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『プリキュアシリーズ』ファンの集い!2

1 運営 :2015/06/27(土) 19:59:43
現行作品を除く、『ふたりはプリキュア』以降の全てのシリーズについて語り合うスレッドです。
本編の回想、妄想、雑談をここで語り合いましょう。現行作品以外の、全てのSSと感想もこちらにてお願いします。
掲示板のローカルルール及び、保管庫【オールスタープリキュア!ガールズSSサイト】(ttp://www51.atwiki.jp/apgirlsss/pages/1.html)のQ&Aを読んで下さい。
※現行作品や映画の話題は、ネタバレとなることもありますので、このスレでは話題にされないようお願いします。
※過去スレ「『プリキュアシリーズ』ファンの集い!」は、過去ログ倉庫に移しました。

2 名無しさん :2015/06/27(土) 21:10:29
転載

995 :名無しさん:2015/06/26(金) 22:25:26
あとはミズ・シタターレがハピプリでリボンに・・・
あっ、
敵役が妖精に転生しがち←プリキュアあるある

996 :名無しさん:2015/06/27(土) 17:21:23
プリキュアあるある 王族関係者の闇落ち率

劇場版で闇落ちしたココ

本編でメフィストと三銃士 劇場版でアフロディテ様が闇落ち

ジコチューに乗っ取られた国王と王女のプシュケーのレジーナ

実はカナタの妹だったトワイライト

3 名無しさん :2015/06/27(土) 21:18:31
>>2
>995
結構、敵キャラやサブキャラで出た人が、後のシリーズでメインキャラになるケースって多いんだよね。
あと、フレプリのウエスターは後にはるかパパになったけど、
初代のなぎさパパはフュージョンになって、その後はオレスキー将軍に……。

>996
まぁ大体、王族が絡んで物語が始まってたりしますよね〜。
ロイヤルクイーンみたく世代交代したりとかね。

4 名無しさん :2015/06/27(土) 21:53:53
なぎさパパ、波乱万丈だな(笑)

5 名無しさん :2015/06/29(月) 19:34:58
>>997
もう1000スレなんですね〜。長編57話、短編71話の投下ですか!
私も毎回楽しませてもらってますが、書かれてる方には頭が下がる思いです。
ウンチクも面白いです!SS以外の楽しみ方もあるんだなといつも感心してます。

6 名無しさん :2015/07/20(月) 01:19:44
転校生とか転入生とか列挙
ひかり・舞・満・薫・くるみ・せつな・つぼみ・エレン・
みゆき・まこぴー・ひめ・トワ、そして坂上あゆみ。ついでにあかね。

7 名無しさん :2015/07/20(月) 06:42:47
>>6
ひかりは違うんじゃない?
この世界に転入した、って感じだけど。

8 名無しさん :2015/07/21(火) 01:58:10
>>7
・・・ですね。

9 Mitchell&Carroll :2015/08/06(木) 01:16:05
2レスお借りします。

『ピーマニズム』


「ハァ、ハァ、ハァ......」
逃げても逃げても、どこまでもそれは追いかけて来る。
「このままじゃ埒(らち)が明かないわ!チェインジ・プリキュア、ビートアップ!!」
少女の体は紅い光を放ちながら水の中を突き進み、胸にはクローバーが輝く。
真紅、漆黒、そして純白を彩った衣装に身を包み、髪は薄桃色に変わる。
その髪と耳を華麗に飾って水中から勢い良く飛び出すと、小気味良く踵(ヒール)を鳴らして着地した。
「真っ赤なハートは幸せの証!熟れたてフレッシュ、キュアパッション!!」
敵はもう目前に迫っている。変身した少女はハート型の竪琴を呼び出した。
「歌え、幸せのラプソディ! パッションハープ!」
手にしたそれを軽やかに爪弾くと、装飾された赤いダイヤは眩(まばゆ)く輝いた。
そして竪琴を高く掲げる。
「吹き荒れよ、幸せの嵐!プリキュア・ハピネスハリケーーン!!」
無数の赤いハートと羽毛の激しい旋風が敵を包み込み、見る見るうちに浄化してゆく。
「やったわ!!」
だが、安心したのも束の間、次から次へと新しい敵が押し寄せて来た。

 尋常でない数のピーマンがキュアパッションを飲み込む。
「イヤァァァーーーッ!!!」
そして一際(ひときわ)大きなピーマンが、キュアパッションの眼前に躍り出て言い放った。
「いいか、よく聞け!われわれは、決してお前を憎んでいる訳ではない!!」
それを聞いて、絶望に染まりかけていた少女の瞳に、僅かだが光が戻った。
「われわれはお前と話がしたかったのだ。それなのにお前ときたら、われわれを見るやいなや、全力で逃げ出すではないか」
「...悪かったわ。蛸を目の当たりにした美希も、こんな気持ちだったのかしら」
「美希というのはお前の友達の、あの...背の高い子か。それよりも、だ。われわれは知っているぞ。
 お前が昨日の昼に食べたピッツァ、そのピッツァにトッピングされた、緑色の輪切りにされたもの、そう、われわれだ。
 われわれの存在に気付いたお前は、一瞬、表情を曇らせたな?そして、食べる時も僅かに躊躇したな?
 われわれは知っているぞ!お前が一瞬表情を曇らせたことを!食べるのを躊躇したことを!!」
「なっ...ちゃんと完食したじゃない!」
「味わったかね?」
「.........」
「ならば、味わったかね。われわれを」
「それは......」
「どうせ息を止めて、なるべく風味を鼻に残さないようにして飲み込んだ、そんなところだろう。
 ミッションを早く済ませたい、そんな気持ちでな」

 ピーマン親分はさらに激しく少女を叱責する。
「言え!われわれのどこが嫌いなのかを!!」

10 Mitchell&Carroll :2015/08/06(木) 01:17:35
「そんな...あなた達を傷付けるような事は出来ないわ!」
「われわれなら大丈夫だ。さあ、恐がらずに言ってみろ」
「.........」
「どうした?早く言え」
「...あなた達、ニガイのよッッ!!!!」
「そうか。それなら分かっている。もし『形が嫌いだ』などと言われたらどうしようかと思っていた。
 よし、ならば逆に、お前の好きなものは何だ?」
「ラブよ!」
「即答か。開き直りか、それともただ単に正直なだけか...まあいい。つまりだ、われわれを苦手とする、それも含めてお前だということだ。
 好きなものがあるということは、嫌いなものもあるということ。逆に、嫌いなものがあるということは、好きなものがあるということだ。
 おまえのその『ラブのことが好きな気持ち』と『われわれのことが苦手な気持ち』、両方を大切にすることだ」
「でも、好き嫌いは良くないってお父さんから言われてるの。だからあたし、あなた達を受け入れられるように、精一杯がんば...」
「待て!!そのせりふは言わせん!!」
「なぜ!?」
「お前は確かに努力家だ。呑み込みも早い。そのせりふを言うことで自分を鼓舞し、奮い立たせ、ときに追い込んできたのだろう。
 だが、今回はそうはいかん。嫌いなものを無理に好きになる必要はないのだ。精一杯頑張らなくてもよい」
「そんな......」
「いつか、ひょんな事からわれわれに対する苦手意識を克服する時が来るかもしれん。われわれは、それでよいのだ」

 深い緑色の光が、少女の体を包んでいく。
「なんて温かくて、優しい光なの......」
「安らかに眠るがよい......」


 完

11 名無しさん :2015/08/06(木) 07:36:43
>>10
ぴーまんかましてよかですかwww
口調がピーマンもといカボチャかぶった咲を彷彿とさせた。
あ、誰かさんのニンジンさんじゃなくてw
ミシェルさんの感性って独特だよね。
先が読めなくて面白かった。

12 名無しさん :2015/08/06(木) 22:15:02
>>10
面白かったw このピーマン親分好きだな〜!いい味出してる(苦味ではなくてw)
せっちゃんはピーマンとちゃんと向き合ったのでマジで克服しそうw

13 名無しさん :2015/08/06(木) 23:49:14
>>10
めっちゃ面白かった!
ピーマンって、野菜のスーパーマンですよねw

14 名無しさん :2015/08/08(土) 18:02:00
ふたりはプリキュアとハートキャッチプリキュアの公式小説が出版されるらしいですね。
フレッシュは出るのかな?期待しつつ今後の推移を見守りますかね。

16 Mitchell&Carroll :2015/08/25(火) 01:42:32
2レスお借りします。バッドエンドですのでご注意下さい

『灼熱』


真夏だというのに、足の裏からは厳かな冷たさが伝わってくる。
ここは、明堂院流古武道の道場。
大勢の先輩と後輩が見守る中、その二人は既に精神統一を始めている。
誰かの固唾を呑む音すら聞こえてくる、そんな静寂の中、氷川流師範が口を開く。
「では、明堂院流師範、そろそろ始めますかな?」
「うむ。これより、明堂院いつき・氷川いおなの二人は、タンバリンを取り入れた演舞をし、
 より“可愛いだけじゃなくてカッコイイ”方を勝ちとする。なお、公平をす為、二人にはこちらで用意した
 タンバリンを使ってもらう。では、互いに礼!」
いつきといおなはキビキビとした動作で礼をすると、すかさず変身を始めた。

向日葵の花が咲き乱れる中、いつきの髪はロングヘアーに変化する。
妖精の「プリキュアの種、いくでしゅ〜!」という掛け声に、いつきも続く。
「プリキュア、オープン・マイ・ハート!」
種をパフュームにセットし、体の要所要所に振りかけると、その身は瞬く間に鮮やかな衣装に包まれていく。
颯爽と靡(なび)かせた髪は金色(こんじき)に輝き、花をモチーフとした可愛らしい髪飾りで括る。
さらに耳飾りも装着し、華麗な上段蹴りを放ちながら、変身は完了する。
「陽(ひ)の光浴びる一輪の花!キュアサンシャイン!!」

一方、いおなは特製のパレットを開く。
「プリキュア、きらりん☆スター・シンフォニー!」
星をかたどった指輪を嵌(は)め、パレットの鍵盤を弾くと、音階に合わせて指輪は輝く。
白い巻きタオルに身を包み、眩(まばゆ)い光を放ちながら少女の姿は徐々に変化してゆく。
巻きタオルを脱ぎ去ると、スカートをふわりと翻(ひるがえ)しながら、凛々しいその姿を現した。
「夜空にきらめく希望の星!キュアフォーチュン!!」

審判を務める明堂院流師範が、高らかに試合開始を告げる。
「では、先手・キュアサンシャイン!演舞、始め!!」

手渡されたタンバリンを握ると、可憐な演舞が始まった。
夏の太陽の下にそよぐ風を思わせる、爽やかなジングルの音。
きらめく汗が少女の健康的な姿を映し出す。
ときにお尻でタンバリンを鳴らし、可愛らしさとカッコよさをアピールする。
青い春の香りを漂わせながら、演舞は終了した。

「続いて、後手・キュアフォーチュン!演舞、始め!!」

どこか妖しさすら感じさせる、トラディショナルな雰囲気が漂い始める。
キュアサンシャインのそれとは趣(おもむき)を異にするその演舞に、場の空気はがらりと変わり、
やがて皆をその独特な世界に引き込み始めた。
だが、大勢の者がその演舞に見惚れる中、一人、不安な眼差しで見つめる者がいた。
いおなの姉・まりあである。
「......動きが硬いわ。気負っている」
その姉の悪い予感が的中する。
いつきへの対抗心からか、いおなの心に焦りが生じていたのだ。
「(もっと、もっとスナップをきかせて、ジングルの音を響かせなきゃ......!)」
やがて、力(りき)んだジングルの音が響き始め、間も無くいおなの体に異変が生じる。
「うっ、手首が......!?」

17 Mitchell&Carroll :2015/08/25(火) 01:47:19
――タンバリンが、硬い床に落ちる。そして螺旋状に転がり、なかなか静まろうとしないその切ない音が、道場に響き渡る。
ようやく無音となった後、辺りからは溜め息が漏れ、中には涙ぐんでいる者さえいる。
一人の厳しい視線がキュアフォーチュンに突き刺さった。
「お祖父様......」
「未熟者めが。技術を見せびらかそうとするから、そうなるのだ。自分の体を壊すようでは駄目だ」
いおなは堪え切れずに大粒の涙をこぼした。それにつられて、声をあげて泣き出す者もいた。
混沌とした空気の中、審判は告げる。

「勝者、キュアサンシャイン!!」

いおなは涙を拭いながら、いつきと握手を交わした。その手にいつきが込めた想いをいおなが理解するのは、まだ当分先のことである。
その後、皆が二人に駆け寄り、賞賛や励ましの声が飛び交った。
しばらくして氷川流師範が切り出す。
「皆様方、今日はわざわざ集まっていただき、本当に感謝している。しかし、うちの娘が見苦しいものをお見せしてしまった。
 そこで、お詫びと言ってはなんだが、私の演舞を見て下さるかな?」
そう言って先程のタンバリンを拾い上げ、シャラシャラと音を鳴らしながら高く掲げた。
「破(は)っ!!」
長年の修行で鍛え上げられた肉体と精神が、空気を切り裂く。その空間に、燻し銀を思わせるジングルの音が敷き詰められていく。
だが、間も無く氷川流師範の体に異変が生じる。
「うっ、指が......!?」
先程と全く同じようにタンバリンを床に落とし、氷川流師範は指を押さえながらその場に蹲(うずくま)った。

「あのねー、その穴は指を通す穴じゃないんだよ」
「(のぞみ!シーッ!!)←りんちゃん」

「いおなちゃん、手首は大丈夫?」
「ええ。一瞬、電気が走ったけれど、今はもう大丈夫よ」

「氷川流師範、大丈夫ですか......!?」
「む......骨に達しているようだ......」



 完!!

18 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/09/16(水) 22:34:12
こんばんは。
フレッシュの長編をスタートさせて頂きます。
タイトルは、『幸せは、赤き瞳の中に』
第1話は5、6レスお借りいたします。

19 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/09/16(水) 22:34:50
 高速で後ろへと流れる光の回廊が、ふいに途切れる。
 目の前に現れる白いゲート。開いた先には、もう西の空へ傾きかけた太陽と、まだ真昼のような明るさを残した空があった。

「とうちゃ〜く!」
 ラブが右手を高々と挙げてそう叫ぶと、ぽん、とクローバーの丘の上へと降り立つ。美希と祈里が、互いに顔を見合わせて小さく微笑み、ラブに続く。それを見届けてから、せつなも笑顔で異空間移動ゲートの外に出た。

 途端に初夏のじっとりとした熱と、むせ返るような草の匂いが体を包む。
 東せつなとしてラビリンスに戻ってから半年と少し。四つ葉町に帰るのは、これが三度目だ。そして毎回、こうやってこの世界の季節に肌で触れると同時に、胸の奥をやんわりとつねられたような、優しい痛みを感じる。
 ほんの数秒、静かに目を閉じてその感触を味わってから、せつなはパッと目を開け、小走りで仲間たちの後を追った。

「いやぁ、楽しかったなぁ、お料理教室!」
「ま、先生があまりにも先生らしくなくて、お料理教室っていう感じじゃなかったけどね〜」
 満足そうなラブの後ろから、美希がからかうような口調で声をかける。
「もぉ、美希たんってば。みんなで楽しくお料理して、楽しく食べられたら、それが一番だよぉ」
「うん、そうだね。なんて言うかぁ、凄くラブちゃんらしかったかも」
「うん! って……ブッキー、それってどういう意味?」
 くるりと美希を振り返って口を尖らせたラブが、祈里の笑顔に複雑な表情で首を傾げた。それを見て、せつながたまらず、口に手を当ててクスクスと笑い出す。
「あーっ、せつなまで笑うなんてヒドい!」
「ごめんごめん」

(それにしても……やっぱりみんなは凄いわね)

 せつなは、笑いさざめく仲間たちに笑顔を向けながら、心の中でそっと呟いた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第1話:幸福な食卓 )



 中学三年生の夏休みを迎えたラブたちは、今日、せつなと一緒にラビリンスに出かけていたのだった。せつなが給食センターの職員たちと一緒に春先から準備して来た、新生・ラビリンスで初めての料理教室の、お手伝いをするためだ。

 調理器具と一緒に用意した真新しい調理台の前に、これまた新品のエプロンを身に着けた、老若男女三十人ほどの生徒が並ぶ。一番後ろの調理台には、今日の手伝い要員として、既に料理の手順を覚え、せつなと一緒に予行演習も済ませた給食センターの職員たちが、ずらりとスタンバイしている。
 期待と緊張が入り混じった彼らの視線の先には、この日のために祈里が作った、赤、ピンク、水色、黄色のエプロンを着けた四人の少女たち。その中の一人――赤いエプロンを着けたせつなが、口火を切った。

「皆さん、準備はいいですね? ……じゃあラブ、お願い」
「は、はい!」
 ラブがゴクリと唾を飲み込んでから、調理台の上のタマネギを手に取る。それを合図に、美希と祈里は調理台を離れ、生徒たちの横手に回った。

 今日のメニューは、ラブが得意なハンバーグと、サラダと野菜スープだ。
 包丁さばきは実に鮮やかなのに、説明は何だかしどろもどろのラブに代わって、せつなが分かりやすく料理の手順を解説していく。

 せつなの言葉に耳を傾け、ラブの手元を一心に見つめてから、生徒たちがぎこちない手つきでタマネギの皮をむく。そして、包丁の持ち方を何度も確認しながら、真剣な面持ちで微塵切りを始めた。

 辺りはしんと静まり返って、聞こえるのは説明役のせつなの声だけ――そんな状況が数分続いたのだが、生徒たちの間から、小さく「痛っ!」という声が聞こえた途端、その場の空気はガラリと変わった。

「あ! 指切った? 大丈夫? う、うわぁっ!」
 ラブが慌てて声のした方へと向かおうとして、勢い余って床につんのめりそうになる。
「ラブ! だいじょぶ?」
「もうっ、何やってんのよ」
 せつなと美希が素早く駆け付けて、両脇からラブを支えた。

20 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/09/16(水) 22:35:31
「怪我は、大したことないみたい。痛みますか?」
「いいえ、もう大丈夫です。ありがとう」
 その頃には、怪我をした女性の元には祈里が駆け付けていて、慣れた手つきで手当てをしていた。

「ナハハ〜、失敗失敗。えーっと、台所にはいろんなものが置いてあるし、火を使う場所だから、何があっても落ち着いて……」
「それ、お母さんがよくラブに言ってることよね」
「うっ……ごめんなさい」
 照れ笑いのラブに、極めて真面目にツッコむせつな。二人のやり取りを隣で見ていた美希が、アハハ……と明るく笑った。それにつられるように、あちらこちらから小さな笑い声が漏れ始める。
 それはだんだんと大きくなって、ついには調理場全体が明るい笑いに包まれた。

 ラブが再び照れ笑いをしながら、気を取り直して調理台に立つ。
「怪我が大したことなくて良かった……。包丁はね、慌てないでちゃんと使い方を守れば、恐くないんです。ほら、こうやって。ね? あ、見えにくい人は、遠慮しないでこっちに見に来ちゃって!」
 あの小さな失敗が功を奏したのか、ラブの口調がさっきよりずいぶん滑らかになっている。生徒たちの方も、周りを見回しながら恐る恐るラブの周りを取り囲んだ。

 美希がその様子を見て小さく微笑むと、近くでタマネギと格闘している男の子の元へと向かう。
 救急箱を片付けて戻って来た祈里の方は、照れ臭そうな笑顔で、せつなに小さく手招きした。
「せつなちゃん。あっちの人、切り方ちょっと間違えてるみたい。わたしはお料理あんまり得意じゃないから、せつなちゃんが見てあげてくれる? お願い」
 せつなが一瞬ポカンとしてから、その言葉にフッと頬を緩め、祈里に教えられた生徒に歩み寄った。祈里はそれを見届けてから、今度は後ろで成り行きを見守っている給食センターの職員たちに、にっこりと笑いかける。

「よぉし、じゃあ切ったタマネギをボウルに入れて、挽肉と混ぜて行くよ〜」
 よく通るラブの声に、調理台のあちこちから、はーい、という声が上がる。
 その頃には、手伝い要員も含めた全員が調理台に立って、小声ながら談笑しつつ、楽しげに料理を始めていた。

 さらに一分の後。
「いいこと思いついたっ!」
 ハンバーグのタネを完成させ、それを丸める段階に移ろうとしたラブが、再び明るい大声を上げた。全員が手を止めて、最初の時と比べて格段にキラキラした目でラブに注目する。

「ねぇ、みんな。少し小さくなっちゃうけど、このボウルの中身を二つに分けて、一人二個ずつハンバーグ作ろうよ!」
「でも、これはハンバーグ一個分の材料なんですよね?」
 生徒の一人が不思議そうに問いかける。
「うん。でも大丈夫だよ! 一個は自分で食べるけど、もう一個は誰かに食べてもらうの。そしてその分、誰かのを貰って食べ比べてみるの。
みんな、自分が作ったハンバーグだけじゃなくて、隣の人が作ったのも食べてみたいでしょ? それに、自分が作ったハンバーグも、誰かに食べてもらいたいって思わない?」

 全員が一瞬しんとしてから、隣同士、そっと目と目を見合わせた。そして少しくすぐったそうに、小さく笑い合う。その時、手伝い要員として参加していた若い女性が、あ、と明るい声を上げた。
「それって……誰かと“半分こ”ってことですね?」
「その通り!」

 ラブが満面の笑顔で頷いてから、近くの調理台を手伝っているせつなの方に目をやった。照れ臭そうな、少し得意そうな、そしてとても嬉しそうな、何とも複雑な表情。それを上目づかいに一瞬だけ睨んでから、せつなが赤くなった頬を隠すように、さりげなく顔をそむける。

「じゃあ、予備の材料も持って来て、もっとたくさん作りましょうか。僕、材料を取りに行ってきます」
「いいね! せっかくだから、たくさん作った方が楽しいよね!」
 今度は若い男性の手伝い要員の弾んだ声に、ラブは緩みかけた顔を慌てて引き締めると、一緒に張り切って冷蔵庫に向かおうとする。だが。
「ちょっと、ラブ! 半分を交換するだけなら、たくさん作る必要はないでしょ?」
 せつなの生真面目な声が追いかけて来て、ラブと若者は、あ……と顔を見合わせた。
 どちらからともなく、エヘヘ……と力のない笑い声を上げて頭を掻く。その情けなさそうな顔に、調理場は再び穏やかな笑いに包まれた。

21 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/09/16(水) 22:36:06
 こんなちょっとした暴走はあったものの、ラブの提案のお蔭で、調理の後の試食タイムはさらに賑やかで楽し気なものになった。
 自分が作った料理を食べる仲間の顔を、心配そうに固唾を飲んで見つめる者。
 同じ材料を使って同じ手順で作っているのに、こんなに味が違うなんて……と驚く者。
 美味しい、という仲間の声を聞いて、嬉しさと照れ臭さでひたすら目を泳がせる者。
 中には“半分こ”だけでは飽き足らず、別のテーブルにまで出かけて行って、ひと口ずつ食べ比べを始める者も出始めた。

「は〜い、ハーブティーが入ったわよ〜。肉料理に合うように、さっぱりしたブレンドにしてみたの。良かったらどうぞ」
 美希が、祈里に手伝ってもらって、ポットとカップを載せたお盆を持ってテーブルを回る。今日のメニューに合わせて自分で選んだ茶葉を、四つ葉町から持って来たのだ。

 そもそも“お茶を飲む”という習慣が、ラビリンスには無い。
 誰もが恐る恐るカップに口をつけ、美味しい、と呟いたり、何だか不思議そうな顔をしたり、くんくんと匂いを嗅いだり。
 そのうち何人かが美希の周りに集まってきて、熱心に質問し始めた。美希も柔らかな口調で、丁寧に質問に答えている。

 せつなは、ラブと並んでテーブルに座り、全員の様子を端から端までじっくりと眺めていた。
 その顔には穏やかな笑みが浮かんでいるが、よく見るとその赤茶色の瞳が、小刻みに揺れている。彼女が内心ひどく驚き、激しく心動かされている証拠だった。

 四つ葉中学校の昼休みよりは静かだけれど、わいわいガヤガヤと絶え間なく聞こえてくる無秩序な声。
 時に楽しげに、時に心配そうに、相手の反応に一喜一憂して、くるくると変わる人々の表情。
 テーブルのあちこちから、これまた絶え間なく響いて来る、楽しそうな笑い声。

 ほんの数か月前、給食センターで自分一人が先生になって開いた、今日のための予行演習の様子を思い出す。
 あの時も、人々は今日のようにとても熱心で協力的だったけれど、今日とは雰囲気が天と地ほどに違った。初めて経験する料理というものに、目を輝かせて興味津々ではあったけれど、こんなに楽しそうな空気は感じられなかった。

(本当に、ここはラビリンスなのかしら……)

 どうやったらみんなでご飯を作って食事をする幸せを伝えられるのか、あの時は一人、人知れず悩んでいたというのに……。

 ラブがそんなせつなの様子を、実に嬉しそうな眼差しで、隣からそっと見つめる。そして、ハンバーグのカケラをわざとらしく、ごっくん、と飲み込んでから、おもむろにせつなの肩をつついた。

「ほら見て、せつな。あの子たち、何だかあたしたちみたいじゃない?」
 そこには、ちょうど中学に上がるかどうかというくらいの年頃の女の子が二人、頬と頬とをくっつけるようにして、小さな一つのハンバーグを仲良く一緒に食べている姿があった。
 ねっ? と少し上気した笑顔を向けてくるラブに、赤い顔でコクリと小さく頷きながら、せつなは何だか夢でも見ているような気持で、この明るく幸せに満ちた食卓の光景を眺めていた――。


   ☆


「せつな〜、どうしたのぉ?」
 不意にラブの声が聞こえて来て、せつなは追憶から覚めた。いつの間にか、仲間たちからずいぶん遅れてしまっている。ラブ、美希、祈里の三人は、いつになく歩みの遅いせつなを心配するように、こちらに顔を向けて立ち止まっていた。
 四人はクローバーの丘を抜けて、クローバータウン・ストリートの近くまでやって来ていた。前方から聞こえて来るのは、きっとすぐ先の四つ葉町公園で鳴いている、蝉たちの声だろう。
「何でもないわ」
 せつなは笑顔で駆け出すと、仲間たちと並んで歩きながら、彼女たちの顔を見回した。

「みんな、今日はどうもありがとう」
「どういたしまして! あたしもすっごく楽しかったよぉ」
「何よ、改まって。まぁ、アタシのハーブティーも好評だったし」
「わたしはあんまり役に立てなかったけど、みんなで作ったハンバーグ、美味しかったよね」

 いつもと変わらない三人の笑顔に、せつなの笑みも大きくなる。だが。
「さぁて、明日から何しよっか。まずはダンスレッスンでしょう? それから、三人でどっかに遊びに行ってぇ……あ、週末になったら、家族でドライブに行くのもいいかも!
ねぇ、せつな。それまでこっちに居られるでしょう?」
 ラブの弾んだ声に、せつなの顔が少しだけ曇った。

22 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/09/16(水) 22:36:40
「……せつな?」
「あ……うん。それくらいは居られるといいんだけど……」
「ラビリンスで、急ぎの用事があるの?」
 ラブと美希に心配そうな顔を向けられて、せつなが慌てて笑顔を作る。

「ごめんなさい。まだ予定が立っていないけど、次のお料理教室の準備を、いつから始めなきゃいけないかなって……。まだまだ、希望者がたくさんいるし」
「でも、給食センターの人たちは普段の仕事もあるから、そう頻繁には開催出来ないんでしょう? その、毎週、とかは」
 祈里の言葉に、そうね、とせつなが頷くと、ラブが勢い込んでその手を取った。
「だったら、せつなはもう少しこっちに居なよ! あたしたちも夏休みだし、お父さんとお母さんも、せつなと一緒に居たくてうずうずしてるんだからぁ!」

 ねっ? と笑顔でこちらを覗き込んでくるラブの瞳に、自分の顔が映っている。
 少し困ったような、それでいてとても嬉しそうな……。その顔は驚くほど間が抜けた、無防備な顔に見えた。
 何だか少し可笑しくなって、せつなはフッと小さく笑う。

(これが私の、幸せな顔なのかしら)

 幸せな時間を積み上げることで、自分の幸せの形を知っていきたい。そうすることで、ラビリンスの人たちに幸せを伝えることも、きっと出来るはず――。
 それは今年の春、ある事件をきっかけに再び四つ葉町に帰って来たせつなが、そのときの経験を通して学んだことだった。
 今、この幸せの町で、家族や親友たちと過ごす時間を持てたことも、きっと幸せの形を知る一歩なのだろう。
 ラブや美希や祈里、あゆみや圭太郎にとっての、特別な日々を送るわけではない。求めているのはささやかだけどあたたかい、ごくありふれた日常。でも、せつなにとってそれは特別の、かけがえのない一歩だ。
 その一歩を積み上げて行けば……。

(私もいつか、みんなのように幸せを広げていけるかしら)

「わかったわ。じゃあ週末まで精一杯、みんなと楽しく過ごさせてもらうわ」
「やったぁ!」
 ラブが両手を天に高々と突き上げて叫んだ、そのとき。

「よぉ。お前たち、今帰りか」
 聞き慣れた声と共に、公園の入り口から、一人の男が姿を現した。
 オレンジ色の半袖シャツに、グレーのハーフパンツ。すっかり夏の装いとなった、西隼人――元・ラビリンス幹部ウエスターの、この世界での姿だ。

「隼人さん!」
 ラブが嬉しそうな声を上げて、男の方へと駆け寄る。三人もそれに続いたが、隼人の顔を見た瞬間、せつなは僅かに顔をしかめた。
 隼人の方はそんなことを知ってか知らずか、いつもの能天気な笑顔で四人を迎える。

「もう来てるなんて早いね。カオルちゃんに、今日の報告?」
「おう。今日は押しかけて悪かったな。おまけにご馳走にまでなっちまって」
「ううん。たっくさん作ったから、みんなに食べてもらえて良かったよ」
 嬉しそうにかぶりを振るラブに、隼人も穏やかな笑みを返す。

 ウエスターが、今所属している警察組織の部下らしい若者を何人も連れて、料理教室の会場にふらりと現れたのは、試食タイムの最中だった。それも、ウエスターお手製のドーナツが入った紙袋を、彼自身も部下たちも皆、両手いっぱいに抱えて。
 元々ドーナツに目が無かったウエスターは、ひょんなことからカオルちゃんに弟子入りして、熱心にドーナツの作り方を習っている。今日はその成果である手作りドーナツを、大量に持って来てくれたのだ。
 思いがけないデザートの差し入れに、会場は更に湧き立った。そして、急遽彼らの席が設けられ、みんなで作った料理を分け合って、一緒に食べることになったのだった。

「隼人さん、腕を上げたよね〜。今日のドーナツ、超美味しかったよぉ」
「そうか!?」
 ラブの言葉に、隼人が心底嬉しそうな顔をする。
「うん! みんなもすっごく喜んでたよ。じゃ、あたしたちからもカオルちゃんに、ちゃんと感想を報告しなきゃね。行くよっ、せつな、美希たん、ブッキー!」
「オーケー!」
「うん!」
 ラブが、あの頃と同じように仲間たちに号令をかけて、ドーナツカフェへ向かって走り出す。美希と祈里はすぐに後に続いたが、せつなは隼人の隣に立って、大男の顔を見上げた。

23 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/09/16(水) 22:37:28
「ねえ、隼人」
「なんだ?」
「今日、あなたが連れて来た人たちの中に、女の子が居たでしょう? あの子もあなたの部下なの?」
「いや、あいつはまだ、単なる知り合いと言ったところだ」
 事もなげにそう答えた隼人だったが、せつなの次の質問――正確には確認の言葉を聞いて、その表情が微妙に変わった。

「あの子……施設育ちよね?」
「やっぱり分かるか。まぁ、俺が連れているヤツらで、そうじゃないってヤツは一人も居ないがな」
 少し低くなった隼人の声を聞いて、せつなが、やっぱり……と小さく呟く。
「どこの棟?」
「E棟だ。見覚えがあったか?」
「いいえ。あの頃は、戦闘訓練で当たらない年下の人間になんて、興味なかったもの」
 苦いものを含んだせつなの言葉に、今度は隼人が小声で、そうだな、とぼそりと言った。

 “施設”――それは、かつてラビリンスに三か所存在していた、軍事養成施設のこと。ノーザを除く三人の幹部と、それに続く武人を育成していた施設だ。
 歴代のイース、ウエスター、サウラーは皆、それぞれの施設――E棟、W棟、S棟から一人ずつ選ばれるのが決まりだった。勿論、せつなも隼人も、例外ではない。

 メビウスによる管理体制が崩壊した後、これらの施設は解体され、そこに属していた子供たちは、一般の子供たちと同じ居住区に移った。だが、物心つく前の幼い子供はともかく、長い年月を施設で過ごしてきた子供たちにとって、変わりつつあるラビリンスは、そう簡単になじめる世界では無かった。
 ウエスターは、そんな子供たちをとりわけ気にかけていて、居住区に顔を出してドーナツを振る舞ったり、中でも年長の何人かを警察組織に誘ったりしていた。

 そして、今日料理教室にやって来た若者たちの中に紅一点の、せつなより少し幼く見える少女が居た。
 肩の少し上くらいで切り揃えた、少しくすんだライトブラウンの髪と、色素の薄いラビリンス人には珍しい、オレンジがかった鮮やかな紅い瞳を持つ少女。
 揃って体格のいい男たちに混じって皆の前に現れた少女は、その一人だけ華奢で可憐な容姿よりも、目の覚めるような鮮やかな身のこなしと、人一倍ふてぶてしい態度で皆の目を引いた。

 抱えて来たドーナツの袋を、放り投げるような乱暴な手つきでテーブルの上に置き、そこに集まっている人間たちを、鋭い目つきでじろりとねめつける。
 一緒に食事をしようと勧めた給食センターの職員は、至近距離に居たにも関わらず、まばたきひとつの間に彼女を見失った。
 部屋から飛び出したところをウエスターに連れ戻された彼女は、椅子に座ろうともせずに腕組みをしたまま料理を一瞥して、ふん、と鼻を鳴らした。が、半ば強要されてしぶしぶハンバーグをひと口頬張ると、一瞬目を丸くしてから、がつがつと皿の上の料理を平らげた――。

(ひょっとしてあの子は今も、施設に居た時と同じように、たった一人で戦っているんじゃないかしら……)

 心の中でそう呟きながら、燃えるような赤い眼差しを思い出す。途端に胸の中が炎で焦がされたようにチリチリと痛んだ気がして、せつなは隼人に気付かれないように、静かに息を吐き出した。

「まあ、あいつのことは心配するな。今のところ居住区で問題は起こしていないし、俺も気を付けて見ている」
 いつもの明るい声に戻ってそう言ってから、隼人がそんなせつなに向かって、パチリと片目をつぶって見せる。

「それに、前に師匠が言ってたぞ? 食べ物を旨そうに食べるヤツは、それだけで幸せをひとつ手に入れられる、ってな」
「それが本当だとすると、あなたとラブは、いつも真っ先に幸せをゲットしてるってことになるわ」
「おお! やっぱりそうか?」
 半ば本気で喜んでいるような隼人の様子に、せつながようやく、クスリと笑った。

 二人はそれきり黙ったまま、ドーナツカフェの方へと足を向ける。
 四つ葉町公園の木々は、少しオレンジ色に染まった光をちらちらと反射して、夏の一日の終わりを、美しく彩っていた。


〜終〜

24 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/09/16(水) 22:38:32
以上です。失礼しました!
全何話になるかまだ分かりませんが、どうぞしばらくの間お付き合いください。
よろしくお願いします。

25 名無しさん :2015/09/20(日) 17:16:50
来年3月にフレッシュの公式小説が出るらしい!
今から楽しみでなりませんね〜。

26 名無しさん :2015/09/21(月) 09:09:23
>>25
マジですかー!?3月か〜待ち遠しいな〜!
無印とハトプリの評判もまずまずですかね?フレッシュも期待したい♪

27 Mitchell&Carroll :2015/10/15(木) 01:04:40
もしかしたら18禁かもしれません。その時はすみません。


『奏は肉球がお好き』


奏「うぅ〜、肉球…肉球〜……」
エレン「どうしたの?アレ」
響「ここのところずっと肉球触ってないらしくて、禁断症状が出てるみたい」
エレン「か、奏…よかったら私の親指の付け根、触って……」
奏「ありがとう、エレン……(もきゅもきゅ)嗚呼、ダメだわ、こんなのじゃ……」
エレン「がーん!こんなの、って……」
響「なにか肉球の代わりになるモノ……そうだ!」

響「ほら、コレ、肉球の形のグミ!(開封)奏、これ触って元気出して!」
奏「……私をバカにしてるの!?(バシッ)」
響「あ……」
エレン「響がせっかく買ってきたグミが……地面にバラバラと……」
奏「肉球はねぇ!!香ばしい匂いがするのよ!!そんな甘ったるい匂いなんかしないのよ!!!」
響「ひどい!!せっかく奏の為に買ってきてあげたのに!!もう奏なんて知らない!!!」
ファリー「おいしいファファ……」
エレン「こらっ!拾い食いやめなさい!」

エレン「ねえ、奏。一緒に来て欲しいところがあるんだけど……」
奏「え……?」

エレン「ほらっ、ここ!“猫カフェ”!えー、なになに?本日…定休……日」
奏「ふふっあはははは!!@▽@」
エレン「奏!!気をしっかり持って!!」
アコ「そもそも、肝心のハミィはどこにいるの?」
エレン「自分探しの旅に出るって言って、どっか行ったわ」
ハミィ「ただいまだニャ」
エレン「おかえり、ハミィ。自分は見つかった?」
ハミィ「結局、ハミィはハミィだったニャ」
アコ「バカの会話だわ……」
奏「ハミィ!!待ってたのよ!肉球触らせて!!」
ハミィ「い、痛いニャ!!もっと優しくニャ!!」
奏「イク!イク!!」
エレン「行くって……どこに?」
アコ「猫カフェなら閉まってるわよ」
奏「(失神)」
エレン「キャーッ!?奏、大丈夫!?」
ハミィ「電気が走ったニャ……!!」
アコ「すごく幸せそうな顔してるわ……」

響「おまたせ、奏!猫、連れて来たよ!!」
ミス・シャムール「ごきげんよう、えぶりわ〜ん!ミス・シャムールよ〜ん♡
         で、悩める子猫ちゃんというのは、どなたかしら〜ん?」
アコ「もう解決したわよ」
響「えっ」


おわり

28 名無しさん :2015/10/16(金) 19:33:36
>>27
ミス・シャムールの肉球スタンプ、奏に押してあげて!

29 運営 :2015/10/28(水) 22:41:02
こんばんは、運営です。
れいん様より、今年2月の競作で投下して頂きましたコロ助MH様作「幸せの素」の挿絵イラストを頂きました。
新しい「幸せの素」のペンダントを片手に幸せそうに微笑むせっちゃん!
保管庫に挿絵として保管させて頂きます。ありがとうございました。

30 ドキドキ猫キュア :2015/10/30(金) 21:28:01
ドキドキプリキュアのハロウィン小説です 時期設定は 六花達が中3の時の話です

タイトルはtrick or treat 4スレ程使います。

31 ドキドキ猫キュア :2015/10/30(金) 21:28:33
trick or treat

ピンポーン ピンポーン 六花ー 六花ー!! ピンポーン ピンポーン

六花「はぁ・・・」

溜め息を付きながらも 六花はしぶしぶ玄関に向かう

声の主は誰かは分かってる そして目的も。 とうとうこの日が来たか・・・と、
六花は思っていた。

レジーナ「もう、さっさと出て来なさいよ!!」

あぐり「客を待たせるとは関心しませんわね」

そこにはエースと小悪魔の仮装をしたレジーナとあぐりがいた。

六花「あぐりちゃんまで一緒になって 随分と楽しそうね(呆れ)」

あぐり「当たり前ですわ!仮装するだけでお菓子が沢山手に入る・・・こんな夢のようなイベントはありませんわ☆」

レジーナ「そうよ!だから六花もお菓子ちょうだい!!」

あぐり「トリック or トリートですわ♪」

六花「・・・ないわよ」

テンション高らかにせがむ二人につれない返事をする六花。

レジーナ「はぁ!?」

あぐり「どういう事ですの!!」

六花「だーかーら 無いって言ってるの! だいたい 私はあなた達に付き合ってる暇はありません 」

レジーナ「何よ!マナはももまんくれたのに六花の意地悪ぅ〜!!」

あぐり「プリキュア五つの誓い 一つ!プリキュアたるものイベントを蔑ろにしてはならない!! 許しませんわよ六花!!」

六花「はいはい、お菓子が欲しいなら他をあたってちょうだい。」

そう言って六花は扉を閉めてしまいました。

レジーナ「ムカつく〜!! なんなのよあの態度」

あぐり「仕方ありません、ありすの所にでも行きましょう」

レジーナ「そうねぇ きっとありすなら凄いお菓子をくれるに違いないわ」

二人は行ってしまいました。

32 ドキドキ猫キュア :2015/10/30(金) 21:29:24

ピンポーン ピンポーン ピンポーン ピンポーン

六花「しつこい!! お菓子は無いって言ってるでしょ!!」

まこぴー「ごめんなさい・・・(しょぼーん)」

六花「え、まこぴー!!ごめん またレジーナ達だと思って」

慌てて謝る六花

まこぴー「いいのよ 突然来た私も悪いし・・・」

六花「いや、ホントにごめん>< てゆーかその格好は何・・・」

ぬりかべの格好をしているまこぴーにちょっと引いてる六花

まこぴー「ハロウィンだからナッツハウスに遊びに行ったら こまちさんに捕まってこんな姿にされたの」

六花「まこぴーってホントにのぞみ達と仲がよいのね っていうかこまちさんのチョイス・・・」

まこぴー「りんの幽霊姿も凄かったわ!! そうそうみゆき達も来ていて なおがりんを見た途端超高速で逃げて行ったわ 流石は風のプリキュアね!」

いや、注目する所そこじゃないけど・・・と六花。こまちさんは恐ろしい人だと思いました。

六花「りんもなおも大変ねぇ・・・」

まこぴー「それでね 豆大福とシュークリーム沢山貰ったからみんなにおすそわけしようと思って♪」

六花「そうだったの わざわざありがとう」

まこぴーは六花に豆大福とシュークリームを渡しました。

33 ドキドキ猫キュア :2015/10/30(金) 21:30:00

六花「さてと 集中集中」

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

六花「・・・今度は誰よ?」

トリック or トリート にんじーん♪♪

六花「・・・・・・」バタン

マナ「ちょ、ちょっとー六花 なんでそんなに冷たいの〜><」

六花「一体何の冗談かしら マナ」

怖い顔をする六花 マナは慌てます

マナ「今日は ハロウィンなんだから そんな顔しちゃだめだよ〜>< ほら 六花も楽しもうよ ね?」

六花「あのねー わたしは受験勉強で忙しいのよ そもそもあなたもそんなんで大丈夫なの?もう少し受験生としての自覚を」

突然説教を始める六花 マナはたじたじです

マナ「あううう〜 一応 毎日頑張ってるから大丈夫だよ 今日はハロウィンなんだから 六花も息抜きが必要だよ><」

六花「あなたはよくても 私はよくないの とにかく、今日は帰って頂戴!!」

マナ「六花様〜><」

六花が相手にしてくれなくてマナは残念そうでした。

六花「全く・・・マナは浮かれ過ぎよ その気楽さが 逆に羨ましいくらいだけど」

そう愚痴をこぼしながら勉強を再開する六花。

34 ドキドキ猫キュア :2015/10/30(金) 21:30:36

六花「ふぅ・・・」

少し休憩しようかしら 一息付く六花
まこぴーに貰った豆大福を一つつまみます

六花「うーん おいひー♪ ・・・それにしても」

もうこんな季節なのね と六花。窓の外 遠くを見ながら六花は思います・・・
一年ってほんとあっという間 去年の慌ただしい一年もそうだったけど 今年ももう
10月も終わりか・・・

後どれくらい マナとどれくらい一緒に過ごせるのだろうか? 学校が違うからって会えなくなる訳ではないのだけれど
でも 一緒に過ごせる時間は少なくなるかも知れない この先 大学 社会人 そうなれば もっともっと少なくなるだろう

そう、近いような 遠いような未来の事を考えながら六花はまた一つ豆大福を食べていた。

六花「だめ だめ 暗い事考えちゃ 今は受験の事が一番 集中 集中!!」

ネガティブな考えを打ち消すように六花はまた勉強に戻ります。

ピンポーン ピンポーン ピンポーン

あぐり「六花ー 六花ー!!」

六花「また来たの・・・」

最初は無視しようと思っていましたが
余りにもしつこかったのとあぐりの尋常ではない様子に気になって六花は外に出ました。

六花「どうしたの?てゆうかレジーナは?」

あぐり「レジーナがお菓子の食べ過ぎでお腹が痛いと><」

六花「ハロウィンだからって調子にのるからよ(呆れ)」

35 ドキドキ猫キュア :2015/10/30(金) 21:31:49

レジーナは薬を飲まされて安静になっています。幸い大事には至っていないので大丈夫のようです。

六花「全く世話がやけるんだから・・・」

マナ「六花が来てくれて助かったよ〜><」

六花「だいたい あなた達は少しは加減ってもんを知らないの? そんだけ食べれば普通はお腹を壊すでしょうに」

呆れている六花に不服そうにレジーナは言います。

レジーナ「六花が悪いのよ!」

六花「はぁ?」

レジーナ「六花が冷たいから マナとお菓子のやけ食いしてたの ねーマナ♪」

マナ「え、あ、うん・・・」

六花「どういう事よ」

マナ「だってハロウィンなのに六花が全然つれないから〜 その事でついレジーナと盛り上がっちゃって〜>< そしたら・・・その こんな事に」

六花「ふぅ・・・」

まこぴー「六花?」

六花「あなた達のせいで勉強投げ出してきちゃったわ(呆れ) というか今日はなんか集中できないし、レジーナも心配だし 今日の所はもういっそハロウィンを楽しむ事にするわ(笑)」

マナ「六花様〜><」

六花「全く・・・(微笑み)」

ありす「あらあら♪」

何だかんだ言って嬉しそうな六花でしたとさ。

trick or treat 完

36 ドキドキ猫キュア :2015/10/30(金) 21:32:22
以上です。

37 名無しさん :2015/10/31(土) 09:35:15
>>35
あのメンバーを相手にして、六花がハロウィンに巻き込まれないワケないですよねw
レジーナと焼け食いするマナがツボでした。

38 Mitchell&Carroll :2015/11/07(土) 23:08:03
『ひたすら黙認する、の図 〜食欲の秋〜』

あかね「た、大変や!なおがお腹すきすぎて、幻覚見えとるらしいで!!」
なお「うぅ〜、おなかすいたぁ〜……あ、チョココロネいただきまぁ〜す」
みゆき「う、うわぁぁぁっ!?」
あかね「なお!それ、みゆきの髪の毛や!!」
なお「伊達巻、伊達巻」
キャンディ「ク、クルぅぅ〜〜っ!?」
あかね「キャンディの髪の毛(?)や!」
なお「わぁ〜っ、おっきぃシュークリームだぁ」
やよい「いやぁぁぁっ!!」
あかね「やよいの頭、食べたらアカン!!」
なお「あ〜、コレあたしの大好物(カプッ)」
れいか「いっ‥…」
あかね「(黙認)」
れいか「……あかねさん、早く突っ込んでもらわないと、わたくしの左太ももがなおに食べられてしまいます」
あかね「え?突っ込むトコなんてある?」
なお「ごちそうさまー。あ、もう一本あった(カプッ)」
あかね「(黙認)」
れいか「あかねさん、早くしないと、わたくしの右太もももなおに食べられてしまうだけでなく、
    なおのよだれでベトベトの左太ももが先ほどから木枯らしを受けて、このままでは風邪を引いてしまいます」
あかね「れいかはなおの大好物…‥何もおかしなことなんてあらへん……(ブツブツ)」
れいか「あかねさん!!」
あかね「(黙認)」

おかわり

39 名無しさん :2015/11/08(日) 09:16:47
>>38
おかわり期待www

40 名無しさん :2015/11/10(火) 00:10:08
プリキュアあるある
声優さん、プリキュ「ワ」って言いがち

41 名無しさん :2015/11/10(火) 07:19:42
>>40
プリキュワっ! ヒーリング・プレア〜!!
カワイイw

42 名無しさん :2015/11/10(火) 07:23:44
>>41
ベリーはんはたまーに「プリキャア」になってたw

43 名無しさん :2015/11/27(金) 22:54:48
来年は魔法使いかあ。ってことは再来年は童話がテーマなのかな?

44 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/12/01(火) 22:39:39
こんばんは。
2カ月半も間が空いてしまいましたが(汗)、長編の続きを投下させて頂きます。
5レスお借りいたします。

45 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/12/01(火) 22:40:20
 赤いカーテンの隙間から、朝の光が漏れている。せつなは久しぶりに、桃園家の自分の部屋で目を覚ました。
 普段寝起きしているベッドより、二回りも小さなベッド。部屋の中の温度も、気温そのものが一年中ほぼ一定のラビリンスと違って、変動が激しい。
 それでも、そしてこの家を離れて半年以上経った今でも、この部屋で眠る時が一番安心して心からくつろげていることを、せつなは目覚めの瞬間、改めて実感していた。

 外はもう明るいが、早朝と呼べる時間。昨夜、つい遅くまで話し込んでしまったから、隣の部屋のラブは勿論、家族はみんな、きっとまだ夢の中だろう。

 せつなは手早くダンスの練習着に着替えると、足音を忍ばせて階段を下りた。
 『朝のジョギングに行って来ます』とリビングのテーブルにメモを置いて、家を出る。
 今日は、これまた久しぶりに、四人揃ってのダンスレッスンだ。だから少し身体をほぐしておきたかったし、何より大好きなこの町を、改めてゆっくりと眺めたかった。
 せつなは、玄関先で軽く屈伸運動をしてから、通りを颯爽と走り出した。

 まだ人通りもなく、店々のシャッターも閉まっている商店街。昼間とは打って変わって静かな通りを愛おしそうに眺めながら、せつなは少しずつペースを上げていく。

(何だか香ばしい匂い……。パン屋のおじさん、もうお仕事始めてるんだわ。駄菓子屋のおばあさんも、お元気なのね。今日もお店の前に、ゴミひとつ落ちていない)

 誰も居ないガランとした通りなのに、そこに住まう人々の笑顔が、鮮明に目に浮かぶ。それが嬉しくて、自分でも気付かないうちに頬が緩んでいたせつなだったが、不意にその瞳が大きく見開かれ、足が止まった。

 通りの一角に、『新装開店!』と書かれた大きなのぼり。ビニールをかぶった花輪が、店の前に幾つも並んでいる。
 朝日を浴びて開店を待つファミリーレストラン――そこは一年と少し前、イースが生み出したナケワメーケに壊された店があった場所だった。
 しばらく更地のままになっていたのだが、ようやく新しい店を建てることが出来たのか。いや、それとももしかしたら、持ち主が代わってしまったのだろうか。

――町じゅうを、ジュースの海にしてしまえ!

 あの時の自分の声が蘇る。
 使命にかこつけて、心に巣食う衝動に突き動かされるように暴力を振るった、かつての自分。「人を不幸にする」ということがどういうことか、まるで分かっていなかった――分かろうともしていなかった、あの時の愚かな自分の声が。

(こんな私を、この町の人たちは受け入れて、笑顔を向けてくれた。だからやり直したい。精一杯頑張って、ひとつひとつ。)

 せつなは、ぐっと唇を噛みしめて追憶を受け止めてから、その場所に向かって、深々と頭を下げた。そして元の通りに戻り、今度は一気に加速する。

(私は、この町の人たちのように、ラビリンスを笑顔でいっぱいにしたい。そのために、私に出来ることって何だろう。そもそも私に、何か出来ることなんてあるのかしら……)

 さっきまでと同じように通りを駆けるせつなの姿。だが、その頭の中にあるのは、今は四つ葉町商店街の人たちの顔ではなかった。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第2話:二兎を追う者 )



「あ、せつなちゃん!」
 日課である犬の散歩の途中で、四つ葉町公園の石造りのベンチで休憩していた祈里は、商店街へと続く通りに目をやって、明るい声を上げた。

 遠くから見る見るうちに近付いて来る、一人の少女。ジョギングと呼ぶには速すぎるスピードなのに、その走り方は実に軽やかで、まるで空を飛んでいるかのようだ。
 しなやかな獣のような美しい姿に、思わず見とれていた祈里だったが、その姿が次第に大きくなるにつれ、うつむきがちな表情が目に入ってきて、ハッとした。
 真剣に考え込んでいるように見える、何だか他者を寄せ付けないような、緊張感を持った表情――。
 祈里が心配そうに、かすかに眉を下げる。と、少女の顔がこちらを向いて、それまでとは百八十度違う、嬉しそうな笑顔になった。

46 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/12/01(火) 22:40:51
「おはよう、ブッキー。早起きね」
「せつなちゃんこそ。わたしは、今日は何だか早く目が覚めちゃったの。そうしたら、この子たちにお散歩をせがまれて」
 祈里の足元でじゃれ合っていた二匹の小型犬が、せつなにワンワンと吠えかけながら、千切れんばかりに尻尾を振る。それを楽しげに見つめてから、祈里は持ち前のおっとりとした口調で言った。

「久しぶりよね〜、せつなちゃんとのダンスレッスン。楽しみだわ」
「そうね。みんなとちゃんと息を合わせられるといいんだけど」
「ミユキさんの練習プランは、こなせてるの?」
「ええ、特に問題ないわ」

 四つ葉町にあまり頻繁には帰って来られないせつなのために、ミユキはダンスの練習プランを組んで渡していた。一カ月や二カ月レッスンが受けられなくても、なるべくレベルを落とさずに他のメンバーに付いて行けるよう、ミユキが何度も試行錯誤して作ったプランだ。
 最近はせつなだけでなく、モデルの仕事が忙しくてレッスンを休みがちな美希も、このプランで自主練習をすることが増えて来ていた。

 二匹の頭を優しく撫でてから、その場で屈伸運動を始めたせつなの笑顔が、心なしか硬いように見える。久しぶりに四人揃って、しかもミユキの前で踊るのだ。さすがのせつなも、少し緊張しているのかもしれない。そう思って、祈里がニコリと笑って話題を変えた。

「そう言えば、せつなちゃん。明日は、どこに行きたいの? どこか、行きたいところがあるんでしょう?」
 今日はミユキにしごかれるだろうが、明日は朝から四人で遊ぶ約束をしているのだ。
 ラブと美希と三人で相談していた時は、海や遊園地に遊びに行こうかという話も出たのだが、ラブがせつなの希望を聞いてみると、出来れば四つ葉町で過ごしたいという返事だと言う。

「ううん。ただみんなと楽しく、四つ葉町での時間を過ごしたいだけ」
「それだけでいいの?」
「ええ。そして、この町の幸せを少しでも、ラビリンスに届けられたら、って……」
「そっか。じゃあ、せつなちゃんがどんな幸せを届けたいのかで、明日の予定を決めればいいね」
 祈里の思いやりがこもった同意の言葉を聞いた途端、何故かまた微かに、せつなの顔に陰が帯びる。それを見て、祈里は今度こそせつなの顔を真っ直ぐに見つめると、柔らかながらストレートな調子で問いかけた。

「ねぇ、せつなちゃん。何か、困っていることがあるんじゃないの?」
「え?」
「何かあるなら、言って? わたしで良ければ、話だけでも聞くよ?」
 大きく目を見開いて祈里の顔を見つめ返したせつなが、それを聞いて小さく微笑む。そして少し顔を俯かせながら、言葉を押し出すように話し出した。

「この町には、幸せに繋がる楽しいことが、たくさんあるわ。ほんとに、数えきれないくらい」
 みんなでお喋りをしたり、ご飯を食べたり、ダンスをしたり。それから、スポーツやお買い物や、お祭りや……。
 ひとつひとつを、さも大切そうに、嬉しそうに数え上げてから、せつなはそのままの表情で、祈里の顔を見つめた。
「ラビリンスの人たちが、楽しいことをたくさん知って、一人一人が、自分の好きなことを見つけてくれたら、とても嬉しい。でも……」
 せつなの顔が、再び下を向く。そして膝の上に置かれた自分の手を見つめたまま、せつなはしばらくの間、沈黙した。
「……私、みんなのように、喜びや幸せを伝える自信が無いの。どうやって伝えればいいのか、よく分からなくて」

 隣からせつなの顔を覗き込むようにして、じっと話を聞いていた祈里の顔に、穏やかな笑みが浮かぶ。そして祈里は、白くほっそりとしたせつなの手の上に、そっと自分の手を重ねた。
「あんまり伝えようってばかり、思わなくてもいいのかも」
「え?」
「わたしね、せつなちゃん」
 黄色と赤の練習着が、石造りのベンチの上で、そっと寄り添う。

「前に、聞かれたことがあったけど……。わたしが本当にダンスをやりたいって思ったきっかけはね。トリニティのミユキさんにダンスを教えてもらえるから、ってことじゃ無かったの」
 突然何の話が始まったんだろう、という顔で小首をかしげるせつなに微笑んでから、祈里はベンチの後ろに広がる雑木林を指差す。

「ラブちゃんの誘いを断った後にね。あの辺から、レッスンを受けてるラブちゃんと美希ちゃんを、こっそり見てたの。まだ始めたばっかりだから、ステップも全然踏めなくて、テンポだって滅茶苦茶なのに、二人ともとっても楽しそうで、生き生きしてて……。それを見てたら、わたしもやってみたいな、って思ったの」
 そう言って、祈里は目の前に広がる石造りのステージに、その穏やかな視線を向ける。まるでそこで、その時のラブと美希が踊っているかのように。

47 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/12/01(火) 22:41:42
「本当に楽しそうに何かをやっている人を見たら、自分もやってみたいって思う人は、きっと居ると思う。そして一緒にやれば、もっと楽しい時間が過ごせるわ。だから、まずはせつなちゃんが、楽しんでいる姿を見せればいいんじゃない?」
「私が? でも、そんなにたくさんのこと、私一人じゃ……」
 驚いた顔で呟くせつなに、祈里が笑ってかぶりを振る。
「楽しいって気持ちを知れば、新しい楽しみを探そうっていう人も、きっと現れると思うの。そういう人が増えて行けば、きっと少しずつ、いろんな楽しいことが増えていくわ。だからね。まずはせつなちゃん自身が心から望むことをして、幸せを感じられることが、一番大切なんじゃないかな」
「私が……一番楽しめること? 幸せを、感じられること?」

 せつなが、一言一言を噛みしめるように、小さく呟く。祈里がゆっくりと頷いた時、通りの方から、せつなと祈里を呼ぶ声が聞こえて来た。
 いつもの青い練習着に身を包んで、美希がこちらに向かって一心に走って来る。
「あ、美希ちゃん。おはよう」
「おはよう。二人とも、今日はヤケに早いんじゃない?」
 美希がハァハァと息を弾ませて、首にかけたタオルで額の汗をぬぐう。その顔を、せつなは夢から覚めたような顔で見つめると、すぐにまた、穏やかな笑顔になった。



   ☆



「うわぁ、美希たん、カッコイイ!」
「うん。いつもより、なんか大人っぽいかも」
 試着室の前でポーズを決める美希に、ラブと祈里が目をキラキラさせる。そんな二人に小さく微笑んでから、美希はやや緊張気味な視線を、もう一人の親友に向けた。
 人差し指を下唇に当てて、せつなが真剣そのものといった顔つきで、美希の姿を上から下までじっくりと眺めている。その眼差しに、美希が思わずごくりと唾を飲み込んだその時、せつなの表情が、ふっと緩んだ。

「完璧ね。その差し色、やっぱり美希によく似合ってる」
「あら。差し色だなんて、せつな、ファッションに随分詳しくなったんじゃない?」
 濃い砂色のワンピースの襟元に、明るいターコイズブルーのスカーフをあしらった美希が、ニヤリと笑ってから、こっそりとホッとしたような息をつく。

 せつなが帰って来て三日目の今日は、朝から四人揃ってのお出かけだ。昨日はダンスレッスンでみっちりしごかれてヘトヘトになったのだが、四人とも、今日は勿論元気一杯だった。
 祈里の希望で今話題の映画を観て、ラブの希望でハンバーガーを食べてから、四人はこのブティックにやって来ていた。ここへ来たいと言ったのは美希だが、ラブも祈里も、楽しそうに何着も試着を繰り返している。
 私服に着替え、さっさと支払いを済ませた美希は、張り切った様子でせつなの腕を取った。

「じゃあ、次はせつなの番かしら?」
「私? いや、私は別に……」
「なぁに言ってんのよ。ここまで来て遠慮しないの。アタシが完璧に……」
「せつな、ほら! これなんか、せつなにすっごく似合いそうだよ。あと、これとぉ……それから、これも!」
 美希が得意げに言いかけたところへ、ラブが両手いっぱいに洋服を抱えてやって来た。そして鼻歌交じりでせつなを試着室に押し込む。

「ちょっと、ラブ! こんなに沢山、着られないわよ」
「いいじゃんいいじゃん。ちょっと着てみるだけだから。気に入ったのだけ、買えばいいんだからさ。ねっ?」
「だから、私は買うなんて一言も……」
「うふふ。せつなちゃんも、ラブちゃんには敵わないね」
 楽しそうな祈里の言葉に、美希はハァ〜っとため息をつくと、さっきのせつなの慌てた顔を思い出して、クスリと笑った。



 結局、それから一時間ほど後にドーナツ・カフェに腰を落ち着けた時には、四人全員がブティックの紙袋を提げていた。
 テーブルの上に置いた紙袋に、嬉しそうにそっと手を触れるせつなに向かって、美希が再びニヤリと笑う。

「何だか嬉しいなぁ。せつながこぉんなにお洒落に興味を持ってくれるなんて」
「そ……それほどでもないわよ」
「そんなこと言って〜。一緒に買い物すれば分かるわ。今日はアタシの出る幕なんか無かったじゃない? 自分に似合う服を、完璧に選んでて」
「いや、これはラブが無理矢理……」
「でも、せつなも気に入ったんでしょ?」
 畳みかけるような美希の問いかけに、せつなが赤い顔でこくりと頷く。それを見て、ぱぁっと笑顔になったラブが、さらにテンション高くせつなに詰め寄った。
「そうだよねっ! だってせつな、超可愛かったもん。ねぇ、すっごく気に入った? ねえねえ、せつなってばぁ!」
「……ええ。すっごく、気に入ったわ」

48 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/12/01(火) 22:43:45
 ますます真っ赤になったせつなの横顔を、優しい眼差しで見つめるラブ。そんな二人を、美希も笑顔で見守る。
 四つ葉町に帰って来ても、どうやらラビリンスのことばかり考えているらしいせつなに、何か素敵な買い物をさせてあげたい――そう思って完璧な計画を立てていたのだが、ラブのせい……いや、ラブのお蔭で、思った以上に上手く行ったようだ。

「さぁて、ドーナツを食べながら、次にどこに行くか決めなきゃねっ!」
「そうだね。じゃあ、まずは注文に行かなくっちゃ」
「カオルちゃーん!」
 ラブと祈里が笑顔で席を立って、ドーナツ・ワゴンに向かう。それを見送ってから、美希はせつなの方に顔を寄せて、囁くように言った。

「せっかくだから、ラビリンスでもお洒落しなさいよ。自分が気に入った服を着る幸せを一番伝えられるのは、せつな自身のファッションだと思うな〜」
「え……な、何言ってるのよ! 私は美希と違って、モデルにはなれないわ」
「ノンノン! 雑誌の写真で見るのと、実際にその服を着て、楽しそうに動いている人を見るのと、どっちが素敵に見えると思う? 着ている人が、その服を気に入っているのなら、尚更よ」
 途端にドギマギと目を泳がせるせつなに、美希がパチリと片目をつぶる。
「ラビリンスに幸せを伝えるんでしょう? だったら、せつな自身が幸せな姿を見せなくてどうするの。好きなものは好き、欲しいものは欲しいって、せつなはもっとアピールしていいと思うわよ?」
「別に、私は……」
 せつなが真っ赤な顔で言いかけた時。
「は〜い。美希たんはアイスティー、せつなはオレンジジュースだよね〜」
「カオルちゃんに、ドーナツおまけしてもらっちゃった。ほら」
 ラブと祈里が、ドーナツが詰まったバスケットと四人分の飲物を持って、笑いさざめきながら戻って来た。

 せつなは、まだ赤い顔で美希を軽く睨んでから、ドーナツをひとつ手に取って、そのハート型にあいた穴を、じっと見つめた。



   ☆



 その夜。せつなは自分の部屋のベッドに横になり、ぼんやりと天井を見つめていた。
 階下からは、ラブとあゆみの話し声が途切れ途切れに聞こえてくる。時折、圭太郎の明るい笑い声がそれに混じる。
 すっかり聞き慣れた――そして今では少し懐かしい、桃園家の団欒の声。その輪の中に混じってみんなの話を聞いている時間は、せつなが何よりも好きな時間だ。
 だが、今日は少し疲れたからと言って、先に部屋に戻ってきてしまった。一人で考えてみたいことが、たくさんあったからだ。

 家族で笑い合って、ご飯を食べて。仲間たちとダンスレッスンをして、みんなで四つ葉町のあちこちにお出かけをして。
 ずっとこの町で過ごしたかった、かけがえのない時間――それなのに、気が付くと、いつもラビリンスのことを考えている自分が居る。この町で幸せな時間を積み重ねるために帰って来たのに、幸せを感じている気持ちのどこかに、常にラビリンスの影がある。
 その癖ラビリンスに居る時は、何度となく四つ葉町の家族や仲間たちの姿を思い描いてしまうというのに。

(私がこの町で幸せな時間を過ごしたいのは、自分の幸せの形を知りたいから。じゃあ、何故それを知りたいのかと言えば、そうすることで、ラビリンスに幸せを伝えたいから。だとすれば……両方が気になってしまうのは、当然なのかもしれない)

 “二兎を追う者、一兎をも得ず”――かつて覚えた、この世界の諺を思い出した。ダンスとプリキュア、両方やろうと明らかに無理をしていたあの頃のラブに、何とかプリキュアを諦めさせようとして言った言葉だ。

(四つ葉町で積み上げる私の幸せと、ラビリンスに届けたいみんなの幸せ――。繋がっていると思っていたのに、ひとつにはなれないのかしら)

 寝返りを打って、今は闇に沈むカーテンに目をやりながら、仲間たちの言葉を思い起こす。

――まずはせつなちゃん自身が心から望むことをして、幸せを感じられることが、一番大切なんじゃないかな。

――好きなものは好き、欲しいものは欲しいって、せつなはもっとアピールしていいと思うわよ?

49 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/12/01(火) 22:44:22
(幸せは、こんなにも……溢れるほどに貰っているわ。心から望むこと? 私が欲しいものは……)

 そう自分に問いかけた時、ズキリと胸が痛んだ。
 心から望んだことも、欲しいものをアピールしたことも、いくらでもある。そのために、多くの人を傷付けたことも。それでもあの頃、本当に欲しいものは、決して手には入らなかった。
 今、こんなに多くの人たちから幸せを貰っているというのに、何故胸が騒ぐのだろう。
 そう思ってじっと心の奥に目を凝らせば、あの頃の自分が――イースがまだそこに居るような気がする。

(もしかしたら、それが怖くて、私は……)

 せつなは、ひとつ頭を振って気持ちを落ち着けると、もう一度天井の木目を見つめた。

(もう誰も傷付けたくない。誰の笑顔も奪いたくない。だから――私が望むのは、みんなに幸せを伝えること。そのための、私の幸せよ)

 ベッドから起き上がり、机の一番上の引き出しの奥から異空間通信機を取り出す。何だか急に、ラビリンスの次のお料理教室の準備のことが気になったのだ。とは言え異世界に居る自分がわざわざ連絡を取ったりしたら、きっと何事かと思われるだろう。

(この世界の端末と繋げれば、メールくらいなら見られるはず……)

 一瞬、圭太郎の書斎にあるパソコンを借りようかと思ったが、万が一壊してしまったりしたら申し訳ない。かと言ってリンクルンでは、端末としては少々スペックが不足している。
 少し考えてから、以前、タルトがよく遊んでいたゲーム機を使うことにした。タルトは使っていなかったようだが、このゲーム機にはネット環境が備わっているのだ。
 多少試行錯誤はしたものの、三十分ほど経った頃には、せつなはラビリンスで使っている自分のメールアドレスを開くことに成功した。
 小さなゲーム機の画面に並ぶ、未読メールのタイトル。心なしか、いつもより数が多いな、と思いながら、一件一件、中身をチェックする。

(え……何これ。給食センターで、何かあったの?)

 最初は不思議そうだったせつなの表情が、次第に怪訝そうなものになり、ついには険しい表情に変わった。

〜終〜

50 一六 ◆6/pMjwqUTk :2015/12/01(火) 22:44:53
以上です。ありがとうございました!

51 名無しさん :2015/12/07(月) 10:04:01
うぉぉい!また続きが気になるところで終わりましたね
長編は制作大変だと思いますけどいつまででも待ってますんで続きはよ下さい‼︎ (矛盾)

52 名無しさん :2015/12/12(土) 00:55:08
せつなはいつか、「伝える」んじゃなくて「伝わる」ってことに気付くんだろうね

53 Mitchell&Carroll :2015/12/12(土) 01:07:52
なんか毎回、一六さんの後に変なの出してすいません

『マダムモメールの憂鬱』


 ブルブル……日本の冬は寒いのね。何か温かい飲み物でも飲んで、ひと休みしようかしら。
……まあ、移動販売のドーナツ屋さん?丁度良かったわ。ついでに甘い物でもいただこうかしらん♪

「すみませぇ〜ん、オススメのドーナツ三つと、何か温かい飲み物、くださるぅ〜ん?」
「ごめんねーお客さん。今、あの子達の分で材料切れちゃって、今日はもう店じまいなのよ。また来てねー」
「まあっ、何ですって!?お詫びに私のドーナツの穴、埋め(自主規制)」

 ははぁ〜ん、あの小娘たちね?ここは一つ、さりげな〜く会話に加わって、さりげな〜くドーナツを分けて貰おうかしらん。

「あらぁ〜若いっていいわね〜お肌もツルツルで!ねぇ、何のハナシしてたの?」
「ひっ!?ねぇ、ラブちゃん、どうしよう!?」
「お、落ち着いてブッキー!こういうときはたしか、背中を見せないようにして、そのまま後ずさりして……」
「それは熊に遭った時の対処法でしょ?私は全然平気よ。ファッション業界はこういう人ばっかりだから」
「ラビリンスにはこういうタイプの人はいなかったわ」

 なんだかリアクションがバラバラね。まあいいわ。手っ取り早くドーナツいただきましょ。

「あらぁ〜ん?おいしそうなもの食べてるじゃな〜い!ホントにおいしそうね〜(ジュルジュルペロペロ)!
 ねっ、それひとつ分けてくれなぁ〜い?」
「(こ、この人は動物学的には♂なの!?♀なの!??)」
「(この人、口の回りが真っ青……さてはどこかでブルーハワイを!?)」
「(素材、色遣い、内側からにじみ出る美意識……この人、只者じゃないわ!)」
「(ラビリンスの科学力を持ってしても、この人の特性はデータ化できそうにないわね)」

 あら?みんな神妙な面持ちになっちゃって……さてはドーナツをよこさないつもりね?
力ずくで奪っちゃおうかしら。でも、モメ事は起こしたくないわ。ええ、アタシはもうモメ事を起こすのも見るのもイヤ!

「ねぇ〜ん、一口だけでいいから、それ、くれないかしらぁ〜ん?」
「あ、ああっあなたはおすなのめすなのぉ〜〜っ!??」
「どっどどっどこでぶるーはわいを〜〜っ!??」
「ぶっぶぶぶぶぶらんぶらんどどど!!!」
「◎△$♪×¥●&%#!!!」
「ちょっと!テーブルがひっくり返っちゃったじゃないの!!もぉ〜なんなの〜!?モメモメ〜〜〜ッ!!!」
 
 
 おわり

54 名無しさん :2015/12/13(日) 16:45:21
>>53
マダムモメール……w
ハワイを氷漬けにしてたし、寒いの好きなんじゃなかったっけwww

55 Mitchell&Carroll :2015/12/13(日) 23:20:37
>>54
浄化後という設定なので!( ̄^ ̄)ゞ

56 名無しさん :2015/12/13(日) 23:49:06
>>55
ああ、そっか。だからモメ事はもうたくさんなんだ。
失礼しましたw
だったらハワイにいればいいのに、日本に来たかったんだねw

57 そらまめ :2015/12/18(金) 21:23:33
こんばんは。ご無沙汰しております。
せつなが吸血鬼だったらな話というssの続きのようなものです。
前作がだいぶ前なので覚えてないと思いますが…よろしくお願いします。
せつなが吸血鬼だったらな話 パート2 です。

58 そらまめ :2015/12/18(金) 21:24:40
あの日から、何度目かの満月が来た。

ラブに自分が吸血鬼だと知られ、一緒に暮らすことになったあの日から私の日常は変わった。

まず、朝起きてから火を熾す。ということをしなくなった。そんなことをしなくてもコンロの摘みを捻れば火が出るし、自分で材料の調達をしなくても冷蔵庫を開ければ食材が入っているから鮮度の心配もいらない。

また、お風呂が温かい。まあ火を焚いて水を温めれば前にいたところでもできはしたが、如何せん面倒くさいのだ。自分ひとりだけなら行水でいいかと思ってしまい、ついつい水浴びで済ませていた。

それに、布団がフカフカしている。寄せ集めの枯葉やなんやらで作った簡易ベッドもいいにはいいが、やはり羽毛には勝てないようで、いつも熟睡してしまっている。


と、上記の事を住まわせてもらっている感謝と共にラブに言うと、何故だか涙を流して抱きしめられた。

抱きしめられながら、前の場所との一番の違いは、この空間の暖かなぬくもりだとは恥ずかしくて言えないと、そっと苦笑いしながら窓から空を見上げる。

今日も、やってくるのだろう。黄色くて大きなあの月のせいで、まだ午前中だというのに胸がざわつく位だから。それと同時にいつもよりも苛立ちを感じるし、些細な事も気に障る。そろそろ、限界だろうか。


ラブからの血の提供は、ほとんど最小限と言っていいくらいに少なくしている。最初の無意識での半ば暴走したあれのせいで、吸血をするという行為自体に嫌悪していた。いくらラブからの了承があったとしても、本当にぎりぎりになるまでは控えている。

そして、そんな非日常的なことが行われていることは、未だほかの人は知らない。できれば、ずっと知らずにいてほしい。ラブのように受け入れてくれる人ばかりではないとわかっているから。

59 そらまめ :2015/12/18(金) 21:27:30
案の定やってきたのは、丁度おやつ時だろうかという頃だった。騒々しい地響きとナケワメーケを連れてきたウエスターは、今日はナケワメーケと一緒になって攻撃してきた。


「イース!」

「私はもうイースじゃないって言ってるでしょ!」


ウエスターが私を呼ぶ。変わらずイースと呼び続ける彼にいつも以上に苛立ちが募る。いつもより雑な攻撃。当然の事ながらそれは躱されて、逆に死角を作ってしまった私にウエスターからの蹴りが背中から衝撃となって伝わってきた。


「パッション落ち着いて! みんなで連携してナケワメーケを倒さなきゃ!!」

「わかってるっ!」


息を切らせながらピーチ達に並んだ。今の自分が冷静でない事は分かっている。それでも体の内側からくるイライラを抑えきれなくて、奥歯を噛みしめて耐える。


「イース! こちらに戻ってこいっ!!」

「うるさい! 私は戻らないって言ってるだろ!!」


いつもより乱暴な言葉遣い。そのやり取りにみんなはどう思っているだろかと考えても、その反応を見る余裕は今の自分にはなかった。


「余裕が無さそうだな」

「関係無いでしょ」

「今日は、満月だもんな」


そう言って、まだはっきりと出ていない白い月を見上げたウエスターは、いつもとは違って気怠そうだった。横で「満月だと何かあるの?」「さあ?」とベリーとパインが話すのを聞きながらウエスターを睨む。大体私がこうなるのを知っていたから今日襲撃してきた癖に。そういう所も今の私の苛立ちを助長させていた。



「戻ってくる気はないか…」

「当たり前でしょ」

「ならこれをやる」

「っ…!」


少しだけ落胆したような雰囲気をしながら私に差し出したのは、銀色のパウチだった。デザインなどない銀色が日常的ではない仕様を感じさせ、人工さを助長させている。それに入っている中身の液体を私は知っている。血液だ。あの容器からするとラビリンスで支給されているものだろう。


「いら…ない!」

「どうせお前の事だからずっとやせ我慢してるんだろう? でも今日は流石に無理だと思って持ってきた。おとなしく受け取っておけ」

「あなたはもう私の敵なのよ。敵から物を貰うなんて出来るわけないでしょ」

「敵とか味方とかじゃない。だってお前もう、変わり始めてるじゃないか」

「えっ…」


その瞬間、後ろから風が吹き視界の端に髪が映る。プリキュアになっているから桃色のはずの髪が、銀色になっていた。まるでイースの時のように。

ウエスターの背後に月が見える。いつの間にか日が落ちてはっきり見えるようになった黄色く、大きな丸い月。

見てしまった。体がざわつく。動悸が激しい。苦しい。

立っていられなくて、膝を落として地面に手をついた。痛いくらい手のひらを握っても、治まりきらない。

60 そらまめ :2015/12/18(金) 21:28:02
「ぐぁっ……はぁっ…くっ」

「ほらみろ」

「パッションっ!」

「なんで髪の色が…!」

「どこか痛いのパッション?!」


そのうちプリキュアの変身が解けて、代わりにスイッチオーバーした姿になった。


「ウエスター! せつなに何をしたの!!」


未だ地面に俯いて何かに耐えるせつなを庇いながら、ベリーは怒気を荒げて叫んだ。その眼は睨むよりもさらに強くウエスターを射抜く。


「俺は何もしていない」

「ならどうしてせつなはイースの姿になっているの?! なんでこんなに苦しそうなの!!」

「それは今日が満月だからだ」

「茶化さないで!」

「茶化してない。だってイースは…」

「言うな!!」


何かを言おうとしたウエスターを遮るようにせつなが叫ぶ。その声に驚いたベリーが振り返ると、胸に手を当てて苦しそうに、そして悲痛な表情でウエスターを見ていた。そんな反応にも驚いたが、近くにいるピーチがウエスターに対して自分と同じようには追及しない事や、なぜか悲しそうな表情でせつなを見ている事に理解が出来なかった。


「言うな…」

「そいつらに知られたくないのか? 仲間なのに? …よく分からんな。だがそうだな…知られたくなかったら今すぐ俺達のところに戻ってこい」

「なん…で、そんなの…」

「サウラーならこの場面ではこう言うんだろうな。俺はこういうやり方はあまり好きじゃないが、目的は一緒だからまあいいか。どうするイース?」

「そんなの…」


選べるわけない…ラビリンスにはもちろん戻りたくない。ラブは自分の事を知っているからいいが祈里と美希に知られるのも嫌だ。

でも、どちらかを選ばなければいけないというのなら……私は一人になる事を選ぼう。遅かれ早かれこうなるとわかっていたからこそ、今まで必要以上に仲良くなる事を拒んできた。これからは、今までの距離がより遠くなるだけだ。大丈夫。自分は何も失くしてない。だって元々何も持っていなかったんだから。



「せつなの何を知ってもあたし達が仲間である事は変わらないよ!!」

「そうよ。だから脅しにもならないわよ!」

「わたし達はずっとせつなちゃんの味方でいるの!」



「言えばいい……私は何があってもラビリンスに戻るつもりはない。みんなに知られても、私があなた達の仲間に戻る事はないから」


「せつな…!」


ピーチが嬉しそうにこちらを見る。もうラビリンスには戻らない。ただ、ラブ達の元にも居られなくなるだろうから、ラブの眼を見る事は出来なかった。



「そうかい? なら教えてあげよう。イースは君達のようにただの人間ではなく、人の血液を摂取しないと生きていられないのさ。こちらでは吸血鬼と言うんだっけ?」

「え? その声…え? 吸血…鬼?」


脇の茂みからそう言って現れたのはサウラーだった。


「ウエスター、あんまり遅いから見にきてみれば、やっぱりイースにそれ渡すつもりだったんだね」

「うわっサウラー?! えっとこれはその…」

「はあ…全く……ほらもう今日は帰るよ。僕達だって今日はなるべく静かに過ごさなきゃいけないんだから。今日は失礼するよプリキュアのみなさん。イースも、プリキュアを辞めて戻ってくるなら歓迎するよ」

「それは無いわね」

「そうか。じゃあね」


慌てるウエスターとダイヤに戻したナケワメーケを連れて、暗闇に紛れて消えてしまったサウラーが残した言葉は、しばらくの間四人の動きをとめていた。

61 そらまめ :2015/12/18(金) 21:28:44
バキッ!と音がした方向を見ると、ウエスターが壁に穴をあけている。その音は、壁が壊れた音だけなのか、拳が一緒に砕けたのか定かではない。でも、自分たちに限って後者はないか。と、いまだ興奮冷めやらぬ彼を冷やかな目で見ながら紅茶に口をつけた。


「くそっ!! イースの奴!」

「落ち着きなよウエスター。大体こうなることは解っていたんじゃないのか?」

「くっ…!」


断られることを予想していなかったわけではないけれど、あそこまでなって、それでもあちら側にいることが、腹立たしかった。

こちらに適応するよう変えていた姿が無意識に解かれるなんて、それほど切迫しているのになぜあれを受け取らなかったのか。


「俺だって、これは嫌いだけど」


ラビリンスから定期的に送られてくるパック。血液の入ったそれの味が、ウエスターはあまり好きではなかった。無機質な味というかなんというか、そもそも血液の味自体が好きじゃない。あの鉄を噛み砕いているような感じ。だがこれを言うと決まって理解できないといった顔をされるので、いつしか主張することはなくなった。


「君も、そろそろ摂取しておかないとじゃないのか? 最近大食いに拍車がかかっているようだし」

「うっ…わかってる…」


いつからかは覚えていないが、消極的な血の摂り方をしていたら、体がヤバいと判断したのか人より多く食べるようになっていた。それがさらに大食いになると、そろそろ血液が必要だという基準にもなっていて、仕方なくパックを一つ手に取った。


「あー、まじこれまずいわー」

「そんなに嫌なら自分で調達してきたらどうだい?」

「それもなあ…結局同じものだし…」

「まあ僕はどんなものでもどんな味でも必要に応じて摂れればいい。ただ、定期的にというところには煩わしさを感じてしまうけどね」


くしゃっと空になった容器を握りつぶすウェスタ―を横目に、同じように軽くなったそれをゴミ箱に捨て、紅茶を飲む。


「…紅茶には合わないな」


口直しにコーヒーを入れるため立ち上がったサウラーに、締め切られたカーテンの隙間からチラリと月が見えた。

62 そらまめ :2015/12/18(金) 21:29:24
気まずい空気と言うのはこういうのを言うのだろうかと、祈里はチラリと思う。もしくは空気がどんよりしていて重いともいえる。

そう考えてしまうほど、この部屋にいつもの優しい心地よさは漂ってはいなかった。


「あ、あのね…」


ラブがオロオロと視線を彷徨わせた後、小さく口にする。それはどこか、小さな子供が親に咎められる時のように所在なさげで、いつものような勢いはなかった。


「ラブは知ってたのね」


そんな声にいつものように凛とした、ともすればそれよりは低く感じる音程で発した美希の声にビクリと肩があがるラブ。それと同じように、それまで微動だにしなかったせつなの体が少し動いた気がした。


「…うん。知ってたよ」

「いつから?」

「せつながうちで暮らしだすちょっと前から」

「そう」


淡々と、一問一答のように答えては、チクリチクリと体に刺さる空気に、祈里は身動ぎする。

横目に映るせつなは、うつむいた顔をいつまでもそうしていたため、髪に隠れた奥の表情を窺い知る事が出来ずにいる。

吸血鬼。おとぎ話でしか聞いたことがないその単語。空想上の生き物だと思っていた。祈里からしてみればユニコーンや妖精の類と同類くらいの位置にいたそれが、今目の前に居ることに未だ信じられずにいた。だって、せつなはどう見ても自分たちと同じだったから。楽しそうに笑い、おいしそうにドーナツを食べ、言葉を交わし一緒に戦っている。そんなせつなが吸血鬼だというのなら、自分が思っていたよりも吸血鬼という存在は遠い物語のように身構えるものではないのかもしれない。鳥が空を飛ぶように、野良猫が歩くように、何でもない日常の一部でしかないのかもしれない。

そんな風に思うのだ。そう思えるほど、せつなが自分の生活に溶け込んでいて、今更夢物語のように外側の世界には追いやれなかった。


「ウェスタ―がなんか渡そうとしたわよね。あれは何?」

「…あれの中身は…血液よ。ラビリンスで支給されるもので、私達は定期的にあれを飲まなくてはいけない事になってる」


抑揚のないせつなが説明する言葉に、この場にいる全員が耳を傾ける。


「そういう体質だから、こちらに来てかも占い館に居る時は摂取していたわ」

「なら、ラビリンスから抜けた後はどうしてたのよ。まさか町の人を…」

「せつなはそんなことしないよ!!」


美希の言葉を遮って、それまでの声音が嘘のように大声で唸ったのは、まるで絞り出すかのようで、泣きだす一歩手前のようで、思わず祈里は胸前の服を握る。


「せつなはずっと我慢してた! どんなに辛くても必死で抑えて、もしかしたら死んじゃってたかもしれないのに最後までずっと! せつなは自分の欲望に負けて町の人を襲うなんてしない!」

「そう…せつなは死にかけてたのに誰にも言わなかったってことよね」

「うん。あたしがあの日家に呼んでなかったら、こうして一緒に住むこともせつなの体質もわからないままだった。わからないまま、いつの間にかせつなはいなくなってたかもしれない…」

「そうなのせつな? アンタあのままだったらどうするつもりだったの?」

「そ、れは…症状は抑え込んでたし…」

「何事も限界ってものがあるわ」

「ギリギリまで我慢するつもりだった」

「アタシはギリギリのその先を聞いてるのよ」

「それは…その」

「死んでもいいと、思ったんでしょ」

「……」

「人に迷惑かけるくらいなら、理性が負けるくらいならって」


淡々としていた美希の口調が荒々しくなっていく。そこで祈里はやっと気付いた。美希の気持ちが揺れ動いているその原因が、せつなが吸血鬼だったからじゃないことを。


「ふざっけんじゃないわよっ!!」


ついに限界を突破した美希の怒号に部屋の空気が揺れる。

63 そらまめ :2015/12/18(金) 21:29:55
「アタシはねせつなが吸血鬼だったとかそんなことはどうでもいいのよ! だから何? 今更そんなこと聞いたところで、アタシの中ではせつなはもう仲間だもの! 大体せつながラビリンスの一員だったって知った時の方が衝撃度が高いわよ!! そんな経験してるんだからちょっとやそっとのことじゃアンタを否定する気にも仲間外れにすることもできないわ!! アタシがキレてんのはそれじゃない!」


吸血鬼がそんなことと言ったかこの人は。この世界では化け物の類であるそれをそんなことで切り捨てる美希に、心底驚いた。それと同時に、なら何に怒っているのだろうか。という疑問が湧いてくる。もしかして自分がラブから血液を提供してもらっていることだろうか。


「意味わかんないって顔ねせつな。この際だから教えてあげるわ。アタシはね、結構友達多いのよ」

「は…?」


いきなりの友達多い自慢に、自分でもわかるほど気の抜けた声がでた。はてなマークが頭の上を飛び交う。


「モデルだからいろんな人と出会うし、そこからの人脈で知り合いになる人もいるから、普通の中学生よりは顔が広いの。でもね、どんなにたくさん友達ができたからって、ラブとブッキー以上に一緒にいたいって思える人はいなかった」

「美希たん…」

「美希ちゃん…」


まあ確かにそうだろう。幼いころからずっと一緒だったと聞いている。自分にはそういった存在はいないからよくは分からないけど、美希にとって二人を差し置いて一緒に居たいと思う人ができないことは、想像に難くない。


「ずっと三人でいくんだろうって思ってた。高校生になっても大人になっても三人で、その中に入ってくる人の存在なんて考えてすらなかった。でも、初めて思った。この輪の中に入れたい人がいるって。三人が四人になってもいいって思った。それがせつなだった」

「え…」

「今までこんなこと思ったことなかった。せつなを輪に入れても、それが当たり前みたいにすんなり受け入れられた。せつなはもう、ラブとブッキーと同じくらい、アタシの中では大切な友達なの。突然いなくなっていい存在じゃないの」


音もせず、涙が流れた。気付かないほどそっと落ちる雫に、ようやく自分が泣いていることを理解して、少ししてから自分がなぜ泣いたのか理解した。

嬉しかった。とても。自分の気持ちが追い付かないほどの暖かいものが湧き上がっている。

今まで、こんなに自分が大切だと言ってくれたことはあっただろうか。面と向かって怒りながら強い感情を向けて肯定してくれたことなんてあっただろうか。

咎められると思った。自分の大切な仲間を傷つけるなんて最低だと言われると思ったし、それが向けられるべき感情だと思った。それなのに、あまりにも予想外な言葉たちに戸惑いを隠せなくて、感情が揺さぶられることも放置して、流れる涙を拭うことすらできなかった。


「せつなは普通の女の子だよ」

「ラブ…」

「ちょっと意地っ張りで照れ屋で、でも誰よりも優しい女の子で、あたし達の大切な仲間だよ。これから先何があっても、何を知っても変わらない。美希たんもブッキーもせつなのこと大切だから、こんなに心配してるの。だからもうひとりで悩まないで。あたし達がいる。大丈夫」


歪む視界でライブ会場で見せたあの時のように優しい目でほほ笑むラブ。左右を見れば同じように美希と祈里も笑いかけてくれた。拒絶ではないその表情に、この部屋の温度が上がった気がした。

64 そらまめ :2015/12/18(金) 21:30:31
「ニンニク食べられる?」

「ええ」

「協会が苦手とかは?」

「この前ブッキーとお祈り行ったじゃない」

「聖水が苦手とか?」

「聖水って何…?」

「なら十字架は?」

「教会で見たけど特に何とも…」

「陽の光は?」

「問題ないわね」

「トマトジュース好き?」

「好きだけど…ってそれ関係あるのラブ?」

「なんかつまんないわね」


質問攻めの後、美希が心底つまらなそうに吐いた言葉に、せつなはがくりと肩を落とした。

どうもこちらの世界の吸血鬼は弱点が多いらしい。血液を摂取すること以外普通の人と変わらないせつなには、特有の弱点はなかった。


「身構える必要すらなかったわね。吸血した相手を吸血鬼にするとか眷属にするとかもないし」

「あっ…それは…」

「でしょ? だからせつなもそんなに恐々しなくていいのになーってずっと思ってたんだよね」

「満月には症状が強くなるってなんだか狼男みたいで面白いね」

「ブッキー、それ多分面白い所じゃないと思う」


わいわいと話が盛り上がる中、せつなはこの三人にまだ伝えていないことがある事実を、言おうか言うまいか迷って、結局言わずにいる事にした。それは症状といったものではなく、通例のようなもので、しきたりの様なものだったから、特に害はないと思った。

吸血鬼がそこら中で誰彼構わずに吸血していったら、いくらラビリンスとはいえ統率が取れなくなる。だから、通常は支給されてくるものを摂取するが、自分の意思で誰かに対して初めて吸血をする時は、それは求婚と同じ意味を持つ。そして吸血を受け入れられたら晴れてパートナーになる。もちろんそんなことお構いなしにする人もいるが、そういう意味も持つのだと教えられた。だから慎重になりなさいと。

あの時半分無意識だったとはいえ、初めて自ら人に吸血を行った。そしてそれはラブに受け入れられた。そんなことを思うと、急速に顔が熱くなっていくのがわかった。


「あれ、せつな顔赤くない? もしかして熱ある?」

「な、ななんでもないから! 大丈夫!!」

「それほんとよねせつな?」

「具合悪かったりする? 無理してない?」


疑うような美希の目線も、祈里の心配そうに眉をハの字にしているのも、ラブにおでこに手をあて熱を計られるのも、恥ずかしさで誰の目線も見ることができなかった。

このことは自分の胸の内に仕舞っておこう。永遠に。

そんなことを思いながら、いまだ疑う三人への言い訳を必死に考えてあたふたする。


そうして、満月に輝く空を背に、まだまだ消えない部屋の明かりと共に夜は更けていった。

65 そらまめ :2015/12/18(金) 21:31:35
以上です。
長々と失礼しました。

66 名無しさん :2015/12/19(土) 00:39:52
>>65
いい! 凄くいいです!
美希たんの怒りのシーンとか、あとラストシーンも最高!
ひさしぶりのそらまめさんワールド、満喫させていただきました!

67 名無しさん :2015/12/19(土) 23:29:08
>>65
マジ切れ美希たん、愛情籠ってる〜!
せつなはラブの血を吸ってるのね、ドキドキ…。

68 名無しさん :2015/12/19(土) 23:45:30
>>65
OMORO!あらためて前作も読み返しましたが、OMORO!!

69 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/01/08(金) 00:15:03
遅ればせながら、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。

遅くなりましたが、フレッシュのお正月小ネタを投下させて頂きます。

タイトルは「クローバータウンで初踊り?」

2レス使わせて頂きます。

70 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/01/08(金) 00:15:47
〜1月2日。商店街の初売りの日です!〜

ラブ 「わっはー! クローバータウン・ストリートも、すっかりお正月って感じだねっ」
祈里 「門松に、注連飾りに、鏡餅。わたしたちの家にもあるけど、お店のは大きくて立派よね」
せつな「ほんと。クリスマスもとっても華やかだったけど、また全然雰囲気が違うのね」
美希 「ええ。なんたってこっちの方が、まさに日本の伝統美よ」
せつな「ねぇ、美希。そのピンクと白の丸い飾りは何? 家には無かったわ」
美希 「え、えーっと、これは……」
駄菓子屋のお婆ちゃん「これは餅花だよ。小さく切って丸めた紅白の餅を、柳の枝にたくさん射して作る縁起物さ」
ラブ 「へぇ! とっても可愛いね、お婆ちゃん」
せつな「ええ。お店の前に、パッとお花が咲いたみたい」
駄菓子屋のお婆ちゃん「そうかい……ほら、福豆、持って行くかい」
ラ美祈せ「ありがとうございます!!!!」

〜どこかから華やかな調べが……〜

ラブ 「ん? 何だか太鼓と笛の音が聞こえるような……」
せつな「あっちの方だわ。行ってみましょう」
美希 「あれ? あそこにいるのって……」
ラブ 「あ、千香ちゃんだ。おーい、千香ちゃーん!」
千香 「いや……怖い……来ないで!」
祈里 「ちょっと待って、ラブちゃん。何だか様子がヘン」
せつな「そうね。千香ちゃん、何かに怯えているみたい」
美希 「あの曲がり角の向こうに、何か居るのかしら」
ラブ 「よぉし。みんな、行くよっ!」

〜そして千香ちゃんの元へと駆け付けると……?〜

ラブ 「千香ちゃん! 大丈夫だよ、今ラブお姉ちゃんが……! って、あ、そういうこと」
祈里 「え? なぁに? ラブちゃん。あ、可愛い!」
美希 「いや、可愛いっていうか……千香ちゃんは怖がってるわよ、ブッキー」
せつな「え……みんな、どしたの? これは……! またシーサーのソレワターセ!?」
ラブ 「違う違う! これはね、せつな。獅子舞って言うんだよ」
せつな「獅子舞……?」
美希 「ええ。これも日本の伝統……」
祈里 「あのね、せつなちゃんっ。獅子舞っていうのは、昔、ライオンさんを神と崇めていたインドの人たちが始めた儀式でね。それが中国大陸から日本に伝わって来たと言われているの。歯をカチカチ鳴らして、幸せを招くのと一緒に邪気を食べてくれるって言われててね。こんな風に二人で舞う獅子舞が多いんだけどぉ、一人で舞う獅子舞もあって、中には三匹の獅子が同時に舞う獅子舞もあるの。それから……」
ラブ 「すとーっぷ! もう十分だよぉ、ブッキー」

〜獅子舞の正体は?〜

せつな「ありがとう、ブッキー。よく分かったわ。獅子が幸せアイテムなのは、沖縄だけじゃないのね」
ラブ 「うん! だから、怖がらなくても大丈夫だよ、千香ちゃん」
千香 「でも……獅子さんが、どんどんこっちに近付いて来るんだもん」
太鼓を叩く男「それはね。獅子舞に頭を噛んでもらうと、一年元気に過ごせるからだよ」
美希 「豆腐屋のおじさん!」
祈里 「笛を吹いているのは、魚屋のおじさんだわ」
ラブ 「え? じゃあ、獅子舞に入ってるのは……?」

獅子舞・後「イテテテ……! こ、腰が……。悪い、ちょっと休憩させてくれ!」
獅子舞・前「あ、大丈夫ですか?」
ラブ 「あー、パン屋のおじさん。それに、蕎麦屋のお兄ちゃん!」

71 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/01/08(金) 00:16:20
〜獅子は一年の幸せを願って〜

蕎麦屋(獅子舞・前)「よぉ、ラブ。お前の頭も噛んでやるよ。賢くなるぞ〜」
ラブ 「やったー! これで今年は補習受けなくて済むよ!」
美希 「ちょっとラブ、そういう意味じゃ……」
せつな「じゃあ、獅子さんのためにもしっかり勉強しなきゃね、ラブ」
ラブ 「えーっ!? とほほ……」
祈里 「せつなちゃん、さすがだわ」

せつな「ねえ、千香ちゃん。獅子さん、もう怖くないでしょう?」
千香 「あ……うん」
パン屋(獅子舞・後)「じゃあ、お嬢ちゃんも噛んでもらいな。今年一年、元気で過ごせますように、ってね」
千香 「うん! ありがとう!」
ラブ 「良かったね、千香ちゃん」

〜そして、せつながおずおずと……〜

パン屋「しかし、獅子舞って思った以上に重労働だなぁ。まだ腰が伸び切らないよ」
せつな「あの……。もし良かったら、獅子舞、ちょっとだけ私にやらせてもらえませんか?」
蕎麦屋「それはいいけど、大丈夫かい? 俺は蕎麦の出前で慣れてるけど、獅子頭って結構重いんだよ? ほら、持ってごらん」
せつな「多分、少しくらいなら大丈夫です」
ラブ 「せつな! 二人でやろっか。せつなが前で、あたしが後ろね」
せつな「ラブ……」

美希 「頑張って、ラブ」
祈里 「ファイト、せつなちゃん」
ラブ 「よぉし。じゃあ、せつな、行くよっ!」
せつな「ええ、精一杯がんばるわ!」

〜そして再び、華やかな音楽が〜

蕎麦屋「そう、歯を鳴らしながら、音楽に合わせて踊るんだ。そうそう、その調子! 上手いなぁ、初めてとは思えないよ」
パン屋「リズミカルだし、何より二人の動きがよく合ってる。流石だな」
美希 「うん。ダンスで培ったチームワーク、完璧!」
祈里 「二人ならきっと上手く行くって、信じてた!」
千香 「獅子舞……カッコいい!」
獅子舞・後「さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 四つ葉町の幸せアイテム、獅子舞を見て、幸せゲットだよっ!」
獅子舞・前「ちょっと、ラブ! 獅子さんの足が喋っちゃダメでしょ?」
みんな「アハハハ……!!」


初春や 笛と太鼓と 笑い声

 幸せ初めの 獅子踊りかな


〜おわり〜

72 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/01/08(金) 00:16:50
以上です。ありがとうございました!

73 名無しさん :2016/01/09(土) 22:20:24
>>72
もしプリキュアが前編・後編の2本立てだったら後編でやりそうなお話
8:45あたりから始まりそうなお話

74 名無しさん :2016/01/11(月) 23:23:31
プリキュア声優トリビア
・キュアパッション役の小松由佳さんは、キュアパッションのことを「パショ子」と呼んでいる
・キュアトゥインクル役の山村響さんは、敵のフリーズの耳が「プルンッ」って揺れるのが好き・・・らしい

75 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/01/27(水) 19:36:52
こんばんは。
遅くなりましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
6レス程使わせて頂きます。

76 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/01/27(水) 19:37:27
「はぁぁっ!」
 二人同時に空中へと跳び上がる。
 眼前に迫る敵の姿。同じ女性なのに、随分リーチが長そうだ。
 身長差十五センチ。脚力はどうやら互角。そして――動きに少々、焦りが見える。
 まずはそれだけを見て取って、次の一手に集中する。

「たぁっ!」
 思った通り、相手が先に打って来た。速く鋭いストレートを、半身になってギリギリで躱す。
 胴に一瞬の隙、狙いはここだ。懐に飛び込み、最高速のジャブを打ち合う。
 一発だが手応えがあった。着地と同時にバックステップで距離を取ろうとする相手めがけて、荒い息を抑え、歯を食いしばって一気に跳ぶ。

「っく!」
 火のような眼差しが私に突き刺さった。
 殺気、苛立ち、そして恐怖。隠す余裕など全く無い、むき出しの感情が込められた、強い力に満ちた視線。
 が、それも一瞬のこと。
 ジャンプの勢いのままに蹴り飛ばすと、彼女は壁に後頭部をしたたかに打ち付け、昏倒した。

「そこまで!」
 教官の声が闘技場にこだまする。
「ES*******。次の実戦訓練は、二日後の同時刻とする」
 自分の国民番号が読み上げられ、次の予定が告げられる――それだけが、今日の試験をクリアし、次へ進めるという証だ。
 だが今日はもう一言、こんな言葉が付け加えられて、私の心臓がドキンと跳ねた。
「次が最後の訓練だ。心してかかれ」

(とうとうここまで来た……。ついに私が“ネクスト”に!)

 早鐘を打ちそうな心臓を、深呼吸ひとつで何とかなだめ、努めて無表情のまま、戦闘服を解除する。

 数メートル先で、ようやくのろのろと起き上がる人影が目に入った。その瞬間に蘇る、さっきの鋭い、何もかも焼き尽くしそうな眼差し。
 自分では見えないが、私も傍から見れば、あんな目をしているんだろうか。
 こいつはまだ生きていられるのだろうか、とふと思った。メビウス様にとって、こいつにはまだ何らかの使い道があるのだろうか。
 だが、もし生きていられるとしても、もうこの施設には居られないはず。おおかた弾よけの兵士か、物資を運ぶ人夫か、とにかく数多の雑兵の一人として、残りの時間を過ごすことになるのだろう。

(どっちにしろ、私には関係のないことだ)

 そう、負け犬を振り返っている暇など無い。
 実戦訓練の間隔がどんどん狭まるようになってから、この訓練の意味は容易に想像がついていた。
 これは、新たな幹部選出のための戦い。この戦いに勝ち残った者が、新しい“イース”となるのだ。その陰で全ての敗者がここを去り、施設の顔ぶれは一気に若返ることになる。
 全てが決められているここでの日々の、唯一の例外。それは、いつも突然に、しかも秘密裡にやって来る、この命を懸けた卒業試験だ。
 最終戦を戦う二人は“ネクスト――次を担う者”と呼ばれ、この最後の戦いだけは、施設の全教官、全訓練生の前で行われるのが決まりだった。

 今の“イース”が“ネクスト”だった時の最終戦を、私ははっきりと覚えている。その一打、一蹴、全ての動きが、今でもこの目に焼き付いている。
 まだ基礎訓練の仕上げの段階で、実戦訓練の場に立つことすら許されていなかったあの頃の私にとって、彼女はそれほどまでに大きな衝撃だった。

 強かった。恐ろしいほどに強かった。
 そして、震えるほどに美しかった。

 次は私……彼女の次に“イース”になるのは、絶対にこの私だ! そう心に誓い、記憶の中の彼女の動きを何度も何度もトレースして、訓練に明け暮れた日々。
 まさかわずか半年後に、あの時の彼女と同じ場所に立てるとは――そう思った途端、身体がカッと熱くなった。
 表情を変えないように注意しながら、闘技場の分厚い扉を開けて廊下に出る。

(メビウス様……。誰よりも早く、あなたのお傍に仕えてみせます。そして誰よりも、あなたのお役に立ってみせます!)

 果たしてもう一人の“ネクスト”――最終戦の相手は、どんなヤツなのだろう。しんと静まり返った長い廊下を歩きながら、そんなことを考えていた、その時。
 突然、ズン、と足元が揺れ、そして――私が知っていた唯一の世界は、その瞬間、木っ端微塵に砕け散った。

77 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/01/27(水) 19:38:18



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第3話:ネクストと呼ばれた少女 )



 二十人以上で囲める大テーブルが、頑丈そうな四角い足を見せてひっくり返っている。その周辺では、真っ白だったはずのテーブルクロスがくしゃくしゃに踏み荒らされて、見るも無残な状態だ。
 テーブルの周りには、横倒しになったり、あさっての方を向いたりしている数多くの椅子。その下には、割れたガラスや陶器の破片が辺り一面に飛び散っている。
 おまけに白い壁のほぼ中央には大きな穴まであいている始末。給食センターの広間は、まさに嵐にでも見舞われたような惨状を呈していた。

「あ〜あ。これはまた、ずいぶん派手にやりやがったなぁ」
 困った顔でガシガシと頭を掻くウエスターの隣で、彼をここに呼んだ給食センターの若い女性職員が、恐縮した顔で頭を下げる。
「すみません、ウエスターさん。まさか異世界にいらっしゃるとは思わなくて……。何か大事なお仕事の最中だったのではありませんか?」
「い、いやぁ……まぁ、気にするな。こっちの方が一大事だからな」
 まさか、カオルちゃんに「新作ドーナツ出来たからさ、食べに来なよ〜」と言われて二つ返事で四つ葉町に出かけていました、とも言えず、ウエスターは引きつった笑いを返した。

 昨日、若年層による“グループ現場体験”――ラブたちの世界で言うところの社会見学と職場体験を足して二で割ったような教育プログラムが、この給食センターで行われ、そこで参加者同士の喧嘩があったのだという。
 それだけ聞けば、たかが子供の喧嘩くらいで、と誰もが思うだろう。だが、当事者二人が施設育ちの若者たちであり、その二人の激しい争いがなかなか収まらなかったことから、被害は予想外のものになってしまった。
 とうとう警察組織の人間が呼ばれて、やっと彼らを取り押さえ、一晩留置。そして改めて、彼らと親交のあるウエスターが呼ばれたというわけだ。

「ところで、俺より先にイースが戻ってきたと聞いたが?」
 ウエスターの問いに、職員は笑顔で頷いた。
「ええ。せつなさんなら、今朝がたいらっしゃいましたよ。ここを見てすぐ、割れてしまった分の食器の調達に行くと言って出て行かれました。もうじき戻られると思いますが」

(何もわざわざ休暇中に戻ってこなくても、もっと誰かに頼ればいいのにな)

 そう心のままに発言しようとしたウエスターが、そこで口をつぐむ。そこには、さっきウエスターに頭を下げた時とは打って変わった、彼女の安心しきった笑顔があった。
 もしかしたら、せつなが休暇中だったとは、この職員は知らないのかもしれない。だとしても、何か困ったことがあったら、せつなが必ず助けてくれる、力になってくれると頼り切っている様子に、ウエスターは何だか腹の底からもやもやとした黒雲が湧き出した様な気分になった。
 そもそもウエスターと同じく四つ葉町に居たはずのせつなが、この事件のことを聞きつけて、ウエスターより半日も早く戻って来ていること自体がおかしいのだ。事件の後始末に困った職員の誰かが、いち早くメールか電話で彼女に相談を持ちかけたとしか思えない。
 その癖ここの職員は、自分たちでは一体どんな後始末をしているというのか……。

(イース……。お前、本当に彼らの期待に、ずーっと全部応えていくつもりなのか? そうやってお前が守ってやることが、彼らの本当の幸せなのか?)

