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リリカルなのはクロスSS木枯らしスレ
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『ここが巨大隕石が落下したとされる海鳴市桜台です―――』
冗談だろうと思ってしまう。
下らなすぎて、苦笑すら浮かばない。
あれは、そんなものではない。
隕石などといった言葉で片付けられる現象ではない。
誰もが誰も見たのだ。
地上から伸びる白色の極光を。世界を呑み込む白色の極光を。
数十万キロと彼方に在る衛星を穿つ極光を。
見た。
誰もが。
それこそ老人から子どもまで。
世界が終わるやもしれぬ光景を見たのだ。
それを人間の知識の内に在る言葉で説明しようという事が、烏滸がましくすら思えてしまう。
うんざりとした気分でテレビを消し、カウンター奥の椅子へと座る。
昨日今日ではどうせ客も来やしないだろうと思いきや、ちらほらと常連の姿が見える。
この状況でも喫茶店に足を運んだり、会社へ出勤し、あくせく働く者いるのだから人間は分からないものだ。
いや、あえて日常へ身を浸からせる事で、現実から目を背けようとしているのか。
かくいう自分もその口だ。
何時も通りに起床し、何時も通りに仕込みを行い、何時も通りに店を開けた。
染み付いた習慣とは恐ろしいもので、殆ど呆然の中でありながら普段と変わらぬ動きができた。
見回すと、来店した客たちは心ここにあらずといった様子でボンヤリと座っている。
いかに日常に逃げ込もうと、全ては現実として重く圧し掛かるのだ。
誤魔化し切れぬ現実がそこにある。
「あなた……」
不意に声が掛かる。
顔を上げると、そこには心配そうな表情で俯く桃子がいた。
愛する妻。
彼女は横に椅子を並べて座り、身体を寄せてきた。
「なのはとヴァッシュさんは大丈夫なのかしら」
重い口調で紡がれる。
そう、本当の心配の種はそこにあった。
昨日より姿を見せない愛娘と、一人の居候。
「なのはは大丈夫さ。フェイトちゃんやリンディさんも付いてくれてるんだ」
愛娘については連絡は付いていた。
友達のフェイトちゃんの家に数泊するとメールが来た。
昨日の今日なのだ。直ぐに帰ってこいというメールを送ったが、珍しくも反抗的な返信が来た。
フェイトちゃんの保護者であるリンディの話によると、帰りたくないと駄々を捏ねているとのことだ。
フェイトちゃんも昨日の大災害で怖がってしまい、なのはと共にいることを望んでいるらしい。
短い付き合いではあるが、リンディさんは信頼のできる女性だと思う。
電話にてなのはの無事な声も聞いた。
ならば、仕方ないかとも思う。
あの年頃にもなると、家族といることよりも親友といることを心強いと感じるものなのだろう。
そうすることで少しでもあの大災害の恐怖を忘れられるというのなら、それで良い。
「でも、ヴァッシュさんは……」
「……そう深く心配することもないさ。彼の事だ。今にもひょっこりと顔を出すだろうさ」
もう一人の男―――ヴァッシュ君には連絡すらつかないでいた。
部屋に姿はなく、持たせた携帯電話も通じない。
知り合いに聞いてまわるも、ヴァッシュの姿を見たものはいない。
もしや、と考えてしまうのを止められない。
だが、その一方で彼がそう簡単に、とも考えてしまう。
とある世界で『人間台風』と呼ばれていた賞金首。
銃が支配する世界で賞金首という餌を首にぶらさげられ、身体に数多の傷を負いながらも生き延びてきた男。
そんな男が、そう簡単に消えてしまうものか……そう信じたい。
「彼なら大丈夫さ。きっと……」
妻の肩を抱き、優しく告げる。
返事は頷くだけに終わった。
自分の言葉は、強がりにしか聞こえなかっただろう。
それでも、そう言わないと二度と帰ってこない気がしてしまうのだ。
あの短くも騒がしく、賑やかだった日々が、もう二度と―――。
「……きっと帰ってくるさ」
自身に言い聞かせるよう、呟く。
一変してしまった日常が、ゆっくりとゆっくりと過ぎていく。
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