したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

武勇伝まとめ

1第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:16:09
個別ページが必要な長さの物だけ。

2第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:21:16
石川 発貴

■武勇伝
夕刻。橙に染まる、希望崎大時計塔前。
切迫した空気が肌を切る。無音の世界で、ただ時計の絡繰りががしゃり、と唸りを落としていた。
希望崎自警団の面々は軒並み傷つき、倒れ伏している。死屍累々であった。
「畜生……こんな、こんなッ……!」
「馬鹿っ、喋るな……!」
まだ、意識のある者も数名。さすがに天に名高い自警団、といったところだろうか。圧倒的力を前に最早虫の息ではあるが、そこにいる誰もが、此度の行く末を確と見つめようとしていた。
聳え立つ時計塔の下、二人の人影――明瞭なコントラストが影を落とし、その表情は窺い知れない。
「……大銀河さん、あんたは……!!」
絶対の信頼を置いたはずのリーダーを見つめる瞳には、戸惑いの色が混じっていた。眉間は焦燥に皺が寄り、胸は溜飲に焼かれていた。立てた膝が崩れ落ち、苦い土の味が口の中を広がる。然れどそれでも、視線は変わらない。遠のく意識を必死に繋ぎ止める。
今、彼らに出来るのは、見届けることだけであった。

突如――、静寂を裂いて轟音鳴り響く。

「……!!」
それは、時計塔の鐘の音。六時零分の訪れを意味していた。
来たる約束の刻。開戦の狼煙。
「遂に……動くのか……!」
いつの間にか橙の空には青が混じり、世界の輪郭は黒に染められはじめていた。


大銀河が、動く――。


確かな意志を持って、一歩を踏み出す。
正面の影が僅かに身構えるが、意にも介せず、更に、一歩。
その表情には、かつてない覚悟が伺えた。


そして……ついに互いの拳の届く間合いへと踏み入る。
息を大きく吸いこむ。全身の筋に力がこもる。
渾身の一擲……!!

3第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:21:41
「と、十萌ぇッ!! お前……あれだ……ミスコン、出てみろッ!!」

それは不必要に大きな声で、目の前の少女――月読十萌が、その肩を小さく揺らし、怯む。
俄然前のめりな入り出しになってしまった大銀河だが、喉元過ぎればなんとやら、少しすればいくらかの落ち着きを取り戻し、続く言葉を紡いだ。
「……俺に、遠慮すんな。ちらほら話題にはなってるみてーだが、実際お前、どうなんだよ。出たいのか?」

そう、希望崎学園祭ミス・ダンゲロスコンテスト。その開催が発表されるやいなや、学園での月読十萌参戦への期待は徐々に高まっていった。彼女自身友人からしきりに出場を薦められていたのだが、なんとなく大銀河に断りを入れずに出るのは悪いような、といって、断りを入れるのもそれはそれで変な話のような気がしてしまい、問題を先送りにした状態でいたのだ。
詰まるところ、二人の煮え切らない距離感が故に生じた問題である。快刀乱麻の大リーダーは、こと月読十萌に関しては、異様に奥手であったのだ。

「……あの、えっと、超一郎さんは……どうなんですか?」
「お、俺はミスコンには出れんぞ」
「そ、そうじゃなくて! その……」
言葉に詰まり、十萌の目が泳ぐ。大銀河の顔を見れば視線が合い、思わず伏し目になる。
「……あ、ああ、そういう事か」
少しばかりの沈黙の後、大銀河も十萌の様子を察したようだった。襟を正し一息つく。
「俺は、その、最初にも言ったろう。出てみろ、って」
「あ……」
顔を上げる十萌。見れば、大銀河の目は十萌の比ではない程に泳ぎまくっていた。――余談ではあるが、マグロは泳ぐのを止めると窒息死するという。余談だ。

「……そういう事だよ。俺も、正直楽しみにしてんだ。嫌じゃねえってんなら、まあ……えー、なんだ…………出ろよ。な」

瞬間、辺りが歓声に包まれる。地に伏していた自警団の面々が、返事を聞くと同時に咆哮し、がばり、と身を起こしたのだ。
「いよっ!リィィダァー!!よく言ったー!!」
「ひゅー!ひゅーひゅー!」
「殴られ損にならなくてほんに良かったでぇー!!」
「十萌ちゃんが悩んでることを知っていながら自分からは何も動くことのできないへたれリーダー(笑)なんておらんかったんや!!」
「小学生みたいな純朴ピュアハート!そのちっちゃな身体もソゥキュート!ちょっと情けなくてそこが愛くるしいなよなよマイリーダー(笑)なんて言ってすんませんでしたあああ」
時計塔に据え付けられたスピーカーから、カーペンターズのイエスタデイワンスモアが流れ出し、団員たちが次々と大銀河たちの下へ駆け寄っていく。
訪れる夜をはね除けるような、騒々しく、気持ちの良い大団円であった。


そして輪の中から外れ、その場を後にする少年が一人。
十萌を抱え暑苦しい団員を蹴散らしていく大銀河を一瞥し、満足そうに口元を緩めていた。


AD2016年9月、学園の象徴・時計塔前での出来事??。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

石川 発貴(いしかわ はつき)。
周囲に無理矢理発破をかけ、行動を起こさせる男。事態を影から動かす暗躍者。
様々な事象の影に彼の存在がある。

彼は、『後一歩の勇気』を後押しする。しかしその力を明かすことはない。
自らの意思で『一歩を踏み出すことが出来た』経験は、その一歩の大きさを実感させるから。更なる一歩の糧となるから。
彼はその経験に、水を差すことをしない。

そしていつか??そしていつか、自身が『一歩を踏み出すことが出来る』その日を、今か今かと、待ち望んでいる。

4第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:27:41
衿串亅

■武勇伝

『記憶力が貧弱で、逆方向にしか働かないの』

体育館裏に、男女が二人。
一人は、首元に布切れを巻き付けた男。
もう一人、女の側の風体は異様。
金色の髪、金色の目、金色の服、金色の鞄――全身を偏執的にまで黄金に染め上げた少女、衿串亅(えりくし せんちねる)。

「……手紙をくれたのはキミか、両津君。
どうした?キミとボクはろくに話をしたこともないだろう」

両津流雨。衿串亅のクラスメートとはいえ、二言三言交わした程度の仲だ。
野暮ったく巻かれたスカーフを手放さない、陰気な男。その程度の認識でしかない。

「えっと、その……おれ……衿串の事ずっと見てて、その……」
「……その……知りたいんだ! 衿串の事」

空気が変わった――彼女は直感する。
彼は、本気だ。
衿串亅は姿勢を正し、彼を正眼にしかと見据える。鞄を握る手にも、自然と力が篭る。

「……全部、聞きたいんだ! あの技、何処から誰から知ったか――」

風にたなびくスカーフが、彼の顔を包む。
弱々しげな表情を覆い隠し、直後――ぎちぎちとした、異音。

面を隠し、冷たい目元だけを見せる男、両津流雨。

「――洗いざらい吐いて貰う。その後に貴様を殺す」

∝∝∝∝∝∝∝∝∝∝

感情の死んだような、氷の声。
両手首から先は、鋭く尖る巨大針に変じている――彼の能力『カップルニードル』の産物だ。

「成る程、部活熱心(ちょうきょうずみ)かい。道理で親睦会じゃ能力伏せてた訳だ」
「我々の目は欺けない。貴様の武技――手芸術……いや、陶芸の秘奥」

「おいおいよしてくれよ、両津クン。ボクは告白かと思ってときめいたってのに、そんな――」

軽口は布石――既にその場に衿串亅の姿は無く、彼の懐に潜り込んでいる。

「――期待外れが、あるかい!」

ふつ、と風切る音。
手に持っていた鞄が、いつの間にか巨大な鍵のような得物へと変じている。
二度の空中転を打ち、その一撃から逃れる両津。
鞄だったものから吐き出された内容物が、ばらばらと宙を舞う。

「ああもう、折角の黄金が黄土色に犯されてしまうじゃないか」

両津流雨は応えない。
着地と同時に踏み込み、恐ろしい速度で突撃。
亅も迷わず前に踏み込む。
鍵型の金色戦斧を構え、下段から振り上げる。

両津は大きく仰け反ってそれをかわすと、片手を地面に突き刺す。
奇怪な姿勢のまま、もう片腕が奇襲的に伸び迫る!

咄嗟に掲げた武器防御を、針はあざ笑う。
衝突寸前で二股に避け、斧を迂回。がら空きの側面を衝く!

「報いを受けろ、"邪悪な簒奪者(ダークスティール)"!」

両の脇下に鋭く向かった鉄の針は、悪趣味な金色の専用制服を刺し貫く――

「おいおい、ただでさえ薄い胸を狙わないでくれよ」

――事叶わず、尖端が欠け折れる!

「そんな"しみったれた鉄(ダークスティール)"じゃ、ボクはオちないぜ」


本来、金は非常に柔らかい金属である。武具としては不適切な程に。

だが、彼女、衿串亅の認識は違う。
金こそ、最強の金属。最強の前には、硬いも柔らかいも意味をなさない――!
その幼稚な信奉こそ、彼女の真の能力、『金牢完遮』。
金を至高へと押し上げる力。

5第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:27:56
∝∝∝∝∝∝∝∝∝∝∝




彼女は猫をあしらった純金の髪留めを解き、手遊びを始める。
そのままくるくるとその場で回転を繰り返す。
ほどけた長髪が靡き、細やかな縞模様の残像を描く。
残像は軌跡に、軌跡は道筋に、道筋は実体に――!



視界が純なる金に染まる。





そして、急制動。

髪がくしゃくしゃと乱れる。
暫くするとすとん、と収まり、辺りに金の糸が舞う――
髪と近い細さのそれは、髪そのものではなく、引き延ばされた純金糸。



「おめかししてみたのだけど、どうかな、両津クン?」





両津は応えない。
既に飛び撒かれた金糸により、全身をボロボロに刻まれた状態で、意識朦朧と佇むのみだ。



自身に纏わせるつもりではなく、最初から攻撃を狙った行動だったのだ。
回転による防具の縫製術と誤認し、阻止機動をとった彼は、見事に虚を衝かれた形になる。




「見惚れて言葉も無しかい、いけずだな……まあいいさ」



物言わぬ重症体を尻目に、衿串亅は踵を返した。



「出来れば無関係と報告してくれたまえ。キミの先輩にでも来られたら困るからね。
レッサー位階だろうキミならともかく、グレーター級と相伴あずかるなんて御免だよ、ボクは」



「――なれば、そうさせて貰おう」




∝∝∝∝∝∝∝∝∝∝

6第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:28:10
「……おやおや、容赦無いね」



頭上から響く、冷涼なる声。
屋上から姿を現したのは、人間サイズのぬいぐるみ人形。
間抜け顔のぼろ人形と侮ることなかれ。これはあからさまに手芸の産物なのだ!



