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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2

389一六 ◆6/pMjwqUTk:2018/10/28(日) 12:07:19
 少しホッとしてその顔に目をやったせつなが、一転、怪訝そうな顔になる。

 そこにあったのは、いつもの無表情とは異なる、いつになく硬い表情だった。
 ウエスターと違って、サウラーが何を考えているのか分からないのはいつものことだ。むしろ表情の硬さをまるで隠し切れていないところが、彼の緊張の大きさを思わせる。
 当然だ、あのメビウスが相手なのだから――そう思うのに、何故かその顔を見ると、不安が胸の中からとめどもなく沸き起こって来る。

(サウラー、一体どんな作戦を考えていると言うの……?)

「二人とも下がっていてくれ。あとは僕に任せてもらおう」
 せつなの心配そうな顔つきに気付いているのかいないのか、サウラーはホホエミーナの掌から飛び降りると、いつもの淡々とした口調で言った。
「任せろって……何をするつもりだ?」
 ウエスターが、少々不機嫌そうに眉根を寄せて問いかける。その時、ホホエミーナの方に改めて目をやったせつなが、何かに気付いたように、驚きの声を上げた。

「サウラー! このホホエミーナって……」
「ホホエミーナ、頼む」
 せつなの言葉を掻き消すように、サウラーが短く指示を出す。
「ホ〜ホエミ〜ナ〜……」
 見た目にそぐわないか細い雄叫びを上げると、怪物は滑るようにせつなとウエスターの頭上を跳び越え、“不幸のゲージ”の前に、地響きを上げて着地した。

 次の瞬間、上空にあったコードが残らず消えた。僅かに目を見開いたメビウスの、空を覆うローブが少し不自然にはためき始め、その足元にある“不幸のゲージ”の方から、カタカタという音が聞こえ始める。
 せつなが素早くホホエミーナの横手に回る。そして、そこに広がっている光景に、大きく目を見開いた。

 カタカタと小刻みに震えるゲージの前で、その倍ほどの大きさのホホエミーナが、短い足をぐっと踏ん張って立っている。その胴体の真ん中にある円い扉は大きく開かれ、そこに向かって強烈な風が流れ込んでいる。まるで巨大な掃除機の如く、その前面にある全てのものが、そこに吸い込まれようとしている。
 その扉の向こう――ホホエミーナの体内にチラリと見え隠れするのは、赤黒くて大きな球体――。

(あれは……デリートホール!?)

 気が付くと、奥歯がカチカチと音を立てていた。突如暗赤色に染まった世界で、この球体に吸い込まれまいと、ただもう必死に逃げたあの時の記憶が蘇る。

「下がっていろと言ったはずだ」
 不意に、後ろから声をかけられた。サウラーがホホエミーナから片時も目を離さずに、平坦な声でせつなを制する。そしてせつなの方を見ないまま、申し訳程度に小さく頷いた。
「君が思っている通りだよ。元は廃棄物処理空間。メビウスの城の跡地に残っていた」
「じゃあ、さっき見えたのはやっぱり、デリートホール? その中に、メビウスを……」
 せつなの声が震える。よりによって、一度はその中に吸い込まれ、消滅しかけたサウラーが……。いや、だからこそ、こんな作戦を思いついたのだろうか。

「とにかく離れていてくれ。頼む」
 ほんの一瞬だけ、せつなの方にちらりと目を走らせてから、サウラーはもうせつなのことなど眼中に無い様子で、再びホホエミーナの方に向き直った。
 その全身にみなぎる緊張感に、せつながそれ以上声をかけるのを躊躇した、その時。

 ズズッ……

 何か重いものが引きずられているような、耳障りな音が響いた。

 ズズッ…… ズズッ……

 音は“不幸のゲージ”の足元から聞こえてくる。ガタガタと震えていたゲージがついに動き始め、少しずつ、少しずつ、ホホエミーナに引き寄せられ始めたのだ。

 ズズッ…… ズズズズズ……

 ゲージがガタガタと震える音も、ホホエミーナの扉に引き寄せられる音も、次第に大きく間断の無いものになっていく。やがて、ガタガタと揺れていたゲージがガクンと傾いた。

「あっ……!」
 せつなが思わず悲鳴のような声を上げる。
 ここでもしゲージが倒れでもして、中から“不幸のエネルギー”が溢れ出したら――そんな最悪の想像が頭をよぎったのだ。
「大丈夫だ!」
 しっかりとした声が、前方から響く。サウラーが、再びチラリとせつなの方に目をやって、小さく頷いて見せた。ただでさえ白いその顔は、緊張のためか紙のように真っ白になっている。
「ここで失敗など、絶対にしない。ホホエミーナ! 一気に決めろ!」
 サウラーの声が畳みかける。
「ホホエミ〜ナ〜!」
 さっきよりも力強い雄叫びを上げたホホエミーナが、ぐっと身体を大きく伸ばした。風の勢いがさらに増す。だがそれと同時に、正面を避けてゲージの側面から放たれたコードが、束になってホホエミーナに襲い掛かった。


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