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ベルトルト「僕を見ないで」???「」ジー…
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基本ベルユミ。アルアニ、ライクリなどあり。
エロ注意。18歳以上の閲覧で、お願いします。
ネタバレになるので、ここには書きませんが、不快に感じるかたもいるだろう表現の所は、事前に注意書を入れます。
ベルユミのいちゃこらが書きたく、書き始めたら結構長くなってしまいました。
よろしければ、ご覧下さい。
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食堂
昼食時
ユミル「流石だな。今回も凄く美味しく焼き上がってるぜこのクッキー」サクサク
サシャ「とっても美味しいですよ〜クリスタ!これ一人五枚しか無いんですか?」ムグムグ
ユミル「今渡されたばかりだろ!?食べんの早すぎなんじゃねーの!?私はまだ一枚目食べてる最中なんだがな」サクサク
サシャ「気がついたら皿は空でした」
サシャ「はっ!もしかして私は一枚しか頂いていないのでは!?」
ユミル「サシャさんはクリスタさんにクッキーを五枚貰いました」
ユミル「そのうち五枚をおくちのなかへいっぺんに詰め込んで食べてしまいました」
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ユミル「残りのクッキーはなんまいでしょうか?な ん ま い で しょ う か ね?」
サシャ「ぐぬぬ」
サシャ「足りない、足りないですよぉクリスタぁ〜このままでは午後の座学の講義の最中におながが鳴ってしまい皆にからかわれてしまう〜…」
ユミル「昼食は今ついさっき食べただろ!?しかもクリスタのパン半分貰っただろ!?スープお代わりしたよな!?んで五枚クッキー食べたよな!?」
ユミル「薄いがこぶし位の大きさだ。ボリュームはあると思うが!?」サクサク
サシャ「空腹でひもじいですなんだか寒い手が震える顔が強張る膝が笑っている目が霞む体に力が入らないそれから」
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クリスタ「ふふ、もういいよ…サシャだけ特別だよ?あと二枚あげるね?」
サシャ「うわぁ!?ありがとうございます!!」
ユミル「甘やかすなよ〜二枚増やしたところでこいつの底無しの胃袋じゃ誤差の範囲だ。なんの足しにもならねぇと思うが!?」
クリスタ「いいの。少し余ってるから。それに美味しい美味しいって食べてくれて嬉しいから」
サシャ「まじ女神です」サクサクサクサクサクサク
ユミル「私だって美味しいって食べてるぞ。ただ食べ過ぎて体型が崩れると困るからな、五枚あれば十分だ」
クリスタ「ありがとユミル。他の人にも渡してくるね」
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ベルトルト「………」
ライナー「」ソワソワ
ベルトルト「……………」
ライナー「」ソワソワソワソワ…チラリ
ベルトルト「……部屋…戻らないか。食事終わったんでしょ…?」
ライナー「うぅん!?…う、うむ…」ソワソワ…チラリ
クリスタ「ライナー♪」タタッ
ライナー「おぉ、クリスタ。何だ?」
クリスタ「これ、よかったら食べて?昨日話してたものだよ」
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ライナー「今日の午前中は休みだから、調理室借りるって言ってた奴だな?」
クリスタ「そうなの〜。お菓子作りしてると気分転換になるんだ。訓練で忙しくて、たまにしか出来ないんだぁ…」
ライナー「いつも悪いな、食べさせて貰って」
クリスタ「そんなぁ、レポートだったり対人訓練だったり、いつも色々して貰ってるのは私の方だよ」
クリスタ「だから、よかったらだけど…食べてくれると嬉しいな」
ライナー(結婚したい)
ライナー「勿論頂くとも。クリスタのクッキーはとても美味しいからな」
クリスタ「ありがとう、ライナー。はい、五枚だけど…どうぞ」
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取り分け用に用意したのであろう可愛らしい小花柄のペーパーに、クッキーを並べようと差し出された、厳しい訓練で酷使されているとはとても思えない、小さくて白く柔らかそうで滑らかな手。
もてなしを受けるのに邪魔にならないように引っ込めようとした、少年にしては、大きくて厚みがあり力強く骨ばった手が軽くぶつかる。
クリスタ「あっ…」
ライナー「大丈夫か!?痛くなかったか!?す、すまない…」
クリスタ「ううん、ライナーこそ大丈夫?不注意でごめんなさい…」
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訓練兵達を虜にする、美しく慈愛に満ちた女神が仄かに頬を桃色に染めると同時に、訓練兵達の兄貴分も頬を桃色に染める。互いの視線がぶつかると、互いの頬のその色は更に濃くなっていく。
ライナー「い、…頂きます」 …サクサク
ライナー「旨い、すっごく旨い」サクサクサクサク
クリスタ「うふふ、嬉しい、ありがと。」
クリスタ「ベルトルトも…よかったら、どうぞ食べて?」
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ベルトルト「…いいの」
クリスタ「勿論だよ?はい、どうぞ…」
ベルトルト「ありがとう。今はお腹一杯だから、部屋に帰ってから食べるね」
クリスタ「そう?じゃあ紙に包んであげるね」サッサッ…キュッ
クリスタ「はい、どうぞ…」
ベルトルト「…ありがとう」
クリスタ「どういたしまして。ふふ、じゃあ、またね」
ライナー「ご馳走さまです」キリッ
ベルトルト「……」
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クリスタ「どうぞ〜」
エレン ミカサ アルミン「頂きま〜す!!」サクサクサクサク
エレン ミカサ アルミン「美味し〜い!!」サクサクサクサク
クリスタ「うふふ、ありがとう」
ライナー「顔も可愛いし、料理も旨いし、女の子らしくて最高だなぁ。天使だなぁ。女神だなぁ」デレ
ベルトルト「……部屋に戻ろうよ。午後の座学の講義の用意をしないと」
ベルトルト「あと顔、弛みすぎ」
ライナー「んん?そうだな…そうかもな」ニマニマ
ライナー「行こうか」キリッ
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ベルトルト「………」
ベルトルト(まただ)
ベルトルト(誰も気が付かないのかな)
ベルトルト(一瞬だったけど)
ベルトルト(悪意を沢山含んだ重たい視線)
ベルトルト(何で君に僕だけがそんな目で見られなきゃいけないの…?僕らの秘密など誰にも知られていない筈だけど)
ベルトルト(もしかして君、知ってるの…?)
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講義室
ユミル「ベルトルさ〜ん、ここ席空いてるか?」
ベルトルト「こっち側はライナーが座ると思うけど、そっち側は空いてるよ。どうぞ」
ユミル「どうも♪」ストッ
ユミル「あのさ、ベルトルさん。昨日の講義なんだけど、ちょっとわかんない所があって。聞いてもいいかな」
ベルトルト「…僕にわかる所なら」
ユミル「ここなんだ。こういう状態でだな」
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ベルトルト「ここはさ、昨日の板書に加えて教官の話を…」
ユミル「おぉ〜さっすがベルトルさん!板書だけでなく教官の小ネタまできちんと拾ってるなぁ」
ユミル「……ふんふん、ベルトルさんのノートを見せて貰えたら解決しそうだ。悪いが後で借りてもいいか?」
ベルトルト「…いいけど、ノートならアルミンの方がしっかり書いてあるんじゃないの?」
ユミル「アルミンはさ〜板書も小ネタも全て書いてあるんだけど、さらに自分の思うことや関連した事もびっしりで、ボリュームありすぎてなぁ。そこまで求めて無いんだよな、私は」
ユミル「それに皆借りたいから、順番待ちが大変なんだよ」
ユミル「ベルトルさんのノートが一番分かりやすくて好きなんだ。無駄もなければ足りないところも無いから」
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ユミル「だから借りたいんだ。頼むよ。なぁクリスタ?」
ユミルの向こうに座っていた女神が、申し訳無さそうにこちらを振り向く。煌めく光を纏う真っ直ぐな金髪が、さらりと揺れる。その間から覗く長い睫毛に縁取られた大きくて薄い青灰色の瞳。
可愛らしく控えめで、微かに含まれた媚びがない交ぜになっている上目遣いの甘えた視線。高くて形のよい鼻の下には、小さいがやや厚みのあるぽってりとした花弁のような桃色の唇を、困っているように軽く噤んでいる。
ライナーだけでなく、訓練兵の大体の男子なら、こんなふうに見られて、恥じらいつつ、か細い声で何かお願いされたなら、それを何でも叶えてあげたいと考え、一週間は思い出し笑いでニヤケる事ができるんじゃないかとベルトルトは、ぼんやり思う。
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クリスタ「でも…一昨日も借りたし、ベルトルトも勉強するのに無いと困るんじゃない…?」
ベルトルト「夕食後の自由時間に復習するからその後ならいいけど…」
ベルトルト「次の講義は三日後だから、それまでに返して貰えれば」
女神のお目付け役を自称する、すらりとした長身の訓練兵ユミル。その軽口を叩き男性的な物言いや蓮っ葉な振る舞いから、訓練兵男子からは同性のふざけ仲間のように見られている。
涼しく切れ長、意思の強そうな黒い瞳で真っ直ぐに瞳を覗き込んでくる。
余りに直截簡明な視線は、そのまま、瞳の奥へと突き刺さり心の中に押し込んでいる、ここ最近気になっている嫌な視線の持ち主の事や、日常の些細な気持ちの揺れ、はてはベルトルトらの、誰にも打ち明けることなど出来はしない禁秘まで、全て見透かされてしまいそうだ。
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視線に抗うように、無意識に目を細めてしまう。
そのしぐさで、何かあるのではという憶測を持たれてしまいそうで、あわてて口角を少しあげる。
ユミル「じゃあ決まりだな。明日の朝食前か昼休みから貸して貰えると、夕食後にノート写して明後日返す事ができるんだが、それでいいか?」
ベルトルト「うん…構わないよ」
ユミル「悪いな、ありがとさん」
ライナー「なんだユミル。またベルトルトのノートを狙っているのか?」
ユミル「良いだろ。ベルトルさんも貸してくれるっていってるんだし」
ライナー「ベルトルトだって自分の勉強をするのだから、たまには自分でノート位まとめたらどうだ?そっちの方が勉強になるぞ?」
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ユミル「ベルトルさんが良いって言ったんだからいいんだよ」イーッ
ライナー「言わせたのは言ったうちには入らないんだよ」イーッ
ユミル「言わせてません〜」ベー
ライナー「言わせたと思うぞ〜」ベー
ユミル「このゴリラ人真似うまくね?」ブー
ライナー「ゴリラじゃねぇし」ブー
ユミル「じゃあチンパンジーかよ」ムィー
ライナー「チンパンジーでもねぇし」ムィー
ユミル「わかった!オランウータンだな」ニギー
ライナー「お前の目は真実を何も捉えてはいないな」ニギー
ユミル「真実だと?はっ、知っているさ。お前ら、巨人だろ?」
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ライナー 「!!」
ベルトルト「!!」
ユミル「デカイだけで無知性〜無理性〜」ヤーイ
ユミル「総員!!全裸待機せよ!!」ビシィ!!
ライナー ベルトルト「…………」ドキドキドキドキ
クリスタ「もう、ユミル失礼だよ。ライナーは頭も良いし、体術だってトップじゃない」
クリスタ「何でも出来る頼れるお兄さんだよ!!」
ライナー(結婚したい)ポッ
ライナー「…す、少なくともお前よりかは、座学のや体術の成績はいいはずなんだがな」
ユミル「」
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ユミル「しかしクリスタデータスペシャリスト、クリスタセキュアド、クリスタエキスパート、クリスタヘルスマネジメントなどなど」
ユミル「クリスタに関する知識、技能は私の方が上だがな!!」ドヤァ
ライナー「ぬぅ…(なんと羨ましい…!!)」ギリリ…
クリスタ「ごめんねライナー。ユミルが失礼なこと言っちゃって…」
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クリスタ「…えっと、ライナーにも聞いてばかりで申し訳無いんだけど、もしよかったら来週提出の対巨人に有効な重火器、小火器についてのレポートがね、ちょっと自信なくて…」
クリスタ「見て貰えたらなって思うんだけど…いいかな?」
ライナー「むぅ…勿論いいとも」ポッ
クリスタ「…じゃあ、そっち側のライナーの隣、空いてるから、行ってもいいかな…?」
ライナー「勿論!!全然いい!!」パァァ…
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ユミル「おいクリスタ!!発情全裸待機巨人の隣に行くなんて危険すきるぞ!!青少年の性欲を甘く見るな!!私がライナーの隣に座ってウオールユミルとなりお前をすべての脅威から守る!!」ガタツ!!
クリスタ「ユミル…ライナーはそんな人じゃないよ?それに、私が座ったらこっち側に、もう席無いよ…」
ユミル「ちっ、五人がけの椅子だからな。じゃあ一個づつずれたら良いだろ」
クリスタ「早く聞かないと教官来ちゃうよ。ユミルはそこにいて」タタッ
クリスタ「隣、失礼するね?」
ライナー「う、うむ…」
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ユミル「ぬぅ〜大丈夫か…?」
ベルトルト「ねぇ、ユミル…」
ユミル「何だ、ベルトルさん」
ベルトルト「えっと、僕は、巨人じゃないよ…?」ドキドキ
ユミル「いや、巨人だろ」
ベルトルト「」ドキーン
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ユミル「ニメートル級の。その年でそこまでデカイんじゃ、大人になったら絶対ニメートル越えるぜ?」
ユミル「ほんと、デカブツだぜ?すごくないか?」
ユミル「巨人じゃないか?」
ユミル「まぁ、ベルトルさんはデカイだけでなく脚長いし、全体のバランスいいから、スタイルもカッコいいよな。シュッとしてさ…顔だって悪くねぇし…な」
ベルトルト(これって誉められてるのかな…)
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ベルトルト「あっ…うん、ありがと…」
ユミル「……お、おぅ…」
ベルトルト「」ビクッ
ベルトルト(何で?)
ベルトルト(何でそんな目で僕を見るの?君に何かした覚えは無いんだけど)
ベルトルト(皆気付かないの?あんなに強い悪意に…視線が痛くて怖い…)ブルッ
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ユミル「寒いのか?ベルトルさん」
ベルトルト「…え?寒くは…無いけど…」
ユミル「腕かかえて縮こまってるからさ。すきま風が冷たい季節になったもんな。ほら貸してやるよ膝掛け」パサ
ベルトルト「いいよ、ユミルが寒くなっちゃうでしょ?」
ユミル「いーんだよ。私はそんなに寒がりじゃないんだ。部屋の女子が皆持っていくって言うから持ってきただけだからな」
すきま風「」ヒュー
ユミル「ぅお」ブル
ベルトルト「やっぱり返すよ。僕大丈夫だから」
ユミル「何だよ〜。じゃ薄くなるが、広げて…」
ユミル「両方に掛かるようにしたら良いだろ。これならどっちも暖を取れる…かな」
ベルトルト「…う、うん、ありがと…」
ユミル「…おぅ…無いよりましだな」
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ベルトルト(ぴったりくっついている訳じゃないけど、ただ隣に座るよりかは、もっと近い)
ベルトルト(アニ以外の女の子とは今までに経験した事がない距離だ。体術訓練のときは別だけども…一緒に掛けた膝掛け、暖かい)
ユミル「…薄いが…暖かいな」ニコ
ベルトルト「うん…暖かいね…」
ユミル「………」
ベルトルト「…………」チラ
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ユミル「………」
机の上に視線を落とした少し伏せられた目は、はらりと落ちた長めの前髪に隠されて、表情が窺い知れない。
うっすら桃色に染まった頬には、そばかすが散っている。無駄な肉は無いが、肌理細かく見た目にも柔らかそうだ。引き結んだ薄い唇は、瑞々しく艶やかで、頬より少し濃い桃色。
ノートと教科書を開いておさえる、女子にしてはやや大きめだが、女性的な滑らかで透き通るように白い両手。細く繊細で、長い指先には、綺麗に切り揃えられた形のいい爪。
訓練が休みの時、よく女子が皆で香りのいい花や葉を摘んで、乾燥させて、匂袋を作っているのを見たことがある。その香りなのかもしれない。控えめだけど爽やかな、鼻腔を擽るとても心地いい香り。
ベルトルト(いつも軽口叩いてばかりだけど、近くでよく見たらユミルも女の子なんだな。意外な一面…)
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ベルトルト「」ゾク
ベルトルト(今、また見られた)
ベルトルト(嫌だなぁ……怖い…)
ベルトルト(そんな目で僕を見ないでよ…)
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翌日 消灯前
風呂場出入り口前
ユミル「お〜い、ベルトルさん」
ベルトルト「…ユミル。どうしたのこんな時間に」
ユミル「さっきコニーに会ってさ、風呂にベルトルさんが居るって聞いたから、待ってたんだ」
ユミル「いつもより書き込みが多かったから、今回覚えたい事が沢山あったなら、早く返した方がいいかと思ってな。
ユミル「これ、借りたノート。相変わらず綺麗で見やすかったよ。ありがとうな」
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身動ぎするたびにふわりと石鹸の薫りが放たれる。後ろで髪留めに束ねられた漆黒の髪は少し濡れていて、艶を帯びている。
上気し、淡い桃色の頬。リラックスしているのかいつもはきつい目元も若干弛み、薄いが湿った唇はほんの少し開かれている。首筋に二筋流れる汗の雫に張り付いた後れ毛が、扇情的な気持ちを呼び起こす。
この間隣に座り、出し抜けに垣間見た女性的な一面に触れてから、今までユミルに対して感じた事がない気持ちが急速に膨れ上がってきているのを感じる。
ベルトルト「あぁ…うん。助かるよありがとう」
ノートを受け取ったが、すぐに立ち去りがたい気がして、パラパラと捲る。自分の、几帳面で繊細に書かれた文字がさらさら音を立てて流れていく。
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ベルトルト「…あ」
ユミル「…どうした。紙で指を切ったのか?」
ベルトルト「そうみたいだね。まぁ…平気だよ」
ユミル「紙で切ったわりには結構血が出ているな。滴ってるじゃないか」
ユミル「偶然だが今私は絆創膏を持っている。お前にやろう」フフ
ベルトルト「え、大丈夫だよ」
ユミル「ノートや服なんかに付くと取れないだろ?つけてやるよ、指出しな」
ベルトルト「あ、うん…」
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ユミル「血が多くてつけてもすぐ剥がれちまうな。ちょっと失礼」
と言うが早いか、艶やかに湿った薄い唇に指を挟み込み、軽く吸い込む。柔らかで生暖かい湿った感触。
深い亀裂の間に覗く生暖かくぬめりとした赤い舌でちろりと舐め上げる。咥えられ舐められた指に吐息がかかる。冷たいような、くすぐったいようなそんな感触。
その瞬間、ベルトルトの下腹に僅かに甘い痺れが走り、すこし胸が苦しくなる。反射的に眉を顰めてしまう。
顔が急激に熱くなる。きっと紅潮しているに違いない。浅黒い皮膚の色故に余り目立たないとは思うが…気付かれたくない。
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ユミル「今のうちにつけちまおうな」
ユミル「ほーら、可愛いお花柄だ。この間町に行ったとき買ったんだ」
ユミル「デカイくて長いお前の指には不似合いで変な感じだな」フフッ
ユミル「これしかなくてすまないな。でも無いよりましだろ。きつめに巻いたから、血が止まったら外せよ。じゃあな」
ベルトルト「あ、ありがとう…」
ベルトルト(出血の場合珍しくない対処法だけど…変に意識してしまう)
ベルトルト(こんな感情は持ってはいけないのに)
ベルトルト(持たないように、必用以上に関わらないようにしてたのに…)
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悪魔を根絶やしにする計画で、此方の世界に来てから訓練兵になる前は、幼かったせいもあり、指命に疑問なんて持たなかった。
一年と少しの時間、厳しい訓練を共に受け、挫折や達成感を共に味わい、寝食を共に過ごしていると、積極的に関わっていなくても、情のような仲間意識のようなものが芽生えてしまった。
どこが悪魔なのかわからない、特殊な能力を持たないだけで、故郷の自分達とはほとんど変わらない行動や感情をもつ生き物。
人類を根絶やしにするということは、彼らも又その対象ということだ。実際、自分の蹴りあげた壁のお陰で、悲惨な境遇に陥った者も少なくない。
たまに自分を見失いそうになる。なんのために此方の世界に来たのかを。
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このまま訓練兵を卒業し、憲兵団に入って人類の為に働き、家族を持ち、子孫を残し老いて土に帰る。そのような未来を想像してしまう事がある。
しかし、その様な生き方は許されていない。故郷の仲間の為に小さいうちから訓練を重ね、期待を一身に受けて送り出された自分達。
生きた兵器としてその身を捧げ、命を落とす事も厭わず指命を全うするよう思考の奥底に叩き込まれてきたはずだ。
壁の中の生き物を根絶やしにしなければ、故郷が滅ぼされる。やらなければやられる。だからしなければいけない。だが、しかし
ゴスッ…
コニー「大丈夫か?大型巨人。また部屋の入り口のてっぺんに頭をぶつけて」
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コニー「ボーッとしてるとあぶねぇぞ。しっかし俺も頭ひっかかる位でかくなりてぇな〜そろそろ成長期なんだけどな〜伸びねぇかな〜身長」
ベルトルト「あぁ、うん。大丈夫だよ…ちょっと痛いけど」ズキズキ
ジャン「ベルトルト、おでこ赤くなってんな。結構強く打ったんじゃ無いのか?」
ベルトルト「…平気だよ…たぶん」ハハ…
マルコ「この本読んだから次どうぞ。まぁまぁ楽しめたよ。この間読んでいた流行りの恋愛小説、読み終わったら貸してくれるかい?」
ベルトルト「ありがとう…もう読んだから、今渡すね」
アルミン「ベルトルト、先週発売された本で、調査兵団巨人研究の第一人者のHさんの手記が手に入ったんだ。巨人を捕獲し、さまざまに行った実験結果が載っているよ。凄く興味深いよ。見るかい?」
ベルトルト「…あぁ、見たいな。読みおわったら貸してくれるかな」
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アルミン「アニが借りたいって言ってたから、その次でいい?あとエレンはまだお風呂?」
ベルトルト「う、うん。いつでもいいよ。エレンはまだ入っているんじゃないかな。出口で会わなかったから…」
アルミン「昔からお風呂大好きなんだよね。開拓地のときはなかなか入れなかったから、今凄く満喫してるよね。時間いっぱい入っているもの」ハハ
ベルトルト「…」ハハ…
ジャン「女みたいだな、長風呂なんて」
アルミン「ミカサと一緒に、喋ったり遊んだりしながら入っていたから余計長かったのかもね。よく叔母さんに早く出なさいって怒られてたよ」
ジャン「ミカサと…一緒に…長風呂…だと…!?」
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アルミン「開拓地行く前だからね。まだ子供だし、僕もたまに一緒に入っていたよ。お風呂で釣りのオモチャとかあって、エレンが勝つまで止めないんだ。負けず嫌いだからね」
ジャン「くっそ羨ましいな!!ミカサと風呂!!」
アルミン「はは…子供の時の話だよ…服は引っ張んないでね?伸びちゃうから」
マルコ「ジャン…そんなに悔しいなら、想像して御覧…ミカサの入浴姿を…」
ジャン「くっ…想像だと…!?ミカサをそんな事に使う訳にはっ…」
アルミン「…バレたら半殺しだよ?そんな想像してるところ」
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アルミン「子供のころから筋肉質で腹筋は割れていたよ。東洋人だから肌は白いけど少し黄味がかっていて、で、毛穴とか目立たなくてスベスベでさ、体毛は薄目だね。熱いお湯に入るとすぐに赤くなるんだ。それで」
ジャン「や、やめろ、アルミン!!なんてゲスいんだお前は!?」
アルミン「ジャンは想像派でしょ?エレン今いないし、ネタを提供してあげただけだよ。ミカサにいつもつれなくされてるのも不憫だしね」フフッ
マルコ「頭の中は自分の自由空間だしね。どう使おうと君の勝手だと思うよ…」フフッ
ジャン「ぐあぁ…お前ら…!!」
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コニー「子供の裸なんてつまんねーだろ?妹がいたからさんざん見たけど、ネタになるような事なんて何もないぞ。つるっぺたんだし」
ジャン「…いくら自由空間でも子供のミカサをどうこうって言う使い方はしないぞ」
アルミン「それは今の姿を重ね合わせて、頭の中でストーリーを作り上げて、好き勝手するのさ」
コニー「へぇ〜。俺は画集派だからな。マルコ、新しい春画集無いか?ぼんきゅって体のやつ」
マルコ「昨日ナックと交換したのがあるよ。向こうの部屋で人気だったらしい。…ほら、これ」
コニー「…これは、いい。我儘ボディーのコンプリートリーネイキッドのボトムクリエベイジは最高だな」ポ
アルミン「ふうん…これは興味深いね…」ジー
マルコ「…素晴らしいね。僕はこの気が強そうなすらりとした、黒髪の女の子が好みだな」ジー
ジャン「俺はこっちの東洋系の黒髪の子かな」ジー
アルミン「…好みがぶれないね、ジャン。僕はこっちの金髪の小柄な子がいいな」ジー
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四六時中一緒に居るため、まるで気心の知れた昔からの友人や兄弟かの様に、じゃれ合い馴れ合う騒がしい同室の奴らの間を抜け、皆の机が並べてあるスペースへ進んで行く。
ユミルから受け取ったノートを自分の机の引き出しにしまう。風呂道具一式を物入れに仕舞い、洗濯するものを分けて袋にいれて寄せておく。
一連の動作は淀みなく済まされる。ここの暮らしに慣れきって、ずっと前からこのように過ごしてきたような錯覚をしてしまう。
一人分が横にずらりと連なる二段ベッドの上の、窓側の一番壁がわが、共同部屋の中の唯一のプライベートスペースになる。
梯子を上がると、隣の寝床を縄張りにする、紳士な筋肉ゴリラウータン、もとい皆の兄貴分、又は禁秘の指命を共有する真の仲間が、肘まくらで横になり、本を捲っていた。
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短く切った金髪は小さい頃から変わらない。実直な性格ゆえ、感情は顔に出やすいのだが、細目の特長的な形の眉毛については、余り形を変えないのも小さい頃から変わらない。
小さめで色素の薄い鋭い目だが、普段の穏やかな物腰故に敵意を相手に感じさせない。
しっかりとした鼻梁の下の厚い唇に縁取られた大きな口と力強い顎は、緩慢で優しく理性的な肉食獣を思わせる。
元々大柄で筋肉がつきやすい体に加えて、訓練兵になり、厳しい訓練と自主的なトレーニングの為、肩や腕、胸板、背中や尻、腿から脹ら脛と、身体中盛り上がった分厚い筋肉の鎧に覆われている。
ライナー「おう、上がったか」
ベルトルト「あ、うん…」
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ライナーが、さりげなく近づき、皆に見えないように背中で隠した指でサインを作り、ベルトルトに見せた。
消灯時間が過ぎて、教官が執務室に帰る頃抜け出して、いつも集まる訓練場裏の森の中の、使われていない古い倉庫に集まろうと言う物だった。
承知したことを伝えるため、ライナーの目を見て、軽く頷く。ライナーも頷く。
ベルトルトは枕元に置いてあったマルコに渡す本を取り、梯子を降りた。
現実に引き戻される。自分の成さなければならない終着点へ、真の仲間と共に向かわなければならない。それは後戻りも出来ず、脇道に逸れる選択肢も無いただ一つの道。そう考えると気分が沈み体が酷く重たく感じた。
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消灯後
訓練場裏 廃倉庫中
ライナーと共に森のなかを進み、待ち合わせの廃倉庫の入り口を開ける。古い手入れのされていない扉は、軋んだ音を立てて軽く抵抗しながら開いた。
月明かりに照らされて小さな黒い影が、ゆらりとこちらに向き直る。
アニ「…遅かったね。大分待ったよ」
柔らかな金髪を後ろで無造作に束ね、毛先を遊ばせている。長い前髪の中に見え隠れする、意思の強そうな大きな青い瞳。細い眉は、実際はとても少女らしい内面を覆い隠すように常に顰められている。
背は小さいが、均整のとれた体つきだ。幼い頃から鍛え上げた体は見た目よりも筋肉質で運動能力も高い。
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もう何年も使われていない古い倉庫は、しっかりした外観を保ちながらも、中は黴臭く、湿って埃っぽい空気が鼻腔に吸い込まれる。仄暗い空間に、打ち捨てられている壊れた訓練用の機材が散乱している。
深い森に入った先にあるため、消灯後であればなおさら利用するものもおらず、密会には丁度いい為、いくつかある密談場所の一つになっている。
小さな明かりなら、遠目に見ても分からない位だが、用心のため月明かりのみで行動する。幸い壁の中の人類より自分達は夜目がきく。
ライナー「ジャンがなかなか寝付かなくて抜け出せなかった。待たせてしまってすまない」
アニ「夜中抜け出して好き勝手に逢い引きしてるやつも多いよ。気にせず出てきたら良いじゃないか」
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ベルトルト「二人で同時に出てくるって言うのは難しいから…ごめんね、アニ」
アニ「か弱い乙女をこの暗い廃屋の中に一人で置いとくなんてね」
アニ「退屈で少し寝ていたよ」ファ〜
ライナー「大きな欠伸だな。乙女のは」
アニ「」ゲシッ
ベルトルト「痛い!!蹴らないで!!それ僕の足!!」
アニ「デカイ声出すんじゃないよ。知ってるさ」
ベルトルト「…」ズキズキ
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ライナー「ところで、何か新しい情報はあるか」
アニ「この間クリスタを遠くから監視していた二人組に身元を調べた。ウォール教の幹部とその部下」
アニ「きっとクリスタは関係者なんだろうな。監視されてる様子だと、奴らと親しい仲間といった感じではないようだ…」
アニ「見張りが必用な対象なんだろうね」
ライナー「見た目も普通の人類と違う高貴な感じがするからな。訳ありの貴族か何かなんだろうか」
アニ「私たちに使える駒だといいのだけどね」
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ベルトルト「…」
アニ「ベルトルト。浮かない顔だね」
ベルトルト「…二人ともさ、変な視線感じた事無い?」
ライナー「変なって…どういうのだ?」
ベルトルト「何て言うか…憎しみがこもっているっていうか…悪意をぶつけられるっていうか…酷く攻撃的なそんな感じ」
ライナー「感じた事は無いな…アニはどうだ」
アニ「ミカサからならある」
ベルトルト「え?」
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アニ「体術訓練の時、エレンと組むと、ミカサがまさしくそんな目でこちらを見るのさ。そんなときはわざと体を近くする技をかけてみたりして遊ぶけどね。イライラしたり、ハラハラしたり、百面相するミカサの顔が面白いんだ」フフッ
ベルトルト「…そう言うのじゃなくて、えっと何か最近、酷く攻撃的な視線を感じていて…巨人だってばれているのかなって…思う時があって…」
ライナー「気のせいじゃ無いのか?もしばれていたらすぐに捕まっているだろう。密会も誰にも見られていない。用心に越したことは無いがな。あれから巨大化していないんだ。誰も知らないさ」
ライナー「俺は、ベルトルトのそばにいる時に、感じた事はないぞ。…罪悪感からそう思えるのかも知れないな…壁の中で生活してみて、皆、普通のいいやつだ。少なくとも周りのやつは悪魔とは思えない…」
アニ「……そうだね。私もそう思うよ」
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ベルトルト(僕だけがあいつから悪意を向けられているんだ…何のために?ライナーは気が付いていない?あんなにあからさまな視線なのに)
ベルトルト(…思い当たる事が何もない)
アニ「ベルトルト、指どうしたの?」
ベルトルト「えっ?指?」
無意識に左の人差し指の先に巻かれた、花柄の絆創膏を弄んでいたようだ。もうとっくに痛みもなく、出血は止まっていたが、そのままにしていた。きつめに巻いてあるので意識を向けると、軽い痺れがあるのに気がつく。
暗闇に薄くひかる、白地に赤や桃色や黄色の花が描かれた可愛らしい絆創膏。年頃の男子が自分で調達し、使用するものでは無い。
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アニ「あんた、そういう趣味だったのかい?」
ベルトルト「僕にそういう趣味は無いよ…紙で手を切って…それで、ユミルに貰ったんだ」
ライナー「面倒見がいいな、ユミルは」
アニ「一見そうは見えないけどさ。割とお節介だよね。あんたは私のおばあちゃんかい、と思う時がある」
ライナー「はは、違いないな」
ベルトルト「僕らと余り変わりない…よね」
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アニ「………」
ライナー「…新しい話がないなら、もう戻ろう明日も訓練だ。出来るだけ寝ておく必用がある」
アニ「…そうだね。戻ろう」
ベルトルト「……」
ベルトルト(皆、気持ちが揺れている)
ベルトルト(僕も同じだ…)
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男子寮に入り、部屋に戻る。寒さのせいもあるが背を丸め押し黙り、音を立てないよう静かに歩く。何処からともなくイビキや歯軋りの音が微かに聞こえてくる。
自室に入り皆が寝静まっている横をそっと通り抜け、梯子を登り、二人の寝所へ戻る。防寒はして出掛けた筈だが、体が冷えきってしまった。厚手の毛布に身を潜り込ませ目を閉じる。
体は重く怠いのに、頭の中は妙にはっきりとしていて、眠れそうにない。ふと手を毛布から出しユミルに巻いて貰った絆創膏を張った指を見つめる。意識を向けると、痺れていたのを思い出す。
-
柔らかで温かい唇に咥えられ、血を舐め取られた感触を思い出す。ぬめりとして生暖かい。
細く白い首筋に張り付く後れ毛と汗の玉。上気した桃色の頬。半開きの薄い唇に縁取られた深い亀裂から覗く赤い舌。微かに指先に感じた吐息…
絆創膏を張った指先を自身の口許に持っていき、そっと唇に押し当てる。下腹にずく…と甘い痺れが走る。心臓の鼓動が速くなる。軽く唇に挟むと、腰の痺れはさらに強くなり、年相応の男子特有の排泄欲が頭を擡げる。
眠れないからだ…そう自分に言い訳をして、すでに寝息を立てているライナーを起こさないよう慎重に移動し、個室トイレに向かった。
年頃の男子ばかりなので、こういった排泄欲は皆旺盛だ。消灯時間を過ぎてすぐや、皆が寝静まっている頃など、自身の集中できるタイミングで個室トイレにこもり、行為に及ぶ。
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皆が当たり前にすることで、気づかれたとしても誰も咎める者など居ない。むしろ、お薦めの画集談義を所望されるだろう。
しかし今までベルトルトはあまりその必要は感じていなかった。排泄欲は淡白な方だと思っていた。
ただ、溜めすぎると起床時に不快な思いをすることがあるため、仕方なくアルミンやマルコお薦めの画集を借りたりして済ませていた。
自分から積極的にこの行為に浸りたいと感じたのは初めてだった。
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個室の扉を閉め鍵をかける。かちゃり、と金属の合わさる音がしんとした空間に響く。壁にもたれ、ボトムスのボタンを外す。少しずらした下着から既に膨張しつつある排泄器官を取り出した。
絆創膏を巻いていない方の手の親指の先で先端の裏側を軽く撫で上げる。早くもぬめり始めている。下腹の甘い痺れはますます強まり、胸が苦しくなり、圧し殺した深い溜め息が漏れる。
固さを増したそれを上下にゆっくり扱きながら、風呂上がりの出来事を思い出す。
あの汗に濡れた白く細い首筋に触れたい。
顔を近づけ、石鹸の香りを胸いっぱい吸い込みたい。
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敏感であろう耳朶に口付けをしたら、どんな顔をするだろう。眉を少し潜めて軽く震え微かに甘い吐息を漏らすだろうか。
そんな反応を確かめたら、首筋に流れる汗の玉を舌を這わせて舐めとりたい。強く吸い付いて、透き通った白い皮膚に赤い色を散らしたい。
目を瞑り、早く浅い息を押さえながら、熱く痛いくらいに張り詰めた物を扱く。甘い痺れは抗いがたい快感に変わり全身にさざめき、広がる。
先端から滲み出る粘液を手のひらに絡めながら更に扱く。にちゃにちゃという粘つく音と、苦しげな吐息が、薄暗く静謐な空気に広がる。
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もし、指を舐めた舌がここを舐めたとしたらどんなに気持ちが良いだろう。
生暖かい弾力のある粘膜の湿り気が、先端のくぼみを舐め上げたら。ぞくぞくするような痺れが身体中に伝わるだろう。今よりももっと。
根元から先端にかけて唇で挟み込む様にした口をスライドさせたらぬめりが増して、小さな裂け目から更に雫が溢れ出るんじゃないだろうか。今みたいに。
絆創膏を巻いた指を唇に挟む。あの時されたのように軽く吸い付いた。背筋を軟体の生き物が這ったようなぞくぞくとした痺れが通り抜ける。歯を噛みしめ、漏れ出そうな大きな吐息を圧し殺していると、息苦しい。
そして、ちろりと舌先で舐める。
と同時に、頭の中が白くなり、急激に下腹から大きな快楽の波が全身に向かって突き進んだ。
体が強張り、二度、三度、四度、五度…絶頂の果ての抗う事の出来ない痙攣は、いつもより沢山の産物を吐き出した。
浅く細切れの息遣いから徐々に、大きく深い溜め息と気だるい余韻を残し、終わりを迎える。
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冷えていた体の末端までぽかぽかと温かく、心臓の鼓動は走った後のように跳ねていて、心地よい物憂さがある。
しかし、先程と違い頭の中は非常にクリアだ。
願ったとしても叶う事が無い禁断の妄想に、急激に気持ちが冷めていく。
事の始末を終え、服を整えると、ちらりと絆創膏に目をやり無造作に剥がした。
そして、処理に使った紙と共に棄てた。
-
翌日 早朝
食堂 調理室
訓練兵の食事は、割り当てられた食材で、当番の訓練兵が作る。作り方等はあるものの、細かいところは当番任せなので、得手不得手があり、人によって当たり外れがある。
いつもよりかなり早く食堂に向かい、調理室の扉を開けると、ユミル、クリスタ、サシャがいた。
パンの仕分けや鍋の用意などしているようだ。
ユミル「おはようさん、ベルトルさん」
クリスタ「おはようベルトルト」
昨夜浸った妄想と行為をふと思いだし、顔が熱くなってしまう。恥ずかしくなってしまい反射的に目をそらす。
-
ベルトルト「…おはよう。皆早いね。ライナーとマルコは今来るよ」
サシャ「おはようございますベルトルト〜。食材の野菜を食糧庫から持ってきて下さい。か弱い女子には重たいので〜」
栗色の髪を頭の後ろで馬のしっぽの様に束ねている。動物の様に、愛嬌があり大きな垂れ目は、気だるげに伏せられ、筋が通って少し上向いた鼻の下の、赤みが強く薄いが大きめの脣の間から力ない声を絞り出す。
運動能力の高さを伺わせる、手足が長くしなやかな体は、背中を丸めていて縮こまり、のろのろと動き、いかにも今空腹のために気力が無いといった風情だ。
-
顔はそこそこ可愛く、体つきも女性らしく腰がはって、胸の膨らみが大きめである。
食い意地が張り、非常な大食漢である事と、長らく少人数で暮らしていたのだろう、多人数で過ごす際の常識や慣習が皆と少し違うようだ。
そのため、男子からは異性として扱われることは少ない。しかし、素直さとノリのよさ、程よい抜け具合から、皆と結構仲良くやっている。
ユミル「サシャ。お前、アニみたいなこと言ってんなよ」ダハハ
クリスタ「…ごめんね、お願い出来るかな。道具の用意はしておくから」
ベルトルト「あ、うん…途中でライナーとマルコに会うだろうし、三人で行ってくるね」
ユミル「よろしくな」
-
食堂を出てすぐ、ライナーとマルコに会う。
マルコはベルトルトを視界に認めると、にこりと人懐こい笑顔をみせた。
黒い髪の毛は兵隊らしく短く刈られているが、きちんと切り揃えられ、ほぼ真ん中で分けられた前髪と、やや下がったいつも笑っているような目尻と、誰に対しても穏やかな人当たりに加え、皺の無い清潔で綺麗なハンカチをいつも携帯しているところに知性と育ちのよさを感じさせる。
頬にはそばかすが散っていて、やや大きめの口はいつも軽く微笑むように口角が上がっており、年齢のわりに幼く見える。
が、やや高めの身長と非凡な運動能力、脱いでみると意外に盛り上がった筋肉と、同性の前だけでだが猥談が大好物なところがあり、見かけによらず年相応の男子らしい一面もあったりする。
-
ライナー「食材を取りに行くのか?」
ベルトルト「うん、食糧庫に野菜があるんだって。取りに行こう」
マルコ「女子の当番は今日はだれなの?」
ベルトルト「えっと…ユミルとサシャと…クリスタかな」
ライナー「クリスタかぁ…ふむ、今日の朝食の味は当たりだな」
マルコ「三人とも料理上手だものね」
ライナー「そうだな。俺らは安心してサポート役に徹しよう」
ライナーとマルコはまだ人気の少ない、今来た通路を戻り、ベルトルトと共に食糧庫へ向かった。
-
食糧庫
当番に渡される鍵を使って扉を開ける。ひんやりとした土臭い空気が流れ出る。窓がないためランプに灯をともし、中へ進む。
麻袋に予め小分けされた、訓練兵全員の一食分の野菜が、今日の日付と朝食分と書かれた札をぶら下げて棚のなかに並べられてあった。百数十人分なので、持ち運ぶには鍛えた男子でも手に余り、苦戦する量だ。軽々と持ち上げるのは体の大きなライナーかベルトルト、フランツなど、数人だろう。
ベルトルト「今朝の割り当ての野菜はこれとこれと…この袋かな。よいしょっ…と」
マルコ「皆の憧れの女神が食事当番だから、朝から幸せな気分になる男子続出だね」ハハ
ライナー「俺もその中の一人さ。お前もその一人か?」ハハ
マルコ「クリスタは可愛いけど、僕はユミルみたいな子がタイプだな」
ベルトルト「…」チラ
-
マルコ「見た目も性格も、直球のど真ん中なんだ。あんな感じだけど結構色っぽいところがあったりしてさ」
ライナー「うーん、そうなのか?よくわからんな」
マルコ「ベルトルトも僕と同じタイプが好きみたいで、お気に入りの春画のページよくかぶるよね。どうなの?」
ベルトルト「どうなのって…?」
-
マルコ「なんか出自が複雑そうで…今まで穏やかに生きてきた訳じゃ無さそうだ。色々苦労してきたのかな、彼女は」
マルコ「たまに考えてこんでる時とかあって、そんな時は、酷く儚げに見えるんだ。そうすると凄く女っぽくて、ぞくぞくするんだ。慰めてあげたいんだよ、優しくね」フフ
ベルトルト「…そう…なんだ。ふうん…」
マルコ「あと、結構気が付くだろ?察しがよくてお節介で…他人のために行動している事が多いんだよね。表面的にはあんな感じで解りにくいけど。そこも好きかな」
ベルトルト「……」
-
ライナー「さぁ、ランプ消すぞ。扉の鍵はベルトルト持ってるな?」
ベルトルト「…あ、うん。あるよ」
三人が重たい麻袋を担ぎ、ランプが消された真っ暗な空間から廊下に出る。一度荷物を下ろし、鍵をかける。ガチャリとした音と金具の噛み合う手応えを確認してからまた荷物を担ぐ。
まだ早起きの部類の、朝の支度に取りかかり始めた他の訓練兵を横目に、野菜のつまった麻袋を担ぎ、食堂へ向かう。
-
食堂 朝食調理中
クリスタ「ライナー、このお鍋もうできたから、配膳台まで持っていって。重たいから気を付けてね?」
ライナー「承知した。任せろ」
サシャ「お芋さんがふかし上がりました!!マルコ、大皿に盛り付けるの手伝って下さい〜」
マルコ「皿は上の棚のでいいよね。今持っていくよ」
ユミル「ベルトルさんよ〜もちっと早く剥こうぜ果物の皮。そんな丁寧なナイフ使いじゃなくていいんだよ」
ベルトルト「あ、ごめん…」
ユミル「真面目で几帳面なのは美徳だぜ。だけど手ぇ抜くところは抜かないと、自分が疲れる」
ユミル「…なんて不真面目の権化な私に言われてもな」フフッ
ベルトルト「…いや、そんな事は…」
ユミル「な〜んてな。私が三個剥く間、お前一個だろ?ほらほら、急げ急げ〜」ハハッ
ベルトルト「……頑張るよ…」
-
手を抜いているとはいうものの、手際よく動く細く長い指は、柔らかく持った果実の赤い皮にナイフを器用に滑らせ、剥きとっていく。
躊躇いなく、よく動く白い指にぼんやり見蕩れていると、昨夜の事を思い出し、またもや劣情が湧き出してくる。柔らかく、優しく、あんな風に触られてみたい…。
ベルトルト(いや、朝からなに考えているんだ、僕は)
ベルトルト(壁の中の人類に興味を持つのはいけないことだ。指命の遂行に関わる…)
ベルトルト(でもライナーはクリスタに興味を持っているようだけども…そのせいか、ここの暮らしに慣れて過ぎたのか、指命を忘れているように見えることがある)
ベルトルト(アニだって、密会のたびに迷うような言葉を口にする)
ベルトルト(僕までおかしくなるわけにはいかない…)
-
ユミル「よーし、これで終わりだ。おつかれさん。他のところ手伝おうぜ」
調理室を見回すと、マルコとサシャはふかし芋の仕分けを始めたところだった。ライナーとクリスタは、使った調理器具の洗浄を始めていた。
ライナーが武骨で大きな手の割に、器用に大きな鍋や皿に泡の付いたスポンジを、力を入れて滑らし擦る。
その横で、クリスタが小さな手をちょこちょこと手際よく動かし、泡をたらいに貯めた水で流している。
何やら楽しく会話が弾んでいるらしく、クリスタは小さな小鳥のように涼やかな声で笑い、ライナーは目元と口元が若干緩んでおり、普段余り動く事がない眉毛すら下がりぎみに見える。
ベルトルト(洗い物の方が大変そうだな…手伝うか…邪魔して悪いけど)
-
ベルトルト「ライナー、手伝うよ」
ライナー「ん、そうか?じゃあクリスタと代わってくれ。井戸水がつめたいからな」
クリスタ「私は大丈夫だよ。洗ったものを拭いて貰えると助かるな」
ライナー「いやいや、手が真っ赤じゃないか。代わって貰うといい」
ベルトルト「…代わるよクリスタ」
クリスタ「そう?…ならお願いするね。私は拭くね」
-
クリスタと位置を代わり、井戸水に手を浸す。水はひどく冷たく、全身に寒気が広がり体が強ばる。
なるべく浸かる時間が少ないように工夫しながら泡を流す。
そして水気を切って隣の台に置く。大体洗い終わっていたのか、あとは大鍋が幾つかと蓋だけだ。
このくらいなら、さほど時間もかからずに作業は終わるだろう。
十分に流した大鍋の水気を切り、隣の台にのせる。大柄のベルトルトでさえ持ち上げると視界が遮られる。
その時、目の端に冷たくきらりとした光りを捉えた。
ベルトルト「…!!」
反射的に体を捻る。
カシャーン…カラカラ…
クリスタ「大丈夫!?ベルトルト!!」
-
クリスタ「ごめんなさい、手が当たってしまったみたいで…!!落としてしまったみたいで…怪我はない!?」
甲高い音をたてて勢いよく床に落ちたのは、ブレードと同じ素材の、肉を捌く為の切れ味のよい大きなナイフだった。
ベルトルト「…避けたから…」
可愛らしい細い眉を精一杯悲愴に寄せて、両手を揉み絞り、ベルトルトをひたと見つめ、身体中で申し訳なさを表現している訓練兵の女神をちらりと見やり、簡潔に答える。
-
ライナー「危なかったな!平気かクリスタ!?どこか切れてはいないか!?」
ベルトルト(僕よりクリスタの心配をしているのか。まぁもし僕が怪我をしても、修復は可能だけども)
ベルトルト(こちらの人間に深入りしすぎていないか?)
ライナーの兵士としての振る舞いは、既に演技なのかそうでないのか、ベルトルトには見分けがつかない。
クリスタ「私は大丈夫…ベルトルト、本当にごめんなさい」
ベルトルト「うん…いいよ。続きをしよう」
-
ユミル「クリスタ〜大丈夫か?」
芋の仕分けを手伝いに行ったユミルが、心配する言葉の割にはのんきな間延びした口調で、クリスタの元にゆったりと歩きながら近づいて来た。
華奢で小さな肩に細く長い腕をしなやかに絡ませ、後から寄り掛かる。
クリスタ「私は平気よ。もう少しだから終わらせちゃうね」
ユミル「お前はあっちの芋、手伝えよ。冷たい水ずっと触ってたから手が強ばってるんだろ。芋温かいぞ。ここは私がやるから行ってこい」
クリスタ「でも、もう少しだから」
ユミル「いいから行ってこいよ。さぁ、ベルトルさん、どんどん流してくれよ」
クリスタ「…ありがとうユミル。お願いするね…」
-
マルコとサシャの方にかけより、芋の仕分け作業を手伝い始めたクリスタを横目に、ユミルは布で調理器具を拭き始める。
ユミル「…お前、よく避けられたな」
ベルトルト「…うん、まぁ…何かよくわからなかったけど、危ないって思って…とっさに…」
ユミル「気を付けろよ。そのうちほんとに刺されるかも知れないぞ」ボソッ
ベルトルト「…えっ?」
ユミル「……女神」
-
ユミル「の崇拝者にな」ニカッ
食事スペースから調理室は、カウンターになっているところがあり、よく見渡せるようになっている。まだ時間にだいぶ早いが、既に訓練兵が全体の半分ほど集まってきている。
その中に、食事当番のクリスタ目当てに早めにやって来て、あちらこちらから、ちらちら覗き見る男子も少なくない。
当然、皆に厚く信頼されている兄貴分のライナーは別として、その他の男子がクリスタと一緒に作業しようものなら、しばらく羨望と嫉妬の混じりあったねつい視線を一身に受ける事となる。
ベルトルト「…流石にそこまでは無いでしょ」
-
ユミル「恋に狂った奴の考える事は、常人には理解できねぇよ。たぶん」
ベルトルト「…ユミルは恋に狂った事はあるの」
ユミル「はぁ、私か?無いな」
ベルトルト「…僕も無いよ」
ユミル「じゃあ解んない派だな」
ベルトルト「うん…」
ユミル「」フッ…
-
午前中
訓練場 立体起動訓練
ライナー「前方!一時方向茂み!巨人発見!!」
ライナー「ベルトルト、行け!!」シュパッ…
ベルトルト「了解!!」プシュウ!!
ザンッ…!!
四十メートルはある、枝の少ない真っ直ぐな固い樹皮に覆われた木で形作られた薄暗い林の中に、木で作られた巨人の人形が点在する。うなじには柔らかな詰め物をした筒が括り付けられており、そこを本番さながら、ブレードで削いでいく。
-
同じくらいの能力の者と班になり、息を合わせて、場所の正確さ斬撃の数や深さを、他の班と競う。
ライナーベルトルト組と、マルコジャン組、アニミカサ組が今回の訓練のトップを競っている。
クリスタユミル組、コニーエレン組がその後を追いかけている様だ。
スピードをあげてゴールまで先頭を突き進み、他者がまだ到達していない人形を狙って、どんどん斬り倒していく。
今は少し後にマルコとジャンがいるはずだ。このまま先頭を維持したら、今回の成績はトップに違いない。
-
ベルトルト「ライナー!!左!!十時だ!!」
ライナー「行こう!!」
ザンッ…!!
ジャン「はっはー!!悪いな!!いただきだ!!」
ライナー「いい深さだなジャン!!先にいくぞ!!」
ベルトルト「…」
ジャン「先に進まれてたまるかよ!!行くぞマルコ!!」
マルコ「あぁ!!行こう!!」
ライナー「…思ったより前にいたな。スピードを上げるぞベルトルト!!」
ベルトルト「…わかった!!」
-
ゴール地点にベルトルトとライナーがたどり着いて少しあと、ジャンとマルコが滑り込んできた。
教官にチェックをしてもらい、少し離れた場所に移動し、腰をおろす。精神を張り詰め全力で駆け抜けた為、皆、心臓が跳ね上がっており口元から白く小さい蒸気を何度も吐き出している。
気温が低いにも関わらず、汗が身体中からふき出し、衣服を湿らす。額から流れる汗がいく筋も頬を伝い顎から滴り落ちる。
ジャン「またお前らに勝てなかったな、速さは」
ライナー「なるべく最短距離をとって、脇の人形は見過ごして来た。討伐数はこちらがかなわないかもしれないな」
マルコ「でも斬撃の正確さは、ベルトルトにはかなわないから、ね」
ジャン「早いくせに仕事が丁寧だからな。点数稼ぎやがる」
ベルトルト「…」
-
ライナー「三位は誰だ…んん?意外な奴等だな」
額に手のひらをかざし、昼でも薄暗い木々の間を透かし見ていたライナーに、息と胸を弾ませ、にこやかに二人組の女の子が歩みよる。
ユミル「よーう!!成績上位者様!!私ら何位だ!?」
ライナー「今日は速いな!!到着順なら三位だ!!」
クリスタ「本当に!?凄いよ、ユミル!!やったね!!」
ユミル「クリスタが頑張ったからに決まってんだろ〜いいコいいコ!!」グリグリ
クリスタ「もぅ、髪の毛が絡まっちゃうよ〜」
-
クリスタ「速かったのはユミルの作戦のお陰だよ!」
マルコ「作戦ってどういうの?」
クリスタ「えっとね、最初は少し遅れて進んで、ゴールまでの直線距離から外れた皆の取りこぼした人形を丁寧に削いで、討伐数を少し稼いだの」
クリスタ「あとは直線距離より右寄りのコースを、枝の少ないやや低空で、スピードを出してひたすらゴールを目指したんだ」
ユミル「も〜う。言っちゃったらもう使え無いだろ」
ライナー「なるほど…点数を稼ぐならいい考えだな。しかし、低空気味だと訓練中はいいが、実際巨人と戦うときに危ないぞ。大きさによっては目の前に出現してぶつかるかも知れないからな」
ユミル「いーんだよ。憲兵になりゃ巨人と戦うことなんて無いだろ?点数稼げたらそれでいいのさ」
-
ジャン「まあな…そうなのかもな。おっ、四番、五番、六番はほぼ同時だな。そのあとも来てる」
マルコ「ユミルは機転が利くね。僕らも負けていられないよ」
ユミル「まぁ、たまたまだな。皆の取りこぼしがなかったら成立しないからな」
ユミル「それにしても、クリスタのブレード捌きには惚れ惚れしたぜ!!深さは男共にかなわないが、タイミングと場所の正確さはトップクラスだな!!」
クリスタ「そんな事無いよ…ユミルがここ狙えって教えてくれるからじゃない」
クリスタ「…でもベルトルトのブレード捌きは参考にしてる。速いのに正確で…凄いなっていつも思うの」
-
ユミル「そうだな。…ベルトルさんは本当に上手いよな。いよっ、斬撃職人」
ベルトルト「職人なんだ…」ハハ…
ユミル「職人じゃ不満か。なら、斬撃隊長とか…斬撃司令?いや、斬撃大王?う〜ん、斬撃大魔人?とかにすりゃいいのか?」
ベルトルト「なんかスケール大きくなってきたね」フフッ
ユミル「訓練兵の中ではお前が一番だからな」ニコ
ベルトルト「」ゾクッ
ベルトルト(また…)
-
その人物から注がれる、苛立ちと怒り、殺意に…嫉妬?持てるだけの悪意をこめてベルトルトにだけ真っ直ぐに放たれる視線。
周りの人間はだれも気が付いていない。
普段接していても、なんらその様な態度は自分や周りに見せない。ただ少し離れた所からこちらを見ているだけだ。
表情は一見穏やかだが、ひたと当てられた視線はそれだけでこちらを居すくませるに足る、冷たくて酷く攻撃的なものだ。体格や力ではベルトルトの方が勝っているはずなのに、気圧されてしまい恐怖が先にたつ。
ベルトルト(僕らの事を気付いて無いとしたらどうして…)
-
この暗く鋭い憎悪の塊の視線に当てられると、いつも怯み、怖れてしまう。
しかし訓練で激しく体を動かした直後と言う事と、今回の成績が一位となった自信が気持ちを高揚させていた。
ベルトルト(酷い威圧感だけど、今までも見てるだけで何をするわけでもないじゃないか…僕がなにかしたわけでもないのになぜ)
考えると、むかむかと腹が立ってきた。理由も告げず、ただただ皆に隠れて酷い視線を投げつけるだけの相手にも、力では負けないはずなのに見られただけで恐怖感に囚われてしまう自分にも。
そう思った瞬間、相手の視線に自分の苛立ちとむかつきをぶつけてしまった。
相手は意表を突かれたのか、一瞬たじろいだように見えた。直後、目に宿る悪意と違い、今まで変えたことが無かった一見穏やかな表情がぐしゃりと崩れ、憎しみを満面にたたえた酷く醜いものへと急激に変化した。
ユミル「なんだベルトルさん。背中でも痒いのか?変な顔して」
-
ベルトルト「…えっ」
急にユミルに話しかけられ、はっとする。相手を見やると、既にこちらを向いてはいなかった。
ベルトルト「別に痒くは無いし…変な顔で悪かったね」フイッ
視線にて複雑なねじくれた感情を互いにぶつけ合った余韻があり、関係のないユミルに向かって、つい対応がぞんざいになってしまう。
ユミル「はは、むくれるなよ」
ユミル「…そんな目ぇして、物騒だろ」ボソ
ベルトルト「…」ピク
-
ユミル「…ほーら、痒いなら掻いてやるよ!!」ポリポリ!!