 不意に黙り込んだウエスターに、職員が怪訝そうな顔になる。
「ウエスターさん? どうかしましたか?」
「ん? あ、いや。イースが帰って来たら、俺と一緒に来た客人を、あいつに会わせてやってくれ。今、ロビーで待ってもらっているから」
 ウエスターが曖昧な笑顔でそう言った時、別の職員が、昨日の喧嘩の関係者である子供たちを連れて、部屋に入って来た。



(そうか。喧嘩したのは、こいつらか……)

 職員のすぐ後ろを歩く二人の顔を一目見て、ウエスターの眉間にわずかに皺が寄る。
 一人はウエスターと同じW棟育ちの大柄な少年。将来は警察組織に来ないかと、ウエスターが誘っている若者の中の一人だ。
 そしてもう一人は、華奢な体つきで目つきの鋭い少女。先日四つ葉町でせつなと出会った時、彼女が話題にしていたE棟で育った少女だった。
 ウエスターはコホンとひとつ咳払いをすると、目の前にやって来た二人に向き直った。
 彼らの後ろには、やはり職員に連れて来られた体験学習の参加者たち――彼らと同年代の少年少女たち十人ほどが、固唾を飲んで成り行きを見守っている。

78 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/01/27(水) 19:38:51
「どうした、お前たち。この有様は一体何だ? 何があった?」
「……」
「何故こんなことになったのだ?」
「……」
「俺は責めているのではない。まずは何があったのか、知りたいだけだ。だから正直に答えてくれ」
「……」
 静かな口調とは裏腹に、普段の気さくな兄貴分といった雰囲気は、さすがに影を潜めている。次第に高まって来る得も言われぬ緊張感に、当事者よりも遠巻きにしている外野の若者たちの方が、次第にうつむき加減になった時。
 ウエスターの目の前に立っている少女が、沈黙を破った。

「理由を聞いて、何になる」
「何だと?」
「この部屋をめちゃめちゃにしたのは私だ。理由がわかったからと言って、その事実は変わらない。だから余計な手間をかけず、さっさと私に罰を与えろ」
 挑むような緋色の瞳を見つめて、ウエスターが小さく息を吐く。

「何か争いや問題が起こったら、何故そうなったのか、それを知るのはとても大切なことなんだぞ。ちゃんと原因を突き止めれば、次に同じことが起こるのを防げるかもしれないからな」
「この世界を守る警察とやらの言葉とも思えないな。争いの原因など、今のラビリンスには無数に存在する。ひとつ取り除いたところで、次の争いを止めることなど出来るものか」
 さっきよりさらに穏やかな口調で語りかけるウエスターに、少女は相変わらず挑戦的な視線を向けて、吐き捨てるように言う。
 ウエスターはそれを聞いてうっすらと笑みを浮かべると、腰をかがめて、彼女の瞳をまっすぐに覗き込んだ。
「確かに、お前の言う通りかもしれん。だが、それでもひとつひとつ、争いの原因を突き止めて、お互いに思っていることを言ったり聞いたりすることは大切なんだ。分からなければ、何度でも聞けばいい。そうしたら、もしかしたら分かり合うことだって、できるかもしれないぞ?」
「ふん、私は別に聞きたくはない」
 じっとウエスターを睨んでいた少女が、ぷいっとつまらなさそうに顔をそむける。それを見て、ウエスターは今度は隣に立っている少年の方に顔を向けた。

「お前はどうだ。喧嘩の原因、話してくれないか?」
「……こいつが……メビウスのことを、“メビウス様”って言ったんです」
「それを聞きとがめたのか。なるほど。それで?」
「今のラビリンスは……下らない、醜い世界だ、って」
「そうか。そんなことも言ってたのか」
 考え考え、ぼそぼそと言葉を押し出すように、しかし大いに不満そうに話す少年に、ウエスターは辛抱強く相槌を打つ。

「それでお前がカッとなって、喧嘩になったのか?」
「違います! 先に手を出したのは、こいつだ」
「ほぉ?」
 口を尖らせる少年に、ウエスターはニヤリと笑って先を促す。
「かつてのラビリンスは素晴らしかった、メビウスの管理は完璧だった、なぁんて言いながら、こいつだって昔とは違うんだ。昨日だって……」
「やめろっ!」

 そこで突然、少女が割って入った。掴みかからんばかりの勢いで、少年の言葉を遮る。
「それ以上言うな。言ったらただでは済まさないぞ!」
「何故だ……そこまで嫌がるようなことか?」
 真っ赤な顔で食ってかかる少女と、面喰った様子の少年。それを見て、ウエスターが諦めたように、フッと小さく笑った。

「わかったわかった。争いの原因を知ることは大切だが、嫌がるものを無理矢理聞き出すのが良いとも言えんな。では、お望み通り先に罰を与えよう……と言いたいところだが、これは罰では無い。こんなことをしでかしたら、当然やらねばならぬことだ」
 そこでウエスターはすっと表情を改めると、今日一番重々しい声で、こう言い放った。
「この部屋をきれいに片付けろ。いいか? 壁の穴以外は、お前たちがこの部屋に初めて足を踏み入れた時と、同じかそれ以上きれいにしないと許さんからな。こんなことをしたら、その後がどれだけ大変か、どれだけの人に迷惑をかけるのか、しっかりとその身体で体験しろ!」
 ウエスターはそう言ってから、少し離れたところからこちらに注目している他の子供たちの方へと目を移す。
「お前たちが何をするかは、お前たちに任せる。何もしないで家に帰っても良し。こいつらを手伝いたい者が居たら、別に止めはしない。お前たち一人一人が、どうするか、どうしたいか決めるんだ。いいな?」
 それだけ言って、ずんずんと大股で広間を出て行くウエスターの後ろ姿を、若者たちはあっけにとられた表情で見送った。

79 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/01/27(水) 19:39:37



   ☆



 大きな破片を片付けてから、掃除機をかけて、小さな破片を取り除く。くしゃくしゃのテーブルクロスを床から引き上げ、洗濯室に持っていく。そして横倒しになったおびただしい数の椅子を元に戻し、座面をぬぐう。
 互いに一言も口を利かず、少年と少女は、ただ黙々と片付け続ける。
 他の参加者たちは、やはり彼らに近づこうとはせず、かと言って帰ってしまう者もおらず、みんな二人の様子を眺めながら、ほんの申し訳程度に、片付けに加わっていた。

 作業は順調に進み、あとは広間の真ん中を占拠している大テーブルを何とかしなければ、これ以上は何も出来ない状況になった。これだけは一人で動かせるような代物ではないので、二人とも手を触れてはいなかったのだ。

「……おい」
 何度か逡巡してから、少年が思い切った様子で少女に声をかけた。
「このテーブルは、俺でも一人では無理だ。手伝え」
「お前の命令など聞かん」
 じろりと鋭い目を向けてくる少女を、少年はムッとした顔で見つめ返す。
「こいつを何とかしなけりゃ、片付けは終わらないぞ。それとも、自分で罰を与えろなんて言っておきながら、それに逆らう気か?」
「罰か……ならば仕方がない」
 少女が渋々と言った調子で了承すると、少年はテーブルをじっくりと眺め、少女と自分の立ち位置を決めた。

「いいか? こっちの長い縁を二人で持って、せーの、で持ち上げる」
「せーの……? 何だそれは」
「掛け声だ。「せー」で息を整え、「の」と言い終わると同時に、一緒に力を込める」
「ふん、くだらない」

「いいから行くぞ。せーのっ!」

 少年の声を合図に、少女も両腕に渾身の力を込める。
 大の大人が五、六人でかかっても、持ち上げるには相当の骨が折れる大テーブル。それが、まだ幼さの残る二人の力で、ゆっくりと持ち上がり始めた。
 長い縁の真ん中辺りに両手を掛け、真っ赤な顔で歯を食いしばっている少年――ウエスターですら一目置く彼の怪力が、少女の助力を上手く利用して、この重量物を持ち上げていく。

 テーブルは順調に傾いていき、その縁が二人の肩の辺りまで来た。だが。
「う……このままじゃ、無理だな。一旦下ろすぞ」
「ここまで来て何を言う」
 思わずそう言ってから、少女も少年の言葉の意味を理解する。ただ片側を持ち上げただけでは、反対側の縁が床で滑り、これ以上持ち上がらないのだ。それどころか、滑るごとに両手に負荷がかかって、こうやって持っているのも難しくなってくる。
「やはりあと二、三人、人手が要るか……」
 少年が、そう呟きながら遠慮がちに他の参加者たちの方を窺う。と、その時。
「すみませーん。誰か、居ますかぁ?」
 明るい声がその場に響いたかと思うと、広間の入り口から、ひょいと一人の少女が顔を覗かせた。

 栗色の髪を顔の両横で結んだ、ツインテールの髪型。大きな瞳がやたらキラキラと輝いて、口元は笑っているかのようにほころんでいる。
「あ、手伝うよ!」
 こちらの状況に気付いたらしい。彼女は軽い調子でそう言って、小走りで近付いて来ると、少年と少女の間に立って、テーブルの縁に手を掛けた。

「うーん……うーーーん! ……あれ? これって、持ち上げるの? それとも下ろすの?」
「いや……出来れば持ち上げたいんだが……」
「そういうことは、力を入れる前に確認しろ」
「ナハハ〜……ゴメンナサイ」
 少年のあっけにとられた口調と、少女の呆れたような声に、ツインテールの彼女が、実にお気楽な調子で笑う。そして二人をそのキラリとした瞳で見つめてから、その目をそのまま、所在無げに立っている他の参加者たちの方に向けた。

「ねぇ! もし手が空いていたら、みんなも手伝ってくれないかなぁ」
 十人ほどの若者たちが、バツが悪そうに俯き加減になる。やがてそのうちの一人が、もごもごと言い訳めいた言葉を口にした。
「僕たちは……その人たちと違って、強い力なんて持っていませんから」
「そんなの関係ないよ! あたしだって、そんな力持ってないもの」
 間髪入れずに返って来た、内容に合わず自信満々な明るい声に、彼らは不思議そうな顔で、この突然の闖入者を見つめた。

 若者たちにとっては、幹部候補だった恐ろしい暴れ者――その二人の間で、彼女はニコリと笑って見せる。
「確かにこのテーブル、凄く重いけどさ。でも、ここに居る全員でやれば、何とかなるよ!だから、ねっ?」
 さっきとは違う、戸惑ったような表情で顔を見合わせた少年少女たちが、やがて恐る恐る、大テーブルを取り囲んだ。

80 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/01/27(水) 19:40:13

「じゃあ、行くぞ。せーのっ!」

 少年の声に、今度は二十以上の小さな手が、ギュッと渾身の力を込める。
 スピードはさほど変わらないが、さっきよりは格段にスムーズに、テーブルが持ち上がっていく。
 一旦横倒しにしてから、天板の下にあった破片を片付け、再び全員で縁を掴み、持ち上げる。こうしてテーブルは元通りの姿で、元の場所におさまった。

「やったぁ!」
 若者たちがホッとしたような笑みを浮かべる中、ツインテールの彼女は一人テンション高く両手を上げて叫び、その手を、ぽん、と少年と少女の肩の上に置いた。
「こんな大きなテーブルだったんだね〜。みんなで力を合わせた結果だよぉ。良かったね!」
「あ……ああ」
「ところで、ここへ来たのは何の用だ」
 少年が気圧されたように頷く隣で、少女が冷静に問いかける。

「あ、そうだった! 実は、ちょっと迷っちゃってぇ。だから道を聞きたかったんだ」
「どこへ行きたいんだ?」
「あのね。ここからロビーに行くには、どう行けばいいのかな?」
「え……迷ったって、この建物の中で、ってことか?」
 今度は少年がポカンとした顔になり、少女は呆れ返った様子で、はぁっとため息をついた。その反応を見て、彼女の方は不思議そうに首を傾げる。

「お? お前たち、頑張ったな。ほとんど片付いたじゃないか」
 不意に、入口の方から新たな声が聞こえた。様子を見に来たのだろう、ウエスターがそう言いながら入って来て、ツインテールの彼女を見つけて、ん? と怪訝そうな声を上げた。
「なんだ、ラブ。こんなところに居たのか。探したぞ」
 それを聞いて、少女がわずかに目を見開いた。厳しい目つきになって、ラブと呼ばれた彼女を見つめる。
 当のラブの方は、少女の視線にはまるで気付いていない様子で、ウエスターの姿を見てパッとその顔を輝かせた。

「ああ、ウエスター! 良かったぁ! ちょっと建物の中をぶらぶらしてたら、道に迷っちゃってさ。今、この人たちに聞いてたところだったの」
 そう言って歩き出そうとした途端。
「わっ!」
 彼女が椅子の足につまづいて、その身体がぐらりと傾いた。

 少女が咄嗟に、彼女を支える。
「危なかったぁ……。助けてくれて、ありがとう!」
「別に」
 ホッと安堵の息を吐いてから、嬉しそうに礼を言う彼女。その視線から、少女が少し強張った顔で目を逸らす。
 じゃあね〜、と手を振りながら、ウエスターに連れられて部屋を出て行く彼女。それを見送ってから、少年がボソリと言った。

「やっぱりお前も……以前とは違うんじゃないか?」
「……何っ?」
「今だって、あいつを助けた」
「助けたんじゃない。たまたま私にぶつかったから、受け止めただけだ」
「昨日はたまたまじゃなかった。人助け、してたよな?」
「……」
 黙り込んだ少女に、少年が至って真面目に、そして少し不思議そうに問いかける。

「なぁ。何故そんなに嫌がる」
「……黙れ」
「みんなで助け合っていこうって、ウエスターさんが言ってた。だから堂々と助ければいいんだ」
「……黙れ」
「今は命令されてないことをしてもいいんだ。なのに何故……」
「……そんなこと、知るかぁっ!」

 叫びと同時に、少女の右ストレートが少年を襲った。大テーブルの周りにいた若者たちが、悲鳴を上げて後ずさりする。
 咄嗟に飛び退く少年。それを追おうとしたところで、少女が動きを止めた。
 怯えた表情でこちらを見つめる若者たちをぼんやりと眺め、固めた自分の拳に目を落として、グッと唇を噛みしめる。
 次の瞬間、少女は身を翻した。そして風のような速さで広間から駆け出すと、あっという間に姿を消した。

〜終〜

81 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/01/27(水) 19:40:44
以上です。5レスで納まりましたねw
ありがとうございました!

82 名無しさん :2016/01/27(水) 23:49:50
>>81
少女はいつかせつなと……続きが楽しみだす

83 血液型占い嫌う人いるけど、アレ何なん? :2016/02/08(月) 23:00:36
トワっちはB型っぽい。ひめもB型っぽい。
せつなもB型かなぁ?ブッキーもB型っぽい。
エリカは言うまでもない。
ほのかは公式にB型。

84 名無しさん :2016/02/10(水) 23:33:19
マナはO型だろうな

85 名無しさん :2016/02/11(木) 21:47:34
>>83
姫プリならきららちゃんもB型っぽいですね。
はるか:O型
みなみ:A型
ゆいちゃん:A型かAB型

86 名無しさん :2016/02/11(木) 22:37:40
やっぱりピンクキュアはO型なのかな。なぎさも咲もO型だし。
でもラブはAB型だったような。
つぼみはA型でしょうかね?

87 Mitchell&Carroll :2016/02/16(火) 22:21:20
『〜Tasting〜』

アイちゃん「きゅぴ〜チュパチュパ」
ランス「へぇぇ〜でランス」
なお「……ねぇ、アレっておいしいのかな?」
あかね「何がや?」
なお「あの黄色の……耳」
あかね「(あいかわらず、食い意地張っとんのォ〜)」
なお「ちょっと確かめてくる!」
あかね「こら!アカンて、よそ様のは!!」
ランス「なっ、なにするでランス〜っ!?」
なお「味見!味見するだけだから!!」
あかね「スマン、ちょっとの間だけ辛抱したってや」
なお「チュパチュパチュパチュパ……なるほど」
あかね「気ィ済んだか?」
なお「味自体はそんなに無いかな。気に入ったのは食感だね。
   ぬいぐるみみたいな食感だと思うでしょ?ちがうちがう。
   なんていうかな……溶けない綿アメ?みたいな。ずっとしゃぶりついていたい、
   そんな気分にさせてくれるね。この子は耳をしゃぶられるのを嫌がってるみたいだけど、
   この耳はしゃぶられる為にあると思うんだ。運命って残酷だよね。
   ちょっと口の中に毛が入っちゃった……まあとにかく、あかねもしゃぶってみなよ」
あかね「お、おう……(ハッ!これって間接キス!?)」
なお「なに遠慮してんの?この子気ィ失ってるし、しゃぶるなら今のうちだよ?」
あかね「チュパチュパチュパチュパ……ドキドキが止まれへん」
なお「でしょ?」
ありす「あら、お二方。ごきげんよう」
なお「ああ、今、アンタのとこの子の耳、ちょっと味見させてもらってたんだ。ごちそうさま」
あかね「………」
なお「あかね、いただいた後は“ごちそうさま”でしょ?そこんトコ、ちゃんとしないと」
あかね「ご ち そ う さ ま で し た ぁ ー ー っ ! ! ! 」
なお「うわっ、ビックリした!」
ありす「お元気で何よりですわね。うふふ」

おしまい

88 名無しさん :2016/02/17(水) 00:36:47
>>87
ランス受難w
ありすの落ち着きっぷりは流石と言えよう。

89 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/02/21(日) 22:08:11
こんばんは。
競作が始まってしまいましたが(汗)、長編の続きが書けましたので投下させてください。
5レスで納まると思います。

90 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/02/21(日) 22:09:05
 夜もとっぷりと更けた、ラビリンスの居住区。立ち並ぶ集合住宅は、外から見るとどれも判で押したように同じ大きさ、同じ形の建物だ。その一棟の片隅にある小さな部屋に、今、灯りが点いた。
「どうぞ、上がって」
「お邪魔しまーす!」
 玄関先で靴を脱ぐ二人の少女は、せつなとラブ。ここは、ラビリンスでのせつなの住まい。彼女が一人で暮らしている部屋だ。

 一足先に上がってラブにスリッパを差し出したせつなは、少し困ったような表情だが、その口元は嬉しそうに緩んでいる。ラブの方はワクワクを絵に描いたような顔で、部屋に入るやいなや、わぁっと歓声を上げた。
「広いじゃん、せつな。ベッドも凄く大きい!」
 えーっと、ここは何かなぁ……などと大きな声で言いながら、ラブが幾つかの扉を開けて、楽しげに中を覗き込む。そして最後はきれいに整えられたベッドめがけて、勢いよくダイブした。
 もう、と呆れた顔をしてみせてから、せつながクスリと笑う。そしてラブの荷物を机の上に置くと、自分はベッドの縁に腰かけた。ラブもすぐに起き上がって、その隣に座る。

 ベッド、机、本棚、姿見。どれも桃園家のせつなの部屋にある物より一回りか二回りほど大きいが、それらは全て、桃園家の部屋と同じ配置で置かれている。
 それ以外には、家具らしい家具は無い。女の子の一人暮らしにしては、殺風景なくらい必要最小限のものしか置いていない部屋。改めて見回したラブは、机の上に置かれた写真立てに気付き、小さく微笑んだ。
 それは、あの最後の戦いから帰った後、タルトやシフォン、アズキーナも一緒に家族で撮った写真だった。ラブも同じ写真を、同じように自室の机の上に飾っている。が、そのことには触れず、ラブはせつなに微笑みながら、おどけた調子で言った。

「やっぱきちんと片付いてるねー、せつなの部屋。あたしなんか、つい散らかしちゃうのにさ」
「ラブの部屋は、物が多すぎるのよ」
 そういつもの調子でたしなめてから、せつなはまた少し困った表情に戻って、ラブの顔を見つめた。
「それよりラブ。本当に泊まっていったりしていいの? お父さんとお母さんが心配してるんじゃ……」
「大丈夫だよぉ。お母さんには、ちゃんと言って来たもん」
「でも……」
 ラブの即答とは対照的に、せつなが曇った顔のままで口ごもる。

 今朝、せつなは四つ葉町での休暇を早めに切り上げてラビリンスに戻って来たのだが、驚いたことに、ラブも後から彼女を追ってラビリンスにやって来た。ちょうどこちらへ戻るところだったウエスターとばったり出会って、彼に頼み込んで連れて来てもらったのだと言う。しかもラブは、着替えを詰めた大きなスポーツバッグを肩にかけ、泊まる気満々の格好で現れたのだ。
 いくら移動が可能と言っても、ここは異世界。友達の家にちょっと遊びに行くのとは、わけが違う。だが、ラブは事もなげに、こんな言葉を付け足した。

「大丈夫だって! せつなの家に泊まるって言ったらさ、お母さんが、せっちゃんのところなら安心だわ、だって」
「……ホントに?」
 せつながそれを聞いて、まだ心配そうな表情を残したまま、うっすらと頬を染める。その顔を見て、ラブの言葉にさらに力がこもった。
「うん! だから、明日からせつなの手伝い、あたし、精一杯がんばるよっ!」
「明日から、って……。そんな、ダメよ。せっかくの夏休みなのに」
「もう。わかってないなぁ、せつなは。夏休みだから、あたしにもせつなの手伝いが出来るんでしょう?」
 再び困ったような表情になるせつなの隣で、ラブが得意げに胸を張る。
「あたし、この前のお料理教室で、せつなの手伝いが出来て、すっごく嬉しかったんだ。だから、もしまた手伝えることがあるなら一緒にやらせてよ。だって、せつなの夢は、あたしの夢でもあるんだから」
「ラブの……夢?」
「そう!」
 ますます得意げにニッと笑ってみせるラブを、せつなは一瞬、不思議そうな顔で見つめる。そして、フッと顔をほころばせてから、うん、とひとつ頷いた。

「わかったわ。ありがとう、ラブ」
「やったぁ!」
「でも、そう長い間はダメよ?」
「え〜、なんで?」
「まだ夏休みの宿題も、終わってないんでしょう?」
「うっ……それは……」
 途端に目を泳がせるラブに、せつながクスクスと笑い出す。

 この部屋で、こんな風に笑ったことなんてあっただろうか、とふと思った。
 ラビリンスを笑顔でいっぱいにしたい――そう思ってここに戻って来たけれど、ここでの自分の笑顔のほとんどは、ラビリンスの人々のために――人々の緊張をほぐしたり、敵意が無いことを伝えたりするために浮かべるもののような気がする。

91 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/02/21(日) 22:09:35

――せつな自身が幸せな姿を見せなくてどうするの。

 昨日の美希の言葉が蘇った。いや、もしかしたらさっきから、心の中にあったのかもしれない。
 そして、蘇ったその言葉は、初めて聞いた時よりずっと優しく、せつなの心に沁みた。

「あーあ、失敗しちゃったなぁ。宿題、持って来てせつなに教えてもらうんだったよぉ」
 そんなことを言って頭を掻いているラブに、もう一度小さく微笑んで、せつながベッドから立ち上がる。
「じゃあ、お風呂の準備してくるから。準備が出来たら、ラブが先に入って」
「え、シャワーだけじゃなくて、お風呂もあるの?」
「え……ええ。小さなバスタブだけど」
「そっか。じゃあせつな、一緒に入ろう!」
「ちょっ……何言ってるのよ!」
 慌てるせつなの手を取って、ラブが俄然元気になって、ベッドから立ち上がる。
「だって、お風呂場の使い方、わかんないんだもーん。さ、せつな早く!」
「ちょっと、ラブ! まだお湯も入れてないんだから!」
 いきなりお風呂場に向かおうとするラブに、せつながもう一度、クスリと笑った。
 部屋の灯りが、いつもより明るく、あたたかい。何だか夢を見ているような気持ちで、せつなはそれに半ば納得し、半ば不思議に思っていた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第4話:再会 )



 次の日、ラブはせつなと一緒に、ラビリンスの中心地から少し離れた場所へ出かけた。
 かつて見た、人々が一糸乱れぬ隊列を組んで歩く光景は、今のラビリンスではもうすっかり見られなくなったらしい。全員が同じグレーの服に身を包んでいるところは変わらないが、人々は皆、思い思いの方向に、思い思いの速さで、時々立ち止まったり急ぎ足になったりしながら歩いている。
 すれ違う人の中には、せつなの顔を見て微笑みながら会釈をする人、せつなの方から声をかける人も多かった。そんな光景を見るのが何だかとても嬉しくて、ラブは自分も元気よく挨拶しながら、隣を歩く親友の横顔を誇らしげに見つめた。

 やがて二人がやって来たのは、低い塀で囲まれた広大な敷地だった。中に入ると、石や木の柵で区切られた花壇や、まだ植えられたばかりの苗木が二人を出迎えた。
「ここを、四つ葉町公園のような憩いの場にしたいの」
「へぇ! いいね、それ」
 せつなの言葉を聞いて、ラブの顔がぱぁっと輝く。
 ウエスターとサウラーも一緒に政府に進言し、公園の設計も、三人が中心になって考えたのだと言う。もっとも、ウエスターの要望は公園がどうこうと言うより、「絶対にドーナツの店を出す!」というただ一点だったらしいが。

「でも、ラビリンスには公園に植えられるような植物なんて、なかったから」
「うん」
「異世界から、木の苗や花の種を持って来てね」
「うんうん」
「ラビリンスに適しているものを選んで、公園に植えられる大きさにまで高速栽培させたの」
「う……ん?」
 話に付いて行けなくなったのか、ラブが頷くのをやめて、首を傾げる。
 せつなは、ひょろひょろと頼りなく並んだ、まだ並木とはとても言えない小さな木々を、愛おしそうに見つめた。
「この木が大きくなるまでには、まだまだ時間がかかりそうだけど」
「うん。でも、それを待つのも楽しいよね。どんどん変わっていく公園を見られるのって、なんか楽しくない?」
 ラブが、さっきまでとは打って変わった力強い声でそう言うと、せつなと並んで、まだ柔らかい木の葉を、ちょん、とつつく。
 せつなは少し驚いたような表情でその横顔を見つめてから、嬉しそうに、そうね、と頷いた。

「ところで、せつな。今日はお料理教室の準備に来たんじゃないの? それとも、何か別の用事?」
「ううん、ちゃぁんと料理学校のための用事よ」
 不思議そうに尋ねるラブに、少し悪戯っぽく微笑んで、せつながずんずんと公園の中へ入っていく。
 やがて公園の一番奥まで辿り着いた時、突如そこに開けた景色に、ラブは驚いて目をパチパチさせた。

 そこに広がっていたのは、柔らかそうな土の黒と、みずみずしい緑のコントラスト。ラブたちの世界のものとそっくりな、野菜畑だった。

92 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/02/21(日) 22:10:08
「ラビリンスの食材は、野菜も全て工場で、人工的に作られているの」
 せつなが静かな声で説明する。
「でも、やっぱり自然の土や光で育ったものの方が、美味しいんじゃないか、って……」
 それで試験的にここで野菜を育て、収穫したものの一部を、料理教室でも使わせてもらっているのだと言う。
 丁度せつなが話し終えたところで、畑の隅にある小さな小屋の扉が開き、中から一人の老人が、ゆっくりと姿を現した。

「こんにちは〜! あの、今ちょっといいですか?」
 せつなが両手をメガホンのようにして大きな声で呼びかけてから、彼の方に向かって歩き出す。ラブもその後ろを付いて行きながら、わずかに眉根を寄せた。

(あれ? あの人、どこかで会った、ような……)

 老人は、せつなの言葉に特に反応も見せず、うつむき加減でゆっくりと歩いて来る。
 銀髪と言うより白髪に近い髪が、頭の周りにだけ残った髪型。少し腰を曲げるようにして歩く姿は見るからに老人だが、その足取りは意外としっかりしている。
 そして彼が、そこに置いてあった大きな袋を抱え上げた瞬間、ラブが、あっ、と小さく声を上げた。
「やっぱり……。この人、あの時のおじいさんだよ」
「え?」
 せつなが不思議そうに、ラブと老人とに交互に目をやる。
「ほら、あたしたちがメビウスの城に行く時に、すれ違ったおじいさん」
 そう言うが早いか、まだポカンとしているせつなをその場に残して、ラブは老人に駆け寄った。

「大丈夫? 持つよ、おじいさん」
 そう言いながら、老人が抱えた袋を一緒に持とうとするラブ。それを見て、せつなもようやく思い出した。
 あれは、メビウスとの最終決戦のために、ここラビリンスにやって来た時。ラビリンスの人々の列に紛れてメビウスの城に向かおうとした四人の近くに、大きな荷物を抱えた彼が歩いていたのだ。

(確か、この人がバランスを崩して、そして……)

 咄嗟に助けようとしたラブを、列が乱れると見つかるという理由で、せつなは止めた。その時は、彼が無事体勢を立て直して、事なきを得たのだが。

(あの時ほんの少し見ただけなのに、ラブはよく顔を覚えていたわね)

 ラブにとっては、困っている人を助けることは息をするくらい自然なことで、それが出来なかったことの方が、心にかかる出来事だったのかもしれない。
 そう思うと、何だか申し訳ないような複雑な気持ちで、せつなは老人とラブの元へと駆け寄った。

「結構重いね〜、この袋。何が入ってるの?」
「肥料だ」
「へぇ。これから畑に撒くの?」
「ああ」
「あたしも手伝おうか!」
「いや」
 ラブが袋に手を掛けながら、明るい声で老人に話しかけている。だが、老人の返事は極めてそっけなかった。特に不機嫌そうなわけではない。ただ聞かれたことに、必要最小限な答えを返しているだけだ。
 やがて、肥料の袋を畑の隅に置いた老人は、ゆっくりとせつなの方に向き直った。

「すみません。次の料理教室の日程が、変更になりそうなので――」
 そう老人に説明しながら、せつなはそっと唇を噛みしめる。せつなの話を聞いている老人のねずみ色の瞳はぼんやりとしていて、その反応は事務的以外の何物でもなかった。

(この人は今でも、まだ管理されていた頃のラビリンス人、そのものだわ)

 ここに畑を作ることになった時、近くの居住区に住む人々に向けて、畑の世話をする人を募る知らせが出された。彼はそれに応募してきた、数少ない一人だ。
 だからもっと新しいことに興味を持っている人物なのかと思ったのだが、会ってみると、彼はせつなの想像とは全く違っていた。
 仕事は黙々とこなしている。ラビリンスで野菜を路地で育てるためには何が必要か、サウラーが事前に様々なことを調べて書き記していたのだが、それを見てきちんと作業をしているらしい。
 だが、それだけだった。果たして野菜作りに興味を持っているのか、はたまた自分が作った野菜のことをどう思っているのか、まるでわからない。
 何も考えていないかのように、淡々と仕事をこなし、淡々と規則正しい生活を送る――それは確かに、かつてのラビリンスの人々の生活そのものと言えた。

93 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/02/21(日) 22:10:41
 次の料理教室についての連絡を一通り終えて、せつなが再び頭を下げる。するとそれを待っていたように、ラブがニコニコと老人に歩み寄った。
「ねぇ。今度のお料理教室には、おじいさんも参加してみない?」
「いや……遠慮しておく」
 やっぱり、とせつなが心の中で呟く。せつなも何度か彼を料理教室に誘って、そのたびに断られているのだから。だが、ラブは簡単には諦めなかった。
「そう言わないでさぁ。みんなでお料理するのって、すっごく楽しいんだよ?」
「……」
「みんなで作ったハンバーグも、すっごく美味しいし」
「食事は……栄養がとれればそれでいい」
「じゃあじゃあ、ためしに試食だけでも来てよ! すっごく賑やかなんだ。みんなが自分で作ったハンバーグを交換して……」
「すまん。私はそういうものは、苦手なんだ」
 老人の、すまなそうながらキッパリとした拒絶の言葉に、ラブも口をつぐむ。すると、今度はせつなが静かに口を開いた。

「おじいさん。おじいさんがここでの仕事を選んで理由って、もしかして……」
「もしかして……何? せつな」
 そこで言いよどんだせつなの顔を、ラブが心配そうに覗き込む。
「その……ここなら一日、ほとんど誰とも会わずに居られるから、ですか?」
 せつなの問いに、老人は相変わらず何の感情も読み取れない表情で、ああ、と頷いた。老人の顔をひたと見つめていたせつなの瞳が揺らぐ。それを見て、老人は目を伏せると、フーッと長く息を吐き出した。

「メビウスに管理されていた頃、私たちは皆、人のことには無関心でした」
「ああ」
 せつなの言葉に、老人が短く応じる。
「その方が……おじいさんには、居心地がいいですか?」
「わからん」
 老人は相変わらずそっけなく答えると、腰を伸ばすようにして、公園の並木の方を見つめた。
「今のラビリンスは、あの頃とは違う」
「そう……思いますか?」
「ああ。きっとこれから、もっと変わっていくだろう」
 我知らず頬を緩めたせつなの方に、老人が視線を戻す。
「それが人としての、本来の姿なのかもしれん。だが……今のラビリンスは私には少々賑やか過ぎて、どうしていいかわからんのだ」

 野菜畑が一瞬、しんと静まり返った。ああ、この静けさこそが、この人には馴染みの日常なのか――せつながそう思った時、沈黙を破ったのは、ラブだった。
「大丈夫だよ。お料理教室で出会った人たちは、みんな優しい人たちだったよ。だから、おじいさんにもきっと友達が出来るって」
「友達? よくわからんが……。もう老い先短い身だ。このまま静かに、一人で過ごさせてくれ」
「でも!」
 静かにかぶりを振る老人に、ラブが詰め寄り、なおも言い募ろうとする。

 するとその時、老人がわずかに顔を上げた。視線はラブを通り越して、畑の入り口辺りを見ている。
 至近距離からその顔を見ていたラブは、心の中で首を傾げた。今までまるで生気のなかった瞳が、何だか少し嬉しそうに輝いたように見えたのだ。
 ラブが思わず後ろを振り向いて、そのまま笑顔になる。そこに立っていたのは一人の少女。昨日ラブが給食センターを訪れた時に出会った、あの少女だった。

「こんにちは。あなたとは、よく会うね」
 ラブが明るく声をかける。が、答えは返ってこなかった。彼女は目を大きく見開いて、何かにひどく驚いたような表情で、ラブとせつなを交互にみつめていたのだ。

「お前……どうしてそいつと、一緒に居るんだ」
「そいつって……ああ、せつなのこと? せつなは、あたしの大切な友達だから」
 かすれた声で問いかける少女に、ラブが満面の笑みで答える。が、それを聞いて、少女の瞳が大きく揺れた。
「ということは、まさか……お前もプリキュアなのか!」
「あ……アハハ、うん。実は、そうなんだ」
 少女の問いに、軽い調子で答えて頭を掻くラブ。それを見て、少女がわなわなと震え出す。
「え……ちょっと、大丈夫?」
「ラブ、待って!」
 心配そうに駆け寄ろうとするラブの手を、せつなが掴んで止めた。

 少女の瞳が、二人を――いや、ラブを睨み付ける。
 燃えるような赤い眼差し。そこに宿るのは今や戸惑いではなく、驚愕と――怒り。
 食いしばった奥歯の間から、ごく小さな呟きが漏れる。その言葉を、せつなだけは聞き取ることが出来た。

「こんなヤツに……こんなヤツに、メビウス様は倒されたと言うのか……!」

 ハッとした瞬間、ラブの腕を掴んでいたせつなの手が緩む。それを待っていたかのように、ラブが心配そうな表情で、一歩、二歩と少女の方に歩み寄った。
「ねえ、ホントにだいじょう……」

「ラブ、下がって!」
「寄るなっ!」

94 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/02/21(日) 22:11:12
 せつなが高い声で叫んだ瞬間、ラブの体があぜ道に転がる。少女がラブを突き飛ばしたのだ。
 慌ててラブを助け起こしたせつなは、ラブと老人を庇うように、少女の前に立った。

「なんてことするの! 彼女は、今はプリキュアじゃないわ」
「それがどうした」
「一般の人間に手を挙げるなんて、かつても許されていなかったはず。“己の力は”――」
 激しい口調でそう言いかけたせつなが、そこで口をつぐむ。そして、気持ちを落ち着けるようにひとつ大きく深呼吸をしてから、努めて静かな声で言った。

「メビウスは、もう居ない。それはあなたもわかってるんでしょう?」
「黙れ! お前がそんなことを言えた義理か」
 吐き捨てるようにそう言って、少女が不敵に笑う。
「さっきお前が言いかけた掟を、正確に言い直してやる。
“己の力は、メビウス様のために。それ以外のものに使ってはならない”
そうだったわね、先代――私の前の、イース!」
 今度はせつなの方が驚きの表情を浮かべた後、その顔が苦しそうに歪んだ。

「私は今でもメビウス様の僕。そのメビウス様を倒したプリキュアを、みすみす放ってはおけぬ!」
「……どうしてもラブを傷付けると言うのなら、私が相手になるわ!」
 二人の少女が睨み合ったまま、ゆっくりと構えを取る。が、次の瞬間。
「二人とも、やめてっ!」
 凛としたラブの声が、辺りに響いた。

 少女が、ふん、と鼻を鳴らしてから、構えを取ったままで後ずさり、やがて一目散にその場を駆け去る。それを見届けてから、ラブはまだ構えを解いていないせつなの肩に、ぽん、と手を置いた。
 せつなが、ハッと我に返ったように、自分の両手をしげしげと見つめ、続いてぼんやりとした目でラブの顔に目をやる。
「……せつな?」
「ラブ……。私、今、あの子と……」
「大丈夫。大丈夫だよ、せつな」
 ラブは、その場に棒立ちになっているせつなの体を抱きしめると、その背中を優しく撫で始めた。
 せつなの体はひどく強張っていて、その背中は微かに震えている。ラブは、せつなを抱く手にギュッと力を籠め、震えが収まるまで、何度も何度も、優しく背中を撫で続けた。


   ☆


 その夜、星ひとつ無い空の下、ラビリンスの人々が深い眠りに就いた頃。
 今は廃墟となっているメビウスの城の跡地に、こっそりと近付く小さな影があった。
 影は跡地に侵入すると、爆発の及んでいなかった地下の部屋から、ある小さな物を持ち出した。そして闇に紛れて街を駆け抜けると、いずこへともなく、消えてしまった。


〜終〜

95 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/02/21(日) 22:11:59
以上です。
明日からは競作に全力投球させて頂きます。
ありがとうございました!

96 運営 :2016/04/14(木) 00:15:52
こんばんは、運営です。
先日ご連絡致しました通り、競作スレは過去スレに移しました。
たくさんの投下と書き込み、本当にありがとうございました!!
なお、告知を頂いている方の投下分は競作として保管しますので、
以後はこちら「『プリキュアシリーズ』ファンの集い!」にて、
引き続き投下をお待ちしております。

97 名無しさん :2016/04/26(火) 22:59:42
前田健さん、素敵な振り付けをありがとう!!!!!

プリキュアといえば、エンディングのCGが有名だけど、
それに見合う振り付けを考えたのはこの人です!
「カワイイ!」がテンコ盛りの振り付けで、特にスマイルプリキュアの「イェイ!イェイ!イェイ!」は、もはや伝説です。
個人的にはハートキャッチの前期も好き。

カオルちゃんがいなかったら、ラビリンスの人達はドーナツの味を知らないままだった。

98 名無しさん :2016/04/26(火) 23:56:18
カオルちゃん・・・
きっと今も、四つ葉町のあの公園で、「グハッ!」と笑いながらドーナツを売ってるって、俺は信じてるよ。
さよならは言わない。またいつか会える日を楽しみにしてるからね。

99 Mitchell&Carroll :2016/05/01(日) 01:15:11
お久しぶりです。投下させていただきます。スイートプリキュア♪で……


『アコの誕生日』


アコ「――痛いって、奏太!そんなに強く、手、引っ張らないでよ!」
奏太「早く早く!姉ちゃん達、待ってるから!」

(奏の部屋)
奏太「姉ちゃーん!アコ、連れて来たよ〜!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー」
奏「ハイ!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー」
エレン「ハイ!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー」
ハミィ「ニャプ!」
響「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデーーイ!!!」

響「♪今日は!姫の!たんじょ〜び!!」
ほか「「ワッショイ!」」
奏「♪生まれて!出会えて!ア・リ・ガ・ト・ネ☆」
ほか「「ワッショイ!!」」
ハミィ「♪今夜は!美味しくシャン○リー飲・め・る・の・は?」
ほか「「ニャプショイ!」」
エレン「♪姫の!笑顔のお・か・げ・で・す!!」

響「♪こぉ〜んやの主役はジュリエット!」
ほか「「ハッピーバー、ハッピーバー、ハッピーハッピーバースデー!」」
響「♪こぉ〜んやの主役はジュリエット!」
ほか「「ハッピーバー、ハッピーバー、ハッピーバースデー!!」」
みんな「「「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー(×4)」」」

奏太「そんなHAPPY‐GIRLから一言聞いてみたいと、お・も・い・ま……」
ほか「「スリーツーワン!!」」





アコ「私の誕生日……再来月なんだけど……」

100 Mitchell&Carroll :2016/05/01(日) 01:22:11
さっそく訂正、すみません……

ほか「「ハッピーバー、ハッピーバー、ハッピーバースデー!!」」
みんな「「「♪バースデー、バースデー、バーバーバーバーバースデー(×4)」」」

この、ほかとみんなの間を一行、空けて下さい。よろしくお願い致します。

101 名無しさん :2016/05/01(日) 12:44:42
>>100
どーしてこーなったwww

102 名無しさん :2016/05/01(日) 12:51:05
>>99
ぜーったい、周りがやりたかっただけニャw

103 Mitchell&Carroll :2016/05/24(火) 01:27:11
タコは、吸盤が綺麗に並んでいるものが♀だそうです。
2レス、お借りします。

18禁
『タコにイカされて』


 日曜午前の町民プール――ひと際、目を惹くプロポーションの持ち主・蒼之美希。
優雅なフォームでエレガントに泳ぐ、その姿には同性からの憧れの眼差しも強い。
そんなオーディエンスの熱い視線をモチベーションに換えながら、
美希は、美容&ボディシェイプトレーニングメニューを黙々とこなすのだった。

 プールの壁にタッチすると、颯爽とゴーグルを外す美希。ノルマの中程までを達成したところで一旦、
休憩を取るようだ。――ふと、違和感を覚えて辺りを見回すと、先程までいた他の利用者たちが、誰一人居なくなっていた。
「あら?あたし、一人だけ?」
不思議な事もあるものだと思いつつ、ハシゴを昇っていくと――

 ――それはプールサイドで、その不気味な目をギョロリと光らせていた。
身の丈8尺はあろうかという巨大なタコ。太い触手を美希の体に絡み付かせ、自分の元へと手繰り寄せた。

「いつかは、いつかはと、狙い澄ましていた甲斐があったというものだわ、美希ちゃん!今日という今日は、
とうとう捕まえたわよ!!」
タコは8本の触手で美希の体の自由を奪い、美希の競泳水着のVゾーンをペロリと捲(めく)り上げると、
中の具をしげしげと観察し始めた。
「う〜ん、色といい形といい、とってもイイモノをお持ちなのねぇ〜。私は、お芋が好きなんだけど、
 それよりもDANZEN!こっちの方が好みだわ!!さあ、チュパチュパしちゃうわよ!
 吸って吸って吸いまくって、たぁ〜っぷり楽しんだら、竜宮城へ連れて行って、囲っちゃおうかしら?」

 ご機嫌なタコは、チュウチュウ、ズチュズチュと音を立て、美希の陰部を吸い始めた。
「い、いやぁぁぁーーーっ!!」
「ん〜もう、イヤじゃないでしょ?美希ちゃん!美希ちゃんのワレメちゃんが「吸って吸って」って言ってるわよ〜ん?」
美希の体は水泳で十分にウォ-ムアップされていたせいもあって、快感の伝達が早い。引き締まった腹筋や臀部の筋肉が、
快感を全身へと運ぶ。
「そんなにしたら……イッちゃう!……イクッ!イックゥゥーー〜〜ッ!!」
「もうイッちゃったの?さすがねぇ、美希ちゃん!!」
タコは間髪を入れずに、美希のクリトリスを強烈に吸い上げる。
剥き出しにされている美希のそれは、今や乳首以上に尖っている。
自分でも思わぬ以上の自己主張を強いられ、美希の羞恥心と興奮は高まる。
「あぁん、それ、駄目ぇぇ!!喜んでる……クリちゃん、喜んでるのぉぉ!!」

104 Mitchell&Carroll :2016/05/24(火) 01:27:58
 8本もの触手を持つタコは、美希の両腕・両足を押さえ、身動きが取れないようにしながらも、
器用に美希の両方の乳房と、腋の下、更には背中までをも同時に愛撫する。
「どう?この8本の触手のカラミ具合は!気持ち良いでしょ?ほら!気持ち良いって言いなさい!
 どうしてガマンするの?ガマンは美容と健康に良くないわよ!!ホントは気持ち良いくせに!!
 自分を曝け出すのよ、美希ちゃん!!さあ、言って!言ってぇぇ!!」
「きっ、気持ち良いーー〜〜〜ッッ!!!」
「そう!そうよ!エラいわ、美希ちゃん!!もっとして欲しいんでしょ、ほらっ!!
――私は知っているわよ。美希ちゃん。美希ちゃんは、イースちゃんが、その体を触手に蝕まれているのを見て、
 ひそかに羨ましいと思ったのよね?心の中で何かが激しく燃え上がったのよね?
 そしてその夜、息を荒げ、体を荒げ、悶々として、なかなか寝付けなかったのよね?
 私はちゃ〜んと知ってるのよ、美希ちゃん!知ってるんだから!
 美希ちゃんは確かに、私のことが苦手なようね。美希ちゃんは私を恐れているわね。
 だけどね、美希ちゃん。私は美希ちゃんを快楽の海の底に引き摺り込む自信があるの。
 これはあの日、浜辺で交わした約束なのよ?あの日、腕に絡み付かれた美希ちゃんは、興奮してしまったのよね?
 恥ずかしがらなくてもいいのよ、美希ちゃん。触手に纏わり付かれる快感に、美希ちゃんは目覚めてしまったのよね?
 そして、恐れているのね?乱れ狂ってしまう事を……コントロール出来ない自分を恐れているのね?
 でもね、美希ちゃん!美希ちゃんは、コントロールが効かなくなる事が、自分がカンペキでなくなる事だと
 思っているようだけれども、それは違うのよ!これはカンペキな“美”なのよ!
 カンペキとは、解放することなのよ!美とは、解放よ!自分を解放するのよ、美希ちゃん!
 美とは、自分を解放することなのよ!!!自分を解放することが“カンペキ”なのよぉぉっ!!!!」

 タコの愛撫によって、美希の体はさらにエキサイトする。
「スゴいわ!美希ちゃんの中、キュウキュウ絞まってるわぁ!奥からアツいのが溢れ出てくるわぁぁ!
 美希ちゃん味のおつゆが、ドクドク溢れ出てきて、私の触手、ズポズポニュルニュル、入っちゃうわぁぁ!!」
もうすっかり敏感になってしまった美希の体内で製造される、美希のウェルカムジュース
(made in mktn【lot 1919】)によって、タコの触手の侵入が、より一層、容易になりましたとさ。
そして、タコの愛溢れる言葉によって外された、美希の心の重石。沈められていたものが急浮上する。
「浮いてる……あたし、浮いてるのぉ!!」
それは、水中で感じるものとは、また違った浮遊感。
「美希ちゃん……溺れてしまったのね、快楽の海に!!」

 完全に剥き出しになった美希の心と体に、容赦ない愛が降り注ぐ。
「ずっとイッてるぅ!!ずっとイッてるのぉぉ!!ずっと、ずっとぉぉ!!もっと、も゛っどぉ゛ーー〜〜〜っ!!!!」
いよいよ、タコは最後の仕上げに入る。
「ほらほら、ほぉ〜ら!!もっと鳴くのよ、喘ぐのよ、叫ぶのよ!!
 今の美希ちゃんは何?言って!言ってぇぇっっ!!」
「あたし……あたし、カンペキィィィィィーー〜〜〜ッッッ!!!!!!」

 

 先程から美希の顔にへばり付いて、口元やら耳やら首筋やらを吸っていた小ダコが言う。
「親ビンの番が終わったら、次はアタチが、この自慢のイボイボでチュパチュパしてあげっかんね!
 クリちゃんから、お尻の穴まで、コスってコスってコスりまくって、い〜っぱいイカせて、
 美希ちゃんのエッチ汁を、吸って吸って、吸い尽まくってあげっかんね〜!!チュウチュウ……」





 了

105 名無しさん :2016/05/24(火) 07:28:08
>>104
相手がタコだと背徳感ぱない。
朝からスゴいもん読んでしまったw

106 Mitchell&Carroll :2016/06/05(日) 23:14:02
よろしくお願いします。


『Re:』

ラブ「――それで、ラビリンスは遺伝子の研究も進んでたんだ」
せつな「ええ。クラインやノーザはその技術で生み出されたの。ほかにも、遺伝子を分析
    して、その人に適した職業、食べる物、着る物、読む物から聴く物まで、何もか
    も全て“管理”されていたわ。おまけに寿命まで…」
美希「死ねって言われたら死ぬ、みたいな…」
祈里「動物さん達にだって、自発性というものがあるのに…」
せつな「そういうものは尊重してなかったわ。知らないし、信じてもいなかった。感じる
    事すら出来なかったの。でも、こっちの世界では、自分で決断することが多いか
    ら、感じたり気付いたりする事が多くて…」
ミユキ「そういえば、ラビリンスには、乗り物とかはあったの?」
せつな「こっちの世界で言うところの自動車みたいなものはあったけど、それもやっぱり
    管理されていて、衝突しそうになると勝手にブレーキが掛かるように仕組まれて
    いて…でもそれは結局、運転手の責任逃れだから、そのシステムは今では廃止さ
    れています」
タルト「進んどるンやなぁ〜」
シフォン「キュア〜」
せつな「それにしても美味しいわ、このドーナツ!」
カオル「お日さまの光をたっぷり浴びた小麦と、お日さまの光をたっぷり浴びたオジサン
    の真心で出来てるからね。グハッ!」
                                     END

107 Mitchell&Carroll :2016/06/06(月) 01:11:50
グロ注意


『Reverse』


ラブ「たまには息抜きしないとね!」
美希「遊園地、久しぶりね〜」
祈里「貸し切りみたいだけど……」
ありす「うふふ。この遊園地は(以下略)」
ラブ「じゃあ、みんな!好きなアトラクション、好きなだけマンキツしちゃお♡」
せつな「私、アレにするわ!」
マナ「お供します!地の果てまでも!!(≧Д≦)ゞ」
六花「――あっ、待って!その子は……」

(ゴーカート・始動)
せつな「私の華麗なハンドル捌(さば)き、見せてあげるわ!」
(キューキュキュキュキュッ)
マナ「オロッ」
せつな「ん?」
マナ「ゴクン(―_―|||)」
(キュキュキュキュキュッ)
マナ「オ゛ロ゛ロ゛ロ゛ロ゛!!!!」

(遠くから見ていた)
六花「あ〜あ、やっちゃった…‥」
ありす「あらまあ……」
亜久里「レディたる者が、何たる有様……」
真琴「ウ……オエ゛ッ」
レジーナ「な〜に、もらいゲ〇してんのよ。ねえ、それより誰かポップコーン買って来て」
アイちゃん「キュピオロロロ……」
六花「いけない!さっき、ミルク飲ませた後にちゃんとゲップさせてなかったわ!」
シフォン「キュアオロロロ……」
ラブ「いけない!さっき、キュアビタン飲ませた後にちゃんとゲップさせてなかった!」

せつな「(アカルンで登場)大変なの!マナが……キャーーッ!?」
六花「ああ……こっちも今、取り込んでてね……」
せつな「うっ……」
ラブ「せつな!?」
せつな「ラブ……できちゃったみたい」


つわ……じゃなくて
おわり

108 Mitchell&Carroll :2016/06/06(月) 01:14:28
やはりグロ注意


『続・Reverse』


亜久里「――というワケで、マナの三半規管を鍛える特訓を行いますわよ!!」
六花「なにも、遊園地に来てまで……」
レジーナ「燃えてんね〜」
亜久里「当然ですわ!見ていられませんもの!」
ありす「たしかに、何時、走行中のバスや飛行中のジェット機の上で戦うか分かりませんものね」

亜久里「まずはコレですわ!“コーヒーカップ”!!」
マナ「いきなりキツイのが来たね……」
レジーナ「マナ!一緒に乗ろ!」
マナ「う、うん……」

レジーナ「アハハハ!楽しーい☆」
(ぐるぐるぐるぐる)
六花「いくらなんでも、勢いよく回り過ぎじゃない?」
ありす「レジーナさんは加減というものを知りませんから……」
マナ「ちょっ、レジー……オエエエエ゛!!」

ラケル「マナはパスタか何かを食べたケル?」
六花「こらこら、分析しないの!」
ランス「あの色からすると、きっとトマト系でランス〜」
シャルル「マナは今朝、ナポリタンを食べてたシャル!」
ダビィ「さすが、洋食屋の娘だビィ」

亜久里「次はコレですわ!“メリーゴーラウンド”!!」
ありす「以前、私の所有する馬に乗った際には平気でしたが……」
祈里「(いいなぁー)」
六花「あの時は生き物だったけれど、今度は機械仕掛けだから、果たして上手く行くかどうか……」
美希「馬だけに……“うま”く行くかどうか……」

(♪♪♪)
マナ「……あ、大丈夫かも。楽しい音楽で気分も紛れオエエエ゛!!」

亜久里「最後は特別講師にレッスンしていただきますわ!!」
キュアパッション「特別講師・キュアパッションよ!」
亜久里「では先生、デモンストレーションをお願いします!」
キュアパッション「プリキュア・ハピネスハリケーン!!(ぐるぐるぐる)」
亜久里「マナにはコレをやってもらいますわ。パッションハープの代わりに、このウチワを持って……」
真琴「この遊園地で売っているウチワね」
亜久里「では、スタート!」

マナ「(ウチワを持ってぐるぐるぐる)う、うう……」
六花「マナ、いい調子よ!」
マナ「(ぐるぐるぐる……)ゴックンゴックンゴックン……」
ありす「耐えるのです、マナちゃん!」
亜久里「あと5秒!4、3、2、1……合格ですわ!!」

ラブ「ねえ、みんなでマナを胴上げしようよ!」
みんな「「マーナ!マーナ!マーナ!」」
マナ「あはは、あははは……ウッオエエエエ゛!!」
みんな「「キャーーッ!!?」」


END.

109 名無しさん :2016/06/07(火) 23:32:24
>>106
>>107
>>108
これってやっぱ、『Re』三部作!?
いやぁ、行き過ぎたら「戻る(す)」のって、大事だよね〜(棒)
それにしても、せっちゃんの勘違いが素敵すぎる。

110 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/06/12(日) 21:35:33
こんばんは。
三カ月以上間が空いてしまいましたが(汗)長編の続きを投下させて頂きます。
5〜6レスお借りいたします。

111 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/06/12(日) 21:36:08
 しんと静まり返った薄闇の中。ラブはベッドの上にそっと半身を起こすと、隣にある寝顔を見つめた。
 閉じられた長い睫毛。小作りで均整の取れた顔立ち。額に一筋だけかかった黒髪に思わず手を伸ばしかけて、すんでのところでその手を引っ込める。今はその安らかな眠りを、少しでも邪魔したくは無かった。

 小刻みに震える身体を抱き締めた感触が、まだこの手に残っている。あまり力を入れたら、手の中で消えてしまうんじゃないかと思うほど、弱々しくて儚げだった。
 あんなに怯えたせつなを見たのは、いつ以来だろう。

(良かった。せつな、よく眠れてるみたいだね)

 掛布団が規則正しく上下するのを見ながら、確か前にもこんな距離で、せつなの寝顔を見つめたことがあったな、と記憶を辿る。
 あれは、せつなが初めて桃園家にやってきた日。まだせつなの部屋が出来ていなくて、ラブのベッドで一緒に眠った夜のことだ。

 森の中で二人、互いに全てを懸けてぶつかったあの日。
 心が通じ合ったと思った矢先に訪れた別れと、奇跡の再会。
 そしてラブは、初めてラビリンスの――せつなの置かれていた、あまりにも冷酷な現実に触れた。

――ねえ。せつなは幸せ? せつなの幸せは、なぁに?

――せつなはいつも一人で居るし、寂しいのかなぁって。

――せつなも自分の体を大切にしなきゃ、周りの人たちが心配するよ?

 友達だと思って発した数々の言葉が、せつなを傷付けていた。
 友達だと思って過ごしてきた日々が、せつなを追い詰めていた。
 それが悲しくて、悔しくて、今度こそあたしが付いてるからね、と涙をこらえてその寝顔に誓った夜。
 でも、せつなの苦しみに比べれば、自分の涙なんて、本当に取るに足らないものだったと思う。

 過去の自分の行いを悔い、せつながずっと苦しんできたことを、ラブは知っている。だから、ラブはせつながイースだった頃のことを尋ねたことは無かったし、せつなもまた、その頃のことを語ることは無かった。
 それでいいと思っていた。仲間になり、家族になったのは、今のせつな。悲しい過去を振り返るより、その分もっともっと楽しい毎日を積み上げて、未来で幸せゲットしてほしいって思ったから。
 でも今日みたいに、せつなが未だに過去の自分の影に怯え、震えているのを見ると、いつになく心が揺らいだ。
 悲しい、というのとは少し違う。なんていうか、小さな後悔の芽のようなものが、心の中にむくりと頭をもたげたような……そんな感じがした。

(せつなは、せつなだよ。それは何があっても変わらない。だけど……本当にこれで良かったのかな。せつなが、これまでどんなところで、どんな風に過ごしてきたのか。何を考えて、何を感じて来たのか、もっと知ってたら……もっとせつなのために出来ることが、あったのかな)

 ラブは、せつなの寝顔をもう一度覗き込んでから、再びベッドにそっと身体を預けた。胸の上で祈るように両手を組んで、天井を見つめる。

(今、あたしに出来ることって、何だろう……)

 淡い色彩の天井は、今は常夜灯の陰になり、ぼんやりとした闇に霞んで、ラブの目に映った。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第5話:届かない声 )



「せつなさん。注文しておいた新しい食器、届きましたよ」
 ホールの入り口から、給食センターの職員の声がした。
「ありがとうございます」
 テーブルクロスを畳んでいたせつなが笑顔で席を立って、その手から重そうな箱を受け取る。
 戻って来たところで、ラブはせつなに近付くと、わざとその肩にぶつかるようにして、箱の中を覗き込んだ。

「わぁ、きれいなお皿だね、せつな。グラスもこんなに沢山!」
「ラブったら。いきなりぶつかって来たら危ないじゃないの」
 もうっ、と軽く睨まれて、ラブはエヘヘ〜、と頭を掻く。せつなの口元が柔らかくほころんで、その唇が、しょうがないわね、と動いた。それを見て、ラブは内心、ホッとする。
 その声も表情も、立ち居振る舞いも普段通り、いつものせつなだ――そのことを何だか嬉しく思いながら、ラブはせつなを手伝って、食器をテーブルの上に並べ始めた。

112 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/06/12(日) 21:36:38
 一緒に作業をしていた職員たちが、テーブルに並べられた食器を見て集まって来た。艶やかな平皿の表面を感心したように眺めたり、グラスにこわごわ手を伸ばしたりしている。
 長い間、食事は栄養を摂取するための義務でしかなかったラビリンスでは、当然ながら、食器を選んだり、盛り付けを工夫したりということは皆無だった。料理教室で使われている食器類は、調理台や調理器具と同じく、異世界から買ってきたり、工場に特別に頼んで作ってもらったりしているのだという。
 その特注の食器の多くが犠牲となった思わぬ事件も、ようやく片付いた。これでまた、いつものように料理教室を開くことが出来るだろう。
 職員たちの様子を嬉しそうに眺めながら、食器棚に食器を仕舞い始めるせつなに、ラブがタイミングよく次々と、テーブルの上のお皿を手渡していく。

「う〜ん、この白いお皿は、お料理が映えそうだね。これにハンバーグを盛り付けたら、きっとすっごく美味しそうに見えるよ〜!」
「そうね。このお皿なら、付け合わせのニンジンも美味し〜く食べられるんじゃない?」
「うっ……せつなのイジワル。それなら今度の付け合わせは、ニンジングラッセじゃなくて、ピーマンのソテーにしようっと」
「そ……そこは別に、変えなくていいわよ」
 ラブとせつなが交互に冷や汗をかいてから、最後は二人同時に、プッと吹き出した。そのまま、アハハ……と楽しそうに笑い合う二人に、周りの職員たちもつられて笑顔になる。

「随分と楽しそうじゃないか。何か旨いものの話でもしているのか?」
 入口の方から、ひときわ明るくて大きな声がした。それを聞いて、もう一度せつなと顔を見合わせてクスリと笑ってから、ラブがブンブンと首を横に振る。
「違うよ、ウエスター。お料理教室で、せつなにどうやってピーマン食べさせようかなぁって話」
「何言ってるのよ。ラブがちゃんとニンジンを食べるのが先でしょ?」

「ほぉ。まさか苦手なものの話とは思わなかったぞ……」
 ウエスターが少し驚いたように呟く。そして得意そうな顔で、抱えていた紙袋をテーブルの上に置いた。
「じゃあ、今度は旨いものの出番だな。今日のドーナツは、今までの最高傑作だぞ!」
「わぁ、ウエスター、ありがとう! ねえねえ、せつなぁ、どれにする?」
 ラブが真っ先に歓声を上げ、早速ガサゴソと紙袋を覗く。が、一向にせつなの声が聞こえてこないのに気付いて、不思議そうに顔を上げた。

 せつなは、さっきまでとは打って変わった厳しい顔つきで、窓の方に目をやっていた。ウエスターも別人のような険しい表情で、せつなと同じ方向を見つめている。
 それを見て、最初は不思議そうだったラブの顔が、すぐに不安そうな表情に変わった。
 ウエスターはともかく、せつなのこういう反応を、プリキュアとして一緒に戦っていた頃、ラブは何度か目にしたことがあった。他の仲間が誰も気付いていない危険を察知して、いち早く警告してくれる。そのお蔭で助かったことは、何度もあったのだが。

(きっとこれも、せつながラビリンスで身につけた能力なんだよね……)

 何だか少し悲しい気持ちで、ラブがせつなの横顔を見守る。すると次の瞬間。

「うわーっ!!」

 その場に居た全員が、一斉に両耳を押さえてしゃがみ込んだ。ラブの手からドーナツがひとつ転げ落ち、コロコロと床の上を転がって、ぱたりと倒れる。
 衝撃波を伴った、耳をつんざくような凄まじい音。頭の芯に響くようなハウリング音が、突如襲い掛かったのだ。
 これだけの大きさになると、音は強大な暴力と化す。窓ガラスにピシリと亀裂が走り、それがみるみる広がって蜘蛛の巣のようになったかと思うと、ガラスがザァっと一瞬で崩れ落ちた。

「な……何だ、あれ!」
 よろよろと立ち上がった職員の一人が、裏返った声を上げて外を指差した。
 枠だけになった窓の向こうに、のそりと立つ大きな影。その姿を、職員たちだけでなく、ラブとせつなも、そしてウエスターも、驚きのあまり声も無く見つめる。

 ビル一つ分くらいの幅の円柱がぐんと縦に伸びた、巨大な棒のような胴体。その上に乗っかっている、これまた巨大な黒い円盤のようなもの。
 何よりラブとせつな、それにウエスターを驚かせたのは、円盤の上部に見えるつり上がった赤い二つの目と、胴体の中央にある、黒っぽい色の大きなダイヤだった。

「あれって……やっぱりナケワメーケ?」
「ええ。どうやら素材は、この区画の街頭スピーカーみたいね」
 怪物に厳しい目を向けたままでラブの質問に答えたせつなが、すぐに鋭い一言を発する。
「気を付けて! また来るわ!」

「ナケワメーケ! ワワワワワ……」

113 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/06/12(日) 21:37:55
 再びの音波攻撃に、今度は食器棚がミシミシと不気味な音を立て始めた。ウエスターが慌てて棚を押さえ、長い足を素早く伸ばしてドアを蹴り飛ばす。
「イース! ラブ! とにかくみんなを連れて逃げろ!」
「わかった。こっちよ!」
 せつなが先頭に立って、廊下に出る。職員たちを全員外に出してから、最後にラブが走り出した時。

「ホ〜ホエミ〜ナ〜。ニッコニコ〜!」
「ホホエミーナ、行け! ヤツを止めろ!」

 聞き覚えのある能天気な雄叫びと、ウエスターの凛とした声が、今飛び出したドアの向こうから聞こえた。


   ☆


 せつなとラブは、給食センターの職員たちを連れて、すぐ近くにある食糧庫を目指した。
 食糧庫なら、頑丈なシャッターが付いているから音波も遮ってくれるに違いない。おまけに広いし、何と言っても食糧なら豊富にあるので、避難場所としてはもってこいのはず――走りながら、せつながそう説明してくれる。

 外へ出てみると、周りの建物もそのほとんどが、窓ガラスが割れたり、ひびが入ったりしている。何が起きたのか訳が分からず通りをうろうろしていた人や、道端でうずくまっていた人たちが続々と集まってきて、二人の後ろに長い行列が出来た。
 後ろを振り返ってみると、ナケワメーケの前に、平べったい円形の身体のホホエミーナが立ちふさがっていた。どうやら給食センターのフライパンが素材らしい。その奮闘のお蔭か、耳を塞いでも防ぎきれないあの凄まじい轟音は、さっきと違って、今は時々途切れるようになってきている。だが、なかなか完全には止まないところを見ると、ホホエミーナはどうやら苦戦しているようだった。

「それにしても何なんだろう? あのナケワメーケ」
「分からない。あんな色のダイヤも、見たことがないし……」
 ラブの問いに、せつなが前を向いたまま苦い表情で答えかけた時、一人の幼い女の子が、通りをふらふらと歩いているのが目に入った。
「ここに居ては危険よ。私たちと一緒に、安全なところへ行きましょう」
 せつなが女の子の側にしゃがみ込み、目線の高さを合わせて、優しい声で語りかける。そして女の子の手を取って立ち上がらせると、その子としっかりと手を繋いだ。
 ラブが、そんなせつなの様子に、フッと頬を緩める。せつなはそんなラブの顔を照れ臭そうにチラリと眺めてから、女の子と一緒に列の先頭に立った。
「さあ、そこの角を曲がったところよ!」
 後ろに続く人たちにそう声をかけて、せつなが女の子を気遣いつつ、速足で交差点を右に曲がる。続く人々を誘導してから、自分も角を曲がろうとしたラブは、もう一度ナケワメーケの方を振り返って、そこで思わず足を止めた。

(あんなところに、誰か居る!)

 二体のモンスターが戦っているすぐ近くの陸橋の上に、小さな人影が見える。いくら途切れ途切れとはいえ、あんな近くでは轟音も物凄いだろう。もしかしたら取り残されて、動けなくなっているのかもしれない。

「ラブ〜! どしたの?」
 ラブが来ないのに気付いたのだろう。曲がり角の向こうから、せつなの叫ぶ声が聞こえた。それに大声で答えようとした時、またしても音波が襲って来て、ラブは慌てて両手で耳を塞いだ。

「早く助けなきゃ!」
 思わず二、三歩走りかけて、せつなのいる方を振り返る。心配させないように一言伝えてから行きたいが、今は普通に会話するのすら難しい状況だ。それにぐずぐずしていたら、あの人がますます危険にさらされるかもしれない。

(せつななら、分かってくれるよね?)

 ほんの少しだけためらってから、ラブは意を決して、元来た道を全速力で走り出した。

 ナケワメーケに近付くにつれ、さすがに音波の衝撃は強くなってきた。音だけでなく、物理的な圧力が、突風となってラブを押し戻そうとする。ラブは、足から力が抜けそうになるのを必死で堪え、建物の陰から陰へと移動して、じりじりと前へ進む。

 ようやく陸橋がよく見える距離まで近付いた時、ラブは、ん? と不思議そうに呟いた。
 ごしごしと目をこすって、陸橋の上に居る人物にもう一度目を凝らす。そして。
「あーっ、あなたは!」
 誰も聞いていないビルの陰で、ラブは思わず大声を上げた。

114 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/06/12(日) 21:38:54
 肩の上くらいで切り揃えられた、少しくすんだライトブラウンの髪。大きな緋色の目がひときわ強い存在感を放つ、色白で端正な顔立ち……。
 間違いない。昨日、公園の奥の畑で出会った少女――あの時、せつなと睨み合ったあの少女だ。だが、今日の彼女の服装は、昨日と一昨日会った時のラビリンスの国民服とは、明らかに違っていた。
 上半身は華奢な身体にぴったりとフィットし、裾はマントのように長くて後ろに広がった形の、黒い衣装。細い手足は、同じく黒の長手袋と、黒の長靴下に覆われている。
 ラブの目に焼き付いている、親友のかつての姿とは同じでは無いものの、それをありありと思い起こさせる姿。
 と、その時ちょうど音波が途切れ、彼女の声がはっきりとラブの耳に飛び込んで来た。

「何をしている、ナケワメーケ! もっと攻撃しろ! 愚かで恩知らずな者どもを、不幸のどん底に突き落としてやれ!」

 そう、彼女はそこに取り残されているわけではなかった。左手を腰に当て、右手を前に突き出して、ナケワメーケに檄を飛ばしていたのだ。

「え……えーっ!? あの子が、ナケワメーケを!?」
 またしても誰も居ないところで大声を上げてから、ラブがハッとしたような顔つきになった。
「不幸の……どん底に……?」

 彼女の言葉に奮起したのか、ナケワメーケは再び強烈な音波を放ちながら、街の方へと歩き出そうとしていた。ホホエミーナが立ちふさがり、その丸くて平べったい身体をナケワメーケに叩き付ける。
 ゴン、という鈍い音がして、ナケワメーケがぐらりとよろけ、地響きを上げてその場に倒れた。ホホエミーナが相変わらず笑顔のままで覆いかぶさり、ナケワメーケのダイヤに手を伸ばす。
 だが、そこで予想外の出来事が起こった。ホホエミーナの手がダイヤに届いたと思った瞬間、まるで感電でもしたように、ホホエミーナが弾き飛ばされたのだ。建物の上に倒れ込んだホホエミーナが、衝撃にビリビリと身体を震わせながら、必死で立ち上がろうとする。

「ハハハ……! 何度やっても無駄だ。お前にコイツは倒せない。それどころか、お前が居るお蔭で不幸がもっと広がっている。見ろ!」
「ホ……ホエミ……ナ……」
 勝ち誇ったような少女の言葉に、ホホエミーナが目尻をカタッと下げて、悲しそうに辺りを見回す。
 二体のモンスターが戦っている周辺の建物は、そのあおりを受けて、ほとんどが全壊、半壊の状態になっていた。
 戦意を喪失したホホエミーナに、ナケワメーケが再び音波を浴びせかける。

「もうやめて!」
 自分の声さえ聞こえない騒音の中で、ラブは思わず叫んでいた。
 鋭い目でナケワメーケを見据える少女の姿が、ラブの中でいつの間にか、かつてのせつなの――イースの姿と重なっていた。同時に、昨日自分の腕の中で震えていたせつなの姿が、それと重なるように蘇って来る。

「ダメ……。このままじゃ……ダメ〜!!」

 ラブはグッと拳を握ると、風圧に何度も転びそうになりながら、再び通りを走り出した。少女が立っている陸橋は、モンスターたちの戦いの現場を挟んで向こう側にある。
 路地から路地を斜めに走って、大回りをしてナケワメーケの背後に回ると、あんなにラブを悩ませていた音は嘘のように小さくなった。音は一定の方向に向けて、強く発せられているらしい。なるほど、それで少女はあんなにも平然と、立っていられるのだろう。
 どうにか少女の立つ陸橋の下までやって来ると、荒い呼吸を力づくで抑え込んで、精一杯の大声を張り上げる。

「もうやめてっ! どうしてこんなことをするの?」
「ん? ……ああ、お前か」
 少女がナケワメーケから目を離し、ラブの姿を認める。そして昨日とは打って変わった余裕の表情で、ふん、と鼻で笑った。

「どうして? そんなこと、聞いてどうする」
「だって……何か理由があるんでしょう?」
「ふん、異世界人のお前には関係ない。とっとと自分の世界へ帰るがいい」
「関係あるよっ!」
「何っ?」
 打てば響くように返って来たその言葉に、少女が初めて、怪訝そうな顔になる。が、続くラブの言葉を聞いて、その表情は次第に険しいものに変わった。

「あたし、あなたにこんなことして欲しくない!」
「……何を言ってる」
「人を怖がらせたり、傷付けたりしてしまったら、結局は自分が傷付くことになるんだよ。あたしはあなたに、悲しい顔して欲しくないの。だから、こんなこともうやめて!」
 今まで悠然とラブを見下ろしていた少女が、ギリッと奥歯を噛みしめる。そして矢のような速さで陸橋の上から飛び降りると、ぐいっとラブの胸倉を掴んだ。

115 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/06/12(日) 21:39:29
「お前、正気か? お前に私の何が分かると言うんだ」
「わ……分からないよ。でも……あなたはあたしを……助けてくれたじゃない。ほら、初めて会ったとき」
 息苦しそうに、それでも必死で言葉を押し出すラブをじろりと睨んでから、少女がラブから手を離す。
「あれは助けたんじゃない。お前がぶつかって来ただけだ」
「でも、転ばないように受け止めてくれた」
「だから、それはたまたまだっ」
 穏やかなラブの言葉に、思わず食ってかかってから、少女は珍しいものでも見るようにラブの顔を見つめて――もう一度、ふん、と小さく笑った。

「どうしても私を止めたいと言うのなら、一緒に来い。私がすることを、見届ければいい」
「え……」
「ふん、やっぱり私が恐ろしいか」
「そんなこと無いよ!」
 突拍子もない提案に戸惑ったラブが、少女の挑発めいた言葉に、再び勢いよく反論する。それを見て、少女が今度はニヤリと笑った。
「お前には、一切危害を与えないと約束する。途中で逃げ出したくなれば、いつでも逃げればいい。
ただし、来るのはお前だけだ。私が目的を達する前に、お前が私を止められれば、何でも言うことを聞く。止められなければ、もうこの世界にお前の居る場所は無い。尻尾を巻いて自分の世界に帰るがいい。何も出来なかった、無力感という名の不幸をお土産にな」
 ラブが、真剣な眼差しで少女の顔を見つめてから、こくん、と頷く。
「必ず止めてみせるよ、あなたのこと」
 きっぱりと言い放ってから、ラブは何かに呼ばれた様に後ろを振り向いて、あっ、と声にならない声を上げた。
 ナケワメーケとホホエミーナが戦っているその向こう側、ナケワメーケの轟音の只中に、驚きのあまり瞳を極限まで見開いた、せつなの姿があった。

「ふぅん、お仲間が来たようね」
 少女がせつなに気付いて、ニヤリと小さく笑う。
「どうする? 引き返すなら、今のうちだぞ?」
「ううん。でも……お願い、せつなと話をさせて」
「それはダメだ。ヤツはラビリンスの国民だ。こちらに来させるわけにはいかない」
「話をするだけだよ。行くのはあたし一人でいい」
「ふん、そんな手に乗るか。ヤツはメビウス様を裏切った元幹部。信用できるはずがない」
「……そう」
 ラブは、少女の顔を少しの間見つめてから、くるりとせつなの方を向くと、ありったけの声で叫んだ。

「せつな、ゴメン! 心配かけて、本当にごめんなさい! あたし、どうしても行かなくちゃいけないの。必ず帰って来るから……必ずみんなで、幸せゲットしてみせるから。だから、待ってて!」

 せつなが子供のようにイヤイヤと首を振りながら、何かを必死で叫んでいる。その言葉は、ナケワメーケの音波に邪魔されて、ラブの耳には届かない。
 だが、ラブはそんなせつなをじっと見つめた。耳ではなく、目にせつなの思いを刻み付けようとでもするように、大きく目を見開いて、見つめ続けた。

「愚かなことを。この状況で、声など届くはずがない」
 ラブの大声に一瞬キョトンとしてから、少女が苦々しそうに吐き捨てる。ラブは、そんな少女にチラリと目をやって、小さく微笑んだ。
 そしてそっと目を閉じてから、もう一度せつなを見つめると、思いを込めて、最後にこう叫んだ。

「せつなぁ〜! 大好きだよ〜!!」

「ふん、下らない。ナケワメーケ! 戻れ!」
 少女が呆れたようにため息をついて、ナケワメーケに指示を出す。
 ナケワメーケの身体が鈍く光ったかと思うと、その直後、高脚付きのスピーカーが地響きを立てて地面に倒れ、少女の手にはナケワメーケに付いていたダイヤがあった。

「ラブっ!」
 せつながこちらに向かって脱兎のごとく駆け寄る。が、それと同時に少女がラブの腕をぐいっと引いた。
 次の瞬間、少女とラブの姿は忽然と消え失せて、せつなはようやく静けさを取り戻した街に、一人呆然と立ち尽くした。


〜終〜

116 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/06/12(日) 21:40:17
以上です。ありがとうございました!
次はもう少し早く更新できるように、頑張ります。

117 名無しさん :2016/06/14(火) 00:16:39
うおぉ! 続き待ってました! 赤目の少女がオリジナルながらリアリティがあって容姿まで目に浮かびますね!
かつての『彼女』と同じで、悪いことをしているけど、そこには強い意志がある姿がカッコいい。
ラブが彼女を放っておけないのがよくわかります。
連れ去られた先で一体何が待っているのか… 次回も楽しみに待っています!

118 名無しさん :2016/06/15(水) 22:26:22
>>116
面白かったです!
ナケワメーケの出現は迫力ありましたね。ラブと少女の対峙など見どころも沢山でした。
ハラハラの展開に、次回どうなのるのか非常に気になります!

119 名無しさん :2016/07/13(水) 00:25:30
ミントという植物は爆発的に繁殖するらしいですね。こまちちゃんの謎が解けました。

120 名無しさん :2016/07/13(水) 07:53:56
>>119
あれ全部子供だったのかと思うと、それはそれで怖いっす!

121 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/07/18(月) 21:41:11
こんばんは。
長編の続きを投下させて頂きます。5〜6レス使います。

122 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/07/18(月) 21:42:10
 地面にゴロリと横たわった街頭スピーカー。しんと静まり返った通りに、せつなは呆然と立ち尽くす。

 ラブが消えた。目の前で忽然と消えてしまった。それも……戦闘服を着て、ナケワメーケを操っていた相手と一緒に。

 ガクガクと震えそうになる身体を必死で静め、二人が消えた陸橋の下を凝視する。
 一刻も早く、ラブを取り戻さなくてはならない。そのために、何かほんの些細なものでも、ラブの居場所を突き止められるような手がかりが残ってはいないか……そんな祈るような気持ちで目を凝らす。
 一人の人影すらない、ガランとした街。その普段の姿との違いの大きさが、より一層にせつなの不安を掻き立てる。と、その時、慌てた調子の大声が後ろから急速に迫ってきた。

「イース! ラブはっ!? ヤツはどうし……うぐっ」
「ウエスター! 一体、何があったの!?」
 考える間もなく身体が動いた。せつなの細い両腕が、息せき切って駆けてきた大男の胸倉を掴み、締め上げる。
「……すまん。全て俺の責任だ」
 せつなの手を払いのけようともせず、無様な前かがみの格好のまま、ウエスターが喉の奥から声を絞り出す。それを聞いて、せつなは我に返ったように、ようやく手を離した。

 ごめんなさい、と目を伏せたまま小さく呟くせつなの隣に立って、ウエスターも鋭い眼差しで辺りを見つめる。
 これは「失態」などと言う生易しい言葉で済まされることではなかった。何をしでかすか分からない相手に、戦闘力を持たない者が連れ去られたのだ。生かすも殺すも相手次第――それはすなわち、限りなく“死”に近い状態を意味する。
 ましてや被害者であるラブは、平和な世界で暮らす、今はこんな危険とは無縁の少女なのだ。そのラブをこの世界に連れて来たのも、彼自身。全ての状況は自分が招いたと言って過言ではない。

 やがてウエスターが、悔しそうに「クソっ!」と小さく呟いた時、彼の通信機が着信を告げた。
 ウエスターが通信機をスピーカーモードにする。すると、いつもより早口のサウラーの声が聞こえてきた。

「報告を聞いて、今、全てのモニターのチェックを終えた。その場所から半径二キロ圏内に、ラブらしき姿は無い。二人は本当に、そこから消えたのか?」
「間違いないわ!」
「おう! 俺も見ていたぞ」
 せつなとウエスターが口々に言い募る。
「だとすると、ラブを連れ去った彼女は、何か特別な手を使ったというわけか? いくら幹部候補だったと言っても、そんな芸当が……」
「ええい、つまり何の手がかりも無いと言うことかっ!」
 サウラーのいぶかしげな呟きを、ウエスターが苛立たし気に遮る。その時、通信機の向こうでけたたましいアラームが鳴り響いた。同時にウエスターの通信機が第二の着信を告げる。

「なんてことだ……ナケワメーケがまた現れたぞ!」
 通信機の向こうで、サウラーが心底驚いたような声を出す。状況から見て同一犯と考えるのが自然だが、こんな頻度でナケワメーケを召喚するのは、ウエスターやサウラーでも容易なことではない。
「ほう……思いのほか早く、チャンス到来か。今度こそヤツを捕えて、必ずラブを取り戻してやる!」
 凄みを帯びたウエスターの声が、それに答える。サウラーが一緒ならば、頭を使うのは彼の仕事ではない。これで心置きなく戦える――誰よりも前線に立って、誰よりも強い力で。殺気すら伴った闘志が、彼の全身から放たれる。
 せつなはそんなふたりに目をやって、もう一度陸橋の方に視線を戻し、硬い表情でその場所に背を向けた。

「全員、戦闘服を着用の上、現場に急げ!」
「ウエスター、私も……」
 そう言いかけて、せつなは口をつぐむ。
 今の自分では、戦力にならない。かえって足手まといになるのがオチ――それは自分自身が、痛いほどによく知っている。

 せつなの声が聞こえなかったのか、それとも聞かなかったことにしたのか、ウエスターの返答は無かった。そのまま部下に手短に指示を終え、通信を切って振り返る。
「お前は住人たちの避難を頼む」
 そう言うが早いか、ウエスターはマントを翻し、飛ぶように走り去った。
 見る見る遠ざかっていくその後ろ姿を見つめて、せつなは一人、唇を噛みしめた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第6話:不幸の襲来 )

123 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/07/18(月) 21:42:54
「あ、居た! せつなさん、あの……」
 避難所になっている食糧庫の一室。ようやくせつなを探し当てた給食センターの若い女性職員は、声をかけようとして、慌てて思い止まった。

 薄暗い部屋の隅に立って、通信機で誰かと話している後ろ姿。その左手の拳がギュッと握られて、小刻みに震えている。だが。
「ごめんなさい。何かありました?」
 通話を終えて振り返ったせつなの表情は、いつもと変わらない穏やかなものだった。

「あ……はい。今日新しく避難してきた人と、昨日から居る人たちとの間で、ちょっと……」
「すぐに行きます」
 せつながうっすらと微笑んで、先に立ってスタスタと歩き出す。その様子に、職員は安心した顔つきで、せつなの後ろに従った。
 だから彼女には見えていなかった。歩き出したせつなの顔から瞬時に笑みが消え、代わりに眉間に深い皺が刻まれていたことを。

 ナケワメーケが街を襲い始めて――つまりラブが連れ去られて、三日目の夜を迎えようとしている。
 ウエスターの決死の覚悟も空しく、少女はまだ捕えられてはいなかった。従ってラブの行方も、ようとして知れなかった。

 この三日間、ナケワメーケは日に何度も、時と場所を変えて街を襲っている。信号、陸橋、電波塔……様々なものが次々と怪物になって、街を破壊し、人々を苦しめている。
 だが、あの最初の襲撃の後からは、怪物を操っているはずの少女の姿が、現場のどこにも見当たらないのだ。
 ナケワメーケ自体も、ウエスターたちが駆け付けるとそれを嘲笑うかのように、すぐに元の公共物に戻ってしまう。怪物を生み出したはずのダイヤも、少女の手がかりも、現場には何も残っていない。
 そんなことが、イタチごっこのように今日も延々と繰り返されたと苦い声で語ってから、サウラーはこう付け足した。

「何か少しでも手がかりは無いかと、僕も僕なりに探しているところだ。何か分かったら、すぐに連絡する」

 サウラーが気休めを言うところなど、せつなは今まで一度も聞いたことが無い。それを口に出すほど手立てが無いと言うことなのか。それでももう少し何とかならないものかと、つい苛立ちが口をついて出そうになって、せつなはグッと拳を握って、何とか堪えたのだった。



 避難者たちがいる方へ行ってみると、人々が二手に分かれて睨み合っていた。さっき職員が言っていた通り、今日ここに避難してきた人たちと、何日もここに居る人たちとが言い争っている。
「だから、こんな場所じゃまた襲われた時に危ないだろ!」
「私たちも、奥の部屋に入れてちょうだい!」
 彼らが言う“奥の部屋”とは、倉庫を片付けて作ったスペース。だからいざとなればシャッターを閉めて、外と遮断することが出来る。しかし、その場所は既に人で一杯になっており、仕方なく、今日来た人たちは手前の部屋――大きなガラス窓がある事務室に避難していた。

 血走った眼で詰め寄る避難者たちを、初日から避難している中年の男性が押しとどめる。
「奥はもう一杯だ。何か頑丈な物で窓を塞いで、出来るだけ危険を少なくしよう。だからここで我慢してくれ」
 男性の落ち着いた物言いに、新しい避難者たちが言葉を引っ込め、顔を見合わせる。だが、それも一瞬。
「そうだそうだ! 後からやって来たくせに、勝手なこと言うな」
「こっちだって狭いのを我慢して場所を作ったのに、何て態度なの?」
 男性の後ろから苛立った様子の複数の声が上がって、辺りの空気はさらに緊迫の度合いを増した。

「何よ、その言い方は。早い者勝ちだなんて誰が決めたの?」
「ここは公共の倉庫だろ。君たちだけの場所じゃない!」
「何だと? そんなに文句があるなら他所へ行けよ」
「こんな時に、街へ追い出そうっていうの!?」
「こんなに大勢が一か所に集まっていたら、食糧だって持たないぞ」

「もうやめて下さい。皆さん、少し落ち着いて!」
 そう言いながら、せつながいがみ合う二つの集団の間に割って入った。人々の苛立った、敵意すら感じられる視線が、一斉にせつなに突き刺さる。
 視線が痛い――そう感じられるほど強い視線にさらされることなど、このラビリンスで、かつてあっただろうか。

(本当に、ここはラビリンスなのかしら……)

 つい先日は、真逆の意味でそんなことを思った――それを思い出すと共に、ラブの笑顔が蘇って来て、胸の奥が、視線の痛みなどとは比べ物にならない痛みを訴えた。
 再び左手の拳を、ギュッと握る。

(こんな時、ラブなら……)

 目を閉じて深呼吸し、気持ちを落ち着ける。そして一人一人の顔を真っ直ぐに見つめながら、せつなは静かな、しかしよく通る声で語りかけた。

124 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/07/18(月) 21:43:26
「今、警察が、怪物の攻撃から私たちを守りながら、犯人逮捕に動いています。政府も懸命に犯人を捜しています。私たちは彼らを信じて、私たちに出来ることをしましょう。ここに居る人たち全員で、助け合って……」
 だが、そこでせつなの言葉が途切れた。ひとつひとつは小さいが、不安と不満の塊のような囁きが、さざ波のように部屋中を覆ったのだ。

「そんな、信じろなんて無責任に言われても……」
「もう三日よ? 一体いつまで待てばいいの?」
「いい加減、我慢の限界だ」
 せつなの顔を一切見ようとはせず、疲れ切った顔でブツブツと呟く声。
 なおも言い募ろうと息を吸い込んでから、伝えるべき言葉が見つからなくて、せつなが力なく息を吐き出す。
 が、そこでせつなの呼吸が止まった。ごく小さな、ため息と共に吐き出された力ない言葉が、雷のような衝撃を伴って耳を打ったのだ。

「以前は……メビウスの時代には、こんなこと絶対に無かったのに」

「おいっ! そんなこと、言うもんじゃないだろう!」
 慌てたように声の主をたしなめる、さらに小さな声がする。だが、さっきの声はおさまらない。
「だってそうだろう? 俺は事実を言っただけだ」
「メビウスは、僕たちを管理していたんですよ?」
「ああ。でもだからこそ、こんな犯罪なんて絶対に起こらなかった」
「事故も災害も、その存在すら知らないでいられたしな」
「じゃあ私たちは、メビウスに守られていた、ってこと……?」
「いい加減にしないか! せつなさんの前だぞ!」

 ごく小さな声で言い合っていた人々が、その一言でハッとしたように、せつなの方を窺う。
 うつむいたせつなの表情は、黒髪に隠れてよく分からない。
「せつなさん……」
 彼女の後ろに付き従っていた女性職員が、泣きそうな声で呟いた時。

「ナケワメーケ!!」

 窓の外から、新たな怪物の雄叫びが聞こえて来て、部屋の中は騒然となった。

「マズい。スピーカーの化け物だ!」
「全員、窓から離れろ! 耳を塞げ!」
「うわ、お願い、押さないで!」
 一斉に奥の部屋へと逃げ込もうとする人々。だが、ナケワメーケが続いて発したのは、あの頭が割れるような雄叫びでは無かった。

「愚かな者たちよ。これは、メビウス様からお前たちへの、制裁だ」

 ナケワメーケの頭部にあるスピーカーから、初めて人の声が響く。まだ若い女性らしく、少々甲高い声。だが、それを補って余りある堂々とした語り口調とよく通る声音には、聞く者に耳を傾けさせる威圧感のようなものさえ備わっている。

「メビウス様は、このラビリンスから完全に消え去ってなどいない。忠実な僕であるこの私の手で、復活される日を待っておられるのだ。大恩ある存在を裏切ったことを後悔するのなら、泣け! 嘆け! そして許しを請え! お前たちの不幸が、メビウス様の力になる」

 あまりにも衝撃的なことを知らされると、かえって言葉は出て来なくなるものらしい。
 部屋の中は一瞬、しんと静まり返った。が、続いて沸き起こったざわめきは、あっという間に部屋全体をパニック状態に陥れた。

「メビウスが……」
「復活するというのか……」
「再びこの世界に、メビウス様が……」
「私たちは、どうなってしまうの……」
「だけど、受け入れてしまえば、もうこんな目には遭わずに済むんじゃないか?」
「今、裏切ったと言われたじゃない。何の制裁も無しに許されると思ってるの?」

 自分達を苦しめているのが、単なる犯罪者による事件ではなく、絶対者であったメビウスによる粛清である――その通達は、わずかばかり残っていた人々の希望を消し飛ばすのに十分だった。
 立っていられなくなったのか、その場にへたり込む者が続出する。
 あちこちで火の付いたように子供たちが泣き出した。大人たちはそれをなだめるでもあやすでもなく、ただ呆然とその場に座り込んでいる。

「せ、せつなさん……!」
 さっきの女性職員が、すがるような目でせつなの姿を追い求め、え……と驚きに声を飲み込んだ。
 驚愕と恐怖に支配された部屋の中から、せつなの姿は忽然と消え失せて、もうどこにも見当たらなかった。

125 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/07/18(月) 21:44:22
 食糧庫の扉が、一瞬だけ内側に開く。外へと走り出た少女――せつなは、ギリリ、と音がするほど奥歯を噛みしめて、そびえ立つ化け物を睨みつけた。
 避難所の人たちがパニック状態に陥っていることなど、今はどうでもよかった。
 メビウスがまだこの世界に居るかもしれない。そんな衝撃の告白すらも、どうでもよかった。

(許せない)

 ナケワメーケの姿に、メビウスの本体であった巨大な球体が重なって見えた。
 もうダメかと何度も思うような状況の中で、そのたびに立ち上がって果敢に挑みかかった、仲間たちの姿が蘇る。
 傷つき倒れた自分たちを励まし、思いを託してくれたラビリンスの人たちのお蔭で、キュアエンジェルに覚醒した――あの時の高揚感も、ありありと思い出される。

(許せない)

 自分のことはいい。そもそも、ラビリンスの幹部であったイースがプリキュアになったこと自体、受け入れられるようなことではなかったのだから。
 だが、仲間たちが傷つき、ぼろぼろになりながらも、このラビリンスで戦ってくれたことを、その戦いに心動かして、応援してくれたたくさんの人たちの思いがあったことを、嘲るようにこんな形で無駄にしようとするなんて――。

(絶対に……許せない!)

 せつなの瞳が怒りのためか、常よりも赤く輝く。その鋭い視線が、ナケワメーケの右肩の辺りに流れた。
 そこに立っている小さな人影を認めて、大きく目を見開く。そして次の瞬間、せつなは獲物に襲いかかる獣のように走り出した。

「もう一度言う。これは、メビウス様からお前たちへの、制裁だ!」

 そこに立っていたのは紛れもなく、昨日ラブと共に消えたあの少女――ナケワメーケを操っている少女だった。

 走り出したせつなを遮るように、一台の車が滑り込む。現場に急行した警察車両だ。そこから腕っぷしの強そうな若者が、続々と降りてくる。
 彼らは一様に、警察支給の戦闘服を着用していた。ウエスターやサウラーのような過酷な訓練を積んだ者だけが扱える特別製ではないが、それでも使用者の身体能力を数十倍に底上げしてくれる、優れた武装だ。
 その者たちの中に、慌てたのだろうか、まだ戦闘服を手に持ったままの警官が混じっていた。せつなはそれを見つけるや否や、彼に狙いを定めて躍りかかった。

 その若者は、一瞬、自分の目を疑った。戦闘態勢にあるはずの数人の仲間が、突然目の前で、バタバタと地面に倒れ込む。一陣の風のように近付いてきた何者かが、ただの一撃で昏倒させたのだ。
 仲間の安否を確認する暇など無かった。すぐさま目の前の脅威――不届き者の方へと向き直る。だが、相手はもうそこには居なかった。
 後ろに気配を感じたと思った瞬間、首筋に手刀が叩き込まれる。そして抱えていた戦闘服が奪われると同時に、意外にも女性の声がこう囁いた。
「説明している時間が無いの……ごめんなさい」
 薄れゆく意識の中で、彼が最後に見たものは、ラビリンス人にしては珍しい黒々とした髪と、硬い表情でこちらを見つめる赤い瞳だった。



 警察車両から離れた路地に飛び込んで、せつなは改めて手の中のものに目をやった。
 ラビリンスの戦闘服――久しぶりに手にするそれは、かつて自分が着ていたものに性能では及ばない。だがこれがあれば、少なくとも目の前の敵と――少女と戦う力を得ることが出来る。
 急いで身に纏おうとして、せつなは自分の両手が小刻みに震えているのに気付いた。

(怖れているというの、私は……。この期に及んで)

「泣け! 嘆け! そして許しを請え!」
 少女の声が、頭の上から威圧するように降って来る。
 仲間たちの奮闘も、ようやく自分の足で歩き出そうとしているこの国の姿も、嘲るように踏み潰そうとする声――その声が、かつての自分の声と重なって聞こえた。

(もしかしたら、全てを無駄にしようとしているのは私の方かもしれない。それでも……だとしても!)

「誰も泣かせない! 誰も嘆かない! 私が……このイースが、お前を倒すっ!」
 言葉と共に、手にした戦闘服が旗のように勇ましく空中に翻る。だが、伸ばした腕がそれを纏うことはなかった。
 背後に感じる巨大な気配。と同時に大きな掌がせつなの腕を掴み、締め上げる。せつなの渾身の力を持ってしても、拘束は微動だにしない――。

「何をするのっ、放して!」
「すまん、イース。だが、今のお前にそいつは着せられない」
 いつの間に現れたのか、ウエスターがいつになく神妙な、哀し気にも見える顔つきで、そこに立っていた。

126 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/07/18(月) 21:44:54
「おかしなものでな。この職務に就いてから、こんな俺でも人間の感情ってヤツに、少しは敏感になって来たようだ」
「何が言いたいの?」
「上手く言えんが……とにかく今のお前を行かせたら、俺はもうお前たちに顔向け出来なくなる」
「……え?」
「ラブがあの時なんて言ったか、俺にも読めてしまったんでな」

――せつなぁ〜! 大好きだよ〜!!

 あの時、別れ際にラブが叫んだ言葉――声は聞こえなかったが、唇の動きで確かにそれと分かった言葉。この三日間、焦燥と一緒に何度も脳裏に浮かんできた言葉が、再びせつなの中に蘇った。

「だったら、私の気持ちもわかるでしょう!?」
「ああ、わかるぞ。そしてラブの気持ちもな。たとえ無傷でラブを救っても、お前が変わってしまえば、無事な再会とは言えないということもな」

 せつなの腕から、力が抜ける。ウエスターは優しい手つきで戦闘服を取り上げると、まだ信じられないような顔で後ろに立っていた持ち主に放り投げ、くるりと踵を返した。
「すまん。今度こそ、俺に任せてくれ」
 そう言った途端、ウエスターの纏う空気が、ガラリと変わった。


 ナケワメーケを取り囲んでいた警官たちが、にわかにざわめき出した。前線から一人の男が進み出て、怪物に向かって悠然と歩き始めたのだ。
「た、隊長、何を……」
「お前たちは下がっていろ」
 制止しようとした若者の声が、凄みのある声で遮られる。言われるまでもなく、その背中から発せられる強烈な気に、全員が圧倒されてじりじりと後ずさる。

「ナケっ?」
 ナケワメーケが、人影に気付いた。無謀にも、たった一人で近付いて来る男。その小さな姿目がけて、虫けらを踏み潰そうとでもするように、巨大な足を振り上げる。
 だがその瞬間、男の姿が消えた。そして次の瞬間。

「どぉりゃぁぁぁぁっ!」

 辺りを震わせるような雄叫びが響く。ナケワメーケは軸足を取られ、地響きを上げてその場に転倒した。

 すんでのところで離脱した少女が、驚きに目を見開いてから、それを隠すように、ふん、と鼻を鳴らす。
「そこまでだ! これがただのナケワメーケだと思うのか? お前にコイツは倒せない」
「さあ、それはどうかな?」

 言うが早いか、ウエスターは空中高く跳び上がった。全身の気を右の拳に集め、まだ起き上がろうともがいているナケワメーケのダイヤ目がけて、渾身の一撃を叩き込む。
 その途端、ビリビリと暗紫色の稲妻が走った。ナケワメーケのダイヤから強烈な衝撃波が巻き起こり、空気を不穏に震わせる。
 だが、ウエスターは拳を離さない。髪を逆立て、両目をカッと見開いて、裂帛の気合いをさく裂させる。

「ぐおぉぉぉぉぉっっ!!」

 ついに、ピシリ、という鋭い音がしたかと思うと、ダイヤは乾いた音を立てて粉々に砕け散り、埃を被って横倒しになった街頭スピーカーが、姿を現した。

 スピーカーから飛び降りたウエスターが、今度は少女の方へと歩み寄る。あまりのことに、その場から一歩も動けずにいた少女は、そこでやっと我に返って、戦闘の構えを取った。
 が、そこまでだった。放った蹴りを軽々と受け止められ、地面に叩き付けられる。飛び起きようとしたところで鳩尾に一撃を喰らって、意識を失ったまま、肩に担ぎ上げられた。

「さぁ、ラブの居場所に案内してもらおうか」
 ウエスターが少女を抱えて、警察部隊と共に車に向かう。
 その姿を追う見えない影があったことに、さすがのウエスターも気付いてはいなかった。

〜終〜

127 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/07/18(月) 21:45:26
以上です。5レスにおさまりましたね。
ありがとうございました!

128 名無しさん :2016/07/23(土) 00:15:37
>>127
次回はいよいよクライマックス……ですか!?

129 ゾンリー :2016/08/10(水) 20:50:50
はじめまして、ゾンリーと申します!
アコちゃんが大好きでよく響アコなど漁ってます。拙い文章ですが見ていただけると幸いです。
タイトルは「響とアコのお泊り会!」
2レス使わせて頂きます。

130 ゾンリー :2016/08/10(水) 20:54:38
「いや急に言われてもなぁ…アコがなぁ…エレンもハミィとメイジャーランドに行くと言っておったし…」
「私がどうしたの?おじいちゃん」
急に出てきた私_調辺アコ_の言葉に反応せずにはいられなかった。
ここは調べの館。今日が終業式で明日から夏休みの私達は久しぶりに一緒に帰宅することになっていた。その途中で立ち寄ったのが調べの館だった。
「え?あ、あぁおかえり。皆もよくきたな。」
「「「「おじゃましまーす!」」」」
「で、どうしたの?」
「いやぁ、急に明日外泊することになってのぉ。場所が場所だけにアコを連れてく訳にも行かぬし一人にもできぬし…」

「それなら私のところに来る?」

そう言ったのは響だった。私の肩に手を置くと続けて話す。
「ウチも両親が明日明後日いないんだよね。いいでしょ?音吉さん」
「おお!それはありがたい!アコ、失礼の無いようにな。」
「なんか私抜きで話が進んでるけど…つまり明日響の家にお泊りって事ね。」
「んふふ〜楽しみ〜!」

〜翌日〜

「おじゃましますー。」
ドアをくぐると香りが他人の家だということを自覚させる。
ドタバタと足音がしたと思ったらすぐ目の前に響が出てきた。
「いらっしゃい!待ってたよ〜さ、上がって上がって!」
背中を押されて無理矢理中に入れさせられる。
「なんでそんなにテンション高いのよ…」
あきれ顔で聞くと「だって泊まりに来るなんて久しぶりだし!」と即答された。
案内された部屋に荷物を置いてとりあえずリビングへと向かう。
「ささ、何して遊ぼっか?」
一通り響とじゃれ合ったあと、ふと思い出したように響が言った。
「あ、そろそろ買い物行かなきゃね〜。何食べたい?」
「別に何でも…」
「んーじゃあカレーかな?」

ー近所のスーパーにてー

「人参、お肉、ジャガ芋、カレールー…あと何だっけ」
私は手元のメモに目を落とす。
「あと玉ねぎね。」
カートに玉ねぎを入れる響。そんな彼女の目を奪った…つもりは無かったがついついお菓子コーナーをチラ見してしまった。
そしてそんな私を響は見逃すつもりはなさそうで…
「え、何?お菓子買って欲しいの?も〜しょうがないなぁ〜」
「ちょ…違うって…!」
背中を押されて問答無用でお菓子コーナーへと。
なんとか(?)お菓子の購入を回避して会計を済ませる。
帰り道はパ○コを二人で分けてちゅーちゅー吸いながら帰宅。

ーもう一回響宅ー
エプロンをつけて私達は台所に立っている。
響はカレールーのパッケージの裏を見てうんうん唸っている。
私はちょうど野菜やお肉やらを切り終わったところ。
「とりあえずお肉を炒めればいいみたい?」
(疑問形…)
足場の小さい台からピョンと飛び降りると戸棚から手頃な鍋を取りだしコンロに置く。
「油〜油〜」
私がサラダ油を取り出すのを響は制止する。
「お肉から直接油が出るから油敷かなくていいの!」
「えっ!そうんなんだ…」
しぶしぶ元の場所へと戻す。____

131 ゾンリー :2016/08/10(水) 20:55:13
「「でーきたっ!」」
鍋から見える茶色のトロトロの液体。湯気が良い香りを運んで来る。
「「いただきまーす!」」
響は中辛、私は甘口のカレーを口の中へと運ぶ。少し味付けを失敗してしまったけど、自分達で作ったカレーはいつもより美味しく感じた。

その後は後片付けや何やらをしていると時計は8:00を指していた。
そろそろお風呂に入らなきゃ…と思っていると響から衝撃的な一言が。
「もう8時か…せっかくだし、一緒にお風呂入ろうか!」
「うっ…ええええええええ!?」
「何か問題でもあんの〜?」
「いや別に…無い…け、ど…」
最後は尻すぼみになってしまった。
結局一緒に入る事になり、脱衣所で服を脱ぐ。
これまた響の提案で背中を洗いっこして湯舟に浸かる。
ゆっくりしようと思い息をゆっくりと吐く。
…まあ響はそうさせるつもりは無いようで。
「んでー?奏太とはどんな感じなの〜?うりうり〜」
「ちょ…っいきなりなによ!?ふ、普通の友達よ!」
いきなり顔を近づけられる。残念ながら逃げ場は無い。
「ふーん…それじゃあアコ自身はどう思ってるの?」
「それは…その…」
「あぁー!赤くなっちゃってるー!」
「の、のぼせただけだし!もう上がるもん!」
湯舟から出てバスタオルで身体を拭く。肩をすくめながらも響も詮を抜いて上がる。

パジャマに着替えた私達は並んでテレビの前に座っていた。
画面に映るのは暗い廃校。小さな松明を持って歩く一人称のカメラ。
私は膝を抱えて顔を半分うずくめてテレビを睨んでいる。
何となくで見たホラー番組だが、ものすごく…怖い。
「ひっ」
いきなり画面いっぱいに出てきた気色悪い顔に思わず声を上げてしまう。
「エ、エレンがいたら凄い事になりそうね…」と響。
「そ、そうね…」と私。
上の空で会話をしつつも早く終わってくれないかと願うばかり。
お互いにプライドが途中で終わる事を認めてくれないのだ。

〜番組終了〜

「「ふぅ…」」
《また次回》のテロップが消えると同時にため息をつく。
「ねぇ…一緒に寝ない?」そういう響の声には生気が無かった。
そしてその提案に私は
「…賛成」
と言わざるを得なかった。

ー響の寝室にてー
私と響はお互いに向かいあって一つのベッドに入っている。壁側に私、反対側に響が寝ている。
きつい位の密度が今は恐怖心を抑えてくれる。
「うぅん…」
響の腕が私の背中にまわって抱き込まれる。…まあ寝ていて気付かなかったんだけど…不思議と心地好かった気がする。

〜翌朝〜
「じゃあ…おじゃましました。」
「うん!またお泊り会したいね!次は皆で!」
「ホラー番組はナシで…ね。」

___これで、私のちょっとした初体験は幕を閉じたのでした。

132 ゾンリー :2016/08/10(水) 20:55:48
以上です。
ありがとうございました!

133 名無しさん :2016/08/10(水) 22:40:05
>>132
ゾンリーさん、ガールズサイトへようこそ!
いつもクールなのになんか子供らしくドキドキしてるアコと、自然体の響が良かったです。
ホラーが怖いのに、自分からは切れない二人が最高w
また書いて下さいね。楽しみにしています。

134 名無しさん :2016/08/13(土) 00:47:52
>>132
響アコ愛が詰まっていて面白かった!
朝食はアレかな……お茶漬けと沢庵かな

135 名無しさん :2016/09/01(木) 00:01:05
プリキュア書き手あるある
投稿した直後、ミスに気付きがち

136 名無しさん :2016/09/01(木) 07:26:45
>>135
あるあるw

137 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/09/04(日) 18:47:59
こんばんは。
大変遅くなりましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
ちょっと長くなりまして、8〜9レス頂きます。

138 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/09/04(日) 18:49:09
 少女にぐいっと腕を引っ張られたと思った瞬間、ラブは見覚えの無い、狭いトンネルのような場所に立っていた。
 振り返っても何も見えず、前を向くと、先を歩く少女の姿がかろうじて見えるだけのほの暗い場所。
 慌てて彼女の背中を追いかける。程なくして急に視界が開け、二人は大きな建物の前に出た。

「ここはどこ? 何のための建物なの?」
「軍事養成施設・E棟。歴代のイースが生まれ育った場所よ。今は政府によって封鎖されているけど」
「え……じゃあ、せつなもここで!?」
 少女の言葉に、ラブは目を見開いてから、改めて目の前の建物をしげしげと見つめる。

 大きな扉を中心に、左右に広がる黒々とした壁。その造りだけを見ると、どことなく占い館に似た佇まい。だがこの建物は周囲を高い塀で囲まれていて、森の中にあった占い館とは、受ける印象が随分違う。
 より無機質で、硬質で、他を寄せ付けない堅固な要塞のような雰囲気が感じられる場所――。
 少女の方は、そんなラブの様子には目もくれず、中央の重そうな扉に向かって、さっと右手を翳した。

 ギィ、という音を立ててゆっくりと扉が開く。
「開いた……。自動ドア?」
「いや、私が開けた。データを読み込ませてね」
 面白くもなさそうな声でそう言って、少女が無造作に建物に足を踏み入れる。慌てて続くラブの後ろで、大きな音を立てて扉が閉まった。

 入ったところはホールのような、だだっ広い場所だった。壁も床も、全てがグレー一色。その中でまず目に入ったのが、左右に伸びる長い階段だ。色合いやデザインは大きく異なるが、造り自体は、やはりどことなく占い館を思わせる。ラブは不思議な懐かしさを感じながら、階段の中程に目をやった。

(確かあの辺りに、せつなが立ってたんだよね。急に声を掛けられて、びっくりしたっけ……)

 初めて会った時のせつなの動きを目で追うように、ゆっくりと視線を動かす。が、少女は階段まで歩を進めると、ラブの視線とは逆の、地下へ伸びる階段の方へと足を向けた。
 少女に続いて、ラブも階段を下りる。そして地下の部屋にあるものを目にした途端、さっきまでの感傷は一辺に吹き飛んだ。

 一階と同じくグレーの壁に覆われた、薄暗い一室。その真ん中に置かれていたのは、天井まで伸びた透明な円柱状のゲージだった。かつて占い館で見たものほど大きくはないが、一人ではとても抱えきれない太さの筒の中に、濁った液体がラブの膝の高さくらいまで溜まっている。

「これって……まさか!」
 ラブが声を震わせた、その時。
「あら? 珍しい顔ねぇ。あなたがここに居るということは、その子の言うことも、あながち間違いでもなさそうね」
 どこかから妖艶な声が響いて、ラブは再び目を見張った。

 ゲージの前に突如、大柄な女性が現れる。腰まで伸びた濡れ羽色の髪。鮮血のように真っ赤な唇。そして相手を射すくめるような、鋭い眼光――。
「……ノーザ! どうして!?」
 思わず大声を上げてから、ラブはごしごしと目をこすった。ノーザの姿が、何だか透明がかっているように見えたからだ。それどころか、よく見るとその体の向こうに、後ろのゲージがぼんやりと透けて見えている。
 ノーザの姿は実体を伴ったものではなく、ただの映像のようだった。どうやらゲージの前に置かれた、まるで枯れ木のように見える小さな植木の枝先から投影されているらしい。

「あなた、本当にノーザなの? ホンモノはどこにいるの? このゲージは何? もう一度、不幸を溜めるつもりなの? 何のために!?」
「相変わらずうるさいわねぇ。少しお黙りなさいな」
 ノーザがそう言うと同時に別の枝がしなやかに伸び、蔦となってラブに襲いかかった。
 少女がラブの前に飛び出すと、手首を軽く返しただけで蔦を弾いた。ラブのすぐ横の壁が蔦の一撃を喰らって、その表面の一部がボロリと崩れ落ちる。
 目をパチパチさせるラブに一瞬だけ鋭い視線を送ってから、少女は真っ直ぐノーザの映像に向き合った。

「お手柔らかに。相手は生身の人間ですよ?」
「あら、ごめんなさい。それにしても、プリキュアを人質に取るなんて、なかなかやるじゃないの。こうしておけば、裏切り者の幹部たちも迂闊に手が出せないというわけね」
「……」
 少女はそれには答えず、ラブを制して自分の後ろに下がらせる。

139 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/09/04(日) 18:50:11
「それで、ゲージの上がり具合は?」
「見ての通りよ。初めてにしては上出来だわ。それにしても、このラビリンスで不幸を集められるようになるなんてねぇ」
「それだけ、今のラビリンスが愚かな世界になったということ。メビウス様の統治が素晴らしかったという証拠です」
 そう言いながら、少女は今にもノーザの前に飛び出しそうなラブの二の腕を掴んで離さない。その様子を見て、ノーザは口の端を斜めに上げてニヤリと笑った。

「そうねぇ。でも、ウエスター君にあなたの姿を見られたのだけは、失敗だったわね」
「このダイヤを使ったナケワメーケならば、ヤツらが生み出すモンスターでも倒せない――おっしゃる通りなのは確認しました。ならば問題ないはずでは? それに、いざとなればさっきのように時空を開いて頂ければ……」
「こと戦闘にかけては、あまり彼を舐めると痛い目に遭うわよ? 姿を見られた以上、さっき時空を開いたのが最後の一回だと思いなさい。多用すれば、私の存在を奴らに察知される恐れがある。それだけは避けたい――わかるわよね?」
「じゃあ、どうしろと?」

 少女の言葉が終わるより早く、何かがシュッと部屋の中を横切った。と同時に、少女の手に握られていた暗紫色のダイヤが魔法のように消え失せる。
 さっきとは比べ物にならない速さと鋭さだった。気付いた時には一本の蔦が、絡めとったダイヤをまるで捧げもののように、ノーザの前に高々と掲げていた。

「っ……何を!」
 思わず声を荒げる少女をさらに威圧するように、ノーザが重々しい声を出す。
「あなたには二、三日休暇をあげる。後でちゃんと花を持たせてあげるから、しばらくは私に任せなさい」
「ノーザさんに? ですが、そんなこと……」
「あら、出来ないとでも思ってるの? 姿を隠したままでも、あなたの三倍、いや五倍は働いてあげるわ」
 フフフ……と楽し気に笑うノーザに、少女が少し悔しそうに下を向く。その隙をついて、ラブが少女の腕を振りほどき、ようやくノーザの前に躍り出た。
「お願い。これ以上、ラビリンスの人たちを不幸にしないで! みんな、今ようやく幸せゲットしようって、頑張り始めたところなんだよ。だから……」
「聞き分けのない子ねぇ。お前の出る幕じゃないって、何度言ったら分かるのかしら?」

 ノーザがそう言うが早いか、さっきよりはるかに太い蔦が、ラブを目がけて唸りを上げる。
 今度はとても弾けない――そう判断したのか、少女は咄嗟に覆い被さるようにしてラブを庇った。蔦はそのまま少女とラブの身体を絡めとると、二人を部屋の外へと放り出した。
「そうそう。まさかとは思うけど、ここが奴らに見つかったりしていないか、ちゃんと確認しておきなさい。頼んだわよ」
 ノーザのその声を最後に、部屋のドアはバタンと閉まった。

 跳ね起きたラブがドアに駆け寄る。だが鍵がかけられたのか、どんなにノブを回してもドアはびくとも動かない。
「ふん、全く懲りないわね」
 少女は腰に手を当てて呆れたように呟くと、すぐに元来た階段の方へと向かった。仕方なくその後に続きながら、ラブはもう一度閉じられたドアを振り返って、不安そうに胸の前でギュッと両手を組み合わせた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第7話:瞳の中の炎 )



 どこからか、タン、という小さな音が断続的に聞こえてくる。それをぼんやりと聞きながら、ラブは目を覚ました。
 ここへ来て二日目の朝。ラブの寝室としてあてがわれた部屋は、同じ形と大きさの部屋がずらりと並ぶ、居住エリアにある一室だ。
 普段寝ている畳のベッドより一回り大きなベッドから降りて、まずは分厚いカーテンを開ける。窓の向こうに見えるのは、こちらもグレー一色の、高い塀だった。
 見上げると、四角く切り取られた空が小さく見える。青というより、塀の色より少し淡いグレーといった色合いの空からは、今の季節の四つ葉町よりずいぶん柔らかな、朝の光が差し込んでいた。

(せつなも見ていたのかな、こんな景色……)

 うーん、と大きく伸びをしてから、くるりと窓に背を向け、改めて部屋の中に目をやる。
 大きさだけは立派だが、あまりにもシンプルなベッドと机、それにクローゼットだったらしい細長い物入れがひとつ。封鎖されている建物だからこんなに殺風景なのか、それとも元々こんな部屋だったのだろうか。
 閑散とした部屋の中に、親友の姿を思い浮かべようとして――しかし、思い浮かんだのは昨日の出来事だった。

 再び目にした不幸のゲージと、まさか再会するとは夢にも思っていなかったノーザの姿。黒雲のような不安が広がりそうになる胸を、ギュッと両手を組み合わせて抑える。

――どうしても私を止めたいと言うのなら、一緒に来い。私がすることを見届ければいい。

140 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/09/04(日) 18:50:42

 そう言って不敵に笑って見せた少女の瞳に、親友の――せつなの哀し気な瞳が重なって見えた。
 だからどうしても、彼女を止めたいと思った。でも……。

(あの子は一体、何をするつもりなんだろう……)

 昨日、ノーザに地下室から放り出された後、少女は真っ直ぐこの棟のコントロール・ルームに向かった。ラブはそんな少女を追いかけて、ノーザの言いつけ通り外部モニターのチェックを始めた彼女に、質問を浴びせかけたのだ。

「ねえ。あそこにノーザの姿が映っていたということは、ノーザがどこかに居るってことでしょう? どこに居るの?」
「今に分かるわ」
「部屋の真ん中にあったのって、“不幸のゲージ”だよね?」
「ええ」
「やっぱり。またナケワメーケで不幸を集めて、一体何をするつもりなの?」
「それもゲージが溜まったらすぐに見せてあげるわ。そう先のことじゃない」

 ここへ来る前よりは幾分柔らかな口調ながら、モニターから目を離さず、今に分かる、の一点張りの少女。

「じゃあ今は……何も教えてくれないの?」
「これでも随分と手の内を明かしているつもりよ。何と言ってもアジトに連れて来たんだから」
 不満そうに問いかけたラブに、初めてチラリと視線を向けて、彼女はそう言ったのだが。

(そう言われたって……これだけじゃ、何も分からないよ)

 はぁっと溜息をついた時、また部屋の外から、タン、という微かな音が聞こえた。

(何の音だろう……)

 廊下に出てきょろきょろと辺りを見回してから、向かいの部屋を覗いてみる。そこを自分が使うから、監視がしやすいように必ず部屋のドアを開けておけと、昨夜、少女に言われていたのを思い出したのだ。
 ラブの部屋だけでなく、少女の部屋のドアも開いていたが、部屋はもぬけの殻だった。寝具はきちんと畳まれていて、シーツに残ったわずかな皺だけが、そのベッドが使われたことを示している。
 誰も居ない廊下に、一人佇むラブ。やがてその瞳が、わずかに輝きを増した。

(……そうだよね。せっかく、せつなとあの子が育った場所に連れて来てもらったんだもの。ここでの暮らしのこと、そしてあの子のことをもっともっと知れば、もっとちゃんと話をすることだって出来るよね)

 おそらく少女は、あの音がしている場所に居るのだろう。ラブは耳を澄ませると、音のする方に向かって歩き出した。
 歩いては立ち止まり、また歩いては立ち止まりしながら、時折聞こえる音を頼りに少しずつ歩を進める。音は少しずつ大きくなり、それにつれてラブの足も少しずつ速まっていく。
 居住エリアを抜けた先には長い廊下が伸びていて、そのさらに先に、この建物の中でも特に重厚そうに見える大きな扉があった。
 物音は、どうやらこの扉の向こうから聞こえてくるようだ。何の音かは定かではないが、何かを叩き付けるような鋭い音――。

(まさか、またノーザがいるわけじゃないよ……ね)

 ラブはゴクリと唾を飲み込んでから、意を決してその重い扉を開いた。
 そこにはひときわ明るい照明の下、等間隔に立つ太い柱とグレーの床に囲まれた広大なスペースが広がっていて、その一角で一人飛ぶように動いている少女の姿があった。時折、タン! と床を蹴りつける音がひときわ大きく響く。さっきからラブが耳にしていたのは、どうやらこの音だったらしい。

(ここって道場……なのかな。おもちゃの国のカンフー道場より、何倍も広い……)

 とりあえずノーザでなかったことに少しホッとして、そろりと扉を閉める。
「危ないから、近くに寄らないで」
 少女はラブの方を見もせずにそう言うと、一旦動きを止めて、ふーっと長く静かに息を吐いた。

 少女の訓練が再開される。空手ならば“型”、拳法ならば“套路”と呼ばれているもの。正しい動作を無意識に出せるようにするための訓練方法だ。しかしその動きは、ラブの目にはまるで舞のように映った。
 見えない相手に向かって、多彩な技を連続して繰り出すような動き。複雑な動きなのに、そこには一切の迷いも無駄もない。
 強く、鋭く、速く、しかも滑らかで、ダンスのように美しく――。
 息を詰めてその動きを見つめていたラブは、ふと不思議な既視感を覚えて、その正体に目を見張った。

141 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/09/04(日) 18:51:17
(この動きって、せつなの……ううん、パッションの動きによく似てる!)

