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ここはパイロット養成所避難所 第三部用

1名も無き生徒:2006/12/20(水) 22:03:07
シャア専用板に何らかの問題が発生した時などに使用するスレッド。
誘導リンクとかキッチリ張る事を推奨。
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635金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/01(火) 23:40:28
>>634
気恥ずかしそうに前置きをしてから、クレハは自分の過去を話し始めた。
結構大変で、割と楽しく、相応に充実した日々。
かつての彼はそういった生活を送っていたのだと、容易に推測できる内容だった。
語り口からも、その時の表情からも。

けれど。
彼が口にした中で一つだけ。
大きな違和感を感じさせる、そんな言葉があった。

「不眠……症?」

知識としては勿論知っている。
故に彼女はその言葉の意味を問おうとしている訳ではない。
目の前の青年が、そうした一種の病を患っているという事実に、純粋に驚いていたのだ。

636クレハ:2008/07/02(水) 00:03:57
>635
「そ、そこ?」

しかし拍子抜けしたのは男の方であった。
カナデの感じた違和は、男にとってそれほどでも無い事が反応から窺えた。

「そう、不眠症。インソムニア。
 入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠障害うんたらかんたら……っていうのはカウンセラーのセンセにも聞いてるんだけどね。
 俺の場合は最初の失敗からのPTSD、それから続くハードな日常の警戒心とかに起因して今でも引き摺ってるってだけみたい。
 でもまぁ人間っていうのは不思議なもので、それにはそれ相応の付き合い方を生み出すわけで。
 俺なんかは10分で脳を休ませる方法とか知ってるよ。伝授しろって言われたら無理だけどね。」

そう言って笑い、手をひらひらとやる。

「そりゃあぐっすり眠るに越したことはないけど、慣れるとそれが適正睡眠時間みたいになるのさ。
 幸い、最近じゃ最初の頃みたいに起き続けて気絶とかはなくなったし、上手く付き合えてるよ。」

確かに、不眠症を思わせる疲れのようなものは男から感じられないし、
一見して健康体そのもので、言われねばそんな病気を患っているとは思えない。
ナチュラルハイ、という一点においては一考の余地はあったのだが。

「あ、因みにモミジも先天性不眠症で、兄の俺でさえ寝てるとこ見たことないんだよね。
 だから俺らのことはあんまり気にしなくて良いからね。うん、あー、そうだ!帰りにカナデちゃん用の枕とか買おうよ♪」

などと終始そんな調子で持病の事を説明するクレハ。
兄妹揃って変り種。兄妹揃って持病持ち。もしかしてここは笑うところだったのだろうか、判断に迷う笑顔がそこにある。

637金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/02(水) 00:46:14
>>636
「気にしなくて良い……って、そんな」

当事者がそう言うのだから、その通りにすれば良い。
カナデの理性はそう断じるが、心の中の別の場所は違う言葉を囁き続ける。
言葉の通りならば彼は、最初の失敗を未だに引き摺り続けていることになる。
仮にも自分の恋人を演じる男が、そんな脆さを抱えていて良いのか――

傲慢ね。

囁きに耳を傾けてみて、カナデは苦笑した。
苦笑してしまったが為に、その傲慢さの奥にあるものに気付けないままだった。

「……分かったわ。なら、クレハ。貴方の枕も一緒に探しましょう」

結局のところカナデは、自分の尺度でしか他人を測る術を知らない――少なくとも普段の彼女は。
故にこの言葉も、彼女自身の基準に照らし合わせた結果なのだろう。
即ち『眠れないのは辛いことだ』というカナデにとっての常識。
其処から導き出された、傲慢で自分勝手な優しさの言葉――同情というものの醜い側面。
つまりは自分自身が放ったその言葉の正しさを、確信できていないという事実。
気付いてしまえば沸き起こるのは己への苛立たしさ――泡沫と消えるも水面は揺れ続ける。

「っ……ごめんなさい、話を続けて」

*  *  *

この時のやり取りが、後に同棲最終日となる筈だった夜に彼女がとった行動の、一つのきっかけとなったのは言うまでも無い。

638クレハ:2008/07/12(土) 19:49:34
>637
大丈夫大丈夫と半笑いに繰り返すクレハ。
確かに本人のその顔に憂いは無い。
だが、事実を知ってしまったカナデからすれば憂慮すべき点が出来てしまった事には違いない。
この一週間の仮初めの同棲生活において、それがどのようなマイナスになるのかは解からない。
万が一起こり得る何かしらに対しての備えが、万全で無くなるかもしれないのだから、忌避したいという考えに繋がるには十分だった。
それを見越してか、クレハは補足するように人差し指を立てる。

「肝心な時に傍に居ないとか、駆けつけられないとかいう事は意地でも無くすからさ。
 心配しなくても大丈夫だよ。これはもう男としての矜持でもあるし、同時に恋人役の甲斐性だよ。」

「マクラかぁ、水枕とかひんやりしてて良さそうだよね。折角だからモミジのも選んで貰おうかな…」とニッコリ微笑むクレハ。
話の合間に少しずつ決まっていく、午後からの予定。
少なくともクレハは何に対しても悲観している様子は全く無いようだった。

「…ふぅ、どこまで話したかな。
 俺が養成所に入る前に何をしてたか…で、本題はイオリちゃんの事だよね。
 じゃあ、次は本題に入る少し前のお話をば。」

漆塗りの急須を取り、温めのほうじ茶を注ぎ、
それをカナデの湯飲みにもゆっくりとした所作で傾けながら。

「俺が十五の時まで住んでいたコミュニティはヘラス盆地の大型食料生産プラントに隣接する所にあってね、
 クレイドル程では無いにしても、それなりに豊かな生活をしてたんだ。
 オヤジもオフクロも別のホシに居たから、ココ(火星)で環境局勤めだった叔母さんにお世話になってたんだけどさ。
 別にその生活自体に不満があったわけじゃない。むしろ、不満が無い事に不満を感じていたっていうのが正しいのかも知れない。
 恵まれた人間にしか抱けない贅沢な願いだよね。
 将来への漠然とした期待とか不安とか、思春期のオトコノコが持つヒーロー願望とか、そういうのをやっぱり俺も一丁前に持ってたわけで。」

少年期に思い描いた変身願望のような淡い想い。
それを語るに恥ずかしそうに幾度か頬を掻き、ゆっくりと頬杖をつく。

「思わぬ形でそれが表面化したのが、そのコミュニティで起こったある事件がキッカケだった。
 有力企業とクレイドルのインフラにダメージを与えようと画策した武装テロリストによる食料プラント襲撃事件。
 プラントの一部とコミュニティに存在する企業及び民間施設が被害を受け、死傷者は数百人に上った。
 鎮圧には周辺クレイドルから派兵された火星軍と地元の自警団が当たり、事後を含めて一週間ほどで事件は収束……、
 今から丁度六年前。まだ比較的記憶に新しいと思う。
 実は俺、その一件に巻き込まれる形で関わっていたんだ。
 MSなんてものに初めて乗って、無我夢中の中で命のやり取りを経験して。
 それこそ俺の人生を大きく変えるような、トラウマだったって言って良い。」

戒厳令下の街で逃げ遅れて戦闘が始まり、
見知った街の景観を、長年連れ立った友人を、助けてくれた自警団のパイロットを喪いながら辿り着いたコクピットシート。
十四のただの少年だったクレハは、焦りと、恐怖と、怒りと、嘗て無い高揚感のままに人の形をした鋼を駆った。
初めて骨が軋む様な苦痛の中で鉄の装甲を薙ぎ、灼熱の光条を以って人の意思の灯火を掻き消した感覚は今でも鮮明に憶えている。

