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大河×竜児ラブラブ妄想スレ 避難所2

1 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2009/10/29(木) 01:36:02 ID:???
ここは とらドラ! の主人公、逢坂大河と高須竜児のカップリングについて様々な妄想をするスレの避難所です。
アクセス規制で本スレに書けない、とかスレに書けないような18禁のエロエロ話を投下したい時とかに
お使いください。
    / _         ヽ、
   /二 - ニ=-     ヽ`
  ′           、   ',
  ',     /`l  / , \_/ |
  ∧    〈 ∨ ∨ ヽ冫l∨
    ',   /`|  u     ヽ
    ', /          /
    /  ̄\   、 -= /                   __
  / ̄\  `ヽ、≧ー                    _  /. : : .`ヽ、
 /__ `ヽ、_  /  、〈 、           /.:冫 ̄`'⌒ヽ `ヽ、 / 〉ヘ
/ ==',∧     ̄ ∧ 、\〉∨|         /.: : :′. : : : : : : : . 「∨ / / ヘ
     ',∧       | >  /│        /: :∧! : : : :∧ : : : : | ヽ ' ∠
      ',∧      |、 \   〉 、_       (: :/ ,ニ、: : :ィ ,ニ=、 : : 〉  ,.イ´
      ',∧      |′   ∨ ///> 、  Ⅵ: '仆〉\| '仆リヽ:|\_|: :|
      / /     |     └<//////> 、 八!`´、'_,、 `´イ. :|////7: !
    /_/       |、       ` </////>、\ ヽ丿  /. : :|//// : .丶
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本スレ
【とらドラ!】大河×竜児【アマアマ妄想】Vol17
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1255435399/

2 高須家の名無しさん :2009/10/29(木) 01:37:10 ID:???

まとめサイト
ttp://tigerxdragon.web.fc2.com/

過去スレ
【とらドラ!】大河×竜児【ラブラブ妄想】(1スレ目)
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1231122796/
【とらドラ!】大河×竜児【ニヤニヤ妄想】(2スレ目)
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1234443246/
【とらドラ!】大河×竜児【デレデレ妄想】(3スレ目)
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1236695653/
【とらドラ!】大河×竜児【イチャイチャ妄想】Vol4
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1237819701/
【とらドラ!】大河×竜児【ベタベタ妄想】Vol5
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1238865504/
【とらドラ!】大河×竜児【スキスキ妄想】Vol6
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1240317270/
【とらドラ!】大河×竜児【ドキドキ妄想】Vol7
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1241386432/
【とらドラ!】大河×竜児【アツアツ妄想】Vol8
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1242374673/
【とらドラ!】大河×竜児【フワフワ妄想】Vol9
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1243354181/
【とらドラ!】大河×竜児【クネクネ妄想】Vol10
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1244280781/
【とらドラ!】大河×竜児【ワクワク妄想】Vol11
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1245146459/
【とらドラ!】大河×竜児【モフモフ妄想】Vol12
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1246704738/
【とらドラ!】大河×竜児【ナツナツ妄想】Vol13
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1248388647/
【とらドラ!】大河×竜児【ユラユラ妄想】Vol14
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1249487623/
【とらドラ!】大河×竜児【モグモグ妄想】Vol15
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1251296860/
【とらドラ!】大河×竜児【ハフハフ妄想】Vol16
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1253001418/

3 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2009/10/29(木) 01:38:35 ID:???
前スレ
大河×竜児ラブラブ妄想スレ 新避難所
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/7850/1245088864/

4 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2009/10/29(木) 01:45:01 ID:???
前スレ1000に行ってないですが、容量500Kを超えており
これ以上増えると読み込みに時間がかかるのではないかと思ったため新スレ立てました。

>>1乙!

5 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/10/31(土) 05:21:05 ID:???
>>1-4乙です!

さて、本スレ……というか2chの大量規制に巻き込まれ中なので、こちらに投下します。代理投稿歓迎。

6 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/10/31(土) 05:21:55 ID:???
お題 「シール」「マドレーヌ」「ちんすこー」



「見て竜児!沖縄フェアとかやってる!」
「……何も買わねえぞ」
「えー!?ちんすこー!さーたーあんだぎー!」
「大河……今日は何の為に駅ビルまで来たのかわかってるか?」
「新しいお店の、絶品って評判のマドレーヌを買うため」
「正解だ。ついでに言うと大河が遊んだり買い物してる間俺がずっと並んでて、さっきようやく買えたばっかりだ」
「何よ、お菓子はいくらあってもいいじゃない」
「駄目だ。せっかくの絶品マドレーヌだぞ、じっくり味わわないとMOTTAINAIじゃねえか」
「何よ、この貧乏性」
「それだけじゃねえぞ。俺はこのマドレーヌの味をしっかり確認して、出来ればうちでも再現したいんだよ」
「いいわよ、私が自分のお金で買うから。そんで竜児には分けてあげない」
「……また太るぞ」
「……う」
「あのダイエット地獄をもう一度経験したいってんなら止めねえけどな」
「……ううう」
「来年になれば修学旅行は沖縄なんだし、焦ることはねえだろ」
「……3ヶ月近く先の話じゃないのよ」
「うーん……ちんすこうは流石に無理だと思うけど、サーターアンダギーなら今度作ってやるよ」
「本当!?」
「あれって確か沖縄の家庭のおやつだろ。ちょっと調べればなんとかなると思うぞ」
「よし、よく言った!うちに来てマドレーヌを食っていいぞ!」
「光栄であります、サー」
「あ、そうだ。竜児、プリクラ撮っていかない?」
「はあ?何だよ突然」
「さっき、ちょっと面白そうなの見つけたのよ」
「まあ、構わねえけどよ……」


 生徒手帳に貼られた小さなシール。
 それが呼び起こす記憶は、かつての輝ける日々。
 そこで共に居た大河は、今は遠い空の下で。
 だけど、必ず、いつか、また。

7 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2009/10/31(土) 20:55:32 ID:???
まとめサイト更新しました。
ページが長くなってきたのでスレッド別一覧を別ページに分けました。
不具合等がありましたらご連絡ください。

アク禁に巻き込まれた方は、>>3の避難所の方に退避してくださいー
http://jbbs.livedoor.jp/anime/7850/



ぐぐぐ、まだ規制が解除されず…

どなたか、避難所ログの虎飛び出し注意!を代理投稿するついでに
本スレに書き込んでいただけたら幸い…

8 高須家の名無しさん :2009/10/31(土) 21:44:29 ID:???
代理しときました、まとめ様いつも乙!

時限解除されるまではこっちに投下とか感想が
当たり前のように書かれるようになるといいねぇ

自分は運良く難を逃れたけど、本スレもゆゆぽスレも閑散としてる気がする

9 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2009/11/01(日) 13:42:57 ID:LGRNPOYY
>>8
代理登校ありがとうございました!

まさか自分が避難所のお世話になることになるとは…
作っておいてよかった!

10 高須家の名無しさん :2009/11/01(日) 23:00:29 ID:???
>>9
代わりに学校に行くのれすか

11 高須家の名無しさん :2009/11/01(日) 23:29:35 ID:???
137 名前: 心得をよく読みましょう [sage] 投稿日: 2009/10/29(木) 12:42:54 ID:oQSkK1eu
携帯もってんならこの方法で簡単なんじゃないか?

1:http://get.ula.cc/pc/ こっから携帯で新規口座作って12000狐PをGET
2:http://bainin.ula.cc/sale/maru/ ここから●二週間お試し券を買う
3:http://maru14.ula.cc/ ここでお試し券を交換
4:完了メールきたら専ブラのログイン設定にIDとパスいれる
5:今までと同じように書き込める

2週間過ぎたらまた同じ手順やればいいだけ。数回分あるし一月半規制続いても安心
iPhoneだったりしたらクレクレするしかないんだろうけどさ

お試し●の交換・利用について
1つの●をPC+携帯で共有可
同じメアドで試用期間内に重複登録はできない。14日経過後、期限切れメールが届いてからであれば、同じメアドで交換可
同一アカウントから期間が重複した交換をするには、メアドを複数用意すれば可能
ちょっと間使えなくてもいいという人は期限切れのメールがきてから再申請してください

栄光のニダーラン @ wiki
http://www36.atwiki.jp/nida-run/pages/1.html

12 高須家の名無しさん :2009/11/02(月) 07:45:46 ID:kcH0gV06
傍若無人【カタワラニ、ヒト、ナキガゴトシ】
(1) まるで人が周囲にいないような、配慮を欠く、失礼な振る舞いの様子。

傍若無竜【カタワラニ、リュウジ、ナキガゴトシ】
(1) 横に居る竜児を無視しているような、配慮を欠く、失礼な振る舞いの様子。
(2) まるで竜児が横にいないような、しゅんとした大河の様子。

13 高須家の名無しさん :2009/11/02(月) 11:18:48 ID:???
>>12
(2)に天才の萌芽を見た

14 高須家の名無しさん :2009/11/02(月) 11:33:18 ID:???
虎無竜

15 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/03(火) 06:13:23 ID:???
代理投稿ありがとうございました。

そしてまだ規制中。
2週間での時限解除ってのもなくなったみたいだし、ocn規制は最悪一ヶ月コース……orz

16 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/03(火) 06:14:48 ID:???
お題 「クリア」「気づく」「約束」



「ここが3……てことは、こっちが9で……よし、解けた!」
「嘘っ!?」
「嘘じゃねえぞ……うん、間違いもねえな。ほら、確認してみろよ」
「……う……た、確かに……」
「大河、約束は忘れてねえだろうな」
「……忘れてないわよ。数独十問、先にクリアした方が何でも一つ言う事を聞かせられる……よね」
「おう。さて、大河には何をしてもらおうかな〜」
 悔しそうな大河を前にニヤニヤと笑う竜児。
「こ、これからずっととか、物やお金の遣り取りは無しだからね!」
「わかってるって」
 恨みがましく睨み付ける大河を見ながら、竜児はふと気づく。
「……あれ?」
「どうしたのよ」
「……思いつかねえ」
「は?」
「いや……大河にしてもらいたいことってのが……思いつかねえんだよ……」

「……ホントに何も無いわけ?」
「だってよ、暴力とか暴言とか、一時だけ止めさせても仕方ねえじゃねえか」
「ほ、他に無いの?掃除とか洗濯とか……」
「俺がそのへんを他人に任せると思うか?」
「それじゃ、料理とか……」
「うーん……まあ無くはねえかもしれねえけど、教えるのもドジのフォローをするのも俺だからなあ……
 自分で作るより却って大変そうじゃねえか」
「ぐ……」
「な?ねえだろ?」
「……なんか、罰ゲーム的なものとか」
「俺に無意味に他人をいたぶって楽しむ趣味はねえぞ。川嶋じゃあるまいし」
「こ、コスプレとか……」
「衣装を用意するのは誰だよ。そんな簡単に作れるもんじゃねえぞ、あーゆーのは」
「……そ、その……え、えっちな、こととかは?」
「んなっ!?ね、ねえよ、絶対に」
「あら意外。エロ犬のくせに」
「大河……そ、そういうことを、冗談でも言うんじゃねえよ……俺が本気にしたらどうするつもりだったんだ」
「……殴ってたわね」
「……まあ、そうだよな」
「だけど、ホントの本当に何も無いの?」
「だから、無いって言ってるじゃねえか」
「ふーん……そう、なんだ……」
「……大河、どうした?」
「つまり、竜児にとって私は、何も求めるものが無い……必要ない人間ってことなんだ……」
「そ、そうじゃねえって!その……大河は、一緒に居てくれるだけで十分っていうか……
 特に求める事が無いってのは、そのままでいてくれればいいってことでさ」
「よし!」
「へ?」
「今、言ったわよねえ……『そのままでいてくれればいい』って。了解したわ、私は普段通りにしてる。
 これで竜児の権利は終了ね。さ、次は格ゲーで勝負といきましょうか」
「ず、ずるいぞ大河!」

17 虎注1/7 ◆wVNPBvxl56 :2009/11/05(木) 08:08:34 ID:???
おはようございます。


*


 それほど気にしていないように思えても、根底のどこかでは自分のことを、不幸だ、と
感じていたのかもしれない。それを含めて、二三日自分のことばかり考えていたようだった。
自分の頭の蠅を追えとも言うものの、それを差し置いてもそのことに気づかなかった事実に、
竜児はショックを隠せなかった。
 しかも少なからず、目下竜児の頭にたかる蠅、もとい虎――ひどく例えは悪いが――の
動向とも関わりのある人物のことである。
 元気がないな、とは思っていた。だからといって。

「ねえ竜児……」

 ほぼ真下から聞こえた声から感じる意図は、ひとまず休戦、といった様子。
私たちのことはしまっておきましょうと似合わない心得顔の大河だった。原因の一端に
自分が噂されていることに負い目でも感じているのか、言葉にはしなかったもののともかく
竜児にとってもありがたい申し出、的な意図ではあった。

「北村」

 後ろから声をかけたのは放課後のこと、大河は何か遠慮めいた躊躇いを理由に先に帰っていた。
 できたら竜児としては大河も一緒に来てほしかった。一つには北村をして、「全部やめる」なんて
投げやりな言葉を叫ばせる理由を聞くのが、一人では少し怖かったからだ。
 もう一つの理由は竜児には上手く説明できるほど考えを整理する時間がなかったのだが、
たぶん余りにも常に一緒に居すぎて、例えば帰り道傍らにその姿がないと落ち着かず、
空に太陽が見えないとか、部屋に窓がないとか、教室に黒板がないとか、当たり前にあると
思っているはずのものが不在のときに感じる違和と同種のそれが、その理由のそのまた一因になっているのだろう。
 竜児にとって大河は余りにも当たり前な存在となっていた。その上、昨晩から竜児の脳内は大河一色である。
 そういう意味では、やはり今は大河に居てもらっては困るのかもしれないが。

「ああ……なんだ高須か。逢坂はどうした? 一緒じゃないのか?」

 振り向いた北村の表情は見ようによっては竜児の凶悪に鋭い目つきより正視に耐えがたいものだった。
北村を知るものにとっては特に。やつれているとか、疲れているとか、そういう形容ともまた違った生気のなさ。
暑苦しいほどの気力に満ちた普段からは全く想像できない風の腑抜けぶりで、言うなれば北村駄作といった体。
何か一つのことに気を取られているためにほかのことを構っていられないようだったし、
何一つ考えられない呆然の境地であるようにも見えた。
 とはいえそんな状態の者にすら四六時中二個イチでいないことを疑問に思われるほど、
傍目にも自分たちがセットで考えられていることも、竜児には少なからず感慨のようなものがあったが。

「お前な……なんだじゃねえよ。大河なら用事があるっつって先帰ったけど、まあこの際あいつのことはどうでもいい」

 並んで歩き出しながら、竜児は小さな物体を脇へどかす仕草をした。

「そんなことはないだろう。逢坂は重要だぞ。高須と逢坂が一緒にいないなんて問題に比べたらほかのことは
 全て瑣末事だ。恋ヶ窪先生が独身でおられないとか、素直でいい子な亜美とか、変じゃない櫛枝のように
 不可解かつ驚愕の事実だ」

18 虎注2/7 ◆wVNPBvxl56 :2009/11/05(木) 08:09:01 ID:???
 北村は心底どうでもいいことに引っかかった。死んだような目をしている割にはよく口が回る。
何か言いたくないことを糊塗するかのように。

「なんでそこまで重大だよ。重要度で言ったら精々能登が時々コンタクトにするくらい心底どうでもいいよ。
 お前俺たちを不断の愛を誓った恋人か何かだと思ってんだろ」

 出てくるたとえがおかしい。竜児は自分の発したフレーズにドキッとした。言うなれば心臓が不整脈的な動きをしたのだ。

「恋人……恋人ね。お前たちの場合はいっそ夫婦だ」
「た、確かに泰子は完全にウチの子扱いしてるけど……って、違う違う、なに言ってんだ。
 ……あー、だからこんな話したいんじゃなくてだな」

 竜児が言葉を探して意味もなく前髪を引っ張っていると、殆ど聞こえるか聞こえないかの声で、北村がぼそっと呟いた。

「……羨ましいよ」
「え?」
「いや?」

 なんでもないさ――北村は夕焼けを眩しそうに見て、深々と嘆息した。

「……まあでも実際珍しいよな、高須と逢坂が一緒じゃないのは。かえって新鮮だよ」
「いや、だからそれは」

 北村はどうしても話を逸らしたい様子だったが、その割に態度はいかにも悩ましげで、
口では全然関係のないことを喋ってその内実は別のことに気を取られている風で、本当はそんなことを
話したいようには見えない。余計はおしゃべりは北村の中で何か葛藤が起きていることの表れなのかもしれなかったし、
意図的に自分自身の意識をも逸らせようとしているかもしれなかった。

「そういえば朝も別々だったな。ケンカしてるってわけじゃないんだろうが。高須は高須で意味もなく掃除してるし」
「ばかやろう。意味はあるし高須竜児が掃除をするのは人間が呼吸をするのと同じように自然なことだ」

 そうとも、うんうん。こと掃除に関しては一家言ある竜児である。自分の趣味を意味もなくなどと
評されては黙っていられず、話を進めたいのにうっかり乗ってしまう。案外竜児も、北村自身の話をすることに
ためらいがあったせいもあるのかもしれない。
 北村のことは心配だけど、どこまで踏み込んでいいものか分からないのだ。
 しかし、あれだけ燃え尽き症候群な一日を過ごしてはいても、身体に染みついた委員長体質なのか、
意外に周りのことは見ていたらしい。

「櫛枝もなんだかいつもと違ったしな。何かあったのか? 亜美もさっき……いや、いいか」
「よかねえけどよ」

 気になることを言う。竜児とて親友の様子に気づくまでは自分のことに気を取られていたのだ。
ともすれば思考は逸れがちだった。思わせぶりなことを言われればなおさらである。

「俺の話はいいだろ、ほんと」
「いや、高須よ」

19 虎注3/7 ◆wVNPBvxl56 :2009/11/05(木) 08:09:21 ID:???
 北村は物悲しげな目で竜児を見て、

「俺のことは……正直今は、少し、話したくないんだ……高須の話が聞きたいな。高須と、逢坂の話を」

 誤魔化すのはやめて、拒絶した。竜児はそこで二の足を踏んだら、また後悔する羽目になるんじゃないかと思った。
けれど踏み込んだらそれはそれで、失敗するかもしれない。やらないで後悔するよりは、断然いいのだけど。
 北村のことは心配だが、本人が話したくないと言った以上、おそらく気が変わるなんてことはしばらくないだろう。
「今は」という期限に期待して、少しばかり待ってみるべきなのかもしれない。

「分かったよ……分かった。っつっても何から話ししたらいい? 大河の失敗談でも聞きたいのか?
 あいつの私生活なんて恥じるところしかねえぞ」
「はは……それは、ちょっと見てみたいもんだ」

 力ない笑いだったが、それでもないよりは、虚ろな顔をされているよりはマシというものだ。
大河の笑えないドジくらいで親友がちょっとでも元気になるのなら、大河のプライバシーなど一顧だに価しない。
あらゆる恥を開陳してしまえばいいと思う。

「いや、何というか、話は戻るが、お前たちがケンカしてるわけでもないのに登校も下校も別々だなんて、
 本当に珍しいと思ってな」
「……確かにな。すげえ違和感だよ」

 懐が寂しいというか足元が落ち着かないというか。いつだって目線の下にあるつむじが見当たらないのは
それだけで徹底的に何かしらの欠落を表しているかのようで、喪失感に近い感覚をさえ竜児に抱かせるに充分だった。
 竜児は、できたらあのちっこいバカには、自分の頭上から両肩に触れて地面まで延びる
円錐形の範囲内で暮らしていてもらいたいものだ、と妙に感慨深く思った。
 見える範囲ではなく、手の届く範囲に居てほしいのだ。
 要するに――

「しばらくお前と一緒に帰ることもなかったからな、実は色々と聞いてみたいところもあったんだ」
「そういや、そうだな。帰りはなんかいつもバタバタ慌しくて……主に大河と特売のせいだけど。
 ああ、でもお前が生徒会に入って以来か」

 話したくない、とは言いつつも北村の目は雄弁だった。生徒会と聞いて微かに細められたその目。
決して不快の色でも、それ自体を厭っているわけでもない、ただそれについてもう考えたくないとでもいうような、
何かしらのジレンマがそこにあった。
 竜児にさえ、文化祭以来北村の元気のなさは生徒会に起因することなのだと推測できた。
それが単に生徒会長になりたくないからなのか、あるいはもっと他に理由があるのか。
それ以上の判断をすることはできなかったが。
 とにかく、竜児の言葉に対して口を歪めることでのみで回答としたのは事実だった。
 端的に言えばスルーした。

「……高須と逢坂はいつの間に親しくなったんだ? 余計な詮索と思って聞かなかったが、
 実は前から結構気になってたんだぞ」

20 虎注4/7 ◆wVNPBvxl56 :2009/11/05(木) 08:09:42 ID:???
 そうして発した言葉は、微妙に墓穴発言だった。お前のせいだよ、とも言えまい。大河がラブレターを
入れる鞄を間違えたことで全てが始まったのだ。大河がドジで、かつ間違いに気づいたあと理由も言わず
竜児の鞄を奪おうとするほどの強情っぱりだったからこそ、竜児と大河は親しくなった。
 だから、ある意味、大河は大河であるからこそ竜児と親しくなったのだったが。いずれにせよ、
その発端が北村であることは事実だろう。
 お前のせいだよ、と言ってしまうべきだろうか。上手く伝えられなかったとはいえ、大河は一度は北村に
告白しているのだ。トイレの裏に呼び出して。関係ないことばかり喋って。どうしようもなく無様ではあったけど。
その勇気が、自分が中々持てないでいた勇気が、竜児はまたどうしようもなく羨ましかったものだ。
 ならば、別に話してもいいのだろうか。一度告白して振られて、その後逆に告白されたとき、
北村はやんわりと大河を振った。たぶん既に北村の意中に大河は居なかったのだろうけれど、
その気持ちは、きっと分かっている。竜児も内心でも認めようとはしなかったが、それでもこの半年、
大河は叶わぬ恋に身を焦がしていたのだろう。
 だったら、話してもいいのかもしれない。もとより北村は竜児の親友なのだ。
今更隠すようなことでもないことではないだろうか。
 そういう考えに至った自分自身の変化に、竜児は気づかなかったが。

「衝撃的なことを言っていいか?」
「もう二人の間には子が」
「混ぜっ返すなよな」

 ジロ、と貴婦人なら間違いなく気絶する殺人的な視線で睨んでやるが、余人は怯えても北村は慣れたもの、
どころか、ああ、高須は目つきが悪いからな、ときっと好意的な解釈で笑み返す。

「悪い悪い、それで?」

 今度は竜児が遠い目をする番だった。何だかんだと自分から敢えて誰かに教えたことはないのだ。
大河は事故だし、亜美は勝手に感づいた。いざ言おうとすると、本人に告白するわけでもないのに恥ずかしい。

「俺さ……櫛枝が好きなんだ」

 北村は笑顔のままだった。
 時差でも発生しているかのようなタイミングで首をかしげる。

「え? すまん、よく聞こえなかった。もう一度頼む」

 竜児は真顔で繰り返した。

「俺は櫛枝実乃梨が好きなんだ」

 無言の時が流れる。ひんやりした風が通り抜け、秋の訪れを予感させた。
オレンジに変わりゆく高い空に雲が流れてゆく。

「ええっ!?」
「おせえ!」
「いや、だって、ええ!? 櫛枝って、あの櫛枝実乃梨か!?」
「わざわざフルネームで言いなおしたじゃねえか!
 ほかに櫛枝実乃梨が百人いても俺はあの奇人筆頭ナンバーワンの櫛枝しか知らねえ!」

21 虎注5/7 ◆wVNPBvxl56 :2009/11/05(木) 08:10:04 ID:???
 思わず冴え渡る突っ込み。ビシィッと効果音の入りそうな手首のスナップが北村の肩を捉える。
 北村は気が抜けたようによろめき、ぐるりとトキのごとき流れるような動作で回転して元の位置に戻ってきた。
俯いた姿勢から眼鏡を直しながら顔を上げ、竜児に驚愕の表情を見せる。

「櫛枝が好きと」
「……そうだよ」
「うん、うん、そうか、そうか……ああ、でも、なんだ、櫛枝が変なことはちゃんと分かってるんだな、それは安心した」
「仮にもお前の友達でもあるだろうが」

 確かに竜児の目から見ても実乃梨は変だが。
 変だけど、笑顔が眩いのだ。変だけれど、不良と噂される竜児にこだわりなく接してくれたのだ。

「いや、悪い、びっくりしたんだ。高須、お前人を見る目があるよ。好みに関してはちょっと不安に思うところはあるが、
 俺が保証する。櫛枝はいい奴だぞ」

 何度も頷いて、北村はあることに思い当たって竜児を見た。

「で、それが逢坂とどう関係があるんだ? 櫛枝へアタックする過程でその友達である逢坂と親しくなった。
 ……わけじゃないよな。それじゃなんか順番がおかしいし」
「あー、そうだな、それは逆だ。大河と知り合ったから自然と櫛枝とも話すようになったんだよ」
「ううん、すまないな。俺は一向こういうことには疎いものだから。話の腰を折ってすまん、
 順を追って説明してくれるか?」

 竜児は北村が親友でよかったと思った。これを話す相手が北村で本当によかった。
一を聞いて十を察する相手に話すのは、逆に自分が気づいてすらいないことを思い知らされて、
当面の問題が解決される前に更なる問題が積みあがっていってしまうのだ。北村は女子と話すのは苦手だなどと
言っている割には自然に接することができるが、恋愛方面に関しては決して察しがいいとか
長けているなどということはないのだ。つまり、竜児とほとんど同じ土台に立っていると言ってもいい。
竜児が考えをまとめながら話しても、茶々を入れたり余計な気づかいをせずに素直に聞いてくれる。

「前提が、もうひとつある。お前だって分かってるんだろうが、大河は……ずっとお前のこと、好きだったんだ」

 それはもう、ずっと。竜児が実乃梨に恋するより、ずっと前から。
 北村は分かっているとでも言いたげに、その実曖昧に微笑した。

「告白……されただろ。お前はやんわり流したけど。確かに大河はお前に告白した」
「……なんだ? 見てきたみたいな物言いじゃないか、まるで」
「居合わせちまったんだよ。偶然な。っていうか、大河がお前のことを好きなのを知ってたし、
 その日告白するってことも知ってたけど。居合わせちまったのは偶然だ。
 あいつ間抜けにもトイレの裏に呼び出すんだからな。トイレに行きゃ聞こえちまうんだよ」
「そうか……だったら、俺が言いたいことも分かるんじゃないのか?」

 あの日――実乃梨と北村に誤解され、二人して電柱を蹴った翌日。大河は北村に告白した。
告白したのだけれど、そこで無我夢中の大河の口からぽろぽろと零れ落ちたのは、彼女がずっと好きだった
北村のことではなかった。全然なかったのだ。竜児も居合わせて聞いていたし、北村はもちろん直接聞かされた。
その言葉の意味するところは、本人も気づかない間に大河の最も大切な一部になっていた存在に対する、
謂わば思いの丈は、北村への告白などよりよほど正確に、北村の心に届いていただろう。
 だからこそ北村は、確答を避けるような言葉を返したのだ。聞きようによっては、完全に振られたともいえたが。
はっきりと言葉にしては是とも否とも口にしなかった。たぶんそれは北村の優しさからきた答えだったのだろう。
大河が自分で、自分の力でその気持ちを見つけられるように。

22 虎注6/7 ◆wVNPBvxl56 :2009/11/05(木) 08:10:34 ID:???
「いや、俺もさ、嬉しかったよ。あれだけ頑なに他人を拒絶していた逢坂が、他ならぬ俺の親友と親しくなって、
 俺のことを好き、とも言ってくれた。あのときは他に言いたいことがあったみたいだけどな」

 北村は一度言葉を切った。余計な口出しではないかと躊躇したのだ。
 でも竜児の方はそこで、すとんと、落ち着いてしまった。大河の言いたかったその先、大河に、
明日からはただのクラスメイトに戻ろうと言われたときに感じた喪失感の理由、大河のいる風景の安心感。
 大河が、一日に百回も竜児の名を呼ぶ理由。

「……分かるよ。今になってようやくって感じだけど。考えねえようにしてたけど、
 普通に考えりゃそうなんだって、今は」
「それは、櫛枝が好きだったから今までは分からなかった……ってことか?」
「ああ。たぶん。大河もお前のことが好きだったしな」

 北村は竜児の言葉には合わせず過去形を使ったが、竜児ははっきりと自分の中で納得した答えにまだ確信を
抱くには至らなかったために、使う時制は単に過去形に似た表現でしかなかった。それだけならまだ、
現在を含めた過去にも聞こえる言い方だった。どちらにしても、明瞭に一方が正しいと談じることはできなかったのだ。
 それでも竜児は、自分の気持ちに関しては、それが過去だと肯定してしまった。

「つうか、なんだ、全然順を追ってねえな」
「いいさ、俺も何だか、薄っすらとだが分かってきたような気がする」
「マジかよ。本人が半年かけて分かりかけてるようなことだぞ」
「マジだ。言われてみればって感じだが、確かに、高須が櫛枝と親しくなったとは思っていたが、
単に逢坂経由だと思っていたからな。言われてみれば、色々なことに説明がつきそうな気がする」

 そうかそうか、なるほど。北村は楽しげに呟いて、何度も頷いた。

「亜美の奴が膨れる理由がよく分かった」
「は? 川嶋が?」
「口には出さなかったけど、分かるんだよ。幼馴染だからな。
 あいつのことだから、何かお前たちにお節介なことでも言ったんじゃないか?」

 察しのいい北村というのも調子が狂うものだった。停止していた思考能力が運転を再開した上、
余事は置いて一つのことに集中しているせいかもしれない。鈍感さにかけては竜児に勝るとも劣らない北村が、
亜美のごとき察知力を発揮している。
 もっとも竜児の調子だったら、昨日の夜から狂いっぱなしではあったが。調子が狂ったせいで、
普段考えないようなことを思い至ったのだ。

「そういう理由だったら、高須のことを水臭いとは攻められんな」
「…………」

 つまり、親友に秘密を持っていたということを。

「それで、何かあったわけだ? その均衡状態みたいなものが、昨日崩れてしまうようなことが起きたんだな。
 あの様子だと櫛枝と逢坂の間でも何かあったみたいだけど」
「それに関しては、さっぱりだ。俺もびっくりしてる。全然分かんねえよ」
「まあ、理由はさておき、あれはどう見ても高須を取り合っていたよなあ」

 竜児は眉をひそめた。最凶の誉れも高い三白眼をすうっと細め、戯けたことを抜かす男だ! 切り刻んでやろうか?
と考えているのではなく、半透膜を通過する液体のように、北村の言葉が脳に認識されるまで時間がかかっているのだ。

23 虎注7/7 ◆wVNPBvxl56 :2009/11/05(木) 08:11:08 ID:???
「しかもあの示し合わせたような構いっぷり……二人とも腹を括ったということだな」

 一人心得顔の北村に竜児は全然ついていけない。

「え、おい、ちょっと待てよ、勝手に話を進めんな。ななななんだよ取り合ってるって、腹括ってるって、
 それはなんか前提がおかしいぞ」
「ん? 櫛枝も高須のことが好きなんじゃないのか?」

 古典的な表現で言えば、竜児は頭をガーンと殴られたような気分だった。斬新に言い表すなら、凶暴な女子高生に木刀で殴打されたかのような衝撃を伴った発言だった。
 北村はいい奴だ。しかしデリカシーがないのだ。

「あ、これは言っちゃまずいことだったか」
「お前な……」

 竜児の足が止まる。
 それが事実だとしたら、何という皮肉だろう。そして何というバカバカしい話なのだろう。
一年近く片想いしていた相手が自分のことを好きかもしれない驚天動地のこの情況で、自分は何をやっているのか。
竜児は頭を抱えてうずくまりたくなったので、その通りにした。たとえそれが法律で禁じられていたとしても、
今の竜児なら躊躇いなくやった。

「た、高須!? すまん、大丈夫か!?」
「…………」

 北村が周りでおたおたしているのも竜児の目には一向に入らなかった。アスファルト上の落ち葉を
一心に凝視しているようだったが、その実何も目に入っていなかった。
 考えようによっては、北村とも情況は似ている。北村の場合、一度告白し振られた相手にしばらく経ってから
告白されたのであった。絶妙な時間差で両想いになる期間がなかった。竜児の場合は気がつかなかった。

「高須! 気を確かに!」
「ダメだ北村、俺しばらく立ち直れねえかも」

 そこでふと生じる疑問。

「北村」
「なんだ高須!? ……ああ親友をこんなに落ち込ませてしまうなんて……! 何でもしてやる! 言ってみろ!」
「……お前、何で大河を振ったんだ? もう好きじゃなかったのか?」
「ぐ」

 中々のダメージだった。北村は分厚い胸筋の下のセンシティヴなハートに多大な損害を受け、
たとえとかではなく本当に胸を押さえて竜児の隣にうずくまった。

「おう、ど、どうした? 北村?」

 竜児がおたおたする順番だった。鈍感な男たちは意図せず互いに鞭打っていた。

「……い、いいだろう……何でもすると言ったからには、答えよう。男に二言はないぞ」

 北村の眼鏡がきらりと光る。うろんな光景に見えて、よく見ると北村は赤かった。誰よりも男らしく
清々しい眼鏡くんは、ほっぺを赤く染めて恥らっていた。竜児などはいっそ自分が告白されるのではと
一瞬ぎょっとしたくらいだった。

24 虎注7/7+1 ◆wVNPBvxl56 :2009/11/05(木) 08:12:07 ID:???
「…………す……好き、な、人が……いる」
「おうっ!?」

 竜児はしゃがんだ姿勢のままよろめき、それでも尻餅は死守し、勢いで立ち上がる。背中にぶつかった電柱に
そのまま寄りかかり、身体を支える。
 竜児が衝撃を感じている間に、北村はといえば、

「くくく……」

 泣いていた。

「お、おい、北村!? 大丈夫か!?」
「大丈夫なわけがあるかあっ!」

 泣き顔のまま立ち上がると、鞄を放り捨てスクワットを始める北村。高ぶった感情の対処が体育会系っぽい。
竜児の前で北村の泣き顔がすごい勢いで上下する。
 気持ちが悪かった。

「……大丈夫か?」

 竜児は改めて、頭は大丈夫かという意味で訊ねた。

「ダメだ!」

 北村はあくまで男らしかった。

「脱ぐしかない!」
「脱ぐな」

 学ランのボタンに手をかけた北村の頬を、竜児は力なくぺちゃっと叩いた。

「ダメだダメだダメだ、ダメだーっ!」

 社会的に致命傷を追うことは思いなおしたが、頭をかきむしる北村。狂乱の体である。

「高須竜児!」
「はい!」

 クラス委員は定規のようにまっすぐ親友の凶相に指を突きつけた。端から見れば正義感が不良の非行を
見咎めたかようだった。しかして優等生である竜児はついいい返事を返してしまう。

「逢坂大河が好きか!?」
「はい! ……ってあれ!?」
「よろしい!」

 北村の眼鏡は夕焼けが映りこんでいたが、竜児にはその下の熱く燃える目がありありと見えた。
暑苦しい男である。
 暑苦しい男に戻ったのだ。
 告白してくる――吐き捨てるように宣言すると、北村は元来た道を駆け戻っていった。一路、学校へ。
 竜児はぽかんである。何が起こっているのか理解するまでにしばしの時間が必要だったが、
自分が何か親友に重大な影響を及ぼしたことは分かった。逆に北村は、勢いで竜児から本音を引っ張り出して行ったのだった。

「はい……って」

 やがて一人歩き出した竜児は、スーパーの特売を思い出した。動揺はしていても、衝撃を受けても、
何があろうと安くておいしい晩御飯を作るのが竜児の使命である。
 きっと、大河も食べにくるのだろうし。



*


普通に分母間違えたです。

25 ◆wVNPBvxl56 :2009/11/05(木) 08:13:52 ID:???
代理投稿に感謝。まだ寄生虫みたいなのでよかったら8もお願いします。

26 ◆wVNPBvxl56 :2009/11/06(金) 00:16:33 ID:???
代理ありがとう!
7/7+1の「社会的に致命傷を追う」は「社会的に致命傷を負う」なんだからね!
勘違いしないでよ!

27 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/06(金) 03:37:30 ID:???
>>17-24
周辺状況も動き出して、これからどうなるのか……激しく期待。


まだまだ規制中。代理投稿感謝してます。

28 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/06(金) 03:38:31 ID:???
お題 「お父さん」「ストーカー」「記憶」



「はあ……」
 卓袱台の前で深々と溜息をつく竜児。
「竜児、どうしたのよ、さっきから落ち込んじゃって。ただでさえ凶悪な顔がどこかのストーカーみたいになってるわよ?」
「いや、ちょっと夢見が悪くてな……」
「……どんな夢?」
「……なんというか、昔の記憶をほぼ忠実に再現した夢でさ」
「昔って?」
「小学の……二年だったか三年だったか、作文を書く授業があってさ……テーマが『ぼくの・わたしの家族』で」
「……で?」
「で、正直に書いちまったわけだよ。『うちにはお父さんがいません。お母さんは夜にお酒を飲む仕事をしています』って。
 もちろん書いたのはそれだけじゃないんだけど、やっぱりその辺が印象に残っちまったんだろうな」
「……イジメとか?」
「いや、そこまで酷くはなかったけどさ。元々目付きのせいで引かれがちだったのが、一層人が寄らなくなったのは確かだな」
「……竜児……ちょっとそこに座りなさい」
「いや、座ってるだろ、さっきからずっと」
「いいから黙って」
 大河は竜児の傍に立つと、その頭をそっと抱き締める。
「た、大河!?」
 そしてそのまま――流れるようにヘッドロックに移行。
「あだだだだだだだ!」
「あ・ん・た・は・そんな昔の事でいつまでもグジグジしてるんじゃないわよ!このグズ犬!いやグジ犬!」
 ぎりぎりぎりぎり。
「大河!ギブ!ギブだって!」
 竜児の必死のタップにようやく腕を離す大河。
「あー……いってえ……。
 まあ、確かにこんなことで家族に心配かけるもんじゃねえよな」
「まったく、わかったならやっちゃんが起きてくる前にそのしょぼくれた顔を治しなさいよ」
「おう、すまなかったな、大河」
 言いながら竜児はポン、と大河の頭に手を。
「だから、私じゃなくてやっちゃんに……」
「いや、だからさ……心配かけたのは大河にだろ」
「え?」
「お前もさ、もう家族……みたいなもんじゃねえか。泰子だって『うちは三人家族』とか言ってたしな」
「ふぇ?……え、あ……うん」
「だから、心配させてすまねえって」
「わ、わかればいいのよ」
「そうだな、お詫びに今日の晩飯はトンカツにするか……って大河、どうしたんだよ?」
「な、何が?」
「えらくニヤけちまって……そんなにトンカツが食べたかったのか?」
「そそ、そーなの!丁度食べたいなーって思ってて!」

29 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/09(月) 05:55:35 ID:???
いつも代理投稿ありがとうございます。

まだまだまだ規制中……
ocnからの返信待ちの段階までは行ってるんで、もう少しで解除……されるといいんだけど……

30 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/09(月) 05:56:35 ID:???
お題 「腹の音」「問題」「笑え」



「あれ〜?竜ちゃん今からお出かけ〜?」
「おう、学校に忘れ物しちまってな。メシは冷蔵庫に入れてあるから、遅くなるようだったら暖めて先に食べててくれ」
 嘘であった。
 そもそも今忘れ物に気づいたのであれば、あらかじめ食事の用意をしてあるはずが無い。
 それでは何の為に出かけるのかというと……


 大橋高校の校門……の近くの物影。
 高須竜児と逢坂大河はそこに身を潜めていた。
「……まだかしら……」
「焦るなって、逢坂。授業終った直後の北村は部活や生徒会で忙しいけど、それが終ってからなら何も問題はねえんだから」
「でも、やっぱりこんな時間に偶然逢うなんて不自然じゃない?」
「そこは課題が終らなかったとか忘れ物取りに来たとかいうことにすればいいじゃねえか」
「そ、そうよね……」
「ほら、言ってるそばから北村が来たぞ。行ってこい、逢坂」
 軽く背を押すと、逢坂は数歩たたらを踏みながら前に出て。
「き、北む――」
 ぐうぅぅぅ〜〜るるる
 鳴り響いた腹の音は、逢坂の動きを止めるのに十分だった。

「……笑えばいいじゃないの」
「……笑わねえよ」
「何でこう、いつもいつも……上手くいかないんだろ……」
「まあ、今回のは不可抗力だろ」
「でも……やっぱり私なんかじゃ……ダメなのかな……」
 肩を落とし、とぼとぼと歩く逢坂は今にも泣き出しそうな表情で。
「……なあ逢坂、今日の晩飯はウチで食わねえか?」
「……何よ急に」
「腹減ってるんだろ?うちならもうメシの準備出来てるし、足りなきゃすぐに作れるしな」
「でも、お母さんとか、いいの?」
「……まあ、うちのおふくろはあんまり細かい事気にしねえからさ」
「……細かい事って……」
「どっちかというと、逢坂が泰子を見て引かねえかの方が心配だ」
「泰子って……なに、ひょっとしてあんた自分の母親のこと名前で呼んでるわけ?」
「おう、なんというか……ちょっと変わった親でな」
「そう言われるとなんか興味が湧くわね……メニューは何?」
「今日のメインはチンジャオロースだ。三人だとご飯が少し足りねえかな……冷凍してあるのを解凍するか、チャーハンにして嵩増しするか……」
「チャーハン!チャーハン食べたい!」
「よし、決まりだ。そうだ、逢坂がよかったらだけど、これからメシはうちで食うことにしねえか?
 前から思ってたんだよ。逢坂は晩飯8時だけどうちは6時半だから、二回作るのが面倒でさ。朝だって纏めて作って一緒に食べた方が効率いいし」
「そうねえ……竜児がどうしてもって言うならまあ、やぶさかではないわ」
「おう、頼む」
「それじゃ、さっさと帰ってご飯にしましょう。その後、明日の作戦を考えるのよ!」
「おう、そうだな。次はきっと上手くいくさ」

31 高須家の名無しさん :2009/11/12(木) 01:40:26 ID:ajo9c4vA
本スレ>>402-410

これはひどいwwww
やっちゃんと大河の暴走がとてもステキ。いいぞもっとやれ。

32 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/12(木) 05:20:35 ID:???
地方ごとの規制が解除されたかと思ったら、運営暴走でocnまるごと規制とか……orz

代理投稿感謝です。

33 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/12(木) 05:21:19 ID:???
お題 「気配」「ギラギラ」「夜」



 宵闇の迫る大橋高校の校門前で、部活帰りの生徒が息を呑んで足を竦ませる。
 なぜならば、そこに一人の男が立っていたから。
 ギラギラと凶眼を輝かせて。
 不穏なる気配を漂わせて。
 それは犯罪組織のエージェントか。はたまた誰彼時の魔物か。
「あら竜児。そんな所で何してるのよ」
 背後からの声に振り返れば、そこには輝かんばかりの美少女が。
「ひょっとしてみのりんを待ち伏せ?まさか後をつけようとか考えてるんじゃないでしょうね、このキモ犬」
 彼女は男にずかずかと近づいて。男は彼女の言葉に困ったような表情に。
「あのなあ大河……何って、お前を迎えに来たんじゃねえか。ちゃんと課題は終ったのか?」

「子供じゃないんだから、わざわざ迎えにくる必要なんて無かったのに」
「もう随分夜も早くなってきたからな。女子一人で暗い中帰らせるわけにはいかねえだろ」
「あんたねえ……私を誰だと思ってるの。仮に変なヤツが出てきても返り討ちにしてやるわよ」
「そーゆー問題じゃねえって」
「というか、むしろ竜児が不審者よね。さっきも一年生がドン引きしてたし、通報されなかったのが不思議だわー」
「……警察に職務質問ならされたけどな。二回ほど」
「っぷくくく……さ、流石は顔面凶器……よく逮捕されなかったわね?」
「制服だし、学生証見せれば問題ねえんだよ……正直対応に慣れてる自分が少し悲しいけどな」
「ぷぁっはははは!」
「ああ糞、笑いたきゃ笑え……」
「ところで竜児、職務質問二回もって、あんたどれだけ待ってたのよ?」
「おう、まあ一時間ぐらいかな」
「一時間って……ご飯はどうしたの?」
「今日は泰子は用事で早出だし、まだ食ってねえよ」
「先に食べてから来ればよかったのに」
「一人で食べててもいまいち味気ねえだろ」
「ん……それもそうね。あ!それじゃメニューのリクエストしていい?」
「残念ながら不可だ。下拵えはもう済んでるしな」
「ぶー、竜児のけちー。セコ犬ー。居残りしてまで美術の課題を終らせた私を労おうって気持ちは無いわけ?」
「そもそも大河がコケて筆洗いの水をぶちまけたからだろうが、描き直しになったのは」
「……うー」
「ま、安心しろ。今日はポークソテーだから」
「よっしゃー!肉ー!」
「子供かお前は……」

34 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/13(金) 07:58:36 ID:???
代理投稿ありがとうございます。

さて、ちょっと前に本スレで『君に届け』の話題が出ていましたが、うちのあたりでは放送していないこともあって、
自分的に『君に届け』と言われると浮かぶのはマクロス7よりFIRE BOMBERの『君に届け→』
ttp://www.jtw.zaq.ne.jp/animesong/ma/macross7/kimi.html

で、規制中だろうがなんだろうが思いついたら書かずにはいられなくなるのは人の業というものか。

35 君に届け→ ◆Eby4Hm2ero :2009/11/13(金) 07:59:20 ID:???
 暦の上では春を迎えたといっても、三月の風はまだ冷たくて。

 あの日から2週間。
 あっという間のようでもあり、遥かな時が過ぎたようでもあり。
 お互いに相手を受け入れて歩み寄ろうとしてはいても、長い断絶が作りあげた溝は広く深くて。そのうちに母親は出産の為に入院して。
 病院で目にした弟を素直に可愛いと思えたのは良かったけれど。義父をいい人だと感じられるのは進歩だと思うけれど。
 結局の所自分はこれからの身の振り方も決まらぬまま、こうしてベランダで星空を眺めているだけで。

 あの日の触れ合った感触も熱も、もはやこの体からは消え去って。
 だけど、記憶には、心には、しっかりと刻み付けられていて。
 思考を少し内に向ければ、たちまちに思い出す、溢れ出す。
 恐いようで実は優しい眼差し。手先は器用なくせに生き方は無器用で、でも真っ直ぐに誠実で。
 好きだと、共に生きようと言ってくれたこと。握り合った手の力強さ。触れ合った唇の熱さ。

 だから、大丈夫。寂しいけれど。会いたいけれど。
 まだ時間はかかるかもしれないけれど、いつか辿り着くその日の為に。
 前を向いて歩き続けると決めたから。

 風が吹きつける。まだ冷たい、けれど、あの夜の身を切るような風よりはずっと暖かい。
 この風はどこまで吹くのだろうか。あいつの所まで吹いて行くのだろうか。
 夜空に手を伸ばし、名前を、想いを、囁いて、風に乗せてみる。
 どうか、あいつに届きますように。


 なぜだか急に星が見たくなった。
 勉強の息抜きに丁度いいと思い、マフラーを巻いて外に出る。
 そのままぶらぶらと、天を仰ぎながら歩き続ける。
 と、風が吹いてきて。
「おう、俺もだ」
 気がついたら、何かに返事をしていた。

36 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/16(月) 04:54:04 ID:???
代理投稿感謝です。

ocn規制はいつまで続くのやら……

37 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/16(月) 04:57:06 ID:???
※Caution!
 痛い/辛い系の話です。

38 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/16(月) 04:58:04 ID:???
お題 「ドジ」「裸足」「あっちいけ」



 果てしなく広がる闇の中、氷の様に冷たい床の上を、逢坂大河は裸足で走る。
 身に纏うのは黒いドレス。背負うのは小さな白い翼。頭上に戴くは銀のティアラ。首元には赤いマフラー。
 夢なのだと、わかってはいる。だが、走るのを止めることが出来ない。
 なぜなら背後から声が――走っている理由が近づいてくるから。
「――――が!」
 声は少しずつ、確実に近づいてくる。
 このままではすぐに追いつかれてしまう。
 大河が白い翼を投げ捨てると、それはたちまち吹き荒れる暴風の壁へと変わる。
 声の主は恐れることなくその中に飛び込むが、風に阻まれてなかなか前に進むことが出来ない。
 大河はその間に距離をとるべく、再び走り出す。

「はあ、はあ、はあ……」
 一時も休むことなく走り続け、流石に息が苦しい。
 だが少しでも速度を緩めれば、すぐにあの影が近づいてくる。
「―――いが!」
 また声が近くなった。
「うるさいうるさいうるさい!あっちいけ!」
 叫びながら銀のティアラを投げ捨てると、それは聳え立つ氷の山へと変わる。
 躊躇うことなくよじ登り始めたあの影を尻目に、大河は走り続ける。

「――たいが!」
 あいつにはっきりと名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。
 このまま止まってしまえばどんなに楽だろうか。だが、そうするわけにはいかない。
 大河は首元に手をやり、一瞬その動きが止まる。
 だが意を決して赤いマフラーを投げ捨てると、それは燃え盛る炎の河へと変わる。 
 流石に脚を止めるあいつに背を向け、大河はまた走り出す。

 どれだけ走っただろうか。既に辺りには茫漠たる闇が広がるばかり。
 と、脚がもつれて転ぶ。
「夢の中でまでドジか、私は……」
 倒れ伏す大河の体を、不意に暖かく柔らかい腕が抱き上げる。
「え?」
 見上げればそこには、サンタの格好をしたクマの着ぐるみが。
「……っ!やだっ!」
 逃れようと身を捩るが、大河をがっちりと抱え込んだ左腕がそれを許さない。
 そして右腕はクマの頭部にかかって。ゆっくりとそれを持ち上げて。
「ダメっ……!」
 今、あいつの顔を見てしまったら、自分は――
 だが、着ぐるみの頭部が取り去られた後にあったのは……
「嘘……」
 『逢坂大河』の顔だった。

39 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/16(月) 04:58:18 ID:???
 気づけば着ぐるみは消えて、向かい合って対峙する大河と『大河』。
 黒いドレスだけの大河。白いコートに赤いマフラーをした『大河』。
「……あんた、誰よ?」
『わかってるくせに』
「……」
『今度は私から聞くわね……なんで逃げるの?』
「……逃げて、なんて……」
『逃げてるじゃない、ずっと。竜児には逃げるなって言ったくせに』
「っ!」
 その名前が突き刺さり、大河は思わず胸を押さえる。
『ほら、そんなにつらいんだから、言っちゃえばいいのに』
「……駄目よ」
『何で?竜児なら受け入れてくれるわよ、きっと』
「絶対に駄目。竜児が好きなのは……みのりんだもの」
『でも、みのりんは竜児をふったじゃない』
「それは……きっと、みのりんは勘違いしてて……」
『だから、勘違いじゃないでしょ?私は竜児が好きなんだから』
「……言うな」
『告白しちゃえばいいのよ。きっとみのりんも祝福してくれるわ』
「言うなぁっ!」
 何時の間にか手の中にあった木刀を『大河』に向けて振う。
『強情ねえ。竜児に告白して、幸せになって、何が悪いっていうのよ』
「幸せに、なんて、なれないっ!竜児を、苦しめて!みのりんを、傷つけて!
 そんなの、絶対、絶対っ!」
 ぶん、ぶん、と振われる木刀を、『大河』はひらりひらりとかわす。
「竜児は、みのりんと、一緒になって! 二人は、本当に、幸せに、なるんだからっ!」
『それで、私はどうなるの?』
 すぐ後から耳元に囁かれる声。大河は振り向きざまに木刀で横一閃。だがそこに『大河』の姿は無く。
 ただどこからともなく声だけが響く。
『竜児もみのりんも居なくなって、私はまた一人ぼっち。それでいいの?』
「うるさあぁぁぁいっっっ!」

 自分の絶叫で目が覚める。
 ベッドから身を起こし、肩をぎゅっと抱き、うつむいて唇を噛み締める。
 だがそれは、ほんの束の間。
 大河は決然と顔を上げる。
「いいのよ……私は、強くなるから。なってみせるから」
 そして、ただ一人で立ち上がる。

40 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/16(月) 04:59:10 ID:???
これだけというのはなんなので、もう一本行きます。

41 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2009/11/16(月) 04:59:46 ID:???
お題 「腰」「様子」「存分に」



 逢坂大河は目が覚めて、自分が泣いていることに気がついた。
 何か妙な夢でも見たのだろう……全く憶えてないけれど。
 大きくのびをして時計を見ると、10時半。
「えぇ!?」
 今日は日曜だから遅刻の心配は無いけれど、いつもなら遅くとも9時頃までには竜児が起こしに来るはずなのに。
 枕元に置いてある携帯を開くと、数回の着信記録。竜児も寝坊したというわけでないらしい。
 ならば、なぜ来ないのか。
 背筋に微かな寒気を感じながら、発信。
 数回のコールの後、
『……おう』
「おうじゃないわよこのグズ犬!今何時だと思ってるの!」
『おう、すまねえ……って電話したのに寝こけてたのは大河じゃねえか』
「何で起こしにこないのよ馬鹿!役立たず!」
『……すまねえ、今日はちょっと無理だ』
「はあ?何が無理だってのよ。さっさと来いこの駄犬!」
『……悪い、ホント、今日だけは勘弁してくれ……』
「……よしわかった。グズでノロマな上に怠け者のあんたを、今からお仕置しに行ってやるから首洗って待ってなさい」
 返答を待たずに電話を切り、手早く身支度を整えて。木刀を持つのも忘れずに。

「竜児ぃっ!」
 どばぁん!と、怒りに任せてドアを開けば、卓袱台の横に突っ伏している竜児の姿。
「……おう」
 竜児はやたらゆっくりとこちらに顔を向け、片手を上げる。 
「何やってるのよこの無能!さっさと起きて……」
 ぐうぅぅぅ〜〜〜
 鳴り響いた腹の音に竜児は力なく笑い、
「おう、朝飯だな、ちょっと待っててくれ……」
 ぎぎぎぎ、と軋む音が聞こえそうな動きでゆっくりゆっくりと立ち上がる。

「で、どうしたのよそのザマは」
 冷蔵庫に保管されていた朝食を平らげ、お茶を飲みながら大河が聞く。
 竜児はといえばお茶をのむ動きも……それ以前に朝食の用意をしている時も食べている間もずっと、油の切れたロボットのようで。
「いや……さすがに昨日は無茶しすぎたみたいでさ」
 昨日……大橋高校の文化祭。プロレスショーに……福男レース。
「全身筋肉痛なんだよ。特に足腰が酷くて、正直、今日は極力歩きたくねえ……」
「……まったく、あれしきの事で動けなくなるとか……本っ当に情けない男ね」
「……返す言葉もねえ……」
「病院とか行かなくて平気?」
「まあ、まるっきり動けねえってわけでもないし、大丈夫だろ。明日まで様子見て、ずっと酷いようだったら考えるさ」
「……よし!」
「何がよしだよ」
「今日は特別に私が竜児のお世話をしてげる。あんたは存分に休むといいわ!」
「お世話って……何をする気だ?」
「掃除でしょ、洗濯でしょ、ご飯も私が作ってあげる」
「ちょ、待て待て大河、出来るのかよ?」
「何よ、その反応は。ここは優しいご主人様に泣きながら感謝する所じゃないの」
「感謝じゃねえ。大河が家事とか、不安以外の何物でもねえぞ」
「大丈夫よ、やれば出来るって」
「今まで碌にしてこなかった上にいつドジやらかすかわからない奴に言われてもなあ……
 俺もこの状態だからフォローできねえし」
「……わかったわよ。それなら他に何かすることって無い?」
「それじゃ、背中に湿布貼ってくれねえか?自分じゃ届かねえからさ」
「それだけ?」
「そうだな……後はまあ、傍にいてくれると有難いかな」
「余計なことはするなって言いたいわけ?」
「そうじゃねえよ。ほら、弱ってる時ってのはさ、一人で居るより誰かに近くに居て欲しいもんじゃねえか」
「ん……そういうことなら、まあ……わかったわ」
「おう、頼むぜ大河」
「……ほんとにそれだけでいいの?」
「おう……やっぱりさ、大河が居てくれると……落ち着くんだよな……」
「ん?今なんて言ったの?」
「いや、なんでもねえよ」

42 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2009/11/29(日) 10:26:56 ID:???
まとめサイト更新しました!
勝手にリンクに1件追加しました。

       ____
     /      \
   /  _ノ  ヽ、_  \
  / o゚((●)) ((●))゚o \  ◆QHsKY7H.TY氏の「ドラとら!(仮)」のタイトルが決まらないんだお…
  |     (__人__)'    |
  \     `⌒´     /

       ____
     /      \
   /  _ノ  ヽ、_  \
  /  o゚⌒   ⌒゚o  \  いくら考えても「ドラとら!」より良いタイトルが思い浮かばないお…
  |     (__人__)    |
  \     ` ⌒´     /

       ____
     /⌒  ⌒\
   /( ●)  (●)\
  /::::::⌒(__人__)⌒::::: \   だから画像を使ってアニメのアイキャッチ風にするお!
  |     |r┬-|     |
  \      `ー'´     /


  ./ ̄ ̄\
 /ノ( _ノ  \ 
 |,'⌒ (( ●)(●)   <遊びすぎなんだよ!!!
 |     (__人__)   
 |     ` ⌒´ノ ,rっっ                  ,
/"⌒ヽ   ソ,ノ .i゙)' 'ィ´                `     ,._
      ゙ヾ ,,/ { ) 丿             ,  ゜;,/⌒    ⌒u:::\ 。
 ィ≒    `\ /'ニ7´     スパァァ────/(◯.;); :::::、;(;.◯));:'::::ヽ‐─────‐‐ ン
/^ヾ      \ ./              ゚ ;i`、 ⌒:(__人__) ⌒:::::;;,´:::|
   }      __\___ ___   ____´_;;{   ;` j|r┬-|:;〉::,,゚, 。;;:;;|
   )ンィ⌒ ̄" ̄ ̄ ̄  ̄ ̄  ̄ ̄ ̄  ̄ ̄  ̄ ̄ニ≡┴‐ー-,==ー--ァ人て゜ ゚;:,::|: ゜ .
   ノ/             ≡''        ;;;;(( 三iiii_iiiiiii)))))て,,;;/  。  ;
   ヾ         _____=≒=ー────;‐‐ ̄/      |Y‐-<` `




-----------------
うおお、まだ規制が解除されない…
●を買うか…
狐ぽってなんだろう…

43 高須家の名無しさん :2009/11/29(日) 14:52:47 ID:K9WVNwD2
>>42
とりあえず>>11の手順でやってみ
で、書き込めるかどうかのテストはこっちでやってみ

ニダーランでお試し●貰った奴が書き込むスレ
http://gimpo.2ch.net/test/read.cgi/maru/1241028415/

44 ◆wVNPBvxl56 :2009/12/02(水) 18:32:46 ID:???
まさかの再規制w
ここでレスさせてください。

18スレ
>>109-112 >>115
サーセンwww
としか言えませんがw
虎注書いたら書きます。

>>113
妄想が広がりますな。

45 高須家の名無しさん :2009/12/09(水) 23:18:00 ID:???
44 名前: ◆wVNPBvxl56[sage] 投稿日:2009/12/02(水) 18:32:46 ID:???
まさかの再規制w
ここでレスさせてください。

18スレ
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1258620217/109-112
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1258620217/115
サーセンwww
としか言えませんがw
虎注書いたら書きます。

http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1258620217/113
妄想が広がりますな。

46 ◆x6jzI2BeLw :2009/12/11(金) 09:27:22 ID:???
まずは冒頭、スレをお騒がせしたことをお詫びします。

配慮が足らなかった点など、厳しいご意見を頂きましたが、その通りであると言わざるを得ません。
若干、冷静さを欠いた状況で投下してしまったことを含めまして、今回はスレの善良な読者や他の書き手の方に多大なご迷惑をお掛け致しましたことを深く謝ります。

不愉快な思いをさせてしまった方々にはここで再度、謝罪させて頂きます。
「本当にごめんなさい」

謝るくらいなら、そんなことするなと言われそうですが、そう言った点を含めまして、今回の件につきましては弁解の余地もございません。

以上の点を踏まえまして、しばらくの間、活動を自粛させて頂きます。
スレの関係各位にはご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。

本スレに記載すると荒れる要因になりそうなのでこちらへ投下させて頂きました。

最後に、今まで読んでくれた方々に感謝の意を捧げます。

47 高須家の名無しさん :2009/12/11(金) 10:32:21 ID:HOgOsZ26
>46
個人的に全然問題ないと思われ。
考えを押し付けているのではなく、照れ屋さんだったのだと推測します。
凄くキレイに心の交流が描かれていました。
次の作品も楽しみにしていますので、落ち着かれたら、是非お願いします。
真夏シンデレラも、孤独な月ウサギ…も描写が見事で大好きでした。

ガチエロの基準が分からなくなってきた…
前に荒れた時と、今回のは随分違うと思うんだけど、そう思うのは俺だけ?

48 高須家の名無しさん :2009/12/11(金) 12:22:43 ID:???
まとめ人へ

VIPで大河×竜司スレ立てたらまとめてくれますか?
というかまとめてくださいお願いします
VIPの方が自由に表現しても文句言って来るやついなさそうなので(エロス的な意味で)

49 高須家の名無しさん :2009/12/11(金) 13:05:35 ID:???
いや、今回のは過剰反応だろう。
具体的な描写を避けててガチエロ扱いされたらたまらんよ。

>>48
わざわざVIPまで行かなくてもここでやればいいじゃん。そのための避難所なんだし。

50 高須家の名無しさん :2009/12/11(金) 14:47:27 ID:???
今回のは基準も何もあったもんじゃないね
前に荒れた時と比べる必要すら無いくらいに明白
だから作者の人もあまり気にしない方がいいよ

昔に比べて堪え性の無いガキがいて、騒いだってだけだ

ま、スレの流れも快方に向かってるようだしヨカタ

51 高須家の名無しさん :2009/12/11(金) 14:53:05 ID:???
>>46
ラブシーンではあってもエロじゃなかったと思うのだけど
ああいうキツいリアクションとられるとショボンてしちゃうだろうけど、
元気出してね

>>47
いったん排除の論理が働くと、やっぱ極端なところまで行き着くものかと
微エロとかももう、おっかなくて本スレにはうp出来ねぇ……

それにしてもやっぱラブシーンもだめとかはどうかと

52 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2009/12/13(日) 00:59:21 ID:???
ttp://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Tone/9772/doujin.html

うおおお、死ぬほど欲しい…

>>48
避難所のスレ立ては特に制限してませんので、VIPスレ立てて思う存分やると良いよ!
つーか、流れ早くてアッシのような無精者にはVIPはついていけない予感。

>>◆x6jzI2BeLw氏
あれくらいのイチャイチャは自分では問題ないと思います。
ただ、くだんの方が問題点にしているのは、多少エロいということを自分でわかっていながら
あえて何も言わなかったことだと思っております。
ですので、ちょっとエロいかなーと自分でも思うときは前置きするとよいと思います。
やべえこれエロ杉!と思いましたらこちらの避難所にどうぞ。

いやまあ、あんまり調子に乗っちゃうと、アグネスさんがアップをし始めますので。
だって、大河はどう見ても児童ポr




やめt

53 高須家の名無しさん :2009/12/13(日) 06:30:58 ID:t3E7ZHLE
>>46
あなたに批判的なレスをした者の一人です。
私の意見については>>51で管理人さんが総括してくださったことがすべてです。
出してしまった発言に対しては責任を持つべきだと思うので、言い訳も撤回もしようがありません。
無礼な物言いがあったこと、ご容赦ください。

活動自粛までは私の望むところではありません。
早期に(というかすぐにでも)解除されることを祈ります。

54 高須家の名無しさん :2009/12/13(日) 06:32:42 ID:t3E7ZHLE
失礼、アンカーミスです。
>>51ではなくて、>>52です。

55 高須家の名無しさん :2009/12/18(金) 22:42:26 ID:FxxK4/1.
なんつうか、すげぇ違和感を感じます。
上手く説明できないけど、書き手側と読み手側に齟齬があることに。

読み手側の意見としては、「こまけぇこたぁいいんだよ!」「全然問題ない」とか擁護する意見が多いです。
でも、◆x6jzI2BeLw氏側には考えるところがあったのだと思います。
思う所があったから、こういった真摯な対応に出たのだと推測することしかできないですが……
書き手側が読み手側と同じ意見なら、「裸で何が悪い!」みたいに開き直れば済むことだもん。

本スレの方では流れを正常化させるためにそういう擁護・応援意見を言った、というのは理解します。
が、なぁなぁで済ませてもいいとは思いません。
>>47氏や>>51氏が言うように、俺自身も今後作品を書く上で少し怖いところがあります。
何より個人的にもエロを含んだ作品も日の目を浴びてほしい。
(もちろん、ガチエロは論外だが)
もっと踏み込んで議論してもらいたいかなと思うのですがいかがでしょうか?

個人的な不安を解消したいためだけに◆x6jzI2BeLw氏をダシに使うような形になってしまったことをお詫びします。
◆x6jzI2BeLw氏は非常に真摯な対応をされたと思いますし、色々思う所もあったのではないかと思います。
そこに追い打ちをかける形になるのかもしれませんが、お許しいただければ幸いです。

今回の問題点を敢えて挙げるとすればこんなところだと俺は思いました。

①注意書きの問題
 →個人的には作品を投下するときに一番気を使う所。
  説明不足にならず、説明しすぎず、ネタバレせず、冗長にならず、というのが非常に苦労する。
②最後まで行っちゃった
 →寸止めあるいは朝チュンくらいの描写ならおk?
  ギシアンはそれ以前のやり取りの面白さがキモってことでおk?
③不要なエロだった
 →エロがなくてもこのお話は成立したし、面白かったのかなと感じる
  ◆x6jzI2BeLw氏の他作品で、エロを上手く使った作品は非常に面白い。
  同じ書き手としてその才能に嫉妬してしまうくらい。

ご意見いただければ幸いです。

56 高須家の名無しさん :2009/12/20(日) 08:38:59 ID:QKBpsfKs
書き手として、線引きはしている。が、その線はスレのガイドラインを読んで
自分で決めるものであって、細かい所まで人に決めて貰うものじゃないと
思ってる。当然、ヒステリックに「俺ルール」を叫ぶ奴の意見なんか聞かない。

今回の件については、既に終わっているのでコメントしない。

スポーツじゃないんだから、いちいち細かいことに線引きしても無駄。
表現上の挑戦ってのがあって、男女だからこそセックスが機微にからんで
来る。そこを書きたいと思ったときに、輸出規制関連法令みたいな細かい
こと言われても話にならない。

ところで、あーみんとみのりんがウィンクの曲を踊りながら教室に
入ってくるSSがあったと思うんだけど、どれだっけ > arl

57 高須家の名無しさん :2009/12/21(月) 00:57:20 ID:YeDS3yuM
解決した、「リップサービス」だった。
ttp://tigerxdragon.web.fc2.com/index/SS13/683.html

58 !omikuji !damaまとめ入 ◆SRBwYxZ8yY :2010/01/01(金) 23:58:15 ID:???
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。



コミケ行ってきました!
とらドラスタッフ本も買えたし大満足でス!

…いやこの本マジですげえや。
原画家さんたちのイラストにアニメ原画集に監督対談とかよう…

おや?手元に何故かスタッフ本が1冊余っているぞ?
手にいれるために色々と手を尽くしたからのう…
ヤフオクも面倒だしどうするかニャー

59 まとめ入 ◆SRBwYxZ8yY :2010/01/02(土) 00:44:14 ID:???
おおお…この掲示板はオミクジ機能はついてないのか…
ちくしょうめ…


>>55
基本的な意見は56氏と殆ど変わりません。
ガイドラインをキチンと決めすぎると、そういった問題は未然に防げるかもしれませんが
規則に縛られて書き手が投稿しづらくなってスレが閑散となってしまうのは本末転倒だと思うのです。
というか、ガイドラインを作るのは良いのですが、問題はそれを外れた(無視した&うっかり忘れた)作品があった場合
それに対する意見やその意見に対する反論などでスレが荒れるのが…
いまでもエロパロのゆゆぽスレでその流れがちょくちょくあるのがなんとなく嫌だなぁ…と思ってます。

 自分は2chにある「批判するなら読むな。批判されたくないなら書くな」という意見が好きではありません。
 上記の意見は、被害者的立場から自分を慰めるための意見でしかなく、
 それ以外の立場から言うのは単なる暴言だと思うのです。

まあ俺の個人的感想だからどーでもいいですね!
さあて冬コミで買ったとらドラ同人誌でも読むかぁ!
手乗りセーブルさんや幸福屋神の竜虎本がエロくて最高やで…

60 高須家の名無しさん :2010/01/02(土) 21:54:39 ID:???
新スレにいちおつしたかったのに書き込めない
マイナーなとこなのになあ

61 高須家の名無しさん :2010/01/05(火) 19:30:48 ID:jnzJ6w0I
コミケ行きたいが1000kmは遠すぎる……
とりあえずまとめ様の感想で悶々としてるとするよw

62 高須家の名無しさん :2010/01/07(木) 03:22:42 ID:???
うーん……とらドラ!原作をカレンダー的に検証するとどうしても矛盾が出てくるなあ……
そこまで設定・検証してないか、作劇上の都合であえて無視してるかのどっちかなんだろうけど。

63 高須家の名無しさん :2010/01/15(金) 01:37:28 ID:.ZftX4qY
幸福屋さん、更新しているな。4コマであれだけ笑わせてくれるなんて、
敗北感につぶされそうだ。

64 ◆QHsKY7H.TY :2010/01/15(金) 19:26:50 ID:???
遅くなりましたが明けましておめでとうございます。

新スレも乙でございます。
皆様既にたくさんの良作を投下され、寅年まっさかりですね。
私も寅年生まれとして大変嬉しく思っております。

さて、昨年のクリスマスに投下したドラとら!の続きを投下します。
皆様今年も宜しくお願い致します。


と思ったらアク禁でした。
ですのでこちらに投下させて頂きます。
代理投稿歓迎。

65 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/15(金) 19:31:08 ID:???
クリスマスの晩。
寄り道をしてから暗く冷たい家に帰るとそこには、



──────高熱を出した大河が倒れていた。



***



インフルエンザ。
そう診断された私は新年早々入院していた。
シャレにならない。
何だって大晦日やお正月といった食事イベントに入院なんてしなきゃならないのか。
多分竜児のことだから随分と豪勢なおせちを作ったことだろう。
伊達巻、茶碗蒸し、煮物、数の子……ああ、食べたいものが浮かんでは遠ざかっていく。
あれも食べたい、これも食べたい。
食べ損ねて面白くない。
全く持って面白くない。
そうでも思わないと“やっていられない”

「……はぁ」

吐く息は小さく、しかし重い。
真っ白な病院のベッドで考えるのは、いや気を紛らわせる為に想像するのは、竜児。
溜息の理由も竜児。
今だに熱でぼーっとする頭で考えるのはクリスマスの夜の事。
私は竜児の帰りを待っていた。
きちんと確認しようと泣きながら思っていた。
けどそのうち段々体が重くなって、頭が痛くなって。
気付けば病院だった。
なんでも竜児が救急車を呼んでくれたとか。
なんでも竜児がずっと看病してくれたとか。
なんでも竜児がいろいろやってくれたとか。
けど、その竜児は私が元気になってくると思いのほかそっけなかった。
いや、正しくは“そっけなく感じてしまう”だ。
竜児は今までよりも突っ込んだ話し方や視線を送ってこなくなった。
それは他の周りの人間と分け隔て無いレベルで。
今までが竜児は余程私を特別視してくれていた事が実感できた。
出来てしまった。
だから、悲しい。
それが実感できるということは、竜児にとって私はその辺の知り合いAに成り下がってしまったということだからだ。
ほんと……シャレにならない。



***

66 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/15(金) 19:32:22 ID:???
大河は新学期前には退院していた。
もうすっかり良いようでおせちを食わせろと言ってくるほどだ。
まぁ気持ちはわかる。
ある意味寝正月だったのだから。
だが、おせちの残りはもう無いし諦めて欲しい。

「やだ」

が、流石は大河。
諦めるということを知らない。
でもここのところ、わがままが酷くなった気がする。
今までは「使えない駄犬ね」で終わったはずなのに、最近は妙に絡んでくる。
まるで構って欲しいように……って何を考えてるんだ俺は。
自分に都合の良い考えを振り払い、大河を宥めつつ餅を焼いてやる。
毎年コレだけは一杯あるからな。
きなこにあんこ、砂糖醤油でも美味しい。
薄く切ったものを揚げて塩を振って掻き揚げにしてもいいし。
結局その日、大河は渋々餅を食べて帰った。
さて、もう少ししたら学校が始まる。



***



「大丈夫、なくならないから、ね?そんなに変わらないわよ、うん」

新年早々、我らが独身ゆり先生はそんな意味のわからないことを言い出した。

「先生!!意味がわかりません!!」

流石はらが学級委員にして生徒会長、北村。
みんなの気持ちを代弁してくれた。
対してゆりちゃんは数拍置いてから、

「えーっと、修学旅行は沖縄のホテルが火事で焼けてしまい雪山スキーに変更になりました、うわぁ良かったねぇ♪」

わざとらしくブリキ人形のように手まで叩いて笑みを顔に貼り付けた、が、

「「「「エエエエエェェェェェェェェェエエエエエーーーーッ!?」」」」

みんながそれで納得する筈もない。
次々と批判の声が上がる。

「マジありえない」
「ナンセンス!!」
「断固拒否だ!!」

2−Cの生徒達に次々罵られていく独身(30)だが、ここでくじける程先生も俺等との付き合いは短く無かった。

『ギュィィィィィィィィン!!』
「「「うわぁぁぁ!?」」」

爪で黒板を引っ掻いたき、その音にみんなが苦悶の表情を浮かべている間に、

『人生なんでも思い通りにはなんねーぞ!!』

先生自身の体験談(現在進行形)が板書されていた。

67 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/15(金) 19:33:40 ID:???
***



あの担任、何考えてるのかしら?
まだ耳がジンジンするわ、全く。
竜児との会話の無い帰宅途中、私は痛む耳をさすりながらそう思っていると、

『ヴヴヴヴヴヴヴ』

携帯のバイブが鳴る。
誰よ、こんな時に。
竜児との会話も弾まず、修学旅行先も急に変わった事でイライラが募っていた私はむしゃくしゃしながら携帯を取る。



──────得手して、こういう時ってのはろくな事が起きない。



だが今回は輪をかけて悪い。
悪い時には悪いことが重なるというが、けどなにもこんなタイミングで……とも思う。
ケータイにはメールが一通。
内容を見ていくうちに、神様ってのは、世界ってのはどこまでも私に残酷なんだと理解した。

「……大河?どうかしたのか?」
「……別に」

奇しくも、久しぶりにまともに竜児から声をかけてもらう原因にもなったのだから、尚タチが悪い。



***



最近、大河の様子がおかしくなった。
いや、正確にはあの日メールが来てから、だろうか。
ここ最近大河は、朝は自分で起き、食事も昼こそ俺の弁当だが朝は自分で摂りはじめるようになった。
いや、それ自体は悪いことではなく、むしろ良いことなのだが、やっぱり胸にポッカリと穴が開いてしまう。

「はい、じゃあ修学旅行の班は……」

LHR中も上の空で大河はボーッとしている。

「逢坂さんはどこの班がいい?」
「……どこでもいい」

一体どうしたのだろう?
大河を諦めようと決意したのに、こんな大河を見ると余計に気にしてしまう。
そんな資格はもう無いのに。
もうすぐ楽しい修学旅行だというのに、俺の心は晴れない。
そうして憂鬱なまま今日も一日が過ぎ、いつも通り力なく帰宅支度をしていると、

「ねぇ高須君」

櫛枝に話しかけられた。

68 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/15(金) 19:34:57 ID:???
***



「大河と何かあった?」

櫛枝の第一声はそれだった。
人気の無い所に呼ばれ、不安そうにこちらを見つめるその様は本当に大河が心配なようだ。

「いや」

だから俺も正直に答える。
無論内心までは吐露しないが。

「でも二人とも何か変だよ?」
「俺にもわからねぇんだ、少し前に大河が誰かからのメールを見てからずっとこんな感じで」
「メール?どんな内容だったの?」
「いや、聞いてねぇ」
「高須君本気?」

ギロリと睨まれる。
何だよ、俺何か悪いコトしたか?

「今までの高須君なら大河がこんなになった原因のメールくらい探ろうとする筈だよ、高須君去年の学際からなんかおかしいよ」
「……別におかしくはねぇよ」

一瞬去年の学際からという言葉にドキリとする。

「いいや、絶対おかしい。何があったの?
「だから何も無いって。俺だって大河がどうしてこうなったのか知りたいぐれぇだ」
「じゃあ何でその原因のメールを聞いたり調べたりしないのさ」

櫛枝の目は怒っていた。
そんな目で見られ、ずっと同じ言葉を並べられながら責められるウチに、自分の中で溜まっていた物が、あふれ出しそうになる。

「櫛枝には関係無いだろ!!」
「関係あるよ!!大河は大事な親友だ!!」
「なら俺に聞かずに大河に聞けよ!!」
「っ!!」
「……あ」
「……わかった、もういい」

言い過ぎたと思った時には遅かった。
櫛枝は冷たい雰囲気を纏って背を向ける。

「……大河を独りにしないでって、言ったのに。見損なったよ高須君」

櫛枝はそう言い残すとその場から歩いていってしまった。



修学旅行まで、あと二日。



***

69 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/15(金) 19:35:56 ID:???
「本当になんでもないってば」

学校帰りに急にみのりんに呼び出され、喫茶店に座って切り出されたのはここ最近の私のことだった。

「嘘、絶対何かあったよ。私にはわかる、何でも言っておくれよ」

昨日竜児も呼び出されていたようだから、恐らく同じ事を聞いたのだろう。
ごめんね、竜児。私を諦めたと決意した竜児にとって、この質問はきっと辛かっただろうね。
私は何でも無いとしつこいくらいに言ってテーブルにあるジュースを飲む。

「もう、何で隠すのさ?って今日はパフェじゃ無いんだね?」
「えっ?あ、うん」

しまった、と思う。
いつもはパフェなんて高価なものを頼んでいたから、いきなりジュースだけっていうのは少し違和感があったかもしれない。

「……やっぱり何か隠している」
「そ、そんなこと無いって」

私は必死に取り繕うが、

「メール、って何?」

ドキン、とする。
竜児、だろうか。まさかあのメールの内用を知っている、とか?

「昨日高須君が大河は誰かからのメールを見てからおかしくなったって言ってた」
「き、気のせいじゃない?」
「そう?じゃあそのメールってなんだったの?」
「た、ただの迷惑メールだよ」
「ふぅん」

ほっと安堵する。竜児はどうやらメールの内容までは知らないらしい。
けど、その安堵がまずかった。

「とう」

みのりんは素早く手を伸ばしてテーブルに置いていた私のケータイを取る。

「あっ!!」

私が取り返そうとした時には遅く、

「止めてみのりん、見ないで!!」

必死にお願いするが、

「な、何これ……!?」

みのりんは例のメールを見てしまったらしい。信じられないものを見たような顔でみのりんは顔を強ばらせる。

「お願い、竜児には、言わないで……」
「大河……」

どうしようもなくなった私は、これだけは譲れないと泣きながらにお願いした。



修学旅行まで、あと一日。

70 ◆QHsKY7H.TY :2010/01/15(金) 19:37:46 ID:???
ここまで。
間が開いてしまったのもあって少し急ぎ足気味になってしまいました。

次回、最終回の予感。

71 高須家の名無しさん :2010/01/16(土) 23:03:41 ID:???
面白い内容で原作者に似せた文体なら最高じゃないか

>>102
おしまい、という言葉がないので続くと信じていますが
なぜそこで切るんですか気になるじゃないですか!

という内容を投稿しようとしたらまさかの規制
オノレ俺が何をした…

72 高須家の名無しさん :2010/01/17(日) 21:22:42 ID:SdhEBcbo
>>71
俺も規制なんだぜブラザー……

>>まとめ様
神様仏様まとめ様!
更新お疲れ様です!
まとめに自分の書いたものが載るのは大変嬉しいことでございます。
これからもよろしくお願いいたします。

>>70
乙!
二人のギクシャク感が心に辛い……
波乱の予感しかしない次回が気になる!
焦らずに納得いくものを書き上げてくださいませ。

73 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2010/01/18(月) 01:46:04 ID:???
まとめサイト更新しました。
相変わらず規制中なのでこちらで報告ー


私のプロバイダーで悪さを働いているのは誰だァ!

74 ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:00:43 ID:???
大河最後の日……乙です。

まとめ人様もいつも乙でございます。

さて皆様たくさんの感想をありがとうございます。

ドラとら!ラスト10レス行きます。

と思ったらまだ規制中でしたのでこちらに。
代理投稿歓迎。

75 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:02:09 ID:???
***



明日から修学旅行というこで、今日は修学旅行で必要になりそうなものの買い物をすることにしていた。
大河はちゃんと準備したのか気になったが、当の本人からは、

「大丈夫」

と太鼓判を押されてしまっているので一人分の買い物だ。
でも本当に大丈夫なのだろうか。
俺の見る限り“全く準備をしている様子”が見られないのだが。
そう不審に思いながら買い物をしていると、

「あれぇ?高須君?」

サングラスをかけた川嶋と鉢合わせた。

「よう、お前も買い物か?」
「まぁ似たような物だけど……ってかなんで高須君ここにいんの?」
「いや、なんでって……明日からの買い物に」
「は?寝てるの?」
「なにがだよ?」

川嶋が俺を睨むようにして見つめ、しかしふっと表情を和らげる。

「ふぅん、まぁいいけど。私は高須君が“針”を折れなくても何の関係も無いし」
「何のことだよ?」
「知らない、か。いよいよ終わりかな、あ〜あ」

川嶋はどこまでも人をくったような言葉を放つ。

「よくわかんねぇ奴だな」
「そう、私はミステリアスな女なの、そんな私のこと気になる?高須君」
「いや」
「……なんかそれはそれでムカツクけど……まぁいいや。タイガ−の決めたことだし」

「大河?」
「んん〜?タイガーのこととなると反応するんだ?反応しちゃうんだ?高須君可っ愛い〜」

「い、いやそんなんじゃ……」
「じゃあ反応しないでよ」
「っ!?」

俺が誤魔化そうとした直後、川嶋は何処までも低い声で俺に怒ったようにそう言う。

「惑星に見捨てられた人工衛星は……ゴミでしかないよ…………なぁ〜んちゃって♪」


川嶋は意味深にそう言うと俺を無視して歩いて行ってしまう。
どこまでが本気で、何処までがジョークなのか、川嶋はそれすら明かさずに俺の視界から消えた。



***

76 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:03:12 ID:???
家に帰ってもどうにも川嶋の言葉が頭から離れない。
それを言えば、櫛枝についカッとなった時からずっとそうかもしれない。
はぁと溜息を吐いて、ふとカーテンの奥の大河の部屋をのぞき見る。
窓越しからのそれは、カーテンがかかっている上に電気も点いていないようで、中の様子などわからない。
櫛枝はともかく、川嶋にも大河のことで責められているような気がしてならない俺は、考えないようにしていた大河のことを考え始め、

『ピピピピピピ』

タイミング悪く携帯が鳴る。
相手は……櫛枝?

「もしもし?」
『高須君?今どこ?』
「家だけど……」
『一人?』
「ああ」
『……ごめんよ高須君、ある意味君が正しかったよ』
「……何のことだ?」
『……大河を泣かせちゃった』
「は?」
『高須君が言ってたメールの内容、それを私は無理矢理見たんだ。大河の為を思えば、見るべきじゃなかったかもしれない。でも私は知っちゃったから』
「な、何をだよ?」
『大河は……修学旅行に行かない』
「へ?」

何を言い出すのだ、急に。

『本当は大河に泣いてお願いされてるんだ、絶対高須君には言わないでって。だからこれ以上私は大河を裏切りたくない』
「お、おい?」
『でも!!そんな大河を助けられるのはやっぱり高須君だけなんだよ!!』
「い、一体何があったんだ!?」
『それは……私の口からは言えない。大河との約束だから』
「おい!!」
『だから、大河の部屋に行って。大河は君に手紙を用意している筈だから。それで君が自分でこれからを考えて』
「ちょっと待ってくれ!!櫛枝!!一体何が何だか……」
『ツー……ツー……』
「おい?おい!!……くそ、切れてる……」

何が何だかわからない。
とにかく大河の部屋へ行けというなら行ってみようじゃないか。



***

77 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:04:34 ID:???
「で、どうやって入れってんだ」

家には当然のように鍵がかかっていた。
ここの家はオートロック。
ちょっとやそっとじゃ開かない。
鍵はこの前、大河が自分の無くしたからしばらく貸した奴返してと言われ、渡していたので持っていない。
そもそも、インターホン鳴らしても出てこないってことは留守だろうし、手紙ってなんなんだ?
わけがわからねぇ。
明日会って聞けば……でも修学旅行来ないとか行ってたしなぁ。

「しょうがねぇな」

俺はケータイで大河に電話をかける。
こういう時は本人に聞くのが一番……あれ?

『現在、この電話は使われておりません。こちらは……』

「な、何だよこれ!?」

俺は焦ってもう一度確認し、確かに逢坂大河でダイヤルするが、

『現在、この電話は使われておりません。こちらは……』

帰ってくる無機質なアナウンスは同じ。
何だかとってもやばいような気がしてきた。
こうなっては是が非でも中に入らなければならない。
でもどうやって…………そうだ。
俺は一つ思いつき、一度高須家へと帰った。



***



「頼むぞ……」

俺が考えた作戦は至極簡単なものだった。
それはウチのベランダから大河の部屋に侵入する、というもの。
普段とは逆の立場に内心苦笑を漏らしながらデッキブラシで窓が開かないか試してみる。

大河のずぼら、というかミスに期待するのはこれが初めてじゃなかろうか。
どうか閉め忘れててくれよ。
そう思いながら俺はデッキブラシを持って……結構難しいなコレ。
ちなみにこんな顔でこんな真似してるのが見つかったらまず間違いなく警察に掴まる。

俺はビクビクしながらもデッキブラシを操り続け……、

「あ、開いた……!!」

大河の部屋に侵入することに成功した。
成功して、テーブルに置いてある俺の赤いカシミヤのマフラーと手紙を見て、驚愕した。

それは……。



***

78 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:05:50 ID:???
竜児へ。
修学旅行楽しかった?
これを見てるってことはきっともう私はそこにいないよね。
ごめんね、何も言わずに行っちゃって。
でも、竜児の為を思ったらこの方がいいかなって思ったんだ。
私さ、前に再婚した父親がいるって言ったよね?
その父親がさ、夜逃げ……しちゃったらしいんだよね。
なんか事業に失敗して一杯借金作っちゃったとかでさ、今もどこにいるかわかんないらしいんだ。
それをママが教えてくれてね、あ、このママってのは本当の母親なんだけど、だから親権を移して自分が私を引き取るって言ってて、そっちに行くことになったの。
それがちょうど修学旅行の日の前の晩だから、私が修学旅行には行かなかったのはそういうワケ。
この前のメールは、そういった話でさ、ママとはそのあとちゃんと電話でも話したし会って話して、まぁこういうことになったの。
あ、ママはさ、再婚してて今お腹に赤ちゃんいるんだよね、男の子だっていうから私お姉ちゃんになるよ。
アンタには世話になったから、一応直筆で理由をこうやって教えといてあげる。
それにさ、一つ謝らないといけないことがあるし。
クリスマスの晩にね、私いつだったかの竜児のポエムノート、最初だけ見ちゃったんだ。

なんていうか、北村君のこと、ごめん。
謝っても許してもらえないかもしれないけど、ごめん。
多分実際に会ったら口じゃ言えないだろうから、こうやって謝罪を文にしたんだ。
それじゃあ元気でね、竜児。

あ、それと、“もう手を冷やしちゃダメ”だよ、きっと竜児の手を掴んでくれる人はいるから。



いい?



神の前に、人は平等なのよ。



***

79 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:06:49 ID:???
「な、なんだよこれ」

読み終えて、立ち尽くす。
じゃあね、ってどういうことだ?
母親に引き取られる?
何の話だ?
真っ暗な部屋には、あったはずの家具がほとんど無い。
もう、ここに誰もいないかのように。
何だか寂しくなって、慌ててこの部屋から、大河がいないという現実から逃げて、自分の家に戻る。
戻って、居間に座って、それで終わり。
持ってきた手紙を何度読み返しても、内容は変わらない。

「櫛枝、俺にどうしろっていうんだ」

頭を抱える。
櫛枝は恐らくこの話を既に知っているのだろう。
だから俺に教えた。
だが、俺がこれを知ったから、どうしろというのだ。
どうしようも出来ないじゃないか。
なにもしようが無いじゃないか。
俺は所詮大河の周りを回るだけの人工衛星……見捨てられたゴミでしか無いんだから。

俺は、俺には、何も出来ない。
そう思った時のことだった。



「……イヤダヨゥ」



声が、聞こえた。

80 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:08:36 ID:???
それは大河の声じゃないのに、大河の声のようで。
振り向くとそこにはカバーが掛かった鳥籠。
ウチの家族であるインコちゃんがいる場所で。
インコちゃんは何かをリピートするように、



「……ソンナノイヤダヨゥ」



大河の声をリピートするように、



「……ナニガビョウドウヨ」



大河の気持ちを代弁するように、



「……リュウジガイイノニ」



そこに大河がいるように、



「……リュウジガスキ、ナノニ」



俺が最も聞きたかったそれを、



「……セッカクキヅイタノニ」



今も胸に燻っている、



「……リュウジシカイナイ、ノニ」



この想いを、



「りゅうじぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」



突き動かした。

81 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:09:46 ID:???
***



最後の叫びは大河の声そのものを脳内で聞いた。
こうしてはいられない。
俺は学際からずっと大河を好きになる資格は無いと自分に言い聞かせていた。
そんなのは逃げだ。
資格?そんなもの、何処に必要だったんだ!!
俺は携帯を取り出し、

「北村?夜にすまない、頼みがるんだ」

友人に無茶なお願いをした。



***



景色が素早く動いていく。
季節も相まって、このスピードはとんでもなく寒い。
俺は友人に校則違反であるバイクでの送りをお願いした。
歩いていては間に合わない気がしたから。
北村はそんな俺のお願いに、

「高須の頼みだ、いたしかたあるまい」

と行って引き受けてくれた。
駅についた後は北村に礼を言って分かれ、大河を探し始めた。
何となく、直感でこの駅だと感じたのだ。
夏にみんなで旅行に行った駅。
あいつはここを使う、と。
根拠なんて無い。
でも今できるのはこれだけだ



***



『プァーーーン!!』

大きい音が鳴って列車が発車する。
次の列車は、十分後に発射のようだ。
大河がどの列車に乗るのかなんてわからない。
もう乗ってしまったのかもしれないし、別の駅かもしれない。
もしかしたら飛行機ということもある。
それでも俺は探し続けた。

82 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:11:00 ID:???
『プァーーーン!!』

また次の列車が出た。
この時間、列車はほとんど分単位で発射する。
次の列車の発射は五分後。
そんな電光掲示板の表示を見ていると、後ろの方でゴトッと音が鳴った。
振り返るとそこには、

「な、なんで……」

真っ白いコートに身を包んだフワフワロングヘアーの小さなエンジェル、大河が居た。




***



「大河!!」

竜児は私に駆け寄ってくる。
私は咄嗟に……逃げた。
ローラー付の旅行鞄を引っ張りながら駆け足で列車に乗る。

「待ってくれ大河!!」

どうしてここがバレたのかわからない。
なんでここにいるのかもわからない。

「俺は……」

ガタンとローラーが大きな音を立てて列車に乗る。
竜児は流石に中までは入ってこない。
発射まであと三分程度だろうか。
そう思って竜児の顔を改めて見た途端、



「大河が好きだ!!」



告白された。



***

83 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:12:11 ID:???
『白線よりお下がり下さい』

そんなアナウンスが流れ始めたこの瞬間、俺は思いを偽ることなくストレートに吐き出した。

「え……あぅ……?」

大河は驚いて、顔を真っ赤に染め上げて口を奮わせている。

「俺は、ずっとお前が好きだった、お前ももう思い出してるみたいだけど、あのクリスマスからずっと」
「あ、ああああ……」
「確かにお前の言う通り、いつかは俺を理解してくれる人も現れるかもしれない」
「え、えっと……」
「でも、俺はお前がいい、いや、お前じゃなきゃ嫌なんだ、俺の手を暖めてくれるのはお前がいいんだ!!」
「……!!」
「俺は、お前と一緒じゃないと生きていけない!!」

そうやって全て思いを吐き出した所で、

『プシューーッ』

扉が閉まる。
大河は慌てたように丸い窓に張り付いてこちらを見つめている。
結局、大河は俺に一言も返さぬまま、行ってしまった。



***



トボトボと家に帰る。
仕方がなかったとはいえ、何も言葉を返してもらえなかったのはやっぱり少し辛い。
既に時間は日付を超え、三時を示している。
櫛枝にはメールで俺の取った行動を報告した。
返信に、

『よくがんばったよ、高須君』

と書かれていたのが、少し俺の体の重みを軽くした。
家に帰って、死んだように布団に横になる。
多分今眠ったら明日は起きられない。
確か朝五時に学校集合、だったし大河のいない修学旅行に興味は……無い。
あ、でも積み立ててでずっとお金払って来たんだからMOTTAINAIな。
払い戻してもらえるかなぁ。

「……っ……つ!!」

涙が、止まらない。
結局、俺は大河に言うだけで止められなかった。
仕方のないことかもしれないけど、それがとてつもなく悔しかった。
そう悔し涙を流しているウチに、まどろんだ。



***

84 ドラとら! ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:13:42 ID:???
朝、日の光と共に目が覚める。
時計は朝七時を示し、まず間違い無く自分は寝過ごしたことを悟る。
こりゃあ後で何か言われるな、と思いつつ起きあがり、伸びを一つ。
体の機能は睡眠を取ったため万全だが、心が空っぽなのがわかる。
これから大河のいない生活が始まるのだ。
それを思うと気が重くなり、ノロノロと襖を開けて居間に顔を出し、朝ご飯は何にしようと考えたところで、

「おっそいのよ、この犬」

オレンジが乗った卓袱台に付いて正座宜しく、こちらを睨み付ける子虎が一匹。

「………………」

いかん、まだ寝ているようだ。大河が好きすぎて幻覚を見るなんていくらなんでもどうかしている。

「大変だったんだから!!あ、あああ、アンタが私がいないと生きていけないとか言うから!!し、死なれちゃ困るし!!」

しかし、幻覚にしてはいやにリアルだ、もしかしたら夢という線かもしれない。

「ママにお願いしてちょっとこっちに行ってくるって許可貰うのだって凄く怒られたし始発に乗って来るのだって……ちょっと聞いてんの!?」

バゴッ!!
強力な蹴りをくらい目が覚めた。

「たい─────が……?」

目が覚めて、それが本当に夢だった事に気付いた。
自分は普通に布団の上で時間は七時。最高で最悪な夢を見たと自己嫌悪。
どうせならあれが予知夢だったらいいのに。そういや泰子が自分はプチ超能力者で一回分だけ超能力を使える力を上げるとか昔言ってたっけ。
どうせなら今がいいのにと思いつつ、起きあがって今度こそ朝ご飯は何にしようと考え居間に入った所で、

「おっそいのよ、この犬」

いかん、まだ起きてなかったらしい。
夢の状況そのままに、目の前にはオレンジが乗った卓袱台に付いて正座している少女がいる。

「私寝てないってのにアンタはグースカ寝てるし、ママにお願いしてちょっとこっちに行ってくるって許可貰うのだって凄く怒られたし始発に乗って来るのだって……ちょっと聞いてんの!?」

バゴッ!!
強力な蹴りをくらった。これで目が覚め……あれ?

「何よ、不思議そうな顔をして?誰の為に戻ってきてやったと思ってるの?」

目の前には相変わらず大河。

「た、大河!?」
「まだ寝ぼけてるの?当たり前でしょうが。だいたい私言ったわよね?昔から、虎と並び立つ者は竜と決まってる、私は逢坂大河、アンタはこれからも私の為に私の傍らに居続けなさいって!!」
「いや、でもお前……」
「グダグダ言わない!!アンタの為に戻って来たんだから……返事、言いに来た、んだから……!!私だって、私も……」

オレンジが乗った卓袱台越しに、大河は感極まったように一粒涙を流し、俺の手を暖めるように掴んで、

─────────好きだよ

少し甘酸っぱい、そんな返事を受けた。
聖なる夜から始まった恋。
これから二人にはたくさんの障害が立ちはだかるだろう。
それでも二人はもう絶望に暮れることは無い。
何故なら、思いを通じ合わせた二人を合わせて、世界は、神の前に平等なのだから。

85 ◆QHsKY7H.TY :2010/01/20(水) 19:18:10 ID:???
ここまで。
これで長々と書いてきたドラとら!は終わりです。
皆さんありがとうございました。
まとめ人様もわざわざ区切り毎のアイキャッチを作ってくださり本当にありがとうございました。

全部書き切れたのは皆さんおかげです。
もう一度、皆さん本当にありがとうございました。


あ、蛇足ですが私はキリシタンやキリスト教信者ではありません(爆)

86 高須家の名無しさん :2010/01/20(水) 23:16:36 ID:???
>>85
乙&GJ!

原作的イベントとオリジナル展開の組み合わせ方が上手くて、読んでてどんどん惹き込まれたよ。
この竜虎の未来にも幸あれ。

87 高須家の名無しさん :2010/01/20(水) 23:29:40 ID:???
連投規制ひっかかった……

88 高須家の名無しさん :2010/01/20(水) 23:53:22 ID:???
携帯で支援一つ入れてもダメ……
誰か 続き 頼む。

89 高須家の名無しさん :2010/01/21(木) 00:09:20 ID:???
代理の代理、感謝!

90 高須家の名無しさん :2010/01/21(木) 23:12:51 ID:W3W3r8oA
>>85
お疲れ様でした。
悲しいお別れに終わらなくて良かった!
ドキドキしたぜ。
最後も大河らしくてGJ!

代理もその代理も乙!

91 ◆QHsKY7H.TY :2010/01/26(火) 21:33:15 ID:???
規制が解けない(泣)

みんなたくさんの感想ありがとう!

代理の人と代理の代理の人代理ありがとう!

避難所での感想もありがとう!

>>165
三題噺ってあんなに短いのに話が上手く詰まってていつもすごいなぁ。
>>184どれだけキスしてたんだぁぁぁぁ!?
>>191酔った竜児と襲われる大河、何か襲った方が途中で逆になりそうなイメージがあるなw


>>167
ありがとう、設定気に入ってもらえて良かった。
最近出番の少ないインコちゃんには最高の舞台を用意したつもりだよ。

>>169
おお?オレンジわかった?

>>171
ありがとう、竜児最後の日と大河最後の日も原作っぽい感じで良かった。

>>179
匂いフェチキターー!
良ければ慌てずゆっくり読んでみてください。

>>181
ありがとう、そうしますw

>>189
確かに最近無かったギシアンキター!!

さて、>>181の方に言った傍から短編行きます。3レス消費。

と思ったら憎き規制。
くそぅ。
まとめ人様が避難所を用意してくれてるからまだ良いけどこれじゃおちおたお礼も書けないな。
まとめ人様、避難所のご用意ありがとうございます。

というわけで代理投稿歓迎。

92 ヤキモチ ◆QHsKY7H.TY :2010/01/26(火) 21:35:26 ID:???
この春、晴れて恋人同士になった二人は、しかしだからとてそう大きく変わることも無く過ごしていた。
今までほとんど同棲そのもののような生活をしてきたのだ。
当然それは無理からぬことではあるのだが、こんな時、決まってほころびを見つけ、それを大きくするのは大河だった。

「ねぇ竜児」
「おぅ、どうした」

土曜の午後。
お休みの日にはこうして大河は竜児の家に遊びに来る。
慣れ親しんだ実家のような高須家は大河にとっても気持ちの良い場所だった。

「私たち、晴れて恋人同士、になったのよね?」
「おぅ?何だ藪から棒に」
「いいから答えて」

マイ座布団だとばかりに毎回同じ座布団を使う大河は、今日もその座布団に座り、しかし真面目くさったように切り出す。
大河がいることで今日は一緒に買い物でもしようかと思いチラシを見ていた竜児は、大河の真面目っぷりに少々驚いた。
ちなみにこの買い物、二人で遊ぶ為では無く今日の晩ご飯の為の買い物である。
大河は夕方には家に帰ってしまうので竜児の食事は食べられないが、それはそれとして二人だと買い物がはかどるのだ。
メニュー決めはもちろん、お一人様○パックなんていう限定商品にも人海戦術は有効となる。
……閑話休題。
そんないつもと変わらぬ竜児に対して、大河は若干の敵意を持ったような眼差しをしている。

「竜児」
「おぅ、なんだ」

これは何か俺がやったか?と竜児は自身の行動を思い起こしつつ大河にいつも通り反応する。
しかし、

「そう、それよ」
「は?」

大河はビシィ!!と竜児に指を指し、不満そうに頬を膨らませる。

「その返事が悪い」
「は?いつも通りじゃねぇか」
「いつも通りだから悪いんじゃない」

大河は段々と怒りのボルテージを上げていく。

「すまん大河、意味がわからねぇ」

大河のことは大概理解出来るようになったと思っていたが、わからないものはわからない。
不満ですという面持ちをしたまま大河は、

「全然照れっていうか、喜びが感じられない」

竜児にとって意味不明な事を言い出す。

93 ヤキモチ ◆QHsKY7H.TY :2010/01/26(火) 21:36:40 ID:???
「どういうことだ?」
「あんた最初にみのりんに竜児って下の名前口にされた時有頂天になってたわよね?」

それは二年の時の休み時間。
当時竜児の意中の人、櫛枝実乃梨はデコ職人の内職アルバイトをしていて、クラスの女子達のケータイをデコレーションしていた。
その時に言われたのだ。

『高須君のもやってあげようか?竜児って後ろに』

その日、竜児は家に帰ってから下の名前を呼ばれた事に舞い上がり……閑話休題。
かくして、竜児は確かに以前、下の名前を呼ばれただけで有頂天になった実績がある。

「何か、実は私はみのりんよりも好かれて無いんじゃないかなって思うんだけど」
「いや、それはお前がずっと俺と一緒で違和感が無くなったからだろ?」
「どうかしら?竜児はみのりんの為に結構な詩を作ってたみたいだけど私用には作って無いみたいだし」
「お前、作って欲しいのか?」
「キモイからイヤ」
「なら言うなよ」
「でも、何かこう、何て言うの?ガーッと竜児の思いを表現するような痴態?みたいなものが無いのも自信無くすっていうか」
「痴態って、お前な」
「みのりんの時に散々やっていた変なことを私の時に全くやらないってのは少し自信無くすわけよ、女としては」
「むぅ……」

大河の言い分は無茶苦茶だが、気持ちは少しわかる。
竜児とて、もし自分のことで悶えるような大河を見ればそれこそ通報されかねない凶眼をギラギラさせることだろう。
しかし、それはそれとして、大河だからこそ尚の事そういった姿は見せられないし見せたくない。
だが流石は大橋の虎。
竜児のそんな考えなどお構い無しに無理難題を持ち上げる。

「そうだ竜児、今ここで私に告白してよ。ほら、竜児が一杯作ってた詩風にして」
「えぇ!?」

人には恥というものがあり、羞恥心という心が存在する。

「ほら、今なら私しかいないし誰かに聞かれる心配も無いわ」
「い、いや、でも……」

恥ずかしい。
この上なく恥ずかしい。
ちなみにすぐに詩が頭の中で出来ちゃったのも恥ずかしい。

「いいからさっさと言うのだ愛犬」
「あ、愛犬っ!?」
「ちょ、何喜んでるのよ?」

大河はうわぁ、というように汚いものでも見るかのような目つきで竜児を見る。

「よ、喜んでねぇよ!!ここに来て犬扱いされた事に驚いてんだよ!!」

実は内心ちょっぴり、ほんのちょっぴり料理に使うときの塩ひとつまみ程度には『愛』犬と言われた事にキュンと来たのは内緒だ。
最も大河の態度にそれ以上のダメージを受けたのだが。

94 ヤキモチ ◆QHsKY7H.TY :2010/01/26(火) 21:37:23 ID:???
「ふぅん、その割りには嬉しそうに見えたけど。まぁいいわ、さぁどんと来なさい」
「い、言わねぇよ!!」
「いいじゃない別に。減るもんじゃなし」
「精神的な何かが磨り減るんだよ!!」
「根性無しねぇ」
「じゃあお前言ってみろ」
「……私?な、なななななんで私が言わなきゃならないのよ!?」
「俺だけなんて不公平だ、お前が言ったら俺も考えるさ」
「ず、ずるい!!なら私も竜児が言ったら言う!!」
「いや、お前そんなこと言って結局言わないつもりだろ!?」
「酷い竜児!!婚約者を疑うの!?」
「逆だ!!お前の行動パターンを見通してんだよ!!」
「……チッ」

お互い一歩も引かぬ口論の末、大河の舌打ち。
ゼェゼェと息遣いを荒くしながら肩で息をし、見詰め合う事数分。

「……なぁ」
「……何よ」
「そろそろ買い物行かねぇか、時間無くなっちまう」
「……そうね」

時計を見ればもう夕方。
日もオレンジになりつつある。
二人はそそくさと外に出てスーパーへと向かい出した。

「大河、今日は何食べたい?」
「う〜ん、言っても実際に私が食べられるわけじゃ無いからあんまり思いつかないのよね」
「そういうもんか」
「そうよ、あ〜あ、早く毎日竜児のご飯が食べられるようになりたい」
「俺もお前と毎日今のような会話のやり取りがしてぇよ」
「………………」
「………………」

お互い、今の言葉を最後に少し口を噤む。
まだ来ぬ未来、それに思いを馳せて。

「……ねぇ竜児」
「……ん?」
「そういえば竜児って私には晩御飯とか好み聞くけど、みのりんとそういう話したことあったっけ?」
「う〜ん、そういやねぇな。多分だけど」
「……そっか」

竜児の言葉に大河は口端に笑みを乗せて、

「ね、手繋ごっか」

小さい掌を差し出し、竜児が何をする間も無く手をギュッと掴む。

「ちょっ、大河?」
「ほら、さっさと行こう」

竜児の困惑も何処吹く風。
大河ははしゃいだ子供のように竜児を引っ張って歩く。
そんな大河は、小さく、小さく小さく、

「……良かった」

そう呟いた。

95 ◆QHsKY7H.TY :2010/01/26(火) 21:41:18 ID:???
書き忘れてた。
これは最近完結したドラとら!とは一切関係無い三年生の頭くらいの時間軸のお話ですw

96 高須家の名無しさん :2010/01/27(水) 02:07:06 ID:???
>>95
乙!

初々しい恋人な感じがいいねえ。

97 ◆x6jzI2BeLw :2010/01/29(金) 01:26:24 ID:???
>>95
いいですねえ、この感じ。
さり気なく幸せな感じが伝わって来ます。
乙でした。
早く規制解除されるといいですね。


などと言っている私が巻き込まれました。
こちらのお世話になります。
代理投稿歓迎です。

本スレ>>111の続きとなります。
コメント&感想などありがとうございます。
まとめ人様にタイトルを付けてもらいました。
いつもいつもありがとうございます。

では、以下行きます。

98 しあわせの逢坂タイガー伝説2 ◆x6jzI2BeLw :2010/01/29(金) 01:28:40 ID:???

ただいまと外出から帰って来た泰子を交えて高須家で始まるいつもの晩餐。
居間のちゃぶ台の上で大きな土鍋がぐつぐつと音を立ててたくさんの湯気を産み出している。
「あち・・・はふはふ」
頬を大きく膨らませながら、ハムスターよろしく頬張っているのはもちろん大河だった。
「大河、やけどすんなよ」
竜児の注意など何処吹く風で、大河は鍋から小鉢に移したいい色に出汁の染み込んだお肉を次々にお腹へ収めて行く。
「ほら、肉ばっかりじゃなくて、野菜も食え」
竜児は大皿に用意しておいた追加用の白菜を鍋に補充しながら、しんなりといい食べ頃になったえのきや野菜を大河の小鉢へ送り込む。
「野菜は後回し、今はお肉の時間よ」
そう言いながらも大河は竜児が小鉢へ入れてくれた野菜に箸をつけ、平らげる。
「竜児、おかわり」
空になった茶碗を竜児へ突き出す大河。
「おう」
竜児は大河から茶碗を受け取り、しゃもじで山盛りにご飯をよそってやる。
炊き立てのご飯で満室状態だった高須家の炊飯器に空き室が目立ち始め、竜児が操るしゃもじが炊飯釜の底をこすった。
「ほらよ、何杯目だ?」
茶碗を大河へ渡してやりながら、竜児は感嘆するように言う。
「まだ、四杯目よ」
まだ、まだいけると大河の食の進み具合は絶好調だった。
「ほどほどにしとけよ、また、いつかみたいにお腹が痛くなってもしらねえからな」
大丈夫、もうあんなドジはしないからと大河は涼しい顔。
以前、食べ過ぎで救急病院へ駆け込んでひどい目に大河はあっているのだ。
だから、今日はおやつも間食もしてないし、このくらいぜんぜん平気と咀嚼の合い間にしゃべりまくる。

99 しあわせの逢坂タイガー伝説2 ◆x6jzI2BeLw :2010/01/29(金) 01:30:10 ID:???

「飲み込んでから、話せ」
口中にご飯を含みながら大河が話すせいで、大河の口元からご飯粒がひと粒、竜児へ向かって飛び出す。
「たく、もったいない」
竜児は大河から飛んで来て自分の服の袖口に付いたご飯粒を指先でつまむと、そのまま口に含んだ。
「あれ?」
土鍋の中を掻き回していた大河が首を傾げる。
「どうした?」
「竜児、もうお肉無い」
「ねえって・・・あんだけあったんだぞ」
「だって、ほら」
大河は土鍋の中のお肉指定席付近を箸で引っ掻き回す。
大河の箸に掛かったのはしらたきだけだった。
「おまえ、ひとりでどんだけ肉食ってるんだ」
呆れる様な竜児の声。
「いいじゃない・・・好きなんだし」
無いんだもうお肉と・・・名残惜しそうに大河は未練たらしく土鍋の中を探し回る。
そして見つけたわずかな肉の欠片を大事そうに口へ運ぶ大河。
「はい、大河ちゃん」
そんな大河を見ていた泰子が自分用に取って置いた肉を大河へ差し出す。
「や、やっちゃん、いいよ・・・それはやっちゃんが食べて」
受け取れないと大河は遠慮する。
「好きなんでしょ、お肉」
遠慮しなくていいよ、と泰子に微笑まれ、大河ははにかむ様に肉を受け取った。
「ありがと、やっちゃん」
「それでこそ大河ちゃんだよ」
受け取ってもらえて泰子も嬉しそうになる。
その一連の動作を見ていた竜児はやれやれと言う感じで席を立ち、冷蔵庫から追加の肉を持って来る。
「何よ、まだあるんじゃない、けちけちしないで早く出しなさいよ」
泰子へ向けていた笑顔とはうって変わり、竜児にはこのドケチ犬と言わんばかりの顔を見せる大河。
「言っとくがな、これは明日の弁当用だ」
「じゃあ、食べちゃったら・・・」
「当然、弁当は肉抜きだ」
竜児にそう言われ大河は思案顔になる。
眉間にしわを寄せ、重大な決断を下すかの如くおもむろに口を開く。
「耐え難きを耐え・・・ここは引くわ。竜児!」
「おう」
「仕舞って、お肉」
苦渋の決断だと両手をぐっと握り締め、大河は耐え忍ぶ有様を見せる。
「いいのか?」
竜児はこれ見よがしに大河の前にタッパーに入った肉をちらつかせる。
目線がチラチラとお肉を追い駆け、大河は思わず身を乗り出す。
「ほらよ」
竜児は苦笑しつつ、肉を一切れ土鍋に入れた。
「いいの?」
「ああ、弁当の肉が少し減るけどな」
その辺は上手く工夫してやるさと竜児は請け負う。
「・・・やっぱり、おいしい」
ほくほく顔で最後の一切れとなったお肉をおいしそうに頬張る大河を見ながら、竜児は何とも言えない幸福感を味わっていた。

100 しあわせの逢坂タイガー伝説2 ◆x6jzI2BeLw :2010/01/29(金) 01:31:58 ID:???

「そうだ、竜ちゃん」
流しで食器を洗い終え、手を拭きながら居間へ戻って来た竜児へ向かって泰子が言い出す。
「何だよ?」
「修理だけど、明後日になるって」
「マジかよ」
困った様な声を出す竜児。
「修理って?」
食後の満腹感に浸り、例の如く寝転がっていた大河が起き上がり、口を挟む。
「ああ、家の風呂釜が壊れちまってさ」
風呂に入れないと竜児は言う。
「じゃあ、私の家に来たら」
我が家のお風呂を開放しましょうと大河は言う。
「いいのかよ?」
「うん、全然平気」
「・・・だってさ、泰子。どうする?」
「う〜ん。大河ちゃんのお家の借りてもいいんだけど・・・そうだ」
あごに指先をあて考えていた泰子はいいアイディアがひらめいたと竜児と大河に告げた。

・・・銭湯、行かない?




古きよき時代の建物と言う言葉がピッタリ来る銭湯。
「しかし、よく残ってたよな」
竜児は建物を見上げ感心する。
「これが、銭湯?」
大河は見慣れぬ建物に興味津々だった。
「そっか銭湯、初めてだっけか?」
「うん」
うなづく大河に当たり前かと竜児は思う。
普段があれだからあんまり気にもしないが、出るところへ出ればいいとこのお嬢様だもんな、大河は・・・。
「竜児は来たことあるの?」
「おう、子供の頃にな」

当然の事ながら竜児は男湯の暖簾を潜り、大河と泰子は女湯の暖簾を潜る。
「あんまり、はしゃいで泰子に迷惑掛けんなよ」
別れ際に竜児は注意を怠らない。
何せ、近所の銭湯へ行くだけだと言うのに一泊旅行かと言う位、大荷物を持って来た大河。
ついさっき、一緒に行くかと誘われて大河はふたつ返事をすると、脱兎の如く自宅のマンションに戻り、支度を整えて帰って来たのだ。
「着替えとタオルがあればいいんだよ・・・なんなんだこの荷物は?」
お風呂に浮かべるひよこのおもちゃでも入ってるんじゃないだろうなと言った竜児は大河に荷物が入ったバッグで叩かれたのだが、大河は上機嫌のままだった。
銭湯なんて初めて・・・と高いテンションのままやって来てしまったと言う次第なのだ。

101 しあわせの逢坂タイガー伝説2 ◆x6jzI2BeLw :2010/01/29(金) 01:33:44 ID:???

「大丈夫だって・・・きゃん!」
そう調子よく返事した大河は言い終えるや否や入り口の段差につまずいて派手にこける。
「失敗、失敗」
それでもすぐに立ち上がり、照れくさそうに番台の向こうに消える大河を見送り、ホントに大丈夫かよと竜児は心配になる。
さすがの竜児も女湯までは大河のドジをフォローしてやれないからだ。
なるようになるか・・・と竜児は諦めにも似た境地で脱衣所へ向かった。

中へ入り、大河はもの珍しく周囲を見渡す。
「ねえねえ、やっちゃん、どうするの?」
銭湯の作法を泰子に問う大河。
そんな大河に泰子は微笑むとあれこれ教え始めた。
「この籠に脱いだお洋服を入れるの・・・入れたらあの棚に置いて・・・」
うんうんと大河は頷く。
一通り説明を終えた泰子がブラウスのベルトに手を掛けるのを見て、大河も後に続く。
大河が長めの靴下を脱ぐのに手こずっている内に泰子はさっさと身軽な状態になっていた。
「・・・わっ!」
「どうしたの?大河ちゃん」
大河の視線は泰子の豊かなお胸に注がれていた。
「やん、大河ちゃんのエッチ」
大河の食い入るような視線に、ひょうきんに応じる泰子。
その昔、箸でつんつんしてしまったくらいあこがれる豊年満作な世界を目の当たりにして大河は目が点になる。
そして脱ぎ掛けていた自分のインナーのホックを外す手が止まる。
その下に隠れた飾りの無いありのままの自分があまりにもみすぼらしく感じてしまったからだ。
シュンとしてしまった大河の心の中を優しく包むように泰子が言う。
「きれいだと思うよ。大河ちゃんの」
思い掛けない泰子の言葉に大河のうつむいていた顔が持ち上がる。
「きれい?私のが?」
「そう・・・とっても・・・服を着ててもやっちゃんには何もかもお見通しだよ」
だから、安心してと付け加えられた泰子の声に後押しされて、大河は止めていた手を動かす。
小さな衣擦れの音と共に大河の女の子を象徴する小高い頂が外気にさらされる。
「・・・変じゃない?」
頬を薄いピンク色に染めながら大河が聞く。
「全然・・・思ってた以上にきれい・・・自信持っていいからね」
力強く言う泰子に大河は勇気付けられる。
「でも、ちっちゃい・・・」
自分の手のひらで覆い隠せてしまえそうなカップサイズ。
大河は両手でそれぞれのふくらみを押さえる。
「やっぱり・・・小さいよ」
泰子にきれいと言われて気を良くしたものの、大きさの不足をどうしても大河は感じてしまう。
「そうね・・・今はまだだけど・・・大河ちゃんのこと、本当に大事にしてくれる男の子が現れたら、きっと愛情を込めて育ててくれると思うの」
「・・・愛情込めて?」
「そう」
今、自分が押さえているふたつのふくらみ・・・いつか、自分以外の手が触れる時が来る。
自分はどんな顔でその時を迎えるんだろうと大河は思う。
それは遠い未来なのか、近い将来なのか、そして・・・誰が・・・。
そこまで思い至った大河の脳裏に浮かぶ竜児の顔。
なんでここに竜児がと思ったものの、もう止まらなかった。
あれこれ想像した大河は首から上が熱したニクロム線みたいに赤くなる。

102 しあわせの逢坂タイガー伝説2 ◆x6jzI2BeLw :2010/01/29(金) 01:35:47 ID:???

「竜ちゃんにはもったいないくらいかも」
このひと言に大河が激しく反応する。
「な、なんでそこに・・・り、り、竜児があ・・・」
たった今、想像してたとも言えず、あわあわとうろたえる大河。
「あらあ、大河ちゃん、竜ちゃんのこと嫌い?」
悪戯めいて聞く泰子。
「・・・少なくとも、キライじゃない」
少し間を置いて大河は真面目に答えた。
「だったらいいこと教えてあげる」
「いい事?」
「そう・・・竜ちゃんはね・・・あんまりお胸の大きな娘は好みじゃないんだあ」
「何でやっちゃんがそんなこと知ってるの?」
「何でかなあ」
不思議そうな顔をする大河に笑ってはぐらかす泰子。
その昔、竜児が隠し持っていたHな本をこっそり見ちゃったからとは竜児の名誉のため伏せる泰子だった。



一通り髪も体も洗い終えて、カランの前から立ち上がった大河を泰子が呼び止める。
「何?やっちゃん」
「髪、やってあげる」
長いままじゃ、湯船に入れないでしょと泰子は言い、大河を再度座らせると手早く髪留めを使い大河の髪をアップにした。
「ありがとう、やっちゃん」
「どう致しまして。でも、大河ちゃんの髪、きれいね」
ほとんど枝毛も無くてうらやましいと泰子は大河の髪を誉める。
「全然、そんな風に思ってなかった・・・今日、竜児に言われるまで」
ぼさぼさになった髪を竜児が直してくれたと大河は打ち明ける。
「竜ちゃん、なんて言ったの?」
「やっちゃんとおんなじこと言った・・・きれいだって」
ちょっとは女心が理解出来るようになって来たのかしらねえと、泰子は息子の精神的な成長を嬉しく思った。

103 しあわせの逢坂タイガー伝説2 ◆x6jzI2BeLw :2010/01/29(金) 01:37:33 ID:???