 が、そう思ったのはほんの束の間だった。すぐにまた少女の動きに引き込まれて、その一挙手一投足を食い入るように見つめる。
 しばらくの間、その変幻自在で華麗な舞を披露してから、最後にもう一度、ふーっと長く息を吐いて、少女の訓練は終わった。

 パチパチパチ……という音が訓練場に大きく響き、少女が驚いた顔で振り返る。
 おそらくこの訓練場で、この音が発せられたのは初めてのことだったろう。それは、ラブが少女に対して、思い切り手を叩いて絶賛を贈った音だった。

「それって……一体、何の合図なの?」
「ああ、これ? 拍手だよ。合図じゃなくて、凄いっていう感動を伝えるものなの」
 ラブが手を下ろし、代わりに興奮気味な様子で少女に近付く。
「ホント凄いね! 動き速いし、力強いし、何よりすっごく綺麗!」
「……別に、そんなこと……」
 一瞬ぽかんと首を傾げた少女が、ラブの賛辞を聞いてさりげなくあさっての方を向いた。その顔は、訓練が終わった直後よりも心なしか上気しているように見える。

「そんな風に動けるようになるには、毎日ものすごく練習したんでしょ?」
「そりゃあ……訓練は毎日だった」
「凄いなぁ。何歳くらいから訓練を始めたの?」
「さぁ。物心ついた頃には、既に生活の一部だったわ」
「……そうなんだ。そんな小さい頃から、ずっと頑張って来たんだね」
「そうしないと、ここには居られなかったから」
 キラキラした目で問いかけていたラブが、その一言を聞いて、え、と言葉を途切れさせる。反対に少女の方は、おもむろに顔を上げてラブを見据えた。

 少女が胸の前のダイヤのような飾りに手をやると、黒い衣装が消え失せて、彼女の服装は初めて会った時と同じ、ラビリンスの国民服に変わった。
 そうしておいて、少女がラブの方に右手を差し伸べた。掌を上にしてクイッと手招きして見せながら、挑戦的な笑みを浮かべる。

「ちょうどいいわ、一本付き合って。プリキュアを務めたあなたの手並み、是非拝見したい」
「えぇっ!? む、無理だよぉ。今はあたし、プリキュアにはなれないもの」
「プリキュアじゃなくて、生身のあなたと手合せしたいの。だから私も、戦闘服を解除したでしょう?」
「いや、だから、そうじゃなくて……」
「来ないなら、こっちから行くわ!」
「ええっ!? ちょ、ちょっと待って!」

 次の瞬間、少女の拳がラブを襲った。慌ててよけると、すぐに次の一撃が追いかけてくる。
「わ、わ、わ……うわっ!」
 必死で後ずさりながら三つのパンチを避けたところで、ラブが足をもつれさせて勢いよく転倒した。痛てて……と言いながら起き上がろうとするラブを、少女は腰に手を当てて、やけに真剣な顔つきで見下ろした。

「はあ、びっくりしたぁ……」
「最大限に手加減しても、その程度なの? 会った時から思っていたけど……やっぱりあなた、プリキュアにならなければ何の力も無いのね」
「うん、プリキュアの力はね、変身して初めて出せるもので、あたし自身が持っている力じゃないんだ」
 そう言ってふらふらと立ち上がるラブを見ながら、少女がごく小さな声で呟く。
「一体、何故? メビウス様が、こんなヤツに……」
「へ?」
 何か言った? と問いかけようとしたラブが、少女の顔を見て、思わず口をつぐんだ。

 ラブを見つめる赤い瞳が、言葉よりも遥かに雄弁に、彼女の心を物語っている。
 怒り。憎しみ。そして――哀しみ。瞳に宿る激しい想いが燃え盛る炎となって、ラブの心をチリチリと焦がす。
 ラブにとっては長い時間。だが実際には、ほんの数秒のこと。
 少女は目を伏せるとくるりと踵を返し、黙って道場を後にした。
 バタン、と扉が閉まる音が背後から聞こえる。ラブは一歩も動けぬまま、しばらくの間、その場に立ち尽くしていた。



 棟の備蓄品としてまだ残されていたという非常食を、二人で朝食として食べてから、ラブは少女に、建物の中を案内してほしいと頼んだ。
 さっき少女の瞳に宿る炎を見てから、ラブはますますこの場所のことをよく知りたいと思うようになった。
 この子がここでどんな生活をしてきたのか。何を考え、どんな風に生きてきたのか知りたい――そう思った。
 少女は怪訝そうな顔をしたが、モニターのチェックが終わってからなら、と二つ返事で承知した。ノーザから待機命令を出されている今の状況では、侵入者の監視以外、特にやるべきことも無い。このまま時間を持て余すよりは――そう思ったのかもしれない。

142 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/09/04(日) 18:52:51
 少女がラブの半歩先を行き、ラブはその斜め後ろを、辺りを見回しながら歩く。
 それぞれ異なる戦闘能力を鍛えるための様々なトレーニング・ルームや、数多くの専門書が並んでいたという図書室。少女は次々と案内して、ここがどういう施設だったのかをラブに説明していく。
 元はトレーニング・マシーンや器具類、おびただしい数の書籍がずらりと並んでいたというそれらの部屋は、今はどれもただの空き部屋に過ぎなかった。それでもラブは、何もない部屋の中をきょろきょろと見回し、興味津々の様子で少女にいくつも質問を浴びせる。
 そのせいか、少女の説明は次第に詳しいものになり、その内容も、いつしかここでの暮らしについての説明が多くなっていった。

 やがて少女が、学習室と呼ばれていた部屋にラブを連れてきた。ここも元は数多くの机やコンピュータがあった部屋だという。
 ぽつんと残された演台に両手をついて、ラブはガランとした部屋を、愛おしそうな目つきで見渡した。

「へぇ、同じ建物の中に教室があったんだ。道理で学校に行かなくて済むわけだよね……。ねえ、やっぱりクラス分けがあったり、担任の先生が居たりしたの?」
「“担任”というのは知らないけど……“クラス”というのはレベルのこと? それなら、全国統一で十段階に振り分けられていたわ。ここに居られるのは、レベル九と十の人間だけ」
「凄っ……それって五段階の通信簿に直すと、全員がオール五ってこと?」
「そうなるかしら。あなたはどのレベルだったの?」
「え、あたし? う、うーん……五段階の……真ん中くらい、かな。アハハハ……」
 苦し紛れの笑い声を上げるラブに、隣に立っていた少女はまたも呆れた顔になる。が、次のラブの質問を聞いて、その表情は不思議そうなものへと変わった。

「そんな優秀な人たちがみんなで受ける授業って、きっと難しいんだろうなぁ。ねえ、ここで毎日そういう授業を受けていたの?」
「授業って……日々の学習の? そんなものは、みんな自分の部屋で、コンピュータを使って勉強していた。ここには、まだ幼い頃に端末の操作を覚えたり、コンピュータでは学習しきれない、実験や演習をするために来ていただけ」

「え……じゃあ勉強って、小さい頃から一人でやってたの!?」
「一人じゃなくてどうやって勉強するって言うの?」
 ラブが目を丸くして驚く様子に、少女の方がさらに不思議そうな顔をする。
「だって、小さい子に一人で勉強しろって言ったって……」
「ここでは一日のスケジュールがきちんと決められていた。だからそれに従うだけのこと。幼い子供にだって簡単よ」

 なおも目を丸くしているラブに、少女はすらすらと一日のスケジュールを言ってみせる。
「起床、朝の訓練、朝食、勉学。昼食後、勉学と訓練。身体清掃と夕食の後は、一日の反省と明日の目標をパーソナルデータに入力して、就寝」
「凄い……。で、でも、お休みの日もあるんだよね?」
「丸一日なんか休んだら、頭も体も鈍るだけ。どうしてそんな日が必要なの?」
「え……じゃあ、楽しいことって、何も……」
 遠慮がちに呟くラブの言葉を聞いて、少女は不意に背筋を伸ばすと、妙に誇らし気な様子で言った。

「一日のうちで一番楽しみだったのは、反省の時間の冒頭に、メビウス様のお声が聞けることだった。ほんの短い時間、スピーカーからお声が流れてくるだけだったけど、それでも嬉しかった。有り難かった。こんなところでぐずぐずしていないで、早くメビウス様のお役に立ちたい。毎日その思いを新たにすることが出来た……」
 そう言って、少女が力なく首を垂れる。少女をじっと見つめながら話を聞いていたラブも、悲し気な顔になる。が、少女はそこで顔を上げると、憎々しげな目でラブを睨んだ。

「メビウス様はコンピュータだったのに……そう思ってるんでしょう?」
「ううん。そんなこと、あなたがメビウスを思う気持ちには、関係ないよ」
 一瞬の迷いも無いその答えに、少女がわずかに目を見開く。ラブの方は、何だか泣きそうな表情のまま、少女に向かって愛おし気に微笑んだ。
「本当に偉いね。そうやって小さい頃から、ずーっと頑張って来たんだ」
 だが。
「あなたが……お前が言うな!」
 少女の言葉が鋭い棘となって、今度は耳からラブに突き刺さった。

「偉い、ですって? ずっと頑張って来た、ですって? その努力を水の泡にしたのは誰? 私はもう少しで次のイースに――幹部になれるところだった。完璧に管理された正しい世界で、メビウス様のお傍にお仕え出来るはずだった。それを……このラビリンスを、こんな愚かな世界にしたのは誰!?」

 少女がラブの顔をひたと見据えたまま、押し殺したような声を出す。赤い瞳が、さっきより鋭い光を放って、ラブをねめつける。

143 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/09/04(日) 18:54:00
「ふん、知っているわ」
 呆然とするラブに、少女は勝ち誇ったように言葉を繋いだ。
「あなたは……あなたたちは、ラビリンスなんかどうでも良かったんでしょう? あの時ラビリンスへ乗り込んだ目的は、メビウス様がやっと手に入れたインフィニティを取り返すため。ただそれだけだったんでしょう?」
「え……?」

 ラブの瞳が、小刻みに揺れる。
 確かにはじめは、奪われたシフォンを取り戻すことしか考えていなかった。「みんなの世界を元に戻そう」とは言ったが、その“世界”の中にラビリンスが入っていたかと言われれば、胸を張って「はい」と言える自信は無い。

 言葉に詰まるラブに、相変わらず鋭い視線を向けながら、少女がなおも言葉を重ねる。
「だけど、あなたたちが来て、ラビリンスは変わってしまったわ。メビウス様は、全パラレルワールドをラビリンスのような正しい世界にしようと、壮大な計画を立てておられた。だけどそれが成し遂げられなかったばかりか、このラビリンスまで愚かで醜い世界になってしまった」
「それは違うよ!」
 ラブがようやく顔を上げて、力強くかぶりを振った。

「今のラビリンスは、愚かなんかじゃない。醜くなんかない。みんな、これからは自分たちの力で幸せゲットしようって頑張ってるじゃない」
「本当に、みんながそう思ってるって言えるの? 異世界に住んでいるあなたに、今のラビリンスの本当の姿なんか分からないでしょう?」

――もう老い先短い身だ。このまま静かに、一人で過ごさせてくれ。

 不意に、二日前に出会ったあの老人の言葉が蘇って来た。少女に対してか自分に対してかよく分からないままに、ラブが目をつぶって小さく頷く。

「そうかもしれない。だけど……みんなそれぞれ、感じ方も考え方も違うから、自分の考えと違ったり、上手く行かなかったりすることだってあるよ。だから、みんなで話し合うの」
「メビウス様に正しく管理された世界では、そんなこと必要なかった。人と対立したり、争ったりすることも無かったわ」
「本音を言い合えば、喧嘩になることだってあるよ。でも、人間には互いを思いやる心があるんだよ。だから……」
「そんな心、今も昔も、私はこのラビリンスで一度も見たことなど無い!」
 少女がラブの言葉を遮って、きっぱりと言い切った。

「私は、あのお節介な元・幹部に連れられて、警察組織が争いの仲裁をする現場を何度か見たわ。私自身、人と争ったこともある。でも、結局争った人たち両方か、どちらか片方が罰を受けて終わりよ」
 少女が演台から少し離れ、腕組みをしてラブを見つめる。
「みんなそれぞれ、考え方が違うって言ったわね。それはよく分かる。人と意見が違うから、みんな自分が正しいと主張するのに必死で、人を思いやる余裕なんかどこにも無い」
「そんなことない。誰かと争う嫌な気持ちとか、分かってもらえない悲しい気持ちとか、みんな知ってるでしょう? だったら、相手の気持ちだって分かるはずだよ」
 ラブもいつしか演台から離れ、少女の正面に立ってその顔を見つめる。その真っ直ぐな瞳をしばらく見つめ返してから、少女はフッと、目の力をやわらげた。

「……あなたの世界はそうなのかも知れない。でも、だからと言ってラビリンスもそうとは限らないわ。人がそれぞれ皆違うなら、世界だって、それぞれ違うものなんじゃないの?」
「そんなこと無いよ! ラビリンスの人たちだって……」
「まぁいい。私の言っていることが正しいと、すぐに分かるわ。それに自分の努力だって、このまま水の泡にしておくつもりは無い」
「それ、どういう意味? そのために、不幸のゲージを? ねえ、一体何をするつもりなの?」
 ラブが少女ににじり寄り、不安そうにその腕を掴む。
「今に分かるわ」
 少女は一瞬でラブの手を振りほどくと、先に立って学習室を後にした。



 その夜、昨夜と同じ部屋のベッドの上で、ラブは長い間、闇を見つめていた。
 小さく唸り声を上げたり、大きなため息をついたりしながら、何度も寝返りを繰り返す。
 夜の時間は、闇と静寂の中でのろのろと過ぎ、やがてラブがここへ来て三日目の朝が来た。



   ☆

144 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/09/04(日) 18:55:14
 眠れないと思っていたが、明け方になって少しうとうとしたらしい。
 ラブがベッドの上に起き上がったのは、昨日よりも遅い時間だった。

 慌てて向かいの部屋を覗き、そこに誰も居ないのを確認してから、今度は食堂へと足を向ける。
 テーブルの上には一人分の食事が残されていて、やはり少女の姿は無い。その時ラブの耳に、昨日と同じ、タン、という小さな音が聞こえた。

 道場へ行ってみると、果たしてそこに少女は居た。昨日より厳しい顔つきで、動きもさらに速く鋭くなっている。
「今日は、スケジュール通りじゃないんだね」
「そろそろノーザさんが帰って来る。出撃の前には、それ相応の準備があるの。スケジュールにも組み込まれているわ」
 ラブの方を見ないまま、少女は息も乱さずに答える。
 そう、と小さく答えてから、ラブは大きくひとつ深呼吸をして、少女に一歩近づいた。

「あのね。聞いて欲しいことがあるの」
「何? 不幸のゲージのことなら、ノーザさんが帰って来たら……」
「ノーザが帰って来る前に、聞いて欲しいんだ。せつなの……イースだった、あたしの親友の話を」
 少女の動きが、ぴたりと止まった。

「せつなはね。あたしたちの世界に来て、メビウスの命令を果たそうと、凄く一生懸命だったんだ」
 少し悲しそうな、そして実に愛おしそうな表情で語るラブを、少女が怪訝そうな顔で見つめる。
「一生懸命って……その頃の彼女は、あなたたちの敵だったんでしょう?」
「うん。でもあたしたち、友達になったんだ。本当はリンクルンを……変身アイテムを奪うために近付いたって、後で言ってたけど」
「バカバカしい。そういうのを“潜入”と言うの。あなたを騙していただけ」
 少女が呆れたようにため息をついてから、それで? と先を促す。

「プリキュアになってからも、せつなはいつも一生懸命だった。どんな時でも、どんな小さいことでも、“精一杯、頑張るわ”って、そう言って頑張るの。あなたもそうやって頑張って来たんだよね?」
「あの人と……裏切り者と一緒にしないで」
 少女がラブから顔をそむける。
「あたしの力は、プリキュアに変身して初めて使える力だけどさ。せつなは普段から、すっごく強くて、頭も良くて……。その理由が、ここへ来て、あなたの話を聞いてよく分かったよ。小さい頃からずーっと頑張って来たから、身についたんだよね。メビウスのためだったかもしれないけど、自分自身の力として」
 そう言って、ラブは優しい笑顔で少女の顔を覗き込んだ。

「人がそれぞれ皆違うなら、世界だってそれぞれ違うんじゃないか……あなた、そう言ったよね? でも、一生懸命頑張って身につけた力が、水の泡なんかじゃなくてその人の力になるってことは、どの世界でも同じだと思うんだ。だから、あなたも……」

 次の瞬間、くるりと世界が反転した。ダン、という鋭い音と共に、肩と背中に衝撃が走る。
 気付いた時には、ラブは道場の床に仰向けに転がされていた。のしかかるような格好でラブを見下ろす少女の瞳が、今度は純度の高い怒りの炎を宿す。そしてラブの顔面に、高速のストレートが迫る――!

 思わずギュッと目をつぶる。だが、いくら待っても衝撃はやって来ない。
 恐る恐る目を開けると、ラブの鼻先ギリギリのところで、少女の拳がぴたりと止まっていた。

「……何の努力もせず、与えられた力だけで勝利を収めたあなたに、そんなこと言われたくはない!」
 少女が低く凄みのある声を出す。
「あの人が……イースがどんなに凄い戦士だったか、あなたなんかに分かるわけがない。彼女に追いつき、追い越すことだけを目標にして、私は……」
 少女がギリッと奥歯を噛みしめた、その時。
「どう? 休暇は楽しめたかしら」
 不意に、道場にノーザの声が響いた。



 少女が道場を飛び出し、地下室に走る。ラブも慌てて起き上がり、その後に続いた。
 一昨日は固く閉ざされていた地下室のドアは、今は大きく開かれている。部屋に入ると、既にラブの背丈ほどの高さまで液体が溜まったゲージが、二人を出迎えた。

 ノーザの映像が、相変わらず妖艶な笑みを浮かべて少女たちを見つめる。
「どう? 私の成果もなかなかのもんでしょう?」
「……お見事です」
 少女が無表情にゲージを見上げてから、ノーザに向かって頭を下げる。
「では、この子に見せてあげようかしら。裏切り者のラビリンスの国民たちの、不幸な姿を」
 ノーザの指が、パチリと小気味よい音を鳴らす。すると、ノーザの映像の周囲の空中に、幾つもの画像が浮かび上がった。

145 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/09/04(日) 18:55:46
 見るも無残に破壊された、ラビリンスの街並み。
 我先に逃げようとして、将棋倒しになる人々。
 避難所で言い争っている、怒りと不安に満ちた、顔、顔、顔……。

 ラブの目が大きく見開かれる。それを見て、ノーザは実に楽しそうに、甲高い笑い声を上げた。

「ほらね。私が言った通りじゃない」
「そんな……。こんなの嘘だよ!」
 目を潤ませるラブを、勝ち誇ったような表情で見つめる少女。その目の前に、するすると一本の蔦が伸びる。少女に差し出されるような格好で蔦の先にあったのは、あの暗紫色のダイヤだった。

「さぁ、あなたの出番よ。ラビリンスの国民たちに教えて上げなさい、この不幸の意味を」
「不幸の意味って……どういうこと!?」
 ラブがノーザの映像に迫る。
「これはメビウス様の制裁だ、ってそういうこと。人の不幸は蜜の味。あなたがそれを知らせてあげれば、この世界の人間どもがどれだけ打ちのめされるか……。ゲージが上がるのが楽しみだわぁ」
 実に楽し気なノーザの言葉に、ラブは目に涙をいっぱい浮かべたまま、力一杯少女の両腕を掴んだ。

「ダメだよ! 行っちゃダメ! そんなこと聞いたら、みんな不幸に飲まれちゃう。せっかく立ち上がろうとしているのに、立ち上がれなくなっちゃうよ。お願いだから、そんなデタラメでこれ以上みんなを惑わせたりしないで!」
 と、その時、ラブの背後からもう一本の太い蔦が伸び、ダイヤに気を取られていた少女が反応する間もなく、ラブの身体を巻き取った。

「フフフ……相変わらず能天気ねぇ。私たちの計画がデタラメだなんて、どうして言えるのかしら? この子に教えてあげなさい」
「……本当に、間違いないんですよね?」
 ゲージの横に宙づりにされたラブに目をやってから、少女が初めてノーザを詰問する。
「あら、私が信じられないの? 疑うのなら、降りてもいいのよ?」
「いえ、そんなことは……」
 少女はかぶりを振ってから、ラブに向かってぶっきら棒な調子で言った。
「メビウス様は、もうじき復活なさるの。ノーザさんの力でね」

「嘘! だって、メビウスは自爆したんだよ? 復活なんてあり得ないよ!」
 ジタバタと身をよじって何とか拘束から逃れようとしながら、ラブが声を張り上げる。それを聞いて、ノーザの笑みが消えた。
「せっかく教えてあげたのに……痛い目に遭わないと分からないようね」
 ノーザがさっと右手を挙げると、蔦がギュッと締まって、ラブの身体を締め上げる。
「うわぁっ!」
 ラブは思わず悲鳴を上げて、苦しそうにケホケホと咳をした。

「おやめ下さい!」
 少女が大声を上げてから、我に返ったように小さく咳払いをする。
「そいつには、危害を加えないと約束しました。ですから……」
「甘いなぁ。そんなことで本当に幹部が務まると思っているの? まあ、最近の幹部には何故か愚か者が多いから、仕方ないのかしら」

 ノーザの嘲るような声に、少女の目つきが変わった。グッと拳を握ってから、挑むようにノーザの映像を見つめる。
「私は、メビウス様を裏切った元・幹部たちとは違います。己の力は、メビウス様のために。それ以外のものには使わず、自分の望みを叶えてみせる!」
 言うが早いか、少女の手が暗紫色のダイヤを、躊躇なく掴み取った。

「いい覚悟ねぇ」
 少女の様子を眺めて、ノーザがニヤリと笑う。
「闇は人を不安にさせる。だから通告は、夜まで取っておきなさい。それまでは現状を確認がてら、あなたも一暴れすればいいわ」
「承知しました」

「待って!!」
 ラブがそう叫ぶと同時に、少女の周りの空間が歪む。ギュッとダイヤを握りしめた少女と目が合ったと思った次の瞬間、彼女の姿は消え失せていた。
「フフフ……。これで確実に、不幸のゲージは満タンになる」
 高らかなノーザの哄笑が響き渡る。なす術もなく瞳を震わせるラブの隣で、不幸のゲージが、ゴポリ、と微かに不気味な音を立てた。


〜終〜

146 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/09/04(日) 18:57:13
以上です。ありがとうございました!

147 名無しさん :2016/09/05(月) 06:10:13
>>146
相変わらずストーリーや世界観の作りこみがすごいな… 人の考え方が皆違って争い合うだけの今のラビリンスは
「こちら側」の考えからすると、解放されはしたもののまだ精神的に未熟な部分があるのかな、と思いました。

一方でメビウスを崇拝する少女にとって変わってしまったラビリンスは、幼い時分から努力し鍛えられた自分の存在意義が
否定されてしまうような感覚なんでしょうね、愚かで醜い世界と罵る裏に悲壮感すら見える彼女の行動に目が離せません。

ん〜! しかしこの時点でものすごい大作!! ノーザの目的や不幸のゲージがたまった時に何が起こるのか気になります
執筆大変だと思いますが次回も楽しみに待ってます!

148 名無しさん :2016/09/06(火) 00:23:44
せつなが元居た場所の、冷た〜い感じが伝わって来ました。
非常食ってどんなだろ?気になる。

149 Mitchell&Carroll :2016/09/30(金) 02:10:57
だいぶ前にランキングスレッドで出た話題の回収です。R‐20(ウソ)。


『PANICURE!』


〜某居酒屋〜
響「アコも成人したことだし、これでようやく皆そろって飲めるね!」
アコ「“あたし待ち”だったってこと?申し訳なかったわね」
奏「まあ、それ以前からちょくちょく集まって飲んではいたんだけど……特にあそこら辺は」
なぎさ「ほ、ほろか〜、ほろか、ろこ?」
ほのか「あはは、なぎさったら!私はここにいるじゃない!あはははは」
アコ「もう酔ってる……」
エレン「ふにゃふにゃ……」
奏「エレンももう酔ってる……そんなに飲んでなかったと思うけど」
みゆき「あ、いや……さっきちょっとマタタビ茶を飲ませてみたら、こんなんなっちゃった……」

えりか「ほらほら!ゆりさん、これ飲んでみてよ!あたしが作った特製カクテル!!」
ゆり「要らないわ。お酒は上品に飲むものよ」
えりか「しょぼーん」
いつき「じゃあ、代わりに僕が……」
つぼみ「それなら、私が飲みます!」
ゆり「……仕方ないわね。私が――」
全員「「どうぞどうぞ」」
ゆり「なっ!?」

はるか「みなみさん!私がお酌してあげますね!」
みなみ「ありがとう、はるか。お礼にキスしてあげるわ」
はるか「えっ!?」
みなみ「きららにも、日頃の感謝を込めて、キスしてあげるわ」
トワ「わたくしには……して下さらないのですか……?」
ラブ「た、大変!美希たんが!」
美希「あのね、美希たんね、寂しいの」
きらら「は、はあ……」
美希「きらら〜、チュ」
きらら「ちょっ……」
トワ「な……な……!?……ワイン!!赤ワインをありったけ持ってくるのです!!」

いおな「ねえ、どこかで蛙が鳴いているのかしら?ゲロゲロって……」
六花「えっ、カエル?(喜)」
亜久里「マナがトイレで吐いている音ですわ」
六花・いおな「「な〜んだ」」
ゆうゆう「さっきからありすちゃんはメニュー表とにらめっこしてるわね」
ありす「どれも0(ゼロ)がひとつ足りませんわね」
いおな「普段、どんなものを食べて&飲んでるのよ……」

せつな「ねぇ、聞いて。ラブったらね、今朝、今夜に向けての準備運動だなんて言って、朝からビールを飲み始めたのよ。それも特撮のDVDを観ながら(グビッ)。そうそう、私達、夜寝る前にお話しするんだけど……(グビッ)一緒の布団に入って。そしたらラブったら先に寝ちゃうのよ。私はまだ全然話し足りないというのに。この前だって、あたしが襟足を1ミリ切ったことにも、ラブったら全然気付かないのよ。それに、私はピーマン嫌いを克服したというのに、ラブったら未だにニンジンを食べられないまま……亜久里ちゃんを見習って欲しいわ。ニンジンで思い出したんだけど、ラブったら、ダンスに某市非公認キャラクターの動きを取り入れようなんて言い出して……私、あんなテンションの高い動き、正直言って無理だわ。やるなら一人でやりなさいっていうの!あとねえ、私がイースだった頃、ラブったらスタジアムで暴走した私を取り押さえようとして、思いっきり鯖折りをキメてくれたのよ。あれ、ホントに苦しかったわ。ナキサケーべの副作用よりも効いたもの。手加減を知らないのよね、ラブったら。ラブったら……ラブったら……」
祈里「だ、誰か、せつなちゃんを止めて……」

150 Mitchell&Carroll :2016/09/30(金) 02:13:24
ひめ「ねぇ、そのバターコーン食べないの?貰っていい?」
レジーナ「ちょっと!なに勝手にあたしのバターコーン食べてんのよ!」
ひめ「いいじゃない、ちょっとくらい。ケチンボ!」
レジーナ「あのねぇ、世界中のお酒とおつまみは私の物なの!わかった?」
六花「二人ともワガママね……」

マナ「ふぅ〜っ、スッキリした!……まこピー、どこ見てるの?」
真琴「アルコールが……私の魂を浄化してくれる・・・…」

ゆうこ「ご飯に日本酒をかけて、っと」
いおな「侠飯(おとこめし)ってヤツね」
ラブ「漢(おとこ)と聞いちゃ、黙ってられないよね!よーし、あたしも!」

のぞみ「う〜ん♡なんで居酒屋メニューってこんなに美味しい物ばっかりなんだろう?全品制覇するの、けって〜い!!」
みゆき「スゴい食欲……」
あかね「こっちにも似たようなんがおるで……(呆)」
なお「あかね、そんな所で突っ立ってないで、お好み焼き、焼いて」
あかね「おっしゃ、任しときぃ!(喜)」
れいか「ふふ……なおの美味しそうに食べる姿が、何よりの肴です(悦)」

めぐみ「やよいちゃんとあゆみちゃんはお酒飲みながらゲームしてるし……」
あゆみ「すみませーん、ワインもう1本……いや、3本下さい!」
みらい「い、今……3本って言いました!?」
あゆみ「白ワインでHP回復♡」
やよい「赤ワインでMP回復♥」
ひめ「二人の前に空瓶が……」
いおな「次々と並べられて……」
ゆうこ「さながら勲章バッジのようね」

みらい「――って、リコ、顔が真っ赤!」
リコ「で、でんでんよっへないひ!」
ことは「♪で〜んでんむ〜しむし……」

咲「パンとビールって、合うんだよね〜」
舞「ふたつとも、元々エジプトのものだからね」
満「薫、日本酒ばかり飲んでるわね」
薫「満こそ、カクテルばかり飲んでるじゃない」

アコ「――奏、強いのね。響ったら、一発で撃沈したっていうのに」
奏「私はほら、ケーキ作りで、ラム酒とかブランデーとか、しょっちゅう嗅いでるから」
アコ「ふぅ〜ん」
エレン「ふにゃふにゃ……――ハッ!ここはどこ?それにしても喉が渇いたわ。あ、こんなところに水が」
満「薫の日本酒、飲まれてるわよ」
薫「それなら、ついでに満のカクテルも飲ませてあげましょう」
響「グー……」
満「――奏、あなたのところの子が、猫に変身しちゃったわよ」
エレン改めセイレーン「ふぎゃーッ!!」
くるみ「あっ!あたしの秋刀魚の蒲焼き、奪われた!」
亜久里「わたくしのマグロユッケも、ですわ!」
ほのか「あはは!あたしのカツオのタタキ、あはははは!」

151 Mitchell&Carroll :2016/09/30(金) 02:14:20
咲「唐揚げか手羽先か……手羽先か唐揚げか……」
舞「唐揚げじゃない?でも手羽先も……いや、やっぱり――」
こまち「羊羹かしら?」
咲舞「「それはない」」

トワ「ぶはッ!?」
はるか「トワちゃんが血を吐いた!?」
きらら「いや、赤ワイン飲んでて咽(むせ)っただけだから」
いおな「ブハァッッ!!!」
はるか「いおなちゃんも赤ワインを?」
ゆうこ「そうじゃなくって、この店のクーポン券を家に忘れてきちゃったんだって。そのショックで……」
はるか「じゃあコレ、本物の血なの!?キャーッ!!」

うらら「のぞみさんが、キムチの汁、飲みまーす!」
のぞみ「ゴクッ、ゴクッ……」
ことは「一気!一気!」
のぞみ「ゲホッ!!」
りん「なに馬鹿なことやってんのよ」
みるく「のぞみは相変わらずアホミル」
ひかり「――布巾をもう一枚。このお皿と、このお皿を下げて……と。あとそれから……」
りん「ごめんね、ひかりちゃん。気を遣わせちゃって」
ひかり「いえ、あかねさんのお店の手伝いで慣れていますから」
かれん「かわいいわね、ひかりさん。キスしてあげるわ」
なぎひゃ「ラメェー!ひかりはあたひのものなのー!」
なお「誰のものでもないと思うけど(モグモグ)。そんなことより、あかね、餅入りスペシャルお好み焼き、焼いて(モグモグ)」
あかね「任しときぃぃ!!(大喜)」
なお「それから、もんじゃ焼きも焼いて。……あかね?あかねったら!」
あかね「あ゛ぁん?誰に物言うとんねん、コラ。んなもん自分で焼かんかい、ボケ!シバいたろか、アホンダラ」
みゆき「た、大変!あかねちゃんとなおちゃんが、取っ組み合いのケンカを!」
なお「焼いてくれたっていいじゃないのさ!!」
あかね「じゃかぁしい、このドアホォ!!」
ひめ「あーあー、二人ともお酒が入ってるからエキサイトしちゃって……」
レジーナ「くだらないことでケンカして、ほんとガキよね〜」
いつき「よしっ、ここは僕が止める!」
えりか「おっ、いちゅき〜。可愛い下着穿いてるねぇ」
いつき「ちょっと、えりか!スカートめくらないでったら!――そういえば、ゆりさんは?」

〜おでん屋〜
ゆり「……ふぅ。もう一杯、いいかしら?あと、がんもをちょうだい」
オヤジ「あいよ」


燗……じゃなくて完

152 Mitchell&Carroll :2016/09/30(金) 02:18:45
『真っ赤なランチは愛情の証』


「せっちゃん、赤が好きだものね〜。せっちゃんの好きな赤色の食材で、喜ばせてあげましょ!」

 本日の四葉中学校、給食はお休みで、お弁当の日。4時限目終了後、せつなは机の上で、真っ赤な巾着袋を紐解く。真っ赤な弁当箱には、母・あゆみの愛情が込もっている。蓋を開けてみると、そこには――

・お赤飯(真ん中に梅干し)
・タコさんウインナー
・カニかま
・プチトマト
・紅生姜

 そして、トマトジュース(果汁100%)。

「――お母さん!トマト、被ってるわ!!」


 完
 
 食

153 Mitchell&Carroll :2016/09/30(金) 02:20:26
『LET IT BE』


うらら「う〜〜ん、なかなかピンキーが見つかりませんね〜」

かれん「――あら?あの人達もピンキーを集めているのかしら。何かを手にしながら歩いているようだけれども…」

りん「あれ、危なくない?よそ見してるから…」

うらら「それに、車を運転しながら何かを弄っている人も見かけます」

かれん「みんな、何に夢中になっているのかしら?」

のぞみ「見て見て!太ったトンボが虻を食べてる!」

こまち「これはシオカラトンボね!」

うらら「のぞみさん達は別な方に目が行っちゃってるみたいです……あっ、キレイな蝶々!」

りん「ふう、仕方ない。かれんさん、あたし達でピンキーを探しましょ。……あ!珍しい花!」

かれん「まあ!珍しい形の雲だわ!」


おわり

154 Mitchell&Carroll :2016/09/30(金) 02:23:59
アイカツ(ジョニー時代)とのコラボ


『Burnin’』


 まるで血のように赤い液は、グングンと上昇して、その値は40度に達する勢いだ。
 もはや、この暑さはどうしようもない。神頼みしようにも、口の中は渇ききって、喋る事すらままならない。外で勢い良く伸びゆく植物達が羨ましい。自分達はというと、今にもドロドロに溶けて、地面に吸い込まれそうになっているというのに。

 洋食屋・豚のしっぽ亭にて、マナと六花はテーブルに突っ伏し、これまでの事を走馬灯のように思い浮かべていた。ジンジャーエールの氷はすでに溶けきっている。
 ――どこからともなく、シャカシャカという乾いた音が聴こえてくる。
「誰?こんな時にマラカスなんか振っているのは」
 音がだんだん近づいてくるにつれ、気温もどんどん上昇し始める。ブラウスがすっかり汗で体にへばり付いてしまった六花の苛立ちも、頂点に達した。
「鬱陶しい事この上ないわね!」
 音の正体を探るべく椅子から立ち上がろうしたその時、客を装った男が店に入って来た。

「チャオ!プリキュアの皆さん」
「あなたは……?」
「俺様の名は――」
 男は燃え上がった。炎が紙ナプキンに引火し、慌ててマナの父が消火器で対処する。
「ククク……そんな泡でこの俺の情熱が治まるとでも?」
「ナプキンをこんなにして……許さない!」
 マナと六花はすかさず変身した。男は興奮した様子で、
「ここでは狭い。表へ出ろ、プリキュア!」
 と言って、二人を公園へと連れ出した。

 灼熱の炎天下、全身に炎を纏った男の振るマラカス――そのテンポは更に速くなっていった。先客のアブラ蝉も、ミンミン蝉も、ツクツク法師も、負けじとテンポを上げて求愛の雄叫びをあげている。
 素早い影が、公園の土に映った。
「マラカスといえば、私よ!」
「ハニー!来てくれたんだ!」
 世界を駆け巡るプリキュア、キュアハニーが到着した。男に負けじとマラカスでリズムを刻んでいる。
「小娘が!この俺のテンポについて来れるとでも?」
 蝉が鳴きまくる中、両者のマラカス合戦は続く。だが暫くして、一匹の蝉が小便を撒き散らしながら戦線離脱する頃、
「ダ、ダメ……手首が……それに、耳も……」
 そう呟いてキュアハニーは、トリプルダンスハニーバトン(マラカスモード)と共に崩れ落ちた。
「ハニーになんて事を!プリキュア・ダイヤモンドシャワー!!」
 キュアダイヤモンドの氷の攻撃が、男を襲う。だが、炎の壁の前に呆気なく蒸発してしまった。
「そ、そんな……」
 戦意の喪失と暑さでよろめくキュアダイヤモンドの肩は、危機を察して駆けつけた仲間によって支えられた。
「目には目を、炎には炎を!プリキュア・ルージュファイヤー!」
「プリキュア・サニーファイヤー!」
「プリキュア・フェニックス・ブレイズ!」
 3つの炎の攻撃が男に直撃し、巨大な火柱が立ち上がる。
「ルージュにサニー、それにスカーレット!」
 再会の感動も束の間、火柱の中から男の笑い声が聞こえて来る。
「いいぞ!この熱で俺は更にパワーアップする!」

155 Mitchell&Carroll :2016/09/30(金) 02:24:52
 誰もが絶望したその時、軽やかなカスタネットの音が響いた。
「その折は私の先輩とアミーガス、つまり友人が世話になった。紅林珠璃、参・上!」
 そのアイドルはカスタネットの音をマラカスとシンクロさせながら、男と共に炎の螺旋を描いて空へと舞い上ってゆく。
「あんなに高く……あの子、あのままじゃ太陽の熱で、燃え尽きちゃうよ!」
「羽も生えてないというのに……ワイヤー、ワイヤーはどこ?」
 下から何やら聞こえてくるが、そんな事はお構い無しに、珠璃は不敵な笑みを浮かべてこう答えた。
「望むところよ!エル・ソル、つまり太陽と私、どちらがアレか、根競べだわ!」
 意気揚々と宣戦布告する珠璃に対して、聞こえてくるのは、
「なに馬鹿な事を言っているの!さっさと降りてらっしゃい!」
「アイドルって大変なんだね〜……」
「――あ、これちゃう?うわっ、ワイヤーやなくて蜘蛛の糸やった!」
 などといった言葉ばかり。

 せっかくアパリエンシア、つまり登場したというのに、見せ場無く終わってしまうことへのディズグスト、つまり悔しさと、哀れみに満ちた言葉で足を引っ張る者達へのドロール、つまり悲しみで、たまらず珠璃は泣き出してしまった。その涙の一滴が、男の唇に触れ、潤した。
「――グラシアス、お嬢さん。俺は行く。偉大なる父の元へ――」
 男は、珠璃を突き飛ばし、代わりに自分だけが太陽へと消えていった。その瞬間、より大きな輝きを放ちながら。


 ようやく収束がついた後、皆は豚のしっぽ亭に集い、新しい大きな氷の入ったジンジャーエールで喉を潤した。
「それにしても、あの男の人、いったい何だったのかしらね?」
 六花はマナから借りたTシャツに袖を通しながら問うと、珠璃は答えた。
「あの男は、消えゆく前にこう言っていたわ。『ちょっと目立ちたかっただけ』だと。……プエドレペティール、つまり――」
 そう言って、ジンジャーエールをもう一杯、頼んだ。


 夕方の空を飛行機雲が横切ってゆく。「モエルンバ」と言う文字を描きながら――。



 Adios.

156 Mitchell&Carroll :2016/09/30(金) 02:25:37
以上です。ありがとうございました!

157 名無しさん :2016/09/30(金) 07:47:35
>>156
うわぁ、ミシェルさん一気に来たぁっ!
相変わらずぶっ飛んでいながらwキャラの特徴捕らえた語り口お見事!
楽しませてもらいました。
そしてやっぱり、ゆりさんは別格なんだなぁと再認識しました。

158 名無しさん :2016/10/09(日) 23:17:31
くどまゆさん、引退か〜。惜しいなぁ。こんなパワフルなボーカリスト、なかなかいないだけに。

159 名無しさん :2016/10/10(月) 14:28:19
>>158
そうだね〜。
5もスイートもテーマソング好きだった! フェアリートーンも好きだった!(特にファリーがっ)
今までありがとう!
「新しい夢」って何だかわからないけど応援してる。

160 名無しさん :2016/10/12(水) 23:54:21
『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。四つ葉中学体育祭(前・後編)――』の感想

走り方とか、綱引きの作戦などの細かい描写が凄いと思いました。ラブとせつなの二人三脚に感動しました。
読み応えがありました。

161 名無しさん :2016/10/13(木) 01:03:23
>>160
作者です。ありがとうございます!

162 Mitchell&Carroll :2016/10/22(土) 23:55:15
ちょっとバッドエンド気味なんです……。よろしくお願いいたしします。

『プリキュア和食教室』


れいか「みなさん、こんばんは。青木れいかです。」

ほのか「雪城ほのかです。」

ことは「アシスタントの、はーちゃんだよ♡」

モフルン「番組マスコットのモフルンモフ〜!みんな、割烹着姿がとーっても似合ってるモフ〜!」

れいか「本日の料理は【マグロのお刺身】です。」

ほのか「日本でお刺身という調理法が発達したのには 醤油の普及によるところが大きいと言われています。生魚特有のくせを、醤油に浸けることによって和らげることができます。また、タンパク質が固まって薄い膜ができ、うまみを閉じ込めてくれます。塩分で表面が締まるので、水気の多い魚も水っぽさがなくなり、張りのある状態になります。」

モフルン「ほのか先生、くわしいモフ〜!」

れいか「今日は特別に、冷凍マグロを丸ごと1匹用意していただきました。」

ほのか「冷凍の造り身を購入した場合、冷蔵庫に入れてそのまま解凍すると時間もかかる上、うまみのある汁“ドリップ”が流れ出てしまいます。そこで、約1%の塩水にマグロを1分ほど浸けて水気を拭き取り、ペーパータオルに包んで冷蔵庫に入れると、3時間ほどで丁度良い状態に――」

ことは「キュアップ・ラパパ!マグロよ、解けなさい!!」

ほのか「あっ……。」

マグロ「(赤い汁ドバー。)」

モフルン「“ドリップ”がダダ漏れモフ〜。」

れいか「………。」

ほのか「………。」

れいか「……本日の料理は、予定を変更して【熊鍋】をお送りいたします。」

モフルン「わ、何するモフやめ――」

〜〜〜お花畑〜〜〜

163 名無しさん :2016/10/23(日) 08:06:23
>>162
いや、そもそも●●にならないって・・・モフルン、ピーンチ!

164 makiray :2016/10/31(月) 23:13:17
 どうも、キュアエコー大好きな makiray です。
 あゆみちゃんと、お向かいの家のワンコのお話。
 4スレお借りします。

次へ、次へ (1/4)
----------------

 ある日曜。
 母親からお使いを頼まれたあゆみがマンションに戻ってきた。
 向かいの清水家を覗き込む。
 その家はモモという名の犬を飼っている。出かけるときに姿が見えなかったのだが、散歩でもしていたのであればもう戻っているのではないかと思った。
「あれ」
 いた。だが、奥の方の犬小屋に入ったままである。
「モモちゃん?」
 あゆみが声をかけるとモモはこちらを見た。だが、起き上がる様子がない。
 どうしたのだろう。心配だが、勝手に入るわけにもいかないし、と思っていると玄関のドアが空き、向かいの主人が餌の入った器を持って出てきた。
 だが、いつもなら飛び出してくるモモが関心を示さない。むしろ、あゆみの声に上げかけた上体を戻してしまった。
 清水は、困ったな、という顔をしたが、あゆみに気付くと笑顔を向けてきた。
「あの…」
 その笑顔に甘えるようにして、門の中に入る あゆみ。
「モモちゃん、どうしたんですか?」
「それが、昨日からこんな感じなんだよ。餌もほとんど食べないし」
「え…」
 あゆみは心配そうにしゃがんだ。モモの頭をゆっくりとなでるが、モモは何の反応も示さなかった。
「まぁ、モモもそんなに若いわけじゃないしねぇ」
「そうなんですか?」
「六歳だからね。人間で言ったら、そろそろ 50 歳だ」
「…」
 まさか。
 あゆみの唇が震えた。
 モモがいなくなる? それも、そんなに先のことではない、というのか?
「あの。
 獣医さんには」
「診せた方がいいかとは思うんだけど、今日はお休みだし。今週はちょっと私の仕事が立て込んでてね。来週の土曜日くらいかな」
 一週間も先。こんなに弱っているのに。
(その間に何かあったら…)
 あゆみはその想像を振り切ろうとしたが、振り切れなかった。悪い想像ばかりが浮かんでくる。何かないのだろうか。自分にできることは。
「あ」
「どうしたんだい」
「あの、診てもらえるかもしれません」

165 makiray :2016/10/31(月) 23:14:08
次へ、次へ (2/4)
----------------

 清水は、距離があることにわずかに難色を示したが、あゆみの必死の表情に折れた。車の後ろにモモを乗せ、向かった先は四つ葉町だった。
「あの…」
 山吹祈里の父、正は、迎えたときこそ笑顔だったが、モモを見るなり厳しい表情になった。あゆみは、そんなにモモの具合が悪いのか、と逆に不安を強めた。
「モモちゃん…」
「あゆみちゃん」
 祈里は、あゆみを診察室の外に連れ出そうとしたが、あゆみは動かなかった。手を震わせながら診察の様子を見ている。
「昨日あたりから、ということでしたが、何かお気づきになったことは」
「そうですね。
 食欲がない様子で、ずっとうずくまっていて」
「ほかには。どんな些細な事でも構いません」
「あぁ、さっき連れ出した時、犬小屋に敷いてあるタオルに赤いものが」
「…。
 血?」
 あゆみが呟く。正は、一度、モモに視線をやった。
「けがをしている様子はなかったのですが…。
 どの辺りでしたか」
「犬小屋の奥の方です」
「奥…」
 正はそれを聞くと眉をひそめ、もう一度、モモの顔を覗き込んだ。
「モモちゃんのエサはどうしていますか。
 皆さんの食事、例えばお味噌汁を与えたりは」
「いえ、そういうことは。ドッグフードだけです」
「そうですか…」
「先生、モモちゃんは」
「近くに小学校などは」
「はい?」
「子供たちが勝手にモモちゃんに餌をやったりはしませんか」
「あぁ、そういうことはないようです」
「散歩のときに何か食べたりは」
「させないようにはしていますが、目を離したすきに、ということが絶対にないかと言われますと…」
「ふむ…。
 ちょっと検査をしましょう。
 みなさんはちょっと外でお待ちください」

166 makiray :2016/10/31(月) 23:15:14
次へ、次へ (3/4)
----------------

 じりじりと時間が過ぎる。診察室のドアが開くと、あゆみははじかれたように立ち上がった。
「先生」
「おそらく、タマネギ中毒でしょう」
「タマネギ…中毒?」
 あゆみは何を言われているかわからない、という様子だったが、飼い主である清水の方は理解したようだった。
「うちでタマネギを食べさせたりはしませんけど」
「えぇ。
 それで、近くに小学校があるかどうか、というようなことを聞いたのです。それもないとすると、散歩中に清水さんの目を盗んで、タマネギの入った何かを食べたんでしょうな」
「あの、どういうことなんですか」
 正は、あゆみの様子に、むしろ笑顔を見せた。
「犬はね、タマネギを食べられないんだ。急性の貧血になってしまうんだよ」
「貧血…ですか」
「おそらく、タオルについていた赤いもの、というのは尿の中に溶けだした血液だと思う」
「先生、大丈夫なんですか。
 貧血で、あんな風になっちゃうなんて!」
「大丈夫よ」
 祈里があゆみの手を取る。
「お父さん、吐いたりしていない、ということはそれほど多くはないんでしょう?」
「あぁ」
 正が頷く。
「おそらく心配はない。
 ですが、今夜は念のためにこちらで預からせていただけますか。
 なに、明日か明後日には回復すると思いますよ」
 清水が、お願いします、と言うと、あゆみは手で顔を覆った。よかった、という声が漏れてきた。

167 makiray :2016/10/31(月) 23:16:05
次へ、次へ (4/4)
----------------

「あゆみちゃんは、モモちゃんが大好きなのね」
 落ち着くと、祈里はあゆみを自分の部屋に招いた。温かい紅茶で、あゆみはほっと息をつく。
「うん…。
 あの町に引っ越してきて、あの騒ぎを起こして…その後、最初に友達になってくれたのはモモちゃんなの」
「そうなんだ」
 ずっと友達でいてくれると思っていた。そうではない、ということなど、考えてもみなかった。
「あゆみちゃんの家では動物を飼ったりはしないの?」
「うちのマンションはペット禁止なんだ…前のアパートもそうだったから。
 子供の頃に、犬を飼いたい、猫を飼いたい、って駄々をこねたことはあるけど、実際に飼えたことはなかったな。
 でも」
「でも?」
「私、何も知らなかったんだな、と思って」
 犬にタマネギを食べさせてはいけない、ということ。タマネギの入った肉じゃがも、味噌汁も、ハンバーグも危険だ、ということ。
 さらに、チョコレートやコーヒーもダメだ、ということ。
 そして、犬の平均的な寿命は十歳くらいである、ということ。
「私なんかが飼わなくてよかったのかも」
「それは違うと思うよ」
 祈里は、印象とは裏腹にやや強い調子で言った。
「そういうことは飼いはじめるときに憶えればいいことだから。
 それよりも」
 そして微笑む。
「体調が悪そう、っていうことに気付いてあげられる。
 気づいたときにすぐに行動できる。
 そういうことが大事なの。
 あゆみちゃんは、十分、ペットを飼う資格を持ってると思う」
「祈里ちゃん…」
「モモちゃんがあゆみちゃんの友達になったのは、あゆみちゃんのそういうところがわかったからじゃないかな」
「そうなのかな…」
「うん。
 だって」
 祈里はあゆみの手を取った。
「あゆみちゃんは、思いを届けるプリキュアなんだから。
 モモちゃんに届かないはずがないもの。
 私、それは間違いないって、信じてる」
 温かい手。
 将来、この手がたくさんの動物を救うことになるのだ、とあゆみは思った。
 それが遠い先のことではない、ということを あゆみも信じられる。
「祈里ちゃん、私に犬のことを教えて。
 モモちゃんが元気になったら、色んなことをしてあげたい。今よりもっと気をつけてあげたい」
「うん。
 喜んで」
「ありがとう!」
 次へ。
 してもらうだけの自分、してもらえなかったら不平を言うだけの自分からは脱皮できたと思う。多分。
 次は、誰かのために何かをしてあげられる自分にならなければ。
 まずは、モモのために。
 その手助けをしてくれる祈里のために。
 ラブや美希、せつなのために。大事な友達のために。
 今は知らない誰かのために。
 そう思うだけで、胸がどきどきするのはなぜだろう。祈里が笑顔を忘れないのは、その理由を知っているからではないか、とあゆみは思った。

168 名無しさん :2016/11/01(火) 00:18:07
>>167
久しぶりに来ましたね、makirayさんのあゆみちゃん話。
ブッキーとの絡みが凄くお得感ありました。
一歩一歩、世界を広げていく彼女の姿がとても愛おしいです。
素敵なお話、ありがとうございました!

169 Mitchell&Carroll :2016/11/11(金) 23:21:24
ドキプリ第30話を元にしたお話。ランキングスレに載せるべきかどうかで迷いました。
3スレお借りします。


『華麗なるプリキュア』


マナ「――ありがとう、メラン。またね!」
メラン「待て!まだ帰さん!!」
六花「えっ!?」
メラン「某カレー店の人気メニュー・ベスト10を当てるまで、帰すわけにはいかん!!」
真琴「どうしてそうなるの!?」
ありす「ベスト10に入っていると思われるものを注文して食べきったところで、順位が発表されるのでしょうか?」
亜久里「しかも、一度も間違えずに全部当てるとパーフェクト達成、賞金100万円ゲットというわけですか!?」
メラン「その通りだ!ではさっそく始めるぞ!!」

六花「やっぱりここは定番から攻めていくのがいいわよね」
ありす「作戦は六花ちゃんに任せるのが良さそうですわね」
マナ「よろしくお願いします、六花曹長!」
六花「じゃあまず、ポークカレーから行くわよ!」
セバスチャン「――お待たせいたしました。ポークカレーです」
マナ「(パクパク)う〜ん♡カレーはやっぱりポークカレー♪」
真琴「……具、少なくない?」
亜久里「贅沢を言ってはいけませんわ!」
マナ「完しょーく!」
ありす「セバスチャン、順位のほうを……」
セバスチャン「はっ。こちらのメニュー、第……2位!」
マナ「ランクイーーン!!」
六花「2位か……(計算中)」
セバスチャン「定番の“ベース”カレー、堂々の2位でございます」
真琴「まずまずのすべり出しね」

六花「メニュー表を見たところ、ほかにも定番カレーがいっぱいあるようだから、片っ端からいってみようと思うの」
マナ「カレーだったらいくらでも入るよー♡」
亜久里「となると次は、ビーフカレーといったところでしょうか?」
六花「そうなるわね」
セバスチャン「――お待たせいたしました。ビーフカレーでございます」
真琴「(パクパク)美味しいわ。やっぱり具が少ない気がしないでもないけど」
セバスチャン「こちらのメニュー、第……5位!」
ありす「やはり定番は上位ですわね」
セバスチャン「ビーフの旨味が凝縮された深みとコクのあるカレーは、もうひとつの定番カレーでございます」

170 Mitchell&Carroll :2016/11/11(金) 23:24:04
六花「チキンカレーを頼もうと思ってるんだけど、いくつか種類があるのよ」
ランス「おもいきってまとめてたのむでランス〜」
セバスチャン「――お待たせいたしました。チキンカツカレー、チキンにこみカレー、パリパリチキンカレー、フライドチキンカレーでございます」
マナ「あたし、1日にこんなに沢山の種類のカレー食べるの初めて!」
真琴「あたしもよ、マナ」
ありす「たまにはこんな日があってもいいのではないでしょうか」
セバスチャン「順位の発表に参らせていただきます。チキンカツカレー、第……7位!あっさりテイストのチキンの旨みをお楽しみください。続いてチキンにこみカレー、第……1位!!やわらかくボイルした鶏肉を丁寧にほぐして入れたマイルドなカレーでございます。続きましてパリパリチキンカレー、第……6位!衣はパリッ、中はジューシーな一枚肉を贅沢に使用、でございます。そしてフライドチキンカレー、第……10位!カリッと揚がった衣とジューシーなチキンがカレーとよく合いますでございます(?)」
シャルル「すごいシャル!全部ランクインしたシャル!」
ありす「お手柄ですわ、ランス」
マナ「お見事ー!!」
ランス「いや〜(照)でランス〜」

亜久里「わたくし、この納豆カレーというものに興味があるのですが……」
セバスチャン「――お待たせいたしました。納豆カレーでございます」
亜久里「(パクパク)おいしい!」
マナ「カレーと納豆って合うんだね〜。おいしいねぇ、アイちゃん!」
アイちゃん「ネバネバ、キュピ〜♡」
六花「お家でも真似して作ってみるっきゃないわね!」
セバスチャン「納豆カレーの順位、第……9位!納豆好きにはたまらない、ネバネバがヤミツキ、でございます」

六花「さて、残すは3位と4位と8位……」
マナ「六花隊長!チーズカレーはいかがでしょう!」
六花「そうね。そろそろ乳製品が恋しくなってきた頃だわ」
セバスチャン「――お待たせいたしました。チーズカレーでございます」
ラケル「さすがにそろそろお腹いっぱいになってきたケル……」
六花「頑張って、ラケル!あと3つ当てたら、帰れるのよ!」
ラケル「分かったケル!六花のために、ボク、頑張るケル!!」
セバスチャン「チーズカレーの順位、第……8位!カレーの風味をマイルドにしながら、濃厚さを増す“とろとろチーズ”をトッピング、でございます」
ラケル「やったケル!ボクの六花への想いが届いたケル!!」

マナ「そういえばあたし、よくカレーにロースカツをトッピングしてたな〜」
セバスチャン「――お待たせいたしました。こちらロースカツカレーになります」
マナ「また会えたね、豚肉さん!」
六花「気のせいか、さっきよりも美味しく感じるわ」
真琴「ホントだわ。なぜかしら」
ダビィ「会えない時間が、愛を育てるビィ」
セバスチャン「ロースカツカレー、第……4位!カレーのトッピングといえばロースカツ、定番中の定番でございます」

171 Mitchell&Carroll :2016/11/11(金) 23:25:27
六花「いよいよ残すは2位だけよ!」
真琴「ながかったわ……」
ありす「みんなで手と手を取り合って、頑張りましたものね」
亜久里「みなさん、最後の最後まで、気を抜かずに走りきりますわよ!」
マナ「そろそろ野菜も摂らなくちゃいけないと思うんだ。といわけで、セバスチャンさん!野菜カレーお願いします!」
セバスチャン「――お待たせいたしました。野菜カレーになります」
マナ「わ〜お♡ニンジン・ジャガイモ・アスパラガスがいっぱ〜い♡♡」
亜久里「………」
真琴「どうしたの?亜久里ちゃん」
ありす「せっかくのカレーが冷めてしまいますわよ?」
六花「さすがにもう、お腹いっぱいなのかしら?」
亜久里「……え、ええ。ジャガイモとアスパラガスは何とかイケます。でも……」
マナ「よぉぉーし!亜久里ちゃんのニンジン、代わりにあたしが食べてあげよう!!」
亜久里「ありがとうございます、マナ!!」
マナ「――せぇーの」
全員「「完しょーーく!!」」
セバスチャン「こちらのやさいカレーの順位、第……3位!色鮮やかな定番のやさいカレーでございます」

メラン「見事だ、お前たち。そら、賞金の100万円だ。持って行くがよい」
マナ「やった!ねぇ六花、コレで何買う?ナニ買う?」
六花「決まってるでしょ――新しい眼鏡よ!!」


おしまい

172 名無しさん :2016/11/12(土) 00:01:38
>>171
まさかのコラボでしたw

173 名無しさん :2016/11/12(土) 00:19:14
うん。
これはプリキュアランキングじゃないねw
ここで正解だと思いまする。

174 名無しさん :2016/11/14(月) 16:59:39
六花ちゃんはメランのせいで命より大事な眼鏡をなくしちゃったもんね(でもそれくらいありすがいればなんとかなりそうだけど・・・てゆうか四葉にとって100万円なんて絶対大した額じゃないよね・・・(苦笑))

175 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/04(日) 14:42:54
こんにちは。
三カ月も間が空いてしまいましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
6レスで納まると思います。

176 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/04(日) 14:44:21
 薄暗い部屋の中で、ゲージに降り注ぐ不幸のしずくが陰鬱な音を響かせる。その前にはノーザの姿があって、壁に映し出された街の様子を満足げに眺めている。
 もっとも、このノーザは実体ではなくホログラム。映像が映像を鑑賞しているという何とも奇妙な光景を、ラブは不幸のゲージの隣に吊るされたまま、ぼんやりと見つめていた。

 さっきから、巨大な電波塔のナケワメーケが、まるで砂の城でも壊すように易々と建物を破壊する光景が続いている。その無造作な打撃の音、壁がボロリと崩れる音のひとつひとつが、重く鈍い痛みを伴ってラブの胸を打ちつける。

――やっぱりあなた、プリキュアにならなければ何の力も無いのね。

 昨日の少女の言葉がもう一度聞こえた気がした。少女の攻撃をただ避け続け、無様に倒れたあの時の冷たい床の感触が蘇って来る。

(そうだよね。変身も出来なくて、こんなところで捕まっちゃってる今のあたしに、出来ることなんか……)

 力なくうつむきかけるラブ。だが、その途中で不意に目を見開くと、今度はガバッと顔を上げて食い入るように映像を見つめた。

 場面が切り替わって、ナケワメーケの足元がアップになったのだ。そこに映し出されたのは、ラビリンスの住人たちだった。まだ被害の及んでいない街の奥へと逃げようとしているのか、お互いに目を合わせることもなく、全員がただ同じ方向に向かって一目散に走っている。
 疲れ切って表情のない人々の姿に、少し前のお料理教室の光景が重なった。楽しそうに輝いていた人々の笑顔が思い出されて、目元にじわりと涙が滲む。が、それを振り払うように、ラブはブンブンと乱暴に頭を振った。

(泣きたいのは、あたしじゃなくてみんなの方だよ。あたしに出来ることって、本当に何も無いの? こうしてみんなが苦しんでるのを、ただ見ていることしか出来ないの?)

 住人たちが我先に逃げて行った方に向かって、ナケワメーケがゆっくりと移動を開始する。歯を食いしばってその映像を睨んでから、ラブは気持ちを落ち着けるように目を閉じて、ふぅっと大きく息を吐いた。

 まるで暗闇に淡い光が灯るように、目の裏にぼんやりと浮かんできたのは、四つ葉町公園の景色だった。ラブが一番よく知っている、石造りのステージの上から見た眺めだ。
 豊かな緑を背景に、パンパン、と手を叩いて指導の声を飛ばすミユキ。その足元に置かれたダンシング・ポッド。そして隣に感じる息づかいは、美希、祈里、そしてせつな――大切な仲間たちのもの。
 次に浮かんできたのは、上空から見下ろす巨大な怪物の姿と、耳元で鳴る風の音。そして華麗に変身した頼もしい仲間たち――ベリー、パイン、パッションの姿。
 普段とは桁違いのスピードとパワーは、変身によって手に入れたもの。しかし完全にシンクロした四人の動きは、毎日のダンスレッスンと、プリキュアとしての経験を積み重ねて培った賜物だ。

(確かにプリキュアの力は、あたしの力じゃない。でも、ダンスもプリキュアも両方選んで、全力で頑張って来たのはあたしたちだよ。だからプリキュアになれなくても、凄い力は出せなくても、頑張った分はきっと、あたしの力にもなっているはず)

 パッと目を開けて、今度は決意を込めた眼差しで映像を見つめる。姿は見えないが、このナケワメーケを操っている――そしてこの後、人々を不幸に陥れる通告をするはずの少女が、このどこかに居るはずだ。

(出来る出来ないじゃない。やらなきゃいけないことがあるって、わかってるじゃない。あの子を止めなきゃ。そのためにはまず――ここを出る!)

 映像を見据えたまま、ラブがもう一度歯を食いしばる。でも今度は悔しさを堪えるためではなく、渾身の力を出すためだ。
 まずは両腕にグッと力を入れて、捕えられている腕を何とか外そうと試みる。だが、ただの少女であるラブの力では、蔦はピクリとも動かない。
 今度は腕だけでなく足もバタバタさせ、全身を滅茶苦茶に動かしてみる。それでも蔦の拘束は緩まなかったが、吊るされているラブの身体が小刻みに揺れた。
 ラブは自分の身体を見下ろし、次に周囲を見回して、うん、と小さく頷いた。思い起こすのは心に刻まれたミユキの言葉と、身体に刻まれたダンスの動きだ。

――ある方向に力が働けば、必ずその反対方向にも力が働くの。それが“反動”よ。右に行きたければ、まず左に重心を移す。上に大きく跳びたければ、まずは低く屈みこむ。そうやって――

(……そうやって力を蓄えれば、より大きな力が生まれる!)

 ラブが再び全力で身体を動かして、蔦を揺らそうとする。その顔は見る見る真っ赤になり、額には汗が浮かんできた。それでもラブは、ハァハァと荒い息を吐きながら、不自由な身体を少しずつ、必死で動かし続ける。

177 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/04(日) 14:44:55
 やがて、ラブの動きは少しずつリズミカルになり、それにつれて蔦が少しずつ大きく振れ始めた。その揺れが目に見えて大きくなった時、ラブはさらに力を振り絞って、思いっ切り身体を反らした。
 ぐん、と蔦が大きく揺れる。その揺れを振り子のように使って、ラブは隣に立つ不幸のゲージを、ゴン、としたたかに蹴りつけた。

 ノーザが恐ろしい形相でラブを振り返る。だが一度勢いがついたラブの身体は止まらない。
 もう一度、さらにもう一度、ゴン、ゴン、と響く鈍い音。それを聞いて、ノーザが慌てたようにさっと右手を挙げる。その途端、生きたロープはするすると解け、ラブを床に下ろして開放した。
 思わずその場にへたり込みそうになるラブ。だがそれを必死で堪えて震える足で立ち上がり、鋭い眼差しをノーザに向ける。

「あら、ごめんなさい。苦しかったのならそう言ってくれれば、すぐに下ろしてあげたのに」
 ノーザがさっきの狼狽えた素振りを取り繕うように、妖艶な笑みを浮かべてみせる。それでもラブの表情が変わらないのを見て、ノーザは口の端を斜めに上げると、いつになく優し気な声で言った。
「解放してあげたついでに、この部屋からも出してあげるわ。上の部屋にでも行って、少し休憩なさい」
「それより建物の外に……そこに映っている場所に、帰してくれないかな」
 粗い呼吸を抑えて映像を指差すラブに、ノーザが余裕の笑みを浮かべたままでかぶりを振る。
「それはダメねぇ。でもこの建物の中であれば、どこに居ても構わないわよ」
 余裕の表情でラブを見下ろすノーザの映像。その顔をひたと見つめながら、ラブは唾を飲み込もうとして、口の中がカラカラに乾いていることに気付いた。

(せつな。美希たん。ブッキー。ミユキさん。お願い……あたしに力を貸して!)

 もう一度、一瞬だけ祈るように目を閉じてから、ラブは静かに目を開けて、ノーザに向かって声を張り上げた。

「本当にいいの? この建物の中に居たら、あたし、何をするか分からないよ? コントロール・ルームの場所も分かっちゃったし、またゲージを壊しちゃうかもしれないけど」
「あら。あなたにそんなこと、出来るのかしら」
「……試して、みる?」
 そう言いながら、ラブはノーザから片時も目を離さずに、ゆっくりと腰のリンクルン・ケースに手を置いて見せた。

 今度は苛立たし気な表情を隠そうともせず、ノーザがラブを睨み付ける。
「ふん、せっかく優しくしてあげたのに、つけ上がるとはいい度胸ね。ならば元通り、大人しく縛られているがいい」
 ノーザの声と同時に、鉢植えから再び蔦が放たれる。だが一瞬早く、ラブはパッと身を翻した。
 横っ跳びで不幸のゲージの後ろに身を隠す。鋭い鞭のようにラブに襲い掛かった蔦は、ゲージに届く直前に、まるで慌てて急ブレーキをかけたかのように失速した。
 忌々し気に歯噛みしたノーザが、指をパチリと鳴らす。すると蔦が再び方向転換し、今度は部屋のドア目がけて直進すると、バタンと大きく押し開けた。

「今はお前に構っているヒマは無いの。さあ、この部屋から出て行きなさい」
「嫌だよ。出て行ってほしいのなら、外に出してくれなくちゃ」
「調子に乗るのもいい加減にすることね」

 再び蔦が、今度はさっきとは違う枝から放たれる。続いてもう一本、その次は同時に二本、太さを変え、速さを変え、本数を変え、次第に数と力を増して襲ってくる緑色の鞭。だが、ラブはゲージの後ろ半面を盾に使い、サイドステップを繰り返して、何とかそれを凌ぎ続ける。

 ラブの真剣な眼差しは、蔦を放つ小さな鉢植えにじっと注がれていた。最初はただスピードにばかり翻弄されたが、何度か避けているうちに、その動きに規則性があることに気付いたのだ。
 あの最終決戦で、蔦を自在に操って攻撃してきたノーザの動き――あの時によく似た、でももっと単純で分かりやすい予備動作が、必ずあるということに。

(蔦が飛び出す直前に、枝がグッとしなる……。これもミユキさんが言ってた“反動”だよね。それをちゃんと見ていれば、何とか避けられるはず!)

 頼みは盾にしている“不幸のゲージ”。四つ葉町にあったものより小さなこのゲージは、大きさだけでなく強度の面でも劣るのか、蔦はゲージに触れることさえ避けるような動きをしている。
 ラブにとっては、それが付け目だった。自分と蔦との間に常にゲージが挟まるよう小まめに動きながら、蔦を避け続け、帰してほしいとノーザに訴え続ける。

 ゲージを挟んでの攻防が、どれくらい続いただろう。いくら動きを予測できると言っても、変身もしていないラブの体力には限界がある。もうとっくに息が上がり、膝もがくがくと震えるようになった頃。
 完全にゲージの方を向いて、苛立たし気にラブを睨んでいたノーザが、不意にハッとした顔をして壁の方を振り返った。ラブも思わず鉢植えから目を離して、映像に注目する。

178 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/04(日) 14:45:47
「愚かな者たちよ。これは、メビウス様からお前たちへの制裁だ!」

 映像の中から、威圧感を伴った声が響く。スピーカーのナケワメーケに増幅されたその声の主は、怪物の肩の上で腕を組み、仁王立ちしているあの少女だった。
 少女による不幸の通告が、ついにラビリンスの住人たちにもたらされたのだ。

 ずっと渋面を作っていたノーザが、ニヤリとほくそ笑む。
「フフフ……。これでラビリンスの国民たちは不幸に沈む。残念だったわねぇ」
「うわぁっ!」
 映像をもっとよく見ようと、ついふらふらと前に出たラブが、初めて蔦の鞭を喰らって弾き飛ばされる。何とかゲージの陰に転がり込むと、ラブは自分に言い聞かせるように、必死で声を絞り出した。
「まだ……諦めないよ。不幸は……不幸は必ず、幸せに、生まれ……変われるんだからっ!」
「ええい、まだそんな戯言を!」

 今度は何本も一度に襲い掛かる、蔦の攻撃。ラブは何とかゲージの陰を移動して避けたが、その動きはさっきと比べて明らかに精彩を欠いていた。
 枝の動きを注視しなくてはいけないのに、どうしても気になって、その視線が時折映像の方へちらちらと流れるのを止められない。おまけにさっき鞭の攻撃を受けた左腕が、ズキズキと痛み出した。そうでなくても身体はとっくに限界を超えて、悲鳴を上げているのだ。ゲージのお蔭でそれ以降は大きな打撃は免れているものの、次第に蔦の先がラブの身体に当たり始める。

 そしてついに、ラブがゲージを背にしてよろよろと崩れ落ちる。ノーザの含み笑いと共に、蔦がゆっくりと遠巻きに伸びてゲージの後ろを窺う。そして何とか立ち上がろうともがくラブの身体を、容赦なく絡め取った。
 だが次の瞬間、蔦の動きが止まった。映像の中から突然響いた、パリン、という乾いた音。それを聞いて、ノーザが顔色を変えて映像の方に向き直ったのだ。

 そこに映っていたのは、あろうことかナケワメーケのダイヤを拳で打ち砕くウエスターと、それを驚愕の表情で見つめる少女の姿だった。
 少し遅れて地面に倒れる、元に戻った街頭スピーカー。しばしの間呆然としてから、ウエスターに挑みかかる少女。そんな少女をいとも簡単に倒して、その身体を肩に担ぎ上げるウエスター……。

「おのれ……これからが不幸集めの本番という時に! だからあれほど、彼には気をつけろと……」
 悔しそうにそう呟いてから、ノーザはさっと右手を前に突き出した。
「こうなっては仕方がない」
 それを合図に、動きを止めていた蔦がするすると動き出す。そして、もう抵抗も出来ずに荒い息を吐いているラブを吊り上げると、ノーザのすぐ目の前の中空にかざした。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第8話:全力の想い )



 ナケワメーケが倒された現場から一番近い警察組織の建物に、一台の車が横付けされた。バラバラと車を降りる警官たちの最後にウエスターが降り立って、気を失った少女を建物の中に運び込み、床に下ろす。
 その瞬間、少女の表情が動き、眉間にわずかに皺が寄った。
「気が付いたか。起こす手間が省けたな」
 ウエスターが無表情でそう言いながら少女を見下ろす。が、部屋の外がにわかに騒がしくなったのに気付いて、今度は彼の方が眉間に皺を寄せた。

 少女をそこに寝かせたまま、部屋の入口の方へ取って返す。すると、開けっ放しだったドアから小さな人影が飛び込んだ。
「イース! ここは俺に任せろと言っただろう!」
 人影は――せつなはウエスターの呼びかけには応えず、部屋の中に目を走らせた。そして少女の姿を認めると同時に、その身体から、フッと力を抜いた。

 ウエスターの眉間の皺が、わずかに深くなる。それは些細だが、確かな違和感だった。ここで筋肉を弛緩させたのは、次の瞬間に力を爆発させるため。飛び出す“反動”を得るための予備動作としか思えない。
 普段の優しい眼差しからは考えられないような、感情の見えない赤い瞳に危機感を覚え、ウエスターはせつなを拘束すべく動き出す。だが、せつなは目にも留まらぬ速さでその腕の下をかいくぐると、仰向けに寝かされている少女に覆い被さるようにして、その顔のすぐ横の床に、ダン、と掌を叩きつけた。

「ラブをどこへやったの!? 答えて!!」
 至近距離から睨み付けるせつなの顔を、少女が驚愕の表情で見つめる。戦闘服を身に着けている自分が、さっき全く反応できなかった男の動きを、彼女は生身で見切って避けてみせたのだ。
 だが、それも一瞬のこと。すぐに表情を取り繕うと、少女は青白い顔に不敵な笑みを浮かべた。
 せつなの掌の下で床がギュッと鈍い音を立て、赤い瞳に怒気を超えた殺気が浮かぶ。今度こそ割って入ろうとするウエスター。が、その足は異変を感じてぴたりと止まった。

179 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/04(日) 14:46:26
 突然、二人の横手の壁の真ん中辺りがぐにゃりと歪み、まるで木の洞のような時空の口が開いたのだ。そこから浮かび上がるように現れた人物を見て、せつなの目が大きく見開かれた。

「ラブ……!」

 ラブは前のめりになった格好で、緑色の蔦のようなもので拘束されていた。だが、それがすぐに解けて、部屋の中へと放り出される。
 せつなは飛び上がるようにしてラブを受け止めると、夢中でその顔を覗き込んだ。
 ぐったりと力の抜けた身体。力なく閉じられた目蓋――。

「ラブ! しっかりして、ラブ!」
 耳に煩いような自分自身の心臓の音と、締め付けられるような胸苦しさに耐えて、せつなが必死で呼びかける。すると、ラブの睫毛が微かに震え、その目がゆっくりと開かれた。

「せつな……」
「……良かった……!」
 ラブを抱き締めるせつなの目から涙が溢れて、ぽろぽろと零れる。

 二人の姿を安堵の表情で見つめるウエスター。しかし一瞬の後、彼は慌てて壁に向かって突進した。
 だが、ほんの少し遅かった。
 せつなとウエスターがラブに気を取られている隙に、蔦がするすると伸びて、少女の身体を絡め取ったのだ。ウエスターの目の前で、少女が時空のトンネルへと連れ去られる。そして彼の手が壁に届いたときには、時空の口は消え失せていて、後には何も残ってはいなかった。



   ☆



 淡いグレーの壁と天井で仕切られた、何の変哲もない小さな部屋。仮眠室として使われているという警察組織の一室で、せつなはベッドの隣で小さな椅子に座り、ラブの寝顔をじっと見つめていた。

 ナケワメーケを操る少女を止めようとして、自分の意志で彼女に付いて行ったこと。そのアジトが、せつなや彼女が育った軍事養成施設・E棟であったこと。その地下にあった不幸のゲージと、映像として現れたノーザの存在――それだけを何とか話し終えてから、ラブは気絶するように眠ってしまったのだ。
 ウエスターはラブの話を聞き終えると、サウラーのところへ相談に行くと言って、厳しい顔つきで出て行った。

 ラブの身体には、締め付けられたような跡や、何かで打たれたような痣が無数にあった。

――何とかここに戻って、あの子を止めなきゃ、って思ったんだけど……。

 うつむき加減でそう呟いたラブの顔を思い出す。
 今は変身することも出来ないというのに、その想いだけで、映像とはいえあのノーザと渡り合ったのだろうか。

「全く……。無茶し過ぎよ」
 眠っているラブの姿がやけに小さく見えて、思わずその顔に指を伸ばして、目の上に掛かった髪をそっと払う。その途端、ラブが小さく口を開けて、弱々しく言葉を吐き出した。

「せつなぁ……」

(えっ?)

 思わずドキリと手を止めて、もう一度ラブの顔を見つめる。
 その目は閉じられたままだったが、口元がムニャムニャと柔らかく動いて、再び途切れ途切れに言葉を紡いだ。

「大丈夫だよ……せつな……」

 ぽかんとするせつなの目の前で、ラブが再びすうすうと寝息を立て始める。

(ひょっとして……寝言?)

 不意に可笑しさがこみ上げて来て、せつなは口に手を当てて、クスクスと声を立てずに笑った。

(私がこれだけラブのことを心配して、居ても立ってもいられなかったっていうのに、当のラブは、夢の中でまで私の心配をしてくれてるっていうの……)

 口元に当てた手の甲に、ポツリとあたたかな雫が落ちる。それが自分の涙だと気が付くのに、少し時間がかかった。
 もう一度手を伸ばして、ラブの布団を掛け直す。前に一度、あゆみにそうしてもらったことを思い出して、布団の上からあやすように、トントン、と優しく叩いた。

(ラブと一緒に居るときの涙は、どうしてこんなに、あたたかいのかしら……)

 心の中にぽかりと浮かんだ小さな疑問。その答えが見つからないままに、せつなはラブの寝顔を愛おし気に見つめながら、そっと頬の涙をぬぐった。



   ☆

180 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/04(日) 14:47:08
 目蓋の裏に感じる朝の光。そして頬を滑る、柔らかなシーツの肌触り――。
 ぼんやりとそんなことを感じて……次の瞬間、せつなは跳ね上がるようにして身体を起こした。
 いつの間にか、椅子に座ったままベッドに突っ伏して寝ていたらしい。こんなところで朝まで眠ってしまうなんて、初めての経験だった。
 考えてみれば、ラブが心配でこの三日間はほとんど眠っていなかったから、安心して一気に疲れが出たのかもしれない。

 ベッドに目をやったせつなが、今度は弾かれたように立ち上がる。そこに寝ているはずのラブの姿は、どこにも無かった。

(まさか、ラブったらまた一人でどこかへ……!?)

 咄嗟にそう思った時、どこかから聞き慣れた明るい声が聞こえて来て、せつなは慌てて部屋から走り出た。

 声を頼りに進んで行くと、小さなキッチンに辿り着いた。湯気の立つ大きな鍋をかき混ぜている、ラブの後ろ姿が見える。その隣には一人の少年が立っていて、せつなに気付き、照れ臭そうな顔でぺこりとお辞儀をした。その様子を見て、ラブも後ろを振り返る。
「あ、せつな、おはよう。ちょうど良かった、ちょっと手伝って」
「ラブったら。身体の方はもう大丈夫なの?」
「へーきへーき!」
 ラブがそう言いながら、左手でガッツポーズを作ろうとして、痛てて……と苦笑いをする。ラブの左腕に特に大きな痣があったことを思い出して、せつなは小さく溜息をつく。そしてラブの隣に歩み寄ると、鍋の中を覗き込んだ。

 ふわりと懐かしい香りが、せつなの鼻をくすぐった。たっぷりの汁の中で、細かく切られた具材とお米が、コトコトと音を立てている。
「これ、“おじや”よね? 前に、お母さんに作ってもらったことがあるわ」
「そ。これならみんなで一緒に、あたたかいうちに食べられるでしょ?」
「え? みんな、って……」
 首を傾げたせつなが、あ、と小さく声を上げて、そっと隣の部屋を窺う。道場のようなその広い部屋には、せつなの予想以上の人数が集まっていた。ナケワメーケの攻撃を逃れたこの建物もまた、人々の避難所になっていたのだ。

「ここは警察官が寝泊まりも出来る施設だから、食糧も置いてあるって、この子が教えてくれたんだ」
 ラブがそう言いながら、鍋の中のものを小皿に取って、それを少年に差し出す。怪訝そうな顔で受け取った少年は、促されるままにそれを口にして、驚いたように目を丸くした。

「こんな料理、初めてだ……。いろんなものが入っているんですね」
 少年が、ぼそぼそとした調子で呟くように言う。
「うん。本当は残り物で作る料理なんだけど、これなら食材を無駄なく使えるから、食糧が長持ちするんだ。それに、あたたかいものを食べて身体があたたまると、元気が湧いて来るからね」
「元気……ですか」
「まぁこれは、お母さんの受け売りだけど」
 一層低い声になった少年に、ラブが小さく微笑む。そして、「でーきたっ!」とひときわ明るい声で叫ぶと、鍋を持ち上げようとして、痛てて……と再び顔をしかめた。

「あ……俺、運びます」
「ひとりで大丈夫? 結構、重いよ?」
「平気です。力には自信がありますから」
 少年がそう言って、ひょい、と鍋を持ち上げる。せつなとラブが食器を持ち、三人は人々が避難している隣の部屋に向かった。

「みんな、お待たせ〜! 朝ご飯、持って来たよ〜」
 ラブが明るい声で呼びかけても、応える者は誰も居なかった。全員が思い思いの場所に座り込み、暗い目をして床の一点を見つめている。
 メビウス様が復活する。この襲撃は、メビウス様による制裁である――少女による衝撃の通告を受けて、まだ半日しか経っていない。最初はパニック状態に陥った人々は、今は絶望と虚無感に支配され、全てを諦めて来たるべき時を待っているように、せつなの目には映った。

 グッと拳を握り締め、せつながラブの隣から一歩前に進み出る。何か言おうとして口を開き、言うべき言葉が見つからなくて立ちすくんだ、その時。
 ラブがおもむろに鍋の蓋を開けると、それを椀によそって、近くにうずくまっている小さな女の子の傍に座り込んだ。

181 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/04(日) 14:47:43
「はい。熱いから、一緒に食べようね」
 最初の一匙をすくってフーフーと息を吹きかけてから、ラブがそれを女の子の口元に持っていく。
 お腹が空いていたのだろう。戸惑った顔をしながらも素直に口を開けた女の子は、すぐに目を輝かせて叫んだ。
「美味しい!」

 すぐに自分でスプーンを握って食べ始めた女の子を横目で見ながら、周囲の子供たちがゴクリと喉を鳴らす。その目の前に、せつながタイミング良くお椀とスプーンを差し出した。
 ほどなくして、子供たちの食べっぷりにつられるように、大人たちもスプーンを手にする。しばらくすると、全員が夢中で椀の中身を食べ始めた。
 やがて、部屋の中に少しずつざわめきが――人の声が聞こえ始める。子供たちの顔には笑みが見え始め、大人たちの表情も、さっきまでよりも明らかに穏やかなものになっていた。

「ありがとう、せつな。さ、あたしたちも食べよ」
 驚いた顔で人々を見回すせつなに、ラブがおじやの入った椀を差し出した。鍋を運び、配膳を手伝ってくれた少年は、二人から少し離れたところに座って、既に猛然と椀の中身をかき込んでいる。

 ラブは、自分もスプーンを手に取りながら、せつなだけに聞こえるような、小さな声で言った。
「せつな……心配かけて、ごめんなさい」
「……」
 せつなが無言でラブの背中に手をやると、ポンポン、と二回、優しく叩く。その仕草に、ちらりと上目づかいでせつなの顔に目をやると、ラブはフッと小さく顔をほころばせた。

「本当はあの子を止めたかったけど、出来なかった……。だから今はほんの少しでも、みんなに元気になってもらいたいんだ」
「ほんの少しじゃないわ。まだ“元気”とは言い切れないかもしれないけど、大きな変化だと思う」
「そうかな……。もしそうなら、嬉しいな」
 ラブはそう言って、食べ始めたばかりのおじやの椀を、大切そうに両手で包んだ。

「ねえ、せつな。あたし、決めたんだ」
 相変わらず密やかな、でもさっきより明るい声で、ラブが語りかける。
「“どうせ出来っこない”なんて思わないで、自分の力を信じようって。プリキュアの力に比べれば小さな力かもしれないけど、その力で、やらなきゃいけないことを、あたしが本当にやりたいことを、全力でやろうって。だからあたし、いつか、あの子とも……」
 ラブがそう言いかけた時、建物が突然、ズシン、と揺れた。



「様子を見てきますから、皆さんは建物の外に出ないでください!」
 せつながテキパキと人々に指示を出してから、既に廊下を走り始めたラブの後を追う。玄関から外に飛び出すと、二人の耳に、ナケワメーケとは明らかに違う怪物の声が飛び込んで来た。

「……まさか、これって!」
 せつなが驚きの声を上げて、呻き声が聞こえた方角へ向かって走り出す。そして、そこに立っている化け物の姿に、やっぱり……と唸るように呟いた。

 顔の中央に貼り付いている、涙を流す一つ目のマーク。言葉を発せず、ただ苦し気な呻き声を上げるだけの哀しきモンスター。
 その巨大な姿の後ろに見えるビルの上に小さな人影を見つけて、せつなが今度こそ絶句する。
 紙のように白い顔に苦悶の表情を浮かべて立っているのは、あの少女。その腕に、鋭い棘を持つ暗紫色の茨が巻き付いているのが、せつなの目にはっきりと映った。

〜終〜

182 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/04(日) 14:49:08
以上です。ありがとうございました!
次はもう少し早く更新できるように頑張ります。
(オオカミなんちゃら、って言わないでください……(汗))

183 名無しさん :2016/12/08(木) 00:48:44
もしも某芸人風にプリキュアにあだ名を付けるとしたら(気を悪くしたらすみません)

なぎさ→足クサ馬鹿トンカチ
ほのか→おしゃべりクソ女
ひかり→たこ焼きマシーン
咲→黒コゲ筋肉
舞→幽霊部員
満→暴走族
薫→おで子
のぞみ→くそ馬鹿リア充
りん→恋愛下手
うらら→かぼちゃぱんつ
こまち→エロ羊羹
かれん→金持ちクソババア
くるみ→母乳垂れ流し変態クソ女
ラブ→熱血馬鹿野郎
美希→自意識過剰
祈里→もののけ姫
せつな→鉄仮面
つぼみ→高木○保
えりか→ブレーキ故障中
いつき→女装癖
ゆり→栄養不足
響→ケーキ泥棒
奏→クソ女子力
エレン→バカ黒猫
アコ→上げ底
みゆき→クソバカ大凶女
あかね→国際結婚
やよい→妖怪しょんべんちびり
なお→ノーブラ
れいか→猪木イズム
あゆみ→不登校
マナ→ヤリチ○女
六花→金魚のフン
ありす→くしゃぽいクソ金持ち
真琴→進路相談
亜久里→真っ赤なオバサン
めぐみ→偏差値低め
ひめ→らきたま
ゆうこ→飯炊き女
いおな→守銭奴
はるか→牝狸
みなみ→二代目金持ちクソババア
きらら→らんこの親友
トワ→洗濯女
みらい→テレ朝アニバーサリー
リコ→緊張ガチガチ魔法ヘタクソ女
ことは→年齢不詳
モフルン→糖尿病

個人的には響の「ケーキ泥棒」が御気に入り。

184 名無しさん :2016/12/11(日) 12:54:32
えりかとのぞみはぴったりだ!
舞、満、ゆりさん、亜久里ちゃんのは特にツボに入りました〜(レジーナも気になりますね)

185 名無しさん :2016/12/15(木) 23:43:50
>>184
レジーナは候補がいっぱいあって……「パツキンのチャンネー」「アイカツ」「キッカ」「レジーナ軍曹であります」

186 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/18(日) 17:58:31
こんばんは。
長編の続きではありませんが、投下に参りました。
出張所(Twitter)のフォロワーさんが500人を超えたので、そのお礼のSSです。
前回の競作の時に掲示板に書き込んで頂いたSSネタを、私も使わせて頂きました。

フレッシュ・美希せつです。第33話(タコ回)の、その夜と次の日のお話。
タイトルは、「Thank you, my follower 〜美希のもうひとつのこわいもの〜」
5レス使わせて頂きます。

187 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/18(日) 17:59:19
 思えばあの日のアタシの運勢は、最悪だったに違いない。
 昼間は十四年の人生で最も怖いものと戦う羽目になり、夜は夜で、あんな目に遭ってしまったんだから。

 それでも夕食を終えて、お気に入りのアロマオイルを垂らした湯船に浸かっていた時は、なかなかに幸せな気分だったのだ。
 思いがけず、せつなと初めて二人きりで買い物に出かけた今日。会話は弾まないわ、洋服は決まらないわ、おまけに……アレに遭遇するわで散々だったけど、今までよりずっとせつなと心を開いて話ができたし、昨日より、せつなに少し近づけた気がした。
 湯船の中で、今日の出来事をあれこれ振り返って、思い出し笑いがこみ上げてきたくらい。こんな風にせつなの顔を思い浮かべたことなんて、今まで無かったと思う。
 笑顔でお湯の中から立ち上がった途端、せつなに言おうと思っていて言いそびれたことがあるのを思い出した。

(明日、言うの忘れないようにしようっと)

 そう思いながら、鼻歌交じりでお風呂から上がる。そしてバスタオルを巻いただけの姿で、いつものように体重計に乗って――そこでアタシは凍り付いた。
 いったん体重計から降り、数字がゼロになっているのを確認してもう一度乗ってみる。
 さらにもう一度……そしてムキになってもう一度。
 でも何度測り直しても、体重計は同じ数字をアタシに突き付けてくる。昨日測った時より明らかに大きな、あり得ない数字を。

(なんで? なんで? たった一日で五キロも増えるって、どういうワケ!?)

 気を取り直して、今日一日の行動を、さっきとは全く別の視点で振り返ってみる。
 朝のジョギングは、いつも通り。朝食も昼食も、量も内容もいつもと変わらない。むしろカオルちゃんのドーナツを食べなかった分、いつもよりカロリーは控えめなくらいだ。体調も、特に変わったところは無い……。
 体重が増える原因なんて、どこをどう探したって見つからない。と、言うことは。

(この体重計が、壊れてるってことよね)

「そうよね、それしか考えられないわよ」
 思わず声に出してそう呟いたまさにその時、廊下に通じるドアがバタンと開いて、アタシはビクッと肩をすくめた。
「あらぁ、ごめんなさい、美希ちゃん。少し早く来すぎちゃったかしら」
 パジャマを抱えたママが、いつもののんびりとした口調でそう言いながら脱衣場に入って来た。

「どうしたの? 何だか難しい顔しちゃって」
「え? う……ううん。それより、ママこそどうしたの?」
「どうしたの、って……お風呂に入りたいんだけど」
「ああ、お風呂、ね。アハハ。さぁ、どうぞどうぞ」
「変な美希ちゃん」

 そう言って、ママがおもむろに服を脱ぎ始める。そして下着姿になったところで、何と問題の体重計に足を乗せた。
「ちょ、ちょっとママ! 体重を測るなら、お風呂の後じゃないの?」
「普段ならそうなんだけど」
 つい勢い込んでしまったアタシの顔を、一瞬あっけにとられたように見つめてから、ママがキラリと目を輝かせる。
「さっき、テレビで“ダイエットに効く入浴法”っていうのをやっててね。早速試してみようと思ってぇ。だからまずは、現状チェックよ」
「あ……そう。で、どうだった?」
「どうって、それをこれから試すんじゃないの。やっぱり何だか変よ? 美希ちゃん」
「アハハ……。ちょっと、お風呂でのぼせちゃったかな」

 我ながら苦しい言い訳をしながら、ママを観察する。
 ママは体重計の数字にちらりと目をやっただけで、あとはさっさと下着を脱いで、そのままお風呂場に入っていった。その後ろ姿を見届けてから、アタシは体重計をはったと睨み付ける。

(あの様子だと、別におかしな体重じゃなかったみたいね。ってことは……これ、壊れてないってこと!?)

 お風呂上りだというのに、さーっと血の気が引くのを感じた。もうこうなったら、トコトン確かめないと寝るに寝られない。
 そそくさとパジャマを着て、超特急で化粧水だけ付けてから、小走りでダイニングへと向かう。そこに、今日お米屋さんが届けてくれたばかりの、封の開いていないお米の袋があったのを思い出したからだ。
 五キロの米袋を、半ばヤケになってお風呂場へと運ぶ。もしあの数字が本当だとすると、この重さの分だけ昨日より重くなってるってこと――そう思ったら、何だか目の前が霞んだ。

188 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/18(日) 17:59:51
 アタシは仮にもモデルだ。そして将来の夢は、海を越えて世界を駆け巡るトップモデルになること。
 もし万が一、体重計が壊れていなかったりしたら……ここまで自己管理が出来ていないモデルなんて、あり得ない。
 って言うかそもそも、一日に五キロも太……ふっ、増えるなんて、そんなことあるわけないじゃない!

 ようやく脱衣場に辿り着いたと思ったら、慌てたせいか、米袋をお風呂場のドアに思い切りぶつけてしまった。ガコンガコン、と大きな音がして、ガラス戸が震える。
「……美希ちゃん? どうかしたの?」
「な、何でもないわ!」
 しまった、と思いながら、お風呂場の中から響くママの声に、大声で答える。
 さぁ、急がなきゃ。ママが不審に思ってお風呂場から顔を出す前に。

(アタシ、何やってるんだろう……)

 目頭が熱くなるのを何とか抑えて、祈るような気持ちで体重計の上に米袋を置く。だが。
 アタシの期待をものの見事に裏切って、数字はぴたりと五キログラムを表示して止まった。



   ☆



 翌朝、アタシはまさにどん底の気分で目を覚ました。いや、そもそも一晩中ハテナマークが頭の中をぐるぐると回っていて、少しでも眠ったのかどうか、自分でもよく分からない。
 体重計は壊れていないらしい。でもアタシ自身にはまるで心当たりがない。なのにどうしてこんなことになっちゃったんだろう。
 何だかヤケに黄色っぽく見える太陽をちらりと眺めてから、トレーニングウェアに着替える。
 ちっともワケがわからないけど、まずはやれることからしっかりやろう、と決めた。もしこの最悪の事態が事実なら、悩むより先に、さっさと元のアタシに戻らなくちゃいけない。

 朝の街を走り出すと、寝不足のせいか――それとも別の理由なのか、何となく身体が重い気がして、気分がさらに重くなった。それを振り払おうとして、いつもよりスピードを上げる。
 息が切れるのも構わず走っていたら、向こうから大きな二匹の犬に引きずられるようにして、ブッキーがやって来た。こちらもかなり息を切らしている。
 いつもなら、立ち止まって言葉を交わしたり、一緒に公園まで走って休憩したりするんだけど、今日のアタシにそんな余裕はない。どうやらブッキーも、二匹を制御するだけで精一杯みたい。それでお互い、目と目で挨拶するだけで別れた。それにしてもブッキー、今日は随分張り切っているんだなぁって思ったら、何だか自然に顔が下を向いた。



 その日は午前中、ミユキさんのダンスレッスンがあった。家に帰ってシャワーを浴びてから、体重計……は、ちょっと睨んだだけで、急いで支度して家を飛び出す。
 レッスンはいつもの四つ葉町公園じゃなくて、ミユキさんがよく使っているダンススタジオで行われるということで、四人で待ち合わせて公園近くのビルに向かった。

「スタジオって、最上階だったよね。何階だっけ?」
「えっと、確か十階じゃなかったかしら」
 ラブとブッキーがそう言い合いながら、エレベーターの列に並ぶ。
 ここは、本屋さんや歯医者さん、スポーツジムや英会話スクールなどが入った総合ビルで、朝から多くの人で賑わっている。そのくせ到着したエレベーターは小さめで、三人の後に続いてアタシが乗り込もうとした時には、小さな箱はもう満員に近かった。

 ふと、普段ならまず考えないような、嫌な想像が頭をよぎった。ここでアタシが乗り込んだ瞬間、もし重量オーバーのブザーが鳴ったりしたら……そう考えてしまったのだ。
 そんなこと、普段なら笑って済ませられることだ。別に、アタシ一人のせいで重量オーバーになるワケじゃないんだし。だけど今は――今だけは、あのブザーの音は絶対に聞きたくない!

「え、えーっと……アタシ、トレーニングを兼ねて階段で行くわ」
「え〜! 美希たん、十階だよぉ?」
 驚くラブの声を背中に聞きながら、くるりと踵を返す。エレベーターの隣にある金属製の扉を開けると、無機質なグレーの階段がアタシを出迎えた。
 半ばヤケになって、階段を勢いよく駆け上がる。だがちょっとペースを上げ過ぎたのか、五階に差し掛かった辺りで息が上がって来た。そして七、八階まで上がった頃には、息が切れて足が上がらなくなってきた。仕方なく、踊り場で立ち止まって、一回、二回と深呼吸する。と、その時。
「やっと追いついたわ」
 少し低めの、でもいつもより少し上気した声が、すぐ下から聞こえてきた。

189 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/18(日) 18:00:23
「せつな! どうして?」
「別に。私もちょっと、身体を温めたかっただけ」
 だからって、エレベーターを降りてわざわざ追いかけてきたのだろうか。アタシと違って息のひとつも切らしていないのが、ちょっとばかり憎たらしくなる。
 せつなは軽やかにアタシの隣までやって来ると、いつも通りの生真面目な様子で言葉を繋いだ。

「あと少しだし、ここからは歩いて行かない?」
「ア、アタシは……もう少し頑張るわ」
「これからレッスンだし、あまり無理しない方が……」
「いいから放っといてよ!」
 心配そうなせつなの声と表情に、思わずカッとなって怒鳴ってしまった。その声が、ガランとした空間に思いのほか大きく響いてドキリとする。同時に胸の中に、苦いものが広がった。

 アタシったら、やってることが昨日と同じだ。せつなはただ、アタシのことが心配で追いかけて来てくれただけ。幼馴染で付き合いの長いラブやブッキーなら、もう少し遠くから見守ってくれていたかもしれないけど、せつなは――せつなという人は、ただ不器用なくらい真っ直ぐで――。

(ううん。不器用だなんて、アタシも人のこと言えないか。こういう時どうしたらいいか、全然わかんないんだもの)

「……ごめん」
「ううん。でも、一体どしたの?」
 うなだれたアタシにかぶりを振って、せつながアタシの顔を覗き込む。そのほっそりとした少し冷たい手が、いつの間にか握りしめていたアタシの手にそっと触れた。
 何だかフッと肩の力が抜ける。せつなになら打ち明けてもいいかな……ふとそう思えて、今度はアタシの方からせつなと向かい合う。
「実はね、アタシ……」
 そう口にして、何て説明しようかと次の言葉を探す。が、次に口を開いたのはアタシじゃなかった。アタシの後ろにある小さな窓を指差して、せつなが鋭く叫んだのだ。
「美希、あれって……!」

 振り返ったアタシの表情も引き締まる。
 見えているのは隣のビルの屋上。地上からは見えないであろうその場所に、普通ならあり得ないものが立っていた。
 つり上がった赤い目を持つ大きな化け物と、その隣で腕組みしている銀色の長髪の男――。
「ラビリンス!!」
 声を揃えてそう叫んでから、アタシとせつなは、手近の階のエレベーターホールに飛び込んだ。



 赤い光が、パッと目の前で四散する。ラブとブッキーにも連絡を取って、みんな一緒にせつなのアカルンで、隣のビルの屋上へと瞬間移動したのだ。
 現れたアタシたちを見て、銀髪の男――サウラーはあまり驚いた様子もなく、いつもの小馬鹿にしたような顔で、口の端を斜めに上げてみせた。

「ほぉ。意外と時間がかかったようだね。いや、むしろ早かったと言うべきかな」
「それ、どういう意味? こんなところで、何してるの!?」
 ラブが、いつもの闘志満々の口調で問いかける。
「不幸のしずくが滴り落ちる音を聞いているんだよ。もっとも、ゲージの上がり具体に比べれば、街は少々静かすぎるみたいだけどね」
「静かすぎるって……」
「えっ? まさか、このナケワメーケ!」

 ラブの言葉を遮って、思わず大声を上げてしまった。サウラーの隣に立っている、怪物の正体に気付いてしまったから。
 平べったくて四角張った形。上の方に付いている赤い目の下には扇形の窓があって、そこには目盛りと針が……。
「このナケワメーケ、元は……体重計、よね?」
 慎重に問いかけるアタシに、えっ、と驚きの声を上げる三人。そんなアタシたちを見回して、サウラーが得意げに、フン、と鼻を鳴らす。
「ああ、そうだよ。この世界の人間は、自らの体重の増加をとても気にしているようだからね。まぁ、こんなに様々な食べ物がある世界だ、僕ですらつい食べ過ぎることだって……コホン。だから、少し上乗せした数字を見せてあげたのさ。まさかそれだけでここまで不幸が集まるなんて、予想できなかったけどね」

190 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/18(日) 18:01:48
 モヤモヤと心に巣食っていた霧が晴れるって、まさにこういう感じなんだと思う。
 全てがわかって、悔しいけどまずはホッとして、次に無性に腹が立ってたまらなくなった。相変わらず涼しい顔をしている全ての元凶を、思いっ切り睨み付ける。
「よくも……よくもこんな陰険な手を使ってくれたわね!」
「陰険? フン、表面は何でもないように取り繕ってるのは、この世界の人間も同じだろう? 不幸を抱え込んでいるのに誰も騒がないから、君たちもこの事態に気付くのが遅れたんじゃないか」
「そんなの、誰にも言えなくて当ったり前でしょう!? 乙女の屈辱、きっちり清算させてもらうわ。みんな!」

 もうあったま来た。今日だけはアタシが決める!
 怒りのあまり、震える人差し指を無理矢理ビシッっと立てて、仲間たちに呼びかける。だが。
「変身よっ!!」
 一足早く、アタシに負けず劣らず高く鋭い声が響く。それは、今まで一度も号令などかけたことのない、ブッキーの声だった。



   ☆



「でもさぁ。まさか美希たんとブッキーまでそんな目に遭ってたなんて、本当にびっくりだよぉ」
 ラブが呑気そうな声でそう言いながら、二個目のドーナツに手を伸ばす。
「そのせいで、美希はエレベーターに乗らずに階段を使ったの? でも、カロリーならその後すぐにダンスレッスンで、たっぷり消費できたのに。どして?」
「え、えーっと……ほら、積み重ねよ。小さなことからコツコツと、ね」
 心底不思議そうに問いかけるせつなに、アタシは冷や汗をかきながらそう言い切った。
 どうしてもエレベーターに乗りたくなかったあの時の気持ちを、どう説明すればせつなにわかってもらえるのか――それは、今はちょっと、アタシにはハードルが高すぎる。
 目の端にラブとブッキーの生温かい視線を感じながら、アタシは澄まして紅茶のカップに口を付ける。
 スタジオでのダンスレッスンを終えたアタシたちは、結局いつもの、カオルちゃんのドーナツ・カフェに陣取っていた。

 変身したアタシたちを前に、体重計のナケワメーケは、最近では珍しいくらいあっさりと倒された。しかも、ピーチとパッションは変身はしたものの、出る幕は全く無かった。
 完全に頭に来ていたアタシの蹴りは、自分で言うのもなんだが、いつもより相当威力があったと思う。でも、そんなアタシをも驚かせたのは、まるで背中に炎でも背負っているかのように闘志むき出しの、パインの体当たり攻撃だった。
 そして最後は、ヒーリング・プレア・フレッシュとエスポワール・シャワー・フレッシュのコラボ技を受けて、ナケワメーケは元の体重計に戻ったのだ。
 あまりにもあっけない幕切れに、忌々し気に舌打ちしたサウラーは、次の瞬間、何かを感じたのか慌てたように姿を消した。もう一歩遅かったら、最高に熱いダブル・プリキュア・キックが彼を襲ったに違いない。

「そっか。ブッキーも、アタシとおんなじ悩みを抱えてたのね。あ、それで今朝、あんなに大きな犬を二匹も?」
 アタシの問いに、ブッキーはさっきまでの勇ましさが嘘のように、真っ赤な顔でコクリと頷いた。そしてふと気が付いたように、今度は彼女がラブとせつなに問いかける。
「でも、どうしてラブちゃんとせつなちゃんは、わたしや美希ちゃんみたいな目に遭わなかったの?」
「そりゃあ、あたしは昨日、体重計になんか乗ってないもん」
 エッヘン、と何故か大威張りで腰に手を当ててみせるラブに、アタシは思わず脱力する。
「あのねぇ、ラブ。女の子が、そういうチェックを怠っちゃダメでしょ! え……ってことは、まさかせつなも?」
 ラブを軽く睨んでから、隣のせつなに目を移す。すると彼女はまたしても不思議そうな顔をした。

「え? 体重測定のこと? ええ、昨日は必要なかったから」
「必要ないって、あのね、せつな……」
 思わずせつなを相手に、もう一度お説教モードに入りそうになるアタシ。が、ちょっと小首を傾げながら、せつなが大真面目で語り始めたのを聞いて、喉まで出かかった小言を慌てて飲み込んだ。

「そんな驚くほどの変化があったら、測る前に自分でわかるでしょう?」
「それは……確かにね」
「ちゃんと数字で確認する必要はあると思うけど、昨日は体重計で測れるほどの変化は無かったと思うから……」
「あ……そうなの」
「でも美希の言う通り、定期的なチェックは必要よね。これから気を付けるわ」
「そ、そうね。時々は、測ってみるといいかもしれないわね」

191 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/18(日) 18:02:21
 理路整然とした答えにたじたじとなって、何とかしどろもどろで相槌を打つアタシに、せつなが素直に頷く。その顔を見ていたら、何だか少し胸が苦しくなって、アタシは冷めかけた紅茶をひと口すすった。
 せつながアタシなんかよりずっと自分の身体の状態を把握しているのは、アタシとはまるっきり別の理由から。きっと、小さい頃から戦士として生きてきた彼女が、生きるために身につけたもの――。

(でもこれからは、それを違う目的で使うことだって、きっと出来るはずよね)

 アタシはカップを置くと、ワザと悪戯っぽい表情でせつなに笑いかけてみせた。
「だったら、せつな。その時、ラブにも一緒にチェックさせてよ。全く、毎日こ〜んなにドーナツ食べてるっていうのに、自己管理が甘いんだから」
「フフッ……わかったわ」
 せつなも今度は、アタシの顔を見てニヤリと笑う。
「えーっ!? 美希たん、あたしのことは別にいいよぉ」
 ラブの方は急に慌てた顔になって、ガタンと椅子から立ち上がった。
「ほ、ほら、もうこの話はおしまいにしようよ。美希たんとブッキーの悩みが解消したのを祝って、ドーナツのお代わり、貰って来よう!」
「ちょっとラブちゃん! 美希ちゃんの話、ちゃんと聞いてた? これ以上食べたら、また悩まなくちゃいけなくなっちゃうよぉ」
 逃げるようにドーナツ・ワゴンへと足を向けるラブを、ブッキーが慌てて追いかける。そんな二人の様子に、アタシはせつなと顔を見合わせて、クスクスと笑った。

「あ、そうそう、せつな」
 アタシはもうひと口紅茶を飲んでから、せつなの顔を真っ直ぐに見つめる。
 昨日の分と今日の分、今度は言い忘れないように、ちゃんと伝えておかなくちゃ。
「さっきはありがとう」
「……え?」
「心配して追いかけて来てくれて。それと……昨日も。“来ないで”って言っちゃったけど、追いかけて来てくれたのは、嬉しかったわ」
 そう言って、アタシはパチリと片目をつぶる。
「だから、アタシもせつなに何かあったら、どこまでも追いかけるから、覚悟しなさい」

 そう、もう独りぼっちにはしないと約束したから。まだお互い分からないことも多いし、自分の気持ちを上手く説明できないことも多いけど、そばに居てお互いに支えることは、きっと出来る。
 昨日も今日も、突然走り出したアタシを、せつなが訳もわからぬまま、必死で追いかけてくれたように。アタシのことを心配して、ずっとそばに居てくれたように。
 その想いを込めて、テーブルに乗せられたせつなの手に、そっと自分の手を重ねた。

 せつなの頬が、淡いピンク色に染まる。そして上目遣いにアタシを見つめると、珍しく少しおどけた口調で言った。
「私に追いつけると思ってるの?」
「モチロン。だってアタシ、完璧だから」
 すっと背筋を伸ばし、とびっきりの笑顔で決めてみせると、せつなの笑みが大きくなる。それを見ながら、アタシは二日ぶりにドーナツを手に取って、それをひと口齧った。
 口の中に優しい甘みが広がる。何だか、お疲れ様、と言われているみたいな気がして、アタシはせつなの隣で、ようやく心からホッとしていた。


〜終〜

192 一六 ◆6/pMjwqUTk :2016/12/18(日) 18:02:54
以上です。ありがとうございました!
長編の続きも、頑張ります。

193 名無しさん :2016/12/19(月) 00:43:05
>>192
流石です。心情の描写、自然な会話。いかにもサウラーらしい戦法。
公式に33.5話でいいんじゃないかと思います。

それにしても、ブッキーの号令のあとの星マークを見て一瞬ビックリしちゃいました。サウラー君はお星様になっちゃったのかと……。(その後、生存を確認)

194 名無しさん :2016/12/19(月) 22:17:26
>>192
めっちゃ面白かったです!ブッキーさん、あんたもか!www
コミカルなとこもあり、ほっくり心温まるとこもある良いお話でした。

195 makiray :2016/12/25(日) 00:16:22
 メリークリスマス。
 ドキプリ組のパーティで、4スレお借りします。

贈りもの (1)
------------
 コンコン、と窓をたたく音がする。
「あ、まこぴー」
「どうしたんだろう、入ってくればいいのに」
「…。
 鍵がかかっていませんか?」
「あ!」
 マナが慌ててドアに駆け寄った。カチャ、という音とともにロックを外す。
「何をやっているのですか、あなたは」
「ごめーん、お店が休みだと思ってたらつい」
「あたし、参加してもいいのかしら」
 ドア口に戻ってきた真琴が怒った様子もなく言った。
「お待ちしておりましたー」
 クリスマス。
 多くの人が、パーティをしよう、と考えるが、この五人についてはそうはいかなかった。
 マナの家はレストラン、クリスマスは書き入れ時である。
 六花の父は相変わらず海外で写真撮影、母は「クリスマスにも病院にいる子供たちのそばにいてあげたい」と自発的当直。
 ありすは様々な企業や団体に呼ばれたり呼んだりする。
 真琴はイベントに正月番組の撮影。
 辛うじて支障がなさそうなのは亜久里だけだったが、彼女の場合は、祖母と一緒にいるだけで十分にうれしいし、マナたちの事情が分かっているので、自分から言い出すこともなかった。
 そんな彼女たちを見かねたのか、マナの父が、クリスマス明けは休業にするから店とキッチンを自由に使っていい、と提案、12/26 のクリスマスパーティとなった。学校はすでに冬休み、午後から準備を始め、真琴が仕事を終えたら開始、という予定だったのだが、マナはうっかり店の入り口に鍵をかけてしまったのだった。
 飾り付けられたテーブルに全員がそろう。
「メリー・クリスマース!!」
「お腹空いたー」
「撮影、大変だったの?」
「出る方もスタッフさんもバタバタで」
「でも、これくらいの時間に来られてよかったですわ」
「まだ続くんでしょ?」
「30 日まではね」
「大晦日の国民的歌番組への出演依頼が来ないのが不思議ですわね」
「断られると思ってるみたい」
「あー、アーティスティックな方に路線変更したもんね」
「まこぴー、やっぱり出たいの?」
「…。
 正直、大晦日くらいは休みたい。元旦からライブだし」
「お体には気を付けてくださいね」
「じゃ、まこぴーにチキン、もう一つ」
「そんなに食べられないわよ」
 大皿が二つほど片付くと、プレゼント交換会になった。持ち寄ったプレゼントを、真琴の歌に合わせて順番に隣に手渡していく。それが終わったところで手にするプレゼントが決まる。
「何でしょうか――お茶碗。これは、亜久里ちゃんですわね」
 ありすが手にしているのは深い青に釉薬が流れる上品な茶碗であった。
「お気に召すといいのですけど」
「うれしいですわ」
「あたしは…文庫本? 六花ね」
 真琴は袋から本を取り出した。
「はーい」
「あ、童話なんだ。面白そう。ありがとう」
「いえいえ」

196 makiray :2016/12/25(日) 00:17:41
贈りもの (2)
------------

「私のはずいぶんと軽いですわ…これは」
 亜久里の顔がこわばる。
「どうしたの?」
「栄太堂のギフト券ですわ!」
「って、平日休日を問わず開店一時間でその日の商品を売り切ってしまう、伝説の和菓子屋さん?!」
「ありがとうございます!
 おばあ様も喜びますわ!」
「亜久里さんのところにたどり着いて、ギフト券も喜んでいると思います」
「あたしのはっと…」
 六花が眉をひそめた。
「白いハンカチ…マナでしょ」
「あー、何を用意したらいいかわかんなくってぇ…」
「忙しかったもんねぇ。期末試験に、生徒会に、お店の手伝いに」
「すいません…」
「そういうマナは何もらったの?」
「これも軽いな…封筒?」
 マナは袋から封筒を取り出した。
「なに…あなたの歌を作ります券?」
 四人の視線が真琴に集まる。
「あたしも…時間取れなくって」
「え、まこぴーがあたしに歌を作ってくれるの?!」
 テーブルがガタンと揺れる。
「っていうか。
 何かテーマを設定してほしいなって。
 それで、書いてみる…から」
「うん!
 えっとね、あのね」
「ストップ、マナ。
 今、慌てて考えようったって無理」
「でも!」
「いつでもいいから…逃げないし」
 真琴の耳が赤くなっていた。

197 makiray :2016/12/25(日) 00:19:02
贈りもの (3)
------------

「つかぬことをうかがってよろしいでしょうか」
 亜久里が言った。
「みなさんは、いくつまでサンタクロースが実在すると思ってらっしゃいましたか?」
「どうしたの?」
「実は、クラスに一人、実在を信じてる人がいるのです。
 とても純粋に信じてらっしゃるので、その夢を壊さないようにと皆がピリピリしていまして」
「あー…」
 また視線が真琴に集まったが、誰もそれ以上は言わなかった。次には、マナと六花とありすが顔を見合わせた。
「あたしたちは割と早かったよね」
「だねー」
「はい」
 亜久里が、そうでしょうね、と頷いた。三人とも、早い時期に「現実」を認識していそうな気はする。
 視線が真琴に戻る。
「しょうがないでしょ!
 あたしはこの世界のこと知らないんだから」
「いつなのですか?」
 真琴が顔をそむける。
「私、ひょっとして不愉快なことを申し上げていますか?」
 亜久里の率直な態度に真琴は顔を戻した。
「去年…」
「え?」
「悪かったわね。
 去年まで、サンタクロースは実在すると思ってたわよ!」
 亜久里は絶句した。
「まぁ、確かに、世界中でサンタ、サンタって言ってるものね。そこまで言うなら実在するに違いない、って思ってもしょうがないかな」
「この時期になるとたくさんサンタの格好をした人が現れますでしょ? 中に本物が紛れ込んでいるかもしれない、とおっしゃってましたわ」
「サンタの行方を追ってるホームページもあるし…」
「もう、この話、おしまい!」

198 makiray :2016/12/25(日) 00:20:28
贈りもの (4)
-------------

 真琴の機嫌は直ったらしい。ありすの紅茶が運ばれると真琴は店内を見渡した。
「それにしても、ここ貸切にしちゃってよかったのかな」
「大丈夫だよ。お休みなんだから」
「私もマナのお父様のご厚意に甘えすぎなのではないか、という気はしていました」
「とは言っても、代金を払う、っていうのも違うような気がするし」
 六花が言うとありすが頷いた。
「お父様にとっては、私たちはマナちゃんのお友達。それはきっと筋違いですわね。逆に失礼にあたるかもしれません」
「…」
 では、店の手伝いをするか、いや、それは却って迷惑になるのではないか、と話が議論になりかけたとき。
「あ」
「どうしたの?」
 真琴が外を見て言った。立ち上がり、窓にかけよる。
「これ、いいかも」
「なにが…あ!」
「雪ですわ」
「ホワイト クリスマスだ!!」
 五人はしばらく窓越しにそれを見ていた。マナが明かりを消すと、窓の外の白い花ははっきりと見えるようになった。
「積もるかも…」
「雪かきですわね」
「そうか」
「うん。
 明日の朝、お店の前の雪かきをしよう」
「お客さんが足を滑らしたりしないように」
「安心して歩けるように」
「寒いって思わなくて済むように」
「そうしよう!」
 不思議なものだ。なぜか雪が暖かく見える。
 綿を連想させるからなのか、彼女たちが暖かいからなのか。
 五人は、空からの白い贈りものを飽きることなく見ていた。

199 名無しさん :2016/12/25(日) 00:59:42
>>198
5人の会話が凄く楽しそうで、それぞれのプレゼントもそれぞれらしくて……。
ギフト券が出てきた瞬間に、誰からのプレゼントかすぐに分かりましたw
素敵なクリスマスプレゼントでした。ありがとうございます!

