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【場】『 湖畔 ―自然公園― 』

1 『星見町案内板』 :2016/01/25(月) 00:04:30
『星見駅』からバスで一時間、『H湖』の周囲に広がるレジャーゾーン。
海浜公園やサイクリングロード、ゴルフ場からバーベキューまで様々。
豊富な湿地帯や森林区域など、人の手の届かぬ自然を満喫出来る。

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                 ミ三ミz、
        ┌──┐         ミ三ミz、                   【鵺鳴川】
        │    │          ┌─┐ ミ三ミz、                 ││
        │    │    ┌──┘┌┘    ミ三三三三三三三三三【T名高速】三三
        └┐┌┘┌─┘    ┌┘                《          ││
  ┌───┘└┐│      ┌┘                   》     ☆  ││
  └──┐    └┘  ┌─┘┌┐    十         《           ││
        │        ┌┘┌─┘│                 》       ┌┘│
      ┌┘ 【H湖】 │★│┌─┘     【H城】  .///《////    │┌┘
      └─┐      │┌┘│         △       【商店街】      |│
━━━━┓└┐    └┘┌┘               ////《///.┏━━┿┿━━┓
        ┗┓└┐┌──┘    ┏━━━━━━━【星見駅】┛    ││    ┗
          ┗━┿┿━━━━━┛           .: : : :.》.: : :.   ┌┘│
             [_  _]                   【歓楽街】    │┌┘
───────┘└─────┐            .: : : :.》.: :.:   ││
                      └───┐◇      .《.      ││
                【遠州灘】            └───┐  .》       ││      ┌
                                └────┐││┌──┘
                                          └┘└┘
★:『天文台』
☆:『星見スカイモール』
◇:『アリーナ(倉庫街)』
△:『清月館』
十:『アポロン・クリニックモール』
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613 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/17(日) 06:56:01
>>612(訂正)

>気になったのは彼女の精神性の方だ。
>彼女の心は妙に『達観』しすぎている……

× 彼女 → ◯ この子

614 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/02/17(日) 22:53:32
>>612

未熟者の千草には、空織さんが心配してくれていることは気付きませんでした。
もし気付いていたなら、きっとお礼を言ったでしょう。
それができなかったのは、とても残念なことだと思います。

「……そうですね」

「難しいと思います」

空織さんに向かって、ニコリと笑ってみせます。
でも、上手くできたかどうかは分かりません。
口の中で、『でも』と小さく付け加えました。

「――ありがとうございます」

       ペコリ

名刺をもらう機会なんてないので、なんだか緊張します。
でも、少しだけ大人になれたような気分も感じました。
だから、なんとなく誇らしげな表情になっていたのだと思います。

「『トイレ』――ですか」

      ザック ザック

「少し待っていてもらえますか?」

「――今、『用意』します」

至って真面目な顔で、空織さんに呟きます。
同時に、『墓堀人』がシャベルで地面に穴を掘り始めました。
ほんの少しして、その動きが唐突に止まります。

      クスクス

「『冗談』です」

「ビックリしましたか?」

        ズズゥゥゥ……

表情を子供っぽい笑い顔に変えて、空織さんに言いました。
『墓堀人』がシャベルを肩に担ぎ直すと、穴が消えて地面が元通りになりました。
『墓堀人』は千草に重なり、その姿が溶けるように消えていきます。

「あっちです」

「この辺りで練習しているので、どこに何があるか知ってるんです」

一角を指差して、空織さんを案内して歩き出します。
これも立派な人になるための――『素晴らしい死に方』をするための一歩です。
まだまだ道のりは長くて遠いですが、一つずつの行いを積み重ねていけば、
いつか叶えられると信じています。

615 空織 清次『エラッタ・スティグマ』 :2019/02/18(月) 00:58:03
>>614

「えっ、いやそれは待…………」


「…………………………………
 …………………………………」


「……………………生まれて初めての経験だ、
 『ハカホリニンジョーク』を食らったのは」

「もしわたしが自分の店を手に入れたら、
 君にはトイレ工事をさせてやるからな」


年相応のいたずらっぽい笑みを浮かべる千草に向け、
座り目で抗議の視線を送る。
たっぷり数秒ジトーっと睨んだあと、
こらえきれず吹き出すみたいに笑った。
目を糸みたいに細めて微笑む。


「おっと、今度はちゃんと案内してくれるのか?

 それは『落とし穴に』とかじゃないだろうな?
 なんてな、冗談だ。
 フフ。ありがとう……」

千草を追って足を踏み出しながら、
肩越しに地面を振り返る。

   チラ

「(穴が一瞬で消えている。
  これがこの子のスタンド……か)」

「(この無言の墓掘り人は、いったい
  この子のどんな心を表象しているのだろう?

