ…切ないですねぇ…
嘘をつかなければと思わずにいられなかったエースの決心にほろりときました。
Bさんの書くエースは最高にかっこいいです!
162
:
よむこ
:2004/10/03(日) 17:12
>Bさま
お疲れさまでした。
旅立つ少年の決意、男らしくてよかったです。
初めてのお酒も嘘も、とても苦くて…
これらがうまくなっていくことが、
大人になるってことなんですかねぇ…と切なく感じました。
素敵なお話をありがとうございました。
163
:
海軍婦人会
:2004/10/23(土) 14:27
はじめまして。
エロ無しは、こちらなんですよね。
本スレは、私の認識違いのために、ちょっと荒らしてしまいましたね。
どうも失礼しました。
あのあと、PCがちょっとした事情で、要修理となってしまい、
すっかり遅レスになってしまってすみません。
ところで、わたしの世界で2番目に愛している帆船、
海王丸が、あぼ〜んしてしまいました。
あまりの悲しみに、一本書いてしまいましたんで、
お目汚しですが、お付き合いください。
164
:
海軍婦人会@たしぎ
:2004/10/23(土) 14:30
「キング・オブ・イーストブルー」
シリウスの光が、船上を照らしていた。
船は、星の示す航路をひたすら追いかけていく。
たとえば、故郷に残してきた恋人が待ちわびる場所へ、
ひたすら急ぐように。
南風を受けやすいように、ヤードを少し回転させる。
満天の星空の海に、フォア、メイン、ミズン、スパンカー
全てのマストに帆が広げられ、
月の光を受けて青白く輝いて見える。
そして、月の光にきらめく海上を滑るように、さらに加速していく。
「・・・それで、今、速度はどれくらいなんだ。」
低く、そしてどことなく甘さを含んだ声だった。
「は、はい。現在、当艦は、平均速度10.2ノットで航行しています」
いきなりの質問に、たまたま近くで作業していた女子訓練生は、ちょっとどぎまぎしながら答えた。
「これから、角岬を目標として航海し、そのあとバル=バラッソに向かう予定です」
「夜間航海で10.2ノットか。
さすが、キング・オブ・イーストブルーの名を持つ船だ。速いな。」
「当艦は夜が明け次第、天候さえ良ければ、帆をフルに展帆します。
最高船速13ノットが出ればいいのですが。」
少佐の記章をつけた男からは、染みついた煙草の匂いがした。
「たしぎ君だったね。第三班の班長さんか。
訓練航海はどんなもんだね。」
「はい。今のところは順調です。」
当たり障りのない答えだった。
「何が、順調なのかな。航海か?それとも、キミの単位取得がか?」
すべて無難にこなせれば、それでいい。
そんな優等生的な考えを見透かした、意地悪な質問。
「スモーカー。なに新兵いじめしてんの。
士官学校の航海実習生なんて、そんなもんだわ。
たしぎ候補生、こういう意地悪な上官もいるから、当たり障りのない答えではなくて、
ある程度明快な意志を表明する練習をしておくことね。
将来、士官となって、部下を指揮する立場にあるものは、部下が迷ってしまうような、
中途半端な言動はよくないわ。」
「はっ。ヒナ艦長。ご忠告、有り難うございます。」
「ミズンマストの天辺に立つ資格を持つ優等生が、そんな事では困るわよ。
スモーカー、ヒナ、寒いからコーヒーが飲みたくってよ。つきあいなさい。」
いくら天候が良い航海とはいえ、10ノットを超えるレース中の船上で、
艦長の10㎝ピンヒールは僅かにもよろける気配がない。
たしぎは、その事に多少尊敬の念を抱いて、二人の背中を見送った。
165
:
海軍婦人会@たしぎ
:2004/10/23(土) 14:31
コツコツコツ。
艦長のヒールの音が、居住区に降りる階段に響く。
「なんで、あなたが航海実習なんかについてきたの?
青田刈りのつもり?」
「いや、ただの物見遊山なんだがね。海軍本部から正式な配属辞令が降りるまで、
何もしないのもアレだろう。
たまたま今回、おまえさんがこの船の艦長代理を拝命したって聞いたんで、
オレも一応、昔航海実習したし、その、あれだ。ま、ノスタルジーというやつだ。」
「さっき、たしぎちゃんにしてあげた忠告、あれ、あなたにもそのまましてあげる」
スモーカー少佐は、ウォーマーに置かれたポットから二つのカップにコーヒーを注ぎ、
先に席についていた艦長の前に置いた。
「ところで、ミズンマストの天辺に立つ、って、怖くないか?」
「馴れたら、そうでもなくってよ。でも、最初のうちは、足がすくむわね。
でも、天辺のヤードの先ほどではないわ。」
「オレは、メインマストの下から2番目だったからな。
女はとにかく、テストの点数だけは良いから、どうしても上の方にいくな。
それにしても、たしぎって奴、けっこうな度胸じゃないか。
スタートの時の登檣礼の時も、あんなところに立って、堂々としていた。」
スモーカーは葉巻の口を切った。
「あれ、ズルしてるわ。」
「え?」
「あの子、かなり目が悪いはずよ。だから、マストの天辺にいても、高さが判らないのよ。
多分、規定の視力に達していないわね。」
「視力検査があっただろう。」
「海軍が採用している視力検査表のパターンは3つ。
優等生なら、簡単に暗記してしまうわね。
でも、従来、本部の高級将校の推薦があれば、多少の瑕疵には目をつぶってきたのだから、
推薦学生でなくても、一度入ってしまったら、
本人の資質と志が優れていれば大した問題ではないわ。
教官たちの間では、とっくに周知の事なんだけれども、根が真面目なお嬢さんだから、
眼鏡が必要な事がバレルと退学させられるとでも思っているんでしょうね。
とにかく、勉強熱心だし、黒板に書いたことも、あらかじめの予習で頭に入っているものだから、
当てられてもすらすらと答えてしまって、視力が悪いという事を感じさせないの。
それで、本当のところを告白させようと思って、職員しかやらないワッチ当直を、
優等生だからっていう理由で、彼女にも割り振ってみたんだけど、しっぽ見せない。
でも、いつまでも眼鏡無しでは、このまま仕事を続けていく事はできないし、
海技免許の取得は怪しいわね。あれは検査表によらない検査だから。」
艦長は、マニキュアの剥がれを点検するように、自分の指を触りながら云った。
「そうだ。免許といえば、スモーカー。昇進試験のときの補講テキスト、返して。」
「え?返しただろう」
スモーカーはゆっくりと煙を吐き出しながら云った。
「ヒナ、受け取っていないわ。」
「え? あ。。。試験場に忘れてきたか。」
166
:
海軍婦人会@たしぎ
:2004/10/23(土) 14:31
ワッチの時間になり、たしぎはマストの見張り台に立った。
まだ暗い海だから、眼鏡をかけても大丈夫。
胸ポケットから、そっと眼鏡を取りだした。
見下ろせば、左舷に赤い灯火、右舷に緑の灯火。
船の姿勢を示す重要な光だ。
洋上を見晴らせば、他に灯火はない。
この船に追いつく速度の艦船は、他にはやはり無いのだろう。
キング・オブ・イーストブルー。
イーストブルー最速のフリゲート艦にして、士官学校の象徴たる練習船。
あこがれの海軍士官学校に入る事はできた。
なんとか、首席のあたりの一団にとりついている。
でも、本当に求める道は、洋上にあるのだろうか?
何を求めて海軍に入ったのだろう。
たしぎは記憶を呼び起こした。
そう、強い奴を捜して来た。
剣の道を一応究め、近隣に、相手になる強い奴がいなかった。
もしや海軍には居るのではないかと思った。
気が付けば、当たり障りのない成績で卒業して、
そこそこの地位の役職につけばいいと思っている自分がいた。
明快な意志と、ヒナ少佐は云った。
明快な意志を忘れていた自分が居た。
水平線が大きな弧を描き、空がほんのりと紅を帯びる。
このまま、航海士官の道を歩むべきなのだろうか。
航海士官。士官学校出身者には、もっともスタンダードなエリートコース。
航海士官を経て、順調に海上での資格を上げていき、最終的に海軍提督となる事。
それが士官学校生の夢。
でも、と、たしぎはつぶやいた。
風に、唇が震えた。
十字架の形に、空の星を辿った。
月は西に傾いていたが、まだ空から船を照らしていた。
ふと、下を見た。
マストの高さに、ふと恐怖を覚え、足がすくむ。
たしぎは視線を外した。
167
:
海軍婦人会@たしぎ
:2004/10/23(土) 14:32
完全に夜が明け切らぬ頃、たしぎはマストから降りてきた。
士官と、数名の候補生が整列していた。
ヒナ艦長は、彼らの前に立った。
「さきほど、この海域にあるバリンガー島の漁村が、
海賊の襲撃にあっているとの緊急連絡が、海軍支部よりありました。
至近の海軍艦隊が到着するまで、6時間を要しますが、
当艦が全速で帆走すれば、2時間ほどで到着できる位置にあります。
したがって、一時的にレースより離脱し、ウェアリングにて艦を反転後、
バリンガー島に向かいます。
総員、戦闘態勢を整えながら待機、候補生第一班はウェアリング要員として配置に就くこと。
当艦は実習船であり、戦闘艦ではありません。
候補生諸君は、住民の負傷者の救助を最優先に行動すること。
あくまで、後続する艦隊が到着するまで、住民の救助と、海賊からの保護を目的とします。
避けられる戦闘は回避すること。
また、候補生のなかで、白兵戦に参加できる技量の者がいれば申し出なさい。
スモーカー少佐の指揮下に入ってもらいます。」
艦長の指示は、艦内放送を通じて、全艦に伝えられた。
「第一班、集合」
候補生の一団が甲板に整列した。
「ただ今より、当艦は、ウェアリングにて反転行動を行う。
解散命令後、各員配置につけ」
操帆教官が声を張り上げる。
「解散。」
一同は駆け足で配置にいそぐ。
「スパンカーマスト、配置良し。」
「スパンカーセイル、畳帆用意。」
「スパンカーセイル、畳帆開始。」
最後尾のマストに掛かる縦帆のロープが外され、するすると下ろされる。
「ミズンマスト、配置良し。」
168
:
海軍婦人会@たしぎ
:2004/10/23(土) 14:33
白兵戦・・・
慌ただしく往来するデッキの中ほどで、たしぎの頭は白くなった。
人を・・・斬る。
軍に所属するという事は、そういう事である。
鍛えるだけを目的とした武術ではない。
守り、そして、攻めるための武術。
相手は、防具をつけたライバルではない。
自ら申し出るべきか否か・・・
理性では、ここで少しでも軍功を稼いでいたほうが良いとはわかっている。
・・・でも・・・
「たしぎ候補生、ぼやっとしない。」
艦長が立っていた。
「スパンカーセイル、畳帆完了しました。」
「ミズンヤード、引き込み用意。
一航士、ミズンヤードの回転にあわせて、面舵12度、用意。」
艦長は、たしぎの側に立ったまま指示を飛ばした。
「ミズンヤード、引き込み用意。」
繰帆教官が復唱する。
「あなた、剣術師範の資格をもっているわね。選択武術でも、剣術の成績はとても優秀。
今日はスモーカー少佐の指揮下にはいりなさい」
「でも、実戦の訓練は受けてません」
「ミズンヤードを旋回。」
「ミズンヤード、旋回開始」
たしぎの頭ごしに、船の反転作業は慌ただしく進行する。
「あなたの仕事は何?
海軍士官候補生は、何のために存在するの?
あなたは、海軍旗に正義のために命を預けたのではなかったの?