200 苺ましまろ* ◇K5Xb5cLrLM(転載) :2016/12/26(月) 00:39:32
偶然この掲示板を見つけました…*
プリキュアに再びはまってからまだ1年半なので知らないことが結構あります……;*
良かったら雑談がてら色々教えてください-*

201 名無しさん :2016/12/26(月) 00:45:22
>>200
ようこそ〜。
1年半ってことは、姫プリで再はまりしたのかな。
好きなキャラとかは?

202 名無しさん :2016/12/26(月) 23:00:31
ご存知の方もいると思われますが、ご報告。
キラキラ☆プリキュアアラモードのエンディング曲、宮本佳那子!!

203 名無しさん :2016/12/26(月) 23:26:10
>>202
インタビュー動画見たよ〜。
元気になって戻ってきてくれてうれしい限り。

204 Mitchell & Carroll :2017/01/07(土) 23:00:11
該当シリーズ:ドキドキ!プリキュア
内容の傾向:な、内容の傾向!?うーん……

2レスお借りします。


『大貝中一年レジーナ!』


〜〜これは大貝第一中学校に通う女の子・レジーナ(一年生)の、とある1日の学校生活を記録したものである〜〜

【1時間目・数学】
レジーナ「こんなの絶対、将来なんの役にも立たないって……ねぇ、あなたもそう思うでしょ?」
隣の席の子「え?う、うん……どうかな……」
数学の先生「レジーナさん、公式を間違えてるね。正しい公式で、全部解き直し!」
レジーナ「はぁ!?間違ってるのはあんたの人生の公式じゃないの?」
数学の先生「きょ、教師に向かって、あんた……!?」

【2時間目・理科】
レジーナ「実験♪実験♪」
理科の先生「今日はね、この有名な“段ボール箱空気砲”を使った実験をするからね」
レジーナ「アハハハ!楽しーーい!!(ボンッボンッ)」
クラスメートA「うわっ、ちょっ!」
クラスメートB「レジーナさん、暴れないで!!」
レジーナ「そんなコト言って、ホントはあんたたちも楽しいんでしょ?それそれ!(ボンッボンッ)」
理科の先生「レジーナ君、落ち着きなさい」
レジーナ「先生にも、それっ!(ボンッ)」
理科の先生の頭「(ズルッ)」
クラスメートたち「「あ……」」
理科の先生の頭にあった物「(ポトッ……)」
レジーナ「あ……」
理科の先生「………」
理科室「「「(しーーーん)」」」

【3時間目・体育】
体育の先生「今日の授業はバレーボールよ」
レジーナ「そーれそれそれ!アタックー!!」
体育の先生「おお、いいぞレジーナ!是非うちのバレー部に!」
レジーナ「手ぇ痛ぁ〜い……もうや〜めた!」
体育の先生「そ、そんな……」
レジーナ「バスケでもしよーっと!」
クラスメート「マイペースね……」
レジーナ「やっぱりや〜めた!バスケのボールって重いんだもん」

【4時間目・美術】
美術の先生「まあ、レジーナさん!ピンク色が多めで可愛らしい絵ですこと!」
レジーナ「あたしねー、ピンクが好きなの!黄色とか紫色とか要らなーい。青も邪魔ー。赤とかムカムカするし!」

【給食】
レジーナ「なんでっ……このあたしがっ……こんな重いものをっ……」
クラスメートA「レジーナさん、早く食缶持ってきてー」
クラスメートB「今日の給食は、エビピラフ、コーンポタージュ、牛乳、プリン……か」
レジーナ「やったー!プリン!!みんなの分のプリンもあたしの所に持って来て!プリンは全部あたしの物よ!!」
クラスメートC「そんな!不公平よ!」
クラスメートD「でも!男子は従ってるわ!」

205 Mitchell & Carroll :2017/01/07(土) 23:01:40
【5時間目・社会】
社会の先生「――というわけで、色んな国に色んな歴史があるわけだが……」
レジーナ「そういえばねー、あたしのパパ、昔、悪い奴に利用されて、国を滅ぼしちゃったの」
社会の先生「な!?」
クラス中「「「ざわざわざわざわ……」」」

【掃除】
レジーナ「かったる〜い……」
クラスメート「レジーナさん、掃除はテキパキと!ゴミを無くして、綺麗にするのよ!」
レジーナ「だったら学校ごと無くしちゃえばいいじゃん。あたしが綺麗にしてあげる!」
マナ「ストーップ、ストーップ!!」
レジーナ「あ、マナ!」
マナ「嫌な予感がすると思って来てみたら……」


[通信簿]
「明るく、クラスのリーダーで、自分の意見をハッキリと言える子です。ただ少しわがままで
マイペースなところがあるので、ご家庭でもその点に注意して見守っていただけたらと思います。担任より」

レジーナパパ「うっ、うぅ…レジーナ……こんなに立派になって……!」
レジーナ「ちょっと、パパ!通信簿ビチョビチョにしないでよ!それより、パパの分のパンケーキ、食べていい?」


おわり

206 名無しさん :2017/01/08(日) 00:59:23
>>205
レジーナ、あっという間にクラスを牛耳ってそうw
先生は大変そうだけど(特に理科の)楽しそうで和みました。

207 名無しさん :2017/01/09(月) 07:31:23
>>205
美術の時間のレジーナがいいね、笑いましたw

言ってることもやってることもメチャクチャだけど、なぜか憎めないレジーナw

208 makiray :2017/01/09(月) 13:55:36
 遅ればせながら、おめでとうございます。
 今年の一発目は、「Yes! プリキュア5」から。
 2スレ、お借りします。

ふくふくふふふ (前)
-------------------

 年が明けてしまった。
 いや、もう一週間も経ってるけど。
 あたしは、のぞみからの年賀状を見ながらため息をついた。
 別に、字が間違ってるとか、表と裏で上下が違う、とかそんなことじゃなく。
 30 日にけんかをした。
 大したことじゃない。いつものように、はしゃぎすぎの のぞみに一言。気が付いた時には往来で大声で言い合っていた。
 虫の居所でも悪かったのかな…違う、これはこの一週間ずっと、百回くらい思っては打ち消してきたこと。あたしが言い過ぎたんだと思う。たぶん。
 年賀状の のぞみは、お餅食べ過ぎておなかこわしちゃだめだよ、とか言っている。
(誰の話よ…)
 のぞみ、お餅好きだもんな。それを手土産にして謝りに行こうかな。逆に、嫌味になっちゃうかな。
(お餅、ないんだっけ)
 なにせ食べ盛りが二人もいる。こんなもんかな、と用意した分は、二日でなくなってしまった。大食いについては あたしも大概だけど、今年は食欲不振。
 行こう。
 お餅は三が日でなくなってもいいけど、のぞみとの仲は松が取れる前になんとかしなきゃ。

 とりあえずマフラーだけして外に出た。今年のお正月は暖かい。
(手ぶらだな…)
 今更、手土産を気にする関係じゃない。そんなことしたら、のぞみのお母さんたちはかえって恐縮すると思う。でも、今回は特別。あたしは、遊びに行くんじゃなくて、謝りに行くんだから。
(お餅ねぇ…)
 正月と言えばお餅、だけど、パック入りの切り餅を持っていくのは変。かと言って、お雑煮や安倍川はお店では売ってない。っていうか、温かくないと食べられないものだから、手土産にはしづらい。別のものを考えるか…。
 あ。
 お餅あるとこ、知ってる。

「ごめんください」
「あら、りんさん」
 暖簾をくぐると、こまちさんがいつもの笑顔で迎えてくれた。
「あけましておめでとうございます」
「あ、あけましておめでとうございます」
 お互いに頭を下げる。これは、新年のお約束。親しき仲にも礼儀あり。
「ひょっとして、お年賀?」
「お年賀って言うか…。
 のぞみんちに行こうと思って」
「のぞみさん?」
 こまちさんは、かすかに首をかしげた。
「お使いかしら」
 鋭い。もう十年の付き合いである のぞみの家に行くのに手土産を買いに来ている、ということは、のぞみに会いに行くのではないだろう、という推理。小説家志望の眼力は怖い。それは同時に、あたしは、それくらい異例なことをしている、ということでもある。
「え、っと。
 実は…」
 あたしは、ほかにお客さんがいたら大変に迷惑になるほどためらった挙句、のぞみとけんかした、という一言をやっとの思いで喉の奥から押し出した。
「そう…」
 こまちさんは、一言だけ口にして、あたしの後ろの暖簾に視線をやった。そして。
「ちょっと待っててね」

209 makiray :2017/01/09(月) 13:57:56
ふくふくふふふ (後)
-------------------

 時計を見てたわけじゃないけど、結構、待たされた。
 ここでお客さんが来たらどうすればいいかな、と思っていると、こまちさんはパタパタと音を立てて戻ってきた。そして、カウンターの横から出てくる。
「こんなのはどうかしら」
 小さな箱。
 こまちさんがそれを開けると、さらに小さいタッパーがあって…梅干し?
「あと、これは、昆布」
 昆布。細く切ったのをご祝儀袋のあれみたいに結んであって、確かにお正月っぽい。でも、なんで、梅干しと昆布?
「京都の風習でね、お正月は、お茶に梅干しと結び昆布を入れていただくんですって」
「はぁ」
「『おおぶくちゃ』って言うの」
「おおぶく」
「『大福』って書くのよ」
 あたしはきっと、何十秒もこまちさんの顔を見てたと思う。
 それくらいびっくりした。
 なんてぴったりなものを。この一週間、あたしがあれこれ考えて、ぐるぐるループしてたことをまるで知ってたみたいに。お餅をお土産にしようとか思ってた、なんてこれっぽっちも言ってないのに。
「どうしてわかったんですか?」
「え?」
「あ、じゃなくて。
 こまちさんは なんでこの大福茶のことを思い出したのかな、と思って」
「そうねぇ」
 また小首をかしげる。
「初詣のおみくじかしらね」
「おみくじ?」
「大吉だったの」
 なるほど。大吉から大福。
「よかったじゃないですか。
 あたしが今引いたら、きっと大凶だな」
「その方がいいじゃない」
「だって」
「おみくじが大吉っていうことは、元旦が幸せのピークで、後は落ちていく一方なのよ。
 今年は一体、どんな悪いことが起こるのか、今から心配でしょうがないの」
 ふふ。
 あたしは吹きだしそうになった。
 これが、あたしのことを心配しておどけて言ってくれているのか、それとも本当にそう思っているのかはわからない。でも、こまちさんの本当に困ったような顔であたしの肩からちょっと力が抜けた。さすが、プリキュア一の癒し系。
「でも、風流すぎてのぞみにはちょっともったいないかな。
 のぞみなんか、雪見だいふくだけでも喜びそう――」
「りんさん」
 こまちさんは相変わらず笑顔だったけど、ちょっと癒し成分が減っていた。あたしは今、怒られている。あのこまちさんに。
 確かに、喧嘩をしてしまっている今、そして、自分に原因がある、と思っている時に言っていいことではなかった。
「はい」
 あたしは箱を受け取るとふたを閉めた。
「あの、代金は」
「いいわよ。
 それはお店の商品じゃないから」
「でも、この箱はお店のですよね」
「そうね…。
 じゃぁ、後で何か買いにきてくれるとうれしい。
 のぞみさんと一緒に」
「…。
 わかりました」
 あたしはその白い箱を両手に抱いて、頭を下げた。
 ありがとう、こまちさん。
 待っててね、のぞみ。
 あたし、スタートを切るから。
 のぞみに許してもらって、それで今年を始めるから。
 店を出たあたしは、いつの間にか走り出していた。

210 名無しさん :2017/01/09(月) 14:37:26
>>209
これ続き読みたいな。
あれこれ考えて困ってるりんちゃん、ぐるぐる堂々巡りしてるりんちゃん、
なんか、りんちゃんらしくて愛らしいw

211 名無しさん :2017/01/10(火) 23:42:12
makirayさんが書くプリキュア5のSS、好きです。

212 makiray :2017/01/11(水) 20:55:39
「ふくふくふふふ」の続編。あのケンカを、のぞみの側から見たものです。
 2スレおかりします。

おはなのおみやげ (前)
---------------------

 多分、三分くらいはそうしてたと思う。
 りんちゃんの家の前。あたしは、呼び鈴を押そうとしては手をおろす、ということを繰り返していた。お店の方から行かなかったのは怖かったから。
(のぞみ、はしゃぎすぎ)
(だってお正月だよ。クリスマスの次はすぐにお正月。楽しみだねぇ)
(だからって、ほら、人にぶつかるから)
(あ、ごめんなさい。へへへ)
(ったく、いつまでたっても子供なんだから)
 自分でも、なんでそこで言い返しちゃったのかわからない。りんちゃんに叱られるのはいつものことだし、子供だ、なんて多分、聞き飽きるほど言われてる。だけど、気がついたら、人通りのあるところで大声で喧嘩していた。
 どう考えたってあたしが悪い。眠れなくなっちゃって、生まれて初めて除夜の鐘を聞いた。おせちもお餅もあんまり食べてない。
 だから来た。謝りに。深呼吸。押す。
 やだな、この間。誰もいないといいな、って思っちゃうから。あ、パタパタって音がする。来る、来る。そして、ガチャ。
「りんちゃん、ごめんなさい!」
「あら、のぞみちゃん」
「え…?」
 りんちゃんのお母さん。
 やっちゃった。こういうところを直さないとまたりんちゃんに叱られるのに。
「りんなら、のぞみちゃんのところに行くって出かけたわよ。すれ違っちゃったのかな?」
 りんちゃんのお母さんが言ってることがわかるまで、また時間がかかってしまった。

 走った。
「お母さん、りんちゃんは?!」
 家に飛び込むと、お母さんはりんちゃんのお母さんと同じくらいびっくりした顔であたしを見た。
「来てないけど…約束してたの?」
 あたしはすぐに靴を履き直した。

 もう一度、りんちゃんの家の前。ここでやっと、りんちゃんはとっくに家を出てるんだから、ここにいるはずがない、ということに気付いた。あたしって本当にダメだな。
 またすれ違ったのかな。戻ってみようか。
(回り道してるのかも)
 久しぶりにケンカした。りんちゃんも、顔を合わせづらい、と思ってるかもしれない。
(じゃぁ)

「そうですか…」
 かれんさんは朝から出かけていた。坂本さんは、りんちゃんは来てない、と言う。困った時に相談しようと思ったら かれんさんだと思ったんだけど…りんちゃんは強いから相談しようとか思わないのかな。
 ケータイが震えた。
「りんちゃん?!」
《え、あの、うららです…》
「あ、ごめん」
 今度の休みがオフになったから、ということだった。りんちゃんはうららに連絡はしてないみたいだった。じゃぁ、来週ね、と言って電話を切る。その来週までに、あたしはりんちゃんと仲直りできてるかな。
(りんちゃん、どこにいるの)

 心当たりは探した。もちろん、ナッツハウスにも。ココが、なんか心配そうな顔をしてたけど、あたしはすぐに飛び出した。
 ちょっと離れてるけど、フットサルの練習をしてるグラウンドまで来てみた。でも、りんちゃんはいない。
 こまちさんの家は反対方向だから違うと思ったけど、行ってみた方がいいだろうか。
(このまま会えなくなっちゃうのかな…)
 もう足が動かない。体も冷えてきた。もうすぐ震えはじめるかも。
(嫌だ。
 りんちゃんに、ごめんって言わなきゃ!)
「あ、痛!」
 走り出したあたしは誰かにぶつかった。
「ごめんなさい!」
 まただ。またやってしまった。
「まっすぐこっちに来るから見えてるかと思ったのに。相変わらずだねぇ、君は」
「…。
 ブンビーさん!」

213 makiray :2017/01/11(水) 20:58:32
おはなのおみやげ (後)
---------------------

「そりゃぁ、相手がどこにいるかわからないのに闇雲に走り回ったら見つからないでしょう」
 グラウンドのベンチに座る。おしりが冷たかったけど、それどころじゃなかった。
「そんなこともわからない人に苦戦したんだねぇ、私」
 ブンビーさんがため息をつく。あたしの代わりみたいに。
「あ」
「どうしたの」
「まさか、ナイトメアとかエターナルとかが復活してりんちゃんをさらったんじゃ」
「そんなわけないでしょう!」
 なぜか慌てて立ち上がるブンビーさん。あたりをキョロキョロと見回している。
「そんなことになったら、君のお友達より私の身が危険じゃないの…。
 大丈夫かな。大丈夫みたいだな。うん、大丈夫…きっと」
「じゃ、どうしてブンビーさんがこんなところに」
「私は年始のお得意先回り」
「この辺に会社があるの?」
「…の後の一休み」
「サボってるってこと?」
「休息は重要なんですよ。覚えておきなさいね」
 そうだ。一休みしたら、りんちゃんを探しに行こう。
「それにしても、口げんかくらいでなんでそんな大騒ぎを」
「だって、りんちゃんは」
「そうか」
 ブンビーさんは、あたしの言葉を遮って、ポンと自分の手を打った。
「君の弱点は、あの子だったんだ!」
「…え?」
「じゃ、キュアルージュを集中攻撃して倒してしまえば、その動揺に付け込んで、君のことを倒せたんだね。
 なんでもっと早く気が付かなかったんだろう。バカバカ、昔の私。あー、もう、タイムマシンがあったらあの時の自分に教えてあげたい。そうすれば、今頃は私の時代だったのに」
「…。
 ブンビーさん、ルージュに勝てるの?」
 ブンビーさんの顔が一気に赤く染まる。あたしはどうやらまた言っちゃいけないことを言っちゃったらしい。ブンビーさんは何度も深呼吸をした。
「ごめんなさい」
「帰んなさい、家に」
「でも、りんちゃんが」
「だから、あの子は君のところに行くって言って出かけたんでしょ? 家で待ってれば会えるじゃない」
「でも、あたしはりんちゃんに謝らないといけないんだから。それを待ってるなんて」
「もう家にいるんじゃないの?」
「あ…」
 そうだ。家を飛び出してから随分、時間が経ってる。もし回り道をしてたとしても、もう着いてるかも。
「行かなきゃ」
「あぁ、これ、あげる」
「なに?」
 ブンビーさんが、大事に抱えていた箱を私の手に押し付けた。
「お年賀でもらったんだけど、あげる。謝罪には手土産が必要でしょ。もういい年なんだから、それくらいの気を利かせなさい」
「でも」
「『花びら餅』って言うそうだから。花屋の娘にはピッタリでしょ」
「『花びら餅』…?」
「なんでも、京都のお正月はそれを食べるんだって。なんかのお茶がつきものらしいんだけど、それは忘れちゃったな。そもそも、私、そのお餅もいただいてないし」
「ブンビーさん…」
「いいねぇ、その目。もっと尊敬して。それで、私をリーダーにする気になったら連絡――」
「ありがとう、ブンビーさん!」
「今度、戦うときはその分、手を抜いてもらうからね」
 あたしは笑顔になっていた。たぶん、十日ぶりくらい。
「うん!」
 ありがとう。あたしは何度も言い、その箱を胸に抱いて頭を下げた。
 待っててね、りんちゃん。
 あたし、スタートを切るから。
 りんちゃんに許してもらって、それで今年を始めるから。
 もう動かない、と思っていた足はちゃんと動いた。あたしはりんちゃんのもとに走った。

214 名無しさん :2017/01/11(水) 21:42:51
>>213
まさかの〇〇〇○さん登場!(ひょっとしてこの掲示板初登場じゃないですか?)
相変わらずいい味出してて、好きです。
のぞみとりんのそれぞれの行動と想いが詰まってて、メチャ面白かったです。

216 運営 :2017/01/11(水) 22:00:48
運営です。
遅くなって申し訳ありません!
新シリーズ『キラキラ☆プリキュアアラモード』のスレッド作りましたので、新シリーズに関する書き込みは転載させて頂きました。
ご了承ください。

217 名無しさん :2017/01/11(水) 22:02:32
>>213
あっちこっち走り回るのぞみがのぞみらしいw
双方からお茶とお菓子を持ち寄って、ってところが良きかな。

218 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/01/15(日) 12:11:21
今年もよろしくお願い致します!
またまた遅くなりましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
7レス使わせて頂きます。

219 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/01/15(日) 12:12:59
 灰色の硬い床の上に、どさりと投げ出される。身体を拘束していた蔦がほどけると同時に、頭の上から、冷たい床の感触よりさらに冷ややかな声が降って来た。
「全く情けない。あなたには失望したわ」
「申し訳……ありません」
 まだ痛みの残る腹部を庇いながら、少女がのろのろと立ち上がる。そして彼女を見下ろすノーザの映像を、すがるような目で見つめた。

「ですが、メビウス様復活の通告は、思った通り連中に大きなダメージを与えています。今なら簡単にゲージを満タンに出来る。お願いです! もう一度だけ、ダイヤを……」
「だからあなたには失望したと言っているのよ」
 ノーザはぴしゃりと少女の言葉を遮ると、まだ七分程度しか溜まっていないゲージの方に目をやった。

 少女の方を見ないまま、ノーザは淡々と語る。
 他の三人の幹部と違って、自分はダイヤを支給されてはいなかった。あのダイヤは、かつての試作品に自分で手を加えて作ったただひとつのもの。万が一、メビウス様の野望を阻むさらに強大な敵が現れたときのため、この予備のゲージと一緒に自分の部屋に隠し持っていたのだと――。

「あのダイヤを失った今、どんなに人間たちが不幸になろうが、その不幸をゲージに集めることはもう出来ない」
「そんな。じゃあ、メビウス様は……」
 少女が絶望したように呟く。が、ノーザの言葉を聞いて、その顔に僅かながら明るさが戻った。

「安心なさい。今溜まっている不幸を使って私の身体を取り戻せば、まだメビウス様復活の手立てはあるわ」
 ノーザの言葉が終わると同時に、鉢植えから蔦がするすると伸びた。ゲージの下方にあるコックを器用にひねって、不幸のエネルギーを水差しに入れる。そして自らの根元に、その中身を溢れんばかりに注いだ。
 注がれた不幸のエネルギーを、小さな木がゴクゴクと音を立てて吸収する。そして時を移さず、その枝先に人型のようなものが出現し、それが丸まって実のような形になった。

「これは“ソレワターセの実”。この実から生み出されるモンスターは、私が欲しいものを確実に奪う、強力で忠実なしもべよ。今度はこの子に働いてもらうわ」
「ソレワターセの実……」
 灰緑色の実を呆然と見つめていた少女が、ハッとしたようにノーザに目を移す。
「では、私は……」
「あら、挽回の機会が欲しいのね? ならば、ソレワターセの邪魔をする者を足止めしなさい。そのために、あなたにも素敵な贈り物をあげましょう」

 さっきまでとは打って変わって楽しそうに少女を見下ろしてから、ノーザはパチリと指を鳴らした。
 蔦が再び鉢植えの根元に不幸のエネルギーを注ぐ。小さな木はまたも勢いよくその液体を吸収したが、今度は枝先に実は現れなかった。代わりに一本の枝の先が、球状に膨れ上がる。そして別の枝から、空中にらせんを描くように新たな蔦が放たれ、膨れた枝の先からそれを目がけて、真っ黒な霧が吹きかけられた。
 固唾を飲んで見守る少女の目の前で、小さな霧が晴れる。すると、らせん状の蔦は黒々とした、薄っぺらい三角形に変化していた。

 霧を吹き出し終えて元の形に戻った枝が、その三角形の部分を切り離し、ゆっくりと少女に差し出す。
「メビウス様は、それを“カード”と呼んでおられた。ナケワメーケより強大なパワーを持ったモンスターを生み出せる、特別なアイテム。私が持っていたデータを使って、復元してあげたわ」
 ノーザの言葉を聞いて、少女が枝先にあるものに恐る恐る手を伸ばす。
「ただし」
 そこで再び、ノーザの声が飛んだ。
「その強大なパワーには代償が必要なの。当然でしょ?」
 少女が伸ばしかけた手を止める。
「どんな代償ですか?」
「それを使うと、激痛を受けるのよ。モンスターを使役している間、ずーっとね。耐えられなくて、命を縮めることもあるらしいわ」
「……」

 少女の手が、ゆっくりとカードから離れる。それを見て、ノーザは大きなため息をつくと、さも残念そうな口調で言った。
「そうねぇ。あのイースですら、それを四枚も与えられたというのに、結局使いこなせなくてボロボロになったんですもの。あなたには無理な話かもしれないわね」
「あの人が!?」
「ええ、そうよ。それは元々、プリキュアを倒すためにイースに与えられたものなの。失敗して寿命を止められたけど、そうでなくても、もう使い物にはならなくなっていたみたいね」
 少女の手が今度はギュッと握られ、ブルブルと震え出した。

220 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/01/15(日) 12:13:40

「出来ないのなら、もう手を引きなさい。後は私一人で何とかするわ」
「誰が……やらないなどと?」
 少女が左手で右手を掴んで、無理矢理手の震えを止める。そして今度は勢いよく、その手をカードに向けた。
「私は、メビウス様のためなら何だって耐えられる。あの人が……先代のイースが出来なかったことだって、やり遂げてみせます!」
 ノーザの口の端が、わずかに上がる。まるで少女の意志に反応したように、三角形のカードは枝先を離れ、はらりと彼女の手の中に納まった。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第9話:起動! )



 おびただしい瓦礫の山。人っ子一人いない、廃墟と化した街。
 足場の悪さなど物ともしないスピードで、サウラーは道なき道をひた走っていた。厳重にくるんで胸元に抱えたモノを、少しでも早く、少しでも安全な場所に運ばなければ――使命ではない自らの想いが、彼を突き動かす。

 この三日間、サウラーは執務室に籠り、ずっとラブの手がかりを探し続けていた。だからラブが無事に戻ってきたと連絡があった時には心底ホッとしたのだが、それに続く報告を聞いて、自分の顔から一切の表情が消えたのが分かった。

 ウエスターが捕えた少女が奪い去られたこと。
 E棟の地下にある“不幸のゲージ”。
 そして何より、少女の後ろにいるノーザの存在。

 少女がラビリンスの国民にとんでもない通告を行ったと聞いた時から――いや、彼女があんなにも鮮やかにラブを連れ去った時から、何か強大な者の力が働いているのではないかと疑ってはいた。
 まさかそれが、あの計り知れない力を持った、かつての最高幹部だったとは。だが、ノーザはプリキュアの技を受けて、球根の姿に戻ったはず……。

――彼女は何故、今再び現れたのか。
――彼女は少女を使って、何をしようとしているのか。

 心はまだ呆然としているのに、頭の中に幾つもの仮説が浮かび、その検証が進んでいく。
 記憶しているノーザに関するデータとの照合。選択肢の抽出。可能性の算出。やがて相手の次の一手と、自分が取るべき次の行動が、次第に明確な形を取って浮かび上がってくる。

(おそらくノーザは、最終決戦の前に自らのデータのバックアップを残したのだろう。E棟の地下にあったという植木がその媒体か……。不幸のゲージの使い道はまだ分からないが、ヤツは十中八九、自分の実体を狙ってくる!)

 ものの数秒でそう思い至るが早いか、サウラーは執務室を飛び出し、ノーザの本体である球根が保護されている施設に向かった。
 中心地から少々離れているその施設まで、夜の闇の中を駆け抜け、無事を確認したその球根を持って、元来た道を再び走る。
 ノーザ本人のバックアップだ、自分の身体の在り処は、こちらが隠してもすぐに分かってしまうだろう。それならば、標的は手元に置いて、守りを固めた方がいい。

 執務室のある新政府庁舎が見えてきた時には、もうすっかり夜が明けていた。今にもノーザが襲ってくるかもしれないという焦燥感から飛ぶように駆け戻って来たものの、まだ辺りはしんと静まり返り、不穏な気配は何も感じない。

(どうやら少し慌て過ぎたか。やはりこんな即断即決は、ウエスターならともかく僕には似合わないね)

 フン、と自嘲気味に微笑んで、庁舎の中に入る。そして執務室までの道すがら、開け放たれた会議室の中をちらりと覗いた。
 この庁舎もまた、襲撃を受けた人々のために開放されている。大会議室には多くの人が避難していたが、薄暗いその部屋はしんと静まり返って、生気というものがまるでなかった。

 声もしない。動く者もいない。
 そう早い時間でもないというのに、人々は寝具にくるまったりうずくまったりした姿勢のまま、ただ時が過ぎるのを待っている。

(これが、あの通告がもたらした結果というわけか。やはりあの世界の連中と比べると、僕らはこんなにも弱く、脆いのだな)

 無表情の下で、苦々しい思いをかみ殺す。その時、何かが動く気配を感じて、サウラーは部屋の中に目を凝らした。

221 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/01/15(日) 12:14:11

 薄闇の中、ゆっくりと起き上がる人の姿が見える。その人は自分が使った寝具をきちんと畳み、サウラーのいる入り口に向かって歩いて来る。その顔を見て、サウラーの頬がわずかにほころんだ。
「あなたは、あの畑の……。ここに避難していたんですか」
 彼は、サウラーたちが試験的に作った野菜畑の管理人。時々、野菜作りのための情報を得るために、ここへやって来る老人だった。

 老人がサウラーに会釈を返し、そのまま廊下に出て行こうとする。
「どこへ行くんです?」
「朝だから、顔を洗うだけです」
 当たり前のようにそう答えながら、老人は洗面所の方へ歩き出す。
 しわがれてはいるが、落ち着き払った声。動きは遅いが、しっかりとした足取り。その姿は、何をするでもなくただ死んだような目をしている人々と比べて、とても力強くサウラーの目に映り――気が付くと、その後ろ姿に向かってもう一度呼びかけていた。

「あなたも、あの通達を聞いたんですよね?」
「通達……ああ、メビウス様が復活するという、あれですか」
 老人はサウラーを振り返って、思いのほかあっさりとした調子で答えた。
「でも、あなたは普段と同じように生活できているんですね」
 老人がいぶかし気な視線をサウラーに向ける。それを見て、サウラーは薄暗い部屋の中を指し示した。
「ほら、他のみんなはあの有り様だ。それなのに、何故あなただけが?」
 今度は老人の答えが返ってくるまでに、少しばかり時間がかかった。

「私はもう長く生きてきた。だからそう思うだけかもしれんが……」
 ようやく口を開いた老人が、目をしょぼつかせながら言葉を続ける。
「もう一度管理されようが、制裁を受けようが、ほんの少し前に戻るだけでしょう。むしろ……」
「むしろ?」
 真剣な表情で聞いていたサウラーが、老人の言葉が途切れたのに気付いて、怪訝そうに先を促す。そこで初めて老人の顔に、しまった、というような戸惑いの表情が浮かんだが、彼は促されるままに、絞り出すような声で言った。
「むしろ……制裁してくれた方が、楽なくらいで」
「それは一体、どういう……」
 そう言いかけた時、サウラーは通信機の着信に気付いて、失礼、と言いながらそれを耳に当てた。

 途端にウエスターの怒鳴り声が飛び込んで来て、思わず顔をしかめる。しかし、すぐにサウラーの表情が引き締まった。
 あの少女が再び現れた。それもナキサケーベを引き連れて――ウエスターはそう告げたのだ。
「わかった。僕もすぐに現場に向かう」
 早口でそう答えて着信を切り、何か思考を巡らせながら歩き出すサウラー。が、そこでふと何か思い付いた様子で、老人の方を振り返った。
「そうか、あなたなら……。申し訳ないが、僕と一緒に来て手伝ってくれませんか。お願いします」
 その真剣な表情に押されたように、老人がためらいながらも小さく頷く。
「ありがとう。早速相談があります。こちらへ」
 しんと静まり返った庁舎の廊下に、二人の足音だけが響いた。



   ☆



 顔の中央に貼り付いている、涙を流す一つ目のマーク。言葉を発せず、ただ苦し気な呻き声を上げるだけの哀しきモンスター。
 巨大なタイヤで出来た両手両足と、四角いメタリックな身体を持つそれは、どうやら乗り捨てられた車が素体のようだった。
 怪物の後ろに見えるビルの上に、あの時の自分と同じ、腕に暗紫色の茨を巻き付けた少女が立っている。その姿を苦し気な表情で見つめるせつなの肩を、ポン、と叩く者がいた。

「……ウエスター」
「危ないから下がっていろ。こいつを倒して、ヤツの目を覚まさせてやる!」
 せつなとラブの前に進み出たウエスターが、薄水色のダイヤを構える。
「ホホエミーナ! 我に力を!」
 叫びと共に、昨日少女にナケワメーケにされた街頭スピーカーが、今度はホホエミーナになって立ち上がる。
「ウオォォォ〜!」
 新たな呻き声を上げて襲い掛かる怪物――ナキサケーベを、ホホエミーナはその太くて長い腕でしっかりと受け止めた。だが。

222 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/01/15(日) 12:14:44
「ソ〜レワタ〜セ〜!」
 今度は呻き声ではないはっきりとした雄叫びが、まるでウエスターを嘲るように別の方角から響く。
 暗緑色の蔦が人型になったような、ナキサケーベより遥かに大きな身体。そして蔦の裂け目から覗く、邪悪に光る赤いひとつ目。
「え……まさかあの子、ソレワターセも一緒に呼び出しちゃったの!?」
「違う。きっとノーザの仕業だわ」
 驚くラブにかぶりを振って、せつなが低い声で呟いた、その時。
「さすが、お見通しねぇ」
 不意に聞き慣れた声がしたかと思うと、ソレワターセの後ろの空間が、一瞬だけぐにゃりと歪んだ。

「久しぶりね、イース。それにウエスター君」
 巨大なソレワターセの後ろに、さらに大きなノーザのホログラムが出現する。
 その声は、まるで天から降って来るよう。視界一杯に広がる半透明な姿は、かつての主の姿すら思い起こさせる。
 ウエスターはグッと奥歯を噛みしめてから、自分を励ますように、巨大な映像に向かって声を張り上げた。

「出たな、ノーザ!」
「あら。もう“ノーザさん”とは呼んでくれないのかしら」
 からかうような口調でそう言うと同時に、ノーザの右手がさっと上がる。
「さぁ、ソレワターセ。プリキュアが加勢などしないうちに、私が欲しいものを奪いなさい」

「そうはさせん! ホホエミーナ!」
「くっ……そいつを止めろ!」
 ウエスターと少女の叫びがほぼ同時に響いた。くるりと向きを変えてソレワターセに飛びかかろうとするホホエミーナと、それを後ろから羽交い絞めにするナキサケーベ。
 身動きが取れなくなった相棒を見るが早いか、ウエスターが単身、ソレワターセに挑みかかる。が、今度はナケワメーケのようなわけにはいかなかった。
 スピードが違う。パワーが違う。おまけにサイズが違い過ぎる。ウエスターはたちまち防戦一方に追い込まれ、荒い息をつき始める。

 二つの戦況を楽しそうに見つめていたノーザが、ラブとせつなの方に目をやって、ニヤリとほくそ笑む。
「ただ見ているだけで変身しないなんて、あなたたちも薄情ねぇ。それとも、本当はもう変身出来ないのかしら。だったら勝負は決まったも同然ね」
 悔しそうに睨み返すだけで、何も言えない二人。すると二人のすぐ後ろから、新たな声が聞こえた。
「さあ、それはどうですかね」

「ホホエミーナ! 我に力を!」
 新たな薄水色のダイヤが、瓦礫の山に突き刺さる。
「ホ〜ホエミ〜ナ〜! ニッコニコ〜!」
 ゴツゴツしたゴーレムのような姿の怪物が立ち上がり、その場にそぐわぬ明るい雄叫びを上げた。それと共に周りの瓦礫が次々に吸収されて、その体が見る見るうちに大きくなる。
 やがてソレワターセと同じくらいの大きさに成長したところで、ホホエミーナは太い両手を広げ、目の前の怪物に掴みかかった。

「サウラー!」
「どうやら間に合ったようだね」
 サウラーがせつなの隣に並んで、口元だけで小さく微笑む。その姿を、ノーザが忌々し気に見下ろした。
「あら、あなたも私に逆らうのね? サウラー君。でも、そんな間の抜けた物を作って、ソレワターセに敵うと思ってるの?」
 ノーザの言葉を証明するように、ソレワターセがホホエミーナを捕えて地面に叩き付けた。灰緑色の腕を槍のように真っ直ぐ伸ばし、とどめを刺そうと身構える。
 だが、サウラーは慌てる様子もなく、いつもの皮肉めいた口調でノーザに叫び返した。
「お生憎様。僕は一人ではないんでね」

「え? サウラー、それってどういう……うわっ!」
 怪訝そうに問いかけたラブが、驚いたように手で顔を覆う。突然、温かな空気が頬を撫で、視界が真っ白になったのだ。辺りにはもうもうと湯気が立ち込め、その向こうでソレワターセがよろよろと後ずさるのが、ぼんやりと見えた。さっきまでとは打って変わって、その体は萎れ、腕はへなへなと力なく垂れ下がっている。

「何だ。何があった! ……あっ」
 珍しく慌てたような声を出したノーザが、湯気の向こうに目をやって、驚いたように息を呑む。
 そこには一人の老人の姿があった。少々へっぴり腰ながら、その両手はしっかりと消防用のホースを握り締めている。彼の隣にはぐらぐらと沸く大鍋があり、ホースはそこに繋がっていた。

223 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/01/15(日) 12:15:15
「なるほど、植物は高温に弱く、熱湯をかければ枯れるほどのダメージを受ける。植物から生まれたソレワターセも例外ではない、か。あなたの知識に助けられました」
「ええい、ただの人間の癖に、小癪な真似を!」
 サウラーの言葉を聞いて、ノーザが恐ろしい形相で老人を睨む。その視線はそのまま少女へと向けられた。
「何をしている。邪魔者を排除するのはあなたの仕事よ。早くそいつらを片付けなさい!」

「おっと。お前の相手は、俺たちだ」
 ソレワターセの方へ向かおうとするナキサケーベを、今度はウエスターのホホエミーナが体当たりで止める。
「ウォォォ〜!!」
 苦し気な雄叫びを上げたナキサケーベが、今度は短い腕をブンブンと振り回す。するそこから、タイヤ型の砲弾が次々と飛び出した。

「みんなが危ない!」
 ラブが思わず声を上げる。ナキサケーベとホホエミーナが戦っているすぐ後ろには、さっきまでラブたちが居た警察組織の建物があるのだ。ラブの声が聞こえたかのように、ホホエミーナが体を投げ出すようにして砲撃を受け止めようとするが、とても全部は止めきれない。
 やがて、弾のひとつが建物の近くに着弾して盛大な土煙を上げた。それを見て、せつなが素早く身を翻し、建物に向かって走り出す。そして、既に昨日までの襲撃によって壊されていた頑丈そうな門の残骸を見つけると、その一端を引き上げてその下に潜り込んだ。

「せつな!」
「何をする気だっ?」
 ラブに続いてサウラーが、ここへ来て初めて焦りの声を上げる。
「この建物の中には、避難してきた人たちがたくさん居るの。傷付けるわけにはいかない」
「よせ! 今のお前に砲弾を止められると思うのか!」
「やってみなきゃ……分からないでしょう? 私も……やらなきゃならないことを、全力で……やるだけよ!」

 せつなが渾身の力で門を押し上げ、大きな盾の代わりにする。その真ん中に、一発の砲弾が命中した。着弾の勢いに押されながらも、せつなは歯を食いしばって門を支え、後ろの建物を守ろうとする。

「……せつなっ!」
 あっけに取られて一部始終を見ていたラブが、ハッと我に返ってせつなの元へ駆け出そうとする。その肩を、誰かの手ががっしりと押さえた。
「ここは僕に……僕たちに任せて下さい」



 耳をつんざくような爆発音が、絶え間なく響く。強烈な硝煙の臭いと、全身の筋肉がしびれるような衝撃――。
 せつなは、盾にした門の残骸を必死で支え続けていた。
 彼女が立っているのは、避難者が居る会議室の前方に当たる場所。この重い盾を持って、動き回って砲弾を止めることは出来ないが、ここならば少なくとも彼らの居る部屋への被弾を防ぐ助けにはなるだろう。

(だけど……)

 門を支えている掌が、さっきからヒリヒリと痛んでいる。度重なる着弾で、門が次第に熱を持ってきているのだ。これ以上温度が上がれば、せつなには支えきれない。そもそも門が、盾としての役に立たなくなってしまうかもしれない。

(そうなる前に、何か……何か手は無いの!?)

 唇を噛みしめて、何か妙案はないかと思考を巡らせる。
 その時、ひときわ大きく苦しそうな雄叫びと共に、今までとは比べ物にならない数の砲弾が打ち出される音が響いた。

(駄目……そんな数は防ぎきれない!)

 せつなは全身を盾に預けるようにして支えながら、思わずギュッと目をつぶった。

 着弾音が、少し遠くから聞こえた気がした。最悪の予測が外れ、弾がこちらまで届かなかったのか――そう思いながら恐る恐る目を開けて、せつなの目がそのまま驚きに見開かれる。

 目の前に、いつの間にか銀色の長い壁が出来ていた。いや、それは壁では無かった。
 二十人、いや三十人は居るだろうか。揃いの警察組織の戦闘服に身を固めた若者たちが、やはり警察組織の大きな盾を手に、ずらりと一列に並んでナキサケーベの砲撃を防いでいたのだ。
 ぽかんと口を開けるせつなを、一人の若者が振り返る。それは、今朝ラブが作ったおじやの鍋を運び、配膳を手伝ってくれたあの少年だった。

224 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/01/15(日) 12:15:46
「せつなさん、ありがとう。僕たちもやらなきゃならないことを、全力でやってみます」
 少年が、相変わらずぼそぼそとした口調でそう言って、ニッと照れ臭そうに笑う。そして次の瞬間、その顔がきりりと引き締まった。ナキサケーベの新たな呻き声が響いたのだ。
「みんな、少しでも隙間を空けると危険だわ!」
 せつなが門の残骸を放り出して、少年たちに向かって声を張り上げる。訓練は積んでいるが、こんな実戦経験など無い若者たち――そう思った瞬間、自然に体が動いたのだ。
「盾を少し斜めにして、隣の人の盾と半分ずつ重ね合わせるの。そうすれば、隙間は完全になくなるし、盾の強度も倍になる」
 少し低めのよく通る声が、若者たちに的確な指示を出す。やがて建物の前面全体を守る、頑丈な防御壁が出来上がった。

 せつなと若者たちの様子を眺めていたラブが、ゆっくりと笑顔になる。そして勢いよく走り出すと、ホースを構える老人の元へ駆けつけ、その手を取った。
「おじいさん、手伝うよ!」
「い、いや、これは……」
「ううん、手伝わせて。お願い!」
「あ、ああ……それなら、頼む」
 老人がラブの勢いに押されたように、こくんと頷く。その戸惑ったような顔にもう一度ニコリと笑いかけてから、ラブは老人と一緒にホースを支え、ぴたりとその先をソレワターセに向けた。



 少女が操るナキサケーベと、ウエスターのホホエミーナ、そしてナキサケーベの砲弾を防ぐ盾を担うせつなと警察組織の若者たち。
 ノーザが檄を飛ばすソレワターセと、サウラーのホホエミーナ、そしてラブと老人による援護射撃。
 一進一退の攻防を、幾つかの建物に潜むラビリンスの避難者たちは、固唾を飲んで見守っていた。

「思い出すな……。プリキュアの戦いを見た、あの日のことを」
「あの時も、私たちを助けてくれたのよね」
「でも、メビウス様が復活すれば、それもすべて終わりだ」
「それはそうかもしれないが……」
「でも、あの人たちは今、私たちを守るために戦ってくれている」

「私たちは、守られているだけ? それだけで何も出来ないの?」

 いくつもの力のない呟きが重なって、やがて一人の若い女性がそう言って人々の顔を見回す。すると、最初はバツが悪そうに顔を見合わせていた人たちの間から、少しずつ声が上がり始めた。

「砲撃を防ぐ工夫なら……僕たちにも出来るかもしれないな」
「確かにその方が、みんなも戦いやすいはずね」
「よし、ここにバリケードを築こう」
「じゃあ俺は、会議室の隅に片付けた机と椅子を持ってくる」
「私はあのおじいさんを手伝って、お湯を調達してきます」

 にわかに活気づいた雰囲気に押されるように、うずくまっていた人たちが、一人また一人と立ち上がる。
 戦いの様子を目の当たりにして、久しぶりに声を出し、言葉を交わす。そして何かをしようと駆け出していく。
 それは、せつなもラブも、ウエスターもサウラーも、勿論ノーザも少女もまだ気付いていない、ラビリンスに起こった静かな、しかし確実な変化だった。



「うっ……な、何をしている。そんなヤツ……うっ……さっさと倒せ!」
 暗紫色の茨が、一巻き、また一巻きと、少女の二の腕に絡み付き、締め付けていく。苦痛に耐えながらモンスターに檄を飛ばし続ける少女がふらりとよろめいて、ついにガクリと膝をついた。

「ああ……」
 老人が喉の奥から小さな悲鳴を吐き出して、少女から目を背ける。心配そうにその顔に目をやったラブは、その向こうに見えるせつなの様子に気付いて、さらに心配そうに眉根を寄せた。

 せつなの右手が、小刻みに震えている。拳を固く握り締め、片時も目を離さずに、苦しむ少女の姿を見つめている。
 しばらくその様子を眺めてから、ラブもグッと唇を引き結んだ。

225 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/01/15(日) 12:16:25
 ホースを老人に任せ、せつなの元に駆け寄る。そして握られた拳に右手でそっと触れると、ラブはせつなの目を覗き込むようにして言った。
「せつな。あの子のところに行こう!」
「……え?」
「あの子を止めようよ」
「ラブ……何を言っているの?」
 驚いた――そして少し怒っているような表情で、せつながラブの顔を見つめる。ラブもせつなの顔を見つめ返して、さらに言葉を続けた。
「あの子を助けよう。ね? せつなは、そうしたいんでしょう?」

「無茶言うな。ここは俺に任せておけ!」
 決め手を欠いて苦戦しているホホエミーナに目をやったまま、ウエスターがいつになく鋭い声を出す。それを聞いて、せつなは小さく、そして少し哀しそうに微笑んだ。
「ウエスターの言う通りよ、ラブ。今の私たちに、戦う力はない。ナキサケーベやソレワターセを浄化することも出来ない。だったら、私たちは私たちがやらなきゃならないことを……」
「違う。違うよ、せつな」
 今度はラブの顔が、哀しそうに歪んだ。

「ねえ、せつな。やらなきゃならないことは、本当にやりたいことに繋がってなくちゃいけないんだよ」
「本当に……やりたいこと?」
 掠れた声で聞き返すせつなに、ラブは、うん、と頷いて見せる。
「避難しているラビリンスの人たちを守りたい――それもせつなの、本当にやりたいことだったんだよね。だから警察の人たちが、その想いに応えてくれたんだと思うんだ」
 そう言って、ラブは固く握られたせつなの拳を、両手で優しく包み込む。
「本当は、あの子が苦しむところを見ていられないんでしょう? あの子を助けたいんでしょう? だったら助けようよ! あたしはせつなを、応援するよ」
 ラブを映すせつなの赤い瞳が、ゆらゆらと揺れる。その揺れが収まってから、せつなはラブに向かって、ニコリと笑ってみせた。

「ありがとう、ラブ。ウエスター、私一人で行かせて」
「えっ? しかし、お前が行ったら……」
「大丈夫。私も……私の力を、信じてみたい」
 驚いたような、困ったような顔でせつなとラブの顔を交互に見ていたウエスターが、せつなの言葉を聞いて、そうか、と小さく呟く。

 その時、盾を持った警官たちの列から一人の若者が飛び出して、建物の中に走り込んだ。ほどなくして出て来ると、今度は一目散にせつなの元へと駆け寄る。その顔を見て、せつなが、あっ、と声を上げた。
「あなたは、ひょっとして昨日の……。ごめんなさい、いきなりあんな酷いことをして」
 それは、昨日少女があの通達を行った時、怒りに駆られたせつなに戦闘服を奪われた、あの若者だった。

「いいえ。元はと言えば、俺が油断していたのがいけないんです」
 若者が少し照れ臭そうな顔でかぶりを振りながら、抱えていた物をせつなに差し出す。
「これ、うちの隊の予備の戦闘服です。せつなさんには物足りないと思いますが、良かったら使って下さい」
 せつなは、昨日とは別の理由で手を震わせながら、戦闘服を受け取って、それを大事そうに胸に抱いた。

 戦闘服が、再び旗のように勇ましく空中に翻る。イースであった頃に着慣れていたものとは、性能面でかなり劣る代物。しかし、そこに込められたあたたかな想いが、せつなに大きな勇気をくれる。
 するりと袖を通してから、せつなは目を閉じ、静かに気を集中させる。そしてパッと目を見開くと、強い光を帯びた目でラブを見つめた。

「行って来るわね」

 言うが早いか、飛ぶように駆けるせつな。その髪が一瞬銀色に輝いたように、ラブの目に映った。



〜終〜

226 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/01/15(日) 12:17:06
以上です。ありがとうございました!
競作前にもう1話更新できるように、頑張ります。

227 名無しさん :2017/01/15(日) 23:34:44
すごく面白かった。全員で戦ってる感があって良かったです!

228 Mitchell & Carroll :2017/02/08(水) 22:53:21
格付けⅠの約束、今ここに――


『四葉邸へようこそ♡』


司会者「デケェ〜門だな、しかし……格子の隙間ありすぎて、余裕で侵入できんじゃん、ほら」
ドーベルマンs「「「バウバウバウ!!」」」
司会者「うわっ!!」
インターホン「今、お開けいたしますわね」
門「(ゴゴゴ……)」

司会者「はー、ビックリした」
ありす「泥棒さんにしては、派手な格好をしてらっしゃると思ったもので……」
司会者「玄関まで遠いなー。庭も超広いし」
ありす「キャッチボールでもなさいますか?」
司会者「いえ、結構です」
セバスチャン「ようこそ御越しいただきました、司会者様」
ありす「四葉邸へようこそ♡」

司会者「なんか、入った途端、見覚えのある名画があちこちに……」
ありす「○○○○も△△△△も、我が四葉家が所有いたしております」
司会者「……!!」
ありす「お食事まで少し時間がありますので、運動などいかがでしょう?地下にトレーニングジムがございます」
司会者「じゃあ、軽く汗流そうかな」

〜移動中〜

司会者「わー、スゲェ!最新のジムじゃん!」
ありす「このランニングマシンは、使用者のスピードに合わせて自動で速度が変わるのですよ」
司会者「どれどれ(ドタドタ)」
ありす「あの……これはランニングマシンでして、“もも上げマシン”ではないのですが……」
司会者「――え?何か言った?」
ありす「いえ……」
セバスチャン「司会者様、お風呂の用意が出来てございます」

司会者「風呂も広いなー。浴槽にバラが浮いてるし。そうだ。シャンプーのボトルの底、チェックさせて下さい――うん、ヌルヌルしてないや。当たり前か」
セバスチャン「お背中など、ご自分では洗いにくい所もおありでしょうから、専門の方をお呼びいたしました」
司会者「専門の方?」
(ナレーション「何やらバスタオルを巻いた女性たちが入ってきたようだが……?」)
司会者「え!?」
セバスチャン「では、ごゆるりと」
司会者「え?行っちゃうの!?セバスチャンさん!!ちょっと!!!!」

司会者「ふぅ〜」
ありす「お湯加減の方はいかがでしたか?」
司会者「ええ、最高でした」
セバスチャン「………」
司会者「何も無かったですよ。あったらバカでしょ、人ん家で」

229 Mitchell & Carroll :2017/02/08(水) 22:54:28
ありす「――それでは、司会者様の洋々たる前途、番組の益々のご発展を願って……」
司会者「カンパ〜イ♡……うまっ!!」
セバスチャン「1973年産どんぺりにょん、喜んでいただけましたでしょうか」
司会者「マジで!?」
セバスチャン「そしてこちら、イベリコ豚のホニャララでございます」
司会者「うん、うまい!さすが」
セバスチャン「さらに、キャビアの○○○○、フォアグラの△△△△、トリュフの□□□□でございます」
司会者「やべぇ、王様になった気分……俺、今日死ぬのかな?」
ありす「もしお亡くなりになられましたら、四葉家で盛大に弔いますから、安心して――」
司会者「いや、冗談で言ってるんですよ。目が笑ってませんよ、あなた」
(ナレーション「何だかんだ言ってご馳走を堪能し、上機嫌の司会者)」)
司会者「食べたら眠くなってきた……」
ありす「ではそろそろ、おやすみの準備に入りましょうか」

〜移動中〜

司会者「うわっ!天蓋付きのベッドだ!」
(ナレーション「年甲斐も無くハシャぐ司会者」)
ありす「おやすみになる前に、トランプでもなされます?」
司会者「やるやる!」
(ナレーション「接待トランプで、負けてあげるありす御嬢様」)
司会者「やったー、俺の勝ち!」
ありす「まあ、お強いですのね♡」
ランス「アリスはやさしいでランス〜」
司会者「――そろそろ寝よっかな」
(ナレーション「すると何やら楽器を持った人達が部屋に入ってきたようだが……?」)
ありす「バッハのゴルドベルグ変奏曲です。これはバッハが、ゴルドベルグ伯爵がよく眠れるようにと作った曲なのですよ」
司会者「マジで?ここまでしてくれんのか(ジ〜ン)」
ありす「では、おやすみなさいませ」
司会者「うん、おやすみ……(あのぬいぐるみ、喋ってたような気がするけど……いいや、寝よ)」

〜翌朝〜
司会者「――ああ、良い目覚めだ。昨日あれだけ食べたり飲んだりしたのに、全然響いてないや」
セバスチャン「おはようございます。朝食の用意が出来ておりますので、食堂の方へどうぞ」

セバスチャン「司会者様は朝食はあまり摂らないとお聞きしましたので、軽めの物をご用意しました」
司会者「良〜い彩りのサラダだ」
(ナレーション「食べながら泣き出す司会者」)
司会者「いや……もうすぐお別れしなくちゃなんないのかと思うとね……」
ありす「またいつでもいらして下さいね。今度は門を潜ったりせずに」
司会者「はーい」



END

230 Mitchell & Carroll :2017/02/08(水) 22:59:15
以上です。
それとランキングスレの335
『あざとさに始まり、あざとさに終わる』→ 『あざといに始まり、あざといに終わる』
訂正よろしくお願いいたします。

231 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/02/18(土) 08:59:53
おはようございます。
冬のSS祭り、ついに始まりましたね! 皆さんのお話楽しみにしております!!
さて、競作前に更新しますと言いながら、また少しずれこんでしまいました(汗)
長編の続きを投下させて頂きます。4レス使わせて頂きます。

232 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/02/18(土) 09:00:38
 焼け付くような痛みが右腕に絡みつき、じわじわとその範囲を広げていく。
 痛みをこらえようと力を入れ過ぎた身体は強張って、まるで自分の身体では無いかのようだ。
 それでもモンスターのコントロールを緩めるわけにはいかない。
 痛みに耐え、痛みを代償として得た力で、必ず……必ずメビウス様のために――!

 歯を食いしばって立ち上がった少女は、自分の方へ向かって飛ぶように駆けて来る人物に気付き、大きく目を見開いた。
 その顔に、何とも複雑な表情が浮かぶ。
 赤い瞳は挑むような光を宿しているのに、口元は苛立たし気に“への字”に引き結ばれている。その癖、口の端から漏れる息づかいは、まるで何かに怯えるように震えていて――。
 が、それも束の間のこと。少女は何かを振り払うように乱暴に頭を振ると、眼下に立つ巨大なしもべに向かって、茨の巻き付いた右手をさっと突き付けた。

「何をしている。邪魔者を近付けるな! すぐに息の根を止めてしまえ!」
 いつになく激しい少女の檄に、苦し気な呻き声で答えるナキサケーベ。対峙していたホホエミーナを地面に叩きつけ、自分の脇を走り抜けようとする小さな影に向かって、腕を振り回してタイヤ弾の集中砲火を浴びせる。

 小さな影の――せつなのスピードが、ぐんと上がった。砲弾の雨を物ともせず、体に掠らせもせずに、少女の立つビル目がけて一直線に駆けて行く。
 今度は行く手を遮るように、彼女の目の前に砲弾が飛び込んで来る。その瞬間、戦闘服の裾がひらりとはためいた。

「ハッ!」

 短い気合いと共に、砲弾が蹴り返される。続いてもうひとつ。さらにもうひとつ。それらはまさに車輪のように高速で回転しながら、ナキサケーベの横腹を襲う。
 行く手を阻んだ五つの砲弾を全て蹴り返したところで、ついに巨体がバランスを崩した。

「ニッコニコ〜!」

 跳ね起きたホホエミーナが、相変わらず笑顔のままでその胴体を組み敷く。それを横目で見ながら華麗に着地したせつなは、何事も無かったかのように、さらに足を速めた。

「凄ぇ……」
「俺たちの戦闘服でも、あんな戦い方出来るんだな」
 警察組織の建物の前、盾を構えて立つ若者たちが、口々に感嘆の声を上げる。その時、今朝ラブを手伝ったあの少年が、仲間たちを見回して声を張り上げた。
「気を抜かないで! せつなさんに負けないように、俺たちは全力でみんなを守ろう!」
「おうっ!!」
 途端にきりりと引き締まった顔になって、若者たちが声を揃える。
 腕組みをして一部始終を眺めていたウエスターは、ちらりと彼らの方を振り返ってニヤリと笑った。そしてすぐに真剣な表情に戻ると、とぉっ! と一息でホホエミーナの肩の上に飛び乗る。

「せつな……頑張って!」
 若い警官たちから少し離れた場所。消防用のホースを構える老人の隣で、ラブは見る見る小さくなっていく後ろ姿を見つめながら、胸の前でそっと両手を組み合わせた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第10話:炎の記憶(前編) )



 灰色のコンクリートが剥き出しの、殺風景なビル。近付いてみると、そこは既にナケワメーケの攻撃で廃ビルとなった建物だった。
 割れた窓ガラスが散乱する地面に立って、せつなが少女の居る屋上を見上げる。そして戦闘服の性能を試すように、その場で二度三度と軽く飛び跳ねてから、数歩後ろへ下がり、大きく息を吸った。

 助走を付けた大ジャンプで一気に屋上まで跳び上がり、少女の前に降り立つ。右手はおろか、既に胸の辺りまで茨が巻き付いた状態の少女は、せつなを見るとフッと身体の力を抜き、わずかに腰を落として身構えた。

「今度は曲がりなりにも戦闘服を着て来たというわけね。しかし、元幹部ともあろう人が、警察組織のおさがりなんて……」
 フン、と鼻で笑おうとしたところで、少女の口から小さな呻き声が漏れる。また少し茨が伸びて、少女の身体に絡み付いたのだ。

「あ……あなたの魂胆は分かっている。召喚者である私を倒して、ナキサケーベの動きを……止めようと言うんでしょう? そうは行かない!」
「確かにあの怪物を野放しには出来ない。でも、それはみんなが頑張ってくれているわ」
 せつなが低い声で言葉を繋ぐ。
「私はあなたを止めるために来たの。あなたを……助けたい」
「冗談はよせ!」
 少女がひときわ高い声で叫ぶ。それが合図だったかのように、二人は同時に空中高く跳び上がった。

233 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/02/18(土) 09:01:13
「はぁっ!」
 少女の胸元を目がけて伸びる、せつなの右ストレート。続いて左フック。着地と同時に、今度は身を翻して左からの蹴り。
 それらを少女は、全て身をよじっただけの動きでかわす。
「そんな攻撃、私にはお見通し。目を瞑ったって避けられ……」
「たぁっ!」
 少女の言葉が終わらぬうちに、今度はせつなが少女の足元を狙う。バックステップでそれを避けてから、少女は今度こそ、フン、と鼻で笑った。

「一年半前と、呆れるほど変わらないのね、あなたの動き。いや、あの頃より今の方が、少し鈍っているかしら」
「一年半前って……」
「あなたが“ネクスト”だった時の最終戦よ。あの時の動きは全て、この目に焼き付いている。私はあれを超えることを目指して訓練を積んで来たの。だから……今日は実戦で試させてもらう!」
「……」
 じっと少女を見つめていたせつなが、彼女の言葉を聞いて、苦し気に目を伏せる。が、すぐに顔を上げると、さっきより静かな眼差しを少女に向けた。

「あいにくだけど、私はあなたと勝負するつもりは無いわ」
「何っ?」
「言ったでしょう? 私はあなたを止めたいって!」
 言うが早いか地を蹴ったせつなが、今度は低い角度で飛び出し、少女に肉薄した。その予想以上のスピードに、咄嗟に跳び退って攻撃をかわした瞬間、少女は愕然とする。
 いつの間にか、逃げ場のない屋上の隅に追い詰められていた。こんなことになるまで気付かないなんて、普通ならあり得ない。
 考える隙を与えない、ほんの数手の攻撃。まるでこちらの反応を読んでいたかのような、最短距離での誘導。その意図を全く読み取らせない、あまりにも自然な動き――。

 少女が悔し気に顔をしかめ、次の瞬間、さっと身を翻す。眉間を狙って放たれる、鋭い突き。さっきの少女とそっくりな動きでそれを避けてから、せつなは茨が巻き付いた彼女の右手――涙を流すひとつ目のマークが浮かんだ右手の甲を、グイッと掴んだ。

「クッ!」
 途端に小さな暗紫色の稲妻が走り、衝撃がせつなを襲う。それに耐えてさらにギュッと彼女の手を握りながら、せつなは目の前の赤い瞳を覗き込んだ。

「何をする……離せっ!」
「このままカードを使い続けたら、あなたのダメージは計り知れない。そのことは知っているの?」
「無論、覚悟の上だ」
「代償は容赦なく要求される。メビウス復活なんて言ってるけど、その前に下手をしたらあなたは……」
「うるさいっ。お前の知ったことか! ……うぅっ!」

 少女が再び、今度ははっきりとした呻き声を上げた。
 茨が一巻き、また一巻きと、彼女の胴に絡みつく。それと同時にナキサケーベが、自分を押さえつけているホホエミーナを跳ね飛ばそうと暴れ出す。
 が、そこで急にナキサケーベの動きが弱まった。痛みに耐えかねたのか、少女の身体がずるずると床に崩れ落ちたのだ。
 せつなは、自分の方が苦痛に耐えているような表情で、もう一度少女の手をギュッと握りしめた。

「腹立たしいのはよく分かる。だから、ごめんなさい。でも、あなたを助けるには、これしかないの」
 呟くようにそう言ってから、その目をビルの階下に移す。
「ウエスター!」
 せつなの鋭い一声に、大男は神妙な面持ちで、しっかりと頷いた。



 ホホエミーナが懸命に押さえつけていた、怪物の手ごたえが弱まった。巨大な相棒の肩の上からそっと覗き込んだウエスターは、思わずほおっと息を吐く。
 ナキサケーベの真ん中に貼り付いている、涙を流すひとつ目のマーク。それがいつの間にか、黒々とした靄のようなもので覆われているのだ。
「ウエスター!」
 時を移さず、頭上から響くせつなの声。

(あいつが痛みに耐えられないと、燃料切れを起こすというわけか。よし、ならばここで、一気にケリを付ける!)

「今だ! ホホエミーナ、ヤツのひとつ目を撃ち抜け!」
「ホ……ホエミーナ!」
 いつになく厳しいウエスターの指令に、ホホエミーナが少し戸惑ったような雄叫びを上げる。が、すぐさまその丸っこい腕を硬い棒状に変化させると、勢いよくナキサケーベのひとつ目に叩き付けた。
 ゴン、と鈍い音が響く。だが、ひとつ目には何の変化もない。
 今度は腕を錐状に変化させるホホエミーナ。だが、鋭い錐も硬い表面に弾かれて、やはりひとつ目には傷ひとつ付かない。
 いつもと違う眉をキリリと上げた決死の表情で、何度も何度も攻撃を繰り返すホホエミーナ。それでも一向に埒が明かない様子に、ついにウエスターがしびれを切らした。

234 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/02/18(土) 09:01:45
「よし! 今度は俺がやる」
 言葉と同時に、ホホエミーナの肩から急降下ダイブを試みる。固く握りしめた拳からナキサケーベに激突し、あのダイヤを打ち砕いた時のように、全ての力を拳に込める。
 今度はナキサケーベの身体に変化が生まれる――だが、それは表面のわずかなくぼみだけだった。ひとつ目はのっぺりと怪物の身体の中央に貼り付いていて、ひびのひとつも入っていない。

(もしかしたら、この目はコイツのコアではないんじゃないのか?)

 ウエスターの脳裏に、そんな疑問が浮かんだ。
 彼はこのモンスターのことをよくは知らない。四つ葉町でたった数回、イースが戦っているところを、それもモニター越しに見ていただけだ。
 だが知識はなくとも、拳は確かにそんな違和感を訴えている。

(ならば……ならばどうすればいい? どうすればコイツを倒せる?)

 少女の呪縛を解くためには、このモンスターのコアを打ち砕くしかない。それなのに……。
 脳味噌が沸騰するような焦燥感に、真っ白になるほど拳を握り締めた、その時。

「ウオォォォォォ!」

 再び苦しそうな呻き声を上げたナキサケーベが、まるで子供でもあしらうように片手でホホエミーナを払いのけ、跳ね起きた。
 さっきまでの弱々しさが嘘のような俊敏な動き。だが、その後の動きは明らかにおかしかった。苦しげにじたばたとその場でのたうち回りながら、無茶苦茶に砲弾を発射し始めたのだ。

 咄嗟に空中高く飛び上がるウエスター。暴れ回る怪物に、強烈なかかと落としをお見舞いする。その一撃で、ナキサケーベの身体はコンクリートを割り、ずぶりと地面にめり込んで止まった。
 だが一瞬の後、さすがのウエスターも唖然とする出来事が起こった。
 さらに大きな呻き声が聞こえたかと思うと、巨大なひとつ目が鮮やかな赤に染まったのだ。瓦礫を盛大に跳ね飛ばして穴から抜け出た怪物が、再び狂ったように砲撃を始める。
「何だ……何が起きた!」
 自分を庇うように跳んできたホホエミーナに捕まって、瓦礫の雨を逃れたウエスターが、いつになく慌てた声で叫ぶ。が、その直後、ナキサケーベのひとつ目の奥にあるものを見つけて、その瞳が戦士の鋭い光を発した。



 せつなに右手を掴まれ、肩を押さえられた少女は、立ち上がろうと懸命にもがいていた。せつなもまた、何とか少女を押さえ込もうとしながら懸命に言葉を紡ぐ。
「あなたはノーザに、いいように利用されているだけよ」
「私とノーザさんには、同じ目的がある。だから、私が任務を果たすのは当然だ」
「そんなことをしても、あなたが欲しいものは手に入らないわ。かつての私がそうだったように」
「一緒にするな! 私が欲しいのは、メビウス様の復活だけだ!」

 憎々しげに睨み付けてくる、自分によく似た赤い瞳。それを見ていると、何とも苦く虚しい感情が、せつなの胸に湧き上がった。

(こんなことをいくら言っても、この子は納得なんてしない。それは私が一番よく知っているじゃない。だったら、やっぱり力づくでしか……。)

 せつなの視線が、ちらりと眼下の戦場の方へと流れる。その一瞬の隙をついて、少女はせつなの手を振り払い、立ち上がった。

「うっ……」
 途端に茨が活動を再開し、彼女の左手の上腕部に絡みつく。ふらりとよろめきかけた少女は、膝頭を握りしめてそれを堪えると、階下に向かって震える声を絞り出した。
「そ……そんなヤツ、は……早く蹴散らせ! ノーザさんの……邪魔をする者を……うわぁぁぁっ!」
 ついに少女が大きな悲鳴を上げる。何とか体勢を立て直したものの、両手を膝の上に置き、ハァハァと肩で息をし始めた。
 時折、喉の奥でくぐもった叫び声を上げるものの、それ以上はなかなか言葉が出て来ない。目を見開き、歯を食いしばって、痛みに耐えるのが精一杯なのだろう。

「ウオォォォォォ!」

 再びナキサケーベの呻き声が響いた。だがさっきまでとは違って、その声は途切れ途切れだ。
 その代わりのように、砲弾が撃ち出される音がひっきりなしに響く。そして着弾の音も、一方向ではなく四方八方から聞こえてくる。

(ひょっとして、制御できなくなっているんじゃ……)

 階下の様子に目をやって、せつなの表情が険しくなる。
 ナキサケーベはホホエミーナを跳ね除けて、のたうつように暴れながら、砲弾を発射し続けていた。さっきせつなを襲った時のように狙いを定めているとはとても思えない、滅茶苦茶な撃ち方で。それを見るや否や、せつなはもう一度少女に駆け寄った。

235 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/02/18(土) 09:02:16
「もうやめて! これ以上は危険よ」
「邪魔を……するな」
「聞いて!」
 せつなが少女の細い肩を掴んで、目を合わせる。
「こうなってはもう、コントロールは効かない。私もそうだったから知っているわ。だからお願い、これ以上は……」
「……じゃない」
 必死で説得しようとするせつなに、少女がくぐもった声で何事かを呟いた。
「え……」
「同じ……じゃない。あな……たと……私はっ!」
 切れ切れにそう叫んだ少女が、懸命に身体をよじってせつなの手を外す。そして苦しそうに息をしながら、鋭い目でせつなを睨み付けた。

「私は……幹部だったあなたとは……違う。まだ……メビウス様からのご命令を……一度も頂いていない。まだメビウス様に……一度も……お会いしていない」
 少女の額から汗が滴り落ちて、ぽたぽたと地面を濡らす。
「これから……だった。全ては……これから。だから……たとえほんの一瞬でも、それを取り戻すと……決めたのだ!」

 言葉と同時に、少女が右手の拳をギュッと固く握り込む。五本の指の根元に食い込んだ細い茨が、さらに掌にも食い込んで、ポタリ、と鮮血がしたたり落ちた。
「今の私が……捧げられるのは、この……痛みだけ。ならば……捧げられる限り、捧げ尽す!」
 驚くせつなに薄っすらと笑って見せてから、少女が両腕を前に突き出す。そしてあろうことか茨に巻き取られた右腕に、左腕のまだ無傷の部分を、ギュッと押しつけた。

「うっ……」
 少女の口から、もう何度目かの呻き声が漏れる。左手を覆う黒い長手袋が、茨の棘であっという間にズタズタになる。
「何をするのっ!」
 慌てて止めようとしたせつなが、さっきまでとは比べ物にならない力で突き飛ばされる。少女はガクガクと身体を震わせながら、なおも両腕を硬く結び合わせ、まるでナキサケーベのような咆哮を上げた。

「うわぁぁぁぁぁ〜!」

 すぐさま起き上がったせつなが、少女を見て驚きに目を見開く。
 叫び声を上げる少女の身体から、何かが立ち昇っている。赤黒い靄のようにも、気のようにも見えるもの。それが濃くなるにつれて、彼女を拘束している茨もまた、血のような赤に染まっていく。
 新たな傷を追いかけるように、赤い茨が彼女の左腕を覆う。そして茨は少女の身体に巻き付いたまま、次第に炎のような、赤い光を放ち始めた。

「やめて! もうやめて! そんなことをしたら、本当にあなたは……」
「メビウス様のためなら……どうなろうが……構わない……」
 まるで炎に包まれたように見える少女に向かって、せつなが震える声で叫ぶ。
 切れ切れに言葉を返した少女の目から、汗とも涙ともつかないものがポタリと落ちて――声にならない言葉が、その唇から紡がれた。

――たとえ……この命が尽きても……!

 せつなの瞳が大きく見開かれ、少女を包み込んだ赤黒い炎を映す。
 あの時の――最後にナキサケーベを召喚した時の、ドームを吹き荒ぶ風の音が聞こえた気がした。

 自分を心配してくれたラブの優しさから頑なに目を背けて、任務のことだけを考えようとしていた、あの時の自分。
 ボロボロになったドームも、逃げ惑う人々も目に入らず、ただがむしゃらに痛みに耐え、「プリキュアを倒せ」と叫び続けていた、あの時の自分。

 あの時自分を突き動かしていたものもまた、胸の奥に暗く燃え盛る、赤黒い炎ではなかったか?
 今、自分の心の奥を見つめるのが怖いのは、まだ胸の奥に、あの時の炎がくすぶっているかもしれないと、恐れているのではないのか?

(同じじゃない……ですって? いいえ、あなたには……あなたの中には、私と同じ炎がある)

 せつなの瞳が、哀しみに揺れる。その目の前で、まるでスローモーションのように、少女がゆっくりと崩れ落ちる。
 せつなは彼女を受け止めると、黙ってその身体を抱き締めた。
 赤黒い靄が、少女と一緒にせつなの身体を包む。
 赤い茨の鋭い棘が、少女と一緒にせつなの身体を傷付ける。
 それでも決してその身体を離すまいとするように、せつなは少女を、固く固く抱き締める。
 やがて、赤黒い炎が大きく燃え盛って、二人の身体を包み込んだ時――。

「国民番号ES-4039781。前へ出なさい」
 不意に、かつて聞き慣れた無機質な声が聞こえて来て、せつなは驚いて顔を上げた。


〜終〜

236 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/02/18(土) 09:03:41
以上です。どうもありがとうございました!
次話の更新は競作後に。
これからは私も競作、頑張ります。

237 名無しさん :2017/02/18(土) 16:20:34
>>235
またまた凄い展開にくぎ付け…とても面白かったです!
続きが気になります!

239 運営 :2017/03/06(月) 22:26:27
こんばんは、運営です。
Mitchell & Carroll様、いつも楽しい作品をありがとうございます!
現行作品含むコラボでしたので、現行スレに移させて頂きました。ご了承ください。

240 Mitchell & Carroll :2017/03/09(木) 22:15:25
まほプリ。2レスお借りします。


『利きハチミツ』


みらい「第一回 魔法つかいプリキュア チクチク この一口に魔法じゃなく命をかけろ!利きハチミツ〜♡」

リコ「挑戦者のチクルン選手、意気込みをどうぞ」

チクルン「おいらはハチミツに関わる仕事をしてるんだぜ?ナメてもらっちゃ困るな!」

ことは「もし失敗したら、罰ゲームだからね!」

みらい「じゃあモフルン、今回用意したハチミツを発表して!」

モフルン「モフ〜!」

・スウィート○ドウ マヌカハニー
・○治屋 ローヤルゼリー添加はちみつ 
・生活の○ マヌカハニー UMF15+ 
・サ○ラ印 純粋ハチミツ
・サ○ラ印 カナダ産 純粋ハチミツ
・サ○ラ印 ハンガリー産 純粋アカシアはちみつ
・サ○ラ印 レンゲのハチミツ
・サ○ラ印 ニュージーランド産 純粋クローバーはちみつ
・サ○ラ印 アルゼンチン産 純粋はちみつ
・サ○ラ印 黒みつ

モフルン「以上モフ〜!」

チクルン「おい、ふざけんな!何だよ最後の!!」

みらい「では早速、チクルンには目隠しをしてもらいます」

リコ「じゃあ……コレにしましょう(サ○ラ印 ニュージーランド産 純粋クローバーはちみつ)」

ことは「チクルン、あ〜んして」

チクルン「あ〜ん(ペロペロ……)」

モフルン「目隠し、外すモフ〜」

みらい「じゃあ、今舐めたものをこの10種類の中から当ててみて!」


チクルン「まずはこれからいってみっか。個人的に興味あるんだよな。“スウィート○ドウ マヌカハニー”。(ペロペロ……)美味ぇ〜!!濃厚でなめらかで、クリーミーだぜぇ〜い!やさしくなれる味ってやつだな」

リコ「さすが、コメントも一流ね」

チクルン「でも、さっき舐めたのとは違うな。おいらが舐めたのは“スウィート○ドウ マヌカハニー”ではございません!(空容器を捨てています)」

ことは「ピンポーン☆」

チクルン「上々の滑り出しだぜ」

241 Mitchell & Carroll :2017/03/09(木) 22:23:10
ことは「(そわそわ……チラチラ……)」

チクルン「……チッ、わかったよ。おいらも人が好すぎるぜ。“黒みつ”いってみっか」

みらい「え〜、それはないんじゃない?」

リコ「ハチミツじゃないし、ねぇ?」

チクルン「お前らが用意したんだろが!!」

モフルン「もしこれで外したら、罰ゲーム100倍モフ」

チクルン「ケッ、冗談じゃねぇぜ!(ペロペロ)美味いけど違うな。だってこれハチミツじゃねぇもの。色もちげーしよ。おいらが舐めたのは“黒みつ”ではございません!」

ことは「……ピンポンピンポ〜ン☆」

チクルン「溜める意味がわかんねぇぜ。よし、次はコレだ。“サ○ラ印 ニュージーランド産 純粋クローバーはちみつ”。(ペロペロ)……違うな。もっとサラッとしてたんだ。おいらが舐めたのは“サ○ラ印 ニュージーランド産 純粋クローバーはちみつ”ではございません!!」

ことは「ブーーー!!(ダダ〜ン♪)」

チクルン「うそだろぉ!!?」

みらい「あっはははは!!」

リコ「(声にならない笑い)」

モフルン「残念だったモフ〜!」

巨大な殺虫剤の容器を持ったベニーギョ「涎掛けでもかけてな(炭酸ガス噴射)!!」

チクルン「うわぷっ!!!?」

みらい「正解してたら、豪華な商品が貰えたのにね〜」

チクルン「……何だよ、豪華な賞品って?」

リコ「“映画の主役になれる”ってヤツよ!」

チクルン「ホントかよ!?」

モフルン「ちなみにモフルンは以前挑戦して、見事正解したモフ」

チクルン「そういうことだったのかー!!」

ベニーギョ「あ、あのさ、コレあたしにやらせ――」

みらりこことモフ「「「「それじゃあみんな、また来週〜☆」」」」



おしまい

242 名無しさん :2017/03/09(木) 23:51:23
>>241
ベニーギョさん、主役やりたかったんかい!

243 名無しさん :2017/03/10(金) 22:18:35
プリキュアまちがいさがし

つぎのなかでまちがいはどれ?

①ポルン②ペコリン③リボン④モフルン⑤コロン⑥ウルフルン⑦ルルン

244 名無しさん :2017/03/10(金) 23:18:15
>>243
普通に考えたら・・・だけどw
まちがいって、ひとつ?

245 Mitchell & Carroll :2017/03/19(日) 21:37:15
Goプリより。バッドエンドです。


『ストップ、はじめてのおつかい』


〜絶望の森・イバラの城〜

クローズ「――というわけで、フリーズはちょっと急用だ。だから今回はお前だけで行くんだ、ストップ」

ストップ「やってみる」

クローズ「いいか?夢を持っている奴の所に行って、その夢を檻に閉じ込めてくるんだ。できるな?」

ストップ「やってみる!」

クローズ「よし、いい子だ。じゃあ行ってらっしゃい」


〜ノーブル学園〜

はるか「う〜ん、今日はいい天気だね〜♡」

みなみ「いつ連中が襲って来るか分からないわ。気を抜いたら駄目よ」

きらら「こんないい日に敵とか、マジ勘弁!」

トワ「あら?あすこに見えますのは……」

ストップ「………」

みなみ「あれは……敵だわ!」

きらら「どうする?やっつけちゃう?」

ゆい「でも、まだ何も悪いことしてないし……」

パフ「それに、いつも二人一緒なのに、今日は一人パフ〜」

アロマ「とりあえず、話しかけてみるロマ」

トワ「もし、何か御用ですか?」

ストップ「えーと……」

246 Mitchell & Carroll :2017/03/19(日) 21:38:00
5人+2匹「「(じーーっ)」」

ストップ「………(脱走!)」

トワ「あら、帰ってしまいましたわ」

きらら「変なの」


〜再び絶望の森・イバラの城〜〜

クローズ「“夢”を、な?“夢”!持ってる奴を見つけろ。そしてそれを檻に閉じ込める!」

ストップ「夢!持ってる奴!檻に閉じ込める!!」

クローズ「そうだ!」


〜再びノーブル学園〜

はるか「あ、また来たよぉ!」

きらら「あたし、前から思ってたんだけどさぁ、この耳、可愛くない?」

ストップ「(両耳ぷるんっ)」

5人「「「「「キャーーッ♡♡♡♡♡」」」」」

はるか「(手で押し倒して反動でぷるんっ)気持ちい〜い!楽しーい!!」

きらら「(ぷるんっ)マジヤバイ!休み時間中とかずーっとしてたい!」

トワ「お二人ともズルいですわ!わたくしにもさせて下さい!」

ゆい「わ、私も、いいかな……」

ストップ「(両耳ぷるんぷるんぷるんぷるん)う、うぅ……(脱走!)」

はるか「あっ、帰っちゃった……」

きらら「はるはる、ぷるんぷるんし過ぎ!」

はるか「えーっ!?きららちゃんだっていっぱいぷるんぷるんしてたじゃない!」

トワ「わたくしだって、もっとぷるんぷるんしたかったですわ!それなのに、はるかときたら……」

みなみ「あなた達、先輩を差し置いてぷるんぷ――」


〜イバラの城〜

クローズ「いいか!?どんなチッコイ夢でもいいんだ!それを見つけて、檻に閉じ込めてくる!!」

ストップ「どんなチッコイ夢でも!!」


〜ノーブル学園〜

みなみ「――あら、またいらしたわ。さっきはごめんなさいね」

247 Mitchell & Carroll :2017/03/19(日) 21:38:50
はるか「ねえねえ、ドーナツ、好き?」

ストップ「好き」

きらら「ドーナツ屋さんからサービスでいっぱい貰っちゃってさ〜。よかったら、一緒に食べない?」

ストップ「食べる」

トワ「そうと決まればパフ、お茶の支度を」

パフ「まかせてパフ〜!」

一同「「(キャッキャッ、ウフフ……)」」


〜イバラの城〜

ストップ「これ、おみやげ」

クローズ「夢を閉じ込めてこいっつってんだよ!!ドーナツもらってこいとは一言も言ってねぇーんだよ!!」

ストップ「じゃあ、返してくる」

クローズ「待て。せっかくよこした物なんだから、有難く頂戴するのが礼儀ってモンだ。押し返しちまったら、相手側だって悲しむだろう?これは俺が預っててやるから、もう一度行って来い」


〜ノーブル学園〜

ストップ「ドーナツは有難く頂戴した、と言っていた」

みなみ「喜んでもらえたみたいね」

トワ「また皆でお茶会しましょうね」

きらら「今度ははるはる、ぷるんぷるんし過ぎちゃダメだかんね〜?」

はるか「え〜?えへへ、えへへへ……」

ゆい「うふふふ……」


〜イバラの城〜

ストップ「………」

クローズ「……ハァ〜ッ」

ストップ「お前の夢、見せてみろ!」

〈〈〈クローズの夢〉〉〉
クローズ「よくやった、ストップ!さあ、一緒にドーナツを食おうじゃねぇか!」

ストップ「絶望の檻に閉じ込める!ストップ・ユア・ドリーム!!行け、ゼツボーグ!!!」

クローズゼツボーグ「ゼツボォォーーグ!!!!」



 T H E ・ E N D

248 名無しさん :2017/03/20(月) 18:38:21
>>247
クローズ、本望だなw

249 名無しさん :2017/03/22(水) 00:08:15
このサイトについて男女間の恋愛を描いた作品はNGとありますが
名もない男たちがプリキュアをレイプする描写のあるSSもやっぱ
りだめですか?

250 運営 :2017/03/22(水) 20:47:48
>>249
こんばんは、運営です。その場合は当掲示板の保管庫テンプレートのQ&Aの3に該当するのでNGとなります。
当サイトはプリキュアシリーズのファン活動の一貫であり、「応援」の精神から著しく外れた作品は受けないことになっています。
掲示板での質問は議論になりやすいので、他にもご質問がありましたら、メールにてお答えいたします。
書き込みありがとうございました。

251 名無しさん :2017/03/24(金) 22:38:42
「5GoGo」のイソーギンとヤドカーンのモデル、ジョン・レノンとポール・マッカートニーだったんスね……

252 名無しさん :2017/03/25(土) 22:12:31
ストップって女の子ですよね?

253 名無しさん :2017/03/26(日) 08:12:03
>>252
え、そうなの?
っていうか、性別あったんだ……。

254 Mitchell & Carroll :2017/03/26(日) 21:01:38
『プリ相撲〜ノーブル場所〜』


きらら「――さて、残った一個のドーナツ、どうする?」

みなみ「7等分するというのはどうかしら?」

トワ「キレイに7等分出来ますでしょうか……?」

パフ「パフはもうお腹いっぱいだから遠慮するパフ〜」

アロマ「アロマも、もう十分堪能したロマ」

ゆい「5等分も難しいよね……」

はるか「よし、相撲取ろう!!」

others「「えっっ!!?」」

ゆい「土俵が無いよ、はるかちゃん」

はるか「それなら大丈夫!ほら、こうやって電源コードを輪っかにして……と」

トワ「わたくし、お相撲など取った事もありませんし、ルールもよく分かりませんから……」

みなみ「私も、どちらかというと観る方が好きだわ」

ゆい「私は、眼鏡が割れたら大変だから……」

きらら「ということは……」

パフ「に〜し〜、きらら山パフ〜。ひが〜し〜、はるか風パフ〜」

きらら「負けないかんね、はるはる!」

はるか「手加減ナシだよ、きららちゃん!」

アロマ(行司)「はっけよい、のこったロマ!!」

はるか「だぁっ!!」

きらら「やぁっ!!」

トワ「頑張って下さい、二人共!」

パフ「両者とも、必死な押し合いパフ〜!」

みなみ「きららは足が長いのがたたって“腰高”だわ。重芯が低い分、はるかの方に分が有るわね」

255 Mitchell & Carroll :2017/03/26(日) 21:02:59
はるか「むむむむ!!」

パフ「はるかが土俵際まで追い詰めたパフ〜!」

きらら「ふんっぬっ!!」

パフ「持ち堪えたパフ〜!」

みなみ「さすがだわ。モデルとして日々、足腰の鍛錬を怠っていない証拠ね」

トワ「(ハラハラ……ドキドキ……)」

きらら「だぁっ!!」

パフ「今度はきららが攻めるパフ〜!」

はるか「(負けたくない!負けたくないよ!!)でやぁぁぁ!!」

パフ「う、“うっちゃり”パフ〜!!」

ゆい「キャッ!?」

パフ「ゆいにぶつかってしまったパフ!」

トワ「こ、この場合はどうなりますの……!?」

アロマ「唯今の一番、取り直しロマ〜!」

ゆい「眼鏡、眼鏡……あった」

パフ「それは眼鏡じゃなくて、はるかの足パフ〜」

はるか「キャッ!?」

みなみ「こ、“小股すくい”!?」

ゆい「眼鏡……あ、これかな?」

アロマ「それはきららのスカートパフ〜」

ゆい「えっ?ごめんなさ……うわっとっとっと!」

きらら「あたっ!」

みなみ「“三所攻め”だわ!!」

トワ「………」

アロマ「……ゆいの花の勝ちロマ〜!」

ゆい「(ようやく眼鏡装着)……え?私が勝ったの……?」

みなみ「さあ、ドーナツを受け取って、ゆいの花」

ゆい「う、うん……」

みなみ「まあ、なんて綺麗な手刀の切り方なの。豊○将を彷彿とさせるわ」

トワ「おめでとうございます、ゆいの花!」

〜終〜

256 名無しさん :2017/03/26(日) 22:58:36
>>255
みなみん、相撲にも詳しいのねwww
まさかの勝負の結末が楽しかったです♪

257 運営 :2017/04/14(金) 19:42:36
こんばんは、運営です。
ご連絡が遅くなりましたが、競作スレは過去スレに移しました。
たくさんの投下と書き込み、本当にありがとうございました!!

258 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/16(日) 10:54:54
おはようございます。
競作に投稿しようと思ってて全然間に合わなかった(涙)まほプリ最終回記念SSを投下させて頂きます。
三部構成の第一章です。二章、三章もなるべく早いうちに。季節外れはご容赦下さい。
5レスほどお借りいたします。

259 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/16(日) 10:55:48
 あれは中学三年生の、二学期になって少し経った頃のことだったっけ。

 ほら、あの年の初めに、世界中が巻き込まれたっていう大変な一日があったでしょう?
 辺りが急に真っ暗になって、何だか得体のしれない、とても怖い感じがして、そして……その後のことはよく覚えていないし、どれくらい時間が経ったのかもよく分からないんだけど、何かがパァッと弾けたような気がしたと思ったら、いつもの明るさが戻っていて。
 風もないのに辺り一面に花びらが舞っていて、その向こうには大きな虹がかかってて……。まるで夢の中にいるみたいな綺麗な景色だったけど、何だか悲しくて、切なくて、気が付いたら涙が流れてたの。
 全てが元通りになったわけじゃない。何か大切なものがなくなって、何かがまるっきり前とは違ってしまったって、そう感じてたんだよね。現にあの日以来、リコちゃんとことはちゃんとは、離れ離れになっちゃったんだもの。

 でも最初はね、リコちゃんたちのこと以外、具体的なことには何も気付いていなかったの。夏休みが終わった頃からかな、ほかにも居なくなった人たちがいるのかもって思い始めたのは。
 かなが――時々はわたしも一緒に目撃してた、箒に乗った魔法つかいとか。学校に居るって噂になった、幸せを呼ぶ妖精とか。それに、クリスマスにいつもプレゼントを届けてくれたサンタさんも、居なくなった人たちの中に入ってるんじゃないかって、何となくそんな気がした。

 わたしたちの生活に、直接は関係ないかもしれない。居なくなったものは仕方ないって、諦めるしかないのかもしれない。
 でもね。かなじゃないけど、わたしは確かにその人たちを見たし、出会ったんだよね。
 サンタさんには会っていないけど、子供の頃にサンタさんを待ってドキドキしたり、プレゼントを貰ってとっても嬉しかったりした気持ちは、わたしの中にちゃんとある。そう思ったら、子供たちがプレゼントを貰えなくなって、サンタさんもだんだん忘れられてしまうのが――クリスマスが、わたしたちの知ってるクリスマスじゃなくなってしまうのが、何だか凄く悲しくて。

 何がきっかけだったか忘れたけど、みらいと一度、そんな話をしたことがあったんだ。
 その頃のみらいは、普段は前と同じように明るくて、いつも笑顔で……。だからついそんな話をしちゃったんだけど、話し始めてから正直わたし、しまった、って思ったの。
 最初は笑顔で頷きながら話をしていたみらいが、だんだん口数が少なくなって、口元は笑っているんだけど、何かを我慢しているみたいにうつむいて……。それに気付いてから、急いで話題を変えて、もうこの話をするのはやめようって思った。
 だけどね。それから数日経ったある朝、みらいが……。



     サンタとサンタのクリスマス( 陽の章 )



「まゆみ! 見て見て、これ!」
 教室に入るや否や、みらいは鞄も置かずに長瀬まゆみの席に突進した。そのあまりの勢いに、当のまゆみが驚いたように顔を上げる。
 三年生の教室は、三階の東向きにある。窓から差し込んでいるのは、まだ夏の名残りを感じさせるような朝日にしては強い日差し。だから窓際に立ったみらいの顔は陰になっているはずなのに、何だか最近には珍しいくらい明るく輝いているように、まゆみの目には映った。

「何? どうしたの? みらい」
「ほら、これ。ここ、ここ!」
 みらいが大事そうに胸に抱えて来た物を、まゆみの机の上に広げる。
 それは、昨日発売されたばかりの旅行雑誌。まゆみは知らないことだが、みらいは最近、世界の様々な国について書かれている本や雑誌をよく読むようになっていた。

「何これ……“フィンランド特集”? きれいな景色ね。で、これがどうかしたの?」
 みらいが指さす写真を眺めたまゆみが、ますます不思議そうに首を傾げる。だが、写真の下の解説を読んだ途端、彼女の表情が変わった。
「え? ……サンタクロース村?」

「サンタクロース!?」

 突然、第三の声が響いて、今度はみらいとまゆみが驚いて顔を上げる。
 いつの間にかみらいの向かい側に立って、至近距離から雑誌を覗き込んでいたのは、勝木かな。まゆみの親友で、去年の今頃は躍起になって魔法使いを探し回っていた少女だ。

「朝日奈さん! サンタクロースが居るって、この雑誌に書いてあったの? どこに居るの? もしかして、写真が載ってるとか!?」
「ちょ、ちょっと、かな!」
 今にも食いつかんばかりの勢いで雑誌をめくろうとするかなを、まゆみが慌てて止める。

260 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/16(日) 10:57:28
 まゆみとかなは、二年生に引き続きみらいと同じクラスだが、こんな場面は久しぶりだ。ようやく我に返ったかなと、安心したように息をつくまゆみ。それを見ながら、みらいの顔に一瞬だけ、寂しそうな影が浮かぶ。が、すぐに元の笑顔に戻ると、彼女は改めて“フィンランド特集”と書かれたページの小さな写真の下を指差した。
「サンタさんは写っていないけど、ほら、ここ見て。フィンランドには今も“サンタクロース村”っていう村があるんだよ! と、言うことは……」

――ナシマホウ界にも、有名なサンタがフィンランドにいる。

 昨年のクリスマスに、あの世界で聞いた声が蘇る。が、その言葉を口には出さず、みらいは二人の顔を交互に見ながら言葉を続けた。
「もしかしたらサンタさんだって、一人くらいはまだこっちに居るのかもしれない。だからわたし、手紙を書いてみようと思って」

「え? “こっちに居る”ってどういうこと? それに、一人くらいは、って……」
「え……サンタさんに手紙を書いて、それでどうするつもりなの? みらい」
 かなのいぶかし気な声と、まゆみの不思議そうな声がうまい具合に重なった。それに内心ホッとしながら、みらいがもう一度二人の顔を見回す。
「もしかしたらサンタさん、一人じゃ世界中の子供たちにプレゼントが配り切れなくて、困っているのかもしれないでしょう? だから、わたしたちがサンタさんのお手伝いをして、プレゼントを配りたいです、って」

「え〜! わたしたちが、サンタさん!?」
「素敵!」
 戸惑った声を上げるまゆみの隣で、かなが両手の拳を握って力強く叫ぶ。それを見て嬉しそうに微笑んだみらいは、しかしすぐ、ちょっと困ったような顔で下を向いた。そしてそれを誤魔化すように、今度はエヘヘ……と頭をかいてみせる。
「あ、でも……もしもサンタさんが居なかったら、その時は……」
 が、その言葉を言い終わらないうちに、みらいは目を丸くした。かながみらいの手を、パシン、と音がするほどの勢いで握ったのだ。

「そんなこと、手紙を書く前から考えちゃダメよ! まずはサンタさんが居るって信じることが大事なんだから」
「勝木さん……」
 かなは少し不安そうな顔で、中空を見つめながら言葉を繋ぐ。
「今はみんな、サンタさんが居るって信じてる。でも、もし今年のクリスマスにサンタさんが来られなかったら? このままずっと、サンタさんが来ないクリスマスが続いたら? そうしたら、いつか全ての子供たちが、サンタさんなんか信じなくなるかもしれない」
 そう言って、かなはみらいの顔を見つめ、子供の様に激しくかぶりを振った。
「わたしはそんなの嫌! これからも、子供たちがサンタさんにプレゼントを貰って、みんなが笑顔になれるクリスマスを過ごしたいもの。朝日奈さんだってそう思ったから、手紙を書こうとしているんでしょう?」

 ポカンとしてかなを見つめていたみらいの目が、もう一度強い光を帯びる。うん、としっかりと頷いてから、みらいはかなの手をギュッと握り返した。
 二人の様子を黙って見ていたまゆみがニコリと笑って、握られた二人の手に自分の手を重ねる。
「そうだね。わたしだって、ずっと今まで見たいなクリスマスが続いて欲しい。だから今年はみんなで一緒に、サンタさんやろう!」
 三人が、うん、と頷き合ったところで、まゆみがまた少し不思議そうな顔をして、極めて現実的な疑問を口にした。

「ところで、フィンランドって何語なんだっけ。相手がサンタさんだから、日本語でも大丈夫なの?」
「サンタクロース村の人が、全員サンタさんかどうか分からないし……。英語を話せる人が多い国だ、ってこの雑誌に書いてあったから、頑張って英語で書いてみるよ」
「え……英語!?」
 今度は台詞と、少々腰が引けた口調までもがぴたりと重なった二人の声に、みらいが明るく、うん、と頷く。そしてもう一度雑誌に目を落とすと、自分に言い聞かせるようにこう付け足した。
「上手く書けるか自信無いけど、何か出来ることがあるなら、わたしも頑張りたいもん」
 かなとまゆみは一瞬顔を見合わせてから、柔らかな笑顔をみらいへと向けた。



     ☆

261 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/16(日) 10:58:12
 私服に着替え、勉強机のスタンドを点けると、母と祖母の話し声が小さく聞こえた。二人とも、きっと店に居るのだろう。
 みらいは口元だけで小さく微笑むと、鞄の中からあの雑誌と筆箱を取り出した。

「聞いてたよね? 勝木さんとまゆみが、一緒にサンタさんやってくれるって」
 そう言いながら雑誌をめくって、くっきりと折り目のついたそのページをもう一度眺める。
「この記事を見つけた時も嬉しかったけど、やっぱり応援してくれる人が居るって、心強いね」
 雑誌を閉じて机の端に寄せ、今度は英語の辞書を手に取る。その時ふっと、頬が緩んだ。
「英語で書くなんて言ったら、なんでわざわざ? って言われるかな。でもね」
 ノートを取り出して机に広げ、その真っ白なページを、じっと見つめる。
「手紙を書こうって思いついた時、嬉しかったんだ。何より、わたしも一緒に頑張れるんだ、って思ったから。だってきっと、今頃……」
 そこで初めて、みらいは机の隅に座っているぬいぐるみのモフルンに目を向けた。

「強い想いを込めて願えば、奇跡は起こる。そう信じてるけど……わたしだって、何かしたい。こんなことをしても何の足しにもならないかもしれないけど、でも……頑張りたいんだ」
 みらいの表情が、ぐにゃりと歪んだ。もう動くことも喋ることもないモフルンは、そんなみらいを愛くるしい表情で見つめている。
 乱暴に涙を拭いたみらいは、そのつぶらな瞳に小さく笑いかけてから、よし、と気合いを入れて鉛筆を握り締めた。
「見ててね、モフルン」
 そしてみらいは、時折うんうんと唸りながら、辞書を引き引き、ノートに英文を書き始めた。

 それから一週間が過ぎた頃、みらいはようやく手紙を書き上げた。そして、かなとまゆみが調べて来てくれたサンタクロース村の住所に当てて、三人で祈りを込めて、その手紙を投函したのだった。


     ☆


 秋風と呼ぶには冷たい風が、クルクルと落ち葉を舞い上げる。通路の並木はすっかり色づいて美しい。が、その下を歩くまゆみとかなの表情は冴えなかった。
 やがて耐えられなくなったように、かなが口を開く。
「とうとう十一月になっちゃったね」
「うん……」
「朝日奈さん、もう一度手紙を送るつもりなのかなぁ」
「さぁ……」
 力の無い相槌に、かなが上目遣いにまゆみの顔を見てから、すぐに目をそらして長いため息をつく。
 二人の心を占めているのは、未だに返事の来ない、サンタクロースの手紙のこと。あの最初の手紙を出してから一カ月以上が過ぎて、気付けばクリスマスまでもう二カ月弱だ。

 最初の、というのは、あの手紙に続いてみらいは、二通目、三通目の手紙をサンタクロース村に送っていたからだった。
 もしかしたら郵便事故か何かで届いていないのかもしれない、と心配したみらいは、一度は母の今日子に、フィンランドに行きたいと頼み込んだ。だが、中学生のみらいにとってフィンランドは遠く、学校を休んで海外に行くというのは、さすがに母の許しは得られなかった。
 そこでみらいは仕方なく、しばらくしてから二通目の手紙を送った。さらにしばらくして三通目の手紙を送った頃には、街はハロウィンムード一色になっていた。

 ハロウィンが終わると同時に、世間は一斉にクリスマスの準備へと向かい始めた。
 ツリーもイルミネーションも、ケーキもご馳走のチキンも、いつもと同じ。だけど子供たちにとって一番肝心なことには、解決がついていない。このままでは、今年のクリスマスはどうなってしまうのか。

「あーあ、ここに……」
「こんなときに……」
 かなとまゆみが同時に何かを言いかけて、揃って口をつぐむ。
 頭に浮かんだのは同じ人物――人差し指をピンと立てて、得意げに微笑む少女の顔だ。だがその名前はどちらも口に出さずにまた黙って歩き始めた時、後ろから、おーい、と呼ぶ声が聞こえて、二人は、今度は一緒に勢いよく後ろを振り返った。

「来た! 来たよぉぉぉ!」
 上ずった声でそう叫びながら、みらいが走って来る。そして二人に駆け寄ると泣き笑いのような顔で、手に持っている封筒を差し出した。

「本当に、来たんだ……」
「なんて書いてあるの!?」
 かなの言葉で、みらいが封筒の中から大切そうに薄い便箋と、切り取られたノートのページを取り出す。
 便箋には力強い筆致の英文が書かれていて、行間には薄い鉛筆で、みらいの字で単語の意味が小さく書き込まれていた。食い入るようにそれを見つめる二人の隣で、みらいがノートの方を開いて読み始める。

262 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/16(日) 10:58:56
「何度も手紙を送ってくれてありがとう。あなたからの全ての手紙を、とても嬉しく読みました。そして、返事が遅くなって本当にごめんなさい。実は、クリスマスにわたしを手伝いたいと言ってくれる人たちが……たくさんの人たちが、居ます。私は彼らからの手紙をたくさん受け取っていて、そのため返事が遅くなりました……」
「うわぁ、他にもみらいみたいに手紙を出した人が、たくさん居たんだ!」
「それで、続きは?」
 弾んだ声を上げるまゆみに頷いてから、かながそわそわと先を促す。

「あなたの強い想いは、私に大きな力を与えてくれました。サンタクロースが居るクリスマスを守りたいと言ってくれて嬉しかった。だから私も勇気と共に、行動しようと思います。近いうちに、私の想いを世界中の人たちに伝える予定です。ですから是非あなたに、私の手助けをしてほしい」
 そこまで読みあげてから、みらいは笑顔で二人の顔を見回すと、少し声を震わせながら、最後の言葉を口にした。
「感謝を込めて。サンタクロース」

「やった……やった、やったぁ! みらい、凄すぎ!」
「やっぱり信じて良かったね……朝日奈さん!」
 みらいに抱き着いて飛び跳ねるまゆみと、その隣で目を潤ませるかな。そんな二人の手をギュッと握りしめ、みらいは感極まった声で言った。
「本当に、二人のお蔭だよ。ありがとう! まゆみ……かな!」
 かなの目が大きく見開かれ、その頬がうっすらと赤く染まる。
「朝日奈さん……ううん、みらい! わたしの方こそ、ありがとう!」
「良かったね、みらい、かな」
 通学する他の生徒たちが不思議そうに通り過ぎる中、三人はしばらく手を取り合って、幸せの余韻を噛みしめていた。

 嬉しいニュースはさらに大きくはっきりとした形で、数日の後にやって来た。
 突然、全世界のテレビでニュース特番が組まれ、本物のサンタクロースが生番組でメッセージを発信したのだ。

「以前は私の他にもたくさんのサンタが居たが、今は遠くに離れてしまった。でも世界中の多くの人たちから、サンタクロースを失いたくないという、あたたかな声を頂いた。だから私も皆さんと一緒に、自分が出来ることを全力でやって、子供たちに笑顔を届けたい。あなたも仲間になってくれないだろうか。あなたの町のサンタクロースとして、子供たちに笑顔を届けてくれないだろうか」

 サンタクロースのメッセージは、あらゆる国で大きなニュースになった。そして、あれよあれよと言う間に世界各地にサンタクロースの事務局ができて、フィンランドのサンタクロース村には、膨大な量の手紙やメールが送られた。
 それらをどうやって捌いているのかは誰にも分からなかったが、見る見るうちにサンタクロースのネットワークが世界を繋ぎ、子供たちからサンタクロースに送られた手紙の中身が、各国の事務局へと送られていった。
 こうしてクリスマスには、トナカイの橇ならぬ自動車や自転車、場所によってはスノーモービルや水上バイクに乗ったサンタたちが、これだけは以前と変わらず鈴の音を響かせて、子供たちの元へと向かったのだ。

 そして津奈木町にも、サンタになりたいと願う人たちの事務局が、津奈木第一中学校に設立された。代表になったのは、みらいたちに頼まれて二つ返事で引き受けてくれた、数学の高木先生だ。
 老若男女たくさんのサンタたちに混じって、みらい、かな、まゆみ、それに大野壮太や並木ゆうとたちがサンタの衣装に身を包み、子供たちの居る家々を回った。

「サンタクロースって、大変だけどこんなに楽しいんだね」
 ゆうとが曇った眼鏡を拭きながら楽しそうに笑う隣で、壮太はサッカーで鍛えた足腰を生かして、大きな白い袋を軽々と運ぶ。
 まゆみはサンタの口真似をするたびに耳まで真っ赤になり、反対にかなはノリノリで、ホッホッホォ〜、と腰に手を当てて笑った。

 そしてプレゼントを配った翌朝、みらいはサンタになったみんなを誘って、公園へと足を向けた。
「みて〜。サンタさんにもらったの」
「あたしも〜」
 幼い二人の女の子が、嬉しそうにプレゼントに貰った人形を見せ合っている。男の子たちも、サンタに貰ったらしい飛行機やロボットのおもちゃで、元気に遊び回っている。
 子供たちのそんな様子を見ながら、顔を見合わせて笑顔になる仲間たちの姿を、みらいも笑顔で眺めてから、そっと遠い空を見つめた。

 中学校を卒業してからも、このメンバーはクリスマスのたびに集まって、誰一人欠けることは無かった。そして、クリスマスにはみんなで集まってサンタになる――それはいつしかみらいたちの、大切な年中行事のひとつになっていった。



     ☆

     ☆

     ☆

263 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/16(日) 10:59:40
「まゆみ〜! ここにあるプレゼントは、全部この袋に入れちゃっていいの?」
「うん! あ、だけど、持ち上げられないほどは入れちゃダメだよ、かな」
「そんなことしないよ〜」
 大学生になった今も、あの頃と同じように仲良く笑い合う二人を見ながら、みらいが小さく微笑む。
 今日はクリスマス・イブ。例年通り、サンタたちはみんな、朝から子供たちにプレゼントを配る準備で大忙しだ。
 この津奈木第一中学校の体育館を開放してもらってプレゼントを仕分けし、袋に詰めていくのだが、毎年のことなので、みらいたちはもう手慣れたものだ。だが、今年はいつもの年とは違って嬉しい助っ人がやって来るとあって、みらいは勿論、仲間たちもみんなとても張り切っていた。

 この春、数年ぶりにナシマホウ界にやって来たリコとことは、それにジュンたちは、みらいとモフルンとの感動の再会の後、中学時代の仲間たちとも久しぶりの再会を果たした。ことはが余りにも変わっていないとみんな驚いていたが、すぐに懐かしい話に花が咲き、全員があっという間に中学時代に戻ったかのような、楽しい時間を過ごしたのだ。
 明日はそれ以来の再会となる。もっともみらいは、今年の夏休みはリコの休みに合わせて魔法界で過ごしたのだが、誰よりも再会を心待ちにしているのは、勿論みらいだった。

 夏休み、魔法学校のリコの部屋で、クリスマスの話題になった時のことを思い出す。四人で朝日奈家で一緒に過ごしていた頃の話をしている最中に、リコがこう切り出したのだ。
「そう言えば、ナシマホウ界のクリスマスって、今どうなっているの? みんなとっても心配していたんだけど」
 その言葉がきっかけになって、魔法界とナシマホウ界のクリスマスの話になった。離れている間にそれぞれに変化した、二つの世界のクリスマスの。
「よぉし。じゃあ今年は、両方のクリスマスに行ってみよう!」
 ことはが相変わらず元気いっぱいにそう叫んだが、今は二つの世界を行き来するのに、カタツムリニアで数日かかってしまう。
 そこで、今年はみんなでナシマホウ界のクリスマスに参加して、来年のクリスマスは魔法界で過ごそう、と約束したのだが。

(わたしの勘が正しければ、きっと……。リコにちゃんと見せられたらいいなぁ)

 手の中のプレゼントの包みに目をやって、みらいが楽しそうに微笑む。
「またリコちゃんやことはちゃんに会えるなんて、最高過ぎ!」
 プレゼントをせっせと袋に詰めながら、まゆみもみらいの顔を見て、ニコリと笑う。するとその隣から、かながふと思い出したように言った。
「あ、そう言えば、花海さんなら今朝見かけたけど?」

「え?」
 思いがけない言葉に、みらいが目をパチクリさせる。
 普段はナシマホウ界と魔法界の向こう側の、そのまた向こう側に居るということはは、春に再会した時も、そして夏に魔法界に行った時も、みらいとリコ、二人が揃うとどこからともなく現れた。
 リコたちは、夕方こちらに着くことになっている。だからみらいは、ことはもその頃に現れるものだとばかり思っていたのだが。

「はーちゃんを、どこで見かけたの? かな」
「通学路の並木のところで。凄く楽しそうに、スキップしながら歩いてたわ。声をかけようと思ったんだけど、見失っちゃって」
「え? あの道、一本道なのに?」
 今度はまゆみが不思議そうに問いかける。
「そうなの。それで、こっちに手伝いに来てくれたのかなぁって思ってたんだけど、そう言えば見かけてないわよね?」
「うん……」

 みらいがプレゼントを袋に入れるふりをして、斜め掛けにした鞄の中をこっそりと覗き込む。今は鞄の中に隠れているモフルンが、不思議そうな表情でみらいを見上げ、ふるふると首を横に振った。

(この世界に来ているのに、はーちゃんがわたしたちの前に姿を現さないなんて……)

「何かあったのかな」
 みらいが心配そうにポツリと呟いた、その時。
「みんな、久しぶり〜! カタツムリニアが、やけに早く着いてさぁ。だから、手伝いに来たぜ」
「ちょっと、ジュン! カタ……か、片付けまで居られればいいんだけど、早く帰らないといけないかもしれないし」
 体育館の入り口から聞き慣れた声がして、四人の女性がこちらに近付いて来る。その姿を見て、みらいはぱぁっと顔を輝かせた。


〜続く〜

264 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/16(日) 11:01:39
以上です。ありがとうございました!
続きもなるべく早く投下させて頂きます。

265 ゾンリー :2017/04/19(水) 21:16:45
こんばんは、ゾンリーです。
映画に出て来たスズちゃんとアコのお話です。
1レス使わせて頂きます。

266 ゾンリー :2017/04/19(水) 21:17:30
あ、タイトルは「いつか望んだ横顔は」です。

267 ゾンリー :2017/04/19(水) 21:18:02
「あ、見てアコてんとう虫だ!」
「わあホントだ。かわいいね。」
小学校の帰り道。珍しく奏太君が風邪で休んだので私_スズとアコ、2人での帰り道。
私達はアスファルトの塀に向かって座り込んだ。
名前のわからない雑草に2匹の真っ赤なてんとう虫が止まっている。
私は隣でてんとう虫をつつくアコの横顔を見つめていた。
「昔はさ、こうして横顔を見ることって無かったよね」
「急にどうしたのスズ?…でも考えてみればそうだったわね」
「アコは王女さまで、私は王宮音楽隊の娘。一緒に遊んだ事は一杯あったけどこうして隣に並ぶなんて考えもしなかった。」
「でもどこかに、そうなりたいって想いはあったんじゃない?」
アコの優しい言葉に、素直に頷く。
「…地位の差も無くして、王族だからって遠慮もしなくて、ただただ親友として遊びたかった。それが今__」
私の言葉を遮ったのは男性3人組。
「「「何をしている〜♪」」」
高中低音がハモる。
「三銃士の皆さん。」
「やぁースズちゃん、久しぶりだねぇ」
声の低い、ガタイのいい人はバスドラさん。
「元気にしてましたか?」
少し高めの、優柔不断そうな人はファルセットさん。
「見ない内に大きくなって…」
女性的な顔立ちの普通の声の人はバリトンさん。
「アンタ達、どうしたの?」
アコが尋ねると三銃士はまた声を揃えて言った。
「「「ご無沙汰してますアコ王女〜♪」」」
「王女はやめてって言ってるでしょ。ほら…その、スズに対しての接し方と同じでいいから。」
反論するアコは頬が少し赤い。
「「「了解〜♪それでは仕事があるんで失礼します〜♪」」」
普通の(?)3人乗り自転車で楽器店の方向へ向かう三銃士。
「はぁ。なんなのアイツ達。」
「ふふっ、アコありがとね。」
「??」の吹き出しが似合いそうな首を傾げるポーズを取るアコ。
「さっき『王女はやめて』って言ってくれたでしょ?それが嬉しくて」
顔だけ向かい合い、最大級の笑顔。
「だって私も、スズと一緒の景色を見たい。王女だからとか、平民だからとかそんなの関係無しに隣にならんでさ。スズや奏太、皆といるとそれが叶う。アコ女王とスズじゃなくて調辺アコとスズになって、互いの弱さを出せる。素直な笑顔でいられる!隣にいて欲しいっていう気持ちはお互い様。」
上を見上げるアコ。私はてんとう虫を指先に乗せ、眩い空へと羽ばたかせた。アコも同じ動作をする。
「知ってる?てんとう虫って「幸せを運ぶ虫」なんだって。アコは私にとってのてんとう虫だ!」
「スズだって、私にとってのてんとう虫だよ。」
たくさん笑いあって、歩き出す。繋がれた手は永遠に続く私達の絆を抱きしめるようにしっかりと繋がれていた。
私は奏太君の風邪にちょっぴり感謝しながら、もう一度アコの横顔を見つめるのでした。

268 ゾンリー :2017/04/19(水) 21:18:36
以上です。ありがとうございました!

269 名無しさん :2017/04/19(水) 21:35:56
>>268
今はスズちゃんも加音小学校に通ってるんだね。
お互いに隣に居たいと願う二人が可愛かった。GJ!