  ………だがそれを知るには、今はまだ……)」


首を振り、前方に向き直ろうと顔を上げたとき、
わたしはわたしの肩に誰かの手が
乗せられていることに気づいてハッと息を呑む。

それはさっきまで
梢の向こうでわたしを俯瞰して見ていた
もう1人のわたしの手だった。

わたしの耳元に顔を寄せて彼はささやく。

  『おまえの娘が生きていれば
   この子ぐらいになっていたかもな』

 『この子に娘の姿を重ねているのか?』

     『なんてみじめな贖罪だ──』


わたしは彼を睨みつける。
我を忘れて彼と目を合わせる。
だがそこにいたのはもう1人のわたしではなかった。

空転する糸車を腹腑に埋めたわたしの『スタンド』。
娘を失ったわたしの前にあらわれた『亡霊』。
物言わぬ虚ろな瞳でわたしを見つめている。

「『エラッタ・スティグマ』………」

消えろと強く念じると、
糸車のカラカラという空っぽな残響だけを残して、
虚ろな亡霊は宙空に解けて消える。


わたしは何事もなかったかのように前を向き、
小さな案内人の背を追いかけた。

616 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/01(金) 00:29:32
夜の自然公園に人影が一つ。
動きやすそうな格好をした女性。
癖のある髪を一本に結び、どこか暗い印象のある人だった。
ペットボトルを片手に彼女は公園にいた。

「……」

わずかな明かりの下、女性は踊っていた。
ペットボトルをマイクに見立て、音は出さずに口を動かしながら踊っている。

「……!」

ステップを誤り、重心が崩れる。
踏ん張らずにそのまま彼女は地面に体を預けた。

617 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2019/03/01(金) 01:20:52
>>616

「…………」

    ピ ピ

       ガコン

自販機でジュースを買いながら、それを見ていた。
今は仕事帰りで、入れたコインと押したボタンは妹の分だ。
自分のジュースは――――

  チリン

         『ピピピピピピピピ』

今から『ルーレット』が当たるのでそれで買う。

(ダンスか何かやってるのかな。
 駅前で踊ってるヤンキーみたいな?
 こけたのかそういう振り付けなのか、
 よくわかんないけど……真剣そうだし)

    『アタリ! モウイッポン エランデネ!』

(邪魔はしないでおこうかな)

              ピ

                    ガコン

邪魔はしないが、普段静かな自販機がうるさい夜だ。
それに、白い髪と赤い目――――薬師丸の姿は目立つ。

618 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/01(金) 02:28:09
>>617

「ふぅ……ふぅ……」

呼吸を整えながら、ゆっくりと立ち上がる。
右足を上げて、何度か地面を踏みしめる。
地団駄というよりもそれは、足に力を入れるためにやっているような動きだった。
靴から覗くものは靴下と黒いサポーターである。

「……ふぅ……ふぅ……はぁ……はぁ……」

少しふらつきながら地面を踏みしめ、顔を動かす。
その目線は薬師丸に向けられた。

(……見られたかな)

(不味いかな。一応、新曲だしなぁ……)

俯き気味で陰気な顔のまま、薬師丸を見ている。

619 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2019/03/01(金) 03:38:04
>>618

「あ〜」

(ジロジロ見てるって思われたかな。
 まあ、実際ジロジロ見てたようなもんよね)

視線があった。

「ごめんごめん。つい見入っちゃった。
 ふだん、ダンスってあんまり見ないからさ」

      ガコッ  ガコン

ジュースを二本取り出して――
それを小脇に抱えて、少しだけ近づく。

「それにしても……こんな時間に練習?
 秘密トレーニングってやつなのかしら。
 私はスポーツとかしないほうだから、
 あんまり詳しくはないし……
 追求とか、そういうのするつもりもないけど」

「この水いる? 『偶然』当たっちゃったんだけどさ」

無視して立ち去ることも出来たけれど、
追いかけてきて絡まれたりしても良くない。
穏便に立ち去るためにはむしろ会話がいると思う。

だから、自分用の水だったが、小さく掲げてみせた。

620 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/01(金) 04:11:06
>>619

「あぅ……やっぱり見てたんですか……」

(あ、ちが、もっと……)

思わず一歩下がってしまう。
不意に下げた右足。
ビクリと背中が跳ねて、少しを食いしばる。
深呼吸。
顔を上げる。
逆ハの字だった眉が横になり、目が少し大きく開かれた。

「ダンスは苦手でね。こうせねばならない身の上なんだ」

しゃんとした雰囲気を出そうとしているらしいがまだ少し目が震えている。

「貰えるのなら、頂きたいが」

「ありがたい」

すでに手に持ったペットボトルは空。
握りしめたからかベコベコにへこんでいる。

621 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2019/03/01(金) 21:17:15
>>620