恐らくは、衿串亅の実力を凌駕するほどの使い手。
そして、彼女の立ち回りも割れているとみるべきだろう。
人形は勢いよく飛び降り、音もなく着地する。



「後輩の逢瀬を覗き見なんて、野暮な真似じゃないのかい?」
「……邪なる売女にたぶらかされる様を、看過は出来まい」
「そいつはあれかい、耽美な感じのやつかい。さしずめボクは泥棒猫、ね。
大丈夫、ボクはそこそこ理解のあるつもりだよ、その手の」



言葉とは裏腹、衿串は全力で逃げる手立てをシミュレートしている。
脳内で無数の手段が悉く潰され、次、次の策を――!



「……逃げ切られぬ事実の否定は結構だが、それよりは辞世の句を考える事を勧めよう」
「やっぱりそうなるかね、嫌だな色気の無い」



遅ればせながら、知る。最早逃げ道などは無い。手芸者がそう告げたのだから。



押し黙る衿串。にじり寄る縫製人形。




――カツ、カツ




そこに分け入るは、静謐を破る、靴音。
全くの偶然ではあったが、その闌入者こそが、運命を完全に変えたといえよう。



――彼女の名は、魔山アリス狂終絶哀・闇。




∝∝∝∝∝∝∝∝∝∝

7第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:28:25
――魔山アリス狂終絶哀・闇。
かつて、学園最強の名を恣にし、現在の希望崎にもその名と籍を残す歴代最強存在。
彼女が、その重い口を開く。



「己の法(アルカイド)は己で決める。そして背信(コキュートス)に呑まれぬ事。
それは己の生き方(レーゾンデートル)を己で決める事に繋がる――」(止めて下さい、そんな物騒な……!殺しとかダメですよ怖い)



「邪魔をしないで頂きたい。我々は貴女に干渉しない、貴女も我々に干渉してくれるな」



それまで構っていた女を無視し、人形は答えた。



「あなたがそれを知るのは遅すぎた。人にとって、斯様な愚問(エニグマ)が解せないとは……」(ど、どうして分かってくれないの……?)



「手を引け、と? その女を傘下にお加えか、狂終絶哀猊下。食えぬお人だ」



「私に出来る事はこんな事だけ。
還りなさい。再び、父祖(ユミル)へ。母胎(ギンヌンガ・ガップ)へ。
こんなに悲しくなった事は初めて……」(帰ってくれないかな……怖くて泣きそう)



「……」



押し黙った着ぐるみが、決断する。



「……我々とて、これ以上に荒立ては望まん。そなたと事を構えては英語弁論部への備えも儘ならぬ」



人形は両津の体を掻き抱くと、煙のように消え去った。




∝∝∝∝∝∝∝∝∝∝




ボクを、衿串亅を救ってくれたのだ。
あの魔山アリス狂終絶哀・闇が、他ならぬ魔山アリスが。



ボクのような存在(まよいねこ)を救ってくれたのだ!
それが如何なる気紛れの産物であろうと、それが何だというのだ!


「ボク、は……」



気付かずに、涙が流れていた。歓喜の涙だ。

貴なる御手が、亅の頬に触れる。美麗なる指先が肌を伝い、優しく滴を拭い去った。



彼女と、目が合う――
ふっと魂の呑まれたように、衿串亅は気を失った。




「お休みなさい、良い夢(アーマゲドン)を」




∝∝∝∝∝∝∝∝∝∝

8第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:28:41
教室に響く、かしましい声々。
一人の少女の席に数人の少女が集まり、質問攻めを行っている。



「エリちゃん両津君に告られたっての本当なの? 噂になってるけど……」
「どうなの? もう付き合ってたり?」


「おやおや、秘密にしておこうと思っていたのだけど……参ったね」



尋ねられた少女は、肩を竦めるような仕草を見せ告げる。



「折角だけど、彼のお話は袖にさせてもらったよ」


「わー勿体無っ!両津君クールで人気なのにー」
「何で蹴っちゃったのー?もしかして……心に決めた人がいるとか!」
「えー、エリちゃんそうなのー?誰誰、クラスの子?」



鳴り響くチャイム。



「ほらほら、席に着いた方がいいぜ。次が何の授業か、忘れたわけじゃあるまい」
「あ、やばいやばい!」



慌てたように席に駆け戻る女子達。




「まあ、収穫はあったさ」

開いていく扉を見つめながら、衿串亅は独りごつ。




「――素敵な人を見つけたからね」



教室に登場した国語教師の姿を認めると、彼女はひそかに破顔した

9第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:44:27
呉井 歳美

■武勇伝
希望崎学園の3年生・迫沢葱は学園に人気のない夜中に、さらに学園の中でも人気のない山中を独りとぼとぼと歩いている。
彼がこんな時間に歩いているのは他でもない、彼はこれから自分の大切な仲間たちを裏切ろうとしているのだ。
葱は彼の所属する陣営の長の中学時代からの友人であり、また後輩の面倒見がいいことから多くの後輩から兄のように慕われている。
しかし彼はその友を、後輩たちを裏切ってでも守らなければならないものがある。それは最愛の妹・モカである。
魔人である葱と違い普通人であるモカ。その彼女が敵陣営の何者かにさらわれたのだ。
相手が誰なのかは分からないが彼の下駄箱に入れられた手紙にはモカを連れ去った事と、要求、そしてその受け渡しの時間と場所が記されていた。
彼は犯人の要求に従って、自陣営の魔人能力を明かしていないメンバーの能力を知りうる限り文書にしたため、それを懐に忍ばせ夜の学園をゆく。
「しかし、果たしてこれで相手はモカを返してくれるのだろうか…この情報を渡したところでモカは戻らず、むしろさらに要求はエスカレートしていくのではないか…?」
そう不安がよぎる。しかしそうであっても妹を見捨てるわけにはいかない。魔人能力が覚醒し、親に勘当同然にこの学園に入学させられた自分を追ってこの学園を受験し、晴れて今年から希望崎学園の生徒として通い始めた心やさしい妹。彼女を守るためならばたとえ世界ですら敵に回してもいい、友を仲間を裏切る罪悪感に心をズタズタにされそうになりながらも葱はそう心に決めていた。
「このあたりの、ハズだが」
山中の少しだけ開けた場所に出て葱は周りを見渡す。月は雲に隠れ視界が悪いが、生え茂った草むらに一つの大岩が転がっているのは確認できた。
相手はまだ来ていないのだろうか。葱はその岩に腰かけようとした。
そこで気づいた。その大岩に見えた物、それは岩などではなかった。胴体を袈裟がけに斬られた大男だったのだ。

10第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:44:48
「な、なんだ、これ?」
月が半分ほど雲から出る。
そこで葱は一人の人影が立っているのを見た。それは見慣れた人物だった。
彼の陣営の可愛い後輩であり、そして最愛の妹の友人でもある少女、呉井歳美。
「お前どうしてここに?」
自分で言っておきながら葱は何が起こったのか大体の予想がついていた。おそらくはこの倒れている大男こそが今回の事件の犯人なのだ。モカが行方不明になった事を気付いた歳美が何らかの形でこの男を倒しモカを助けてくれたのだろう。
「お前が片づけてくれたんだな。それで、モカはどこだ?」
「そこです」
歳美はごく自然に答えた。月の光はまだ十分ではなく、その表情がどのようなものであるかはうかがい知ることが出来ない。
葱は歳美が指し示した方向を見る。
果たしてそこには冷たい亡骸と化した最愛の妹の姿があった。
葱は目の前が真っ暗になり、足元からは大地の感覚が無くなるのを自覚したが、しかし精一杯の冷静を装い後輩に声をかけた。
「そうか、お前は良くやってくれた、何も気に病む必要はない。そう、そんなことより奴らを、こんなことをした奴らの仲間ををぶっ殺す事を考えよう」
歳美はきっとモカを取り戻そうと必死に闘ってくれたのだ。しかし敵が卑怯にもモカを巻き込み、そして妹は死んでしまったのだ。怨むべきは敵陣のクソどもであり歳美にはなの恨みもない。むしろ友人を巻き込んでしまった事で彼女は深く傷ついているに違いない。
歳美はモカと同じくらい心やさしい少女なのだ。今は彼女を慰めてやらねばならない。それが先輩としての務めだ。
そう思いながらもその視線はモカの遺体から一瞬も外せずにいる。
――ああ、モカ!モカ!あんなに似合っていた制服が血みどろに!あのキラキラ輝いていた目も虚ろになって。その細い身体も袈裟がけに両断されて…
――袈裟がけに両断!?

11第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:44:59
葱はようやく妹の亡骸から視線を外し、憎むべき大男の死体に目を向けた。
そう大男を絶命せしめた一刀とモカを殺した凶刃は正しくまったく同じ太刀筋であった。
「これは一体…」
葱は頭の中が急速に冷めていくのを感じた。彼がこの魔人学園にあって恐れられているのはその魔人能力ゆえではない。本当に危険な状況においてこそより一層冴えわたる頭脳がためであった。
――まさか歳美は相手ごとモカを斬ったのか?だが何故だ、歳美の「血風剣」は同時に敵と味方を切っても発動しない。そもそも歳美はあの力を使うのに抵抗を持ってたハズだ。
葱は歳美がその能力「血風剣」を使った時の事を思い返していた。

生徒会と番長グループのよくある抗争。しかしその最中で敵の卑怯な手により味方の一人が致命傷を負ったのだ。その男は日ごろから歳美とウマが合わず幾度となく衝突していた相手であった。
もう助からないと見たその男は、歳美に自らの命を「血風剣」の糧としろと言ったのであった。
泣きながら歳美は拒否しようとしたのだが、男が力なく笑いながら「最後の頼みぐらい聞けよ」と言った事で覚悟を決めたのか、何度も「ごめんなさいごめんなさい」と繰り返しながら男を介錯し、その魔剣によってもっとも手ごわい敵の魔人を仕留めたのであった。
しかしその後の歳美の落ち込みようは半端ではなく、葱含め仲間たちは彼女にこんな残酷な魔人能力はもう二度と使わせまいと誓ったのだった。


そんな彼女が敵ごと、部外者でしかも友人のモカを手にかけるハズがないではないか。葱はそう自分に言い聞かせた。しかし脳漿の反対側では必死にそれを否定し、さらなる危機を全力で告げていた。

瞬間、歳美の十三代兼定が閃き、己の中の不吉な考えを必死に否定していた葱は一瞬反応が遅れ、その身を翻そうとした時には既に彼の身体は両断されていた。
消えゆく意識の中で葱は歳美の兼定の白刃が血のように赤く風のように渦巻く禍々しい妖気で包まれているのを見た。
これこそが自分の仲間の命を、想いを、無念を、恨みを刃へ宿し必殺の剣と変える呉井歳美の魔人能力「血風剣」である。
「先輩」
歳美が静かに口を開いた。

「私、思うんですよ。生徒会も番長グループもどっちが正しいっていうことはない。それぞれに言い分があるし、良い面、悪い面があるって」

淡々と話すその声からは何の感情も読み取れない。
「だけど私は片側の人間だから、そんな正論は関係ない。自分たちの陣営を守る為にならどんな事でもしよう。そう、決めたんです」
死体が三つ転がる山中で独り、ぽつぽつと言葉を繋ぐ。
「モカは迫沢先輩の泣き所です。現にモカを人質に取られた先輩はノコノコと相手の要求を呑みにここまで来た。彼女がいれば同じ事が何度も起きる可能性は否定できない。それは我々の陣営の危機を招きかねない。だから彼女には消えてもらいました」
無力な友人を殺したというのに何でもない事を話すように独白する。
「そしていかなる理由があろうとも先輩は私達を売ろうとした…」


