したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

ログ編集スレッド@試運転バージョン

1てつ:2005/04/14(木) 03:34:04
ストーリーが入り混じりがちな本スレのエピソードを編集してみる
スレッドです。試運転バージョンゆえストーリーの順番とかおかしくなるけど
気にしない。

272SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:29:21

358 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/01(木) 02:11:36

>>353
「エリュシオン……?

 !?

 待って、エリュシオンっ!!」

制止の言葉も虚しく宙に消える。
事態を把握したときには既に、視界に映るのは遠い背中だけ――

――だからといって諦められるか!!

「ようやく逢えたんだよ。
 無理だって思ってて、まさかって思って、そうしてようやく……」

恨め?
憎め?

忘れろ?

「いやだ。
 そんな願いは、叶えてやらない――」

変形するアバンテ。

「背負わせて――そ知らぬ顔して涙を流すなんて真似、私にはできないッ!!」

夜天に輝く大鷲の星、その名に恥じぬ鋼鉄の翼。
飛べ、アバンテ。

――あのバカヤロウの、諦めを打ち砕く為に!!


363 名前: 緋剣  投稿日: 2006/06/01(木) 02:38:40

>>338
 告げた。
 だからもう、振り返らない。
 だからもう、惑わない。
 
 爆圧プレート翼展開。
 反物質スラスター、起動。
 吐き出される無数の反物質。 
 大気の奔流と交じり合い、刹那に爆発、
全身の全てが重力と衝撃とにさいなまれ行く。
破壊されてゆく器官がDG細胞によって癒され
同時に犯されてゆく強烈な痛み。
 まとったヘビースーツが、神経に微細な
針を叩き込み、強引に痛みを停止させる。
 己の総身を引き裂きながら、さらに
機体を、前へ、前へーー!

「M1キャリバー、弾頭装填。
 弾種、榴弾!」

 殲滅する。 
 眼前の艦隊を殲滅する。 
 薙ぎ払え……
 それがいかなる罪悪だとしても、この瞬間だけはそれを
忘れ去れ。 
 心も体も魂も全て研ぎ澄まし…… 
 心魂ともに、剣と成すーー!

273SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:30:01

367 名前: 傍観者たち 投稿日: 2006/06/01(木) 03:07:54

「張り詰めて、いきますわね・・・・・・」
 クィン・マンサのコクピットの内部。 
 マリア・ロッソは誇るNT能力の全てを投入しながら、
NZにおいて発生する無数の闘争を探らんと足掻く。
「…・・・ヤベェのか」
 男の問いに無言でうなずく。
 危険などというものではない。 
 とてつもない意思と、物理破壊のエネルギーと、
混線遺物の物理干渉とが交じり合い、煮えたぎる
鍋のよう。
「早い、早すぎる……これほど早く、事態が動くとは」
「俺たちには、できることはないのかよ……」
 不安と、不満。
 それを思いのままに口に出す男の心の響きが近くて、
好ましい。
 けれど、現実は無残そのものだった。
「なにもできやしませんわ。
 私たちはこの宇宙で私たちにできることをしていくしかない。
 私たちが『今』に対して施せることなど、何一つない。
 せいぜいが未来への布石ぐらい。
 その未来を望むなら、せいぜい願うことですわね」
 冷徹だ、と思う。 
 けれどこれが現実で。どうしようもないことで──
「…ああ、認めるさ。
 ……は、畜生。木星軍の到達阻止。
 訪れたはずの破局を一つ回避しながら、それでも残る破局だけで
十分すぎるほどにこの世は滅びちまうってことなのかよ」
「……ええ、そういう計画もありましたわね。
 無数の人々の心を狂わせながら、あの紅き巨人による掃討を
行う私の姿。
 それもたしかに、ありえた未来。
 
 ……あなたはそれに、満足していいのだと思いますわ。
 あなたは確かにバトンを手渡した。
 
 ならば、彼らに賭けるしかない」

 慰めに過ぎないと思いながら、それでも椿にそう語ってしまう
自分の心がわからない。まったくの偽善だというのに、何故?
 
 ……止そう。重要なのは、知ることだ。
 
 戦場は煮えて煮詰まっていく。遠からず水の全ては揮発するだろう。
 乾いた部分が、いずれ焦げ……発火する。 

 そこが、この闘争の破断界──それはどこから、訪れる?

「あきらめねぇぞ、マリア」

 不意の男の言葉に、少女はふと男を振り返った。
 いつものような不敵な笑み。
 こんなにも戦場から離れてしまっては、どう足掻いても
無力に過ぎない私たちだというのに。 
 それでも何かをなせると信じる顔。
「……椿」
「なんかやれる。俺たちはきっとあいつらに、きっと何かを
してやれる。
 そう、おめー。なにもできねえと決め付けちまってるが、
だが、そう決め付けちまった瞬間が不可能の始まりだろう?
 そいつをまず覆すには……信じるってえ、ただ一手。
 そこからまずは指さなけりゃ、可能性さえ見えてこねぇ。
 
 ……手前を信じろ。俺を信じろ。
  足掻け、もがけ。そして、つかめ」

 男の言葉を否定できない。けれど、肯定することもできない。 
 与えてくれる言葉はこんなにも温かなのに。

274SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:31:40

375 名前: 緋色──血染めの剣 投稿日: 2006/06/02(金) 19:09:00

 加速する加速する加速する、しかし背後の気配が消え去らない、
どうしても奴が退いてくれない!
 とうにわかっていたことだ、あの暴君がそれを望むなら、それを
成し遂げ手に入れるまで、あれが決して退くはずがないと当の昔に
知っていた……
 倒すしかないのか……この手を友の血に染めて、それでもなお行
かねばならぬのか!

 しかし心の一方、冷徹なる論理が状況を認識する。
 アレはおそらくこの戦場においてもっとも恐るべきものだ。 
 だからこそあれとの闘争は忌避せねばならない。 
 戦えば勝つとて心身ともに致命を負う、なればその勝利は
無意味無価値、戦うな、のがれろ──
 ああわかっているわかっていたわかっていたさ!
 あれほどの親友をこの手で討てるか! 
 けれど討たねば先へは行けぬ!
 しかして戦わばいずれかが死ぬ──なんたる矛盾!
 もっとも死を望まぬものを殺してしか先へと歩めぬこの矛盾!
 けれどそれでも先へと進む──先へと行く術ほかには知らぬ!
『ねえ』
 ──それはあまりに突然の声。あの日のように、突然に。
 懐かしく、そして二度と聞けぬはずだった声。
『そんなに困っているのなら──ちょっと手助けしてあげようか、
 エリちゃん?』
 その言葉に、覚えるのは喜びだった。
 けれど、口をついて出るのは疑義の叫びだった。
 なぜなら。今、彼女が居るべき場所は──
 彼女が守るべき場所は、『マンサー』が座するあの島で、彼女はその
最強の守り手として敵を迎撃せねばならぬはずなのに。

「……あなたは……ここにはいないはずだ!貴女は、確かあの島で──」
 再び三度のこの意外。あるはずがない友の、ありえぬ言葉を聴きながら、
少女は一人絶叫する。
『ありえるよ』
 気配は小さくうすら笑った。少女の無知を哀れむように。
『シアは死してなお死なぬ存在。 
 この世に無数を生きる存在。 
 だから一人二人存在したところで、今一つの人生を生きたところで
シアにとっては不思議にならない。
 したいことが、あるんだよね?』
 わからない。彼女の言っていることが、分からない。
 親友だったはずなのに、その言葉の意味が理解できない。
 つまり、彼女は「彼女」ではない?私のような贋作なのか?
 ならば、彼女は。彼女が贋作だとするならば、木偶だとするのならば。
「あなたは……気づいているのか!ならば、なぜ私の意図を手伝うような
まねを──」
『どうだっていいことだよ、シアにとってはどうでもいいこと。
 何度となく生きるシアにとっては、人生をどういう場におくかなんて
どうだっていいことなんだよ?
 シアは友達と生きることを選べる。そして、選んだ。 
 もうひとつのシアは、狂い滅ぼし断ち切る事を選んだ。
 それもまた、ひとつの未来。
 そして、このシアは……あなたのために戦い抜くこと。
それを選んだ、だけのこと』
 言葉が、ひどく温かい。
 昔と同じ。私がわがままを言ったとき、それを困りながらも聞いてくれた、
あのころとまったく同じ言葉と笑顔。
 その彼女が。私の裏切りを知りながら。私の裏切りの言葉を
耳にしながら、それでもなお。
 涙が、こぼれそうになる。それでも、問うた。
 だからこそ、問うた。
 胸を覆う息苦しさが重々しくて、問うた。
「……わからない。わかりません。
 何故、なのですか。 
 私はあなたをきっと裏切る。あれほどまでにそれを叫んだ、
叫んでしまった、それでもなお?」

 きっと裏切られる。それを知ってなお。
 彼女は、小さくうなずいた。

『そうだよ、それでもなお。
 そうだね、裏切ってそれをなお手伝う理由を、埋葬船団のためになのだと
疑ってそれを信じたいなら、あなたの行為が私たちを利するためだとでも
思えばいい。
 もうすこし人らしい理由を求めるなら、私もあなたと同じように、本物
足り得たいと望んでいると思えばいい。
 どうだっていいこと。
 このシアにはこのシアの願いがあって、その願いを遂行するだけ。
 どっちにしたってあなたの損にはなりはしない。だよね?』

275SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:32:01

 私は、疑わしげな目を彼女に一瞬向ける。やはり、どれほど彼女に見えようと、
彼女は彼女の『木偶』であるのか……けれどその疑念には何の
意味も意義もないことを知り沈黙する。
 そう、彼女の意図がどちらであるにしても、あるいはそのどちらでも
ないのだとしても同じことなのだ。
 今この瞬間、あのおそるべきアバンテをとめてくれるというのなら。
木偶であろうが、友であろうが……
 何たる、下劣。
 彼女はきっと本当にシアなのに、私は何を考える──

 惑う私に、シアは笑った。

『いいんだね。うん、わかった。
 どれだけとめられるか、わからないけど──
 時間は、稼いでみせる。
 面倒な障壁がいくつかある。
 けれど、それを突破するのはあなたの役目。 
 私にできるのは背中を守るだけなんだよ?

 ……がんばってね、エリュシオン』
 
 わかりません、シア。
 何故あなたは裏切る私にその身をささげてくれるというのですか?
 なぜなら私は。
 つい、数分前までは。
 友たる貴女を見限ろうとすらしていたのに。

『だから、シアにはシアの理由がある。それだけ。
 エリちゃんは、忘れちゃってるみたいだけどね。
 もう、アバンテがセンサー範囲に入ってる。だから、いくね?

 ……謝らないよ。忘れている、エリちゃんが悪いんだから』

 そこで言葉は終わってしまう。
 彼女はもう、答えない。
 少女はもう、惑えない。
 
 そして、躍進の速度を……さらに、さらに高めていく!


376 名前: シア・E・ガーランド『不死存在者』 投稿日: 2006/06/02(金) 19:14:53

>>エリクシィ
 
 陽光を浴びたか。火炎を映したか。 
 緋色の雲が、遠くにたゆたっていた──

 その雲を貫いて──近づいてくるモビルスーツ。 
 緋を超えて白く輝く炎を、アバンテ目掛け放ちながら……
信じがたい速度で接近してくる。
 エリクシィと同じくその総身を紅に塗り染めるモビルスーツは、
その手に巨大な鉈を持ち。
 必死の信念を心に抱いて、暴君目掛け迫り行く──

『あの子には譲れない理由がある。 
 それを……ともに生きることをやめてしまったあなたに、
とめさせることなど、許せない。 
 シアは、シア・Eは、絶対にそれを、赦さない──』



443 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/03(土) 02:38:15

>>376
「何も知らないくせに……ってのはお互い様か」

彼女達がエリクシィの事情を知らないように、エリクシィ自身、彼女達の「これまで」を殆ど知らない。
その事実を前に――
漏れる笑みは微かな苦味を帯び、見る者はそれを苦笑と呼ぶだろう。
だが、その唇は次の刹那にキュッと引き締められ、眦には強い力が再び宿る。

「やっと巡ってきた機会なんだ。
 誰かの許しを待つつもりなんて無いよ。
 そもそも「暴君」ってのは傲慢が性分でね――」

光のヴェールを脱ぎ捨てた大鷲は、その身を捻るように騎士へと姿を変える。
右手に眩い白銀の剣。
メガ粒子とIフィールドとが幾重にも折り重なるその刃を、開発者は神剣(ディオスパーダ)と仇名した。
左腕には紅き盾。
ハニカム構造を成す金属原子によって構成されたその盾を、設計者は神盾(アイギス)と名付けた。

そして、それらを携えるは――黒と金に彩られた、烈火の如き紅い騎士。
未だ来たらぬ故に未来。
それを切り開く意思と覚悟を携えた者の剣となるべきその騎士を、全ての人はこう呼ぶだろう――

前進(アバンテ)と。

「貴女が何度でも立ちはだかるというなら、私はその度に切り伏せ押し通るだけ!!」

276SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:32:28

445 名前: シア・E──真作にもっとも近き贋作 投稿日: 2006/06/03(土) 18:06:28

>>443
「ホントのことを、教えてあげる。
 私はきっと、彼女を貴女に止めてもらいたい」
 戦う前に、告げる。本当の心を、本当の気持ちを。
 あの子に戦いなどふさわしくはない。
 誰かのために戦うことなどあの子にはけしてふさわしくはない。
 誰より誰かを思えるあの子に、そんな行為がふさわしいはずなど無い。
 けれど、運命は彼女に戦いを強要する。
 その事実への怨念を、この一言に注ぎ込んだ。
 彼女への、うらみもある。
 貴女が居れば、きっとエリュシオンは、戦わずにすんだかもしれないと。
剣を継いだのは、あの子ではなくあなただったのかもしれないのにと。
 
 無論、私怨だ。けれど、その私怨で心を満たせば。
 あの子が忘れてしまった約束を、反故にするという事実をも、
忘れることが出来る気がした。

 そう、あの子の最終調整を、私は担当した。
 剣としてあの子を研ぎ上げたのはほかならぬ私。
 シアという名の研ぎ師が、エリュシオンという剣を研ぎ上げたのだ。
 
 ううん、けして、そういう間柄だけというわけでもなかった。
 泣きもしたし笑いもした。些細なことを、重大なことのように
悩みもした。
 シア・E・アーガイルの複製体、それが私だ。
 最大の量産性、最良の戦闘能力を付与された、あまたの贋作のひとつ。
 ただの兵器に過ぎない私に、人間としての生き方を与えてくれたのが、
彼女だった。
 一緒に犬を飼った。一緒に笑った。お弁当も作ってあげた。
 それは本当に些細で、下らない、けれど何ものにも引き換えられない
思い出。
 そして、私はいつか、彼女と約束したのだ。

『このわずかな時間で、貴女は私の大切な人になった。
 だからこそ。
 私のもう一人の親友に、いつか出会ってもらいたい。
 
 いろいろと傲慢で、とても幼くて、困った人間ではあるけれど。
……本当に、いい友人なんだ。
 
 だから、彼女とはいつか知り合ってもらいたい。
 私が、出来れば間を受け持ちたい。
 
 ……変な考えだとは、思う。
 けれど……私が考えた末に、思いついた贈り物。
 貴女への感謝に応えられるほど、私が想いをこめられるのは……
きっと、この時計のほかにないのだと思う』

 そして、彼女の『友人』は、今こうして眼前に敵としてたたずんでいる。
 
 忘れなければ、ならなかった。

 告げることで、忘れようとする。

 告げることで、親友に誓った約束を、反故にする。
 それを思えば、戦えない。
 手をなえさせるわけには行かないから私はその
約束を、忘れ去った。

277SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:32:48

 そして、新たに誓った約束を果たすため、敵たる
アバンテの力を推し量る。

 絶対の刃と完全の盾。それをともに備える存在の
精強がどれほどのものか、既に彼女は察しながら。
 それでもなお。
 そう、それでもなお。
 私はどれほど巨大であったとしても、どれほど
威力を秘めたとしてもなお、この大敵に対しては頼るに足らぬ大鉈を
手に告げるのだ。
「けれど、シアはあの子の決意が何に拠って成るかを
知っている。あなたよりも遥かに知っていると自負
している。
『繰り手』を継いだ私はどうやら狂ってしまったけれど。
 けれど、私にとって、私でありながら私でないものが
何をなそうがどうでもいいこと。
 この場にこうして存在している私は、どうしようもなく
あなたを阻みたい。
 あの子の意地を、徹したいから。 
 行くよ。戦いを挑ませてもらう。
 私がなそうとしている行為が、おそらく億人の命を絶つ
結末へとつながるとしても、それは・・・・・・
 きっと、百億の命を繋ぐと望むあの子の意思に則ること
だから。
 だから、シア・Eは、あの子の命に依ってつむがれた私は、
あの子の意思を無視できないんだよ。
 それでもなお徹すと言うのなら。貴女がその意思を貫くと
いうのなら。せめて私程度の障壁は超えてもらわないと。 
 あの子の意思に、私はそれほど惚れ込んだ。
 私はあの子を、それほどまでに愛してしまったから。
 それに至る過程を理解してもらえるとは思えない。
 だから、たたかおう。
 言葉で至れないとするのなら、結末を下すのはただ
戦いだけ。 
 その勝敗に、是非を決する……
 覚悟してよ?シア・Eは、貴女を通さぬ城砦となる。
 だからこそ、またいうよ。

 それでもなお徹すと言うのなら。貴女がその意思を貫くと
いうのなら。せめて私程度の障壁を、たやすく抜いて
口にしろッ!」

 構えた鉈に、惑いなく。 
 白き人形は、ただひたすらに。 
 己の意思を、咆哮するのみ──


446 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/03(土) 20:23:44

>>445
言われるまでも無い。
言うまでも無い。
既に宣言は完了した。

暴君として、全ての障壁を踏破する。

最早言葉は必要とされない。
その段階はとうの昔に過ぎ去った。

大鉈の刃を見据え、光剣の切っ先を真っ直ぐ相手へ向ける。
構えは半身。
曲線と直線とで構成された大盾を構え、緑光を放つツインアイが彼我の距離を測るように光った。

踏み込むイメージ。
P.M.S.C.Sによってそれは背部バーニアの噴射へと変換され、膨大な運動エネルギーとして帰結。
まさに大気を蹴って進むが如く――紅い騎士は空を翔る!

278SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:33:04

447 名前: シア・E──真作にもっとも近き贋作 投稿日: 2006/06/03(土) 20:43:02

>>446
 敵の動作に破滅を見る。 
 速き疾走は斬撃と同時、私を一撃に屠るに足る。
 闘争技量は敵が数倍、なれば如何にしてそれに及ぶ。
 真っ向切って挑めぬのなら・・・・・・用うるべきはただ奇手のみ。
 張り巡らせろ。
 敵を阻む緋色の拘束具──

 機体の手首より、緋色の奔流がほとばしる。
 流れは無数の緋の糸となり、突進阻む巨大な網として
形を成す!

「血禍……螺旋放射ッ!!」

 網なすそれは蜘蛛の糸、触れるものみな切り刻む!


448 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/03(土) 20:53:04

>>447
其れは投網。
蜘蛛の糸の如く、触れれば如何に大鷲といえど翼を絡め取られるだろう。
斬るか。
刹那の間に相手の意図を読み取るべく思考を重ね、導き出した結論は――
否。
線を以って網を断っても、面のままに迫るは必定。
アバンテの速度を最大の脅威と判断するならばその性質は粘性、動きを封じられれば次なる搦め手から勝利を奪われかねない。

ならば。

叩く。

白槍の穂先を撃ち落した時と同様、光の剣は見る間にその形を巨大な扇の如く変化させ、面を以って血の蜘蛛糸に叩き付けられた。
その一撃がもたらした機体前方の空白に、弛まぬ前進を以って真紅の機体を滑り込ませる!

留まらない。
既に行く先を見据えているのだから、選ぶは常に――GO AHEAD!!

377 名前: 緋色──血染めの剣 投 投稿日: 2006/06/02(金) 19:17:50

>>376
「すまない……!」
 理由がたとえなんであれ。
 あなたは私に命をひとつ、懸けてくれた。
 私の命は、またひとつだけ、重くなった…… 
 ならばあなたのその命を、私はきっと届けてみせる。
 私は──
 救うべきすべての命を背負っている。
 
 あなたがそれを知るというのなら……

 死ぬな。生き抜いてくれ。 
 私があなたの生きる未来、きっと切り開いて見せるから──!

279SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:33:21

378 名前: そして──『最強』 投稿日: 2006/06/02(金) 19:20:01

>>377
 けれど──
 運命は常に残忍に人を試す。 
 シアより分かれてわずか30秒の間に数十キロを躍進した
彼女目掛け、放たれるのは無情の鉄拳──!


379 名前: 緋色──血染めの剣 投稿日: 2006/06/02(金) 19:22:19

>>377
 避ける間すら与えられぬ。 
 まともに胸部に拳を喰らい、数キロメートルほども虚空を吹き飛ばされる。 
 衝撃が認識を破壊する。
 何も見えない何も聞こえない、感じるのは強烈な圧力だけ、そして
自らが打撃を受けたという事実だけ、何者、何奴、私の速度に追従し、
なおかつ私の結界を貫いてなお、この身に無双の強打を浴びせうる怪物は──!


380 名前: ドモン・カッシュ、即ち『拳の王』 投稿日: 2006/06/02(金) 19:35:27

>>379
「貴様が何者であるか、そんなことは俺にとりどうでもいいことだ」
 大地のように泰然と、大海のように自若する。 
 あれほどの速度で打撃を加えながら、その白と青のモビルスーツは
ただ悠然と緋色のモビルスーツを見据えていた。

「俺が最初で、そして最後だ。
 ……埋葬者、もしこの空を貫くと望むなら……
 俺という大山を越えて行けぇぇぇぇぇぇいッ!!!」

 その一喝に、万軍にも比すべき圧力──
 穏健派の指揮官が、緋剣が道行きに築いた最強にして最後の
城砦──ありとあらゆる世界において、何者とても及べぬ域へと
その身をたどり着かせたもの──
 所属、ネオジャパン。
 流派、東方不敗。
 コロニー格闘技、覇者。
 第十三回ガンダムファイト優勝者──
   
   王   者   た   る   心    臓
── K i n g   o f   h e a r t ──

 ドモン・カッシュ……
 何者とても叶わざる、人類史上最強の存在──!

 白と青成す最悪は、彼女が蹂躙すべき島への道を阻むように、
風をまといて悠然と虚空に立つ──

280SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:35:57

381 名前: 血染めの剣──緋色 投稿日: 2006/06/02(金) 20:00:07

>>380

──可能性は、告げられていた。

             覚悟はできていた、つもりだった──

──その強さも、知っていた。

             何百の夜を、彼を倒すための思索に費やした──

──怯みなどしない。そう思っていた。
  
             眼前に彼の姿を見るまでは──

 百に一の可能性すら見いだせない。
 たとえ己が百人いたとして、この神へと手を届かせうる怪物に
敵しうるか疑わしい。 
 人形使いが戯れに作ったこの男の贋作になど、すでに数千
数万と勝利した、けれど贋作と真作との違いが、これほど
までに明白とは──
     
 戦う前からわかっている。私はこの男には決して勝てない。
 それでも。それでもなお。
 私は剣を抜き、この男の前にまだ立っている。
 
──戦い勝てる。皆に、そう笑った。
 
             それだけが今も変わらぬ想い──

「キングオブハート、ドモン・カッシュ!
 『緋剣』エリュシオン、ほかの何者としてでもなく……
 貴方に勝たねばならぬものとして、この剣を振るう!」


 決意の叫びに身を震わせて、絶対無敗へと突進する。

 そこが地獄と、知りながら。

 すべてが通じぬ、泥沼の煉獄。

 最速と信じる斬撃が──
 おかしいほどにたやすくかわされ、次の瞬間には
視界のすべてに鉄の拳が広がりー

 何度目か、吹き飛ばされるのは。
 腹部に受けた打撃の余韻が、今も腸をかき回しているというのに
 脳が
 天を、見上げた。
 今にも落ちてきそうな黒い鉄杭を。
 間に合わない──間に合わせてみせる。
 よろめく体。けれど心が揺らがないから……機体はまだ、動いてくれる。
 歯を痛いほどにかみ締める。
 歯が何本も折れてもおかしくないほど頬が痛んでいるのに、それでも
歯が折れていないという事実がどうにもおかしく感じられた。
 腕の骨なんかは折れるというのになーー
 体勢を立て直し、ブーストダッシュ。駆ける、ただ敵目掛けて!

281SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:36:18

442 名前: ドモン・カッシュ 投稿日: 2006/06/03(土) 02:25:17

 何度と無く繰り返される単調。
 正拳の前に吹き飛ばされ、
 裏拳に殴り倒され、
 ひじ打ちを腹に受けてのたうつ。 
 だが……それでもなお敵は愚直。
 一度で無理ならば二度目で。
 二度目で叶わぬなら三度目に。
 三度目ですら届かぬなら四度目で。
 
 そのたびごとに体は傷ついてゆくだろうに……
 なお、少女の駆る機体は立ち上がる。

 突撃のたびに、速度を増して。
 少女が小さくつぶやいた。

「……いつまでも手を抜かせるわけには行かない……
 少しは本気をだしてもらわなければ、勝てる目すら
浮かばない」

 手など一つも抜いてはいない。
 ドモン・カッシュの戦いに、遠慮も容赦も加減も無い。
 ただ、総力をもって全力を叩き込むのみが己のありよう。

 まだ、来る。さらに、来る。
 たたき伏せるごとにその鋭さを増して。
 剣の具現が、引き裂きに来る。

 それが、ひどく楽しい。
 奴が剣なら、俺は拳。
 
 戦うほどに鋭さを増すなら、戦うほどにさらに強く打とう。

 どこまで強くなる。どこまで強くなれる。

 この週末の戦場であろうとも。
 それこそが・・・・・・
 
 ドモン・カッシュという自分の、真髄。
 その真髄のすべてをもって……この眼前の剣を、打つ!

282SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:37:42

455 名前: 緋剣 投稿日: 2006/06/04(日) 15:40:34

 今一人、友軍が散る気配。
 ……次は、誰。
 
 ……話せば、何かを語り合えたかもしれない。
 そんな人が、また一人。
 これが、戦場だ。わかっている。
 果たすべきは任務。
 そこに情愛をさしはさむ余地などない。
 ああ、だから忘れるのだ。
 一撃ごとに忘れるのだ。不要な要素はすべて捨てろ。
 
 今は──ただ、浸っている。
 戦いへの喜びに、浸っている。
 受け止めた必殺は、100か、1000か。
 拳聖の放つ一撃は単純無比。
 ただ、最適の一点のみを貫いてくる。
 見えながら避けることあたわず。
 感じながら迎え撃つこともかなわない。
 拳の挙動からありうるべき千の打撃を予想しようとも、
敵は1001番目の軌道でもって一撃を放ってくるのだ。
 痛覚を麻痺させてなお魂をさいなむ痛み。
 骨身は稼働を拒絶し始め。
 意思までもがゆるゆると形を崩していく。
 鉛のように重く体を縛るのは──空気のようにまといつく、疲労。

 ……
 だから、彼女は、高らかに笑った。

「うわさほどにもないぞ、拳の王。
 貴様の必殺、既に幾度となく放たれてなお私は生きている。
 ……知れたな。この戦は、私が勝つと」

 たとえ失笑されようとも、かまいはしない。
 それが厳然たる不可能であるとしても、かまうものか。
 
 ああ。たとえそれが虚偽だとしても。
 そこは通らねば成らぬ通過点なのだから──

 踏み込む──

 振り上げる──

 振り下ろす。


456 名前: 拳の王 投稿日: 2006/06/04(日) 15:47:01

>>455
 誰にもわかりはしないだろうが──
 敵の動きが、変わり始める。
 より純粋に、より早く。
 心をふさぐ雑事の全てが、剥げ──消えていく。
 
 このものもまた──至りうる器か。
 だが、そうであったとしても。

 この拳になお、砕けぬものなど何一つない。
 それは信念ではなく。まして、決意でもなく。
 当の昔にたどり着いた──

 たった一つの、到達点。

 教えよう。なぜにこの身が不敗であるか。
 最強とは一体何を指すのか。
 
 構えを、解く。
 無構え。もはやここに至り構えなど不要。
 研ぎ澄まされゆく刃の前に、計算も術策も等しく一閃
切り裂かれよう──
 それを確信した斬撃、見ずとも気配で感じ取れる。
 強い──

 だが、やつはそれだけだ。
 ならば──
「教えてやろう」
 克目。
「貴様はあの一撃を必殺と見定めたか。
 あの一撃確かに渾身。天空を超えソラへと至り、
しかして及ばぬ遥かな高さを、目指し目指してたどり着きし
正拳。だが、あれは必殺にあらず、ただの究極に過ぎん」
 ただ、右の手を差し出す。
 その刃の、軌跡へと。
「頃合いだ、見せるとしよう──[必殺]とはなんであるのかを」

283SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:38:02

457 名前: 緋剣 投稿日: 2006/06/04(日) 15:48:55

>>456
 金属と金属とが衝突しあうすさまじい打撃音。
 遂に、届く。
 だが、届いた。
 届いただけだ──

 万物を引き裂くために生み出されたこの刃が。
 フィールド内部に反物質を封じ込めた必滅が。

 ただ翳された手のひらに押しとどめられるなど──!


458 名前: 拳の王 投稿日: 2006/06/04(日) 15:56:44

>>457
「風に舞う葉、その剣では斬れん」
 掌柔らかく。そして触れた刹那、柔らかに──引く。
 ただそれだけの。しかしてそれは絶対の障壁。
 対消滅反応を起こし炸裂する爆圧を意ともせず、
男は刃を握り締める。
 この手は切れぬ、砕けぬと信じればこそ成す。 
 物理の則すら無視した大理不尽、罷り通るが
ドモン・カッシュ──!
「これが貴様の全てだというのならば、あさい、あまりにも
浅いぞ剣の具現ッ!」
 左の掌を後ろへと。胴までもが捻られ。最大限のエネルギーを、
己の左の最末端へと収束していく──


459 名前: 兵士たち 投稿日: 2006/06/04(日) 16:04:39

>>458
 その戦いを。あるものは、喜劇と見た。
 けして通れぬ障壁へ身をたたきつける小鳥のようだと。
 風車へと突撃する騎士のようだと、哂った。
 
 あるものは──奥義と奥義。技と技の極めを尽くしあう
凄惨な決闘と見た。
 迫るほどにはじかれる緋色の姿を見てすら、彼は彼女を
哂わなかった。
 彼女の動きに、それほどの細心精緻が折りこめられると
彼はその目で喝破していたから。
 そう、それはそれほどに──圧倒的な暴力存在。
 神であろうと悪魔であろうと、敵対するならたたきのめす──
それを叶えた、たったの一人。
 ドモン・カッシュという「最強」。
 動く気配すら見せぬ大山が……

 動いた。

 この場にどれほどのmsがあるか。どれほどの艦艇がひしめいているか。
 そうでありながら。
 誰一人として──この闘争に介入しようとするものはいない。
 戦場にあってその空域だけが、あまりにも静かで、あまりにも穏やか。
 繰り広げられるのは拳と剣、たった二つの原始的な武器の衝突劇。 
 銃も砲も。化学兵器も光学兵器も。より優れているはずの兵器の
群れが、委細合切動こうとしない──
 誰もがそれを予感していた。
 介入すれば即座に討たれる。
 ありえぬはずの情景を、魂のおびえが具現化し──そしてそれが
おびえなどではなく真実であると誰もが知っていた。
 だからこそ──誰もが、息をのんだ。
 大山たる青。拳の王が……動いたのだ!
 あれほどの無双撃、ありとあらゆる欺瞞を制す
必殺必中の拳、初歩にして究極たる正拳ですら、
あの男にとっては……児戯!

284SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:38:22

460 名前: 緋剣 投稿日: 2006/06/04(日) 16:10:56

>>458
「浅い──?」
 生まれてからの全てを注ぎ込んだこの剣が。
 私の命と魂の渾身ですら。
 大山飲む大海と信じたこの身は、しかし男にとり見下すに足る
程度のものにしか過ぎぬのか、陽光浴びれば刹那に消え去る、
ほんの些細な水溜りに過ぎぬというのか──!
 