「あげるよ、減るもんじゃないしさ。
 あ、一応言っとくけど、なんの味もない水だよ」

「最近は透明な紅茶とか流行ってるから一応ね」

軽く放り投げようとしたが……

「…………はい、あげる」

目の動きに何かを感じてやめた。
もう少しだけ歩み寄って、ゆっくり手渡す。

「苦手なのにやらなきゃいけないのね。
 大変ねぇ〜え。お仕事か何かでやってるの?」

「踊る仕事ってあんまり思い付かないけどさ」

近づいて見える薬師丸の顔は、高宮より一回り幼い。
不相応な毛皮の黒コートや真っ白な髪も、どこか現実味を欠いていた。

622 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/01(金) 21:50:13
>>621

「お気遣いどうも」

受け取り、水を飲む。
乾いた体に潤いが流れ込んでいくのがわかる。

「……仕事だから、これは時間外労働」

「アイドルだよ。頭に地下とつくアンダーグラウンドなやつだ」

ゆっくりと息を吐いて、また言葉を出す。

「そういう君はどうかな?」

623 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2019/03/01(金) 22:38:29
>>622

「ああ……えーと、地下アイドルってやつ。
 星見横丁とかでビラ配ったりしてるよね。
 私の知り合いにそういうの好きなヒトいるわ」

それが高宮の事務所かは知らない。
もらったビラをしっかり読んだこともないし。

「ともかく、スターの卵ってわけね」

笑みを浮かべる。

「私は――『幸せ』を売ってるの。
 それが私の仕事よ。あ、勘違いされそうだけど、
 ハッピーじゃなくてラッキーの方が本業だから」

「怪しいクスリとかは警戒しなくていいよ」

それはそれで得体が知れないわけだが、
少なくとも妙な売人というわけではないらしい。

「何も法に触れるような事は、してないからね」

水から妙な味がしたとか、そういう事もなかった。

624 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/01(金) 22:49:10
>>623

「もしかしたらその人と会ってるかもね」

(分からないけど)

また水を飲もうと口をつける。
が、勢いを間違えたのか口の端から飲みきれなかった水がこぼれ落ちた。

(またか)

手の甲で水を拭った。

「スターの卵か。そうだね、早くオーバーグラウンドに打ち上げて衛星みたいになりたいものだ」

暗い笑みを返した。

「幸せか……」

眉がハの字に曲がる。
伏し目がちに視線が動く。
迷い。
先程までの雰囲気が収まり、憂い雰囲気が増していく。

「いくらで売ってくれますか……?」

625 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2019/03/02(土) 04:32:10
>>624

「どうだろ。まっ、とにかく詳しくないからさ。
 詳しくないなりに、あんたに幸がある事を祈るわ」

「私はそれの専門家だからさ」

薬師丸はアイドルというものはよく知らないが、
こんな夜にまで一人で練習に励んでいるあたり、
恐らくは『本気』で・・・理想はまだ先なのだろう。
言葉ではあまり深くは突っ込まずにおくことにした。

「――――あら、興味ある?」

        リィーーー ・・・ ン

《『害』も『戦意』ないよ。見えてるなら、ね》

      「『幸運』ってさ。形の無い物だし、
       『実演販売』ってことにしてるの」

それは『こころ』 に直接響くような鈴の音。
空気を揺らす、振動としての音ではない。

「で、初回はその実演込みで千円って感じね。
 ほら、期待はずれって事もあるだろうしさ。
 千円くらいなら『募金』した気持ちになるでしょ」

少女の背後に浮かび上がる、人型のヴィジョン。
白い毛皮を纏い、兎の耳を生やした『スタンド』。

――特に何か構えたりするでもなく、背後にいるだけだ。

626 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/02(土) 12:28:04
>>625

「専門家……」

馴染みがない。

「……分かりました」

ポケットに入れられた財布から千円札を一枚取り出す。
祈るように少し震える手が突き出される。

「見えてますけど……」

627 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2019/03/02(土) 22:01:44
>>626

         ピラッ

「はい、まいどあり。千円確かに受け取ったよ。」

スタンドの手がお札を受け取り、
軽く弾いて枚数を確認してから懐へ。

「見えてるんだ、お仲間なのね。
 それだったら話が早くて助かるわ」

         リン

その手が今度は、高宮の手に触れようとする。
触れれば小さな金色の『鈴』が生まれるだろう。

「お代の分はしっかり説明させてもらうね」

薬師丸はと言うと、それを見ながら微笑を浮かべた。

「ハッピーじゃなくてラッキーって言ったけど、
 要するに・・・私の『レディ・リン』は、
 運勢ってやつを前借り出来るのよね。
 今コイントスを絶対に当てられる代わり、
 あとで絶対に外しちゃうようになるわけ」

「そういうとプラマイゼロに聞こえるけど、
 外すって分かってるコイントスだからね。
 そこに大金を賭けたりはしないでしょ?
 借りた分返さなきゃいけないって分かってれば、
 備える事は出来る…………だから商売になるの」