今が、正義のために命をかける時ではないの?」
艦長は向き直った。
「一航士、面舵切れ」
たしぎに背を向けた艦長の背中の、
将校服に刺繍された「正義」の文字がたしぎにせまってきた。
169
:
海軍婦人会@たしぎ
:2004/10/23(土) 14:34
(わたしは、何。
正しい心の強さを信じて来たはずなのに、何を迷う。)
たしぎは、旋回行動により、大きく揺れる船上を、自室に向かい駆けだした。
「ミズンヤード旋回行動完了。
続いて、メインマスト旋回の配置につけ」
「メインヤード、フォアヤード旋回用意」
たとえば、この戦いで自分が死ぬ事になったとしても、
そして、海の泡のように、その存在さえ忘れられる事に成ったとしても、
迷いと、躊躇と、慢心と、そんなつまらない心の垢に埋もれてしまい、
海路を漂う亡霊のように中途半端で、
万事無難に過ぎれば良しなんていう士官になるよりはずっといい。
「たしぎ、俺についてこい」
刀を携えて自室から飛び出てきた彼女に、スモーカーはすれ違いざまに命令した。
「これば演習ではない。眼鏡を忘れるな」
「はい!!」
きっぱりとした声だった。
月明かりの下で見た、足下の高さ。
恐怖を感じたのは、不安定な心ゆえの事なのか。
デッキに戻ると、順風に帆がふくらみ、船は求める先へ急ぐ。
たしぎは、制服の裾で眼鏡を拭いた。
「スパンカーセイル、展帆」
170
:
海軍婦人会@たしぎ
:2004/10/23(土) 14:41
以上です。
全然色気ない話で、済みません。
それから、ちょっと構成が変です。
それは、スティングの「バルパライソ」という歌のとおりに、
お話を進めたからです。
今回、ちょっと帆船っぽさが書けていたら幸いです。
でも、人物が書けてませんね。
今回、書いていて、私とたしぎはずんぶん気持ちに距離がありましたが、
帆を旋回させるシーンが書いてみたかったんです。
船の形式、マストの本数、ウェアリングの手順、
すべて海王丸に準じてみました。
それにしても、世界最速を誇る帆船が・・・・orz
でも、私が一番愛するアルゼンチン海軍フリゲート艦
リベルタが世界最速に返り咲いたのでした。
171
:
海軍婦人会
:2004/10/23(土) 15:30
すみません、訂正します。
>168の
艦長は向き直った。
「一航士、面舵切れ」
たしぎに背を向けた艦長の背中の、
将校服に刺繍された「正義」の文字がたしぎにせまってきた。
の
>たしぎに背を向けた艦長の背中の
を
たしぎに向けた艦長の背中の
になおします。背が重複してました。恥。
172
:
KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>
:2004/11/09(火) 23:30
|▽゚)
こそこそ
投下するなら今のうち。ゾロロビ、短め、甘め。シャンロビ前提
173
:
KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>
:2004/11/09(火) 23:32
◆BABY BABY ME ME ME◆
あの日も月が遠くで泣いていた。
私はフィギュアヘッドに座って、赤い涙を流す月を見ていた。
ああ、この空も海も。
境など無く、全てを受け入れるのに。
母なる海にも、父なる大地にも還れない私の身体。
帰れない、帰れずに、ただ自分を抱きしめて泣いた。
「何やってんだよ、お前」
この時間に甲板を歩くのはこの船の剣士さん。
腕はいいけれども、少しだけ方向感覚が薄いのが玉に傷。
「あら、剣士さんは?」
「俺ぁトレーニング中だ。昼間はチョッパーやらルフィがうるさすぎて鍛えらんねぇからな」
知ってる。
174
:
KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>
:2004/11/09(火) 23:33
彼がこの時間に誰にも気付かれないように自分を磨くことに専念していることを。
時計の針はもう少しで三時。
夜と朝の間の不思議な時間。
「お前は?」
「私?私は……少し昔のことを思い出してたの」
私が、彼と同じ年のころにはバロックワークスに居たから。
思い出すのはそれよりも前のこと。
そう、この船の船長さんと同じくらいのときのことばかり。
「剣士さん」
「何だ?」
「隣に来ない?風が気持ちいいわよ。汗も引くわ」
さららと流れる黒髪は、闇に溶けるようだと昔言われたことがある。
「変わった女だな」
その言葉も。
「そう?」
「俺はお前って女が今ひとつわかんねぇからな。まぁ……馬鹿じゃねぇってことは分かるが」
この人、あまり私には近付いてこないから。
お互いに何処か似ているからなのかもしれない。
この人も、心の奥の本当の言葉を閉じ込めてしまう。
175
:
KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>
:2004/11/09(火) 23:33
苦しくて、声が出ない。だから、自分を『鍛える』と言う名目で『痛めつける』の。
「!!」
額に浮いた汗を払いたくて、彼の額に指を。
余程意外だったのかしら?手に取るように動揺が分かってしまう。
私、そんなに警戒される?
「やだ。何もしないわよ」
「お前はハナで俺なんか、押さえつけられるからな」
「試してみる?」
「止めておく。無駄なことは好きじゃねそれぇ」
ハンカチで彼の汗を拭いて。少しだけ笑ってくれるのが妙に嬉しくて。
そう、私よりもずっと若い。
少年を終えて、青年の一歩を踏み出したばかり。
この船と一緒に。
世界一の剣豪になる予定の剣士さん。
「ねぇ、世界一の剣豪になるにはどうしたらいいの?」
「あ?」
「だって、貴方は世界一の剣豪になるんでしょう?海賊王の船に乗って」
そう、この船のキャプテンは海賊王になるという。
そして、今この世界で一番海賊王に近い男も、世界一の剣豪も。
私はどっちも見てきているから。
そう簡単にその座を渡すことの無い男二人。
176
:
KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>
:2004/11/09(火) 23:34
「簡単だ。ミホークを倒す」
「彼、強いわよ」
「俺があいつよりももっと強くなれば良いだけだ」
思わずこらえきれなくて笑ってしまう。
「笑うな!!」
「あは……だって、簡単に言うんだもの」
笑い過ぎてこぼれた涙。ふいに彼の指がそれを払ってくれた。
「………………?」
「笑いすぎでも、女が泣いてたらほっとくわけにはいかねぇだろうが」
そっぽ向いて、少しだけむくれ顔。
優しくされるのはお互い苦手で、私と彼はこんな風に話すこともあまり無かった。
堂々と語れるような過去が無いのはどっちも同じで。
それを語りたがるような男でもなかったのだから。
「お前って、笑うとそんな顔になるんだな」
「え……?」
「いや、本ばっかり睨んでるからよ。まぁナミみたいに金目のものにばっかり追うよりはマシ
だけどな」
彼が昔恋した少女は、私と同じ黒髪だった。
だから、どこかで私は彼に悲しいことを思い出させるのかもしれない。
ねぇ。
もう少しだけ近付いて、もう少しだけ寄り添うことが出来れば。
きっと、楽になれるのにね。
177
:
KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>
:2004/11/09(火) 23:34
「お前、夜でもその帽子被ってんのか?」
お気に入りのテンガロンハット。
「私、帽子を被っていた人に恋してたの」
そう、この船でその帽子を見るなんて思わなかった。
この船は、いつかあの人のところにたどり着く。
そのときに、私はどんな顔になるのだろう。
彼に会ったときに、笑えるのだろうか。
「変わった趣味だな」
自分でもわかっている。
「そうね。今は……バンダナを巻いた人が好みだわ」
急に咳き込んで、彼は顔を背けてしまう。
お互い、恋をするにはまだ時間が足りないみたい。
少しだけ、意識して距離を詰めて。
そっと、手を重ねた。
傷の舐めあいでも、昔の思い出を追うだけでも。
今の私たちにはこの関係が心地よかった。
「俺は、黒髪の女に弱いだけだ」
彼のほうから指を絡めて。
私のほうから唇を重ねた。
キスは、互いの鼓動を伝えてくれるから。
何度しても、最初のキスのようにどきどきしてしまう。
178
:
KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>
:2004/11/09(火) 23:35
「…………泣くな」
ふいに頬を伝う涙。蕩けそうな赤い月はあの人を思い出させてしまう。
過去にとどまることの心地よさは鎖となって、私の足に絡みつくから。
私の手を引いて。
その剣で鎖を断ち切って。
連れ出して欲しい。
「泣いてなんか……無いわ……」
この強がりを、どうか。
どうか……否定しないで。
「頭が良すぎるのも、良し悪しだ。ルフィみたいに食って寝て、全部忘れちまえ」
頬に触れる大きな手。
この手にはたくさんの傷がある。
私を守ってくれたときの傷も。
「そうね……眠って、全部忘れるわ」
きっと、泣きそうな顔で笑ったからぐしゃぐしゃのはずなのに。
「そのほうが……なんだ、よっぽど可愛いっていうのか?」
「あ……は……」
耳の先まで真っ赤に染めて、余程彼のほうが可愛い気がする。
ねぇ、私たちはどこまで強くなれるのかしら。
私たちは過去という名に繋がれた囚人。
今もこの月に囚われて、思い出という幻から抜け出せないままで居る。
179
:
KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>
:2004/11/09(火) 23:36
「風邪引くぞ、早く部屋に戻れ」
「そうね……」
不意に触れる唇。
抱かれるよりも、不思議と熱くなれた。
「ガキにゃ寝る前にするだろうが。母親が……」
「ありがとう」
だから、去り際に彼の頬に同じようにキスをした。
「子供は頬に返すのよ。私も母さんにそうしてたわ」
伸びた影が二つ。
私の少しだけ後ろを歩く彼。
隣に並んで歩けるようになるには、この鎖は重すぎて。
まだ、出来ない。
「次の島についたら、買い物に付き合ってくれる?ほしい本があるの」
「荷物持ちか。人使いの荒い女だ」
「頼める人が居ないの。お願い」
あの時感じた夜の音も、貴方と癒した傷の痕も。
この月から見れば笑い事かもしれない。
「手、繋いでくれる?」
伸ばした指に触れる彼のそれ。
「ありがとう」
赤い月はいつの間にか、笑う満月に替わって。
私たちも、少しだけ声を上げて笑った。
また今夜も私は海を眺める。
真夜中の途中、朝の手前のこの時間に。
もうすぐ午前三時。
180
:
KINO </b><font color=#FF0000>(sXDkhz4U)</font><b>
:2004/11/09(火) 23:38
エロなしもたまには落としみたいKINOです。
本誌、過酷だー。ロビンちゃん……幸せになって欲しいのです。
キスって大事だなーと、最近やけに考える。
エロって一言だけど、誰かと身体を繋ぐってのは素敵で大事なことだと思ってます。
181
:
774万ベリーの賞金首
:2004/11/12(金) 17:34
KⅠ・・・・KINOさん!!!!
キテタ━━━ヽ(ヽ(゚ヽ(゚∀ヽ(゚∀゚ヽ(゚∀゚)ノ゚∀゚)ノ∀゚)ノ゚)ノ)ノ━━━!!!!
良かったです!これ、こーゆーの大好きです。
エロエロでないのにエロティックで素敵。
本スレで投下報告って、やっぱりダメなんですかねぇ?
見逃すとこでした。覗いてよかった。GJSSありがとうです。
182
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:08
したらばでは、お久しぶりです。
チョパ誕投下します。麦わら7人オールキャラ。
チョパ視点です。
苺屋の文が、お嫌いな方はスルーでお願いいたします。
183
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:08
「冬の僕らと蜃気楼」
もうすぐ、雪が見られそうな海域に入るかもしれないと、気候を読みながらナミが言った。
「ホワイト・クリスマスか、何年ぶりだろうな」
その横でサンジが、空を見つめながら腕を伸ばし、楽しげに呟いた。
クリスマス…どこかの有名人が生まれた日だと、ドクターに聞いたことがある。
サンタクロースとトナカイがセットでやってきて、子供たちにプレゼントを渡してくれるって。
でも、俺のところには来たことがない。俺自身がトナカイだから? それとも俺がバケモノだから?