「人の命の重さを知った俺はその時、もう既に戻るべき日常の外に立っていたんだ。
 やりたい事もやるべき事も見えずにただ過ごして来ただけの日常から自ら別れを告げるだけの主体性もいつの間にか出来ていた。
 だから俺は当時から少しだけ噂を耳に挟んでいた養成所を目指す事に。
 それで……目指してはみたものの入るには少しハードルが高くって、叔母さんには迷惑掛けられないし両親には反対されたしで、その…学費がね。
 思いばかりが先行した俺は預金の一部を引き出して取りあえずコミュニティを出て一人旅としゃれ込んだ。
 ホント俺ってば昔から勢いばかりで、少し考えれば幾らでも方法があったろうにね。
 各地を回って見聞を広めれば手段も見付かるだろうだなんて……結局はさ。」

639クレハ:2008/07/12(土) 19:50:06
『そう、結局は身包み綺麗に剥がされて少年は現実の厳しさに直面した――
 私に拾われて無ければ今頃元のコミュニティで燻ってるか、はたまた夢に倒れて砂塵の一部かってくらいの状況だったわよね、クレハくんは。』

「……イオリちゃん、今からいい所だったのに。」

「なぁに?私との出会いを美しく脚色でもしてくれるハズだったのかしら?

 はい、お待たせしました。和風パスタに創作海鮮サラダですねー。
 梅ジュースもすぐにお持ちしますね。それとカセイダケのお吸い物はぬるめでサービスです。」

話の途中で割って入った声は、話題に上った張本人の。
頭を掻きながら苦笑いするクレハを尻目にイオリはテーブルの上に料理を丁寧に並べていく。
一体何時から聞いていたのか、昔から彼女のタイミングには驚かされっぱなしのクレハだった。

「とまぁそんなワケで、ハジメテの恩人にしてハジメテ俺にお仕事の斡旋をしてくれたのがイオリちゃんだったワケなのさ。」

そう感慨深そうに呟くクレハの隣でお盆を抱え微笑むイオリ。
二人の仲とはつまり商売上のパートナーであり、戦友のようなものであった。

640金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/12(土) 20:34:15
>>638-639
青年の語る身の上に思いを馳せ、カナデは一言も口を挟まずに耳を傾け続けていた。
過去の苦味すら何処か誇らしげに振り返るクレハの表情に、男とはそういうものなのかと思いながら。
そういう時は得てして周囲の状況に気づけないものだ。
故に、急に割り込む形となったイオリの声は、カナデを大いに驚かせる事になった。

「あ……っ」

言葉が接げない。
余りに親しげな二人の間の空気に、今の自分が入り込む余地など無いように感じたからだ。
整然と並べられた料理を前に、ワケの分からない気まずさを覚えてカナデはほうじ茶を手に取り、啜った。
アイスブルーの瞳がほんの少しだけ、所在無さそうに揺れる。
香ばしい匂いが口中から鼻腔へと抜けていく――

「そう。初めてって、そういうことだったの」

――テーブルの上に湯飲みを戻す。瞳の揺れはもう落ち着いていた。
動揺していたわけではないと思う。
ならどうしたのだ、と誰かが問うたなら、恐らくカナデは答えられなかっただろう。

「じゃあ、クレハは彼女に頭が上がらないのではないかしら?」

イオリを一瞥してから、からかうような口調と共に目線をクレハへと流した。

641クレハ:2008/07/12(土) 21:28:17
>640
「もちろん、だからこうして数ヶ月に一度は貢ぎに…」

「あら?この味が忘れられないから何度でも足を運びたい……じゃなかったかしら?」

「ははぁ…その通りです。
 まぁ学生ライフであんまり来られないからその都度その都度を大事にですね?
 うん、ご利用させて頂いておりますよイオリ姉さん。(カチャカチャ、マキマキ、スー…パクっ)くぅーっ、絶品だ!」

頭が上がらないのは事実のようで、イオリの意地悪気なジト目から逃れるようにパスタを口にするクレハ。
和風ソースにクリーミーな長いもと隠し味であるワサビの絶妙な旨味がアクセントとなって…、などと完全に話を逸らす気である。

「今にして思えば目的と手段が完全に逆転していたようにも感じるけど、クレハくんの要領には才能を感じたわ。」

「(もぐもぐ)まぁクリーチャーハントと兼業のジャンクハントなら手っ取り早く稼ぐには丁度良かったしね。
 今でも感謝してるさ、イオリちゃんには。」

「うふ、私も今はお客様としてクレハくんには感謝してるわ。
 だから安心して下さいね、ええと…カナデさん?
 クレハくんのコトだから思わせぶりなコトを言ったのでしょうけど、私はこの通り旦那一筋だから。」

何を安心しろというのか、厨房の方を見やってから冗談めかしてイオリは笑う。

「別に思わせぶりなコトなんて…言ってた?俺。(素)
 そんなこんなで昔話はこうして今に繋がるわけだよカナデちゃん。まぁ俺としては昔より今が大切なんだけどね?
 
 いやーしかしあんな時代があったから、こうしてクレイドルに君が店を構えるコトに感慨深いものを感じるんだよなぁ、うんうん(もぐもぐ)」

「私は旦那とこうして店を持つのが夢になったから良いのよ、昔より今が大切というのには同意ね。」

終始ノリを変えないままのクレハに苦笑しながらイオリは「ごゆっくり」と下がってゆく。
残されるのはトウキョウクレイドルの誇る伝統工芸のお皿に盛られた色取り取りの見事な料理。
「美味しいよ」と笑う男は少女の心情の移ろいなどまるで気にしていないようで。
しかし。

「いつもはこんなでもはぐらかすんだけど、
 相手がカナデちゃんだからか……結構熱入っちゃってたな。昔話。」

ふと、パスタを口に含む合間にクレハは外の風景を見やりながら独りそう呟いた。

642金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/12(土) 21:58:31
>>641
「別に、私は……」

梅ジュースの入ったグラスを手に、ストローを咥えたまま。
イオリの言葉の意味するところを察して、少し面白く無さそうな顔をした。
つまりは彼女にヤキモチを焼いていると思われた、そういうことなのだろう――

(――まあ、それだけ私の演技は堂に入っているということなのだろうけど)

なら何故面白くないのだろう、とクレハの顔を覗き見て。
そもそも自分が何かを面白がろうとしていること自体、本当に久々だったと気付いた。

「……本当、クレハといると退屈しないわ」

爽やかな梅の風味と冷たさが、喉を通り過ぎていく。
相手が自分だから、といったクレハの言葉を反芻し、誰かに特別に想われる事の心地良さを感じて。
仕切り直すように、カナデはフォークを手に取り、和風パスタから食べ始めた。

643クレハ:2008/07/12(土) 22:21:54
>642
「嬉しいな、俺もだよ。
 というか常に緊迫感みたいなのがあって良い感じに頭が冴える、みたいな。
 まずまずとして御口には合ったようで何より。イチオシなだけに不安だったんだよ。」

それは呆れを含んだイントネーションか、あるいは特別な意味でのものだったのか。
男にとってそれはどちらでも構わなかった。
退屈にさせない、という点においては取りあえず果たせているようなのだから。

「お吸い物も薄口で美味いなぁ…キノコ出汁がよく効いてる。
 そういえばまともな和食ってすごく久しぶりな気がするなぁ……」

思い返すは食堂での固定ランチとモミジの作る洋食。
何よりそこいらの物とは材料からして違うのだから、そう思えるのも自然だ。
安定供給を誇る食料プラントの存在により季節感のあまり感じられない火星の料理の中にあって、不思議とそれを強く感じるのは何故なのだろうか。