手を背中側のジャケットの中に差し込み、掻くと思いきや、その指先は脇腹に向かって伸びていた。ぐねぐねと波うつ手の先で、強烈な接触刺激がベルトルトを襲った。
ベルトルト「わあ!!あはは!!や、やめてよ、ユミル!!何するの!?ひゃあ!!ははは!!痒く無いよ!!ジャケットの中に、手!!うはっ!!入れるの止めて!?」ジタバタ
笑いたくないのに強制的に笑い声を立ててしまう。懇願し、体を捻り逃れようとするが、ユミルはいたずらそうににやにやと笑い、執拗に攻撃を止めない。更に力を込めて脇腹を激しく引っ掻きまわしたり、そっと爪を押し付けなぞったり、緩急をつけてベルトルトを攻め立てる。
-
ユミル「だーはは!!遠慮すんなよ!!くすぐったがりだなー!!はは!!ほらほらー!!」ポリポーリポリポーリポーリポリポリポリポリ!!
ベルトルト「うわああ!!もう止めて!?止めてよ!!ひゃああ!!脇腹とか痒い訳無いよ!!はは!!お願い!!ユミル!!ねぇ!?ねぇったらぁはははは!!!!」ジタバタ
ライナー「お〜い、遊んでないでもう行くぞ。そろそろ最後が着いたようだ。教官が来るぞ」
ユミル「はいよ〜!!じゃおーわりっと」
-
背中を掻くと言いつつ、メチャクチャに擽られてしまった。ベルトを装着してるので、急に振り払い、金具にユミルの手を引っ掻けてはいけないと上手く逃げる事が出来ず、されるがままになってしまった。
擽ったいのと快感は紙一重だ。密着し、ユミルから漂う爽やかな香りと汗の匂いを鼻腔に注ぎ込まれ、抗いきれないぞくぞくとした強烈な快感のほとばしりの波を感じている自身の体は、今そうなると大変不都合な結果に反応しかねない。
意識がおかしな方へ向かないように非常に神経を使った。幸い健康な男子の象徴は何事にも動じておらず、平静を装うことに成功している。
-
疲労がどっと押し寄せ、地面にへたり込んでしまう。一度収まっていた心臓の鼓動も、再び勢いよく跳ねていて、息が切れる。
ベルトルト「はっ、はあっ…はぁ…っ!!ひ、酷いよ…君…」
ユミル「ふはは…ベルトルさんで遊ぶの面白いなぁ」ニシシ
ベルトルト「ふあっ…ぼ、僕はっ…オモチャじゃ…な…いよ…はぁっ…」
ユミル「わりぃ訂正するわ。ベルトルさんと遊ぶのが楽しいんだよ私は」
ベルトルト「…はあっ…はぁ……?」
ユミル「さ、行こうぜ、ベルトルさん」ニコ
地面に足を投げ出して座っているベルトルトにユミルが手を差し出す。一瞬躊躇ったが、その手を軽く取り、余り体重をかけないように気を遣い立ち上がった。握ったその手は少し汗ばんで湿り気があり温かく、想像よりふんわりと柔らかだった。
-
消灯後
男子寮
ベルトルト(眠れないし…今日はユミルが悪いんだ…)
灯りを落とし皆の寝息が聞こえてくる頃、ベルトルトは軽く鼾を立てる筋肉の塊を乗り越え、梯子を降りて、そっと棚からマントを取りだし、部屋を出た。
男子寮の個室トイレは先客がいたようで、微かに圧し殺した呼吸がもれており、人の気配がしたので止めた。春画派の時は誰かが他の個室にいても気にならなかったが、想像派に転向した今となっては、静かに没頭出来る場所が欲しかった。
ベルトルト(仕方ないな。はしっこの方の空き部屋に行こう)
-
男子寮の幾つか空き部屋がある。開拓地に行った者や脱落した者がおり、部屋が余るのだ。本来は使用不可だが、教官はそこまで見回らないので、皆適当に使っている。
特に女子寮の建物に近い部屋は、女子寮の男子寮側の空き部屋と共に、逢い引きに使われる事が多い。
ベルトルト(先客はいるかな)チラ
扉は閉められており、内側から鍵がかかっているようだ。ぽそぽそと男女の声を潜めた話し声と、寝台が軋むような音も聞こえる。
ベルトルト(逢い引きか。フランツとハンナかな…)
-
この部屋の隣も二つ部屋が空いていたはず。近付いてみると、すぐ隣の部屋は扉が少し空いており、誰もいない様だ。隣の話し声がやや気になるが、今日はこの場所で済ますことに決めた。
窓からわずかばかり差し込む月明かりのみの薄暗い廊下を、足音を極力立てないように注意しながら移動する。隣の部屋に入り、内側から鍵をかける。部屋の奥に進み、壁際の机から椅子をそっと引き出し、腰かけた。
???「…アニ…」
隣から、声が微かに聞こえた。聞き間違いかと思ったが、確かにそう聞こえた。
-
この壁の向こうが、隣の部屋の寝台という作りだったような…。寝台は沢山あるが、偶然、薄い壁を挟んで今、すぐ向こう側にだれかがいるのだ。それは幼い頃からよく知っている同じ指命を持つ仲間?
確かめようと、壁に近付き、聞き耳を立てる。
行為の真っ最中のようで、軋む寝台の音と共に、荒い圧し殺した男女の吐息と、密やかに交わされる甘い会話のやり取り。粘着液にまみれた肉体が一定の速度でぶつかる音が、切れ切れに漏れ伝わってくる。
-
アニ「…はあっ、も…駄目だ…」
???「もう…?さっきイったばかりじゃない…。でも、何回でも…良いよ。アニ、凄く可愛い。大好き」
アニ「…私も…っ、好きさ…。大好き…。ん…やぁっ、そこっ、耳、食べないでぇ…!!」
アニ「そ…こっ触らないでぇ…!!んぁっ、はぁんっ!!あっ!!あぁっ…!!あぁぁっ!!いやぁぁぁ…!!」
???「はぁっ、可愛い。もっと鳴いてよ…アニ」
名前がはっきり聞こえた。やはり禁秘の指命を共にしているはずの仲間だ。相手は…誰だろう。高めの、落ち着いた、優しい声の…
-
ベルトルト(三人で人目に隠れて話し合いをしている時、半年くらい前からアニがの様子がだんだん変わってきたと思ってた)
言葉の端々に、計画に対する迷いを口にするようになったのだ。実際、自分も周りの人間と過ごすうちに、そんな気持ちになってきている。
それは昼夜構わず一緒に過ごすうち、生まれてしまった連帯感か。しかし、それを持ってしまったところで、近い将来自分達の手で虐殺し滅ぼしてしまう予定のものなのだ。それは抗えない、止めることの出来ない指命のはずだ。
それなのに、こちらの人間と体を重ねる関係を持っていたなんて。しかも好きだなんて。
期待と責任とその後果たさなければならない多大な罪を背負わされ、送り出された故郷を裏切る事になる。
-
そうならないように自分を律していたが、そんな自分に対して、なんだか馬鹿馬鹿しい投げ出したい気持ちになる。
ライナーだってクリスタに対して好意を周りに隠さない。
初めは、警戒していたこともあり、いつもベルトルトと二人で行動することが多かったので、ゲイ疑惑をかけられた事があった。
そのため、女の子に興味があるふりをした方がいいだろう、と言うことで、皆に女神と崇められるクリスタに興味があるように装っていたはずだった。
今となってはとても演技には見えず、心底クリスタの事を好いている様だ。食事当番の際ベルトルトそっちのけで、クリスタの怪我の心配を真っ先にした事で確信した。
ただ、ライナーはアニのように肉体関係まではないと思うが…。
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ベルトルト(二人ともどうするつもりなのかな)
ベルトルト(僕は巨人体では移動出来ないから、二人の力が絶対必要なのに)
ベルトルト(僕だって普通の若者のように、恋をしたいのに)
ベルトルト(殺人兵器に育てられたからといって、中身は年相応の若者なんだから…そういった感情がない訳じゃない…)
ベルトルト(でも、こちら側の人類に、あの時何をしたかを考えたら…とてもじゃないけど、なってはいけないんじゃないかって…)
ベルトルト(それに…巨人となんて、もし知られたら、相手は拒絶するに決まっている)
ベルトルト(そうしたら…自分の身を守るなら、知ってしまった相手を殺し、壁の中から立ち去らなければ…)
ベルトルト(正体が回りに漏れてしまったら、調査兵団に捕まり、アルミンの本の巨人みたいにされてしまうのだろうか。拘束されて…切り刻まれて…修復したらまた…生きたまま、何度も)
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自身の想いにとらわれているうちに、気が付けば寝台の軋む音が止んで、ぽそぽそと潜めた話し声が漏れ聞こえる。
アニ「…これ、ありがとう。もう読んだよ。返す」
???「もう?次に順番待ちしてる人がいるから助かるけど。興味をひく所はあった?」
アニ「そうだね…実際生きたまま行う痛覚実験なんか、可哀想な気がしてしまう」
???「アニは優しいんだね。対巨人での有効な戦闘方法が、もっと研究されたら、今よりも効率よく戦えるようになる」
???「そうしたら、僕みたいに無力な兵士でも、生き残れる確率が上がるはずだから…必要な事だと思うけどね」
アニ「死んでほしくないな…あんたには」
アニ「…アルミン…」
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アルミン「アニ…大好きだよ」
アニ「…ん……ふっ…」
たぶん、唇を重ねて舌を絡ませているのだろう。漏れ出す吐息の合間に水っぽい音が混じっている。
相手はアルミンか…。本の貸し借りを聞いたとき、意外な交友関係だなとは思ったが。全く気が付かなかった。
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肩までの綺麗な金髪と、大きく利発そうな目に、少し上向いた可愛らしい鼻。優しい微笑を湛える柔らかな口元と、白い滑らかな肌で形どられた顔は、まるで物語の王子様のようだ。
見た目も華奢で、体も筋肉が付きにくいのと、元来運動が苦手なのだろう、男子と言うよりは女子に近い。
しかし、体力はないが根性はあり、きつい訓練でも食らい付いて、時間がかかってもきちんとこなす。芯は男らしい性格の様だ。
勉強は大変優秀で、座学の全てはミカサやライナー、ベルトルトを抜いてトップに立つ。頭の回転が非常に早く、先の先まで読んでくる。禁秘の使命を気付かれ無いように気を付けなければならない相手だと思う。
男子寮の中では、寝台の下に男子寮一番の春画コレクション蔵書冊数をマルコと競い、猥談で他の同期の奴等と盛り上がり、童貞同盟万歳だの、充実しているやつらは駆逐してやるなどと、いつも騒ぎはしゃいでいるのだが…。
皆に合わせていただけで、実際することはしていたと言うことだろうか。さっき聞こえた感じでは、逢い引きは初めてではないのだろう。
-
音を立てないように注意しながら、椅子を戻し立ち上がる。
アニの裏切り行為にはからずも直面し、自分だけが葛藤しながらも忠実に指命を抱き続けていた事に気が付き腹が立った。
なにもかも面倒臭い気持ちになり、この部屋に来た本来の目的を達成する気持ちもすっかり失せていた。
と同時に、自分もこちらの人間と、心や体を通わせる事を望んでも良いのだろうか、という気持ちが湧き上がる。
ベルトルト(僕は…僕だって…)
-
*
*
*
余計眠れなくなってしまった。
仕方がないので、もうひとつ隣の空き部屋に入ろうかと隣を見ると、扉はぴったりと閉まっており、かすかに人の話し声がする。こちらも、誰かが逢い引きに使用中のようだ。
ベルトルト(皆…若者の生を満喫してるな。これからどんな計画が行われようとしてるかも知らないで)
ベルトルト(まぁ…僕らがしなければ何も起こらないんだけどね…)
行く宛が無くなってしまった。しかし、まだ眠れないし、眠りたくもなかった。
少し寒いが、外に出ることにする。訓練場に向かう途中の林に、座るのに丁度いい、太目の倒れた丸太が数本転がっていたはず。
木の陰になるところだし、暗いし、同じく徘徊している奴等がいたとしても、会わないだろう。
-
寒さ対策で厚手のマントを持っていたが、手に持ったままにしていた。投げ遣りな気持ちと共に、自分を痛め付けたい様な、自身に八つ当たりしたい様な気分がして、敢えて着ていない。
たまに通りすぎる冷たい風は強くはないが、ジャケットやシャツの間に入り込むと、体を強ばらせた。指先が冷えて感覚が薄らぎ動かしにくい。
かさかさと、枯れ葉を踏みしめ林の中を進む。
ベルトルト(この辺だったと思ったけど)
ベルトルト(あ…誰かいる)
誰もいないと考えていたため、足音を潜めることはしていなかった。気持ちが不安定なのもあり、踏みしめ蹴散らし歩いていたので、音が響き、向こうに気付かれているようだ。
立ち上がってこちらを見ている。人よりきく夜目に、ベルトルトにはそこにいるのが誰であるか解る。
この距離なら普通は人とは解っても、誰であるかまでは解らないはずだ。
踵を返し、今来た道を戻る。
-
ユミル「待てよ。今晩は、ぐらい言っていけ」
ユミル「ベルトルさんよ」
ベルトルト(……この距離でよく解ったな。月明かりもそんなに無いのに)
正体がばれてしまった以上、無言で立ち去るのも感じが悪い。何より、先ほど感じた自分も他の若者と同じように過ごしたいというぼんやりとした思いが、ユミルのもとへ足を向かわせた。
-
ベルトルト「今晩は」
ユミル「はい、今晩は」
ベルトルト「………」
ユミル「………」
ユミル「座らないか?」
ベルトルト「うん…」
丸太の上に並んで腰を降ろす。たまに吹く風に煽られた枯れ葉がかさかさ舞っている他は、特に音はせず、しんとしている。マントを着て、膝掛けをかけたユミルが静かに座っている。
-
ユミル「…ベルトルさんもお散歩か?」
ベルトルト「…なんか眠れなくて」
ユミル「ふうん。私もだ」
ベルトルト「………」
ユミル「………」
ユミル「寒く無いのか?」
ベルトルト「…え?それなりに寒いけど」
ユミル「何故マントを着ないんだ?手に持っているのに」
ベルトルト「…あぁ、何でかな」
ユミル「変な奴だな」
ベルトルト「…うん、変な奴かも」
ユミル「」フッ
-
ベルトルト「…ユミルは何でここに?」
ユミル「…一人になりたかったからさ」
ユミル「私にだって、考え事のひとつやふたつ、あんだよ」
ベルトルト「…ごめん、邪魔しちゃったね。じゃあ、僕はこれで…」
ユミル「おい、待て」クイッ
ベルトルト「袖引っ張んないで、伸びちゃう」
ユミル「ベルトルさんなら別に居たって構わない…お前さえ良ければもう少し付き合ってくれよ」
-
ベルトルト「……」ストッ
ユミル「…マントを着たらどうだ?」
ベルトルト「……」
ユミル「風邪引くぞ。ほら、貸せ」
と言うと立ち上がり、持っていたマントを奪い取り、肩に掛けた。ベルトルトの前に屈んで、首もとの金具をつける際、冷たい滑らかな指が喉や頬に微かに触れる。いつもの爽やかな甘い香りが鼻腔を擽る。
ベルトルトの近くに座り直し、膝掛けを拡げ、ベルトルトの膝も覆った。薄着で冷えきった体が僅かに暖かさを感じている。
ベルトルト「…ありがとう」
ユミル「…何か嫌なことがあったのかどうか知らないが、自分を痛め付けても良いことないぜ」
ベルトルト「……そう見えた?」
-
ユミル「浮かない顔してこの寒い中薄着で深夜徘徊してんだ。見えるに決まってんだろ」
ベルトルト「……当たりだよ。ユミル、凄いね」
ユミル「別に凄くなんかないな。ベルトルさんがわかりやすいだけだ」
ベルトルト「そう……どっちかと言うと僕、表面的に変化無い方だと思ってたけど」
ユミル「ふん……そうかもな」
ベルトルト「ユミルって人の事をよく見てるよね」
ユミル「そうか?」
ベルトルト「…そしてお節介だ。おばあちゃんみたい」
ユミル「はは、そうかもな。よく言われるよ」
-
前を見つめたまま、ユミルは軽く笑った。低めのゆったりとした話し声は、耳に心地いい。先程まで箚さくれだっていた胸の奥を、優しくじんわり包み込んで癒してくれる。
…思わず、頭のなかを占めていた深い物思いの一端が漏れだしてしまう。
ベルトルト「…やらなきゃいけないことがあるんだ」
ユミル「あぁ…」
ベルトルト「やりたくないんだ」
ユミル「…」
-
ベルトルト「でも、それは、やりかけていて…その責任…から…逃げられなくて…僕だけの問題でもなくて…」
ベルトルト「そう思っているのは…もう、僕だけみたいで…」
ベルトルト「してしまった事は…全く取り返しが付かない事で…」
ベルトルト「その先もあるんだけど…同じ事をやらなければいけないんだけど…これ以上は…したくなくて、今のまま居たくて」
ユミル「………」
ベルトルト「もし投げ出したところで、今までしてしまった事は、とても赦される事では無くて…」
ベルトルト「……投げ出して違う道を選んだとしても、それは綱渡りみたいに危うくて…綱を踏み外したら、身の破滅どころじゃなくて…」
ベルトルト「でも、僕が望んでいるのは危うくても不安定でも、そちらに行きたいと思ってるんだ…」
黙ってベルトルトの話を聞いていたユミルは、軽く溜め息をついたあと薄く笑い、ベルトルトの膝をぽんと叩いた。
-
ユミル「なんの事を言っているのかさっぱり解らないが」
ユミル「……やりたくないなら、しなければいいんじゃないか?」
ベルトルト「……」
ユミル「投げ出したって良いんじゃないのか」
ユミル「どうしたいかなんて、決めるのは自分だ。いくら他人様に何か言われようと、考えて動くのは自分の自由だ」
ベルトルト「…僕は自由じゃないんだ」
ユミル「自由かそうじゃないか、決めんのは自分だ」
ユミル「赦されなくたって、危うかったって、自分がしたい事、したらいいだろ」
-
ユミル「失敗か悪かったことなんて、そう思うなら、償いでも贖罪でもしたらいい。自分で出来そうもないなら、いっそそこらの山羊をとっ捕まえて背負わせちまえよ」
ユミル「私も昔は…ベルトルさんみたいな事言って、皆のために自分を犠牲にして生きた事もあったけどな。今は最高にイカした人生を送ってやろうと決めてんだ」
ユミル「私だったらそうするって話だ…」
ベルトルト「…」
ユミル「ま、ベルトルさんにはベルトルさんの事情があるんだろうがな」
ユミル「…喋り過ぎたな。悪い、熱くなっちまった」
ベルトルト「……」
-
ユミル「…そうだ、良いものをやろう」ゴソゴソ
ベルトルト「…何?」
ユミル「気分転換には甘いものがいい。食べるか?私のお手製だ」
ベルトルト「…くれるなら貰おうかな。小腹もすいてるし」
ユミル「ははっ、育ち盛りだからな。ほら、口開けろ」
ベルトルト「えっ」
ユミル「木の実の砂糖漬けなんだ。手が汚れるから口に入れてやるよ」
ベルトルト「…じゃあ、お言葉に甘えて」アーン
ユミル「ほらよ」ポイ
ベルトルト「」モグ…
-
甘い物は得意ではなかったが、口に広がる木の実の酸味が甘さを和らげ、とても爽やかな味がした。何より今は小腹が空いている。
ベルトルト「美味しい!!」
ユミル「…何だよ、びっくりしたな」
ベルトルト「でも、砂糖なんて貴重なもの…お給料で買ったの?」
ユミル「作ったんだよ。訓練所の林の奥に、甘い樹液を出す木があるんだ。幹に少し傷をつけると取れるんだ」
ユミル「それを煮詰めて、砂糖もどきを作るのさ。そこらで取れる木の実やなにかに砂糖もどきをまぶしておけば出来上がり。日持ちもするしな」
ユミル「手間はかかるが、元手はゼロだ。食べたきゃ遠慮なく食べろ」ニコ
ベルトルト「本当に?いいの?」アーン
ユミル「いいぜ。食べろ食べろ」ポイ
ベルトルト「」モグモグ…
-
*
*
*
ユミル「…袋一杯入っていたのだが、全部食っちまうとはな」
ベルトルト「だってユミルが口に入れてくれるから」モグ
ユミル「なんか餌付けしてるみたいで、楽しくなってしまったんだ。それに、にこにこして美味しい美味しいって言われると…嬉しいしな」
ベルトルト「本当に美味しかったよ!!僕、甘い物は苦手なんだけど、これは凄く好き」ニコ
ユミル「…なら良かった」ニコ
-
マントと膝掛けのお蔭か、先程よりかは寒さを感じなくなってきている。少し温まった体が、更に暖かさを要求している。
ベルトルト「ねぇ、ユミル。もう少し近付いてもいい?寒いんだ」
ユミル「自業自得だろ…ったく、私で良ければ、人間湯タンポになってやるよ。ほら、来いよ」
ベルトルト「…よいしょ」ズリ
ユミル「ぴったりくっつきやがったな」
片腕をユミルの背中側に回し、横に寄り添う。
少し隙間の空いていた先ほどとは違い、マント越しに体が密着する。
直接体温は伝わってこないが、寒さが和らぐ気がする。嫌そうなそぶりは無いようなので、遠慮なく体を寄せた。
-
ベルトルト「だって湯タンポになってくれるって言ったもの」
ユミル「おもてぇな。体重かけるな」
時おり吐き出される白い息がお互いにかかる近さだ。
先ほども匂った爽やかで甘い香りがより強く感じられる。襟元に顔を近付けて、目一杯鼻腔に注ぎ込みたいという欲求に抗えない。
結果、一度その気を無くした部分が反応してしまったとしても、マントがあるから知られる心配はない。
-
ベルトルト「……ユミルっていつもいい匂いするね」スンスン
ユミル「わぁ!嗅ぐなよ!!恥ずかしいだろ!!」
ベルトルト「この匂い凄く好きなんだ」スンスン
ユミル「…こ、これは葉や花を乾燥させた匂袋の香りだ。服や持ち物の棚に一緒に入れておくと香りがつく」
ユミル「袋につめる量や配合で匂いが替わる。女子の間では、休日の暇潰しのネタのうちの一つだ」
ベルトルト「そうなんだ…」スンスン
ユミル「も、なんだよ…穏やかな顔しやがって。そんなに気に入ったのなら、一つやるか?」
ベルトルト「…くれるの?」
ユミル「欲しけりゃな」
ベルトルト「欲しい!!」
ユミル「んだよ、急にでかい声出しやがって。じゃあ、分けてやるよ。明日にでも」
ベルトルト「…楽しみにしてる」ニコ
-
ユミル「………」
ベルトルト「………」スンスン
ユミル「………………」
ベルトルト「…………………」スンスン
体を寄せ、香りを堪能していると、最近感じていたユミルにたいしての劣情が、ひたひたと押し寄せてくる。マントのお蔭で体温を直接感じられないのは非常に残念だ。
匂いを黙って嗅がれているユミルは、じっと座ったままでベルトルトにされるがままになっている。唇は困った表情で少しへの字に曲げられている。
暗い中では見えないが、寒さのためにいつもより薄い桃色だろうか。小さくて、温かそうで、柔らかそうで…食べてみたい。
膨れ上がる強い衝動に突き動かされ、襟元に寄せていた顔をゆっくり上げる。
-
ユミル「もう良いか?」ニコ
顔を上げた事で気が済んだと思ったのか、ユミルはにこりと笑い、マントの襟元を直す。
ユミル「そろそろ戻らないと、体を休める時間が無くなってしまうな」
ベルトルト「もう…戻るの?」
ユミル「ベルトルさんも気が紛れたんじゃ無いか?さっきと比べて顔が穏やかだ」
ベルトルト「………」
ユミル「私もベルトルさんと話をして、いい気分転換になったな」
ユミル「私は戻るけど、お前はどうする?」
ベルトルト「…僕も戻ろうかな。寒いし。風邪引くと困るし」
ユミル「そうだな。体が資本の兵士だ。大事にしろよ?」
ベルトルト「うん…」
-
肩を並べ、寮に向かって歩き出す。月明かりが仄かにあるので、歩きやすい。夜目がきかなくても、苦にすることなく歩けるはずだ。
ベルトルト「ユミルは夜一人で出歩く事、多いの?」
ユミル「多いかもな…。睡眠時間が短いほうなんだ。することがないし、部屋にいると眠たい奴等の邪魔になるからな。空き部屋は使いたいやつが多いからなかなか空いてなくてな」
ベルトルト「……さっきの林の中にはよくいるの?」
ユミル「そうだな、大体…。静かで人目につかないところが気に入っている」
ベルトルト「……一人でいたい?」
ユミル「……時間が合うか解らないが、ベルトルさんも眠れない時は、来たかったら来ればいいだろ。私専用のスペースでもないしな」
ユミル「お互い気が紛れるかも知れないからな。今日みたいに」ニコ
ベルトルト「うん…」ニコ
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湧き出た衝動は行動には至らず、今一つ、物足りなさがある。しかし、むずむずとこそばゆい、つい唇の端が緩んでしまうような幸せな浮かれた気分が、胸の奥からじわじわと身体中に広がっている感じがした。
*
*
*
翌日の朝食前に、ユミルに掌より少し小さな包みを貰った。包装を解くと、昨夜こころゆくまで堪能したのと同じ匂いがふわりと広がる。
礼を言って受け取り、部屋に持ち帰り、自身の枕の下に入れた。この匂いに包まれていると気持ちがとても穏やかな気持ちになり、自然と顔の力が緩んでしまう。
先の見えない鬱々とした物思いに囚われたとしても、なんだかよく眠れそうな気がした。
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取り敢えずここまで。
キャラ崩壊ですまんです。一に書き忘れたけど、捏造設定ありで、戦いシーンとか適当なので、流し読み願います。
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午前中
訓練場 対人格闘訓練
まだ日は上りきっていないにも関わらず、ポカポカとした日差しが、細かい砂が厚く敷かれた、だだっ広いだけの格闘専用の訓練場に降り注ぐ。乾燥しているため、砂埃が身動きするたびまき上がり、視界が悪い。
昨夜、あれから色々考え込んでしまい、よく眠れなかった。お蔭で頭が少しぼんやりする。
ベルトルト(昨日の夜洗濯をして干しておけば良かったな。よく乾くだろうに)
マルコ「……ふっ!!」ヒュッ
ベルトルト「……」パシッ
じりじり近付いて来ていたマルコが、左膝を突きだし腹部を狙う。ベルトルトも膝を出して受ける。マルコのきちんと皺の伸びた白いシャツの襟を見遣る。
-
ベルトルト(マルコは昨日洗濯していたな。僕だって丁寧な方なのに、なかなかあんなに綺麗に皺が伸びないんだよね。コツを聞いたけど、上手くいかない)
マルコ「ちっ……!」
ベルトルトはいつもそうだ。力はまだまだあるはずなのに、手を抜いている。それでも成績が上位なのだから面白く無い。実際今も目線がこちらを見ているようで、そうではない。
きっと今日の座学の事か夕食か、又は自分が隣の部屋の者と交換した春画集の順番の事でも考えてるんじゃないだろうか。
自分だって体術には自信がある方だ。それを軽くいなされてしまうのがしゃくにさわって仕方がない。息が乱れてしまっている自分に比べ、ベルトルトの呼吸は穏やかなものだ。
-
マルコ「…余所見、すんなよ…っ!!」ブアッ
マルコは体勢を低くし、右腕で繰り出した拳で脇腹を狙う。
その手首を体をずらしたベルトルトは左手で掴んで引き寄せつつ、素早く体に引き付けた左足で、相手の脇腹に向かい蹴りを放つ。
マルコ「くっ……!!」
いつも温厚に微笑んでいる口元を、焦りと苛立ちの為に歪め、手首を掴まれたまま左に体を捻る。ベルトルトの、実際少しは手を抜いているものの、素早く正確な蹴りをぎりぎりで避けた。
掴まれた腕に力を込めてこちらに引っ張り、右足でベルトルトの右内膝を取りに行く。今ならばその膝を蹴り上げて宙に浮かせ、地面に叩き付けてやる事が出来るはず。
今まで手にしたことがない獲物を撃てると確信した悦びに、心臓がどくんと脈打ち、口の端がいつもの穏やかな微笑みとは違う、雄の獰猛な笑顔が瞬間的に浮かびあがる。
ベルトルト「……!」
-
しかし、左手で掴んだ手を離し、左半身を後ろに下げ、体勢を整えたベルトルトの右腕でマルコの右足は上方に払われ、バランスを崩し背中から地面に倒れこんでしまう。
マルコ「うあっ…!!」ドサッ
ベルトルト「大丈夫?マルコ」
確実にいけると考えてしまいつい油断してしまった。掴まれていた右腕は、自分は掴まえていなかったから、ベルトルトが離せば自分のバランスが崩れる…。いや、もう少し速く動けばよかったのか?間合いを詰めていたら?一旦引くべきだったか…。胸のなかに失望がぼんやりと広がる。
-
マルコ「君は全然余裕があるのに、なっかなか一本取る事ができないなぁ…」
先程の本能からくる狂暴な高揚感に満たされている時と違い、今はいつも通りの柔らかな少年らしい人懐こい笑顔を、まるでこのぽかぽか陽気のもと、ゆったりとお散歩でもしていた最中に、ちょっと困ったことに遭遇してしまった。
と、でも言いたげな、眉尻を少し下げた穏やかな表情で汗一つかかずに佇むベルトルトに向ける。
ベルトルト「う〜ん、たまたまだよ」
立ち上がり、服に付いた埃を払う。今日一日地面に一度も膝をついていないベルトルトの服は綺麗なものだ。自分も先程まではそうだったはずなのだが。
-
ベルトルトと互角に対抗しうるのは、エレンか、ライナーか、ミカサか、アニだ。またそちらと戦い技を磨き、一度はベルトルトを地面に這いつくばらせたい。
いつもぼんやりしている顔に、痛みと焦りと屈辱の表情を浮かべさせ埃だらけにしてやりたい。
温厚な性格だと自分の事をそう思っていた。でもベルトルトに対してだけ、妙に攻撃的な対抗心が涌き出てくるのは、心を寄せる女の子が同じだからだ。本人に聞いたわけではないが、ユミルに好意を抱いているのは間違いない。
時たまベルトルトがちらりと見遣るその視線の先。その気持ちに自分で気付いていないのか、又は気付いているが押さえつけているのか、わからないが。
そして最近ユミルが、よくベルトルトを構うのがまた気に入らない。からかうと反応が面白いからと遊んでいる様だが…。
-
いつものように、穏やかであろう人懐こい笑顔を顔に張り付け、心の中のほの暗い苛立ちを隠す。諍いをしたい訳じゃないから。
マルコ「ありがとう、ベルトルト。また今度相手頼むよ」
ベルトルト「うん、ありがとうマルコ。またね」
図体に似合わず、幼く屈託の無い笑顔を向けられる。
基本的に、常に少し困った顔をしているのだが、成績のよさと体の大きさとちょっと低めの声と、割りと整った端正な顔とスタイルのよさ、それらが相まって、黙っていればアンニュイな雰囲気で、見ようによっては大人っぽい。
しかし優しい物言いと、笑うと下がり気味の目が柔らかに細められ、厚めの唇で縁取られた大きな口元を、にっ、といたずらそうに引き伸ばすの と、優柔不断でふにゃふにゃした様子はかなり子供っぽく見え、ギャップが素敵だと隠れた女の子のファンが結構いたりする。本人は全く興味ないようだけども。
-
マルコ「う〜ん、次は誰にお願いしようかな〜」
ベルトルト「……」フゥ…
自由に相手を探すのは得意でない。人付き合いが苦手な上に、使命の遂行のため必要以上に関わらないようにしてるからだ。
しかし、成績の上位であるから、やる気のある者が勝負を挑みに来たりするので、黙ってうろうろしていれば、自分が誘わなくても誰かが声をかけてくれるだろう。
ふと遠くを見ると、アルミンとアニが組むようだ。アニが体の小さなものでも、相手に有効な技のかけ方を教えているようだ。
そう言えば、エレンと組む事も多かったけど、アルミンと組む事も多かったかも知れない。そのせいか、最近アルミンの体術の成績は延びてきている。アニのお蔭か。
-
ぼんやりアニとアルミンを眺めていると、後から袖をつ…と引かれた。
ユミル「ベルトルさん、次は私と頼むよ」
ベルトルト「…え、僕…?」
ユミルと組むのは始めてではない。女子にしては力や上背があるので、同性と組むより、男子と組む方が多いからだ。体術は割りと得意な様で、その対戦ぶりは大抵の男子と遜色ない。
ユミル「次はクリスタとしようと思ってたのに、ライナーに取られてしまったんだ」
ユミルが顎をしゃくって指し示した先で、ライナーとクリスタが何やら組み手の振りの確認のようなものをしている様だ。
クリスタと組んだって、なんの練習にもならないだろうに。まぁ大体の訓練兵はライナーにとって練習にもならないのは同じか。
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ベルトルト(相手の練習に付き合い、あまつさえアドバイスしてあげるなど、可笑しな話だ)
ベルトルト(アニだってそうだ。二人とも可笑しい。なら、僕だって…可笑しくなってもいいはずだ)
ベルトルト「…僕で良ければ」
ユミル「よし、やろうぜ」
教官「始めー!!」
教官の合図で間合いを取り、構える。
-
直後、ユミルが懐に突っ込んで来る。距離を詰められるとやりにくい。両肩を掌で押して体を離したあと、後に下がる。
また間合いを詰めてきそうだったので、牽制のために軽く後廻し蹴りを放つ。ユミルはそれを体勢を低くし躱すと体を素早くおこし、ベルトルトの膝にローキックを降り下ろす。
上手いところに決まってしまったため、当てられた膝が痛み、一瞬自由が効かなくなった。ユミルは素早く後に飛び退き、間合いを取る。
ユミル「ははっ、ぼーっとしてんなよ!!」
ベルトルト(当てられちゃったな)
ぼんやりし過ぎていたようだ。手を抜くにしても、もう少し集中しないと駄目だ。
またもや懐に飛び込んで、脇腹、胸の中央を、拳で狙ってくる。その腕を払いのけ、いなす。膝や脛も蹴りを放ち取りに来るが、体を捻ったりし、躱す。
-
ユミル「避けてばっかじゃなくて、お前!!かかって来いよ!!」
しなやかに上方に蹴り出される細く長い足。途中膝下から急激に起動を変え降り下ろされる。体を捻り、ぎりぎりで躱す。
半開きの唇から漏れ出る息が弾んで荒く、頬は上気して風呂上がりのように桃色に染まっている。
向けられる視線はこちらの隙を見逃さぬように鋭く細められている。
顎を狙い突き出したユミルの掌底が顔のすぐ脇を掠めていく。ベルトルトはその腕を左側すれすれで躱した。獲物を狙い損ねて伸びた肘に左手を添え、少し屈んでユミルの後に下げている右腿を後上方に向かって右手で叩き、払う。
バランスを崩し、前につんのめった形になるユミルに、足を払った右手を、伸びたままの右腕の下に滑り込ませ、胸を固定し背後に回る。左手は後から首に巻き付かせ、顎をつかんで自身の足を屈め、体重をかけて下に引いた。
-
体勢を崩されたユミルは簡単に崩れ落ち、膝立ちのベルトルトの胸に抱えられ、倒れ込んだ。
体が密着する。首に腕を回し、顎を押さえているお蔭で、ユミルの後頭部に顔を埋める様になっている。
膝掛けを共有した時に嗅いだ、仄かに甘く爽やかな香りが汗と砂ぼこりの匂いと混じりあい鼻腔を擽る。荒い吐息がすぐ近くで聞こえる。もたれ掛かられていて抱きかかえているようで、心地よい重さを感じる。熱い体温が直に体に伝わってくる。
体に回した右腕は、激しい動きのため、跳ねた心臓が上下し、図らずも見掛けより柔らかく女性的な胸部に触れてしまっている。
首筋や頬に流れる汗にほつれた髪が張り付いている。顎を押さえている手がユミルの汗で滑る…扇情的な気持ちがまたもや膨れあがる。胸の奥からじわりと甘い恋慕の情感が体に拡がる。このまま抱きしめていたい…そして
ユミル「おい!首、痛ぇよ!!」
-
ベルトルト「…はっ、ご、ごめん…!!離すね…」
ユミル「…ったく、今日ぼんやりし過ぎだぞ。しっかしぼけっとしてるやつにすら、蹴りを一発しか入れられなかったって言うのが癪だな」
ユミル「最後はひっくり返されてしまうしな。やられっぱなしだったな」
ユミル「しかしベルトルさんよ、躱してばかりでなくもっと沢山かかって来てくれよ。拳でーとか蹴りでーとか」
ベルトルト「…ユミルは女の子だし、当てて怪我でもしたら、困るじゃないか」
体を解放され立ち上がり、服の砂を払っていたユミルが急にこちらを振り向き、切れ長の目を驚いたよう見開き、その後すぐ一寸不機嫌な様にぐっと眉を顰めた。
ユミル「はぁ?私らは兵士だろ!?怪我なんか上等だよ」
-
ユミル「それになんだ…私を女の子だなんて…どいつもこいつも。新手のバツゲームかなんかなのかお前らは」
ベルトルト「…え?いや、そう言うのは無いけど…」
ユミル「ベルトルさんには多少は手加減してもらわなきゃいけないが、かかってきてくれないと防御の練習出来ないだろ。だから、今度はしてくれよ?」
ベルトルト「うん…善処します」
ユミル「頼んだぜ」
-
ユミルが立ち去ったあと、教官の合図が聞こえ、この訓練の終わりを告げた。少しの休憩のあと座学の講義があり、その後昼食だ。
マルコと組み終わった当たりから、また嫌な重たく酷い悪意を込めた粘つく視線をチラチラ感じていた。
この間視線をぶつけあってからも、度々見られてはいたが、何か危害を加えられることもなく、ただ、ねつい視線を送って来るだけなので、気にしないように努めていた。
普段皆と共に過ごすときの態度はそんな素振りを全く見せないので、イメージとは真逆の裏の顔をなぜ自分だけに向けるのか全くもって解らない。
その者はちょうど組み手を終えて、宿舎に歩き出していた。着替えをするため一旦戻るのかも知れない。ふと、顔をあげたその者と目が会った。
-
きょとんとした表情のあと、視線が合わさった相手がベルトルトと認めると、穏やかな優しい表情がぐしゃりと崩れた。
顔にかかった、汗に濡れ、太陽の光に煌めく美しい髪の毛を掻き上げながら、獲物を見つけた酷く獰猛な野生の肉食獣のように歯を剥き出して、初めて、笑った。
ベルトルト(……気持ちが悪い)フイッ
悪意のこめられた粘つく視線を絶ちきり、ベルトルトも男子寮に向かう。汗も少しかいたし、埃にまみれたので、シャツくらいは替えたかった。
-
ふと、左の手に冷たい感覚があるのに気が付く。ユミルの顎を押さえた祭、顔や首にとめどなく流れていた汗にまみれたものが、まだ乾ききっておらず、濡れていたのだ。
歩きながらそっと顔に近付けると、仄かに甘く爽やかなユミルの香りがする。薬指の先を軽く舐めてみる。汗の味…は特に感じず、砂ぼこりの味が僅かにした。
しかし、ユミルの汗を味わった様な気がして気分がじんわりと高揚した。が、次の瞬間には、浮かれた胸の奥に仄暗い影がかかってくる。
先程の嫌悪感を感じた憎しみのこもった獰猛な笑顔の事などより、自身の淡い恋心と、今後の身の振り方の方が重大な問題で、何故そうまでその人物に悪意を向けられているのか、ということまで思いは至らなくなっていた。
-
夕食後
男子寮 寝室
今日の講義を全て終え、後は風呂や就寝の準備や自習に使える自由時間となった。特に期限のある提出物や試験などもなく、皆、お喋りや読書などに興じている。
ベルトルトは、下でお喋りに興じているルームメイトを尻目に、自分の寝床で本を捲っていた。一見集中して本の世界に入り込んでいるように見える。
しかし、全くといって中身が頭に入ってこないし、入れるつもりもなかった。
枕の下に入れた匂い袋の仄かな香りを堪能していると、頭に浮かぶのはユミルの事ばかりだ。
ベルトルト(今日も居るかな…行って見ようかな…)
ライナー「おーい、ベルトルト」
-
とても女子には聞かせられない結構な猥談の輪に加わっていたライナーが、二段の上段側の寝床にいるベルトルトに声をかける。
ベルトルト「…何?」
ライナー「読書中声をかけてすまない。皆、風呂に行くがお前はどうする?」
ベルトルト「もうそんな時間か…僕も行くよ」
大きな体を引き摺り、のそのそと寝台から降りて、風呂道具を取りに棚へ向かう。皆も仕度を今始めた様だ。
マルコ「……?ベルトルト、なんかいい匂いするね」スン
ベルトルト「え…そう?」
マルコ「この匂い…何だろう?何の匂い?…これ、ユミルの匂いに似てる」スンスン
-
ベルトルト「…解る?」フッ
昨夜の深夜の出来事を思いだす。狙っている、と話したマルコが、ユミルとどこまで近づけたのか、ベルトルトは知らない。
知らないが、その後特にユミルに関して何も口にしていない事から、進展は無いのではないかと思う。
物思いを真剣に聞いてくれ、手製の菓子を振る舞われ、体を密着させて暖を取り、またの二人きりでの逢瀬を許された。
そして、回りにも気付かれるであろうに、自身の香りまで分け与えてくれた。匂い袋の存在を知らないなら無論、彼は貰っていないのだろう。
マルコに対し、優越感を図らずも感じてしまい、顔がにやけてしまう。
-
そんなベルトルトをマルコは不審げに見やる。
マルコ「解る?って……どういう事?」
ベルトルト「ユミルに匂い袋を貰ったんだ」
マルコ「匂い袋?」
ベルトルト「女子っていい匂いしない?」
ライナー「そういえば、クリスタなんかは、近くに居ると、花の甘い香りがするな」
ジャン「ミカサも…スッとする爽やかな匂いがする」
エレン「葉っぱとか花とか乾燥させて袋に詰めるやつだろ?ミカサに寄越されたけど返したな。要らねって」
ジャン「な、何て酷いことを!!そして勿体無い!!」
エレン「だって要らねえもん。葉っぱとか虫がいそうで怖い」
ジャン「お前ってやつは…!!」バッ
-
エレン「服は駄目だぞ!!引っ張るな!!洗濯もの乾いてないし、無くしちゃうから今はこれしかないんだ!!」
ジャン「洗えよ!!つーか無くすな!!羨ましい!!」
エレン「何がだ!!洗濯が、か!?お前もさっき洗えばよかっただろ!!明日は午後から雨降ンぞ!!ベルトルトの今朝の寝相がそう言ってたからな!!」
ジャン「雨か!!糞ったれが!!あとで洗ってやるよ!!ごしごしとなぁ!!」
アルミン「…ベルトルトはユミルに貰ったの?その、匂い袋」
ベルトルト「うん。いい匂いだねって言ったら、くれたんだ。この匂い落ち着くから好きなんだ」
マルコ「…そうなんだ。ふぅん…僕も貰おうかな。いいよね?ベルトルト」
ベルトルト「あげるのはユミルだから…僕は何とも…」
マルコ「まぁ、そうだね。そうかもね」ニコ(イラッ)
-
ライナー「俺もクリスタに貰いたいものだな。始終クリスタの香りを嗅げるなど、考えただけでも幸せだ」
アルミン(僕もアニに貰いたいな…でも、匂いで皆にばれてしまうな)
コニー「俺も欲しいな〜匂い袋」
ライナー「…誰のだ?」
コニー「あっ」
マルコ「誰の?」
コニー「え〜と」
アルミン「誰のなの?」
コニー「サ、サシャ…かな」
ライナー「やっぱりな。そんな気がしていた」
コニー「あんなだけど、女っぽい甘ったるい匂いすんだ。黙ってると色っぽいしな、あいつ」
コニー「結構タイプ」ニマ
-
コニー「じゃ、皆で好きな子の匂い袋貰おうぜ♪あっでも…貰えなくても落ち込むなよ!」
アルミン「…でも、匂い袋欲しいって言ったら、告白したのも同然だよね?皆、良いの?」
ライナー コニー 「」
マルコ「僕は別に構わないよ」
ライナー「…俺もだ。全然構わん」
コニー「お、俺は…まだ決心が付かないなぁ…でも、あの匂いかぎてえな…」
-
ジャン「絶 対 貰 え な い」ズーン
アルミン「まぁ、でも、言うだけ言ってみたら?」
アルミン(無理だと思うけど)
ジャン「無理だと思ったろ」
アルミン「…うん」
ジャン「だよな……ちきしょうが。皆、貰った袋に虫の卵とか入っていて、枕元で暖まり孵化して、大惨事とかになりやがれ」グス
ベルトルト(夜、僕も何か持っていこうかな。そうだ、この間町に行った時に買った焼菓子があったな…)ボー…
マルコ「……」チラ
-
消灯前
女子寮 居住室
クリスタ「……」ガサガサ
ユミル「匂い袋作ってんのか?」
クリスタ「…欲しいって言われたから」ガサ
ユミル「ライナーにか?」
クリスタ「…そう」
ユミル「あの筋肉ゴリラウータン、狩りに来やがったな。私のクリスタを」
クリスタ「…」
-
ユミル「…でも、ライナーいいんじゃないか?面倒見は良いし、真面目だし、誠実だ。成績もいまのところ総合でミカサについで二位だ。顔は厳ついがな」
ユミル「女神様とつり合って、女神さま親衛隊どもを黙らせる事ができるのは、アイツくらいしかいないと思うけどな」
クリスタ「…そうかな」
ユミル「クリスタがどうしたいか、だけどな」
クリスタ「…」
クリスタ「ユミルがいけないんだから」
ユミル「…何がだ?」
クリスタ「ベルトルトと仲良くするから…!」
-
ユミル「…え?」
クリスタ「ライナーの近くにいたベルトルトからユミルの匂いがしたよ!あげたんでしょ?匂い袋!」
ユミル「まぁ…欲しいって言われたから…だけど」
クリスタ「だからライナーも、私のが欲しいって言ったんだよね。もとからライナーが私に好意を持っているのはまるわかりだったけど、改めて告白されたよ」
クリスタ「でも、私は…」
ユミル「…何イラついてんだ、らしく無いな。ライナーは好みじゃ無いのか?」
クリスタ「…ベルトルトはユミルが好きなのよね」
ユミル「ふぁっ!?お前何言って…」
クリスタ「ライナー以外、あまり人と接さないのに、ユミルとは凄く楽しそうに話すよね。最近、ユミルばっかり見てる」
-
ユミル「…マジかよ。全く気が付かなかった」
クリスタ「…ユミルだって、ベルトルトが好きなんでしょう?」
クリスタ「ベルトルトがユミルを意識する前から、ユミルはベルトルトに興味を持っていたよね」
クリスタ「あまり仲良くもないのに、話し掛けたり、わざわざノート借りたりとか。取って置きの絆創膏あげちゃったりとか 。他の人とのやり取りをフォローしてあげたりとか…ちょっかいかけて」
-
ユミル「興味って…ノートはクリスタが勉強になるし…変な面白いやつとは思ってたけどなぁ。特に接し方なんて他のやつと変わらねーよ」
ユミル「それに…私は恋愛なんぞは出来ないのさ。皆のお婆ちゃんだからな」
ユミル「腫れた惚れたは若者の役目さ。安心しろ」
クリスタ「取られちゃうくらいなら…いっそ…」ボソ
ユミル「…なんか言ったか?」
クリスタ「……ライナーとお付き合いする事にするって言ったんだよ」ニコ
-
消灯後
訓練場手前 林の中
今夜も気温が低く、吐く息はすぐに白い蒸気に変わる。昨日と違い、風がないので体感する寒さは和らいでいるが、外に出てまださほど時間が過ぎていないのに、防寒具から出ている手の先は冷えて強ばり、耳はすでに感覚が無くなりつつある。
薄暗い月明かりの中、木の陰でより仄暗くなる林に入る。律動的な枯れ葉の踏みしだかれる音が、次々としんとした闇に広がり、吸い込まれていく。
目的の場所に目を凝らすと、期待通りの結果に胸が踊る。速くなりがちな歩みと弾む心を無理に落ち着かせ、今までと変わらない速度に保ち、近付いていく。
ベルトルト「…今晩は」
ユミル「はい、今晩は」
ベルトルト「隣、座っていい?」
ユミル「好きにしたらいいだろ」
-
言葉のわりに棘はなく、落ち着いた優しい口調だった。好きにして良いと言われたので、そうさせて貰う事にした。
ベルトルト「じゃあ、お言葉に甘えて」
隣に座ると、ユミルの膝掛けをめくり自分の膝を滑り込ませる。背後に腕をまわし、自分が持ってきた膝掛けを、二人の背中に掛かるようにする。
ユミル「何故へばりつく」
ベルトルト「だって、好きにして良いって言ったから」
ユミル「自分の膝掛けがあるならそれ使えよ。人のに足突っ込みやがって」
ベルトルト「これは肩にかけるんだよ。大きめだから二人分背中を覆えるよ?昨日より暖かいでしょ?」
ユミル「暖かいが…」
ベルトルト「」ニコ
ユミル「」フッ
ユミル「暖かいな」
-
ベルトルト「いい匂い…」スン
ユミル「また嗅ぐのかよ」
ベルトルト「うん」スンスン
ユミル「そう言えば、匂い袋…」
ユミル「周りの女子があちらこちらから所望されてるんだが…流行ってんのか?」
ベルトルト「マルコが、僕のユミルに貰った袋の匂いに気が付いて、アルミンが匂い袋じゃないのかって言って…」
ベルトルト「それで皆、お目当ての女の子の香りが常時嗅ぎたいって話になって…ついでに告白してしまおうかって流れになって」
ユミル「常時嗅ぎたいだと?女子が居ないところで、なんて変態的な会話を…お前らってやつは」
ベルトルト「そりゃあ…好きな子のだったら嗅ぎたいと思うけど」
-
ユミル「そう言えばさっきミカサが、アルミンにエレンのシャツを渡されてたな」
ベルトルト「ジャンがミカサの匂い袋欲しいって言ったんだけど貰えなくて、皆ゲットして浮かれているのを見て酷く落ち込んでしまって」
ベルトルト「同情したアルミンが、エレンのシャツを持っていって、失敗したものでもいいからジャンにあげてくれないかって頼んで…」
ユミル「あいつエレンのシャツ枕元に置いて、抱きながら寝てんだよな。落ち着くんだって」
ベルトルト「エレンがいつも洗濯物を無くしてしまうのは、そうやって定期的にアルミンが持ち出してしまうからなんだね…聞いて初めて知ったんだ」
ユミル「替えが足りないと、乾きにくいこの季節は大変だな」ハハハ
-
ベルトルト「あ、洗濯物の行方はエレンには内緒にしてくれってアルミンに言われてるんだ。本人無くしたと思ってるし、ミカサを動かしたい時に必要だからって…」
ユミル「私らミカサにも言われてるよ。これがないと情緒が不安定になるのでどうか言わないでほしい、ってね」
ユミル「で、男共は皆、お目当てから貰えたのか?」
ベルトルト「話にのっていたメンバーは皆、貰ってきたよ…ってさぁ…ユミル酷い」
ユミル「何がだ」
ベルトルト「マルコにもあげたでしょ」
ユミル「あげた」
ベルトルト「何で」
-
ユミル「良いじゃないか。ちょうどこないだ、皆で作ったばかりで余ってたんだ」
ベルトルト「マルコはユミルが好きなんだよ?」
ユミル「そうらしいな」
ベルトルト「らしいなってさぁ…マルコと付き合うの?」
ユミル「さぁな」
-
ベルトルト「…マルコと僕同じ匂いがしちゃうよ?」
ユミル「仲良しだな。知らないやつに二人の関係を誤解されるかもな」ハハハ
ベルトルト「そう言う嗜好はないよ」ムッ
ユミル「良いだろ、別に。ベルトルさんは…私の匂い袋が好きなだけなんだから」
ベルトルト「匂い も 好きだよ」
ユミル「…」
ベルトルト「ユミル も す」
ユミル「おぉ、そう言えば、手に持ってる袋は何だ?何だ美味しそうな物、持ってんな」
-
ベルトルト「」ムゥ…
ユミル「町で買ったのか?ちょうど小腹が空いていたんだ。少しくれよ」
ベルトルト「…先週、ライナーと町に出た時に買ったんだ。美味しいって聞いていたから」
ベルトルト「しまってあったのを思い出してさ、ユミルと食べようと思って」ガサガサ
ユミル「頂き〜♪」
ベルトルト「」サッ
ユミル「…何だよ、くれだましか?」
ベルトルト「そうじゃないよ。昨日食べさせて貰ったから、今日は僕が口に入れてあげる」
ユミル「はぁ?自分で食うからいい。くれ」
ベルトルト「…はい、あーん。ねぇ、あーんしてユミル!!」
-
ユミル「何だよベルトルさんよ…全くしょうがねぇなぁ…」アーン
ベルトルト「はい」ポイ
ユミル「…」ボリ
ベルトルト「美味しい?」ニコ
ユミル「ん…んまい」ボリボリ
ベルトルト「じゃ、はい、あーん」
ユミル「まだ口に入ってるぞ!!」ボリボリ
ベルトルト「はは、ゴメン」パク ボリボリ
ベルトルト「美味しいね〜これ」ボリボリ
ユミル「くれよ」アーン
ベルトルト「はい」ポイ
ユミル「」ボリ
ベルトルト「」ニコニコ
-
ユミル「…楽しいか?」
ベルトルト「とっても」ニコニコ
ユミル「…ふぅん」ボリボリ
*
*
*
同期の事、訓練の事、町の店の事。話は弾み、尽きなかった。いつまでもこうしていたかったが、明日も訓練があり、横になって休まないわけにはいかない。
-
そろそろ戻らないか、と言われ、名残惜しくなって、またユミルの襟元に顔を寄せ、最後に香りを堪能する。
ベルトルト「いい匂い…」スン
ユミル「また嗅ぐのかよ」
ベルトルト「うん」スンスン
ユミル「全く…」フゥ-
昨日と同じで、嫌がる素振りもなくベルトルトの行為を受け入れて…と言うか、好きなようにさせてくれている。
軽く目を閉じ、首を少し向こうへ傾け、じっ…としている。ベルトルトの気がすむまで待っていてくれる様だ。
-
匂い袋をマルコにもあげただなんて。関係を聞いたら、さぁな、などとはぐらかしたりして。相手のいることなので話せないと言うのは解るが、話せない理由が他にあるのではないかと勘ぐってしまう。
ベルトルト(マルコとは…どうなんだろう)
ベルトルト(成績は僕の方が上だけど。でも、人当たりがいいし、社交的だし、しっかりしてるし…洗濯上手だし…普通の人間だし)
マルコに対して、対抗と嫉妬の気持ちがない交ぜになり、心の内に仄暗いもやもやとした影が広がっていく。それと同時に、今この時間を二人きりで楽しく過ごしたということに、優越感をもち、浮わついた気持ちが膨れ上がる。
-
首に少し近付いてもそのまま動かない。少し空いた唇から漏れる、静かな呼吸だけが微かに聞こえる。
ユミルに、自分の好きに、自由に生きたら良いと言われた。
仲間は二人とも、自分の欲求に抗えず迷っている。
ベルトルト(僕も同じ様におかしくなってしまおうか…)
ベルトルト(今後はどうにかなる。どうにかするさ。おかしくなりたい…おかしくなろう、僕も)
不埒な欲求を悟られないように、体を僅かにずらす。背中に回した腕につい力が入ってしまう。まだ目を閉じたままだ。柔らかそうな唇も…弛く空いたまま。できるだけそっと顔を近付けて、ユミルの唇を優しく食べた。
思ったより冷たく、小さく、柔らかだった。
-
ベルトルトと触れた瞬間、閉じていた目がゆっくり開いて、目が合った。唇を軽く挟むようにゆっくり啄むと、ユミルは僅かに吐息を漏らし静かに目はまたそっと閉じられた。
胸の奥が、ずくんと疼き息苦しい。体中が甘い痺れに侵されていく。
唇を合わせながら、自分の足を腰かけている丸太を跨ぐように片方だけ後ろに回し、胸の中にユミルを抱えるようにする。腕でそっと引き寄せると、抵抗なくもたれてくる。
ユミル「ん…っ…」
溢れ出る歓喜と官能の情動は、押さえ込むのは至難の技で、背中に回した腕につい力がこもり、強く抱き締めてしまう。
-
ユミルの小さく柔軟な膨らみは、咥え込むと反応を返してくる。その深い亀裂に舌を差し込み、上唇を軽く舐める。唇に接した舌が、びりびりと甘く痺れる。
更に奥へ差し込むと、中はぬめりとして温かく、以前指の血を舐めた赤く薄い塊に触れた。
触れるとそれは、優しくベルトルトを舐めあげ、絡め、吸い付いてきて、積極的では無いにしろじゅうぶんに気持ちを受け入れる態度に見えた。嬉しかった。
ユミル「…んっ…ぷ…はっ…」
押さえきれない情動に夢中になり、息抜きが出来ないユミルが顔を僅かに反らし、口を離してしまい、それに気付く。
-
目の前に形のよい耳が見えた。格闘訓練中、汗の筋を張り付けていた白く細い、滑らかな首すじも。
ユミルの頭の後ろに片手を回し、寒さに冷えた耳を舐めあげる。ビクッと体を震わせ深い吐息を漏らす。
ユミル「…はぁっ!や……めろよ…」
ベルトルト「…どうして?」
言葉では制止を要求しているが、震え慄いている体はベルトルトにもたれたままだ。再度耳を咥え込み舌を這わすと、びくびくと痙攣し、短く鋭い吐息を漏らす。
-
いつだったかの、アニとアルミンの逢瀬を思い出す。アルミンは、あえぎ、乱れるアニに向かって可愛いと言った。
ベルトルト(今の状態、同じだな…)
ベルトルト(いつもからは想像もつかない、こんなになってるユミルが凄く可愛くて愛おしい)
ベルトルト(もっと鳴いて欲しい……)
耳から首筋へ唇を這わせる。押し殺してはいるがひときわ高く漏れだす声は、自分と同じく、快感の甘い痺れを感じているからだろうか。
ユミル「はあっ…や…やめてくれ、もう…んっ…」
ユミル「今日は、もう…な。…はぁっ…」
ユミルの掌がそっとベルトルトの胸を押す。確かにそろそろ戻らないと、明日の訓練に関わるかも知れない…。
-
しかし、情動に支配され、突き動かされてしまっている今、ベルトルトもいつもと違い、ユミルに対して多少狂暴な心情が芽生えていた。
ユミルのマントの首もとの金具をやや乱暴に外し、押し広げ、襟の奥に顔を突っ込み軟らかく薄い鎖骨の皮膚に強く吸い付いた。
口を離し見遣ると、ユミルの白く滑らかな肌に、赤黒く小さな痣が浮かび上がっていた。
ユミル「…な…にすん、だよ…」
ベルトルト「…痛かった?ごめん」
ユミル「も…風呂…困るだろうが」
ベルトルト「絆創膏でも貼ればいいじゃない」ニコ
ユミル「全く…」
ユミル「…さぁ戻ろうぜ、もう」
ベルトルト「…うん」
-
先程の逢瀬の場所を後にし、どちらも無言で歩く。ちらりと覗き見たユミルの顔は無表情で、心の中は伺い知れない。やや下を向き眉を顰め、押し黙って歩く様子が気になって仕方ない。
ベルトルト「…怒ってるの」
ユミル「別に…」
ベルトルト「…ねぇ、怒ってる」
ユミル「いや…」
ベルトルト「………怒ってるでしょ」
ユミル「…今イラッとは、きたけどな」
-
ベルトルト「今って事は、さっきの事は怒ってないの?」
ユミル「ねぇよ」
ベルトルト「ほんと?」
ユミル「本当だよ。しつこいなベルトルさんよ」
ベルトルト「…何で、こっち見てくれないし、ずっと黙ってるの?」
ユミル「…恥ずかしいからだろ。馬鹿」
ベルトルト「えっ、恥ずかしいの!?」
ユミル「私だって、中味はババァでも見た目はうら若い乙女だ。恥ずかしがって何が悪い。ビックリすんな」
-
ベルトルト「…嫌では…無かった?」
ユミル「…無かった」
ベルトルト「ほんと?」
ユミル「本当だ」
ベルトルト「本当に?」
ユミル「本当さ」
ベルトルト「じゃあ…またしても良い?」
-
ユミル「………」
ベルトルト「どうなの」
ユミル「私は…」
ユミル「……言わせないでくれよ」
ベルトルト「…また来てもいい?」
ユミル「来たかったら…来ればいいだろ。私が居るかどうかはわからないがな…雨が降りそうだ」
ベルトルト「そう言えば、空気が湿ってきたね…
あ、降ってきた。急ごう」
ユミルを女子寮の入り口まで見送ると、急いで男子寮へ駆け込む。入ってすぐにざあっと音を立てて、まとまった雨は降りだした。
-
今日はここまで。次は月曜に。
-
洗濯上手w
乙〜
-
>>184
勝手な想像ですけど、マルコって清潔そう→洗濯上手いって言うイメージがあって、つい
-
数日後 消灯後
訓練場裏 廃倉庫中
ライナー「遅かったな、アニ」
アニ「雨がすごくて、雨具着ててもだいぶ濡れたよ」
ライナー「最近ずっと雨だな」
アニ「ほんと、洗濯できなくて困る」
ベルトルト「…アニは言ったじゃないか。必ず時間通りに来ると」
アニ「寝坊…したのさ」クチッ
アニ「天気悪いと眠たくならない?」
ベルトルト「…そう?」
-
禁秘の使命をもつ仲間との会合。クリスタの裏事情や、三つの兵団について、王の周辺について。互いに偵察したり、資料を漁ったりして手に入れた情報を交換しあう。
ライナー「…今日はこんな所か」
アニ「新しい話はこのくらいだ」
今日、夜に会合をすると言うことはアニには朝食時、ライナーが指でのサインで知らせたはず。しかし、アニは約束の時間より大幅に遅れてやって来た。
消灯後、アルミンが起き出し、防寒具を取り出して部屋を抜け出していた。先程までアニはアルミンと会っていたんじゃないだろうか。
自分の恋心を自覚する度に、胸の奥から湧き出す仄暗く苦い焦燥感をどうにかしたかった。皆に、これからどうしたいのか、どうするつもりなのか話さないと…
-
ベルトルト「ねぇ、アニ」
アニ「何だい」
ベルトルト「…アニは、アルミンとどういう関係をなの?」
アニ「!!」
思っても見なかった質問に、酷く驚いたように目を見開き、振り向いた。
アニ「…何が言いたいのさ」
ベルトルト「匂い袋…アルミンがアニの貰って来たから」
アニ「あんただって付き合ってもないユミルの貰っただろ」
アニ「…それとも、アルミンが何か言ったのかい」
ベルトルト「…アルミンは何も言って無いよ。ただ、僕見たんだ。夜にアニとアルミンが二人で会っている所」
アニ「…」
-
ベルトルト「もしかして…その、男女の関係とか…」
アニ「…ある」
ライナー「アニ、それはどういう…」
アニ「アルミンと男女の関係を持っているって言ってるのさ。アルミンはこんな私を好いてくれている」
ベルトルト「…どうして」
アニ「あんた達もそう思ってるんだろう?ここのやつらに悪魔なんかいない。正義なんて立場が変われば役割も代わる。ここでは私らが悪魔だ」
-
アニ「気持ちを伝えられた時、はじめは使命の事もあって、利用するつもりで付き合い始めた」
アニ「でも一緒に過ごすうち、殺人兵器として育てられた故郷より、こちらの世界で普通の女の子として自由に生きたいと思ったのさ」
ライナー「…なら、計画から抜けると言うのか」
アニ「こちらですることをして、故郷に帰るのは、力がある者の果たさなければならない義務と責任だけど」
アニ「…けれど、帰った所で私らは幸せに生きていけるの?…先はあるの…?」
アニ「私は…ここに残って…アルミンと一緒に生きて行きたい」
ベルトルト「……」
-
アニ「今まで黙っていてごめんなさい。これからも変わらずあんた達と行動はする。計画も、私がしなければならない部分は協力する。でも、巨人になって、人間を殺したりとかは…私はもう出来ない」
ライナー「俺も、とてもじゃないが同期の奴等をどうこうする気にはなれないと思っていた…」
ライナー「皆、気のいい奴だ。故郷の仲間はそれを知らないだろうしな」
ベルトルト「じゃあ、計画は…どうするの…?」
ライナー「まだ、探らなければいけないこともあるが…」
ライナー「ベルトルトはどうだ?お前はどうしたい」
ベルトルト「僕は…皆がそうなら、僕もそれで良い…」
-
ベルトルト「ライナーこそ、どうなの?クリスタから匂い袋貰っていたけど…部屋の皆と同じに、気持ちを伝えてきたの?」
ライナー「それは…」
アニ「聞いたよ、クリスタから。付き合うそうじゃないか」
アニ「初め聞いたとき、利用するつもりで告白したのかと思ったけど、そうじゃなくて本気で惚れているの?壁の中の奴に?」
ライナー「本気だ」
アニ「…あんたもなの」
ライナー「俺もだ」
アニ「大量殺人者な私らだって心は普通の若い男女だって事だね…」
-
ライナー「犯した罪は罪だ…。しかし、仕方の無かったことだ。故郷からすればここは悪の巣窟だ。俺らは何も知らないガキだった」
ライナー「故郷の為には、必ず帰らなければならないが…帰った所で俺たち自身は…」
ライナー「…迷っていたのは俺も同じだ。そして、ここにとどまり、ただの人として自由に生きて行きたいという気持ちが強いのも同じだ…」
ベルトルト(二人ともここに来たときとは気持ちが変わっている。僕と同じだ)
ベルトルト(ユミルに会いたいな…)
-
アニ「…?ライナー、腕にキズがあるようだけど?」
ベルトルト「お風呂で思ったよ。怪我は兵士だから珍しく無いけど、背中から腕にかけて、みみず腫っていうか、あったよね?」
ベルトルト「最近は怪我する事、何かあったっけ?」
ライナー「それが、よくわからないうちについていてな。大怪我ならこっそり治すが、たいしたキズじゃあないので、そのままにしている」
ベルトルト「ふぅん…なんだろうね?立体起動訓練で、枝にでもぶつけたのかな」
アニ「そうかもね。私も繁みに突っ込んだとき、そういう傷出来るよ。たまにしなった枝が、びしっと来て、馬用の鞭でたたかれた気分になるね」
-
ベルトルト「あぁ〜解る。鞭っぽいよねアレ」
アニ「…そう言えばベルトルト。誰だかに睨まれて居るって話はどうなったの?」
ライナー「前に言ってたな。あのあと俺も注意していたが、何も感じていないが…どうなんだ?」
ベルトルト(ライナーの目は節穴なのだな…)
-
ベルトルト「あぁ…やっぱり、たまに見られるんだけど…嫌な視線だけど、何をされるって訳でもないし…」
ベルトルト「何でそんな目で見られるのかわかんないけど、ただ単に嫌われてるだけなのかも知れない…」
ライナー「お前は人に嫌われる様な性格では無いと思うが…成績が上位だし、やっかみだったり行き違いだったり、何かあるのかもな」
ベルトルト(そう言うのなのかな…一回すっごい怖い顔で笑いかけられたけど…)ゾク
ベルトルト(そう言えば、最近変な目で見られて無いな)
-
数日後
食堂 夕食後 自由時間
ここのところ毎日のように雨は降り続き、初めて唇を重ねたあの夜から、ユミルとの逢瀬は無かった。二度、行ってみたがユミルは来なかった。雨だと来ないと言うのは本当なのだろう。
昼間ユミルはクリスタや他の同期達と居る事ばかりで、話しかけるタイミングも無かった。それに、皆での会話はあるが、直接話しかけられたり、からかわれたりする事が少なくなったように思う。
ノートは借りにくるが、余り長い話にはならない。外がだめなら他の場所で会う約束をしたいのに、二人になることを避けている様子も何と無く感じるような気がする。
-
ライナー「ベルトルト、ユミル、クリスタ、こっちに来てくれ」
声をかけられ、ライナーのもとに集まる。ちらりとユミルを見遣るが、特に何の表情もなく飄々とクリスタの肩に腕を回して近付いてくる。
ライナー「皆来たな。ここに座ろう」
ベルトルト「御苦労様…班長会議は終わり?」
ライナー「あぁ。詳しい訓練の内容が伝えられた」
-
ユミル「んで、私達はいつ何処に行くんだ?」
ライナー「一週間後俺達の班は、西側クロルバ区に近いウオールローゼの壁沿いにある、巨大樹が群生するところに近い廃村に出発にいく」
ライナー「他にもいくつかの班がいて、同時に行うようだ。違う場所で行う班もある。訓練兵士の能力によって、様々な場所や内容が用意されていると言うことだ」
ユミル「駐屯兵団の先輩たちもご苦労な事だね。あちらこちらに、わざわざ仕掛けを沢山用意してくれているんだろう?」
クリスタ「大掛かりな訓練で、準備を半月位かけるそうだよ。近くの駐屯兵団の兵士が受け持つみたいだから…クロルバ区の人達がしてくれているのかな」
クリスタ「私達の訓練の為に頑張ってくれてるんだら感謝しなくちゃね」
-
ユミル「馬で丸一日移動して、廃村の中で一泊、次の日は巨大樹や町中にて立体起動を使って班ごとの巨人掃討訓練、また一泊して、一日かけて帰ってくるとか、面倒くせ〜んだよ」
ユミル「なぁベルトルさん」
ベルトルト「はっ…?あぁ、うん」
急に話を振られて、すっとんきょうな声が出てしまう。考えていたのは全く別の事であったから。
ユミル「しかもレベル順なんて、お前らと一緒と言うことはだな、最高に難しいコースってことだろう?何で私らなんだ」
ライナー「教官が決めたのだから何とも言えんな。班ごとのチームプレーが重要視される。仲よくやって貰うしかないな」フフン
-
ユミル「くっそ〜クリスタの貞操が危ないな。発情筋肉ゴリラウータンと二泊とは」ギリギリ
クリスタ「また、そんな失礼だよユミル。ライナーはそんなおかしなことなんてする訳無いよ。ね?ライナー?だって私達お付き合いしてるんだものね?」キラキラ
ライナー「も、勿論するわけがないだろう」アセ
ライナー(お付き合いしているからこそするものだとばかり思っていたのだが…!?駄目なのか!?)
