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雑談スレ
35
:
tasuku
:2016/08/26(金) 23:59:43
≪十年後の八月≫
***
「あの森で待ってる」
簡素なメールが届いたのは、蒸し暑い夏の零時過ぎ、汗水たらして帰る道すがら。
ダイエットと称して虚勢を張る給料日前の私の耳に、懐かしい着信音が聞こえた。
私たちが現役女子高生のときから既にメールは駆逐されかけていたが、それがまた特別なことをしているような気にさせてくれるから、二人だけのやり取りはいつもメール。
携帯は変えてもアドレスと着信音はずっとそのままだった。どうやら向こうも同じだったようで、唇が綻ぶ。
それにしても、お互い忙しくなってずいぶんご無沙汰だったけど、急にどうしたのだろう。
普通に大学に行って、普通に就職した私とちがって、ルイは政府系の研究機関に進んだらしい。
私よりずっと勉強のできる子だったから驚きはない。
あの森――伝説の桐の木が聳える、樹海。繰り広げられる戦闘のさなか、私の呼び出した魔人の動かし方を率先して考えてくれたのも、彼女だった。
そんな彼女がどうしていま、どうして私に? 演劇は一応ずっと続けてるけど、それこそ普通の範疇を出ない。
私なんかが役に立てることなどあるのだろうか。
それとも、何か助けを求めているという私のこの予感が間違いで、急に旅行に行きたくなったとか、なんとなく昔を思い出したとか、あるいはただの誤爆メールとか。たったこれだけの文章から危機を読み取るほうがおかしい、穿ち過ぎだと言われても文句はつけられない。
場所だって、あの森がどの森なのかは明らかではない。二人で出かけた場所は物騒なところばかりではなくて、単にピクニック的なことをしてみたこともある。
しかし、間違いなんてそれこそありえないという確信が、私にはあった。
友達になって十年。私が魔人であること以外に普通でないことがあるとすれば、『暗黒メガネ隊』として踏んできた経験にほかならない。
……高校生の時分のセンスを引きずってるのは、アラウンドアラサーにもなればさすがに恥ずかしいのだけれど。
それも私たちっぽいねって笑いあったのは、半年前のどこだったっけ。家に帰ってシャワーを浴びたら手帳を開いてみよう。
折よく明日からは連休。荷造りはそれからだ。
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