浴槽へ飛び込もうとした大河の足が止まる。
「どしたの?」
泰子の問いに大河は疑問を口にする。
「お風呂がふたつあるんだけど・・・」
同じ大きさの浴槽が仕切りを隔てただけでふたつ並んでいる。
どう違うのかと大河は言う。
この質問に泰子は右が熱いお風呂で左がぬるいお風呂だと簡潔に答えた。
「ふ〜ん」
そう言われて大河は浴槽の隅っこに温度計があるのに気がついた。
右は43度左は39度を示している。
「やっちゃんはぬるい方がいいかな・・・大河ちゃんもそうする?」
・・・ん、そうすると大河は言い掛けて既に熱めの浴槽に肩までどっぷり浸かったお婆さんと目が合う。
その目は「若いのお、お主」と言っているように大河に見えた。
「熱いのにする」
意地っ張り大河の面目躍如なのだが、泰子が心配そうに言う。
「大丈夫?熱いわよ」
「平気だって」
家でも熱いのに入っていると経験者の余裕をかまし、慣れた素振りで浴槽へ足を入れる大河。
つま先から伝わる想像以上の熱気が大河のこめかみをひくつかせる。
「こ、これくらい・・・全然・・・ぬ、ぬるいくらい」
どうにか両足を浴槽に入れたものの、そこから先は恐る恐ると言った感じで大河は体を湯に沈めて行く。
体と湯が触れる面積が増えるたび、あまりの熱さに大河は身をよじる。
「へ、平気よ・・・何よ、これくらい・・・何だっての・・・えい!!」
最後は掛け声と共に一気に全身をお湯に浸した大河。
「ぬるいわ・・・ふへへ」
・・・と、勝ち誇った様子で余裕のあるところを見せて居られたのは1分に満たなかった。
「・・・釜茹での刑・・・げ、ん、か・・・い・・・」
額に大粒の汗を浮かべ、真っ赤な顔をしてすっかり茹で上がった大河が浴槽を飛び出す。
そしてそのまま片足を浴槽の縁に引っ掛け、見事おでこから床のタイルにダイビング。
「きゃあ、大河ちゃん!!」
泰子の悲鳴を耳に大河は己の浅はかさを呪った。
・・・つまんない意地は張るもんじゃないわ。


天井近くにある男湯と女湯の境の開口部から聞こえて来る喧騒に混じって聞き慣れた声の悲鳴。
湯船で寛いでいた竜児は頭に載せたタオルを取り落としそうになる。
・・・何、やってんだ、あいつら。
続いて聞こえる声に竜児は思わず湯船の中で立ち上がり、大声を出す。
「たいが〜!、大丈夫かあ!!」
・・・りゅうちゃああん・・・たいがちゃああんが・・・ころんだああ・・・
泰子の声が反響して聞こえる。
あれだけ言ったのに・・・ドジめ・・・・。
竜児は湯船の中で頭を抱えた。

104 しあわせの逢坂タイガー伝説2 ◆x6jzI2BeLw :2010/01/29(金) 01:39:25 ID:???

「お待たせ」
銭湯の外へ出た大河は待ちくたびれた様子で立っていた竜児に声を掛ける。
「遅いぞ・・・いつまで入ってるんだよ」
「だって・・・仕方ないじゃない。いろいろあったんだから」
言い難そうに大河は竜児に言う。
「まったく・・・怪我とかしなかったよな」
仕方ないと言う口調に心配さをにじませて竜児は大河を気遣う。
「おでこ、ぶつけた」
「どれ、見せてみろ」
そう言うと竜児は大河の前髪をかき分けおでこを顕にする。
少し赤くなった痕が残る大河の白い額。
「もう少し気をつけろ、後に残ったらしゃれにならねえ」
ぶっきらぼうの中にも竜児の真剣な真情が読み取れて大河はただ「うん」とだけ答えた。
少し遅れて泰子が銭湯から出て来たのを確認すると竜児は帰宅を宣言する。


「持ってやるよ」
半分怪我人なんだからと竜児は大河のバッグを奪い取る。
触れた竜児の手の冷たさに大河ははっとする。
「竜児・・・」
「何だよ?」
「ずいぶん・・・待った?」
「ああ、15分くらいな」
「え〜、竜ちゃん、そんなに待ってたの?外じゃなくて中で待ってれば良かったのに」
「中で待ってたら、ふたりとも出て来たのが分からねえだろ」
泰子の声に竜児は大河と泰子を待たせたくなかったと言った。
「・・・ごめんね」
「何で大河が謝るんだ」
「私が・・・ドジしちゃったの・・・お湯に上せて倒れた私をやっちゃんが介抱してくれたから」
だから、出るのが遅くなったと大河は竜児に詫びた。
「いいんだ」
気にすることじゃないと竜児は空いた右手で大河の頭の天辺を軽くポンと叩いた。
「・・・竜児」
大河は竜児を見上げ、申し訳ない気持ちが込み上げて来るのを抑えられない。
「・・・手袋」
そう言うと大河は両手でたった今、頭を叩いた竜児の手を包み込む。
「ちょっとは暖かいでしょ?」
「ああ」
大河がしてくれた人肌の手袋は竜児にとって心地よさ満点だった。
「良かった」
そう微笑んだ大河だったが、ふとさっきのことを思い出し、竜児の手を包む指先に神経が集中してしまう。
・・・もしかしたら、この手が・・・私の・・・。
大河は顔が火照るのを止められなかった。
「・・・何だよ大河。上せたのまだ引いてないのか?」
赤ら顔の大河を見て竜児は言う。
「・・・違うわよ」
大河は竜児から顔を背けるようにして小声で聞こえないように付け加えた。
・・・上せてるのはお風呂じゃなくて、竜児、あんたによ・・・・・・。

105 ◆x6jzI2BeLw :2010/01/29(金) 01:43:35 ID:???
以上です。

106 高須家の名無しさん :2010/01/31(日) 00:35:31 ID:Mf.zk6.M
クリームソーダの人のサイトにスレに投下しなかった作品が発表されてるな。

107 ◆x6jzI2BeLw :2010/02/01(月) 00:55:24 ID:???
未だ規制中・・・

代理投稿ありがとうございます。
代理投稿の呼びかけもありがとうございます。
それからコメントなどもありがとうございます。

ひたすら、ありがとうを連呼するのみですが(汗

週明けに解除されてなかったら長くなりそうな悪寒・・・。

しかし、今の銭湯ってどんな感じなんだろう。
近所にはもう一軒も無いしね。

108 高須家の名無しさん :2010/02/01(月) 01:19:23 ID:???
番台さんがいるような銭湯は最近ほんと見なくなったよね
ウチの周りもスーパー銭湯ばっかりだ。風情が無いよなー

109 高須家の名無しさん :2010/02/02(火) 12:52:13 ID:???
また規制だー

うちの近所にはまだ普通の銭湯が点在してるよ
田舎だから

110 喫茶店に入るには微妙な勇気がいる :2010/02/02(火) 19:09:55 ID:3nGOqFd2
ちいさな喫茶店にて
「カランカラン」と入口の鈴が鳴り1人の青年が入店してきた。
 
「いらっしゃいませ」
「今日は冷えるねマスター、もう暦の上じゃ春だってのに」
「ほんとですね、今夜は雪でも降るんじゃないですか」
「全くだよ、俺の懐も冷える一方だ」
「コーヒーでも飲んで暖まってください、レギュラーでよろしいですか?」
「ああ、それとケーキかなにかある?疲れた時には甘い物を摂りたくなるからな」
「そういえば、お客さん、大分疲れてるみたいですね、そんなに険しい眼をして」
「目つきが悪いのは生まれつきだ、でも他人から見ても疲れているのは判るか・・・」
「何か悩み事があるならここで愚痴をこぼしていったらどうですか」
「はっ?」
「男は見栄張ってナンボの生き物、学校でも家庭でも愚痴はこぼせない、赤の他人だからこそ話せることもあるんですよ」
「・・・別に悩みなんてねーけど、・・・大体読者の目があるからな」
「大丈夫です、うちはお客さんのプライバシーは完璧に守られるんで、読者からは誰か判りません」
「ああ、そうなんだ」
「はい、このSSは全編こんな感じです。誰だか全然わからないので何でも喋れますよ、ちなみにここでは顔見知りと出会っても知らないフリをするのがルールです」
 
そこまで言うとマスターはカウンターの中から一枚のボードを取り出し青年に見せる
 
1 好きなだけ愚痴を言ってください
 
2 1人で来店してください
 
3 知り合いに会っても知らないフリをしてください
 
4 ここで聞いた事は他言しないで下さい
 
「このようなルールになっています。何のしがらみにもとらわれず愚痴を吐ける場所、それがこの店なんですよ」
「愚痴ねえ・・・いつも愚痴ってるからな俺、そんなに溜まっては・・・」
 
「カランカラン」とドアの鈴が鳴り別の客が入店してくる
 
「チャオ〜、マスター」
「いらっしゃいませ、いつものカフェオレでよろしいですか?」
そして青年の隣に座るが新たに入店したモデルのような美しい女と青年は目が合うと互いに黙り込んでしまう
 
「どうしましたお2人とも急に黙り込んじゃって、まさか・・・」
そう言ってマスターは再びボードを掲げ2人の客に見せる
 
1 好きなだけ愚痴を言ってください
 
2 1人で来店してください
 
3 知り合いに会っても知らないフリをしてください
 
4 ここで聞いた事は他言しないで下さい

111 喫茶店に入るには微妙な勇気がいる :2010/02/02(火) 19:10:37 ID:3nGOqFd2
奇妙な静寂を破り、青年はもう1人の客に話しかける
「あの・・・結構この店には来るんですか?さっきいつものカフェオレって・・・結構愚痴とか溜まってるんですか」
「いやいや、ちょっとね、ほんの2・3回ぐらいかな、ウン」
「50回ぐらい来てますね」
「あ、ちょっとマスター、余計なこと言わないで、お願い」
「え、では今日も愚痴をこぼしに来たんですか?」
「いやいや、今日はただお茶を飲みに・・・」
再び会話に割り込むマスター
「また、クラスの恋愛がらみの揉め事のことですか?」
「マスター!余計なこと言うなって言ってるだろ!やめてエエエエ」
「へっ、へえ〜、クラス内の恋愛での揉め事ですか、大変そうですね、そりゃ愚痴も出ますわ」
引きつった笑みを浮かべる青年
「いやいや、違うのよ!泥沼化が眼に見えてるけど別に悪口とか言ってるわけじゃなくてね・・・」
「そうですね、ネチネチ悪口って言うか、毎回簡潔に「死ね」って言ってるだけですもんね」
「マスター死ね!お前が死ねエエ!」
血相を変えて叫ぶもう一人の客
「いやいや、聞いて下さいよお客さん、このモデルさんのクラスである男子生徒と女子生徒がいつも一緒にいるのに付き合ってないと言い張ってるのがうざくて仕方ないそうなんですよ」
「ゲッ、ゲホ・・・それは本人達の言うとおり付き合ってないんじゃないかな?」
「その割にはモデルさんが男の子にちょっかいだすとすぐにやきもち焼いて手に負えないそうです」
「それの何処が愚痴なんだ?」
「男の子は本命がいるいるのに、いつまでも女の子の父親のように振舞っていて、本命と女の子が親友なのにそんな事続けてたら悲惨な事になるとの忠告を無視してるそうです」
「マスター!例のボード出して、この人にちゃんと読ませて!特に4番目を」
もう1人の客に頼まれ、青年にボードを見せるマスター
 
1 好きなだけ愚痴を言ってください
 
2 1人で来店してください
 
3 知り合いに会っても知らないフリをしてください
 
4 ここで聞いた事は他言しないで下さい
 
「ちょっと!四番目を肝に銘じときなさいよ!」
「おっ、おう・・・、わかったよ」
 
そのとき女性の声が店内に響く
 
「ちょっとマスター!せっかく来たのに何であたしに気づかないのよ!」
 
カウンター席の後ろに立っていたのは小さな体とはアンバランスな美しい顔をした女の子だった。そしてその目は虎のように鋭かった 
「申し訳ありません、カウンター席でよろしいですか?せっかくですからこの二人の愚痴を聞いてあげて下さい」

112 喫茶店に入るには微妙な勇気がいる :2010/02/02(火) 19:11:14 ID:3nGOqFd2
「そんなことよりマスター、もっと面白い話は無いの?・・・かっ片思いの相手の攻略法とか・・・」
「すいませんねタイガーちゃん、ここで聞ける話は平凡な愚痴ばっかりなんですよ、ところで、さっきの話を聞いてました?」
「別に何も聞いてないわよ!」
そう言って二人の客を睨みつけるタイガーちゃん、手には木刀が握られている
 
「そうですか、ところでタイガーちゃん、今日も三白眼の男の子の話ですか?」 
テンションの高くなったマスターとは対照的にお互い顔を会わすと黙り込んでしまう3人
 
「・・・あれ、どうしました皆さん、血の気が0で顔色が真っ青ですよ、モデルさん口から泡吹いてますけど・・・」
「どうしたの大丈夫?」
とか言いながらモデルさんをボコボコにするタイガーちゃん
「わっ、私、忘れ物したから帰るわ!マスターお代は今度払うわ!」
そういい残し店からダッシュで逃げ去るモデルさん、
「おい、待てエエエ!俺を怒り狂う狂虎の隣に1人残して逃げるつもりかアアア!」
必死に叫ぶ青年
 
「ああ、タイガーちゃんはこの人がお気に入りですか、いいですね中々お似合いですよ、例の男なんてやめて乗換えたらどうですか?」
顔を真っ赤にして黙りこくるタイガーちゃん
「マスター、このタイガーちゃんは良く店に来るの?」
「そうですね、去年の五月あたりからですから、かれこれ半年以上ですね」
「色々悩みがあるんだな…」
「クラスメートで隣に住んでる男子生徒のことが気になって困ってるって愚痴をいつも聞かされてますよ、」
「マスター!嘘言わないでよ!そいつとは別に好きな人がいるって言ったじゃないの!」
「ですが、いつもこの店で話すのはその男子のことばっかりではないですか」
「どんな話なんだ?」
「結構重い内容でしてね、いつも自分を見守ってくれる男子には好きな人がいて、しかも相手は自分の親友、2人が付き合い出したらもうその人の傍に自分が居てはいけないのが辛いとのことです」
ブホッっと思いっきりコーヒーを噴出す青年
 
急に席を立つタイガーちゃん

113 喫茶店に入るには微妙な勇気がいる :2010/02/02(火) 19:11:46 ID:3nGOqFd2
「マスター!あたしちょっと友達に電話してくるわ」
 
そう言って店から出てゆく
 
そして青年も慌てて
 
「マスター!俺ちょっと急用思い出したから帰るわ!代金はここに置いておくぞ」
「ちょっと待って下さいお客さん」
「なんだよ!」
 
「ひとつ、言っておきたいことがありましてね、私は何十年も人の愚痴を聞いてきました何千何万の愚痴を聞き続けてきました
人の悪口、仕事の不満、気の滅入る話ばかりです。ですがそんな愚痴を何故何十年も聞き続ける事ができたのか
 
愚痴の裏には愛情があるからですよ
 
こんなに一生懸命やってるのに思い通りに行かない、こんなに大好きなのにどうしてこの人は思い通りにならない、さっきのモデルさんもそうだったでしょ
愚痴って言うのは全て思い通りにならない愛情からくるただのぼやき
ただのノロケ話とかわらないんですよ」
 
しばしの沈黙の後
 
「・・・ここまで言えばわかりますよね、お客さん、いや、「三白眼」さん。タイガーちゃんの事、ヨロシクお願いしますね、今日はもう閉店します」
 
店が閉まりドアの前で立ちすくむ三白眼の前にタイガーちゃんが現れる
 
「あれ?もう閉店しちゃったの?」
「あ・・・ああ、急用があるとかで」
「・・・そう、残念ね、コーヒー飲みたかったのに」
「飲みにいくか?」
「・・・えっ?」
「コーヒー飲みたいなら、・・・付き合ってやってもいいって言ってんだよ」
「いいの?」
「え?」
「朝まで愚痴に付き合ってもらうかもしれないわよ」
「・・・フッ、構いやしねーさ」
 
三白眼はタイガーちゃんの手を取って2人で走り始める
 
 
「だって俺はもう、愚痴の本当の意味を知っているから・・・」
 
 
 
 
その時喫茶店の向かいにある狩野商店から買い物袋を持った竜児が出てきて手を繋ぎ走って行く三白眼とタイガーちゃんを見て一言
「誰だアレは?」
終わり

114 高須家の名無しさん :2010/02/02(火) 23:05:13 ID:qK.86EI6
これ、いいのだろうか。
丸々銀魂のパクリっぽいんだけど。

115 高須家の名無しさん :2010/02/02(火) 23:13:03 ID:???
あんまり潔癖な流れはやだな
出典を明らかにすればいいと思うんだけど
書いた人も一言断ればいいのにな

116 高須家の名無しさん :2010/02/03(水) 18:06:46 ID:???
規制巻き込まれたorz

『恵方巻』

「う〜ん……」
「竜児、どうしたのよ?」
「いや、恵方巻の具をどうしようかと思ってな……」
「そんなに悩むことなの?」
「おう、なにせ七福神に因んで七種類って話だからな。定番のやつはともかく、オリジナルで考えるとなると味のバランスとかもあるし……」
「それなら私にいいアイデアがあるわ」
「おう、何だ?」
「バラ、ヒレ、もも、かた、ロース、ハラミ、サーロインで七種類」
「全部肉じゃねえか!」

《定番はかんぴょう、キュウリ、シイタケ、卵(だし巻)、うなぎ(あなご)、でんぶとあと一種ということらしい》

117 高須家の名無しさん :2010/02/03(水) 21:27:37 ID:???
「ん……竜児……」
「大河……いいか?」
「あ、ちょっと待って」
「え?」
「え〜っと、北がこっちだから……」
「おい大河……こんな時に方位磁石とか持ち出して何やってるんだよ?」
「そりゃもちろん、竜児の恵方巻を食べる用意に決まってるじゃないの。ちゃんと西南西を向かないと」
「……こりゃまたド直球なネタで来やがったな……」
「はい、準備OK。途中で向き変えちゃ駄目だからね」
「よしわかった、それなら大河も終わるまで声出すんじゃねえぞ」

ギシギシンッ!ンッ!

118 高須家の名無しさん :2010/02/04(木) 01:23:10 ID:???
潔すぎてフイタwwww

119 高須家の名無しさん :2010/02/04(木) 18:31:21 ID:BYeFhqhc
どっちも直球だw
ワロタwww

120 ◆Eby4Hm2ero :2010/02/06(土) 01:55:34 ID:???
只今規制中……
代理投稿歓迎です。

121 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2010/02/06(土) 01:56:02 ID:???
お題 「向けて」「落として」「竜児」



「大河ちゃん、どうしちゃったんだろうね〜……」
「おう……」
 卓袱台の上には虚しく冷めゆく料理が一人分。
 大河が三日前から突然食事を食べに来なくなったのだ。それだけではなく昼の弁当まで拒否をする始末。
 理由を聞いても『そんな気分じゃない』とかなんとか、はっきり言ってわけがわからない。
 一応コンビニ飯やインスタント、惣菜等で食事はしているらしいのだが……
「あいつ、ちゃんと栄養とれてるのか?野菜食ってないんじゃねえかな……」
「心配だねぇ〜……」
「おう……」


 翌日。
「おう……しまった」
 今日は泰子は早出なので、夕食は竜児一人だけ。だが皿の上には揚げたてトンカツが二枚。
 大河の分は下拵えまでにしよう思っていたのだが、気がついたらいつもの癖で揚げてしまっていたのだ。
「冷めたのを暖めなおすと味が落ちるしなあ……。しかたねえ、明日カツ丼にするか弁当にまわすか……」
 竜児が呟いた時、どばぁん!と久しぶりに響いたのはドアの音と、
「竜児ーっ!おなかすいたーっ!」
「た、大河!?」
「ごはん何?あ、とんかつ!やった!ほらグズ犬、さっさと用意しなさいよ!冷めちゃう!」
「お、おう……」

 ぱくり、とトンカツを一切れ口に入れ、もぐもぐ、ごっくん。
 たちまち大河は相好を崩し、
「……っくぅ〜〜!これこれ、この味!やっぱ竜児のごはんは美味しいわ〜」
「……それじゃ、何でここんとこ食べに来なかったんだよ」
「んとね、ちょっと再確認したくなったのよ」
「……何を?」
「私、毎日当たり前のように竜児の料理食べてたけど、考えてみればほんの何ヶ月か前までは手料理そのものに縁が無かったのよね。
 それを思い出しちゃって、そしたら、ここでごはん食べてることの意味っていうのかな、考えちゃって……
 で、一度ちょっと離れてみようかなって」
「おう、そうだったのか……心配したんだぞ、俺も泰子も」
「ごめんね、上手く説明できなくて」
「まあいいさ、こうやって戻って来たんだし。さ、冷める前に食っちまえよ」
「うん。ねえ竜児」
「おう?」
「離れてわかったのはね、竜児のごはんが食べられて、私やっぱり幸せなんだってこと」
「おう……」
 竜児の頬に、つうと流れる一滴。
「……あれ?何でだ?」
「何よ竜児、泣いてるの?」
「いや、わかんねえ。わかんねえけど……うん、多分俺も今幸せだから……だと、思う……」
「……よっしゃ!」
 大河が小さくガッツポーズ。
「……え?」
「まさかこんなに上手くいくなんて思わなかったわ。感激のあまり泣き出すなんてね」
「え?え?」
「本で読んだのよ。男の子の気を引くのには『落として上げる』のがいいって。
 竜児にこんなに効果があるなら、北村君にだってきっと……!」
「……おう、そうだな!これなら北村もイチコロだぜ!実際に体験した俺が言うんだから間違いねえ!」
「でしょでしょ!早速北村君用に向けてのシチュエーションを考えないと!」
「ところで大河、お前そもそも北村に冷たい態度がとれるのか?」
「……ゔ」
「それに落とした時、上げる前に完全に気持ちが離れちまう可能性もあるよなあ」
「うう……」
「……憶えとけ、これが『上げて落とす』ってやつだ」
「ううう……」


「ねえ竜児」
「おう?」
「さっき話したのも、嘘じゃないから」
「……おう」

122 高須家の名無しさん :2010/02/07(日) 22:28:57 ID:???
これはニヤニヤが止まらないw

123 ◆QHsKY7H.TY :2010/02/17(水) 20:54:52 ID:???
新作投下しようと思ったらまたアク禁だった。

なのでこっちに投下します。
代理投稿歓迎、というかしてくださってる方いつもありがとうございます。

124 ゲームは一日一時間〜一時間目〜 ◆QHsKY7H.TY :2010/02/17(水) 20:56:45 ID:???
「ねぇ竜児、これ聞いてみて」
「おぅ?」

大河はニコニコしながら竜児にプレイステーションポータブル、通称PSPを近づける。

『だーいすき!!』
「おわっ!?」

唐突に聞こえて来たのはここに居るはずの大河の声での大音量による告白。
思わず胸がドキドキしてしまった。

「あー驚いてる驚いてる」

大河はしてやったりとしたり顔。

「な、何だよ今のは」
「竜児『Routes』ってゲーム知ってる?これ結構面白いんだよ」

大河がそう説明していると、何故か発してもいない自分の声がPSPから聞こえて来た。

「ちょっと待て!!何でゲームから俺の声が聞こえてくる!?」
「ああこれ?えっとねぇ、なんとヒロインと主人公の声優が私たちと一緒なのだ!!」
「いや、だからってお前これは……」

PSPから流れてくる大河のバリバリストロヴェリィボイス。

「ああこれ?一旦落ちると甘々になるみたい……って何耳塞いでるのよ竜児」

竜児は耳を塞いで何やらブツブツ言っている。

「これは大河じゃないこれは大河じゃないこれは大河じゃない、そもそも俺にこんな甘い声を大河は出さない」

それを見た大河はニヤリと笑うと差し足抜き足忍び足。
竜児の耳元に近寄ると、小さく小さく、甘く甘く、呟く。

「りゅうじぃ?」
「ひゃー!?」

途端、竜児は大河のような叫び声を上げる。
それを見て大河は大笑いした。

「な、何だよ!!」

竜児は気分を悪くしたのか、そう言い捨てて何処かへ言ってしまう。
一人になった大河はふっと表情を消すと、PSPにポケットから出したイヤホンを繋ぎ、

「竜児の声、聞こえるよ」

トロンとした笑みを浮かべてゲームを再開し出した。

125 ゲームは一日一時間〜二時間〜 :2010/02/17(水) 20:59:25 ID:???
「うう、わかる、わかるよぉ」

ふと竜児が気付くと、大河はいつの間にかプレイステーション2、通称PS2をやっていた。
また何か変なゲームをやっているのかと竜児が訝しがりながら見たパッケージ。
それは、

「Fate/stay night?ああ、結構人気出たビジュアル伝記ノベルか」

しかし、そうなると大河が涙ながらにわかると言っている意味がわからない。

「竜児、私この人の英語の授業なら真面目に受ける気がする」
「一気に謎が解けたな、っていうかつまりお前は担任の授業は真面目に受ける気がねぇとそういうことか」

Fate/stay nightには英語教師として藤村『大河』という女性が出てくる。
これがまた冬木の虎と呼ばれているキャラで、しかも大河という自身の名前を気に入っていない。
だというのに、

「虎を深く憎み、同時に深く愛しているなんて……なんて素晴らしいのかしら」
「まぁ確かに似てる部分はあるわな、虎って呼ばれたり、そういや剣道も強いんだっけ」
「そう、そうよ!!この人こそ私の指標となる人物よ!!そうだ、竜児アンタは料理が上手いから士郎よ!!」
「でえっ!?俺そんなに強くねぇよ!!」
「いいのよ!!無駄に細かいし」
「それに俺が士郎でお前が藤ねぇになったら物語的に恋愛要素絡まねぇぞ」
「あ……」

忘れてたとばかりに大河はコントローラーを取り落とす。
瞬間画面では、

『ソコツものがー!!』

とタイガー道場よろしく藤ねぇのデンドエンドった後の画面になっていた。
大河しばし悩んだ後、ポチリと電源を落とす。

「もうやんないのか?」
「ん、ここにエコエコ大魔神がいるから、あんまりゲームやってると電気代云々って文句言われるし」

本当に理由がそれだけなのかはわからない。
わからないが、

「じゃ、買い物にでも行くか」

竜児も大河に習ってゲームの事は頭の隅に追いやった。
ちなみに……あと十分大河がゲームを続けていたら大河の考え通りの事を竜児が言っていたのは言うまでも無い。

126 ゲームは一日一時間〜二時間目〜 :2010/02/17(水) 20:59:40 ID:???
「うう、わかる、わかるよぉ」

ふと竜児が気付くと、大河はいつの間にかプレイステーション2、通称PS2をやっていた。
また何か変なゲームをやっているのかと竜児が訝しがりながら見たパッケージ。
それは、

「Fate/stay night?ああ、結構人気出たビジュアル伝記ノベルか」

しかし、そうなると大河が涙ながらにわかると言っている意味がわからない。

「竜児、私この人の英語の授業なら真面目に受ける気がする」
「一気に謎が解けたな、っていうかつまりお前は担任の授業は真面目に受ける気がねぇとそういうことか」

Fate/stay nightには英語教師として藤村『大河』という女性が出てくる。
これがまた冬木の虎と呼ばれているキャラで、しかも大河という自身の名前を気に入っていない。
だというのに、

「虎を深く憎み、同時に深く愛しているなんて……なんて素晴らしいのかしら」
「まぁ確かに似てる部分はあるわな、虎って呼ばれたり、そういや剣道も強いんだっけ」
「そう、そうよ!!この人こそ私の指標となる人物よ!!そうだ、竜児アンタは料理が上手いから士郎よ!!」
「でえっ!?俺そんなに強くねぇよ!!」
「いいのよ!!無駄に細かいし」
「それに俺が士郎でお前が藤ねぇになったら物語的に恋愛要素絡まねぇぞ」
「あ……」

忘れてたとばかりに大河はコントローラーを取り落とす。
瞬間画面では、

『ソコツものがー!!』

とタイガー道場よろしく藤ねぇのデンドエンドった後の画面になっていた。
大河しばし悩んだ後、ポチリと電源を落とす。

「もうやんないのか?」
「ん、ここにエコエコ大魔神がいるから、あんまりゲームやってると電気代云々って文句言われるし」

本当に理由がそれだけなのかはわからない。
わからないが、

「じゃ、買い物にでも行くか」

竜児も大河に習ってゲームの事は頭の隅に追いやった。
ちなみに……あと十分大河がゲームを続けていたら大河の考え通りの事を竜児が言っていたのは言うまでも無い。

127 ゲームは一日一時間〜三時間目〜 ◆QHsKY7H.TY :2010/02/17(水) 21:01:44 ID:???
「なんだ、またゲームやってるのか、大河」
「ん」

大河はこちらにパッケージを見せる。

『龍が如く』

「おぅ、これって結構人気のあるゲームじゃねぇか、確か極道になるゲームだよな」
「そう主人公が堂島の龍って呼ばれるの、これは1だから遥って女の子に出会って……って感じね」
「ほぉ、こういっちゃ何だか珍しく俺たちに絡みのないゲームじゃないか」
「そう?」

竜児がそう言った時、

『おじさん、あれあれ』

画面からは大河の声が聞こえて来た。

「……まさか」
「えへへ」

遥という少女の声は竜児の直感通りだった。
中の人が同じなのだ。
しかし、それだけだ、それだけ。

「これは遥が桐生に護ってもらうんだよ」
「桐生ってのが主人公なのか」
「そう、堂島の龍」
「……ん?龍?」

嫌な予感がする。
龍→竜。
極道→目つき悪い、というか恐い。
護られる少女→大河と同じ。

「全然関係無くねぇじゃねぇか!!」
「そ、そぉ?」
「目を逸らすな!!お前わかっててやってるだろ!?」
「べっつにぃ……あ、そうだ竜児」
「別にって……なんだよ」
「ほら、今画面で遥が桐生に聞いてるじゃない?『ソープって何?』って」
「うぉぉう!?」
「ここで桐生は風呂だって言った後誤魔化しちゃうんだよね、ねぇソープって何?銭湯?」
「さ、さぁ?」

ジトーっと横目でしばらく大河は竜児を睨む。
惚けてないで早く教えろということだろう。

「黙ってないで何とか言うのだこのエロ犬!!」
「エロ犬ってお前絶対意味わかって言ってんだろ!?」
「さ、さぁ?」
「俺と同じ惚け方してんじゃねぇ!!」

128 ◆QHsKY7H.TY :2010/02/17(水) 21:08:22 ID:???
間違って二時間目を二回も投下してしまった。
すいません。

今回はちょこっとネタの新シリーズ開拓してみた。
今度はアニメも書いてみるつもり。

ゲームもそのうち四時間目以降を思いついたら書くかも。
他の方で思いついたら方がいたら書いて下さっても結構です。

129 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2010/02/21(日) 16:32:53 ID:???
まとめサイト更新しました。

うおおお…携帯で狐ぽをゲットしてお試し●をもらおうとしたらキャンペーン終了で2000Pしかもらえなかった…ッ!
チクショウ!早く規制解けやがれ!

あーBD化しないかナー
消失面白かったナー

130 高須家の名無しさん :2010/02/21(日) 23:13:23 ID:???
>>129
乙です。
いつも、ありがとうございます。

と、規制中の自分も言ってみる。

131 高須家の名無しさん :2010/02/23(火) 03:22:05 ID:???
今日の「フェアリーテイル」でハッピーとエルザの人格が入れ替わってた。
……えーと、中の人的に大河とやっちゃん?w

132 ◆x6jzI2BeLw :2010/03/01(月) 00:46:53 ID:???
新作投下しようと思えば規制中。
規制解除はいつでしょう(笑)

そんなわけでお世話になります。
代理投稿歓迎と言うかお願いします。

以下、新作「超しあわせの逢坂タイガー伝説」
たまにはタイトル付けよう・・・って本スレ>>322の意見のままじゃないかw
ちなみに前作と余り関係はなかったりする。

ではいきます。

133 超しあわせの逢坂タイガー伝説 ◆x6jzI2BeLw :2010/03/01(月) 00:48:49 ID:???

「高須、呼んでるぞ」
クラスメートに呼ばれた竜児が声のした方へ振り向くと、教室の入り口にちょこんと立っている大河の姿。
竜児を認めるとお弁当が入った袋を軽く振り回しながら、早くしろと急き立てる。
「おう、今行く」
昼休みが始まったばかりの教室は授業の緊張から解放された緩い空気が漂う。
立ち上がった竜児は既に机を合わせ島を作ってお弁当を広げていた女子生徒から声を掛けられる。
「相変わらず、仲いいのね」
「まあな」
「前みたいにここで食べれば?わざわざ外へ行かなくてもいいんじゃない」
「そうしてもいいんだけどな・・・あいつがさ」
竜児が目線を流す先で仁王立ちしている大河。
あんな小柄な体の何処にこんな存在感を示せるのかと言うくらい目立っている。
「ああ、相当怒ってたもんね、逢坂さん」
くすくすと可笑しそうに笑う。
「りゅーじ」
何、のんびりしてるんだと催促の声をあげる大河に女子生徒は肩をすくめる。
「お待ちかねみたいよ」
「わりい」
ひと声掛けてから竜児は大河の側へ駆け寄る。
「遅い。昼休み終わっちゃうじゃない」
あんたは悠久の時を生きているのかと数十秒の遅刻をした竜児を責め立てる大河。
「怒るなよ」
「怒ってなんかないわ」
その台詞とは裏腹に口調に表れる大河の不快指数。
「何なの?・・・あの女?」
「クラスメートだろうが」
「ホント、面白くないクラスね・・・ああ、不愉快」
そのままぷいっと身を翻すと大河はスタスタと竜児より先に歩き出す。
「大河」
竜児は慌てて大河の背中を追い掛けた。

134 超しあわせの逢坂タイガー伝説 ◆x6jzI2BeLw :2010/03/01(月) 00:50:15 ID:???

このところ屋上へ続く階段の踊り場が大河と竜児のランチ会場になっていた。
三年生になり、クラスも別れてしまった竜児と大河だが、お昼を一緒に取る習慣は二年生の頃から変わっていない。
あの頃は竜児が大河のために弁当を用意していたが、母親と暮らし始めた大河の昼食を心配してやる必要が竜児には無くなっていた。
それでも世話好き竜児のこと。
いつも小さなタッパーに大河用のおかずを用意するのを忘れない。
なにせ、新学期、間もない頃に竜児は大河に弁当を取られているのだ。

「たまには竜児の作ったの、食べたい」
じっと大河に己が作った弁当を見つめられ、竜児としては嬉しくないわけが無いのだが、そこは心を鬼にして断固拒否の姿勢を見せた。
「お袋さんに悪いだろ、ちゃんと自分のを食え」
「・・・うん」
しょぼんとする大河にたちまち鬼の竜児は仏の竜児に早変わりする。
「・・・食え」
弁当箱ごと大河へ差し出す。
「その代り、ちゃんとお袋さんの作ったのも食べるんだぞ」
「いいの?」
「ああ、男に二言はねえ」
「それじゃ、遠慮なく」
以前の大河ならいただきますとそのまま竜児の弁当をきれいに平らげただろう。
だが、目の前の大河はそんなことをしなかった。
自分のお弁当箱のふたへ竜児の弁当を半分移し変えると、隙間が空いた竜児の弁当箱へ自分の弁当の中身を半分入れた。
「これで万事解決」
そう言うと大河はおいしそうに竜児が作った物から箸を付け始めた。

その翌日からだ、ランチの席に大河用の小さなタッパーが付く様になったのは。

135 超しあわせの逢坂タイガー伝説 ◆x6jzI2BeLw :2010/03/01(月) 00:51:43 ID:???

階段の段差をベンチの椅子代わりにして並んで座る竜児と大河。
不機嫌そうなのもお弁当箱を開く頃にはすっかり影を潜め、食欲の旺盛さを見せ付ける。
「あ、それちょうだい」
竜児のお弁当箱へ箸を伸ばし、おかずを掴み取ると大河はさっそく口元へ運ぶ。
「おま、ちゃんと用意してあるだろ」
「お弁当はお弁当箱から食べてこそおいしいのよ」
「なんだそりゃ」
「その代り、これあげる」
そう言うと大河は自分の弁当箱の中から厚焼きたまごを一切れ、箸でつまんで竜児の口元へ持って行く。
「はい、竜児」
「はいって・・・なあ」
ちょっとためらう竜児に大河はじれったさを隠さない。
「いいから食べて」
「お、おう」
遠慮がちに小さく開いた竜児の口中へ大河はたまご焼きを押し込む。

もぐもぐと咀嚼する竜児を大河は見つめる。
「ど、どう?」
ごっくんとたまご焼きが竜児ののどを通過した頃合を見はらかって大河が訊ねた。
「甘すぎるんじゃねえか・・・砂糖が多すぎだ・・・」
お袋さんへ言っておけと続けようとした竜児はどよんと落ち込む大河にうろたえる。
「ど、どうしたんだよ?」
「・・・いいの・・・まだまだだって・・・分かったから」
「まだまだって・・・?」
ここまで言い差して竜児はあっと声を上げそうになった。
大河の落ち込んだ原因に思い当たったからだ。
「なあ、大河・・・もしかして、今のたまご焼き・・・」
こくんとうなづく大河に竜児は自分の予想が当ったことを確信した。
そして同時にデリカシーが足らなかったことを痛感した。
・・・きっと、何回も焦がして、失敗したんだろうな。
キッチンで奮闘する大河を想像して竜児はちょっとだけ胸が熱くなった。

「もうひとつ、もらっていいか?」
「いいのよ、無理に食べないで」
「いや、急にたまご焼きが食べたくなったんだ、ぜひ、食わせてくれ」
大真面目に竜児は大河に頼んだ。
竜児を見つめた大河はややあってぷっと噴き出した。
「し、仕方ないわね・・・食べたいって竜児が言うなら」
これまた大河も崩した顔を再度引き締め、真面目くさってまた同じ様に竜児の口元へたまご焼きを運んだのだった。

136 超しあわせの逢坂タイガー伝説 ◆x6jzI2BeLw :2010/03/01(月) 00:53:25 ID:???

2年C組でこんなことをやっているなら竜児と大河のバカップルめとクラスメートは生暖かく見守ったことだろう。
なにせ、手乗りタイガーとして恐れられていた逢坂大河とヤンキーとして一目置かれていた高須竜児のふたりが、最終的には駆け落ちもどきのことまでやって結ばれるのを逐一目撃して来た当事者なのだ。
多少のことで動揺などするはずが無い。
しかし、クラス替えがあり、必ずしもその辺りの事情を詳しく知らないクラスメートの中にあってふたりのラブラブ振りは行き過ぎた物として一部のクラスメートの反感を買ってしまったのも事実だった。
大橋高校と言う進学校の中でも特に竜児がいる国立理系選抜クラスは受験に対する意識が違う。
昼休みも惜しんで参考書を開いている手合いも無きにしも非ずで、そんな連中から他所でやれとクレームを付けられたのだ。

「ふうん・・・この程度で気が散るなんて・・・成ってないわね・・・そんな脳みそじゃ、おぼつかないんじゃない、志望校」
冷たさの権化の様に大河はクレーム相手に言い放った。
不遜ともいえる顎を上げた姿勢で低い位置から相手を見下す大河にしまったと言う顔をするクラスメート。
すっかり丸くなっていた大河に油断しきって本来、大河が持っている本質を忘れてしまっていたのだ。
まさに虎の尾を踏んだに等しい自殺行為だった。
おまけに学力と言う点から言っても大河は成績上位で、下手をすれば文句を言った奴の方が順位が下でもおかしくないくらい。
進退窮まったと立ち尽くすクラスメートの危機を救ったのはさっき竜児に話し掛けていた女子生徒だった。
立ち往生するクラスメートに言い過ぎたことを謝りなさいと言う一方で大河へも釘を刺して来た。
「逢坂さんも、もう少し控えめに・・・ね」
「・・・帰る!」
ズバリ言われて真っ赤な顔で立ち尽くした大河はそう叫ぶと食べ残したお弁当をそのままにして竜児のクラスを飛び出した。

「言い過ぎたかしら」
大河の去った扉を見ながらつぶやく女子生徒。
さっきの危機に突っ立ているだけで何も出来なかった竜児はこの問いに助かったと素直に頭を下げた。
「しかし、あの大河に良く言えたよな」
驚きを隠さない竜児。
「あら、逢坂さんて正当な理由もなくいきなり何かする人?」
「いや、それはねえな」
「でしょ」
何でそんなに詳しいんだとの竜児の疑問に、元C組にいた竜児のクラスメートの名前を挙げ、自分の親友だからねと種明かしをしてみせる女子生徒。
「逢坂さんが机投げて暴れたとか、クラス中で腫れ物にでも触るみたいにしてたとか・・・」
ネタはいろいろ知ってるわよと楽しそうに笑った。

その日以降、絶対に大河は竜児のクラスに足を踏み入れないようになった。
不愉快千万というわけだ。
「こっち来てよ」
自分のクラスへ来いと言う大河に竜児は首を振った。
「何?来るのが面倒なの?」
「いや、大河のところへ行ってもいいんだけどさ、川嶋がいるだろ」
「ああ、ばかちー。腐れ縁で同じクラスになったのよね」
冷やかされるのがどうもと言う竜児に大河は同意した。
「そうね。ばかちーごときに貴重な昼休みを邪魔されたくないわ」
そんなわけで階段の踊り場でランチタイムを過ごす事になったのだが、これはある意味、貴重な時間ともなっている。
以前は竜児の家に行けば嫌でもふたりだけの時間と言うのがあったのだ。
しかし、母親と暮らし始めた大河にとって、二年生の頃みたいな竜児とだけ一緒に居られる時間と言うのが取り難くなっている。
それがここに居れば誰も来ないので遠慮なくふたりだけの世界を構築出来るのだ。

137 超しあわせの逢坂タイガー伝説 ◆x6jzI2BeLw :2010/03/01(月) 00:54:44 ID:???

「ごちそうさま。今日もおいしかった」
満足気にお弁当箱を片付ける大河。
「たまご焼き、また作ってくれるか?」
「がんばってみる・・・けど上手く行かなくても文句言わないでよ」
「言わねえ、大河が作ってくれるなら」
「そんな風に言われるとプレッシャー感じちゃうけど、少しくらいはお料理、上手になりたいし」
「あせんなくていいんだぜ」
「・・・いつか、やってみたいんだ」
「何を?」
「はい、お弁当って・・・竜児に手渡すの。全部、自分の手作りで・・・それで竜児がおいしそうに食べてくれるの。今の私じゃ全然、無理だけどね」
「一歩ずつ、やってけば夢じゃなくなるさ」
「本当?」
「ああ、今日のたまご焼きだって、味付けさえ間違ってなかったら結構いけたぜ」
「お世辞でも嬉しいよ、竜児」
「世辞じゃねえ、本気で言ってるんだ」
「ありがと・・・竜児」
言い終えると大河は竜児の肩へ自分の頭をそっと載せた。

「大河」
「なんか・・・ものすごく幸せな気分」
目を細くして夢見心地な表情を見せる大河。
「お腹、いっぱいになったからだろ」
「竜児」
ムードないなあと大河は竜児の背中を軽く叩いた。
「おう、わりいな・・・でも、俺もそんな気分だ」
「でしょ」
我が意を得たりと大河は笑う。
そして小さなあくびを漏らす。
「何だか、眠くなっちゃった・・・ねえ、竜児」
「何だ?」
「枕・・・借りるね」
そう言うと、大河はずるずると竜児に沿って体を倒し、膝の上へ上半身を預けた。
「大河、おい」
「予鈴、鳴ったら・・・起こして・・・・・・」
本当に眠かったらしく大河はそのまま寝息を立て始めた。

膝の上で子供のように丸まって眠る大河を竜児は見下ろす。
・・・夜中にミルクをあげる為、何度も起きるって言ってたっけ、大河は。
・・・赤ちゃんの世話も大変だよな。
優しい目で竜児は大河を眺める。
嫁にする・・・一生、添い遂げると誓った少女が全幅の信頼を寄せるみたいにして自分の手の中でまどろんでいる。
竜児は感慨深く、大河を見つめる。
わずか一年前だよな、傷ついた猫みたいに牙をむき出して襲って来たのは。
木刀を振り回した挙句、倒れた大河を思い出す竜児。
大河との二人三脚があれから、始まったんだと竜児は過去を振り返る。
足並みが乱れて、転んだりしたけど、こいつがパートーナーで良かったって思う。
そんなことを考えながら竜児は寝ている大河の柔らかな頬を指先で軽く突付いた。
寝息が少し乱れて、甘えたような声を大河は上げる。

予鈴が鳴っても起きない大河をいたわる様に竜児は本鈴寸前までそのままでいた。

138 超しあわせの逢坂タイガー伝説 ◆x6jzI2BeLw :2010/03/01(月) 00:56:22 ID:???

「・・・ふぇ、朝?」
寝ぼけた声で起き上がった大河はそこに竜児が居るのを認め、不思議そうな表情を浮かべる。
「・・・竜児?ああ、朝ごはんの時間・・・早く起してくれればいいの・・・・・・に?」
パジャマを脱ごうとする動作を見せた大河は途中で手が止まる。
なんで自分が制服を着ているのかと怪訝そうに首を傾け、それから、竜児をまっすぐ見た。
その大河の顔が急速にカラーピンクで侵食されていくのを竜児は黙って見守る。
寝ぼけて以前に住んでいたマンションで竜児に起された気でいたのだ、大河は。
「目、覚めたか?」
「さ、覚めてるわよ、とっくに」
強がりを言う大河だが、顔の火照りはまだ消えていない。
そして、今の時間が本鈴ギリギリだと知り、怒り出す。
「なんで、もっと早く起さないのよ」
少し乱れた髪を気にするように大河は竜児へ洗面所へ寄る暇も無いと文句を言う。
「・・・いや、大河の・・・寝顔があんまりかわいくて」
ずっと見てたと竜児は言う。
「起すのもったいなくて・・・その、悪かった」
女の子の身だしなみまで気を遣ってやれなくてと竜児は大河へ謝る。
「寝顔って・・・ずっと?」
「ああ・・・」
大真面目にかわいいと言う竜児に大河の顔は真冬の電気ストーブさながらに赤みを増す。
やがて、顔の熱さに耐え切れなくなったかのように大河はうつむく。
「なんか知らないけど・・・ありがと」
ぼそぼそと話した大河だが竜児にはしっかり伝わった。



とりあえず、ここまで。

139 ◆Eby4Hm2ero :2010/03/02(火) 04:57:04 ID:???
2chが鯖落ち中なんで、とりあえずこちらに。
復活したら転載します。

140 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2010/03/02(火) 04:57:44 ID:???
お題 「千円」「寄る」「自習」



 五時間目の授業が自習となれば、クラスの大半は友達と駄弁る、雑誌を読む、寝る等々で真面目に勉強しようというのはむしろ少数派で。
 竜児としてはその少数派でありたい所だが、それを許さないのが目の前に一人。
「ねえ竜児、やっぱり晩ご飯はすき焼き食べたい」
「駄目だ」
「すき焼き〜、すき焼き〜、すき焼き〜、すき焼き〜」
「今日は魚の特売日だからサバミソだって言ったじゃねえか」
「竜児だって昨日のテレビ見たじゃない。美味しそうだったじゃない。食べたいじゃない!」
「ああいうのは百グラム千円以上するような高い肉使ってるから美味いんだよ。今のうちの予算で使える肉じゃ、期待外れでがっかりするのがオチだぞ」
「うう〜……それじゃ……せめてお肉!お肉食べなきゃこの衝動が治まらないから!」
「お前なあ……」
「お肉お肉お肉お肉お肉お肉お肉お肉……」
「ああもう、わかったわかった。帰りにスーパー寄るから、安くなってるやつでいいな?」
「わ〜い、竜児ありがと〜!」
「しかたねえ、鯖は明日の弁当に使うか……」
「ほら竜児、四時から豚バラ薄切りがタイムサービスだって!生姜焼き!」
「大河……お前はなんでチラシとか持ってきてるんだよ……まさか最初から!?」
「んん〜?なんのことかしら〜?」

141 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2010/03/03(水) 01:41:34 ID:???
要望があったため、全SSをひとつにまとめたページを作成しました。
かなりの量なので携帯で開こうとするとエラーで途中で止まるかもしれませんので注意。
検索等にお使いください。

そして本スレは規制どころか鯖落ち中で近づけやしないデス。

142 高須家の名無しさん :2010/03/03(水) 02:09:46 ID:???
>>141
おおおおおお疲れ様です
検索が楽になります

143 高須家の名無しさん :2010/03/14(日) 13:17:03 ID:Gz551/dI
本スレ、アゴの方、GJ!した。感想投稿しようとおもったら、500KB超えてた!
すまん、所用で新スレ立てられないが、誰か頼む〜!!

144 高須家の名無しさん :2010/03/14(日) 19:31:19 ID:c88fdrnQ
【とらドラ!】大河×竜児【ハラハラ妄想】Vol20 でよろしく

145 高須家の名無しさん :2010/03/14(日) 22:41:51 ID:gZgUS2rY
アゴの方、いい作品だ。

ソワソワ妄想で新スレ立てようとしたら、弾かれた。

146 高須家の名無しさん :2010/03/14(日) 23:21:54 ID:???
三題噺の方もアゴの方もよかったよ〜
乙です!

新スレたててきました
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1268576015/

147 高須家の名無しさん :2010/03/28(日) 21:56:56 ID:CIW9Nrvk
銀魂最終回。神楽(CV釘宮)がナレーションから何からこなすクリスマス回。
おもいっきり大河思い出した(w。釘宮の声でクリスマスにちょっと寂しい
物言いされると、しばらくトラウマに苦しみそう。

148 高須家の名無しさん :2010/03/31(水) 04:08:58 ID:???
>>147
>おもいっきり大河思い出した(w
俺もだw

149 高須家の名無しさん :2010/04/01(木) 19:42:57 ID:???
何でかわからないがアク禁になった。(荒らしはしてませんよ)
ハラハラ妄想の人がエイプリルフールネタはないか?という方がいたため
作って投下→書き込めねえ、なぜだ?(ハラハラ妄想>>86の作者ですのでまだ初心者)→仕方がないからこっちへ投下

エイプリルフールネタは?という方がいたので試験投下 ちなみに86でギシアンを試験投下した者です、
駄文&読みにくい&粗悪&変態?かもしれませんがよければ是非どうぞ
ちなみに「秋になったら畑に行こう」がベースです。 年齢設定は大学1年生

「りゅーじ、私たちって結婚するんだよね?」
大橋高校でつい最近まで危険度レベルMAXに降臨していた彼女、手乗りタイガーこと逢坂大河はいつものように
遊びに来て、高須家の居間で食後のごろごろタイムを貪っていた。(さしずめ食後の野生の
トラのように…、すなわちそれだけ彼女にとって高須家は安心できる場所でもある。)
そして食器洗いをしながら「おう!」と答えたのは某指定暴力団○×組に所属し
「自宅にならトカレフの2丁や3丁、他にも小麦粉に似た何かやチョコに似た何かならたくさんあるぜ…」
という顔をした男子、高須竜児である。
最も外見だけであり根の性格はヤーさんとは正反対どころかお人好し。
(その性格ゆえに大橋高校の美少女3名を悩ませたと言う伝説が高校に残ってるとか残ってないとか…。)
そしてこの二人が付き合ってから約一年弱が過ぎたある日のこと…

「ってことは結婚式もやるんだよね?」
「おう!もちろんそのつもりだ。俺が『18になったら嫁に来いよ』
とは言ったものの、やはり状況が変わってるし、それに俺がちゃんと稼いだお金で
お前にウェディングドレス着せたいしな。そういや大河、お前はどんなドレスがいい?」
「う〜〜ん」と考えてから三分は経過した時に彼女はあることを思いついた。そして
「私は竜児の中学時代の緑色のジャージがいい!!」
「はい?」
「だ〜か〜ら、2年生の秋に竜児とみのりんとイモ掘りした時のジャージよ。」
「ああ、あの時の… ってかお前普通結婚式に着るか?」
「はあ〜」
「なんだよ…、そのいかにも呆れてますっていうため息は。」
「これだから…、いいわ犬にちゃんと説明してあげる。あの時あんたは
『お前を守る守護ドレスだ!嫁に行くときにも是非着てほしいな』って言ったのよ。」
「ああ!そう言えば確かに俺言ったけな、そんなこと。でもお前本気か?」
と、大河に聞いたら笑ってやがる… 、一体何なんだ?と思った矢先に大河が口を開いたため思考を中止した。
「じゃあ竜児、今日は何月何日?」
「質問に質問で返すな。え〜と4/1だけど…、あーっ」
「わかった竜児?今日はエイプリルフール、本当に着るわけないじゃん、
まあ私はそれでも構わないけど世間から見ればちょっとね…。
でもこれは本当、竜児ありがとう。
あの時の私たちって自分で言うのも難だけど変な関係だったじゃん、
それなのに竜児は私のこと心配してくれて…」
「おう!気にするなって」
「ふぁ〜あ、ごめ…竜児眠くなっちゃった。」
「それは仕方ないな、弟の世話で疲れてんだろ?ふぁ〜あ、やべ俺も眠くなってきた、一緒に寝ようぜ大河。」
「うん!」
そして卯月の心地よい風に抱かれ竜虎は夢の中へ。いつかするであろう自分たちの結婚式の夢を見ながら…

150 高須家の名無しさん :2010/04/02(金) 06:19:15 ID:???
>>149
GJ!
大河のイタズラっぽい笑みが見えるようだ。


アク禁に巻き込まれるのは2chでは珍しくないことだから気にせずにw
運営系の規制情報板板や雑談系2の批判要望板あたり見ると状況がわかるかも。

151 ◆Eby4Hm2ero :2010/04/03(土) 04:09:40 ID:???
規制巻き込まれた……というかメッセサンオー祭の影響で大手ISP軒並み全滅らしい。
地域絞り込み無しでocn丸ごと規制とか。

152 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2010/04/03(土) 04:10:39 ID:???
お題 「秘めて」「あたり」「ぶつけた」


「どうしよう……」
 逢坂大河はとぼとぼと帰り道を歩く。
「どうしよう……よりにもよって、あいつに……」
 高須竜児。
 北村君の友達。
 初対面、始業式の日にぶつかった時は失礼な奴だと思ったけれど、よく北村君と話している様子を見れば悪い人間じゃない様ではあった。
 だが、だからこそ、アレを北村君に渡してしまうのではないだろうか。
 ずっと秘めてきた想いを綴った手紙を。

 そもそも、書きはしたものの渡すつもりは……そんな勇気は無かったのだ。
 それが、たまたま北村君の机に鞄が置いたままなのに気がついて。教室には他に誰も居なくて。
 千載一遇のチャンスだと思った。でも決心がつかなかった。鞄を開けたまま迷って……丁度その時にあのバカが来て……思わず放り込んでしまった。
 それが、あいつの鞄だとは気づかずに。

 結局手紙はそのまま、高須竜児の鞄の中で。
 『高須竜児』の事をほとんど何も知らない以上、取り返す事は極めて難しい。
 連絡網のプリントを見れば電話番号ぐらいはわかるだろうが……そこまでだ。
 家に帰れば、あいつは手紙を見つけるだろう。
 ラブレターだと気づくかもしれない。中身を読んでしまうかもしれない。
 思い返せば自分でも恥ずかしくなるような内容だ……笑うだろうか。バカにするだろうか。
 それをもし北村君に伝えられてしまったら。クラスに広められてしまったら。
 ……そうなったらもう、生きてはいけない。

 と、その時。
「……あれは!」
 見覚えのある後姿。どこかにぶつけたのだろうか、後頭部のあたりをさすりながら前を歩くのは間違い無く高須竜児。
 咄嗟に物陰に隠れる。幸いこちらに気がついた様子は無い。
 なんという天の配剤。このまま後をつければあいつの家がわかる。そうすれば、手紙を取り戻すことだって出来るかもしれない。
「……あれ?」
 ぶつかったり、転びそうになったり、それでも見つからないように、見失わないように必死に尾行を続けて。
 気づけばなんだかよく知っている道を歩いている。というか、いつもの登下校のルートをそのままに。
 やがて辿りついた終着点は。
「……嘘」
 高須竜児が入っていったのは、大河の住むマンションの隣……ボロい木造一戸建ての二階。
 今まで隣人など気にした事も無かったが、それがまさかあの男だったとは。

 そして、夜。
 大河は木刀を手に、寝室の窓から塀の上を経由して隣家二階のベランダへ。
 手紙の事を知られてしまったのは間違い無い。それを無かったことにするためには高須竜児の息の根を止めるか、せめて記憶を飛ばさなければいけない。
 正面から行けば当然あいつは抵抗するだろう。ならば、寝込みを襲うのが一番確実だ。
 降り立った目の前の窓をそっと開ける。鍵はかかっていない。
 中を覗けば、人の気も知らずに安らかに眠る高須竜児。思わず睨み付けるが、ここからでは上手く殴れそうにないし、中に入ろうとよじ登れば気が付かれるかもしれない。
 横を見れば、おそらく居間に入るための大きな窓。こっそり侵入するならこちらからだろう。
 靴を脱ぎ、木刀を握り締め、サッシに手をかけ……
 いざ、参る。

153 高須家の名無しさん :2010/04/03(土) 20:30:40 ID:???
>>152
乙です!こういうのもいいね
本スレ109の人も乙!
続きが気になるw

規制早く解けるといいな…

154 高須家の名無しさん :2010/04/04(日) 00:06:33 ID:???
149の作者です。152の方がメッセサンオー祭で…ということでwikiで「メッセサンオー」
と検索したらその会社の個人情報がネットで閲覧可能状態になり、
これを利用して2ちゃんねるに個人情報を広めた馬鹿がいるらしい。
道理で本スレに書き込もうと思ったら解除されない訳ですよwwww

155 高須家の名無しさん :2010/04/04(日) 03:19:41 ID:???
>>まとめ人さん
毎度毎度、更新おつです。またタイトルで遊んでるww

>>152
GッッJ!
なんて違和感のない襲撃ビフォー。
一巻読むときは頭の中でこれをねじ込むことにするわ

携帯も使えなくなってけっこう経つけど、巻き添えはマジかんべん

156 高須家の名無しさん :2010/04/05(月) 21:02:28 ID:6fdUMDW6
本スレが妙に過疎ってると思ったらこういうことだったのね。
かくいう私もアク禁でしてね……。

>>149
乙!
(・∀・)ニヤニヤ

>>152
乙!
大河の尾行にすら気づけない辺りが流石ミスター鈍犬ですねw

157 ◆Eby4Hm2ero :2010/04/07(水) 07:09:10 ID:???
まだ規制中。通報は行ってるらしいんで早く対応してくれocn。

代理投稿ありがとうございます。

158 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2010/04/07(水) 07:09:44 ID:???
お題 「春田」「姉」「思い当たる」



「ただいま〜」
「……竜児、ちょっといい?」
「お、おう?」
 買い物から帰ってきた竜児を出迎えたのは、妙に固い表情の大河。
 卓袱台を挟んで向かい合わせに座り、大河は真剣な顔で竜児を見つめる。
「ねえ竜児、何か私に隠してることない?」
「はあ?」
「隠してることがあるんじゃないかって聞いてるのよ!」
「……特に思い当たる事はねえぞ」
「ふうん……じゃあ、これは何?」
 言って大河が取り出したのは、一冊の本。
 半裸の女性と『お姉さんが教えてア・ゲ・ル♪』等の扇情的なセリフが表紙を飾る、それはどう見ても十八禁なシロモノで。
「……っ!お前、それ……どうして……」
「シャーペンの芯が切れちゃったのよ。で、竜児の借りようと思って引出し探してたら……。
 私という恋人がありながら、どういうことなのかしらねえ?」
「ま、まて大河。それは俺のじゃねえ、春田のだ」
「誰のだろうと一緒よこのエロ犬!」
「違うって、頼まれて買ってきたやつなんだよ。だからその本、袋も開けてなかっただろ」
「は?なんでロン毛虫があんたにエロ本なんかを頼むのよ?」
「それはだな、その、買う時にだな、俺なら私服で行けば年齢確認されねえから。それで、偶にな」
「ふん……ま、いいわ。信じてあげる」
「ほっ……」
「で、こいつはエロ毛虫のだとして……竜児はこーゆーの持ってないわけ?」
「うっ……そ、それは……」
「……持ってるのね……この浮気者!」
「浮気じゃねえ!俺の心は大河一筋だ!」
「じゃあなんで他の女の裸なんて見てるのよ!」
「仕方ねえだろ、男ってのは生理的にある程度、その、処理しないといけねえんだから」
「……それはその、いわゆる……オカズがどうのって……やつ?」
「……お、おう……」
「……それなら……わ……わわ……わた、わたしを見ろ!そして使え〜ぃ!」
「ちょ、ま、待て!おい大河、脱ぐなーっ!」

159 高須家の名無しさん :2010/04/07(水) 18:45:00 ID:???
エイプリルフールネタの作者です。三題噺の方のは面白く投稿する前から読んでました。
代理投稿してくださった方、本当にありがとうございます。

160 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/07(水) 20:01:18 ID:???
お久しぶりです。

まとめ人様いつも乙です。

三題噺さんはほんと定期的で尊敬しますね。
このスレが今だ廃れないのは間違いなくまとめ人様と氏の力が大きいと思う。

エイプリルフールの方の最後の一緒に寝ようぜを別の意味で捉えた俺はきっと汚れてる。

さてパンツネタがはやっていた時に、思いついたネタが纏まってきたので数日に分けて久々に投下します。

代理投稿大歓迎。

161 逢坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/07(水) 20:03:53 ID:???
※十八禁ではありません

◆side大河

「おはよぉ」
「おぅ」

大河は目を覚ますと、寝ぼけ眼のまま居間へと足を踏み入れ、ぷんと漂うおみそ汁の匂いに反応した。

「今朝は……大根ね」
「おぅ、よくわかったな」

竜児は昔と変わらぬECOと入ったエプロンをしたまま卓袱台にみそ汁とご飯を置いていく。
これまた変わらぬような朝の風景。
しかしこれらは主婦顔負けの家事スキルを持つ高須竜児によって栄養のバランスが取れるよう考えられたメニューだった。

「あんたも飽きないわねぇ、たまには私がやってもいいのに」

結婚して三ヶ月。
お互い仕事をする身である為、家事は分担が基本だが竜児は暇があれば大河の分もやってしまう。
だってそこに家事が残っているのだ、やらねば失礼ではないか。
そこに埃が落ちていれば拾い、ついでにカビチェックをして、料理の仕込みをする時間があれば料理しておかねば失礼ではないか。

「誰に失礼だってのよ」
「おぅ!?口に出ていたか?」
「顔に書いてんのよ」

大河はいつも通り「いただきます」をすると食事を始める。
高校生の時から殆ど変わらないこのやり取り。

「2DKって言っても二人で住むんだったら案外十分よね」

さらには借りているアパートの広さまで一緒だった。
竜児の母、泰子は「新婚生活の邪魔はしないでがんす〜♪」と和解した両親、竜児にとっての祖父母と住む旨を言いだし、竜児と大河も仕事の関係から元のアパートからは離れざるを得なかった。
それでも似たような場所はあるもので、ここにしようと決めた場所が“あのアパート”と中がそっくりだったのだ。

「そうだなぁ、泰子と二人の時もあんまり手狭感は無かったかなぁ……っと、もうこんな時間か」

竜児も思い出しながら時計を見、

「悪い、先行くぞ」
「ん、あんたもそんなに時間無いなら朝の洗濯は私に任せても良かったのに」
「いや、大河にあんまり負担かけたくねぇし」

そう言い残すと竜児は慌てて飛び出していく。

162 逢坂流高須大河の小作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/07(水) 20:07:11 ID:???
ぽつんと残される大河。
別に寂しいとかじゃない。
今までにも似たような事はあったし、一人分しか食事が卓袱台に乗っていないあたり竜児は先に食べたのだろう。
時刻は七時十五分。
自分の出勤時間は八時半までだが竜児は七時四十五分まで。
場合によっては早出で七時までとかの日もある。
お互い社会人になったのだからそこに文句を言うつもりも無い。
普段は一緒にいようとする時間も作ってくれるし、自分の為を思って無理に早く起こさず、寝かせておいてくれるのも悪いとは言わない。
だが、

「何で竜児は求めてこないのよ」

最近の大河の思いはその一言に尽きた。
本当に変わらないのだ。
高校生の時と態度、対応が。
これでは高校生の時の生活の延長のようなものだ。
別にそれ自体にも文句を言うつもりは無いが、

「わ、私達はふ、夫婦であるからにして、そ、その“ふふう”の営みと申しますか、その、ほら、“ふうう”らしい“性活”……じゃなかった、生活は無きにしもあらずなわけでいて……」

自分にいろいろ言い訳をしている内に携帯が鳴り出し、そろそろ着替えないとマズイ時間だと気付く。

「あ、ヤバッ!?」

慌ててご飯をかきこみ、きちんと「ごちそうさま」をしてから慌ただしく着替えて大河も家を出て行く。



***



「お疲れ様でーす」

仕事が終わり、大河は帰路についていた。
今日も忙しくはあったが、このまま行けば家には七時半位には着くだろう。
竜児もよっぽどの事が無い限り夜はそんなに遅くならない。
今日は竜児の夕飯当番だし、遅くなる旨のメールも無いことから既に夕飯の仕込みをしている可能性も考えられる。
そこまで竜児のことを思って、ふと大河は今朝考えていた事を思い出した。

「私、やっぱり“そういう魅力”は無いのかしらね」

竜児が自分を好いていてくれていることは伝わって来る。
しかし何故かそれは“好き”という枠の中にのみ収まっていて、いわゆる青年思考へとは発展していかない。
小学生の恋愛、と言われれば反論できないような、そんなストイックな関係が続いていた。
嫌というわけではないが、竜児も男だ。
我慢しているのではないか、もしくは自分にはそういった魅力が不足しているのではないか。
そんな疑心暗鬼に陥りそうになってしまう。
何せ学生時代、“哀れ乳”として蔑まれた経験があるのだ、虚勢でもスタイルに自信があるとは言えなかった。

「はぁ……馬鹿竜児」

疲れていた体が、さらに疲れたような錯覚を伴ってガックリと肩を落とす。
気付けば歩いているのは商店街。
もうあと5分ほどで家には着くだろう。
と、商店街の一角にあるランジェリーショップに急に目が行った。
最近は嗜好の凝った物も多く大河も女なだけに興味は深い。
このまま帰ればあと5分で家に着くが、寄り道して悪いわけでも無い。
少し迷い足をしていた大河だが、ついには足をランジェリーショップへと向け、帰宅を十分ほど遅らせた。

163 逢坂流高須大河の小作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/07(水) 20:08:42 ID:???
***



「ただいまー」
「おぅ、おかえり……ん?何か買ってきたのか?」
「うん」

予定より若干遅くなった大河は別に悪びれもせずよいしょと既に料理が乗っている卓袱台の前に座る。
別に小さいテーブルでも良かったのだが、慣れてしまった上に前の家のを使えるのに捨てるのはMOTTAINAIという事で、そのまま使用していた。

「おい、着替えてからにしろよ、制服汚れるぞ」
「あんたねぇ、私もいつまでも高校生じゃないんだから」
「そりゃそうだけど飯の時くらい仕事のことは忘れようぜ」

竜児のもっともな言い論に、う〜と少し大河は唸ったあと、「わかったわよ」と着替えに向かう。

「おーい大河ー?これ食べ物かー?何が入ってるんだー?冷蔵庫入れとくかー?」

大河は着の身着のまま部屋に戻った為、買ってきた袋をその場に起きっぱなしにしてきてしまっていた。

「なんだと思うー?」

戸を隔てた先で大河は特段気負いも無く、着替えながら謎かけのようにして返事をした。


「わからーん、開けてもいいのかー?」

綺麗好きで家事大好きの竜児のことだ。
その辺に置いておくことが許せず、食べ物ならきちんと冷蔵庫などに入れておきたいのだろう。

「別にいいけどーそれって私のー……」

ショーツだよ、という前に竜児の竜児らしくないドタバタという騒々しい音が聞こえた。

着替えを終え大河が居間に戻ると、竜児は正座して卓袱台に着き、大河が買ってきた袋は壁際、それも竜児から最も遠くなるような位置に置いてあった。

「あんた何してんの?」

大河は不思議そうにしながら袋を持ち上げる。

「い、いや何でも無い!!さぁさっさと飯を食っちまおうおぜ!!」
「?うん」

大河は不思議そうに頷きながら席について食事を始める。
袋にはテープで封がしてあった筈だが、その封が切れていた。
異変はその後、三日後に訪れる。



***

164 逢坂流高須大河の小作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/07(水) 20:09:58 ID:???
◆side竜児

大河が洗濯し、畳んで置いておいてくれた洗濯物。
大河もかなり家事が板につき、洗濯程度ではまごつかなかくなったので最近の竜児は安心、もとい油断していた。
部屋の入り口付近に置いてある洗濯物を竜児は自分のクローゼットに仕舞おうと洗濯物を手に取る。
白いシャツを仕舞い、トランクスを仕舞い、靴下を仕舞い、白いショーツを仕舞……、

「ん?」

竜児は目を擦り、何度も今自分が手に持っている物を凝視する。
柔らかいシルクの手触り。
それは男性用の物とは全く違う三角形を模していて。

「……こ、これは……っ!?」

それは洗われたとはいえまず間違いなく大河の……ショーツだった。
しかも見覚えがある。

「あの晩に買ってきてた奴じゃねぇか……!!」

竜児はあの日、どうせ食べ物か何かだろうと思いこんで袋を開けてしまい、そこに輝く真っ白の園を見てしまっていたのだ。

「や、やばい……いやこれは大河のミスなわけで俺に責任は……」

そう自分に言い聞かせながら手に持つ真っ白なショーツを見やると、喉がゴクリと鳴る。

これは大河が身につけた物であり、ある意味自分なんかよりも大河に近しいというか大河そのものというか……。
悩めば悩むほど混乱し、頭を抱え込み、頭にシルクがファサと乗ってしまい「ぎゃあ!!」と転げ回る。

「何やってんだよ俺……これじゃ変態だ」

今度は冷静にショーツを離してから頭を抱えるが、先程まで触っていた手が温もりを覚えているかのような錯覚を起こしまた自己嫌悪して部屋を転がり回る。

「お、落ち着け、いや落ち着こう、たかがパンツじゃないか」

たかがパンツ、されどパンツ。

「〜〜〜っ!!」

無茶で無謀で無理だった。
そもそも大河という嫁は無神経、無遠慮、無防備と無が三つ揃っている。
風呂上がりは胸元がはだけているし、裸足は色っぽいし、スカートは似合うしフリフリは似合うし何着せても似合うし!!
普段から一線を越えようとする内心を抑えるのに一体どれだけの労力を必要としているのかわかっているのだろうか。
男の安っぽいプライドだが、それでも欲情に身を任せてがっつくような真似はしたくないのだ。
だというのに……これだ。
竜児はその凶眼でもってギロリと純白の三角形を睨み、

「ねぇ竜児」
「うわぉう!?」

どうやったらそんな発音ができるのかというような奇声を上げてばっと背中にそれを隠す。

165 逢い坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/08(木) 23:47:54 ID:???
代理投稿ありがとうございます。続きいきます。


「ん?今何か隠さなかった?」
「べ、別に何も。それよりお前入ってくるならノックくらいしろといつも言ってるだろ」

急に部屋に入ってきた大河に、内心汗をだらだらと掻きながら竜児は平静を装った。

「ふぅん、まぁいいけど」
「いいやよくない」
「あーはいはいノックねノック。なんならやり直す?」
「いや、別にそこまでしなくてもいいが……」
「でしょ?細かいこと気にしすぎなのよ竜児は。で例のドラマ始まっちゃうわよ?一緒に見るんじゃなかったの?」

気付けば時間は結構経っていて、確かにもうすぐ二人で楽しみにしていた連続ドラマの放送時間だ。

「おぅ、すぐ行くよ」
「ん、お茶淹れとく」

大河はすぐに踵を返し居間へと向かい、再び竜児が一人になる。
咄嗟に背中に隠した白いショーツ。
皺が着いてしまったそれは竜児の掌でくしゃくしゃに丸まっている。
竜児はしばし逡巡し、自分のベッドの枕、その下にショーツを隠すと居間へと向かった。



***



時刻は既に夜中の二時。
真っ暗な部屋の中、アイロンを動かす黒い影が一つ。

「よし」

影……竜児はそう言うとうっすらとした布を手に取った。
それは先程のショーツ、ではなくただのあて布だ。

「シルクをアイロンかけるにはあて布をしねぇとな」

あて布の下には、例の純白ショーツ。
皺一つ無い真っ白なショーツに満足した竜児は早速行動を開始した。
スラリと静かに襖を開け、ゆっくりとばれぬように大河の部屋の前へ。
一度深呼吸すると、スーッと自身の部屋の襖を開ける時よりも慎重に襖を開ける。
すっと鼻に大河の香りが入ってきて、思わずドキリとしながら大河が寝ているであろうベッドに視線をやると、案の定大河はベッドで丸くなっている。
使っているベッドはかつてと違い天蓋付ではなく、竜児とお揃いで新たに買いそろえたものだ。
以前のアパートで使っていた物もまだ使えたが、それを居間のアパートに持って行く時の運送費を考えると新しく買った方が安上がりと言うことで、この際お揃いにした。
竜児は素早く周りを見渡し、クローゼットに近づいていく。
あとはこれを仕舞えば終わりである、そう思った時、その辺に散らばる……否、今日回収していった洗濯物群がクローゼットの前に仕舞わずに畳んだまま置かれている事に気付いた。
悩み所である。
これが明日使う、もしくは仕舞うと決めているものならここに一緒に置かなければならない。
しかしそうでないなら引き出しを開き、パンツの園を拝む必要がある。
……急に罪悪感が湧き出てきた。
いくら夫婦間と言えど相手の下着の引き出しを開けていいものか。
特に男から女のというのは……。

「う〜む」

散々竜児は悩み、決断した。



***

166 逢坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/08(木) 23:49:36 ID:???
◆side大河

「……ふわぁ」

目が覚め、今日も一日が始まるんだと体を起こす。
竜児に起こしてもらうのは悪いからと自分から起きる努力をしてはいるが、週に一回くらいは起こして貰っているのが現状だ。
まぁ、起こして貰いたいという欲求もあるので、このくらいがベスト、とは思っている。
身を起こし、ぼやけた視界で昨日クローゼットの傍に置いておいた今日の着替えをみやる。

「……あれ?」

ぱっと目が覚めた。
何故か一番上にショーツがある。
これは昨日仕舞わなかっただろうか……いや、そう言えば仕舞っていない。

「仕舞い忘れかな、でもなんでこれが一番上に?」

手に持ってみて……違和感。

「何か、買い立てっていうか……アイロン、かしらこれ」

随分とピンッと綺麗になっている。
経験上、一度使用して洗濯したあとだと、少しは皺、というか使用感というものが残るものなのだが。

「えっと、もしかして竜児?」

考えられる可能性はそれぐらいしかない。
あの万年家事大好き夫のことだ、彼ならばショーツ一つにここまでぴっしりとしたアイロンがけをするに違いない。
普通はあんまりショーツってアイロンかけないけど。
まぁそれはおいておいて、問題は理由だ。

「なんで竜児が私のショーツ持ってたのかしら?」

そこでハッと昨晩のことを思い出す。
昨晩、竜児は何か背中に隠すような素振りを見せていた。
まさか……。

「夜な夜な私に見つからぬように私の下着をオカズにしてたってコト?」

わからないが、現状考えられる可能性が大河にはそれしか思い当たらない。
もしそうならば心境複雑である。
下着をオカズにしていたのならば自分にもそういった魅力がある、ということになる。
まぁ、竜児が自分よりも下着に興奮する、などと言い出す変態で無ければだが。

「それは無い……わよね?」

イマイチ夫の性癖に自信が持てないが、そこはまぁ竜児を信じるコトにした。
さて、そうなると竜児は我慢していることになる。

「こ、これは妻として、甲斐甲斐しく、いやいや慎ましく?ああもう何て言えば良いのよっ!?とにかく竜児のその気に気付いてあげなきゃダメってことよね、うん」

混乱気味な大河だが、やることはきちんと定まっていた。
そう思うとこれから竜児に会うのがとても勇気のいることのような気がした。



***

167 逢坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/08(木) 23:51:13 ID:???
「お、おはよぉ」
「おぅ」

いつもと変わらぬ声で竜児は挨拶をし、いつもと変わらぬ様で朝食の用意をしている。
それでも今朝は結婚した次の日の朝くらいに緊張しながら大河は挨拶をした。

「きょ、今日もい、良い天気ね!!」
「はぁ?」

竜児は窓の外から空を見上げる。
かつてのアパートと違うことはお隣に日を遮る大きなマンションが無いことだ。
そこから見える空はどんより曇り空だった。

「今日は曇りだぞ?大丈夫か大河?」

あまりに普通で普通な反応。
大河は肩透かしを喰らった気分だった。

「さっき天気予報でも降水確率80%だったし傘忘れんなよ?」

ぱっぱっと手の水を切ると竜児はECOエプロンを外して玄関へと向かう。

「悪い、今朝も早いんだ。飯は用意しといたから、それじゃ行ってくる」
「あ、うん。いってらっしゃい」

バタン、と玄関の扉が閉じてポツーンと一人取り残される。
いつものことではあるが、今日は力みすぎていただけに一気に脱力した。
ペタン、とその場に座り込み、ボーッと竜児が出て行った玄関を見つめる。

「普通、だったわね……」

さっきまでの自分の緊張を返せと言いたくなるほど竜児は普通でいつも通りに感じた。
こうまで普通だと、自分の考えがただの勘違いや思いこみの類では無いかと考え直す。
竜児のことだからたまたま落ちていたショーツを見つけて親切にもアイロンがけをしておいたとか。
そんな親切は大きなお世話でもあるんだが。

「まぁ、昔はやっちゃんもいたんだし今更下着くらいでどうこうってのは無い、かも」

パタリ、と横に倒れ、グゥとお腹が鳴る。
こんな時でもお腹が空く自分に少々呆れながらよいしょと起きあがり、竜児が用意してくれた食事に手をつけ……、

「……ん?」

違和感に気付いた。

「薄い……」

味が若干薄いのだ。
こんなことは過去、高校時代に竜児が病気に気付かず無理していた時以来だと記憶している。
あの時ほど酷くは無いが、どうにも今一歩味が足りていない。

「……?体調でも悪いのかしら?」

今日、帰ってきてみたら注意深く竜児を観察してみようと大河は決めた。



***

168 逢坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/08(木) 23:52:48 ID:???
「な、何だ?俺の顔に何かついてるか?」

晩、お互い帰ってきてから向かい合って食事している最中、大河は竜児の顔を注意深く見つめていた。
竜児は酷く熱心に見つめられる視線に羞恥と焦りの色が濃く現れていた。
大河は身を乗り出し、念のために竜児の額に額をコツンとぶつけてみる。

「お、おい!?危ないだろ!?」

卓袱台の上にはまだ食事が乗っており、その上に浮くようにしている大河はとても不安定で“危険”だった。

「今朝ね、あんたの作ったおみそ汁が少し薄かったのよ、それでアンタ体調壊してるんじゃないかと思って。ほら、高校の時にもあったじゃない」
「だったら口で言え口で!!お前は口よりも先に行動が多いぞ!!」
「はいはい、熱は無いみたいだからもういいわよ」

大河はぱっと指定位置に戻り、箸を持つと、竜児が真っ赤になっているのがわかった。

「?アンタやっぱ熱あるんじゃ?」
「いや無い!!全く無い!!っていうかお前それ俺のシャツ!!」
「あ?ああ、コレ?そういやお風呂上がりに着替え忘れたから借りてそのままだった」

大河は下はハーフパンツ、上は竜児のシャツだった。

「いいじゃない別に、減るもんじゃないし」
「お、お前という奴は……いや、いい。わかったから後でちゃんと着替えろよ」
「はいはい」

大河は竜児の言葉を話半分に聞き流して食事を続けた。



***



◆side竜児

カポーン。
湯気漂うお風呂場の中、文字通り竜児は風呂に入っていた。
バシャバシャと湯を顔にかけてしつこいぐらいに洗う。

「あの馬鹿……!!」

竜児の顔は依然真っ赤だった。
だが決してのぼせたわけでも風邪をこじらせているわけでも無い。
竜児は額に手の甲を当てて天井を見つめる。
先程この額には嫁の額が重なっていた。

「っ!!」

思い出してまた顔をバシャバシャする。
あの体勢は大河にとって不安定で危険であり、竜児にとっても不安定で“危険”だったのだ。

169 ◇fDszcniTtk :2010/04/09(金) 22:29:07 ID:6Q0IsbCw
.TY氏、ナイスです。楽しみにしています。




しばらく消息を絶ちます。

ってのは、ガンガン作品を発表していた時には少しはおかしみもあったろうね。
いまはだめだ。だめだけど、ちょっと現実世界から離れてくるよ。







「ジョジョーッ!!おれはスピンオフ三巻を読むぞォ!」

170 逢坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/09(金) 23:39:07 ID:???
避難所>>169
お久しぶりです。ありがとうございます。
氏の帰還を切に待っておりますw

代理ありがとうございます。ラスト一気にいきます。



額に額を重ねられた竜児は必然と視界が限られるハメになった。
まず大河の顔。
シャープな顎を持つ彼女の顔を間近で見ていると、あまりの美しさに恥ずかしくなり、自然と視線をズラしてしまう。
上を見れば視線が合う。
であれば視線は下降せざるを得なく、必然的及び必要的に竜児は視線を若干落とした。
滑らかな白い首、そして肩。
これが失敗だと誰が思おう。
彼女が着ていたのはなんと自分のシャツ。
気付いていなかったわけでは無いが、それくらいでどうこう言う間柄では無い。
問題は彼女の体勢だった。卓袱台から身を乗り出し額を重ねている以上、竜児の視線が下降すればそれはもはや一点に収束される。
普段ならそこまで気にしないが、今回は彼女が竜児のシャツを着ているのがまずかった。
ぶかぶか。
この一言で彼の体験した桃源郷は誰しもが理解出来よう。
そう、大河には竜児のシャツは大きすぎたのだ。
サイズ的にも肩幅的にも。
必然、彼女の着ているシャツはニュートンが発見した万有引力の法則によって下へと引き寄せられ、ぶかぶかの余っている部分に空白が生まれる。
……幸い、彼女は小さいながらもBRASSIEREをしていた為、竜児は防波堤決壊寸前で踏みとどまれたわけだが、問題はそんなコトではない。

「無防備すぎなんだよ……!!」

竜児にとってそれは問題だった。
自分の我慢が利かなくなる、というのもあるが何よりも。

「もし、人前でそんな格好してたら……」

いくら大河と言えど分別はあると理解しているが、生来からの彼女のドジさ加減を竜児は痛感している。
今のようなヴェストアングルを誰か他の男にも見せやいないかと冷や冷や……ヤキモキする。
そう思って、意外と自分は大河に依存……独占欲が強いんだなぁと意外な自分の一面に軽く驚く。
取り越し苦労だとわかっていても、心配になってしまうあたり、それだけ大河は特別な存在なのだ。

「ふぅ……」

考えても仕方が無いことだと思い、竜児は浴槽から出ると脱衣所に向かいバスタオルで体を拭く。
さぁ着替えようとして、

「……あれ?」

自身の用意していたシャツが無い事に気付いた。

「あ!!」

そこで思い出す。
そう、大河は竜児のシャツを着ていたのだ。
食事の前に入ろうと準備したシャツだったが、急に大河が自分から入ると言いだし、大河が入った後すぐに食事にしていしまっていた。
その為、竜児は食事を終えた後に入浴となり、大河のヴェストアングルのせいであまり冷静では無かった為に着替えのシャツを新たに持ってくるのを忘れていたのだ。
オマケに代わりとばかりに洗濯籠の傍には大河のシャツが落ちている。

「あいつ……よく探せよ、あるじゃねぇか……!!」

大河はシャツを忘れたわけでは無かった。
ただ落としたコトに気付かず、忘れた物だと思いこんでたまたま目に付いた竜児のシャツを「とりあえずこれでいいや」と代用したのだ。

171 逢坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/09(金) 23:40:21 ID:???
ここで困ったコトになる。
まさか自分も仕返しとばかりに大河のシャツを着るわけにもいかない。
サイズが違い過ぎる為だ。
いや、決してサイズが合えば着ていたとかそういうことは無い、多分。
かといって風呂上がりにシャツも着ないで出たら大河に何を言われるかわからない。
正直に忘れたと言ってしまえばそれで済むかもしれないが、食事の時、くどくどと忘れたコトへの説教をかましてしまった手前、言い出しずらい。
そんなコトを思っていると、

『竜児ー、私ちょっとアイス買ってくるからー』

大河がそう言って玄関から出て行く音が聞こえてきた。
助かったとばかりに脱衣所を飛び出し、竜児は自分の部屋でシャツを着る。
大河はすぐに帰って来ていて、今晩もいつも見ているバラエティーの番組を一緒に見ながら更けていった。



***



「……しまった」

気付いたのは夜遅く。
お互い見る番組も終わり眠くなって部屋に戻った後の事。
竜児は自分の部屋にある一枚の小さめのシャツに頭を悩ませていた。
それはつい、脱衣所から持ってきてしまっていた大河のシャツだった。
……どうしたものか。
悩み所である。
ショーツで無い分、いくらか普通に返し安いものではあるが、相手は大河である。
近年言われなくなったが、『エロ犬』呼ばわりされたら目も当てられない。
自分は大河が好きであって、その、欲求に身を任せたいわけではないという竜児の紳士としての安っぽいプライドが大河にだけは『エロ』呼ばわりされたくないと訴えていた。
とすれば方法は限られてくる。

「もう1回同じように返すか……」

昨日は上手くいったのだから今日も大丈夫だろう。
そんな何処にも根拠の無い自信が竜児を突き動かし、部屋に置いてあるアイロンへと手を伸ばした。



***

172 逢坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/09(金) 23:41:26 ID:???
◆side大河

「また……?」

今朝目覚めて大河が着替えようとすると、今度はシャツが綺麗にアイロンがけしておいてあるではないか。
意味がわからない。
何故竜児は自分の下着を持っているのか。
何故夜な夜なアイロンがけまでしてから返すのか。
まさか本当に下着に興奮する危ない人なのか。
竜児に限ってそれは無いと思うが、こうも綺麗にされた下着を見ると疑いが完全に晴れない。
“使用”した故に誤魔化しとして綺麗にした。
そんな裏の裏の裏、結局裏を読んでしまう。

「……ちょっと調べてみようかしら」

この日から大河は実験を開始することにした。



***



◆side竜児

「またか……?」

大河より渡された乾いた洗濯物の中に、またもや大河のショーツが混ざっていた。
今回は特に皺を作ってもいないので、夜、ドギマギしながら掴んだショーツをコッソリとそのまま返すことにした。
次の日、

「おいおい」

またもや洗濯物の中には大河のショーツが入っている。
最近は高校時代に比べてドジは減ったと思っていたが勘違いだったのだろうか。
今回も特に皺を作ってもいないので、夜、ドギマギしながら掴んだショーツをコッソリとそのまま返すことにした。
次の日、

「嫌がらせか?わざとか?わざとなのか?」

またもや洗濯物の中には大河のショーツが入っている。
それも二枚。
一枚はちゃんと洗っているようだが、もう一枚は……、

「これ、まだ洗ってねぇんじゃねぇか……?」

そこらへんのにわか主婦ならばわからない衣類の洗濯の有無も、長年続けてきた家事スキルを持つ高須竜児の凶眼は誤魔化せない。
だがそこに気付いてから急に緊張。
自分が今手に持っているのは使用済未洗濯の大河のショーツ。
決して自分は変態では無いが、無性にドキドキしてしまうのも事実。

「や、だめだ。何考えてんだ俺は。せ、洗濯しなきゃ」

はじっこをツマむようにして竜児はショーツを掴み、竜児は部屋を出た。



***

173 逢坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/09(金) 23:42:55 ID:???
◆side大河

初日はそのまま返ってきた。
二日目もそのまま返ってきた。
これはあからさまだったかと思い、少し勇気を出して決心し、今度は脱ぎたてのショーツを混ぜてみた。
夜、ここ最近こっそり竜児の動向をチェックしている大河は、今日も襖の隙間から竜児の部屋の襖を見つめている。
流石に中は覗いていない。
もし覗いてショーツに興奮している夫を見たらきっと立ち直れないからだ。
だが、ここで張ってればいずれは現行犯逮捕できるはずだと大河は張り込みを続ける。
警察でも探偵でも無い彼女だが、気分はシャーロック・●ームズだった。
もし今晩もそのまま返ってくれば彼は真人間。
同時に自分にそういった興味を持っていないことが照明されるが、変態趣味を知るよりは幾分良い。
いつでもベッドに戻って寝たふりが出来るよう、短距離走のスターティングのように腰を落として状況を見守る。
と、今夜も竜児が部屋から出て行き……洗濯機の方へと向かう。

「?」

不思議に思いつつもばれぬよう忍び足で後を付けると、洗濯機の前にで腕を組み悩む竜児の姿があった。
洗濯機の蓋は開けられておらず、蓋の上には大河のショーツ。

(洗う気……?もしかしてもう使用済みとか?それは無いか、静かだったし)

大河とて伊達に長く竜児と一緒にいるわけではない。
それぐらいの機微は読み取れた。
とすると……、

(未洗濯なのに気付いて洗濯しようと思ったけど、一つだけ洗うのは水道代やら電気代やらがMOTTAINAIと)

大河は正確に竜児の脳内をトレースし、やれやれここまでかと出て行こうとして、

ガッ!!

突然竜児がショーツを鷲づかみにするのを見た。

(!?)

大河が驚いてそのまま見ていると、竜児はお風呂場へと向かう。
竜児は風呂場にある洗面器にお湯を張ると、そのショーツを手洗いしだした。
眼はギラリと釣り上がり、口元は横に裂けるようにうっすらと開いて、見る人が見れば変態以外の何者でも無い。
大河は頭を抱えた。まさか手洗いするとは。
しかもそれはそれは楽しそう?に。
オカズにされるよりかはマシだが、トコトン自分は女の魅力が薄いんだと実感する。

「はぁ……」

つい、口に出してしまった溜息。

「!?」

それが竜児をビクッとさせ、大河の存在に気付かせた。



***

174 逢坂流高須大河の子作り計画 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/09(金) 23:44:33 ID:???
「た、大河?こ、これは……」

竜児は慌てていた。
何せ嫁とはいえショーツを手洗いしていたのだ。
言い逃れをするにも分が悪い。

「良い、何も言わなくてもわかってるから」

大河は諦めたかのようにその場から背を向け、

「お、おいちょっと待て!!」

竜児は何か勘違いされていると思い、必死に大河の腕を掴む。

「アンタは私よりも洗濯に興奮する、大丈夫、ちゃんとわかってる」
「い、いや全然わかってねぇよそれ!!」

大河の言葉になんだそりゃと竜児は言い返すが、

「じゃあアンタは私のショーツに……その……ム、ム、ムラムラ来てたの?」

言葉に詰まる。
ここでそれを認めてしまえば今までの苦労は水の泡。
何のために自制心を抑えてきたのかわかりゃしない。
かといって、自分が大河よりも家事を優先しているように言われるのも納得は出来ない。

「ほぅら、やっぱりそうじゃない。アンタは私より家事に魅力を感じるのよ」
「あ、いや違う、俺は……」

違う、と言いつつも決定的に反論も肯定も出来ない。
安っぽくても、譲れない思いが、それを許さない。

「お、俺はただ、大河を大事にしたくて……そういうのは抑えなきゃって思ってて、だからお前に魅力がないとかそういうのは……」
「……抑えなきゃ?」
「あ、いやそれは……」
「……今抑えなきゃって言った?」
「あ、だからその……」

痛い所を突っ込まれ、本心を見透かされそうになるが、それでも竜児は今一歩言葉にすることは出来ない。
そんな竜児に、

「……シたいの?」
「っ!?」

大河は艶めかしい声で振り向きながら尋ね、笑った。

「エロ犬」

笑われて、久しぶりにそう罵られて、けどさっきまでの嫌な空気は無くて。
一番言われたく無かった筈の言葉なのに、今はそう軽く言われたことが、竜児の心を軽くした。


この三ヶ月後、大河が懐妊している事に気付くのは、偶然……いや、きっと、



──────そういうふうに、なっている──────

175 ◆Eby4Hm2ero :2010/04/14(水) 02:25:18 ID:???
※三題噺で、一つのお題から二つ思いついちゃったんで片方を先行投下。

※なんで今、避難所でなのかというと、スピンオフ3の不幸のバッドエンド大全に触発されたシロモノだから。

※鬱展開注意。

176 とらドラ!で三題噺・番外 ◆Eby4Hm2ero :2010/04/14(水) 02:28:12 ID:???
お題 「実乃梨」「そっち」「マイク」
     〜不幸のバッドエンド偏〜



 ニュースはスポーツコーナーに移り、画面の中でマイクを握るのは昔よりはるかに垢抜けた、しかしよく見知った顔。
 彼女が――櫛枝実乃梨が――太陽のような笑顔を取り戻したのはいつ頃なのだろうかと、ふと思う。
 高二の終盤には一度も笑う事は無かった。クラスが変わってからは顔を見る機会そのもの少なくなった。そして、卒業してからは会う事も無くなった。
 テレビの電源を消し、竜児は一枚のメモを手に立ち上がる。
「あ、兄貴、お出かけですかい?」
「おう、ちょっと野暮用だ」
「それじゃ、すぐに車を」
「いや、今日はいい。ちょいと一人で歩きたい気分なんでな」
「ですけど、気をつけないと鳳のところの若い連中がなんか騒いでたって話が……」
「鳳か……連中は確かに馬鹿だけど、流石に今事を起こしたらどうなるかぐらいはわかるだろうさ」
「はあ……」
「遅くなるかもしれねえから、何かあったらそっちで上手く処理しとけよ」


 実乃梨と亜美が教師に連れていかれた後、竜児は雪の中に小さな輝きを見つけた。
 ケンカの最中に外れ、踏みつけられたのだろう。無惨に折れ曲がってガラスビーズもいくつか取れてしまったヘアピンは、もうどうやっても直すことが出来ない事が明らかだった。
 そんな最悪の修学旅行から帰ってきて暫らく後……学校への届けだけを残して大河が姿を消した。
 捜そうにも手掛かりも心当たりも無く、悶々としていた時にやってきた一人の男。
『隣のマンションに住んでた娘の行き先を知らないか?』
 そう尋ねた男に必死で食い下がり、竜児は初めて逢坂陸郎が莫大な負債を抱えて逃亡したこと、大河もまた関係者として追われている事を知った。
 そして、その瞬間竜児は大河を捜すために裏の世界に足を踏み入れることを決意した。
 男――水地という名前だった――の勧めで時折『仕事』を手伝いつつ大学は経済学部へ進み、卒業後すぐに杯を交わし、思い知ったのは父親から受け継いだのが目つきだけではなかった事。
 その世界でメキメキと頭角を表わした竜児は今や27歳の若さでいっぱしの経済ヤクザ、若頭と呼ばれる身分である。
 だが、母親と共にアメリカに渡った後の大河の足跡だけは、どうしても掴むことが出来なかった。
 つい先日までは。

177 とらドラ!で三題噺・番外 ◆Eby4Hm2ero :2010/04/14(水) 02:28:46 ID:???
 メモに示されたその店、『吉祥天国』は予想以上に小さなスナックだった。
 準備中の札を無視して扉を開けると、カラカラと鳴るベルの音と同時に飛んできたのは懐かしい罵声。
「ちょっとあんた!表の札見えなかったわけ?そのサングラスの下に開いてるのは節穴?まだ準備中よ準備中!」
 流石に多少雰囲気は変わりつつも、その美貌は衰えず。
 思わず笑みを浮かべながら、竜児は構わずにカウンターに座る。
「おう、すまねえ、どうにも腹が減っちまってな。チャーハンでも作ってもらえねえか?」
「はぁ?あんた目玉だけじゃなく脳味噌まで腐ってるわけ?ウチは定食屋じゃなくて……」
 そこまで一気に言い募った大河の言葉が止まり、その目が驚愕に見開かれる。竜児はくっくっと笑いながらサングラスを外して。
「よう……久しぶり」

 臨時休業になった『吉祥天国』で、二人は並んでグラスを傾ける。
「へえ……やっちゃんまだ働いてるんだ」
「もう必要も無いから止めろって言ってるんだけどな」
「何よ、あんたそんなに稼いでるわけ?」
「おう、まあな。大河が住んでたあの部屋が今や俺の家だって言えば、多少は予想が付くか?」
「へえ……そうだね、もう十年だものね……そりゃ色々変わるか」
「なあ、大河」
「ん?」
「……帰ってこねえか?泰子も喜ぶし、今の俺ならお前を守ってやれる。大河が望むならこの店を続けてもいいし」
「……駄目だよ」
「あのクソ親父ならとっくに捕まって、借金は自分の体で清算済ませてる。もう逃げ隠れする必要はねえんだ」
「そうじゃなくて……私は結局ママとも折り合い悪くてさ、二十歳前に家飛び出して……ここにくるまでに随分汚れちゃったもの」
「汚れたっていうなら俺の方がよっぽど上だ。なにせヤクザだぞ、ヤクザ」
「私は竜児を捨てたんだよ?それを今更……」
「俺はそんなこと気にしねえ。昔の色々を無かったことにして一からやり直すってのは、確かに無理かもしれねえさ。だけど、それも全部ひっくるめて改めて始めることなら出来るんじゃねえか?」
「……少し、考えさせて」
「おう、わかった。それじゃとりあえず帰るけど……そうだ、今日の勘定はツケといてもらえるか?」
「何よ竜児、あんた稼いでるんじゃなかったの?」
「おう、この店のボトル買い占めるぐらいは出来るけどな。金で大河に負い目つくらせてOK貰うってのは嫌だし、何よりまたここに来る理由ができるじゃねえか」
「まったくあんたは……変わったんだか変わってないんだか」

 別れ際の大河の苦笑を思い出しつつ、竜児はほろ酔い気分で夜の街を歩く。
「俺は諦めねえぞ、大河。毎日でも通って、必ずうんと言わせてみせるからな」
 と、その時突然背後からの衝撃。同時に脇腹に生じる灼熱感。
「え?」
 ぐらりと倒れながら目に映ったのは、赤く染まった刃を手にした若い男。
(こいつは確か、鳳の所の……)
 猛烈な痛みに手をやれば、ぬるりとした感触が流れ出していて。
(そうか……刺されたのか……)
 体が冷えていくのがわかる。同時に視界が昏くなっていく。
「大河……すまねえ……」
 それが、高須竜児の最期の言葉となった。
                              〜END〜

     ***

「いってぇ……」
 頬には机の冷たい感触。腰には鈍い痛み。
「おい大河、何するんだよ!」
「あんたが居眠りしたままうなされるなんて器用な真似してるから起こしてあげたんじゃない」
「だからっていきなり蹴るか普通?」
「仕方ないでしょ、両手が塞がってるんだから」
 その言葉の通り、大河は両腕に洗濯物を抱えていて。
「ああくそ、なんかすっげー嫌な夢を見てた気がする……」
「休みだからって昼間からぐーすか寝てたりするからバチがあたったのよ」
「あのなあ……何で俺が居眠りなんぞしてたと思ってやがる」
「あら、言い訳とは見苦しいわね」
「一昨日まで仕事で徹夜続きだった俺を、久しぶりだからって朝まで寝かせなかったのはどこの誰だよ!?」
「そっ、それは……いいじゃない、あんたも楽しんだんだし」
「それは否定しねえがな、最後の方はありゃ命の危険を感じると肉体が勝手に反応するってやつだったぞ、絶対」
「あ、思い出したらなんかまた……ねえ、竜児」
「待て!せめて夜まで待て!」
 騒ぐ竜虎の傍ら、机の上には一通の手紙。
 二枚の招待状が同封されたそれは、富家家・狩野家の結婚式の報せだった。

178 ◆QHsKY7H.TY :2010/04/14(水) 22:47:10 ID:???
皆さんたくさんの感想ありがとうございます。

その後(大人)を書くのは何気に初めて(のはず)だったのですが、気に入って頂けて良かったです。

◆fDszcniTtk氏お待ちしておりました!

三題噺の方のヤクザ竜児、大河の為ならヤクザになるのも有りと思った俺は末期。

179 高須家の名無しさん :2010/04/16(金) 01:28:34 ID:VT/0dTwI
>>三題噺さん
こういう湿っぽい場末の雰囲気の竜虎もよいですな。
個人的には夢オチじゃなくてもよかったかなwなんてねwGJでした!

180 高須家の名無しさん :2010/04/18(日) 16:36:15 ID:???
三題噺の方のはまとめが方がスゴイ。BIGLOBEは規制解除されてないんでこちらに投下


「エイプリルフールネタ」作者です。代理投稿ありがとうございました。

話題が約1年前の三鷹市ポスターネタとギシアンネタです、駄文ですがよければどうぞ

「ねえ竜児、なぜかわからないけど三鷹市のポスターに私が描かれてるんだけど…」
「おう、本当か?それ?」
「本当よ、ほら竜児。」
「おう、これは…、原作で俺たちを描いてくれたヤス先生の絵だな。なんでも市の方が[三鷹市は猫バス、魔女、
俺たちと同じ電撃文庫から出版されてる『とある魔術の禁書目録』の舞台になっている
多摩地区での狸と人間の争いやら…etcを描いた、アニメ制作会社『スタジオジブリ』の所在地だから
『三鷹市はアニメの街』ということをアピールするために自治体のポスターにアニメキャラを使おう。]と、いうことらしい。」
「しかし遺憾だわ…」
「ん?大河なんでだ?前の写真部の写真みたいに悪口は書かれてないだろう…」
「そりゃそうだけど違うの…、ほらここ!」
「ん?何々…『あなたの家の安心を守る完了検査を受けましょう』ね」
「私理系じゃないのに何で住宅の検査なのよ、遺憾よ遺憾。」
「まあ、大河は可愛いし、ポスターに描かれるのはいいんじゃないのか?」
「ま、ままま、まあそうねそれに私も検査できるものがあるし」
「それってなんだ?大河?」
「竜児の健・康・具・合…」
 ジー
「ちょっと大河?なぜおまえはファスナーを開ける?」
「当然よ、検査するんだから…」
「ちょ、まっ」
「ほらやっぱり硬くなってる…」
「た、大河〜〜〜〜」
ギシギシアンアンギシギシアンアンギシギシアンアン
「よかったね竜児は今日も健康だよ」
「あのなあ…」

終了〜www

181 高須家の名無しさん :2010/04/21(水) 00:23:49 ID:???
勝手な想像でスミマセン 三題噺「垂らし」「見てやって」「座らない」の続編(3次創作)
「KKコンビの逆襲」

櫛枝 「ひょっとして2人が夜中に我慢できずにギシアン→当然大河は汗をかいて熱が下がる、
    でもって高須君は汗をかいて体温が下がる→風邪をひいたってところじゃないの?大河?」

大河 「ち、ち、ちちち、ちがうってみのりん!!」

川嶋 「あ〜ら、そういう割に顔が真っ赤かだけど、チ・ビ・ト・ラ」

大河 「ななな、な!ばかち〜いたの?」

櫛枝 「おっはよ〜、あ〜みん。」

川嶋 「おはよう実乃梨ちゃん、ヒソヒソ(ねえ?あの反応って一体?てか実乃梨ちゃん大河を
    高須君が世話するまで見てたからわかるでしょ?」

櫛枝 「ヒソヒソ(おうよ、あ〜みん。あれはあ〜みんの言うとおり照れ隠しだぜ〜、
    ところであ〜みん、ごにょごにょ)」

川嶋 「(いいね、それ。乗ったわ。)」

大河 「みのりんとばかち〜何ヒソヒソ話してたの?」

川嶋、櫛枝 「別に〜、なんでもないよ〜。」

大河 「??」

182 高須家の名無しさん :2010/04/21(水) 00:24:45 ID:???
放課後の高須家にて

大河 「竜児〜大丈夫?」

竜児 「おう、大丈夫だ。だいぶ熱も下がったしな。」

ピンポ〜ン

竜児 「すまないが大河、出てくれるか?」

大河 「うんわかった。この優しいご主人様に感謝しなさい。」

竜児 「確かに去年と逆だな…、とりあえず待たせると悪いから開けてやってくれ。
    (宅配便か?それとも郵便か?)」

大河 「はいは〜い、ってみのりんとばかち〜!!」

櫛枝 「おじゃましま〜す、いや〜朝の質問だけど大河が
    答えてくれなかったから高須君に聞こうと思って。」

川嶋 「そういうこと〜、じゃ上がるね高須君。」

大河 「え?え?ええ〜?」

櫛枝 「じゃ、さっそく尋問タ〜イム。高須君は昨日大河とあ〜んなことやこ〜んなことをしたのかね?」

川嶋 「たとえば〜『タイガ〜のない胸に興奮しちゃったり』とか『不毛地帯を見たとか』あ、ちなみにドラマじゃない方ね。」

竜児 「なな、なななにを…」

櫛枝 「あれれ〜?高須君顔真っ赤だぜ〜超真っ赤だぜ〜!!」

川嶋 「もっと例えて言うなら〜『タイガ〜のあわびを食べた』とかさ〜、ね?高・須・君。」

竜児 「あうあう…」バタッ

大河 「竜〜児〜」

櫛枝、川嶋 「じゃあおいらたち(わたしたち)は帰るから〜、どうぞごゆっくり〜」

大河 「え〜〜、ちょっと!昨晩竜児とは何もしてないからね。」

櫛枝 「大丈夫、高須君の反応で実はしちゃったってことはわかってるから〜」

大河 「な!な!」ボン

その後竜は1日ほど風邪と熱の回復が遅れたとか。一方…

川嶋「さすが実乃梨ちゃん。」

櫛枝「おうよ、あ〜みん。」

川嶋「ま、タイガ〜には悪いけど私のことを見なかった逆襲としては成功ね。」

櫛枝「そうだね〜」
と帰路を共に歩む学生がいたとかいなかったとか。

おしまい

183 高須家の名無しさん :2010/04/22(木) 21:09:36 ID:???
ちなみに181、182を書いたのは三題話の方とは別人です。

184 ms07b3 :2010/04/25(日) 01:03:30 ID:09K.B1dQ
「 幸せのかたち 」

施主への引き渡しを明日に控え、竜児は引き渡し前の最終的なチェックをしていた。
専門業者による引き渡し清掃は終わったが、シンクを舐められるほど拭き上げてこそ、真の完成と考える竜児にとっては、この程度の清掃では我慢出来なかった。夕方から既に3時間、手には高須棒、腰には雑巾を装着して、死体安置所に置かれたの死者の屍肉を漁る悪鬼の様な表情で、厨房の隅々まで、一片の汚れもないよう確認していた。
「竜児君、いい加減になさい。」
厨房に響く凛とした声に振り返ると、竜児の師匠であり、大切な妻の実母である、女性が立っていた。
「あなた、昨日から全然眠ってないでしょう? 明日の引き渡しは13時。すぐに帰って身体を休めなさい。」
苛立ちが含まれた声には、地獄の獄卒さえも従うであろう響きがあった。
「先生、ですが後もう少しだけ・・・・。」
「黙れ。早くしろ。」
「はい。」
竜児はおとなしく従い、厨房の照明を落として店を出た。

1年前から進めてきたレストランの設計・施工は明日の引き渡しを持って完了する。
発注者である有名シェフも、実際に腕を振るう厨房スタッフも、先日下見に来て、料理人の導線や調味料置き場、冷蔵庫の使いやすさ等を褒めていた。
実際に使う立場の人達に賞賛されるのは、建築雑誌のデザイン賞を貰うより嬉しい。竜児には一仕事やり終えた充実感があった。

水平対向エンジンの独特の響き、身体を固定するシート。先生の車に乗る時は、未だに緊張してしまう。大河をつれて逃げた2月の寒空。まさか、あの時、自分から大河を奪おうとした人の設計事務所のスタッフとして、働くことになるとは思いもしなかった。
あれから12年か・・・。ふと時の流れを感じてしまう。

「竜児君。あの話の結論はでたかしら?」
寝不足の頭に問いかける声。
「いえ、まだ迷っています。」
「そう。確かに、この業界で30歳と言ったら、ひよっこだけど、大学の頃から手伝ってくれている事を考えると、キャリアとしては充分だと思うの。人気の料理研究家の台所。カリスマと呼ばれるフランス人シェフの店の厨房。独立するには充分なキャリアだわ。」
「・・・・・。」
「うちの事務所には、どんどん貴方を指名した仕事も来ている。独立しても、仕事上のパートナーで有ることは変わりません。いい加減に覚悟を決めなさい。」
あなたも疲れている。明日の引き渡しが終わったら有給休暇を取りなさい。母虎は、そう言って命令を下した。

竜児が、大河の母親の建築設計事務所に入社したのは、大学を卒業した年だった。
元々、インテリア雑誌を買って、セレブな暮らしを想像して楽しむような男だ。大河が母親と暮らす家に遊びに行く度、リビングに置かれた建築設計の専門雑誌を借りて帰り、読んでいるうちに、建築士の仕事に進む決意を固めたのだ。
大学受験は、大河の母に勧められた美大系の建築学科で学んだ。奨学金と祖父からの援助はあったものの、課題制作や専門書などの購入に金がかかる。
困っていた竜児に手をさしのべたのが、大河の父だった。

185 ms07b3 :2010/04/25(日) 01:04:59 ID:???
設計事務所の経営と営業は大河の父親が、実際の設計と施工管理は母親が。事務所はそんな風に分業されていた。竜児に与えられた仕事は、依頼された仕事の模型を作る事。
手間は掛かるが、割のよいバイトだった。
 大学を卒業すると、大河の母に弟子入りする形で、建築設計事務所に入社する事になった。
 竜児の計画では、25歳までに2級建築士の資格を取得。30歳までに一級建築士を取得する事だった。
 大河と結婚したのは、25歳の春だった。大河は、大学卒業後、幼稚園の先生になった。
高校3年から弟の面倒を見てきた大河は、大学時代に弟を幼稚園に送り迎えしている間に、その幼稚園の園長先生と仲良くなった。園児達に慕われ、園児達を慈愛に満ちた眼差しで見つめる園長。その姿に理想の姿を見いだしたのだ。


 走り去るポルシェ。竜児はマンションの階段を上がる。部屋の灯りは既に消えている。大河は寝てしまったかも知れない。
 鍵をあけて家に入る。リビングにつづく廊下も、リビングの灯りも点いていない。大河はどこへ行ったんだ?
 「遅いんじゃ〜、この馬鹿犬!」
叫び声とともに振り下ろされる木刀は、竜児の鼻先を掠めて、床にぶち当たる。
 「こっ殺す気か〜!」
見ると、浴室の扉が開け放たれていて、手乗りタイガーと化した嫁が血走った眼で己を見つめていた。
 「大丈夫。殺さないわよ。ただ、2・3日動けないようにするだけじゃ〜。」
 「まて、それは明日の引き渡しが終わってからにしてくれー!」
 「問答無用!」
大河が落ち着くまで、竜児は30分、家の中を逃げ回った。
目が覚めたのは午前8時だった。昨日、大河に殴られたり蹴られたりしたところが痛むが、何とか引き渡しに出かけられる程度のダメージですんだ。
今日は平日。大河は既に出かけたらしい。
リビングのテーブルの上には、茶碗とお椀が伏せられ、目玉焼きとキャベツの油炒めが乗せられた皿が置いてあった。添えられたメモ書きを読む。

竜児へ。
トドメをさせなくて残念だったわ。今日は弟が来るから、すき焼きの予定。
早く帰って来い。駄犬。

 引き渡しの後には打ち上げがあるのだが、参加したら木刀の餌食になりそうだ。

 出かけるまで時間があるので、久しぶりにキッチンの掃除をする。大河の掃除の腕も上がってきているが、達人の域にはまだまだだ。充分に堪能する事が出来た。

 引き渡し物件には電車で向かう。車内はがらがらだ。昨日の夜の、先生との会話を思い出す。独立に踏み切れないのは、資金不足の懸念が拭えないからだ。

 一級建築士は取得済み。仕事の依頼も内容も充分。だが、独立するにもスタッフと事務所は必要だ。
 スタッフについては目処が付いている。同じ大学の後輩が手を挙げてくれている。だが事務所については、条件に合うような物件が無いのだ。
 自宅のアパートの家賃。必要な広さの貸事務所。独立の為の資金は潤沢ではないから、不動産に関連する経費は抑えたいのだ。
 大河の通勤の事を考えると、大橋市内からは、そう遠くに引っ越しも出来ない。悩みところだ。

186 ms07b3 :2010/04/25(日) 07:47:21 ID:???
「高っちゃん、元気〜。」振り返ると春田がいた。
学生の頃の長髪はバッサリ切り、少し長めのオールバックにバンダナが、今の春田のスタイルになっている。
「よお、お疲れ。」
「いや〜、参ったよ。さっき大河の母ちゃんに捕まっちゃてさ、南側の廊下の壁紙、注文 と違うとか言われちゃったんだよね〜。ちゃんと指定された色使ったんだよ。」
「ああ、あれは、最初の設計と違う照明器具を取り付けたからだろう、電気設備屋さんに LEDの色味を変えてみて貰え。」
「了解。あとでやってもらうよ。」
「おう。」
春田とは、高校以来ずっとつるんでいる。特に、竜児が施工管理する物件の内装は、春田の親父さんが経営する工務店が担当する場合が多い。親父さんも堅実な経営をする人だったが、今、経営を実質的に切り盛りしているのは、春田の奥さん。口元に黒子のある女性だった。まあ、この奥さんがいるからこそ、春田は仕事が出来ていると言えなくもない。「そういえば、高っちゃんの住んでたアパート、来週中に取り壊されるよ。」
思い出したように春田が言った一言に、竜児は軽いショックを受けた。
「取り壊し? なんで? 」
「相続税が払えなくて、あの土地を売るんだってさ。」
「そうか。」
小学校から、大河と結婚するまで、あのアパートには20年近く住んだ。大河との思い出深い場所が取り壊されてしまう・・・・。そう思ったら、身体の一部を無くしてしまったような喪失感があった。
引き渡しが始まってからも、その感覚は拭い去ることが出来ずなかった。

「 It is thanks to you. We wish to express our gratitude 」
施主が握手を求めてきた。
「 We wish to express our gratitude for only here 」
竜児も手を差し出して、固い握手を交わす。一つの仕事が終わった。
肩をポンと叩かれて、振り返ると社長がいた。
「おつかれさん。シェフは君に感謝していたよ。友人に、この厨房を自慢すると息巻いていた。」これから依頼が一段と増えるぞ。社長はそう言って笑った。
「ありがとうございます。さっき先生に、明日から7日間の休暇を命じられました。」
「そりゃそうだろう。この半年は、まともに休んでないだろう。ゆっくりしたまえ。」
「はい。休み中にトラブルが発生した時には、携帯に連絡を・・・・。」
「休むときには、仕事を忘れろ。君のフォローぐらいは、スタッフでも十分出来る。」
「はい。」
「今日は、大河達とすき焼きパーティーなんだろ。もう帰りなさい。」
今朝、大河からビデオメールが届いて、竜児を夕飯迄に返さないと親子の縁を切ると脅かされたんだよ・・・。社長はそう言って笑った。

明るいうちに、自宅に帰るのは何ヶ月ぶりだろう。内装工事が始まってからは、夜中近くまで現場にいる事が多かったから、4ヶ月ぶりか。回らない頭で考えた。
玄関を開けると、黒い運動靴。大河の弟は、すでに来ているようだった。
洗面台で手を洗い、うがいをする。鏡の中の自分は、頬がこけていた。ゆっくり休もう。仕事が終わった実感が湧いた。

「お帰り。竜児。」
洗面所の入り口から、大河が覗き込んでいた。
「おう、ただいま。レストランの仕事終わったぞ。明日からは7日間休みだ。」
「へー良かったじゃない。お疲れさまでした。もうじきご飯よ。」
昨日の夜、俺をモルグに葬り去ろうとした妻は笑っていた。

大河の弟は、既に中学1年生になっていた。身長は165センチ。大河と20センチの差がある。
中学男児の食欲は旺盛だ。しかし大河も負けてはいない。100グラム 630円 確か700グラム用意されていた筈なのだが、既に跡形もなく消え去り、鍋に残った肉片を掠う始末だった。
「ふ〜、食べた、食べた。」
「食べてすぐに横になるんじゃありません。」
久しぶりに、突っ込んだ気がする。

187 ms07b3 :2010/04/25(日) 12:17:31 ID:???