長口上を終えると、スタンドが一歩引く。
鈴を付け終えたにせよ、そうでないにせよ、だ。

「それで、どう? 何か『運を天に任せたい』ものってある?
 今日じゃなくってまた明日、ってことでも私はいいよ。
 来週のくじ引きで、とか言われるとちょっと困っちゃうけど」

「もし決められないなら、商売だからね。私の方では実演しやすい店は当たり付けてるの。
 それで良ければ案内するけど……一応、あんたの運を使うわけだからね。好きに決めていーよ」

628 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/02(土) 22:36:26
>>627

手に着いた鈴をじっと見つめる。
これがラッキー。

「明後日の……」

「明後日のライブの……成功を……」

小さく、そう呟いた。

629 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2019/03/02(土) 23:16:41
>>628

「分かった、明後日ね。明後日の……何時?
 良いタイミングで幸運を入れるために、
 私もその場にいないといけないからさ。
 あと……反動の不幸に、対処するためにもね」

        『リ″ン』

薬師丸の耳に付いた『錆びた鈴』が、風に揺れる。

「あ、入場料とかあるならそこは自腹きるよ。
 初回だし、ライブっていうのも興味あるしね」

明らかに危険な響きだったが、
薬師丸自身に焦りなどは感じられない。

この現象には『慣れている』――という風に。

「それとも……幸運、今ここで使う?
 ライブに効くかは保証出来ないけど、
 ライブの事しか考えてないなら大丈夫かも。
 それに、『不幸』はこの場で処理できる」

「私はどっちでもいーけど……どうする?」

悪戯っぽい笑みを浮かべた。
薬師丸にとっては、本当にどちらでもいいのだろう。

630 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/03(日) 00:18:22
>>629

「不幸は慣れてますから……」

どうしようもないほどに彼女の目は暗かった。
おそらくこの場にある闇よりも深く、暗い。

「十五時……です。チェキ会もあるけど、ライブだけで……」

「これ……インビ……」

インビテーションチケット。
招待券とも言われるものだ。
無料で入れるだろう。

「ぼくはちゃんとライブが終われればそれでいいんです」

631 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2019/03/03(日) 00:52:31
>>630

「そ、私とおんなじね」

        ニコ…

赤い瞳を作るガラスレンズの奥――――
薬師丸の本当の目を知る者は、多くはない。

ただ、そのレンズに写る高宮の目が、
どうしようもなく暗いのは薬師丸の目にも確かだ。

「それじゃ、しっかりやらせてもらうよ。
 少なくとも、そのライブが終わるまではね」

    ズギュン

「15時から空けとくから。
 『レディ・リン』はちゃんと運命を変えるからね」

        スゥッ

          「あと、連絡先交換しとこう。
            もしものこともあるだろうし」

招待券を受け取り、代わりにスマートフォンを取り出す。
『仕事』に手ぬかりはしない。そうでないと生きていけないから。

632 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/03(日) 01:12:20
>>631

「分かりました」

スマートフォンをズボンのポケットから取り出す。
カバーをしているが、傷だらけだ。

「………仕事用とかじゃないので」

(ぼくにとって最も大きな幸運が訪れるのなら)

(それはあの人たちと同じ事務所に入って、同じステージに立つこと)

633 薬師丸 幸『レディ・リン』 :2019/03/03(日) 01:36:54
>>632

薬師丸のスマホカバーは白いが、
目立った汚れなどはないようだった。

「私のは、仕事用だけど……
 プライベートで掛けてくれてもいいよ。
 同じ『スタンド使い』同士でもあるし」

         スッ

「少なくとも今だけは『仲間』だからね」

友達とか、同志とか、そういうのじゃあない。
客と商売人であり……夢を追う彼女の『仲間』だ。
 
「それじゃ、私は今夜は帰るから……
 今つけた鈴は勝手に消えるから安心して。
 本番の明後日に、また付け直したげるからさ」

         「じゃ、またね」

明後日に向けて、今夜から早めに寝る事にしよう。
特別に止められないなら、そのままこの場を立ち去る。

運命を味方に付けたライブが成功したかどうかは――また、別の話だろう。

634 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/03(日) 02:28:43
>>633

「仲間、ですか……?」

それを彼女がどういう意味で言ったのか分からない。
自分がどれぐらいの重み言葉を返したのかは分からない。

「さようなら」

別れを告げて、またダンスを続ける。
まだ理想の未来には遠い。

635 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/12(火) 23:55:17
「ら、ら、ら」

夜の自然公園に人の影。
何かを歌いながら躍るように動く。
しかしそれはダンスではない。
頼りのない灯の下で、時に遅く、時に早く。
見える者には見える物がある。
彼女が持っているもの、それは鎖鎌だ。
左手に鎌を持ち、右手に鎖と分銅。
鎖を回すと手から離れた分銅が回る。
まるでカウボーイのようにそれを飛ばして、また手元に引いて戻す。