ユミル「結構さ〜男女混合の班だし、泊まりの訓練だし。こういうのの後って妙〜にカップルが増えたり、男女の親密度が分かりやすく上がってたりすんだよな」
ユミル「クリスタの純潔は私が守る」キリッ
ライナー「」グヌヌ
-
ベルトルト「あのさ…廃村の中の家は自由に使って良いそうだから、違う部屋を使えばいいんじゃないの…?」
ユミル「当たり前だ。むさ苦しい、お年頃の男共と共寝など御免だからな」
ベルトルト「う〜ん、酷い言われようだね…」
ベルトルト(せっかく同じ班で昼夜を共に過ごす事が出来るのに…なんか警戒心強すぎ…やっぱりこの間嫌だったのかなぁ…嫌そうには見えなかったんだけどなぁ…)
ベルトルト(…もっと仲よくなれたらって、思ってたんだけど。一緒に過ごせるのは、あと一年半しか時間が無いから…)
-
ベルトルト(そう言えばマルコと進展はあったんだろうか。全く解らない)
ユミル「ベルトルさんよ」
ベルトルト「…えっ?」ビク
ユミル「私の顔は何かおかしいか」
ベルトルト「ええっ?何で?」
ユミル「そんなに凝視されたら穴が開いちまう」
ライナー「はは、そうだな。さっきから、ユミルばっかり見てるぞお前」
クリスタ「……」
考え事をとりとめもなくしていたら、ユミルの顔をつい、見続けてしまっていたようだ。不審そうな目でこちらを見ている。折角だから、もう少し見つめていたいのだが…。
-
ベルトルト「……口でしょ、
鼻でしょ…四つ目の穴はどこに空くのかな…試してみるね」ジー
ユミル「もー!!馬鹿野郎、こっち見んなよ!!」
ベルトルト(良いじゃないか、見るくらい。本当は匂い嗅いだり触れたりしたいのにさ)ジー
ユミル「クリスタぁ、助けてくれよ。超大型巨人が私の顔に穴を開けようとしてくるんだ」
隣の女神様に抱きつき、助けを求めた。女神様はちらりとユミルを大きな青灰色の慈愛のこもった瞳で見遣り、ちょっと困った顔で薄く微笑む。
クリスタ「見られただけじゃ穴は開かないよ、ユミル」
-
クリスタ「…ベルトルトはユミルに興味があるんじゃないの?」
ユミル「はぁ!?ライナーとかクリスタとかの方が私なんかより興味深いぜ?クリスタは女神だし、ライナーは獰猛な肉食獣だし。女神と肉食獣が付き合うとかほんと美女と野獣っていうかなんだ、ほら、その」
ベルトルト「僕はライナーに友人としてしか興味を持てないよ。クリスタにも…同期としてしか興味は無いな」
クリスタ「…」
ユミル「…はは、要は私の顔に穴を開けたいだけなんだよな。そうだな?ベルトルさんよ」
-
何故言わせてくれないのか。この間も、はっきりとした気持ちを伝えようとしたのに、唐突に話題をそらし、はぐらかされてしまった。
あの夜僕らは、体を寄り添わせ暖をとり、会話を楽しみ、笑い合い、熱情に浮かされて、抱き合い、唇を重ねた。もっと何度も、これからもそういった時間を共に過ごしたいのに。
他の異性の入り込む余地を無くすような、明瞭な口先の契約を、今すぐにでも欲しい。
-
ベルトルト「ユミルに興味を持っているんだ」
ユミル「はぁ!?」
ベルトルト「好きなんだ」
ユミル「………はぁっ!?」
ベルトルト「だから、僕、ユミルが好きなの」
ライナー「……お前…」
クリスタ「………」
ベルトルト「ユミルは僕の事、どう思うの?」
ユミル「………」
-
ユミル「…あー、なんだ、で、ライナーさんよ、他に連絡事項は無いのか」
ライナー「あ、あぁ…後はさっき渡した紙に詳しく書いてある…。前日と出発前に訓練内容の確認をするだけだ」
ユミル「なら、もういいだろ。部屋に戻ろうぜ、クリスタ」
忙しなく席を立ち、顔を強ばらせ、クリスタの腕を引いてその場を立ち去ろうとするユミルの前に、立ち塞がる。
眉を顰め、こちらを上目使いで見あげてくる。
ベルトルト「聞いてないんだけど、返事」
ユミル「……………何とも思ってない」
クリスタ「ユミル…」
-
ユミル「ベルトルさんは結構女子に人気があるんだぜ。私じゃ無くても、もっと可愛くて出来のいい娘がいるってことだ。すまないが他を当たってくれ」
ユミル「……先に戻る」フイッ
塞がれた退路の脇をするりと抜け、早足で歩み去ってしまった。
クリスタ「…ご免なさい、ベルトルト。ユミル、待ってよ」
クリスタはぱたぱたと足音を立ててユミルを追いかけていく。神妙な表情のライナーが、ベルトルトの肩にぽん…と厚く大きな手を置いた。
-
ライナー「……しかたないさ、気を落とすなよ」
ライナー「結構お似合いだと思っていたのだがな」
ベルトルト(…泣きそうな顔に見えた…)
ベルトルト(ふられちゃった訳だけど)ズーン…
ベルトルト(ユミルは…何とも思って無い相手とあんな時間を過ごすものなの…?)
*
*
*
その日は夕方から晴れていた。消灯後、林の中へ出掛けてみたが、夜が更けてもユミルは現れなかった。
-
一週間後
早朝 訓練所入り口付近
まだ、日も出ておらず、薄暗い中訓練を行うクロルパ区へ馬で向かう。荷物を馬にのせ、方位磁針と地図で旅路の最終確認をする。
この時間に出発するのは、ライナーの班だけだ。出発のチェックは先程教官にすませたので、辺りに人影もなく、時おり馬の発する呼吸音のほかは風に吹かれた木々の葉のざわめき位で、ほとんど音もなく、しんとしている。
-
ライナー「この道を行き、大通りを西に。町を抜けたら、北へ向かう。この辺の丘で一旦休憩を取ろうと思う」
クリスタ「…そうね。馬を休めないと。一日移動に使うのだから。ね?ライナー?」
ライナー「そうだな。クリスタは馬に優しいな」
ユミル「クリスタは万物全てのものに優しいんだよ。女神だからな」
ユミル「早く行こうぜ。町に人が出てくると、馬で動きづらい」
ライナー「そうだな。そろそろ出発しよう」
ベルトルト「……」
-
あれから毎夜林の中へ出かけ、長いこと座って待っていたが、ただの一度もユミルは姿を現さなかった。
毎日寒い中、かなり長い時間外にいたために、少し体調を崩し、微妙に熱っぽい気がする。
この一週間というもの、昼間声をかけても軽くあしらわれたり、用事を急に思い出したと言って、すぐに立ち去ってしまう。目が合う事もない。明らかに避けられてしまっていた。
ベルトルト(何で…話くらいしてくれたって…)
馬上で揺られながらユミルを見るが、視線は前を向くか、クリスタに軽口を叩く位で、こちらの方は見もしない。
-
ベルトルト(気持ちを伝えたくらいで、そんなに嫌わなくたって良いのに…嫌だと言うならしつこくするつもりは…無い…と思うけど)
ベルトルト(あの時、嫌そうには見えなかったから、なんか吹っ切れないんだ…)
ベルトルト(…理由があるなら知りたい)
ライナー「おい、ベルトルト」
ベルトルト「…え?」
ライナー「どうした、ぼんやりするな。あの丘を越えたら馬を駆けさせると言ったんだぞ」
ライナー「聞いて無かったのか?」
ベルトルト「…ごめん」
ライナー「今距離を稼いでおけば、馬も俺たちも少しゆっくり休憩できる。そこで昼食にしよう」
ベルトルト「うん…わかった…」
ライナー「……しっかりしろよ」
ベルトルト「うん…」
-
集落を抜け、人通りが無いところでは馬を駆けさせ、時間を稼いだ。元々余裕のあるスケジュールでは無いので、急いだとしても目的地に着くのは辺りが暗闇に完全に包まれる頃になるだろう。
日も高くなり天気はよいが、駆けた馬上にいるので、マントのフードを被っていても、乾いて冷たい風が常に体に吹き付けて行く。手綱を持つ手は冷えて強ばった。
ライナー「皆、あそこの、一際大きな岩のある川縁で休憩しよう」
クリスタ「そうね。この子達も休みたいと思う」
日はもう一番高いところに差し掛かっていた。予定していた時間通り、最初の目的地に着く。
-
馬に川の水を飲ませ木に繋ぎ、飼い葉を少し与える。荷物から昼食に持たされたパンと乾し肉、水の入った袋を取り出す。
ユミル「乾し肉なんぞこんなときにしか食べられないからな。味わって食わないとな」
クリスタ「ほんとだね。でも、あんまり味わってる暇も無さそうだけど」
ユミル「違いないな」
ライナー「…ベルトルト。もう良いのか?」
ベルトルト「…うん、また夕方食べるよ」
半分食べたパンと、ほんの少し齧った乾し肉を袋に仕舞う。
-
昨夜から少し熱っぽく、体が怠く重たかった。普段体格のせいもありよく食べる方なのだが、今日は体調のせいか少しも食べたく無かった。
ユミル「…今日はずっと駆け通しだ。食べないともたねぇぞ」
こちらを見ずに、流れる川を見遣りながらユミルは言った。ずっと話し掛けて欲しかったのだが…今までとは違う、かなりの距離感がある自分への態度に、胸の奥からざわざわと暗い苛立ちが湧き上がる。
ベルトルト(あっちを向いたままでそんなこと言われても…何で僕を見ないんだ。そんな態度で接されても…腹が立つだけじゃないか…)
-
ユミルの忠告には答えず立ち上がり、少し離れた川縁に向かい、腰を下ろした。背中に視線を感じるが、誰にどんな視線で見られていたとしても、今はどうでも良かった。
雲一つない、まさしく抜けるような青空のいい天気だった。長閑でポカポカした陽射しがあるが、体の中心が妙に冷えて、寒気がする。
頭だけがうっすら熱い。体は気怠く、何もかもが面倒臭く投げ遣りな気分だ。これからもっと、熱が上がってくるのだろう。
ベルトルト(何もこんな日に具合が悪くならなくても良いのに…)
-
さらさらと流れる水面に日の光が反射して煌めいているのを眺めつつ、ぼんやりしていると、隣に大きな影が腰掛けた。
ライナー「…ベルトルト」
ベルトルト「……」
ライナー「…ユミルとはまぁ…残念な結果だった訳だが…」
ベルトルト「……」
ライナー「今回の訓練は班行動で、チームワークでの課題攻略が重視される」
ライナー「色々思うところはあるだろうが…お前の事だから、やるときはきちんとやるだろう」
ライナー「と、俺は思っているのだが…」
ベルトルト「…やるさ。配分の高い訓練なんだ。点数を稼がないと上位は維持出来ないからね。僕も君も」
-
ライナー「ならいいが…食べなくて大丈夫なのか?」
ベルトルト「たまたま食欲が無いだけなんだ」
ライナー「そうか…朝から少しぼんやりしているし、体調が悪ければ早めに言えよ」
ベルトルト「うん…」
ライナー「そろそろ発つぞ。用意をしよう」
ベルトルト「…わかった」
重たく気怠い体を起こし、騎乗する。ここから暫く駆け通しだ。手綱を引き、馬を誘導する。ライナーが先頭で、ベルトルトがしんがりだ。ベルトルトの前にはユミルとクリスタが並んで騎乗している。
-
馬の振動が伝わるたびに、頭がずきずきと疼き、痛んだ。今日は移動日なので現地に着いたら、立体起動装置の点検と、明日の訓練の確認だけだ。夜にゆっくり寝れば、明日は多分回復するのではないか。
クリスタ「ユミルったら〜!!」
ユミル「だはは!!可愛いなぁ、クリスタは!!結婚してくれ!!」
楽しげにじゃれあう前方の二人が、嫌でも目に入る。発熱に伴う気怠い体のせいなのか、ユミルの自分に対する態度のせいなのか、クリスタに対する嫉妬のせいなのか、胸がむかむかして酷く苛立ち、不愉快極まりなかった。
馬にくれる鞭や腹を蹴る足に、つい力が入りすぎてしまう。
-
日が暮れかけたころ、また川縁に休憩地を定め、馬に飼い葉や水を与えたあと、ランプに火を入れて夕食を取る。夕食と言っても、昼と同じ、固いパンと乾し肉と水だ。
ユミル「ライナー、あとどのくらいで着きそうだ?」
ライナー「かなり早く進んでこれた。あと、一時間もあれば着くだろう」
クリスタ「予定より二時間は早いね。先にでた班に追い付きそうだね」
ユミル「私らの前に出た班は誰だ?」
ライナー「アッカーマン班だな。班員はサシャ、ジャンとマルコがいる」
ユミル「うわ、ミカサか。こちらの班と競るのはそこだな」
クリスタ「負けられないね、ライナー?」
ライナー「そうだな。気合いを入れて、頑張っていこうな」
-
ベルトルト(マルコ…か)
ベルトルト(もしかして、ユミルはマルコを選んだのかな。だから僕を避けるのかも)
ライナー「ベルトルト、また食べないのか?」
ベルトルト「…食べたよ」
クリスタ「もしかして…どこか具合でも悪いの…?」
ベルトルト「…今お腹が空いていないだけだ。しまっておいて、夜中に取り出して、寒空のなか寂しく一人で食べるんだよ。もそもそと、ね」
ユミル「………」
-
鬱々とした感情に任せて口から出てしまった言葉は、小さな棘を多量に含み、何だかとても当て付けがましい物だった。
視界の端に映るユミルの表情は、はっきりとはわからない。多分、眉を寄せ、切れ長の目は少し伏せて横に目線を流し、口はしっかり噤み、自分と同じ、気まずく気疎いといった顔をしているのだと思う。
我ながら子供っぽいと感じ、恥ずかしく、少しだけ後悔した。
食事を終え、再び馬に乗り目的地へ向かう。月明かりと、松明、星空、たまに見える集落の建物の明かりを頼りに進む。
ほどなくして、廃村の入り口に到着した。
担当の教官が待機していた。
-
ライナー「ブラウン班、班長ライナー・ブラウン、班員ベルトルト・フーバー、クリスタ・レンズ、ユミルの計四名只今到着致しました」
教官「ブラウン班、到着確認。聞いているだろうが、ここの建物は廃村となっていて、空いている建物で、適当な所に逗留の準備をするがいい。明日の準備が終了したら本日の予定は終了だ」
教官「明日の三度と明後日の朝の食事は自炊となる。配分の食料を、後でそこの小屋に取りに来るがいい」
ライナー「はっ」
-
教官「よし、行け」
ライナー「はっ」
*
*
*
クリスタ「どこの建物がいいかな、ライナー?」
住民が過疎のため、十年ほど前に廃村となった村の跡地が、今回の訓練の場所だ。
大きめの平屋の家がぽつり、ぽつりと建っている。通年を通して何処かの兵団や訓練兵達の訓練で使われるため、それぞれの家の補修はしてあるらしく、朽ちた様子は建物の外観には特にみられなかった。
-
たまに明かりが灯っている家があるが、先に到着した訓練兵か、今回の訓練の手伝いに駆り出された駐屯兵団か、成績を付ける教官達の逗留場所なのだろう。
前を通りすぎると、話し声や笑い声など漏れ聞こえる。
ライナー「あちらの高い塔と巨大樹がある方で明日掃討訓練が行われるようだな」
ユミル「じゃあ…お、あそこの、二件先の赤い屋根の家にしよう。他の訓練兵や駐屯兵団のやつらも隣近所に居なさそうだし、静かで良いだろ」
クリスタ「…ここね。馬屋もきちんとあるんだね。お前たち、御苦労様。明日もよろしくね」
-
ユミル「お前ほんとに馬好きだよな」
クリスタ「馬…は可愛いよ?きちんと躾けをされて、ご主人様の命令通りに動いて。従順で…大人しく待っている子はとてもいじらしくて可愛がってあげたくなるよ」
クリスタ「たまに、全然こっち見てくれなくて、言う事聞かない子もいるけど…」
クリスタ「手綱を引いたり緩めたり…鞭やご褒美。欲しいものはタイミングよく与えてあげて、こちらの意のままに操る事が出来る様に調教するんだ」
クリスタ「…まずはきちんとした信頼関係あっての調教だから、心を通わせる所から始めないとね。ふふっ…」ナデナデ
馬「ブルル…」
-
ユミル「さ、なか入ろうぜ」
ライナー「水は井戸が使えるそうだ。ベルトルトと後で汲んでくる」
ユミル「そうか。悪いな、頼むよ。私らは食材を取りに行こう」
ライナー「よろしく頼む」
この建物は、割りと綺麗に使われており、寝室が二つある他は、リビングとキッチン、広目の土間と風呂場、と言った、ごく普通の家の作りだ。
寝室にはベッドが二つずつと、古びた机と椅子が二組ずつ、三人がけのソファーが一つずつ置いてある。
ユミル「毛布は訓練所と同じものだな」
クリスタ「備品はもとの家のもあれば、兵団の物もある感じだね」
-
荷物を置き、ライナーとベルトルトは井戸に水を汲みに出かける。村の中心部にあるので、煉瓦が敷き詰められた薄暗い道を少し歩く。
ベルトルトの熱は確実に上がってきており、顔がとても熱く、ガンガンと脈打ち、痛みが頭のなかを蹂躙する。体がふらつき息苦しい。気温の低さだけではない、体の中の筋肉や血液が凍りかけているようで、内側から冷えて、細かに震え、酷く寒かった。
ライナー「ベルトルト、具合が悪いのか?」
ベルトルト「少し、ね」
ライナー「早めに言えと言ったろう。もう少しゆっくり来ても良かった物を」
ベルトルト「早く来て、そのあとゆっくり休みたかったんだ」
ベルトルト「一晩寝たら治るよ」
-
ライナー「そうだといいが…明日の訓練は調子が悪いと危険だ。もしだめならきちんと言えよ」
ベルトルト「うん…」
ライナー「水は俺が運ぶ。お前は先に帰ってろ」
ベルトルト「大丈夫だ。運べる…」
水を家まで運び、キッチンの大きな六人掛けのテーブルに皆で集り、立体起動装置の設備点検を行う。
会話にも入らず、寒いのに汗を大量にかき、動いたわけでも無いのに息を切らせて、眉を顰め、手をもつらせながら整備するベルトルトに、流石にクリスタもユミルも異常を感じる。
-
クリスタ「具合…悪いんでしょう?明日の訓練の事は朝食時にでも話し合えばいいから、早めに寝たら…?」
ベルトルト「…うん」
ユミル「熱…あるんじゃないのか?汗拭けよ、ほら」
ユミルが布を水で湿し、差し出した。
ベルトルト「……構うな」パシッ…
その手を払い除ける。とても構って欲しいのだが、関わって欲しくなく、もう話し掛けて欲しくない。でも優しくして欲しい。
自分でもどうして欲しいのか解らない。胸の奥は息苦しく、ただただ、苛立つばかりだ。
-
ライナー「ベルトルト」
ベルトルト「先に…休む」
クリスタ「ユミル…」
ユミル「…はは、参ったな。あいつ、すげー具合が悪ぃんだな」
ユミル(流石に愛想尽かされたか…?)
ベルトルトは朦朧とした意識の中で何とか調整を終えた為、一人早くに床についた。
ジャケットも脱がずに、倒れこむようにベッドに転がり込み、仰向けになって、毛布を引っかぶる。
-
呼吸は浅く荒く息苦しい。頭は脈をうって酷く痛んだし、体も熱いのか寒いのかよく解らず、とにかく怠く重く、ベッドに深く深く、どこまでも引きずり込まれ、沈み続ける感覚に囚われながら、すぐに意識を無くしてしまった。
カタッ…
ベルトルト(…?)
夜中に目を覚ました。まっ暗闇の中、目をこらすと、ライナーが使う予定の隣のベッドには誰も居なかった。額に濡らした布が乗せてある。
-
自分は、いつもなら部屋の連中に、天気を占われるほど寝相が悪いのだが、体調のお蔭か、ほぼ意識を無くした時の仰向けのままだ。
服は着ていないようだが何故だろう。自分で脱いだのかどうかも思い出せない。
痛み、熱に浮かされた頭に、井戸水の冷たい水で湿された布はとても心地よい。
まだ朦朧とする頭で、傾けた首を真っ直ぐに戻そうとしたとき、額の布がずれて落ちた。もとに戻そうと、腕を動かそうと思うが、とにかく鉛の枷を嵌められているかの様に自由が効かず、動かない。
その時、人影が近付いてきて、落ちた額の布をとり、たらいに汲んだ水で湿しなおし、またベルトルトの額に乗せてくれた。
-
ライナー…にしてはからだの線が細すぎるようだ。机の上に、小さな皿と水の入ったコップらしきものがあった。皿の中身をかき混ぜて居るようで、カチャカチャと陶器と金物の触れ合う音が、自分の荒い呼吸音のみが全てだった暗い部屋に響く。
???「おい…起きたのか…?」
ベルトルト(誰…)
???「…この調子じゃ、自力では…飲めなそうだな」
霞む視線で探ると、皿の中身を匙で口に含んだ細い影が、ベルトルトの顔の前にすっと現れた。波打つ心臓が一際、どくん…と跳ねた。
-
柔らかでひんやりとした唇が合わせられる。直後、口内に非常に苦く粘着いた何かが流し込まれた。唇を離し、すぐにコップの水をまた口に含み、唇を合わせ流し込んで来る。
ベルトルト「……ぅ、む…」
ユミル「薬だ。溢さないで頑張って飲め」
耳元で囁かれた。声と共に漏れ出る吐息が火照った耳にかかる。耳元から、首筋を通り、背中にかけて、扇情的な痺れが一度、駆け抜けた。
ぼんやりする意識に、先ほどの唇の感触を思い出し、体が更に熱くなる。
ベルトルト「……んん…っはぁ、は…ぁ」
何とか飲み込めたが、飲み込む事すら自由に出来ず、少し口から溢れ出てしまう。
-
ベルトルト「ユ…ミル…?」
ユミル「体調が悪いなら、悪いって早く言え。…寒い夜中に毎日一人で、長いこと外に居るからだ、馬鹿」
口許に垂れた薬の跡をそっと拭われる。
以前と同じ、ここ暫くの間欲しくて堪らなかった、視線を合わせ優しい物言いでの言葉が紡がれている。
ベルトルト「…熱…が出たのは…ユミルのせいだ」
ユミル「一日二日で諦め無かったお前が悪い…」
ベルトルト「…ふっ……諦め…るなん…て」
ベルトルト「……な…んで…」
ベルトルト「」ガクン…スゥ…スゥ……
-
ユミル「……」フッ…
ユミル「ベルトルさんは、可愛いな…」
ベルトルトの頬を両手でそっと挟み込む。手のひらに、じわりと汗の湿り気と熱が伝わる。
高熱が出ているからなのだろう。またすぐに眠ってしまったようだが、眉を顰め、口許は薄く開かれ、浅く荒い呼吸を繰り返している表情は、図体のわりに、とても幼くて儚く頼り無さげに見えた。
大きく忙しなく上下する胸元は噴き出す汗に濡れ、苦しげに波打っている。
ユミルは汗を大量にかくだろうと思い、ベルトルトの服は先ほど脱がし、畳んで寄せてある。
体が大きく、ぐったりしているので、なかなかに至難の技だったが、隣の部屋でよろしく楽しんでいる美女と野獣に、手伝いなんぞは頼む気は無かった。
-
沸かした湯で湿らせた布で、首や胸元を拭いてやる。何も身に付けていない胸板は、細身の靭やかな体の割りに、しっかりとした筋肉がついており、弾力があって大きくて広い。
女子にしては大柄のユミルも、その胸の中にしっかり抱え込む事が出来るのは、よく知っている。
首から肩にかけて汗を拭く。広い肩も、やや太めの首も逞しく、張りのある筋肉で覆われている。長くて鍛えられた腕で息苦しくなるほど強く抱き締められた事を、毎晩思い出す。
暗闇で色は見えないが、他の奴等と違いここらでは珍しい、浅黒い肌色。訓練兵の癖に、傷一つない滑らかな肌。能力が高いのと、慎重な性格ゆえだろうか。
幼い表情や言動に似合わず、その体は十分に頑強な男のものだった。
-
汗を拭いたベルトルトの体に毛布を掛けてやる。寝台の横に膝立ちになり、はみ出た手のひらを、そっと指を絡ませて持ち上げ、自分の冷えた頬に当てた。眠りは深いようで、反応は特に無かった。
汗ばみ、熱く、だらりと弛緩したその大きな手の甲にゆっくりと唇を押し当て、また頬に当てる。顔を見ると、顰められた眉はそのままで苦しげだ。
一晩中見ていてやりたかったが、明日の訓練は非常に大事な物で、配点の大きさからしくじるわけにはいかないものだ。
ユミル(隣の奴等もそろそろ解散させないといけないしな)
-
苦しげなベルトルトについ、薬を飲ませる為とは言え唇を合わせたり、以前の様に接してしまった為、またこちらに気持ちを向けられても困る。
あの夜、自分の感情に流されて、ベルトルトを拒まなかった事を酷く後悔していた。
あのときはぐらかすなり何なりして、会話だけを楽しんでおけば、こんな気まずい状態にはならなくて、ただの同期として過ごしていただろうに。
せっかく距離が出来始めたのだ。このまま離れ、他の普通の子と懇意になるなりして、自分の事は忘れて欲しい。自分はずっと忘れないけれども。
-
絡めた指を解き、毛布に潜り込ます。
ユミル「…朝までに治せよ。おやすみ、ベルトルさん」
立ち上がり、薬を入れていた皿と匙、体を拭いた布と湯をいれた盥を持ち、静かに部屋から出た。
*
*
*
登り始めた朝陽が、カーテンの隙間から入り込み、柔らかな光の筋をいくつか作る。
瞼に眩しさを感じ、目を開ける。外はしんと静まり返り、鳥のさえずりや、不意な羽ばたきの他は、音が無かった。廃村に駐留する者達は、誰もまだ活動を始めて居ない様だ。
-
隣のベッドには、ライナーが寝息を立てていた。
ベルトルト(まだ頭がぼんやりするけど、熱は下がったみたいだ)
ベルトルト(おでこの布も、半分乾いてる)
ベルトルト(冷した布…ライナーが掛けてくれたのかな)
起き上がってみると、まだ気だるさはあるものの、体は十分に動かす事ができそうただ。
ベルトルト(………寒っ!!)ビクッ!!
厚手の毛布から出ようとしたとき、自分が下着のみの姿な事に気が付く。慌てて布団に潜り込む。
ベルトルト(…冷たい!!)ガバッ!!
寝台の敷き布団は汗で湿っており、一度起きてからまた横になると、ぺたぺたした肌触りが際立ち、酷く冷たかった。
-
仕方がないので毛布を頭からかぶり、探す。脱いだ覚えの無い服は、きちんと畳まれて椅子の上にあった。
ベルトルト(綺麗に畳んでくれたんだな。ライナー意外に几帳面なんだな。汚れ物で持ち帰るだけのシャツや靴下まで畳んである)
まだ起床時間より少し早いはずで、昨夜汗に濡れた頭や顔を軽く流したかったが、風呂場はあるが使えない。お湯を沸かして、盥に溜めて、流すか布で拭くかしなければならない。兵服を身に付けて、キッチンに向かいお湯を沸かす事にする。
-
扉を開けると、台所の火はもう付けられており、大きなポットの注ぎ口からは、勢いよく白い蒸気が吹き出していた。
ユミルが一人、何やら作業をしていたようだ。誰かが入ってきたと言うのに、こちらに背を向けていて振り向きもしない。
いかにも気安く話し掛けてくれるなと言った雰囲気を醸し出し、息苦しく重い緊張をこちらに強要している。
ベルトルト「……お、おはよう、ユミル」
ユミル「……おう」
挨拶くらいはしよう、と思い声をかけたが、反応はやはりここ最近の態度と変わらず、目も合わせず素っ気なく、取りつく島もないものだった。
昨日と違い、今朝は体の不調から来たのであろう粗暴な苛立ちや不機嫌さは湧き上がってこない。頭は多少ぼんやりするものの、いつもの明瞭で、落ち着いて、内向的な働きを取り戻しつつある。
-
ベルトルト(本当に避けられてるんだな。ユミルが僕と関わりたくないというのなら、もう、仕方がないのかも)シュン
ベルトルト(もう一つポット無いかな。…無いな。ユミルが使い終わるのを待つか…)キョロキョロ
ユミル「……湯を使いたいならこれ、使っていいぞ。余ったものだ」
ベルトルト「ふ…ぇっ!?」ビクッ
ベルトルト「…良いの?」
ユミル「使いたきゃ使え。じゃあな」
やはり、こちらには目線を合わす事もなく、素っ気ない物言いで言い捨てると、早々にキッチンから出ていった。
-
急に声をかけられ驚いてしまい、おかしな返事をしてしまったばかりか、礼を言うのを忘れてしまった。
ベルトルト「…」
ベルトルト(行っちゃった…)
ベルトルト(良いって言うなら、お湯貰おう)
ふと床を見ると、すぐ近くに大きめの盥があり、体を拭くのに使うような兵団支給の布も幾つかあった。盥は乾いており、まだ誰も使った形跡は無かった。
ベルトルト(これ使おう)
-
盥と布を抱え、湯の入ったポットを持ち、風呂場に向かう。風呂自体は使用不可なので、ポットの湯を井戸水で薄めた盥の湯で体を拭い、頭を流す事にする。
汗を沢山かいたのだろう。体がベタつき、服を脱ぐと、汗の臭いが立ち上ぼり鼻腔に纏わり付く。布を軽く絞り、体を拭いた。冷えた空気の中、暖かな感触が昨夜と同じく気持ちがいい。
昨夜も…?朦朧とした意識の中、汗で酷く濡れた体を湯で浸した布で拭われて、熱に浮かされながらも非常に心地よかった様な…。
-
ベルトルト(ライナー、体も拭いてくれたんだ。ほんとに面倒見がいいなぁ。さすが皆の兄貴だ)
残った湯で顔と頭を流し、身支度を整える。
ベルトルト(…さっぱりした。これで汗臭くないはず…)クンクン
ベルトルト(クリスタとライナーも使うだろうから、また湯を沸かしておこう)
風呂場で盥の水を切り、立て掛けて置いておき、キッチンに向かった。ポットに水を入れ、火にかけて、湯を沸かす。
ベルトルト(暇だな。まだ朝が早すぎるから…)
ベルトルト(野菜でも洗っておこう)ジャブ…
-
自由が効かず鉛のように重たかった体も、今朝は少しの気怠さのみで、枷の無くなった体は思うままに動かす事ができた。これなら、今日の訓練も何とかこなせるだろうと思う。
直前に行われる、アッカーマン班との得点争いはどうだろう…。ライナーと自分が点数を稼ぐ事さえできたら、若干、分があるか…?
ただ、マルコとジャンがどこまで点数を稼いでくるかが問題だ。二人は息が合っている上、最近腕をあげてきている。
ミカサは一人で突出しているが、誰とでもそつなくこなすサシャが居る。チームで動くなら正直、こちらのぎこちなさに比べて有利かもしれない。
ベルトルト(マルコ…か)
-
ライナー「お早うベルトルト。もう支度終わったのか?体調はどうだ?」
ベルトルト「お早う。もう熱は下がったようだよ。大丈夫だと思う。お湯、あるよ」
ライナー「おぉ、すまない。そうか、なら良かったが…。薬が効いたんだな」
ベルトルト「薬?」
ライナー「夜中に飲んだろう?」
ベルトルト「そうなの?…覚えて無いな…」
ライナー「教官に言って、薬を分けて貰ったんだ。効いてよかったな」
-
ベルトルト「そうなんだ。ありがとうライナー」
ライナー「まぁ、礼ならユミ」
ユミル「おい、ライナー!!パンは何処だ」
ライナー「…なんだお前、急に飛び込んできて…びっくりするだろう。パンなら昨日受け取ってから、ユミルがかまどの近くに纏めて置いたんじゃないのか?」
ユミル「そうだったかな。ええっと…あ、風呂場使うなら早く使えよ。後がつかえてるんだ」
ライナー「クリスタやお前が先に使うといい。ベルトルトが湯を沸かしていてくれたから、今使えるぞ」
ユミル「クリスタは、馬見てから来るってよ。私らはあとで使うから、だから先に使えよ。今すぐにな。すぐにだぞ、すぐに行け」
ライナー「わかった、わかった…先に済ます事にしよう。ベルトルト、お湯を貰うぞ」
ベルトルト「うん、使って。もう沸いてるから」
-
ベルトルト(私らは後で使う?ユミルはさっきお湯を使ったんじゃ無かったのか?沸かして余ったと言ったじゃないか)
ベルトルト(まぁ女の子だから、僕らと違って支度も色々あるのかもな)
ベルトルト(…野菜切っとこ)トントン
*
*
*
クリスタ「ごめんなさいね、ベルトルト。一人で朝食作ってくれたの?」
ベルトルト「あ、うん…早く目が覚めたからね」
食卓に皆の朝食を並べる。結局、早起きしすぎたベルトルトが皆の支度の間、一人で作り終えてしまった。
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作ると言っても、少しの野菜と乾し肉のスープに、芋の蒸かしたものとパンだ。料理がさほど得意でないベルトルトでも、一人で仕上げることができるものだった。
時間が余ったので、焼き固められたいつものパンも、薄くスライスして、油を薄く塗って塩も振った後で火で炙り、軽く焼き目を付けた。我ながらいい出来だ、と思う。
ライナー「まだ休んでおけばよかったものを…無理するなよ?」
ベルトルト「大丈夫だよ。さ、食べよう」
クリスタ「パンも炙ってくれているから、とっても香ばしくて美味しいよ。ね、ユミル?」
ユミル「…あ?あぁ、まぁな。病み上がりだってのに御苦労様な事だ」
クリスタ「もう…変なユミル」
ベルトルト(あぁ…ユミルの醸し出す雰囲気が堪らなく気まずい…早く帰りたい…)
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料理を結構うまく作る事が出来、朝から少し気分が良かったのだが、とにかく素っ気なく突っ掛かって来るユミルに、気持ちをがりがりと削られていく。
体力を非常に使う訓練の為、乾し肉と塩はいつもより多目に配られている。スープなど普段よりもしっかりとした味付けで、味見したときはとても美味しく感じた。
しかし、今は白湯でも口にしている様だし、パンに至っては布団の隅っこでも囓っているかのようにすかすかして味気無い。
料理とは、気分も雰囲気も調味料なのだとどこかの本で読んだが、本当なのだな…とベルトルトは、もそもそとパンを口に押し込みながら、ぼんやり考えていた。
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今日はここまで
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続き楽しみです乙
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廃村西側 巨大樹の林近く
立体起動装置使用居住地内特別訓練
終了地点近くの作業場
ライナー「そろそろ昼になるな。アッカーマン班が戻る頃だ」
太陽は頭上高くまで差し掛かっている、この季節特有の弱々しい陽射しだが、風がないため、ぼんやり暖かい。
ユミル「運んでも運んでも、終わりゃしねーな」
クリスタ「ユミル〜早く進んで〜!」
ブラウン班は朝から昼食前まで、明日以降の訓練の仕掛けの材木や装置などを運ぶ仕事をしていた。昼から夕方までは、ブラウン班が訓練で、アッカーマン班がその仕事をする。
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>>258
レスが♪
乙ありがとうございます
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荷物運びをしながら、たまに遠くに目をやると、
村の高い建物や巨大樹の間に、巨人を模した大きな人形が、あちらこちらに出現して訓練兵の目の前に現れている。
それを、討伐補助の者と討伐する者二人づつに分かれ、首の後ろに括り付けられた筒を削いでいく。大きさも多様で、三メートル級から十五メートル級まで様々だ。
時間は全部で四時間弱位だろうか。かなり長い。
決められたルートを進み、途中、指揮官役の教官に、作戦を伝えられてそれを実行したり、自分達で計画を立てて討伐にむかったり、事前に知らされず臨機応変に進めなければならない。
遠目にアッカーマン班の動きをかいま見たが、やはりチームワークは非常に円滑で、十分に加点が貰えるいい動きだった。
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ベルトルト(チームワークに期待できないなら、正確な場所への攻撃で、得点を稼ぐしか無いな)
ベルトルト(話すらまともに出来ないし、目が合わないならタイミングを計れないもの…)
人形を、素早く、深く、正確に削ぐのは自信がある。…自らを屠り故郷の仲間を駆逐する為の技術に自信があるなど、滑稽な話しだが。
アッカーマン班帰還の時間に近付いた。
そろそろ、終了地点に帰り着き、この作業場の前を通るだろう。
ベルトルト(こんな日は外でゆっくり本でも読みたいな…ぽかぽかして気持ちが良いだろうに)
澄みきった青空から、柔らかな陽射しが降り注いでいて、見上げると眩しさに目が眩む。今日も昨日と同じで風も無く、気温は高く過ごしやすかった。
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ほどなくしてミカサ班が帰還した様だ。作業場の前を通りかかる。
皆ブレードの刃がほとんど残っていない。ミカサ以外、皆、兵服に破れと掠り傷が数ヶ所づつあり、肩で浅く荒い息をしている。
クリスタ「皆、大丈夫!?怪我してる…大変だったの…?」
サシャ「大変なんてものじゃないですよ〜噂に聞いていましたが、本当〜にきっついですよ」グッタリ
ミカサ「…かなり難易度が高い。チームワークが絶対必要。少しでも気を抜くと、ヤられる」
ライナー「ヤられる…だと…?」
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ジャン「駐屯兵団の奴等張り切り過ぎだ、糞ったれが!なんだ、あの人形は!?普通の訓練とまるで違う!」
ユミル「何だって言うんだ?」
ミカサ「内容は多言しないよう命令されている。詳しく話せない。けれど、とても大変」
ライナー「確かにお前達の、そのぼろぼろの状態を見れば、一筋縄には行かなそうだ…と言うのは解るな」
マルコ「ユミルちょっと…」
ユミル「何だ。用があるならここで言え」
マルコ「いいから、ちょっと」グイ
ユミル「…んだよ、全く」
マルコがユミルの腕を引き、皆と少し離れた建物の陰に移動する。何やら声を潜めて話をしている様だ。特に二人の表情からは、どういった内容の話しなのかは窺い知れない。
ベルトルト(何話してるのかな…あ、あんまり見るのも良くないよね…しつこくしてるみたいだし)
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ベルトルト(でも、気になるなぁ…)
程なくしてユミルは戻って来た。難しい神妙な顔をして。
ミカサ「では、私達はこれで」
ライナー「あぁ、またな」
ジャン「…くっそ。ジャケットの袖が破れてやがるし、腕が痛ぇよ」
マルコ「ははは…派手にヤられたね。血も滲んでる。僕も腿の部分をヤられたよ。手の甲も痛いな」
サシャ「私もジャケットの背中が破れました。足首も少し捻ったようだし、打ち身もあります。ミカサ以外、怪我だらけですよね…午後の作業に支障が無いといいのですが…」
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ミカサ「皆、一旦宿へ戻ろう。休息をしっかり取って、午後に備える」
サシャ「はぁ〜ミカサ〜お腹が空きましたぁ〜」
ミカサ「昼食にはまだ早い。水でも飲むといい」
サシャ「早くご飯食べたいです〜パァンとかパァンとかパァンとか…」
ジャン「芋食え、芋をよ!!」
サシャ「ジャンのですか?」
ジャン「やらねーよ!!てめぇのぶんのだよ!!」
サシャ「そうだ!玉子の支給がありましたから、オムオム作って下さいよ!!オムオム!!」
ジャン「昨日も作ったろ!!」
サシャ「すっごい美味しくて、また食べたいんです!!お願いしますよ〜ジャン……ボ」
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ジャン「るせぇ!!ジャンボとか言うな!!てめぇには、ぜってーやらねぇ!!」
サシャ「わぁ、すみませ〜ん!!もう言わないので、オムオムお願いしますよ〜ジャン〜手伝いますから〜」
マルコ「ははは…本当にサシャは食いしん坊だね…昼食より、まずは怪我の手当てだよね…?」
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程無くして、作業時間は終わり、昼食を取りに滞在場所に戻る。皆で分担して簡単な食事を作り、食べ、午後からの訓練に備える。
ユミル「皆、ちょっと近くに来て聞いてくれ。外に声が漏れると困る」
片付けを終えた時、声を潜めたユミルに手招きされ、それぞれの肩が触れるほどに頭を寄せ合う。
が、ベルトルトは図らずもユミルに隣り合わせてしまった為、秘密の話と解っていても近付きにくく、少し間を開けた。
ユミル「おい!もっと来いよ!!」
ユミルがベルトルトの腕をやや乱暴に引き寄せ、自分と密着させる。
毎晩自分の枕元か、マルコとすれ違う時にしか嗅ぐことが出来なかった、爽やかで甘い香りがふわりと漂ってきて、やるせない気持ちになる。
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ライナー「どうした」
ユミル「マルコに聞いたのだが…訓練の人形はこちらを襲うような絡繰りがあるそうだ」
クリスタ「襲う…?」
ユミル「実際の戦闘に近付けたものだ。急な動きをしたり、木の陰からいきなり仕掛けが出て来たり、アンカーが刺さらないように加工された壁や木があったりして、相当翻弄されるようだ」
ライナー「アンカーが刺さらないなどと…危険だな。打つ場所をよく見極めないといかんな」
ユミル「駐屯兵団の奴等、最高難易度だって言うから、えらい仕掛け作りを張り切ったらしいな。調査兵団の巨人研究の第一人者の意見も取り入れてあるみたいだ」
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クリスタ「どうしよう…私ついていけるかな…」
ライナー「心配するな。俺がサポートする」キリッ
クリスタ「ありがとう、ライナー。でも、私も…頑張るね」ニコ
ライナー「あぁ」ポ
ベルトルト(仲良しめ…羨ましい)
ユミル「特に終盤の、巨大樹の林の中に入って三体目だ」
ユミル「七メートル級で、始めは動きが鈍い。囮役が前に回り込んでから後に討伐役が二人で削ぎにかかるな?」
ユミル「かなりのスピードで急に下へ体を沈めた後、腕を振り回しからだを半回転するらしい」
ユミル「その時アンカーを引っ張られて、落下する者が多数出ている様だ。特に囮役が危ないらしい」
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ユミル「ミカサの班も、皆、大きな傷を負ったのはその場所だそうだ。サシャとマルコが落下したらしいが、運良く下草が柔らかい所で、大怪我にはならなかった様だ」
ライナー「訓練内容は機密なのでは?聞いて良かったのか?」
ユミル「ミカサ達も、昨日の似たような訓練を受けた奴等に内容を聞いたそうだ。私らが聞かないと公平じゃないからと、マルコが教えてくれたんだ」
ライナー「ほう…気を使って貰ったのだな」
ユミル「だから、そこだけ注意だ。解ったな、林に入って三体目だぞ。そこの場所の辺りの囮役は私とベルトルさんだ。気ぃつけろよ」
ベルトルト「……」
ユミル「おい、解ったのか?」グイ
ベルトルト「…う、うん…」
ベルトルト(よりによってそんな大変な所でユミルとペアだなんて…嫌だなぁ…)
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廃村西側 巨大樹の林近く
立体起動装置使用居住地内特別訓練中
ライナー「クリスタ!!やれ!!」
クリスタ「……はあっ!!」ザシュ…!
ライナー「ふんっ…!!」ズシャッ!!
