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020 白河 Zwei(しらなみ)

11エピソード(続き):2013/07/27(土) 18:03:04

何故ならば彼女らはつい先日まで入り組んだ学園ハルマゲドンの敵対関係の
渦中にあり、その唐突なる再会も殺す殺される戦場のまっただ中で発生したの
だから―そんなはずが―

「しかし”彼女”は本当に大丈夫でしょうか」

『アイン』と呼ばれた彼女は呟く。
自身ではどんな困難な任務であろうと苦もなく完遂する彼女であるが、今回は
かなり勝手が違う。任務それ自体より送り出した対象のほうが気になってしょうがない。
なんというか初めてのお使いに幼い我が子を送りだした親の心境と言うのが一番
当てはまるかも知れなかった。学園所属自体には発生しえなかった感情ではある。
その心境を知ってか知らずか彼女の主は続ける。

「まあこの件に関しては『おじ様』にも認めていただいてましたし、
そもそも、あの子が目的のモノを手に入れれなければ今回の一件は何も
始らない。ソレがなければ戦いを始めることすら叶わないのだから」

おじ様という名称を聞いた瞬間、彼女の目が否応に鋭さを増す。

「…。あの男は『危険』です。
私はあの男と敵として対するならば何も恐れはしません。寧ろその首級を
あげることを誉と感じるはずです。
だが味方として扱い続けるには、なんといえばいいのか余りにもリスクが高すぎます。
今からでも何某の手を打つべきです。例えば貴方のご友人の助力を仰ぐとか…」

「…。」
ばふ、彼女の主が仰向けに倒れる。

そのまま両手をあげると彼女に向かっておいでおいでと手まねきをする。
主の意図を汲み取った彼女の目線が急に目標定まらなくなり宙をさまよい泳ぐ。

何がし葛藤があったようだが主が望むならやむを得ない。已むをえぬのだ。
と自分を納得させたらしく、絶対忠誠の化身たる彼女は主の近くに膝をついた。
むふふふ、頭に当たるまくらの感触に満足しながらも主は答える。

「私はあの後、お父様が昔おしゃってたことを思い出したの。
『お前が人生の岐路に立ったとしよう、その時、もしお前が自身の最善を望むなら迷わず
お前の友達を頼れ、アイツは決してお前を裏切らない。
だがもしお前が、
『わが身を顧みず敵の最悪を願うなら、あの人を頼れ。嬉々として最悪のシナリオを用意してくれるはずだ。』」

「はあ」
最悪のシナリオを用意してくれるはずだ―どう考えても愛娘に向かっていう台詞ではない。
前半いい話だけで済ますところを黒いところまできっちり踏み込んでくる。変わり者ではあるが、ある種、
先見の明のある親御さんともいえた。その結果、今の今に至るのだ。
それが誰にとっての幸いかは不明のままだが。

「『でアレだけには絶対話に関わらせるな。アイツが絡むと話が必ずおとといの方向向かって
話がぶっ飛んでいきやがる…』ともってうわ、存在、忘れてた。不味いかも。いや、
まあ流石に何の伏線もなくここからいきなり絡んできたりはしないでしょうし。うんノーカンで」
アレ???一体誰のことなのだろうか。
「まあ、それはおいておくとして…もしこれが私だけの問題だったら、貴方の言うとおり
片菜を頼ったかもしれない。でも、これは私だけの問題ではない。
既に『私達』の命題なのです。
私個人の最善などもはや何の意味も持たないのですよ。」
主は片手をあけて自分の頬に軽く指を触れる。

「それにね、あの子は私達の自慢の子供なのだから。きっと大丈夫。何も心配ないと思っています」
「こど・・・えっ、あの、ちょっとそういういい方は」
思わずどもってしどろもどろになった自分に彼女はぷっと噴き出す。
また、からかわれたのだ。全くこの人はもう。

「話はここまで。次に目が覚めた瞬間から”終りの始まり”です。いいですね。アイン」
「ハイ」
「just 10minutes」

そう言葉を発すると彼女の主はよほど寝付きがいいのか、そのまま寝てしまう。
完全な無防備状態だった。
恐らく、いまならその首に手刀を落とすだけで全ての悪夢を終わらせることができるだろう。

不思議であった。
そうしない自分にではない。何故、この人はその可能性もあるのに、こうも自分に
全面的に信頼しきっているのかということを、己が洗脳能力への絶対の自信なのか、それとも…。
彼女、アインこと白河一もそっと目を閉じる。


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