「みんな幸せ」
 暑い。重い。寝苦しい。不快感に目を覚ますと、三重苦の原因が目の前にあった。
ナツメ球の微かな光源に照らされて、大河の七分袖のパジャマが見える。
竜児の腕を枕にして横向きになり、胴にまわされた腕。小振りだが形の良い胸が、竜児の右脇腹に当たっている。大河、お前ブラしてないだろう。
 枕元の時計を見ると午前5時30分。室温表示は29℃を示している。
只でさえ高い室温と隣で寝息をたてる熱源。そりゃ寝苦しいはずだ。しかも右腕は痺れている。
 大河を起こさないよう、細心の注意を払って、腕を引き抜く。上布団はすべて大河に掛けてやった。

 久しぶりに朝食を作る。大根を10センチ程輪切りにして、皮をむく。それを半分に切って、一方は短冊切りに、もう一方は食感が残るように乱切りにする。
 冷蔵庫から、鰹節と昆布で取った出汁がたっぷり入ったペットボトルを取り出し、小鍋に注ぐ。煮立ったところで大根の乱切りを投入し弱火で煮る。
 残った大根の短冊切りは、ボウルに入れてゴマ油を少しとスリ胡麻とシラス干しを投入して和風ドレッシングであえる。
 大根に火が通ったあたりで油揚げと豆腐を投入して、軽く一煮立ちさせたら火を消して味噌を少量加える。味噌汁で余った豆腐半丁にネギとゴマにポン酢を掛ける。
今日の朝食はこれにて完成。調理時間は25分だ。

 大河が起きてきたのは午前7時。竜児の家で、半居候のように暮らしていた頃は、竜児がお越しに行かない限りは、絶対に目を覚まさなかった大河も、幼稚園の先生になって以来、休みの日でも、普段通りに起きるようになっていた。

「あんた、何を勝手にベッドを抜け出してんのよ。」
「暑くて目が覚めちまったんだよ。仕方ねえだろう。」
「うるさい。久しぶりにゆっくり寝ようと思ったのに・・・・。」
「大河。ブラはして寝た方がいいぞ。年取ると崩れるって、泰子が言ってた。」
「うるさい。余計なお世話だ。」
何ヶ月ぶりかの、大河と2人の朝食。会話は相変わらずだが、穏やかな朝だ。

「大河。あのアパート。今週中に建て壊されるんだってさ。」
「竜児のアパートが?」
「ああ。去年、大家のおばあちゃん亡くなっただろ。相続税の関係で土地を売るから、更地にするらしい。」
「うそ。」
「春田が言ってた。天気も良いし、散歩がてらにお別れしに行かないか?」
「・・・・・・。」
「・・・・・大河?」
「嫌だ。竜児とやっちゃんとの思い出が消えちゃう!」
大河が突然泣き崩れた。大河の涙を見たのは、2人の結婚式以来だった。
「思い出は消えねえよ。だけど、最後を看取ってやろうぜ・・・。」
大河の肩を抱く。こいつにとっては、あのアパートこそが本当の家だったんだろう。

 竜児が大橋駅に降りたのは1年ぶりだった。高校時代より駅前は発展していて、見違えるよう発展していた。
 大河と一緒に買い物に行っていたスーパーも健在。スドバも本家に訴えられることなく営業していた。
 この角を曲がるとアパートがある。7年前に引っ越して以来見ていないアパート。どんな風に変わっているか不安だった。
「・・・・竜児。」
不意に立ち止まってしまった竜児を、大河が不思議そうに見つめた。
「悪い。久しぶりだからよ。」
大河が手を差し伸べてきた。小さな手を竜児もにぎる。2人で歩き出した。

アパートは何も変わっていなかった。既に築40年を超えているが、長年風雨にさらされた壁面は、良い色合いになっていた。
「変わってないね。」
「ああ。変わってない。」
全てが懐かしかった。

188 ms07b3 :2010/04/25(日) 17:56:01 ID:???
 敷地の入り口には有刺鉄線が張り巡らされ、工事を知らせる看板が立っていた。
この跡地には、新しくワンルームマンションが建つらしい。
「入れなっかたね。」
有刺鉄線が張られた門扉を見て、大河が寂しそうにつぶやく。
「ああ。残念だったな。」
淡い期待は裏切られてしまった。
「竜児は、ここに何年住んだんだっけ?」
「19年だったかな・・・・。」
「私は、7年しかいられなかった・・・。」
「最初の1年は、半分同居だったしな。」
でも、濃密な時間を過ごせたよ・・・・・。」
「竜児がいて、私がいて、やっちゃんがいて、ブサ鳥がいて・・・。」
「インコちゃんを悪く言うな。」
「私は、ここで家族になれた・・・。ここが私の生まれた場所なんだ・・・。」
小さな身体を震わせて、大河は泣いていた。
並び立つ虎が悲しみに鳴くとき、竜は何が出来るのだろう。
ふと足下を見る。アパートの入り口のブロック塀の陰に、1本の小さな木が生えていた。竜児と大河が出会った年の台風の翌日、風で折れてしまったケヤキの枝を、大家が接ぎ木して、根付かせたものだった。
「大河。あれ。」
むせび泣く大河の肩を抱き、小さなケヤキの木を指し示す。
「高須農場の芋ほりの時の台風を覚えているか?」
「・・・う・・うん・・・覚え・・・てる。」
「あの小っちゃい木は、あの台風の時に折れた枝を接ぎ木した木なんだ。このアパートに住んだ証に、うちで育てないか?」
「育てられるの?」
大河は半信半疑だった。
「ああ、育つ。植木鉢を買って、窓際の日当たりの良い場所に置いとけばいい。」
「でも、勝手に引っこ抜くわけにいかない・・・。」
「看板に書いてある連絡先に電話して、解体工事を始める前にもらいに来るさ。」
そういって竜児は、携帯電話に連絡先を登録した。

せっかくここまで来たのだから、大河の実家に寄っていこうという事になり、2人は久しぶりに実家のマンションのインターフォンを押した。
社長である親父さんは不在だったが、母親は家にいた。

「まったく、貴方という人は、1日ぐらい朝寝坊が出来ないのかしらね・・・。」
せっかく7日間の有給をあげたのに・・・・。
ぶつぶつ言っている義母に、昔住んでいたアパートが取り壊される事を伝えた。
「あら、あと10年もしたら近代産業遺産にでも登録出来たのに残念ね。」
お義母さん。あの建物は明治・大正期の建物じゃありません。声に出せない突っ込みを入れた。

「ついでに隣の建物も壊して更地にすれば良いのよ・・・。」
不機嫌そうに手渡されたのは、この地域の不動産業者がまいたチラシだった。
「31畳のリビングなのに寝室は2つしかない。私が設計したなら、もっと使い易い作りにするわよ。建築家なんて崇め奉られた馬鹿の設計なんでしょうけどね。」
チラシの図面を見てみると、2LDKの1世帯がマンションの2階フロアをぶち抜いている作りになっている。たしかに一般人が住むには無駄の多い設計だ。しかし、この部屋の配置どこかで見たことが・・・・。
「逢坂が購入した時は一億円ちかくしたけど、使い勝手が悪くて住む人がいないから、今となっては3500万以下よ。」
そうだ、これは大河の部屋の間取り図だ・・・。3500万以下か・・・。
「竜児君。有給期間中の宿題よ。あなたならこの部屋、どうリフォームする?」
うちの事務所の卒業試験だと思いなさい。
母虎は、ニヤリと笑った。

189 高須家の名無しさん :2010/04/25(日) 20:51:40 ID:???
>>421
少ない小遣いの中から節約して、毎月1巻づつ購入しているぞ。

190 ms07b3 :2010/04/25(日) 23:26:47 ID:???

「で、あんたは何をやってる訳?」
リビングのテーブルにチラシを広げて、三角スケールと電卓を片手に、何かしら書き込んでいる竜児をみて大河が言った。
せっかくの日曜日。しかも久しぶりに2人で迎えた休日なのに、竜児は、実家から帰って以来、チラシを前にして悩んでいるのだ。
本来なら、2人で甘まーい時間を過ごせる筈なのに。馬鹿犬と来たら・・・・。
「おう、お義母さんから、宿題出されたんだ。」
「どんな宿題?」
「いや、企業秘密に関わる事だから内緒だ。大河にも言えねえ。」
「へ〜。愛する妻にさえ言えない事なんだ。へ〜。企業秘密なんだ。」
「おう、守秘義務って奴があってな・・・。」
「そんなに大切な秘密なら、外でやれ!」
手にしていたダスキンのモップを、カンフースターのように振り回す大河。命の危険を感じて、竜児は道具だけ持って家から逃げ出した。

「・・・・また、やっちまった。」
マンション前の道路から、2人が暮らす部屋のベランダを見つめる。
竜児の作業着の横には、大河のエプロンが並んで干されている。本当なら、今日は1日、大河の隣で過ごすつもりだったのに。自然と溜息が出た。

 大河にとって、父親に買い与えられたあのマンションは、ひとりぼっちだった頃の象徴だ。孤独。父親への怒り。自分を捨てた実母への憎しみ。そして悲しみ・・・。
例えチラシでも、大河にあのマンションの事を思い出させたくなかった。
ちゃんと理由を話せば、大河も理解してくれていたのに・・・・。

虎と竜は並び立つもの。対等のはずなのに。俺はどうしても、大河に悲しい思いをさせたくないと思って、独りよがりの行動をして、結果的に大河を傷つけてしまう。
高2の文化祭以来、何度それを繰り返して来たのだろう。
ミス大橋コンテストの時の、孤独だった大河の顔を思い出す。
やっぱり俺は、大河の隣にいないといけねえ。
竜児は、今出てきたばかりのエントランスに戻った。

「なぁ、大河聞いてくれ。さっきの事。お前に謝って、全部話したいんだ。」
大河は、寝室から出てこない。返事もしてくれない。
「さっきのチラシは。大河が暮らしていたマンションの、あの部屋の売り出しチラシなんだ。お義母さんに、アパートが壊されるって話をした時に、これを渡されて、リフォームプランを考えるように言われたんだ。」
大河の反応はないが、扉のむこうにいる気配はある。すべて語って謝る以外に、竜児に出来る事はなかった。
「なぜ、お義母さんがこのチラシを渡したかはわからねぇ。ただ、大河にはあの部屋の事を思い出して欲しくなかったから、隠したんだ。大河にとっては、あの部屋は良い思い出がないと思ったんだ・・・・。」
扉の中から微かな気配がした。
「子供扱いするな。私がいつ、あの部屋には良い思いでがないって言った・・・。」
小さな声だが、大河の声だ。
「あのマンションは、嫌な思い出も沢山ある。でも竜児が朝起こしに来てくれた。掃除しに来てくれた。選択も。熊のサンタで来てくれた事もあった。私にとっては、あのマンションも、竜児の部屋と同じくらい思い出が詰まっているのよ!」
大河・・・・・、ごめん。俺は、何度おなじ過ちを繰り返せばいいんだろう。


寝室から大河が出てきたのは、日もとっぷりと暮れてからだった。
竜児は寝室前の廊下に座り、大河が出てくるのを待っていた。自分に出来る事はこれだけだと。

「竜児。チャーハン食べたい。」
竜児を見つめる大河の瞳は、泣きはらして真っ赤だった。
「具は何にする?」
「あの時のチャーハンがいい。あの時の味が再現できたら、許してあげる。」

191 高須家の名無しさん :2010/04/26(月) 03:46:30 ID:???
「幸せのかたち」、なかなかの良作。
大河が幼稚園の先生というのは斬新ですな。

192 ms07b3 :2010/04/26(月) 11:18:14 ID:???
あのチャーハンの材料は、カブの葉と茎を除けば揃っていた。カブの代わりとなるようなものはホウレンソウくらいか・・・。
ニンニクと玉葱・ホウレンソウ・浅葱をスライス。その間に冷凍ごはんを解凍する。フライパンは、あの襲撃の夜にチャーハンを作ったもの。竜児と共に戦をくぐり抜けた友だ。
 中華鍋を充分に熱して、軽く煙が出始めたら、ゴマ油を入れて全体になじませる。玉葱を投入して透明になるまで炒め、卵を投入。ここから先は時間との戦い。冷や飯と残った具材を入れる。おたまの腹を使い、飯粒をほぐし、鍋をあおる。味付けは塩胡椒と中華味の素・隠し味のオイスターソース。完成した。
 大皿に盛りつけてリビングに行くと、大河が臭いにつられてこちらを見た。
「おまたせ。蕪がなかったからホウレンソウをいれた、それ以外は、あの時と同じだ。」大河の前に大盛りチャーハンとスプーンを置く。
「腹へったんだろ。食えよ。」
「・・・・・・食べさせて。」
「えっ?」
「あの時と同じように、食べさせてって言ったの。」
大河は、パプリカのように頬を染め上げて言った。
「おっ、おう。」
 スプーンにチャーハンを山盛りに乗せる。それを大河の口元に運ぶ。スプーンの先端が大河の唇にあたる柔らかな感触を感じた。
大河が口を開ける。大口でスプーンにかぶりついた〜?
竜の手からスプーンを奪い取り、親の敵とばかりに大盛りチャーハンを攻撃する大河。これはあれが必要だな。竜児はキッチンに戻り、湯飲みを手にして、温めの茶を淹れた。
 茶を淹れた竜児が食卓に戻ると、すでにチャーハンは3分の1以下。フライパンの中にはお代わり分が控えている。
「お代わり!」「おうっ!」中華鍋の中身を全部さらえてやった。
「あれ、これ?」
「おう、お前の湯飲みだ。」
白磁器のなめらかな白にピンクの肉球のイラスト。大河が高須家で食事をとるようになってすぐ、泰子が大河の為に、買ってきた食器のなかの最後の生き残りだった。
茶碗は、結婚してすぐに、大河が割ってしまった。この湯飲みも、縁が欠けているので普段は水屋の奥にしまってある。
「そうか、まだ思い出残っていたね。」大河がしみじみと言った。

「なあ、大河。お前、あの部屋でもう一度暮らしてみる気ないか?」
「あの部屋で? この部屋でも竜児がいないと寂しいのに、あんな広い部屋だと・・。」「俺が独立する話は、この前したよな。どこかに事務所を借りる必要があるんだが、金がそんなにない。有ると言えばあるが、無理して借金するより、自分の身の丈にあった場所からスタートしたいんだ。」
「それと、あのマンションと関係があるの?」
「職住合体なんてどうかなって考えてる。あの広いリビングの半分を事務所に使い、もう半分は、俺達のリビングにする。そうすれば最小限の金で済む・・・。」
「つまり、竜児が一日中家にいるってこと?」
大河の声が弾んだ。
「おう、もちろん現場に出る時間もあるから、ずっとと言う訳にはいかねえが、朝飯と夕飯は一緒に食べられるぞ。」
勿論、居住スペースと、事務所スペースを分けるためのリフォームをしなければならないが、独立して経営が軌道に乗ったら、事務所を別にすればいい。
「それが出来るなら、あの部屋に住みたい。出来ればやっちゃんも一緒に。」
そうすれば、もう一度家族全員が揃う。大河が笑った。

193 ms07b3 :2010/04/26(月) 11:23:21 ID:???
「で、これがリフォームプランなの? 図面見た限り、変わった点はあまりないけど?」義母である師匠は、竜児が徹夜して書き上げた図面を見ていった。
「ええ、リフォームの中心は、31畳のリビングダイニングを2部屋に分け、既存の納戸部分にトイレを設置するだけです。そして18畳の新しい部屋は事務所として使用し、もう1部屋は、13畳のダイニングキッチンとします。」
「俗に言う、SOHOにするの?」
「いえ、事務所への入り口は、屋内階段を使用します。つまり1軒の家でありながら、同じ敷地内に独立した事務所を持つようにするのです。」
「マンションの管理会社がそれを認めるかしら?」
「居住者と、事務所の使用者が同一の所有者であれば問題ないという事です。」
「でも、家族としては、職住合体は嫌がるんじゃないかしら。」
「大河は、職住合体を喜んでいます。」
「・・・・・。もうすでに購入者も決まっている訳ね。」
「ええ。」
「まあ、独立したての建築士の事務所としては充分ね。」
「はい。」
「銀行の保証人は、うちの社長がなってくれるわ。安心しなさい。卒業試験合格よ。」
竜児は、何も言わずに頭をさげた。

半年後
18時になると、高須一級建築士事務所の終業時間を告げるメロディーが流れる。
「お先に。」社長である竜児は、メロディーが鳴り止むと同時に、居住スペースへと消えた。
パテーションの向こうからは味噌汁の香しい臭い。スタッフの嗅覚を刺激する。
「社長は今日も、残業なしっと。」
「高須さん、先生の事務所にいた頃は、月の残業150時間超えはザラだったのに。」
2人のスタッフは、声を揃えて笑った。

大皿に盛りつけられた豚キムチ、飴色に煮込まれた大根。豆腐のサラダ。
食卓には3人分の食器が並べられた。
竜児は、仕事から帰って来たばかりの2人に声をかける。
「大河、泰子。メシができたぞ〜。」
竜児にとって、この瞬間が一番幸せだった。
「遅いのよ、駄犬。」
言葉とは裏腹に、大河は満面の笑みだ。やっと家族がそろった。


「幸せのかたち」は以上です。入院中で暇なので、初めて作ってみました。
大河の部屋の間取りは、「とらドラの全テ」の設定資料に基づき考えました。

194 高須家の名無しさん :2010/04/29(木) 01:40:09 ID:???
>>193
乙!
面白かったよ。とても初めてとは思えない。
是非次は本スレにも。

195 高須家の名無しさん :2010/04/29(木) 08:33:25 ID:???
>>194
193です。
本スレに投稿しようとしたら、iPhoneは
規制中。困ったものです。
3週間の入院ですが、とらドラのおかげ
で、随分と気が紛れました。

196 高須家の名無しさん :2010/04/29(木) 12:01:40 ID:???
>>193
面白かった!乙!
竜児の進路的にとらドラP!の大河エンド後っぽくて良いよー!

197 ◇fDszcniTtk :2010/04/29(木) 15:07:17 ID:Jps4jq9.
まとめにんさん、覚えてくれていてありがとう!!
そして更新お疲れ様。

198 高須家の名無しさん :2010/04/29(木) 17:46:40 ID:Jps4jq9.
>>195

入院中?! えらいことだ。早く退院できるといいな。

199 高須家の名無しさん :2010/04/29(木) 18:18:22 ID:6wGNAGDY
≫193 GJ!!お大事に。
まとめ人様お疲れ様です。m(--)m。
今回ハラハラ妄想から参加した者です。今後もSSを投下する予定ですので
ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします。

ちなみにBIGLOBEはまた規制喰らいました。

200 ms07b3 :2010/04/29(木) 18:46:19 ID:???
>>198
 ご心配をおかけいたします。
 入院している病院はパソコン持ち込み厳禁。
 iPhoneでちまちまと入力していました。退院まで、あと1週間
 なので、まとめサイトで過去作品を読み、とらドラポータブル
 をクリアしたいと思います。

 まとめ人様。あなた様のおかげで、入院生活が楽しかったですよ。

201 高須家の名無しさん :2010/04/29(木) 22:41:41 ID:Jps4jq9.
ところでみんな、「スピンオフ3巻」に挟まれていた電撃文庫のチラシ
捨てないで読んだよね。ゆゆこが寄稿してたよ。

202 高須家の名無しさん :2010/04/30(金) 02:55:16 ID:BvnzWY9M
マジか
しらんかった

203 高須家の名無しさん :2010/04/30(金) 08:47:51 ID:71Z1bWdI
寄稿っつってもエッセイだから、心配無用。

204 高須家の名無しさん :2010/05/01(土) 00:12:36 ID:???
電撃文庫の新刊のお知らせチラシも、大河がトラ猫を
てなづけようとしているイラストが使われていたな。

205 高須家の名無しさん :2010/05/01(土) 06:54:54 ID:cgbIsfbI
そうそう、そのチラシの裏の「作家ワールドカップ」の第一回がゆゆこだった。

206 高須家の名無しさん :2010/05/03(月) 21:57:55 ID:???
>>193
乙!
大河の両親とも打ち解けてる竜児の姿になんか、優しい気持ちになったよ。
そして社会ってヤツをひしひし感じるのさ。
お体に気をつけてくださいね。

207 高須家の名無しさん :2010/05/04(火) 11:58:53 ID:???
「・・・・・・。」
さっきから聞こえる鼾は、午前5時に帰宅した竜児のもの。
大河は、ワイドショーの通販コーナーをボーっとしながら見ていた。
ゴールデンウィーク4日目。駄犬は相変わらずの仕事中毒だ。
洗濯は終わった。竜児を起こさないように掃除機はかけなかったが、掃除もした。
竜児が目を覚ましたら、いつでも朝ご飯を食べさせられるように、準備も完了。
しかし、駄犬は相変わらず夢の中・・・・。
『6時間は寝たから起こしても大丈夫』と囁く悪い娘の大河
『疲れてるんだから目が覚めるまで寝かしとかなきゃダメ』と言う良い子の大河。
大河の心の中で、2人の大河がせめぎあっている。

「う〜ん・・・。」
駄犬がベッドの上で寝返りをうつ。天気が良くて室温が上がっているからか、掛け
布団を蹴っ飛ばして、Tシャツとパンツの隙間からお腹が見えている。
普段、竜児の寝相は悪くないから、布団を蹴っ飛ばしている姿は貴重だ。
四つん這いになってベッドに近づく・・。膝立ちになって竜児の寝顔を覗き込む。
目を閉じている時の竜児は、意外にハンサムだ。
「へへへへ、竜児の寝顔。」
思わず頬肉をつんつんしてしまう。反応なし。
身を乗り出して、今度は鼻の頭をツンツンしてみる。一瞬、顔をしかめたが、再び
安らかな寝顔。
「ねえ駄犬。お昼ですよ〜。そろそろ起きようよ〜。」
お腹をツンツン。反応なし。
「駄犬。餌の時間だぞ〜。餌食べたら散歩に連れて行ってやるぞ〜。」
おでこをツンツン。反応なし。
「そう。飼い主を無視するんだ〜。」
部屋を見回して得物を探す。片隅に小さな洗濯ばさみを見つけた。

洗濯ばさみを、竜児の鼻の頭にゆっくりと近づける。あと10センチ、3センチ
そして静かに、竜児の鼻を挟んだ。1秒・2秒・3秒・7秒・8秒
「だ〜!」
突然、竜児が飛び起きる。状況がつかめなくて軽くパニック。鼻につけられた洗濯
ばさみに気がついて、それを外して大河に投げつけた。
「大河! お前は俺を殺す気か!」
投げつけられた洗濯ばさみは、大河の鼻頭にヒット。結構なダメージ。
竜虎は、お互いに鼻を押さえている。
「あんたね〜、何もこんな物投げつけなくても良いじゃない!」
「お前こそ、子供じゃねえんだから、こんな悪戯をすんじゃねえ!」
寝起きを襲われた竜は、普段と違って余裕がない。
「あ〜ら遺憾だわ。駄犬が惰眠を貪っているから、飼い主様が散歩に連れて行って
 あげようと、起こしてあげたのに。まさに飼い犬に手を噛まれるだわ。」
「うっせい、単にお前が暇だっただけだろうが!」
「頭に来た! 今日という今日は我慢出来ない!」
手乗りタイガーと化した虎は、ベッドの上に横たわる竜児に襲いかかった。
「やめろ! 埃が舞うだろう!」
一気に守勢に回った竜。
ケンカが、1週間ぶりのギシアンに変わるまで、30分しか掛かりませんでした。

208 高須家の名無しさん :2010/05/07(金) 00:27:11 ID:SWxYLuw6
207



209 高須家の名無しさん :2010/05/09(日) 22:38:37 ID:JRcpC7dA
規制中。

本スレ >>293
最後の行で吹いた。三題噺の人、今回はストーリー構築のうまさが
ひときわ冴え渡ってたよ。

210 ms07b3 :2010/05/15(土) 21:35:55 ID:???
本スレへの転載を希望致します。 どうかお願い致します。

「ゲームなんか、自分の部屋でやれよ。」
「うっさい。黙れ・・・。」
ゲームの画面に夢中になっている大河は、こちらの方を見ないまま竜児を罵倒する。
時間は午後10時50分。普段なら、大河が自分の部屋に引き上げる時間だ。
しかし、今日は新しく発売されたばかりのロールプレイングゲームが手に入ったとかで
泰子が出勤した途端にゲーム機を引っ張り出してきて、そのまま既に4時間ちかくゲー
ムに熱中しているのだ。
竜児の方は、夕飯の片付けを済まし、明日の朝食と弁当用の下ごしらえを終えて、独身
の授業のレポートも書き終え、あまつさえ予習・復習も終わらせた。
あとは、居間を我が物顔で占拠している子虎を追い返すだけなのだが・・・・。
もともとロールプレイングなんてジャンルのゲームは、大河の性格には合わないはずだ。特にゲームスタート時の、HPもMPも低くて、俗に言う雑魚キャラを片付けるのも一仕事
なんて段階では、大河のストレスは溜まる一方で、さっきから舌打ちが聞こえる。
こんな時に、無理矢理に自宅に帰そうとすれば、痛い目に遭わされるのは目に見えてる。仕方なく竜児は、普段なら大河を帰してから入る風呂に入り、風呂から上がると、自室
の布団の中で本を読んでいた。

部屋のステレオのデジタル時計が午後11時30分を示す。
「大河、続きは明日にして帰れよ。」
「セーブポイントに行くまでセーブ出来ないんだからもう少し。」
子虎は暢気だ。
「じゃあ、セーブポイントに行けよ。」
「言われなくても向かっているわよ。合い鍵で鍵かけて帰るから、先に寝れば?」
大河の物言いに、なんだか微妙に腹が立った。
「ああそうかよ。じゃあ俺は寝るから、ちゃんと電気消して、鍵かけて帰れよ。あと遅
くまでゲームやっていたからって、明日の朝、起きる時に暴れるなよ!」
そう言って竜児は襖を閉めて電気を消して布団に入った。
襖の向こうからは、大河の激しい舌打ちの音が聞こえた。

どれくらいたったのかは知らないが、襖が開く音がした。
「よいしょっと」
何かを引きずるような畳が擦れる音。声の主は泰子だ。
意識はあるのだが、身体の方はまったく反応してくれない。
「ごめんね竜ちゃん。少し詰めてね。」
仕事終わりのいつもの少し酔ったような緊張感の無い声。
泰子の手が布団の隙間に入ってきて、竜児の寝る場所を少しずらした。
「よいしょっと」
今度は、やけに暖かくて、柔らかい物体が布団の中に入れられた。
小学生の頃、一人で寝ていると偶に泰子が入ってきたから、今日も酔っぱらって俺の布
団に潜り込んできたのかと竜児は思った。
普段なら、自分の部屋で寝るように言うのだが、竜児も寝ぼけている状態だ。
たまにはいいかとやけに寛大な気分になって、そのまま再び深い眠りについてしまった。
翌朝。
竜児が目を覚ますと、目の前には大河の幸せそうな寝顔があった。
「おうっ!」
声にならない叫びを上げて布団を抜け出す。
「泰子っ!」
泰子の部屋に飛び込んで、熟睡状態の泰子をたたき起こす。
「おまえ、何で大河を俺の布団に入れたんだ。」
事の重大さに、どうしても詰問口調になってしまう。なにしろ相手は虎だ。自分が竜児
の布団で一緒に寝ていたなんて事がばれたら、殺されても文句は言えない。
「え〜、だって大河ちゃん、居間で寝ちゃってたから、あのままじゃ風邪引いちゃうと
思ったから・・・。」
「だったら、お前が一緒に寝ればいいだろ。」
「だって、大河ちゃんは竜ちゃんのお嫁さんになる子だもん。」
「お前は何てこと言うんだ!」
「何を朝から騒いでるのよ、大家に怒られるよ・・・・・」
振り返ると、寝ぼけた子虎がそこにいた。
竜児が、三分の二殺しに逢うまで、あと120秒。

211 高須家の名無しさん :2010/05/15(土) 22:10:20 ID:???
>>210
盛るぜぇ、盛るぜぇ、超盛るぜぇーーーー
ということで竜虎本スレに盛ってきました

212 高須家の名無しさん :2010/05/15(土) 23:30:36 ID:???
乙! 後で「何もしてないでしょうね…、エロ犬!」「してねえって、泰子が証人だ。」
というシーンがありありと浮かんできます。

あなたも規制ですか…。私はどうもBIGLOBEだと思っていましたが
(最初のパソコンを買った時にBIGLOBE)その後光回線に変えたときKDDIになったことに今日気付きました。
dion.ne.jpは規制がひどいので困ってます。

213 高須家の名無しさん :2010/05/15(土) 23:40:28 ID:???
>>212
自宅パソコンは有線ブロードバンド
携帯はiPhone
どちらも長い事規制かかってます。

211様
転載を感謝致します。

214 高須家の名無しさん :2010/06/22(火) 00:02:16 ID:???
泣きたい。またdionは規制だ。

215 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2010/06/26(土) 01:19:13 ID:???
ウオおオオ仕事が忙しすぎてまとめが進まねええエエエ


スミマセン 生きておりますので、まとめサイトの更新はもうしばらくお待ち下さい…

216 高須家の名無しさん :2010/06/26(土) 02:01:09 ID:???
>>215
いつもありがとうございます。規制とばっちりですか?

217 高須家の名無しさん :2010/06/26(土) 17:39:38 ID:???
>>215
いつもありがとうございます
お仕事頑張ってください

218 ◆zKbMVavC7g :2010/06/27(日) 15:35:16 ID:aTxewkKw
テスト

219 ◆zKbMVavC7g :2010/06/27(日) 15:35:37 ID:aTxewkKw
テスト

220 fDszcniTtk ◆fDszcniTtk :2010/06/27(日) 15:36:20 ID:aTxewkKw
すんません。無駄打ちしちまった

>>215
お疲れ様です。俺も仕事が。

一本書いたのですがアク禁食らっちまってへこんでます。

221 ◆fDszcniTtk :2010/06/27(日) 15:38:19 ID:aTxewkKw
だれか代理投稿よろしくです……こっちのトリップって前から本スレとおなじでしたっけ。
----
>>497
サンキュー。軽く充填された。オリジナルはどこだろう。

>>499
何か受信したのだが、伝送中にエラーが起きたかもしれない。すまん。

新作投下:「袴戦争」 3,4レスくらい。

222 袴戦争 ◆fDszcniTtk :2010/06/27(日) 15:38:55 ID:aTxewkKw
「やっちゃん久しぶり!」
「大河ちゃん久しぶり!今日もかわいい!」
「もう。私23歳だよ。かわいいって変だよ」

喫茶店のカウンターの前に立って、くすぐったそうに逢坂大河が笑う。待ち合わせの相手は高須泰子。当年とって39歳のはずだが、子供っぽい顔立ちや表情の作り方は、とてもそんな風に見えない。『永遠の23歳』に偽りなしね、と正真正銘23歳の大河は独りごちる。

大河は6年ほど前、高校2年生の1年間、泰子の家に半居候を決め込んでいた。それまで家族から離れて一人乾いた生活を送っていた大河は、泰子と、その長男の竜児の元で心の潤いを取り戻し、結局3年生に進級する前に竜児と婚約してしまった。
そして長い婚約期間が過ぎ、ようやく今年、二人は晴れて結婚する。つまり大河と泰子の二人は、まもなく義理の親子になる。

「もうすぐ本当にやっちゃんが私のおかあさんになるんだね」
「やっちゃんずーっと大河ちゃんがお嫁に来るの待ってたんだから」
「それ最初に聞いたのいつだったっけ」
「ずっとずっと前だよ」

二人、顔を見合わせて笑う。二人の婚約は5年前から両家にとって周知の事実だったのだが、さすがに働いていない男に娘をやるわけにはいかないと、大河の両親からずっと止められていたのだ。今年大学を出て就職した竜児は、ぺーぺーとはいえ給料袋をもらう身になった。
そうして、ようやく長い長い『待て』に終止符が打たれたのだ。待たせていたのは大河の両親とはいえ、学生時代、ひたすらまじめに『待て』を守る竜児に大河は何度『あんた、どれだけ忠犬気取りなのよ、もう、同棲くらいしようって言ってよ』と、泣いたかわからない。
そのたび蹴っ飛ばされた竜児もいくつ痣を作ったかわからない。

「で、やっちゃん相談ってなぁに?」

15分ほど話し込んだ後、大河に問われて泰子が舌を出しながら破顔する。

「いけなーい、忘れてた。あのね、大河ちゃんおり入って相談なんだけどぉ」

普通『折り入って相談』といわれると、借金の話とか、やっぱり息子はやれないとか、父親は、といった重い話しである。しかし、高須家が貧乏ながら何とか無借金でやりくりしていることは知ってるし、竜児と大河をくっつけたがっていたのは泰子だし、
大河は竜児と出会った頃に父親の写真を見て爆笑している。大河としては、今更びっくりするようなことが飛び出すとは思っていない。何より目の前の泰子がへらへら笑いながら話しているので、聞いている大河もクリームソーダをストローで吸いながら

「なぁに?」

と、気楽なものである。

「あのねぇ、花嫁衣装決めた?」
「うん。ドレスにするの。竜児も似合うって。やっちゃんにも写真見せたよね」

そう答えて大河が顔を赤らめる。ドレスを試着した大河を見て、竜児は挙動不審と言えるほど動揺したのだ。あんまりきれいなんで度肝をぬかれたぜ、とあとで真っ赤になりながら話してくれたものだ。その写真は泰子にも見せている。

223 袴戦争 ◆fDszcniTtk :2010/06/27(日) 15:39:36 ID:aTxewkKw
だが、

「そうようねぇ、大河ちゃん本当にドレス似合うよねぇ。でもね、白無垢も着てみたいって思わない?」

と、和服を勧めてくる。大河の方は思わず黙り込む。だって、どう考えても自分には似合わないと思うのだ。

もともと小学生サイズだった大河は、和服を最初っからあきらめている。昔の友達には『私だって背が伸びたでしょ』と薄い胸を張ってみせるが、その実伸びたのは3mmででしかない。3cmではない。3mmなのだ。現在身長は143.9cm。ミリメートルで表さないと成長を見逃すレベルである。

もともと和服は女性の体をふっくらと見せる。丈を詰めても横は細くならないから、自分が着るとちょっと滑稽になると大河は思うのだ。おまけに自分のようなちびが高島田みたいな日本髪を結うと、頭でっかちになりすぎないだろうか。

その点、ドレスは薄いので、ほっそりとした大河の体の線を引き立ててくれる。
竜児も、頬を赤らめる大河にどれほどドレスが似合っていたか、3時間にわたって熱弁をふるってくれた。

「私、着物似合わないし、竜児もドレスの方がいいって言うの」

しかし泰子は

「見たいなぁ。和服姿見たいなぁ」

と、こだわりを見せる。

「ねぇ、やっちゃん白無垢着たかったの?」

と、大河がおそるおそる聞いたのは、泰子の境遇を知っているからだ。

16歳の時、チンピラの子供を身ごもった泰子は、後に竜児と名付けることになるその子供を守るために家を出た。チンピラはとっくの昔に姿を消しており、始めから一人で生きて竜児を守るための家出だった。花嫁衣装など着るチャンスは無かったはずである。

もし、自分が着ることのできなかった白無垢に泰子があこがれをもっているのであれば、大河としても願いを叶えてやりたいと思う。しかし、

「ううん、やっちゃんもねぇ、ドレス着たかったのぉ」

などと言う。

小首をかしげ、大河が泰子を見つめる。竜児に『飲食業なんだから』とやかましく言われて短めにセットした髪は、昔ほどではないが軽く脱色されて明るく波打っていうる。少したれ気味の目尻には、さすがに年相応の年輪が刻まれているが、
それにしてもにこにこと笑う姿は、とても39歳とは思えない。そうして、甘いマスクは年齢だけではなく内心すら覆い隠しているのだ。

泰子はまもなく義理の娘になる女の小首をかしげたポーズに気づいたのか、いっそう目尻を垂らすと

「あのねぇ、やっちゃん竜ちゃんのぉ、紋付き袴姿見たいのぉ」

と、のたまってくれた。ずるり、と大河がいすの上から落ちそうになる。

ええええええぇぇぇぇぇ!と、声には出さないものの、昔『手乗りタイガー』の二つ名で呼ばれた女は、心の内をだだ漏れにしてしまう。嫌だ、嫌すぎる、と。

「大河ちゃんはぁ、竜ちゃん紋付き袴姿似合うと思わない?」
「それはぁ」

似合うと思う。

224 袴戦争 ◆fDszcniTtk :2010/06/27(日) 15:40:10 ID:aTxewkKw
だから嫌なのだ。誰よりも自分に優しくて、たとえ世界を敵に回そうと自分を守ってくれるだろう愛しい婚約者には、紋付き袴姿はきっとよく似合うだろう。それはもう、おそらく披露宴会場の半分がぷっと吹き出し、半分が目をそらすほど似合うに違いない。

竜児は、目が怖い。裂けるようにつり上がったまぶたの中には青白く不気味に輝く白目がはめ込まれており、その中央でぎゅっと縮んだ黒目が狂気をたたえてかたかたと震える。絵に描いたような三白眼。

高校生時代、怖いもの知らずで鳴らしていた大河は竜児の顔が怖いなどと思ったことは無いが、自分が思わなくても世間がどう思っているかはちゃんとわかっている。なにしろ並んで歩いているとみんな道を譲ってくれるし、デート中に職務質問をされたこともある。
スーパーで物陰から目つきの鋭い万引きGメンらしき連中に監視されていたことも数知れず。

人を傷つけることのできない、根っからの善人である竜児だが、悲しいかな、遺伝子の半分はチンピラからもらい受けている。それが性格に反映されなかったのは幸いだが、その代わり、ありったけの遺伝が目つきに現れてしまっていた。

そんな、にこにこ笑っても子供が泣くような顔で紋付き袴でも着た日には、披露宴会場に嫌な空気がただようこと請け合いである。なんだか、竜児と大河の前に黒服の男女が二列に並んでびしっと礼をしている風景が頭に浮かんできて、鳥肌が立つ。
そういう悪ふざけを仕掛ける奴がいるとしたら絶対ばかちーに違いない。

「私嫌だなぁ。紋付き袴」
「ええー、絶対かっこいいよ」

そうだ、忘れていたが、泰子はどうやら「そういう」のが好きらしいのだ。やくざ映画が好きとかじゃなくて、なんだか、怖い顔の男が好きらしいのだ。そうでなかったら16歳でチンピラにだまされたりしないだろう。竜児を生んでくれたことには本当に感謝しているが、正直、この嗜好にはついて行けない。

にっこり笑って首をかしげて否定する大河に、

「私は嫌だなぁ。竜児は絶対スーツのほうがいいよ」
「大河ちゃん、男は紋付き袴だよ」

泰子もとろけるような笑顔で即答する。

冗談ではない。結婚式は生涯一度きり、竜児とだけと決めているのだ。それを極道もののレンタルビデオの祝言みたいにされてたまるものか。ここは退くわけにはいかない。
竜児はその堅さもあって『お色直しは「あなたの家風に染まります」って意味だからな。2度も3度もするのはおかしいぜ』などと妙なところにこだわっている。
大河としてはウェディング・ドレスさえ着れればいいのだからそれで文句はないのだが、白無垢とドレスのミックスってどうなのか。というか、竜児はお色直しなんかしないだろう。当たり前だ、自分が竜児色に染まるのだ。竜児にお色直しなんかさせない。

ならば、話は簡単だ。ドレスか着物か。勝つか負けるか。妥協など無い。負けるわけにはいかない。

「竜児もスーツがいいって言うと思うな。わ、私のドレスきれいだって言ってくれたし」

妙な切迫感に包まれて、どもりながらも大河は強気。小首をかしげてつんとあごをあげ、自分が受け取っている婚約者からのあふれるような愛を未来の義母に誇示する。

「じゃあぁ、やっちゃん竜ちゃんに頼んでみようかしら。竜ちゃんやっちゃんにやさしいぃ」

泰子も珍しくこわばった笑顔で押収。じわり、と喫茶店の一角が嫌な空気に沈み始める。

「えへへ、やっちゃん変なの。息子の洋服にこだわるなんて、おままごとじゃないんだから」
「だってぇ、未来のお嫁さんがお願い聞いてくれないんだものぉ。あっそうだ。お願い聞いてくれないなら結婚反対しちゃおうかな。なーんちゃって。冗談よ、大河ちゃん、冗談だかからね」

目をかっぴらいて耳まで避けそうな笑いを浮かべた大河の前で泰子がへらへらと笑う。

◇ ◇ ◇ ◇

225 袴戦争 ◆fDszcniTtk :2010/06/27(日) 15:40:45 ID:aTxewkKw
「馬鹿野郎!つまらねぇことで電話してくるな!」
「だって、だって。竜児ぃ」
「あーっ、もううるさい!明日までに泰子に電話して仲直りしとけよ!」

ぶちっと電話を切ってため息を漏らす。午後9時。あらかた人が帰ったオフィスの片隅。残業中に母親に続いて婚約者からつまらない話を聞かされ、高須竜児がどっとため息をもらす。

「高須ぅ、婚約者か?熱いなぁ」

冷やかしの声をかけた同期入社の友達が、ギロリとにらまれて首をすくめる。畜生、なんだってんだ。

「あの二人は喧嘩しねぇと思ったんだけどなぁ」

忘れていた重要事を思い出して、竜児はこれからの生活に頭を抱える。くだらない嫁姑戦争の心配はしないと思っていたのだが…。

今後、たまに巻き込まれるかもしれない「小学生レベルの喧嘩」の様子を思い描いて、社会人一年生の竜児はmなるで人生に疲れたように机につっぷした。

(お・し・ま・い)

226 ◆fDszcniTtk :2010/06/27(日) 15:41:35 ID:aTxewkKw
以上。暑くなったなぁ。もうすぐ水泳勝負が決着する時期か。

227 高須家の名無しさん :2010/06/28(月) 22:34:57 ID:otF.1mRY
代理投稿、サンキューです。

みんなに朗報だぁ。仕事で打ちのめされているのでSS書こうって気分になるぜ。

228 許さない ◆fDszcniTtk :2010/06/28(月) 22:36:54 ID:otF.1mRY
『俺は竜、お前は虎』

そう言って自分の横に立った男は、最後まで自分の傍らに立ち続けた。それまで誰にも見せなかった涙や傷を見ても、その男は笑うでもなく、目をそらすでもなく、はじめは暖かな笑みで包み、最後にはきつく両の腕で抱きしめ、そして絶対離さないといってくれた。

その腕の中に、ずっと探していた安寧が見つかったのだ。あとはただ、その男がこの世にいてくれたことに感謝し、奇跡のような巡り会いに感謝しながら、そっと微笑みを浮かべてその腕にわが身をゆだねていればいいと思った。
なんの疑問も抱かず、なんの不平も言わず、たんに目を閉じて幸せに身を任せていればいいと思った。

だが。

今、再び虎は自らの脚で立ちあがる。隠していた爪を大地につきたて、血に濡れた牙をむき出しにし、炎のように赤い口を開き、全身の筋肉を震わせ、竜に向かって咆哮する。

男の愛には一片の疑いも抱いていない。この男が自分を見捨てるわけがない。

しかし、
それでも、
だとしても。

懸念が疑念に変わる前に、不安が不信に変わる前に、妬みが怒りに変わる前に、悪しき芽は摘んでおかなければならない。

「竜児、だめよ」
「おう、なんだよ。藪から棒に」
「それはだめ。絶対許さない」
「だからなんだって」
「知ってるんだから。今見てたでしょ。浮気は許さないわよ」
「浮気ってなんだよ!」
「うるさいっ!さっさと歩きなさい」
「何なんだよお前はよう!」



『ラブプラス』 絶賛発売中。


(お・し・ま・い)

229 高須家の名無しさん :2010/06/28(月) 22:44:54 ID:???
わろたw
切れ味いいな

230 ◆fDszcniTtk :2010/06/29(火) 17:05:24 ID:VPcebqU.
サンキュー、そして、書き直しだ orz

231 許さない ◆fDszcniTtk :2010/06/29(火) 17:07:05 ID:VPcebqU.
『俺は竜、お前は虎』

そう言って自分の横に立った男は、最後まで自分の傍らに立ち続けた。それまで誰にも見せなかった涙や傷を見ても、その男は笑うでもなく、目をそらすでもなく、はじめは暖かな笑みで包み、最後にはきつく両の腕で抱きしめ、そして絶対離さないといってくれた。

その腕の中に、ずっと探していた安寧が見つかったのだ。あとはただ、その男がこの世にいてくれたことに感謝し、奇跡のような巡り会いに感謝しながら、そっと微笑みを浮かべてその腕にわが身をゆだねていればいいと思った。
なんの疑問も抱かず、なんの不平も言わず、単に目を閉じて幸せに身を任せていればいい。

男の愛には一片の疑いも抱いていない。この男は自分を見捨てない。

しかし。
それでも。
だとしても。

懸念が疑念に変わる前に、不安が不信に変わる前に、妬みが怒りに変わる前に、悪しき芽は摘んでおかなければならない。

今、虎は再び自らの脚で立ちあがる。隠していた爪を大地につきたて、血に濡れた牙をむき出しにし、炎のように赤い口を開き、全身の筋肉を震わせ、竜に向かって咆哮する。

「竜児、だめよ」
「おう、なんだよ。藪から棒に」
「それはだめ。絶対許さない」
「だからなんだって」
「知ってるんだから。今見てたでしょ。浮気は許さないわよ」
「浮気ってなんだよ!」
「うるさいっ!さっさと歩きなさい!」
「何なんだよお前はよう!」








『ラブプラス』 絶賛発売中。


(お・し・ま・い)

232 高須家の名無しさん :2010/06/30(水) 20:48:25 ID:???
文脈入れ替えたのかw
後者のほうがまとまっててリズムいい印象がするかな?

この調子で「卒業旅行」の完成を期待…いえなんでもないですw
お仕事頑張ってください

233 ◆fDszcniTtk :2010/07/04(日) 23:12:44 ID:D2.OX3PQ
>>232
う、卒げほっ、げほほっ

仕事はさらに忙しくなってきた(w 本スレ建て時だね。久々に埋めネタ投下とおもったら、
まだ規制が続いていた。

234 高須家の名無しさん :2010/07/11(日) 16:49:13 ID:xZr/T1zs
竜児が料理を始めたのって、いつからだろう。公式設定あったっけ。

235 高須家の名無しさん :2010/07/12(月) 02:05:53 ID:???
>>234
十巻の竜児のセリフで、「俺ができるようになってからは俺が代わったけど」ってえのがあるな。
竜児の手際を考えると小学生のうちからやってたんじゃなかろうか。

236 高須家の名無しさん :2010/07/12(月) 07:28:15 ID:???
>>235
サンキュー。やっぱり小学生の頃からだよな。

237 ◆fDszcniTtk :2010/07/12(月) 07:32:22 ID:???
規制続いているのか……。どなたか代理投稿頼む。


とらドラ!の挿入曲は名曲揃い。そのサントラがまだ売れ残っているのは
おかしいだろう常識で考えて。
ttp://www.amazon.co.jp/gp/product/B001IVU8BQ
ってことで、サントラの中から数曲選んでそれをテーマに連作してみた。
天才橋本由香里の作品をネタにするとは、我ながら無謀だは思うが、
まぁ、ご笑覧あれ。そんでもってサントラを買うのだ!

初日は「Startup」

悪いことがあっても、きっといいことがある。だから前を向いてもう一度
立ち上がろう!そういう気持ちにさせる曲。橋本由香里がとらドラ!を読んで
どう感じたかを端的に表している名曲だと思う。

238 Startup ◆fDszcniTtk :2010/07/12(月) 07:39:54 ID:???
「あんたもまぁ、よくも毎日毎日飽きずに掃除に来るわね」

リビングの掃除をする竜児に大河が言葉をかける。声の調子にいつもの棘がない。南の窓からは柔らかい冬の光が入り込んでくるものの、暖房のかかってないリビングはひんやりしていて、竜児の息も白く曇る。

あるいは独り言なのかもしれないが、それでも竜児は掃除をしながら律儀に返事をする。

「毎日俺が掃除してるからきれいなんじゃないか。お前、あっという間に汚すだろう」

大河の姿は見えない。声は隣のベッドルームから。ベッドルームの扉はあけっぱなしで、近づくとエアコンの暖気が流れ出ているのがわかる。そんなことをするともったいないし、大河も寒いはずだ。でも、竜児は閉めろとは言わない。

「何よ、その言い方。駄犬のくせに。まるで私がいつも部屋を散らかしてるみたいじゃない」

大河からも竜児は見えていない。扉は二つの部屋を見通すにはあまりにも狭い。だから話をする二人の間には少しだけ距離があって、だけど今はこの距離感がちょうどいい。ガラステーブルの上の開きっぱなしのファッション雑誌を閉じ、黒い新聞立てに挿しておく。

「はいはい。駄犬ですみませんね。大河、雑誌、新聞立てに入れとくぞ」

駄犬呼ばわりされながら、竜児は口元に柔らかい微笑みを浮かべる。

ついさっき、大河はやって来た竜児のためにドアのカギを開けた後、すたすたと歩いてベッドルームに閉じこもってしまった。ただし扉は開けたまま。今頃大の字に寝そべって、ぼんやりと天井を眺めているはずだ。引きこもりにしては開放的。

「勝手にかたづけないでよ。読みかけなのに」

だいぶ元気になったな、と竜児は思う。

10日前の大河を取り巻く環境は最悪だった。ずっと恋していた北村祐作は全校生徒の前で狩野すみれに一世一代の大告白を行い、大河に北村の中の自分の位置をこれ以上ないほどはっきりと思い知らせてくれた。むろん北村に悪気は無いが、それとこれとは別である。
そしてその場で遠回しに北村を振った狩野すみれに対し、大河は木刀片手に殴り込みをかけたのだ。

誰がどう見ても一発退学という状況の中、狩野すみれの父親による温情が大河を救った。担任の恋ヶ窪と二人でかのう屋に出向いて行った謝罪が一応の決着であり、退学になると誰もが思っていた事件は二週間の停学で幕引きとなった。

その二週間も、もうすぐ終わる。

事件直後の大河は、これが竜児の知っている逢坂大河かと思うほどおとなしかった。沈んでいたのだと思う。文化祭で実の父親にこれでもかと言うほど叩きのめされ、生徒会長選では自分の無力と失恋の苦しみを徹底的に味あわされた逢坂大河。

殴り込みの後の大河は、ひょっとすると何もかもあきらめていたのかもしれないと思う。独身によれば、職員室でもかのう屋でもいつもの傲慢ぶりはすっかりなりを潜めていたと言うし、それは驚いたことに竜児に対しても同じだったのだ。
親に心を踏みにじられ、恋にも破れ、大河はタフすぎる人生に対して、あきらめかけていたのかもしれない。

停学になってからこっち、竜児は毎日掃除に来ている。大河が散らかすから、というのはもちろん言い訳で、本音は心配で一秒だって目を離していられないのだ。大河と来たら生活力皆無で、泣き虫で、目を離すとすぐに転んでけがをする、飯を抜いて貧血を起こす。
おまけにあっという間に部屋中をかびだらけにする。絶好調のときですら危なっかしい女なのだ。それが元気をなくしたとあっては、竜児が見捨てておけるはずもなかった。

239 Startup ◆fDszcniTtk :2010/07/12(月) 07:40:37 ID:???
その心配も、もうすぐ終わる。

始めの頃こそ、「腹減ったか」「買ってきてほしいものあるか」「プリント持ってきたぞ」「夕飯持ってきたぞ」「今日の朝飯はアジの開きだぞ」「弁当、ここに置いておくからな」と話しかける竜児にも、大河はうん、うん、と返すだけでろくすっぽ会話が成立しなかったのだ。
まともに話したのは「ご飯はうちで食べるから持ってきて。停学中だから」くらい。

そのコミュニケーション不全もゆっくりと快方に向かい、今週になってからは竜児の一言一言に「減ったわよ、悪かったわね」「プリン」「おいといて」「遅かったじゃない。飢え死にしたらどう責任とる気なのかしら」「たまには肉を持ってきなさいよ」「うん」と、
罵詈雑言混じりの返事が返るようになってきた。

大河らしくなってきた。

少しずつ元気になっていく大河に、竜児は喜びを隠せない。始めはベッドルームのドア越しの会話だった。今はそのドアも開いている。そのうちリビングのチェアに座ってあれこれ竜児に悪口を言うようになるのだろう。それでいいのだ。早くそうなれ、と心の中でエールを送る。

完膚無きまでに打ちのめされても、きっと大河は大河は立ち上がる。文化祭の時もそうだった。今回だってそうに決まっている。小さな虎は打ちのめされても、やがては自分の脚で立ち上がり、世界に向かって再び吠えるのだ。それでいい。そうじゃなきゃいけない。

どれだけ世界が大河につらく当たっても、大河はちゃんと立ち上がる。竜児はそれを知っている。きっと来週は何も無かったように竜児に当たり散らしながら、元気に欅並木の通学路を歩いていることだろう。えらそうに、つんとあごをあげてすました顔で。

その姿を想像するだけで、竜児は優しい微笑みを漏らしてしまう。

大河の停学も、もうすぐ終わる。そしてまた、新しい日々が始まる。

(おしまい)

240 ◆fDszcniTtk :2010/07/12(月) 07:44:25 ID:???
>>237
あああ、橋本由香里じゃなくて、橋本由香利だった orz

241 ◆fDszcniTtk :2010/07/13(火) 01:27:43 ID:???
みんなコメントサンキュー!そして代理投稿の人もありがとう。

サントラからの連作二日目は「Happy Monday」
タイトル通り、今週もいいことあるぞ!と思わせる小曲。

242 Happy Monday ◆fDszcniTtk :2010/07/13(火) 01:28:20 ID:???
「あーいいお天気!毎日こんなふうにいいお天気だったらいいのに。ね、竜児。お弁当のおかず何?肉?何肉?」

ゴールデンウィーク明けの初日。竜児と大河は久々の通学路を並んで歩く。さわやかない色合いの空に加えて、空気も新緑の香をはらんで、一年で一番さわやかな季節であることを思い出させる。

「朝から何なんだよおまえは。今日は塩じゃけにきんぴらごぼう。それからホウレンソウのおひたしだ」
「『何なんだよ』って、何よ。おかずを聞いちゃいけないって法律でもできたの?あと、塩じゃけってお肉じゃないじゃない」
「さっき俺んちで朝飯食ったばっかりで、いきなり昼飯の話かよ。それに塩じゃけは動物性たんぱく質だ」
「朝ご飯は朝ご飯、昼ご飯は昼ご飯よ。私はご飯のことはちゃんと知っておきたいの。喜びなさい、あんたは駄犬だけど料理の腕前だけは私が認めてあげてるんだから。
それからたんぱく質だろうが魚は魚よ。お肉とは認めない。いいこと?明日からは必ず肉を入れるのよ。具体的には豚か牛」
「はいはい、認めていただいて光栄です。まぁ、料理の腕はともかく、お前が鶏を肉と認めないなら、それでもかまわねぇけどな。お前の弁当、一生鶏抜きな。唐揚げの脂の乗った皮の裏側を食えねぇとは、お前もかわいそうな奴だぜ」
「なんてひどいこと!あ、みのりーん!」

目付きの悪い少年を従えて歩く小柄な美少女。いつも通りの凸凹コンビ。さわやかな風に心浮き立てて、ついつい気を抜いたか、これからたった一時間後、恐怖の転校生が二人の目の前に現れるなど想像もしていない。

いい色に日焼けした少女と合流した二人は、つかの間の平穏を楽しみながらいつもの通学路を元気に歩いていく。

(おしまい)

243 ◆fDszcniTtk :2010/07/13(火) 23:30:02 ID:gS8urfP2
PC壊れた orz

244 高須家の名無しさん :2010/07/13(火) 23:32:15 ID:???
なんてことだ/(^o^)\

ってか、連作はGoogleDocとかでクラウドの保護下・・・なわけないか。

HDDが無事なことを虎と竜の神に祈る。

245 高須家の名無しさん :2010/07/13(火) 23:35:54 ID:???
>>243
なんと!待ちます。
昨日分はもう一山欲しかったです。
大河との弁当論議の中にこうなんと言うか、罵倒の中の愛情分を隠せない大河の表情とかで。失礼しました。

246 ◆fDszcniTtk :2010/07/14(水) 00:23:27 ID:9CZ2iK8I
>>244
ご名答、テキストは雲の中だから無傷。ただ、投稿作業がネットブックになるから、
めちゃめちゃ苦痛だわ。大河だったらグズグズグズグズグズグズグズグズグズグズ
ドグズアホグズマヌケのコンコンチキ!くらいは言いそうに遅い。

>>245
だよねー。俺も一山ほしかった(w
なんかこう、やってみてわかったけど、ああいうさわやかなシーンを書くのが苦手
みたいだ。

サントラからの連作三日目は「Tiger VS Dragon」

とらドラ!の喧嘩には二つある。ひとつはつらくてたまらない喧嘩で、もうひとつは
滑稽劇の色合いをまとう喧嘩。後者を飾るのがこの曲。とらドラ!を代表する曲って
わけじゃないけど、何しろ大河が竜児を襲撃するシーンで使われたこともあって印象は
強い。

247 Tiger VS Dragon ◆fDszcniTtk :2010/07/14(水) 00:26:53 ID:9CZ2iK8I
「あー、もう、みのりーん。また刺されちゃった」

ぺちっと首のあたりを叩いて、コンパクトサイズの少女が愚痴をこぼす。横ではいい色に焼けた少女が

「Oh! 俺っちは全然刺されてないぜ。たいがの血は特別おいしいのか?お前の血は何味だぁ?」

などと、おちゃらける。

ジャージ姿で座り込んでいる二人は夏の間に茂った雑草をひたすらむしりまくる。二人だけではない。二人の周りには同年代の少女が色気のかけらもないジャージに体を包まれて、うだるような暑さの中、あぢー、うざーいと愚痴りながら、だらだらと草むしりを続けている。

今日は夏休み中の最後の登校日。聞きたくもない訓示を聞かされた後、担任に指示されるまま、各組とも指定区画の草むしりにいやいやながら従事している。

「一体どうして私が草むしりをしなけりゃならないのよ。学校で人を雇ってむしればいいじゃない」

と、愚痴るのは、先のコンパクト少女、逢坂大河。麦わら帽子の下には三つ編みのロングヘアー、首にはタオルをかけて田舎少女風味。横で何が楽しいのかにこにこしながら草をむしっているのは櫛枝実乃梨。
常人には理解できない八木節スタイルでタオルをかぶるオシャレ上級者である。

「どうしてって、そりゃ労働も学業のいっかんだからだべ。さあさ、大河、がんばんなって。ほら、高須君もはりきってるじゃん」

そういって実乃梨がちらりと視線を送る先は、男子の一団。何とはなしに女子と男子別グループに分かれているのは思春期特有のテレみたいなものだが、その、男子の一団の中、一人立って檄を飛ばしている男がいる。

30 度を超える気温と厳しい残暑の強い日差しの下、まなじりを釣り上げているのは高須竜児。逆光の中でも怪しく光る白目の奥で、狂気に彩られた瞳を揺らしている姿はまるで魔王そのものである。事実周囲の空間はゆらゆらと揺らめき、土くれは地面を離れて浮かび上がり、
やがて地鳴りとともに牽属である1000の魔獣が地下の世界からあらわれたのであった。と、いうわけではなく、カゲロウ揺れる中、やる気のないクラスメイトを叱咤激励しているのである。

「あっちーよ、たかっちゃん、やめようよう」

などと泣き言をあげるクラスメイトのけつを叩きつつ、なおかつ人の倍の草をむしっていた竜児であったが、フェーズドアレイレーダーのように周囲の草の状況を監視していた高須アイの端に、一瞬目を向けた実乃梨の姿がはいったのだろう。
びくっと、体をふるわせて動きが止まる。

あうあう、と口が動いているのは、たぶん

「く、くし…えだ…」

とでも行っているのか。苦渋に顔をしかめているようだが、あれできっとにっこり笑っているつもりのはずだ。

ふと、大河は黙り込む。みんなと一緒にいった旅行では、竜児とその思い人である櫛枝実乃梨をくっつけるために大河は獅子奮迅の働きをしたのだった。しんかし、なんだか腑に落ちないところがある。どうも二人は大河が見ていないところでその距離を縮めたように思えるのだ。

「おう、たいが。ごらんよ。高須君あんなに汗びっしょりで苦しそうにしているよ」
「みのりん、あれ笑ってるんだよ」
「ええ?そうかい?日射病で倒れそうに見えるぜ」

やっぱり距離は縮まっていないのかもしれない。

安堵とも竜児に対する憐れみともつかない小さなため息が漏れる。しかし、そんなそんな大河の気持ちも知らず、竜児は照りつける日差しをモノともせずにクラスメイトを鼓舞している。その姿がちょっと気に障ったのは、単に意地悪な気持ちだったのか、
それとも横にいる実乃梨にだけ竜児が視線を送ったからなのかは、大河にもわからない。

248 Tiger VS Dragon ◆fDszcniTtk :2010/07/14(水) 00:27:52 ID:9CZ2iK8I
「痛っ」

突然の刺すような痛みに竜児がほほを押さえ、次にこちらに視線を送る。大河のほうはしてやったり、と猛獣の笑み。右手は小石を親指ではじいたままの形。手乗りタイガーともなれば、おはじき遊びも流血騒ぎになりうる。

「何やってんだよ大河」
「あら、どうかしたの?」
「石ぶつけたろう」
「ぶつけてないわよ。石が草むしりの邪魔になったからどけたのよ」
「俺にぶつけたじゃねぇか」
「私の前に生意気な石が立ちはだかったから排除しただけよ。それともなに、あんたも立ちはだかろうっての?草をむしるのにも飽きたしあんたの髪の毛むしってやるのもいいかしらね」

がるる、と唸り声をあげて立ち上がる大河はいきなりやる気満々の中腰。竜児のほうはしょっぱなから『うっ』と腰が引けているが、想い人の手前かぐっと踏みとどまり、たいていの高校生が目をそらす三白眼を全開にする。喧嘩なんかする気はないのだが、
とりあえず殺る気まんまんには見える。

「暑いのに(夫婦)喧嘩やめろよ」

と、迷惑そうにクラスメイトがつぶやくが、そうしつつ二人のために場所を空けることも忘れない。手乗りタイガーの破壊力は4月の大暴れで証明済みだ。巻き込まれたら死ぬ。仲裁に割っても死ぬ。あと、超小声で言った『夫婦』を聞かれても死ぬ。

こんな場合、自分で仲裁しようとしてはいけない。駅にある不審物を自分で何とかしようとしてはいけないのと同じだ。エキスパートを呼ぶべきなのだ。2−Cにもこの手の事態を治め得るエキスパートは居る。

しかし。

「おーい、どこだよ北村先生、どこだよ」

北村祐作はどうやら生徒会長の指揮と青空の下、各部署を走り回って不在らしい。

「あれー、あみちゃんはどこ?」

とりあえず手乗りタイガーを煙に巻く能力の高そうな川嶋亜美は、美少女トリオごと姿を消していた。どうやら紫外線から避けるべくどこかの日陰でさぼっているらしい。

そして最後に残った頼みの綱である櫛枝実乃梨は

「OH! 夫婦喧嘩?ファィツ!!」

と、妙なテンションでポーズを決めて火に油を注ぐ構え。仲裁は期待できそうにない。こうなったら、ひたすら遠巻きに見守るしかない。もちろん横目でだ目があったら死ぬ。

睨みあう大河と竜児の周りには、いつの間にか灼熱の円形闘技場ができあがる。そして言うまでもないが、こんな場合すたすたと無造作に間合いを詰めるのは大河である。話し合いなどするはずがない。一気に暴力でカタをつけたほうが早いとでも思っているのだろう。

「ちょ、大河お前なんだよ!」

と、竜児があわてるものの、時すでに遅し。虎は必殺の表情。

249 Tiger VS Dragon ◆fDszcniTtk :2010/07/14(水) 00:28:27 ID:9CZ2iK8I
ああ、高須死んだな、とギャラリーが遠目の横目で見守る中、びっと空気を切り裂いて手乗りタイガーの回し蹴りがさく裂した。と、だれもが思った。でも炸裂しなかった。

かっこ悪くも顔の前で手をクロスして顔を伏せる竜児の、そのまさにガードを打ち砕く寸前で、ジャージに包まれた大河の足が空中でぴたりと静止している。

「あれ?」

と声をあげたのは竜児。本人も死んだと思ったのだろう。目の前で制止する小さなあんよを見、そしてそのあんよの持ち主である手乗りタイガーを見降ろす。

「あ、あ、あ、あんた。なななに持ってるのよ」

大河のほうは視線どころの話ではなく、顔色を変え、目を見開いて身震いしている。その見開いた先には…

「何って、ああ、これか。さっき日干しになりそうだったから救い出して花壇に逃がそうと思ってたんだよ」

頭をガードする竜児の手には、ミドルサイズのミミズが一匹垂れ下がってにょろにょろとうごめいていた。ひぃぃぃぃぃっと声をあげたのは大河。そのまま猛然と後ろに吹っ飛ぶと、ごろごろっと後ろ向きに転がって、
草をむしり終わっていない校庭の一角にひっくり返った蛙のごとく無様に倒れこむ。

「なんだよ、ミミズぐらいでそんなに驚くなよ。てか、お前ミミズを何だと思ってるんだ。ミミズが土を食べて穴をあけるから土が耕されて肥沃に…」
「うるさーいっ!よるな!」

ダーウィン先生が聞いたら涙を流して喜びそうな場違いな講釈など耳に入るはずもなく、大河はその辺の草をむしって竜児に投げつける。猛烈なスピードで射出される草だが、残念なことに全部空中で失速して散らばるばかり。
こうなると手乗りタイガーもかわいい女の子に見えるから不思議不思議。

一方の竜児は目の前にミミズを掲げて見る。目を眇める姿は、のたくるミミズを巨大化させて校舎ごと破壊せんとする悪魔のようだが、もちろんそんなことは考えていない。大河がなにをそんなに嫌がっているのか純粋に理解できないのだ。
この場合、否は竜児にあるようだ。下手をすると大河が女子であることを忘れているのかもしれない。

「わわわかったから、そのミミズを捨てなさい。私の視界からすぐに取り除きなさい!」
「はいはいわかりました。ほら、ちゃんと花壇に放した。お前もいつまでひっくり返ってんだよ。ジャージこんなに汚しやがって」

ブチブチ文句を言いながら竜児はいつものように大河を立たせると、パタパタとジャージの泥を落としてやる。言われるままに立って、おとなしく泥を落とされている手乗りタイガー。

「お尻触るなエロ犬」
「お尻汚すなドジ。あーあ、髪にまで泥が入ってるぞ」

乱闘が起きる覚悟で見まもっていた2−Cの面々は、ホッとしつつも、いつものごとく『あの二人はわからねぇ』と心でつぶやく。

残暑の厳しい青空の下、いつも通りの平穏な大騒ぎ。

(おしまい)

250 ◆fDszcniTtk :2010/07/15(木) 01:19:40 ID:YLc7dbRY
連作四日目は「カンチガイアワー」

ちょっとオトナのシーンや怪しげなシーンで使われた色っぽい曲。ただし本気で色っぽいシーンには
使われていないところが「カンチガイアワー」のカンチガイたるところ。

251 カンチガイアワー ◆fDszcniTtk :2010/07/15(木) 01:24:14 ID:YLc7dbRY
『……ねぇ、竜児ぃ……』

月に一度、母さんはひどく甘えんぼになる。

『……なんだよ、くっつくんじゃねぇ……』

いつもはパンパン飛び出す父さんへの軽口と、『なめたら承知しないわよ』って感じの私への態度が鳴りをひそめ、言葉少なく微笑みをたたえるようになる。父さんの横に立って、柔らかそうな頬に笑みをたたえながら優しげな視線で見上げるようになる。
そのさまは実の娘の私が見ても、かわいい、と抱きしめたくなってしまう。

『……だって……』

母さんがときたまそんな風に父さんに接することに気がついたのは、小学生のころだった。横に立って見上げながら、そっと袖をつかんでみたり、あるいは父さんに身を寄せて顔をすりすりとこすりつける姿を何度も見た。
父さんと母さんが仲良しだって話を学校の友達にすると、みんな驚いた。よその家ではそんなことはしないらしい。うちの父さんと母さんは仲良しだ。それがちょっと自慢だった。

『……竜河が聞いてるぞ……』

中学生になって、私はときどき母さんがこんな風になることには別の意味があると思い当たった。それはつまり、私たちの年頃が急に関心を持つことだ。私は気づいた。あからさまな話ではあるけれど、つまりこれは夜のおねだりだと。

『……聞こえやしないわよ、それより竜児。今夜…ね?……』

母さんは、父さんにああやってサインを送っているのだ。そう思うと、私はちょっとだけ嫌な気分になった。大好きな父さんの横に立っているのは、やっぱり大好きな母さんなのだ。それなのに、まるで父さんの気を引こうとする知らない女の姿が見えるようで。

それはきっと、初めて自分が意識するようになった男と女の生々しい行為を重ねて見ていたせいだろう。

『……だから朝っぱらから甘えてるなって……』

あの子供っぽい顔の母さんと、実の子の目から見てもこわい顔の父さんが愛し合う姿をふと思い浮かべて、その生々しさに、どこに向けたらいいのかわからない嫌悪感を抱いたこともある。

『……いいじゃない、少しくらい……』

今年、私は高校2年生になった。男と女の愛にはいろいろな形があることや、家庭を持つことの意味について、中学生の時よりも少しは分かるようになった。今、奥の部屋で声をひそめて言葉を交わす二人のことも、以前よりは理解できると思う。

『……しょうがねぇ奴だなぁ……』

月に一度、母さんはひどく甘えんぼになる。

『……ふふふ……』

ガラス細工の人形のように華奢な体をパジャマに包んだ姿で父さんにすり寄り、大人の女の微笑みで視線をからみつかせているのだろう。男と女の匂い立つような空気が奥の部屋からゆっくりと広がってリビングまで入り込み、椅子や、テーブルや、私までも包み込む。

そしてこんなとき、聞く者の心臓をとろかすような声で母さんがそっと囁くことを、17歳になった私は知っている。


『私、竜児のとんかつ大好きよ』

毎月第二土曜日の晩は父さんが料理登板だ。

(お・し・ま・い)

252 ◆fDszcniTtk :2010/07/16(金) 08:08:56 ID:P4vHwVSM
サントラからの連作の最後は「優しさの足音」

第一話の冒頭シーンで流れる、その名の通り優しい曲。とらドラ!のテーマ曲として推したい。
ちなみに気分がへこむ時には繰り返し聞いていたりする。

253 優しさの足音 ◆fDszcniTtk :2010/07/16(金) 08:09:34 ID:P4vHwVSM
「母さん、ご飯もうすぐできるよ」

卵焼きを並べた皿をちゃぶ台に置きながら、母親に声をかける。それほど早起きじゃないのだけどれど、冬の朝は日が出るのも遅い。まだ、外は暗い。台所の弱々しい蛍光灯がついているだけの家の中も暗くて寒い。吐く息は白く、水は切れるほど冷たい。
もう少ししたら空も明るくなって、そうしたら南側の窓から朝の柔らかい光がこの小さな借家を満たすだろう。スリッパを脱いで歩く畳も、すこしだけ暖かくなるだろう。

「母さん!早く起きてよ」

味噌汁を並べ、ご飯をよそった茶碗をちゃぶ台においても、まだ母親は起きてこない。台所で急須と湯呑をお盆に載せながら、少年は白いため息をつく。

父親のいないこの家では、母親…高須泰子…が働いて家計を稼いでいる。物心ついたときから、外で働きながら自分の世話をしている母親をみていた少年…高須竜児…は、小学校中学年のころには、すでに台所に立つようになっていた。
泰子はそんなことはしなくてもいいと言ったが、子供から見ても泰子は働きすぎだったし、なにしろ体を壊したこともあった。だから、せめて朝の準備だけでも、と始めたのだった。
始めのころはぎこちなかった家事の腕前だが、2年ほどだった今では、すこしは手際も良くなっている。

「母さん、起きてよ、母さんてば。あーもう。泰子!起きろ!」

ふすまを開けて酒と化粧品の匂いが充満する母親の部屋に入り、寝ている泰子を揺さぶる。

「んーん、竜ちゃぁん、もうちょっと寝かせてぇ」

うつぶせに枕を抱えて丸まっている泰子を見ながら、竜児はため息をつく。帰りの遅い、というか毎日の仕事が朝帰りである泰子は、寝るのも朝4時とか5時だ。だから朝ご飯抜きでゆっくり寝ればいいと思うのだが、本人は『朝ご飯は一緒に食べる』と言い張ってきかない。
本人が起こしてくれと言っているから無理に起こしているのだ。しかし、決して寝起きのよくない泰子の姿を見て、竜児は毎朝のように起こすのをためらっている。

「じゃぁ、冷蔵庫に入れとくから暖めて食べてよ」
「だめぇ。一緒に食べる」
「どうするんだよぉ。早く決めてよ遅刻しちゃうよ」
「竜ちゃん起こしてぇ。一人じゃ起きられない」

蒲団の上でぐずる泰子の手を引っ張って無理やり起こす。女として一番美しい盛りのはずの体を覆うのは、ディスカウント・ショップで買った980円激安ジャージ。並みの男なら触れるのをためらうようなしどけない姿も、実の息子には何の効力もない。
座り込んだまま再び夢の中に落ちてしまいそうな母親の柔らかい体をゆすって立たせ、あくびをしている後ろから牛を追い立てるように洗面所まで押して歩いて顔を洗わせる。
皮膚が切れるように冷たい水に声を上げ、ようやく目が覚めた泰子をせかして今度は食卓に着かせると、やっと朝ご飯を食べられる。

だいたい毎朝こんな感じだ。

「いただきます」
「いただきマンモス!わー、今日もおいしそうにできたねぇ。竜ちゃんはどんどんお料理が上手になるねぇ」
「うん、毎日やってるからね」

そう、今日だけではなく毎朝ご飯は竜児が作っている。いつも通りの朝だ。だからいつもどおりの返事だったはずなのだが、何かがいつもと違ったらしい。目の前の泰子は小首をかしげて竜児の顔を見ている。

「おやぁ、元気ないなあ。どうしたのかな、友達と喧嘩した?」
「元気だし喧嘩なんかしないよ」

していないどころか、したことももない。痛くもない腹を探られたようで、竜児はちょっとぶっきらぼうに答えて見せる。

竜児は小学校に入るころには、自分の気持ちを殺して人に接するすべを覚えていた。そうしないと、友達から仲良くしてもらえないことを、身をもって学んでいた。竜児は、誰よりもよい子でなければ友達になってもらえない。母親しかいなくて、しかもその母親は水商売だから。

254 優しさの足音 ◆fDszcniTtk :2010/07/16(金) 08:10:11 ID:P4vHwVSM
「じゃぁ、早起きがいやになっちゃったかな。ごめんねぇ。いつもご飯作ってもらって。明日からやっちゃんがつくってあげるからね」
「ちがうよ、そんなんじゃないって」

本当にそんなんじゃない。むしろ朝起きて、早親に朝ご飯を用意することは、小学5年生の竜児自身にとって必要なことになっていた。だって、ご飯を作っている間は、自分はこの家にいてもいいのだと信じることができる。

物心ついて一度も、竜児は父親の顔を見たことがない。母親からは一枚写真を見せてもらっただけで、その写真には母親と、テレビなら出た瞬間に犯人とわかる顔をした男の人が笑って写っていた。
父親についてその他に知っていることは、ぜんぶ母親の泰子から聞いたことだった。今では、ひょっとすると生まれたときには父親はいなかったんじゃないかと思っている。

ずっと泰子と二人っきりだった竜児は、大きくなるにつれて、託児所の大人たちの会話から、学校の友達の会話から、テレビから、すこしずつ外のことを知るようになった。この世には田舎というところがあって、そこには、おじいちゃん、おばあちゃんとよばれる大人がいること、
彼らは子供にやさしいこと、お年玉をもらえること、おもちゃを買ってくれること。泰子の仕事は水商売と言われていて、テレビではあまりかっこよくない役であること、友達のお母さんはみんな水商売が嫌いであること。
友達のお母さんは、みんな泰子より10歳も年上であること。

知ってしまったこの世界のことは、小学生である竜児にはあまりにも重かった。たぶん、同じような境遇の子供はたくさんいるのだろう。母親が一人で育てている子供なんてたくさんいるに違いない。自分だけがつらい目にあっているわけじゃない。
そう思った。だからといって、そのことを忘れてしまうには、あまりにも竜児は気まじめな子供だった。

泰子はたった16歳で自分を産み、一人で育てきたらしい。それは竜児にとって恐るべきことだった。なにしろ、この気が遠くなるような広い世界でたった一人、頼れるのは泰子だけなのだ。泰子以外に、お父さんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、誰も、
竜児を育ててくれそうな大人なんか知らなかった。そしてもし、泰子が「もう、やめた。こんな子はいらない」と一度でも思っていたら、きっとそこで竜児の人生は終わっていたのだった。

泰子のことは大好きだ。だが、大好きである以上に、必要だった。泰子が今日竜児の前から消えたら、竜児も明日にはこの世界から消えるのかもしれなかった。ずっと前から『お母さんが死んじゃったらどうしよう』という漠然とした恐怖に震えていた竜児にとって、
『もし、泰子に嫌われたら』という想像は、二つ目の生死に関わる恐怖になった。

だから、竜児は家でもよい子であろうとした。小学生なりの真剣さで泰子を助け、『竜ちゃんなんかいらない』と言われないように頑張った。そんなことは考えすぎで、ひょっとすると学校の友達と同じように毎日遊んでいても大丈夫かもしれないとも思ったが、
そう考えても時たま沸き起こる不安は消えなかった。

だから、料理をすることなんて全然苦じゃない。料理をしていれば、竜児はいらない子にならずに済む。『竜ちゃんなんかいらない』と言われずにすむ。

それに本当のところ、ちょっとおもしろいなとも思っていたのだ。初めは見よう見まねだった料理も、やがて献立を自分で考え、食材を買うようになると、こんどは泰子の収入と突き合わせて値段のことまで考えるようになった。工夫すると、
少ないお金でもそこそこのご飯を作ることができた。楽しいと思った。そのうち晩ご飯も作ろうと思っている。

そういうわけで、竜児は一所懸命泰子を助け、いい子であり続けている。しかし、それでも不安はなくならなかった。漠然とした不安が時折思い出したように竜児を悩ませた。やがて大きくなったら、こんな不安にも勝てる強い大人になれるのだろうか、とそんなことを考える。

とはいえ、今日はそんな不安は一度も感じていない。不安といっても、時折心の隅に浮かぶだけなのだ。だから泰子が感じ取った何かは純粋にカンチガイなのだが、それでも正確に竜児の気持ちの真ん中を貫いていた。

泰子の問いかけに「全然なんともないよ」と振り払えなかったのは、それが理由だ。

「じゃぁ、竜ちゃんはどうしちゃったのかな。テストの成績わるかった?」
「昨日見せたじゃない。100点だったでしょ」

竜児はいい子でなければならないから、勉強だってしている。

「そっかぁ、竜ちゃん偉いっ!じゃぁ、いたずらして先生におこられちゃったか?」
「いたずらなんかしないよ」

いたずらなんかしたこともない。先生や泰子の言いつけを守らない子はいけない子だ。

255 優しさの足音 ◆fDszcniTtk :2010/07/16(金) 08:10:54 ID:P4vHwVSM
「うーん、なんだろう。ああ、わかったぁ」

そういうと、優しい顔に泰子は満面の笑みを浮かべる。

「竜ちゃん、ガールフレンドほしいんでしょう」
「ええ?」

なんじゃそりゃ、と母親の斜め上具合に箸と茶碗を持ったまま脱力する。そんなものは別にほしくない。学校でも、男子と女子は別々のグループだ。男子と女子が並んで歩くのはかっこ悪いことだとみんな思っている。

「ガールフレンドなんかほしくないよ」
「ええぇ?どうしてぇ?ガールフレンドいいのにぃ」
「いいのにぃって、母さんガールフレンド持ったことないくせに」
「だってやっちゃんは女の子だったんだもん」

何が嬉しいのか偉そうに笑うと、泰子はにこにこしながら味噌汁を啜る。一口すすって、勝手に話を進める

「竜ちゃんは優しいからきっとかわいらしいガールフレンドができるよ」
「優しいのと可愛いのは関係ないよ」
「関係あるの!優しくておとなしい竜ちゃんには、元気でかわいいガールフレンドができるんだよ。でねぇ、竜ちゃんがぁ、その子を守ってあげるんだよ」
「元気なのに守ってあげるの?」

母親のばかばかしい妄想話を話半分に聞きながら食べていた竜児が箸を止める。

「そうだよぉ。男の子はぁ、女の子を守ってあげるの。女の子はみぃんなそんな男の子を待ってるんだよぉ」

父親に守ってもらえなかった母親は、にっこりと笑って竜児に噛んで含むように言う。

唐突に頭に浮かんだのは、真っ白なもやを背景に、大きくなった自分が小さな女の子を抱きしめている姿だった。ぼんやりとしたその想像の姿は、少しだけ竜児の気持ちを軽くした。自分が守ってあげるのを待っている女の子。自分を必要とする女の子。
そんな子があらわれたら、自分はここに居てもいいのか、などと悩まなくてもいいかもしれない。少なくとも一人、『あなたが必要』と言ってくれれば、竜児はこの世にいてもいい人間になれるはずだ。

「そんな女の子、いるのかなぁ」

ぽつり、とつぶやいた言葉を、泰子が拾う。

「いるんだよぉ。もうその子はこの世に生れていて、竜ちゃんと出会う日を待っていてるんだよぉ」

本当にそんなの女の子がいるのかどうか、まだ11歳の竜児にはよくわからない。

それでも、もしそんな子が現れたら、自分は強い大人になれるような気がした。
その子のために優しい気持ちになれるような気がした。
そんな女の子がいると考えるだけで、優しい日々が近づいてくる気がした。

二人が静かに暮らす部屋の南の窓から光が奪われ、そしてひどく騒々しいけれどまばゆい別の光が与えられるのは、ずっと先のこと。

まだ竜児も泰子も知らない先のこと。

(おしまい)

256 ◆fDszcniTtk :2010/07/16(金) 08:11:30 ID:P4vHwVSM
連作はこれでおしまい。コメントをくれた人、代理投稿してくれた人、本当にありがとう!

257 高須家の名無しさん :2010/07/16(金) 22:31:35 ID:???
ありがとうございました!!
とても感動しました
お疲れ様です

258 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2010/07/31(土) 19:40:38 ID:???
まとめサイトを更新しました。
本スレが繋がらなかったのでこっちでご報告いたします。
抜けがあるようでしたら、ご指摘をよろしくお願いしますー



にゃんにゃん大河……ふぅ

259 高須家の名無しさん :2010/07/31(土) 22:24:26 ID:???
いつも乙です

260 高須家の名無しさん :2010/08/01(日) 05:21:29 ID:???
>>258
いつも乙&ありがとうございます。


本スレ(というかアニキャラ個別板)鯖移転しました。

【とらドラ!】大河×竜児【キラキラ妄想】Vol21
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1278256303/

261 高須家の名無しさん :2010/08/02(月) 01:26:11 ID:???
更新乙です。
にゃんにゃん大河 か わ い す ぎ る ! ! これで夏を乗り切れるなw

自分が書いたやつが載ってるのは、なんとなく嬉しい

262 高須家の名無しさん :2010/08/04(水) 01:00:01 ID:???
>>258
いつもありがとうございます。
自分の駄文に素敵なタイトル、感動しました。


ギシアン置いときますね。


「竜児、すごいことを思いついたわ!」
「なんだ?」
「私たちが気温より20℃くらい暑くなれば相対的に涼しくなるんじゃない?」
「……そりゃそうだろうが、20℃も体温を上げると死ぬぞ」
「やってみなけりゃわからないわよ! もしかしたらノーベル賞も……」
「間違いなく失敗だろ! 暑さでやられ放題じゃねぇかお前!」
「うるっさい! あんたも男なら黙ってコレに入りな!」
「……山岳用のエマージェンシーシートじゃねぇか!」
「そうよ。これならお互いの体温が逃げる事も無いし、保温性バッチリ」
「ま、待て! それはホントにシャレにならないならねぇ! っていうか、どこから持ってきた!?」
「問答無用! いくよ! 60℃の世界へ!」
「うわー!」

ギシギシアンアン

「大河……もう、無理……だ……」
「りゅうじー……私も……」
そのままぶっ倒れた二人は30分後、帰宅した泰子により発見された。
生まれたままの姿で……

263 高須家の名無しさん :2010/08/10(火) 17:24:40 ID:???
また規制だ、dionは解除されない。鬱だ

264 高須家の名無しさん :2010/08/12(木) 02:32:15 ID:oinaCpNI
エロいの読みたいな
ソフトエロじゃなくてしっかりエロ
性欲ぶつけながら愛情吐き出し合ってるような

265 高須家の名無しさん :2010/08/12(木) 14:00:47 ID:???
エロパロ版のきすして読んだら?

266 高須家の名無しさん :2010/08/12(木) 15:04:22 ID:???
>>264
書けばいいんだ。期待してるぜ!

267 高須家の名無しさん :2010/08/23(月) 18:40:58 ID:???
書き込みtest

書き込めたら近日中に投下させて頂きます。。。
エロくはないですがご容赦下さい

268 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 01:56:57 ID:???
>>267
お待ちしております。

269 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 17:31:37 ID:CZ7LwMdA
>>267
楽しみにしてます
エロくなくても甘くなくても大歓迎

270 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:41:55 ID:???
先日図々しくも投下予告なんぞしてしまった者です。
予告したからにはと何とか書き上げました。
何レスかお借りします。
本スレのほうへの代理転載神様、大歓迎です。

では、よろしくおねがいします。

271 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:42:20 ID:???
だめよ大河・・・あなたが竜児を疑ってどうするの?

10月某日。
暮れゆく空に一番星が輝き、街に明かりが灯りだす黄昏。
とある学生アパートの一室で、1人の少女が大いなる苦悩の嵐に晒されていた。

それにこんなこと・・・竜児を騙すことになるのよ?

心の中の善の部分が自分を諭す。
分かっている。そんなこと、言われなくても分かっているのだ。

だが。しかし。

「確かめなきゃ・・・」

―そう、フィアンセとして。

少女の悲壮な決意が伝わったのか。
遠く、犬の遠吠えが聞こえる。


逢坂大河と高須竜児。
2人が母校・大橋高校を卒業してから、1年半が経った秋の夜のことだった。

272 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:42:52 ID:???
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-

事の始まりは、およそ5時間前に遡る。

「お、あーみん。しばらく見ないうちに一段と綺麗になったねぇ」
「・・・トイレ行ってきただけのうちに、あんたの中では何年経ったのよ・・・。
つーかやっと来たのかチビ虎。遅刻は罰金だよ」
「久しぶりねばかちー。しばらく見ないうちにちょっと太った?」
「太ってねえよ!ばっちり理想体型だよ!つーか一昨日も逢ったろ!?」

今大河と一緒に居る2人、櫛枝実乃梨と川島亜美は、高校時代からの親友だ。
2日前、偶然街で出会った大河と亜美が、
折角だからと3人で集まる機会を設けたのだった。

「ったくアンタらは・・・ホンット成長しないわね」
「おいばかちー。そのセリフ、わたしの体のどこを見て言った?」
「そうだぜあーみん。私のこのマッシヴ・ボディを見て、
成長してないとは言わせねぇ」

今や麗しの女子大生となった3人。
(約1名、入学直後に女子ソフト部に入部し、
麗しさから遠く離れたガタイを手に入れた者もいる)
親友とはいえ、各自のスケジュールの都合もあって、
3人で集まったのは半年ぶりになる。
話は自然、ここには居ない4人目の親友にして、
ここに居るある1名の恋人の話に及ぶ。

「しかし、なんだね。高須君、今日来れなくて残念だったねぇ」
「うん・・・。どうしても外せない補講が入っちゃってるんだって」
「へー。結構真面目に大学生やってんだ。あのナリで」

高須竜児。大河の恋人、いや婚約者。
かつては金銭的な問題もあって大学への進学を考えていなかった彼も、
母親や祖父母の熱心な説得と資金的援助もあって進学を決意、
元から地道な努力が出来る人格と地頭の良さも相まって、
名門と呼ばれる大学に合格した。
大学2年生になった今も、高校生のときから続く2人の仲は順調だ。

「ま、違う大学に通ってんだから、予定が合わなくても仕方ないべな」

ただ、2人は違う大学に通っている。
母親の意向もあって、大河は女子大に通っているのだ。

273 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:43:26 ID:???
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-

―今更結婚に反対はしません。ただし条件を1つ、聞いてもらうわ―
そう言って大河の母親が出してきた条件というのが、
自分の母校でもある女子大への進学だった。
当然大河は反抗した。4年間のキャンパスライフを恋人と過ごす、
ストロベリーな未来が崩れてしまうからだ。

一方で、母親の言うことに反対しきれない面もあった。
もともと理系の竜児と文系の大河が同じ大学に通おうとするなら、
どちらかがある程度ランクを落とす必要がある。
それでもお互いにお互いの邪魔にはなりたくない、と、
苦手な英語・数学に果敢にも挑んだ竜児と大河だったが、
竜児は長文読解相手に、大河は微分積分相手に連日敗戦を重ねていた。

2人の間でも、もしかしたら別々の大学に通うことになるかも、という未来は、
現実味を帯びつつあったのだ。

その日もインテグラル率いる微分積分軍の攻撃を受け、
壊滅状態に陥っていた大河にとって、
母親の出した条件は彼女を更に追い詰めるものだった。

しかし希望もあった。
母親の母校と竜児のもともとの進学希望の大学は、
かなり近くに位置していたのだ。
もし別々の大学になったとしても、かつて離れ離れになった距離よりも、
遥かに近くに居られる。なら―

悩みに悩んだ末、2人は、違う大学に進む決断をしたのだった。


だが、この2人においては、これでめでたしとなるわけが無かった。

274 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:44:20 ID:???
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-

「どの道一緒に住んでんだし、アンタんとこ遊びに行けばいつでも逢えるしね」


そう、2人は今、同じアパートの同じ部屋で生活しているのだ。


母親の母校に入学する、という条件を飲んだ大河は、
今度は逆に母親に条件を突きつけた。

―わかった。遺憾だけど、お母さんの通ってた大学を受ける。
その代わり、わたし、竜児と一緒に暮らすから―

一度は駆け落ちまでした身、反対するなら再び家出も辞さない覚悟であったが、
母親は反対しなかった。
これには大河の方がズッこけた。

大河の母とて、なにも嫌がらせで"女子大に行け"などという
条件を出したわけではない。
むしろ、娘と娘の恋人のことを考えての条件だった。

自分の出身大学は、それなりに名のある女子大だ。
贔屓目にみても振る舞いに女の子らしさの欠ける大河にとっては、
いい花嫁修業場となるだろう。
また、もし将来大河が就職しようとしたときには、
その名はきっと武器になるに違いない。
それに女子大であれば、婚約者の居る娘に変なムシがつく心配も無い。

(きっと竜児君だって安心だわ)

大河の母は、娘の婚約者のことをしっかりと認めていた。
高2の駆け落ち騒動を経てしばらく後、大河に改めて紹介されたときには、
初めて正面から見るその眼光の鋭さに、思わず110番に手が伸びたものだが、
何度か会って話をする内、彼女は竜児という男のことをきっちり理解していた。
品行方正、貞操観念もしっかりしている。
話すほどに、大河のことを一番に考えてくれているのが分かった。
経済観念に至っては、しっかりしすぎて逆に心配になるほどだ。
何があなたをそこまでさせたの、と。
ぶっちゃけうちの娘にはもったいないくらいかも知れない。

当然、そんな思いを娘に話したことなど無い。今更照れくさくって話せない。
このときも、様々な思いを胸に押し隠し、ただ一言、娘に告げた、

―コッソリ同棲されるより、いっそ初めから分かってた方が、
もしものときにも動揺しないで済むもの―

少し遅れて母親の言う「もしものとき」の意味を理解した大河は、
真っ赤になって久々に暴れた。
同時に、自分たちの仲を本当に認めてくれている母親に感謝した。


漢らしさを発揮した母親とは対照的に、父親の方はすこぶる女々しかった。

「だめですッ!同棲なんて、お父さんは認めません!」

いや、最初はある意味男らしかったと言える。
世の父親が娘の口から「同棲」という単語を聞いたときに示すであろう反応を、
彼はそっくりそのまま再現した。
ようやく自分にも心を開いてくれるようになった愛娘。
血の繋がりは無くとも可愛い可愛い娘なのだ。

「嫁入り前の娘が!いくら婚約者とは言え男と同棲なんて!
絶・対・に認めませんからねッ!」

しかしこの娘には既に婚約者が居る。
"お前もいつか、嫁に行く日が来るんだろうなぁ・・・"などと、
感傷に浸る余地すらなかった。
ならば、自分の元から旅立つまでの残り少ない日々を、
共に過ごしたいと思わない父親が何処に居る?

「お父さんはなァ・・・お前が成人したら、
一緒にお酒を飲みたいと思っ・・てっ・・!」

この辺りから涙声が混じり始めた。
大河が成人式を迎えた暁には娘と一緒にお酒を飲む。
それが彼の近い将来の楽しみだった。
そのためのワイン(大河が生まれた年のものをわざわざ探してきた)が、
すでに彼の私室に秘蔵されていた。

「なのにっ・・・なんでっ、ウチを出てくなんてっ・・・言うんだよぉお〜〜〜!」

本格的に泣き出した義父。今更だが彼はシラフだ。
娘と母親はそれを醒めた眼で見ていた。
基本的にこの逢坂家では、父親の意見は無視される傾向が強かった。

275 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:44:49 ID:???
通常なら大きな障害となるであろう相手方の母親は、
もはや説得さえ必要ないほど協力的だった。

―大河ちゃん、竜ちゃんと一緒に暮らせるんだ〜。
やっちゃん、大河ちゃんのごりょーしんが反対するかもって思ってたけど、
良かったね☆―

竜児の母、泰子に至っては、同棲に反対することはおろか、
認めた上で既に大河の心配をしていたのだった。
聞く人が聞けば、苦悩の上で子どもたちの幸せを祈っての決断、
なんと立派な母親か、と思うところかも知れないが、
この人の場合、恐らく特には悩まなかったに違いなかった。

薄々、いや多分にこうなることを予想していた大河は、
一応竜児の祖父母にもお伺いを立てた。
泰子には申し訳ない話だが、この2人に認めてもらえた方が、
安心感というか達成感がある。

彼らは言った。
―自分たちは一度娘に駆け落ちされた身、今更同棲に驚きも反対もしない。
ただ、ご両親に心配をかけるようなことだけはないように―

この2人が、自分の周りでは一番ちゃんとしている大人だ。
いつかはこんな夫婦になれたら、と思わずにはいられない大河であった。


かくして大河は無事、愛しい恋人との同棲生活を手に入れた―と思いきや、
思わぬところに、いや、ある意味では想像通りに、
最大最後の障壁が彼女の前に立ちはだかった。

通常なら大きな喜びを分かち合うはずの、同棲の相手だった。

「おっ、おまっ、同棲って!」
「なによ竜児!嬉しくないの!」
「いや嬉しくねえってことはないけど・・・
ただお前、同棲ってあの同棲だろ!?」
「一緒に暮らすってこと以外に、どんな同棲があるってのよ」
「そうだよ竜ちゃん!こういうときは、男の子がビシっとしないと!」
「泰子!お前は反対すべき立場だろ!」
「え〜なんで〜???」
「いや何でって・・・」

竜児は反対した。大河と一緒に暮らせるのは嬉しい。嬉しくないわけがない。
しかし婚約者同士とはいえ、お互い結婚前の身だ。
今までも同棲みたいなものだったが、泰子もインコちゃんもいたし、
大河も夜には自分の家に帰っていた。
しかし、いくらなんでも2人っきりでの生活は、マズイ。特に夜がマズイ。
そこまで自分が信用できない。

だが、すでに竜児を取り巻く状況は四面楚歌といえるものだった。
恋人はノリノリだ。
自分の母親もノリノリだ。
ここまではいい。この母親の頭のデキからしても、予想できない事態ではない。

しかし、なぜ大河の母親までノリノリなのだ?

同棲騒動の最中、竜児は援軍を呼ぶ通信兵の心持ちで、
大河の実家に連絡をとった。
冷静になってみれば、明らかにおかしい状況だ。
反対されて然るべき恋人の実家に、その反対を求めて連絡をとるなどとは。

返ってきたのは、本来ならば最も喜ばしいもので、
しかし今の竜児にとっては敗戦を決定付ける答えであった。

―大河のこと、よろしくね♪―
―大河のごどっ、よろじぐおねがいじまず・・・―

号泣していた大河の父親のことが気がかりだが、
恋人の両親にここまで言われて決心しないのは男ではない。
2人とも自分を信用して、愛娘を任せると言ってくれている。
この信頼、決して裏切るわけにはいかぬ。
婚約者でありながら同棲に最後まで反対するのが男の姿か?
というのは言わない約束だ。

2人で暮らせば家賃も半分、という超現実的な理由も手伝い
(というか結構大きなウェイトを占めていた)、
ついに竜児は大河との同棲に同意した。

大河にとっては結局、同棲相手、恋人の攻略に最も時間が掛かるという、
なんともアホらしく、そしてこの2人らしい波乱万丈であった。

276 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:45:19 ID:???
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-

「大河と高須君、今年で・・・3年目?ん?4年目だっけ?」
「もうじき3年目だよ」
「ほっほう。ということは、何だね。
あの輝ける17歳から、もうじき3年が経つということだね・・・」
「ちょっと櫛枝。年齢の話やめてくんない」

そして、冒頭大河を悩ませていた問題の話題に差し掛かる。

「でもさ、アンタ心配になったりしない?」
「年のこと?」
「ちげーよバカ虎、流れ読めよ。高須君の話だよ」
「竜児?」
「そうだよ。いくら一緒に住んでるって言っても、別々の大学でしょ?
しかも相手は共学。それってどうなんよって話」
「どういう・・・意味?」
「イチから説明しないとダメか?
よーするに、高須君に変なムシがくっついてたりしないかなーってこと」
「!」
「さすがあーみん、いい着眼点。高須君、誰にでも優しいもんねぇ」
「見た目はアサシンだけどね。それに理系女子って地味に可愛い子多いし。
ま、当然亜美ちゃんには敵わないけど?」
「つか私、この"何とか系"っていうのが微妙に許せないんだけど。
じゃあ何?私は?マッチョ系女子?ゴリマッチョならぬ女子マッチョ?」

無論、亜美も実乃梨も本心では有り得ないことだと思っている。
竜児の大河一筋っぷりは2人とも認めているところだ。
だから、竜児への恋心をそっと隠し、2人の仲を応援してきたのだ。
ただ、まだ春が遠い身として、ちょっとからかってみたくなっただけだった。

だが、2人は忘れていた。
逢坂大河という娘は、基本唯我独尊を地でいくが、こと竜児のこととなると、
一瞬にしてか弱い乙女に変わってしまうということを。

「竜児に・・・変な、ムシ・・・別の女・・・?」
「大河?」
「竜児が・・・浮気・・・?」
「お、おいタイガー」

震える声、血の気の引く顔。徐々に潤みだす瞳に気付いたとき、
2人は同時にやっちまったことに気付いた。

「うわ、き・・・?」
「あーバカ泣くな!冗談だっつーの!」
「そ、そうだよ大河!高須君は大河一筋だって!」

慌てて全力でフォローに回る亜美と実乃梨。
何せ大河はただでさえ、黙っていれば人形のような可愛らしさ。
故にその泣き顔は破壊力抜群、世の男性方の目を引くことは受けあいだ。
さすがにこんな街中で注目の的になるのは、2人とも避けたい事態であった。

「だいたい高須君、理系なんだからさ、そもそも女っ気なんか無いって」
「そうそう、私んとこの大学でもさ、
理学部棟はいい感じにムサムサしたオーラが出てるし」
2人は全国の理系男子を敵に回す発言で、先ほどの失言を取り消そうとする。
大河も、目元を少し拭って、落ち着きを取り戻した。

「ったくアンタは。高須君のことになるとすーぐ泣くんだから」
「うっうるっさいばかちー、もともとあんたがあんなこと言うから!」
「そうだよあーみん。今のはあーみんが悪い!」
「おい櫛枝、なんでアンタも被害者顔だよ!」

言い合いながら3人連れ立って、街中へと歩き出す。

277 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:45:44 ID:???
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-

時は進み。
今、竜児とともに暮らすアパートの部屋で、鏡を前に大河は悩んでいる。
あのあとは3人でショッピングに行った。
久しぶりに遊んだ親友たちとのひと時は、とても楽しいものだった。
だが、1人になった今、どうしても亜美のあの言葉が大河の脳裏に蘇る。

朝、今日は補講の後そのままゼミの飲み会があるから、と竜児は言った。
そのことが不安に拍車をかける。
ゼミの飲み会、ゼミの仲間。そこには女の子も居るのだろうか。

【もしかしてぇ、ほんとに浮気しちゃってるかもよぉ?】
頭の中で、悪魔が大河に囁きかける。
黒いセクシー衣装に身を包んだ川島亜美の姿だった。

{だめよ大河。あなたはフィアンセでしょう?信じるのよ}
同じく天使が大河に囁きかける。
こちらは白いドレスに身を包んだ自分の姿だった。

『さぁ両者一歩も譲らず、リング中央で睨みあっております!』
何故か実況が大河に叫ぶ。
スーツと蝶ネクタイを装備した、櫛枝実乃梨の姿だった。

【フィアンセだからこそ、確かめなきゃいけないんじゃないのぉ?】

悪魔の先制ブローに天使がよろける。
おのれ、いきなりいいパンチを。

{でも、理系は男ばっかりだって・・・}

天使が何とか反撃する。
ただ、その威力は若干心許ない。

【そりゃ男は多いだろうけど、女が1人も居ないわけないでしょぉ?】
【それに理系の女って、地味に可愛い率高いわよぉ?】

見事なワン・ツー。思わずたたらを踏む天使。
体勢を立て直す前に、更なる追撃が放たれる。

【みのりんも言ってたでしょぉ?竜児は誰にでも優しいって】

"女の子の理想は「優しい男」"
本屋で立ち読みした雑誌の文句が、タライのように天使の頭の上に落ちた。
くそ、審判。今のは反則じゃないのか。

{でも・・・でも、あなたがやろうとしている事は、竜児を騙す事になるのよ!}

ロープに腕を引っ掛けて、なんとか倒れずにいる天使。
最後の切り札、婚約者を騙せるのかと叫ぶ。

だが。

【そこまでするって、愛情の裏返しよぉ?】

とどめの一撃はクロスカウンターだった。
遂にマットに倒れ伏す天使。セクシーポーズを決める悪魔。
カウントは無用。両手を大きく交差させたのは、
いつの間に着替えたのか審判スタイルの実乃梨だった。

長い逡巡を経て、大河の決意は固まった。

決着のゴングの代わりか、遠く、犬の遠吠えが聞こえる。

278 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:48:31 ID:???
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-

翌週。

竜児は正門から学部棟へと延びる道を歩いていた。
道の脇に立つ大きなイチョウの木から、黄色い葉が風に舞いつつ降ってくる。

すっかり秋も深まったな・・・。

その木を見上げ、秋の日差しに眼を細め変わりゆく季節に思いを馳せる竜児。
はたから見れば、枯れ葉を散らして邪魔くせぇ木だ、
いっそ燃やしてくれようか、という表情に見える。
人通りが少ないのが幸いだった。

でも、イチョウの葉っぱって雨が降ると滑るんだよな・・・
ホウキがあれば掃いておくのに。
ああ・・・落ち葉を集めて焼き芋もいいな。

そこまで考えて思うのは、同棲している恋人・大河のことだ。
イチョウの葉が風に舞う切ない秋の景色からではなく、
あくまで食べ物、焼き芋からの連想だった。
この休みは、ゼミの講師がやけに張り切って補講を開き、
そのまま飲み会が開催されてしまったせいで、
余り大河に構ってやることができなかった。
普段なら不機嫌そうな顔を見せるところだろうが、
どういうわけか竜児をねぎらう余裕すら見せた。

成長したのかな・・・。

それが大河の償いの気持ちからくる行動とは露知らず、
竜児は1人喜びを噛み締めていた。

「こんにちは」
言って、ゼミの教室の戸を開ける。
「よう高須。今日も怖いな」
仲間が声を掛けてくる。
「うるせぇよ」
答えながら、竜児はカバンを机に置いた。
このゼミの仲間たちも、最初の頃こそ竜児の凶眼に明白にビビッていたが、
同じ教室で学ぶようになって半年、今ではすっかり打ち解けて、
冗談交じりの挨拶を交わせるようになった。
やはり大学生ともなると、人を見た目だけで判断する者も減ってくる。
仲間に恵まれたことに、感謝している竜児だった。

「教授はまだ来てないんですか」
「うん。またメスシリンダーと愛を語り合ってるんじゃない?」
竜児の問いに答えたのは、3年生の女子だった。

このゼミの教授は大学でも指折りの変わり者だったが、
難しいテーマでも分かりやすく説明してくれると人気だった。
竜児も、初対面から自分を怖がる素振りも見せなかった
この教授のことを信頼していた。

講義開始時間から10分ほど遅れて、ようやく教授が姿を見せた。
「いやぁ、遅れてすまない。ちょっと来客があってね」
ちょっとくたびれた白衣、天然パーマ気味の髪、メガネに無精ひげ。
人が研究者という言葉から連想する研究者そのものの格好だ。

を受けたりしている。

279 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:50:30 ID:???
すいません、調子こいて投下ミスりました。
最後の「を受けたりしている」は無視してください・・・恥ずい・・・

280 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:51:18 ID:???
「さて・・と。今日のゼミを始める前に、ちょっと君らに紹介したい人が居る。
ウチの1年生でね、来年このゼミに入りたいって、見学に来てるんだ」

学生たちからそれぞれ反応が返る。ゼミの下見など珍しいものではない。
そうは言っても、特に現2年生にとっては、
ゼミで"初めての後輩"になる可能性が高いのだから、気にはなる。

教授が続ける。
「女の子だ」

反応が大きくなる。ゼミに女子が居ないわけではない。
だがやはり、理系にとっては貴重な女子成分だ。
女子は同性が増えることに喜び、男子は純粋に女の子が増えることに喜ぶ。

更に続ける。ちょっと小声で。
「かわいいぞ」

男子学生のターボチャージャーに火が入る。
この教授は中々どうしてセンスが有る、というのは、
ゼミの男子学生共通の認識だった。
ゼミの女子に可愛い子が多いのも、
密かに教授がピックアップしたのだという秘密の噂がある。
実際は人望なのだろうが、彼の奥さんが美人なのが噂の信憑性を増していた。

「入ってくれ」
教授が廊下に向かって声を掛けた。

「失礼します」
可愛らしい声と共に、注目の女子学生が教室に入ってくる。
前列の女子が口元を手で多い、
斜め前の男子が机の下でガッツポーズをかました。

それほどに可愛らしい女の子だった。
文句がつけように無いほど可憐な容貌、華奢な体。
栗色の長い髪は三つ編みにして肩から前に流し、先っぽには小さなリボン。
頭に白黒チェックのカチューシャをつけ、
潤んだ大きな瞳には、赤い太めのフレームのメガネをかけている。
クリーム色のカーディガンと茶色のチェックのスカート、黒のタイツ。
ご丁寧にカーディガンは大きめで、おなかの前で組んだ手は、
半分くらい隠れていた。

良い・・・と、溜息混じりに聞こえてきたのは、
隣の男子の心の底からの感想だった。

竜児とて例外ではなく、素直に可愛いと思った。
だが同時に、頭の中だけで呟く。
でも大河の勝ちだな、と。
まったくもって、親バカならぬ彼氏バカの思考だった。

「伊形 サキといいます。よろしくお願いします。」

彼女はペコリと頭を下げた。


客人を一番後ろの席に案内して、教授は講義を開始した。
だが竜児の見立てでは、まともに聞いているのは半分ぐらいといったところ。
残りの学生は彼女―伊形サキさんを意識して、ちょっと髪型をいじってみたり、
何とか後ろを振り向かずに彼女を見ようと限界まで眼球を動かしたり、
逆に普段より3倍くらい真面目な態度で講義を受けたりしている。

281 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:53:05 ID:???
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-

どうにもいつもと違う講義風景の中、
最後列に座りながらもなお注目の的であるサキは。
にやけそうになる口元を、必死で押さえ込んでいた。

完璧・・・完璧だわ・・・

伊形サキは心の中で自画自賛していた。
この様子では、間違いなく誰一人として気付くまい。

自分が、この大学の学生ではないということに。

そして、第一目標であるあの男子学生―高須竜児も気付いてはいまい。

自分が、逢坂大河だということに。


これこそが、悩んだ末に大河が立案した作戦だった。
即ち、竜児の浮気疑惑を直接確認するために、変装して竜児の大学に乗り込む。
竜児は部活やサークルには入っていない。
となれば、最も浮気の可能性が高いのはゼミだ。
そこに、見学に来た後輩という仮面を被って潜り込む。

大学というのは、えてして非常に警備が甘い。
そもそも学生が多すぎて、誰が本当にこの大学の学生か、
見ただけで分かる者など存在しない。
学生っぽい格好をして平然としていれば、
例え正門の警備員の前を通っても疑われることはまず無い。
ましてや、もともとこの大学に知り合いの居ない大河にとって、
ひとたび大学内に潜入してしまえば、バレる可能性はほぼゼロに等しかった。
万一誰かに学生証の確認を求められても、忘れたの一言でどうとでもなる。

格好にも注意した。
普段は梳かしただけの髪の毛を、丁寧に編んで一本の三つ編みに。
服もいつものフワフワフリルのものではなく、理系女子っぽくシンプルに。
カーディガンは母親のお下がりだが、大河には少し大きい。
母は、中学のときに使ってたんだけどね、とか苦笑っていたので、
なんかムカついてタンスに叩き込んであった一品だ。
ついでに伊達メガネまでかけた。
鏡で自分を見たときは、化ければ化けるもんだと我ながら感心した。

そして名前。
さすがに逢坂大河と名乗るほどバカではなかった。
逢坂大河。AISAKA TAIGA。
このローマ字を入れ替えて、余ったAA
―それは忌々しくも、自分の胸のサイズを表す文字列だ―を投げ捨てる。
IGATA SAKI。伊形サキ。
ここから自分の本名を導くことは不可能だろう。

282 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:55:14 ID:???
つくづく完璧な計画だと大河は思った。
事実、このゼミの教授も、「来年から始まるゼミの下見に来た」という大河
―いや、伊形サキの言葉をやすやすと信じた。
竜児の大学のシステムは、竜児本人から聞いて知っていた。
これで気が済むまで竜児の疑惑を調査できる。

ただその完璧さゆえに、大河は重要な事実に気付いていなかった。
「竜児の浮気」という大前提が、そもそも存在していないという事実に。

そうとは知らない大河は早速、教室を見渡した。
このゼミには、男子学生が12人、女子学生が4人いる。

―おのれ、ばかちー。何が男ばっかりだ。4分の1は女じゃないか。

男ばかりで浮気の心配なし、というのが理想の結果であった大河にとって、
これはしょっぱなからよろしくない。
男同士の浮気の可能性は?という声が脳の奥底に生まれたが、
意識として認識される前に彼女の守護霊が握りつぶした。

―そのくせ可愛い子が多いとかいう無駄な情報ばっかり正確とは。

心底役に立たない奴め。
本人が居ないことをいいことに、ボロクソに文句を言う大河。
実に遺憾な事態だが、確かに女の自分から見ても可愛いのが何人か居る。

教授にもらったゼミ生の顔写真付き名簿を見る。
女子4人のうち2人が3年、2人が2年。
本来4年生もこのゼミには居るのだが、卒業研究の追い込みもあって、
2,3年生とは時間割が別らしい。

とりあえず女子全員の後姿を確認する。
名簿を見る限り、大河の警戒リストに載るほどの顔立ちの女子は、
3年に1人、2年に1人。他の2人もクオリティは高い。
3年のリスト入り女子は指輪をしているのが見えた。
あいつはセーフか?いや、お互い浮気という可能性も。

いずれにせよ、講義中に調査するのは無理だろう。
小さく息を吐いて、大河は黒板に眼を送る。
バリバリ理系のゼミの講義は、文系の大河にはさっぱりだ。
これならまだ「ふっかつのじゅもん」の方が憶えられる。
早々に諦めると、自然と眼が行くのはやはり竜児の方だった。

なぜかそわそわしている男子の横で、姿勢正しく教授の話を聞く竜児。
正面から見れば相変わらず妖刀村雨といった目つきだろうが、
まっすぐに教授と向き合うその姿はカッコイイと思えた。

普段、あんなふうに講義を受けてるんだ・・・。
もしわたしも一緒の大学に通ってたら、もっと近くに座れたのに。
学食で一緒にごはんを食べたり、図書館で一緒に勉強したり。
でもそしたら、同棲は無理だったかしら?
そういえば、ここの学食って美味しいのかしら。
理系は男の子が多いから、結構量重視かも。
学食で思い出したけど、今日の晩ご飯なんだろ。

結局、残りの講義の時間中、大河は竜児を眺めて過ごした。

283 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:57:25 ID:???
講義の終わりを告げるチャイムが鳴った。
早速大河の周りに学生が集まる。
「伊形さん、って呼んでいい?俺の名前は―」
「伊形さん、1年生なんだよな?理学部の何科?」
「サキちゃんって、どの辺りに住んでるの〜?」

思わずどけぃ!と怒鳴りそうになって、
椅子に座ったままこちらを見る竜児に気付き、危ういところでそれをこらえた。
ダメだダメだ、今の自分は後輩の伊形サキ。
間違っても竜児に正体がバレてはいけないことを忘れるな。
もしバレて問い詰められたとき、理由を誤魔化し通せる自信は無い。

こういうとき、後輩ならどうするか。なりきるのだ。伊形サキに。
少し考えて、大河―いや、伊形サキは少し高めの声を出した。
「あ、あの。改めて自己紹介させてください。先輩方」

一生懸命なその様子に、一同の心が和む。

「初めまして。理学部物理学科1年の伊形サキといいます。
今日はゼミにお邪魔してしまってすみません」

物理学科は竜児の所属する学科だった。というか、そこ以外知らない。

先ほどからこちらを見つめる竜児が気になる。
声でバレたか?もっと高い声を出すべきだったか。

見つめ合う2人に気付いたのか、男子が声を掛けてくる。
「あー高須、お前睨んじゃダメだよ。俺たちはもう慣れてるからいいけど」
女子が重ねて声を掛ける。
「伊形さん驚いちゃった?ごめんねぇ。あの人見た目は怖いけど良い人だから」

「い、いや別に睨んでねえから!」
竜児は動揺しつつ返事をした。
嘘は言っていない。ただ見つめていただけだ。
何となく大河に似てるなぁと思って。
だがそれを口に出すことはできない。
ただでさえ、ことあるごとに彼女持ちの自分をからかう連中だ。
恋人に似てるから見てた。なんて言えば、
こいつらときたら、高須君たらハレンチ〜♪などと合唱しかねん。

そしてハタと気が付いた。伊形さんが不安そうな眼でこちらを見ている。
そうだ、最近めっきり忘れがちだったが、自分の目つきは凶器だった。
いかん、と思った。何とかこちらから声を掛けなければ。
そして誤解を解かなければなるまい。
これで彼女が怯えてゼミを変えるなどという事態になっては、
冗談抜きで男子たちに土下座させられる。

「え・・っと、物理学科2年の高須・・です。
っと、同じ学科なんだよな。何か・・おう、何か分からないこととかあったら、
遠慮なく聞いてくれていいから」
そこまで言って、ちょっと言い方がぶっきらぼうか?と考える。
何せ他人に気を配ることにかけては、1000人規模のこの大学でも、
彼の右に出るものはそうそう居ないだろう。

「いやホント、目つきはこんなんだけどさ、マジで睨んでたわけじゃねえから。
だから、その、なんだ。このゼミにようこそっていう気持ちをこめてだな・・・」
やばい、混乱してきた。元々女性と話すのが得意な方ではない。
ましてや後輩の女子と話すことなんて、高校のときでもほとんどなかった。

危険な眼をくるくるさせながら言葉を考える竜児を見て、サキが小さく笑った。

「ふふ、先輩。そんなに慌てないで下さい。ちょっと驚いちゃいましたけど、
先輩がいいひとっていうのは分かりますから」
「お、おう。そうか。ありがとう・・ん?ありがとう?」
「ふふ、ふふふ」

・・・まったく、いいかっこしようとしちゃって・・・。
どうやら竜児は、伊形サキの正体にまったく気付いていないらしい。
その安心も手伝って、大河はつい笑い出してしまっていた。

ゼミの学生たちは、この魔王と美少女の交流を生暖かい目で見ていた。
この娘はええ子やで・・・と、何故か関西弁の感想が聞こえる。

「ねえ、サキちゃん。時間があれば、みんなでカフェテリア行こうよ」

こうして伊形サキは、早くも竜児たちのゼミの人気者となったのだった。

284 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:58:21 ID:???
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その日の夜。

「ただいま〜」
「おう大河。おかえり。今日は遅かったんだな」
「ちょっと友達とお喋りしてて」

伊形サキから逢坂大河に戻って、大河は部屋に帰ってきた。

「ごはんなぁに?」
「サンマと肉じゃが。もうすぐできる」
「じゃ、待ってる」

にこ、と笑って大河は奥に引っ込んだ。
竜児から見えないところまで行って、ガッツポーズを1つ打つ。
返す返すも今日の作戦行動は完璧だった。
どの道浮気調査は一度では終わらない。
ゼミに頻繁に顔を出せるようになるため、いかにして溶け込むかが
最大の問題であったが、今日1日でその問題は解決した。

あのあと、竜児のゼミのメンバーと大学内のカフェでしばらく話をして、
伊形サキは見事に彼らと仲良くなった。
竜児のゼミは週2回開講らしい。
これで次回以降また顔を出しても、全く問題はないだろう。
今日の伊形サキは完璧に近い良い後輩だった。
まったく自分にこれほどの演技力があったとは。

更に嬉しい誤算は、伊形サキが竜児と仲良くなれたことにあった。
カフェでいつものようにドジをやらかしかけた大河
―サキを、竜児が助けてくれたのだ。
竜児は内心、こんなとこまで大河に似てるんだなと思ったものだが、
そうこうあって帰る頃には竜児をちょっとからかえるぐらいになれていた。
これなら、浮気調査もより円滑に進められるだろう。

既に大河から罪悪感は無くなりつつあった。
ゼミの後輩・伊形サキに対して、竜児は大河の知らなかった顔を見せる。
(竜児的には他人なのだから当然だが)
そしてなにより、叶わぬ夢と諦めていた竜児とのキャンパスライフが
実現したことの喜びが大きかった。

浮かれる心を、しかし大河は戒めた。
いけないいけない、これはあくまで浮気調査なんだから。
今日のカフェでも、竜児は結構女子に人気があることが窺えた。
やはり次回もゼミに顔を出すべきだろう。
1人決意を固めたところで、竜児の声が掛かる。

「大河、できたぞ。手ェ洗ってからこいよ」
「分かってる!まったくあんたは母親かっての」

小さなちゃぶ台につく2人。
以前竜児の家で使っていたちゃぶ台より一回り小さいそれは、
大河がごはんはどうしてもちゃぶ台で食べたいと言って買ったものだ。
食べてすぐ寝っ転がれるのがいいの!と言うのが表向きの理由。
本音は、大河の食事の思い出には、いつも高須家のちゃぶ台があったから。
そして、テーブルと椅子よりも、ちゃぶ台の方がお互いの距離が近いから。

姿勢よくサンマをほぐしていた竜児が、そういえば、と話し出す。
ちなみにほぐしているサンマは大河の分だ。
「今日、ウチのゼミに見学の後輩が来たんだ」
「・・・ヘエ。ドンナ人?」
「?なんでそんなカタコトなんだお前。
いや、それが珍しく女の子でな。男連中が盛り上がってたよ」
「ふうん。その子・・・その子、可愛かった?」
テレビを見ながら問う大河。少し考えて竜児は、
「けっこう、な」
そして心で呟く。お前には負けるけど、と。

「ふうん」
答えた大河は実際心臓バクバクだった。可愛い。この男、可愛いと言ったか。
それは私だ。あんたが可愛いと言ったのはこの私。普段滅多に言わないくせに。

そこまで考えて、はた、と大河は気が付いた。
竜児が可愛いと言ったのは伊形サキ。だが竜児はサキは私だと気付いてない。
つまり、今の「可愛い」は・・・。

「あ、あんた・・・」
「?」
「その子と私、どっちが可愛いってのよ!!」
「ぶお!?米を口に入れたまま怒鳴るな!」
「うっさい!!答えなさい!!答えによっては・・・!!」
「待て、分かった!まずは落ち着け!」

虎と竜の夜は、こうして更けていく。

285 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:59:33 ID:???
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-

「こんにちは」
言って、ゼミの教室の戸を開ける。
「あ、サキちゃん!今日も来てくれたんだね!」
3年の先輩が声を掛けてくる。
「すみません、またお邪魔します」
答えて、指定席の一番後ろへと歩いていくサキ。
彼女の死角で、ハイタッチを交わす男子が居た。
このゼミの女子は比較的クオリティが高いとは言え、伊形サキはまた別格だ。
早速、話に混ざろうと腰を浮かせる男子―
「うっす」
―のすぐ後ろに、鬼が立っていた。
「ぎょえ」
「おう、何変な声出してんだ」
普通に教室に入り、サキを見つけてちょっと目を大きくした竜児。
その表情は、凶気を宿した戦場の鬼と呼ぶにふさわしいものだった。

「こんにちは、高須先輩。また来ちゃいました」
「おう、いや、大歓迎だ」
サキと竜児が言葉を交わす。
ゼミ生には不可解極まりないことに、この鬼神と美少女は何故か仲が良かった。
正体を暴いてみれば同棲中の婚約者同士、仲が良いのは当然のことだったが、
そんな理由を知る由もないゼミ生たちは首を捻るばかりだ。

その脇に立つ女子が、お?と声を発した。
「あれ?なんか良いニオイする?」
「おう、昨日新作のクッキーを焼いてみたんだ。
また感想を聞きたいと思って持ってきた」
「ほんとに?やったあ!」
竜児は時折、自作のお菓子をゼミに持ってきては、
皆に配って感想を募っていた。

きっかけは、まだゼミの仲間にビビられていたころ、
皆と何とか仲良くなろうと持ってきたクッキーだった。
竜児的には悩みに悩んだ苦肉の策であったが、これが猛烈にウケた。
1人暮らしの大学生は、何故か料理の腕を自慢したがる傾向がある。
だが竜児が持ってきたものは、その辺の自称"料理上手"など裸足で逃げ出し、
下手すればお菓子屋も逃げ出すかも知れないレベルのクッキーだったのだ。
それを自作だという竜児。最初は皆半信半疑だったが、
原材料から作り方まで実際にやったとしか思えない竜児の説明と、
試しに、とリクエストされて翌日には持ってきた激旨のアップルパイで、
ゼミ生たちはこれは間違いなく自作なのだと理解した。
かくして竜児は、「料理が凄まじく上手い、凄まじい顔の優しい男子」として、
ゼミに馴染むことが出来たのだった。
後に、この称号には「凄まじく掃除にうるさい」の一文が加わって今に至る。

以降、恐怖心も消えたゼミ生にせがまれるままお菓子を作る竜児であったが、
これを試作として、よりレベルアップさせたものを大河に振舞うことが出来る、
というメリットに気が付いた。
基本的に大河は食事の感想を言わない。
「マズイ」と思ってはいないだろうと竜児も予想していたが、
それでも自分の料理を客観的に評価してくれる人間が欲しかったし、
より美味しいものを愛する人に食べさせてあげれるのは喜びでもあった。
ただ、その思考は通常女性のものであるということに、
竜児は気付いていなかった。

かくして、ゼミ生にとっては美味しいお菓子が食べれる、
竜児にとっては大河に食べさせる前の練習と感想が聞ける、とお互いの
利点が一致し、このゼミではお菓子の品評会が開かれるようになったのだ。

286 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 18:59:50 ID:???
竜児がバッグから取り出したクッキーに群がるゼミ生たち。
ところが、この教室にそれを快く思わなかった人間が1人いた。
(な、な、何やってんのよ竜児・・・!
そういうのはわたしにいちばんに食べさせるもんでしょ・・・!)
伊形サキ―つまり大河である。

正直言って嫉妬であった。竜児の料理は、高校のころから自分専用だったから。
竜児が新しいレシピを憶えたときも、
大河にせがまれて初挑戦のお菓子を作ったときも、
いつも一番にそれを食べるのは大河だったし、
竜児もそれを嬉しそうに見てたのに。

実際に言ったことはなかったが、
竜児が自分好みの甘い卵焼きを初めて作ってくれたときも、
辛さ控えめに調整したカレーを初めて作ってくれたときも、
そもそも初めてチャーハンを作ってくれたときだって、
密かに大河は絶賛していた。
竜児から料理を教わり、簡単なものなら作れるようになってきた最近では、
竜児が作ってくれたご飯やお菓子から
技術や味付けを盗もうと頑張っていたのに。

それをこの男は・・・!