クリスタ「…凄い深い!ライナーの仕上げがないと、討伐は難しいよ!」
ライナー「クリスタ、場所は正確だ。十分に討伐出来るさ。…次に行くぞ!!」
村の外れからスタートした実践的な訓練は、今まで訓練所で行われていたものに比べ、非常に高度なものだった。
近付くと、物陰から急激に立ち上がる人形や、高さのあまりない、村の中での立体起動装置を使っての討伐。
伝令班役の係の者がやって来て、新たな命令を下して、それにしたがう。なかなか計画通りに行かず、立ち往生することもしばしばだった。
時間もかかり、肉体的にも精神的にも、大変に疲労するものだった。
-
ユミル「さっきの伝令役の言う通り、ここに追い込んでくるって話で待ち伏せしてるのに、来やしねぇな!!」
ライナー「時間がかかりすぎている…。途中でヤられたと言う筋書きなのか…」
ベルトルト「様子を見て来ようか?」
ライナー「班がバラけるのはまずいだろう。行くなら皆でだ」
クリスタ「…見て!煙弾だよ!!」
ユミル「作戦失敗…?じゃ先に進んでいいって事か?」
クリスタ「それとも、戻って向こうの人形を討伐するべきかな」
ライナー「向こうは分隊長役の係のいるところだ。一度戻ろう」
-
行きつ戻りつしながら確実に、難しい動きをする人形を討伐して点数を稼ぐ。今のところ誰にも大きな怪我はなく、順調にこなしている。
ただ、人形の数の多さと動きの多様性のお蔭で、ブレードの替えが早いスピードで無くなっていく。最後まで持つかどうか不安になる程だ。
ベルトルト(ユミルと僕の連携も何とか出来ているな。チームワークも何とかなってる)
伝令役「巨大樹の林に十五メートル級巨人一体発見!!ブラウン班、討伐に向かえ!!」
ライナー「了解!!」
ユミル「巨大樹の林だな。やっと来たな!!行こうぜ!!」
クリスタ「あの入り口から入って、三体目だよね…」
ライナー「大丈夫だ。分かっているのだからな!!」
ベルトルト「……」
-
林の中は薄暗く、仕掛けが余計に分かりにくい。木の上方を見ると、アンカーが刺さらないように加工された場所が幾つかある。それは兵士が立体起動装置で移動する際、よく狙いがちな場所だった。
ユミル「……いくぞ!!」ズシャッ!!
ベルトルト「……はっ!!」ズシャッ!!
ライナー「二人ともいい位置だ!!」
クリスタ「やったね、ユミル!!」
ユミル「ははっ、まぁな!!」
今回の人形の討伐役はユミルとベルトルトだったが、いいタイミングで討つことが出来た。言葉はほとんど交わしていないが、何とか息を合わせる事ができた。
さっきの手応えからして、また刃が駄目になっているだろう。欠けた刃を下に捨て、新しい物をセットする。ベルトルトの予備はあと一本ずつしかない。残りの人形はあと二、三体で終わりだろう。ぎりぎり持つかどうか微妙なところだ。
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ライナー「次だな、噂の人形は…」
ユミル「やってやろうぜ!!」
クリスタ「見えてきた!!あれだね!!」
ガスをふかして近付くと、のろのろと立ち上がる七メートル級の人形があった。囮役は左右の前方、討伐役は後方上部に移動する。
ユミル「お前、先に行け!!」
ベルトルトは人形の前方を通りすぎる様に移動する。人形の腕が持ち上がり、リールを引っ掛けるかに見えたが、素早く巻き取り、他の位置に打ち直したため、抜き取られる事は無かった。
次にユミルが、素早く後方下に回り込み、足首の健を狙う。人形が右前方に傾ぐ。右足の健を切断する事に成功したようだ。
この方法は、奇行種を討伐する際の教科書通りのやり方だ。次いで前方にまだいる囮役が、目か手首を切り落とす攻撃して動きを一瞬止めた直後、討伐役が、うなじを削ぐ。
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しかし、先ほどユミルがマルコに聞いた話では、前に傾いでから、腕を振り回し始め、急激に半回転すると言う話だ。
その通りに動くのならば、振り回す腕に近い場所にいる、一番危険にさらされる役回りは、ベルトルトだった。
そこで、事前に打ち合わせたのは、教科書通りでなく、討伐役のライナーが前に回り込んで、ベルトルトと同時に両腕を切り落とす。
その後人形が半回転するのを待ち、後方上部に待機するクリスタとユミルがうなじを削ぐと言うものだ。
振り回す腕が両方ともないので、急に動きが早まった所で、アンカーを引っ張られる事や、腕に激突すると言った、危険性は少なくなる。
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ユミルが足の健を切断したので、次はライナーとタイミングを合わせ、同時に両腕を落とす計画なのだが…
ベルトルト(アッカーマン班の僕と同じ囮役はマルコだって聞いたな)
ベルトルト(振り回した腕にアンカーを引っこ抜かれて落下しかけて、木に衝突して腿を痛めたと)
ベルトルト(僕ならそんなヘマはしない)
ベルトルト(片腕を腕を切り落とした後すぐに僕がうなじを削いでやる)
ベルトルト(僕なら一人で討伐出来る)
勢いよくガスを吹かし、人形の前に躍り出る。
ライナー「ベルトルト!!待て!!」
ベルトルト「…ふっ!!」ズシュッ…!!
-
ベルトルトのブレードは、人形の左上腕を中程から切断した。すぐにガスを吹かして方向転換し、人形の真上に来るように近くの木にアンカーを打ち込み舞い上がる。
人形が、前にいっそう傾いだ…と思いきや、残された腕が滅茶苦茶に振り回され、体全体が急激にに旋回し、半回転する。
リールを緩め、勢いよくガスを吹かす。真下のうなじめがけて急直下した。
ベルトルト「……は、ぁっ!!」ズシュッ!!
深く、正確に削がれた人形のうなじのパーツが、宙を舞う。
ベルトルト(見ろ、僕の方が…マルコなんかよりずっと)
-
ユミル「避けろ!!」
ベルトルト「!?」
うなじを削がれたが、人形の体に残された腕の動きはまだ収まっていなかった。やたらに振り回された片腕は、一人でうなじを削いで、討伐を完了したベルトルトの後ろから振り抜かれた。
一瞬気がつくのが遅れ、離脱が間に合わなかった。勢いよく振り抜かれた腕が、ベルトルトの体にぶち当たる。
ベルトルト「ぐはぁっ!!」
向きを変え、咄嗟に受け身を取ったが、地面に向かって弾き飛ばされた。
ユミル「おい!!」
-
このまま地面に叩きつけられたら、ちょっとした怪我では済まないだろう。
同じ役を受け持ったマルコに対し、自らの能力の高さをユミルに誇示したいと言う強い欲求に突き動かされ、衝動的に動いてしまった。
自分の能力なら、一人で討伐出来ると思った。自分らしくない…勝手な行動だった。
ドスッ!!…
ズザザザザ…!!
二人は転がりながら地面に落下した。
弾き飛ばされたベルトルトを庇い、ユミルは下敷きになっている。目一杯ガスを吹かして、ベルトルトの体を横から抱え衝撃を殺し、地面に一緒に落下した。
落下したベルトルトは、右肘と右肩に激しい衝撃を感じた。たぶん骨が折れたのだろう。唐突にやって来た、やけつく様な酷い熱さと強烈な痛みに、呼吸がうまくできず息が詰まる。
と、体のすぐ横で、尋常でない悲鳴が耳を擘く。
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ユミル「ぐぁ!!ぁぁぁぁぁあ!!」
ベルトルト「はあっ…うぅっ…ユミル…血?血が…」
以前に訓練した者のであろう、切れ味が鈍り、打ち捨てられたブレードが落下地点に落ちていたのだ。それは、ベルトルトを庇ったユミルの左脇腹に深々と刺さっていて、あたりに真っ赤な血溜まりがじわじわと広がっていく。
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ライナー「クリスタ!!救護班要請の煙弾を打て!!」
クリスタ「う、うん分かった!!」
係の兵士「おい、負傷者か!?」
クリスタ「はい、二名です!!」
係の兵士「ここは討伐済みだ!!先へ進め!!」
ライナー「はっ!!」
クリスタ「でも…!!」
ライナー「ここは係の兵士に任せろ!!俺らは先に進まなきゃならないだろう!!」
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ライナー「行くぞ!!クリスタ!!」
クリスタ「う、うん!!」
ベルトルト「…うっ…止…血しないと…!!」
ベルトルト「くそっ…腕…が動かな…」
ベルトルト「ユミル…ユミル!」
ユミル「うぅっ…うぁ…はあっ…ぁぁっ!!」
*
*
*
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今日はここまでです
訓練の内容は適当なので流し読みしてください
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ブラウン班の訓練は二人の重傷者を出した。残りのライナーとクリスタの二人により、残りの人形の討伐と任務の遂行を行い、訓練を終了したようだ。
ユミルは救護所に運ばれ傷口の縫合などの処置を受けている。意識はあるが、大量の出血の為朦朧としており、話などは出来る状態ではなかった。
ベルトルト(僕は本当に…馬鹿だ…)
ベルトルト(自分を過信して、ユミルにあんな大怪我を…)
ベルトルト(何で僕なんかを助けて…嫌いになったんじゃ無かったの?)
ベルトルト(どうしよう…ユミルはただの、人なのに)
ベルトルト(…何で、僕は…!!)
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ライナー「…帰ってきたか。治療は終わったんだな?具合はどうだ」
ベルトルト「右肩の骨にひび、右腕の骨折、両足の打撲に全身の擦過傷…かな」
ライナー「ユミルも大変だったな…だが、命に別状は無いそうだな」
ベルトルト「無くても…結構な怪我だ。僕のせいで…僕が…」
ライナー「いいから…まずは部屋に入って座れ…しっかり食事を取って、ゆっくり休め」
ライナー「俺たちが気を揉んだところで、ユミルの怪我が回復する訳じゃ無いからな…」
ベルトルト「………」
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ベルトルトの治療の間、ライナーとクリスタが二人で夕食を作った様で、テーブルには、暖かいスープとオムレツ、パンが、ほかほかと食欲をそそる匂いの柔らかな白い蒸気を立ち上らせ、三人分並んでいる。
悲しそうに眉を寄せ、所在なさげに両手をひたすら揉み絞り座っているクリスタと、腕を組み、少しだけ目を顰めベルトルトにひたと視線を当てているライナーと、眉を寄せて目を伏せて、ただただじっとしているベルトルトが、キッチンのテーブルについていた。
ライナー「…何故計画通りに動かなかったんだ?」
ベルトルト「……ごめん」
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ライナー「うなじは削げたが、お前とユミルは大怪我だ」
ライナー「チームワークが重要だと言っただろう。それまでだいぶ点数を稼いでいたが、負傷者の離脱が二人もでた事で、うちの班は大幅に減点になったそうだ」
ベルトルト「……ごめん」
ライナー「帰還も、訓練所からこちらへ持ってきた馬車を返す用があるとの事で、その馬車を借りて、荷台に馬に乗れないベルトルトを乗せて帰還する」
ライナー「馬車だと歩みが遅い。途中兵団指定の宿に一泊する事になる」
ライナー「馬車の都合により、明日ではなく、一日遅れの明後日に出発する」
ライナー「ユミルについては、動ける状態になるまで、こちらの救護所に滞在するということだ」
ベルトルト「……ごめん」
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ライナー「全く、お前らしくもない…」
ベルトルト「……ごめん」
クリスタ「…昨日体調悪かったみたいだし…しかたないよ…ユミルも治れば今後の訓練に支障は無いそうだから…」
クリスタ「ベルトルト、そんなに気に病まないで…?成績だってまだまだ取り返す事が出来るんだから…ね?」
クリスタ「ね?ライナー?」
ライナー「う…うむ…」
ベルトルト「……ごめん」
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クリスタ「さぁ!冷めないうちに食べましょう?これライナーと私で作ったの。ライナーって、とっても上手に野菜切るんだよね?」
クリスタ「味付けも、お塩を高い位置からパラパラ〜って、プロっぽいの!!凄くかっこよかったよ!!」
ライナー「まぁ、料理は人並みくらいには出来るが…」
クリスタ「食事当番の時は、片付けをいつもしてくれるし、味付けとか料理自体はあまりするところを見なかったから、勝手に苦手なのかなって思ってたな」
ライナー「当番は、クリスタの料理を楽しみにしている奴らが多いから、その楽しみを奪わない為にあえて手伝いに回っている」
クリスタ「えー。そうなの?」
クリスタ「…あと一日ライナーと一緒に御飯作るでしょ?とっても楽しみなの。二人で美味しいの作ろうね?ふふっ」
ライナー「……うむ」ポ
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クリスタ「ベルトルト、食べにくい?パンを薄く切ってあげるね?」
ベルトルト「え?いいよ…気にしないで」
クリスタ「いいよ、片手だし、薄くした方が食べやすいから。待ってて?切ってくるから!ねっ!!」
ベルトルト(持っていかれてしまった…)
クリスタはどこか上っ調子だ。いつもベッタリなユミルが大怪我をして、起き上がれないでいると言うのに、心配する素振りを全く見せない。
ベルトルト(わざと明るく振る舞っているのかな。この場の空気の悪さの改善と、僕に責任を感じさせない為に?)
ベルトルト(ライナーの言うとおり、女神様ってやつなのか)
ベルトルト(本当に…?)
-
クリスタ「おやすみなさい、ライナー、ベルトルト」
ライナー「またな、クリスタ」
ベルトルト「…おやすみ」
食事と片付けを終えて、クリスタは一人で、ライナーとベルトルトは同じ部屋へ移動し、休む事にした。
ライナー「ベルトルト。怪我はどうだ?」
ベルトルト「痛いよ…折れてるからね」
ベッドに向かい合わせに腰掛け、互いを見る。
ライナーが、両の手を弄び、視線を横にずらしながら話す。
ライナー「あの時…もしかしてお前、マルコに張り合ったつもりだったのか?」
ベルトルト「…何の事?」
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ライナー「マルコもユミルの事を好いている様だ。お前は残念な結果に終わったが、マルコは特に今までと変わらなくユミルと接して居るだろう」
ライナー「もしかして、ユミルはマルコを選んだのか?」
ベルトルト「…知らないよ、そんな事。クリスタにでも聞いてよ」
ライナー「そうか…」
ライナー「…治すか?」
ベルトルト「そうだね…ここで少しだけ治してから、どこか人目に付かないところで一気に治すよ」
-
ライナー「ここは隣にクリスタも居るしな…多量の蒸気が出るのはまずい。家に誰かが来ないとも限らんからな」
ライナー「最低限動ける状態まで、ここで蒸気を押さえつつ治せ」
ライナー「俺はクリスタと少し…話を」チラ ソワソワ
ベルトルト「明日は訓練はなくて、資材運びだものね。多少夜更かししても大丈夫だね。僕は怪我してるから、部屋で待機だけど」
ベルトルト「あとは、適当に抜け出してどこかで治して来るよ。どうぞ、ごゆっくり」
ライナー「悪いな…じゃあ、気を付けろよ」
ベルトルト「うん」
いそいそと部屋を後にしたライナーの、後ろ手に閉めたドアを眺める。皆の頼れる兄貴だが、今日はお目付け役も居ない二人きり。何か間違いがなければいいのだが。
ベルトルト(あったところで、付き合っている健康な若い二人なんだ。むしろ無い方がおかしいな)
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ベルトルト(隣でイチャイチャされたら居たたまれないよ…早く動けるまで治して、外に行こう)
意識を、打撲傷を負った両足に集中する。包帯の間から微かに白い蒸気が立ち上り、しゅうしゅうと湯が沸くのに似た微かな音が漏れる。
蒸気は体を修復する際に出てしまうのだが、高温で、あまり勢いよく出してしまうと、部屋の中が暖まりすぎて、外との寒暖差により窓ガラスに水滴が付き曇ってしまう。
この寒いのに窓を開けるのも不自然だし、ガラスが曇るのも、なぜ部屋がそんなに暖かいのか、とこれまた不自然なので、暖まりすぎないよう注意して治す。
-
ベルトルト(確か巨大樹の林の奥に作業小屋があったな。人形の部品の材料を午前中そこへ運んだから)
ベルトルト(しっかり扉がしまるし、窓も無く、鍵も無かった。ちょっと遠いけど、そこに行って一気に治そう)
ベルトルト(脚は…そろそろ平気なくらい治ったかな)
ベルトルトはベッドから、そっと立ち上がる。少しだけ痛んだが、歩くのに支障は無い様だ。
防寒のマントを着て、膝掛けと小さなランプと夕食時食べきれなかったパンと水の入ったを持った。体が治ればお腹がすくと思ったからだ。
ベルトルト(なんか、僕、ピクニックにでも行く見たいだな)
-
玄関の扉を薄く開け、周りの様子を伺う。
ベルトルト(誰も…居ないな。よし、行こう)ソッ…
ベルトルト(ユミルが周りに誰も泊まっていない家を選んだからな。巨大樹の林にも近いし、調度良かった)
足音をなるべく立てないように、周りに気を配り歩く。少し離れた家の灯りがチラチラ見えるが、外に人影は無い。
-
少し離れた、巨大樹の林に近い場所に救護所がある。兵士は怪我が多いので、割りと大きな施設だ。まだ、灯りがぼんやり灯っている。
ベルトルト(ユミル…)
林へつながる夜の道は明かりとなる月の光も射し込まず真っ暗だ。
人間離れして夜目のきく、ベルトルトかライナー位しか明かり無しでは歩けないので、これからの時間は誰も近寄らないだろう。
ベルトルト(腕が痛いな…早く治したい)
-
巨大樹の林 作業小屋
木で出来た重たい扉をひいて、中に入る。窓が無いため外の微かな月明かりですら射し込んでおらず、深い暗闇に包まれている。夜目がきくベルトルトでも、殆ど見えない。
宿泊している家の半分くらいの大きさで、訓練の仕掛けに使う材料が、丁寧に分けて積み重ねられ、整頓されているはずだ。
持ってきた小さなランプに火を入れる。片手なので手間取るが、僅かに灯り辺りを照らす。
ベルトルト(中は少し暖かいな…すきま風が入らないから?)
-
ベルトルト(あの材木の陰の隙間で治そう)
ギシッ…
ベルトルト「ぅわっ」ビクッ
ベルトルト(…音?野生の動物か何か居るのかな)
ベルトルト(それとも…誰か)
ベルトルト(は、居ないよね。寒いし暗いし、集落から遠いもの…)
-
足音を潜め、音のした方にゆっくりと近寄る。奥の方をランプで照らすと、横たわる大きな影が見えた。
ベルトルト(熊か…狼?野犬かな…)
ベルトルト(…襲われるとまずいな)
影はのそりとおきあがり、こちらを振り向いた。
???「…お前…なにしに来た」
ベルトルト「ひゃあっ!!喋った!?」ビクビクッ!!
???「喋っちゃ悪いのか?」
ベルトルト「ええっ…?」ブルブル…
???「…おい」
???「おい」
ベルトルト「ユミル!?」
-
ユミル「何でお前がここに来んだよ…怪我したんだろ」
ベルトルト「ユミルこそ…血がいっぱい出て…動けない筈じゃ…何でここに…」
ユミル「…見たのか」
ベルトルト「何を?」
ユミル「見たんだろ?」
ベルトルト「だから…何を…」
ユミル「…だよな。見ちまったんだよな…」ハァ…
ベルトルト「…?」
-
ユミル「すぐ外に人の気配がしてから急いで止めた。だが…誰も来ねぇだろうと思って、勢いよく出していた蒸気はすぐには止まらない」
ベルトルト「…!!」
ユミル「……ここ、結構暖かいだろ。暖を取るものなんて無いのにおかしいよな…」
ユミル「さっき殆ど動けなかった私が、ここにいて、今割りとべらべら喋れてるのもおかしいよな…」
ベルトルト「…」
ユミル「蒸気を出して、怪我の回復が出来るなんてな…まるでアレみたいだろ?」
ユミル「はは…」
ベルトルト「…」
-
ユミル「驚いて声も出ないか?そうだよな。一度は好いた女がアレなんだ。そりゃびっくりだよな。アレだしな、ふふっ…」
ユミル「…殺すか?私を」
ユミル「それとも…上官を呼ぶか?」
ユミル「私はまだ回復しきっていない。腕一本のお前でも、取っ捕まれば私は逃げられない」
ベルトルト「……ユミル」
ユミル「…でも…出来たら…」
ユミル「出来たら、黙っていてくれないだろうか…」
-
ユミル「訓練兵を修了するまででいいんだ。修了したら、どこか一人になれるところへ消えるから…」
ベルトルト「何で…修了するまでなの…?」
ユミル「クリスタを憲兵にしてやりたいんだ…」
ユミル「あいつは育ちがひどく複雑で…誰にも生きていることを望まれていなくて…こんな所に放り込まれて」
ユミル「本来なら私らとはすむ世界が違う、別の世界の生活をしていた筈なのに」
ユミル「昔の私を見ているようだと思った…」
-
ユミル「それに、あいつは上っ面は女神だなんだと言われちゃいるが、実際、中身は歪んで異常にいびつなんだ」
ユミル「せめてこれからの人生を、全てを受け入れ、無償で愛してくれる男とでも幸せになって生きていって欲しいんだ。幸せになれなかった私の代わりに…」
ユミル「ライナーなら…あいつは本当に良い奴だ。クリスタの何を知ったとしても、全部受け止めてくれる筈だ」
ユミル「まぁ、ライナーが支えきれなくても、憲兵になりゃ他の優秀な男も居るだろうし、一人でも、落ち着いて裕福な暮らしが約束されるからな…そうなって欲しいんだよ、クリスタには」
-
ベルトルト「でも、クリスタの力だけでは、志願できる成績には届かない…んだよね」
ユミル「…だから私がノートを借りて教えたり、なるべくペアで組んで成績を伸ばして…」
ベルトルト「それで、君は成績が上がりすぎないよう、わざと課題を出さなかったり手を抜いたりして…?」
ユミル「素行を悪くしたりしてな」ハハ…
ユミル「実際私はもっとお利口さんなんだぜ」
ベルトルト「……」
-
ユミル「無理な頼みなのは解っている。でも…どうか聞いてくれないか…」ジワ…
ユミル「…ははっ、こんな所で涙を…流すなんて、ずるいよな…」ポロポロ…
ユミル「…こんなだから、アレだから…お前の気持ちも…受け入れられ無くて…ここ最近、辛く当たって…すまなかったと思ってる…」ポロポロ…
ユミル「…ふっ…う…頼むよ…あと少しで…いいんだ…人…だって…襲ったり…しない…から…」ポロ…ポロ…
ベルトルト「ユミル…」
ユミル「…ん…だよ、近…付くな……!」
ベルトルト「ねぇ、ユミル…見て」
着ていた服を脱ぎ、上半身を曝す。
-
肩にしっかりと巻き付けられた包帯を片手でほどいていく。添え木が乾いた音をたてて下に落ちた。支えが無くなり自重がかかり、増大した痛みが体を蹂躙していく。堪える為と集中する為に顔を顰め、息を殺す。
ユミル「お前、何やって…」
多数のかすり傷と共に骨を痛めた為、肩の辺りは赤黒く皮膚が腫れ上がっている。折れた場所はだらりと垂れ下がり、特に酷く黒く膨れあがっていた。
激しい痛みを堪え、意識を集中させる。傷口が再生していく様子をイメージする。体が熱を帯びて、患部から白い蒸気が揺らめいた。
ベルトルト「…」シュゥゥ…
ユミル「………お前…!!」
勢いよく白い蒸気が立ち上っていく。赤黒く腫れ上がり、血が滲んでいる皮膚が、みるみると白さを取り戻していく。
-
痛みも引いていき、表情も徐々に和らいでいく。垂れ下がっていた腕も緊張を取り戻した。
ベルトルト「……」
ユミル「……」
ベルトルト「…僕も…同じだから…」
ユミル「同じって…お前も…?」
ベルトルト「そう、僕も」
-
ベルトルト「僕を殺す?」
ユミル「…いや…私を殺すのか…?」
ベルトルト「好きなのにそんな事出来ないよ…」
ユミル「脅して、自分の物にするか?」
ベルトルト「…そこまで腐ってないよ、僕は」ムッ
ベルトルト「でも、その…普通に話して欲しい」
ベルトルト「そのくらいはいいでしょ…?」
ユミル「………」
-
ベルトルト「…ところでマルコも巨人なの?」
ユミル「…はぁっ?」
ベルトルト「だから!!マルコは巨人なのかって聞いてるの」
ユミル「あぁ!?何でだよ!?」
ベルトルト「ユミルがマルコを選んだ理由が解らないけど…同じアレだから、なのかなって…」
ユミル「別に私は、マルコを選んだ覚えは無いけどな」
ベルトルト「えぇ!?じゃあ何であんなに親しげなのさ!!好きって言われたんでしょ!?」
ユミル「言われたが…普通に断って、それから特に何も無いが…」
-
ベルトルト「何でだよ!?僕にはあんなことさせてくれたのに、気持ちを伝えたら凄く冷たくしてさ、酷いよ!!」
ユミル「…あんな事したからだよ」
ユミル「私はアレだから…人とは、特に男と深く付き合うわけにはいかないと思っていたんだ」
ユミル「でも、あの時…拒めなかったんだ…ベルトルさんとの事、凄く…嬉しくて…」
ベルトルト「!?」
ユミル「後で滅茶苦茶後悔したんだ。どんなに想っても、人となんて付き合えないだろ…成績の良いお前の未来を傷付けてしまうだろうし…だから、諦めて貰うために…」
-
ベルトルト「なら…それならさ…」
ベルトルト「同じアレなら…いいって事…?」
ユミル「いいって言うか、ベルトルさんはどうなんだよ…」
ベルトルト「僕には意思がないので、ユミルが決めて下さい」
ユミル「はぁあ!?お前が決めろ!!」
ベルトルト「だって僕が迫ったら、脅してそうなったみたいで嫌だもの」
ベルトルト「僕の気持ちは、もう伝えてあるしね。だからユミルの気持ちを聞かせてよ」
ユミル「…んだよ、全く」
ユミル「じゃあちょっとこっち来い」
ベルトルト「うん」
-
床に座って涙を手の甲で乱暴に拭っていると、隣に、ベルトルトが腰を下ろしてきた。
淡いランプの光が深い暗闇の中にゆらゆら揺れて隣り合う二人の顔をぼんやり照らす。
広く逞しい、傷など無かったかのような、滑らかな肩に手を置いて、体を起こし向き直り、恥ずかしげにまだ涙に濡れた瞼を伏せて、ユミルは、唇を寄せた。
柔らかく暖かで、毎晩のように思い出していた、あの時の感触と同じだった。胸の奥がじわりと疼き、体が溶けてしまいそうな甘ったるい気怠さに覆われていく。
ユミル「好き…だ…ベルトルさん」
伝えたかったが諦めていた、心の底にきつく押し込んでいたものを、迷いながらも無理矢理に引っ張り出して吐き出す事にする。声が掠れ、上手く言葉を紡げない。
-
ユミル(嘘みたいだ…同じ体だったなんて)
ユミル(……まさか、あの時の!?)
ユミル(はっきり出て来やしないが、受け継いだ記憶の底にある)
ユミル(なら、まだ仲間がいるはず)
ユミル(いいんだろうか、私とだなんて)
ユミル(仲間を喰らった、私とだなんて)
-
ベルトルト「ユミル、僕も好きだよ」
長く靱やかな腕を背中に回し、ユミルを胸の中に抱え込む。劣情を誘ういつもの香りは、消毒薬の匂いに変わっていた。
訓練終了後、拭く間もなかったのか、汗の匂いが仄かにして、それもまたこちらの劣情を誘う。
湧き上がる歓喜と恋慕の感情に突き動かされ、つい腕に強く力を込めてしまう。
ユミル「痛ってぇ!!」
ベルトルト「えっ、まだ治して無いの!?」
ユミル「途中だってさっき言ったろ!?それに、いきなり全部治したら、救護室の奴等びっくりするだろ!?」
ベルトルト「うわ、僕、全部治しちゃった…」
ベルトルト「どうしよう…」
-
ユミル「も一回折ってやろうか?腕、出せよ」
ユミル「ほら早く」
ベルトルト「えぇ!?」
ユミル「冗談だよ。骨折なら固定してないといけなくて、しょっちゅう見る訳じゃ無いから、包帯巻いとけばいいだろ」
ユミル「私は切り傷だから、自分でするにしても、消毒したり、こまめに包帯替えるしな…表面の傷だけ残して置こうと考えてる」
ベルトルト「…器用だね」
ユミル「まぁな」
ユミル「だから…ちょっと待っとけ」
ベルトルト「あっ、うん…待ってる」
-
ベルトルトの胸に凭れたまま、脇腹に意識を込める。服の中から白い暖かな蒸気が立ち上り、消えていく。周りの空気も暖められて、まるで暖炉の前にでも居るようだ。
手持ちぶさたなのか、ベルトルトは髪留めをしていないユミルの髪に指をくぐらせたり、巻き付けたりして弄んだり、首筋に顔を近付け匂いを嗅いだりしている。
ユミル(好いた男に抱きかかえられるのは、とても心が満たされるものなんだな…)
ユミル(体を拭いてやった時、全然傷が無かった訳は、治せるからだったのか…)
今まで永いこと生きてきて、初めての情感だった。胸の奥から気怠くて甘い痺れが体中に広がり、息が詰まる様だ。
-
その一方で、気持ちが落ち着いて自然と瞼が降りていく。幸せという感情は、こういうものなのだろうか。穏やかで、嬉しくて、暖かい…
けれど心の奥底で、仄暗い煙が燻っている。あの時の同士の力を奪った、狡猾で醜悪な、化け物だと知られたら。きっと私を嫌いになる。
利用しようとはするだろう。彼の記憶は、今は朧気ながらも共にある。彼らが計画を進めるつもりなら、必要なはず。
だけど、こんなに熱っぽい眼差しで見られる事も、優しい手で触れられる事も、無いだろう。あるとすれば、憎悪と、嫌悪と、疎ましく蔑む、視線なのだろうから。
彼らの計画を、止めなければならないとは思えない。彼の記憶がそうさせるのか、自分の考えなのかは解らないが。
壁の中がどうなろうと私の知った事ではない。ただ、クリスタには幸せな未来を与えたい。
そして…自分も幸せになれたら。
そうする為にはどうしたら?
-
ベルトルト「…蒸気、止まったね。もう終わった?」
ユミル「あぁ…待たせたな」
ベルトルト「もう、凄く待ったよ」
ベルトルト「…早くキスしたくて、堪らなかったのに」
後ろから抱きかかえていたユミルの体の前に回り込み、噛みつくように唇を合わせた。飢えた肉食獣が獲物に食らいつくように、下腹から湧き上がる、甘い痺れに突き動かされるままに、激しく情熱的に、唇を舌を、舐め、吸い、貪った。
頭の後ろを片方の手のひらでしっかりと抱え込み、もう片方の腕は背中に回し、逃がさない。
顔を動かせず、ユミルは息が上手く出来ないためか、劣情の高まりの為なのか、合間に浅く短い吐息を漏らす。それがますますベルトルトの情欲を掻き立てる。
-
ベルトルト(耳…)
ベルトルト(この間、寒さで赤くなっていた耳に唇を寄せた時、可愛かったな)
ベルトルト(今日も見せて欲しい…沢山鳴いたって…ここなら誰にも聞かれない)
頭の後ろを手のひらで抱えたまま、耳の方に唇を寄せる。やや乱暴に口に含む。ユミルは一層鋭い吐息を漏らし、体をびくびくと激しく震わせた。
ユミル「はぁっ!!…やぁ…っ…めろ…」
ベルトルト「…嫌だね」
耳に唇を押し付けて、吐息混じりに囁く。更にびくりとユミルの体が跳ねた。
唇と舌で、小さめで肉付きの薄い、少しとがり気味の耳を蹂躙する。嘗め上げたり、かるく吸い付いたり、吐息混じりに愛の言葉を囁いたり。ユミルはその度に、体は激しく震え、声は上擦り、情欲の高まりを見せ付けてくる。
-
ベルトルト「ユミル…凄く可愛い。理性とか、どこかに行っちゃいそうだよ。ねぇ、いい?」
ユミル「ふ…ぁっ…!!あぁっ、はぁっ…」
ベルトルト「耳だけで、こんなに跳ねて…他の所に触れたら、どうなるのか…知りたいな」
背中に回した手をユミルの首に当て、鎖骨の辺りを軽くなぞる。体がまたびくりと跳ねた。
ユミルは治療用の病人専用の、体の前面に合わせがくる脹ら脛までの長さの服を身に付けていた。胸の合わせ目から手を差し入れると、その下には何も身に付けておらず、地肌の暖かさが伝わってくる。
滑らかで、柔らかい膨らみを探ると、堅い小さな突起に触れた。軽く弄ぶと、更に堅さが増していく。膨らみを鷲掴みにし、突起を摘まんで捏ね繰り回す。
ユミル「やっ…んあぁ…ぁっ!!」
-
目を堅く閉じて、腕の中で酷く震えながら、高い歓喜の吐息を吐き出した。理性など、ユミルの痴態に刺激され、噴出する劣情の波に追いやられ、霞んでしまっている。
ユミルの体を床に横たえる。始めに来たときに敷いたのだろう、見慣れた膝掛けが広げてあった。
病人着の裾をたくしあげ、太股の内側を膝から撫で上げる。滑らかな皮膚。弾力のある引き締まった筋肉。びくりと跳ねる体。そのまま、付け根迄指を這わす。
その先の柔らかで薄い繁みの中の、粘着く亀裂に触れる。
ユミル「はぁっ!!ん…ぁあぁ!!」
亀裂の上端の、小さく柔かな突出部に触れたとたん、それは急激に堅く姿を変え、ユミルは今までに無い鋭い鳴き声を漏らした。
-
隣に体を沿わせ、片手はユミルの頭を抱え、片手は服の合わせ目の中を弄る。
ベルトルト「ねぇ、ここ…」
ユミル「や…やめ…ろ、はぁっ!!変に…なる…!!」
ベルトルト「…」グニッ…
ユミル「やぁっ…!!や、あ、ぁぁ、はぁっ…!!」
擦り合わせる両腿の隙間に指を捩じ込み、粘着く堅い突出部をゆっくりと刺激する。先程からユミルの体の震え方が変わった。小刻みに震え、何かに耐えて居るようだ。息づかいも、浅く、圧し殺したものになっている。
-
ベルトルト「ねぇ…ユミル」
ユミル「はぁ…っぁぁ、っ…」
ベルトルト「…こんなユミル見てたら」
ベルトルト「凄く、可愛いんだけど…」
ユミル「んぁ…ぁぁっ」
ベルトルト「だけど…」
ベルトルト「どうしてかな…」
ユミル「はぁっ…んあっ…ぁぁっ」
ベルトルト「意地悪したくなる…」
ユミル「…んあぁ!!」
柔らかく弄っていた繁みの中の突出部を、強くひねり上げる。細かく震えていた体が悲鳴と共にがくんと跳ねた。
-
指先で激しく何度も擦り上げる。堅く擦り合わせた両腿が煩わしい。間に自分の片膝を強引に割り入れ、強制的に押し広げる。手のひらを開いた隙間に捩じ込み、亀裂の深いところから勝手に染み出してくる潤滑液を指に取り、堅い小さな突起を執拗に責め立てた。
ユミル「やめ…や…ぁぁ、あ、ぁ、ぁ…っ!!」
目を堅く閉じて、眉をきつく顰め、だらしなく開いた唇からは、圧し殺した浅い吐息が絶え間なく漏れ続ける。しかし、表情がよく見えない。ユミルの細く長いきれいな形の両の指が、顔を覆っているからだ。
ベルトルト「手を…どけてよ、ユミル」
ユミル「い…やぁ、ぁ…だっ…ぁぁ!!はぁっ」
空いた片手で、両手首を掴み、ユミルの頭上の床に押し付けた。
ユミル「やぁっ…!!み…るなぁ…っ」
-
体を蹂躙する大きな快感の痺れが引き起こす、理性が薄れた、苦悶の表情を色濃く浮かべる顔を見られるのが酷く恥ずかしい。覆い隠していた手は、ベルトルトに掴まれて自由を奪われた。ほんの少しだけ残っている自我によって、顔を背ける。
意図せずにベルトルトの眼前に、上気して仄かに赤く染まった感じやすい耳と、白く滑らかな首筋を見せ付ける形になる。
ベルトルト「…ここも、して欲しいの」
ユミル「ばっ…ち、ちが…ぁ!!」
-
差し出された耳を唇で舐ると、ユミルの背中がぐいと反らされ、今までと違う酷く鋭い吐息が漏れた。
ユミル「や…めっ!!はぁ!!あぁ!!ぁ!!ぁぁ!!」
ベルトルト「ユミル…?」
ユミル「だ…めだ…も…はぁ!!落…ちる……んあっ!!」
ユミル「はぁっ!!あぁっ!!ぁぁぁぁぁっ!!ぁぁぁっ!!はっぁあっ!!」
一際高い鳴き声を上げながら、自らでは抗えない悦楽の果ての激しい痙攣を数回繰り返す。激しく擦り上げていた場所の周りの粘膜がひくひくとうねり、達した事をベルトルトに告げる。
-
ベルトルト「ねぇ、ユミル…今、もしかしてさ…」
ユミル「…はぁっ…あぁっ…も、聞…くな、触るな…ちょっ…と休憩…な…」
ベルトルト「女の子って、イクとこんな感じなんだね…」
ユミル「…はぁっ…観察す…んな、ばか…」
ベルトルト「だって、本に書いてあった通りなんだもの」
いつもの鋭さがなく、柔らかく弛緩した切れ長の目が優しく甘えたように視線を返してくる。そっと体の中で、たぶん今一番敏感な場所にまだ触れる度に、熱く鋭い吐息を漏らし、びくんと跳ねて、体を捻る。
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ついさっきまで目も合わせてもらえず、かけられる言葉も素っ気なくその冷たいあしらいに、酷く辛い気持ちを感じていた。
しかし、今は、こんなにもあられのない放埒な姿を晒している。更なる性的な征服欲を掻き立てられ、抑えられない。さっきよりも、もっと、快楽に我を忘れるように滅茶苦茶にしたい。
ユミル「本って何だ…って、だ…から、刺激が、つ、よいから…触んな…よ」
ベルトルト「知ってるよ。達した後は、酷く擽ったいのは、男も女も同じだね」ニコ
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ベルトルト「アルミンが持ってる、男女の営みの指南本を読ませてもらった事があってね、そこに色々書いてあったんだ」
ユミル「…あいつそんなの、持ってんのか」
ベルトルト「アルミンとマルコは104期の訓練兵男子寮で一、二を争う、えっちな本の蔵書量を誇る猛者なんだよ」
ベルトルト「彼等の寝台の下には、様々なジャンル別に綺麗に分類された本がぎっしり収納されていて、男子は皆、借りに来るんだよ」
ユミル「まじかよ…聞きたく無かったぜ…明日からあいつらを見る目が変わるな」
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ベルトルト「ふふっ、年頃の若い男なんて皆そんなものだよ」
ユミル「んあっ…ぁっ…!!だ、から、まだ、触んな…ってぇ…!!」
ベルトルト「だって、本に書いてあったんだ。感覚が収まる前に、続きをしろってね…」
激しい痙攣の後、ゆっくりと指で弄んでいた繁みの中の小さな突出部をあとにして、その下の潤滑液にまみれた、より深い亀裂を探る。
ユミル「はぁっ…そ、こは…」
ベルトルト「指…入れても、いい?」
ユミル「…勝手に…しろ…よ」
ベルトルト「…可愛くないな。じゃあ勝手に、させて貰うよ」
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理性が戻り、恥じらいからくる突き放した態度は、劣情に支配されたベルトルトの嗜虐的な感覚の芽を急速に育てていく。
体を起こし、一度、泥濘んだ深みから指を離すと、ユミルの脚の間に体を割り込ませた。両膝を掴み、目一杯左右に押し広げる。ぼんやりとしたランプの仄かな灯りが、繁みの奥の深い亀裂を照らし出す。
ユミル「ちょっ…やめろ…見…んなよ」
ベルトルト「手で隠さないで。ふうん、こんな風な造りなんだね。本で見た挿し絵の通りだ」
ユミル「見ん…なったら、ばか…」
ベルトルト「勝手にしてもいいって言った」
ユミル「…それは…違う事についてだろ…」
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ベルトルト「手、離すけど、足閉じないでね」
ユミル「…さぁな」
ベルトルト「閉じたら勝手出来ないよ?だから、ねぇ、僕にして欲しかったら開いて、見せたままでいてよ」
ユミル「そ…ん、な、あっ…」
膝を押し広げていた両手を離し、ユミルの上に覆い被さる。病人着の胸元をはだけ、見た目よりも質量がある、形のよい柔かな膨らみを露にする。
ベルトルト「…見た目よりも、大きいんだね」
ユミル「そ…んなに、見るなってば…んぁっ…」
ベルトルト「とっても、柔らかい…すべすべで、手触りが心地好い…」
右手の指で先程の突出部をゆっくりと弄ぶ。ユミルがまた、甘ったるい鳴き声混じりの吐息を漏らし始める。
-
弱冠柔らかくなりつつあった小さな突出部は、指に摘ままれたり、引っ張られたり、弾かれたりするうちに、徐々に堅さを取り戻し、小さな自我を主張する。
左側の柔かな膨らみに顔を寄せる。先程垣間見た、繁みの中のぬらぬらと粘着く肉と同じ、淡い桃色の突起に唇を寄せて、舌で舐めあげる。口に含み、舌の上で転がすと、ユミルは苦し気な吐息を漏らし、抵抗するように体を捩る。
腕で顔を覆っては居るが、大きく開き粘着く亀裂を晒した脚が震えながらもそのままなのは、更なる快楽を期待しているのだろうか。
舌で胸のしこりを弄びながら、右手の中指を下腹部にある薄い繁みの中に滑り込ませる。
-
ユミル「はぁっ…!!ベ…ルト…ルさ…んあぁっ」
ぬめる深みの上端の敏感な突起をひと撫でし、更に下に滑り込ませ、刻まれた深い亀裂をなぞる。ぬらぬらとした潤滑液にまみれた中心近くに、やたらとひくつく窪みを見つける。
指を突き立て、沈めていく。
ユミル「ん…あぁっ!!」
ぬめりうねる肉の窪みは深く、生暖かく、侵入する指をきつく締め付け、絡み付く。指が全て奥まで飲み込まれると、指先に滑らかな丸く堅い肉の塊が触れる。
ベルトルト「…凄く…締め付けてくるね…。暖かくて、ぬるぬるしてて、中に入れたらとっても気持ちがよさそう…」
ユミル「や…めろ…あぁっ…」
ゆっくりと出し入れすると、締め付けは徐々に緩まり、ぬめりを増して、更なる太さを要求する。
-
胸のしこりから唇を離し、柔かな膨らみ、鎖骨、首筋、耳元、口元と、啄む様に唇を這わす。その度に戦慄く体を愛おしく思う。
ベルトルト「…痛くない?」
ユミル「ぁっ……い、たくは…無い…っ…」
ベルトルト「増やすね…?」
ユミル「ん…んぁっ…!!」
返事を待たず、人差し指を加え、少し緩まった窪みに分け入る。腹がわの肉はざらざらとして、ぷっくりとした盛り上がりを、指で感じた。
二本の指をゆっくりと出し入れすると、にちゃにちゃとした、粘着く水が掻き回される音が、圧し殺した甘い鳴き声と共に、静かな暗闇に広がっていく。
-
ユミル「はぁっ…あぁ…っ」
ベルトルト「…ここ、掻き回す時の音ってさ、凄く…厭らしいね。理性が霞んでしまいそうだ」
ユミル「や…何…いって…んぁ…っ」
ベルトルト「もっと、激しくしても…いい?」
ユミル「はっ…した…かったら、すればいい…だろ…んぁっ…」
本当はもっと、激しく、強く、壊れるほどに手酷く蹂躙されたかった。先程のように、何度も体を走り抜ける悦楽の波に流されて、馬鹿みたいに体を震わせ鳴き叫びたい。
しかし、意識の底に沈んでいる理性がそうさせてくれない。こんな姿を晒して、言われた通り物欲しそうに脚を大きく広げたままなのに、まだ羞恥が先立ち、いつもの強がる生意気な物言いになってしまう。
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ベルトルト「…ねぇ、素直じゃ無いね…ほんと、可愛くないよ君」
胸の中で育ちきった嗜虐的な感情は、まだ理性を意識に残すユミルを、再度猥りがましく狂わせて、従属させたい強い欲求を湧き上がらせる。
二本の指で粘着く窪みを蹂躙する。速度を早め、激しく亀裂に打ち付け、掻き回し、びちゃびちゃと淫猥な水の音をわざと立てる。
ユミルの体が強ばり、小刻みに震え、荒い吐息が絶え間なく漏れでる。
-
ユミル「…っはぁっ、あっ…あっ…」
ベルトルト「…ねぇ、どう?凄い音してる」
ユミル「はぁっ…お…前のせい…だ…っ!!」
ベルトルト「脚…こんなに開いた、ままだよね。もっと、して欲しいんでしょ?」
ユミル「あぁ…っ、言…えるかよ…っ」
ベルトルト「ここだけじゃ物足りないの?」
ベルトルト「こっちも触ったら、またおかしくなってくれる?」
体を起こし、右手で激しい水音を立てながら、左手の親指で亀裂の上端の、既に堅く締まった肉の芽を捏ねる。
ユミル「あっ!!はぁあぁっ!!」
窪みの中の肉がぐいと締まり、ユミルの体が、がくんと跳ねる。
-
ベルトルト「ふうん…ユミルはこっちの方が好きなんだ…じゃあ、こっちも触るね」
ユミル「はぁあぁっ…!!あっ…、や、だめ…!!」
ベルトルト「何…?もっと…する?」
ユミル「やぁ…っ!!ぁぁ、あっ、ぁぁ…!!ぁぁ!!」
肉の窪みがひくひくとうねり始め、どんどん粘着く液体が湧き出してくる。激しく突かれている指の根本から、伝い、滴り落ちるほどに。
体を戦慄かせ、荒い吐息を圧し殺す様子は、先程と同じで、再度快楽の果てに到達する予兆だ。
恋慕の相手の理性が薄らいでいく様子は、とても扇情的で、下腹から疼き湧き出す甘い張り詰めた息苦しさが堪えきれなくなりそうだ。
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ベルトルト「」スッ…
ユミル「…!?…や、あぁっ!!」
ユミル「はぁっ!!や、だ…め!!やめ…ない…で…!!」
ベルトルト「聞こえないな…」
ユミル「や…めな…い…で…あぁっ…!!」
ベルトルト「…何を?」
ユミル「…し…て」
ユミル「して…くれ…よ…っ…!!」
ユミル「はぁ!!あっ!!た…のむ…よぉ…!!」
ユミル「ベ…ルト…ルさぁ…ん…!!」
-
悦楽に達する直前で刺激を断たれ、行き場のない強烈な快感の疼きは、大きく開かれた脚の間の、ぬめる裂け目を縁取る肉の襞をひくひくと蠢かせた。
だらだらと粘着く涎を垂らし、新たな刺激を待ちわびて、小刻みに震えながら、薄明かりにその痴態を晒し続ける。
限界まで膨張しきった下腹の疼きは耐え難く、着用していた衣服をずり下げ、脱ぎ捨てる。あられもない様相を見せ付けられて、抑えつけていた理性は霞み、激しい劣情に追いやられていく。
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ベルトルト「ねぇ、ユミル…自分で広げて見せて…?」
ユミル「…!!なっ…!!そ…んな…こと…」
ベルトルト「してよ…そしたら触ってあげるから」
ベルトルト「両手で…広げてよ…」
ベルトルト「それで、してって、言って…さっき見たいに」
ベルトルト「ねぇ…」
今更躊躇うユミルに、軽い苛立ちを感じ、ぬめりの中の堅く締まった小さな突出部を指で一度だけ軽く捻り上げる。
ユミル「んあぁっ!!はぁ!!あぁっ…!!」
ベルトルト「ねぇ、やってよ…見せて…」
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堅く閉じた目の奥で、失いかけた理性がほんの少し頭をもたげ、躊躇ったが、一度だけ与えられた強い快感により、掻き消される。
しかし要求されているのは、酷く屈辱的な行為で。
心臓が激しく波打ち、息が荒く、苦しい。
快楽の果てにたどり着きたい欲求の方が強すぎる。熱っぽく当てられる狂いかけた視線に抗えない。
強烈な羞恥からくる、震える両手を伸ばし、繁みの中の亀裂の脇にあてがい、左右に押し広げる。多量の粘着液にまみれた肉の襞は、びちゃりと音をたてて口を開けた。
ユミル「ふ…ぁっ…!!し、して…ベルト…ルさん、触…って…!!して…してくれ…よぉっ…!!」
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自我を失った体が本能の求めるままに、はしたなく服従して、自分の手に堕ちてきた想い人の、痴態を見せ付けられる。
心臓が大きく、ずくんと跳ねて、体が一気に熱くなる。意識がふわりと揺らめき霞む。
ユミルの上に覆い被さると、唇を合わせ、舌を差し入れ、絡め吸う。と、同時に、限界まで張り詰めた自身の先を、濡れそぼる深い窪みの入り口にあてがい、腰を押し進める。
柔らかで暖かな粘膜が肉の棒に押し開かれていく。纏わり付き、擦り上げ、締め付ける。感じたことのない強烈な接触と精神から来る快楽が全身に響きわたり、ベルトルトの喰い縛った口元から深い溜め息が漏れる。
ユミル「んっ!!んんっ!!んぁっ…!!」
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急な侵入に、捻り、逃れようとする体を、逃がさないように頭を抱え込みしっかり掴まえたまま、ぬめる狭い肉の中へ、最後まで強制的に飲み込ませていく。
ユミル「あぁ!!うあっ!!はぁあぁっ!!」
ベルトルト「ふっ…は…あっ…キツイな…中は」
ベルトルト「動かすと…痛い…?」
ユミル「はぁっ!!ぁぁっ…!!」
ベルトルト「ユミル…おかしくなっちゃったの…?そんなに、いい…?」
ユミル「い…いっ、凄…く…!!はぁあぁっ!!」
ユミル「はぁっ…!!し…て…!!」
ユミル「イ…かせてぇ…!!」
ベルトルト「…可…愛いユミル…はっ…イかせ…てあげる」
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酷い痴態を晒して懇願され、もう何も考えられなくなってしまう。
狭い絡み付く粘膜液にまみれた肉壁に向かい、勢いよく腰を何度も、何度も穿つ。根本を下腹部にぶつける際、繁みを擦り付けるようにし、一番敏感な小さな突起を刺激する。
ユミル「ぁぁっ!!はぁっ!!あぁ!!あ…っ!!」
ユミル「好…きだ…!!ベ…ルトル…さ…」
ベルトルトの頭の後に細く靭やかな腕を回し、抱き寄せると、激しく唇に貪りついた。体中が、これから登りつめる快楽の果ての絶頂に期待をし、ぞくぞくとうち震える。
ユミル「ん、ふ、はぁ…!!はぁ、も…イ…く!!」
ベルトルト「んっ…はぁっ、いい…よ…厭らし…い顔、見せ…てよ」
ユミル「んあっ!!あっ!!あぁ!!はぁっ!!あぁぁぁ!!」
背中を反らせ、がくがくと勝手に動く腰を付きだし、不様に震えてしまう。酷く大きな快感の波が、何度も何度も押し寄せて、体ごと意識が溶けて無くなってしまいそうだった。
-
ベルトルト「ふ…っ、はぁ…凄…いユミルの、中…食い、ちぎられそうに、動い…て」
ユミル「はぁ…!!あぁっ…!!」
ベルトルト「イく時…の顔、いつもと、ち、がって…」
ベルトルト「か弱…い、女の、子、ふ…うっ、見たい…だ」
ユミル「んぁっ…見ん…な…よ、ばか…っ」
ベルトルト「僕…が、ばか、なのは、ユミルのせいだ…」
ベルトルト「こんなに、締め付、け、てさ…」
-
暖かな粘膜の窪みの中に突き立てたまま、体を起こす。乱れて、形ばかり巻き付いていたユミルの病人着を剥ぎ取った。すらりとしたバランスのいい肢体が露になる。腹に表面だけ残した刺し傷の縫いあとが、筋となって赤黒く張り付いている。
ユミル「やっ…あっ…!!」
体を隠すように巻き付けた靭やかな手のひらを剥ぎ取り、両指を絡ませる。もう少しユミルに意地悪を重ねたかったけれど、粘膜でできた肉の窪みに与えられた強烈な甘い快楽には、もう、抗えない。
ベルトルト「はぁっ…僕も…イく…ね」
一旦緩めていた動きを再開する。徐々にスピードを上げて、まだうねりの治まらないユミルの中に何度も突き立てた。
激しい動きと快感の疼きが、漏れでる吐息を荒くする。顔を顰め、必至に抗うが、急激に押し寄せる排出欲にはかなわない。
-
ベルトルト「は…っ、はぁっ…!!」
ユミル「んっ…はぁ、顔、見…せろ……」
限界に近付いたその時、ユミルは、ベルトルトの髪の毛を掻き上げ、目を覗き見る。
ユミル(汗ばんで、顰め面しやがって……可愛いじゃないか…凄く)
ベルトルト(ぅわ、見られるって、クルな…ぞくぞくする…)
ユミル「はあっ、あ…来…なよ、ベル…トル…さん、あっ…」
ベルトルト「ユ…ミル……!!っ!!」
ベルトルト「はぁっ!!はっ…!!はあ…っ……!!」
体を四度、五度と快感の波が突き抜けていく。中に出してしまうわけにはいかなかったので、寸でのところで引き抜き、ユミルの引き締まった腹の上に吐き出した。
-
どぷどぷと噴き出す白濁した汁は、腹の上に収まらず、脇を伝って床に流れ落ちる。幸い、なんとかそらしたため、残した傷口にはかからなかった。
ベルトルト「はぁっ…はぁ、ご、めんね…お腹、汚し…ちゃって…」
ユミル「ふ…っ、かまわねぇよ…し、かし」
ユミル「とてつもないモノ、ぶちこんでやがったんだな…ベルトルさんよ…すげぇな…お前…」
ベルトルト「……ど…ういう意味」
ユミル「お前の体と同じで…規格外ってことだ。太さも長さもでかすぎるんだよ」
ユミル「股間にも巨人を隠し持ちやがって…普段どうやって収納してんのか不思議だな。折り畳むのか?」
ベルトルト「えぇ!?畳まないよ?そんな人居ないし。痛いじゃない」
ユミル「一回畳んで収納してみろよ、ほら、こんな感じで」グニッ
-
ベルトルト「わぁ!!触らないでよ!!痛いってば!!それに、また起ってきちゃうから!!」
ユミル「痛くて起ってしまうとは、そう言う嗜好が…?」
ベルトルト「無いよ!!もう!!」
ユミル「流石にそろそろ帰んないとなー…しっかし天然記念物だなこのデカさ」ジーッ
ベルトルト「もう、見ないでよ!ねぇ、誰と比べてるの!?そんなに沢山見たことある訳!?」
ユミル「さぁな〜。お前こそ、他のやつらと風呂で比べたりとかしないのかよ」
ベルトルト「お風呂の時なんかは、他の子より大きいとは思ってたけど…体も大きいし…そんなものかと…」
-
ベルトルト「けれど…ユミルに入ったよ…?」
ユミル「そりゃ、ある程度は広がるが、酷く腹が苦しいと思った訳だ」
ベルトルト「痛いの?もしかして…もう、入れたく無い…?」
ユミル「さ、さぁな…」
ベルトルト「無いの?」
ユミル「…言わせるなよ、ばか」
ベルトルト「またしても、いいの?」
ユミル「…あぁ」
ベルトルト「ほんと?もう冷たくしないでよ?」
ユミル「しねぇよ…そうする理由が無い」
-
ベルトルト「ねぇ、僕と付き合ってくれる?」
ユミル「散々したあとに言うとは、順序が逆だな、おい」
ベルトルト「だって、嬉しすぎて我慢出来なくて」
ユミル「むしろ、何かあったとしても…ずっと一緒にいてくれたら嬉しい。同じ体のベルトルさんとしか生きられないからな、私は」
ベルトルト「なにそれ、消去法?」
ユミル「だけでも無いさ。背が高くて、スタイルも良くて、顔が良くて、頭も冴えてて、格闘センスも凄くいい、性格もひねたところがあるが、可愛らしくて、私を好いてくれていて、だから」
ユミル「大好きだ…ベルトルさん」
-
ユミル「って言えば、いいのか?」
ベルトルト「可愛くないよ…最後の一言が余計だもの…」
ユミル「それよりか、早く服着ようぜ。寒くなってきた」
ベルトルト「ほんとだ。温度が下がってきたね」
ユミル「ベルトルさん、腕出せ」
ベルトルト「は?何で?」
ユミル「治す蒸気で、暖を…」
ベルトルト「ねぇ、本気?」
ユミル「わりと」
ベルトルト「もう、僕らはさ、そう言う便利マシーンじゃ無いんだから!!早く服着てよ!!手伝うからさ!!」
ユミル「ちっ…」
-
ユミル「あ〜腹へったなぁ…夕食、食べ損ねたんだ」
ベルトルト「仕方ないよ、酷い怪我だったんだ」
ベルトルト「…あ、パンならある。食べる?」
ユミル「食う!」
ベルトルト「水もあるよ」ゴソゴソ
ユミル「何でまた持ってきたんだ?遠足のつもりか?」
ベルトルト「回復したら、お腹すくと思って…」
ユミル「ベルトルさんも食う?」モグ
ベルトルト「うーん、じゃ、一口だけ」
ユミル「ほれ」
-
ベルトルト「…何だ、口に入れてくれないの?」
ユミル「おいおい、何からナニまでデカい癖に、甘えん坊さんだな」ダハハ
ベルトルト「ユミルだって散々おねだりしたくせに」ボソッ
ユミル「…っ、ふざけんな、そ、そう言うのやめろよっ…!!」
ベルトルト「ふふ、やっぱり可愛い。ユミル大好き…」
ユミル「ひゃあっ!!耳元で喋んな!!」ゾク
-
ベルトルト「…あと…訓練で僕を庇ってくれて、ありがとう。怪我をさせてしまって、すまなかった…」
ユミル「いや、咄嗟にさ…。私はこっそり回復するつもりだったからいいが、ベルトルさんは怪我をするとまずいと思って…」
ユミル「まぁ、互いに心配要らない体だった訳だがな」
ベルトルト「嬉しかったけど…凄く心配したよ。あんなに自分を責めた事って無いくらい」
ユミル「まぁ、実際そこそこ痛かったしな」
ベルトルト「…でも、致命的な怪我なら治せないよ…無理はしないでよ?」
-
ユミル「もとはと言えば、お前がマルコに張り合うからだろうが」
ベルトルト「ユミルが冷たくしなかったら、張り合おうなんて思わなかったよ」
ユミル「それは本当に勘違いだからな」
ベルトルト「じゃあさ、マルコにもユミルは僕のだよって言っても良い?」
ユミル「う〜ん…喧嘩すんなよ」
ベルトルト「マルコはそんな人じゃ無いと思うけど…まぁ、しない…と思うよ」
-
巨大樹の林入り口付近
ベルトルト「ここで大丈夫…?」
ユミル「これ以上一緒にいて、見つかったらまずいだろ」
ベルトルト「そうだけど…」
ユミル「救護所だってすぐそこじゃないか。お前も早く帰れよ。じゃあな」
ベルトルト「うん…明日お見舞いに行くね」
ユミル「せいぜい痛そうな芝居しようぜ、互いにな」
ベルトルト「うん…」
-
ベルトルト(帰れと言われたけど、ユミルが中に入るまでは見ておこう…)
ベルトルト(あ!人が…)
ベルトルト(やばい!!ユミルが見つかった!!)