一呼吸置いて続ける。
「…迫沢葱、貴様は赦されぬ事をした」
わずかばかり歳美の声に力が入った。
「だがこの事をみなが知っても、妹を人質に取られたような状況であったのだからしょうがなかったと貴様の裏切りを見逃すだろう。貴様はあの人の中学時代からの友人であるし、皆にとっても兄のように頼れる男だからだ。貴様は赦されまた仲間として我々の元に戻ってくるだろう。だが駄目だ。そんな事をしていればいつか組織にほころびが生じる。裏切り者は生かしておくわけにはいかぬ。だから私が殺したのだ、モカの命を使って」
月が雲から完全に出て闇は明るく照らされた。だが月光に照らされた歳美の瞳は泥沼のように淀み、そこからはいかなる思いも読み取ることができない。
「我々の陣営を脅かすものは敵であろうと味方であろうと、この呉井歳美が斬るッ!」
呉井歳美、1年生の秋のことであった。

12第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:51:36
賢楼零次

■武勇伝
 私立石橋中学。
 平均的などこの学校とも同じように、この学校にも魔人がいた。
 そのうちの1人が、窓の外をながめている。
 休み時間ではあったが、賢楼零次はたった1人だった。当然のことだ。魔人と話そうなどという命知らずがいるわけがない。
 校庭では一般生徒たちがサッカーに興じている。
 最後にあの中に加わっていたのはいつのことだっただろうか。
 確か、魔人能力を得たのは中学2年の夏だったから――。
 記憶を思い起こすのを止めたのは、バイクが発する爆音だった。
「……なんだって?」
 何台ものバイクが校門を通り抜ける。
 先頭の一台に乗るのは、見るからにモヒカンザコといった風貌の男。
 いや、あれはただのモヒカンザコではない。
 魔人である。
「アキオぉ、お前にケンカ売ったのはこの学校の奴だったんだな?」
 モヒカンザコ魔人が、三下風のモヒカンザコに問いかける。
「その通りっす! ここの制服着た奴が、俺にガンくれやがったんすよ!」
 昭和の言葉で会話するモヒカンザコたち。
 零次に彼らの声は届いていなかったが剣呑な話をしていることだけはわかる。
 わかった瞬間、零次は3階の窓から飛び出していた。
「待て!」
 魔人能力を発動させる。獅子頭のついた盾、『鬣王』が手の中に出現する。
「あぁ? こいつか、お前にケンカ売ったってのは」
「違うっすよ。野郎は魔人なんかじゃなかったっす」
 現れた零次を見、不思議そうな顔をするモヒカンザコたち。
「僕も君たちと関わった覚えはない」
「関係ねえんだったら、すっこんでな!」
「そうはいくか! どんな事情があろうと、この学校の生徒は傷つけさせない!」
 盾を構えた零次を、モヒカンザコはきょとんとした表情で見た。
「おいぃ? 聞いたか、今の。こいつ、魔人のくせに正義の味方気取りだぜ!」
 嘲笑うモヒカンザコたち。
「無駄な争いはしたくないんだ。黙って帰ってくれ!」
「はっ、てめえの能力は見たとこ防御系だろ? 攻撃が防げるだけじゃあ、なにも怖くなんかねえんだよぉぉぉー!」
 モヒカンザコの指先に炎がともる。
「ゴミどもを焼却してやるぜぇぇぇーー!」
「なっ……!」
 火炎放射を盾が防ぐ……だが、零次自身は平気でも、周囲の生徒たちは一瞬で燃え尽きた。
「ヒャッハー、アキオにケンカ売った奴も違う奴も、みんな殺してやるぜぇぇ! お前が逆らったのが悪いんだからなぁぁぁーー!」
 理不尽過ぎる物言いに、零次の手に力がこもった。
 だが……防ぐだけでは勝てないこともまた、確かであった。
(ちくしょうっ……俺はなんて馬鹿だったんだ。どんなに攻撃を防いだって、敵を倒せなきゃ意味ねえじゃねえか!)
 奥歯を噛み締める。
「攻撃こそ最大の防御……! 防ぐためのこの力を、攻撃にいかさなきゃダメだったんだっ!」
 吐き捨てたその言葉には怒りがこもっていた。
 自分に対する……そして、モヒカンザコに対する怒り。
「ちくしょう、ふざけるなぁっ!」
「ガオォォォォ……ッン!」
 叫び声に、吼える声が重なった。
 鬣が伸びる。針のように硬質化したそれが、モヒカンザコに襲いかかる。
 零次の『鬣王』にずっと隠されていた第二の形態が、初めて発現した瞬間だった。
 貫かれたモヒカンザコが爆発四散する。
 モヒカンザコの仲間だった不良たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
 へたり込んで、肩で息をする零次に対して近寄ろうとする者はいない。
 一般生徒は遠巻きに見ているだけ。同じ魔人生徒も係わり合いになる気はないようだ。
「……いいさ。避けられようと嫌われようと、僕はみんなを守れればそれでいい……」
 零次の手から盾が消える。
 魔人能力を解除した零次は、とぼとぼと教室へ戻っていった。

13第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:53:23
清水おしる子

■武勇伝
誰も私の苦悩を理解してくれない……。
 ちょろインであることの苦しみを、誰も分かってくれない……。


 ***

 ある人は言った、私のことを、恋多き女だと。
 別の人は言った、惚れやすい性質の女だと。
 ちょろインの十字架を背負う私の苦しみを打ち明けても、皆、嗤うばかりだ。
 いつも彼氏がいていいじゃない、なんて。

 ……そうじゃない! そうじゃないの!!
 ちょろインであることの苦しみが、みんなには全然分かってない!!!

 単に彼氏ができやすいとか、そんなことじゃない。
 それはただのヒロイン。
 ちょろインはちょろくなければいけない。
 何よりも攻略容易であること。それが、ちょろインの背負う十字架……。
 
 だから、私はちょろい。誰よりもちょろい。世界中のどんな女の子よりちょろい。
 私を攻略しようとする男の子が何をしたって、どんな行動を取ったって、どんな発言をしたって、すべて胸にキュンと来て、何もかもが愛おしくてたまらなくなる。訳が分からない。どう考えたっておかしい。男の子がラーメンを頼む。突然、頭からそれをかぶる。どうしてそんなことをするのか分からない。でも、私はその瞬間に恋に落ちてしまう……。彼のことが気になってたまらなくなって、彼が他の女の子とお話をしているだけで夜も眠れなくなってしまう。訳が分からない。でも、私はちょろインだから……。

 ちょろインとして生きることに疲れた私は、ちょろインに逆らって生きようとした。
 だから私は自分も、男の子も、何もかも否定して生きようとした。
「た、ただの売れ残りなんだから! べ、別にあなたのためにお弁当作ってきたわけじゃないんだからね!」
「あ、あんたのことなんて、全然好きじゃないんだから!」
 でも、ダメだった。どんなに頑張ってもただのツンデレとして処理されて、結局、ちょろく攻略されてしまう……。
 どうやっても私はすぐに恋に落ちて、私と男の子の恋は実ってしまうのだ……。

 ちょろインの辛さはそれだけじゃない。
 ちょろインである私は何よりも「攻略容易」である点に何よりも重きを置かれる……。
 だから……。

 私との恋が実った男の子は、多くの場合、私を捨ててしまう。
 まるで、手始めに一番容易なヒロインを落としたから、次は本腰を入れて本命を狙おう、とばかりに私は簡単に捨てられてしまう。いや、捨てられる、という表現は生ぬるい。彼は、私を忘れるのだ。私との関係はまるで何もなかったかの如く、イチからこの世界をリスタートするが如くに、私との関係性は何もかもが失われるのだ。
 いや、忘れられるだけならまだマシな方だ。男の子はしばしば事故死、自殺、急死などの不審死に見まわれ、突然、私の前から消え去ってしまう……。そして、悲しむヒマもなく、新たな男の子が目の前に現れ、いつの間にか私はちょろく攻略されている……。

 私は抗おうとした。ちょろインとしての運命に抗おうとした。
 だが、私が抗おうとすればするほど、ちょろインの十字架は私に重くのしかかってくる。
 異常な怪奇現象が次々と私を襲い、私をちょろく攻略可能にしようとしてくるのだ。
 廊下で男の子とぶつかれば、かならず男の顔は私の股間にめりこんでいる。男の子と私を繋ぐ「幼い頃の約束の品」なんて部屋の中にあふれる程ある。もちろんすべて見覚えがない。男の子と暗がりの閉鎖空間に二人で入れば100%閉じ込められる。温泉に行くと、必ず男の子が男湯と間違えて入ってる。
 もっと酷いこともいろいろあった。ある時、私は男の子の右手になった。またある時は男の子の持つ鏡の中に閉じ込められた。さらにある時はその男の子にしか見えないパジャマ姿の幽霊になっていた。世界中のすべての見えない力が、私をちょろく攻略可能な女にしようと、なりふり構わず動いているのだ。……そして今、
 私の股間には男の子の顔面が張り付いている。

14第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 02:53:34
「あッ、ひゃ、ひゃらしくん……ら、らめえええ……」

 ただしくんは、口をもごもごと動かしてこう言っている。
「おしる子ちゃん、そんな悲しい顔をしないで」「僕はおしる子ちゃんと知り合えて本当に嬉しいよ」
 そんなことを言われたら……股間を刺激されながら、そんな愛の言葉を囁かれたら……、ただしくんのことが好きになるに決まってるじゃない…………!!