「ら、ら、ら」

636 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/13(水) 23:16:57
>>635

時を同じくして、公園内を一人の女が通りがかった。
ラフなスタジャンのポケットに両手を突っ込んで歩いている。
人影に気付いてキャップのツバを持ち上げ、闇夜に目を凝らした。

(あれは――ダンスの練習かしら)

最初に見た時は、そう思った。
だから、少し離れた場所で立ち止まって様子を眺めていた。
でも、どうやら違っていたようだ。

「ステージで使う小道具――」

「――じゃなさそうね」

その視線は、鎖鎌に注がれている。
自身のスタンド――『プラン9』には身を守れるような力はない。
このまま何事もなかったかのように立ち去るべきか、内心で迷っていた。

637 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/14(木) 01:54:38
>>636

鎖鎌の女はジャージを着ている。
所々擦れたような傷がある。

「ら、ら、あれ……ん、ら、ら……」

何かが気に食わなかったのか歌いながら小首を傾げる。
ぐらりと、途中で彼女の体がブレる。
靴紐を踏んでしまったらしい。
歌に気を取られた彼女は体勢を崩しーーー

「ひぅ……!」

コントロールをしくじった分銅が顔面に迫る。
何とかかわした頃には、体はバランスを失い完全に転んでしまった。

「あ……」

背後の街頭に鎖が絡まり、分銅が倒れた彼女の足に命中した。

(ついてない……)

自分の顔の傍の地面に突き刺さった鎌を見て一人溜息をつく。

638 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/14(木) 14:10:12
>>637

歌と踊り。
それは、私の中にある過去の記憶を思い起こさせた。
忘れる事の出来ない輝かしい栄光。

(『まだまだこれから』って感じなのかしらね、彼女)

その姿に、かつての自分自身が重なる。
大きなステージを控えて、厳しいレッスンに明け暮れていた日々を思い出す。
だから、迷いながらも立ち去らずに見続けていたのかもしれない。

(あららら……――)

その物騒なヴィジョンが見えたことで、ほんの少し警戒していた。
しかし、どうやら危険と呼べるものはなさそうだ。
むしろ、今の彼女は助けが必要なのかもしれない。

      スタ スタ スタ

「――立てる?」

近くまで歩み寄り、片手を伸ばす。
その身体を引っ張り上げて、元通りに立ち上がらせようという意図だ。
彼女が、この手を掴んでくれたらの話だけど。

639 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/14(木) 19:53:18
>>638

「……はぁ」

落ち込んだ気分のままため息をつくと鎖鎌がぱっと消えてしまった。
この世に存在するものでありながら、通常の物質とは違うもの。
スタンドの鎖鎌。

「え……?」

声の方に振り返って、息を呑む。
わたわたと一人で慌てだし、ズボンで手を拭いてから両手でしっかりと手を掴んだ。
が、立ち上がろうとはしなかった。

「み、美作くるみさん、ですよね……!?」

「なん、な、なんで、なんでこんな所に……!」

「あわ、あぅ、あ」

なにか言おうとしているらしいが上手く言葉が出ないらしい。

640 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/15(金) 17:37:59
>>639

「えっと――」

「ええ、確かに私は『美作くるみ』ね」

「ちょっと考え事をしながら歩いていたら、地面に倒れ込んだのが見えたものだから」

返ってきたのは、思いもよらない反応だった。
どうやら、彼女を立ち上がらせようという試みは成功しなかったみたい。
それなら、私の方が目線を下げる事にするわ。

「あの、もしかしてだけど――」

「前に、どこかでお会いした事があったかしら?」

「もし忘れてしまっていたなら、ごめんなさい」

こちらからも両手を出して、彼女の手を握り返す。
精一杯の誠意の印だ。
同時に、その場に屈み込んで視線の高さを均等にした。

(まさか、ねえ)

(『昔の私』を覚えてくれているのかもしれない――)

(そんな風に思っちゃうのは、きっと私の自意識過剰よね)