ベルトルト(…どうする…隠れて殺すか)サッ…
-
救護所の看護士「君は、さっき重傷だった兵じゃないか!?なぜここに!?」
ユミル「…はあ…っ!!い、痛い!!何で私痛いんですか!?訓練兵の女子宿舎が無いんです…!!あなた知りませんか!?兵舎は…訓練所の女子宿舎が無いんです!!この村は何ですか!?ああ、痛い!!なぜ!?」
救護所の看護士「余りの傷の痛さに錯乱してるのか!?早く中へ戻りなさい!!」
ユミル「うああ、痛い!!クリスタは!!クリスタはどこだ!?私はなぜここに!!痛い!!ぐあぁぁ…!!助けて女神…!!」
救護所の看護士「誰か、担架だ!!担架をもってこい!!」
-
ベルトルト(ぷっ、変なの)
ベルトルト(良いのか?あれで…)
ベルトルト(僕も見つからないように帰ろう)
ベルトルト(ライナーとクリスタのいちゃこらが終わってれば良いけど)
-
宿泊している家に、誰にも会わずにたどり着く事ができた。家の中はもう夜も更け、だいぶ遅い時間の筈だが、まだ灯りがついている。
音を立てないように玄関の扉を開けて、そっと中へ入る。
中はしんとしており、物音はしなかった。
ベルトルト(寝てるのかな…)
足音を立てないようにしながら、寝室に入り、扉をしめた。ライナーは居ない。クリスタと眠っているのだろうか。
ベルトルト(良かったね、ライナー)フフツ
ベルトルト(良かったのかな…普通の人と)
-
ベルトルト(これからどうするんだろう、僕たち…)
キイ…
ベルトルト「…ライナー?起こしちゃった…?」
-
ベルトルト「……!」
ベルトルト「……何か用?」
ベルトルト「……何?どうして黙ってるの?」
ベルトルト「…」
ベルトルト「それと…どうしていつも、そんな目で僕を見るの?」
ベルトルト「クリスタ」
-
クリベル入ります
苦手な方はそっとじ推奨です
-
クリスタ「お帰りなさい、ベルトルト」
いつものように、酷く悪意のこもった視線はベルトルトにあてたままに、後ろ手に扉を閉めると、クリスタはベルトルトに歩み寄る。
何度も繰り返し投げつけられて、怯えを感じた嫌な視線。威圧されて、近付かれたぶんだけ後退りしてしまう。
しかし、広い部屋ではないので、すぐに壁際に追い詰められた。
クリスタ「怪我はどう?」
ベルトルト「それなりに」
クリスタ「外へ出ていたんだよね?眠れないなら私が相手をしてあげたのに」
-
ベルトルト「ライナーの?」
ベルトルト「してくれてたんだろ、相手を」
クリスタの左手が伸びて、先程ユミルに巻き直して貰った添え木をした腕に、ねっとりと撫で回すように触れる。
ベルトルト「やめろよ」バッ
クリスタ「…っ!!」
クリスタ「振り払わなくても良いじゃない。私に触られて、振り払うのはあなたくらいだよ」
ベルトルト「…」
クリスタ「私はあなたの事が、好きなのに…」
粘着くじっとりとした視線で、舐めるように見上げられ、酷い嫌悪の感情が肌を粟立てる。
先程から、隣室で全く音がしない。今の女神は、皆に愛される、可憐で優しく慈愛に満ちたそれではない。溢れ出る悪意と淫猥さ。一緒にいたはずの盟友の身が気にかかる。
-
ベルトルト「…ライナーはどうした」
クリスタ「ライナーなら、向こうの部屋にいるよ」
ベルトルト「眠ってるのか?」
クリスタ「さぁ、どうかしら。ライナーが望んだ形でそこに居るんじゃないかな…」
ベルトルト「…」サッ
クリスタ「いかせないよ?」グイッ
ベルトルト「…離せよ」
クリスタ「離さないよ?ライナーだって、今はあなたに見られたくないはず」
クリスタ「それに、大声だすよ?ベルトルトに教われましたってね」
ベルトルト「…何なの君?僕にどうしろって言うの」
-
クリスタ「言ったでしょう?私はあなたが好きなの」
ベルトルト「君は、ライナーと付き合い始めたんじゃ無いのか」
ベルトルト「それに…何であんな嫌な目で僕を見るんだ。あんな視線を寄越しておきながら、好きは無いだろう」
クリスタ「私を女神と崇めないから」
ベルトルト「…」
クリスタ「男の子は皆、私がちょっと優しくしたり、微笑みかけただけで浮わつくのに」
クリスタ「あなただけなの。私に全く興味を示さないのは」
クリスタ「私を見ないなんて…許せない」
ベルトルト「…」
-
クリスタ「それに…あなた、隠してる」
ベルトルト「隠す物なんて無い」
クリスタ「私と同じ…人に言えない秘密がある」
ベルトルト「誰にでも人に言えない秘密位あるさ」
クリスタ「あなた達、私を探ってるよね」
ベルトルト「ライナーが熱烈な君の信者だからね」
クリスタ「私がどういう立場の者か、とか、知ってるの?」
ベルトルト「訓練兵の中で、女神って言われてる事?」
-
クリスタ「……知ってても、知らなくても、どっちでも良いけど」
クリスタ「私は普通の人じゃないの。只の人とは一緒に生きられない。特別な地位に登れる優秀な人、既に特別な地位にいる人」
クリスタ「…私をこの世界から連れ出してくれる他の世界の人」
クリスタ「そう言う人じゃないと、駄目なの…」
ベルトルト「…生憎、僕の馬は栗毛なんだ」
ベルトルト「ライナーの馬は白が強い芦毛だから、白馬と言えない事も無いと思うよ…」
クリスタ「別に…私は王子様を待ってる訳じゃないよ」ムッ
ベルトルト「じゃあ、雷とか扱えちゃう全知全能の神じゃなきゃいけないかな。君、女神だし」
ベルトルト「…でも、そしたら僕らと戦わなくちゃいけなくなるね…」
クリスタ「…私をばかにしているの?はぐらかさないでよ」イラッ
-
クリスタ「…最近、ユミルがあなたに気があるような素振りを見せ始めて…あなたはユミルの方がお好み?」
ベルトルト「…」
クリスタ「…私は馬が好き」
クリスタ「…まずはきちんとした信頼関係あっての調教だから、心を通わせる所から始めないといけないんだけど…」
クリスタ「その子の特性によって、信頼関係はあとでにして、先に体に覚え込ませるやり方もあるんだ」
クリスタ「きちんと躾けをされて、ご主人様の命令通りに動いて。従順で…大人しく待っている子はとてもいじらしくて、沢山可愛がってあげたくなるの」
クリスタ「たまに、全然こっち見てくれなくて、言う事聞かない子もいるけど…」
クリスタ「鞭やご褒美をタイミングよく使って。こちらの意のままに操る事が出来る様に調教するの」
-
クリスタ「人間も同じだよ」
クリスタ「あなたは私が嫌いなのよね?」
ベルトルト「…嫌いだよ。いつも嘘臭いと思っていたんだ」
ベルトルト「皆に対する、優しさとかいたわりとか、態度がさ」
クリスタ「ふふっ…やっぱり嫌いなんだ。私の事」
ベルトルト「…ライナーをどうする気だ」
クリスタ「ライナーは私の事を凄く好きでいてくれてるよ?さっきも、愛してるって何回も言ってくれたもの。私の言うことは何でも聞いてくれるよ?従順な可愛い子だと思うな」
クリスタ「成績も優秀。皆に慕われて、このままいけば、憲兵団の中で、出世間違いなしだよね。私に相応しい相手だよ」
-
クリスタ「でも私が欲しいのは、ベルトルト、あなただよ」
クリスタ「私に興味の無いあなた」
クリスタ「あなたが私を愛してくれるようになったら、それを信じられるかも知れない…」
ベルトルト「…何て言うだろうな、ライナーは」
クリスタ「見てよ…」
ベルトルト「…!!」
くるぶしまであるワンピース型の寝間着の裾をたくし上げる。脛…膝…腿…真っ白で形の良い体が姿を見せる。
-
ベルトルト「やめろよ…」
髪の毛と同じ、金色の濡れた薄い繁みが露になる。その奥にうっすらと深い桃色の亀裂の始まりが透けて見えた。
嫌悪と怯えがない交ぜになり、胸の奥からむかつきが湧き上がり、吐き気がした。堪らなくなり、目を反らす。
クリスタ「ねぇ、見てよ。大声出されたく無かったら」
クリスタ「大声出されて、訓練兵を首になったらあなたも困るでしょうし…ユミル、悲しむと思うよ?」
クリスタ「だから…見て」
裾をたくし上げ机に凭れ、片足を椅子に乗せて、軽く脚を広げていた。
クリスタ「ここ…見てよ」
指し示した場所は、雫を湛えた薄い煌めく繁みのすぐ脇だった。
-
滑らかな白い柔肌の内腿に、小さな赤黒い痣が一つあった。
クリスタ「ライナーがつけてくれたんだよ?」
ベルトルト「…だから、何?」
クリスタ「本当はベルトルトにつけて貰いたいのに」
クリスタ「…つけてよ」
-
ベルトルト「いい加減にしてくれ!!君はユミルは心配じゃ無いのか!?結構な怪我をしていただろう!?なのに何でこんなこと!!」
クリスタ「ユミルは心配だよ…?でも命に別状はないって言ってたじゃない。それに」
クリスタ「ベルトルトを助けたのが気に入らないの。私をほおりだして」
クリスタ「少し前まで、私が一番だったのに…あなたに取られたのも気に入らないの」
クリスタ「ユミルがあなたに冷たく当たるようになったから、やっぱり私と離れられないんだと思ったのに、あんな所で庇って怪我をするなんて」
クリスタ「…馬鹿な子」
-
クリスタ「まだ、目を反らして良いなんて、言ってないよ?見てよ、私を」
ベルトルト「……」
クリスタ「見ないんだね」
クリスタ「いいよ。じゃあ、そこに居てよ」
クリスタ「居るだけで…いい…よ、今…日は」
クリスタ「ん…っ…はぁ…」
視線を外していても解った。クリスタは自分で、ライナーとの行為で溢れでた粘着液にまみれた柔かな繁みを探っている。
ぴちゃぴちゃと、わざとらしくたてた音と、甘ったるい吐息が部屋の中に響く。
-
クリスタ「ベルトルト…ぁ、んぁっ…」
クリスタ「ん…っ、ラ…イナーは、ここ、沢山…食べて…くれた…んだよ…?」
ベルトルト「…そういう事、言うなよ…!!」
クリスタ「ふふっ…んっ、はぁ…舌…で、私の言…う通りに、舐…めたり、吸…ったり、はぁっ…それ、は…それは、美味し…そうに、ね…」
ベルトルト「……!」
クリスタ「動かないで…あなた…に舐めろなん…て言わないから…今は」
クリスタ「は…あっ…んっ…ほんとに嫌そうな顔、するんだ…ね。その顔…とっても、可愛いね…凄、く、そそら、れちゃう…な」
クリスタ「早く、私の物に…したい。ひざまづかせ…て、私だけ、を見、ていてほし…い、はぁっ…!!」
-
ベルトルト「…!!」バッ
ガチャツ!!バタン!!
ベルトルト(何なんだ、一体!!ライナーは…どうした!?)
ガチャガチャツ!!
ベルトルト(開かない!?)
ベルトルト「ライナー!?」
ガチャツ!!ガチャツ!!
クリスタ「開かないよ?鍵をかけてあるの」
-
ベルトルト「…!!」
クリスタ「あんなになってる女の子をほおりだして出ていくなんて、酷いよ…」
ベルトルト「ライナーは…!?」
クリスタ「そんなに見たいなら、見せてあげるよ…ライナーは見られたくないと思うけど」
クリスタは、鍵を取りだし、鍵穴へ差し込んだ。かちゃりと金属の噛み合う微かな音が薄暗い廊下に響く。
慈愛に満ちたいつもの優しげな笑顔を顔に張り付け、まるで貴族の様な、優雅な仕草でゆっくりと扉を開けた。
ランプの灯りを最低限に抑えた仄暗さの中心に、蹲る影が見える。
ベルトルト「ラ…!?」
-
扉に背を向けて蹲る影は、体を纏う布は、頭部以外に何も無かった。全てが外気に晒された仄白い素肌に、麻を縒った縄が、背中で組まれた二の腕や手首、胡座をかいた腿や足首をぐるぐると縛り、締め上げて固定されている。
首の後ろと、後頭部に布の結び目が二つあるのは、目と口を拘束されているのだろうか。声も立てず、ただじっと、そのままそこにある。
背中には、いつか見た、赤いみみず腫が無数に散らばっている。
初めて目の当たりにする、よく知っている昔からの友の異質な佇まいに、喉が張り付き、言葉がうまく紡げない。
-
クリライと軽いSM的表現が入ります
苦手な方はそっとじ推奨です
-
ベルトルト「どういう事…」
ライナー「う…ぅ…」
クリスタ「こういう事だよ」
クリスタは、軽やかな足取りでライナーの前に回り込んだ。そして、短い金髪を鷲掴みにして、目と口を拘束された顔を強制的に上向かせた。
クリスタ「…ライナー、良い子で待ってた?」
ライナー「ぅ…」
-
クリスタ「ねぇ、ライナー。ベルトルトが見学に来たよ」
ライナー「ぅ!?う…!!」
クリスタ「ライナーは私の為に、何でもしてくれるのよね?私の…私のものなんだものね」
ライナー「ぅ…!!」
クリスタ「口の布を取るけど、絶対喋らないでね?絶対だよ?」
パラリ…
ライナー「ぅ…はぁ、ク…リスタ」
クリスタ「あら、いけない子…」
クリスタは、脇に立て掛けてあった馬用の鞭を手に取ると、ライナーの肩に向かって、なんの躊躇いもなく降り下ろした。
バシィ!!
ライナー「う、ぐっ…!!」
-
クリスタ「ベルトルトは後ろに居るよ。恥ずかしいね、こんな間抜けな姿を見られてしまって」
クリスタ「振り向かないで…って言っても、こんなに拘束されていたら、首、動かせないよね」
ライナー「…ふっ…ぅっ…!!」
クリスタ「ねぇ、ライナー。ベルトルトが私を受け入れてくれなかったの。私、まだ途中なの…」
クリスタ「さっきみたいに、してくれない?」
クリスタ「したいでしょう?」
クリスタ「うまくイかせてくれたら、ごほうびをあげるよ?」
クリスタ「さぁ、して?」
-
そう言うと、寝巻きの裾をたくし上げ、ライナーの上向いた顔の上に、金色の繁みを押し付けた。
ライナー「ぅ、う…!!」
クリスタ「ベルトルトに厭らしい音を聞かせてあげたいの。さぁ、して…?」
ライナー「」……ペチャ…ブジュ…
ベルトルト「ちょっ…と…ライナー…」
クリスタ「うまいよ、ライナー…気持ちいい…んぁ、もっと、して…」
片手でライナーの髪を鷲掴みにし、もう片方の手には馬用の鞭を構えたクリスタは、長い睫毛に縁取られた大きな眼を半開きにし、きれいな形の小さな口元を下品に歪ませ、舌舐めずりをしながら、恍惚とした浅く、荒い吐息を漏らす。
-
そう言うと、寝巻きの裾をたくし上げ、ライナーの上向いた顔の上に、金色の繁みを押し付けた。
ライナー「ぅ、う…!!」
クリスタ「ベルトルトに厭らしい音を聞かせてあげたいの。さぁ、して…?」
ライナー「」……ペチャ…ブジュ…
ベルトルト「ちょっ…と…ライナー…」
クリスタ「うまいよ、ライナー…気持ちいい…んぁ、もっと、して…」
片手でライナーの髪を鷲掴みにし、もう片方の手には馬用の鞭を構えたクリスタは、長い睫毛に縁取られた大きな眼を半開きにし、きれいな形の小さな口元を下品に歪ませ、舌舐めずりをしながら、恍惚とした浅く、荒い吐息を漏らす。
-
二重すまない
-
クリスタ「ふふっ…ライナー、こんなに恥ずかしい格好をベルトルトに見られているのに、ここ…さっきより、苦しそうだよ?」
ライナー「んむっ…ぅっ…」ペチャ…ブジュ
クリスタ「うふふ…んぁ、また、足で踏んであげる…?ほら」
ライナー「うぁっ…ぐっ…!!はぁっ!!」
クリスタ「それとも、こっちの方がお好み?」バシィ!!
ライナー「うぐぁ!!」
クリスタ「…舌を休めないで!!」バシィ!!
ライナー「ぐっ…はぁっ、うぅ…」ペチャ…
クリスタ「…う、ふふっ…ぁはは…」
-
ベルトルト「クリスタ…!!もうやめてよ!!何でライナーにこんな事!!」
ベルトルト「ライナーも…!!こんな雌狐にいいようにされて!!なぜ抵抗しない!?」
クリスタ「見れば解るじゃない、馬鹿な子…」
クリスタ「ライナーが望んでいるからこうしているに決まってるじゃない。私に、虐げられて、さげずまれて、いいようにされて、それでも私を好きだって言ってるよ?」
クリスタ「ほら見てよ、このライナーの股ぐら。はしたないの。もう、こんなにべとべとにしちゃって。張りつめて苦しそう」
-
ベルトルト「もう…やめてくれ…!!」
クリスタ「…んはぁっ、邪魔しないでよ…。あなたが私を可愛がってくれないから、ライナーで我慢してるんだよ?」
クリスタ「ライナー…だって、望んで、してるんだよ…?」
ベルトルト「そんな訳ないよ…!!なにか、理由があって…」
-
クリスタ「ライナー、ベル…トルトに、何か言ってやってよ…あなたは私の奴隷なんだって」
ライナー「んっ…はぁ、ベルト…ルト」ブジュ…
ライナー「俺…はっ…はぁっ」ペチャ…
ライナー「クリスタ…の、んぁっ…」ベチヤッ…
ライナー「奴…隷で…」ズ…ジュ
ライナー「縛られ…たり、叩…かれたり、踏まれたり…」ブジ…ュ…
ライナー「俺が…望…んで、はぁっ…」ペチャッ…
ライナー「さ…れた…くて」ズブッ、ブチャッ…
クリスタ「はぁっ…ライナー、あぁっ激…しいよぉ…やぁ…っ!!」
ライナー「…ク…リスタ、愛し…て…る」ジュブッ…
ベルトルト「…!!」
バタン!!
ガチャツ、バタン!!
-
振り切るように自分の部屋に逃げ帰り、ドアを鋭く閉めると、ベッドの中に突っ伏して、布団を頭から引っ被る。固く目を閉じて、腹の底から迫り上ってくる黒々とした嫌厭の感情は、吐き気をもよおし、胃を痙攣させる。
目頭が熱くなり、涙が滲む。
ベルトルト(何だ!?なんだって言うんだ!?)
ベルトルト(明日からどういう顔を会わせればいいんだ!!)
ベルトルト(悪魔だ…やっぱり壁の中に悪魔はいたんだ)
ベルトルト(怖い…あのライナーを跪かせて、あんな…あんな…)
ベルトルト(ユミル…ユミルは知ってるの!?クリスタの事…)
ベルトルト(僕を自分の物にしたいって言ってた)
ベルトルト(怖いよ…どうしたら)
ベルトルト(ユミル、助けて)
-
どのくらいたっただろう。外は白み始め、鳥の囀りが聞こえてくる。窓からはうっすらとした仄白い光の筋が射し込んでいる。
ベルトルト(朝…か)
ベルトルト(いつの間にか眠ってしまったんだ)
ベルトルト(…!!ライナー!?)
隣のベッドを見ると、きちんと布団をかけ、静かな寝息をたてているライナーが横になっていた。
昨日見せられた、悍ましいクリスタとの行為は何だったんだろう。夢?それとも…
-
ライナー「うぅーん…」
ライナー「…ん?ベルトルト、もう起きるのか?」
ベルトルト「あっ、うん。目が覚めたんだ…」
ライナー「怪我はどうだ?治せたか?」
ベルトルト「うん、暫くは包帯してないといけないけどね…」
ライナー「一、二ヶ月はそのままだな」フフッ
ベルトルト「…えっと…ライナー、昨夜…」
ライナー「おう、クリスタと楽しくお喋りしたぞ?話し出すと止まらないタイプなのか、なかなかそっちのいい雰囲気にならなくてだな…」
-
ベルトルト「…」
ライナー「折角二人きりだったのに、惜しかった…あっ、でもキスは出来たんだぞ」ポ
ライナー「まぁ、先は焦らないさ。俺たちはお付き合いしているのだからな」
ライナー「今日もあるしな」ニカ
ベルトルト「えっ…今日も…!?」
ライナー「駄目か?…二日連続はまずいか?でも、訓練所へ帰ると、なかなか二人きりになれる機会が無いからな…」
-
ベルトルト(覚えて無いのか…!?あんな…)
ベルトルト(本当に覚えて無いの)
ベルトルト(っていうか、本当にあった事なのかな)
ベルトルト(ライナーに昨日と同じ傷がある…)
ベルトルト(じゃあ、本当…?)
ベルトルト「ライナー、背中に傷があるけど…どうしたの…」
ライナー「あぁ、これか?昨日の訓練の時についたらしいな。結構大変だったからな。巨大樹の所とか。枝に当たったんだろう」
-
ベルトルト(ライナーは思ってる事が顔に出やすい)
ベルトルト(なんの反応も無いところを見ると、僕の夢?)
ベルトルト(でも、傷があるし…)
ライナー「さぁ、仕度をしたらクリスタと飯を作らないとな♪」
ベルトルト「……」
-
仕度を終え、朝陽が射し込むキッチンへ向かうと、おこしてある火で部屋の中は、仄かに暖かい。湯の沸いたポットからは、音を立てて勢いよく白い蒸気が吹き出している。
その横で、身仕度を整えたクリスタが、優しげな微笑を浮かべながら鼻唄を歌いつつ、食材を取り出しているところだった。
ベルトルト(顔を見るのが怖い…)
クリスタ「おはよう、ライナー、ベルトルト」
ライナー「おはよう、クリスタ。朝飯は何を作ろうか?」
クリスタ「そうだね…牛乳を配られているから、ミルクスープでも作る?」
ライナー「そうだな。卵もあるし…目玉焼きにしようか?」
クリスタ「いいね!作ろう!!」ウフフ
-
ベルトルト「…」
クリスタ「ベルトルトは体調はどう?」
ベルトルト「…それなりに」
クリスタ「骨に怪我をしてると、熱が出たりするんだけど…」
すっと近寄ってきたクリスタに思わず身構えてしまうが、椅子に座っていたため、逃げられない。
肩に手を置かれ、嫌悪のむかつきを覚えた直後。小さく繊細な手のひらをおでこに当てられた。
灰青色の薄い瞳が目の前に覆い被さり、ベルトルトの内面まで強制的に覗き、入り込んでくる錯覚に襲われる。
強烈な気持ち悪さに、体は強張り、肌は急速に粟立ち、背筋から寒気がぞわぞわと立ち上る。
-
クリスタ「熱は…無いようね?」
ベルトルト「……」
クリスタ「……」
顔を離した後も、ベルトルトの顔を黙って覗き込んでくる。
顔一面に、嫌厭と恐怖と不安の表情を浮かべたままの様子を見ると、可憐な口元を醜く歪めて薄く微笑み、冷たく見下ろすと、唇をベルトルトの耳に寄せて囁いた。
頭が一瞬ふらつく位に底抜けに甘ったるい花の香りが強制的に鼻腔に入り込む。
クリスタ「好きだよ、ベルトルト」
ベルトルト「……!!」
クリスタ「ライナー、野菜を洗おう♪」タタッ
-
ベルトルト(今のは、なんだ…昨日の事はやっぱり本当にあった事だって言うのか?)
ベルトルト(昨日の事を思い出すと、気持ちが悪い…)
ベルトルト(ライナーは、誤魔化しているの?何も無かっただなんて。でも、まぁ、あんな事言えないか…触れてほしく無いよね)
ベルトルト(今日の夜はどうしたらいいんだ…)
ベルトルト(ライナーが、もし…もし本当にあんな事されてるとしたら、可哀想だし許せない…)
ベルトルト(でも、隠して誤魔化しているのなら、ライナーはそれで良いと思ってる?僕に助けてほしいって思ってないって事?)
ベルトルト(かといって、一人であのクリスタに歯向かうなんて、怖すぎて出来ない…)
ベルトルト(実際、僕に襲われたと冤罪をきせられたら、いくら普段素行が良くたって、男の僕の方が不利だ)
ベルトルト(…ユミルの所に行こう。ユミルがあのクリスタの事を知ってるかどうかわからないけど…)
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食事を仲良くはしゃぎながら作る二人の後ろ姿を見遣る。楽しげに、にこやかに、爽やかな普通の年頃のお互いが好意をもちあっている様に見える。
それは、深い関係に嵌り込んでいない、まだまだ互いに胸の奥に隠し持つ淫らな情欲を晒しあっていない、初々しく微笑ましい間柄にしかみえなかった。
昨夜仄暗い揺れるランプの灯りの中で垣間見た、異質で、淫猥で、倒錯的な快楽にどっぷりと溺れる女と男では全然、無い。
あんな世界があったなんて。理解できないし、したくない…。
とにかくユミルに会って、この猥りがましい女神について、何らかの解決の糸口を見つけたかった。
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今日はここまでです
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コメしるのが恥ずかしい位の濃厚っぷりw だが乙(^^)
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乙ありがとう
エロシーンぶちこみすぎて、ボキャブラリーが足らなくなってきた所なんだ
終盤どうすんだ俺
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午前中
救護所
高くなりつつある太陽の光が射し込み、少し眩しく感じる。横たわる皺のない清潔なシーツは肌に触れるとひんやりと冷たい。
救護係の兵士「痛みはあり…熱はなしっと」
係の者が、何やら書類にこちらの症状や様子を書き込んでいる。ほとんど治してしまったが、大きな怪我だったので、痛むふりをしなければならない。
救護係の兵士「しかし、あなた回復早いですね。わき腹にブレード貫通してたでしょうに」
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ユミル「若くて健康なんですよ〜はは」
救護係の兵士「無理しないで下さいね?治らないと訓練所に帰れないですよ」
ユミル「あ〜大丈夫ですよ〜本当、明日馬車だし帰れそうな勢いですけどね」
救護係の兵士「いや、それは無理でしょう流石に。まぁ、治るまでこちらでゆっくりしたらどうです?」
普通は無理なんだろうか。いつも回復させてしまうので、普通がいまいち解らない。でも、他の人の様子からこのくらいかと検討を付けて完治に向かっている。
しかし、長いこと一人でここにいるわけにはいかないと思う。体も鈍るし、何よりクリスタの行動が気にかかる。
ユミル「内蔵に傷が付かなかったんじゃないです?肉だけなら、そんなに大したこと無いから。切り口もきれいなもんでしたしね。それに、ベッドがいっぱいだから、早く出た方が良いでしょう?」
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救護係の兵士「確かに、怪我人が多くて、入りきらない部分はありますけどね。難しい訓練なんですね〜今回は」
ベルトルト「……すみません、いいですか…?」
扉の隙間から、眉を顰め不安げな表情で、かなり背の高い訓練兵が顔を傾け、覗かせる。昨夜の出来事が頭をよぎり一瞬だけ胸の奥に、昨日の余韻が浮かび上がり、ほんの少しだけ呼吸が乱れる。
扉の枠が身長より低い。いつものように、おでこをぶつけたら軽口を叩いて笑い飛ばしてやろうと思う。
白い布で腕を吊っており、怪我をしていることが一目でわかる。
その怪我は既に完治している事は、自分は知っている。
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救護係の兵士「同じブラウン班のフーバーさんですね。あなたも暫くは体を使った訓練はお休みですね。どうです?腕は」
ベルトルト「まだ痛みますけど、移動に支障はないので、明日出発します」
救護係の兵士「帰る前に寄って下さいよ。新しい包帯しますから」
ベルトルト「こちらもお忙しいでしょうし、頂ければ班員にしてもらいます」
救護係の兵士「そうですか。助かりますね。何しろ忙しくて。じゃあユミルさん、昨日みたいに錯乱して徘徊するといけないから、無理しないで下さいね、絶対ですよ」
ユミル「あぁ…はい、気を付けます」
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係の兵士が部屋の扉を閉める。一応重傷者扱いなので、ベッドの脇に椅子がひとつあり、人がやっと通る事ができるスペースしかないが、狭いながらも個室だ。
消毒液のつんとする匂いが部屋を満たしている。小さな窓から高い位置にある太陽の光が射し込み、とても明るい。
昨日と同じ病人着をつけて、毛布を胸まで引き上げユミルはベッドに横たわっていた。髪留めは枕元に置いてあり、付けていない。黒い髪が、白いシーツに広がっている。
ベルトルト「どう?体は」
ユミル「どうもこうもねぇよ。治ってんだし」
ユミル「ベルトルさんはどうだよ、体は」
ベルトルト「治ってるからね、僕も」
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ベルトルト「昨日さ…」
ユミル「昨日?」
ベルトルト「錯乱したってさ、見てたんだけど、あれ…酷い。吹き出しちゃうかと思ったよ」
ユミル「あぁ?あぁ…急に人が来たから、やべぇと思って、咄嗟に頭のイカれたふりをしてだな…」
ベルトルト「でも、良かったね。外にいたこと、疑われなかったんでしょ?」
ユミル「まぁな…何とか」
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ベルトルト「なんか、耳が赤い…」
ユミル「はぁっ…!?気のせいだろ」
ベルトルト「ねぇ、昨日って言われて何の事だと思ったの…?」
ユミル「も、うるせーな…何だよ…」
昨夜の物置小屋での出来事を思い出したのだろう。耳や頬が淡い桃色に上気している。いつもは鋭く狡猾な印象さえ相手に与える切れ長の目は、緩く伏せられ、潤んで、羞恥の表情を微かに浮かべ、脇にそらされている。
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普段目にしない珍しい反応に、重く鬱々とした不安な胸の内も、じわりと甘い疼きが滲み出してきて、薄れていくようだ。
ベルトルト「…照れてるの?ユミルって可愛いね、本当に」
ユミル「何言ってんだ、全く」
ベルトルト「可愛いから、可愛いって言ったんだよ」
ベルトルト「汗の匂いがするね」スンスン
ユミル「嗅ぐなよ…昨日から体拭いて無いんだ。…止めろばか」
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ベルトルト「ユミルの汗の匂いも好きだよ」スンスン
ユミル「なんだよ、もう…」
そんなつもりでここに来たわけでは無かったのだが、ユミルを見ると、昨夜のはしたなく晒け出した痴態を思い出す。下腹からの劣情の疼きが、衝動的な命令を下す。
ベッドに横になっているユミルの顔を覗き込み、羞恥の為に軽く結ばれた薄い桃色の柔らかな唇をそっと啄む。
ビックリしたように見開いた黒い瞳はすぐに力なく潤み、瞼を閉じずに見つめ返してくる。
挟んだり、押し付けたり…互いの唇の柔らかさを堪能し合う。顔に当たる相手の吐息が、擽ったく、背筋を情動のさざめきが通り抜ける。
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もっと侵入したい。相手の体温や匂い、味を直に感じたい。柔らかで湿っている敏感な粘膜の接触が欲しい。
力が抜け、薄く開かれた唇の亀裂に舌を這わせ、ゆっくり捩じ込む。暖かな空洞の中に、濡れた蠢く塊を見つける。絡ませると触れた部分がじわりと疼き、体の中の情欲を膨らませていく。
ユミル「…ん、んぁ…ちょっ…と待て…人が来る…とまずい…だろ…」
ベルトルト「…」ムゥ…
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ユミル「あのさ…昨夜帰ったあと、何かあったのか」
ベルトルト「何かって…?」
ユミル「いや、何も知らないが、浮かない顔でやって来ただろう、さっきは」
ベルトルト「…えっと…何から話せば良いのか…」
ユミル「うん、落ち着いて話せ」
入室時より、若干柔らかになっていた目元が顰められる。口にしにくいのもわかる。言いたいことの検討は付いている。たぶん見たか、見せられたか。
もじもじしている恋人の言葉が出てくるまで、気長に待つことにしよう。大変に言いにくい、ものだろうから。
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ベルトルト「…あの、クリスタとライナーの事なんだけど」
ユミル「クリスタがどうかしたのか?」
ベルトルト「……ユミルはクリスタのどこまでを知ってるの?」
ユミル「まぁ…裏に秘めた所はそれなりに」
ベルトルト「クリスタが、僕を好きだって言ったんだけど」
ユミル「あぁ?初耳だなそれは」
ベルトルト「自分に関心がないから、許せないとか…ユミルが取られるからとか、言って。自分のものにしたいって」
ユミル「はぁ、なるほど…」
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ユミル「前にも言ったけど、あいつは育ちが複雑でな、愛情をかけてもらった事が無いらしいんだ。だから、表面的にはあんな風に振る舞って、女神だ何だ言われて、皆に好かれようとしてるんだ」
ベルトルト「へぇ…やっぱり女神の顔は演技だったんだね」
ユミル「小さい内からそうだったみたいだから、そういう行動が染み付いてて、あながち全て嘘とは言えなくなってきてる様だが」
ユミル「その反面、自分に興味を示さない人間に、酷く攻撃的なんだ。今までほとんど居なかっただろうしな」
ユミル「ベルトルさんを好きかどうかは知らないが、馬みたいに調教して、自分を見るようにあの手この手で矯正したいんだろうな」
ベルトルト「怖いな…」
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ユミル「あと、自分が気に入った奴に対して、執着心が凄いんだ。そして、絶対的な愛情を要求する」
ベルトルト「…ライナーは気に入られてるってこ事…?」
ユミル「そうなんじゃねぇの?付き合うとか言うくらいなんだから」
ベルトルト「ライナーと朝、話したんだけど、その…ただ楽しく話をして、キスだけしたとか言ってて…」
ユミル「でもベルトルさんは、それ以上のものを見たんだろう?」
ベルトルト「見たよ!!悍ましいよ…あんなの異常だ」
ユミル「まぁ、ライナーがそう言うなら、何か考えがあるんだろ。適当に話し合わせておけよ」
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ユミル「…ライナーは…クリスタの事は、好いてくれているのだろうか」
ベルトルト「うん…凄く好きなんだと思うよ…。今朝も普通に接してたし。じゃないとあんなこと受け入れられないよ…」
ユミル「そうだな…以前は知らないが、訓練兵になって、私と知り合ってからは、何人かいたぞ」
ベルトルト「そうなの!?それってちなみに…誰なの?」
ユミル「皆、廃人になって開拓地送りさ。体や精神的にかなりの負担だ。頭がおかしくなって、居なくなったよ」
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ベルトルト「…ライナーも…?」
ユミル「ライナーの精神力がどんなものか知らないが、続けば普通じゃいられないだろう。そっちの性的な嗜好が無ければな」
ベルトルト「そんな趣味、今まで聞いた事ないな…」
ベルトルト「どうしたらいい?ライナーがおかしくなるなんて、困るし、嫌だよ…」
ユミル「…そう言われても…。でも、ライナーなら全てわかった上で、クリスタを受け入れてくれそうだと私は思ったんだけどな」
ベルトルト「えぇっ?あんな変態女神と!?」
ユミル「変態女神は無いだろ」ムッ
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ユミル「自分だけに心から愛情を注いでくれる男が一人いたら、それでいいと思うんだ」
ユミル「クリスタは無償の自分だけに注がれる愛情が欲しいだけなんだ…。だから、あんな行為で人を試すんだ。何をしても、本当に自分をずっと見てくれているのかをさ」
ユミル「今までは皆耐えられず、居なくなったが…ライナーなら…」
ベルトルト「そんなのライナーが可哀想だよ!!あんな酷い屈辱的な事…」
ユミル「でも、ライナーはクリスタに従順だったんだろう?なら、それはライナーが望んでしている事だ」
ベルトルト「自分で…?」
ユミル「だから、私らが何か出来る事なんて、その、ライナーを説得して、クリスタに近付けないようにするだけだ」
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ユミル「そして、クリスタが他の男に興味を持つまで、ひたすら逃げろ。それしか無いな」
ベルトルト「…それって…無理だよ…」
ユミル「そうか…なら、耐えろ」
ベルトルト「今夜だって、僕怖いよ!!昨夜なんか、部屋に入ってきて、目の前で一人で始めちゃってさ…それを見ろって言うんだ」
ベルトルト「それで、調教するのは楽しいとか何とか…」
ユミル「だははは…あいつらしいな〜しょうがないよな。見るだけなら良いだろう?減るもんじゃなし。見てやってくれないか?」
ベルトルト「嫌だよ!!ユミル、助けてよ!!」
ユミル「クリスタも可哀想な奴なんだ。悪いが、ライナーと共に耐えてくれ」
ベルトルト「嫌だよ!!ユミル、どうにかして!!」
ユミル「どうにもならねぇよ…私にだって」
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ベルトルト「僕がクリスタに襲われても、良いって言うの…クリスタに縛られて、叩かれて、踏んづけられて、変態行為で頭がおかしくなっても良いとか思ってるの…」
ベルトルト「僕の事、好きだって言ったのは嘘なの…僕はユミルじゃなくちゃ嫌なのに…」
ベルトルト「う…うぅ…う〜…」
ユミル「何だよ、泣くなよ!!」
ユミル「わかったよ…好きだよ、ベルトルさん。だから泣くな。私も部屋に戻ろう。係の兵士に話をつけよう」
ベルトルト「…戻れるかな…」グス
ユミル「熱もないし、ベッドの空きがなくて困ってるって言ってたから、大丈夫だろ」
ベルトルト「…うん、じゃあ係の兵士を呼んでくるね」
ユミル「頼むよ」
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係の兵士「本当に大丈夫なんですね?」
ユミル「はい、何とか大丈夫です。また明日出前には薬頂きに行きますから」
係の兵士「今日だけでも安静にしててくださいね?あと、同室の方に、錯乱して深夜の徘徊をしないよう、注意するよう伝えて下さいね?」
ユミル「はは…もう大丈夫と思いますけどね」
ベルトルト「僕も明日また行きます」
係の兵士「出発する前に、必ず寄って下さいよ」
宿泊している家の前まで、ユミルは係の兵士に肩を借りて送ってもらった。一応傷病者だから、サクサク自分で歩くわけにはいかないからだ。
中へ入ろうとした時、訓練所へ帰還するため出発するアッカーマン班の面々が、通りかかった。
馬から飛び降り、手綱をジャンに預けて、血相を変えたマルコが駆け寄ってくる。
マルコ「…ユミル!!」
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ユミル「おぅ、マルコ。これから帰んのか」
珍しく感情を露にし取り乱す同期に、敢えて普通な返事を返す。たいした怪我では無いと感じてくれないと、面倒な事になる気がする。
マルコ「大丈夫なの!?ブレードが内臓を貫通した大怪我で酷い熱のせいで、深夜に錯乱して大暴れして脱走して、この支配からは卒業するとかなんとか叫んで、ガラスを割って、椅子は壊すわ、机を投げ落とすわ…大変だったらしいじゃないか!?」
ユミル「ん…?話がやや膨らんでいるな」
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ユミル「まぁ、大丈夫だ。一日休んで馬車にのせてもらって明日帰還する。それで、暫く自室か医務室で寝てりゃ治るから、そんな変な顔すんな」
マルコ「本当に?今は顔色も良さそうだけど…」
ユミル「平気だよ。お前こそ脚は大丈夫なのか?」
マルコ「僕らは何とか、皆、馬に乗れる位には平気だよ」
マルコ「本当に、無理しないでよ…?君だって女の子なんだからさ」
ユミルの片手を取り、両手でそっと包みこむ。優しげな眉を顰め、恋する者特有の熱を帯びた真っ直ぐな視線をユミルの瞳にひたと当ててくる。
心配してくれるのは嬉しいが、隣の大男から、嫉妬からくるのであろう威圧感が放たれているのをひしひしと感じる。
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それが少し嬉しいのと、その気持ちに対して従順である自分を知らせたく、マルコに対していつもより口調がきつく突き放したようになってしまう。
ユミル「…んだよ、意味わかんねーな。早く行けよ。待ってんぞ皆」
マルコ「ベルトルト…ユミルが怪我したのは君が無茶な討伐をしたからだって聞いたんだけど」
マルコ「何を考えているんだ?暫くユミルはまともに訓練が出来ないじゃないか!!」
マルコ「酷い怪我まで負わせて…なんて事を」
ベルトルト「…それは……」
ユミル(うわ、面倒くせぇ事に)
マルコも自分を好いているらしく、最近どうもベルトルトに対して張り合う所がよく見られる。正義感があるがゆえに、きっとベルトルトを攻め立てるだろうと思ったらその通りだ。
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好かれるのは嬉しい。いい奴だとも思う。けれども、禁秘を共有することができない。只の一時の同期の仲間以上にはなれない。
ユミル「おい、マルコ。ベルトルさんは関係ねーよ。私が勝手にやらかしただけだ」
ユミル「…だから、こいつに当たるなよ」
ユミル「ほら、皆待ってるぞ。私は本当に大丈夫なんだ。だから先に戻って、私が居ない間の座学のノートでも取ったやつをだな、また見せてくれよ?な?」
マルコ「本当に、ベルトルトのせいじゃないの…?」
ユミル「あぁ、そうさ。だから」
マルコ「…わかった。すまなかったね、ベルトルト」
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マルコ「でも、もしベルトルトのせいだったら…僕は君を許さない…」
ベルトルト「……」
ユミル「わかった。わかったから、早く行け。気を付けてな」
マルコ「あぁ…ユミルも明日、気を付けて」
ユミル「じゃあな」
互いに手を振って、帰路についたアッカーマン班の面子を見送り、家の中に入る。ライナーとクリスタが戻るには、まだ少し時間があるだろう。
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ユミル「あ〜っ、歩けるのに、歩けないふりをするのはくたびれるな!!」
玄関の扉を閉めて、誰にも見られなくなると、ユミルは両腕を頭上高くあげ、体を伸ばす。
そこへ後から片手で引き寄せ、抱きすくめられる。顎を手のひらで包まれ、固定され、拘束される。片手だけなのに、力が強く、息苦しい。
ユミル「…おい…苦しいぞ」
ベルトルト「…」
髪留めをしているため、露になった白い滑らかな耳もとに背後から唇を寄せる。軽い息遣いが触れるだけで、体がぴくりと反応する。ここがユミルの情欲を掻き立てるスイッチの一つと言うことは、よく知っている。
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ユミル「やっ…何だ…よ…」
ベルトルト「…ユミルをどうこうできるのは僕だけなのに…勝手な事言われて…腹が立つな。ちっぽけな只の人間の癖に」
ユミル「仕…方が、ないだろ…マル…コだって、私を…好いてる、んだからな…」
ユミルの言葉に、強烈な苛立ちと嫉妬心が湧き上がり、胸の奥の嗜虐心を掻き立てる。軽く寄せていただけの唇を強く押しあて、舌を捩じ込み、吸い上げ、酷く敏感な耳を乱暴に蹂躙する。
顎を固定されているため、逃れる事ができず、されるがままに、劣情を刺激され続ける。
ユミル「はぁっ…!!や、めろよ…あぁっ!!こ…んな所でぇ…!!」
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布で吊った右腕でユミルを拘束しつつ、左手を防寒用のマントの合わせ目から中の病人着の合わせ目へと潜り込ませ、柔らかな肉の盛り上がりの尖端を探る。
寒さの為か劣情の高まりの為なのか、既に堅く尖っている先を指で捏ねると、びくびくと体が跳ねて、甘くせつない鳴き声と、荒く乱れた吐息が漏れだしてくる。
顎の支えは無くなったのに、顔を背けるどころか、更なる快楽をねだるように首を差し出してくる。その耳に唇を寄せたまま、恋人の失言を囁きながら詰る。
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ベルトルト「マルコに好かれて嬉しい訳?」
ユミル「はぁ…っ、な…んで…」
ベルトルト「マルコにも、こういうことして欲しい訳?」
ユミル「な…に、んぁっ!!言って…んだ…お前は、ぁっ…!!」
ベルトルト「さっきだって…心配されて、手を握られて、見つめられて、満更でも無さそうだったじゃない」
ユミル「そ…んなん、じゃ、あぁっ!!…ね…ぇよっ…!!」
ベルトルト「許せないのは僕の方だ…」
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揉みしだき、こねくりまわしていた服の中の柔らかな膨らみから手を離し、服から抜き出すと、腰に手を回し、軽々と肩に担ぎ上げる。
ユミル「…おい…!!何…だよ」
ベルトルト「部屋に行くんだ」
ユミル「下…ろせよ…なぁ…」
ベルトルト「煩いな」
ライナーとベルトルトが使用している部屋に入る。ベルトルトのベッドにユミルを投げ下ろす。腕を吊るしている布を引き剥がしながら、扉に歩みより、内側から鍵をかけた。
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踵を返すと、巻き付けられた包帯を乱暴にほどきながら窓に近寄り、勢いよくカーテンを閉めた。季節的に柔らかな日の光りは遮られ、部屋の中は、日が高いのに薄暗く変化した。僅かに開いた隙間から光の筋を数本作るのみになる。
残った包帯をほどき、添え木と共に投げ捨てる。
苛立ちを露にしたベルトルトを目の前にして、困惑と微かな怯えの表情を浮かべた、ベッドの上の情人に覆い被さった。
ユミル「…何、怒ってんだよ」
ユミル「気を悪くしたなら、悪かったよ…」
ユミル「なぁ」
ベルトルト「黙ってくれないかな、少し」
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醸し出され漂う不穏な空気を変えようと、言葉を重ねるユミルの唇を、噛みつくように頬張った。手荒く顎から舌で舐めあげ、唇を頬の肉ごと音を立てて吸い込んだ。
ユミル「んっ…はぁ…っ」
自分を苛立たせる原因を自覚していないところに、更なる苛立ちを覚える。そして、そんな些細なことで激しく悋気を掻き立てる自分にも腹が立つ。
苛立ちは嗜虐心を呼び、自分が引き起こす悦楽の波にユミルを沈め、自分だけを見て、求めて欲しいという考えで頭がいっぱいになる。
防寒用のマントの留め具を引きちぎるように外し、中に着用している病人着の合わせ目を外そうと手を掛ける。
ガチャガチャ…
ライナー「おい、ベルトルト。鍵を閉めて、どうした?帰ってるのか?」
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ベルトルト「…居るよ」
ライナー「俺達は昼の休憩だ。昼飯を作り終えたら、また呼びにくるからな」
ベルトルト「わかった…」
ライナーとクリスタが帰ってきてしまったのなら、仕方がない…。湧き上がった劣情をなんとか、抑え込まなければならない。
床に散らばった包帯や釣り布、添え木を拾い集め、ユミルの隣に置く。
ベルトルト「包帯…巻いてよ」
ユミル「あぁ…。手ぇ出せよ」
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ユミルは器用に添え木を当てつつ、包帯で固定していく。救護の衛生班の係の者の様に、淀みなく、綺麗に巻き付けていく。
その手際のよさと、キツい言葉のわりに、優しく相手を包み込むような穏やかな物腰は、小さい頃、共に過ごしたことのある仲間を連想させる。
わざと考えないようにしていた、ある可能性が頭をもたげてくる。
ベルトルト「…ユミルって器用だよね」
ユミル「そうか?」
ベルトルト「果物剥くのも上手だし、料理も上手だし、包帯巻くのも上手だし」
ユミル「そうか?」
ベルトルト「そして物知りだ」
ユミル「…座学は残念な成績だがなぁ」
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ベルトルト「食べられる珍しい木の実や、砂糖のかわりの物を知ってたり、いろんな花や葉を使った匂い袋の作り方を皆に教えたり」
ユミル「乙女の嗜みだからな」
ベルトルト「乙女なのに、高度な体術だって身に付けてる」
ユミル「育ちが良くないんだ。喧嘩慣れしてんのさ」
ベルトルト「何でも出来て、何でも知ってる」
ユミル「…照れんだろ。恋は盲目だな」
ベルトルト「昔一緒にいた仲間によく似てる…」
ユミル「どこの集団でも、知恵袋的な奴は一人二人居るものさ」
ユミル「できたぞ、ほら」
ユミル「昼飯、そろそろできんじゃねぇの」
ベルトルト(その仲間は…僕の事、ベルトルって呼んでいたんだ)
ユミル「行こうぜ、ベルトルさん」ニコ
ベルトルト「……うん。行こう、ユミル」ニコ
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部屋を出て、ユミルに固定されていない方の腕でユミルを支え、キッチンまで歩く。治っているのだが、ライナーとクリスタの手前、怪我のあるふりをしなければならない。
香ばしい食欲をそそるいい香りが揺蕩うキッチンに入ると、二人がじゃれあい、笑い声を立てながら、仲良く昼食の準備をしていた。
ユミル「おう、いい匂いだな。何を食わせてくれるんだ?レストランバカップルさんは、よ」
クリスタ「…ユミル!?」
クリスタ「ユミルー!!」
びっくりしたように、可憐な眼を見開き振り向いて、ユミルを認めると、手にしていた食材を置いて、駆け寄ってきて、そっと抱き付き、ユミルの胸に顔を埋める。
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クリスタ「ユミル!?大丈夫なの、戻ってきて…?いつ帰ってきたの?」
ユミル「お前らが帰ってくる少し前さ。ベルトルさんにガーゼ交換と、包帯を巻き直すのを手伝って貰ってたんだ。顔出すの遅くなってごめんな」
クリスタ「ふうん…そうなんだ」
クリスタ「寂しかったよ〜」グス
ユミル「はは、待たせたな。でも、楽しそうだったじゃないか、ライナーと」
クリスタ「…うん。聞いてユミル!!ライナーってとってもお料理が上手なの!!」
クリスタ「私がこういうのが食べたいなって言うと、凄く上手に作ってくれるんだよ!!」
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子どものようにはしゃぐ女神の頭を撫でていると、調理場で大きなフライパンを持ち、何かに火を通している、白いエプロンを身に付けた厳つい紳士がこちらを振り向く。
ライナー「ユミル、お前もう食べられるのか?」
ユミル「食うよ。昨夜からろくに食えなかったしな。二食抜いてんだ、腹へって仕方がねぇよ」
ライナー「そうか、飯が食べられるくらいなら、回復も早いかもな」
ユミル「そうだといいな」
先程、奥の部屋に引っ込んだクリスタは、柔らかなクッションを抱えて、小走りでキッチンに駆け込んでくる。
クリスタ「ユミル、座って?椅子にこれ当てたから、楽な姿勢になってね?」
ユミル「あぁ、ありがとさん」
クリスタ「もうすぐできるから、待っててね」
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可愛らしく笑いかけると、ぱたぱたと音を立てて、ライナーへ走り寄って行った。
ベルトルト「隣で支えてるから、寄り掛かって良いよ」
ユミル「お前も怪我してるのに、悪いな」
ベルトルト「反対側だし、ユミル軽いし平気だよ」
ユミル「じゃ、お言葉に甘えるかな。い、よいしょっと」
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ベルトルト「掛け声がお年寄りみたいだよ」
ユミル「実は、私はお年寄りなんだ」
ベルトルト「またまた」
ユミル「七十歳越えてる」
ベルトルト「嘘だね…」
ユミル「…嘘かもな」
ベルトルト「僕は覚えてるだけで…二千歳近い位かな」
ユミル「すげぇ年上」