だが、続いてその怒りは危機感に変わった。
今回のクッキーの感想を、皆が竜児に告げている。
皆。女子もだ。
1人の女子が竜児に近づく。警戒リストに載るあの2年女子だ。
まずい、と大河は思った。
この高須竜児という男、普段料理の感想を言ってくれる人が傍に居ないため、
(大河は基本「あー、お腹一杯」が感想だし、
泰子は「さすが竜ちゃん、おいし〜い☆」しか言わない)
真剣に褒められると真剣に照れるという傾向がある。
そして例のリスト入り2年女子は、結構竜児を気に入っている節があった。
ここで自由にさせては、竜児の中で彼女の好感度が上がってしまう・・・!

大河は素早く行動した。
ゼミ生たちの後ろを風のように移動し、竜児の隣のポジションを確保。
すかさずクッキーを一枚食べ、例の女より先に竜児に感想を言う―
という計画であったが、クッキーを食べたところでフリーズした。

美味しい。
人間、あまりに美味しいものを口にすると、一瞬行動が停止するということを、
大河は身を以って知ることとなった。
しかも、竜児は新作と言うこのクッキー。これは自分の好きな味だ。
もしかして、わたしに食べさせるために練習を・・・?

大河は元来思い込みの激しいタイプであったが、
今回はその思い込みが珍しく現実とマッチしていた。
クッキーの美味しさと「わたしのために」という思い込みの一文が、
彼女から怒りも危機感も拭い去っていく。

「おう、伊形さん。どうだった?」

竜児が尋ねる。
未だ思い込みの中に居た大河は、喜びと感謝を混めて返事した。

「おいしいです・・・すごく。なんだかしあわせになっちゃいます・・・」

日向のように微笑むサキに、ゼミ生たちは皆心を射抜かれた。
男子も女子も漏れなくズギューン!という音を聞いていた。

数分後、幸せそうにもぐもぐするサキを囲んで
異常なほど穏やかな時間が流れる教室に、
教授が大変に申し訳なさそうな顔をして入ってきた。

287 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 19:00:20 ID:???
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翌日。

大学から帰ってきた大河に、竜児がおやつを作ってくれた。
大河の想像通り、あのクッキーを焼いてくれたのだ。
ゼミ生からの感想を活かし、より美味しくなって振舞われたクッキー。
大河は珍しく、心からの感想を述べた。

「ありがと、竜児。すっごくおいしい」

おう、そうか、と嬉しそうに、サキには見せなかった笑顔を浮かべる竜児。
大河は久しく忘れていた罪悪感を思い出した。

288 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 19:00:51 ID:???
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-

もう浮気調査も終わりにしよう。竜児はきっと、浮気なんかしていない。
そう思いつつも、それからも大河は伊形サキとして何回かゼミに顔を出した。
その度みんなで喫茶店でお喋りしたり、食事に行ったり。

はっきり言って今の大河にとっては、
竜児と過ごすキャンパスライフの方が重要なものになりつつあった。
ゼミに行く度、これで最後、これで最後と思うのだが、
この夢のような生活を中々終わることができなくて。

いっそバレてくれれば終わりにできるのに・・・。

大河がそんなことを考え始めた折、事件は起きた。


「告白された!?」
「声がでけえよ!」

いつものようにゼミの教室の戸を開けた大河の耳に届いたのは、
竜児とその友人のそんなやり取りだった。

「ちくしょう、なんで俺じゃなく高須に・・・」
「いや、それを俺に言われても・・・」

竜児が、告白された?
誰に?

「で、相手は?」
「同じ学科らしいけど、知らない人だ」

あんた・・・あんた、それで、どうするの?

「それで?どうするんだ?」
「いや、断るよ。俺にはもう」

詰めていた息をどっと吐く大河。
良かった。本当に良かった。やばい、ちょっと涙出てきた。

だが、彼らの話はそこで終わらない。

「そうか、高須にはもう彼女が居るんだったな。
つーかさ、俺、高須の彼女の話ってほとんど聞いたことないんだけど、
どんな人なわけ?」
「あ、私もそれ、聞きたいなー」

後ろから突然聞こえた声に、思わず体が浮き上がる。

「ひゃあ!?」
「わ!ごめんサキちゃん、驚かせちゃった?」
「い、いえ・・すみません、入り口ふさいじゃって」
「べっつにぃ〜。それより、サキちゃんも高須君の彼女の話、気になるよねえ?」
「え・・・」
「勘弁してくださいよ、先輩・・・」

困り果てた竜児の顔。だが、これはこの上ないチャンスだ。

普段竜児は滅多に好き、とか、可愛い、とか、愛してる、とか言ってくれない。
この男は、見た目とは裏腹に非常に純情かつ照れ屋なのだ。
浮気調査などとやってはきたが、
実際大河も心底竜児の愛を疑っているわけではなかった。
だが、それでも軽い疑いを抱いてしまうのは、言葉が少ないからだ。
いかに気持ちが自分に向いているとしても、時には言葉が欲しいのだ。
明確な、好意を表す言葉が。

289 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 19:01:38 ID:???
「わたしも、高須先輩のコイビトさんのこと・・・聞いてみたいです」

だが、今なら聞ける。今の自分は逢坂大河ではない。ゼミの後輩、伊形サキだ。
全くの他人という立場から、竜児に聞いてみたいことがあった。

「ほら、サキちゃんもこう言ってるし。これも後輩の勉強のためだと思って」
「何の勉強ですか、何の」
ここぞとばかりに竜児は先輩に凶眼を向ける。
完全に凶悪犯の顔だが、すでに彼の本質を知っている先輩には通じない。

いっそ逃げるか。
チラ、と入り口の方を見た竜児の目に、教室の戸を閉めるサキの姿が映った。

だめだ、これは逃げ切れん。

せめてもの抵抗に、竜児は自分から語るのは嫌だ、と意思表示する。
「聞いてくれれば答えれますけど、自分から話すのは・・・」
「あー分かってる分かってる。高須君ってそういうタイプだもんね。
じゃあ・・・聞きたい人!挙手!」
バッと皆の手が挙がる。
「料理が凄まじく上手く、凄まじく掃除にうるさい、凄まじい顔の優しい男子」
高須竜児の恋人には、皆興味があるのだった。
「とりあえずさ、どんな人?」
先輩から指名された男子が聞く。
「どんなって・・・」
「やさしい、とか、かわいい、とか、料理がうまい、とかあるだろ」
「そうか、そうだな・・・うん、そりゃ・・・かわいい・・・かな。わがままだけど。
料理は・・・最近練習してて、まだまだだけど一生懸命だから」
教室内がヘンな空気になった。擬音で表すと、ニヨニヨ、といった感じだ。
「な、なんだよ!お前が聞いたんだろ!」
「いやぁ、そんな真面目に答えてくれるとは・・・ねぇ?」
質問した男子が楽しそうに言う。
竜児は普段結構落ち着いているから、慌てているのが面白い。

「ハイ次!」
「写真とか持ってないの〜?」
女子が聞く。
「おう、いや、あるけど・・・待て、見る気か?」
「まぁまぁ減るもんじゃないし。ほら、先輩命令」
「うぐっ・・・」
先輩が詰め寄る。
竜児は上下関係にしっかりしている。そこを逆手に取った強行手段だった。
心から渋々、といった感じで、竜児が携帯を渡す。
待ち受けにするのは恥かしすぎてできないが、
2人で撮った写真がフォルダに入っていた。
「どれどれ・・・うおっ!?何コレ!超かわいいじゃん!」
先輩が叫び、携帯を質問した女子に回す。
何コレって・・・と呟く竜児を尻目に、ゼミ生が携帯を覗き込む。
反応ははっきり分かれた。
女子。キャー!かわいいー!と興奮状態に陥っている。
女子はすぐに可愛いというが、これは最上級の可愛い、だ。
男子。特に声は上がらない。
だが各自、目が竜児と携帯を往復している。
皆の心は1つだった。高須、あとで泣かす。

あぁ・・・やっちまった。
竜児は赤くなる顔を隠して窓の外を見た。
大河がここに居なくてよかった。この空気には耐えられまい。
恐らく机をなぎ倒すか、自分をなぎ倒すかするだろう。
そして空の彼方に1人謝る。
大河・・・すまん。お前を晒し者にするようなマネを・・・。
今日はすき焼きにするから。許してくれ。

290 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 19:01:56 ID:???

明るい興奮と静かな殺意に満ちる教室の中、
大河は気絶寸前のところで何とか意識を保っていた。
可愛い。この男、可愛いと言ったか。今回は間違いなく大河のことだ。
あの竜児が。滅多に可愛いなんて言ってくれない竜児が。可愛い、って。
しかも携帯に自分の写真を入れていたなんて。
わたしは携帯に入れるどころか待ち受けにしてあるけど、
竜児は絶対そんなことしてくれないと思ってた。

頭の中で喜びの宴が始まる。心臓は秒間3000回転だ。
だがまだ倒れるわけには行かない。
逢坂大河として、今は伊形サキとして、
何としても聞いておきたいことがあった。

そろり、と小さな手が挙がる。
「ハイ!お、サキちゃん!」
指名されたサキは、うつむいてもなお隠し切れない真っ赤な顔で、
小さく、しかし何故か決意が感じられる声で聞いた。
「たかす先輩は・・・その人のこと・・好き、ですか・・・?」
妙に静かになる教室。

な、なんてことを聞きやがる、この1年。
そんな目でサキを見つめる竜児。実際、全くその通りのことを思っていた。
だが、答えずに居ることは難しそうだった。
まず、先輩女子の目が痛い。生暖か〜い笑みでこちらを見ている。
同級女子の目も痛い。
楽しいネタ見つけた!という声が、目から聞こえてきそうなほどだ。
男子たちの目など、もはや直視できない。
おい・・・答えろよ・・・。てめえ、サキちゃんの質問に答えねえ気か・・・?
静かだが明らかな殺意。
バーゲンセールのとき、同じ品物を掴んだ主婦の目にそっくりだ。
普段は人の顔を犯罪者でも見るような目で見るくせに、
バーゲンのときだけは、敵兵に銃を向けた軍人のような目をする。

熱くなる顔、震える唇。
強く目を閉じ、もはやヤケのように答えた。
「ああ!好きだよ!」

竜児にとってはトラウマになりそうな歓声が沸き起こる教室から、
小さな影がそっと出て行った。

291 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 19:02:25 ID:???
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中庭。
洋風の小さな木製ベンチと外灯、1本の小ぶりのイチョウの木が立つ、
それほど広くは無い空間。
休み時間になれば人が集まるこの場所も、
夕方に近い今の時間では人影も見えない。
そのイチョウの木の下に、1人の少女が立っていた。
三つ編みにした栗色の髪、秋を連想させる色合いの服。
柔らかなオレンジ色の陽光が、棟の間を通って注いでいる。
ざあ、と吹く風に、イチョウの木の葉が舞い上がる。
そのまま一枚の絵か写真に出来そうな、切なく美しい秋の風景―

「ッッしゃあッ!!」

―が、一瞬にして崩れた。
絵の主役とも言える少女が、
無死満塁のピンチを3連続三振で切り抜けた高校球児の如く、
雄たけびと共に熱いガッツポーズをキメたからだ。
「ッしゃあッ!うっしゃあッ!!」
そのまま2度、3度とガッツポーズをかます少女。
夏の甲子園のマウンドに変わる秋の中庭。
偶然か否か、部室棟の方から吹奏楽部の演奏する「タッチ」が聞こえていた。
もうお分かりかと思うが、件の少女は大河扮する伊形サキだ。

(「たかす先輩は・・・その人のこと・・好き、ですか・・・?」)
(「ああ!好きだよ!」)

「〜〜〜〜〜ッ!!」
思い出し、感極まって映画「プラトーン」のあのポーズをとる大河。
これこそが、大河がどうしても聞きたかった質問であり、
どうしても聞きたかった答えだった。
ひとしきり喜びを体現したあと、
近くのベンチに座って改めて記憶を呼び起こす。
かわいい。すき。
今日1日で、滅多に聞けない竜児の言葉を2つも聞いてしまった。
ICレコーダーを持っていなかったのが心の底から悔やまれるが、
頭の中の最重要フォルダに確実に保存する。

心地よい達成感と幸せに浸る大河。
「!」
思わず、目から涙がこぼれる。だがこれは、幸せの涙だ。

もう十分だった。なぜ自分は、竜児が浮気してるなんて思ったんだろう。
赤い顔で。ヤケみたいな声だったけど。心から好きだと言ってくれた人を。
もはや疑いの余地は無かった。
そもそも、あんな脂肪ばい〜ん女の言うことを真に受けたのが間違いだった。

もう十分。思い残すことはないわ。
涙を拭って、未練も何もなく大河はすっきりとそう思った。

伊形サキ、ありがと。あんたのおかげで竜児と一緒に大学で過ごせた。
あんたのおかげで竜児の気持ちが聞けた。
ありがと。そして、お疲れ。

この日、伊形サキは、その使命を全うしたのだった。

292 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 19:02:45 ID:???
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「えっ!?伊形さん、転学!?」

3日後。今週2回目のゼミで、大河―サキはそう告げた。
竜児の浮気調査も終わり、完全無実の判決が大河の中で下された今、
名残惜しいが伊形サキとしてゼミに来るのも、終わりにしなくてはならない。
竜児を騙していたこともさることながら、
このゼミの人たちに見学だという嘘を吐き続けるのも辛かった。
皆、本当にいい人ばかりだから。

「はい。親の転勤で・・・。
両親は1人暮らしして大学に残ってもいいって言ってくれてますけど、
やっぱり心配だと思うので。わたし、1人娘だし」

男子たちが泣いている。冗談ではない漢の涙だ。

先輩が、眉尻を下げて悲しそうな声を出す。
「そうかー・・・残念だよホント。来年楽しみだったのに」
「本当にごめんなさい・・・なかなか言い出せなくて・・・」
「あーいや、サキちゃんを責めてるわけじゃないよ!」

皆が本当に残念がってくれているのを見て、大河は嬉しくなった。
存在からして嘘の自分を、こんなに惜しんでくれるなんて。
だからこそ、もうこれ以上、自分の勝手で嘘は吐けない。

「本当に、今までお世話になりました!ありがとうございました!」

サキはペコリと頭を下げた。

「よし!じゃあ今日は、ゼミが終わったら皆で飲みに行こ!
サキちゃんの送別会だ!」

おう!と皆から返事が帰る。
1人、この後学会に参加せねばならない教授が、廊下でハンカチを噛んでいた。

293 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 19:03:27 ID:???
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「うぷ」
「お、おう、大丈夫か?」

夜11時。
サキは竜児に背負われて、夜の道を駅に向かっていた。

「み、皆さん、お酒強いんですね・・・」
「伊形さんの弱さも、よっぽどだと思うけどな」

あはは・・・と力なく笑うサキ。
ゼミ生総出で行われた送別会では、先輩たちが無双の酒豪振りを発揮し、
理系らしく酒の混合実験などが行われた。
最後まで笑顔が絶えない会ではあったが、
ウィスキーと日本酒の混合実験で出た被害者は、笑ってられない状態だった。
大河―サキはというと、お酒に強くないことを自覚し飲まずにいたのだが、
どうしても断れない最初の一杯と、後は立ち込める酒臭さで酔っ払ってしまい、
今は竜児に背負われているという状態だ。

「確認するけど、駅でいいんだな」
「はい・・・そこからタクシーで帰れますので・・・」

奇跡的に、大河はボロを出していなかった。
なんとか最後までサキを演じきろうという女優魂が、
彼女にギリギリの理性を残していた。

ふと竜児が時計を見る。
「たかすせんぱい・・・おいそぎですか?ほんとうすいません・・・」
「ああいや、そういうわけじゃないんだけどさ」

そこで大河は気が付いた。もしかして、わたしのことを気にしてるの?

「かのじょさんですかぁ?」
サキの質問に竜児が答えた。
「ああ、メシ、どうしてるかなと思って」
言ってから、やべえ!と竜児は思った。この言い方だと・・・。
「いっしょにすんでるんですか?」
竜児は何も答えられなかった。
これだけは、あの日の彼女追及騒動でも漏らさなかった事実だったのに。

「しんぱいいらないですよぅ。だれにもしゃべりませんから」
笑い混じりのサキの声に、ふう、と竜児は息を吐く。
これがゼミの連中にバレたら、全部話すまで家に帰してもらえないだろう。

「悪いな。頼むよ」

肩越しに聞こえる竜児の声。大きくて温かい背中が、
歩くに合わせてゆりかごのように揺れる。
それがとても心地よくて、大河は夢半分のまま話し出した。

「せんぱい・・・かのじょさんのこと、だいじにしないとだめですよ?」
「分かってるよ」
半分眠っているようなサキの声に、竜児は素直に答えた。
この調子だと、明日になったら全部忘れているだろう。
「このまえせんぱい、かのじょさんのこと、すきだーっていいましたねぇ」
「それもまとめて忘れちまえ」

「たまには、いってあげてくださいね?」
「え?」
思わずサキを振り返る。
彼女は竜児の肩に顔を埋めたまま喋り続けた。
「おんなのこは、たまにちゃんといってくれないと、
ふあんになっちゃうんですから」
「・・・」
そうなのか、と素直に竜児は思った。
何故かこの後輩の言うことは、大河本人の言葉のように感じる。
想うだけじゃ、不安なんだな。大河。

「ずっと、すきでいてくださいね・・・」
「おう」
それは自信がある。絶対の自信が。

「うわきとか、しちゃだめですよ・・・?」
「しねえよ。するわけねえ」
竜児は答えた。明日になればこの子も憶えていないだろう。
だから、心からの想いを、話してみることにした。

「俺は、ずっとあいつだけだから」

返事はない。さすがにクサすぎたか、と不安になって振り返れば、
どうやらサキは寝ているようだった。

「まったく、変わった後輩だよ・・・」

呟き、少し笑ってから、サキを背負い直して駅に向かう。

294 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 19:04:12 ID:???
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サキをタクシーに乗せ、発車を見送ってから、竜児も1人家路についた。
自然と早足になってしまう。大河が腹を空かしてないか心配だった。
それ以前に、今日は遅くなるとも何とも言っていない。
もしかしたら、怒ってるかも。
電話だけでも入れようか、と携帯電話を取り出したとき、
狙ったかのように着信が入る。
大河からだ。

「もしもし?大河?」
「んぁ?竜児?」
「なんだ、お前、酔ってんのか」
「んー・・ちょっと大学で飲み会があってね、
電車無くなっちゃいそうだから、今日は友達のうちに泊まる〜」
「そっか。分かった。実は俺も今まで飲んでて、まだ家帰ってねえんだ」
「なによ〜だめいぬ〜ふぃあんせを車で迎えにくるぐらいしなさいよ〜」
「飲酒運転になるっつーの。とにかく、友達に迷惑かけんなよ」
「わかってる〜っつ〜の。あんたはわたしのははおやかー」
「はいはい、わるうございましたよ」

そこまで言って、竜児はふとサキの言葉を思い出す。

―たまには、いってあげてくださいね?―

今ならお互い酔ってるし、勢いということで誤魔化せるかも―

「大河、あのさ」
「ん?何よ」
「あのさ、その・・・」
「じれったいわね、なんなのよぅ」
「あ・・・あぃ・・・愛・・して「あ?友達のうち着いたから切るね。また電話する」

プツッ・・・っと電話が切れる。
竜児はしばらく、真っ赤な顔で電話を耳に当てたまま、口をパクパクしていた。
その顔を見た酔っ払いが、千年の酔いも一瞬で醒めたという表情で逃げていく。

ようやく携帯を耳から離し、夜空を見上げて声を漏らす。
「やっぱ難しいって・・・後輩・・・」

295 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 19:04:42 ID:???
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タクシーの中、大河も大河で、電話を切った姿勢のまま固まっていた。

あ、あのバカ。最後に何を言おうとした?酔いも一瞬で醒めたわ。

「飲み会があったから友達の家に泊まる」というのは半分嘘で半分本当だ。
飲み会があったのは本当。友達の家に泊まるのも本当。
ただ半分の嘘は、飲み会があったから帰れない、のではなく、
とてもじゃないけど今、竜児の顔を見れないからだ。

竜児の背中に揺られながら、大河は最後まで起きていた。
だから、聞いていた。あのセリフも。

―俺は、ずっとあいつだけ―

思わず心臓が止まりかけ、返事も出来なかった自分を、
竜児は寝ていると勘違いしてくれたらしかった。
とにもかくにも、一旦落ち着かなければ竜児の顔など見られない。
今帰っては、竜児の顔を見た瞬間に押し倒してキスをして、
その後恥かしさの余り殴り飛ばすぐらいの暴走をする自信があった。
だから、今日は一旦気心知れた友達の家に避難し、
落ち着いてから明日帰ろうと思っていた。

それをあの男。まさかこんな追撃を仕掛けてくるとは。
「逃がさん・・・お前だけは・・・」で有名なボスを髣髴とさせる凄まじい追撃。
これは、今夜は眠れないかも知れない。
とりあえず、宿泊先の友人に電話し、謝っておこう、と大河は思った。
今日は一晩中付き合ってね、と。

296 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 19:05:44 ID:???
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翌日。本当に一晩中友人相手にノロケ続け、
約束していた8時になると同時に家から蹴り出された大河は、
何とか落ち着きを取り戻して、ようやく自分のアパートに帰ってきた。

合鍵を使って部屋の戸を開く。

「ただいま〜」
「おう。やっと帰ってきたか。不良娘め」
「あんた、つくづく母親みたいね」
「言ってろ。待ってな、今味噌汁あっためてやるから」
竜児の顔を見ていると、昨日の事が思い出されて心拍数が上がったが、
ギリギリ何とか耐えられるレベルだった。
1日経ってもまだこれだ。やはり昨日は帰って来なくて良かった。

「昨日、あんた何の飲み会だったのよ?」
「ん?ああ、いつか話したろ、ゼミの見学に来てた後輩。
そいつが転学するからって、その送別会」
「ふうん。居なくなっちゃうのね」
「ああ。結構良い奴だっただけに、残念だよ」

そういえば、竜児の浮気疑惑は完全に晴れたが、
唯一確認していないことがあったのを、大河は思い出した。

「そういえばあんた・・・いつだったかその後輩とやらのことを、
可愛いって言ってたわよね・・・?」
「おう!?」
「あのときはなんだかんだで誤魔化されたけど・・・
今日こそ聞かせてもらおうじゃないの。
・・・わたしと、その子、ど っ ち が 可 愛 い の ?答えによっては・・・」
あの日と同じ質問を、竜児に向かって投げつける。

だが竜児は、コンロの火を止めて、息を吸うと大河をまっすぐ見て言った。

「大河だ」

ぼんっ!という爆発音が聞こえるほど、大河が一瞬で赤くなった。

「ば、ばっ、ばかいぬ!あんた朝っぱらから台所で何を言って!!」
「あっ、あれ!?たまに言わないとダメなんじゃなかったのか!?」
「なにを意味の分からないことを!あんたって奴は!あんたって奴は!!」
「待て、分かった!まずは落ち着け!」

こうして、騒がしくも楽しく幸せな一日がまた始まる。
2人がいつか求めた日々。2人、普通に、いっしょにいるだけで幸せな毎日が。


Fin











p.s. 
「そういえば、あんた、今度大学のゼミの友達っての?私に紹介しなさいよ」
「は?なんで?」
「いいからする!なんか仲良くなれそうな気がすんのよ!」
「どういう理屈だよ!」


Fin

297 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 19:13:17 ID:???
無駄に長い投下にお付きあいいただき、ありがとうございます。
ぶっちゃけ、「勘違いタイガー、化けて竜児の大学に行く」という、
まとめちまえば20文字以下ですむプロットをよくもまあダラダラと・・・

ほんとすいません。修行してまた来ます。では。

298 高須家の名無しさん :2010/08/24(火) 23:36:09 ID:???
>>297
おいしくいただきました。ありがとうございます。最後迄ドジを踏まない大河と言うのも、オツなものですね。
最後の「大河だ」のあとにドジ踏んで2人とも頭を抱えてのたうち回るというのも見てみたいです。
また、次を期待しております。

299 高須家の名無しさん :2010/08/25(水) 01:10:28 ID:???
>>297
素晴らしいっス!
20文字のプロットからよくぞここまで広げてくださいましたありがとうございます!
一晩中ノロケを聞かされ続けた友人って、大学でできた友人か、それともあーみんか。
どちらでもご愁傷様ですとしか言い用がないww
長文お疲れ様でした!

300 高須家の名無しさん :2010/08/25(水) 12:46:11 ID:???
>>297
GJ!GJ!GJ!

素晴らしい竜虎ラブラブっぷりに2828が止まりませんw

301 高須家の名無しさん :2010/08/25(水) 22:34:36 ID:???
>>297
代理完了しておきましたー
長編好きだからがっつり読めて嬉しい
改めてお疲れ様です!是非また!

しかしまた規制ラッシュなのかね
早く解除されるといいな…

302 高須家の名無しさん :2010/08/26(木) 20:38:57 ID:???
皆様

代理投稿、ありがとうございます。
そしてご感想、ありがとうございます。

書いてるときは必死でしたが今改めて読み返すと
恥ずかしさの余り窓から飛び降りたくなりますが、
皆様からのご感想で何とか命をつないでおります。

そういえば、タイトルさえ付けてないのを思い出しました。
本当すいません。今考えました。
タイトルは、「虎と竜と秘密の後輩」です。

次はもっとまともな文を投下できるよう頑張ります。
ありがとうございました。

303 高須家の名無しさん :2010/08/26(木) 20:50:59 ID:???
格好と状況からアンジーが連想された

304 Happy Monday ◆fDszcniTtk :2010/08/27(金) 00:11:38 ID:???
>>297
おもしろかったよ。次作期待している。

>>303
熊娘の役所は誰だろう

305 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 00:12:13 ID:???
あああ、またIDつけっぱなしで投稿してしまった orz

306 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:05:42 ID:???
>>303
おっしゃるとおり、実は思いっきり「オニデレ」リスペクトです。
大河さんの変装後なんか、思いっきりイメージはアンジーさんです。

アンジーさん、久々に個人的にヒット、いやスリーベースぐらいのキャラだったので、
なんとかとらドラ!と絡めてみたい!と思って書き出したはいいんですが、
じゃあどうやったらとらドラ!っぽくなるのか、と、
だいたい大河さんってあそこまでデレデレキャラじゃないやんと、
試行錯誤していたらこんなアホみたいな長文になりました。

暇つぶしに今ワードで文字数カウントしてみたら、25000字くらいありました。
大学のときの卒論より長いやん・・・と・・・。



ついで、と言ってはなんですが、上達のためには書くことだ、と思い、
またしてもアホみたいに長いヘボ文を書いてしまいました。
バカみたいな連投で申し訳ないのですが、何レスかお借りして投稿させていただきます。
アドバイス、本スレへの代理投稿、超絶大歓迎です。
今回はタイトルも先に考えてきました。「虎と竜と自慢の恋人」です。

では、よろしくお願いいたします。

307 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:06:15 ID:???
「竜児、あんた、今度の土曜日ヒマよね」
いつものように夕飯をタカりに来た大河が、茶の間から唐突に声を掛けた。
「おう、疑問文ですらねえんだな・・・。実際ヒマだけどよ」
しょうが焼きを皿に盛り付けながら、竜児が答える。

夏休みも終わりが見えてきた8月中旬。
紆余曲折を経て恋人同士、をすっ飛ばして婚約者同士にまでなった2人も、
今や来年に大学受験を迎える受験生。
今日も今日とて朝から市の図書館で勉強会を開き、先ほどようやく帰って来たところだ。

ちなみに竜児の母・泰子は、自身が店長を勤めるお好み焼き屋で
新入りバイト君の歓迎会があるからと、今日は帰りが遅くなる予定だった。

「ヒマなんじゃない。うだうだ言うな、主夫犬め」
高2のときから2人の関係も変わったが、
この娘―逢坂大河の口の悪さは相変わらず。
それでも昔はダメ犬、バカ犬呼ばわりだったのが今では主夫犬。
少しはマシになったのか。なったのか?
「はいはい、わるうござんした・・・で?土曜に何かあんのか?」
手に持ったしょうが焼きの皿をちゃぶ台に置く。
待ちに待った肉の登場に、だらしなく寝っ転がってテレビを見ていた大河が跳ね起きた。

「きたきた!あーおなか減った!」
早速箸を手に取って、肉にぶっ刺し口に運ぶ。
「こら!いただきますはちゃんと言え。農家と豚に感謝しろ」
「いただいてまふ」
「事後確認かよ・・・。あーお前、米粒ぽろぽろじゃねえか!落ち着いて食えねえのか。
だいたい箸の持ち方が悪いんだよお前は」
ご飯をかっ込み、ハムスターのようになった大河に竜児が注意する。
彼は基本物静かな性格だが、食事と掃除とエコにはうるさかった。
「ふぉんふぉあんふぁふぁうるふぁいわね」
「食べ物を口に入れて喋るんじゃありません!」
一度、この子虎にはテーブルマナーを叩き込まねばならないのかも知れん。
行儀悪く箸で皿を引き寄せる大河を睨みながら、竜児は真剣にそう思った。
それは、もし睨まれたのが大河でなかったら、箸も皿も放り出して
土下座しながら財布を差し出してしまいそうな顔だった。

「それで、土曜日が何だって?」
2杯目の米を要求しつつ、ようやく人心地ついた様子の大河に、竜児は改めて尋ねた。
「ん?あぁ、え〜っと・・・あれ、なんだっけ?」
「俺に聞かれて分かるかバカ」
「ほっほ〜う。大層な口を聞くじゃない、しゃもじ犬風情が。
ああ、今の怒りで思い出したわ。ちょっと付き合って欲しいところがあるのよ」
一応竜児のおかげ?で思い出したにも関わらず、
大河はきっちりちゃぶ台の下でケリを入れてから言った。
「いてっ!おい蹴んな!・・・ったく。んで、どこに付き合えってんだ?
まさかまた1ヶ月メシが食えるような値段の洋服を買う気じゃねえだろうな。
だったら俺は全力で阻止するぞ」
「洋服買うならあんたとなんて行かないわよ。
買うたび横で"ああ、それ買う金があれば半月は食っていけるのに〜"とか、
"それにもうちょい足せば新しい掃除機が買えるのに〜"とか、
哀れっぽく言われちゃたまんないわ。ちょっと別のところよ」

実際そんなセリフを言った憶えのある竜児は反論できなかった。
思えば、あれ以降大河の洋服を一緒に買いに行った記憶はない。

「・・・。で、どこなんだよ、それは」
「ちょーっとまだ予定が未定なの。決定したらまた話すわ」
手渡された茶碗と再び格闘し始めた大河に、これ以上聞いても答えは返って来なさそうだ。
今の話では何があるのか全く分からないが、また話すというならそれを待つか。
大河がこぼしたキャベツの切れ端を拾いつつ、とりあえず竜児はそう判断した。

308 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:07:44 ID:???
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土曜日。
「で、結局なんだってんだよ」
不機嫌さを隠さず、竜児は大河に尋ねた。
また話す、という大河の言葉を信じて待っていたら、何も聞けないまま土曜になってしまった。
朝っぱらから高須家に乗り込んできた大河に洋服を着替えさえられ、
グイグイ引っ張られて駅まで来て、切符代まで払わされて電車に押し込まれ今に至る。
いくらこの恋人が勝手極まる性格の持ち主とはいえ、いい加減理由を聞かせてもらいたい。
でなければ、券売機に飲み込まれていった野口英世も報われない。

「そうね、もう逃げられないし、いい加減話そうかしら」
不穏な前置きをして、大河は今日の目的を告げた。
「前の高校の友達がね、あんたを紹介して欲しいって」

・・・。
「は!?」

思わず電車の中ということも忘れ、竜児は大きな声を出した。
耳を押さえて顔をしかめた大河が言う。
「うるっさいわね。電車の中では静かにって、教わらなかったの?」
お前にマナーを説かれたくないわ、と頭の片隅で思いつつ、竜児は矢継ぎ早に質問を投げる。
「ま、待て待て!前の高校の友達って何だよ!?」
「何って、わたし、一時期違う高校に行ってたじゃないの。あんた忘れたの?マルツアイマー病?」
恐らくアルツハイマーと言いたかったのだろうが、今の竜児にツッコむ余裕は無い。
「そ、それに紹介ってどういうことだよ!?」
畳み掛ける竜児に、大河は哀れみと蔑みを混めた眼を向けて言った。
「イチから説明しないとダメ?」
当たり前だ。今ので理解しきれるか。

「要するに、前に通ってた学校の友達が、夏休みだからってこっちに遊びに来るんだって。
で、わたしに・・・その・・・コイビトが、居るって知ってるから・・・会ってみたいって言ってて」
最初の方はいかにも面倒くさそうな顔で説明していたのに、
"恋人"という単語を口に出すと急に、大河は照れくさそうにもじもじし出した。
その様子はまさに恋する乙女そのものだ。
もとから容貌の整っている大河のもじもじは、破壊力が高かった。
正面の若いサラリーマンが、大河を見つめてぽかんと口を開けている。
直後、竜児の顔が視界に入るや一瞬にして青ざめ、マッハで寝たふりを決め込んだ。

309 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:08:16 ID:???
だが混乱の最中にある竜児は、そんな周囲の様子に気付かない。
「じっ・・・じゃあ何か。俺は今からお前の友達に会うのか。お・・・女の子、だよな?」
「当たり前じゃないの。ついでに、紹介して終わりじゃなくてそのまま水族館に行く予定」
こいつ、だからこんな寸前まで黙ってたのか。最初に言った"逃げられない"はそういう意味か。
「だって竜児、このこと最初から言ってたら、きっと来てくれなかった」
少しむくれる大河。だが彼女の言うことは当たっていた。

竜児には、人見知りの傾向がある。彼の持つ極めて凶悪な目つきがその原因だった。
昔から、初めて会う人には必ずこの眼がビビられていた。
それがトラウマとなって、知らない人に会うのが苦手だったのだ。
ましてや今日の相手は華も恥じらう女子高生だというではないか。
会った瞬間泣き出されても不思議ではない。
少なくとも、かつて女子小学生には泣かれた経験が彼にはあった。

「わたしもさ、最初は断ろうと思ってたもん。
でもあの子たちが、どうしてもって言うから・・・。一目会ってみたいって」
そして再びもじもじモード。
「それにさ、前に・・・あっちの高校に通ってた頃に、カレシ自慢聞かされたことがあるの。
だから、わたしもさ、してみたかったんだもん。わたしのカレシの自慢、してみたかったの・・・」
うつむき、顔を赤くして、小さな声で。
今度のもじもじは先ほどよりも更に威力を増していた。

どくん、と竜児の心臓が高鳴る。
この野郎、良いパンチ持ってるじゃねえか。
だがな、審判。今のはスリップだ、ダウンじゃねえぞ。カウントとめろ。

頭の中でファイティングポーズを取り直し、
審判に試合続行を求める竜児の心を知ってか知らずか、
大河は竜児の服のすそを、きゅ、と握って、上目遣いで小さく言った。

「だめ・・・?」

心臓が、先ほどよりも大きく鳴った。
おのれ、普段はキーキーうるさい子虎のくせに。
そんなお願いの仕方、どこで習った。川島か。
少なくともお父さんは、そんな子に育てた覚えはありませんぞ。

動揺から、竜児は心の中で思わずムック口調になった。
もはや勝敗は決していた。

はぁ、と溜息をついて頭を掻き、竜児は答えた。
「分かった、分かったよ。今更帰るのも電車代がもったいねえし、
いい息抜きになるかも知れねえ。最後まで付き合ってやらぁ」
「やった!ありがと竜児!あ、安心してね、友達には"顔は怖いけどヘタレ"って伝えてあるから!」
「安心できるか!」
きゃらきゃらと笑う大河を見て、竜児も何だかどうでも良くなってきた。

もし顔が怖くて泣かせたら、謝ろう。

310 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:08:41 ID:???
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大河が前の高校の友人との待ち合わせ場所に選んだのは、
2人の住む街から少し離れた都会の駅前だった。

目印の時計台の下で、友人の到着を待つ大河。
旧友との再会の喜びもあるし、加えて竜児と遊びに出掛けるのも久しぶり。
にこにこと笑顔を浮かべている。

その横で、緊張の余り真顔になっている竜児。
"恋人の友人に紹介される"などという事態、生まれて初めてのイベントだ。
最初は何て言えば良いんだ・・・まずは名前か?名前だよな?
できれば笑いを取れればベストだが、自分にそんな話術は無い。
あれこれ悩むその顔は、敵の組長のタマ獲って来い、と命じられたヤクザのそれだった。

彼らは気付いていなかったが、微笑む美少女に声を掛けようと近づいてきては、
隣のヒットマンに気付いて逃げ出していくナンパグループが何組か居た。

「あ!あれ、大河ちゃんじゃない?」
「ほんとだ!おーい、たいがぁ〜〜!」

突然響いた明るい声。大河はパッと明るい笑顔を声の方に向け、竜児はビクリと体を固めた。
哀れにも竜児の視線が直撃した散歩中の犬が、尻尾を丸めて飼い主の足元に逃げ込んだ。

「こっちこっち!わぁ、2人とも、久しぶり!」
大河が手をぶんぶか振って友人たちを迎えている。
竜児もギギギ、とそちら側を向いた。

キャッキャと喜ぶ2人の少女。彼女らが大河の前の高校の友人たちか。
大河の名前を大きく呼んだ方は、髪を少し茶色に染めた、活発そうな少女だった。
大橋高校の親友・櫛枝実乃梨から、変人成分を抜いたらこんな感じだろうか(本人には失礼だが)。
もう片方は、セミロングの黒髪をした、お嬢様っぽい女の子だ。
去年同じクラスだった、香椎奈々子に少し似ている。ただ香椎の方が大人っぽかったかも。

「へえ!じゃあこの人が大河の彼氏君なんだね!初めまして!」

いきなり自分に話を振られ、竜児はハッとなった。
いかん、挨拶もせずに分析なんぞしてしまった。女性相手になんと失礼なことを。
そうだ、まずは挨拶。人間、初対面の相手には、一にも二にも挨拶だ。

「こっ、こんにちは、初めまして。大河さんとお付き合いさせて頂いてる、高須竜児と言います」

バッと45°まで頭を下げる竜児。
言ってから、色々変なところに気付いた。
まず、なんで"さん"付けだ。いくらなんでもテンパりすぎた。

沈黙が怖い。やばい、やはりビビらせてしまったか。
そろり、と顔を上げたところで、2人の少女が弾けたように笑い出した。

「あっははは!高須君、何でさん付けなんですか!
お父さんに挨拶するみたいでしたよ!あはははは!」
「ちょ、ちょっと笑いすぎだよ。でも、ふふ、ごめんなさい、ふふふ、私も少し可笑しかった」

一気に顔が熱くなる。何故か大河も赤面している。
「いっいや違うんだ!いや、何も違わないけど、とにかく、ちょっと緊張してて!」
「ちょっとじゃないわよこのバカ!どんだけ緊張してたらあんなんなるのよ!」
ドカ、と大河がケツに膝蹴りを叩き込む。
「おうっ!?いや、スマン。スマンがスカートでニーキックはやめろ!」

いつものやり取りを始める竜児と大河に、友人2人の笑いも大きくなる。
「あー、面白かった。でも大河が言ってたとーりだわ」
「本当ね。見た目は怖いけど凄く良い人だ、って」
「い、良い人だなんて言ってない!」
「はいはい大河、照れない照れない」
「あ、ごめんなさい、高須さん。私、怖いだなんて」
「おう、いいんだ。よく言われる」

大河が懐くだけあって、この2人の少女はかなり親しみやすい性格なようだ。
実際大河が自分のことをどう説明してくれたのかは分からないが、
彼女たちは竜児が不安に思っていたほど、自分を怖がってはいない。

「でも先に謝っとくけど、アタシも最初、うわ〜怖ぇ〜って思ったよ。
あれって大河絡まれてるんじゃないのって」
「ちょ、ちょっと」
「あんただって、最初、ヒッ、って言ったの、アタシ聞いてたよ」
「あ、あれは!ああ、高須さん、ホントごめんなさい」

いや、訂正。やはり若干の恐怖心は与えてしまったみたいだ。

「そうよ、あんたの顔が凶悪なのが悪い」
「お前は少し気遣いを覚えろ」

竜児もようやく緊張が解けてきた。

「さ!それじゃあ早速、水族館に行ってみよー!アタシ、楽しみにしてたんだー」

おーっ、と続いて声を上げる大河。本当に仲が良かったんだな、と竜児は思った。

311 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:09:08 ID:???
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水族館に向かうバスの中、竜児は2人から向こうの高校に居た頃の大河の話を聞いていた。

「・・・それでねー、普段はそんなにケータイなんか見ないくせに、
たまにチョー嬉しそうな顔でケータイ見てて」
「ちょっ!」
「そうそう、なんだか凄く一生懸命メール打ってたよね、大河ちゃん」
「ばっ!」
「ああ、こりゃあ・・・と思ったよアタシは。大河、結構男子に人気あったくせに、
男なんかに用は無ぇーって顔してたから、なんかあるなとは思ってたけど」
「まっ・・・」
「お弁当食べながら空見上げたりしてたよね」
「完全に乙女の顔でね。あとさ、この子たまに視線が上に飛ぶんだよ。
さっき気付いたんだけど、それがちょうど高須君の顔の辺りの―」
「待てぇーーい!!」

ばたばた手を振って大河が話を遮る。

竜児は口元を押さえて、真っ赤になった顔をそらしていた。
他人の口からは初めて聞く、離れ離れになっていた間の大河の話。
一部は自分にも覚えのある話だ。
大河からのメールに思わず笑顔が浮かんだり、
ふとしたときに、大河の頭がある辺りに視線を向けてみたり。そこには誰も居ないのに。
だが、大河も自分と同じように過ごしていてくれたとは。

「たまに"りゅ・・・"って言いかけて止めたりしてたけど、
そっかー。あれは"りゅうじ"って言おうとしてたん「もうやめれーーー!!」

大河が叫ぶ。
もう止めて、というのは竜児も同じ気持ちだった。
こういう話を聞けたのは嬉しい。だがそれよりも、恥ずかしすぎる。
できればバスに停まってもらって、そのまま逃げ出し行方をくらましたい気分だった。

散々大河をからかって(間接的に竜児もからかって)、
2人がゆでだこみたいに赤くなった頃、ようやくバスは水族館に到着した。

312 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:09:23 ID:???
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バスから降りた彼らを出迎えたのは、大きなヨットのレプリカだ。
この水族館は、全国的に見てもかなり大きい方だった。

腹が減っては何とやら、まずは昼食を取ろうじゃないかという2人(大河とその友)の意見に従って、
4人はシーフードレストランに入った。

ここでも話の中心は大河だった。今度は竜児が、大橋高校での大河の話をする番だった。

「・・・んで、こいつは3年の教室に殴り込みかけてな。しばらく停学食らってた」

大橋での大河の伝説の数々は、2人の友人にとってにわかに信じられないものでもあった。
彼女らの学校に通っていた頃も大河は、確かに口が悪かったりしょっちゅうドジをやったりしていたが、
竜児が話すほどの暴走をやらかしたことは無かったからだ。

だが大河にしてみれば、竜児の話は封印したい黒歴史の暴露でしかない。
「竜児・・・あんた、よくも人の過去をベラベラと・・・よっぽど命が要らないみたいね・・・」
「まっ、待て、大河。ただの思い出話だろ?」
「あんたにとってはそうかも知れないわね・・・でもわたしにとっては、それじゃ済まないのよ・・・」

パキキ、と指を鳴らして、怒りの炎をくゆらせる大河を、しかし友人たちは止めなかった。
これが自然な大河の姿なんだろうなぁ、などと、微笑ましく見守っている。
竜児としては、とてもじゃないが笑っていられないのだが。

必殺の目潰しが放たれようとした刹那、注文していた料理が運ばれてきて、竜児は危ういところで生き延びた。
「チッ・・・命拾いしたわね」
食事を前に戦闘を続行するほど、大河の腹は満たされていなかった。
まずはメシだ。

313 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:09:35 ID:???
「ん」
大河は魚料理の乗った皿を竜児に突き出した。
なんだ?と見守る友人たちの前で、竜児は「はいはい」といつものように魚の身をほぐしてやる。

「ほれ。骨もカルシウムだから食えよ。ノドに刺さらないように気を付けろ」
注意とともに大河に魚を返して、竜児も姿勢正しく食事を始める。
食事のマナーにかけてはそこらの大人よりよっぽど正しい竜児の前で、
友人たちもやや緊張気味に、各々料理にフォークを伸ばし始めた。

「あーお前、ほっぺたに葉っぱついてる」
ふと大河を見やった竜児が、呆れたように笑いながら言った。
「え、どこ?」
「待てよ、取ってやるから」
大河の頬に手を伸ばす竜児。
「ん」
目をつぶってほっぺたを向ける大河。
「・・・ほい、取れた」
小さく礼を言う大河を目の端に入れつつ、竜児は大河の頬から取ったハーブをぱくりと口に入れた。

「!」
「!」
「ん?」

大河の友人たちの様子がおかしい。
フォークにエビを刺したまま、真っ赤になってこちらを見ている。
大河もそれに気付いたようだ。

「どしたの?2人とも」

「どうしたもこうしたも・・・ねえ?」
「う、うん」
「?」
「た、大河たちさ、普段一緒にご飯食べてるときも、そうやってしてるの?」
「そうやって、って?」
「いや、だから、高須君に魚ほぐしてもらったり、さ・・・」
「ほ、ほっぺの食べかす、高須さんに取ってもらったりとか・・・」
「へ?」

大河と竜児は全くもって不思議そうな顔で2人を見ていた。

(ああ・・・これは・・・)
(本当に気付いていないのね・・・)

お皿を渡しただけで、大河が何をして欲しいのか一瞬で理解した竜児。
丁寧に魚の身と骨を分けて、小さく微笑んでそれを返して。
ん、と受け取った大河は、なんだか少し嬉しそうで。

頬についたハーブにも気付かずはぐはぐと食べる大河は、まるで子猫みたいに可愛くて。
それに気付いた竜児の声は、まるで優しいお兄さんのようで。
子どもみたいにぺたぺた顔を触っていた大河は、
取ってやるよ、という竜児に、ちょっと桃色に染まった頬を向けて。
しょうがねえなあ、と笑いながらそれを取ってあげる竜児に、ありがと、と照れくさそうに言う大河。
とどめに竜児は普通にそれを口に入れてしまった。全くもって自然に。

何なんだ、このカップル。

友人たちは同時に思った。
からかえばすぐ真っ赤になってウブだなぁ、などと微笑ましく思っていたら、
新婚夫婦も裸足で逃げ出す甘い空気で一瞬にしてテーブルを覆い、
しかし当の本人たちは、何ら意識した様子もなく食事を続けている。
事実、自分たち以外にも、隣のテーブルのカップルも真っ赤になってチラチラこっちを見ているし、
奥のテーブルからも老夫婦が、さも若いわねえと言いたげな顔をこちらに向けているというのに、
この2人はどこまでも自然体だ。

つくづく、この2人と同じ学校でなくて良かった、と思った。
昼休みに毎日、こんな2人だけの世界丸見えの光景を見せ付けられては、教室に居づらくて仕方ない。

同時に、彼らの今の同級生たちに心から同情した。
特に独り身には、この2人は劇毒以外の何者でもないだろう。

ただ、友人たちは知らなかった。実際毎日この毒を浴びている独神が居ることを。

自分たちの存在自体が無慈悲な兵器と化していることに気付きもせず、
竜児と大河は不思議そうに顔を見合わせていた。

314 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:10:16 ID:???
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友人2人に中々のダメージを与えつつ食事を終えた竜児たちは、
いよいよ本番の水族館に向かって歩く。

なんだかんだ言って竜児と水族館に来るのは初めてなので浮かれている大河と、
さり気なく、そんな大河がいつ転びかけても助けられるポジションに居る竜児。

そんな2人の後で、友人たちはこのカップルの危険性についてとつとつと語っていた。

(やばいよ、大河チョー嬉しそうだよ。メッチャ笑顔で高須君に話しかけてるよ)
(ほんと、そばで見てても丸分かりだね。あ!転ぶ!)
(うわ、高須君即助けた!?何あの動き!)

竜児の方を振り返り、後ろ向きに歩いていたせいで転びかけた大河と、
まるで予測していたかのようにその手を取って助ける竜児。
呆れ顔の竜児の注意に反抗しつつも、大河は嬉しそうだった。

あの桃色タイフーンの中に入っては無事では済まないだろうが、
傍で見ているだけなら空気が痒い程度の被害だ。
幸せそうな大河を見ているのは楽しかったので、とりあえず2人は傍観者で居ようと決めた。

315 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:10:30 ID:???
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水族館の中に入るや否や、早速水槽に駆け寄っていく大河。
「おい!中は暗いんだから走るとコケ・・・!」と言ってるそばから、
とととっ、とつまづく大河。何とか踏ん張ったようだが、あのドジ。せめて最後まで言わせろ。

後ろを振り向き、大河の友人たちにも一声かける。
「2人も、足元見え辛いから転ばないように気をつけてな。
特にハイヒールだと危ないから」
「あ、はい」

答えながら、2人はちょっと感心していた。
この男、自分の彼女だけじゃなく、私たちのこともちゃんと見ていてくれたのか。

竜児が高校で「気遣いの鬼」と呼ばれていることは、もちろん2人とも知らない。


「見て竜児、カレイ!これ食べれるよね」
「ああ。煮付けにすると美味いな」

「これ・・・も、カレイ?」
「いや、これはヒラメ。シタビラメ」
「食べれる?」
「食べれる。塩コショウとバターでムニエルにすると美味いぞ」

「竜児、ハコフグだって!これは?」
「食えるぞ」
「でもフグだし、毒は?」
「皮膚に毒があるだけだ。中身くりぬいて味噌なんかと混ぜてから詰め直して焼くと、かなり美味いぞ」


(水族館の魚見て食べれるか聞く人って、ホントに居るんだ・・・)
(高須さん、答えが具体的・・・本当に料理得意なんだね)

そうして2人の後ろからついて歩いていた友人たちだったが、どん、と誰かとぶつかった。
「いてーなおい、どこ見て歩いてんだ?」
居丈高な声を出したのは、ケバい女性を連れた茶髪の若い男だった。
「あ、ご、ごめんなさい!」
謝って去ろうとする少女たち。しかし、この男は中々に性質が悪いようだ。
「おいおいおい、ぶつかっといて逃げる気かよ」

「あの、すいません。俺の友達が、何か?」

そのとき、男に後ろから声が掛かる。
あ?と振り向いた男の眼に映ったのは、館内の暗がりの中でなお瞳に紫電を宿す戦鬼だった。
ヒィッ!と、引きつった悲鳴が上がる。


「俺の友達が何か・・・?」

妙な声を上げたまま反応のない男に、竜児はもう一度尋ねた。
はっきり言って心臓はバクバクしている。相手はどう見てもヤンキーだ。
普段なら絶対関わりたくないが、何だか大河の友人たちと揉めている。
大河をけしかければ3秒で撃滅するだろうが、こういうときは男の自分が行かなければ。

一方でヤンキー男の頭には、ヤバイ、の一言だけが浮かんでいた。
こいつはヤバイ、マジでヤバイ。この眼、間違いなく何人か手に掛けてる。
脳内でアラートが鳴り響く。絶対なる恐怖が、彼にただ1つの行動を取らせた。
即ち、謝って、逃げる。

「すっ、すんませんでした!!」

90°に頭を下げて、猛烈な早歩きで立ち去っていく男を見送り、竜児は、ふぅ、と息を吐いた。
なんとか穏便に収まった。こういうときだけは、自分の顔を形作る遺伝子に感謝だ。

「大丈夫か?」

とりあえず2人に声を掛ける。

「ぁ・・・は、はい。大丈夫です。ちょっと、怖かったっ・・・けどっ・・・」

と、1人が涙をぽろっとこぼした。

「あーあー、ちょっとほら、こんなところで泣かないの」
もう1人がなんとか慰めるも、彼女は少し落ち着けそうにない。

後ろから大河もやってきた。
「ちょっと竜児、急に居なくならないでよ・・・って、2人ともどうしたの!?」
うわやべ、と竜児は思った。
すでに問題の男も去った今、何も知らずにこの状況を見たら、
"鬼が2人の少女をいじめているの図"にしか見えない。

多分に漏れず、大河もそう思ったらしかった。

「竜児・・・あんた、私をほっぽって一体何を・・・!!」
「待て待て、誤解なんだ!とりあえず一旦外に出よう!」

今にもノド笛に噛み付いてきそうな虎と、泣きじゃくる少女。
とにかく明るいところに出て、状況を落ち着かせなければ。

316 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:10:51 ID:???
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「・・・ってことがあったんだよ」
竜児の必死の説明と友人2人のフォローを受けて、虎はようやく牙を収めた。

「ふん・・・ま、そんなとこじゃないかと思ってたけどね、わたしは」
「嘘こけ」

なんだかんだで大河をなだめているうちに、泣いていた友人もすっかり落ち着いたようだった。

「ごめんなさい、高須さん。ちょっと混乱しちゃって」
「いや、気にすんなって」

あんたのせいじゃないんだから、という竜児の笑みに、なんだかホッとしてしまう。
助けてもらっておいて失礼な話だが、さっきの竜児は怖かった。主に顔が。

「しかしナメたマネしてくれるわね私の友達に。なんで水族館ってお土産屋で木刀売ってないのかしら」
「待てお前、売ってたとしてそれで何する気だ」
「何って決まってんじゃない。人誅よ人誅」
危険な会話を繰り広げる大河と竜児を見て、ようやく友人たちにも笑顔が戻った。

「ふふ、もう大丈夫です。ね、イルカショー行きましょ、イルカショー!」

折角の水族館。少しケチはついてしまったが、まだまだ楽しまなければ。

317 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:11:33 ID:???
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屋外に設けられたイルカショー用のプールには、続々と人が集まりつつあった。
開演時間より早めに来たおかげか、4人は前の方の席に座ることが出来た。
最前列に竜児と大河。そのすぐ後ろに大河の友人たち。

と、突然大きな音楽が流れ、水中からザバッ!とイルカがジャンプした。
『みなさーん!こんにちはー!今日はイルカショーに来てくださって、ありがとうございまーす!』
飼育員のお姉さんの声がスピーカーから響く。
その間にも、イルカたちはバッシャバッシャと跳ねている。

観客たちから歓声が上がる。
竜児がチラ、と横を見れば、大河もまたキラキラした目でイルカを見ている。
竜児は一瞬、こいつイルカも食べる気か、と思ったが、この目の輝きからして純粋に楽しんでいるらしい。
イルカも結構美味いらしい、とは言わずにおいた。こう見えて彼はムードを大切にするタイプだった。

飼育員の笛に合わせて、イルカがざぶん、とプールから観客席に向かって身を乗り出す。
きゅいきゅい鳴きながら観客たちに愛嬌を振りまいていたイルカだが、
竜児と目が合った瞬間鳴き声が止まった。電光石火でプールに戻り、一目散に逃げていく。

「・・・」
大河が何か言いたそうに竜児を見る。
「・・・・・・な、なんだよ」
その視線に負けて、弱々しい声を出す竜児。
「・・・あんた、海のおともだちにも容赦ないのね」
「うるっせえ!」
その後ろで、友人たちが笑いを押し殺していた。

演目はまだまだ続く。
体を半分以上水面に出して尾びれでバック泳ぎ。
飼育員の投げたフリスビーを水中から飛び上がってキャッチ。
同じく、飼育員が水面に掲げた輪をジャンプしてくぐる。

様々な演技が決まるたび、観客から大きな拍手が送られる。
竜児も、年甲斐もなく興奮していた。すげえ。イルカすげえ。

拍手しながら大河が呟く。
「あのロン毛虫より、きっとイルカの方が賢いわね」
「思っても言うなよ・・・」
大河がロン毛虫と呼び、イルカ以下と判断された男・春田その人を友に持つ竜児は、
しかし特に反論はしなかった。
さもありなん、というのが正直な感想だった。

いよいよショーも終盤。水面よりかなり高い位置に、赤いボールがセットされる。
どうやらイルカの特大ジャンプを見せてくれるようだ。

『それじゃあいきますよ〜!・・・はいっ、ジャ〜ンプ!!』

プールから勢いをつけてイルカが飛び上がる。
これまでで一番大きな歓声の中、イルカは空中で一回転。尾びれでボールをキックして―

ドパーン!と特大の水しぶきをあげてプールに着水した。

318 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:11:44 ID:???

『前の席の方ー、大丈夫でしたかぁ〜?』
「おう、大河、濡れてねえか?」

そう聞く竜児の前髪から、水がポタリと滴り落ちた。
彼は今、プールに背を向けて大河の真正面に立っていた。
イルカの跳ね上げた水がこちらにぶっかかってきた瞬間、反射的に大河をかばうように立ち上がったのだ。

「竜児・・・あんた・・・」
「後ろの2人も、大丈夫か?」
「えっ、あっ、はい、大丈夫です」
友人たちも、ほとんど濡れてはいなかった。ちょうど竜児の影に入っていたのだ。

「ニイチャン、やるねえ!」
友人たちの隣の席、子供連れのおっさんがニヤニヤしながら声を掛ける。
そこで竜児も初めて気付いた。自分に視線が集まっていることに。
(やべえ、何か注目されてる)
そそくさと竜児は席についた。衆目にさらされるのは苦手なのだ。
思わず立ち上がってしまったが、今の自分は相当恥ずかしいのではないか?

赤くなって視線をさまよわせる竜児の視界に、白い何かか映りこんだ。
「大河。これ・・・?」
「・・・いくら夏でも、あんたがバカでも。濡れたまんまじゃ風邪ひくでしょ・・・」
それは、大河が差し出したハンカチだった。
竜児と目を合わせないようにうつむいてはいるが、頬が赤いのが横からでも見える。
「・・・おう、ありがとな」
今日の天気なら、洋服だってすぐ乾くだろう。
ちょっと恥ずかしかったけど、大河が濡れなくて良かった、と竜児は思った。


「お礼言うのはこっちでしょ・・・」
小さく言った大河の声は、BGMにかき消されて竜児には届かなかったようだ。
こういうとき、はっきり大きくありがとうが言えない自分がちょっと嫌いだった。
後からでもいい、ちゃんとお礼を言っておこうと大河は思った。

それにしても。竜児はやっぱり竜児だ。身を投げ出して、自分を守ってくれた。
こいつは基本こうなのだ。憎まれ口も叩くけど、いざというときには必ず自分を守ってくれる。
でも、それに甘えてばかりじゃダメ、と大河は思う。
今回は水だったから濡れるだけで済んだけど、例えばこれが自動車だったら?
それでもきっと、竜児は迷わず身を投げ出すだろう。
もっともっと、しっかりしなきゃ。私は虎でこいつは竜。
後ろで守ってもらいっぱなしじゃなくて、ちゃんと横に並ばなきゃ。
そうは思っても赤くなるのを止められない頬を髪の毛で隠しつつ、大河は密かに決心を改めた。


その後ろで、友人2人もまたちょっと赤くなっていた。

大河め、一体どうやってこんな男を捕まえた。

自分たちにも彼氏は居るが、こういうとき彼のように、とっさにかばってくれるかは分からない。
事実、竜児と大河の隣では、同じように水に襲われたカップルが、為す術もなく2人揃ってびしょ濡れになっている。
ムスっとした女の子の視線が、大河と竜児に向けられているのが頭の向きで分かった。

実は大橋には一杯居るのか?こんな行動を取れる男子が。

7割冗談、3割本気で、彼女らは転校を検討していた。

319 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:12:43 ID:???
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やや夕暮れの気配が混じる潮風が、3人の少女の頬を撫でていく。
大河と友人たちは今、港を臨む公園のベンチに座っていた。
竜児は、飲み物でも買ってくる、と言って席を外している。

うーん、と伸びをしながら、3人の真ん中に座る大河が言った。
「久しぶりに一杯遊んだわねー、今日は」
友人たちがそれに答える。
「そーだねー。なんだかんだ言ってアタシらも受験生だしさ、こうやって遊んだのホント久しぶりかも」
「だいたい、大河ちゃんと遊んだのが久しぶりだもんね、今日」

半年近く会っていなかったとは言え、気の置けない友人たち。
流れる無言の時間に、心苦しさなどもない。
3人はしばらく、黙って海を眺めていた。

「それにしても、竜児、どこまで買いに行ったのかしら。ノド乾いたのに」
ぽつりと文句を言う大河。友人たちは大河の頭越しに顔を見合わせ、両側からズイっと彼女に迫った。
「な、なに?」
「大河さぁ、ほんと、勝ち組だと思わなきゃダメだよ?」
「へ?」
「高須君みたいなのが、当たり前だと思っちゃダメってこと」
諭すように言う友人と、それにウンウン、と頷く友人の顔を、大河はえ?え?と交互に見た。
「あのね、大河。あれは相っっ当の優良物件だよ。そこんとこ分かってる?」
「大河ちゃん言ってたよね、料理もすっごく上手なんでしょ?高須さん」
「そりゃー確かに顔はちょっと怖いけど、作りが悪いわけじゃないじゃん。どっちか言うとイケメンじゃん」
「しかもすごく優しいし。私のことも助けてくれたし」
「そうそう、ちゃんと周りが見えてるって言うかさ、まさに気が利くって奴?今も飲み物買いに行ってくれてるし」
「多分、私たちを3人にしてあげようって思って行ってくれたんだと思うの。
中々戻ってこないのも、気を遣ってくれてるんじゃないかな」

両側からの砲火にさらされ、目を白黒させる大河に、更に友人たちは続けて言った。
「そうかと思えば何?今日1日で随分仲のいいとこ見せつけてくれちゃって」
「レストランとか?」
「そうそう、何なのよアレ。いっつもあんなことしてたら、あんたらいつか独り身の人に刺されるよ?」
「水族館に移動してるときも」
「そうだよ。大河ってばコケそうになったとき、高須君にバッ!って助けてもらっちゃったりしちゃってさぁ」
「イルカショーでも」
「そうそれ!アタシが一番驚いたのはアレだね。なんなの、あの行動。惚れてまうやろー!って言いたくなったね」
「ちゃんと私たちのことも気にかけてくれたよね」
「ホントなんなの。あんたの高校、実はああいう人いっぱい居たりすんの?」
それは今日1日、桃色の毒気に当てられ続けた友人たちの、心からのグチだった。

320 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:12:53 ID:???
「そっ、それは!でも、だってっ・・・!」
「あによ」
言い返そうと口を開くもギヌロ、と睨まれ、さすがの大河も少しひるんだ。
「だって、あんたたちだって、前にわたしに彼氏自慢、したじゃなぃ・・・」
言いながら、だんだん声が小さくなる。
「ッハン。言葉で自慢すんのと実際見せられるのじゃ、モヤモヤ度が違うのよモヤモヤ度が」
「それに、私は、したことないけど・・・」
搾り出した反撃も簡単に切って捨てられ、大河は返す言葉もなくなってうつむいた。

「あーあー、いいなぁ、高須君。大河さぁ、アタシにくれない?」
「そっ、それはダメッ!!!」

顔を跳ね上げ、大きな声で大河は叫んだ。
ダメだ、竜児だけはダメなのだ。お願い、他のものなら何でもあげる。だから私から取らないで―

必死の大河とは裏腹に、言った友人本人は、ニヨリ、と変な笑顔を浮かべた。
「じょ・う・だ・ん・だ・よ」
「へ・・・?」
叫んだときの体勢のまま、ぽかんと大河は固まった。
「だから、冗談。あんたたちの間なんて、入る隙さえ全然無いじゃん」
「もう、意地悪言いすぎだよ」
反対側から、たしなめるような声が聞こえる。

「へ・・・」
ゆるゆると、2人の友人の顔を交互に見やる大河。
「・・・あっははは!もー大河ったら本気にしちゃって!泣きそうな顔するんじゃないの!」
ぐりぐり頭を撫で回され、大河もようやく我に返った。
「あ・・・あ、あんた!!」
「ハイハイ怒らない怒らない。、あんたはすーぐ本気にしちゃうんだから」
「ふふ、でも、今のはちょっとやりすぎたんじゃない?」
「ちょっとした復讐だよフクシュー。今日1日分のね」

ぎゃいぎゃい喚く大河たちのところに、ペットボトルを抱えた竜児が戻ってきた。
「おう、わりい。ちょっと中々自販機が見つからなくて・・・って、おう、大河、お前なんでそんな真っ赤なんだ?」
「うっ、うるさい!バカ!うるさい!元はと言えばあんたが遅いから!」
「うわ痛っ!なんだよ、なんで蹴るんだよ!」
「黙って蹴られろバカー!」

憤る大河と虐げられる竜児、それを見て爆笑する友人の横で、一人だけが気付いていた。
(ペットボトルに水滴がいっぱい・・・。高須さん、買ってから、どれぐらい時間を潰しててくれたのかしらね)

321 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:13:55 ID:???
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今日はこっちに住んでいる親戚の家に泊まるから、と、
駅で別れることになった友人たちに、大河は無言で抱きついた。
あんな風に大河が抱きつく相手、竜児は実乃梨ぐらいしか知らない。
別の学校でもちゃんと、良い友人に恵まれたんだな・・・と1人、胸を熱くする竜児であった。

「そんじゃ、大河、高須君。今日は楽しかったよ!ありがと!」
「また冬休みにでも遊びに来るからね、大河ちゃん」
「うん、待ってる」
「俺も楽しかった。また会えるのを楽しみにしてる」

友人たちが大河の耳に口を寄せる。
何を言われたのか、大河が赤くなって友人を突き飛ばす。

笑いながら、今度は竜児に寄ってきた。
「高須君、大河のことよろしくね。あの子、ああ見えて寂しがり屋だから」
「良く知ってる」
「おっと、そりゃそっか。そうそう、今度来たときは高須君の友達紹介してよ。大橋男子にちょっと目つけてんの今」
「は?」
「あはは、こっちの話」

彼女らは、竜児たちが帰る方向とは反対に向かう電車に乗る。
手を振り、ホームに消えて行く友人たちを見送って、竜児と大河も歩き出した。

「さて・・・と、晩飯どうする?ここまで来たんだ、折角だし何か食ってくか?」
「あんたがそんなこと言うなんて珍しい。ケチケチ主夫のくせに。明日は雨かしら」
「倹約家と言え。たまにはいいだろ」
「ま、仕方ないから付き合ってあげる。わたし、魚が食べたいかな」
「お前、水族館でかわいいお魚さんたちを見た後で、よくそれを食べようって気になるな・・・」
「何言ってんの。見たからこそじゃない」

言い合い、並んで歩いていた2人だが、ふと、竜児がその足を止めた。
何かと振り返る大河に、今日1日気になっていたことを聞く。

「なぁ、大河」
「なによ」
「お前さ・・・お前、今日・・・俺は・・・」
「その顔でもじもじすんな。かわいくないのよあんたのもじもじは」
「う、うるせえ。じゃあ聞くけどな」

「今日の俺は、自慢できる彼氏だったか?」

「・・・・・・」
「な、何か言えよ」
クルリと前に向き直り、大河はいつもと同じような声で言った。
「そう・・・ね、まぁ・・・ギリギリ合格ってとこ?
あ、勘違いしないでね。同情点を加えてのギリギリ合格なんだから」

言葉だけ聞けばひどいものだ。
だが、竜児は気付いていた。
言いながら、大河が決してこっちを向こうとしないことに。
髪の間から見え隠れする耳が、今日で一番真っ赤に染まっていることに。

「・・・はいはい、そいつはわるうござんした」
「そうよ。もっと努力しなさい。わたしが自慢できるようにね」

すたすたと歩いていく大河を、竜児は小さく笑ってから早足で追いかける。

ところでお前耳赤いな 何言ってんのあんたバカ? 顔見せてみろ顔 ぎゃあ前に来るな変態!

楽しそうに騒ぐ竜と虎の声が、8月の夕暮れ空に響いていた。



Fin

322 高須家の名無しさん :2010/08/27(金) 18:16:02 ID:???
+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-

ということで、最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。
今回は「タイガー彼氏自慢がしたい」というプロットの元で書き始めたのですが、
自分にはどうもオリジナルキャラに頼る傾向と、無駄に長くなる傾向があるようです。
ついでにこれも数えてみたら、15000字ぐらいありやがりました。アホだ。俺は。

この2点を克服して次回、もっと良いものが投稿できればと思います。
その折にはまたよろしくお願いいたします。

では。

323 高須家の名無しさん :2010/08/28(土) 01:42:49 ID:???
>>322
作者にもタイガーにもごちそうさまでした。お腹いっぱいGJって感じです。決して長く感じませんでしたよ。

324 ◆fDszcniTtk :2010/08/28(土) 08:17:32 ID:???
また規制かよ orz

新作投下 :「はすドラ!」

325 ◆fDszcniTtk :2010/08/28(土) 08:18:23 ID:???
「タイガー、どうしたのタイガー?」

夏休み明けの週の木曜日の昼休み。進学クラスとは言え、いまいちエンジンのかかりの悪い3−Bの教室の一角で、眼鏡の小男がクラスメイトに声をかける。

「へ?んーん。なんでもない」

と、頬を桜色に染めて携帯をあからさまに隠したのは、輪をかけて小柄な少女。小学生サイズの体をふわりと包むように伸びた髪は淡色。肌の色は透けるように白く、長いまつげの下の瞳は夢見るように光をたたえている。
逢坂大河、という名前のこの少女が、前の年まで暴力沙汰をはじめとする数々の恐怖の伝説を振りまき、「手乗りタイガー」の名で恐れられていたとはとても信じられない話である。

「そう?なんか嬉しそうにしてたけど。メール?」

と、深追いするのは能登久光。去年同じクラスになった時こそ、恐怖の「手乗りタイガー」伝説に彩られた大河を恐れていたのだが、2年生も後半になるころから少しずつ話をするようになり、いまではこんな不躾なことまでするようになっている。
もっとも、それは能登の勇気によるものではなく、もっぱら大河が丸くなったことに起因しているのだが。

「あら、なーに?高須君からラブレター?」

と、ひょいっと横から首を伸ばしてきたのは生徒会の書記の子で、何々?と興味深げに瞳を輝かせる。他にも何人かにやにやしながら大河のほうを眺めている。

高須君、というのは何を隠そう大河の彼氏である高須竜児のことである。2−Cの1年間、逢坂大河と高須竜児はドタバタとしか表現のしようのない毎日を過ごし、最後にはとうとう付き合うことになったのだった。
誰かれ構わず噛みつく手乗りタイガーがすっかり丸くなったのは、この高須竜児によるところが大である。

竜児と大河は今年の二月に駆け落ちまがいのエスケープをやらかしており、二人が付き合っていることを知らないものはほとんどいない。もっとも、二人が婚約までしていることとなると、逆に知るものもほとんどいない。
教師と親を除くと、極めて親しい友人が数人知るだけである。この教室にそれを知っているものはいない。

「そんなんじゃないって、待ち受け画面を見てただけだよ」

顔を赤くする大河に周囲は却って興味津津である。へらへらと嬉しそうに眺める待ち受け画面とはどんなものなのか。

「見せてよタイガー見せてよ」

能登がしつこくせまる。昨年なら三発くらいびんたをくらったあとに足払いでその辺に転がされても不思議ではない馴れ馴れしさである。

「もう。なんてことない写真だって。やっっちゃんに…えーと、竜児のお母さんに撮ってもらったのよ」

と、大河が能登に見せたのは、本当になんてことない構図の写真だった。ピクニックにでも行った時の写真か、緑を背景に竜児が写っており、後ろから覗き込むように大河が笑って顔をくっつけている。身長差を考えると竜児は座っているのかもしれない。
構図としては平凡だ。構図としては。

「何々私も見せて?」

と覗き込んだ書記女史の笑顔が凍りつく。不用意に覗き込んだ他の女子も黙り込む。文系クラスで女子の多い3−Bはいつもきゃっきゃうふふと華やかな雰囲気だが、大河を中心とした一角だけがふっと微妙な空気に変化する。

「なによ」

と、不愉快そうな顔で大河がみんなを見上げる。怒っているのではない、なぜこの幸せな写真をほめてくれないのかと思っているのだ。

326 ◆fDszcniTtk :2010/08/28(土) 08:18:58 ID:???
だがしかし、その写真は若干刺激が強すぎた。大河はいい。どこに出しても恥ずかしくない美少女なのだ。シャープなあごのラインやとてつもなく柔らかそうな頬、形のいい鼻、きれいなブラウンの瞳がありえないほど完成されたバランスで配置され、
まるでフランス人形のようとあちこちで囁かれる。事実、昨年はミス大橋高校の栄冠に輝いている。その大河は写真の中でも現実離れした美しさで笑っている。

問題はその横で笑っている(と思われる)高須竜児である。大きく、わずかに青みを帯びる白目がつりあがった形の瞼の中におさまっており、それだけで結構な迫力がある。
それに加えて白身の中の瞳はギュッと小さく収縮しており、見事な三白眼を形成している。その竜児が満面の笑みでにやぁっと笑っているのだ。

きっと幸せに浸っている表情なのだろう。しかし、息苦しいほどの威圧感に、覗き込んだ少女たちは一様に黙り込んで、どろりと濃い汗を顔に浮かべる。こっそりとその場を逃げ出した子もいる。

「ちょっと、何よこの空気」

ぷっと、頬をふくれさせる大河の横で、能登が苦笑い。

「いやー、タイガー仕方ないよ。俺は1−Aのときから高須と一緒だったからこのくらいじゃ平気だけど、はじめて見る子はやっぱり怖がるよ。特に女の子は」
「あら、私最初から怖くも何ともなかったわよ」

そりゃ、あんたの方が怖かったから!とテレパシーで突っ込みながら能登は苦笑いでごまかす。竜児のおかげで丸くなったとはいえ、いつ角が生えてくるかわからない女である。

「いったい何が怖いってのよ」

目が怖ぇんだよ!とクラスメイトからテレパシーの集中砲火を浴びつつ、大河は待ち受け画面を見つめる。周囲の無理解に多少不機嫌になったようだが、待ち受け画面を見るうちに何となくふにゃふにゃしてきた。
どうやら、3−Aにとってあの壁紙は爆発防止のお札として機能しているようだ。

これに乗じて勇気を振り絞ってその場を和らげようと書記女子が話題を振るが、

「ね、逢坂さんは高須君のどんなところが好きなの?」
「え?全部。えへへ」

ボールは真芯でとらえられ、痛烈な打球となって書記女子を強襲。あまりのおのろけぶりに膝の力が抜けそうになる。すかさずマウントにあがった押さえの能登が

「そこをあえて言うと、どこ?」

と追求。写真を見ながら頬をゆるめてぐねぐねしていた大河だったが、

「目かな?前は口の形がいいなって思ってたんだけど。やっぱり竜児は目がチャームポイントよね」

と、言って周囲をあきれさせる。

チャームって何だよ!と、辞書の書き直しをテレパシーで要求するクラスメイトたちにの真ん中で、大河は一人ふにゃふにゃになっている。

◇ ◇ ◇ ◇

327 ◆fDszcniTtk :2010/08/28(土) 08:19:34 ID:???
それから2週間ほどあとのこと。

誰かが机の上に置き忘れた携帯電話をとある少女が取り上げたのが騒動のきっかけだった。

「ねえ、誰かケータイ置き忘れてるよ?!」

声を上げて聞くが誰も答えない。誰のかな、と何の気なしに開いた瞬間、がちゃん!と派手な音を立てて彼女は携帯電話を取り落とした。

「どうしたの」

心配そうに駆け寄るクラスメイトに答えることもできず、彼女は口を手で覆って後ずさりするばかり。

「大丈夫?」

そう声をかけて携帯を拾おうとした別の少女が、今度は短い悲鳴をあげて手を引っ込め、その場から逃げ去る。

「何どうしたの?」

女子がキャアキャア言っている中心に男子がやってくる。女子の多い文系コースで少々肩身の狭い思いをしていた男子としては、女子が怖がっているときこそかっこいい姿の見せ所。しかし、

「うわわわわ!」

携帯を拾おうとして飛び上がると、体中にできた鳥肌をなだめるように我が身をかき抱いてその場から脱出をはかった。いいとこなしである。

なんだか見たらまずいものが写っているらしいと気づいた彼らは、ブツに目を向けないようにしつつ、その場で立ちすくんでいる少女をなだめ、ゆっくりと現場から離脱をはかった。そんな騒ぎの最中に、ようやく持ち主が牛乳パックを手に戻る。

「ん?何の騒ぎ?」
「逢坂さん、その携帯逢坂さんのじゃない?あ、だめ!見る前に確かめて!」
「あーっ!」

戻ってきた大河は一声あげると携帯に駆け寄る。女の子向けの愛らしい携帯を拾い上げると、「何よ、拾ってくれてもいいのに」とぶつくさ言いながら、ふーふー吹いて埃をぬぐう。

えー、また高須画像か?と周囲で脂汗が流れ始める。しかし、いくらなんでもキャーとか、うわーっってのはひどすぎるように思える。まぁ、去年の生徒会長選では視線で数人昏倒させたらしいが。

「逢坂さん、待ち受け何を表示してるの?」

全員を代表して恐る恐る尋ねたクラスメイトに

「何って、ほら」

ぱっと突き出して見せたのが今年度最大の蛮行。逃げる間も与えられなかった彼女はばっちり至近距離でモロ画像を見てしまい、「いやーっ!」と絹を裂くような声を一声あげて駆け出す。周りにいた連中もあおりを食らってついチラ見。
ぎゃっ!とかひぃっ!とか短い声を上げる。尻もちをついた者までいる。

「何よ。変なの」

騒がしいクラスの中心で、一人、大河だけは憮然とした表情で待ち受け画面を見ている。

◇ ◇ ◇ ◇

328 ◆fDszcniTtk :2010/08/28(土) 08:20:15 ID:???
「大河、着替えたらここに来て座りなさい」
「何?」
「いいから、早く着替えなさい」

学校から帰ったばかりの大河に母親が久しぶりに見せる緊張した表情で話しかける。

「わかった」

素直に返事をして自分の部屋で着替えをする。怒られるようなことをしたろうか、と考えてみるが分からない。新しい家族と暮らし始めた時にはいくら歯を食いしばって頑張ってもすれ違ったりわがままが出たりして何度も衝突があった。
でも、あれから何カ月もたった。家では怒られるようなことはしていないし、まして学校でも比較的いい子を通しているつもりだ。

それとも、前のテストで名前を書き忘れでもしたか、と背中を冷やすが、いやいやそれなら最初に自分に連絡が来るはず、と思い返す。

「何?」

キッチンのテーブルに座って母親を見上げる。母親も椅子にすわって、「座って話そうか」状態。

「今日、学校から電話があったの」
「電話?」

まだ思い当たる節が無くて大河がいぶかしげに顔を傾ける。その様子をみて、母親がため息をつく。

「今日、あなたのクラスの子が二人保健室に運ばれたそうよ。知らない?」

知らない、と首を横に振る。

「そう。じゃぁ、はっきり言わないとわからないわね。あなたの携帯の写真を見て、ショックで泣き出したんですって」
「え……ちょっと、どういうことよ」

身を乗り出して食いつくように問う大河に、母親は深呼吸してタイミングをとる。

「それをこれから話し合うの。ねぇ、大河。あなた、携帯に何の写真を入れてるの?」
「それは……」

口ごもる大河に

「人にいえないような写真?」

と聞く母親は、やはり一枚も二枚も上手である。

「そんなんじゃないわ。竜児の写真よ」

きっ、と表情を硬くして大河がそういうのは計算のうち。「そう」と、短く返事をして少し視線を落とした後、これもはかったようなタイミングで話を切り出す。

「大河。これから話し合うことは、高須君がどうのって話はひとまず横に置いておくことにするわ。それをわかってちょうだい。私が高須君をどう思っているかとか、高須君がどんな子かってことは、今からする話とは無関係。わかった?」
「わかった」

なんだか不愉快な話になりそうな雲行きに大河は低い声で答える。

「さっきもいったけど、あなたのクラスの子は、携帯の写真を見て泣くほどショックを受けてるの。先生だって放っておけないわよね。どんな写真を入れているのか、母さんに見せなさい」

向かい合って母親を黙って見つめた大河は、ふた呼吸ほどして「わかった」と言うと椅子をたち、携帯をとりに部屋に向かった。

リビングに残された母親が大きくため息をつく。

表で子供の話す声が聞こえる。

329 ◆fDszcniTtk :2010/08/28(土) 08:20:51 ID:???
程なく戻ってきた大河は、椅子に座ると、手に持っていた携帯をテーブルの上に置いた。あとは、表情を殺して母親を見つめる。やましさのかけらも感じさせない。何が悪いのか!と心の中で思っている様子がありありと読み取れる。

「どんな写真なのか、見ていいわね」
「うん」

大河の返事を受けて女の子向けの愛らしい色合いの携帯を手に取る。クラムシェル・ボディをぱかりとあけて、そこに現れた画像に思わず息をのんだ。構えていたとはいえ、首のあたりに広がる鳥肌に声一つあげなかったのはさすが女王虎の生みの親である。

「これ、高須君の写真?」
「うん」

ちらりと目をやって娘の表情を見やる。相変わらず、感情を殺した顔をしている。一緒に住み始めた頃には反抗心むき出しでぶつかってくることもまれにあったが、こうやって気持ちを押し殺した顔でじっとこちらを見ている様子は、かえって手強そうに思える。

「どうしてこんな写真作ったの?」

と、問いかける母親の手の中には、大河の携帯がまだ握られている。待ち受け画像は竜児の目、目、目。いろんな表情の写真から切り貼りしたのだろう。全部で20ほどの目がこちらをじっと見ている。写真が気持ち悪いとか言う前に、この写真を作った我が子の心が心配になる。

「みんなが、竜児の目のことを怖いって言うから」
「大河は怖いって思わないの?」
「私は思わない。竜児は優しいし。何でみんなが怖いって言うかはわかるけど……言われたくない」
「そう」

と、言葉をきって、しかし大河の母親は続ける。

「あなたのクラスの子がなぜ泣いたのか、あなたはわかってるの?」
「……」
「わからない?」
「たぶん、気持ち悪いって思われた」

どうやら気持ち悪いという自覚はあるらしいことに、母親は胸をなで下ろす。

「大河、聞きなさい。あなたが携帯に高須君の写真を使うことには、私は何も言わないわ。あなたたち二人は恋人同士なんだし、そのくらいのことはいちいち私が口を挟むことじゃない。でもね、気持ち悪い写真を使うのはやめなさい」
「竜児は」
「大河!」

きっと表情を硬くして大きな声を出す大河を、もっと大きな声で制する。

「大河。私は最初になんて言った?」
「……」
「大河」
「…竜児のことは…関係ない…」
「わかるわね。私は高須君がどうのって話はしていない。この写真が気持ち悪いって言っているの。なぜ気持ち悪いかはわかるわね」
「わかる」
「じゃあ話は簡単よ。高須君の写真は使ってもいいわ。でも、気持ち悪い写真はだめ。あなたは女の子だからそんなことはしちゃだめ。いいわね」
「わかった」

母親はほっとため息。これでこの話は終わりだ。大河にとって譲れないようなことは言いつけていないし、本人も素直に『わかった』と答えている。心の底が素直かどうかは別として、頭のいい子だ。
この件で言うことを聞かないときに何が起きるか、それは言うことを聞く場合について損か得か、そのくらいはわかるはずだ。

部屋に戻る娘の背中を見送りながら、これでもう少し男の趣味がよければいいんだけど。と、もう一つため息をつく。

◇ ◇ ◇ ◇

330 ◆fDszcniTtk :2010/08/28(土) 08:21:27 ID:???
『タイガーさんの話聞いたか?』
『聞いた聞いた、携帯の写真だろ』
『なにそれ』
『携帯の写真見せただけで相手を保健室送りにしたらしいぞ』
『まじかよ』
『さすがタイガーさん、精神攻撃も最強かよ。かっけー!』

◇ ◇ ◇ ◇

「たぁーいがぁー!蓮コラ作ったんだって?見せて、見せて!」

◇ ◇ ◇ ◇

331 ◆fDszcniTtk :2010/08/28(土) 08:21:51 ID:???
「ねぇ、竜児。聞いていい?」
「なんだ?」

二人並んで帰り道。昨年は半同棲状態だった二人だが、今年は大河が親と生活しているので帰り道は途中までである。
おまけに大河の弟が今年生まれたばかりで面倒を見なければならないので、寄り道もせず、わずかな二人でいられる時間に買い物や会話を楽しんでいる。

「あのさ、熱帯雨林が小さくなっているのは、私たちがゴミをたくさん捨てるせいって本当?」

ぶん!と音の出る勢いで竜児が首を回して大河を見る。まなじりはつり上がり、白目はぎらぎらと輝き黒目はぐっと収縮してドス黒い狂気を可視範囲に振りまく。このまま縛り上げて香港に売ってやろうと思っているのではない。うれしいのだ。

「お前もとうとう地球環境の大切さに気づいてくれたか。俺はうれしいぜ」
「竜児、泣かなくてもいいから教えてよ」
「おう、つい目頭が熱くなったぜ。そうだな、たくさん捨てればほかの資源を余計に使うからな。無駄使いと同じだ。熱帯雨林の減少の一因と言っていいだろう」
「あまりゴミを出さなければいいの?」
「いや、それだけじゃ駄目だ。分別しねぇと。紙ゴミ、燃えるゴミ、金属類、生ゴミ、ペットボトルは基本だろう」
「どうして分別するといいのかしら」
「たとえば高性能焼却炉ってのは生ごみだろうがペットボトルだろうが無害になるまで焼くことはできる。けど、燃料がいるんだよ。ただでさえモノを燃やすと二酸化炭素が出るのに、油まで燃やさなきゃならねぇ。おまけになんだかんだ言ってたくさん燃やすと炉が痛むだろう。
建て替えには金がかかるよな。その点、分別して燃えるごみだけ燃やすようにしたら、油はほとんどいらないし、建て替えも先延ばしになるからエコだ。それに再利用を勧めれば森林伐採の必要が少なくなる」
「ふーん」

妙なハイテンションで気分よさそうに話す竜児を大河がちらりと見上げる。

「でもさ、分別しても意味がないって言ってる子がいたよ」
「何だと!」

竜児の目がギラリと日本刀のように光る。連れてこい!ばらばらに切断して生ゴミと燃えないゴミに分別してやる!と思っているわけではない。そんな悲しい言葉を聞きたくないのだ。

「ゴミの業者がインチキしてちゃんと処理してないからペットボトルも何もかも結局燃やしてるんですって。だから分別なんかしなくていいって」
「違うだろう!」

竜児が目を眇める。

「業者がインチキしているから、俺たちも手を抜いていいなんてことはないんだよ。業者がインチキしてるなら業者を正せ!」

今や黒目はいつもよりさらに縮み、地球環境への愛と市民への怒りでぱちぱちとスパークを放ちそうになっている。

「ねえ、竜児。やっぱり分別しても意味がないような気がしてきた。あしたからまとめて捨てちゃだめ?」
「だめだ!」

ぐいっと首をひねり、業者の不正を裁く閻魔大王の目で竜児が大河を睨みつける。がしかし、

「なんだよ、大河」

睨みつけた先にあったのは大河の携帯。邪眼によく耐えて壊れなかった日本製携帯電話は、竜児の怒りの顔をアップでパシャリと写真に収める。

「うふふ。一枚ゲット」
「大河、お前からかってるのか?」

戸惑いながらもこめかみに半分マジの筋を立てながらせまる竜児に、大河は目を線にして笑う。

「ごめんごめん。この写真大事にする。エコを忘れそうになったらこの写真をみて思い出すから。ちゃんと分別もする。本当よ。約束する」

わけのわからないことを言う大河の笑顔に竜児は気勢をそがれて

「お、おう。そうか」

と、尻切れトンボ。

◇ ◇ ◇ ◇

332 ◆fDszcniTtk :2010/08/28(土) 08:22:26 ID:???
両親も弟もとっくに寝静まった深夜。自分の部屋で一人、今日撮った恋人の写真を見る。ギロリ、と目をむいてこちらを睨み付けている竜児。大河のバラのつぼみのような唇に笑みが浮かぶ。

竜児が好きだ。

出会ったころは、恐ろしく懐の深い優しさを持つ、だけどちょっと芯の弱そうな男の子だと思った。でも、それは大間違いだった。長い時間一緒にいて、最後に分かってきたのは竜児がとても強い意志を持つ男の子だということだった。

顔が怖いからと、避ける友達に受け入れてもらえるよう、竜児は優しい子になった。

独りで竜児を育てる泰子のために、竜児は掃除や洗濯をするようになった。

泰子に心配をかけないよう、親や先生の言うことを聞く子になった。

なんて意志の強い男の子なんだろうと思う。自分は親に見放されてふてくされて毎日泣くだけの女だった。せいぜい外に向かって強がって見せただけ。でも、竜児は違った。強い気持ちで正しくあろうとし続けていた。
そして自分の心がばらばらになりそうになったその時に、竜児だって膝をつきそうなほどつらい目に会っていたのに、お前が好きだと強く強く抱きしめてくれたのだ。

こんな男の子とめぐり会えたなんて奇跡だと思う。竜児のおかげで何もかも変わった。こうやって当たり前のように普通に暮らしている新しい家族とも、竜児と出会わなければギスギスしていたかもしれない。

竜児の目が怖いなんて当たり前。あの奥には、本当は誰にも見せない強い意志が隠されているのだ。親の遺伝なんて大したことはない。

こんな話を竜児にしたら、「かいかぶるな」と笑うかもしれない。それでもいい、逢坂大河だけが知っている高須竜児がいる。あの眼の奥には自分を守ってくれる強い意志が潜んでいる。

◇ ◇ ◇ ◇

333 ◆fDszcniTtk :2010/08/28(土) 08:23:02 ID:???
「先生おはようございます」

職員室で声をかけられた教師は、自分のクラスの生徒におや、と心の中でつぶやく。逢坂大河がこんな朝早くに来るとは。それも職員室にわざわざ来るとはめずらしい。3年にあがって素行が良くなっているとはいえ、こういうことには無縁だと思っていたが。

当の本人は職員室だというのに堂々としたもの、脚を綺麗にそろえ、手をきゃしゃな体の後ろに回し、フランス人形のように整った顔に軽いほほえみを乗せてちょっとだけあごを出して立っている。

「先生、先日はすみませんでした」
「えーと、何だったかな」
「携帯の写真のことです」
「ああ、あれか」

騒動が起きたときにはどう対応するか苦慮したが、結局親に電話をしたのは正解だったらしい。

「もう、気持ち悪い写真は使いません。みんなを怖がらせたくないから」
「そうか。わかってくれればいいんだ」

そういってほほえむが、逢坂大河はまだ自分の改心を説明仕切れていないと思ったらしい。教師に反応する時間を与えずに後ろ手に持っていた携帯を突き出す。

「ちゃんと、普通の写真にしました。ほらっ!」

それが今年度二番目の蛮行。

のけぞっていすから落ちそうになる担任を、恋ヶ窪ゆり(独身31)が遠くから苦笑しながら見ている。

待ち受けに表示されているのは、高須竜児その人。

地球環境への蛮行に対して怒りを燃やす竜児の顔を半分ほどをトリミングした拡大写真には、かえって尋常ならざる迫力がある。逆光気味の光に暗く沈んだ顔面に、そこだけ青白い光を放っているような白目が写っている。
そしてその中心でぎゅっと小さく収縮している黒目が、「俺は尋常じゃないぞ」と、全力で叫んでいる。地球の大切さを理解できないような連中には、拳でわからせるしかない。1000人のモヒカン頭どもを眼力で金縛りにかけ、拳の風圧だけで大気を血しぶきでいっぱいにしてやる。
高須竜児の世紀末環境覇王伝説の始まりであった。ひゃっはー!

と、いうわけではない。

愛しているのだ。逢坂大河と、すべての人と、地球環境を。

(お・し・ま・い)

334 ◆fDszcniTtk :2010/08/28(土) 08:24:29 ID:???
本スレの >>333にインスパイアされて作った。

335 高須家の名無しさん :2010/08/28(土) 22:32:16 ID:???
さるさんに引っ掛かった。
誰か>>334の転載お願いしますー。

336 高須家の名無しさん :2010/08/28(土) 23:19:41 ID:V3jQ/ic6
代理投稿ありがとう!本当に助かります。

337 高須家の名無しさん :2010/08/28(土) 23:35:14 ID:???
>>335
がってんでい!

338 ◆fDszcniTtk :2010/08/29(日) 23:22:31 ID:???
>>337 代理投稿ありがとうございます。

さて、連チャンになるけど新作投下。今度は長編。誰か代理投稿おねがいしまんするす。

タイトル:「遊園地作戦」

339 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/08/29(日) 23:23:19 ID:???
夏休みも大詰め。

気がつけば、蝉の鳴き声はひと月前と変わっている。つい最近まで熱くて仕方がなかった風も、ようやく人間いびりの手をゆるめたように思える。それでも夏は夏。やはり暑い。
南側に高級マンションが建っているため直射日光にあぶられる事はないとはいえ、エコ思想への積極的な協力のため昼間はエアコンを切っているこのぼろ借家の二階の家では、なかなかにつらい日々が続いている。

その2DK。昼食後のけだるいひととき。

「竜児、やっちゃんの休みって、夏休み中はもう無いんだよね」

畳の上に転がったワンピースが声を出す。薄い赤のチェックの愛らしいワンピースは、スカートから生やした細い足をさっきからぱたぱたと振っている。袖から出た腕は目にまぶしい白、その腕の先についた小さな両の手のひらは、まるで人形のように整った顔を支えている。

逢坂大河、というのがそのワンピースの中身の名前だ。夏だというのに淡色の長い髪をまとめもせず自分の体の上にふわりと広げているのは、そういうコーディネーションがいたくお気に入りだからだろう。気に入るはずである。似合うのである。
身長145センチ(自称)という、高校2年生とは思えない小柄な体と、歩く人皆振り返る儚げな美貌、白い肌、長い髪。まるで精緻な作りの人形に命を吹き込んだような少女。それが大河なのだ。

8月のいまでこそ涼しげなワンピースを来ているが、春先には布地を重ねてふっくらと形作られたワンピースにオーバースカートを重ね着し、その前を開けてボリューム感を強調していた。その姿はまさにお人形さん。
夏になって、もこもこファッションを着なくなったとはいえ、美貌が消えて無くなるわけでもない。むしろ薄着に浮かび上がる華奢な体の線が一層作り物めいた印象を引き立て、彼女の周りだけひんやりとした清らかな空気が漂っているような雰囲気すら感じさせる。
それこそ、これが大河でなければそのままガラスケースに飾りたいくらいだ。

そう、これだけの美貌と、モデルがたじろぐような清楚感あふれる体型を持っているにもかかわらず、大河を知るものならガラスケースに飾るなんて発想は逆立ちしたって出て来やしない。だって逢坂大河である。
ケースに入れて3秒もたたずにぶち破って出て来るに決まっている。そしてケースに入れた奴を血祭りに上げる。そういう光景は実にくっきりと想像出来る。

乱暴なのである、逢坂大河は。いや、乱暴というと、少し表現が正確でないかもしれない。傲岸不遜、傍若無人、わがまま大王、口より先に手が出る、手を出さないなら相手が膝を折るような罵詈雑言を浴びせる、そんなこんなを全部足して5で割らない、それが逢坂大河である。
そしてその5で割らない苛烈さと小柄な体を端的にいい表す言葉として、彼女が学ぶ大橋高校では「手乗りタイガー」なる称号が非公式に贈られている。

そんな手乗りタイガーに声をかけられて

「おう、あるぞ。バーベキュー・パーティーお前も行くんだろ?」

こたえたのは高須竜児。

親思いでやさしく、学校の成績もいい。スナックで働いている母親を支えるために鍛えた家事の腕はカリスマ主婦クラス。
現在行方不明の父親(みかけはチンピラ。たぶん中身もチンピラ)から受け継いだ、狂気をはらんだ三白眼とつり上がったまなじりが誤解を呼ぶものの、色眼鏡抜きに見れば、竜児はいわゆるよい子である。

母ひとり子ひとりで慎ましく2DKで暮らしていたこの男の下に、何の因果かこの春転がり込んできたのが逢坂大河だった。
目つき以外はどこに出しても恥ずかしくない(しかし学校ではヤンキーと思われている)竜児が、なぜ暴虐の女王である(しかし見た目だけは美少女の)手乗りタイガーと仲良くしているのか。
そもそも、あらゆる交際申し込みを紙くずのようにぞんざいに扱い、あまたの男子生徒の心に消えぬ疵を残した手乗りタイガーは、なぜ竜児と仲良くしているのか。二人は恋人同士なのか、あるいは共闘して学校をしめようともくろんでいるのか。
それは、大橋高校七不思議の一つと生徒の間でささやかれている。

340 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/08/29(日) 23:23:57 ID:???
「そっか。そうだったね。休みあと一回あるけど予定は埋まってるか。しょうがない。あんたと二人で行くしかないね」
「行くってどこに」

何とはなしに聞いただけなのに、ぎろりと横目で大河に睨まれて竜児がひるむ。

一部ではヤンキー高須などと言われているものの、竜児は至極まっとうな高校2年生である。手乗りタイガーと共闘して学校をしめる気も、手乗りタイガーとつきあっているつもりもない。ただ、何というか大河は高須家にとってデイタイムの居候なのである。
親と折り合いが悪く、豪華な高級マンションでひとり暮らしをしていた大河と、母子二人で貧乏アパートに住んでいた竜児が出会ったのは偶然だった。
偶然だったが、極端に生活能力に欠ける大河と、極端に家事が好きで困っている奴を放っておけない竜児のペアには、これ以上ないほどに「腐れ縁」という言葉がぴったりだった。

いつの間にか大河は高須家で朝晩を食べ、学校では竜児が作ったお弁当を食べ、休みの日にはお昼まで高須家で食べるようになっていたのだ。元々細かいことを気にせず、というか、気にすることが出来ない竜児の母、泰子は大河を初めから笑顔で迎え入れた。
そしておそらくは家庭の暖かさに飢えていたせいだろう、大河も泰子の好意を無駄にすることなく、というか無神経にずかずかと高須家のプライベートに進入して、家族のような顔で食卓につくようになったのだ。

絵に描いたような美談。しかし、ただひとり、この疑似家族関係で割を食っている人間がいる。竜児である。

「まったく、竜児の駄犬ぶりはどこまで突き進むのかしら。本当に勘の悪い犬だこと」

ほとほと嫌気がさした、と言わんばかりの表情の大河は、相変わらず畳の上に寝そべって頬杖をついたまま。そんなだらしない姿で嫌みを言ってすら、ワンピース姿の大河は美しいのだから、この世には神も仏もあったものではない。

「勘もへったくれもあるか!初めから筋道たてて話せよ」

皿をふきながら毒つく竜児に大河がこれ見よがしのため息をつく。

「ほんとにもう。いいわ、説明してあげるからちゃんと聞いてなさい。『やっちゃんが行けないなら、二人で行く』ってことは、元々私が3人で行くって考えてたって事。やっちゃんが休みの日に行きたいってことは、それなりに時間がかかるって事。
3人で休みの日に時間のかかる所に行くなら、あんたの大好きな生活臭漂うスーパーマーケットじゃなくて、どこか楽しげな所だってわかりそうなものでしょ?」
「お、おう」
「だったら『遊園地にでも行くのか』くらい言えそうなものじゃない。それを『行くってどこに』ですって。ああ、もう、なんてことかしら。
どうしたら、その何でも人に頼るだらしない性格は直るの?せっかく二本足で歩いていても頭を使わないんじゃ、ダチョウと同じね。あんたに犬なんてもったいないわ。ダチョウよ。ダチョウ犬」
「犬かダチョウかはっきりしろよ!」
「大きな声出さないで。近所迷惑でしょ」

ふん、と鼻をならしてパタンと仰向けにひっくり返ると、大河はお気に入りの座布団を引き寄せて枕にした。

悔しいっ!

偉そうに寝っ転がっている大河をよそに、竜児は悔しさに身をよじる。目の前の古いキッチン・シンクを穴を開けんばかりににらみつけ、すれ違うもの皆目をそらす凶眼を眇める。なにが頭を使えだ。何が人に頼るだ。
日頃自分がどれだけ大河のために頭を使っていると思っているのだ。どれだけ大河が自分に頼っていると思っているのだ。

家事能力のない大河の部屋を片付けているのは誰だ。俺だ。掃除してやっているのは誰だ。俺だ。バランスよく栄養豊かな食事を作ってやっているのも、弁当を作ってやっているのも全部俺だ。おまけに朝起こすのも俺だ!ああ、なのにダチョウ犬扱い。

く・や・し・い・!

悔しさに唇を噛み、肩を振るわせる。だが、さらにさらに悔しいことがある。口げんかで竜児が大河に勝ったことなど一度もないのだ。だから言い返すことも出来ない。そもそも竜児は口げんかに向いていない。
口げんかとはどれだけ理不尽な言葉を短時間でぶつけられるかで勝敗が決まる、暴力の一形態である。理路整然とした話しなど必要ない。むしろ邪魔だ。
生活環境どころか頭の中まできちんと整理された竜児と、生活環境どころか頭の中までごみごみしている大河では、初めからランクが違いすぎる。いきなりゴミを投げつけてくるような反則女に、歩く「キチントさん」である竜児が対抗できるはずがない。

341 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/08/29(日) 23:25:17 ID:???
不条理な大河の言動にあらがえぬ自分にため息をついて、竜児は会話を続ける。

「で、遊園地がどうしたんだ?」
「偵察よ」
「偵察?」
「そ。駄犬が役に立たないおかげで、遺憾にも私と北村君の仲は夏休みの旅行の間も全然進展してないわ。だけど、これからは猛チャージをかけるつもり。はっきり言えば、なんとか、デ、デートに誘うつもり。
そのためにも、あらかじめデートにぴったりな遊園地を偵察しておくのよ。ついでと言っちゃいけないんだけど、日頃よくしてくれてるやっちゃんにも一緒に来てもらえば、お礼代わりに一緒に楽しめて一石二鳥と考えてたのよ。
どう?感心した?私はあんたと違って台所の隅の埃ばかり追っかけている訳じゃないの。大局的、長期的視点でものを考えているの。少しは見習いなさい。駄目犬」

駄目犬…

駄目犬だと?勝手わがまま暴虐きわまりないメス虎の気持ちが読めない位で駄目犬呼ばわりとは。なんてこと、知らない間に世間はそこまで厳しくなっていたのか。竜児は悔しさを通り越して、そのまま自分の体から肉が腐り落ちていくような絶望感に身を震わせる。
きっと自分など絶望にまみれて白骨化し、カタカタとアゴの骨を鳴らすだけの標本になる運命なのだろうと、唇を噛む。
そうなっても、大河は白骨化した自分に言うに違いない。「駄目犬」と。やるせなさに絶命しそうな気持ちでキッチンを離れる。大河の横にあぐらをかいてすわり、見下ろしながら

「だったらお前ひとりで行けばいいじゃないか。駄目犬とは違う大河さんは、さぞかし自分ひとりで何でも出来るんだろうからな」

皮肉たっぷりに言ってやったのだが、それも結局、こてんぱんにのして貰うための準備体操くらいにしかならない。

「あらあら、自分の無能さを棚に上げて皮肉?そんなことに回す知恵があるのなら、少しは私の溢れるような優しい心が何を考えているか考えてみればいいのに。あんたは本当に物わかりが悪いから説明してあげるけど、北村君との、デ、デートにはみのりんも呼ぶのよ」

その一言にそれまで憮然としていた竜児が狂おしく目を眇めて、仰向けに寝っ転がっている大河をにらみつけた。このまま眠らせて香港に売り飛ばしてしまおう、と思っているのではない。驚いているのだ。

「櫛枝?北村とのデートなんだろ?」
「まだわからないの?北村君と…その…デートするったって、私と北村君はつきあってる訳じゃないのよ。恥ずかしくてデートに行きましょうなんて言えないじゃない。だから、みのりんとあんたも呼んで4人で遊ぼうって言うのよ。そして私は北村君とくっついて歩く。
あんたはみのりんとくっついて歩く。そうしたら、自然じゃない。ほんとにもう。少しは考えてよね」

まぶたを重そうに話す大河の言葉に、竜児は雷に打たれでもしたようにショックを受ける。何だって?遊園地で櫛枝実乃梨と一緒に過ごす?

「それって、ダブルデートじゃねぇか」
「…だから、そう言ってるでしょう…」

半分目が閉じかかっている大河は本当に面倒くさそうだ。

342 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/08/29(日) 23:25:53 ID:???
だが、竜児はそれどころではない。えらいことになったとそわそわしている。4人で遊園地。ダブルデート。なんということだ。ドジっ子タイガーと思えない計画性。しかも、この計画はほとんど完璧に聞こえるじゃないか。

一年生の時からの片想いの相手である櫛枝実乃梨は、竜児にとって直視するのもはばかられる程まぶしい女神だ。ひまわりのような笑顔、鼻にかかったような甘い声、ぴょんぴょんと跳ねるように動く元気な姿、小麦色に焼けた肌。

ほとんどの人が最初は竜児の親譲りの凶悪な目つきを敬遠するのに、実乃梨は初対面の時から屈託のない笑顔で接してくれた。ろくすっぽ話もしていないときから、竜児の名前を覚えていてくれた。今年からは同じクラスになれた。
初めの頃は二言三言言葉を交わすだけで、どうき、息切れ、眩暈、赤面、挙動不審、日本語でオK、ありとあらゆるパニックを経験させて貰ったが、最近では何とか普通の会話を交わせるようになっている。
それどころか、なんとこの夏休みには一緒のグループで海に旅行にまで行ったのだ。

それもこれも、大河と重ねていった地道な共同作業の成果だ。実乃梨は大河の親友なのだ。そもそも、竜児が大河の親友である櫛枝実乃梨を、大河が竜児の親友である北村祐作を好きだということが、竜児と大河の奇妙な関係の基盤となっているのだ。

「だったら…」

ちゃんと遊園地のこと調べなきゃな、と言おうとして、竜児は口をつぐんだ。いつの間にか大河は座布団を枕に寝てしまっている。いつもはわがまま放題のくせに、こうやって寝てしまうと、大河は本当にあどけない顔をする。
ふと、憎らしくなって、うっすらと汗をかいている柔らかそうなほっぺたをつねってやろうかと思うが、そんなことは絶対しないだろう自分がおかしくて苦笑。結局、どれだけぼろかすに言われようとも、竜児は大河を憎めない。
それは多分、竜児の心の作りが人に意地悪できないようになっているからだろう。

まだ暑いとは言え、夏休みも大詰め。半月前のうだるような暑さとは違い、風にほんの少し秋の気配が混ざっている。腹を冷やさぬよう大河にタオルケットを掛けてやると、竜児も畳の上にごろんと横たわり、天井を見つめる。
櫛枝実乃梨と行く遊園地。思い浮かべる楽しげな光景を、午後の眠気が柔らかく包んでいく。

◇ ◇ ◇ ◇

343 ◆fDszcniTtk :2010/08/29(日) 23:26:37 ID:???
とりあえず今日はここまで。

344 高須家の名無しさん :2010/08/30(月) 01:48:12 ID:???
>>343
今回もおいしくいただきました。ありがとうございます。この時期のSSは最近なかったので、続きが楽しみです。GJでした。

345 ◆fDszcniTtk :2010/08/31(火) 00:53:30 ID:???
代理投稿ありがとうございます。

以下本スレコメント御礼
>>388
あはは。自分で書いていて気味が悪くなったよ。

>>391
ありがとうございます。私の書く大河はちょっとおとなしすぎるかも。
母親と大河の会話の下りは、もう少し大河を反抗的に書いても良かったかな。

>>394
蓮コラ気持ち悪いよねぇ(w。竜児は知らぬが仏だと思う。顔は不動明王だけど。

では「遊園地作戦」続き

346 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/08/31(火) 00:54:26 ID:???
夏休み明けの最初の日曜日。

朝食を終えた大河が「じゃ、あとで」と席を立ったところで、珍しく午前中に起きてきた泰子が声をかけた。

「あれぇ?大河ちゃん、もう帰っちゃうの?」

もう帰っちゃうのではない。そんなことより、帰ってきてそのまま布団に倒れ込んだらしい泰子は髪が爆発して、ドリフの爆発コントのようになっている。こっちのほうが重大事。

「うん、今日はお出かけするから今から準備なの」

デイタイムの居候である大河は、休みの日には特に用がない限り高須家でゴロゴロしているのが普通である。朝飯が終わってもゴロゴロ。昼飯前もゴロゴロ。昼飯後もゴロゴロ。畳の上で昼寝して夕飯前もゴロゴロ。夕食後もゴロゴロ。
デイタイム居候のくせに深夜までゴロゴロしている事もある。

年頃の女子が同じ年頃の男子の家に深夜まで二人っきりで過ごすなど、ふしだらにも程がある。が、ふしだら以前に大河は壊滅的にだらしないので一人で居れば水が上から下に流れていくように部屋を散らかしてしまうし、おなかをすかして貧血で倒れてしまう。
だったら、いっそ高須家に留め置いていた方がいいのかもしれない。なにしろ散らかった大河の部屋を片付けるのも、貧血で倒れた大河の面倒をみるのも竜児の仕事になるに決まっている。そう思ったのは事実だが、実行に移してみてここまでひどくなるとは竜児も思わなかった。

泰子も泰子で、二人っきりで年頃の男女が深夜まで居ることに何の疑いも感じていない。保護者にあるまじき事である。

とにかく、夜寝るときとお風呂以外は高須家でゴロゴロしている居候が、食事も済んだし帰る等と言っているので泰子としては驚いているのだが、

「はへぇ〜?どこ行くの?」
「どこ行くのって、昨日言ったろう。遊園地だよ」

しまりのない母親の言葉に業を煮やしたように長男が厳しい視線を送る。

泰子は言ったことをすぐに忘れるのか、覚えたことを思い出す気がないのか知らないが、ポロポロとご飯粒を落とすようにものを忘れる。そのたびにイライラしてしかるのも竜児の仕事だ。だが街の不良共が目をそらす三白眼も母親には効果ナッシング。
日頃の言動から鑑みるに、一人息子からきつい目で睨まれるほど、喜んでいる節がある。

「あ、そっかぁ!二人はデートするんだよね☆やっちゃん忘れてた。てへっ」
「てへっじゃねぇ。それからデートでもねぇ。みんなで遊びにいく下見だって言っただろ!」

347 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/08/31(火) 00:55:02 ID:???
母子漫才は終わる様子がないと見たか、大河は困った顔で笑うと話を切り上げて泰子に手を振り、高須家を後にした。二人っきりになった茶の間で、ちゃぶ台の前に座りながら泰子がおおらかな微笑を浮かべる。

「竜ちゃんはぁ、幸せだね。大河ちゃんみたいな彼女が出来てぇ」
「だからあいつは彼女じゃないってんだろ」

プラスチックのポットから麦茶を注ぎながら竜児がいらついた声を出す。ぶっきらぼうなしゃべり口はいつものこと。大黒柱とはいえ、家ではかなり頼りない泰子を支えるため、竜児は幼いときから早く泰子を支えなければと思って育った。
そのせいか、母親に対する口調には、幾分保護者めいた音色が混じる事が多い。だが、そんな竜児の声もどこ吹く風、泰子はにこにこと笑いながらいつも通りとんでもないことをさらりと言ってくれる。

「早く彼女にしちゃえばいいのにぃ」

大河を彼女に…想像して竜児は鳥肌を立てる。

確かに、大河はとんでもない美少女だ。ゴールデンウィーク開けに転校してきた川嶋亜美が何しろプロのモデルなので、学校一の美少女の栄冠が大河の上に輝くかどうかは際どいところだ。だが、ひいき目無しに見ても大河の美しさは際立っている。
目、鼻、口、輪郭といったパーツの作り、それぞれの配置、まったく持って文句のつけようがない。見せびらかすのが目的なら、さぞすばらしい彼女だろう。

だが、なにしろ奴は『手乗りタイガー』だ。傲岸不遜のわがまま大王。気に入らなければ殴る、蹴る。おまけに北村祐作と櫛枝実乃梨と高須家の茶の間以外の世の中のありとあらゆる事が気にいらないらしい偏狭さ。あんな奴を恋人にするだなんて想像できない。
きっと早死にするだろう。死因がストレス性胃潰瘍になるか内臓破裂になるかは神のみぞ知る、だ。それに泰子には言っていないが竜児の意中の人は櫛枝実乃梨だ。
いつも明るく、誰にも分け隔て無くひまわりのような笑顔を振りまく実乃梨と、人皆道を譲る手乗りタイガーを比べるなど、竜児には思いも寄らないことだ。

そりゃ、大河を意識したことがないといったら嘘になる。ただ、それは恋愛感情とは違う。なんというか、大河は放っておけない奴なのだ。乱暴なくせに、傲岸なくせに、わがままなくせに、大河は誰よりも優しくて繊細な心を持っていた。人知れず一人で泣いていた。
毎日のようにドジをかまし、いつもこけては柔らかい膝小僧をすりむいていた。

すりむいたと知ってしまえば、竜児は手当をせずにはいられない。服を汚したと知ってしまえば、竜児はしみぬきせずにはいられない。お腹をすかせていると知ってしまえば、竜児は料理を作ってやらずにはいられない。

一人で泣いていると知ってしまえば、竜児は横に居てやらずにはいられない。

それだけのことだ。竜児は大河と馴れ合っている。駄犬などと言われても取り合わずにかいがいしく世話を焼いている。だが、それは恋愛感情ではない。その証拠に、夜中、勉強の最中に前触れも無く竜児の脳裏に浮かんで苦しめるのは、大河の顔ではなく実乃梨の顔なのだ。

「いいから飲め。ぬるくなるぞ」
「竜ちゃん照れてる。かわいい!」
「もういいから。昨日も言ったけど、なるべく夕飯前には帰る。ただ、遅くなるかもしれないから夕飯は作って冷蔵庫の中に入れてある。もし遅れるようなら電話するからレンジで温めて食えよ」
「はーい。やっちゃん一人でご飯食べられるからぁ、二人でゆっくりしてきてね」

あくまで竜児と大河をくっつけたいらしい。もう一度寝るねぇ、と部屋に引っ込む泰子を見ながら、竜児はため息をつく。

◇ ◇ ◇ ◇

348 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/08/31(火) 00:55:39 ID:???
「お前、何なんだよその格好」

時間通りにマンションのエントランスに現れた大河を見て、竜児がため息をつく。まだ朝だというのに、ため息は本日2回目である。ペースが早すぎる。

「何って、何よ」

なんか文句があるの?聞いてやろうじゃない、拳で。と、言った表情で大河がにらみつける。現れた大河はミントグリーンのさわやかなワンピース。色つきのリップが、薔薇の花びらのような唇を美しく強調する。まるで絵画から切り出したよう。
要するに、夏の旅行とおなじ格好だった。

気持ちはわかる。北村とのデートの予行演習なのだ。本番を思って胸ときめくものがあったのだろう。しかし。

「おい、今から行くのは遊園地だぞ。映画館じゃないんだ。雨ざらしの椅子に座ったりするんだよ。そんなきれいな格好で行ってどうする。汚れるかもしれないぞ。だいたいそんなひらひらスカートでジェットコースターとかに乗るつもりなのか?」

たたみかけるように話す竜児の前で、大河の口がピーナツのような形にみるみる開く。何て器用な表情。なんて情けない表情。

「どうしよう」
「どうしようじゃねぇ、着替えろ。まぁ、本番と同じ格好にしてきた点だけは誉めてやる。問題を洗い出すための下見だからな。ぶっつけ本番だったら遅刻だったろう。ほら、そんな情けない顔するな。あらかじめわかって良かったじゃないか」

半泣きになった大河に泣く暇を与えないよう、エレベーターに追い立てて押し込む。やっぱりこいつはだめだ。ドジすぎて、とても一人にしておけない。だいたい泣くような事じゃないだろうに。

パニック状態で新しい服を考えられない大河を説得して、デニムのパンツと濃い緑のTシャツで手を打たせる。

「こんな格好で北村君とデートなんかやだ」

と、だだをこねるがそもそも今日は北村は居ない。それ以前に「こんな格好」でそれなりに格好がつく大河がつくづくねたましい。竜児と来たら、いくら工夫してもさわやか少年にはなれないのに。

「デートの時の格好は帰ってきてから考えてれば間に合うだろう。ほら、すわれ。髪を編んでやるから」
「どうして編むのよ」
「風で乱れるだろう。遊園地の機械に巻き込まれたらどうすんんだよ。大惨事だぞ」
「なによ、わかってるなら先に言いなさいよ」
「さっき思いついたんだよ。行ってみるまでわかんねぇけど、手は打っとくもんだ」
「昨日の晩言ってくれたらちゃんと準備出来たのに。使えない駄犬なんだから」

駄犬なしでは遊園地にたどり着くことすらできそうもないご主人様の髪を編みながら、聞こえないようにこの朝3回目のため息をつく。本当にこのドジを北村に押しつけたまま、実乃梨と遊園地を楽しむなんて事が可能なのだろうか。

◇ ◇ ◇ ◇

349 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/08/31(火) 00:56:14 ID:???
行楽日和の良い天気。電車を乗り継いでようやく到着した遊園地の入り口で足を開いて踏ん張ると、つんと顎を上げて、むやみにえらそうに大河が薄い胸を反り返らせた。

「ふん、これが遊園地ね」

いったいどういうつもりで来ているのだろう。と、竜児は首をかしげる。北村とのデートの下見のはずだが、どう考えてもこれから遊園地と一戦交えるような鼻息の荒さを感じる。というか、いまのセリフには少々引っかかるものがある。

「お前、ひょっとして遊園地初めてなのか?」

こっちのほうに驚く。大河は竜児を睨みあげて、一言。

「悪かったわね。あんたはどうなのよ」

別に悪くはない。

いい悪いの話をすれば、大河と親の折り合いが悪いことは知っているし、折り合いが悪い程度の事で大金押しつけて娘ひとりを放り出す悪い親のことも、少しだけだが知っている。
それにしても、あれだけの高級マンション、それもワンフロア貸し切りタイプをあてがえるほど金があるのだ。子どもの頃に遊園地くらい連れて行って貰っていると竜児は勝手に思っていた。

「俺は、あるな。子どもの頃に泰子が無理して連れてってくれたことがある」
「……そう」

大河は気勢を削がれたような相づちを打つ。

疲れた顔の泰子が無理して微笑みながら小さな竜児の手を引いて遊園地の乗り物をまわっている姿でも想像したのだろうか。だとしたら、その想像はかなりあたっている。
スーパーお母さんを自称していた泰子は竜児の喜ぶことなら、どんなに自分が疲れていようと何でもしようとした。それこそ、体を壊してでも。当時わからなくて、今わかるようになったことは沢山ある。
あの疲れた微笑みの記憶一つあれば、竜児は胸を張ってマザコンを自称していいと思っている。

なんにせよ、こんなところで不幸自慢をする必要など無いし、竜児は自分より大河の人生のほうがいろいろと重そうだと薄々思っている。せっかくの遊園地だ。それも快晴。下見とはいえ、お互い縁の薄いところなのだから存分に楽しめばいい。
竜児は気分を入れ変えるように大股で歩き出す。

「よし、切符買うぞ!」
「なにそれ。入場券って言いなさいよ」
「かっこつけんな」
「あんたがダサ過ぎるのよ。ちょっと、待ちなさいよ!」
「早くしろ、置いてくぞー!」
「ちょっと!」

緑のTシャツにちょっとだけアンバランスな、白のつば広の帽子を手で押さえて大河が竜児のもとに駆け寄る。日焼けするからと無理に持ってこさせたものだ。ただでさえ海で焼けているのだ。
この上重ね焼けしてしまうと、デート本番時には腕白小僧のように真っ黒になりかねない。

中身は腕白小僧なんだから、外見くらいは繕っておくべきだろう。

◇ ◇ ◇ ◇

350 ◆fDszcniTtk :2010/08/31(火) 00:56:47 ID:???
今宵はここまでにしとうございます。

351 高須家の名無しさん :2010/08/31(火) 01:12:42 ID:???
>>350
そんな殺生な!毎晩0時すぎにリロードしていそうな予感(>_<)。楽しみにお待ちしています。GJでした

352 ◆fDszcniTtk :2010/09/01(水) 06:34:01 ID:???
連日代理投稿ありがとう

353 ◆fDszcniTtk :2010/09/01(水) 06:34:37 ID:???
「ねぇ竜児、どれから乗ろう」
「ちょっと待て、あそこに地図がある」

いきなり乗り物に着手しようとする大河をなだめて、看板に描かれた園内の地図を指さす。大河と来たら、まったく何の計画性もない。目についたものを順番に片付けるつもりなのだろうか。遊園地を計画的にこなしていくのも変と言えば変だが、そもそも今日は下見だ。
無計画に当たっていくわけにはいかないではないか。それに何でもきちんとしておかないと気が済まない竜児としては、あらかじめどんなアトラクションがあるかを把握し、楽しむに当たってもっともよいアプローチは何かを事前に知っておきたいのだ。

地図によると、園内はおおよそ4つの区分からなる。ジェットコースターなどの絶叫マシン、コーヒーカップのようなおとなしいマシン、射的のようなゲームコーナー、それからショッピングコーナーやらレストランやらがごちゃごちゃと集まった区画。

「全部まわるのは無理ね」
「おう。ショッピングは無視していいだろう。北村は行けば楽しみそうだけど、遊園地に引っ張ってきてまでウィンドウショッピングにいく必要はねぇよ。レストランだけで十分だ」
「そうよね。ショッピングセンターなら地元にもあるものね」

地元のショッピングセンターはそれほど華やかでもないが、そもそも遊園地にまできてショッピング自体無理して行かなければならないものでもない。最後の最後に楽しかった一日の思い出の品を一つ買えばいいのだ。やっぱりショッピングコーナーは除外でいいだろう。
ウィンドーショッピングは、大河と北村が仲良くなったら勝手に二人で行けばいい。

そうすると残りは三つだが。

「とりあえず、あれから片付けるか」

と、竜児が指さしたのは定番のジェットコースター。青空を背景に優美な曲線を描く巨大構造物の上には、頂点まで上り詰めた列車が見える。レールに沿って緩やかに体をたわめたコースターは、ちょうど下へと向きを変えるところ。
大きなクレッシェントで盛り上がる悲鳴を轟音とともにまき散らしながらコースターは曲線をなぞって疾走していく。これぞ遊園地。おあつらえ向きというか、わざとそうしているのだろうが椅子も2列。カップルが到着そうそう遊園地気分を盛り上げるには最適だろう。

しかしそんな竜児の計画も大河には通じない。右から左に駄犬の提案を聞き流したご主人様は、まったく明後日の方を指さして

「あれにしよう」

特に感心もなげにつぶやいた。

「おう、そうするか」

提案を無視されることなど、既に慣れっこだ。痛み一つ感じずに息をするようにスルーできるようになった。これも大河によるトレーニングのおかげだ。4月以来与えられた言われなき罵倒、侮辱、名誉毀損の数は、数えなくとも数百を超える。
今では軽い侮辱くらいなら何の傷も残さずにスルーできる。竜児は将来大河以外の人間にどんな屈辱を与えられても平気の平左で乗り越えていけるだろう。

それはともかく大河の小さな手が指さす先にはコーヒーカップがあった。超特大のそれでコーヒーを飲んだら、確実に胃を壊すこと請け合い。しかし、実乃梨と竜児がアベックで乗るにはちょうどいい大きさだ。

◇ ◇ ◇ ◇

354 ◆fDszcniTtk :2010/09/01(水) 06:35:13 ID:???
男である竜児の視点で言えば、コーヒーカップというのは決して楽しそうな乗り物ではない。これに乗ってクルクルと回る事に何の愉快があるのか、冷静に考えれば考えるほど不安になる。とはいえ、もちろんそれは相手相手次第だ。たとえば、能登と二人で乗ったとしよう。
いやいや待てと竜児は思う。想像するだけで面白くなさそうだ。もちろん相手が男だからというのが大きい。しかしそれだけではない。たとえば春田。なんだかあいつはコーヒーカップの上でアハハハハと意味もなく楽しげに笑っていられそうに思える。
それはそれで楽しそうなのだ。

とはいえ、やはり一緒に乗って楽しそうなのは、なんと言っても櫛枝実乃梨だろう。普段からニコニコと微笑みを絶やさない天使のような実乃梨の事だ。
こんなたわいもない乗り物にだってさえ、「高須君、これって何が楽しいんだい!」と、満面の笑みで笑いながら一緒の時間を過ごしてくれることだろう。やっぱりコーヒーカップは相手が重要なように思える。

じゃあ、相手として大河はどうなのだ?

