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リリカルなのはクロスSS木枯らしスレ

1魔法少女リリカル名無し:2009/11/01(日) 22:57:05 ID:djyhu5eQ
2chが現在大規模規制中のため、12月の中旬まで避難所進行となりました。
期間中の投下はこのスレにお願いします。

2魔法少女リリカル名無し:2009/11/01(日) 23:36:42 ID:/taHvrD.
ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
型月作品関連のクロスは同じ板の、ガンダムSEEDシリーズ関係のクロスは新シャア板の専用スレにお願いします。
オリジナル要素、成人向け表現のある作品も、それぞれ専用スレの方でお願いします。

このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
投稿中の雑談はお控えください。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475KBを超えたのを確認した方が立ててください。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその104
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1256989962/

まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/

NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/

R&Rの【リリカルなのはStrikerS各種データ部屋】
ttp://asagi-s.sakura.ne.jp/index.html

3魔法少女リリカル名無し:2009/11/02(月) 00:49:54 ID:.Zhc1fTo


4魔法少女リリカル名無し:2009/11/02(月) 13:12:36 ID:KcgEsaYk
>>1>>2
乙です。

5魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/11/02(月) 23:12:35 ID:6HMZBzr6
こんばんは、久しぶりの登場です。
23:35より、短いですが出来た分を投下したいと思うのですが、如何でしょうか?

6魔法少女リリカル名無し:2009/11/02(月) 23:16:45 ID:vM5l/R.M
おかまいなくどうぞ

7魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/11/02(月) 23:23:23 ID:6HMZBzr6
了解いたしました、しばらくお待ち下さいませ。

8魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/11/02(月) 23:39:18 ID:6HMZBzr6
では、時間となりましたので投下いたします。


「ご説明に入る前に、まずはシャリオ・フィニーノ二等陸曹から今回盗まれた
ファイルの件について話していただけますでしょうか?」
バナチェクがそう言うと、シャーリーは急いで立ち上がった。
「は、はい」
シャーリーは一度深呼吸して気分を落ち着けると、説明を始める。
「私とマリエル技官が発見したクラッキング信号は、わずか十秒足らずで局内の
ネットワークに侵入し、物理的に切断されるまでの数分足らずのうちに最重要
データベースから情報を盗みました」
シャーリーは一度言葉を切ると、横に座るグレンに振り向く。
グレンは管理局の最高幹部やエース級の魔導師たち囲まれてに相当緊張していた。
「グレン、ファイルの内容を出して」
「え!?…わ、わかった」
突然話を振られたグレンは慌てて頷くと、空間モニターを開いて分析したデータ
を表示する。
「信号そのものは手がかりとなる物がまったくない為に現時点では解析不可能
ですが、その中に埋め込まれているデータがミッドチルダのものであるなら、
内容を調べる事は出来るはず…と考えました。
その分析結果がこれです」
“次期次元航行部隊配置計画 警告:統合幕僚会議幹部以下の局員の閲覧を
禁ず”
“JS事件 極秘報告書 警告:元老院大法官、管理局長官、最高法院々長
以外の閲覧を禁ず”
表示されるデータの数々に、長官は驚愕と怒りの入り混じった表情で言った。
「局内部どころか、最高法院や元老院の極秘情報も含まれているのか!?」
静かだが怒気のこもった呟きに、シャーリーは内心の動揺を必死で隠しながら
答えた。
「はい。ですが“敵”がもっとも関心を持っているのは、それらのデータでは
ありません」
そこで、シャーリーはバナチェクとシモンズの方を振り向く。
「あなた方セクター7の管轄下にある“銀の魔神”でした」

9魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/11/02(月) 23:43:38 ID:6HMZBzr6
「ありがとうございました、フィニーノ陸曹」
バナチェクが席に座るよう身振りで示すと、シャーリーはそれに従って腰を下
ろした。
「“銀の魔神”について説明するには、まずミッドチルダと“古(いにしえ)より
代々続きし偉大なるベルカ王の国”略称“古代ベルカ”の歴史について説明する
必要があります」
バナチェクは背後に控えるシモンズに頷くと後ろに下がる、後を引き継いで前に
出たシモンズは説明を始めた。
「失われし先史時代、ミッド・ベルカ両国は驚異的に発達した科学技術でもって
次元世界を制するニ大国として次元世界の覇権を争った事は、普通校初年科の
生徒でも知っている事です。
それを可能としたのは、次元世界間を航行できるまでに至った、科学及び魔導
技術の驚異的な発達であります」
シモンズの背後で空間モニターが開くと、普通校の歴史教科書に出てくる聖王
の即位式を描いた油彩画と、元老院の討議の様子を撮影した写真が表示される。
「学校では、聖王家による政教一致の王制国家である古代ベルカと、その迫害から
逃れてきた土着の民族で作られた、政教分離の共和制国家であるミッドチルダの
宿命的対立が、皮肉にも両国の飛躍的発展をもたらした…と、教えられています。
実はそれとは別に、もう一つ発展の原因となったものがあります」
「もう一つの原因…ですか?」
四人乗りの水素動力式カートの後部座席に座るカリムが、モニター越しにシモンズ
へ質問する。
「そうです。確かに両国の対立は技術の発達の理由ではありますが、その原資
となるものが別に存在するという事です。
現在でも次元世界間の航行は実用化するには、技術的に極めて難しいと言われて
います。
それを、今から数千年も前に、古代ベルカただ一国だけが成功させました。
現在、数百の次元世界が次元航行船を保有するぐらい技術が普及しておりますが、
それはミッド建国の父祖たちの中に、技術の開発に関わった技術者が相当数いた
からです。
これは余談ですが、ミッドが次元世界の中心国的地位になったのも、ベルカ滅亡
後唯一の次元航行技術保有国として普及に努めてきた事実があるからこそです」

10魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/11/02(月) 23:47:06 ID:6HMZBzr6
シモンズが言い終えると同時に、高さ3メートル・幅6メートル程の合金製の
頑丈な自動隔壁の前でカートが停車する。
「古代ベルカの驚異的な発展を可能にし、そして恐らく滅亡の本当の原因とも
なった秘宝中の秘宝が、この奥に眠っています。
これをご覧になるのは、歴代の聖王教会法王と元老院大法官以外では、皆様が
最初です」
バナチェクがモニターを開き、カリム達と一緒に居るエージェントに指示を
出す。
「いいぞ、開けてくれ」
エージェントが空間モニターを操作すると、隔壁の電磁ロックが次々と外れ、
ゆっくりと開いていく。
隔壁の奥に拡がる光景に、全員が息を呑んだ。
そこは高さ50メートル、幅100メートル程の四方形の広大な格納庫。
天井から床まで無数のダクトや電源ケーブルが走り、何十人もの技師たちが庫内
を歩き回り、空間モニターを操作したり同僚と様々な問題について話し合ったり
している。
その中にあって一際目を引く異質な存在が、格納庫中央部の台座に鎮座していた。
高さ25メートルの、無影灯の強烈な光に照らされる白銀の巨人である。
全身分厚い氷に覆われていてすぐに動く事はない様に見えるが、それでも名状
しがたい威圧感が全身から放たれている。
その禍々しさに、列席の面々全員は悪寒を感じた。

「これが…“銀の魔神”…」
シャーリーが呆然としたまま呟くと、シモンズは頷いて話を再開する。
「そうです。これこそ、聖王家が代々守り、聖王教会と元老院が我々セクター7を
作ってまで隠してきた古代ベルカ最大の秘宝にしてタブー。暗号名“銀の魔神”
であります」
モニターの映像が全身から顔にクローズアップされる。目に光はないが、凶悪
な面相でより禍々しい雰囲気が濃厚になっていた。
「体に付いていた氷のサンプルの分析結果から、魔神が古代ベルカに飛来したのは、
今から約2000万年前と見られています」
「2000万年前って、えーと…」
スバルが指を折って何か数え始めると、ティアナが諭すように言った。
「先史時代より遥か昔、私達のご先祖もこのくらいの大きさしかなかった時代よ」
そう言いながら、拳を作って大きさを教えたティアナに、スバルは照れ笑いを
しながら頭を下げた。

11魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/11/02(月) 23:49:30 ID:6HMZBzr6
そんな二人のやり取りを横目に、バナチェクが話を続ける。
「古代ベルカ戦争から聖王戦争に至るまでの間に開発された質量兵器や魔導兵器は、
この魔神から得られたテクノロジーを基にしていたと、我々セクター7は分析して
います」
「我々ヴォルケンリッターもそうだと?」
シグナムの質問にシモンズが黙って頷く。
「勘弁してくれよ、こんなおっかないシロモノからあたしらが生まれたなんて、
考えるだけでもゾッとする」
「まぁまぁヴィータちゃん」
ヴィータが苦み走った表情で言うと、シャマルが苦笑気味に宥める。
「これが、真なる“死せる王”とすれば…」
カリムが呟くとバナチェクは頷いて言う。
「そうです、あなたの預言がこれの事を指すとすれば、事態は“JS事件”の
比―――いや、“事件”ではなく“戦争”になるでしょう」
“戦争”という言葉が出た途端、列席者全員の表情が強張った。

フレンジーは倉庫の天井から、魔神を見下ろしていた。
眼下には大勢の人間が居るにも関わらず、ラジカセにはトランスフォーム
していない。
天井を走るケーブルやダクトに露出した機械類がカムフラージュの役割を
果たしていて、その姿に気付くものは居ないからだ。
フレンジーは手近のケーブルに手を差し込むと、それを通じて外へ信号を
送った。
傍目には只のノイズにしか見えないし、時間にして一秒以下なので施設及び
教会全体に張り巡らされたセンサー類にも引っかからない。
送信された内容は以下の通りだった。
“フレンジーよりスタースクリームへ、<メガトロン様>を確認、この信号
を目印に”

12魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/11/02(月) 23:51:35 ID:6HMZBzr6
本日はここまでで終了です。
破壊大帝もようやく姿を現しました。
次はクラナガン市内に潜入しているデストロン軍団の大暴れがメインに
なります。
お楽しみに!

13魔法少女リリカル名無し:2009/11/02(月) 23:55:03 ID:vM5l/R.M
GJ
TFは起源と歴史が長いこと長いこと
作品によっては宇宙の始まりから存在してたり、寿命もないし
海外展開アニメだと百億年生きましたが何か?なキャラもいるんだっけ?

14魔法少女リリカル名無し:2009/11/03(火) 00:09:52 ID:oZXZ388M
>>13
「アニメイテッド」での台詞ですね。
あれ、日本で放映してくれないものでしょうか…。

15NZ:2009/11/03(火) 09:58:38 ID:6zWF2kEY
10時よりロックマンRXプロローグと第一話を念のため
それと第二話を投下いたします。

16RX:2009/11/03(火) 10:00:07 ID:6zWF2kEY
*****************
ある時、戦いがあった。
『全てを捨てる』者と、
『全てを守る』と誓った「風」と「翼」の名を持つ者との戦いが・・・
この物語は、歴史に決して残ることのない「翼」の名を持つ者のもうひとつの戦いの物語である・・・
ロックマンRX始まります。
*****************

               THE NEW HERO

               ROCK. . .ON

               ロックマンRX
エール
「ロックオン!!」

17ロックマンRX第一話:2009/11/03(火) 10:01:05 ID:6zWF2kEY
あたしは、セルパンを倒した、後ライブ・メタル達の力で、セルパン・カンパニー本社を脱出して、
サイバー・エルフになったジルウェと再会していた。
(運命ってモノは誰かに決められるものじゃない、文字通り『命』を自分の行きたい未来まで『運』ぶ事だ)
(エール、お前が世界を運べお前の行きたい未来までこの世界を、送り届けろ・・・)
(それがお前に託す最後の、運び屋の仕事だ・・・)
それっきりジルウェの声は聞こえなくなった。

第一話『全てを守る者』

気が付いたら、あたしは草原に立っていた遠くの方に街がある。
「エール!!」
!!
後ろを向いたら、ガーディアン・ベースから降りてガーディアン達が、並んでいた。
金髪で、ピンク色の帽子と服を着ているのは何時も通りだけど、
何時もは自分の席に大事においてある白猫のぬいぐるみを抱いている少女があたしの方に賭けて来た
「プレリー!!あたしやったよ、セルパンとモデルVを倒したんだ!!」
彼女はプレリー、ガーディアンにこんなあたしと同じような年の女の子がいるのはおかしいって?
それには、理由があるんだけどそれは後で。
「ええ、だけどもっと事態は悪い方向へと進んでいるの、フルーブから説明してもらうわ」
ガーディアン達のほうから青い服をきてヒゲを蓄えた小柄な老人が歩い来ようとした瞬間、
近くで爆発が起きた遠くの方を見れば、カプセル型のメカ二ロイド?が近付いているのが見えた。
数は、ザッと、10〜20倒せない相手じゃないけど、あたしもさっきの戦いで疲労している、あまり長引かせ分けには行かない。
「プレリー!皆を連れてガーディアン・ベースへ!!」
「分かったわ、貴女も気をつけてねエール・・・」
「さ〜て、行くわよ!モデルX、遠距離から片をつける!!」
(分かった!エール、ロックオンだ!!)
「うん!!」
あたしはモデルXを両手で目の前に突きつける様に構える。
「ロック!!・・・」
「そこを動かないで!!」
何処からか声がした、とても凛々しい、けど優しい声だった。
「何!!」と言おうとして後ろを向こうとした瞬間、桜色の閃光が飛んできたあたしは反射的に衝撃に備えたとてつもない爆風だ、
こんな衝撃なら、直撃したメカニロイド達は・・・・目の前には小さなクレーターが出来ていた、さっきの声の主がやったのは、
分かるので、後ろを向いた・・・そこには天使がいた・・・
その容姿は、髪をツインテールにしていて、まさに天使と言っていいものだった。
服は余りに戦場に不似合いな格好だった、そして宙を飛んでいる、靴からさっきの閃光とおなじ桜色の鳥の翼のような
ものが生えているがあんな物で空に浮いていられるはずがない、だけどジェットパックや、モデルHXのような
ビームによる翼を生み出すような物を身に付けている様子もないそして・・・
手には、さっきの閃光を放てるようには、見えない金色の紅い宝玉の付いた魔法の杖としか形容できないものを持っていた。
その人はゆっくりと降りて来た。
「大丈夫?」
「ええ、はい・・・」
「事情は聞きたいから、一緒について来てくれる?そこにいるあなたの仲間と」
どうも断れそうになさそうだ、それについていけば詳しい状況を聞けそうだ、よく考えればいくら、
ライブ・メタルの力を使ったからって、こんなに、街から離れられる分けはないし、
あの街にはどう見てもセルパン・カンパニー本社の残骸や、大型エネルギー供給装置も見当たらない。

18ロックマンRX第二話:2009/11/03(火) 10:02:48 ID:6zWF2kEY
突然ですが、NZです。この作品のエールのデザインは髪型以外はアドベント版だと考えていただけると
より、作品をお楽しみ頂けます(そうすると、リリカル側のキャラデザインと釣り合いますし。)
この後は、ロックマンRX第二話をお楽しみ下さい。
**************************************************************
あの襲撃から、すぐに後あたし達ガーディアン・ベースであたしを助けてくれた人、(『高町なのは』と言うらしい)
の所属しているらしい部隊『機動六課』の隊舎に向かっていた、でもあたし達の国には、軍隊なんてないし、セルパン・カンパニーの
警備隊はメカニロイドとレプリロイドで構成されているいから、人間が所属しているのはおかしいし、
あんな名前あたしの国ではありえない、それにあの格好とあの杖・・・なにもかも分からないことばかりだ。
せめてもの救いはガーディアンの仲間達がいることだろうか。

第二話『白き魔道師 黒き魔道師 白金の魔道師』

『機動六課』の隊舎に着いてからガーディアン・ベースは、格納庫に入れられ、あたしとプレリーは、ボディチェックと
精密検査を受けたあと待合室で待っていた建築様式等は昔、本で読んだことのある「西暦」と言う年号が採用されていた時代の、
21世紀と言う時代の頭に似ていた
机の上には冊子にたいなものが置けれているけど、あたしの知ってる英語に似ているけど微妙に違う文字だった。
そして、ドアが開き3人の女性が入ってきた、歳の頃は、あたしやプレリーより少し上といった所だった。
一人はよくよくみればさっきの高町なのはと言う人だった、さっき会った時から髪型もツインテールから、
サイドポニーに変わっていたし、さっきの白に青が入ったドレスのような服から、茶色の制服らしきものに変わっていた。
「まずは、お互い自己紹介をしなければなりませんね、すでに名乗っているけど改めて自己紹介をさせていただきます
 私は、管理局機動六課所属の高町なのはです」
「同じく、機動六課所属のフェイト・T・ハラオウンです」
「私は機動六課部隊長の八神はやてです」
やっぱり、管理局なんて、聞いたことないし・・・じゃあなんなのこれは?
「では、あなたたちのお名前をお聞きしたいのですが」
「あ、はいあたしは、運び屋ジルウェ・エクスプレス所属のエールです、敬語は使わないでください、そういうのになれて
 なくて・・・」
「そやね雰囲気からそんな感じするんやもん」
「・・・私は政府非公認対イレギュラー組織ガーディアン二代目司令官、プレリーです」
しばらく場に沈黙が流れた、
最初に口を開いたのははやてだ。
「ええッそんな歳でぇぇ!!そんなどう見ても15歳くらいやで!!」
「失礼だよはやてちゃん」
「いやいや、はやて、プレリーは見た目こそあたしと同じくらいだけど、じつは、数百年前のイレギュラー戦争って戦争の時に
 生まれたレプリロイドらしいから軽く100歳は超えてるよ」
「いきなり呼びすえてかいな、一応あんたより、年上なんやけどなぁ」
「レプリロイド?そういえばプレリー、あなたは検査によると人間じゃないって結果が出たし、エールの体は何か異物が埋まっている
 と言う結果だったけど・・・」
そう聞いてきたのはフェイトだ
「レプリロイドは、人間と同じ思考、姿をしたロボットです
 今では数百年前に作られた人間とレプリロイドの格差をなくす法律によって私や、統一政府レギオンズの、トップ三賢人、そして
 政府が未確認のレプリロイドの一部以外は調整を受けて寿命が設定されていて人間は運動能力強化のために
 体の一部を機械に置き換えています」
「えーと、話を本題に戻すよ」
そういったのはなのは。
「軽く状況を説明するとあなたたちはあなたたちの世界とは違う世界なの」
「・・・・・・・・」
「嘘・・・だよねぇ、ねぇそう思うでしょプレリー」
「いいえ、エール彼女達の話しは本当よ」
「なんで、そんなに冷静なのよぉプレリーィィィィィィ!!」
「私達はセルパン・カンパニー本社の崩壊を見届けた後、謎の光にベースごと包まれたのそしたら通信もGPSも使用
 できなくなっていたから、これは昔聞いた時空間移動ではないかと言う仮説を立てたの、まさに大当たりだった分けね」
「そういうことだったんや・・・でそのセルパン・カンパニーってのは何で崩壊したんや?」
あたし達はあたし達の戦いの日々、ライブ・メタルのことを話した。

19ロックマンRX第一話:2009/11/03(火) 10:03:36 ID:6zWF2kEY
「そんなことがなったならその衝撃で次元震が起きてもおかしくないな」
「て、ちょっとまってはやてちゃん」
「なんや?」
「今の話だとエールちゃん達もそのライブ・メタルって言うのを持っているって事みたいなんだけど、だとしたらそれって
 ロスト・ギアじゃ・・・」
「ロスト・ギアっていうのはな、古代の遺産、失われた存在、って言われているもんや」
「私達、機動六課は、ロスト・ギアの確保を目的にはやてが設立した部隊なの」
「そして、大型の熱量とロスト・ギアの反応が次元震と同時に発生したから私が向かったら、あなたたちを見つけた分けなの」
「ッて事はモデルX達もそのロスト・ギアってくとですかぁぁ!!いやですよぉモデルX達はあたしにとって大切な仲間だし
 さっき話したようにモデルV以外暴走や悪人へ力を貸したりしないって・・・」
  エールの予想は後に(力を貸すのではなく無理やりではあるが)裏切られることになるのだが。
「所であたし達を助けてくれた時になのはは何故宙に浮いていたの?ジェット・パックみたいなものつけていたようには
 見えなかったし、あの服は戦場には不似合いっていうか・・・」
「あれは・・・魔法」
そう言ったのはフェイトだった機がするがびっくりしすぎてもうそんなことはどうでもいい
「へっ!!魔法?そんなものこんな時代にあるわけ無いじゃん!!だいたいこんな建築物魔法なんかじゃ・・・・」
「落ち着いて!エールちゃん!!
 実は私とはやてちゃんは実はこの世界の出身じゃないんだけど、私とはやてちゃんが生まれて、フェイトちゃんも一緒に育った
 世界には『発達した科学は魔法と変わらない』って言葉があるんだけど、この場合はその反対だね」
「つまり『発達した魔法は科学と変わらない』と言う事ですか?」
「プレリーちゃん正解」
「所で・・・話が変わるんやけどなぁエール、あんたの声どこかで聞いたことのあるような〜・・・
 はっ思い出した、そうやリィンフォースや!初代夜天の書管制人格でありリィンのお姉さんそして八神家の大切な家族,
リィンフォースの声にそっくりなんや!!」
その後あたし達ははやて、なのは、フェイトの昔話を聞いてからすでに時間は午後8時を過ぎていたのに気づいて
話の続きは、次の日にして格納庫に収容されてるガーディアン・ベースの自室に戻った。

20NZ:2009/11/03(火) 10:05:44 ID:6zWF2kEY
以上です。
今回はエール達が自分達の状況把握でしたが、次回はバトルです
(といっても作者は会話はともかく戦闘シーンの再現というのはなかなか乏しいものですのであしからず)

21魔法少女リリカル名無し:2009/11/03(火) 13:16:33 ID:k.tPhPb6
>>12
GJ!!
すべてはメガトロン様からもたらされた技術だったんだよ!な、なんだってー!な展開でした。
デストロンの攻勢がどうなるか楽しみです!玩具やコミックの映画未登場の連中も出そうですし。
>>13
最初の13人は宇宙誕生期に創られたらしいね。

22魔法少女リリカル名無し:2009/11/03(火) 21:52:59 ID:/yzScoQM
>>12
GJ!!。
メガトロン様が登場したw
復活までは、秒読み段階で楽しみすぎる。

23運営議論スレより:2009/11/03(火) 23:22:08 ID:GAqaM4Q2
突然失礼します。
運営より告知をさせていただきます。

ただ今運営議論スレにてNZ氏の追放処分についての投票を行っております。
期間は今週末まで。
詳しい経緯については運営議論スレの>>730以降をご覧ください。
ご覧になってもわからない部分が有りましたら、運営議論スレにてご質問お願いいたします。

では、失礼いたしました。

24無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/11/04(水) 20:16:44 ID:uNEwl48U
大変タイミングが悪い気がするのですが……お久しぶりです。一か月以上かかってしまい、申し訳ありません。
どうでもいいことですが、他作品の執筆を終えた途端に脱力感に襲われてしまってしばらく執筆できませんでしたので、ここまで時間がかかってしまいました。

では改めて、リリライ第十四話の投下を20:45にしたいと思います。何か問題がありましたらそれまでにお知らせくださると助かります。

25魔法少女リリカル名無し:2009/11/04(水) 20:44:28 ID:vMpHw2G2
どうぞ

26無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/11/04(水) 20:51:24 ID:uNEwl48U
では投下を開始します。

27無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/11/04(水) 20:53:19 ID:uNEwl48U
 わたしが到着した時、二人の過酷な戦いは既に始まっていた。
 長い長い、死闘とも呼べる戦い。苦難の末に勝利を手にしたのは、カズマ君だった。
「良かった……」
「なのは」
 びくっと肩を振るわせてしまう。慌てて振り返るとフェイトちゃんが立っていた。何故か自分と同じようにバリアジャケットを纏って。
「いつからいたの?」
「なのはの後だよ。でもはやては流石だね、自分が行けないから代わりにリィンを行かせる辺り隙がない」
 冗談めかした口調でそういうフェイトちゃん。こんな楽しそうなフェイトちゃんは久し振りに見たかもしれない。もちろん普段がつまらなそうと言う訳じゃないけれど。
 そんなフェイトちゃんは白いコートを翻しながらわたしに背を向けた。
「さ、行こうか」
 フェイトちゃんが手を差し伸べてくる。断る理由はないし、何よりわたしも早くカズマ
君に会いたかったので、すぐにその手を握った。その手はとても温かい。
 その時、光が臨海第八空港を包み込んだ。

28無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/11/04(水) 20:57:02 ID:uNEwl48U




   リリカル×ライダー

   第十四話『スカリエッティ』



「お前――――!」
 怒りが頭の隅々までを支配し、思考能力を完全に奪わせる。闘争本能が頭をもたげ、身体を操作しようとする。それは俺の意思では
決してない。
 だが俺はそれでも構わない。この怒り、そして悲しみに決着が着くなら、俺は幾らでも本能に身を預ける……!
「君は面白いなぁ。オリジナルの力を持つ者がどういった人物か、興味はあったんだ」
 ジェイル・スカリエッティ。なのは達が追う天才科学者にして災厄をもたらす凶悪犯罪者。通称『無限の欲望《アンリミテッド・デザイア》』。
 俺はコイツと戦うつもりはなかった。それはなのは達の役割だと思っていたからだ。だが、俺にも戦う理由が出来てしまった。そう
だ、だから俺は奴を倒す。奴の所業を、絶対に許しはしない。
「待って、カズマ」
 誰かがぽん、と俺の右肩を叩いた。柔らかい手、そして冷静な声。それで、水をかけられたように頭が平静を取り戻した。
 後ろを見れば黒いフィットスーツに白いコートという出で立ちのフェイトが立っている。多分、これが彼女のバリアジャケットなのだ
ろう。
「フェイト……なんで」
「なのはも一緒だよ」
 前を見れば、いつの間にか白いバリアジャケットを纏い、レイジングハートを構えたなのはがいた。顔は、見えないが。
「レイジングハート! エクシード、ドライ
ブ!」
『Ignition』
 彼女の冷静な声とレイジングハートの電子音声の後、杖とも槍とも取れる形状だったレイジングハートが一瞬にして変形、六枚の桜
色をした魔法の羽根を伸ばす巨大な突撃槍に変化した。
 ただ槍というより、なのはの特性的には巨砲という方が正しいかもしれないが。
 それに合わせ、なのはの服装もより防御を重視した、鋭角的な形に変化していた。
「ノコノコそちらから向かって来るとは、好都合だよ六課の諸君!」
 両手を広げ、まるで舞台の人みたいな仰々しい仕草をするスカリエッティ。だが二人はそれを気にも止めずに動き出す。
「フェイトちゃん、行くよ!」
「うん!」
 いつの間にか鎌型デバイス、バルディッシュを展開していたフェイトが白いコートをはためかせながら飛翔する。
 黒のフィットスーツに包まれたしなやかな肢体をひねり、その鎌を鋭く構える。
 そんな二人とスカリエッティの間に割って入る、三つの影。
「ドクターはやらせんぞ」
「トーレ! セッテも……」
 フェイトが目の前の人物を見て苦虫を噛み潰したような顔をする。因縁の敵を見つけたような表情だ。もしかしたら彼女達が、件の
戦闘機人なのか。
 彼女の目の前に割り込んだ女性――トーレはばっさりと切って短髪にした髪を揺らしながら紫のフィットスーツに包まれた引き締まった体を捻って独特なポーズを取る。
 その腹の部分にあるのは――
「……まさか、ライダーシステム!?」
「はっはっは! オリジナルよ、君の実力を
見せてくれ!」
 残りの二人、片方は眼鏡を付けて底意地の悪そうな笑みを浮かべた女と無表情に包まれたセッテと呼ばれた少女、二人も腰のベルト
に手をかける。
「変身!」
『Open Up』
 三人の姿が変化する。
 それは、見たこともないデザインのライダーだった。