わからない。でも、ドクターと出会うまでは、いつもひとりで過ごしてた。
俺はその有名人ってのも知らないから、12月25日は、いつもと同じただの一日。
サンジがなぜそんなに楽しそうに言うかわからなくて、聞いてみた。
「恋人たちの日だからな。愛する人と過ごせるクリスマスほど良い日はないぜ?」
煙草の煙をくゆらせながら、にこにこ笑顔。サンジは恋人いないじゃないか、そう言ったら。
「全世界の女性すべての恋人よ、俺は。この船ではナミさんとロビンちゃんが愛する人さ」
両手を合わせて、ねーナミさん、とへらへらした顔でナミを窺う。
「理由なんてどうでもいいのよ。皆で馬鹿騒ぎをする日、それでいいじゃない」
いつものごとくサンジの言葉を流して、ナミはにっこりと笑った。
「今日の夕食は豪勢だからな。明日のクリスマスまで宴だぜ。楽しみにしてろよ、チョッパー」
そろそろ仕込みに入るぜ、とサンジ。私もきちんと航路を見なきゃ、とナミ。
宴は楽しい。そうか、皆で騒ぐ日なのか。なら楽しいや。俺も笑顔になる。
そんな会話を甲板でした。12月24日の昼下がり。そしてふと思い出した。
今日は、俺が生まれた日だ。
184
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:08
先月あったゾロの誕生日、皆、楽しそうに祝ってて。ゾロも満更でもなさそうに。
贈るプレゼントを一生懸命考えて、受け取ったゾロが、ありがとな、って言ってくれた。
嬉しかった。誕生日って、いい日だなって思った。
俺の誕生日が今日だなんて、そういや誰にも言ってない。
前の島を出てから、もう10日以上経ってるし、皆、明日のクリスマスしか頭にないし。
もし、誰かに聞かれたら、そういえばもう過ぎてたよって思い出したように笑えばいいんだ。
今さら言っても迷惑になるだけだ。うん、だから言わない。
今日は、誰か知らないけど、明日生まれた奴の誕生日の前祝い。
サンジは美味い料理を作ってくれて、ルフィとウソップが盛り上げてくれて。
そのうち、ゾロとサンジがケンカを始めて、ナミがうるさいって一喝して。
ロビンはそんな光景を見ながら、楽しいわね、って俺に微笑んでくれるんだ。
それだけで楽しい。だから、いいんだ。
強がりなのかな、でも自分から誕生日っていうのも、なんかせがんでる子供みたいだ。
帽子の裾を掴んで、落ち込みそうになるのを我慢する。ふかふかの帽子。ドクターから貰った。
角があるから、角の部分は突き抜けてるけど、一生、大事な宝物。初めて貰ったプレゼント。
ルフィに誘ってもらって、この船で、もっと宝物が増えるだなんて思ってたんだ。
楽しい航海、大好きな仲間たち。それだけでいいんだ。プレゼントが欲しいだなんて。
そんな我侭なこと思うような俺だから、サンタは俺のところへ来なかったんだ。きっと、これからも。
トナカイだからいいんだ。きっとヒトのところへしか来ないんだ。
人間じゃない中途半端な俺なんて。トナカイとヒト、どっちにも煙たがられる俺。
普通の動物じゃない、バケモノと言われる俺。
そういえば…動物っていったら、ウソップが変なことを聞いてきた。
あれは、確か前の島で、ログを溜めているのを待つ間のこと。ふっと、思い出してみた。
185
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:09
「なあ、チョッパー。この船のクルーをよ、動物に例えると何だと思う?」
食事の後、まだ皆がラウンジに居て、前後の話と繋がりはないけど、そう聞かれた。
「え? え?」
いきなり言われてもわかんなくって、質問にまごついてしまった。
「あー、そんな深く考えなくていいんだ。こういうのはインスピレーションでな」
「ははっ、おもしろそうだな。俺も聞いてみてえ。まず、ルフィはどうよ?」
食器を洗いながら、サンジが会話に割り込んできた。
インスピレーション…適当に思いついたのでいいってことかな。えーっと、ルフィ、ルフィ。
「猿?」
言った途端に、ルフィ以外の皆が噴出した。ウソップなんて、お腹抱えてげらげら笑ってる。
「そのまんまだなー、ま、それ以外思いつかないけどな」
「やっぱりね。チョッパーでも、そう思うんだ」
ナミも話に加わってきた。ゾロとロビンも、聞いているのか、顔が笑ってる。
「何だよ、もっと他にもあるんじゃねぇの?」
ルフィは気に喰わないのか、頬を膨らましてる。
「えー、だって…うーん、猿しか思いつかないなあ」
「いいんだ、いいんだ、チョッパー。お前の目は確かだ。なあ、俺様は?」
ウソップが、期待に満ちた顔で聞いてくる。ウソップかあ、天狗は動物じゃないよね。
何だろう…戦闘中とか、よく縮こまってるし。
「アルマジロ?」
「アルマ…?」
今度はウソップ以外が笑う。ウソップは、がぼーんと口を開けている。
俺の感覚っておかしいのかなあ。でも、本人以外は納得してるみたいだし。
186
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:09
「最高だぜ、チョッパー。俺はどうだ? 野生のカモシカあたりか?」
洗物が終わったサンジが、にこにこしながら聞いてくる。カモシカか、確かに脚力はあるけど。
「アヒル」
煙草を落としそうになりながら、ぽかんとしちゃった。
「な、何でアヒル?」
あれ、これは他の皆も納得してくれない。ルフィやウソップよりも合ってると思うんだけどなあ。
「煙草を咥えてる時とか、困ってる時、口がアヒルみたいになるから」
「あははっ。言われてみれば確かに」
「ええ、そうなの? ナミさ〜ん」
しょぼんとしたサンジに、いつもの通り、酒を飲んでいるゾロからのからかいの言葉。
「ぴったりじゃねえか。ガーガーうるせえし」
「何だと? ただの藻の分際で。おい、チョッパー、この呑んだくれは何だ?」
サンジがびっとゾロを指さして、声を荒げながら聞く。んー、ゾロかあ。
「サメかなあ?」
「お? 結構マトモなんじゃねえの?」
「待てよ! 何で俺がアヒルで、こいつがサメなんだぁ?」
不服そうにアヒル口で文句を言うサンジ。だから、それがアヒルなんだってば。
「サメってね、血の臭いに敏感で“生きている鼻”とも言われてるから」
「あー、それっぽいな。血に飢えてる感じで」
「何だよ、猿とえれぇ違いだなぁ」
ウソップは賛同してくれて、ルフィはまだ猿に文句を言ってる。
「いいさ、ひとりエラ呼吸だな。せいぜい海で元気に泳いでろ。死んだらヒレだけ拾って料理してやるよ」
「…子供か、お前は」
サンジが脹れちゃったよ。ウソップも呆れてツッコミに威力がないじゃないか。
んー、そんなにサメっていいものかなあ。動物に優劣とかはないと思うんだけど。
187
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:10
「チョッパー、私は?」
ナミがにこにこしながら、聞いてきた。でも、オーラが怖い。変なこと言うな、って顔してる。
「…猫かな」
にっと笑った。よかった。お気に召したらしい。ほっと息を吐く。
「そうよね。犬やなんかと違って、大人しいものね。愛玩動物で、愛らしいのが基本だし」
「ナミさんみたいな可愛らしい猫なら、飼いたいな〜」
猫は我侭で人の言うことを聞かないから、ということは内緒にしておこう。
たぶん、言ったら、俺、ひょっとして死ぬかも。何でかわかんないけど、サンジも納得してるし。
「最後だな、ロビンは?」
ルフィが聞いてきた。ロビンかあ、強くて、夜が似合う。
「狐かな」
「あら、狐なの」
ロビンが首を傾げて、微笑んだ。あれ、気に喰わなかったのかな。
「牝狐か」
「おい、そんな言い方があるかよ」
「言ったのはチョッパーだろ、俺じゃねえ」
「狐としか言ってねぇだろうが。言い方にトゲがあるんだよ」
ゾロとサンジが言い合いを始めてしまった。どうして? おろおろしてるとロビンが近づいてきた。
「気にしなくていいのよ、船医さん。狐は、ちょっとだけ悪者のイメージがあるの」
「そんなっ! 狐は、賢くて、強くて、仲間をすごく大事にする、優しい動物なんだよ?」
「狐は、娼婦を罵る時にも使う言葉なの。あまり女性に対しては褒め言葉ではないわ。
けれど、船医さんが、私のことをそんなイメージで見てくれていたのなら、とても嬉しいのよ」
どうしよう。俺、知らなかった。ひょっとして、ロビンを凄く傷つけた?
「剣士さんとコックさんもやめてあげて。困っているわ」
そう言われると、睨み合って、ぷいっとふたり同時に顔を背ける。
188
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:10
「…悪かったよ」
ゾロが小さく謝った。ロビンがにこりと笑った。あ、そうだ、俺も。
「ごめんね、ロビン」
くすくすと笑って、頭を撫でてくれた。うん、やっぱりロビンは優しいんだ。
「でも、狐は少し意外だったわ。狐といえば、剣士さんかと…」
「俺かよ?」
ゾロが、今度はロビンを睨む。それを受けて、笑うロビン。
「あなたの名前、ゾロ」
どうしていいかわからず、ふたりの顔を見比べていたからわかった。
名前を呼ばれた瞬間、ゾロが驚きに眉を上げた。一瞬だけど。
「とある国の言葉で、ゾロは狐という意味よ。強くて、優しいあなたには相応しいのでは?」
ゾロの口がぽかんと開いた。
うん、そうだよ。ゾロも強くて、優しい。ゾロだけじゃない、ここにいる皆。
「ロビンちゃん、こいつ、賢くないですよ?」
「んだと、こら」
ああ、またゾロとサンジがケンカを始めた。でも、俺の隣でロビンがくすくす笑ってる。
だからいいや、と思った。もうすぐナミの鉄拳がふたりの頭に落ちるんだ。
俺もロビンと一緒に笑って、それをぼうっと眺めてた。
189
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:10
そういう楽しい船。いつでも。ケンカしても、誰ひとり、本気でいがみ合ったりしない。
だから、余計に言えない。きっと、気づかなかったことを、皆、申し訳なく思うから。
祝われている自分の姿を簡単に想像できる。そんなふうに主役になれたら、とっても楽しかっただろうな。
目の前にそんな光景が浮かんだ気がした。
でも、それはアラバスタの砂漠で見たあの景色のように掴めないものなんだ。
ごつごつした岩が空中に見えた。あれは、あの場所にはないってビビが言ってた。
蜃気楼っていうんだって。背伸びをすると大きく見えて、しゃがむと消える、不思議な景色。
見えるのに、ないだなんて、悲しいなあって思ってたんだ。
掴めそうなのに、掴むことができないもの。どうして、そんなものがあるんだろう。
サンタクロースも一緒なのかもしれない。きっと、俺にはこれからも、サンタクロースの姿は掴めない。
薬の調合でもしよう。男部屋に戻って、ウソップが呼びに来るまで、集中していた。
「チョッパー、夕飯だぞ。早く来ーい!」
声をかけられる。甲板に上がっていくと、ウソップがにこにことした顔で俺を待っていた。
後ろから、俺の背を叩いて、ラウンジへと急がせる。
いつもは、早く来なきゃ置いてくぞって、俺より先に行こうとするのに。
ラウンジのドアを開けろって言う。早く早くと、笑顔で急かしてくる。どうしたんだろう。
「メリークリスマス、チョッパー!」
ドアを開けた俺を出迎えてくれたのは、クラッカーの音と、変な恰好をした皆。
「皆、その恰好は何?」
ルフィは茶色い全身タイツみたいな服に、丸い耳当て。ゾロは灰青色の被り物。
サンジは白いもこもこした着ぐるみだ。ウソップも黄土色の着ぐるみを着込んでいるところだった。
ナミとロビンは三角の耳をつけて、温かそうな毛皮。でも、腕や脚やお腹には何もつけていない。
190
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:11
「何って、おめぇが、猿だって言うから、こんなの着てるんだろ?」
ルフィがぶつぶつ言いながら、背中を見せる。長細い尻尾がついてるお尻が赤かった。
「俺がサメ」
よく見れば、ゾロの頭は無数の歯がついてる魚に喰われていた。
首から下が、いつもの腹巻姿だから、恐ろしく不気味だ。リアルすぎて、怖いよ、あの被り物。
「全部、俺様が作ったんだぜ。俺がアルマジロ、サンジがアヒルな!」
アルマジロも、なんだか皮がリアルだし。わあ、今にも丸まりそうだ。
サンジのは、安心して見れるな。もこもこしていて、可愛い。動きにくそうだけど。
「私が猫で、ロビンが狐ね」
髪の色を逆にしたみたいだ。ナミが黒で、ロビンが狐色の耳と毛皮をつけている。
ナミは細い尻尾。ロビンはふさふさの長い尻尾をつけて。ふたりとも、似合ってるなあ…でも。
「何で、ナミたちだけ、そんな寒そうな恰好なんだ?」
ルフィみたいに全身を包めば、温かそうなのに。お腹、冷えちゃわないかな。
「あー、それは、製作途中に『大事なところだけ守り、肌は見せるのがコスプレのロマン』という意見がな」
「…もう、やっぱりサンジ君だったのね」
「何で、俺ってわかっちゃったの、ナミさーん」
「お前以外に、そんな下らんことを言う阿呆がどこにいる」
「何だと、コラァ!」
ゾロとサンジが睨み合う。サメとアヒルが対立してるって、おかしな光景だ。
でも、何で、仮装してるんだろう。クリスマスって仮装するものだっけ?