ベルトルト「そして、誰かに託して繋げたとしたら、その一部分になって、更に何千歳生きる」
ユミル「長生きだな」
ベルトルト「まぁね」
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ユミル「たぶん、私も二千歳近い位だな」
ベルトルト「なんだ、同い年だ」
ベルトルト「そうだろうと思ってたけど」
ユミル「気が合うか」
ベルトルト「合うさ。問題ないね」
ユミル「…許せるのか」
ベルトルト「許すよ。僕は、ね」
ユミル「…問題ないのか?」
ベルトルト「無いよ。僕は、ね」
ユミル「…そうか」
-
ライナー「出来たぞ〜。どんどん焼くから、先に食べろ」
クリスタが、皿を運んできて、ユミルとベルトルトの前に置いた。ほかほかと香ばしく甘い匂いの湯気を立ち上らせ、厚みがあって真ん丸な、ふわふわのパンケーキがそこにあった。
クリスタ「ユミルが取ってくれた、お砂糖みたいな甘い樹液を持ってきていたから、かけて食べよう?」
訓練所から持ち込んだのか、甘いシロップの小瓶をクリスタがテーブルに置いた。ユミルはふたを開けて、スプーンを差し込み掬い取ると、自分とベルトルトのパンケーキにたっぷりと垂らす。
琥珀色のとろみのある液体の、まったりとした甘い香りは、焼きたての熱い蒸気にのってふわふわと部屋の中に漂い、更なる食欲を誘う。
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ユミル「厚み半端ないな。指三本分位あるぞ。真ん丸で黄色くて…なんだか月みたいだ。頂きま〜す」
ユミル「すげー旨いな。クリスタが作ったのか?」
クリスタ「ライナーだよ?朝からパン種を小麦粉と玉子と牛乳と樹液を混ぜた物を作って置いといて、膨らましといて、今焼いてるの」
ユミル「はぁ、なんだすげぇなライナー。これ、マジで旨いよ。ほんと最高!!」
お腹が空いていたのもあるだろうが、見事な食べっぷりで、既に皿の上のふわふわな満月は、半分がユミルの腹の中だ。
確かにとても美味しい出来で、幾らでも食べられそうな気がする。何でも器用にこなすライナーだが、いつの間にこんなの作れるようになったのだろうか。
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ライナー「ははは、クリスタの野菜スープも旨いもんだぞ。手際がよくて、素晴らしい」
クリスタ「もぅ、味は?」
ライナー「味は良いに決まっている。当たり前だから言わなかっただけだ」
クリスタ「やだライナー、嬉しい、大好き♪」
ライナー「ははは、俺も大好きだ。結婚しよう」
クリスタ「…いいよ」
ライナー「ははは、絶対だぞ?」
クリスタ「うふふ、約束だよ?」
ユミル「私のクリスタとイチャイチャしやがって」
ベルトルト「……」
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酷く幸せで楽しそうに笑っている二人が、昼間の姿からは考えられないような倒錯的な間柄などと誰も想像出来ないだろう。
あんなに盟友に懐いて纏わりつくのに、好意は無いのだろうか。
自分の事を好きだと言っていた。しかし、特にああいった感じで媚びを売られた事は一度もない。と言うか、話し掛けられる事がまず少ない。
ユミル「おい、ライナー。昨日おかしな事、しなかっただろうな?」
ライナー「」
フライパンを手にしていた逞しい背が、ぴくりと一度だけ小さく動いた。そのまま振り向かずに、フライ返しを弄んでいる。
ベルトルト(…何もそんなストレートに聞かなくても)
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ユミル「しやがったな?」
ライナー「お、おおかしな事など、何もない」
ユミル「楽しくお話していただけか?」
ライナー「そう、だとも」
ユミル「二人きりでか」
ライナー「隣の部屋にベルトルトが居るだろう」
ユミル「扉には鍵が掛かる」
ライナー「何も、おかしな、事など、無い。…なぁ、クリスタ?」
クリスタ「二人でずっとお話してたんだよね?」
クリスタ「」ポ
ユミル「おい、こいつ今、 ポ ってしたぞ…」
-
クリスタ「やだ、ユミル。この話、もう終わり」
頬を桃色に染めて白エプロンの厳ついコックと視線を絡ませ、腕に纏わり付くその姿は、まるで恋する乙女のようで、邪推深い嗜虐心に満ちた淫猥な女神にはとても見えなかった。
ユミル「糞っ、てめぇら…幸せそうな顔しやがって」
ユミル「…よかったな、クリスタ」
クリスタ「……」
クリスタ「まだまだ焼けるよ?沢山食べて♪」
ユミル「おぅ、余ってるならもう一枚くれよ」
ライナー「良いぞ〜小麦粉の分配が結構あってな。余ったら明日持って行くつもりで沢山作ったんだ。もし余ったらだから、明日の分は無くなったっていいんだ。どんどん食え!!」
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ライナー「じゃあ、午後の作業に出掛けてくるな」
ベルトルト「うん、いってらっしゃい」
ライナー「明日は朝から出発だ。昨夜は疲れたろう。ゆっくり休めよ」
ベルトルト「うん…」
クリスタ「ユミル、行ってくるね?」
ユミル「怪我しないように気を付けろよ」
クリスタ「うん。夕食も楽しみにしててね」
ユミル「あぁ」
パタン…
ユミル「…行ったな」
ベルトルト「行ったね」
-
片付けは女神と野獣が二人で全て終えて出掛けたので、特にする事は無かった。建前的に一応傷病人なので、する事と言えば安静にする事なのだが、あいにく治してしまったので、その必要はない。
夕方まで五時間程度、二人で家の中で大人しく過ごさなければならない。
ユミル「暇だな。明日出るし、荷物の整理でもするか?」
ベルトルト「うん、そうだね」
-
ベルトルト「でも僕、整理するほど荷物無い」
ユミル「私は女子だからな、それなりにある」
ユミル「あと、自分の部屋着に着替えたい。この病人着返さないといけないし、する事は色々あるな」
ベルトルト「そうなんだ…」
ユミル「そうなんだよ。部屋行ってくるな」
ベルトルト「…じゃ、僕も部屋行くね」ズーン
ユミル「なんだよ、そんなあからさまにがっかりすんなよ」
ユミル「仕度終わったら行ってもいいか?」ニコ
ベルトルト「勿論…待ってる」ニコ
-
ユミルと一旦別れ、自室に入る。荷物は既にまとめてあるので、本当にすることがなかった。
ベッドの上に膝を抱えて座る。
昼食時のライナーとクリスタは、爽やかで健全な年相応の関係にしか見えなかった。あぁいった関係なら、素直に良かったね、と言えるのだろうが…。
昨夜の異質な佇まいを思い出すと、言えない。ライナーが望んでしている事だと言われても、良かったねとは到底言える訳がない。
非現実的で屈辱的で、激烈に淫猥な行為をさせられる度に、肉体と精神を蝕まれていくなんて。
-
黙って見てなど居られない。どうにかして助けてあげたい。
ベルトルト(けれど…自分がクリスタの相手をするのは絶対に嫌だ)
ベルトルト(ユミルの言うとおり頑張って逃げるしかないのか)
ベルトルト(無理だ…無理だよ)
ベルトルト(悪魔怖い…)
幾ら考えても、解決法は浮かばない。抱えた膝の上に額を埋め、じっとしている事しか、自分には出来ない。
-
黙って見てなど居られない。どうにかして助けてあげたい。
ベルトルト(けれど…自分がクリスタの相手をするのは絶対に嫌だ)
ベルトルト(ユミルの言うとおり頑張って逃げるしかないのか)
ベルトルト(無理だ…無理だよ)
ベルトルト(悪魔怖い…)
幾ら考えても、解決法は浮かばない。抱えた膝の上に額を埋め、じっとしている事しか、自分には出来ない。
-
二重すまない…
-
クリスタと色違いのワンピース型の部屋着を着ていた。サイズは流石に二人とも違うのか、ユミルの着丈も踝までのロング丈。歩く度にたっぷりとした裾がふわりと揺れて、とても婉麗だ。
ベルトルト「スカート珍しいね」
ユミル「病人着もスカートっちゃあスカートじゃね?」
ベルトルト「あぁ、言われてみればそうかも」
ベルトルト「でも、それ可愛い。女の子みたい」
ユミル「もともと女の子だがな、私は」
鋭く細められた切れ長の眼。素直な感想だったのだが、もしかして気を悪くしたのだろうか。
ベルトルト「はっ…し、失言でした」
ユミル「…んだよ、全く」
ぶつぶつ言いながら、ベッドの向こう端に腰かけた。ここからでは手が届かない。
-
ベルトルト「そっちじゃなくて、隣に来てよ」
ユミル「じゃあこっちに座るな」
ベルトルト「…」
ユミル「…」
ほんの少しだけ気まずい沈黙が、部屋に満ちていく。たぶんお互い考えて期待しているのは、同じ事だと思う。心臓の鼓動が高まり、息が詰まる。
視線を合わせるのが恥ずかしい。
カーテンはあらかじめ閉めてある。くっきりとした光の筋が、まだまだ部屋の明るさを保っている。
閉めたって、この真っ昼間では暗くならない。
閉めたのは、中を覗かれないためなのだから。
-
ベルトルト「寒いから、毛布掛けない?」
ユミル「膝の上に?」
ベルトルト「体の上に」
ユミル「どうやって?」
ベルトルト「こうやって」
ユミル「ぅわ」
トサッ…
ベルトルト「昨夜と違って、横になっても下が柔らかいね」
ユミル「…寝心地、いいな」
ベルトルト「狭いけどね」
-
押し倒した体に寄り添う様に横になり、毛布を肩まで引き上げる。腕を体に回し手を取り、指を絡ませる。
指はひんやりと冷たく、すべすべとした手触りで、柔らかい。軽く力を込めると、同じ様に握り返してくる。
間近に見えた白い滑らかな首筋に、顔を埋める。部屋着に付けられた、匂い袋の香りを堪能する。いつもの、爽やかで仄かに甘い、落ち着く香り。
-
ベルトルト「…良い匂い」スンスン
ユミル「また嗅いでんのか」
ベルトルト「昨日は匂いあんまりしなかった」
ユミル「借りた服だし、匂い付けて無かったからじゃないか?これは私のだからな」
ベルトルト「汗の匂いしないね」スンスン
ユミル「さっき体拭いてきたからな」
ベルトルト「準備万端って事?」
ユミル「…何のだ」
ベルトルト「さぁね…」
-
ベルトルト「…ほんと落ち着く」スンスン
ユミル「好きなだけ嗅いどけ」
ベルトルト「うん…」スンスン
ベルトルト「」スン…
ベルトルト「」ス…
ベルトルト「」グー…
ユミル「寝やがったなこいつ」
回復するのに体力を使った事と、昨夜余り寝られなかった所にお腹が満たされて、落ち着く香りを嗅いで、大好きな相手と、暖かなベッドに横になったら、誰でも睡魔に襲われるだろう。
甘えたように首もとに顔を埋めたまま、静かに寝息を立てている様は、図体のデカさに反して幼くて、堪らなく可愛らしい。
鎖骨辺りに、柔らかな吐息が規則的に触れる度に、擽ったい。
-
包帯は外して綺麗にたたんで、机の上に纏めてあった。
自分の胴に、長くて細いが筋肉のしっかりと付いた腕や指を絡ませて来ているので、全く身動きが取れない。
ユミル(くっそー、動けない)
ユミル(全く、動けない)
ユミル(…期待しなかったと言えば嘘になるが)
ユミル(しょうがねぇ、私も寝るか)
ユミル(時間気にしないで一緒に寝るとか、訓練所帰ったら無いだろうしな)
ユミル(ふふ、頭の一部分しか見えねぇ)
ユミル(可愛いな、ベルトルさんは…)
ユミル(…)
ユミル「」グー…
-
*
*
*
ガタッ…
パタパタ…
ユミル「ん…?」
ハハハ…
ウフフ…ヤダー…ウフフ…
ユミル「」フワー…
ユミル「あいつら、もう帰ってきたのか…」
-
部屋を見渡すと、カーテンの隙間から入る日の光はかなり弱まり色付いていて、部屋は薄暗い。
隣を見遣ると、寝入った時と同じ体勢で、首筋に顔を埋めたままの巨人が、安らかな寝息を立てていた。
ユミル「おい、ベルトルさん、そろそろ起きようぜ。晩飯だ」
ベルトルト「…ぅう〜ん?ご飯?」
ベルトルト「…はっ!!」
ベルトルト「寝ちゃったの僕!?」
ユミル「爆睡してたな」
ベルトルト「ぇ〜…。そんなつもりじゃ無かったのに」
-
頭を抱えながら枕に顔を埋める恋人の髪を撫でながら、一応、聞いてみる。
ユミル「どんなつもりだったんだ」
ベルトルト「えっと…こう言う…」
ユミル「こら、胸揉むな」
ベルトルト「いいでしょ、ちょっとくらい」
ベルトルト「…ほら、ここ、少し固くなってきた」
ユミル「あと…でにし…ろよ、もぅ、ば…か」
-
今始めるわけにはいかない…。先程期待していた分名残惜しいが、そっと手を取り、指を絡ませる。
ベルトルト「…時間勿体なかったな」
ユミル「疲れて、たんだろ…私もよく寝たぞ」
ベルトルト「夜、怖い」
ベルトルト「クリスタ、怖い…」
胸に顔を埋めて体にしがみついてくる、可愛いがとにかくデカイ奴の黒く短い髪の毛に指を通して、頭をわしわしと撫でてやる。
-
ユミル「怖くねぇよ。可哀想な奴なんだよ」
ユミル「受け入れてやってくれよ。奴が、誰かに愛されてるって信じて満足するまで」
ベルトルト「無理」
ユミル「はは…即答だな」
ユミル「じゃライナーに頼むわ」
ベルトルト「やめて」
ユミル「ライナーしかいねぇだろ。昼間のいちゃつきっぷり見たろ?」
ベルトルト「…」
ユミル「でも、それがライナーの本当の気持ちなのか、夜になると試したくなるんだろうな、クリスタは。何をしても受け入れてくれるかどうかをさ」
-
ベルトルト「…僕は、どうなんだろう?好きだって言われたけど」
ユミル「…そこがなぁ…何なんだろうな?ベルトルさんに興味なんてこれっぽっちも無さそうなのにな」
ベルトルト「持たれたくも無いけどね」
ユミル「冷たい事言うなよ」
ベルトルト「じゃあ今日の夜も、二人は…」
ユミル「お楽しみタイムだな」
ベルトルト「絶対楽しくないよ!!」
苛立ちを露にした情人が、がばりと跳ね起きた為、毛布が跳ね除けられて急に冷気に晒される。
-
…寒い。
こちらも声を荒げても、非生産的だ。わざとのろのろと毛布を引き揚げ、二人でくるまる様に肩から羽織る。
トーンを落とした優しい声音で、諭すように言葉を紡ぐ。
ユミル「楽しいかどうか決めんのはあいつらだ。お前でも私でも無い」
ユミル(二人とも楽しかねぇだろうがな)
ユミル「ライナーと話してみたらどうだ?」
ベルトルト「そんな…あんなの見たとか言えないよ…」
ユミル「じゃあ…混ざってこいよ」
ベルトルト「…本気で言ってるの」
ユミル「…怒んなよ。手ぇ出せ。包帯巻こうぜ。私らもキッチンに行こう」
ベルトルト「うん…」
-
クリスタ「ユミル、ベルトルト、お早う。夕方だけど、ふふっ」
ライナー「よく寝てたな、お前達」
クリスタ「怪我しているからね、眠たいと思うよ?」
ライナー「そうだな。回復するためには、沢山食べて、沢山寝ないとな」
クリスタ「そうだね」
クリスタ「今、並べるから待っててね?」
ユミル「あぁ、座って待ってるよ」
朝と同じく、ベルトルトの隣に椅子を寄せ、クッションを背中にかませ、包帯を巻いていない方の肩にそっと凭れた。すると、背中に腕を回して優しく包み込んで支えてくれる。
-
ユミル(はっ)
ユミル(今、当たり前のように寄りかかってしまった)
ユミル(……恥ずかしいだろ、私)
女子のわりに身長があるので、こうやって肩に凭れる事ができる相手は、なかなかいない。はすっぱに振る舞っている事もあり、年頃の女の子の様に異性に甘える事は酷く苦手だ。
ユミル(…でも、悪くない)
-
テーブルに夕食が並べられ、皆で囲む。
クリスタ「ユミル、救護係の人から薬預かってるよ?消毒液と、新しいガーゼと包帯と、錯乱すると困るから、体が辛くて眠れなかったら使って欲しいって薬と、化膿止めの薬」
クリスタ「ベルトルトは鎮痛剤と包帯ね」
クリスタ「こっち置いとくね。」
一通り薬の説明をすると、白い紙袋の束を、食器が並べられている調理台の流しの側に置いた。
ユミル「錯乱なんかしねぇよ…今日は」
ライナー「大暴れだったらしいじゃないか?」
-
ユミル「暴れてねぇし。誰情報だよ」
ライナー「今朝こちらに着いた、レオンハート班のコニーだ。救護所に怪我の手当てに行った時に係の者に聞いたらしいぞ」
ユミル「ミカサ達にもおかしな事吹き込んだのはあいつか…小坊主が…帰ったら〆てやんぞ」
ライナー「後の班員はエレンとアルミンだったかな」
ユミル「アニは班長なんだな。アルミンの方が向いてそうなのに、なぁ?」
ベルトルト(アニとアルミンは同じ班なのか…)
ユミル「アルミンがいるなら、頭脳プレイで攻めて来るな。それなりに点数は稼ぎそうだな」
ライナー「そうだな。だが、俺達よりかは難易度は低い物だろう」
ユミル「まぁ、そうだろうな」
-
可もなく不可もない、他愛ない世間話を交わしながら、レストランバカップルのディナーはキレイに平らげられた。
ユミル「ふぅ、ご馳走さん…旨かったぜ晩飯も」
ユミル「…食後のお茶が欲しいな。クリスタ、入れてくれるか?」
クリスタ「勿論。あの紅茶でいいかな」
ユミル「あぁ…そうだ。その紅茶だ」
ユミル「そこに出してある」
クリスタ「この紅茶、有名なんだよね」
ユミル「街に行った時に買ったよな」
クリスタ「お店の人が、調査兵団の上官も御用達って言ってたね」
ユミル「渋味が少なくて、ほんのり甘いんだ」
-
ユミル「皆の分ある」
ユミル「ライナー、飲むだろ?」
ライナー「おぅ、頂こう」
ユミル「…ベルトルさんも飲むだろ?」
ベルトルト「あ、うん…じゃあ僕も貰おうかな」
ユミル「…」
ユミル「悪いなクリスタ。四人分、頼むよ」
クリスタ「うん、分かった。入れるね」
ユミル「あぁ」
-
ユミル「調査兵団の上官様で紅茶にうるさいのがいるんだってよ」
ライナー「こだわりがあるんだな。俺は正直、味の違いは分からんな、紅茶は」
ユミル「そいつがいつも沢山買うもんで、余り在庫が無いそうなんだ。なので、最高級って訳ではないが、いつも品薄の珍品扱いになってんだとよ」
ライナー「そんなに買い占めるほど旨いモノなのか?」
ユミル「まぁ、珍しい味っちゃあ味だな」
ライナー「味わって気にしてみよう」
-
ユミル「まぁ、ゴリライナーに味の違いが分かるかどうか疑問だがな」
ライナー「愚問だな。クリスタが入れてくれたものなら、どんな紅茶でも旨いに決まってる」
ユミル「やっぱ味の違いはわかんねぇってことかよ」
ライナー「だから、クリスタが入れてくれたものならなんでも旨いと言っている」
ユミル「結局、味の違いがわかんねぇんだろ」
ライナー「クリスタの愛情は何にも勝る調味料だ。そう言うことだ」
ユミル「だーかーらー、味が…」
ベルトルト(ふふっ…)
ベルトルト(なんて不毛なやり取りなんだ)
-
軽口を叩きあい、じゃれて楽しむのを見て、下らなくて、馬鹿馬鹿しくて、思わず笑みが浮かんでしまう。
しかし、夜にはまた悍ましい淫猥な儀式が始まるのだろうか。その思いが頭をよぎると、急激に陰鬱な気分になる。
恋人も、盟友も、盟友の想い人も皆それが無かった事の様に振る舞う。
嘘くさい偽りの日常に吐き気がする。
-
クリスタ「お茶が入りましたよ〜♪」
ユミル「すまないな、ありがとうよ」
クリスタ「はい、どうぞ」
カチャカチャ…
皆に紅茶を配り終えると、女神はライナーのカップに手をかざし、気難しく眉を顰めた。力を込めて開かれた白く華奢な手のひらは、細かく震え、戦慄いている。
-
閉じられた瞼を縁取る長くたっぷりとした睫毛は細かく震え、可憐な花びらのような唇は固く引き締められて、押し殺した吐息を漏らす。
ジャケットを羽織っていても、細く華奢な肩は、上下に動き、心臓の鼓動と呼吸の荒さを示している。
クリスタ「はぁ…は…ぁっ」
クリスタ「ライナーのには…うぅ〜ん、えーい」
ユミル「?」
ライナー「?」
クリスタ「愛情入れたよ♪」
-
幼い仕草と、屈託なくにっこり笑う女神様に、盟友の表情もふわりと緩む。
ライナー「…流石クリスタ、堪らなく可愛いな」
ライナー「俺からも愛情をやろう」ナデナデ
クリスタ「えへへ。頭撫でられちゃった」
ユミル「惚気るのもいい加減にしろ」
ベルトルト(…心底惚れ込んでいるんだな、ライナー)
-
幾ら説得したところで、盟友自身が子羊の皮を被った悪魔に心臓を捧げると言うのなら、自分には止められないのかも知れない。
優しい彼は、元々女神を好いていた所に、ユミル言うところの可哀想な心弱い部分を知って同情し、救ってやりたい気持ちを持ち、甘んじて自ら下僕となるに至ったのだと思う。
となると、男気があり、正義感が強い盟友は途中で投げ出したりは、絶対しない。淫猥な悪魔をいたいけな子羊に戻すまで、狂った饗宴への参加を止めたりはしないだろう。
-
クリスタ「とっても美味しいね、この紅茶」
ユミル「砂糖いれないのに、ほんのり甘いだろ」
ライナー「うむ、本当だ。甘い感じがするな」
クリスタ「ねぇ、ライナー、美味しい?」
ライナー「勿論。クリスタの愛情入りだしな」
クリスタ「うふふ」
ユミル「…飲まないのか、ベルトルさん」
ベルトルト「あぁ…頂くね」
顔に近付けると、茶葉の香りの中にふんわりと、花の匂いがする。
口に含むと微かに甘く、優しい香りが鼻に抜ける。
茶葉に乾燥させた花びらや木の実をブレンドしているのだろうか。確かに、とても美味しい物だった。
後味がほんの少し、ピリッと舌を刺したが、珍しいスパイスなのだろうか。仄かな甘さの中でアクセントになって、ゆったりとした気怠い、心地好い弛緩が、体中に広がっていく。
-
ユミルとライナーが、クリスタを挟んで、何か楽しげに話している。皆、笑って、じゃれついて、はしゃいでいる。でも、何を話しているか、よく聞こえない。なぜ?隣にいるのに。
半分ほど飲んだ紅茶をもう一口紅茶を飲もうとカップを持ち上げようとした。しかし、手が上手く動かない。熱が出たときの様に、のろのろとして、ずっしり重い。
……段々世界が薄れていく。
さっき目覚めたばかりなのに、酷く眠たい。強制的に地面に引きずり込まれ、沈み続ける感覚に襲われて、抗えずに瞼を閉じた。
-
今日はここまで
マルセルが、ベルトルって呼んでたかどうかは捏造
-
クリスタ「おはよう、ベルトルト」
クリスタ「そろそろ、起きてよ…」
瞼を開けると、うっすらと灯りを落としたランプの光が部屋を照らしている。頭が霞がかかっているようにはっきりしなく、少し重たい。
目の前に、クリスタが立っている。衣服は何も身に付けていない。薄明かりに仄白く浮かび上がる、まだ発達しきっていない様な幼く華奢な体が目の前に立ち塞がっている。
背の低いクリスタに見下ろされている?自分は…椅子に座っているのか?
立ち上がろうとして、気が付いた。
吊るした腕ごと、腕も、脚も、椅子に縛り付けられ固定されている。裸で椅子に縛り付けられているその上に、毛布が掛けられていた。
そして、口に布を噛ませられ、言葉を紡ぐ事が出来ない。
-
時間があるので、もう一度投下
クリベル、クリライ、ライユミ、ベルユミ
スワッピング、SM表現あり。
カオスなので、苦手な方はそっとじ推奨
-
ベルトルト「…う、うぅ〜」
クリスタ「寝ているから、寒いと思って毛布を掛けたの。要らなかったかな?」
ベルトルト「うぅ…」
クリスタ「ねぇ、ライナー…私の事…好き?」
振り向いたその先に、ベッドに腰かけ、こちらを見遣る友がいた。しかしその視線は、非日常に拘束された自分ではなく、淫猥な女神だけを熱っぽく見つめている。
ライナー「勿論だとも。好きだ、愛してるクリスタ」
クリスタ「嬉しい…けど、信じられなくてごめんなさい…」
クリスタ「こんなに私の事、可愛がってくれるのに…」
-
ライナーに歩み寄ると、その膝の上を跨ぎベッドに膝をついた。そして厚く大きな唇に、小さな花弁のような唇を寄せ、押し付ける。
互いの感触を、猥雑な水音を立てながら確かめあっている。
長いたっぷりとした裾が、太く逞しいよく鍛えられた腕によって、たくしあげられ、小さいが丸みを帯びた形のよい臀部が露になる。
もう一方の武骨な太い指が向こう側から、二つの膨らみの裂け目をまさぐるのが、うっすらと見える。
クリスタ「…あ、ん…あぁ…っ…」
広げられ、物理的な刺激により快楽を貪る白い肉の裂け目は、既に濡れそぼり雫を垂らし、仄暗いランプの灯りに照らされてぬめぬめとした光を反射する。
それは、目覚める前からこの淫猥で倒錯的な儀式が既に開始されていた証拠を突き付けられたような気がした。
-
盟友は助けてくれない?むしろ加害者側だ。
クリスタ「ねぇ、ライナー…」
クリスタ「私の大事な子も可愛がって欲しいの…」
クリスタ「私はベルトルトと楽しみたいの」
クリスタ「その子はライナーが気持ちよくさせてあげて欲しいの」
クリスタ「良いよね、ライナー」
クリスタ「私の事を好きなら、他の女の子を抱いたからって、その子に気が向いたりなんかしないよね?」
クリスタ「私の事を愛してるなら、他の男と何かしたからって、嫌いになんかならないよね?」
クリスタ「それとも…そんな事させる私を、嫌いになる…?」
-
ライナー「…なる訳はない。俺はクリスタだけを愛している」
クリスタ「ふふ、嬉しい。けど、本当かな…」
クリスタ「来てよ、ユミル」
ベルトルト(…ユミル!?)
固定され、自由に見渡すことが出来ない視界の外から、先程と同じ部屋着を着たユミルが、ゆっくりと淫らな女神とその下僕のもとへ進む。
ベルトルト(こっちを見てくれない…)
クリスタの前に着くと、肩から部屋着を床へ滑り落とす。無駄な肉のないすらりとした靭やかな、手足の長いバランスのよい姿態に、濃いめの紫色で上下揃いの下着姿になる。
-
ベルトルト「うー!!うぅ…!!」
クリスタが、ライナーの膝から降りて、ベルトルトの脇に椅子を置いて、そこへ座る。
甘すぎるキツい花の香りが肺に詰め込まれ、嫌悪感で噎せ返る。
ベルトルト(…ライナーに限って、ユミルと、僕の目の前でするわけがない)
ベルトルト(…ユミルに限って、僕の親友と、僕の目の前でするわけがない)
ベルトルト(ないよね…ないでしょ…?)
これから見せられるだろう、あり得ない組み合わせの淫猥な行為の予感に、取り残された悲しさと、強烈な嫉妬に支配され、胸が痛み、息苦しくなる。
-
一糸纏わぬクリスタは、ベルトルトの毛布を剥ぎ取り、その体にぴったりと肌を沿わせてきた。
柔らかくとても肌理細かい滑らかな肌だが、蛇の腹でも擦り付けられたように、気味が悪い嫌悪感しか沸いてこない。
クリスタ「いっぱい乱れて変になってる所、ベルトルトに見せてあげてよ、ユミル」
ユミルがベッドに横になった上に、ライナーが覆い被さる。
クリスタ「ふふふ…ライナーって凄く上手に女の子の体に触れるんだよ?だから、ユミルもきっと気持ちよくなると思うな。あなたの時よりも」
ベルトルト「うー!!うぅ!!うー!!」ガタガタ
ベルトルト(ねぇ、ライナー!!ユミル!!)
-
クリスタ「暴れても、椅子が倒れるだけだよ?椅子が倒れたら、見えなくなるよ?」
クリスタ「だから…暴れないで?私が気持ちよくしてあげるから…あなたを見捨てた彼等の替わりに」
クリスタ「私があなたを好きになってあげる」
クリスタ「だから、私を見てよ…」
ベルトルト(やめてよライナー!!)
ベルトルト(やめてよ…ユミル…!!)
-
目を閉じた、ユミルのそばかすが散っている白磁の頬に、ライナーの肉厚な唇が寄せられた。そのままゆっくりと肌に沿わせながら、快楽のスイッチである耳へ向かうのが見える。
ベルトルト「んー!!う!!うぅー!!」
ユミル「んっ…ぅう……!!」
ベルトルト(見たく無いよ…!!)ギュッ…
クリスタ「…目を閉じてしまうの?つまらないな。自分の想い人だった子が凌辱されて厭らしく乱れちゃう所、見たくないの?」
-
ユミル「はぁ…っ!!あぁ…っ、は…んっ!!」
クリスタ「ユミルって耳が弱いんだよね。あと、脇腹とか、背中も」
クリスタ「女の子は皆好きだけどね、ふふ」
ユミル「はあぁっ!!やあぁ…っ!!良い…っ」
クリスタ「ほら耳と同時に、脇腹も触られてるよ。大きくてごつごつした手なのに、優しく触ってくれるから、擽ったいけど、とっても気持ちがよくて、ぞくぞくするんだよね」
ベルトルト「…」
クリスタ「まだ目を閉じたままなの?…見たくなったら見てもいいんだよ?」
ユミル「やぁ…あ…!!はっ…そこはあぁ…ぅ!!」
クリスタ「耳を責めながら、内腿を撫でてるよ。体がびくびくして、とても感じてるみたい」
ベルトルト「…」
クリスタ「私も…あなたを気持ちよくしてあげたいな…」
-
小さく細い可愛らしい指が、ベルトルトの肌を弄る。細身だが、しっかりと筋肉のついた靭やかな体に指を這わす。広目の胸板、細く絞まった腹筋を優しく撫で回す。
これがユミルにされているならとても気持ちがいいはずだ。
しかし、それはクリスタにされていて、今聞こえてくるユミルの甘い囀りは、他の男が与える接触刺激により、鳴かされている物だ。
自分は今すぐにでも二人を助けたいのに、その二人は自分には無関心な様子で、淫猥な女神に命じられた快楽の儀式を止めようとはしない。酷い絶望と、怒りと苛立ちが、胸の奥から湧き出して、体を満たしていく。
-
けれども…
悩ましい浅く乱れた吐息と、厭らしく響く粘着液の掻き回される淫らな水音が漏れ聞こえる度に、下腹に甘い痺れが疼き出して止まらない。目を閉じていても、頭のなかでユミルのあられもない痴態が強制的に浮かび離れない。
と、下腹部にクリスタの繊細な指がのびてきて、まだ完全に屹立しきっていないそれに触れた。
小さな手のひらで軽く握りしめ、ゆっくりと上下に扱き始める。
意思に反して、熱い血液が急激に流れ込み、じわじわと甘い痺れを産み出しながら、張り詰めていくのを感じる。
ベルトルト「う!!うぅー!!」
ベルトルト(やめろよ!!離して!!)
クリスタ「うふふ、ベルトルトって凄く大きいんだね。まだ完全じゃ無いのに、こんなに…太くて、長い…」
-
クリスタ「ねぇ、目を開けなくても、ユミルが今どうされてるか解る?見てみたら良いのに」
クリスタ「もうすぐイっちゃうんじゃない?」
クリスタ「ユミルって感じやすくて、可愛いね」
クリスタ「誰にでも…あなたじゃなくても、気持ちよくなっちゃうんだよね…?」
ユミル「はぁっ、あぁっ!!あぁ!!んぁあ!!」
ユミル「ラ…イナー…も、だめ…だぁ…っ、はぁっ!!」
ユミル「あぁ!!そ、こ…あっ…はぁっ!!あぁ!!」
ユミル「んぁあ…!!もっ…とぉ、はぁ、はぁっ!!」
ベルトルト(…ユミル)
-
思わず目を開くと、ユミルの悦楽に翻弄され、眉を潜めた苦し気な眼とぶつかった。
ベッドの上で、他の男に組み敷かれながら、体を捩り、肉体の快感に浸り溺れている姿は、激烈に婬情を掻き立てられる。
しかし、こちらに目線をあてているということは、椅子に縛り付けられ、口を拘束され、猥りがましい女神に、性器を弄ばれている自分を見られて居る訳だ。
その様な状態であるにも関わらず、劣情の高まりにより、目一杯張り詰めた屹立を示している自分に、情けなくも恥ずかしい思いがする。
幾度も背筋を突き抜け続ける甘いざわめきが、息苦しさと胸の痛みを伴い、体中に広がっていく。
クリスタ「他の男に触られても気持ちがよくなっちゃうなんて、ベルトルトの事なんて割りとどうでも良かったんだと思うな」
ベルトルト「うぅ…う…」
-
絡み合った視線はそのままで、離すことが出来ない。ひたと見つめ返してくる潤んで熱を帯びた眼。
ベルトルト(酷いよ、ユミル)
ベルトルト(腰をくねらせて)
ベルトルト(あられもなく鳴き喚いて)
ベルトルト(他の男相手に、善がり狂って)
ベルトルト(そんなに気持ちいい訳?)
ベルトルト(僕とするよりも?)
小さく華奢な手が、すっかり屹立した部分を扱き責め立てる。先の方の色づいた薄く柔軟な皮膚の小さな裂け目の裏側のひっつれた辺りを執拗に指で撫で回す。
意思に反して軽く体が跳ねて、甘い疼きを感じてしまう。滲み出る透明な粘りは掬い取られ、塗りたくられる。抑えていても、悦楽の深い溜め息が漏れだしてしまう。
-
あんなに嫌悪していた相手に触られて、反応してしまい、快楽に張り詰めてしまった部分をユミルに見られている。羞恥が頭を擡げて、消えかかる理性を引き留めている。
ベルトルト(…僕を見ないで)
ベルトルト(情けないよ、こんなの)
恋慕の相手は、こちらに視線を当ててきながらも、悦楽に歪められた口元から漏れだすのは、浮かされた荒い吐息と他の男の名前。
-
ベルトルト(…息が、苦しいよ)
ベルトルト(…胸が、痛い)
ベルトルト(辛くて堪らないよ…!!)
ベルトルト(もう、見たくないんだ)
ベルトルト(……でも)
なんて厭らしいんだろう。
ユミル「はぁ、っ、あっ、ぁ、あぁ…!!」
ユミル「やぁっ、ライナぁ…も、ぅ…い…く…」
ユミル「んぁあ!!はぁっ!!あぁぁぁぁ!!ぁぁぁぁっ!!あぁぁあ!!」
-
ベルトルト「う…」
クリスタ「うふふ、あんなにがくがく震えて…いっぱい気持ちよくなったんだろうね」
クリスタ「見てよ、ライナーの腕にまで雫が垂れて…沢山濡れちゃったんだね」
クリスタ「私も気持ちよくなりたいなぁ…」
クリスタ「でも、あなたの拘束を解いても、私を可愛がってくれそうに無いから、私が自分で気持ちよくなるね?」
クリスタが隣の椅子から立ち上がり、ベルトルトの正面に立った。遮られた視界の端で、情人の脚を大きく広げた間に、腰をゆっくりと推し進め、圧し殺した深い溜め息を漏らす盟友の姿が垣間見える。
ユミル「うぁっ…!!はぁ…あぁっ…」
-
ベルトルト「うぅ!!うー!!」
クリスタ「あなたはこっちだよ…避妊具つけたから、好きなだけ、出してもいいんだよ…」
下を向くことが出来ないので見えないが、手の動きから避妊具を付けたらしい事はわかった。付けたということはまさか…
ベルトルトの膝の上に跨がったクリスタは、既に粘着いた生暖かい肉の窪みに、膨張した尖端をあてがい、腰を沈める。
クリスタ「ん…ぁっ…!!あぁ…おっきい…よ…」
ベルトルト「うぅ…!!うっ…!!」
体が小さいせいか、滑る肉は酷く狭くて、無理矢理に捩じ込まれた硬い異物を健気に押し返そうとしているかのようだ。入り口も精一杯に伸びきって限界に近い。
締め付けられながらも、すぐに一番奥のまろやかな肉の塊に到達するが、その時点で、全て飲み込まれた訳ではなかった。
-
クリスタ「はぁっ、んぁ…!!あぁ…!!まだ…入れたい、の…に…」
ベルトルトの首に細くて華奢な腕を絡め、なよやかな可愛らしい顔を快楽と苦痛に歪め、可憐な吐息を漏らす。
締め付ける柔らかな纏わり付く粘膜に刺激され、下腹部から快楽の疼きが体を突き抜けるのに抗えない。心臓の鼓動が早く、強くうちならされ、息苦しく、噛まされた布の隙間から、図らずも溜め息が漏れでてしまう。
クリスタ「ぁ…っ!!は…んっ…!!んっ…!!」
腰を振り立てながらゆっくりと上下する女神の顔は赤く上気してとても悩ましい。
-
快楽により、半開きの小さな花びらのような唇は瑞々しく、柔らかな吐息を紡ぐ。
顰められた、大きく透き通った青灰色の眼に見つめられると、背筋に悦楽の痺れが突き抜け、下腹から押し寄せる劣情の波が、理性と嫌悪感を薄れさせていく。
柔らかだが控えめな二つの膨らみは、鍛えられた広い胸板に擦り付けられている。固く締まった小さな二つの尖端が、肌の上を何度も掠めていくのが解る。
クリスタ「…全部…入ら…なく…て、ご…めん…なさ…い、あぁっ!!ん…ぁっ…!!」
クリスタ「ベ…ルト…ルト…私を…見て…よ」
クリスタ「ねぇ…お…願い…」
悪魔とも感じていた猥りがましい女神の、快楽からだけではなく、哀願を含んだ今にも泣き出しそうな健気な表情に、理性は霞み、追いやられていく。
-
クリスタ「口の布、外す…ね…?」
クリスタ「ベルトルトの涎でべとべとだね…」
クリスタ「口の回りも、汚れてる…」
クリスタ「…キレイにしてあげるね…?」
小さく薄い舌が、口元の粘着きを舐めとるように這わされる。それを衝動的に舌を出して絡めとり、吸い付いた。
クリスタ「んっ…はぁ、う…れし…い…んぁ」
クリスタ「好き…ベルト…ルト…」
自由になった筈なのに、求めるのは小さく可憐な花びらの膨らみの向こうで、喉の奥から漏れ出てくるのは、荒く圧し殺した悦楽の吐息だけだった。
-
ユミル「はぁっ…ぁ…ぁっ!!んぁ…」
一度快楽の果てにたどり着き、余韻も冷めやらぬまま、情人と形は違えど、やはり厖大な肉塊を咥え込まされた下腹部の深い亀裂からは、絶え間なく粘膜を擦りあげられて生み出される快感が、甘い疼きとなり体中に散らばっていく。
押し寄せる悦楽に身を任せながらも、頭の片隅にはまだ理性が取り残されている。
ベッドの上に四つん這いにさせられ、粘着液の叩き付けられる鋭い水音を響かせながら、後から激しく何度も穿たれつつ、頭に浮かぶのは、気弱でやや子供っぽい、自分と同じ体を持つ恋慕の対象。
今は、昔の自分を重ねた心の弱い少女に好き勝手に蹂躙されている。女神の腰の動きと、見え隠れする入りきらない根元の様子から、それは目一杯に張り詰めて、悦楽の情動にどっぷりと浸っているのが解る。
-
拘束され、布を噛まされたしっかりとした優しい唇は、既に解放された。しかし、漏れ聞こえてくるのは自分を求める言葉ではなく、他の女に与えられた快楽から来る、圧し殺した吐息で。
あの花びらでできたような柔らかな嘴で啄まれているのか、顔が重なって表情がうかがい知れない。
ユミル(やはり、クリスタのような可愛らしい女の子の方が、皆、好きなのかもな…)
情人側の腕を掴まれて、後ろへ引っ張られる。上半身を捻って、下着がはだけて、律動的な体の動きに激しく揺さぶられている柔らかな膨らみを見せ付ける体勢だが、見せ付ける相手の視界は塞がれている。
-
ちらりと後ろの、命ぜられた快楽の儀式の片割れを見遣ると、やはり視線は女神に熱く当てられている。
ユミル(たいした忠犬っぷりだな)
ユミル(私も忠犬か?)
下僕の片割れは、ひたすらに女神の姿を追い求めて止まない。
ユミル(…こんなに想われてるのにな)
ユミル(何で信じてやれないんだ)
ユミル(…可哀想な奴だ、クリスタは)
-
今までに何度か体を重ねても、肉体的、精神的に痛め付け虐げられても、その眼差しは、いかなる時でも一人の女神だけの物なのに。
ユミル(…クリスタさえ、幸せになってくれたらいい)
ユミル(心底信用できる相手がベルトルさんだって言うなら、そうしたらいい)
ユミル(私は一人で生きたっていいんだ。今までだってそうだったから)
-
くねらせた細くて華奢な腰の動きと、漏れ出す甘い吐息は段々と荒く激しく変化している。ランプの淡い光に照らされて柔らかな金色の長い髪が、のたうつ体にさらさらと揺られ、煌めいている。
クリスタ「ん、はぁっ…!!あ、ベ…ルトル…ト、私、もう…んっ…」
クリスタ「一人で…気持…ち、よくなっちゃっ…て、ご…めん、なさぁ…い、あ、あぁっ!!」
クリスタ「んっ、はぁっ!!あぁぁあ!!はぁっん、んあぁぁぁぁ!!」
一際高い嬌声を上げ、快楽の果ての歓びにうち震える体を制御出来ず、女神はベルトルトの胸にもたれ掛かり、顔を埋めた。
-
掴まれている片腕をさらに引かれ、上半身が起き上がる。後から回された手によって、柔らかな膨らみの尖端をつまみ上げられる。
もう片方の手はすらりと延びた腿の付け根にある、黒い繁みの中の肉の突起を探っている。
ユミル「はぁっ!!…ん…ぁ」
ユミル(急に激しくしやがって。触り方が珍しく荒い)
ユミル(…ヤキモチくらい妬くよな。親友相手だもんな)
ユミル(なんで体が反応しちまうんだ)
ユミル(私の事なんか誰も見ちゃいないのに)
-
全く通いあう感情が無いのに、触られると快感の疼きを感じてしまう自分が許せない。
ユミル(満足そうに、あの広い胸に凭れやがって)
ユミル(何見つめ合ってんだ、馬鹿野郎共が)
ユミル(…幸せになって欲しいんじゃ無いのか)
ユミル(糞っ…嫉妬してんのか、私も)
ユミル「…っ!!は、あぁぁぁっ!!」
繁みの中の肉の芽を捻りあげられ、つい、一際大きな悦楽の鳴き声を漏らしてしまう。気付かないで欲しい。見られたくない。
-
ユミル(こっち見んな)
ユミル(そんな目で見んな)
ユミル(…浅ましいだろ?)
ユミル(誰にでも触られりゃ感じて善がるなんて)
ユミル(薬も盛ったしな)
ユミル(こんなお楽しみタイムに引っ張りこんで)
ユミル(嫌いになっただろう…?)
眉を悲しそうに顰め、こちらを見続ける自分と絡んだ視線を外すことが出来ない。
こんな姿など見られたくない。
-
ないのだが…
視線を当てられているだけで、心臓の鼓動が酷く高鳴る。体が急激に熱を帯び意識が霞む。甘く痺れた敏感な部分がさらに疼く。
息が苦しい。漏れ出る吐息は媚態を含んで、抑え込めなく、益々大きくなる。
ベルトルト「ユ…ミル…」
ユミル(名前…呼んでんじゃねぇよ…っ!!)
ユミル「はぁっ…!!あぁぁぁぁぁ!!あぁぁ!!んぁぁぁぁぁぁっ!!」
悦楽の絶頂の震えに身を任せ、後ろの下僕仲間にもたれ掛かる。
抗えない痙攣が終わりを迎えると、穿たれていた肉の屹立を抜き取られ、シーツの上に横たえられた。
体も心も非常に気怠い。自分がどうしたいのか解らない。
-
クリスタ「…ユミルも気持ちよくなったんだね」
ベルトルトの膝から滑り降り、女神は下僕の元へ歩み寄る。
クリスタ「ユミルを可愛がってくれて、ありがとうライナー」
クリスタ「私、ベルトルトと繋がって、凄く気持ちよかった…」
クリスタ「いっぱいキスもしてくれたの」
クリスタ「もう私の事、嫌いじゃないみたい」
クリスタ「ねぇ、ライナー」
クリスタ「どう思う…?」
甘えたような上目使いで見上げながら、従順な下僕の決まりきった言葉が紡がれるのを待っている。
-
ライナー「俺はクリスタだけを見ている。愛している、クリスタ」
クリスタ「…嬉しい。あなたの大事な親友をこんな事に引きずり込んだって、そうやって言うんだね…」
クリスタ「下に座ってよ」
絶対的な命令に逆らう素振りなどもなく、忠実な下僕は何も言わずに、床の上に正座する。
クリスタ「ねぇ、ライナー」
クリスタ「ユミルを可愛がってくれたのは嬉しいんだけど…」
クリスタ「あなたユミルに対して何も感じなかった?」
ライナー「何も感じたりなどしない…」
邪推の女神は細くて可憐な眉を顰め、壁際に立て掛けてあった馬用の鞭を手に取った。
-
クリスタ「嘘…嘘だよ」
クリスタ「だって、ここを固くしてた」ビュツ…バシッ!!
撓った鞭は、下腹部の若干柔らかさを取り戻したとある部分に降り下ろされる。
ライナー「ぐっ…!!うぁ…っ」
クリスタ「ユミルで気持ちよくなったんでしょう?酷いよ、嘘つき!!」ビュツ…バシッ!!
ライナー「嘘…では、ない…俺は、クリスタだけを…」
ユミル「嘘じゃない、クリスタ。ライナーはお前ばっか見てたんだ。お前がベルトルトとしてるのを見て欲情してたんだ。だから」
-
クリスタ「ユミルまでそんな事言うの!?嘘だよ、みんな嘘つき!!」バシッ!!バシッ…!!
ライナー「ぐあ!!うっ…ぐぅっ…!!」
真っ白な肌に赤い筋が浮かび上がる。強く打たれた為か、うっすらと血が滲んでいる。痛みを堪える為か、体に力が入り、鍛えられた筋肉が更に厚みを増して盛り上がる。
クリスタ「…嘘付き…っ!!嘘付き!!嘘付き!!嫌い…大っ嫌い…!!」バシッ!!バシッ!!バシッ…!!
ライナー「がっ…!!ぐっ!!ぐあぁ…!!」
白い肌に、更に赤い筋が増えていく。真っ赤な血液が破れた皮膚から滲み出し、雫となって滴り落ちる。
-
ベルトルト「…もう、やめて…よ…」
クリスタ「…はぁ…はぁ…っ。ベルトルト…」
息が上がり、突発的な激しい苛立ちの興奮により上気した可憐な顰め面がこちらに振り向いた。
目が合うと顔の強張りがほぐれ、今にも泣き出しそうな、縋り付くような顔で、力なくふらふらとこちらに近付くいてくる。
-
クリスタ「ベルトルトは私の事、嫌いじゃ無くなったんだよね?」
クリスタ「だって、私と繋がって、気持ちよかったでしょう?」
クリスタ「いっぱいキスもしたものね?」
クリスタ「私だけ先にイってしまってごめんなさい…」
クリスタ「私を嫌いだったあなたが好きになってくれたら、信じられるよ」
クリスタ「また、続きしよう…?縄は解いてあげるから」
クリスタ「ねぇ、私の事、愛してる…?」
-
ベルトルト「…愛してないよ…大っ嫌いだ」
クリスタ「…何で?舌も絡ませたし、あんなに固くしてたじゃない。私たち愛し合ってたよ」
ベルトルト「何で僕には嘘だって言わないの…?」
ベルトルト「ライナーには、あんなに何度も確かめるのに…」
クリスタ「それは私を嫌いなあなたが、私を好きになってくれたら、その気持ちは信用できるから…」
ベルトルト「自分でそんな風に思い込んでるだけで、僕自身には興味ないでしょ…?」
女神の悲痛に見開いた眼の中の透き通った瞳が、微かに揺れる。
-
ベルトルト「クリスタが信用したいと思ってるのはライナーの気持ちなんじゃないの…?」
ベルトルト「何をしても自分を見てくれるかどうか、常に試してさ」
ベルトルト「普段だって、酷く媚びて甘えて、好きだっていちいち言わせようとしてる」
クリスタ「…」
ベルトルト「今日だって、結婚しようって言われて、凄く嬉しそうな顔してた」
クリスタ「…」
ベルトルト「…そろそろ、信用してあげてよ。ライナーは本当に心底君を好いているんだから」
-
クリスタ「だって…」
ライナー「ク…リスタ」
クリスタ「…」
ライナー「俺は、クリスタだけを愛している。例え、何をされてもだ…。」
ライナー「クリスタが願う、他の世界に連れていってやる事ができるのは、俺だけだ」
皮膚の破けた痛みを堪え、眼をつぶり、呼吸を整え、項垂れる。血が滲んだ肌の表面に、白い蒸気が揺らめいた。
-
ベルトルト「待て、ライナー…!!」
勢いよく吹き出した蒸気が辺りに立ち込める。その揺らめきの中で、赤々と裂けた皮膚が、滑らかな白さを取り戻していく。
クリスタ「………あなた…」
ライナー「俺は鎧の巨人だ」
ライナー「…使命を持って壁の中に来た」
ライナー「でも…クリスタの為なら投げ出したっていいと思ってる」
ライナー「故郷の仲間を、皆、見捨てる事になっても…」
ライナー「クリスタさえ、側に居てくれたら」
ライナー「それでいいと思ってるんだ…」
クリスタ「……」
-
ライナー「だから…だから、クリスタも俺を見てくれないか」
ライナー「俺の気持ちを信じてくれないか…?」
クリスタ「……」
ユミル「なぁ、クリスタ…」
クリスタ「…何よ、ユミル」
ユミル「欲しいなら与える事も必要なんじゃねえの」
クリスタ「……」
ユミル「試すばっかりじゃなくてさ…」
ユミル「そいつの気持ちが欲しいなら、お前だってくれてやれよ」
ユミル「…まぁ、ベルトルさんみたいに、要らねぇって奴に無理矢理押し付けてもどうかと思うがな」
-
ユミル「お前だって、本当はベルトルさんにくれてやりたい訳じゃないんだろ」
クリスタ「……」
ユミル「いつまでこんな事続けるつもりだ?ライナーがぶっ壊れるまでか?」
ユミル「ライナーの頭がおかしくなって、開拓地送りになったら嫌だろう?」
ユミル「ライナーと過ごすのは楽しいんだろう?」
ユミル「お前に相応しいのはライナーしかいねぇと思うがな」
クリスタ「……」
-
ライナー「…俺が人でない事が受け入れられないのなら、潔く身を引こう」
ライナー「そうなれば、正体を知られたからには壁の中には居られない。何処かへ去る事にする」
ライナー「愛してる、クリスタ…俺を、信じてくれないか」
ライナー「俺を、受け入れてくれないか」
ライナー「頼む…」
座り込む下僕の前に女神は立ち尽くしている。こちらからは表情は窺えない。ユミルもライナーも、クリスタも、皆俯いて押し黙っている。
クリスタ「…ライナー」
クリスタ「ライナー……」
手にしていた鞭が、床に落ちて転がる。女神は膝を折って、下僕の首に腕を回して抱き付いた。
-
クリスタ「…ごめんなさい、痛かったよね…嫌だったよね、色んな事…」
クリスタ「でも、私、どうしても…信じられなくて」
クリスタ「でも、でも…う…ぅ…」
クリスタ「ライナぁ〜!!」ウワーン…ウワーン…エーン…
鍛えて太いしっかりとした首に齧り付き、子どもの様に泣きじゃくる小さな女神を優しく抱え込む、若干厳つい王子様の姿が、揺らめくランプの仄かな灯りに照らされて浮かんでいる。
あの王子様なら、女神様の仰せの通りに、どこにだって連れていってくれるだろう。
ユミル「…行こうぜ」
縄で拘束された腕と脚はいつの間にか自由を取り戻していた。部屋着を纏ったユミルに毛布を掛けられる。そしてもう行われないだろう女神主催の淫猥な儀式が終了した部屋を後にして、隣の部屋へ向かった。
-
毛布にくるまり、ベッドに腰かけるベルトルトを尻目に、なぜかユミルは荷物を漁っている。
ユミル「…ベルトルさんの部屋着はこれか?寒いから着ろよ。ほら」
ベルトルト「うん、ありがとう…」
ベルトルト「別に着なくても良いんだけど…」チラ
ユミル「…んだよ、こっち見んな」イラ
ユミル「明日は移動日だ。寝るぞ」
さっさと一人で毛布に潜り込んでしまう。このまま眠りたくは無いのだが…。急いで部屋着を身に付け、同じ毛布に潜り込む。
-
ベルトルト「まだ時間がさ…」
ユミル「ない」
ユミル「それに、私は疲れている」
ベルトルト「…ふぅん」
二人で一つの毛布にくるまって、ベッドに横になる。一人ぶんの寝台なのでやや狭く、向かい合わせに体を添わせている。互いの体温で中はとても暖かい。
心の隅に小さな引っ掛かりがある。疲れているのはさっき他の男と体を重ねたから?
-
ベルトルト「ライナーとして、気持ちよかった…?」
ユミル「…何言ってんの、お前」
ベルトルト「だって、二回もその…」
ユミル「…触られりゃそれなりに反応するさ」
ユミル「でも、唇は合わせなかったぜ?」
ユミル「お前だって、クリスタとしたじゃないか。全く感じてなかったのかよ」
逆に挑戦的な目付きで覗き込まれる。やましい事は無い事も無いのだけれども。無いのだけれども…。
ベルトルト「それは…多少は…」
ベルトルト「でも、僕はイかなかったよ?」
-
ベルトルト「気持ちよくなったのは…ユミルが気持ち良さそうにしてるのを見たからで…」
ベルトルト「違う男に大事なところを触られて、それに反応してる君を見るのが、辛くてとっても悲しかったんだけど」
ベルトルト「…酷く昂奮したんだ」
ベルトルト「蹂躙されてるユミルが凄く厭らしくて…」
ベルトルト「…あっ、変だよね、えっと、ユミルが取られて嬉しいとかじゃなくて、その、何て言うか」
-
ユミル「私だってそうさ」
ユミル「ライナー相手に二回も気をやったのは」
ユミル「ベルトルさんに、見られていたからだ…」
ユミル「他の男に触られているところなんか、見られたくないのに」
ユミル「見られていると思うと、変な気持ちになって」
ユミル「恥ずかしいんだけど、とても感じてしまって…」
ユミル「変だろ…」
-
目を伏せて、視線を落とす恋人の頬に手を添えて、唇を寄せる。柔らかい小さな膨らみをそっと啄む。
ベルトルト「変じゃないよ。だって、僕の事好きだからでしょ?」
ユミル「…そうかもな」
ベルトルト「僕だって大好きだから、あんなに乱れてるユミルを見て、変な気持ちになっちゃったんだけど…」
ベルトルト「ねぇ、ユミル」
ベルトルト「僕もユミルと繋がりたい」
ベルトルト「ユミルの体に、他の男に触られた余韻があるなんて、許せないんだ…」
-
時間が無くなってしまった
続きはまた今度
-
毛布の中で、部屋着の裾をたくしあげた。筋肉で締まった靭やかな腿を撫で上げる。身につけた下着のわきから指をゆっくりと差し込む。
柔らかな粘膜の肉の襞はまだ熱く、じっとりとした粘着く涎を大量に湛えたままだ。
ユミル「…お…い」
強い意思を浮かべる切れ長の眼が、緩んで潤む様子を見ながら、一番敏感な肉の突起を探る。そこは既に固くしまっていて、先程の行為の名残なのか、今そうなったのか解らない。
-
甘く痺れる体の中で、胸が少しだけ苦しくなる。
ベルトルト(僕の与える快楽と比べてどうだったんだろう?)