と、思い至ったのは丁度二人の順番が回ってきた頃で、即座にその答えはもたらされた。

「なぁ、大河。何か不満でもあるのか?」

楽しげなアコーディオン音楽がスピーカーから流れる晴れた空の下、大河はにこりともせずに仏頂面でコーヒーカップに座っていた。正面に座った竜児としては居心地の悪いことこの上ない。おまけに動いているコーヒーカップからでは言い訳をして逃げるわけにも行かない。

「なによ。あんたまた私の気持ちを勘ぐって怒らせようってわけ?どんだけマゾなのよ」
「いや、そうじゃなくてよ」

わずかに目を眇めて殺気を放つ大河に、冷や汗を流しながら話を継ぐ。遊園地って楽しいところだよな、と思わず自問する。なんだか夏の終わりなのにこのカップの上だけ寒々しいのだが。

「お前、遊園地にデートの下見に来てるんだぞ。その仏頂面ぶら下げて北村とこれに乗るつもりか?」

想像して、思わず笑いそうになるのを必死でこらえた。笑ったら確実に殺されるだろう。それにしても、大河の暴虐に日頃から耐えている竜児ならともかく、北村にこの重苦しくも寒々しいコーヒーカップが耐えられるかどうか。

355 ◆fDszcniTtk :2010/09/01(水) 06:35:48 ID:???
「別に北村君と乗るときに不機嫌になる気はないわよ。ないけど…」

と、大河はそこで言葉を探すような表情。ふと、その顔を見て竜児は思い当たった。そうか。そういうことか。相手が自分じゃ気分が乗らないわけだ。そういうことなら、仕方が無いと思う。
日頃散々優しくしてやっているはずの自分と居て楽しくないなど、少々腹が立たないわけでもない。とはいえ、ついさっきまでその竜児本人が「乗るなら櫛枝と」と考えていたのだ。
大河が「乗るなら北村君と」と考えていたとしても、竜児にそれを責める筋合いはない。そもそも、これは大河と北村のデートの下調べなのだし。

しかしながら、大河は

「ねえ竜児、これって何が面白いのかしら」

と、予想も付かないことを言ってのけた。いや、それはまさに竜児が抱いた疑問ではあったが、よもや大河の口から発せられるとは思いもしなかったのだ。

「何が面白いって……ええ?」

聞かれても竜児は困る。こういう乗り物は女の子向けのはずだ。それに大河が乗りたいと言ったのだ。大河は雑で乱暴だが、決して男っぽいわけじゃない。その証拠にファッション雑誌ばかり読んでいるし、おしゃれにも関心がある。
関心どころかこだわりと言っていい。選ぶのはまるでお人形のような服ばかりで、それはつまり自分の容姿に一番似合うのが何か考えているしわかっていると言うことだ。そう、パンチ力、キック力、言葉の暴力いずれも竜児の数倍という大橋高校の女王虎は、紛れもない少女なのだ。

その女の子に「コーヒーカップって何が楽しいの?」と聞かれても、こちらが困る。
想像の中で実乃梨も同じ事を聞いていたが、そもそも実乃梨は少々変な子だし、そこが実乃梨のかわいらしいところだ。向き合う他人を常に真っ正面から食い殺そうとしている手乗りタイガーにそんなことを聞かれても、何のかわいげもない。

「いや、その……」

険しい目を一層険しくして考えているうちに、コーヒーカップは止まってしまった。竜児の思考も止まったままである。

◇ ◇ ◇ ◇

356 ◆fDszcniTtk :2010/09/01(水) 23:58:43 ID:???
本スレ >>411 修正ありがとう。面倒かけて申し訳ない。

>>412 感想ありがとう。延々と長い枕が続いて退屈させちまったかも。

357 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/09/02(木) 00:01:07 ID:???
◇ ◇ ◇ ◇

続く女の子向けのファンシーなアトラクションでも大河の浮かない顔は変わらなかった。空飛ぶゾウに乗って宙をふわふわ漂うアトラクションも、カバに乗ってぷかぷかと水路を進んでいくアトラクションでも、大河の表情は緩まなかった。

表情が変わってしまったのは竜児のほうである。一体何なんだよと般若の表情で愚痴の一つも言いたくなる。当たり前である。
デートの下見に行くからついて来いと言われてついてきたのは良いとしても、残暑の強い日差しにあぶられながら何を好き好んで、仏頂面の手乗りタイガーと歩かなければならないのか。
あまり気の利かない設計のこの遊園地は植え込みが少なく、強い日差しに気温は上がるばかり。周りの人も汗だくで、気温に引きずられるように竜児の脱力指数も青天井だ。

いや、脱力だけではない。実のところ、結構フラストレーションがたまっている。どうしてお前はそんな顔してるんだと言ってやりたくて仕方ないのだ。

手乗りタイガーである大河に表情の話をするなど自殺行為だ。水泳の授業のころ、いらいら状態の大河の気持ちを読もうとしたために竜児はとてつもない精神的苦痛を何日も負うことになった。放っときゃいいのだ。
こんな勝手な奴の気持ちなど読めるはずもないし、推し量ってやる必要もない。
そりゃ、竜児はいつも大河と一緒にいるうちに同じ釜の飯を食った仲間のような気持ちを抱くに至っているが、じゃぁ大河がそれに応えてくれるかというと、その答えは幾分、いや随分微妙だ。

大河はどうやら竜児のことを仲間としてちゃんと認めてくれている。竜児は確かにそう思っている。しかしながら、じゃぁそれがいつも表に出てくるかというと、その確率は非常に低いのだ。
ひねくれているのか、どうなのか、大河の竜児に対する態度は常に横柄だ。だからこの女との間に重要なのは距離感であり、その距離感を正しく保つ努力を竜児は常に心がけている。下手に手を突っ込めば手を食いちぎられる。

竜児は1日24時間、大河という歩く地雷が装備している見えないスイッチを踏みぬかないよう、気をつけて生きていかなければならない。

358 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/09/02(木) 00:01:43 ID:???
「ねぇ竜児、つぎはあれに乗りましょう」

そういって大河が指さした先には古びたメリーゴーラウンドがあった。だがしかし、竜児はすでにそんな気分ではない。このまま不機嫌タイガーと歩くなんて冗談じゃない。殴られるのは嫌だが我慢も限界になってきた。

「乗るのは構わねえけど、お前一体どういうつもりなんだ?さっきからニコリともしないじゃねぇか」
「はぁ、あんた何言ってるの?私に愛想笑い振り巻けとでもいうの?」
「言ってろ。そもそも遊園地に行くと言い出したのはお前だぞ」

重苦しい雰囲気に負けてとうとう竜児が核心を突く。

大河に「お前不機嫌そうだな」などと言うべきではないのだが、それでも竜児は状況に負けてしまった。もう我慢できない。

「私がどんな顔して生きていこうと勝手でしょう。それともなに?あんたは私が一番嫌いなことがまだ覚えられないの?あれだけ私の心を勝手に解釈するのは止めろって言ったでしょ。それとも…ちょっと、何してんのよ」

唸り声をあげ始めた大河に腰が引けつつも、竜児は黙って携帯を取り出すと問答無用でパシャリと一枚写真をとる。とっさにどう反応していいのか戸惑っている大河に、写った顔を見せてやる。

目を眇め、唇の端を醜くゆがめている肉食獣の写真がそこにあった。

「な、何よ。勝手に写真なんかとったりして」
「これがお前の顔だ。お前は北村とのデートの下見に来て、こんな顔をしている。大河。悪いことはいわねぇ。面白くないなら帰ろう」
「面白くないなんていってないじゃない」
「いや、言ったね。はっきり言った。お前が遊園地を楽しんでいるなら俺も付き合ってやる。でも全然楽しんでないじゃないか。こんな調子じゃ勇気をだして北村を誘ってきても、お前があいつに見せられるのはこのツラだ」

日陰にいるものの、風は結構熱い。湿度が低いからいいようなものの、重苦しい雰囲気で向き合ったまま立っているのは苦痛以外の何物でもなかった。
大河のほうは竜児に噛みつきたくてたまらない風情だが、突き付けられた自分の顔に文句も言えず、せっかくのバラの蕾のような唇を真一文字に引き結んで何か言葉を探している。そしてようやく言葉を見つけたようだったのだが、

「でも私は…」

切りだしたところで、どぎゅるるるるる、と盛大に腹を鳴らす。出物腫れ物ところ構わずと言うが、こいつは腹の音だな。そう思いつつ竜児は天を仰ぐ。大きくため息をついて再びつば広帽子の大河を見降ろす。
大河はというと、不機嫌そうな表情のまま、顔を赤らめて背けている。まぁ、いいか。

「なによ」
「飯食おうぜ。考えるのはそれからでいいだろう」

そう言ってくるりと向きを変えるとレストランに向かって歩き出す。勝手に仕切らないでよ、と言いつつも、大河も駆け寄って黙って横を歩く。

◇ ◇ ◇ ◇

359 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/09/02(木) 00:02:18 ID:???
「つまらないってわけじゃないのよ」

カツカレーのカツをスプーンの先で本当につまらなさそうにぶつ切りにしながら、大河がぼそりとつぶやく。
飯の食い方に関して一家言ある竜児としては、「そんなまずそうな面してご飯を食べるんじゃない」、と小言の一つも言うべきシーンだが、残念ながら本当においしくないのだから竜児としても怒る気があまりしない。

カレーとトンカツの魅惑のコンビネーションを前に、大河はサンプル・ケースの前で散々悩みぬいた。辛口だったらどうしようと考えていたのだ。
「ここは遊園地だから子供客が多い。カレーが辛口なんてことはあり得ねぇ」と竜児に太鼓判を押してもらってようやく注文するまで実に10分。
別段こだわりのない竜児も付き合って同じカツカレーを頼んだが、出されたモノのを口にして、二人とも、もともと浮かない顔が一層暗くなってしまった。
まぁ、日ごろから竜児手製のスペシャルスパイス・カレーだの、柔らかジューシー・トンカツなんぞを食べて舌が肥えてしまったこともあるのだが、それにしても(これで1180円は詐欺だろう)と竜児も思わざるを得ない。
肉は薄いくせに妙に固くて衣もべちゃべちゃ。カレーだって全然煮込みが足りない。

そういうわけで二人ともぼそぼそと消化の悪そうな食事を続けていたのだった。先の大河の発言は、食べ始めて10分ほどたってからのことである。
竜児はまだ半分ほど残っているが、大河はあらかたカレーライスをかたづけ、残ったカツも1/3ほどだ。

「じゃぁ、どうしてあんな浮かない顔するんだよ」

と、竜児。最初は北村ではなく竜児が相手だからだろうと思っていたが、大河の言葉を信じるならば、どうやらそうではないらしい。
聞かれた大河はしばらくスプーンの先でカツをつついていたが、どうつついても走り出さないと納得したのか、仕方なさそうに、質問に質問で返す。

「竜児はさ、あれ、面白いって思う?」
「あれって、コーヒーカップとか、空飛ぶ象か?」
「うん」

結局その質問が来たか。と、思う。別に隠すことじゃない、ため息交じりに竜児はさっき考えたことをそのまま口にする。

「正直言って、すげえ楽しいとはおもわねぇ。まぁ、俺だけじゃねぇだろう。男はみんなそう感じると思うぜ。北村も」
「そっか」

と、大河は妙にしおらしい。ほんとに気落ちしているのかもしれない。

「北村君、誘ってもつまんないって思うかな」

360 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/09/02(木) 00:02:53 ID:???
意気消沈する大河に、竜児は言おうか言うまいかと逡巡する。お前次第なのだ、と。遊園地なんぞ、所詮は女子供のための場所なのだ。絶叫マシンを除けば、男が喜んでくるような場所ではない。
では、なぜ世の男連中が来るかというと、結局のところ、一緒に来る女の子の笑顔を見るのが楽しいからだ。そのくらい、竜児にだってわかる。
想像の中の櫛枝実乃梨は実に楽しそうに笑っていた。その笑顔さえあれば、女子供のための遊園地だろうがなんだろうが、竜児にとっては楽園に等しい。

だから、お前も笑え。竜児はそう思う。思うのだが、それを言ったところで解決するかどうか。解決しなければ単にこの猛獣の機嫌を損ねるだけかもしれない。しばらく迷った挙句、結局竜児は

「お前次第だろ」

口にしてしまった。こんな意気消沈した大河を前に言うべきことを言わないでおくなど、所詮竜児には無理なのだ。竜児は根っからのお人好しであり、落ち込んでいる大河を前に手を差し伸べないなんてことは、できるはずもなかった。

「私次第って?」

弱々しく見上げる大河に、なるべくゆっくりと噛んで含むように言ってやる。

「お前が仏頂面していれば、北村だってつまらないし、お前が笑えばあいつだって楽しいさ」
「そんな……」

とってつけたようなセリフ、とでも言おうとしたのだろうか。しかし、竜児はさえぎる。

「聞けよ。俺も男だからわかるけどさ、目の前で女の子が楽しそうに笑っていて、それで楽しくならない男なんていないって。好きかどうかなんて関係ない。特に北村は明るい奴だ。
周りが楽しそうにしていればあいつだってハッピーな気分になるにきまってる」
「そうかな」
「絶対そうだ。あいつはそういう奴だ」

俺もそうだ、とは言わないが、竜児だって目の前の大河が楽しそうにしていれば、自分も楽しくなるのだ。いつもそうなのだ。櫛枝実乃梨という歴とした想い人がいても、目の前の大河が笑えば竜児もうれしかった。他の奴も同じに決まっている。
大河を恐れている能登や春田だって、大河が目の前で楽しそうに笑えば、きっと楽しくなるに違いない。

黙っているところをみると、どうやら大河は不承不承竜児の言葉を信じることにしたようだった。だが、それでも表情は晴れない。当たり前だ。結局「どうしてお前は楽しめないんだ」という、最初の問いに戻ってしまったのだから。

◇ ◇ ◇ ◇

361 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/09/02(木) 00:03:29 ID:???
平らげた皿をテーブルに残して、二人はレストランの外で食休みをすることにした。幸い木陰に手ごろなベンチがあいており、大河を留守番にして竜児は自動販売機で飲み物を買う。竜児はブラックの缶コーヒー、大河にはヨーグルトドリンク。

「ほら」

差し出してやると、大河は素直に受け取って上目遣い。ちいさく「ありがと」とつぶやく。

「あのさ」
「おう」

しばらく黙って各々の飲み物を飲んだ後、大河がようやく口を開く。

「なんだか、自分でも変だと思うんだけどさ」
「……」
「こんな子供だましに乗せられてたまるかって、思っちゃってるみたい」

えええええぇぇぇぇぇぇ?!そりゃお門違いだろう逢坂大河!!とんでもない告白に竜児は盛大にため息をつく。

「なんだよそりゃ」
「やっぱり変かな。変だよね」
「変だ。つーか、ほんっっっと、なんなんだよ。お前が遊園地に行きたいって言ったんだぞ」

木陰だというのに竜児は頭がくらくらしてくる。熱中症ではない。途方に暮れているのだ。

「そうなんだけど……」

その憎たらしいつむじに地獄の底まで食い込むくらい突っ込んでやろうかという気分だし実際そういう顔なのだが、うつむいてつぶやく大河に竜児も突っ込んでいる場合ではないと言葉を呑む。全く面倒な奴だ。
どこの世界に「こんな子供だまし」なんて思う子供がいるのだ。確かに大河は17歳だが、体のサイズも精神年齢も正真正銘子供だ。疑う奴がいるなら連れてこい、俺が保証する。そんな気分だ。

362 遊園地作戦 ◆fDszcniTtk :2010/09/02(木) 00:04:05 ID:???
「あのな、遊園地って、子供だましなんだよ。そういう風に作ってあるんだよ。それにまんまとのっかってだまされるためにみんな大金払って入場してるんじゃないのかよ」
「でも竜児だってつまんないんでしょ」
「だから男は別だって。ここは女の子とか子供が楽しめるように作られてるんだよ。いいか、お前が主役なんだ。お前が楽しむようにって何もかもあつらえてあるんだよ」
「そう……だよね。たぶん。でもさ、なんだか作った人の思惑にまんまと載せられるって、癪じゃない?」

知るかっ、このあほ!と叫んで後ろ頭を思いっきりどつけたらどれほどすっきりするだろうか。このひねくれ小僧のねじれ曲がった根性を何とかしない限り、どう考えてもこの遊園地作戦は失敗だ。大河にしては名案などと喜んだ自分の愚かしさが恨めしい。

どうやら意識的にか無意識にか、「喜んだら負け」だと構えてしまっている大河を前に竜児は目をすがめる。こうなったらぐるぐる巻きにして観覧車のてっぺんから放り出してやろうという顔だが、そうではない。最後の手段を考えているのだ。

「まぁ、何となくわかったぜ。つまり、お前は決して遊園地が嫌いなわけじゃねぇけど、楽しんだら負けだと思ってるんだ」
「別に負けだとは思ってないけど……うん、そうかもね」

相変わらずローテンションの大河を前に、遊園地に似つかわしくない三白眼をぎらりと光らせて竜児が決意を固くする。

「よし。わかった。もうこうなったらあれしかない」
「あれって…」

立ち上がった竜児がビームでも発しそうな目をすがめて見る方向を大河も見、そして口をつぐむ。その方向には最初に竜児が提案してあっさりと却下された絶叫マシンが青空を背景に巨大な体をくねらさせている。

「…ジェットコースター?」
「ショック療法だ」
「どうするのよ」
「ようするに、おまえは自分でも認めているように生半可なアトラクションで楽しんじゃいけないんじゃないかって思ってる。だから、ジェットコースターでがつんとやろうってわけさ」
「そんなのでうまくいくの?」
「ああ、心配するな」

半信半疑の大河に竜児は自信満々に答える。

だが、面の皮一枚内側では竜児だってこんなとってつけたようなショック療法が絶対うまくいくだなんて思っていない。だって、へそを曲げているのは大河なのだ。こいつのへそ曲がりは骨身にしみている。
ジェットコースターに乗ったくらいで「わーい!」と機嫌を直して遊園地を楽しんでくれるなら、これから毎週だって連れてきてもいい。

◇ ◇ ◇ ◇

363 高須家の名無しさん :2010/09/11(土) 00:20:23 ID:???
カウンターがwww
なにがあったんだ?

364 高須家の名無しさん :2010/09/11(土) 22:03:42 ID:???
今日もすごいなw
壊れてるんでないなら新作の影響とか…?

365 ◇fDszcniTtk :2010/09/13(月) 12:10:01 ID:7/WxfeR2
その新作を買いそびれている俺が通りますよ。

どこ行っても置いていない。ダチョウ犬呼ばわりされても仕方ないな。

366 高須家の名無しさん :2010/09/13(月) 23:18:23 ID:???
え、何のカウンターのこと?w
新作は尼でポチった。
楽しみでもあり、怖くもあり、だな。

367 高須家の名無しさん :2010/09/14(火) 19:03:24 ID:4IvF2Gt6
俺、出張から帰ったら新作読むんだ

368 高須家の名無しさん :2010/09/16(木) 01:09:59 ID:???
おいいいいいいい!!!!!
新刊はどこ行ったら買えるんだよクッソオオオオオオ!!!!!!

売れてるのは喜ばしいけども

369 高須家の名無しさん :2010/09/16(木) 18:40:27 ID:???
あるところにはあるぞ、新刊。昨日ゲットした。
駅前大型書店とかは全滅だけどな、街外れの道路沿いの書店なんか穴場だ。
DVDやCDレンタルがメインの本屋も狙い目かも。

ちなみにそこは5冊残ってたww

370 ◆fDszcniTtk :2010/09/17(金) 01:36:51 ID:???
俺はあきらめてamazonで買った。

371 高須家の名無しさん :2010/09/20(月) 21:38:47 ID:???
よし、BD化まで一歩前進
ttp://ameblo.jp/bdmeister/entry-10649692186.html
サイトでの投票、週刊トロステーションでの投票、アニメージュでの投票と、これまで全部とらドラ!が
一位だ。次の媒体はアニメが低調らしいけど、総合で1位はとれるだろう。前回やたら冷たかった
キングレコードに目にもの見せてやる。

372 高須家の名無しさん :2010/09/22(水) 00:09:33 ID:???
寝る前に"Startup"とか「優しさの足音」を聞くと安らかな気分で眠れる。

373 高須家の名無しさん :2010/10/14(木) 00:44:41 ID:???
初の規制でショックだ・・・ってことで

本スレ>>270
いやいや普通にGJ!超GJ!
これからも書いて欲しいものだw

374 高須家の名無しさん :2010/10/31(日) 08:39:41 ID:???
クリスピークリーミーは偽物のほうだぞ!

375 ms07b3 :2010/11/01(月) 22:46:16 ID:???
規制の為、本スレへの転載を希望します。
「クリスマスは誰にでもやってくる⑤」
俺がグレもせずに生きて来られたのは、早く大人になって独立する事を夢見ていた
からだろう。一刻も早く母親から逃れたかった。
母親が俺の事が邪魔であると同様に、俺にとっても母親は邪魔な存在だった。
昼夜逆転の生活を送る母親と、学生である俺の生活は滅多にクロスしなかった。
毎日、キッチンのテーブルに1,500円が置かれていた。朝・昼・夜の3食を賄うには
充分な金額。学費や、急に金が必要になった場合には、夜、キッチンのテーブルに
メモを書いて残しておく。そうすれば翌朝には必要な金額が置かれていた。
中学を卒業して、地元の高校に進学すると、俺はバイトに明け暮れた。
そうすると、母親と接する機会は全くなくなった。
月に一度、偶然顔を合わせる。そんな関係だった。
幸い、俺はバイトに明け暮れる生活を送っていても、学業の成績は良かった。
高校卒業後、大学に進み、中堅どころのイベント運営会社に就職すると、寝食を忘れ
たように仕事に打ち込み、30歳を過ぎる頃には、大きなイベントを取り仕切る立場
になった。


ティーン向けの雑誌のイベントは、随分と華やかな雰囲気だ。
雑誌の看板モデルが勢揃いして、バレンタインデーのチョコを手にしてフラッシュの
放列に向かい笑顔を振りまく。
観客の多くは小学校の高学年から高校生までの女の子。カメラ小僧も紛れ込んではい
るが、制服・私服の警備員が一定の距離以上には近づけないよう見張っている。
「亜美ちゃーん!」「こっち向いて〜!」と言った黄色い声に混じって
「亜美さま〜。」「こっち向いてくださ〜い。」という野太い声も混じる。
ケミカルウォシュのデニムは色褪せ太い。何年巻いているんだ?と聞きたくなるほど
草臥れたようなチェックのバンダナにカメラマンベスト。川嶋亜美の事務所の人間か
ら、要注意人物だと伝えられた男は、カメラ小僧達の真ん中に陣取り、高そうなカメ
ラでモデルの女の子を狙う。
手元のトランシーバーで舞台袖に配置された警備責任者に注意を促した。

イベントが終わり、出演者達は帰って行く。ただ1人、川嶋亜美を除いて。
「おつかれさま。まだ帰らないのかい?」
俺が聞くと、川嶋亜美は営業用の笑顔を見せた。
「ええ、マネージャーが迎えに来てくれる筈なんですけど、来ないんです。」
困っちゃいますよね〜。川嶋亜美は明るい声で言う。
「次の仕事は?」
「今日はこれで終わりなんです。」
いくら人気モデルとは言え、ティーンズ雑誌のモデル程度に専属のマネージャーなど
いるはずもない、例えそれが、有名女優の川嶋杏奈の娘でもだ。
時計を見るとすでに5時半過ぎ。辺りは暗くなっている。
「俺も帰りだ。途中の駅まで乗っていくかい?」
「でもマネージャーも来るし。」
「そうか、じゃあ気をつけてな。さっき警備の無線聞いていたら、バンダナ巻いた男
が楽屋口の歩道をウロついてるそうだ。」
俺がそう言うと、川嶋亜美は表情を曇らせた。
ポケットから車の鍵を取り出して、歩き始めると、黙って川嶋亜美もついてきた。

車が大橋駅のロータリーに着くと、川嶋亜美はお礼を言って降りていった。
さて、これからどうしようかと考える。
家に帰っても、今日は妻はいないはずだった。
去年のクリスマス以来、妻は毎週のように徳生学院に出かけている。

徳生学院の生徒達の半分には、土曜・日曜を過ごす週末里親がいる。
年明けから、みらいと姉妹のように仲の良いきょうこちゃんが、毎土日、週末里親の
元に預けられるようになると、必然的にみらいはひとりぼっちになってしまった。
時折、訪れる里親候補者に対して、激しい人見知りを示すみらいは、難しい子供とし
て扱われてしまい、早々に里親達の興味の対象から外れてしまう。
しかし、妻だけには、思慕の態度を示すのだった。

376 高須家の名無しさん :2010/11/02(火) 00:51:05 ID:???
「せっかくの亜美ちゃんの出番なのに規制とか信じらんない!」
「おちつけ川嶋、転載しておいたぞ。まったく大河といい>>375といい世話が焼けるったらありゃしねぇ」

377 高須家の名無しさん :2010/11/02(火) 19:00:24 ID:???
本スレ規制食らってた。

---

>>357
最後の大河の台詞ににやり。やっぱこの作者は才能あるわ。

>>359
押さえた一人称の文体がすばらしい。最初は時期がわからなかったが、だんだんわかってきたな。
そのへんもうまいわ。早く次が読みたい。

378 高須家の名無しさん :2010/11/03(水) 15:42:49 ID:???
クリスマス・イブに2-Cの面々が竜児の家にやってきて大騒ぎするって
同人誌があったはずなんだけど、なんだっけな。エロくない話のはず。

379 高須家の名無しさん :2010/11/03(水) 19:45:06 ID:???
「腕の中のタイガー」かな?
いやあれは忘年会だったような…

380 高須家の名無しさん :2010/11/05(金) 17:29:55 ID:???
それだ!ありがううううう!

381 高須家の名無しさん :2010/11/10(水) 10:17:05 ID:???
規制続行中

本スレ >>387
最近のeroさんは神がかってるな。みのりんへのプレゼントは思いつかないくせに
大河へのプレゼント即答の竜児に笑った。大河もこっそり確認しているし(w

382 高須家の名無しさん :2010/11/10(水) 22:35:29 ID:???
本スレ 369

乙&GJ 楽しく読ませて貰ったが、あくまで竜虎スレだと言う事をお忘れなく。
こういう変化球は、小説投稿スレでやってくれ。

383 高須家の名無しさん :2010/11/12(金) 07:48:53 ID:???
ワロタ
ttp://yunakiti.blog79.fc2.com/blog-entry-7235.html

竜児は彼女持ちじゃないよな。

384 高須家の名無しさん :2010/11/12(金) 19:18:31 ID:???
婚約者持ちだな

385 高須家の名無しさん :2010/11/12(金) 19:25:07 ID:???
妻帯者だろ

386 高須家の名無しさん :2010/11/12(金) 23:44:48 ID:???
ちなみにこの中で大声張り上げて堂々と「好きだ!」と言ったのは竜児だけ。さすが。

387 高須家の名無しさん :2010/11/13(土) 07:53:08 ID:???
本スレまだ規制中だ。

>>395

eroさんのSSのうまさの一つに、凝縮されたオチがある。この形式のSSの代表作は「三題噺『顎』『見せる』『花びら』」だろう。ttp://tigerxdragon.web.fc2.com/index/SS19/888a.html 暖かい落ち着いた話が淡々と進められ、最後の一行で、
二人の体温が上がるのが感じられるようなオチがもたらされる。

今スレだと

>>233
>>299
>>357

などがこの型。ほのぼのとした会話主体のストーリーのが紡がれて、最後の2,3行、たまに1行くらいでガツンと破壊力のあるオチが来るパターン。ぷっと笑うこともあればニヤリとしてしまうこともある。
こういうのは文章の組み方だけ覚えていてもできない技でオチを考える発想力に加えてそれを凝縮するテクニックも必要になる。

>>299 なんかは、この人のもう一つの得意パターン「お前らもう無意識に惚れ合ってるだろう!」型のストーリーと凝縮型のオチが組み合わさっている珍しい例になっている。

ネタの取得方法として原作からランダムにキーワードを選んでいるらしいが、もはやストーリー構築能力は三題噺の範疇を大きく超えている。
しっかりと守られた形式美もいいんだけど、たまには掌編小説や短編小説も読みたいなと勝手に期待する次第。

長くなったけど、いつも惚れ惚れしながら読んでいるぜ!

388 高須家の名無しさん :2010/11/13(土) 14:57:02 ID:???
同じく規制中。
eroの人はほんとどう表現したらいいかわからないけど否応無しにニヤニヤさせられるね。
1スレ内の短い文章であれだけ表現できる技術がすごい。
以前のシリーズの昔話パロも面白かったし気が向いたら書いて欲しいな。



あと全然関係ない話だけど久しぶりにメジャー読んだらそういやこいつも大河だったなと。
しかも典型的なツンデレだなと。

389 高須家の名無しさん :2010/11/17(水) 01:05:27 ID:???
まだ規制中だ。

本スレの流れ見て、竜児が大河に口移しで食べさせるSS思い出した。

390 高須家の名無しさん :2010/11/19(金) 08:09:33 ID:???
俺のお隣さんがこんなに可愛いわけがない

391 高須家の名無しさん :2010/11/20(土) 01:01:56 ID:???
と思っていたら

392 高須家の名無しさん :2010/11/20(土) 09:22:27 ID:???
恋愛相談を受けることになってしまった。

393 高須家の名無しさん :2010/11/20(土) 16:28:13 ID:???
なんだかんだやってるうちに

394 高須家の名無しさん :2010/11/21(日) 06:46:51 ID:???
そいつの親友と急接近。

395 高須家の名無しさん :2010/11/21(日) 18:13:40 ID:???
問題あるか?無いよな。だってあいつは俺のことなんて何とも思ってないし。

396 高須家の名無しさん :2010/11/22(月) 16:40:48 ID:???
だが何かが引っ掛かる……

397 高須家の名無しさん :2010/11/23(火) 00:40:04 ID:???
なぜお前はそんな顔をするんだ?

398 ◆fDszcniTtk :2010/11/23(火) 00:58:59 ID:???
永久規制かもしれん。代理投下よろしくたのむ。

新作:「夢の中」

399 夢の中 ◆fDszcniTtk :2010/11/23(火) 00:59:39 ID:???
高須竜児が目を覚ましたのは、まだ部屋が暗い時間だった。耳を澄ませてみるが、町は夜の底にあるようだ。ほんの少し首を回して時計を見る。午前4時。

軽く深呼吸する。部屋の空気に触れている顔は少しひんやりしているが、布団の中は暖かい。左隣に妻の体温を感じる。いつものように自分より少し高めの体温に安心して、もう一度深呼吸。まだ十分な睡眠をとっていない体は再びの眠りへとゆっくり沈んでいく。

だが、

『…北村君…』

妻が呟いた言葉に、いきなり頬を張り飛ばされたように目が覚めた。

◇ ◇ ◇ ◇

400 夢の中 ◆fDszcniTtk :2010/11/23(火) 01:00:14 ID:???
高校時代に知り合った妻の大河とは、大学卒業後仕事についてようやく結婚することができた。プロポーズから長い月日を経て迎えた結婚生活は、つきあいが長かったにもかかわらずいくつもの驚きに彩られていた。

二人は知り合って最初の一年間、事情があって半同棲生活を営んでおり、竜児は大河の生活に関して相当知っているつもりだった。なにしろ生活能力皆無の大河を半ば引き取ってしまった竜児は、掃除、洗濯、ご飯の用意、後片付け、栄養状態の管理まで行っていたのだ。
手出ししなかったのは睡眠、入浴とトイレ、あと下着の洗濯くらいで、もしそれに手を出していたら完全に同棲だった。

しかし当時二人にはそれぞれ片思いの相手がいたし、何しろその頃の大河は学校で「手乗りタイガー」などというニックネームをもらうほど凶暴だったから、竜児は大河に手を出すなど想像したこともなかった。

それが急転直下、たった一年で二人は婚約に至るのだが、それでも実直きわまりない竜児は高校時代キスまでしか手を出さず、大学に進学してそれなりに深い仲になったものの、とうとう二人で朝を迎えることがなかった。
そんな竜児に大河は幾分あきれ気味だったが、そういった堅さまで含めて竜児のことが好きだったのだから、大河がぐずるということもなかった。

だから、本当に朝まで同じベッドで過ごしたのは新婚初夜がはじめてだったのだ。そして、結婚して竜児をおそった驚きの一つは、人々が深い眠りについた後にやってきた。

最初に気づいたのは新婚旅行から帰ってきて二週間ほど経ってからのことだ。夜中眼をさました竜児は布団の中で首をかしげた。普段体調管理を万全に行っている彼には、夜中目を覚ますなど滅多にないことだった。

部屋の気配を探ってみるが特に不審なこともなく、もう一度寝ようとした竜児は、隣で妻の大河が呟いた言葉に思わず笑い出しそうになった。

『私ハンバーグ』

◇ ◇ ◇ ◇

401 夢の中 ◆fDszcniTtk :2010/11/23(火) 01:00:50 ID:???
それから何度も、竜児は夜中に起きて妻の寝言を聞くことになった。大河は恐ろしく寝言が多い女だったのだ。たまに、布団を派手に引っぺがされて寒さに驚いて起きることもあったが、ほとんどの場合、目が覚めてしばらくすると寝言を聞かされた。
おそらく直前に寝言を聞いて目が覚めていたのだろう。

たった一言聞いて終わることもあれば、延々と断片的な話を聞かされることもあった。そして、それは竜児にとって苦々しい事態となった。睡眠不足になるほど長い寝言は滅多になかったが、かなりの確率でどんな夢を見ているのかはっきりわかったのだ。
言い換えれば、高須大河は夢の中でプライバシーをだだ漏れにしていた。

竜児は堅い男である。結婚しているからプライバシーはいらないなどとは考えない。親しき仲にも礼儀あり。慎ましく、きちんとした生活にこそ、魂の安らぎがあると考えている。その竜児の上に、大河はバケツをひっくり返すように自分の小さな脳みその中身をぶちまけてきた。

夢の内容はその時々によって違っていた。

全くとりとめのない冒険話を聞かされることもあれば、食べ物の話のこともあった。一番好きな食べ物はとんかつで、二番目はカレーライスだと言うこともわかった。大河は何を食べたいか聞くと、いつも頭の中が肉でパンクしてはっきりしない答えになるのだが、
寝言の数から統計的にとんかつが一番好きだと言うことがはっきりした。これはまあ予想通り。そして意外にもカレーライスが二位だったわけだが、きっと竜児特製のスパイスのおかげだろう。
普段食べたいと聞かなかったから、やや後ろめたさがあるとは言え、自分のスパイスが認められたのはうれしいかった。

大河の夢は、最近の自分たちの話題はあまりなくて、それよりも少し先の話や親戚、友達の話が多かった。夏休みがとれたらどこそこに行こうとか、おじいちゃん元気かなとか、子供何人ほしい?などという話も何度も聞かされた。それから、昔の話をなぞる寝言も良く聞いた。
一番多いのは、二人が知り合った高校二年生の時の話。それ以降の話は、竜児と一緒の時の話だったり、あるいは竜児が知らない友達の話であることもあった。
どの話も、夢らしくとりとめのない情景が断片的につながっていて、しかも多くの場合突拍子のない方向へと物語は進むようだった。

竜児が一番聞きたくなくて、だけど聞かずにはいられない、二人が知り合う前の話もあった。切れ切れの寝言はだんだんと悲しそうな声色に染められていき、終いには夢の中で泣き出した大河をたまらずに起こしたこともある。
闇の中で「何?」と涙声で問う妻に、「お前、泣いてたぞ。嫌な夢見たのか?」と聞き返した。夢の内容を聞いたなどとは口が裂けても言えなかった。

寝言を聞いているとは、とても言えなかった。そんなことを言ったら、夫婦とは言え気まずくなるだろうし、何より大河が竜児と寝ることに不安を覚えるかもしれない、そう考えただけで竜児は暗い気持ちになった。
つらい少女時代を送った大河を幸せにしてやるというのが竜児の目標であり、大河に自分と寝ることを不安に思わせるなど論外だった。夢のことは竜児が口をつぐんで墓場に持って行けば済むことだ。

◇ ◇ ◇ ◇

402 夢の中 ◆fDszcniTtk :2010/11/23(火) 01:01:26 ID:???
『北村君…どうして?』

夢の中で妻は高校二年生の頃をなぞっているようだった。竜児の友達である北村祐作、大河の友達である櫛枝実乃梨。互いの想い人との仲を共同で取り持とうとしていたあの頃。やがて竜児は大河のことを誰よりも大切に思うようになり、
大河も同じように竜児を大切に思うようになった。

ベッドに入るときにはいつも竜児の腕にしがみついて寝る大河だが、今は猫のように丸くなって、つらい夢の中、誰の助けも得られずに孤独に耐えているようだった。学校で手乗りタイガーと恐れられながら、誰も寄せ付けず、
好きな男に声もかけられずに独りで泣いていたあのころの夢をさまよっているのだろうか。

大河は今でも北村のことが好きなのだろうか。それは友達としてだろうか、それとも昔抱いたような恋心を今でも思い起こすことがあるのだろうか。あるいは、夢とは知らずあの頃のつらい片思いにもう一度胸を痛めているのだろうか。

横で竜児は目を見開いたまま、見えない天井を凝視している。優しく起こしてやり、どうした、怖い夢でも見たのかと抱きしめてやればいいのか。何も言わずにそっとしてやればいいのか。今胸が痛むのは、妻を助けてやれないからか、それとも嫉妬なのか。

◇ ◇ ◇ ◇

403 夢の中 ◆fDszcniTtk :2010/11/23(火) 01:02:02 ID:???
結論のでない逡巡は、妻が漏らす弱々しい寝言とともに続く。心の中に手を差し入れることはできない。昔のことを思い出すなと言うこともできない。思い出していい。ただ、楽しかった思い出として思い出してほしい。
そして願わくば、「竜児を一番愛している」と夢の中でも言ってほしい。

涙声混じりの寝言に心を揺さぶられながら、何年たっても無力な自分に苦い思いをかみしめる。

『…竜児、助けてよ…』
「おう」

寝言に、思わず応える。いつもそうだった。唐突に助けを求めてくる大河に何度手をさしのべたことか。

未だ夢をさまよっているのか、それとも竜児が漏らした声に起きたか、大河が身じろぎしてしがみついてくる。寝たふりをする竜児の横で、再び規則的な寝息を立て始める。

腕に絡みついてきた体温に、われ知らず安堵のため息を漏らす。つかの間迷路をさまよった竜児の意識も、もう一度眠りへと落ちていく。

(おしまい)

404 高須家の名無しさん :2010/11/23(火) 02:18:57 ID:???
>>398-403
GJ!
これもまた少し切なくて、でも暖かいのがいいね。
思わず「おう」って応えちゃう竜児がすごく好きだw

405 高須家の名無しさん :2010/11/25(木) 07:30:43 ID:???
>>404
本スレ >>443-447
感想サンキュー。竜児と大河にはホントしあわせになってほしいわ。

406 高須家の名無しさん :2010/12/02(木) 21:38:44 ID:???
竜児があの時点で言っていた「いわないこと」は、九巻で語られている自立への渇望だと思う。
あまりにも個人的で、そして竜児の潔癖性に照らしあわせて、とてもその理由を他人に話すわけには
行かないことだ。

407 高須家の名無しさん :2010/12/18(土) 18:16:35 ID:???
クリスマスが近づいてきたが、大河は今でも施設の子供達にプレゼントを贈っているのでしょうか?。

408 高須家の名無しさん :2010/12/21(火) 00:52:33 ID:???
もちろん。そして今頃竜児の夢を見ている。




竜児はもちろん、明日の献立の夢を見ている。

409 高須家の名無しさん :2010/12/21(火) 00:54:04 ID:???
ttp://toki.2ch.net/test/read.cgi/moeplus/1292145177/
だそうな。

410 高須家の名無しさん :2010/12/22(水) 07:26:26 ID:???
竜児も立体化してくれー 大河と並べたい

411 高須家の名無しさん :2010/12/26(日) 01:49:45 ID:???
昨日はお楽しみでしたね

もげろ!とは言わないよこの二人に限っては
むしろ反り返れと

412 高須家の名無しさん :2010/12/27(月) 23:20:39 ID:???
クリスマスSSのリスト作ろうとして挫折。改めてまとめ人さんの大変さがわかった。

413 高須家の名無しさん :2011/01/11(火) 03:37:28 ID:???
なにやらサーバーエラーが出るのでこっちに。
本スレ>>157
このスレには守護神(まとめ人様)や書き手や描き手の他にも新しいジャンルの神も降臨するようになったのか。

>>164
GJです。描写が細かくて情景を思い浮かべながら読めるのがさすが。
アフターの話もいいけどこの時期の話の微妙な心境の話もいいもんだ。


しかし例のアニメの破壊力が想像以上だった。
甘え目のくぎゅボイスでしゃべるセリフがほぼ「りゅうじ」のみって…
バカップルモードの竜虎妄想してたら内容がほとんど頭に入らなかったよw

414 高須家の名無しさん :2011/01/11(火) 21:34:55 ID:???
例のアニメって何だ?w

415 高須家の名無しさん :2011/01/11(火) 22:23:34 ID:???
本スレでもちょいちょい話題出てたドラゴンクライシスだよ。昨日1話目やってた。
メインヒロイン役が釘宮さんで主人公の名前が竜司
そんでやたらと「りゅーじ、りゅーじ」と連呼してた、というかそれ以外しゃべってない。
ついでに次回予告も釘宮さんだったんだが、これがまたとらドラMADに使ってくださいと言わんばかりのシロモノw

416 ◆Eby4Hm2ero :2011/01/16(日) 10:37:08 ID:NvvAIVgg
業務連絡
回線不調につき2ch(というかネット全般)にアクセスできません……

AA早くきちんと見たいよう。

417 414 :2011/01/16(日) 11:25:53 ID:???
㌧クス

三題噺の人頑張って><

418 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2011/01/16(日) 12:02:53 ID:NvvAIVgg
お題 「広まって」「掴んで」「だるい」



「うう?……眠い、だるい……」
「大河、ここんとこお疲れ気味だねえ……高須くん、気持ちはわかるけどあんまり頑張り過ぎちゃいかんよ」
「何でだ!? ひょっとして最近妙な噂が広まってる原因櫛枝じゃねえだろうな!?」
「ほほう……妙な噂とは、どんな?」
「ぐ……そ、それは……」
「冗談は置いといて?、また夜泣き?」
「うん……それにでっかくなってきたもんだから抱っこしてると重くて」
「いや、重いったって……赤ん坊だろ?」
「竜児……あんた今度うちに来なさい。寝つくまでずっと抱っこしてるのがどんだけ大変か思い知らせてあげるから」
「お、おう……」
「起きてる時は起きてる時でやたらと動きまわるし。なんでもすぐに口に入れようとするから気が抜けないし」
「あー、そりゃ一番大変な時期だねえ……」
「おんぶしてたら、いきなり髪の毛掴んで引っ張ったりするのよ。あやうく首の筋傷めるところだったわ……」
「……本当に土曜にでも大河の家に行くか。飯のリクエストあったら言ってくれよ、材料用意してくから」
「おー、さすが高須くん。こりゃ将来はイクメン間違いなしだね!」
「? みのりん、『いくめん』って何?」
「育児に積極的に参加する旦那さんのことだよ。いい予行演習になるんじゃない?」
「予行演習ってことは……そ、そうだよな、いずれは……」
「りゅ、竜児と私の……赤ちゃん……」
「ひゅーひゅー、あっついぜお二人さ?ん。でもそこで揃って赤くならないようにね?」

419 ◆Eby4Hm2ero :2011/01/16(日) 12:10:51 ID:NvvAIVgg
携帯から手打ちコピーでもなんとかなるもんだw

ただ、波線での長音が?で表示されてて、きちんと投稿できてるのかどうか……

420 高須家の名無しさん :2011/01/16(日) 13:03:37 ID:???
大丈夫です。GJ! 流石のタイガ―も、かなわねーw

421 高須家の名無しさん :2011/01/16(日) 13:11:17 ID:???
いや、ところどころ?に化けてるよ

>>418
妙な噂を詳しくだな

422 高須家の名無しさん :2011/01/21(金) 21:05:30 ID:???
何か、BD化の噂が流れているが本当な のか?

423 高須家の名無しさん :2011/01/21(金) 22:05:34 ID:???
http://ameblo.jp/bdmeister/entry-10774783236.html

424 高須家の名無しさん :2011/01/22(土) 18:41:22 ID:???
なんかしょっちゅう規制食らうな。
それにしてもBDついに来たのか!奮発してテレビとレコーダー買ったのはこのためだった・・・!
交渉頑張ってくれた方々ほんとにありがとう!

ここ見てるかわからんけど本スレ>>209

アニメ見たら原作はむしろ読むべき。相互補完できるから。
映像や声を思い浮かべながらより細かい心理描写を堪能するといい。特に7巻とか8巻が個人的にはお勧め。
あと10巻はアニメ版がかなりすっ飛ばしたから新鮮な気分で読めると思う。

425 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2011/01/23(日) 16:39:00 ID:???
まとめサイト更新しました。
規制中なのでこちらでお知らせー

それはともかく、とらドラ!BD化おめでとうううううう!!

426 高須家の名無しさん :2011/01/24(月) 00:11:13 ID:???
まとめ乙です!イヤッホオオオオウ!!!!

427 ◆fDszcniTtk :2011/01/24(月) 00:18:20 ID:???
まとめ人さん、いつもありがとうございます。どうやら、こっちは永久規制らしいです。

BD化に関してはとらドラ!そのものがSD画質なんで云々と言われていますが、地デジでも十分綺麗なので、
やっぱりBD BOX化はうれしいです。買います。

おまけがつくんじゃないかと言われていますが、どうでしょう。スピン・オフから一作つくなら万歳ものですが、
難しいかな。もし、スピン・オフからなら「とらドラ!の雨宿り」か「ラーメン食いたい透明人間」希望です。
後者は原作エンドでもアニメ・エンドでもOKなストーリーなのがみそ。

428 高須家の名無しさん :2011/01/24(月) 21:44:33 ID:???
>>425
いつもお疲れ様です、ありがとうございます!

AA崩れてるの私だけかな

429 高須家の名無しさん :2011/01/31(月) 01:24:40 ID:???
原作3巻のクライマックスの「竜児は私のだぁぁ!誰も触るんじゃなああああい!」だけど、
実は28ページで亜美に同じことを言い放っている。もちろん、肩すかしありで。

クライマックスのセリフばかりが取り上げられる3巻だけど、こういう伏線の埋め込み方が
ゆゆこのうまいところだと思う。

430 高須家の名無しさん :2011/02/11(金) 07:19:18 ID:???
規制に巻き込まれたんでこちらで。

>本スレ301
GJ!
やはり竜虎はハッピーエンドでなければ!

431 ◆Eby4Hm2ero :2011/02/13(日) 12:23:20 ID:???
本スレ規制中……転載よろしくです。

432 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2011/02/13(日) 12:24:22 ID:???
お題 「ちょっと」「妙な」「あった」


 ぴと。
「おうほぉうっ!?」
「……ちょっと竜児、いきなり妙な声出してるんじゃないわよ」
「お……おまえが不意打ちで首筋に冷たい缶なんか当てるからじゃねえか!」
「ふーんだ、恋人の接近に気付かないあんたが悪いのよ。罰ゲームとして冷たいコーヒー一気飲みの刑」
「まさか、そのためにわざわざ買ったのか?」
「ううん、あったかいのと間違えたの」
「……おう、そうかそうか」
「だけどほんと、何をボーっとしてたわけ?」
「大した事じゃねえよ。クリスマスの料理とプレゼントを何にしようかなって考えてたんだ」
「……今から?まだ11月なんだし、早過ぎない?」
「受験の本番も近いし、忙しくなってから慌てるより余裕があるうちに決めておいた方がいいだろ」
「んー、それもそうね……それじゃ、今日は予定変更してプレゼント買いに行く?」
「駄目だ。今日は図書館で勉強」
「ぶー、竜児の糞真面目犬ー」
「大河はまだ何も考えてねえんだろ。だったら来週にでも、ある程度候補絞ってから行くほうがいいじゃねえか」
「むー……仕方ないわね、お楽しみはそれまでとっておくとしますか」
「おう」
「じゃ、今日はお勉強デートってことで、行きましょうか」
「いや、それデートって言うのか?」
「場所や内容が問題じゃないのよ。こうやって竜児と二人っきりでお出かけするのはみんなデートなの」
「……お、おう」

433 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/05(土) 10:51:34 ID:???
お題 「お喋り」「大河」「手」



「ねえ竜児、手見せて」
 大河がそんなことを言ってきたのは、日曜の夕食の片付けが済んだ後。
「おう」
「……むー、やっぱりちょっとカサついてるわね……」
「なんだ、どうした?」
「今日昼にみのりんとお喋りしてた時にね……」


「しかし、大河の手は綺麗だねー」
「え、そう?」
「手タレでもできるんじゃないかってぐらいだよ。どんなケアしてるのさ?」
「……ケアって?」
「……え? 何もしてないの?」
「……手に何かするの?」
「……うわ、あーみんの気持ちが少しわかった気がする……」
「え? ええ?」
「普通はさ、洗い物とかしてると嫌でも手の皮膚が荒れてくるもんなんだよ。洗剤で皮脂が落ちて乾燥しちゃうから。それを防ぐために保湿クリーム塗ったりするわけ」
「へー……」
「ファミレスでバイトしてた頃は、冬場のあかぎれにずいぶん泣かされたもんさ……」
「そ、そうなんだ……」


「……って」
「おう」
「でね、竜児はいつもご飯の片付け手伝ってくれるし、どうかすると洗い物全部一人でやっちゃうじゃない。だから手が荒れてるんじゃないかって思って」
「そりゃまあ多少はな。でも飲食業みたいに大量に扱うわけじゃないし、大した事はねえよ」
「でもきちんとケアしとくにこしたことはないでしょ。クリームっての買ってきたから塗ってあげる」
「おう、そうだな、頼む」
 大河はチューブを取り出して蓋を開け、竜児の掌ににゅるるるんと。
「あ」
「……大河」
「ちょっと、出しすぎちゃったわね」
「ちょっとってレベルじゃねーぞ。どうすんだこれ」
「余計な分はちゃんと拭き取るわよ」
「それもMOTTAINAIな……そうだ、大河もクリーム塗ればいいか」
「え?」
「大河が俺の手に塗るのと一緒に、俺が大河の手に塗ればクリームも無駄にならねえだろ」
「あー、そうね。えと、擦り込むようにすればいいのね?」
「おう」
「…………ねえ竜児」
「……おう」
「これ……ヌルヌルした指絡ませあってるのって……なんか……」
「お、おう……」

434 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/05(土) 10:58:56 ID:???
回線不調につき、携帯から手打ちコピペでこちらに投下です。
本スレへの転載をお願いします。

435 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/09(水) 08:34:54 ID:???
お題 「逃げて」「激しく」「食べよう」
 
 
 
「あちゃー、並んでるねえ」
 実乃梨の言葉通り、竜児と大河の目の前には洋菓子店のテナント前からずらりと伸びた人の列。
「テレビで紹介されるってすげえな……こんなに人が集まってるとは」

「ま、私達もそのテレビに釣られた人間の一部なわけだけどね」
「釣られたのは主に大河じゃねえか。食べたい食べたいって大騒ぎしやがって」
「なによ、竜児だって乗り気だったじゃないの」
「まーまーお二人さん。で、どうする? ずいぶん時間かかっちゃいそうだけど」
「そうだな……とりあえず俺が並んでるから、大河と櫛枝は先に昼飯食べてこいよ」
 
 
「!」
 突然スプーンの動きを止め、目を白黒させながら喉元を激しく叩く大河。
「大河、ほら水!」
 実乃梨に手渡されたコップを一気に飲み干し、大河は大きく息をつく。
「あ、ありがとみのりん」
「慌てて食べようとするからだよ。何をそんなに急いでるのさ?」
「んー、早く食べて竜児と並ぶの交代しようかと思っ、ひっく!」
「大河?」
「あらやだ、ひっく」
「ありゃあ、しゃっくりかね。ほら、この水をコップの向こう側からだね」
「ごめんなさいみのりん、ひっく、私それできないのよ」
「そうなの?」
「うん、昔竜児に、ひっく、教えてもらったんだけど失敗しちゃって、ひっく」
「それじゃ、ご飯を噛まずに丸呑みにするとか」
「それやったら、ひっく、また喉に詰まっちゃって」
「えーと、砂糖をスプーン一杯食べる」
「それも、ひっく、効かなかったの」
「……大河、ひょっとしてしょっちゅうこんな風にしゃっくりしてる?」
「そんないつもじゃないわよ、ひっく……まあ、たまに、ひっく」
「豆腐の原料は?」
「大豆でしょ、ひっく、それがどうかした?」
「むう、これも駄目か……いつもはどうやって止めてるわけ?」
「自然に止まることも、ひっく、あるけど、だいたいは竜児が驚かせて、ひっく、くれるのよね。ばかちーが結婚、ひっく、したとか」
「でもそれってすぐにネタ切れにならない?」
「うん。紙鉄砲、ひっく、鳴らしたりとかもあったん、ひっく、だけど、それも慣れちゃって、最近はもっぱら不意打ち、ひっく、かしら」
「不意打ち?」
「後からこっそり忍び寄って、背筋撫でたり、ひっく、とか耳に息吹きかけたりとか。この間なんていきなりキ、ひっく」
 
 
「おう、いたいた。大河ー、櫛枝ー」
「りゅ、竜児っ!?」
「いやー、あの後列が一気に動いてな。思ってたより早く買えたぜ」
「竜児、逃げて!」
「え?」
 大河の言葉を理解するより早く、竜児の腕をがっしと掴むのは実乃梨の掌。
「高須くん、ちょーっと聞きたいことがあるんだけど」
「おう? な、何だ?」
「高須くん流のしゃっくりの止め方について詳しく」

436 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/09(水) 08:41:52 ID:???
前回転載ありがとうございました。

まだ回線不通……というか、アパートの回線切り替えの都合で、最悪三月終わり頃までネット繋げないという状況ですorz

437 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/13(日) 10:11:39 ID:???
お題 「丁寧」「しばらく」「食って」
 
 
 
「竜児、どう?」
「まあまあ美味いな。初めてでこれなら十分じゃねえか?」
「よかった。それ、明日の朝竜河に直接言ってあげてね」
「おう。盛り付けもずいぶん綺麗だったけど、大河が手伝ったのか?」
「ううん、全部竜河よ。丁寧にやりすぎて時間がかかったもんだから、泰児が痺れ切らしちゃってねー」
「おう、それは……竜河らしいな……」
「だけど、人に料理を教えるのがこんなに大変だとは思わなかったわ……」
「竜河はまだ小学生だしな」
「今更だけど、やっと竜児の苦労がわかった気がするわー」
「いや、それはどうだろう」
「……何よそれは」
「何しろそれまで食ってばっかでまともに洗い物もしようとしなかった上に、いつドジをするかわからねえ奴に教えるほど大変なことってのはちょっとなあ……」
「な、なによ、昔の話じゃない」
「その話題を振ったのは大河じゃねえか」
「そうだけど……」
「ま、俺はまだしばらく仕事が忙しいし、よろしく頼むぜ、大河」
「ん」
「土日とか、できるかぎりの手伝いはするからさ」
「あ、それじゃ早速一つ頼んでいい?」
「おう、何だ?」
「昔の話も出たことだし、私の復習も兼ねて、あのチャーハン作ってみせて欲しいの」
「おう、わかった」

438 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/13(日) 10:20:19 ID:k2Q1O1ks
転載と素敵イラストありがとうございます。

回線繋がるの早くて28日なのが確定……o...rz
原因が管理会社と大家さんの手違いとか、もうね、アホかと(ry
しかたないんで手打ちコピペ頑張ります。

439 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/17(木) 07:30:53 ID:???
お題 「あんなの」「今更」「橋」
 
 
 
「そうだ、お父さんお母さん知ってた? 今度大橋で工事があるんだって」
「あー、そういや予告の看板立ってたよな。橋の改修とかなんとかって」
 竜河と泰児の言葉に、竜児と大河は顔を見合わせて。
「なに、大橋無くなっちゃうわけ?」
「んなわけねえだろ。改修ってことは車線増やすとか歩道が綺麗になるとかじゃねえかな」
「何にせよ、今とは変わっちゃうわけよね……ねえ竜児、その前に写真撮ってこない?」
「おう? 何でだ?」
「あんたねえ……本気で言ってる? 二人の記念の場所だからに決まってるじゃないの」
「そりゃそうだけど……今更じゃねえか。あれから何年経ったと思ってやがる」
「時間の問題じゃないの。竜児がプロポーズしてくれた場所を残しておきたいのよ」
「おう……だけど、後から見たらただの古い橋の写真でしかねえんじゃねえか?」
「それもそうね……じゃ、プロポーズの時の状況を再現した写真にするとか」
「誰がそれを撮るんだよ。それに、あんなのは二度とごめんだぞ」
「何よ、まさか私にプロポーズしたのを後悔してるってわけ!?」
「んなわけねえだろ! 問題はその前だ!」
「その前って……ファーストキスなんてそれこそ記念じゃないの!」
「それでもねえ! 大河の勘違いで冬の川に突き落とされたことを言ってるんだ、俺は!」
 
「ねえ、お兄ちゃん……お父さんのプロポーズってどういう状況だったわけ?」
「知らね。だけど普通じゃなかったのは確かだよな……」

440 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/17(木) 07:39:16 ID:???
前回も転載ありがとうございます。

回線繋がるまであと十日ちょい……
手打ちコピペにもちょっと慣れてきましたw

ゴールデンタイム2買ったけど、読む暇が無いよう……
挟んであるチラシにとらドラ!BD化が載ってたのは嬉しいね。

441 高須家の名無しさん :2011/03/17(木) 20:58:25 ID:???
転載しました。
俺も読みたいんだが、落ち着くまで注文を控えてる。
BD発売日決まってたらイイなぁw

442 高須家の名無しさん :2011/03/19(土) 06:14:39 ID:???
こんにちは。今年になってとらドラ!にハマった新参です。
まとめサイトでたくさんSSを読ませていただきました。
自分でも書いたのでこちらにうpさせてもらいます。全部で55KBです。
ガチガチの性描写はありませんが、竜虎が最後まで済ましてるのを前提としているので
本スレではいけないかなと思いました。

□□【タイトル】 虎、帰る
□□□□【内容】本SSに過剰な性描写は含まれませんが、竜虎の関係が既に
□□□□□□□□最後まで済んでいる事を前提に書いており、また若干生々しさ
□□□□□□□□を想起させるであろう内容を含んでおります。

では↓から宜しくお願いします。

443 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:15:42 ID:???
あれから1年が過ぎている。

賃貸契約を済ませたばかりのワンルームマンションに、逢坂大河はいた。
部屋はがらんとして、まだ家具のひとつもない。引越しの予定は数日先で、後から届く事になっている。
産まれたばかりの乳児がいては、一家そろっての転居などとてもできる相談ではなく、
母も義父も渋々ながら独り暮らしを認めてくれた。

帰って来たのだ。この街を旅立った夜と同じように手荷物だけで。
もちろん竜児にも、友達にも引越しの予定は既に知らせてある。けれども今日来てしまった事は内緒だった。
それがサプライズってもの。
地元で一年通った女子高の卒業式を終えてすぐ、バイトで貯めた旅費をはたいて飛んできた。
なぜなら、今日は大橋高校の卒業式だから。
もちろん式に出席する事はかなわない。けれどもその日、その場所に居たかった。
だから式次第をやっちゃんに教えてもらったら、すぐに上京しようと決心した。きっと内緒にしてくれてるはず。
終わった後に竜児と逢いたい。みんなと再会したい。
ぜったいまたね!と約束したんだもの。ぎりぎりにはなったけど、ようやく果たせる。

大河は自前の制服に着替えて、ちょっと悩んで素足にニーソックスを履いてみた。
地元ではストッキングでないと校則違反だったけれど。
――おかしくないかな?
セーラー服だから、ひょっとしたら毘沙門天国業界の人に見えてしまうかも知れない。
その点が心配と言えば心配ではあった。
けれども、まあいいかと思う。ちょっとでもここにいたときの装いを再現したい。
腰まである長い髪もそのままで、1年分だけ伸びた。

扉を開ける。
オートロックでもなくそれなりに年季の入ったマンションだけれど、これから何年か過ごすあろう自分のうちだ。
しっかりと戸締り確認を済ませて歩き出した。
春の訪れを感じさせるうららかな日。
大河は目をつぶっても行き着ける通学路を歩いて、だんだん早足に、
ついには白いタイをなびかせて小走りになる。坂を駈け上がれば、懐かしい校舎が見える。
校庭には誰もおらず、体育館で式進行中のよう。
通用門から入って、事務の受付に声を掛ける。事情を話し、式終了まで校内で待たせてほしいと願い出た。
事務の人は大河の顔を覚えていた。が、名前は忘れていたようだ。
あーえーと、〜さんだっけ?と誤魔化していたから、“手乗りタイガー”と呼ばれた元生徒よと
薄い胸を反らして傲岸に構えてみた。
ああそうそう、そうだったねと来客バッジを渡してくれた。

しんと静まった校内。
スリッパをぱたぱた鳴らして、懐かしい場所をたずね歩いてみる。
朝に夕に通った昇降口。北村くんを見つめていたネット裏。
非常階段の脇は特別……告白の場所。そして竜児に初めて名前で呼ばれたところ。
思いが湧きあがってしばしの間佇む。
まだ案外とトラウマなプールはちらりと横目で。
砂糖と塩を間違えた家庭科調理室。未来が見えなくて気分がささくれていた進路指導室。
階段を登った踊り場には、変わらずに自販機が並んでいる。
ちょっとずつ足を止めて、それぞれの場所で過ごした日の思い出を記憶から紡いでは歩く。
廊下を進めば、2−C。後扉を開けて、無人の教室に入った。
歩み寄って、窓を開け放つと微風が流れ込んでくる。
大河は振り返って、ゆっくりと机の間を歩く。
ここが私の席。みのりんの席。
腰を下ろして頬杖をついて、ちょうど目線がいく所に竜児と北村くんの席。
つと立ち上がって再び窓際に移動する。ここがばかちーの席。へへ、座ってやれ。ぽすんと机の上に。
目の前には掃除用具を収めたロッカー。あれからもう二年近く経ったのか。

――式が終わるのはまだ先ね
足をぶらぶらさせて、旅立った日を思い出していく。

444 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:16:46 ID:???


ちょっと着替えてくる、とだけ竜児に告げた。
昨日の雪化粧がいまだ消えぬまま日が傾いてまもなく夜になろうとする頃。
私はママが待つはずのマンションに帰る。だけど、もういなかった。
留守電を聞いて、子供じゃないとうそぶいてみる。
赤いマフラーを巻いたまま、部屋を片づけ荷造りをし直し始めた。
もそもそと手を動かしているうちに、持って行くものが駆け落ちと違う冬物
だと気づいて、まなじりに雫がたまってくる。

ふと開け放した寝室へと通じる扉ごしに、北向きの窓を振り返った。
あのカーテンを開ければ、長いときを過ごした家がある。ずっといて良いん
だよと許されたうちがそこにある。
いま走り出せば数十秒であそこに行ける。
いや。窓を開け、名を呼び、差しのべられた両手に向かって、気合いを入れ
て跳ぶだけでいい。
少し驚いて、無茶するなと怒り、全力で抱きとめてもらえるはずだ。
そうしたい。今すぐに。

でも、と思う。
そこはやっちゃんが作って竜児が守ってきた家なのだ。
守る手伝いくらいはできるようになるだろう。けれど自分が捨て子のままと
いう現実は変わらない。10年後、20年後でもまったく変わらない。
あいつの前で、みすぼらしい自分を見ないようにして生きて行けるのか。見
ないようにしてきたものが見えてしまったのに?
だからこそ、私はもう逃げない。私は変わる。総てを受け入れて。

ぐすっと、にじみかけた涙を拭って立ち上がる。
2年間を過ごした部屋や調度品のひとつひとつを眺めて、少なからぬ愛着が
湧く事にも驚いて、自ら隠れていた迷宮の扉を開ける。

マンションを出て、路地の角。見やれば慣れ親しんだ家。そういえば黒豚だ
と言ってた。お腹がぐぅと情けない音を立てる。
いつしか暮れた街路を踏みしめるように、大河はゆっくりと歩き出した。
自分に誇りを持って、竜児を愛したい。分かってよ、りゅうじ。

地元の駅から電車に乗ろう。その前に連絡をしよう。
「行くよ。これから。うん、最終便に乗れるから」
「いい。住所知ってる。行き方も分かる」
「遅くなるけどちゃんと今日のうちに着ける。大事な時期だし、行ったり来
 たりしないでよ」
「……うん、うん。いっぺんには無理だと思うけど着いたらちゃんと話す」

空港に着き、チェックインを済ませ、搭乗案内に従って機内へと歩み入る。
アップグレード席でなくてもシートが余裕っていうのは、ちびの得なとこよ
ね。出張か、帰りか、隣のメタボサラリーマンが苦しそうに腰を収めている
のを見てちょっと思う。

定刻を10分ほど過ぎて機は駐機場を離れた。
ベルトを締めて、目を閉じて、上を向いて。
タクシーウェイから滑走路へ、いったん止まって、フルパワー。
加速のGでシートに押しつけられる。たまった雫が小さな耳に向けてひとつ
線を描く。飛行機の中は乾燥しているから、すぐに乾くだろう。
――あのマフラー、カシミアの。貰ってきちゃえば良かったかな。
もうほとんど自分の匂いしかついていない。
それに、あれは竜児のだ。

1時間が過ぎた。
シートベルトサインが灯って徐々に高度が下がるにつれ耳にツンと痛みが走
ってくる。やがて足下に着陸のショック、逆噴射の轟音。
空港の地下からJRに乗換え、駅に降り立つと、頬に触れる空気がピリピリ
と痛くて茫然とした。
瞼や鼻まで少々痛みを感じる。
近くのビルに大きく掲げられた電光の文字が氷点下だと教えてくれている。
客待ちのタクシーに乗り込み携帯を取り出して住所を告げる。
15分ほどで着くそうだ。

445 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:17:42 ID:???
時刻は半日ほど遡る。

「う……うぅうく……うえっ……」
旅支度を解く間もなく、リビングのテーブルに突っ伏して低く嗚咽を上げて
いる。明日からは出勤せねばならない。ただでさえ近いうちに産休を取る事
になっている。
自分はしくじって、連れ帰る事がかなわなかった。
「もういいわよ!あなたが何しようがどこに行こうがもうっ知らないっ!
 お母さん帰るからっ!好きにすればいいじゃないっ!!」
駄々っ子のような留守電を残してしまった。
臨月を間近に控えたお腹をそっと両手で抱え込んでみる。
「たいが……」
かつて、どうしようもなく壊れてしまった夫との関係。巡り会ってしまった
最愛のひと。三十路などとうに過ぎ去ろうとしているのに惹かれあった。
14歳の娘の事は、2番目の事だった。
ただ目の前にある幸せが何より大事で、それを見ないようにした。だから見
えなかった。
穏やかな愛を得て暮らしも落ち着き、その結晶たる二番目の子を授かって、
そうして初めて、大河を思う事ができた。
ようやく向き合えるようになったのに、今は分かってしまった。自分があの
子とどんなに遠く離れたのかを。

親権を持たない自分に、怪我をして入院したと連絡があったのは異常な事だ
ったろう。迎えに行くまでの僅かな時間で心当たりに問い合わせ、大体の事
情を把握した。
別れた元夫には憤りを覚えもしたけれど、反面チャンスと思ってしまった。
なし崩しに、迷う暇も与えぬまま、できるだけ短期間で今の自分の家庭に引
きずり込む。そして新しい生活を始めさせる。
普通の家庭で普通に暮らす方が良いに決まっている。そのぐらいすぐに受け
入れる子だとも思っていた。
なのに。
あの子は、東京のホテルで粘った。頑強に、必死に、今は行けないと言い張
った。触れたら噛み殺すと言わんばかりの目をしていた。
一週間、途切れながらの対話の中で、ともかくも付き合ってる相手がいるら
しいと分かる。
3年も独りでほったらかしにされていたのだ。
大河が何をしていても、今さら自分がどうこう言える立場ではない。そんな
資格を既に失ったと分かっていても、なお譲るわけには行かなかった。
転居や編入の都合もあるのだからと強引に2月一週目までと切った期限を平
然と無視して、大河は独り暮らしを続けていた。
迎えに行って、力ずくで手を取ろうとした。
母親なのだから。

あの子は……つかもうとする私の手を払った。すがるような瞳で傍らの男の
子の手を取り、そして行ってしまった。
そう、詰まるところまたやらかしてしまったのだ。あんたの彼氏や友達なん
て2番目のこと、と。
捨てたから、捨てられるということ。これが……報い。

テーブルに涙がぽたぽたと落ちる。悲しくてやりきれずに、肘をついても止
まらない震えにただただ耐え続けるしかない。
リビングの窓から見える空は鉛色に染まり、風はほとんどなく、大量の新雪
を落としている。
やがて帰宅した夫が妻の様子を慮り、暖房を入れ、なにも言わずに夕食の支
度を半ば済ますまで、気づかずに彼女は泣き続けた。
凍りついたような足許に吹き付けた暖気にはっとして顔を上げ、自らのつと
めを思い出した彼女がキッチンの夫と代わる頃には雪はやんで雲が切れ初め
ていた。
夜空が晴れ渡るようだ。今夜は痛いほどに冷え込むだろう。

そして、電話が鳴った。
「お金は足りるの?じゃあキャッシングであんたの口座に振り込むから」
「即時反映だから空港でおろして」
「こっちはバス終わってる頃だから。タクシーをひろいなさい」
「そう。すごく冷える。探しながら歩いてくるなんて無理。いいわね」
つい先刻までの泣きっ面と、この毅然とした仕切りの落差はどうだ?夫は安
堵を覚える。この感情と理性の瞬発力にいつも恐れ入って憧れをいだいてき
た。傍らでずっと見ていたい気にさせるのだ。
聞けば、彼女の娘もそうした性質をより鮮明に受け継いでいるとか。会える
のが楽しみだ。
3時間ほどで着くみたい。前々から言ってあるようにあの子はものすごくわ
がままで気難しい。だから悪いけど今夜は顔を見せないで。刺激しないで。
指図する妻に、夫は分かってるよと頷く。

夜も更けた。
家の前にクルマが止まったような気配がした。
ぼんやりと待っていた母は、灯をつけっぱなしにしておいた玄関へと急ぐ。
インターフォンを押されるより早く扉を開けて迎える。
と。
「おわぁっっ?!」
うちの娘は、降りたタクシーから僅か数メートル先の玄関にたどり着く前に、
盛大にすっ転んでいた。
「大丈夫?相変わらず迂闊ね」
「遺憾だわよ……」

446 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:18:26 ID:???
はーーーーっあったかい。
ぶちまけた荷物を拾い集めて、芯まで冷え切る前にうちの中へ退避できた。
全室に灯油暖房システム完備が普通で人が居る時間は常時運転。窓や出入り
口は二重。外は氷点下ふたけたでも屋内はどこも20℃以上。それがここで
の冬の過ごし方らしい。
「ごはん……食べてないわね。いま温めるから」
「うん」
コートを脱がせて、切れ切れにぐぅとかきゅぅとか聞こえてくる小さな身体
をテーブルに着かせて、母は表情も変えずに仕切る。
「お茶が欲しければ自分で淹れなさい。あんたの湯のみはそれ。紅茶やコー
 ヒーが良ければそこの戸棚」
「ありがと」
リビングとひとつながりのキッチンで支度を始める。
娘は慣れた手つきで急須を扱い、熱いお茶をすすっている。
「なーに?とんかつ?」
水滴で曇ったラップがかかる皿を電子レンジに入れようとしている手元を見
つめて、はしたなくもおかずを訊いてくる。
「あんた、ブタ肉好きでしょ。十勝豚の脂身がサシではいっているところ。
 美味しいわよ」
「あ……えーと、あの。とんかつはちょっと。ダメ……なの」
涎がタラーっと垂れてるように見えるけど?

こんなに食べる子だったかしら。
成長期?それはいくらなんでも過ぎてたはず?
小さく痩せっぽちで大きな瞳だけが印象的だった、という娘の容姿に関する
記憶を、この短時間で改める。
頬も腕もずいぶんふっくらとし、肩から脇腹から腰にかけて柔らかなライン
を描いて、化粧っ気もないのにそこはかとない女っぽさを漂わせている。
17歳にもなればそういうものか。と思う事にする。
とんかつを食べられないというこの子に、ベーコンの欠片で炒め物を作って
やり、後は常備菜を並べたら、まあ食べること食べること。
炊いておいたご飯では足りなくて、冷凍庫のひやめしまで在庫一掃した。
食後のお茶をすすりながら、大河は押し黙っている。
今日はもう遅いし、眠そうだし。明日からゆっくり話をしようと思った。
じゃ、あんたの部屋へ……、と立ち上がりかけた。
「ん、まだ大丈夫。最初にね、ママには言っておかなくちゃならない」
尋問みたいにならないよう、向かい側でなくななめ向かいに座り直す。
「私はここに交渉に来たわけじゃないの。ここんちの……ママと、ママの旦
 那の子供になりにきた」
眠気を払いながらだけれど、嫌々でもなく、気負うでなく、耽々と言った。
耳を疑った。
「そ、それは願ってもないことだけど。でもあんた彼氏とか、友達とか言っ
 てたのは……」
「それはちゃんとあるよ。これからもある」
捨てるとかそういうんじゃないんだよ。
ちゃんと分かってもらいたいのだと言う。
「私ね。普通のうちの普通のいいこになりたいの。そうすれば、竜児にも他
 の大切な友達にもまっすぐ目を見て会える」
「ううん、今でも竜児はまっすぐ見てくれる。でも私がそれじゃだめなの。
 苦しいからちゃんとなりたいの。……だから、手を貸してほしい」
ママには責任感があるから私のこと良かれと思ってくれてるのは分かる。そ
れだけじゃ足りないなんて言わない……足りないけど。じゃなくて、その範
囲内でいい。具体的な事は――いまはまだ分かんないけど。これから考えて
いくから。
一息に喋って、伝えられたかどうか自信を持てずに俯きかけている。

それは、ふざけているんでも嘘をついているんでもなく、もちろん甘えてい
るのでもなく。
自分の欲しいものが分かって、その距離を見て困難さに惑い、援けを求めて
いる顔だった。
いろいろな不安がすっと消えて行くのを感じ取っていた。
母親としてなすべき事をしなかった罪は残っても、被害が残ることはないの
だ。抑圧と強制をもって躾ける必要はなく、ただ倍生きた人生をこの子に伝
えられば多分それでいい。
そんなふうに分かった。

同時に、ひとりの女としての理解を求められている事に理解が至る。
つい先日自分に向けられた、怯えと怒りと恨みを映していたあの瞳の面影は
今はもうない。それは、間違いなく小さな駆け落ちを間にはさんでこの子に
起きた変化。
そういう事なのか。
この子は、あの男の子から力を授かったのだろうか。
もちろんこの身にも覚えのある、そうした決意のみなもとに考えがめぐる。
が、今はよそう。

「だいたいのところは分かったわ。今日は遅いし、あんたはもう寝なさい」
舟を漕ぎ始めた娘を急かし、用意した部屋に連れて行く。
問題が表に出てくるような事がもしあっても、それが分かるのは当面は先の
話だ。今はこの子に、不安に耐える小さな女にでき得る限り手を貸してやろ
うと。そう思えた。

447 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:21:15 ID:???


また、朝が来ていた。
まどろみから覚めかけて、顔を埋め抱きしめていたものが真新しい掛け布団
だった事に気づくと、言いあらわしようもない寂しさを覚える。
どうりでふかふかに柔らかかったわけだ。

既に日は高い。二重サッシの窓から雪化粧の街が光を反射させて天井を眩し
く照らし出しており、遠くに真っ白な山の影も見える。
部屋には新品の机と空の戸棚、本棚が置かれ、壁際にはベッド。一方の壁際
に暖房機。小さいながらドア裏に姿見の付いたクロゼットもある。
長い淡色の髪に寝癖をつけたまま大河はベットを降り、部屋を出た。
階段を下りてリビングに入ると朝食とメモが置いてある。
母も旦那も出勤してしまって、この家にひとりきりだ。
メモには夫婦の帰宅予定や連絡先と、調度品の置き場や取扱、近場のコンビ
ニやドラッグストアの場所も書いてある。脇に地図も合鍵も置いてあった。
とりあえずは逃げ出すと疑われていない事にも気づいて、ほっとする。
顔を洗って朝ご飯を済ました。おかずは昨日のとんかつの卵とじ。これはす
でにとんかつじゃないわけよね。と心に棚を設える。
作ってくれたのに、食べたかったのに。たぶん今は冷え切ってしまったであ
ろう800km以上離れたところに存在するはずの黒豚とんかつに思いをはせる。
小さな義理立てで大河はとんかつ断ちをしてみたのだ。

食事が済めばとりあえずする事もなくなって、家の中をうろついてみる。
一階にはキッチンとリビングと水回り、夫婦の寝室とあと一部屋。
おそらくは産まれてくる赤ちゃんのための部屋になるのだろう。
二階に大河に与えられた洋室と空き部屋の和室。
おなかいっぱいになったらここでゴロ寝をしてやると決める。
どうにもプライバシーを守りきれなさそうな小さな一戸建てではあるが、そ
れは嫌ではなかった。2DKの距離感にすっかり慣れてしまっている。
「さ、さぁて、お掃除お掃除ぃ〜♪」
竜児が聞いたら何を企んでるんだお前は、とでも言うであろう台詞を誰にと
もなく呟いて、大河は掃除機をかけ始めた。四角い部屋を丸く……。
次にバケツに給湯からぬるま湯を汲んできて雑巾がけ。
まずは二階の廊下から階段、一階の床と片付けて行く予定。


――まあ少し予定と違ったけど、問題ないね
動線の途中に置いたバケツに蹴っつまづき湯をぶちまけたのは遺憾だった。
乾いた雑巾を総動員して吸い取り、余計な手間はかかったけど午後には原状
復帰にこぎつけた。現代家屋のお掃除事情ではなんちゃらワイパーとかハン
ディモップなどの利器があり、当然ながらこの家にも常備されていて、埃を
取るのに水拭きは必須ではないのだが、もちろんそんな事は知る由もない。
差し当たって、住環境を快くする目的で床と桟が大河の手で拭われたのは事
実である。
ああそうだ。おふろ入らなくちゃだった。
キッチンを漁って見つけた冷凍チャーハンとカップスープで軽く昼食を食べ
たあと、大河は思いだした。バタバタしていてすっかり忘れていた。
埃をかぶって汗かいたんだから食事の前に入れば良かったと呟きながら浴室
の暖房を入れ、バスタブに湯を注ぐ。
あらかた湯が溜まって来たところで、部屋から着替えを持ってきて脱衣所に
入る。

パジャマを脱いで下着を外そうとしたとき、それは突然に、大河の皮膚に広
がって行く感覚があった。それは纏っていた自らの体温を脱いで、冷たい空
気に触れた刺激で呼び覚まされる。
手でそっと唇に触れてゆっくりと撫でてみる。
ここも……、ここにも触れられた。鏡に映る白い頬に朱がさしていくのが見
てとれる。やがて熱でもあるみたいに染まる。
触れられて嬉しかった。
嬉しいのだろうと、ずっと想像していた。
触れてみたかった。触れてもらいたかった。
だって纏った自分の体温ごしに触れ合えたときだって、あんなにも嬉しい。
プールのとき。
旅行のとき。
北村くんを思って星を見上げたときも。
くまサンタの腕に確りと抱かれたときも。
そんなことを望んではいけないと思っていながら。
でも、じかに触れ合うのは大違い。比べようもないほどすごい事だった。
頭が、心が嬉しがるだけじゃない。
触れられたところが勝手に嬉しがって、大騒ぎを始める。
堪らなくくすぐったくて、痺れて。
痛くて。熱い。
蝋のように、チョコレートのように、その熱で溶かされてしまうと思えた。
違う固まりが溶けて、やがて混ざり合うように思えた。
いま記憶をよみがえらせるだけで、身体じゅうその感覚が呼び覚まされる。

448 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:23:28 ID:???
あの熱さ、さ――ぅえ……っぶしょいっ!!
浴室暖房が利いているといえ、そうはまっぱで立ち尽くしてもいられない。
さぶい。
とりあえず、いまはさぶいわ。
洟を垂らしたまま、ざぶんとバスタブに飛び込んだ。
ふぇぇぇぇ、極楽、極楽ぅ。
時々おっさんくさいと自分でも思うが、誰に見られているわけでもない。
温かい湯に包まれて、皮膚の感覚がゆっくり元に戻って行くのがわかる。
充分温まって、髪を湿らせてしまってから自分用の洗髪料が無かった事に気
づいた。先に買い物に出かけておくべきだった。いろいろ順序がおかしい。
まあいいわ。別に大してこだわりがあるわけじゃなし。
母のものを使わせてもらおうと物色する。
「あ。」
見覚えのあるシャンプー。
蓋を開けて匂いを確かめて……間違いない。これがいいや。
すかすかのねこっけとは言っても腰まで伸びる大河の髪、量は男性なら何人
前になることか。当然ながらシャンプーの消費ペースがハネ上がり、本来の
所有者たる義父に不審がられるのは別の話。
その香りが、また先刻の感覚を呼び覚ましそうになる。


着替えて、髪を乾かしながらに携帯を開けてみたら何十件もメールが届いて
いて驚いた。ああそうか、もう大橋高校には退学の届けが提出されていたん
だ。これも、忘れていた。
正直、そんなには親しくないと思っていたクラスメートからも届いていて、
自分はなんてばかだったのかと、くじけそうになる。

立ちのぼる竜児の香りに包まれていると、少しずつ癒えてきたようだ。
ここへ来て最初に竜児に連絡するときには、落ち着いたから心配するような
事はなに一つないと、そう、しっかり間違えずに伝えたかった。でも今はす
がってみたい。
きゅっと唇をかみしめながらメールを打つ。
同時に告白するつもりが、あまりの急展開に一杯一杯で、すっかり後回しに
なっていた。嫁に来いと言われた時点で心はひとつだったから、正直なとこ
ろ自分は告白の言葉などどうでも良い。移ろいがちな言葉よりも確かに結ば
れた今だからこそなのだろうけど、そう思える。
でも竜児はどうなのだろう?
あんたのことを好きだと、私が言ってないと気にしていないだろうか。
何十行も言葉を費やして打ったけど、これじゃかえって心配させてしまうん
じゃないかとも思った。消す。
ああ……そうじゃないんだこれは。私が告白されてないと不安になっている
んじゃないかって、あいつは気にするのよ。
ちょっと迷って、だから簡単に書こうと思った。
――そういや、好きって言われてなかった。
ほんっとに無愛想すぎて自分でも呆れてしまう。でも竜児なら分かってくれ
るだろう。私が伝えたい事を間違えずに見つけてくれる……はず。
ぽちっと、送信。
それでも何か足りてない気がする。電話して話そうかな。
でもいま声を聞いたらきっとやばい。グダグダに甘ったれる自分が見える。
――そうだ。
この画像を送ろう。昨日撮った、夜空に浮かぶへっぽこな星。

送信を終えたらすぐに、電話がかかってきた。
あわててとる。

「大河か?今どこにいる?大丈夫か?腹へってないか?」

耳を貫く声にぞくぞくとした。やばいなんて思って、悪かったわよ……。
こんなにも顔も胸も肩も温かくなってくる。
昨日からの事を落ち着いて話せた。竜児も今日の出来事を話してくれた。
黒豚の行方を訊ねたらスタッフが美味しくいただいたらしい。
「そんでよ、大河。お前が好っ」
「ちょっと待て!……あんたぁそんな大事な話を電話で済ますのっっ?!」
「だってお前が!いやそうじゃねえ。そうじゃないんだ。お前が言えと言う
 から機嫌を取るんじゃねえよ。俺はずっとお前に言いたかったんだよ」
「ずずずっとって?!いつからっ?」

449 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:24:22 ID:???
くっと息を呑む声がしたのは、こっち?あっち?
「あ、あの、はっきり言えるのは、その……文化祭の後だ!」
「へ、へえ?」

ううう嘘でしょっ?!あの頃に?……何でよっ!
「じゃあ私の方が先っ!夏休みには私もうあんたの事好きで、好きで好きで
 やばかったんだからっ!」
「え?ええっ!なんだよっ、あんな頃まで遡るのかよ?!」
「そうだよ!毎日毎日何の邪魔もされずにあんたと居られてどんだけ嬉しか
 ったか分かるっ!?」

嘘じゃない、本当の事だけど。
「うそこけ。お前は北村、俺は櫛枝が好きだっただろうが!そこを無視すん
 なら俺だって」
「『俺だって』?!なによっ???」
「ぷ、プールで、溺れかけたとき、ぜってーこいつを離さねーって思ってた
 からな!」
「へーん!へーん!へーん!遅いね鈍いねグズだねっ、こっちゃああんたが
 ばかちーと番ってるときには既に、……あぅぅ」

たぶん竜児も向こうで真っ赤になってる。確信できる。顔が熱い!
「なに言ってんだ!じゃじゃあ俺はおまえが北村に告白したときっ」
「はぁぁ?じゃあタッチの差だけどあたしの勝ち!あんたがチャーハン作っ
 てくれたときっ」
なんだとー!じゃあ俺は廊下でぶつかったときっあたしゃ生まれた時っ!
はぁ、はぁ、はぁ。肩で息をして、お互いに無言のときが訪れる。
そのしじまで竜児は思う。
最初の出会いからすぐにいろんな大河を見た。
不機嫌に見下ろされ、涙目で襲われた。貪るように食って作り物のように眠
っていた。可愛い、綺麗だとも思った。
大河も思う。
チャーハンを貪る自分を見つめていた、元気づけてくれた。襲ったのに。
優しい目だと分かって、とっくに用は済んでいた。なのに帰れと言われてど
うしても去り難かった。
互いに、出会った時には近すぎて見えなくなっていた。戸惑いながらも、そ
こから離れたくないと思っていたのだ。

今は分かる。この胸の高鳴りがあのときにはもう始まっていたのだと。
「ね、竜児。電話でいいからまた言ってよ。私も言う。何度でも言いたいか
 らさ。竜児が……好きだよ」
「ああ、何度でも言ってやる。大河が、好きだっ」
熱があるんだろう、私たち。熱病に罹ってる。
熱で死なないように、でも熱から醒めないように。
いつまでも話していたい気持ちをやっとのことで抑え話を終えた。
大河は、遠くを見て、そしてさっきの画像を友達みんなにも送ってみた。ま
だ返せる言葉を見つけていないけど、今すぐにではなくてもきっと伝わると
信じる。
いつの間にか街の景色が夕映えに染まっていた。




何日かが過ぎ、さしたるトラブルも起きないまま大河は暮らしに馴染んでい
った。こちらの女子高への編入を手続きし、試験と面接の日も決まった。
暇なので、頼まれた買い物のついでに近場だけでなく足を延ばしたりもして
みる。地下街を中心にいろんな場所へ行けるのは便利よねと感心しつつ気に
なるお店をチェック。
根雪の上では軽く転んだりもしつつ、独りでお茶して帰宅してみると不在配
達票が。マンションに残してきた荷物が届いたようで、連絡して再配達をし
てもらう。
届いた荷物をほどいて整理するのはけっこう時間がかかった。
本や参考書を取りだして並べて、服や小物を整理はできてないけれどもまあ
収納して、パソコンをつないで、ようやく高校生の部屋らしくなった。
あ、そうだ。
携帯に着信していたメールをPCに転送。
添付ファイルを保存。ビューワで開いて拡大する。やっと大きな画面で見る
事ができた、クラスの皆の集合写真。
竜児がクリスタルの星を持って中央に。みのりんとばかちーがいて、裸族の
北村くんがいて、みんな笑顔を贈ってくれた。
ありがとう、とひとりひとりの顔を見ながら思う。
黙って消えた逢坂大河を元気づけようと撮ってくれた友達の気持ち。
彼らに何を話せば良いのかまだ思いつかぬまま、今日も携帯に手をのばす。

450 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:25:22 ID:???
竜児につながった。
簡単に事情を説明して、残ったもので気に入ったものがあるならあんたにあ
げると付け加える。家具はこの部屋にとても入りきらないからそのままにし
てきた。中古品でしかないが、父親が残した負債の、僅かな足しにはなるの
だろう。その前にと。
「ただね、引き渡し日以降は家宅侵入になるからそれは気を付けて。警備シ
 ステムってものがあるんだから」
「おう分かった。てかお前が住んでたときはどうしてたんだよ」
「あんたが出入りしそうなときは全部切ってた。つまり常時ね」
不用心な高級マンションもあったもんだな。う、うるさいな。私がそこに関
してドジ踏んだ事が一度もないからあんたが警備員に捕まる事もなかったん
でしょーが。あ、そういやそうだ、ありがとうな。
「合鍵も処分してよ。本当は勝手に作っちゃいけないものなんだ」
「……なあ」
「なに?」
「持っていちゃ、ダメか?」
「なにあんた。忍び込んで夜な夜な私の残り香を求めてうろつくの?」
くすくすくすと笑みがもれて、多少の冗談も言えるくらいには落ち着いた事
を確認する。
「おうっその手が!じゃなくてよ。記念品だよ。お前が隣に住んでいたって
 いう思い出になる」
「いいわよ。どうせ次の入居者が入れば鍵は交換されるしね」
「うちのいつもの場所にずっと下げておくよ」
「愛しい私の象徴として朝に夕にエロい視線でねぶるように眺めまわす事も
 許可するわ。一緒におふろ入ったり同衾してもいいのよ。はーーっなんて
 私ったら博愛的なのかしら?」
「座布団に置いて尻に敷いたりもしていいか?」
「うっ、それはなんか屈辱的かも……」
軽口を叩けてる。巧くいってる。けど。

「あのね、竜児」
このまんま絵に描いたような遠距離恋愛を重ねて行ければいいなと思ってい
る途中で、大河はここへ来た翌日にお風呂場で思いだした事を話し始めた。
「俺だって同じだよ……辛えよ。眠れなくて、なんでお前がいねえんだよっ
 て思った」
「前に、どっちが先に好きになってたかって話したよね?」
「おう」
「私はさ、あんたがばかちーを連れ込んで良い事してるのを見たとき……」
「人聞きの悪い事を言うんじゃねえ。それにあれは円満に和解に至っただろ
 うが」
「蒸し返すつもりじゃない……そうじゃなくて、あのとき初めてあんたに触
 りたいって思ったの」
エロい意味で?もちろんエロエロな意味も含めてね。
あんたに余計な心配をかけるかもしれない。けど巧く遠恋をこなしてるって
安心し始めている自分が逆に怖い。

あの頃ばかちーは軽い気持ちでちょっかい掛けてた。そんな事は私にも分か
ってた。大人の態度でガン無視してやるぅぁ!っていうのは正直なところ。
「でも毎晩イライラして、むかついてさ。その気持ちをたどるとそういう結
 論になってた。いつも」
で、そう思ってること自体は、驚いたけど嫌じゃなかったんだ。
「そうだったのか。……じゃああの頃マジ触っても良かったんだ?」
「なにそれ?あんたにもそんな欲求があったの?!」
「お……おう。まあな……」
お前が警戒してうちでゴロゴロしなくなったら嫌だと思っていたから、絶対
そういう目で見ないようにしてたけど、その……な?
「私は割とあんたを挑発してたよ。意識して」
「俺は……お前がくつろいでるんだと思い込んでた。なんて無防備な女だと
 思ってた」
そこなんだよね、と大河。

別にあんたがばかちーのエロボディに淫らな欲望を蠢かせていたとは思って
ない。ただ、それで私の何かのスイッチが入っちゃって、いろいろ試してみ
たのに思ったような反応がなくて。
「なんか酷い言い草が懐かしくも混じったが……水着のことだろ?」
「水着のことよ」
私は触りたい、触られたいと思ってる。けれど竜児にはそのつもりがない。
それはこの哀れな身体のせいなんだろうなって。
それは違う!と竜児が強い調子で遮る。
「俺がどんだけお前との間で変な空気を漂わせないよう努力したと……」
「分かってる」
そのときは分からなくてイラついてむかついていた。でも今は分かっちゃっ
た。傍らに居るっていうのはそういう意味でもあったんだよね。

451 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:27:02 ID:???
竜児にもようやくこの間からの対話の意味が呑み込めてくる。
これは大河と結ばれる前に何があったかの、ただの絵解きだ。結ばれた今は
そんなことお互いが分かってればいい事じゃねえか、というのはたぶん男だ
けの理屈なのだろう。
何と言っても、つい数日前に結ばれてそのまま離れ離れになってしまったの
だ。あれは思春期によくみる類の夢だったんだよと思えば思えてしまう。

いや、それでもお前と俺は分かりあってるだろう?俺には確信があるぞ?
うん分かっているよ、今はね。
でも以前は分からなかったし、この先はどうなのかな?
「そうか……そうだ。離れているんだもんな。ちゃんと言葉にしねえと」
「私は竜児の声を聞いていればなんとなく分かるけど……」
同じようにあんたが分かってくれるのか、そこが、ね?

目に見えるところにいるのなら、大河の様子は分かるという自信が竜児には
あった。もとより大河は感情を隠さない女だ。顔を覗き込むだけで手に取る
ように思っている事が分かる。
そして、それは大河も同じだと思っていた。
「あんたは……表情からだけじゃよく分かんないときがある。私が分かるの
 は声を聞いて、触ってもらえて、それで」
そうだったのか。
だからあんなに近くで同じように思っていたのに最後のところが分からない
でいたのか。
竜は空にいて視覚で大地を見通す。虎は地にあって聴覚で狩りをする。傍ら
で並び立っているうちはその違いを無視できた。だがそれ以上を望んだ時に
ははもはや足りなくなっていた。
黙って目を見れば分かるでしょ、分かってよ!と言えなくなった大河のこれ
が思いやりならば応えてやりたいと、竜児は思った。
「俺は……お前が停学になったときにお前が欲しいと思っていた。言えなか
 ったけど、それはもう分かっていたよ」
「……そうなんだ」
「もっと前からきっと思っていた。けれど俺たちにはまだまだ時間があると
 思っていた。告白して少しでも壊れるのが怖かったんだ。櫛枝の事を口実
 にして」
それは私も同じだよ。
明日言おう、来週言おう、今度言おうって。でもあんたの近くに居続けて、
もっと近づきたい気持ちが増えていって。
「ううん、同じじゃないね。私はそれを重くて持っていられなくなっちゃっ
 たんだ」
なら告白すればいいのに怖くてしなかった。あんたをみのりんの方へ押しや
れば全部動き出してくれる。あわよくば、それで元の関係に戻れるかもなん
て考えていたよ。
「何て卑怯なんだろうね。私ってさ……」
「それを卑怯って言うなら俺だって、いつまでもグズグズしてた」
櫛枝の事を口実にして大河に向きあわなかっただけじゃねえ。お前が背中を
押してくれるのを口実に櫛枝にも……。
殴られて当たり前だ。
「むしろ殴ったくらいで済ましてくれる櫛枝には頭が上がんねえ」
「……済んでないと思うよ。みのりんは私なんかよりずっと女の子だもん。
 手が届くところにいたら本当は私を殴りたいはずだもん」
ね。りゅうじ。お願い。みのりんには前と同じに接してあげて。なにか変で
も無視されても。
……おう、分かった。

竜児との通話を切って、大河は携帯をぼんやり見つめている。やがて意を決
し、電話する。コールが続いて……
「あ、み……みのりん?」
大切な人に分かってもらいたいなら、自分でも言葉を尽くして伝えないと。

452 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:27:53 ID:???
電話を終えてリビングに降りるとしばらくして、母が帰宅した。
大きなお腹をして荷物を置いて、手すりにつかまりながら靴をぬいで、玄関
先でふーっと息を継いでいる。
出迎えた大河がおかえりなさいと言うと、立ったままで抱きしめられた。
「???」
顔をぽふっと張りの大きくなった胸に埋めてぽかんとしていると、頭を包ん
でいた腕が背中に回され、軽く叩くように、撫でるように肩や背中やお尻を
巡回する。
頭に顔を突っ込まれてむーと匂いをかがれ、髪を撫でた指で梳かれて、頬っ
ぺたを両手で挟まれ、ぐりぐりとされたあと、ついでにむにっと掴まれ、頬
ずりされ。
仕上げにでこにちゅっちゅと口づけされた。
「な、なななななにを」
こうまで念入りにモフモフしてもらった記憶くらいは、それはとても子供な
頃ではあったけど人並みにある。だから全く嫌ではなかったが、なぜ今なの
か大河には分からず当惑してしまう。

母は身体を離すと、ふーどっこいしょと買い物袋を取り、答えず奥に向かっ
た。キッチンに荷物を置いて、買って来たものを冷蔵庫や戸棚に仕舞って。
それからリビングに移動。
立っているうちに用を全部済ましてしまおうとするかのように、座る前に紅
茶をいれる。
大河はなんとなくそのまま去り難い思いでいちいち後をくっついて歩き、最
後にはテーブルに着く。
ちらっと大河を見て紅茶をもう一杯いれてくれる。
キッチンに取って返した大河は牛乳を持ってきた。
冷えた牛乳で、香りの立たないぬるいミルクティーを二人で飲む。
「なによ。変な顔して」
母が眼鏡の奥から大河を睨みつける。
夕暮れの薄暗がりの中。
ようやくその口元に微かな笑みを浮かべている事に気づいて、大河の緊張が
解ける。
「スキンシップよ」
つ、と視線をそらして、テレビを点ける母。暗がりに少しの明かりが生まれ
たがその表情はよく見えない。
なら、なんでそんなに機嫌悪そうなのよ。




編入試験をクリアし、来月から無事に高校三年生になれる事が決まった日。
この大きな街に住んでそろそろ三週間となり、根雪の上で転ばずに歩けるス
キルも身につけつつあった。
お祝いに食事に行こうという事になって、大河は義父と待合せている。
今日は寿司を御馳走してくれると言う。
「ウニおいしー、イクラおいしー」
「定番ネタもいいけど、やっぱり地方ネタを食べなきゃ」
「そうなんですかー」
「冬場は並ぶネタが多くないけどねーメヌケにハッカク」
「脂がのってるー」
「軍艦巻きはマダチ」
「とろーって、とろーって!」
「ヤリイカどう?」
「こりこりと、あ、あとから甘みが」
「ボタンエビ行っちゃおうか」
「わ、生だ。甘ーい」
「大助があるよ、天然サーモン。出物だよ大河!珍しいんだよ!」
「それはぜひいただかないと!」
黙って会話だけ聞いていれば同伴キャバクラ嬢との会話に聞こえてしまうか
も知れないが、要するにこの辺りが距離感というやつなのだった。
二人で軽ーく30貫ほど平らげる。

453 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:29:43 ID:???
帰宅してみたら、母の機嫌が良くなかった。
外食して帰ると連絡を済ましておいたが、どこの家庭でもそうであるように
独りご飯となった者は面白くないものだ。
見ると家族三人分の夕食の卓を揃えられるように準備をしてある。怒ってる
のかな、と大河は気をきかせて食卓に着く。
空腹ではないが、元々大喰らいである。この小さな身体のどこに消えて行く
のかと竜児には呆れられていたが、自分としてはたくさん食べれば成長する
と思っているので問題はない。母の料理もそれなりに好みだった。
「食べてきたんでしょう?」
「育ち盛りだからね。まだ食べられる」
なんだ、足りなかったのならもっと注文すれば良かったのにと部屋に戻りか
ける義父を目で追いながら、いーえお義父さんごちそうさまー。
というわけで。私はいいこなので。
変な子ねえと言いながら、母は大河の分もおかずを盛り付ける。まあ、あん
たがお義父さんに遠慮してろくに食べて来ないかもしれないからね。
そんなことないよ?イクラにー、マダチにーエビもサーモンも。
食べすぎでしょ、それは。
竜児のとこではいつも二合食べてたもん。
「食費は納めてたと言っても、毎日あんたの食事を。竜…高須くんだっけ?」
「そう……」

そろそろ教えてくれるくらいには気を許しているかしら。
もくもくと食事をしながら、相変わらず不機嫌そうな顔がそう問う。知りた
い事は分かっている。誤魔化したり先延ばしにしたりしない。それはもうと
っくに大河は決めていた。
「私がね、竜児を好きで。竜児も私を好きで。いつも一緒に居たかったの」
「でもね。長い事、付き合っていたわけじゃなかったの」
大河は答えて、ゆっくりと、整理して話す。さほどお腹がへってないからだ
ろう、ご飯、おかず、汁と珍しく基本通りに、よくかんで食べながら。
「だからね……一緒に居るためにいろんな理由を探してた」
「前の話だと、ずっと付き合っているんだと思ってた」
「付き合うってよく分かんないもの」
そうだ。実際、何も考えていなかった。好きだと伝えて、その気持ちを受け
入れてもらえたらその後は?
何が望みだった?
「あんたの話の通り、毎日一緒に買い物して、夕食をはさんで同じ部屋で過
 ごして、夏休みに一緒に旅行に行くようなのを付き合ってると言うのよ」
娘は……俯いて。真っ赤に染まって漬けものをはむはむ。
誰に言うともない調子で、母が続ける。
「何でそんなに長い間一緒に過ごしていて付き合おうって言い出さなかった
 のかしらね?」
その問いは竜児に対してか。大河に対してのものか。
母の疑問は当然のものだ。でも自分にとっては、……おそらく竜児にとって
も、今は明らかなこと。
それは自分の思いには気が付いても、相手がどう思っているのかが……
「ついこないだまでね、分からなかったんだ。協力関係だって言って始めち
 ゃったから……」
「なるほどね」
箸が止まって、娘の顔を見やるその顔はあまり不機嫌そうでもないように見
えた。分かってもらえたのだろうか。
「ねえ」
「なに?」
「思いが通じ合わなかったから、ここへ来たわけじゃないんでしょ?」

大河の箸も止まり、母の顔を見上げる。
じっと見つめられている。大河はその問いの裏にある意味を分かっている。
それは小さい事かもしれないけれど、正直に答えるには覚悟が要る。
「……うん。かなった」
「そう」
やっぱり不機嫌そうだ。
「ならゆっくりと。でも真剣に。あんたがどうしたいか考えればいいわ」
思い合った男がダメな奴とはお母さんには言い切れないしね。それが初めて
でもね。
また出直そうと決め、ごちそうさまと言って大河は立つ。すると、母は慌て
たようにちょっとちょっとと留めた。
なに?と座っている母の横に立つと、前と同じように無言で抱かれた。
すでに身重で急に立ち上がるのは無理。座ったまま大河の背中に腕を回す。
大河の胸に頬を埋めて、ぎゅっと。母の淡い色の髪が懐にある事に少し驚い
て、そして大河も肩を抱いてみる。
少し触れてみて、やがて自然と腕に力が入っていく。
「ごめんね、お母さん無愛想だから」
「……」
「でもあんたの事は心配してる。ほんとよ」
「……うん」
「もう何があっても無茶はしなくて良いから」
「うん」
身を寄せ合って強く抱き合っていた。失った時を取り戻し、未来を失わない
よう込められた願いが確かに伝わってきた。

454 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:31:58 ID:???
大河は部屋に戻って、胸に涙の染みを見つけ、そっと手で押さえてみる。
母の気持ちが分かって、嬉しかった。
いらないと切り捨てなくて本当に良かった。
自分と似ている母が、自分がいて嬉しいと、愛おしいのだと思ってくれてる
のが分かった。小さな身体がその思いに満たされて一杯になった。
――思いっきり甘えちゃった、と竜児に嘘をついたとき。
どう甘えてきたのか、スラスラと流れるようにつけた嘘。
嘘じゃなければ良い、本当にあの母に囚われていた一週間がそうだったら良
いのにと、あのときは思っていた。

なんてことはなかった。手を伸ばしさえすれば握ってもらえたのだ。

大河は涙がこぼれそうになる。
もしも自分がそうしていたとしたら?
もしも母の手を払いのけなかったら。竜児の手を握って逃げ出さなかったな
ら。竜児の気持ちを確かめようと戻れた?
……おそらく、母の愛情を得たと思えたならそれ以上を望んではいけないと
思い込んでいただろう。大橋でバレンタインを迎える事なくここに来ていた
だろう。みのりんにも北村くんにもばかちーにも、分かってもらえなかった
だろう。
今頃は竜児への思いを抱えたままこの部屋で涙をこぼしているのだろう。

母の手も竜児の手も両方つかめる。つかんで良いと知ったのは竜児の手を取
ったからだ。それは迷うことなく握った手だ。意識しようがしまいが、母と
の絆を断ち切ることを瞬時に選んでいた。
そうしたかったからだ。そうせずにはいられなかったからだ。
竜児の手を取らずにここへ来ることなど、あり得なかったのだ。
竜児が繋ぎ直したやっちゃんとの絆、やっちゃんが繋ぎ直した実家との絆を、
確かに見てきた。
そして竜児は私の身体にも約束を記してくれた。
それを感じて、信じられて、臆病な私にも今は分かる。
これは望んで、手を伸ばして、ようやく見えた、『うち』へ帰るための旅な
のだ。

大河はベッドに寝転がり、胸を押さえていた手でお腹に触れてみて、猫のよ
うにくるんと丸まる。
だから。
これから。
もしも、もしもそうなったら――私はどうしたい?

455 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:33:40 ID:???
また一週間ほどが何事もなく過ぎた。
日曜日は昼間から竜児と長電話できる。

「そういやさ、竜児。あのマンションから何を持ち出したの?」
「おう、まだ言ってなかったな。ツリーをもらった」
お前がクリスマスイブに自慢してた、あのツリー型のランタンな。あれを。
「へ、……へえ。何でよ」
「お前がクリスマス好きな意味をあの時に分かってやれなかったし、俺にと
 ってもあの日は特別だから」
大河の胸にずきんとした感覚がよみがえってきた。
あ、特別つっても今言ってるのは櫛枝に振られた話じゃねえぞ?と竜児。
あのときな、俺、お前をひとりにさせねえって口実を使ってた。けど本当は
分かってたんだ。
「俺、お前と一緒に過ごしたかったんだ。ふたりだけで」
嬉しいね……と大河。
「私も、なんとなくそう分かっちゃってた。だからあんなに馬鹿みたいに笑
 ってはしゃいでた」
だから私、あんたに抱きついちゃった。俺も同じだった。他に何の理由もね
えのに、お前に触れたくて触れたのはあんときが初めてだからな。
「クマの着ぐるみが間にあったけどね」
「あれがなかったら……自分が抑えられねえ。何度思い返してみても」
「……ね。あのとき」
あのとき、どうにかなっちゃってたら。私たちどうなっていたかな?
あんまり変わらずにいたかな。いられたかな。
突き付けられてみると、竜児には答えることができなかった。
絶対に大丈夫だと思うし全力で守っていくつもりはある。だけど結果として
守れるのか。今、曲がりなりにも落ち着けているのは自分の力ではなく多分
に偶然なのかもしれないという思いを否定する事はできなかった。

駆け落ちして良かったと思ってる。知りたかった事がみんな分かったもん。
と大河は続ける。
「普通の家で普通のいいこに育って恋がしたいって言ったよね?」
「説教部屋でな」
「そうだったら、普通にあんたと恋ができたのにって思ったの。あの時は」
「そうか」
「でも、お祖父さんちであ、あ、ああんたとああいう事になって……」
「お、おう」
やはり口に出すのは恥ずかしくて、少したたらを踏んでしまう。
ふう……ああなって、普通の家で育たなくても、いいこでなくても、普通に
なれるって思えたんだ。
部屋に閉じ込められてどこへも行けないと思っていたのに、壁ごとに窓や扉
が幾つもあったのが分かって、そうしたらすぐにそれがばたばたばたんって
全部開いて外の景色が見えた感じ。
ちょっと分かり難いよね。

456 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:34:30 ID:???
「大河、何か隠してる事、あるんじゃねえか?」
「なに?なんでそう思うわけ?」
「なんとなくだ。話題とか、声の調子とか」
「なにもないよ……とも言えないね。なかった事にできるとは思わない」
「おう言え。なんでも。なんか予想がつく流れだけどな」
そうかエロ犬め。聞いて驚け。などと大河は思うことなく、竜児にも話そう
と決める。いや本当はちょっと思っていた。何て言うだろう?聞きたい。
「あのね。今月、まだ、来ないの」
「マジか?!うわやべえ」
やばいやばいと言いながらも、でも半ばその声は嬉しそうで、あっけないほ
ど緊張感が足りない。
そ。予想通りのそれが確認できればいいのよ。

「できるだけ早くそっちに行くからな?無茶すんなよ?」
「そんなに慌てなくても……ていうか、あんた何か責任を感じるような覚え
 があるわけー?」
「は、はあ?覚えって……。ついさっきの話題じゃねえかよ。つか話の流れ
 から言って告知ってやつじゃねえか。別に逃げも隠れもしねえよ!」
「聞いてみたかっただけ。えへ」
「あ、あああなんか落ち込んでるわけじゃなさそうだな。そりゃ良かった」
「ん。まあ予行練習?みたいなもんね」
なんだか可笑しくなってくるが、大河は懸命にこらえる。いくら緊迫してい
ない空気とは言えさすがにふざけながら話せる事ではない。
その僅かな沈黙に珍しく竜児がキレかける。
何だー?独りじゃどうにもなんねえだろ!つか俺も当事者なんだからお前の
親に会ってだなーと喚く声も大河には嬉しい。
「だから慌てないでって」
まだ来てないってだけ。遅れてるだけかも。分かるとしてもまだ先。でも、
そういう事になっても一緒に考えてね。
おうそんなのは当たり前だ。
竜児にだけ負担がかかるのはいやだよ。私も自分独りで抱え込まない。
「そうか。そうだよな。独りじゃなく二人でも今はどうにかできる事じゃね
 えもんな」
「私はママに、竜児はやっちゃんに手を貸してもらわないとね」
「ああ、そんでいつか借りを返さないとな」
「そうね。ただ貸し借りじゃなくて一緒に喜んでもらいたいよ」
ああ。早く分かんねえかな。そうなったら不安だけど。大変だけど。ただい
つかはお前とそうなるつもりでいるから、それが今すぐだって……
「大丈夫……だよね?」
「ああ、大丈夫だ……多分」
「なんだかいろいろ順序がおかしい、私たち」
大河が可愛く含み笑いをする。家族のように兄妹のように過ごした日々があ
って、夫婦のように喧嘩をしたときもあった。自立と称して離れてみたら、
寂しくて不安で仕方がなかった。

おかしくてもいいんだと竜児が言う。
そうだよね。


二日後。
結局はあっさりとしるしが訪れて、いくつかの心配は杞憂に終わった。大河
の母もそれは感づいて、特に何も言わないが胸をなでおろしていた。

あ、そうなのか。とそのとき大河は思った。
ほっとするの半分、残念なの半分。
愛おしかったからひとつになっただけなのに、二つに三つに増えていく不思
議。それを本当に手に入れるにはまだちょっと早いと神様に思われたのか。
きっと、そう遠くない未来には出会えるのだろう。
最後に私が帰る『うち』で。

そしてこの家も、やっちゃんと竜児のところも確かに私の『うち』だと思う
事が今はできる。
竜児に、やっちゃんに、ママに、友達に、……おまけして独身(30)にも。
いろんな人に支えられてここまで来れたと思う。私は、ひとりでは生きてい
けないと。あらためて。寒気がゆるんできても春まだ遠い町で思う。
もうすぐ新しい学校生活が始まる。今日は仕立て上がった制服を受け取りに
行く。たくさんの準備が待っている。
大人になって、うちへ帰るために。
遠く離れている寂しさも大切なものと抱えていこう。

大河は窓辺に立って、カーテンを引いて、雪化粧で眩しい街並みを眺めてみ
る。目の前に、ひょいと跳び移れるような近さで建つ『うち』の幻が思い起
こされる。
まず、あそこに帰るんだ。

大橋では、もう桜がふくらんでいるだろうか。

457 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:36:34 ID:???