 でも、ダメ。
 私がただしくんのことを本当に本当に好きになって本当にカップルになってしまったら……。
 きっとただしくんは死んでしまう。股間に顔が張り付いている以上、突然に私のことを忘れるとか、どこか遠くへ旅立っていくとか、そんな順当な別れがあるとは思えない。右手になった時や幽霊になった時と同じ。きっと彼は見えない力によって、強引に、理不尽に、殺されてしまう……。現に私の股間に張り付いてから、彼は刻一刻と衰弱していく。私が本当に彼を好きになって本当のカップルとなった時……。きっと彼は衰弱死してしまうのだろう。

 私が苦悩していた、そんな時……。
 ダンゲロス・ハルマゲドンが始まるという報せが届いた。
 ただしくんは、何故か燃えている。私を護るためなら命も捨てる覚悟を固めている。
 ……おかしいよ。私たちが参戦する理由なんて何一つないのに。
 これは、きっと運命だ。見えない力がただしくんを殺そうとしているんだ。それでも、私を命がけで守ろうとするただしくんに、私の気持ちはどんどんと高まっていく。もうすぐ、私はただしくんのことを、世界中の誰よりも好きになってしまうのだろう。そして、私がちょろく攻略された瞬間、ただしくんは敵と刺し違えてその生命を終え、私は新たな、まだ見ぬ男の子にちょろく攻略されるための、ちょろインとなってしまうのだろう……。

 永遠に続くちょろインの十字架……。
 ダンゲロス・ハルマゲドンは、私をまた哀れなちょろインとするのだろうか。
 それとも、ちょろインの重荷から、


 私を――。

15第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 03:06:37

武勇伝:『拳よ届け!スクールカースト・シューティングスター・テレフォンパンチ』

「リュウセイ…アメリカでも頑張れよ!」

「ありがとう…お前も頑張れよ超一郎…兄貴みたいに」

2014年の冬、空港のロビーで2人の少年は固く握手を交わしていた。方や大銀河超一郎。賢明な読者諸兄は当然ご存知であろう。後に希望崎を統括する彼もこの時点ではまだ中学生である。

そして方や全宇宙リュウセイ。かつての希望崎の大番長全宇宙神哉の弟である。快活とは言えない性格の彼だが、兄や従兄弟の大銀河には心を開いていた。しかしその兄は先日教育実習中に仇敵・髑髏山の手にかかりこの世を去った。親代わりだった兄を亡くした彼はアメリカにいる両親のもとで暮らすことになったのだ。
「お前が3年になるころに帰ってきて、希望崎に編入することになってる。そのときまでに兄貴みたいな大番長になっとけよ」

「ああ!」

✝✝✝

「おいリュウセイ!さっさとイケよ!イッたら暗井と交代だ!」

1年後、ロサンゼルスのハイスクールでリュウセイは壮絶ないじめに遭っていた。アメリカには日本のような「学園自治法」は存在しないが、多くの学校には古代インドもかくやというカースト制が敷かれ、そしてその頂点には日本におけるように強力な魔人学生が君臨している(アメリカでは魔人は差別の対象ではなくむしろヒーローである)。
アジア人であり、暗い性格だったリュウセイは当然の如くその下の下、トラッシュ(ゴミ)の身分に置かれ、鑑賞や性欲処理、ストレス解消などさまざまな用途に使われる奴隷の扱いを受けている。
無論殺人など警察が介入せざるを得ない事態はそう起こらないが、この程度のことはアメリカのどこのハイスクールでも当たり前に起こっている。

「トラッシュが何反抗的な目してんだファック!ジェニーが欲しいのか!トラッシュはそのメス犬の交尾でポークビッツこいてりゃいいんだよシット!」

スクールカーストの頂点・アメフト部のキャプテンである魔人・ボブが対面座位でチア部キャプテンのジェニーをファックしながらこちらを見下ろしている。リュウセイは全裸で
犬の交尾のAVを見ながら公開オナニーさせられ、その横では同じ日本人でトラッシュの暗井君が犬のうんこを食わされている。

「(クソッ…クソッ…!畜生…!)」

リュウセイは惨めだった。大銀河がそうであるように、リュウセイも兄・神哉に憧れていた。兄のように明るい性格じゃない。超一郎のように皆を惹きつける力があるわけでも無い。それでも強くあろうとしていた。兄から習った拳法の怠った日は無い。自分に恥じない生き方をしているつもりだった。
だが、今の自分はどうだ。自慢の拳法は数の力に敗れ、公開オナニーしたりうんこを食ったり、トラッシュ同士でホモセックスをしたりする毎日だ。この日々はいつまで続くのだろう。あと1年半、両親が、つまり自分が日本に帰るまでか。

「(嫌だ嫌だ嫌だ…!)」

この状況が続くこともそうだが、それまでただ従順に、カーストの最下層で屈辱に耐え続ける。そんな自分が何より嫌だった。仮に後1年半耐え続けこの地獄から開放されたとして、そのときの俺は誇れる俺なのか。そんなはずは無い。
ボブをはじめ、カーストで言えばバラモン層にいる、運動部の魔人達がニヤニヤとして自分たちを見下している。カーストで言えば自分より少し上なだけの連中もまた、日頃のストレスを自分たちを虐待して解消している。みな、腐った目をしている。星の高みから、地に落ちてただの岩塊と変わらぬ流星を見下している。

「(許せねえっ…!こいつら絶対許せねえっ…!思い知らせてやるっ!)」

人数の差に加え、屈強な魔人も数名この場にはいる。拳法の心得があるとはいえ所詮人間のリュウセイに勝ち目があるはずは無い。無いが、それでも思い知らせねばならない。お前たちは安全では無いのだと。地上の星屑も天の星々を脅かせるのだと。そのための、絶望的な一歩を後押しする最後の勇気が必要だった。

✝✝✝

「リュウセイ。俺は人間の心はみんな、『小宇宙』だと思ってる。俺の能力の話じゃなくてな。魔人にだって自分より強い魔人と戦わなきゃいけないときがある。普通の人間も同じだ。そんなとき、『小宇宙』が恐怖で縮こまったままか、それとも燃え上がるか、それで人間の真価が決まると俺は思ってるんだ。」

✝✝✝

大銀河にも語ったのだと言っていた、生前の兄の言葉が頭に浮かんだ。

「燃え上がれ!俺の小宇宙よおおおおおおおおおッ」

ペニスを擦るのをやめ、立ち上がって咆哮をあげたリュウセイにその場の全員が注目する。そして直後眩い光と共に、ボブとリュウセイの2人がその場から、いやこの世界から消えた。

16第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 03:06:48
✝✝✝

「こっ…ここは…?なんだいったい!?な、なんで誰もいねえ!?」

ボブが困惑して声をあげる。そこはさっきまでと全く同じ場所。積まれた古タイヤの上でトラッシュ共を見下せる玉座。だが、自分の膝の上で悶えていたジェニーも取り巻きもトラッシュもそこにはいない。自分1人を残して他の人間がいなくなった?いや、

「いなくなったのは他の連中じゃねえ…俺とてめえだ…!」

声に続いて衝撃があり、座っていたタイヤの山が大きく揺れ、そして崩れた。宙に放り出されたボブだが魔人の運動神経で難なく着地する。目の前には、今タイヤの山、自身の玉座を蹴り崩した男・全宇宙リュウセイの姿があった。

「どういうことだ!?まさか、てめえ…」

この不可思議な現象、そして今タイヤの山を簡単に蹴り崩した脚力。

「『魔人』に…なったのか…?」

「この世界には俺とお前の2人しかいねえ…俺がてめえをぶっ殺そうとしても一切邪魔は入らねえ…無論その逆もな…!」

「対等な暴力」のために状況については説明する必要があるが、詳しく能力を敵に語る程リュウセイは多弁ではない。

だから代わって説明すると、彼の能力は自分とその対象を他の生物が一切いない異空間へ連れていくというものだ。彼が能力を解除するか、死ぬかしなければこの空間からは出られない。それが全宇宙リュウセイの魔人能力「シューティングスター」!

「ぶっ殺すだあっ!?魔人になったからって、こくのはディックだけにしとけよ!返り討ちにしてやるよ!」


興奮して声を荒げるボブだが、そこには幾ばくかの恐怖が混じっていた。今彼は実感したのだ。目の前のトラッシュに、自分の命は脅かされようとしているのだと。彼が自分より強いのかわからない。だが今この場で自分は玉座にはいない。確実に両者は対等だった。

「タイマン張らしてもらうぜ…ボブ…」

「殺す…リュウセイ…!」

リュウセイが拳を鳴らし、ボブの肩が魔人能力で赤く発光する。

血まみれのリュウセイがボブの死体を担いで現実世界に戻ったのは30分後だった。

リュウセイが未成年であったことと魔人への覚醒直後であったこと、日頃から被害者に凄惨ないじめを受けていたことが助けとなり、処分は驚く程軽く済んだ。

✝✝✝

それから1年半と少しが過ぎた頃。ハルマゲドンを目前に控え、開戦の準備が着々と進んでいた。

「(超一郎…兄貴に続いて、お前までいなくなっちまったか…)」

まだ編入して3ヶ月弱の希望崎には平和があった。そこにはリュウセイの嫌う上下関係が当然あるのだが、しかしあの学校のように自分の手を汚さず、底辺が傷めつけられる様をニヤニヤと高みの見物で楽しむような者は確実に少なかった。
もしも学園が秩序を失えば、学園自治法のためにあの学校よりも遥かに劣悪な、懐かしの希望崎の風景が戻ってくることは明白だ。

「(この学校も大して好きじゃあねえが、それでも…!)」

2人の顔を思い浮かべ、リュウセイは拳を固く握った。

17第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 03:12:15
丙乃 午頭女

■武勇伝
大銀河超一郎による「パクス・ダイギンガ」が大銀河超一郎自身の失踪によって崩壊してからわずか2ヶ月。
たったそれだけの間に、希望崎の治安はこの上なく悪化していた。
生徒会と番長グループの抗争は激しさを増し、一般魔人もその能力を奮って欲望の限りを尽くしている。
だからこれは単なる日常の一幕。
馬術部の馬を奪おうとしたモヒカン魔人と、それを阻止しようとした馬術部員の命がけの追いかけっこだ。
「ヒャッハー! 待ちやがれー!」
「ハッ……誰が……! 待つってのよ……!」
息を切らしながらそう答える。
ただ絡まれただけならばいつものように自分の存在感を消してしまえばそれでいい。けれど今回狙われたのは馬だ。
馬を一頭買うのには多額の資金が必要だし、そうでなくとも小さい頃から馬と過ごしてきた午頭女にとって、馬を奪われるというのは許せないことであった。
モヒカンならば邪魔をした相手が見えている限り追ってくる。しかし見えなくなったならば馬を狙いに戻るのは間違いない。
自分が逃げても馬が奪われてしまっては意味がない。だからこそ午頭女は姿を晒して逃げている。
(あともう少し……!)
今午頭女が走っているのは希望崎と本土を繋ぐ大橋。その先には大型の幹線道路がある。
彼我の距離は徐々に縮まっているものの、その差はいつもの手を使うには十分だ。

「よし、着いた……!」
午頭女は大橋を渡り終えるとすぐさま近くの横断歩道へと走る。運良く歩行者信号は青だ。この距離ならばモヒカン魔人が着く頃には赤になっているだろう。
「丙、お願い」
いつものように丙に頼む。丙はブルンと一声鳴くとモヒカン魔人へ向けて一目散に走りだし、その体をすり抜けた。

この瞬間、午頭女の能力『オンリーロンリーグローリー』が発動する。対象の存在感を奪い、午頭女以外のものからその身を気づかせない能力。

午頭女はその間に横断歩道を渡り終え、鞭を取り出すとモヒカン魔人を挑発する。
「そこのモヒカン! 車なんかにビビってないでさっさと来なさい!」
モヒカンは異常に沸点が低く、また頭に血が上ると周りを見ることが出来ない。
結果として信号が赤であるにも関わらず、モヒカン魔人は道路へと飛び出した。
「ヒャッハー! 殺してやらあ! そこで待ってやがれー!」
たとえ車に轢かれたとしても、ブレーキを踏み速度を落とした状態ならば魔人である自分は死ぬことはない。
モヒカン魔人なりに考えた末の行動であったが、はたして車はスピードを一切落とすことなくモヒカン魔人に衝突した。
「ヒャ……ハ……?」