ベルトルト(こんなにべたべたにしてさ)
ベルトルト(妬けるな…)
指先を使って、回りの肉ごと優しく捏ねる。
ユミル「はぁっ…!!あぁっ、もう…なんだよ…」
ベルトルト「ユミルこそなんだよ…他の男相手にこんなにしてさ…」
ベルトルト「許せないよ…」
-
ユミル「んぁっ…妬く、なよ…ぉっ…」
ベルトルト(びくびくしてる)
ベルトルト(だんだん息が荒くなる)
ベルトルト(ユミル、可愛い)
ベルトルト(…凄く愛おしい)
濡れそぼる下着の中の指はそのままに、横たわる恋人の上に、覆い被さる。
そばかすの散った白磁の頬に優しく唇を寄せ、先程他の男が辿った道筋を同じように辿る。滑らかな頬から酷く敏感な耳へ。
-
ユミル「は…んっ…やぁ…っ」
耳朶を唇で軽く挟んで、息をそっと吹き付ける。
切なげに戦慄く様を見せ付けられて、張り詰めて屹立した下腹部が、接触刺激を要求している。
ベルトルト「ねぇ…触って…?」
しなやかに伸びた、滑らかな太股に腰を押し付けて、不埒な劣情の存在を示す。細く形の良い手のひらを掴んで、部屋着のボトムスの中に、誘導する。
ユミル「…ん」
ベルトルト「うっ…はぁ…っ」
ユミル「はぁ…っ、固…いな、凄く」
ベルトルト「気持ちいい、よ…はぁ、っ、もっと…触って」
ユミル「んぁ…っ!!耳の…側で、喋る、なよぉ」
ベルトルト「何…で?はぁっ…好きで、しょ…ここ」
ユミル「ん、あぁ…っ!!」
ベルトルト「ねぇ、ここ、やらし、い涎が、はぁ…溢れて…べとべとだ…」
ユミル「や…め…あぁ!!はぁっ…!!」
びくびくと悦楽に体を震わせる恋人は、先程達したばかりだからか、いつもより感じやすくなっているようだ。
-
滑る肉の襞を掻き分けてなぞりながら、粘着く潤滑液を、指に絡めて音を立てる。
ベルトルト「ねぇ、こう、なって、るの…は、…っ」
ベルトルト「ライナー…のせ…い?」
ベルトルト「僕の…せ、い…?」
ユミル「あぁ…っ、ベ…ルトル、さ、んだ」
ユミル「お前…のせ、いだ、ばか…ぁっ…!!」
ここで一度、イかせてあげても良いが、胸の奥に燻る嫉妬心が嗜虐心へと姿を変えつつある。
焦らして、焦らして、淫らに、狂わせたい。
もう一度唇を啄んだ後、ボトムスに差し込まれていた手をそっと抜き取り、毛布の中へと潜り込む。
優しく弄っていた、しなやかな細い指が外れてしまうが、仕方がない。余り刺激されてしまうと、こちらも持たない。
-
濡れてなまあたたかい下着から指を抜き取り、部屋着の首もとに手を掛ける。そのまま引き下ろすと、二つの柔らかな膨らみが現れる。
小さなやや濃い桜色の突起は、締まって固く、体中に快感の甘い痺れが行き届いている証拠を見せ付ける。
そこは手っ取り早い快感を生み出す一部分だが、あえてまだ触らない。滑らかな回りの皮膚を、ゆっくり撫でさする。
先端部の二つの肉の突起は益々酷く自己主張するが、ギリギリの際を素通りする。
ユミル「はぁっ、あぁっ…焦ら、すなよ…」
ベルトルト「…して欲しい事が、あったら…言ってよ、自分で」
-
柔らかな膨らみ部分のみを弄りながら、ユミルの部屋着から片腕を抜き取り、頭上に押しやる。
ベルトルト「腕、絶対下ろさないでね…?」
開かれた脇の下に、顔を埋め、触れるか触れないかの繊細さで舌を這わす。
ユミル「あぁ!!あっ…!!っはぁ、やぁ…!!」
ベルトルト「…嫌なの」
ユミル「んぁぁぁ…!!はぁっ、やあぁ!!」
ベルトルト「でも、止めないよ…」
ベルトルト「だって、体をこんなにくねらせて」
ベルトルト「厭らしい声だして」
ベルトルト「とっても気持ち良さそうなんだもの…」
しつこくねぶった脇の下から来る激烈な疼きは、恋人の表情をだらしなく緩ませ、甘く、切なく鳴かせている。
-
ユミル「やぁぁ!!だ…め…!!はぁぁ!!」
ベルトルト「…駄目なの?もっと、って、ねだってよ。ライナーの時みたいにさ…」
敏感なところには触れず、滑らかな膨らみに這わせていた指で、刺激を待ちわびた尖端のしこりを軽くつつく。
ユミル「は、あっ!!んぁぁ…っ!!」
ユミル「あぁ、あ、もっ、と…」
ベルトルト「もっと…何?」
ユミル「やぁ…っ!!ば、か…」
ベルトルト「…素直じゃ無いな」
ユミル「い、わせんな…」
ベルトルト「…触って欲しいんでしょ?こんな風に」
ユミル「はぁあ!!…んぁ!!はぁ…!!」
-
繊細な刺激で凌辱され続けた敏感になりすぎた体は、本来感じる快感よりも、更に高まった物へと変化させてしまう。
軽くつまみ上げられただけの尖端は、びくりと体を跳ねさせて、酷い痺れを走らせる。
そこだけでなく、下腹部のやはり固く絞まっている小さな肉の芽にも強烈な発情の疼きを生じさせる。
ベルトルト「息が、荒いね…。苦しい?」
ユミル「はぁ…っ!!あぁっ、はぁ…」
ベルトルト「体が震えてる…。気持ちいい?」
ユミル「う…っ、あぁあ…っ!!」
ユミル(もう…少しでも触られたらすぐに)
ユミル(達してしまいそうだ…)
-
ベルトルト「顔が、だらしなくなってきてる」
ユミル「やめ…ろ、あぁ、言、うな…よぉ…」
ベルトルト「…とっても、可愛い」
ベルトルト「もう、イきたい…?」
ユミル「ぁ…あぁあ…っ!!」
両手の指先で、軽くこねくり回される桜色の敏感な突起は、酷く凝り固まり、荒い吐息を乱れさせる。強い劣情に熱く火照った頭は、自我を遮断し始めて、羞恥心を徐々にかき消していく。
-
ユミル「も…う、我、慢、んぁっ!!でき…ない、んだ…あぁ…っ」
ユミル「頼…むよ、下…も触っ…て、は、ぁ…っ!!」
ユミル「疼い、て…堪ら…ないん、だ…」
ユミル「ぁ…触って…く、れよ……んっ…はあぁ!!」
ベルトルト「ふふっ…ユミルにおねだりされたら、断れないな」
ユミル「ば…か、もう、言…う…なって…」
突起を蹂躙していた両指を外し、体ごと更に毛布の奥へと潜り込む。
-
ユミル「ぁ…っ、おい…」
踝までの長い裾を更に捲り上げ、下腹部を晒す。
先程の紫でなく、深緑の下着が目に入る。
ベルトルト(新しいのに変えたんだ)
両足の間に割って入り込み、腿を広げ、普段は晒されることがない、付け根の合わせ目の部分を露にする。下着を着けてはいるが、湧き出す悦楽の涎により、中心辺りが湿り、色が変わっていた。
ユミル「なぁ、見…んなよぉ…」
細くて繊細な指が伸びてきて、隠すように覆う。その指を手に取り、恋人自身の指を使って、濡れた布の上から小さな突起を探る。
-
ユミル「はぁっ…!!なに…させ、んだよぉ…ぁ!!」
ベルトルト「…自分でしてるみたいだね」
ユミル「や…めろ…あぁ!!」
ベルトルト「しないの?普段」
ユミル「煩っせ…ぇ…や、あっ…」
薄暗い毛布のなかで、白く滑らかな肉が、くねり、波打つさまを目の前で見せ付けられ、否が応にも更なる劣情を掻き立てられて、頭が熱くなる。
ベルトルト(僕が掴んで動かしていたのに、今少し、自分でも動いてる)
ベルトルト(ユミルがするときって、こうしてしてるのかな…)
ベルトルト(厭らしい…)
-
すっかり濡れそぼった深緑の布地に舌を這わせた。長い繊細な指ごと舐め上げる。下着に付けられた、爽やかで甘いユミルの香りと女性特有の雄を狂わす淫猥な香りが狭い空間に充満する。
苦しく、荒くなる息を抑え込む。下着の中へ指を差し入れて、十分に潤っている肉の襞を弄りながら、すぐ脇の人目に晒されない薄い皮膚に唇を寄せる。舌で舐めあげたり、軽く吸い付いたりして、責めたてる。
ユミル「やぁ…っ…!!あぁ…!!はぁっ!!あぁ!!」
恋人自身が動かす指は、始めは遠慮がちだったのに、今は一番敏感な所を一心に擦りあげている。与えられた快楽により、理性が薄らいでいる証拠だろうか。
圧し殺し、荒く浅い息遣いと、細かく震える体は、もうすぐ悦楽の果てに達しようとしている事を知らせる。
-
ベルトルト「ねぇ…勝手に気持ちよく、ならないでよ…」
その指を自分の指に絡め、動きを止めさせた。下着の中心部分を片方へずらし、ぬらぬらと光る肉の裂け目を剥き出しにする。
その亀裂のなかに舌を這わせ、快楽の涎を舐め取っていく。微かな肉の味が舌を刺して、こちらの意識を痺れさせる。
ユミル「はぁあ!!あぁ!!やぁぁあ!!」
逃げるように捩られる細い腰をがっちりと掴まえて、じゅぶじゅぶとわざと大きな音を立てながら吸い上げて口に含み、飲み下す。
亀裂の始まりの辺りにある、敏感な肉の芽に、舌が触れると、一際がくんと体が跳ねる。湧き上がっている嗜虐心に唆されるままに、口に含み、舌で強めに転がした。
ユミル「あぁ!! やめ…ろ!! やめ…っ!!やめてぇ!! やめて!! いやあぁぁ!!」
-
激しく捩られて逃げ出そうとする腰を掴まえたまま、吸い付き、舐めるのを止めない。完全に羞恥を失った痴態にこちらの理性も遮断される。
どこにも物理的な刺激を受けていないのに、強烈な甘い疼きが体を支配している。
ユミル「やぁっ、つ、よ…い!! だめぇ!!だ…めぇ…!!」
敏感な場所への強すぎる刺激にうち震えている肢体に、更に嬲り甚振りたい気持ちを押さえられない。
荒すぎる吐息を無理矢理に押さえ込み、張り詰めて突き出した小さな肉の芽にゆっくりと歯を立て、噛み付いた。
ユミル「あぁっ!!やぁああああああ!!あぁぁぁっ!!はぁっ!!あぁ!!あぁぁぁっ!!」
-
噛み締めると同時に鋭く甘ったるい鳴き声を発しながら、びくりと体が跳ね上がった。
激烈な快楽の迸りによる、律動的な強い痙攣が強制的にユミルの肢体を支配する。
それにあわせて肉の襞がうねりひくつくのが、触れている唇を通して解る。
先程かなり舐め取った筈なのに、目の前の濡れそぼった下着の布の脇から垣間見える、肉の亀裂の間からは、シーツをぐっしょりと湿らす程に、だらだらと淫猥な涎を垂れ流していて止まらない。
-
もっと責め続けたいが、劣情から来る高まった興奮と、毛布の中にずっと居たために、かなり息苦しい。
内腿に一度、軽くキスをして、部屋着の袖で口を拭うと、ベッドの上部に這い上がった。
ベルトルト「ねぇ…気持ち、よかった?」ニコ
激烈な快感の波が、まだ余韻を残しているのだろう。息が上がり、桃色に上気した頬の上の眼は柔らかく潤んで視点が定まっていない。
-
少し汗ばんだ頬をそっと撫でると、鼻にかかった甘い吐息と共にぴくりと体を震わせる。
弛緩して微かに開かれた、薄く瑞々しい唇に人指し指を這わす。柔らかくて、生暖かい吐息が掠めていく。
ベルトルト(血を吸われた時、酷く欲情したんだっけ)
ユミル「はぁ…はぁ…っ、お前…さ」
ベルトルト「何?」
ユミル「…おっさん、か」
何を言い出すんだろう。折角の雰囲気が削がれてしまう事に軽く苛立ち、眉を少しだけ顰めてしまう。
-
掻き消されそうになった甘い空気を取り戻す為に、腕枕になるようユミルの頭部を抱き寄せて、かかえこむ。
抗わず、素直に引き寄せられる恋人に、落ち着きかけていた劣情が頭を擡げてくる。
ベルトルト「えぇ?まだ肉体は若い筈だけど」
ユミル「今まで他の、訓練兵の女と…してたのかよ…」
ベルトルト「何で、そんなこと聞くの?」
ユミル「…ねちこくて、エロい」
ベルトルト「だって、底無しの性欲をもて余す、年頃の男の子ですもの」
ユミル「怖ぇ」
ベルトルト「指南本はかなりの数読み倒しましたし」
ユミル「耳年増かよ。アルミン様々だな」
-
ベルトルト「…ユミルが初めて、ではないよ」
ユミル「…んだよ、いつの間に」
眼を伏せつつ視線を反らし、少しだけ不機嫌な声色で呟いている。妬いているのだろうか。
ユミル「どおりで。慣れてんなって思ったんだよ、林のなかでキスした時」
ユミル「童貞じゃあり得ないよな」
ベルトルト「そう?」
ユミル「キスだけなのに、酷く感じてしまった」
ベルトルト「いつでもしてあげるよ」
ユミル「…何やっても優秀なんだな、お前」
ベルトルト「ふふ…それはどうも」
-
ユミル「んで、訓練兵の女共はどうした」
ベルトルト「…壁内の人類相手に恋愛感情は持たないって決めてたから」
ベルトルト「告白されて付き合って、体を重ねるんだけど、僕の方は全く情が無いものだから、結局愛想尽かされちゃって一人になる」
ベルトルト「それを繰り返して、何人か…」
ベルトルト「僕、結構モテるみたいだしね。よく告白されるんだ」
ユミル「ほぅ…何人かベルトルさんの巨人を拝んだ、同期が居る訳だと言うことか」
ベルトルト「…駄目なの?」
ユミル「別に…駄目じゃねぇよ」
ベルトルト「妬いちゃう?」
ユミル「妬いたりなんか、しないさ」
-
ベルトルト「僕はユミルが初めてじゃ無かったのは、ちょっとだけがっかりだよ」
ユミル「すまないね」
ユミル「私も、それなりに」
ベルトルト「クリスタに付き合って?」
ユミル「そういうのばかりでも、無いが」
ベルトルト「じゃあ、誰かとお付き合いしてたって事?」
ユミル「私だってアレだからな、お前と一緒で男には気をかけない様にしていた」
ユミル「だが体に関しては、初めてなんて大事に取っておいたって、しょうがないと思ってたんだ」
ユミル「私を好いてくれる奴なら、誰だっていっか、なんてな」
ユミル「体をくれてやることで、利用できる事もあるだろうって、考えてたしな」
-
ベルトルト「早い者勝ちだったのか…」ズーン
ベルトルト「僕も利用されたかった」
ユミル「何言ってんだお前」
ユミル「大体にして、元々私の事そんなに好きじゃ無かったろ」
ベルトルト「鋭いね。ちょっと怖いって思ってた」
ユミル「ダハハ…やっぱそうだったんだ」
ユミル「私は気になってたんだがな」
ベルトルト「何かきっかけでも?」
-
ユミル「半年位前の格闘訓練の時、初めてベルトルさんと組んだんだけど」
ユミル「普段影が薄くてふにゃふにゃしてるイメージがあって、ぼこぼこにしてからかってやろうと思っていたら」
ユミル「滅茶苦茶強くて、こっちが翻弄されちまって、体勢を崩されて倒れそうになった時に」
ユミル「体を抱えてデカイ私を支えてくれて、それが力強くて驚いたのと」
ユミル「大丈夫?って、にっと笑った顔にヤられたんだ」
ベルトルト「あの時なんだ…へぇ。僕より大分前だね」
-
ベルトルト「僕は…ユミルに隣に座られた時に、凄くいい香りがして、心地いい気持ちになった事とか」
ベルトルト「近くで見たら肌はきれいだし、指先は繊細で、唇は色っぽいし、意外と女性的なんだなって」
ユミル「ギャップって重要だな。しかし、失礼な表現が含まれていたぞ。意外と、とは何だ」
ベルトルト「はは…」
ベルトルト「あと、湯上がりの君を見て、首筋にキスしたくなった」
ベルトルト「紙で切った指を口に含まれて舐められた時、優しいなって思ったのと、暖かくて柔らかくって、擽ったくて、酷く欲情した」
ユミル「そんな事考えてたのかよ。年頃の男は怖ぇな」
-
ユミル「好きとかじゃなくて、ただエロい目で見てただけじゃないか」
ベルトルト「好意があるからエロい目で見ちゃうんだよ」
ユミル「ふっ、どっちでもいいけどな」
いい、と話す割りには、こちらを上目遣いで見上げる顔は、眼をそらし唇はつぐんで引き結ばされ、なんとも複雑な表情だ。
ベルトルト「えっと、その辺りから、ユミルの事が気になって仕方がなかったんだよ」
ユミル「ほんと、最近だな」
ユミル「なら、私の初めてには間に合わなかった。残念だったな」
にやり、と口の端しを吊り上げて笑う。挑発されて煽られた嫉妬心は、頭の隅で再度燻り始める
-
ベルトルト「もう…妬けるな…それって、誰なの?」
ユミル「言わねぇよ」
ユミル「お前だって、付き合ってた奴の名前教えてくれてないじゃないか」
ベルトルト「聞きたいなら言うよ?」
ユミル「私は聞きたくないね」
ベルトルト「僕は聞きたい」
-
ユミル「聞いてどうすんだ」
ベルトルト「格闘訓練の時ちょっと本気だす」
ベルトルト「あと、班行動で一緒になったら、軽く妨害する」
ベルトルト「あとね、座学の時にそいつの真ん前の席に座る」
ベルトルト「それから、食事の時はサシャの隣に座らせて、パンを強奪されるよう仕向ける」
ベルトルト「あとはね、えぇっと」
ユミル「…暗ぇ」
ユミル「絶対、教えられねぇな」
ベルトルト「…無理には聞かないけど」
ベルトルト「生意気だな。意地悪したくなる」
-
下着の中にまた手を差し込もうとするが、ユミルの手のひらがそれを捕まえて、胸に抱えてしまった。
ユミル「もうちょっと待ってくれよ…。異常にあちこち擽りやがって、気持ちよくなりすぎてへとへとだ」
ベルトルト「ふん、ライナー相手に二回もイった罰だ」
ユミル「まだ気にしてんのか。根に持つタイプなんだな」
ベルトルト「…しつこいよ、僕は」
ユミル「ご苦労様だな。せいぜい、妬いてくれよ」
-
くっきりとした垂れた目を優しげに細めて、大きめの口を悪戯っぽく、にっ、と引き伸ばして笑っている。幼く可愛らしい仕草の筈なのに、妙な色気を感じてしまい、胸の奥がずくん、と甘く疼き出す。
しかし、責め苛まれ過ぎた体は、まだ回復しきっておらず、気怠い余韻がなかなか消え去らない。
少しだけ毛布に潜り込み、恋人の、鍛えられていて広い胸板に顔を埋める。
ユミル「…ここで休ませてくれよ」
ベルトルト「えぇ…早くユミルと繋がりたいんだけど」
不満げな声が頭上から伝わってくる。確かに今日は刺激はあれど、一度も達していないので、物足りないのは分かる気がする。
ぶつぶつ言いながらも、腕を背中に回して、軽く抱えられると同時に、優しく髪を撫でてくれている。
もう少し、しっかりとした胸の中に包まれて、この酷く甘ったるい、普通の若者らしい恋人同士のイチャつきを楽しみたい。
-
ユミル「…クリスタとキスした罰だ」
ユミル「だから、少しだけお預けだ」
ユミル「あの時のクリスタみたいに、ベルトルさんに甘えたい」
ユミル「…たまには甘えさせろ」スリ…
広い胸板に埋めた顔を擦り付けると、ほんの少しだけ、抱かれた腕に力が込められた。恋人の自分に対する愛情を感じた気がする。
ベルトルト「うっ…分かりました。お休み下さい」
-
ベルトルト「少しだけ、だからね?」
ベルトルト「あっ、でも甘えるのはいっぱい甘えてくれていいよ?」
ベルトルト「…ユミル可愛い…大好き」
ユミル「おう…」
ベルトルト「髪の毛、さらさらだね」
ユミル「あぁ…」
ベルトルト「頭のてっぺんしか見えないよ」
ユミル「うん…」
-
ベルトルト「甘えてくれるなんて、珍しくて嬉しい」
ユミル「ふっ…」
ベルトルト「ユミルもクリスタに妬いたの…?」
ユミル「…」
ベルトルト「ねぇ…」
ユミル「」スー…
ベルトルト「」
ユミル「」スー…スー…
ベルトルト「寝やがったな、こいつ」
-
ベルトルト(いたぶりすぎちゃったかな)
ベルトルト(僕的には、かなり高まっている状態な訳なんだけど)
ベルトルト(お預け、辛い…)
ベルトルト(でも、起こすのは可哀想だし)
ベルトルト(静まれ、僕)
ベルトルト(奇行種が一体、奇行種が二体、奇行種が三体、奇行種が四体、奇行種が五体、奇行種が六体、奇行種が…)
ベルトルト(静まらない、僕)
-
ベルトルト(…クリスタとしてる時、少しだけ好きになっても良いかなって思っちゃったんだよね)
ベルトルト(でも、ユミルの切ない声が聞こえて)
ベルトルト(我にかえったって言うか…)
ベルトルト(これは、クリスタに一瞬でも気を向けてしまった僕への罰だ)
ベルトルト(だから、甘んじて受けるね)
ベルトルト(辛いけど)
-
今日はここまで
また近いうち投下します
-
コンコン…
クリスタ「そろそろ、起きてー?」
翌朝、扉をノックする音で目が覚めた。
隣で安らかな眠りについた恋人を起こさぬよう、疼いて火照る体を静めることは、なかなかに困難な作業だった。
試行錯誤しているうちに、いつの間にか眠ってしまった様だ。
部屋は既にうすぼんやりと明るい。窓に掛かる、光を遮る布を開け放ったら、眩しい朝陽が射し込んで来るだろう。
まだ眼を閉じて、横になったままの恋人の肩をそっと揺する。
ベルトルト「ユミル…」
ユミル「……ん」
-
クリスタ「起きたー?」コンコン…
半開きの眼を擦りながら、恋人が上体をのろのろ起こすのを、手を添えて手伝う。扉を叩き続ける、目覚ましの女神に起きたことを知らせなければならない。
が、昨日の事もあり自分で応答する気にはなれず、ユミルに答えて貰いたい。
ユミル「…おーぅ…ありがとう、クリスタ。起きたぞ…」
クリスタ「はーい、じゃあ待ってるね」
ユミル「おぅ…」
昨夜の気怠さが抜けないのか、若干ぼんやりしている表情だ。背中を支えた腕によりかかり、もたれたままだ。
ふいに、頭が後ろにがくりと反らされて、首を仰け反らせ、顎をつき出した状態で、また眼を閉じてしまう。
-
ベルトルト「ねぇ、ユミル。起きてよ…」
反らされた、白くて引き締まった首筋が、扇情的な曲線を無防備に晒す。
ユミル「ふぁ…もう、少し…寝かせ、てくれ…よぅ…」
ベルトルト「…起きなきゃダメだよ、そろそろ」
力なく弛緩した唇をそっと啄む。
眼を閉じてされるがままに、唇を差し出す様が可愛らしく、愛おしい。毎日がこんな目覚めだったら、とても幸せだろうと思う。
ユミル「…ん」
ベルトルト「…おはよう、ユミル」
ユミル「ん、 ベルトルさ…ん、おはよ…」
-
ユミル「あー…」
ユミル「寝ちまったのか、私は」
ベルトルト「そうだよ。お預けとか酷い」
ユミル「…悪ぃ」
ぼんやりしつつも、ばつの悪そうな顔で、頭を掻いている。疲れていたのだから仕方がないが、恨み言の一つでも言いたくなってしまう。
ベルトルト「おさまらなくて、なかなか眠れなかったんだから」
ユミル「…すまないな」
-
軽口で言い返してくるかと思ったが、すまなそうに肩を萎ませる姿に、こちらが我が儘を言っているようで、申し訳なく感じてしまった。
ベルトルト「…いいよ。僕達は恋人同士で、もう邪魔する人は居ないんだから」
ベルトルト「いつでもできるもの、ね」
ユミル(目が笑ってるようで笑ってないな)
ユミル「あぁ…また次の機会にな」
ユミル(今日も一泊するが、兵団関係者がうじゃうじゃいる普通の宿だ)
ユミル(訓練兵の分際で男女で部屋を取るのは、風紀の関係でまずいだろうからな)
ユミル(今夜は無しだ…)
-
ユミル「ふぁぁ…っと。仕度しようぜ。体拭かないとな」
交代でお湯を使って体を拭いたあと、兵団服に着替えてキッチンへ向かう。広目の廊下は北向なので、明り取りの窓はあるものの、薄暗くやや肌寒い。
ベルトルト「寒っ…」
ユミル「寒がりなのか、ベルトルさんは」
ベルトルト「包帯してるから、こっち半分の肩を出してシャツ着てるんだよね」
ベルトルト「その上に、袖を通さないでジャケットを肩に引っ掛けてるだけだから、素肌が出ているところがあって、寒いんだ」
ユミル「そうか。そうだな、言われてみれば」
ユミル「私は包帯でお腹が暖かいだけだ」
ベルトルト「暖かいの羨ましい…」
-
ユミル「でも、着膨れして、太ったように見えて、嫌だなぁと思うけどな」
自分が思ってる事を、さらりと口にしただけなのに、どデカい情人は「えぇっ!?」とやたらと驚いた声を上げて、立ち止まり、眼を丸くする。
何がそんなに驚くポイントなのか、解らない。こちらもぽかんとした顔で、見つめ返してしまう。
ベルトルト「ユミル、そんな事気にするの?女の子なのに、化粧っけ無いし、身を飾るものは髪飾り位だし」
ベルトルト「普段着はシンプルなシャツとズボンだし、もっと見た目に気を使った方がいいのになって思ってた位なのに、太って見えるとか、気にするんだ」
要するに、見た目の女子力低めの自分が一般女子みたいな、気にする発言をしたから驚いたと言うことか。
-
失礼な奴だと思う。
確かに、わかりやすい洒落っ気は、育ちも性格もあって着飾るのはとても恥ずかしくもあり、まずない。
しかし、身なりを清潔に保つ事とか、洗濯は丁寧にシワを伸ばしピシッとさせるとか。
匂い袋の香りも厳選した妥協しない組合せを使ってるし、肌や髪だって、クリームや薬草使って手入れしているし、美容的な筋肉トレーニングも欠かさない。
結構見えないところで気を使っているのに。
恋人の評価に自尊心が僅かに揺らぎ、少しだけ苛立つ。やっぱり、他の女共のように着飾った方が好きなのだろうか。
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ユミル(…節穴野郎が)
ユミル「んだよ、私の事そう言う評価な訳」
睨み付けるように見上げると、見開かれた優しげな垂れ目は視線を泳がせる。
ベルトルト「あー、えっと…」
何が失礼な発言だったか思い返して探している、と言ったところか。解らないならいい。たぶん解らない。こう言う奴なのだ。思ってる事をただ口にしただけ。
ユミル「私はスタイルには自信があるんだ。だから、腹が出てるように見えるのは嫌なんだよ」
ユミル「まぁ、顔の造作については身の程をわきまえているがな」
しおらしくすねた様を見せると、彷徨っていた視線がピタリと戻り、こちらを見つめ返す。
ユミル(さぁ、面白発言をした報いだ。私を持ち上げてくれよ?)
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ベルトルト「スタイルについては、手足も長いし、すらりとして筋肉質で、出るとこは出ていて素晴らしいよ」
ユミル「ほぅ」
ベルトルト「顔については、わきまえること無いよ?」
ユミル「あぁ?」
ベルトルト「鼻筋はすっと通っていて形がいいし、眼は切れ長に長い睫毛なのがとってもクールで知的だ。唇は肉付きが薄いのが色っぽい。全体的に整って美人だよ、君」
ベルトルト「そんな中、そばかすはご愛敬だ」
ベルトルト「隙がない顔の作りを少しだけ親しみ安くしてる」
ベルトルト「可愛くて好きだよ?」
期待以上の賛美を早口で捲し立てられ、気恥ずかしくなる。照れ隠しに、視線を反らし腕組みをする。
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ユミル「お前、そんなに持ち上げられると、かえって嘘臭いぜ」
ベルトルト「嘘じゃないよ。僕の考えを知って欲しくて言葉を重ねてるだけだよ」
ベルトルト「それとも…僕の言う事、信用出来ないの?」
今度は向こうがすねだした。まだ互いの気持ちを確認しあってからさほど時間がたっていない。
相手の考えをを、もっともっと知りたくて何度でも確認したい。帰ってくる答えは解っているのに。
ユミル(これじゃ私ら、クリスタと変わんねぇな)
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ユミル「ふん…信用するさ。好きだからな」
ベルトルト「ありがとう、ユミル。愛してる」
ユミル「お、おぅ…」
ユミル(…このやりとり気恥ずかしいな。そこらのばかな女に、私がなったみたいで)
ユミル「…移動中は寒いだろうから、膝掛け貸してやるよ。ぐるぐる巻きにしておけ」
ユミル「あと、なるべく肌が出ないように、包帯あとで巻き直してやるな」
ベルトルト「うん、お願い」
大きな扉に近付く度に、楽しそうな会話をかわす声と、食欲をそそるいい匂いが近付き、鼻腔を擽る。
-
クリスタ「仕度できた?ユミル、ベルトルト」
ライナー「おう、もう食事でいいか?」
扉を開けると眩しい朝陽の中で鍋を振るう、悪魔の皮を破り子羊を助け出した厳つい王子様と、皿を並べる、悪魔の皮を脱ぎ捨てて子羊に生まれ変わった愛くるしい女神がにこやかに迎え入れてくれた。
ユミル「おーぅ、今朝も作って貰ってすまないな」
クリスタ「いいの。ライナーと二人でご飯作るの楽しいから、勝手に作らせて貰ってるんだよ。玄関開けたらここ丸見えだし、誰かに見られても、困るしね」ウフフ
ベルトルト(?)
ベルトルト「ありがとう…ライナー、クリスタ」
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クリスタ「ベルトルト、もうすぐできるから、ユミルと座って待っててね?」
屈託のない真っ直ぐな笑顔に多少気圧されつつも、言葉を返す。席に座り、ユミルが凭れて来るのを待つ。
しかし、テーブルに頬杖をついて、楽しげにクリスタと談笑をしている。
椅子のクッションも片付けられたのか、無い。今日出立するので、仕舞ったのか。
少し物足りない気持ちを胸の奥に感じながら、食事の仕度が整えられるのを待った。
-
ライナー「今日は、昼前には出立するぞ」
クリスタ「それまでに部屋の片付けをしなくちゃね」
ユミル「適当にやっちまおうぜ。どうせチェックなんてしないんだ」
ライナー「使わせて貰ったのだから、綺麗にして返すのが当たり前だ。手を抜かずやろうぜ」
ベルトルト「…」
今朝もかなり美味しい出来の、暖かな野菜スープと卵と野菜を挟んだパンを頬張りながら、今日の予定を確認する。
皆、普段と変わりない。自分だけが挙動不審で、居心地の悪さを感じたままだ。
-
クリスタ「ここは私達が片付けるから、ユミルとベルトルトは部屋の掃除をお願い」
クリスタ「ベッドメイキングはマットレスがちょっと重いから気を付けて?私達の方は済んでるから、床を掃くだけでいいよ」
にこやかに分担を決めていく様子に、違和感を持つ。自分とユミルは怪我をしている筈なのだが。重たいマットレスを任せるとはどういう事だろう。
ベルトルト「…僕はいいけど、ユミルは休んでいて貰おうかな」
クリスタ「どうして?」
ベルトルト「だって怪我を…」
-
クリスタ「もう治したよね?」
ベルトルト「…えぇっ?」
クリスタ「あなたも治ってるんでしょう?」
ベルトルト「えぇっ!?」
かまをかけられているのだろうか?ライナーが巨人なら、自分も巨人だと思ったのか。それとも盟友か恋人が話したのか?そして、なぜユミルも巨人だと?
ユミル「…クリスタはずっと前から私がアレだって知ってる」
ユミル「だから、わたしの傷が表面しか無いのも、知ってる」
ベルトルト「…何でそれ、教えてくれなかったの?」
ユミル「だって、いろんな話がまとまったのは昨夜だし。私らがお付き合いすることになったのだって、一昨日だろ。話す間がない」
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ユミル「だから、今教えてやったぞ?」
ベルトルト「それに…何で僕の事まで?」チラ
ライナー「…俺は言っていない」フルフル
狼狽える盟友と、素知らぬ顔の恋人に疑いの眼を向けていると、ワクワクとした顔つきで女神が話に乗り出してきた。
クリスタ「一昨日ライナーを心配して鍵の掛かった扉に手をかけていたのは、両手だったよ?」
クリスタ「折れてるのに、両手でドアの取手をガチャガチャさせて、それってまさかユミルと同じで治ってるのかなって」
クリスタ「夜中に、怪我したままで抜け出して、どこかへ行っていたのも怪しいしね」
クリスタ「そこでユミルに会ったんでしょう?」
ベルトルト「え…」
-
クリスタ「ユミルから、治しに行くのに巨大樹の林の中の小屋に行くって聞いてた」
クリスタ「あなたも偶然、そこに行ったんじゃない?」
クリスタ「怪我する前と、した後のあなたたちの親密度が急に増しすぎだよ」
クリスタ「鉢合わせして、一緒に治して、その後は二人でお楽しみだったんじゃない?」
ユミル「ふっ、さぁな〜…」
ベルトルト(したのバレバレだ)
-
クリスタ「それに、昨夜ライナーが傷を治すときに、ベルトルトが『待て』って言ったじゃない」
クリスタ「ライナーの事も知ってるし、これはあなたもアレなんだなって思ったんだけど、違うかな」
どやぁ、と言った擬音がつきそうな得意気な顔で、こちらを見ている。
名推理…なのか?少し考えたら解ることだ。色々、不注意だった。自分の正体も知られてしまうなんて。
ライナーを見遣ると、ゆっくりと頷いた。言ってもいいと言うことか。
ベルトルト「…違わないです」
-
クリスタ「当たっちゃったよ、ライナー」
大きな青灰色の瞳をくるめかせながら、嬉しそうに隣の席の紳士な野獣の胸に凭れ掛かる。
ライナー「鋭いな、クリスタ。頭を撫でてやろう」ナデナデ
クリスタ「うふふ、嬉しい」
ユミル「惚気けてんじゃねぇよ」
無いとはおもうがこの事に関して、一応念押しをしておかなければならない。何かの拍子に誰かに喋られたら、僕らは破滅だ。
ベルトルト「…クリスタ、誰にも言わないでくれる?」
クリスタ「言わないよ。だって私、ライナーとずっと一緒に居たいもの」
情人の胸に凭れ、幸せそうに細められていた眼に、翳りの色が浮かび上がった。体を起こして、ベルトルトをひたと見つめる。
-
この目は、悪意がなくても苦手だ。今までの事もあり、見つめられると体が強張り、警戒してしまう。
クリスタ「…ベルトルトにも、おかしな事いろいろしちゃって、ごめんなさい…」
クリスタ「昨日みんなに言われて、私が本当に好きなのはライナーなんだって気付いたんだ」
クリスタ「それに、大切な秘密を見せてくれたライナーの気持ちも、信じられる気がしたの…」
ベルトルト「じゃあ、あぁいった事は…」
クリスタ「…しない。ユミルもあなたも巻き込まない」
クリスタ「もう、気持ちを試す必要が無いから」
ベルトルト「…そうだね」
クリスタ「もう、ベルトルトの事も、変な目で見ないよ…本当にごめんなさい」
ベルトルト「…どういった理由であんな目で見られていたのかは解らないけど、そうしてくれると、助かるよ。僕も」
-
ユミル「さてと、食後の紅茶を飲もうぜ」
ユミル「今度は私が入れよう」
ベルトルト「…睡眠薬入りの?」
ユミル「さぁ、どうだろうな」
-
茶葉をポットに入れて、熱い湯を勢いよく注ぎ込む。ゆっくり開いていく茶葉を待ちながら、カップに湯を注ぎ、温めておく。
ポットの中で上下していた茶葉が落ち着いて、湯が程よい琥珀色に色づいて下に沈んだ頃、カップの湯を捨てる。
茶漉しで、葉を取り除きながら、紅茶を注いでいく。
淀みなく行われる動作は無駄がなく、長い指先の滑らかな動きは美しい。全てが小慣れていて、洗練されていた。
ベルトルト(お茶を入れる後ろ姿、綺麗)
ベルトルト(ユミルの好きなところ、増えた)
-
ユミル「ほら、お茶が入りましたよ…っと」
ライナー「すまんな」
クリスタ「ありがとう」
ユミル「ほら、ベルトルさん」
ベルトルト「…ありがとう」
ライナー「…昨日と同じやつだな。旨い」
クリスタ「美味しいね、ライナー」
ライナー「クリスタの入れてくれた紅茶の方が旨いがな」
クリスタ「うふふ、本当?」
ライナー「本当だとも。信じてくれ」
クリスタ「…信じるよ」
ユミル「お熱いな。紅茶もお前らも、な」
-
ユミル「ベルトルさん、飲まないのか?」
ベルトルト「あっ、いや…飲むけど」
ユミル「疑ってんのか?」
ベルトルト「紅茶にはね、トラウマがあるんだ」
ユミル「そうなのか、知らなかったな」
ベルトルト「…」チラ
ユミル「私を信じてくれないのか?」ニコ
ベルトルト「…信じるよ」
ティーカップに指を沿わせ、持ち上げる。顔に近付くと、昨日と同じ柔らかい花の香りが鼻腔にまとわりつく。
-
これから掃除をしたり出立したりするのに、薬を混ぜる理由が無い。躊躇するのは、気分の問題だ。
ゆっくり口に含むと、優しい甘さが口腔内にふわっと広がる。淹れ方の違いなのか、昨日よりも渋味が少なく、味の奥行きを感じた。
けれども、舌を刺すような刺激はいくら待っても、訪れなかった。
ベルトルト(あの刺すような味は、睡眠薬だったのか)
ベルトルト(覚えておこう…)
ベルトルト(って、そんなシチュエーションまたあったら嫌だな)
-
ユミル「旨いか?」
いたずらっぽく片方の口の端を吊り上げて、にやりと笑う恋人がいる。
胸の奥から急激に、復讐心と愛おしさ、苛立ちと深い恋慕のない交ぜになった感情が、勢いよく噴き出してくる。
こみ上げる複雑な感情に身を任せ、衝動的に肩を乱暴に抱き寄せ、回りの柔かな肉ごと噛みつくように唇を喰んだ。
吃驚したように見開いた眼を間近で見ながら、喰らいついた唇を一旦離し、舌を出してゆっくりと、ひと舐めする。
ベルトルト「…美味しいよ、ユミル」
ユミル「っ…!? おい、なにすん…」
ベルトルト「僕たちもお熱いよね?紅茶と同じか、それ以上」
クリスタ「」キャー…
ライナー「」キャー…
ベルトルト「ねぇ、君達」
ベルトルト「君達がこのくらいで照れるとか、ほんとあり得ないから」
-
今日はここまで
もし レスくださる方がいたら 聞きたいのですが ゲイ的表現は いりますか?
もう 終わりに近いところを書いているのですが
その前に いれるかいれないかで迷っています
レスが無いようなら 折角書いたのでそのまま投下します
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更新乙
ゲイは好みじゃないがせっかく書いたのならそのまま投下すればいいと思う。ぞ。
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やだ嬉しい 結構早くのレスありがとう
もう少しで終わりになるとこまで書いてるので 完結したらまとめて投下します
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ユミル「これ、重てぇ…」
ベルトルト「僕が引っ張るから、ユミルは下がって」
ライナーとベルトルトに割り当てられた部屋のベッドメイキング。新しく配られた洗い立てのシーツと毛布を綺麗に掛けて、次に利用する兵士がすぐに使えるように整えておく。
マットの下にシーツを入れ込むために、壁から少し離さなければならない。
とにかく厚みがあって重たいマットで、動かすのも一苦労だ。これだけ重たいなんて、中身は一体何なんだろうかと思う。
ベルトルト「…いよっ、と」
腰を落として、体重を掛けて引くと、腕が入るくらいには隙間を開けることに成功する。
ユミル「おう、流石だな」
ベルトルト「どうも」
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ユミル「前の奴、てぇ抜いてんな」
前回の使用者はマットをずらさなかったようで、指で壁との殆どない隙間に、無理矢理詰め込んだのか、端が折り込まれておらず、くしゃくしゃになって丸まっていた。
ユミル「壁が痛むだろうに、なぁ?」
ベルトルト「そうしてる人多いんだね。そこの壁、擦りきれてる」
ユミル「ほんとだなぁ。私らも、もう一つのベッド、そうするか?」
ベルトルト「ライナーも言ってたでしょ。ズルしたら駄目だよ。きちんとしよう」
ユミル「律儀だな」
ベルトルト「美徳でしょ?」
ユミル「私は悪徳の塊だからな」
ベルトルト「またまた…そんなに悪ぶらないでよ。実はおりこうさんなんでしょ」
ユミル「…煩っせぇ、そっち持て」
ベルトルト「はいはい」
-
シーツをマットの下に入れ込んで、シワを伸ばし整えて、元の位置に戻す。次はもう一つのベッドの番だ。また重たいマットレスを引っ張る。
ベルトルト「うん、しょっ、と」
ユミル「はい、ご苦労さん。シーツの端持ってくれ」
ベルトルト「うん」
ベルトルト「ねぇ、ユミル」
聞きたい事が沢山ある。今まで自分達にしてきた事の理由を。作業しながら何気なく聞いてみる
ユミル「何だ」
ベルトルト「クリスタが僕の事、変な目で見てたのは知っていたの?」
ユミル「知っていた」
ユミル「いちいちビクビクして、可哀想だと思ってたがな」
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ベルトルト「何であんなに悪意がこもってたの?殺意を向けられてるなって感じた事もあるし」
ユミル「まず、クリスタは元々、自分に関心のないお前が嫌いだった。お前もクリスタが嫌いだった」
ベルトルト「違和感を感じてたんだ。いかにも、いい子を演じてますっていう振るまいがさ」
ユミル「ベルトルさんにはそう見えていたんだな」
ユミル「…マルコが貸してくれた恋愛小説でさ」
ベルトルト「ふぅん…マルコね」
ユミル「突っ掛かんなよ、いちいち」
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ユミル「初めはお互い好きじゃない位の認識から始まって、男側の八つ当たり的な行動がきっかけで、体の関係を持つんだけど」
ユミル「だんだんエスカレートしてど変態性行為に発展していく訳だ」
ベルトルト「へえ」
ユミル「でも女が先に情が湧いて、凄く尽くすんだ。酷いことしてた男もそれに気が付いて、好き同士になるんだ」
ユミル「好きじゃない、から、好きに気が付いたんだよ、どろどろだけど、結果絆が強いよラブラブだよ良かったね」
ユミル「って言う話し」
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ベルトルト「ど変態性行為ってさぁ…君らさ、なに読んでんの」
ユミル「マルコが貸してくれたんだ。恋愛小説読みたいって言ったら。女子の間ではかなりの人気だったぞ?」
ベルトルト「ど変態…」
ユミル「借りようとか思ってるのか」
ベルトルト「思って無いよ!! ど変態って何かなって、ちょっと想像しただけだよ」
ユミル「想像すんなよ、ど変態を。気になるならどんなものか、実践してやろうか?」
ベルトルト「ど変態を読んだのは、君でしょ。それに実践なんかしないよ、ユミルのど変態」
ユミル「ダハハッ、聞きたかったら内容教えてやるよ」
ベルトルト「まぁ、聞いてあげてもいいけど?話したいなら」
ユミル「ふっ、気になってんじゃねぇか」
-
ユミル「…話の続きだが、だから、嫌い同士のベルトルさんと、ど変態性行為に持ち込む隙を狙ってた事と」
ベルトルト「そんな本に影響されないでよ…」
ユミル「…あとな、ライナーとこちらを嗅ぎ回ってるのに気づいてたから、敵対心があった事と」
ユミル「私がベルトルさんに気を持っちまったから」
ユミル「私を、と、私に、ベルトルさんを取られると困る思ったんじゃねぇの」
ユミル「あと、クリスタはお前の事好きじゃないのに、好きにならなきゃいけないのが嫌だったんじゃねぇの」
ベルトルト「嫌ならやめてくれればいいのに…迷惑だな」
ベルトルト「…色々な理由だね。僕クリスタに、狙われてたんだ。マルコの本のせいで」
-
ベルトルト「マルコはいつも、僕の邪魔をするなぁ」
ユミル「気のせいじゃね?」
ユミル「まぁ、計画としては、クリスタに気のある風なライナーを取り込んで、それからベルトルさんを引っ張り込もうと思ってたんだが…」
ベルトルト「計画通り、怖っ」
ベルトルト「…何で助けてくれなかったの?…僕の事、気になってたんでしょ」
ユミル「そんときは、クリスタが幸せになるならって行動してたし、ベルトルさんは只の人だから好きでも付き合えないと思ってたし」
ユミル「気にはなってたが、どうにかなろうとは考えて無かったしな」
ユミル「でも、注意はしてやってたぞ?回りに気付かれないように」
ベルトルト「近くに来てくれたり、擽って誤魔化してくれたりとか…か」
-
ユミル「クリスタがお前を欲しがれば、取っ捕まえてクリスタにくれてやろうと考えてた。昨夜まではな」
ベルトルト「薬盛っちゃうし、他の男とヤっちゃうし、そうだよね、そうなんだよね。どんなに好きだと言い合っても、僕は結局二番なんだ」
ユミル「昨夜までだって言ってんだろ、話聞けよ」
ベルトルト「」プイ
ユミル「…クリスタとベルトルさんがしてるとき、凄く嫉妬したんだ」
ユミル「それまではクリスタの為なら、って考えてたんだが、ベルトルさんを渡すのは嫌だって思った」
ユミル「ライナーにクリスタを任せる事ができたから、ベルトルさんを渡さずに済んで、良かったなぁって、思ってるんだぜ」
-
ユミル「…だから、拗ねんな。今はベルトルさんが一番だから」
ベルトルト「絶対に?」
ユミル「クリスタだって、今はライナーが一番さ。朝の様子みりゃわかんだろ、私には話だけで、ライナーには体全体でベッタリだ」
ベルトルト「確かに、ユミルに対して体の接触が少なかったかも」
ベルトルト「…寂しい?」
ユミル「そこを、穴埋めしてくれよ」
ベルトルト「盛り上げてあげるよ、そこを」
ユミル「ふっ…」
-
ベルトルト「ねぇ、今後クリスタを上位に捩じ込むためとか、利用するために、誰かに体を自由にさせたりしない?」
ユミル「上位にならなくても、ライナーが幸せにしてくれるって言ってんだ」
ユミル「もう私がする事、無いだろ…」
ユミル「これからは、ベルトルさんだけだ」
ベルトルト「…そうしてよ。誰かにユミルが抱かれるなんて、絶対に嫌だもの」
ユミル「…そうだよな。私も嫌だな」
ユミル「毛布も掛けたし、掃き掃除も終わりだ。そろそろ包帯巻いてやるよ」
ベルトルト「…うん、お願い」
-
ライナー「皆、忘れ物は無いな?」
片付けも終わり、馬車に荷物も積み込んだ。
包帯を巻いて、腕を吊ったベルトルトと、クリスタに肩を支えて貰ったユミルが荷台に乗り込む。
御者台にはライナーとクリスタが座り、馬車を曳く二頭の馬の手綱を持つ。出立の手続きはもう済ませた。
後は村の出入り口で担当の者にチェックをしてもらい、訓練所までの道のりの中間地点の村の、兵団がよく利用する宿へ向かう。
ユミル「何だか雲行きが怪しいな」
ベルトルト「朝は晴れていたのにね。雲が黒くなってきた」
ユミル「降ったとしても、幌つきだ。前と後ろの幕を下ろせば私らと荷物は濡れないが、御者の二人はびしょ濡れになるな」
ベルトルト「なんか申し訳無いな」
ユミル「私ら一応傷病人だからな」
ベルトルト「元気なんだけどね」
-
荷物に背中を預け、横に並んで座り、ぽつりぽつりと話しながら、遠ざかる景色を眺めつつ、揺られて進む。
砂利道を木で出来た車輪で進むので、かなり揺れて、音も立つ。
御者台の二人とはそんなに距離は無かったが、たまにクリスタの笑い声が馬の足音に混ざって漏れ聞こえる以外、話し声は全く聞こえない。
ユミル「本当に怪我してたら、揺られるだけで痛くて堪らないだろうな」
ベルトルト「この震動は、響くだろうねぇ」
ユミル「…退屈だな」
ベルトルト「仕方ないよ」
ユミル「…夕飯、まだかな」
ベルトルト「さっき休憩してお昼ご飯食べたばっかりじゃない。兵団支給の固形食料と水をさ」
-
ユミル「あぁ…」
ユミル「ふぁぁ〜」
ユミル「…暇だな」
ベルトルト「五十八回目」
ユミル「はぁ?」
ベルトルト「暇だなって、馬車に乗ってからユミルが言うの」
ユミル「ふん…。しかし、退屈だな」
ベルトルト「四十三回目」
ユミル「ほぅ、数えてんのか。面白ぇ」
ベルトルト「僕の記憶力をなめないで欲しい」
-
ユミル「なぁ、ベルトルさん」
ベルトルト「二十二回目」
ユミル「寒いな」
ベルトルト「十六回目」
ユミル「尻が痛い」
ベルトルト「十一回目」
ユミル「なんか面白い話をしてくれ」
ベルトルト「四回目」
-
ユミル「ベルトルさん」
ベルトルト「二十三回目」
ユミル「なぁ、ベルトルさん」
ベルトルト「二十四回目」
ユミル「好 き だ」
ベルトルト「…一回目」
ユミル「ははっ…」
ベルトルト「ふふっ…」
-
ガタガタ…ッ!!
ユミル「ぅわっ…と」
ベルトルト「大丈夫?」
ユミル「なんだ?こんなところで止まって」
ライナー「おーい、雨が降ってきた。すまんがベルトルト、後ろの幕を下ろしてくれ」
ベルトルト「わかった。やろう」
-
前方の幕はライナーが下ろす作業をしている。
後ろに向かい片手を伸ばして、上方の留め具を外すと、ばさりと幕が降りて薄暗くなる。ユミルが捲れないように、裾を留め具で固定する。
今はまだ降り始めで大した事はないが、厚く黒く立ち込める雲と、時折吹いてくる冷たい風が、更に雨足が強まりそうだ。
ライナー「あと三時間ほどで、宿に着くだろう。よっぽど酷くならない限り止まらず行くぞ。暗くて退屈だろうが、辛抱してくれ」
ユミル「ライナーとクリスタこそ、私らだけ雨宿りですまないな。よろしく頼む」
クリスタ「私達は平気だよ?ね、ライナー」
ライナー「そうだな。でもクリスタ、もう少しマントの襟を絞ろうか。雨が入らない様にな」
クリスタ「うふふ、ありがとう」
ライナー「…さぁ、出すぞ!!」
ユミル「いいぞ、やってくれ!!」
-
ガタ…ガタガタガタ…
動き始めた馬車は、大きな音を立てつつ、揺れながら進む。
幌の中は、隣に座っている互いの顔がやっと見えるという位の明るさしかない。風が入らなくなったせいか、少し暖かく感じる。
ユミル「幕下ろすと、暗いな」
ベルトルト「一回目」
ユミル「もう、数えんなよ」
ベルトルト「…僕の暇潰しなんだ。構わないでくれ」
-
ユミル「なんだよ、お前だけ暇潰しをしていて、ずるいな」
ベルトルト「中から外が見えないって事は、外からも見えないね」
ユミル「まぁ、兵団の馬車だし、透けたりしないし、隙間は無いように作られてるからな」
ベルトルト「目的地に付くまであと三時間、馬車は止まらないね」
ユミル「マジかよ、暇だな」
ベルトルト「五十九回目」
ユミル「お前さ〜…」
ベルトルト「雨の音、強くなってきたね」
ユミル「ざんざん降りだな。二人とも大変だろうにな。悪い気がするな」
-
ベルトルト「…ねぇ、ユミル。寒い」
ベルトルト「こっち来て」
ユミル「…ふん、しょうがねぇな」
膝を立てて座っているベルトルトの、脚の間に引き寄せられる。広く逞しい胸板に背で凭れ、後ろから抱き締められた。
巻き付けた膝掛けを、二人で羽織ることができるようにように、ユミルが掛けなおす。幌を打つ雨の音が益々強くなってきた。
外の音はほぼ、聞こえない。中の音も、外には聞こえない。
ユミル「暖かいな」
ベルトルト「…うん」
-
耳の後ろに顔を寄せると、いつもの良い香りがして、嬉しくて幸せな気持ちが胸の中に広がる。と共に、不埒な劣情も頭を擡げてくる。
ユミル「ん…擽ってぇ…な…」
そう言いつつも首を傾げて、感じやすい部分を自ら晒す。唇を寄せて、這わせようとするが、馬車の揺れは大きく、上手く出来なくてもどかしい。
ベルトルト「揺れが酷くて、キス出来ない」
ユミル「…ははは、残念だったな」
ベルトルト「違うところを触るから、別にいいんだよ」
二人で羽織った膝掛けの中で、自由な手の先を、マントの合わせ目の中に滑り込ます。
そのまま、ジャケットの下のシャツのボタンに指を掛け、上からひとつひとつ外していく。三つ目を外したところで、手のひらを更に奥へと差し込んでいくと、暖かな地肌に触れる。
-
ぴくり、と恋人の体が反応する。
ユミル「ん、手…冷たいな」
ベルトルト「…ごめん」
謝りながらもやめる気は更々ない。胸当ての中の柔らかな膨らみをゆっくり揉みしだきながら、尖端の固く絞まりつつある小さな突起をつまみ上げる。
ユミル「…んあ…っ」
ベルトルト「両手で触りたかったな」
ユミル「仕方…ないだ、ろ…ぁ…っ」
ベルトルト「片一方じゃ物足りないでしょ?」
ユミル「はんっ…ん、なこ…と、ねぇ…よ…」
指先で、突き出した小さなしこりを嬲るうちに、徐々に恋人の吐息が、甘く、荒いものに変化していく。
-
力なく凭れ掛かってくる重さは心地好く、下腹部を熱く痺れさせて、更なる婬情を掻き立てる。
ユミル「なぁ…ベル…ト、ルさん…」
ベルトルト「何?」
ユミル「腰に…当たっ、てる…んぁ」
ベルトルト「…ねぇ、ユミル。そこ、あんまり触らないで。我慢出来なくなっちゃうから」
ユミル「…して、や…る」
ベルトルト「…よく聞こえないよ」
雨と馬車の進む音に掻き消され、聞こえない。顔を近付けると、体をよじって振り向いた恋人が、耳のそばに唇を寄せてきて、吐息混じりに囁く。
ユミル「…口、でし…てやる…」
-
微かな刺激だが、言葉の内容も合わさって、湧き出す甘い疼きは大きく、体中を痺れさせ、血液が一点に集中する。
衣服の上からユミルに添えられた手のひらの下で、更に固く張り詰める。
ユミル「ここ…出、せ…」
ベルトルト「…えっ、揺れてるけど、出来る?」
ユミル「歯が、当たった…ら、ごめん…な」
片手で、ベルトの金具を探っていると、靭やかな両手がのびてきて、外していく。
ベルトルト「…慣れてるね」
ユミル「煩っせぇ…」
あまりの手際良さに、何度もこのような場面があったのだろうかと思うと、過去に嫉妬し、胸が締め付けられ、痛む。
-
腿までボトムスと下着をずり下ろされる。下半身の一部分だけが、無防備に晒されている。
ユミル「めちゃめちゃ元気だな。がっちがちだ」
ベルトルト「仕方ないじゃない、お預けだったんだ」
ユミル「はは、悪かったよ」
ベルトルトの前に蹲り、下腹に顔を埋める。吐息が皮膚を掠めると、それだけで体が、ぴくりと反応し、呼吸が乱れてしまう。
張り詰めた屹立の中ほどを手のひらで包み込む。唇は屹立の茂みの中の付け根部分に寄せられ、喰まれる。
暖かく滑る舌が、軟体動物が這い回るように、じっくりと舐めてきた。
ベルトルト「う…っ、…は、ぁ」
-
びりびりと甘く痺れた快楽は、体を駆け巡ると同時に、尖端の一番敏感な所に集まり、より強い刺激を待ちわびて、早くも粘着く雫を滲ませてきている。
さほど敏感では無い位置だが、昨夜の余韻をまだ残すのか、酷く快感を生み出して、早くも達してしまいそうな予感がした。
ユミル「ふっ…ぴくぴくして、可愛いな」
ユミル「…まだ始めたばかりなのになぁ」
ベルトルト「ちょっ、と…そうい、うこと…言わないで、よ…」
ユミル「出すときは言ってくれよ。顔にかかるとまずいからな」
ベルトルト「ん…っ、わかっ、た…」
-
張り詰めた固まりに添えていた手を、更に下へ這わせつつ、ずらされていく。快感のさざめきが、通り過ぎた後に残されて、散っていく。
ベルトルト「…ぅうっ…!」
ふいに、裏側を下から舐めあげられる。一番敏感な所の手前で止まり、また根元に戻ってしまう。むずむずとした疼きは大きく、抑え込む荒い吐息が漏れだしてしまう。
ベルトルト(焦らすつもりか?いつもの仕返しだな)
唇で軽く吸い付いて挟みつつ、舌を添わせ上下にスライドする。しかし、道半ばで折り返してしまう。
張り詰めた中に生み出される甘い疼きは、駆け抜ける場を与えられず、溜め込まれるばかりで、堪らなくもどかしい。
-
ベルトルト(これ…自分でした時想像したやつだ)
ベルトルト(とっても気持ちいい)
ベルトルト(現実で、ユミルにして貰ってるから、余計に)
ベルトルト(舌の動きが暗くてよく見えないのが残念だけど)
ベルトルト(きっと厭らしくて)
ベルトルト(…慣れてる感じが気になっちゃうなぁ)
ベルトルト(でも、気持ち良い。けど…もっと上まで…)
-
舐められも触られもしない尖端のほんの小さな裂け目からは、粘る涎がだらだらと溢れて、雫を作り、垂れさがる。
刺激を期待しすぎて、張り詰め過ぎて、痛いくらいだ。
ベルトルト「ねぇ、ユミ…ル」
ユミル「…何だ、出るのか?」
ベルトルト「まだ、だけ…ど、あまり、焦らさないで…よ。苦し、い」
ユミル「いつもの仕返しだ」
ベルトルト「も、う…お願…い…だ…」
ユミル「…仕方ねぇな」
-
突き出した舌は根元からじわじわと登りだす。ゆっくりと尖端に進むにつれ、より大きな快感を期待して、肉の屹立がびくびくとうち震えてしまう。
一番敏感な、皮膚のひっつれた部分に到達すると、尖らせた舌先でちろちろと舐めて擽られる。
ずくん、と心臓が跳ねて息苦しさを伴いつつ、存分に溜め込まれた快感は開放され始め、体中に少しずつ散り始める。
ベルトルト「…は、っ…! 凄、く、いい…」
ユミル「ふふ…」
しかし、もっと大きな刺激を与えて欲しい。そろそろ耐え難い程に膨らみすぎている。
-
ユミルに手を伸ばし、纏めてある髪の毛に指を差し込み、軽く頭を押さえこむ。
ベルトルト「…は、っ…ねぇ、お願、い…」
ベルトルト「もっ、と…強…く、ねぇ…」
ユミル「我が儘だな…」
笑みを含んだ物言いはとても艶っぽく、更に気分を高揚させた。
ベルトルト「ぅあ…っ!!」
べろりと一度つれた皮膚を強く舐めあげられたと思うと、いきなり唇の奥に咥え込まれた。ずぶずぶと舌を巻き付かせながら、口腔内をゆっくり進む。
軽く吸い付きながらの上下の動きは、更なる疼きをまたも溜め込み始め、それは高みを目指して、じわりと駆け登り始める。
口に入りきらない根元の部分を手で扱かれて、そこへの刺激も合わさって、悦楽に支配された頭の中の理性が霞みだす。
-
ベルトルト「はぁっ…ねぇ、そ、ろそろ…っ…」
ユミル「…ん」
限界が近い事を知らせたにも関わらず、動きはわざとらしく緩慢なままで、酷く焦らされ、もどかしさに堪えられない。
跳ね上がった心臓の鼓動は胸を苦しくさせ、息を乱して悦楽の溜め息を吐き出させる。
今度するときは、たっぷりと仕返しをしてやろうと、だいぶ遠くなった意識の中で、ぼんやりと思う。
ベルトルト「ねぇ、お願…い、早、く…」
ベルトルト「もっ、と…早く…」
ユミル「…んっ」
ベルトルト「はっ…!ぁ…っ!!」
-
ユミルの頭の動きが徐々に激しくなり、吸い上げられる力も増した。じりじりと足踏みしていた快感が、一気に駆け上がる。
ベルトルト「ね…出す、よ…」
ユミル「ん…」
ベルトルト「う…っ!!……っ!!…!!……ぁ、はぁっ!!」
悦楽の果ての激烈な快感は勢いよく弾けて、引き起こされた抗えない痙攣と共に、幾度となく排出されていく。
いつもなら達した後、直ぐに覚めてしまう気分の高揚も、ユミルと二人で迎えた後は、うっすらと余韻を残し幸福感に包まれる。
-
する行為は同じなのに、情が湧かなかった相手との事後の感情の違いに、驚きを感じる。
ベルトルト(誰にされたのよりも)
ベルトルト(今までで一番気持ちよかった)
ベルトルト(…ユミル上手いの?)