「単純に腕がいいのか……ぁ、で思い出したんだけどさ」

と、サラダを小皿に取り分ける手を止めクレハが唐突に何かを思い出す。

「この一週間の料理当番とか掃除当番とか決めたいってモミジが言ってたんだけど、どうしようか。」

カナデちゃんはお客様だけど、そういう演出もこの生活には必要なのかな?と首を傾げ、
掃除洗濯炊事に諸々、まかせっきりでも構わないけどとクレハは笑う。

644金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/13(日) 00:11:05
>>643
「こう見えても私、一通り家事はこなせるの」

お嬢様育ちだから、と思われるのがイヤなのだろう。
クレハの言葉が終わるや否や、すぐさまカナデはそう続けた。
炊事、洗濯、掃除。
確かに寮で一人暮らしをしていれば、それらは自分でこなさなければならない。
彼女の家の財力があれば、家政婦を雇うなど容易いことではあるが……。

「学生の身だもの、メイドを傅かせる趣味は無いわ」

との事。
フォークを置き、サラダを手元に寄せながらお嬢様はこう仰った。
即ち、

「分担は公平に3等分。
 それさえ守ってくれれば、私の担当はそちらで決めてくれて構わないから」

645クレハ:2008/07/15(火) 22:40:19
「ほほぉ…そいつぁ…」

この男とてカナデがこちらに身の回りの世話の全てを任せるとは思っていなかった。
それは少女の性格からも予想出来るし、何より自分にはあまり信頼が無い。
それに、もしかしたら昨日も少しだけ見せていた負い目のような感情からもそれを良しとしないのではないかと感じたからだ。
案の定、彼女からの返答は明快なものであり、

「ってことはカナデちゃんの手作り料理が食べられるってワケか。」

こりゃ役得だね、とパスタを頬張りながら満悦の様子のクレハである。

646金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/15(火) 22:55:09
>>645
「私が料理当番の時は、必然的にそうなるわ」

対してカナデは、手料理を振舞うという行為に何ら特別な意味を見出していなかった。
青年の喜びようから、彼にとっての意味するところは理解していたが、
だからといって彼女までもがそれに倣う必要は無い。
ルームメイトの為に料理を作らねばならない日が定期的にやってくる、つまりはただそれだけのことでしかなかった。
だからそれ以上は考えない。
今はただ、目の前の料理の食べどきというものが過ぎる前に味わいつくす、それだけに集中しようと決めていた。

実にドライである。

647クレハ:2008/07/15(火) 23:04:43
>646
「モミジのご飯は特別枠だからさ、
 実は俺、自分の腕を振るうのが久しぶりなんだよね」

この温度差にも最早慣れたものである。
いつものキャラでなら下手に食い下がるような惨めも演じられるが、
今のクレハは如何せん、それほど柔軟性に富んでいるわけではない。

「けどまぁ俺とて寂しい独り身。
 その身が自然と培った家事能力には同じく一通りのものを感じてるから、がっかりはさせないよ。」

にっこりと。
そして、カナデが桜桃庵の料理を思いの外美味しそうに味わっているのを見て。

「これレベルは無いとして、だけどさ。」

静かに目を瞑り、お吸い物を啜る。

648金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/15(火) 23:15:36
>>647
「そう。期待しておくわ、モミジちゃんの料理」

クレハの言葉を敢えてスルー。
素なのか、はたまた彼女なりのユーモアなのか、判断に迷うところであろう。
一切変化を見せない表情のままでパスタの最後の一口を頬張り、ゆっくりと咀嚼し、嚥下する。
一頻りの余韻を味わってから梅ジュースのストローを咥え、カナデは何食わぬ顔でクレハへと視線を向けた。

649クレハ:2008/07/15(火) 23:29:48
>648

「うん、アレは正直三ツ星級だよ。…いや、三ツ星なんか滅多に食べないけど。
 何が凄いって無表情で淡々と作るのがね、すごく良いアクセントになってるんだ。
 俺的には食堂のオバちゃんのおにぎり(スカーレット教官の大好物の)が性に合ってる気もするけどね。」

ああ、解ってる。予想は完全についていた。
スルー慣れしていたからこそ繋げた二の句はビックリするぐらい流暢でナチュラルなのが泣ける。男として。

「ふぅ……しかし食べたなぁ。
 ボリュームもそこそこ、サラダに乗っかったサーモンは天然級だし、何より猫舌に優しい。
 一先ずご馳走様…かな、俺は。あとは良いタイミングでデザートが来るはず。」

カナデの気まぐれな視線に軽薄なウィンクで答え、木製フォークをテーブルに置く。
これまた和風な趣のナプキンで軽く口元を拭うと、男は満足げにゆったりとイスの背凭れに身を委ねた。

650金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/15(火) 23:42:32
>>649
「時々、モミジちゃんが人形みたいに見える瞬間があるわ」

無表情で料理をする少女の話に、そう言えば、とカナデはそんな事を口にした。
勿論彼女は自分の言葉と、モミジの秘密との間にある距離が限りなく近いことなど知りもしない。
ただ「表情に乏しい女の子だな」と、そう思う程度でしかない。

「きっと、苦労したんでしょうね」

クレハを見る目が何処か厳しい。
その苦労の何割かは貴方が原因でしょうと、そう言いたいのかも知れなかった。
同じ『妹』として、カナデはモミジに対して、結構同情的なのである。

651クレハ:2008/07/16(水) 00:23:50
>650
「……。」

不審に思う要素は、正直かなりあると思う。
外見、体温、言動、外側がヒトと何も違わなくとも、
人間のような生理的行動を一切必要としないモミジは、それを演技で補う。
眠らない事が無いように、必要なら機能をセーブして寝ているフリをする。
食事も本来液体の活性動源だけだが、必要ならば少しの体内ストックが出来る仕組みがある。
しかし基本的には病気であり、食べられるものが限られているという“設定”がそれを回避するのだ。
排泄についても言わずもがな、必要は無いが外見的特徴として存在するだけ。
それらの要素から確信に至るには、やはり直接身体をすみずみまで調べるほかは無い。
故にバレるということは無いのだが、問題は他にある。
クレハは少しの心苦しさを覚えた。

「まぁ俺もまだ兄初心者だからさ。
 頼れる兄貴だとか、誇れる兄貴になれるように全力を注ぐ心算だよ。
 なんたって自分の妹だから。何ものにも代えがたいくらい可愛いじゃない。」

それがたとえ血が繋がっていなくとも。
それがたとえ血さえ通っていなくとも。
それがたとえ主従の関係を望み、
それがたとえ戦う為に産み出されたモノだったとしても。

「――モミジは親父たちの研究施設で育った。
 才能があって、研究にも協力していたらしい。
 知識だけは年不相応だけど、対人関係とか情操とか、全然年相応じゃないから。
 碌に笑顔も作れないんだよ、アイツ。いきなり妹だってこっちに預けられて、戸惑ってるのは俺だけじゃない。
 やっぱり、放っておけないんだな俺は……。」

心苦しさと自分の本音からか、
気付けば雰囲気のままに妹となったAIの身の上話をはじめていた。
勿論その内容は両親の用意したシナリオに則したものだったが、八割はこちらでの事実だった。

「だから…」

クレハにしてみれば、それは間違いなく厄介ごとだった。
最早顔も忘れかけるぐらいに放っておかれた両親からの突然の願いで、急に出来た妹を預かり、育ててくれというものだったのだ。
それはMSを駆る身としてはお誂え向きの素晴らしい戦術パートナーであり、
動く身体を得れば自分に似ていなくも妹として十分に見られる可憐な少女の姿をしていた。
そのギャップが、それと付き合っていく内にクレハを悩ませ、こんな事を今、目の前の女性に対して言わせるのだろうか。