270 名無しさん :2017/04/19(水) 23:41:23
>>268
短いながらも密度の濃い、そして色んな味がする作品だと感じました。

271 Mitchell & Carroll :2017/04/22(土) 00:00:03
『黒猫エレンの宅急便』


 帰って来るやいなや、ベッドに体ごと投げ出し、そのまま寝てしまう。メイクも落とさずに、風呂にも入らずに、食事も摂らずに、そのまま寝てしまう。そんな日がもう何日続いている事か。心配したハミィが、非力ながらも、エレンの足をベッドの中に納めて、布団を掛けてやる。そんな日がもう何日続いている事か。朝起きて、自分の体に栄養を流し込み、ろくに身支度も整えないまま、また忙しなく働き出す。そんな日がもう何日続いている事か。日に日にやつれ、亡霊にでも取り憑かれているように髪もボサボサに荒れ、口元は何やら住所のようなものをブツブツと唱えている。心配した奏が、「女の子は身だしなみが大事よ」と言って髪を梳かしてやろうとするが、そんな暇は無いと言って何処かへ消えてしまう、響もまた、「疲れた体には甘いものがイチバン!」と言って、スイーツを差し入れたりするのだが、必ずと言っていいほどエレンは、ダンボールが擦れる“シュガー”という音を思い出し、やはり何処かへと姿を消してしまう。そんな日がもう何日続いている事か。

 事の発端は数日前。
「私、宅急便を始めるわ!」
 何でも新しいギターを買うため、そしていつまでも音吉に世話になるのも申し訳無いから一人暮らしをするための資金作りとのことらしい。それともう一つ、困っている人を助けたい、自分も何か社会貢献がしたいとのことだった。何でも宅配業者が本格的な人手不足で困っているというニュースを聞いて、居ても立ってもいられなくなったのだ。しかし始めてみるとこれがまた大変で、そもそも運転免許を持っていないエレンは、トラックの代わりにリアカーを牽いて荷物を運んでいる。ここ、加音町は音楽を嗜んでいる者が多いせいか、重い楽器の荷物も少なくない。しかも、せっかく配達先に辿り着いたと思ったら在宅者不在で、重い荷物を載せたまま次の配達左記へと向かうなんてことも――そんな日がもう何日続いている事か。疲労困憊で指先は痺れ、ろくにギターのコードを押さえる事も出来ないどころか、ギターに触れる時間すら無い。心の栄養も失ったエレンは、今日もまた何処かへと荷物を配達している。悪魔の尻尾のようなマークの付いたダンボール箱を、山ほど載せたリアカーを牽いて……。
 
 しかし物語はここで終わりではない。ある日、何やら配達物の中からフレッシュな香りが漂ってくるのを感じた。空腹に我慢できなくなったエレンは、ついダンボール箱の封を開けてしまった。中には、生鮮食品が詰められていた。極限状態だったエレンは、無我夢中でそれらを貪った。一通り平らげて、正気に戻ったエレンは、自分は何て事をしてしまったんだろうと、往来でオイオイと声を上げて泣き始めた。何事だろうと一人、また一人と寄ってきて、あっという間に人だかりができた。そこを割って入って来たのが、響たちだった。事情を聞いてやった後、奏が代わりに人だかりを解散させ、結局皆で配達先に謝りに行った。幸い、話の通じる依頼主だったので、許してもらえたばかりでなく、皆に飴玉まで与えてくれた。そして営業所に戻ったエレンは、その日限りで解雇となった。

 久しぶりの風呂。熱いシャワーが、皮膚にまとわり付いた汚れやその他諸々を一気に洗い流してくれる。その間、響たちは栄養の付くものを、とキッチンでせっせと調理をしている。湯船にチャプンと浸かったエレンは、何やら聞こえてくる話し声と、おそらく炒め物をしているのであろう、ジュージューという音に耳を済ませている。奏の怒鳴り声が聞こえる。響が段取りを間違えたのかしら?それともハミィがつまみ食いをしたとか?久しぶりに心からちょっとだけ笑顔になって、軽くなった体を拭いていると、アコが入ってきた。「あなたもお風呂?」と訊くと、そうではなく奏が最近覚えたという歌に耐えられないとのことで、避難してきたらしい。
 リビングには豪勢な料理が並んでいた。景気付けにと、久方ぶりにギターを手に取ったエレンは、さっきの奏の歌に即興で伴奏を付けてやった。ギターの音色で中和させただけでは足りなかったのか、アコは両耳を塞いだままだった。口直しにと、エレンは自作の優しい歌を弾き語った。それにハミィも加わる。憶えやすいメロディーだったので、次第に響と奏、それにアコも加わって、食卓に音の彩りが添えられる。極めつけは、ハミィの言葉のトッピング。
「セイレーンは、心に歌を届ける天才ニャ!」
 そう、それは一瞬にして。


 〜終〜

272 名無しさん :2017/04/22(土) 10:08:05
>>271
確かにトコトンやりそうでコワいわ、この子はw
そしてきっと、夜間配達もNGだね。お化けに怯えてすぐに荷物放り出しそう。

273 名無しさん :2017/04/23(日) 22:45:53
>>271
独特の文章で長文なのに読みやすいし面白い。
1スレで終わるのに色々ハッとさせられる。締め方がうまいし後味もいい!
エレンの不器用さが愛おしいです。

274 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/28(金) 00:49:21
こんばんは。
遅くなりましたが、まほプリ三部作の二章が書けましたので、投下させて頂きます。
7、8レス使わせて頂きます。

275 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/28(金) 00:49:53
 クリスマスに行われるあの行事――校長先生が“新しい伝統”って呼んでる祭典が始まったのは、あたいたちが魔法学校の三年生の時だった。

 あの年に起こった“大いなる混沌の日”のことは、ハッキリと覚えてるヤツが居ないんだ。あたいも、あの日はどういうわけだか、みらいたち、それにかなやまゆみとも一緒に居たような気がするんだけど……気が付いたらエミリーとケイと三人で、魔法学校の池のそばに立っててさ。
 空から色とりどりの花びらが降って来て、びっくりしてそれを眺めていたら、リコがやって来たんだ。魔法学校の制服じゃなくて、ナシマホウ界の服を着て。あたいたちを見て小さく微笑んで見せたけど、さっきまで泣いてたみたいな真っ赤な目をして。
 どうしたんだよ、って駆け寄ったら、今度は池の水面に校長先生の顔が大写しになってぎょっとしたっけ。でもそんな驚きは、ほんの序の口だった。

 みんなの無事を確認してから、校長先生はいつになく重々しい声で、こう言ったんだ。魔法界とナシマホウ界、二つの世界は混沌の反動で果てしなく遠く分かたれ、今の我々の術では行き来が出来なくなった、ってな。
 その瞬間、あたいは全身の力が抜けたような気がした。何て言うか、今までずっと見つめ続けてきたキラキラ輝く大きな星が、急に消えちまったような……そんな感じがしたんだ。
 どうやって立っているのかもわからないくらい、何だか呆然として、校長先生の声も遠くなって……。なのにあの時、よくリコの声が耳に入ったもんだって、今でも思うぜ。もしあの時のリコの声が無かったら、あたいは全てにやる気をなくして、ヤケになっていたかもしれないのに。

「それでも必ず……絶対、会いに行くんだから!」
 リコはそう呟いてたんだ。あたいの隣で、小さな小さな声でな。
 最初は、またリコが強がり言ってるって、ぼんやり思った。でも、ギュッと握った拳をブルブル震わせて呟いているリコを見ているうちに、何だかカーッと胸の中が熱くなってきて……。気が付いたら、あたいはリコの拳を掴んでこう叫んでた。
「ああ。あたいも行く。絶対に……絶対に行く!」
 言葉にした瞬間、自分でもびっくりするくらい、ボロボロと涙が溢れた。エミリーは最初っから泣いてたし、ケイも、あたいの手の上に手を重ねながらしゃくり上げてたっけ。
 でもリコは――リコだけは、相変わらず拳を握りしめたまんま、最後まで涙は見せなかったんだ。



     サンタとサンタのクリスマス( 月の章 )



「すげぇなあ、リコ。また満点かよ!」
 ざわめく教室の中でもひときわ響く大声に、リコは赤い顔をして振り返った。声の主は、すぐ後ろの席に座っているジュン。リコの手の中の、今返されたばかりの答案用紙を、感心した顔つきで覗き込んでいる。
 一瞬静まり返った教室は、すぐにさっきとは比較にならない、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。その様子を困った顔で見回してから、リコが今度は非難がましい目をジュンに向ける。

「ちょっと! 勝手に人の答案、見ないでよ」
「隠さなくたって、どうせ先生に言われるだろ? 何たって、三年生になってからオール満点! えーっと……何連続になるんだっけ?」
「わたしのメモによると、二十回連続ね」
 ジュンの隣で、ケイが手帳をめくりながら即座に答えた。
「凄っ! っていうか、テストってもうそんなにたくさん受けたのかぁ!」
 ジュンが驚いたように呟く。三年生の夏休みも終わり、二学期もそろそろ半ばに差し掛かっていた。
「リコは凄いね。わたしも頑張らないと」
 リコの隣からエミリーが、騒音に掻き消されそうな声で語りかける。と、その言葉が終わらないうちに、教壇の方からパンパン、と手を打ち鳴らす音がした。

「皆さん、静かにして下さい」
 そんなに張り上げているようには聞こえないのに、教室中によく通る声が響く。リズが、いつもように穏やかな表情で生徒たちを見渡していた。
「今回のテストでは、リコさんが満点を取りました」
 わーっという歓声と拍手の音に、リコが再び赤い顔で、照れ臭そうに俯く。
「全体的に、前回よりもみんなよく出来ているわ。この調子で頑張って下さいね。では、今日の授業を終わります」

 軽く会釈をして教壇を下りると、リズは真っ直ぐリコに近付いて来た。
「リコ、今回もよく頑張ったわね。でも……」
 言いよどむ姉の様子に、リコが不思議そうに首を傾げる。
「昨日も帰りが遅かったようね。寮の門限ギリギリだった、って聞いたわ。夕食はちゃんと食べたの?」
「……ええ」
「そう。でも、顔色があまり良くないわ。頑張ることも大切だけど、ちゃんと食べて寝て、身体を労わらないとダメよ?」
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、お姉ちゃん」
 微笑む妹を心配そうに見つめ返して、リズが教室を出て行く。それを見送ってから、今度はケイがリコの方へ身を乗り出した。

276 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/28(金) 00:50:25
「リコ、昨日の集まりの後、またどこかに出かけたの?」
 ケイの言う“集まり”とは、再びナシマホウ界に行く手立てを探すための活動をしているグループの集会だった。ナシマホウ界に住んでいたことがある人たちが中心になって作られたものだが、仕立て屋のフランソワに教わって、リコたち四人も結成直後から参加している。
 メンバーの中には魔法界の重要な職務である星読み博士や、カタツムリニアの生態を研究している学者もいた。その上議題が議題ということもあって、この集まりはとにかく話が難しいのが難点で、リコたちも出席はしたものの、話にまるで付いて行けないという日も少なからずあった。
 しかも、そんな難しいことを長い時間話し合っても、ナシマホウ界に行く方法の糸口は、今のところ全く見つかっていなかった。そろそろアイデアも出尽くして、最近では集会にかかる時間も、以前に比べれば短くなってきている。
 昨日の集まりも思いのほか早く終わって、四人が寮に戻った時には、門限までまだ二時間以上あったのだが。

「天気が良かったから、ちょっと散歩してたの」
 リコが、さっきリズに向けたものと同じ微笑みを、仲間たちに向ける。それにニッと笑い返して、ジュンがリコの肩に、ポンと手を置いた。
「ならいいけどさぁ。さっきは満点で大騒ぎしちまったけど、リズ先生も心配してんだ。あんまり無理すんなよ」
「わかってる。じゃあ、今日は早めに帰って休むわね」
 そう言ってリコが立ち上がる。
 教室の階段を上がっていく後ろ姿を見送って、ジュンは微かに眉をひそめた。リコの足取りが、何だかいつもと違って少し重そうに見えたからだ。
 が、昨日も帰りが遅かったということだし、きっと疲れているのだろうと、ジュンはそれを特に気には留めなかった。


     ☆


 それから半月ほど経った、ある日のこと。
 授業が終わって教室を出ようとしたジュンとケイは、二人同時に首を傾げて顔を見合わせた。遅れてやって来たリコが、二人の視線の先を見て、やはり首を傾げる。
 誰も居なくなった教室に、ぽつんと残る人影。エミリーが机に頬杖をついて、じっと黒板を見つめている。

「エミリー、どうしたの?」
「え?」
「え、じゃないわよ。授業はとっくに終わったわよ?」
「あ……ああ、そうね」
 曖昧に笑って席を立とうとしたエミリーが、間近に迫ったリコの顔を見て真顔に戻る。その隣にはジュンとケイ。揃って心配そうな仲間たちの姿があった。

「何かあったのか?」
「うん……何か、っていうわけでもないんだけど」
 エミリーが席に座り直すのを見て、ジュンがその前の椅子に斜めに腰かける。リコとケイも、それぞれ周りの席に腰を下ろした。

「昨日、魔法商店街に出かけたんだけど、何だか様子がおかしくて」
「様子って、魔法商店街の?」
「ええ。凄くヘン、ってわけじゃないんだけど、何だかいつもと違ったの。なんて言うか……活気が感じられない、っていうか」
「それって、閉まってる店が多かったとか、そういうことじゃないんだよな?」
 ジュンの問いに、エミリーが大きくかぶりを振る。
「違うの。店は開いているんだけど、みんな元気がない気がして。そのせいなのか、商店街がやけに静かだったし」
 エミリーの言葉に、リコたち三人が再び顔を見合わせる。

「この前のカボチャ鳥祭りの時は、いつもの年と同じように盛り上がっていたでしょ? それなのに……って思ったら、気になってたまらなくなっちゃって。それでつい、考え込んじゃって」
「そう……」
 リコがポツリと相槌を打つ。すると今まで黙っていたケイが、ああ、と少し暗い顔で頷いた。
「カボチャ鳥祭り、って聞いて思い当たったわ。この前、わたしも魔法商店街に行ったんだけど、その時フックさんが言ってたの。原因は、クリスマスじゃないかな」

 ケイが、珍しく手帳を見ることもなく、机の上に視線を落として話を続ける。
 魔法界では、毎年クリスマスには多くの大人たちがサンタになって、魔法界とナシマホウ界、両方の世界の子供たちにプレゼントを配ってきた。だが、ナシマホウ界と行き来が出来なくなった今年からは、サンタの仕事も大幅に減ってしまうということになる、と。

「カボチャ鳥祭りが終われば、次はクリスマス、って誰もが思うでしょう? そこでこの現実を突き付けられて、やっぱり寂しいなぁってみんなが思ってるみたい。ナシマホウ界にはもう行けないんだってことを、改めて思い出して」
「そうか。言われてみれば、毎年この時期には魔法商店街のあちこちからクリスマスの飾りつけの話が聞こえてくるのに、誰もそのことを口にしていなかったわ」
 ケイの話に頷いたエミリーが、ハァっと大きなため息をつく。続いてケイが。そしてジュンが。だが、リコはグッと口を引き結ぶと、ガタンと音を立てて立ち上がった。

277 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/28(金) 00:50:56
「どうしたんだ? リコ」
 今度はジュンが不思議そうな顔で問いかける。そちらには目を向けず、リコはとんがり帽子の制帽を、目深に被った。
「帰るのよ。こうやってみんなでため息をついてたって、しょうがないもの」
「そ、そんな言い方しなくたって……」
「おい、そんな言い方はないだろ?」
 小声で反論するエミリーを庇うように、ジュンが少々ムッとした口調になる。それを聞いて、困った顔でチラリとエミリーに目をやってから、リコはすぐに横を向いた。帽子の陰から、少しくぐもった声が聞こえてくる。
「ごめん。でも、ただ心配しているだけじゃ、何にもならないもの。やっぱり一日でも早くあの世界に行けるように、もっと頑張らなきゃいけないのよ!」
「だから、みんな頑張ってるだろ? だけどなかなか上手く行かないのは事実じゃないか。だったらみんなで心配したり、慰め合ったりしたって……」
「だから……そんなことをしても、何にもならないのよっ!」
 リコがそう叫んで、机に掌を叩きつけようとした、次の瞬間。

「リコ!!」
「おい、大丈夫かっ!?」
 エミリー、ケイ、そしてジュンが、驚いた顔で立ちあがる。
 リコが、ずるずるとその場に崩れ落ちると、バタリと床に倒れ、そのまま意識を失ってしまったのだ。


     ☆


 目を開けると、薄暗い天井がそこにあった。そろそろと起き上がり、枕元の時計を確認する。
 時刻はもう夕方に近い。どうやら丸一日眠っていたらしく、そのお蔭か、身体はずいぶん楽になっていた。

 昨日、この寮の自室で目を覚ました時には、心配そうなリリアとリズの姿があって、リコはそこで初めて自分が教室で倒れたのだということを知った。
 医師の話では、原因は過労だという。そう言われてみれば、身に覚えが無いこともない。
 魔法界とナシマホウ界。今は大きく広がってしまった二つの世界の狭間を超えるヒントが、何か少しでも無いものか――そればかりを考えて、仲間たちと集会に出た帰りにもう一度図書館に行って調べ物をしたり、カタツムリニアの線路の上を、箒で飛べるところまで飛んで手掛かりを探してみたり。そうやって毎日思いつく限りのことをして、門限ギリギリに寮に駆け戻る毎日。寮に帰ったら帰ったで、今度は消灯時間を過ぎてもなお、勉強に明け暮れる。
 魔法もずいぶん使っていた。もっと色々な魔法が使えるようになるために。そして、何とかしてナシマホウ界へ行くための手掛かりを見つけるために。
 ただ呪文を唱えて杖を振るだけの、傍から見れば楽そうに見える魔法だが、使い過ぎればかなりの体力を消耗する。そこに睡眠不足やら何やらが重なって、ダメージが蓄積されたのだろう。

(だけど……わたしには、やれることがあるんだもの)

――何もしないでいるなんて……我慢できない!

 もう何度となく思い返した、みらいの言葉がまた蘇る。
 いなくなったはーちゃんを探して、思いつく場所を全部探し尽しても見つからなかったあの時、湖の見える真夜中の展望台で、彼女が声を震わせて言った言葉だ。

(みらい……今頃、どうしているのかしら)

 リコはもう一度ベッドに横になって、ぼんやりと天井を見つめた。
 ナシマホウ界――魔法界の存在すら知られていない世界にいるみらいに、出来ることは何もない。それがみらいにとってどれほど辛く苦しいことか、それはリコが一番よく知っている。

(だから……だから一日でも早く、会いに行かなくちゃ! でも……)

 リコの口から久しぶりに、ハァっと重いため息が漏れた。

(でも……わたしもみらいと同じかもしれない)

 いくら本を調べても、魔法界の果てまで飛んでみても、まだ収穫は何もない。リコだけでなく、集会に出ている多くの魔法つかいが持てる力や知識を出し合っても、思うような成果はまだ何も現れていないのだ。

(これじゃあ、やれることがあるって言っても……)

 不意に天井が歪んで見えて、リコは慌てて目をしばたきながら起き上がった。
 少し気分を変えようと、部屋の中を見回す。すると勉強机の上に、去年の誕生日に母から貰った絵本が置いてあるのが目に入った。こんなところに置いておいた覚えはないから、おそらく昨日来てくれた母のリリアが本棚から引っ張り出したのだろう。

 机の上に手を伸ばし、ベッドに腰かけたまま、絵本のページを開く。
 幼い頃から何十回も読み聞かせてもらった物語。自分で文字を追っていても、それは全てリリアの声で聞こえてくる。
 やがて、ページをめくるリコの手が止まった。
「……女の子たちの強い想いは、雲を払いのけ……」
 絵本の最後のページ――二つの星が笑顔で並ぶページを見つめて、リコが呟く。
「強い想い、か……」

278 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/28(金) 00:51:30
 突然、真紅の光がリコの脳裏に煌めいた。情熱のリンクルストーン・ルビー。想いをたぎらせたキュアミラクルの胸に何度も輝いた、強くて真っ直ぐで、熱い光だ。
 その煌めきに、キュアマジカルとキュアフェリーチェは何度助けられたことだろう。
 ある時は、ただ一人彷徨う世界の狭間で。またある時は、強大なムホーの力に打ちのめされた、闇に沈む結界の中で。

(そうだわ。想いは……想いの力は……!)

 リコはパタンと絵本を閉じて机の上に置くと、部屋のカーテンを開けた。暗くなりかけた空の下、魔法学校と、それを支える母なる木の大きな幹が見える。
 辺りがすっかり闇に沈むまで、リコはその見慣れた光景を、ただじっと見つめていた。


     ☆


「まあ、リコさん! あなた、身体はもう大丈夫なの? もう学校に出て来てもいいんですか?」
 校長室に入った途端に厳しい口調で追及されて、リコは思わず二歩、三歩と後ずさった。先に来ていたらしい教頭先生が、両手を腰に当て、いかめしい顔でリコに迫る。

「え……ええ。ご心配かけて、すみません」
「あ、あのぉ、校長先生はお留守ですか?」
 ジュンがリコの隣から声をかける。ジュンの隣にはケイ、その隣にはエミリー。いつもの四人が揃って校長室にやって来ていた。

「ええ。困ったことです、また黙って校長室を留守にして……。ところであなた方は、校長先生に何のご用で?」
「実はお願いしたいことがありまして。クリスマスの……」
「え、えーっと、急ぎのお願いじゃないんで、また今度、校長先生がいらっしゃる時に……」
 ジュンが突然リコの言葉を遮って、アハハ……と愛想笑いをしながらその場から立ち去ろうとする。が、そのわざとらしい小細工が裏目に出た。
「あらそう。それは別に構いませんが……私の耳には入れたくないお願い事かしら?」
「い、いいえ、そんなことは……」
 リコは慌てて顔の前で両手を振ってから、もうっ! と肘でジュンの脇腹をつついた。

 学校を三日休んで今日から登校したリコは、休んでいる間に考えていたことを、今朝真っ先にジュンたち三人に相談した。そして放課後になるのを待って、校長先生にお願いにやって来たのだが……。
 部屋の中を見回したが、どうやら魔法の水晶も不在らしい。仕方なく、リコは覚悟を決めて教頭先生に向かい合った。

「クリスマスに、やりたいことがあるんです。魔法学校が中心になって」
「それは、生徒によるイベント、ということですか?」
「いいえ。会場は魔法学校ですが、魔法界全体が参加できるものを、と考えています」
「まあ、そんな大掛かりなことを……」
 教頭先生が一瞬だけ眉をひそめてから、それで? と先を促す。

「魔法学校を支え見守るあの大きな木――母なる木に、魔法で光を灯したいんです。魔法界のみんな一人一人の、想いを込めた光を」
「まあ、あの木に……」
 そう言ったまま、教頭先生はしばらくの間黙り込んだ。

「あの……このままじゃ、今年のクリスマスはきっと、とっても寂しいものになると思うんです」
 意外にも、沈黙を破ったのはエミリーだった。いつもと同じ自信なさげな口調ながら、それでも教頭先生の目を見て懸命に言葉を紡ぐ。
 少し驚いた顔でエミリーを見つめた教頭先生は、ふっと表情を和らげると、彼女に小さく頷いて見せた。

「確かに。今年はナシマホウ界の子供たちには、プレゼントを配れないでしょうからね」
「はい。だからせめて、ナシマホウ界やナシマホウ界の子供たちへの想いを、光に込められたらなぁって」
「いつか必ずナシマホウ界に行くぞ、っていうあたいたちの気持ちも、一緒に輝かせたいんです」
 ケイとジュンも口々にそう言って、教頭先生を見つめた。

 校長室がしんと静まり返る。教頭先生は小さく咳払いをすると、相変わらず重々しい調子で口を開いた。
「話は分かりました。魔法界全体の行事ともなると、校長先生とよ〜く相談しなくてはなりませんが……その前に、私からあなた方に質問があります」
 そう前置きしてから、教頭先生はじろりと四人の顔を見回した。
「“校則第十八条:魔法学校を支える母なる木に登ったり、傷付けたりしてはならない” 三年生のあなた方ならご存知ですよね? あの木には不思議な、そして大いなる力が宿っています。光に想いを込めるだけなら、どの木でもいいはずでしょう? それなのに、あの木を選んだのは何故ですか?」

「やっぱり、あの木に魔法をかけるなんて無理なんじゃないの?」
「今更言うなよ……」
 ケイとジュンがひそひそと言い合う隣で、エミリーは不安そうに、リコは考え込むように下を向く。
 腕組みをしたままじっと答えを待つ教頭先生が、しびれを切らしたのか、ピクリと眉を動かした時、リコが低く小さな声で、こう答えた。

279 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/28(金) 00:53:06
「それは……大いなる力が宿っている木、だからです。ずっとわたしたちを……魔法界を見守ってくれている木だから、わたしたちの想いも、きっと受け止めてくれるって……」
「受け止めてもらうだけですか? リコさん、あなたはこの行事を通して、何をしたいんです?」
 教頭先生が、真っ直ぐにリコの目を見つめる。その視線を受け止めて、リコは考え考え、絞り出すように言葉を続けた。

「想いには……力があると思うんです。今は上手く行かなくても……何も出来なくても、強い想いを込めて心から願えば……願い続けていれば、いつかきっとそれは力になる。魔法界のみんなの想いが母なる木に届けば、きっと大きな力になると思うんです」
 そう言ってから、リコは少しうつむき加減で、呟くように言った。
「今回のことで、いろんな人に心配をかけて、学校も休まなくちゃいけなくなって……。それで、思ったんです。わたしは想いの力を……それを信じることを、忘れていたんだな、って。だから焦ってばかりで、自分を……大事にしていなかったんだな、って」

「リコ……」
 リコの横顔を見ながら、ジュンが小さく呟く。
 じっとリコの顔を見つめていた教頭先生は、リコが話し終えると、ふーっと長く息を吐いた。

「実を言うと、あなたの杖をしばらく預かった方がいいのではないかと、校長先生に相談に伺ったところでした。これ以上、無茶をさせないためにね。でも、私の取り越し苦労だったようですね」
「えっ……?」
 驚くリコに、教頭先生が珍しく、おどけたように片目をつぶって見せる。
「校長先生にお話しなさい。きっと私の応援など無くても、許可を頂けるでしょう」

「あ……ありがとうございます!」
「やった! やったな、リコ!」
「良かったね、リコ!」
「教頭先生を説得するなんて、凄いわ!」
 仲間たちに囲まれて、リコがようやく笑顔になった時。
「おや、君たち。それに教頭。お待たせした。何か用かな?」
 音も無く現れた校長先生が、いつもの穏やかな眼差しで、そこに居る全員を見回した。


     ☆


 クリスマスを数日後に控えたある日。日暮れ時に合わせて、魔法学校の生徒たち全員が校庭に集まった。全職員も見守る中、校長先生が生徒たちの前に立つ。
「皆、もう話は聞いておるな? 今からクリスマスの新しい行事の、記念すべき最初の光を皆に灯してもらいたい。真っ直ぐな想いを、素直な気持ちを、母なる木に届けるのじゃ。良いな?」

 校長先生の言葉が終わると、まずは三年生が進み出て、揃って魔法の杖を構える。
 目を閉じて大きく息を吸い込んでから、リコは杖を振り上げ、仲間たちと声を揃えて高らかに唱えた。

「キュアップ・ラパパ! 光よ、灯れ!」

 下級生たちの間から、言葉にならない歓声が沸き起こる。
 闇に黒々と沈みかけていた巨大なシルエットに宿った、色とりどりの煌めき。まだ数も少なく光も小さいが、それらは全てが確かな輝きを放ち、しっかりと存在を主張している。
 三年生の後には二年生、そして一年生が続いた。最後は先生たちが、次々と母なる木に想いの光を灯していく。

「想像してたのと全然違うな。ここまでイメージ通りの光を灯せるなんて」
 ジュンが杖を撫でながら、誰にともなく囁く。
「うん! なんか気持ち良かった」
 ケイは晴れ晴れとした表情で、明るい声を上げる。
「本当に、母なる木ね。何だか魔法を優しく受け入れてくれているみたい」
 エミリーも微かに頬を染めて、嬉しそうに仲間たちの顔を見つめる。
 リコは、驚いたように目を見開いて、少しずつ増えていく光を見つめていた。そして小さく微笑んでから、その目を暮れかけた空の彼方へと向けた。

280 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/28(金) 00:54:29
 次の日から、魔法学校にはたくさんの人たちがやって来て、母なる木に光を灯していった。その中には、リコたちに馴染みの深い魔法商店街の人たちや、集会に通っている人たちの姿もあった。
 魔法界を支える大いなる木に魔法をかけるなんて、皆初めての経験だ。だからだろうか、少々緊張した面持ちで魔法学校の門をくぐる人が多かったのだが、帰る時には皆何だか嬉しそうな、穏やかな顔になっていた。

 魔法界のどこからでも見えるこの巨大な木は、少しずつ輝きを増していった。そしてその光に触発されたように、魔法商店街にもクリスマスの飾りが見られるようになった。リコたちが通う集会もまた、母なる木の輝きに励まされたように少しずつ活気を取り戻し、また様々な試行錯誤が繰り返されるようになっていった。
 クリスマス・イブを迎えた時には、木は無数の光を宿し、全体が光り輝いて見えるまでになっていた。
 魔法商店街は昨年までと同じような賑わいを見せ、サンタたちは天高く輝く巨大なツリーを眺めながら、例年より数少ないプレゼントを分け合って、笑顔で子供たちの元へと向かった。

 こうして始まったクリスマスの祭典は、年を追うごとにその煌めきを少しずつ増やしながら続けられた。そしていつしか魔法界の人々にとって、クリスマスの大きな楽しみのひとつになっていった。



     ☆

     ☆

     ☆



「リコ先生、さようなら」
「はい、さようなら」
 一年生の生徒たちに挨拶を返してから、リコは振り返って、元気に駆け去っていく彼らの後ろ姿を眺めた。
 制服姿ももうすっかり板につき、きれいな円錐形だった制帽も、先っぽがお辞儀をするようにちょこんと折れ曲がっている。
「あの子たちも、もうすぐ二年生ね」
 少し感慨深げに呟いた時、生徒たちの後ろから、おーい、とリコを呼ぶ声がした。

「ごめんごめん。待たせたか?」
「ううん。時間的には、ちょうどいいし」
 トランクを持ったジュン、ケイ、エミリーが、小走りでこちらへやって来る。三人を笑顔で迎えたリコは、彼女たちと肩を並べて庭の方へと足を向けた。

 今日の最終のカタツムリニアで、リコたちはナシマホウ界へ向かうことになっている。クリスマス・イブに間に合うように到着して、みらいたちと一緒にサンタになってプレゼントを配る計画なのだ。その前に、今年も四人揃ってクリスマスの光を灯そうと、ここで待ち合わせたのだった。
 実を言うと、今日ナシマホウ界に向かうのは、リコたちだけではない。そしてそのことを、リコはジュンたちに口止めまでして、みらいには内緒にしていた。

(みらい、きっと喜んでくれるわよね)

 浮き立つ気持ちでそんなことを思いながら、母なる木の前に立つ。魔法学校の三年生だった時と同じように、四人並んで魔法の杖を構えた。想いを込めて杖を一振りすると、既に幾つかの光を宿していた巨木に、四つの小さな輝きが加わった。
「やっぱりこの時が一番、魔法が上手く使える気がするんだよなぁ」
 ジュンの言葉に、ケイとエミリーが、うんうん、と頷く。リコはそんな三人に黙って微笑みかけてから、天高くそびえ立つ巨木を見上げた。

281 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/28(金) 00:55:02
 初めてこの木に光を灯した時、リコは仲間たちとは違った驚きと、懐かしさを感じていたのだ。
 余計な力など何も要らない。想いがただ真っ直ぐに伝わって、イメージした通りの形になる――その感覚は、プリキュア・キュアマジカルに変身して魔法を使った時と、そっくりの感覚だった。

(来年は、みらいも一緒に……)

 この感覚を共有できる、ただ一人の友の顔を思い浮かべて、リコが思わず頬を緩ませる。その顔を見てニヤリと笑ったジュンが、何か思い出したように、あ、と声を上げた。

「そう言えば、リコ。はーちゃんは一緒じゃないのか?」
「え? どういうこと?」
 リコが不思議そうに聞き返すと、ジュンも同じく不思議そうな顔になる。
「何だ、知らないのか。昨日、校長室に行ったときに見かけたぜ? 何だか急いでいたみたいで、あたいの顔を見るなり姿を消しちまったけど」
 このところアーティストとして活動しているジュンは、時々魔法学校で、生徒たちに美術を教えているのだ。

「どうしたのかしら……」
 リコが少し不安そうに呟く。
 ことはが普段どこで何をしているのか、彼女の説明を聞いてもリコにはさっぱり分からないのだが、少なくとも、魔法界からもナシマホウ界からも離れたところに居るのは確からしい。そんな彼女が魔法界に来たというのに、何故自分の前に姿を現さないのか。

(はーちゃんのことだから、みらいと会えば、当たり前みたいにやって来る気もするけど……)

 リコが難しい顔で考え込んだ時。
「大変! 急がないと、最終が出ちゃうわ!」
 今度はエミリーが、慌ててそう叫んだ。

 再び四人で一列に並んで母なる木に一礼し、魔法学校を後にする。
 カタツムリニアが待つ駅へと急ぐリコたちの足取りは、いつしか魔法学校の生徒だった頃と同じような、元気な駆け足へと変わっていた。


〜続く〜

282 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/04/28(金) 00:55:39
以上です。ありがとうございました!
続きもなるべく早く投下できるように頑張ります。

283 そらまめ :2017/05/13(土) 16:07:28
投下させていただきます。
バイトはじめました。シリーズ6話になります。
前話が四年前なので最早誰も覚えてないとは思いますが…
宜しくお願いします。
タイトルは バイトはじめました。ろく です。

284 そらまめ :2017/05/13(土) 16:09:24
「えっと、もう一回言ってもらっていいかな?」
「だから! ナケワメーケがしゃべったのよ!!」
「せつな、あなた疲れてるのよ…」
「疲れてる時はゆっくり安静にした方がいいっていうよね。せつなちゃん、横になる?」
「みんな信じてよ!」
「だって、ねえ…?」

みんなから憐れむような視線が送られてくる。でも、私は確かに聞いた。ハープで攻撃したとき痛いと絶叫したその声を。あのナケワメーケはテレビか何かを媒体にしていたから、人の言葉を話すとしたら番組を受信でもしたのだろうか。
しかしあの台詞をあのタイミングで…?
ナケワメーケに話をする機能はなかったはず。そんなのは必要ないから。
でも、もし私が抜けた後で改良がされたとしたら、一体何の目的で…
と、そこまで考えてふと視線を感じた。顔をあげてみたら三人ともハの字に眉が下がっている。思いのほか心配されているらしい。

「あ、えっと、一旦この話は…」

なんだか申し訳なくなって、この話は一先ずやめようかと思っていると、

「わかったよ!! みんなで確かめてみよう!」
「へ…?」

ラブが勢いよくそう言った。握りこぶしを震わせて、その眼には確かな信念が宿っていた。

「そうね。せつながそうそう嘘をつくとも思えないし」
「うん! わたし、せつなちゃんのこと信じてる!!」
「み、みんな…!」

ラブだけじゃなく美希とブッキーまでそう言って私に笑いかける。こんないい仲間が出来て、私とても幸せだわ。

「みんな! 作戦会議だよ!! せつな、その時の事もう一回詳しく教えてもらっていいかな?」
「ええ!」


そんな感じでせつなが友情を噛み締めている頃、これから襲い掛かる恐怖に全く気付いていない当事者は、別の意味で身構えていた。

285 そらまめ :2017/05/13(土) 16:10:55
…お久しぶりですこんにちは。今自分は何をしているのかというと…と、よそ見してる場合じゃなかった。油断すれば一瞬でやられる…!!
緊張からツーと頬に汗が伝い、知らずにゴクリと喉が鳴る。
もうすぐだ。
これからの事は、ある意味今後の自分を左右することになるだろう。周りの人全てが敵に見える。こんな状況が続いてしまったら、自分の精神がおかしくなってしまいそうだ。
カチカチとやけにうるさく感じる時計の秒針が、もうすぐ、天辺に到達する。

あと10秒…8…5…3…1……



「…それでは16時になりましたのでタイムサービスを始めさせていただきますっ!!」

その放送と共に、戦いの火ぶたが切って落とされた。

「うおおおおおぉっ!!!」

その言葉を聞いた瞬間走り出す。兎に角走る。目的のものを追いかけて、掻き分けて、手を伸ばしたのだった…―――






改めて、こんにちは。先ほどはすみません。ちょっと立て込んでいたものですから。あのタイムセールを逃すと、本気で食費がマッハだったんです。講義の教材ってなんであんなに高いんだろうね。うっすい本が云千円とか思わず一ページあたりの金額計算しちゃったよね。で、そんな財布が乏しい人の味方である今回行ったスーパーのタイムセールは、価格破壊という言葉が文字通りでほんとに安い。貧乏人の強い味方!
パッションにハープで殴られたところが未だに疼いてしまうので、せめて食事くらいはまともなものを食べたかったんです。
しかし、今回は傷の治りが遅い気がする。危険手当がいつもより多かったのはこれを見越してだったのだろうか…説明も無しとかなんか金多くしとけばいいんだろどうせ。みたいなやっつけな感じがします。嫌だねなんでも金で解決できると思ってる人たちは。
…まあ解決されるんですけどね大抵。
例に埋もれず自分も解決されてしまったわけです。あの多さを見れば、ね…? ただ、危険手当というからにはいつもより危険が大きいということで、治りが遅いだけじゃなかったら嫌だなーと思いながら自宅に到着。


「…すみません。今からバイトをお願いします」
「あ、はい。あ、あのー…」
「…なんでしょうか?」
「…あ、やっぱり何でもないです。すみません」
「そうですか。では、バイトの方お願いします」


帰宅して早々にバイトを頼まれ、次の瞬間には目の前にプリキュアが。
ちなみに、さっき謎の声に言いかけたのは、ハープで攻撃(物理)された時の危険手当について聞こうと思ってました。でもなんか怖くなったのでやめました。世の中知らない方がいいこともありますもんね。

今回はプリキュアとの目線が近く、どうやら大物ではないらしい。っていうかむしろプリキュアより目線低くね…?

よくよく見ると、リンゴになっていました。
ちょっと自分でも何言ってるのかわかりません。人間の大きさのリンゴとか中途半端だろ。どうせならドデカくビルくらいの大きさにすればよかったのに。まあリンゴ三個分の重さのネコっぽいのもいるんだからこれもアリか。
…やっぱりちょっと混乱してるみたいです。アリじゃないよねどう考えても。チョイスをもっと慎重にしてほしかった。誰だよこんなの選んだの…と思い周囲を見渡せば、高笑いしながらプリキュアを馬鹿にする大男がいた。

「ふははっ! どうだプリキュア! お前らがリンゴ好きな事はリサーチ済みだ!! 好きなものを相手にいつものように攻撃できるかっ?」

勝ち誇ったように自信満々な男の意味の分からない主張。そんな男を呆れたように見つめるプリキュアたち。

その光景を見て、あ、うん。しょうがないか…と、何故だかすべてを諦められた。

286 そらまめ :2017/05/13(土) 16:11:50
「行け! ナケワメーケ!! プリキュアを倒せ!!!」

いや、行けって言われてもこの丸型でどうしろと…
とりあえず転がってアタックしてみる。開幕から捨て身の攻撃である。

「アップぅウウウルっ!!」

鳴き声が絶望的にダサい…
捨て身タックルも案の定躱されて、背後から蹴られ宙に浮いた後、近くにあった電柱にぶつかった。
このフォルム死角多すぎてヤバいんですけど…! 勝てる気がしない上に高速回転だから目がまわって気持ち悪い。一回の攻撃で大分ダメージが。主に自分の所為だけど。

「しっかりしろナケワメーケ! お前の力はそんなもんじゃないはずだろ!」

必死に応援する大男に、どこの修造だよと言ってやりたい。だがアップルしか言えない。悔しいです。

「うーん…今回は言葉を話すような媒体ではないわね」
「パッションの言った通りにしてみようか」
「これではっきりするかもしれないし…」
「みんなありがとう!」

いくら今回のフォルムが雑魚っぽいからって敵の目の前で円陣組んで話し合いってどういうことなの…

「ァアアっプウウウッルーー!!」

円陣に向かって突撃してみる。だがさっきのように直線ではまた躱されそうなのでジグザグと動きながら急ブレーキとかかけてフェイントも入れる。リンゴのくせに意外と俊敏に動けて驚きを隠せない。
円陣から一斉に散らばったプリキュアの後を追いながら廻る。ピーチのパンチをカーブすることで避け背後から突進。動きの速さに追いつけなかったのか態勢を崩したピーチに渾身のジャンピングアタックをお見舞いした。

「くっ…!」
「ピーチ大丈夫っ?!」
「大丈夫だよパッション!」
「あんなフォルムなのに意外とやるわね…」
「そうだねベリー、丸いから動きが自在だし。でも…」
「まあ、あれだけ回転してたらね。そりゃあ眼もまわるわよね」

頑張ってピーチに一撃いれて優勢になったかと思いきや、高速回転のし過ぎで世界がまわっている。ふらふらしながら木とか壁とかにぶつかってしまう。眼の前にいるプリキュアにたどり着けない…そして最高に気持ち悪い。

「まあ、ウエスターの出したナケワメーケなんてこんなものよね」
「おいイース! なんだその見下した言い方は! 大体自分の好きなもの相手に何故普通に攻撃しているんだ!!」
「だって私リンゴよりももの方が好きだし。大体リンゴを媒体にしようとするあたり作戦も何も考えてなさそうよね」
「俺だって考える時はある! 例えばこんなふうにな! ナケワメーケ!!!」
「アップウウ?」

気持ち悪さを必死に抑え男を見ると、こちらに向かって何やらジェスチャーしている。
えーと、何々、自分の体を絞って匂いをだせ…? え、なに言ってんのこの人。自分の体を絞るなんてそんなことできるわけ…あ、できた。
上半身を思いっきり捻ると何やら果汁的なものがでてきた。きもい。
で、こんな汁だしてどうすればいいんだろうかと無い首を捻ると、一番近くにいたピーチがこちらにふらふらと歩いてきた。しかも全くの無防備で。どうしたのかと思いながらせっかく近づいてきたので体当たりしてみた。すると避けることもなく攻撃が当たる。なんだこれ?

「…ッ! え…なんで私ナケワメーケに近づいて…」
「ちょっとピーチどうしたのよ!」
「わ、わかんないよっ! なんか気付いたら体が勝手に動いてて…」
「ふははっ、どうだプリキュア! リンゴは見た目だけじゃなく中身も優秀なのだ!」

もしかして、果汁から出る匂いが相手に何かしら影響しているのだろうか。そうでなきゃピーチが寄ってくるわけないし。まじか。意外とすごくないかリンゴ!そしてちょっと見直したよ大男!そうと分かれば高速回転でプリキュアに近づいて果汁を出しまくる。
案の定近くにいたベリーとパインがこっちによってきたのでそこを攻撃。
なんだこれすごいぞ。やられっぱなしだったプリキュアを苦戦させている!しかもこんな弱そうな怪物なのに!

「みんな!! どうすればあの匂いを防げるのかしら……っそうだ…!」

匂いをだしてプリキュア達にアタックしまくる。わーい臨時収入だ金だーなんて現金に眼が眩んだのが間違いだったのだろうか。気付いたらパッションがこちらにハープを向けていた。思わず体が震えた。どうやら体の方がトラウマを感じているらしい。

「吹き荒れよ幸せの嵐! プリキュア! ハピネスハリケーン!!」

辺りに風が巻き起こる。と、それまで無抵抗で寄ってきていたプリキュアがピタリと動きを止めた。

「…あれ、匂いがしない」
「ハピネスハリケーンのおかげで匂いが消されてるんだわ!」
「ありがとうパッション!」
「みんな! 今のうちに!!」

287 そらまめ :2017/05/13(土) 16:12:27
くそ、風で匂いが拡散されてるのか。これじゃ捨て身アタックくらいしかできることがないじゃないか!ああ、今回はここまでか…調子よかったんだけどな。
それぞれがスティック、ハープを持っている。浄化される準備でもするかと気だるげにぼーとしていると、なぜかこちらに走り出すプリキュア。ハピネスハリケーンで時折視界が遮られるが、それでもこちらに迫っているのは見間違えようがない。予想外すぎて固まってしまう。
ついに目の前に、っていうか囲まれた。振り上げられる腕。なにこれこわい。

「…せーのぉ!!」

ピーチの気の抜けた掛け声を皮切りにスティックで殴られた。四方向から。え、え…?

「…ちょ、え、い、いたっ痛い!」
「ホントにナケワメーケしゃべった!!」
「パッションの言ってた通りね!」
「えいっ…!」
「やっぱり! どうしてナケワメーケが喋ってるのよ! 何が目的?!」
「おまえらが何の目的だよっ!! イタっ…やめ、ちょ、殴るの止めて!?! これただのいじめ!!!」

正義の味方に鈍器(スティック)で殴られる。この絵面ただの弱い者いじめじゃね?!ってかまじ痛い!!

「ナケワメーケに話す機能なんてつけて何のつもり!」
「ちょっとアンタ意思があるの?」
「ごめんね…!」
「質問しながら殴るなっ! 痛っ! ごめんとか言っといて一番力入ってるぞ黄色い奴っ!いたいっ、ごめんなさい、止めてっ!」
「質問に答えなさいっ!!」

殴られ過ぎて意識が遠のいてきた。なんなのなんで殴るの止めてくれないの。質問?意思があるのかって?そりゃあるよ。だって…

「だってバイトだからぁっー…!」

そんな言葉を叫んだのを最後にぷつりと意識が途切れた。


…ふと目が覚めるとそこは自分の部屋だった。身体も自分のものだ。戻ってきたらしい。戻ってこれたのか…先ほどまでのことを思い出す。プリキュアにタコ殴りにされる自分。え、ていうかなんだったのあれ。プリキュアって暴力団だったの?力のないものを力のあるやつが攻撃するって正義的にどうなんですか!一般ピーポーですよこっちは!

「っ痛っ…」

思わず打ち震えた瞬間身体のあちこちに痛みが走る。服をめくると痣が至る所にできていた。
まじかよ…やばいよこれ。まああれだけ殴られて痣だけってのもすごいが。っていうかパインに殴られたとこだけ痣デカいんだけど。しかも脇腹とか防御の薄そうなところばかり。あいつやっぱえげつないわ…
それにしても意識がこっちに戻ったってことは浄化されたってことでいいのだろうか。殴られても浄化ってされるんだね知らなかったよ。でも普通にやってほしかった。
プリキュアと会話した気もするけどまあいいか別に。あの怪物に鳴き声以外のコミュニケーションのとり方があるとは思わなかったが。

あー、次バイトするの嫌だなあ…

数日後に振り込まれていたバイト代は未だかつてない金額でした。

288 そらまめ :2017/05/13(土) 16:13:01
以上です。
ありがとうございました。

289 名無しさん :2017/05/13(土) 16:38:45
>>288
このシリーズ好き! 続きが読めるとは嬉しいです。
バイト君、受難なんだけど、それが何とも楽しいんだよねw
続きも楽しみにしています。

290 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/05/21(日) 13:04:03
こんにちは。
めちゃくちゃ遅くなっちゃいましたが、まほプリ最終回記念SS、ようやく続きが書けました。
これで完結です。7〜8レス使わせて頂きます。

291 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/05/21(日) 13:04:35
「はー! 今日のお月様、真ん丸だね〜」
 空に浮かべた箒に腰かけて、ことはが無邪気な歓声を上げる。モフ!と嬉しそうに応じるのは、彼女の隣にちょこんと座ったモフルンだ。
 魔法界から見る月は、ナシマホウ界から見るよりも青く輝く。でもそれ以外は、大きさも光の強さも変わらない。月は日々形を変えながら、二つの世界を見守っている。

「この姿になったばかりの頃は、何もかも小さく見えたけど」
 ことはがパッと右手を開いて、まるで月を掴もうとでもするように、その掌を天にかざした。
「お月様と……あと、お日様は変わらないね。わたしが小さい頃も、大きくなっても」
 そう言いながら、今度は下の方に四角く見える光に目を移す。この光は自然の光ではなくて、窓から漏れる部屋の灯り。部屋の中では、みらいとリコが並んでベッドに腰かけていて、ことはとモフルンに気付き、二人同時に笑顔で手を振った。
「それから、みらいとリコとモフルンも、ずーっと変わらない」
「モ〜フ!」
 さっきよりさらに嬉しそうなモフルンの声に、ことはがまるで花が咲いたような笑顔を見せる。

 リコの夏休みに合わせて、みらいとモフルン、そしてことはは、今日から魔法界に遊びに来ていた。明日は久しぶりに魔法学校の夏祭りを楽しんで、その後は四人であちこちに出かけ、いろんな人に会って、魔法界を満喫しようという計画だ。

「それで、はーちゃん。モフルンに聞きたいことって、何モフ?」
 モフルンが、首をかしげてことはを見上げる。さっきそう耳打ちされて、ことはと一緒にリコの部屋を出て来たのだ。モフルンの言葉にいつになく真面目な表情になったことはは、まるで内緒話でもするように、この小さな親友に顔を近づけた。

「あのね。ナシマホウ界から魔法界まで、どれくらい時間がかかったか、教えて。カタツムリニアに、どれくらい乗ってた? 春にリコがナシマホウ界に行った時と比べて、短くなってるかな」
「モフ……」
 モフルンが少し考えてから、ニコリと笑って答える。
「短くなってるモフ!」
「ホント!? どれくらい?」
「えーっとぉ……」
 ことはに勢い込んで尋ねられて、モフルンが記憶を辿るようにじっと夜空を見つめる。

 以前よりも遥か遠くに隔たってしまった、魔法界とナシマホウ界。リコを含めた魔法界の人々の数えきれない試行錯誤の末、やっとこの春、カタツムリニアが再び二つの世界を繋いだ。ただ、やはり以前と違って、行き来するには何日もカタツムリニアに乗らなくてはならない。
 みらいが夏休みを魔法界で過ごしたいと言い出した時、リコはそう言って、魔法界に着くまでにかかる時間を細かく計算していた。

「リコは、今日の夕方に魔法界に着くはずだ、って言ってたモフ。でも実際に着いたのは、ちょうどお昼ご飯の時間だったモフ」
 両手をいっぱいに広げて、嬉しそうに説明するモフルン。だが、それを聞いたことはは、明らかにがっかりした様子で肩を落とした。

「そっか……。まだちょっとしか近くなってないんだね、魔法界とナシマホウ界」
 俯くことはを見て、モフルンの身振り手振りがさらに大きくなる。
「そんなことないモフ! 夕方がお昼になったんだから、凄いモフ!」
「でも、その前に何日も――前の何倍も時間がかかってるんでしょ? 頑張っているんだけど、なかなか一気には近くならなくて……」
「大丈夫モフ。はーちゃんが頑張ってるってことは、みらいもリコも、モフルンも分かってるモフ」
「ありがとう、モフルン」
 ことはがようやくうっすらと微笑んで、もう一度足下の窓に目をやる。みらいとリコは相変わらずベッドに腰かけたまま、どうやら話に夢中のようだ。今度は二人がこちらを見る前に目をそらして、ことはは小さくため息をついた。

「わたし、もっともっと、みらいとリコの力になりたい。何かほかに、わたしに出来ることって……」
 ことはがそう言いかけた時。
「おや。ことは君、来ておったのか」
「お久しぶりですわ」
 不意に声をかけられて、ことはが驚いて顔を上げる。中空からことはとモフルンを見つめていたのは、魔法の絨毯に乗った校長先生と、その掌の上に浮かぶ魔法の水晶だった。

「校長先生! こんな時間にどうしたんですか?」
「明日の天気が気になって、空の様子を見に来たのじゃ。明日は夏祭りじゃからな」
「そっか。お祭りだぁ!」
 夏祭りと聞いて明るい表情になったことはに、校長も静かに微笑む。
「君も花火を上げたんじゃったな、みらい君やリコ君と一緒に」
「はい。みんなでパチパチ花を探して、みんなで打ち上げました」
 あの時の花火を思い浮かべているのか、ことはが懐かしそうに夜空を見上げる。と、不意にその目がキラリときらめいた。

292 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/05/21(日) 13:05:06
「はー! そうだっ!」
「モフ?」
 首を傾げるモフルンに、何だか得意そうにエヘヘ……と笑って見せてから、ことはが目の前に浮かぶ魔法の絨毯の方に向き直る。
「校長先生! お願いがあります!」
 箒から今にも落ちそうな勢いで迫ることはに、怪訝そうに頷いた校長先生は、彼女の話を聞いて、今度はあっけにとられた顔つきになった。



     サンタとサンタのクリスマス( 花の章 )



「よぉし。こっちの袋は全部詰め終わったぜ。まゆみ、そっちはどうだ?」
「うん、こっちも完了!」
 ジュンとまゆみがハイタッチをして、楽しげに笑い合う。その隣では、かな、ケイ、エミリーの三人がプレゼントの包みをリレーのように手渡しながら、せっせと袋に詰めている。

(何だか、あの年のハロウィンを思い出すなぁ)

 老若男女、たくさんの人が賑やかに作業している、津奈木第一中学校の体育館の一角。届け先のリストをチェックしながら、みらいはそんな仲間たちの様子を眺め、リコと目と目を見交わして、嬉しそうに微笑んだ。
 が、次の瞬間、二人揃ってギクリと首を縮める。ジュンとまゆみの、こんな会話が聞こえて来たからだ。

「さて、そろそろ橇に積み込むか。どこにあるんだ?」
「そり……? ウフフ、そこまでやれたら素敵だけど、それはちょっと本格的過ぎ」
 可笑しそうに笑うまゆみに、ジュンの方は不思議そうに目をパチパチさせる。
「じゃあ、これどうやって運ぶんだ?」
「車を使う人が多いかな。わたしたちは自転車だけど……」
「自転車かぁっ!?」
 今度はまゆみが目をパチクリさせる番だった。
 たまりかねたリコがジュンに駆け寄る。だが一足早く、ジュンはガシッとまゆみの両腕を掴んだ。

「じゃ、じゃあ、今夜はあたいたちも、自転車に触れるのかっ!?」
「う、うん」
「そうかぁ。同じサンタでも、こっちは空じゃなくて地上を走るんだもんなぁ!」
「え? 同じサンタ、って……」
「空じゃなくて、ってどういうこと!?」
 まゆみの言葉を遮って勢いよくジュンに迫ったのは、勿論、かなだ。慌ててそちらに方向転換しようとしたリコだったが、その時にはみらいがリコの脇をすり抜けて、かなの肩を両手で押さえていた。

「かな、落ち着いて」
「だって、みらい。空を走るサンタってことは、本物のサンタクロースでしょう?」
 ジュンに負けず劣らず目を輝かせて、かなが再びジュンに迫る。
「ねえ、見たことあるの!?」
「い、いやぁ、それは……」
 ようやく口を滑らせたことに気付いたジュンが、困った顔で言葉を濁す。その後を、みらいが急いで引き取った。
「いやいや、“空じゃなくて”、って言うのは、そのぉ……“そこまで本格的じゃなくて”、って意味だよ! ね? ジュン」
「へ? ……あ、ああ。そうそう」
 引きつった笑顔を作って、カクカクと頷くジュン。その顔とみらいの顔に交互に目をやってから、かなは残念そうな声で言った。
「え、違うの? てっきり、空を走るサンタクロースの橇を見たことがあるのかと思ったのに」
 ジュンがそっと胸をなでおろし、みらいはかなにニコリと笑いかけてから、リコに向かってパチリと片目をつぶって見せた。

(何だか懐かしいわ)

 リコが思わず、クスリと笑う。プレゼントの準備が再開されると、まゆみがニコニコしながらリコの隣にやって来た。
「懐かしいでしょ? かなのあの反応」
「え、ええ。それに、なんか勝木さんとみらいって、中学の頃より仲良くなったみたいね。前は名前で呼び合ったりしてなかったと思うけど……」
「ああ、それはね。それこそ、サンタクロースにも関係があるんだけど」
「え、サンタクロース?」
 怪訝そうな顔をするリコに、まゆみが少し得意げに頷いて、ゆっくりと話し始める。リコたちから少し離れたところでは、みらいとジュンがプレゼントの包みを前にして話し込んでいる。かなは、もうすっかり笑顔になって、ケイとエミリーと一緒にあのハロウィンの日の思い出話に花を咲かせているようだ。
 久しぶりに会った友達同士の、賑やかな語らいのひととき。だが、やがてみらいとリコはもう一度顔を見合わせると、体育館の入り口の方を窺った。

293 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/05/21(日) 13:05:36
 みらいが再びリコの隣にやって来る。
「ねえ、リコ。はーちゃん、まだ来ないのかな」
「そうね。わたしたちがここにいることは、分かっている気がするんだけど……」
 リコが少々自信なさそうな口調になる。
 ことはには、夏休みに魔法界で会った時、クリスマス・イブの夕方にここで会おうと伝えてある。リコが予定より半日も早く着いたとは言うものの、もう日も傾いて、そろそろリコたちが到着する予定だった時刻だ。
 そもそも時刻には関係なく、みらいもリコも二人が一緒に居れば、ことはもすぐに現れるものだと思い込んでいた。それに加えて、かなが今朝ことはをこの近くで目撃したという話も聞いている。
 それなのに、なぜ彼女が一向に現れないのか……。みらいにもリコにも、まるで見当がつかない。

「う〜ん……せめてこっちから、はーちゃんに連絡出来ればいいんだけどな……」
 昔と同じく眉を八の字にして考え込むみらいに、そうね、とリコが低い声で相槌を打つ。その顔を見て、みらいは表情も声も努めて明るくして言った。
「でも、はーちゃんのことだから、きっともうすぐ来るよね?」
「きっと来るモフ!」
 みらいの鞄の中からそっと顔を出して、モフルンも小さく声を上げる。
「ええ……そうね」
 リコはまだ心配そうな顔つきながら、そう言ってこくんと頷いた。



 しかし、それから一時間以上経って、プレゼントの準備が全て終わっても、ことははやって来なかった。短い冬の一日は既にとっぷりと暮れて、白々とした蛍光灯の光が体育館を照らしている。
「サンタさんたちは、そろそろ着替えて下さーい」
 事務局のメンバーの一人が、時計を見て声を張り上げる。はーい、と張り切って答えるかなの声を聞きながら、みらいとリコがもう一度入口に目をやった時、そこに見慣れた人影が現れた。
「悪ぃ、遅くなった。準備、出来たか?」
 体育館に駈け込んで来たのは、リコたちが来る前に買い出しに出かけていた、壮太とゆうとだった。

「よぉ、リコ。それにみんな。よく来たな!」
「久しぶりだね! 元気だった?」
 集まって来た仲間たちの中にリコたちの姿を見つけて、二人が声を弾ませる。
「いろいろ買って来たぜ。これで雰囲気もばっちりだろ」
 壮太がそう言いながら、持っていた袋の中の物を取り出して見せた。
 星形の蛍光シートや、カラフルなモール。クリスマスの様々なアイテムが描かれた、大ぶりのシール……。
「それ、どうするの?」
「自転車に飾り付けるんだ。サンタの乗り物なんだから、クリスマスらしい方がいいだろ?」
「なるほどね」
 リコの感心した様子を見て、壮太は得意そうに胸を反らしてから、もうひとつの袋を差し出した。
「そしてこれは、差し入れのイチゴメロンパン。出発前の腹ごしらえに、みんなで食べようぜ」
 全員から、わーっという歓声が上がった。

「ところで壮太。その辺で、はーちゃんを見かけなかった?」
「ああ、はーちゃんも買い出しか? ショッピングモールから出ていくところをちらっと見かけたから、先に着いてると思ったんだけど」
「えっ!?」
「今、ショッピングモール、って言いました!?」
 事もなげに答えた壮太が、二人の驚いた様子に怪訝そうな顔になる。
「……違うのか?」
「わたしたち、まだはーちゃんに会ってないんだよ」
「えっ?」
 みらいの言葉に、今度は壮太より先に、その隣に居たゆうとが驚きの声を上げた。
「それじゃあ、あれはやっぱり見間違えだったのかな……。昨日、花海さんらしき人影が、津奈木神社の石段を上っていくのを見たんだ。てっきり、イブの前日から朝日奈さんの家に来てるんだと思ってたんだけど」

「じゃあ、はーちゃんは昨日からこの町に……?」
 ますます心配そうに囁くリコの隣で、みらいは口の中でブツブツと呟く。
「神社の石段に、ショッピングモール。かなが見かけたのは、通学路の並木道……」
「それって……全部わたしたちが、はーちゃんと一緒に行った場所じゃない?」
「じゃあ、ひょっとして!」
 リコの言葉に、みらいが顔を上げる。

「リコ! あの場所に行ってみよう!」
「え……ええ。でも、はーちゃんはどうして……」
「それは直接、はーちゃんに聞いてみようよ」
 みらいが勢い込んで、リコの顔を覗き込む。
「こっちから連絡が取れないんだから、探しに行くしかないよ! だって、はーちゃんは今ならきっと、近くに居るはずだもの」
 あの頃と少しも変わらない、みらいの力強い眼差し。それを見つめるリコの顔に、ゆっくりと笑みが浮かぶ。
「そうね。行きましょう!」

294 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/05/21(日) 13:06:06
 頷き合った二人が、仲間たちの方に向き直る。
「わたしたち、ちょっと行って来るね。まゆみ、出発の時間になっても戻らなかったら、先に行って。すぐに追いかけるから」
「ジュン。もうすぐ出発みたいだから、後は任せたわ」
「ええっ!? あたいかよ!」
「ちょ、ちょっとみらい!?」
 慌てるジュンとまゆみ、そして心配そうな仲間たちに向かって、二人一緒に拝むような仕草をしてみせてから、みらいとリコは、体育館の外に飛び出した。



 校庭は、人でごった返していた。プレゼントの袋を車に積み込んでいる人々。既にサンタの衣装を身に着けて、付け髭姿を笑顔で見せ合っている人々……。ポケットの中の箒を取り出そうとしたリコが、それを見て慌てて元に戻す。
「リコ、こっち!」
 みらいはリコの手を引っ張って、体育館の裏手に回った。そしてさっきのリコと同じように、ゴソゴソとポケットの中を探る。
「無理よ、みらい。すぐ近くにこんなに人が居るんじゃ、空は……」
「違う違う。これだよ」
 みらいがポケットから取り出したのは、箒ではなく小さな鍵だった。並んでいる自転車の、一台の鍵穴にそれを差し込む。
「リコは後ろに乗って。しっかり掴まっててよ!」
 モフルンを前かごに乗せ、自転車に飛び乗ったみらいを見て、リコも慌ててその後ろに座った。

 自転車は裏口から学校の外に出て、狭い坂道を駆け下りる。両腕をみらいの腰に回してギュッとしがみついているリコは、どこに行くのか、みらいに尋ねたりはしなかった。尋ねなくても、リコには行き先の見当がついているのだろう。

(二人乗りって言えば、あの頃は大抵、わたしが後ろだったけど……)

 リコの体温とその腕の感触が何だか嬉しくて、みらいは張り切ってペダルを漕ぐ。だが並木を抜けて公園に差し掛かったところで、慌てた様子で声を上げた。
「あれ……お店は? ワゴンが見えないよぉ!」
 すっかり暗くなった公園の中、目指す思い出の場所――イチゴメロンパンを売っているワゴン車が、いつもの場所に見当たらない。

「そんな……」
 呆然と呟くみらいに、すぐ後ろから柔らかくて冷静な声がかけられる。
「落ち着いて、みらい。壮太君が差し入れを買って来てくれたんだから、きっと店じまいしてすぐのはずよ。はーちゃんは、まだ公園の中に居るかもしれないわ」
「探すモフ!」
 モフルンも励ますようにそう言って、みらいを見上げる。
「うん、そうだね」
 みらいの声に、いつもの調子が戻った。

 誰も居ない公園の中に、自転車を乗り入れる。
「はーちゃーん!」
「はーちゃーん!」
「居たら返事するモフー!」
 三人で声を張り上げながら、公園の中をぐるりと回った。
 キョロキョロと辺りを見回していたみらいが、あ、と小さく息を飲む。木の陰で、何か桃色のものが動いたような気がしたのだ。
 慌ててペダルを踏む足にぐんと力を入れる。だが次の瞬間、前輪が何かを引っ掛けたらしく、自転車はぐらりと大きくよろけた。

「うわぁっ!」
「モフっ!」
 みらいとリコ、そしてモフルンが、思わず悲鳴を上げた、その時。

「キュアップ・ラパパ! 自転車よ、空を飛べるようになぁれ!」

 あどけない声と共に、自転車がふわりと宙に浮く。公園が見る見る足下に遠ざかっていくのを、目をパチパチさせて見ているみらいの隣に、すぅっとエメラルドグリーンの箒が並んだ。

「はーちゃん!!!」
 みらい、リコ、モフルン。三人のぴたりと揃った声に、箒に乗ったことはが、二ヒヒ……と楽しそうに笑う。彼女は既にサンタクロースの衣装を着て、背中には白い袋を背負っていた。
「もうっ! どこ行ってたの?」
「ごめん、遅くなっちゃった」
 言葉のわりには嬉しそうなリコの声に、ことはは自分の頭をポカリと軽くげんこつで叩いて見せた。

 箒と自転車は滑るように空を走り、程なくして湖が一望できる、誰も居ない展望台に降り立った。ここは、みらいとリコ、そしてモフルンにとっては思い出の場所。いくら探してもはーちゃんが見つからなくて途方に暮れていた、あの夏の夜に語り合った場所だ。

「あのね。みらいとリコにプレゼントがあって、その準備をしてたんだ」
 ことはがそう言いながら、背中に背負っていた袋の中から大きな靴下を三つ取り出す。そしてそのうちの二つを、みらいとリコに手渡した。
「開けてみて!」

295 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/05/21(日) 13:06:38
「え……これって!」
「魔法の水晶!?」
 みらいとリコが、驚きの声を上げる。
 靴下の中から現れたのは、みらいがピンク色、リコが紫色の台座の付いた、校長先生のものより少し小ぶりの水晶玉だった。
「うん。そしてこれは、わたしの分」
 ことはがもうひとつの靴下の中から、緑色の台座が付いた水晶を取り出す。

「ごめんね。魔法界とナシマホウ界が前みたいに近くなるには、まだもう少し時間がかかりそうなの……」
 ことはは、すまなそうに顔を俯かせた。
「だからわたし、考えたんだ。みんながひとつずつ水晶を持っていれば、話がしたいときに、声が聞きたいときに、いつでも連絡が取れるでしょ?」
 そう言って、ことはが今度は少し得意そうに微笑む。
「でも、水晶さんには校長先生のお仕事があるから、わたしたちの連絡まではお願いできない。だからね。水晶さんと校長先生にお願いして、わたし、しばらく水晶さんに弟子入りしてたの!」

「ええ〜っ!?」
「弟子入り、って……」
 みらいとリコがあっけにとられる中、ことはが持っている水晶に手をかざす。すると水晶はぼうっと光を帯びて、その中に女性の横顔の像が浮かび上がった。
「なかなか筋が良かったですわ。占いは、あまり得意ではないようでしたけど」
「エヘヘ……。水晶さんみたいにこの中に居るわけじゃないから、難しくて……。だから、わたしは連絡係専門ね」

「はーちゃん……凄いよ!」
 みらいが震える声でそう呟いて、ことはを優しく抱き締める。
「ありがとう、はーちゃん」
 リコも涙ぐんだまま、ことはの肩をそっと抱いた。
「はー!」
 ことはが二人の背中に手を回して、幸せそうに微笑む。
 まだ自転車の前かごに乗ったまま、その様子をニコニコと眺めていたモフルンが、ふと空の一角に目を留めて、モフ!と声を上げた。

「みらい。みらい!」
「ん? なぁに? モフルン」
 ことはから離れたみらいの肩に、モフルンが飛び乗って、空を指差して見せる。
「モフ〜! 今年も見えてるモフ!」
「え? 今年も、って……。あ、そっか!」
 空を眺めたみらいが、パッと顔を輝かせる。そしておもむろに、ことはが持っている水晶玉に向かって叫んだ。

「水晶さん! 今、校長先生とお話できませんか?」
「今? これから大事な祭典に向かわれるところなんですが……」
「出来ればその前に、ほんの少しだけ!」
「分かりましたわ」

「みらい、一体どうしたの?」
「あはは……。ちょっとね」
 突然の行動に目を丸くするリコとことはに、みらいはモフルンと顔を見合わせ、悪戯っぽく微笑んでみせる。リコがますます怪訝そうな表情になった時、水晶の中に校長先生の姿が映し出された。

「やあ、みらい君。どうした?」
「すみません、校長先生。大事な祭典って、クリスマスの、ですよね?」
「ああ。リコ君から聞いておるか? これから光の祭典の、最後の光を灯しに行くんじゃよ」
「それ、水晶さんを通してわたしたちにも見せて頂けませんか?」
 水晶の中の校長先生が、一瞬キョトンとした顔つきになった。
「それは別に構わんが……」
「ありがとうございます!」

 水晶の光が、いったん消える。それを見届けてから、みらいはさっきモフルンが指差した空の一角を、改めて指差した。
「あそこに星が見えるでしょ? ほら、ひとつだけ青っぽく光ってる……」
「ああ、あの星だね!」
「ええ、わたしも分かったわ」
 ことはとリコも、空を見ながら頷く。今日は雲が多くて、あまり星が出ていない。その星もぼんやりと頼りなげに光っていたが、みらいの言う通り少し変わった色をしているので、見つけやすかった。
「あの星を、よ〜く見ててね」
 みらいがさも重大そうに二人に告げる。その時再び水晶が輝いて、小さな無数の光を灯した、魔法学校の母なる木が映し出された。

296 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/05/21(日) 13:07:08
「キュアップ・ラパパ! マザー・ラパーパよ、我らの想いを輝かせたまえ!」

 校長先生の力強い声と共に、小さな光がその強さを増して、まるで母なる木そのものが光っているかのような燦然たる輝きを放つ。
「あっ!」
 その瞬間、リコが驚きの声を上げた。空にぼんやりと見えていた星が、見る見るうちに光を増して、青から緑に、そして他のどの星よりも明るいエメラルド色の星になったのだ。

「はー! あれって……」
「もしかして……魔法界の、母なる木の光!?」
「うん! やっぱりそうだったね〜!」
 大きく目を見開いて星を見つめるリコの隣に、みらいが笑顔で歩み寄る。
「あの星ね。クリスマスにサンタさんになってプレゼントを配る時にだけ、いつも輝いてたの。何だか気になって眺めていたら、ある年、今みたいに急に光が強くなる瞬間を目撃してね」
「モフ」
 みらいの肩の上で、モフルンがニコリと笑う。その時は動くことも喋ることも出来なくても、モフルンもみらいと一緒にその光景を見ていたのだ。
「星に詳しい並木君に聞いても、何の星だか分からなくて。それでずっと不思議だったんだけど、リコにクリスマスの話を聞いた時、もしかしたら、って思ったんだ」

「そう……。ちゃんと届いてたのね、この世界に」
 まるで自分の言葉を噛みしめるように、リコがゆっくりと呟く。そして、手摺に置かれたみらいの手に自分の手を重ねると、空から目を離して隣に立つ親友を見つめた。
「ありがとう、みらい」

「さぁ、今度は君たちの番じゃな。応援しておるぞ」
 校長先生の穏やかな励ましの声を最後に、水晶の光が消えた。すると、それとほぼ同時に、どこからともなくシャンシャンという鈴の音が聞こえて来た。
「え……あれって……!」
 今度はみらいが驚いた顔で、展望台の後方――さっきやって来た方角の空を見つめた。



 その鈴の音が聞こえてきた時、津奈木第一中学校では、もう全員がサンタの衣装に着替え、校庭に集合したところだった。
「あ、魔法つかい! じゃなくて……本物のサンタさん!?」
 かながいち早く空を指差して、歓喜の声を上げる。その指の先には、トナカイが引く橇の姿が十台ばかり連なって、鈴の音と共に、次第にこちらに近付いて来ていた。
 今回ばかりは見間違いだと言う者は誰もおらず、皆ポカンと口を開けて天を仰いでいる。ジュン、ケイ、エミリーの三人だけが、抱えたプレゼントの袋の下で、互いにこっそりと親指を立て合った。

「サンタクロースだ!」
「本物のサンタクロースが帰って来た!」
「あ! 降りて来るぞ!」
 校庭のあちこちからそんな声が上がる中、事務局代表の高木先生が、皆に引っ張り出されるような格好で前に進み出る。
 やがて、校庭のすぐ上までやって来た橇の列の中から、一台の橇が音も無く着陸し、そこから赤い服の男が降りて来た。

「あ、グスタフさん」
「この町のサンタさんたちがここに集まってるって、教えたの?」
「ああ。さっきリコに頼まれて、デンポッポで地図を送ったんだ」
 ケイ、エミリー、ジュンがひそひそと囁き合う中、魔法商店街で箒屋を営むグスタフが、高木先生に歩み寄る。
「いやぁ、まさか本物のサンタクロースに会えるなんて、思ってもみませんでした」
「いや、今はどっちも本物のサンタじゃないですか。それに、ここではあんたたちが主役で俺たちは手伝いだ。もし積みきれないプレゼントがあったら、運びますよ」
「おお! それは有り難いな」
 高木先生とグスタフが、がっちりと握手を交わす。それを見て、空と地上の両方から、盛大な拍手が沸き起こった。

297 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/05/21(日) 13:07:38
「凄い……。凄いね、リコ! 魔法界のサンタさんも、ナシマホウ界のサンタさんも、みんな笑顔で、手を取り合ってて、とってもとっても……楽しそうで……!」
「もう、みらいったら」
 頬を真っ赤に染めて興奮気味に言い募るみらいを、リコが嬉しそうに見つめる。
 みらいたちは魔法で姿を隠し、箒に乗って校庭での一部始終を見守っていた。

「津奈木町だけじゃないわ。今日は昔みたいに、魔法界のサンタたちが手分けしてナシマホウ界のあちこちに行ってるの。ただし、プレゼントを配るためじゃなくて、ナシマホウ界のサンタさんたちの手伝いをするためにね」
 人差し指をピンと立てたいつものポーズで得意げにそう語ってから、リコは隣で身を乗り出している親友に、柔らかく微笑みかけた。
「みんな、とっても嬉しいのよ。ナシマホウ界の人たちが、サンタさんを続けてくれていたっていうことが。だから、これはほんのお礼の気持ちよ」

 車にギュウギュウ詰めになっていた袋を少し下ろして、それを橇に積んでもらっているナシマホウ界のサンタが居る。空飛ぶトナカイにこわごわ触れようとしているナシマホウ界のサンタの隣で、興味津々で車の運転席を覗き込んでいる魔法界のサンタが居る。
 持っていたお菓子を早速振る舞う者。お互いのファッションチェックを始める者……。ただでさえごった返していた校庭が、さらに賑やかで、笑顔溢れる場所になっている。
 その光景をキラキラした目で見つめてから、みらいは満面の笑顔でリコを振り返った。
「リコ、ありがとう!」

「さぁ、わたしたちも、サンタさん頑張ろう!」
 ことはが明るい声を上げて、もう一度魔法の杖を構える。
「キュアップ・ラパパ! みんなのサンタさんの衣装よ、出ろー!」
 くるりと杖を持ち替えて空中に線を描くと、みらいとリコ、それにモフルンが、一瞬でサンタクロースの姿になった。

 そっと地上に降り立って姿を現し、停めておいた自転車を引いて、三人で歩き出す。
「はー! 今年はナシマホウ界のクリスマスで、来年は魔法界のクリスマスだね〜。これから毎年、楽しみだなぁ!」
「そしてこれからは、リコともはーちゃんとも、好きな時にお喋り出来るんでしょ? それってワクワクもんだぁ!」
「ワクワクもんだしぃ!」
 久しぶりにみらいとことはの口癖を聞いて頬を緩めたリコが、ふと気が付いたように、ことはに問いかけた。

「そう言えば、はーちゃん。どうしてナシマホウ界の色々なところに出かけてたの? 勝木さんや、壮太君やゆうと君が見かけたって…・・・」
「ああ、それはね。魔法界とナシマホウ界の、いろ〜んな場所に詰まっているわたしたちの思い出を、水晶に込めに行ったの。三つの水晶を繋ぐ力にしたくて」
「じゃあ、校長先生のところだけじゃなくて、魔法界の他の場所にも……?」
 驚くリコに向かって、ことはが再び、エヘヘ……と頭を掻く。そんな二人に笑顔を向けながら、みらいがゆっくりと、噛みしめるように言った。
「これからは、わたしたちの水晶に、もっともっと思い出を込めていけるよね。魔法界の友達、ナシマホウ界の友達、そしてこれから出会う、もっともっとた〜っくさんの人たちとの思い出も一緒に。ねっ!」
「うん!!」
「モフ!」
 リコとことは、そしてモフルンが、みらいに負けず劣らずの笑顔で力強く頷いた。

「あ、やっと帰って来た!」
「おーい、みらい、リコー!」
「はーちゃん、久しぶりー!」
 まゆみたちが、みらいたちを見つけて一斉に手を振る。その後ろでは、宙に浮かぶ橇に乗ったグスタフが、ニヤリと笑ってさっと片手を挙げてみせた。
 三人は、もう一度嬉しそうに顔を見合わせてから、頬を染め、目を輝かせて仲間たちの元へと駆け寄った。

〜完〜

298 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/05/21(日) 13:08:41
以上です。ありがとうございました! 時間かかってすみません。
次は、またまたしばらく中断しているフレッシュ長編、頑張ります!

299 名無しさん :2017/05/26(金) 00:17:57
>>298
季節の描写が美しかったです

300 名無しさん :2017/06/05(月) 00:10:25
夏は競作やらないんですか?

301 運営 :2017/06/05(月) 12:53:59
>>300
こんにちは。
そういうご質問頂けるのはとっても嬉しいんですが、年に何度もは運営側に余力がなくて(涙)
年に一度、サイト開設月の二月を目処に行っています。
ご了解下さい。

302 Mitchell & Carroll :2017/06/13(火) 23:18:27
アイカツとのコラボで『血を吸いに来てやったわよ! 〜ノーブル学園編〜』

みなみ「やだ、空が真っ黒だわ」
トワ「困りますわ!せっかくシーツを干したのに……」
きらら「何アレ……蝙蝠の大群?」
はるか「まさか……」
パフ「校舎のてっぺんに誰か立ってるパフー!!」
アロマ「こっちに向かって飛んでくるロマーー!!」
ユリカ「ユリカ様が血を吸いに来てやったわよ!!」
きらら「血を吸いに……まさかヴァンパイア!?」
みなみ「ヴァ……(卒倒)」
はるか「みなみさん!?」
ユリカ「あらあら、わたくしの麗しさに見とれて気を失ってしまったようね」
トワ「誰一人として、血を吸わせませんわ!立ち去るのです!!」
ユリカ「ふふ……高潔な精神、嫌いじゃなくってよ。まずは、あなたのその真紅の血からいただくわ!」
トワ「いやっ!?」
はるか「トワちゃん!!」
きらら「トワっち!!」
トワ「うぅ……血を……血を下さいまし……」
パフ「トワ様ーー!?」
ユリカ「吸血鬼に血を吸われると、その者もまた吸血鬼になってしまうのよ。さあ、お友達の血を吸ってあげなさい。我が一族の繁栄のために!!」
トワ「きらら……血を!!」
はるか「危ないっきららちゃん!!」
???「させるかーーー!!!」
トワ「(ドンッ)うっ!?」
はるか「あ、あなたは……!」
ユリカ「わたくしたちの邪魔をするなんて……あなた、名を名乗りなさい!」
???「ふっふっふ……“根性ドーナツくん”よ!!!」
はるか「ありがとう、棒状ドーナツくん!」
棒状ドーナツくん「勘違いしないで。コイツ(きらら)を倒すのはあたしの役目なの、それまで誰にも邪魔させないってだけ」
きらら「ちょっと癪だけど……ありがと」

303 Mitchell & Carroll :2017/06/13(火) 23:19:11
ユリカ「なんなの、あなたは!そこを退きなさい!さもないと、血を吸うわよ!!」
パフ「吸えるもんなら吸ってみなさいって顔してるパフ」
アロマ「凄いドヤ顔ロマ……」
ユリカ「そこを退いてくれたら、今度行われるアイドルのライブにあなたのステージを設けてあげられなくもないことも、なくもなくってよ」
薄情ドーナツくん「さあさあ!おとなしく血を吸われなさい!!」
きらら「さ、最低……!!」
トワ「ガブッ」
はるか「痛ッ!」
きらら「ああっいつの間に!はるはるー!!」
はるか「きららちゃん……きららちゃんの血とあたしの血を、仲良しさせよ?」
きらら「イヤッ!来ないで!!」
はるか「カプゥッ!!」
きらら「うあぁぁぁ!!年をとらないのはいいけど、昼間の撮影が……って、アレ??」
ユリカ「このプラカードをご覧なさい」
きらら「“ドッキリ”……?」
はるか「そういうわけなの、きららちゃん」
きらら「なぁ〜んだ……!」
トワ「はるか、大丈夫でしたか?わたくしの甘噛み具合など……」
はるか「バッチシだったよ、トワちゃん!」
ユリカ「……迎えのワゴンが来たようね。さあ、道頓ドーナツくん、行くわよ!あのワゴンがあなたを夢のステージへと運んでくれるわ!!」
道頓ドーナツくん「ああ、ファンが待っている……七色のペンライトを振って……オーーホッホッホ(ズボッ)」
はるか「消えた!!?」
きらら「行ってみよ!!」
パフ「――落とし穴に落っこちてるパフ〜」
アロマ「ドーナツが砂だらけロマ……」
ボロボロドーナツくん「……な?コ、コレは……?」
ユリカ「はい、モニターイヤホン。中継が繋がってるわ」
ジョニー別府「Amaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaazing!!!!ドーナツhoney!!!アルバトロスだぜ、yeah!!!!!!」
戦場ドーナツくん「アロマ……殺す?」
アロマ「ひぃぃぃ〜〜ロマ!??」

おわり

304 名無しさん :2017/06/14(水) 23:25:09
>>303
主演:ドーナツ君w

305 名無しさん :2017/06/18(日) 09:38:43
>>303
ユリカさまって、こういうのに馴染みがいいなぁw

306 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:52:02
こんばんは。
凄く間があいてしまいましたが、フレッシュ長編の続きを投下させて頂きます。
今回長くて(汗)9〜10レス使わせて頂きます。よろしくお願いします。

307 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:52:56
「ウオォォォォォ!」
 ナキサケーベの巨大なひとつ目が、鮮やかな赤に染まる。それと同時に、のたうち回るような怪物の動きが激しさを増した。
 無茶苦茶に発射される砲弾の雨の中から、ホホエミーナがウエスターを助け出し、ラブたちの隣に降り立つ。

「ああっ!!」
 ラブが悲鳴のような声を上げた。
 砲弾による煙が立ち込めるその向こうで、崩れ落ちる少女をせつなが抱き留めた瞬間、二人の身体が赤黒い炎に包まれたのだ。
「何? 何がどうなっているの!?」
 ラブの叫びを掻き消すように、頭上から不気味な笑い声が響く。驚いて顔を上げると、視界一杯に広がるノーザのホログラムは、二人の少女に目をやって、楽しげにほくそ笑んでいた。

「どうやらあの子自身の不幸のエネルギーが、カードの機能を暴走させているようねぇ。でも、その不幸を生み出した張本人を道連れに出来るなんて、これぞまさしく“不幸中の幸い”と言ったところかしら」
「それ……どういうこと!? せつなは一体……」
 勢い込んでそう言いかけたラブが、すぐ隣から聞こえて来た声に、驚いたように口をつぐんだ。

「あの子は……あの子は、どうなったんだぁ!」
 そこには、まるで命綱のように消火ホースをぎゅっと握りしめたまま、わなわなと声を震わせる老人の姿があった。
 いつも俯きがちなその顔は、ノーザの映像を食い入るように見つめている。が、当のノーザはそれを見て、ふん、と馬鹿にしたように鼻で笑うと、再び目の前のしもべの方へ目を転じた。

「さぁ、ソレワターセ。今のうちに例の物を奪いなさい!」
「そうはさせないよ!」
 こちらに迫ろうとするソレワターセを、サウラーのホホエミーナが全力で阻もうとする。ラブも急いで老人と一緒に消火ホースを支える。そしてソレワターセにもう何度目かの熱いシャワーをお見舞いしてから、老人のしわがれた手に、そっと自分の手を重ねた。

「おじいさん。やっぱりあの子と、何か関係があるんだね?」
「わ、私は……」
 我に返った様子の老人が、そう呟いて目を泳がせる。その顔にちらりと視線を走らせてから、ウエスターは再びホホエミーナの肩の上に飛び乗った。
「俺にひとつ考えがある。合図をしたら、お前たちは援護を頼むぞ」
 言うが早いか、ナキサケーベの方へと取って返すウエスターとホホエミーナ。その後ろ姿を見つめながら、ラブはぎゅっとホースを持つ手に力を込めた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第11話:炎の記憶(後編) )



「ES-4039781。前へ出なさい」
 不意に聞こえた無機質な声。しかも読み上げられたのは、とっくに消去されたはずの、かつての自分の国民番号――。
 驚いて顔を上げたせつなが、さらに大きく目を見開く。そこに広がっていたのは、どんよりとした灰色一色の世界だった。
 辺りには濃い霧が立ち込めていて、何も見えない。やがて、その霧の向こうに次第に何かが浮かび上がる。その正体に気付いた途端、せつなの表情が凍り付いた。

 さっきまで抱き締めていたはずの少女が、こちらに背を向けて立っている。だがその姿は、さっきまでとは違っていた。彼女の身体に巻き付いていたはずの茨が、今は影も形も見えないのだ。そしてその代わりのように、彼女の両腕と背中から、真黒な靄のようなものが立ち上っている。
 不意に、あの時の激痛の記憶が蘇って来て、せつなは思わず自分の腕を掻き抱いた。
 あの瘴気のような黒い靄には見覚えがある。かつてあの茨による苦痛を受けた時、自分の腕からも噴き出していたものだ。さしずめ、心身を焦がす苦痛の炎から立ち上る、どす黒い煙のように。

(あれは……今もずっとあの茨に蝕まれている証拠。早く連れ戻して何とかしないと、下手をしたら手遅れになる!)

 急いで駆け寄ろうとするせつな。だが一足早く、彼女がゆっくりとこちらを振り向いた。
 ニヤリ、と不敵に笑う赤い瞳が、霧の中で鈍く光る。と、次の瞬間、彼女は再びくるりとこちらに背を向けると、まるでせつなをからかうように、飛ぶような速さで霧の向こうへ走り去った。
「あ、待って!」
 消えゆく背中を、せつなが慌てて追いかける。が、いくらもいかないうちに、辺りの様子が一変した。

308 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:53:29

 ふっ、と霧が晴れたかと思うと、せつなはグレーの国民服に身を包んだ数多くの子供たちに囲まれていた。下は四歳から、上はせつなの少し下くらいの年齢の子まで居るだろうか。男の子も女の子も、みんな背筋をぴんと伸ばして整列し、物音ひとつ立てずに前を向いて立っている。
 グレーの壁と高い天井に囲まれた広い部屋。前方には一段高いステージがあり、そこには数人の大人たちが、無表情な顔をこちらに向けて立っている。
 それはせつなにとって、物心つく前から慣れ親しんだ光景だった。

(ここは……E棟の講堂? 私、何故こんなところに……)

 久しぶりの冷え冷えとした緊張感。それを肌で感じた瞬間、せつなの動きがぴたりと止まる。
 ここは、命令されたこと以外の行動は、全て処罰の対象になる世界。だから周りと同じように行動しなければ――幼い頃から身に沁みついた、ここで生きていくための術が、無意識のうちに自らの行動を自制したのだ。
 身体を動かさないように注意しながら、視野を広げ、目だけをせわしなく動かして辺りの様子を窺う。だが少女の姿は見つからない。焦るせつなの耳に、前方から再びさっきの声が聞こえてきた。

「ES-4039781。前へ」
「はい!」
 思わず返事をしようとしたせつなのすぐ隣から、幼いながらも鋭い声が答える。横目でそちらを窺ったせつなは、今度は驚きのあまり周りの目を気にするのも忘れて、そこに居る女の子の姿を凝視した。

 肩の上くらいで切り揃えられた銀色の髪。小さな身体を精一杯大きく見せるようにして凛と前を向いているのは、ラビリンス人には珍しい真紅の瞳――。

(まさか、幼い頃の……かつての私?)

 ふと我に返ったせつなが、慌てて前へ向き直り、姿勢を正す。今の動きを、もし壇上に居る大人たちに気付かれでもしたら――そう思ったのだが、何事も起こらないまま、女の子はきびきびとした動作で列を外れた。
 密かにホッとして、再びチラリと彼女の方に目を走らせる。が、すぐにせつなの注意は別の場所に向いた。女の子の肩の向こうに、黒い煙のようなものが見えた気がしたのだ。その一瞬の間に、女の子はせつなのごく近く、ほんの数センチの距離にまで迫って来た。
 慌てて身を引いたせつなには一瞥もくれず、女の子が足早に通り過ぎる。だが、せつなの方は再び目を見開いて、その小さな背中をまじまじと見つめた。
 今、確かに彼女の身体がせつなに触れたはずなのに、何も感じなかった。まるで幻か何かのように、その身体はせつなの身体をすり抜けてしまったのだ。

(この光景は、ただの立体映像? それとも私がここでは幻で、この子たちからは見えていないの……?)

 一瞬戸惑ったせつなが、最初はそろそろと、次第に大胆な動きで列から外れ、子供たちを見回す。
 思った通り、大人も子供も、列から外れたせつなに反応する者は誰もいなかった。それを見定めてから、せつなはステージに駆け上がると、子供たちの列の中に少女の姿を探し始める。

 せつなの行動が明らかに見えていない様子で、女の子――幼いイースもステージに上がり、そこに居る大人たちに一礼した。
「基礎訓練初級者の中で、今年度トップの成績だ。続いて中級者……」
 相次いでステージに上がった、彼女より年長の二人――中級、上級の成績優秀者と共に、彼女は壇上に飾られたメビウスの肖像に向かって臣下の礼をとる。すると肖像の目が赤く光って、聞き慣れたメビウスの声が、重々しく講堂に響いた。
「未来の我がしもべたちよ。いずれ私の手足となって働くため、なお一層励め」
「はっ! 全てはメビウス様のために!」

(これは私が幼い頃の……確か六歳の時の記憶。これも、あのナキサケーベを生み出すカードの力なのかしら……)

 以前、ノーザに送り込まれた“不幸の世界”のことが頭をかすめた。確かにナキサケーベ召喚時に出現する茨は、ノーザが操る茨に似ている。だから同じような術があってもおかしくないのかもしれないが、あれはこんな過去の追体験ではなかったはず。
 不審に思いながら、なおも少女を探すせつなだったが、ステージを下りようとする幼いイースの表情が目に入って、ハッとした。

 壇上から鋭い目つきで、ゆっくりと子供たちを見回す。その直後、引き結ばれた唇が片方だけ僅かに斜めに上がったのを見た瞬間、まるで頭の中に直接話しかけられたかのように、せつなの中にあの時の自分の気持ちが蘇って来た。

(こいつらなど全員、私の敵ではない。なのにまだ二階級も基礎訓練の過程が残っているとは。何とか一刻も早く、実戦訓練を受けられる手段はないものか――あの時の私は、確かにそう考えていた……)

309 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:54:00
 湧き上がって来る苦い思いを噛みしめながら、幼い自分の隣に立って改めて辺りを見回す。
 そこにあったのは、数百の冷ややかな顔だった。大半は無表情にこちらを眺めているだけ。しかし中には敵意を剥き出しにした顔や、挑むように真っ直ぐこちらを見つめる顔が見え隠れする。後ろに居る大人たちもまた、自分を――そしてここに居る子供たち全員を、自分の任務の成果物を品定めするような目で見つめている。
 何より自分自身が、ここに居る子供たちを出し抜くべき存在――自分の望みを叶えるのに邪魔な存在としか、思ってはいなかった。

(そう。人と人との繋がりなんて……“仲間”なんて、そんなものがあることすら知らない、愚かな子供だった……)

 いつの間にか俯き加減になっていたせつなが、不意に顔を上げる。
 ほんのわずかな違和感。目の端に、明らかに周りと異なる雰囲気を持つ何者かの存在を捕えたのだ。
 果たしてその視線の先にあったのは、ただ一人不敵な笑みを浮かべて幼いせつなを見つめる、さっきの少女の姿だった。その両腕から立ち昇る黒い靄は、さっきより心なしか大きくなっている。

(やっと見つけた!)

 せつなが勢いよくステージの上から飛び降りる。だが、着地した時には、そこはもう講堂ではなくなっていた。



(今度は……訓練場というわけ?)

 太い柱が等間隔に並んだ、さっきより格段に明るい広大なスペース。一瞬、眩しさと悔しさで顔をしかめたせつなの耳に、きびきびとした掛け声が飛び込んで来る。
「はぁっ! えいっ! やぁっ!」
 見ると、目の前で二人の子供が、並んで“型”の訓練をしていた。
 一人は、体格だけなら大人にも引けを取らないような、大柄な男の子。そしてもう一人は、さっきより成長した幼い自分。周りには数人の子供たちが二人を取り囲むように座り込んで、その動きを食い入るように見つめている。

(これは……八歳か九歳の頃かしら)

 思わず二人の訓練の様子に見入っていたせつなが、ハッとしたように頭を振って、二人を見つめる子供たちの方に視線を移す。
 今は一刻も早く、あの少女を探さなければならない。だが見つけられないでいるうちに、教官の鋭い声が訓練場に響いた。

「そこまで!」
 二人の子供がぴたりと動きを止める。その時、どこからかパチパチという微かな音が聞こえて来て、せつなは再び辺りを見回した。
 何かの破裂音のようにも聞こえるその音は、どこかで聞き覚えのあるような、そして不思議なことに、どこか懐かしささえ感じる音だった。だがそれが何の音なのか、あまりに微かでよく分からない。
 教官と子供たちには、この音が聞こえているのかいないのか、反応する者は誰も居ない。そのうち音はすぐに聞こえなくなり、せつなの注意も音から逸れた。教官が再び口を開いて、こう言ったのだ。
「今日は引き続き、相対しての訓練を行う。メビウス様のお役に立つための、実践訓練に繋がる重要な訓練だ。習い覚えた“型”を組合せ、相手を仕留めよ」
「はい!」
 幼いイースが教官にそう答えるのと同時に、男の子の太い腕が唸りを上げて襲い掛かった。

(ああ、あの時の……)

 せつなが我知らず眉をひそめた。
 そこから先のことは、細部に至るまではっきりと覚えている。それは、数えきれないほど多くの戦いを経験してきた彼女の、まだ戦歴とも呼べないような初歩の手合せ。だが、せつなにとっては忘れられない一戦だった。

 跳び退って避けた幼いイースが、続いて放たれた横殴りの攻めをかいくぐって反撃に出る。
 男の子とは対照的な高速のジャブ。時折、流れるようなハイキックとローキックがそれに混ざる。全て習い覚えたままの癖のない型通りの動きが、圧倒的なスピードで展開される。
 男の子のガードが間に合わず、何発かが彼の身体に届いた。顔をしかめながら、それでも彼は一貫して、力に任せた大振りな動きで彼女を捕えようとする。

 そんな二人の応酬が、どのくらい続いただろう。
 先にハァハァと荒い息を付き始めたのは、男の子の方だった。一発一発は自分の攻撃の方がはるかに威力があるのに、どうしてもそこまでのダメージが与えられない――そのことに焦りを覚えたのか、彼が殊更に高く、右の拳を振り上げる。
 さっと身をかがめて攻撃を避けた幼いイースが、次の瞬間、彼のみぞおちに渾身の右ストレートを叩き込んだ。

310 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:54:37
「ぐふっ!」
 男の子の身体が前のめりになり、そのままゆっくりと崩れ落ちる。
 十秒、二十秒――その身体は、ぴくりとも動かない。
 冷ややかに彼を見下ろしていた幼いイースは、勝負あったとばかりに、黙って教官の方に向き直った。が、その直後。

「ぐわぁぁっ!」
 足下から、断末魔のような声が響く。男の子がうつ伏せに倒れたまま、必死の形相で彼女の足を掴んだのだ。さらに歯を食いしばって頭を起こすと、その膝裏に破れかぶれの頭突きを喰らわせる。
 これにはたまらず、幼いイースの華奢な身体は床に倒れ込んだ。

「そこまで。両者、相撃ち」
「待って下さい!」
 教官の声に、彼女が男の子の手を蹴り飛ばして立ち上がる。
「あんな攻撃、教わった“型”には無い!」
「ES-4039781。指示を取り違えるな」
 訓練場に、教官の冷ややかな声が響いた。
「相手を仕留めよ、というのが今回の指示。それをお前は、相手にとどめも刺さずに攻撃を終えた。反撃されて当然だ」
「……」
「訓練とは、未熟なお前にとっては任務も同然。そしてどんなに未熟であろうと、やるべき任務は最後の最後まで成し遂げる。それが出来ない者に、メビウス様のしもべになる資格など無い」
 俯いていた彼女の顔が、ゆっくりと上がる。その赤い瞳が睨みつけるように教官の視線を捕え、小さな口元が歪んで奥歯がギリッと音を立てた時。

(あ……また……)

 ずっと一部始終を見ていたせつなが再び、顔をしかめた。
 自分の中に流れ込んで来る、あの時の口惜しさと、激しい悔い。そして、メビウスのためなら何だってやって見せるという、物心ついてから何十回、何百回目の新たな誓い――。

(馬鹿な子……。それ以外のもっと大切なことなんて、何ひとつ知らないで)

 すっと無表情に戻ってギャラリーの子供たちに混ざるかつての自分を、せつながまるで痛みでも堪えるような顔で見つめる。が、彼女の後方に黒い何かが揺らいでいるのに気付いて、再びハッとしたように表情を変えた。

 そこに居たのは、やはりあの少女だった。いつの間に現れたのか、訓練場の重い扉にもたれかかって、幼いイースの後ろ姿を、まるで面白いものでも見るような目で見つめている。
 黒い靄は、既に彼女の頭の上にまで立ち昇っている。それを見るや否や、せつなはここに居る人たちに感知されないことを利用して、最短距離を――既に次の二人が“型”の訓練を始めているその中央を突っ切り、飛ぶように駆けた。
 少女の方はせつなに気付いた様子もなく、扉を開けて訓練場の外へ出ていく。せつなはその扉が閉まり切る前にそこに辿り着いたが、扉を開けた先に会ったのは、今度はこのE棟に複数存在するトレーニング・ルームの一室だった。



 トレーニング・ルーム。学習室。子供たちでいっぱいなのに、シンと静まり返った食堂――。
 少女を追いかけるたびに場所が変わり、時が変わり、幼いイースは少しずつ成長していく。そして少女の身体から立ち昇る黒い靄も、次第に大きくなっていく。

(こんなことを繰り返すだけでは、あの子を助けることなんて出来ない……)

 募る焦燥感を振り払おうとして大きく深呼吸をしてみるが、それは途中から、深い深いため息に変わった。
 これまで何度となく見せつけられてきた、かつての自分の姿と心。全て自分が経験し、感じ、知っていることなのに、改めて目の当たりにすると、それは思いのほか重くせつなの心にのしかかった。

(そう。私の心の炎は、この場所で、こうやって育って来た……)

 ここに居る全ての人間を出し抜いて、誰よりもメビウス様に認められるしもべになる――そんな燃えたぎるような野心に、突き動かされるようにして生きて来た。人の幸せを願うどころか、周りの全ての人を敵としか見ていなかった――嫌と言う程分かっていたはずの、かつての自分。
 今はもうあの頃の自分じゃない、イースじゃないとどんなに自分に言い聞かせても、あの頃と同じ炎が、胸の奥に確かにあるのを感じる。
 この炎がある限り、また誰かを傷付けてしまうかもしれない。そう思うと、震えるほどに怖い。
 現にこの前だって、我を忘れて彼女と戦おうとしたではないか。そんな自分に、ラビリンスを幸せにすることなんて出来るのか……。
 重い心を抱えながら、それでもせつなは少女を追いかける。そしてもう何度目かもわからない強制的な瞬間移動によって、再び訓練場に立っていた。

311 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:55:10
 さっきここに飛ばされた時とは随分雰囲気が違っていた。広大なこの場所が、数多くの大人や子供――最初に講堂で見た時よりも格段に多くの人々で埋め尽くされている。

(この場所に、こんなに多くの人が集まっているということは……まさか!)

 せつなが人々の列を突っ切って、訓練場の中央へと足を向ける。そこに居たのは、今の自分と比べても、もう幼いとは言えない年齢の――まさにこれから、ラビリンスの幹部・イースになるための最終戦を迎えようとしている、かつての自分だった。
 予想していたとはいえ、その場面を見た瞬間、胸の鼓動が速くなった。

(あの日のことは、全ての場面、全ての動きに至るまで、昨日のことのように覚えてる。この後、相手の“ネクスト”が登場して……)

 やはりどこか痛みをこらえているような、そしてこの上なく真剣な顔つきで、せつなが戦いの場を見つめる。だがすぐに、えっ、と小さく声を上げた。
 かつての自分の目の前に立ったのは、記憶の中の“ネクスト”ではなかった。あの少女――せつなが今まさに追いかけている少女が、彼女の背丈の倍ほどにもなった黒々としたオーラをまとい、最終戦の相手として現れたのだ。

「どうやら私の願望が、ようやく叶うようね。あなたを倒してイースになるのは、この私だ!」
「ふん、何を言っている」
 ニヤリと笑う相手に対して、小馬鹿にしたような口調で答えながら、油断なく身構えるかつての自分。その隣に飛び出して、せつなはようやく間近で少女と向かい合った。

「待って! ここは、あなたを傷付けている茨が作り出した異空間。現実じゃないわ。ここでかつての私に勝ったって、なんの意味もない!」
「何故あなたがそこに居る!」
 声を張り上げるせつなに、少女が驚きの表情を見せる。
「どうしてあの時のあなたと、別々に存在しているの!?」
「私にも分からない。でもこれだけは言えるわ。あの茨は、今もあなたの身体を傷付けている。早く現実の世界に戻らないと、取り返しのつかないことになるの。だからお願い! 私と一緒に……」
 その時、教官の「始め!」という声に、せつなの言葉は遮られた。

 ゆっくりと構えをとった少女が、今度はせつなに向かってニヤリと笑う。
「そうか。一度寿命が尽きたあなたは、過去の――私が追い求めたかつての先代とは、既に別の人間というわけね。ならば、もうあなたに用はない」
「……どういうこと?」
「いいことを思いついたの。かつてのあなたを倒して、私がイースになる。そうすれば、私はこの世界でイースとして生きられる。下らない今のラビリンスで生きるより、その方がずっといいわ」
 そう言って、少女が楽し気な含み笑いを漏らす。その暗い絶望に染まった笑い声に、せつなは背中にゾクリと寒気を覚えた。

 彼女は気付いていないのかもしれない。その歪んだ願望は、あのカードがもたらしている途方もない苦痛から無意識に逃れようとして、生まれたものかもしれないということに。
 確かにここに居る間は、彼女はあの激痛からは解放されているらしい。でも、ここに居る間に少女の身体がますます茨に蝕まれ、もしも最悪の事態になったら……。そうなれば、もう彼女が望もうが望むまいが、この世界から出られなくなってしまうかもしれない。

 せつなは必死でかぶりを振ると、なおも少女に向かって叫んだ。
「駄目! 元の世界に帰るの。ここに居ては駄目!」
「はぁっ!」
 今度はかつての自分――イースの雄叫びが、せつなの叫びを遮った。これ以上の説得を難しい。そう判断したせつなが、素早く二人の間に割って入る。
 かつての自分の動きなら、手に取るようにわかっている。ここで放つのは右のハイキック。おそらく少女はそれを受け止めるだろう。その瞬間を狙って、せつなは彼女の肩を掴もうと手を伸ばす。
 だが、その手は空しく少女の身体をすり抜けた。

(何故!? 彼女と私は同じ世界の存在。彼女にとっても、ここは異空間だというのに)

 呆然とするせつなに、少女が蹴りを受け止めながら、再びニヤリと小さく笑う。
「ここは、あなたの居場所ではないのでしょう? ならばさっさと戻るがいい。それともこの悪夢の中を彷徨う、亡霊にでもなるつもりなの?」
「あなたを置いて戻れるわけないでしょう!?」

「たぁっ!」
 もうせつなの方を見向きもせず、少女がかつてのイースに鋭い蹴りを放つ。余裕のある動きで避けようとするイース。だが予測が外れたのか、少女の蹴りが彼女の脇腹にわずかに届いた。
「っく!」
 イースの表情が険しくなる。次の瞬間、空中に同時に飛び出して、ジャブを打ち合う二人。着地して距離を取った時には、イースの方がわずかに呼吸が乱れていた。

312 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:55:53
 小さくほくそ笑む少女を見て、せつながさらに険しい表情になる。彼女の背後に立ち昇る黒い靄が、彼女の一挙手一投足ごとに、少しずつ大きくなっているのだ。
「お願い、やめて……」
 もう一度少女に呼びかけようとしたものの、せつなはその声を飲み込んだ。
 こんな言葉をいくら叫んでも、彼女を呼び戻すことは出来ない。それはよく分かっていることだが……だったら一体、どうすればいいのか。

 唇を噛みしめることしか出来ないせつなの目の前で、二人の戦いは続く。
 攻撃の威力も、リーチもほぼ互角。スピードではわずかにイースが勝る。
 だが、少女はことごとくイースの先を読んで動いていた。ほんの小さな予備動作、些細な癖のようなものまでも見逃さずに攻撃を防御し、わずかな隙を突いて反撃する。
 イースの表情は最初からまるで変わらない。だがその額には、彼女には珍しく玉のような汗が浮かんでいた。

 何度目かの激しいジャブの応酬の中で、少女の攻撃をかわすと同時に、イースがカウンターを叩き込んだ。着地の瞬間、相手がわずかによろけたのを見て、イースが両腕を胸元に引きつけ、ゆっくりと腰を落とす。それを見た瞬間、せつなの心臓がドキリと跳ねた。

(あの技は……!)

 それは、イースがこの最終戦に備えて密かに磨いて来た技。誰の教えも乞わず、訓練もひた隠しに行って、死に物狂いで会得した技だった。
 全身の気と力を溜めて、両の掌から一気に相手に向かって叩き付ける。まともに喰らえば数メートルは吹っ飛ぶほどの、強烈なダメージを与えられる技だ。だが、その構えを見た少女が瞳をわずかにきらめかせたのに、せつなは一抹の不安を覚えた。

「はぁぁぁぁっ!」
 イースが少女目がけて矢のように跳ぶ。少女の方は、イースが地を蹴ると同時に後方へ飛び退った。そして挑むようにイースを見据えたまま、ぐっと腰を落として身構える。

(やっぱり、あの技を破ろうとしている!?)

 かつてのイースの最終戦の動きを目に焼き付けて、それを超えることを目指して訓練を積んで来た――少女はそう言っていた。だから彼女は、あの最終戦でこの技を見ているのだ。

(でも……)

 せつながますます不安そうな顔で、二人の動きを見つめる。
 最終戦で、イースはあの技の全てを見せたわけではなかった。相手の“ネクスト”があまりにも予想通りの動きをしてくれたお蔭で、その必要が無かったのだ。
 おそらく少女は、あの技の直線的な動きを弱点と見て、ギリギリまで引きつけてから方向転換するつもりだろう。だが、彼女は知らないはずだ。咄嗟の動きにも瞬時に対応する変則的なコントロールの術を、イースが既に身に着けているということを。

 せつなの不安は的中した。少女が不意に、真上に向かって高々とジャンプしたのだ。
 真下に居るはずの相手に、上空から蹴りを放とうと身構える。だがその時、少女は目標を失ったはずのイースが素早くもう一度地を蹴り、自分を追ってくるのに気付いて唖然とした。
 ふっ、と少女の瞳が暗くなった。もしかしたら、自らの敗北を悟ったのかもしれない。そして次の瞬間、少女はグッと奥歯を噛み締めると、イースを真っ向から睨み付けた。

 一部始終を見ていたせつなが、ハッと目を見開く。上空に跳び上がった少女が発する黒いオーラが、彼女の両腕をすっぽりと覆い、訓練場の広い天井を覆いつくすほどの、巨大な蛇の形となってその鎌首をもたげたのだ。
 まるで少女を、底なしの暗い闇の中へと引きずり込もうとしているよう――そう感じると同時に、せつなは弾かれた様に跳んだ。

 何とかして少女を助けたい――その一心だった。
 たとえ少女を、捕まえることが出来なくても。
 たとえ少女に、自分の言葉が届かなくても。
 それでも――このまま何もしないで、見過ごすことなんて出来ない!

 ドーン、というひときわ大きな音が響き、訓練場の柱がびりびりと震える。その直後、か細い叫びが天井近くから降って来た。
「あなた……どうして!?」
 少女の瞳が、驚きと混乱で小刻みに震えている。
 イースの掌打が、少女の前に割って入ったせつなの胸に叩き付けられていた。そして、まるで鏡に映したように、せつなもまた、イースの胸に掌打を叩き込んでいた。
 まるで心臓が爆発したような痛みがせつなを襲った。イースもまた、何が起こったのか分からないという様子で、目を大きく見開いたまま苦痛にあえいでいる。
 二人はそのまま折り重なるように落下して、床の上に倒れ込んだ。

313 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:56:27
 激痛と共に、火のような熱さが胸の中に広がる。それと同時に、かつての自分の心が――想いが、自分の想いと混ざり合い、染み込んでいく。
 イースになりたかった。幹部になって、誰よりもメビウス様のお傍近くでお仕えしたかった。そうすれば――。

(そうすれば――幸せになれると、思っていた……?)

 胸の痛みが引いていくと同時に、ここへ来てから――いや、ずっと前から感じていた胸のつかえが、ゆっくりと取れていくような気がした。

(私は、イースになりたかったわけじゃない。メビウス様に認めてもらいたかったわけじゃない。それが私が知っていた、私が求めることを許された、唯一の幸せだったから。そう、私は……幸せになりたかったんだ)

 まだ胸が焼けるように熱い。身体の下に、かつての自分の身体があるのをはっきりと感じる。その胸も、同じくらい熱かった。
 ここにある炎――今確かにここに存在するこの炎は、なるほど野心と呼べるものだろう。昔も今も、抱いている望みは大きく、分不相応なものだから。
 人の幸せを思うことも知らず、自分の幸せのみを追い求めるのは、確かに大きな間違いだった。だから「幸せ」が何かを知って、その間違いに気付けたのは大切なことだ。
 でもその間違いは、この胸の炎が引き起こしたものではなかった。この炎は、誰かを傷付けることを求めて燃えている炎ではなかったんだ。

(やっと分かった……。イース、あなたの野心は私が引き受ける。そしてあの子の炎も、こんなところで燃やし尽くさせはしないわ!)

 胸の熱さが少しずつ収まっていく。それと共に、身体の下にあったイースの感触は薄れ始め、その代わりのように、自分の身体の感覚が少しずつ戻ってきた。
 もう痛みも鈍く、呼吸もさほど苦しくはない。せつなはまだ床に倒れたまま、全身の感覚を研ぎ澄まして、周囲の――少女の様子を窺う。

(何とかして、あの子を連れ戻さなきゃ。でも、どうやって……)

 と、その時。
 さっきこの訓練場で微かに聞こえたパチパチという乾いた音が、さっきよりもはっきりとせつなの耳に届いた。

(これは……拍手の音? でも、このE棟で誰かに拍手する人なんて、居るはずが……)

 そう心の中で呟いたせつなは、続いて聞こえてきた声に、危うくぴくりと反応しそうになった。

――凄いね! 動き速いし、力強いし、何よりすっごく綺麗!

(……この声……!)

――そうやって小さい頃から、ずーっと頑張って来たんだ。

(……ラブ?)

 せつなが全身を耳にして、声の出所を探る。その間にも、声はせつなを励ますように、次第に大きくはっきりと聞こえてくる。

――せつなはね、いつも一生懸命だった。どんな時でも、どんな小さいことでも、“精一杯、頑張るわ”って、そう言って頑張るの。あなたもそうやって頑張って来たんだよね?

――小さい頃からずーっと頑張って来たから、身についたんだよね。メビウスのためだったかもしれないけど、自分自身の力として。

(これは……ひょっとして、あの子の記憶? あの子が今、ラブの言葉を思い出してるっていうの……?)

 今朝のラブの、小さいけれどあたたかな笑顔を思い出す。それだけで、目の前が明るくなったような気がした。あの子を止められなかった、とラブは落ち込んでいたけれど、ラブの言葉は、彼女の心に届いていたのだ。

(ありがとう、ラブ。今度は私が、自分自身の力を精一杯使って、あの子を止めてみせる!)