29無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/11/04(水) 21:05:37 ID:uNEwl48U
「嘘、だろ……」
「驚いたかね?
 ニュージェネレーション、新世代ライダーシステムと私は呼んでいるのだがね。私はこれについてあまり知らないが、知らないなりに自らで工夫してこれらを作ったのだよ」
 彼女ら、新世代ライダーシステムと奴が呼ぶ姿に目を向ける。その中でもトーレの変身体は隊長格だからか、最も立派な設えになっ
ている。
 頭は菱形のアイ・センサーの周囲を金色のフェイスガードとAの形にアレンジしたチークガードが包み込む。
 胴は肩の部分が張り出した黒と金を組み合わせた配色の強固なアーマーでがっしりと保護されている。そして脇には一振りの剣。
 残りの二人もそれぞれ似たような外観をしていた。
 セッテが緑色、もう一人が赤色を基調としていることとフェイスガードが省略されていたりアーマーが軽量化されているのが特徴か。
 二人は武器もそれぞれ槍とボウガンという異なるものが装備されている。
「行くぞ!」
「ッ!」
 トーレが先に動き出す。彼女のアーマーごしに腕と足から紫のエネルギー翼が発生し、舞い上がるような軽やかな動きでフェイトに迫る。
 ワンテンポ遅れて、フェイトも雷の光刃を伸ばすバルディッシュを構え、彼女の突撃に対処する構えを見せる。
「私はあなたを抑える」
 そう言ってなのはに迫るのはセッテだ。右手に持つ槍とは別に、左手でブーメラン状の曲刀を投げ放ちながら彼女はなのは目掛けて突撃する。
「しょうがないわねぇ、私も援護してあげる」
 そう皮肉気な口調で喋る赤いアーマーを纏う女もボウガンをなのはに向けて構える。
「なのは、俺も援護を――」
「カズマ君はスカリエッティをお願い!」
 その台詞にハッとする。そうだ、俺には戦わなければならない相手がいるのだ。こいつらの相手はしていられない。
「ようやく君との舞台が用意出来たよ」
 何処か気味の悪さを覚える紫の長髪を揺らしながら明らかに薄気味悪い笑みを浮かべて近付くスカリエッティ。
 彼も何かベルトらしきものを装着しているが、細部はよく見えない。
「さぁ、パーティーの始まりだ!」

30無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/11/04(水) 21:08:57 ID:uNEwl48U
『Open up』
 その聞き覚えのある電子音声、そして眼前に展開される紫のエネルギーフィールド。中央に描かれたスパイダーの紋章。
 奴を通り越すように動くオリハルコンエレメントに包まれ、スカリエッティは姿形を変えた。
「レン、ゲル……!?」
「ハッハッハ! やはり君は見覚えがあるらしいな!」
 深緑を基調としつつも金色の縁取りが施された鎧はどこか気品と王者の風格を漂わせる。
 また頭は垂直に伸びた二本の角がさりげなくも自己主張しており、派手ではないが王冠のようなデザインで纏められている。
 そのシックながらも豪奢な姿は犯罪者とは思えない堂々としたもの。これが、レンゲル。スカリエッティが変身するライダーシステム。
「どうしてお前がレンゲルのベルトを!」
「これは魔力を利用して作られた偽物だよ。安心したまえ」
 レンゲルのクラッシャーから心底愉快そうな声が漏れる。
 確かにレンゲルの鎧からは魔力が検出されている。ならばあのレンゲルクロスはチェンジデバイスみたいなものなのだろうか。
 だがその外見はオリジナルのライダーシステムと寸分違わない。
「そんなことはどうでもいい……俺は、お前を倒す!」
 そうだ、今はスカリエッティがレンゲルのレプリカを使っていようが関係ない。俺は、奴を倒す。
 ブレイラウザー片手に走り出す。一瞬で二人の距離は零になると同時に、俺は剣を垂直に振り落とした。
「ふむ、この程度かね?」
 剣先を見る。そして俺の表情が驚愕で染まった。何故ならブレイラウザーが、片手で掴まれていたからだ。
 正確には人差し指と中指。その二本の指に、ブレイラウザーは綺麗に挟まれていた。
「なっ……」
「これでは拍子抜けだな!」
 ガツンと腹にハンマーを叩き付けられたような衝撃が走る。蹴られた。けれど、ただの蹴りとは思えない威力だった。
「ふむ、私が期待していたほどのものではないな」
 面白くなさそうに手首を捻り、いつの間にか現れていた短槍を掴み上げるスカリエッティ。
 短槍は一瞬にして伸長し、刃先が割れて僧侶が用いるものと違って鋭い刃が付いた錫杖に変わる。
 俺はブレイラウザーのカードホルダーを展開し扇状に広げてカードを引き抜いた。
『――THUNDER』
 アンデッドの力がブレイラウザーに伝わり、電光の閃きを白刃に纏わせていく。青い稲妻が剣から溢れ出し、その解放を今か今かと急
かせる。
「あああああああっ!」
 俺は雄叫びと共に剣を振りかざし、その雷撃を解き放つ。蒼雷は空間に伝播し、一筋の槍となってスカリエッティに襲い掛かる――
――!
『――Blizzard』
 その瞬間、スカリエッティが一枚のカードを錫杖の後ろに付いたカードリーダーに通す。刹那、魔法陣が出現し、絶対零度の吹雪を吐
き出した。
 雷を巧みに取り込むようにブリザードは広がり、瞬く間に雷は拡散していく。まるで難攻不落の壁に取り込まれるように。
 レンゲルの仮面でスカリエッティの顔は見えない。それでも俺は、ニタリと歪んだ奴の顔を幻視してしまった。
「ふむ、確かにカードによる魔法は威力が通常より高くなるよう設計されているが、果たしてオリジナルはそれに負ける程度の威力な
のかな……?」
 マスクの下で何か呟いているが、そんなことは気にもならない。いや、気にする余裕もない。
 何故、どうして奴に防がれたんだ……?
「――そうか、君は疲れているのではないかね?」
「何だと!?」

31無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/11/04(水) 21:10:48 ID:uNEwl48U
 奴に馬鹿にされたことが俺の怒りを更に膨らませ――

――ドクン。

(――ッ!)
 そうだ、冷静になれ。俺の本能が囁いてくる。奴に勝ちたければ冷徹な思考を貫け、と。俺は怒りで突っ走り過ぎる。落ち着かなけれ
ば。
 確かに俺は今消耗している。慣れないジャックフォームに変身し、長い戦いを終えたばかりだ。それに比べ、相手は無傷。
 ここは、退くべきなのかもしれない。
(くそっ!)
 俺は慣れない念話を使用するべく、システムを起動させた。
『なのは、フェイト。今は退こう』
『カズマ!? どうして……』
『カズマ君! 今取り逃がしたらまたたくさんの人が泣いちゃうんだよ!?』
 確かにそうだ。今こいつを取り逃がせば、新たな犠牲者が出る可能性がある。だが、今俺達が倒れては何の意味もない。
 だから俺は、現時点でもっとも冷静な対応ができる人物に念話を繋げた。
『はやて! スカリエッティは万全の準備をしてきてる。撤退命令を出してくれ』
『私も確認したわ。リィンに転送させる』
『はやてちゃん!』
『なのはちゃん! 冷静になりや!』
 びくんとなのはが肩を震わせる。その隙にとセッテが槍を振りかざす。
「みなさん、転送!」
 その一瞬後、リィンの声を聞きながら俺達は臨海第八空港から消え去った。

32無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/11/04(水) 21:11:35 ID:uNEwl48U



     ・・・



「……」
 ここは部隊長室。すなわち私の部屋。書類が山積みされた私のデスクと隣にあるミニチュアのようなリィンの机、そして来客用のソ
ファしかない一室。
 今ここは、重苦しい空気に支配されていた。
「――なのはちゃん、フェイトちゃん。顔を上げてくれんか?」
 私が精一杯の声をかけるが、二人はショックと怒りからか反応さえしてはくれなかった。あるいは疲れ果てて応える気力も湧かないの
かもしれない。
 今回の戦闘機人は以前とは比べ物にならないほど力を増しており、リミッター付きの二人には辛い相手だったはずだし。
 一方のカズマ君は意外と冷静そうな顔で何やら考え事をしているようだった。一番最初に冷静でなくなった人が最初に落ち着くなん
て皮肉だなと思うけど。
「カズマ君、今回のスカリエッティが用意したアレって――」
「――ああ、たぶんチェンジデバイスみたいなものだと思う」
 ロングアーチによる観測データではないので確証は難しいが、リィンの測定データではスカリエッティの装備が魔力で構成されているのは確かだった。
 ただしチェンジデバイスのように自発的に魔力を発生させるわけではなく、あくまでスカリエッティの魔力で動くデバイスのようだったけれど。
 ちなみに戦闘機人の方は魔力ではない。魔力に似せたエネルギーをスカリエッティは利用したに違いないとはシャーリーの言だ。
 戦闘機人はインヒューレント・スキルという固有能力を持ち、それを扱うための科学エネルギーがそれに値するらしい。
「じゃあカズマ君ならスカリエッティの装備が持つ弱点とか分かる?」
「それが分かれば苦戦しないだろ」
 それもそうだった。
 カズマ君が一瞬だけ悔しそうに表情を歪める。冷静なようでいて、怒りが収まったわけじゃないのだろう。
 隣のリィンと目を合わせてため息をつく。スカリエッティの出現より、この空気の方が私には問題だった。まぁ、奴のせいではあるが。
 そんな沈み込んだ空気の漂う部隊長室。そのドアが突然開け放たれた。
「失礼しま……も、申し訳ありませんでしたっ!」
 入ってきたのはティアナだった。スカリエッティの破棄した基地について報告書を纏めてきたのだろう。
 普段ならともかく、今はノックもせず入ったのは失敗だったと思う。何せこの空気だ、ティアナなら余計に自分のミスに気付いただろう。
「ティアナ、報告書はここに置いてってな」
「は、はい……。すみませんでした」
「ええよ、次から気を付けてな」
 取り敢えずフォローはしておく。この空気、そして隊長陣の異常な状況を見てショックを受けたのは目に見えて分かったからだ。後で説明しておこう。
 そのとき、私はある案を思い付いたのだった。
「そうや……カズマ君、フォワード陣に入ったらええんやない?」
「はぁ!?」
 ティアナとカズマ君の叫びが重なる。思わず見合わせる姿など、なかなか笑えるものだったのは内緒な。
 ちなみに思い付きではあるが何も考えずに言ったわけじゃないで?
「はやて部隊長、それはどういった理由からでしょうか? スターズ、ライトニング両分隊は今の状態でバランスが取れていると思う
のですが」
 慌ててティアナが反論をまくし立ててくる。そこまでして反発する内容だろうか。
 フェイトちゃんとなのはちゃんが大人しいなと思ってソファを見たら、二人は肩を寄せ合って寝ていた。
「もちろん所属はロングアーチのままや。指揮はリィンに任せるつもり」
「聞いてませんよ、はやてちゃん!?」
 リィンが元々高い声でさらに素っ頓狂な声を上げる。そんなに驚くことだったのだろうか。
「しかしザフィーラさんが不在なら六課の防衛戦力として必要なのでは……」
「大丈夫や。これからはどちらかの分隊を防衛に就かせるつもりやから」
 ティアナが驚いたように目を見開く。これは以前からの決定事項だ。単に言うタイミングが早すぎただけで。
 本当ならシグナムとヴィータに任せるつもりだったのだが、二人が出撃したいということでこういうことになったのだ。
 確かにフォワード陣のメンバーではスカリエッティの強化戦闘機人を相手にするのは難しい。だからこそ防衛に重点を絞ったわけだ。
 そして、今回の発想がそれにアレンジを加える。

33無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/11/04(水) 21:12:20 ID:uNEwl48U
「今回からは出撃分隊にサポートとしてカズマ君を付けるつもりや。これで打撃力不足をカバーする」
 そう、カズマ君は止めてもスカリエッティの元に向かうはず。それを逆手に取った手段だ。これならカズマ君のそばに誰かを付けて
おくことができる。
 もちろんそれだけじゃない。彼は飛行魔法も使えるから遊撃班としても妥当だった。
「ちょっと待ってくれよ、俺はまだ何も言ってないぞ」
 ぐっと黙り込んだティアナに続いてカズマ君が反論の声を上げてきた。どうしてこう私の意見に反対する人ばかり……。
「ええやないの、私への恩返しということで」
「ぐっ、それをここで出すか……?」
 カズマ君が呆れたような表情を浮かべる。
 それに私は、とびきりの笑みで応えることにした。

34無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/11/04(水) 21:14:37 ID:uNEwl48U



     ・・・



「どうだったかね、トーレ」
 巨大な地下空洞を利用したドーム状の施設。
 天井には幾多のパイプがのたくるように走り、壁にはコンソールやモニターが敷き詰め
られ、中央には立体映像投影装置を埋め込んだ机が置かれた場所。
 そんな秘密基地じみた施設に五つの人影。その一つであるスカリエッティが長身の女性、
トーレに問いかける。
「最高ですよ、ドクター。『グレイブ』ならフェイト相手でも全く問題ありません」
 トーレは表情一つ変えずに淡々と告げる。だがフェイトの名前を出したときだけ口調が一瞬固くなっていた。
「ふむ、そうか。流石は私だな。しかし君も彼女には対抗意識を燃やしているようだな」
「そのようなことはありません」
 断言だった。
 それを聞き狂ったように笑い声を上げるスカリエッティ。トーレは一瞬だけ眉を潜めたが、すぐに無表情に戻した。
「それよりもぉ、これからどうするんですぅ?」
 蔑むようでいて媚びるような独特の口調。発生源にいるのは眼鏡をかけた女。その顔には、寒気のするような笑みが張り付いている。
「クアットロ、待ちたまえ。ゲームはまだ始まったばかりだ」
 スカリエッティはニタリと嗤う。その顔を見て、クアットロもまた笑みを深めた。ただただ、心底楽しそうに。愉快そうに。
 彼を見るもう一人の人物、ウーノは何も言わない。ただ表情を曇らせたまま、彼を見続けるだけ。
 たった五人で時空管理局に抵抗する彼らは、しかしそれを感じさせないほど今を楽しんでいた。そう、彼らが始めた、新しいゲームを。



     ・・・



 強大な力をつけたスカリエッティに対抗するべく苦悩する機動六課。しかしガジェットの反応を受けてカズマも出撃を果たす。
 一方、首都クラナガンでは王の少年が平凡な生活を迎えていた。



   第十五話 『ガジェット』



   Revive Brave Heart

35無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/11/04(水) 21:20:46 ID:uNEwl48U
これにて投下終了です。しつこいですが、遅れてしまい申し訳ありませんでした。

今回でようやくスカリエッティが正式に登場です。戦闘機人強化案、実は本作連載途中で思い付いたのですが、設定的にはレンゲルクロスを元に製作したことにしています。ガンナックルやクローン(プロジェクトF)などと同様、スカリエッティはコピーが得意なんだと裏設定で勝手に決めましたので(ぇ)。
それとスカリエッティの性格がかなり原作からずれていると思います。これは自分にとっての悪役のイメージで書いたらこんな感じになっちゃったというものなので、半分オリキャラ化しています。原作至上主義の方には大変申し訳ございません。

ではでは、これからも投下頑張ろうと思いますので、よろしくお願いします。

36魔法少女リリカル名無し:2009/11/04(水) 21:32:00 ID:vMpHw2G2
GJ
新世代型の3つはケルベロスを分割したものだったけど
元のあれは橘さんが頑張った結果なんだろうか?
コピーは原作にもあったからそういうものでしょう

37魔法少女リリカル名無し:2009/11/05(木) 13:53:39 ID:YcOg3dt2
もう管理世界はメガトロン様に支配されますたでもいいかも。

38魔法少女リリカル名無し:2009/11/05(木) 19:07:33 ID:YbWCM6Ns
強い!!
確かにJ・K等の特殊能力なしの代わり素の能力が高めだったからな
レンゲル
タランチュラのおっさん出てくるかな?

39R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/05(木) 21:47:46 ID:G2KcJSJA
>>1氏、スレ立て有難うございます
3度目の正直と云う事で、明日の20:00から投下を予約させて頂きます
毎度ながら精神的に酷い負荷を齎す作品ですが、今回は特に酷いと思われますのでご注意を
では、また明日

40魔法少女リリカル名無し:2009/11/05(木) 22:02:30 ID:n9rEnfwc
待ってたよー
もう氏の作品に調教され切っちゃって、その酷いのが楽しみで仕方ないです
期待してます

41魔法少女リリカル名無し:2009/11/05(木) 23:12:17 ID:CpY0jYjU
正直tactics2終わるまでこないもんかと思ってた

42魔法少女リリカル名無し:2009/11/05(木) 23:56:20 ID:R8t1Gp4A
>>39
R-TYPE Λ氏、待っていたよ!!

さあ、地球軍にバイドよ、なのは達をどんどん殺してくれ!!

43魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 01:53:01 ID:fvNgwLTA
>>42
作品見るとリリなの勢よりも遥かに多く地球軍や民間人が死んでるけどな

それより無駄に死を望むようなこと書いてんじゃねえよw
登場人物に恨みでもあるのかw

44魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 09:32:47 ID:UuzhMZLQ
Λの感想って大概がこんな感じじゃね

45魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 09:47:10 ID:jonWr3Ag
陣営に関係なく惨たらしく死ぬ。それがR-TYPEくおりてぃ。

46魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 13:06:03 ID:eODHwXvU
>>39
R-TYPEΛ氏、ようやく来ましたか♪
アンタのSS見るたびに、半日無駄になるくらい見入っちゃうくらい好きになってるよ

しかし、クロノ提督サイドはどうしてるんだろう?

47魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 13:12:02 ID:jQ9GMtQM
しかし……メタルサーガsts氏がゆくえふめいになってから今日でいくつだ?

48魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 14:57:07 ID:GF.9C50k
ゆくえふめいだと

49魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 19:34:15 ID:dDJWs6ds
R-TYPEΛ氏、投下楽しみに待ってました。
>>精神的に酷い負荷を齎す作品
氏の作品を読んでいる人は大概汚染されてるから(バイドルマスター的な意味で
大丈夫ですよ。

50魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 19:46:33 ID:L.a.8hU.
まぁ、俺は四話くらいで心折れたけどな……。

51R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:02:26 ID:XCkH6IKs
それでは投下します
警告として、精神的にクルのが苦手な方は避難を

52魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:03:46 ID:XCkH6IKs
聖王教会騎士、カリム・グラシアは悩んでいた。
それはもう悩んでいた。
もうホント勘弁して下さいってくらい悩んでいた。
その悩みのタネはご多分に漏れず、自らのレアスキル、しんよげんの・・・もとい「預言者の著書」によって書き起こされた預言の内容なのだが、これがまた訳が分からないとしか云い様のないものだったのだ。

別に『古い結晶と無限の欲望がアァンしちゃう場所でヴァーってなった王さまの翼がバックにドドドドドドって背負いながらバァーンと出てきて法の塔がガーッってなってお船もギューンドカーンってなっちゃうよ』という予言が無くなった訳ではない、一応。
ただ、それに続く様にして妙な一文が浮かび上がってしまったのだ。
何と言うか、こう投げやり気味に書き足した様な、本気かどうかも判然としない一文。



『あ、あとマッスルとか出るかもしんない』



カリムは頭を抱えた。
抱えて身を捩り、そのまま執務用の机にヘッドバッドした。
その音に、慌てた様子のシスター・シャッハが執務室に駆け込んできたりしたが、机にデコを打ち付けるカリムを目にすると「ああ、またか」みたいな顔して退室していった。
カリムはそれに気付かない。
ついでに額から出血している事にも気付かない。
別に良いのだ、血なんかちょっとくらい減っても。
血圧高いから。
普段からお菓子って形でいっぱい糖分摂ってるから。
何がとは言わないけど、姉さんのは甘いねって言われたから。

ってかマッスルって何だ。
もう一度言おう、マッスルって何だ。
ついでに文頭の「あ」とか「あと」ってどういうつもりだこの野郎。
喧嘩か?
喧嘩売ってるんですか、この聖王教会に?
というかこの私に?
よし買ってやろうじゃないか無限の欲望だろうがマッスルだろうが幾らでも来いよベネット。

「フゥ・・・」

物憂げに溜息を吐き、優雅な手つきで紅茶の入ったカップを手に取る。
窓から差し込む午後の光が心地良い。
今の彼女を見れば10人中9人が聖女の様だと答えるだろう・・・額から迸る、赤い血潮を見なければ、だが。

まあ、こうしてアンニュイな気分に浸り続けている訳にもいかない。
如何に馬鹿馬鹿しい内容であろうとも、予言は予言だ。
何とかかんとかそれっぽく脚色した上で六課とか管理局に伝えれば、後は向こうが何とかしてくれるだろう。
それでそれで、また前みたいに美味しいお菓子とか、ケーキとかジュースとかいっぱい持ってきてくれるかも。
うお、私って天才。

53魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:04:25 ID:XCkH6IKs
そんな、はやてが知れば血涙流しながらシュベルトクロイツで殴り掛かってきそうな事を思案しつつ、カリムは報告を纏めようとペンを手に取る。
そうしていざ書き始めようとしたその時、彼女はペンを持つ手に違和感を覚えた。
なんかカタい。
なんか温い。
なんかハァハァ言ってる。
ふと、自身の右手へと視線を投じる。



『ボンジュール』



ん゛にゃああぁぁぁとか、みぎゃああぁぁぁみたいな悲鳴が、聖王教会に木霊した。

★  ★  ★

ケース1 :『マッスルキャリバー』



「なんっっじゃこりゃああああぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」

そんな素っ頓狂な声を上げたのは、スバルだった。
彼女の視線の先には、彼女の相棒たるマッハキャリバー(右)。
即ちマッハキャリバー履いた自分の足である。

レリック回収しに来た。
此処までは良い。
エリオ達と合流する為に全速で走った。
変な呻き声が聴こえた気もしたけど、まあこれも良い。
真っ黒い蟲が出てきたんで蹴った。
『アフンッ!』って声がしたんで、マッハキャリバー(右)を見てみた(今ココ)。
で、目に入ったのが。

『ン! ン!』



ローラーを抱え込む様に埋め込まれた、ビクンビクン痙攣しながらハァハァする、全身真っ白の超ミニなマッチョメンでした。



「・・・じゃなぁーいっ!」
『おふんっ!』

叫びつつ思い切り右足で四股を踏むと、何処か艶のある悲鳴が上がる。
何とか右のマッハキャリバー(仮)を脱ぎ、顔の近くまで持って来て尋問するスバル。

「ああああああんた何!? ローラーは? 何時ものローラーはどうしたの!?」
『ふ、何を言うかと思えば。私はいつも通りのあなたの相棒『マッスルキャリバー』ですよ』
「何ソレ!? アタシの相棒はマッハキャリバーでしょうが!」
『ノンノン、『マッスルキャリバー』。OK?』
「OKじゃない!」

何と言う事か。
スバルは戦慄した。
自分は今までコイツの存在に気付かず、コイツを履いて地を走りコイツを履いてウイングロードを駆けコイツを履いて蹴りをかましていたのか。
気付けよ、自分。

54魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:05:04 ID:XCkH6IKs
其処で、ふと気付く。
自分はまだ交戦中ではないか。
こんな馬鹿な事していたら敵に・・・敵に・・・

『・・・!!』
「メチャクチャ効いてる―――――!?」
『当然』

何と言う事か。
あろう事か敵は、全力とはいえ確かにガードされた筈の初撃でダウンしていたのだ。
スバルは知る由もないが、ガリューという名のこの召喚蟲、敵を前に膝を屈するのはこれが生涯2度目である。
1度目は現在の主である少女の母親に使役されていた時、模擬戦で当たった『中島君』とかいう陸士だった。
海パン一丁に変則リーゼントというバリアジャケット(仮)を纏った彼は、接近戦を仕掛けるガリューに対し、何故か滂沱の涙を流しつつ『んな都合のいい女がいるかー!! バッキャローーー!!!』という謎の絶叫と共に放たれたパンチで応戦、一撃でガリューを沈めた。
魔力など纏いもしない、唯の平凡なパンチにも拘らずだ。

だが、ガリューは理解していた。
あのパンチには魂が込められていた。
魔法では推し量れない、強大な魂の力。
完成された生命体である女性には決して理解し得ない、不完全な生命体である『漢』にしか理解し得ない魂。
そして同じものが、この『マッスルキャリバー』からは感じられた。
誇り高く、熱き魂。



そう、即ち―――『漢魂(メンソウル)』が!!



『・・・!』
「うわっ!」

咄嗟に後方へと跳び、そのままガリューは離脱に掛かる。
今のコンディションでは分が悪い。
並々ならぬ屈辱感と燃え上がる闘争心を抱えつつ、ガリューは撤退を選択した。
だが、これで終わりではない。
次こそ、次こそはこの雪辱を晴らしてみせよう!

『・・・(上等だコンノー! 吐いたツバ飲まんとけよ!)!!』
『フフフ・・・何時でも来なさい』
「え、え!? なに、アンタら話せんの!?」

覚えとけよコンチクショウ!!

