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リリカルなのはクロスSS木枯らしスレ
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「別れは、すんだか」
心地よい沈黙。
それを打ち破ったのはナイブズであった。
はやての傍らに立つシグナムを、無表情に見詰める。
「……ああ」
答えたシグナムは沈痛な面持ちで立ち上がった。
申し訳なくて仕方がないのだ。
主の願いも聞き入れられず、その盟約すら破らざるを得なくなった事に。
それでも前に進まなくてはいけない現状。
自分に力があれば、自分に冷徹な心があれば……悔恨は留まる事を知らずに次から次へと浮かび上がってくる。
「すまないな。わがままを聞いてもらって」
「かまわん。おそらくは、これが最後になるだろうからな」
「……そうだな」
再びの視線をシグナムは寝息をたてる主へと向けた。
守りたい、守られなばならぬ主。
もう決意したことであった。もう覚悟したことであった。
だが、烈火の将の強靭な決意と覚悟をもってしても、それは尋常ならざる悔いを生み出す。
もう一度あの幸せな時間を、と願わずにはいられない。
深すぎる親愛の念は、身を切り裂かれんばかりの痛みとなって心に渦巻く。
それでもシグナムは主から視線を外した。
万感の想いを断ち切り、ただ主の平穏を願って、主へ背中を向ける。
これから待ち受ける戦いは過酷なものなのであろう。
肉体的にも、おそらくは精神的にも。
シグナムは既にナイブズから話を聞いていた。
これから自分たちが行う外道の術を、主の約束からも守護騎士との誓いからもは余りに掛け離れた手段を。
だが、もうこれしかないのだ。
主が無事な日々を過ごすには、これしか残っていない。
「行くか」
「ああ」
二人の人外が言葉を交え、寝室から足を踏み出す。
寝室を出た先にあるのは、『家族』と一緒の安寧の時を過ごした空間。
瞳を閉ざせば、今にも瞼の裏へと浮かぶ。
戦いしか知らぬ騎士達を『家族』として扱い、人としての感情を与えてくれた場。
自然と浮かべられるようになっていた笑顔は、もはや忘れる事はないだろう。
無人のリビングを眺めながら、過去に想いを馳せる。
そんな自分に対して嘲りを感じながら、シグナムは表情を変えた。
これより突入する修羅の道。
これより自身が行う事を知れば、心優しき主であろうと軽蔑し、侮蔑し、嫌悪する筈だ。
二度と笑いかけてくれる事も、『家族』と呼んでくれる事もないだろう。
もう自分が心底からの笑顔を浮かべることなど許されない。
(……それでも構わんさ)
全ては覚悟の上だ。
やり遂げる。やり遂げなければならない。
罪は全て将たる自分が背負おう。
「主はやて。あなたはどうか幸せの内で……」
決意と共に、烈火の騎士は言葉を残す。
彼女は気付いていない。
後方にて佇む男の、その表情が愉悦に歪んでいる事を。
全てが男の掌の上で転がされているという事を。
知らず、悲壮な覚悟で場を後にする。
二人が出て行った八神家に遺されるは痛いほどの静寂。
全てが動き出した状況で、闇の書が主たる八神はやては未だ何も知らずに眠り続ける。
◇
―――ヴァッシュ君がバイトを休んだ。
それは時折ある事であったし、今更どうこう言う事でもないのかもしれない。
彼のお陰で大分助かっている事は事実であるし、殆ど無償で働いてもらっているのだ。
多少のサボりくらいは目を瞑ろうとも思う。
だが、今日に限っては話が違った。
昨夜、桜台を中心として発生した謎の現象。
消えてしまった桜台と、空の彼方にある衛星に刻まれた『跡』。
理解の範疇を越えていた。常識の範疇を越えていた。
全ては、まるで夢の中のような非現実的な光景であった。
しかしながら、いくら現実逃避をしようと視線を少し上げるだけで、それは実際としてそこにある。
日本は、いや世界はバケツをひっくり返したかのように騒ぎ立てた。
空を飛ぶメディアのヘリコプターは一機や二機ではとても聞かない。
リモコンを押すと、プツリという音とともにテレビが付く。
テレビは、どのチャンネンルでも、昨晩から緊急特番で今回の事象をずっと取り上げていた。
テレビの中のリポーターは興奮したような口調で、こう告げていた。
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