「サンジ君たちも、その辺で終わってよ。ね、皆。準備できてる?」
俺に向かって、6人が目の前にずらっと並んだ。にこにこしながら、手を後ろに組んで。
「せーのっ! おめでとう、チョッパー!」
ナミのかけ声で、一斉に皆の手が俺にさし出される。その手には、様々な形の箱が乗っていた。
色とりどりの包装紙とリボン。どこからどう見てもプレゼント。
191
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:11
「…どうしよう」
困った。そんなの、皆、言わなかったじゃないか。俺、何も用意してないよ。
「俺、皆へのクリスマスプレゼント、何もないよ…ごめん」
しゅん、と俯くと、くつくつと笑い声が聞こえる。
「やっぱりな。忘れてると思ったんだよ。全然、話題にしないんだもんな」
「クリスマスプレゼントじゃないのよ、チョッパー。皆、もう1回、せーのっ!」
「誕生日おめでとう、チョッパー!」
皆の声が重なった。誕生日プレゼント? どうして? だって、だって、俺。
「誰にも言わなかったのに…」
「なぁんだよ、おめぇ、覚えてたのに言わなかったのか? 水臭ぇぞ」
ルフィが口をへの字にして、俺の背中を叩く。手にプレゼントを渡された。
「ドクトリーヌに聞いてたのよ。忘れてるみたいだから、黙ったままで、驚かせようってサンジ君がね」
「そう! そんで、せっかくだから、何かおもしろい恰好でもして、楽しもうっつったのがルフィな」
ナミとウソップがルフィの箱の上に、プレゼントを乗せていく。
「動物の恰好なんかおもしろそう、という素晴らしき提案はナミさんだぞ」
続いてサンジ。帽子を、ぽんと叩かれた。
「ウソップが衣装を作るって、はりきってな。これだけ作れるんだから器用なもんだ」
「せっかくだから、船医さんがイメージする動物でって、剣士さんが」
ゾロとロビンも笑いながら。ずるいよ、皆。俺、何も返せないのに。
「おめぇの欲しいもの、ばれないように聞き出してくれたのがロビンだぞ。開けてみろよ、チョッパー」
そうやってルフィが促すから、ひとつずつ開けていった。
欲しかった専門書、図鑑、調合用の道具、薬の材料、全部、俺が欲しかったものばかり。
そういえばゾロの誕生日が終わった後くらいから、ロビンが買いたい物はあるかって聞いてきた。
お金がないから買えないけど、揃えたい物はあるんだって、俺、ぺらぺら喋ってた。
「…何だよ、バカヤロー。ちっとも嬉しくねーぞ!」
どうしていつも、俺、素直に喜べないんだろ。嬉しいのに。泣きたくなるほど嬉しいのに。
192
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:12
「わかってる、わかってる。さっ、腕によりかけて作ったディナー、食べようぜ」
「覚悟しろよー、お前の誕生日にクリスマスと、めでたい日が続いてるんだ。徹夜で騒ぐぜー?」
クリスマス。ウソップの言葉に、舞い上がっていた心がじわじわと冷めていく気がした。
「俺、クリスマスに騒いでいいのかな…」
「どうした、チョッパー?」
「トナカイだから、俺のところに、サンタクロースは来たことないんだよ?」
聞いたゾロが、眉をしかめた。やっぱり、そんなの俺だけなのかな。
「あんた、バカねー。サンタなんて、私のところにも来たことないわよ」
「クリスマスは、誰にでも平等にやって来るものよ。もちろん、船医さんのところへも」
ナミとロビンが笑いながら言う。俺だけじゃないの? クリスマスに騒いでもいいの?
「なぁ、サンタはプレゼントくれるんだろ? じゃあ、俺らにとってはお前がサンタでいいよ」
後ろから抱え上げられ、気づいたらルフィに肩車されていた。
「え? 俺がサンタ?」
「笑ってろ。それが俺らにとっちゃあ、プレゼントだ」
ルフィの声は力強い。この声に、含まれている信念に、俺は誘われて海へ出た。
そんなふうに。簡単に。俺の意地をぶち壊すんだ。
こんなふうに。簡単に。俺に涙と笑いをくれるんだ。
「チョッパー、泣くな。せめて、俺の料理を味わってから、感動で泣け」
「そうだ! この俺様の、この日のための宴会芸を見てから、感動で泣け」
猿の上から見下ろす、アヒルとアルマジロの姿は、なんだかおかしかった。
「主役が来なきゃ飲めないだろ、早く来い、チョッパー」
ゾロが呼んでる。隣に座れって、席を叩いてる。
こう見ると、あのサメの被り物も意外とユーモラスでいい。
ルフィの頭の上から飛び降りて、ゾロの隣に座った。テーブルには豪華な料理。
「美味しそうね。船医さんの誕生日を、こんなに素敵に祝えて嬉しいわ」
ゾロとは反対側の隣にロビンが座った。狐の尻尾が椅子から垂れてる。
温かそうって言ったら、マフラーみたいに首に巻いてくれた。
193
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:12
「乾杯しましょう! ウソップ、あんた、音頭とんなさい!」
ナミが腰に手をあてて、びしっと命令してる。猫が一番強い、変な船。
トナカイの俺を皆で祝ってくれる変な船。俺が、皆にとってのサンタなら。
「皆が、俺にとってのサンタクロースだ」
そう言ったら、皆が笑った。
豪華な料理に、俺に合わせてくれた甘いケーキ。
夢中で食べたら、喉に詰まって、ロビンが水を飲ませてくれた。
ウソップがアルマジロみたいに体丸めて転がって。ナミの方へ突っ込んでナミとサンジに殴られてた。
その隙にルフィが冷蔵庫を漁って、こんなご馳走にまだ満足できないのか、ってサンジに蹴られてた。
ゾロが眺めて、あいつら阿呆だな、って言って、お前の頭のほうがアホだ、ってサンジに言われてた。
案の定、ゾロとサンジがケンカを始めて、ロビンが、とっても楽しいわね、って微笑んでくれた。
楽しくて、嬉しくて。誰にだって、サンタはやって来て。誰だって、サンタになれるんだ。
「サンタはね、蜃気楼みたいなもんだと思ってたんだ」
「蜃気楼?」
「うん、掴めそうで掴めないもの。目指しても、辿りつけないもの」
ロビンは、優しく微笑んで、俺の話を聞いてくれる。
「それでも、掴めたのでしょう?」
「うん、皆がサンタクロースになってくれたから」
「そうね。蜃気楼は掴めなくても、その見た景色は必ずどこかに存在しているから」
ああ、そっか。探せば見つかるものなんだ。確実に。
194
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:12
「ねえ、見て! 雪よ!」
ナミが窓を指さした。白い雲の欠片がちらちらと降りている。
猿とアルマジロの恰好のまま、ルフィとウソップがラウンジから飛び出した。
「ナミたちも来いよー!」
甲板から、呼ぶルフィの声。俺も、と駆け出した。俺の後から、皆、ついてくる。
「あー、寒いわ。やっぱり、この恰好」
「ナミすゎん、寒いなら、俺の羽毛に入りませんか?」
白いもこもこを指したサンジが、馬鹿じゃないの、って呆れられてた。
「お前のこれは、温そうだな」
「ふふ、船医さんみたいに首に巻きたい?」
こっちでは、ロビンの尻尾を掴んだゾロがからかわれてる。ゾロが赤くなった。
「マリモ、コラァ! ロビンちゃんに不埒な真似を!」
「ああ? てめえじゃあるまいし、やましい感情なんかねえよ!」
ゾロとサンジが、いつものケンカ。ルフィは囃したて、ウソップは巻き込まれないよう丸まっている。
「猫はコタツで丸くなるわ、と言いたいところだけど、コート持ってくるわね」
「そうね。そうしたら、船医さん、一緒に遊びましょう」
ナミとロビンがそう言って、ゾロとサンジが喜び跳ねた俺を見て、ケンカの手を止めて笑って。
ルフィとウソップが俺を手招きして、一緒に駆け回ろうと誘うから。
揺らがない景色が確かにそこにあるのだと嬉しくなって。
俺は、白い雪と、皆の笑顔から零れる白い息に、浮かれながら駆け出した。
―終―
195
:
苺屋 </b><font color=#FF0000>(yarvSUAM)</font><b>
:2004/12/24(金) 00:13
以上です。
チョッパー誕生日おめでとう。
読んでくださった方、ありがとうございました。
196
:
774万ベリーの賞金首
:2005/01/12(水) 03:22
うわーーー!!苺屋さん!!!
キテタ━キタ━━━━Σ(゚∀゚ノ)ノ━━━━!!
危うく見逃すトコでしたよ。
愛しいSSですね。チョッパー好きなので男気?のある奴が見られて嬉しいです。
ありがとー!GJ!!
197
:
名無し
:2006/04/04(火) 14:25:10
苺屋さん読ませてもらいました
とても、おもしろかったです
私のめっせーじに気付いたらまた書いてください
198
:
774万ベリーの賞金首
:2006/11/25(土) 15:29:51
ここは不夜城、エニエス・ロビー。
司法の塔の先に位置する執務室。
インペルタウン行きの護送船が来るまでにまだ時間がある。
「合コンでもしねぇか?」
連行されてきたニコ・ロビン、召集命令に従ったCP9、そしてその上司スパンダム。
勿論、頭の悪い提案をしたのは顔を矯正器具に覆った男、スパンダムだ。
「セクハラです!」
カリファが条件反射の如く眼鏡を上げて抗議し、スパンダムも反射的に謝る。
他のCP9も慣れた物で、聴こえなかった事(無視)に徹するもの、賛同するもの、様々な反応をしていた。
それを一歩引いた視点から眺めながらロビンは、上司に恵まれない彼らへの少しの同情と、
あんな男に未来を奪われたのか、と、なんとなく自分が情けなく思えて、小さく溜め息を吐いた。
「暇だろ、命令だ!合コン!命令!男は…多すぎるな、何人か外そう。
女は……しかたねぇ、ニコ・ロビン、おまえも入れ。あと…給仕のギャサリンも連れて来い!」
スパンダムは楽しそうに命令を下し、ジャブラに向かって神々しいウインクをする。
ギャサリンがジャブラの想い人である事は皆知っている。彼なりのお膳立てらしい。
が、ギャサリンがルッチに想いを寄せていることも周知の事実。
しかしジャブラは顔に似合わず頬を染め上げ、俺、呼んでくるぜ!と意気揚々と去って行った。
ルッチは険しい顔をしながら、命令とあらば、と支度を始める。
カクはいつの間にかロビンの隣に歩み寄り、すまんのう、少しだけ付き合ってやってくれ、と
苦い笑いを浮かべながら上司の非礼を詫びた。
麦藁の海賊船も相当賑やかなものだったが……ここは上司の頭が相当賑やかな様だ。
199
:
774万ベリーの賞金首
:2006/11/25(土) 15:31:44
198
とか、あったらいいな
過疎化ですな
200
:
774万ベリーの賞金首
:2007/08/04(土) 20:13:50
叫ぶ場所がないのでここで・・・
ルロビ激萌え!