わけがわからないといった顔をしてモヒカン魔人は吹っ飛ばされる。轢いた車も周りの反応もまるで自分がいることを気づいていないかのよう。

徐々に薄れゆく意識の中、モヒカン魔人は虚空を撫でる午頭女の姿を見た。

「いつもありがとう、丙」
丙の背中をいたわるように撫でながら午頭女はそういった。
繰り返すがこれは日常の一幕である。まだ入学して数ヶ月であるが、こうしてモヒカンを葬ったことは一度や二度ではない。
午頭女も衝突した車には悪いと思っているが、まあ希望崎の近くを走っているのだ。自業自得な面もあるだろう。
「いくらモヒカンに話が通じないとはいえ、いくら馬術部を守るために自分で決めたこととはいえ、やっぱり気分はよくないわね」
午頭女は隣の丙に語りかけるように呟く。
(近いうちにハルマゲドンが起きる)
激しさを増す番長グループと生徒会との抗争に終止符を打つため、近くハルマゲドンが開かれる。
どちらが勝つにせよ唯一となる強大な勢力の誕生は、希望崎学園の治安を回復することとなるだろう。
自分の能力の有用性は十分に理解している。もうこんなことをしなくて済むように、どちらかの一員として参加し、自らの手で終わらせるべきではないだろうか。
……どうせならば、一度滅亡したせいか予算の乏しい馬術部を優遇してくれるの方の一員として。
「ねえ、どう思う? ハルマゲドンに参加したほうがいい?」
そんな午頭女の質問に、丙はただ瞳を見返すことで答えた。それだけで通じたのか午頭女は笑顔を浮かべる。
「そうね。私が決めないと。とりあえず情報を集めるわよ!」
笑顔で言うと1人と1匹は並んで希望崎学園へ向けて歩き出す。
ハルマゲドンが間近に迫る、ある梅雨の一日のこと。

18第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 03:13:47
御厨逆手

■武勇伝
 国立競技場。そこではその日、全国高等学校サッカー選手権大会の決勝戦が行われていた。
『宗理高校エースストライカー野田の強烈なシュート! おーっとしかしキーパー老林、また止めたー!』
 実況が興奮したように叫ぶ。
『天才キーパー老林、本大会の決勝まで無失点。このままゴールを割らせることはないのか!』
 その実況の言葉通り、キーパーである老林はこの大会、PKも含めて一本たりともゴールを許していなかった。
 決勝の対戦相手である強豪・宗理高校もその苛烈な攻めによって幾度もチャンスがあったにも関わらず、得点をすることができずにいた。
「まあその無失点も今日までだが」
 そう呟き不敵に笑う人物はグラウンドではなく、老林の背後の観客席にいた。
 彼の名は御厨逆手。
 操身術士の一族、御厨一族の一員である。金などの報酬で依頼を受けてその能力を振るうために『身繰屋』の異名を持つ御厨一族の彼がこの場にいた理由は、当然ながら依頼によるものであった。
 依頼の内容は『キーパー老林からゴールを奪えるように、老林を操ってほしい』とのこと。おそらく老林の能力に危機感を抱いた宗理高校関係者からの依頼だろう。
「さて、そろそろ始めるか」
 逆手は老林との距離が射程範囲であることを確認すると、周囲に気付かれないように密かに能力を発動させた。
 直後、選手たちの動きに大きな変化があった。
『おおっと、一体どうしたのか! 得点が入らないことに焦れたかキーパーの老林までが前線に上がりだした!』
 キーパーであるはずの老林がFWもかくやというほどに前に出てきたのだ。
 突然の行動に唖然とする両チームの選手たち。だがボールを持っていた宗理高校の選手はやや戸惑いながらも守る者がいないゴールへ向けて大きく蹴る。
 シュートというよりクリアといっていいようなハーフラインの向こうからの超ロングシュート。ゴールまでは直接届かずに数度バウンドするものの、最後ラインのディフェンダーが必死に追いかけても間に合わず、そのまま守る者のいないゴールに転がり込んだ。
 その結果を見て逆手はほくそ笑んだ。
 逆手の能力『守るも攻めるも』。それは相手の肉体、精神を操り、攻撃と防御に関する能力や価値観を一時的に入れ替える能力である。
 老林はこの能力によりそのキーパーとしての類稀な能力を一時的に喪失し、さらには守備に関する意識も攻撃に転化されたためにゴールを放り出して攻め上がったのである。
 どちらかと言えば間接的に他者を操る能力であるため御厨一族の中でも本当に操身術士と言えるのかと疑問に思われることもあるが、この能力は普通の操作能力と比べてばれにくいという利点がある。
 キーパーである老林が攻め上がるのはあまりにも不自然な行動ではあるものの、老林の行動を直接操ったのではなく、彼の価値観を操り、それに従って老林自身が行動したため当の本人はさして違和感は覚えていないはずである。
「さて、依頼は果たしたし退散するとしよう」
 騒然とする競技場の中、彼は出口へと向かっていく。
 逆手の能力の効果はまだ続いているが、試合が終わるころには能力が切れて老林のキーパーとしての能力は取り戻されるだろう。もっともその頃には彼のキーパーとしての評判は地に落ちているかもしれないが。
 そんなことを考えて苦笑しながら御厨逆手は競技場を後にした。
 ちなみに、類稀なる天才キーパーとしての才能を全て攻撃能力に転化された老林が、ゴールキーパー不在による失点を遥かに上回る得点を叩きだし、結果宗理高校が敗北することになるのは完全な余談である。

19第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/26(火) 03:16:34
目黒鈎介

■武勇伝
タイトル:『実行者』死神の誕生

『復讐者の手』という秘密結社がある。

魔人は最初に能力を覚醒した際に起こした犯罪では裁かれる事は無い。
しかし、被害者や被害者の遺族達はそれでは納得は出来ない。
始めは、そのような人達に同士が互いの心の傷を癒すそんな集まりだったが、徐々にその性格は攻撃的なものに変わり遂には復讐の為に殺人すらも行う危険な集団へと変貌を遂げていき、現在では魔人犯罪の被害者の復讐の手助けを目的に活動している。

2015年9月某日
夜の帳に紛れて目黒鈎介は剣道部の部活帰りの篠塚真一を緊張しながら今か今かと待ち構えていた。
緊張するのも無理は無い、なぜなら初めての実戦であり、相手は一年間恨み続けた姉を殺した犯人なのだから。
そんな時、『支援者』からもうすぐ篠塚がこの道を通ると連絡が入る。
鈎介は一度大きく息を吸い込んで静かに吐き出して心を落ち着けると、ゆっくりと篠塚の前に姿を現す。

物陰からいきなり現れた、手に大鎌を持ち、全身をすっぽりと覆った黒いローブと真っ白な仮面、まさしく死神としか言いようの無い姿に驚いたのだろう。
「だ、誰だ。てめえは!」

そんな篠塚の上げる声に答えずに、
「我は刃、ただ只管に敵を切り裂くのみ」
何度も練習した言葉を唱え、精神を戦闘モードに切り替えると大鎌を肩に担ぐ。
こちらの意思は伝わったのだろう、向こうも竹刀袋から日本刀を取り出しその場で居合いの構えを取る。
「俺の間合いに一歩でも踏み込んでみろ、その瞬間お前は真っ二つだぜ!」
相手の能力と間合いは既に調査済みで、文字通り血反吐を吐くほど身体に叩き込んでいる。
「セイッ」
自らの身体が間合いに入らない距離から大鎌を相手の右肩目掛けて振り下ろす。
「ハッ、遅いぜ!」
後から動いたはずの相手の刃が大鎌の柄を真っ二つに切り裂く。が、ここまでは想定どおり大鎌を捨ててローブの下に隠していたハルパーを引き抜きながら、躊躇無く相手の懐へと飛び込み、全力で振り切った状態の刀を左のハルパーで捕らえて押さえ込み、右のハルパーを恐怖の表情を浮かべる相手の首に引っ掛け全力で引く。一瞬の膠着の後、あっけないほど簡単に相手の首が飛び傷口から勢いよく血を噴出しながら前のめりに倒れた。
あまりにも簡単な復讐の終わりに拍子抜けしたが、『支援者』に後始末を任せてから姉の墓前に報告を済ませると、それなりの達成感は得られたがそれもすぐに消えうせ、心には空しさしか残らなかった。

その後、罪悪感に悩まされるような事は無かったが、何をやっても遣り甲斐を感じられず、そのままずるずると組織に残り続け、からっぽになった心を埋め様とするかのように『実行者』として復讐対象の殺し続け、今ではその姿と殺し方から死神と呼ばれるようになり、周辺の裏社会で一目おかれる存在になっていく。

20第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 18:58:58
一十四四

■武勇伝
『としょかんっ!』

AD2015
希望崎学園図書館
今日は図書委員が集まり、図書館の蔵書整理を行っている。

「十四四ちゃん、この本どこに持っていけばいいんでしょうか…?」
いくつもの本をかかえた一つ結びの三つ編みの少女――希望崎学園の図書委員戌井しおりが、後ろで段ボールに詰めこまれた本を整理する後輩の少女に尋ねる。
整えられることもなくバラバラの長さに切られた髪。瞳を隠してしまうぐらい分厚い眼鏡。

一見奇妙な印象さえ与える風貌だが、よくよく見えれば整った顔立ちのその少女は、魔人一族である戦闘破壊家族一家の一員であり、名前を一十四四(にのまえ としょ)と言った。
「あー、それなら一番奥の棚っすね。多分行けば分かるっスよ」

「わかりました」

それを聞くと抱えた本を十四四に言われた棚まで運んでいくしおり。
十四四は図書館の本について全て記憶している。彼女の言うとおりにしていれば間違いないだろう。
人付き合いが得意な方ではないしおりではあったが、十四四とは良く話している。
これは同じ図書委員であることもそうだが、しおりのクラスメイトである一一(にのまえ はじめ)の一の妹であることも大きい。
図書委員会に入ってきた十四四の兄が一であることをきっかけとして二人は会話をし、そして仲良くなった。

「それにしても先輩張り切ってるっスね」
「…わ、私はこういうときにしか、役に立てませんから…」

これは謙遜のつもりはなくしおりの本音である。
しおりも魔人ではあるがその身体能力は普通の人間と変わらない。
通常業務に加えて図書館の治安維持が魔人図書委員の目的であるが、戦闘能力の低いしおりではその役を担えない。
もちろん後方支援という役割もあるが、能力を図書業務に使わないしおりではできることが魔人ではない一般図書委員と変わらない。

「まあ、私もそんなに役に立てるわけじゃないっスけどね」
「で、でも、十四四ちゃんの能力は素敵じゃないですか…」

十四四の魔人能力『悠久図書館』はその名の通り、図書館を生み出す能力だ。
しかも、いつでもどこでも移動できる。本が好きなしおりからすればとてもうらやましいものだ。
もっともしおりの魔人能力『ドッグイヤーメモリーズ』も、彼女の願望から生まれたものであるのだが。
「そういってもらえるのはうれしいっスけどね。でも先輩だって
 ま、無駄口はこのぐらいにして、ちゃっちゃと終わらせるっスよ」
「そ、そうですね…」

21第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 18:59:10
########

「十四四ちゃん、飲み物買ってきましたのでどうぞ」
「ありがとうッス」

そういうと手に持っていたお茶の缶の一方を渡すしおり。
作業もひと段落し、二人は休憩に入っていた。
十四四はベンチに座り、本を読んでいる。
どうやら、学園におけるハルマゲドンを題材にした作品のようだ。
しおりも彼女のとなりに腰をおろし、話しかける。