 使うべきだったのか、「技」を。
『徹甲弾』エネルギーの収束など、この男が許すはずもない。
『榴弾』?徹甲弾よりさらに膨大な時間を要するというのに!

 論外、論外……
 だからこそ最速最大、誇る最高の斬撃もって挑んだというのに──!

『俺のこの手が……光って、唸るッ!!』

 絶望が。 
 言葉の形をとって……脳へと無慈悲に、染み渡る──
 そう、あれほどの究極の連撃ですら、児戯。児戯たるがゆえに
それは必殺に至りえず。
 しかし、これより放たれるこそこの男の渾身。
 そう、この男が語りし必殺が、言葉より出でて現実となる──!


461 名前: 兵士たち 投稿日: 2006/06/04(日) 16:19:08

 白と青のモビルスーツが。
 最大限に振りかぶった左の掌を、輝かせるのを──
 
 ジェガンのパイロットが。
 戦艦のオペレーターが。 
 地上をのたうつ歩兵たちが。
 そして、自我奪われた筈の埋葬者たちまでもが──

 瞬間、己が行っていた行為すら忘れて。
 おののきとともに、認識した。

『お前を倒せと、輝き叫ぶゥッッ!!!』

 咆哮。その場にある魂の全てが……気おされ、揺らぐ。
 ドモン・カッシュ、流派東方不敗。
 あらゆる一撃が必死必滅。
 全てが無双と歌われて、そしてそれを誰もが認める
流派の長が。
 必滅のさらに上たる奥義をこの場に顕現させている──!

「シャイニング・フィンガー……」
 誰かがその名をつぶやいた。
「何だよ……何なんだ、それって……」
 ドモン・カッシュを知りこそすれ、生まれし世界
異なるがゆえにその真実を知らぬものが、問う。
「ドモン・カッシュがガンダムファイト予選へ挑んだとき
得意としていた『切り札(last card)』だよ……
 ミケロ・チャリオット操るネロスガンダム、荒野のチャンプと
称えられた、後のシャッフル同盟員、チボデー・クロケット、
 何者にも捕らええぬ最剛、アルゴ・ガルスキー。
 それぞれが一軍にも匹敵すると言われた猛者を、ただの一撃で
沈めてきた「必殺」拳なんだよ、ありゃあ!」


462 名前: 緋剣 投稿日: 2006/06/04(日) 16:29:30

 作らぬはずの、隙だった。
 放たせぬはずの、技だった。
 それでもなお男の左の掌はああも熱く冷たく輝いて──
『──砕け』
 ああ、それは男が放つ世界への盟約、確定された結末を
告げる神の宣託にも等しき言葉!
 砕き散らされる、滅び去る、わずか数瞬を待たずに、
この身はきっと砕けて果てる──!
 冷静になれ状況を分析しろ手段を模索しろ戦術を構築しろ
それができるはずではないかだからこその私ではないのか
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ
反物質展開右掌を爆砕できない液体金属流で相殺している
ならば強引に引き抜いてそれすらかなわぬどういう強力か
短分子鎖ワイヤー刃も高速振動も化け物じみた「握力」
などという子供じみた単純によって封殺されている
ならばならばならばならばならばならばならばならば
思考が空転し理性が混乱し意識が白濁し感情が困惑し
己の全てが──静止、する。

『必殺ッ!シャアアイニングゥッ!!フィンガーーーーーーーーーーーーーーーッ!』

 男の総身が、動くのが見えて──

 世界の全てが、真っ白な光に──

285SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:38:43

463 名前: 兵士たち 投稿日: 2006/06/04(日) 16:32:40

>>462
「────ッ!!!!!」
 核爆発にも等しい閃光が、視界の全てを焼き濁らせる。 
 その一撃はあまりにも早くあまりにもすさまじく。
 そのすさまじさゆえに何者であろうと認識できない。

 男がガンダムファイトを勝利し魔王を打ち砕いてより
幾星霜、この怪物は、人類の頂点たる男は、それでもなお。
絶対の頂点へたどり着いてそれでもなお──
 己を磨きさらなる高みへと上り詰め、さらにその上へと
たどり着いたとでも言うのか──!


464 名前: 拳の王、東方不敗『ドモン・カッシュ』 投稿日: 2006/06/04(日) 16:40:16

 もはや男に意識はなく。
 機能の全てが。
 総身の全てが。
 心の全てが。
 魂すらも。
 ただ一点の一滴。
 打ち砕くべき刹那へと圧縮され打ち放たれるーー

 炸裂する、感触。
 崩壊の手ごたえ。
 
 そして、再び目を開いたとき。

 見えるのは、静かに力も何もかも失って、落ちていく
緋色の巨人──
 手にした剣が、へし折れて。 
 その刀身は、ドモンの右手の中にある。

 落ちていく、落ちていく。 
 海を目指して、落ちていく。
 重力に引かれ、落ちていく──

286SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:39:40
465 名前: シア・E──ただ、友として 投稿日: 2006/06/05(月) 19:56:10

>>448 
 これしきの児戯で止まるはずのない敵だった。
 瞬く間に血にて編まれし投網のうがたれるを見て、しかし少女は
それを当然と動じもせぬ。
 己の手首より失われし血潮、いかほどか。
 MTS制御方式の機体である以上。
 血を用いる業を機体の技として具現するならば、その代償もまた
支払わざるを得ぬ。

 それは承知。委細、承知。
 この場にこの命消え果るとも承知。
 
 ああ、決して、敵うまい。
 もとより敵しえぬ敵に敵したというのならば、その果てにあるのが
敗北であるのは必至。
 けれどそのようなことなど当の昔に了承している──
 私は止めると誓って見せた。
 求めるは勝利にあらず、ただ抑止。

 頂点などは求めない、ただその半ばでかまわない。
 ただこの一時……この暴君へ及ぶ力を!

 左の手首が、やけに熱い──うがたれた傷が灼熱と痛むからか。 
 
 ……ふとその傷に目を落とす。 
 今は非に染まった白銀の腕時計。
 あの日もらった、友情の証。
 今も、こうして動いているから──


「──止まらぬものも、止めて見せる」

 刃を返す。 
 斬撃など不要。この場に敵をただとどめるを彼女が望むというのなら、
ほふる手段など委細不要。
  
 デクレクシヴィ・ネロ。彼女が求めた、ひとつの究極、
 
 その究極になど、私ごときが及べるはずもなく。

 けれど、せめて、瞬間だけでいい──

「及んでみせる……一秒足りとて、永らえて……この場に、
あなたをとどめてみせる!」

 果たしえぬとも果たさねばならぬ。
 視線の向こう側にある願い。
 
 かなえるために……ただ、上段。
 振り上げた鉈が、やけに重くて……

 けれど心が、やけに熱い。
 
 当然だよね。
 
 ……ただの兵器のこの私、人として友のために戦いに望めるというのなら、
これ以上の至福はない──!!

>>464
 だから、彼女は認めない。 
 緋色の少女が落ちる現実など、心の中から断絶する。
 誰の目にも敗れた少女、その勝利をいまだにただ一人、
この場に在って信じる愚か、それを理解するにたる現実──
それを彼女は、心の中の理想たる妄念にて拭い去る。
 
 ……私ですらまだ動いているのだから、あの子が負ける道理がない──

287SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:40:24

466 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/06(火) 18:38:50

>>465
何て厚い壁だろう。
私が往く道を塞ぐその気迫、鉄壁などという言葉が陳腐に思えるほど――

「ありがとう……」

口を付いて出たのは感謝の言葉だった。
埋葬船団という暗闇の中にあって、きっと目の前の女の子はエリュシオンの友達であってくれた。
夜よりも深い闇、炎よりも熱く心を苛む煉獄。
そんな中で、それでもずっとエリュシオンが真っ直ぐな心を持ち続けられたのは、アナタのお陰なのだろう。

それでも私は押し通る。
守るべき者を、守りたい者と殺し合わせない為に。
誰か一人に全てを背負わせて善しとする、そんな事を否定する為に。

時が違えば。
場所が違えば。
目の前の彼女とも、手を取り合えたかもしれない。

けれどそれは意味を成さないIFの話。
お互いに、為すべき事は定まっているのだから。

「セーフティデバイス・キャンセレーション……」

如何なる壁だろうと、エリクシィ・ハイマンは。
かつて暴君の名を頂いた身に恥じない、躊躇なき前進を以って踏破する!!

「ディアヴォロスパーダ、アクティブ!!」

盾に連なる鉄鞭は切断と崩壊の具現たる魔剣となって。
上段から鉈の一撃が繰り出されるより早く、その刃、その腕ごと全てを崩壊させ無効化すべく斜め上へと切っ先が駆け抜ける!


467 名前: シア・E──ただ、友として 投稿日: 2006/06/06(火) 20:45:39

 当の昔に聞こえている──
 惑う余地など何一つ無く。命たるなら全てを、絶てと。

 ──けれど、哂う。
 ──だからこそ、哂う。

 
>>466
「ごめんなさい」
 口を衝くのはこんな言葉だ。敵の感謝に応える、謝意。
「ごめんなさい──ごめんなさい」
 こんなにも、私は。
 あの子のことを、大切に思っている。
 右の手首が、こんなにも熱くて重い。
 その場所を覆うものが、たった一つの贈り物が、こんなにも、
これほどまでに、愛しくて──辛い。
 戦いたくなど無かった。
 
 けれど衝動は戦えと命じていて。
 
 殺したくなど、無い。

──けれど衝動が命を絶てと命じている。
 
 全ての歯を噛み締めるようにして──笑う。

「血禍・鋼甲──

           六十輪廻!!」

 とっさに張り巡らせた緋色の膜。 
 半球成す半透明の血の楯が敵たるデクレクシヴィ・ネロの一撃を
受け止めては爆ぜてゆく。
 形成しては砕かれ形成しては砕かれ。
 それでもなお剣は意思の元に障壁を突破し。
 それでもなお障壁は剣を阻まんと収束する。 
 破壊され、形成され、突破され、結束され──

 その全てが何度となくしかし一瞬のうちに行われ──


──しかし刃は肩口にのめり込む。
 けれど、その装甲を貫けない──

「進ませ・・・・・・ないんだよ?」

 本当に、今この瞬間にも泣き出しそうな笑顔で、少女はつぶやくのだ。

 お願いです。進まないで下さい。
 
 あなたの心は、知っていますから。

 お願いです。征かないで下さい。

 彼女の気持ちも、悟っていますから。

 だから、お願いです────てください。

 この一線を守る事でしか、私はあの子を救えないのです──


 振るわれる鉈の峰に──あまりにも惑いが無さ過ぎて。
 早く、鋭く──しかし。

 
 殺すという意図を排除した一撃は、まっしぐらに
コクピットへと向かう。
 衝撃により打ち抜いて、せめてこの者の意識を断つ──
殺しはしない、ただ眠ればいい、せめてひと時、あの子が
そこへたどり着くまで──

288SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:40:45

491 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/07(水) 18:52:46

>>467
そこに垣間見たのは、ただ「守る」の一念のみ。
その意思を具現化するように編まれた鮮血の障壁は、
悪魔の名を頂く無情な刃に貫かれては爆ぜ、爆ぜては編まれ、編まれてはまた貫かれる。
ついに本体へ至ったかと思えば、在り得る筈の無い光景がまた一つ。
切り裂けない。
森羅万象遍く殺す、無双にして無敵たるべき魔剣が、敵機の肩半ばまで食い込みつつそれ以上を進めないでいるのだ。
何故。
問うエリクシィの意思に、Z.E.R.Oシステムは一つの答えを示す。

魔剣に絡みつく紅い糸。
それは、シアという少女が命を掛けて紡いだ業(わざ)の残滓だ。
いや、残滓という表現は既に適切ではない。
正に執念。
正に信念。
血の如く滑るソレが、対象の物質との間にランダムに挟まった為、
崩壊をもたらす干渉波にノイズが混じってしまっているのだ。
不撓。
不屈。
目の前に立ちはだかる壁は、文字通り命を代価に止まり得ぬを止めている――ッ

――戦慄。
刃が再び切れ味を取り戻すまで、数秒あれば事足りる筈とエリクシィは知っている。
彼女自身がテストパイロットとなり、幾度も調整してきた機体なのだから。
だが、これは実戦。
故に彼女は知っている。知ってしまっている。
その数秒が、戦闘という局面においては許されざるものだという事を。

「イジェクト!!」

直感の命ずるままに、ディアヴォロスパーダをシールドから分離させた。
魔剣は力を失い、ただの鉄の塊となってシア機の肩に取り残される。
それを見届ける暇すらなく、身を捻ったアバンテの胸部に迫る一撃――届かず、しかし肩を穿つ!
弾き飛ばされる真紅の機体、咄嗟に背部ウィングバインダーが制動を掛けるが、

アバンテは止められた。
戦場全てから見れば僅かな距離に過ぎず。
しかし、不撓たる前進の意思を。
不屈たる堅牢の意思が、押し止め、確かに押し返したのだ。



493 名前: シア・E 投稿日: 2006/06/07(水) 19:17:20

>>491
「絶対破壊の干渉波か……
 ……血禍の第3層で正体に気づいてなお……
 あはは、ヤバイね、これ」
 
 肩に突き立った剣を引き抜き。
 苦悶の表情を浮かべながらも。
 けれど、唇の端で笑みながら。
 
「いつもシアは思う。 
 あなたたちは本当に強い。
 
 私が知りえるのはあなたと、そしてエリュシオンだけだけど。
 本当に強くて強くて、めまいがしそうになるくらい。

 ただの兵器として生まれながら、けれどそれ以上の何かを
決死で、必死でつかもうとして、そしてつかむ。

 だからなのかな、こんなにも強い。
 あなたの強さの源も、やっぱりそれは人として生きるという
ただその一点にあるのかな」

 片手に構えた鉈を力無く虚空に垂らしながら。

「ひとつ、聞いてもいいかな。
 シアはエリュシオンのことが好き。彼女は私にとっての
最高の友達だった。
 けれどエリュシオンにとっては、あなたがきっと一番の
友達。
 
 だから、聞きたい。
 シアは、もし、こんな場所でなかったら。
 あなたと友達に、なれたかな?」

289SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:41:38

496 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/07(水) 21:34:41

>>493
「ロームフェラの粋を集めた……って奴かな。
 それを防ぐんだから、そっちも洒落にならないよ」

小さく出した舌先が唇を軽くなぞる。
高出力ジェネレーターの制御に於いて右に出るもののいない、
資源衛星MO-Vのバーネット兄弟から供与されたノウハウを用いて作成された動力炉。
その出力を以って漸く稼働が可能となる魔剣を、目の前の少女は命を削って防いで見せたのだ。
そう。
その剣は彼女の命を削るだけで、彼女という壁を穿つ事はできなかったということ。

不意に相手から伝わる敵意が薄れた。
いや、元からそんなものは無かったのかもしれない。
ならばお互いに行き来するこの感情を、果たして何と呼ぶべきなのか。

想いは同じく、されどこの場において選んだ道が違うだけ。

「……友だちに、か」

シアの問いはそよ風が水面を揺らすように、その想いを静かに心へと伝えてきた。

「分からない。けどね――」

リロード。
シールド内部に備えられた予備ユニットが、接続を完了する。
じゃらり。
そんな音を立てて、鎖の如く再びヒートロッドがその姿を現した。

「――なれてたら、きっと楽しかったと思うよ」

残る魔剣はこれを入れて2本。
眼前の壁を越えて尚、彼女には叩き折らねばならぬ「剣」があるのだから。

この一本で、私はシア、君を打ち破る。



501 名前: シア・E 投稿日: 2006/06/08(木) 00:43:02

>>496
「あはは、分かんない、か。
 そうだよね──」

 わかる筈が無い。そんな可能性は戦火の前に潰えて消えた。
 消えてしまった可能性を、問うことほどの空しさはない。

 けれど、彼女は答えてくれたから──

「……ごめんね」

 そう、小さく告げて。
 
 ……敵が描くであろう進路など予測せずとも目に浮かぶ。

 担ぐようにして鉈を構え。

 そして──虚空を貫く槍と変じて、一直線を駆け抜ける──!

290SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:42:23

505 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/08(木) 01:19:50

>>501
何故謝る?
私は謝らない。
この道が正しいと確信しているから――

紅い騎士はその身を再び、鋼鉄の大鷲へと変化させる。
単純化された変形機構だからこそ可能となる、コンマ数秒以下の変形プロセス。
すぐさま機体はメガ粒子のヴェールに覆われ、突き出した魔剣は猛禽の嘴の如く鋭い輝きを見せる!

「アル・ナスル(天翔ける)――」

認証コード。
運用方法を誤れば自壊どころか、パイロットの生命、
更には周囲の僚機すら危うくするが故に掛けられた、音声によるプロテクトだ。
まるで呪文の如きソレを、エリクシィの唇は厳かに、シアへの敬意までも込めて祈るように紡いでいく。
心をぶつけ合った。
想いを受け止め合った。
その相手が、命を賭して文字通りの全力で向かってくるというのなら。

私も、全力で迎え撃ち、貫き、押し通る。
そうしてこそ……私は彼女を受け止められる……ッ!!

「――アル・タイル(大鷲)!!」

その身全てを崩壊の凶つ風と変え、炎色の大鷲は一筋の紅い光となって。
目の前に迫り来る、堅牢な城壁の如き命を打ち砕き、そして貫く為に――翔け抜けるッ!!


508 名前: シア・E 投稿日: 2006/06/08(木) 01:35:00

 ──矛盾する命と己を哂った。
 想いだけは真実と、己を信じていたけれど──

>>505
 避ける術など元より知らず。
 勝てる策など手の内に無く。

 死中、活、亡し。
 
 十中十死と知るならば──

「ごめんね」

 刃の斬撃、起にすら到らず。
 大鷲の突撃が、機体をまともに砕き散らすのを感じている。

 ……そう。
 彼女が守りたかった世界には、私はもう、残れない。
 
 私のことを、あの子はたぶん、生かしたかった。

 ブラックアウトするモニターの群れ。
 断末魔と悲鳴を上げるジェネレーターの音。
 蝉の群れが啼いている──干渉波による自壊がすでに興っているか。
 
 ……時間などない。

 ……許しを請う暇すら与えられない。

 ……きっと
 ……やっぱり、友達にはなれたみたい。
 あなたの、いうとおりだったよ、エリちゃん。

 あの子をとめるというのは、私の一方的な約束。
 けれどそれは守れなくて。

 そして、あなたと交わした約束のほうも……
 どうやら、これで反古になるみたい──

 ……最後の一瞬。
 腕を上げ、あの子がくれた最初で最後の贈り物を見つめる。
 何度とない衝撃にも耐えて、今も正確に時を刻んでいる──

 残してくればよかったなぁ。
 そうすれば──



510 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/08(木) 02:07:13

>>508
亡骸は崩壊に巻き込まれ、きっと見る影もなくなるだろう。
音速超過の大鷲は、執念の残滓を遥か後方に見る。

けれど、エリクシィの胸には確かに留まるモノが一つ。

貫く刹那に伝わってきた全ての想い。
シアと、そしてエリュシオンがシアに託したであろう願い。

アル・ナスル・アル・タイルはそれらを一片の躊躇も無く打ち砕いた。

だけど本当は砕けてなどいない。
砕いたのは術と、そして命。
誰かを想い、誰かと想い合う気持ちは貴く、魔剣などでは決して打ち破れないのだ。

受け取った想いは紛れも無い本物。
想いの貴さが真であるならば、それを抱いた者もまた、真。
贋作。作られた命。
生まれ出でた時はそうであったかもしれない。
誰かの代用品だったのかもしれない、けれど――

対峙し、そして命を奪ったシアという少女の名は。
少女自身として、他の何者でもなく「シア」自身として、エリクシィの胸に刻み込まれた。

だから少女は受け取った。
彼女もまた、エリュシオンを想う者であるから。

「……往くね」

想いを同じく、されど道と志とを違えた二人。
勝者となった一人は振り返る事無く、勝ち取った道を突き進むのみ。

291SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:43:13

511 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/08(木) 02:14:38

 ひどく、暗い。
 ・・・・・・何も見えない。
 そして、眠い。
 ・・・・・・疲れた。

 研ぎ上げられた筈の剣は徹らず。
 無残に折れて朽ち果てた。

 願いも想いも届き得ず──

「ごめんね」

 誰かの、言葉。
 ・・・・・・謝るのは、私のほうだ。
 何もできない──できずに終わる。

「ごめんね」
 だから、謝る必要なんてないのに。
 ・・・・・・誰・・・・・・なんだ・・・・・・?

「・・・・・・ごめんね」

 ・・・・・・シア・・・・・・?


512 名前: 兵士たち 投稿日: 2006/06/08(木) 02:17:15

>>511
 堕ちてゆく残骸を、声もなく。 
 あまたの観衆たちはただ見下ろすのみ。

 その、動くもの一つ無い情景の中──

 青と白なす大山が、右の腕を残骸めがけ差し向けた。
 容赦、慈悲。その言葉など一切知らぬがごとく。
 放たれる閃光の一矢、骸たる敵の死を定めるごとくに──


513 名前: ドモン・カッシュ 投稿日: 2006/06/08(木) 02:18:55

 誰も気づいてはいないだろう。
 あれほどの完遂、あれほどの手ごたえ。
 拳に生きた生涯にあって、あれほどの感触はそうはなく──

 構える。
 
 そう。

 それでも、なお。

 それでも、なお──

292SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:43:32

514 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/08(木) 02:31:18

>>513
 そう、それでもなお──

 一閃する刃に、切り払われる閃光の矢。 
 スラスター噴射。
 海面に佇むようにして……全身という全身を打ち砕かれ。
 非装甲部は黒い穴となりその奥底に無数の漏電が青い閃光
となって走る。
 癒す端からその電流によって致死するDG細胞が剥がれ落ちて、
銀の靄をまとったようだ。

 それでもなお、五体は揃い、揺るぐことなく、揺らぐことなく──
剣は、折れることなくそこに屹立している。
 
 手にした剣は、確かに半ばから折れたはずなのに──
 彼女の意思さながらに、折れてなお折れず、白銀の煌きを放っていた。

「……死なせない。そう、誓ったはずなのに。
 ……謝るのは、私のほうなのに。

 シア、ずるいぞ……せめて呪ってくれたなら、このまま
終わることもできた──」
 
 眼差しが赤く輝いて、頭上はるかに構える大山をにらみ据える。

「けれど、お前が謝るから、こうして、私は立つほか無い。 
 お前は何一つ謝らなくていい。
 お前は何一つ悔いなくていい。
 私がこうして立っていられるのは……シア」

 感じている、魂の奥底で。
 失ってはならぬはずの命が、彼女が生きる世界成す要素が、
今この瞬間に欠落してしまったことを──

「あなたのせいだ。あなたのせいで私はまた蘇ってしまった。
 だから、悔いさせてなどやらない。 
 謝らせてなどやらない」
 
 私を鍛え上げた数々の人々、そして、その仕上げを行った
貴女を思う。
 思い出せる。あの楽しかった日々を。
 そのすべてが無価値ではないと断じるために、私は
此処を抜かねばならぬ、この泰山を抜かねばならぬ!
 
 
 この怒りと悲しみのままに──完遂する!」


515 名前: ドモン・カッシュ 投稿日: 2006/06/08(木) 02:35:46

>>514
 立ち上がる。 
 あれは何度でも立ち上がる。
 その肉体を砕いてなお。
 その魂をへし折ってなお。
 全てを失ってそれでもなお──

「友が、死んだか」
 
 相手の言葉を察する必要すらない。 
 敵の気配と戦場の気配、重ね合わせてそれで知りえる。

 友の死に怒り、悲しみ……それを力と変えて再び立つか──

 だが、それは──

「……激情に依って立つところでそれは所詮羅刹の了解。
 到れぬと知りながら、それでもこの俺に挑むのか?

293SWORD & SWORD:2006/06/19(月) 04:44:06

516 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/08(木) 02:41:49

>>515
「拳の王、貴方ならばそういうだろう。
 怒り憎しみを是空と悟り、彼方なる明鏡を得て止水へと到る
貴方ならば、私の了解を哂うだろう。
 だが、哂うというのならば哂えばいい──」

 その身を覆う銀の靄が、赤く紅く染まりゆく。
 血と変じた霧の中、二つの瞳だけが茫と緑を
漂わせ、頭上の青を睨み据える。
 
「誰一人助けられず、そして万人を殺すだろう。
 だがその果てに、彼らが望んだ何かを成せるというのなら──

 私は羅刹と成り果てようと、この了解をこそ明鏡と信じる──!」

 身を覆う血煙が、携えた刃へと収束していく……白銀が血染めの
緋へと変ずるに、僅かに数秒と要せず。

「征くぞ拳聖。我が了解を哂うなら──」

 そして。

「我を屠ってその証左とせよ!」

 飛翔。

294 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 21:57:25
519 名前: ドモン・カッシュ 投稿日: 2006/06/10(土) 17:35:24

>>516
「そうだ、俺は貴様を哂う。
 これが哂わずにいられるか?」
 
 堕ちるが如くに舞い降りてゆく。 
 右の拳を矢と引き絞り、己の体を弓と化して。
 射抜くべきモノを、見定めて。

「望む場所へとたどり着きたい、誰よりそれを願いながら、
それを捨て去って良しとする、惑いに過ぎぬ確信を、了解と定めた貴様の
愚かさ!
 それは壮惨とすら呼べる決意、そうであればあるほど誰一人として貴様を
哂うまい、だがこの俺は貴様を哂うッッ!!
 誤りたるを誤りとせぬ、貴様の姿を何故哂わずにいられるかッ!!」


520 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/10(土) 17:43:57

>>519
「哂わば哂えとすでに告げたッ!
 ならばもはや言葉は不要(いら)ぬッ!!」

 ──想い描け、理想の剣。
 
 遅いと哂った友の言葉を、今この瞬間に思い出せ。
 
 ──踏み込み至れ、理想の剣。
 
 惑うなと諭した友の言葉を、今この瞬間に形と成せ。

 ──理想はいまや、理想にあらず──
 
 ──今ここにある己こそが、己の描いた理想と痴れ──!!

 振りかざし振り下ろす、生まれて幾度繰り返したか、そのたびごとに
己の未熟をただ呪い、己の脆さを己で哂った。
 ああ、だからもう誰にも哂わせない。 
 私はだれより私を哂った、その私がもう私を哂わぬのなら──

 ──誰とてこの剣を哂えはすまいッ!! 

 閃光と化し放たれた鋭剣。
 研ぎ澄まされ究極と変じた正拳と交錯し……!!

295 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 21:59:01

521 名前: 兵士たち 投稿日: 2006/06/10(土) 18:14:10

>>519,520
 砲火すら止み果てる。
 その瞬間それを目視したすべての存在が己の動作を止めた。
 誰もが、見入る。己が見てしまった何かに、魂を囚われてしまったかのように。
 それほどに──その闘争は。
 たった二機の巨人、ただふたつの存在により惹起された闘争は──

 青と白の巨人が、己の両手に刃を生む。

「ゴッドスラッシュ……」

 其れは瞬く間に閃光の大渦、否、それはもはや銀河と成り。
緋色の巨人へと目へとどめることすら困難な速度で──

「タイフーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッ!!!!!!!」
 
 敵と己の狭間にある何もかもを飲み込みながら驀進する!

 わずか50屯にも満たぬ鋼が、大自然の猛威に匹敵しそれを
容易に凌駕する非常識──
 誰もが緋色の天魔の消滅を確信した瞬間、しかし緋色の魔人も
またそれを覆すに足るほどの光芒を、己の手にする刃から放ち──

 EX─
「我が盟約せし──」

 荒れ狂う暴風へと向かい突進する一騎の騎士。
 振りかざした刃を、ただの一刀。
 何度となく放たれ、しかし何度となく退けられた斬撃。 
 しかし繰り出されるほどに鋭さを増していった剣──

 其れがこの瞬間に完成したことを、誰もがその瞬間に悟らざるを得ない──

 CULIBUR DRIVE
「勝 利 の 剣 !」

 それほどの光芒が弧を描いて具現と成り、そして閃光の台風と衝突する──!

 万人の、そして万物の眼差しが。
 生じた巨大な閃光と、其れに伴う爆風によって焼かれ──

 大空を覆う暗雲までもが、その威力によって瞬時に散じるほどに──!

 大海すらもその鳴動に己が身を狂気に駆られた如くに揺れ惑う!

 兵士たちがまぶたをようやく開いたとき、目にするのは現実の
モノとも思われぬ神話の具現のような情景─
 自らが生み出した破壊の大渦、その中心に在りながら傷ひとつなく闘争を繰り広げる
青と緋の巨人の姿──!

 海面をまるで大地の如くに駆ける緋、
 それを寸部の隙なき構えで迎え撃つ青!

 繰り出される拳撃、振るわれる斬撃、誰一人として目視できぬほど
鮮やかにして疾く──!

「肘打ち、裏拳、正拳、回し蹴りィィィィィィィッ!!」

「上段、中段、下段、払い、穿つッ!!」

 数秒か、数瞬か、時間とも呼べぬほどの短さに繰り出される剣と拳、
50合を超え100合、1000合に及ぶか!
 
 何者とても防ぎえぬほどの必殺と滅殺を、しかし互いが技量が互いに
否定し拒絶する。
 袈裟懸けに振るわれた剣が円描く拳に打ち払われるや繰り出される裏拳を
肘滑らせて防ぎ突きが放たれ、その突きもまた寸部の見切りでかわされ──

 格闘距離では五分と五分と見たか、互いが互いに瞬時に間合いを取る。
 その動作を互いに隙と見なさず、互いに鉄壁と知りながら……その鉄壁を
穿って進まんとするための其れは躍進の準備動作!

「超級──」

 青の巨神、両の手にて転掌──

「覇王──」

 その総身を二重螺旋描く光芒が覆い包み──

「電 影 弾 !!」

 天地焼き払う巨大な光弾と化し、大海を断ち割りながら
驀進する!!

296 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 22:00:50

522 名前: 兵士たち 投稿日: 2006/06/10(土) 18:55:36

 しかし見よ、魔王たる緋巨人は微動だにせず確固と立つ。
 突進の究極、至高の突撃、吶喊の理想、具現たる突破を
その目前としても何一つ己の信念を揺らがせぬ。 
 構えた刃はふたたび上段、変わらず、変えず、曲がらず、
曲げず。 
 それを傲慢と哂えるものが、この場に果たして一人と
居れるか──ドモン・カッシュを前にして、引けずに居れる
魂が、彼女のほかにいかほど在るか!

 It  is  Muscai of Ou as for the wind!
『 我 が 進 軍 は 天 地 覆 す !』

 響き渡る咆哮に空間さえも捩れてゆがむ。
 万物貫く砲弾すらも貫き通せぬ斥力結界、しかし
巨弾と化した青神の前にはそよぐ草ほどの抑止にも
成り得ず。
 その程度のことは少女も知っている──

「シア・E・ガーランド──我が友が得意とした抑止の業ッ!!
我が業にては用いること叶わず、しかしあえてその域へと私は望むッ!!」
 
 右の手首より奔流とあふれ出る血潮、しかしそれはただ赤く
在るのではなく天に輝く大火星、アンタレスがごとくに煌めき
ながら、空間すべてに螺旋と広がる!

 The misfortune of blood draws the spiral
『血   禍   螺   旋   放   射ッッ!!』

 放たれしは血潮に在らず、蓄えられし反物質!
 緋色の輝きは、正なる物質と反なる物質が衝突しあい互いに
喰らい合うことで生じる対消滅の閃光──!

 螺旋に沿うて炸裂する無数にして一の爆裂に、さしもの光弾も届きえず、
しかし螺旋も巨神を喰らい切れず、再び放たれる剣と拳の怒涛の交錯!

 誰もが、驚嘆した。
 誰もが、傍観した。 
 そう、誰もがとうに気づいていたのだ──

 この神話と黙示された闘争に、介入できるもの何人とて
存在しえぬと!