201
:
モリアとペローナ
:2008/03/02(日) 12:52:14
TBの過去話としてのモリア×ペローナを投下
ペローナ自身はモリアには遊びで仕えていたと言ってますが、個人的にそうは思えなかったです。
対クマシーも含めて彼女の言動不一致はいつものことみたいな描かれ方ですし。
第一本当に遊びなら、くまに対してモリアの情報を一切言わずに挑みかかるなんて無茶なことをするわけがありません。
彼女が先に逃げようとしたのは、本気を出したモリアの強さに対する絶対的信頼があり、かつ自分がいては邪魔になると感じたからではないでしょうか?
拙い文章ですが目を通していただけると嬉しいです。
202
:
モリアとペローナ(1/11)
:2008/03/02(日) 12:53:07
「気持ち悪……それに身体痛ぇ……最高に……最悪……」
薄暗い船倉で覚醒したペローナは、憂鬱な気分で身体を起こした。もっとも、どこの馬の骨とも知れない海賊に攫われ、船に備品として押し込まれてからは全ての目覚めが最悪であったのだが。
しかし、いつもと違うことがいくつかあった。
まず、妙に辺りが静かだし、航海中特有の船の揺れもない。
どこかに停泊しているようだ。
「逃げられるかもしれねえ」
誰に言うでもなく呟くと、ゆっくりと立ち上がり、シーツで身体を拭う。少し前に使われたよくわからない薬が抜け切ってないのか、こすれる感覚が気持ち悪い。
しかも、床やら縄やらでついた細かい傷がちくちくと痛む。
とりあえずそれは無視し、目立つ汚れを拭い去ってから、部屋の隅に投げ捨てられている服を着る。唯一の私物である、お気に入りの熊のぬいぐるみも持っていくことにした。
軽い足音が船内通路に響く。人の気配は全くない。
本当に脱出できる希望が湧いてくると、生理的欲求が鎌首をもたげてきた。
……つまり、食欲だ。
「船の構造なんてわからねえし、それっぽい所を探すしかねえか」
食料庫は程なくして見つかったが、酷い事に酒樽と乾物しか見当たらない。
調理場にも殆ど何もない。
大きく溜め息をつき、唯一見つかったチーズを水で胃に流し込む。
それにしても、ボロっちい船だ。宝物なんてとてもありそうにない。
もし脱出できても無一文ではどうすることもできず、きっとすぐに今と似たような境遇になってしまうだろう。
203
:
モリアとペローナ(2/11)
:2008/03/02(日) 12:53:48
「なんか、何でもいいから金目のものぐらいねえのか」
しばらく歩き回ると、船長室らしい少し立派な扉を発見した。
船長の私物らしきものを漁りまわるも、金貨数枚しか見つけられない。
あまりの収穫のなさに涙が出る。
「なにもないのかよ……なにもない、なーんにもない。ねえクマシー、何とか言ってよ、ひっく。……言えっての!!!」
何も答えられないぬいぐるみを力任せに棚に叩き付けたところで、少し冷静さが戻ってきた。
「ああ、ごめんね、つい……」
ぬいぐるみを拾って、大きく深呼吸をする。ふと棚の上を見上げると、何かの影が目に止まった。
「果物?」
背伸びをして取ったそれは不思議な形をしていて。
気味の悪い唐草模様がついていた。
おそらく、船長室の棚の上なんて場所にあるということは大事な物なんだろう。
見た目は変だけれども、きっと美味しいに違いない。
とりあえず持っていくことにした。
ろくな物が見つからない船室漁りにも飽き、こっそりと甲板へ出る。
ずっと船室に押し込められていたため、時間の感覚があまりなかったのだが、どうやら夜だったようだ。湿っていて生温いとはいえ、久々に当たる外の風はなかなかに心地よい。
そして、予想通り船は島に横付けされている。
遠くには大きな建物らしき明かりが見え、無人島でもなさそうだ。
「よし、脱出だ!こんな何もない船沈んじまえバーカ!」
念のためもう一度だけ辺りに誰もいないのを確認し、ペローナはこの忌々しい船を後にした。
204
:
モリアとペローナ(3/11)
:2008/03/02(日) 12:54:36
「暗えし、道もねえし、お腹すいた……一休みするか」
その島は予想以上に広く、そして木がやたらと多くて道が狭い。船の上からだとすぐ近くに見えた建物の灯りも、思ったよりかなり遠いようだ。
持ってきた食料は瓶詰めの水とチーズ少々、そして船長室で見つけた果物が一つ。
あの建物で何かが売っているか、もしくは親切なバカがいるかでなければ飢死するかもしれない。
そのネガティブな想像を振り払い、木の根に腰を掛けて唐草模様の果物にかじりついた。
「うぇ、な、何これ、ま、不味いいいいいいい!!!」
とても人の食うものとは思えないその味に顔をしかめる。
だが、これでも数少ない食料のうちの一つなのだ。
大切な食料……食……。
「無理無理」
一口目は勿体無さが先に立って飲み込んだものの、冷静に考えてこんなものは人の食いものではない。諦めて投げ捨て、瓶から水を飲みチーズに手をつけ口直しをする。
ともかく本日2回目の食事を終えたペローナは少し元気を取り戻した。
建物まではまだ当分かかりそうだ。木をかきわけてゆっくりと進む。
このまま野垂れ死んでは本末転倒だ。
それにしても不思議なことがある。さっきの食事を終えてから身体がおかしい。
何となく視界が広いような気もする。何故だろう?
考えてもわからない。
205
:
モリアとペローナ(4/11)
:2008/03/02(日) 12:55:40
所変わって、島中央部の建物の中。
継ぎ接ぎだらけの生物数匹が忙しく動き回っている。
その大広間の中央部に二人の男が座っていた。
小太りの男が溜め息をつきつつ口を開く。
「それにしても今回の獲物は外れでしたな」
もう一人の恰幅のいい大男が笑いながらそれに答える。
「いつもいつも“将軍”級がかかるとは限らんだろうよ、ホグバック。
後はお前がやれ、キシシシシ」
「ところで、ちょっと気になることが」
「んぁ?面倒なことなら知らんぞ」
そう言うと、大男は心底面倒くさそうに大欠伸した。
「アブサロムの馬鹿が“幽霊”を見たと騒いでたんだが、心当たりはありませんかい?」
「奴がこの“スリラーバーク”に乗ってからどのぐれえだ?飛べるゾンビの何かを勘違いしたんじゃないのか。放っとけ、面倒くせぇ」
「なんでもその幽霊は半透明で“漂っていた”とか」
「ふむ……まあ、これだけゾンビがいれば幽霊の一匹ぐらい居ても不思議はねえだろう。じゃあ寝るぜ、今度こそな」
ドタドタと身体に見合った足音を立てて、奥へと消えていく主人を横目で見ながら、ホグバックは自分の次の仕事について考えを巡らせはじめた。
206
:
モリアとペローナ(5/11)
:2008/03/02(日) 12:56:39
「こんなに広いのに何もねえってのはどういう了見だ」
なんとか海賊たちに出会うことなく建物に辿り着き、その内部へと入り込んだペローナではあったが、なんともいえないその場所に閉口していた。
それに、数刻前から感じている身体の変調はひどくなるばかり。
まるで何人もの自分がいるような不思議な感覚。
地面の感覚もあいまいで、気を抜くと飛んでしまいそうだ。熱でもあるのだろうか?
話が通じる人間に出会わないのも気にかかる。
これまで十人ほどと鉢合わせたが、どいつもこいつも大怪我をしている上、どうも会話がかみ合わない。
しかも、理由は不明だが近付くと土下座して謝るのだ。
そのおかげで捕まったりはしていないのだが、一体どうしろというのだろう。
「ああ、腹が立つ!」
悪態をつきながら上へ上へと階段を上ると、突然視界が開けた。
巨大ではあるが随分とかわいらしいオブジェが並び、中央部には巨大な布団と枕。
その上に、大男が寝転がっている。
「な……なんだこれ!人間……か?」
思わず叫んでしまったペローナの声に気づいたのか、それともずっと前から気づいていたのか。
大男が面倒くさそうにその妙に長い首を起こす。
「あァ?失礼な奴だな、おめェこそ何だ……ゾンビじゃねえな、どうやってここまで入ってきた?
早く言わねえと“影”を取ってそこの窓から投げ捨てるぞ」
ゾンビや影という単語はともかく、それ以上によくわからない事を男が言う。
「どうやって、って……何のことだ?ここまで十人ほどに鉢合わせたが、誰も私を止めなかったぜ」
207
:
モリアとペローナ(6/11)
:2008/03/02(日) 12:58:35
「噛みあわねェ、質問を変えるか。まあ座れ、キシシシ!」
言うが早いか、ペローナの真横に椅子が投げ置かれた。大男の身体は一切動いてないにもかかわらず。
「話がわかるじゃねえか。何でも答えるぜ」
「まず、おれはこの“スリラーバーク”の主、“七武海”ゲッコー・モリア。お前はどこから、そして何をしに来た?」
「私はペローナだ。海賊船から逃げてきた」
その返答の何がおかしかったのか、モリアは大声で笑った。
「キシシシ!!そりゃあ残念だったなァ!ここに来る船は全て“夜討ち”して財宝を頂き放り出すことになってるのさ。
お前の乗ってきた船も今頃はボロボロで海の上だろうよ!」
「何、それは本当か?!」
「嘘を言ってどうする」
「あ、ありがてぇ……モリア、いやモリア様、あんた私の恩人だ。
ああ……うあ、うえええええん!」
「ぬ?おめェはゾンビ達を倒しながらここまで来たんじゃあねえのか?それよりおい、泣くんじゃねェ、おれは苦手なんだ、そういう面倒なのはよお……」
ちょっと前まで堂々とした態度と粗暴な言葉遣いをしていたというのに、いきなり泣き始めた少女。
単純に考えれば今晩の海賊の一味ではなく、単に捕まって船に乗せられていたということなのだろう。
だが、あんな弱小のチンピラ共に捕まるような奴が、例え“能力者”だとしても一人でこんなところまで来られるものだろうか。
いくら“夜討ち”で出払っていたとは言え、余りに不自然な……。
しかし、モリアの思考は開始わずか数秒で中断された。
ペローナが何の前触れもなく抱きついてきたからだ。
その体型や面相は置いておくとしても、海賊という職業からして彼は女というものに縁がない。
勿論何らかの下心ありきで言い寄ってくるゲスは居たが、文字通り“目の前”で唐突に泣き始めた少女に対する対応なんぞというものは管轄外なのであった。
「あー、泣き止めよ、頼むからよォ。何が悲しいんだよ、それともおれが怖ェのか?」
「ひっく、怖くも悲しくもねーよ!うう、ちょっとだけこうさせてろ」
「……好きにしやがれ」
208
:
モリアとペローナ(7/11)
:2008/03/02(日) 13:00:11
ようやく泣き止み、先ほどよりも随分と表情が和らいでいるペローナをとりあえず引き剥がして椅子に座りなおさせたモリアは、やれやれと溜め息をついた。
「ようやく落ち着いたか。で、おめェは何の“能力者”なんだ?」
理解できない質問にペローナが首を捻る。
「それは私に言ってんのか?」
「他に誰が居るっつうんだ、いいから面倒なく答えろ」
「いや、まったく意味がわからないんだが」
騙しているという感じが微塵も感じられないきょとんとした返事。
とはいえこの部屋まで華奢な少女が素通りしてきた時点で、能力者でないと考える方に無理がある。
「なら、“変な模様がついた不味い果物”を喰った事はあるか?」
「それならある!あまりに不味かったから一口しか食ってねーが」
「いや、一口で十分だぜ、キシシシ!」
「一口で?そんなにやべぇ物なのか?」
「あぁ……そいつは通称“悪魔の実”一口でも喰うと海に呪われる代わりに、すげえ能力が身につくって代物だ」
「げぇ!呪われる?!」
「大した事はねぇ、泳げなくなるだけよ。おめェが何の実を喰ったのかわからねェが、おれの“能力”を少し見せてやる」
言いつつ、モリアは少々困惑していた。
自分から何かを見せようとすることなど、今まであっただろうか?しかも、得体の知れない侵入者に対して。
普段なら即ぶち殺すか影を抜き取っているというのに。
ともかく、彼は自己紹介のため悪魔の力を発動させた。
床が揺らめき、泡立ち、黒一色の巨人が這いずり出し、そして立ち上がる。
「ひっ、化け物……」
「化け物じゃねえ。こいつは“カゲカゲの実”により生み出された“影法師”、おれの分身だ。
おめェも悪魔の実を喰ったんなら、まだ自覚はねえとしても何か出来る筈だ。見せてみろ!」
言うが早いか、“影法師”がペローナに向かい這いずってきた。
モリアにしてみれば、能力を見極めるのを兼ねたちょっとしたデモンストレーションなのだが、大抵の人間なら失神してもおかしくない光景である。
209
:
モリアとペローナ(8/11)
:2008/03/02(日) 13:02:12
「うえ、来るな!来るんじゃねえ!いやああああ!」
ペローナがその怪物に対して恐怖の叫びを上げた刹那、彼女の身体から半透明の何かが、不協和音を伴って大量に飛び出してきた。
……ホロホロ……ホロホロホロ……
「ぬ?!これは何の実だ?!“欠片蝙蝠”!!!」
かなりの速度で向かってくるそれらを受け止めるべく、影を散らす。
砲弾や斬撃、果ては炎までも受け止められる影の壁だ。
しかし。
ホロホロホロ…………
「ぐおおおおお!」
まるでそこに何もないかのように貫通してきた飛行物体が、モリアの巨体に吸い込まれていく。
それと同時に影法師は崩れて普通の影へと還り、そして……。
「……驚かせて悪かったああああ……おれは駄目な奴だ……
そうさ……部下の一人も守れねえ……人を信じられねえ……部不相応な野望を持った駄目な男だ…………うおあ……」
我に返ったペローナは、突然へたり込んで呻きだしたモリアに駆け寄った。
「おい、なんだよ、どうしたってんだ、モリア……ねえ!何とか言ってよ!私が何かしたのか?!