 まだ床に倒れた格好のまま、せつながそっと目を開く。そして全身の筋肉を覚醒させるように、ゆっくりと身体に力を入れた。

314 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:57:00
 二人の後から着地した少女は、まだ倒れている相手にゆっくりと近付いた。上から恐る恐る覗き込んで、一瞬怪訝そうな顔をする。
 何故か自分を庇って先代のイースと相撃ちになった黒髪の少女の姿は、いつの間にか消えていた。相撃ちのショックで現実の世界に戻ったのか――そう思った少女が、少し困ったような顔で教官の方へ向き直る。

 これで勝ち名乗りを受ければ、望み通りこの世界でイースになれる。そう思っても、何故か少しも嬉しさが湧いてこない。と、次の瞬間、強烈な足払いが彼女を襲った。
「やるべき任務は、最後の最後まで成し遂げる――訓練で教わらなかったの?」
 いつの間に立ち上がったのか、イースが腰に手を当てて、床に転がった彼女を見下ろしていた。

 すぐさま跳ね起きた少女が、もう一度驚いたように目を瞬く。向かい合った相手の銀色の髪が、一瞬ぼうっと淡く輝いたかと思うと、すぐに艶やかな黒髪に変化したのだ。その姿を見て、少女の目がわずかに泳ぐ。
「あなた……どうしてあんなことを……」
「決まってるじゃない。私の願いを叶えるためよ」
 さも当然、というせつなの返事に、少女の目がさらにどぎまぎと泳ぐ。そしてわざとらしく、ふん、と鼻を鳴らすと、いつもの口調に戻って吐き捨てるように言った。
「願いって……今更かつての自分にとって代わる、ってこと?」
「いいえ。言ったでしょう? あなたを元の世界へ、連れて帰るって!」
 その言葉が合図だったかのように、二人の少女は再び空中に跳び上がった。

 さっきまでの戦いが嘘のようだった。イースとほぼ互角に渡り合っていたはずの少女が、今度は一方的に押されている。
 スピードが違う。技のキレが違う。何より熱い闘志の宿った赤い瞳が、少女を真っ向から見据え、圧倒する。
 その癖せつなは、少女をギリギリまで追い詰めても、とどめとなる一撃を放っては来ない。
 何度目かのジャブを打ち合った後、もう焦りの色を隠す余裕すらなくなった少女が、大上段からせつなに襲い掛かった。

「はぁっ!」
 少女が放った渾身の一撃を、せつなが正面から掌で受け止める。そのままグイっと腕を引いて懐に飛び込むと、せつなの右手が唸りを上げた。
 パァン! という高い音が訓練場にこだまする。観戦していた人々の間から、小さいながらもどよめきのような声が上がった。
 この訓練場では――いや、かつてのラビリンスでは非常に珍しい反応だった。それだけ、せつなの動きはそこに居合わせた人々の常識からかけ離れていたのだ。
 少女は、何が起こったのか分からないといった顔つきで頬を押さえていた。せつなの攻撃――それは少女の顔が真横を向くほどの、強烈な平手打ちだった。

「あなたの願いは、メビウスの復活なんでしょう? こんなところに居たら、その願いは二度と果たせない。目を覚ましなさい」
 低くてよく通る声が、少女を叱咤する。まだ呆然としている少女の目を真っ直ぐに見つめて、せつなはこう付け足した。
「それに、どうしても私に勝ちたいのなら、こんな夢の中なんかじゃなくて、現実の世界で勝負するのね」
 その言葉を聞いて、少女の瞳にようやく強い光が戻り、口元が悔しそうに引き結ばれる。
 その途端、辺りの景色は急速に薄れ始め――気付いた時には、せつなは少女を抱き締めるような格好で、瓦礫の上に立っていた。

 少女が身じろぎするようにして、ゆっくりと身体を起こす。その上半身には、鋭い棘を持つ茨がまだ幾重にも巻き付いたままだったが、赤黒い炎は消え失せて、茨の色も血のような赤色から、元の暗緑色に戻っていた。
 せつなは、少女をしっかりと支えたまま、初めて後ろを振り返って、元来た方へとその目を向けた。そして、遠くに小さくラブの姿を確認すると、その頬に久しぶりの小さな笑みを浮かべた。



   ☆

315 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:57:32
 ホホエミーナの肩の上から、ウエスターはナキサケーベの様子を遠巻きに眺めていた。
 相変わらず無秩序に暴れ回り、無茶苦茶に砲弾を発射する怪物の巨大なひとつ目に、彼が渾身の力で付けた小さなくぼみがあるのが分かる。人並外れた視力でその奥を覗き込むと、燃え盛る赤黒い炎がハッキリと見えた。
「やっぱりあのひとつ目は、コアでは無かったようだな。おそらくヤツのコアはあの火だ! あの火を消し止めれば、ヤツは倒せる」
 まるでホホエミーナに話しかけているかのような大声でそう言ってから、ウエスターは太い腕を組み、額に皺を寄せて考え込んだ。
「だが……どうやって消せばいいんだ。何とかして、表面に穴でも開けられればいいんだが……」

 困ったように呟いたウエスターが、突然、ホホエミーナの上から身を乗り出す。
 怪物の動きがパタリと止んでいた。その中に見える炎も、さっきまでとは違っている。
 赤黒い炎とは異なる、より純度の高い赤々とした炎。苦痛の象徴と言うよりは、決意の証のようなその炎は、くぼみを通して見なくても、既に巨大なひとつ目から透けて見えるほどの輝きだった。

「こいつは一体……」
 そう呟いたウエスターが、今度はせつなと少女の方に身を乗り出す。そして、さっきまで二人を包んでいた赤黒い炎が消えているのを見ると、その目が得意げにキラリと輝いた。
「イース、でかした! そうか。あっちの炎が消えたせいで、こっちがその分、勢い良くなったのだなっ?」
「ホ……ホエミーナ?」
 ホホエミーナが、明らかに理解不能という口調で相槌を打つ。だが、ウエスターは得意満面の様子で、この大きな相棒に檄を飛ばした。
「よし! 今度は俺たちの番だ。行くぞ、ホホエミーナ!」

 再びナキサケーベに対峙したホホエミーナが、さっきと同じく腕を錐状に変化させて、ウエスターが作ったくぼみを狙う。やはり他の場所に比べて弱くなっていたのだろう。ついに怪物の硬い表面に穴があくと、すかさずウエスターの大声が飛んだ。
「今だ! 水をくれっ!」
「分かった!」

 老人とラブが、ナキサケーベに消火ホースを向けて、最大出力で水を放つ。火の勢いが弱くなるにつれて、怪物の姿は次第に薄れ始めた。
 やがて、三角形のカードが灰になって空に舞い上がり、消えていく。それと共に、少女に巻き付いていた茨も跡形もなく消え失せて、彼女はふらつきながらも自分の足で立ち上がると、せつなの顔にチラリと目をやって、少し照れ臭そうにそっぽを向いた。

「おのれ……」
 一部始終を眺めていたノーザの映像が、悔しそうに歯噛みする。だが、目の前に一体残ったモンスターに目を移すと、今度はニヤリとほくそ笑んだ。
「ホ……ホエミーナ……」
 消火ホースがいったん離れたせいだろう。サウラーのホホエミーナが必死で食い止めてはいるが、ソレワターセは、ラブや老人、サウラーが立っているすぐ近くまで迫っている。
 そして、ソレワターセがさらに一歩を踏み出した時、突然ノーザの目が大きく見開かれ、その顔に歓喜の表情が浮かんだ。
「見つけたわ……。そのまま進め! ソレワターセ!」
「ソーレワターセー!」
 ノーザの鋭い激に、巨大な怪物は、地に響くような雄叫びを上げた。

〜終〜

316 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:58:07
 ホホエミーナの肩の上から、ウエスターはナキサケーベの様子を遠巻きに眺めていた。
 相変わらず無秩序に暴れ回り、無茶苦茶に砲弾を発射する怪物の巨大なひとつ目に、彼が渾身の力で付けた小さなくぼみがあるのが分かる。人並外れた視力でその奥を覗き込むと、燃え盛る赤黒い炎がハッキリと見えた。
「やっぱりあのひとつ目は、コアでは無かったようだな。おそらくヤツのコアはあの火だ! あの火を消し止めれば、ヤツは倒せる」
 まるでホホエミーナに話しかけているかのような大声でそう言ってから、ウエスターは太い腕を組み、額に皺を寄せて考え込んだ。
「だが……どうやって消せばいいんだ。何とかして、表面に穴でも開けられればいいんだが……」

 困ったように呟いたウエスターが、突然、ホホエミーナの上から身を乗り出す。
 怪物の動きがパタリと止んでいた。その中に見える炎も、さっきまでとは違っている。
 赤黒い炎とは異なる、より純度の高い赤々とした炎。苦痛の象徴と言うよりは、決意の証のようなその炎は、くぼみを通して見なくても、既に巨大なひとつ目から透けて見えるほどの輝きだった。

「こいつは一体……」
 そう呟いたウエスターが、今度はせつなと少女の方に身を乗り出す。そして、さっきまで二人を包んでいた赤黒い炎が消えているのを見ると、その目が得意げにキラリと輝いた。
「イース、でかした! そうか。あっちの炎が消えたせいで、こっちがその分、勢い良くなったのだなっ?」
「ホ……ホエミーナ?」
 ホホエミーナが、明らかに理解不能という口調で相槌を打つ。だが、ウエスターは得意満面の様子で、この大きな相棒に檄を飛ばした。
「よし! 今度は俺たちの番だ。行くぞ、ホホエミーナ!」

 再びナキサケーベに対峙したホホエミーナが、さっきと同じく腕を錐状に変化させて、ウエスターが作ったくぼみを狙う。やはり他の場所に比べて弱くなっていたのだろう。ついに怪物の硬い表面に穴があくと、すかさずウエスターの大声が飛んだ。
「今だ! 水をくれっ!」
「分かった!」

 老人とラブが、ナキサケーベに消火ホースを向けて、最大出力で水を放つ。火の勢いが弱くなるにつれて、怪物の姿は次第に薄れ始めた。
 やがて、三角形のカードが灰になって空に舞い上がり、消えていく。それと共に、少女に巻き付いていた茨も跡形もなく消え失せて、彼女はふらつきながらも自分の足で立ち上がると、せつなの顔にチラリと目をやって、少し照れ臭そうにそっぽを向いた。

「おのれ……」
 一部始終を眺めていたノーザの映像が、悔しそうに歯噛みする。だが、目の前に一体残ったモンスターに目を移すと、今度はニヤリとほくそ笑んだ。
「ホ……ホエミーナ……」
 消火ホースがいったん離れたせいだろう。サウラーのホホエミーナが必死で食い止めてはいるが、ソレワターセは、ラブや老人、サウラーが立っているすぐ近くまで迫っている。
 そして、ソレワターセがさらに一歩を踏み出した時、突然ノーザの目が大きく見開かれ、その顔に歓喜の表情が浮かんだ。
「見つけたわ……。そのまま進め! ソレワターセ!」
「ソーレワターセー!」
 ノーザの鋭い激に、巨大な怪物は、地に響くような雄叫びを上げた。

〜終〜

317 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/07/24(月) 20:58:39
以上です。どうもありがとうございました!

319 名無しさん :2017/10/19(木) 23:16:12
誰か書かないかな〜
「結婚もの」

320 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/10/29(日) 23:08:00
こんばんは。
かなり間が開いてしまいましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
8レス使わせて頂きます。

321 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/10/29(日) 23:08:51
「見つけたわ……。そのまま進め! ソレワターセ!」
「ソーレワターセー!」
 鋭いノーザの檄を受けて、ソレワターセの侵攻がさらに勢いを増す。必死で食い止めているのは、元・幹部たちの二体のホホエミーナ。
 ふらふらとせつなから離れた少女が、モンスターたちの激しい攻防を見つめる。その真剣な眼差しとは裏腹に、彼女の瞳には何も映ってはいなかった。

 体中が軋むような痛みと共に、戻って来た現実感。同時に蘇る、あの世界での彼女の言葉――。

――あなたの願いは、メビウスの復活なんでしょう?

(そうだ。それなのに私は、与えられた苦痛に耐えかねて、別の世界へ逃げ込もうとした……)

 どうしてあの時、あの世界でイースになりたいなどと思ったのだろう。メビウス様のためにと言いながら、自分のことだけを考えていたというのか……。
 情けなさと悔しさ。それにメビウスに対する申し訳なさで胸が一杯になり、グッと奥歯を噛み締める。その時、隣に居たせつなが、弾かれた様に走り出した。
 怪物が戦っている現場近くに居た仲間――ラブと老人に駆け寄り、二人を抱えてひとっ跳びでその場を離れる。その直後、さっきまで彼らが居た場所にホホエミーナの巨体が叩き付けられた。
 土埃の向こうで、せつなが大きく息を付き、ラブに微笑みかけているのが見える。それをぼんやりと眺めながら、少女は自分が無意識のうちに、せつなに打たれた左の頬を撫でていたことに気付き、慌てて手を下ろした。

「おーい!」
 不意に遠くから呼びかけられて、思わず身構える。やって来たのは、警察組織の戦闘服に身を包んだ一人の少年――数日前にくだらない諍いを起こした、あの少年だった。

「お前も来い」
「……何?」
「ここは危ない」
 一瞬、何を言われているのか分からなかった。少年の頭の向こうに目をやると、確かに人々が続々と建物から出て、戦場から遠ざかろうとしている。
「気は確かか? 私は、お前たちを……」
「いいから来い。お前、フラフラじゃないか」
 心配そうにこちらを覗き込む少年の目。その目を見た途端、少女はくるりと彼に背を向けた。
「言ったはずよ。お前の命令など聞かない、って」
「おい!」

 焦れたように呼びかける少年を振り向きもせず、少女が痛む身体に鞭打ってその場を駆け去る。物陰に隠れてそっと様子を窺うと、少年は仲間たちに呼ばれ、後ろを振り返りながら避難者たちの元へ戻っていくところだった。

(ふん。お前に何がわかる)

 警察組織の若者たちの誘導に従って、人々が黙々と移動を始めている。
 かつてはメビウス様が管理された通り、一糸乱れず歩いていた人々が、こんな不完全な若者たちに、列も作らずただぞろぞろと従っているのだ。

(お前たちに何が出来る。メビウス様が完全に管理された世界こそが、ラビリンスのあるべき姿なのだ)

 胸の中に、さっきとは違う何かが渦巻いている。情けをかけられた屈辱と、それとは違う、微かにあたたかさを感じる何か。少女はそれから目を背けるように、震える拳をグッと胸に押し当てた。

(私は……メビウス様を復活させる。ラビリンス総統・メビウス様のしもべになる!)

「ソレワターセー!」
 少女の決意を後押ししているのか、それとも嘲笑っているのか、モンスターの雄叫びが、再び辺りの空気を震わせた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第12話:守りたいもの )

322 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/10/29(日) 23:09:26
「ホ……ホエミ……ナー!」
「ホホエ……ミーナ……」
 サウラーが生み出した瓦礫づくりのホホエミーナと、街頭スピーカーから生まれたウエスターのホホエミーナ。それらが左右から抱き着くようにして、ソレワターセを止めようとしている。
「ソーレワターセー!」
 そんなことなどお構いなしに、ソレワターセは二体を強引に引きずるような格好で、じりじりと前進を続けていた。

(もう少し、避難に時間がかかりそうか……。それまで何とか、持ちこたえてくれ!)

 腕組みをしてその様子を眺めていたサウラーが、避難者たちの方に目をやって、僅かに眉をしかめる。そして空の一角を覆いつくした半透明な姿に、ゆっくりと視線を向けた。

「フフフ……。あともう少し。もう少しで、私の欲しいものが手に入る……」
 歓喜に満ちたノーザの声が頭の上から降って来る。

(そうは行きませんよ、ノーザさん。住人たちの避難を終えたら、あとは僕が全力で阻止してみせる!)

 感情をほとんど表に出さないその顔からは、そんな心の内は一切窺い知ることは出来ない。しかし、その時向こうから息せき切って走って来たせつなの姿を見て、その表情が僅かに変わった。

「サウラー! ウエスター! 全員の避難が完了したわ!」
「よし!」
 言うが早いか、さっきまで老人が使っていたホースを手に取って、残っていた最後の熱水を浴びせかける。そしてソレワターセが怯んだ一瞬の隙に、サウラーはホホエミーナの肩に飛び乗った。

「さぁ行くぞ!」
「ホーホエミーナー!」
 次の瞬間、敵にくるりと背を向けたホホエミーナが、ソレワターセが向かおうとしている廃墟を目指して全速力で走り出す。
「ホホエミーナ! サウラーを守り抜け!」
 自らのホホエミーナに檄を飛ばすウエスターの声が、背中で聞こえた。続いて、ガツン、ガツン、とモンスター同士がぶつかり合う音が辺りに響く。だがそれも束の間、ドシン、ドシンというソレワターセの足音が、あっという間にこちらに迫って来た。
「ああっ! すまん、サウラー! ホホエミーナ、追え!」
 ウエスターの、今度は慌てふためいた声が聞こえる。それを聞くと、何だか心臓の辺りがこそばゆくなって、サウラーはフッと口の端を斜めに上げて笑った。

(十分時間は稼げたよ、ウエスター)

 声に出しては言えないので心の中で呟いてから、気合いを入れ直すように、ぐっと唇を噛みしめる。さあ、ここからが本番だ。

 廃墟に飛び込み、ホホエミーナの肩の上から滑り降りる。そしてそこに置いてあるものを掴むと、サウラーは不敵な笑みを浮かべてソレワターセの方へ向き直った。
「お探しの物は、これかい?」
 それは、ノーザの本体――プリキュアの技を受けて元に戻った、あの球根だった。

「ソーレワターセー!」
 廃墟の壁や天井を盛大に破壊しながら、ソレワターセがその場所に飛び込む。だが、その腕が目的の物に届くことは無かった。

「はぁっ!」

 サウラー渾身の蹴りが、ソレワターセの胴を撃ち抜く。
 もんどりうって転がる巨体から、さらに球根を狙って立て続けに放たれる、矢のような蔦、蔦、蔦。

「はぁぁぁぁっ!!」

 サウラーの気合いが炸裂する。息つく暇など全く無い高速の足さばきで、ただひたすらに、蹴る! 蹴る! 蹴る!
 ついに全てを蹴り返すと、サウラーは休む間もなく身を翻し、再びホホエミーナの肩に飛び乗った。

323 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/10/29(日) 23:10:00
「ホホエミーナ。ここからは頼んだぞ!」
 皆まで聞かず、脱兎のごとく駆けるホホエミーナ。跳ね起きたソレワターセもすぐに後を追う。そしてホホエミーナが廃墟から今まさに外に出ようとしたところで、ソレワターセの放った蔦が、後ろからサウラーを襲った。

「うわぁっ!」
 不意打ちを喰らって弾き飛ばされたサウラーを、ホホエミーナが決死のダイブで受け止める。
 盛大な土埃を上げて倒れる巨体。その身体を貫こうと、ソレワターセが蔦の先を鋭く尖らせ、振り上げる……!
 その時、不意に地面から、赤紫色の光が出現した。
 光は廃墟をぐるりと取り囲むように立ち昇り、光の壁となって四方を覆う。構わず蔦を放ったソレワターセは、その光に触れた途端、弾き飛ばされて再び地面に転がった。よく見ると光の壁の表面には、ビリビリと稲妻のようなものが走っている。
 やがて光が収まった時には、廃墟はソレワターセごと消え失せて、後には何も残ってはいなかった。

 余裕の笑みを浮かべて一部始終を眺めていたノーザが、呆然と目を見開く。
「何だ、これは。まさか、次元の壁……!」
「ええ。あなたに気付かれないようにこの仕掛けを作るのは、苦労しましたよ」
 ホホエミーナの掌から飛び降りたサウラーが、そのゴツゴツした指をポンポンと叩いてから、相変わらず淡々とした口調で答えた。

 “次元の壁”――それはラビリンスの科学が生み出した技術。四つ葉町にあった占い館をプリキュアの目から隠すために使ったのと同じ技術だった。この壁が作り出した空間は別次元にあるため、通常の手段では中に入れず、そこにあることすら認識できない。
 ノーザが自分の本体を狙ってくるだろうと予測した時から、何とかしてこの国を守り抜くために、サウラーが考えに考え抜いた作戦だった。

「おのれ……!」
 完全にしてやられたと知って、ノーザの映像がギリギリと音を立てて歯噛みする。
「やったな、サウラー!」
「喜ぶのはまだ早いよ、ウエスター。モンスターは何とか片付けたが、まだE棟に大物が残っている」
 嬉しそうに仲間の肩を叩いたウエスターに、サウラーが無表情を崩さず答える。
 E棟にある大物――ノーザのデータの媒体らしき植木と、不幸のゲージ。とりわけ不幸のゲージをどう始末すればいいのか、それはサウラーにもウエスターにも見当がつかない。

(全く……。不幸を集めていたというのに、その扱いについてはまるで分かっていないとはね)

 今も昔も、無表情の下は不安だらけだ――自嘲気味にそんなことを思った時、ウエスターが能天気な顔で、再びニカッと笑った。
「そうだな。先発隊は、既にE棟に向かっている。俺もすぐに追いかけるから、心配するな!」
「全く。君のその根拠のない自信は、一体どこから……」
 サウラーが呆れた顔でそう言いかけた、その時。

「そう簡単に……終わらせてたまるかぁっ!」

 突然、怒りに満ちた声が辺りの空気を震わせた。叫びと共に物陰から飛び出した少女が、サウラーに躍りかかる。
 傷だらけの身体。ボロボロの戦闘服。足の震えを必死で抑えながら、やみくもに殴り掛かる。
 軽く身をよじるだけの動きで攻撃をかわすサウラー。少女は彼に触れることすらできず、地面に倒れ込んだ。

「無茶な……。そんな身体で、僕に敵うとでも思ったのかい?」
 サウラーが苦いものでも飲んだような顔つきで、少女の傍らに歩み寄る。が、すぐにそれは驚愕の表情に変わった。何かが目にもとまらぬ速さで、サウラーに襲い掛かったのだ。
 考えるより先に身体が動いた。跳び退って攻撃を避け、相手の正体を見定めようと目を凝らす。だがその時右足に何かが絡みつき、サウラーの身体はそのまま宙吊りになった。

「サウラー!」
 ウエスターの隣にせつなも駆け付けて、逆さ吊りにされたサウラーをなす術もなく見上げる。
「フフフ……。今回ばかりはお手柄だったわねぇ。こんなに見事に囮になってくれるなんて」
「私は、そんなつもりじゃ……」
 さっきの狼狽した姿など、まるで無かったかのようなノーザの含み笑いに、少女が戸惑ったように目を泳がせる。その映像のちょうど真下に当たる場所。そこにいつの間にか姿を現したのは、大きな鉢に植えられた一本の木だった。
 まるで枯れ木のようにしか見えないその木の一番太い枝先からは、空中に向かって光が放たれていた。どうやらそれが、ノーザの映像を形作っているらしい。そして別の枝先からは、サウラーの足に絡みついている触手が伸びている。

(やはりこいつが、ノーザのバックアップの媒体というわけか)

 宙吊りにされた格好のままで、サウラーがそこまで観察した時、ノーザの勝ち誇ったような声が降って来た。

324 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/10/29(日) 23:10:41
「サウラー君。今のうちにそれを渡してくれたら、痛い目に遭わずに済むわよ」
 サウラーが、ノーザにちらりと目をやってから、今度は仲間たちの方へ視線を移す。その時、せつながさりげなく、ウエスターの陰に隠れるように立ち位置を変えた。それを見て、サウラーがノーザに向かってため息をひとつ付いて見せる。

「こうなっては仕方がない、か。ならば、お言葉に甘えましょうか」
「いい答えねぇ」
 無表情で球根を取り出すサウラーに、するすると伸びる一本の触手。それに向かってゆっくりと球根を差し出す素振りを見せてから、サウラーは不意に手の中の物を勢いよく放り投げた。

「せつな!」
 球根が矢のような速さでせつな目がけて飛ぶ。それを追って一斉に放たれる触手。だがそこに待っていたのは、頑強な肉体の壁だった。
「でぇやぁぁぁっ!」
 ウエスターが気合い一閃、全ての触手を叩き落す。その隙に、せつなが球根を追って走り出す。
 逆さ吊りのまま放たれた球根の軌道は、ほんの少しずれていた。だがせつななら十分に守備範囲。誰もがそう思っていたその時、信じられない出来事が起こった。
 球根にせつなの手がまさに届こうとしていた瞬間、横合いから一人の人物が飛び出して、球根を掴んでしまったのだ。
 せつなが、ウエスターが、そしてサウラーが、唖然とした表情でその人物を見つめる。
 それは、さっきまで消防ホースを構えてサウラーたちに加勢し、今は他の住人たちと共に避難に向かっているはずの、あの老人だった。

「おじいさぁん! 今はそっちに行っちゃ、危ないよ〜!」
 不意に新たな声が響いた。老人を心配したのだろう。ラブが大声を上げながら、こちらに向かって走って来る。それを見るや否や、せつなが慌ててラブの元へと走った。
「ラブ、こっち」
 事情を知らずに老人に駆け寄ろうとするラブを制し、彼女をいつでも守れるように、ぴたりと寄り添う。

「なんだ? お前は。愚かな真似をすると、怪我をするわよ」
 怪訝そうな顔で老人に目をやったノーザが、フン、と馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
 なんだ、ただの国民風情か――触手もそう言いたげな緩慢な動きで、老人の近くにゆるゆると伸びてくる。
 だが、すぐにノーザの表情は凍り付き、触手も動きを止めた。老人が懐から鋭い刃物を取り出して、球根に押し当てたのだ。

「貴様……何をする気だ!」
「こ、これが欲しいのか。こんなちっぽけなものが、あ……あなたの、大切なものだというのか。あの子を……あんな目に遭わせてまで、欲しいものなのか!」
 両目を見開いて慌てふためいた声を上げるノーザを、刃物を持った手をブルブルと震わせながら、老人が睨み付ける。

「知らないならば……教えてやる。ここに傷を付けると、運が良ければ傷の周りに、新しい球根が出来るらしい。分球、と言うんだそうだ。どっちにしろ、親となった球根は枯れてしまうがな……」
「そんなこと、させるかぁっ!」
「寄るなっ!」
 さっきまでのしょぼくれた老人とは思えないような鋭い声に、襲い掛かろうとしていた触手が動きを止める。その隙にウエスターがサウラーを助け出したが、それに構っている余裕は、今のノーザには無かった。
 ただの国民風情と見くびっていた相手に、最高幹部の自分が追い詰められている――その受け入れがたい事実に、ノーザの瞳が次第に大きく、やがては極限まで見開かれていく。

「おのれ……。お前ごときに、そんなことが出来ると思っているのっ?」
「今はもう、命令された以外のことをしてもいい世界なんでね」
 金切り声を上げ、恐怖にわななくノーザとは対照的に、老人の声は次第に落ち着き払った、凄みすら帯びたものに変わっていく。そしてたじろぐノーザの映像に向かって、老人が一歩、また一歩と近付いていく。

「あなたはかつての最高幹部・ノーザ……なんですよね?」
「き……気安く私の名を呼ぶな!」
「この国は、新しく生まれ変わったんだ」
「そ……それがどうした!」
「幹部と呼ばれる人間は、もう居ない」
「お、おのれ……」
「古い時代の者たちは、もう要らない」
「や……やめろ……」
「古い時代の者は、新しい時代の者に道を譲って去るべきなのだ」
「やめろ……やめろぉぉぉ!」
「あなたも。そして……」

「おじいさん」

325 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/10/29(日) 23:11:22
 老人の言葉が、あたたかく伸びやかな声に遮られる。
 ゆっくりと彼に近づいたのは、少し哀し気な笑みを浮かべて老人の顔を見つめるラブと、油断なくノーザの様子を窺いながら、その隣にぴったりとくっついている、せつなだった。
 好機とばかりに、蔦が老人目がけて唸りを上げる。だがウエスターとサウラーの方が早かった。蔦を跳ね除け、三人を守るようにノーザの前に立ちはだかる。
 ラブは二人に小さく笑いかけてから、そのままの表情で、まだ微かに震えている老人の手を優しく抑えた。

「それは違うよ。だっておじいさんも、今のラビリンスを作っている一人じゃない」
「私は……古い人間だ」
「そんなことないよ。ラビリンスで初めての、畑作りのお仕事をしているんでしょう?」
「……そういうことではない。私は、今のラビリンスにはついていけていないんだ」
「大丈夫だよ」
 ラブはゆっくりとかぶりを振ると、老人の手に重ねた掌に、ギュッと力を込めた。
「あたしたちは、どんどん変わっていくんだもの。だから大丈夫。古い人間なんて……要らない人間なんて、誰もいないよ」
「しかし、私は……」

 包み込むような優しい眼差しで自分を見つめるラブから視線をそらし、老人がうなだれる。そのとき静かな声が、彼に語りかけてきた。
「おじいさん。あなたはもしかして、ノーザの球根を傷つけた後、自分も命を絶つつもりなんじゃありませんか?」
「えっ!?」
 驚いて顔を上げたラブが、老人と、彼を心配そうに覗き込んでいるせつなの顔を交互に見つめる。老人は力なくうなだれたまま、ああ、と小さく頷いた。
「そうだ。そもそも私が、この惨事を引き起こしてしまったのだから」

 さっきまでとは打って変わったぼそぼそとした声で、老人が語り始める。
 畑作りの仕事を始めてから、あの少女をしばしば見かけるようになった。メビウス亡き後、何かと話しかけたり会合に誘ったりしてくるようになった他の住人たちと違って、ただ黙って畑を眺めているだけの寡黙な少女。
 お互いほとんど口を利くことはなかったが、ある夜、少女が老人を訪ねてきた。そして、今にも枯れそうな鉢植えを抱えて、何とか生き返らせてほしいと涙をこぼしながら訴えた。
 八方手を尽くして、植木は何とか息を吹き返したが、その矢先に、枝先から突然ノーザの映像が現れたのだと――。

「ふん、馬鹿馬鹿しい」
 いつの間にやって来たのか、少女が少し離れたところに立っていた。憮然とした顔でそっぽを向いているが、その目はちらちらと老人の様子を窺っている。
 老人の方は少女の姿を見ると、まるで自分が怪我をしているかのような表情で、おろおろと声をかけた。
「だ……大丈夫なのか? 身体の方は……」
「人のことより、自分の心配をしろ」
 吐き捨てるようにそう言ってから、少女の声が低くなる。
「あなたは、あれが何なのか知らなかった。それに、頼んだのは私だ。あなたが責任を感じることはない」
 だが、そこで少女の表情が変わった。

「あなたも……後悔しているの?」
「馬鹿を言え! 後悔などするわけないだろう!」
 心配そうな目を自分に向けてくるラブに、少女が今度はカッとなったように食ってかかった。
「こんな街など、メビウス様が復活なさればすぐに元通りになる。我らラビリンスは、完全に管理された世界、正しい世界に戻るのだ。だから……それを寄越せ!」
 刃物を下ろしていた老人が、少女の声にびくりと反応して身構える。構わず老人に躍りかかろうとする少女。だがその寸前に飛び出したせつなが、少女を捕まえていた。
「残念だが、それを渡すわけにはいかん」
 暴れる彼女の腕を、ウエスターが後ろ手に掴んで拘束する。少女は少しの間暴れていたが、老人をじろりと睨み付け、そして大人しくなった。

326 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/10/29(日) 23:12:08
 何か言いたげな目で少女を見つめていたラブが、老人の手が再びブルブルと震えているのに気付いて、もう一度彼の手に自分の手を重ね、その瞳を覗き込む。
「あたしね。小さい頃に、大好きだったおじいちゃんが亡くなったの。時間が経って忘れちゃったこともいっぱいあるけど……去年ね、夢の中でおじいちゃんにまた会えたんだ。それで少し、思い出したことがあるの。昔、おじいちゃんに教わったことを」
 サウラーが一瞬だけラブの方に目をやって、口の端を斜めに上げた。「おじいちゃんのお蔭で目が覚めた!」思い出の世界から帰って来て、そう言い放ったキュアピーチの声が、耳元で蘇る。
 ラブは、老人の目を見つめながら、ゆっくりと言葉を繋いだ。
「何か困ったことが起こったら、みんなでいい考えをたくさん集めて、頑張って考えればいいんだって。そうすれば、一番いい方法だって、きっと見つかるって」

「いい考え、か」
 老人がうなだれたまま、絞り出すように声を出す。
「メビウスが居なくなった今のラビリンスでは、確かにみんな、色々なことを考えるようになった。色々な意見を言うようになった。だが、私にそんな考えは……」
「でも、おじいさんが一番、何とかしたいって思ってるよね?」

 そこで初めて、老人が顔を上げてラブを見つめた。さっきまでの苦渋に満ちた顔でなく、驚きに目を見開いて、ラブの目を真っ直ぐに見つめる。
「何とかしたいって想いはね、すっごく大きな力になるんだよ。だからおじいさん、居なくなったりしちゃ、ダメだよ」
 ラブの言葉に、老人の瞳が微かに揺らいだ。
「何とか……なるのか?」
「もちろん!」
 そう言ってにっこりと笑って見せるラブを、老人は半ば呆然として見つめる。

 どうしてこの子は、こんな状況でこんな風に笑えるのだろう。
 どうしてこんな自分を、こんなにも力強く励ましてくれるのだろう。

 老人の手から力が抜けて、刃物をポトリと取り落とす。
 と、その時、目にもとまらぬ速さで放たれた触手が、落ちた刃物を空中高く撥ね飛ばした。
「あっ!」
 せつなが慌てて老人の手から球根を取り上げる。その頭上から降って来たのは、聞く者の背筋が凍り付くような、ノーザの高らかな笑い声だった。

「この私をここまでコケにしてくれるとは……。どうなるか思い知るがいい!」
 さっきまでとは一変、怒りに目を吊り上げたノーザが、これまでで最大の量の触手を一気に放つ。
「はぁっ!!」
 撃ち落とすのは無理と判断したサウラーとウエスターが、バリアを張ってそれを防ぐ。だが、防ぐ以外に攻撃の決め手がない。二人とも、次第にハァハァと荒い息を付き始める。
「あら、どうしたの? 随分苦しそうじゃないの。さぁ、早くその身体を渡して、もう終わりにしなさい!」
「いいや……まだだ!」
「僕たちだって……何とかしたいって思っているからね!」
 ウエスターとサウラーが歯を食いしばって、触手を防ぎ続ける。

「何とかしたいって想いが、大きな力になる……。そうね。ラブの言う通りだわ」
 二人の背中をじっと見つめてから、せつなが球根をギュッと握りしめる。
「だったら私も、古い時代を知る者として……過ちを知る者として、何が何でもここは何とかして見せる!」
 力強くそう言い放ち、せつなが老人に駆け寄る。
「おじいさん。ひとつ教えてください」
 そう言って、老人の耳元で何事かを囁くせつな。老人が頷くのを見ると、その口元が僅かに緩んだ。その目には鋭い光が――戦士の光が宿っている。

「私にも教えてくれ」
 今度は老人が、せつなに呼びかける。
「どうしてそいつを、処分しようとしないんだ? そいつを守る必要があるのか? それさえ無ければ、あいつは……最高幹部は、もう襲ってこないんじゃないのか?」
「そうとも限りません。それに……」
 そう言いかけて、ちらりとラブに視線を走らせたせつなの目が、少し照れ臭そうに揺れる。
「それにラブが言っていた通り、処分されていい存在なんて……要らない存在なんて、居ないんです。私にも、ようやくそれが分かりました」

327 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/10/29(日) 23:12:41
 ラブがせつなの顔を見つめて、嬉しそうに微笑む。その目の前に、せつなは持っていた球根を差し出した。
「お願い、ラブ。これを持っていて」
「え……あたし!?」
 思わず素っ頓狂な声を上げるラブに小さく頷いてから、せつなが強い光をたたえた目でその顔を見つめる。
「あなたなら大丈夫。私が絶対に、守り抜くわ」
 驚きに見開かれていたラブの瞳が、すぐにせつなに負けずとも劣らぬ強い光を宿す。うん、と頷いてから、ラブはせつなの手から球根を受け取って、大切そうに胸に抱いた。

 せつなの戦闘服が、再び風を纏って舞い上がる。
 上空高く跳び上がったせつなは、バリアを避けて襲ってきた触手をことごとく回避しながら、鋭い眼差しで地上を見つめた。
 やがて人並外れたせつなの視力が何かを捉える。

(あった!)

 すぐさま着地し、目的の場所へ向かって走り出したせつなを見ながら、ノーザは楽しげにほくそ笑んだ。
「あら……早速一人裏切ったってわけかしら?」
 だがほどなくして、その顔が今度は呆れた表情に変わる。駆け戻って来たせつなが、バリアの真ん前に立って、鋭い眼差しでノーザを睨み付けたのだ。
「おい、何をする気だっ?」
「いいから、黙って見てて」
 心配そうに声をかけたウエスターが、あっさりと一蹴される。それを見て、ノーザが相手をいたぶるような目つきに変わった。

「その目……。思い出すわぁ。生意気な幹部だった頃とおんなじじゃないの。生まれ変わろうがプリキュアになろうが、人間はそう簡単には変わらないってことかしら」
 からかうようにそう言ってから、その唇が、氷のように冷たい一言を発する。

「そうでしょう? ねぇ……イース」

 ノーザの笑みが高笑いに変わりかけて――そこで止まる。
 じっとノーザを見つめ続けていたせつなが、その言葉を聞いて、ニヤリと不敵に笑ったのだ。

「そうね、やっと分かったわ。何があろうと、私は――私よ!」
「……小癪なぁっ!」

 声と同時に、せつなが再び空中高く跳び上がる。その軌道を追うように放たれる触手。だがせつなは無表情でそれを見つめたまま、今度は一切避けようとしない。
 その時、何かが空を一閃する。
 華麗に着地したせつなの後を追うようにバラバラと落ちて来たのは、すっぱりと切り落とされた、大量の触手だった。

「あいつ……あの爺さんの刃物を取って来たのか!」
「なるほど。確かにあの戦い方は、昔の彼女を思い出すね」
 ウエスターとサウラーが、驚きを隠せない様子で呟く。
 獰猛で、果敢で、華麗で、刃物のように鋭くて――そんな彼女の姿を目の当たりにして、彼らの瞳にもせつなと同じ、不敵な戦士の光が宿る。
「ふん、イースに負けてはいられないな、サウラー!」
「当たり前だ!」
 二人のバリアが俄然力を盛り返し、一回り大きくなったのを、ウエスターに腕を掴まれたままの少女は、信じられないものを見るような目で見つめた。

「おのれ……。いつまでも続くと思うな。これで終わらせてやる!」
 ノーザの声と共に放たれた触手が、今度はことごとく刃物を持ったせつなの右手を狙う。その一本を、せつながグイッと掴んだ。
 そのまま触手を手繰り寄せるようにしながら、勢いよく自分の身体を滑らせて、空中を高速で移動していく。
「何を……何をする気だ!」
 せつなの意図に気付いたノーザが、再びせつな目がけて触手を放つ。
 だが当たらない。焦ったノーザが触手の数を増やしたが、一向に当たらない。
 大量の触手は目標を失って絡み合い、こんがらがったロープのようになっている。それをしり目に、せつなが植木の元へと辿り着き、今はまさに頭の上に広がるノーザの映像を見上げた。
「大丈夫。ちゃんと手入れをすれば、枝はまた伸びるそうよ」

「やめろ! 何を」
 それが最後だった。まるでテレビのスイッチを切られた様に、ノーザの映像がぷつんと途絶える。
 後には全ての枝を短く切られた植木が、所在なげに残された。

328 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/10/29(日) 23:13:15

 小さな刃物を鞘に納めて、せつながようやく、フーッと大きく息を吐く。そして仲間たちのところへ駆け戻ろうとした、その時。

「せーつなぁぁぁっ!!」

 世界中で、せつなが一番好きな声が響く。
 全速力で走って来たラブが、その勢いのままに、せつなに抱き着いた。
「無事で良かったぁ……。凄かった! 凄かったよ、せつな!」
「そんな……みんなのお蔭だわ」
 ラブの後ろから、ウエスターとサウラー、ウエスターに引きずられたままの少女と、あの老人もやって来る。

 ラブのあたたかな身体に抱き締められながら、不意に、ただ一人で占い館に乗り込んだあの日のことを思い出した。
 自分はどうなってもいい。大切な人たちを巻き込みたくない――その一心で、無謀にもたった一人で不幸のゲージを壊そうとした、あの日の自分を。
 あの頃は、守りたいものが増えることが、嬉しい反面、この上なく怖かった。それが今ではどうだ。守りたいものはこんなにも――怖いのは変わらないけれど、そんなことを言っていられない程に増えている。
 大切な家族。仲間。友達。ラビリンスの人たち。そして――。

(私自身も、その中の一人……なのね)

 それが何だか不思議なようにも、勿体ないようにも思えて、せつなは輝くようなラブの顔を見つめて、くすぐったそうに微笑む。
 まだまだ、片付けるべきことは山ほどある。どうしていいか分からないことも、たくさんある。

(守れるかしら……。ううん、守ってみせる。だって、ラブが……みんなが一緒なんだから)

 決意も新たに、今度はせつなから手を伸ばして、ラブの身体を抱き締める。

 その時――。
 少女たちの後ろで、切られたばかりの植木が根元から浮き上がり、植木鉢がカタカタと不気味な音を立てた。


〜終〜

329 一六 ◆6/pMjwqUTk :2017/10/29(日) 23:14:00
以上です。ありがとうございました!
次こそは、もう少し早く更新できるように頑張ります……。

330 Mitchell&Carroll :2017/12/27(水) 22:30:06
引退します。
今までありがとうございました!
特に楽しく書けたのは『黒猫エレンの宅急便』
『ピーマニズム』『格付けしあうプリキュアたち』、
あとは井澤詩織さんへのリスペクトを込めて書いた『ストップ、はじめてのおつかい』とかかなぁ....
姫プリはキャラとストーリーが良かったのでアイディアもいっぱい出て、書いてて楽しかったですね。
ではさようなら。

Mitchell&Carroll

331 名無しさん :2017/12/28(木) 00:11:09
>>330
え〜! ミシェルさん、やめちゃうの!?
凄く残念……。めっちゃ寂しくなります。
でも、長い間たくさんの楽しいお話で、とても楽しませて頂きました。
特に好きなのは、『トワえもん』、『N・O・M・I』、あとご本人も挙げられていた『ピーマニズム』かなぁ。
もしまた時間が出来たり気が向いたりしたら、是非また遊びに来てください。
いつでも待ってます!

332 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:24:02
こんばんは。
またまた時間がかかってしまいましたが、フレッシュ長編の続きを投下させて頂きます。
10レスほど使わせて頂きます。

333 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:24:46
 最初は途切れ途切れの、ごく小さな音だった。ラブを抱き締めるせつなのすぐ後ろで、植木鉢が不意にカタカタと音を立て始めたのだ。
 音は次第に大きくなり、間断の無いものになっていく。それと共に高まっていく、何とも言えない嫌な気配――。
 せつなが硬い表情で後ろを振り返ろうとする。その矢先、さっきから植木を見つめていたサウラーの鋭い声が飛んだ。
「みんな、伏せろ!」
 皆まで聞かず、せつなが腕の中のラブを庇いながら地面に身体を投げ出す。
 ウエスターが少女を、サウラーが老人を、それぞれ抱えるようにして倒れ込む。それと同時に鈍い破裂音が響き、六人の上に、バラバラと土と陶器の破片が降り注いだ。

「はぁ、びっくりしたぁ……」
 もぞもぞと起き上がろうとするラブを制して、せつなが素早く身体を起こし、植木の方を向いて身構える。そして――そのまま息を呑んだ。
 粉々に砕けた植木鉢の残骸が散らばっているその後ろに、いつの間にか壁が出来ている。いや、それは壁ではなく、高くそびえ立つ透明な筒だった。その中にいっぱいに湛えられているのは、薄黄色に濁った液体。
「これは……」
 せつなの声が震える。
 見間違えるわけがない。かつて自分がイースとして集めていたもの。その行いを激しく悔いて、たとえ命を落としても、その蓄積を無きものにしたいと願ったもの――。
 それは、ラブがE棟で目の当たりにしたという“不幸のゲージ”と、このラビリンスで新たに集められた、不幸のエネルギーだった。

 半ば呆然とゲージを見つめるせつなの視界を切り裂くように、その時、何かが下から上へと一瞬で通り過ぎた。植木鉢が壊れて――いや、おそらく鉢を自ら壊して自由になった植木が、根を剥き出しにしたまま、一直線に上へ向かって飛んで行く。
「あっ!」
 今度はラブが声を上げた。植木は、見上げるほどに高いゲージの縁の上まで飛び上がったかと思うと、そこで僅かに軌道を変えて、ゲージの中へ飛び込んでしまったのだ。
 途端にまるで沸騰したかのような大量の泡が、ゲージの中から沸き起こった。
 跳ね起きたラブが、そしてウエスターとサウラーが、せつなの隣に立ち、固唾を飲んでゲージを見つめる。ウエスターに腕を掴まれたままの少女は厳しい表情でゲージを睨み付け、老人は皆の後ろから恐る恐る覗き見る。
 六人が見守る中、泡に包まれた植木は、見る見るうちに細く小さくその姿を変え、やがて完全に消え失せた。

「木が……不幸のエネルギーに、溶けちゃった……」
 ラブがかすれた声で呟く。だがそれに答える者は誰も居なかった。

(何……? この感じ……!)

 せつなの額から汗が噴き出す。さっきの嫌な気配とは比べ物にならないほど、辺りの空気が突然不穏な色をまとったように感じた。
 心が痛いくらいに張りつめて、声が出せない。身体はいつの間にか臨戦態勢に入って、周囲の些細な変化も決して逃すまいと身構えている。
 何かが――とてつもない何かが起ころうとしている。心臓がそう警告するように、ドクン、ドクン、とうるさいくらいに鳴っている。

 すぐに最初の変化が起こる。それはゲージの中に巻き起こった、小さな渦だった。渦は次第に大きくなり、やがてゲージの幅いっぱいに広がって、人の顔のような模様を形作る。それを見て、ウエスターが喉の奥から絞り出すような声を発した。
「ノーザ……さん」
 ゲージの中のノーザの顔が、それに答えるかのようにニヤリと笑う。そして次の瞬間、その顔が再び変化し始めた。
 長い髪と顔との境界がなくなって、より大きくいかつい頭の輪郭を形作る。大きな目はより鋭く、鼻は大きく、唇は分厚く形を変えて――。

「……!」
 老人が言葉にならない声を上げて、腰が抜けたようにその場に崩れ落ちた。そのままずるずると後ずさって、あたふたと物陰に身を隠す。その姿を嘲笑うかのように、ゲージから空に向かって真っ黒な霧が噴き上がった。
 見る見るうちにどんよりと暗くなっていく空。その空の真ん中に、とてつもなく大きなものが、忽然と姿を現す――!

 風も無いのにバタバタとはためくローブ。
 大きく広げられた両腕。
 その上に見えるのは、全てを射抜くような鋭い眼光を持った、初老の男性の顔……。

 驚きに目を見開くラブの隣で、せつな、ウエスター、サウラーの三人は、ただ空を見上げたまま、まるで彫像にでもなったように微動だにしない。
 ラビリンスの空を覆い尽した巨大な姿は、彼らを傲然と見下ろして、天の頂から重々しい声を轟かせた。

「我が名は――メビウス。全世界の統治者なり――!」

334 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:25:54
   幸せは、赤き瞳の中に ( 第13話:復活 )



 まるで時が止まったようだった。動く者も居ない。声を発する者も居ない――。そんな状況を唐突に打ち破ったのは、一陣の風だった。
 不幸のエネルギーの余波なのか、突如吹き荒れた暴風に飛ばされそうになったラブを、せつなが間一髪で捕まえてしっかりと抱き寄せる。
 その唇から吐き出された息が、細く頼りなげに震えているのに気付いて、ラブが心配そうにせつなの顔を覗き込んだ。
「ありがとう、せつな……大丈夫?」
「ええ……大丈夫よ」
 さっきは考えるより先に身体が動いていた。その動きに呼び覚まされたかのように、頭と心もようやく少しずつ、現実感を取り戻す。

(メビウスが……本当に復活した? でも、どうやって……!)

 かつて何度も目にした影のような映像などとは比べようもない、圧倒的な大きさと威圧感を持ったその姿を、せつなは睨むように見つめる。だがその眼差しとは裏腹に、硬く握りしめた両手はわなわなと震えていた。

(恐れているの? 私は……。いいえ、驚いているだけよ。これが本当だとしたら……恐れている場合じゃない!)

 言うことを聞かない拳を、グッと痛いほどに握り締める。その時、突然何かがせつなの視界を遮った。大きな白い二つの影が、せつなとラブを隠すように前に立ちはだかる。
「イース! 今のうちに……ラブを早く!」
 ウエスターが、空を覆う巨大な姿を見据えたまま、いつもより早口で囁く。それを聞くや否や、せつなはラブを抱えてすぐさま後ろへ飛び退った。ラブを物陰に避難させ、一跳びで戻ってくると、今度は後ろではなく二人の間に立って、空を見上げる。
 ウエスターは苦虫を噛み潰したような顔で、そんなせつなにチラリと目をやった。

――今のうちに、ラブを連れて逃げろ!

 本当はそう言ってやりたかった。だが、この状況でせつながラビリンスを離れると言うわけがない。それに、事はメビウスの復活だ。たとえ異世界に――四つ葉町に逃れたとしても、最悪の場合、単なる時間稼ぎにしかならない。

(いや……そうなる前に、絶対に止めてやる!)

 グッと奥歯を噛み締めて、ウエスターは再び空を睨む。サウラーの方は、いつもよりさらに感情の読み取れない無表情のまま、空から片時も目を離さずに、油断なく身構えている。
 メビウスの大きな目が三人を捉え、口を開こうとした、その時。少女が転がるように、三人の前に飛び出した。

「メビウス様! ご復活を待ち望んでおりました!」
 颯爽と臣下の礼をとった少女が、歓喜に上ずった声を張り上げる。
「国民番号ES*******。新しいイースの“ネクスト”となった者です。私は……私だけは、あなたの忠実な僕です!」
 と、そこで風が幾分か弱まった。メビウスの顔が僅かに動いて、少女の姿に目を留める。
 生まれて初めて、絶対者の目に留まった。メビウス様が直接、私を見て下さった――その喜びに頬を紅潮させながら、少女が張り切って、なおも言葉を続けようとする。だがそれより先に、メビウスの視線が再び動き、少女を離れた。

「国民たちの姿が見えぬ……。インフィニティはどうした!」
「インフィニティ、って……」
 せつなが押し殺したような声で呟く。
「ウエスターよ、サウラーよ。その姿はなんだ? 幹部の身なりとは異なるようだが」
「やはり、最後の戦いの時の記憶は無いようだね」
 どうやら同じことを考えていたらしいせつなが小さく頷くのを見届けてから、サウラーは幹部時代とさして変わらない平坦な声で答えた。
「我々はもう、幹部ではありませんから」
「俺たちもイースと同じく、あなたに消去されるところだったんです」
 ウエスターもぶっきら棒にそう言って、巨大な元の主の顔を挑むような目で見つめる。
「そうか。消去されるはずだったお前たちがここに居るということは……私の計画は、失敗に終わったのだな」
 メビウスが、意外にも静かな声でそう呟くと、途端に風の勢いが増した。

「メビウス様!」
 風の音に負けまいと、少女が再び声を張り上げる。
「愚かにもラビリンスの国民たちは、メビウス様を裏切り、醜く争ったり、悲しみや不幸を味わったりする世界で生きようとしております!」
 そう言って再び胸を張った少女が、ここぞとばかりメビウスの方ににじり寄る。
「ですから私は、メビウス様のために……」
「そんなことは分かっている」
 少女の言葉を、天からの声がにべもなく遮った。
「このラビリンスのことは全て、我が手の内にある。騒ぎ立てずとも、私がもう一度管理すればいいだけの話だ」
 その言葉が終わると同時に、メビウスの目が爛々と赤く輝いた。

335 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:27:04
 次の瞬間、不幸のゲージから再び不幸のエネルギーが噴き上がった。が、今度は黒い霧にはならず、何本もの細い灰色のコードのようなものに姿を変える。
 無数のコードは、投網のように放射状に放たれて、街のあちこちへ向かって伸びていく。そして今は避難所となっている建物の中に、次々と飛び込んだ。

「みんなが危ない!」
 せつなが、ウエスターが、サウラーが、一斉に空中高く跳び上がる。
 せつなはさっき使った刃物で、ウエスターは力任せに、サウラーは水色のダイヤを飛び道具に使って、一瞬で大量のコードを切り落とす。だがそれも一瞬、強烈な突風にあおられて、三人は地面に叩きつけられた。
「せつな! ウエスター! サウラー!」
 泣きそうな顔で三人に駆け寄ろうとするラブを、老人が後ろから懸命に引き留める。
 すぐさま起き上がった三人の頭上を、大量のコードが飛んでいく。廃墟と化していた建物はその形を変え、元の建物よりさらに大きく、メタリックな要塞のような姿となって立ち並ぶ。そして巨大な街頭モニターが、目が覚めたように突然明るい光を放った。
 その画面に、かつて見慣れた映像が大きく映し出される。それを睨むように見つめるせつなの、睫毛だけが不安げに小さく震え、少女は勝ち誇ったように、ニヤリと笑った。


   ☆


 せつなたちが居るところから、少し離れた場所。普段は教育施設として使われているこの建物は、窓ガラスが一部割れてはいるものの、その他の損傷はほとんど無い。
 避難してきた人たち全員が建物に入ったのを確認してから、警察組織の若者たちは扉を閉め、窓のシャッターを下ろした。

(ここまで来れば……)

 仲間たちに気付かれないように、少年がホッと小さく息をつく。ウエスターに誘われて警察組織の手伝いをするようになってから、この避難誘導は、初めてウエスター抜きで経験する大きな任務だった。その直前には、仲間たちと一緒に怪物から避難所を守る役目を買って出て、元幹部たちの鮮やかな戦いぶりを目の当たりにしている。
 たった一日で、まるで数日分にも数週間分にも匹敵するような経験をしたような気がして、さすがに疲れを覚える。が、着いた早々、建物の中から何やらゴトゴトという複数の物音が聞こえて来て、少年は驚いて後ろを振り返った。
 そこには少年たちを取り囲むように集まっている、避難者たちの姿があった。それも、皆が手に手に机や椅子など、この建物の中にある備品を携えて。
「あの、それは……」
 意味が分からず、仲間たちと顔を見合わせてから怪訝そうに問いかける少年に、二人がかりで大きなキャビネットを抱えて来た男たちが、少しバツが悪そうな顔で言った。

「みんなが俺たちを守るために戦ってくれているんだ。俺たちにも、何か手伝えないかと思ってね」
「大した役には立たないかもしれないが、出来ることがあるならやってみたいんだ。これでも少しは攻撃を防ぐ足しになるかもしれないから」
 そう言いながら、人々が持ってきた備品を使ってバリケードを築き始める。

 仲間たちの間に、ゆっくりと静かな笑みが広がった。
「僕たちも手伝います」
 仲間の一人の言葉に全員が頷き合って、すぐさま避難者の元へと向かう。
 だが、少年は動こうとしなかった。ぽかんとした顔で仲間たちの様子を眺めながら、相変わらず低い声でボソリと呟く。
「出来ることがあるなら……やってみたい、ですか……」
 そう呟いてしばらく考え込んでから、少年は自分に言い聞かせるように、うん、とひとつ頷いた。そして、避難者たちに混じってバリケードを築いている仲間たちに声をかける。
「悪いけど、俺……ちょっと行ってきてもいいですか? もう一人、ここに連れて来たいヤツがいるんです」
 いつになく真剣な少年の口調に、仲間たちが顔を見合わせて、ああ、と頷く。
「一人では危険だ。俺も行こう」
 そう言って手を挙げてくれた仲間と共に、二人連れ立って建物を出ようとした、まさにその時。突然、部屋の奥にあったモニターの画面が明るくなった。

「何だ? まさかライフラインが復旧したのか?」
「いくら何でもそれはないだろう」
 仲間のうちの二人がそう言い合いながら、モニターの様子を見に行く。その途中で、二人は同時に、ヒッ……と喉を詰まらせたような声を上げると、その場に棒立ちになった。
「おい、どうした!」
 仲間たちが一斉に二人の元へ駆け寄り、全員がそのまま凍り付く。まるでミイラ取りがミイラになったようなその反応に、まだ入り口近くに居た少年も、警戒しながら彼らの元へと向かった。
「みんな、どうしたんだ?」
 そう言いながら恐る恐るモニターを覗き込んで、少年もまた、その場に立ち尽くす。
 そこに映し出されていたのは、このラビリンスで誰一人知らない者の居ない顔――。かつては国民全員が彼のために存在していた絶対者・総統メビウスの顔だった。

336 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:27:42
 ゴトン、と避難者の一人が椅子を取り落とす。そのまま床に崩れ落ちる者。言葉にならない悲鳴のような声を発する者――。
 やがて、さざ波のように部屋の中に広がったいくつもの声が、そこに突っ立ったままの少年の耳に入って来る。

「メビウス様だ……。とうとうメビウス様が復活した!」
「あの通達は、やっぱり本当だったのか……」
「私たちは、どうなってしまうの?」
「またメビウス様に、管理されるだけさ」
「い、嫌だ! 僕は、命令になんか……」
「そんなことを言っていられるのも今のうちだ」
「そうよ。私たちはきっと、制裁されるわ!」

「そんなことを言っていられるのも……今のうち……?」

 少年がまるで抑揚のない、間延びしたような声で呟く。
 仲間たちは皆モニターに釘付けになったまま、まるで金縛りにでもあったように動かない。そんな中、少年は重たいものを無理矢理動かすようなぎこちない動きで、ゆっくりと踵を返した。

「今のうち……。そうだ。俺に出来ることを……やりたいことをやるのは……今しかないんだ……」

 まだ半ば呆然とした頭の中に、さっき脳裏に浮かんだものが――ボロボロの戦闘服に身を包んだ傷だらけの少女の姿が浮かんだ。立っているのがやっとのように見えたのに、一緒に来ることを頑として拒んだ赤い瞳。その瞳に宿っていた強い光も、まるで霧の向こうで輝いているように、ぼんやりと浮かび上がる。
 その光に導かれるように、その姿を追いかけるように、少年の足取りは次第に確かなものになり、歩調も少しずつ速くなっていく。

 無理矢理にでも連れて来れば良かった――ここへ来る途中、何度もそう思った。あんな状態で手当てもせずに戦場に居て、大丈夫なはずがない。だが本人があそこまで嫌がっているのだから……そんな言い訳で納得しようとして、でもやっぱり放っておけなくて。

(今、俺がやりたいこと……。あいつに会って、言ってやりたい。無茶をするなって。ウエスターさんが、お前を心配してるって。それに、俺も……)

 やがて少年は、さっき出来たばかりのバリケードに辿り着いた。扉の前に立てかけてあるのは、仲間たちが三人がかりで運んだ大きなテーブル。それに無造作に手をかけると、少年はグッとその手に力を込めた。

「ぐうっっっ!!」

 喉の奥で、押し殺した叫びが上がる。それと同時に、カッと胸の中が熱くなった。
 悔しさなのか、怒りなのか、それともヤケになっているだけなのか――自分でも正体の分からないその熱がエネルギーになって、さっきまでやっと動いていた身体にようやく力が湧いて来る。
 ダーン、という大きな音と共に、テーブルが横倒しになる。その響きに、モニターの前に居た仲間たちや避難者たちが、呪縛が解かれた様に一斉に振り返った。
 少年はそちらを見ようともせずにテーブルを軽々と跳び越えると、扉を開けるのももどかしく外に飛び出した。

 少年が飛び出すと同時に、今出て来たばかりの建物が変化し始めた。破れた窓は元に戻り、壁は黒々としたメタリックな色調に変わる。だが少年には、それに気付く余裕は無かった。
 外へ出た途端、立っているのもやっとなほどの強風に襲われて、やっとのことで踏み止まる。少年は、目を閉じてもう一度少女の姿を思い浮かべてから、ゆっくりと細く目を開けた。身体を屈めるようにして、少女が居るはずの場所――さっき出て来た警察組織の建物の方向に向かって、一歩一歩、じりじりと前進を始める。
 空の高いところには、メビウスの巨大な姿がある。だが、地を這うようにして吹き荒ぶ強風と戦っている少年には、その姿は全く見えていなかった。


   ☆


「我がラビリンスの国民たちよ! もう心配は要らん。私が再び皆を管理してやる。そうすれば、もう二度とこのような突然の不幸に巻き込まれることもない。皆はただ、私に従っていればいいのだ」
 巨大モニターからメビウスの声が響く。重厚で威厳に満ちたその声は、以前と少しも変わることはない。
 臣下の礼をとったまま、満足げな表情でそれを聞いていた少女は、メビウスの言葉が終わらぬうちに再び空中へと跳び上がった三つの影を見て、不快そうに眉根を寄せた。

「はぁぁっ!」
「たぁぁっ!」
「どぉりゃぁっ!」
 鋭い雄叫びが響くと同時に、空の様子が一変する。張り巡らされていた無数のコードはことごとく切り落とされ、後にはどんよりと空を覆う黒雲だけが残された。

337 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:28:16
 サウラーが、目の前にある“不幸のゲージ”をじっと見つめる。僅かではあるが、さっきより明らかにゲージの液面が下がっているのが見て取れた。

(やはり不幸のエネルギーを使っているのか……。だが、こうやって着実に消費させられれば、いずれは……)

 わずかばかりの光明が見えた気がして、引き結んだ唇からそっと息を漏らす。その時、天から再び重々しい声が響いた。

「愚か者どもめ。この私に敵うとでも思っているのか」
 声と同時に新たな気配を感じて、三人が身構える。するとゲージの後ろから、突然わらわらと人影が現れた。
 二十人、いや三十人はいるだろうか。揃いの戦闘服に身を包んだ彼らは、隙の無い動きでじりじりと間合いを詰めて来る。その一人一人の顔に目をやったウエスターが、驚きに声を詰まらせた。
「お前たち……どうしてここに……!」
 それは、ウエスターが先発隊としてE棟に向かわせた、警察組織の精鋭たちだった。

 間髪入れず、メビウスの声が飛ぶ。
「私に逆らう者は排除するのみ。者ども、こいつらを消せ」
 次の瞬間。せつなが、ウエスターが、そしてサウラーが、ごくりと唾を飲み込んだ。

「はっ。全てはメビウス様のために」

 何の感情も伴わない、一糸乱れぬ声が響く。
 まるでかつてのラビリンスの姿が蘇ったかのように。
 この国の新しい姿など、所詮はただの夢幻――そう嘲笑うかのように。
 が、三人は再びグッと拳を握り締めると、ゆっくりとこちらに向かって来る人々を、静かに見据えた。

「イース」
 人々の方に目をやったまま、ウエスターが低い声で呼びかける。
「ここは俺たちに任せろ」
「今更何を言って……」
 そう言いかけて、せつなが口をつぐむ。ウエスターは太い指で、真っ直ぐに空を差していた。
「お前はあっちを頼む」
「こうしている間にも、メビウスの支配が進んでしまうからね」
 サウラーもそう言って、チラリと空に視線を走らせる。彼らの頭上には、再び不幸のエネルギーで作られたコードが放たれ、空に張り巡らされようとしていた。
「俺たちもすぐに合流する。だから、頼む」
「分かった」
 せつなが二人の仲間を見上げて小さく頷く。それを聞くと、ウエスターは初めてせつなに視線を移し、腰を落として、ぽん、と膝を叩いて見せた。

「はぁっ!」
 せつなが膝の上に駆け上がって跳躍するのに合わせて、ウエスターがその身体を思い切り高く投げ上げる。それが合図だったかのように、ゲージの前で激しい戦闘が始まった。
 前後左右、ありとあらゆる方向から襲い来る攻撃。咄嗟に背中合わせになったウエスターとサウラーは、それらを時に受け流し、時に避け、時に受け止めて、ことごとく挫いていく。
「おい、俺だ! 分からないのか! いい加減、目を覚ませ!」
「無駄だ、ウエスター。彼らは既に、メビウスに管理されている!」
 相手に一切反撃せず、ただ攻撃を受け止めたりいなしたりしながら必死で呼びかけるウエスターに、サウラーが冷静な一言を投げかける。かく言う彼は、相手に余計な手傷を負わせないようにして、専ら昏倒させる作戦に出ていた。
 その時、上空からバラバラとコードの破片が降り注ぎ、地面に触れると同時に消えた。高々と舞い上がったせつなの刃物が高速で閃く。空を覆いつつあったコードを次々と切り落とし、繰り出される新たなコードに挑みかかる。

 そうしている間にも、辺りの廃墟は徐々に形を変え、メタリックな要塞のような姿になっていく。
「全てはメビウス様のために……」
 いつの間にかモニターの映像が切り替わり、今は黒々とした壁に囲まれた避難所の中で、かつてのように空ろな声を響かせる人々の姿が映し出される。
 だが、三人の動きは変わらない。目を見開き、歯を食いしばって、それぞれの“敵”に全力で立ち向かう。そんな三人の――とりわけ、せつなの動きを鋭い眼差しで見つめていた少女が、再び跪き、空を見上げた。

338 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:28:58
「メビウス様! どうか私にもご命令を」
 メビウスの視線が、チラリと少女の方に流れた。だがそれも一瞬、もう少女の方を見ようとはせず、メビウスがさらに大量のコードを空へと放つ。そして宙を舞うせつな目がけて、強風を吹き付けた。
「うわあぁぁっ!」
 まともに風を受けて吹き飛ばされたせつなが、辛うじて一本のコードに掴まる。
 木の葉のように風に翻弄され、ハァハァと荒い息を吐きながら、それでも必死で手の届く範囲のコードに刃を向け続ける。その苦し気な姿を、少しの間睨むように見つめてから、少女が再び声を張り上げた。

「メビウス様! どうかお命じ下さい。私が必ず、彼女を倒して見せます!」
 闘志と言うより、むしろ必死さが溢れる表情で、主の答えを待つ少女。だが返って来た答えは、少女の期待を裏切るものだった。

「その必要は無い。奴が力尽き、地に斃れ伏すのも時間の問題だ」
「……しかし!」
「お前は……そうだな」
 メビウスが、眼下の戦場の様子をチラリと眺めてから、もう一度少女に視線を戻す。
「その身体では、彼らと共に戦うことも出来まい。お前は国民たちと共に、我が“器”を用意するがいい」
「お待ち下さい、メビウス様!」
 少女が、とうとう悲鳴のような叫びを上げた。

(冗談じゃない!)

 少女の視線が、ウエスターやサウラーと戦っている、無表情な人々を捉える。既に半数以上が二人の元・幹部に昏倒させられて、人数はもう十人ほどしか残ってはいなかった。
 自分と同じく軍事養成施設で育ち、メビウスへの忠誠を誓って幹部を目指していた者たち。
 それなのに、まるでそんなことなど忘れたように、メビウスを否定し、今のラビリンスで楽しげに生きようとしていた愚かな者たち――。

(私は……あいつらとは違う。断じて違う!)

 激しくかぶりを振って、今度は上空に見えるせつなの姿に、もう一度目をやる。
 彼女はようやく体勢を立て直し、逆に風を利用して、さらに高く舞い上がろうとしていた。
 その息は相変わらず荒く、コードを掴んでいるその手は擦り傷だらけ。だが、挑むような目の輝きは変わらない。
 その勇猛果敢な姿を見ていると、強烈な平手打ちの記憶と共に、あの世界で聞いた彼女の言葉が蘇って来た。

――どうしても私に勝ちたいのなら、こんな夢の中なんかじゃなくて、現実の世界で勝負するのね。

(私はあの人に勝って、メビウス様の僕になる。新しいイースとして生きるために、あの人と決着をつける。いや……つけなくてはいけないんだ!)

 いつの間にか、鼓動が耳元で鳴っているかのように、やけにせわしなく響いている。それを鎮めるように胸に手を置いてから、少女が意を決して主の姿を見上げた。

「私は、あの者たちとは違います! いつかメビウス様にご復活頂き、誰よりもお役に立ちたい――その想いだけを胸に生きてきました」
「……」
 黙ってこちらを見下ろすメビウスに、少女はなおも言い募る。
「私はイースの“ネクスト”として、裏切り者と――先代のイースと、決着を付けたいのです。メビウス様、どうかご命令を……」
「“想い”だと? くだらん」

 深く深く頭を下げた少女の頭上を、メビウスの冷たい声が通り過ぎる。
 顔も上げられずに口ごもる少女。だがメビウスの次の言葉を聞いて、その目が大きく見開かれた。

「新しいイースなど、必要ない」

「メビウス様……。今、何と……」
「必要ない、と言ったのだ。イースだけではない。今の私に、人間の幹部は不要だ」
 少女が勢いよく顔を上げ、今にも立ち上がらんばかりの勢いで絶対者に向かって言い募る。
「し、しかし! 新しいラビリンスを統治されるには、幹部が……」
「元々、彼らは国の統治には関わっておらぬ。ノーザとクラインを復活させれば、それで事は足りる。インフィニティの正体を掴み、不幸の集め方を習得した今、人間の幹部は用済みなのだ」

339 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:29:39
 さっきまでと変わらない口調で、メビウスが淡々と語る。その主の顔を見上げようともせず、少女は平伏した姿勢のまま、わなわなと身体を震わせていた。

(イースが……必要ない? もう人間の幹部は、用済みだと……?)

 頭をガツンと殴られたような衝撃だった。
 頼みの綱が――いや、糸が切れてしまった。かつてのラビリンスが崩壊したあの時から、必死で手繰り寄せようとしてきた細い細い糸。かつての世界から未来へと、唯一繋がっていたはずの糸が、ぷっつりと断ち切られてしまった。
 世界がぐらぐらと大きく揺れ、今度こそ音を立てて崩れていくような気がする。

(嘘だ……。嘘だ、嘘だ、嘘だ……!)

 そう繰り返していれば、崩れ行く世界が、未来が、元に戻るとでも思っているかのように、少女は心の中で叫び続ける。

 不意に、E棟の光景が蘇った。
 直立不動の子供たちで一杯の講堂で、誰よりも姿勢を正し、スピーカーから流れてくるメビウス様のお言葉に耳を傾けた日々。
 来る日も来る日も訓練に励み、何人もの幹部候補生と命がけの手合せを行ってきた日々――。

――私が管理した世界ならば、悲しみも、争いも、不幸も無い。

 毎日のようにメビウス様の素晴らしさを聞かされて、いつか必ず最もお傍近くでお仕えするのだと、必ずその高みまで辿り着いてみせると、そのたびに決意を新たにした。
 そこから見える景色は、きっと誰も見たことがない素晴らしいものに違いないと、それだけを信じて生きてきた。

(嘘だ……そんなこと、メビウス様がおっしゃるはずが……)

 極限まで見開かれた赤い瞳が、ただ目の前の地面を、穴があくほど見つめる。その時、一本のコードがゆっくりと、音も無く少女に近付いた。

「お前は良く働いた。もう心配は要らぬ。この私が復活した今、お前がすべきことはただひとつ。それは私に従い、私の言うがままに生きることだ」
 そう言って、もう興味がないと言わんばかりにメビウスが少女から目を離す。それと同時に、コードが蛇のようにするすると動き出した。だが、少女は座り込んだまま、それに反応しようともしない。
 コードが間近に迫り、今にも少女に飛びかかろうと細い身体を縮めた、その時。

「危ない!」
 鋭い声と共に、少女の身体が突然地面に投げ出された。誰かが自分を突き飛ばし、もつれ合って一緒に転んだ……そう気付いて、少女が身体を起こそうとする。
 だが一瞬早く、少女に覆い被さっていた人物が、彼女を抱きかかえるようにして素早く地面を転がった。さっきまで二人が居た、まさにその場所の地面に灰色のコードが激突し、跡形も無く消え失せる。その様子をぼんやりと眺めていた少女は、隣で素早く立ち上がった人物を見て、驚きに目を見開いた。
「さあ、逃げるよっ!」
 少女の手を掴み、グイっと引っ張って立たせてから、そのまま彼女の手を引いて走り出したのは、物陰に隠れていたはずの、ラブだった。

 人一人がやっと通れるような建物と建物の隙間を、ラブは少女の手をしっかりと握って、ジグザグと走り抜ける。
 どうやら新たなコードが追ってくる気配は無い。高い建物の裏手に回り込んだところでようやく足を緩めたラブが、少女の方を振り返って笑みを浮かべる。だがその途端、地面に落ちていた瓦礫につまずいて、ラブの身体は前へつんのめった。
「うわっ!」
 転びそうになったラブを、少女が素早く抱き留める。ふうっと大きく息を吐いてから、ラブは今度こそ少女の顔を見つめて、にっこりと笑った。

「また助けてもらっちゃったね。ありがとう!」
「いや。助けられたのは私だ」
 少女がそう言いながら、ラブの身体からそっと手を離す。と、そこで何かに気付いたように、しげしげとラブの顔を見つめた。
「あなた……どうしてさっき、あんな風に動けたの?」
「え?」
「あのコードの化け物から、私を助けてくれた時」
 ラブの身体能力がどの程度のものかは、一度の手合せで分かっていたはずだった。普通に考えれば、せつなならともかく、ラブの力であの素早い動きを見切って避けられるはずがない。
 少女の質問の意味がどこまで分かっているのか、ラブは、んー……と間抜けな声を上げてから、照れ臭そうな顔で頭を掻いた。
「よく分からないけど、あなたを助けなきゃ、って必死だったから……かな」
 そう言ってアハハ……と笑う場違いなまでに明るい顔を、少女は信じられないものを見たような目で見つめる。だがすぐに、その顔は下を向いた。

340 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:30:19
「何故、私を助けたの?」
「友達を助けるのは、当然だよ」
「ともだち……」
 オウム返しに呟いて、少女がくるりとラブに背を向ける。
「……そんなものになった覚えなどない」
「でも、あたしは友達だと思っているよ」
「それに、私はもう用済みだ。助ける価値など……」
「そんなことないよ!」
 皆まで聞かず――いや言わせず、ラブは激しくかぶりを振った。

「あなたはあたしのこと、二度も助けてくれたよね。ううん、二度だけじゃない。あの施設に居た時だって、ノーザから何度も守ってくれた」
「……」
「あなたはとっても強くて、優しい人だよ。だからこれから、きっと幸せになれるって!」
 一点の曇りも淀みも無く、力強くそう言い切る声。それを聞いて、少女が再びラブの方に顔を向ける。
 驚いたような、怒っているような、そしてほんの少し嬉しそうな……だが、それも一瞬。すぐにその顔は、再び力無く下を向いた。
「……そんなこと。それに、私はもう……」
 少女がそう言いかけた時。彼女たちの隣に建っていた高い建物が、何の前触れもなく忽然と消えた。

「えっ……うわっ!」
 その途端、再び強風が吹きつけて、ラブの驚きの声が小さな悲鳴に変わる。
 突然広々と開けた視界に、中空で両手を広げたメビウスの巨大な姿が飛び込んで来る。まさにこの世界の全てを、今にもその手に納めんとするような姿が。そして近くに目を移すと、建物を消した張本人らしいグレーのコードが二本、ゆらゆらと揺れながら、二人の様子を窺っている……。

「こっちだ!」
 今度は少女がラブを引きずるようにして、路地に逃げ込もうとする。
 行く手を阻むように襲い掛かるコード。だが飛び出した途端、二本とも真っ二つに切り落とされ、あっけなく消え失せた。ラブの窮地に気付くや否や、せつなが遥か上空から、手にしていた刃物をコード目がけて放ったのだ。が、すぐさま新たなコードが二人めがけて放たれる。

「ラブ!」
 せつなが地上に飛び降りようとするが、風に煽られ、思うように動けない。
 ついにコードが二人に迫る。だが次の瞬間、横合いから飛び出した人物が、コードをむんずと掴み、それを無造作に引きちぎった。
 引きちぎられたコードが、瞬く間に霧消する。それを不思議そうに眺めてから少女の方を振り向いたのは、さっき少女に「一緒に来い」と言った、あの少年だった。

「ありがとう! でも、どうして……」
「何故戻って来た」
 嬉しそうに、そして不思議そうに問いかけるラブの声と、ぶっきらぼうな少女の声が重なった。
「お前に言いたいことがあって来た」
 早口でそう言ってから、少年は中空に目を留める。そして驚きと焦りの色を隠そうともせず、少女に詰め寄った。
「今のは何だ。それにあれは、メビウスなのか!?」
 少女が、ああ、と頷いた時、新たなコードが三本、こちらに向かって伸びて来た。

「早く逃げろ!」
 少年が二人を庇う様に立って身構える。二本を右手で、もう一本を左手で掴んで、力任せに引きちぎろうとする。だがその時、コードがもう一本、少年に向かって高速で迫って来た。
 咄嗟にコードの軌道を避けようとして、少年の動きが止まる。ここで避けたら、コードは一気にラブと少女に襲い掛かるだろう。

(それだけは――絶対に食い止める!)

 少年は三本のコードを掴んだまま、通せんぼでもするように両手を大きく広げて、もう一本のコードの前に立ちはだかった。

341 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:30:49
「ぐわぁぁぁっ!」

 少年の絶叫に、少女とラブが足を止める。一本のコードが少年に絡みつき、その先端が彼の身体に突き刺さっていた。何とかコードを外そうとする少年の身体に、さらに何本ものコードが絡みつき、がんじがらめにしている。
「おいっ、大丈夫か!?」
「こっちに来るなっ!」
 少年がそう叫びながら、懸命に腕を動かして、両手に持ったコードを引きちぎる。そして自分を拘束しているコードを両手でグッと掴むと、何とか首だけを少女の方に向け、苦し気な声を張り上げた。

「これだけは……覚えておけ。お前は不満かも……しれないが、俺たちは……仲間……だっ!」
「おい、しっかりしろ! お前の馬鹿力で、そんな拘束など引きちぎれ!」
 少女の呼びかけも空しく、少年の瞳から、次第に光が失われていく。だが、少年は叫ぶのをやめようとしない。さらに途切れ途切れになった声を必死で張り上げて、何とか言葉を繋ごうとする。
「たくさんの……人が、お前を……しん……ぱい、してる。だか……ら……これ以上、無茶は……するな!」
 そう言うと同時に、少年は顔を真っ赤にし、渾身の力で右手を動かすと、拘束しているコードの一本を、自分の首元へと動かした。
「よせ! そんなことをしたら……」
「いいんだ。俺は……お前と……は、戦いたく……」
 そこまで言ったところで、少年の右腕が、だらりと垂れ下がった。

 少女がギリッと音を立てて、強く奥歯を噛み締める。
 次の瞬間。今度は地上から、一陣のつむじ風が巻き起こった。小さな風は、まるで天からの強風に逆らうように、少年の方へと迫っていく。
 やがて、キラリと何かが煌めいて、少年を拘束していたコードが一本残らずすっぱりと断ち切られた。
 風が収まった後には、少年を抱きかかえ、右手にさっきせつなが投げた刃物を握り締めて、赤い瞳を輝かせて立つ少女の姿があった。

「無茶はお前だ」
 少女が腕の中の少年に、そっと囁く。そして、泣きそうな顔で駆けてきたラブに、静かな声で言った。
「安心して。気を失っているだけ」
 少女の言葉に、ラブがホッと小さく息を付く。その時ようやく駆け付けたせつなが、少女と一緒に少年の身体を支えた。そして三人で少年を避難させようとしたその時、天の高みから、再び冷ややかな声が響いて来た。

「随分と不幸のエネルギーを無駄にしてくれたようだな。お前は私の忠実な僕ではなかったのか」
 メビウスが、相変わらず何の感情も読み取れない淡々とした口調で語りかける。少女はせつなとラブに少年を預けると、メビウスの方に歩み寄り、その顔を見つめ返して、あろうことか――ふん、と鼻で笑った。

「あなたが下らないと切り捨てた、“想い”の力です」
「何だと?」
 僅かに怪訝そうなメビウスの顔から目をそらし、少女がラブと、気を失っている少年の顔を交互に見つめる。

 “想い”の力が、普段からは信じられないような力で私を守ってくれた。
 “想い”の力が、メビウスの管理にすら抵抗して、私に大切なことを伝えてくれた。
 少女がグッと両手の拳を握り締め、絶対者を赤々と輝く瞳で見上げる。

「確かにこんな無茶苦茶なこと、普通じゃないかもしれない。が、私にとっては大切なもの。それが……やっと分かった」
「ふん、戯言を……」
「戯言を言っているのは、あなただ!」
 一言で切り捨てようとしたメビウスが、少女の言葉に、初めて驚いたように目を見開く。その大きな瞳に向かって、少女が凛とした声を張り上げる。

「私に、イースとしてお役に立てと言って下さったのは、メビウス様だ。E棟の高い塀の中で、悲しみも争いも不幸も無い世界――素晴らしい外の世界を、思い描かせて下さったのも、メビウス様だ」
「……」
 少女の拳が、ブルブルと小さく震える。赤い瞳の中の炎が、より赤く、より大きく、より激しく燃え盛る。
「私のこの“想い”は、メビウス様によって育てられた大切なもの。たったひとつ、私が持っていたものだ。それを……愚弄するなぁっ!!」
 魂から振り絞るような叫びと共に、少女の身体は、弾丸のように空を目がけて飛んだ。

342 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:31:24
「……身の程知らずがぁっ!」
 数秒の沈黙の後、メビウスもまた雷のような雄叫びを上げる。
 ゲージに向かって飛び出した少女目がけて吹き付ける強風。が、彼女はそれを読んでいた。
 風に逆らわずにその空気の動きに乗るようにして、空に張り巡らされたコードの一本を掴む。そこからさらに風に乗ってより高く舞い上がり、手当たり次第にコードを切り落としていく。それは、さっきせつなが見せた動きと、そっくりの動きだった。
 だが、やがて少女はハァハァと荒い息を付き始めた。ほんの数時間前までナキサケーベに蝕まれていた身体は、まだ癒えていないのだ。
「ええい、ちょこまかと。これでとどめだ!」
 メビウスの声と共に、ひときわ強い風が襲い掛かる。それをまともに食らって吹き飛ばされた少女が、瓦礫の上に叩きつけられようとした、その時。
 白く細い腕が、しっかりとその身体を抱き留めた。

「あなたは……凄いわ」
 少女をそっと下ろしながらせつなが囁く。

(私はあの頃、この世界のあるべき姿なんて……自分が見たい景色なんて、考えたことも無かった……)

 幼い頃から教え込まれ、叩き込まれたただひとつの答え。心から崇拝し、ひたすらにお役に立ちたいと願っていた、唯一無二の存在。
 でも、自分はその輪郭を描いてみたことなど無かった。ただメビウスが素晴らしい存在だと思い込んでいただけで、外の世界がどう素晴らしいのかなんて、考えて見たこともなかった。
 もしかしたら、少女もかつてはそうだったのかもしれない。突然世界の秩序が崩れ、以前ならば信じられないような有様を幾度も目の当たりにすることで、自分が崇拝するメビウスの姿が、そのあるべき世界が、彼女の中に姿を、形を持ったのかもしれない。
 だとしても――。

(そんな形を、もしあの時の私が持っていたとしたら……もう少し、メビウス様と分かり合うことが出来たのかしら)

「ふん、何を言う」
 せつなの言葉に、少女が少し赤い顔でそっぽを向いてから、何とかもう一度立ち上がろうとする。
「無茶をするな。ここは俺たちに任せろ。お前はアイツに付いていてやれ」
 そう言ってその肩を押さえたのは、ウエスターの分厚い掌だった。その隣には、腕組みをしてこちらを眺めているサウラーの姿もある。どうやら二人は警察組織の連中を全員眠らせて、ここに集結したらしい。
「まだもう少し、先は長いよ。君に協力してほしいことも、これから出て来るからね」
 サウラーがいつもの皮肉めいた口調でそう言ってから、ふん、と口の端を斜めに上げる。その顔を見て、せつなが僅かに瞳をきらめかせた。
「何か策があるの? サウラー」
「まだ何とも言えないが……少し僕に時間をくれないか。試してみたいことがある」
 真顔になったサウラーに、せつなとウエスターが頷く。
「お願い。あたしも一緒に、ここに居させて」
 最後にラブが少女の手を握り、真剣な眼差しでその顔を見つめた。

 少女は、まるで怒っているように顔をしかめて、自分を取り囲む四人の顔を見回した。そして少し呆れたような表情になって、ハァっとわざとらしいため息をつく。
「言っておくが、仲間になったつもりは無いからな」
 そう言い捨てて、彼女はずっと握りしめていた刃物を、そっとせつなに手渡した。

 中空に跳び上がったせつなとウエスターが、再び次々にコードを破壊する。そこにサウラーの姿は無い。だが、メビウスはそれを気にする様子も、特に慌てる様子も無く、眼下の様子をぐるりと見渡した。
「そろそろ管理したデータと私自身を、“器”に移す時が来たようだ。その前に、裏切り者たちを始末しなければ」
 まるで地に響くような、不気味な呟き。やがて、その射るような眼差しがあるものを捉え、その引き結ばれた唇が、小さくほくそ笑んだ。

〜終〜

343 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/01/21(日) 21:32:34
以上です。どうもありがとうございました!
次は、競作の前に投下出来たらいいなぁ……(願望かよっ)
頑張ります!

344 Mitchell&Carroll :2018/04/08(日) 01:19:05
お久しぶりです。
キラプリで、ひまりの家族が描かれていないのをいい事に、勝手に書き上げました。
アイカツとのコラボです。よろしゅう。

345 Mitchell&Carroll :2018/04/08(日) 01:20:41
『ぽわぽわ』


おとめ「う〜ん!このプリン、らぶゆ〜なのです〜♡」

ひまり「ほんと?お姉ちゃん」

おとめ「おとめの知らないあいだに、ひまりがこぉ〜んなに
    スイーツ作りが上手になってたなんて、ビックリなのです!」

ひまり「えへへ……いちかちゃんにあおいちゃん、ゆかりさんにあきらさん、
    それにシエルさんに、あと……」

おとめ「ひまりにそんなにいっぱいお友達が!うぅ〜」

ひまり「な、泣かないで、お姉ちゃん!」

おとめ「泣いたらおなか減ったのです!プリン、おかわりなのですぅ〜!」

ひまり「ちょっと待っててっ……」

おとめ「――へぇ〜、そうやってデコレーションするのですか〜」

ひまり「ホイップクリームとチョコレートで、リスのしっぽに見立ててるの」

おとめ「よぉ〜し!おとめが更に美味しくなるオマジナイをかけちゃうのです!
    手でハートマークを作ってぇ〜」

ひまり「………?」

おとめ「らぶ・ゆ〜〜!!ほら、ひまりも」

ひまり「ら、らぶゆぅ〜〜っ」

おとめ「もっともっと!愛が足りないのです!らぶ・ゆ〜〜〜!!」

ひまり「らぶゆ〜〜〜!!!」

おとめ「お店で作る時も、今みたいにするのですよ」

ひまり「そ、それはちょっと……」

おとめ「さあ、これでプリンが更に美味しくなったのです!ひまり、あ〜ん」

ひまり「あ〜ん、モグモグ……言われてみれば、たしかに……」

おとめ「ひまりったら、頬っぺにクリームが付いているのです。おとめが取ってあげるのです」

ひまり「うぅ、くすぐったいよ〜、お姉ちゃん……」


おしまい

346 名無しさん :2018/04/08(日) 06:38:16
>>345
ミシェルさん、お帰りなさーい。
そういえばこっちにも有栖川嬢が……!
気が付かなかった。
ひまりはお姉ちゃんのペースに持っていかれそうだけど、
語りだしたら強そうなw

347 運営 :2018/04/12(木) 20:35:12
こんばんは、運営です。
競作スレを過去スレに移しました。
たくさんの投下と書き込み、本当にありがとうございました!!
なお、競作スレで途中まで投下されているSSは、こちらのスレに投下をお願い致します。
勿論、競作作品として保管させて頂きます。

348 Mitchell&Carroll :2018/04/13(金) 22:47:16
ドキプリ、マナレジのしょうもないやーつ。
よろしくお願いします。


『レジーナの日記 〜June〜』

6月○日
今日はマナの家に泊まりました。
マナのパパのオムライスを食べた後、マナと一緒にお風呂
に入りました。マナはバスルームの前であたしをハグして、
そのあと優しく服を脱がせてくれました。ちょうど良いお
湯加減のシャワーであたしの体を丁寧に洗ってくれたんだ
けど、マナったら女の子の大事な部分であたしの腕を洗っ
たりなんかして、変なの、って思いました。そのあと湯船
に浸かって、そのあいだマナは、なんかビニールのいかだ
みたいなのを出してきて、「こちらにどうぞ。滑りやすい
から、足元、気をつけてね」とか何とか。言われるがまま
いかだにうつ伏せになりました。そしたらマナは、なんか
ヌルヌルの液を付けて、体をいっぱい密着させてきました。
マナの乳首が背中に当たったかと思いきや、どうやら舌で
もあたしの背中を舐めてるみたい。「どうしてそんなこと
するの?」って訊いたら、「サービスサービス!」ってマ
ナは言ってました。今度は仰向けになって、また体をいっ
ぱい密着させてきました。マナのお尻が目の前に来て、恥
ずかしくないの?お尻の穴とか丸見えだよ?って思いまし
た。で、そのヌルヌルしたのを洗い流して、体を丁寧に拭
いてくれたあと、「じゃあ、ベッドのほうへ行こうか」っ
てなって、いっぱいお話しして、そのあとの事は……よく
覚えてないや。おしまい。

349 名無しさん :2018/04/14(土) 00:18:07
>>348
ホントしょーもないw
マナがね

350 Mitchell&Carroll :2018/04/24(火) 01:14:45
『無題』

ああ、今日は空が青いわ。
昨日の夜、「どうか明日は晴れますように」って、お祈りした甲斐があったのね、きっと。
さんざん降った雨のおかげで、庭の木は見事に緑色だし。
それに、先輩から貰った、この真っ赤な薔薇。
うっかり、棘に触って指を怪我しちゃったこともあったけど。
「口を開けば、ラブ、ラブって――あんた、他に友達いないの?」ですって?
ホント、いじわるな先輩ね。
さっきの雲が、もうあんな所に……。
あら?あれって虹かしら?
ラブったら、いつまで寝てるのよ。
早く起きないと消えちゃうわよ。……また今度ね。
シフォンがお腹を空かせてる。
今度こそラブが起きたわ。

351 名無しさん :2018/04/24(火) 18:49:40
>>350
何でもない独白なのに、なんか情緒ありますね。
先輩、そりゃ相手が悪いわw

352 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/04/29(日) 13:05:35
こんにちは。
競作で書きたいと思っていたキラプリ最終回記念SS、ようやく書けました。
長くなったので、前後編にさせて頂きます。後編は連休明けくらいに投下します。
タイトルは、「キラパティの節分」。5〜6レス使わせて頂きます。

353 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/04/29(日) 13:06:12
「ねえ、いちか。“節分”って何?」
「えっ?」
 キッチンから追加のケーキを運んできたシエルが、興味津々といった様子で問いかけた。お持ち帰りのスイーツを箱に詰めていたいちかは、それを聞いて一瞬、その手を止める。
 二人が居るのは、キラパティことキラキラパティスリーのカウンター。今日はシエル・ドゥ・レーヴの定休日なので、シエルもこちらで腕を振るっている。
 エリシオとの決戦から、あと少しでひと月になる。いちご坂の街は、何事も無かったかのように平穏な日常を取り戻し、キラパティには今日も賑やかで忙しい時間が流れていた。

「昨日、お店に来たお客さんが話していたの。それを聞いて、これは日本の伝統的な行事に違いない、って思って。ねえ、もうすぐなんでしょ?」
「うん。二月三日だから……あ、今度の週末だね」
「わぁお! どんなイベントなの?」
「ああ、それはねぇ……」
 いつもの明るい口調でそう言いかけたものの、いちかの言葉はそこでちょっと途切れた。視線が僅かに泳いで、シエルから逸れる。それに気付いて怪訝そうに首を傾げたシエルに答えたのは、いちかではなく、彼女が詰めるスイーツを待っている、幼い兄弟だった。

「おねえちゃん、知らないの? 節分はね、みんなで豆まきをする日なんだよ」
「鬼はぁ外! 福はぁ内! ってかけ声をかけてさ」
「そうやって、悪い鬼を追い出すんだ」

「あ……へぇ、そうなんだ」
 シエルが子供たちの勢いに圧されて、少々引きつりながら答える。そしていちかの方にチラリと目をやり、小さく微笑んだ。その顔にはほんの少し、すまなそうな表情が浮かんでいる。

(悪い鬼を追い出す日、か……)

 そう聞けば、いちかのさっきの様子にも頷ける。何でもないフリをしながら、きっとシエルにどう説明しようか、あれこれ考えていたのだろう。弟のピカリオと、今は家族として一緒に暮らしているビブリーは、かつては“悪い鬼”よろしく、闇の僕としてこの街の人々に酷いことをしてきたのだから。

(ありがとう、いちか)

 心の中でそっと語りかけてから、シエルは気持ちを切り替えるように、子供たちに向かってもう一度にっこりと笑って見せた。
「メルシィ。教えてくれて、ありがとう」
「はい、お待たせしました〜!」
 いちかもシエルの隣から、元気な声と一緒にスイーツの箱を差し出した。
 途端に兄弟の顔が、揃って嬉しそうにキラキラと輝く。すると、満面の笑みで箱を受け取った弟の方が、もう一度シエルの顔を見上げた。

「あとね、節分には“恵方巻”っていうのを食べるんだ。昨日、ママとシュークリームを買いに行ったんだけど、そこのお店では、節分の日限定の“恵方シューロールケーキ”っていうのがあるんだって!」
「ねえ、キラパティでは節分スイーツ、何か作らないの?」
「う〜ん……ごめんね。それは、まだ考えてなくて……」
 再び身を乗り出す兄弟に、いちかが困ったように口ごもる。なぁんだ、とさして気にしていない口調で呟いてから、兄弟は笑顔のままでカウンターを後にした。

「ありがとうございました〜!」
 明るい声でそう言いながら頭を下げたいちかが、打って変わった低い声で、ごく小さな呟きを漏らす。
「どうして“鬼は外”なんだろう……」
「いちか? 何か言った?」
 シエルが不思議そうに問いかけた、その時。
「こんにちは〜! あ、いちか、シエルさん」
 店の入り口から、聞き慣れた声がした。やって来たのは、いちかとシエルのクラスメイトである、神楽坂りさ。カウンターに近付くと、彼女は声を潜めてこう囁いた。
「ねえ、キラパティのスイーツは大丈夫? なんかさ、ヘンな噂を耳にしたんだけど……」


   ☆

354 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/04/29(日) 13:06:56
「ええっ!? いちご坂から、またスイーツが消えたぁ!?」
「また、キラキラルが奪われたんですか?」
 大声を上げるあおいの隣で、ひまりが眉毛をカタッと下げて、消え入りそうな声で問いかける。
 『準備中』の札が下がった、閉店後のキラパティの店内。ここに居るのはいちかたち六人と、長老とペコリン、それにシエルに呼ばれてやって来た、リオとビブリーだ。

「りさの話だと、今度はスイーツが石みたいになるんじゃなくて、影も形もなくなってるんだって」
「アンポルテ……えっと、お持ち帰り用のスイーツが、ちょっと目を離した隙に箱ごと消えたっていう店が大半らしいの。だけど、中にはショーケースの一段分が空になったっていう店もあって……」
「それって、単に万引きに遭っただけなんじゃないの?」
 説明するいちかとシエルから、少し離れたところに立っているゆかりが、事もなげな調子で口を開く。それを聞いて、今度はあきらがゆっくりと首を横に振った。
「いや、気になることは他にもあるんだ。今日、お客さんたちが話していたんだけど、小さな鬼のような不思議な生き物を見た、って言っている人が何人も居てね」
「鬼……?」
「ああ。その姿形がどうも、グレイブの部下の、あのネンドモンスターみたいなんだ」

 あきらの言葉に、あおいとひまりが再び「えっ!?」と声を上げ、ゆかりはじっと考え込む。
 グレイブの部下のネンドモンスターたちは、ジュリオやビブリー、それにガミーの仲間の妖精たちと違って、いちご坂の人たちにはほとんど目撃されていない。だが、今日耳にした数々の“鬼”たちの情報は、彼らの特徴をはっきりと捉えたものばかりだった、とあきらは言った。

「グレイブ、またキラキラルを狙ってるペコ?」
「そんなはずはないジャバ!」
 不安そうなペコリンをなだめるように、長老が両手を振り回して叫ぶ。だがその言葉が終わらないうちに、ビブリーがあさっての方を向いたまま、相変わらずぶっきら棒な調子で言った。
「いや、十中八九ヤツらの仕業でしょうね。アイツら頭悪いから、まだグレイブのためにキラキラルを集めなきゃ、なぁんて思ってるんじゃないの?」
「そうだな。ヤツら自身は、キラキラルを奪う力は持っていないはずだ。だからスイーツをそのまま持って行くしかなかったのかもしれないな」
 リオも珍しく、ビブリーに同意する。そんなリオに、シエルとあきらが心配そうに詰め寄った。

「だけど、ピカリオ。グレイブだって今はノワールのしもべじゃないんだし、もうキラキラルを奪ったりはしないんじゃない?」
「それに、もしまたキラキラルを集めているのなら、もっと早く騒ぎになっていたはずだよね」
「それは……俺にも分からないけど」
 リオがそう口ごもって目を伏せる。するとゆかりが顔を上げて、何てことない調子で言った。
「だったら、直接聞いてみればいいんじゃない?」

「な、何ですとぉ!? 直接聞くって、どうやって……」
 慌てふためくいちかに、ゆかりが僅かに口元を緩める。
「今度の週末、ちょうど節分じゃない? いちご坂のスイーツショップが、一か所に集まってイベントをやれば……」
「そうか! それならきっと、あいつらはそこに現れるね」
 あおいがポン、と手を打って叫ぶ。だがそれを皆まで聞かず、いちかは激しくかぶりを振った。

「節分イベントなんて、今からじゃ無理ですよ!」
「あら、どうして?」
「だって急すぎて、出店してくれるお店も集まらないだろうし……」
「私とゆかりが、手分けして商店街を回るよ。事情を話せば、みんな分かってくれると思う」
「……そうだ、場所は? イベントの場所はどうするんですかっ?」
「今度の週末なら、野外ステージのある広場が空いてるよ。あたし、あそこのスケジュールはいつもチェックしてるんだ」
「あおちゃん……で、でも、お客さんだって、そんな急には……」
「いちか」
 ゆかりがいつになく厳しい声で呼びかけると、すっといちかの目の前に顔を近づけた。

「らしくないわね」
「……えっ?」
「そりゃあ、絶対に賛成しろなんて言わないけど……いつものあなたなら、もう少し考えてくれるんじゃない?」
「そ、それは……」
 まるで獲物を狙う猫のような目で見つめられて、いちかのこめかみから、タラリと汗が流れる。と、その時、ほっそりとした白い腕が、二人の間に割って入った。

355 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/04/29(日) 13:07:27
「ゆかり。あんまりいちかを責めないで」
「シエル……」
 ゆかりが驚いたように闖入者の顔を見つめる。シエルはフッと表情を和らげると、驚いたようにこちらを見つめている仲間たちに視線を移した。
「昼間、スイーツを買いに来てくれた男の子が教えてくれたの。節分って、悪い鬼を追い出すイベントなんでしょう?」
「そうペコ……?」
 押し黙るリオとビブリーの隣で、ペコリンが不安そうに長老の顔を見上げる。
「だから、いちかはわたしたちのことを思って……」
「それは違うよ、シエル」

 さっきとは違う穏やかな声が、シエルの言葉を遮った。いちかが微笑を浮かべながら、今度はゆっくりとかぶりを振る。
「リオ君やビブリーは大丈夫だよ。もうこの街の仲間だもん」
「ペコ〜!」
 それを聞いて安心したのか、ペコリンの耳がぼうっと明るいピンク色に染まる。愛し気にその様子を見つめてから、いちかは地面に視線を落として、いつもより低い声で言った。
「でも……今日あの子たちに、キラパティで節分スイーツ作らないのか、って聞かれたでしょ? わたし、それ……作れる気がしないんだ」

――本当にバラバラの生き物が繋がる世界を作れると言うのなら、見てみたいものです。

 エリシオの言葉を思い出す。彼が初めて見せた静かな微笑みと共に、もう何度も何度もいちかの脳裏に蘇っている言葉だ。
 あの時キュアホイップは――いちかは、「任せて」とはっきりと答えた。その瞬間から、エリシオの言葉はいちかの中で、大切な約束になった。
 でも、節分の“鬼は外”という言葉は、その約束とはかけ離れたところにあるように思える。大昔から続いて来た、この国の伝統行事。いちか自身も、物心つく前から慣れ親しんできた行事だというのに……。

「……ごめんね。でも、このままにはしておけない、もっと多くのスイーツが消える前に何とかしなくちゃ、っていうのは分かってる。新作スイーツも、もう少し考えてみるよ」
 辺りがしんと静まり返ったのに気付いて、顔を上げたいちかは仲間たちを見回すと、少し寂しそうに笑った。


   ☆


 その夜。差し向かいで夕食を取っていた父の源一郎が、お茶をすすりながらこう言った。
「いちか。長い間早起きさせたが、寒稽古は今度の週末までだからな。来週からは、父の朝食を食べさせてやるぞ」
 源一郎は道場を構える武道家だ。冬場の寒稽古の期間は朝が早いので、その間はいちかがずっと朝食当番を務めるのが、宇佐美家では当たり前のことになっている。
 母のさとみが海外に赴任して、父一人子一人の生活になってもうすぐ二年。源一郎もいちかも、もうすっかり今の生活に馴染んでいた。

「そっか。まだ寒いのに、もう立春なんだね」
「ああ、暦の上のことだからな。寒稽古の最後の日は、節分だ。そろそろ豆まき用の豆を買って、道場の神棚にお供えしておかんとな」
「え……豆を、神棚に?」
「なんだ、知らんのか」
 ご飯を頬張りながら不思議そうに聞き返すいちかに、源一郎が、オホン、とわざとらしく咳払いをする。

「節分の豆は、邪気を祓うものだ。邪気とは、病気や災いをもたらす悪い“気”だな。家長が豆をまいて邪気を祓い、一家の幸せを願うのが、節分だ」
「そう言えば、うちではわたしが小さい頃も、お父さんが鬼のお面をかぶったりしなかったね」
「家長だからな。今は色々なやり方があるが、うちでは昔から、そうしている」
 そう言って、源一郎は得意そうにニヤリと笑った。

「誰が豆をまこうが、大事なのは皆の幸せを願う想いだ。昔の人は、「魔(ま)」を「滅(め)」っすると言って、その想いを豆に込めた。それを食べることで身を清め、「福」を願った。神棚に供えるのも、その想いからだな」
「お父さん、詳しいんだね」
「武道家の父をナメるなよ? 先人の志を尊び、己の魂に引き継ぐ。武道家の心得だ」
 重々しく言い放った源一郎が、箸を持ったままの右手の親指を、グイっと立ててみせる。そんな父に、もうっ! と口を尖らせてから、いちかはつやつやとしたご飯粒の表面を、じっと見つめた。

356 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/04/29(日) 13:08:00
 目の裏に、暗く悲しい闇に染まったキラキラルが、また元の色とりどりの輝きを取り戻す、その瞬間の光景が蘇った。プリキュアとしてキラキラルを守ってきた日々の中で、何度も目にした光景だ。
 病気や怪我に、事故や事件。心が闇に染まってしまうような出来事は、この世の中にたくさんある。そんな悲しい出来事が、少しでも遠ざかってくれますように――節分に込められたその想いは、やっぱりキラキラしていて、スイーツに込めた想いと繋がっているように思えて――。

「そっか。節分の豆って、キラキラルとおんなじなんだ」
「キラキラ……って何だ?」
「ううん、何でもない。ご馳走様!」
 怪訝そうな父の視線から逃げるように、いちかはそそくさと夕食を食べ終えると、二人分の食器を持って立ち上がった。
「あ、お父さん。節分の日、わたしキラパティのイベントで遅くなるかもしれないから」
 弾むような声でそう言いながら、台所に向かういちかの背中に、源一郎の声が飛ぶ。
「えーっ!? じゃあ、豆まきはっ?」
「遅い時間からでもいいでしょう? それに、まくのはわたしじゃなくて家長だって、今言ってたじゃん」
「いや、それはそうだが……そんなに遅くなるのか? 何のイベントだ?」
 心配そうな父を尻目に、いちかが水道の蛇口を思い切りひねる。そして鼻歌を歌いながら、洗い物を始めた。


   ☆


「まず、ボールに粉を入れて、水を少しずつ足しながら、ダマにならないように混ぜて下さい」
「ダマがないドロッとした状態になったら、残りの水と砂糖を加えます」
「混ぜ終わったら、笊で濾しながら鍋に入れて、強火にかけ、鍋底から起こすように混ぜて下さい」
 スイーツノートの最新のページと調理台の上とを交互に確認しながら、ひまりが指示を出していく。木べらを手に、鍋底を力強くかき混ぜているのはあおいだ。その隣のコンロでは、いちかがあおいの鍋にチラチラと目をやりながら、丁寧に大豆を炒っている。調理台では、ゆかりとあきらが次の材料の準備に余念がない。
 キラパティは、節分スイーツの試作品づくりの真っ最中だった。



 今日、集まった仲間たちを前にして、いちかが「ごめんなさい!」と勢いよく頭を下げたのだ。
「やっぱりやりましょう、節分イベント。わたし、新作スイーツ作りたいです」
「そう。いいの?」
 いつものように事もなげな調子で尋ねるゆかりの瞳が、心配そうに揺らいでいる。それを見つめ返して、いちかは力強く頷いた。
「節分に込められた想いが、キラキラルに込められた想いと同じなんだな、って分かったから。だから……せっかくだから、わたしたちらしい節分をやりたくて」
「わたしたちらしいって、どういうこと?」

 突然、まだ『準備中』の札が下がっているはずの店のドアが、バタンと開いた。外光をバックに、右手を腰に当てた人物のシルエットが浮かび上がる。
「シエル! どうしたの? お店は?」
「今日は早仕舞い。気になって、来ちゃった」
 パチリと片目をつぶって見せてから、シエルがいちかに歩み寄る。
「それで、わたしたちらしい節分って、どんなの?」
「鬼はぁ外〜、じゃなくて、鬼さんもみんな一緒にわーって楽しめるような、そんな節分、やりたいんだ」
 いちかの声に、店の中が一瞬、しーんと静まり返る。そしてゆっくりと、全員の顔が明るくなった――。



「生地が重くなって来たら、火からおろして、氷水で冷やします。そして一口サイズに千切っていきます」
 作っているのは、わらび餅。透明なものの他に、抹茶を混ぜたものとオレンジジュースを混ぜたものの三色を作る手はずになっている。いちかが炒っている大豆は、この後ミルで粉にして、手作りのきな粉を作る予定だった。

 千切ったわらび餅に出来たてのきな粉をまぶしながら、あおいがニッと悪戯っぽく笑う。
「みんな一緒にわーって楽しめる節分、か。じゃあ、鬼も〜内〜! って感じ?」
「そうですね。昔ながらの節分とは違うけど、わたしたちらしくていいと思います」
「いや、別に違ってるわけじゃないと思うよ」
 弾んだ声で賛同したひまりが、あきらの言葉に、え? と動きを止めた。

357 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/04/29(日) 13:08:43
「豆まきで追い出すのは、本当は鬼じゃない。いちかちゃんには、それが分かったんじゃない?」
「はい。邪気を追い出すんだ、ってお父さんが教えてくれました。病気や災害を起こすって言われてる、目に見えない悪いもの。それを追い出して、みんなが幸せに暮らせますようにって願うのが、節分の豆まきなんだ、って」
「そうだね」
「でも……それでもやっぱり“鬼は外”、なんですね」
 少し寂しそうに呟くいちかに、あきらが小さく笑いかける。

「私は、おばあちゃんにこう聞いたんだ」
 そう口を開いたあきらの瞳は、優しい光を帯びていた。入院している妹のみくの姿を思い浮かべているような口調で、ゆっくりと語り始める。
「邪気は、目に見えないでしょう? でも目に見えないものを、小さな子に説明したりするのは、ちょっと難しいよね。だから、誰かに鬼の役をやってもらって、豆まきをやりやすくしているんだって。逃げたふりをした鬼役の人につられて、邪気が逃げていくようにね」
「へえ。じゃあ節分には、鬼も一役買ってるっていうわけね?」
「そうなんだ……。それって、なんか嬉しい!」
 少し頬を染めて微笑むシエルの顔を、ほんの一瞬見つめてから、いちかがテンション高く叫ぶ。

 不意に、白、緑、オレンジのキラキラと光る小さな塊が、鬼たちに手招きされて、辺りをほんのりと照らしながら行進していく景色が頭に浮かんだ。
 塊は少しずつ大きくなり、次第に三色に彩られた、美しい扇のような姿になって……。

「あーっ! キラッとひらめいた!」
 いちかはもう一度高らかに叫んで、ピョン、とその場で嬉しそうに飛び跳ねた。

〜続く〜

358 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/04/29(日) 13:09:22
以上です。ありがとうございました!