 海を断ち割り天を穿ち、世界のすべてを焼き払うほどの
破壊を瞭然と行使する青ほどに、神と呼ぶにふさわしきはなく、

 己の体を神の手により打たれ苛まれ、永劫ともいえるほどの
瞬間瞬間を生き延び悶えてなお抗う緋色ほどに、魔王と呼ぶに
ふさわしきはなく──
 
「だったら、誰が……あれを、止められるよ──」
 誰かが、呻いた。

 そう。あの闘争の終わりし暁には、その一方をその一方が
止めねばならぬ、その事実こそが恐ろしい。
 かの者たちの一撃を防げるものがどれほど在る、かの者たちの
進撃を食い止められるものがどれほどにある──

 だからこそ誰もが思う、だからこそ誰もが願う、この闘争が、
永劫に続くことを。
 そう、神話は神話であるからこそ夢見るだけで、思うだけで
済むのだから。それが現実と具現するのならば……彼らは人ならぬ
神や魔によって弄ばれ滅ぼされるだけの藁に過ぎぬのだと、誰もが
思っているのだから──

 しかしこの世に永遠なるモノはなく。
 だからこそ、誰もが魅入る──この、この世に絶えて無き最悪にして
最高の闘争劇の終わりを、見逃さぬために──
 その終わりこそは、彼らのいずれか一方にとり真に最悪たる闘争の始まりに他ならない
のだから、絶望へと望む最悪の闘争の始まりにほかならぬのだから──
 そして、彼らは藁に過ぎぬ身とはいえど。  
 誰一人、この闘争から逃れることを許されぬのならば。
 
 両軍、粛々たり。
 か弱き五体に力めぐらせ。 
 我らが神勝利せし暁には残る魔ことごとくに討ち果たすため。
 我らが魔勝利せし終には魔王の魁となり生者必衰をこの瞬間に具現するために。

 その瞬間を、見逃してはならない。
 彼らの闘争こそは新たなる闘争の始まりを告げる号砲なのだ。
 
 だが──
 誰かが心のどこかでかすかに思う。
 これが、殺し合いではなかったなら。
 これが、あるいは戦争ではなく、何かの競技でしかなかったのなら。
 こんな余計なことなど考えずに、この戦いに純粋に見入ることが
できたろうか。

 それとも──命と命が、互いを滅ぼしあうからこそ、この戦いは──

297 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 22:02:09
523 名前: 緋と青と 投稿日: 2006/06/10(土) 19:11:40

──そして。

──再び、舞い降りる静寂の帳。

 二機の巨人が、再び静止する。

 青と白の巨神は、雄として右掌を繰り出したまま、
彼方にて立つ緋色を睥睨。
 
 神たるを名乗るならばすでにその身は全能に等しく。
それを示すが如くに鋼の五体に一点の曇りなく。
 あれほどの破壊に身をさらしながら、その身には
微かな傷ひとつ、走っていない──

 万人、畏怖。
 ここに在るは正に神の具現、絶対にして最強の
闘争者、否すらも是とする無双の拳聖──
 
 彼こそは真に畏るべき正義──

 
 相対する緋色たるや。
 全身に走る亀裂数百。
 その右目は度重なる連撃を防ぎきれず潰され。 
 
 曇り無きは、ただ──その手に握る一振りの剣のみ。
 神によって永劫を打たれる定めを刻まれし、魔王──
しかしその曇り無き意思により、その定めへと幾たび
はじかれようとも挑み続ける意思。
 それを誰もが認めざるを得ぬ。

 彼女こそは真に愛しき邪悪──

「……はは」

 花が風に吹かれるような、軽く、朗らかな笑い。 
 燃え盛る大地によって熱された戦場の空気さえも凍てつかせる
ほどに満ちた緊迫を、ただの一笑にて吹き払うのは魔王たる少女。
 その総身はあまたの刃に裂かれたかのように血にまみれ。
 髪はほつれ、肌は青ざめんばかりに色を失い。
 それでも、なお、少女は構えを解かずそこに立つ。

「……どうした」

 神の言葉に、魔王は微笑む。

「なに、どうということはなかった。
 どうということはない、と思ってな」

 その微笑みは、不遜不敵。
 けれど神なる男の目に写るのは──

298 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 22:03:54
524 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/10(土) 19:17:53

 私に為せる渾身で哂おう。
 痛みすらもはや消えうせて、意識つなぐ糸は張り詰め解れ、
いつ千切れるとて不思議はない。
 そう、だから哂おう。
 私の魂に叶う限り、残された限りの力で哂い続けよう。

「マスター・カッシュ。貴方の業を、私は哂うのだ。
 敵たるもののすべてを引き出しその上で勝たんと
せざるを得ない、闘争者としての貴方の業……
 
 それは貴方の起点にして貴方の真実、貴方という
恐るべき存在を成す全てを洗うなら、唯一のこる
信念が其れだ──」

 そう、彼ほど畏怖するに足る者はない。
 戦争の中にあってすら己の本分を見失わず、
ひたすらに己の極みを目指し続けんとする姿、
拳としてこれ以上ないほどにいさぎのよい姿──それこそは。
 
「ああ、そうだ。だから私は哂うのだ。
 貴方という存在、闘争者としての理想を私は
哂うのだ。
 貴方は一拳、私を屠りえた──しかしそれを
なさぬ、なしえはせぬ。

 そう、マスター・カッシュ、貴方は所詮戦争者
ではなかった。
 ただの闘争者──人を殺すに意義求めざるを得ぬ匹夫」

 そう、彼は己の魂が求める闘争を生き、闘争を成す者。
 己が生きてきた人生に剣を交え、あるいは言葉を交え、
友誼を交え、契りを交え──己を作り上げていった至高
の拳。
 尊からざる命、一つとして無きを悟り。
 ゆえに一拳、あらゆる暴虐に逃げず挑み悔いぬ。

 断定しうる正義はなく、確定しうる悪もなく。
 
 しかし、それでも万人が讃えうるとするのならば、
それは『護る』という行為にほかならぬ。 
 
 かつて男は世界を護った。
 悪魔の手により、世界が汚されやがて滅ぼされんと
するを、その拳で持って護り防いだ。
 そしてその拳は巨神の復活、この世の消滅を防ぎ、
こうして今なおこの島に住まう億の人々を救うために
その拳を振るう。

 護る。

 あの島にある億の人生。
 その一つ一つが二つなき稀有、慈しみいとしむべき
存在であると知り。
 そして、その一つ一つが己にしか成せぬ戦を戦い、
勝利へと向かおうとしていると知るからこそ。
 彼らという存在が抗いえぬ脅威より彼らを護るべく、
屹然と此処に揺らぐことなく立っている。

 其れこそは私の理想、其れこそが私の求めた境地、
其れこそが、きっと私を作り上げた人々の願い──
  
 私が到れなかった境地へとたどり着いた先達の姿を、
私は目を細めて見つめる。
 その姿があまりにも神々しいから、そしてあまりにも
まぶしいから。

 けれど、けれど。
 だからこそ、だからこそ。 
 最後の一片の力、ここに尽きるとも哂おう。

「ただ純粋に殺為せぬ魂を、私は哂わずにはいられない」

 侮れぬ敵を侮ろう。
 尽きた力を尚汲むために。
 それがたとえ偽りでも──思いで渇きが癒せるのなら。
 一片の力を掴めるのなら──私はこの男を、哂う。

 なぜなら、そう。私にも、確かに真実はある。
 一億を、殺す。
 けれど残るすべてを護ってみせる。

 だから浮かべる、一片の笑み。
 それだけは、誓って真実。

299 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 22:04:10

525 名前: ドモン・カッシュ 投稿日: 2006/06/10(土) 19:20:53

 剣を持っても届きえぬのに、言の葉で大山は揺るがず。
 男は、ただ問い返すのみ。

「必死に己を護りながら、それ成しえぬを己の強さではなく
敵の弱さと侮るなら、貴様の敗北は必定と定まるが?」


526 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/10(土) 19:29:49

「はは──」
 ああ、偽りの哂いだった筈なのに。
 
 可笑しい、可笑しい。
 こんなにも、可笑しいことはない。
 
 何故?だって。

 これほどまでにも恐ろしくて──
 これほどまでにもつよい男が──

「貴方ほどの男が、私の虚言を悟れぬとは
意外だぞ、マスター・カッシュ。
 そうだわかっているわかっていた、私が生き延びたのは
きっと私の弱さ故だ。
 必死に足掻いて生き延び得たは、ほんの些細な怯惰の心が、
僅かな所で剣を引かせ、貴方の一撃を避けさせしめたからだと
理解している。
 
 その上で私は貴方をあえて哂った、己の弱さを騙すためにな。
 
 そんな私の惰弱さを、貴方は真と今見込んだか?
 だとしたら本当に、これほど哂えることは無い。
 
 あれほど剣をかわして届きもしなかったというのに、言の葉
だけがするりと徹る。はは、まったく……これほど可笑しいこと
はない。 
 
 貴方に一太刀浴びせられた。
 末代までも誇れる偉業だろう。これが哂えなくて果たして
生きていられようか?」

 もっとも哂えるのは私自身もだ。
 自らの弱さを曝け出し、なおかつ敵を哂うというのは。
 自分で自分を哂うも同然。 
 頭の中身はぐじゃぐじゃだから、きっともうどこか心がおかしく
なってしまっているに違いない。

300 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 22:04:27
527 名前: ドモン・カッシュ 投稿日: 2006/06/10(土) 19:46:14

「気づいてはいた」

 脱力でもなく気を張るでもなく。
 闘争にただ無心に挑むためにたどり着いた能面のごとき無構え。

 完全なまでの構え、しかし目元だけが──笑みに、崩れる。

「知りたかっただけだ。
 年端もゆかぬ少女が何故これほどまでに強くなったか、
何故これほどまでに張り詰めていたか──
 
 俺は言葉を繰るのが苦手でな。
 だから、こうして拳を交えることでしか、相手を知る
すべを知らない。

 ……だが、拳は何よりも雄弁に言葉を語るものだ。

 曲がるを知らぬ愚直の剣。
 
 未来へと臨むその剣を、少しでも長く見ていたかった──

 たったそれだけの、小さな自侭よ」

 拳の聖と歌われながら、結局のところ己はただの凡愚の
俗人に過ぎず。そう、男は己を見定めていた。
 神を駆りながら人でしか在れぬ身。そして、彼はそうで
しか在れぬ己をこそ誇る。
 だからこそ敵たる者の心へと踏み入れる。
 人間に過ぎぬと己を悟るが故に、人間である敵を理解する
ことができる。
 これを真実、あれを正義と断じる絶対存在には為し得ぬ──
惑い揺らぎ苦しむ人間の身であるが故に、同じく惑う人間の
心を理解できる。
 だからこそ、彼には少女の心が理解できた。
 己のことすら哂いながら、この戦いの中誰よりも柔らかに微笑む
少女。
 戦いの中信念矜持という魂の虚飾を剥ぎ取られた少女が、ようやく
浮かべた魂からの表情。
 そのような痛々しい魂が己に挑み来るを、ないがしろになど
出来はしなかった。 
 
「……貴様の本質は、闇ではない。
 道を違えただけと見た。
 ……ならば、本来剣を交える道理もまた、無い。

 だが……留まるつもりは、ないんだな?」

301 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 22:04:52
528 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/10(土) 19:54:37

>>527
「時が、それを許すなら」
  
 そう、時が其れを許すなら。
 私はきっと古き友の呼びかけに答えていた。 
 
 そう、時が其れを許すなら。
 私はきっとほかの道を探っていた。
 誰も彼もが幸せになれる道をこそ、私はきっと求めていた。

 けれど、私はそのときをただいたずらに費やして……

 時はとうに夕暮れで、たどり着くべき場所まではどれほどか。
 そして、なによりも。

 この身を時計にたとえるなら、すでに針は止まりかけている──

 ここへ至るための友との闘争、そしてこの拳聖との戦いで、私の
体は今にも静止しそうになってしまっている。 
 無双と信じたこの体が、なんと哀れな有様と化したことか。
  
「拳聖よ、私はあまりにも愚かだから、一度歩み始めた道を、
引き返すすべなど知らぬのだ。
 哂うなといいながら己で己を哂い、信念すらも朽ち果てて、
もう体は余勢で動いているのみだから」

 ──もう何もかも枯れ果てた。

 ──けれど命を捨てた友がいた。
  
 ──もう何も残っていない私を動かしているもの。
 
 ──何者にも、侵させてはならぬもの。

 ──友が命を捨てて守った、それはきっとたった一つの──
 
 
「拳聖よ。私は、やはり征くよ。
 貴方の呼びかけにも、やはり応じられない。
 友の願いすら拒絶した私には、それだけはできぬ。
 哂うなといったが、哂ってくれてかまわない。
 
 哂われながら、道を徹す。

 さぁ、終わらせよう。そろそろ──」
 
 もう、力が入らない。
 右手に握った剣すら重い。
 
 けれど、魂だけは動くから……
 想いの力を吐き出して、ただ刃に添えてゆこう。

 この鉄壁を貫いて、嗚呼、そう、願うなら──


529 名前: ドモン・カッシュ 投稿日: 2006/06/10(土) 20:12:05

>>528
 誰の目にも、彼女の構えが無力と見えよう。
 だが彼はその本質を見誤らない。
 この場この局面において為すべき行為以外の全てをなげうった
彼女の魂はこの上も無く清らかで、そしてその表れとして
現れたこの無構えほど恐るべき構えはない。
 そう、今の彼女のこの脱力は──

「掴み得るに達したか」

 ──見えざる雫すら斬り払う、惑いの消えた止水の太刀。
 たとえ、その道が誤りだとしても──歩みぬくと決した
ただ一筋の明鏡の光芒。
 すべてを失ってなお、彼女が引くでもなく、とどまるでもなく、
ただ前へと進むと魂のそこから思うというのなら。

「戯言を弄した。失礼だったな。
 ……いいだろう、幕としよう。 
 貴様の意地の、全てで来い。
 
 その全てを受け止めて尚──」

 
 その総身もて答えて曰く。
 流派東方不敗こそは王者の風と。
 王たる者の歩みを妨げうるものなど一人として無しと。
 故に──この瞬間に汝の敗北は決したと、男が無言で告げている。

 その右の掌が、赤く、熱く……燃え上がる。
 剣光圧して東方に昇る太陽が如く……

302 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 22:08:13

530 名前: 兵士たち 投稿日: 2006/06/10(土) 20:17:26

「……後退しろ……!」
 隊長格のジェガンが、部下たちに命令を下した。
「隊長……戦闘中ですよ?!
 いえ、敵とは確かに交戦がとまっていますが、それでも……」
「死にたいのかッ!!」
 部下の抗議になど聞く耳を貸さない。
 隊長はドモン・カッシュを知っていた。
 その上でかの男が何を為そうとしているのかを、だからこそ
瞬時に悟りえた。

「本気、なんだよ……」
 
 震えながら、隊長はつぶやく。
 右掌の光芒は、これまでのものと比べれば熾き火のように
赤く弱く。
 だが、その手が紅く輝くということは。
 そしてドモン・カッシュが「幕にしよう」と告げたということは……

「吹き飛ぶぞ……一切合財、何も残らず!
 10年前でさえ、コロニー一つ跡形も無く吹き飛ばしたんだ……」

 そう、たったの『一発』だった。
 あれほどの戦いを繰り広げ、あれほどの破壊をなしたあの魔王を、
あの『神』はたったの『一発』で吹き飛ばしてしまったんじゃないか。

 ならば。その域をすらはるかに超えたと断言できる、比類なき怪物と
変じた今のドモン・カッシュなら──

「……退避するしかないだろうが!
 核兵器なんぞ問題じゃない!
 
 命が惜しいなら急いで退けッ!
 流派東方不敗奥義、石破天驚拳……!
 この空域に在るすべてのMSが、根こそぎ吹っ飛んでも不思議じゃねえんだッ!!」


531 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/10(土) 20:22:58

>>520
 この期に及んで、心が臆するのを感じる。
 そう、怯えるのが当然だ。
 あれはそれほどの絶対だ。
 どこの誰だろうが絶対に及び得ない一つの境地だ。
 それほどの極みだ、それほどの……だからこその「最強」。

 嗚呼、そう。
 このおびえが在るからこそ、私は今まで、生き延びえた。
 そう、だからこそ……ここへと至りえた。

 敢えて断じよう。
 ここへ至りえたという事実。
 ドモン・カッシュが必滅奥義を眼前にするという域へと
達した現実こそが……到達点の一つであると。

 そう……あれこそが打ち破るべき城門。
 矢玉を浴びて槍に突かれて、それでもなおそれでもなお
躍進し続けたのは……
 この瞬間へとたどり着き、そしてこの瞬間を越えてゆく
ためだったと──!

