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紡唄

12桜散る日の墓参り:2012/04/04(水) 13:08:22 ID:e/rMWOGk



春になって、桜の花びらが風に吹かれて散っていくのを眺めた。“美人薄命”という言葉があるが、桜はまさにその代表と言えた。


桜は一瞬だけの命だ。


儚い命。
──小さな命。







俺たちは、ある人物の墓参りに定期的に行っている。その人物の命日と毎月25日だ。基本的には、俺たちが一番に墓に着いていた。しかし、今日は違った。茶髪の女の背中が見えた。その女はどうやら、静かに手をあわせている最中のようだった。


「…小命、また来るね」


手を合わせ終えると、そう小さく呟いて、女は立ち上がった。そして、しばらく小命の墓を見つめたあと、俺たちの方に向き直った。

「きゃあっ!」


女は俺たちを見るなり、驚いて尻もちをついた。


「大丈夫かよ…」


そんな女に、珀は半ば呆れ顔で見ながら手を差し伸べた。女嫌いな俺は、もちろん一定の距離を保ちながら、その様子を見ていた。


「えへへ、ごめんね。びっくりしちゃって…、えっと…」


珀の手を掴みながら立ち上がる女は、きっと俺たちの名前を思いだそうとしているのだろう、難しそうな顔をしながら珀と俺の顔を交互に見ている。そして、遂に挫折したのか、申し訳なさそうに俺たちを見つめた。


「あの…、名前、教えてもらってもいいかな?」


それを聞いた珀もそんなことだろうと勘づいていたようで、自分の名前と俺の名前を名乗った。東堂珀と、雪柳柊だ、と。女も同じように名前を名乗ろうとしたが、俺たちからすれば、その必要はない。


「椎名里桜」
「椎名里桜」



女が名乗るより前に、俺と珀は声を揃えてその名前を口にした。あの教室にいる奴らなら、誰でもこの女の名前ぐらい知っているような気がする。それくらい有名なはずだ。


「リオの名前、知っててくれてたんだ、嬉しいな。珀たちも小命のお墓参り?」


珀は小さく頷いて、俺と一緒に小命の墓の前に立った。


「俺たちの他にも、このバカの墓参りに来る奴がいたんだな」
「柊は残念?」
「うるせーよ」


そんな俺と珀の会話を女は聞きながら、近くでくすくすと小さく笑っている。


「小命にはこんなにいい友だちがいたんだね」


小命も喜ぶよ、とその女は言った。


「それはどうかな。絶対あいつは、俺たちには素直にありがとうとか言わねーよ」
「…いくら抹茶味のハーゲンダッツが好きでも、毎回それじゃあな…」
「あの女が花だの何だの持ってくればいい話だろ」
「え、リオ!?」



こんな感じで、十分小命の墓の前で喋ったあと、そのまま3人でスケットルームに帰った。
一度立ち止まって、墓を振り返る。墓石に桜の花弁が落ちて、なかなか綺麗だった。


「柊ー?」


俺を呼ぶ珀の声がする。


「じゃあな、小さな命。また来月にでも来てやるよ」


あいつに聞こえているのか、いないのか。どっちなのかは分からないが、そう言い残して、俺は二人のもとへと、特に急がずに戻った。



「クスクス、今度は抹茶味のハーゲンダッツより嬉しいもの持ってきてよね、オニーサン♪」



そんな声を聞きながら。


━━fin...。.*・゜


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