あれから1年が過ぎた。思い出から今に飛んで戻れば、目の前には掃除用具
を収めたロッカー。そういえばここで、と記憶が赤い夕景を再生しかける。
その時、窓の外がにわかに騒がしくなった。どうやら卒業式が終了し、
みんな校庭に出てくるようだ。

大河は首を伸ばして、教室の窓から見下ろす。
みのりんがいる。ばかちーがいる。木原と香椎が手を振ってる。能登はまだ
意識してんのね。相変わらずアホロン毛と仲いいじゃん。北村くんもいる。
生徒会のメンバーに囲まれて。あ、誰かを呼んだ。……竜児!

「竜児。うあっ、こっち見上げた?!」

別に隠れることなんかないのに。ていうか、気づいてもらえなかったらどう
すんの私。あのまんま友達と繰り出してどっかでコンパに流れるのかも知れ
ない。いま出ていった方が。

そう思いながら、どうしてもいたずら心が止まらない。
胸の鼓動が止まらない。
ひょんと机を降りて。
だって……ここが私と竜児との。

静まり返った校舎を誰かが駈けてくる足音が聞こえる。
嬉しくて。
暗がりの中で、大河の頬がほころぶ。必ず見つけてくれる。
開け放した窓から、暖かな風が吹き込んできている。
今日から季節が移り変わっていく。



すでに日は暮れかけていた。
昼間の陽気が一転して肌寒く、大河は竜児にマンションまで送ってもらう。
「ふあー、みんな離してくれなかったな」
「もう大変、……けど嬉しかった。約束を果たせたし」
竜児が血相を変えて校舎に駈けこんでいくのを見て、旧2−Cのクラスメー
トが続いて上がってきたのだ。かつての“手乗りタイガー”ファンも後から
噂を聞きつけて集まって来て、さらには伝説でしかその存在を知らない一年
生までもがひと目見ようと大挙して押しかける騒ぎとなり、なぜか正規ルー
トで来客の身分である大河までもが独身(31)に説教を食らい、ついでに泣か
れた。

物見高いイベント好きが伝統としてしみついた大橋高生の事である。野次馬
の一年生を除いた集団でファミレスに。いつぞやの打ち上げよりも派手な大
宴会になってしまった。
高須竜児と婚約済みであるという話も半分伝説として割と広く知れ渡ってお
り、そのせいか触ろうとする者はほとんどいなかった。
やがて1人帰り2人帰り、クラスメートだけになったところでやっと落ち着
いて再会を祝し、いつもの5人になったところでスドバに移動、じっくりと
旧交を温める事ができたのだった。

「相変わらず櫛枝は意味不明なとこがあるな」
「うーん」
いままではね、みんながいたからね、ずずずっとガマンを……していたんだ
けどね?
櫛枝実乃梨はそう言うなり、ぷしっと鼻血をひと吹き。落ち着いて拭ったあ
と、たいがぁ!とハグってモフってグリまくったのだった。
世界征服せえらあ服〜とか未だにネタの出どころもよく分からない。
「みのりんはね、単にふつうにじゃれてるだけだよ」
「川嶋もじゃれてたのか?なんかああいう事をしねえ女だと思ってた」
まあまあまあまあ落ち着いてみのりちゃーん♪とか言いながら実乃梨の狼藉
に相乗りするように割って入って、川嶋亜美も大河をグリまくった。
「……あれは殺意がこもってたね。ハグとモフがなかったし、ちょっと首絞
 められたしっ」
はっ!あたしから竜児を奪えると思うならやってみろってのよ!
そんなつもりはねえだろよ。あったらお前がいないうちに俺がもっと迫られ
ているだろ常識的に考えて。
なにぃ?そういうイイコトしてたのかあんたはっ。
ないないないってマジで。威嚇するのやめろ。は、私としたことが。そうよ
ねえ?持つ者が持たざる者に腹を立てるってないよね。竜児みたいないい男
にはとびきりの偶然でもないと巡りあえないもの。
あーなんか褒められてる?俺。
お菓子が手に入らないならパンを食べればいいのに、って言ってやれば良か
ったのよね。
お前ね……逆だしそれ。

458 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:37:46 ID:???
「ともかく女同士で密着したい気持ちはよく分かんね」
「そう?男子には分からないのかもね」
お前分かんの?
分かるよ?見ての通り女の子ですから。住宅地を通る静かな道すがら、スカ
ートのすそをつまんでくるりと回る。
「やべえな。可愛い……と竜児は改めて思っていた」
「クチに出してるじゃんよ。もっと言ってもっと言って、おら」
「濃紺サージで三本ラインのセーラー服にはクラクラくるな」
「う……それから?」
「おう純白のタイには目眩すら覚える」
服かよ。と大河が頬をふくらます。服だけじゃねえよ?と竜児。

触ると幸福になれる手乗りタイガーが今日は気易く触られなかったろ?
「セクハラかもと思わせるくらいには綺麗になったって事さ」
「あー褒められてるね私。一部に何の遠慮もなく触りまくられたけどさ」
どちらからともなく指を絡ませあって、寄り添い歩いていく。
本来の引っ越し日が過ぎた後で、また友人たちとは改めて会う約束をしてき
た。卒業して進路は様々だが、大半はまだ現住所が変わらない。
「北村くんは留学だね」
「ああ、それまでに何度か会えるだろう」
そんな話をしているうちに大河の新居に着いた。

「何にもねえ!」
部屋に入るなり竜児が棒立ちで驚く。
フローリングのワンルーム東向き。ベッドも机もタンスもない。
ん?置いていた荷物を取りにきただけよ?と大河。
「引越しの日は前もって連絡してあるでしょ?荷物が着くのは来週」
「来週までどこで寝泊まりするつもりだよMOTTAINAI!」
がらんとした部屋の床に置いた旅行用のバッグを取り上げ、肩からななめが
けにして、いたずらっぽくニヤけた大河が答える。
「うん、MOTTAINAIよね?ホテル住まいなんてとんでもない。親に
 無理言ってここで暮らすんだから、倹約しなきゃ」

竜児の方に向き直り、ゆっくり一歩ずつ近づいて、腰の後ろに下げたバッグ
を後ろ手でつかんだまま、とす、と胸に額を埋める。
そして心なしか遠慮しいな甘えたような声で訊くのだ。
「とりあえず来週までタダで泊めてくれるところ、竜児知らないかなあ?」

見慣れたつむじが久しぶりに目の前にあらわれた。淡い天然茶髪の隙間から
見える耳がほんのり染まっている。
竜児としてもこの春休み中は大河が我が家に入り浸るのを楽しみにしていた
が、まさか逗留させろと言い出すとは予想外だった。
とはいえ、困る理由などはない。
「お……おう。ひとつ、心当たりがないでもないぞ?」
良かった、この寒空に野宿はつらいもの。と心にもないことをほざく。さっ
きまで安っぽくキレたり威嚇していたくせにこの変わりよう。こういうとこ
ろも竜児は愛してやまないのだ。
「あのね?狭くてもいいから。2DKくらいで。和室で。ゴロ寝なんかでき
 たりするのが希望なの。私ってわがまま?」
「あーそりゃわがままだな。でもその条件にぴったりの優良物件だ。おまけ
 に賄いがついて食事もタダ」
「じゃ、そこにする……」

大河は背伸びをして、竜児の首に腕を回して顔を上げる。本当は身長差があ
って手首くらいまでしか回せてはいないけど、定型表現てやつだ。実務的に
はたいして問題ない。

竜児はちょっとだけ屈んで、大河の背中をそっと抱く。華奢な背中のかたち
も、こぼれる髪の手触りも、この両手は忘れずに覚えていた。
大河も竜児の手を覚えている。忘れたときなんかなかった。
背伸びをする脚が疲れないよう、背中を包む腕が少し吊り上げるように力を
込めてくれるのを感じて、思わず優しいねと呟く。
そうか?お前軽いから何でもねえよ、と優しく答えてくれる。他人には分か
らない竜児の表情も、こうしていれば自分だけに分かる。
互いの腕に力がこもって、顔が近付いて、息を感じあう。
頬に、額に、耳に、竜児が唇を触れさせる。大河のくすぐったそうな様子を
確かめて次、確かめては次へと。
大河も同じように挨拶を返す。

459 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:39:03 ID:???
もっと我慢も限界!というような激しさを想像していた。こんど逢えたら互
いにそういうふうに求めるのだろうと思っていた。
でも意外ではなかった。
今はなにかに追われているわけではない。旅に出る勇気をこの身に注ぎこむ
ために急いで求めあう必要などはない。
これからずっと一緒なんだから、こういうのもいい。頭が真っ白になるのも
いいけどこれもいい。私ってオトナ?などと考える余裕も。
そうして大河は唇を求める。竜児も目を閉じて応える。
ん……と切なげな音を帯びて互いの喉が鳴るのも心地よく聞きながら、ふた
りは長いキスを交わす。
え?あ……うそ?
大河の頭は真っ白に。なにも考えられなくなる。

「ね……優良物件にはこういうオプションも、あの……付くのよね?」
消え入りそうな声で、真っ赤にテンパった大河が訊いてくる。
その内容を理解して竜児にじわじわと幸福感が湧いてきてしまう。
だって、これは世間で言う“おねだり”ってやつだ。表現が回りくどいとこ
ろが却ってたまらなく可愛らしい。
「お、オプションじゃねえよ?入居者にもれなく付いてくる権利だよ」
言ってて恥ずかしくなってきたらしく、竜児の目の周りも染まっている。
それはやばいね、いろいろと気を付けなきゃだわ。
「ふふん♪やっぱママにハグされるのとは違うね」
照れ隠しか、背伸びをやめた大河は竜児の背中に両手を回してぎゅっと抱き
つく。体勢から竜児には大河の髪を弄るくらいしかすることがない。
ていうか、何でそんなに……巧すぎなのよ?などとブツブツ言ってるが気を
利かせて無視。これは孔明の罠だ。別にやましい事はねえ。さらに気を利か
せて話題を逸らす。

「ん?大河。やっぱりちょっとだけデカくなったんじゃねえの?」
「背伸びしてたからで――あっ!」
意味が分かった大河は急に身体を離し、背中を丸め両手で胸を隠す。
お、驚かそうと思って黙っていたのに……見たわけでも触ったわけでもない
のに分かっちゃうなんて。あんたって……。は、はぅぅ恐ろしい子!
エロ犬めーと再び真っ赤になる。
悪い悪かった。気を利かせて黙ってりゃ良かった。でもさ。
「お前の事で何か分かるのは嬉しくてさ、黙ってられないんだよ。許してく
 れよ。な?」
「……いいわよ。べつに怒ってるわけじゃないし。恥ずかしいけど。なんか
 台無し感で一杯になっちゃったけど」
「でもそんだけ覚えていてもらえたなら光栄よね。けっ!」
けっ!って……。驚かそうとって……お前どの局面でそのカードを切るか想
定済みなのかよ。泰子がいるの忘れてね?つかこっちが孔明の罠だったのか
と竜児は思ったが気を利かして突っ込むのはやめる。
「まあいいか。じゃあお宿の方へ案内するぞ。戸締り忘れんなよ」
「ん。じゃとりあえずの締めにも一回」
ちゅ

外に出て通りを歩く。竜児の左手を両手で握りしめて、肩に頭を預けて、歩
様を合わせて。合わせているのは大河じゃなく竜児ではあったけど。
「結構近いところに部屋借りられたんだな。うちまで3分くらいか」
「竜児のとこで眠くなっても覚める前に帰れる範囲にしたかったからね。他
 の条件はいろいろ目をつぶったわ」
日当たりが午前中だけでしょー?寝坊したら布団も干せないわ、洗濯物も乾
かないわ。指折り数えて不満点をあげてみる。
「キッチンも狭すぎて、手際を工夫しないと料理もできない。ガスコンロも
 置けないし」
でもそういうのはあんたのとこで教わるからいい。と殊勝なことを言ったタ
イミングで、ぐう〜〜きゅるるるんと派手な音。
あらやだ。がまんしてたのに。
「やっちゃんと三人で夕ご飯食べるんだから、と思ってね。ファミレスでは
 セーブしていたのよ」
「おう、任せとけ。最速で作ってやる。何が食べたい?大河」
「うん!とんかつがいい!一年ぶりの!」
「黒豚の買いおき、あるぞ。……って。一年ぶり?」
そう。ずっと断ってたの。おかげでうちのママにはとんかつ嫌いなんだって
思われてる。
何でって?それはね……

460 虎、帰る :2011/03/19(土) 06:40:07 ID:???
角を曲がると、かつて住んでいた高級マンションが見えた。話を中断して、
大河は駈け出した。もちろん両手でしっかりと握った竜児の手を離しはしな
い。竜児も付き合って走る。
マンションの下で立ち止まり、二階を見上げた。明かりがついていて、新し
い住人が住んでいる事を知らせてくれる。
エントランスを見る。ここで、裸足で泣き叫んだ事もあった。総てが切なく
て、でもここへとわが身を運んでくれた懐かしくも大切な思い出だった。
ここへ……掴んだ手を見て、竜児を見上げると、自然と笑みが浮かぶ。竜児
が優しい顔で見返してくれている。
「行こう」
「おう」

りゅうじ、覚えてる?
あの日の夕ご飯がとんかつだった事。私はそれを食べに戻って来たんだよ。
角を曲がって、懐かしい家に着くまでのほんの短い間、大河は夢想する。

りゅうじが支度をして、私は卓袱台にひじをついて急かすの。
まぁ〜だぁ〜?って。甘ったれた声で。
そのうち待ち切れなくなって、りゅうじの周りをウロウロするの。
くだらない事を喋って、りゅうじはいちいち相手してくれて。
で、私はりゅうじの背中に軽く頭突きをしてみたりする。
揚げ物してんだから危ねえだろ!って怒られるの。でも顔は別に怒ってないの。

揚げ油からおいしい匂いが立つ頃に、お皿を出せとか、小鉢を並べろって指図されて、
私はりゅうじの思い通りに動く。
夢にまで見た光景がすぐそこに待っている。

おーい、揚がったぞって言われたら、
じゅうじゅう音を立ててるとんかつをお皿に受けて卓袱台に運ぶ。
刻みキャベツとプチトマトとポテトサラダを脇に盛ってね。
そしてやっちゃんと三人で食べるんだよ。
ご飯をおかわりして、脂身を一切れりゅうじに押しつけて。
お腹が一杯になったらそのまま後ろへ寝転がる。

でも、今日から後片付けは私がしてあげる。
洗い物をすまして、飛び散った水をきれいに拭って卓袱台に戻れば、
りゅうじが入れてくれたお茶がぬるくなってて、猫舌の私にちょうどいい。
その後は、テレビを見ているりゅうじに寄りかかったりしよう。
眠くなって落ちるまでりゅうじに触れていよう。

こんな妄想を聞いたら竜児は子供っぽいと言うだろうか。
無防備に寝転がっていたあの頃のままかと呆れるのだろうか。
でもそれでいい。それが私のもらった幸せの形なんだから。
私たちはあの日の続きからまた始める。
明日、目覚めて。隣にいてくれるのはやっちゃんかな。
それとも?

カンカンカンと足音を立てて階段を駈け上がる。
鍵のかかってない扉を勢いよく開けて、やっちゃんが居る事を確かめる。
「あれえ〜、大河ちゃーん♪」

わたしのうち。

「お帰りなさぁぃ〜♪……早かったねえ」
竜児が扉をしめる。私は靴を脱ぐのももどかしく、蹴散らして上がり込む。
後ろで竜児が靴を揃えてくれている。前のまま。何ひとつ変わっていない。
やっちゃんに飛びついて、帰ってきたよ!と言おうとしたのに、途端に涙があふれる。
あーどうしたのー?とやっちゃんが肩に手を置いてくれる。
大丈夫と伝えようとするけど、止まらない。うまく口を開けない。

竜児が入ってきて、そんな私を黙って見てくれた。
私とやっちゃんを居間に押し込んだ。

大河、と。
力強く名前を呼ばれて、私の気持ちもようやく落ち着きを取り戻す。

「お帰り、大河」

帰ってきたんだ。

「ただいま!」


 ――END

461 高須家の名無しさん :2011/03/19(土) 15:29:29 ID:???
グスン…べ、別に泣いてなんか、無いんだからねっ!……GJ!

462 高須家の名無しさん :2011/03/20(日) 00:08:10 ID:???
>>460
おう…新たなとらドラファン&書き手さんですか!乙です!嬉しいなあ。

アニメは大河母の人物像がよくわからなかったんだけど、
頑なさに子供っぽさ不器用さが上手く融合されてて、すっきり落とし込んでもらった感があり、ありがとうございます!って感じです。
この人はバイバイキーン言いそう…w

竜虎のやりとりが逐一可愛くて仕方がない。ニマニマする。
>「やべえな。可愛い……と竜児は改めて思っていた」
浮かれすぎだ竜児www
めちゃくちゃ幸せになりやがれー!と改めて強く思いました。いやいつも思ってるけどw
超GJでした!

463 442 :2011/03/20(日) 01:33:24 ID:???
ご感想いただきありがとうございます
>>461
大河の嬉し泣きがどうしても見たかったんで、伝えられていたら嬉しいです
>>462
原作のロジックがどうみても大河離別を避けられないと納得したら、大河母は=大河しかないと思いました。
離別してから再会までの間に障害をどう乗り越えるかを描く方が本当なのでしょうけど、
それじゃ別のお話になっちゃうなと思いまして。最低限度がいいのかなと。
やはり思いが通じあって以後の竜虎の甘甘をおかわりしたいですw

464 本スレに書けません(物理的に) :2011/03/20(日) 10:19:33 ID:???
「さよならわたしのしゃかいてきせいめい、いままでおうえんどうもありがとう――――」
「おう…っ? 待て大河、行っちゃ駄目だッ!たいがーーーーーーーッ!」

ぷちん、と自分の中で何かがきれた。

最初はとてつもない達成感、そして恍惚感があった。
体中から毒素が抜ける気分。デトックスってこういうのを言うのだろう。
下腹部に違和感。太ももから足首にかけて水が滴る感触。足元にたまる水の感触。

間違いなくバッドエンドだ。どこで選択肢を間違えたのだろう?
今朝起きて、食事をしなかったからトイレはいいか、と考えたときだろうか。
それはともかくゲームオーバーだ。私の社会的生命も恋心や乙女心やその他諸々も。
本当にゲームなら、このあたりでフェードアウトして独身のヒントコーナーに移行しているころだろう。

 ”ゆりちゃんのヒントコーナー! ダメですよー高須くん。
  いくら自分のことで精一杯でも、逢坂さんも女の子なんですから気にかけてあげないと。
  でももう少しでエンディングです。朝のセーブポイントまで戻ってやりなおして――――”

だが現実はやっぱり残酷で、世界は暗転もせず、セーブポイントやリセットでやり直すこともできやしない。
このまま意識が失えれば幸せなのに、それすらもできやしない。
私という人間は、本当に嫌になるくらい、頑丈なのだ。

ああ、竜児の顔が見る見る赤くなっていく…こっちを見ないようにして、それでも耳まで真っ赤で。
優しい竜児。いつまでもこれからも、ずっと一緒にいたい存在。
きっとこんな私でも気にせずに愛してくれる。その実感がある。
でもね、でも今は――――逃げるしかないではないか。

「いやああああああああああっっっ!!!!」
「た、たいがぁーーーーッ!」


>>470
こうですかわかりますん!

465 高須家の名無しさん :2011/03/20(日) 12:16:19 ID:???
>>464
ストーリーの流れ的に朝のポイントでセーブ忘れプレイヤーが結構いそうだw
母親に捕まるポイントまで戻らないとな。
しかもこのイベント発生確率は乱数という罠w
GJでした。

466 本スレに書けません(物理的に) :2011/03/20(日) 17:25:48 ID:???
まとめサイトを更新しました。
本スレは相変わらず規制中なので、ここでご報告…

まとめる際に、文章の途中で改行されている文についていくつかこちらで勝手に直しております。
意図した改行ではない場合はご連絡ください。修正いたします。

まとめてると涙脆くなっていけないやーねー

467 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2011/03/20(日) 17:42:03 ID:???
なん…だと…?

468 ms07b3 :2011/03/20(日) 21:37:29 ID:???
3月13日(日)11:13
高須大河は静かに怒っていた。
キッチンから漂ってくるのは、クッキーが焼ける甘い匂い。バターとバニラエッセンス
を効かせた竜児特製のものだ。
初めて竜児のクッキーを食べたのは6年前。あれから改良に改良を重ねた、クッキーは
モンドセレクション金賞を獲得しても不思議ではないほど洗練されている。
大河の中では、竜児のクッキーを食べる権利があるのは、自分とやっちゃん(少しだけ
ならみのりんと遺憾ながらバカチーも可)だけだと思っている。
しかし、竜児ときたら、バレンタインデーにチョコをくれた同僚の事務の女の子への
お返しにと、気合いをいれてクッキー作りにいそしんでいるのだ。
大河だって、竜児の義理堅い性格は充分理解している。事務の女の子から貰ったチョコ
は、開封せずに大河に差し出し、義理チョコであることを30分に渡り力説してくれた。
その説明を聞いたうえで、打点の高いジャンピングニーパットを一発お見舞いしたのは
、新妻である自分の竜児に対する愛情表現の発露で、当然の権利だと思った。
嫉妬という言葉は甘んじて受ける。しかし、竜児は私だけのものなのだ。

チンという音がクッキーの焼き上がりを告げる。
竜児がミトンのグローブをつけて、オーブンからクッキーを取り出す。クッキーの甘い
香りが部屋全体に広がる。大河のお腹がグーッと鳴った。

「大河、ちょっと来てくれ。」駄犬がキッチンから顔を出して大河を呼ぶ。
「・・・・なによ。」大河は不機嫌さを隠さずに聞いた。
「味見を・・・して欲しいんだ。」大河の不機嫌オーラに圧倒され言い淀む竜児。
大河は、ソファーから立ち上がり、ずんずんとキッチンに歩いて行った。

キッチンの作業台には、キッチンペーパーに並べられたクッキーが何種類かある。
チョコチップが入ったもの、ドライフルーツが載せられたもの、プレーンな物が2つ。
「味見よろしく。」竜児がプレーンの2つを差し出す。
「・・・・・・。」大河は黙ってクッキーを手にする。いつもと変わらないサックリと
した歯触りと、バニラエッセンスがふんわりと香る甘さ。美味しいけど食べ慣れた味。
「まあまあね。」薄い胸を傲岸不遜に反り返し竜児を見つめる。
「じゃあ、こっちは?」先ほどのクッキーよりも幾分茶色のクッキーが差し出される。
火傷をしないように軽く息を吹きかけてから口にする。
歯触りは変わらないけど、いつもよりは多少しっとりした感じだが、甘さが濃い気がす
る。あきらかにさっきのよりも美味しい。
「・・・・美味しい。」思わずぽろりと本音が出てしまった。
竜児をみると、目を細めて笑っている。
「先に食べたのはいつものレシピ通りに作ったやつ。後からのは大河スペシャルって奴
で、材料をいつもの奴よりもグレードアップしてる。」
「大河スペシャル・・・・?」
「おう、義理チョコのお返しはいつものレシピの物。大河スペシャルはお前専用だ。」
「・・・・竜児。」
私専用のレシピ。私だけのクッキー。遺憾ながらうれしさがこみ上げてきた。


3月14日(月)12:30
「これ。チョコのお返し・・。」目の下に隈を作った竜児が、事務の女の子にクッキー
を渡す。
「わー、高須さん、ありがとうございます。さっそく開けて良いですか?」
シンプルな包装は、お店で買ったものではない、噂に聞いた、高須特製クッキーが味わ
えるんだ。リボンを外して缶の蓋を開けると、3種類のクッキーがぎっしり詰まってい
る。手にとって口にしてみる。噂以上に美味しいクッキーだった。
「美味しいです。これ以上、美味しいクッキーなんてありませんよ!」
建築設計事務所で下働きなんてやってないで、クッキーショップを開いた方が良い
のではと思える程の味だった。
「そうか、気に入って貰えてよかったよ・・・・。」
竜児は、眠たい目を擦りながら答えた。
昨日の休みは、日曜大工でもやったのだろうか、腰を握り拳でトントンやりながら、
竜児は自分の机に戻っていった。3回戦はキツイぜ。

469 高須家の名無しさん :2011/03/20(日) 22:27:48 ID:???
オイオイ…嬉しい事が有るたびに、1回づつ増えるんじゃあ無いだろねぇ? 竜児ガンバ!!

470 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/21(月) 11:31:00 ID:???
お題 「恥」「開いた」「見たことがない」
 
 
 
「大河、ドライヤー貸してくれねえか?」
「いいけど、どうしたの?」
「おう、蜂蜜の蓋が開かなくてな。ちょっと温めようかと」
「それじゃ、私もホットミルク飲もうっと」
 
「……ねえ竜児」
「おう?」
「それ、本当に蜂蜜? なんか見たことがない色してるんだけど」
 大河がいぶかしむのも当然で、竜児が蓋に温風をあてている瓶の中身は黒に近い茶色のドロっとしたモノ。
「おう、こいつはソバ蜂蜜だからな」
「……お蕎麦に蜂蜜かけるわけ?」
「……大河、その間違いはちょっと恥ずかしいぞ。っと、開いた。こいつはソバの花だけから採られた蜂蜜なんだよ」
「へー、そんなのがあるんだ」
「ミカンや向日葵なんてのもあるぞ、どれもちょっと高いけどな。ちなみにこれはばあちゃんが送ってくれたもんだ」
「あれ? それじゃ普通に『蜂蜜』って言ったら何の花なわけ?」
「いろんな花から集めた百花蜜か、レンゲ、アカシア、クローバーって所だな。うちで普段使ってるのもレンゲ蜜だろ」
「……ブランドか商品名だと思ってたわ、それ。蜂蜜っていっても色々なのねー。今度ネットで調べてみようかしら」
 
 
 
「……なあ大河」
「なに?」
「なんでこんなに蜂蜜買ったんだ?」
「んー、蜂蜜酒ってのに挑戦してみようと思って」
「おう? なんでまた急に?」
「えーっとね……ほら、結婚式までもうちょっとじゃない」
「お、おう」
「その後は当然ハネムーンでしょ」
「おう」
「そのHoneymoon−−蜜月の語源が蜂蜜酒って話で」
「へー、知らなかったな」
「昔のヨーロッパで結婚した直後のお嫁さんが一ヶ月外出しないで、滋養強壮作用がある蜂蜜酒を旦那さんに飲ませて、その……頑張ったんだって」
「…………おう」

471 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/21(月) 11:41:20 ID:???
度々の転載ありがとうございます。

>本スレ468
GJ!
色んな意味で2828しますw
>虎、帰る
こちらもGJ!
今になっても新しい書き手さんが現れるというのは、あらためて「とらドラ!」という作品の力を実感しますね。

472 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/21(月) 11:47:38 ID:???
>まとめ人さん
いつもお疲れ様&ありがとうございます。
名前欄については……まあ、お気になさらずにw

>468
可愛いよ嫉妬大河可愛いよ
そして竜児が頑張るのは大宇宙の定めですなw

473 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/21(月) 11:51:18 ID:???
>まとめ人さん
いつもお疲れ様&ありがとうございます。
名前欄については……まあ、お気になさらずにw

>468
可愛いよ嫉妬大河可愛いよ
そして竜児が頑張るのは大宇宙の定めですなw

474 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/21(月) 16:16:13 ID:???
おう、二重投稿になってた……すみません

475 442 :2011/03/22(火) 00:55:18 ID:???
>>471
ありがとうございます。「とらドラ!」の理詰めな心理描写にハマって
何度も見返しているうちに竜虎に捕まってしまいましたw
>まとめ人様
「虎、帰る」まとめていただき恐縮です。改行の拘りはありません。

以下、次作を投稿させていただきます。
□□【タイトル】幸福の湯あたり伝説(虎、帰るアフター)
□□□□【内容】本SSは寸止めですがガチエロ且つ甘々コメディ仕立てとなっております。
□□□□□□□□まっぱ有り。お触り有り。お読みになる方はご注意ください。31KB

先人の作品といくつかネタがかぶってしまいましたが、ご容赦ください。

476 幸福の湯あたり伝説(虎、帰るアフター) :2011/03/22(火) 00:59:59 ID:???
【これまでのあらすじ】春は三月。親元で一年を過ごし高校を卒業した逢坂大河は
懐かしい大橋の町に帰ってきた。本来の転居日を前倒して上京、単身暮らしの部屋
に家具は無し。かくして大河は狙いどおりに高須家へと転がり込む。さてさて荷物
が届くまでの一週間、大河と竜児のなんちゃって同棲時代(泰子付き)が始まった!

****

眩しいなあと薄目を開けるとどうやら朝になっているよう。
むぅう〜んとひと伸び。布団をかぶり直して二度寝……という無意識の習慣を試みるも。
あれ?身体が動かない。む、むう?逢坂大河の寝起きは悪い。
――なに?金……縛り?
少しずつ意識が覚醒してくる。何かに座って寝ていたようで、左肩がずっしり重い。足が寒い。
何なの?毛布で簀巻きにされて爪先が飛び出ているようだ。
肩の重さの正体を振り返ってみると……竜児!?

竜児の顎はぴったりと大河の左肩に乗り背後から髪に頭を突っ込まれてる。寝息が耳の下に当たる。
両の腕は大河の脇の下を通って腹をエックスの字にクロス。
つまり竜児は壁にもたれて胡座をかいており、大河はそこに横座りして腕でホールドされている。
そのまんま綺麗なブリッジを描いてマットに叩きつけられる5秒前――。いくぞーっ、うぉらぁーっ!!
ということは全然なく、揃って二人とも毛布でぐるぐる簀巻きにされている。
要するに壁際にでかい筍、その中で包まれているのが寝ぼけ頭で把握できた目下の体勢なのであった。

とりあえず力の抜けたホールドを外して、自由になった手で竜児の顔を押さえながら肩を抜く。
もそっと身体を回して寝顔を観賞、涎の後が唇の端から顎に流れているから自分の首にも付いてるか。
そんな事はどうでもいい。りゅうじの顔が……か、かぁっこぃぃぃ……。
目を閉じていれば、なのか惚れた欲目、なのか。それとも高須竜児は誰が見てもかっこいい男子なのか。
真相は分からないが、少なくとも大河が見てぽーっと酔ったようになっているのは事実だ。
口を頬に寄せてちゅちゅちゅと吸いついて。
続いて欲望のまま唇を狙おうとするのだが、これはちょっとだけ届かない。
起こさないようにそろそろと後ずさりをして、畳に膝をつき、毛布に潜って筍の根元の方へ脱出。
いくら自分が軽いからといっても膝に乗せたまま眠ったのなら、さぞ脚が痺れているだろう。
ゆっくり丁寧に筍を横にしてやる。小柄だけれど大河はけっこう力があるのだ。
う〜ん、と竜児が伸びて、毛布の端から毛脛がにょきっと出る。
案の定真っ白になっていた。

さて。大河はぺたんこ座りで悩んでいる。
この痺れている脚をつついて遊ぶべきか、当初の目的通り唇を奪うべきか。
「……りゅーうじ」
膝立ちでそっと近寄って、顔の上で囁く。痺れいじめはまた今度にするようだ。
「りゅーうじ、朝だよ。起きないの?」
爪を引っ込めた前脚で、じゃない手でちょいちょいと竜児の頭を揺すって嬲る。
「起きないなら……ぅお、襲うよ?」
当然ながら起こすつもりなど毛頭ない。
本当に眠っているのか確かめるだけ。あくまでも優しく、優しく。
うぅ〜ん、と竜児が仰向けに。びくっと固まる大河。
新聞配達のバイクが家の前の路地に来て止まり、また走り去るくらいの静寂がたっぷりと過ぎて。
またそろそろと竜児に這い寄って顔を近づけ、寝息を確かめる。
大丈夫。オッケー。
マルナナマルマル我レ奇襲ニ成功セリ。トラ、トラ、トラじゃぁーーーっ!

むちゅーっと襲った。
竜児の唇をあむあむ弄んで、舌の先でぺろんと湿り気を与えてやる。
こんな事をされてはさすがに竜児の意識が覚めかける。
とは言うものの簀巻き状態で文字通り手が出せない。
何?なんだ?と言おうと開けた口にすかさずベロチュー。
「ん……んんん?ぁにゅっ?」
大河さまのやりたい放題。
思うさま蹂躙したのだけど、単に寝ぼけて驚いている竜児相手のキスに早くも飽きてしまった。

肩口の簀巻き毛布を緩めてやると腕を抜き出して起き上がろうとする。だーめ!と押しとどめる。
うつ伏せに覆い被さってくる大河の肩を下から支えながら、竜児にもようやく事態が分かってきた。
「おはよう、竜児。ハァハァ」
「おう……ハァハァて。朝っぱらから激しく起こしてもらってサンキューな。びっくりした」
「面白かったけどさ、意識がないんじゃすぐ飽きる。もうやらない」
「ああ、そうしてくれ。毎朝これじゃ心臓に悪い」
肩を支えていた手を緩めると、大河の頭がふわんと落ちてくる。
それを抱え込んで、改めておはようの……と言うにはあまりに濃厚すぎなやつをもう一度――。

477 幸福の湯あたり伝説(虎、帰るアフター) :2011/03/22(火) 01:01:03 ID:???

「ぷはー」
「ぷはーはやめなさい。はしたない。なんか御馳走様ってカンジに聞こえるじゃねえか」
「だってまさにごちそうさまってカンジだもーん。いやーいい目覚めだわ」
……ったく!と型どおりぼやいて、ほほほほほーと満足そうな大河ごと抱えて、竜児は起き上がる。
頭をぽりぽり掻いて部屋を見渡し、ああそうか、寝ちまったか、ここで、と。
ん?うぁぁ脚が痺れてる痺れてるあでででででで。

その間に大河は今どこでこの朝のイベントを楽しんでいたのか、遅まきながらも理解する。
理解したので、固まっている。
卓袱台?
液晶テレビ?
じゃ、ここは居間だ。竜児の部屋でもやっちゃんの部屋でもなく。
「居間!?」
「居間だろ……」
「今気が付いたっ!」
竜児にも昨晩の記憶が蘇ってくる。確かに居間でくつろいでいた。
……というよりイチャイチャしていた。
恋人同士が二人っきりの屋内でイチャイチャする目的は一つしかない。
竜児はキッと卓袱台に鋭い視線を走らせるとそれはまだそこに置いてあった。未開封で。
メタリックブルーで商品名が銀箔押しで印刷してあるお菓子のようなパッケージ。
「あああんた。するってえとこの毛布を巻いてくれたのは……」

ふすま一枚隔てた部屋で、3時間前きっかり定刻に帰宅した泰子が騒ぎに目を覚ましていた。。
ぅわ〜ぉ大河ちゃん意っ外っな情☆熱☆大☆陸〜ぅ♪
イイコト良いでやんすね〜。かわいっ♪
でもやっちゃん寝不足になっちゃうからぁ、自分の部屋でしてくれないかなあ〜?
ねー竜ちゃぁ〜ん?
って、こんど起きたら言お〜〜っと。ふわぁぁぁぁ。などと。気を利かして寝たふり、寝たふり。
プライバシーの保護は、ふすま二枚隔ててようやく完成するのだ。

ふっふーん♪と鼻歌まじりで、竜児は朝ごはんの支度。
そんなときは居間でゴロゴロするのが定位置の大河が、今朝は所在無げに台所に佇んでいる。
キンピラ出来たから小鉢とってくれーと指図されて、しっ!声がでかい!
「あんた平気なの?やっちゃんにバレバレ……」
状況から考えれば、寝こけているふたりを簀巻きにしたのは帰宅したやっちゃんしかおらず、
しかもそれはそっちこっちに落ちていたわけでなくひと塊りに抱き合っていた。
「いいから味みろ」と菜箸でキンピラを大河の口に放り込む。
こりこりしゃくしゃくと、出来立ての温かいキンピラを咀嚼して、大河はぴっとサムアップ。
味付けオッケーらしい。
でも当面の問題はそんなことで誤魔化されやしない。
スウェットのトップボトムなだけの竜児は、単に寝ぼけたー、でいいとして、私は……。
大河は腰の辺りをつまんでみたりしながらしみじみ思う。
意気込み満々なフリフリお姫様ネグリジェ。「やるぞーっ」って精神が形になったよう。
うわぁ。
寒いからカーディガン羽織っていたけど。寝るだけの人は普通こんなものを着ない。
頭を抱えて悶えまくる。

竜児は味噌汁の味噌を溶いて、小皿で味見。大河にも回してくる。
もうちょっと濃いのがいい。
おう。
「バレったってなあ。なんかもう」
顎でくいっと居間を指し示しているその先は、卓袱台に置きっぱの箱。
「いいんじゃねえ?」
大河は眉を八の字にして昨夜からの出来事を思い出す。

478 幸福の湯あたり伝説(虎、帰るアフター) :2011/03/22(火) 01:03:17 ID:???


この家に帰り着いて大泣きをして、ただいまを言ったあと、ほぼ想像していた通りの夕食となった。
とんかつの付け合わせがポテサラでなく、ツナと玉ねぎの和え物になったくらいの違い。
家族三人たくさん喋ってご飯を食べた。食後にちょっと休んでから洗いものは大河が片づけた。
完ぺき。妄想の50%はこれですでに達成。
あとの半分は、竜児にひっ付いていつの間にか眠りに落ちるぽわぽわな幸福。
ただ、こればかりは独りでは達成できない事。
竜児次第で激しく爛れて濡れそぼつ肉欲の嵐渦巻く甘美な坩堝になるかもしれなかった。
あ……まあそういうのもやってみたいとは思ってるのだけど。

そして出勤する泰子が件の箱を卓袱台にトン、と置いたのがゴング?となった。

「じゃあやっちゃん行ってくるでやんす」
「……」
「……」
置かれた箱を注視して、だだだっと這い寄る大河。
びく!と居ずまいを正す竜児。
そろってぽか〜んと泰子の方を同時に見ている。
「別にぃ〜〜、煽ってるわけじゃぁ〜ねーでガンスよー?」
人差し指を立てて60度にチッチッチと振ったあと、ぴっと竜児を指して。
「備えあれば?嬉しいなっ、てぇゆーんだよ♪」
「う……」
「憂いなし、だろな……」
「それにぃ〜、盛り上がってからコンビニに行くのはぁ〜」羞恥!プレイ!
後ろでインコちゃんが受けてくれた。そ〜そ〜、インコちゃんかしこいっ♪
ぽよんよんと巨乳を揺らして、じゃあねー♪と出かけて行った。

「……」
「おう……」
大河は卓袱台からひったくるように箱をとり上げて両手で掲げ、いろんな角度からじっくり眺める。
説明書きをじっくり読んで、やがってゆっくりと。
鳩が豆鉄砲を食らったようなまん丸な瞳で竜児の方を見やる。
「どどどどどどど」
「落ち着け大河。年度末だけど工事すんな」

中身……は……十二……個、入り……だと?
また鳩が豆鉄砲を食らったようなまん丸な瞳で竜児の方を見やる。瞳孔が開きかけてる。
「じゅ、十二回も?」
「……なんで使い切らなきゃいけねえんだ」
「……殺す気かぁー?」
「先に逝くのは俺の方だろ、その場合」
「なんであんたは落、ち、着、い、て、る、の、よ」

あれ?そういやなんでだろう?
ああ、これはあくまでも備えだからだな。これがあればいつお前にムラムラしてもとりあえず安心。
だから普通にくつろいでりゃいいじゃねえか。な、大河。
大河……?
「む、ムラムラムラ?え?」
「……何でそんなにテンパってるんだ?そーいやこんな顔見た事あるな……」
「むっしゅムラムラ……りゅ、りゅ」
「おう!北村の前に出ると変なテンションになってた時だっ」
ちゅどーーんんっ!大河の頭上に爆発の雲が見えた。……ような気がした。

「茶ー飲めよー。ぬるめに入れてやったぞー」
「……」
「おーい。生きてるかー」
大河は卓袱台の前で珍しく正座して固まっている。意味不明な事を呟いている。
肩を揺すると、ひっとか言う。
頭の上からぶすぶすと煙が上がり続けているような、セーラー服美少女。

竜児は考えた。
これはほっとくと拗ね始める。この予想は当たっている。
たちの悪い事にこの女は、自分に原因があるときほど尚更ドツボにはまって行くのだ。
理由が分からなければそれは避けようもないが、幸い今回は原因も対処法も分かっている。
今ごろあのつむじの中では、せっくしゅ、せっくしゅ、パコパコカーニバルぅ……。
などという単語が渦を巻いてバッファオーバーフローしていることだろう。

とは言っても、やっぱり女だもんな。やらないかとは言いにくいわな。
俺としては自然に寄り添っててお互いその気になったら、というのが希望なんだけど、
一週間限定の疑似ふたり暮らしを楽しみにして来たんだもんな、大河。

「おい、大河」
その声の変容に、大河はハっと顔を上げて見る。
りゅ、竜児が変な目で睨みつけている。あの目は見た事ある。この予想は当たってる。
「しゃ、シャワー浴びてこいよ……」
開きっぱなしだった大河の瞳孔がみるみる光を取り戻してパァァと輝く!

うわっなんだその芸!メヂカラってのか今時は!いや瞳孔開いてたら死んでるだろ。
しかし、竜児のいかにもな余裕もそこまで。大河がにじり寄って、手を取って引っ張る。
「じゃあ!」
こんなに前向きな大河をいつ見ただろう?
「い、一緒に!!」
どきどきどきどき。
えっ!……おう……。
おう?

479 幸福の湯あたり伝説(虎、帰るアフター) :2011/03/22(火) 01:07:13 ID:???

湯を張っている間。ちょこんとしゃがんで荷物から夜着を選んでいる大河の後ろ姿。
ふんふん鼻歌が漏れている。
やばい。
あれは『クワイ河マーチ』だ。戦場にかける橋だ。威風堂々やる気満々だ。
……あれは俺がムラっとキターーーーッ!っと思い込んでるわけだよな。
だからこっちが鼻息荒くしねえといけねえんだよな。

よしこっちも鼻歌ってやる、と唸りかけて、違う違う。これは『ドナドナ』だ。
もっと勢いのあるやつ、マーチ、『ラデツキー行進曲』でも。
すると大河の鼻歌が呼応して『双頭の鷲の旗の下に』に変わる。
いいねえ、オーストリア・ハンガリー帝国つながり。俺たち息ぴったり。
変なところで竜児は楽しくなってきて、ワグナーつながりで『タンホイザー』に変える。
なんだか鼻歌合戦で運動会みたいな雰囲気が漂う。
大河はすげえ上機嫌で『ワルキューレの騎行』に。
……『地獄の黙示録』だ。殺戮だ。……そりゃワグナーだけどよ。
一気に萎えてしまった。

「りゅーじぃ〜♪」
とととっと寄ってきて、とお!と強めの頭突きをかまされた。
なんだよ?
「脱がせたいでしょ〜?」とバンザイをしている。満面の笑みで。

うわ何だこれ。セーラー服を脱がす体験なんて夢にも思ってみなかった。
はい、させてもらえるなら喜んでー!つか何だ俺、このノリは。ニヤケてんのか?
いや、いや、いやいやいや。嫌じゃねえよ!くそ。萎えるとか思って悪かったよ。

まずタイを解いてシュルっと、おおお!何だこの背徳感。
あー。やっぱり最初に解いちゃった。それはね、乙女の純潔を象徴してるの。だから白なのよ。
でももう着ないし。問題ないよねー?
あー、純潔をりゅうじに奪われちゃったー。遺憾だわー。
もちろんこの蘊蓄はウソ八百である。

そ、、そうなのか。じゃあ続けてトップの方から……あれ?ホックとファスナーと……ど、
「どこから外すんだ?これ」
「めんどくさいでしょー。ここ、ここ、ここの順」
言われたとおりに外して、するっとパージ。冬服なのでその下はヒートテックのババシャツ。
これはあんまり色っぽくねえな、と言うと、へへへと誤魔化す。
バンザイさせてすっぽん。
「お、……下からニーソ、スカート、……ブラ」
好きな女がこういうナリでいるのに燃えない男はいねえだろうな……。
「でも寒さ対策なら、下にキャミとか着こんだ方が良くねえか?」
「分かってないねえりゅーじは」

ここ、とスカートの締め付け部分を指し示す。
ここがさ、臍上でちょうどウエストの一番細いとこなわけよ。
へえ。
で、トップはセパレーツでこんくらい覆い隠しているわけよ。
ほうほう。
普通にの動作では絶対に見えないけど、思い切り背伸びしたりした時に、隙間からちらっと見えるわけ。
数センチだけ一瞬肌が見えるわけよ。バスケのダンクシュートをしたときとか。
その希少な隙間に地肌でなくキャミが見えたら台無しじゃない。

「どうよ!」と薄い胸を反らして突き上げて、えっへん。
いやあその態度でいてくれると助かる。その格好で恥ずかしがられたら……たまんね。
「……鼻血吹きそうだよ。櫛枝の領域に一歩近づいた気がする」と褒めてみる。
でもそのチラってちょっと離れていないとどのみち角度的に見えねえじゃん。
基本、友人関係より遠い距離のやつを楽しませる現象じゃん?
お前のつむじを数十センチで見下ろせる俺には恩恵がねえよ。とは言えなかった。
あ、でも制服ダンクはカッコ良いかもしんねえ。

「じゃあ次はニーソ脱がして?あ、ストッキングの方が良かったら履こうか?」
「いや、これがいい」
……このノリだと破いてもいいよ?とか言い出しかねない。
そ、そんなプレイはもっと大人になってからだ!
膝まづいてするするとニーソを脱がしている途中、これはこれで割とマニアックな事に気づく。
やばい。マジやばい。このままだと木乃伊取りがミイラになってしまう。
ブラ&プリーツスカートだけで、ふんっ、と威張ってるのを見上げてメートルを戻す。
本人は得意げで確かに可愛いポーズでもあるのだが……色気はゼロだからな。
どぎまぎしながらスカートをそろっと下ろして、脱衣サービスは終了。
さすがに恥ずかしくなったのか、大河は脱衣所に逃げて行った。

480 幸福の湯あたり伝説(虎、帰るアフター) :2011/03/22(火) 01:10:40 ID:???

自分の着替えを持って後から続いて行き、おい本当に入っていいかと一応訊く。
とっとと入れと罵倒を受ける。
脱衣所前の台所からつながる廊下でスウェットを脱いでたたんで、Tシャツに手を掛けたところで、
「おい」
顔だけ出した大河に呼ばれる。
あんた私を念入りに脱がしたくせに、自分で脱ぐのかよ。良いから入れおら!と引っ張り込まれた。
脱衣所と言っても物がいろいろ置いてあってスペースは半畳くらいしかない。
二人入ってしまえば一杯だ。
ほらバンザイしろと言われて素直に従う。
Tシャツを大河に脱がされて、トランクスを一気に引き下ろされる。
うう……ヤンキーとか鬼般若とか呼ばれた男でも、恥ずかしいものは恥ずかしい。
「こんにちはーってカンジ♪」
大河が可愛く表現するけど、それで恥ずかしくなくなるものでもない。

こっちも仕返しのつもりで、押し黙って肩越し背中に手を回す。
ちょっと苦労しながらブラのホックを外していると俯いて妙におとなしくなってしまう。
どきどきしてくる。
さすがに恥ずかしくなったのか。胸を押さえながら向きを変えて、あとは自分で脱いだ。
屈んだ拍子に長い髪がはらっと胸前側に落ちて、白い背中から腰にかけての曲線が露わになる。
体格の割に、また女子としては発達している背筋に挟まれて脊椎の突起がくっきり浮いている。
ごくっ、と喉が鳴ってしまった。
湯船から湯があふれている音が聞こえ始めたので、肩に手を置いて浴室へ押しこんだ。

高須家の浴室は一般家庭と同じく二人で入ると狭い。
キャッキャウフフの洗・い・っ・こ♪なんかをするには交互に湯船につかるしかないだろう。
というわけで。
「まずお前から湯につかれ。あふれる量が少なくて済むからな」
「お、おう」
それは俺のフレーズだと思いながら、シャワーを出して温度を確かめ、かけ湯をしてやる。
その間に大河はくるくると髪を丸めてゴムで留め、しゃばんと湯船に。

自分にもシャワーをかけて洗い場に腰を下ろし、ソープを泡だてて身体から洗い始めた。
大河は湯につかって、組んだ腕を湯船の縁に乗せてこっちを見ている。
うう……恥ずかしい。
そのうち鼻歌が出始めた。また『ワルキューレ〜』だよなんか死刑執行を待つ気分だよ。
視線から避けるよう、思わず座りなおして角度を取ってしまった。
とたんに鼻歌がぴたっと止まる。
「ねえりゅーじぃ。見えないじゃん。見える向きに座ってよー」
……こんなときに命令口調じゃなくお願いモードだなんて卑怯だ。しかも表現がストレートだ。
北村よ、お前が惚れたこの女の魅力はこういう事でもあったんだぞ?などと急に思う。
「だってよ……恥ずかしいじゃねえか」
恥ずかしいさ、そりゃ恥ずかしいだろうよ。この私にはよっく分かるよ。でもね?
「……りゅうじだってさ、このあと私を、じっくりねっとり目で犯すんだよね?」
「え?」
「『しねえよ』って言ってもするでしょ?絶対、間違いなく。……だから私だって見たいもん」
……卑怯だ。とか思っていたら、背中をぱぁんぱぁんと叩かれてしまう。
「春なのに紅葉吹雪にしてやんぞ?おらっ」
アメとムチ。これが調教というものだろうか。

羞恥に耐えて湯船の方に向き直り身体を洗っていると、大河は楽しそうに視線を這わしてくる。
どこを見てるのか気になるが、少なくとも局部だけを注視してる様子ではない。
「な、どこ見てんだ?」
「ん?普段見れないとこ全部。筋肉の付き方がやっぱり違うね」
かぁっこいぃ……と聞こえないように呟いている。
「そうか、そういうふうに言われれば少し恥ずかしくなくなってくるな」
身体が済んで頭を洗う。もう視線を気にしても分からない。こんな時になると黙りやがる。
ざばあーっと湯をかけて泡を流し、シャワーで念入りに落としていると、遠慮がちな声で、
「ねえー?そこ……」
股間を指差している。そろそろのぼせ気味なのか、ピンク色の顔をして。
「洗いたいな。だめかなあ?」

481 幸福の湯あたり伝説(虎、帰るアフター) :2011/03/22(火) 01:11:53 ID:???

わしわし、わしわし。
まさか手で洗うとまでは思ってなかった。湯船につかったまま、半身を乗り出して。
「うん……まあ、触りたいだけなんだよね。痛くないよね?」
お……おう。
洗いっこだから、相互主義だからというのでつい承諾した俺って、実はもう自分を見失ってるんじゃねえ?
などと思いながらも懸命に洗ってくれる大河の手が。細い指の感触が。気持ち良い。
それにこちらから見えているのは、大河の頭と肩口、背中。手に合わせて動く肩、筋肉。
なんでこんなにも刺激的なのか……。
「むぉ?」
変な声を上げてこちらを見上げてやがる。あ、もう一度まじまじ見てる。
「……」リアクションなんかしねえぞ。。
「おー?おぉ〜?」股間ふしぎ発見!みたいな顔すんな。ああ上目遣いで見んな。
「りゅーじを洗っていたーだけなのにーたいへんなものを見つけてしまった―」それはとっつぁんだ。
「うわぁーこれはー●●●●だぁ〜、むぐっ」き、聞くに耐えないっ。思わず手で口を塞ぐ。
「棒読みで恥ずかしいギャグはやめとけ」
「う〜……だって……恥ずかしいんだもん。それにもう、限界」

のぼせるぅ〜。と湯船から飛び出てしまった。
目の前!目の前!ピンク色に染まった肢体!!一糸まとわぬ大河が、ががが。……が。
呆気にとられてらんねえ!
洗い場に下りてぐらっとよろけたのを、おうっ!、と抱きとめる。

すんでのところで転ばさずには済んだが、大河は洗い場に膝立ちで……竜児に抱かれている。
身体が熱を帯びている。当たり前だが。
誰が自然に寄り添ってて、その気になったら、だって?それはいつも突然に来るものだ。
大河ぁ!と呼んで夢中で抱きしめる。
大河のきめ細やかな肌に触れて、竜児の身体のあらゆる部分に一度に信号が送られ、即時反応する。
とくに泡だらけの部分は鳩尾の辺りにみっと埋まって大変な事になっていた。
やばいっ、したいっ、めちゃめちゃしたいっ!!

「あ、当たってる!……堅いぃ、刺されるぅ〜」
んでもって熱いぃぃぃ。
湯あたり大河がへなへなとへたり込む。
「ええ?お、おいっ!しっかり!」

しゃわー。
桶に冷水を汲んで足をつけてやり、座らせて身体にもぬるいシャワーをかけてやる。
ついでにゴメンナサイとうなだれる自らの股間の泡も洗い流して。
「ふ〜〜〜〜気持ちいい〜〜」
「大丈夫かあ?熱が取れたら言えよ〜」
「うー、遊びすぎたぁ〜、あはははは」
「湯船に水差して、ぬるめて入っていれば良かったんだよな」
「むちゅーですっかり忘れてたよ〜」
なんかりゅーじのエロ心にだけ水差してごめん〜。と、こんな時にうまいことを言う。
自分の角も取れて、ほとんど恥ずかしくなくなってきたのにも気づいた。
「いや……俺こそ気づかなくて悪かったな」
「ぃよっし!もう冷めた。じゃあ気を取り直してりゅーじの視姦タイムに行こう」
ヘイ!とハイタッチ。

482 幸福の湯あたり伝説(虎、帰るアフター) :2011/03/22(火) 01:13:12 ID:???

攻守ところを変え、今度は竜児が湯船につかる。
あ、大河のシャンプーを買い忘れた。あんたのと同じでいいよ。地元でもそれ使ってた。
やっぱり髪が長いと全体を一度にわしわし洗うってできないんだな。
へえ、水気を含むとずいぶんボリュームがなくなる。頭ちっちゃいな。
こんなのって、普段は絶対見られないんだよな……。

結構な時間をかけて洗髪を終えて、大河が身体を泡だてる。
「もうちょっと視線を気にして、恥ずかしそうに洗ってくれ」
「……ん」
「いちいちポーズとか要らねえ。自然にしてくんねえといまいち燃えない」
「意外と注文がうるさいな。どうやって視線を気にすんのさ」
竜児は先刻の大河と同じ姿勢で湯船の縁に腕を乗せ、のぼせないようチョロチョロ水を差しながら観賞。
これも学習の賜物だ。

「なあ、そこら辺」
大河がせっかく洗い終わって上げた髪を解いて、背中から前に二つに分け垂らしているのを指して要求。
「それはそれでギリギリ水着みたいで良いんだが。相互主義を忘れんなよ?」
「分かってるよ、うるさいなあ。演出ってものがあるんだから」
演出か。そうならこれはなかなかの趣向だ。
密度の低い髪が濡れて泡にまみれ、両の鎖骨から胸を半ば隠しそのまま脇腹から腰を通って後ろへ流れている。
隙間から薄桃色に冷めた肌が切れ切れに覗くのが艶めかしい。日本の古の伝統、垣間見だ。

「ほーらりゅーじ、いくよー。見逃さないように」
やがて洗い終え、桶にぬるま湯を汲むと高々と掲げて、肩口からゆっくり泡を流していく。
柔らかい髪がその滝に泳いで、はらっと広がり、閉じる。隠されていた肌がうたかたに晒される。
お?おおおおおおおおおおおおおおぅ?!
思わず拍手をする竜児。
色っぽいというよりは格調高いのだが、見て気分が高揚してくるのは確かだ。ルネッサ〜ンス!

「受けた受けた!やったー!もう一回みる?」
「もう一回!」
「ぃよーし!」ざばぁ〜
「もう一回!」
「ほいよっとぉ」しゃばぁ〜
「角度を変えて!」
「あらさっ」どばぁ〜
「よしそのままで!」

座ったままでぷう〜と息をついている大河の身体をじっくりと眺めてみた。
あらやだ、と腕で隠そうとするので、隠すなようと拗ねる。
「りゅ、りゅーじに甘ったれ声を出されるとは……遺憾ね。遺憾すぎる」
じゃあ、しょうがないと羞恥に耐える事にしたらしい。おかげでゆっくりと。
スレンダーな印象は変わっていないが、肩と腰の丸みが少し増した。
と言って、あれはあれで可愛かったと思ういつぞやのような小デブにまでは至っていない。
そのせいか、ウエストのくびれがよりはっきり感じられて一段と女っぽいかんじ。
そして、おお、乳よ。
やはりちょっとだけカップが増している。前が「ほわん」だとすると今回は「ふるん」。
それはどう違うんだと問われても説明するのは難しいが。
さっき抱きしめたときに触れた感触と、もう印象が完全に一致。

うんうん、と頷いてしまう。乳製品摂取の不断の努力はこうして実を結んでいたのか。
こうして見ると出会った時は相当痩せていたのだなあと思い出す。
まあ、好き合ったせいで尖った印象が消えたのも大きいんだろうな。
さてと。感慨には十分ひたった。
「も、もういい……?」
「相互主義(キリッ」
キャー。
「触りまくってやるから、こっちへ来い」つか俺にも揉ませろ、その自慢の最終兵器。
りゅーじのえっちー、キャラが変わってるー。お前もなー。
桶にたっぷり泡を立てて、手を伸ばして念入りに洗ってやった。

483 幸福の湯あたり伝説(虎、帰るアフター) :2011/03/22(火) 01:14:32 ID:???

ざばあ、とお湯をかけて泡を流したあと、大河がどうしても一緒に湯につかりたい、と言う。
竜児が膝を抱えて作った僅かな隙間に、さすがに小柄でするりと入り込んだ。
脚を互い違いに組んだりして超密着。
「どきどきするね」
「ああ、可愛いよお前は。全然哀れなんかじゃねえよ。証拠にちゃんとお前に夢中になってる」
ほんと。と言いながらぎゅっと握られる。痛い痛い。元気元気。
「照れくさいこと言うなばかっ」
お?なんだか調子がいっぺんに戻ったな?
あのね。なんだかそんなには恥ずかしくなくなってきた。
「でもなんつーか、裸で触れあってると触り慣れっていうのか、なんか里心みたいなもんが湧くよな?」
「そうね。エロいのと安心するのと、両方くるね。お湯につかってるからかな」
そんで時々、エロい波に襲われるのよね。ざばぁんと。
言いながら竜児の胸に顔を近づけ、通称黒乳首にかぷっ。
「おうっ!!!!電気が走った!びりっと」

仕返ししてやるーと大河の脇を持ち上げて、浮上してきた小さめの乳首をちゅるん。ひゃんっ!
どうだ電気?ははは走ったぁ!
そのまま胸に頬を擦りつけ、背中や肩や脇腹をゆっくりと撫でまわす。
つべつべでもちもちで弾力があって、幾分ひんやりもしていて。
思い切り低くて甘い声を出して、言ってみた。
「お前……つるんつるんで、こうしてるとすげえ気持ちいいんだよ……」
そのとき大河がどんな顔をしていたかを竜児は見る事はなかったのだけど。
ただ、珍しく竜児のつむじを見下ろす位置の大河は、その頭をぎゅうと抱え込んで、髪をかき分けて、
額とまぶたにちゅちゅちゅちゅ……キスの雨を降らせる。
「良かった。……りゅーじも、良かったね」
また少しのぼせ気味なのかもしれない。大河も自分も。
竜児は見上げて、温まったか?あがるか?と聞く。
ん……と答えながら、大河の唇がその言い終えた唇に落ちてくる。

上がって、大河をバスタオルで拭ってやる。
熱いのかふーふー息が荒い。もう一枚自分で拭く用のタオルを渡して脱衣所が空くのを待つ。
自分も洗い場で水気を拭い、やがて空いた脱衣所でスウェットを着る。
居間に戻ってみると、大河は肩口と胸元に大きなフリルがついたネグリジェ姿になっていた。
「えっへっへ。やっぱりね、こういうのが好きなのよね」
照れくさそうに頭なんかかいているし、声の調子にも邪気がない。加えて子供っぽくもない。
なにか普通だ。普通だと変な気がする。湯あたりか?
「おう、いいなそれ。似合ってて可愛いぞ。型もミスコンのときの衣装に似てて好きだな」
ん?何だ?ここはちょっとズレたツッコミをしてふくれっ面が返るのが会話の盛り上げってもんだろ?
なんのひねりもない。俺もどうかした?
「そうそう。あれに似ていたから買ったのよ。気づいてくれて嬉しー」
「よ、ヨーグルトドリンク飲むか?」
「うん」
タンブラーに注いでストローをつけてやる。

ドライヤーひとつしかねえから、お前がそれ飲んでる間に乾かしてやるよ。
え?りゅーじ湯ざめしちゃうよ。短かくてすぐ済むんだからあんたから先にやろう。
お、そ、そうか?
ほらあっち向いて。
襟あしを乾かしてもらい、こっち向かされ、前髪のくせもブラシでつけてもらう。

「はいおしまい。じゃこんどはこっちやって?」
大河は背中を向けてペタンと座り、タンブラーを両手でかかえてじゅぅー、と飲み始める。
「お、おう」
何だろう、これは?
明らかに前のような小粋な(笑)会話じゃねえ。
言葉どおりで裏がないなんて、思い出してみても互いにキレたときぐらいか。
髪が傷まないよう、絡まないよう気を付けて手櫛併用で乾かしながら、竜児は不思議に思う。
そうすると、ストローからちゅぽっと口を離して、大河の歌うような台詞も聞ける。
「んはー、気持ちいいよう〜♪梳いてもらってるの」
思ったことがすぐ口をついて出て、裏の意味とかなくて、そのまんま通じる。
何だかずっと抱き合ってるときが続いている感じだ。こういうのも悪くねえ。

484 幸福の湯あたり伝説(虎、帰るアフター) :2011/03/22(火) 01:16:01 ID:???

「なあ大河。やっぱシャンプーとコンディショナー前のに戻さねえ?」
「りゅーじと同じ匂いなのに〜?」
「俺はお前の匂いをあっちで覚えちゃったからな、少しもの足りない」
「あー、そっかー。そうだよね」
明日買いに行こうぜー。うんー。
洗髪用のブラシもな。泰子のやつ使っても気になんねえだろうけど、専用の置こうな。
妙に間延びした会話を交わしているうちに、だいたい髪も乾いた。うーん、サラッサラ。
はいおしまいと、ぽんと背中を叩く。

「りゅーじも水分補給しないの?持ってきてあげる」
「冷たいのよりお茶がいいな」
「じゃー入れるよ。冷えるとやばいから私も飲も」
「ん、あーそのカッコじゃ湯ざめしちゃうな。ちょっと待ってろ」
自分の部屋に入り、ごそごそと。あったあった。
ほら。お前がうちに脱ぎ捨ててそのまんま忘れてる服がいくつかあんだよ。
虫干しはしてるから痛んでないだろ。ラベンダー色の手編み風カーディガンを渡す。
「あーこれこれ。ないなないなーと思ってたんだよ」
そっか、ここに忘れてったんだねと呟きながら。
「はい、お茶入ったよ」
これね、ラベンダーの香り付きってのに釣られて買っちゃったんだよ。でも私アレルギー持ちじゃん?
もう匂いきっつくて。袖を通しながら機嫌よく話す。
「でクリーニングに出したらほど良く落ちてさ、それからお気に入りにしてたの」
襟をつまんで伸ばして匂いを嗅ぎながら、色もちょっと落ちてその具合が良かったと嬉しそうだ。
竜児もツッコミを入れる気は起きず相槌を打ちながら聞いているとその嬉しさが伝染する。

要するに、大河の本質は素直な少女であるという、竜児もよく知っている事に過ぎなかった。
感情の起伏に伴ってその表現はくるくる変わり、それを翻訳して理解するのが習慣になっていた。
違和感はそこから生まれている。
おそらくは湯あたりのせいだろう。タガが外れて、今夜はだだ漏れになってしまっただけ。
そして竜児は、存在だけをずっと知っていたその少女に逢えたのだ。

ねー、と大河が傍らに体育座りをして竜児に寄りかかる。
「最初からご飯終わったらこうする予定だったから」
「おうそうか」
お茶をすすり終えたら温まって、じんわりとした幸福感が広がるのを感じる。
互いにキレかけ、心の深奥から真実を叫ばねば逢えない少女に、今夜は簡単に逢えた幸い。
これからの普通の暮らしの中でもたびたび逢えると思えて嬉しくなる。

竜児は半身を向けて大河の耳元にキスをし、ひざ裏に手を突っ込んで、っしょっと持ち上げる。
「ぅおうっ!?」
そのまま自分の胡座の中へすとんとはまり込ませた。
きっと、もっと幸せが広がって伝わると思って。
「へ?えへへ、へへ〜」
「気持ちいいだろ?大河」
「うん、とっても」
「俺もだ。……てかお前温けえ、というより熱いくらいだ」
「もわーっといきなり体温高くなるんだよね。私」
「それか?大喰らいの理由」
ほかほか。ほかほか。大河が体重をかけてくると、竜児もあえて支えようとせず後ろへ倒れ込む。
とん。
とんと、肩が壁にぶつかって止まった。
竜児座椅子がリクライニングしたら座った位置が辛くなったのか、大河はちょっとずれて横座り。
はぁ〜〜〜っふ、と長い欠伸。背中がほかほか。
肩越しに回ってた竜児の手が一旦解かれ、するんと脇下から回り込んで、空いた肩を枕にされる。
お腹ほかほか、肩もほかほか。

落ちる。落ちる。落ちる落ちる落ちる。ふと卓袱台に目がとまる。
メタリックブルーの箱。未開封。
あーーー、そういえばーーー。目的……パコパコカーニバル〜?
んん?目的……落ちるまでりゅーじに触れていようって……あれ?……どっち……だっけ?
「……りゅーぅじ」
「……たぁーぃが……ぁ」
「……りゅーぅ…………」

485 幸福の湯あたり伝説(虎、帰るアフター) :2011/03/22(火) 01:17:06 ID:???


泥酔中にもかかわらず、足音を立てないようゆっくり階段を上って、泰子が帰宅した。
――あらぁ〜、灯りついてるよぉ
やっぱりぃ〜細かいことがいちいち楽しいお年ごろぉ〜?やっちゃんも覚えあるなぁ〜♪

しょーがないかぁ〜。ちょっと乱暴に鍵を開けて物音を立てる。
ロスタイムも終わりだしねー。
これで中がドタバタしたら、逃走時間を与えてぇ、ゆっくり踏み込めばぁ〜。
……ドタバタしないなあ?
静かに開けて入る。
一歩、二歩、玄関から、台所。
居間。

ありゃまぁー。
冷蔵庫のモーターが立てるぶ〜んという音しか聞こえてこない深い夜。
卓袱台へと目を落とせば、未開封。
ふぅぅ〜〜ん?イイコトする前に落ちちゃったのかなあ〜?
ふたりとも段取りにうるさいしー。
それでもこれじゃあ、ほっといたら風邪を引いてしまう。
泰子は少しよろけながら自分の部屋に行き、毛布を持ってきた。
壁際の、涎垂らして幸せそうなオブジェをふたついっぺんにぐるぐる巻きに。
んっふ♪ホタテマン?
「まあなるようになるガンスないガンスよ。ふぁ〜〜」


「――と、いうのが私たちの昨夜の物語なわけよ?」
時間は今朝に戻って来た。大河と竜児は卵焼きとキンピラで朝ごはんを終えたところ。
卵焼きには刻んだハムとミルク入り。もちろん大河は三杯飯。

泰子を起こさぬよう声をひそめてキレる大河の芸はなかなかだ。
「なっげえ回想だったなあ、おい」
「アレを開封もせず」
ぴしっと箱を指差して。

「貴重な私たちの夜をいっこ無駄にしちゃったわけよっ」
「無駄?無駄じゃねえだろう。すっごく気持ち良かったってお前も言ってたぞ?」
「そ、それはそんな覚えもあるけど……一緒に入ろうって振ったのも私だけど……」
そこを指摘されると弱い。
「でも何であんなにギリギリに全力を尽くしたのに寝落ちしちゃうわけ?何で何で何で!」
やっぱり湯あたりは良くないね。長湯はだめだね。と大河はぶつくさ。
平然とお茶をすすりながら竜児。
「そうか?俺は実に充実した。お前が可愛くてたまんなかったしさ。湯あたりのおかげかな」
む……と大河は赤面する。
じゃあどこが不満なのかちょっと確認してみっか?
ちょいちょい、と竜児は手招き。もっかい座ってみ?と胡座をかく。
大河は仏頂面で腰を下ろして、昨夜と同じ体勢になる。
脇下から腹に手を回されーの、肩に顎を乗っけられーの、首筋に顔を突っ込まれーの。

「あーーたいがー俺ーしあわせー。お前にもおすそ分けしてやりてえ……」

入浴中と同じ声を耳元で囁かれて、それはみごとに大河をフニャフニャにしてしまった。
なあ?イイコトちゃーんとしたろ?
騙されてる気がする!うまいこと操縦されてる!
また入ろうぜ。なんなら今夜も。
う……。

でもまあ、朝っぱらから竜児の腕の中にいられるなら、仕方ないかなとも思うのだ。


――END

486 高須家の名無しさん :2011/03/22(火) 08:47:40 ID:???
GJ!!GJ!!! ニヤニヤが、止まらねー!しかし、パコパコカ―ニバル〜www

487 高須家の名無しさん :2011/03/23(水) 05:44:33 ID:???
>>485
GJ!!
角が取れて丸くなった大河のおねだりは最強だな。そりゃあ竜児はふにゃふにゃになるだろうてw
可愛いしエロスだし甘くてとろけそうです
この二人は夢のような一週間を過ごすんですね。密着観察したいw

488 475 :2011/03/24(木) 20:33:56 ID:???
遅まきながら感想です。
>>468
ホワイトデーネタいいですね。焼きたてクッキーの香りが漂ってくるようです。
『オレンジ』のED絵でも三人娘のなかで独りだけガッついていましたから、大河は甘いものに目がない印象がありますね。

>>470
蜂蜜酒を飲む描写だけでアレな隠喩になってたという話もあるようでw
三第噺の人はいつもオチから想像が膨らむように話を書いてくれるので嬉しいです。

>>486-487
喜んで頂けたら光栄です。
アニメでも原作でも描かなかった竜虎が到達した時点からのご褒美というか、
それは作品に接した私らへの褒美でもあるのですが、やはりそれが欲しくなります。
だからエロスを無視することはできないのですがこれを他の方と共有するのは難しいですよね。
好みがいろいろ別れるところですので。

「虎、帰る」のアフターという事では、まさに仰る通り夢のような一週間を描けたらと思っていますが、
七日七夜を要する程までに必要なネタはないですね。三日で充分のようです。
だから印象的にはここで終えた方がいいかも知れません。
書き進めながら、その辺りはよく考えます。他のファンの方のイメージを損なうのは本意ではありませんし。

489 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/25(金) 08:12:13 ID:???
お題 「役立った」「首」「期末試験」
 
 
 
「んーっ……!」
 昇降口から出たとたん、大河は大きくのびをする。
「やーっと終わったわねー、期末試験」
「おう」
 応える竜児も首筋を軽く叩く。
 勉強は好きだしいつもの如く役立った兄貴ノートのおかげで結果に不安は無いが、それでもやはりテストというものは緊張するもので。
 肉体的にはそれほどでなくても、やたらと肩がこった気がするのは不思議なものだ。
「だけど、これであと何日かすれば待ちに待った夏休み!」
「おう、そうだな」
「……あのねえ竜児、恋人と過ごす初めての夏休みなんだから、もっと喜びなさいよ」
「いや、去年も一緒だったじゃねえか」
「『恋人として』ってのは初めてでしょうが!」
「おう、そういやそうか、すまねえ」
「ふん、まあいいわ。で、どこに遊びに行く? 映画は定番でしょー。遊園地や水族館とかもいいわねー。去年は海だったし、今年は山でキャンプとか。ふ、二人っきりでお泊り旅行とかしちゃったりして」
「……大河、お前は大事な事を忘れている」
「え?」
「俺達は受験生だぞ。夏期講習だってあるし、それでなくたって正念場なんだから、そんなに遊ぶ暇があるわけねえだろ」
「で、でも、竜児も私も成績悪くないんだし……」
「そう言って油断するのが一番いけねえんだ。レベル下げたり、ましてや浪人なんて絶対にするわけにはいかねえんだからな」
 そんなことになったら、大河と結婚できるのが遅くなるから……とまでは、流石に面と向かっては言えないが。
「ううー……せっかく高校最後の夏休みなのに、ロクなイベントも無いなんて……」
「まあ、一緒にいられる時間は増えるんだし、デートだってたまに息抜き兼ねて近場でってぐらいならできるだろ。それに、イベントっていうなら一つ重大なのがあるじゃねえか」
「何よそれ?」
「夏休みだからって、大河は弟の世話がある時はうちに来るわけにはいかねえだろ」
「ん、まあね。でもその時は竜児がうちに来ればいいじゃない」
「おう、それだよ。今までは送って行っても玄関までとか、せいぜいリビングまでだったろ。だけど一緒に勉強するとなればだな、初めて大河の部屋に入れるってわけだ」
「そ、そんなの、去年いくらだって……」
「今の家になってからは初めてだろ。『恋人として』ってのもな」
「ひ、ひやゃ……」

490 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/25(金) 08:35:15 ID:???
毎度転載ありがとうございます。
手打ちコピペもこれで最後……だといいなあ……

>>476-485
アマアマ、2828GJ!

491 高須家の名無しさん :2011/03/25(金) 20:03:29 ID:???
転載しましたー

>>488
その後が読みたいってのは悲願だよね、特に竜虎好きにとってはw
あまり気負わずに書いてもいいと思いますよ〜。
個人的にはやっぱり竜虎愛が感じられる作品に触れられると幸せ。つまり488氏の作品が読めて幸せ。
色々と苦悩もあるでしょうが、納得できるSSが出来たらまた投下して貰えると嬉しいです。
その日が来ることを祈って!

492 475 :2011/03/26(土) 14:21:26 ID:???
そう仰られると意欲が湧きます。
だいたい書き上げるとすぐ読んでほしいと思っちゃいますが、>>488のような所は頭冷やして充分推敲します。
「ぼくの考えた最強竜虎愛」ですがwあと同サイズ2エピソードで区切れそうです。
またお会いできるよう精進します。

493 高須家の名無しさん :2011/03/27(日) 23:36:08 ID:???
投稿しまーっす。

□□【タイトル】夢の中でも(虎、帰るアフター2)
□□□□【内容】竜虎ご近所デートの半日+夜〜翌朝を密着レポート。45KB

描写は必要最小限に留めておりますが最終パートはガチエロとなってます。
あなたの持つ竜虎イメージを損なうおそれがありますので、
読まれる場合はご注意ください。
かのう屋までは全年齢。夕食後は危険な時間です。

↓宜しくお願いします。

494 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:37:39 ID:???
【これまでのあらすじ】春は三月。親元で高校を卒業した逢坂大河は懐かしい大橋の町に
帰ってきた!本来の転居予定を前倒して単身上京。荷物が届くその日まで。大河と竜児が
甘々+エロスで繰り広げるパートタイム同棲コメディ(泰子付き)。その2!

****

前の晩にいろいろとあった二日目。

朝ご飯を終えて、フニャフニャとくつろいで、大河は後片付け。竜児は洗たく。
大河のセーラー服に水洗いOK表示があるのをちゃんと確認してから、別分けドライモード。
スカートのプリーツも事前にしつけて抜かりなし。これで後のアイロンがけが楽に済む。
「大河ぁ、そのおネグも洗っちゃうから脱いでよこせー」
ベランダの洗濯機の前から室内に声をかける。
「ほーい。覗かないでよね」
「……覗かねえよ」
「なんだ。つまんない」
どっちだよ。カーテンをしゃっと引かれた自分の部屋を眺める。
ややあって、じゃこれお願い、とカーテンの隙間からほわほわレースの塊がつき出される。
一週間居候すると言う割に少ない荷物を見て、汚れものは溜めずに洗ってやらねばと思ったのだ。
おそらくは一泊でとりあえず地元に帰るとか親に言って出てきたのだろう。

居間に戻ってみると、高校時代のジャージに着替えた大河が掃除をしている。
睡眠中の泰子を起こさないように気を使って掃除機を使わず、略式ながらハンディモップで埃取り。
竜児はいくつか窓を開け風を通して埃を追い出すと部屋は大河に任せてトイレとお風呂掃除。
自分の太い毛と大河の長い毛が絡み合って排水溝に溜まっているのを取り除きながらどぎまぎしたり。
板の間をぴかぴかに磨き上げた頃には、洗濯も終わって昼近くなっていた。
「お前にうちを掃除してもらうとはな」
「居候の分くらいわきまえてるわよ……」
「皮肉は言ってねえよ。なんかこう、夫婦っぽいなってさ」
「そ、そうね。練習よ練習」
じゃあ褒美におやつを出そう、と竜児は冷凍庫からクリームチーズケーキを出して紅茶を入れる。
ふたつに折った座布団を枕にゴロ寝していた大河が起き上がって、まったりとお茶。
穏やかな日で、ベランダに干した洗濯物がときおりそよぐ。
「ねえアレ」
あそこに置いたから。と大河が思い出したようにテレビ台を指差す。
見るとメタリックブルーで商品名が銀箔押しで印刷してあるお菓子のようなパッケージ。
昨日開封しなかった事はもう怒ってはいないようだ。

間もなく、おはよー☆たいがちゃぁーん。竜ちゃぁーん。と泰子が起き出した。
顔を洗っている間に、竜児は手早くお昼のチャーハンを作る。
朝食のキンピラと卵焼きも泰子の前に並べる。家族三人もくもくと水入らずの食事。
もくもく?
泰子がテレビ台にチラと視線を向けるたびに大河がビクッ。
竜児の顔を見ればスルーっと視線を逸らす。

「も〜〜〜っ、やっちゃん楽しくなぁい!そんなに気を使うのやめようよ〜☆」
アレを置いて要らぬ刺激を子供らに与えたとは思わないようだ。
「竜ちゃんはぁ〜、年の割に落ち着いてるけどぉ、やっぱし男の子だからアレ要るでしょぉ〜?」
「たいがちゃんはぁ〜、煮詰まりやすいからぁ、竜ちゃんが壊れたら流されるでしょぉ〜?」
そんなとき、そんな日は、震えるその手でアレを開ければいいんでやんす。
口調はともかく、まあ意外にまともな事を言う。
やはり若くても保護者は保護者、と竜児も大河も他人事のように感心したのだった。
けど。
「やっちゃん寝不足になっちゃうから、りゅーちゃんの部屋でねえ☆」
「あ、う、うん」
泰子にひそめ声で囁かれて、大河だけトマトのように染めあげられてしまう。

495 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:38:57 ID:???


もうひと寝するぅ〜☆と、泰子が部屋に消えたあと。
「おし、大河。買い物行こうぜ」と竜児。
「え?タイムセールはまだまだ先だよ。いまから?」
「お前の小物を買うし、それに」
竜児は一瞬だけ言い淀む。がそれは一瞬。恥ずかしい事なんかない。
「デートに誘ってるつもりなんだがな」
「うおう!竜児からで、で、で、でえとなんてせりふがが!」
なんだよう、変か?いいじゃねえかよ。
昨日より暖かいしさ。買い物しながら一緒にぶらぶらしようぜ。
「や、やぶさかではないわね。ヒマだし」
腕組みなんかして余裕をかましてはいるが、顔はまたトマトだ。完熟。
おう決まったな。じゃあ着替えてこい。
と言い終わらないうちに竜児の部屋にだっしゅ!ふすまをぴしゃっ!

女は身じたくに時間がかかると言われるが、大河の場合はそれほどでもない。
似合うファッションの幅が少ないと思い込んでいるのか、持っているのは同系統の服ばかり。
加えて、メイクは髪を整えリップグロスを塗るくらいのほとんどすっぴんだから。
それに旅行中の荷物に悩むほど服は入ってないだろう。
竜児がエコバッグに財布を揃えて、おざなりに髪をいじってきた5分程度で部屋から出てくる。
「お待たせ。……してないよねっ?」
「おう。へえ?」
大河のお出かけスタイルは、アイボリー基調で裾に若葉柄の入ったフリルの少ないワンピース。
いい具合に色が褪せたお気に入りカーディガンをアウターに羽織った春モードである。
薄茶色のニーソックスが緑萌える雰囲気で、ついでに絶対領域ほのかな煩悩も萌え出ずる。
「へえ?へえ〜?」
「なにさ?変?」
「い、いや……。柄ものは好みじゃないと思っていた。そんで驚いただけだ」
「まあ春だからね。はやりの花柄とか着たいけど。ちびだと子供服に見えちゃうんだよ」
「そっか。だったら大きめの葉っぱ柄はジミっぽいけど映えるよな」
本当はそんな事で驚いたわけではない。めっちゃ可愛いと思ったのだが。
竜児もジーンズとTシャツに着替えて1分。スタジャンを羽織って準備完了。
じゃあ行こうぜ、デートに。
うん行こう、デートに。
そういう事になった。

****

泰子行ってくるーとふすま越しに声をかけてお出かけ。
外階段を先に降りて、竜児は大河の手をすっと取る。
なんだろう?先回り、先回りで望みがかなうと大河は嬉しくなる。
「どこ行くの?りゅうじ」
そうだな……まずは。
まずは、お前の手を握ってどこ行くの?と訊かれたからには、あそこだよな。

公園を突っ切って、住宅街を抜けて、川岸に出る。土手に上がって遊歩道を並んで歩く。
「分かっちゃった。大橋だね」
「一応、プロポーズの場所だからな」
一段下がった歩行者用の橋を3分の1ほど渡ったところ。
かつての、雪のバレンタインデーと同じように、並んで欄干にもたれてみる。
「一年以上も経っちゃったね……」
「俺が身投げするなんて、お前が変な勘違いしてな」
「だから、謝ったじゃんよ」
「それに関しては未だに謝ってもらってねえ。でもそんな事はもういいんだ」
「そうそう。りゅうじもオトナになったもんだ♪」
見下ろせば結構な高さで、よく怪我もしなかったものだと思う。
あの日より水量は多く、水が滔々と流れている。
「まあ落とされたから何もかもが分かったんで、迷わずに結婚しようって言えたからな」
「そう……だね。死のうと考えていなければ、相手が死のうとしているなんて思わないよね」
大河の瞳は、もう懐かしいとしか思っていない色。
自分もそうだろう。

互いに、そうする事が当たり前であるかのように向き直る。
「ね、りゅうじ。あんたの事が、好きだよ」
「おう。俺も大河の事が、好きだ」
穏やかに晴れて川面を微風が渡る。
真昼間で他の通行人もいるのに、大河と竜児は顔を寄せ合ってキスをする。
恥ずかしくないわけではなかったけれど、この場所に置き放したものを一緒に拾えた。

「俺、あそこには独りで何回も行ったんだよ」
「あんがい女々しいところがあるんだ!りゅうじは」
「……お前が俺の立場だったらどうなんだよ?」
「心細くて毎日行くに決まってる!か弱いのよ?私」
「精神的にな。知ってる」
また土手に戻って並んで歩いた。
この先にさ、去年の秋にいわゆる複合商業施設ってやつが出来たんだ。
「駅ビルより店が多いから、そこで買い物しようぜ」
「あー。じゃあ私初めてだね。チェックチェック」

496 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:40:18 ID:???


その途中で大河の携帯が鳴る。
「あ、ママだ」
おふくろさんから電話か。聞かれたくない家庭の話もあろうと竜児は手を解いて離れようとする。
大河は離さない。いいんだよ、聞いてけ。という顔をして出る。
「うん、うん。そう。もうずっとこっちに居るよ」
竜児のとこにお世話になってる。うん。だって。大丈夫だよちゃんとしてる。

え?うん、いるよ。
「ママが高須さんちの方にかわれって。話す?」
「……話さないわけに行かないだろうが。はい、高須竜児です。こんにちは」
ええ、いま出先です。近くの川の土手を歩いてます。はい。
「うちのワガママ娘が不躾なマネをして申し訳ありません。親御さんには改めてご挨拶しますね」
「はい。ご丁寧に恐れ入ります。帰ったら母には伝えます。……ええ、買い物に来ています」
ちらっと大河を見ると、私つまーんなーい、たーいくーつ、早く終われー、という三文芝居。
こっちだって誠実な青年を必死に演じてるんだ。もうちょっと我慢しろ。

「大河はカンシャク持ちで頑固ですぐ拗ねるからご迷惑をお掛けすると思いますが……」
「え?それは分かっています。でも素直で優しいおじょ、お嬢さんで。俺は、好きです」
うわあ、お嬢さんだってよ。俺いま完熟トマト状態じゃねえ?
……完熟トマトがもうひとつ傍らに転がっていた。耳を塞いで悶えてやがる。

大河のおふくろさんもなんか黙ってるな?ひとこと余計だったか?
「……ありがとうね。高須君。あれでも大切な娘なのよ。宜しくお願いします。節度を……」
「はい!俺も大切に思ってますから。あの……」
後ろで赤ん坊が泣く声と、おたおたした雰囲気が伝わって来た。
「任せて下さい!たい……お嬢さんに返しますね」
「ぅおっと!もしもしっ。分かったでしょ。こういう人なのっ。……え?うん。うん。はい。それじゃ」
ほらほらおしめじゃないの?もう切るよ?また電話するからっ、ね?じゃバイバイキーン!
いきなり電話を返された娘もおたおたしながら、話は終わった。

「ふう……ぷっ、くくく、くく……」
「ああー、びっくりした。……何が可笑しいんだよ、くそ」
「『お嬢さん』だって。ぷくく……」
「やっぱりお前、親を騙して出てきたんだな?大丈夫かよ」
「お前、とか何様?あんたにとっちゃ『大切なお嬢さん』なんでしょ?わたし」
そんなとこに食い付くんじゃねえ。……ふつう、お嬢さんでいいんだよ。こういう場面では。
もう俺はすっかり真っ赤っ赤なトマト。
「好きです、とか、任せて下さい、とか、もうね。……もう」
含み笑いで嬲ってくれていたくせに、このお嬢さんは再びトマトだ。
「ふつう……言わないよ?……そこまで」
「おう、なんか悪かったかな?最後になんか言われたか?」
「『避妊しなさいよっ!』だって……」
「……うお」

「あと、……ちゃんと連れて帰省しろってさ」
「まあまあ悪くねえ。大成功じゃねえかよ。面接にこぎつけたよ!」
「バッカじゃないの?」完熟トマトの分際で毒づく。甘い声で。
ああまで言ったなら、なんで「くれ」って言・わ・な・い・の・よ!この、グズ犬ーーーーーっ!!
ばちーんん!とケツに渾身のミドルキックをくらう。
「……夏になったら北海道に行こう?りゅうじ。ウニどーん!エビどーん!だよ!」
「痛えよ。バイトできなくなったら、どうすんだ?旅費」

大丈夫だよ?りゅうじ。
誰だってろくに会った事もない人を信用はできない。
だから、私は何度も何度も、あんたの事をどんなに『誠実な人』かママに話してきた。
きっとママは私の方がのぼせて、浮かれポンチで高須竜児にハマっていると思ってる。
さっきは伝えなかったけど、『……あんた好かれてるじゃないの!』って言われたんだよ!
帰省しなさいよ、の前にね。
本当に、面接にこぎつけたんだよ。
あんたに会って、知れば、きっとママもお義父さんもあんたを好きになる。
あんたと家族になれると思ってくれる。物心がつけば、後ろで泣いてた弟もね。
私は疑った事もない。
それに今日は、要求もしてないのにりゅうじが望みをかなえてくれる不思議。

「お嬢さんを、俺に下さい」
「情熱的にもう一丁!」
「お嬢さんを俺に下さいっ。一生涯大切にしますっ」
「いいねいいねー!何事も練習だ。も一丁っ」
「可愛くて肌がつるんつるんのもちもちで抱き心地がとっても幸せなお嬢さんを俺にくれーーっ」
「そんな事は云わんでいぃ〜〜っ!」
あまり人が通らないのをさいわい、トマトたちは喚きながら土手を通って目的地に着いた。

497 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:42:19 ID:???

****

「『ビッグブリッヂ』……だって……」
「名称にはあまり突っ込むな。一般公募だった」
移転した工場跡地に建った複合商業施設。とは言い過ぎかも知れないくらいの規模ではあったが。
シネコンありゲーセンありパチ屋ありレストラン街ありで、ちょっとした賑わいだ。
「俺らの間ではベタ過ぎという話は既に済ませた。ゲーヲタがネタ的に喜んでる」
「ここで戦って負けると武器を取られる、とか?」
「そうそう。そんなの」
しょうもない会話をしながら中に入ると、さっそく大河の鼻歌。……やっぱそれだな。
そうだよ。オープン当初それ口ずさんでたやつは多い。名曲だからな。
「天然素材のロシアンルーレ〜ットぉ〜♪」
ボカロの方かよ。お前その歌詞、最後まで知ってんのか?
心でツッコミつつもししとうを食いたくなってきた竜児ではあった。
地下が食品売り場になっているが、価格は高目で品質はかのう屋と同じ。
まあ利用する事はないだろう。

ふたりはとりあえず1階のレディース専門店街をひと回りしてみた。
「ここはミセス向けが多い。フォーマルなのを探すときにはいいかも」
「そっか。上はカジュアルフロアだな。行ってみよう」
エスカレーターで上がる。
このフロアはティーンズ向けのようだ。広いスペースに品揃えがかぶらない店がいくつもある。
ロリータ系に強い店もあり大河なら気に入るだろうと思っていたのだ。
この上のフロアはアクセサリー屋の他に服の生地屋とかも入っていて、俺はそっちに興味がある。

予想通り大河は、わあ、とか、おお、とか言いながら念入りにチェックしている。
やっぱ女の子だなと思う。
「いいね。チビサイズも揃ってるし。これならばかちーとも一緒に来れる」
「おう、良かったな。女が満足する品揃えって俺じゃ分かんないからさ。……でよ?」
なんか気に行ったのがあったらプレゼントしてやる。と告げる。
「ええっ!?そんなあ」
「この財布には時折バイトしてプチ貯めまくった金がある。家計じゃねえ」
ふふん。とたまには竜児だって胸を反らしてみるのだ。
嬉しいけど、悪いじゃん。
いいんだよ。デートだっつったろ?元々お前が上京したらなんかプレゼントするつもりだったし。
俺にとってもお前にとっても記念日だろ?それが前倒しになっただけだ。
「ほんと?りゅーじありがとーっ!」と、いきなり抱きつく。
さすがにそこそこ客がいるここでは恥ずかしいぞ。いいから選べ、と程ほどにしておく。

それからたっぷり一時間、大河は広いフロアを走り回った。
あとから追いつく竜児に感想を求めて、手持ちのものとの組み合わせを必死で考えている。
考えてみればこういう買い物の大河を見るのは初めての事だ。
元が衣装持ちだから、あいつ目は肥えているんだよな。
欲しいものが見つかっても値段で止めたり俺の懐具合も考えてるらしい。
そうすると、なかなか決まらないかも知れねえな。
俺にしたって、これは大人の真似をしてみる背伸びだから、払える限り払ってやるぜ。
「服じゃなくて、アクセでもいいんだぞ?このフロアにも何軒かあったし、上にもあったな」
「うーん、アクセはね〜」金属ダメなんだよね。赤くなっちゃう。
ああ、そういえばそうだったな。
「金かプラチナかチタンならだけど、分不相応だし」
それに私ね、あんまり光りモノに興味ないの。時間かかってごめんね。
いいんだ。どうせヒマだし、そのために来たんだし。たっぷり悩め。
「お嬢さんよ、上のフロアも見てみようぜ」
「そうね」


3階はいわゆる小物屋が多かった。女子向けで少しローティーン向けか、制服の中高生が多い。
ちょっと場違いなので、大河を独りで放つ。俺は生地屋を見てこよう。
生地屋、というか服飾材料屋はフロア中央のエスカレーターから離れた隅の方。階段の脇にあった。
値段はやはり高目だが、服地やらを買える代わりの店は大橋にはないからな。
電車で都内まで行く事を考えると、徒歩圏なら重宝しそうだ。
などと考えながら布のロールの間を巡っていると、リボンテープのコーナーで足が止まる。
見覚えのある色だな……そうだ、川嶋の別荘で!
あの旅行のとき、大河は髪をぞんざいに上げて結んでポニテにしていた。あのリボンの色だ。
サイドを金糸でかがった薄緑の。素材はベルベット。
大河の髪を上げて、これで結んだら?春らしくて今日の格好にぴったりだな。
三白眼に怪しい光を帯びてヒモを持てば、これから誰かを絞殺するその筋の人、もちろんそんな事はなく。

498 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:43:36 ID:???

しかし、なんだ?俺が大河のナリに口を出す?
いつまでもパジャマでうろうろするんじゃねえ、着替えろ!というのとは意味が違う。
あいつにはあいつがしたいと思う装いがあるわけだし。
でもあのときのポニテは可愛かった。もう一度見たい。
見たいと思うとどんどん見たくなる。
まあ、何と言っても本人に聞いてみなきゃ始まらない。店から一旦でて、大河を呼ぶ。
「この色、似合うと思うんだよ。ベルベットだから軽く見えすぎないし、葉っぱ柄とも合うし」
「なに?髪上げんの?別にいいけど。……ん?この色見覚えあるなあ?」
うん、手持ちのリボンの中に確かあったはず。届くのは来週だし、見つけられるか怪しいけどね。
あ?そうだ、別荘でしてた!
おう。思い出したか。
なんでそんな細かいこと覚えてんのよ。
「え?……それは、可愛かったから、ポニテ」
「あ?そ、そう?また見たいの?」お、おう。
「見てえ」
そうか!と大河はなにかを思い出した顔をして、早口で言う。
「あんたはそのリボン買ってきて。私2階に降りてるから。早くきてよね」
言うなり、店を飛び出し、だだだーっと2段飛ばしで階段を降りていった。

竜児はリボンをワンロール手に取りレジに。後で端をかがるための金糸も一緒に。
2階に降りると、近くの店からりゅーじぃ!と呼ばれた。
行ってみると、一着のブレザージャケットを手に取っている。リボンと似た緑だが少し色が深い。
「どう?色み。合いそう?」
おう?大河を下から順々に見て行って、買って来たばかりのリボンを見比べ、合いそうだと答える。
「じゃ、合わせてみるね?」
すいませーん、これ試着ーと店員を呼んで試着室に入る。

「サイズはちょうどいい」
ハコから出てきた大河はなかなか……どうして。
七分袖のそのブレザーは今年も流行ってるチビ丈タイプ。
いま着ている、ウエストきゅっ裾ふんわりなAラインのワンピと合わせると、劇的に脚が長く見える。
カーディガンでルーズな感じの方が良く知っている大河のイメージに近いけど、こっちが俺好み!
これでポニテリボンはものすごく可愛い。ちょっと興奮した。
という印象を正直に伝えたら。
「じゃあ、これがいい。……ただちょっといい値段かも」
眉を八の字にした困り顔で、どう?と聞いてくる。
見ると、確かにそこそこ。でも『払える限り』なんて額には遠い。大丈夫だ。

でもよ。
「俺はいいと思うが、お前の普段の好みと違うシンプルなラインだぜ?」
身体の線も出ちまうが……いいのかよ?
「いいよ?うん。そう、これがいいの」
これくださーい。あ、ここで着て行きますと店員に告げる。
あとリボン着けたいんで切らせて貰えます?裁ちばさみとメジャーと鏡貸して下さい、と。
道具を借りてレジ脇で、はいりゅうじ、リボンにしてちょうだい。と。

竜児はロールのパッケを開けて、ちょっと長さを計算して、メジャー当てて測ってチョキン。
少々ほつれるかも知れないが、端の処理はあとでやろうと決める。
その間に大河はヘアゴムを取り出し、鏡を見ながらウェーブのかかった後ろ髪を上げて位置決め。
やがてタックを取ってブラシをかけられたブレザーを、どうぞと店員に渡される。
袖を通して襟元を整え、くるっと後ろを向いてリボン結んでと言う。
丁寧に結び目をつくって完成。
想像した通りだった。
重すぎず軽すぎず、浮かれすぎず地味すぎず。ワンピとの組み合わせがいい感じ。
姿見を向けてもらい、嬉しそうに全体を映して何度も確かめている大河を横に見て代金を支払った。

****

店を出て、エスカレーターでなく階段を降りようとしたら、早くもリボンが緩んでいる。
「ちょっと待った大河。ヘアピン持ってるな?2本貸せ」
ベルベットだから緩みやすいんだな。
少しきつめに直してから、隠しピンで留める。これで大丈夫なはず。
ちょうど3階から降りてきた女子中学生らしいグループが大河を見てあー可愛いーと盛り上がる。
降りて行きながら話している内容が階段から聞こえてくる。
「彼氏かぁ?あれ?」
「親子じゃないよねー?」
「でもなんか良くね?あんな事してくれるのが彼氏だったら」
「あんなんちょー恥じいじゃん」
「えーいいよー?」
……
にやり。
にやり。
声をひそめて。
「彼氏だってさ、りゅーじ」
「恥ずかしいとは……まだまだコドモだな」
これが彼氏彼女の余裕というやつか。

499 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:44:42 ID:???

「お腹すいちゃった」
「結構集中して走りまわってたもんな。夕食までもたねえか?」
「うん」
「じゃあ上で軽くなんか食べよう」
屋上がフードコートになっていることを思い出して上がってみる。
パラソル付きの丸テーブルが置かれたエリアを取り囲むように沢山の屋台。
やきそばたこ焼きお好み焼き。ドリンククレープソフトクリーム。
鯛焼き麺類焼きトウキビ、ケバブまである。

「ここいいじゃん。海辺みたい」
「オープンエアだから晴れの日限定だけどな。買ってくるから座ってろよ」
「うん」
なにがいい?
ケバブ……いやせっかくの格好で肉はないわ。お好み焼きとメロンソーダ。
なんだ、肉でもいいのに。じゃ俺がケバブ食うわ。
笑いながら食料の調達に行く竜児。

お好み焼きとケバブとドリンク二人分を抱えて戻れば、ありがちな事に大河がナンパされていた。
地元の他高生2人……ということは2年か1年。酷い言葉を浴びせられるなあと思いきや。
「ごめんね、わたし婚約者とデートしてるの」
これもある意味ではストレートに過ぎて酷いかも知れないが。
「あ、来た来た。ほらあの人」
2人組は竜児の顔を見てビクっと。っしたー、っしたー、と頭を下げてそそくさ立ち去る。
「いまのお前に指一本でも触れたら俺は荒事も辞さねえ覚悟だが」
食べものをテーブルに置きながら大河に話しかける。
しかし、あんだけ穏やかに拒絶するお前にはもっと驚いたよ。
「うん。いま最っ高にいい気分。天にも昇る心地なの。こんなときに汚い言葉なんか出ない」
と言いつつ、少し背を反らしたのは見ないふりをしてやろう。

お好み焼きとケバブを半分交換しろという想定通りの要求に応じて小腹を満たす。
メロンソーダは失敗した。自分では見れないけどすごい色になってるでしょ?と舌を出す。
確かに鮮やかな緑に染まっている。
「りゅうじ、あの」
緑色ではあるけれど、かしこまった口調に変わっている。
「プレゼントありがとう」
「なんだか無理に俺の趣味を押し付けたみたいだったのに、良かったのか?」
「あのね、自分が欲しいものよりも、りゅうじが好きだと思ってくれるものを貰えて良かった」
たとえば食べ物とかゲームとか、そういうものなら自分の好きなものがきっと嬉しい。
だけど服やアクセはさ、私にとっては違うんだ。

「うちを出た時より今の方が可愛いって。綺麗だって。りゅうじは思ってくれてる?」
質問ではあるけれど、分かりきってる。そう大河の顔には描いてある。
「もちろんだ。ああ、いやあのカーディガンだってよく似合ってたぞ」
それも分かってる。でもこっちの方がりゅうじはいいんだよね?
「私は自分がちびでちんちくりんだと思っていて、そこから自由になれる格好が好きなの」
だからりゅうじも知っていたクローゼットの中身、同じ傾向だったでしょ。
でもさっき生地屋さんでりゅうじの顔見て、声聞いて、分かったの。
「私はりゅうじのためだけに綺麗にしてたい。りゅうじのためだけに可愛くなりたい」
そう思うのがとても気持ちのいいことだってね。
蹴りなんか入れちゃった後だけど。……ほ、ほ本当にいま思ってるよ。
なんという完熟トマト。
……俺もか。

「だから、選んでくれてありがとうね」
これも自由にしてくれているんだ。大事にする。と服のあちこちを撫でる。
「りゅうじと居るときにだけ着る。約束する」それにね?
旅行の時のポニーテール、あんなに前のこと思い出してくれたのが嬉しいよ。
頬を赤らめながらも、満面の笑みで礼を言ってる大河にどぎまぎしてしまって。

500 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:46:32 ID:???


おやつを終えて、そろそろ夕食の買い物に行く時間。
その前に大河のおふろ用品を買わねば。
ここにもドラッグストアはあるが、うちの近くの方が安いのでそっちで買う事にする。
言葉少なに。ときどき黙って視線を交わしては、えへ、とか、おう、とか短く。
竜児は大河から目を離さない。
大河は前を歩いて、ちょっと離れて竜児からよく見えるように。
横に並んで、肩で小突いてみたり。
信号待ちでは、いちちゅっごとに有料の投げキッスを直撃成功してみたり。
ついでに車道によろけて、慌てた竜児に引き寄せられて。
そのままエコバッグを提げた腕に絡んで。
見上げて。
見下ろされて。
大河の思い。――望みをかなえてくれる不思議。
竜児に見えたもの。
つむじの後ろで結んだリボンが、午後の日差しを控えめに反射している。

****

いつものドラッグストアの前に来ると、見慣れた美少女コンビに。
「あ!」「あ」「おう」「あ」
ばったりと。
木原麻耶と香椎奈々子。元クラスメート。
そりゃ小さな町だ。会っても不思議なんてことはない。
昨日卒業式だったのだから、今日仲良しがつるんでいて何もおかしな事はない。

「あれぇーーっ!タイガーじゃーん?あ、かわいーっ!イメチェンなのー?」
あでも親元に一回帰って来週引っ越してくるってー?
「麻耶、それよりこっちの腕絡ませてる彼氏を詳しく紹介してもらわなきゃ」
「何だよ、知ってるじゃねえかよ」
香椎は無視して大河を問い詰める。口調こそおっとりしているが恋話マニアなのだ。
「高須くんとデートなのぉ?デートなのぉー?ねえねえねえねえー?」
「あ、うん。そうだよ。」
親元に一回帰るっていうのはうそ。もうずっとこっちにいるよ。と木原にも答える。
「そうなんだー、友だちにも邪魔されたくないんだよねえ〜?う・ふ・ふ、やだぁもう〜」
「いーないーなぁ!2人が付き合ってる現場をあたしたちもやっと見れたって事ー?!」
木原が頬を桃に染めて竜児の肩を揺する。

「今日はばかちーとは一緒じゃないの?」
「亜美ちゃんなら今日明日と仕事で遊べないって」
「ふーん、そうなんだ。あんたたちも買い物でしょ?」
「そ。てゆーか、暇つぶしのコスメ漁り。タイガーは?」
「私はおふろ用品を見つくろいに」

「「おふろ用品?!」」

麻耶と奈々子のダブルツッコミ。
ホテル滞在ならばそんなものを揃える必要なし。
「このあとかのう屋で夕食の買い物するんだよ」

「「夕食の!!」」

ふたりは揃って高須竜児を凝視!状況は果てしなく黒に近いグレー。ていうか黒。
「きゃ。そーなのぉー?やっぱりぃー?」
仕方なく竜児は頷いてみる。
「お、おう。まあな。もうお前らをごまかすつもりはねえよ」
「うっわぁー!あ、じゃあ昨日は……?」
竜児がギク。っと。
「ひょっとしてタイガー……?」
大河がギク。っと。
「お泊り……なのぉー?」
「え、えと……その……うん♪」「おい!」

「「キャァァァァァァーー!!」」

「お、落ち着け」
高須竜児は元クラスメートの女子2人に背中と胸、裏表からばんばん叩かれた。
祝福と、僅かな嫉妬、大きな憧憬に裏打ちされたその暴行を甘んじて受ける。
詳しく!と香椎が拳を大河の口元に突き付けるインタビュアーの振り。
大河も乗ってしまって、昨夜の入浴シーンの公開に及んでいる。
うあああああああああ!
黙れ黙れ黙れそんなこと言わんでいいぃっ!と抵抗を試みるも1対3。
多数派がそーゆー事に興味津々のお年頃女子となれば、勝敗はおのずと決まっていた。
「ハァハァ、なんかもうあたしら今夜眠れるかな?」
「もうー、あたしこれから奈々子んちに泊まるー!泊まんべ。泊めて?」
「もーうまヤラシすぎるかね。じっくり語り合おうか。コスメ漁りなんかしてる場合じゃない」
「あたしたちお菓子買って帰る事にする!」
「じゃあタイガー、高須くん。お幸せにね♪」
「ありがとね。またね」
「披露宴には呼んでほしー!」
「お、おう。何年後になるかまだ分かんねえけど。来てくれな」
「きゃ。うん。またね。また会おうね」
「じゃーね〜」

501 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:47:37 ID:???

ふたりと別れた大河と竜児はドラッグストアに入って買い物。
前を歩くふりふりポニーテールに思わず竜児は呟く。
「……見栄っぱり」
「なによ。い……いいじゃないのよ」
シャンプー、コンディショナー、ブラシなどをかごに放り込みながら。
一緒におふろ入って、私もりゅうじもすごく気持ち良かった。
「どこにうそがあんのさ?」
まあ、大意要約をすればその通りではあるのだが。
それに、私たちがバカップル的に幸福なのは木原にも香椎にも嬉しいことでしょ。
あんだけ心配をかけたんだからさ。
うーん。そうかも知れねえ。
「つまり。私も、りゅうじも、幸せにい続ける責任を負ってるわけよ」
それに、せっかくこうなったんだから。私だって一度くらい……友だちに冷やかされてみたいわ。
ふへへと笑った。

最後にかのう屋へ移動。

「今日はなに食べたい?大河」
「そうねー。昨日がとんかつだったから、お魚食べたい」
「栄養バランスの感覚もついたみたいじゃねえか」
「まあね。というよりはうちのお義父さんが魚介の美味しさを教えてくれたの」
「へえ?」
「趣味がアウトドアでさ、釣ってきた魚を捌く人なのよ。海産物が美味しいところだしさ」
「初めて聞いたな……」
「魚の目利きも市場に連れてってもらって教えてもらったよ。ウデ、見せようか?」
「おう。そりゃ楽しみだな」

鮮魚売り場にて。
「気にした事なかったけど、かのう屋ってモノがいいんだね。さすが地域密着人気スーパー」
「そうだな。その分ちょっと高めだけどごちそうの時は外せねえ」
じゃあ何を選ぶ?
「そうねえ……」
三月である。旬の近海もので、豊漁で値段が安いものを好き嫌いなく。が基本。
「メヌケがあるけど関東じゃあまり出ないから高いね。美味しいけど」
それに底物って分かりにくいからパス。
大河は冷蔵ケースの上をじっくり見ていく。
「まず、今の時期に美味しいアサリは確定。味噌汁もいいけど、春キャベツと酒蒸しにしたらいい」
ほう。ちゃんと教わって来たみたいだな。
「魚はサバにしよう?秋がいいけど春も美味しい。並んでる数も多いからいいのがあるはず」
「俺も同意見だ。これと、これとこれ、あとこれが鮮度いいな。目が澄んでえらが真っ赤だ」
大河の目利きを見るはずなのに、つい習慣で指差してしまう。

「ふっふーん。その中に正解は2パックだけあります」
「おうっ?!あとの2パックはダメか?」
「ダメじゃないけど、脂の乗りが少ないはず」
しめ鯖じゃなくてみそ煮食べたいもん。サバの脂はエイコサドコサ、血液サラサーラ♪
たっぷり乗ってるのがいいよね?
りゅうじの見立てた中で、腹に薄く金色の線が入ってパツパツに太ってるのがいいのよ。
これとこれだけでしょ。とウインクしたり。
なんという若妻振り!と感心してる間に、大河は鮮魚売り場の奥に声をかける。
「おじさーん、これとこれ3枚にしてくれる?うん。中骨いらない。みそ煮にするから皮に切れ目入れて」
「はいよー!ちょっと待ってておくれー。お?姉ちゃん残り少ないの拾ったね」
お前、やるな。
まあね。でも料理はまだ出来ないからりゅうじがつくるのよ。
じゃあ春キャベツと生姜を買ってくるからここで受取り頼む。
しばらく待って、竜児が戻ってくると、はいお待ち―と再パックされた片身が差しだされた。
切り口のエッジの立ち具合、腹側の脂の乗りを見て旨そうだと竜児は頷く。

「それにしても毎日目利き修行をしていたわけじゃねえだろ?すげえな」
「これはセンスね。同じお代なんだからいかに美味しいものを選り分けるかという」
「要するに食欲というわけだ」
「うるさいな……。でもね、まず美味しそうと思えるものを選ぶのが基本だから合ってる」
さっきりゅうじも美味しそうな4つをまず選んだでしょ?
あとはそこから知識で拾う。
深海魚は見た目グロいのが多いから、難しいけどね。
「一番間違いないのは、魚屋さんと仲良くなるのがいいんだよ」
お店にとっても仕入れて良いものは当たりくじみたいなもの。
いつもそれを選んで買って行く客がいれば共感を覚えて貰いやすいってわけ。
そこで、自分がわからなければ教えてもらう。おじさん、おいしいのどれ?って。
そういうふうに教わったのね。
これは英才教育だ。と竜児は思った。
会った事もない大河の義父に微かな嫉妬。俺の楽しみを俺よりも先に……。
とりあえずは、めちゃめちゃ美味しいサバのみそ煮を作ってやる。絶対負けねえ。
レジに向かう間に、竜児はバカ高い紀州南高梅の梅漬けをかごに放り込んでいた。

502 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:49:37 ID:???

****

ただいまーと、帰りつく。
あれーたいがちゃんかわいーよぉ☆と泰子が興奮する。
ぽっぷんきゅーと!とインコちゃんにも褒められてる。
テレ笑いをしている大河を見ながら、竜児は買って来た食材を整理。
針箱を出してきて、ロールの残りからリボンを切りだす。同じものがあと2本取れた。
端をきれいに断って金糸でかがる。
そのチマチマした作業を、泰子が卓袱台に頬杖をついて眺めている。
ブレザーを脱いでブラッシング。鴨居にかけ終わった大河も窓側に座って同じポーズ。
仕上がったので大河の後ろに座り、今結んでいるものと交換して、もう一本を同じ処理。
「緩みやすいから……ひとりじゃ綺麗に結べないな」ね?と。
「おう……大丈夫。結んでくれるやつはきっといる」な?
「じゃあーやっちゃん頼まれても無視するでやーんす☆」
「えー?ひどいー!りゅうじがいないときはやってよー。あ、いいんだ。そうだった」
竜児の前でなければ、これは着けないと約束したのだった。

繕い物が終わると、さて!と竜児は立って、エプロン着用。男の戦場?へと向かう。
アサリの酒蒸しはスープを逃がさぬよう土鍋で!
サバのみそ煮はとびっきりの味付けで!
汁椀はコクとさっぱり両立の赤だしで!
意気込みが暑苦しい空気を醸し出す。竜児はメラメラと燃えている。
大河はそれをほっとく事にして、日が傾いたのを認めると乾いた洗濯ものを取りこむ。
時節柄、部屋に入れる前にブラシをかけながら仕分けて、泰子の指導でアイロンがけ。
もう着ないからと泰子のクローゼットに仕舞い込んだセーラー服が、のちに毘沙門天国で
新たな仕事着のヒントとなったのはまた別の話である。
当然、サイズが合わなくてわざわざ買うわけだが。

そうこうしているうちに、夕食が出来た。
八畳間の真ん中に卓袱台。窓側に大河、向かいに竜児、自室前に泰子。定位置に三人着いて。
「やっちゃんサバだーい好き☆おーいしーい♪」
「りゅうじ、これ?」
大河がみそ煮の皿に付け合わせている梅漬けを指す。
「今の時期安くないのに、珍しい事するね?」
MOTTAINAI精神はどうしたの。
「……まあ、たまには良いだろ。みそダレの単調さをカバーする箸休め。秘中の秘」
「まあ、確かに。この組合せだと、飽きずにご飯が進むわ」
「お、おう。そうだろ?梅肉を潰してみそダレと絡めたのをソースにしてみる、というのも」
んにゃっ?これは?!甘さと脂と酸味がー!と言いつつ今日の大河はわりと上品に食べ進んでる。
不思議そうな竜児の視線に気づいたのか。
「ん?服に汁とか飛ばしたくないだけよ?」
「春キャベツとアサリのだしもおいしー。醤油の香りが立ってるね」
「そうか。うん。良かったな」
やはりいい仕事をして認められると気分がいい。つい胸を反らしかける。
「いやあ、やっぱりゅうじの料理は確かだ。お義父さんの域にも行けるかも」

え゛?
竜ちゃーん、おかわりぃー☆
あ゛あ゛、はいはい……。
りゅうじー、こっちもー。
お゛う゛。
お義父さんの……域に……「行ける」?という事はまだ「行けてない」

大河は魚の目利きがちょっとできるだけの食いしんぼだが、舌は確かだ。
高い、安いは関係ない。食わず嫌いがたくさんあっても、旨ければ好物と認める正直な舌を持ってる。
ある意味、大河を味見役として傍らに置いてから自分の料理の腕も相当に上達したのだ。
虚ろになった竜児の瞳に、かつてと同じように屈辱の炎が揺らぐ。
これは、あれか?また負けるのか。俺は。北村のばあちゃんに続けて二連敗か。
シニアクラスでは所詮、歯が立たないというレベルか?
「……あんた、また魔に魅入られてる」
様子を見て総てを悟った大河が助け舟を出してきた。
「アウトドアの人って言ったでしょ。趣味の料理は最高。毎日のおかずはてんでダメ」
もぐもぐご飯を食べながら、あんたの方が総合点で上なんだからと言ってくれた。

503 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:50:55 ID:???

ああ、食べながらだけどな。口の端に味噌ダレ付けたままだったけどな。
家の中で2時間かけてホタテパエリアなんか作らないでしょーが。ダッチオーブンで。
また大河は八の字眉の困り顔で言う。
「お上品にゆっくり食べてたら満腹感に襲われちゃったよ。三杯目がそっと突きだせない」
悔しいからあとは酒蒸しと赤だしローテいくわ。汁ものばんざい。うまっ。
濃すぎず薄すぎず丹精込めたタレで煮あげたサバはいつの間にか完食されていた。
そんなこんなで、危うくも竜児は境界から連れ戻されたのだった。

シニアクラスでも公式戦に出てこない無冠の名人。
「うはははははは、竜児。お前の食に対する情熱はそんなものか!」と嘲笑う和服の男。
あくまでも竜児の勝手なイメージだが。
ともかくも、心中で『北の巨人』と名付けられた義父との料理対決は……やはりまた別の話となる。

****

「行ってきまんするー☆」
と、今夜もぽよんよんと泰子が出かけたのは大河が洗いものを済ませた頃。
エプロンを外しながら行ってらっしゃいと見送って居間に戻ってくると、竜児のトラウマも収まっていた。
「ねえあんた。味噌ダレが余っていたからタッパにとって冷蔵庫に入れたよ。明日ワカメのぬたにしよ」
「おう。……お嬢さん。いや奥さん」
「へ?へへへ、へへ……そう?まあそう聞こえるように言ってみたけどね。へらへら」
「台所に立つ後ろ姿もいいもんだ」
「は、裸エプロンはだめだよ。まだ。……やっちゃんが出かけるまで後片付けしないでおくとか?」
だめなのかいいのか。
「い、いや。そういうのは初々しい新婚生活のために取っておくべきだ。……と、思う」

二人っきりになれば、どうしてもこういう方向に話題が行く。
だって俺たちは、私たちは。互いを思った恋人同士だから。
節度を持ってと釘を刺されながらも許された恋人同士だから。
こうして挑発するのに。誘いをかけるのに。それなのに一線を踏み越えるのが難しい。
もっと距離が遠かったら、きっと簡単にひとつになれている。と思う。
相手の気持ちを自らの欲望に従って好きに都合良く思えるなら。
そうしてつながってしまえば、そこからゆっくり始められるのだろう。
結果OKというやつで。

でも近すぎる。
大河は、竜児は、あまりに長い間互いの思いを察して分かろうとしてきた。
分からなければ互いが閉じ込められた迷宮から出られず、手を取り合う事は出来なかったはずだ。
今は分かるようになっていて、それは代えようもないほど嬉しく得難い。
でも同時に、欲望が一致しなければ最後まで行けないという事でもあった。
一年以上も前に、ふたりは偶々ひとつになれて、その記憶がさらに誘惑してしまう。
「ゆっくりこのままでいられたらいい」と。
抱き合い分かち合う幸福感に包まれ、でもほんの少しのもの足りなさを感じながらも。

竜児は自らの中の欲望の炎を、見つけしだい消すものと思う。
大河は自らの中にも欲望の炎が灯ると知らないでいる。竜児の炎が燃え移るのが理と思う。
いや、思っていた。昨日までは。
前に結ばれた日にどうやってその炎を扱ったのか。もう分からない。

今日は、思いが互いに伝わってから長く離れて、初めて恋人らしく過ごす事ができた日。
今日は、ずっと口火のような炎が灯っている。それを消したくはない。

竜児はつと立ち、黙って風呂に湯を張ってくる。
ふたりきりの居間に戻って食後の茶を飲み。窓側に座って大河に寄り添う。
点けたテレビを見ているけどうわのそら。なにか話すけれどうわのそら。
触れた肩口から互いの温度を感じる。
大河の顔を覗き込んでみると僅かに見上げて。
少しだけ不安の色が浮かんだ。どこに行くの、と問いかける。
それはすぐに消えた。どこにだって一緒に行く。丸く見開いた目で竜児を見ている。
竜児には大河の口火が見える。鳶色の瞳の奥、光を湛えて確かにある。
たぶんその使い方を教えてやれる。

504 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:52:16 ID:???