うう、ごめんね、なんかわかんないけどごめんなさぃ……」
結局“能力者”としての自己紹介はほぼ失敗に終わった。
なにせ何がなんだかわからないまま、モリアが立ち直るまで互いに泣きながら謝り続けたのだから。
210
:
モリアとペローナ(9/11)
:2008/03/02(日) 13:03:41
「本当にすまねえ」
「黙れ、気にしてないと言ってるだろう、面倒だから忘れろ。後、おれにくっつくんじゃねェ。ええと、“超人系”は何頁だったか……」
「むー」
謎の精神攻撃から開放されたモリアは、腹を背もたれにして離れようとしないペローナを可能な限り無視して、“悪魔の実辞典”をめくった。
数十年海賊をやり続け、“新世界”に侵入したこともあるモリアをして何の実か判らないということはかなり特殊な種類に違いない。
どちらにしろここまで自分のことを話し、かつ“カゲカゲ”では防げない能力の持ち主であることがわかった以上、選択肢は仲間にするか殺すかという二つに絞られている。
「……あんまり殺したくはねえなあ」
「なんか言ったか?」
「気のせいだ」
「なー、まだわかんねえの?」
「今調べてるんだから黙ってやがれ、喰っちまうぞ」
「いいぜ」
「あァ?」
「この角みたいなのは何でできてんだ?かわいいな!」
「自前だ馬鹿野郎」
「すげー!」
「うるせェつってんだろ!……お、こいつか。ペローナ、おめェ字は読めるか?」
「読める」
「なら自分で見ろ」
ペローナは分厚い古びた本を覗き込んだ。
−超人系“ホロホロの実”
−虚ろな心と人の魂を司り、自分の魂を分割しゴーストとして使役できる。
・ゴーストには視覚聴覚があるが、あらゆる物や攻撃をすり抜ける。
・ゴーストを他人の魂に重ねることで強力な精神攻撃を行える。
・ゴーストは霊現象を起こせる。
211
:
モリアとペローナ(10/11)
:2008/03/02(日) 13:05:38
「おお、これすげー便利じゃん!ホロホロ!座ったまま外も見えるぜ!」
“能力”を認識したペローナが、早速ゴーストを撒き散らし始める。
「嬉しいのはわかるが、おれにそれを向けるんじゃねえ。ところで、おめェ海賊は好きか?」
「大ッ嫌いだ」
「そうか、それは残念だ」
「え……あ……モリアは好きだぞ!今のところは!」
「まあいいさ。なら、海賊をぶっ飛ばしてみたいと思うか?」
「思う」
「結構な事だ。なら、おめぇ夢はあるか?」
「ある!」
「キシシシシ、なら決まりだな!ペローナ、おれの部下になれ。その代わりにおれはおめェの夢を可能な限り叶えてやる。どうだ!」
「おあ……本当にいいのか?」
「何だ、何か不満か?」
「不満は全然ねえが、私は……ホロホロは、モリア……様の役に立てるか?」
その返答を聞いた瞬間、モリアは実に嬉しそうに笑って、その巨大な両手でペローナを抱き上げた。
「立つさ、その能力はおめェが思ってるより遥かに強ええ。
おれには判る、もっと自信を持て、おめェはやれる奴だ!今よりもずっとな、キシシシシ!」
それにつられるかの様に、ペローナの顔にも久方振りの笑みが浮かぶ。
「自信はねえが、努力する。私は今からあんたについていくぜ。……でも、何故だ?」
「あァ?」
「正直、“七武海”の名を聞いた瞬間、私はあんたに殺されると思った」
「キシシシシ!」
「生意気で、適当で、何処の誰かもわからねえような……私なんかを……」
「ンッンー、素直じゃねえところかな」
「は?」
「独り言だ。まあ今日は休め、おめェよく見たらボロボロじゃねえか」
「ああ、そうする。なあ、モリア様」
「まだ何かあるのか?おれはもう寝るぞ、これでも仕事上がりだ」
「……ここで寝てもいいか?」
「早く目が覚めてもおれを起こすんじゃねえぞ」
212
:
モリアとペローナ(11/11)
:2008/03/02(日) 13:07:06
……ペローナ様!ペローナ様!お仕事のお時間です!
「んん、何だ、うるさいぞ……」
目を覚ますと、巨大な熊のぬいぐるみが目の前に立っている。ここ数年おなじみ、いつもどおりの光景だ。
それにしてもキモく低い声だ。もっとかわいらしく喋れないものか。
ぬいぐるみに喋ってほしくて仕方なかった昔の自分を殴ってやりたい。
「んなこたー判ってる!喋るんじゃねえっていつも言ってるだろ、クマシー!」
「おああ、ですが今日はお休み中随分とうなされたり笑ったり、何か変でしたもんで……」
「喋んじゃねえつってるだろうが!!!」
拳がぬいぐるみの口元を直撃する。
「おうっ!おお……」
「……ちょっと、昔の夢を見ただけだ。気にするな」
「それはようございました」
「しつこい、黙れ、かわいくなくなる!!!」
「おお……」
「さて、仕事にかかるか。クマシーはその辺で静かにしてろ」
「はい、ペローナさ……うごぁ!」
「だから喋るんじゃねえ」
まだ口をもごもご動かそうとしている熊のぬいぐるみ……カゲカゲの力で動いているゾンビなのだが……を無視し、精神を集中させる。
今はもう慣れ親しんだ感覚、気持ちのいい浮揚感を伴って大量の幽体が身体から抜けていく。
それらは壁を抜け、空を飛び、あらゆる情報を取り込んでご主人様や、私以外の“怪人”へ届けられる。
私はこの巨大海賊船“スリラーバーク”の目であり耳だ。
私は海賊が嫌いだ。……モリア様以外は。
人に従うのも大嫌いだ。……モリア様以外には。
霧の中に、中型の船が見えてきた。
ひまわりだか太陽だかわからない無駄にかわいい船首がついているし、変な形はしているが、髑髏を掲げている!海賊船だ!
こいつらの影はどれぐらいご主人様の役に立つだろうか?
モリア様は私の夢をほぼ完全な形で叶えてくれた。
今度は私がモリア様の夢を叶える番だ。
213
:
モリアとペローナ
:2008/03/02(日) 13:12:00
以上です。
構想段階では最初と最後に少しエロ成分が入っていたのですが、別にそれがメインでもないし
入れるとエロパロの方に貼らざるを得ないので結局削除しました。
モリア一味は敵役にしては固い絆で結ばれていて好感が持てます。
時間があればアブサロムやホグバックの話も書いてみたいです。
お付き合い頂きありがとうございました。
214
:
774万ベリーの賞金首
:2008/03/02(日) 19:53:25
何となく覗いたらまさかの新作投下ktkr
エロ分削ったらしいけど、この展開ならエロ無い方が萌える気がする
ペローナかわいいよGJGJ
215
:
774万ベリーの賞金首
:2008/03/04(火) 10:56:35
GOOD!
216
:
苺屋★
:がぼ〜ん
がぼ〜ん
217
:
774万ベリーの賞金首
:2008/03/19(水) 07:40:26
書き手が増えればいいなあ
218
:
774万ベリーの賞金首
:2008/04/08(火) 00:29:00
GJ!ペローナ可愛いよペローナ
219
:
774万ベリーの賞金首
:2008/10/14(火) 02:07:59
過疎ってんなー
ペローナは人気www俺も好きだけどwww
220
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:18:58
少し前に他スレにうpしたやつですがこちらの方が趣旨に合いそう&
スレ活性もかねて投下してみたいと思います。
内容……名前欄の通りハンコック×ルフィ(むしろハンコック→ルフィかも)
インペルダウンに向かう船の中での話で(今の所は)原作に沿った内容です
拙い文章ではありますが一読してもらえたら嬉しいです
221
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:19:22
「〜〜。〜〜〜〜!」霞みがかった意識の中、眼前で誰かが会話をしている。
話の内容はよく分からなかった。ここがどこなのか、目の前のそいつが男なのか女なのかも。
ただ、酷く嫌な予感がする事は確かだった。
逃げなきゃ――
そういって、盛んに頭が警鐘を鳴らして来るが、身体は動かない。四肢を鎖に繋がれている上、屈強な男達に両腕をがっちりと押さえつけられていれば、それも当然であった。
やがて目の前のそいつがこっちを振り向いた。頭に透明の金魚鉢の様なものを被った、何とも珍妙な出で立ちだったが少しも笑う気にはなれない。むしろその下から覗かせる狂気じみた笑みと相俟って、余計に恐怖を煽りだたせる。
「ふん」
怯えの混じった自分の瞳をにやにやと見つめながら、そいつが立ち上がった。そのまま――まるで珍獣でも眺めるかの様に、自分の周囲をゆっくりと歩き始める。
抵抗は……しなかった。したところで意味が無い事は、捕まってからの短い日々の間でも、嫌という程覚え込まされている。
「う……うぅっ……」
恐怖からか、それとも耐え難い程の屈辱感からか。おそらくはその両方だろう。もはや何十回目になるのかも分からない涙が頬を濡らした。
滲みゆく視界の中、女ケ島での辛くも楽しかった日々が、次々に浮かんでは消えていく。
親愛なるアマゾンリリーの土を踏む事は、もはや無いのかも知れない。このうえは少しでも長く、故郷の記憶に縋り付いていたかった。
――だが。
「ここに……決めた!」
そんなささやか願いすら、その一言であっさりと切り捨てられる。
はっと顔を上げた自分の前に、再びそいつが立っていた。ただし最初と違うのは、顔中に満面の笑み――それも嗜虐に溢れた――を浮かべている事、そして……もう一つ……が……。
「〜〜〜〜っ!?」
『忠告』の事すら頭から消え、鶏の様な悲鳴を上げる。この場から逃げ出そうと必死に抵抗するが、それでも、腕一つ満足に動かす事ができない。
「◆@¢♪〜っ!」
その間にも、そいつは手にした焼き鏝を視界にちらつかせつつ、ゆっくりと背後へ回っていく。
あまり島から出た事が無い自分でも、あれが何を意味するのかは一目で分かった。あの棒を押し付けられた瞬間から、自分は人間でいられなくなるのだ。奴らの奴隷として、所有物として、一生を惨めに送り続けなけれねばならない。
――嫌!――嫌っ!!――嫌ぁっ!!!