 だから、シア……力を、貸してくれ。
 私一人では、もう戦えぬから……偽りでも幻でもかまわない、
最後の力を、私に呉れ……

 その想いすら、霞と消えて。

 ただ一刃──望む理想の、刃となる。

「目標……照準」

 己がつむぐ言葉すら、彼女はもはや認識していなかった。

303 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 22:08:31

532 名前: ドモン・カッシュ 投稿日: 2006/06/10(土) 20:29:07

 眼前の魔王の刃が、目をくらませるほどの光芒を放つのを見た。
 そう、あれはすでに一度相殺した技だ。
 ならばこの俺に通じぬことを知っているだろうに。
 それでもなお。
 だからこそなお。
 
 己がもっとも信頼するがゆえに、その剣にこそ全てを託したか。
剣を己の銘と刻むもの、『緋剣』エリュシオン!
 
「来い」
 
 輝く右手が、やけに熱い。
 躍らぬ心が、それでも躍る。
 そう、目の前にいる存在は、きっと己の究極点へと今たどり着いた──
 あの一撃はきっとこれまでで最高の。

 己の全て、想いですらも刃と変えて。
 己の命成さしめることごとくを叩きつけてくるというのなら──


533 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/10(土) 20:52:37

 ──夢見ていた明日を想った。

「反物質、チェンバー内精製、縮退開始」

──そこに生きる自分をも夢想した。

「重力制御エラー発生。
 補助システム起動……強制実行」

──たどり着けないと知っていた。

「偏向斥力刃形成、最大出力」

──ほしかった笑顔ももう手に入らない。

「『弾』種選定、榴弾」

──それでも見知らぬ笑顔を遺す事に、意義と意味を感じ取れたから。

「戦術プログラム、F3起動──」

──だから、私はこの一瞬の闘争に全てをささげよう。
 見据えればそこに青と白の巨人。
 ああ、待ってくれている。
 だから、応えよう。この、わずか一瞬の闘争で知りすぎるほどに
知ったこの敬愛するに足る師に。
 これが、私の全てなのだと──

 力が、剣へと収束していく。
 萎えた体が、奮い立つ。

 私は──征ける。

 己の剣から放たれる光芒が、己の目すらくらませるから、
もう私には何も見えていない。
 けれど、何者にも揺らがぬあの大山のような姿は、
心の目に焼きついているから──
 
 EX──
『我が友に誓いし──』

 構えるは、上段。
 ここにおいてほかの構えの全ては忘れた。

 CULIBUR──
『勝利の──』

 これこそが至高。これこそが理想。
 私という存在の顕現として、ここに在れ──刃!
 あの師が見せた一雫──
 
 D R I V E
『    剣    ッ!!』

 一剣の元に、切り下ろす……
 光芒が世界を圧して広がりながら……
 さえぎるものみな、飲み込んで──神たる者へ、挑みかかる──!

304 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 22:52:39

534 名前: ドモン・カッシュ 投稿日: 2006/06/10(土) 20:57:11

 清く、あまりにも清清しく、目も眩まんばかりに眩しい。
 この世の全てが白に染まるほどの閃光を──
 
 ただ、刮目する。

 この業を極めるために彼女がどれほどの日々を費やし、
どれほどの想いを募らせ、どれほどの苦難を味わい、
挫折し、泥にまみれ、のたうち、そして立ち上がったか。 
 
 その全てを、ただの一瞬の一撃に──男は、見極めた。
 
 見事だ。あまりにも。
 これほどの。

 ならば、俺は──


535 名前: 兵士たち 投稿日: 2006/06/10(土) 21:00:22

 必死で後退をかけながら、しかし間に合わぬことを悟る。
 緋色の魔人が刃から放たれた、その光芒の凄まじさに。
 匹敵。
 そう、まさにあの少女はドモン・カッシュの敵として立つ
ほどに強さを極めたのだと理解する。 
 ならばこの身は無残に消えうせて、終わり潰える定めなのか──

 畜生。
 呪いの言葉として、誰かが。
 畜生。
 恋人の思いに応えられぬ己の身を呪って。
 畜生。
 畜生。
 畜生──

 いくつもの叫びが重なり合い、その叫びのすべてを
飲み込むように視界が耐え切れぬほどの純白に焼き尽くされ
てゆく。
 
 目を焼く光芒に。
 あるものは己の結末示す閃光から顔を反らし──
 あるものは耐え切れず己の両眼を閉じ── 
 あるものはそれでもなお目を見開いて──

 一秒──二秒。

 ……生きて、いる。
 何故?

305 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 22:52:59

536 名前: ドモン・カッシュ──拳の聖者 投稿日: 2006/06/10(土) 21:20:40

 そして、兵士たちが視力を取り戻したとき。
 彼らが最初に見たものは。
 青と白成す巨神の背。

 一機では無い。
 二機、三機……百機、千機、あるいは万か。
 閃光と破壊の嵐をさえぎるは、群れ成す巨人が雲霞と成って、
築き上げたる大障壁。 
 悠然と兵士たちを護るように、その背を向けている。
 巨大な光の刃が、わかたれ、ちぎられ……その掌に、
押さえ込まれている情景を、兵士たちは呆然と見るほかない。

              ・

              ・

              ・

 賞賛に値する一撃だった。  
 尊敬にすら至りうる斬撃だった。
 少女は確かに人生の全てを剣に託してきた。
 掌を焼くこの熱さに、彼女が駆け足で通り過ぎてきた
人生が見える。 
 彼女を育て上げてきた人々の心が見える。

 これほどの刃を何故安穏とかわせよう。
 これほどの想いを託した剣を──何故、受け止めずにおられよう!

「貴様が千軍を飲みつくす刃を放つというのなら……
 この俺は、万軍となってその必殺を受け止めるッ!!」

 そう、この想いは受け止めた。
 この力の全てを、俺は己の身肉と刻んだぞ──
 
 次は……この俺の戦い抜いた全てを、俺が何を
護らんとしているのか、この俺の意思、この俺の
意地、その全てを貴様が受け止める番だ。

 あの街に暮らす連中が、どれほどの苦難を超えて
ああして笑っていられるか。
 あの慈しむべき人々が、どれほどの想いを抱いて
明日への道を歩んでいるか。
 人間が人間として暮らし続ける崇高さを、俺は誰
より知っている……
 
 そのために弟子たちもまた命を掛け、今も戦い
続けていることを知っているッ!!

 お前の決意は、悟った。
 10の内1を間引いても残る9を生かし明日へと
つながんとする決意、見事!
 世界を護るに、足る刃よ!

 だが、その1なくして今の世界が成り立たぬという
のならば、その願い、そのは最初から矛盾しているッ!

 真なる剣ならば一撃にてこの身を両断しえた、しかし
俺を斬りえぬは、ただ一点、その一点にほころびがあったが
故のこと!

 その矛盾、この一拳もって正すのみ……

 男は、故に咆哮する。己の魂を震わせて。

「流派!東方不敗の名の下にッ!!!!」

 想いのままに、数万の『ガンダム』が一つの言葉を唱和する!

「「「「「俺の拳が、真っ赤に燃えるゥゥッッッ!!!」」」」」

 それは巨神の群れによって描かれし巨大な曼荼羅。
 無数の仏と化した巨神は、同時に転掌を描いていく……
 
 無残に千切られた光の刃が、その転掌によって描かれる
円のうちに結晶し、そして収束していくのだ──

「「「「「勝利を掴めと、轟き叫ぶッッッ!!」」」」」

 右の掌は赤く熱く燃え上がり、今にも全てを飲みつくさんばかり──

「爆熱、ゴッドフィンガァァァァァァァ……」
 
 そして、少女が放った想いの刃すらも、己の力と変じせしめ──

「「「「「石破ッ!!!!天ッ驚拳ーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」」」」」

 無双にして不敗を名乗る流派にふさわしき、最強最大奥義……
数万と群れ集いて……
 戦いへと終止符を打つべく、巨大な掌と変じ、紅き魔王を扼して
潰す!

306 SWORD & SWORD:2006/06/23(金) 23:07:02
537 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/10(土) 21:42:06

 絶望は、無かった。
 目の前に迫る巨大な掌。
 
 見まごう事なき最強の具現が、確かにこの瞬間、そこにあった。

 逃れるすべなどどこにも無く──

 完膚なきまでに敗れる他を許さぬ拳。
 
 だが、けれど。

 けれど。そう、『けれど』。
 
 ……彼はきっと万億の意思を背負っている。  
 それはあまりにも強く気高く。
 私のような偽善などでは到底及べぬ想いなのだろう。

 けれど。そう、けれど。

 私という剣を鍛え上げるために人生を割き、あるいは命を
ささげてくれた人たちの、た数十の願いがこの体には宿っている
から──
 
 私は彼らに誓ったのだから──

 万の想いの輝きの前に、それがどれほどちっぽけだったとしても──

 課せられた願いと誓った想い、それは決して消え去りはしない──
其れは確かに存在しているのだから──!

 万億に比すれば無きに等しい数十の思い、けれど。

 とけ去り消えた意識の代わりに、刻んだ想いが体を動かす。
 右の剣は振り抜かれてしまった、けれどこの左の手にも──
私を育ててくれた人々が鍛え上げ、託してくれた「剣」は在る──

「『弾』種選定、徹甲弾──装填」

 そう……あの一撃ではない。
 私が願いを託した真なる「刃」、私が手にせし真の境地……
 

「シア、司令……これが……」

 貴方たちへと捧げる、私の真髄──

 ──そう、この鉄壁を貫いて、嗚呼、そう、願うなら──

 ──神をも裂いて、世界を生かす。貴方たちが明日つむぐ世界を──

 


 CARIBUR   ─   NULL    DLIVE
『勝  利  へ  と  繋  ぐ  確  約  の  剣 !!』


 巨大な掌に握り潰されながら。 
 何ものも持たぬ空の手の平が、まるで剣を振るうように──

307ジェガンE部隊:2006/06/24(土) 23:13:15
『特例45号、最終段階に入る!総員、被害半径から速やかに離脱せよ!』

『了解!補佐官殿は離脱したのか!』

『確認、出来ていません!ミノフスキー粒子が濃すぎるし、それに粉塵が……!』

『馬鹿、不死身の毒蜘蛛が簡単に死ぬかよッ!
 その前に俺達が死んでみろ、墓の前でねちねちねちねち小言を言われるぞ……!』

『援護射撃を行う!
 連中を被害半径内に封じ込めろッ!!』

 放たれる無数のミサイルと砲弾。
 引いてゆくジェガン部隊と黒虎部隊の間を引き裂くようにして、
キル・ゾーンが構築されていく。
 
 それは、巨大な蜘蛛の巣。
 
 入った獲物を逃さぬため、黒い女郎蜘蛛が織り上げた罠。

 民間人、全員退去を確認。
 被弾した機体から脱出したパイロットの確保および脱出作業、完了。

 完遂されゆく、最後の罠。

 そのうちに残りし企業軍軍籍保持者、一名。

 姓名、フミ・サカグチ。
 企業穏健派会長補佐官(中尉相当官、実質階級大将)。
 養成所教官を兼務。

 血縁者、一名。絶縁。
 
 扶養者一名。姓名、グェネビア・シモンズ。
 
 そして、東の空に。 
 光芒が一筋、走った。

308SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:00:24
538 名前: ドモン・カッシュ 投稿日: 2006/06/10(土) 21:50:40

>>537
 永劫のような静けさが。 
 空間を、押し包む。

 それは、一つの短くも永き戦いが漸く終焉を迎えた証。
 
 石破の構えのまま、微動だにせぬ青き巨人。

 コクピットの中、男は一人微笑を漏らす。

「……大地をも裂き天すら焦がすこの掌を」

 掌に走る、一筋の赤。いとしむように、見つめる。

「まさか、断ち切る剣があるとはな……」

 首筋に、痛み。
 致命ではない。致命ではないが……
 
 虚空走る斬撃は、確かに首を引き裂いていた。

 静かに、青き巨神の首に、亀裂が走り……
 音も無く海面へと落ち、小さな水柱をあげた。

 メイン・カメラは失われた。
 ……しかしサブカメラの映像でも、彼女の機体の姿は
見て取ることができた。
 
 全身を打ち砕かれる直前……反物質を放出し炸裂させることで
己の身をも砕きながら究極的な致命を逃れた緋色の悪魔の姿を。

「……ガンダムファイト第一条。頭部を破壊されたものは敗北となる……か。
 ……見事だ。これが、ガンダムファイトなら、俺は敗北していた」


539 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/10(土) 21:56:21

>>538
「……あの状況で、コクピットへの一撃を避けるが拳聖か……」
 全身を苛む痛みがよみがえる。
 その総身をDg細胞が修復して行くが、果たしてどれほどの
間戦えるか。

 ……機体のみなら、30分。 
 この体は……10分持つか否か。

「だが、感情エネルギーシステム司る頭部は断った。
 もはや戦うこと叶うまい。

 ……ドモン・カッシュ、貴方という大山を越えて、
私はここを押しとおる」
 
 呻くように、つぶやくと。 
 NZへ向け、最後の飛翔を開始した。

 傷ついた体に、敵うと見たか襲い掛かるジェガンの群れ。 
 その一撃一撃を斥力場ではじきながら、よろめくように、
西へ、西へと飛び去っていく。

309SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:01:13

556 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/10(土) 23:52:35

少女は勝った。
人類史上に恐らく類を見ないであろう、力の化身とも言うべき相手を前にして。

負けられないが故の勝利。
ならば何故負けられないのか――シアという名の、散っていった命があった故にか。
だからエリュシオンは、再び背負う為に立ち上がった。
立ち上がり、立ちはだかる「最強」を打ち倒し、そして尚も見定めた先へと進み続ける。

だけど、私はそれを認めない。
止めて欲しいのだとあの少女も言っていた。

言われるまでも無い。
エリュシオンにも私にも、守りたいものはあるのだ。
それ故にぶつかり合わねばならないのだとしたら――

「フミさん、聞こえますか?
 エリュシオンの目的は、巨神の強制復活と、そしてその打倒です。
 1を捨てて9を救う。
 それがあの子と、その仲間の目的」

――せめて、全力で。
彼女が託した想いを、私は実現させるのみ。

「でも、私はその1を見捨てたくない。
 だから、往きます。
 もし、私が帰って来れなかったら……」

あ。やっぱ今の無し。

「……ううん。帰ってきます。
 だから、上手く行ったら単位を思いっきり奮発してください。飛び級で卒業できちゃうぐらい」

下手な台詞は、死亡フラグといって縁起の悪い代物なのだそうだ。
土壇場でそれを思い出す辺り、私の脳味噌は良い具合に冷静で、良い具合にハイらしい。
往くよ、アバンテ。
きっとこれが、最後の戦場だ――
559 名前: 少女の教官──ブラック・ウィドウ 投稿日: 2006/06/11(日) 00:14:51

──苦笑する。
気持ちはよく、理解できたから。

だから、たった一言だけ、彼女は少女に呼びかける。
聞いているとは、思わないけれど。

「……エリクシィさん、あなたは「埋葬者」の上に、
あたしたち養成所の教育を受けている。
 
 その貴方が生粋の「埋葬者」に負けてしまったら、
あたしたちが教育したせいで逆に弱くなったみたい
じゃないですか。
 
 おまんまね、食い上げになっちゃうんですよ。

 だから、負けてもらっちゃ、困ります」

 ……こんな状況になってさえ、斜な言葉しかいえぬ自分に、
どうしようもなく可笑しみを感じながら、せめて彼女に、
贈る言葉を。

「あたしは負けるような訓練をした覚えが無いんです。
 だから、あなたは勝って当然。
 ありえませんよ?負けるなんて」

 言葉にすれば、本当になる。
 彼女が自らの死の可能性に言及するならば、あたしの言葉で相殺する──
 
 今はそんなことしかしてやれない、自分の無力が、呪わしいが。
 けれど、だから──彼女を鍛え上げた日々と。
 そして彼女の強さを、彼女の生きる意志を──信じた。信じたいのではない。
 信じている。

 ……本当に。うちの上司と、ヘルトちゃんたちには頭が上がりませんねぇ。
そんなことを、ふと思う。己も戦いのさなかだというのに。
 まったく・・・もう。

「負けたら地獄コースの特訓ですよ?それだけ。
 ・・・・・・それじゃあとっとと救世してきなさい。

 貴方が行くのは前なんだから、死んだらそこで前進はとまる。
 
 こんなところが終着点?そんなの貴方が認めないでしょ?