伸ばした手で丁寧にリボンを解き、ヘアゴムを外す。ポニテがふぁさっと落ちて広がる。
「黙ってると、怖いか?」
ううん、とかぶりを振る。
「今日も一緒に風呂入ろうぜ」
俯いて、長い睫毛を瞬かせてこくんと頷く。
竜児はテレビ台に手を伸ばしてメタリックブルーの箱のシュリンクをぴり、と破く。
三つ入っている中箱のひとつを開けて、アルミパックを取り出した。
鳶色の瞳がそれをじっと見ている。
――望みがかなう不思議
大河にも聞こえてくる、湯船から湯があふれだす音。


無言で脱がしてやると、昨夜と同じように下着姿で脱衣所に逃げる。
台所との仕切りの暖簾をくぐって、後から竜児も脱衣所へ。
大河はすでに裸で待っていた。
過剰に恥ずかしがることもなく上気した頬に愛しさを覚える。
脱がされて浴室へ入る。

手順は変わらない。
大河が湯船につかっている間に竜児が身体と頭を洗う。
竜児が湯船につかると大河が出て洗う。
湯あたりしないようぬるめにして。
買ってきたブラシで、半身を乗り出して大河の髪を洗ってやる。絡まないよう、傷めないよう。
もともと愛用していたシャンプーの香りは、今がいつだったかと竜児を惑わせる。
泡を流してしまえば入浴としてすべき事はもうない。口数も少なに作業を終えた。

竜児は湯船から洗い場に降りて、膝をついて大河の肩を抱く。
ひざ痛そうと大河は立って、竜児に椅子を譲る。
それから腿を跨いで抱きつく。
竜児も背にしっかりと手を回して支える。
温かい身体が、すこし冷んやりとしはじめた大河を温める。
夜になっても暖かい日だが、熱めのシャワーを出しっぱなしにしてみた。
MOTTAINAI?構うものか。
大河のきめ細やかな肌に触れたあらゆる部分が反応して口火が炎に変わっていく。
「前にどうやってしたのか、もうほとんど覚えてねえよ」
照れくさそうに微笑んで、蕾にも似た唇を求める。
それから頭ひとつ分の身長差を埋めるように、竜児は背中を丸めて大河の首筋を愛撫。
触れ合った肌の感触を快く受け取りながら大河も答える。
「私だって」
言いながら竜児の鎖骨を唇でなぞり少し歯を立ててみる。――食べてしまいたい。
出しっぱなしのシャワーで湯気がもうもうと立ちこめてくる。
「でも、したいようにしていい」
りゅうじがきもちよくなれば、わたしきもちいい。きっと。
「乱暴にはしねえ。こうしているうちに思い出せるだろ。多分」
「乱暴にしたって……いいんだよ」
耳たぶを甘噛みしながら囁いてくる。わたしはりゅうじのものだもん。
ああ、大河はおれのもんだ。

炎が一段と大きくなり竜児を煽りだす。大河は俺のものだ、だから使えと。
これを消してしまえば、ただ抱きしめるしかない。
だけど、灼き尽くされてしまうとはもう思わなかった。
「りゅうじ……触ってみて……」
お前の中にも炎はある。それで俺を求め俺を使え。
「とろとろだ……たいが……」
アルミパックに手を伸ばし封を切って着ける。
大河がきもちよくなればおれもきもちいい。そうすればおれは大河のものだ。
長い離別の時を経て、大河と竜児はまた結ばれる。
切れ切れに響く甘い鳴き声とともに、シャワーの音が続いていた。

505 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:54:25 ID:???


「きもちよかった……」
髪を乾かしてやってると、ずっと押し黙ってた大河がぽつんと口を開いた。
「髪を梳いてもらってるのが?」
「……ちがうよ。い……いじめないでよ」
「俺がまんできなくて、すぐ終わっちゃったから……もの足りねえだろ」
竜児が恥ずかしそうな声で問う。こういうときの男の子には最大のテーマとはいえ、つい。
どう答えられたところで、やっぱり恥ずかしいに決まっているのに。
もちろん大河にそんなことを斟酌できるほどの経験はない。
「……そう言えばそうだけど。きっと何時間つながってても足りないって思うよ」
そりゃ無理だー。と竜児が悶える。
無理は分かってる。だからお礼言ったのに。だったら聞かなきゃいいじゃない。
礼なんか言われてねえよ。
なんとなく露骨な会話を交わしているうちに、だいたい髪も乾いた。
はいおしまい。ぽんとパジャマの背中を叩く。

「りゅうじと一緒に寝る。今日はもう離れたくない。ちょっとだって嫌だ」
「俺の部屋に布団ふたつは敷けねえんだよな。どうする?」
「い……いじめんなっつってんだろ!あんた意外にドSなのっ?」
あたしゃいま浮かれポンチなのよ。おかしいのよ。気ぃ使えよ。
分かった分かった。悪りぃ。
布団を敷き真新しいシーツを張る竜児にぴったりとひっ付いて大河は邪魔をした。
敷き終わるといち早く滑り込む。
「あー、冷たいシーツがきもちいー。……ケットが男くさー」
ううーん。と全身で猫のような伸びをして頭まで布団にもぐり込む。
火の元確認を済ました竜児が部屋に戻ってきて、畳にはみ出た髪の毛に話しかける。
「ちゃんと洗ってるのにな。やっぱしみついて抜けないもんか」
「いいんだよツッコむな。ぜんぶ落としたら殺す。……いま布団はいでも殺す」
なーに言ってんだ。俺が入れねえだろそれじゃ。と遠慮なくはぐ。
おら、髪の毛踏んじゃうからよけろ。湯あがりトマトな大河の脇へ横になる。
確かに火照った脚に冷えたシーツがきもちいい。

「さあ殺せ」
大河がソッコー脚を絡めて竜児の肩をつかみ、胸に顔を埋める。ごんごん頭突きをかます。
「りゅうじりゅうじりゅうじりゅうじ……」
腕枕をして頭突きを抱え込み、零れる髪に顔を埋めると少しずつおとなしくなる。
大河の細い腕が隙間を通って竜児の背中を捕えてぴったりと抱き返す。
ベアハッグのつもりかと思うほど込めた力もやがて抜け、ふうーと熱い息を吐いている。
静かになって、鼓動だけを聞く数分間が訪れる。
「本当に……本当にね?きもちよかったの」
「女はどんな感じなんだ?」
「あのね?お腹の中に火があって、だんだん大きくなる」
「それは俺も同じだな。そのあと背中を伝って腰へ降りて行く感じだ」
お前もそうなの?……ちょっと違うかな?
りゅうじに触れてるところに大元の火が別れてつーって流れていく。
抱き合ってるとね、身体のあちこちでぼっぼって。
そんでりゅうじが触ってくれるとこには、ぼぼぼぼーっってね。
もうそれで溶けてしまいそう。切なくて。きもちいいの。
「ね。あのままだと溶けちゃうのかな?終わりがあるのかな?」
俺には分かんねえ……けどそんな大河を見てみたいな。感じてみたい。
何を話そうと勝手だが、ふたりの初めてのピロートークは、まるで試合のあとの感想のよう。

「きっと今日、デートしたせいだ……」
嬉しいことがたくさんあったから。
プレゼントしてもらってママに認めてもらってプロポーズの場所でキスできて。
りゅうじが私のこと好きって、ていうか、自分のものと思ってるのをずっと感じてて。
「お前も思ってただろ。俺が自分のものだって」
うん。それがお腹の中の火なの。分かり難い?
いや分かる。俺にもそれあった。今もあるよ。
「私も。それには何度も襲われて……テンパちゃって。怖いものって思ってた」
きっとみんな持っているもの。けど私が変だから襲われるまましかないんだって思ってた。
りゅうじが燃やしたときにあいのりするしかないのかなって。

大河は顔を上げて竜児を見つめる。
鳶色の瞳が美しく、蕾の唇が艶めかしく、耳元の産毛が銀に光って可愛らしい。
この大河は俺のものだ、と思えると竜児の口火がまた炎へと変容する。
と、瞳には包み込む親愛。唇には甘える笑みがすっと浮かぶ。
「でも、もう怖くない。ずっと持っていられる」
でしょ?と得意げ。
そうか。
いま俺の炎を感じとって、逸らして遊んでみたわけだ。そんなこともできるのか。
面白いな。初めて知ったことなのに。すぐに。
「付き合うって、恋するのって……面白え。すごくいいな」
「だからみんな欲しがるんだね?こんなに甘いなんて……ほんとに……」
知らなかった。

506 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:55:30 ID:???

「ね、りゅうじ」
いまさっき逸らしたものを、
「りゅうじが……ほしいよ」
また取り返そうってか?
そんなに鳶色の炎を浮かべて、蕾の唇を濡らして?
手を引っ張っていたはずなのに、いつの間にか引っ張られている。まったく油断がならない。
お前に、おれ夢中だ……大河。

少しの静寂に不安を感じて、ずり上がって視線を合わせてくる。
だめかな?効果ない?……まだへたくそ?わたし。ばかちーならもっと巧くやれるのかな。
「りゅうじ……」
――望みがかなう不思議
「大河」
パジャマの隙間から腕をさし込まれて、じかに背中を抱かれる。
りゅうじの温度に触れて、お腹の火が広がっていく。
「もう一度……いいか?」
りゅうじの声を聞いてりゅうじの火を感じる。
りゅうじがほしい。
「うん……」

****

高須泰子が一夜の勤務を終えて帰宅した。
足音をひそめて階段を上がり、音を立てずに鍵を開ける。
窓から差し込む街路灯の僅かな明かりと、冷蔵庫の音だけに満たされた家。

――ほっほ〜ぉ☆
ふすまを閉め忘れてるのはどぉなのかなー?居間に足を踏み入れて、うふっと。
テレビ台に視線を走らせて、またふふっ。
竜児の部屋を覗き込む。
ひとつ布団で抱き合い眠る最愛の息子と息子の嫁。というよりも可愛い娘。

――よかったでやんすね☆
すうすうと幼子のような寝息を聞いて、泰子の胸に暖かなものが広がる。
独りで家を飛び出して、ふたりになって。
行き場を失った愛をありったけぶつけて。
そうしなくては生きてこれなかった。もうだめだ、と諦めたことも。
自分の歪んでいた愛情をひとりでなくふたりで受けとめてくれていた。この子供たちは。
だから息子は狂わずに、壊れずに済んだ。いくら感謝をしてもしすぎるということはない。
――ありがとう、たいがちゃん
屈みこんで、そっと広がった髪を撫でる。起こさないよう、そっと。
ふたりが三人になって、再び絆を結んだ四人家族になり、これからは五人になる。

机の上でふたりの携帯がLEDを点滅させている。静かにふすまを閉めた。
そろっと振り返ると。ごん!
「きゃんっっ☆」
酔っていたのだろう。卓袱台の角に脛をぶつけてしまった。
声が漏れぬよう口を押さえて、泰子は自分の部屋に駈け込む。
竜児が敷いてくれたのであろう布団の上で、黙って痛みに耐えた。

507 夢の中でも(虎、帰るアフター2) :2011/03/27(日) 23:56:35 ID:???


なに……音……?
薄目を開けてよろよろ身を起こす。目覚めてはいない。
あれ?
薄いブルーのカーテンの窓。開ければベランダ。その向こう……。
ベッドで寝ていたのに。
……りゅうじいるじゃん。
そっか。こっちで眠りたくて。あんまり思っていたから……。
あさはまだ。
ああ、忍びこんじゃった……ついに。
チャーハン……残ってないんだっけ。
いい。ねむいし。さむい。
いっしょにあさごはんだしいっしょにがっこいくし。
あしたごまかせばいいや……

ごまかすのか……
やだ……
ぽふ、と頭を置いてまた眠りに落ちていった。


夜が明けて、よく晴れた三日目の朝が来た。
りゅうじが見てる……ねむい。身体が動かない。
あ、でも明るくなってる。
起こさない……の?
遅刻……は?
少しずつ目が覚めてくる。
ああ髪ぼさぼさ。いいけど。見られても。りゅうじなら。
えっ?ハダカ?
なに?
「おう……おはよう。大河」
りゅうじにぎゅーっと抱きしめられる。
エロ犬っっ!?
え?そうなの?え?本気?――あ?
そっか。
いいんだ。
いいんだった。
これで。
混乱した記憶が解けて、ちゃんと並び直される。
ごまかすことなんかなにもない。

りゅうじの胸にぺたっと頬をつけて。
「んにゅ、おはよ〜」
「寝ぼけてたな」
「んー。ふわ〜あ。うん。まあまあいい夢みた」
指差した方向はりゅうじの部屋の窓。その向こうには……。
あっちから忍び込んでわたしあんたの布団にもぐりこんだよ。
「そうか。いい夢じゃねえか」
「やばいとも何とも思わなかった。とっても夢っぽかった」

可笑しそうにりゅうじが笑ってる。
うん。
そうなんだ。と大河も笑う。
望みがかなう不思議。

夢より現実の方が幸せなんて、まるで夢みたい。


――END

508 高須家の名無しさん :2011/03/28(月) 12:38:16 ID:???
ああっ、いいなぁ〜。二人の笑顔が見えるんですよ!幸せそうで、眩しい笑顔が! 心が満たされる、なぁ〜て言うと大袈裟かもしれないけど、あなたの作品には大変癒やされています。GJ!!

509 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/29(火) 06:46:50 ID:???
お題 「させてる」「ペダル」「への字」
 
 
 
「ふぅ……」
 ブレーキペダルから足を離して、竜児はほっと一息。
「ちょっと竜児ってば!」
「おうっ!?」
 途端に助手席から浴びせられる大河の怒声。
「な、なんだよ大河」
「なんだよじゃないわよ! さっきからどれだけ呼んだと思ってるの!」
「お、おう、すまねえ」
「大体ね、あんたは緊張しすぎなのよ。口はずっとへの字だし、血走らせた目をこーんな三角にさせてるし。対向車線のおっさんがビビってたわよ」
「仕方ねえだろ、初心者なんだから。車だってじいちゃんが貸してくれてる物なんだし」
「それにしたって度が過ぎるっての! あーあ、せっかくの初ドライブが散々じゃないの」
「いや、ドライブって……近所のスーパーに来るだけなのに大河が無理矢理乗り込んできたんじゃねえか」
「ドライブはドライブでしょ」
「そりゃ広い意味ではそうかもしれねえけど……」
「まったく、コレを聞かせてもらえるのはいつになるのかしらねぇ?」
 言いながら大河が取り出したのは四枚のMD。
「!? おい大河、まさかそれ……」
「そ。あんたが作った『彼女とドライブの時にかけるBGM』春夏秋冬各バージョンよ」
「い、いつの間に……返せ!」
「だーめ。きちんと聞いてから」

510 ◆Eby4Hm2ero :2011/03/29(火) 06:52:17 ID:???
転載ありがとうございます。

回線工事の遅れでまだ手打ちコピペ……orz


>夢の中でも
GJ!
やはりアフターな竜虎は幸せでなければ。

511 高須家の名無しさん :2011/03/30(水) 00:07:04 ID:???
>>507
やべぇ、デート中の二人がいちいち可愛くて悶える…!
良い奥さんになりそうな大河の成長っぷりと、美少女コンビとの交流が見れて嬉しい。10巻の大河付きバージョンみたいなw
初々しいのに、ずっと一緒に積み重ねてきたものがある二人ならではの安心感
みたいなのも感じられて、ホントもうご馳走様でした!

>>509
GJ!大河とドライブ妄想しながら作ったんだろうなと2828
早く復旧できるといいな。

512 高須家の名無しさん :2011/03/30(水) 23:01:52 ID:???
うそぉん、本スレ初の規制くろた・・・orz

まぁいいか、本スレ>>513へのコメ
みのりんの鼻血が心配だw
甘すぎだがそれがイイ!

513 507 :2011/04/01(金) 01:49:08 ID:???
>>508-511
ご感想ありがとうございます。
原作10巻はラストがファンタジックなんでむしろ全肯定できました。
アニメは1年後の帰還というところにリアリティを感じて埋めてえ……と思いました。
次回でこの一連が終わる予定ではいます。またお目汚しできましたら幸いです。

514 高須家の名無しさん :2011/04/04(月) 01:05:56 ID:???
また投稿させていただきます。

□□【タイトル】桜のころ(虎、帰るアフター3)
□□□□【内容】読まれる場合にはご注意ください。具体的描写は必要最小限に留めておりますがガチエロあります。
□□□□□□□□他にもあなたの持つとらドラ!キャラのイメージを損なう描写および設定が含まれます。60KB

実乃梨・亜美・北村が登場します。また、ガチではありませんが百合風味もありますので、
あらかじめお断りしておきます。
今回で完結となります。

↓宜しくお願いします

515 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:07:37 ID:???
【これまでのあらすじ】春は三月。親元で高校を卒業した逢坂大河は懐かしい大橋の町に
帰ってきた!本来の転居予定を前倒して単身上京。荷物が届くその日まで。大河と竜児が
繰り広げるパートタイム同棲コメディ(相変わらず泰子付き)。甘酸っぱいその3!

****

逢坂大河が大橋へ帰ってきて3日目の朝。

竜児は傍らに眠る大河を飽きもせず眺めていた。
カーテン越しに差し入る朝日に柔らかく照らし出されて、幼子のように眠っている。
今朝は先に目覚めたから、竜児は彼女の寝顔を存分に眺めていられた。
目つきが怖いと言われてはいても、こんな優しい表情だってできる。

ガラス細工……人形……精緻な美貌。
大河のすがたかたちを何度も形容してきたけれど、そればかりが本当ではない。
こどものように笑い、得意がり。少女のように恥じ入る。
少年のように挑発的で、母親のように優しく。そして素直な同い年。
熱い体温があり、感情を隠さず映し出す瞳と、この身体を掴む強靭な腕を持つ。
その総てが代え難く愛しい。

ゆっくりと規則正しい寝息が変わる。んふーと長く継いで薄目をあけた。
そろそろ目覚めるようだ。
起きるまで静かに見ていようと決めていたのに、動き出せば思いに突き動かされる。
「……おはよう。大河」と。
声をかけるなり、その小さな身体をかかえこんで抱きしめた。

んにゅ、おはよー。
夢をみてたよーと。まだ眠そうな声。
窓の外に隣接する建物。もう一年以上も前に住んでいた部屋からここに忍び込んでね。
傍らに潜り込んでみたのね。
そうしたらりゅうじが寝ぼけて、わたしにとんでもない事をしたんだと言う。
可笑しくなって、笑いだしてしまう。
大河も後を追って笑う。
ふたりとも可笑しくてたまらない。なぜって?
もしもあの頃そんな事になっていても、今日という日は変わらずに迎えられただろうから。


起き出して、午前中だけ浅い角度で当たる日差しを無駄にはできず、竜児は布団を干す。
明るくて気づかなかったが、机の上に仲良く並べて置いた携帯が瞬いている。
「あ。着信してる。りゅうじー、あんたのもー!」
開いてメールを読む。

「「あ。」」

 逢坂大河に告ぐ。
 お前が我々友人をたばかって高須邸に潜伏している事は既に分かっている。
 おとなしく悔い改めて、彼氏ともども投降せよ。
 本日(ランチタイム後の)13:00、Jonny'sで待つ。ちなみに他の2人も来る。
 待っているぞ!
                               北村祐作
 P.S. 審問に備えて口裏合わせを推奨しておく

同報で5人に宛てた投降勧告、というか会おうぜアポが昨夜おそく着信していたようだ。
その頃には大河も竜児も夢の中だった。
まあ起きていたとしても携帯は机上にあったから気づかなかったかもしれない。
「……なんで北村くんに分かっちゃったんだろうね?」
「お前な。昨日だれに俺たちのバカポー振りを見られたよ?」
「え?木原と香椎……あ!そっかぁ」
「川嶋→北原→櫛枝と捜査線が形成されるには充分だな。どうする?」
「もちろん行くよ?せっかく忙しいのに集まってくれるみたいだしね」
「審問とか書いてあるから結構聞かれるな。とりあえずはメシ食って対策会議といくか」
「うん。……あ、もうひとつ来てる」

516 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:08:48 ID:???

大河にだけ来ていたもう一通のメールは親友の櫛枝実乃梨からだった。
読んで、大河は八の字眉の困り顔になる。
やがて八の字の間にもう一本シワが入ってちょっと泣きそうな顔にも見えた。
竜児は覗きこんだりしなかったけど、その表情は少し気になった。

指定時刻に投降する、と全員に返信を済ませ。
まだ時間はたっぷりあるので、朝食・洗濯・掃除と高須家の日常に支障は来たさない。
友人たちと長時間つるむことになるだろう。泰子のおかずを2食分用意する事も忘れない。
さて対策会議という口実で単なる食後のお茶をのんびり喫する。
微妙な困り顔を続けている大河に竜児は気を利かして。

「俺はあいつらになら何を訊かれてもありのままで構わねえが。お前は?」
「う……うん。私も。ただね?木原や香椎とは違って北村くんたちは巻きこんじゃったから」
「そこだ。俺らがあんまり浮かれて万が一にでも傷つけるのはな」
「そう。……でもね」
神妙な顔で竜児を見る。迷いはなくなったようだ。
「みのりんも、北村くんも、ばかちーも、私は信頼してる。なんでも答えるよ」
「そうか。じゃそれでいい」
「うん」

あっさりと対策会議は終わった。そうして大河はもう一度メールを読み返す。

 わたしの大河へ
 きのう会ったばかりだけどまた行くよ。
 もう卒業だからね。わたしは『あのこと』をみんなにも話したい。
 あんたがそれを許すならば返信くれ。なければやめる。byみのりん

――わたしの大河。
もう長い間そう呼ばれてはいない、みのりんの特別な呼び方。
竜児とも未だ出逢わぬ頃。あの葡萄色の瞳と見つめあった。
懐かしくて甘くて、そして少し涙がでてくる記憶。


****

それはまだ私が誰も信じられなかった、高校に入学したばかりの春。
とある木曜日の午後に温かな雨が降り出して。
傘を忘れた私は、昇降口で大粒の雫が落ちるのを不機嫌ツラで眺めていた。
悩んだところで結局は走って、ずぶぬれでマンションに帰りつくしかないのだけど。
寒くてだだっ広い、独りの家。
ともかくはシャワーも浴びれるし、制服は乾燥機で明日までに乾かせる。
でも面倒くさい目に遭うのはいやだった。つまらない理由でグズグズと佇んでいた。

そこに、名前も知らなかったみのりんが傘をさしかけてくれたのだ。
「逢坂さん?入って行きなよ」
驚いて見上げた時のみのりんの顔。それは今でも忘れた事がない。

同じクラスの櫛枝ってんだよ。家まで送って行くからさあ。
屈託のない笑顔に釣られて、ありがたく相合傘で送ってもらったのだった。
ささやかに嬉しかったけど、無愛想に短く答えることしかできなくて。
マンションまでの僅かな道のりで何を話したのか。もう覚えてはいない。
「わお。ここなんだ。近いじゃん。全然まわり道じゃなかったよー」
あたしん家はこの先5分くらい。

ねっ!朝も一緒に登校しない?
坂下の曲がりっぱな。分かるっしょ?あそこで待合せしてさ。
「あ、うん。いいよ」
「じゃあまた明日ねー」
こんなふうにみのりんと出逢った。

517 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:09:51 ID:???

それから携番も交換し、朝も帰りもわりと一緒で、教室でもつるむようになり。
仲良くしてもらい嬉しかったのに。それをどう表現したらいいのか分からなかった私。
でもそんな事は無視して、櫛枝実乃梨は明るく踏み込んで来てくれた。
やがてひと月もたたないうちに大河、みのりんと呼び合う距離になっていた。

ある日、何度も朝の待合せに私が遅れるので、みのりんが言った。
「もー。お母さんにちゃんと起こしてもらえよー大河ぁ」
「ご、ごめん。……私、独り暮らしでさ。朝に弱くて……」
「え?あんな大っきなマンションで、独り……なの?」
「う、うん。事情があってさ」
「そーなのかー。……じゃさ、これからはわたしがモーニングコールしてやんよ」
「ほんと?」
「こんくらい任せとけよ、大河」

たぶんこのときだ。みのりんが扉を開けてくれたのは。

朝は一緒でいいけど、みのりんは部活をしていたから帰りはいつも終わるのを待っていた。
たいていは図書室で。
ひまつぶしの読書をしたり宿題を済ませたりしていた。
だから手乗りタイガー実はガリ勉!ていう伝説が残ってないのは写真部か生徒会の陰謀だと思う。
ひとを文学少女かなんかと勘違いして付き合えって言うおポンチを何度か撃退しただけなのに。
ともかくも、たった数分間だけれど、心を許せる友だちとふたりきり。
時には寄り道や買い食いをして過ごす時間というのは私にとって何より大切だった。

「ねえ。みのりんは何で私と友だちになろうと思ったの?」
「ん。大河がめっちゃ綺麗だったから」
みのりんねえ、可愛い女の子が三度のご飯より好きなのだよ。

言ってる事はポンチと同じなのに、どうしてみのりんに言われると嬉しいのだろう。
あの頃は分かんなかった。
そしてたしか夏服に変わる前の頃。珍しく遠慮がちにみのりんが訊いてきたのだ。
「ねえ。大河んちに行ってもいいかなあ?」

学校帰りにモスで食べ物買ってご招待したマンションの惨状は言うまでもない。
料理は全然できなかったけど、掃除はわざとしなかったから。
こんな……三世代でも住めそうなうちに独りで置かれてる事に抵抗したかったから。

使ってない部屋は汚れてないから、そこでいいと思っていたのだけど。
必ず通るLDKがこうではどうしようもなかった。
入ってしまってから気がついた。
「本当に独り暮らしなんだねえ……こんなに広いうちで……」
「うん……気持ち悪かったね。ごめんね」
こっち汚してない部屋あるからさ、と案内しようとした。そしたら。
いいんだよ、あたしに気ぃ使うなよ。
「大河……かわいそう……」みのりんは涙ぐんでた。

哀れみを買うなんてまっぴらだ。
その頃も、今でもそう私は思うような奴だけど。
でもそのときは、みのりんに悲しい思いをさせた事がどうしても辛かった。
そして私の家庭の事象を察して泣いてくれるのが嬉しくて。
みのりんは私の頭を抱えこんで、背中を撫でて泣いてくれた。
私も耐えてた思いを抑えきれずに。

ふたり泣き腫らした瞼でリビングの掃除をして。
汚れていないカップを探してお茶をいれて、並んでモス食べて。
遅くまで私たちはぽつぽつと身の上話をした。
いつも明るいみのりんがみのりんの家で受けてる扱いを聞いて驚いた。
分かってくれない家族に一緒に呪いの言葉を吐き。負けないでいこうと誓った。
そうして、その日から親友になったんだ。

518 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:10:53 ID:???

****

携帯をみつめてぼんやりと思い出していたら、竜児がどうした?と聞いてくれる。
なんでもない。考え事していると答えたら、そうかと放っといてくれる。
ありがとう。
ごめん。せっかくの一週間なのに。
居間のテレビ台の横に移動して、ちぢこまるように壁にもたれて。また思い出す。
大河は実乃梨に返信メールを送る。イエスと。
出かける時刻までは、まだ。


大河のレスをベッドに腰掛けて読む。
短く“いいよ”とだけ記されたメール。
離れてしまってからの一年、何度もこの話をしてきた。
そして置きっぱなしにした気持ちを一緒に回収できた。大河とは。
これは大河とだけ分かり合えていればいいこと。分かってる。
わたしがわたしの大河を大切に思い出して、大河がそれを知っていてくれればいい。
けど。

いま大河に高須くんがいるように、わたしにはあーみんがいる。
恋人じゃなくても同じように大切だから本当を分かち合いたくて止まらない。
まだ高校生の気分でいられるこの数日間のうちに。

“いいよ”か。もう一度メールに目を落とす。
あんたは変わらないでいるね?大河。
実乃梨は顔をあげて、初めてともに泣き合った夜から思い出す。

****

――夏。
部活と大河だけで過ごした高一のひと夏。
わたしは練習が終わると図書室へ迎えに行った。
そうでなければ、ネット裏で大河が待っていてくれた。
仲良くなってよくつるんでた北村くんが意外に大河に愛想よくてちょっと疑ったっけな。
あとでポンチの1人と聞かされてなるほどと思ったもんさ。

そうしてわたしらは大河のマンションに帰って、遅くまで一緒に過ごす。
掃除して洗濯して。一緒に食事して宿題して。たくさんダベってふざけて。
わたしはひととおり家事ができたから、やれることが一杯あった。
忙しくて、疲れて。そして楽しく充実した毎日。本当の家には帰ったら寝るだけ。
家族も、女友達のマンションで引っかかってると知ると、連日の深夜帰りに何にも云わなかった。
その関心のなさにも、いっそう反発していたかも知れない。

お気に入りのカップや着替えを持ちこんで。
半調理レトルトや中食や冷食ばかりの手抜き料理を、大河は手作りと喜んで食べた。
おままごとのようでも大河の暮らしを支えているのが幸福だった。
同棲……って言うんだよね。ああいうの。
それは夏休みに入っても続いていく。
部活はあったけど圧倒的に大河の側にいられる時間が長くなって、それで。
わたしは――。

****

ベッドに腰かけたまま再び実乃梨は俯いて、いっそう短くしたサイドをかき上げる。
けれども、どこにも引っかからない髪は何度も垂れてきて、そのうち掛かるに任せた。
これが自分の髪形なのだから仕方ない、と思う。
頬に垂れかかる髪がいやなら禿げヅラにでもするしかない。

****

――わたしは、わたしの大河を守ってやれると思い込んでいた。
最初に声をかけたのも小さくて可愛かったから。
悪い噂も聞くようになってはいたけど、あんなに可愛いんだからそれはみんなの勘違い。
わたしだけが彼女を分かってやれると思っていた。
仲良くなって、それは本当だと知ることができた。
みんな何で大河を怖れ遠ざけるのだろうといつも思ってた。
だから。
夏休みの終わり近く。
練習を終えていつものように大河のマンションを訪ねた日。

519 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:12:10 ID:???

「あぢいなー、くそ。ほら大河、アイス買ってきたよ」
「ひゃほーぅ♪買いに出なくて良かったっ。みのりんは期待を裏切らないね」
アイス大好きー。
アイスばんざーい。
ダンススタジオのようにだだっ広いリビングで猫のようにはしゃぐ。
こんな大河を、わたししか知らないでいる。
「なんだとー?エアコンの効いた部屋で昼寝ざんまいしやがってよー。この茶虎がぁ」
シャワー借りるぜぇ。
うん、アイスはみのりんが出るまで待ってる。
おうそうか。先に食ってもいいのに。愛いやつよのう……。
「大河?」
「ん?」
意を決して誘ってみた。いっしょにシャワー浴びないか?

なんでそんなこと思ったのか。
わたしは大河が可愛い、守ってやる、好きだ。そう思うだけでは足りなくなっていた。
好きすぎて、もっと。もっと大河の近くに行きたいと。
いつの間にかそういうふうになっていた。
きっと大河は無邪気にうんいいよ♪と応えてくれる。
部活の経験あるらしいから、練習後にチームメイトと裸のつきあいくらい?って計算も。

「え……?」
でもそれは浅はかな計算でしかなかったと思い知らされる。
わたしの思いはすぐに伝わって大河を惑わせていた。表情で分かってしまった。
急に恥ずかしくなる。
照れくさい、ではなく邪な気持ちがあからさまになった気持ち。
あ、いいんだいいんだ。そりゃよー外出なけりゃ汗もかかんよなー。

でも、ごまかしてバスルームに歩みを進めたら……。
大河はパタパタついてきたんだ。
「うん。練習後のシャワー気分も懐かしいかも。ゴロ寝してたけど♪」
「おーそうかい。じゃ隅々までおいちゃんが洗ってやるぜー」
「えへ♪」

「前ならえしてみ?おーやっぱ効き腕が指関節ひとつぶん長いもんだね」
「成長期だとね。テニスやってるとかなりね」
成長期ってー?たいがにいつ訪れるのー?さ来年あたりかー?
みのりんひどいー!
「たいがは肌きれーだな。赤ちゃんみてえ」
わったしっのたいがっ♪ぷにぷにっと。
ひゃあ!
「み、みのりんだって腹筋締まってるし。腕だって。それに……う、うらやましーーっ」
ぎゅーーっとハグしてムネに直接カオ埋める超セクハラ。
うぉー、やめろー、恥ずいじゃねーかよーとクネクネ逃げる。でも許す。
許すどころじゃない。幸せな気持ちでいっぱい。

「胸小さくてもたいがはたいがでスタイルいーじゃねーの。はなぢ出そう」
「そ、そうかな?」
「このウエストの細さはちょっとないね。ちゃんと筋肉付いてるし、かっこ良いよ?」
もやもやしていたものが急に凝縮してくるのをどうしたらいいのか。
ともかくも延々じゃれていればこの時間にもとりあえずの終わりはくる。
終わりが来たらまた出直せばいい。わたしたちの時間はたっぷりとある。
そう思っていたら大河がわたしを見上げたんだ。あの大きな宝石のような瞳で。
いいんだよ、いいよ、と。
――みのりんが望むなら、何でもするよ

初めて見た大河のその表情。そのときにわたしは近くにいて良いと許された。
邪だと思っていた気持ちも持ったままいて良いと赦された。
湯あがりに、はいと渡されたバスローブを着た。
高級品ですばらしい肌触り。
同じボディソープの香りを心地よく感じながら大河と寄り添ってアイスを食べた。
この嬉しさがいつまでも続くように願いながら。
だからもっと、今よりもっともっと大切にしなくちゃ、と思えた。
できる、と信じられた。
わたしが望むなら、大河は大河の望まないこともするという。
そんな生き物をどうして愛さずにいられるのだろう?

でも残暑の秋になって、わたしも、わたしの大河も想像しなかったくらい。
幸福な時間は、すぐに壊れてしまったのだ。

520 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:13:30 ID:???

****

「そろそろ何着ていくか決めといた方がいいんじゃねえか」
けっこう長い間ぼんやりしていた私に、りゅうじがまた気を使ってくれていた。
まだ時間はあるけど、こうも固まってばかりはいられない。
「ありがと。ごめんぼーっとしてて。りゅうじつまんないよね」
パジャマ姿のままりゅうじの首にぶら下がって親愛の情を示した。
寝たふりをしているに決まってるやっちゃんにも声をかけて起こす。

おはよー☆と部屋から出てきた泰子がシャワーに行って、なに着て行こうと大河が悩む。
あまり数持ってきてないからなーと。
「おう。じゃこれどうだ?」
竜児が泰子部屋のクローゼットから出してきたのは大橋高校の制服だった。
クリーニング済みでカバーもかけてあった。
「あんたが保管しててくれたんだ?あっちに業者が送ってきた中になかったから処分したと思ってた」
「お前がせっかくきれいに畳んでいったモンだからな」
クローゼットに入れておけば届くのは分かっていたけど。持っていたくなったんだよ。
そっか。変なシミとか付けてない?
……ねえよ。シワは……つけたけど。
ふふっ。付けても別に構わないのに。
おい……。

「まあこれなら何も悩みどころはねえだろ」
「そうね。じゃありゅーじも一緒に学ランでね?」
おうっ!俺もかよ。あったりまえでしょ、卒業後なんだからこれは一種の羞恥プレイよ。
袖を通しながら大河は軽口を叩く。
サイズがいまだぴったりな事に少しだけコンプレックスを刺激されながら。
あ、内ポケットに生徒手帳。写真も挟みっぱなし。
自分のメモさえ懐かしくページを繰る。所々にある天地逆さの悪戯書きは、みのりんの字。
余白がまだたくさん残っている。何か書き込めるだろうか。
そうして、また元の思い出に還る。
りゅうじが早めのお昼を作りに台所へ立った。

****

永遠に続くとさえ思えた親友との幸福な日々。
それは、私がパパのもとへ帰ることになって、呆れるくらい簡単に壊れてしまった。
一緒に転居先に行くという待合せの日にパパは来ず。
あの野郎はそんなやつだと。どこかで醒めてもいたけど、まただという絶望は重かった。
その日、遅くに訪ねて来てくれたみのりんと思い切り泣いた。

「たいがぁ……わたしの大河……」
「みのりん……」
「あんたを絶対に守ってやる……絶対にだ。あたしは……あたしはっ」

パパと暮らす事になったとき、良かったじゃんと喜んでくれた。
パパが私を裏切ったいま、あのクソジジイめがと怒り狂った。
でも喜びの裏には悲しさを。怒りの裏に喜びを。私は感じ取ってもいた。
力のこもったみのりんの腕に押しつぶされそうになりながら。
親に裏切られた絶望とともに、独りじゃないと思えて嬉しかったんだ。

それなのに。みのりんが泣いている。
私には分かってしまった。
抱きとめてくれよ、わたしのたいが。と。
私の方がかわいそうなんてとんでもなかった。
どうしてこうなった?
パパと暮らしてみのりんとも仲良く過ごす。
ちっぽけな私が望みすぎたから?
分不相応であると?
なら。だったら、どうしてその罰は私に向かわない?!
みのりんの胸にぱっくりと口を開けた傷が見えるような気がした。
みのりんが望むことを何でもする。何でもできる。
その傷は私しか塞げないんだと分かった瞬間から。

521 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:14:45 ID:???

あの頃みのりんの熱がどういうものか、実を言えば私には分からないでいた。
分からないままに。でも、応えずにはいられなかった。
同じものを私も持っていると思いながら感じていた、ほんの少しだけの違和感。
それを持ち続けたままで。ともかくも。

大河に抱きとめられて、ようやく気づけた。
わたしの大河が側にいれば嬉しい。いなくなったら悲しい。
クソジジイをこんなにも憎むのは傲慢なわたしの嫉妬でしかなかった。
奴が大河を裏切れば、わたしはわたしの思いを大河にぶつけ続ける事ができる……。
それが、本当の願い?!……だった……って?
そんなこと。
知りたくもなかった。気づきたくなかった。
だってこんなにも愛してやまない大河がいなくなってしまったら、わたし空っぽだ。
いま腕の中に捕まえている、わたしの可愛い大河。大切に守った茶虎。
細い腕にものすごい力を込めてわたしの背中を抱いてくれている。
いいんだよ……いいよ……と。
不意に実乃梨は力を失ってしまった。見上げる大河と目が合った。
大河のマンションの、リビングのソファのうえで。
長い時間、鳶色と葡萄色の瞳を開いたまま見つめあう。
思考が回り始めてすぐに止まる。
どうして?どうして大河?
どうしてもだよ。大丈夫だよ。

葡萄の瞳から、やがて堪え切れず涙があふれ出した。
やり切れなくて、どうしようもなくて、途切れずに頬をつたい落ちる。
大事なことに気づいてしまったのだ。
こんなにも今すぐ必要というのに。今ごろになって。初めて。

わたし、女じゃん。なにができる――の?

目の前にいるのは、わたしのものじゃない逢坂大河。
大河はわたしの致命傷を押さえて、大丈夫、大丈夫だよと懸命だ。
自分の背中にも痛い刀傷を負っているくせに。
わたしが女だから。それをどうしようもない。
大河を救えない。自分も救えない。このままなにも――できない。
ただ何の役にも立たない涙を流し続けるだけ。
鳶色の瞳が困ったように瞬いて、それから優しい光を浮かべて、――みのりん、と。
あとからあとから頬をつたう涙を、口を寄せて吸い取ってくれる。
たいが――っ!
たいがぁ……。たいが……。
……。

「たいがは優しいね」
「みのりんだって」
落ち着けたわたしは思っていた。大河はこんなふうに献身するのか。
わたしだけに?
ひょっとして、心をつないでくれた相手にはみんな?
一瞬で、躊躇うこともなく?
「それにさ……」
「なに?たいが」
「みのりんは、すごく女の子なんだ。きっと」
私、分かっちゃった。
「う……それは」
知りたくなかった。
「もう少しでたいがをモノにできたのによ」
軽口を叩いてみる。
ふふん♪と可笑しそうだった。
もうバレバレか。とわたしは苦笑い。胸にずきずきとした痛み。
「モノにしたかったら、いつでもどぉ〜ぞ」
おーよく言ったなあ〜なら遠慮なく……襲うぞぐぉら!
きゃーん!みみみみのりぃーーんぬっ!目が血走ってるぅ!タップタップタップ!
いつものように。ハグってモフってグリまくり。
あんたはそういうやつなのかな……?わたしの、であっても。なくても。
思いを込めて、1回だけどさくさのキス。もちろん。今ここにいる大河に。
さよなら……わたしの大河。
ありがとう大河。
大好きだよ。

そのあと、1日なにも食べていなかったことを思い出し、ふたりでJonny'sへ行った。
馬鹿みたいに喋って、食べたいものをお腹いっぱい食べて。
バイトの募集を見つけてその場で応募。書類はあとで持ってくることにして即決。
……空っぽのままでなんかいられない。
わたしがわたしでいる事が、この茶虎めを愛し続ける唯一の資格。
この胸に置き去られた大河への熱はそのまま残す。ずっと大切に持ち続ける。

522 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:15:57 ID:???


秋が深まるごとに、実乃梨が大河のマンションを訪れる機会は減っていった。
出逢った頃のように、登下校と学校でつるむだけの関係に戻る。
大河は北村を意識しはじめ、実乃梨はバイトを増やして部活に熱中。
わたしはもう泣かないからね。と宣言して。

初冬に入ったある日の学校帰り、大河が図書室で借りてきた小説に実乃梨が興味を示す。
ふと目に入ったタイトルが気になり、自分も読んでみたいと思ったのだ。
あと少しで読み終わるから借りてきた。すぐ回せるよと大河は言う。
甘えて、久しぶりにマンションを訪ねてみた。
多少散らかってはいるものの、自分で片付けているのだろうと実乃梨は安心する。
すぐに大河から回してもらって、その場で読み始める。
以前の様に、実乃梨は深夜まで居座って本を読んでいる。
大河は嬉しそうにお茶を出して、食べ物を買ってきて。
そして実乃梨と大河は変わらずに寄り添う。
「ちょっと私たちみたいだよね?」
「そうだなー。途中はじわじわ苦しくなるけどさ、ラストも不安を残すけどさ」
「ふふっ、それじゃなんにも救いがないように聞こえちゃう」
そんなことないよ?みのりん。大丈夫だよ。
分かっていれば、大丈夫かもな。
『あんたの自我は、わたしの自我じゃない』ってな。気づけたらね。
読み終えた本を閉じて実乃梨が言う。
内容はともかくタイトルがすごく気に入った。あんたにこう言いたい気分でいっぱいだ。
うん私も。それで読み始めたんだもん。
「たいが、好きだよ。いつまでも好きだよ」
「うん。ありがとう」
私もみのりんが好き。ずっとね。
「……うん」

その日から1年経って、実乃梨が再びここを訪れたとき。
それぞれに言いたい相手が増えていることをふたりはまだ知らないでいた。
『あなたに、ここに、いて欲しい――』

****


「おーい!ここだここだ!……なんだ、お前たち?」

大河と竜児が定刻チョイ前にJonny'sを訪れると、隅の6人がけボックスから眼鏡男が手を振っている。
北村祐作。元生徒会長にして竜児の親友。大河の親友でもある。
ランチタイムが終了して空いた店内。
ツレが先に来ているから、と店員に断って歩み寄る。

「何で制服着てるんだ?お、逢坂も。……いまさらだけど『逢坂』のままでいいんだよな?」
「こんにちは、北村くん。名字は変えてないよ。制服は、まだ高校生気分でいたいから♪」
「おお、そうかあ。亜美がまだだけどまあ、すわれ」
よお。
よおたきゃすきゅん。
みのりーん。
たいがー。
「制服の大河がまた見られるなんてな!サービス嬉しいぜよ!たきゃすきゅんはどうでもいいけど」
「うわぁ。櫛枝冷てーじゃねーか」
「高須くんのは見慣れてるからいーんだよ。さあさあ大河、隣こい!」
じゃあ高須も奥行け。お前たちを逃がすわけには行かんからな。あーっはっはっはっは♪
お前のハイテンションはなんか怖えよ。
席につくと、店内の暖房が効きすぎているようだった。
それに今日は平日。窓際で制服だと誤解を招きかねず、大河も竜児も制服の上着を脱ぐ。

そうこうしているうちに、亜美が来店した。
北村が呼ぶと、小走りで走り寄る。
「おっ待たせー。ちょぉーっとだけ遅れちゃったあ?やっぱしたくに時間かかるからぁー♪」
普段着の分際でこのいいぐさ。性悪チワワ健在!川嶋亜美の入場だぁー!!
などと全選手入場アナウンスみたいな北村のツッコミはガン無視で、大河を挟んで端にすわる。
「よっ♪」お愛想。
「よお。一日ぶり。仕事じゃなかったのかよ?」
「んーん?あ麻耶に聞いたのか。あいつらにはちょっと嘘ついたの☆ヒッマヒマ!」
「へー。まあつるむのをサボりたい時もあるか」
「まあね。独りで高校生活を思い返してしんみりとひたりたい気分?みたいな?」
「川嶋が普通の女子みたいなコメント吐くなんてな。面白え」
「ホント?高須くんにウケるなんて珍しいな。亜美ちゃん感動♪」
テーブルを斜めに横切って、大河の目前で、竜児の手をしっか!と握る。

523 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:17:24 ID:???

「おい」
無視すんな。
即座に低っくい声で威嚇のツッコミ。
おおっ老雄十八歳にしていまだピークは去らず!虎のふたつ名は伊達じゃない!逢坂タイガーだぁ!!
ノリノリだあ北村くん!
老雄って……。
ガーン北村くんにタイガーって発音された。北村くんに……。
はっそうじゃねえわ!

「くぉらばかちー……ひとのダンナになに愛想振りまいてんだ。喧嘩売ってるの!?」
「あーらタイガーいたんだ?小ぃっちゃくて全っ然見えなかったよー。え?ダンナ?籍入れた?」
「上っ等じゃないよ!また蚊ぁとか蠅ぇが飛びまわるかもよ?ここなら!ちなみに籍はまだよ」
「おーぅ。行っけ行けぇ大河ぁ。タダで見れるにしちゃ豪華すぎるカードだよ!」
ファイッ!
それぞれの手をガッと組んで……いや取っ組み合いまではしないけど。
「名勝負数え唄ってやつだな。うんうん」
「やぁーん。高須くぅーん。みのりちゃんと小っこくて見えないのがいじめるぅ〜☆」
「いやあ、俺止めねえぞ?懐かしすぎるしなー」
変なテンションではあっても、5人にとっては離別の空気を埋める大事な儀式みたいなもの。

じゃれ合いはそのくらいにして、注文とるぞー。みんなドリバーでいいか?
適当なところで北村が仕切る。バタバタとメニューを開いて。
私フレッシュミルクプリンサンデー。とドリバーね。
わたし付き合ってストロベリースペシャルザサンデー。とドリバー。
「はあ?あんたたち相変わらず好きなもん食うのね。まーた太るよー?」
あたしドリバーだけ〜。
男2人はどのみちいつもの。
注文を済まして、北村と竜児がドリンクを取りに行く。

あーん。
あーん。
大河と実乃梨はそれはもう美味しそうに互いのパフェを交換しつつ。
やっぱり春はイチゴだよねー。いやいやあんたは年中乳製品だろー。
シュガー抜きアイスティーの氷をストローでつまんなさそうにかき混ぜる亜美。
「ねえ……亜美ちゃんにもひとくち」
「なんか地獄の底から餓鬼の声が聞こえるね、みのりん」
「食べたきゃ注文すればいいのにね。変な人だねっ」
「あたしゃ契約条項に体型維持とかあんだよ!スイーツとか欲望のまま食えねえんだよ!」
「ふーん」
「へーえ?うまっ。ああほっぺ落ちそう〜」
あー!ちきしょーっ!!そんでも友だちかよっ。もういいっ。
すいませーんと店員を呼び、ストロベリーガレットを注文してしまう。
や〜いブタブタぁ〜。あんたらが言うなっ。
「やっぱ仲いいよな。お前ら」
コーヒーをすすりながら竜児が無責任なボケを。
「どこがだよ?」
我慢できずにイチゴスイーツのヤケ喰いに出た現役モデルさんが的確に受ける。


「卒業してしまったな。お前たちともそう会えなくなるけどこれからも付き合ってくれな」
「ゆーさくは留学じゃーん。ヘタしたらこのあと人生で何回会えるかだし」
やっぱ兄貴かい?あーみん。
そ。こいつ兄貴バカ一代だもん。
ひそめ声でさくっと意思疎通できる2人を見て、ずいぶん親密になったと大河は感心する。
「え?そんな事ないだろう。たぶん。とりあえず行ってみるだけだしな」
「まずは行ってみねえと何も分かんねえからな」
「北村くんはのう……行ったらとりあえず道場破り修行するの『それ、もしかすると兄貴?』ってさ」
なにそれ?
ネタ振ったのあーみんだろが。

「いやいや『兄貴に先手なし』だから」
北村の受けも分かり難い。
相手に先手を取らせるという意味でなく、生死の限界まですみれさんへの思いを耐え忍んで……。
「そうだよ。北村くん。押忍の心で」
梶○一騎に造詣があるとは逢坂も意外だな。ほんとに十八歳か?
い、いやあ。なんか言わないといけないような気がしてとりあえず。
「はははははっ。なんと片思いの人間の顔の珍妙なことよ!」と実乃梨。
「バカの顔だっ!」と北村の前に手鏡を差しだして、亜美。
「おこがましくもMITに対抗せんとする兄貴バカの顔だーっ!!」と北村がセルフで締める。
なんだかなねー。
緊張感ねぇーわ〜。
乗ったくせに退いて落とす酷い女ふたり。

「でー?兄貴と連絡してんの?」
「まあ……それなりに。いろいろとアドバイスもらったりな」
心なしか少し顔を伏せる北村の様子を見ると、それなりにそれなりらしい。
この男はいよいよダメになると大声で援けを求める性格だから、こうなら安心できる。
「行ったらHAHAHAHAHA!って彼氏紹介されたりしてなっ♪」
「むごいよみのりん……」
いや、そんなことは想定済みだっ!イメトレはもう何度も済ませた。
「吾、ことにおいて後悔せず!!」
それは宮本武蔵だろっ。と裏拳のツッコミ4本が同時に北村の顔面を襲う。

524 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:18:34 ID:???

おかしいなあ。ちゃんと梶原○騎つながりだったのに。
眼鏡の食い込みが痛かったのか押さえながらぼやく。まあ一時期はやった目潰しよりは安全だろう。
かけ直して。
「まあ、おれに何ができるのか腕試しだ。逃げ帰るのかもしれん。永住するかもしれん」
やれるだけは、やってみる。それはみんなも一緒だろ?
「まあな……」
なにか気のきいた激励を言おうと竜児が口を開きかけた。
すると女子三人が揃って胸前で腕をバッテンに組んでいる。
「なんだ?お前ら?」
「クサいかも?」
「クサいのやだ」
「モグ……モルグに放り込むぞおら」
大河……お前もか。酷え……。
う、うるさいっ。つ付き合いってもんがあるわーっ。
「高須のセリフがここ一番と言う時だけクサ過ぎて台無しなのは仕様だ。あまり責めるな」
それに……な?
それは逢坂だけが人柱になって聞けばいい。

「まあおれの話はこれぐらいだ。じゃ次は亜美な。進学するとは意外だった」
「まぁーねぇー」
正直、芸能界一本で行こうって熱意がね。ちょっと足りないって思う。
モデル仲間にはもっと目の色変えてこれしかないって、キッツくやってる子が何人もいてね?
結局はどこかでそういう子たちと競り合うことになるわけ。
そのとき蹴落としてガッツリできるのかはまだ疑問なのよ。
「だから、片足は普通に就職しやすい方に突っ込んでおく。それだけよ」
あーみん他にも言うことあんじゃねーのー。
うーん。やっぱやめとくかな。

「なんだよ。言いたい事があるなら言えばいいじゃねえか」
「あたしがねー?高須くんをどう思ってたかの話でも?」
おう……。と竜児が黙ると大河の目つきがキッと変わる。逆さ蒲鉾断面。
チッと舌打ちしたりもするが、もはやそんなので怖がるやつはここには1人もいない。
亜美が無視して続ける。
やっぱ三年になってクラスが分かれて。好きな時にいつも話できない距離になるとさ。
気持ちって増えもしないし減りもしないわけ。
それに、分かっていてくれると思えれば恋じゃなくても良いって話は前にしたよね。
「ばかちー、あんた……」
「別にあんたに気ぃ使ってるわけじゃないよ?タイガー」
竜児に話していたのに、大河に向き直る。
あたしはあんたが失踪して連絡がくるまでの一日、高須くんが好きだってすっかり忘れてた。
あんたともう一度逢いたい。ずっと友だちでいたかったのにって。
そっちの方が少しだけでも大きかったのよ。
だから、あんたが約束を守って帰ってきた。それでいいんだよ。
それにさ?

亜美はスイーツ用の長いスプーンで、んっと大河の喉元、竜児の胸元を続けて指す。
「こーんなの見ちゃうと亜美ちゃんもーぅ何にも言えねーしー☆」
竜児は鎖骨の辺り、大河は耳の下に紫色の刻印。
そんなには濃くないが医学的には鬱血というやつ。ベタに表現すれば、キスマーク。
おおう!と残りの2人が興奮する。
見つけた手柄はあたしのもん!とでも言いたげなドヤ顔で亜美が続ける。
「ちゃーんと朝見て、熱い蒸しタオルで目立たなくしてー、ファンデで消すんだよぉー☆」
な、なんだ川嶋。お前……経験あるのか?
まっさかぁ。常識でしょこんなのぉ。
「すごいなー高須。歯型まで……。逢坂って激しいなあ」
空気を読む事を知らない。というか意図的に無視した北村のコメント。
大河も竜児も迂闊だった。焦りまくり。
あ。アイスティーなくなっちゃった。祐作持ってきてー。
おう待ってろ。ついでにみんなのドリンクもな。

「たいがたいがー!見せてみ見せてみ!」
「やーんやん、恥ずかしいよー」
「うはぁ!キャラ違うよ大河ぁ!はははなぢ出そう」
えー。CM行きまーす(棒)。と言いたい竜児だった。

というわけだから?高須くん。
三年になってから何度か奈々子が言ってくれたんだ。略奪しちゃえばぁ?って。
あの子やさしいからさ、あたしの迷いが浮かぶと見つけてくれるんだよ。
それでいっつも安心できた。
ほんとは最後だから記念に……とかも思ったの。
でもね。
あたしがずっと見てきたのは、あの素敵なちびを分かってる高須くんなんだよね。

「そんなわけであたしは告白しないから。今日は」
バレバレだろうと関係ねーし。直接本人に言って初めて告白だからね☆
たぶんそれは現在のところ、亜美の人生で最高に魅力的なウインクであったろう。
「おう。」
伝わったかどうかは、高須竜児しか知らない。
いいのかい?あーみん。
あたしはね。
ドリンク持ってきたぞー。

525 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:19:45 ID:???

「失踪と言えば……。そうだな。丸一日にも満たなかったけど」
北村が眼鏡をかけ直して呟く。
おれたちは高須と逢坂の駆け落ちを支援して、吉報を待つ身だった。
ふたりいっしょに逃げてるなら希望をつなげて待つこともできると思っていた。
それが一夜明けてみたら壊れかけの高須だけが学校に来たんだよな。
「いや、逢坂を責めているわけじゃない。ただ、知ってもらいたいんだ」
ほんの半日なのに。
おれは永訣という言葉が浮かんで仕方なかった。
「宮沢賢治の詩……だね。『永訣の朝』」
少し間を置いて大河が受ける。続けて、あめゆじゅとてちてけんじゃ。と
それを聞いて、北村は静かに頷いた。
「このまま会えなくなってしまったら。……それは永訣と同じだ、とか思えてな」
逢坂からメールが来るまでの僅かな間だけでしかなかったけど。
おれは大切な友達と……。

まだ思い出すと胸に迫るのか、目に光るものが浮かぶ。
「ごめんね。北村くん」
みのりん。ばかちー。……りゅうじ。
ごめんね。
結局は親の都合で引き取られ、遠くへ転校する。という出来事でしかなかった。
それは友人にちゃんと説明して、離れても友だちでいてと伝えるだけ。
ただそれだけのことが、あの頃の大河にはできなかった。
子供であるゆえに、いよいよとなれば親に従う他に何もできないと分かったとき。
大切な人のために自分がここにいた痕跡をすべて消し去ることを選んでしまった。
それが永訣とまで思われるなど。考えもしなかった。
自分にそう思われる価値があるなどと、これっぽっちも信じられずにいたから。

りゅうじが、みのりんが。北村くんが、ばかちーが。みんなが。私に教えてくれたんだよ。
ここにいて欲しいって。
だから必ず帰ろうって思えたんだ。
ひとりずつを真っすぐに見据えながら、大河は心から礼を述べる。
「待っていてくれて、ありがとうね」

「あたしはさ、あのとき高須くんを殴ったんだよね」
「おう。櫛枝の腕力だからな。強烈だった」
悲しいのもあったけどさ、独りにさせたくないやつを何で手放したっ!?と思ったんだよ。
あたしには確信があった。高須くんにもあったはずだよ。
こいつは誰にもすがらないで、自分だけで決めて身を投げ出すやつなんだって。
実乃梨は傍らの大河を抱え込んで静かに話す。
「その最後の最後を、高須くんは手に入れたはずなのに……ってな」

「手に……入れたから。だな?大河」
「うん。りゅうじに全部あげて。全部をもらったから」
「そっ……か。大河。」
手を離しても戻って来れると思える力、を、高須くんにもらった、のか。
何度も何度も何度も思い描いた大河だけのやり方。高須竜児には無償で渡さなかった。大河の全部。
想像もできている、ほんの半歩先に大河が踏み出せた理由。
もう胸は痛まないけど、答え合わせだけが引っかかっていたんだ。
それはいまあんたの耳の下に刻まれている。
それは……わたしが踏み出せなかった半歩。
とっくに分かったつもりでいたけど、実際にも見ることができた。
この世界には本当にUFOがいた。

「ねえ。あーみん?わたしはあんただけに聞いてほしい」
「え?みんないるのに?」
「うん。聞かれても大丈夫。今どうしても言いたい」
本当の友だちになるためにあんたが知りたがっていたあのこと。
みのりちゃん……。
「わたしね。あのとき『大河に』振られたの」
聞いてはっとした顔は、女子ふたりだけ。

亜美はそれだけで総てを理解した。
「そうなんだ……」
最後の最後であんたの欲しかったのは……高須くんじゃなかったんだ。
んふ。全部分かっちゃった。
めちゃめちゃプライド高いね……みのりちゃん。
大河も理解する。
電話では「この話、墓場まで持ってく」と言ってたみのりん。
急に話したくなったのは、そうか。ばかちーに聞かせたくて。
りゅうじの顔をそっと盗み見てみる。分かってか分からないでか、優しい顔だ。

526 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:21:05 ID:???

「櫛枝が逢坂に振られた?ってのは初耳だな。ケンカでもしてたのか?」
「いーの、祐作は。これは女同士の話しなんだから」
「そうか……すまんな」
あんたのガチマッチョ心は同じ心を持つ兄貴に理解してもらえよ。
そ、それが意外なことに時々しおらしいと言うか。そういう手紙が。
文通してんのっ?!
今時じゃねーな、北村くん。
とりあえずローコストだったからな。日本語に飢えてるらしいし。

「まあ、わたしの話はそんなとこ。……そうだ大河」
覚えているかなあ?
なに?
「わたしは『あんたに、ここに、いて欲しい』もう一回言っとこう」
「あ。覚えてるよ。うん」
「これからも。いつもじゃなくても。ね?大河」
「うん。みのりん」
あーみんも。たきゃすきゅんもな。北村くんはどっちでもいいけど。おい、冷たい!
みんなにここにいてほしいな。そういう気持ちを持っていたい。また会いたいよ。
うん!
ん。
もちろん!
おう。
櫛枝の笑顔はやっぱり眩しい。竜児はそう思った。

さて、じゃあ今日の集まりのメインディッシュと行きまっしょいーっ!
櫛枝実乃梨はポケットティッシュを出してテーブルの上に置く。
びっと引っ張って一枚立てて。
はなぢ対策、かんりょー♪
シートの真ん中で挟まれた大河に向かってはすに構えて。
それはまあ〜いじめっこな顔で。
「……コラ。いっしょにお風呂入って気持ち良かったそうじゃなイカ?」
「へ……?」
北村も亜美もぐいっと半身を乗り出した。
平静を装って冷めたコーヒーを含みながら、青ざめた竜児が十字を切る。

「うあーぃ!騒いだ騒いだぁ!面白かったなあ!高須、逢坂」
「ほんと!北村くんが相変わらず裸族なのも分かったし。でも北米では止めた方がいいよ」
「そうだな。兄貴じゃないマッチョに勘違いされてもかなわんからな!」
ファミレスでの異端審問が一段落したところで、5人は北村の提案でカラオケに流れたのだった。

4月からの新生活に備えて、それぞれにやる事はそれとしてあったけど。
ヒマだろ?お前たち。場所変えて遊ぼう!と言われれば異存があるはずもなかった。
いつまでも騒いでいたい宴。
建て前ではカラオケ屋のルームチャージがハネ上がるからという理由。
本音ではカップルを2人きりにしてやらんと、という温情で早めにお開きとなった。

「でも裸はいいぞラは!うっ屈したものがパァッっと飛ぶ!逢坂もやってみろ」
「うん!うちに帰ったらね☆りゅーうじっ☆」
「お?そうだったな!今夜も仲良くしろよ!」
「任せろ北村くん!」
店先の路上。大河は傍らの竜児を見上げてなんちゃってインビな表情をつくる。
いろいろ白状させられて、エロ虎、などと呼ばれて。もうヤケなのかもしれない。
「お、おう。なんか身の危険を感じるが。まあ、いいか」
遅れて、実乃梨と亜美が出てくる。
「恥じいから大騒ぎやーめてくんなーい?」
「あと1回か2回しかできねーよこんなこと。大目に見てくだせーよあーみん殿」
「元々の予定は開けてくれるんだろ?エロ虎の引っ越しのあとさ」
えええっ?あんたが言うのかっ!他人事かっ!なんてこと!!
軽く暴行を受けるがみんなスルー。

「まあねぇ〜。じゃ次は来週ね。あ、来れたら麻耶と奈々子も呼んでいい?」
「もちろん!あ、じゃあ能登も呼んでやらないとね。アホロン毛も」
「春田は彼女さんとイロイロかもしんねえけど、連絡してみっか」
ね、ばかちー。能登と木原ってどうなの?
なーに、興味ある?
うん。私煽ったことあるし。
「あんたと高須くんよりグズグズしてるよ。でも卒業だしどうにかなるんじゃなーい?」
ま、来週くるなら見てみれば?
そうだね!仲良くなってればいいなあ。
「それから、その次は……北村くんが渡米する前に一度遊べるかな。どうだい?」
「ね!だったら日帰りでもう一度うちの別荘行かね?」
おお!それいいな!
わお!でも大丈夫なの?
「うん、春は使わないはず。朝イチで行って、泳げはしないけどお昼食べて、ダベって」
「さすがばかちー!あんた最高だ!褒めてやるっ」
「よーっし!食材用意してって腕ふるってやる!」
「シェフがやる気だあー!わっせろーいっ」
わぁぅ!こんなとこで筋トレやめてーっ。みのりーん。

限られた時間の中で、精一杯の思い出を作ろう。
駅前を歩きながら楽しい計画を練って、5人の気持ちはまたひとつに。
じゃあここで。まったねー。と北村と亜美が別れた。
だいたいの方向が同じ3人はもう少し。

527 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:23:11 ID:???

「じゃあ。高須くん、大河」
住宅街の辻で実乃梨が別れる。
「高須くん、ジャンピング土下座はしねえけど。大河のこと宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
あの屋上での壮大な勘違いを再現しようと。
この子は私の大事な大河です。気難しいところがあって心根の優しい子です。
「大河!幸せにしてもらえ!この優しくて強いやつに!」
葡萄色の瞳に夜空の月を映して、両の手をふたりに託す。
竜児も大河も言葉を発さず、でも大きく頷いて実乃梨の手を握る。
「高須くんも支えてもらえよ?」
「おう。もちろん」
ああ、勘違いはもう。してないんだな、と。
そして実乃梨は、大河と竜児ふたりの肩をいっぱいに広げた手でしっかりと抱いた。
「よし!じゃあな!また来週!!」
「おう!」
「またね!みのりん!」

****

実乃梨と別れたあと。散歩しねえ?と誘われて、大河は竜児と歩きだす。
暖かい日が続いていたせいか日が暮れても妙に生ぬるい。
えらく遠回りをする。
竜児がズボンのポケットに両手を突っ込んでいるから、大河には手を預ける所がない。
「北村……にさ?」
「ん?」
北村に兄貴が見つからなくて、お前の告白を受け入れていた。……としたら?
付き合っていただろうね。何をして良いのか、その先が分からなくても。
「そうなっていたら……櫛枝は……」
俺は……どうしていただろう。
竜児を見上げて、竜児の気持ちをひとつも見逃さないようにして答えようとする。
……同じだったろうね。と期待どおりに答えようとする。
黙したまま大通りを通り、昼間いたJonny'sの前を通る。
街路には桜の樹が並び、このところの陽気にふくらんだ蕾がいくつか綻び始めている。
春まだ遠い自宅の窓辺で想った桜を大河は見上げて。

「言わない」
ぴたっと歩みを止めた竜児がこっちを見下ろして、またすぐに歩き始めた。
機嫌悪くさせた?と心配になるのも一瞬。
全然機嫌なんか悪くない。変わらずに私を好きと思ってくれてる。

私がママに引き取られるって事だけは変わらなかったから。
それをいっしょに乗り越えてくれるのはりゅうじしかいなかった。きっと。
北村くんでなく。みのりんでなく。
でもりゅうじが言うようになっていたら……ここにたどり着けただろうか。
たどり着けたからこそ初めて言えることなのに。言ってもいいのだろうか。
「俺……ちょっと拗ねてるのかも」
ぽつりと言う。
やっぱり感づいていたんだ?

後をついてみたり、先を歩いてみたり。
住宅街の中を通って、見覚えのある角。立つ電柱には内科医院の看板。
「まだ傾いてるよ。ははっ♪」
「覚えていたか」
そりゃあね。2年も前なんだね。

「あんたが、もしかしてと思ってるようなことはなかった」
言わない。と告げたのにゆっくり言葉を紡いでみる。
黙って電柱に手を伸ばして触って、少し撫でて。
竜児を見上げて、さっきの実乃梨のように街灯の明かりと月とを瞳に映し出して。
「……そっか」
「そんなつもりはなかったし、みのりんも踏みとどまってくれたよ」
「そうか。悪りい。」
「いいんだよ。ただひとつだけ……」
つもりはなかったけど、その気持ちは嬉しかったんだ。本当に。
りゅうじがそれも気に入らないのは分かってる。
けど私、恥じるつもりは……ないよ。
「おう。……そんなの大丈夫だ」

528 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:24:14 ID:???

「だ、大丈夫って何?」
ここが一番大事なとこでしょ!りゅうじにとって。私にとっても。
あんたは出逢う前の私の過去も俺のもんだって。思ってくれない……わけ?
「は?だってお前いま居直ったばかりじゃ」
「居直る!?」
居直るって、ま、まるでわた、私が浮気者みたいに!
い、い、やそれはその通りかもだけどさ。なにそのしょうがねえな風な。
あー。遺憾だわー。私悪くないもーん。あ、これもう言ったことあるわ。
とにかくっ、りゅうじだけいっつもモノ分かり良く飲み込むなんて。そ、そ。
そんなの嫌なのっ。
「こういう場合、ふざけんなそんな過去は俺が消してやるっとか、じゃないのっ?」
「だってなあ。お前自身が消したいって思ってねえだろ?」
そもそも相手は櫛枝だし。
いくら俺が潔癖症だからってそんなとこまで。なあ?
「あーもう何だろ私?りゅーじのやきもち嬉しいのに足りないっ!寂しすぎるっ」
もうっ、分かってよっ!!
ああ。分かってるとも。
お前が自分の分を負担させろ。寄越せって思ってるのはな。
そうは言っても、これは分け合うほど大した何かがある話じゃない。
ま、要するに。
「こういうときは、こうやって流すんだよな……?」
もう子供じゃないから、芸はあるんだよ。大河。
電柱脇、街灯と月に照らされて。竜児はじたじたする大河の肩を押さえてちょっと屈む。
春の宵に渡る微風はやはり夢のようで、肌を撫でられくすぐったい。
ん……。
「落ち着いたか?」
「うん落ち着いた」早えな!
制服だし。この場所だし。おまけに季節もほぼ同じ。
今がいつなのか。ふたりそろって勘違いするには充分なシチュエーションでもあったろう。
「なんかね、すーーっと。余計な考えが落ちた!」
ポケットから出した竜児の左腕に絡みついて、夜の住宅街を帰途につく。
回り道のようでも、これが最短距離なのだ。


「ただいまー。あ、泰子もう出かけたか」
しょうがねえな。灯りつけっぱで行きやがって、だらしねえ。MOTTAINAI。
ついでに上着を脱ぎ捨てる大河にも小言。
ちゃんとハンガー持ってきて掛けねえと……お。
拾い上げたブレザーの内ポケットから落ちたのは生徒手帳。
「ああ、入れっぱなしか。……何だまだ写真2枚挟んだままだな」
「うん。え?あ?ちょ、ちょっとっ」
急に血相を変えて大河は手帳を取り返そうとする。
なんだよ?北村の写真持ってたって別に気分悪くねえよ。俺だって……櫛枝の写真捨てる気ねえし。
「そ、そうだよね。ははは……は。わっ?!」
竜児がページをぱらぱら繰りだしたのを見て慌てる。
「なんだ?これ」

縦軸に日付が並んでいる。うん、上京してからの日付だな?
じゃあこれ今日書いたもんか。
横軸にみみず?のようなヘタな絵、隣に虎縞猫の顔が並んで描いてある。ああ虎か。
ということは、みみずは竜。竜と虎、俺らだな。
タテとヨコに囲まれた余白に、○△×が記されていて……。
ふと見ると大河の頬がぷくっとふくれて、でも桜色に染まっていて、眉は八の字、瞳爛々。
誰が見ても明らかなほど恥ずかしがっている。
見るまに俯いていって。消え入りそうな声で。
「……た、対戦成績……」
「なんでこんなんで赤く……は?勝敗?ゲームなんてしたっけか?」
竜児の白星はなく、一昨日が△同士のドロー。昨日までの通算で△××。大河は△△○。
いつの間にか卓袱台の脇で向き合って座っている。

529 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:26:27 ID:???

おうっ!これって……?もしかして……?
「なあ?ひょっとして……俺の二勝一分け?」
「りゅ、りゅうじの……一勝二分けで、しょうよ……」
大河は正座のままぴょこぴょこ近づき、胡座の脛を膝小僧でつんとつつく。
そのあと身を乗り出して胸にごん!と頭突き。
「わ……わたしも一勝……二分け……かな。ははっ……」
「そ、そおか。どの辺が対戦なのかもはや分からねえが」
一勝できて……良かった……じゃ、ねえか。お互いな。
竜児も俯いているつむじに向かってごちん……と軽い頭突きをかます。
「……きょ、今日は……勝ち越せた……らいい……ね?」
「お、お、おう……」
負けゲームがないなら現時点で既に勝ち越せてるだろ、とか考える余地もなかったが。
相変わらず、回りくどい大河。
「しかしまたどうしてこんなマメな事を……?」
「き、記録しとけば後々役に立つ……んだって。……浮気とか」
「誰にそんなことを?!」
「……ばかち」
お前か川嶋ぁ〜〜。
んべっ、と憎まれ顔が浮かんだ。

――うぁ〜ん☆どおしよ〜?やっちゃん遅刻しちゃう〜
出勤の支度に忙しく、うっかりただいまに返事し忘れていたらこの始末。
まあ結局のところは物音でも立てて、間をとってからふすまを開ければ済む事なのだけど。
やっぱり泰子にもこんな雰囲気は楽しすぎるのだ。
――今日はちょっと遅れよーっと☆
ぽちぽち勤務先にメールを打つ。
ふすま越し1mにも満たない距離で続くイチャつきにニヤケてみる。

「勝ち越すには……やっぱ出場回数が、というか……大事だよね?ふへへ……へ」
「まあ……そうかも……知れねえな」
どこへ話題を流れ着かそうとしているのか。
少々不気味に感じながらも竜児はつきあってしまう。
「りゅうじ先発はアレかもだけど……抑えの守護神だよね」
「アレとか言うな」
だんだん乗ってくるとネタがはしたなくなるのは、しょうがないのかも知れない。
北村がバカ兄貴。おっと。兄貴バカ一代なら間違いなく大河は竜児バカ一代。
逆に竜児も同じである事は論を待たないだろう。

「ねえ……その……ローテってどれくらい?」
いきなりだな。中三日とかのあれか?
うん中一日要らないのはわかったけど。
は?ああそういうことか。
「そうだなあ……1時間くらい?……かな?」
昨夜の実績をバカ正直に答えてみる。

――りゅ、りゅーちゃん!ダメでヤンス!!もっとサバ読まないと死んじゃうっす〜よぉ☆
ふすまの陰で泰子が母親の顔に戻って青ざめている。

「1時間……そう?ふ〜〜ん」
ひと晩で4ゲームはできる計算……なのか。
そうすると守護神で6勝くらい?……ぐふふ。大勝利。パ、パコパコカーニバルぅ〜☆
指折り勘定してニヤついてもう一度ごん!と頭突き。
これは甘えてるのに加えて、とっととプレイボールを宣せよ、という催促でもあった。

そのとき、がたん!と物音。
「きゃんっ☆寝っ過ごっしたんすっ!」
ばたばたばたばた……と泰子部屋の中から。
大河と竜児は座ったままの場所で予備動作なしに10センチ飛び上がる!という。
到底人間わざとは思えない芸を披露してわたわたわたわた。

「き、着替えてくるっ」と竜児は自室に走り込む。
逃げ遅れた大河はぴうぴう鳴らない口笛でテレビリモコンに手を伸ばし、窓側の定位置に。
同時にふすまがばぁんっ!と開いてフルアーマー泰子登場。
「準備完了ッス!行ってくるっス☆」
「うん。やっちゃん。行ってらっしゃーい」と玄関まで見送りに立つ。
さすがは元手乗りタイガー。クールな常態に戻る速さは未だに他の追随を許さない。
桜色の顔は戻しきれなかったけど。
「おるすばん宜しくねー☆じゃましてごめぇん。にゃはっ☆」
きゅんと柔らかくハグして、泰子出撃。

「あぁ〜びっくりした。聞かれたなぁありゃ〜」
部屋着に着替えた竜児がふすまを開けて戻ってくる。
「……そんなことより」
ん?うわあ目が逆さ蒲鉾型に釣り上がってるよ。
「逃っげったっわね?……この私を置いて……」
機嫌を損ねるのと、貪り喰われるカーニバルとどちらが好ましいのか。
それも高須竜児しか知らない。


「りゅーじがやっちゃんにあんなこと知られたくないのは。うん、分かるよ」
お腹がいっぱいになったら完全に機嫌が直っていた。
怒る→腹がへる→鳴る→食事の提案→わっほいという余りにも慣れ親しんだコンボ。

530 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:27:47 ID:???

買い物に行ってないから食材は乏しかったけれど、こんなときにはそう。チャーハンだ。
カブとにんにくを切らしていたが、他は揃っている。春キャベツの残りに玉ねぎ、ベーコン。
甘すぎるのは紅ショウガでバランスを取ってやる。
居間で待っていればいいのに、大河は脇に立って調理を眺めている。
「ゴロ寝してりゃいいのに」
「ううん。見学してる」
そういや昼からメシ食ってなかったしな。と思いつつ。
見学者のために手元を見せ、わざとゆっくり野菜を刻みベーコンを刻み。炒めて取り置き。
合間にスープをつくる。
やらせろと言うのでスープの実を刻ませたら手返しは遅いがまあまあ形にはなっている。
大河の作業が終わるまで待って、卵を溶く。中華鍋に油を敷く。
「ここからは一気にやる。ペース落とせねえからな?」
「ふんふん」
炒めた卵が半熟で冷飯に絡んで、飯から出た水分がほかほかして、それが飛んでパラリと。
仕上げに香り付けのオイスターソースと醤油。流れるようなご家庭厨師。
うん。りゅうじはやっぱりかっこいいぃ。とあらためて感心されたり。

とまあふたりでチャーハン食い終わって、くつろいでいるのである。
「いくらもうバレバレってもね。顔合わせるのは恥ずかしいかも」
カルネアデスの舟板ってやつよね。私を見捨てたのはオトナになって赦してあげる。
うん。済まねえな。サンキューな。
「話は違うけど、ちゃんと観察してみれば料理は手順の組合せよね」
「そうだな。効率よくやろうとすれば詰め詰めにできるけど。手が離せない作業はそうは多くねえ」
毎日の家庭の料理なら、10分で出来ることを15分かけてもいいのよね。
「台所に立ってる間じゅう緊張してなきゃいけないと思っていたよ」
「大事なとこだけ気合い入れて、他は気楽にやればいいな」
「うん。できそうな気がしてきたわ」
りゅうじが私の料理を食べて旨いっ!って言ったらどんな気分なのかな。
おう、俺も楽しみにしてる。ちょっとずつ練習しようぜ。

ところでこんな流れで言うのもどうか……とは思うんだけど、さ。
んー?
「おふろ……入る時間よ……ね?」
「なんか……1日おきにかわるがわる誘ってるな。じゃ、入るか」
「う、うん。お湯ためてくるっ」
だっしゅ!

なんだな。機嫌は直ったし、カーニバルな空気も回避したようだし。
夫婦ってこんな感じなのかと、平穏に慣れ過ぎて図々しく竜児は思う。
でも湯が張られた頃に上機嫌なエロ虎からちゃあんと期待を外さない課題を負わされるのだ。
「んー。抑えの守護神にも、サービスエースを期待しとく」
「……テニスになってる」
大河が想定したゲーム数自体にはなんら変更ないらしい。

「そうよ。Loveから始めるんだもん♪」


「……2年の……秋にはお前とこうなってれば」
そうすれば……。もっと。
もう深夜。静かな声で竜児が呟いた。
竜児の部屋で、ひとつ布団で。懐に抱え込んだつむじに顎を当てながら。
「みのりんの事はどうしてたつもり?」
「関係ねえ……」
「北村くんが好きな私を?」
「それも……関係ねえ」
めちゃくちゃ言ってるね。
分かってる。
「だったら……秋じゃ遅いよ。夏休み。旅行に行く前。」
みのりんが、りゅうじを好きになる前。
お前の方だって。
私は……そうね?4月にもう友達になろうって言われて振られ済みだもん。
ああ、そうか。って無茶いうな。
……私もめちゃくちゃ言ってるだけ。
こうしていると私も心から思うよ。もっと早くこうしたかったって。

531 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:29:02 ID:???

それでも。
「年が明ければ、ママに引き取られるっていうのは変わらないんだよ」
もし、りゅうじにここまでの気持ちを持ってたら、私……行けなかったな。
そしたらりゅうじはきっと……。全部捨てて一緒にいてくれたね。
「ああ、そうしていたな」
「一か月くらいかなあ?逃げ切れるの。そして捕まって」
やっちゃんもママも二度と私たちを逢わせてはくれなかったよ。
だから二十歳になったら家を飛び出して一緒になるんだよ。きっとね。
「同じようなこと考えるんだな。俺は……それでも悪くねえって気もしてる」
「うん……私も。りゅうじとなら」

高校生活の真ん中で半年だけ結びついて。
そのあと無理やりに2年ほど引き離されて。
耐えて、壊して、呼び合って、また逢う。
それもまた、あり得たかも知れなかったやり方。
「でもね。今の方が守り切ったものがずっと大きい。ずっと、幸せって思ってる」
「……そうだな。そうだ」
「私、そう言えば考えられる限りの最短で帰って来たんだよ。褒めて?」
「ああ!よくやったよ、お前は」
俺の手の届かないところで、大半はお前だけの力でな。
くしゃくしゃと頭を撫でる。へへへ、とテレ笑い。

4月になれば別々に進学だ。その前に引っ越し日のあとは寝るのも別々……。
こうしていられるのもあと少しだね。
でも慣れないと。でも慣れるのかな?
「そろそろこうしている方が当たり前に思えて来て……ね」
「慣れろ。俺も慣れるからさ」
「うん」
とーこーろーでー?
にぎっ!
おうっ?

「またやる気?」
「け、喧嘩売ってるみたいだな。……お前がその気なら、その、え〜と」
「さすがはりゅうじだわ。約束を違えない男だね☆」
「約束?……なんかしたっけか?」
「『傍らに立つ』っていう……」
下・品!とつむじに手刀を叩きこむ。

「うぅ〜。まありゅうじの体調もあるだろうし。今日はもうやめとく。手刀痛いし」
「そうか、そんなら……寝」
「……でも!どうしても!どう〜しても襲いたくなるんなら……拒否しない」
「……」
「期限は眠くなっちゃうまでね」
「……」
「黙りこんじゃったよ……。きっと眠いんだ?。眠るがいい。落ちるまで見てる」
「……お前なあ」
ふわぁ〜あふっ。とわざとらしく可愛い欠伸をかまされたり。
ややあって竜児はもぞもぞっ、と。
もー。りゅーじはしょーがないねえ〜♪などと囁かれて。
騙されてる気がする!うまいこと操縦されてる!とどこかで思いながらも。

でもまあ、大河だから仕方ないと。そんな事は前からずっと分かっているのだ。

532 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:31:17 ID:???

****

手荷物だけで大橋に帰って来てからの一週間が夢のように過ぎた。
手をつないで、寄り添って出かけ。買い物をし、食事を作り、作り方を教わり、笑いあって食べる。
独り暮らし用の家電を選ぶのを手伝ってもらったりした。
お互いの進学先をチェックしに行くという口実で都心にも行った。
あのメタリックブルーの、お菓子のようなパッケージはいつしか空になって。
新たに二つ目も買ってきて、どちらのうちに置くかとちょっと悩んでいる。
対戦成績はどうやら勝ち越し気配なのだが……大河が記録を見せないので本当のところは謎だ。
ほら、こういうのは主観でしょ。
というとこを見ると気を使って演技をしているのかもしれない。……などと。
竜児は多少びくびくとコンプレックスを刺激されてもいる。
そんなこんなで、今日は引っ越し荷物が到着する。

「セッティングまで業者さんがやってくれるから手伝いは要らないのに」
「なにか男手がいるかも知れないだろ」
それに掃除もなー♪と道具もひと揃い持参で変態的な笑みも凛々しく竜児は大河についてきた。
……まあ、実際に出番はなかった。
入居者と作業者の計3人が入れ替わり立ち替わりでワンルームマンションは一杯。
邪魔だから出てろと言われて、玄関先にの通路に追い出された。
所在無げに突っ立ってるのも退屈なので、扉などぴっかぴかにする。

やがて引っ越し業者が作業を終えて帰ると、やっと上げてもらえる。
「お待たせ。じゃあ、りゅうじ。お掃除してくれる?私食べ物買ってくるから」
「おう。この広さなら……15分もあれば」
じゃ頼むわー。おおっなんじゃこりゃあ!玄関がぴっかぴかだあ!
靴をつっかけて買い物に出る大河を見送って、やっと竜児の腕まくり。

「どうよ?」
「ホントに15分で塵ひとつないなんて……りゅうじすごい!かっこいいっ!」
コンビニで買ってきたソバをずぞぞぞ、とすすりながら暮らせるようになった部屋を眺める。
ベッドが入って、ライティングデスクが入って。姿見と大きめのハンガーラックでほぼ一杯。
でもこだわりで、カーペットに小さなローテーブルなんか置いた床生活らしい。
ふたりでぴったり寄り添うとちょうどいいスペース。
「ずいぶん服が少なくなっちゃったな」
「うん。整理してオクで売っちゃった。けっこう引っ越しの足しになったんだよ」
落札者がいい齢のおばさん多くて、こんなフリフリ着るの?って思ったんだけど。
……実はこども用に買ってくれてたんだよね。複雑な気分だった。
まあともかく、この小さな部屋が今は身の丈にあってる。
竜児にプレゼントしてもらったブレザーもしっかりカバーをかけて下げてある。
そのうちバイトして、就職して、自分で稼いで少しずつ好きなものを揃えて行くよ。
そしていずれ、りゅうじと。あたらしいうちへ。
ね?
想像すると、自然と笑みが湧いてくる。

しまった。デザートにアイスが食べたくなった。買い忘れたっ。
と言うので、連れだって出かける。
いっしょに散歩をする口実なのは分かりきっていても、突っ込むことでもない。
いろいろ忘れては、そのつど無駄に練り歩けばいい。
コンビニでアイスを買って、帰ろうとすると公園で食べて行こうと大河が誘う。
高須家の近く、旧大河マンションの向かいにある児童公園で。

533 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:33:36 ID:???

ベンチに並んで腰かける。昼下がりの公園は近所の母子連れでそこそこ賑やか。
母親と遊ぶ子供を楽しそうに眺めてアイスを食べていた大河は唐突に言い出す。
「ねえりゅうじ。こどもほしい。私と、りゅうじの」
「え?今……か?」
「うん。いますぐほしい。……と思ってる。って話」
「ああ、そうか。そういうもんなんだよな、女は」
うん。と頷いて大河は続ける。
りゅうじといっぱいしてさ、きもちよくなりたくてさ。そのたびにほしくなってくるの。
あ……りゅうじが、じゃなくてこどもの話ね?
い、いやりゅうじもほしいけどさ。
とりあえずこれはそうじゃない話。
「来月、来ないといいなあ。なんてね。思うのよ」
「お、おい?」
分かってるよ。分かってる。全部守り続けるためには、いまは無理。
「俺は。……いつか欲しいけど。先にお前をもっと……って思う」
男だからさ、ずるいけど。
「あー。そうか。そうだよね。気持ち、移っちゃうもんね女親って。どうしてもさ」
そこ斟酌しないで無神経に言ったのは悪かった。忘れて?
なにも今こども産まなきゃ絶対いやなんてことは思ってない。
できるだけ早く、っていうんでもない。そこは私も自然に普通にでいいの。
ただ私がそういう気持ちになるってことだけ覚えていてくれればいい。
おう。
アイスを食べ終わってコンビニ袋に片づける。
公園の桜が弾けたポップコーンのようにいっそう開いてきていた。五分咲きといったところか。
あれは春を迎えた人の嬉しさが花の姿を借りている、と大河はふと思う。

「ママがね?去年弟を産んだのよ」
「ああ、聞いたな。可愛いんだってな」
ぽふん、と竜児に寄り掛かって、夢見ごこちで続ける。
いまはもう可愛いばかりだけどね?産まれた直後は全然そう思えなかったの。
でもママもお義父さんも、見たこともないようなえびす顔でさ。私驚いちゃった。
ママのグズグズデレデレな顔なんて見たことなかったから。
「好きな人とこどもつくればあんなに嬉しいのか……って寂しかったんだ」
でもね、私を産んだ時も同じだったんだって。
そうなんだ、私もあんな顔で眺めてもらえたんだって。

そうしたらさ、私はどんな顔するんだろ。りゅうじは?ってね。すごく見たくなった。
「それは、俺も見てえ。いますぐにでも」
へえ?とニヤつく大河に慌てて訂正。あくまでも男のエロ心を別として……な?
じゃあそれ満たしてやるか、とこれも口実にする大河。

「りゅうじ。……ん?」
「こんな近所でかあ?子供だって見てるのに。……通報されるかもしんねえし」
「……あんたの誹謗中傷は不問に付すわ」
ま、恥ずかしいよね。
私ね、一週間もいっしょで。ご飯もお出かけも寝るのもいっしょでいたら。
りゅうじに対してはあんまりテンパらなくなってきたの。
こんな自分がいたのか、とも思うけど。なんだか嫌いじゃない。
「なんて言うか……りゅうじにイカされるたび変わっていくわたし。みたいな?」
下・品!
お約束の手刀をつむじに振りおろそうとしたが、竜児の手はしっかりと膝の上で握られていた。
「まあ、オトナになるってのはこういうことよ?」
んーーと顎を突き出して目を閉じる。
淡い茶の髪が微風に遊ばれ、隙間に耳が見え隠れ、頬は桜色。大河はやっぱり美少女。
但し綻ぶ花のような可愛い唇の端に、さっきまで食ってたアイスクリーム。
「オトナねえ?」
竜児はティッシュを取りだして、こどもの世話をするように拭ってやる。
ゆっくりと、丁寧に。
やがて可笑しくて、くくくと笑いだしてしまう。
「あ!だだ台無し?なんだ私!こんなにキメたとこなのにっ」
「別に恥ずかしいことが言えるようになったからって大人じゃねえだろ」
ドジ!ああなんてドジ!と嘆く大河の肩を抱いてやる。
大河はずいぶん変わったし、俺も変わった。だけど別人になったわけじゃねえ。
前のまま甘ったれなお前もちゃんといる。俺は変わらずに好きだよ。
しゅしゅしゅ〜んと空気が抜けていくふうで、小さな身体が一段とちぢこまる。
桜の艶が完熟トマトの色に染めあげられ。俯く。
「そ、そう……ね……」
小学生のように、ちんまりと。う、嬉しいわ……と。

そして竜児は突然にキスをしたくなった。
もっとなんかイイコト言ってこいつをテレさせてやろうかぐらい余裕でいたのに。
自分の顔が熱くなってくるのが分かる。なぜだ?なんの前触れもなく?
しかもこんなこどもっ振りになった時にって、俺大丈夫か?
様子を感じ取って大河が顔をあげる。鳶色の瞳に不安の光を湛えて見つめる。
どうも、なんて言うか。それでトドメを刺されたような。
ここは公園。子供も見ているけど。ええい!
来いよアグネス!
負けた竜児が桜の下で奪った唇は、アイスクリームの味がした。

534 桜のころ(虎、帰るアフター3) :2011/04/04(月) 01:35:05 ID:???

結局は、まだまだ大人の真似ごとをして浮かれているだけと知る。
大河も。竜児も。
熱に浮かされながら、一瞬でも離れたくないと思える幸福に包まれていた七日間が終わる。

望んだ全部を諦めないで手に入れて、そして守り切る。
それは長い人生をまるごと賭けて挑まねばならない大勝負。
自分たちはそのスタートを切ったばかりと。何度も済ませた同じ決意にまた至る。
傍らにつないだ手に力を込めてみれば、同じ強さで握り返してくる。
この絆と思いつづく限り、何だってできる。どこへでも行ける。
部屋までのわずかな道のりを歩きながら、そう思う。

「いい陽気。神、枝に這い、かたつむり空に知ろしめす。すべて世は事も無し。……ね?」
「赤毛のアンと言ってしまいそうだが、上田敏訳のブラウニングだな。海潮音」
「さすがはりゅうじ。理系の分際でよく知ってること」
「ちなみに神と蝸牛が逆だ。枝に這わせてどうする」
「はははっ、バレた〜」
すべて世は事も無し。

戻って。
荷物の、特に服の整理を始めっか、と提案する竜児に先にやる事があると伝えた。
私は白いプレートとマジックを出して。キュキュッキュ、と丸っこい字で。
そう。表札を出すの。
まあ儀式よね。

逢坂竜児
  大河

「連名かよ。てか俺なんか入り婿みてえ。……まあ、防犯にはいいのか」
「そ。気分。そして練習。管理会社になんか言われたらそう言っとく」
男のふたり暮らしって疑われねえかな?
なおさら防犯上有利じゃん。
そうか。
「名字を高須に書き換えるのが楽しみ。でしょ?」
「おう!」

ふたりで玄関先に、つっかけで出た。
扉の上辺近くの高さに付いたホルダーは、もちろんきれいに掃除してくれている。
竜児はふつうに。私はちょっと背伸びをして。
プレートに手を添えて、せーのでいっしょに差し込んだ。
私は思いを込めて竜児を見上げる。
楽しそうに見つめ返してくれる。

胸の奥がくすぐったくて、小鳩のように笑いだしてしまった大河を竜児は優しく見る。
この世界でただひとりだけそれを見ることができる。

そうしてふたりは扉を開けて。笑いあいながら部屋に入っていった。


――END





※作中にて、以下の一部を引用させていただきました
新井素子『あなたにここにいて欲しい』
宮沢賢治『永訣の朝』
ロバート・ブラウニング『春の朝』上田敏 訳

535 高須家の名無しさん :2011/04/04(月) 02:13:21 ID:???
まだ読んでませんが、乙乙!
あとの楽しみにとっておこう…

536 高須家の名無しさん :2011/04/05(火) 00:03:34 ID:???
幸せだー。読んで幸せになったー。
ここの所荒んでいたので、涙が出た。
本当にありがとう。

537 高須家の名無しさん :2011/04/06(水) 20:33:28 ID:???
同じく。
やっぱ皆で和気藹々してると嬉しいなー。みのりんとの危うい過去は読んでてどきどきした。
公園イチャイチャに死ぬほど萌えた。ドジっ子健在な大河も、タガが外れた竜児も可愛いよ…
ぬくもり溢れる読後感でたまりません。幸せになれよ…!
完結お疲れ様、そしてGJでした!

538 高須家の名無しさん :2011/04/07(木) 23:19:12 ID:???
いいよーいいよーGJだよー!

539 514 :2011/04/08(金) 20:43:00 ID:???
>>535-538
ご感想ありがとうございました。
ネタ的にご不快を感じた方にはお詫び申し上げます。

時節柄、どうしても優しく力強い方向でしか書くことができませんでした。
もっと竜虎が絆の力でいろいろ乗り越えるのが本当なのでしょう。
それは他の書き手の方に期待しますね。
感想にレスを返すのは荒れる元らしいですが、こちらは失礼ながら過疎なので大目に見て下さい。
ついでに蛇足ながら、本編+アフターのプロット発案の元になった曲をご紹介します。
http://www.youtube.com/watch?v=gNFJFQSsXMQ

音楽はエロス描写以上に個人の好みだと思いますので、お勧めはいたしません。
ということで、ありがとうございました。

540 高須家の名無しさん :2011/04/13(水) 00:25:31 ID:???
本スレ>>563の絵って、まとめサイトにあるやつじゃないっスか。
9スレ目のまとめにあったわ。

あと、探してる絵はまとめサイトのリンクから飛べる「べろべろ」さんのところを上から順に見ていけば良いと思うよ!

541 気付かない想い ◆QHsKY7H.TY :2011/04/28(木) 13:17:45 ID:???
「フンッ!!」
「てっ!?」

 突如、問答無用でイキナリの目つぶし攻撃を敢行したのは言うまでもなく、

「何すんだ大河!! 視力が落ちたらどうする!!」

 手乗りタイガーという名誉か不名誉かいまいち判別のつかない二つ名を付けられた少女、逢坂大河。
 日も暮れ始めた夏の夕方と呼ぶに相応しい時間帯。
 同時にタイムセールを各所でやり始め、いかに勝利者となるかの瀬戸際になる時間帯でもある。
 世の奥様方よろしく、タイムセールの内容をチェックしながら歩いていた高須竜児は突然の目つぶし攻撃に当然の如く抗議の弁を述べる。
 目という部位は人の一生においてとても重要な役割を果たす感覚器官。
 それが失われることがどれだけ大変な事なのか、お互いわからない歳では無い筈である。
 その辺どういうつもりなんだコラァ!? と言った具合に釣り上がった凶眼は、一見してか弱そうな少女にガンを付けるヤクザそのものの出で立ちだが本人にその気はもちろん無い。
 目つきは生まれつきのものであって本人の意志ではなく、ただただ理不尽の理由を問いたい、というのが本心のそれである。
 悲しいことにこの世にそれがわかる人間は少なく、周りで買い物をしていた奥様方は恐怖で離れていき、近くの交番に駆け込む者までいるのが現状だが。

「眼がエロいのよ、眼が」

 一方、竜児の目つきを生まれつきのものだと理解出来る数少ない人間に分類される筈の彼女は、彼のその凶眼を見てあろうことかエロいと発言する。
 人間という人種が何十億と住むこの星において、彼の眼を見てそんなことを言えるのは世界広しといえども彼女ぐらいのものだろう。

「あんたさっきからあっちをチラチラこっちをチラチラ、何処見てるのよこの駄犬が」
「しょうがないだろ、チラシに乗っていない突然のタイムセールをやりだす店だってあるんだ。チェックするのは多いに越した事はない」

 加えて竜児は昔からその眼で勘違いされる傾向にある。
 自然とそういう人達が近くにいないかを探る癖も彼にはあった。

「どうだか。さっきはあっちの女の人の事見てたみたいだし、かと思えばあっちの小学生。ホント見境無いわねこのエロ犬は。みのりんに言いつけちゃおうかなぁっと」
「く、櫛枝に!?」

 彼女の言ってることは事実無根……ではないのだが、意味するところは全く違う。
 前述する通り竜児は周りの視線を極端に意識する為に、自分をそういう目で見そうな相手にはこちらから予防線を張っているのだ。
 大河の言う「見ていた」は正しいがその理由は大河の言う『エロ目的』とは一致しない。
 だが彼女にそう説明したところで大人しく話を聞く相手では無く、加えてリーサルウェポン……いやアルティメットウェポンの存在まで口にされては竜児に為す術は無かった。
 握った拳を開いて、諦めに似た思いで竜児は肩を落とす。 話してもどうにもならないのなら文字通り諦めるしかない。反論するだけ無駄なのだ。
 そんな悟ったような竜児の顔を、しかし大河は尚睨み付ける。
 こちらは諦めたのに何でまだそんなに睨んでくるんだ、と竜児は怯える。元来目つきは怖くとも内心は伴わないヘタレそのものなのだ。喧嘩だってしたことは無い。
 竜児がそう内心でビクビクしていると、

「君、ちょっと話を聞かせてくれないか」

 肩に手を置かれて背中から声をかけられる。
 振り返ってみるとそこには公権力の象徴、警察官が立っていた。そういえば交番に駆け込んでいた人がいたっけ。

「先程近くを通りかかった人が恐喝している現場を見たと言ってきていてね、どうなんだね?」

 言葉の上では疑問系だがその口調は決めつけた詰問だった。
 無理も無いと思う。こんな目つきの男が女の子と言い争っているような現場を見たら、誰だって男が悪いと決めつけるだろう。
 竜児はビクビクしながら何とかわかってもらおうと口を開こうとして、

「アンタ本当に警察官? だとしたら警察学校からやり直してきたら? この税金泥棒」

 先に大河が口を開いていた。
 大河の生意気と取れる口の利き方に警察官は眉をピクリと寄せる。
 無理もあるまい。彼にしてみれば女の子を助けようと現れたのにその女の子に暴言を吐かれたのだ。

542 気付かない想い ◆QHsKY7H.TY :2011/04/28(木) 13:18:47 ID:???
「どういう意味かな? 私はただ聞き取り調査に来ただけだよ」
「どうだか。さっきの言いぶりだと竜児を恐喝の犯人扱いしてたじゃない。何も知らないでよくそんな事が言えるわね。その男は生まれつき目つきが悪いだけのヘタレ男だってのに」

 どういうつもりか知らないが大河は警察官に噛みついていた。
 竜児としてはオロオロするばかりだが、ヘタレ扱いされようともそれで誤解が解けるなら御の字だった。

「君たちは知り合いか何かなのかな? それともまさか恋人かい? 彼氏に脅迫されているんだったら言いたい事は言った方が良いよ」
「はぁ!? 私達が恋人!? 本当にアンタ目が節穴なの!? コイツとは単なるクラスメートよ!! それ以上でもそれ以下でも無いわ!!」



***



 その後すったもんだがあったものの、近くの懇意にしている店のおじさんが竜児の事を警察官に説明して事なきを得た。
 竜児は苦い顔をしながらも何も起きずに良かったと笑っていた。

「何で笑ってられんのよ、あの馬鹿犬」

 自分の部屋の中央に位置する寝椅子(寝っころがりながら座れるから寝椅子でいいのだ)に一人座って、膝を抱く。
 大河は夕食を高須家で摂った後早々に自分の部屋に帰ってきた。

「誤解だって、さっさと言えば良いじゃない」

 今日警察官が竜児を責めに来たのは自分のせいだとわかっている。
 大河は顔を膝と膝の隙間に埋めてさらに縮こまった。ただでさえ小さい体を小さくして丸まるその姿は、泣いているようにも見えた。
 わかっている。悪いのは竜児ではなく自分だと。自分が“意味も無く”つっかかったせいで勘違いされ、嫌な思いをさせたと。
 でも素直にそれを認める事はできそうに無く、だから無理矢理庇う形で警察官に喧嘩を売った。
 苛々する。無性に苛々する。 悪いとわかっていても謝る気が無い自分に苛々する。
 けど素直に謝ったらそれは自分では無い気がしてそれも苛々する。
 そもこんな事で苛々する原因を作った竜児に苛々する。そうやって竜児に原因をなすりつける自分に苛々する。
 苛々し続けて、自分が何に苛々しているのかわからなくなってきて、苛々する。
 わからなくなるってことは今までに考えた理由が本当の理由じゃない気がして苛々する。でも本当の理由に気付きたくなくて、そんな弱い自分に苛々する。
 結局竜児が悪いと決定付けて苛々を終わらせようとするが、そうやって竜児のせいにする自分に苛々するのを止められない。
 でも、苛々の理由とは別に竜児も悪いとは思う。すぐに否定すればいい。自分は悪くないと訴えればいい。
 それをしない竜児はやっぱり悪いと思う。悪くないのに悪者になる竜児は悪い。そう、竜児が悪くないから悪い。竜児が悪くないから苛々する。
 竜児が否定しないから苛々する。そんな目で女の子を見ていないって言えばいい。自分は悪くないって言えばいい。
 関係無いって言えばいい。否定すればいい。……言って欲しい、否定して欲しい。

 自分はそんな目で女の人を見ていたわけではない、と。
 根も葉も無い事を勝手に言いつけるな、と。
 自分は何も悪い事はしていない、と。
 自分は何もしていない、と。
 恋人じゃない、と。

 自分はヘタレじゃない、と。
 単なるクラスメートでもない、と。
 それ以上であって、以下ではない、と。

「……ぅ……すぅ……」

 大河はやがて寝息を立て始めた。
 他愛の無い一日に過ぎない今日考えた事を、彼女は何処まで覚えているだろう。
 恐らく、微睡みつつの思考など数えるほどしか覚えていないだろう。
 それでも、彼女は自分の性格だけは理解しているだろう。

 自分は“意味もなくつっかかったりなどしない”と。

543 ◆QHsKY7H.TY :2011/04/28(木) 13:19:32 ID:???
すいません、本板に上手く書き込めなかったのこちらに書き込みました。

544 高須家の名無しさん :2011/04/29(金) 07:04:15 ID:???
大河切ないなぁ。

545 高須家の名無しさん :2011/04/29(金) 09:39:26 ID:???
>>542
3,4巻辺りの大河はヤマアラシのジレンマを自覚したところでほんと切ない。
でも最後の一文が前へ進もうという意思でいいよね。

546 高須家の名無しさん :2011/04/30(土) 21:49:51 ID:???
>>543
お久しぶり、GJ。
やっぱ、安心して読めるわ。

547 高須家の名無しさん :2011/05/01(日) 00:51:21 ID:???
最後うまいなぁ。何度も読み返したくなる文章です。

548 高須家の名無しさん :2011/05/01(日) 04:07:49 ID:???
まとめ人様へお願いがあります。

当スレにて>>443>>476>>494>>515と、本スレの【とらドラ!】大河×竜児【ゴロゴロ妄想】Vol24にて>>10>>26を投稿した者です。
上記6本を時系列順に全面改稿しました。読みにくかったので整形もいたしました。
もしまとめサイトに掲載していただける機会がございましたら、改稿後のものにしていただけないでしょうか。
すでに掲載いただいている>>443も差し替えていただけたら幸いです。

ご迷惑でなければ受け渡し等ご指示下さい。現在テキスト1ファイルで300KBに繋げてあります。
どうぞ宜しくお願い致します。

549 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2011/05/01(日) 19:05:20 ID:???
お疲れ様でs

>>548
了解です。
ファイルは以下のアップローダーあたりにDLパスをつけて上げていただければ、こちらで落とします。
受け取ったら報告いたしますので、その後削除していただければ。
ttp://www.uproda.net/
お手数ですがよろしくお願いいたします。

後こちらからもお願いがあるのですが、トリップとか付けていただくことは可能でしょうか。
まとめやすくなったりするので…個別ページ作ったりとか。



あの花。のEDが卑怯すぎる。
1話での使い方とか、花びら逆回転の瞬間とか鳥肌。

550 ◆0/FKyHtS2M :2011/05/02(月) 14:04:41 ID:???
まとめ人様
548です。早速のお返事ありがとうございます。
以下うpしました。パスは目欄に。

ttp://www.uproda.net/down/uproda293580.txt.html

今後書くか分かりませんが、トリップも付けてみました。お手数をお掛けいたします。

551 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2011/05/03(火) 03:16:19 ID:???
>>550
ご報告が遅れましたが、テキストファイル受け取りました。
現在まとめ中ですので、もうしばらくおまちください

552 ◆0/FKyHtS2M :2011/05/04(水) 16:47:08 ID:???
>>551
お手数おかけいたしました。ありがとうございました。
なにか不備ございましたらお申し付けください。

553 ◆fDszcniTtk :2011/05/08(日) 01:44:12 ID:???
>>549
私もドはまり中です。あのはな。

とらドラ!もEDへの入り方がうまかったですね。とらドラ!最終回のEDの
使い方を、「あのはな」は1話でやったか、と感慨深く見てました。

私もさびに入るシーンの花に、さっと色が入るところが好きです。

554 高須家の名無しさん :2011/05/08(日) 02:08:48 ID:???
>>549 >>553
花に色付くところは鳥肌もんだった。各所で絶賛されてる(んだと信じたい)

ちなみに今日のカウントダウンTV(10位)でも色が変わる瞬間が放送されてたぜ!

555 高須家の名無しさん :2011/05/08(日) 13:03:36 ID:???
>>554
そうそう、鳥肌立つ。すっと音が消えて、3人が目を閉じて、ふっと画面が
引いてぱぁっと色がつく。思い出しても鳥肌立つわ。

1話はフジテレビ・オンデマンドで無料なんだけど、エンディング・アニメは
スペシャル版なんだよね。

あの番組見てると、やっぱとらドラ!はスタッフに恵まれてたって思うよ。

556 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2011/05/08(日) 15:58:34 ID:???
まとめサイト更新しました。

「虎、帰る」シリーズを改訂後と入れ替えたりしました。
何か不具合等がありましたら、ご指摘をよろしくお願いいたします。
本スレが相変わらず規制中なのでこちらでご報告。



アニメスタイル予約していて良かった…

557 ms07b3 :2011/05/09(月) 21:59:33 ID:OMdFCukE
高須夫婦の日常①
 高須竜児と大河が結婚したのは、出会ってから8年後、25歳の春だった。
大橋高校の仲間や、大学時代の友人達に囲まれての結婚式は質素ながらも温かい雰囲気に包まれた
披露宴だった。
 新しい新居は、大橋駅から2駅ほど郊外に離れた駅から徒歩で10分程のマンション。
幼稚園教諭になるために専門学校に通う大河の通学の利便上、大橋から離れられなかったのと、
建築設計事務所で働く竜児の終電の時間が遅いというのが決め手だった。
昭和50年代の後半に建てられたマンションは、多少、見てくれも古くさいが、リフォーム済み
で、収納スペースもたっぷりあったのが竜児のお眼鏡に適ったのだ。

 引っ越して2週間。仕事が殺人的に忙しい竜児に代わり、部屋の片付けをしたのは大河だった。
高校時代、家事が全く出来なかった大河も、竜児と別れた一年間の母親との生活と、大学時代の
一人暮らしの結果、それなりに家事をこなすことが出来るようになっていた。
勿論、スキルでいえば未だに竜児に敵うことはできない。でも25歳の新妻としては上等なレベル
に達していた。
 お風呂掃除が終わり、冷えたカルピスを飲みながら、披露宴の時に送られた、お祝いの電報を
読んでみる。
 日程や、物理的な距離から披露宴や二次会に参加出来なかった母親と暮らした街での、一年だけの
クラスメートや、大学時代の友人が送ってくれた祝電。
 自分たちがいかに祝福されて結婚したのか、片手だけでは持ちきれないほどの電報の束に、大河は
幸せをかみしめていた。

 雪の大橋でのプロポーズから8年。長いといえば長い春だった。
 一年の離別を乗り越えて大橋に戻ってきた大河としては、高校卒業と同時に入籍だけでも済ませた
かったのだが、真面目で融通が利かない駄犬は、大学を卒業し、ちゃんとした収入を得るまでは結婚
しないと勝手に決めて、大河が泣こうが喚こうが、手乗りタイガーと化して殴る蹴るの暴行を加えよ
うが、信念を曲げなかった。

 大河にしてみれば、優しくて、気遣いができて、料理が得意で、家事全般に精通している竜児は、
女性からしてみれば、稀少性の高い優良物件だと思っている。
大学生ともなれば、竜児の、地獄を住処とする悪鬼のような三白眼に怯まず、その瞳の奥底にある
優しさを見抜く女性が現れるかも知れない。そんなライバルが現れたとしたら、泣き虫で凶暴で哀れ胸
を持つ自分など太刀打ちできるはずもない。大河の危機感は深刻だった。
 愛していない、いや愛してる。結婚しろ、いや今は出来ない。殺す、殺さない。物騒な言葉が飛び交う
痴話喧嘩の調停者として現れたのが、高須のおじいちゃんだった。
 高須のおじいちゃんは、2人の前に古びた指輪ケースを差し出した、大河がケースを開くと、大きめの
石がついている指輪が収まっていた。
「これは、ばあちゃんから大河さんへの贈り物だ。」居心地が悪そうに、じいちゃんは言う。
二人が好きあっているのは理解している。大河さんが竜児とすぐにでも結婚したいと考える事も理解でき
るし、竜児が一人前の男になるまでは結婚出来ないと考えるのも男として理解できる。
「そこで提案なんだが、恋人から夫婦に一足跳びにいく前に、婚約者というステップを設けてみたらどうだい?」
じいちゃんはそういって笑った。
考えてみれば、恋人→婚約者→夫婦というのはごく普通のステップだ。
しかし、お互いの恋心を認めると同時にプロポーズした(された)二人にとっては、婚約というステップは、
なんだか中途半端な立場のような気がしたのだ。
 竜児にしてみれば、学生の身だから、大河に婚約指輪を買ってあげることが出来ないという引け目もあった。
 大河にしてみれば、婚約という名の下に、結婚が延びてしまうのが悲しかった。
しかし、高須家のじいちゃんが仲介してくれたうえ、おばあちゃんから指輪を贈られると有っては、さすがの大河も、
攻撃の砲弾を撃ち込むのを辞めるしかない。
堅苦しい儀式は抜きで、高須家の祖父ちゃん・祖母ちゃんと泰子。大河の家からは、義理のお父さんとお母さんとが
一堂に会し、顔合わせを行った結果、大河は、サードニクスの婚約指輪を身につけて、大学に通うことになった。

558 ◆n0CyHpL66I :2011/05/10(火) 00:41:37 ID:???
低クオリティ注意

559 123 ◆n0CyHpL66I :2011/05/10(火) 00:45:51 ID:???
「温泉旅行」 「みんな」


「本当は混浴が良かったんじゃないの?だって高須君と…ねぇ」
「黙れ発情バカチワワ」
「あれれ〜?逢坂さん顔真っ赤。高須君としてるの想像して興奮しちゃった?」
「おっ?夫婦円満ってやつですなあ」
「みのりんまで…からかわないでよ、大体まだ一度も何もやってないわよ…その…せっくすとかは…」
「嘘つかなくて良いってば逢坂さん。高須君が言ってたわよ、毎日求めてくるから少し疲れたって」
「若さゆえの性の乱れかい?」
「!!…あの駄犬、余計な事を…大体毎日なんて求めてないわよ」
「高須君が言ってたってのは嘘、それにしても逢坂さんのその反応。毎日じゃないけどヤってるのね」
「」




「すっきりしたー、たまには温泉なんてのも良いよね」
「まーアタシは温泉なんて珍しくもなんとも無いんだけどね」
「バカチーが変なこと言うから終始イライラしてたわ」
「そんなこと言って今夜も高須君と夜通し楽しむんじゃないの?高須君と相部屋よね。気使って二人にしてあげたんだから。」
「んじゃ私たちは隣の大部屋部屋でトランプでもしながら適当に過ごすとしますか、あーみん」

560 123 ◆n0CyHpL66I :2011/05/10(火) 00:47:10 ID:???
「能登、どうした?」
「いや、高須は良いよね。なんつーかその…タイガーと二人部屋で。俺も木原t」
「えー俺だったらタイガーと二人は嫌だよ、翌朝生きてる保障ないもん。
ってか能登っちは誰と二人部屋が良いの?まさか俺?そっち系は俺無理だよ…」
「(春田…どうしたらそんな発想になるんだよ…)」

「じゃあな、部屋戻るわ」
「おう、じゃあな高須。タイガーと仲良くやれよ」
「高っちゃん明日も生きててくれよ〜」




「もうこんな時間かー早く寝ないと明日起きられないぞ」
「お、流石生徒会長。でも俺は少しやりたい事あるから。な?能登っち」
「いや、知らないけど何すんの?」

「私たちは修学旅行の時みたいにガールズトークでも」
「そうだね、今夜は寝かせないよ」
「逢坂さんたちも「今夜は寝かさない」とか言って盛り上がってる所かもね」
「あはは絶対明日は二人とも疲れてるよ」

561 123 ◆n0CyHpL66I :2011/05/10(火) 00:48:19 ID:???
「ねえ竜児」
「ん?どうした?」
「なんかね、その…寒くない?」
「俺は平気だぞ。良かったら上着貸してやろうか?」
「そうゆう事じゃないの。私もそっちのベッドで寝たいの」
「何だ?そのベッド何か問題でも有…って濡れたタオル置いとくなよ。
替えのシーツ持ってくる。俺のベッド使って先に寝てても良いぞ」
「…アンタね…どこまで鈍感なのよ!このダメ犬」
「おわっ、いきなり飛び掛ってくるな。痛ぇだろ」
「良いからじっとしてろダメ犬」
「何だってんだよ…ってお前いきなり脱ぐなよ、北村に影響でもされたのか」
「いいから竜児も脱げー」
「苦しい、首のとこ引っかかってる!ってか無理やり脱がすな」
「うるさい、アンタは今日私と熱い夜を過ごすのよ」
「…なんだよ最初から普通に言えって」
「何よ!こうゆう事はムードとかそういうのを」

562 123 ◆n0CyHpL66I :2011/05/10(火) 00:49:40 ID:???
「おい、能登っち。動きがあったぞ」
「春田…盗聴してたのかよ…」
「えーだって気になるじゃん、高っちゃんと大河の様子」
「気になるけど流石にそれは…」
「いや、だって高っちゃんが大河になにかされたらすぐ助けないとヤバいじゃん?」



「ねえ春田見てよ。アイツ必死に壁に耳つけて何やってんだろ」
「さあ?でもさっきからずっとそうしてるね」
「高須君と大河ちゃんの熱〜い夜を観戦したいんじゃないの」
「能登もかなり引いてるよ」
「まあそりゃ誰でも引くよね」
「でも二人とも仲良くてうらやましいね」

563 123 ◆n0CyHpL66I :2011/05/10(火) 00:59:53 ID:???
「竜児、早く脱がしてよ。パ・ン・ツ・も」
「おっおう…」
「ねえ竜児…目、逸らさないで。ちゃんと私を見て」
「…」
「アンタのその鋭い目つきは変わらないのね」
「…なんだよそれ。褒めてんのかバカにしてるのか」
「褒めてるのよ、その目で見られると私…」
「お前のその平らな胸も変わらねーよな」
「そう思うなら揉んで…大きくしてよ」
「おう…こんな感じで良いのか?」
「んっ…気持ちいいわ。ねえ、舐めたりしてくれないの?」
「そうだな、舐めるだけじゃなくて吸ってやるよ」
「あんっ、うふふ。竜児、赤ちゃんみたい」
「かっ、からかうなよ」
「だって〜夢中で吸ってるんだもん」

564 123 ◆n0CyHpL66I :2011/05/10(火) 01:00:23 ID:???
「なあもう良いか?」
「何?あんたのも弄って欲しいの?」
「ああ、そろそろ頼むよ」
「何これもうカチカチじゃない、私の触ってたら興奮しちゃった?」
「…そうだよ。そういうお前もすごい洪水になってるじゃねえか」
「うるさい、エロいにゅ。もういつでも準備OK、挿れられるって事よ。」
「い…挿れてもいいか?」
「アンタがそうしたいなら別に良いわよ」
「んじゃやっぱやめた」
「…なによ…我慢しなくて良いって言ってるのに」
「我慢してるのはお前もだろ?」
「私は別に…その…でもここまでやってるからには最後までやらないと不完全燃焼っていうかその」
「何だよどうしたいんだよ」
「な…なに上から目線になってるのよ。は早く挿れたいなら挿れなさいよ」
「早く挿れてほしいのお前だろ?さっきよりも顔も赤いし下も濡れてるぞ」
「うるさい。もう良い、私が上で動くわ。竜児、早く仰向けになりなさい」
「おうっ、いきなり速すぎる。もう少しゆっくり」
「んあっ…何よ、私から挿れてやったんだから私が決めるわ」
「待て、大河。本当にもう少しゆっくり…だめだ、イク!!」



「出し過ぎよ竜児、それでもう終わりとか言わないでしょうね」
「ちょっと休憩、もう少し待ってくれ」
「うるさい、私はまだイってないのよ早く勃たせなさいよ」
「ちょっと…無理やりやめろって」
「分かったわ…じゃあ手でいいわ…手でしてよ」
「さっきのお返しだ、高速でいくぞ」
「んっああああダメッもうイク、んあああああああ」

565 123 ◆n0CyHpL66I :2011/05/10(火) 01:01:21 ID:???
「タイガーの悲鳴が…ついに手乗りタイガーを仕留めたのか高っちゃん!」
「逢坂さん、やっぱりこんな感じで毎日ヤってるんじゃないのかな」
「俺、高っちゃんの所行ってくる。能登っちも行こうぜ、タイガー討伐を祝して乾杯!とか」
「いや、行かねーから。」
「じゃ俺一人で行ってくるよ」
「おい、行くなって。気まずいぞ…ああ行っちまった…」

「おーい高っちゃーん」
「あれ?鍵開いてんじゃん」
「おわっ春田、おまえ何いきなり入ってきてんだよ」
「Let's記念写真だぜ」パシャ「…あれ?二人とも裸?」
「ちょっと…写メるなこの変態アホロン毛!後で覚えてろ」
「うわー助けてー」




「なんか大河と高っちゃんが裸だったよ見てよこの写メ」
「春田…お前、そういう趣味があったのか」
「春田君さすがにそれはまずいんじゃないかと…」
「え?あ、あれ?高っちゃんしか写ってない!
いや俺は別に男の裸に興味とかそんなのは…」
「高須くんの黒いわか…め…」バタッ

566 123 ◆n0CyHpL66I :2011/05/10(火) 01:02:29 ID:???
「ねえ竜児」
「なんだ?」
「さっきは一緒にイけなかったじゃない?だからさ、後で続きしよっ」
「おう」

翌朝二人は朝食の席に顔を出さなかった
「お二人さん、どうしちゃったんだろね?」
「昨日の疲れが溜まってるんじゃない?」

二人は昼過ぎまで裸で絡まりあったまま眠っていた


-END-

567 高須家の名無しさん :2011/05/10(火) 02:40:40 ID:???