「良かったらカナデちゃんにもお姉さんとか、友達でも良い。
 アイツが普通に笑えるようになるのを手伝って欲しいんだ。」

ダメかな?
そう言って口元で笑いながら、どこか寂しげな瞳でクレハは尋ねた。

652金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/16(水) 00:51:11
>>651
本気で詰るつもりは無かった。
自分なりの、軽い冗談のつもりだった。
そうしたものを言い慣れていない事は自覚していたが、しかし――

カナデの何気ない一言は、確かに目の前の青年の胸中を抉ったようだ。
申し訳ないような気持ちになった彼女に、クレハは彼の妹の身の上を語り出した。
カナデはその話を聞く己の耳よりも、その話をする青年の表情にこそ意識を引き付けられるのを感じていた。

何て優しく、切ない顔をするのだろう。
そう、思った。

だからだろう。
クレハの寂しげな瞳に見つめられ、拒む事など思いもよらず。
気付けばカナデは彼の願いに首肯を以って答えていた。

同時に彼女は気付く。
自分の内に沸き起こった、モミジへの羨望とも嫉妬ともつかない未分化の感情に。
自らの兄にそこまで大切に思われる、その幸せはカナデにとって、最早得ることの出来ないもの。
故にその未分化の感情は、これからも仄かな苦さと共に己の胸中に留まり続けるだろう。

「『恋人の妹』に、冷たくするような人間じゃないわ。安心しなさい」

カナデは不敵な微笑を浮かべる。
飲み込まれるものか。
己の内にたゆたう闇色の感情へと宣戦布告するかのような、それは傲慢で挑発的で、そしてこの上なく気高い微笑みだった。

653クレハ:2008/07/16(水) 01:38:50
>650
「ごめん…」

カナデの戸惑いが―僅かな表情の変化だったが―手に取るように解った。
だからこその、謝罪。
正直に言えばこういった話は彼女の前ではすべきではなかったろうと、今更ながらに思う。
しかし一方で、彼女だからこそ話せた事なのかもしれない。
兄妹という関係を誰よりも知る彼女なら、あるいは自身のこの複雑極まりない気持ちを理解してくれるかもしれない、と…。
だからか、

「――ありがとう、助かる。」

カナデのその言葉に、救われた気さえした。
これからもモミジと付き合っていく為の決意までが、あっさりと固まってしまったのだ。
それほどまでにクレハは、彼女の不敵な笑みが、もっとずっと愛しいものに感じていた。
ああ、やはり。
こういう真っ直ぐな娘だからこそ、自分は惹かれたのだろう。
惹かれない道理は無かったのだ、最初から。

654名も無き生徒:2008/07/16(水) 21:08:07
そして。

目まぐるしく、慌しくも賑やかな一週間は瞬く間に過ぎて行く。
物事には須らく終わりが約束されている。
どんなに楽しい芝居でも最後は必ず幕が下りる。
どんなに賑やかなパーティも最後は必ずお開きになる。

カナデとクレハとが恋人同士のように振る舞い、共に過ごす時間も然り。

最後の夜。
この夜が明ければ、二人はただの学友に戻る。
その身を浸し切っていた偽りの甘さに、望むと望まざるとに関わらず別れを告げねばならなくなる。

二人が一つ屋根の下で過ごす、これは最後の夜のお話である――

655金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/16(水) 21:35:08
シャワーのバルブを閉める。
バスタオルで水滴を拭う。
シルクのパジャマに袖を通す。
ドライヤーで髪を乾かす。
冷蔵庫から出したコーヒー牛乳をコップに注ぐ――飲み干す。
勝手知ったる我が家のように、いつの間にか当たり前になっていた浴後の習慣。

「今日で最後ね、この部屋で過ごすのも……少し、名残惜しいかな」

シンクでコップを洗いながら、リビングにいる青年の背中へ、そう声をかける。

「お疲れ様。あと、ありがとう。
 貴方には感謝しているわ、クレハ」

自分のワガママに一週間も付き合ってくれたお人よしの道化師を、湯上りのお姫様はそんな言葉で労う。
柔らかい声と微笑。
湯浴みの後の、仄かな桜色に染まった肌。
氷の薔薇のふたつ名が、今宵ほど彼女の美しさに似合わない夜は、もう無いのではないか――
そう思わせるぐらいに、この時のカナデはヒトの体温というものを感じさせた。

656クレハ:2008/07/18(金) 20:56:48
>655
「そんな、カナデちゃんさえ良ければいつでも遊びに来ていいのにな。」

カタカタ。
世話しなくレポートの文面を書上げていた両指を止め、軽く息を吐いてから振り返って笑う。
そして、知らずに長時間目を見開いていたせいか。くらりと来る眼疲労に瞼を閉じて手を当てる。
今、この目を開けた先の少女はバスタオル一枚で柔肌を包むだけのある種夢のある格好だ。
この眼福の至りでもある光景は、同居生活の三日目から拝ませて頂いているので、
流石に当初の心の中の動揺は抑えられるようになったし、不自然に目を泳がせなくても良くなった。
こちらにやましささえ無ければ彼女は特に何を言う事も無く、ただありのまま日常のものとして受け取れば良い。
言うならば特別でありながら特別ではない、この生活の中での彼女らしいスタンスの表れだったのだろうと、
最後の夜にふと、クレハはそんな事を考えながら。

「モミジも喜ぶし。」

そう加えて視線をやる先には、妹専用の無骨な軍用携帯端末があるだけ。
本人は買い物があると今しがた部屋を出て行ったからだ。
よって、今現在はいつしかぶりに二人きりの状況でもある。

「この一週間はずっと俺がしたい事をして来ただけだから、カナデちゃんは気にしなくて良いよ。
 寧ろ言いたいのはさ……退屈は無かった?ってコト。」

無茶をしない範囲で、無理をしてきた一週間。
少し思い返しただけでも、たくさんの出来事が浮かんでくる。
初日。なんだかんだで三人揃って同じ枕を購入したのは良い思い出だ。
心なしか、あの枕のおかげで良く眠れている、そんな気さえした。
部屋の中を見渡せば、そんな、僅かな期間でも染み付いた三人目の確かな存在の痕跡が見て取れた。

657金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/19(土) 00:20:12
>>656
「中々……刺激的な一週間だったわ」

洗ったコップを乾燥機の中に置き、クレハの方へと振り返る。
濡れた髪は踊らず、しっとりと揺れてシルク地に包まれた豊かな胸元へと流れた。

少し体が熱い。
最後の夜だからだろうか。
名残惜しさが熱となって、体の芯を蝕んでいるからなのだろうか。

少し話がしたい。
そう思ったから、自室に戻る前にパジャマを着た。
クレハと共に暮らすようになって三日目の夜だ。
青年が他の男たちのように、好色な目で自分を舐め回すような真似をしないと確信できたのは。
故にその夜からカナデは入浴後、自室に戻るまでの僅かな時間をバスタオル一枚で過ごすようになった。
初めは不自然に視線を逸らしたり、慌てたように別室へと逃げ帰っていたクレハも、
そのうちごく自然に半裸同然のカナデと短い会話を交わせるようになっていた。
一度だけ、ふとしたことでタオルが落ちてしまったときには、お互い真っ赤になってその場から逃げ出したこともあったが。

けれども今夜は、そんな短い言葉の応酬だけで済ませたくない。
『恋人同士』としての最後の夜ぐらい、このお人よしの青年と、安らいだ時間を共有したい。
それが、カナデの本心だった。

落ち着こう。
さっきからどうにも体が熱い。鼓動が速い。心が落ち着かない。
こういう時はよく冷えたカフェオレをもう1杯――

「――え?」

そう思って開けた冷蔵庫のドアポケットに入っていたのは。
カフェオレなどでは決して無かった。
そうだ。最後の1ビンは、昨夜自分で飲み干したのだ。
だとすればこれはカフェオレなどではなく。