 とっとと行って、勝って来い!通信、終了!」

310SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:01:41

571 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/11(日) 01:10:17

>>559
厳しいなぁ。

束の間、目を閉じ。
脳裏に浮かぶのは恩師の姿。
口元に浮かべたのは穏やかな笑み。

かつてシルから与えられ、けれどその価値を知らぬまま受け取り損ね続けていた「母親」。
試験官の中で生まれ、カプセルの中で育った少女にとって、ソレはかつては未知のモノだった。
或いは。
エリクシィは、フミ・サカグチの中にソレを求めていたのかもしれない。

……。

じゃ、往ってくるね、フミさん。

*  *  *  *  *

前進を止めるな、と彼女が言った。
勝って来いと彼女が言った。

だから、エリクシィ・ハイマンは大空を翔る。
遥か前方に見据える、友の/敵の背中を追い抜くべく。
「前進」と名付けられた機体を駆り、前へ、前へ、只管前へ――ッ!!
584 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/11(日) 01:44:31

>>571
 ……近づく。
 ほどに……世界が、黒く曇っていく。  
 それは、硝煙であり、何かが燃える炎から湧き上がった黒煙であり。

 反物質の剣閃が戦艦を両断し。
 
 あるいは剣そのものの切断力でジェガンの群れをことごとく切り払いなぎ払う。

 総身を染める緋色が、硝煙に穢れより黒く、よりまがまがしく。  
 その全身をまるで血に染めているかのように。
 
 
・・・・・・すでに、彼女の機体は海岸地帯に設けられた防空トーチカ群の
半ばにまで足を踏み入れている。

 熱と爆風に捩れゆがんだ無数の残骸にたたずむ彼女の姿。
 孤独の戦場でただ一人勝利し続けるその姿は、戦いという行為にあまりにも
真摯に没頭している。 
 悪意無き、しかしそれは──殺戮。

589 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/11(日) 01:58:41

>>584
眉を顰める。
唇を噛む。
それらの光景一つ一つの向こう側に、守りたかった幾つの命が散り。
どれだけの「当たり前」がこの世界から奪われ。
少女の心に、どれだけの重さが加わっていったのか。

「エリュシオン……ッ!」

ペダルを踏み込むイメージ。
翼を羽ばたかせるイメージ。
機械言語に翻訳されたそれが、アバンテの推進力へと変わって更なる加速を生み出す。

これ以上は奪わせない。
これ以上は背負わせない。

これ以上、エリュシオンを泣かせはしないッ!

「其処から先は通さないッ!」

音速超過の生み出す衝撃波を、叩き付けるように真横を翔け抜け。
遥か前方、反転する真紅の大鷲は不退転の決意と共に。
刹那の狭間に変形する体。
生まれ出る騎士の姿、決意は剣と盾の形を採って破壊と殺戮の無垢なる暴風へと向けられた。

311SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:04:47
591 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/11(日) 02:06:49

>>589
「そうか、シアは抜かれたか」
 他人事のようにつぶやく少女の言葉は、おののくほどに軽い。 
 そう、何の感情も秘められていない声。 
 極限の戦いの果て、磨耗し感情のすべてを揮発させ、
それでもなお己の誓いのためのみに動く、半ば生ける屍と
かしたものの声。

「貴女を引き離し、ドモン・カッシュを乗り越えて、孤軍
戦陣を引き裂いて・・・・・・ 
 
 それでもなお。それでもなお、超えねばならぬ壁がある。

 少しばかり、疲れてしまっているのだ。
 叶うのなら、そこを退いてくれないか?
 
 さもなければ」


593 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/11(日) 02:11:26

>>591
「疲れたなら眠れば良い。
 目が覚めたときには、私たちが救った世界が待ってるから」

一切の感情を伝えない無機質な声に、返す言葉は柔らかく。

「明日の朝日は、きっと暖かいよ?」

微塵も揺るがぬ決意と戦意を秘めながら、彼女はそんな事すら口にした。


597 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/11(日) 02:16:31

>>593
「ああ、だが、それで救い損ねるということもある」

 一歩、足を踏み出した。亡霊のような足取りで。

「意地のようなものなのかもしれないし、確信に近いともいえる。 
 私ならばアレが切れるのだからより確実な手段を選びたい。
 
 それに、貴女が教えてくれた──」

 また、一歩。

「己の意思を貫くためなら、いかなる障害をも切り裂き進めと。
 貴女が教えてくれたことだ、エリクシィ。 
 
 ・・・・・・私も、貴女の障壁だ。
 貴女も、私の障壁だ。

 シアが、そうであったように。
 互いの意思を果たすためには、貴女をを斬らねば立ち行かぬ」

312SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:09:17

603 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/11(日) 02:27:12

>>597
シアという少女は、本当に殺さねばならなかったのか。
言外にそう問われているような気がして、エリクシィは小さく首を横に振った。

「私に任せた方が確実だと思うよ。
 何しろ私、一昨日付けで

 『‘不可能を可能にする男’の女』

 になったんだから」

恐慌すら来たし始めていたであろう、背後の基地の職員達にも聞こえるよう。
敢えて全領域回線オープンでそんな台詞を吐いてみせる――皆を、そして己自身を奮い立たせる為に。

「だから止める。
 だから守る。
 私の背中を見てる人たちを、もう君に殺させはしない」

アバンテもまた一歩。
さながら宙に浮かぶ不可視のアリーナ、その土を踏み締めるように前へと進んだ。
611 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/11(日) 03:02:34

>>603
「ああ、それでいいと思う」

 映像に映し出された彼女の顔は黒くやつれて。
 それは、正しく死相と呼べた。 
 けれどその目には、やはり迷いなどありもせず・・・・・・

 ただ己の生死すら打ち捨てた曇り無き瞳だけが、そこに輝いている。

「貴方は、命を護ればいい。

 ・・・・・・私もまた、命を護る。
  
 護れと命じられたがゆえにこそ護る。

 ・・・・・・それが、私の「約束」だから。
 貴方が誰かと誓ったように」

 それきり、彼女は言葉を発するのをやめた。

 緋色の巨人の右手に、万物を砕き葬り去る光の剣。
 緋色の巨人の左手に、万界を引き裂き切り捨てる無形の剣。
 
 剣と化した身に言葉は要らず。

 翼のように両腕を広げ、一歩、また、一歩……
616 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/11(日) 03:21:13

>>611
「そうだね……守るよ。
 私の後ろで闘う人と、私の隣で戦う人と――」

私の前で、タタカウ人を。

森羅万象、遍く断ち切る魔性の利剣を左に。
三千大千世界、遍く焼き切る灼熱の光剣を右に。

夜闇の黒と朝日の金とに彩られた炎色の騎士は、迎え撃つように更なる前進を見せた。


622 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/11(日) 03:30:33

>>616
 ただ、目的のためのみ。
 それ以外の全てを忘れ去った純粋なる剣。

 ただ、愛する人々のためにのみ。
 それこそ全てと識る意思の具現たる剣。

 沈黙の対峙は、わずかに一瞬。 

 無念無想無我、無造作無拍子。
 緋色の魔人が放つ袈裟懸けの斬撃、対消滅の光芒を放つ。

 巨大な爆圧に総身を砕かれ再生しながら放たれる、それは
正しく必死必殺の斬撃!

313SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:21:26

636 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/12(月) 00:08:01

>>622
鬩ぎ合う無と有との狭間に生じた断層は紙一重の空間を薙いで振り下ろされた。
爆ぜる大気。
剣の軌跡を追うように生じる対消滅の連鎖は、
かろうじて回避したはずのアバンテの装甲にすら及び、その右半身を遍く浅く抉り取っていく。
それを代償に相手の死角へと回り込む――そんな意図すら巻き込む爆風の衝撃。
まるで波濤の直撃を受けたかのように、アバンテの体は後方へと弾き飛ばされた。
無理も無い。
反物質が齎す対消滅、それが生み出す瞬間的なエネルギーは、並のミサイルを遥かに凌駕するのだ。

当たれば終わる、どころではない。
その剣風に触れるだけで、エリクシィの命はエネルギーの奔流の中に消え去ってしまう。

機体の各所が挙げる悲鳴を、Z.E.R.Oシステムが彼女の脳に直接叩き込んできた。
状況は芳しくない。
否、最悪に近い。
ゆえに撤退せよとシステムは命じてくる。

示された選択肢を一蹴し、エリクシィは再びルキフェラを真正面に捉えなおした。

退くわけには、行かないのだ。


639 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/12(月) 00:35:22

>>636
「駄目だ──」

 無意識に言葉を発していた。
 間合いが開いたのを、緋剣は見逃さない。
 思考が疲労に侵されて、あまりにも希薄になっている。
 だから、動いた理由は本能だった。
 アバンテが、こちらを真正面に捕らえなおしたせつな。
「それでは──」
 視覚
 胸部装甲展開。
 数基のスラスタ・ユニットに似たものが、開口部から姿を現す。

 その正体は、反物質推進装置。

「それでは──」

 避けること叶わぬぞデクレクシヴィ!
 思いはもはや言葉にならず。
 剣と化した己の体が獲物にして友たる者を倒さんと躍動する。
 熱を帯びた疾風が、光とともに開放され──

641 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/12(月) 00:57:30

>>639
前述の通り、対消滅が生み出すエネルギーは膨大である。
物質1グラムと反物質1グラムとを対消滅させた場合、生じるエネルギー量は熱量換算で凡そ180兆ジュールにも及ぶ。
これは40万トンのH2Oを瞬時に蒸発させるに足りる熱量であり、
ニュートリノ発生による減衰を考慮してもその総量は既存の兵器を遥かに超越している。

ましてルキフェラが扱う反物質の量は1グラムを大きく上回り……アバンテは、至近でそれに晒されていたのだ。

「往かせ……ッ!?」

動かない。
ルミナスアーマーですら吸収・放射しきれなかった膨大な熱が、装甲を、関節を絶え間なく融解させていく。
まるで日に晒されたロウ細工のように、真紅の騎士はその鎧を失っていった。

そして、その熱の中にいたエリクシィもまた。

保護液はその温度を加速度的に上昇させていく。
シアの拳で僅かに生じた歪が、熱量伝達に何らかの影響を与えたのか。

「ぁ……」

内臓が焼けるように痛い。
所詮は40℃程度の熱量、されどそれが肺の中から直接細胞組織を熱したとすれば――

息が……けど、最後に……ッ!!

シールド先端部と、そこに連結されたディアヴォロスパーダとが、ルキフェラの剣持つ手目掛け撃ち出された。
鋼鉄の翼持つ大鷲の、それは最後の飛翔。
友に、これ以上の重荷を背負わせぬと決意した、少女の最後の意地の羽ばたき。

そうして、アバンテは美しかった姿を寸分も留めぬ無惨な骸と成り果て、緩やかに大地へと墜落した。

314SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:27:29



642 名前: 緋剣@ルキフェラ 投稿日: 2006/06/12(月) 01:38:09

 重い感覚が、右の肩に、走った。
 
 熱を帯びて、震える感覚。
 脱落していく、右腕。 
 落ちていく、二本の剣。
 
 襤褸屑のように舞い散っていく、Dg細胞だった破片。

「干渉波による分子破壊……か」

 その正体を、悟る。 
 本来であれば、それは致命傷ではなく。 
 しかし、干渉派による破壊が、再生を阻む。
 ぐずり、と、まるで腐った果実がもげ落ちるように。 
 断面から胴体上部構造が崩れて、落ちた。

 破壊が、止まる。
  
 だが、その衝撃によって走った痛みこそ、致命。
 
 堕ちてゆく友の機体を見つめながら。
『緋剣』の銘を与えられた少女は、泣いていた。
 
 どうして、こうなるのだろう。
 こうなってしまっては。彼女を倒したことに何の
意味もなくなってしまう。
 私という存在に、何の意味もなくなってしまう。

 倒して、しまった。
 きっと、きっと殺してしまった。

 そう──私が、己が重い罪を背負うと知りながら戦うと
決めたのは。

 私のような「兵器」に過ぎない存在が、人のために
何かをなせると思ったから。
 知らず、誰かを殺して、誰かを生かすという行為の
悲壮さに酔いしれていたのだろうか。

 気づけば、こうして友の血に手を染めて、一人むなしく
死んでいく。
 何をなせるわけでもなく、ただ狂った血まみれの剣として、
むなしく折れて落ちていく。

 喉から熱く込み上げる何か。
 ダメージ・フィードバックが。
 この身の内の、砕いてはならぬ何かを、砕いてしまったのか。

 それが血なのだと認識する前に、赤き剣士の意識は現実から
切り離されていった。 
 
 潰えるように、落ちて──

315SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:28:08

643 名前: 名も無き生徒 投稿日: 2006/06/12(月) 02:02:28

地に伏したる騎士の中で、薄れ行く少女の意識。
潰えようとする命、目は最早目たりえず、耳は最早耳たりえず。
何も見えない。何も聞こえない。
完全なる闇が辺りを覆い尽くす中、これが死なのだという漠然とした感覚だけが残っていた。


だというのに。
彼女の意識は、薄れ掛けて尚、踏み止まろうとして。
自分自身でもよく分からない衝動が、内側から突き上げてくるような錯覚――

進め。

語りかけるそれは、かつて何処かで聞いたような声。
聞き覚えなどある筈も無いのに、とても懐かしい……

どろどろに溶けた機体の中で。
それでも辛うじて、内部機構を保った機体の中で。

翼を失った少女は見た。
守りたかった命が一つ、自分と同じように空から大地へと堕ち往く様を。
見えるはずの無い双眸が、それでも暗闇の中、捉えたその光景――

私は気付いた。
進めと語りかけるこの声は、私自身のものだと。
いつの間にか、左手には銀色の腕時計が握られていた。
……勿論、これは錯覚に過ぎないのだろうけれど。
それでも私は確かに、彼女から――エリュシオンから貰った腕時計を、その瞬間はちゃんと手にしていて。

そうだ。
まだ、ちゃんとしたお礼、言えてなかった。

もう言うのは不可能かな。
けど。

「ここで、不可能を可能にしたらカッコいいだろうなぁ……」



645 名前: 名も無き生徒 投稿日: 2006/06/12(月) 02:15:16

なら、可能にしてやろうよ。

そんな声が聞こえた気がした――

*  *  *  *  *

――Z.E.R.Oシステム停止――

    ――メインジェネレーター停止――

 ――生命維持システム、停止――





    ――ナノスキン・限定解除――

*  *  *  *  *

私は気付いた。
今、手の中に在る銀の輝き。

これは、あの時。
託されたモノなのだと。

シアという名の少女が、その想いと一緒に託したモノなのだと――

「なら……進むしかないじゃない……」

*  *  *  *  *

そして。
地に伏した鷲は再び舞い上がる。

広げしは光の翼。
優しく、温かな輝きのソレを羽ばたかせ。
今、正に落ち逝かんとする友を、その命を救うべく――天翔ける大鷲(アルタイル)はもう一度空高く……ッ!!

316SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:37:20


646 名前: 緋剣 投稿日: 2006/06/12(月) 02:24:05

>>645
 ……落下していく感覚だけが遠い。
 少女は落ちていく。
 掬われぬままに、落ちていく。
 
 ……その、感覚だけが、彼女に残されたもの。
  
 闇の中……落ちていく。
 

 

647 名前: 赤髪の健康優良児@ラスト・アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/12(月) 02:25:28

>>642
地に堕ちてより刹那。
不死鳥の如く舞い上がった大鷲は、

友だちを救う

ただその一念を以って、
漸く至った手で、

『エリュシオン!!』



そして大鷲の光の翼は、緋色の騎士へと至り。

『こっちに来いって……言ったでしょ!!』

喉を焼かれ、声は既に声ならず。
ただ迸る想いだけを、サイコミュが生み出す翼から、孤独な少女を抱き締めるように――


648 名前: 緋剣 投稿日: 2006/06/12(月) 02:38:06

>>647
 ……落下が、とまる。
 なぜ?