もはや半狂乱になってもがき続ける自分に、男達も勘忍袋が切れたらしい。背中と腹に容赦無い一撃を浴びせられ、その場へ跪く。
訪れた痛みと嘔吐感で、全身が強張りかけた――その時。
「――――!!」
背中から感じる熱が、全ての感覚を忘れ去せた。
「※%●#〜〜っ!!」
幼児の様な奇声を上げながら、そいつが赤銅色に輝く棒を一気に押し出し――
222
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:20:01
「――――!!」
声にならない叫びを上げながら、無我夢中で跳ね起きた。拳を無茶苦茶に振り回して――その全てが虚空を切っている事に、気付く。
(ゆ……め……?)
意識がはっきりしないものの、おそらくそうだろう。熱も痛みも無いのが何よりの証拠だ。自覚した瞬間、止まっていた呼吸が、ようやく活動を再開する。
本当に、最悪の寝覚めだった。昔の、奴隷だった頃の夢。あまりの悍ましさに、未だ動悸は収まらず、肌も氷の様に冷えきっている。
(ただの……夢じゃ――)
深呼吸をしながら、事実だけを何度も復唱する。そんな作業を繰り返している内に、ようやく呼吸が整ってきた。
深く息を吐き出すと、顔を上げ、周囲を見渡す。
(――暗い)
見たままの感想だった。おそらくは未だ真夜中に違いない。若い海兵達の掛け声も、窓の外からこの部屋を覗き見ようと企む薄馬鹿者たちの気配も、今は何一つ感じられなかった。
本当に静かな夜だった。――果たしてここは現実なのだろうか?そんな思いすら湧いてきそうになる。
(馬鹿馬鹿しい!)
吐き捨てる様に頭を振ると、真正面から闇を見据える。時間が経つにつれ、黒一色だった世界は、徐々に正体を顕していく。
――カーテンの降りた丸窓、シンプルと堅固さを前面に出した家具・調度品……
この数日にすっかり見慣れた風景が、そこにあった。
(海軍の船室じゃ。間違い無い――)
ほっと息をつくと同時、身体の緊張が抜けたのが分かった。余程力んでいたのだろう。肩の辺りが、ずっしりと重い。
『不様』
肩を揉みほぐしている自分に、そんな言葉が心を過ぎる。
確かに、たかが夢の一つでこうも取り乱すなど、とんだお笑い草である。この場に自分の部下達がいたら、さぞ驚いただろう。あるいは――
(失望される……かもしれぬな)
胸の内で呟きながら、口を皮肉げに歪める。
彼女達の思う蛇姫とは、強く、美しく、何者をも恐れない、勇敢なる九蛇の皇帝の事だろう。そのイメージを作ったのは自分であり、現実、彼女達の前ではその様に振る舞った。それ以外の顔を見せた事は無かったし、見せる気も無い。とはいえ――
「まあ……よい」
ふう、と息を吐き出すと、そのまま思考を打ち切った。
何がどうあれ、さっきの自分の姿を見た者は誰もいない。仮定の話を気にした所で意味は無い。
「ふふっ……」
と――解決にならない答えだけはすらすらと導き出される事に、つい自嘲の笑みが浮かぶ。
一段と深くなったため息の音が、辺りを支配した。
(気分を入れ換えよう)
せき立てる様にそう決断し、視線を向ける。汗をかいたせいか、随分と喉が渇いていた。テーブルの上に水瓶が置いてあったのを思い出し、立ち上がりかける。が、
(――!?)
どういう訳か、膝に力が入らなかった。そのままバランスを崩し、前へつんのめる。未だ下半身を覆っていたシーツが勢いよくめくられた。そして――
(あ……)
露になった下半身を見て、呆然とする。足が……震えていた。
――記憶は始終蘇る――
223
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:20:45
九蛇城で『彼』に語った言葉が脳裏を過ぎる。四年もの間毎日の様に行われた虐待の日々は、もはや忘れ去る事などできぬのだろう。
苦痛・恐怖・絶望・死への誘惑……繰り返し刷り込まれた負の感情が、渦の様に頭を掻き乱す。
ここが海軍の……もとい、忌まわしき世界政府の船という事もあったのだろう。何処へ行こうが逃げられない――そんな声が聞こえた気がして、心が、身体が、悲鳴を上げる。
そして――
(――――――!!)
燃える様な背中の疼きが、自分が人間以下の存在であった事を、ありありと蘇らせた。
恐怖に凍った身体が、背中に浴びた焼鏝の熱が、助けを呼びながら狂った様に泣き叫ぶ自分の姿が――何度も何度も脳裏に瞬く。
五体を引き裂かれんばかりのトラウマに、震えが、寒気が、吐き気が止まらなかった。だが――
(……っ!)
それでも尚――唇を噛み締め、絶叫を張り上げそうになる口を必死に押さえ込む。
逃げ場など元より有りはしない。ただただ、耐える他なかった。
……どれくらいの時間が過ぎたのか。
気が付けば膝を抱えたままベッドにうずくまっていた。背中がまだ疼くものの、何とか『嵐』は過ぎ去ったらしい。
身体に異常――自傷の跡など――が無い事を確認すると、ふらふらと顔を上げる。
「…………」
部屋の内も外も、依然変わらない様子だった。結構な時間が経過したと思っていたが、この分ではまだいくらも経っていないのかもしれない。それどころか……。
――もし、このまま朝が訪れなかったら?
そんな、ぞっとする様な想像が頭に浮かび、思わず身を竦ませる。憔悴しきった心では、自身を強く保つにはあまりにも脆弱であった。
――結局……今の姿こそが本当の自分ではないのか?
(それは――)
違う、と言いかけて――そのまま口ごもる。
何が違うと言うのか……。ここにいる自分は、九蛇の蛇姫でも、王下七武海の海賊女帝でもない。過去のトラウマに未だ怯え続ける、一人の元奴隷だった。
「……」
ぎゅっと、唇を噛む。分かっていた事だった。いくら国を騙し、人の上に立とうとも、奴隷だった過去が消える事は無い。
むしろ、背負うものが大きくなるほど、自分達の目が届かなくなる事に不安を募らせた。
――いつまた、全てを失いやしないか――
そんな焦燥感が、いつしか一切の隙も見せない程に心を凍てつかせた。目は濁り、感情を表に出す事すら、滅多に見せなくなっていた。それでも――
「……っ」
溢れ出した感情が、視界を滲ませた。
それでも――誇りを失くし、蔑まれるだけの存在となった自分達が、再び平穏を手に入れるには……これしか方法が無かったのだ。
「う……ああっ……!」
もう、何も思いはしなかった。熱くなった目頭から、涙がぼろぼろと零れ出す。
誰一人とて信用できない。いつ正体が暴かれるかも知れない。そんな気持ちで孤独に過ごす夜を、あとどれだけ乗り越えていかねばならぬのだろう。
身体が再び強張る。行き場の無い閉塞感だけが重く心にのしかかったまま、ひたすら怯え、震え、涙を流し続ける。――その時だった。
224
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:21:37
「……?」
ふと、胸の辺りに違和感があった。濡れた目を拭い自分の体を見る。暗がりなのでよく分からないが、どうも自分の身体に何かが纏わり付いているらしい。
自分の蛇だろうか?
そう思い、軽く触れてみたが、その感触はまるで違った。掌から伝わる温もりや、肌触りなどは、まるで人間の腕のようであり――
「え?」
思わず声を上げた。人間の腕?何故そんなものがこの場に存在するのか?
この部屋にいるのは自分とあと一人だけの筈で――
(――まさか!?)
そう思った直後だった。ぎゅっと、『腕』からの締め付けが強くなる。――そのまま、まるで野菜でも引っこ抜くかの様に、身体が宙へと舞い上がった。
(〜〜〜〜〜〜!?)
訳が分からぬまま、目線だけがベッドから天井へと、目まぐるしく移り変わる。
つかの間の浮遊感を味わった後、今度はそのまま床を目指して、一気に落下した。
(このままでは――)
流石にこの高さから落ちれば無傷とはいかない。何とか体勢を整えようと意識した直後――徐々に速度が緩やかになり、そのまま、ぼん、と何かにぶつかった。
逞しい肉の感触に、少しの間きょとんとし――やがて理解する。自分を持ち上げたものは何か?何に受け止められたのか?
どくん、と心臓が跳ねた。喉を鳴らすと恐る恐る……彼の名を呼ぶ。
「ル…ルフィ。そなた一体……?」
彼――この部屋にいるもう一人の人間であり、自分がこの船に乗り込む理由となった『男』――モンキー・D・ルフィの事だ。
その彼から……一向に返事が来ない。
「ルフィ……?」
もう一度呼びかける。が、結果は同じだった。首を傾ける。自分の声が聞こえなかったのだろうか?
(いや……)
そんな筈は無い、と思う。この距離で、その上抱きつかれて、もとい――巻き付かれたままでの状態で、自分の声が届かない訳が無い。
(ならば――)
何故、と自問をしかけた瞬間、はっ、と気付く。二人だけの船室……暗闇……。
ルフィが無言なのも、そのつもりなら、至極納得がいく。
「ル……ルルルルフィ!?そなた……もしや!?」
完全に予想だにしなかった展開に、声が裏返った。その刹那――
「――――!」
本当に僅か。まるで花を摘むかの様に、優しく抱き締められる。言葉よりもまず行動ありきな、何とも彼らしい返答だった。
「武々の時も……そうじゃったな」
彼の体温を感じながら、そっと笑みを浮かべる。やはり自分の予想は正しかったのだ。そう確信した瞬間、一気に心臓が跳ね上がる。
(ルフィ……)
頬に手をやるまでもなく、顔が上気している事が分かる。気まぐれか、本能なのか。はたまたこの二、三日の付き合いで、自分の想いが通じたとでもいうのだろうか?
いくつもの思いが絡み合い、頭を駆け巡る。だが――
(そう……じゃな)
いくら考えた所で、彼の心の内など分かる筈も無い。分かりきった答にさっさと見切りを付けると、そのまま目を閉じた。自問する。
抱き締められた事以外に、ルフィからのアプローチは無い。受け入れるか、否か……全ては自分の意思次第なのだろう。
時間をかけて考える。そして――
225
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:22:01
――だからおれ、天竜人嫌いなんだって!!
屈託ない顔で、そう言い切った彼の姿を思い出して、目を開ける。
「そなたに……なら」
決意を固め、頷く。もう迷いは無かった。
「ルフィ……」
消え入りそうな声で彼を呼ぶと、そのまま彼の身体へと寄り掛かった。閉じた瞼の裏側で、じっと、その時が来るのを待ち受ける。
顔が、身体が熱かった。心臓ももはや破裂しそうな程の勢いである。彼がこれから何をするのか。自分はどうなってしまうのか。
不安と期待が心を占領し――
「…………」
そのまま、たっぷり10分は過ぎた――と思う――所で、ようやく我に返った。
「ル、ルフィ……?」
何一つ起こらない事に困惑しつつも、とりあえず呼びかけてみる。やや間があったものの、先程同様に、身体が優しく包まれた。
「ああ、ルフィ」
満足感に浸りながら、再び彼の胸へと身を埋めた。
「…………」
更に5分。今度はきっちり数まで数えていた。なのに……一向に変化が無いのはどういう事なのか。
「ルフィ……」
沸き上がって来る疑問に耐え切れなくなて、目を開く。とはいえ、いかんせん真っ暗闇な上に、未だ寄りかかったままの状態である。顔の輪郭などは分かるものの、表情までは読み取れない。読み取れなかったのだが……。
(……っ)
何故だか、どうしても彼から目を離せない。首を左右へと向けてみたが、視線だけはしっかりと彼を捉えていた。
(まるで……サウスバードじゃな)
常に南を向いているという、奇妙な鳥の事を思い出して、苦笑する。こんな事、以前の自分ならば決してあり得なかった。つまりはそれだけ、彼に心を許しているのだろう。
「…………」
沈黙のまま時間が過ぎていく。密着と言っても差し支えない距離。彼の息遣いを感じる度、前髪が軽く額を撫でる。
悪くない気分だった。思えばこうやって他人を見上げていた事など、奴隷の頃を除けば、記憶に無い。ましてや――自らの意思でそうするなど……。
(……)
進んで他人に身を委ねる。そんな日が来るなど、思ってもみなかった。何だか自分が頼りなく見え――そしてそれ以上に、彼が頼もしく思えた。
(あ――)
気付けば、彼の吐息が自分の鼻先にかかっていた。いつの間にか、近付き過ぎていたらしい。
(離れないと――)
そう思い、顔を引こうとしたのだが……止まらない。高ぶった身体が、感情が、自分の身体を突き動かせる。
(――――!!)