ベルトルト(この揺れの中でも歯が当たらなかったし)
ベルトルト(それはそれで嬉しいけど、今までがあると思うと、妬けるなぁ…)
排出を伴った痙攣がおさまると、まだ固さを保っている屹立した部分から、口をゆっくりと離し、恋人が顔を上げた。
-
ユミル「…うぇっ、不味い。水…」
ベルトルト「飲んでくれたのは嬉しいけど、不味いは無いでしょ」
ユミル「なんだと?旨いかどうか味わって見ろよ」
ベルトルト「…っ」
捩じ込まれた舌は、青くて生臭く苦く、やや粘着いている。殆ど飲み込んでしまったのか、微かな味しか感じられない。
優しく舌を絡ませたいが、馬車の揺れはそれを許してはくれなかった。歯を当ててしまいそうなので、軽く味わい、唇を離す。
-
ベルトルト「ん…別に平気」
ユミル「…んだよ、つまんね。経験済みかよ」
ベルトルト「ふふ、ごめんね」
片手しか自由にならないので、ユミルに手伝ってもらいつつ、衣服の乱れを整える。
そしてまた膝の間に恋人を引き寄せて、片手で抱き締めた状態で、膝掛けに二人で包まれる。互いの体温であたためられて、内部はとても暖かい。
宿に着くまで、あとどの位だろうか。
ベルトルト(外の二人には悪いけど)
ベルトルト(この時間がもっと長く続けばいいのに)
-
帰還途中
村の宿
店員「早馬で聞いてますよ。お代は既に頂いています」
店員「夕食と朝食がつきますから、時間になったら下の食堂に降りてきて下さいね」
ライナー「わかりました。よろしくお願いします」
村の中でも大きな宿で、兵士がよく利用すると言うだけあって、見渡せば茶色いジャケットだらけだった。
背中の紋章は様々だが、ぱっと見たところ翼の模様が多いようだ。
ライナー「部屋へ移動しよう。二人部屋が二つだ。男女で使おう」
-
階段を進み、部屋の前に着く。
ライナー「俺らの部屋は隣だ。鍵はこれだ、一つはユミルに」
ユミル「あいよ。荷物まとめて、一服したら食事だな。また会おうぜ」
クリスタ「またね、ライナー」
ライナー「あぁ。後でな」
ユミル「またな、ベルトルさん」
ベルトルト「うん、また後で」
-
扉を開け、部屋へ入る。
外はもう日が沈んでいるが、ランプがつけられた部屋は明るい。ベッドが両の壁際にひとつずつと、テーブルと椅子が二脚備えてある。
ベルトルト「…雨で大変だったでしょ」
ライナー「そうだな。俺は大したことは無い」
ライナー「クリスタが風邪をひかなければいいが…」
ライナー「首の締めが甘かったから、直してやったんだ。でも、結構濡れてしまった」
ライナー「御者は二人要るし、中に入っていろとも、言えないしな…可哀想な事をした」
ベルトルト「悪いね、僕ら元気なのに」
ライナー「まぁ、仕方があるまい。一時はだいぶ痛い思いもしたのだしな。動けないのも、大変だろう」
ライナー「…軽くシャワーを浴びてくる」
ベルトルト「暖まって来なよ。君も体調を崩したら大変だからね」
ライナー「おう」
-
風呂場に盟友が消えたところで、ほっと一息つく。昨日一昨日の出来事があり、二人になった時に、今までのように寛げなくなっていた。
ベルトルト(気まずいよ…二人きりになりたくない)
ベルトルト(ライナーと何を話せば良いんだ)
ベルトルト(困るなぁ…今後、どうしよう)
ベルトルト(それにしても、なにかにつけクリスタ、クリスタだな)
-
ベルトルト(恋人と言うか…言動が保護者だよね)
ベルトルト(クリスタも幼い所があるから、それで調度良いのかも知れないけど)
ベルトルト(親友を取られちゃったみたいな気分だ)
ベルトルト(クリスタもユミルを取られた気分なんだろうな)
ベルトルト(ユミルと付き合うのは嬉しいけど)
ベルトルト(寂しいな。少し)
とりとめのない考えをめぐらせていると、盟友が脱衣所の扉を開けて、部屋に戻ってきた。
-
食堂にまた行かなければならないので、濡れていない兵団服に着替えている。
ライナー「おう、あがったぞ。待たせたな」
ベルトルト「うん…そろそろ良いくらいかな。食堂行く?」
ライナー「そうだな。声かけて行くか」
扉を開けて廊下に出ると、調度ユミルとクリスタも鍵をかけているところのだった。クリスタも湯上がりのようで、髪が少し濡れている。
ユミル「おぅ、奇遇だな。食事だろ?行こうぜ」
ライナー「あぁ、行こう。クリスタ、髪が少し濡れているぞ。冷えないか?乾かしてからでもいいんだぞ?」
クリスタ「大丈夫よ?後でまたユミルと一緒にゆっくり入るから良いの」
-
屈託ない笑顔でいい放った言葉の中に、気になる部分があったような気がした。普通の女子なら聞き流すが、二人の今までの関係だと、違う意味にも取れてしまう。
ベルトルト「一緒に…?」
ユミル「変な想像すんな。訓練所だって皆で入るだろ?」
ベルトルト「まぁ、そうかもね」
ユミル「否定しないのかよ、変な想像の」
ベルトルト「しないよ。実際してたから」
ユミル「…ど変態」
ベルトルト「煩い」
ユミル「ひゃっ!? …痛ってぇな、ばか!!」
耳をつまんで引っ張ると、びくりと体を震わせる。つまんだ手は直ぐに払い落とされてしまった。
片方しかつまんでいないのに、両耳がほんのり桃色に色づいているのは、痛みの為だけでは無さそうだと思う。
-
ユミル「クリスタ、肩を貸してくれ」
クリスタ「うん、掴まって?」
ライナー「替わるか?クリスタ」
クリスタ「大丈夫よ?それに、ユミルをライナーに任せたく無いの」
ライナー「んん?」
クリスタ「ヤキモチだよっ。ライナーに他の女の子とくっついて欲しく無いのっ」
クリスタ「それに、ユミルに他の男の子とくっついて欲しく無いのっ」
ユミル「複雑な乙女心だなぁ」
ライナー「うむ…」
-
食堂に入ると、店員に指示され、席についた。一般市民もちらほらいるが、やはり兵団関係者が殆どだ。
ユミル「割りと空いてるな」
ライナー「食事時にはまだ少し早いからな」
クリスタ「野菜とお肉のシチューとパンと卵料理…あと、焼き菓子が付くんだって。もうすぐ新年になるから、年が明けるまでサービスで付くみたい」
クリスタ「甘いの、楽しみだなぁ〜」
ライナー「クリスタは甘い物が好きなのか?」
クリスタ「うん、大好き。休みの日はユミルとサシャと町に行って、甘味処巡りすることが多いんだ」
ユミル「サシャは、色んな店知ってるからな。付いていけば外れがない。もう、結構な数行ってるよな」
-
クリスタ「ライナーも、二人で今度行こう♪」
ライナー「二人でとは…クリスタとか?」
クリスタ「そうだけど…デートだよ?それとも皆で行く?」
ライナー「二人で行こう」
クリスタ「うふふ、行こうね」
ライナー「いや、そうか…二人で…ふふっ」
ベルトルト「顔、弛みすぎだよ」
ユミル「ベルトルさんも、二人で今度行こう♪」
ベルトルト「えっ!?」
-
ユミル「…微妙な顔すんなよ。クリスタの真似して可愛く誘っただけなのに」
ベルトルト「びっくりしたよ…何事かと」
ユミル「行くのか行かねーのか、どっちだよ」
ベルトルト「ねぇ、凄まないでよ…デートのお誘いでしょ…?」
ベルトルト「行くよ、勿論。二人でね」
食事が運ばれてくる。ほかほかと湯気の出ている暖められたパンと、熱々のシチューに野菜の卵とじ。
可愛らしく包装された袋の中に、木の実の薄いパイが二枚入っている物が付いていた。
-
クリスタ「わぁ〜可愛い♪」
ユミル「包まれてるから、持ち帰れるな」
ライナー「持って帰ったら、サシャに狙われるぞ」
ユミル「確かにな。帰る前に食っちまわないといけないな」
-
*
*
*
クリスタ「美味しかった〜おなか一杯」
ユミル「かなり旨かったな」
ライナー「量も結構あったな」
量が多く暖かく美味しい食事は、体を暖めて、気分を寛がせる。しかし、明日からの訓練所生活では、ここ数日食した物よりかなり質素な物に戻る事になる。
ユミル「訓練所に帰ったら、口が寂しくなるな」
ベルトルト「休みの日に、町に美味しいの食べに行けばいいよ」
ユミル「そうだな。どこの店、行こうか」
-
クリスタ「…あそこの兵士の人、女の人なのにばりばり働いてる感じがして、カッコいいね」
食堂を見渡していたクリスタが、隅の一角で会議らしき物をしている集団を見ている。背中の紋章は自由の翼。調査兵団のようだ。
ユミル「背がでかいしガタイがいいぞ。女か?あれ」
クリスタ「部下の男性に指示をどんどん出してて、立って食事しながら書類見て仕事してるよ?きっと凄い忙しくて、かなりの肩書きのひとなんだね」
ユミル「これまたデカイ副官らしき奴がおたおたしつつ、世話やいてんのが笑えるな」
クリスタ「凄〜い。頭もよくて、強いんだね。憧れちゃうな」
クリスタ「あ、目が合っちゃった」
-
ユミル「あんまりじろじろ見んなよ。気難しい奴かも知れないだろ。難癖付けられると面倒だ」
ライナー「もう見るな、クリスタ」
クリスタ「う…こっち来た」
クリスタ「すっごい笑ってるのが逆に怖い…」
ユミル「白衣着てるし眼鏡だし、マッドサイエンティストって感じだな。ヤバい奴じゃなきゃいいが」
???「やぁ、君達。訓練兵かい?」
白衣のポケットに両手を突っ込んだまま、にこやかに歩み寄ってきた。背は女性と思うとかなり高い部類に入る。肩幅も広く洒落っ気もなく、髪は長いが、もしかしたら男性なのかも知れない。
声音は非常に明るく上官にしてはざっくばらんで、フレンドリーだ。キラリと光る眼鏡の奥は、長い睫毛に縁取られた大きな栗色の瞳が眩めいている。
-
ライナー「…はい」
???「聞いたよ?西の訓練所帰りなんだろう?怪我をしたから馬車で移動してるっていう」
ライナー「そうです」
???「やっぱり難しかった?あれ。君達、最高難易度の訓練やったんでしょう?あれね、私が考えたんだ。木型でできたただ起き上がるやつだとアクションが絶対足らないんだ。奴らはもっと複雑な動きをする。だから、それを想定してだね私が討伐したなかで難しかったと思う動きの巨人をいくつか再現した訳なんだけどそれはなかなかに難しくて実際作るのは駐屯兵団で巨人と戦った事が無い奴だからなかなか表現が伝わらなくて試行錯誤の末出来上がったそれは」
ライナー「はっ…はぁ…」
凄い勢いで捲し立てて喋りだす。話したい事が沢山あるのだろう。とにかく、止まらない。
内容からするにこの人物は、巨人の研究をしていて、今回の訓練の仕掛け作りに携わった者のようだ。
-
???「ハンジさん!! 困りますよ、まだ提出する書類があるんですから…」
向こうから、空いた椅子を掻き分け、副官らしき人物が駆け寄ってくる。見た目は穏やかそうで、常識人みたいだが、実際はどうだろうか。
???「皆さん困っておられますよ?感想なら後でレポートが届きますから、ね?」
???「えぇ〜折角目の前に居るのに?今聞けるじゃない。生の本音の感想をさぁ」
???「いきなり聞いたところであんた、上官に本音なんか言いませんよ普通。さあほら、戻って下さいよ」
???「ちぇ」
-
???「大きな怪我させて悪かったね。現場から難し過ぎるって怒られちゃったんだよ。キース教官にも訓練兵になにやらすんだって、滅茶苦茶怒られたし」
???「お詫びにはならないけど、折角だからこれあげるよ。調度四つあるから、分けてね」
ごそごそと探った白衣のポケットから、食事に付いてきた焼き菓子をテーブルに置いた。
クリスタ「わぁ、頂いていいんですか?ありがとうございます♪」
???「いいよ?私達甘いの苦手なんだ。それに、若い子にお菓子あげると良いことがあるんだろう?今の時期」
クリスタ「?」
???「もしかして何か間違えていませんか?今は年の瀬ですよ?」
-
???「間違えてないよ?カボチャ料理を食べるんだろう?さっきの食事に入ってたっけ?」
???「違いますよ、それは…」
???「おい、クソ眼鏡!! 何油売ってんだ、早くしろクソが!!」
???「あ〜はいはい、今行くよ〜ぉ」
???「成績上位なら、是非とも調査兵団に入団してよ。一緒に巨人をばっさばっさと討伐しよう!! 待ってるよ」
???「とりっくおあとりーと!!じゃあね、君達」
副官に腕を引っ張られながら、こちらに空いた腕を陽気に上げて振りつつ、白衣の眼鏡の上官は去っていった。
-
ユミル「…行っちまったな。礼も聞かずに」
ライナー「嵐の様なお方だな」
ベルトルト「やっぱり、色々間違えてたね」
クリスタ「でも、お菓子貰えた♪」
ライナー「食事も済んだし、部屋に戻るか」
ユミル「そうだな。また変な奴に絡まれても困るしな」
ベルトルト「一言多い」
クリスタ「聞こえたら困るよ、ユミル」
人が増え始めた食堂を後にして、階段を登って、部屋に帰る。
-
ユミル「じゃあな、また明日」
クリスタ「おやすみ、ライナー、ベルトルト」
ライナー「またな。ゆっくり休めよ」
ベルトルト「おやすみ、二人とも」
扉を閉めると、宿の中の騒がしかったざわめきが全く聞こえなくなり、しんとしている。それが、盟友との二人きりの気まずさを増幅させていく。
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ライナー「…まだ寝るには早いが、明日は早めに出よう。朝食を食べたらすぐ位には」
ベルトルト「そうだね。早く帰りたいよ」
ベルトルト「もう訓練所が日常になってしまっているのかな」
ベルトルト「あの騒がしさとか、訓練や勉強に追われる生活も、少し離れると寂しくなるね」
ライナー「随分と、壁の中に馴染んでしまったんだな」
ベルトルト「故郷だって懐かしく無い訳じゃないし、帰らなきゃいけない義務や責任もあるけど…」
ベルトルト「僕はこのまま、壁の中で暮らして行きたいな。自由に生きたいんだよ。ユミルと」
ベルトルト「指命を果たさず帰ってこなくなった、昔故郷から出発した、僕らみたいな子供達みたいにね」
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ベルトルト「未だに隠れて壁の中で暮らしていて…以外と誰かのお父さんとか、お母さんだったりしてね」
ライナー「はは…何かの拍子に、いきなり巨人化したりしてな」
ベルトルト「あっ、ユミルだけじゃなくて、ライナーとアニも一緒に居てくれたら、いいなとは思うんだ」
ベルトルト「近所に家を借りられたらいいな」
ベルトルト「あと、104期の皆もね。たまに会って酒でも飲めたら、楽しいだろうね。昔ばなしをしながら」
ライナー「…そうか。そうだな」
ライナー「そんな幸せな未来があったらいいよな」
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ベルトルト「まぁ、今まで百年位あったんだろうけどそういう世界が、ここにはさ」
ベルトルト「壊したのは僕らなんだけどね…」
ライナー「違いないな」
ライナー「これ以上壊さなければ、不幸は増えないだろう。それでいいんじゃないか?」
ベルトルト「…うん」
ライナー「憎悪と敵討ちを繰り返しても、終わりがなくて、不毛だ。何処かで終わるべきだ」
ベルトルト「うん…」
ライナー「風呂に入るか?」
ベルトルト「…入ってこようかな」
ライナー「しっかり暖まってこい。俺も後で入るから、ためた湯は抜かないでくれ」
ベルトルト「分かった」
-
着替えを持って、脱衣場に入る。割りと広めのスペースに、洗面所もついていた。
風呂場の扉を開けて、バスタブに栓をして湯を張る。勢いよく出る暖かな湯で、風呂場の中は白い蒸気で満たされていく。
ベルトルト(気まずくて、喋り過ぎてしまった)
ベルトルト(ライナーにはお見通しだろうな)
ベルトルト(僕の気持ち)
体を洗い、たまった湯船に浸かる。熱めの湯はじんわりと、心と体をほぐしていく。
ベルトルト(僕でも足を伸ばせる大きさなんだな)
ベルトルト(二人で入れる)
ベルトルト(連休があったら、ユミルと何処かの宿に泊まりに行きたいな)
ベルトルト(それで二人でゆっくりとお風呂に入りたい)
-
ベルトルト(なんてね)
ベルトルト(ライナーの事言えないな)
ベルトルト(僕も、考えるのはユミルの事ばっかりだ)
ベルトルト(…でも、ライナーがクリスタ、クリスタ言うのは寂しいんだよな)
ベルトルト(ライナーだって大事な親友だ)
ベルトルト(どっちもって言うのは、我が儘だよね…)
揺れる蒸気を眺めながら、ぼんやりと考えを巡らす。
いつもは長風呂などしないが、今日はライナーと二人になりたくなくて、上がる気にもなれず、長々と浸かっている。
しかし、そろそろ上がらないと逆上せてしまいそうだ。
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ベルトルト(上がろうかな…)
その時、扉を開ける音が風呂場に響く。
ライナー「ベルトルト…いいか」
ベルトルト「…うん、いいよ」
衣服を纏っていないライナーが、風呂場に入る。洗い場でシャワーを浴び始めた。消えかかっていた蒸気が、また狭い空間に満ち始め、視界が白く霞んでくる。
浴槽に入るのだろうから、伸ばしていた足を曲げて、スペースを作っておく。
ライナー「入るぞ」
ベルトルト「どうぞ」
-
湯船の水かさが、徐々に増えて溢れだす。流れた水音が収まった頃、深い溜め息が吐き出された。
ライナー「ふぅ〜。いい湯かげんだな」
ベルトルト「おじさんみたいだよ、ライナー」
ライナー「いいだろ別に。風呂は気持ちいいな」
ベルトルト「そうだね。いいね、お風呂」
湯気の向こうで、湯で顔を流していたライナーが、こちらにちらりと視線を寄越す。
風呂など訓練所では、皆でいつも入っていて慣れている筈だ。裸など見慣れている筈だ。
小さい頃も、昔はよく一緒に風呂や水遊びなどで裸になって遊んだものだ。裸で抱き合って眠った事も、一度や二度ではない。
ベルトルト(今更、見たからって、どうと言うことは…)
-
ベルトルト(でも…)
クリスタに鞭打たれて堪える姿、クリスタの体を火照らせていた姿、ユミルの体を悦ばせていた姿。今まで見たことがない、女に対しての性的で倒錯的で淫猥な姿。
ベルトルト(連想してしまうよ…あの時の事)
ライナー「…ベルトルト」
ベルトルト「何」
ライナー「逆上せてはいないか?随分と長く出てこなかったからな」
ベルトルト「あぁ…待ってたよね?ごめん」
ライナー「いや、いいんだ」
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ベルトルト「…」
ライナー「…」
ライナー「…ベルトルト」
ベルトルト「何」
ライナー「警戒するな…もうなにもしない」
なにかしら自分に対して散々な目に合わせたことの自覚はあるのだなと思うと、今まで何も話してくれなかった事に、苛立ちを感じる。
しかし、それを責めて詰るつもりは無く、ほんの少しの腹立ち紛れに、浴槽の湯を一度、ぱしゃり、と盟友に向かって払いかける。
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ライナー「ぅお」
ベルトルト「当たり前だよ。全く、みんなして人を好き勝手して、酷いよ」
ライナー「巻き込んで、すまなかった」
ライナー「クリスタが、お前を狙っていたなどとは、知らなかったからな」
ライナー「俺がクリスタを受け入れてやれば、そのうち気が済んで、俺を受け入れてくれると思っていた」
ライナー「まぁ結果、クリスタと気持ちを通わせる事ができて、よかったがな」
ベルトルト「…いつから?」
ライナー「アニと夜中に三人で会ったとき、傷の事を言われた事があったな。あの少し前位だ」
ベルトルト「そうなんだ…全然知らなかったよ」
ライナー「悟られないように気を使っていたからな」
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ライナー「ちなみに、お前がユミルに会いに行っていたのは知っていたぞ」
ベルトルト「二回しか会えて無いけどね。あとはすっぽかされたから」
ライナー「ははは…風邪をひいたしな」
ライナー「あれから体はどうだ?」
ベルトルト「悪くないよ。包帯してるところが、たまに痒いけどね」
ライナー「ふっ、なら大丈夫だな」
ベルトルト「…僕、もう上がるね。逆上せてきた」
ライナー「あぁ、上がって休め」
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ベルライ ライベル入ります
苦手な方はすっ飛ばし推奨です
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湯船から出て、背中に視線を感じながら扉に向かう。熱っぽく、粘着いていて、絡み付く、重たい空気を断ち切るように、扉を閉めた。
ベルトルト(本当に逆上せたな)
ベルトルト(頭が、ぼーっとする)
体を拭いて下履きだけを身に付け、ベッドに仰向けに倒れ込む。
ベルトルト(からだを少し、冷やさないとな)
ベルトルト(涼しくて、気持ちいい…)
うつらうつらしていると、脱衣場の扉が開く音がする。ライナーも上がったのだろう。こちらに歩み寄ってくる足音が聞こえる。
ベッドの足元が軋み、沈む。薄く目を開けると、こちらを向いたライナーが腰掛けていた。
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体中に視線が絡み付く。見られている事を意識して、片膝を立てて視線の先を、わざと遮る。
ライナー「…お前、また背が伸びたな」
ベルトルト「ライナーこそ」
ライナー「筋肉も…付いたな」
ベルトルト「ライナーには敵わないけどね」
目線を脇に反らした盟友は、首に掛けたタオルで、未だ滲み出ている顔の汗を拭きつつ、ぽつりぽつりと話し出す。
自分も天井に目線を移し、何もない白い面の一部を眺めながら答える。
ライナー「…ユミルとはどうだ?今後は一緒にやっていくつもりなのか」
ベルトルト「うん…そのつもり」
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ライナー「おなじ体だからか?」
ベルトルト「彼女が巨人になれない人類でも、僕は好きになったと思うよ」
ベルトルト「初めてなんだ…女の子に、好きとか、愛おしいとか、自分だけの物にしたいって言う、気持ちを持つのって」
ライナー「女なら、何人かいたのにな」
ベルトルト「体の関係はあったけど、情がなかったからね」
ベルトルト「だけど、ユミルは違うんだ…」
ベルトルト「情があると、同じことをしていても、感じかたが違うんだよ」
ライナー「知ってるさ。クリスタと、ユミルと、お前で経験済みだ」
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ベルトルト「…そうだね」
ライナー「ユミルに入れ込んでるお前を見ると…妬けて仕方がない」
ベルトルト「クリスタはどうしたの」
ライナー「恋人も親友もどちらも欲しいんだ」
ライナー「そう思わないのか?ベルトルトは」
ベルトルト「僕もそうだよ…。クリスタに嫉妬する」
ベルトルト「欲張りだね、僕ら」
ライナー「あちらだって今は、こちらと同じだろう。向こうは向こうで、俺達に嫉妬してる」
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ベルトルト「妬けるな」
ライナー「誰にだ?」
ベルトルト「さぁね。誰にかな」
ライナー「今、誰が欲しい?」
ベルトルト「さぁね。誰だろう」
ライナー「…捻くれやがって。ユミルの真似か?」
ベルトルト「寒い、ライナー。隣に来てよ」
ライナー「寒いなら毛布を掛けたらどうだ?」
ベルトルト「ライナーが来てくれたら、毛布なんて要らないよ」
ライナー「また熱が出ても知らないぞ」
ベルトルト「大丈夫だよ」
ベルトルト「これから暖まるんでしょ?」
ライナー「俺に聞くな。自分の体に聞け」
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添い寝するように、隣に横になったライナーの方に向き直り、向かい合わせになる。久し振りに至近距離でじっくりと盟友の顔を見詰める。
ベルトルト(…男らしくなったな、顔)
ベルトルト(幼さがなくなってきてる)
ベルトルト(もう、子供じゃなくなってきてるんだね。君も、僕も)
訓練所に入る前の開拓地にいた頃は、寂しさや心細さもあり、よく二人で体を重ね、慰めあっていた。
一時の快楽は、使命を背負っている故の緊張感や、罪悪感、開拓地の生活の辛さ、未来への不安を一瞬だけ忘れさせてくれる。一瞬でも、それらを忘れられるのは幸せだった。
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訓練所に入りたての頃、数回二人で過ごしたが、誰かに見られたのか、それともいつも一緒にいるからか、二人がそのような関係なのではないか、という噂が立ってしまった。
それ以来、ライナーがクリスタに好意がある振りをすると共に、二人で体を重ねる事は止めていた。約一年と少しの間、情のない女か、自分で治めて処理していた。
ライナー「久し振りだな。だいぶ体が変わっているな」
後ろに回した手の先で、背中の中心を、軽く撫ぜられる。擽ったいが、紛れもなく快感な証拠に、急激に下腹部に流れ込む血液の流れと甘い痺れを感じる。
ベルトルト「は、っ…。ライナぁ…」
ライナー「しっかり鍛えているんだな。体が出来上がっている」
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盟友の厚い鎧の様に鍛え上げられた胸板に手を伸ばす。弾力のある、張った筋肉は逞しい。
指先で探ると、女よりかはやや小さいが、しっかりと突き出した固い痼に触れる。躊躇なく、指先で捏ねると、圧し殺した吐息が漏れだしてくる。
ライナー「ふ…ぅっ、も…触るの、か」
ベルトルト「ん…っ、久し振りなん、だ。すぐにでも…繋がりたい」
ライナー「昨日…抜かなかった、のか…」
ベルトルト「ユミルが、寝ちゃってね…お預けだよ」
ベルトルト「さっき馬車の中で…抜いて貰った、けど、まだ出し足りない…」
ライナー「なんだ、お前ら…俺らは雨に、濡れていたってぇのに…」
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ベルトルト「ごめんね…?」
ライナー「うぁ…っ、はぁ、そんなに…捏ねるなぁっ…あぁ…」
感じやすい乳首を捻りあげられ、息を乱し、びくびくと体を捩らす盟友を見ると、ぞくぞくと背筋を快楽の疼きが這い回る。
下腹部の張り詰めた肉の屹立は、久し振りの刺激を期待するだけで、熱く火照って、ずくりと脈打つ。
ベルトルト「ねぇ、ライナー」
ベルトルト「今日は…僕が先でいい?」
ライナー「はぁ…はっ、良いぞ。好きに、しろ…」
ベルトルト「ふふ、ありがと…」
向かいの体を倒して、覆い被さる。
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片方の指はそのまま胸の痼を捏ねつつ、空いた片方は、唇を寄せる。口に含んで、舌で転がす。強めの刺激が好きなのは、経験から分かっている。
ライナー「あ…ぁっ!!はぁ…ベル…トルト…」
ベルトルト「んんっ…」
空いた手のひらで、鍛えられた胸筋や腹筋をなで回す。どこも、張った筋肉は、一年前とはふた周り位大きくなっている。
既に息が上がっているため、上下するなだらかな筋肉の隆起は、劣情を誘う。こんなに屈強で頼りになる男を組伏せる、自分に己惚れて気分が更に高揚する。
ベルトルト「触るね…?」
固く絞まった腹の下に手を滑らせる。下履きの上から、撫でさする。それは、覚えている大きさよりも成長して、更に太く長く形を変えていた。
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ライナー「くっ…あぁ…っ、はぁっ、あっ…」
ベルトルト「ライナーも…大きくなったんだね」
ライナー「お前、だって…かなりデカく、なっ…た、だろ…っ」
ベルトルト「脱がすね…?」
下履きに手を掛けて、ずり下ろす。
既に尖端がぬらついた、肉の屹立が顔を出す。
ライナー「はぁっ!!んぁ…ぁっ!!」
小さな裂け目に舌を這わせつつ、更に下履きをずり下げる。膝を立てさせて、片足を抜く。腿を大きく広げて、今はまだ弛緩してぶら下がっている陰嚢を手のひらに優しく包んで、弄ぶ。
ベルトルト「ライナーの先…もう、ぬるぬるしてる」
ライナー「う…ぁっ!!はぁ、厭ら、しい…舐め方、覚えた…な…お、前」
ベルトルト「アルミンとマルコの蔵書のお蔭だよ」
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ライナー「ふっ…。んぁっ!!あぁ…お前も、こっち、に…」
盟友が自分の腿に手を伸ばし、下履きを軽く引いた。そのままずり下げられるのに任せ、膝まで下ろされたところで、自分で片足を抜く。
盟友の仰向けの頭を跨ぐように膝を移動し、ライナーの眼前に自身の張り詰めた屹立を晒す。
ライナー「す…ごい、な。こん…な…に」
目の前に見せ付けた、ここ一、二年で色素がかなり濃くなった肉の竿に、手を添えられて扱かれる。尖端から滲む粘着く劣情の印しは、親指だろうか、絡め取られて、力強く擦り付けられる。
ベルトルト「う…ぁっ!!はぁ、あぁっ、ライナぁ…っ!!」
駆け抜ける強く甘い痺れは、体中に散らばっていく。浅く、荒くなる吐息は、互いに、押さえ込まずにそのまま吐き出す。
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恋人とする時とは違い、遠慮や羞恥などは不要の間柄だ。欲望の赴くままに、互いの快楽の場所を蹂躙し合う。
腹にへばりついた盟友の、ぎちぎちに張り詰めた屹立の根本を無理矢理に起こし、かぶり付く。
ライナー「あぁっ!!はぁっ…強…いっ…!!」
ベルトルト「…んっ。…んぁっ、ふ、ぁ…っ!!」
口の中一杯に頬張った滑らかな塊は、口内の粘膜で擦りあげる度に固さを増して、びくびくと波打ち、起こした手に逆らうように、腹に再度へばりつこうと、足掻き悶える。
舌を刺す青臭い苦味が、下腹での快楽を増幅させ、思考を鈍らせる。激しく扱かれながら、腿に這わされた舌は、酷く疼きを溜め込んで、排出欲を強力な物に育て上げていく。
ベルトルト(そんなに、激しくしたら)
ベルトルト(もう、持たないよ…っ)
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唾液にまみれた根元から滑りをすくい取り、更に下の、引き締まった尻の谷間に指を這わす。固く口を閉じた窄まりを探り当てる。
指の滑りを擦り付け、中指を突き立てる。まだほぐしてはいないので、固く締め付けてなかなか侵入を許してくれない。
ライナー「ぐっ…あぁっ!!早い…ぞ、まだ…っ!!」
ベルトルト「大丈…夫、だよ…傷ついても、治せば、いい…」
ライナー「がっ…!!はぁ…」
無理矢理突き進んだ指は、痛みのため更に締まりを増した直腸の粘膜に、食いちぎられそうな錯覚を起こす。指の先を腹がわに軽く曲げて、雄を狂わす粘膜に隠された痼を探った。
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探し当てたまるみを帯びた痼をゆっくりと指先で撫でさする。触れた瞬間、盟友の背中ががくりと跳ね上がり、苦痛に似た呻き声を漏らした。
ライナー「くっ…!!はぁあ!!」
ベルトルト「ふ…っ、ここ、で…いい…?」
ライナー「あっ、あぁっ!!」
ベルトルト「はぁ、当た、りだ…ね」
更に刺激を続けると、侵入口が少し弛んできているのが分かる。軽く揉みほぐしている陰嚢も、段々に締まって、早くも絶頂が近いことを知らせている。
ベルトルト「動く、ね…」
一旦指を引き抜いて、ライナーの顔に跨がっていた下半身をずらし、腿の間に体を移動させる。
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盟友に散々に扱かれた肉の屹立は、自身が垂れ流した快楽の涎にまみれて、ぬるぬると光を反射している。
ベルトルト「入れるね…」
筋肉が盛り上がる太く逞しい腿を押し広げ、人目に隠れた窄まりを晒して暴く。
既にひくついている、色素の薄い、桃色の小さな窪みに尖端をあてがい、腰を押し進めた。
ライナー「うぐぁ…!!あ゛、ぁ゛っ!!」
十分にほぐれていない粘膜が露出している筋肉はは、用意もなく捩じ込まれる固い肉の竿を押し返すように、頑なに拡がるのを拒んでいる。
ベルトルト「ラ…イナー…痛い…?」
ライナー「うが、っ…ぐっ!!」
ベルトルト「でも…っ、はぁ…っ」
ベルトルト「止め、な…いよ…っ!!」
ライナー「あ゛、ぁ゛ぁ゛!!」
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抵抗に逆らい、強制的に捩じ込まれた酷く大きな屹立は、狭い粘膜をみちみちと裂きながら奥へ奥へと侵入する。
自身から垂れ流した透明な粘りと、ライナーの粘膜が裂けて滲み出た血液が混ざりあい、滑りが増す。
ベルトルト(クリスタに責められてる時と似てる)
ベルトルト(ライナーにそんな趣味無いと思ってたけど)
ベルトルト(昔から、痛みと快感が合わさるのは、嫌いじゃなかったっけ)
ベルトルト(…クリスタの鞭を楽しんでいたな)
ベルトルト(僕以外に、痛みで感じるなんて)
ベルトルト(許せないよ…)
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痛みに身を震わせて、歯を食い縛る盟友の苦悶の表情が、薄い皮膚の摩擦からくる甘い痺れを増幅し、嗜虐心と婬情を激しく掻き立てる。
感じているのが痛みだけでない証拠に、肉の屹立は非常に固く、びくびくと跳ねている。それは、直接の刺激が無いにも関わらず、粘着く先走りを流し続けていた。
ベルトルト「はぁ…っ、気持、ち…いい、よ、ライナぁ…っ」
ライナー「んぐっ…!!は、ぁ…あ!!ベ…ル…っ!!」
腹側の粘膜の中の痼を擦りあげる様に、下腹をライナーの臀部に何度も打ち付ける。女と違って、行き止まりがなく、長い自身も根元までしっかりと受け入れてくれる。
肉の全てをぎちぎちに締め付けられて、溜め込まれた疼きは、解放を強く要求し、心臓の鼓動を早め、荒い吐息を吐き出させ、理性を痺れさせつつ、更なる刺激を求めて止まない。
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ベルトルト「ふ…っ、締め付、け…がキツ、いな」
ベルトルト「イき…そ、うだ…よ」
ライナー「うぐ…っ、はぁっ、はぁ…」
ベルトルト「先に、イ…くね…っ!!」
締まった粘膜を裂きながら激しく貫き、何度も穿つ。噴き出す血液はシーツを汚し、赤い染みを作っていく。
ライナー「ぁ゛、あ゛!! あ゛!! がぁ…っ!!」
ベルトルト「はっ、はぁ…っ!! ライナぁ…っ!!」
ベルトルト「うぁっ!!う……っ!!んぁ…っ!!はあ!!ぁつ…!!」
駆け登った快感は、頂点にたどり着き、うち震えながら、盟友の中に幾度となく吐き出される
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ベルトルト「はぁっ…はぁ…はっ…は…っ…」
ライナー「う…ぐっ…」
ベルトルト「抜くね…」
ライナー「あ゛ぁっ…!!」
ゆっくりと引き抜くと、自身の肉の竿は、粘着く白濁と血液を滴らせ、未だ固さを保ったままだ。
開ききった盟友の窄まりは、ぱっくりと口を開けたまま、だらだらと、ベルトルトの悦楽の果ての残骸を垂れ流している。
ベルトルト「ライナー…治しても良いよ」
ライナー「くっ…ふ、ぅ」
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回復を待つあいだ、ライナーの横に添い寝する。顰められた顔は、回復と共に、徐々に和らいでいく。
ベルトルト「痛かった…?」
ライナー「…痛ぇなんてもんじゃねぇな」
ライナー「デカ過ぎなんだよ、お前」
ライナー「しかも激しいし」
ベルトルト「…ごめん」
盟友の目を覗き込むと、受け止めた色素の薄い目は、口調の割に、悪戯そうに笑っていた。
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ライナー「こんなのクリスタはよく入れたな。痛くなかったんだろうか」
ベルトルト「先っぽしか入らなかったよ。入口も中もきつかったし」
ベルトルト「でも、ライナーの方が太いじゃない。入るの?あんな小さな穴に」
ライナー「時間をかけてゆっくりほぐした後でないと、なかなか入らないし、根元までは無理だ」
ベルトルト「だよね」
淫らだった女神を思い出す。確かに小さくて狭く、幼い窪みだった。もう、入れる事は無いだろうけども。
ライナー「それに比べて、ユミルは体もでかいし、受け入れは容易だろう」
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にやにやとした盟友の物言いに引っ掛かりを感じて、少しだけ苛立つ。恋人の名誉を守り、訂正できるところは訂正しておくべきだと思った。
ベルトルト「…ちょっと、ユミルがガバガバみたいな物言い、止めてくれる?」
ベルトルト「ライナーは二人しか女を知らないから分からないかも知れないけど」
ベルトルト「ユミルだって締まりは良いほうなんだ!! 中はひだひだが多くて擦るととっても気持ちが良いし、沢山濡れるし、筋肉があるから、締め付けだって自由自在で、結構な名器なんだっ!!」
ライナー「ははは、確かにな。しかし、クリスタに比べたら、若干容易なのは仕方ないだろう?」
ライナー「俺のも根元まで咥え込んだしな」
ベルトルト「もう、 止めてよ!! 他の男を咥え込むとか、腹が立つから!!」
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ライナー「俺だってそうさ。いくらお前のでもクリスタには突っ込まれたくない」
ベルトルト「もう、交換はしないよ」
ライナー「あれは最初で最後だ」
ライナー「あちらが望まなければな」
ベルトルト「うぅ…どうだろう…」
絶対に無いと言い切れないのが、辛いところで…。
ライナー「…傷は回復したぞ。次は俺の番だが…」
ライナー「いいか? ベルトルト」
ベルトルト「…いいよ。してよ、ライナー」
にやりと唇の端を吊り上げて笑うと、手のひらで片方の脇腹を押し上げる。逆らわずに転がり、うつ伏せになる。
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腰を掴まれ、引き上げられる。膝をついて、尻を高く突きだし、後ろにいる盟友に小さな窪みを見せ付ける形になった。
そこに指でそっと、円を描いて、ふちをなぞるように触れる。
ベルトルト「っ…はぁ、擽ったい…」
ライナー「まだ、固そうだな」
ベルトルト「固くてもいいよ。入れたかったら」
ライナー「もう少しほぐした方が良いだろう」
尻の谷間をぬるり…と舌で舐めあげられる。それは、ゾクゾクとした悦楽の痺れを生み出して、漏れだす吐息を、甘く変化させる。
ベルトルト「は…ぁ、ぁっ…う…」
ライナー「…まだまだ溜め込んでそうだな。固いまま、おさまっていない」
舌で内部への入口を舐めほぐしながら、一度果てたのちも、未だ固さを保ったままのベルトルトの肉の屹立に、手を添えて、扱き始める。
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ベルトルト「やっ…ぁっ…ライナぁ…っ」
ライナー「訓練所に…帰ったら、暫く自分でしか出来ないだろう?もう一度位は抜いておけ」
ベルトルト「う…ぁっ!!はぁ、次…は、ライナーの、番だよ…っ、はぁ…っ」
ライナー「俺もさせて貰うさ」
尻の窪みに、軽い圧力を感じる。尖らせた舌が、侵入を始めている。差し入れられた舌は暖かい。
ベルトルト「ぁ…あっ、い、い…」
ライナー「…ん…っ」
ベルトルト「ん、あっ!!…はぁぁ…」
幾度か舌を出し入れされて、固さはまだほぐしきれてはいないが、入口付近は十分に潤い、湿らされて、必要最低限の受け入れ準備は整ったように思う。
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ベルトルトの肉の竿を扱いていた手を、一旦離される。あのまま擦られ続けたら、直ぐにまた射精してしまいそうだった。
刺激が名残惜しいが、これから更に、強い、女相手では感じることができない、数年慣れ親しんだ痛みを伴った狂暴な快感を与えられる事に期待して、体が悦びにうち震えてしまう。
ライナー「入れるぞ」
ベルトルト「来…て」
ベルトルト「う…ぐっ、は、ぁ…ぁ!!」
ライナー「ふっ…うぅ…まだ、きつ、いな…」
ベルトルト「い、いよ…突い…て…っ!!」
体が覚えているよりも、太くて固い肉の屹立が、尻の粘膜を押し広げながらゆっくりと突き入れられた。歯を食い縛るが、低い呻き声が漏れてしまう。
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ほぐし足りない直腸の筋肉は、ぎしぎしと悲鳴を上げ、裂けて拡がりながらライナーを受け入れる。鋭い切り裂かれる痛みを感じ、それに耐えてうち震えつつ、快感の芽は急速に育っていく。
ベルトルト「くぁっ…!! はぁっ!! あぁ!!」
ライナー「ふぅ…っ、悪いな…痛い、か…?」
ライナー「でも、気持ち…が、良いだろう?」
ライナー「さっきの俺と、同じ、だろうからな…っ!!」
ベルトルト「うが…っ!! あ!! がぁ…っ!!」
激烈な痛みと快感が体を蹂躙する。強い刺激は、涙を滲ませ、意識を朧気にして、強制的にそれ以外考えられなくしてしまう。
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ベルトルト「あ…ぐっ!! ライ、ナー、ライナぁ…!!」
ライナー「う…くっ、はぁっ、はぁ…っ!!」
ベルトルト「あぁ…っ、痛、い…いた、いよぉ…」
ベルトルト「はぁっ、で、も…っ!! 気持…ち、いいよぉ…っ!!」
ライナー「はぁ…っ…だろ? そうだ、ろ!?」
ベルトルト「うぁ…っ、もっ、と…もっとライナぁ!!」
ライナー「いい声で、く…っ、お前っ…鳴くよう…に、なった、なぁ…!! ベル!!」
いつのまにか無意識に、自分で扱きあげていた自らの肉の竿は興奮の余り、張り詰めすぎて痛い位だ。
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中と外からくる快感は、快楽の果てに近付いていて、その気になれば、いつでも吐き出せる状態にある。ほんの少しだけ残った理性で、悦楽を抑え付けて、待つ。
ベルトルト「う…!! ぐっ、ラ、イナぁ…っ、来て、よ…!! ねぇ…っ、来…てよぉ…っ!!」
ライナー「ふ、う…くっ、イく…ぞ、ベル…!!」
ベルトルト「んっ…!! んぁ…はあっ!!」
ライナー「うっ…!! ふ…っ!! っ…!! うぁっ…!!」
ベルトルト「ぁ…っ!! んぁ…!! はぁっ!!ぁ…っ!!」
内部に幾度も熱い白濁汁を注ぎ込まれると同時に、自身も同じ物を幾度も吐き出す。
中で固い屹立が、悦楽にうち震える度に、同じように自身も固い屹立が、悦楽にうち震えている。
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ライナー「はぁ…はぁっ…。抜くぞ…」
ベルトルト「ふ、うっ…!! あっ…!!」
ライナー「出血が多いな…早く治せ」
ベルトルト「う…ん…」
盟友は、横に倒れ込み、痛みにうずくまるベルトルトの側に横になり、毛布を手繰り寄せ、二人で引き被る。
ベルトルト「ライナぁ…」
ライナー「なんだ、ベルトルト」
ベルトルト「…痛いよぉ」
ライナー「早く治せ」
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頭を優しく撫でられて、ほっとする。いつの間にか、気まずく思う気持ちも、何処かへ行ってしまった。
ベルトルト「でも、よかった…」
ライナー「久し振りで、気持ちがよかったか?」
ベルトルト「それもあるけど」
ベルトルト「君が昔と、変わってなくてよかった」
ライナー「俺は何も変わっていない」
ベルトルト「クリスタにかまけるのは良いけど…」
ベルトルト「たまには僕の事も思い出して」
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ライナー「それは、お前にも言える事だ」
ライナー「ユミルユミル言ってないで」
ライナー「忘れるなよ、俺の事」
どちらともなく手を繋ぎ、小さい頃の様に体を擦り付ける。互いの吐息を感じながら、抱き合って眠りに落ちた。
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ゲイ終わりです
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うっすらとまだ弱い朝陽がカーテンの隙間から射し込む頃、目が覚めた。
起きて直ぐにシャワーを二人で浴びて、汚してしまったシーツを簡単に洗った。
身支度を済ませ、隣の部屋をノックして、既に支度を整えていた二人と合流して、食堂へ向かう。
ユミル「空いてんな〜」
ライナー「まだ早いからな、時間が」
クリスタ「食べたらすぐに出るんでしょう?」
ライナー「そうだな。今から出れば、午後の後半の座学の講義に間に合う」
ユミル「…間に合わなくても良いのになぁ」
ライナー「だいぶ休んでしまったからな。取り返すのが大変だぞ?」
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ユミル「かったりーなぁ…」
ベルトルト「僕は早く訓練所に戻りたいよ」
ユミル「ほんとかよ。酔狂な事だ」
ベルトルト「…だって、今まで生きてきた中で、一番楽しい所だもの」
ユミル「…違いないな。私も早く戻りてぇな」
クリスタ「今日…テストだよね」
ユミル「ヤバイな。やっぱ遅れて、帰ろうぜ」
ベルトルト「僕ら怪我してるから、配慮してくれないかなぁ…」
ライナー「分からんな、それは」
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宿を出発し、昨日と同じく荷台に揺られる。違うのは、雲一つない青空と、弱いながらも降り注ぐ暖かな陽射し。馬車の幌も、高く巻き上げられて、周りの流れていく景色もよく見えて、わかる事だ。
ベルトルト「だから、壁の上に備え付けられた砲弾は…」
ユミル「あぁ〜、休憩にしてくれ…」
恋人は、げっそりと荷物に倒れ込み、動かなくなる。折角、テスト対策に、調べて記憶している内容を話し聞かせているのに。
ベルトルト「…そんなんじゃ、変な点数取っちゃうよ?僕はもともと予習してあるから良いけど…」
ユミル「訓練所行ったらマルコのノート見るから良いんだよ」
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ベルトルト「…マルコのはダメだよ」
ベルトルト「アルミンのにしなよ」
ベルトルト「もしくは、ミカサかアニの」
ユミル「ヤキモチ妬きだな、お前」
ベルトルト「妬くさ。向こうがユミルの事好きなんだから、君からちょっかいかけないでよ」
ユミル「嫉妬は恋のスパイスだって、言うぜ?」
ベルトルト「…また変な本に影響されないでよ…それに、僕達は愛だよ、あ・い」
ユミル「どっちも変わんねぇよ」
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ベルトルト「ずっと一緒に、生きてくれるんじゃ無かったの?」
ユミル「嫌だって言ったって、お前の後を付け回してやるさ」
ベルトルト「ユミルなら付け回されたって、嫌だなんて言わないよ」
ベルトルト「クリスタは、もう御免だけどね」
クリスタ「き〜こ〜え〜た〜よぉ〜」
ベルトルト「」ビク
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ライナー「俺がクリスタを付け回すから、問題ないぞ」
クリスタ「私も付け回すのは、ライナーだもん」
クリスタ「ベルトルトなんか、もう見ないよ〜だ」
ベルトルト「そうだよ、もうさ」
ベルトルト「僕を見ないで」
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ユミル「お〜、先の山の向こうに、訓練所が見えてきたぞ」
ベルトルト「帰ってきたね」
ユミル「おぅ」
ベルトルト「…もう少し手を繋いでいてもいい?」
ユミル「もう少しなら、いいんじゃねぇの」
町に入り、人目につくまで、もう少し。繋いだ手のひらに軽く力を込めると、同じように返してくる。
恋人の温もりをまだ感じていたい。
訓練所に帰って、次の次くらいの休みには、町に出掛けても、怪しく無いだろう。いろんな店を廻ったり、美味しい物を食べて、年相応に楽しみたい。
これからずっと、ユミルや皆と、自由に生きていく。
でもそれはまた、別の話で。
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完
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終わりです
読んでくれた方 ありがとう
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乙
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乙!
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面白かった。お疲れ様でした!
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乙ありがとう
官能小説ぽいのが書きたかった
エロばかり詰め込みすぎて 話がぐだぐだになったのが心残り
クリライ視点を今書いてるので 投下したら また暇潰しに目を滑らせてくれたら嬉しい
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おまけ投下
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数日後 夕食後
男子寮 寝室
エレン「ぎゃあああああああああ!!」
マルコ「うわあああああああああ!!」
コニー「はわあああああああああ!!」
ジャン「ぐああああああああああ!!」
アルミン「ひいいいいいいいいい!!」
ライナー「があああああああああ!!」
ベルトルト「」ガクガクブルブルガクブル
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エレン「早く、何とかしろ!!」
マルコ「無理だ…誰も近寄れない…!!」
コニー「何か…誰か、知恵はないのか!?」
アルミン「いくら知恵を搾った所で…!!」
ベルトルト「やるんだな…今、ここで!!」
ライナー「あぁ、勝負はここで決める!!」
ライナー「ジャン、お前がな!!」
ジャン「皆、すまない…すまないが…」グス…
ジャン「う…うぅ…」ブルブル
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部屋の入り口に、同室の友が押し合いへし合い、ぎゅうぎゅう詰めになって震えていた。
皆で風呂に行って、帰ってきて気づいた。
いつかジャンが、腹立ち紛れに口走った地獄が、現実となった事に。
部屋の奥の、下の段の、ジャンのベッドの枕元。
見るも悍ましい物が、蠢き、のたうち、犇めき合う。記憶より二回りほど膨らんだ物の中で、無数のそれらは一時も動きを止めず、がさがさと互いに身を擦り合わせながら、袋を波打たせる。
飾られた深紅のリボンは、ゆらり、ゆらりと不規則に揺れて、今まで過ごした短い時間をせつなげに訴える。まるで情を請い、助けを求めているかのように。
ベルトルト(この世界は残酷だ…)
ベルトルト(ジャンはあんなに大事にしていたのに)
ベルトルト(それが仇となって、地獄へと…)
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マルコ「寝てるあいだずっと握り締めてるから…暖まって、孵化しちゃったんだね…」
コニー「あんなに孵化する前に気付けよ!!」
アルミン「失敗したって言うのは、乾かす前に、葉っぱを洗い忘れたって言う事か…」
ジャン「糞ったれ…マジでどうしたらいいんだ…」
アルミン「何か、棒のようなもので挟んで、窓から外へ投げ捨てよう。朝になって明るくなったら、袋とか、リボンとかは回収しよう」
アルミン「でも、あの袋は不織布だ。結構脆い…引っ掻けると、すぐに穴が開くぞ…」
ライナー「穴など開いたら…地獄になるな」
マルコ「ジャンなら出来るよ…僕信じてる」ニコ
ジャン「信頼されるのは嬉しいが…」
ジャン「お前がやれと、遠回しに押し付けられているような」
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エレン「元々お前のだろうが!!」
ジャン「そうだよ…俺が無理を言って、アルミンが貰ってきてくれた物だ…」チラ
アルミン「ぼっ、僕はただ…っ、ジャンが不憫だっただけだ!!」
アルミン「あれをどうこうする責任など…僕には無いっ!!」
コニー「一匹二匹なら大した事はねぇが…」
コニー「正体のわからない、ちっさいちっさい虫がぎゅうぎゆう詰めとか、気持ち悪すぎて、無理だ…」
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エレン「」コクリ…
マルコ「」コクリ…
ジャン「」コクリ…
アルミン「」コクリ…
ライナー「」コクリ…
ベルトルト「」コクリ…
エレン「」チラ…
マルコ「」チラ…
コニー「」チラ…
アルミン「」チラ…
ライナー「」チラ…
ベルトルト「」チラ…
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ジャン「ぐっ、仕方無い…俺も男だ!! やってやろうじゃないか!!」
エレン「くっちゃべってないで、早くやれよ!! 」
アルミン「何か…棒のような物は…」キョロ
ベルトルト「あっ、これ…」
ベルトルト「格闘訓練に使う、ならず者が持つ、長い銃を模した木型…」
ライナー「よし、これの先にうまくのせて、窓の外に放り投げろ。いいな?」
ジャン「」コクリ…
アルミン「袋を引っ掻けて、穴が開かないように、慎重にね…」
ジャン「」コクリ…
-
ライナー「俺が、窓を開けよう。今は冬だが、部屋のなかは明るい。虫や蝙蝠が入り込んで来るかもしれん」
ライナー「勝負は出来るだけ短く。いいな?」
ジャン「」コクリ…
バタン…
ライナー「さぁ、やれ!!」
ジャン「てぇぇい!!」ブンッ…
虫袋「」ピューン
エレン「」オオ…
マルコ「」オオ…
コニー「」オオ…
アルミン「」オオ…
ライナー「」オオ…
ベルトルト「」オオ…
虫袋「」パサッ
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クリスタ「何か飛んできて、落ちたよ?」
ユミル「ん…匂い袋…?赤のリボンは…」
ミカサ「私の…?」
ジャン「ミ、ミカサ!!」
ユミル「…てめぇ、ご本人様の前に投げ捨てるたぁ、イカした卒業宣言だなぁ」
ジャン「違う!! それは!!」
クリスタ「酷い…ジャン最低」
ジャン「誤解だ!! だから…」
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ミカサ「…ジャンの気持ちはよくわかった」
ミカサ「これからは他の黒髪を付け回せばいい」
ジャン「ミカサ!!」
ユミル「やることがセコいんだよ!! 人の気持ちを考えろ、馬面野郎が!!」ガシッ!!
ベルトルト「ユミル、触っちゃ駄目だ!!」
ユミル「うるせぇ!! 」
ユミル「そこらに捨てんじゃなくて」
ユミル「燃えるごみの日に、分別して捨てやがれ!!」
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虫袋「」ビューン
エレン「」
マルコ「」
ジャン「」
コニー「」
アルミン「」
ライナー「」
ベルトルト「」
虫袋「(ただいま)」パサッ
虫袋「」ピリツ…
虫袋「」ワラワラワラワラワラ
「ぎゃあああああああああああ!!」
ユミル「?」
クリスタ「?」
ミカサ「?」
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そして、僕らは泣きわめき、逃げ惑いながらも、持ちうる勇気と気力を振り絞り、全ての虫の駆逐を明け方までかかって完了した。
後日、事の顛末を聞いたミカサが、ジャンに新しい匂い袋をくれたらしい。今度は失敗していない物を。
ベルトルト「ほんっとうに大変だったんだから!!」
ユミル「ぎゃははは!! マジうける!! 男の癖に!!」
ベルトルト「ちっさくて、素早くて…捕まえてさ…袋につめて、外へ放したんだよ」
ユミル「ふ、はぁ、ははは…くくく」
ユミル「…優しいんだな、ベルトルさん」
ベルトルト「…無駄に命を取ること無いだろ」
ユミル「ふっ…そう言う所、嫌いじゃないぜ」
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ベルトルト「僕も、友達思いのユミル、嫌いじゃないよ」
ユミル「…ん」
ユミル「…いきなり、キスすんな」
ベルトルト「いいでしょ、折角空き部屋取れたんだ。競争率高いんだよ、最近」
ユミル「お付き合いするやつが、増えたんだなぁ」
ベルトルト「明日はお休みだし、ゆっくりできるよ?」
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ユミル「だからって、がっつくな、よ…っ、んぁ」
ベルトルト「…ユミルだって期待してるじゃない、ねぇ、ここ…」
ユミル「だぁ…か、ら…やぁ、っ、めろ…」
ベルトルト「止めないし。やめて欲しくない癖に」
ユミル「は…っ、ぁん!! も…ばか…ぁ!!」
まだ夜は、始まったばかり。
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おまけ終わりです
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