★  ★  ★

ケース2 :『マッスルカノン』



『ぃぃいいいいいいやぁぁあああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?』

念話越しに放たれた突然の悲鳴に、性悪陰険メガ姉ことクアットロは、思わず地上へと真っ逆さまに落下し掛けた。
いきなり何なんだと毒吐きながらも、悲鳴の主であるディエチへとこちらから念話を飛ばす。

『ちょっとディエチちゃん、いきなり耳障りな悲鳴を上げないで頂戴! びっくりして地上に落ちるとこ・・・』
『ククククククククアットロ! たたた助けてクアットロていうかクア姉ヤバイこれヤバスヤバヤヤヤくぁwせdrftgyふじこlp』
『ちょ、おま』

55魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 20:05:36 ID:Ihbwo.eI
精神的にクるってそっちかよっ!支援

56魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:05:37 ID:XCkH6IKs
いかん、何か分からんがめっちゃ錯乱してる。
多少混乱しつつも、クアットロはディエチの許へと向かう事にした。
こんな状態では、作戦遂行すら儘ならない。
面倒な事ではあるが、作戦参謀の身としては放っておく訳にもいかないだろう。
そして数十秒後、クアットロはディエチが待機する廃ビルの屋上へと到着した。

「ディエチちゃん、一体なにくぁwせdrftgyふじこlp」
『ボナセーラ』

其処に在ったのは見慣れた狙撃砲ではなく、何故か後ろ手に拘束され、うつ伏せに固定された筋骨隆々のマッスル。
勿論、全身タイツでもないのに真っ白、人間なのか魔導生物なのか判りゃしない。
伏せられた顔が上げられると、其処に在るのは黒い横長のバイザーだけで、口や鼻、それどころか耳も無い。
代わりに頭頂部には、砲口なのだろうか、黒々とした穴が開いている。
やはり人間ではない、敢えて言うならばマッスルだった。
敢えて言わずともマッスルだった。

「な、何なのアンタ!」
『何と言われましても・・・私こそは貴女の妹、ディエチ嬢の固有武装たる『マッスルカノン』で御座いますが』
「嘘つけ!」

余りにも醜悪なイノーメスカノン、もとい『マッスルカノン』に向かって怒鳴るクアットロ。
20mほど離れた位置では、ディエチが屋上の隅でこちらに背を向けて体育座りをしており、ブツブツと何かを呟いている。
幾ら何でも様子がおかしいと感じたクアットロは、マッスルの背中を踏み付けながら詰問した。

「アンタ、ディエチちゃんに何をしたの」
『ああ、もっと! もっと強く踏んで!』
「い・い・か・ら・こ・た・え・ろ・ッ!!」

明らかに嬉しそうな悲鳴に、クアットロは嫌悪に引き攣った声で叫びながら更にグリグリする。
その強烈な刺激にマッスルはビクンビクンしながら、ウットリした声で答えた。

『ン! ン! グリップを握って・・・おふんっ! トリガーに指を掛けろと・・・ン! 指示した・・・おおう!』
「このっ! 変態! 変態! 変態! 変態! 変態ッ! ド変態ッッ!」

もはや質問の内容すら忘れ、涙声で罵りながらマッスルを蹴り続けるクアットロ。
超ド級のシャイな上に天の邪鬼な性格が合わさって誤解されやすいが、こう見えてナンバーズ随一の乙女思考の持ち主である。
温室栽培された花よりも繊細で純情な彼女の精神は、ショウジョウバエの遺伝子よりも敏感にドギツい反応を返す変態筋肉達磨の有り様を前にして、襲い来る強烈なストレスに耐え抜く事ができなかったのだ。
だが、どうにか変態の言い分も聞き留めていたらしい。
目じりに涙を浮かべながらも、すんすんと鼻を啜りつつ問い掛ける。

「うぅ・・・それで・・・すん、ぐりっぷって・・・ふぇ、どこに・・・ひっく・・・あるのよぉ・・・へぅ・・・」
『おお、可憐なお嬢さん、そうお泣きなさるな。それ、グリップは私の胴の下側に在る』
「はぅぅ・・・どれぇ・・・って」

果たして、グリップは見付かった。
拍子抜けするほど簡単に見付かった。
というか、見付けずにいる事など不可能だった。
だって、ねえ。

「ひっ・・・!」
『どうかね?』

超モッコリしてるんだもの。

『さあ、そのタワー・オブ・BA☆BE☆Lこそが私のグリップにしてトリガー! さあさあお嬢さん、恥ずかしがらずにそっとにぎぶるぅぅぁぁあああああぁぁぁッッ!!!!! ・・・ン!!!』

57魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:06:24 ID:XCkH6IKs
戦闘機人の全力トゥキック。
絹を引き裂く様な悲鳴と共に振り抜かれた爪先は、狙い違わずBA☆BE☆Lへと直撃し、その塔を根元から粉砕した。
なお、その際にチャージ中だった「漢の煩悩」が誤って発射され、真っ白な砲撃として機動六課のヘリを襲った事が記録に残っている。
砲撃は、それを防ごうと某エースオブエースが展開したラウンドシールドをいとも容易く貫いた程の威力だったが、放物線を描く軌道だった為にヘリへと届かず、廃棄都市区画の一画を白一色に染め上げたそうだ。
なお、砲撃後の区画処理に関しては、男性局員および女性局員の殆どが辞職をちらつかせてまで出動を固辞した為、一部の倒錯した性癖を持つ局員を掻き集めて収集に当たったという。

★  ★  ★

ケース3 :『マッスルアイゼン』



『も、もっと激しく振り回して・・・お願い』
「ひぎゃああああああああぁぁぁああああぁぁぁぁッッッ!!?」

もうお分かりだろう。
マッスルである。
アイゼンのハンマーヘッドがマッスルだったのである。
具体的に言うと、見事な四角柱状になってぎちぎち逝ってるマッスルだった。
そしてよりにもよって、アイゼンの柄はマッスルの筋肉質な、2つに割れたしr

「スターライトブルゥゥェェェエレイカアアァァァアアァァァッッッ!! ブゥゥゥレェェェイィィィクッッ!!! シュゥウウゥゥゥウウウウウトオオオォォォォォァァアアァァアアァアァッッッッッッ!!!!!」

★  ★  ★

ケース4 :『ライディングマッスル』



「毒汰――――――ッッ!」
「ぬおッ!?」

ラボのドアを蹴破って入室、即ちダイナミック入室してくるウェンディ。
突然の破壊音と彼女の叫び声にビビッたスカリエッティは、それなりにヤバい液体が満たされたビンを取り落としてしまう。
その場にウーノを残して跳躍し、ウェンディを抱えて室外へと脱出、隔壁封鎖。
数秒もすればウーノがそれはもうスゴイ事になってしまうだろうが、イザという時の為に室内を監視しているカメラは正常に機能している為、問題は無い。
彼女としても気化した薬品を吸い込んだが為に、乱れに乱れる姿を直に見られたくはないだろう・・・直は素早いからね。
次回のプレイ時には、今日の映像をオカズに言葉で責めてみるのもイイかもしれない。

「毒汰ー、聞いてるッスか!?」
「あ、ああウェンディ。少し呆けていた様だ、済まない・・・」

何かドクターのアクセントがおかしいな、とか思いつつも、スカリエッティはウェンディへと向き直った。
彼女は涙目で、彼の袖口へと齧り付いている。
その仕草に不覚にも理性が膝を屈し掛けたスカリエッティだったが、これは娘これは娘という自己暗示を40セット高速で繰り返す事により、何とか禁断の領域へと踏み込む事だけは回避した。
因みにウーノは娘ではなく配偶者という扱いなので、スカリエッティ的にはオールOKである。

「どうしたんだい、ウェンディ」
「ボードが・・・アタシのボードがぁ・・・」

ライディングボードの事かと、スカリエッティはウェンディの指す方向を見やる。
其処に、その異形が横たわっていた。
仰向けに寝そべった、一応ライディングボードに見えなくもない筋肉の塊。
滑り止めなのか、足を掛けるべき所には見事な隆起物が在った。
それは手らしき部位から親指を立て、顔も無いのに「キラッ☆」という擬音が相応しい笑顔を浮かべ(た様な気がする)。

『カモン!』
「シュート」

58魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:07:27 ID:XCkH6IKs
取り敢えず、漢同士ならば無条件に痛みを分かち合うべき箇所に、手近に在ったビーカーを投げ付ける。
漢として避けるべき愚行TOP10に入る非道「性別問わず対象股間域への割れ物系戦術投擲兵器の使用」。
被攻撃者の子々孫々に亘ってその誕生すら危ぶまれるという、外道中の外道行為である。
しかしスカは生まれからしてちょっと捻くれているので、この様な外道行為も躊躇い無く、呼吸するかの様に実行できるとカッコいいなとか考えちゃったりしてる。
実際には、娘達に不埒な真似を働こうとする連中に対しては、ナチュラルに外道行為を実践しているのだが。

『ギャアアァァァ!』
「何かね? 何かね君? まさか君『ライディングマッスル』とか言って、ウェンディに破廉恥な行為を強要するつもりだったのかね? ん? ディエチとクアットロはあれから部屋に籠ったまま、入浴時くらいにしか出てきてくれないんだぞ。私が、もとい娘達がどれだけ寂しい思いをしているか、其処のところを理解しているのかね。ん? 唯でさえドゥーエが居なくて沈みがちだった夕食時の空気が、更に2人欠けた事でどれだけ味気なくギスギスしたものとなった事か・・・」
『もっとっ! もっとなじってッ!』
「硫酸だッ!!」
『サンダ―――――――ッッ!?』

煙を上げながら身を捩ってのたうつライディングボード(仮)、その上に悪鬼の如き表情で硫酸を垂らす生みの親。
そんな2人を離れた場所から見つめつつ、ウェンディは遠い目をしながら考える。

どうやって管理局に投降しようかなぁ。
良い人捕まえて、2人で喫茶店でもやって暮らしたいなぁ。
子供は4人くらい欲しいかなぁ。

「王水だッ!」
『あぁぁぁんッ、MOTTO! MOTTO!』

★  ★  ★

番外1:『フリード(中の人)その1』



『ウッ!・・・ン! ン!』
「(人――――――ッ!!?)」

エリオは内心で絶叫した。
無理もない。
六課の隊舎内にも拘わらず、何故か巨大化したままフリードの口の中に、人間の頭が在ったのだ。
金髪の中年男性、結構ダンディ。
その所為でフリードの口は閉じ切らず、終始ノドに小骨が刺さっているかの様な呻き声を発している。
皆は変に思わないのか?
そんな思いと共に周囲を見渡すも、誰も彼もが自然にキャロへと接しており、フリードへも普通に声を掛けたり撫ぜたりしている。
まるで「中に誰もいませんよ」とでも言わんばかりだ。

まさか、おかしいのは自分の方なのか?
狂っているのは自分の方で、周りが正常なのか?
そうだ、良く考えてみろ。
フリードが巨大化したままなんて、何時もの事じゃないか。
口が半開きなのも何時もの事だ、きっと。
況してや、口の中に人間の顔なんて・・・

『ン! フグゥ・・・!』
「(嫌な汗かいてる・・・ッ!)」

牙が頭に食い込んでいるのか、或いは胃酸が沁みるのか『ダンディ』(命名者:エリオ)の顔が明らかな苦痛に歪み、大量の脂汗をかいていた。
ヤバイ、ヤバイよダンディ。
やっぱり喰われてる、喰われてるって!

「ね、ねえ、キャロ・・・」
「あ、エリオくん!」

59魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:08:21 ID:XCkH6IKs
恐る恐るキャロへと話し掛けると、1,000,000L(リリカル)の笑顔が返される。
純粋無垢、エリオを信頼し切った笑み。
その笑顔は只管に「私とお話してくれるの? 嬉しい!」とのオーラを強烈に浴びせ掛けてくる。
余りの眩しさに視線を逸らすエリオだが、その途中でダンディと視線が合った。
何故か「あ、ヤバい」などと考えてしまうエリオだったが、ダンディが直後に見せた反応は、エリオの想像力を遥かに超えるものだった。

『フゥ・・・(Don’t worry)』
「(めっちゃイイ汗―――――――――――――ッッッ!!?!)」

何という事でしょう。
あれだけ「嫌な汗」という印象を与えていた大量の脂汗が、匠(ダンディ)の爽やかな溜息と輝かんばかりの笑顔によって、一瞬で「イイ汗」に変わったではありませんか。
まるでトライアスロンを制覇した直後の様な、誇らしさと漢らしさを兼ね備えた、新緑の木立の隙間を翔け抜ける涼風の如き「イイ汗」。
その余りの爽やかさに、エリオはそれまでの疑問すら忘れて魅入ってしまったのです。

「エリオくん、お部屋逝こっ☆ミ」
「あ、うん・・・」

最早エリオは、ダンディに掛けるべき言葉を見付ける事ができなかった。
彼は、あの様に在る事が自然なのだ。
フリードの口の中でイイ笑顔を浮かべる彼を残したまま、エリオは捕食者の笑みを浮かべるキャロに手を引かれるまま、彼女の部屋へと連行されて逝ったのでした。



「アッー!」
「うわぁ・・・エリオくんの・・・あつぅい・・・」

尤も、喰われたのはエリオにしても同じだったが(似たもの主従的な意味で)。

★  ★  ★

番外2 :『必殺シゴキ人』



機動六課襲撃。
燃えゆく隊舎からヴィヴィオを連れ去ろうとしていたオットーは、施設の外部から歩み寄る人影に気付いた。
民間人だろうか。
やっかいな事になる前に立ち去ろうとするが、広域に結界が張られた事を感知して身構える。

「ディード、敵」
「分かってる」

ルーテシアにヴィヴィオを託し、身を護る様に告げるオットー。
結界の外から迫る影は、男性陸士の制服を纏っていた。
バリアジャケットは・・・無い。

「魔導師じゃない・・・?」
「魔法なんか必要ないさ」

その男はデバイスも持たず、オットー達の眼下にまで歩み寄ってきた。
右手の指を複雑に動かしてコキコキと鳴らし、更に何かを咥えるかの様に開けた口を窄める。
何をするつもりか、と身構えるディードは、男へと問い掛けた。

「貴方は何者です」
「なに、名乗る程でもない。唯の陸士、アンタ等の敵だ」
「なら、排除する」

オットーが掌を男へと翳し、レイストームを放たんとする。
非殺傷とはいえ相手はバリアジャケットも纏わぬ一般局員、出力を極力抑えて放とうとして。

60魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:09:13 ID:XCkH6IKs
「なッ!?」
「遅いぜ」

次の瞬間には、背後を取られていた。
ディードですら、男の速度に反応できていない。
彼は指をひとつ鳴らし、オットーの身体を抉ろうとするかの様に全ての指を鉤爪状に曲げる。
そして、言い放った。

「俺は魔導師じゃない。だが、犯罪者達からはこう呼ばれている・・・」

殺られる。
オットーは覚悟した。
振り被られた男の腕が、弓より解き放たれた屋の如く加速し―――



「『必殺シゴキ人』と!!」



一瞬にして、男は眼下の地面へと着地していた。
何が起こったのか、オットーには見当も付かない。
だが、男の手が身体に触れた事は解っていた。
しかし、それが何だというのか。

「オットー!?」
「・・・大丈夫、異常は無い」
「何ぃ!?」

安否を気遣うディードの問いに返されたオットーの言葉、それ対して何故か驚きの声を上げたのは、他ならぬ「必殺シゴキ人」と名乗った男だった。
何を驚いているのかと、ますます訳が分からないオットーに向けて、男は戸惑う様な視線を向けている。
そして、ふと何かに気付いたのか、明らかな焦燥を表情へと滲ませて問い詰めてきた。

「まさか、貴様・・・「竿」が無いのかッ!?」
『竿?』

不可解な問いに、ディードと2人で首を傾げるオットー。
『竿』。
枝や葉を取り除いた竹、衣服を干す、釣りに使う等する道具。
まっすぐ長い形になった物。
それが何故、この状況に関係するのだ?

「ディード、彼は何を言ってるの?」
「分からない。精神に異常が在るのかもしれない」
「くそっ・・・まさか「竿」ではなく「壺」だったとはッ! 見た目に騙されるとは・・・シゴキ人の恥ッ!!」

膝を突いてorzのポーズを取り、拳を地面へと打ち付ける男。
何が何だかさっぱり分からないが、とにかく隙だらけなのだからシメちゃおう、そう考えた時だった。
風に乗って聞こえてきた低く昏い呟きに、2人は並々ならぬ悪寒を感じて身を竦ませる。

「・・・掟を破ってでも倒さなにゃならねぇ悪が在る・・・俺の目の前に、2つ在る・・・!」

男が、立ち上がっていた。
その目は既に異常なほど血走り、血管の浮かぶ右手は嫌な音を立て続けている。
そしてその手が、何かを掴む様な形から、まるで何かに潜り込まんとする様な、5本の指を窄めた形へと変化した。
右手だけではない、続けて左手も変化する。

61魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:09:51 ID:XCkH6IKs
この時点でオットーとディードは、自ら達の身に迫る危機をひしひしと感じ取っていた。
そして同時に、自身等が粘らねば眼下の男の標的は後方のルーテシアへと移るであろう事も、誠に遺憾ながら理解してしまった。
何をしようとしているのか、詳細は未だに全く分からないのだが、無条件に全身の肌が粟立つのだ。
コイツは何か、ヤバい事を仕出かそうとしている。

「逝くぞッ!!」

そして、男が跳躍した。
オットーとディードは、男の第一撃を辛うじて回避。
窄められた手が掠ったスーツの部位が、鋭いナイフになぞられたかの様に切り裂かれる。
すれ違う一瞬で無数の攻撃を実行していたのか、切り裂かれた跡は1つや2つではなく十数箇所にも上った。
それらの傷が大腿部、しかも内腿に集中しているのは偶然だろうか。

「躱されたか!」

男は着地し、再度に攻撃態勢を取る。
信じられない事だが、2人は相手の攻撃を回避する事だけで精一杯で、反撃に移る事ができなかった。
正確には、反撃の為に動こうとしたのだが、それを防ぐ様に男の手が襲い掛かってきたのだ。
恐るべき技量の差を前に、相手が魔導師でないにも拘わらずオットーとディードが敗北を覚悟した、その時。

「・・・見苦しいねぇ、藤枝の。自ずから進んで掟を破るなんざ、シゴキ人として許される事じゃないよ」
「こ、この声は!」

何処からともなく響いてきたのは、女性の声。
見れば、新たな人影が結界の内へと進み入ってくるではないか。
それは、少しばかり痩せぎすの女。
局員の制服ではなく、明らかに民間人と判る服装に、見慣れない楽器らしきものを携えている。
敵の増援かと身構える2人だったが、男はその女を前に明らかな動揺を見せた。

「おめえ・・・お銀! 何故こんな所に!?」
「何故じゃないだろう。アンタはシゴキ人の掟を破ろうとした、だから始末しに来たのさ」
「クッ!」

苦しげに呻く、藤枝という名らしき男。
そんな男を冷たく見据えつつ、お銀と呼ばれた女は続ける。

「シゴキ人、御法度六ヵ条之二・・・シゴキ人がシゴくは「竿」のみ、「壺」へのシゴキ御法度なり。掟破りし者は九連続昇天の責めを以って裁きと為す・・・忘れたとは言わせないよ」
「・・・そいつを破ってでもシゴかにゃならねえ連中も居る! 俺のシゴきに横から口出す奴ぁ、お銀・・・たとえおめえでもシゴくまでよ!」

吐き捨て、男は手の形を変えずにお銀へと襲い掛かる。
一瞬の交叉、そして閃光。
眩しさに翳した手を退かした時、視線の先には地に蹲ってビクンビクン痙攣する男と、何かを払うかの様に軽く手を振る女の姿のみが在った。

「あう、うン・・・ン! ン!」
「やれやれ、まだまだ青いねぇ・・・今回は大目に見て四半回だ、覚悟を改めて出直してくるんだね」

62魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:10:25 ID:XCkH6IKs
それだけを言うと、女は踵を返して六課隊舎を後にする。
オットーとディードは呆然とその背を見送った後、何を目撃したのか、顔を赤くしてヒソヒソ話をするルーテシアとヴィヴィオを連れて離脱したのである。

2人が女の正体を知るのは、後に管理局へと属してからの事。
裏渡世にその名を響かせる『三味線ズリのお銀』の通り名は、新米捜査官として働く2人の憧れとなる。



因みに、周囲の人間に通り名の由来を尋ねると、同僚から凶悪犯罪者までもが一様に「君達はそのままで良い・・・そのままで良いんだ・・・ッ!」と噎び泣きながら諭すので、結局、2人が其々に結婚するまでその意味を知る事はなかったのだった。

★  ★  ★

ケース5 :『聖王のマッスル』



地の底より蘇った、負の遺産。
古代ベルカが遺したそれは、嘗て次元世界へと無数の災厄を齎した悪夢だった。
浮かびゆくそれを、誰もが絶望的な思いで見つめる。
空高く、傲然と浮かび上がる鍛え抜かれた大胸筋・・・大胸筋?

「・・・何アレ」
『あれこそ旧暦に於いて、次元世界を存亡の危機にまで追いやった史上最悪の質量兵器、聖王のゆりかご・・・改め』
「改め?」

説明の途中で言葉を区切ったユーノに、なのはは問う。
嫌な予感がした。
ここ暫く、周囲で不可思議な異常事態―――主に真っ白いマッチョメンによる―――ばかり起こる為、全く持って希望的観測ができないのだ。
というか、誰もフリードの中の人(?)に突っ込まないので、自分がおかしいのではと精神的に摩耗し、軽度の人間不信に陥り掛けている。
時折、エリオが何か言いたげにフリードの前でキャロへと声を掛けるのだが、彼はその度にキャロの部屋へと連行され、2人揃って翌日の訓練をサボる羽目に陥っていた。
そして、2日後に目にするエリオは毎度例外なく憔悴しておりフラフラのガクガク、そんな彼とは裏腹にキャロの肌は必ずツヤツヤのピチピチである。

そんな2人を目にして、はやては「10歳に先を越された」と号泣しながらヤケ酒を呷り、フェイトは最近の少年少女間に於ける性の乱れに噎び泣きつつ呼び出したアルフをモフモフして精神安定を図る。
ティアナは醒めた目で周囲を見ながらその実ヘリパイロットと毎夜に亘って熱い逢瀬を繰り返し、スバルは何度変えても元に戻るマッスルキャリバーのローラーをいびる事に快感を覚え始めている。
ヴィータはマッスルにすり替わったアイゼンを待機状態から変化させる勇気を持てずに震え、シグナムは同じくマッスル化したレヴァンティンを即座に海へと投げ捨て涙目のヴィータを愛でる。
シャマルは一切合財の器具がミニマッスル化した医務室から逃げ出してザフィーラへと泣き付き、ザフィーラはミニサイズのマッスルどもを片っ端から捕えては海へと不法投棄を繰り返す。

ああ、あんな状況で良く耐えたなぁ、私。
なのはがそう思ってしまうのも、無理からぬ事だろう。
六課発足時はちゃんとした部隊だったのに、あのマッスルどもが現れてから何もかもがおかしくなっている。
廃棄都市区画で「どう見ても射○です、本当にありがとうございました」な砲撃に、フルパワーのラウンドシールドを呆気なくブチ抜かれた時の記憶など、完全なトラウマになってしまった。
だって、砲撃自体は危ない所で躱したんだけど、後で良く見たら髪にベタベタするのがくっついてたんだもん、思い出すだけで全身が震え出すレベルだよ、これ。
最近ではコップに入った牛乳を見るだけで心拍数が上がり、不意打ちで視界に入った時など小さく悲鳴を上げた程だ。
無論の事、飲むなど言語道断、顔に掛けられたりした日には、即座に自分の顎下へショートバスターをブチ込む自信がある。
全く以って、踏んだり蹴ったりだった。
だからといってへこたれるつもりは無いが、だけど涙が出ちゃう、女の子だもん。



『改め・・・『聖王のマッスル』!!』



こん畜生、この鈍感フェレットめ。
長年に亘ってこっちの好意に気付かないばかりか、些細な現実逃避でこれからを乗り切ろうとする乙女の思考にさえ気付かぬと申すか。

63魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:11:16 ID:XCkH6IKs
もうホント涙目になりながら、なのはは天を仰ぐ。
青空に浮かぶ、まっちろいマッスルの巨体。
つまり、筋骨隆々の全身白タイツっぽい直立(フロントダブルバイセップス)するタフガイ、その頭部に主砲発射口を設けただけの馬鹿デカいマッスル。
その鍛え抜かれた筋肉を目に焼き付け(本当は目を逸らしたかった)、なのはは問う。

「どういうことなの・・・」
『最後の聖王は、大変な筋肉フェチだったらしくてね・・・ベルカ王族としての名を捨て『ド王ピング』と名乗った彼女は』
「それで女だったの!?」
『話を続けるよ。彼女は代々受け継がれてきた宮殿を通称キン肉ハウスと呼ばれるマッスル達の楽園へと変え、更に連日に亘ってマッスルミュージカルを開催するだけでなく、歴代聖王の誕生と死を司ってきた「ゆりかご」までマッスルに改装したんだ』
「つまり?」
『魔力炉に毎日40トンものプロテインを注ぎ、それを10年間も続けたんだ。ベルカが最終戦争を起こしたのも、ゆりかごに与えるプロテインの採掘プラントを手に入れる為だったとある』
「もう・・・もう疲れたよう・・・帰りたいよう・・・ヴィヴィオと2人で、のんびりお母さんのシュークリーム食べたいよぅ・・・」

本気で泣き崩れるなのは。
この10年で、次元世界に馴染んだと思っていたのは、どうやらとんだ勘違いだったらしい。
やっぱりあれだ、姿形が同じなだけで異星人なんだ、異次元人なんだ。
きっと初めから分かり合える筈なんかなかったんだねおにいちゃんよしわたしじえーたいにはいるよそしてあたいきっといつかえらくなってちょーじくーせんとうきにのっていじげんじんからちきゅーをまもるの!

「あたi・・・はっ!」
『なのは、どうかしたのかい!? 急に一人称が変わった様な気がしたんだけど・・・』
「き、気の所為だよっ!?」

あたふたと誤魔化しつつ、なのはは聖王のゆりかご・・・もとい『聖王のマッスル』(フロントラットスプレッド)目掛けて上昇してゆく。
どの道、あれへと侵入しない事には、ヴィヴィオを助け出す事などできないのだ。
と、なのははひとつ、気になっていた事をユーノに尋ねてみる事にした。

「ねえ、ユーノ君」
『何だい』
「あれが凄く危険な事は分かったけど、具体的にどう危険なの?」

なのはは其処が解らなかった。
危険だ危険だとは言われていたものの、あれが何をできるかまでは説明されていなかったのだ。
それを問いとして発すると、ユーノはすぐに答えてくれた。

『前に廃棄都市区画で放たれた砲撃があっただろう? あれを次元世界さえ埋め尽くす勢いで、しかも次元跳躍砲撃で何処へでも撃ち込め・・・』
「スターズ01、手段を問わず目標を撃破しますッッッ!!!!!」
『嘗て砲撃が実行された際には、タンパク質により二十の世界を破滅の白一色に染め上げ、百の世界を汗とイカのスメルで満たしたという・・・』

白い稲妻が、天を行くマッスル(アブドミナル&サイ)を追う。
その希望の閃光はしかし、光の源が途中で「そういえば私のイメージカラーも白だなぁ・・・」と気付いた事により失速、最後は蛇行しながら嫌々マッスル(サイドトライセップス)へと入って逝ったのだった。



割れ目から(マスキュラー)。

★  ◎<ヴァー  ★

ケース7 :『マッスルレリック』



「スターライト・・・ブレイカ―――――ッ!!」

5条の集束魔力砲撃が、バインドを解かれた聖王・・・ヴィヴィオを襲う。
ヴィヴィオは強大な魔力ダメージに呻きつつも、なのはを信じて痛みに耐え続けていた。
その胸の中心から、ヴィヴィオを聖王たらしめる元凶、レリックが徐々に浮かび上がってくる。
そしてなのはは全てを終わらせるべく、最後のトリガーボイスを紡いだ・・・んが。

64魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:12:32 ID:XCkH6IKs
「うぁ・・・ああ・・・ひう・・・!」
「ブレイクッ!! シュー・・・」
『何の問題ですか?』



何処からか響いた気の抜ける様な台詞と同時に、ブラスター3のスターライトブレイカーが呆気なく弾かれた。



「へ?」
「ほへ?」

思わず間の抜けた声が、なのはとヴィヴィオ、双方の口から漏れる。
お互いに「ありえない、何かの間違いではないのか?」とでも言い出しそうな空気。
1面でスバルがダウンし、2面でエリオが鼻血を出し、3面ではやてが発熱し、4面でフェイトが赤面し、5面でティアナがブチキレ、6面でキャロが入浴し、7面でなのはがスタブレって、8面でヴィヴィオがコンティニューを使い切ったあの日の光景が脳裏へと蘇る。
2人して顔を見合わせ、お互いに首を横に振り、次いでなのははヴィヴィオの、ヴィヴィオは自身の胸を見た。
はやてが見たら泣き喚きながらシワが寄るまで揉みまくるであろう双丘の中心、今や完全にヴィヴィオの体内から脱したレリックが浮いている。
その表面に罅が入ったかと思うや否や、閃光と共にレリックが弾けた。
2人は思わず視線を逸らすが、再度レリックの在った箇所を見やった時、其処に浮かんでいたのは。

『ヘロゥ、エヴリワン』



レリックと同じに輝く、亀甲縛りにされた小さなマッスルだった。



「うん・・・そうだよね・・・正直、そんな気はしてたんだよね・・・」
「うふふ・・・今の今まで、私・・・私の中、マッスルが入ってたんだね・・・うふふふふふふふふ」
「止めてヴィヴィオ! 何か危ないから! 間違ってはいないんだけど、何かそれ色々危ないからっ!」
『心温まる光景ですなぁ』

なのはは目尻に涙を浮かべつつ遠くを見つめ、ヴィヴィオはハイライトの消えた目で何も無い宙空を見つめつつ虚ろに嗤い続ける。
マッスルは独りで『ン? ン・・・ンン? ン! ン、ンンン、ン!? ン、ンーン、ンン!』とか言いながらビクンビクンしてる・・・ハァハァすんな。
100人居れば97人が逃げ出すカオスな空間が、其処に拡がっていた。
残る3人?
2人はバルスって、1人は目がぁぁぁぁって言うに決まってるじゃんか、此処は空の上だぞ貴様。

『ところで、良いのかね? 私はもう暫く休暇を堪能したら、彼女の体内へと戻るつもりなのだが』
「へ?」

唐突に放たれた言葉にマッスル・・・この際『マッスルレリック』と呼んでしまおうそうしよう・・・へと向き直ると、彼は余裕の表情で葉巻を燻らせていた・・・亀甲縛りで。

「ど、どういう事?」
『いやなに、彼女の中は中々心地良くてね・・・中は中々・・・フフ、上手い事言った。まあ、何時だったか、私を受け入れていた誇り高きド王と同じニオイがしたのだよ』
「ニオイ・・・筋肉聖王と同じニオイ・・・」
「ヴィ、ヴィヴィオ、しっかりして!」
『今までの融合は不完全だったから、次は完璧にしたいと思っているのさ。さあ誇りたまえ、もうすぐ君は全次元世界で最も美しく、最も気高い、そして最も毛深いマッスルとなる!!』
「嫌ぁぁぁああぁぁァアアァァッッ!!?!?!!」
「ヴィヴィオ――――――ッッ!?」

完全に崩れ落ち、頭を抱えて悲鳴を上げるヴィヴィオ。
なのははそんな彼女の背を一頻り撫ぜた後、キルゴア中佐だって裸足で逃げ出すぜベイベーってな眼で『マッスルレリック』、略して『マック』を睨み据えた。
その視線を余裕で受け止める『マック』・・・亀甲縛りで。

「・・・ぶっ壊す!!」
『おやおや、私を壊す前に君の口調が壊れているぞ、お母さん。君の全力全開とやらを屁で弾いた私を、一体どうやって壊すというのかね?』

65魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 20:13:51 ID:gURt/IzE
誰か黄色い救急車を呼んでくれw
一刻も早く作者、いや患者を隔離するんだw

66魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:13:54 ID:XCkH6IKs
そう言って、筋骨隆々の割れ目をこっちに向ける『マック』・・・亀甲縛りで。
というか、私の命懸けの砲撃ってオナラで弾かれたんだ・・・と、かなり鬱入るなのは。
おいおい始まる前にケリ着いちまったぜマイク、タコスでも食って帰るかマーカス、何て感じの空気が漂う。
何処かの海沿いの大都市で、2人の黒人刑事がポルシェに乗ってる幻覚が見えた気もするが、きっと気の所為だろう。
凪ぎ過ぎて干上がってしまった心の湖を潤す為、なのははしきりに「ウーサァー・・・ウーサァー・・・」と繰り返す。

「ウーサァー・・・良しもう大丈夫、わたし強い子・・・いくよっ、全力全開・・・!」
『ヌウウゥゥアアアアアァァァァァァッッ!!?』
『へひゃあっっ!!?!』

何とか強引に直接対決へと持ち込もうとした矢先、『マック』が壮絶な悲鳴を上げ始める・・・亀甲縛りで。
その小さな体は、突然の悲鳴にビビリ上がった2人の目前で徐々に崩れ出す・・・亀甲縛りで。
『マック』は自身でも何が起こっているのか完全には理解できていない様で、崩ゆく身体をシャクトリムシの様にくねらせながら叫ぶ・・・亀甲縛りで。

『ば・・・ばかなッ!・・・こ・・・この『マッスルレリック』が・・・この『マッスルレリック』がァァアアァァァァァァアアァァッッッ!!?!?!』
「『マッスルレリック』って、この場合は語呂悪いね」
「うん」

亀甲縛りのまま崩れゆく『マック』を、至極冷静に見つめながら呟く2人。
その背後で、何かが崩れ落ちる様な音がした。
振り返ると、何と其処にはディバインバスターを受けて昏倒している筈のクアットロが!