「……っ……フフッ……あははははっ!」

浮き立つ心と火照った体の原因をそこに見つけ、カナデは思わず笑い出していた。
三流コメディでも中々お目にかかれないミステイク。そして、そんな真似をしてしまう程に今夜という時間を意識し過ぎていた自分。
それらがおかしくて、涙すら浮かべて少女はひとしきり笑い続けた。
彼女が手に取ったビン。そのラベルに書かれていたのは……。

「ねえ、クレハ。一緒にカルーアミルクでも飲まない?」

たおやかな白い指がグラスを2つ、青年の前に並べたのは彼が答えるよりも僅かに早かった。

658金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/21(月) 00:34:51
>陽気さんへ

・今までバスタオル姿だったから、今夜もそうだろうとクレハ君は思い込んでいた

そんな解釈で如何かと。
ではノシ

659クレハ:2008/07/26(土) 21:25:48
>657
「それは良かった。
 こっちとしてもそれなら頼られ冥利に尽きるというか…何か変だけど。」

どうやら頭に描いたパターンとは、今夜は違っていたらしい。
例のハプニングもあったのだ、毎日拝めるものではなく、
今までが特別だったのだと、クレハはそんな当たり前のことを再認識する。

「でもさ、何ていうか感慨深いものがあるなぁ。」

それはそうと、女の子のパジャマ姿というのも愛らしい物ではないか。
あらゆる先端ファッションを着こなしてみせるモデル顔負けのカナデ・ノースウィンドもクレハは勿論好きだったが、
こうして目の前で、ありふれた日常の、その生活サイクルに則した格好の彼女はとても新鮮で、真新しいものに見える。
これまで入浴終了から就寝までにあまり会話出来なかったせいか、それほど意識していなかっただけに、改めて思う。
これが最後の夜……そう考えると、この降って湧いたような幸福の時間に対して男も少なからず名残惜しさを覚えていた。


「最初は予想だにしてなかったよ、ホント。
 まさかあんなトコロで再会出来るなんて……さ。
 それから成り行きとはいえご招待する事になって、色々あって、遂に明日には念願の現場復帰!
 嬉しいなぁ、いやホント。やっぱり目標は険しく高くたって、確認出来る位置に居て欲しいわけで――」

だからか、少し饒舌にもなる。あるいは、やはり二人きりだからか。
決して、お互いの顔と顔を合わせた真剣な話をしているわけじゃない。
両者の視線は別々で、何時も通りの就寝前の僅かな会話を楽しむ、少なくとも男は今夜さえそれで我慢出来るつもりで居たが。

「え?
 あー…… そっか。

 ……うん、良いよ。付き合う。」

グラスを手に取りながら、柔和な微笑みを返す。
最後の夜に偶然は重なるものか。
二人が望めばこその必然か。
そしてクレハも、もう少しだけ話をしたいと願った。

660金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/07/26(土) 22:20:21
>>659
「先に言っておくわ。
 私はアルコールにあまり強くないの。
 酔い潰れたら介抱は宜しくね――」

如何にも感慨深げな青年に対し、ともすればカナデの態度はドライにも見える。
しかし決してそうではない。
彼女は彼女なりに、この一週間に思いを馳せているのだ。

「――今夜はワイシャツ一枚じゃなくて、さぞ残念でしょうけど。
 何なら今から着替えてきてあげようかしら?」

二日目の朝に起きた事件を踏まえての一言であるのは言うまでもない。
あの時のカナデは本気で彼の行為に怒っていた。
けれど今の彼女は、その美貌に悪戯っぽい微笑を浮かべている。
妖艶というには気高さが過ぎ、高慢というには愛らしさが過ぎるその微笑み。
友人同士の気安さがそこにはある。信頼する者への気安さもまた然り。
だとすれば。
リビングのソファに腰掛け、二人分のグラスにカルーアを注ぐ今宵の彼女の、
こうした陽気さと饒舌さとは、既に一杯目のアルコールが回っているというただそれだけの理由から来るものだろうか。

「まぁ、それはそのうちね。
 貴方が私の心を手に入れることができたら、毎晩でも着てあげるわ」

2つのグラスをチンと鳴らすと、彼女は徐に両脚を組んだ。
アイスブルーの双眸が、小さなテーブル越しにクレハの瞳を覗き込む。

「……もしかして思い出した?
 それとも、もっとすごいのを想像してる?」

……少なくとも、タガが少々緩むぐらいには、彼女は早くも酔い始めているようだった。

661クレハ:2008/08/01(金) 21:17:20
>660
「はは――これはまた奇遇みたいで。
 俺も嗜む程度で、上戸ってワケでも無いんだ。
 潰れた場合は二人してモミジのお世話になっちゃう、かも?」

冗談めかして笑い、杯に注がれたカルーアに口を付ける。
甘いミルクの風味の後で舌を流れていく独特な透明感。
本当に久しぶりのアルコールの味だった。

「ふぅ……これ以上何を望み、何を言う事があろうものだろう。
 俺からすれば、カナデちゃんのそのパジャマ姿だって十分すぎる価値があるのになぁ。」

現在、自分が置かれている少々特殊なこの状況。男とて狙った訳ではないのだ。
確かに先日、彼女の日課と合わせて飲み物を選んだ時ついでに購入したものが今、二人のグラスに注がれている。
ラベルやデザインが似通っていたので冗談のつもりで手に取った。
それを彼女も見ていたし、何であるかという説明が他愛の無い会話のネタにもなった。
その存在を失念していたのは、多分お互いだったのだろう。
彼女が過ってそれを飲んでしまったという偶然。
ならば仕方が無いではないか?
酒気という魔力に骨を抜かれながら……そういう最後の夜になっても悪くは無い。

「あは、そうだね…
 もしも…そう、IFだよ。
 君の心をキャッチ出来た時の“もしも”はいつだって想像してる。
 ……でも、とてもじゃないけどイマジネーションが足りないね。」

現実感がまだ無い。
この一週間だって胡蝶の夢に思えるんだ……と、
ほろ酔いの熱に揺られながら、しかしそうとは思わせない澄んだ瞳でカナデの瞳を覗き込み、呟く。

「――しかし、君と飲むカルーアはいけないね。」

彼女の淡い雪のような四肢、それを初めて目にしてしまったあの時も、
丁度今のような熱に浮かされていたように思う。

「どうも、酔いが回るのが早過ぎるみたいだ。」

思考を蕩けさせ、惚けさせる特別な酒の味。
それが切れてしまうと激しい虚脱感に襲われる。
覚めたくない夢から抜け落ちて、つまらない現実をシラフの自分が認識してしまう。

クレハはまだ酔っていたい。
クレハはこれからも酔い続けたい。

カナデ・ノースウィンドという至高の酒の味に。

662金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/08/01(金) 23:06:27
>>662
「随分と遠慮深い性格になったものね。
 折角最後の夜ぐらい、恋人らしいコト、させてあげようかと思ってたのに。
 モミジちゃんが帰ってくるまでに……

 そうね、唇ぐらいは奪えたかもしれないわよ?」

目の前の男は決してそんな卑怯な真似をしない。そう信じているからこそ言える冗談。
『私は貴方を信頼している』――つまりは言外にそう宣言したということなのだろう。
くすくすと笑いながら、カナデはグラスに唇を添えた。
青年の双眸の中に映る己自身に見つめ返されるような錯覚と共に、ふわりと広がる甘い香りが鼻腔から胸の奥へ染み込んでいく。
火照る体を冷ますつもりで一気に煽った冷たいグラス。
けれども喉を下りて胸中に溜まるのは如何ともし難い昂り、「ほうっ」と漏らした吐息も甘く余韻を残す。