568 高須家の名無しさん :2011/05/10(火) 22:25:34 ID:???
乙!
春田……無茶しやがって……(AA略

569 高須家の名無しさん :2011/05/10(火) 22:49:44 ID:???
お互いイクの早すぎだろwww
だから高速回転なんですね、分かります

570 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2011/05/20(金) 06:10:41 ID:???
お題 「荷物」「声」「力いっぱい」



「……ねえ竜児、話があるの」
 いつもなら夕食後はお茶を飲みながらのまったりタイム。
 だが今日の大河はなぜか神妙な表情で。
「おう、何だ?」
「あのね、私……夏休みになったらアメリカに行くから」
「おう? ……ひょっとして、最近時々狩野の兄貴からエアメールが来てたのはそれでか?」
「うん」
「海外となると、一泊二日ってことはねえよな……三日か? 四日か?」
「……短くても一ヶ月、以上」
「何!? なんだよそりゃ?」
「竜児、私が通訳目指してるのは知ってるでしょ」
「おう」
「通訳や翻訳ってのはね、単に言葉を変換すればいいってもんじゃないのよ。そこに込められたニュアンスとか意味をきちんと理解して伝えなきゃいけないの。
 そのためには、やっぱりある程度生の英語に触れた経験が無いと……」
「そりゃわかるけどさ、そんな渡米までする必要があるのか?」
「竜児が言ったんでしょ、虎と竜は並び立つんだって」
「おう。だけどそれがどう関係するんだよ?」
「いくら将来竜児のお嫁さんになるのが決まってるっていってもね、通訳って仕事をそれまでの腰掛けにしたくはないのよ。
 竜児のお荷物とかおんぶに抱っこじゃなくて、ちゃんと自分の足で立って、胸を張って結婚したいの、私は」
「金はどうするんだ? いくらなんでも海外で一ヶ月暮らす程の蓄えはねえぞ」
「狩野すみれのツテでね、住む所と短期のアルバイトを紹介してもらえることになってる」
「……わかった。だけど一つ聞かせてくれ。どうしてこんな大事なことを今まで相談してくれなかったんだ?」
「それは、その……もし竜児に反対されたり、引き止められたりしたら……決心が鈍っちゃいそうだったから……」
「……あのなあ、どんなものであれ、大河がきちんと考えて決めた事に俺が反対するわけがねえだろ。力いっぱい応援するに決まってるじゃねえか」
「うん、そうよね……ごめんなさい」
「さて、そうすると急いでパスポートを用意しねえとな」
「いや、それはもう……」
「大河のじゃねえ、俺のだ」
「ふぇ?」
「……何頓狂な声あげてやがる」
「だって……行くの私なのよ? なんで竜児のパスポート?」
「そりゃ、俺も行くからに決まってるじゃねえか」
「えええ!?」
「本場で英語修業ってのはいいアイデアだよな。俺も将来必要になる可能性は高いし」
「ちょ、ちょっと待って!」
「何だよ、一緒に行くのが嫌か?」
「そんなわけないじゃない! だけど、それこそお金とか……」
「おう、そうだな。兄貴に二人分の働き口を頼むのもなんだし、俺は北村にどっか良い所がねえか聞いてみるか」
「竜児、本気!?」
「おう。なあ大河、俺はこうも言ったよな、『ずっと一緒だ』って」

571 ◆Eby4Hm2ero :2011/05/20(金) 06:14:33 ID:???
規制中なのでこちらで。
よかったら転載お願いします。

大学二年の頃のお話。
大河が通訳を目指しているというのは、「シンデレラなんかになりたくない」から頂きました。

572 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2011/05/20(金) 23:20:07 ID:???
あなるのかわいさに、こかんがあつくなるな…

573 高須家の名無しさん :2011/05/21(土) 01:27:13 ID:???
俺はつるこ(幼少)が可愛いってスレを見てしまって・・・。

574 高須家の名無しさん :2011/05/21(土) 01:28:42 ID:???
スレじゃなかったこの画像がああぁぁぁ!
ttp://blog-imgs-44-origin.fc2.com/o/t/a/otajyuu/s-24_1_20110516104007.jpg

575 123 ◆n0CyHpL66I :2011/05/21(土) 01:50:11 ID:???
ttp://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira001322.png
ttp://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira001323.png

576 ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:07:57 ID:???
新作投稿します。いままでになくエロなのでここに帰って参りました。

タイトル:お姉ちゃんにまかせろ!

内容:ガチエロコメですので少々詳しく内容を記します。趣味に合わないと思われる場合はご
注意ください。生理中えっちで、本番はしませんが、フェラ、ごっくん、手コキ、レイプ妄想、
オナ告白がメニューとなります。また、竜虎ともどもかなりのエロ惚け状態に見えるかと思わ
れます。キャラクター改変は最小限に留めたつもりでおりますがそこは読まれた方にご判断い
ただきたく思います。あ、あとオチもしょうもないです。手乗りタイガーは伊達じゃないです。
……なんだかこれじゃ面白くなさそうに聞こえますが。47KB

↓宜しくお願いします

577 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:12:00 ID:???

【これまでのあらすじ】親元で一年を過ごし進学した逢坂大河は大橋の町に帰ってきた。高須
家から徒歩3分のワンルームマンションで独り暮らし。ぶじ嫁入りのその日まで!などと大げ
さな話は置いといて瑣末事を綴ったエロコメディ(要するにアニメ版アフターです)

 高校を卒業して、別々に進学した竜児と大河は結婚という遠大な目標に向けて鋭意努力をし
始めていた。他人であったふたりが奇しくも出逢い、惹かれあって、ずっといっしょに居たい
と願った以上、そしてふたりが同性でなかった以上は、当然の帰結と言えた。
 19歳になった逢坂大河と、もうすぐ19歳になる高須竜児は、めでたく恋人以上夫婦未満
といった関係になっている。
しかし、やることはとっくに済ませていても、いまだ親がかりなふたり。
 やはり毎日エロエロアマアマに惚けてるわけにもいかない。そういう甘美な数日間がたまに
はあっても、社会に巣立って、いつかは自分たちだけの家庭を持つための準備を怠るわけには
いかないのだ。したがって、のべつまくなしにイチャついていないで学生の本分を全うしろ!
という自律的な制約を、どちらからともなく課している。
 それは“したくなっちゃうようなエロい行為を平日は自重する”ということ。

 とある日曜日。
 さんざんおためごかしを書いておきながら、日々のつとめをこなしたら制約を解放してもよ
いとふたりが暗黙に決めている休日がやってきて、この話は始まる。


「りゅうじおっはよーーーぉぅっっ!」

 ばあん!と扉が破壊されるような勢いで開けられた。“元手乗りタイガー”逢坂大河が機嫌
よく高須家を訪問した合図だった。
 朝7時。
 かつての大河なら、休日は昼前になってからようやくメシを求めて顔も洗わず寝癖だらけの
ロングヘアをほやほやとぶら下げヨダレを垂らしながら半笑い(愛想のつもり)で訪れていたも
のだが、高校を卒業した今となっては違う。
 淡くけぶって腰まで届く薄い茶髪をきっちりおさげに編み込み、目覚めもさわやか、うっす
らと年齢相応のナチュラルメイクまで済ませて、満面の笑みは開きかけた薔薇のよう。扉を壊
すような粗忽ぶりだけは変わらないものの、竜児の彼女であり且つ婚約者である自覚を十分に
纏っていた。
 左手には先だっての誕生日に贈られたペアリングも光っている。
 基本は美しく貧乳で可愛い女。そして態度は現在もそれに見合ってはいない。

「おう大河、お早う!……もうちょっと静かに開けろよ。泰子起きちまうだろ」
「あ、ああごめん。つい。なんかつい。……もうっ!」

 エプロン姿で手を拭き拭き出迎える竜児に、靴を脱ぎ散らかして駈け込んだ大河は思い切り
のタックルを決めた。あ、まあ抱きついた、ということだ。小柄で軽い大河の激突を受け止め
きれないほど竜児も非力ではなく、しっかりと抱きとめてしばしの一体感を味わう。

 身長差が30センチ以上あるカップルらしく、大河は竜児の鳩尾に顔を埋めて、胴周りに腕
を回し込んで抱きつく。竜児は大河の頭から肩を上から包み込む。
 ふわっと立ち上るなんかの花の香りもして、コロンかトワレを仕込んでいるらしい。以前は
甘いバニラの香りだったから、なんだかずいぶん洒落っけが増したな、と竜児は思う。
 そうして少したったら、最近ふたりで開発した体位(「体位って言うな!」逢坂大河:談)
に移るのがこのところのお約束だった。

 それは、大河を立たせたまま竜児が膝立ちになる。というもの。
 そうすると、竜児の目線は大河の顎の下あたりに来ていつもと真逆、見上げる竜児を大河が
見下ろす。見下ろしながら目をふにゃぁ〜っと糸のように細めて、竜児の頭を抱きかかえたり、
でこちゅーやら瞼ちゅーやら普段はできない愛情表現を、この際は存分に楽しんでいる。

 嫌なら蹴るか殴るか爆発するか頭突きするか逃げるかなにかするだろう、思いついたらやっ
てみる。互いにウケたら次からお約束。という名称未設定メソッドによって、ふたりの愛情表
現は日々新規に開発され続けていた。つまり、これがバカポークォリティというもの。

578 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:15:10 ID:???
 もっとも、竜児にとってのこれは、大河に一方的なサービスをしているばかりでもなかった
らしい。

 この体勢になれば彼女の華奢な背中にごく自然に腕を回すことができた。スレンダーであっ
てもきっちりと筋肉の付いたかたちの美しい背中や脇腹の、とくに締まって魅力的なくびれの
辺りを触りまくれる、という。どうひいき目に見たところでエロい目的があったのはまあ間違
いなかろう。なにしろ胸に頬を埋められる位置でもあるし、ちょっと手を下げればきゅっと小
ぶりな尻や意外なボリューム感をもつ太ももを撫でられるわけで。
 その辺はお互いに分かってはいてもギブ&テイク。多少相手がはぁはぁしようと誰かに見せ
るわけでもなければ、何か困るわけでもない。ということで、竜児はおあずけ解禁の今日、日
曜日の朝。遠慮会釈なく大河の背中を撫でまわしていた。

 ――あれ?無え?

 小っこくて貧乳なのは事実であっても、それがどうした。俺はこいつのエロくて可愛いとこ
ろをたくさん知ってるぞ。誰にも教えてやらんがな。――と思っているかどうかは竜児本人し
か知らないことだが、まあ、鼻の穴の広がり具合を見れば当たらずとも遠からじ。
 親愛の情から劣情へといきなりスイッチが切り替わり、ぶくぶく別府温泉のように湧き出し
ているのも想像に難くない。その途中で竜児の手が止まっている。

 ――ねえよな?やっぱり。

 ないのだった。手触りが。ブラの。

 近頃すっかりラフな格好が板に着いた大河は、今日もジーンズ姿であった。
 いま着ている、竜児と出かけたときお揃いで買ってきたプリントTシャツは、一番小さいサ
イズなのにぶかぶか。結局は身体の線など出ない可愛いばかりな格好で、アンダーに何を着て
いてもバレようもないのだが、きっちりハグしてしまえばそれはちゃんと分かる。

 その、ニコライ・A・バイコフが旧満州の森の主たる、とあるシベリアンタイガーの一代記
を書いた『偉大なる王(ワン)』の主人公を模したと思われる、額に「王」の字の紋様を描かれ
た虎のイラストをプリントしたTシャツは、竜児が冗談半分に買ってやったら、大河が意外に
もネタと思わずに気に入って着ているものだ。
 お返しとばかりに大河は某ジャンプの人気漫画に出てくる神龍のTシャツを贈ってくれたの
だが、まあそんな過日のエピソードはどうでもよく、どこがお揃いなのかも本人たちが納得し
ていればいいこと。
 ともかく竜児は迫力満点の虎の顔に頬ずりしながら元虎と呼ばれた女の背中を撫でまわして
いるうちに、無い、と気づいたのだ。

 ノーブラなのだろうか?と凶眼を眇めてつらつら考える。
 そう言えば最近女子の間では流行っていると聞く。アンケートをとると27%がどこまでも
ノーブラで外出するよと答えるとか。そのぐらいの情報なら竜児といえども知っている。とい
うか大河が彼女になってから妙に気にするようになった。27%の大半がAAカップ&Aカッ
プの女性であるという細かいところまで。
 しかしそのアンケートは大手下着メーカーが行ったもので、対象は25〜54歳の女性に対
してのものだったはずだ。19歳は違うんじゃねえか?と思う。
 形くずれたりとか、心配しないのか?
 
 とかなんとか考えていたら、頭上で、ふふん?と笑う声がする。
 エロりゅうじ、ノーブラだと思ったでしょ?相変わらず朝っぱらからあんたの性欲にはほん
っと頭が下がるわねー。ま?

「はぁはぁされると嬉しくなっちゃう私がどうこう言えることではないけど?」
「……俺はそんなのより。……その、形くずれちゃったりしねえかな?って」

 な?心配してただけだよ。……すまん嘘。やっぱり興奮した。お前の色仕掛けにまんまと乗
せられちまった。くそう、こんなに無い乳に!と、ふにょんとした膨らみにぎゅーっと顔を押
し付ける。

579 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:17:23 ID:???
 あれ?「ふにょん」?
 これっていつもよりワンサイズ大きくねえ?どうせなにか盛ってるだけなんだろうけど、そ
れにしてもどういうことよ?気になる。気になるじゃねえかあーっ。
 その竜児の頭を抱え込みながら、ある意味で酷い罵倒をやり過ごした大河は、あ、あんたも
なかなか口車が巧くなったもんだわ、持ち上げて、落として、態度で締めるなんてと、まった
く意に介さず。

「まあ、正解はヌーブラ」
「ノーブラでなく、ヌーブラか?」

 そうそう、と身体を離して腰を屈めた大河が、ぶかぶか虎Tシャツの襟口を押し下げて見せ
た。隙間から臍まで見通せてしまった中に、確かにベージュ色に張り付いてる。努力のすえに
作られたわずかな谷間も見えた。

「ほうほう……盛ったもんだ」
「ワキ肉とかあったらもっと盛れるらしいけどね。いまはこれが精一杯」

 というわけでね。どうよ!?腰に手を当てて、傲岸にフンッと胸を反らせてみる、お馴染み
のポーズ。確かにプリントされた虎のほっぺたがふにょんと盛りあがってはいた。いたけれど
も、その態度が男のエロ心を刺激するかと言えば、そんなことは欠片もない。
 とは言え、そこは好きな女がやってること。大河が竜児のなんかのスイッチを、ポチっと押
したのも、また間違いはなかった。


「……」
「……」
「……おかわりは?」
「……ちょうだい。ていうか、そんなに見て。いい?」
「え?……お、おう。まあ」

 ふたり差し向かいで朝ご飯の午前8時。日曜日というのは近所の生活音も穏やかで、静まり
返って、天気もよく風もないとくれば、住宅街はほんとうに静かなものだ。
 そんな中で鋭い目の周りをぐるりと朱に染めて、ちらちらと彼女の胸元に視線を投げる竜児
の気、というかオーラ、もしくは期待感、のようなものが大河にも伝染して、爽やかに春から
初夏へと移りゆく気候に似つかわしくない若干しけった空気を醸し出している。

 上目遣いに凶眼を眇めて、描かれた虎を睨みつけては赤くなる彼氏というのも何に興奮して
るのか傍から見たら分からないよね……と思いながら大河が話しかける。

「私、一日空いてるけどどっか行く用事ある?付き合うよ」
「おう……俺も空いてるが。とくに用事は……ねえな」
「じゃ、さ」

 お休みの日とはいえ、やっぱり高須家では昼間っからイイコトはできない。竜児の母、泰子
にもふたりが既にそういう関係であると知られてはいたが、在宅中に事に及べるかとなるとさ
すがにそれはなかった。羞恥心という以前にそんなことで気を使わせたくはない。
 かといって泰子が出勤する夜から深夜にかけてというのも、翌日へ残す影響を考えたらでき
れば避けたい。諸々の状況に適応したら自然と、昼間、大河の部屋で、となる。

 当然ながら、きちんとした性格の竜児もそういうつもりでいるからこそ朝っぱらから劣情を
隠さないわけで、あんまり焦らすの可哀想。私も焦らすの得意じゃないし。

「午前中に家事すませたらさ、私の部屋でえっちしよ?」

 ……したくなかったらしなくてもいいけどいっしょに居て?と大河は大きな鳶色の瞳をくり
くり光らせてねだる。お、おう。なんだか悪びれずに積極的だなと思いながらも、その誘いに
逆らうつもりもない竜児。盛ったらサカった、という分かりやすい構図。

 かくして、昼過ぎには飲み物やお菓子などを買いこみ、ふたりはいそいそと大河の部屋があ
るワンルームマンションへと向かったのであった。

580 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:19:29 ID:???

「で、来させちゃってからで悪いんだけど……ね?」
「ん?どうした?」
「実はさ、昨日……来ちゃったのよ。いま二日目」
「おう、そうか。じゃあ今日は無理だな」

 いいさ、気にすんな。どのみちいっしょに居るつもりだから。ベッドわきのラグに寄り添っ
て座り、優しい目をして笑いかける。

 気分を盛り上げられた後にだめを食らってこの切り替え、というか聞きわけのよさ。お年頃
男子としてはがっかりしているのもまた事実なのに、これが竜児という男。
 腹いたくねえ?さすっててやるぜ?などと気も遣う。
 大河としてはこんな反応が予想通りではあっても、思いやりを向けられるとじんわり嬉しく
なってきて、ふひ、と頬が緩んでしまう。
 けど。

「大丈夫、そんなに重くない。それに、無理ってこともないんじゃない?」
「なに言ってる。俺だってそういう事ちゃんと調べてあんだから」

 生理中は傷つきやすいし感染症にもかかり易い、と指折り数えて教え諭す竜児に、ここで少
しでも辛そうな顔を見せでもしたら、そのまんま抱きあげられてベッドに寝かされそうだった。
 それも悪くはないけど、今日考えているのは別のこと。

「うん。汚れちゃうだろうし。竜児はそういうの気にするかな?するよね?」
「そういうことじゃなくてだな」
「私の体調を気づかってくれてるのも分かってる。そうじゃなくてさ?」

 やれるえっちが他にもね?たっくさんあると思うのよ。出来ないことは出来ないでいいから、
それはそれとして竜児をきもちよくしてあげる。気が向いたら私にもして?っていうのがね?
本日のシェフのおすすめランチっていうわけよ。
 いかがっすか?と寄りかかった肩と頭を受け止められて、耳元にちゅっとされる。キス魔の
竜児はすっかり平日モードになってて、このまんま午後いっぱいを過ごしてもお互いになにも
不満はない。けれどね?

「なんでお前が一方的にサービスするんだ?いいよ別にこうしていれば」
「だって……だってさー」

 ちょっとネタっぽくお気軽尻軽に言ったのはマズかったのかな?竜児は人並みにエッチでは
あっても人一倍繊細だからね。
 ま、小細工はやめて正直に言ってみよ。
 りゅうじ私が引っ越してきてから、その、ひとりえっちって……してないでしょ?そのぐら
い分かるもん。ほんとは週一回じゃなくてもっとしたいよね?お年頃だもんね。

「だから私もおつとめ頑張るから……って言い方じゃ竜児も呑めないか。そうねえ?」
「そんなの結局は同じことだろ?俺はほんとに……」
「そう……お姉ちゃんの言うこと聞けない?」

 きょとん、としてから。うわその話まだ続いていたのかよ?と竜児が笑いだした。
 竜児は私より誕生日がひと月遅い。先に19歳になった私は竜児のお姉ちゃん、という口実
でこのところじゃれついているのがふたりのブーム。竜児も私に手を引っ張られるのは少なか
らず楽しいらしくて、お姉ちゃん振りをするとけっこう乗ってくれる。
 分かった分かった、と可笑しそうに提案を受け入れてくれた。

「その代わり、よーーっく見てるからな。具合悪そうだったら即、打ち切りな」
「だーから別に体調は悪くないって。ちゃんとふたりでイイコト探そう?」

 おう。と声が弾んでるのが分かる。そうでしょ?いろいろ考えてたでしょ竜児も。お休みの
日が来たらあんなことやこんなことしたいって。

「ま、お姉ちゃんにまかせろ!いかせまくってやるから」
「あほか。いつもよりスローペースでいいんだよ。つか下品だろっ」
「下品で悪いかこのエロ犬野郎!とっとと独りでシャワー浴びて来いっ」
「いっしょに……は、そか、無理だよな」

「私は今朝きっちり済ましておいたから抜かりなし。ちゃんとキレイにしておいで♪」

581 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:21:59 ID:???

 シャワーを済ました竜児が所謂パンイチで出てきて、お?と感嘆の声をあげる。大河が肩丸
出しのチューブトップとハーフパンツに着替えていたから。
 ぶかぶかTシャツから身体にぴったりの薄いニットに変わって、ヌーブラ盛りの胸が強調さ
れている。髪は星柄のシュシュで止められてツインテールに上げていた。
 どこがお姉ちゃんだ、むしろ妹っぽさ全開じゃねえの?と竜児は思ったが。

「姉ちゃん夏っぽいな。いい感じだな」
「あんたの好きそうな感じにしてみた。……好きそうにしたら燃えないかな?」
「そんなことはねえ。寒くないか?」
「ん。大丈夫」

 実際、午前中に差しこんでいた日射しで部屋は少し暑いくらいでもある。

 どうやって竜児をきもちよくさせようか?っていうのは普段からいろいろ考えてる。考えた
ことの大半は空回りだったり、竜児の気持ちより私がしたいだけだったりするのもよく知って
る。だから綿密に計画したりしない。竜児をよく見て、よく感じて寄り添いたい。

 竜児をベッドに座らせて髪を乾かしてあげる。ドライヤーをわざと逆手に持って風を自分た
ちの方に向ける不自然な体勢でね。だってこうするとぴったりくっ付いたりもできる。隙を盗
んでむちゅっとキスしたりして。どうかな?こういうの?
 暑苦しいなあとか苦笑してた竜児がなんか黙っちゃった。
 と思ったら、お?背中にすーっと手を回してきたよ?やった!?やる気でた?

「ちょっとー。じゃまでしょー?もう、ステイもできないの?」
「……だ、だってよ。お前が」
「な、なによ?私のせい?」
「その格好……年下っぽいし、盛ってるし……おれだって……」

「んん?そうなんだ?なんか来た?来ちゃったっ?」
「だぁーーっ、もう、なんだよ!?な、なんかお前らしくねえっ!」
「あ、あれ?……あれれ?」

 あら遺憾な。いきなり空回り?竜児カオ覆って屈みこんじゃったよ。恥ずかしかったのかな?

「ねー」
「……」
「ねーごめんー。恥ずかしかった?」
「……そうじゃねえ」

「もしかして、お姉ちゃん振りムカついてた?」
「ちげえって。……すごく、その。したくなって」
「してもいいよ?気持ち悪くなければだけど」
「それはぜってーやらない。でも、したいって思うと……な?」

「うんうん。男子のおしべと女子のめしべが引きあうんだよねー?アンビバレンツだ?」
「……」

 ていうか、この格好って『らしくない』かな?自分ではけっこー似合ってるかもって、いま
までの経緯からしてもあんたも好きそうだなって思ったんだけど。

「……その態度だよ。甘えるんでなく脅かすんでなく、まるで同い年の女みたいで」
「なに言ってんの?同い年の女だよ。休みの日にあんたとえっちしたい婚約までした彼女だよ」
「なんだか妙な抵抗感があんだよ」

 なんで腰が引けてんのかいまいちよく分からない。でもまあ、私の小細工なんて巧くいった
ためしはないし、嫌ではないだろうから、手を引っ張るだけよね。

「心配いらないよ竜児。ふつーに抱き合ってふつーにイイコトしよう。ね?」

582 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:23:53 ID:???
 竜児ががまんできなくなったら、お、おお、おふぇ、おふぇんす……は攻撃。あ、まあ攻撃
なのは確かだわ。おふぇ……、ああもう!ここにブサ鳥がいればちゃんと「ら!」って受けて
くれるだろうにっ!
 はぁっ?と大口開けて驚く竜児に向かって、パッカーっとこっちも大口開けてからすぼめて
みると。うわ!色白でもないくせに胸元から真っ赤になってくわ!そ、そんなに恥ずかしかっ
た?ああ、また引きこもっちゃったよ?

「下品……。てかそんなのやらせたくねえ」

 あら。また空回りしちゃった。これもヤなんだ?……ほんとに?

「……そか。ねえりゅーじぃ。私が下品だったりエッチだったりするのは、いや?」
「え?」
「そんなにいやならやめるけど。……せっかくのお休みだしね。楽しく過ごさないと」
「お……おい?そんなことは」

 やがて竜児は、言い難いことをちゃんと言葉にして私に告げる。お前が下品なのは置いとい
ても、エッチなのは……その、全然嫌いじゃねえ。いや……好きだ。しかも俺、けっこう好き
みたいだよ。つまり、驚いてるんだよ。
 うん。恥ずかしいのに言ってくれてありがとね。私もちゃんと目を見て答えた。

 じゃあ分かったから、と。座っていた竜児を押して仰向けに寝かせて。その上に寝転がって
みるとお腹に固いものが当たって、押しつぶさないようにちょっと腰を浮かせる。
 案ずるより生むが易しってことよ。慣れよ、慣れ。ほうら、嫌がんない。

「ふふふ。そか。いつも竜児が上になってる時はこんな気分なんだね?」
「わかるか?……ちょっと違うんじゃねえの?」
「ちょっとの違いなんかいいじゃない。私は今日初めて知ったよ?」

 ちゅ……ちゅ……ちゅ……と。竜児の広い胸を吸う。きもちいい?と聞くと、くすぐってえ
と答える。少しずり上がって、顔にも、口にも吸いつく。
 別に私がしたがるから合わせてくれてるんじゃないよね?身体だけじゃなく気持ちでもこう
したいって思ってくれてるよね。

 ぎゅう、と抱きしめられるから分かる。これは、したい、という男の子の意思。目の前にい
る、したい女の子を逃したくなくて、こうしてきつく抱きしめてると分かる。
 したい男の子は、竜児。したいと思われてる囚われた女の子は、わたし。この息苦しさはそ
の証拠。女の子もされたい、と思っているし、したい、とも思ってる。
 今はこの拘束から逃れるのなんて、いやなら身を引き離すのなんて、簡単。でも下から上に
場所を変えただけで見えなかったものが見えてくる驚き。それが私を離さない。
 いつも上から来るのは、彼がやっぱり男の子だから。どんなに優しくてもね。

 逃がさないよう抱きしめていた竜児の手がするっと差しこまれて背中を直に触られた。薄い
チューブトップを少しずつ、くるくるめくり上げられていってお腹とお腹がぺったり触れる。
私は半身を浮かせて脱がせやすく協力してあげる。

「ヌーブラは剥がしちゃうともう一回着けられないからね?いちおう警告」
「そうなのか?……じゃ大事にしねえとな」

「あはは♪大事ってなんだ。好物はとっといて後で食べる性格かー?」
「おう、俺はそうだよ?」

「私は逆だね。だから竜児のおかずは最後にはいっつも私にとられちゃうってわけ」
「なに言ってんだよ。食べ足りないお前のためにとっといてる優しい気持ち分かんねえ?」

 ふふ。知ってるよ。私の棘をぜんぶ受け止めてくれる男の子が好き。私を捕まえて蹂躙した
いと思う男の子も好き。どっちも竜児。竜児のぜんぶが好きだよ。

583 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:25:50 ID:???
 竜児の目をじっと見ると瞬きもせず見返される。竜児の視線が時折りつっと泳いで見るもの
は私の唇?また動いた。やっぱり見てる。じゃあ、あげるね。
 くちゅ……ぴちゃ……ごくって、いろんな水の音が聞こえてくるこんなキスはお休みの日だ
けの特別なコト。こればかりは上に乗ったからといってそう変わるものでもない。それでもす
ぐに力が抜けて行っちゃうような感じが、今日はずいぶんと薄い。

 竜児の手がまた私の背中をぎゅうと捕まえて、けどいろんなとこ触りたいらしくて落ち着か
なく動きまわる。腕を支えにして、ぴったり付けていた半身を浮かせてあげると、出来た隙間
にすぐ滑り込んできた。寄せてあるから、今日はちょっとだけ揉める。
 掌がすっごく熱くて、それが胸に当てられて焼かれるような錯覚さえしてくる。むにむに揉
まれるのって、実は今までになかった。なんかいい。しびれる感じ。
 でもエッチな手は同じところに留まっていてはくれない。パンツ越しにお尻をやわやわ揉ま
れたりもして。ん……じわじわお腹の中に熱い塊が生まれてきてきもちいい。
 う……ん……今日は、頑張らないと。

 生理中は、いつもこうだ。普段の倍は敏感になってしまって、そのかわりいつまでもじわじ
わ燃える。いつものように急に跳ね上がったりしないで、くすぐったく、もどかしく、いつま
でもじわじわ暖かい。
 ……けど、登りつめる感じだけは、遠い。
 竜児の手は頬にも当てられ、ツインテの髪を指に絡めて遊んだりもする。したい、だけじゃ
ない竜児の気持ちも、だからこうして感じとれる。

 ようやく唇を離して、はふ、と身体を預ける。落ち着かなかった竜児の手がまた背中に戻っ
てきて、でも力を込めはしない。いたわるように撫でてくれる。いい。これすごくいい。私も
シーツとの間に腕を差し入れて竜児の背中を弄ってみる。ちょっと休憩。

 でもこれじゃいつもとほとんど同じなんだよ。位置が変わっただけ。私を登りつめさせて、
それを見て感じた竜児がいくっていう。
 今日は違うことをしてみたい。
 目の前にある竜児の乳首にちゅっと吸いついてみる。男の子だってここはきもちいい。ゆっ
くりと、優しく、唇と舌と歯を使って刺激する。いつもはあんたが私にしてくれることを感じ
てみてね。


 きもちいいよね?がまんしてるね?何度も腕に力がこもるから分かるよ。お腹に当たってる
固いものがときどき跳ねてるし、もうしたくてしたくてたまんないんだよね?それが分かっち
ゃうと恥ずかしいから、そんなに腰をひねって逃がそうともするんだよね?
 なんて、いちいち問い詰めて遊ぼうなんてつもりまではないから。最後まであんたの死にざ
まを看取ってあげるから。

「別にあんたをいじめてるんじゃないからね」
「おう……。なんか俺も妙な気分だ。されるがままっていうの」
「お姉ちゃんに……まかせろ!大丈夫!……その、くちではしないから、さ」

 お、おう……。と自分の前髪をぐりぐり弄って恥ずかしそうな竜児を見て、かわいい、と思
っちゃった。いちど思ったらそれはわぁっと広がってきて、なんだろう?この気持ち。もう、
なんでもしてあげたい、って思う。
 少しずつずり下がりながら、竜児のお腹にも同じように丁寧にキスをする。薄い皮膚の下に
ある腹筋がときどきぴくっと動くのはきもちいいから?手が届かなくなるのが寂しいのか、半
身を起き上がらせて私の頭を抱え込んでくる。
 ……のはいいんだけど。
 け、けっこう背中がきついっ。あんまり我慢してると攣っちゃうかも?りゅうじ両手後ろへ
ついて?こうか?腰浮かせて?こ、こうか?
 きりきり指示して、がばぁっと。トランクス脱がした。


「……」
「……」
「……す、すごいね?」
「すごいって……見たことも触ったこともあんだろ?」
「明るいとこでじっくり見たことないもん」

584 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:28:11 ID:???
 こんなおっきなの、いつもよく入るもんだわ。そういうふうに出来ているんだから不思議は
ないけどさ。それよりも驚いたのは水の量。

「がまん汁……っていうの?こんなにたくさん出るものだったの?」
「まあ……な。知らなかったか?知らねえか。でも今日はすごく多いな」

 『潤滑の役割を果たす』って知識くらいはあるけど。そんなのは女の子の方が受け持ってる
もので、男の子の方は申し訳程度って思ってた。
 それがどうだろ?頭はぬらぬら光って、半ばにも回ってて、先からは続けて水滴が零れ落ち
てる。脱がしたばかりでまだ手に持ってた竜児のトランクスにも、柄物で気づかなかったけど
いっぱい滲みて光ってた。
 思わず匂いをかいじゃったり。

「おいおい、下品だろそりゃ?ちゃんと替えも持ってきてるからその辺置いとけ」
「いいじゃないよ別に。あんただって同じことしたことあるじゃん?」
「え?……ああ。そうか。そういやしたな?……おうぁっ!」

 握ってみた。
 ぬるっという感触は女の子のと変わんない。ちょっと濃いかな?あんまり話し込んで竜児の
やる気が減るのはもったいないし、少しずつでもね?進めないと。
 握った手を開いてみると糸を引いてる。手の中で竜児が魚みたいにびくんって跳ねて、新た
に水滴の球が絞り出されてる。それを指で拭いとって、塗りつけて、ぬるんって滑るのをまた
握って擦ってみた。
 どう?こうしてるときもちいい?竜児の顔を見上げると。

「も、もうちょっとその、優しくしねえ?」
「あっ痛かった?ごめん」
「い、いや……痛いんじゃねえよ。指……きもち良すぎるんだよ」
「わかった。こんな感じ?」
「おう、それそれ」

 擦るのは刺激が強すぎるらしいから、力を込めずに握って開いてお遊戯みたい。それでもき
もちいいらしく、竜児の息が荒くなってくる。肩で息をし始めて、もうどこでもいいから私の
身体に触りたいって感じで手を伸ばしてきてる。
 そういうの分かると、私の方も変になってくる。触られてるわけでもないのに、胸に貼り付
けたヌーブラがもどかしく感じられて。

 何度も見たことある、あの竜児の表情は、たしかもうそろそろマジっていう気分のとき。
 かわいい……かわいいっ、もうっ。もっとこの時間を長引かせたいと思い、この気持ちのま
ま弾けさせてほしいとも思う。
 だから握るのをやめて、竜児の腰骨と内またにキスをした。吸いついたり、軽く歯を立てて
みたりする。固くておっきいのを頬に当てながら、竜児に与える刺激を分散する。
 これならきもちいいのが長く続くよね?
 
 はぁはぁ私の息も荒くなってきていたことに、でも、気がついてしまう。
 本当はさっきから熱い塊がお腹を下りていってすごくもどかしい。専用ショーツに夜用を着
けてガードしてるから漏れ出したりはしないだろうけど、私の方だってきゅっと締めてみると
するんするん滑る感じがしてる。こんなのびっくり。きっと大変なことになってる。

 いま、頬にくっ付いてびくびくいってるこれで貫かれてしまいたい。息が止まるほど抱きし
められて、思い切り体重をかけられながらいっしょにいってみたい。
 ここでおねだりしたら、と何度も浮かんできてしまう。きっと竜児は。
 でもそれじゃいつもと変わらない。いつもならそれで良くても、今日生理中なのにえっちに
誘ったのは竜児に楽しんでもらうためだから。私がエッチなお姉ちゃんでなくちゃいけない。

 行きたい、留まりたいの綱引きにちょっとぼうっとしていたかも。
 不意に、頬に竜児の水が垂れてきて、思わずぺろんと舐め取る。と同時にびくんっと跳ねる
竜児の肉と、微かな塩気を感じて。
 ……そうしたら夢中で咥えこんでいた。焦らすもなにもなかった。皮を剥いたバナナにかぶ
りつくように根元を握って、ぱくん、と。
 えっ?と驚いたような声に我に帰り、握ったまま慌てて口を離す。ご……。

585 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:30:24 ID:???
「ごごごごごごめんっ。くちでしないって言ったのに」
「お、おう……そんなことは」
「その……ちょっと夢中になっちゃってて」
「顔、真っ赤だな。お前も……したいんだろ?」
「え?あ、まあ。ちょっとだけ。ちょっとだけだから」
「だったら……俺も」
「だめ」
「え?」
「……生理中のあそこなんて、竜児に見られるの、本当は絶対にいや」

 俯いて、ひと芝居打った。竜の目に見抜かれちゃった以上は通じるかどうか分からないけど、
女にだって意地やこだわりはあるよ。竜児がいやなことなんかさせない。

「……そうだよな。じゃあ、くちでしてくれるか?」
「え?それはいいの?」
「俺だってもうたまんねえんだよ。そのかわり、あとで俺にもまかせろ」
「うん。わかった。商談成立」
「商談じゃねえよ。せっかく好きなやつとえっちしてんだからさ」

 相互主義(キリッ)ってやつだよ。と笑う。

「あは、あ、そうだね。じゃあちょっと起き上がってよ」

 竜児をベッドに浅く腰掛けさせて、私は下に降りて膝立ち。これで互いに手も届く。もうち
ょっと膝開いてね。こうか?そうそう、その間にわたしが入り込むから。

 で、こうなると困った。いまさらだけどくちでするってどうやれば?そりゃ思い切り妄想し
たことは何度もあるけど具体的なイメージが思い浮かばないとこは早送りしてたから。
 やった事ないし、やり方を教えてもらった事もない。竜児に訊いても詳しくは知らないって
言う。……まあ、もし知ってたらいろんな意味でお茶の間ドッカンだし訊くまでもなかった。

 じゃあ、と提案。いろいろやってみるから、きもちよくなかったら1回、よかったら2回、
痛かったら連打、頭か肩を叩いて知らせろ。ということにして始めてみた。習うより慣れろっ
て言うし、没頭していれば私の方の熱も増えないだろう。

 しばらく中断していたからか、ちょっと柔らかくなった竜児をぱくん。歯を立てちゃ痛いよ
ね。舌と上あごで挟んで押したり緩めたりしてみる。さっきのお遊戯と同じはずで、ぽんぽん
と2回。くちの中でむくっと膨れてくるのが分かるから、叩かれるまでもない。
 次は舌を前後に動かして擦ってみた。ぽんぽんっ、ぽんぽんっ、と2回を2連続。ん?すご
くいいってこと?上目遣いに見たら、うんうんと頷いてた。そのまんま固定して頭を使って引
っ張ったり押したりしてみると、ぽんと1回。これは良くないらしい。念のため歯を立てて見
たらやっぱり連打。

「実際にはそんな痛いわけじゃねえけど。……ちょっと怖いんだよ」
「ん。わらっら」
「あ、喋るな喋るな。ひっ」

 ひっ、とか言ってるよ。少し可笑しくなりながら、きもちよいと判定された動きを組み合わ
せてしばし専念。ときどき竜児を見上げるとさっきのような表情になってきて、やっぱり切な
さが伝染してきてしまう。

 竜児が私の肩や背中に手を置いて、ときどき力を込めてつかむのは、たぶんきもちいいって
知らせてくれてるんだろう。私も竜児の腿を浮き輪みたいにして、腰に腕を回して抱きついた。
竜児のお尻をわしづかみにして、私にも訪れる波を伝えてしまっている。
 息継ぎをかねてソフトクリームみたいに舐めてみたら、またぽんぽんっ、ぽんぽんっ、と2
回を2連続で叩かれる。あ、こういうのもいいんだ?なんか分かってきた。うまく緩急をつけ
るのがコツなのね。

 よーしわかってきた。ちゅるっ。あーん。ぱくっ。挟みこんで前後に……。竜児の手から知
らされるきもちいい信号をベースに。乗せて私のきもちいいもメロディにして返してる。
 本当は返しちゃいけないのかもしれなかった。私がいい感じになるからあんたも感じるって
いうんじゃないなにかを欲しいのなら。
 でも、なっちゃった。
 そうならないように、注意深くしてきたのに、そうなっちゃった。だって。
 欲しいんだもの!力いっぱい竜児の腰を抱きしめる。

586 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:32:33 ID:???
 ごんっ!痛っ!
 竜児が背中を丸めて真上から頭突きを落としてきた。かなり痛いっ。どうしたっ?いったい
何があった?抱え込まれたうしろ頭をせわしなく撫でられてると声が降ってくる。

「たいがっ、や、やばいっ!」

 おおっ、そうか!まかせろ!お姉ちゃんに。元手乗りタイガーは伊達じゃないっ!もちろん
このままアクシズの落着を受け止めてやるわよっ。もういちど腰に抱きついて、尻をわしっと
つかんで、咥えた竜児が今までになく膨れ上がって来るのを舌で擦る。
 すごい、こんなにおっきく?
 びくんっ!と大きく竜児の腰が痙攣した。後から、何度も。

 私の頭に額を付けて、はぁはぁ大きく息をしてる竜児を感じる。初めて感じる言い表しよう
のない……なんだろ?達成感?そういうのといっしょに湧いてくる愛おしさも、また。
 抱きかかえた竜児の痙攣の波が去って行くのを感じて、それからだんだんと小さくなるくち
の中の竜児を吸って、竜児の遺伝子を一滴も残さないように舐め取って。ごくんと飲みほした。

 喉の鳴る音が聞こえたのか、ば、ばかっと竜児が言う。飲むなんてお前!と慌ててるみたい
だった。何で慌てているのか分かんない。飲まないのなら、どうするの?他に?と思う一方で
みるみる私の顔が歪んでいく。な、なにしろっ。

「まっっずぅ〜〜〜いっ!不味い不味い不味い生臭いっ!うっわぁ〜〜!」
「ほ、ほらみろ。早く吐いてこいっ」
「は、はあっ?何言ってんのあんた。もったいないじゃんっ」
「え?」
「でもこれは酷い。酷過ぎる。うがいだけはしてくるっ」

 洗面のあるバスルームへだっしゅ!ガラガラガラガラ……。


「はあ、落ち着いた。……なにさ。どん引き?」
「ちょっと引いた」
「なんでよ?あんたから出たものじゃない?汚いものでも身体に毒なものでもないでしょう?」
「だってよ。飲むものでもねえだろ?」
「そうだけど。そうだけどさ。……味も最悪だし」
「じゃあ何で?」
「私にとっては……大事なものだもん。吐きだして棄てるような汚物じゃないよっ」
「……あ」
「いつかはあれが……って、どうしても思っちゃうもんっ」

 ちょっと涙目になってた。変なことしたのは分かってる。竜児が引いちゃうのも当たり前と
は思う。男の子にとっては重くてウザいだけのことだろう。でも。でも、分かってもらえなく
ても竜児には言わなきゃならないこと。

「あんたには棄てるものでしかなくて、キモいだろうけど」
「……それは。そうだよ」

 私はちょっとずつだけど、いつも棄ててるのは寂しかったんだ。いつかあれがっていうのと、
あれが身体の中に入らなかったっていうのとあって。

「だから、飲むんなら、って。思っちゃったんだよ」

 竜児が突っ立ったままの私の手を引っ張ってベッドに座らせた。悪かったな、と言いながら
ハグしてくれた。さっきまでの抱きしめと全然違う手の感触が心地いい。でも私が泣いてるか
ら受け入れてくれたとしても、何の意味もないこと。

「気を使わなくていい。わがままなのも分かってる」
「俺から出たものだし、汚くも毒でもねえ。それはそうだ。でも……分かんねえ」

 いまお腹の中だよ。消化されちゃうから。だから本当にはぜんっぜん価値がない。分かって
るけどそれでもね、初めて私の身体に入ったっていうのが嬉しいことなんだ。
 それが嬉しいっていうのを……本当に分かるのは難しいかもしれねえ。

587 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:34:55 ID:???
「きっとね、こういうのをわだかまりなく分かった頃にさ……私たちもさ」
「ああ、そうか。そういうふうに思うのか。お前は俺より先にそこ越えたんだ?」

「次飲むかっていったら私だってね、微妙ではあるよ……」
「ああ。分かるようになる。そう思ってるお前に引くのもやめる。そこは謝る」
「うん、わかった」
「ちょっと時間くれ」

 エッチな事しない関係のときだって分かりあうのは大変だったけど、こうなってもまだまだ
あるもんだね?と、向けてみた。
 そうだな、でも全部お前と越えていく。と、答えてくれた。


 抱きしめられてるうちに、もっと竜児にくっ付きたい気持ちになっていく。
 間が空いて、というよりもごっくんでエッチな気分がパァっと飛んでったけれど、んしょ、
っと竜児の腿をまたいで向き合って座ってみた。少し悲しかった反動で、竜児に甘えたい気持
ちばかりが生まれてくる。今日はもうこうしていよう。

 甘かった。
 ちゅ……ちゅ……と軽いキスを交わしただけなのに。なんかもう切なくてたまらなくなって
いる。そんなことするつもりなんてないのに、竜児に胸を合わせてすり付けてしまう。さっき
にも増してもどかしい気分が帰って来てしまった。
 いちど入った火は身体を引き離さなくちゃ消えてくれない。でも離れるのいや。さっき竜児
の火を消しちゃったのに、もう竜児にどうにかしてもらうしかない。ああもうっなんだ?自分
の身体なのに。

「どした?休憩済んだなら約束どおりきもちよくしてやるぞ」

 気配を覚った言葉が嬉しくて、返事の代わりに、ぎゅーーっと抱きついてやった。今度はし
たい女の子が、わたし。したいと思われてる男の子が、竜児。

 首筋から鎖骨、胸へと竜児の唇が這うと、いつもと段違いに感じる。いつもならウォーミン
グアップみたいな、火を起こすための軽いちゅっちゅなのに。うっ……、んっ……、といちい
ち声までもれてしまうの、恥ずかしい。思わず手で口を塞いだ。

「……聞かせろよ、大河」
「んっ……あんたっ……面白がってるっ?」

「面白いに決まってる。最初からこんなになるなんてな」
「さ、最初じゃ……ない……もんっ……ううっ」

 続きだもん、ずっとだもん。そう言おうとする前に、腕を挙げていたから、脇をちゅうっと
吸われた。いつもならくすぐったいだけでここを遊ばれるのは相当あとになってから。それな
のに肩ぜんたいに電流が走ったような衝撃にぶるぶる震えも起きてしまう。
 耳元を吸われ耳朶を噛まれ、そのたびに大きく息を呑んで、気配を竜児に読まれてしまって、
今さらながらお姉ちゃんの面目も丸つぶれ。でもいい。いい。いいの、とっても。

 そろそろ剥がしてもいいかーと、のんびり竜児が訊く。さっきから手の感触を隔てていたヌ
ーブラのこと。……うん。もう直に触ってほしい。ま、剥がしちゃうといつもの控えめなもの
でございますが。と思いながらも大きく頷く。
 ホックを外されて左右一つずつゆっくり剥がされる。剥ぐときの刺激でさえびりびりと響い
てきてきもちいい。ちゃんと粘着面を上にしてローテーブルに置いてくれる竜児は、こんなと
きにもきちんとしてる。

 ちゅるっと竜児がくちに乳首を含んだら、あっ?あっあっ?えっ?なにこれ。背中が攣った
ように伸びて後ろへ反り返ってしまった。
 息ができない?伸びないと、だって。なにかが弾ける。慌てたように竜児が支えてくれる。
 まさかいった?こんなんで?と驚いた竜児が訊くので、かろうじてかぶりを振る。いっては
いない……はず。こんな感じじゃなかった。何が起きたのか私にも分からない。

「わ……分かんないよ。なんか違うと思うけど……分かんない」

 じゃあ、と続けて竜児は胸にこだわる。あまりびくんびくん私が跳ねるので少しずつ柔らか
なタッチに変えては見ている。それで、ちょうどきもちいい当たりをつけてくれた。

588 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:37:08 ID:???
「上半身だけいってる……のかな?分かんないけど」
「へえ、そんなこともあるんだ?」

 ほんとに分かんない。衝撃、というより波紋がわっと広がるんだけどお腹まで届いてはいな
かった。程度の差はあってもいつもは直通回線?が通じていたのに今は途中で切れている。

「竜児ぃ……わたし、もう。……そのー、あのー」
「おう。そろそろなんだな?」

 私を抱え上げて身体を入れ替え、ベッドに寝かしてくれる。竜児は添い寝して、直に触られ
るのも嫌だろうし、やっぱ衛生面がなと呟いたりしてる。結局、ハーフパンツ越しに掌を置い
て揉んでみる事にしたらしい。私も片手が入るだけ膝を開いた。

 うあぁっ、って感じだった。掌が置かれて重みを感じただけで。思わず跳ね起きて竜児に抱
きついてしまったくらい、気づかなかったけど、じんじんした切なさがたまりまくっていた。
 すごいことになってるなと驚かれてもしょうがない。揉み始めようとしたらいきなりずるっ
と滑っちゃったんだから。まさに集中豪雨で地滑り寸前の丘、という感じ。

「これって、……本気汁?っていうんだよな?」
「い……いちいち口に出さないでいいから。それよりさ」

 ぜってー俺のより多いだろと恥ずかしいこと言われて返す言葉もないが無視する。漏れは大
丈夫と思うけど、滑ってずれてしまうとちょっとした惨事になるかもしれないからずらさない
ように頼んだ。
 分かった、まかせろと竜児は前向き。


 はぁっ、はぁっ。きもちいいか?うんっ……うんっ!可愛いな、大河。はぁっ、あ?……こ、
言葉責めってやつっ?……なんでだよ?言葉責めってのは、そうだな?『大河、お前ってやつ
はなんていやらしいんだ』とかそういうんだろ?

「そ、そうよ。……私いやらしいよ。エッチなことよく考えてるよ……はぁっ」
「ずいぶん素直に認めるんだな?」
「だってさ……私をこんなにしたのって……竜児だよ。あんたしか知らないもん」
「おま……まあ、それはそうか」

 擦るとずれちゃうなら、じゃあ、押すか叩くしかない。キスされながら探されて、ていうか
直に触ったこともあるんだから探し当てるのは簡単なはず。見つけたら指で叩いて押して、あ
とは私の反応を楽しく見ながら竜児が遊んでる。

「……竜児といろんなえっちするのよく妄想するよ。夢でもみるよ。あっ」
「ごめん、きつかったか?」
「大丈夫……あっ」
「俺も……そうだよ。大河とのことよく妄想してるよ」
「えっ?かわいい、りゅうじ。あっ!あっ!」
「もうすぐか?すぐだな?」

 竜児の首にかじりついて、もうすぐ来る。
 腕枕してくれて、敏感なところを探して指いっぽんで刺激されて、身体をぴったり付けて、
耳元でエッチな事ささやいてくれて。
 もうさっきから何度か波が来てはいた。お腹がぴくっと引き攣れたり、ざわっと鳥肌が立っ
たり。巧く乗れるきっかけがあればすぐにでも来てしまいそうだった。
 竜児がパンツの上から当てた指をくりくりする。乳首を含んで、舌でとんとん叩く。それで
また弾かれたように背中が伸びちゃったけど、やっぱりお腹と連動しなかった。いろいろ探し
ながらしてくれてるけど、やっぱり生理中の私はいきにくい。

「大河、俺さ。独りでいるとお前とのえっちをいつも思い出してる」

 またささやき戦術?……でも?これ効く!?ええっ?触られるのより言葉が効くの!?

「さすがにおかずにするまではなかったけどさ、今度してみようかって思うんだよ」

 そ、そんなこと?面と向かって彼女にお前をおかずにするぜ発言てあんた……あ、ぶるっと
来た。ぞわっと来た。感じるのはやっぱり脳、ってこと?……なん……だね?

589 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:39:45 ID:???
「りゅ、りゅうじ、して。今度してみて。どんなか教えてっ」
「ああ、するとも。今のお前のいきそうな顔、よく見せろ。それでしてやる」
「え、ええっ?やっ、やだあっ」
「それか。よく覚えとかないとな。そのエロくて可愛いーい顔をな」
「やだぁ、そんなのやだよう」
「もう見ちゃったもんな。しっかり覚えたし。どんだけ可愛いと思ってるか教えてやるよ」

 竜児は私の手をとって、自分の股間に導いた。触ってみろという。……さっき出したばっか
りなのに、インターバルに最低1時間要るって言っていたのに、握りしめてみた。思いっきり
固かった。おっきかった。
 ど、どうだ分かったろ?と、いじめる竜児の声も震えてた。いきそうな私を感じたから竜児
も興奮してる?はぁはぁしてる?だからこんなに固いの?ぬるぬるになってるの?
 かわいい、りゅうじかわいいっ、もう……もうたまんないようっ!
 分かったとたんに、まるでスイッチが切り替わったみたいに、私は急坂を登りだしていた。

 登り始めたと思ったらすぐ。あ、竜児!私もう!と、出ない声で最後の別れを告げる。竜児
はそれを聞くなり半開きの唇を吸ってくれる。キスされながらいくの私がすごく好きだって、
もう知ってるから。

 間近で落雷を見たように視界が白くフラッシュして、一瞬音が聞こえなくなって、身体と身
体の外の区別がつかなくなって、時間が止まったように。
 声なんかもちろん出やしない。息もできなくなる。止まった時間が動き出して、息を吐きき
ったのか吸いきったのかが分かって、ゆっくりと音が聞こえてきて、一杯に入った力で痙攣を
し始めてるのが分かるまで。

 やがて最初に声が聞こえてきた。見たぜ、しっかり覚えたからな。大河。お前めちゃくちゃ
可愛いな。最初に見たのは優しく笑いかける竜児の顔。
 その言葉を理解したら……もう一度来た。


「……おはよ、竜児。ていうか寝てはいないけど」
「おう。今日は長かったな」
「そんなに?どのくらい?」
「2回合わせて30秒くらいいってたかな」
「ふーん。そんなもんか。いつも息止まってて死ぬんじゃないかって思うけどね」
「だから逝くって言うんじゃねえの?……まさかな」
「あーでも。なんか今日のはすごく深かった」

 ふぅーーーっと長いため息をついていたら、ところでよ?そろそろ離さねえ?と竜児。
 ふと見れば私、股間の竜児を握りしめたままだった。あ、ごめん。と言いつつ、その固いま
んま大量の水滴といっしょに握り込んだぬるぬるの竜児をゆっくり擦りだしてみた。お?とい
った感じで見つめる目に笑いかけてみる。

「竜児……もしかしてこのままきもちよくいけそうだったり?」
「ん?……ああ。たぶん」
「じゃあ、私の上に乗ってよ?それでお腹の上に出して」

 さっき見た顔を忘れないうちにね。私があんなによかったんだから、あんたもさぞ心穏やか
ではなかったでしょうよ。したくてしたくて、もう、たまんなかったでしょ?

「……おう。……もう、すぐいっちゃいそうだけどな」
「いっしょにいくって、思ってよ。いっしょに行こう?」
「大河……」

 仰向けの私の肩口に腕を滑り込ませて、竜児が頬を合わせてくる。きもちよくなるよう丁寧
に両手で握って、擦ってあげる。
 もうゆっくり楽しもうとか、そんな雰囲気ではなかった。一秒でも早くいっしょにいきたい
と思っているのだろう。忙しく胸をもまれたり吸われたり、ぎゅうっとされたり、こんなに獣
っぽい竜児を初めて見る。……これも、かわいい。
 私の手の動きがもどかしいのか、竜児の腰が勝手に動き出すのをみて、あ、頭はもういきか
けてるのに身体はまだ次が装填されてないんだって分かる。じゃあ、助けてあげる。

「竜児、私ね。妄想するだけじゃないよ?」
「はっ?そうなのか?」
「うん……寝る前とか……指でしたりも……するよ」
「どんな……妄想……したりする?」
「恥ずかしいこと。ねえ、いつも優しい竜児がね?私を……むりやり犯すの」
「そんなこと……しねえよ」

590 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:42:07 ID:???
 しないのは分かってるよ。妄想だから。
 頬を合わせていてどんな顔をしてるのかは分からない。けれど、抱きしめてくる腕の力も、
頬に伝わる熱も、いまの竜児の気持ちを伝えてくれる。どこでお前は俺に犯されるんだ?と続
きも訊いてくる。

「いろんなとこだよ。昔いたマンションで水着みせたときとか」
「……お」
「あんたのうちで寝てたときにとか」
「……」
「でも、いちばんいいのは……ここだよ。この部屋」
「そんなことを……」
「やだって言ってるのに、あんたは無理やり私をひん剥いてね、獣のように犯すの」

 ……今みたいな感じで。やだやだって暴れてるうちにね。でも私はよくなってきちゃうの。
 ……あんたにぎゅっとされて、上から思い切り押さえつけられて逃げられなくて。でもすご
くいいの。屈辱だって思ってるのに、どうしようもなく、いいの。
 手の中の竜児がすごく膨れてきた。このシチュエーションはいいらしい。実際にはあり得な
いしする気もないっていうのに、なんていう不思議だろ。

「そんな私を見たあんたもよくなって、こんなふうにすっごい固くなるのよ」

 それを感じた私がまたよくなって変な声も出ちゃって。それを聞いたあんたがさらに興奮し
て乱暴にするのよ。……そうしてるうちにね、私、いっちゃうの。そんなふうにされるのなん
て死んでもいやで、屈辱だって思ってるのに。涙ぼろぼろ零しながらいっちゃうのよ。

「さっきあんたがしっかり見たような顔をしてね」

 くっと竜児の身体が震えた。しっかり握った方の竜児もびくびく跳ねた。お腹に飛び散った
熱いものは溶岩だろうか。何度も、何度も震えてる。ちゃんと抱きとめてあげる。きもちよか
ったでしょ?竜児。


 代わる代わるシャワーと着替えを済ませて、私たちは寄り添って座った。いつもと同じよう
に頭を肩に預けて、指を絡ませて。
 少しけだるくて、残り火が温かくて、気持ちが穏やかに帰ってくこの時間はとっても幸せ。
ぽつ、ぽつ、となんの虚飾もなしに竜児と話すのがすき。

「挿れなくてもえっちって出来るんだな。教えてくれてありがとな、姉ちゃん」
「あー。途中からお姉ちゃんなの忘れてたよ。ていうかこんななるなんて思ってなかった」

「……計画的犯行に見えたけどな」
「わたしゃエッチな女で実行力には自信あっても、騙し続ける器用さはないわー」
「ああ、そっか。ただ姉ちゃん振りしたかっただけか?」
「そうなの。生理になっちゃってやばいと思ってさ、ただがまんさせるのも悔しくてね」

「言葉責めっていうのもいいよな。すっげえ新鮮だった」
「へ、変態だ。……ねえ。ほんとに私のこと思いだしておかずにする?」
「する。つか、わりと当たり前のようにしてる」
「ああいうシチュエーションでか。強姦魔」
「言い訳はしねえけど、ひとりでしたいときはお前に対して我慢できないときだからな」
「やっぱ男の子だよね、そういうとこは。まあ妄想だし好きなだけ犯すがいい」

「お前の方こそどうなんだよ」
「ほんとにするよ。実は先週もした。でも竜児とは逆パターンだね」

 一年も離れていたんだもん。ずっと逢いたくて、ずっとしたかったもん。だからいまこうし
てるような雰囲気のまんまでいつのまにかつながってる、ていうのがほとんど。

「意外でしょ?」
「おう、意外だな?もっと体育会系な感じだと思っていたけど。やっぱ女の子なんだな」
「これはこれで女の都合ってやつなんだけどね」

 じゃあ今は?と追い討ちをかけられたので、平日できないから寝る前にちょっと、と答えて
おく。すると、なんだ、じゃあ離れていてもいっしょにいてもするんだな。同じだな、と。
 そうね。それは同じ。

591 お姉ちゃんにまかせろ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:44:50 ID:???
「けど今は実際にしたことを思い出して……するよ」
「へえ?」
「妄想より良かった現実があるのに、代用は要らないでしょ?」
「思い出だと何度でも再現できるってわけか?」

 ううん違うの。思い出しても、そのとき現実に受けた感じまでどうしてもいかない。こうだ
ったはず、って思いながらするのよ。それで、だから、次の機会にはこんなことしたいなって
思えてくる。

「……ね。でもさ?今日のはお互いにいいおかずになると思わない?刺激的だったし」
「思うかよ。お前どんだけアホなんだよ?」
「えー?なんでよ?」
「ひとりでするよりいっしょが良いに決まってるだろ。俺はもう来週が楽しみだ」
「なんだその掌返し?空前絶後の浮かれポンチ具合だわ。ついに私を強姦するつもりか?」

 アホか。と竜児が呆れる。まあ、呆れる振りでも優しい顔してるんだけどね。
 俺はもうちょっと自分の抵抗感とかを省みて、もうちょっとお前の冒険心に同調しようと思
ってるだけだ。と言ってくれた。
 嬉しくて、フヒヒ……といやらしい笑い方をしてしまう。時間をみて、もうちょっと経った
ら買い物に行こうぜって誘う竜児に、それじゃあ冒険にもつきあってもらおうと思う。

「ね?今夜。夕食後に冒険、しよ?」
「さっそくだな?まあ復習ってのは大事だが。うーん」
「軽ーく」
「軽ーくか?」

 だってさあ。と手近な小物置き棚から例のメモ帳を取ってめくりながらもったいをつけて告
げてみる。今日これで終わったら、竜児に黒星付いちゃうよ?

「おまっ、対戦成績ずーーっと付けてたのか?」
「うんっ」
「なあ、それ勝利条件てどうなってんだ?」
「竜児いき>私いきなら負け。=なら引き分け。私を多くいかせたら勝利」

「誰の勝利?」
「私の。で、私が勝ったら場合には当然、自動的に、竜児の勝利でもあるわけ」
「もう何と戦ってるのかさっぱりだな」

 ともかく今日は、せめて引き分けを目指すことにするか!

「じゃあはやいとこ洗って陰干ししとかないとな?貸せ。手洗いだろ?」
「何を?」
「ヌーブラ。予備持ってないよな?どうせ」
「……あんた、これそんなに良かったの?そんなふうには全然見えなかったけど?」
「大河、お前って女は男の心を全っ然、分かっていないな?」

 得意げに人差し指を立てて、目の周りをうっすらと染めて、竜児は力説し出した。
 いいか?どうして剥がさなかったか、どうして付けたまんまで俺が我慢していたかを考えて
くれ。もうほとんど、これさえ剥がせば半裸になるというそのギリギリのところで視覚的にも
触覚的にも踏みとどまる。これがいいんだ。何も考えず欲望のままチューブトップをとっとと
脱がしてしまったのもあとで気づいて実は相当に後悔した。あれも合わせて残すべきだった。
いやお前の俺を煽るためのコーディネイトセンスにも今だから言うが敬意を表するぞ?あの姉
ちゃんと言いながらの妹っぽさは犯罪的にツボだった。やはり意外性、非日常性の持つ誘惑に
は抗い難く云々かんぬん。

 喜んでいいのか呆れた方がいいのか。とにかく分かるのは、こいつぁ相当にマニアだという
こと。大河は微妙な笑みを浮かべて、口元を引き攣らせてハイになってる竜児を眺めてはしみ
じみ思うのだった。なんてトラップだったのだろう、と。

 スイッチがあるからとむやみに押す前に考えよう。これからは。




――END


※竜虎の誕生日設定は、原作記述から大河4月上〜中旬、アニメから竜児おうし座というのを
都合よくあてはめました。

592 ◆0/FKyHtS2M :2011/05/21(土) 03:48:33 ID:???
以上です。↓の『休日編』といった感じですが、ストーリー上のつながりはほとんどありません。
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1302817738/137-148

593 高須家の名無しさん :2011/05/21(土) 08:02:53 ID:???
エロい…、パコパコカ―ニバルじゃあ無いけど、2828しながらがまん汁オンパレード(≧∇≦)♪ GJ!

594 高須家の名無しさん :2011/05/21(土) 13:49:49 ID:???
甘くてエロイ!GJだ、超GJ!

595 高須家の名無しさん :2011/05/22(日) 23:35:59 ID:???
>>592
エロエロラブラブ最高すなぁ…
竜児の力説にワロタw心の底から同意するぜ!
マジでGJっした!!

596 俺にまかせとけ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/24(火) 22:50:41 ID:???

【これまでのあらすじ】親元で一年を過ごし進学した逢坂大河は大橋の町に帰ってきた。高須
家から徒歩3分のワンルームマンションで独り暮らし。ぶじ嫁入りのその日まで!などと大げ
さな話は置いといて瑣末事を綴ったエロコメディ(要するにアニメ版アフターです)

 高校を卒業して、別々に進学した竜児と大河は結婚という遠大な目標に向けて鋭意努力をし
始めていた。他人であったふたりが奇しくも出逢い、惹かれあって、ずっといっしょに居たい
と願った以上、そしてふたりが同性でなかった以上は、当然の帰結と言えた。
 19歳になった逢坂大河と、もうすぐ19歳になる高須竜児は、めでたく恋人以上夫婦未満
といった関係になっている。
 しかし、やることはとっくに済ませていても、いまだ親がかりなふたり。
 やはり毎日エロエロアマアマに惚けてるわけにもいかない。そういう甘美な数日間がたまに
はあっても、社会に巣立って、いつかは自分たちだけの家庭を持つための準備を怠るわけには
いかないのだ。したがって、のべつまくなしにイチャついていないで学生の本分を全うしろ!
という自律的な制約を、どちらからともなく課している。
 それは“したくなっちゃうようなエロい行為を平日は自重する”ということ。

 とあるどっかの、またも日曜日。
 さんざんおためごかしを書いておきながら、日々のつとめをこなしたら制約を解放してもよ
いとふたりが暗黙に決めている休日がまたもやってきて、このくだらない話は始まる。


「はっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!あっ、あっ、あっ、ああああっ、ああっ〜」
「はっ、はっ、はぁっ。……3回目だな……」
「う……、うんっ、うんっ!……りゅうじは?」
「ああ。まだ大丈夫だ」

 竜児はきもちよく逝った(ワラ)大河を優しく抱きしめて波が去るのを待っている。
 男は一度いったらいわゆる賢者モードの時間が訪れて、場合によってはこうした行為を継続
するのがバカバカしくなることもあるが、女は何度でもいけるもの。
 パワフルにスタミナあふれる男によってひと晩に何度もいかされるのが女にとっては他に得
難い幸福。そうした価値感は、やりたい盛りの竜児にも当然のごとくもたらされていた。

 というわけで、今日は一種のドーピングをしてみたのだ。
 詳細は、ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/tomorrow/1252792801/ を参照してみれば分
かるだろう。フェミ○ーナ軟膏を使って、男の子側の感受性を麻痺させて、早漏を防ごうと言
うメソッド。これはオカルトでもなんでもなく、本当に効くらしい。ていうか、筆者の体験か
らいって副作用もなく効く。この先を読み進めるよりリンク先の方が楽しいかもしれない。


 もちろん大河はそんなことを知らない。
 いつも早漏で(「早漏って言うんじゃねえ!」高須竜児:談)2回戦以降に真価があると信じ
て疑わなかった竜児――抑えの守護神、と崇めていた――が、今日に限って最初から耐久力抜
群で一体どうしたのか、と少なからず驚き、そのシャイな心が“う、うわぁ、かぁっこいいぃ”
と感動で震えていたのもまた事実。

 惚れ直した、という表現がまさにぴったりくる。
 女として自分を愛していてくれるとこんな奇跡も起こせるのか。という感動。
 感動ゆえに2回目以降がいきやすくなってしまったのもまた事実で、もちろんその自身の変
化も繊細な大河はしっかりと自覚していて、このうえない幸福感を感じていたのだった。
 曰く、愛って素晴らしい、などと。
 愚かしくも。

 でも、がんばる竜児を、4回目が迫った頃に気になりだす。

「はっ、りゅっ、りゅうじ?あんたは……?」
「んっ、んっ、大丈夫。まだっ」
「……?いっ、いくらなんでも、がんばりすぎっ!……じゃないっ?」
「はっ、まかせろ!お前はなにも考えずに気持ちよくなれ」
「えっ?はっ、そ、そんな?のって?あっ、あああっ!?」

 はい4回目。
 でも肩で息をしながらも大河は、さすがに違和感を感じ始めたのだった。

597 俺にまかせとけ! ◆0/FKyHtS2M :2011/05/24(火) 22:51:48 ID:???
「ちょっ、あんた。竜児。……抜け」
「ん、なんだ?」
「抜いたら、そこに座んなさい」
「おう……なんだよ?」

 行為の途中で、……いやまあひと区切りついてはいたが、全裸で正座させられる男ほど情け
ない存在もそうは無いだろう。また、全裸で正座して問い詰める女というのもあまりカッコの
いいものとはいえない。

「あんた、どう考えてもおかしい。……なんでいかないの?」

 いかないのにこのカッチカチの小白龍(シャオパイロン)のままっておかしくない?などと大河はむ
にむに握りながら詰問。あっやめてっ!

 仕方なく、というよりも待ってましたと言わんばかりの得意げで、竜児は種明かしを始める。
ネットで目にしたこのメソッドによって、持久力が増すんだよ、と。
 どうしてそんな魔法のようなことが?と問う大河に、これこれと理屈を説明する。主成分の
リドカインってのがさあ?麻痺効能をもっていてさあ。

「な、なんだそれっ!!」

 大河はいきなりキレた。ぼろぼろ泣き始めた。なんだよ泣くこたないだろ?お、おい?と竜
児が驚いて慌てる。

 私たちはそんなこと気にする間柄なのかっ?私が……あんたのその……いわゆる……世間的
な用語でいう“そうろう”を一度でも責めたことあるかっ?バカにしないでよっ!!

「あんたにいかされたくてえっちしてるんじゃないよっ!」

 あ、ごめんごめんとキレたはずの大河がすぐ謝る。ごめんうそ。いかされたくないなんてそ
んなことない。あんたにいかされるのすごい好き。タンカ切ったけどそこだけ取り出して言い
返さないでね、と不思議な折れ方をする。

 あー、まあ。ようするに。

「薬物効果でいかされても、そんなの嬉しくないの。……あ、知らなきゃ嬉しいかな」

 微妙よねっ!?あんたどう思うっ?どっちなのかよく分からない。
 どう思うって言われてもな、いいのか気に入らないのか決めてくれよと竜児は困る。そりゃ
困るだろう。どこに線引きゃいいんだ?と思うから。

 イイコトしてる最中に、しかも4回もいかされた女がキレてるというのも普通はない。それ
で相対して、ベッドのうえで正座して文句が出ると言うのも。
 だがそれを言うのが大河と言う女であるし、それを聞くのが竜児と言う男。ふたりは絶対に
なぁなぁで流さない。だからこそ後に毛の先程も未練も遺恨も残さない。合意した以上は、死
んでも誠を貫くのだ。そのためにこそ、争う時は真剣勝負。……こんなエッチねたでさえも。

「お前、気持ち良くてなんの文句があるんだよ?」
「きもちいいことに文句なんてない!……麻痺効能ってのは……あんたがいきにくいわけじゃない?」
「でも累積していけばそのうち俺だっていけるわけだろ?互いになんの損もないだろ?」

 涙目の大河が、ようやく思いをまとめた。理屈ではいつも竜児にかなわない、情を理解して
もらう他にない。だが、今日のこの問題では、理屈で押す事が出来る。

「私はねっ、あんたといっしょにいくのがいちばん幸せなのっ!いっかいで、いいのっ!」

 竜児はそれを聞いてふにゃふにゃと負けを認めた。軍扇を一振りすれば全軍で大河の一味を
数分で蹂躙できる戦力を擁しながら、撤退した。
 しかし、それは敗走ではなかった。

 そうか。そうなのか。俺が悪かった。つか、だったら、もっと早く言えよ。気にしてたんだ
よ、俺がヘタだとお前は不満なのかって。……エロ虎。可愛い、俺の大河。

 わ、分かればいいのよ。ちょっとキレすぎて悪かったわよ。言い過ぎた。
 ね……いっしょにいけるように、もう一回してくれる?
 ああ、そろそろ薬効も切れるだろう。でもうまく合わせられるか保証できねえ。頑張るけど。
それでもいいか?いいだろ?

 いいよ。でも合わなかったらもう一回ね?私は4回いったけど、あんたは2回目になるんだ
から無理はないよね?
 おう、できるかぎり頑張るからな。

「ふふふっ、竜児。好き」
「おう、大河。俺も好きだよ」


 晩酌をしながらこんなの書いていたら俺(筆者)も心底ばかばかしくなってきた。そのあたり
はどうか理解をしてほしい。こんなオチでほんとうに済まないと思っている。


――END

598 高須家の名無しさん :2011/05/25(水) 07:54:04 ID:???
いか〜ん!いかんぞぉ!ドーピングわっ!(え〜とメモ、メモ…)
確かに。でも、それが読みたいのです。
GJ!

599 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2011/05/28(土) 02:11:20 ID:???
アニメスタイルでハプニングセッ…ハッスルしたのでまとめサイト更新しました。
ねんどろいどぷちの大河が可愛いしブルーレイのアプコン情報も公開されるしあなるはかわいいし
もりあがってまいりました!!!

600 高須家の名無しさん :2011/05/28(土) 08:23:51 ID:???
>>599
おつです!

アニスタ買い損ねました orz

601 高須家の名無しさん :2011/05/28(土) 10:31:41 ID:???
いつも乙!
BD情報来てるのかぁ、俺も知りたかったw
いいんだ、絶対買ってやるし!

602 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2011/05/28(土) 16:42:35 ID:???
BD情報はこっちっす
ttp://ameblo.jp/bdmeister/entry-10904049017.html

特典はすごいのか…(;゚д゚)ゴクリ

603 高須家の名無しさん :2011/05/29(日) 13:26:03 ID:???
まとめ人様更新乙です
BD特典……ねんぷち竜児だったりして

604 123 ◆n0CyHpL66I :2011/05/29(日) 13:33:11 ID:???
豪華って言う位だから竜児、北村、櫛枝、亜美とかだろ

3体セット
①竜児、櫛枝、亜美
②木原、能登、独身
③春田、香椎、北村

とかでもいいかな

605 高須家の名無しさん :2011/05/29(日) 15:10:06 ID:???
いやいやこっちでw

3体セット
①竜児、櫛枝、亜美
②木原、香椎、泰子
③田村、松澤、相馬

606 ◇oLWU/inCrU :2011/06/03(金) 02:51:45 ID:???
一言あとがき書こうとしたらバイさるくらったでござる…
すみません、他職人さんへのレスなども次回以降に。
まとめ人さま、お手数ですが、ミスしたレスは削除してまとめてくださると助かります。
いつもありがとうございます!
では後日ー

607 まとめ人 ◆SRBwYxZ8yY :2011/06/07(火) 00:04:25 ID:???
本スレ>>320を見て、ついムラムラしてやった。今は反省している。

608 高須家の名無しさん :2011/06/07(火) 12:58:57 ID:???
ずれてるずれてるw
下2行上1行削って竜児の顔をほんの少し弄ってみました。

             /::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
           /:::::::::::::::::} ::::::::::::::::::::::::::::::::トゝ
           /::::::::::::::::、::ヘ::::::::::::::::::ィ:::::::::',
          ノイ:::::::::/厶トハ:::::::::/厶」::::|:ト|
           | lヘ /V-。ミヽ:ハ //。--}ハN
           Vトハ{ `ー‐'  ` ー ' .|リ
            {ヘハ :::::    }   ::::: l'
              }:.、   、    ,   ,′
               N个 、  ̄   イl
              r<|   > < |‐- 、
              |  `ー‐┐ r‐'~ ̄}    _
             ,.人__    {  }  _ L 、 /´: : :\
           /     ̄`  く_ノ '´ , < {__: : : : : : ヽ
      _ .. -<           ○  /r :⌒: : : \⌒ヽ : : :\    
    r‐'                  { /: : : :i: : : : : : : : : :\:: : :}
   .}  ∧               |/: : : ,: :|: : : : : : : : : : : : : : {       
   |   ∧   !          /: : ::/厶|_: : : :∧:ヽ : , : : : :.|
   |     ヘ  |          }: :|: Ⅳ=、|: ! : :|⌒V、: }: : ! : |
   |      '  i          (_|: : !{"芹代ィ: : {ィ示ミy: : ::| : |
   |      } }  ,          {: .:r.{l ヾ= ' \jゞツY: : |: :| : |
   |      リ/          .∧: |: :ゝ:::::  '  :::::∠ イ: |: :} : |
    }      |          /: :.V ::::>  ` '  , イ l}:ノレ: : :ヽ
    |  :.    |          /:/: : : .:::,:⊥| `¨ {_:::::. : : : : : : : 八
    |   \  |          /::ル--っ: \〈    ノ`):: : r‐ 、: : : : : :、
    |    \人        /:// 二つミ: :r)ヘ ∠//7フ7二ヽ:_: : : ::\
    |   __` }       〃/ ,仁二) )乂ミl彡': : {  _ト┬ } ∨:::ト、: \
    | / ――L____ ノ// / r―'’v: : ゝV (: : : |三彡} と |  }: :| 〉: : }
   〔            //¨{  /  y _)ノY_入_/ V礀  ハ | l ∧ ∨: : /
     ト           /:′ !  }  |    厂「 } {Ⅹl    ',|./ /  }: : : /
    |          /: |  |___/|  l   , ′ | '、 ̄ !     }|_/ /: : :(
    `ー‐---=≧_(|: :{_O| /: :|  ! /   ,j  ', ∧   ハ: }/: : : : : :}
       |       ∧: :\「: :|  | /   / |   ', |\   〉: : : : :/

609 高須家の名無しさん :2011/06/07(火) 13:06:06 ID:???
ttp://labo.koishikawachan.net/aatest.html
ここで問題がなかったから表示環境の方でずれてるのかなと。

いや、しかし大河は肩が熱くてたまらんだろうなあw
実乃梨あたりに「写メとるからもっと笑えーっ」とか言われてるところかな。

610 高須家の名無しさん :2011/06/07(火) 19:01:14 ID:???
自分もトップページ、ずれてるなぁ。
ググったら、フォント指定されて無い様なので下記タグでAAを挟めばいいみたいっす。
<div style="font-size:16px;line-height:18px;font-family:'Mona','mona-gothic-jisx0208.1990-0','MS PGothic','MS Pゴシック',sans-serif;"> AA </div>
12px、14pxでもサイズ小さめ&ズレ僅かでいいかも。
ttp://momijiaoi.blog110.fc2.com/blog-entry-69.html
まとめ人様、いつもお疲れ様です!

>>609
そして二人はどんどん真っ赤になるとw

611 ◆x6jzI2BeLw :2011/06/08(水) 02:14:57 ID:???
本スレに上手く投下出来ないのでこちらへ。
転載してもらえると助かります。

612 シンデレラなんかになりたくない9 ◆x6jzI2BeLw :2011/06/08(水) 02:16:14 ID:???

「メリークリスマス!!パンパン」
竜児が携帯電話に出るや否や、テンションの高い大河の声が返って来る。
「いきなり何だ?」
思わず携帯から耳を離した竜児はそう大河に問う。
「鈍いわね。楽しい、楽しいクリスマスに決まってるじゃない」
ちなみにパンパンはクラッカーの音だと大河は付け加えた。
「竜児、クリスマスのおめでとうは?」
「ああ、メリークリスマス」
大河に催促され、竜児はしぶしぶと言った感じで答える。
「何よ・・・その盛り下がったクリスマスは」
「仕方ねえだろ・・・おまえと一緒じゃねえんだから」
ぐじぐじという感じで竜児は現況を嘆く。
世間一般ではクリスマスと言う一大イベントで高揚していると言うのに、共に祝いたい相手は遥か彼方にいる。
竜児じゃなくても気分が落ち込むと言うもの。
「せっかくのイベント、そんな気分じゃ楽しくないよ」
盛り上がって行こうとあくまでもハイテンションを維持する大河。
そんな大河の声を聞いているうち、竜児も少しずつテンションが上って来るから、気分とは伝染する物なのかもしれない。


「ちゃんと用意した?」
「ああ、ばっちりだ」
そう答えた竜児の前にはクリスマスケーキを始めとしてごちそうが並ぶ。
そして電話を掛けている大河の側もまったく同じ構図が展開されていた。
「じゃ、行くわよ、竜児?」
「おう」
電話越しにお互い、グラスに注ぐコポコポと言う水音を聞く。
竜児はふたつあるグラスにシャンパンを等分に注いでいた。
大河も同じ様に目の前にあるグラスと、その向こうに置かれたグラスへシャンパンを注ぐ。
「それでは・・・かんぱ〜い」
大河はグラスを宙へ持ち上げる。
「かんぱい」
竜児も1000キロ離れた場所で大河と同じポーズをする。
竜児も大河も自分が持つグラスを目の前に置いたもうひとつのグラスに軽く触れさせた。
カチンと言う甲高い音がほぼ同時に聞こえ、お互いに相手が今していることを知る。

コク・・・コク・・・。
ゴクン・・・ゴク、ゴク・・・。

のどを通るシャンパンの音が大河にも聞こえ、竜児にも聞こえた。
その瞬間、ふたりは同時に相手の姿を目の前に思い浮かべる。
例え体は離れていても、確かにこの時間、心は相手の部屋にあった。

「・・・ふう・・・げっぷ」
「竜児・・・ムード台無し・・・うぷ」
「大河こそな」
炭酸入り飲料の一気飲みで、げっぷを漏らすふたり。

613 シンデレラなんかになりたくない9 ◆x6jzI2BeLw :2011/06/08(水) 02:16:52 ID:???

クリスマスパーティをしよう。
そう言い出したのは大河だった。

「思えば・・・あんたとまともなクリスマス・・・過ごしてないのよね」
「ああ、確かにな」
「鳥どーんのはずが、竜児ってばインフルエンザで倒れるし」
「し、仕方ねえだろ、かかっちまったもんは」
お互いに笑い話にしているが、お互い心の中で別のことを思っていた。

大河がいないって気が付いて、大橋高校主催のクリスマスパーティを抜け出した竜児。
着ぐるみ姿になって大河の部屋を訪れて、そしてそのまま、大河に送り出されて櫛枝実乃梨の元へ駆け出してしまったあの時。
今、思い返せばどんな気持ちで大河は居たのだろうと竜児は悔悟の念が胸を過ぎるのを止められない。

これでいいんだと竜児を見送った大河。
でも、心は安堵とほど遠くて、どれだけ待っても安寧はやって来なかった。
それどころか、湧き上がる感情の奔流に大河は揺さぶられた。
そして、気が付けば竜児の名前を叫びながら駆け出していた。
あの時ほど、掴み取りたい物が掴み取れないもどかしさに身を焼かれたことはなかったと大河は記憶の断片をなぞる。


だから、今年こそは素敵なパーティを・・・と言うわけでごちそうを持ち寄り、それぞれ自分の部屋でケーキなどを突付いているのである。
「今、部屋の中を誰かにのぞかれたら、寂しい風景に見えるだろうな」
竜児が苦笑いしながら言う。
「・・・それは言わない約束」
大河も自覚があるだけに、ふたりでしている行為が寂しい部類に入ることを認めざるを得ない。
一人ぼっちでケーキを食べている光景なんて・・・人に見られたいもんじゃないと大河は思う。
だけど、そんなものでも大河はしたかったのだ。
竜児とてそれが分かっているから、大河の提案を拒んだりしなかった。

「ホントは竜児が作った物・・・食べたかった」
ローストチキンにフォークを突き刺し、大河は言う。
「おう、ここにあるぜ」
竜児の前に並ぶ料理の量は明らかに一人前を越えていた。
いないはずの大河の分も竜児はしっかり作っていたのだ。
「・・・竜児」
食べられないでしょ・・・と文句を付けられると竜児は思ったのだが、大河は違うことを伝えて来た。
「食べさせて」
「お、おう」
「何があるの?」
「何でもあるぞ」
「じゃ、チキンナゲットちょうだい」
「ああ、待ってろ」
竜児はお皿からチキンナゲットをスティックで突き刺し、そっと目の前の空中にかざす。
「ほら、ナゲット」
口を開けろと言う竜児の声に大河は「あ〜ん」と言いながら小さく口を開けた。
「味はどうだ?」
「ん・・・ちょっと塩味が足んない」
大河が口にしたのはローストチキンだったが、大河の舌には竜児が作ったナゲットの味が広がっていた。

614 シンデレラなんかになりたくない9 ◆x6jzI2BeLw :2011/06/08(水) 02:17:37 ID:???


「そうだ、荷物着いたか?」
「うん、昨日」
「サイズとか、大丈夫だったか?」
「ぴったり」
「なら、良かった」

昨日、学校から帰宅した大河は竜児から宅配便が来ていると知らされ、うがいもしないで部屋に駆け込んでいた。
調味料の空き箱を利用した入れ物が大河には宝箱に見えた。
竜児らしく几帳面に梱包された箱を空けると中から出て来たのは手編みのセーターだった。
大河はそれを取り出すと、衝動的に胸元で抱き締めていた。
まるでセーターが竜児であるかのように頬を寄せ、大河は目を閉じる。
・・・竜児。
ベッドの縁に背中を預け、大河はセーターをぎゅと抱いて、しばらくそのままの姿勢で動かなかった。

「普通、逆でしょ」
大河としてはそう言うしかない。
「そうか、俺は気にしないぞ」
「私は気にするの」
彼氏に手編みのセーターを贈られる彼女ってどうよと大河はもう笑うしかないのだが、素直に感謝の気持ちは竜児へ伝える。
「ありがと、竜児・・・大事に着るね」
そう言った大河は今もそのセーターを着ているのだ、わざわざ部屋の暖房温度を下げて・・・。

「大河からのプレゼントももらったぜ」
「あいにく、手編みじゃないけどね」
「暖かそうな手袋じゃないか・・・大河が選んだんだろ、これ?」
「そうよ・・・時間が無くて適当に選んじゃったけど」
「これなら、手が凍えないで済むな・・・ありがとな、大河」
「・・・うん」

良かった・・・気に入ってもらえてと大河は胸を撫で下ろす。
竜児には適当に選んだと言ったものの、本当はお店を何軒も回って決めた物だった。
プレゼント用と聞いてラッピングしますかと言うお店の勧めを断って大河はそのまま手袋を持ち帰った。
自分の手の平よりふたまわり大きいサイズの手袋。
大河はそれを手にはめて、両手で自分の頬にそっと触れた。
そうするとまるで竜児の手が伸びて来ている様な錯覚に大河は襲われる。
そのまま大河は両手を頬から下げると胸元で交差させた。
ふっと小さな息を漏らした大河。
やがて大河は自分の腕に力を入れ、自分で自分を思いっきり抱き締めた。

そんな大河はひとつだけ竜児に内緒にしていることがある。
竜児へ贈ったクリスマスプレゼントの手袋がペアルックだと言うことを・・・。

615 シンデレラなんかになりたくない9 ◆x6jzI2BeLw :2011/06/08(水) 02:18:42 ID:???


「まだ、大事に持ってるよ、竜児のセーター」
「いい加減、ぼろぼろじゃねえのかよ」
「ちょっとほつれてるけどね」
「そう言えば俺もあるな・・・大河からもらった手袋」
「・・・少しは練習したから・・・今度手編みにチャレンジしてみる」
「大河がくれる物なら何でも嬉しいぜ」
「竜児、さっきから口数が多い・・・」
「そういう大河こそ」
「・・・き、緊張してるのよ」
「いよいよ・・・だもんな」
ドレス姿の大河は少しだけ固い表情で竜児を見る。
「・・・竜児」

式場の係員がスタンバイOKと伝えて来る。

「大河・・・深呼吸」
そんな大河に竜児は落ち着けとアドバイスする。
「うん・・・すう〜すう〜すう〜・・・うぎゅ」
「息、吸い過ぎだ、ドジ」
吸い込み過ぎた息をゲホゲホと言いながら大河は吐き出す。
「あ〜もう」
この大事な席で何やってんだろと大河は自分の頭をポカリと小突く。
「でも、リラックス出来たじゃねえか」
「あれ?ホントだ」
さっきからバクバク言い出していた心臓の鼓動が落ち着いて居る事に大河は気が付いた。

・・・高須様、どうぞ。

タイミングよく、ゴーサインが出る。
ガチャと音を立てて木製の扉が大きく開け放たれる。
一歩、踏み出した大河と竜児にきらめく陽光が降り注ぐ。
建物の階でまぶしさに大河と竜児は立ち止まる。
スピーカーを通して聞こえて来る司会進行の川嶋亜美の声。

・・・新郎、新婦の入場です。みなさま、拍手でお迎え下さい。

パチパチと手を叩く音が前方から竜児と大河へ届く。

「行こう」
「うん」
竜児の声に大河は小さくうなづくと手を竜児へ伸ばした。
竜児はそんな大河の手を取ると短い階段をゆっくりと降り始める。
そこは屋外にあるガーデン形式の会場・・・竜児と大河の進む真正面に見える式台。
その式台へ向って階段下から敷き詰められたレッドカーペットが大河と竜児の歩みを待っている。
カーペットの両脇に並べられた椅子に座っていた人々が一斉に立ち上がり、ふたりがやって来るのを待つ気配。

階段を下まで降り切った大河と竜児はそこで一度立ち止まり、ふたり揃って前方で待つ人々に深々と腰を折った。

・・・今日を迎えられたのは・・・ここに居るみんなのおかげだ、そうだろ、大河?
・・・そうね・・・みんなで幸せにって誓ったよね・・・みんな居るよ・・・ねえ、竜児。

大河は押し寄せる高揚の精神波に世界中でいちばん幸せな気分を味わっていた。


今回はここまでです。

616 ◆Eby4Hm2ero :2011/06/09(木) 13:17:02 ID:???
本スレに大作が続々と……皆様方GJ!

そして私は規制中orz

617 とらドラ!で三題噺 ◆Eby4Hm2ero :2011/06/09(木) 13:18:06 ID:???
お題 「へえ」「違う」「うまく」



「たっだいま〜」
「おう、お帰り大河」
「はい竜児、おみや〜」
「おう、サンキュ。ホテルのレストランなんて、そうそう行く機会ねえからなあ……」
「ぷっくくく……」
「な、なんだよ」
「だって、竜児へのおみやげがドギーバッグなんて……ぴったりすぎて……ぷぷっ……」
「ほっとけ。で、どうだった?」
「んー、みのりんもばかちーも元気だったわよ」
「おう、そいつはよかった」
「ばかちーってば、今度映画の主役やるんだって」
「何!? マジか?」
「マジ」
「へえ……あいつはどんどん凄くなるなあ……何かお祝いでも贈るか」
「あ、それならうちでホームパーティでもやらない?」
「おう? なんでだ?」
「普通のプレゼントなら、もうあちこちから貰ってそうじゃない? それに、今ならスケジュール調整の関係でちょっと暇があるんだって」
「なるほど……そいつはいいアイデアだな」
「でしょでしょ。みのりんもばかちーも久しぶりに竜児に会いたがってたしね」


「櫛枝、川嶋、ちょっとこのテリーヌも食べてみてくれねえか?」
「どれどれ、いっただきま〜す」
「……! ひょっとして、これって……」
「おう、この間大河が持ってかえってきたやつをさ、自分なりに再現目指してみたんだけど……実際に食べた事ある二人から見てどうだ?」
「うっまあぁぁい! でも……」
「んー、そうね、再現というにはちょっと味が違うかしら」
「おう、そうか……やっぱそう簡単にうまくいくもんじゃねえか」
「あー! みのりんとばかちーばっかりずるーい! 私もそれ食べるー!」
「おう、大河……ほれ、どうだ?」
「んー、美味しい! この間のホテルのやつよりこっちの方が好きかも」
「……ねえ、高須君」
「おう川嶋、何だ?」
「ひょっとしてさ……殆ど無意識に大河好みの味付けに変えちゃってるんじゃないの?」
「!」

618 ◆oLWU/inCrU :2011/06/21(火) 20:32:29 ID:???
数レスお借りします。
気になると言ってもらえたので、ボツにした能登バージョンこちらに置かせてくださされ。
大筋は本スレの話とまったく同じです。


『永遠の昼(能登かわいくないよ能登Ver.)』


 風爽やかな初夏の校舎裏、ベンチで仲良くお食事中の影が二つ。
 やがて長身の影が手際よく弁当箱をしまうと、小柄な影がぺそっと肩にもたれ、そのまま彫像のように動かなくなる。
 それから、しばし。


          # # #


「どした?」
 図書室からの帰り道。校舎裏の角に下級生が溜まっているのを見つけ、能登久光は何気なく声をかけた。
 するとあっという間に囲まれて、「物置きから備品を取りたいんですが……」「お邪魔するのが怖くて」「もとい悪くて」「恐れ多くて」などと口々に言い募られる。
 どうも要領を得ないので、指差された方向を覗きこむと、そこには。

「──うひゃー。」

 ヤンキー高須こと高須竜児と、手乗りタイガー逢坂大河が、まるでペイネの絵のように寄り添う後ろ姿があった。
 普段あからさまにベタベタしない分、こういう所で補っているらしい。
 こっそりイチャつくのは結構だが、うっかり見てしまった時のダメージたるや。
 ──ちくしょー、高須羨ましいよ高須!
 リア充を爆破すべく、能登は危険を承知で本を盾にベンチへ歩み寄り──
「……!」
 とっさに声を飲んで、そうっと前に回りこむ。

 ちょいちょい、と手招きをすると、下級生たちは恐る恐るこちらに近づいてきた。
「……寝てる……。」
 誰かが思わずそう呟き、慌てて口元を覆う。
 片手の指を絡めて握りあったまま、二人はぐっすりと眠りこんでいた。
 竜児はまるで宝物を手にした少年のような表情で。大河もめったに見られない柔らかな表情で──ただしいかにも昼食後らしく、竜児の学ランに涎のしみをくっつけて。
 そこには、かつて“大橋高校の魔界コンビ”などと称された面影は微塵もない。

619 ◆oLWU/inCrU :2011/06/21(火) 20:35:24 ID:???
 能登が「今のうちに済ませろ」とジェスチャーをすると、下級生たちは我に返ったように数メートル先の物置きへ、物音を殺して入ってゆく。
 彼らが製図用の大道具を担いで立ち去るまでの間、能登はシャッター音で驚かさぬよう、少し距離をとってから二人の姿を携帯カメラにおさめた。
 すぐさま悪友たちに『爆睡カップル:略してバカップル@校舎裏』なるタイトルで一斉送信。
 昼休みは残り10分ほど。他の誰かがやってきたら、早速起こして一緒にいじり倒すつもりだ。リスク分散、賢い投資。
 それまでもう少しだけ、二人に穏やかな微睡みを。

 斜向かいのベンチに寝転がると、能登は持っていた短歌集を日除け代わりに開いた。
 ぺらぺらとめくるうち、とある歌に目を止めてクスッと笑う(かわいくない)。
「……『プレンソーダの泡のごとき唾液もつひとの傍に昼限りなし』……ねぇ。」
 刹那の恋を詠んだ歌だが、目の前のこの二人には、“昼”のような明るさと暖かさが、永遠に続くことだろう。
 何故なら、高須は本当に良い奴で──タイガーはその良い奴に惚れた女の子なのだから。
「……でもさ、妬けちゃうよ高須。妬けちゃうよ。」
 いつかは自分も、こんなふうに誰かさんと手を取り合ったりできるのだろうか。
 気の強い澄まし顔がちらっと脳裏に浮かび、思わず溜め息をつく。
 どうやら先は長そうだ。

「あっいたいた! 能登っち〜〜〜!」  校舎の裏窓から、メールを見たらしい春田が空気を読まない大声でこちらに手を振ってくる。
「高っちゃんとタイガーまだ寝てる〜!?」
 ──馬鹿!シーッ!シーッ!!
 慌てて合図をするも既に遅し。竜児が煩そうに肩を震わせて。
 仕方なく冷やかしの文句を考えながら、能登はその目蓋が上がるのをニヤニヤと待ち構えた。


        《了》


叙情性がなくなっちゃうのでボツにしましたが、能登のままでも良かったかな…?すまん能登。
気になると言ってくれた方に捧ぐ。ありがとうございます!

620 高須家の名無しさん :2011/06/21(火) 21:13:02 ID:???
おおお、能登ver.ありがとうございます。
確かにこの短さだと文学少女・香椎という方がモチーフには合っていて完成度は高いかな。
でも個人的には能登の思いにリレーして少々の泥臭さあるこちらが好きです。
先は長そうだって(能登にしては)前向きなとこや春田が1番ギャラリーなとこもね。
乙でした!

621 高須家の名無しさん :2011/06/21(火) 22:12:10 ID:???
うわぁ、言ってみるもんだ。ありがとう。私は能登verに一票ね。

能登がらみの(かわいくない)とか、「高須、心配だよ高須」とかは、やっぱり「能登かわいいよ能登」から来ているのかな。

622 高須家の名無しさん :2011/06/21(火) 23:28:04 ID:???
同じく能登verに1票!スピンオフ3に繋がるところに、
2828しました。

623 高須家の名無しさん :2011/06/22(水) 21:50:25 ID:???
おお、能登verも読めるとは…!
優しさに満ちた奈々子様verも素敵ですが、こちらは能登自身のドラマも絡み、より瑞々しくていいなあ。能登がんばれ能登
寄り添い寝てるだけなのに竜虎カップルの幸福オーラたるや。本当にかわいい。写メ送ってほしいw
ドタバタな締めもとらドラ!らしく。GJでした!

624 ◆0/FKyHtS2M :2011/06/22(水) 23:52:26 ID:???
ラブラブセックルしてるのに前よりエロ度ゆるめの変なのを投稿させて下さい。

【タイトル】秋への brilliant road
【内容】ガチエロコメです。本番あり、というかメイン。例によって竜虎ともども重度の浮か
れポンチ状態でコメディ寄りです。他では大河のおっぱいにこだわってみました。趣味に合わ
なそうと思われる場合はご注意ください。
タイトルが内容にそぐわない清々しさですが、虎の重さこの手に抱いてgo far away な竜児を
気に入ってもらえれば幸いです

↓7レスほどいただきます。宜しくお願いします。

625 秋への brilliant road ◆0/FKyHtS2M :2011/06/22(水) 23:54:20 ID:???

【これまでのあらすじ】親元で一年を過ごし進学した逢坂大河は大橋の町に帰ってきた。高須
家から徒歩3分のワンルームマンションで独り暮らし。ぶじ嫁入りのその日まで!などと大げ
さな話は置いといて瑣末事を綴ったエロコメディ(要するにアニメ版アフターです)
 恋人以上夫婦未満。19歳になった逢坂大河と、来月19歳になる高須竜児。
 “平日はエロごとを自重しましょう”という制約を解放しても良いとふたりが暗黙に決めて
いる休日がまたもやってきて、今回のブリリアントバカップル話が始まる。

****

 掃除掃除大掃除〜。午後はあっちに行ってるからな〜。と竜児は泰子に告げて、大河の暮ら
すワンルームマンションを訪れていた。
 嘘ではない。もちろん道具を持ってきて実際に掃除(部屋の)をする。
 するのだが、近頃では部屋の主が前日辺りまでに掃除(部屋の)を済ませているため、さほ
どの時間はかからない。それでも竜の目は見つけて、なにかと綺麗に掃除(部屋を)をする。
しまいにはベランダの排水溝辺りにまで目を付け掃除(排水溝の)を始めたりして、半笑いの
大河に「あんた何しに来たの?」と。
 そんな、こんなで、大型連休前。ぼやっと薄曇りな休日の昼下がり。
 いっしょに出かける用はなく、朝食昼食家事とひととおり済んで、夕方の買い物まではふた
りっきりとなっていた。
 竜児は胡座、大河はちょっと伸びて正座。寄り添ってすわり、淹れたお茶を飲んでいろんな
話を。日々の暮らしのことや、学校でのこと。お互いが離れていた間に何があったかを思い出
して。もちろんくだらないネタトークだってする。
 それがいつものように将来の夢の話へとつながっていくと、本当の家族になりたい思いはた
くさん湧くのに、まだそれに見あう具体的な姿までは描けなくて少しの不安も呼び覚ましてし
まうから「ねえ?」「ん?」「ほら……」「おう……」会話が短くなる。
 それが途切れるたび、手を握りあって。指を絡ませて、顔を寄せる。
 視線をあわせずに頬と頬をつける。満たしたいと思う。
 もっと、もっと触れたくなって、空いた手で互いの髪や耳に、肩や胸に触れあう。
 頬に唇で触れて、唇で瞼にも触れ、次第、次第に座っていた脚が崩れて、唇が唇を求めて触
れ始めると、おもしろいぐらい気持ちが高ぶりだした。
 つまらない不安が消えていき、お前が、あんたが、ここにいると。刻みつけられていく。
 着ていたものを交互に脱がし始めて、きょうはどちらから駈け出すのだろう?
 大河の身体からうっすら花の香りが立ってきて、竜児の意識からも、大河の意識からも、今
だけは家族のように思う気持ちを追い出した。
 息を熱く感じあいながら、脱がされて、舌を絡ませて。喉を鳴らし手を差し込んで肌に触れ
て、その感触に後押しされるようにまた脱がして。何度めかの。頬に掌を当てて、互いをしっ
かりとつかまえて、いつまでも貪るようなキス。
 やがて濡れた唇を離し目があうと、もう止まらない。
 彼氏は彼女を、半身を預けていたベッドに抱え上げて、そっと横たえる。
 口の端をついっとあげた竜児は、んっふ、と息づかい。
 ――掃除……しねえとな?
 眉の端をくいっとあげた大河は、ふひゅっ。
 ――ばぁーか……

 竜児は前戯が割と念入りなほう。
 とはいっても、性格に少し偏執的傾向があるのとは関係なかった。単にいちゃいちゃするの
が好きで、大河とも好みがぴったり合っているだけ。

 そろそろかな?と思った竜児は、結構な時間、オモテウラと念入りにちゅっちゅレロレロし
ていた大河に密着させていた身体を起こした。
 はっふはっふ息を荒くして仰向けに横たわる小柄な彼女は、でもまだ1回もいかされてはい
なかった。ひとりだけはつまんない。いっしょにいきたいという嗜好を、竜児は何度も肌を合
わせるうちに分かって、大河が切なくてつらく感じる直前でちゃんと留めている。
 傍らに置いたスキンを手に取り、準備も済ませたこのとき。

626 秋への brilliant road ◆0/FKyHtS2M :2011/06/22(水) 23:55:55 ID:???
 大河のすらりと伸びた脚をM字にたたみ、折り曲げた膝を抱えて自分の肩に宛て……という
ときに竜児は、シンメトリなMの真ん中を凝視して動きを止めた。
 そろーり……と後退して、土下座をするように背を屈め、大河の恥っずかしいその部分を、
凶悪な目をこらして眺めている。なんだろ……?も一回お掃除するの?と、いい具合に高まっ
た大河が首だけ起こして股間を見やると、それはこんなタイミングに似つかわしくない、びみ
ょーぉな表情と目が合った。その竜児の口が動いて。
「なあ……?」
 なにっ?なんかやばいっ!?大河の勘はよく当たる。悪ければ悪いほど。
「ここの毛、こんなに薄いんだっけ?」
 ……とか。ふと気になってよ。
 大河は眉を八の字にして困惑する。なに……言い出す気なのか。
 薄いと言われれば、それは確かに薄かった。
 髪の毛はいわゆる猫毛で細く、それに応じて細い。密度も薄い。加えてやはり髪と同じく色
も淡い。ぽやぽやっと覆っている程度で、生えている範囲も狭かった。実はムダ毛処理という
行為を大河はこれまでの人生において一度もしたことがない。
 だけど。竜児は何度も見たことがあるはずだった。この生え方が好きだと言われた。なぜ今
日になっていきなり気にしてるの。
「ほら。前にこのへんが『ぼーん!』とか言ってた……よな?」
 急に思い出してさ。と竜児は真顔。
 よりにもよってこんな時に何てことを。しかも半端に思い出すのよ?
 大河は全貌が見えて、ああ、と納得しながらも内心でボヤいた。仕方なく仰向けに寝たまま、
脚をM字にしたまま。ひざの間に竜児の顔を挟んだままで動作に及ぶ。
 ささやかな膨らみの右乳の辺りで右手を開き「ぼん!」
 同じく、ささやかな左乳の辺りで左手を開き「ぼん!で、」
 竜児の顔の真ん前に両手を持っていって重ねて丸めて、思いっきり開いて見せた。
「っっぼぉんっ!」
 おおうっ!?
 それで竜児の深層記憶は正確にデフラグ完了。
「すまん。馬鹿なこと訊いちまった。悪かった……」
「……私ゃなんでこんなときに他の女の股間を想起せしめられねばならないのか」
「ごめんな。ほんとに錯覚しちまってた。あれ?大河の言い分だともっと毛深くなかったかって」
「あんたの脳裡に見たことないばかちーの股間イメージが今あると思うと死にたいわっ」
「そ、そりゃ考えちゃうけどよ、心配すんな。映像の元データはお前しかないし」
 そんなのさらに酷いじゃんよっ!うおっと!そうだった。悪りぃ悪りぃ悪りぃっ!
 なんという墓穴。
 もうほとんど浮気バレ亭主。
 瞳孔を開いて黒目がちにして拗ねる、横を向こうとする大河をずり上がって優しく抱きなが
ら竜児は必死に謝っていた。
 ただ、拗ねまくる大河を目の当たりにしても、挿入直前のタイミングではあったから、男と
しては謝るより先にすることがある。大河を蕩かせる重要攻略拠点はとうに知っている。労を
惜しまずもう一巡してお互いの平和と幸福を取り戻さないといけない。
 ていうかこれが好きだから、労だなんて竜児は全く思っちゃいない。
 なあ〜?ちゅっちゅっちゅ〜のちゅっ。
 なあ〜?ちゅうちゅうちゅう〜のちゅう〜。
 指も……吸っちゃうぞ?手ーちっちゃいなー。
 その次は、脇なー。乳も揉むぞー。
 もう〜、しょーがないなあ〜♪と、中指をちゅぽぉん!と思いっきり吸われた辺りで、大河
が黒目がちな瞳を元に戻すまで約120秒。
 すねてしたっていいじゃない。とらだもの。たいが。

 また念入りにちゅっちゅレロレロされて、ほどなく大河の息が荒くなってくる。途中だった
し。やっぱりいいものはいい。切ない気持ちがたまっては自然に腰がくねる。
 好きな男の子が嗜好を分かっていてくれて、ディナーコースを味わうみたいに、よく見なが
ら、手を引いてじっくり合わせてくれてる。それが義務感ではなくて、好きでやってくれるの
も分かるから……。

627 秋への brilliant road ◆0/FKyHtS2M :2011/06/22(水) 23:57:48 ID:???
 だからこの時間は好きなのよ。
 ゆっくりゆっくり高められて、追い立てられたりしない、こんな時間が。
 そうしているうち、もっと好きな時間もやって来る。入口でくりくり馴染ませられて、急に
がまんできなくなってくる。
 でも、あんまりきもちいいよ!って知らせちゃうと竜児の方もがまんできなくなってしまう
から、出来るだけ普通に。そうやって抑えているとどんどん、どんどん自分の中に切ない圧力
がたまっていく。
 うっんっ!?
 ずにゅるってカンジで、入ってきた。
 いつものように、挨拶代わりな意味で、きゅっと締めつけてみる。最近はもう驚かないのか
「おうっ!?」って言わなくなった。ゆっくり、浅いとこを進んだり引いたりしている竜児と
目をあわせて、どーぞ、と。緩めてやって奥に迎え入れる。
 ぴったりと収まって、お互いにふーーっと息を継いで。目があうとしぜんに頬が緩んでくる。
大河が笑みとともに伸ばす両手の間に竜児は身体を沈める。 

 入ったとき一瞬だけ、大河は泣きそうな顔をした。
 最初の何回かは痛いのかと思っていちいち訊いた。たとえ痛くても言わないでがまんするや
つだから。そのうち泣き顔なんかしていないっ痛くもないっいちいち訊くんじゃないっとキレ
られた。単純にそういうクセかもしれねえ。
 俺はその顔が好きなんだ。
 かと言って、まさか泣かせて見るわけにいかない。そもそも近頃の大河はめっきり泣かなく
なって、それは良いことだが、「あ、泣く?」って顔を見て刷り込まれた俺にとっては、こん
な時にでも見られるのはひそかに楽しみだ。ただ、腰をあわせると、それを抱きしめながらは
見られない。身長が違いすぎて大河の顔は俺の胸元に来てしまう。
 見たくていろいろとやってみて、いまはこれかなと思う。
 落ち着いたら、ぴったり合った胸を離して、大河の肩や頭でなく、もっと下。肩まわりより
もずいぶん細い腰に手を回す。その華奢なつくりに触れるたび、本当に同い年なんだろうかと、
ちょっとした罪悪感も湧く。けどだいじに触るからな。許してくれな。
 腰を抱いて少し起こすようにすれば背が弓なりに反って表情を見られる。
 大きく動くよりも浅いところを小刻みにいじめられる方がいいみたいで、その方がやり易い
というのもあった。そんなふうにいじめていると俺も保つし、ちょっとずつ大河も良くなる。
上体がフリーだから、どんなリアクションをするのか見ることもできる。

 竜児が私の腰を抱えて遊んでる。
 浅いとこを攻められてるとジワジワきもちいい。……ほんとは思い切りのしかかって、押し
つぶすように重みをかけてほしい。ぴったり包み込んで、ぎゅうっと抱きしめてほしい。そう
されたら、深いところもじんとしてきて、たぶん、すぐ。
 でもそれじゃつまらない。竜児も、やっぱりそんなのだけじゃつまらなく思って、急いでし
なくなったんだと思う。
 どんなふうにいじめて気持ちよくしてやろうかって考えた。どんな感じにいじめられるのか
想像してわくわくした。怖くて緊張するだけと思っていたのに、いちど橋を渡ってしまうとこ
んなにおもしろいなんて。
 ゆっくりいっしょに山を登って行くような感じのこういうのも好き。腕も自由で竜児にさわ
り放題の吸い付き放題、よくなってきたらそのまんま休めるのも。
 そうなんだけど。
 ゆっくりとは言ってもちょっとずつは登ってるわけで。も……もどかしくなって……きちゃ
うのよ。いずれ。この切なさに耐えても、それは見つけられてしまう。
 意地悪されてじっくり眺められてしまうのか、乗って、いっしょにペース上げてくれるのか
は竜児の気分ひとつ。どっちに舵を切ってもいいから、い、いいんだけど。いいけど。
 ずん、といきなり奥を突かれて、喉から悲鳴が出そうになった。
 それを抑えて、夢中でしがみついた。広い肩ごしに手を回し切れなくて、肩甲骨のくぼみに
指をひっかけてつかむ。爪……整えてあったっけ?刺さらないよね?って考えもすぐに飛んで
いき、汗がじわっと浮きかけた薄い胸板を引き寄せる。ぴとっと頬をつけ、口をつけてちゅう
うっと吸いついてみたら、んんーっとくすぐったそうに唸る。
 いつもは考えない、考えたくないことがこんな気持ちになるとどうしても浮かぶ。
 なんできもちいいんだろう?好きだから?竜児だから?

628 秋への brilliant road ◆0/FKyHtS2M :2011/06/22(水) 23:59:49 ID:???
 他の誰でも、いいの?ママみたいに?こんなに好きなのに、嫌いになる?
 私はこうだ。幸せでも、きもちよくても、喪う怖さを先に感じてしまう。奪われるならまだ
戦おうと思えるだけいい。自分から棄てようと思えるときが来るのが……怖い。まだ。
 少しだけ怖くて、でもこうしていれば……だいじょうぶ。お願いだから。
 ぎゅっとしがみついて、瞼に当たる骨の感触。ここにいる現実。
 竜児の鎖骨。
 上を向いて、夢中でちゅうちゅう吸うとかすかに塩の味がして、欲が抑えられなくなる。
 牙を打ちこんで、引き裂いて、食べちゃいたい、という欲。私のものになってよ、お願い。

 最近になって、大河は噛むようになった。
 まさか食べることはできないが、高まりのたび思わず竜児を噛んでしまう。やばいおかしい
と本人も思ってはいて、かぷっとあま噛みのつもり。
 それでもときどきは力の加減を間違えてしまうらしく。
「……っ!」
 竜児が痛がる。
「……ご……ごめっ。痛かっ……た?」
「気にすんな。噛め噛め。いくらなんでも食いちぎりまでしねえだろ?」
 ずん。
 かぷっ。
 ……っっ!
 ぐぐっ!!
 ん?
 ぐぐっ。って……なに?
 痛くないように気をつけてあま噛みしてもそうはならない。竜児ははぁはぁ言って、また予
期しないタイミングで、ずん!ああぅっ!って感じで思わず、今度は肩に噛みついてしまった。
かぷっ、じゃなくがぶっっ!と。
 うわ、相当痛かった?
「あっ……つっっ!」のあと少しの間があって来た。ぐぐっ!!と。私の奥を広げる感じに竜
児が大きくなりながら、びくん!と大きく震える。
 間違いない。連動してる。こんなのって?
「いっ……いくの?」
「いや……ま、まだだけど?」
 すーーっと引いて、また浅いとこで遊んでる。よーく見ると目の周りを染めてマジ顔だ。
 きもちいいんじゃん?なんでごまかすの?
 これは確かめてみないと!とムラムラしてくる。ごまかされるのはいや。隙をみて、がぶっ。
ぐぐっ!!と入口が広げられて、あ、おっきいっ。
「ちょっと……!もしかして、あんた。噛まれると……いいの?」
「……へ」
 なんだろう?なんでそんなに決まり悪そうな顔に。
「へ?」
「変態だとか言うなよな?……おう、そうだよ。いいよ」
 ……変態じゃん。まごうことなき。
「い、痛いんでしょ?それなのに?……まさかド」
「ドMじゃねえ。そんなんじゃねえって」
 竜児は、仕方ねえ、というふうで、ちょっと恥ずかしそうに語り出した。
 俺は、乱暴者だった頃からお前のことが好きだった。乱暴で凶暴だけど他がいいから、じゃ
なくな。でも、近頃はすっかり角が取れて素直で可愛くてさ、それももちろん好きだぞ?でも
凶暴なお前をなかなか見れなくなったなあとか。さ。
「すこし寂しく思ってた」
「そ、そうなんだ……だって暴れる理由なんかもうないし……こ困るわ」
「理由もなく暴れられたら俺だって困るわ。そうじゃなくてよ」
 よくなるとガッと噛まれる、ってのがさ。その……凶暴さが消えたわけじゃないって分かっ
てからさ。……俺には……いいんだよ。なにかと言えば暴れていた頃のお前と……こんなこと
してるみたいな気分にちょっとなれて。
 分かるような分からないような。
 こんな時に微妙な話を始めるべき?とも思うけど、どうにも気を削がれて、聞きたくなって
しまった。

629 秋への brilliant road ◆0/FKyHtS2M :2011/06/23(木) 00:01:26 ID:???
「変態とはちょっと違うみたいだけど……別の危うさを感じてきたね?」
「なんでだよ?」
「だってあんた……あの頃こんなことしたいって。妄想してたってことに、なる……じゃん」
「おう!……し、してたよ。悪いかよ。……もし本気でしようとしてたら、お前だってさ」
「あ、開き直った。……噛んだかも、ね。本気の力じゃかなうわけないから……ね」
「ただ、思うのとできるのは別だからな。お前だって気づかなかっただろ?」
「そうだけど……おっそろしいカミングアウトだわ。なんか心臓バクバクなってきたよ」
 あの頃の私の貞操って、あんたの性欲ひとつに左右されていたわけか。うわっ!怖ぁっ♪
 なんてね。
 そんなこともね。べったり縋っていたら、いつかそうなるかもしれないのかなぁくらいはね。
考えてたよ。そしたら……。教えないけど。
「そう……だよな。そういえばいちいち釘刺されてた気もするな、俺」
「怖いってのは半分うそだけど……ところでさ?」
 話し込んでる場合じゃないよ?ときゅいきゅい締めてみた。ふひっ♪
 ふにょふにょになっちゃってるよ?
 うぉっ、やべえ!漏れ出てねえだろうな?我慢汁だって妊娠することあるらしいからな!と
慌てて竜児が抜き去った。あー、馬鹿な質問しちゃったから、また中断。
 でもいいや。これも、あれも、竜児といっしょにすることはぜんぶね。大好き。さっき怖い
って思えたことも飛んでった。ただ、大好き。

 お互いいきかけだったから、もう一度抱き合っていたらすぐに竜児の準備はできた。スキン
着け直して、さっきのつづき。今度は余計なこと考えないでしようねと申し合わせて。
 でもやっぱり大事なことがひとつ。
 よくなってるのを悟られると、竜児の方がもたなくなっちゃう。これは、どうしても慣れな
い、我慢できないことらしい。
 だから、最後には体重を預けてもらって、押しつぶしてもらえていっしょにいける、いつも
のやり方を期待して、私はできるだけ普通にしていよう。その辺を気取られないように。
 ……それでも、今日はずいぶんと竜児の方が早そうな気配。
 二度も中断したせいなのか、さっきもう限界だったのか。噛みついたのがいけなかったのか。
とにかくつながったままちゅっちゅしてくれたりの余裕は全然ない感じで、私の方から何かす
るとトリガーになりそうで、どうしよう?
 大河……今日はどうしたんだ?といきなり竜児が訊く。
「どうしたって、どういう意味?」
「妙によさそうで……そんなの見せられると俺、我慢できねえ」
「かっ……変わんないと思う……けど?」
 いろんな、余計なことをやっぱり考えてしまう。顔に出てるんだ?と大河は思う。さっきの
もしも、の話のせい。竜児も同じように興奮してるんだろう。
 二年前、出逢ったのもこの季節だった。
 私、そのときと同じ貌(かお)をしている。同じ貌に見えている。おそらく。
 私の目にも竜児がそう見えてしまっていた。そばに居るぞ、と告げられたあの顔がすぐそこ
に見える気になってる。
 こんなことをされる、恐怖と、予感と。教えられない、伝えられない心も混じり合った、現
実の貌とあの時の区別が曖昧になってる。
 それをいいって、よさそうって思ってくれる。
 あの時ちぎれそうだった気持ちは、綺麗に縫い合わされて、今は痕すら残っていない。
 だから……今こうしてるんだよ。めんどくさいよね?私ってさ。
 大好き。
「がまんすんな……エロいにゅ。心配いらないよ」
「もうちょっと、ゆっくり頑張るからよ……」
 大好きだよ。
「いい……んだよ。わ、私とえっちできて……嬉しいでしょっ?竜児っ」
 でも、とまだ男のメンツにかけて言い淀む竜児の前で、抑えるのをやめた。
 見てよ。
 見ればすぐに分かるでしょ。あんたにこんなことされてどんだけ幸せか。
 好きなとき、好きなようにいけっ!背中をつかんだ指に力を込めると、ようやく。おうっ!
と返事されて、肩越しに頭ごと抱かれて上体に竜児の重みがかかってくる。
 きっつい。きつくて……いい。

630 秋への brilliant road ◆0/FKyHtS2M :2011/06/23(木) 00:03:17 ID:???
 同時に深く挿しこまれて奥を強く突かれる。お腹に響いて、波が頭にまで駈け上がってくる
よう。うん、私も……。追いつける……かも。
 ふっっ!んあっ!って首が上に反って、声も漏れる。これが竜児にとってもトリガーになる。
もう意識もしていないのにお腹が震えて、脚をくるんと竜児の腰に回して、つかんで、自分か
ら押しつけてしまうのも止められない。
 ふっ、もうちょっとっ、んくっ、どっちが先か。ギリギリな今日は運まかせ。うまく合わせ
られるか、誘導?もういいっ、集中、集中!んっ!
 っんぐ、と竜児の息が止まって、どっくん、どっくん。そのすぐあと、私にも……来た。
 きっつい、重い。息ができない。……でも。でもいっしょにっ!
 ……いいっ、りゅうじぃ。
 がぶっ、と肩口を噛んだ。私のもの。今だけでもいい、私のだから。

 背中見せて……うん、跡は付いてるけど大丈夫。引っかいてない。爪まるめておいて良かっ
たわ。でもこっちは。
「ごめん、ほんとに食いちぎるとこだったわ」
 くっきり半円の跡を付けてしまった肩をぺろぺろ舐めて謝る。
 めでたく円満に事を終えたふたり。いつものように竜児にきれいに拭いてもらってから起き
上がった大河は彼氏のボディーチェックをして、そのまんまぴったり寄り添って、ベッドに腰
かける。
 大丈夫、大丈夫。しみてねえし、傷になってねえだろ?と、竜児も裸のまま彼女を横抱きに
して膝の上に座らせる。
 解れて頬に張り付いている長い髪を掬っては背に落としてやると、気持ち良さそうに大河が
目を閉じる。それならもうキスするしかない。
 腰に回した手で引き寄せて、賢者モードらしくちゅっちゅ可愛らしくついばむ。少し強面の
竜児が、頬を火照らせてそんなキスをしている姿は傍目にどう見えるのだろう。
 そんな目なんかここにないからいいけど、と大河は思って、この体勢なら身長差をほとんど
補えるからと、竜児の両肩に自分の肘を置いて背に腕を回した。そしてキ