「な・・・どうして!」
「待って、なのはママ!」

何時の間にか子供の姿へと戻ったヴィヴィオが、レイジングハートを構えるなのはを制する。
見れば、床に倒れ伏すクアットロはその手に、何かのコントローラーを握っていた。
それを視界へと捉えたのか、崩れゆく『マック』が血相を変えて叫ぶ・・・亀甲縛りで。

『き、貴様! まさかそれは!』
「そういう・・・事よ・・・ドクターにも内緒で・・・貴方に、自壊プログラムを、組み込ませて貰いましたわ・・・」
『何だと! 何故だ、何故そんな事を!』
「マ、マッスルなんかに・・・筋肉どもに・・・そんな小さな子や、姉妹達の未来を・・・奪わせやしない・・・!」
『貴様ァァァァァアアァァァァァッッッ!!!』

その言葉を最後に力尽き、再び崩れ落ちるクアットロ。
亀甲縛りで崩れゆく『マック』の絶叫を背後に、なのはとヴィヴィオは落涙を禁じえなかった。

クアットロ、ナンバーズのNo.4にして参謀、冷酷にして残忍、悪辣なる策士。
その生き様は哀しく・・・しかして、可憐にして、美しい。

「勝手に殺さないでくださいます!?」
「いいから掴まって! 帰ったらシュークリームいっぱい御馳走するからね!」
「わーい! ヴィヴィオもー!」
「あ、えっと・・・その、いただきます・・・」



こうして、次元世界を襲ったマッスルの脅威(後にM(マッスル)事件と命名)は、1人のエースオブエースと1人の戦闘機人、そしてその他大勢の役に立たない皆々様の活躍(?)により消え去った。
『聖王のマッスル』は衛星軌道へと脱した直後に、地上からの『アインヘリマッスル』の砲撃(煩悩の溜まり過ぎによる誤射)と、『XVマッスル』クラウディアの砲撃(艦長が長期任務で溜まりに溜まってた事による誤射)によって撃沈された。
衛星軌道上に新たな白い液状天体ができちゃったりしたが、まあ些細な問題である。
人々の熱き想いと平和への祈りが、事件を解決へと導いたっぽいのである。

67魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:14:44 ID:XCkH6IKs
しかし、決して忘れてはならない。
次元世界の男達が、真の誇りと丸太の様な上腕二頭筋を獲得する事への情熱、即ち『漢魂(メンソウル)』を取り戻さぬ限り、いずれ第2、第3のM事件が起こるだろう。
彼等は、今も次元の狭間から全ての世界、全ての漢達へと、こう問い掛けているのだ。
そう―――



『腹筋、割れてマッスル?』と。



「そういえば、最高評議会の御三方が亡くなったそうで」
「うん、なんかお世話してた綺麗な女性局員に隠れマッスルなトコ見せようとして、身体が無い事も忘れて力瘤作ろうとしたんだって。そしたらプチっと、ね」
「・・・何年も潜入してて結末がこれ・・・ドゥーエ姉様、御労しい・・・」
「ママー、このシュークリームおいひー」

★  ★  ★

番外3 : 『フリード(中の人)その2』



M事件解決後、エリオは気付いた。
フリードの口、閉じてら。
そして「スゲーッ爽やかな気分だぜ。新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ―――ッ」って感じにゲップするフリードの腹には、不気味に浮かび上がる人の・・・



「ダンディィィィイイイイイィィィィィィィィッッッ!!?!!!?!」
「エリオくーん、お部屋逝こっ★彡」

★  ★  ★

ケース・ファイナル :『漢って何さ?』



薄暗い室内には、2人の男。
此処は時空管理局地上本部、レジアス・ゲイズ中将の執務室だ。
向き合う2人の片割れは、この部屋の主である男、時空管理局地上本部総司令、レジアス・ゲイズ。
残る1人は、元時空管理局・首都防衛隊所属ストライカーにして現犯罪者、ゼスト・グランガイツ。
並みの人間ならば重圧だけで突然死してもおかしくはない空気の中、先に口を開いたのはゼストだった。

「・・・レジアス」
「何だ」
「俺はお前に、問い正さねばならん事が在る」
「・・・言ってみろ」

68魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:15:26 ID:XCkH6IKs
先を促す言葉に、ゼストは密かに拳を握る。
危害を与える為ではない、自身の不安を押し殺す為だ。
女々しい事だが、此処で自身の望む答えが得られねば、平静でいられる自信が無かったのだ。
僅かに息を吸い込み、ゼストは問いを紡ぎ出す。



「男と女・・・優れているのは、どちらだ?」



答えは無い。
立ち尽くすゼストを余所に、レジアスは執務机へと両の肘を突き、組んだ手で口許を隠したままだ。
ゼストは震えそうになる声を何とか抑え、今一度問い掛ける。

「答えろ、レジアス。男と女、より優れているのはどちらだ?」

レジアスが立ち上がり、窓際へと歩み寄る。
彼は無言のまま、眼下に拡がるクラナガンの街を見下ろした。
そして暫しの沈黙の後、彼は答える。

「それは・・・女だ」

瞬間、執務机がゼストの鉄拳、垂直に振り下ろされたそれによって粉砕された。
凄まじい破壊音が響き、破片が周囲へと散乱する。
だが、背後のそれにもレジアスは、全く動じはしなかった。
彼はガラスへと映り込む背後のゼスト、振り下ろした拳から流れ出る血もそのままに、床へと膝を突いた旧友の姿を視界へと捉える。

「何故だ・・・」

呟く様な声。
レジアスが沈黙を貫くと、再度その声が発せられる。
今度は、叫びとして。

「何故だっ!!」

またも破壊音。
どうやらゼストは、渾身の力で床を殴り付けたらしい。
隠そうともせずに噎び泣きながら、ゼストは叫び続ける。

「常に『漢』たる事を自身へと課してから、俺は一瞬たりとも休む事なく男を磨き上げてきた! ありとあらゆる『漢度』を、今日まで血を吐く様な思いで高めてきたのだ! それはレジアス、貴様とて同じ筈ッ!」

レジアスは答えない。
更に一度、ゼストは床を殴りつけ、続ける。

「なのにッ! なのにこの8年間、誰に訊ねても答えは同じッ! スカリエッティ、奴の娘達、毎週旦那との密会に向かうクイント、我が愛妻メガーヌと愛娘ルーテシア! 誰に訊ねても答えは同じ、貴様と同じ答えだッ!」
「オーリスの答えも同じだ。そして、あれの母親も同じ答えを口にしたよ」

唐突に齎されたレジアスの告白に、ゼストは両の瞼を限界まで見開いて旧友の背を見やった。
自身のそれよりも僅かに大きなその背は、今日に限っては何故か小さく見える。
そんな些細な事実さえ認める事ができずに、ゼストは男泣きに泣きながら言葉を絞り出した。

「ならば教えてくれッ! 何故、男は女に勝てない! 何故、女は男より優れているのだッ!!」
「簡単な答えだ、ゼスト。実に簡単な答え。その問いに対する答えなど、疾うに先人が導き出していたのだよ」

69魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:16:00 ID:XCkH6IKs
レジアスが、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
全てを諦めたかの様に、この世の真理を悟った老人の様に。
ゆっくりと、穏やかに語り掛ける。

「悔しいが、男には欠けてはならぬものが欠けているのだ」
「な、に?」

レジアスは、ゆっくりと振り返る。
その双眸が、膝を突くゼストの姿を正面から捉えた。
ゼストはその姿勢のまま、まるで聖人を見るかの様にレジアスを見上げる。
そして、真理が語られる。
この世界、否、次元世界の根幹を為す、絶対の真実が。

「女性の染色体は『XX(ダブルエックス)』、男性の染色体は『XY(エックスワイ)』・・・」



沈黙。






「(リリカル)棒 が 1 本 足 ら ん の じ ゃ ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!」
「Oh!!!!!!!!!」





魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』

終   劇





「ねえ、お父さん」
「あん?」
「この、ガリューを素手で殴り飛ばした陸士って、まさかおと・・・」
「おっと、今夜はクイントとのディナーだ! 後は頼んだぜ、ギンガ!」
「え、ちょっと待って・・・ねえ待ってよ、おとーさーんっ!!」





・ ・ ・ 完 ッ ! !

70魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/06(金) 20:18:25 ID:XCkH6IKs
投下を終了しマッスル



なお、このリリカル時空を某管理外世界の宇宙軍と暴走した生物兵器が観測していたが、両者共に「Oh! マッスル!」との謎のシャウトを残し、其々サイドチェストとバックダブルバイセップスのポージングを取りながら逃げ帰ったという
因みに、強制介入を試みた某TEAMの関係者は、例外なく謎の失踪を遂げている



精神に酷い負荷を齎すと言っただろう!
何故ここまで読み切ってしまったんだ!!

・・・偶にはこういうのを書かないと保たないんス(精神安定的な意味で)
ホントは鬱展開に対する耐性が異常に低いんス(よってRPGなんかマトモにプレイできねッス)
ア○ス勧められて、某鉱山の町に行く前に挫折した過去があるッス(旧ソ連製分隊支援火器最強のアビ○は極めたッス)
お馬鹿系のお話大好きッス(バッドボーイズとか大好物ッス)
・・・何でライデンファイターズとのクロスにしなかったし、俺

クロス元は昔サンデーで掲載されていたお下劣ギャグ漫画『漢魂!!!』です
早い話が、筋肉と漢(おとこ)に拘った短編ギャグ集
中でも毎週、身の回りの物がマッスルに置き換わってしまう話が、必ず1編入っていました
これがまたアホ過ぎて・・・
中島君、シゴキ人、中の人も原作ネタです

という訳で騙して悪いが、R-TYPE Λ 第三十話の投下は明日なんだ、済まない
三十話到達記念でかなり長いが、其処は勘弁して欲しい



それでは、色々と済みませんでした(土下寝)
また、明日の19:00にお会いしましょう

71魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 20:21:22 ID:Ihbwo.eI
>>70
・・・・。(呆けている)
・・・・・・・・。(かける言葉を探している)
・・・・・・・・・・・・。(探しあぐねている)
・・・・・・・・・・・・・・・・。(諦めたらしい)

GJだが、疲れたら休むことも大事だぞ?(可哀想なモノを見るような目で

72魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 20:26:43 ID:uF6p/kLc
( ;∀;)イイハナシダナー
それじゃ、ベストラに帰ろうか?

73魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 20:53:59 ID:qpommBZ6
GJ!
カオスすぎるwwwバイド化しすぎですw

74魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 20:59:48 ID:dDJWs6ds
GJ!!
どうすればこんな高いバイド係数の作品ができるんだww
(誉め言葉

75魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 21:19:42 ID:V5pKpcGY
途中でさりげなくゼロスフォースさんが…

76魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 22:02:39 ID:YRS1tjNI
とりあえず……救急車を一台確保しておこうかwww

77魔法少女リリカル名無し:2009/11/06(金) 23:05:08 ID:WPG55i6I
漢魂wwwwww奴等かww
毎週見てましたよww

何故あなたの作品はこう精神的にくるのかwwww

78魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 05:16:27 ID:W0h2yj4A
めちゃくちゃ噴いたw
台無し過ぎるwww

>・・・何でライデンファイターズとのクロスにしなかったし、俺
ふむん、次回作(?)は決まりですね。

79魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 08:23:10 ID:ZDjov.66
他のSTGのクロスか〜
敵にクローンの出てくるエスプレイドにエスプガルーダ、
ストーリー上時空振起こしてそうな怒首領蜂大復活
CAVE系のSTGとのクロスも結構いけそう。

80魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 09:00:30 ID:kSn/aoeQ
トリガーハート・エグゼリカ
…ヴァーミスもある意味バイドと似てるのか?

81魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 11:33:09 ID:bd5UhDyk
超兄貴とのクロスなんて言葉が思い浮かんだ
あと別の意味で精神負荷が高そうなクロスとして
らじおぞんでorHELLSINKERとのクロス。
あれも精神負荷が高いからなあ主にわけの分からなさで。

82魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 11:55:43 ID:ECCegXtE
いつもの虚無感漂う話も好きですが、こういう話も大好きですw
「R-TYPE Λ」の続きも、次回の気分転換ssも期待してお待ちしますww

83魔法筋肉浪漫譚『リリカル漢魂!!!』 ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 12:32:13 ID:FtNmz37M
昨夜は申し訳ありませんでした
予約の時間を少し早め、本日17:00からR-TYPE Λ 第三十話の投下を開始します
サイドチェスト、またはモストマスキュラーのポージングでお待ち下さい
なお、御鑑賞の際に真っ赤な薔薇を一輪お手元に添えていただくと、より一層兄貴です

84魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 14:45:39 ID:gIHrfMNk
投下するときはちゃんと名前戻しといて下さいね
その名前ではどんな作品投下されても真面目に読めないw

85魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 16:27:26 ID:5q5F1TnA
>>83
これはヒドイ台無しを見たwww

三十話、アトラクション石村を楽しみながら待ってますよ〜。

86R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:01:35 ID:FtNmz37M
時間ですので投下を開始します



その恐ろしい衝撃は、外殻崩落跡から出現した2体目の666、それを撃破した直後に襲い掛ってきた。
十数分前、Aエリア近辺外殻で発生した核爆発。
40kmもの距離を隔てて展開する魔導師、そして強襲艇を始めとした各機動兵器群に多大な被害を齎したそれとは、判然とはしないながらも何かが異なる衝撃。
宙空に浮かぶ強襲艇の重力偏向フィールド、エネルギー障壁と共に複合展開された不可視のそれを容易く打ち破り、爆風と錯覚する程の勢いで全身を打ち据える。
吹き飛ばされた身体が強襲艇の側面へと打ち付けられるかに思われたが、機体が瞬間的に上昇した事でその事態は避けられた。
20mほど吹き飛ばされ、フィールド外へと逸したところで体勢を立て直したなのはは、バリアジャケットの防音機能すら貫いた轟音に表情を顰めつつ念話を飛ばす。

『今のは!?』
『分からん! 核ではないみたいやけど・・・』

その問いに返されたはやての念話は、なのはのそれと同様に焦燥を色濃く含んでいた。
本来ならばコロニーを脱出する輸送艦内の人員、或いは防衛艦隊から何らかの報告が在っても良い筈なのだが、先程の核爆発からというもの輸送艦群は全て沈黙したままだ。
そして防衛艦隊の7隻も、アイギスの汚染と所属不明艦艇の接近を告げる警告を最後に、一切の連絡を絶っている。
頭上で激しく瞬く光を見る限り全滅してはいない様だが、400基を超えるアイギスに包囲された状態から何隻が生還できるものか。

1基のアイギスに搭載されている戦術核は5発。
既に各爆破地点に於いて120基のアイギスが撃破されている事を考慮しても、1400発以上もの戦術核がコロニーを包囲している計算となる。
現状で防衛艦隊とそれに属する機動兵器群が壊滅すれば、このコロニーのみならずベストラまでもが核による飽和攻撃を受ける事となるだろう。
先の1発以降、コロニーに戦術核が着弾した様子は無い。
この事からも艦隊の奮戦は疑うべくもないが、それも長くは保たないだろう。

コロニー周辺にはシュトラオス隊のR-11Sが4機、戦術核迎撃の為に展開している。
艦隊からの警告が齎された直後、コロニー内より現れた4機は誘導照射型波動砲の一斉砲撃により、頭上へと展開する40基のアイギスを瞬く間に殲滅して退けた。
これにより、コロニー外殻へと展開する部隊は戦術核とレーザーの脅威を免れ、現在まで666との交戦を継続する事ができたのだ。
他の2箇所の爆破地点に於いては、一方はペレグリン隊、残る一方はアクラブとヤタガラスがアイギスを殲滅した。
彼らは今、輸送艦群とベストラの防衛に当たっている。
各種兵器および資源、食料生産を担う3つのプラントに関しては、既に放棄が決定したとの報告が在った。
アイギス群が汚染された今、それら全てを護り抜くには戦力が絶対的に不足している為だ。

艦隊と行動を共にしていたであろうゴエモンとの通信は途絶している。
ゆりかごとの交戦中になのはが目にしたものと同じ、青白い巨大な爆発が闇の彼方で発生していた事から推測するに、恐らくはR-9Cと同様の戦略攻撃を実行したのだろう。
その破滅的な威力は彼女も良く理解してはいたが、それは同時に圧倒的な力を有するR戦闘機が、それ程の攻撃を実行せざるを得ない状況へ追い込まれている事を意味してもいるのだ。

戦況は極めて悪い。
加えて原因不明の衝撃。
満足に情報を得る事もできず、外殻に展開する人員は例外なく混乱の直中へ陥ろうとしていた。
そして独自に分析を試みる猶予さえ無く、次なる凶報が意識へと飛び込む。

『シュトラオス2より総員、警告。第2爆破地点より666出現、総数3。高速離脱中』
『こちらシュトラオス3、国連宇宙軍所属艦艇のコロニー突入を確認した。目標、未だ健在。繰り返す、目標健在』

シュトラオス隊からの警告。
直後、周囲の大気を切り裂く異音と共に、巨大な影が頭上の空間を突き抜ける。
咄嗟に視線を向けるも、闇の中で瞬く閃光以外の何かをその先に見出す事はできなかった。
だが、警告は更に続く。

『シュトラオス1、第3爆破地点に666、2体の出現を確認した。目標はコロニーより高速離脱中』
『逃げ出したのか?』

なのははレイジングハートを構えたまま、油断なく周囲へと視線を奔らせた。
だが、コロニー外殻上に於いて戦闘が行われている様子は無い。
闇の彼方、全方位より響く重々しい爆発音と衝撃波だけが、周囲の大気を絶えず震わせている。
一体、何が起きているのかと不審を募らせるなのはの意識へ、各方面から更に複数の報告が飛び込んできた。

87R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:02:15 ID:FtNmz37M
『ビクター2、突入艦艇を視認した。艦体後部が外殻から突き出ている・・・こいつはヨトゥンヘイム級だ。見える範囲でだが、損傷が酷い。ゴエモンにやられたのか』
『Aエリア港湾施設、外殻部が閉鎖されている。内部に輸送艦艇8隻を確認』
『冗談じゃない、12000人が閉じ込められている計算だぞ!』
『こちらアクラブ。輸送艦群、第1陣の7隻がベストラへ到達。第2陣は5隻が航行中、1隻撃沈、1隻が推進部を損傷し漂流中』

複数の情報を並列思考で以って処理しつつ、なのはは傍らのはやてを見やる。
果たして予想通り、彼女は片手を額へと当てつつ表情を顰めていた。
はやては他を圧倒する魔力量と出力を有しているが、同時に並列思考等の分野に於いては苦手を抱えている。
この瞬間でさえ次から次へと飛び込んでくる情報を処理し切れず、脳に若干の負荷が掛っているのだ。
普段は思考へと入り込む情報量を適切に調節しているのだが、現状では全ての情報を処理すべく、負荷を承知で苦手な高速処理に力を注いでいるらしい。
気遣う言葉を掛けようとするなのはだが、それより早くヴィータからの念話が飛ぶ。

『地球軍の艦って事は、汚染体か? このコロニーもヤバイんじゃないか』
『それは専門家に訊くのが一番やな・・・ほら』

呟く様なはやての念話に続き、なのは達の傍らへと展開されるウィンドウ。
其処にはコロニーへと突入した艦艇のものらしき構造図が立体表示され、その複数個所が赤く点滅している。
次いで意識へと飛び込む、新たな報告。

『簡易スキャン終了。目標艦艇、機能健在。しかし損傷が激しく、システム凍結状態。汚染の為か、非常処理プログラムが発動しない』
『つまり?』
『ゴエモンは任務を果たしたらしい。目標艦艇、自動修復プログラムを発動中。艦内よりリペアユニットの展開を確認した』

なのはは目を凝らし、Aエリア方面を見やる。
流石に40km先に突き出す艦艇構造物を捉える事は出来なかったが、恐らくは巨大なそれがコロニーへと突き立っているのだろう。
滲む焦燥を押し隠し、勤めて無感動に念話を紡ぐ。

『破壊するべき・・・かな?』
『だとしても、余裕が在ればこそだろう。あの艦とアイギスはともかく、666を放っておく訳にもゆくまい』
『どういう意味だ』

返されたザフィーラの言葉に、問い返すヴィータ。
見れば、人型となり頭上の闇を見上げる彼の顔には、焦燥の入り混じった忌々しげな表情が浮かんでいた。
視線を動かす事もなく、彼は続ける。

『奴等が向かったのは生産プラントの方角だ。バイドが何を企んでいるのかまでは分からないが、碌な事でないのは明らかだろう』

その言葉が終るかどうかというところで、意識の中へと響く警告音と共にウィンドウが開く。
点滅する赤いそれには、黒々とした「WARNING」の表示が浮かんでいた。
呆けた様にそれを見やるなのはへと、三度ザフィーラからの念話が届く。

『そら、始まったぞ!』
『アクラブより総員、警告! 各種プラント周辺域、偏向重力発生! プラント群が移動を開始、コロニーへと接近中!』

途端、なのはは自身の血の気が引いてゆく事を自覚した。
傍らを見れば、はやてとヴィータも同様らしい。
2人は呆然と、頭上に拡がる闇の果てへと視線を向けていた。
そして、なのはがそんな2人を見やる間にも、念話と通信が慌しく乱れ飛ぶ。

『どういう事だ? 化け物は何を企んでいる!』
『こちらヤタガラス、目標を確認した。プラント群、更に加速。コロニーへの衝突まで340秒』
『こちらペレグリン4、資源生産プラント外殻に666を確認した。目標は完全に取り付いて・・・プラント防衛システムの起動を確認、攻撃を受けている!』
『聞こえるか? こちらはコロニー防衛艦隊、駆逐艦バロールだ! 食量生産プラントに取り付いた666を確認、攻撃を試みるもアイギス群の妨害により接近できず! プラント移動中、このままではコロニーに衝突する!』

数秒ほど呆け、なのはは666の意図を理解した。
同時に、その余りの凶悪さに戦慄する。
666はコロニーを内部から崩壊させる事を断念し、3つのプラントによる質量攻撃へと移行、膨大な質量によって3方からコロニーを押し潰す心算なのだ。

『プラントの位置は!?』

88R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:02:50 ID:FtNmz37M
我に返ると同時、なのははレイジングハートの矛先を宙空へと突き付ける。
デバイスを通して闇を探るも、迫り来るプラントの影を見出す事はできない。
彼女は再度、念話のみならず声すら張り上げて目標の位置を問うた。

『位置情報を! 早く!』
『無駄だ、距離が在り過ぎる! 砲撃魔法が届く距離じゃない!』
『こちらハリアット! 魔導師総員、デバイスに目標のイメージを送る!』

直後、レイジングハートを通じて視界へと表示される、赤い光の線で構築された巨大建造物。
未だ彼方ではあるが、確実に迫り来るその影。
拡大表示されたプラント、その絶望的なまでの巨大さに、なのはは震える様な吐息を漏らす。

『・・・大き過ぎる』
『30kmもあるんや、魔導師でどうこうなる大きさやないで・・・』

となれば、防衛艦隊に属するL級かR戦闘機、或いは各種機動兵器群によって対処するしかない。
だが今、それらは汚染されたアイギスと、同じく汚染されたらしきプラントの防衛システムにより、目標に対する攻撃態勢へと移行する事ができずにいる。
戦術核の迎撃に就いているシュトラオス隊は、コロニーを離れる訳にはいかない。
動けるのは魔導師を含む、コロニー外殻へと展開中の部隊だけなのだ。
だが、そんななのはの焦燥を嘲笑うかの様に、次なる凶報が齎される。

『ビクター2より警告! 突入艦艇、推進部からの発光を確認!』
『目標艦、再起動! 推進部、噴射炎を視認した!』

弾かれた様にAエリア方面を見やるなのは。
視線の先、遥か前方のコロニー外殻に、青白い巨大な光源が出現していた。
同時に周囲の大気を通じて伝わる、足下のコロニーを震わせる振動。

『待てよ、おい・・・まさか』
『突き破る気!?』

直後に障壁を突き抜ける、壮絶な破壊音。
聴覚のみならず全身を震えさせるそれに、なのはは思わず身を竦ませた。
しかし彼女は誰よりも早く念話を飛ばし、突入艦艇の現状を確かめる。

『ビクター2、目標艦の様子は!?』
『・・・目標、更にコロニー内部へ侵入・・・対称面の外殻を突き破って離脱、加速中!』
『シュトラオス隊、追撃を!』
『戦術核が絶えず飛来している、追撃は不可能!』

突入艦艇、コロニーを貫通し離脱。
驚異の一端が、再び戦域へと舞い戻ったのだ。
R戦闘機群は、其々が展開する位置での防衛戦闘を放棄する事ができない。
目標艦艇との距離が離れれば、長距離砲撃による一方的な攻撃を受ける事となるだろう。
だが、それを追撃し得る戦力が存在しないのだ。

『ベストラよりコロニー外殻展開中の総員へ、緊急』

怒号の様な念話が飛び交う中、ベストラからの通信が意識へと飛び込む。
どうやらベストラへと到達した輸送艦群の第1陣、其処に乗り込んでいたランツクネヒトがあちらに司令部を移したらしい。
何かしらの解決策が齎されるかと期待するなのはだったが、通信越しに放たれた言葉は非情なものだった。

『0518時を以ち、司令部は居住コロニー「リヒトシュタイン05」の完全放棄を決定した。総員、直ちに当該コロニーより離脱せよ。宙間移動能力不搭載の機動兵器は全て破棄、パイロットは魔導師と共に強襲艇へ』
『どういう事だ! コロニー内の生存者は!?』
『コロニー外部の人員を優先、内部の生存者救出は時間的猶予の面から不可能と判断した。プラントとコロニーの衝突を待ち、こちらから戦略核弾頭を搭載した宙間巡航弾を撃ち込む』

89R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:03:24 ID:FtNmz37M
戦略核。
その単語を聞き留めた瞬間に、なのはは悟った。
司令部はコロニー内部の生存者諸共、666を含む汚染体を殲滅するつもりなのだ。
思わずレイジングハートの柄を握る手に力を込めるなのはの傍らで、はやてが悲鳴の様な声を張り上げる。