641 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/15(金) 23:29:05
>>640

「あ、ありますけど……お話したのは今日が初めてで……!」

精一杯に話す。

「綺麗な歌声にずっと、ずっと憧れててぇ……」

ぽろぽろと目から滴が零れた。

「うれしい……」

まっすぐだった背中が丸まって、そのまま俯いてしまった。

642 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/16(土) 13:57:49
>>641

「……あの」

一瞬、どう言葉をかければいいのか分からなかった。
彼女の真摯な様子に胸を打たれたからだ。
それは自分にとって驚きでもあり、喜びでもあった。

「――ありがとう……」

「私の事を覚えていてくれて」

「本当にありがとう」

もしかすると、もっと気の利いた台詞を言うべきだったかもしれない。
でも今の私には、これしか言えなかった。
他の言葉が思い浮かばなかった。

「あなたも『同じ分野』だと思っていいのよね?」

「違ってたら恥ずかしいけど」

穏やかに笑いかけながら、彼女の背中を軽くさする。
それから、街灯の傍にあるベンチに視線を向けた。
ずっと地面に座ったままという訳にもいかないだろう。

「とりあえず、立ちましょうか?」

「座るなら、そこのベンチの方が良いと思うから」

「その前に、まず立ち上がらなきゃね」

彼女が立ち上がろうとするなら、その手を引いて手伝う事にしよう。
自分も、かつては彼女と同じ志を抱いていた。
それが消えてしまった後も、こうして誰かの記憶に残れるというのは有り難い事だ。

643 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/16(土) 18:26:36
>>642

「はい……そうです……」

「私は地下アイドルですけど……」

美作の声にこくこくと頷いて立ち上がる。
泣いているうちに落ち着いてきたようだ。

「すいません……ありがとうございます」

644 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/16(土) 19:55:19
>>643

「良いのよ。気にしないで」

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね」

「教えてもらっても平気かしら?アイドルさん」

彼女が立ち上がったのを見届けてから、握っていた手を離す。
話しながらベンチの方へ歩いていく。
そのまま、そこに腰を下ろした。

「あなたと話していると、何だかノスタルジーに浸りたくなっちゃうわ」

「私は、今はラジオパーソナリティーをやってるの」

「良かったら、そっちの方も覚えておいてくれると嬉しいな」

645 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/16(土) 23:35:17
>>644

「ぼくは高宮と言います……」

ベンチに座り、小さな声でそう言った。
膝の上に置いた手を見つめている。

「聞いてます、ラジオも毎週……」

「お電話はしたことないですけど」

646 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/17(日) 00:00:18
>>645

「高宮さん、ね――良く覚えておくわ」

「ありがとう。そう言ってもらえると、とっても嬉しい」

「気が向いたら掛けてきて。いつでも待ってるから」

      フフ

話を続けながら、膝の上に置かれた手を見やる。
それから、辺りを照らす街灯を見上げた。
柔らかい光が、その横顔を浮かび上がらせている。

「ちょっと見えたんだけど、さっきは練習の最中だったのかしら?」

「こういう公共の場で練習するのって、私も結構やっていたわ」

「程良い緊張感があって、それが適度に気を引き締めてくれるのよね」

647 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/17(日) 00:24:36
>>646

「……はい、その時が来たら」

何か言いにくそうに手をもぞもぞと動かしていた。
明かりの下で高宮は暗い顔をしている。

「練習と、実験を兼ねて……」

648 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/17(日) 00:57:30
>>647

「『実験』」

「それって――」

   フッ

その言葉に何かを感じ取った。
一つの考えが脳裏を過ぎる。
自分の肩の上を指差すと、そこに『機械仕掛けの小鳥』が現れた。

「『これ』の事かしら」

「私達の共通点は一つじゃないみたいね」

あまり見せるものじゃないが、似通った部分を持つ彼女なら、それも悪くない気がする。
何となく不思議な縁だと思った。
やがて、ある思い付きが頭に浮かぶ。

「そうだ――」

「もし良かったら、ここで少し『練習の成果』を見せてもらえない?」

「せっかくのライブの観客が、引退した私だけなのは申し訳ないんだけど」

「少しでも高宮さんの力になれたら嬉しいから」

「そう考えるのは、私の我侭かしら?」

649 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/17(日) 01:10:25
>>648

横目で美作に発現するそれを認識する。
ぎょっとした雰囲気で目が開かれた。
驚きと同時にその力の形に感心する。

「成果をですか……」

「大丈夫ですけど……いいんですか?」

酷く申し訳なさそうで憂い顔をしていた。

「ぼくので、本当に」

「美作さんからすれば素人同然だと思いますけど」

650 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/17(日) 01:29:41
>>649

「――もちろんよ」

軽く頷き、口元を綻ばせて座り直す。
機械の小鳥は微動だにしない。
肩の上で、小さなオブジェのように佇んでいる。

「今、あなたは『アイドル』で私は『観客』なんだから」

「是非、見せて欲しいわ」

その目は、真っ直ぐに高宮の瞳を見つめている。
憂いを含んだ顔とは対照的に、その表情は明るい。
ただ明るいのではなく、どこか真剣さを帯びたものでもあった。

「――ダメかしら?」

651 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/17(日) 02:36:45
>>650

「……やる以上は全力ですよ」

上目遣い気味に見るその目に迷いはない。
目の奥に宿るものは炎ではなく覚悟だ。
ハの字の眉が平行になり、彼女の持つ空気感が変化していく。
ベンチから立ち上がったころには、気弱そうな女性の姿はなかった。