「それ面白いですか?」
「まずまずっスね。万人受けはしないかも知れないっスけど、バトルはシビアで緊張感があっていいと思うっス」
「じゃあ、あとで貸してもらってもいいですか?」
「いいっスよ。それぐらいお安い御用っスよ」
「ありがとう。十四四ちゃん。
そういえば、十四四ちゃん、迷宮探索の方はどうなんですか?」
「準備が整ったら行くつもりっスけどね。色々稀覯本があると聞いてるっすからね、
それならいかない理由はないっスよ」

珍しい本があるなら読んでみたい。面白い本があるなら読んでみたい。
手に入れるのが困難があるというのなら、何としても壁をぶち破る。
それこそが本を愛する少女一十四四の行動原理である。

「わ、私も力になれたらいいんですけど…」

凶悪なモンスターがいるというダンジョンの中で足手まといにならない自信がない。
ダンジョン探索にもなれた同級生の夢追中ならきっとあのダンジョンで縦横無尽の活躍をするのだろうが自分にはそんなことはできない。
夢を追い、いつも凄いことを捜し求めている彼女を見ていると何がおこっても死なないのではないかという気さえしていた。
もっとも、彼女はもういないのだが。

「気持ちだけでいいスよ。先輩は先輩でできることをすればいいんですから」
「そ…そうですね、ところで前から気になってたんですけど…」
「なんスか」
「その眼鏡…外すか、変えた方がいいんじゃないですか…?
 十四四ちゃんには悪いですけど…に、似合ってないと思いますし…」

視力が悪いからかけてないという話だし、外しても問題はないはずだし、かけるにしてももっと似合う眼鏡があるはずだ。
十四四の姉、この世で最も眼鏡に愛された、世界で一番眼鏡っ子こと一∞(にのまえ むげん)は有名ではあるが、彼女がかけさせたわけでもないと思う。
たしかに眼鏡に貴賎はないと公言し、眼鏡を愛する∞ではあるが、ゆえに彼女ならばもっと十四四に似合う眼鏡を選ぶだろう。

22第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 18:59:36
「あー、これっスか。面倒なんスよね…外してるとやたら告白されますし…
 私はそういうの興味ないんスよ。私の恋人はこれッスから」

右手で髪を掻いたあと、読んでいた本を指差す十四四。
日々もてる努力をしている非モテのロンリー魔人からすればトンデモない話だが、彼女としては本気でそう思ってるのだから仕方がない。
十四四からすれば、本さえ読めればそれでよいのだ。
本が好きな彼女が好きだと言うならまだしも、ルックスだけで自分に近寄ってくる人間になど端から興味はない。

「勿体無いなぁ…」

しおりは以前、眼鏡を外した十四四を見たことがあるが、とても可愛いと思った。
彼女がその気になればミスダンゲロスさえ狙えるのではないかとさえ思えるぐらいだった。
別にミスダンゲロスに選ばれる必要はないとは思うが、本気で勿体無いと思う。
しおりは十四四のことをかわいい後輩だと思うから余計にそう思う。

「いいじゃないッスか。私の問題なんスから」
「そ、そうですけど…」
「ところで、恋人と言えばしおり先輩。うちの兄貴が好きなんスか?」

その言葉を聞き、思わずしおりは口に含んでいた飲み物を噴き出してしまう。

「な、な、な、だ、だ、だ、だ、誰が…そ、そ、そんな…」

彼への思いはひた隠しにしている。当然誰も言っていないはずだ。
たしかに毎日つけている日記にはかいているが、まさか誰かに見られた?
いやそんなはずがない。あれは誰にも見られないよう自分の部屋の机の中にしまっているはずだ。

「いや、この前兄貴を見る目が変だったから言ってみただけなんすけど、その反応を見るとやっぱりそうなんッスか。
あー、そうスか。しおり先輩が兄貴をねぇ…」
「ち、ち、ち…違うから!そ…そんなこと、な、な、な、ないですから…!」

身振り手振りも交えて必死で否定しているが、動揺が全く隠しきれていない。
顔も真っ赤になっている。ここまで分かりやすい反応も珍しいだろう。

「ちなみにどこがいいんスか?」
「だ、だからぁ…」

しおりの声が泣きそうになっている。

「いやまあこの際、好きとかは置いといて、
先輩、クラスメイトなんスから兄貴についてどう思ってるのか聞いてみたいっスね。」

なんとか助け船を出そうとする十四四。
最も追求をやめるきはない様だが。

「クラスメイトとして…ですか?えっと……一君かっこいい…です…よ…ね…」

それならとボソボソとしゃべり始めるしおり。

(あの兄貴がかっこいいッスか…。それはどうっスかね…
ま、たで食う虫も好き好きといいまスけど)

口には出さないが、身内だからかひどい評価をする十四四。
まあ、でも兄が誉められて悪い気はしないのも事実ではある。

23第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 18:59:57
「他にはなにかあるっスか?」
「それに勇気もあって素敵だなって…あの時…助けて…くれましたし…」
「あー、そんなこともあったらしいっスね」

過去にしおりが一人で受付をしていた時に絡まれた事件があり、それを本を読んでいた一に助けてもらったのだ
なお、このような事件は図書委員会としては不名誉なものであり、当事者たちは武闘派たちにより二度と図書委員会に逆らいたくなくなるような目にあわされたという話である。
普段はヘタレで情けないと思うが、あれでいざというときには頼りになるのだ。

「とても仲良くなりたいなって…
えっと、十四四ちゃん…こ、これぐらいで…いいかな…?」

恥ずかしいのか、声がどんどん小さくなっていく。

「あー、もうそれでいいっスよ。好きなのは良くわかりましたし。
そうだ、先輩にはお世話になってまスし、いっそ兄貴との仲取り持ちましょうか?」
「だ、だから…別に好きなわけじゃないですから…」
もう、完全にばれてるのだろうし言っても無駄だと思いつつ、十四四の言葉を否定するしおり。
「そ、それに…私は今のままで…いい…です…」

少し間をおいてしおりが言う。

「…遠くで見てるだけで…私は…幸せですから…」

確かに彼が好きなのは事実だ。本音をいえば、もっと仲良くなりたいし欲を言えば付き合いたいとも思う。
だがそれ以上に今の関係が壊れてしまうのがいやなのだ。
自分の思いを口に出すことで彼に嫌われてしまう。そうなるぐらいなら今のままの関係でいい。
しおりには能力で保持している思い出がある。きっとそれでいいと思うのだ。

「遠くで見てるだけで幸せっスか…
 私は先輩のそういう奥ゆかしいところ嫌いじゃないんスけどね。
でもそれじゃ何も始まらないじゃないっスか。アタックあるのみっスよ!」
「だ、だって…守口さんとか埴井さんとかに比べたら私なんて…」

しおりが名前を挙げた二人は一一と同じようにしおりのクラスメイトで、二人とも一一とは親しい間柄にある。
もっとも、本人たちにそう指摘すると否定する可能性も高いが。
守口衛子(もりぐち えいこ)は一年のころから護身術部部長とつとめている少女であり、同時に風紀委員会の一員でもある。
クールでその性質から来る近寄りがたい部分もあるが、友人思い少女。
埴井葦菜(はにい あしな)は蜂使いの一族・埴井家の出身の魔人であり、アイドル活動も行っている。すらりと伸びた長い脚が魅力的な少女だ。
嫉妬深いところもあり、それで失敗することもあるが、向上心の表れと見れば悪いところばかりではない。
そしてしおりは、一の周りにいる彼女たちと比べて自分が魅力的であるとどうしても思えないのだ。

「先輩は十分魅力的だと思うんスけどねぇ」
「そ、そうでしょうか…」

アイドルの埴井葦菜などと比べれば、劣るのかもしれないが、しおりだって十分魅力的だと思う。
優しい先輩だし、自分と本の話をしているときはとても楽しそうだ。
十四四は彼女のよいところを知っている。
だからこそ力になりたいと思うのだが肝心の本人がこれでは…

「ま、いっスよ。そろそろ時間ですし戻りましょう」
「そうですね。みんな待たせると悪いですし」

十四四が今日のところはあきらめた様子なのを見てほっとしたような表情を浮かべるしおり。

(これは秘密にして動くしかないっスかね。)

24第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 19:00:38
勝手な事をすれば怒るかもしれない。
でも、しおりのために何かしてあげたいのだ。
なぜなら十四四にとって素晴らしい先輩だから。
大丈夫だ。十四四の兄一一はしおりを傷つけるような人間ではない。
姉の四四四(ししょ)にも相談しよう。いいアイデアを出してくれるかもしれない。

「十四四ちゃん、行きますよ」
「すぐいくっス」

しおりには内緒で決意を固めると、十四四は図書館に向かったしおりのあとを追うのであった。

登場人物
戌井しおり(ちなみにこれは2014年時である)
tp://www10.atwiki.jp/c-stock/pages/103.html
一 一
tp://www45.atwiki.jp/debutvselder/pages/63.html
埴井葦菜
tp://www45.atwiki.jp/debutvselder/pages/110.html
守口衛子
tp://www35.atwiki.jp/gakumahoa/pages/369.html#id_a750e94c
一∞
tp://www49.atwiki.jp/dangerousss/pages/34.html
夢追中
tp://www45.atwiki.jp/debutvselder/pages/98.html

25第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 19:02:13
のもじTHEアキカンクイーンヘッドねんどろいど

◆お題目拒否で始まるDP戦略◆
―希望崎学園〜部室煉午後3時―

Dange-rouCROSSOVER〜♪
Dange-rouCROSSOVER〜♪フフフンフフフーOLE!!