『戦略核って・・・輸送艦はどうなるんや、8隻も閉じ込められてるんやで!』
『大体そんな物が在るなら、さっさとプラントに撃ち込めば良いだろうに!』
『現状では巡航弾を迎撃される可能性が高く、更に言えばそちらのコロニー及びベストラも炸裂時の効果範囲内だ。こちらは既に移動を開始している。
プラント群とコロニーの衝突後、プラント防衛システムの停止または損傷、及びベストラの安全圏への離脱を以って攻撃を実行する』
『ふざけるな! カルディナにアルカンシェルを使わせるか、R戦闘機に攻撃を命じろ! 波動砲でも核融合でも、プラントを破壊するには十分な筈だ!』

コロニー防衛に当たる人員の1名が叫んだ言葉に、司令部は数秒ほど沈黙した。
その僅かな間にも、遥か頭上に位置するプラントのイメージは、少しずつ崩壊しながらこちらへと接近してくる。
胸中へと沸き起こる焦燥に我知らず歯軋りしつつも、なのはは一語一句すらも聞き逃すまいと通信に意識を傾けた。
そして、司令部からの返答が届く。

『艦隊は戦術核の迎撃で手一杯だ。カルディナはアルカンシェルの連続砲撃によりアイギスを牽制している為、現在の座標から動く事はできない。ペレグリン隊はベストラ周辺で、アクラブとヤタガラスは輸送艦群第2陣の周囲で戦術核を迎撃中だ。
シュトラオス隊もそちらを離れる事はできない。コロニー周辺に展開していたアイギス群を殲滅した際とは状況が違う。残存するアイギス群は高機動戦術を採っており、各機は排除に梃子摺っているのが現状だ。よってプラントへの攻撃は不可能。
繰り返す。総員、直ちに現任務を放棄し、コロニーからの離脱を開始せよ』

なのは達の眼前、先程まで行動を共にしていた強襲艇が頭上より現れた。
機体側面のハッチが開き、その場の4人を招き入れるかの様に機内に明りが点く。
その赤い光を見据えながら、なのはは傍らの親友とその家族へと、ごく短い問いを発した。

『従う?』
『まさか』

返された言葉はそれだけ。
だが、十分だった。
視線を合わせる事すらせずに、なのはは前方へと飛翔する。
強襲艇の機体を飛び越し、更に加速。

『こちら高町、港湾施設内の輸送艦救出に向かいます!』
『グレイン、同じく』
『こちら八神、高町一尉に同行する』
『ビクター2、これより閉鎖部の破壊を試みる。強襲艇の連中、その気が在るのなら手を貸してくれ』

可能な限りの速度で宙を翔けるなのは達の頭上を、より飛翔速度に特化した数名の魔導師と、数機の強襲艇を含む機動兵器群が追い抜いてゆく。
それらの影が目指す先は1つ、輸送艦群が閉じ込められているAエリア港湾施設だ。
前方では既に無数の光が瞬いており、障壁越しにも鼓膜を叩く轟音が徐々にその音量を増す。

『もう始めている連中が居るな』
『単純に壊せば良いって訳やないで。ヴィータ、暴走したらアカンよ』
『分かってるよ!』

交わされる念話を意識の端へと捉えつつ、漸く視界へと映り込んだ港湾施設外殻部は、その数箇所から噴火と見紛うばかりの爆炎を噴き上げていた。
機動兵器群と魔導師達が8箇所の地点に分散しており、其々の集団が外殻へと激しい攻撃を繰り返しているのだ。
なのはは滞空する最寄りの魔導師、何処かしらの次元世界の軍服型バリアジャケットを纏った男性の肩を叩き、念話で以って問い掛ける。

『現在の状況は?』
『見ての通りだ。外部ロックユニットは全て破壊した。後は内部に8箇所、非常用のユニットが在るらしい。そいつを壊せばハッチは緊急開放されるそうだ』
『それで、問題は?』
『魔導師では外殻をぶち抜く事ができないんだ。この辺りは特に強度が高いらしく、さっきから何度も集束砲撃を撃ち込んでいるが表面を削るのが精々だ』

そう念話を交わしつつ、彼は200mほど離れた地点に位置する戦車型の機動兵器を指した。
見ればその兵器は、アンヴィルの主砲に匹敵する魔導砲撃を、連続して外殻へと撃ち込み続けている。
周囲から響く轟音の為に聴覚が麻痺しており、今の今までその存在に気付く事さえできなかったのだ。
爆炎と共に噴き上がる外殻の破片を見やるなのはの意識に、男性の念話が続けて響く。

90R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:04:01 ID:FtNmz37M
『流石にあれ位の兵器ともなると、何とか外殻の破壊はできる。ただ機体数が少ないし、余りやり過ぎるとハッチ内の輸送艦まで巻き込んでしまう』
『他の兵器は? あの戦車以外にも、かなりの種類が在っただろ』
『専門家じゃないから詳しい事までは解らないが・・・対空兵装の半数は威力不足、対地・対艦を含むその他の兵装は威力過剰だそうだ。結局のところ、魔導師以上に強力な魔導砲撃を放てる程度が丁度良いらしい』
『・・・目も当てられんわ。つまり質量兵器は殆ど役立たずって事か?』
『そういう事だな。あれが外殻を吹き飛ばすのを待って、後は俺達がロックを破壊するしかない』
『でも、それじゃあ・・・』
『ああ、間に合わん』

その言葉を最後に男性は念話を切り、頭上へと視線を向けた。
なのはもそれに倣い、迫り来るプラントを見上げる。
先程よりも更に圧迫感を増したそれは、あろう事か外殻の其処彼処から無数の砲火を周囲の空間へと放ちつつ、明らかにこのコロニーへと接近しつつあった。
そして再度、司令部からの警告が発せられる。

『繰り返す。0518時を以ち、司令部は居住コロニー・リヒトシュタイン05の完全放棄を決定した。総員、直ちに当該コロニーより離脱せよ。宙間移動能力不搭載の機動兵器は全て破棄・・・』
『黙ってろ司令部! 10000人を見捨てられる訳がないだろう!』
『プラントと当該コロニーの衝突後、戦略核による攻撃を実行する。繰り返す・・・』
『外殻を貫通した! 魔導師隊、ロックを破壊しろ!』

機動兵器からの通信。
弾かれる様に飛翔へと移り、なのはは破壊された外殻の上へと移動した。
そうして周囲へと拡がりゆく粉塵の中央へと狙いを定めると、レイジングハートの矛先へと魔力の集束を開始する。
周囲の魔導師が起こしたものか、一陣の突風が粉塵を跡形も無く吹き散らした。
それを見届け、宣言。

『こちら高町、撃ちます!』

轟音、放たれる桜色の光条。
破壊された外殻の奥、デバイスを通して青く発光する様に表示されたロックユニットへと、強大な集束砲撃魔法が突き立つ。
目標の破壊を確信した直後、レイジングハートが無機質に攻撃の結果を告げた。

『The target is not destroyed』
「嘘・・・」

思わず小さな呻きを漏らし、なのはは未だ健在なユニットを拡大表示する。
明らかに損傷はごく僅か、機能が損なわれている様子はない。
想像を遥かに超える強固さに、なのはは信じ難い思いでレイジングハートを強く握り締める。

『・・・こちら高町、砲撃を撃ち込むも目標健在・・・思ったより硬い!』
『こっちもだ! 2発撃ち込んでもまだ壊れない!』

100mほど離れた地点、やはり同じ様に2名の魔導師が、破壊された外殻部の上でデバイスを構えていた。
直後に青い光条が撃ち下ろされるも、どうやら結果は芳しいものではなかったらしい。
焦燥を色濃く含んだ念話が、全方位へと放たれる。

『少しは壊れましたが、完全な破壊は無理です! もっと人手が要ります!』
『くそ、何でこんな不必要に硬いんだ!?』
『非常時に汚染体を封じ込める為だ。長くは保たないが、艦隊が到達するまでの時間は稼げる』
『それで跡形も無く吹き飛ばす訳か』

傍らへと並んだはやてが、すぐさまラグナロクの砲撃体勢に入る様子を視界の端へと捉えながら、なのはもまたスターライトブレイカーの砲撃体勢へと移行。
集束を開始し、狙いを僅かに修正する。
はやてがユニット上部を狙っている為、彼女は砲撃同士の干渉を避けるべくユニット下部を狙うのだ。
そして、砲撃。
純白と桜色の魔力光が4条、同時にロックユニットへと突き立つ。
噴き上がる魔力の爆炎。
直後に飛び込む、歓喜と焦燥の双方を含む念話。

91R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:04:31 ID:FtNmz37M
『ロックユニットの破壊を確認! 残り7基!』
『こちらも破壊した! 繰り返す、目標破壊!』
『残り6基!』
『畜生、どうやっても間に合わない!』

三度、なのはは頭上を仰ぐ。
視界に映るプラントの影は、更に巨大なものとなっていた。
迫り来る膨大な質量の壁。
その現実を改めて認識した瞬間、なのはは自身の背が凍ったかの様な、得体の知れない冷たさを覚えた。

「駄目・・・」

微かな声。
始めはそれが、自身のものであるとは思いもしなかった。
だが再度に同じ声が聞こえた時、漸くなのはは自身が小さな呟きを零している事に気付く。

「来ないで」
『衝突まで120秒!』

なのはは見た。
見えてしまったのだ。
迫り来るプラント外殻、既に表層の構造物すら見えるまでに接近したそれ。
その、ほぼ中央に取り付いた、腫瘍の如き異形の肉塊。
蠢く触手に埋もれる濃紺青の装甲、汚染体666。

「来ないで・・・!」

恐怖からではなく、絶望からでもなく。
ただ懇願のみから、なのははその言葉を紡いでいた。
足下のコロニー、その内部に閉じ込められた12000人の非戦闘員。
通信すら回復しない今も、彼らは恐怖に打ち震えながら救助を待っているのだろう。
なのは達がこの場に留まっているのは、単に彼らを助けたいが為だ。
汚染体との戦闘を積極的に選択する意思など、微塵も在りはしない。
だから、だからこそ。

「放っておいて・・・!」

構うな、放っておいてくれ。
通じる筈もないという事は理解しながらも、なのははそう祈らずにはいられなかった。
非戦闘員を助けたい、それだけなのだ。
だというのに何故、バイドは其処までして非戦闘員の殲滅に拘るのか。
何故、666はベストラを狙わない。
何故、防衛艦隊との戦闘に加わろうとしないのだ。

『衝突まで90秒!』
『高町、こちらへ来い!』

ザフィーラからの念話。
振り返れば、彼ははやてとヴィータを背後に庇う様にして、迫り来るプラントを見上げていた。
離脱は間に合わない。
かといって膨大な質量に抗う事もできない。
2人を庇っているのは、反射的な行動によるものだろう。

レイジングハートを握り直し、なのはは改めて頭上を見据えた。
そうしてプラント外殻に取り付いた666へと狙いを定め、魔力の集束を開始する。
恐らくは皆、同じ思考へと至ったのだろう。
コロニー外殻の至る箇所で魔力集束が発生している事を、なのははリンカーコアを通して感じ取っていた。
あらゆる機動兵器がプラントへと砲口を向け、更にはランツクネヒトの強襲艇でさえ離脱する様子はなく、ウェポンベイを展開してプラントへと機首を向けている。
なのはが、彼等が成さんとしている事は、唯1つ。

92R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:05:07 ID:FtNmz37M
「やるしかない・・・!」

最後まで抗ってやる。
最終的には圧倒的な力に蹂躙されるのだとしても、刹那の時まで抵抗してやる。
護るべき人々を見捨て、敵を前に逃げ出したりなどしない。
バイドが彼らの生命を奪うというのなら、対価としてバイドの生命を貰い受けるまでだ。

『来やがれ、クソッタレ!』
『発射、発射!』

ブラスタービットを展開、暴力的なまでの膨大な魔力が、5つの魔力球へと集束する。
徐々に膨れ上がる魔力球、その桜色の光に霞む様にして、プラントの影が浮かび上がっていた。
周囲では長射程を有する機動兵器群が、ミサイルや砲弾、魔導砲撃を一斉に放ち始める。
なのはもそれに続かんと、魔力球の中心へとレイジングハートの矛先を突き付けた。

「スターライト・・・」

魔力球が、より一層に眩い光を放つ。
そして、なのはが暴発寸前の圧縮魔力に指向性を与え、迫り来る666へと向かい解き放つ直前。
トリガーボイスを紡がんとした、正にその瞬間に。

「ブレイカー・・・!?」



プラントが、無数の閃光に呑まれた。



「な・・・」

直後、なのは達の頭上へと強襲艇が躍り出る。
慣性制御フィールド内に侵入した事を感じ取った瞬間、壮絶な衝撃が全身を打ち据えた。
薄れゆく意識を危ういところで繋ぎ留め、なのはは周囲を見渡す。

その時、視界の端に何かが映り込んだ。
強烈な光の奔流の中、遥か彼方に浮かぶ灰色の影。
一瞬後には消えてしまったが、確かに存在したそれ。
それが何であったかを思考する暇さえ無く、新たな念話が意識へと飛び込んだ。

『アイギス、制御系回復! 繰り返す、アイギスの制御を奪還した!』

*  *  *

『何が起きたの・・・?』

呆然とした様子を隠す事もなく紡がれる、キャロの念話。
フリードの背でそれを受けつつ、エリオは遥か頭上に拡がる爆炎の壁を見据えていた。
今もなお拡がりゆくそれは、本来ならばこのコロニーをも呑み込んでいた筈だ。
だがその事態は、実際には起こり得ない。
襲い来る爆炎は全て、このコロニーを守護していたR戦闘機によって消し飛ばされたのだ。

「DELTA-WEAPON」
R戦闘機、精確にはフォースに標準搭載された、戦略級広域空間殲滅兵装。
攻撃および敵性体を分解・吸収した際、フォースへと蓄積される膨大なエネルギー。
これをバイド体により増幅し一挙に解放する事で、限定空間域の物理法則、更には管理世界すら知り得ない異層次元に於ける空間法則にすら干渉し、プログラムされた事象を同一空間上へと具現化するという、空間干渉型ロストロギアに匹敵する純粋科学技術。
当然ながら詳細な理論までは開示されておらず、また開示されたとしても理解できるとも思えないが。

93R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:05:42 ID:FtNmz37M
シュトラオス隊の4機、R-11Sが発動したデルタ・ウェポンは、周囲の空間に核融合反応を強制励起させるタイプだ。
破滅的な総量と密度を以って広域を襲うエネルギー輻射は、如何なる装甲・防衛手段であっても破壊を免れる事はできない。
汚染体は言うに及ばず、戦艦等の大型兵器群であっても致命的な損傷を被る程の爆発。
如何な超大型建造物たるプラントであろうと、この爆発の前には旧式の外殻装甲パネルに覆われただけの脆い鉄塊に過ぎない。
況してやその残骸など、瞬く間に消滅してしまう。

『アイギスだよ。プラントを核攻撃したんだ』

エリオは見た。
迫り来るプラント目掛け突き進む、無数の青い光点。
その全てが、戦術核を搭載したミサイルの噴射炎だった。
制御を奪還されたアイギス群が、防衛目標であるコロニーへと向かう3基のプラントを止めるべく、一斉に戦術核を放ったのだろう。
尤も、秒速500m超という速度で迫り来る全長30kmものプラントを外部から完全に破壊する事は、如何な核兵器と云えども不可能。
そこでアイギス群は、プラント内部からの破壊を選択したらしい。
恐らくは先んじてレーザーによる砲撃を行い、それによって破壊された外殻の内部へと戦術核を撃ち込んだに違いない。
閃光が発せられた瞬間にエリオは、プラントが内部から弾け飛ぶ様を確かに目にした。
そうして飛来する無数の残骸、そして核爆発の衝撃と熱線をシュトラオス隊が、コロニーを巻き込まぬよう発動範囲を極限まで抑えたデルタ・ウェポンで迎撃・消去したのだ。

未だ眩む両眼を瞼の上から揉みながら、エリオは安堵の息を吐く。
全く、幸運としか云い様が無かった。
エリオ達は外殻での戦闘に一切関与していない。
否、できなかった。
つい先程まで、コロニー内部で様子を窺っていたのだ。

コロニー内部で偏向重力の渦が発生して以降、エリオとキャロはBエリアから動く事ができなかった。
強襲艇への避難が間に合わず、構造物内部へと侵入して状況の変化を待つ他なかったのだ。
幸いな事に2人の傍にはフリードが居た為、本来の姿に戻ったその背に乗ってトラムチューブ内を移動。
Cエリアのシャトル・ポート内で、襲い掛かる偏向重力に耐え続けていたヴォルテールの許へと辿り着く事ができた。
そしてコロニー内から666が離脱した隙を突いて脱出するつもりだったのだが、崩落に次ぐ崩落でポートからの脱出に時間が掛ってしまったのだ。
何とか力技で道を切り開き、輸送艦が閉じ込められているAエリア港湾施設を目指したものの、施設内部へと侵入する事は叶わなかった。
仕方なくAエリア構造物の端に開いた崩落跡、不明艦艇が突入・離脱した際に穿たれた巨大な穴から外殻上へと向かう最中に、プラントを破壊した核の光が視界へと飛び込んだという訳だ。

外殻での戦闘に関与できなかった以上、エリオ達がこの瞬間に生きているという現実は、彼らの力が及ばぬところで決定されたという事に他ならない。
それを決定したのは外殻で戦闘を行っていた部隊でも、R戦闘機群でもなかった。
全てを決定付けたのは制御を回復したアイギス群であり、戦闘に当たっていた人間の意思に依るものではないのだ。
無論、ベストラか防衛艦隊の人員が、何らかの方法でアイギスの制御権を奪還した事も考えられる。
しかし、それを確かめる方法が無い以上、幸運であったと云う他ない。
少なくとも、エリオ自身はそう考えている。
そして幸運にも拾った生命、特にキャロのそれが無用な危険に曝される事は、今の彼にとって最も忌むべき事態だった。

『このまま外殻へ出よう。すぐに強襲艇が迎えに来る』
『迎えって・・・輸送艦はどうするの?』
『僕等が何かするより、ランツクネヒトの救出部隊に任せた方が早いし確実だ。外の部隊と合流したら、その足で・・・』
『待って!』

エリオの言葉を遮り、キャロが念話で以って叫ぶ。
突然のそれにエリオは、彼が背に乗るフリードと並んで上昇するヴォルテール、その掌の上に膝を突いているキャロを見やった。
彼女は崩壊した階層構造の一画を指し示し、続ける。

『ねえ、あれ・・・ティアナさんじゃないかな』

94R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:06:19 ID:FtNmz37M
その言葉にエリオは、キャロが指す方向を注視した。
見れば、崩落した階層の1つ、壁面に寄り掛かる様にして立つ複数の影が在るではないか。
そしてその中には、見覚えの在るデザインのバリアジャケットが紛れていた。
エリオは無言のまま自らが騎乗する使役竜の背を叩き、フリードは正確にその意を酌んで人影の方向へと飛翔する。
少し近付けば、はっきりと判った。
キャロの言葉通り、影はティアナを含む3名の局員だったのだ。
コロニー構造物内は未だに人工重力が機能しているらしく、3名はコロニー中心へと頭部を向ける形で佇んでいる。
即ちエリオ達から見て、天地が逆転した状態という訳だ。
人工重力の影響域、その直前まで崩落面へと接近したフリードの背から、エリオは声を投げ掛けた。

「御無事で何よりです、ティアナさん」
『・・・アンタ達もね。見た感じ掠り傷1つ無さそうで、羨ましい事だわ』

返されたのは音声による返答ではなく、念話を用いてのもの。
どうやら喋る事すら億劫らしい。
尤も、それは見た目からして容易に判別できる事実だったのだが。

「・・・崩落に巻き込まれたんですか?」
『そんなところよ』

ティアナの全身は、至る箇所が血に塗れていた。
特に酷いのは右大腿部で、傷を押さえる掌の下から止め処なく血液が溢れ続けている。
他2名もかなりの負傷が見受けられ、一刻も早く応急処置を施さねば危険だろう。

「今、キャロを呼びます。すぐに治療を受けて下さい」

離れた位置に待たせたヴォルテール、その掌の上のキャロへと合図を送る。
まだ完全にコロニー外部へと脱した訳ではなく、構造物に遮られた念話の接続が回復していない。
外殻の部隊に繋がるか否かも既に試したが、結果は失敗に終わった。
ランツクネヒトの用いる通信ならば問題は無いのだろうが、生憎とコロニーのシステムは既に沈黙しており、更に言えばエリオもキャロも疑似的に構築された念話として通信を用いているに過ぎない。
よって、距離が離れている以上、意思の疎通はハンドシグナルで以って行う他ないのだ。

「ティアナさん、その怪我・・・!」
「・・・大した傷じゃないわ。出血が派手なだけ」

接近してきたヴォルテール、その掌からティアナ達の許へと移動したキャロは、すぐさま医療魔法による応急処置を開始した。
ティアナの希望により、処置は他の2名から行うらしい。
その様を暫く見やった後、エリオは改めて3人の様子を観察し始める。
飛散する微細な破片によって切り裂かれたのか、3人共に全身へと切創が刻まれていた。
僅かではあるが皮膚が抉れている箇所も在り、こんな状態で良く此処まで辿り着けたものだと感心する。
そもそも、こんな所で何をしていたというのだろう。
そんな事を思考し始めた時だった。

『・・・ベストラ・・・外殻に展開・・・戦闘・・・』

ノイズ混じりの音声。
小さなウィンドウが、エリオの傍らに現れていた。
通信が回復したのかと、彼はすぐにウィンドウの操作を開始する。

「こちらライトニング01、応答願います・・・ライトニングよりベストラ、聞こえますか」
『直ちに回収機を送る。総員、ベストラへ移動せよ。輸送艦の救出については、こちらから新たに部隊を派遣する』
『重傷者28名、緊急搬送を求む・・・訂正、27名だ。死者62名・・・』
「ベストラ、応答を・・・誰か、聞こえませんか」

95R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:06:53 ID:FtNmz37M
操作を続けるエリオ。
だが受信はできても、こちらからの発信ができない。
旧式の無線なら未だしも、これ程までに発達した通信システムでそんな事が有り得るのか。
そんな疑問を抱くエリオの側面、治療を続けていたキャロが小さく呟きを漏らした。
ほんの些細な、しかし決して無視できぬ言葉。



「これって・・・銃創?」



ストラーダの矛先がティアナ達へと向けられるのと、キャロの小さな悲鳴が上がったのは、ほぼ同時だった。
エリオの視線の先、5mほど離れた崩落面の階層。
上下逆転した光景の中で、ティアナがキャロを取り押さえている。
ティアナの手にはダガーモードとなったクロスミラージュが握られており、その刃はキャロの背後から彼女の首筋へと当てられていた。
そして、エリオを見据えるティアナの眼。
凍える程に無機質な光を宿した瞳が、明らかな敵意を以って彼を射抜いていた。
傍らの局員達もまた、其々のデバイスの矛先をエリオへと向けている。
だが、この場に於いて無機質な敵意を宿している人物は、もう1人存在した。
エリオ自身である。

「警告する。直ちにデバイスを捨てろ」

凡そ普段の彼からは想像も付かない、明確な敵意と冷酷な殺意とに満ち満ちた声。
口を塞がれる様にして押さえ付けられているキャロ、その瞳が大きく見開かれる。
彼女がティアナの行動に驚愕している事は確かだが、この反応はエリオに対するものだろう。
だが今は、それに感けている余裕が無い。
エリオはストラーダの矛先をティアナへと向けたまま、最後の警告を放つ。

「繰り返す。デバイスを・・・」
「警告よ。デバイスを置き、こちらへ来なさい。それ以外の行動は敵対と看做させて貰うわ」

エリオの声を遮り放たれる、ティアナからの警告。
正気を疑う様なティアナの言葉に、彼は僅かに目を見開いた。
足下と背後から迫る、荒れ狂う魔力。
それを押し止める様に、再度ティアナの声が放たれる。

「フリード、貴方とヴォルテールもよ。鳴き声のひとつでも上げたら、貴方達の主人の命は保証しない」

更に高まる魔力密度。
だが、それらが砲撃として放たれる事はない。
フリードもヴォルテールも、放てばキャロを巻き込んでしまうと理解している。
彼らの知能は人間と比較しても遜色ないどころか、一部に於いては凌駕してさえいるのだ。
ティアナの言葉を理解できぬ道理が無い上に、何よりも現状でこちらから仕掛ける事が可能な者はエリオしか存在しない、その事を良く理解している筈だ。
だからこそ、彼等はティアナの言葉通りに沈黙を保っている。
しかし万が一の事が在れば、跡形も無くティアナ達を消し去るつもりである事も確かだ。
ティアナもそれを理解しているからこそ、先程の警告を発したのだろう。
エリオは付け入る隙を見せた自身を内心で罵りつつも、眼前の敵へと言葉を投げ掛ける。

「何をやったんです? 銃撃戦なんて穏やかじゃないですよ」
「聞こえなかった? デバイスを捨てろと言ったのよ」
「相手はどうしたんです、殺したんですか? 随分と手酷くやられたところを見ると、相手はランツクネヒトですか」

ティアナの右大腿部、未だ血液が溢れる銃創を見やりながら、エリオは問うた。
傷は深く抉れているが、弾体は貫通している様に見受けられる。
脚部が原形を留めているという事は、恐らくは対人用の9mmによるものだろうか。
そんな事を思考するエリオの目前で、ティアナはダガーモードの刃を深くキャロの首筋へと押し当てる事で行動を促した。

96R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:07:31 ID:FtNmz37M
「急ぎなさい、余り長く待つつもりは無いわ」

刃の当てられた箇所から、幾筋もの赤い線が延びる。
キャロの瞳が揺らぎ、小さな呻きが漏れた。
ティアナは変わらず平静を保ったまま、僅かながら更に刃を押し込む。
くぐもったキャロの悲鳴。
嫌でも理解せざるを得なかった。
彼女は、本気だ。

「3つ数えるわ。その間に投降するか、それとも彼女ごと私達を殺すか決めなさい」

エリオは考える。
近接戦闘であれその他の何であれ、速度に関しては絶対的にこちらが有利だ。
ストラーダの矛先は、既にティアナへと狙いを定めてある。
後は瞬間的な魔力噴射を行えば、ストラーダは自身の手の内より射出されティアナの半身を微塵に打ち砕くだろう。
同時にその余波は、傍らの2人をも殺傷する事となる。
無論ながら、ティアナに拘束されているキャロすらも。

では、射出速度を抑えてはどうか。
ティアナを殺害し、キャロを軽傷で救い出す事はできる。
だが、他の2人は良くて軽傷、最悪の場合は無傷のまま生存する事となるだろう。
後は至極単純だ。
1人が得物を手放したエリオを殺し、残る1人がキャロを殺す。
フリードもヴォルテールも、その強大過ぎる力が災いして手を出す事はできない。
状況の支配権がティアナに在る事を、エリオは認めざるを得なかった。

「1つ・・・」

ストラーダをフリードの背に預け、其処からティアナ達の許へと跳ぶ。
体を捻り上下を逆転、そして着地。
視線を上げ、ティアナへと向き直る。

「2つ・・・」
「・・・言う通りにしましたよ、ティアナさん」

両の掌を翳し、抵抗の意が無い事を示すエリオ。
ティアナの腕の中で、涙を零しながら首を振ってもがくキャロ。
キャロの首筋へと更に食い込む刃を意に介する素振りすら見せず、一挙一動すら見逃さないとばかりにエリオを見据えるティアナ。
そして、エリオの背後から迫る2つの足音。

「跪け」

背後の声に、エリオは無言のまま従った。
掌を後頭部に回して組み、両膝を床面へと突く。
だが、視線だけは変わらずティアナを、その腕へと囚われたキャロを捉え続けていた。
魔力の刃は未だ、彼女の首筋へと吸い付いたまま離れない。
そのバリアジャケットは溢れだす血液によって、既に胸元まで紅く染まっていた。
我知らず歯軋りし、エリオは心中を埋め尽くす憎悪もそのままに、射抜く様な視線をティアナへと向ける。

これから恐らく、自身は意識を奪われる。
では、その後に待つものは何だ。
自身がどうなろうと知った事ではないが、キャロはどうなるのか。
フリードとヴォルテールが居る以上、殺される事はないだろうが、しかし何事も無かったかの様に解放される筈もない。
結局、自分は彼女を護り切る事ができなかったのだ。