 ……かろうじてまだ動く。 
 まぶたを、どうにか開いた。

 ……我侭娘がまた我侭を言っている。

 苦笑した。
 残骸と見まごうばかりに破壊されつくしたモビルスーツが、穴だらけの
全天候モニタに大写しになっている。

 こんなになってまで、それでも貴女は己の意思を貫き通すのか。

「エリクシィ。 
 私は、な」

 そして、呟く。
 まだ、声は出たから。

「こちらでは、あなたしかいない。

 けれど、向こうには基地の人々が居る。

 ……彼らを、裏切るわけには……いかなかった。

 ああ、想像はついている」

 言葉は胡乱で、意味を成さない。
 けれど、体が保つ間。
 せめてこの命が続く間。
 何もかもを失ってしまった今、せめて想いだけは、
残しておきたかった。
 
「あなたはきっと裏切るに値する何かを思い知らされた
のだろう。
 わたしとて、生れ落ちて後のしばらくの処遇を再び
味合わされたならば、寝返らぬとも限らなかったから。

 けれど。
 
 ……貴方が居て、先生が居て。
 そして、貴方たちが去って、シアがきて、司令たちが、
ほんの少しだけどやさしくなって……

 悪く、なかった」

 だから、叶うなら、守ろうとしただけ。
 本当に、それだけなのです──エリクシィ。

 最後の意志は、言葉にならなかった。
 ようやく、終わり──

317SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:37:44

649 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/12(月) 02:52:35

>>648
『そっか……君らしい。

 私なら、もう少し欲張るよ。

 例えば……。

 あの人たちも、こっちに……とか。

 どこまでできるか分からないけど。

 でも、ほら。

 私は、不可能を可能にする男、の。

 女、だから。


 だから眠って。

 シアがヒントを呉れた……この、ナノマシンの繭の中で』




光の翼が優しく抱きとめ、ゆっくりと、ゆっくりと。

その体が、大地に横たえられる。

翼はやがて白い繭の様に騎士を覆い。

ただ、救いたいという望みに答えるべく。

癒しの時を、訪れさせた――


673 名前: 緋剣 投稿日: 2006/06/17(土) 23:10:50

>>649

 潰え行く意思が、わずかな温かみを感じた。
 
「不可能を可能に、か。
 ……それこそ、私が成そうとしたことだというのに、
貴女は私の決意すら奪ってしまうのか」
 
 コクピットの中。
 わずかずつだが癒えゆく己の体の感覚を覚え。
 そして、機体までもが再生してゆく感触も、また。

 ああ、だが、時は──

 繭の中、無理やりに体を引き起こす。

「……もはやこの機体ではイデ討つことは叶わない。

 ……だが……
 イデを討てぬとしても、討たねば、ならぬ、
ものはある……」

 機体をわずかに起こす揺らぎですら、ダメージ
フィードバック現象によって痛めつけられた総身
には応える。
 言葉を吐きながら鼻に覚える血臭に、片肺が
どうやら使い物にならなくなりつつあるという
現実を悟る。
 
 だがこの「鎧」ならば酸素循環すら代行してくれる、
ならばまだ、戦える、己の五体を擂り潰しても──

「救われたとて、生きる世界が消えてしまえばどうとも
ならぬ──」

 エリクシィ、慈悲はありがたい。
 刹那の力は戻ったのだ、だから、だから──

 漆黒の杭、世界の心臓へと差し向けられた処刑具を
見据えながら、少女は小さく哀願した。
 

「この結界を解除してくれ、神を討てぬというのなら、
せめて、天魔は、討ち果たさねば──」

679 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/17(土) 23:45:00

>>673
ナノマシンの治癒能力を以ってしても、

「……間に合わないんだ……」

最早彼女の命の灯火が、燃え尽きるのは避けられない。
それは恐らく諦観ではなく客観たる事実。

否定してやりたい。
強引に、傲慢に、我侭の限りで。
大切な友達の迎えようとする結末を踏み倒してやりたい。

けれど。

「分かった……やってみる。けど」

俯き、噛み締める唇から血が滲む。
コックピットを満たしていた溶液は既に全て流れ出していた。

「慈悲じゃない。
 友達なら、こうするのが当たり前だから……だから助けて、だから往かせるんだ」

シアという名の少女がいた。
彼女は望んでいた。
エリクシィを足止めし、エリュシオンの悲願を達成させる事を。
同時に、エリクシィがその願いを打ち砕く事も。

彼女はエリュシオンにとって、間違いなく大切な友達だったのだろう。

なら、そのシアを奪った私に、こんな台詞を吐く資格がどれだけ――

「……帰ってきて。
 絶対に。
 私の自慢の彼氏、年上ですごくカッコいいあの人、君に見せ付けてあげるから」

――それでも。やっぱり私は、エリュシオンが……大好きだ。

318SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:38:19

682 名前: 緋剣 投稿日: 2006/06/17(土) 23:56:59

>>679
「すまな──」
 礼を言おうとした、刹那だった。
『だめだよ』
 不意の言葉が、脳を穿つ。
 逝った筈の、少女の言葉。もう、聞けるはずが無いのに。
 体が、きしむ。 
 身にまとう鎧が──動かない?
『もう、エリちゃんの体は「針」と戦いでぼろぼろ。
 戦えば、3分持たずに自壊する。

 ……けれど、今ここを動かなければ、もしかしたら
直るかもしれないの。
 だから、エリちゃんは、きっともう戦っちゃいけない』

「シア……なのか……シアならばなぜ、邪魔をする……!」

『こういう奇跡は、何度かあった。その恩恵を受けられただけ。 
 この機体もまた、人の命を吸って力に変えられるマシンなの。
 だから、シアはこの機体に宿ったんだとおもう』

 その、暖かな気配は。
 不意に、今一人の少女へと語りかけられる。

『そのナノマシンの力は、貴女にも作用させられるのかな?
デクレクシヴィ、いえ、エリクシィ・ハイマン』


686 名前: 赤髪の健康優良児@アバンテ ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/18(日) 00:06:09

>>682
「私、に?」

唐突に現れたその意思に、戸惑いを隠せないながら。

「やれるかもしれない。
 機体の制御は全部、サイコミュで統括されてる……。
 それに元々、パイロット保護の為に搭載されてた筈だから、多分――」

と、そこまで言って、不意に思い出したように顔を上げ。

「いや。できる。
 必要ならやってみせるよ」

力強く、エリクシィはそう言った。
689 名前: 『シア』 投稿日: 2006/06/18(日) 00:17:25

>>686
『ありがとう。 
 エリちゃんは、きっともう、戦えない。
 この体では、間に合わない。
 
 けれど、この機体は、再生しようとしている。 
 あれほどの破壊を受けて、もうぐずぐずに崩れ去って
しまったけど。
 ナノマシンの力と、エリちゃんの戦う意思とが、
残ったDG細胞を活性化させているから。
 もちろん、これだけ破壊されてしまえば、再生は多分、
無理に近い。
 コクピットブロックを残して、機体を冒し同化した
DG細胞のすべてを、アバンテに移す。
 その力で、アバンテを復活……ううん、再生させられる。

 ……感染に関しては、心配しないで。
 叶う限りの防護策を、講じてみせるから。

 ……私は、きっと貴女に謝らなければならない。
 
 一つ、エリちゃんに戦いを強制してしまった罪。
 一つ、あなたとエリちゃんを、戦わせてしまった罪。
 一つ、あなたに、戦いを挑んでしまった、罪。

 ……最初から、こうするべきだった。
 分かり合おうとすれば、もっと確実な手段を講じることも
できたはずだった。

 ……けれど、私たちはそうしなかった。
 そうできないと決め付けて、思案することすらあきらめてしまった。

 だから……ごめんなさい。
 そして、何より謝らなければならないのは……
 
 貴女に、こうして再び戦いを強要してしまうことなんだと、思う』

319SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:39:02

733 名前: エリュシオン 投稿日: 2006/06/18(日) 22:44:49

>>732
 静かに、落ちる感覚。
 ハッチが、開く。
 癒えてゆく体には、立ち上がる力は残されていた。
 
 白と緋色なす巨人が、そこに新生する様を──彼女は、見た。

「……シア……
 ……私は、あなたに救われた。いや、私はあなたを見捨てた、
 あなたの思いを想わなかった。それに、あなたは、彼女に倒された。
 
 死して、何故貴女はまだ……シア!」

 うめくような言葉に、少女の気配が静かに答える。

『シア・E・ガーランドはエリュシオンと約束した。
 もしも叶うのなら、デクレクシヴィ・ネロと友人に
なってほしいって。
 私はその誓いを果たそうとしているだけ。
 だから、エリュシオンは気に病む必要は無い。
 
 そうだよ、私たちは誤った。けれど、こうしてまだ
できることがある。

 私はもう死んでしまった。
 エリちゃんはもう、戦えない。
 
 だから、私たちの想いを、彼女に託す。
 手が届かないなら、足で行く。
 それでも届かないのなら、せめて見つめる。
 目さえも失ってしまったのなら……あとは、想う。

 勝利を、想う。

 ……エリちゃん、これは最後のお願い。
 あの子は、きっと成し遂げてくれる。
 
 だから……信じて。あの子の、勝利を。
 
 そう、私たちの過ちの始まりは、それを信じられない
ことだった。
 だから次善を選んでしまった。信じないことで可能性を
捨ててしまった。

 けれど、あの子は信じた、信じている。
 それを想うことこそが可能性のそもそもの始まりなのに、
私たちはそれを捨ててしまった。
 
 そう、捨てなかったあの子は、今こうして立ち上がろうと
している、可能性をまだ掴もうとしている。
 
 託して、そして、信じる。

 私たちにできるのはそれだけなんだから』

 死した友の言葉に、何を告げることもできず。
 歯を、食いしばり、叫ぶ。

>>エリクシィ

「エリクシィ……私たちは、きっと過ちを犯していた、
あなたを信じることができなかった、そして今は
信じることしか出来はしない……傲慢だとは、思う、
おろかだとも、思う。
 けれど……
 頼む!

 この世界を、頼む!
 
 シアの生きた世界を、私が生きる世界を、あの過去につながる
今と、その先にある未来を……頼む!」


744 名前: 赤髪の健康優良児 ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/18(日) 23:43:12

歌は尚も続く。
詩は尚も紡がれる。

織り成す緋色と綾成す赤とが、新たな翼を其処に描き出し――

「あ……」

緋色と白。
炎色と、そして太陽の色。
世界よ明日に届け、命よ明日に届けと謳う声が木霊する中、
新たな色彩に包まれた鎧が少女の体を包み込み、いたわるように抱き締められる感覚すら伝わってくる。

綺麗、という感想だけが先ず最初に浮かんだ。
次に感じたのは温もりだった。
機体を包み込んでいた光が溶けるように薄れ、消えゆく様はまるで舞い散る羽根のよう。
広がる翼は燦然と輝く太陽の光を受けて白く眩い風を起こす。

「ガンダム・アバンテ……私の翼……ッ」

力を感じる。
力が湧いてくる――ッ
エリュシオン。
シア。
大丈夫、この翼なら届く。
届くよ。
地平線すら追い越して、月だろうと、太陽だろうと、未だ来たらぬ「未来」だろうと届かせてみせるよ。
だってこれは、私一人の翼じゃないから。
皆で紡いだ最高の双翼だから。

エリュシオンの切なる願いに私は頷いた。

「その程度の愚かさ、その程度の傲慢、受け止めきれずに何が『暴君』か……なんてね」

大丈夫。
この翼ならきっと私は――不可能すら可能にしてみせる!!

320SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:39:15

745 名前: シア、そしてエリュシオン 投稿日: 2006/06/18(日) 23:55:54

>>744
『バトン、渡したよ?
 ……だから、最後まで走りぬいて』
 そんな言葉を残し、少女の気配は消えてゆく。

 見下ろせば、そこに緋色の髪の少女が、瞳濡らして
祈るような視線をエリクシィに向けている。

 無数の思いをひとつとして、双翼はそこに屹立する。
時代を切り開くのが男なら、時代を生み出すのは女。
 
 運命は、皮肉。
 すべてを破壊するべく生み出された少女に、すべてを
生かせと可能性を託す。
 
 滅びへと躍進する、黒き鉄杭。
 滅びを内包し屹立する塔。
 姿見えずとも、確かに鳴動する「巨神」の気配。

 誰にでも理解できる。
 もうじききっと、この世界は終わる。
 
 新たな炎。
 どこかでまた、戦いが始まったのか。
 その戦いに挑むもの、抗うものの気配。
 ありとあらゆる感情が溶け合い、原初にも似た混沌を彩る。
  
 ただひとつ、確かなもの。
 それは、祈るような、祝うような──


752 名前: 赤髪の健康優良児 ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/19(月) 01:11:11

>>745
走り抜けろ、か。

アバンテのマニピュレーターが器用に動いて親指を立てる。
簡単に言えばサムズアップ――

「祈ってくれるのは嬉しいけどさ。
 そんな乙女チックな顔、エリュシオンには似合わないな」

からかうように吐くそんな台詞。
あんな目で見つめられたら気恥ずかしくってしょうがない。

私のイメージを正確にトレースしたアバンテは、
ふわり、と形容するのが相応しい動きで翼を軽く羽ばたかせた。

計器類をチェック。
あ、いつの間にかコックピット、溶液で一杯になってた。
うわー、シアちゃん良い仕事してるねー。
何かアクセス不可の部分がやたら多いけど……ま、その辺は贅沢言わないでおこう。

そんな感じで私の頭は良い具合にノッてきていた。
何かが出来るってのは、やっぱり良いものなのだと改めて実感している。
けれどノリ過ぎてもいけない。
改めて、向かうべき先を見据える。
空から迫る黒い杭、虚空に浮かぶ幻影の塔。
次元の向こうからこの世界を見つめる圧倒的な存在の影。
よし、適度にクールダウン。

「じゃ、ちょっと世界救ってくるね」

言い残し。
二度目の羽ばたきをその場に残して、生まれ変わったアバンテは見据えた先へと飛び立った。

321SWORD & SWORD:2006/07/15(土) 20:49:15
補足

>>318>>319の間に以下の文章を挿入してください。

907 名前: SWORD & SWORD 投稿日: 2006/07/15(土) 20:38:44


728 名前: 赤髪の健康優良児 ◆ZTW3DCLXVI 投稿日: 2006/06/18(日) 21:44:49

>>689
「強要?」

懺悔するかのように、自らの行いを罪だと告白するシア。
そんな彼女に対し、エリクシィは変わらぬ笑みで――首を横に振った。

「そんなもの、された覚えなんて無いし。
 これからもさせるつもりはない。
 前に進めるというのなら、私は迷わずそうするから」

I have a Dream.

The World is so beautiful, so I want to be...

「……ありがと。
 私も、ソレを言うなら謝らなくちゃいけないよね。
 お互い間違えてた。
 でも……もう間違えないよ」

そして瞼を閉じる。
そっと背中を押すような、誰かの優しい歌声が聞こえてきたような気がした。
明日へ進もうとする命を讃える誰かの、とても澄んだ歌声が――

「始めて。
 私たちを、最後にもう一度羽ばたかせるために」


732 名前: 友、二人 投稿日: 2006/06/18(日) 22:32:08

>>728
『過ちは、確かに多かった。
 けれど、それでも生きなきゃならない。
 けれど、それでも生きていける。
 
 ……シアはあなたを終わらせない。シアはエリュシオンを終わらせない。
 笑って会える、その日を紡ぐよ。
 
 誰かが歌う、この歌に乗せて』

 温かな気配はきっと微笑み。
 目には見えることは無くとも、きっと彼女は、そこに居た。
 
 緩やかに解けてゆくルキフェラの姿。
 ナノマシンの光芒と溶けて光の粒子となり、アバンテを渦と
包んでゆく。
 装甲が癒え、補強され、増強され──


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板