酔ってしまいたい自分がいた――酔ってはいけないと戒める自分もいた。
恋人の真似事に――恋人の真似事だからこそ。

グラスを置く。
雫に濡れた指先を胸元に沈め、押されるようにソファへと背中を預けた。
自然と視線は天井へ向かう。
一週間前には知らなかった、ナラノハ家の天井へと。

「2週間か……このブランク、取り戻すのは骨が折れそうね」

不意に、桃色の唇からそんな呟きが零れた。

「こういう時、才能なんてモノに頼れる人たちが少しだけ、羨ましくなる――」

凡そ、カナデ・ノースウィンドらしからぬ弱気の言葉。
まるで自分が、自分こそが。

「――私には、そんなモノ。
 ただの一つだって、備わってはいないのだから」

取るに足らない、路傍の石であると言うかのような。
自嘲ともとれる薄い笑みを唇の端に浮かべたまま、少女は静かに瞳を閉じた。
合わさる瞼の上で、長い睫毛がふるると揺れる。
それだけで落ちそうになる意識。
繋ぎとめようと言葉を紡ぐ、白い喉と、桃色の唇。ゼリーのような瑞々しさ、隙間から覗く白い歯、そして赤く艶やかな舌の色。

「……ねえ?
 前に貴方、インソムニアだって言ってたわね。それが、貴方の秘密。
 じゃあ――」

篭った熱を逃がしたいのか、胸元の指先がパジャマのボタンを外していく。
一つ、二つ。
その数が三つを数え、肌蹴た襟元から薄く汗ばんだ柔らかな双丘が、自らの大きさを恥らうような控えめさで、その姿を覗かせ始めた時。

「――私の秘密も、教えてあげようかしら」

そう言って瞼を開き、カナデ・ノースウィンドは再びその濡れた瞳をクレハへと向けた。

663クレハ:2008/08/09(土) 22:02:06
>662
時間にして、どれくらい経っただろう。
些細な間違いから始まった小さな酒宴。
互いに杯を酌み交わし、この一週間を振り返り、笑い合う。
酒の魔力に操られ、時間の感覚を狂わされ、精々数分が数時間にも認識される。

「はは、それはだってせざるを得ないというか。
 俺は君に嫌われたく無いんだから、せめて…無関心は維持したくとね?」

カナデにとってのファーストインプレッションである、あのチャラりとした雰囲気は鳴りを潜めて久しい。
代わりに表に出て来た優男然とした態度は、今宵まで決して崩れる事は無かった。
それはある程度の甲斐性を持ち合わせていて、分別を望む彼女の期待にもそれなりに応えているように思えた。
だからこそ、僅かの間にここまでの信頼を勝ち得たのだろう。
恋人役の、お人よしとしての信頼。
あるいは友人くらいにはなれたのか。

「実は俺、お楽しみは最後まで取って置きたい主義なんだ。
 それにそのお楽しみが特別であればあるほどに夢やロマンは無限に膨らんでいくんだよ」

幾度目か、グラスを傾けながら。
酔っていたいと願っては見たけれど、まさかこれほどまでとは思わなかった。
自分自身、本当に愕くほどに酒の回りが早いのだ。
意識の薄弱を感じる一方でしかし、クレハは勢いに任せた言動を頑なに慎んでいた。
如何に彼女が熱りに囚われ無意識のうちに扇情的になっていようとも、一瞬のこの欲望に絆されてやるつもりは無い。

勢いに任せたい自分(本能)が蠢く……勢いに任せまいと戒める自分(理性)は強い。
恋人の真似事ならば――恋人の真似事であるからこそ。

カナデを見つめ、その唇の動きの一つ一つを注視する一方でそんな事を考えていると、
ふと少女から漏れた“らしくない”呟きに、けれども不思議と戸惑いを覚える事無く男は微笑を浮かべ、

「……それなら知ってるよ、カナデちゃんは人知れず努力を重ねてる子だっていうのはとっくに。」

そう、そんな事はとうに知っている。
出会ってからこちら、伊達にずっと後姿を見詰めてきたわけじゃない。
彼女に才能が無いとは思えない。
けれど足りない何かを補うように途方も無い研鑽を積み重ね、確固たるモノを維持し、伸ばして来ただろう事は理解していた。
クレハそんなカナデのストイックな側面にも惹かれていたのだから。

「女性は秘密を纏うからこそ美しいって言うじゃない?
 だからその秘密は君の心を正式に射止めた時のご褒美にしたいんだけど…ダメかな?」
 
 ……今の俺は多分、聞くに相応しく無いよ。」

彼女がそうならば、自分も正々堂々と彼女に向き合いたい。
そう思う心が、クレハにそんな事を言わせた。
酒気などという助力が無くとも打ち明けてもらえる様な信頼が、何よりも欲しかった。
 
「もっとも、それが悩み事でもあるなら、
 俺はいつだって相談に乗るし、大袈裟かも知れないけど身命を賭してだって力になりたい…。」

そう言って気付いた時、彼女の白磁を思わせるしなやかなその指を握ってしまっていたのは、
知らずの内に感情的になってしまっていたからからなのか。

カナデが初めて見せた一瞬の儚い弱さ。
放っておけない気持ちが、守ってあげたいという意思に変わった様に思えた。

664金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/08/09(土) 23:32:40
>>663
毒気を抜かれたような顔で、カナデはクレハの指先が握るものを見つめていた。
かつてソレは白くたおやかで、そして今は節くれだった固さを内側に秘め、それでも損なわれない美しさを纏った物――
日々の研鑽と修練とが形作った、彼女自身の指だった。

「クレハ……」

包み込むように温もりを伝えてくる青年の手。
カナデのソレより一回りも大きく感じる、その手の平は決して不快な感触では無かった。
そっと握り返してみれば、あれほど胸の内を渦巻いていた疼くような酒精の火照りですら、
柔らかな温かさへゆっくりと置き換わっていくような気がする。

――ああ、本当に、この男(ひと)は……。

今や彼女の瞳を濡らすのは、無意識の内に滲み出て男を惑わす、ぬめるような媚などでは無く。

「……貴方って、本当に馬鹿ね」

熱く、止め処なく、溢れ出しそうになるその雫を見られまいと、握られた手にコツンと額を当てて俯いた。
気付けば聞こえる息遣い。

――このひとは、こんなにも傍にいてくれる……。

「馬鹿……」

確かめるようにもう一度、そっと額を、コツン。
兄のソレとは違う形と感触。いつの間にか両手で握り返したソレに、遠慮がちに指を絡めて、引き寄せて。

「私の秘密を知るに相応しいかどうかは、私が決めるわ。
 貴方は信頼できるって……そう思ったから……けど……。
 馬鹿みたいにお人よしな、そんな台詞を言われたら……その誠意、無下にはできなくなるじゃない……ッ」

俯いたまま、大きく横にかぶりを振って。

「『信頼してる』……なんて、お酒の力でも借りなきゃ、とてもじゃないけど言えないわ。
 下手なのよ、私、心を伝えるのが……誰かに何かを伝えたいって……そう思ったことなんて殆ど無かったもの。
 けど伝えたいの。
 クレハを信頼してるって……私、クレハを信じてるって……ねえ?
 ちゃんと言えてる?
 ちゃんと伝えられてる?
 ずっと言いたかった。
 『信じてる』って、『ありがとう』って……私、ちゃんとクレハに……初めてなの、こんな気持ち……だから……ね、教えて……?」