日差し明るい健康的な部室に少女の鼻歌が広がる。
ここは希望崎学園フォーク・ソング部。
生き馬の目を抜く希望崎部活連の中でも弱小も弱小、去年上級生が卒業した後、
部員は僅か2名しかいない。いつ生徒会の『オトリツブシ』の沙汰や、部費確保
目当ての他部からの襲撃で廃部の憂き目にあっても可笑しくないところだが、
不思議なことに平穏な日々を甘受していた。平和!とても不思議!
そして少女は今、彼女の日課としてその平和要因にハタキを掛けていた。

通称『荒ぶるのもじの像』。

台座にのったそれは、黒のハイレグスーツに奇妙なアキカン帽子を被った
160cm程度の小柄な少女の等身大像。
見た目だけでなく肌触りも妙に滑らかにできており、材質は完全不明とい
う謎の像だ。この話はその少女・阿野次のもじと「学園の英雄」大銀河超一郎の
−キー−
出会いと
―キィィィー―
努力・友情・勝利の「効果☆制勝」(テーマソング)制作にまつわる逸話を
――――キュイイィィィィィィッィィィン―――
語る予定だったが
――――カッ―――

『 ☆  ☆ ☆ D ・ P ☆ ☆ 戦 ・ 略 ☆ ☆ ☆ 』

それは見事な横やりを喰らって中座することになった。
ちゅどーーん☆と派手な効果音を上げつつ現世に降臨した一柱、アンゴラモア
大王の存在によって。

『…まったく「真野」め、厄介な仕事押しつけおって。実に忌々しい。…ん』
『予備のほうに落ちたか』

頭をふりつつ自身の姿を確認する降臨者。何という面妖な光景であろうか
少女の像が動き出している。
『…で貴様らは何者だ?』

それが2年ぶりに現世に帰還したアキカーンXと少女たちの出会いであった。

26第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 19:02:42
◆◆
「わわわ、予言詩にある通り『アンゴラモア大王様』がのもじ像に降臨されたーへへー」
「うそーーー。のもじ先輩の冗談だと思ってたのに、アイエエエエエエエエ」
『…落ち付け!!!モブども(凛ッ)!』
「動いてるッ。スゴイ動いてるッ」
「中にああ中に何か入ってるわぁ、圧迫よぉ、こうなればもう圧迫祭開催よォ」

『…ハイ、フォーク(ソング部で)でドン。』
青筋立てた、アキカーンXの決断的裁量が下る。

―10分後―

部室には机上に居高々と鎮座する女王様と床に正座させられ平伏させられる
少女2名の姿があった。
『では改め、名と階級を述べろ』
「私は英子です。のもじ先輩と同じフォークソング部の2年後輩に当たります。」
「あ、同じく四囲美です。よろしくお願いします女王様(ドキドキ)」

『Bはどうした。ふむトリップしてからまるっと2年か。で、わらわの居ない
2年間にあのでこ娘はこの学園は卒業。どこぞでふらふらしておると…。
まあ誤差の範疇と言えば誤差の範疇といえるが…』

説明しよう!女王ことアキカンXはアキカン型宇宙人である。かつて宇宙事故で
己の身体の大部分を失った彼女は以降”阿野次のもじ”と精神リンクすることで
生命を維持し続けているのだ。四囲美が手を挙げる。

「先輩、TWITTERやってるからそれで所在判るかも…。あ…近況報告呟いております、閣下!」
『なぬ、読み上げろ。四囲美お笑い二等兵!』

「え^と【『阿野次のもじのサクセスったー』
(中略)
⇒「ギアナ高原で修行中、デビルガ●ダムとのバトルに 」(←今ここ!)
⇒「天元流ビームサーベ流に入門、マスター位に登りつめる」
⇒「武道館で一万人ライブ開催!!ヤッタネ☆」』#shindanmaker.com/93155 大威震八連は制覇したYO!】

『…。』
「塾生は八連を制覇したそうです。えーと現在位置『南米』。わーエライとこいますね、あっ…」
はぁとため息をついた女王は携帯を少女の手からすっと引き抜くと
『アホかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』
そのまま思いっきり床にたたきつけた。
「ひいやーーーーーーーぁーー私のスマホー。」
悲鳴を上げる四囲美。
多少嬉しそうな被虐の声が混じっていたような気がしないでもない。
大丈夫だろうかこの子は、とやや不審な眼を向ける英子。

『たく、南米かよ。道理でバックアップ用のこっちに落ちるわけだ。』
「えー阿野次先輩も色々活躍したんですよ。今回の本来のテーマもそれだったわけでして」
「いらん。どうせ『完奏現世術』で○○だろ、オールカットだ」
英「ちょっ」
四「ちょッ」
GK「ちょっ」

27第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 19:03:05
{{【第四部大銀河血風編・続】
学園祭当日、転校生との圧倒的苦戦をする大銀河の前に駆けつけたもの。
それは全校生徒とその声援であった。
その姿はまさに努力・友情・勝利の小宇宙。その雄姿に阿野次のもじのフルソンブリンク
『銀河超一郎の一撃で地球滅亡』がついに完成する。
全校生徒全員の心を合わせたその校歌斉唱(テーマソング)は、究極のヒ―ロ―ソング
-絶対ヒーローの証明。合唱「効果」での「制勝」!その力は瀕死の大銀河に奇跡の力を授ける。
転校生すら銀河の果てまでぶっとばす超一郎のFB『大銀河”の果てまで”パーーンチ』が完成した瞬間であった。}}

「…ということかあったんでス。どやッ」
『はいはいフルソンブリンク、フルソンブリンク、いい加減ワンパター…』
「アイエエエエ、女王サマ!?ドクゼツ、ナンデ!?」
どこからか取り出したマニュキュアで指の爪を塗りつつ、舌打ちをする女王。
痛烈な中のひと批判である。何かフルソンブリンクに恨みがあるのだろうか?
ともあれコーティングを終えた女王は聞いた内容を反芻する。
しばし沈黙ののち、口を開いた。
『過去の栄光や経過などどうでもいい。結果が全てのアキ・カーン・クイーン。
問題は今の現状だな。確認したいことが二点。
その友情を熱く育み合った学園の一同郎党は超一郎が行方知れずになった
ことで互いの不信感を募らせ、今は殺し合い寸前。ハルマゲドンも秒読。
現状はそういう状況となっているという理解でいいな」
「う、ぐ、はい」
頷く二人。誰もかれも”彼に何かがあった”等考えたくないが認めたくはないが、
不在は歴然とした事実なのだ。今学園は混迷の極地に至っている。

『二点目。これは正確に答えろ』
「はい。」    、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
『…その作中の必殺パンチ、”変な制約ぽいもの”ついてなかったか」

この問いには???とお互いの顔を見合せる二人。英子のほうが答えを返す。
     、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「えーと『決して地面に向かって打たないこと、来週のジャンプを読みたいなら』
という謎の注意事項(よいこのおやくそく)が先輩から大銀河さんにあったそうです。
コレ制約なんでしょうかね、意味がよく判りませんけど」

―ふん。―ここで女王がザンとたちあがった。
何時の間にやら身に付けていたのか、黒のマントを颯爽と翻す。不思議と今まで
と雰囲気が少し変わったように英子には思われた。
くくく、と、どこか笑い声が聞こえる。
『面白い。少しその男に興味が湧いた。お前達の大銀河探し、手伝ってやろう』
「へ?」
意外な申し出に顔を見合わせる二人。
『お前達自身がいったのだぞ「あの大銀河さんがどうにかなるなんて、とても信じられない」とな。
なら事態を打開するカギもそこにあるということだ。死んでいるにしろ生きているにしろ、争いを止めたいならまずはその男の所在をはっきりさせることだ。』
少女達の顔に希望の色が浮かぶ。
「ヤッター!学園の危機を助けてくれるんですか!」
手を取り合い喜ぶ二人。
ただ、これは少し早計だった。この無責任な手の取り様に女王は呆れたように鼻を鳴らす。

28第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 19:03:24
『はん、何を寝ボケたことをいっている。わらわは『手伝ってやる』といっただけだ。
メインは貴様ら二人―――
この事件の解決は”お前達”の手で行うのだ。』
「―」
「―」
これは二人にとって死の宣告に等しい衝撃だった。
完全に絶句してしまった相手に対し、女王様はそれはそれは愛らしい笑顔で続けた。

『数多の強豪魔人どもがなしえかないことをモブポジが出しぬいてやり遂げる。
くくく、そういうのがストーリー的に一番、燃えるんじゃないか。人生谷あり崖あり。
めでてーな。フォローはしてやるから、気張ってやれ』

ちなみに拒否権はない。したらどうなるか判っているな?と発言は続く。
この問いの答えはもう聞かなくても二人には判る。
彼女の背後には隠しようもないほどの[オシオキダベー]オーラーが漂っていたからだ。
(間違いないこのひとは1200%くらいのドS体質だ。)
英子はのもじ像、否楽しそうに笑うアキカン帽子を見上げつつ、昔の先輩との
経緯を思い出していた。
昔像をハタキ中、一度疑問に思って聞いたことがあるのだ。
像の頭の上にある『これ』って結局なんなんですか?と。この問いに椅子の上に
寝転んでH×Hの最新刊を読んでいた彼女の先輩は少し考えるとこう答えたのだ…

「It's Rock'n'Roll」

(Rock'n'Rollにもほどがありますよ、先輩…)
これは武も勇もない少女たちの語られることのなき戦い。その序章の物語である。
--------------------------------------------------------
                               [Return of Qeeen Akiqaan](了)
                               「英子と四囲美の『人間革命』」(序)

29第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 19:10:52
鷹條楓

■武勇伝
鷹條楓(タカジョウ カエデ)は中学時代から何かと目立っており、魔人・非魔人問わず多くの友達に囲まれていたが、そんな彼女と事あるごとに衝突していた不良魔人がいた。
彼女の名は鷲口椿(ワシグチ ツバキ)。
鷹條とは対照的に彼女は一匹狼で、校外でよく暴力沙汰を起こし、狂犬のような存在として生徒に恐れられていた。
鷲口が非行に走っているのは、魔人警官である父親への反発からではないかとも言われていた。
それまでの鷹條は、どんな相手であっても本音をぶつけ合って交流を重ねれば友達になれるという自信を持っていたが、鷲口にはそのやり方が全く通用せず、二人は顔を合わせれば必ず喧嘩する、まさに犬猿の仲であった。

そんなある日、ある魔人が少年院から脱走したという事件が報じられた。
そのときもいつものように取っ組み合っていた二人だが、鷲口はそのニュースを耳にすると、血相を変えて学校を飛び出していく。
実は、その魔人は悪名高いある高校の番長で、番長グループの手下の助けによって脱走を成功させた後、次は自分を逮捕した魔人警官――鷲口の父親への『お礼参り』を企てていたのである。
鷲口の様子にただならぬものを感じた鷹條は、仲間を集めてその後を追う。

鷹條たちがやっと追いついたとき、既に鷲口は番長グループと交戦した後で――無惨に痛めつけられ、半死半生の姿になっていた。
鷲口に駆け寄り、抱き起こす鷹條。すると鷲口は彼女に語った――自分が父親に反発しながらも、影では彼女なりの不器用な方法で、家族に降りかかる火の粉を払ってもいたことを。
その話を黙って最後まで聞いていた鷹條は、自分が鷲口の代わりに番長グループと戦うと告げた。
その言葉に驚く鷲口。
「今までアタシのことを信じてくれる奴なんて誰もいなかったのに……なんでアンタは信じてくれるんだ……? しかもアタシの家族なんて、アンタにとっちゃあ何の義理もないはず……」
しかし、鷹條は破顔して言った。
「お前とはケンカばっかりしてきたが、いつもお前の拳には『本物の気持ち』がこもっていたぜ!」
さらに彼女は力強く続けた。
「あとは全部オレに任せろ! ――お前の心は確かに『受け取った』ぜ、ダチ公!!」
その言葉を聞いた鷲口は、安堵した表情で頷くと、最期に鷹條と拳を合わせ……安らかに瞑目し、力尽きたのであった。

その後、鷲口の家族に魔の手が及ぶ前に、なんとか敵の元に辿り着いた鷹條たち。
彼女たちは死力を尽くして戦うが、相手は悪逆無道を極めし高校生の番長グループである。その圧倒的な暴威の前に、多くの仲間が傷つき斃れていく。
だが、どれだけの劣勢にあっても、鷹條は決して諦めなかった。彼女は何度打ちのめされても立ち上がる!
散っていった仲間たち――その『遺志』を受け継ぎ、己の力に変えるかのように、
「たとえ命が尽き果てようと、心はオレと共にある! ――行くぜ! ダチ公!!」
その背後には仲間の幻像が現れて彼女と重なり、彼女は気炎を滾らせ能力を発動する!
「これは烏丸(カラスマ)の分だ!」
まばゆい閃光が空を覆い、絨毯のように隙間なく降り注ぐ雷撃が敵を薙ぎ払った!
「これは鶴巻(ツルマキ)の分だ!」
今度は瞬時に周りの大気が凍り付き、無数に生成された氷柱の弾丸が残った敵を貫いた!
「そしてこれは――」
最後に残った番長を前に――握りしめた鷹條の拳から爆炎が迸る!
「鷲口の分だァァァッ――!!」」
叩き込まれた渾身の一撃! 番長は火柱を上げ爆裂四散した――!