「そのままよ。おかしな事は考えないで」

97R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:08:05 ID:FtNmz37M
自身の無力さを呪うエリオへと、ティアナが声を投げ掛ける。
此処で漸く彼女は、ダガーモードの刃をキャロの首筋から離した。
刃が離れた後に残るは、血液が滲み出す一筋の赤い線。
傷は頸動脈まで至ってはいないらしいが、それでも薄皮が裂かれただけに留まらず、刃が皮下組織にまで喰い込んでいた事を窺わせる。
キャロの口を抑えていた左手が離れ、彼女は小さく震える声を漏らした。

「エリオ君・・・!」
「黙ってなさい」

クロスミラージュ、ダガーモードからツーハンド・ガンズモードへと移行。
左手に握られたクロスミラージュの銃口はキャロの顎下に、残る一方の銃口はエリオの額へと向けられている。
抑え切れぬ憤怒の感情に身体を震わせ、エリオは軋みが上がる程に歯を噛み締めた。
そんな彼を見下ろし、ティアナが口を開く。

「それで・・・こうして先手を取った訳だけれど」

止めを刺す前の気紛れか。
キャロに対する罪悪感と、不甲斐ない己への失望。
それらの狭間でエリオは、眼前に佇む憎むべき敵の言葉を一語一句逃さず聞き取ろうと、聴覚に意識を集中した。
そして、ティアナは続ける。

「そろそろこっちの話を聞いて貰えるかしら・・・ライトニング? できれば冷静に・・・戦闘は無しで・・・」

紡がれたのは、全く予想外の言葉。
唖然とするエリオ。
しかしすぐに、彼は異常に気付いた。
ティアナの身体が、不自然に揺れている。

「全く・・・慣れない事、するものじゃ・・・ないわね・・・」

ティアナの手から滑り落ち、床面へと叩き付けられるクロスミラージュ。
遂にはキャロを取り押さえていた腕すらも離れ、その身体はよろめきながら後退りする。
唐突に解放されその場にへたり込んだキャロも、呆然とそんなティアナを見つめていた。
異常を感じ取ったのか、フリードとヴォルテールも攻撃態勢を解き、しかし未だ警戒しつつ事の成り行きを見守っているらしい。
そんなエリオ達の目前でティアナは、再度に壁面へと背を預けて数度、口を手で覆って苦しげに咳込む。
指の間から溢れ出る液体、黒味掛かった赤。
エリオは我知らず、彼女の名を口にする。

「ティアナさん・・・?」
「まさか、あれでも・・・仕留め・・・損なってた、なんて・・・ね・・・」
「ティアナさんッ!」

98R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:08:43 ID:FtNmz37M
背を壁面へと擦りながら、ティアナの身体は摺り落ちる様に床面へと倒れ込んだ。
壁面に残されたのは、放物線状の赤い模様。
咄嗟に駆け出し、倒れたティアナを抱き起こす。
その時、同じく駆け寄ってきたのであろうキャロが、ティアナの背を見るや小さく悲鳴を漏らした。
ティアナを抱きかかえたまま何事かとキャロへ視線を移せば、彼女はフィジカルヒールを発動させると同時に、叫ぶ様に言い放つ。



「背中、撃たれてる! 3発も!」



視線を落としてティアナの背面を見やったエリオは、其処に穿たれた複数の穴を視界へ捉えるや、自身の血の気が引いてゆく事を鮮烈に自覚した。
水泡が潰れる小さな音と共に、一定の間隔を置いて血を噴き出す3つの穴。
射撃手は狙いを定めるつもりなど無かったのか、銃創は左肩に1つ、背面に2つ穿たれている。
大腿部のそれを含めれば、ティアナは4発もの銃弾を受けている事になるのだ。
だが、この3つの銃創は大腿部のそれとは異なり、明らかに新しい。
まるでたった今、この場で穿たれたかの様に。

「ッ・・・!」

フリードの咆哮、警告の意を示すそれ。
瞬間、エリオは弾かれた様に、他の2名の局員へと視線を移す。
果たして視線の先、彼等は床面へと倒れ伏し、その身体の至る箇所から大量の血液を溢れさせていた。
何時の間にと驚愕するエリオだったが、胸元に感じた違和感に再度、視線を腕の中のティアナへと落とす。
彼女は血塗れの手に掴んだ正方形の何かを、エリオのバリアジャケットに備えられたポケットへ入れようとしていた。
出血によるショック症状なのか、酷く震える手を必死に動かし、何とかその行為をやり遂げる。
そして何事かを伝えようと必死に、しかし生気の感じられない血の気の失せた表情で口を動かすティアナ。
思わずキャロと共にその手を握り締め、エリオは自身の耳をティアナの口許へと近付ける。
鼓膜を震わせるのは空気の漏れる異音と、酷く掠れた小さな声。

「真実を・・・地球軍の、計画・・・覚られないで・・・なのはさん達に・・・伝えて・・・」
「エリオ君・・・」

自身の名を呼ぶ声に、エリオはキャロを見やる。
すると彼女は、何事かを恐れる様な表情でエリオの後方、崩落した階層内を指していた。
周囲に響く重々しい、硬い靴底が床面を叩く音。
明らかに軍用ブーツのそれと判る靴音に、エリオはゆっくりと背後へ振り返る。

果たして背後の暗がりの中に、闇よりもなお黒々とした装甲服の影が浮かび上がっていた。
僅かに前屈みになっているのか、通常よりも幾分だが低い位置に視覚装置の赤い光が点っている。
だが、常ならば2つ在る筈のその光は何故か1つしか見受けられず、しかも影は奇妙に揺らいでいた。
何かがおかしいと感じたのも束の間の事、数歩ほど進み出た影の全貌を視界へと捉えるや否や、エリオは息を呑んだ。

「何が・・・!?」

エリオの予想通り、影の正体はランツクネヒトの隊員だった。
だが、その左腕は上腕部から千切れ飛び、左脚は大腿部が大きく抉れて骨格が露出している。
破片を受けたのか、腹部右側面には喰い千切られたかの様な傷があり、其処から内臓器官の一部が覗いていた。
ヘルメットは左側面の一部が粉砕されており、左眼に当たる視覚装置は周囲を覆うマスクの一部と共に損なわれている。
本来ならばマスクの破損した部位からは左眼が覗いている筈だが、当の眼球は周囲の皮膚諸共に失われており、剥き出しの皮下組織と黒々とした眼窩だけが、滲み出す血液を絶え間なく溢し続けていた。

「ひ・・・!」

直視してしまったらしきキャロが、背後で引き攣った悲鳴を上げる。
だがエリオは、隊員から注意を逸らす事ができなかった。
正確には隊員の残された右腕、その手に握られた物体からだ。

99R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:09:19 ID:FtNmz37M
20cm程の銃身に、それを僅かに上回る全長のサプレッサー。
一見すると通常のハンドガンに見受けられるが、エリオはそれがマシンピストル、即ち9mm弾を連射可能な質量兵器であると知っていた。
そして同時に、何故ティアナが3発もの銃弾を受けていながら頭部などの致命的な箇所への被弾が無かったのか、その理由へと思い至る。

隊員は致命傷を狙わなかったのではなく、照準を定める事、それ自体が不可能だったのだ。
自身も明らかに致命傷を負っている上に、既にかなりの出血が在ったのだろう。
銃を握る手は震え、大腿部が抉れているにも拘らず歩を進める脚は、しかし1歩毎に不安定によろめく。
両の掌で銃を支えようにも左腕は上腕部から千切れて失われ、震える右腕のみでは照準すら覚束ない。
よって、少しでも命中率を上げる為にフルオートでの射撃を選択したのだろう。
だが、ハンドガン程度の小型銃器から9mm弾を連射した際に発生する強烈な反動を、装甲服の筋力増強が在るとはいえ、弱った右腕の筋力のみで完全に押さえ込む事などできる筈もない。
連続する衝撃に照準は激しく揺れ、十数発の内3発がティアナへと着弾したというところだろう。
もし銃弾がティアナの身体を貫通していれば、その腕に拘束されていたキャロも、今この瞬間に生死の境を彷徨う事態となっていたかもしれない。
その後、隊員は弾倉に残る全ての銃弾を用いて残る2名の局員を射殺し、今こうしてエリオ達の前へと姿を現したという事か。

「・・・これは一体どういう事です? 何故、戦闘なんか・・・!」

どうにか絞り出した言葉は、小さな金属音によって遮られた。
隊員の右腕、サプレッサー先端の銃口がこちらへと向けられている。
不規則に揺れるそれは照準など定まりようもない事を十二分に知らせてはいたが、しかしフルオートである事を考慮すれば、エリオどころかキャロまでが完全に射界へと捉えられている事だろう。
下手に動く事はできない。
互いの距離が近過ぎる為、フリードもヴォルテールも介入の手段が無い。
そもそもティアナとランツクネヒト隊員、現状に於いてどちらを擁護するべきかさえも不明なのだ。

ランツクネヒトとティアナ達は何故、互いにこれ程の惨状となるまで戦闘を行う必要性が在ったのか。
どちらかが攻撃を実行し、それが皮切りとなって交戦状態に陥ったと考えるのが自然ではある。
では、その攻撃はどちらから行われたのか、それを実行した理由は何なのか。

「何故、銃を向けるんです? 僕達は何も知らない」

語り掛けても、隊員は何も言葉を返さない。
エリオ達へと銃口を突き付けたまま、覚束ない足取りで徐々に距離を詰めてくる。
だが何故、この距離で撃とうとしないのか。
其処に思考が至り、エリオは気付く。

ティアナは言っていた。
真実を伝えろ、地球軍の計画、覚られるな。
そして、今は自身のバリアジャケットのポケットに収められている、何らかのメディアデバイスらしき物体。
何故かAエリアに展開していたティアナ達、彼女達を追ってきたランツクネヒト隊員。
これらの事実から導き出される、現状の背景とは。

「・・・彼女達に、何を「知られた」んです?」

瞬間、隊員が僅かに不自然な動きを見せた。
微かなものだったが、エリオはその動揺を見逃さない。
そして確信する。

「やっぱり」

間違いない。
ティアナ達はランツクネヒト、そして地球軍にとって致命的な情報を入手したのだ。
決して知られてはならない、不都合な事実を暴かれてしまった。
その時点で、ティアナ達は情報の奪取に気付いたランツクネヒトを、ランツクネヒトは情報を入手したティアナ達を殺害せねばならない理由が生じる。
攻撃がどちらから実行されたものであれ、今となってはその事実など大した問題ではないのだ。

100R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:09:59 ID:FtNmz37M
「彼女は何かを言う前に、貴方に撃たれた」

ティアナがキャロを拘束し自身に投降を迫った理由は、状況を理解していない自身等がティアナ達を攻撃する危険性が在った為だろう。
だがその行動は、ティアナ達を殺害すべく追跡していた隊員に、絶好の機会を与えてしまう事となった。
それまでの戦闘を経て、ティアナ達は既に隊員を殺害したつもりだったのだろう。
ところが、常人離れした強靭さで生き延びていた隊員は、自身達に注意を向けているティアナ達の背後から9mmの弾雨を浴びせ掛けたのだ。
その隊員は今、何をしているのか。
ティアナ達と接触した自身達を撃つ事もせず、何を。

「それ程に、知られたくない事だったんですね?」

答えは1つ。
彼は待っている。
通信が回復する、その時を待っているのだ。
コロニー外に展開するランツクネヒト、或いは地球軍へとこの状況を知らせる為に。
自身等に関しては、ティアナからどれ程の情報を得たか、隊員が知る由も無い。
通常ならば時間的にも状況的にも、多くの情報を伝える事は不可能と判断できる。
だがそれは、通常の人間ならばの話だ。
自身もキャロも、そしてティアナも魔導師。
つまり念話という、魔導師のみが用いる事のできる通信手段が在るのだ。
それを通じて、既に情報の遣り取りが在ったのではないか。
隊員は、それを疑っているのだろう。
実際には、ティアナは念話を使う事もできぬ程に消耗していたのだが、彼にそれを知る由など在る筈もないのだ。

「ランツクネヒトは・・・地球軍は何を隠しているんですか」

本来ならば、有無を言わさず自身等をも射殺するつもりだったに違いない。
だがこの場には、フリードとヴォルテールが存在した。
主へと銃口が向けられている、自身が攻撃を実行すれば主を巻き込んでしまうという、この2つの事実によって彼等の行動が封じられている事は明らかだ。
しかし、この状況下で自身はともかくキャロが殺害される事が在れば、2騎は即座に行動を開始するだろう。
隊員は微塵の抵抗も許されずに殺害され、一連の事実が外殻に展開する部隊へと知らされる。
実際には、使役竜と守護竜である2騎と明確な意思の疎通を行える人物はキャロのみであり、その他の人間が彼らの意思を読み取るには複雑な術式が必要なのだが、目前の隊員が其処までの情報を得ている可能性は低い。
しかし同時に、2騎が非常に高い知性を有している事実は、既にランツクネヒトにも知れ渡っている。
その情報が災いしたのだろう、結果的に隊員は通信回復を待つ以外の選択肢を封じられてしまったのだ。

「・・・答えられませんか」

では、自身はどう動くべきか。
このまま時間だけが経過し、通信が回復する事が在れば、全てはランツクネヒトと地球軍の思惑通りに修正されるだろう。
自身とキャロ、フリードとヴォルテールは諸共に処理され、ティアナ達と共々、誇り高い戦死者としてリストに名を連ねる事となるに違いない。
それだけは、在ってはならない事だ。

「それでも構いません。貴方が話そうが話すまいが、もう関係ないんです」

真実を伝えなければ、地球軍の思惑を明らかにしなければならない。
勿論、それも在る。
ティアナ達の行動を、その犠牲を無駄にしてはならない。
無論の事、それも理解している。
だが自身には、それらよりも優先すべき事が在る。
他の全てを切り捨て、自身の生命すら捨ててでも成さなければならない事が在る。
たった1つ、他の何にも勝る誓い。
大切な人達を殺めながら、それに対し何ら感慨を抱けなくなってしまった自身に残された、最後の大切なもの。

101R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:10:35 ID:FtNmz37M
「・・・全部聞いたぞ、「地球人」!」



キャロを、護る。



「キャロ!」

ティアナを左腕へと抱えたまま、JS事件後の2年間で習得したブリッツアクションを発動。
デバイスを通さずに発動した為に幾分か負荷が掛かるが、一瞬でキャロとの距離を詰め彼女の華奢な身体を残る右腕で抱え上げる。
キャロもエリオの意図を察知していたのだろう、接触に合わせて後方へと跳んでいた為に、衝撃は最小限に抑えられていた。
エリオの背を叩く衝撃、体勢が崩れる。

「エリオくんっ!」

僅かに遅れ、連続して聴覚へと飛び込んだ、小さな空気の破裂音。
ランツクネヒト隊員、9mm発砲。
悲痛な声を上げるキャロ。
それら全てを無視し、エリオはそのまま崩落跡へと飛び込んだ。
背後、爆発にも似た破壊音と衝撃。
ティアナとキャロを決して離さぬよう、エリオは2人をしっかりと抱えたまま人工重力域を脱し、無重力圏を突き進む。

「ヴォルテールッ!」

キャロが叫ぶと同時、背後へと現れる巨大な影。
周囲の階層から漏れ出る赤い警告灯の光に照らし出され、アルザスの守護竜は超然たるその威容を空間に浮かび上がらせていた。
そしてヴォルテールはその掌へと、3人の身体を優しく受け止める。
エリオはキャロの身体を解放し、細心の注意を払いつつティアナの身体を優しく横たえた。
ヴォルテールの頭部を見上げ、一言。

「エリオ君、背中・・・!」
「2人を、頼むよ」

キャロの言葉を無視し、ヴォルテールの頭上を横切るフリード、その背面を目掛け跳ぶ。
無重力中を突き進むエリオにタイミングを合わせ、寸分の狂い無く背面の中心へと受け止めるフリード。
そのまま旋回し、再度に先程の階層へと向かう1人と1騎。
視線の先、目的の箇所では粉塵が周囲の空間を埋め尽くし、その中に金色の魔力残滓が煌く。

エリオが隊員に発砲を促す台詞をぶつけ、被弾しながらも無重力圏へと脱した直後。
彼はフリードの背に預けたストラーダを遠隔操作し、最大出力での魔力噴射を実行させていた。
「AC-47β」によって増幅された魔力は、推進力を増す為に極限まで圧縮され、ランツクネヒトの改造によって増設されたプロペラントタンクへと蓄積される。
ティアナと対峙した時点で既に充填されていたそれを利用し、無重力中での銃撃を避ける為にストラーダを構造物へと突入させたのだ。
魔力付与等は行っていないものの、突入速度は音速の4倍以上である。
直撃など望むべくもないものの、余波はかなりのものであった筈だ。
だが、仕留めたという確証が無い以上、エリオは其処で済ませる気など毛頭なかった。

「ストラーダ!」

自身の側面へと手を翳し、相棒の名を叫ぶ。
瞬間、構造物内で爆発が起こった。
周囲の粉塵を消し飛ばし、宛らミサイルの如く飛来する、鈍色の槍。
音速を超えて側面の空間を突き抜けるその柄を、エリオは苦も無く自然な動作で掴み取った。
衝撃波と魔力の残滓がバリアジャケットを打ち据えるも、瞬間的に強度を増した障壁を突破する事は叶わない。
足下のフリードも慣れたもの、動揺する気配は全く無かった。
エリオはストラーダを構え、メッサー・アングリフの発動態勢を取る。

102R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:11:14 ID:FtNmz37M
フリードのブラストフレア、ブラストレイは使えない。
余り派手にやり過ぎては、外殻のランツクネヒトに気付かれてしまう。
此処で自身が、確実に仕留めなければならない。

「見付けた・・・!」

そして、エリオは目標を視認する。
階層の一画、よろめきつつも構造物の奥へと逃亡を図る影。
ストラーダの矛先を向け、寸分の狂い無く進路を設定する。
向こうも、こちらに気付いたのだろう。
牽制のつもりか、振り返って銃口をこちらへと向けている。
弾倉を交換したのならば、27発の銃弾が装填されている筈だ。

「フリード!」

だが最早、エリオは躊躇しなかった。
照準が定まっていない事を確認するや否や、彼はフリードに降下を指示し、同時にメッサー・アングリフを発動。
急激に下方へと軌道を逸らしたフリードの背から、エリオは発射されたミサイルの如く宙空へと射出された。
直後、サイドを除く全てのブースターノズルから、爆発そのものと化した圧縮魔力の奔流が解き放たれる。

瞬間、引き延ばされる体感時間。
可視化した衝撃波が容赦なく全身を襲い、後方へと引き延ばされた視界の中心で隊員が構えるマシンピストル、その銃口に装着されたサプレッサーの先端が跳ねる。
銃弾は見えない。
進路に変更なし。
見えない何かへと跳ね返るかの様に、幾度も幾度も異なる方向へと跳躍を繰り返す銃口。
だがやはり、銃弾までを見切るには至らない。
突撃継続、腹部に衝撃。

エリオは止まらない。
ストラーダに備わる全ての推力偏向ノズルを後方へと向け、「AC-47β」より齎される膨大な魔力の全てを推進力に変えて突撃する。
引き延ばされた感覚の中、徐々に迫り来る漆黒の装甲服。
だが次の瞬間、エリオは自身の右腕を襲う衝撃を感じ取った。
次いで視界へと移り込んだものは、自身を置いて加速してゆく相棒の影。

撃たれた?
右腕を撃たれたのか。
その衝撃で握力が緩み、ストラーダを手放してしまったらしい。
直進したストラーダは、敵に直撃するだろうか?

視界の中、エリオを残し直進してゆくストラーダ。
しかしその前方で、隊員は身を捻る様にして回避行動を取っていた。
衝撃波までをも受け流す事は不可能だろうが、少なくとも直撃だけは避けられる動き。

エリオは咄嗟にブリッツアクションを発動、右肩を突き出す様にして衝突態勢を取る。
既にストラーダの進路と、エリオ自身の進路は僅かに逸れていた。
隊員はストラーダの回避には成功するだろうが、その直後にエリオの体当たりを受ける事となる。
果たして数瞬後、その予測通りの事が起こった。
エリオは、ストラーダ通過の余波を受けて吹き飛ばされた隊員の胴部へと、こちらも音速を超える速度にて肩から突入したのだ。

103R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:11:48 ID:FtNmz37M
「がッ!」

衝突の瞬間、体感時間が通常の状態へと戻ると同時に、エリオの口から獣じみた呻きが漏れる。
彼を襲ったのは、衝突の衝撃だけではない。
障壁の全てを前方への物理防御強化に傾けた為、防音機能と衝撃緩和が不完全な状態となっていたのだ。
その為にエリオは、鼓膜を劈く轟音と全身の骨格が砕けんばかりの衝撃、その双方を同時に受けてしまった。
だが、意識を失う事は許されない。
ランツクネヒトの装甲服が有する耐久性は、常軌を逸している。
この程度の衝撃では、着用者の意識を奪えるか否か判然としないのだ。
果たして、衝撃に瞼を閉じたエリオの左側頭部へと、金属性の硬い物体が押し付けられる。
サプレッサーだ。

「かぁァッ!」

エリオは再び獣の咆哮を上げ、ブリッツアクションを発動すると共に左腕を下から上へと振り抜いた。
左手がサプレッサーを弾く感覚と、発射された銃弾が額を削る感覚。
瞼を見開くと、眼と鼻の先に破損したマスクが在った。
破れた左側面部位から、黒々とした眼窩が覗いている。

掴み掛かってくる右腕。
咄嗟に、エリオは剥き出しになった眼窩、皮下組織が露わとなっている其処に、全力で自身の額を叩き付けた。
それだけに止まらず、彼は隊員の腹部右側面、剥き出しの内臓器官へと左腕を突き込む。
その手に触れる臓器に爪を立て掻き回し、力任せに握り潰した。
エリオの額から噴き出す血と隊員の眼窩から噴き出す血、エリオの背面と隊員の内臓器官から噴水の如く溢れ返る血とが混ざり合い、赤黒い大量の血飛沫となって周囲の構造物を染め上げる。
流石に、剥き出しとなった皮下組織への打撃、そして内臓器官への直接攻撃は強烈な効果を齎したのか、隊員は右手を眼窩の位置へと当てて仰け反り、床面へとその身を叩き付けた。

そして同時に、エリオの視界へと飛び込んだ物は、傍らに転がるマシンピストル。
彼は咄嗟に、肉片が纏わり付いたままの左手を伸ばし、そのグリップを掴んだ。
だがその直後、床面へと倒れ込んでいた隊員の上半身が、弾かれた様に跳ね上がる。
一瞬の虚を突かれ、エリオは一気に上下の位置を逆転された。
同時に襲った衝撃、エリオの頸部を掴む隊員の右手。
更にその一点へと圧し掛かる、成人男性と装甲服を併せた重量。

「が・・・あ、ぎ・・・!」

瀕死の人間のものとは思えない、凄まじい握力がエリオの咽喉を締め付ける。
必死にもがき、被弾によって力の入らない右腕を激しくヘルメットへと叩き付けるも、その行為は一向に意味を為さない。
視界が徐々に赤く染まり、喉の奥からは鉄の臭いが込み上げてくる。
そうして、口許から一筋の熱い液体が溢れ出した事を自覚した瞬間、エリオ自身の意識を無視するかの様に左腕が動いた。
手首を内に向け、自身に圧し掛かる隊員との間へと強引に差し入れる。
違和感に気付いたのか、隊員の首が下へと傾いた、その瞬間。
第二指に感じる金属の抵抗諸共に、エリオの左手は有りっ丈の力で握り締められていた。

「ッ・・・!」

左腕に衝撃。
エリオの首を握り潰さんとする隊員、漆黒の装甲服が奇妙に震える。
連続する衝撃、揺さ振られる左腕。
それに合わせるかの様に、装甲服から小刻みな振動が伝わる。
咽喉を締め付ける隊員の右手には瞬間的ながら更なる力が加わり、エリオは呻きさえ上げられずに眼を見開いた。

だが次の瞬間、左腕の振動が止むと同時に、咽喉に掛けられた手が脱力する。
濃密な鉄の臭いと共に、肺へと流れ込む酸素。
耐え切れずにエリオは咳込み、その途中で左腕に圧し掛かる装甲服を跳ね除けた。
それまでの激しい抵抗が嘘の様に、漆黒の影は呆気なくエリオの側面へと仰向けに転がる。
エリオもまた身体を捻り、うつ伏せになって手を突き咳込み続けた。
視界の中、床面へ点々と描かれる赤い斑点。
暫し思考を放棄して荒い呼吸を繰り返すエリオだったが、思い出したかの様に床に突いた左腕、その手に握られたマシンピストルに気付く。

104R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:12:19 ID:FtNmz37M
「あ・・・」

その口から零れる、意味を為さない声。
手の中のマシンピストル、眼前へと掲げたそれのトリガーは、他ならぬエリオの第二指によって限界まで引かれた状態のままとなっており、上部のスライドは後退したまま固定されていた。
それは即ち、弾倉内の弾薬を撃ち尽くした事を意味している。
エリオは肉片と血に塗れた自身の左手、其処に握られたマシンピストルを呆然と見つめ、次いで傍らに転がる装甲服の胸元を見やり、絶句する。

穴が穿たれていた。
胸元から咽喉部に掛けて、複数の穴が。
1つや2つではない、十数もの穴が密集して穿たれ、まるで崩れ掛けの蜂の巣の如き惨状を曝していた。
バリアジャケットすら容易く貫く銃弾が十数発、しかも全くの零距離から。
装甲服に穿たれた穴の下、肉体がどの様な状態になっているかなど、溢れ返る血液を見れば考えるまでもなく明らかだ。
ふと頭上を見上げれば、天井面にも複数の穴が穿たれているではないか。
どうやら数発の銃弾は隊員の身体を貫通し、背面を内から喰い破って天井面へと着弾したらしい。
周囲の惨状を一通り把握したエリオは、そのまま呆然と座り込む。

覚悟は、疾うに決めていた。
敵対を選択した瞬間から、自身はランツクネヒト隊員を殺害する決意を固めていたのだ。
今更、殺人を躊躇する権利など自身には無い。
少なくとも自身はそう考えていたし、その覚悟は済んでいると自認していた筈なのだ。

ところがどうだ。
単に殺害方法がストラーダによる刺殺から質量兵器による射殺に替わっただけで、自身は明らかに動揺している。
確かに、バイドに侵された訳でもない、通常の人間を手に掛けるのは初めての事だ。
だが今更、何を戸惑う事が在るというのか。
ミラとタント、そして2人の子供も、手を下したのは自身ではないか。
敵対する人間を1人殺めたところで、それが何だというのだ。

「エリオ君、無事なの!?」
「・・・キャロ」

背後の声に、エリオは振り向く。
何時の間にか階層へと戻っていたキャロはこちらへと駆け寄るが、エリオの左手に握られたマシンピストル、次いで傍らに転がる隊員の死体へと視線が向くや否や、その表情に驚愕を浮かべて足を止めた。
数瞬後には再び歩み始めたものの、彼女の纏う雰囲気からは明らかな戸惑いと、微かではあるが確かな恐怖が感じられる。
エリオはそんなキャロを、奇妙に平静となった思考で以って見つめていた。
彼女は実に的確に、この場で起こった事を理解しているだろう。
ならば、何も問題は無いのだ。

「エリオ君・・・撃たれて・・・!」
「大した事はないよ。腕を撃たれただけ・・・」
「喋らないで! 背中とお腹を撃たれてるんだよ!」

キャロの言葉を受け、エリオは何の事か解らぬまま自身の腹部を見やる。
果たして視線の先、バリアジャケットの腹部は赤黒い血に塗れていた。
そういえば撃たれていたかと、他人事の様に思い返すエリオ。
血を吐き出したのは、咽喉を締め上げられた所為ばかりではなかったらしい。
腹部に手をやり、紅く染まった掌を見つめながら、エリオは言葉を紡ぐ。

「まあ・・・まだ大丈夫だよ。それよりティアナさんを・・・」
「ティアナさんは・・・」

瞬間、キャロの表情が酷く悲しげに歪んだ。
嫌な予感を覚えたエリオはキャロの制止を振り切り、マシンピストルを打ち捨てて宙空へと飛び出す。
目指すは、崩落面から10m程の位置に浮かぶヴォルテール、その掌の上だ。
狙い違わず到達し、横たわるティアナを覗き込む。

105R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:13:00 ID:FtNmz37M
まだ、息は在る。
だが同時に、辛うじて呼吸をしてはいる、それだけなのだと否が応にも理解せざるを得なかった。
肌は青白く、その体温は極端に低い。
小刻みに繰り返される呼吸は、明らかに異常だ。
何より、キャロ1人で行ったフィジカルヒールによる応急処置では、傷の全てを塞ぐまでにかなりの出血が在った事だろう。
体内の血液が、決定的に足りない。

「どうする・・・!?」

外殻へ運ぶか?
否、自身とキャロだけならばともかく、ティアナの状態は明らかに誤魔化しが利かない。
本人の意識が在れば如何様にも切り抜けられるだろうが、現状の彼女は意識不明だ。
更に云えば、瀕死の彼女を救う為には、医療魔法だけでは役不足だろう。
医療ポッドによる集中治療が必要となるだろうが、しかしポッド内での解析が始まれば銃創に気付かれる事は明らかだ。
当然ながら、それがランツクネヒトに配備されている9mmによるものである事も、忽ちの内に判明するだろう。
何より、背面の銃弾は摘出に至っておらず、未だティアナの体内へと残されているのだ。

「どうすれば・・・!」

ならばどうする。
ティアナを此処に残すか?
それも結果は同じ、いずれ発見されて全てが明るみに出るだろう。
彼女だけでなく、同時に他の2名の局員と、ランツクネヒト隊員の死体も発見される。
そうなれば、全て終わりだ。

「くそッ!」

いっその事、全てを灰にするか。
最小出力のブラストフレアで、ティアナを含め全てを焼却してしまえば、事態の全貌が明らかになる懼れは無い。
非情だが、立場が逆となればティアナの思考も、最終的にこの方法へと至るだろう。
だが此処で、ひとつの懸念が浮かぶ。
この場の3体以外にも階層内に、明らかに戦闘によるものと判る死体が存在したなら?