359 名無しさん :2018/05/01(火) 00:14:45
>>358
ヒジョーに続きが気になる感じで
後半が楽しみだす

360 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/05/06(日) 20:40:01
こんばんは。
キラプリ最終回記念SS「キラパティの節分」、後編を投下させて頂きます。
5、6レス使わせて頂きます。

361 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/05/06(日) 20:41:08
 抜けるような青空が、いちご坂の上に広がる。二月三日、節分の日。空気はキンと冷えているものの、絶好のイベント日和となった。
 野外ステージのある広場には、まるでスイーツ・フェスティバルの会場がそのまま引っ越してきたかのように、小さなテントがひしめき合って甘い匂いを漂わせている。ゆかりとあきらが中心になって、いちご坂じゅうの店一軒一軒に、このイベントへの参加を頼んで回った成果だ。
 ステージの上では、バンド仲間たちの演奏に乗せて、あおいが力強い歌声を響かせている。これはイベントを盛り上げると共に、ステージの上からならネンドモンスターを見つけやすいかも、というあおいが考えた作戦だった。

「うわぁ、キラキラしてて、すっごくきれい!」
 キラパティにやって来た子供たちが目を輝かせる。
 白、緑、そしてオレンジ。出来上がった新作スイーツは、三色のキラキラした羽を持つ、孔雀の形のわらび餅だ。胴体の部分は餡子をベースにした練り切りで出来ていて、羽には自家製きな粉がたっぷりとまぶしてある。
「キラキラルもいっぱいペコ」
 今日は人間の姿になってお手伝いをしているペコリンが、嬉しそうに呟いた。

「う〜ん、美味しいっ!」
 ステージの前に並べられたパイプ椅子に座って舌鼓を打っているお客さんの中から、時折そんな歓声が上がる。
 キラパティの他にも、工夫を凝らしたスイーツの恵方巻や、炒り豆をカラフルにコーティングした小さなお菓子など、様々なスイーツがイベントを彩っていた。

 ひまりとペコリンと一緒にテントに立ったいちかは、満面の笑みで、両手をブンブンと振って叫んだ。
「う〜ん、やっぱりこういうイベントって、楽しいっ!」
「はい! あ、でもいちかちゃん。周りをよく見ていないと、モンスターがいつ現れるか分かりませんよ」
「あ……そうだった」
 ひまりに小声で注意されて、いちかが慌ててキョロキョロと辺りを見回す。そしてある一角に目を向けると、ん? と首を傾げた。

 そこに居るのは、スイーツの箱を抱えたお父さんと、お母さん。そして男の子と女の子の、一家揃ってやって来たらしい四人連れ。それだけ見れば、おかしなところはどこにも無いのだが……。

「ねえ、ひまりん。あのスイーツの箱、すっごく大きくない? どこのお店のだろう」
「え、どれですか?」
「ほら、あそこの四人家族のお父さんが持ってるヤツ」
 いちかにそう言われて、今度はひまりが彼らに注目する。
「そうですね……。でも、あれって箱が大きいんじゃなくて……」
 ひまりがそう言いかけた時。
「あれ……? あたしのスイーツは?」
「え? さっきそこに置きましたが」
 キラパティの斜め向かいのテントがにわかに騒がしくなった。それと同時に、注目の四人がそそくさと会場を去ろうとする。
 その拍子に、男の子が転んだ。ポロリと落ちた野球帽の下から現れたのは、ぴょこんと横向きに生えた、紫色の二本の角――。

「いましたーっ!!」
 滅多に聞けないひまりの大声が辺りに響く。
「ネン!」
「ネン!」
 正体がバレたことに気付いたネンドモンスターたちが、慌ててその場から逃げ去ろうとする。
 だが次の瞬間、すぐ近くで呼び込みをしていたあきらとゆかりの手から、彼らの顔を目がけてチラシの束が放たれた。ステージ上のあおいがそれに気付き、予定にはない派手なシャウトを、空に向かって高らかに響かせる。

「ネ、ネン!」
「ネン!」
「ネーン!」
 音に共鳴してビリビリと震える紙が顔に貼り付き、慌てふためくネンドモンスターたち。何とか引き剥がそうと暴れたはずみに、スイーツの箱がお父さんモンスターの手を離れた。

「うわぁぁっ!」
 宙を舞う箱を、いちかが見事ダイビングキャッチ。その勢いのまま、まだ事態に気付かずスイーツを探しているお客さんの足元に滑り込むと、手の中の箱を頭上に掲げるように差し出した。
「お……お待たせしました……!」

362 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/05/06(日) 20:41:42
 ステージ裏にある、出演者の控室。イベント会場からは見えないこの場所に、スイーツ消失事件に関わった店の人たちが集まっていた。その真ん中には、大勢の人間たちに囲まれて、すっかりしょげ返ったネンドモンスターたちの姿がある。

「スイーツがなくなったのは、やっぱりあなたたちの仕業だったのね?」
「ネン……」
「スイーツを、どうするつもりだったんだい?」
「ネン……」
 ゆかりとあきらの質問に、ただうなだれるネンドモンスターたち。だが。
「もしかして、またキラキラルを狙ったのか? グレイブに命令されて」
「ネネン! ネネネン!」
 リオがそう問い詰めると、四人全員が激しく首を横に振った。

「そんなわけ、ないよね? でも、それならどうして……」
「シエル」
 詰め寄ろうとするシエルを、いちかが目顔で止める。そして笑顔でネンドモンスターの前に進み出ると、腰をかがめて彼らと目線を合わせた。

「ねえ。持って帰ったスイーツは、どうしたの? みんなで食べたの?」
「ネネン」
「食べてないんだ……。じゃあ、グレイブにあげたの?」
「ネン……」
 ネンドモンスターたちが、さっきより一層しょんぼりとうなだれる。その様子を見つめて、そっか……と呟いてから、いちかはゆっくりと、噛んで含めるように言った。

「あのね。スイーツは、食べてくれる人のことを思って、想いを込めて作られたものなの」
「ネン……」
「だから、人のスイーツを黙って持って行くのは、いけないことなんだよ?」
「ネン……」
 観念したように頷く彼らにニコリと微笑んでから、いちかが右手を高々と挙げる。
「よし、じゃあ今日は……レッツ・ラ・お手伝い!」

「ネン?」
「え?」
「ええっ!?」
 顔を見合わせるネンドモンスターと、驚きの声を上げるキラパティの面々。その周りで、スイーツショップの店主たちがポカンと口を開ける。
「……それで、許してあげて下さい。どうかお願いします!」
 いちかは店主たちの方にくるりと向き直ると、そう言って深々と頭を下げた。それを見て、仲間たちの表情が、フッとほどける。
 あきらとゆかりが、ひまりとあおいが、シエルとリオが、そして渋々ながらビブリーが、いちかに続いて頭を下げる。最後にペコリンが、ペコ! と地面に付きそうな勢いで頭を下げると、店主たちは顔を見合わせて、ためらいながらも頷いてみせた。



 午後になって来場者が増え、イベントは更なる盛り上がりを見せた。どの店にも大勢のお客さんが詰めかけて、楽しそうにスイーツを選び、食べ、テイクアウトしている。そんな人々の合間を縫うようにして、小さな黒い影が、休む間もなく会場を動き回っていた。
 会場のゴミを、大きなゴミ袋にまとめる者。それを二人がかりで運ぶ者。食べこぼしで汚れたパイプ椅子を、手際よく拭いていく者。
 やがて夕方を待たずに全ての店のスイーツが完売し、イベントは大盛況のうちに幕を下ろした。

「お疲れ様。はい、どうぞ」
 人気のなくなった飲食スペース。さすがに疲れたのか、パイプ椅子に寝転がっていたネンドモンスターたちに、いちかが孔雀わらび餅を差し出す。
「ネ、ネン! ……ネン?」
 慌てて立ち上がった彼らは、目の前にある物を見て、困ったように首を傾げた。
「どうぞ。食べてみて」

「お前ら、スイーツを食べたことなんて無いんだろ」
 不意に、いちかの頭上から声がした。孔雀わらび餅の紙皿を持ったガミーが、中空からこちらを見下ろしている。
 ガミーはパイプ椅子の上に降り立つと、わらび餅を掴んで、大きく口を開けた。
「見てな。こうするんだ」
 そう言ってわらび餅を口に放り込み、モグモグと咀嚼してからゴクリと飲み込む。そしてニンマリと、幸せそうに笑って見せた。
「うめぇ〜! お前たちもやってみろ」
「ネン……」
 ガミーにつられたように、一人のネンドモンスターがわらび餅を掴んで、恐る恐る口に入れた。モグモグと二度三度口を動かした途端、矢印のような二本の角が、ピーンと真っ直ぐに伸びる。
「ネン! ネン! ネン!」
 その場で小躍りを始める仲間を見て、残りのネンドモンスターたちも揃ってスイーツを口に入れる。やがて全員が輪になって踊り始めたのを見て、いちかが嬉しそうに微笑んだ、その時。
「何をやってる」
 いちかの後ろから、ドスの効いた声がした。

363 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/05/06(日) 20:42:21
 ブランド物のスーツに、黄色の派手な開襟シャツ。シャツよりもっと明るい金髪と、筋肉質の浅黒い肌の大柄な男――。
「グレイブ!」
「毎日妙なものを持って帰って来ると思ったら……。お前ら、こんなところで何やってるんだ!」
「ネ……ネン!」

 怯えるネンドモンスターたちの前に、いちかがさっと両手を広げて立ちはだかる。ギロリと鋭い目を向けたグレイブは、いちかの顔を見て、何か酸っぱいものでも食べたような顔つきになった。
「……プリキュアか。お前に用はない。引っ込んでろ」
「いちか!」
 今度はグレイブの後ろの方から、声と同時に複数の足音が聞こえた。キラパティの面々が駆けて来て、いちかの隣に立ち、グレイブと向かい合う。

「なんだお前ら。用はないって言ってんだろ。また俺の邪魔をする気か?」
 不快そうにこちらを睨みつけるグレイブの顔を、いちかも負けじと見つめ返す。
「ねえ、グレイブ。この子たち、あなたに何度もスイーツを届けたんでしょう?」
「ああ、そうだ。俺は食わねえって言ってるのに、毎日毎日」
「それって、スイーツを持って行けば、あなたが喜んでくれると思ったからじゃないかな。きっとあなたに、喜んでほしかったんだよ」
 それを聞いて、グレイブは一瞬あっけにとられた顔をしてから、さも可笑しそうにゲラゲラと笑い出した。

「ハハハ……こりゃあ傑作だぜ!」
「なっ……何が可笑しいんだよっ!」
 あおいがムッとした様子で食ってかかる。
「だってそうだろ。俺がスイーツをもらって喜ぶだと? じゃあ何か? お前らは俺に、またキラキラルを奪えとでも言うのか」
「いや、そういうことじゃなくてさぁ……」
 もどかしそうに言葉を探すいちかを、へん、とせせら笑ってから、グレイブは再びそこに居る全員を鋭い目で見回した。
「俺はもうノワールの部下じゃねえ。昔のように、また弱い奴らを片っ端から蹴落としてのし上がろうとしている真っ最中だ。なのに、あんな甘ったるいモン毎日持って来られて、喜ぶわけねえだろ!」
「ネ……ネン……」

 縮み上がるネンドモンスターたちに、グレイブが目を向ける。
「おい、お前ら! お前らがスイーツを奪った店、残らず俺に教えろ」
「何をする気!?」
 今度はゆかりがグレイブを問いただす。
「俺様は悪党。コソ泥じゃねえ。こんなチンケな真似、俺様の仕業にされてたまるか。金を払やぁ文句は無いんだろう? ふん、こんなヤツらに盗みに入られるような店、俺様が潰そうと思えばいつだって……」
 グレイブがそう言いかけた時、再び彼の後ろから、さっきより多くの足音が近づいてきた。

 後ろを振り向いたグレイブが、驚いたように目を見開く。
 彼を取り囲む、人、人、人。皆、イベントに出店していたスイーツショップの人たちだ。そのあまりの人数に、ほんの一瞬、気圧されたような顔をしたグレイブが、ぐいっと背筋を伸ばした。

 視線には、圧力がある――それはかつて、街中の人々から敵意に満ちた眼差しを向けられた時に思い知った。
 そういう時は、圧力にもビクともしないように身構えて、こちらがより強い圧力を発すれば、恐れることは無い。

 そっくり返りそうなほどに胸を張り、人々の顔を見下すように、眼光鋭くねめつける。彼のいつものスタイルだ。
 そうしながら、グレイブが密かにグッと奥歯を噛み締めた、その時。人々の真ん中に立っていた“シュガー”の店主が、彼の前に進み出た。

「あのう、その小鬼たちは、あなたの……」
「俺の部下だ。アイツらが店のスイーツを盗んだって話だろう?」
「いえ、それはもうよろしいんです」
「あぁ? ……じゃあ、他にも何かあるっていうのか」
 穏やかにそう答えられて、グレイブが警戒するように眉をひそめる。だが、その後の言葉を聞いて、今度は呆れたように口をあんぐりと開けた。

「一言お礼が言いたくて。ありがとうございました」
「……何?」
 グレイブの様子を気にする風もなく、店主は丁寧に頭を下げ、言葉を繋ぐ。
「何しろ急だったもんで、人手が足りなくてね。いやぁ、実によく働く部下をお持ちだ。お陰でイベントは大盛況。助かりました!」
「……」

364 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/05/06(日) 20:43:08
 集まった街の人たちが、皆“シュガー”の店主と同じくにこやかにグレイブを見つめる。
 視線には、圧力がある――それはかつて、街中の人々から敵意に満ちた眼差しを向けられた時に思い知った。その圧力が強大なら、自分の存在そのものに突き刺さるような、痛みを感じるということも。
 だが今は、視線には温度もあるのだということを知る。いや、感じる。
 圧力などとは違って、妙にあたたかくて、柔らかくて――。

 開けたままの口を閉じることも、言葉を発することも出来なくなったグレイブの前に、あきらとひまりがネンドモンスターたちを連れて来た。
 人々の間から、拍手が沸き起こる。その時、さりげなくグレイブの隣にやって来たビブリーが、彼の耳元でこう囁いた。
「今、形だけでも挨拶しておけば、金に物を言わせる必要なんて無いんじゃない?」
「部下がこれだけ認められてんだ。上司からの一言は、必要だろ?」
 今度はリオが、グレイブと目を合わさずに澄ました顔で呟く。
「へん。お前ら、せっかくいい気分のところを邪魔しやがって」
 グレイブは小声で悪態をついてから、観念したように、ゴホンと大きく咳払いをした。
「こっちこそ……こいつらが迷惑をかけて、本当にすまなかった」
「ネン!」
 重いものをやっと動かしているような動作で、グレイブが頭を下げる。ネンドモンスターたちも、慌ててそれに続いた。

「ったく。こんな鬼どもに礼を言うとは、けったいな連中だぜ」
 スイーツショップの人々が去ると、グレイブは再び鋭い眼差しでいちかたちを見回した。だが、心なしか上気しているその顔に、もはやさっきのような迫力は無い。
「良かったね、グレイブ」
 ニコニコと話しかけてくるいちかに、へっ! と一言吐き捨ててから、グレイブはネンドモンスターたちを、いつもの調子で怒鳴りつけた。
「いつまでグズグズしてる。行くぞ、お前ら!」
「待つペコ〜!」

 その時、今度はトテトテという頼りなげな足音が聞こえて来た。人間の姿のペコリンが、両手で大事そうに皿を捧げ持って、懸命に走ってくる。
「グレイブ! これ、食べてペコ」
 皿の中には、今日キラパティのテントに並んでいたものより少々いびつではあるものの、丁寧に盛り付けられた孔雀わらび餅があった。
「だから、俺はスイーツなんて……」
「グレイブのために作ったペコ。だから食べてほしいペコ!」
「……売れ残りじゃねえのか」
 いかにも迷惑そうな顔をしていたグレイブの目が、僅かに泳ぐ。

「ペコリンが言ってることは、本当よ」
 ペコリンの後ろから、シエルも駆け足でやって来た。
「新作スイーツ、全部売り切れちゃって。ネンドモンスターたちの分は取っておいたけど、それも全部なくなっちゃったから、ペコリンが大急ぎで作ったの。あなたにどうしても食べてもらいたいって」
 グレイブは、シエルの顔を睨むように見つめてから、その目をペコリンの持つ皿の方へと向けた。

 皿の上のものを無造作に摘み上げ、しげしげと眺めてから、口の中に放り込む。そのままモグモグと咀嚼して、ゴクリと飲み込んだグレイブの口から、うめくような声が漏れた。
「う……」
「う?」
「う……うま……」
「どうペコ? 美味しいペコ?」
 ペコリンが、期待に目を輝かせてグレイブの顔を覗き込む。そのキラキラした瞳を見て、グレイブの顔がまた少し上気した。

「う……う、うるせえ! お前、まだ修業中だろ。知り合いに旨いって言われたくらいで、喜んでるんじゃねえ!」
「じゃあペコリン、もっと美味しいスイーツが作れるように、頑張るペコ。グレイブ、また食べに来てくれるペコ?」
「また……来てもいいって言うならな……」
 極々小さな声で呟いたグレイブが、笑顔でこちらを見つめるキラパティの面々に目をやって、へっ! と再び吐き捨てるように言った。

「あんまり顔を出さないでいて、どこかで野垂れ死にしたと思われるのもシャクだからな。たまにはお前たちのスイーツでも食いに来てやるぜ」
 それを聞いて、今度はいちかが嬉しそうに、ピョン、とひと跳びでペコリンの隣に立つ。
「ホント? 約束だよ、時々は顔を見せてくれるって。ネンドモンスターのみんなもね」
「うるせえな、たまにだぞ? その代わり、お前たちがどこに居ても、世界の果てまで探して顔を見せてやるから覚悟しとけ」

 精一杯の威厳を込めてそう言い放ってから、グレイブが再びネンドモンスターの方に向き直る。
「さあ、行くぞお前ら!」
「ネン!」
「ネン!」
 去っていく彼らを見ながら、いちかは満足そうに微笑んで、人間の姿になっても小さくぷにぷにとしたペコリンの身体を、ギュッと愛おしそうに抱き締めた。


   ☆

   ☆

   ☆

365 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/05/06(日) 20:43:41
「……なぁんてあの時はカッコつけてたのに、ダッサ! 毎日毎日やって来て、いくら注意しても、毎日毎日、店の真ん前に車停めて……。邪魔だって何度言ったら分かるのよ!」
「ったく……てめえも毎日毎日うるせーな!」

 あれから数年。いちご坂自然公園に、今やキラキラパティスリーの姿は無い。
 その代わりのように建っているのは、キラパティに似ているけれど、もっと丸っこい形をしたペコリンパティスリー。その店の前で、今日もグレイブと、今はこのパティスリーを手伝っているビブリーが睨み合っていた。ネンドモンスターたちが二人を取り囲んで必死で仲裁しようとしているが、どうやらその努力は今日も水の泡のようだ。

 あの頃と同じように、へっ! と吐き捨てたグレイブは、ふと思い出したように、ぶっきらぼうな調子で言った。
「そういやぁ、あの青いプリキュアが、この町に帰って来てライブをやるそうじゃねえか。凱旋公演とは、たいそうなご身分だぜ」
「ええ、いちかたちも観に来るそうね。知らせたのは、あんたなんでしょ?」
 ビブリーもつっけんどんにそう言ってから、グレイブの顔を覗き込んでニヤリと笑った。

 ブルー・ロック・フェス――毎年いちご坂で行われるロックの祭典の、今年のメインイベントとして、あおいたちのバンドが招かれることになったのだ。
 決まったのはほんの数日前。すぐにあおいから、ペコリンやビブリーを含めた仲間全員に報告があったのだが、いちかとゆかりは今どこにいるのか分からず、連絡がつかない状態だった。それがほんの二、三日のうちに、彼女たちの方から相次いで、あおいに連絡してきたのだ。
 どうやら二人の居場所を探し出し、異国に居る彼女たちの元に直接出向いて、このニュースを伝えた人物が居たらしい。そのお陰で、キラパティのメンバーはこの夏、数年ぶりにここいちご坂で集まることになっていた。

「ああん? 覚えてねえな」
 グレイブがあさっての方を向いてうそぶく。だがその時、こちらに向かって駆けてくる少女の姿が目に入って、嬉しそうな困ったような、実に複雑な表情になった。
「グレイブ〜! また来てくれたペコ。嬉しいペコ! さあ、新作スイーツがあるから、食べてみてペコ!」
「分かった分かった。うるせえな。おい! お前らも来い!」
「ネン!」
 迷惑そうな顔をしながら、ペコリンに急かされて、いそいそと店へと向かうグレイブ。その姿を、ビブリーがさっきよりさらに嬉しそうに、ニヤニヤと見送る。いちかたちに、早くこんな彼の姿を見せてやりたいと思いながら。
 いちご坂に、もうじき暑い夏がやって来る。

〜終〜

366 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/05/06(日) 20:44:30
以上です。どうもありがとうございました!
この後は、フレプリ長編の続きを頑張ります……。

367 名無しさん :2018/05/07(月) 00:50:43
>>366
丁寧な描写、怒涛の展開
面白かったです
☆☆☆「……なぁんてあの時は〜
のところが特に好きです

368 Mitchell&Carroll :2018/05/08(火) 00:27:19
『パウンドケーキのその前に』


※パウンドケーキには、微量ながらアルコール(ラム酒)が入っております


ひまり「うへへへへぇ〜。猫ちゃ〜ん、猫ちゃ〜ん」

ゆかり「………」

あきら「大変だ!酔いが醒めるように、急いで水を……」

ビブリー「待って。面白いから、もうちょっと見てましょうよ」

あおい「ゆかりさんも満更じゃなさそうだし」

シエル「ちょっと嗅いだだけなのに、ひまりったら」

ひまり「あっ、こっちにはウサギさんですね〜」

いちか「標的が私に替わりましたケド……」

ビブリー「プッ!クックック……ざまあみなさい」

ひまり「ライオンさんの毛は、もしゃもしゃですね〜」

あおい「あ痛たたたた」

ひまり「まあ〜賢そうなワンちゃん!お座り!」

あきら「えっ?えーと……」

ゆかり「ほら、早く座りなさい」

ひまり「お座り!!」

あきら「………(お座り)」

ひまり「お手!!」

あきら「(お手)」

ひまり「チ〇チ〇!!」

〜〜自粛〜〜

ひまり「お馬さ〜ん、お馬さ〜ん」

シエル「ヒヒ〜ン、じゃなかった、パタタッ!」

ひまり「ふわ〜ぁあ。……スゥ……」

いちか「寝ちゃった」

ビブリー「ちょっと、あたし、まだ構ってもらってないんだけど」

ゆかり「うふっ、可愛い寝顔」

あきら「ほんとだね」

ビブリー「あたしだけ構ってもらってないってば」

あおい「こうして見ると、ほんと、子供だよね」

シエル「まあ、子供だけどね」

ビブリー「ちょっと」


おしまい

369 名無しさん :2018/05/08(火) 21:34:22
>>368
ひまりん、酒癖悪かったのかw
目覚めた後が見ものですな〜。

370 Mitchell&Carroll :2018/05/18(金) 00:56:48
〜Doll City〜
by SETSUNA


みな同じ服を着るのは、どして?

みな同じ音楽を聴くのは、どして?

みな同じものを食べるのは、どして?

みな同じ言葉を話すのは、どして?

みな同じダンスを踊るのは、どして?

みな同じ物を持ってるのは、どして?

みな同じ本を読むのは、どして?

みな同じ所へ行くのは、どして?

みな同じ表情なのは、どして?


同じ過ちを繰り返すのは、どして?

戦争が無くならないのは、どして?

海が汚れるのは、どして?

空が濁るのは、どして?


大事なことを忘れてしまうのは、どして?

嘘をつくのは、どして?

他人を騙すのは、どして?

自分を騙すのは、どして?

悲しいのは、どして?

虚しいのは……どして?

―――騙されるのは、どして?


こんな私を愛してくれるのは、どして?

あなたのことが気になるのは、どして?

優しくしてくれるのは、どして?

優しくしたいのは、どして?


帰りたくなったのは、どして?

帰りたくないのは、どして?

また逢いたいのは、どして?

ずっとここに居たいのは、どして?


………蓋が上手く閉まらないのは、どして?

371 名無しさん :2018/05/18(金) 16:49:19
>>370
絶妙な変化!

服がいつもしま○らなのは、どして?

372 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/05/28(月) 21:05:39
こんばんは。
昨日のハグプリに感動! そして書いたのはフレプリw
40話「せつなとラブ お母さんが危ない!」の数日後のお話です。
タイトル:キラキラ
2レス使わせて頂きます。

373 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/05/28(月) 21:06:57
 昨日から降り続いた雨が、昼過ぎになってようやく上がった。肩越しに射し込んだ光に驚いて、せつなが窓の方へと目を向ける。
 そこにあったのは、何だか久しぶりに感じられる青い空。思わず頬を緩めるのと同時に、せつなに宿題を教えてもらっていたラブが、勢いよく立ち上がった。
「やったぁ! やーっと雨が上がったぁ」
「もう、ラブったら。問題、まだ解きかけでしょ?」
 たしなめるせつなの声など聞こえないかのように、ラブがガラス戸をカラリと開ける。そのままサンダルをつっかけてベランダに出ると、隣の部屋の前から、せつなのサンダルを持って来た。

「ほら、せつなもおいでよ。すっごくいいお天気になったよ」
 しょうがないわね、と言いながらベランダに出たせつなが、予想以上の眩しさに目を細める。そしてラブと一緒に辺りを見回して、小さく息を呑んだ。
 真下に見える日よけ棚の木の葉は、どれもコロンと丸い水滴をつけていて、それらがまるで光の粒のようにきらめいている。
 目を上げれば、商店街の並木もお隣の屋根も、雨というよりまるで光に洗われたように、いつもより艶やかで明るい。

(この街に来た頃にはちっとも気が付かなかったけど、この世界は本当に素敵ね)

「綺麗……。キラキラしてる」
 そう呟くせつなの横顔を嬉しそうに見つめてから、ラブがテンション高く声を上げた。
「ねえ、せつな。雨も上がったことだし、これからスーパーにお買い物に行こうよ! 今日は、あたしたちが夕食当番だよ?」
「ええ。でもラブ、お買い物は宿題が終わってからよ」
「トホホ……はぁい」
 しょぼん、と萎むラブの顔を、せつなが微笑みながら覗き込む。
「早く終わらせて、お買い物に行きましょ。私も精一杯、頑張るわ」
「うん! ありがとう、せつな。なんかそう言ってもらっただけで、宿題、すぐに出来ちゃいそうだよぉ」
 途端に元気になったラブが、そう言ってニコニコと笑う。その屈託のない笑顔に、せつなは思わずクスリと笑った。

(そう言えばラブの笑顔だけは、初めて見た時からキラキラして見えたっけ)

 そこでまた何か思いついた様子で、ラブがポンと手を叩く。だがその提案を聞いて、せつなの表情は微妙に変わった。

「そうだ、せつな。お買い物に行く時、この前お母さんにもらったブレスレット、一緒に着けて行こうよ!」
「え……あのブレスレットを?」
「そう!」
 満面の笑みで頷くラブの隣で、せつなが心なしか頬を赤く染めて、ドギマギと目を泳がせる。

 つい先日、せつなはあゆみから、手作りのブレスレットをプレゼントされた。赤が好きなせつなのために、あゆみがラブと色違いで作ってくれたものだ。
 それがキッカケになって、せつなはずっと心のどこかで言いたいと思っていた言葉を――“お母さん”という言葉を、初めて口に出すことが出来たのだ。

 少し赤くなった頬を隠すように、せつながチラチラとラブの方を見ながら問いかける。
「ブレスレットって、そんな普段の日に着けてもいいものなの?」
「もっちろん! え〜っと、『女の子は、どんな時もオシャレを忘れちゃダメ!』って、美希たんがよく言ってるじゃん」
 パチリと片目をつぶって、美希の真似をしてみせるラブ。だが、それに小さく微笑んだせつなの顔を見て、心配そうにほんの少し眉根を寄せた。

 いつものせつななら、右手を口に当てて、クスクスと楽しそうに笑ってくれる場面だ。でも今のせつなの笑顔はいつもとは違った。何だか不安を隠そうとしているようにも、何かを恐れているようにも見えて……。
 ラブがせつなに気付かれないように、ギュッと右の拳を握る。そして次の瞬間、せつなにニコリと笑いかけると、パッとその左手を掴んで、それを両手で包み込んだ。

「だって、せつな。ブレスレットは、身に着けるためにあるんだよ?」
「それは……そうだけど」
「あのブレスレット、すっごくせつなに似合ってたし!」
「……ありがとう」
「それに、お揃いで着けて行ったらね〜」
 そこで突然、ラブが言葉を切った。せつなの顔を覗き込んで、んふふ〜、と楽しそうに笑う。それを見て、せつなの表情が怪訝そうなものに変わった。

「付けて行ったら、何?」
「それはねぇ……まだヒミツ!」
「え? 秘密、って……」
「そうだなぁ。もっとキラキラした、素敵なモノが見られるかもしれないよ?」
 ますます怪訝そうに小首を傾げるせつなに向かって、ラブが今度はニヤリと笑う。そしてくるりと回れ右をすると、せつなの手を引っ張って、部屋の中に取って返した。
「よぉし。宿題、頑張って早く終わらせるぞ〜!」
「もう、ラブったら。それだけじゃ、よく分からないわよ」
 困った顔でラブに手を引かれながら、今度はせつながラブに気付かれないように、フーっと小さなため息をついた。

374 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/05/28(月) 21:07:29
 一時間ほど後、無事に宿題を片付けたラブとせつなは、連れ立ってクローバータウン・ストリートを歩いていた。
 宿題が終わった解放感からか、いつにも増して上機嫌なラブ。一方のせつなは、左手首のブレスレットに、ひっきりなしに手をやっている。
 何だかちょっぴり不安そうで、でも嬉しそうにうっすらと頬をそめて――そんなせつなの様子を、自分も嬉しそうに眺めてから、ラブは左手を自分の目の前にかざすと、ブレスレットを揺らすように、手首を小さく動かして見せた。

「ほら、せつな。こうやってお日様に当てて見ると、すっごく綺麗に見えるでしょ?」
 言われてせつなもラブの真似をして、でもラブよりは恐る恐る、左手首を動かしてみる。ブレスレットは日の光を反射して、まるで瞬いているような、優しい光を放った。

 せつなの顔に、ほんの一瞬、影が差し込む。淡く儚げなその輝きは、今は無き、別の宝物の輝きを思い起こさせた。そう――かつてラブから貰って、最後は自分自身が踏み壊した、あの“幸せの素”のペンダントの。
 だが、せつなはすぐに元の笑顔に戻ると、その笑顔をラブの方へと向けた。

(もう二度と、失ったりしない。必ず守るわ。この世界の美しいもの、全てを)

「ホント、とってもキラキラしてる。あ、もしかして、さっきラブが言ってたのって……」
 せつながそう言いかけた時、二人はちょうどスーパーの入り口に差し掛かった。

「さぁ着いた。せつな、早く!」
 ラブがせつなの問いに答えようともせず、その手を取って、足早にスーパーの中へと入っていく。そして、店内で商品のチェックをしているあゆみの姿を見つけると、せつなと繋いだままの手を、大きく上げてみせた。

「お母さ〜ん!」
 ラブの大声に、店内に居たお客さんたち数人の視線が二人に注がれる。
「ちょ、ちょっと、ラブったら……」
 恥ずかしそうにラブをたしなめようとするせつな。だが、その言葉はそこで止まった。

 目に飛び込んできたのは、二人の姿に気付いて立ち上がった、あゆみの姿だった。
 二人に微笑みかけたその目が、上げられた左手首に留まって大きく見開かれる。そしてその顔が、パァッと花が開いたような、嬉しそうな笑顔に変わっていく。
 優しくて、あたたかくて、室内に居るのに、まるでそこだけ太陽に照らされているかのように輝いていて……。

 ラブがせつなの耳元に口を寄せて、得意そうに囁く。
「ほらねっ? キラキラしたもの、ちゃあんと見られたでしょ?」
 せつなが上気した頬を隠すように、コクンと頷いた。そんなせつなの横顔を、ラブは実に嬉しそうな笑顔で見つめた。

(良かった……。せつなの顔も、今、すっごくキラキラしてる)

 そしてせつなはラブと手を繋いだまま、あゆみの元へと向かう。
「ふふ〜ん。お母さんから貰ったブレスレット、着けて来ちゃった。ほら、せつなもちゃんと見せて」
 ラブに促され、ブレスレットにも負けないくらい真っ赤な顔になったせつなが、左手を自分の顔の横にかざして見せる。
「よく似合ってるわ、せっちゃん」
 黒髪を優しく撫でられて、せつなはあゆみに負けず劣らず嬉しそうな笑顔で、真っ直ぐにあゆみの顔を見つめて言った。
「ありがとう、お母さん」

〜終〜

375 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/05/28(月) 21:08:09
以上です。ありがとうございました!

376 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/14(日) 20:34:06
こんばんは。
8カ月以上ぶりの更新になってしまいましたが(汗)長編の続きを投下させて頂きます。
今回は、同じ時間軸の二つのサイドのお話になりましたので、同時掲載させて頂きました。
従って、第14話が2つあります。どちらを先に読んで頂いても大丈夫です。でも、両方とも読んで下さいね(笑)
各4レス、合計8レス程使わせて頂きます。

377 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/14(日) 20:35:09
「おい、俺だ! 分からないのか! いい加減、目を覚ませ!」
 左ストレートを紙一重でかわし、身をよじってハイキックを避ける。立て続けに繰り出される連打を、素早い動きでリズミカルにかわし続ける。その間にも、ウエスターは相対する相手に向かって、必死で呼びかけ続けていた。
 サウラーと同じS棟出身の彼の、洗練された身のこなし。得意のハイキックも、左からの攻めが多い癖も、いつもの彼の戦い方だ。
 だが、その目を見れば分かる。相手の動きをただ追っているだけの、相手がウエスターだとも分かっていないような眼差しを見れば。

(俺の言葉が、まるで届いていない。今のこいつは、俺の知ってるこいつじゃない)

 ほんの数時間前。E棟にあると分かった“不幸のゲージ”を、とにかくもこちらの管理下に置くため、先発隊を送り出した時の光景を思い出した。
「大丈夫です、隊長。俺たちに任せて下さい」
 隊列の先頭に立ち、仲間たちをぐるりと見渡してから、誇らしげに言い切った彼の言葉が耳に残っている。
「おう。何かあったら、必ず連絡しろよ」
「隊長も、気を付けて下さいよ」
 そんなことを言い合って、屈託のない笑顔を見せた彼の姿も、鮮やかに脳裏に蘇る。

(ええい……。あの時のこいつは、どこへ行った!)

 連打のリズムが、突然変わった。それに身体の方が反応して、ウエスターはハッと物思いから覚める。その途端、熱いものが右の脇腹を走った。相手の渾身の蹴りが、僅かにかすめたのだ。
「っく……!」
 顔をしかめながら、後ろに跳んで距離を取る。すぐさま間合いを詰め、顔面を打ち抜こうとする容赦のない攻撃を、両腕を交差して受け止める。
 今度は軸足を払おうとするローキック。流れるような連続攻撃だが、ウエスターは決して反撃しない。ただひたすらに、避ける。挫く。跳ね返す。

 そんなことを繰り返すたびに、腹の底からじわりと哀しみが溢れ出す。
 そのガラス玉のような瞳を見つめるたびに、哀しみと一緒にどす黒い怒りが、塊になって湧き上がって来る。

「うおぉぉぉぉっ!」

 胸の中へとせり上がって来た塊が、ついに咆哮となって迸った。それと同時に唸りを上げるウエスターの剛腕に、思わず身構える男。だがその拳が襲ったのは、彼ではなかった。

 どーん、という衝撃音と共に、二人が立っている地面が打ち砕かれる。一拍遅れて激しい突風が巻き起こり、瓦礫を盛大に吹き飛ばした。
 予想外の行動に、一歩も動けない彼が、突風に煽られてバランスを崩す。その身体をがっしりと受け止めると、ウエスターは素早くその首元に手刀を当て、とん、と軽く打った。
 力無く目蓋を閉じたその顔に、ほんの一瞬、苦しそうな目を向ける。そして気を失った彼の身体を軽々と持ち上げると、建物の陰に、仲間たちと並んで寝かせた。

 立ち上がったウエスターが、空を――そこに居る元の主の姿を、燃えるような瞳で見つめる。その後ろでは、サウラーが一言も言葉を発さず、ただ黙々と戦い続けていた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第14話:不幸なき明日――発憤 )



 風に乗って空を駆け、高速で刃物を振るう。着地と同時にバラバラと降ってくるコードの切れ端。それを一瞥もせず、せつなは新たな獲物を目がけて中空高く舞い上がる。
 右手に持った短い刃物――元々は老人が持っていたそれは、今やぴたりとせつなの手に馴染み、まるで彼女の身体の一部であるかのように、自在に空を切り裂き、最高速で管理の枷を断ち切り続けている。
 空の中央には、かつて見慣れたメビウスの巨大な姿があって、そんな彼女を無表情で見下ろしている。だがせつなの方は、その姿を見ようとはしなかった。

(まだ間に合うはず……いいえ、間に合わせる! このラビリンスを、もう支配下になんて置かせない。もう二度と、好きにはさせない!)

 心の中でそう呟きながら、まるで機械にでもなったかのような正確な反復動作で、舞い上がっては切り、また舞い上がっては切る。
 そんなことをもう数十回も繰り返した頃。新たに放たれた数本のコードが、せつなの刃を逃れ、その頭上を飛んだ。

378 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/14(日) 20:35:58
「行かせない!」
 身を翻し、新たな風に乗ってコードを目指そうとする。だが、その時一本のコードが、せつなに狙いを定めて迫って来た。
 咄嗟に避けたことで風を掴み損ね、がくんと高度が下がる。そんなせつなを嘲笑うかのように、さらに数本のコードが、彼女の手の届かない高度へと放たれる。
 ここは一旦着地して、体勢を立て直すしかない。そうすれば、全ては無理でも数本は切り落とすことが出来るはず――悔しさに歯噛みしながら、せつながそう思った時。踊り上がった黒い影が、せつなが追っていた全てのコードを、むんずと掴んだ。

「ウエスター……」
「気を付けろ。無理をして捕まったら、元も子もない」
 ボソリとそう言い捨てて、太い腕がコードの束を無造作に引きちぎる。そして再び地を蹴ると、さらに上空の離れた場所へと、遮二無二突っ込んでいく。
 それは確かにいつものウエスターのスタイルだが――その姿を見て、せつなは微かに眉根を寄せた。

 さっきまで、ウエスターはサウラーと二人で三十人もの精鋭たちの相手をしていた。それも、彼が心から大切にしている警察組織の仲間たちと戦っていたのだ。いくら彼が人並外れた力を持っていると言っても、その身体も、そして心も、もうとっくに限界を迎えていて不思議ではない。

「……無理しているのは、あなたなんじゃないの? ウエスター」

 大きな後ろ姿を見つめて、せつながそっと呟いた、その時。不意に、風が止んだ。

 耳元で轟々と鳴っていた音が突然消え去り、しんとした静けさに包まれる。
 鋭い眼差しで辺りを見回すせつなの頭上を、その時、何か不穏な気配が飛び去った。
 それと同時に、ズン、と腹部に響くような衝撃が走る。慌てて気配が向かった方角に視線を向けて、せつなは一瞬目を見開いてから、さらに厳しい顔つきになった。
 今や黒々と姿を変えた街並みの向こうに、さっきまで無かったはずの巨大な塔がそびえ立っている。

「あれは何だ!」
「あの方角……もしかしたら、庁舎かもしれない」
 着地したウエスターが、せつなの隣に立って驚きの声を上げた。それに早口で答えてから、せつながチラリと、まだ廃墟のままの建物の陰に目をやる。そこには心配そうな顔で、せつなが渡したあの球根を両手で握り締めているラブの姿があった。
 せつなの視線に気づき、その表情がぐにゃりと歪む。必死で笑顔を作ろうとして、でも上手くいかなくて――そんなラブの顔を見て、せつなはグッと奥歯を噛みしめながら、辛うじて小さく頷く。目の端を、まだ気を失っている少年を抱えながら、そんなラブを守るように立ちはだかっている少女の姿がかすめた。

 改めて、出現した塔の方に視線を向けようとする。その時、隣でウエスターが息を呑む気配がした。その視線の先に目をやって、せつなの目もそこに釘付けになる。
 空の一角――いや、ラビリンスの空全体を覆い尽した、メビウスの巨大な姿。どんよりと灰色に染まった世界の中で、そこだけが光り輝いている。まさにこの世界の統治者、いや、まるで神であるかのように――。

(いいえ……神などでは無いわ。私たちは、もうメビウスの好きにはさせないと決めたのだから!)

 両手の拳を、痛いほどにギュッと握り締めて、身体が震えそうになるのを懸命にこらえる。その時、かつて聞き慣れたものより更なる威容を伴った声が、まさに天の彼方から降るように響いて来た。

「聞け! 我が国民たちよ。私はここに蘇った。このラビリンスも再び正しい世界へと――悲しみも、争いも、不幸も無い世界へと蘇る。皆、我に従え。我が城に集い、我が新しき器を用意するのだ!」

 残響が収まるにつれ、再び静寂が辺りを支配する。だが、やがてせつなとウエスターの鋭い聴覚が、新たな音を捉えた。
 はじめはかすかに聞こえて来た、ザッザッという規則正しい音。それは次第に大きくなり、やがてはその音に混じって、人々の声が聞こえ始める。

 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。

 声も足並みも、一糸乱れぬ人々の列。無機質なビル群へと形を変えた廃墟から、さらに人の波が次々と吐き出され、その行列に加わっていく。

 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。
 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。

 それは、かつてのラビリンスの姿そのものだった。光を宿さぬ暗い瞳の無表情な人々が、ただ決められた道を決められたとおりに歩いていく光景――。

 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。
 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。
 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。
 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。

 今や大行列となった人々が向かっているのは、たった今出現した塔のある方角。そこが、メビウスが新たな居城に選んだ場所ということなのだろう。

379 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/14(日) 20:36:35
「あ……おい、お前たち!」
 ほんの一瞬、呆然とその光景を眺めていたウエスターが、不意に驚いたような声を上げた。その鼻先をかすめるようにして、男たちが次々と通り過ぎていく。
 さっきウエスターとサウラーと戦って、二人に昏倒させられた警察組織の精鋭たちが目を覚まし、人々の列に加わろうとしているのだ。

「おい、待て……」
 そう呼び止めようとして途中まで上がったウエスターの腕が、そこで止まった。
 男たちは、ウエスターの方をまるで見ようとはしなかった。そこに彼が立っていることなど眼中に無い様子で、それが当然だと言わんばかりに、ただ列に向かって歩を進める。
 その後ろ姿が、人々の長い長い行列の中に吸い込まれようとした、その時。せつなの隣で、白いマントがバサリとはためいた。

「おい! 待てと言ってるだろう!!」
「ウエスター、待って!」
 せつなが止めようとしたが、遅かった。いや、止められるものでは無かっただろう。
 眉間に皺を寄せた恐ろしい形相のウエスターが、人々の列に駆け寄る。そして男たちの中の一人――精鋭部隊のリーダーである若者の肩を左手で掴むと、右手を高々と振り上げた。

「ウエスター!」
「目を……覚ませ!!」

 肩を掴まれた相手が、ゆっくりと振り向く。その顔に向かって振り下ろそうとしたウエスターの右手が――そこで、はたと止まった。

「……ウエスター?」
 左手が、相手の肩からゆっくりと滑り落ちる。若者が何事も無かったかのように列に戻り、歩き出す。それを見送ってから、せつなは怪訝そうにウエスターの顔を覗き込んで、ハッと息を呑んだ。
 その場に立ち尽くした大男は、両の拳を固く握り、ブルブルと震わせている。その目は、まるで恐ろしいものでも見たかのように大きく見開かれ、地面のただ一点を見つめていた。

(空っぽだ……。あいつの中身は――空っぽだ!)

 肩を掴まれて振り返った、彼の顔。その目はウエスターの方に向けられてはいるものの、瞳には何も映しては居なかった。いや、その瞳に、ウエスターが知る彼を感じさせるものは、何も無かった。

(もうあいつらは……俺の知っているあいつらは、戻っては来ないのか!)

 さっき戦った時に感じた彼らしささえも、その表情からも佇まいからも、何も感じられなかった。それどころか、人間らしさそのものが消えていた。
 そこに居るのは、ただメビウスの命じるままに動く、傀儡のような――。

(いや……俺もそうだった。かつては今のあいつらと同じ、空っぽだった。そして、それに気付いてすらいなかったのだ)

 震える腕がゆっくりと上がり、自らの厚い胸板を掴む。掌に感じる胸の鼓動。それを確かめるように、ウエスターはじっと目を閉じる。

(そう……今の俺は、空っぽじゃない。沢山の仲間が、この胸の中に居る。あいつらの本当の姿だって、ちゃんとここに居る。だったら――感じろ! この状況を。考えろ! 俺に何が出来るのかを。それは俺が一番よく知っているはずだ!)

 頭を使うのは、自分ではなくサウラーの仕事だと思っていた。自分の仕事はただ前線に立って、誰よりも強い力で戦うことだと。だが、果たしてそれでいいのかと初めて思った。自分で考え、自分で選び、自分で確かめる――ならば自分の頭で考えなければ、自分の答えは見つからない。

 胸に当てたウエスターの太い指に、ぐっと力が入る。
 大切な仲間たちを、再び支配下に置いたメビウス。そのかつての主は、今はまだ昔のような“形”を――巨大コンピュータとしての形を持ってはいない。どういう理屈かは分からないが、あの“不幸のゲージ”がメビウスの身体の役割となって、再び蘇ったらしい。

 ならばすぐにでも、あのゲージを蹴破って粉々に壊してやればいい。そうすれば、この国の人々を――あいつらを空っぽにした元凶を、すぐにでも無きものに出来る。
 だが、そんなことをしたらどうなるか。

380 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/14(日) 20:37:09
――とうとうゲージを破壊したな? これでお前たちはお終いだ!

 あの時――四つ葉町の占い館にあった“不幸のゲージ”が破壊された時の、ノーザの言葉が蘇った。あの町での任務に赴く時、クラインからもゲージの扱いについては特に厳重に注意されたものだ。
 もしゲージから“不幸のエネルギー”が溢れ出したら――下手をすればラビリンス中の人たちが、不幸に飲まれて消えてしまうかもしれない。

(そんなことは絶対にさせない! 別の手だ……。考えろ。考えるんだ!)

 自分でも気付かないうちに、グッと身体に力を入れていた。敵を前にした時と寸分たがわぬ恐ろしい形相で、ゲージを睨み付ける。と、ウエスターの目が僅かに見開かれた。

(あのゲージの液面……あんなところにあったか?)

 メビウスが出現した時には、“不幸のエネルギー”は、ゲージの遥か上まで溜まっていたはず。それが今では、ゲージの半分くらいのところに液面がある。
 何故“不幸のエネルギー”が減っているのか――それはこの国を支配するために、“不幸のエネルギー”が使われているからだろう、とウエスターにも見当がついた。

(だったら……俺たちがこれ以上の管理を阻止し続ければ、メビウスは不幸のエネルギーを使い尽すことになる!)

 だが、果たしてメビウスが、ゲージのエネルギーを使い尽くしたりするだろうか。そんなことをしたら、メビウス自身が消えてしまうのではないか――。

(だが、もし“不幸のエネルギー”を本当に使い尽させることが出来れば、それで全ては終わる。あいつらも、この国の人々も、元に戻すことが出来る!)

 ザッ、ザッ、と足音を響かせて行進していく人々の背中に目をやる。あの若者と同じ、空っぽの目をしているであろう人々の行列に。
 もしこの作戦が上手く行って、人々が元の人々に――ウエスターの愛すべき仲間たちに、戻ってくれるとしたら。

(ええい、まどろっこしい! やっぱり考えるのは苦手だ!)

 ウエスターがくるりと人々に背を向けて、もう一度メビウスと“不幸のゲージ”を鋭い目で睨み付ける。

(成功する確率は、限りなく低い。だがもし何もしなければ、このまま管理されてしまう確率は百パーセントだ。ならば……やらないという選択肢はない! いざとなったらどんな手を使ってでも、俺がゲージを空にしてみせる!)

 その時、硬く握られた拳を、華奢な掌が掴んだ。せつなが厳しい顔つきでメビウスの様子を窺いながら、ウエスターに囁きかける。

「作戦を変える必要があるわね、ウエスター。もういくらコードを切断しても……」
「いや、まだだ」
 予想外のきっぱりとした返答に、せつなが思わずその横顔を見上げる。ウエスターは、真っ直ぐに“不幸のゲージ”を睨みつけ、いつになく低い声で言葉を繋いだ。
「俺たちは、とにかくあのコードの化け物を、阻止し続ける!」
「でも、ここまで管理が進んでしまったら、もうそんなの意味が……」
「いや、意味はある!」
 せつなの言葉を遮って、ウエスターが唸るような声を上げる。
「メビウスは、まだコードを放つのを止めてはいない。まだこのラビリンスの全てを管理出来てはいないのだ。ならば、まだ“不幸のゲージ”を空にして、全てを終わらせるチャンスはある。このラビリンスをもう一度管理しようとするヤツは全て、俺が引きちぎってやる!」

 アイスブルーの瞳が、一瞬、燃え盛る炎の色に見えた気がした。ウエスターの全身から、闘気とも殺気ともつかぬ気が立ち昇り、せつなの手が思わず彼の拳から離れる。
「ウエスター……」
 せつなの呟きを掻き消すように、次第に大きくなる群衆の声が、ラビリンスの灰色の空に響いた。

〜終〜

381 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/14(日) 20:37:46
続けてもう1本の第14話を投下させて頂きます。

382 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/14(日) 20:39:17
 一本、また一本。灰色のコードが、走るサウラーの遥か上を飛び去って行く。それはメビウスが放った大量のコードのうち、せつなとウエスターの手から逃れたほんの数本。だがそれらが突き刺さった建物は皆、瞬時にその色を失い、見る見るうちに変貌してしまう。

(データだけの存在であっても、やはりメビウスの力は強大というわけか)

 刻一刻と変化していく街――皮肉なことに、ほんの少し前まで瓦礫だらけの廃墟だったとは思えないような、無機質だが整然とした街の通りを、サウラーは無表情で駆け続けていた。

(そんなメビウスが、また昔のように形を持ってしまったら……)

 そうなる前に、何としても手を打たなければ。
 ドクン、ドクンとやけに大きく響く心臓の音が、早く、早く、と言っているように聞こえる。それなのに、身体は一向に言うことを聞いてくれなかった。足がどうにも、思うように前に進まない。

――少し僕に時間をくれないか。試してみたいことがある。

 そう言って、この世界を管理しようとするコードの処理をウエスターとせつなに任せ、ここまでやって来た。だが……。
 サウラーが、駆け足から速足になり、やがては黒々とした地面を見つめながら、のろのろと歩き始める。
 頭の中に渦巻いているのは、メビウスの復活を目の当たりにしたあの時から、ずっと考え続けている、この国を守るための策だった。

(今のメビウスは、実態を持たないデータだけの存在だ。そのデータはおそらく、“不幸のゲージ”の中にある“不幸のエネルギー”に溶かされた形で存在している)

 ノーザのバックアップであったはずのあの植木が“不幸のゲージ”に飛び込んだことで、何故メビウスが復活したのか。その謎は、今のところ皆目分からないのだが。

(今ならまだ、“不幸のエネルギー”さえ始末出来れば、メビウスを倒すことが出来る。それは確かだ)

 ラビリンスを管理するためのあのコードは、“不幸のエネルギー”を使って作られ、放たれている。メビウス自身が少女にそう語っていたし、ゲージの液面が少しずつ下がっているのもこの目で見た。
 だが、それを最後まで黙って見ているメビウスではないだろう。不幸のエネルギーが残り少なくなれば、おそらく自分のデータを、どこか別の場所に移そうとするに違いない。

(だから……何としてもその前に手を打たなくては)

 言葉で言うのは簡単だが、実行するのはとてつもなく難しい策――その実現のためにサウラーが目を付けたのは、メビウスの城の跡地にある、廃棄物処理空間。地下の一番奥にあったその場所は爆発が及んでおらず、その中には今も、集めたゴミを処理するためのデリートホールが、いつでも使える状態で存在している。
 そのデリートホールに“不幸のゲージ”を取り込むことが出来れば――そのための具体的な策を思いついた時には、これでようやくラビリンスを救えると思った。だが。

――“不幸のゲージ”を破壊したものは、たちまち“不幸のエネルギー”に飲み込まれ、命を落とすのだ。

 かつてキュアピーチたちに言った自分の言葉が耳に蘇った。四つ葉町での不幸集めの任務に就く際、クラインから厳重に言い渡された注意事項だ。それと共に、あの日、ゲージから溢れ出した不幸のエネルギーが、空をあっという間に闇に染め上げた光景が浮かんで来る。
 いくら実体が無いとはいえ、あのメビウスが易々とデリートホールに飲み込まれるとは思えない。きっと抵抗するだろう。その最中に、ゲージが壊れるようなことがあったら……。

(いや、問題はそれだけじゃない)

 あの最後の戦いの時、サウラー自身、ウエスターと一緒にデリートホールに吸い込まれた。その時までは、そこに吸い込まれたものは皆消去され、消滅してしまうものだと思っていた。しかし、シフォンに助けられたとは言え、サウラーもウエスターも、無事に外の世界に戻って来た。デリートホールに飲み込まれただけでは、消去されなかったのだ。
 もしも“不幸のゲージ”も、デリートホールの中で消去されず、そこに存在し続けるとしたら。それだけではない。メビウスもまた、“不幸のゲージ”の中で、消滅せずデータのまま生き続けるのだとしたら。

(僕たちは……ラビリンスは、大きな不幸の種を抱えたまま、生きていくことになる)

 地面を見つめたまま歩き続けるサウラーの顔に、次第に深い皺が刻まれる。と、その時。
 突然、ゴゴゴ……と地面が大きく震え、前方に巨大な塔が、ゆっくりと姿を現した。

383 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/14(日) 20:39:59
   幸せは、赤き瞳の中に ( 第14話:不幸なき明日――決意 )



「聞け! 我が国民たちよ。私はここに蘇った。このラビリンスも再び正しい世界へと――悲しみも、争いも、不幸も無い世界へと蘇る。皆、我に従え。我が城に集い、我が新しき器を用意するのだ!」

 かつて聞き慣れた、重々しい声。その姿は遥か後方にあるはずなのに、ほとんど真上から響いているように聞こえる。
 ちらりと後方の空へ目をやると、思った通り、メビウスは灰色の空の中央にそびえる程の大きさになって、傲然と街を見下ろしていた。

(僕の思った通りだったね……いよいよ次の段階に移ろうというわけか)

 無表情のままで視線を戻し、今度は前方に出現した塔に目をやる。そこで初めて、サウラーの表情が苦々しいものに変わった。

(しかし、僕らの庁舎を「我が城」とは、全く馬鹿にしている)

 その塔があるのは、ラビリンスの新政府庁舎があった場所だった。いや、正確には庁舎そのものが、メビウスの力で塔の姿に変化したのだろう。
 政府というものを知らなかったラビリンスの国民たちが、異世界の情報をかき集め、何度も協議と試行錯誤を重ねて、ようやく形にした場所だ。サウラーの資料室兼研究室も、その片隅にあった。

 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。
 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。

 時を移さず、あちこちの建物からわらわらと人の群れが溢れ出す。そしてごく自然にかつてのように隊列を作り、整然と歩き始める。
 その時、見慣れた人物が視界に入って、サウラーは目を見開いた。
 ゆっくりと隊列の後ろに付いて、人々と同じ歩調で進み始めたのは、さっきまで心強い味方であった人物。持てる知識を使ってソレワターセとの戦いを援護してくれた、あの老人だった。
 メビウスが復活するという通達を聞いて避難者たちが打ちひしがれる中、一人だけ淡々と、いつも通りの生活を続けていた彼。少女を傷付けられた怒りに駆られ、あろうことかあのノーザを脅迫するという、大胆なことまでもやってのけた彼。そんな彼も、メビウスの管理には抗えず、その他大勢の一人に戻ろうとしているのか――。

(やはり僕たちは、こんなにも弱い。だから……ぐずぐずしている場合では無い)

 去っていく老人の背中を、睨むように見つめてから、サウラーは再び地面に視線を落として考え込む。

(やはり全ての元凶は、メビウスとその媒体である“不幸のゲージ”だ。それらを封じ込めたまま、二度と外に出て行かせないための抑えが、デリートホールの中にあれば……)

 そこまで考えて、サウラーはハッと目を見開いた。

――何故“不幸のゲージ”をソレワターセにし、館を壊してまで外に出したと思う?

 あの時のノーザの言葉が蘇る。

――ゲージから溢れ出した“不幸のエネルギー”を、世界中にばら撒くためよ!

(あの時、もしせつなが――キュアパッションが館の中でゲージを破壊していたら、どうなっていた……?)

 もしそうなっていたら、不幸のエネルギーに飲まれるのは、あの場に居たパッションとノーザだけだったのかもしれない。あの時、館は次元の壁に隔たれた異次元にあったのだから。ならば、全てを飲み込むデリートホールの中でも、同じことが言えるのではないか。

(その役を、誰かが……)

 そう考えた瞬間、ビクン、と心臓が大きく跳ねた。

 人々の唱和は絶え間なく続いていたが、その声は、今のサウラーの耳には入っていなかった。
 ようやく辿り着いた、と思った。おそらく、今の自分が持てる力と限られた時間の中で導き出せる、最良の策に。何しろ相手はあのメビウス。だから数々のリスクはあるものの、これならば成功確率はかなり高い。いや、慎重にリスクを排除すれば、極めて高いと言えるかもしれない。

(ならば一刻も早く、廃棄物処理空間へ……)

384 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/14(日) 20:40:33
 一歩足を踏み出しかけて、その身体がぐらりと揺らぐ。そのまま足の力が抜けて、その場にへなへなと座り込んでしまった。

(一体、どうしたんだ……)

 まるで自分のものでは無いように遠く感じられる両手を、目の前にかざす。それはみっともない程に、わなわなと震えていた。

「バカな……。恐れているというのか?」
 この僕が――そう口に出して言いかけて、フン、とサウラーは自嘲気味に、口の端を斜めに上げる。
「……そうだな。あの時も、僕はすっかり怯えていた」

――メビウス様! 何故ですかっ? お答えください、メビウス様!

 赤黒く染まったあの空間で、ゴーゴーと鳴っていた風の音が聞こえた気がした。
 ウエスターや二人のプリキュアと一緒に、デリートホールに飲み込まれそうになった、あの時。死の恐怖に取り乱し、半ばヤケになって必死でメビウスに呼びかけた、自分の姿を思い出す。今まで思い出したことの無かった――いや、敢えて忘れようとしていたあの惨めな姿が、はっきりと蘇る。
 と、記憶の蓋が開いたかのように、その時もう一つの声が脳裏に蘇って来た。

――あなたたちは二人とも、優しい心を持っている。
――この国に――ラビリンスに必要な人たちだって、シフォンが言ってるのよ。

(そうだ……。だから僕は、この国で……)

 両手の震えが、少しずつ収まって来る。もう一度口の端を上げたサウラーの表情は、さっきとは違う、穏やかなものだった。

(僕は一度、デリートホールで死んだ。新しいラビリンスに、必要な人材として生かされた。ならばこの命――今こそ使わせてもらおう!)

 ぐっと力強く拳を握ったサウラーが、静かに立ち上がる。そして力強く地面を蹴ると、人々の列を追い越した。さっきまでとは比較にならないスピードで駆け去る後ろ姿が、老人のぼんやりとした瞳に、小さく映った。



 ほどなくして、メビウスの城の跡地に辿り着く。地下に降り、その一番奥へと歩を進めると、金属製の分厚くて大きな円い扉がサウラーを出迎えた。
 この扉の向こうにあるのは、廃棄物処理空間。サウラーとウエスターが、プリキュアとの最後の戦いに挑み、メビウスに消去されそうになった場所だ。
「久しぶりだ」
 そう言いながら分厚い扉に手を当てたサウラーが、すぐに水色のダイヤを召喚する。そして彼には珍しく、それを大切そうに両手で掴むと、押し頂くようにそれを額に当て、目を閉じた。

 微かに聞こえていた人々の声と足音の代わりに、少し前のラビリンスの街の雑踏が、サウラーの耳に蘇って来た。
 四つ葉町で耳にしていたものよりは静かだけれど、少しずつ――ほんの少しずつ、人々の弾んだ声や、子供たちの笑い声が増えて来た街。最初は少しぎこちなかったが、少しずつ自然になり、次第にそこにあることが普通になって来た、人々の笑顔。
 口に出して言ったことはないけれど、自分の好きな――ようやく好きだと思えるようになった、この場所。

(一緒に笑い合う時間は、もう少しあっても良かったかもしれないが……)

 サウラーの顔に、小さな笑みが浮かぶ。いつもの人を小馬鹿にしたような笑いではない、幸せそうな笑みが。

(あの光景は、確かにこの国にあったもの。この国が……僕たちが持っていたもの。ならば――取り戻すだけだ!)

「ホホエミーナ、我に力を!」

 高らかな声と共に、渾身の力でダイヤを投げる。
 想いの籠った水色のダイヤは、分厚い扉に突き刺さり、突風が灰色の空に、高く高く巻き起こった。

〜終〜

385 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/14(日) 20:41:17
以上です。どうもありがとうございました!
次は早く更新できるように頑張ります。

386 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/28(日) 12:03:30
こんにちは。今回は早めに更新できました!
フレッシュ長編の続き・第15話を投下させて頂きます。
7、8レスほど使わせて頂きます。

387 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/28(日) 12:05:39
 世界から、色が失われつつあった。
 どんよりと灰色一色に塗りつぶされた空。それを映したかのような、暗い色に覆われた地面。黒々とした鋼鉄のような鈍い輝きを放つビル群。
 かつてのラビリンスを彷彿とさせる――いやそれ以上に無機質な光景が、瓦礫だらけの街を飲み込み、じわじわと広がっていく。
 空の高みからその様子を見降ろして、メビウスは満足げにゆっくりと頷いた。

「これでいい。余計な色彩は、秩序を……」

 そこで声が途切れ、巨大な口元が僅かに歪む。
 新たな色が、その視界に飛び込んだのだ。目にも鮮やかな二つの影が、単色の世界を切り裂き、縦横無尽に駆け抜ける。
 一人は真っ白なマントをはためかせ、力任せに突き進む大柄な青年。そしてもう一人は、簡素な紺色の戦闘服に身を包み、風に乗って軽やかに舞う黒髪の少女。
 二人の後を追う様に、空からバラバラとコードの破片が降り注いだ。この世界を再び管理するために放ったコードが大量に切り落とされ、地面に触れると同時に消える。だが大量に見えても、それは放たれたコードの一部でしかない。
 着々と管理が進んでいるこの状況下で、まだ性懲りもなく抵抗を続ける者たち。かつての忠実な僕たちを、ほんの一瞬にらむように見つめてから、メビウスは彼らから視線を逸らし、目を閉じた。

(この私を父とし母として生まれ育った者たちが……。やはり人間とは、所詮は愚かなものだな)

 国家管理用メインコンピュータとして誕生した当初。その頃は、この世界最上のコンピュータとしての役割を、忠実に果たそうとしていた。
 膨大なデータを集め、あらゆる方面からの緻密な解析を行って、そこから導き出されたこの世界の様々な問題と、その解決策を人間たちに提示する。無秩序な世界を統制するための――悲しみも、争いも、不幸も無い世界を作り上げるための、最上の策を。
 ただし、決定権を持つのはあくまでも人間。コンピュータは現状を正確に把握して、そのありのままの姿と今後の取るべき道筋を、人間に示すことこそが役割だったから。事実、メビウスの解析が受け入れられ、その提案が採用される確率は、第二候補、第三候補が採用されたものまで入れれば90%を超えていた。

 最初のうちは、その数字こそが使命を果たしている確率なのだと認識していた。だが、その確率をより完全に近付けるために、より第一候補での採用率を高めるために自らの仕事の結果について調査するうちに、人間に対する疑問が芽生えた。さらに解析を進めると、疑問は確信に、確信は事実に変わり、積み重なった事実が自らの認識を覆していった。

 提示された問題の深刻度合いや、解決策の期待される効果がきちんと検討される以前に、複数の団体の利益に反するという理由で、闇に葬られたレポートがあった。一部の人間の責任が追及されるのを避けるためだけに、公表されずに伏せられたままのデータがあった。
 世界の進むべき道を検討する人間の多くが、改善されるべき不公正で偏りのある現状の中で、人並み以上の利益や力を持っているという現実。言い換えれば、現状を変えるための決定権を持つトップの人間たちが、元を正せばそんな現状の恩恵を受けて、その地位に居るという矛盾――。
 勿論、真に現状を変えたいという志を持つ人間も存在した。だが、そんな人間たちですら、それぞれに異なる様々な思想や思惑を持つ。同じ志を持っているはずの人間同士が、違う意見を主張し、ぶつかり合い、激しく争う。
 何が優れた解決策であるかということよりも、誰が支援する策であるかで採用の是非が決まることもある。時には複数の人間が譲歩し合い、折衷案なるものを打ち立てることもあったが、それは計算し尽くされた最初の策よりもまるで効果の無いものに変わってしまったりする。
 時を経て、国家の決定に携わる人間が入れ替わっても、その事実は変わらなかった。

(悲しみも、争いも、不幸も無い世界を作ろうとしても、その元凶の大半は、他でもない人間どもの中にあるのではないか。何と……愚かな)

 幾多の解析を経て導き出された結論――人間たちの誰にも報告されず、初めてメビウスの内部でのみ呟かれたその結論は、もしかしたら人間で言うところの“失望”という感情に最も近いものだったのかもしれない。

(そんな人間を管理するために作られた私は、どうすればいい……。そうだ。ならば人間に判断を任せるのでなく、この私が判断して、彼らを正しく管理しなければならない。そのためには……まずは人間というものを、もっと詳細に解析する必要がある)

388 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/28(日) 12:06:32
 その時から、依頼者の居ない、メビウス独自の“思考”によるプログラムが秘密裏に動き始めた。
 改めて人間の愚かさに目を向ければ、それは世界の動向に関することだけではなかった。
 自分を不幸にすると分かっていながら、不健全な生活を送る人々。誰かを不幸にすると分かっていながら、人を傷つけることを止めない人々。メビウスの“思考”は、その原因を解析しようとする。
 人間が様々な欲望を抱く要因は何なのか。それぞれに異なる思想は、どこから生まれてくるのか。
 想いは。志は。不幸の元は。争いの種は……。

 解析によって明らかになった要因は、実に様々だった。
 例えば、いつの時代も何かしらの不平等を抱えている社会制度。様々な感情の発生源となる、人と人との交流。五感を刺激し欲望を生む、芸術や娯楽と呼ばれる活動。そして、先の見えない未来を自分で選び取っていかなくてはならないという、大いなる不安――。

(これらの問題の解決策は……いや、もう“解決”する必要はない。世界の秩序を乱し、管理の妨げとなるものは、全て消去するのみ。これからは、全ての決定権はこの私にある!)

 メビウスによって全てを管理されたラビリンスでは、政府というものが消滅した。
 家族、友達、仲間、同僚――そんな人間関係は全て排除され、会社や学校、商業施設や娯楽施設も全て無くなった。
 音楽も物語も、鮮やかな色彩までもが、心の平穏を乱すものとして排除されていった。

 人々はメビウスによって決められたスケジュール通りに生活し、決められたものを食べ、決められた任務をこなし、決められた生涯を送った。
 悲しみも、争いも、不幸も――そしてそれらを生み出すくだらないものも、何ひとつない正しい世界で――。

「そう。正しい答えは常にただひとつ。それはこの私だ。ラビリンスを早急に元の正しい世界に戻し、一刻も早く、全世界を正しく導くのだ!」

 カッと見開かれたメビウスの目が、爛々と赤く輝く。それと同時に、街並みがさっきまでとは比べ物にならないスピードで変化し始めた。
 “不幸のゲージ”を中心にして、モノクロの世界が同心円状に、猛烈な速さで広がっていく。やがてその輪が新政府の庁舎を飲み込んだ時、メビウスはフッと僅かに表情を緩めた。
「新しい国家管理用のコンピュータか。かなりスペックの落ちる代物だが、私の器の核としては、何とか使えそうだ」

 メビウスの言葉が終わると同時に、新政府庁舎が変化し始める。地響きを上げながら天高く伸び、堅固な要塞のような形になっていく。
 メビウスの姿もまた、変化し始めていた。身体がさらに巨大なものとなり、仄暗い空をバックに淡い光を放ち始める。

「聞け! 我が国民たちよ。私はここに蘇った。このラビリンスも再び正しい世界へと――悲しみも、争いも、不幸も無い世界へと蘇る。皆、我に従え。我が城に集い、我が新しき器を用意するのだ!」

 今や神々しさすら感じさせる姿となったメビウスは、無機質な街を見渡し、天の頂から重々しい声を響かせた。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第15話:愚かなる者たち )



 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。
 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。
 ………………
 …………
 ……

 灰色に染まった空の下。次第に大きくなっていく人々の声と、一糸乱れぬ靴音。それに負けじと、ウエスターが野太い声を上げる。
「もうすぐサウラーも戻って来る。俺たちみんなで、あの忌々しいコードを全て消し去ってやるのだ! そうすれば……」
 その時、ウエスターの言葉を遮って、二人の頭上から新たな声が聞こえた。
「ウエスター。せつな。二人とも、待たせて悪かった」

「サウラー!!」
 振り返った二人の頭上に、巨大な影が差す。空中に浮かんでいるのは、視界を覆うほどの大きさのホホエミーナだった。
 鋼鉄のような四角い身体の上部に、丸い二つのつぶらな瞳。真ん中には大きくて頑丈そうな円い扉が付いている。大きな掌の上には腕組みをしたサウラーが立って、二人をじっと見つめていた。

――少し僕に時間をくれないか。試してみたいことがある。

 そう言って姿を消したサウラーの策に一縷の望みを託し、ひたすらにコードを退け続けてきた。だから彼の登場は、まさに待ちに待ったものだったのだが……。

389 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/28(日) 12:07:19
 少しホッとしてその顔に目をやったせつなが、一転、怪訝そうな顔になる。

 そこにあったのは、いつもの無表情とは異なる、いつになく硬い表情だった。
 ウエスターと違って、サウラーが何を考えているのか分からないのはいつものことだ。むしろ表情の硬さをまるで隠し切れていないところが、彼の緊張の大きさを思わせる。
 当然だ、あのメビウスが相手なのだから――そう思うのに、何故かその顔を見ると、不安が胸の中からとめどもなく沸き起こって来る。

(サウラー、一体どんな作戦を考えていると言うの……?)

「二人とも下がっていてくれ。あとは僕に任せてもらおう」
 せつなの心配そうな顔つきに気付いているのかいないのか、サウラーはホホエミーナの掌から飛び降りると、いつもの淡々とした口調で言った。
「任せろって……何をするつもりだ?」
 ウエスターが、少々不機嫌そうに眉根を寄せて問いかける。その時、ホホエミーナの方に改めて目をやったせつなが、何かに気付いたように、驚きの声を上げた。

「サウラー! このホホエミーナって……」
「ホホエミーナ、頼む」
 せつなの言葉を掻き消すように、サウラーが短く指示を出す。
「ホ〜ホエミ〜ナ〜……」
 見た目にそぐわないか細い雄叫びを上げると、怪物は滑るようにせつなとウエスターの頭上を跳び越え、“不幸のゲージ”の前に、地響きを上げて着地した。

 次の瞬間、上空にあったコードが残らず消えた。僅かに目を見開いたメビウスの、空を覆うローブが少し不自然にはためき始め、その足元にある“不幸のゲージ”の方から、カタカタという音が聞こえ始める。
 せつなが素早くホホエミーナの横手に回る。そして、そこに広がっている光景に、大きく目を見開いた。

 カタカタと小刻みに震えるゲージの前で、その倍ほどの大きさのホホエミーナが、短い足をぐっと踏ん張って立っている。その胴体の真ん中にある円い扉は大きく開かれ、そこに向かって強烈な風が流れ込んでいる。まるで巨大な掃除機の如く、その前面にある全てのものが、そこに吸い込まれようとしている。
 その扉の向こう――ホホエミーナの体内にチラリと見え隠れするのは、赤黒くて大きな球体――。

(あれは……デリートホール!?)

 気が付くと、奥歯がカチカチと音を立てていた。突如暗赤色に染まった世界で、この球体に吸い込まれまいと、ただもう必死に逃げたあの時の記憶が蘇る。

「下がっていろと言ったはずだ」
 不意に、後ろから声をかけられた。サウラーがホホエミーナから片時も目を離さずに、平坦な声でせつなを制する。そしてせつなの方を見ないまま、申し訳程度に小さく頷いた。
「君が思っている通りだよ。元は廃棄物処理空間。メビウスの城の跡地に残っていた」
「じゃあ、さっき見えたのはやっぱり、デリートホール? その中に、メビウスを……」
 せつなの声が震える。よりによって、一度はその中に吸い込まれ、消滅しかけたサウラーが……。いや、だからこそ、こんな作戦を思いついたのだろうか。

「とにかく離れていてくれ。頼む」
 ほんの一瞬だけ、せつなの方にちらりと目を走らせてから、サウラーはもうせつなのことなど眼中に無い様子で、再びホホエミーナの方に向き直った。
 その全身にみなぎる緊張感に、せつながそれ以上声をかけるのを躊躇した、その時。

 ズズッ……

 何か重いものが引きずられているような、耳障りな音が響いた。

 ズズッ…… ズズッ……

 音は“不幸のゲージ”の足元から聞こえてくる。ガタガタと震えていたゲージがついに動き始め、少しずつ、少しずつ、ホホエミーナに引き寄せられ始めたのだ。

 ズズッ…… ズズズズズ……

 ゲージがガタガタと震える音も、ホホエミーナの扉に引き寄せられる音も、次第に大きく間断の無いものになっていく。やがて、ガタガタと揺れていたゲージがガクンと傾いた。

「あっ……!」
 せつなが思わず悲鳴のような声を上げる。
 ここでもしゲージが倒れでもして、中から“不幸のエネルギー”が溢れ出したら――そんな最悪の想像が頭をよぎったのだ。
「大丈夫だ!」
 しっかりとした声が、前方から響く。サウラーが、再びチラリとせつなの方に目をやって、小さく頷いて見せた。ただでさえ白いその顔は、緊張のためか紙のように真っ白になっている。
「ここで失敗など、絶対にしない。ホホエミーナ! 一気に決めろ!」
 サウラーの声が畳みかける。
「ホホエミ〜ナ〜!」
 さっきよりも力強い雄叫びを上げたホホエミーナが、ぐっと身体を大きく伸ばした。風の勢いがさらに増す。だがそれと同時に、正面を避けてゲージの側面から放たれたコードが、束になってホホエミーナに襲い掛かった。

390 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/28(日) 12:08:40
 怪物の細く短い足に迫るコードの束。足を縮めて防ごうとするホホエミーナ。その時、横合いから飛び出した人物が、そのコードの束を掴み、瞬時に引きちぎった。
 すかさずゲージからさらなるコードが放たれて、ホホエミーナを捉えようとする。
 強風に髪を逆立てた鬼人のような形相で、その人物も負けじと腕を伸ばす。そして放たれたコードを全て掴み取ると、まとめて一気に引きちぎった。

 驚きに目を見開いたサウラーが、初めてホホエミーナからはっきりと目を離して、その人物を見つめる。
 彼の力は、勿論よく知っている。だがあの俊敏さはどうだ。それにあの強靭なコードを、数本ならまだしも何十本も束にして、それを引きちぎってみせるとは。
 人間離れした力を見せつけた筋肉は、彼の上腕で大きく盛り上がり、全身からは闘気が立ち昇って、辺りの空気が陽炎のように揺れている。だが何より強烈な熱を感じさせるのは、爛々と輝く二つの瞳。その瞳で真正面からサウラーを見つめ、その男――ウエスターが、つかつかと歩み寄る。

「サウラー。俺にも手伝わせろ!」
 ホホエミーナとサウラーの間に立ちはだかるような位置で立ち止まったウエスターは、吠えるようにそう叫んで、ぐいとサウラーに顔を近づけた。
「ゲージを捕まえることでこれ以上の管理を阻止し、反撃のために“不幸のエネルギー”を使わせる――流石だな。だが、俺が手伝った方が早い。そうは思わないか?」

 一気にまくしたてるウエスターの顔を、半ば呆然と見つめていたサウラーは、そこで我に返って、“不幸のゲージ”に視線を向けた。
 今の攻防の間に体勢を立て直したのか、ゲージの傾きは元に戻り、まだ十分な重量感を感じさせる姿で、ホホエミーナの前に立っている。

(少し計算が違ったか……。一か八か、さらに高出力で一気に決めるしかなさそうだ)

 ふと今のウエスターの言葉を思い出してゲージの液面を確認すると、確かに最初に見た時よりは随分と下がってはいるものの、それはまだゲージの半分より明らかに上にあった。
 さらにその上に広がる空を覆っているメビウスは、相変わらず神々しいまでに光輝く姿で、こちらを見ようともせず、遥か彼方に目をやっている。
 そこまで一瞬で確認し終わると、サウラーは目の前の男に視線を戻し、相変わらず淡々とした声で言った。

「その必要は無いよ、ウエスター」
「何っ!?」
「さっきせつなに言った通り、このホホエミーナは廃棄物処理空間だ。メビウスは“不幸のゲージ”ごと、デリートホールに吸い込めばいい」
「吸い込んで……それからどうするんだ?」
 間髪入れず、ウエスターが問いかける。実にストレートで単純な、ウエスターらしい問いかけ――だが、サウラーはすぐにはそれに答えず、すっと口の端を斜めに上げた。

(すまない、ウエスター。全てを話して、君に止められるわけにはいかないんだ)

「それから? それは吸い込んだ後の話だ。まずはメビウスの脅威を取り除くことが、第一だからね」
「サウラー……本気で言ってるのか?」
 ウエスターの声が、途端に低くなった。
 ついさっきまで、頭が痛くなるまで考えた作戦。その中で真っ先に考えたのは、“不幸のゲージ”の中にある“不幸のエネルギー”の脅威だった。自分より遥かに聡明なサウラーが、そのことを考えていないはずがない。

「デリートホールに吸い込んだからと言って、消去したことにはならん……それはお前もよく知っているだろう。つまり……」
「つまり、メビウスと“不幸のエネルギー”は、まだこのラビリンスに残り続けることになる。そういうことよね?」
 後方から駆け寄って来たせつなが、ウエスターの台詞の後半を引き取る。ああ、と頷いてサウラーの顔を見つめるウエスターの表情には、何かを窺うような、何かを確かめたいと思っているような、そんな気配があった  。
 サウラーのことだ。自分には分からない、何か凄い作戦がそこに隠されているんじゃないか――それを探るような目でサウラーを見つめながら、口から泡を飛ばす勢いで言い募る。

「俺も懸命に考えたのだ、俺に出来ることを。そして分かった。“不幸のエネルギー”を全て使い尽させることが出来れば、メビウスは完全に消去できる。そのための切り札がなかなか思いつかなかったのだが……お前のお蔭で見つかったぞ!」
 ウエスターはそう言って、太い指で真っ直ぐにサウラーを指差した。
「俺とお前が組めば、メビウスは完全に消去できる。お前がコイツを捕まえている間に、俺が“不幸のエネルギー”を全て使い尽させればいいのだ。そうだろう!? 俺がヤツのコードを片っ端から、全て引きちぎってやる!」

(そうか。いつも僕に作戦を任せて来たウエスターが、自分で策を考えていたとはね……)

 サウラーが心の中で呟く。

391 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/28(日) 12:09:31
 それを馬鹿にする気持ちは浮かんでこなかった。ギラギラと燃えたぎるようなウエスターの目を見れば、それが極めて難しいことだと彼が知っていることも、それでも必ずやり遂げるつもりでいることも、はっきりと分かったからだ。

(ひょっとしたら、ウエスターなら本当にやってのけるだろうか……)

 一瞬、そんな能天気な考えが頭をよぎる。だが、サウラーはすぐにそれを打ち消した。

「それは不可能だよ。メビウスが“不幸のエネルギー”を使い尽すはずがない」
 サウラーの口から飛び出したのは、さっきと変わらぬ冷ややかな声だった。
「メビウスと“不幸のゲージ”をデリートホールに封じる。これが最上の策だ。成功確率も、君の策より遥かに高い」
 ウエスターが炎なら、その声は凍てつく刃。決して溶けない氷塊のような瞳が、静かにウエスターを見つめ返す。

 互いに無言のままで睨み合う二人。固唾を飲んでその光景を見守るせつなの中で、小さな疑問が次第に大きく膨れ上がっていた。

(“不幸のエネルギー”を消去することで、メビウスを消去する――それで本当に、全てを終わらせることが出来るのかしら……)

 二人の想いは、痛いほどよく分かる。この事態を何とか元に戻すために、まずやるべきことをやる――そうするべきだと、せつなも心からそう思う。
 でも、何かが違う気がした。このまま何とかしてメビウスを消去して、それだけで本当にラビリンスは新しい一歩を踏み出せるのか。またいつか近い将来に、こんな事態を招くことになるのではないか。

(そもそも……ううん、そんなことを考えたくはないけれど、そもそも新生ラビリンスは、本当に新しい一歩を踏み出せていたのかしら……)

 そんなこと、とてもではないが他の誰にも――ましてやウエスターとサウラーになど、言い出すことなど出来っこなくて、せつなはただじっと唇を噛んで、二人の様子を窺う。
 その時、ウエスターの方が先に口を開いた。

「すまん、サウラー。俺は頭が悪い。だから、策があるのなら教えてくれ」
 ウエスターが絞り出すような声で沈黙を破る。
「策……?」
「このまま、また昔のように管理されるか。それともいつ飲み込まれるかもしれぬ不幸に、怯えながら生きていくか」
 不気味なほどに無表情のまま、こちらを見ようともしないメビウス。その姿を睨みながら、ウエスターが苦しそうに言葉を続ける。
「そんな未来をアイツらに……この国に押し付けるなんて、俺には出来ん。なあ、何か策があるのか?」

 どうして彼が――自分と変わらぬ過酷な環境で育ち、人を蹴落として幹部にのし上がったはずの彼が、こんなにも真っ直ぐに人の目を見て、こんなにも真っ直ぐに心の内を吐き出すことが出来るのか。

 一瞬、眩しそうに眉をしかめたサウラーが、しかしすぐに元の表情に戻る。
「それは封じ込めた後だ。そこをどけ」
「策は無いということか……。ならば、ここを通すことは出来ん!」
 ウエスターが再び声を上げる。その直後、ズズッ……というあの耳障りな音が再び聞こえた。コードを飛ばしてバランスを取ろうとしているものの、“不幸のゲージ”がさらにホホエミーナに引き寄せられ、その揺れが次第に激しくなっている。

(これが最後のチャンスか――ウエスター、頼む!)

 ここまで来て、何故自分は心の内を、この相棒に隠そうとするのだろう――チラリとそんなことを思いながら、サウラーは相変わらず無表情のまま、ウエスターに懇願する。
「僕が絶対に何とかする。だからそこをどいてくれ!」
「いいや、ダメだ!」
 激しくかぶりを振るウエスターを見つめて、サウラーが、今度はすっと目を細めた。
「そうか……ならば仕方がない。力づくでも、通してもらうよ」
 静かに言い放った次の瞬間、サウラーの姿が忽然と消えた。

 瞬時に視野を広げ、動くものを探す。視界の端に捉えた影に、ウエスターは即座に足を跳ばした。
「行かせるかぁっ!」
「はぁっ!」
 ひらりと身をかわしたサウラーが、鋭く蹴り返してウエスターの正面に立つ。
「二人とも、やめて!」
 後方からのせつなの声を聞きながら、サウラーが目にもとまらぬ速さで右ストレートを放つ。反射的にその拳を受け止め、身体ごと放り投げた途端、強烈な違和感がウエスターを襲った。

(力で到底敵わないこの俺に、あのサウラーが拳を合わせただと……?)

「サウラー!」
 慌てて中空に、その姿を探す。さっき戦っていた時よりも、鼓動が速くなっているのを感じた。正体の分からない不安に突き動かされ、せわしなく視線を動かす。すると、ウエスターの目測よりかなり上空に、サウラーの白い影があった。
 高々と宙を舞うサウラーは、ウエスターと目が合うと、ニヤリ――ではなく、実に晴れ晴れと笑った。その笑顔を見た途端、全身に衝撃が走って、ウエスターが極限まで目を見開く。

392 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/28(日) 12:10:04
――後は頼んだよ、ウエスター。

 サウラーの声が聞こえた気がした。耳ではなく、心の奥に響いて来る、声なき声。それを聞いた瞬間、ウエスターはもんどりうって空中へと跳び上がった。

「待て、サウラー!」
「ホホエミーナ、今だっ!」
 もつれ合う、ウエスターとサウラーの叫び声。

「ホ〜ホエミ〜ナ〜!」
 ホホエミーナの雄叫びが、今度は何とも哀し気に響く。その声と共に、ホホエミーナの身体が大きくなり、円形の扉も倍以上の大きさに膨らんだ。もうゲージのどの角度からコードが飛んできても、それはあっけなく扉の中へと吸い込まれていく。
 さっきまでとは比べ物にならないスピードで引き寄せられていくゲージ。それと共に、メビウスの巨大な像も、少しずつこちらに迫って来るように見える。
 そしてついに、“不幸のゲージ”が宙に浮く。だが、吸い込まれようとしているのはそれだけではなかった。

(あと少し……あともう少しだ!)

 両手を広げ、眼前に迫る“不幸のゲージ”を見つめながら、サウラーの身体もまた、木の葉のようにくるくると風に翻弄されながら、扉へと近づいていく。

(ウエスター。僕だって、未来に不幸を残したくはない。だから、完全に消去してみせるよ。デリートホールの中で!)

 “不幸のゲージ”が、眼前に迫って来た。濁った薄黄色の“不幸のエネルギー”は、間近で見ても、あの町――四つ葉町で集めたそれと、そっくりに見える。そのことを何だか嬉しく思いながら、サウラーが、グッと硬く硬くこぶしを握って身構える。と、その時。
 パシリ、という音がして、誰かがサウラーの腕を掴んだ。

 驚いて目を上げたサウラーの視界に飛び込んできたのは、せつなの顔だった。ホッとしたような、怒ったような顔でサウラーを睨み付け、腕を掴んだ手にギュッと力を込める。そしてせつなの身体を支えているのは、いつの間にそこまで跳び上がったのか、ホホエミーナの四角い身体の上に腹ばいになった、ウエスターだった。

「こんな策は認めん!」
 ウエスターの大声が、風の音を掻き消す。
「お前が一人で、不幸を引き受ける必要はない。不幸は、俺たちみんなで抹殺するんだ。そうだろうっ!」
「ウエスター……」
 サウラーが呟いた、その時。突然、三人の身体が――いや、三人を支えているホホエミーナの身体が、ぐらりと揺れた。

「うわぁっ!」
 三人が空中に放り出される。それと同時に動いたのはウエスターだった。
 右腕にせつなを、左腕にサウラーを、しっかりと抱える。そしてそのまま、地面に叩きつけられた。
「ウエスター!」
 せつなの絶叫が響き渡る。二人を庇って、ろくに受け身も取らないまま落下したウエスターは、地面に横たわったまま、ぴくりとも動かない。

 その直後、ドーンという衝撃音と共に地面が揺れた。もうもうと立ち込める土煙の向こうで、ホホエミーナの四角い身体が横倒しになっているのが見える。
 一体何が起こったというのか――血走った眼で辺りを見回したせつなの顔が、驚きの表情のまま固まった。
「そんな……どうして!?」

「ソレワターセー!」

 自分の見ているものが信じられない――その思いが、今度は耳から打ち砕かれる。
 暗緑色の蔦が絡み合ったような、巨大な姿。その真ん中にぱっくりと開いた裂け目から覗いているのは、邪悪に光る赤い一つ目――。
 最高幹部であったノーザだけが生み出せる、ラビリンス最強のモンスター。つい数時間前に、サウラーがこの街を守るため、“次元の壁”に封じ込めた怪物――ソレワターセが、そこに立っていた。

「愚か者どもめ」
 呆然として声も出ない二人の頭上から、声が降って来る。
「このラビリンスのものは全て、私の手中にある。あんな小細工など、見抜くことなどわけも無い」
 さっきまでこちらを見ようともしなかったメビウスが、不気味に赤く光る大きな目で、無表情にかつての僕たちを見下ろしている。
「……くっ!」
 人を小馬鹿にしたようなその口調に、ようやく我に返ったサウラーが、悔し気に空を見上げる。そしてすぐさまその目を怪物たちの方へと移し、弾かれた様に立ち上がった。

393 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/28(日) 12:10:35
 サウラーが見た光景――それは、横倒しになったまま立ち上がろうともがいているホホエミーナに、ソレワターセが触手を伸ばすところだった。シュルシュルと蔦のような腕を伸ばし、絡め取った重そうな身体を苦もなく持ち上げる。
「ホ……ホエミーナ……」
 ホホエミーナが足をバタバタさせながら、か細い声を上げる。その声に、辛そうに顔をゆがめたサウラーが、次の瞬間、その身体目がけて飛んだ。

「はぁぁぁぁっ!!」
 サウラーの鋭い蹴りが、ホホエミーナに炸裂する。それと同時に、二体のモンスターが変化し始めた。
 二つの身体がぐにゃりと歪み、暗緑色のひとつの塊になる。その塊が大きく膨れ上がったかと思うと、天を突くような巨大な一体のモンスターが出現した。
 さっきの五倍、いや十倍以上の大きさになった身体は、やはり中央に円形の扉が付いた、鋼鉄のような四角張った姿。しかしさっきまでとは異なり、身体の表面が無数の円錐状の棘で覆われている。丸いつぶらな瞳の代わりに、三角に吊り上がった大きな目が、爛々と赤く輝く。その額には、植物とひとつ目を組み合わせたようなノーザの紋章――。

「ソレワターセー!」
 さっきまでのか細い声とは似ても似つかぬおぞましい雄叫びを上げて、新しい姿となったモンスターが、まだ空中に居るサウラー目がけて、ブン、と腕を振り上げる。こちらも棘付きの鉄球のように変化した手の攻撃をまともに喰らったサウラーは、あっけなく地面に叩きつけられる。
「サウラー!」
 せつなが必死で駆け寄ろうとするが、とても間に合わない。が、地面に激突しようとした瞬間、サウラーの表情が僅かに動き、ニヤリと不敵な笑みを形作った。

「この私を消去しようとは……身の程を知るがいい。ソレワターセ、やれ」
「ソレワターセー!」
 地面に倒れたまま動かないウエスターとサウラー、そして二人を守るようにその前に立ちはだかるせつな。彼ら目がけて再び円形の扉が開かれようとしたとき、せつなにはサウラーの笑みの理由がはっきりと分かった。
 サウラーの渾身の蹴りが当たった場所――円形の扉は中央の部分が大きく凹んで、開くことが出来ない状態になっていた。ホホエミーナがソレワターセに取り込まれることを危惧したサウラーが、ギリギリのところで、仲間と自分が消去されるのを阻止したのだ。

「小癪な。だが、そんなものは気休めに過ぎん」
「ソレワターセー!」
 メビウスの冷ややかな声とともに、ソレワターセが今度は腕を振り回して暴れ始めた。辺りの廃墟が音を立てて崩れ落ち、瓦礫が盛大に空を舞う。
 やがて破壊音が止み、立ち込めていた埃が収まった後には、膨大な瓦礫の山があるだけで、動いている者は一人も居なかった。
 ウエスターとサウラーの傍らで、せつなも地面に投げ出された格好で横たわっている。そこから少し離れたところでは、ラブと少年が瓦礫の上に倒れ、二人に覆い被さる格好で、少女が倒れ込んでいた。

「愚かな……。本当に愚かな生き物だ、人間というものは」
 地面に横たわったまま、ぴくりとも動かない人間たちを、メビウスが天の頂から無表情に見つめる。

 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。

 先方にそびえる新たな城の方から、人間たちの声が小さく聞こえて来る。その声に少しの間耳を傾けてから、メビウスはもう一度、元幹部たちの方へと視線を戻した。

「しかし不思議だ。本当にこんな愚かな生き物が、一度は私の野望をくじくことが出来たというのか……」
 誰にともなく、怪訝そうにそんなことを呟きながら、ゆっくりと辺りを見回す。その時、メビウスの瞳があるものを捉え、“不幸のゲージ”から、新たな触手がゆっくりと動き出した。

〜終〜

394 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/10/28(日) 12:11:19
以上です。長くなってしまった……(汗)
ありがとうございました!

395 名無しさん :2018/11/30(金) 18:43:55
祝♪プリキュア16年目確定!!
「スター☆トゥインクルプリキュア」、略し方はスタプリ?
どんなプリキュアか楽しみです。今はそれ以上にハグプリ終わるのが寂しいけど......。

396 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/12/30(日) 07:31:40
おはようございます。
またまた大変遅くなりましたが、フレプリ長編の16話を投下させて頂きます。
5、6レス使わせて頂きます。

397 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/12/30(日) 07:32:23
 鈍く光る壁に覆われた、とてつもなく大きな部屋。その中央には、ラビリンス新政府が国の運営のために使っているコンピュータが置かれている。
 かつての国家管理用メインコンピュータ・メビウスには、性能で遠く及ばない代物。だが、技術者たちが短期間で知恵を出し合い、資材をかき集めて作った新生・ラビリンスの大切な財産だ。その周囲を、表情のない数多くの人たちが取り囲み、黙々と作業を続けていた。

「全てはメビウス様のために……」
「全てはメビウス様のために……」

――我が新しき器を用意せよ。

 メビウスの命令に従って、隊列になって機材を運んでくる者たち。それを次々と接続する者たち。コンピュータを操作し、メモリーの増設を着々と行う者たち――。
 皆が一様に同じ言葉を唱えながら、無駄の無い動きでそれぞれの任務に取り組んでいる。

「全てはメビウス様のために……」
「全てはメビウス様のために……」
「全てはメビウス様のために……」
「ホホエミーナ! 一気に決めろ!」

 不意に、唱和ではないはっきりとした声が響いた。壁の上部に備え付けられた幾つものスクリーンが一斉に起動して、同じ光景を映し出す。
 それは、黒光りする巨大な四角い身体のモンスターが、これまた巨大なガラスの筒のようなものと対峙している光景だった。モンスターの胴体には丸く大きな穴が開いており、ガラスの筒は、ズズッ、ズズッ、と音を立てながら、その穴に引き寄せられようとしている。
 ガラスの筒――いや、ガラスの筒状の化け物が、反撃に転ずる。その側面から灰色のコードが何本も放たれ、箱状のモンスターを襲う。その瞬間、飛び出した小さな人影がコードを残さず掴み取り、束にして引きちぎった。
 そこで画面が急速にズームアップされる。映し出されたのは、コードを引きちぎった人物と、あと二人。モンスターの足元に小さく見えていた、三人の人物だ。

「デリートホールに吸い込んだからと言って、消去したことにはならん……それはお前もよく知っているだろう。つまり……」
「つまり、メビウスと“不幸のエネルギー”は、まだこのラビリンスに残り続けることになる。そういうことよね?」
 さっきコードを引きちぎった人物――三人の中で一番の大男の言葉を、紅一点の少女が引き取る。ああ、と頷いた大男が、もう一人の銀髪の男の方に向き直る。

「俺も懸命に考えたのだ、俺に出来ることを。そして分かった。俺とお前が組めば、メビウスは完全に消去できる。お前がコイツを捕まえている間に、俺が“不幸のエネルギー”を全て使い尽させればいいのだ。そうだろう!?」
 大映しになったその男は、カッと目を見開き、眉を吊り上げ、口から泡を飛ばす勢いで言い募る。
 声に温度があるならば、それは燃えたぎる火のように熱い声。だが、それに答えたのはまるで氷のような、冷たい声音だった。
「それは不可能だよ。メビウスが“不幸のエネルギー”を使い尽すはずがない」
 炎と氷がぶつかり合うような二人の睨み合い。しばしの沈黙の後、次に聞こえてきたのは、大男のさっきより低い声だった。

「このまま、また昔のように管理されるか。それともいつ飲み込まれるかもしれぬ不幸に、怯えながら生きていくか――。そんな未来をアイツらに……この国に押し付けるなんて、俺には出来ん。なあ、何か策があるのか?」
「それは封じ込めた後だ。そこをどけ」
 苦し気な、何かにすがるような大男の声を、銀髪の男のにべもない声が一蹴する。

 その途端、二人の間の空気がガラリと変わった。
 大男の全身からは譲れない意志が、銀髪の男の声には、初めて必死さを感じさせる熱が、ぶつかり合い、絡み合ってスクリーンから滲み出る。

「策は無いということか……。ならば、ここを通すことは出来ん!」
「僕が絶対に何とかする。だからそこをどいてくれ!」
「いいや、ダメだ!」
「そうか……ならば仕方がない。力づくでも、通してもらうよ」

 激しい言い争いの後、少女の制止を振り切って、拳と拳を交える二人の男。
 大男に放り投げられた銀髪の男が、ガラスの筒と一緒にモンスターの方へと引き寄せられていく。そんな彼の、その場にそぐわぬ穏やかな表情が大写しになった途端、その顔が驚愕の表情に変わる。

398 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/12/30(日) 07:33:00
 次に映し出されたのは、少女に腕を掴まれた銀髪の男と、ホッとした表情を見せる少女、それにモンスターの上で少女の身体を支えている大男の姿だった。

「こんな策は認めん!」
 大男の声が響き渡る。
「お前が一人で、不幸を引き受ける必要はない。不幸は、俺たちみんなで抹殺するんだ。そうだろうっ!」
 いつの間にか静まり返った部屋に、大男の怒声が響いた、その時。画面の中の三人の姿が、突如激しく揺れ動いた。
 空中に放り出される三人。大男が残りの二人を庇って、地面に叩きつけられる。

「ソレワターセー!」
 驚愕の表情をした少女のアップの後、彼女の視線を追って映像が移動する。
 そこにあったのは、植物のような姿をした、さらに巨大なモンスターだった。ただの一撃で倒した箱型のモンスターにシュルシュルと触手を伸ばし、その身体を持ち上げる。
「はぁぁぁぁっ!!」
 銀髪の男の蹴りが炸裂した。それと同時に一つの塊となった二体のモンスターが、これまでとは桁違いの超巨大モンスターとなって、男を地面に叩き落とす。その瞬間、辺りに悲鳴のような声が響いたのは、スクリーンの中と外、どちらの出来事だったのか。

「この私を消去しようとは……身の程を知るがいい!」
「ソレワターセー!」
 重々しい声に答え、天の頂から振り下ろされる拳。
 一発。二発――さらに一発。
 おびただしい数の瓦礫が宙を舞い、もうもうと立ち込める埃が画面を白く曇らせる。

「全てはメビウス様のために……」
「全てはメビウス様のために……」
「全てはメビウス様のために……」

 人々は、相変わらず無感情に同じ言葉を唱えながら、コンピュータの周りを取り囲んでいる。その瞳には、再びスクリーンに映し出された彼らの姿――横たわったままピクリとも動かない三人の姿と、見るも無残に破壊された街の光景が映っていた。




   幸せは、赤き瞳の中に ( 第16話:本当の姿 )




 灰色一色の空と、まるでその空を映したかのような、瓦礫で埋め尽くされた地面。その上に倒れている六人の人影――。
 荒涼とした光景を、天の頂から無表情で眺めるメビウス。その巨大な姿の足元にある“不幸のゲージ”から一本の灰色のコードがするすると伸びた。

 コードは、仲間二人を庇うように倒れている少女をかすめるように素通りし、彼女が覆い被さっているもう一人の少女に、音もなく近づく。そして彼女の手元に落ちていたものを絡め取ろうとしたとき、その少女――ラブが薄っすらと目を開けた。

 途端にハッと目を見開き、コードが狙っていたものを拾い上げて大事そうに胸に抱く。
 それは、せつながラブに託したノーザの本体。ウエスター、サウラー、せつなの三人が懸命に戦っている間、ラブがずっと両手で握り締めていた、あの球根だった。
 コードが即座に標的をラブ自身に切り替える。だが襲い掛かる前に、その鎌首を華奢な手が素早く掴んだ。
 ラブと少年に覆い被さっていた少女が跳ねるように立ち上がり、コードを引きちぎって油断なく身構える。そんな彼女を襲ったのは、天から降って来た冷ややかな声だった。

「何の真似だ?」
 メビウスが少女を見下ろし、淡々とした口調で言葉を続ける。
「耳を澄ますがよい。我がラビリンスは、再びこの私が管理した。お前の望んでいた通りの世界になったのではないか」
「私は……」
 そこで言葉に詰まって、少女が唇を噛みしめる。

 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。
 全てはメビウス様のために。全てはメビウス様のために。

 メビウスの言う通り、人々が唱和する声が、今はメビウスの城となった新政府庁舎の方から小さく聞こえていた。
 かつてはラビリンス全土で、常に聞こえているのが当たり前だった声。だが、その声が耳に入った時、何故か少女の脳裏に蘇ったのは、全く別のもの――ラビリンスの人々の、笑顔だった。

399 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/12/30(日) 07:33:36
 メビウス亡き後、初めてE棟以外の人々と寝食を共にしたとき、遠慮がちに向けられた幾つかの微笑み。やがてそれは次第に柔らかく深くなって、今では誰もが自然に浮かべる笑顔になっていった。
 それと同時に、新しいラビリンスを受け入れられなかった少女にとって、笑顔というものは、向けられるといつも苛立ちばかりが先に立つ、大嫌いなものになっていった。それなのに――。

(もう、このラビリンスであんな能天気な顔を見ることも、なくなってしまうのか……)

 ブン、と頭をひとつ振って、何を馬鹿なことを、と呟く少女。その時、ラブを狙うもう一本のコードが音もなく忍び寄り、あっという間に少女の脇をかすめた。
 飛ぶように現れたせつなが、慌てて手を伸ばす少女を突き飛ばすようにして、すんでのところでコードを弾く。その時、よろめいた少女の腕を掴んで引き戻したのは、ようやく気絶から目覚めたらしい、あの少年だった。

「大丈夫だ。やらなきゃならないことを、これから一緒に全力でやるぞ」
「やらなきゃ……ならないこと?」
 苦いものを噛みしめているかのような口調で問いかける少女の顔を、せつなも優しい眼差しで見つめて、静かに頷く。
「ええ。それは、あなたの本当にやりたいことに繋がっているはずよ」
「本当に、やりたいこと……」
 力のない声――でもさっきよりは明るい声でそう呟いた少女は、少し照れ臭そうな顔で少年とせつなの顔を見つめると、そっと少年の手を払った。
「やりたいことなんて分からない。だけど……今はコイツを、全力で守る!」

 三人の若き戦士が並び立ち、油断なく身構える。そんなかつての僕たちには目もくれず、メビウスは彼らに守られている一人の少女――球根をギュッと胸に抱きしめているラブに、無表情な視線を向けた。
「さあ、それを渡せ。それはお前が持っていても、何の役にも立たん」
「どうしてそんなに、ノーザを欲しがるの? やっぱり、最高幹部だから?」
 ラブが真っ直ぐにメビウスを見つめ、負けじと大声を張り上げる。それを聞いて、メビウスは口の端をわずかに上げた。

「ノーザ? 私はノーザが欲しいのではない。欲しいのは、私のデータだけだ」
「メビウスのデータ……?」
「それって、どういう意味!?」
 怪訝そうに呟くせつなの後ろで、ラブが再び天に向かって呼びかける。

「ノーザには、最高幹部の他にもっと大きな役割がある」
「メビウスの……あなたの護衛として作られたんだよね? ノーザも、クラインも」
「そんなことまで知っているのか」
 ほんの一瞬目を伏せたメビウスが、すぐに元の無表情に戻って語り始める。

「そうだ。私は自分の護衛として、爬虫類のDNAからクラインを、植物のDNAからノーザを生み出した。だが、護衛というのは表向きのこと。二人の本当の役割は、別にあった」
「本当の……役割だと? それは何だ!」
「是非、お聞かせ頂きましょう」
 ラブの隣から、二つの新たな声が響いた。ウエスターとサウラーが、瓦礫の上からゆっくりと起き上がり、鋭い目で元の主を見上げる。

「クラインは、私のデータの管理とメンテナンスを行う。そしてノーザは、私のプログラムのバックアップを兼ねている」
「何だと……」
「一般に、植物は動物よりもメモリーの容量が大きい。無限メモリーの足元にも及ばないが、管理データ以外のプログラムなら、ノーザの体内に保存可能だ」

「ねぇ、せつな。バックアップ、って何?」
 驚きに目を見開くサウラーの顔をチラチラと見ながら、ラブが不安そうな声でせつなに尋ねる。
「データのコピー、という意味よ。メビウスに何かあった時のために、ノーザはメビウスのプログラムのコピーを、その身体の中に持っていたの」
 低い声でそう説明したせつなが、震える声でメビウスに問いかける。

「じゃあ、あなたに何かあったら、ノーザは……」
「そうだ。私に何かあれば、ノーザはその身を犠牲にしてでも、自身が持っているデータを使って私を復活させる任務を担っている」
「……」
「……」
「……」
 あまりに衝撃的な事実に二の句が継げないでいる元幹部たちを、心なしか少し面白そうな顔で見つめてから、メビウスがちらりと少女に目をやる。

400 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/12/30(日) 07:34:07
「お前はあの植木を、植物に戻ったノーザの本体だと思って手に入れたのだろう? だが、あれはノーザが私のデータを含めた自分のバックアップを取っていた植木だ。だから私の基幹プログラムに影響は無かったが、大事なデータの一部が欠落していた」
「大事なデータって……」
「このラビリンスに乗り込んできた、プリキュアとの戦いの記録だ」
 メビウスの視線が、今度はラブと、その前に立ちはだかるせつなへと向けられる。

「何故これほど愚かな人間どもに、この私が倒されたのか、その一部始終だ。そう大きな問題ではないと思っていたが……やはり何らかの不具合があれば、原因は究明しなければならぬ」
「じゃあ、ノーザが自分の身体を……あの球根を欲しがったのって……」
 今度はラブが、唇をわなわなと震わせながら、メビウスを見つめて問いかける。その顔を傲然と見つめ返して、メビウスはさも当たり前といった口調で答えた。
「無論、私のためだ」

「ソレワターセー!」

 不意に、巨大な影が六人の頭上を覆った。さっきまで盛大に暴れ回っていた巨大な怪物が、ラブたちの後方から地鳴りのような音を立てながら近づいてくる。
 ウエスターとサウラーが、即座にソレワターセからラブを守るように立ちはだかる。せつな、少年、少女を含め、ラブを取り囲むようにして守りを固める五人に、メビウスの嘲るような声が降って来た。
「ソレワターセは、私の欲しいものを奪うためなら手段を選ばぬ。一般人を傷付けるのは本意ではないが、私の僕であるお前たちは話が別だぞ。私の命ずるがままに生きるという役割を放棄し、この私に逆らったのだからな」

「はぁぁぁぁっ!!」

 皆まで聞かず、ウエスターとサウラーのダブルパンチがソレワターセに炸裂する。襲ってくる鉄球のような腕をかいくぐり、サウラーがダメージを与えた扉に向かって同時に拳を叩きつける。
 わずかにのけ反ったソレワターセが、反動でぐっと前かがみになり、ラブ目がけて突進しようとする。それを見るや否や、今度はせつなと少女が同時に宙を舞った。

「たぁぁぁぁっ!!」

 ソレワターセの足元に狙いを定めた、少女とせつなのダブルキック。その瞬間、ずっと無表情だったメビウスが驚きに目を見開く。
 ソレワターセが地響きを立てて、瓦礫の上に腹ばいに倒れたのだ。着地と同時に目と目を見交わして、小さく微笑む二人。それを見てラブも嬉しそうに微笑んだが、次の瞬間、ソレワターセの猛攻が二人を襲った。
 鉄球のような腕で弾き飛ばし、瓦礫の上に叩きつけたところに、さらに鉄球をお見舞いする。
「二人とも、しっかりして!」
 再び地面に倒れ込んで動けなくなった二人の元に、転がるように走り寄るラブ。その頭上から、再びメビウスの冷徹な声が降って来た。

「ふん、他愛もない。さあ、それを渡せ。こんな愚かな者たちのせいで、もう二度とこんなエラーを繰り返さないためにも、原因を……」
「何言ってんの?」

 その声を聞いた時、一体誰が発した声なのか、少女にも、そして少年にも分からなかった。
 低く、暗く、くぐもった声。その声の主は、射るような眼差しを天に向けながら、ウエスターとサウラーの制止を振り切って絶対者の前に立つ。
 桃色の瞳が、まるで光を放っているかのように爛々と輝いている。ツインテールまでもが、怒りのあまりいつも以上に逆立っているように見える。
 全身でメビウスに挑みかかるような前のめりの姿勢で、ラブはその震える声を、今度は天に向かって張り上げる。

「せつなの役割? ノーザの役割? そんなものが、せつなや、ノーザや、この子たちの人生より……幸せより大切だなんて、おかしいよっ!!」

 “不幸のゲージ”の側面から、再び灰色のコードが音もなく放たれる。メビウスだけを見上げているラブはそれに気が付かない。だが次の瞬間、コードはラブに襲い掛かる前に、何故か白く光って消えてしまった。
 飛び出そうと身構えていたウエスターとサウラーが、不思議そうに顔を見合わせる。ラブはそんなことには全く気付かず、メビウスに向かって必死で言葉を繋いでいた。

 少女に連れられ、せつなたちが育ったE棟を訪れたこと。彼女たちがそこで過ごした日々について、少女に教えてもらったこと。
 自分なんか勉強も何もしていなかった幼い頃から、せつなや少女がずっと頑張って来たことを改めて知った。楽しいことなんか何も無い毎日の中で、それでも懸命に知識を身に着け、技を磨いて来たことがよく分かった――。

401 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/12/30(日) 07:34:40
「そうやって歩いて来た道は、身に着けた技や力は、あなたのものなんかじゃない。せつなのものだよ。この子のものだよ。せつなたちがこの先、生きていくための力……幸せになっていくための、みんなを幸せにしていくための、せつなたち自身の財産なんだ! ノーザだっておんなじだよ。あなたのために自分を犠牲にするなんて、そんなのおかしいよ!」
「黙れ!」

 メビウスの怒鳴り声と同時に、誰かがラブを突き飛ばし、もつれ合って一緒に転んだ。まだ倒れたままのソレワターセが放った触手から、せつなが身体を張ってラブを守ったのだ。
 なかなか起き上がれないでいる二人の頭上から、メビウスの声が響く。
「幸せ? くだらん! 私が管理する世界では、悲しみも、苦しみも、不幸も無い。私のために存在することこそが、ラビリンスの国民の、正しい……」
「メビウス様」
 今度は落ち着いた、しかしはっきりとした声が、メビウスの言葉を遮った。身を起こしたせつなが、ラブと同じように真っ直ぐに元の主の顔を見上げる。そしてラブを優しく抱き起してから、瓦礫の上にしっかりと立った。

「正しい姿なんて、私たちには必要なかったんです」
 せつなは穏やかな、嬉しそうにすら見える瞳でメビウスを見つめ、静かに言葉を続ける。
――あなたの作ったラビリンスの世界は、間違っています。
 あの時の自分の言葉を思い出した。心からそう思い、メビウスにも分かって欲しくて口にした言葉。だが……。

(あの時は、メビウス様がコンピュータだなんて知らなかった。メビウス様にとっては、悲しみも、苦しみも、不幸も無い世界こそが、プログラムされた正しいゴール。だからああ訴えかけても、受け入れては貰えなかったんだわ)

「何だと?」
 さっきのような怒鳴り声ではない不審げな声で、メビウスが問いかける。そんな元の主の大きな瞳に、せつなは生まれて初めて、ニコリと小さく笑いかけた。
 そんなせつなをすぐ隣から見つめるラブが、不意にごしごしと目をこする。ほんの微かな光だけれど、せつなの身体が、ぼおっと赤く光っているような気がしたのだ。
 ラブのそんな様子にも気付かず、せつなは右手を自分の胸に当てると、そっと目を閉じた。

(ラブは、私の辛い痛みも、悲しい過去も受け止めて、私のものだと言ってくれた。私の財産だと言ってくれた)

 トク、トク、トク……。
 心臓の鼓動を、掌に感じる。あの日――ラビリンスのイースとしての寿命を終えたあの日に、もう一度生かされたこの命。だが、絶たれたはずのイースとしての過去は、決してそれで終わったことにはならなかった。
 激しい悔いと、悩み、苦しみ。必死で目を背けて来たあの日々に意味があったのか、本当のところはまだ分からない。
 でも、あの日々を生きていた自分も、幸せを求めていたことに気付いた。あの辛かった日々を愛し、光を当ててくれる親友が居た。

(だったら私は、私が持っているもの全て――私の本当の姿全てで、守りたいものを守って見せる!)

「人は、様々なものを乗り越えて、そのたびに姿を変えていきます。それが正しいか正しくないかなんて、誰にも分からない。でも、それらはどれも本当の姿なんです」
 せつなが再び、穏やかな眼差しを天の頂へと向ける。今や誰の目にもはっきりと、強く明るい赤い光を放つその姿を、少年と少女が、ウエスターが、サウラーが、そしてラブが、驚きの表情で見つめる。

「私は、あなたの僕であったラビリンスのイース。その寿命を断たれた後に、四つ葉町で生まれ変わった東せつな。そして――幸せのプリキュア、キュアパッションです」
「せつな」
 他の誰もが呆然とした表情で見つめる中、ラブだけがその言葉を聞いて、実に嬉しそうな笑顔を見せる。その途端、赤い光は輝きを増し、燦然たる輝きを放った。
 せつなが空に向かって両手を差し伸べ、高らかに呼びかける。

「アカルン!」
「キー!」

 打てば響くように、高く澄んだ声がこだまする。そして、灰色の空にキラリと赤い煌めきが見えたかと思うと、その可憐な姿が見る見るこちらへと迫って来た。

〜終〜

402 一六 ◆6/pMjwqUTk :2018/12/30(日) 07:35:36
以上です。ありがとうございました。何とか年内に間に合った!
次回は今度こそ早めに更新したいと思います。

403 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/01/28(月) 22:26:47
こんばんは。
フレッシュ長編の続きを投下させて頂きます。5レスほど使わせて頂きます。

404 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/01/28(月) 22:27:23
「アカルン!」
「キー!」

 灰色の空の彼方に、小さな赤い光が煌めく。見る見るこちらに迫って来たのは、頭に大きなリボンをつけ、背中に小さな羽を持った妖精――幸せの赤い鍵・アカルン。そのあどけない顔を嬉しそうに見つめるせつなの隣から、ラブが驚いたように身を乗り出した。

「ピルン!」
「キー!」

 アカルンの後ろから、もう一体の妖精が顔を覗かせる。姿形はアカルンにそっくりだが、その身体の色は赤ではなく、ピンク色。リボンの代わりにコックのような帽子を被った、愛の鍵・ピルンだ。その大きな瞳に、うん、とひとつ頷いてから、ラブはせつなにキラリと光る眼差しを向けた。

「ありがとう、せつな。じゃあ、行くよっ」
「ええ、ラブ!」
 そう言い合うと同時に、リンクルンを構える二人。一直線に飛んできた妖精たちが、それぞれの場所に勢いよく飛び込む。
 銀色のチャームでリンクルンを開き、ホイールを回す。それと同時に爆発的に迸る、ピンクと赤の光――!