クレハ、と青年の名を呼びながら、薄く涙の滲んだ瞳で、カナデは握り締めた手の平の主を見上げ。

「この気持ち……どうやってクレハに伝えたら良いの?」

懸命な表情で、ともすれば今にも泣き出しそうな顔で、桃色の唇を震えさせながら……そんな言葉を、胸の奥から搾り出すように口にした。

665クレハ:2008/08/12(火) 23:05:03
>664
「俺は軽率でお人よしだけど、君の前では愚直で居たいから」

囁く様に、懸命に訴え掛ける少女を真っ直ぐに受け止めて応える。
無意識から握ってしまい、今は彼女の手の中に在る自身の手を見詰めると、どうしようもない感慨が浮かんで来る。
拒絶は無かった。これも彼女が言うように酒のせいなのか?
素面の自分が否定したがる。
けれど本当はどちらでも良かった。
今は握り返してくる指の感触だけが全てなのだから。

「そんな事を本気で思える程には馬鹿なんだと思う。」

思えば、改めて見て触れた少女の手には、その可憐な容姿からは想像出来ないほどの労苦が刻まれていた。
初めて手を繋いだ夜の、柔らかい感触だけでは解からない……美しさのファーサイド。
彼女は特別で、気高く凛々しい存在だったが、そう扱われる事を嫌がる。
この手に刻まれた努力の痕こそが“ノースウィンド”では無く“カナデ”という少女の証なのだと漸く理解した。

「もう、十分過ぎるじゃないか……それって十分に伝わってる。“ココ”に来てる。他に望むものなんて何も無いよ

 こうしてると、解かる。」
 
ずっと握られていた左手で自身の胸(ハート)を指して微笑むと、彼女の手の上にその手を重ねる。
それまで溢れ出しそうな感情の箍を握り締める事で抑えて来た手だったが、その熱意は言葉ではなくこうする事で彼女に伝えたい。
気持ちを伝える事は苦手でも、今の彼女なら解かってくれるだろう。

家の名を背負いつつ、憧れの兄を想ってただ只管に自分を磨いて来た少女。
彼女はとても不器用で、誰かと手を繋ぐ事すらせず、自ら距離を取るうち本当に独りになっていた。
羨望、嫉妬、ある種の畏怖。周囲のそんな眼差しも彼女により深い氷のヴェールを纏わせた。

しかし、今宵は違う。

氷のマスクとヴェールの更に下、神秘と意志のヴェールのその向こうに、
こんなにも幼く、誰もが持つ弱さを隠した彼女が居たのだ。
“兄”でなくとも、それに気付けた。

十分だ。

「あぁ――君と、この一週間を過ごせて本当に良かった。」

自分の気持ちにも気が付いて、改めて向き合う事が出来たのだから。
中途半端な気持ちじゃない。
放っておけないだけじゃない。

傍に居てあげたい。(―傍に居て欲しい―)

護ってあげたい。(―力に成りたい―)

かつて、こんなにもそう思えた事は一度として無かったと思う。

「また君を好きで居られる時間が始まるんだ――俺にとっての幸せの日々が。」

握られた両手がゆっくりと離れる。
飲み掛けのグラスの氷がカラン、と小さく音を立てた。

666金髪のお嬢様 ◆ACE//nQy3o:2008/08/13(水) 00:41:02
>>665
握り締めていた指先が離れていく。
同時に沸き起こった感情が寂しさだという事を、カナデは驚きと共に理解した。
自分の中に、こんなにも他者からの温もりを求める一面がある。その事実。
それとも――

――離れていくのが、クレハの指だから?

もしそうなら、今のこの気持ちが『恋』なのか。
酒のせいではない熱に頬が染まった。
確かめたい。もう一度、彼の手を引き寄せて握ってみたい。
けど、と躊躇わせる自分がいる。
血の繋がらない兄への思慕の念。
それは確かに今も、この胸の中にある――ならば結局この行為も、この気持ちも。
目の前の青年を代用品に仕立てようとする傲慢さの現われでしかないのかもしれない。
彼が真っ直ぐに気持ちを向けてくれればくれるほど、自分への疑念は一層色濃くなっていく。
溢れ出す想いが温もりと共に伝わってくる度に、淀みの様に心の奥底へと暗くつもっていくのだ。

でも、と否定する声が再度浮かんだ。
それでも確かなものはある。

「嬉しい……私、嬉しいの……。
 そう言ってくれるクレハの気持ちは、本物だって分かるから……」

温もりが残る手を左の胸に重ねて置いた。シルクの向こう、柔らかく豊かな乳房のその奥、脈打つ鼓動にソレは確かに届いた。
左手が涙を拭う。右手は胸元の柔らかさの上に置かれたまま、奥から響く鼓動を受け取っている。

彼の気持ちが持つ価値は、カナデの心中に左右されて揺らぐほど、脆く儚い代物ではない。
クレハの言葉が、行動が、表情が――否、今やクレハ自身がその証左だった。
今はそれだけが分かっていれば充分ではないか。
自分を疑うことと、クレハを信じることとは全く別の事柄なのだから。

「信じられる……私、クレハを……貴方を、貴方の気持ちを信じられる」

だからせめて。
彼が向けてくれる気持ちを、その尊さを貶めないような、そんな自分で居よう。
たとえこの心が彼の想いを穢してしまうことになったとしても。

「もう弱音は吐かない。
 明日からは……貴方の気持ちも、私の背中を支えてくれるから」

せめて己の立つ姿だけは、彼の想いに恥じない真っ直ぐなものであるように――
背筋をぐっと伸ばし、高慢と紙一重の輝きを取り戻したアイスブルーの瞳で青年を真っ直ぐ見据え、カナデは静かにそう誓った。

「だから傍に居なさい。たとえその気持ちが報われなかったとしてもずっと……私の、傍に居て」

667クレハ:2008/08/13(水) 00:59:24
>666
そう言われて返す言葉は決まっていたと言えよう。
シミュレートしていたわけではないが、気持ちが繋がるという確信があったからか。
この恋慕は一方通行で当たり前だと、それでも強引に開いて見せるという男の心意気が高らかに宣言させた。

「――当っ…然!」

沸き起こったのは歓喜。
弱さの奥にはやはり、真の強さがあったのだ。
だから強い。だから惚れた。
俺は、“カナデ”に。

憧れの再出発。憧れへの再挑戦。
そして恋路の為の出発点でもあるだろう。

「もう、覚悟なんて済ませてるからさ。」

今までどおり…否、今まで以上に少女を見ていよう。
まずは友人として。

なんせ、傍に居ても良いのだから。

668優男っぽいお兄さん:2008/10/19(日) 12:55:00
時と場所は移り移って。
ここは養成所の格納庫だ、時刻は既に夜。
夜間訓練に出発する生徒と帰還した生徒、そして整備科の人間以外は
人影も疎らな格納庫の中で

「……そろそろ限界かもなぁ。」

と、何やら電子端末を前に思案顔の青年が一人。
作業台に備え付けの椅子に腰掛け、難しい顔をして悩んでいた。

669CV:千葉繁な整備班長:2008/10/19(日) 13:06:16
>>668
(格納庫は夜においても慌しい。
 無論、戦時の基地の比ではないのだが、それでも実機訓練をやる者も居る。
 こういった場は生命線であり、24時間稼動しているのだ。)

「オーライ、オーラ・・・いぃっ!?
 どぉあぁあぁああーっ!!」

(・・・・未熟な奴が居ると結構危険な場でもあったりする。
 轟音が響き、地も響く。)

「・・・ば、バッカヤロォ!もっと丁寧に動かしやがれッ!!