「エリオ君、ティアナさんは・・・」
「黙って!」

なんて事だ。
そうなればもう、打てる手は無い。
バイドの撃退に成功してしまった以上、ランツクネヒトは然程に時間を置かず生存者の捜索へと移行するだろう。
後は死体が発見されるまで、1時間と掛からない。

「エリオ君、あれ!」
「キャロ、今は黙って・・・」
「いいから、見て!」

背後からエリオの肩を引くキャロ。
彼女の必死な声に、エリオは思考を中断して振り返る。
だが、何かおかしい。
キャロはヴォルテールの指の間から、何故かコロニー内部を見下ろしていたのだ。
訝しみつつもエリオはその隣へと移動し、同じく下方を見やる。

機能を回復したコロニー内部の光に照らされ浮かび上がる、黒地に黄色の塗装。
円筒状の奇妙な3つのユニットが回転する、橙色の光を放つ球体。
闇よりもなお暗く其処に在る、漆黒のキャノピー。

106R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:13:33 ID:FtNmz37M
「ストラーダッ!」

エリオは叫ぶ。
直後、階層の一画を喰い破り、数分前と同様にストラーダが飛来した。
エリオはそれを受け止めると同時、キャロの襟首を掴んで自身の背後へと放り、構えを取ってその瞬間に備える。
果たして数秒後、その機体はエリオ達の眼前へと浮かび上がった。
忌まわしき機体、理解はしても納得など決してできる筈もないそれ。



「R-13T ECHIDNA」



信じられなかった。
眼前のR戦闘機、ノーヴェの体組織から培養された制御ユニットを搭載されたそれは、無人機として脱出艦隊に配備された筈なのだ。
それが何故、このコロニーに存在するのか。
この機体が此処に存在するという事は、脱出艦隊はどうなったのか。

「どうして・・・こんな時に・・・!」

キャロが、呻くかの様に呟いた。
エリオにしてみても、何故この最悪のタイミングでR戦闘機が出現したのか、奇妙に思う以前に恨み事ばかりが脳裏へと浮かんでしまう。
何もかもが無駄になってしまったのだ。
ティアナ達の行いも、エリオが繰り広げた戦闘も、全てが。
未だ通信は回復してはいないが、R戦闘機ともなれば話は別だ。
既に此処での事は、眼前の機体を通してランツクネヒトの知るところとなっているだろう。
もう既に、状況の趨勢は決したのだ。

「終わりか・・・」

フリードとヴォルテールは、抵抗する素振りどころか唸り声さえ発しない。
彼等も、十二分に理解しているのだ。
たとえ実験機とはいえ、R戦闘機とは自身等が抗える様な存在ではないと。
だからこそ彼等は、眼前の機体を刺激せぬよう沈黙を保っている。
だがそれでも、いざとなればキャロを護るべく、最後まで抵抗するのだろうが。

キャロが、無言で手を握ってくる。
エリオがその手を握り返す事はないが、それでも彼女は決して手放そうとしない。
僅かにそちらを見やると、彼女は諦観に満ちた儚い笑みを浮かべていた。
それがどの様な意図から浮かんだものなのか、エリオは思考しようとする自身を押し止める。
その理由が解ったところで、今となっては何の意味も無いからだ。

「・・・で? 殺すのか、僕達を」

挑発的な言葉を投げ掛けるエリオ。
相手は無人機、意味など無い。
この言葉はシステムの向こう、眼前の無人機を通じてこちらを窺っているであろう、ランツクネヒトに対する皮肉だ。
これで何かしらの変化が在る訳でもない、意味のない捨て台詞。
少なくとも、エリオ自身はそう考えていたのだ。
ところが、数秒後。

「え・・・」
「何やって・・・?」

107R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:14:07 ID:FtNmz37M
無人機R-13Tは、思いもよらぬ行動に出た。
フォースと分離した後、何とキャノピーを解放して接近してきたのだ。
R戦闘機としては小型の部類であるとはいえ、20m近い機体が接近してくる様は、かなりの威圧感が在った。
機首とフォースを繋ぐ光学チェーンがヴォルテールに触れぬよう、機首の角度を調整しつつ5m程の位置に静止。
それ以上の何をするでもなく、無防備な側面を曝している。
これは一体、如何なる意図による行動なのか。
エリオはR-13Tの行動の真意を読み取る事ができずに、制御ユニットを収めた灰色のポッド、キャノピー内に鎮座するそれを呆然と見つめる。
しかし十秒程の後、唐突に傍らへと展開されたウィンドウに、エリオの意識は釘付けとなった。
我知らず零れる言葉。

「・・・嘘だろ?」

そのウィンドウは確かに、ランツクネヒト及び地球軍が使用するものと同一のシステムだった。
機能性以外の全てが排除されたデザインは、管理世界に普及する各種メーカーのそれとは明らかに異なる。
だが、ノイズと共に一瞬で再展開されたウィンドウは紛う事なく、管理局に於いて正式採用されているメーカーのものだった。
そして、其処に表示される文字の羅列は、明らかにミッドチルダ言語によって構成された文章。



『ティアナ・ランスターの身柄を引き受ける。直ちに此処から離脱し、生存者に真実を伝えろ。幸運を祈る』



「エリオ・モンディアル」、そして「キャロ・ル・ルシエ」へ。
その2つの名を最後に、文章は締め括られていた。

「まさか・・・貴女は!」

キャロが、堪らずといった様子で叫ぶ。
エリオは数度、制御ユニットとウィンドウ上の文章とを交互に見やり、そして決断した。
背後に横たわるティアナへ向き直り、歩み寄ってその身体を抱え上げる。
再びR-13Tへと向き直ると、未だ制御ユニットを見つめるキャロの傍らを通過、ヴォルテールが掌の上へと生み出す重力域を抜け、無重力中を浮遊しキャノピーへと到達した。
そしてキャノピー内の余剰空間、成人1人が漸く入り込めるだけの其処へとティアナを横たえる。
でき得る限り負担が掛からない姿勢にティアナの身体を安定させると、エリオはキャノピー外縁部に立ち、改めて制御ユニットを見やった。
そして、宣言する。

「被災者の方は任せて下さい・・・ティアナさんを、頼みます」

外縁部を蹴り、R-13Tの機体から離れるエリオ。
閉ざされてゆくキャノピーを見つめる彼の脳裏には、これからすべき事柄が明確に浮かび上がっていた。
R-13Tの外観を眼へと焼き付け、彼はヴォルテールへと視線を移す。
巨大な守護竜の掌の上に座するキャロの瞳は、既に決然たる意思を宿していた。
自身の負傷さえ忘却し、こちらを見やるキャロへと頷いてみせるエリオ。

その遥か頭上と下方、艦艇の突入と離脱によってコロニーへと穿たれた、巨大な穴の両端。
其処から覗く、死と破壊に彩られた無重力の戦場。
未だ残る核の焔、黄昏時の陽光にも似たその光によって照らし出された空間で、赤と青、そして紫の閃光が爆発した。

*  *  *

『警告。EA波複数検出、極広域。EP展開中、警戒せよ』

突然の警告。
漸く緊張が解れ始めていた矢先であっただけに、はやては文字通り、呼吸が止まる程に驚愕した。
ベストラ及び防衛艦隊との通信は回復したものの、何故かコロニー内部を含む他方面とのそれは一向に繋がる様子が無いという、奇妙な状況。
輸送艦群の救出作業が滞りなく完了した後、ランツクネヒト人員の大部分をAエリアへと残して外殻の部隊はEエリア近辺へと戻り、引き続き通信途絶の原因究明へと移行していたのだ。
頭上にはベストラより派遣された第97管理外世界の技術者、そして警護のランツクネヒト人員を乗せた輸送艦が2隻、帰還の途に就こうとしていた。
通過してゆく輸送艦、その艦体下部を見上げていた最中の、司令部からの警告である。
はやてを始め、周囲の人員が即座に詳細を問い返す。

108R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:14:40 ID:FtNmz37M
「司令部、それはバイドによるものか? 検出源の位置は」
『最大出力でのEA波照射源は当域より離脱中、コロニーから離脱したヨトゥンヘイム級と推測される。その他に複数の照射減が存在するが、高出力かつ変則的な軌道を繰り返しているらしく、位置の特定は不可能』
「通信の途絶は、ソイツらが妨害工作を行っていたんだな?」
『そう判断して間違い無いだろう。現在、ヴィットリオとペレグリン隊がヨトゥンヘイム級の追撃に当たっている。敵中枢と思われる目標艦を撃破し・・・』

唐突に途絶える、司令部からの言葉。
はやては眉を顰め、沈黙したウィンドウを見据える。
周囲の人員も、ほぼ同様にウィンドウへと視線を集中していた。
そして、数秒後。
放たれた言葉は、悪夢が未だ去ってはいない事を告げていた。



『・・・駆逐艦ヴィットリオ及びペレグリン1、ペレグリン4、反応消失! 高速移動体複数、急速接近!』



直後、閃光。
視界の全てが白く染まり、聴覚までが一瞬で麻痺した。
防音障壁は全く意味を為さず、全身を打ち据える衝撃は瞬間的に意識を刈り取る。

一瞬だった。
少なくともはやてにとっては、瞬間的な事として捉える他なかった。
閃光が視界に溢れた瞬間、自身が衝撃を受けて意識を失ったらしい事は解る。
その一瞬後には覚醒し、閉ざされていた瞳を見開く事ができた。
ところが、視界へと映り込んだ周囲の状況は、一瞬前とは全く異なっていたのだ。
はやては、焦燥の滲む表情でこちらを見下ろすザフィーラの腕の中に庇われており、更には必死の形相をしたヴィータが傍らに着いていた。
状況を把握できないはやては、念話で以って彼等へと問い掛ける。

『何や・・・私、何で倒れて・・・』
『良かった・・・目が覚めたんだな! 20秒位だけど、はやて気絶してたんだよ! なのはも意識が無い!』
『主はやて、鼓膜は無事ですか? 防衛艦隊とコロニーが攻撃を受けた様です。今のところ詳細は不明ですが、あれを見る限りかなりの被害かと』
『あれ?』

訊き返すとザフィーラは身を引き、その背後の空間をはやての視界へと曝した。
はやては映り込んだ光景に息を呑み、呆然と言葉を紡ぐ。
まるで、信じたくない事実を、しかし何とか受け入れようとするかの様に。

『・・・何が起きた?』
『分かりません。閃光の後、私も数瞬ほど意識を失っていた様です。覚醒した時には、既に・・・』

ザフィーラの返答を聞き留めつつ、はやては周囲を見回す。
つい先程まで頭上に在った、2隻の輸送艦。
1隻は艦体の半ばより2つに裂け、今は小爆発を繰り返しながらコロニーより遠ざかりつつある。
誘爆を繰り返すそれは、搭乗者の生存など望むべくもないという事実を、まざまざと見せ付けていた。
残る1隻に至っては、跡形も無い。
拡がり行く炎の波だけが、輸送艦が確かに存在したのだという事実を物語っていた。

彼方では、複数の爆発が発生している。
それらが何かなど、考えるまでもなかった。
防衛艦隊だ。
R戦闘機による援護が在ったとはいえ、全方位より撃ち掛けられる戦術核の弾幕すら掻い潜り生き延びた艦艇群が、一瞬の閃光と同時に撃破されたのだ。

コロニー外殻、Iエリア方面を見やる。
やはり、コロニーを中心に拡がり行く炎の壁と無数の残骸。
次いで、Aエリア方面へと視線を移す。
今のところ、異常は無い様に見受けられた。
漸く港湾施設を脱した8隻の輸送艦が、遅々とした速度で離脱を開始している。
思わず安堵の息を漏らしたはやてだったが、輸送艦群の進路上に浮かび上がった影を視認した瞬間、彼女の意識は凍り付いた。

109R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:15:16 ID:FtNmz37M
「うそ・・・」

新たな爆発の光に照らし出され、影の全貌が浮かび上がる。
同時に、周囲の人員もその存在に気付いたらしい。
無数の声が上がり、念話と通信が錯綜する。
奇妙に揺らめくその影は、球状の部位と槍状の部位が癒着し、更にその後方から幾本かの触手が伸びたかの様な、余りにも醜悪な形状だった。
だが、はやてはその形状に見覚えが在る。
脱出艦隊が出航する数時間前、衝撃的な事実と共に提示された、計9機のR戦闘機に関する簡易データ。
その中に在った、とある異形の機体。

「B-1A2 DIGITALIUS II」
植物性バイド因子添加試作機・改良型。
脱出艦隊と共に在る筈の機体が、コロニーの目と鼻の先に存在していた。
はやては驚愕に眼を瞠り、同時に今にも暴走しそうな思考を何とか抑え込む。
脱出艦隊はどうなったのか。
何故あれが此処に在るのか。
先程の攻撃とあれの関係性は。
それら全ての疑問を何とか押しやり、彼女はシュベルトクロイツ、被災した技術者達とランツクネヒトの協力により複製されたそれを構え、B-1A2を見据える。
この瞬間に問題となり得るのは、あの機体が敵か味方かというだけの事だ。
そうして、フレースヴェルグの発動態勢へと移行したはやての意識へと、漸く覚醒したらしきなのはからの念話が飛び込む。

『はやてちゃん、何を!? あれは味方で・・・』
『寝ぼけとるんか、高町一尉? 脱出艦隊に付いとった筈のあれが此処に在るのは、どう考えたっておかしいやろ。おまけに正体不明の攻撃とこのタイミング、疑わん方がおかしいわ』
『そんな! だってあれはスバル・・・』
「違う!」

叫ぶはやて。
視界の端で、ザフィーラとヴィータを含む数人が、驚いた様にこちらを見る。
だが、彼女はそれを気にも留める余裕すらなく、音声と念話の双方で叫び続けた。

「スバルやない、スバルなんかやない! あれは唯の機械や! 意識も何も持たん、唯の部品や! あれをスバルだなんて呼ぶのは、たとえなのはちゃんでも許さん!」
『はやてちゃん・・・』
「解ったら構え! 敵か味方か判らん以上、攻撃態勢だけは維持しとくんや! やらんか、高町一尉!」

地響きの様な爆音が轟く中、周囲へと展開する人員の間に沈黙が満ちる。
数秒後、了解、との念話がなのはより返された。
100mほど離れた地点で、桜色の魔力光が集束を始める。
それを確認し、はやてもまたフレースヴェルグの発動準備を再開した。

ヴィータもザフィーラも、何も言葉を挟まない。
2人とて、なのはの胸中は良く理解しているだろう。
しかし同時に、はやての言葉が正しいものであると理解しているからこそ、無言のままに迎撃態勢を取っているのだ。
少なくともはやてはそう考えており、それが間違ってはいないと信じている。
それでも、鬱屈した思いが首を擡げる事は避けられなかった。

あれは、断じてスバルではない。
なのはに対して言い放った通り、あれは唯の機械だ。
人間としての姿は疎か、その意識さえ有し得ない、単なる部品。
ごく僅かな有機体と、その10倍以上の質量を有する機械類によって構成され、50cm程の円筒形のポッドに収められた有機質制御系。
だから、あれに対して何らかの感慨を抱く必要性など、僅かたりとも在りはしない。
制御下に在るならば利用し、敵対するならば排除するまでだ。

『ビクター2よりベストラ、聞こえるか。何故、此処にB-1A2が存在する? 脱出艦隊からの連絡は無いのか。先程の攻撃は何処から?』

管制を担っていた機動兵器の1機より、ベストラへと通信が飛ぶ。
その間にもB-1A2は特に動きを見せる事もなく、一切の機能を停止したかの様に宙空を漂っていた。
詠唱を済ませたはやては、その機体から目を離す事なく、ベストラからの返答を待つ。
だが数秒が経過しても、ベストラが応答する様子は無い。

110R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:15:51 ID:FtNmz37M
『ベストラ・・・ベストラ、どうした? 爆発が続いている・・・防衛艦隊は何と戦っているんだ? ペレグリン隊、シュトラオス隊・・・おい、どうなってる!?』

通信の声が、徐々に焦燥を増す。
脳裏へと浮かぶ、余り愉快ではない現状への推測。
はやての額には何時の間にか汗が滲み、肌が粟立っていた。
通信は、更に続く。

『ヤタガラス、アクラブ! 何故、応答しない! 交戦しているのはこちらからも見えて・・・待て』

ビクター2の言葉が途絶え、はやてを含む全ての人員の傍らへと、新たなウィンドウが開かれる。
B-1A2から外した視線の先、拳ほどの大きさのそれにはノイズが奔るばかりだったが、時折混じる言葉らしきものを聞き取る事ができた。
一体、これは何なのか。
訝しむはやての意識に、ビクター2の声が響く。

『ビクター2より総員、大出力中距離通信用レーザーを検知・・・ベストラからじゃない。妨害が激しいが・・・』
『こちら脱出艦隊、旗艦ウォンロン! コロニー防衛艦隊・・・』

ビクター2の言葉を遮り、唐突に割り込む通信。
どうやらレーザーの発信源が、強制的にビクター2のシステムへと介入したらしい。
そんな事が可能である存在は、バイドか地球軍、ランツクネヒトしか有り得ない。
そして、レーザーの照射源はこうも言った。

脱出艦隊、旗艦ウォンロン。
地球軍に救援を要請すべく、人工天体外部へ向かった11隻の戦闘艦と、それらを指揮する巨大な空母型戦闘艦。
彼等の出航から、まだ6時間しか経過していない。
作戦終了までの予測所要時間は11時間。
にも拘らずウォンロンは現在、中距離通信用レーザーが使用可能な距離にまで、コロニーへと接近しているという。
その事実から推測するに、作戦は失敗したという事だろうか。

そんな事を思考する間にも、ウォンロンとビクター2の通信は続く。
だが、どうやら通信妨害が激しさを増しているらしく、ウォンロンからの通信もまた、途絶えては繋がるを繰り返していた。
ウォンロンは何事かを伝えようとしているらしいのだが、その言葉は通信の切断と合わせて意味を為さない単体の音となってしまう。
レーザー検知直後の通信を最後に、ウィンドウから放たれる音声は、正確な聞き取りすら不可能なものとなっていた。
ビクター2はどうにか通信状態を回復させようと試みているらしく、新たに展開したウィンドウには無数の波形と立体グラフが犇めき、その全てが目まぐるしく変動を続けている。

そしてある瞬間、全ての波形が変動を止め、立体グラフ上に凪いだ平面が拡がった。
ウィンドウの色は赤から青へと移行し「通信回復」の文字が表示される。
漸くか、とウィンドウからB-1A2へと視線を戻したはやてが、ウォンロンより放たれる言葉に注意を傾けた、その瞬間。

『ウォンロンよりコロニー防衛艦隊、警告! ユニット「TYPE-02」搭載機、一部暴走! 当該ユニット搭載機B-1A2、全機スタンドアローン! 現在、敵対行動を継続中!』



歪な植物体の後方で、光が爆発した。



「な・・・!」

B-1A2、急加速。
フレースヴェルグを発動するどころか、はやてが声を上げた時には既に、B-1A2は輸送艦群の中心を貫いてコロニーへと急接近していた。
ザイオング慣性制御システムと反動推進システム、双方を併使用してこそ可能となる、常軌を逸した戦闘機動。
即座に反応した質量兵器群の砲撃は空しく宙空を貫き、ミサイル等の誘導弾は目標を見失って自爆する。
B-1A2の戦闘機動開始とほぼ同時、驚くべき反応の速さでフレースヴェルグと同様の特性を有する広域制圧型砲撃魔法を放った者も存在したが、広域魔力爆発の発生前に目標が通過してしまった為、全く意味を為していない。
敵機は無傷のままにコロニーへ取り付くと減速し、外殻上を滑る様に側面方向への移動を開始する。

『目標、外殻に取り付いた!』
『シュトラオス隊は何をしている!?』
『アイギスが機能していない・・・クソ、制御奪還なんて嘘だ! アイギス群、別の何かに制御権を奪われているぞ!』

111R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:16:27 ID:FtNmz37M
そして、目標の機首に集束する、青い光。
B-1A2、波動砲充填中。
通信と念話が、焦燥と恐慌に支配される。

『砲撃だ、波動砲が来る!』
『離脱だ、離脱しろ! 散開して逃げるんだ!』
『はやて、早く!』

ヴィータがはやてのを腕を掴み、更にザフィーラが2人を庇う様にして、コロニーから離脱するべく宙空へと上昇。
はやては右側面の下方、旋回する様に外殻上を高速機動する敵機の全貌を、恐怖と、それを凌駕する敵意を以って見据えていた。
理不尽な攻撃を前に逃げ出す事しかできない歯痒さ、肝心の状況下で現れないR戦闘機群に対する憤りと侮蔑。
スバルとノーヴェの尊厳を踏み躙ってまでして得た戦力を制御し切れず、あまつさえ暴走を許し、敵対行為を未然に防ぐ事さえできなかった地球軍とランツクネヒトへの怒り。
それら全ての思考と感情が混然となり、はやて自身にも制御できぬ波となって意識内を荒れ狂っていた。
だが、そんな感情の荒波さえも、敵機後方で噴射炎が瞬いた瞬間に微塵となってしまう。

「がぁッ!?」
「ぎ、ぅあッ!」

ヴィータ、そして自身の悲鳴。
B-1A2が再度加速、上昇離脱する人員を掠める様にして飛び去ったらしい。
背中を支える腕の力を借りて体勢を立て直した時には既に、はやてを含む人員の殆どは、外殻から500m以上も離れた宙空にまで吹き飛ばされていた。
グラーフアイゼンを構えるヴィータと後方からはやてを支えていたザフィーラは、あの衝撃の中ではやてから離れる事もなく、一貫して彼女を守護できる位置を維持していたらしい。
そんな家族を頼もしく思いながら、はやては敵機の姿を探す。
直後、これまでサポートに集中し、決して喋ろうとはしなかった融合中のリィンが、意識中で悲鳴の様な声を上げた。

『上です!』

反射的に上を振り仰ぐと同時、轟音と共に周囲から数条の光が放たれる。
リィンとほぼ同時に敵機を発見した数名の魔導師が、吹き飛ばされる直前までに集束していた魔力で以って砲撃を実行したらしい。
桜色の魔力光が混じっている事から、なのはもその中に加わっているのだろう。
更に、数十発ものミサイルが宙空および外殻上の機動兵器群より放たれ、他の質量兵器の砲弾と共に敵機を目掛け加速してゆく。
光学兵器群も、焦点温度が不足である事は既に判明してはいたが、光の壁面を形成するかの様に凄まじい照射を始めていた。
だが数瞬後、その全てを嘲笑うかの様に、B-1A2は信じられない機動を選択する。

「何を・・・!?」

三度、敵機後方で噴射炎が爆発。
直後に、背後から破滅的な衝撃がはやてを襲った。
B-1A2は波動砲充填状態を保ったまま、砲撃とミサイルの壁に正面から突入してきたのだ。
衝撃波は、敵機がはやて達の後方を通過した際に発せられたものだろう。

「くぁ・・・!」

ザフィーラの守護も在り、吹き飛ばされる事だけは回避したはやて。
全身を打ち据える衝撃に呻きつつも、彼女は下方へと直進した敵機の影を視界へと捉えんとした。
だが、はやては視線の先に、全く予想だにしなかった光景を見出す。

「え・・・」

敵機は、直進し続けていた。
単独の事象ならば不自然な事は何も無いが、その往く手にはコロニーの外殻が在る。
にも拘らず、敵機には軌道を変更する様子も、それどころか減速する気配さえ無い。
衝突する、との予想は違う事なく、直後にB-1A2はコロニー外殻へと高速で以って突入していた。
合金製の構造物を打ち抜く、壮絶な異音。
思わず身を竦ませた直後から、念話と通信が入り乱れる。

『何だ、今のは!? アイツ、自分から墜落しやがったぞ!』
『トラブルでも生じたか・・・だが、波動砲を充填していたぞ』
『まだ接近しないで、何かあるかもしれない!』

112R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:17:00 ID:FtNmz37M
飛び交う無数の言葉を意識へと捉えつつ、はやては敵機の墜落地点を凝視していた。
外殻構造物には十数mもの穴が開き、その奥へと消えたB-1A2の影を見出す事はできない。
その事が、はやての胸中へと言い様の無い不気味さを湧き起させた。

如何なR戦闘機とは云えど、あの速度でコロニーへと衝突しては無事である筈がない。
だが、はやてはこれまでに、R戦闘機とバイドの異常さを嫌という程に、身を以って思い知らされてきた。
あの薄暗い穴の中で、これまでと同じく常軌を逸した悪夢の種が息衝いているのではないかと、そんな不安とも恐怖とも付かぬ薄暗い予想が首を擡げるのだ。
そんなものは単なる気の迷いに過ぎない、と笑い飛ばせる楽観的な思考は、クラナガンと本局が襲われた時点で捨て去っている。
そして、恐らくは同じ不安を内包しているであろうヴィータが、聞き逃す事のできない言葉を紡いだ。

『あの機体・・・一瞬、ぶれやがった』
『・・・何やて?』
『気の所為かもしれないけど・・・コロニーへ衝突する直前、アイツの影が映像みたいにぶれた様に見えたんだ。多分、波動粒子の光だと思うけど・・・青い光が、機体の全体に行き渡った、みたいな感じで』
『波動粒子だって?』

ヴィータの言葉に反応したのは、はやてだけではなかった。
周囲の魔導師が穴に向かってデバイスを構え、機動兵器群が次々に周囲へと集結してくる。
穴に異変は見られない。
数十秒ほど経過しても、それは変わらなかった。

『ビクター2、ウォンロンとの通信はどうなっているの?』
『交戦中、との通信を最後に途絶えた。相手が何かまでは・・・』
『フリックより総員、警告! コロニー内部、バイド係数増大! 現在22.94、なおも増大中!』

唐突に、ビクター2とは別に管制を担っていた機動兵器からの警告が飛び、新たに展開されたウィンドウ上へと、急速に変動してゆく4桁の数値が表示される。
バイド係数、増大。
その事実を認識するや否や、はやてはラグナロク発動の為の詠唱を開始した。
彼女の眼前へと展開する、巨大なベルカ式魔法陣。
はやてだけでなく、その周囲でも複数の魔導師が魔法陣を展開していた。