そうこうする内に、彼との距離が徐々に迫っていく。互いの鼻先がちょん、と触れ合い――そのまま擦る様に進んでいく。傾いた視界一杯に、彼の唇が映っていた。
もう止まらない。止められなかった。ぎゅっ、と目を瞑り、数瞬先にやって来るであろう未知の世界を待ち受ける。予想とは少し違う形になったが、これはこれで良かったのかもしれない。
そんな思いが頭に浮かんだ――その時だった。
226
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:22:31
「……の飯だぞ……ップ……」
「……え?」
唇が触れ合う寸前、ルフィの口から飛び出した言葉に、はたと動きを止める。
『飯』
……彼らしいと言えなくもないのだが、こんな場面ですら口にするものなのだろうか?さっきからのちぐはぐな行動といい、どうにも普段の彼とは様子が違う気がした。――その瞬間。
「だから、これは俺の飯だっつってんだろ!?ウソップ!」
外に漏れそうな程の叫び声を上げたルフィが、ぐいっと自分を引き寄せた。まさかという思いで彼の腕を強引にほどくと、正面から顔を覗き込む。
「や……やはり……」
力無く呟いて、がっくりとその場に落胆する。――案の定、その目は固く閉じられていた。
「……ふ……ふふ……」
乾ききった笑いが止まらない。寝ぼけた彼に食料と間違われた事がショックなのか。それとも自分の空回りっぷりに呆れ果てているのか。理由は分からない。
どちらにせよ確実に言える事は……彼の気持ちは単に自分の想像に過ぎなかったという事だった。
「考えてみれば……まだ名前すらまともに呼ばれておらぬのじゃったな……」
船に乗って以来、どうにも妄想が膨らみがちの毎日ではあるが……現実には未だ『お前』や『ハンモック』扱いである。どうひいき目に見た所で、親しいという印象には思えなかった。
――何も進展してなどいない。
冷静になった自分からの、図星ともいえる指摘に、一層表情を暗くする。確かに、愛しき人との航海とはいえ、少々はしゃぎ過ぎていたかもしれない。その上今の彼は、逸れた仲間や兄の事で、頭が一杯だった。
日ながずっと、兄や仲間の物であろうビブルカードを見つめている事からも、よく分かる。
「はあ……」
すっかりしゅんとして、ため息を漏らす。
少なくともこの戦争が終わるまでは、彼の心の中に自分の居場所は無いのだろう。そうだとしたら、彼の目が覚めなかったのは本当に幸いだった。
起きている時に、こんな空気の読めない勘違いをしていたなら……。
「〜〜〜っ!!」
ぞっとする程の結末が頭をかすめ、思わず首を振った。ここで冷静になれたのは、かえって良かったのかもしれない。
(少し……自重せねば……)
明日にはいよいよインペルダウンに着く。今回の事を抜きにしても、気持ちを切り替える時機ではあった。立ち直るきっかけを掴み、少しだけ平穏を取り戻す。
あとは素早いものだった。背筋を伸ばし、力の抜けた身体に喝を入れると、たちまち女帝の顔を取り戻した。
(そなたを、無事に送り届けねば……な――)
すやすやと眠るルフィを見つめながら、きりっ、と口を引き締め――
はたと気付いた。
「え……?」
一瞬、何の事か分からずに、きょとんとする。『力の抜けた身体に喝を入れた?』
おかしい。つい先程まで、自分の身体はがちがちに強張っていた筈だ。それ以前に、自分は酷いトラウマに襲われていた筈で……。
若干の戸惑いを感じながら、胸に手を当ててみる――が、何の感情も湧いては来ない。強張った身体も、張り裂けんばかりの慟哭も、綺麗さっぱり無くなっていた。というか、むしろルフィの顔と先程の自分の失敗の事ばかりが頭に浮かんで来てしまう。
「……」
余程呆然としていたのか。閉じていた口がまた開いていた。半ば無理矢理に押し込めると、後はそのまま沈黙が続く――が、
「はは……悪ぃな……ップ……」
そう言って寝返りをうったルフィが視界に入ると、我慢も限界だった。
「……ふ……ふふふふ……!」
笑った。声を上げて笑った。皇帝ともあろう自分が、海賊女帝ともあろう自分が、こんな真夜中だというのに可笑しくてたまらない。
――本当に、自分は何に怯えていたのだろう。こんな事で。こんな単純な事で。あっさりと霧散する様な記憶に、何を怯え続ける必要があったのだろう。
考えれば考えるほど馬鹿馬鹿しくなり、更に笑いが込み上げるのだった
227
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:22:50
「……ふう」
しばらく笑った後、ようやく息をついた。
「また……そなたに助けられたのじゃな」
目元に溜まった涙を掬いつつ、ルフィにくすりと微笑みかける。
何はともあれ、彼が二度も助けてくれた事実に変わりは無い。ここ数日の事も、おそらく恋愛的な意味では何も進んでないのだろうが、そもそも初めは「ムカつくなあ」とまで言われたのだ。それを考慮すれば、充分過ぎる程の進展といえる。
「ありがとう。ルフィ」
気持ちが軽くなったからだろうか。気付くと自分でも驚く程素直に、感謝の言葉を口にしていた。島の者――特にニョン婆辺りが聞いていたなら、今頃は卒倒していたかもしれない。
泡を吹いて倒れる老婆の姿を脳裏に浮かべつつ、ゆっくりと顔を上げる。気のせいか。目を離した瞬間、彼の口元が微かに笑っていた様な気がした。
(もうすぐ夜明けじゃな)
ぼんやりと明るくなったカーテンの真下を見つめて、呟く。ちらり、とめくると、水平線の真ん中より、徐々に光がともりつつあった。 ――明けない夜なんて無い。
そんな声が聞こえてきそうな程、雄々しく姿を現し始めた太陽に、しばし心を奪われる。
航海中の朝焼けなど、もはや珍しくもなかったが、今日ばかりは不思議と格別に美しく見えたのだ。
結局、日の出までそのまま見てしまった。
「……っふ……」
カーテンを戻した後、不意に出かけた欠伸で、ようやく自分が禄に寝ていない事を思い出す。美容的な部分を抜きにすれば、さして問題は無いのだが……あと何時間後にはインペルダウンに着く事を考えれば、体調は万全にしておかなければならない。
――少し眠ろう。
そう思ってベッドに足を踏み出しかけた時、不意にルフィの寝ているソファが目に入った。同時に、にんまりとする。
「少し……少しの間だけじゃ」
そう自分に言い聞かせて、ルフィの横に腰掛けた。そっと彼の頭を抱えると、慎重に自分の膝上へと降ろす。
「ふふっ」
彼の頬を撫でながら、そのまま至福の時間が過ぎていった。
228
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:24:34
霞みがかった意識の中、焼き鏝を手にしたそいつが、にやついた笑みを浮かべて自分の背後へ進み出す。
とはいえ、以前の様な震え上がる程の怖さは無かった。むしろ相変わらず奇妙な姿だ、と笑いすら込み上げそうになる。
「※%●#!!」
そんな自分の態度がお気にめさなかったらしい。意味不明な叫び声を発しながら男が自分の背中に鏝を宛てがった。流石に平常心のままとはいかず、背中から感じる熱気に、ぞくりとした恐怖が湧き上がる。
――だが、
「わらわは……もう誰にも支配されぬ!」
彼の姿が脳裏に過ぎったその瞬間、高らかに宣言した。と同時に、強張りかけていた身体に再び力がみなぎって来る。ぼろぼろだった姿も、元の服装に戻っていた。
「邪魔じゃ!」
両腕に纏わり付いた男達を一瞬で片付けた。が、僅かに遅かった。振り返った自分の眼前に、そいつが――天竜人が、勝ち誇った笑みを浮かべて手を突き出して来る。
――間に――合わない!
脳が下した絶望的な結論に、覚悟し、目を閉じかけた――その時。
「――の!JETバズーカ!!」
天から降り注いだ、まさしく救世主の様なその一声で、目の前の手から赤銅の棒が弾き飛んだ。そいつが武器を失った事すら気付かない程の速さで、ただ一言、発する。
「芳香脚!」
渾身の力を込めた蹴りが天竜人の眉間に炸裂した。首から先を石化させたそいつが、一瞬後、血の一滴すら噴き出す事無く、粉々になった。
「やったな!ハンコック!」
肩で息をついている自分の背後で、彼の嬉しそうな声が聞こえた。彼が自分の名を正しく呼んだ事は無い。おそらくはこれで、この夢を見るのは最後となるのだろう。
そんな確信めいた予感と共に、後ろを振り返る。泣きだしそうになる顔を笑顔に変えると――彼の元へと駆け寄った
229
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:24:56
「さあ、服の中へ」
船がインペルダウンへと到着してから数刻、部屋の外でまだかと急かす海兵達を尻目に、マントをたくし上げたハンコックがルフィに囁いた。「ああ」と神妙な顔で頷いたルフィだったが、
「……ところでお前、何でさっきは俺の横なんかで寝てたんだ?」
何気無い顔で質問すると、ハンコックの身体がびしりと固まった。「そ、それは……」と、たちまちしどろもどろになる。
あの後――ルフィの顔を自分の膝に置くと、そのまま寝てしまった。もっとも、彼は起きて来るのがかなり遅い。滅多な事では自分の方が先に起きるだろうと計算しての事である。だが、
――甘かった
ハンコックが、がっくりと肩を落とした。流石の海賊女帝も、眠気と疲れには勝てなかったらしい。気が付けばルフィに起こされていた上――それだけならまだ良かったのだが――起こされた時の姿が色々と大問題だった。
(あの……あの夢が悪いのじゃ……)
脳裏に、天竜人を倒した後に繰り広げられた、ルフィとの熱いロマンスが、ありありと蘇る。実際は単にルフィの寝相が悪かった所為なのだが、半裸に近い状態で、お互い組んづほぐれづな体勢になっていれば、あまり意味の無い事ではあった。
「なあ、何でだ?」
落ち込みながら赤面するという、何とも器用な事をやってのけるハンコックに、ルフィが追求する。当然答えが返って来る訳も無く、「ああ…」やら「ううっ」やら、普段の彼女からは想像もつかない様子でうろたえている。
最初の方は彼女の出方を待っていたルフィだったが、やがて段々と面白くなって来たらしい。
結局、彼女が我を取り戻すまで、一緒になって付き合っていたのだった。
「よぉし!エースを助けに行くぞぉ!」
仕切り直しとばかりに言い放って、ルフィがハンコックのマントをめくり上げる。無言で頷いた彼女と一瞬目が合うと、にっと笑いかけた。
「よろしくな!ハン…ック」
「……え?」
囁く程の小さな声だったが、ハンコックは呆気に取られた。最後の辺りがよく聞こえなかったが、まさか――
「そ……そなた今……!?」
言い出しかけた直前、扉から再び催促の声がした。
「時間がねぇ!早く!」
「う、うむ……」
聞き間違いだったのだろうか――マントの位置を手早く直しつつ、さっきの事を考える。が、
(まあ、また出会った時でよい……か)
どうせすぐに会える。そんな確信めいた予感を胸に抱いて、扉へと歩き出す。
それからおよそ30分後、彼女は幸福の絶頂を味わう事になるのだが――
無論、この時の彼女が知る由は無かった。
230
:
ハンコック×ルフィ
:2009/11/27(金) 20:47:25
以上です。気付けば
少年誌の枠に沿ったラブ場面
ルフィと共にトラウマを克服するハンコック
ルフィとの共闘シーンなど、
自分がこの二人に求めるシーンを全部書いてしまいました
またこの二人で何か思いつけば書いてみたいなと思います
お付き合いありがとうござました
231
:
774万ベリーの賞金首
:2012/01/10(火) 11:11:47
テス
232
:
774万ベリーの賞金首
:2016/04/12(火) 01:10:23
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233
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