こうして鷲口の遺志を継ぎ約束を果たした鷹條であったが、この戦いで多くの仲間を失った彼女は、自身の能力が『仲間の死』の後にしか使えないことに悩むようになる。
そんなときに『大銀河伝説』を知り、幾多の危機に陥っても決して仲間の犠牲は出さず、数々の事件を解決してきたという大銀河超一郎に憧れ、希望崎学園に入学することを決めるのであった。

30第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 21:12:14
パントマイムよしお

■武勇伝
彫像は、いつから建っていたのだろうか。
彫像は、いつの間に建っていたのだろうか。

彫像は、学園内の広場『希望の泉』に建っていた。
彫像は、学園の憩いの場『希望の泉』に建っていた。

彫像は、数多の死闘を見守った。
彫像は、山之端一人の死亡を見ていた。
彫像は、上級生と下級生の対立を見ていた。
彫像は、魔人能力の行く末を見ていた。


そして彫像は、大銀河超一郎を見ていた。


彫像は聞いた。大銀河超一郎が敗れた、と。
彫像は感じた。再びハルマゲドンが始まる、と。

「動く…………今がその時だ…………」

彫像は、立っていた。
己の脚で、大地に立っていた。

『希望の泉』
そこにはもう、あの彫像の姿は無い。

31第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 22:36:19
某 彼人

■武勇伝
某 彼人(それがし あのひと)は魔人である。

平凡な家庭に生まれ平凡な人生を送ってきた彼には個性というものがなかった。

脚が速いわけでもなく、学年上位の成績を持っているわけでもない。

人気者でもない。かといって孤立しているわけでもない。

友人達に彼人の印象を聞けば、皆が皆口をそろえて「普通」と答えるだろう。

没個性という個性に悩まされた少年時代の彼人は、テレビに出演する芸能人に憧れるようになった。

自分も彼らのように個性的になりたい。テレビっ子だった少年彼人は、ある時転機を迎える。

何の特徴もない男が個性的な芸能人をマネする、モノマネという芸を目の当たりにしたのだった。

自分が努力して個性的になるのではなく、元から個性的な人になればいいんだ!!

個人的な人になるという妄想に興じた少年彼人は、それを認識。魔人へと覚醒。

翌朝有名芸能人に「なり」意気揚々と学校に登校した。

しかし、完璧に芸能人に「なった」彼を、彼人として接する人物はいなかった。

せっかく手に入れた能力だが、誰も自分を自分として見てくれない。

モノマネ芸ならば周りはモノマネとわかっているので、そのモノマネ芸人を「モノマネが上手い芸人」として扱うだろう。

しかし彼人の能力はそうはいかない。なにせモノマネした人そのものになってしまうのだから!

それは彼人にとって新たな悩みの種となるのであった。

32第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 22:50:44
マッチョドラゴン

■武勇伝
この世界は、広大にして複雑である。
人間は決して一枚岩ではない。
咎人である#ッ%ョを迫害する者だけではなく、許容し、共生を試みる者達がいた。
彼らは#ッ%ョを、友人のように―――否、友人として接した。
#ッ%ョに下される罰から、彼らを守るために、この力が与えられたのだと、#ッ%ョは信じていた。

咎人は、存在そのものが罪悪。
歩く災厄とも称される彼らには、悲劇しか許されない。

辺り一面が朱色に染まっていた。新鮮な朱。#ッ%ョが見た物は、まさに地獄の惨状。
そして、その中に佇む朱色の十数人の集団。その朱は、血の朱だった。
こいつらが、俺の友人を殺したのだ。ならば、こいつらを殺しても構わないはずだ。
#ッ%ョの口から出る「言葉」など、存在しなかった。発せられたのは、咆哮。
#ッ%ョは咎人としての力を解放した。

血溜まりに上書きされた血溜まりを背に、#ッ%ョは新たな土地へと放浪することにした。
咎人はいつまでも、自らの運命に抗い続ける。

33第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 22:59:07
夢売 誘子

■武勇伝
ドリームカンパニーは所属グループの戦費を賄うために、1億円を融資している。利率は0.001パーセント(単利)である。
所属グループ以外に対する融資を含めると、その総額は20億円にも上るが、返済された額は1億にも満たない。
来栖曰く、「これじゃ、いいように利用されているだけだ」であるが、あながち間違いでもない。
誘子自身は「ボランティアでやってることだから、儲けはいらない」と語り、受け取った利息は全てボランティア団体に寄付している。

「いいよ」

無表情で頷く少女。彼女こそが誘子その人である。
周囲には誘子のほかに眼鏡をかけた少年と、2人の少女がいる。うち一人は氷雨であり、もう一方は3年生と思われた。
「ありがとう! きっと返すからね!」
3年生と思しき少女が、その場で跳ねる。
「いつでもいいよ」
「もう、ほんと誘子ちゃん大好き!」
少女は誘子の頬にキスをした。
その側でトランクを担いだ少年――来栖は、その少女を蔑むような目で見つめる。
「ほら」
来栖はトランクを少女へと投げた。少女は慌てて手を伸ばす。
「あ、サンキューねー!」
少女はトランクを受け取ると、瞬く間に姿を消した。
「きっと返ってきませんよ」
ぼそりと来栖は告げた。
「そんなことないですよ! とってもいい先輩なんですから」
氷雨は頬を膨らませた。その様子を見て来栖は目を細める。
「何を根拠に……」
「どうしてそう言いきれるの?」
誘子は来栖の方を向き、そう尋ねた。
すると、来栖は待ってましたと言わんばかりに、中指で眼鏡を上げた。
「これで五度目ですからね。あのサークルにはすでに2350万円ほど貸し付けています」
その言葉を聞き、氷雨は呆然と口を開いた。
「なるほど」
それを聞き、誘子はぽんっと手のひらを打つ。
氷雨は申し訳なさそうに、しゅんっとした。
しかし、来栖は誘子の方を向いたまま、深くため息をつく。
「知ってて貸しましたよね?」
「まぁ、見過ごせなかったから」

「……」
その言葉に来栖は呆れと悲しみの入り混じった表情を浮かべる。
「もっと助けるべき人はたくさんいますよ」
「それでも、あの人が使ったお金は、また別の誰かへと渡るでしょ? それは回りまわって、私の手が届かない誰かを救うことになるかもしれない」
その言葉を聞き、氷雨の顔がぱっと明るくなる。
それを見て来栖は氷雨を睨んだ。眼鏡のレンズがギラリと光った。来栖の視線に気づいた氷雨はしょぼんとまた俯く。
「誘子はもっと、自分のためにお金を使うべきだ。人が良すぎる」
来栖は誘子にそう告げた。しかし、誘子は首を振る。
「私はみんなが言うような聖人君子じゃないよ、人が良いってのも買い被りだよ」
「僕はもっと贅沢をすべきだと言ってるんです。その理屈なら、もっと自分のためにお金をかけても良いじゃないですか」
「かけてるよ、もう。十分に私は贅沢だよ、こんな贅沢なことない」
「失礼ですが、客観的に見て、そうは見えませんよ。現実をみてください。そんな状態になってまで、身を削って誘子は働いたのに、手元には何が残りました?」

「うん。だから、また頑張って働かなきゃ」
誘子は無表情でそう告げる。その奥でどのような感情が渦巻いているのか、もはや窺いしれない。
「私もお手伝いします!」
いつの間にか氷雨も、けろっとしており、また張り切っている。
来栖は拳を固く握りしめる。はじめの頃は、来栖も誘子を止めるべく実力をもって阻止していたが、来栖がどれほどかんばっても誘子を止められなかった。
それに、誘子のこの行動は、この学園において誘子自身を結果的に守ることに繋がっている。

故に今は、来栖は静かにただ流れに従うことにした。だが、それは自らの無力さをより自覚することになる。
『キシシ』
来栖は聞いた。宙空から彼をあざ笑う、その声を。
仔貘の姿をしたその影は、誘子のすぐ傍らで浮遊している。

誘子はその仔貘の頭を撫でた。

34第九次ダンゲロスメインGK:2012/06/28(木) 23:02:43


「私の両親は……、何の役にも立たない理想論を唱えて死んだの」
誘子は遠い目でそう告げた。

大銀河超一郎。彼の存在を知った時、誘子は確信した。

――彼しかいない。

誘子の目にも、彼はカリスマに映った。この狂った学園を元に戻すだけの魅力と強さを秘めた存在。誘子は彼に全てを託そうと思った。


――人殺しに加担するのか?


莫大な融資の申し出をしたとき、彼の取り巻きらが誘子に向ける視線は冷ややかだった。

蔑み、嘲笑。もの言わずとも、誘子には彼らが内心で自身を偽善者と罵っているのがよく分かった。
誘子自身に自覚は無かったが、周囲は誘子の在り方を「聖人」のようにあれと望んでいた。
争いを否定し、愛と平和を唱え、自ら率先して人を癒す、そんな聖者としてのイメージを彼女に押し付けていた。。

今回、誘子が大銀河超一郎との対話を望んだ時、誰もが誘子は彼を批判し平和的な解決を要求するものだと信じていた。しかし、実際に彼女が対話のさなか申し出たのは「批判」ではなく「協力」だった。
「――お前のような子娘が、進んで人殺しに協力したいとは、いったいどういう了見だ?」
若干の怒気と、わずかな戸惑い。
大銀河超一郎も、誘子がどのような人間か、聞きかじっていたのだろう。誘子の申し出に対して、わずかに驚きの表情を見せ、そしてそう尋ねたのだ。
どのような正義を掲げていても、力で捩じ伏せれば、行き着く先は畜生道。大銀河超一郎、彼が自らの所業を「人殺し」と皮肉ったのも、自らの掲げた正義に対する矛盾をどこかで感じていたからかもしれない。

そして、誘子もそれは十分に承知していた。そして、ここで返答を誤れば、自分が築き上げてきた全ての信頼を失うことも。
静寂が支配する中、誘子は静かに口を開き、大銀河の目を見据える。

「私の両親は……」

ゆっくりと、しかし強い意志を伴って、誘子は言葉を紡いだ。

「何の役にも立たない理想論を唱えて死んだの。それじゃ、誰も救われない」

高尚な理念や言葉など必要ない。ただ、事実だけを述べ、誘子はすっと頭を下げた。

「協力させてください」

それが、大銀河超一郎の問いに対する誘子の答えだった。

しかし、誘子が期待した大銀河超一郎は今いない。
誰かが大銀河の後を継がなければ全てが無駄になる。だから、誘子はそのために自分のできることをするだけだった。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板