 おっと、すまねぇな?邪魔して。」

(苦笑混じりに、青年に声がかけられる。)

670灰優男っぽいお兄さん:2008/10/19(日) 13:09:40
>>669
「…いや、班長も相変わらず大変そうで。

 しかしアレ……実機で事故れるなんて贅沢な奴ですねぇ…。」

(こちらも返すのは苦笑い。
 彼自身、訓練中の事故が多い訓練生だ。)

671CV:千葉繁な整備班長:2008/10/19(日) 13:17:51
>>670
「へ、全くだ。
 俺がもっと上の立場だったらとっくに請求書実家に送りつけてらぁ。」

(手袋を外し、片方を抑えつつ鼻を啜り青年に振り向く。)

「・・・んー?どうしたよ、そんなに眉根顰めて。
 いい面が歪んでるぜ?」

672優男っぽいお兄さん:2008/10/19(日) 13:22:34
>>671
「自分が扱ってるのが、幾らする代物か良く考えろ…って所ですね。」


「いえね、最近…機体を使いこなすのに限界を感じてまして。
 昔乗ってた機体を手に入れられたら良いなと思ってるんですが、
 色々と問題があって、中々手に入れられそうにも無いんですよ。」

(そう言って彼が見せた端末のディスプレイ。
 確かに、今彼が乗っている物とは全く違うタイプのMSが映し出されていた。
 形式番号は――SVMS-01、とある。)

673CV:千葉繁な整備班長:2008/10/19(日) 13:33:13
>>672
「ふーむ、まあ確かにそれぞれの機体ポテンシャルにも限界ってもんがあるからなぁ。
 出来れば極めるまで乗ってもらいたいもんなんだが・・・

 ん?どれどれ。」

(覗き込む男。
 少しの間、固まる。)

「あー・・・・んー・・・・なーんか記憶の片隅に引っかかるような所があるんだが・・・
 すまねぇな、見覚えが無ぇ。未だに混線してきてないってのは無いと思うんだが・・・」

674優男っぽいお兄さん:2008/10/19(日) 13:43:25
>673
「というよりは機体の性質の違い…ですかね。
 装備やらを引き継いで新造するのもアリかな、とは思うんですが。」

(ふぅ、と溜息を一つ。
 事実、今の搭乗機を充分に乗りこなしたいとは思うのだが。)

「班長が知らない…ってのは珍しいですね。
 けど無理も無い、混線してから精々数年…って所でしょうし。

 確か原世界では"ユニオンフラッグ"とか…そういう風に呼ばれてたと思いますよ。
 モビルスーツよりかは戦闘機に近い…のかな。
 地球に居た頃、これに乗ってた時期があるんですよ。」

675CV:千葉繁な整備班長:2008/10/19(日) 14:07:24
>>674
「ふむ、まあ確かにジャンルが違ったら乗りこなしにくいか・・・

 ユニオンフラッグ、ね。
 今度見かけたら詳しく話を聞くかねぇ・・・」

(頭をぽりぽりと掻きながら、そうぼやく。)

「ん、それでなんだ、その手に入れるにあたっての問題ってーのは。
 数が少ないとか、電装系統が例によってしっちゃかめっちゃかだとか、そういった類か?」

676優男っぽいお兄さん:2008/10/19(日) 14:15:31
>675
「ええ、俺が乗ってたのは改造機なんですよ。
 ですからその…単純に機数も少ないし、コストもかかる。
 流石に正規軍の装備をそのまま買い取るわけにもいかないですから、
 外部の企業や、養成所の整備班に造って貰う事になると思うんですけど……

 …そうなると、コレが。どう見積もっても、足りなくなる。」

(人差し指と親指でマルを形作って見せる。
 予算と単位が足りない以上、機体の新造には厳しい物があるのだろう。)

「デートに使い過ぎましたかねぇ…」

(と、しかめっ面の理由はそんな所らしい。
 詰まる所よくある話で、訓練生の懐事情に関する問題だった。)

677CV:千葉繁な整備班長:2008/10/19(日) 14:26:19
>>676
「・・・・ま、そんなとこだろうなぁ。」

(はぁ、と息を吐き。)

「安全に単位溜めるか、今の機体で危険を冒して臨時収入得るか。
 まぁそれはお薦めせんが・・・ああ、後は妥協して乗り続けるか。
 この三つの選択肢って事になるわな。

 個人的には興味もあるが、さすがに俺もMS1機新造まではなぁ・・・」

(この男の場合は、作業用MSの兵装改造に浪費している事もある。
 例えばそう、ドリルだとか。)

「・・・モテる男は辛いってか?ええ、この。」

(青年に対して軽く梅干しをやってくる。暑苦しい。)

678優男っぽいお兄さん:2008/10/19(日) 14:35:08
>>677
「やっぱ、何れにせよ我慢は必須ですか。
 …まぁ、近い内に改造プランは上げられると思いますんで…
 その時は見積もり、宜しくお願いします。」

(と、礼儀正しく軽く頭を下げて来て)

「ははは…嬉しい悲鳴、って言うべきなんですかね。
 確かにまあ、色々と辛いですが想像されるほどでは。

 ……しかし、そういう班長こそどうなんですか。
 班長の好みとか知らないから何とも言えませんけど、整備の方ってそういう付き合いって無いんですか?」

679CV:千葉繁な整備班長:2008/10/19(日) 14:43:37
>>678
「応よ、いつも言ってる事だが相談は気軽にしてくれや。
 手が空いてたり修羅場じゃない限りは返答してやれるからよ。」

(肩をぽんぽん、と叩きその礼に答える。)

「俺か?・・・そうさな。
 今の今まで機械一筋だったし、何より整備科ってぇのはむさい所だからなぁ。
 たまーに華やかなのが入ってきても、お手つきなのが常道だったなぁ・・・」

(しみじみと語る、男。
 ・・・機械を『解剖』するという表現を扱うこの人物に関しては、機械一筋もあながち言い過ぎとは指摘できないかもしれない。)

680優男っぽいお兄さん:2008/10/19(日) 14:56:55
「成程、月並みですけど…
 そういう事なら無理も無い、かも知れませんね。」

「……しかし何と言うか、班長もそうですけど……
 整備科の人って、半ば本気で

 『俺や私はMSと結婚する』

 とか言い出しそうに見えるんですよね。まさかとは思うんですけど。」

681CV:千葉繁な整備班長:2008/10/19(日) 15:04:20
>>680
「あー、昔はそういう時期もあったなぁ・・・
 まあ、分別の無い内はあるもんだ。時が経つとそれも笑い話だよ」

(懐かしそうに頷く。)

682優男っぽいお兄さん:2008/10/19(日) 15:10:28
>>681
「……こう言っちゃナンですけど、お話聞いてたら悲しくなって来ましたよエエ。」

(「そういや、前にも磯臭い連中が自前のライフル磨いて女の名前を呼んでたなぁ」とか。
 そんな事を不覚にも思い出すリヒャルト。
 ぶっちゃけとてもとても失礼な想像ではあった、表情に出るのは青筋。)


「それに、俺も流石に其処までは往かない。
 教官なんかには、自分の機体に愛情を注げとは言われてますけどね――」

(そして、ふと視線を上げて見つめる機体。)

683CV:千葉繁な整備班長:2008/10/19(日) 15:18:20
>>682
「まあ、何事もやりすぎは注意って事だ、うん。」

(仁王立ちで転倒したMSの復帰作業を見ながら。
 何か変な後光と共に頷く。)

「パイロットにとって機体ってのは自分の相棒、だからな。
 愛情を注げとは言わんが、俺は信頼してやる事が大事だと思うぜ?」

684優男っぽいお兄さん:2008/10/19(日) 15:34:06
「ん……信頼はしますし愛着も持ってますよ?
 ただ、そうですね―――相棒、とはまた違う。」

(苦笑交じり、微妙な言葉のズレ。)

「…さて、それじゃそろそろ行きます。
 明日は休みですし、飯食って早く寝るとします。」

(そう言って端末の電源を落とし、小脇に抱え上げる。
 そうしてパイロットスーツ姿のまま、彼は更衣室へと向かって行った。)


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