「鎖鎌は危ないから使わないよ。あくまで今のぼくはアイドル、だからね」

伸びた背筋。
はっきりとした言葉。
髪をいったん解いて結び直す。

「『どこにも行けやしないさ 分かっているだろう?』」

「『逃げ場所も行き場所もとうに見えないだろう?』」

「『罵倒など所詮、心の波動 なのに揺れる心の湖面よ』」

「『生き抜くモメント 生むのは君だけなのに また弱気になる』」

気弱な線の細い声から一転、低く力強い声だった。
ステップの一つ一つが流れるように繋がっていき、公園の地面に模様のような足跡を残す。

「『全て投げ捨てて 壁を 越えて』」

652 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/17(日) 03:13:17
>>651

雰囲気の変化を受けて、ほんの僅かに両目を見開く。
眼前で繰り広げられる本気のパフォーマンス。
今の自分は観客として、それに対して全力で向かい合う。

(何かしら……)

(こうしていると胸の奥がチリチリして来るわ)

(あなたみたいに熱く燃えていた頃を思い出して、ね……)

歌を口ずさみ、舞い踊る姿。
その凛とした姿に、記憶の中の自分が重なる。
見ている内に、心の深い部分が強く刺激されるのが分かった。

(高宮さん――)

(あなたなら、きっと大丈夫よ)

(私は、そう思うわ)

彼女の発声や身のこなしからは、アイドルを名乗るだけの実力を感じる。
それに見合うだけのプライドも持っている。
だから、彼女は彼女自身が思っている以上に強い人なのだろうと思えた。

653 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/17(日) 03:59:01
>>652

「『誇れ胸を張ろう またここで会おう 諦めないのなら』」

「『夢が己に変わるから』」

歌と踊りが終わり、最後のポーズで止まる。
指先まで力のこもった姿勢。
しばらく、そのままで動かない。

(久しぶりだな、ミスも何もない、完璧なパフォーマンス)

ベンチに座る彼女に向き合って、頭を下げる。
これで終わりだ。

「あ、ありがとうございます」

少し気の弱い自分に戻りそうになる。
ハの字になりそうな眉をなんとか持ち直して、憧れと向き合った。

654 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/17(日) 04:26:51
>>653

     パチパチパチパチパチ

演技の終わりまで見届けてから、惜しみない拍手を送る。
アイドル――それは彼女にとっての今であり、自分にとっての過去だ。
方向は真逆だが、それでも根幹には通じ合う部分も存在する。

「アイドルって、見る人に元気を与える職業だと思うの」

「今のパフォーマンスを見て、私もパワーを分けて貰えたわ」

「高宮さん――だから、あなたはアイドルよ」

おもむろにベンチから立ち上がる。
数歩ほど歩み寄り、彼女の両肩に手を置いた。
その表情には、ここまでで一番の笑顔が浮かんでいた。

「私も負けてられないって気分にさせられるわ」

「同じエンターテイナーとして、っていう意味だけどね」

「これからも、お互いに切磋琢磨していきましょう」

        フフッ

今の自分はアイドルではなくパーソナリティー。
新しい生き方を、これからも貫く。
その後押しとなる力を分け与えて貰えたような気がした。

655 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/17(日) 14:27:56
>>654

「ぼくが……アイドル……」

自分の理想と現実の中にあって、どうにもならぬ気持ちというのがある。
高宮にとって気の重くなる毎日の事がこの一瞬で努力の日々に昇華される。

「はい、お互いに」

「今度はここじゃなくて、現場で会えるように」

客と演者ではなく、演者同士として。
そして、舞台を降りれば人間同士として。

「頑張ります」

656 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/17(日) 22:18:48
>>655

「自信に裏打ちされている貴女は輝いてる」

「貴女には、これからも輝いていて欲しいわ」

「――私の分までね」

私は輝きを失った過去の星。
かつての栄光を夢見る事も、時にはある。
だけど、少しでも誰かの支えになれるのなら――今の私も、そんなに悪いものじゃないわよね。

「そうね」

「いつかゲストに来て貰えたら嬉しいな」

「――なんてね」

クスッ

「ええ、私も頑張るわ」

明るい微笑を浮かべながら、彼女の前に片手を差し出す。
この出会いの締め括りとして、最後に握手を交わしたかった。
これは、いつの日か共通の場所で再会したいという気持ちの表れでもあった。