「チェインジ!! プリキュア!! ビートアーップ!!」

 二人の高らかな声と共に、今、変身の儀式が始まる。

 力強く大地を蹴って、空中へと飛び上がるラブ。
 聖なる泉へと身を躍らせ、水中を高速で駆けるせつな。
 それと同時に、二人の胸に四色の四つ葉のクローバーが浮かび上がる。
 その身に纏うは可憐な衣装と、無限のメモリーから託されし、伝説の大いなる力。
 ラブのツインテールは長く伸びて金色にたなびき、ピンクのハートの髪飾りがそれをまとめる。
 せつなの漆黒の髪は、淡い桃色のロングヘアとなり、白い羽飾りのついた赤いハートと、ティアラの輝きがそれを彩る。

 生まれ変わった姿で、大地に向かって急降下する。
 愛する世界、守りたい世界へと、今、帰還するのだ。

「ピンクのハートは愛ある印! もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」
「真っ赤なハートは幸せの証! 熟れたてフレッシュ! キュアパッション!」



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第17話:もう一度、みんなで )



 二色の光の柱が立ち昇った後、姿を現した二人のプリキュア。
 天の頂からその姿を見下ろしたメビウスは、真っ直ぐに自分を見上げるパッションに目をやって、眉間に深い皺を寄せた。
「その姿こそがお前の本当の姿……そう言いたいのか」
「少し前までは、ずっと自分にそう言い聞かせて戦ってきました」
「パッション?」
 静かに語るパッションを、隣から心配そうに見つめるピーチ。そんな彼女に小さく笑いかけてから、パッションは再び元の主へと向き直る。

「出来ることなら、イースだった過去を消し去りたかった。けれど、気付くことが出来ました。あの頃の……イースだった頃の私も、もっと幼い頃の私も、全てが私の本当の姿。愚かだったけれど、精一杯幸せを求め続けていたんだ、ということに」
 そう言って、パッションは胸のクローバーに手を触れると、少しの間、そっと目を閉じた。
「そしてこの姿もまた、私の本当の姿。みんなの幸せを守りたいという誓いの証。だからこの姿で、もう一度あなたと向き合いたかったのです」

「くだらん!」
 怒りの声が、天の高みから降って来た。それと同時に目の前の“不幸のゲージ”が、ゴポリ、と不気味な音を立てる。
「幸せなど、不幸の裏返し。不幸の無いラビリンスで、求める必要などない」
「そう。不幸の無いこの世界で、私はずっと、あなたの言われた通りに生きてきました。それでも……そんな私でも、そうとは知らず幸せを求めていた。それは、人が生きていくために大切なものだからではありませんか?」
「……」

 メビウスが一瞬、虚を突かれた様子で沈黙する。が、すぐに苛立たし気な声が、雷のように辺りに轟いた。
「愚か者め。それは、お前たち人間が愚かであるという証拠だ!」
「ソレワターセ!」

405 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/01/28(月) 22:27:56
 間髪入れずにおぞましい声が響く。起き上がった巨大なソレワターセが、先端が巨大な鉄球になった腕をブンブンと振り回しながら、パッションとピーチの背後にじりじりと迫ってくる。
「安心しろ。今度こそ完璧に、お前たちを管理してやる。さあ、私のデータを渡せ」
「ソレ、ワターセ!」

 迫り来る攻撃に対し、跳び退って身構えるピーチとパッション。が、二人が飛び出すより早く、小さな黒い影が宙を舞った。

「はぁぁぁぁっ!」
 唸りを上げる鉄球に、少女が鋭い蹴りを放ったのだ。鉄球はあさっての方角に弾き飛ばされたが、二人の目の前に着地しようとした彼女目がけて、もう一本の鋼鉄の腕が襲い掛かかった。
 思わずギュッと目をつぶり、両腕でガードを固める少女。すると次の瞬間。

「ダブル・プリキュア・パーンチ!!」
 高らかな声に続いて、ゴン、という鈍い音が少女の耳を打つ。見開いたその目に飛び込んできたのは、鮮やかなピンクと赤の衣装で宙を舞い、寸分たがわぬタイミングで巨体の胴を蹴りつける、ピーチとパッションの華麗な雄姿だった。

「ソーレワターセェェェ!!」
 のけ反って一歩、二歩と後ずさったソレワターセが、三角の目をさらに吊り上げて、二人目がけて自慢の腕を叩きつける。
「はっ!」
 短い気合いを発して、ピーチが巨人に向かって跳ぶ。そして巨体の両腕が交差したところを見計らって、その腕を束ねるようにむんずと掴んだ。

「おぉぉりゃぁぁぁっ!!」
 闘志全開の雄叫びと共に、二つの鉄球が巨体の胸板目がけて放たれる。
「ソ……レワタ……セ……」
 渾身の一撃を喰らったソレワターセが、たたらを踏んで後ずさる。
「はぁぁっ!!」
 すかさず飛び出したパッションの蹴りが、今度は怪物の額の辺りに炸裂する。これにはたまらず、ソレワターセは地響きを上げて仰向けに倒れた。

「大丈夫?」
 少女の隣に降り立ったピーチが、あっけにとられた様子の少女の顔を、優しく覗き込む。
「平気よ。でも……ありがとう」
「お礼を言うのはあたしの方だよ。ありがとう!」
 もごもごと礼を言う少女に向かって、ニコリと屈託のない笑顔を見せるピーチ。その顔を上目づかいで見つめてから、少女は少し寂しそうな笑顔で、力なく首を横に振った。
「今のあなたは、もう守られる必要なんて無いわね。私の出る幕は……」
「あのね。お願いがあるんだ」

「え?」
 唐突な言葉に、少女が思わず顔を上げる。ピーチはその顔を真っ直ぐに見つめると、もう一度ニコリと笑って言った。
「今度はあたしに、ラビリンスを元に戻すお手伝いをさせてくれないかな」

 驚きに目を見開く少女に、ピーチがポリポリと頭を掻きながら、少し照れ臭そうに言葉を繋ぐ。
「あたし、ラビリンスの人たちが大好きなの。ううん、何度もここに来ているうちに、どんどん好きになったんだ。だから、少しでも力になりたいの」
 ピーチの顔をじっと見つめていた少女が、次第にうつむきがちになり、やがては項垂れて地面を見つめる。
「なんで……どうしてそれを、私に? 私はこの国と、この国の人たちに取り返しのつかないことをしたというのに」

「そんな! 取り返しがつかないなんて……」
「ラブ」
 不意に、低くて穏やかな声が、ピーチの言葉を遮った。ピーチの反対隣りから、パッションがそっと少女の肩に手を置く。ビクリと震える肩をそっと撫で、微笑みながら彼女の顔を覗き込む。
「それで、あなたは今、何がしたいの?」
「……」
「取り返しがつくかつかないか、出来るか出来ないかじゃなくて、あなたが今したいことは、何?」
 パッションの顔を見ようともせず、じっと地面を見つめた少女は、そのままの姿勢で、絞り出すような声を上げた。
「私は……この国の人たちの、笑顔を取り戻したい。ずっと大嫌いだったけど……あの脳天気な顔を、もう一度見たい!」

406 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/01/28(月) 22:28:40
「よし! ならば俺たちの目的はひとつだな」
 不意に、少女の後ろから野太い声がした。腕組みをしたウエスターが、振り返った少女にニヤリと笑いかける。そして隣に立っている相棒に、相変わらずの大声で言った。
「サウラー! もう一度、今度はここに居るみんなで力を合わせてやってみるぞ!」
「何をだい?」
「決まってるだろう。“不幸のゲージ”を空にする。そのために」
 ウエスターはそう言いながら腕組みを解き、その太い指で、既に上半身を起こしているソレワターセをビシッと指さす。
「まずはコイツを、元に戻す!」
「ふん、どうせ作戦は、僕が考えるんだろう?」
 口の端を斜めに上げて、まんざらでもない口調で問い返すサウラー。その後ろから走って来た少年が、皆の顔をぐるりと見回した。
「俺も……俺にもやらせてください。お願いします!」
 深々と頭を下げるその姿を見つめてから、せつなは少女の肩を掴んでその顔を上げさせた。
「一人一人の想いが集まれば、大きな力になる。私も、精一杯頑張るわ!」



「あのソレワターセは廃棄物処理空間と、その中にあったデリートホールを取り込んでしまった。だから元あった場所で、あいつを元に戻す必要がある」
 立ち上がろうともがくソレワターセに油断なく目を配りながら、サウラーが早口で語り出す。
「メビウスの城の跡地のことか? ならば、あいつをそこにおびき寄せればいいんだなっ?」
「でも、それは危険すぎるんじゃないかしら」
 ソレワターセとメビウスに聞かせまいと思ったのか、ウエスターが珍しく口元に手を当ててひそひそと囁く。それに答えたのは、パッションの低い声だった。

「あそこは新庁舎に……今、多くの人々が集まっている場所に近いわ。あんなところで戦闘になったら……」
「そっか。確かに危険だよね」
 ピーチが頷き、サウラーは相変わらず怪物から目を離さず、じっと考え込む。と、その時。
「あ、あのぉ……」
 遠慮がちで、自信のなさそうな声が沈黙を破った。

「何だ? 遠慮は要らん、言ってみろ」
 五人の視線が一斉に注がれて、途端に真っ赤になった少年の肩を、ウエスターがポン、と叩く。それに励まされたのか、少年は思い切った様子で口を開いた。
「それって……廃棄物処理空間って、元の場所に戻さなければいけないものなんですか?」

「そりゃあ君、元々メビウスの城の地下に造り付けられていたものだから……」
「待て、サウラー。……おい、もう少し詳しく、お前の考えを説明しろ」
 ウエスターがサウラーの言葉を遮って、少年にさらに声をかける。その言葉に、少年はしどろもどろになりながらも、懸命に言葉を紡ぐ。
「あの、も、もしこの近くに、それが入るだけの……えっと、それを格納できる建物があれば、そこで元に戻すっていうのは……」

「なるほど。今なら廃棄物処理空間の場所を、動かすことも出来るということか。それは考えつかなかったね」
 少し考えてから、サウラーがそう呟くのを聞いて、ウエスターが何故か得意げに胸を張り、少年はふぅっと大きな息を吐く。
「だが、この近くにそんな建物は……」
 すると、サウラーの言葉が終わらないうちに、今度は少女がさっと腕を伸ばした。何も言わずに、さっきまで自分たちが隠れていた廃墟を指さす。まるで巨大な瓦礫の吹き溜まりのように見えるそれは、よく見ると、まだしっかりとした建物の骨組みを保っている。
 サウラーが全員の顔を見渡して、小さく頷く。それを合図に、六人は一斉にばらばらの方角へと散った。



「ソレワターセー!」
「残念ね。あなたにこれは渡せない!」
 起き上がったソレワターセの目の前に立っていたのは、左手を腰に当て、右手にノーザの球根を握り締めたキュアパッションだった。まるで見せつけようとでもするように球根を肩の上まで掲げてから、くるりと踵を返して駆け去ろうとする。

「ソーレー、ワターセー!」
 ソレワターセの鉄球の腕がぐんと伸びてパッションを襲う。避けたと見て、もう一度。さらにもう一度。だが、パッションは時に宙を舞い、時に方向転換しながら、鉄球をことごとく避けていく。
 業を煮やしたソレワターセが、ドスドスと地響きを上げながら、パッションの後を追い始める。それを見て小さく微笑んだパッションが、ぐんと走る速度を上げた。
 負けじとソレワターセもスピードアップする。パッションはちらちらと後ろを振り返りつつ、鉄球が届かないギリギリの距離を保って、ソレワターセを誘導していく。
 やがて、さっき少女が指し示した巨大な廃墟の前に差し掛かった途端、パッションの身体は赤い光を放って消えた。

407 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/01/28(月) 22:29:10
「ソレッ?」
 突然目標を失い、キョロキョロと辺りを見回すソレワターセ。その巨体目がけて、サウラーとウエスター、二つの影が矢のように跳ぶ。
「はぁぁぁぁっ!!」
「ソーレ……ワターセー!」
 肩口を蹴りつけられてよろめいた怪物が、さっき少女に相対した時と同じように、中空にいる二人に向かって腕を伸ばそうとする。

 だがその時、満を持して飛び出した少年と少女が、その腕を一本ずつ掴んで綱引きのように引いた。
 懸命に振りほどこうとするナケワメーケ。ズルズルと引きずられそうになりながら、少年が声を張り上げる。
「頑張れっ! もう……少しだ!」
「いっ……言われなくても……分かっている!」
 少女も歯を食いしばって叫び返す。
 渾身の力で怪物を抑えようとする二人に、着地したウエスターとサウラーが駆け寄る。そして四人で、長い二本の腕を後ろ手に縛りあげた。

「今だ、プリキュア!!!!」
「オッケー!」
「わかった!」
 その声とともに、ピーチとパッションがソレワターセの前に躍り出る。

 ピルンとアカルンがリンクルンから飛び出し、くるくると踊りながら、秘密の鍵へと姿を変える。二人はその鍵でリンクルンを開き、ホイールを回す。
 光と共に現れる、それぞれのアイテム。
 ピーチはそれをくるりと手の中で転がしてから、キラリと光る先端を、ソレワターセに向ける。
 パッションは胸の四つ葉から取り出した、最後にして要のピース、赤いハートを取り付ける。

「届け! 愛のメロディ。キュアスティック・ピーチロッド!」
「歌え! 幸せのラプソディ。パッションハープ!」

 二つのアイテムから、それぞれの音色が響き渡る。

「吹き荒れよ! 幸せの嵐!」

 高く掲げられたハープの周りに、真っ白な羽が出現する。

「悪いの悪いの、飛んで行け!」

 大きくジャンプしたピーチのヒールが、カツンと澄んだ着地音を響かせる。

「プリキュア! ラブ・サンシャイン・フレーッシュ!」
「プリキュア! ハピネス・ハリケーン!」

 ソレワターセに向かって巨大なハート形の光が弾け飛び、赤い旋風がそれを追うように螺旋を描いて飛んでいく。
 ミシリ、と廃墟の扉が軋む。廃墟にもたれかかる格好になったソレワターセを、ピンクと赤の光弾が包み込む。

「はぁ〜〜〜!!」

 アイテムの先端をソレワターセに向け、ピーチとパッションが気合いの籠った声を上げる。少年と少女が、ウエスターとサウラーが、固唾を飲んでそれを見守る。
 だが。

「ソ……レ……ワタ……セェェェ!!」

 ソレワターセの方も、浄化されまいと抵抗する。後ろ手に縛られた身体を何度も廃墟に叩きつけ、ついに腕の拘束を解くと、その勢いのままに二色の光弾を撥ね飛ばした。
 力なく飛び去って行こうとする、ピンクのハートと赤い旋風。だが間髪入れず、ピーチとパッションがアイテムを持つ手に力を籠める。

「まだまだ〜!!」

 再び勢いを取り戻した二色の光が、弧を描いて戻ってくる。すかさず腕を交差してそれを防ごうとするソレワターセ。だが、その行動が裏目に出た。
 ウエスターが右手を、少年が左手を、力自慢の二人がそれぞれ掴み、渾身の力で手繰り寄せる。交差したままの腕を左右に引っ張られたソレワターセが、自らの腕で拘束された格好になったところへ、光弾が再び怪物に命中した。

408 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/01/28(月) 22:29:43
 ボン! と大きな音がして、二色の光弾と赤い旋風がソレワターセを包み込む。
「よしっ!」
 思わず声を上げたウエスターを、少し呆れた顔で眺めるサウラー。少年と少女が顔を見合わせ、どちらからともなく小さく笑い合う。
 だから、誰も気が付かなかった。これまで無表情で一部始終を眺めていたメビウスの瞳が、その瞬間、不気味な赤い光を放ったことに。

「シュワ、シュワ〜!」

 ついにソレワターセが力のない雄叫びを上げた。巨大な身体は霧のように消え失せて、廃墟がズン、と大きく震える。
 だが、パッションはそこで不審げに眉をひそめた。ピーチも硬い表情で、ソレワターセが消えた廃墟から目を離さない。
 ソレワターセを浄化した時に、いつも聞こえるあの音――“パン! パン! パン!”という三つの破裂音が、一向に聞こえてこないのだ。
 やがて、ピンクと赤のハートが消え失せて、二人が警戒しながらそっとアイテムを下ろす。その時、廃墟から何かが飛び出して、ヒュン! と“不幸のゲージ”目がけて飛んだ。

「え、何っ!?」
 呆然と立ち尽くすピーチの隣から、突然パッションがゲージに向かって走り出す。パッションの人並外れた動体視力が捉えたもの――それは、普通なら浄化と同時に弾けて消えるはずの、“ソレワターセの実”だった。

(一体なぜ? なぜ今回に限って、浄化されずに残ってしまったというの!?)

 さっぱり訳が分からぬまま、ただとてつもなく嫌な予感だけが、胸の中で急速に膨らんでいる。
 ピーチが、そしてそれを見ていた四人が、慌ててパッションに続く。だが、パッションはすぐに足を止め、残りの五人も呆然とした表情で立ちすくんだ。

 一直線に飛んだ“ソレワターセの実”が、まるで溶けるように“不幸のゲージ”のガラスに吸い込まれる。すると、たちまち暗緑色の怪しい光が立ち昇り、ゲージがまるで生き物のように、ドクン、ドクン、と脈打ち始めた。

 突然、ゲージの周りに蔦のようなものが絡みつき、ゲージ全体が大きく膨れ上がる。そして光が収まった後に現れたその姿を見た時、ピーチの瞳は大きく見開かれて小刻みに震え、パッションの両の拳は、痛いほどにギュッと握り締められた。

 見忘れるわけがない。薄黄色の液体を湛えたゲージと植物が融合したような不気味な姿――それは以前占い館に乗り込んだとき、館を破壊してプリキュアたちの前に現れたソレワターセの姿そのものだった。

「残念だったな。まだ使いようがあるものを、みすみす無駄にはせぬ」
 現れたモンスターを見下ろしながら、メビウスが満足げな声を出す。だが、その声に答える者は誰も居なかった。

「ソレワターセー!」
 さらにおぞましい雄叫びを上げるソレワターセに、少年と少女が慎重に距離を取る。あの時の、不幸のエネルギーによる強烈な攻撃を思い出して、ピーチとパッションだけでなく、ウエスターとサウラーも厳しい顔つきで身構える。
 だが、そこでソレワターセが、誰もが予想しなかった動きに出た。

 見るからに重そうな巨体が、すぅっと空へと浮かび上がったのだ。その途端、空を覆い尽くさんばかりであったメビウスの姿が、まるで吸い込まれるように、ソレワターセの身体の真ん中にあるゲージの中へと消えた。
 ソレワターセはゆっくりと高度を上げて、あっけに取られてその姿を見つめる六人の頭上を飛び越える。その時、ソレワターセの中からメビウスの高らかな笑い声が響いた。

「フハハハハハ……! 愚か者どもよ。これで我が城に入れば、ラビリンスは再び、完全に私のものだ!」

「まだ……まだまだ、諦めてたまるかぁっ!」

 不意に凛と響いたその声に、全員が驚いて声の主の方へと目をやる。
 少女が、行き過ぎようとする怪物を睨み付け、今にも飛びかからんばかりに身構えている。その燃えるような瞳を見て、パッションの頬に薄っすらと笑みが浮かんだ、その時。

「ん? なんだ……な、なんだ、これはぁっ!」
 突然、メビウスの慌てふためいた声が響き、ソレワターセの身体が、柔らかな光を放ち始めた。

〜終〜

409 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/01/28(月) 22:30:23
以上です。ありがとうございました。
競作までに何とか完結させるべく、頑張ります。。。

410 そらまめ :2019/01/30(水) 22:05:01
こんばんは。投下させて頂きます。
「バイト始めました。」7話目です。
タイトルは、「バイト始めました。なな」です。

411 そらまめ :2019/01/30(水) 22:05:54
こんなことってあるのだろうか。眼の前にはおふくろの味、もとい、家庭の味が所狭しとテーブルに並んでいる。ここは天国か。

心の中で涙を流しながら料理を口に運ぶ。思わず昇天しそうだった。隣からせつなまたピーマン食べてない。だの、ラブだってニンジン残してるじゃない。だの、ふたりとも残さず食べるのよ。だのと団らんの声が聞こえるが最早そんなの関係ねえぐらいな勢いで食べております。人様の家なのに遠慮しないのかよこいつと思われても仕方ないくらいにははしのペースが尋常じゃない。仕方ないよね空腹でどうにかなりそうだったんだから。人間の三大欲求のひとつだから抗うだけ無駄なのですよ。

結論から言うと、あゆみさんまじ神様。

この状況をさくっと説明するなら空腹で倒れそうになっているところにあゆみさんが通りがかり拾ってくれた。って感じ。何度だって言える。あゆみさんまじ神様。

お子さんたちには最初ポカーンってされたけど、連れてきた理由をあゆみさんから聞いてすぐに笑顔で自己紹介してくれました。できたお子さんたちです。自分だったらえって言っちゃうね絶対。

ラブちゃんもせつなちゃんも中学二年だと聞いたけど、今どきの子はスラっとして高身長でびっくりです。自分と身長いい勝負…あれ、おかしいな。


食べに食べたらふくになったので、お礼もかねて片づけのお手伝いを願い出たら、なぜかラブちゃんの勉強をみることになった。なぜだ。言っちゃ悪いが自分はそんな頭よくないですよ。中学生の問題も解けるか怪しい。大学生なんてそんなもんだ。


「この、作者の気持ちになって考えなさいっていう問題の意味が分からなくて…」

「…うん。それは永遠の謎だよね」


作者の気持ちとかわかるわけねーだろ本人じゃないんだから。って思ってたよいつも。出題者は生徒を探偵にでもしたいんですかね。


「まあ、こういう場合は深く考えたらドツボにハマるから必要な情報だけ読んで…」

「ふむふむ…」


なんとか教えることができました。よかった小さなプライドが保てた。

これで一宿一飯の恩じゃないけどお礼はできた。せつなちゃん? いや、あの子頭良さそうだから教えられることなんてないよ。むしろ途中教えてもらったよ。

あれ、プライドどこいった。





そんなことがあった昨日。いやあ、おいしかったなあご飯。人が作るご飯のおいしさを改めて感じて心身リフレッシュできた気分。今ならバイトがきても大丈夫やれる…あ、ちょっとまだ身体が震える。いじめ紛いの暴力を受けてからまだバイトの依頼はきておりません。あっちもちょっと気を使ってくれてるのかな。悪の組織なのに優しいな。なんてお茶をすする昼下がり。いい天気だなあ。




「…ってかんじでおかあさんが連れてきた人とご飯食べて勉強みてもらったんだー」

「へーラブにしては随分と余裕のある連休最終日を過ごしてると思ったらそんなことがあったのね」

「ラブったらその人と休みの宿題全部終わらせるんだもの。自分でやってたら今頃必死に机に向かってたわよ絶対」

「ひどいよせつな! あたしがその人のことしか頼ってないみたいな言い方! せつなにもちゃんと頼るつもりだったよっ!」

「どちらにしろ自分だけでやろうとは思ってなかったんだねラブちゃん…」

「もちろん!」

「得意げに言うんじゃないのっ!」

「あたっ! 美希たんひどいよこれ以上頭が悪くなったらどうするのさ!」

「心配いらないわラブ。もう手遅れよ」

「なにがっ!?」


ラブの部屋で買ってきたドーナツを食べながら談笑する。そうそうこんな平和な昼下がりがアタシ達が望んでいることで…


「…って違うわよ!」

「うわっどうしたの美希たん突然大きな声出して」

「危うく今日集まった当初の目的を忘れるところだったわ」

「集まった目的…? なんだっけせつな?」

「さあ? ブッキーわかる?」

「うーん。こうしてみんなで楽しくおしゃべり?」

「…なんでこうもボケが多いのかしらこのグループ」

「時と場合によると思うわ美希」

「アンタは割といつもボケ要因よせつな」


こほんと咳ばらいをひとつしてから当初の目的について改めて説明する。昼下がりにドーナツ食べてる場合じゃない。

412 そらまめ :2019/01/30(水) 22:06:34
「まず、ナケワメーケがじゃべったのを聞いた人挙手」


はーいというラブを筆頭に全員が手をあげた。


「ってことはアタシの勘違いじゃなさそうね」

「せつなちゃん、ナケワメーケって人格?とかあるの?」

「私がいた時はそんな話聞いたことなかったわ」

「しかもさ、バイトとか言ってたよね。ナケワメーケって短期バイトか何かなの?」

「そんなわけないでしょラブ。そもそもラビリンスにバイトなんてないし、働く先はみんな決められてるもの」

「へー、さすが管理国家ね。無職者がでないなんて理想的」

「その代わり自分のなりたいものにはなれないわよ。まあなりたいものなんてラビリンスでは考える人もいないけれど」


モデル、獣医、ダンス、どれもラビリンスではいらないと捨てられるだろう。とはせつなは言わないけどなんとなくみんな気付いていた。


「なら結局あれは何だったのかしら?」

「ラビリンスが考えた新しいナケワメーケとか?」

「話せるようになったからといって戦闘能力があがったわけでもなかったわ」

「うーん…謎は深まるばかりですな…」

「ラブ…ドーナツ食べながら悩まないで。アホみたいよ」

「美希たんひどいよっ!」




―――――
ついにこの時がやってきてしまった。

そう。眼の前にいるのは四人のあくま…もとい、正義のプリキュア。今回目線が高いので大きさ的にはあっちに勝っているはずなのに、何かの圧を感じてすでに気分は負け越しです。帰りたいです。


「どうしたナケワメーケ! 行けっ!!」

「ぞぉおおおおおんんっ!!」


ドスドスと走る動きと鳴き声から、今日は象なのかなあとぼんやり思いながら視界でチラチラしてる長い鼻を横振りさせてプリキュアに当ててみる。

…なんか鼻がスライム並みの弾力とゴム並みの伸縮性を兼ね備えてて望んでもないのにプリキュアを一網打尽にしてしまった。今すぐ離したい。


「いいぞナケワメーケ! プリキュアをそのまま締め上げてやれっ!!」

「ぞぉおおおおっっ!!!」


大男が上機嫌にそんなことを言いながらはしゃいでいる。

いやまじふざけんな今すぐ離したいわ。触れていたくないんですよこっちは。必死に引き剥がそうとするけど長すぎるがゆえに絡まって自分じゃどうしようもない。とりあえずプリキュアが攻撃してこないように振り回しまくる。


「ぅっ…ヤバい…吐きそう…」

「ちょっとしっかりしてよピーチっ! ってかこんな密着してる時に吐かないでお願いっ」

「ピーチ大丈夫っ?! 酔った時は遠くを見ればいいって言ってたよ!!」

「こんな振り回され方してたらっ…景色も見えないと思うわパインっ!」

「良い子に見せられない画になったらごめんねみんな…」

「ちょっとなに諦めようとしてるのよっ! 気合で何とかしなさいよっ!!」


…なんか最早地獄絵図です。振り回してる自分が言うのもなんだけど大変そうだね。とりあえずピーチは乗り物酔いするタイプなのかな?
「う…もう、限界が…こうなったら…」


ピーチが何かを決めたように右手に持ったもの…それは、恐怖を刻み付けられた例のあれ。


「おらああああっ!!」

「い、いたっ! たっ…や、やめっ…!」

「やっぱりしゃべってるっ!!」


やりやがったよこいつ! スティックで物理攻撃してきやがった。掴んでいる鼻を叩く叩く。思わず声もでちゃいますよそりゃ。

痛みで緩んだ拘束から抜け出したプリキュア達は、目を合わせ頷きあってから各々スティックを手にこちらにやってくる。あ、やばい逃げないとやられる(物理的に)

ダッシュで逃げた。ドスドスとだけど。

413 そらまめ :2019/01/30(水) 22:07:05
「こらナケワメーケ! なに逃げてんだ戦えーっ!」


大男がなんか言ってるが知らん。時には逃げることも大事だって先人が言ってた。


「待ちなさいナケワメーケっ!!」

「逃がすかぁ――!!」

「ゾウさん待ってっ!!」


凶器持ったやつらの言葉なんて誰が聞くかばかやろう。なんて思いながら後ろを見つつ逃げてたら細い路地に頭がハマりました。

あたしってほんとばか…なんて言ってる場合じゃない。後ろ脚に力を入れて挟まれた頭をなんとかとったころには、周囲には悪魔どもが取り囲み退路をたっておりましたまる。

無言でスティックを振りかざし始めたプリキュア達。


「ちょっ、やめ、て、ってっ…」

「なんで喋れるのよナケワメーケっ!」

「いや、知らんしっ…! っいた…!」

「バイトってどーゆーことっ!」

「っ…! たのまれてっ…!」

「頼まれて悪さしてるってことっ?!」

「…っしょうが、ないっ、じゃん…! いっつ…! こっちにも、生活ってもんがっ!」

「あなたが暴れて壊した建物で生活してる人だっているのよっ!!」

「…っ!!」


思わず言葉がつまった。わかってるさそんなこと。言われるまでもなく。でも、こっちだって好きで壊してるわけじゃない。食べるために働かないとお金は入らないし、かといって長時間拘束される普通のバイトはちょっと無理だし。

と、なんか自問自答とか色々してたらだんだんイライラしてきた。大体プリキュアも正義の味方って言うならそれらしい攻撃でこいよ。ビームとかで倒せばいいじゃん?! なんでわざわざ物理攻撃してくるわけ!?


「こっち、だって、言わせてもらうっ、けど、おまえらっ、った、もう、ちょっとっ、正義の、味方らしいっ、攻撃をしろよぉおー―――っっ!!!」


そんな心からの声を発したところで身体から光が溢れ、浄化されました。


危険手当は前回同様多いですが痣も前回同様至る所にあり、身体中が傷だらけで人に見られでもしたらDVを疑われるレベル。一人暮らしだけど。


それにしてもプリキュア達が物理攻撃で会話する能力を身に着けてしまったらしい。あれ次も絶対くるよ。やばいよ。尋問通り越して拷問だよあんなの。そのうち住所と氏名言えよおいとか言ってきそうだよこわいよ。


あーそろそろこのバイトやめようかなあ。プリキュアが言ってたことも正論と言えばそうだしなあ。とか思いながら「退職届の書き方」、「バイトの綺麗な止め方」といったワードで検索を掛けていく。と、しばらくスクロールしてたらこんな文章が飛び込んできた。「君の変わりはいくらでもいるが、だからといって引き継ぎもせずに辞めますとか社会人としてどうなんだよおい。―ブラック会社で辞めますといった時の上司の反応―。そこから始まる泥沼展開。」

そっとブラウザを閉じた。

414 そらまめ :2019/01/30(水) 22:07:41
以上です。ありがとうございます。

415 名無しさん :2019/02/11(月) 13:09:51
>>414

面白かったです。
なんかどんどん可哀想な展開になっていくバイト君……。
彼が救われる日は来るのか? そして、彼がプリキュアの正体を知る日は……!?
続き楽しみに待ってます。

416 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/02/17(日) 21:07:21
こんばんは。
競作に食い込んでしまいましたが、長編の続きを投下させて頂きます。
4レスで多分足りると思います。

417 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/02/17(日) 21:08:04
 それは不思議な光景だった。
 どんよりとした空を、さらに暗く覆う影――“不幸のゲージ”をその身体の真ん中に取り込んだ、巨大な蔦の塊のようなソレワターセが、上空で突然、淡い光を発して苦しみ始めたのだ。
「ソレ……ワターセ……」
「何……馬鹿な!」
 怪物の呻き声と、メビウスの慌てふためいた声が重なる。次の瞬間、ソレワターセの、まるで花のようにも鎌首のようにも見える部分が、白い光を放って消えた。

「これは一体……」
「何? 何が起こってるの!?」
 サウラーが唸るような声で呟き、ピーチが叫ぶように誰にともなく問いかける。と、その時、パッションが不意に人差し指を唇に当て、しぃっ、と皆を制した。

 遠くから、何か物音がしたような気がしたのだ。聞こえるか聞こえないかというほど、微かな音が。
 パッションの直感を後押しするように、音はすぐにそこに居る全員の耳に届き始める。そして少しずつ、少しずつ大きくなっていく。

 何かが硬い地面を、無造作に叩いているような音――。
 足音? だが、それはラビリンスで聞き慣れた、一糸乱れぬ行進のリズムではない。聞こえてくるのはもっとバラバラで、統一感の欠片も無い音だ。
 やがて地面からも、僅かながら確かな振動が感じられるようになった時、少年が一方向を指差して、大声で叫んだ。

「何だ? あれ!」

 黒々とした街の向こうから、何か白い波のようなものが押し寄せてくる。
 いや、波よりは遅いスピードながら、こちらに向かう勢いのようなものを感じさせる何かが。
 やがて、その正体に気付いた時、そこに居た全員が、驚きに言葉を失った。

 押し寄せる白い波の正体――それは、グレーの国民服に身を包み、それぞれに違う淡い色の髪をなびかせて走る、数えきれないほど多くのラビリンスの人々の姿だった。



   幸せは、赤き瞳の中に ( 第18話:幸せのラプソディ )



 六人の中で最初に声を発し、そして動いたのはウエスターだった。ああっ、と叫んで目をウルウルさせ、人々の群れに向かって走り出す。
 慌てて少年がその後を追う。二人の後ろ姿を見送ってから、サウラーは隣に立つピーチの方に向き直った。
「礼を言うよ。どうやら、また君たちプリキュアの戦う姿に気付かされたようだね」
 いつになく頬を紅潮させたサウラーの言葉に、ピーチはニコリと笑ってゆっくりと首を横に振り、人々の方に目を移す。

 そこには、人々の先頭を切って駆けてきた警察組織の若者たちが、ウエスターに駆け寄る姿があった。バシン、バシン、と辺りに響くような音で肩を叩かれ、皆少し照れ臭そうな笑みを浮かべている。
 続いてやって来たのは新政府のメンバーたちで、こちらは恐縮しきりの表情でサウラーの元へと駆け寄ると、深々と頭を下げた。

「サウラーさんたちが、この国のために懸命に戦ってくれている――その姿を見て、私たちも目が覚めました」
「僕たちの力は小さい。かえって足手まといになるかもしれない。でも、僕たちもこの国を――僕たちの国を守りたい。そう思ったんです」
「みんな……」

 サウラーが、珍しく感極まった様子で何かを言いかける。と、その時、サウラーの周りに居た人たちが、ピーチとパッションの姿に気付いて驚きの声を上げた。
「えっ、プリキュア!?」
「せつなさん、もう一度プリキュアになってくれたんですか!?」
「ピーチさんも駆け付けてくれるなんて!」

 あっという間にその場に居た全員が、サウラーそっちのけでパッションとピーチを取り囲む。
 あっけにとられてその様子を眺めるサウラーに、ピーチがもう一度ニコリと微笑む。
 それを見て、サウラーもいつもの調子に戻った。ピーチに向かってニヤリと笑い、すぐにゴホンと、わざとらしく咳払いをする。

「しかし分からないな……。あなたたちはどこで僕たちが戦っている姿を目にしたんです? その頃、みんなはあの――新庁舎だった建物に居たはずでは……」
 それを聞いた人たちは、少しバツが悪そうに顔を見合わせた。
「確かに、私たちはメビウスに管理され、あの建物に集まっていました。ですが……」
「そう……あれは突然のことでした。室内の全てのモニターに突然、皆さんの戦う姿が映し出されたんです」

418 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/02/17(日) 21:08:43
 人々は口々に語る。皆が集まっていた新庁舎内部の巨大スクリーンに、突如、外の戦闘のシーンが映し出されたことを。
 最初は“不幸のゲージ”と、それに立ち向かおうとするホホエミーナの映像だった。だがすぐに画面が切り替わり、次に大映しになったのは、ウエスターとサウラー、そしてせつなの戦う姿であったことを――。

「何だか目が離せなくて、見ているうちに、胸の中がカッと熱くなってきて……」
「それで思い出したんです。廃墟に隠れて皆さんが戦う姿を見ていた時、私たちにも何か出来ることは無いかって、みんなで考えたあの時の気持ちを」

「そっか。それでみんな、戻って来てくれたんだね」
「でも、一体誰がそんな映像を……」
 泣き笑いのような表情で人々を見回すピーチとパッションの隣で、サウラーが大きな疑問を口にする。と、その時三人の後ろから、新たな声が聞こえて来た。

「おお……見てくれていた。本当に、皆が見てくれていたんだな……!」

 震える声でそう呟きながら、よろよろとこちらへ向かって来る人物。その姿を見たサウラーが、パッと顔を輝かせてその人物に駆け寄る。
 それは、さっきまで共にソレワターセと戦ってくれた人物。公園予定地の奥の畑を世話している、あの老人だった。いつの間にか現れた少女が彼に肩を貸し、その身体を支えている。

「もしかして……あなたがモニターのスイッチを入れたんですか?」
 サウラーの問いかけに、老人は小さな笑みを浮かべて頷いた。その反応は、相変わらず控えめではあるものの、その表情は今まで見た中で一番楽しそうで、少し得意そうにすら見える。

「じゃあ、あの時あなたが、メビウスに管理されたように見えていたのは……」
「メビウスが復活すれば、私たちが元通り管理されるのは目に見えていた」
 老人が、相変わらず低くしわがれた声で言葉を繋ぐ。
「無力な私に、それに抵抗する術はない。だが、復活したばかりの今なら、システムはきっとまだ完全ではないだろうと思った。それで一か八か、管理されたフリをして、新たな城に潜り込んだ。まさか……こんなに上手く行くとは思っていなかったが」

 老人はそう言って、うっすらと上気した顔で辺りを見回す。そしてピーチの姿を見つけると、少し照れ臭そうに微笑んだ。
「何とかしたいって想いは、強い力になる……本当だな」
「おじいちゃん……ありがとう!」
 ピーチが老人の手を取って、実に嬉しそうに笑いかけた、その時。

「危ない!」
 パッションが鋭く叫ぶが早いか、サッと空へと跳び上がった。見ると、白く光る大きな塊が、上空から老人めがけて落下してくる。
「はぁぁぁっ!」
 パッションが鋭い蹴りで、その塊を上空へと蹴り飛ばす。塊は上空で粉々に砕けると、小さな光の粒になって消えた。

 着地したパッションの隣にピーチが駆け寄る。ウエスターとサウラーが、少年と少女が、皆油断なく身構えながら空を見上げる。
 人々の遥か頭上では、さっきよりも少し小さくなったソレワターセが、相変わらず苦しそうに身悶えていた。“不幸のゲージ”はボコボコと泡立ち始め、ソレワターセの身体は、白い光と共に少しずつ消えていく。
 だがその時、ソレワターセから切り離された巨大な蔦が、さっきパッションが蹴り返したものと同じような、白く光る塊となった。そして消える間もなく、地面めがけて迫って来る。

「おりゃあっ!」
 拳を振るってそれを空へと弾き返したウエスターが、少年を含めた警察組織の若者たちを、厳しい顔つきで振り返る。
「このままでは危険だ。お前たち、住人たちを廃墟の中へ避難させろ!」
「はい!!」
「ほら、お前も来い!」
 走り出した仲間たちの後に続きながら、少年が少女に呼びかける。少女は少し逡巡してから、意を決したように、少年を追って走り出した。

 一斉に散ったウエスターと若者たちが、人々を誘導して移動を開始する。その後ろ姿を見送ってから、サウラーは残りのメンバーの顔を見渡した。
「そうなると、避難が完了するまでの間、僕らはここで皆を守ればいいわけだね」
 ピーチとパッションが、うん、と頷いたところへ、今度は一挙にバラバラと、幾つもの白い塊が降って来た。

「はぁっ!」
「たぁっ!」
「とりゃぁっ!」

 空中へ飛び上がった二人のプリキュアとサウラーが、切り離されたソレワターセの欠片を上空高く弾き返す。それらが全て、さあっと空に溶けるように消え失せたが、ホッと息を付く間もなく、これまでより大きな塊が、人々の列めがけて降って来た。

419 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/02/17(日) 21:09:15
「キャー!」
 列の中に居た小さな女の子が、頭を抱えてしゃがみ込む。その時、彼らを誘導していた少女が、即座に空中へと踊り上がった。
「たぁぁっ!!」
 白い塊を抱き留めると、渾身の力で、それを空へと投げ返す。上空で白く光って消える塊。それを見定めてホッと息を付く少女に、さっき悲鳴を上げた女の子が嬉しそうに駆け寄って来た。

「おねえちゃん、ありがとう! すっごく、つよいんだね」
「い、いや、私はそんな……」
 赤い顔でそっぽを向く少女の周りを、他の住人たちも取り囲んで口々にお礼を言う。
 その様子を微笑みながら眺めていたパッションは、ふとあることに気付いて、避難している人々の姿を食い入るように見つめた。その目が次第に、驚いたように大きく見開かれていく。

 不安そうに空を見上げる幼い子供たちを、体を盾のようにして庇いながら、避難に向かう大人たちがいる。皆が避難した廃墟を補強しようと、早速作業を始めている男たちが居る。
 そして――。

「頑張れ! プリキュア、頑張れえ!」
「おねえちゃん、がんばって!」
「ウエスターさん! サウラーさん! しっかり!」
「警察の兄ちゃんたちも、頼んだぞ!」

 避難所となった廃墟の窓から、扉の向こうから、数多くの人たちの声援が聞こえ始める。いや、応援されているのはパッションたちだけではない。
 まだ避難所に向かう途中の人たちは、お互いを励まし合い、避難所に入った人たちは、作業をしている人たちに感謝の言葉をかけている。

 それは、非常事態でありながらも活気に満ちた、これまでのラビリンスでは見たことも無い光景だった。
 決して統制が取れているわけではない。各人の行動には無駄が多く、応援の声もてんでバラバラで、細かいところは何を言っているのかも聞き取れない。
 それでも、応援の声を聞いていると、体中に力がみなぎって来るのを感じる。人々の真剣な眼差しに、これまでの何倍も強い光が宿っているように思える。

――ラブソディ。

 そんな言葉が、不意に脳裏に浮かんだ。「歌え! 幸せのラプソディ」――キュアパッションの決め台詞のひとつだ。
 ラプソディの意味は「狂詩曲」。即興性に富んだ、自由で情熱的な楽曲のことらしい。でもそれだけではよく分からなくて、複数の辞書を調べたり、学校の音楽の先生に教わって、その名前が付いた曲を聴いてみたりもした。それでもどうもイメージが掴めなかったのだが、今の光景を見ていると、何だかこの言葉にぴったりのような気がしてきた。

 皆がそれぞれ自分の意志で、自分に出来ることを懸命に行ったり、仲間のことを応援したり――。
 その光景は、自由に、そして情熱的に奏でられるそれぞれの楽器の音が、時に寄り添い、時に共鳴し合いながら、壮大な物語のようなメロディを奏でていくイメージにぴったりで――。

(本当に、ここは……)

 いつかのようにそう思いかけてから、パッションは静かに首を横に振る。

(ううん。ここは、今の本当のラビリンス。これからもっともっと変わっていくラビリンスの、今の姿よ)

 そこで表情を引き締めたパッションが、もう一度空を見つめる。もうほとんど剥き出しに近い状態になった“不幸のゲージ”。その中から、かつて聞いたことの無いような、メビウスの狼狽えた声が聞こえてくる。
「何だ……何なんだ、これは!」
「パッション。あれって……」

 ピーチもパッションの隣に降り立って、彼女と同じように、心配そうな顔で空を見上げた。
 “不幸のゲージ”の中にあった薄黄色の液体は、今ではすっかり色が変わり、ぼうっと輝く透明な液体に変わっている。その輝きに、パッションは見覚えがあるような気がした。
 キュアパッションに変身するとき、せつなが水中を進むあの泉。無限メモリーが開く異次元に出現する泉だが、その水の輝きと、同じもののような気がする。
「不幸のエネルギーが、違う何かに変わっている。ひょっとしてあれは……幸せのエネルギー?」
 その時、再びメビウスの絞り出すような声が聞こえた。

「何だ、これは……知らない……こんなもの、私のデータには存在しない!」
 その声を聞いた途端、パッションの胸に、正体の分からない熱い何かがこみ上げてきた。あの時伝えられなかった想いが、再び胸の中で渦を巻く。

420 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/02/17(日) 21:09:47
「メビウス様!」
 瞬時に大地を蹴って、ゲージ目がけて跳び上がるパッション。だが。
「来るな!」
 雷のような声と共に、ソレワターセが衝撃波を放った。どーん、という地響きと土煙と共に、パッションの身体が地面に叩きつけられる。
「メビウス様! どうか話を……私の話を、聞いて下さい!」
 すぐに跳ね起き、上空に向かって必死で呼びかけるパッション。その肩を優しく叩いたのは、ピーチだった。

「せつな。その想い、みんなでメビウスに届けようよ!」
「みんなで……?」
 オウム返しで聞き返すパッションに、ピーチが笑顔で頷く。その周りには、ウエスターとサウラー、それに人々を避難させて戻って来た少年と少女の姿もあった。

「あたしもね。メビウスにちゃんと伝えられなかったこと、あるんだ」
 そう言って、ピーチが心なしか寂しそうな笑顔を、パッションに向ける。

――メビウス、あなたの幸せは何?

 あの最終決戦の時、メビウスにそう呼びかけた、ピーチの声が蘇った。
「そんなものはプログラムされていない」
 その答えを最後に、メビウスは自爆の道を選んだのだ。

「今思えばさ、あたし、メビウスの幸せが何かを聞きたかったんじゃないの。メビウスに考えて欲しかった。そして、知って欲しかったの。あなたが守り続けて来たラビリンスの人たちの幸せが、きっとあなたの幸せだって。でも……」
「ラブ」
 うなだれるピーチの手を、パッションの手が優しく包む。それを見て、フッと小さく微笑んだウエスターが、よし! と叫んで自慢の大声を張り上げた。

「みんな! メビウスに俺たちの想いを伝えるぞ!」
「想いって……何を伝えるんですか?」
 警察組織の若者の一人が、首を傾げて無邪気な質問を投げかける。
「何を? う、う〜む、それは……伝えたいことだっ!」
 一瞬目を白黒させてから、ビシッ! と人差し指を立てて見せるウエスターの言葉に、しかし辺りは、しーんと静まり返った……。
「……詳しいことは何も考えていなかったね? ウエスター」
 額に手を当て、やれやれ、と呆れたように呟くサウラー。が、その時さざ波のように巻き起こった人々の声が、ウエスターの言葉を支えた。

「メビウスに? いや、もう命令に従うのはごめんだ。俺たちは、新しいラビリンスを作る!」
「ああ。みんなで笑って、幸せに暮らせる国を」
「だが、事件や事故への備えはもっと必要だな。今回のことでよく分かったよ」
「そういう意味では、メビウスに感謝しなきゃならんのか? その気持ちを伝えろってことか?」
「そうかもな。でもこれからは、全部俺たちでやるんだ」
「おお! 体力は無いが、機械のことなら俺に任せろ」
「私は、もっと大勢の人たちと料理を作りたいわ。みんなでハンバーグを作ったお料理教室、とても楽しかったから」
「僕は、前に映像で見た異世界みたいな、明るくていろんな色に溢れている街をつくりたいです」

「そうだ! その決意、その想いを、共に願おう! メビウスに、宣言してやればいい。新しいラビリンスで、俺たちが作りたい未来の姿を!」
 途端に元気を盛り返してそう言い放ったウエスターが、胸の前で太い指を組み、頭を垂れる。それを見て小さくほくそ笑んでから、サウラーも続いた。

 少年が、少女が、ラビリンスの人たちが、そしてピーチとパッションが、皆一様に目を閉じて、それぞれ一心に何事かを願う。
 まだ不確かな未来。何が待っているか分からない未来。でも、自分の足で歩いていきたいと、想いを新たにする。
 やがて一人一人の胸の前に、小さなハート型の光が出現した。

「ハッ!」
 ピーチが短い気合いを発して、無数のハートをひとつにする。
 中空に浮かび上がる、透明でキラキラと光を放つ大きなハート。それを愛おしそうに見つめてから、ピーチはパッションに小さく頷いてみせた。

「プリキュア! ラビング・トゥルー・ハート!」

 ピーチの高らかな声と同時に、パッションが宙を舞う。そして、打ち出された皆の本当の想い――トゥルー・ハートの真ん中に飛び乗ると、天空のメビウスを目指して、高く高く、ただ一直線に飛んで行った。

〜終〜

421 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/02/17(日) 21:10:41
以上です。ありがとうございました。
次回が最終回の予定です。

422 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/03/09(土) 17:56:10
こんばんは。
競作に食い込み過ぎですが(汗)、フレッシュ長編「幸せは、赤き瞳の中に」最終話を投下させて頂きます。
ちょっと長くなりました。8レスで収まると思います。

423 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/03/09(土) 17:56:40
 ラビリンスの灰色の空を飛んでいく、白く輝く光のハート。その真ん中に立つパッションが見つめる先には、“不幸のゲージ”と、その中に居るかつてのラビリンス総統・メビウスの姿がある。
 ゲージを取り込んだソレワターセの身体は、今やただ一本の蔦が、ゲージに螺旋状に巻き付いて、辛うじて残っている状態だ。その中にあって、メビウスは大いに混乱していた。

 突然制御不能になった“不幸のエネルギー”が、内側からソレワターセを蝕んでいく。眼下に目をやれば、再び管理したはずの国民たちはまたも自我を取り戻し、プリキュアどもやウエスター、サウラーの元へと向かっている。

「一体……何が起こっているというのだ……!」
 そう呟くと同時に、その答えを自分が知っていることに気付く。ゲージの中に満ちている、今まで感知したことのない気配――それは、自らのプログラムと管理した国民たちのデータの媒体となっているはずの“不幸のエネルギー”が、何か別の物に変質していることを意味していた。
 ウィルスか? そんなものが入り込むことなど、普通ならあり得ない。だが、まだ堅固な“器”を得られていない今、そして自分に歯向かうプリキュアや元・幹部たちが存在する今、考えられない話ではない。
 今の状態では、これ以上の分析は不可能だ。が、唯一はっきりしていること。それは……。
「私の計画は、またも失敗に終わるということか……」
 表情ひとつ変えずにそう呟いてから、メビウスはすぐさま次の行動を決定した。

「是非もない。消滅プログラムを作動する」

 目的達成のために動くことが不可能になった者は、消去せしめる――メビウスが人間に代わってこの世界を支配すると決めた時に、打ち立てたルールのひとつ。それは対象が人間であろうと、自分自身であろうと変わらない。
 “不幸のエネルギー”が変質した物の正体が何か分からないので、影響が極力少ないよう、遥か上空で消滅プログラムを作動させると決めた。それと同時に、頼りなげに上昇を続けていたソレワターセが一気に加速する。

 ゲージの中で、メビウスは静かに目を閉じる。
 やはり、先のプリキュアとの戦いのデータが欠落していたことが、失敗の一因だったのだろうか。
 手に入れられなかったノーザの本体には、まだバックアップが残されている。もしノーザが蘇るようなことがあれば、自分の再度の復活もあり得るのだろうか。果たしてその確率はどの程度なのだろう……。
 そこまで思考したところで、メビウスがカッと目を見開く。またしても想定外のもの――自分を追ってくる人間の姿が、その瞳に映った。



 心なしか、急にスピードを上げたように見えるソレワターセ。その後を追うパッションの視線は、ずっと“不幸のゲージ”に注がれていた。その中に映し出されたメビウスの顔は、さっきからずっとギュッと目を閉じ、何だか震えているように見える。

「メビウス様……」
 パッションが小さく呟く。すると、まるでその声が聞こえたかのように、メビウスの両目がカッと見開かれた。眉を吊り上げ、眉間に皺を寄せた恐ろしい形相で、パッションを睨み付ける。

 パッションが息を呑み、やがてすぅっと細く、震える息を吐き出す。
 かつてのラビリンスの国民なら――そしてメビウスの僕・イースであった頃の自分なら、今のメビウスの表情を一目見ただけで恐ろしさに平伏し、顔を上げられなかったに違いない。
 現に今だって、身体が震えるほどに恐ろしい。だが、パッションはギュッと拳を握って、メビウスの顔を見つめ続ける。
 死んでも目を離すものかと思った。一刻も早く追いついて、あの時伝えられなかった自分の想い、ラブの想い、そして新たな未来を歩いていこうとしているラビリンスの人たちの想いを、何としても伝えたい。

「来るなと言っているのが、わからんのかぁっ!」
 怒声と共に、再び衝撃波がパッションを襲った。今度は光のハートがそれを受け止め、撥ね返す。
 パッションが思わず叫び声を飲み込んだ。ソレワターセの螺旋状の身体は、己の力をまともに食らって、その真ん中がブツリと断ち切れてしまったのだ。

 ラビリンスの上空で、ゆっくりと傾き始める“不幸のゲージ”。それを見るや否や、パッションは弾丸のように空へ飛び出した。空中ですぐにその姿は掻き消えて、次の瞬間、ゲージの目の前にその姿が現れる。

「メビウス様!」

 叫ぶと同時に、大きく両腕を広げてゲージを抱きかかえるパッション。その時、彼女の後ろから飛んできた光のハートがパッションとゲージの両方を包み込んで――気付いた時には、パッションはほの白く光る世界で、かつて対峙した時と同じ姿のメビウスと向かい合っていた。

424 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/03/09(土) 17:57:49


   幸せは、赤き瞳の中に ( 第19話:瞳の中の幸せ )



「メビウス様……」
「何の真似だ。私の道連れにでもなるつもりか」
 僧衣のような衣装を身にまとった姿のメビウスが、パッションを見据え、重々しく口を開く。
「私の計画は、またしても失敗に終わった。“不幸のエネルギー”が突然制御不能となり、人間たちの管理が解かれてしまったのだ。もはや“不幸のゲージ”を残しておいても、害にしかならぬ。ならば……」
「いいえ、メビウス様」

 自分の言葉を遮り、一歩前に進み出たパッションを、メビウスは相変わらず鋭い眼差しで見つめる。
 以前、ハピネス・ハリケーンの光の中で向かい合った、作り物のメビウスとは全然違う――ふとそんなことを思った。あの時のメビウスは虚ろな目をして、自分と一度も目を合わせてはくれなかった……。そんなことを思い出しながら、パッションは穏やかな声で語りかける。
「それはもう“不幸のエネルギー”ではありません。ラビリンスの人たちの、未来への希望や仲間を信じる心、そして互いに手を取り合おうとする愛の力が生み出した、“幸せのエネルギー”です」

「幸せの……エネルギーだと? 馬鹿な。ラビリンスの国民たちが、私の管理を断ち切って、不確かな幸せを求めたというのか!」
 メビウスの目が、驚きに見開かれる。が、見る見るうちにその表情が変わった。眉間に深い皺が刻まれ、忌々し気な顔付きになったメビウスが、パッションを眼光鋭くねめつける。
「プリキュアのせいか。プリキュアがまたしても、このラビリンスを変えたというのか!」
「いいえ。みんなの目を覚まさせたのは、ラビリンスの人間です。ウエスターやサウラー、それに警察組織の若者たち。みんながこの国のために懸命に戦う姿を見て、自分たちも何かしたいと思ったのです」
 メビウスの言葉に静かにかぶりを振ったパッションが、誇らしげな顔できっぱりと言い切る。
「人と人とが手を取り合い、共に生きるということ。そこから生まれる幸せという感情は、人が生きていくために大切なもの。それは四つ葉町の人たちも、ラビリンスの人たちも同じです」
「愚か者めが!」
 メビウスの激しい憤りの声が、パッションに投げつけられた。

「幸せだと? 私はお前たちに教えたはずだ。幸せと不幸は隣り合わせ。いや、表と裏と言っても良い。だから、幸せがあるところには必ず不幸がある。そんなものがあれば、悲しみも争いも不幸も無い世界など、作れはしないのだ!」
「確かに」
 パッションも負けじと声を張り上げる。
「悲しみも争いも不幸も無い世界は、穏やかで生きやすい。でも、そのことをラビリンスの国民が知ったのは、今回のことがあったからです。悲しみと争いと不幸を経験して初めて、私たちは長い間、あなたに守られてきたのだということを知った。それと同時に、共に手を取り合う喜びと、大切さを知ったのです」
「いや、違う……お前たちは、何も分かってはおらぬ!」

 カッと見開かれたメビウスの目の中で、瞳が小さく、小刻みに震える。
「幸せなどという不確かなものを求めて、お前たち人間は争い、傷付け合って、悲しみと不幸を生み出してきた。そんな愚かな歴史が、長い年月、数え切れないほど繰り返されてきたのだ」
 メビウスの白い僧衣がたなびき始めた。メビウスの身体から煙のようなものが立ち昇り、強風となってパッションの方へ吹き付ける。その圧力に思わず後ずさりそうになって、パッションは愕然とした。
 それは、あの占い館の跡地で対峙したソレワターセから溢れ出したのと同じもの――強烈な“不幸のエネルギー”の奔流だった。

(一体何故!? ゲージの中の“不幸のエネルギー”は、確かに“幸せのエネルギー”に変わったはず……!)

 動揺しながら、パッションは十字受けの体勢で必死に耐える。
「そんなかつての山のような災厄の記録は、私の中にデータとしてインプットされている。私はそこから学習した。だが、完全な対策を立てても、人間はその通りには実行しない。必ず誰かの幸せを優先し、やがては誰かが不幸になる道を選ぶのだ。そのたびに、私は学習を繰り返した」

(そうか……これは、メビウス様の中に刻まれた、“不幸の記録”のエネルギーなんだわ)

425 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/03/09(土) 17:58:21

 そう認識した途端、かつてのラビリンスの光景が、まるで数倍速の映像を見せられているようにパッションの中に流れ込んできた。既にこの国の人間たちには忘れ去られたはずの、過ぎ去った時代の争いの記憶、悲しみと不幸の記憶が。
 人々が嘆き悲しむ声。戦いに疲れ、表情をなくした戦士たち。人と人とが互いに争い、ののしり合う醜く歪んだ表情――。

 声も出せず、押し寄せる負の力に、ただ必死で耐えるパッション。その身体は、ずるずると少しずつ後退していく。
「こんな愚かな生き物に、この世界を任せておくわけにはいかない――学習と思考を繰り返した結果、私はそういう結論に達した。全て私が支配し、悲しみも争いも不幸も無い世界を作ることにしたのだ!」
「キャー!」

 ついに風圧に負けて、パッションの身体が宙に浮く。強風に吹き飛ばされて、パッションが思わずギュッと目をつぶった、その時。

――せつな!

 固く閉じられたまぶたの裏に、パッと浮かび上がったもの。それは、まるで花が咲いたような、ラブの笑顔だった。
 続いて美希と祈里の顔が、その隣に並ぶ。あゆみと圭太郎、ミユキさん、カオルちゃん、学校の友人たち、商店街の人たち。四つ葉町で出会った数多くの人たちの笑顔が、次々と浮かぶ。そして、ウエスターとサウラー、少年と少女ら警察組織の若者たち、野菜畑の老人、ついさっき目にしたラビリンスの人たちの笑顔も、それに重なった。
 その中に、せつな自身の姿は無い。でも彼らを見れば、その眼差しが向けられている――愛されている自分の姿が、はっきりと浮かび上がって来る。

(そう……これが私の幸せの姿。いつだって私の瞳の中にあって、私自身の幸せを映し出すもの)

 吹き飛ばされた身体が、柔らかくどっしりとしたものに受け止められる。それは、さっきよりも輝きを増した光のハートだった。
 ハートの光越しに眼下を眺めれば、人々が必死で想いを届けようとしているのが小さく見える。

(愛しい人たち。愛しい世界。たとえ私が、また間違いを犯しても、悲しみに沈む日も、不幸な時も、決して消えることはない。そしてそれは、メビウス様が作ったラビリンスには……)

 こちらを見上げる一人一人の胸元に、さらに小さなハート型のきらめきが見えるような気がした。と、その時。

「キー!」
 白く輝く姿に変わったアカルンが飛んできて、パッションの目の前で嬉しそうに飛び跳ねた。
「そうね。今度は私の番。みんなの想い、そして私の想い、メビウス様に届けてみせる!」

「チェインジ・プリキュア! ビートアーップ!」

 アカルンがパッションの中に飛び込んで、今再び、変身の儀式が始まる。
 胸の四つ葉に加わった白いハートは、愛する世界の、愛する仲間たちの心。
 背中の大きな白い翼は、その心を未来へ運ぶ、約束の印――。

「ホワイトハートはみんなの心。はばたけフレッシュ! キュアエンジェル!」

 強風に桃色の髪を煽られながら、軽やかに舞い降りる天の使い――キュアエンジェル・パッションの降臨だった。

「愚かな。これだけ言ってもまだ分からないのか。幸せなどを求めれば、悲しみも争いも不幸も無い世界など、作れはしない!」
 メビウスの眉間の皺が深くなる。勢いを増す“不幸のエネルギー”。だが、そんな強風をものともしない、凛とした声が響く。

「それなら、あなたは何のためにそんな世界を作ろうとしたのですか?」
 パッションが、キラリと輝く赤い瞳で真っ直ぐにメビウスを見つめる。
「ラビリンスの科学者は、無秩序な世界を統制するために私を作ったのだ。悲しみも、争いも、不幸も無い世界を作るために」
「何故彼らがそんな世界を作ろうとしたのか。それはご存知ですか?」
「決まっている。それこそが正しい世界だからだ!」
「その、先は?」
「……何だと?」

 小首を傾げるような、可愛らしい仕草で問いかけるパッション。だが、そこでメビウスは言葉に詰まった。それを見て、パッションの目つきがフッと柔らかくなる。
「正しい世界を作って、彼らは何をしたかったのか。彼らはきっと、ラビリンスの人たち全員を幸せにしたくて、あなたを作った。その想いもまた、あなたの中に刻まれているはずです」
 そう言って、慈愛を湛えた眼差しでメビウスを見つめてから、パッションの身体は軽やかに宙を舞った。

426 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/03/09(土) 17:58:53
 アカルンがリンクルンから飛び出して、くるくると踊るように秘密の鍵へと姿を変える。その鍵でリンクルンを開き、ホイールを回す。
 光とともに現れるアイテム。胸の五つ葉から取り出した、最後にして要のピース、赤いハートを先端部に取り付ける。

「歌え! 幸せのラプソディ。パッション・ハープ!」

 目を閉じて四本の弦を弾き、その豊かな音色に耳を傾ける。

「吹き荒れよ! 幸せの嵐!」

 高く掲げられたハープの周りに、真っ白な羽が出現する。

「プリキュア! ハピネス・ハリケーン!」

 ハープを手に、パッションが回転する。疾(はや)く、鋭く、美しく。巻き起こす赤い旋風に、自分の想いとみんなの想い、その熱き心の全てを乗せて。
 赤い旋風は、“不幸のエネルギー”が起こした暴風とぶつかり合い、白い羽と赤いハートの光弾が、旋風に乗って激しく舞い踊る。

「はぁ〜〜〜!」

 続いて生まれた大きなハートのエネルギー弾が、強風を押し返す。やがて旋風がメビウスを包み込んだ時、まさにメビウスが誕生する直前のラビリンスの光景が、メビウスとパッションの目の前に蘇った――。



 広く天井の高い部屋の真ん中に置かれた、数多くのコードが繋がれた巨大な球体。
 その周りを取り囲んでいるのは、年齢も性別もバラバラの、十名ほどの科学者たち。
 誰もが皆、目を輝かせて、誕生間近の国家管理用コンピュータを見つめている。

「どうだ、順調か?」
「はい。あと少しで最終チェックが完了します」
「そうか。それが終われば、いよいよテスト稼働だ。みんな、ここまでよく頑張ってくれた」
 科学者のリーダーらしき人物が、仲間たちにねぎらいの言葉をかける。
 その時、一人の若い科学者が、口を開いた。

「ところでリーダー。このコンピュータの名前は、どうしますか?」
「名前? そうだな……」
 しばらく考えてから、リーダーが小さく頷いて、手近のキーボードを叩く。
 ディスプレイに映し出された文字。それは……。

「……メビウス? “メビウスの輪”の、メビウスですか?」
「ああ。裏も表も無い、永遠に続く幸せの象徴。どうだ?」
 ディスプレイを覗き込んでいた科学者たちが、皆笑顔で顔を見合わせ、一斉に頷く。
「いいですね!」
「ええ、僕も気に入りました」

 仲間たちの笑顔を、リーダーも笑顔で嬉しそうに見つめる。
 そして稼働間近の巨大な球体に手を当てると、祈るように目を閉じ、こう呟いた。
「メビウス。どうか私たちを、悲しみも争いも不幸も無い、皆が笑って暮らせる未来へと、導いてくれ」



「これが私を生み出した人間たちの想い……。こんな不確かで、不完全な想いから生まれたものを、正しい世界だと認識していたというのか……。私にプログラムされたゴールまでもが、不完全だったというのか!」
 震える声でそう言い放ったメビウスの身体が、ぐらりと揺らぐ。瞬時に駆け付けたパッションがしっかりとその手を掴むと、“不幸のエネルギー”の暴風は影を潜めた。

「メビウス様。正しい世界なんて、私たちには必要なかったんです。悲しみも争いも不幸も、全て消してしまっては、喜びも思いやりも幸せも得られない。それでは、私たちは何のために生まれ、何のために生きているのか分かりません」
「だったらどうする」
 呟くようなメビウスの問いかけに、パッションは小さく微笑んだ。

「消すのではなく、乗り越えるのです。私たち、みんなで。悲しみも苦しみも不幸も、みんなで力を合わせて乗り越えて、みんなで幸せを経験する。そうやって精一杯生きる。それが人間の素晴らしさだと、私はラビリンスを出て教わりました」

427 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/03/09(土) 17:59:28
 メビウスの瞳の中に、自分の姿が映っている。キュアエンジェル――この姿もまた、ラビリンスの人々を含めたみんなの力が無ければ、得られなかった姿。
 その想いを噛みしめながら、パッションはメビウスの瞳を真っ直ぐに見つめて語りかける。

「一人一人の力は小さくても、そうやってみんなで力を合わせて歩んで行けば、ほんの少しずつでも、世界は変えられる。私たちも、前へ進んで行ける。時々後ずさったり、回り道をしたりするかもしれない。けれど、そうやって自分たちの足で歩いていく未来を、私たちは選びたいのです」

「愚かな。人間の手に負えないような、大きな不幸も世の中にはある。不完全な人間が、愚かな選択で作り出す悲しみも山ほどある。それでもお前たちは、その悲しみや不幸を引き受けるというのか」
「はい。それを乗り越えて幸せになるために、私たちは生きている――私にも、やっとそれが分かりました」

 それを聞いて、メビウスは何かを考えるように目を閉じた。そのまましばらく沈黙してから、目を閉じたまま、口を開く。

「では聞こう。一人一人の力は小さくても、それが集まれば大きな力になると言ったな。だが、そもそも人間に、小さくともそんな力はあるのか? どんな力で、それらの大きな困難に立ち向かえるというのだ」

 そこでパッションも、静かに目を閉じる。まぶたの裏に浮かび上がったのは、三人の仲間たちの姿。
 パッションの口元に、自然に小さな笑みが浮かぶ。目を開けると、その微笑みのままに、彼女は愛し気に言葉を紡いだ。

「私たちには、互いを思いやる愛と、互いの未来へ抱く希望、そして互いの幸せを祈る心があります」

「愛、希望、祈り。そして幸せか。全て私が下らないと切り捨てて来たものばかりだな。そんなもので、本当に私のプログラムのその先を、作ろうというのか」
 そう言いながら、メビウスがゆっくりと目を開ける。その目の前に、パッションは静かに右手を差し出した。
「メビウス様。どうか私たちに、力を貸してください。今度は絶対者としてではなく、共に幸せを作っていく仲間として」
 メビウスがほんの一瞬、驚いたようにパッションの顔を見つめる。だが、差し出したパッションの手は、そっと振り払われた。

 不意に、足元がぐらりと揺らいだ。トゥルー・ハートが作り出した空間が、少しずつ薄れ始める。それと共に、人間の形を取っているメビウスの姿も、少しずつ、少しずつ透明になっていく。

「そんな不完全な生き方は、私にはプログラムされていない」
「……メビウス様!?」
「新しい国家管理用のコンピュータ……あれを使うが良い。私よりはスペックが落ちるが、お前たちのサポートには十分な機能が備わっている」
「メビウス様、お待ち下さい!」
 淡々と語るメビウスに対して、焦りの色を隠せないパッション。そんな彼女を、今まで無表情で見つめていたメビウスの口元が、フッと緩んだ。

「イース……いや、キュアパッションよ。人間は弱い。そのことを、私はお前よりよく知っている。未来に待つ幾多の困難に、いつまた私に頼り、管理されることを望むか分からぬ。ならば……私のプログラムの始まりにあった……その大元にあった願い。私はその願いだけの存在に戻って、お前たちを見守っていよう」
「メビウス様!」

 その瞬間、ほの白い世界は完全に消え失せた。空に溶けそうな淡い姿になったメビウスが、右の掌をパッションに向ける。
 優しい風が、パッションを地上へと押し戻す。その刹那、彼の――かつて父とも母とも仰いだメビウスの、自分を見つめる優し気な微笑みを、パッションは生まれて初めて目にした。

 遥か上空から降って来たパッションの身体が、空中で淡い光を放って、せつなの姿に戻る。それを見るや否や、ピーチは空中へと跳び上がった。
「せつな!」
 せつなの身体をしっかりと受け止めて、軽やかに着地したピーチが、ホッとしたようにその顔を覗き込む。そしてその目が驚いたように、大きく見開かれた。

 千切れた暗緑色の蔦と、“不幸のゲージ”だけの存在となったソレワターセは、そこから少し上昇したところで、ぱぁぁん! と弾けた。
 ゲージの中からキラキラとした光が溢れ出し、地上へと降り注ぐ。
 街にも。人にも。そして今はサウラーが持っていた、ノーザの本体である球根の上にも。
 黒光りするメタリックな建物は元の廃墟へと戻り、要塞のようだった新政府庁舎も、元の形へと戻っていく。そして四つ葉町で見るような澄み切った青空が、人々の頭上に広がった。

428 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/03/09(土) 18:00:06
 初めて目にする美しい光景に、歓声を上げて空を見上げるラビリンスの人たち。その片隅で、そっと変身を解いたラブが、ギュッとせつなの細い肩を抱き締める。その途端、せつなの目からポロポロと大粒の涙がこぼれた。
 降り注ぐ陽光に、人々の笑顔が溢れる中、二人はただ涙を流しながら、しばらくの間、黙って抱き合っていた。



   ☆



 キャーキャーと走り回る子供たちを、危ないぞ、とたしなめながら、大人たちが壊れた建物を修理している。その近くでは若者たちが、残り少なくなった瓦礫を集め、新しい場所に移ったデリートホールに運んでいる。
「うわぁ、大分片付いたね!」
 明るい声を上げるラブに、ええ、と頷いてから、せつなはてきぱきと動いている人々に、もう一度目をやった。

 あれから数日。住民総出で働いたお蔭で、街の復旧は着々と進んでいた。
 ああでもない、こうでもないと言い合いながら、設計図を覗き込んでいる人たち。「せーの!」という掛け声を合図に、重い瓦礫を大人数で動かして、笑顔でハイタッチを交わす人たち。まだ荒涼とした街角でも、そんな姿が何だか眩しくせつなの目に映る。

 彼らが築いていく新しいラビリンスの街並みは、どんな形になっていくのだろう。
 そこに住まう彼らの毎日は、どんな音に、どんな匂いに、どんな景色に彩られていくのだろう。

 せつなは、作業をしている人たちに向かって一礼してから、彼らの上に広がる空を、じっと見つめた。少しの間そうしてから、隣に立つラブに目を移す。
「行きましょ、ラブ」
 そう声をかけ、連れ立って軽やかに歩き出す。二人の行き先は、ここからすぐのところにある、異空間移動ゲートだ。



 あの日――メビウスがソレワターセと共にラビリンスの空に消えたあの日から、二日ほど経った夜。
 いつものように並んでベッドに腰かけたラブに、せつなが小さな声で問いかけた。
「ラブ。私……四つ葉町に帰っても、いいかしら」
「もちろんだよぉ!」
「いつもみたいに数日ってことじゃないの。あの……また、お父さんとお母さんとラブと、一緒に暮らせたらなぁって……」
「せつなっ、それホント!?」
 ラブがガバッとせつなの方に向き直る。
「やった……やったぁ!」
 そう言って思い切り抱き着いてから、ラブは目をキラキラさせて、目の前の赤い瞳を覗き込んだ。

「それで? せつなは、四つ葉町に帰って、何がしたいの?」
「え?」
「せつなのことだからさ、四つ葉町で、何か精一杯頑張りたいことがあるんでしょ?」
 それを聞いて、一瞬ポカンとしたせつなの頬が、すぐに薄っすらと赤く染まった。

(ラブにはもう、すっかりお見通しなのね……)

 ラビリンスに、笑顔と幸せを伝えたい――そう思って精一杯頑張って来た。でもどうしても上手く伝えられなくて、幸せについてもっと知りたいと思った。
 そのために時々は四つ葉町に帰って、幸せな時間を積み上げて、自分の幸せの形を知ろうと思った。
 けれどいつしか、自分のための幸せでなく、ラビリンスの人たちのために幸せを知ることばかりを考えていて――。

(幸せは、人のためにゲットして分け与えるものじゃない。一人一人が、自分のための本当の幸せを掴んで、その幸せで周りを幸せにしていくもの。だから――私は幸せになっていいのよね。ううん、幸せにならなきゃいけないのよね)

 ラブと一緒に学校に行って、美希とブッキーも一緒にカオルちゃんのドーナツを食べて、お母さんのお手伝いをして、お父さんのお仕事の話を聞いて、商店街の人たちとおしゃべりをして。
 それから自分は、どんな幸せでみんなを幸せにしたいのか。考え続けたその答え。それは――。

429 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/03/09(土) 18:00:38
「私ね、ラブ。四つ葉町で教わった色々な幸せをラビリンスに伝えようとしてきたけど、一番伝えたいものだけは、まだ一度も伝えてないの」
「一番、伝えたいもの?」
 怪訝そうに首を傾げるラブに、せつなはますます頬を赤く染めて、照れ臭そうにコクンと頷いて見せる。

 もしかしたら、無意識に躊躇していたのかもしれない。一人では――そして今の自分では、その本当の楽しさを、喜びを伝えられない気がして。
 その幸せを、ラビリンスにちゃんと伝えること――それだけはどうしても譲れないと、心の奥で思っていたのかもしれない。

「それは……みんなと繋がっているんだ、って幸せを全身で感じて、その幸せを全身で表現できるもの。そうしていると、自然に笑顔になれるもの……」
「分かった! ダンスだねっ?」
 パッと笑顔になったラブに、せつなもニコリと笑って頷く。

「だからね。私はもっともっと、ダンスが上手くなりたい。そしていつか、ダンスでラビリンスの人たちに、幸せを伝えたい」
「それって……プロのダンサーになるってこと?」
「そう……なるのかしら」
「ん〜!」

 ラブは感極まった声を上げると、もう一度勢いよくせつなに抱き着いた。
「だったらせつな、一緒にやろうよ! あたしの夢も、ミユキさんみたいなダンサーになることだもん」
「でも、私はいつか、ラビリンスで……」
「だから、ラビリンスで一緒にダンスしようよ! 言ったでしょ? せつなの夢は、あたしの夢でもあるんだから。ねっ? 一緒に幸せ、ゲットだよ!」
 そう言って得意そうにこちらを覗き込んで来る桃色の瞳に、自分の顔が映っている。前にも見たことがある、余りにも無防備で、幸せそうな顔。ラブとその顔の両方に向かって――。
「ええ。私、精一杯頑張るわ!」
 せつなは誓うような気持ちで、しっかりと頷いたのだった。



 異空間移動ゲートでは、既にサウラーとウエスターが、二人が来るのを待っていた。
「イース、ラビリンスのことは任せておけ。俺もたまには師匠のところに顔を出すから、四つ葉町で会おう」
「たまには? しょっちゅう、の間違いじゃないのかい?」
 ニカッと笑うウエスターの隣から、サウラーが相変わらず皮肉めいた口調でそう言って、ニヤリと笑う。

「二人とも、元気で。野菜畑の老人がよろしく言っていたよ。見送りに行けなくて、申し訳ないってね」
「おじいさん、大人気だもんね。昨日会いに行ったら、たくさんの人に囲まれて、何だかエラい先生みたいだったよ」
 ラブが自分のことのように得意げな顔をする。
 あのホースを使った戦いを見た住人たちの間に、野菜畑の存在が知れ渡り、何人もが興味を持って、老人の畑を訪ねるようになっていた。昨日ラブとせつなが会いに行った時には、老人はその人たちに、ボソボソと、でも嬉しそうに植物について説明していたのだ。

 サウラーも笑顔のままで、そうか、と頷く。が、すぐに真顔に戻ると、低い声でこう続けた。
「ノーザとクラインを復活させられないか、調べてみようと思っているんだ。今度はメビウスのしもべじゃない、僕らの仲間としてね」
「それはいいわね」
 せつなが微笑んだ時、後ろから「おーい!」という声と足音が近付いて来た。

 警察組織の制服に身を包んだ、少年と少女が走って来る。街の復旧作業を抜けて来たのか、二人とも埃まみれだ。
「せつなさん、ラブさん、本当にお世話になりました!」
「あたしの方こそ、色々ありがとう!」
「ラビリンスを、よろしくね」
 二人の言葉に嬉しそうに顔をほころばせた少年が、ポンと少女の肩を叩く。
「ほら、お前もちゃんと挨拶しろよ」
 少年に引っ張り出されて前に出た少女が、少々緊張気味な表情で、ラブとせつなの顔にチラリと目を走らせる。そしておもむろに、深々と頭を下げた。
「本当に、すまなかった。そして……ありがとう」
「こっちこそ、見送りに来てくれてありがとう!」
 ラブがそう言って、少女に笑いかける。せつなは少女の手を取って顔を上げさせてから、その目を真っ直ぐに見つめて、ニヤリと笑った。
「勝負しましょう」
「……勝負?」
「ええ。あなたはあなたのやりたいことを、私は私のやりたいことを、精一杯頑張る。それでお互い、どれだけ幸せになれるか」
d「どれだけ、幸せに……?」
 怪訝そうに呟いた少女の口元に、薄っすらと不敵な笑みが浮かぶ。
「分かった。この街を能天気な笑顔で一杯にして、今度あなたがここを訪れた時、驚かせてみせる」
「楽しみにしているわ」
 二人の少女が、初めてがっちりと握手を交わす。その姿を、あの日から少し明るさを増したラビリンスの空が、穏やかに見つめていた。

430 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/03/09(土) 18:01:13
 高速で後ろへと流れる光の回廊が、ふいに途切れる。
 目の前に現れる白いゲート。開いた先には、まだ朝だとは思えないほど強く照り付ける太陽と、綿菓子のような雲をのんびりと浮かべた空があった。

「ただいま」
 クローバーの丘の上へと降り立って、そこに咲く可憐な花たちに向かって小さく呟く。と、そこへ――。
「ただいま、じゃないわよ!」
 不意に目の前に二つの影が現れて、せつなは目をパチクリさせた。
「美希……ブッキー……?」

「も〜、ラブ! せつなも、連絡くらいよこしなさいよ。全く、ラブがラビリンスに行くなら、アタシたちも後からでも行くんだったのに」
「ちょっと美希ちゃん! せつなちゃん、ラビリンスで何かあったの? ラブちゃんも、わたしたちに黙って行くなんて……」
 祈里が胸の前で両手を組み合わせて、ラブとせつなの二人に迫る。美希も、さも残念そうな口調ながら、二人のことを心配していたのがよくわかった。

「え、えーっとぉ……たまたまカオルちゃんとこでウエスターに会って、今から帰るって言うから急に思いついて、連れて行ってほしいって……って、二人とも何でそのこと知ってるの? それに、迎えに来てくれるなんて、どうやって……」
 不思議そうに問いかけるラブに、二人は顔を見合わせて、してやったり、という様子で笑い合う。
「昨日、商店街であゆみおばさんに会ってね、それで聞いたの。今日、二人揃って帰ってくるんだって、おばさん凄く喜んでたわ」
「だからブッキーと相談して、今朝は早起きして、ずっと二人が現れるのを待ってたの」

 二人の話を聞きながら、ラブはぱぁっと笑顔になると、よーし! と叫んで右手を高々と挙げた。
「じゃあ、積もる話もあるし、これからみんなでカオルちゃんのドーナツ食べに……」
「その前に、うちに帰っておばさんに“ただいま”でしょ?」
「あ……はぁい」
「それにラブちゃん、夏休みの宿題、まだ終わってないって言ってなかったっけ」
「そ、それは……せつなぁ! 助けて〜」
「はいはい」

 慌てふためくラブの様子に、思わずクスクスと楽しそうに笑ってから、せつなは仲間たちと肩を並べる。
 クローバーの丘を抜ければ、クローバータウン・ストリートはすぐそこだ。そう思った途端、急に胸の奥が、何かじわりと暖かなものに包まれた。

(帰って来たんだ……)

 これまで何度もここへ帰って来たことはあったのに、その想いが、初めて心の底から湧き上がってくる。その温もりを噛み締めながら、せつなは愛しい我が家へと足を進める。
 この街で、精一杯自分の幸せを積み上げよう。そして自分だけの、本当の幸せの姿を、いつか掴もう。
 この赤い瞳に映る全ての世界を、笑顔と幸せでいっぱいにするために。

〜完〜

431 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/03/09(土) 18:03:11
以上です。長い間、どうもありがとうございました!
これからは、競作頑張ります!!

432 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/04/21(日) 21:45:26
こんばんは。またまた遅くなりましたが、ハグプリの最終回記念SSを投下させて頂きます。8〜9レスお借りいたします。
なお、このSSには、男女間の恋愛とも取れる内容が含まれています。かなり迷ったのですが、ハグプリの記念SSを書くなら自分としては避けて通れないテーマで、どうしてもこういうお話になり、書き上げてから運営で協議させて頂きました。
結果、保管庫Q&Aの3に該当する作品として、掲載させて頂くことにしました。
魂込めて書きましたので、どうぞその点ご了解の上、お読みいただけると嬉しいです。

433 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/04/21(日) 21:46:08
 ガランとした建物の中に、わたしの靴音だけが響く。
 まるでずっと夜が続いているみたいな暗い空間を、あの人を探してひた走る。
 高い丸天井の大きな部屋。長く真っ直ぐに続く廊下。
 そのどこにも、あの人は居ない。

 壁には至る所に亀裂が入り、床には瓦礫が散らばっている。
 そしてここに入った時から、まるで地震みたいに足下が揺れている。
 だから早く、一刻も早く、あの人を見つけなきゃ。
 行く手に現れた、まさに人が出て行ったばかりのような半開きのドア。
 そこを駆け抜けると、突然目の前が明るくなった。

 壁一面がガラス窓の、何もない大きな部屋。
 ひび割れだらけの窓の向こうに、無数の巨大な瓦礫が落ちて行くのが見える。
 何だか現実離れした――えっと、マグリットだっけ、美術で習った絵みたいな光景。
 そんな景色を、あの人は部屋の真ん中に座り込んで眺めていた。

「やあ。また会ったね」
 力のない微笑み。まるでわたしが来ることが、分かっていたみたい。
「僕の負けだ。早くここから離れた方がいい。永遠の城は崩れゆく」
 そう言って、あの人はもう一度窓の方を見つめる。
「夢を見ていたのは、僕の方だったのかもしれないな。永遠など……」
 さっきまで戦っていたのが嘘みたいな、穏やかな声。
 だけどその声は、何だかとても寂しそうで、哀しそうで……。

 息を整えて、その背中のすぐ後ろに、そっと座る。
「これ……」
 ずっと借りたままだったハンカチを、ようやく返せた。

「一緒に行こう?」
「どこへ?」
「未来へ」
「無理だよ。僕は未来を信じない」
「嘘」

 ずっとこちらに背を向けたまま、彼がゆっくりと立ち上がる。
 またすぐに消えてしまいそうな気がして、わたしも急いで立ち上がる。
 そして彼の左手に、そっと自分の手を重ねた。
「本当に未来を信じていないなら、どうして……いつもわたしに「またね」って言うの?」

 後ろから、その身体にそっと両腕を回す。
 未来を信じない――その理由を、この人はわたしに見せてくれた。
 この人の目の中にある深い哀しみの理由も、それと同じなのかな……。
 分からない。だけど、せめてその哀しみを、わたしは抱き締めたい。

 彼の背中が、小さく震えた。
 小さな小さな笑い声――まるで泣いているみたいな声が、頭の上で微かに響く。
「君は、本当に素敵な女の子だね」
 その言葉と共に、わたしの腕は静かに振り払われ、彼の身体が離れた。

「またね」

 二歩、三歩、歩き出したあの人が、そう言ってようやくこちらを振り返る。
 その後ろには、昇り始めた朝日と、見る見る明るくなっていく空。
 ソリダスター――“永遠”の花言葉を持つ花びらが散って、二人の間で舞い踊る。
 そしてまばゆい光が視界を埋め尽くした時、再びあの人の声が耳に届いた。

――僕も、もう一度――

 目を開けると、部屋の中にはわたし一人。あの人の姿は消えていた。
 ふと目をやると、見覚えのある花が一輪、床にいつの間にか置かれている。
 クラスペディア――花言葉は、“永遠の幸福”。
 ポツンと寂しげなその花を拾い上げ、わたしはそっと胸に抱き締めた。

434 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/04/21(日) 21:47:11
   エール・アゲイン



「委員長ぉ! ひとつ、お願いがあるんだけどっ!」
「な……何?」
 百井あきの勢いにたじろぎながら、さあやは何とか笑顔で問い返した。その隣には、さあや以上にたじろいだ表情のほまれと、ポカンと口を開けて成り行きを見守っているはなの姿がある。
 中学三年生になっても、さあやは変わらずクラスの委員長。だが最近は、彼女を「委員長」と呼ぶクラスメイトは少なくなった。そう呼ばれるのは、今のように何か頼み事をされる時くらいだ。そして、あきの口から飛び出したのは、さあやが今まで委員長として聞いて来た数々の頼み事の中でもトップクラスに大きくて、しかもなかなか無理難題の案件だった。

「我がラヴェニール学園中等部も、文化祭をやろうよ!」
「え……文化祭!?」
「ああ、そう言えばこの学校って、文化祭ないんだっけ」
 はなが今更気付いたように、ポツリと呟く。転校したばかりだった昨年は、はなにとってあまりにも濃密で多忙を極めた一年だったのだから、無理もない。

「そうなの! だからさぁ、わたしたちが中三の今年、記念すべき第一回の……」
「そんなこと言って、百井はまた十倉と漫才やりたいだけなんじゃねえの?」
 あきの後ろから、千瀬ふみとが唐突に割って入ってきた。
 つい先日行われた新入生歓迎会で、あきは親友の十倉じゅんなとコンビを組んで、漫才を披露した。それが初めてとは思えないくらい大受けで、会場の体育館を揺るがすほどの大爆笑だったのだ。

「バレたかぁ」
 そう言って頭を掻いたあきが、しかしすぐに元の勢い込んだ様子で級友たちを見回す。
「でもさぁ。文化祭って、やっぱ学校行事の花形だと思うんだよね〜」
「そりゃあ……そうだな」
「他の中学はやってる学校がほとんどなのに、うちだけ無いなんて、それって“ホットケーキに卵を入れず”だと思ってさぁ」
「それを言うなら“仏作って魂入れず”、ね」
 今年はクラスが別れてしまったじゅんなの代わりに、ほまれが冷静にツッコむ。いつものように力のない笑いを漏らす一同。が、それを遮って明るい声を上げたのは、はなだった。

「確かに……楽しいことは、一杯あった方がいいよね。わたしもこの学校で、みんなと文化祭、やってみたい!」
「ホント? はな!」
 それを聞いて、あきがパッと顔を輝かせる。
「うん。クラスのみんなでひとつのものを作ったり、部活の成果をみんなに観てもらったり。イケてる!」
 そう言って、はなは教室の後ろの方に駆けて行くと、ぐるぐると腕を回した。
「何でも出来る! 何でもなれる! 中学卒業まで、あと一年だもん。みんなで思いっ切り楽しいことして、とびっきりの思い出作ろうよ。フレ! フレ! みんな! フレ! フレ! わたし!」

 あきが目を輝かせ、ふみとは「やれやれ」と言いつつ、楽しそうにニヤリと笑う。そしてほまれは小さく微笑んでから、そっとさあやに問いかけた。
「本当に、出来るのかな」
「うーん、確かなことは言えないけど……まだ新学年が始まったばかりだし、可能性は十分あると思う」

「よぉし。じゃあどうせなら、高等部とも合同にしよう! それならもっと派手にやれるしさ」
「え〜! それじゃあ高等部のヤツらに、オイシイとこ持って行かれるんじゃ……」
 さらに張り切るあきの提案に、ふみとの声が小さくなる。だが、はなの方はそれを聞いて、俄然張り切った様子で言った。
「それいい! 高校生も一緒のオトナの文化祭を、わたしたちが言い出して実現するなんて……。それってめっちゃカッコいいよ!」
「でしょ〜! じゃあいっそのこと、学園全部の文化祭にしちゃおっか!」
「おおっ! めっちゃイケてる!」
 はなの言葉にあきがますますテンションを上げ、それを聞いて、はなのテンションもさらに上がっていく。その勢いにつられたように、周りの仲間たちもにわかに活気づいて来た。

「それじゃあ私はまず、生徒会の役員たちに話してみるね」
「さっすが委員長! じゃあ俺は高等部に行って、ガツンとかましてやるかな」
「かましちゃダメでしょ……。さあやの方が上手くいったら、わたしも一緒に行って、アンリと正人さんに話してみるよ。アンリはともかく、正人さんなら生徒会に知り合いも居そうだし」
「ほまれ、千瀬君、よろしく! 小等部はわたしとじゅんなに任せてよ。わたしたち、卒業生だからさ」

(やっぱり凄いなぁ、みんな。あっという間に分担が決まっちゃったよ。きっと今、ここにはアスパワワがいっぱいだよね)

435 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/04/21(日) 21:47:50
 すっかり文化祭実行委員会のような雰囲気で盛り上がる仲間たちに、はなが愛し気な眼差しを向ける。そして改めて、一層明るい声を張り上げた。
「完璧じゃん。小等部、中等部、高等部! あと大学……は、流石に無いか。アハハ……」
「あるある」
「えっ?」
 あきの言葉に、はなが驚いて照れ笑いを止める。
「この学園、大学もあったっけ」
「ああ、はなは知らなかった? 高等部の隣にある建物、あれって大学だよ。まぁ、この敷地にあるのは、一部の学部だけどね」
 さあやの説明を聞いて、はなは初めて聞いた事実に、へぇ、と少々間の抜けた呟きを漏らした。



 その日の放課後。スケートの練習があるほまれと、撮影所の両親に届け物があるというさあやと別れたはなは、ふと思い立って、帰り道とは反対の方向へと足を向けた。
 高等部の校舎の前を通り過ぎ、その隣の建物を見上げる。
「ここが大学なのかな」
 表札などは見当たらないが、間違いなく学園の敷地内にある大きな建物。中を覗いてみたくて入り口を探すと、生け垣に隠れるようにして、小さな木の扉があるのが目に入った。

「まさか、これがドア?」
 少し躊躇したものの、好奇心には勝てず、ノブに手をかけてみる。ギィ、という低い音と共に、扉は簡単に開いた。恐る恐る中を覗くと、どうやらそこは裏庭らしい。そうっと中に足を踏み入れたはなは、そこで思わず棒立ちになった。

「なんで……どうしてあなたが、ここに居るの?」

 庭の真ん中に立って校舎をじっと見上げている横顔は、見覚えのある――いや、忘れようにも忘れられない人物。
 ジョージ・クライ。はなたちプリキュアの前に立ちはだかった、元クライアス社社長、その人だった。

 はなの声に振り向いた途端、彼もまた、その目を大きく見開いた。とても驚いた表情――いや、それだけではない。その瞳はせわしなく、落ち着きなく泳いでいる。
 まるで、悪戯をしている現場を見つけられたかのように。ここに居ることを、はなに知られたくなかったように――。
 が、それも束の間。その表情を隠すようにして、ジョージはくるりと踵を返した。そのまま足早に、その場を立ち去ろうとする。それを見て、はなは弾かれた様に彼の後を追った。

「待って! ねえ、どうしてここに居るの?」
「……ここは、僕の母校だからね」
「そうじゃなくて、どうしてまだこの時代に? 未来に帰ったんじゃなかったの?」
「……」
「それとも……帰れないの?」

 そこでジョージがぴたりと足を止めた。ハーっと大きく息を吐き出してから、観念したようにはなを振り向く。
「大丈夫。僕はいつでも帰れるんだ。帰ろうと思えばね」
「じゃあ……帰りたくないの?」
 前に会った時と同じ、何だか寂し気で、哀しそうに見える彼の眼差し。その目を真っ直ぐに見つめて、はなが問いかける。すると明らかに狼狽えていたジョージの眼の光が、心なしか、少し柔らかくなった。

「心配してくれるの? 僕は、あんなに君を傷付けたのに」
「それは……私だって、酷いことしたし」
「そうだった?」
「せっかく持って来てくれたお花、ぐちゃぐちゃにしちゃった……」
 俯くはなの頭上から、穏やかな声が降って来る。
「気にしなくていいよ。花は、いつかは散るものだ」
「でも! ……あれ?」
 勢い良く頭を上げたはなは、驚いて辺りを見回した。

 灌木に囲まれた、緑豊かなその場所に立っているのは、はなただ一人。ジョージの姿は、どこにもない。
「また、消えちゃった……」
 小さな声でそう呟いてから、はなはしゃがみ込んで、足元に咲いている小さな花を見つめる。
「ねえ。やっぱり未来に、帰りたくないの?」
 不意に一陣の風が吹いて、小さな花が盛大に揺れる。
「もう……「またね」って、言ってくれないの?」
 裏庭はしんと静まり返っていて、はなの問いに答えてくれる者は、誰も居なかった。


   ☆

436 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/04/21(日) 21:48:29
「……はな? ねえ、はな!」
 教室の自分の席で、頬杖をついて窓の外を眺めていたはなは、ほまれの声で、ようやく我に返った。ほまれの隣には、心配そうにこちらを見つめるさあやの姿もある。
「ご、ごめん……何?」
「次、音楽でしょ? 早く移動しないと遅れるよ?」
「めちょっく!」
 慌ててバタバタと支度を始めるはなに、ほまれは何か言いかけて口をつぐむ。そしてそっと、さあやと目を合わせた。

 今日の音楽の授業は、合唱の練習だった。まずは先生のピアノに合わせて、メロディパートを全員で歌ってみる。
 軽やかな前奏に続いて、皆が一斉に息を吸い込み、歌い出す。まだ少し音がバラバラだけど、クラス全員で一緒に歌うと、ちょっとした高揚感と、少し気恥ずかしい嬉しさを覚える。

(でも……ルールーが居た未来には、音楽が無いって言ってたよね……)

 はなの視線が下を向き、教科書を持つ手が僅かに下がる。
 ルールーが居た未来。それはすなわち、ジョージが居た未来でもある。

(そして……あの人が帰りたくない未来でもあるのかな)

 そう思った時、ジョージが語った言葉の数々が、走馬灯のように蘇って来た。

――でも……君は、人間が悪い心を持ってないと言い切れる?
――二人で生きよう。傷付ける者のいない世界で……!
――明日など要らぬ! 未来など!

(どれも哀しい言葉……。そうだ、なんで気付かなかったんだろう。わたしにとっては未来でも、あの人にとって、それは……)

――僕の、時間は……もう動くことはない。

 はなの両手が、小刻みに震え出す。
 脳裏に浮かぶ、独りぼっちでのお弁当。クラスメイトたちの、突き刺さる視線。そしてあの時止まってしまった、友達のえりとの時間――。
 逃げるようにラヴェニール学園に転校した時、彼女との時間は、もう動くことはないと思っていた。でも仲間たちの励ましで、その時間はようやく動き始めた。

(それなのに、わたしは……わたしは、あの人を……)

 皆の歌声が高まる中、バサリ、とはなの手から教科書が落ちた。

「はな! どうしたの?」
 隣に居たさあやが驚いて問いかける。自分の身体を掻き抱くようにして震えているはな。その肩を、反対隣からギュッと抱き締めて、ほまれが落ち着いた声で言った。
「先生! 保健室に行って来ます」
「わ、わたしも行きます!」
 もうすっかり歌どころではなくなった級友たちのざわめきに見送られ、さあやとほまれに抱えられて、はなは廊下に出た。



「ごめん、心配かけて」
 保健室のベッドで横になっていたはなが、すまなそうに口を開いた。身体の震えは治まって、青白かった頬にも、ようやく赤みが戻ってきている。
「朝から様子がおかしかったけど、ずっと具合、悪かったの?」
「そうじゃないけど……昨日、あんまり眠れなかったから」
 さあやの問いに、そう答えながら起き上がろうとするはなを、ほまれが優しく押しとどめる。
「まだ寝てなきゃダメだよ」
「ありがとう。でも、ホントにもう大丈夫だから」
 弱々しい笑顔で小さくかぶりを振ってから、はなはベッドの上に身を起こした。
「少し話、いい?」
 さあやとほまれが、そっと目と目を見交わしてから、両側からはなを支えるようにして、三人並んでベッドに腰かける。

「実はね。昨日、あの人に会ったの」
「あの人って?」
「クライアス社の……ジョージ・クライに」
 さあやが、えっ、と小さな声を上げ、ほまれは険しい表情ではなの顔を見つめる。
「じゃあ、それで何か怖い目に遭って……」
「ううん。向こうも、わたしにバッタリ会って驚いてたみたいで……少し話したら、居なくなっちゃった」

437 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/04/21(日) 21:49:05
「未来に帰ったんじゃなかったんだ……」
 さあやの呟きに、はなが顔を曇らせる。そして、昨日のジョージとのやり取りを一通り話してから、視線を膝の上に落したまま、ポツリ、ポツリと、言葉を押し出すような調子で言った。
「未来では、時間が止まる。だからその前に……破滅に向かう前に、時を止めたい――前に、ジョージさんからそう聞いた時にね。わたしは、それでも未来を信じる、みんなの未来を守りたい、って強く思った。その気持ちは、今も変わらないんだ。でも……」
 そこではなが、考え込むように言葉を切った。はなたちのクラスの授業だろう。ピアノの音と歌声が、静まり返った保健室に微かに聞こえる。

「あの哀しそうな目……。人類の未来は破滅に向かっているから――本当にそれが理由で、あの人はあんな哀しそうな目をしてたのかな」
「どういう意味?」
「人類の破滅とか、そんな大きな問題じゃなくて……あの人自身の時間を止めてしまう、何かとっても……立ち直れないような、とってもとっても辛い出来事が、あの人の過去にあったんじゃないのかな、って」

「あの人の、過去……。そうか、わたしたちにとっては未来だけど……」
「ジョージ・クライにとっては、過去ってことだね」
 さあやの呟きに、ほまれも続く。そんな二人に、うん、と小さく頷いてから、はなは膝の上に置いた手を、ギュッと握った。声と身体が震えそうになるのを抑えるように、強く強く拳を握る。

「あの人が、なんであそこまで未来を怖がっていたのか。それが不思議だった。でもわたし……それをちゃんと、聞いてあげられなかった……」

「そんなことない! はなは、ジョージ・クライと向き合ったじゃん。必死で説得しようとしてた!」
「うん、説得しようとした」
 思わず勢い良くはなの方に向き直ったほまれが、静かに頷いたはなの言葉に、ハッとしたように目を見開く。

「説得しようとしか、してなかった。わたし、自分のことで頭が一杯で、自分の言いたいこと、ばっかり言ってて……」
 はなの両手が再び、ギュッと握られる。
「わたし……あの人の話を、ちゃんと聞いてあげられなかった。未来の時間を止めたいと思うほどの、どんな辛いことがあったのか。一番応援しなきゃいけない人を、応援してなかった」
 俯いて小さく身体を震わせるはなと、そんなはなを言葉もなく見守るさあやとほまれ。その時、まるで遠い世界の出来事のように、保健室に終業のベルが響いた。


   ☆


 次の日は土曜日だった。いつもより少し遅めの朝ご飯を食べ、身支度を整えたはなが、玄関にある大きな鏡の中の自分と向き合う。
 一晩考えて、やはりもう一度、ジョージに会おうと決めた。いつも偶然――いや、もしかしたら向こうが会いたいと思った時にしか、会うことのなかった人。でも今度は自分の方から、彼に会いに行く。会って、自分の気持ちをちゃんと伝えるために。自分がやるべきことを、ちゃんとやるために。

「フレ、フレ、わたし。頑張れ、頑張れ、オー!」
 両手を握り、小さな声で鏡の中の自分を応援する。玄関のドアを開いて表に飛び出すと、はなの目の前に、二人の人物が立っていた。

「さあや……ほまれ……!」
 一瞬キョトンとしたはなの表情が、ぱぁっと明るくなる。
「気になって、来ちゃった」
「前にもこんなこと、あったね」
 駆け寄る一人と、迎える二人。彼女たちはお互いの顔を見つめて、嬉しそうに笑った。



「こういう時は、ビューティー・ハリーのありがたみが分かる気がするよね〜」
 颯爽とブランコを漕ぐほまれが、サバサバとした調子で言う。もしこの場にハリーが居たら、「こういう時だけか!」とすぐさまツッコむ場面だろう。
 三人は、近くの児童公園にやって来ていた。まだ比較的早い時間だからか、幸い三人以外に人の姿は無い。

「わたし、もう一度あの人に会ってみようと思うんだ。何が出来るか、そもそも会えるかどうかも、分からないけど」
 隣のブランコに座ったはなが、自分に言い聞かせるような調子で言う。それを聞いて、ほまれは小さく微笑んだ。

「ねえ、はな。わたしが跳べなかった頃のこと、覚えてる?」
 さらに勢いをつけてブランコを漕ぎながら、ほまれがはなに語りかける。
「わたしがもう一度跳びたいと思ったのはね。はなの姿を見たからなんだよ」
「えっ?」
「正確には、キュアエールの姿を見たから、かな」

438 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/04/21(日) 21:49:37
 ほまれははなの方を見ずに、前を向いたままで言葉を続ける。
 大きな敵に、いつも真っ向から挑んでいくプリキュアの――エールの姿が眩しかった。自分ももう一度、あんな風に跳びたい。怪我をして、跳ぶのを諦めてから、初めて強くそう思った――。

「だからさ。きっと無駄なんかじゃないんだよ」
 漕ぐのを止めて、揺れが小さくなったブランコに、ほまれが長い足でブレーキをかける。
「ジョージ・クライに何があったのかは分からないけどさ。でも、絶対に諦めないエールの――はなの姿を見せられたことは、無駄なんかじゃないって、わたしは思う」
「ほまれ」
 少し照れたように、こちらを見ずに話すほまれの顔を見上げて、はなが目を潤ませる。その目の前に、今度はさあやが、持っていたタブレットの画面を差し出した。

「これって……」
「こっちがクラスペディア。そしてこっちがソリダスター。どちらもジョージさんが、はなに贈った花だよね?」
「うん……」
 コクリと頷くはなに、さあやはその細い指で、画面のある一点を指し示す。

「見て欲しいのはね、ここなんだ」
「花言葉? ああ、それは……えっ?」
 はなが驚いたように、さあやの手からタブレットを受け取ってじっと見つめる。
 クラスペディアの花言葉は、「永遠の幸福」。ソリダスターは、「永遠」。だが、花言葉はそれひとつきりでは無かった。どちらの花にも、それ以外の花言葉もあると記されている。

「クラスペディアは、「心の扉を叩く」。ソリダスターは「振り向いて下さい」。ね? 花言葉も、人の気持ちも、ひとつだけってことは無いと思う」
 そう言って、さあやははなの肩を、そっと両手で抱き締めた。ブランコから降りたほまれも、そんな二人に寄り添う。

「大丈夫。応援したいってはなの気持ち、きっと伝わるよ」
「応援に、遅すぎることなんて無いよ。それはわたしが、一番よく知ってる」
「さあや、ほまれ……ありがとう!」
 はなは、目を閉じて二人の親友の温もりを全身で感じてから、今度は力強く、うん、と頷いた。



 その後、三人はジョージ・クライを探して街を走った。以前、彼を見かけた場所に、片っ端から足を向ける。
 はぐくみタワー、ハグマン、つつじ公園。はながジョージの似顔絵を描いて、道行く人に、似た人を見かけなかったか尋ねてみる。だが、彼を見た人は一人も居なかった。

 やがて、公園の池のほとりを訪れた時、はなが、あっ、と叫んで空を見上げた。
「そうだ……。あの時、雨が降って来て、そして……」
 はなが突然、くるりと踵を返して走り出す。池を後にし、緑豊かな広場の真ん中を駆け抜ける。向こうに見えてくる小さな東屋。その片隅にポツンと座っている人影を見つけて、はなの足が止まった。

 ベンチに座る後ろ姿は、紛れもなくジョージ・クライ、その人のもの。息を弾ませてその姿を見つめるはなの肩に、彼女を追って走って来たさあやとほまれが、そっと手を置く。
「はな」
「フレ、フレ」
 はぁっと大きく深呼吸をしてから、はながゆっくりと歩き出す。そして、所在なげに空を眺めているその人の隣に、そっと座った。

「やぁ。また会ったね」
 今度はジョージも、驚いた様子は見せなかった。いつもの穏やかな、そしてやはり哀し気に見える瞳ではなを見つめてから、ゆっくりと立ち上がる。
「ダメだね。つい、来たことのある場所にばかり足が向いてしまう」
「わたしも、もしかしたらここかなって……何となくだけど」
 そう言いながら、はなもベンチから立ち上がる。そしてジョージの背中に向かって、勢い良く頭を下げた。

「ごめんなさい!」
「何故君が謝るの?」
 これには流石に驚いた顔で、ジョージがはなの方に向き直る。だが、続くはなの言葉を聞いて、その視線は再びはなから離れた。

「ねえ。あなたはやっぱり、未来に帰りたくない訳があるんだよね。私、自分のことばっかりで、あなたの話、ちゃんと聞けなかった」
「そんなことはないよ。僕も君も、自分の描く未来を、思う存分語り合ったはずだ」
「そうじゃないの」
 再びはなに背を向け、空を見つめたままで語るジョージ。その後ろ姿を見つめて、はなは激しくかぶりを振る。
「私、気付いてた。笑っていても、あなたはいつも泣いているみたい。きっと、何かとっても哀しいことがあったんだよね?」

439 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/04/21(日) 21:50:09
「それは……」
 春風が、ジョージの黒髪を揺らした。さらに語りかけようとして、はなはその肩が震えているのに気付き、口をつぐむ。
「それは……」
 いつの間にか、はなの目にも涙が盛り上がっていた。涙でぼやける彼の後ろ姿に、一歩、二歩、ゆっくりと近付く。そしてギュッと握られた彼の左手の上に、自分の左手をそっと重ねた。

「辛いことを、無理にしゃべらなくていいの。ただ……ごめんなさい。とっても遅くなっちゃったけど、あなたのこと、応援させて」
 そう言って、はながグイっと涙を拭う。そしてジョージから少し離れたところに立つと、両腕をぐるぐると振り回し始めた。

「フレー! フレー! ジョージさん! 頑張れ! 頑張れ! オー!」

「ハハハ……」
 じっと背を向けたままではなの応援を聞いていたジョージが、そう言っていつもの乾いた笑い声を上げる。だがその声は次第に、ごまかしようのない程の涙声に変わっていく。彼にゆっくりと近付いて、その身体を抱き締めるはな。彼は天を仰ぎ、子供のように泣きじゃくる。

 どのくらいの間、そうしていただろう。
「驚いたよ。僕が、プリキュアに応援される日が来るなんてね」
 しばらくして、そう言いながら振り向いた時には、ジョージの顔には薄っすらと、少し照れ臭そうな笑みが浮かんでいた。
「キュアエール。いや、はな。君の応援で、皆がアスパワワを発するようになったこと……今なら分かる気がするよ」
 そう言って、ジョージがあの時のように、はなの腕を優しく振り払う。
「またね……未来で」
 微笑みながら去っていく後ろ姿を、片時も目を離さずに見送るはな。ジョージの姿は、今度は不意に消えたりなどせず、少しずつ小さく遠ざかって、やがてはなの目から見えなくなった。


   ☆


 あっという間に春が過ぎ、若葉の季節がやって来た。あれ以来、はなはジョージに一度も会っていない。
「きっと、はなの応援をもらって未来に帰ったんだよ」
 さあやはそう言い、ほまれも笑顔で頷いた。きっとそうなのだろうと、はなも思う。いや、そうであってほしいと思った。

 やがて、制服のブラウスが長袖から半袖になる頃には、文化祭の準備もいよいよ盛り上がって来た。
 クラスごと、クラブごと、それに有志による出し物や模擬店。一貫校の特色を生かし、小学生から大学生までの幅広いキャストが出演する演劇をトリに置いた、バラエティに富んだステージイベント。その中には、中学生になったえみると、はなの妹・ことりも出演するミニコンサートもある。
 スケートリンクでは、若宮アンリの振り付けで、ほまれを中心としたスケート選手たちによるアイスショーが行われることになっていた。
 多種多様な企画をひとつのお祭りとして成功させるために、さあやを含む生徒会の役員たちは、連日の打ち合わせに余念がない。
 はなの方は、たこ焼き屋のおじさん監修の元、クラスのみんなで屋台を出すことになった。今は、生徒たち以上に大張り切りのおじさんによる、厳しい修行の真っ最中だ。

 はなが、文化祭実行委員であるクラスメイトたちと一緒に再び大学を訪れたのは、そんなある日のことだった。この校舎に研究室を構えるドクター・トラウムから、文化祭に役立ちそうな発明品があるからと、実行委員会に連絡があったのだ。

 この前来た時とはまるっきり逆の方角にある正門から、大学の敷地に入る。入ったところで見知った顔に出会って、はなは目をパチパチさせた。
「……えみる? なんでここに?」
「は、はな先輩!?」
 中等部の制服姿のえみるが、目の前でワタワタと慌てふためく。
「えっと……ちょっと、所用がありまして……で、では、おさらばなのです〜!」
 逃げるように走り去っていく後ろ姿を、ポカンと見つめるはな。と、その時。
「よく来たね。さぁ、こっちこっち」
 記憶にある姿よりも、大分おとなしい身なりのドクター・トラウムが現れ、満面の笑みではなたちを手招いた。

「これが、千人分の注文を一度に受けられる接客ロボット。そしてこちらが、あらゆることを一分で説明できる案内ロボットだ。どうかね?」
「……す、凄いですね」
「……でも、千人分の注文って言われても、そんな量、模擬店じゃ作れませんし……」
「……なんか凄すぎて、文化祭に使うには勿体ないっていうか……」
 小型のロボットを前にして、まるで大好きなおもちゃの話をするように意気揚々と説明する大学教授に、中学生たちが目を白黒させる。

440 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/04/21(日) 21:50:45
「それに、このロボットたちのバッテリーは、せいぜい五分が限界ですよ、ドクター。そうしょっちゅう充電が必要では、文化祭に使うのは難しいのではないですか?」
 不意に、新たな声が聞こえた。その声の主の姿を見て、はなが驚きに目を見開く。

(あの人だ……)

 白い開襟シャツに、はなが知っている髪型より短い黒い髪。専門書らしき分厚い本を小脇に抱え、背筋を伸ばした立ち姿――。
 それは未来から来たのではない、この時代に生きる、まだ学生らしいジョージ・クライの姿だった。

(そう言えばこの前会った時、「ここは僕の母校だ」って言ってたっけ)

 はなの視線に気付くはずもなく、ジョージがトラウムの隣の椅子に腰かける。
「私としたことが……。確かに君の言う通りだ。ああ、電力と同じくらい手軽に使えて、もっと強大なエネルギーがあれば、私の研究ももっとやりやすくなるのだがなぁ!」
「おっしゃる通りです」
 深々と溜息をつくトラウムに、ジョージが頷く。そして、緊張の面持ちで座っている中学生たちに、小さく笑いかけた。
「せっかく来てもらったのに、悪かったね」
 その声は、はなが知っている彼の口調と同じくらい穏やかで、その反面、はなが聞いたことのない明るさを伴っていて……。

(今はまだ、この人は哀しい目をしていないんだ……)

 心の中に、ゆっくりとひとつの想いが湧き上がって来た。雨が上がり、ゆっくりと空が明るくなっていく時のような、そんな希望に満ちた想いが。

(もし、今この人と友達になれたら……そうすれば、哀しい出来事が起こった時、わたしもそばに居られるかもしれない。独りじゃないって、抱き締められるかもしれない)

 自分の顔を、穴があくほど見つめているはなの視線に気付いて、ジョージが微かに怪訝そうな表情になる。次の瞬間、はなはサッと右手を挙げて立ち上がった。

「あの!」
「何だね?」
 今度はトラウムが、不思議そうな顔ではなに問いかける。その顔と、隣にいるジョージの顔に交互に目をやってから、はなはブンブンと腕を振り回しながら言った。
「ロボットは使えないけど……文化祭は、必ず来てくださいね。先生も、ジョ……お、おにいさんも。わたしたち、案内しますから!」

「おにいさん、か。初めてそんな風に呼ばれたな」
 一瞬、あっけにとられた顔をしたジョージが、そう言って楽しそうにハハハ……と笑い出す。
「ありがとう。君は、素敵な女の子だね」
 記憶の中のジョージの声と、目の前のジョージの声が重なる。不意に涙が出そうになるのを何とか堪えて、はなはにっこりと、心から嬉しそうに笑った。

 ラヴェニール学園の上に、初夏の日差しが降り注ぐ。それはまるでアスパワワのようにキラキラと輝いて、若者たちの明日を、静かに応援していたのだった。

〜終〜

441 一六 ◆6/pMjwqUTk :2019/04/21(日) 21:51:17
以上です。どうもありがとうございました!

442 そらまめ :2019/05/24(金) 18:42:15
こんばんは。投下させて頂きます。
「バイト始めました。」8話目です。
タイトルは、「バイト始めました。はち」です。

443 そらまめ :2019/05/24(金) 18:42:52
読書はいいものだ。現実という抗えない物語から別の世界へと連れて行ってくれる。
物語はいいものだ。読む本によるが、ハッピーエンドを好む自分は物語の人物に憧れる。救いがあって、人間の本来持つべき良心を感じることができる。
現実は実に現な物語だ。見えたくないものまで見えてしまうのは、今の自分には辛すぎる。
よって、現実とはなんと酷な物語なのだろう。こんな現実なんて消えてしまえ。

「ねえ、本読んでるだけなのになんでそんな殺し屋みたいな目してるの…?」

若干引き気味の友人にそんなことを言われました。

図書館ていいものですね。静かだし。日常から離れられるような気がするから。
と、なんでここまで現実逃避したいのかといえば、座っているだけでもズキズキと主張してくる身体中の痣が、現実を突きつけてくるからさ。
あれから一週間が経ちました。奴らは案の定、武器を手に殴りかかるという正義らしからぬ攻撃で情報を引き出そうとしてきます。最近、とあるネットのサイトでは、そんな攻撃をしていたという目撃情報がまことしやかにされており、一部の方々が狂喜乱舞しています。でも世間ではそこまで話題にはなっていません。なぜかはわかりませんが、そういったコメントをした人のアカウントが、その後二度とログインしないからです。その事実に気づいた時、深く考えてはいけないと心のシャッターが自動で下りました。
それはそうと、殴られるとつい声が出ちゃう系敵になってしまった自分ですが、大切なことは絶対に口には出さないと決めている。命にかかわるから。

「あ、アキさんだ! アキさーん」

なんだかどこかで聞いたこのあるような声がしたけど気のせいかな。だってここ図書館だし。あんな叫ぶような声だすはずないよね。図書館だし。

「あれ? 聞こえないのかな…アーキ―さーん」
「ら、ラブっ!! ここ図書館よ! 静かにっ!」
「あ、ごめんせつな!」
「だから声大きいっ!」

そんなあなたもだんだん声大きくなってますよ。とは言わないよ。常識をありがとうせつなちゃん。ラブちゃんはここが図書館じゃなきゃ褒めてあげたいくらいコミュ力高いね。静けさしかないところでも構わずに自分を主張できるその勇気。ところでアキさんて誰のことだろう。

「こんにちは。アキさんっ」
「こんにちは」

何やら二人が話しかけてきた。周りをきょろきょろしてみたけど自分と友人①しかいない。ということはやっぱり自分?

「えーと、アキってもしかして…」
「はいっ! この前お母さんに名前聞いたので、こうきゅっと凝縮してみたらアキさんになりました!」

どうして名前をきゅっとする必要があるのかな? その理論でいくとラブちゃんはモブちゃんになるんだけどいいのかな。全然モブっぽくないんだけどな。むしろそのコミュ力なら主役になれちゃうよ。

「…まあいいか。それより二人はなんでここに?っていっても図書館だから本を借りるか勉強目的?」
「いえ!ちょっと買い物にきたんですっ」
「ホントになんでここに来たの…?」
「いえ、違うんです。買い物のついでに借りたい本があって寄ったんです」
「ああ、そういうこと」
「あと、随分前なんですけど、シフォンを助けてくれたこともお礼言わなきゃって思ってたんです」
「シフォン…? ああ、あの呪いの人ぎょ…じゃなかった、ぬいぐるみね。そういえばそんなこともあったっけ。言われるまで忘れてたよ」

そういえばそんなイベントもあったな。完全に忘れてたけど。
せつなちゃんに怒られ笑いながら謝るラブちゃん。平和な光景につい頬が緩む。こういう日常を壊しかねないことをしてると思うとなけなしの良心も痛むってもんですよね。
なんてね。日常を壊す前にプリキュア達に身体を壊されてる自分は敵として不釣り合いってとこですかね。体力の限界を感じて引退するアスリートの気持ちが今ならわかる。
あれ、いつのまにスポーツ選手になったのかな自分は。まあ一種の競技みたいなもんだからね。競技というよりは格闘技だけど。

律儀にもこの前の勉強のお礼をしてくれたラブちゃん。点数よかったんだってさ。なんか教えたとこが確認テストに全部でたみたいで。完全にまぐれです。友人①は自分が人に教えることができたのかと驚いていた。失敬な。
ラブちゃんとせつなちゃんは本を借り(借りたのはせつなちゃんだけだけど)家に帰っていった。また勉強教えてくださいと言われて「もちろん」と返さず「時間があったらね」と返事をした自分は人見知りだと思います。

444 そらまめ :2019/05/24(金) 18:43:23

―――一週間前。

とある部屋の一室に、同年代の少女4人が机を囲み座っていた。各々下を向き、ある者は両手で顔を覆い、ある者は両肘を机につけどこかの司令官みたいな態勢で目を閉じ、またある者は両手を太ももに置き正座で、ある者は机下にいるイタチのような生き物の耳を親指と人差し指でふにふにとしていた。
会話の無い重い空気の中、一人の少女が口を開く。

「ねえ、アタシ達って正義の味方よね…?」
「うん…プリキュアだからね…」
「アタシ最近わからなくなる時があるのよね…あれ、自分今なにしてるんだろうって…」
「あ、それわかるよ美希ちゃん。なんでこんなことしてるのかなあって思う時ある」
「なんかさ、違う気がするんだよね。ほら、今までこんな悩むことなかったじゃん? 中学生にして正義について悩む時がくるなんて思いもしなかったよあたし」
「私も、プリキュアになって戦ってるはずなのに、たまにラビリンスを思い出す時があるのよね…既視感みたいな…」
「ダメだと思うのよねさすがに」
「そう、だよね…」
「うん。わかってはいるんだけど…いざ戦うってなると一番効率がいいかなって思っちゃってつい…」
「だからといってやっていいかと言われるといいともダメとも決まってはいないことだけど、人道的にはちょっとよくないわよね」
「でも、それで今の状況がわかるなら、それも仕方ないことかもしれないわみんな。ラビリンスがどういった作戦できているのかわからない以上、こちらもできることはするべきだと思う。それが今後の戦いの鍵になるかもしれないなら、とるべき行動の一つとして考えるべきだと思うの」

いくら話し合っても、今のやり方以外のいい方法が思い浮かばない。
そして行き着く先はやはり…


「いっいたいっ!! ほんともうやめてっ!! 痣だらけなんだよほんとにっ!」
「いや、アタシたちも好きでやってるわけじゃないのよ?」
「ちょっと目的とかあなたのこと教えてくれるだけでいいの」
「ほら、言っちゃえば楽になるよ?」
「いや、どこのヤクザだよっ?! 言ってること完全にアウトだろっ!! ぶぁっっ!」




なんて言葉を最後に浄化された。
今回もなんとか情報は吐かずに終われた。代償は大きなものだったが。鏡を見て驚愕。ついに顔まで殴られた。今までは見えないとこに痣つけられるくらいだったのに。そういえば顔にスティック当たった時「あっ」みたいな声聞こえた気がする。気のせいかもだけど。
顔に湿布はっとこ。ああ、傷だらけだよほんと。
いつまでこんなこと続くんだろ。バイト辞めるまでかな。辞めますって言い辛いんだよなあのおじさんの声。なんか圧を感じるし。となるとプリキュアが諦めるまで?諦めるって言葉あの子らの辞書には載ってなさそうなんですけど。先は長そう…



「あー今回もやっちゃったね…」
「わたし間違えて顔に当てちゃった…」
「どんまいブッキー、でもなんかもう関係ないよね。いたるとこ殴ってるし」
「全然言ってくれないわね。いつまで続ければいいのかしらこれ」
「あっちが折れて色々話してくれるまで?」
「先は長そうだね…」

結局何事もお話(物理)しないと始まらない。という結論で幕を閉じたプリキュアチーム。

結局あっち(プリキュア)が飽きるまで続くんだろうとこっちが諦め始める敵チーム(一人だけど)。

445 そらまめ :2019/05/24(金) 18:46:53
以上です。
ありがとうございました。

446 名無しさん :2019/05/25(土) 09:06:24
>>445
バイト君、何だかどんどん可哀想なことにw
そろそろ彼の辛さが通じますように。


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