「――いつか何処かで、またお会いしましょう」

657 高宮『リプレイサブル・パーツ』 :2019/03/18(月) 01:13:07
>>656

「……私の分までなんて、言わないで下さい……」

「今でも美作さんは輝いてますから……」

場所こそ変われど、輝く星に変わりわない。
嘘偽りのない言葉で返す。

「ゲストになった時はよろしくお願いします。ぼくはもっといいアイドルになりますから」

「またどこかで」

優しく、しかし確かに手を握った。

658 美作くるみ『プラン9・チャンネル7』 :2019/03/18(月) 19:33:21
>>657

真摯な言葉を受け取って、静かに息を呑んだ。
私は輝きを失ったんじゃなく、以前とは異なる種類の輝きを纏っている。
その意味を噛み締めて、緩やかに口元を綻ばせた。

「アハハ、そうね」

「――ありがとう」

言われてみれば、その通りだった。
忘れていた訳じゃない。
ただ、改めて再認識させて貰えたのは確かだ。

「私も、その時までに腕を上げておくわ」

「『See You Again』」

似通った点を持つ二人の間で、穏やかに握手が交わされる。
それぞれの場所で輝く二つの星の交わり。
夜空に瞬く星々が、その光景を優しく見守っていた。

659 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/22(金) 21:36:21

   ザック ザック
             ザック ザック

そろそろ辺りが暗くなり始めた時間のことでした。
林の奥から規則的な音が聞こえます。
地面を掘っている音のようです。

   ザック ザック
             ザック ザック

近付いたら、地面に穴が開いているのが見えると思います。
かなり大きな穴です。
人一人は十分に入れるくらいでしょうか。

   ザック ザック
             ザック ザック

穴を掘っているのは、『シャベル』を持った『墓堀人』です。
目深に被ったフードの奥で二つの目が光っています。
近くには人の姿はありません。

    ピタリ

         《――――…………》

ふと、『墓堀人』が動きを止めました。
何かの気配を感じたような気がしたからです。
でも、もしかすると気のせいかもしれません。

660 三枝千草『イッツ・ナウ・オア・ネヴァー』 :2019/03/25(月) 20:45:44

        ザクッ
              ――――フッ

穴から出てきた『墓堀人』が、穴の手前の地面にシャベルを突き立てました。
次の瞬間には、穴は消えてなくなっていました。
それを確かめた『墓堀人』は、シャベルを肩に担いで歩き去っていきました。

661 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2019/04/07(日) 00:25:48

「――――『パーティーかいじょう』はココだな…………」

          ザッ

ピクニックの用意をして、自然公園にやって来た。
『春の一大イベント』である『花見』に興じるためだ!!
しかし――――。

「ヒトがおおい!!おおすぎるぞ!!」

桜は『満開』で、天気は『快晴』だ。
おまけに今日は『週末』と来ている。
桜の花が咲き誇るこの場所に、人が集まらないワケがなかった。

「サクラくらいであつまってくるなんて、みんなケッコーヒマなんだな〜〜〜」

      キョロ
           キョロ

自分のことを棚に上げて、周囲を見渡す。
空いている場所を探しているのだが、大抵の場所は埋まっていた。
特に、『桜の真下』は人が多い。

「マズいな……。『ベストスポット』は、スデにヤツらのテに……!!
 ムッ!?アレは……!!むこうのほうにスペースがあいているぞ!!
 いそがねば!!ヤツらにおさえられるマエに、『あのポイント』をカクホする!!」

        ダダダダダッ

巧みな動きで人々の合間を縫って、全力ダッシュで駆け抜けていく。
速やかに目的地に到着し、背中に背負っていたリュックを下ろす。
『ウサギ』の形のアニマルリュックだ。

         バサァッ

「――――『カクホ』!!」

リュックからレジャーシートを出して広げ、素早く地面に敷く。
その上に腰を下ろして、ランチとして準備してきたサンドイッチを取り出した。
なお他の場所は大体埋まっているが、この辺りはまだ多少の空きがあるようだ。

662 夢見ヶ崎明日美『ドクター・ブラインド』 :2019/04/14(日) 16:33:45
>>661

「ソレにしても――――」

リュックを枕代わりに、レジャーシートに寝転がる。
頭の上には、溢れそうな程に咲き乱れる桜の花。
サングラス越に、その光景に見入る。
その時、やや強めの風が吹き抜けていった。
枝が揺れて花びらが散り、薄桃色の花吹雪となって舞い落ちる。

「――――キレイだな」

こんなキレイなモノを見られなかったなんて、ジンセー損してたな。
だからこそ、これから今までの分を取り戻さなきゃ。
ジンセーは短いんだ。
その間に、たくさんのモノを見ないといけない。
セカイには、もっとスゴいモノやキレイなモノやフシギなモノがいっぱいあるハズ。
それをゼンブ見てみたい。
『セカイのゼンブ』を見るのが、わたしのユメだから。

「おん??」

気付けば、ケッコー時間が経っていたようだ。
ぼちぼち日が傾きだして、ヒトも徐々に少なくなっている。
起き上がり、片付けを済ませてから、近くに立つ桜の樹を見上げる。

「――――んじゃッ!!」

桜の樹に向かい合い、片手を上げて別れの挨拶を送る。
そして、軽快な足取りで歩き出す。
こうして『アリス』は、次の冒険に向かうのだ。


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