「響け、終焉の笛・・・」

穴の奥深くから、奇妙な音が響き始めている。
何か硬い物を擦り合わせる様な、しかし明らかに金属製のものとは異なる、耳障りな異音。
全く距離感の掴めない、まるで鼓膜の内から響いているかの様なそれが、はやての意識を絶えず苛む。
コロニー内部に取り残された生存者が存在するのではないかとの思考は、なおも増大しゆくウィンドウ上の数値を改めて視界へと捉えた瞬間に掻き消えた。

被害こそ生じるだろうが、この程度の砲撃でコロニーが崩壊する筈はない。
何よりバイド係数検出源を放置すれば、砲撃によるそれ以上に重大な被害が生じるだろう。
迷っている暇など無い、すぐにでも検出源を排除せねば。
そんな自身の思考に従い、一刻も早くこの異音を止めるべく、はやてはシュベルトクロイツを振り下ろした。

「・・・ラグナロク!」

轟音。
数十もの魔力砲撃が、唯一点を目掛け放たれる。
更に、周囲の機動兵器群による、残余弾の全てではないかと思える程のミサイル、実体弾による砲撃。
数十条の魔力の奔流と、数百もの噴射炎の光が、外殻上に穿たれた1つの穴を目掛け殺到する。
先ずミサイルと砲弾が着弾、凄まじい閃光と轟音が周囲を満たし、衝撃がはやて等を襲った。
次いで、リンカーコアを通して感じ取れる、膨大な量の魔力の炸裂と拡散。
仕留めた、との確信と共に、はやては薄らと瞼を見開く。
そして、それを見付けた。

「・・・何や、あれ」

113R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:17:34 ID:FtNmz37M
それは、黒い塊だった。
砲撃魔法と質量兵器の炸裂により発生した巨大な爆炎と、飛散する膨大な量の構造物残骸、その中心。
蠢く奇妙な塊が、無重力中へと拡散する炎の中に浮かび上がっていた。
障壁に阻まれ、魔導師を避ける様にして炎の壁が後方へと抜ける。
その後に視界へと映り込んだ光景は、大きく抉れたコロニー構造物と、その中心で残骸に埋もれ蠢く数十m程の奇妙な塊。
そして、塊を注視した瞬間、フリックからの警告が意識へと響くと同時。

『バイド係数、更に増大! 47.59!』



外殻を喰い破り現れた無数の「根」が、コロニーを侵蝕し始めた。



「な、あッ!?」

巨大な金属構造物が軋む轟音、「根」と「根」が擦れ合う異音。
防音障壁越しにも聴覚を破壊せんばかりのそれらが、周囲に展開する人員を襲う。
思わず耳を押さえ、悲鳴を上げるはやて。
その視線の先で、灰色掛かった「根」は瞬く間に外殻を破壊しつつ、津波の様にコロニー全体を覆ってゆく。
侵蝕の中心となっていたらしき塊は既に形を失ってはいたが、拡がった「根」はそれが存在していた位置を中心に放射状の模様を描いていた。
外殻上へと展開していた機動兵器群からは、絶えず悲鳴の様な通信が飛び込む。

『何だあれは!? 植物が、植物の壁が押し寄せてくる!』
『ドライブユニットの磁力を解除しろ! 無重力中に逃げるんだ!』
『クソ、クソ! 弾き飛ばされた! 誰でもいい、回転を止めてくれ!』
『こちらホッジス、植物に取り込まれた! おい嘘だろ、機体が軋み始めて・・・畜生、潰される! 畜生、畜生ッ!』

鉄の圧潰音、悲鳴とくぐもった水音。
通信越しにそれらの音を聴き留めたはやての胸中へと、恐怖と共に吐き気が込み上げる。
だが、状況は彼女に、それを深く意識させる暇さえ与えなかった。

『ねえ、何か伸びて・・・危ない!』
『蔦だ! 蔦が伸びてくる!』
『コロニーから離れろ! 捕まるぞ!』

完全に「根」に覆われたコロニー、その至る箇所から無数の「蔦」が伸び始める。
数万、数百万、或いは数千万だろうか。
壁となって迫り来る「蔦」は、鞭の様に撓りつつ爆発的に伸長し、あろう事か周囲の機動兵器群および魔導師達へと襲い掛かった。
其々に砲撃および直射弾を放ちつつ退避を試みるも、「蔦」はそれらをものともせずに襲い掛かる。
直射弾程度では進行を妨げる事もできず、砲撃により数本の「蔦」を吹き飛ばしたところで、次の瞬間にはその数十倍もの数が襲い来るのだ。
忽ちの内に20名以上の魔導師、そして数機の機動兵器が捕獲され、通信と念話は悲鳴と絶叫で満たされる。

『ひ・・・!』
『助け・・・ぁああぁぁぁッッ!?』
『嫌だ・・・嫌だ、出してくれ! 此処から出してくれェッ!』
『脱出しろ、潰されるぞ! 出ろって言ってるんだ、早く!』
『痛いぃッ! 助け、助けてッ! 嫌、嫌ああぁぁッ!』

意識へと溢れ返る、幾つもの断末魔。
はやてには最早、それらの悲鳴に何らかの感傷を抱く余裕さえ無かった。
放心しているらしきヴィータ共々、ザフィーラに抱えられつつ離脱を開始する。
傍らにはなのはの姿も在り、彼女は時折後方を振り返っては砲撃を放ち、また飛翔を再開する事を繰り返していた。

『しっかりして下さい、主! 少しでも遠くへ逃げるのです! ヴィータ、目を覚ませ! 主を護る騎士だろう、貴様は!』
『はやてちゃん、飛んで! 伸びる速度が速い、追い付かれる!』

114R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:18:06 ID:FtNmz37M
その言葉に漸く、はやては覚醒する。
後方、即ち足下に迫る「蔦」の壁を認識するや否や、零れそうになる悲鳴を寸でのところで抑え込み、可能な限りの魔力を注ぎ込み加速。
ザフィーラのもう一方の腕に抱え込まれたヴィータも、ほぼ同時に自力での飛翔を開始したらしい。
だがヴィータはともかく、はやての飛行速度は元々が余り速くはない。
それでもザフィーラに抱えられて飛翔している以上、彼の負担を和らげる為にも加速せねばならなかった。
事実、はやてが飛翔を開始したその瞬間から、彼女を抱えて飛ぶザフィーラは明らかに加速を始めている。
この分ならば逃げ切れるか、そう考えた時だった。

「ひッ!?」

何かが、足に触れた。
直後、はやてはザフィーラの腕の中から離れ、前方でこちらを向き何事か絶叫する彼の姿を視界へと捉える。
次いで、自身の足首へと視線を落とすはやて。
其処には、成人男性の腕ほども在る「蔦」に絡み付かれた、自身の右足首が在った。

「あ・・・あ・・・」

はやては絶句する。
自身の足首を掴んだ「蔦」から伝わる凄まじい圧力に、心底から恐怖と絶望、そして諦観が沸き起こる事を自覚した。
潰される。
はやての意識を占める思考は、その一点のみ。
あの断末魔を上げていた魔導師や、機動兵器のパイロット達の様に、「蔦」の壁へと呑み込まれて磨り潰されるのだ。

「嫌ぁああぁぁぁッッ!?」

津波の如く眼前へと迫り来る、犇めき蠢く「蔦」の壁。
圧倒的な質量によって虫の如く潰されるという自身の未来に、はやては心底からの絶叫を上げた。
死にたくない、こんな形で死ぬなんて嫌だ。
そんな思いが金切り声にも似た叫びとして、はやての口から放たれた。

減速する事すらなく、無情に迫り来る壁。
数秒後に自身へと訪れるであろう、凄惨な終焉の瞬間を直視する勇気など在る筈もなく、はやては固く目を閉じてその時を待つ。
だが、彼女を包み込んだのは無慈悲な硬い「蔦」の感触ではなく、頼もしささえ感じさせる鍛え上げられた筋肉の感触と、大切な家族の声だった。

「主はやて、しっかり! 私の腕を掴んでいて下さい!」

恐る恐る見開かれた視線の先には、前方を見据えるザフィーラの横顔が在った。
はやては再び彼の右腕に抱えられ、宙空を飛翔していたのだ。
自身の右足首を見やれば、「蔦」に締め付けられた際に骨格が砕けたのか、奇妙に折れ曲がったそれが不気味に揺れていた。
だが感覚が麻痺しているのか、まるで痛みを感じない。
次いで、はやてはザフィーラの左手を見る。
その手は皮膚が避け爪は折れ、更に指は本来ならば有り得ない方向へと捻じれ、千切れる寸前で辛うじて繋がっていた。
はやては息を呑み、念話で叫ぶ様にザフィーラへと問う。

『ザフィーラ、その手!?』
『あの「蔦」を切断する際に、少々。流石にアクセルシューターとシュワルベフリーゲンを弾き返すだけあって、簡単に切断とは・・・』
『そんな事やない! まさか、戻ったんか!? 私のところまで!』
『ええ、その通りです』

事も無げに返された念話に、はやては返す言葉を見付ける事ができなかった。
ザフィーラは「蔦」に捕われたはやてを救出すべく、我が身を省みずに迫り来る「蔦」の壁の直前まで戻ったのだという。
更には、なのはとヴィータの射撃魔法をいとも容易く弾いた「蔦」を、あろう事か自身の爪で切断してはやてを救い出したのだ。
代償に、彼の左手の指は全て折れ曲がり、第二指と第四指、第五指に至っては殆ど千切れ掛けている。
其処までして、彼は主を護り切ったのだ。

115R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:18:41 ID:FtNmz37M
「ザフィーラ・・・っ!」

込み上げるものを抑え切れず、はやては眼の端に涙を湛えて、ザフィーラへとしがみ付く自身の腕に力を込める。
「蔦」に潰されるのだと確信した瞬間、彼女の心を埋め尽くした絶望。
12年前に経験したそれをも上回る程の、余りにも色濃い諦観。
抵抗する気力さえ奪われたはやてを、それらの中より救い出してくれたザフィーラ。
彼が自らの左手を犠牲にしてまで「蔦」を切断してくれたからこそ、はやては生き長らえる事ができた。
その事を強く認識すればする程、感謝の念と同時に、自身の所為で彼に重傷を負わせたという罪悪感が、止め処なく胸中へと湧き起こる。
そして、自身の中で未だ形も定まらぬ内、何らかの言葉でそれらを伝えるべく念話を紡ごうとして。

「ぐ・・・ッ!」
「うぁッ!?」

その直前、はやての身体はザフィーラの手によって、前方へと放られていた。
何事かと認識する暇すら無く、はやては前方で待機していたヴィータの腕によって受け止められる。
衝撃に思わず閉ざした瞼を見開き、ザフィーラの姿を探すはやて。
果たして、ザフィーラの姿は僅かに10m程の位置に在った。

『ザフィーラ、何が・・・』
「逃げろ、ヴィータッ!」
「嘘だろ・・・こんな・・・!」

はやての念話を遮る、ザフィーラの叫びとヴィータの声。
何が起こっているのかと、はやては一瞬ながら混乱し、次いでザフィーラの全貌を注視した。
そして、その光景を視界へと捉え、状況を把握する。
ザフィーラの両脚には、数本の「蔦」が絡み付いていたのだ。

「ザフィーラッ!」
「止せ、はやてっ!」

悲鳴そのものの叫びを上げ、ザフィーラの許へ向かおうとするはやて。
その身体を、ヴィータが背後から羽交い絞めにする。
だがはやては、宛ら幼子の様に四肢を振り回して暴れ、その拘束を振り払わんとした。
同時に、傍らで桜色の光が膨れ上がり、遂にはする。
なのはが、ショートバスターを放ったのだ。
桜色の砲撃は、既にザフィーラの下半身を呑み込んでいた数本の「蔦」、その半ばを貫き切断する。

「逃げて! 早う!」

幾度目かの叫び。
ザフィーラの身体が徐々に加速、前進を再開する。
はやてはヴィータによって強引に後方へと退きながらも、接近してくるザフィーラへとその手を伸ばした。
盾の守護獣としての使命、即ちはやての身を護る事を何よりも優先する彼が、差し伸べられたその手を掴む事は決してないと理解しつつも、彼女はそれをせずにはいられなかったのだ。

「ザフィーラ・・・!」
「止まるなヴィータッ! 主を護れッ!」

ザフィーラが鋭く叫び、ヴィータがそれに従った。
彼女は右手にグラーフアイゼンを握り、左腕にはやての身体を抱えて宙を翔ける。
はやては、ヴィータが加速するにつれて胴を締め付ける彼女の腕、その中から必死に自身の左腕を伸ばし、漸く追い付いたザフィーラの右頬へと触れた。
驚いた様な珍しいザフィーラの表情とその銀髪が、安堵によって滲む涙にぼやけて形を崩す。

「ザフィーラ・・・無茶、してぇ・・・」

自身でも驚く程の弱々しい声。
溢れそうになる涙を右手で拭うと、彼は何時も通りの無表情のまま、その頬に触れるはやての左手を自身の右手で握る。
そうして、何らかの言葉を掛けようとしたのか、彼の口が僅かに開かれた直後。

116R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:19:17 ID:FtNmz37M
「え・・・」



はやての眼前で、巨大な「蔦」の顎門がザフィーラを「噛み砕いた」。



「ザフィーラ?」

全身へと叩き付けられる、熱い飛沫。
右眼の視界が、赤く塗り潰される。
呆然と家族の名を呼ぶはやて。
残る左眼の視線の先には、あの銀髪も浅黒い肌も、そのどちらも存在しない。
唯々、絡まり合う無数の「蔦」が蠢く、植物体の壁だけが在った。

左前腕部、微かな痺れ。
左手は、ザフィーラの頬へと触れていた。
残る左眼の視界へと、自身の左腕を翳す。
其処で漸く、はやては気付いた。

「あ・・・あ・・・」

左腕、前腕部の半ばから先が、無い。
肘部から10cm程の位置で、前腕が唐突に途切れていたのだ。
遅れて噴き出す自身の血液を、はやては呆然と見つめる。
そして、理解した。

ザフィーラは、もう居ない。
何処を探しても、二度と彼を見付ける事は無い。
僅か十数秒前に、言葉を交わしていたというのに。
僅か数秒前まで彼の頬に触れ、その体温を感じ取っていたというのに。
彼はもう、無限に拡がる次元世界の、その何処を探しても存在しないのだ。

「・・・ああああぁァアアァァッ!?」

それはもう、悲鳴ですらなかった。
自身の苦痛に泣き叫ぶ訳でも、家族の死を悼んでいる訳でもない。
唯、只管に全てを呪う声。

既に「蔦」の伸長は止んでいた。
あと数秒、僅か数秒。
「蔦」が成長し切るまでの、その数秒の間にザフィーラは死んだのだ。
本当ならば、逃げ切れた筈だった。
自身がもっと速く飛べれば、もっと早くに飛翔を開始していれば。
「蔦」に捕まる事もなく離脱できていれば、ザフィーラは死なずに済んだのに。

「うぁぁああアアァァァァッ!」
「はやてっ!」

止血すらせずに泣き喚きながら暴れ続けるはやての身体を、何とか押さえ込もうとするヴィータ。
はやての視界へと映り込んだ彼女の表情は、自身と同じく大粒の涙を溢していた。
ヴィータははやての左腕、血液を噴き出し続ける腕の断面を強く握り、止血を試みる。
はやての叫びは怨嗟と悔恨の念からくるものばかりで、前腕部の激痛による悲鳴など全く無い。
だがそれでも、周囲へと駆け付けた他の魔導師達が治癒結界を展開して暫くした頃には、はやては泣き止まずともある程度にまで落ち着いていた。

「う・・・あぁ・・・ぁ・・・」
「はやて・・・!」

117R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:19:58 ID:FtNmz37M
出血が止まった傷口を胸元に抱える様にして、はやては小さく啜り泣く。
彼女を抱き締めるヴィータもまた、小さく嗚咽を繰り返していた。
なのはは少し離れた位置でこちらを見守っている様だったが、その顔は伏せられ肩が小さく震えている。
周囲の魔導師達も、声を上げて泣き叫ぶ者から沈黙を貫く者まで皆、一様に理不尽な死によって蹂躙された仲間を想っているらしい。
暫くの後、はやてはヴィータの肩へと埋めていた顔を上げ、何処か幽鬼の如き表情で呟く。

「・・・ありがとな、ヴィータ。大丈夫や・・・もう、大丈夫」
「はやて・・・でも・・・っ!」
「大丈夫やよ」

言いつつ、はやては背後へと振り返った。
視線の先には、爆発的に増殖した植物によって、完全に覆い尽くされたコロニー。
否、植物そのものが在った。
闇の中に薄らと浮かび上がる植物の全貌は、明らかにコロニーの倍以上の質量を有するであろう、余りにも巨大なものだ。

ザフィーラは、自身の左腕ごと潰された。
想像も付かない質量、恐らくは数兆トンにまで達するであろう植物の壁によって、彼は肉片すら残さずに叩き潰されたのだ。
残ったのは、はやての白いバリアジャケット、その全身を赤黒く染め上げる彼の血液だけ。
もう二度と、彼に会う事はできないのだ。

『何で・・・こんな事・・・!』
『この植物は、あのR戦闘機から生じたのか?』
『たった1機の戦闘機から出た植物が、3分と掛からずにコロニーの倍にまで成長したっていうの? 有り得ない!』

交わされる念話を、はやては無言のままに聞き続けていた。
憔悴し切った表情のまま、植物を見つめる。
その傍らに、なのはが近付いてきた。

「はやてちゃん」
「・・・ああ、なのはちゃん」
「その、ザフィーラさんは・・・」

口籠るなのはに、はやては虚ろに微笑みを返す。
その表情に何を思ったのか、なのはは僅かに目を見開き、唇を戦慄かせた。
彼女は震える声で、再度に語り掛けてくる。

「はやてちゃん・・・?」
「・・・シャマルも、ザフィーラも死んでしもた。ティアナやスバル達の安否も分からない」
「止めろよ、はやて」
「何も、何にもできなかった。家族なのに、指揮官だったのに・・・皆に頼って、助けられて・・・なのに、何にも・・・私、私が何もしなかった所為で、皆・・・」
「止めろ!」

会話に割り込んだヴィータがはやての肩を掴み、その瞳を正面から覗き込んできた。
視界へと映り込む、怒りに燃える紫の瞳。
そしてヴィータは、常ならば考えられない行動へと出た。
彼女は真正面から、はやてを怒鳴り付けたのだ。

「誰にも、どうする事もできなかったろ! 魔導師だろうが何だろうが、1人の行動でどうにかできる状況じゃねえ! 皆が死んだのは自分の所為!? 思い上がんな!」
「ヴィータちゃん、落ち着いて!」
「今度また同じ事言ってみろ、幾らはやてでもブッ飛ばす! 本気でブッ飛ばすからな! アイツらを侮辱するのもいい加減にしやがれッ!」

そう言い放つと、ヴィータははやての肩から手を離し、彼女に背を向けてしまう。
場に満ちる沈黙。
はやては暫し呆然としていたが、やがて左腕の切断痕へと目をやると、自身でも弱々しいと分かる声を振り絞った。

「・・・ベストラへ行こか。此処に居ても、もう私達にできる事は無い」

118R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:20:30 ID:FtNmz37M
念話と音声の双方でそう告げると、其処彼処から肯定の返信が入る。
「蔦」の壁から逃げ切る事に成功した機動兵器群が、徐々に周囲へと集まり始めた。
中には、他の者達とは異なる方向へと退避した魔導師の一群を回収し、此処まで移送してきた機体も在る。
機内へと搭乗、或いは装甲上へと取り付く魔導師達を見つめながら、はやては闇の彼方を仰いだ。

あれ程に激しく続いていた無数の爆発は、既に止んでいる。
だが、通信は未だ途絶したままだ。
防衛艦隊がどうなったのか、ベストラが無事なのかさえ判明してはいない。
だが、このまま此処に残るよりは、こちらから他の生存者との接触を図る方が賢明な判断だろう。

そう思考しつつ、はやては視線を強襲艇の1機へと移した。
開かれた機体側面のハッチ内、ランツクネヒトの隊員が搭乗を促すジェスチャーを繰り返している。
背後から肩を叩かれ、振り向くはやて。
視線の先、はやての肩に手を置いたなのはが、気遣う様な表情でこちらを見つめていた。
はやては何とか形作った笑顔を浮かべ、無言で心配は要らないと伝える。
そして多少は安心したのか、なのはが肩から手を離した時だった。

『こちらシュトラオス2! 外殻展開中の部隊、聴こえるか!』

突然の通信。
咄嗟に周囲へと視線を走らせると、右後方の下方に小さな白い影。
シュトラオス隊、R-11Sだ。

『ビクター2よりシュトラオス、健在の様で何よりだ。今まで何をしていた』
『コロニーで何が起こっていたか、見えなかった訳じゃないだろう? あんなにデカイんだからな』

皮肉混じりの通信と念話が、シュトラオス2へと向けられる。
自身達が「根」と「蔦」に襲われている最中、シュトラオスによる援護は全く実行されなかったのだ。
皮肉が飛び出すのも仕方のない事とはやては考えたが、その思考は続くシュトラオス2の言葉により消えて失せた。



『敵はバイドではない! 繰り返す、敵はバイドではない! ユニット「TYPE-02」及び「No.9」搭載の無人機、全機体による攻撃を受けた! 防衛艦隊、被害甚大!』



瞬間、はやては自身の呼吸が止まった事を自覚する。
彼女の意思に沿う現象ではない。
彼女自身の意思とは裏腹に、呼吸器が大気の吸入を止めたのだ。

ユニット「TYPE-02」及び「No.9」搭載機、その全てによる攻撃。
その事実は即ち、コロニーを襲ったB-1A2の他に、8機の敵機が存在する事を示している。
思わず、なのはとヴィータの方を見やるはやて。
こちらを見つめる2人の表情は、明らかな恐怖に引き攣っていた。

念話と通信が慌しく交わされ始める内にも、シュトラオス2の機体は徐々にこちらへと接近していたらしい。
常ならば考えられない程に遅々とした速度だったが、50mほど離れた位置を低速で通過するその機体を目にしたはやては、その低機動の理由を理解した。
R-11Sが備える特徴的なフロントブースター、更には左側面のエンジンユニット、後方2基のメインブースター・ノズル。
その全てが、無惨な破壊跡だけを残して失われていた。
眼前の半壊したR-11Sは、恐らくは本来の半分程度の質量しか有してはいないだろう。
それ程の損傷を受けてなお、慣性制御を用いて此処まで移動してきたのだ。

「・・・酷ぇな」

R-11Sの損傷部を見やりつつ、ヴィータが呟く。
その言葉こそが、はやてを含む周囲の人員、その胸中を的確に言い表しているだろう。
複数の666と正面から交戦し、襲い来る無数の戦術核と迫り来るプラントをも排除して退けた、超越体と呼ぶに相応しい兵器。
そんな存在が今、明らかに継戦能力を奪われて其処に在る。
そして、それを為した存在が、敵として周囲に潜んでいるのだ。

119R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:21:07 ID:FtNmz37M
「行こう」

なのはに促され、はやてはヴィータと共に強襲艇へと向かう。
そして、機体まで30m程の距離にまで接近した時、はやては聴覚に微かな音を捉え、背後へと振り返った。
まるで、羽虫が耳元を掠め飛んだかの様な、一瞬の異音。
周囲を見回すも、特に異常は無い。
だが気の所為という訳でもなかった様で、傍らではなのはとヴィータもまた、各々のデバイスを手に周囲を見渡している。

「聴こえた?」
「ああ」
「何の音・・・?」

3人で声を交わし、音の出所を探す。
だが、何も見付からない。
諦めて視線を強襲艇へと戻し、再度に飛翔を再開して。

「な、あッ!?」



眼前の強襲艇が、半ばから両断された。



「ぎッ・・・!」

強襲艇が爆発する。
僅か30mばかりの距離から襲い掛かる爆発の衝撃に、はやては障壁を展開する事もできずに吹き飛ばされた。
その身体を咄嗟にヴィータが支えるも、2人は諸共に飛ばされる事となる。
それでも数秒後、漸く体勢を立て直す事には成功した。
辛うじて無事だった聴覚を当てにはせず、2人は念話で以って言葉を交わす。

『今のは!?』
『分からねえが、何かが強襲艇をブッた斬りやがった! ありゃ一体何だってんだ!?』

再度、爆発音。
視線を上げると、頭上で複数の爆発が発生していた。
混乱しているのか、其処彼処で魔法と質量兵器が乱射され、数発の砲撃魔法がはやてとヴィータの至近距離を貫く。
これには流石にはやても肝を冷やし、彼女は即座に全方位へと念話を飛ばした。

『何が起こってるん? 誰か、状況を・・・』
『シュトラオスがやられた! コックピットが真っ二つにされて・・・クソ、自爆だ!』

こちらの念話を遮る様に飛び込んできた通信の直後、左前方で巨大な爆発が発生する。
明らかに周囲の人員、機動兵器群の多数を巻き込んでいるであろうその爆発は、直前の通信から判断するにシュトラオス2の自爆によるものだろう。
だが、何時までもそれを気に留めている余裕は無かった。
はやての視界へと、周囲を飛び回る異形の全貌が飛び込んできたのだ。

「何や、あれ・・・!」

その機体は、これまでに目にしてきた中で最も大型のR戦闘機より、更に2回り以上も巨大だった。
濃灰色の塗装を施された機体は、その巨大さに見合わぬ俊敏な機動で以って、全方位からの攻撃を難無く回避し続けている。
それどころか時折、低集束の波動砲を放っては、周囲の魔導師達を衝撃で以って吹き飛ばすのだ。
嘗められた事に、砲撃そのものは周囲の機動兵器群を狙ったものではなく、遠方に展開する防衛艦隊の戦力を狙っているらしい。
砲撃の放たれた先、彼方の闇の中、連続して青と赤の光が瞬く。
波動粒子、そして爆発の光だ。
だが、そのR戦闘機の真の異常性は、その巨大さでも波動砲でもなかった。

120R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:21:41 ID:FtNmz37M
「嘘・・・!」

幾度目かの波動砲を放った直後、何とその機体は、一瞬にして人型の機動兵器へと変形したのだ。
肥大化した両腕部を備えた、金属の巨人。
腕部先端には奇妙な突起部が3つ、砲身の様に突き出している。

そして、あろう事か異形は左右の腕部先端、計6箇所の突起部、その全てから長大な光学ブレードを展開したのだ。
目測ではあるが機体のサイズからして、ブレードの長さが15mを下回る事はないだろう。
異形はその両腕を側面下方へと構え、正しく獲物へと襲い掛かる獣の如き姿勢を取った。
敵機が何をするつもりなのか、それを察したはやてが咄嗟に砲撃態勢を取るよりも早く、異形の背後で噴射炎の青い光が爆発する。
はやてが思わず叫んだ、その直後。

「止めぇッ!」



20機以上もの機動兵器群が、無数の残骸へと「解体」されていた。



「あ・・・あぁぁ・・・ッ!」

幾重にも拡がりゆく、炎の壁。
自動的に発動した障壁によってそれらが受け流されてゆく中、はやてはか細い声を漏らす事しかできなかった。
瞬間的な破壊の嵐が吹き荒れた空間には、死と破壊と鉄の臭いだけが満ち満ちている。

異形。
即ちR戦闘機『TL-2B2 HYLLOS』の影は、もう何処にも無い。
遅れて弾薬が暴発したのか、無数の残骸が更なる連鎖爆発を起こした。
機動兵器群の間を漂っていた魔導師達は、敵機の常軌を逸した瞬間的高速機動の余波を受けて跡形も無く四散したか、それに巻き込まれずに済んだ者も残骸の爆発に巻き込まれて身体を引き裂かれてゆく。
僅か60秒にも満たない殺戮劇の後、残ったものは50名にも満たない生存者と辛うじて2桁に達する数の機動兵器。
そして無重力中を漂う、幾許かの原形を留める僅かな数の死体と機動兵器の残骸、無数の肉片と鉄片のみ。

人工天体第3空洞・コロニー防衛戦闘、終結。
護るべき地を失い、護るべき人々も多くが失われ。
護る為の力も、護る為の人員も多くが失われた。
その被害を齎した存在はバイドのみならず、友軍である筈のR戦闘機。

生存者達に残されたものは、悲哀でも生還の喜びでもなかった。
況してや戦果でも、戦禍でもなく。
遺されたのは絶望の残り香と、希望の燃え滓のみだった。

*  *  *

勇んで不明艦艇内部へと踏み入ったは良いが、妨害を受けるどころか、何が起きているのかさえ全く理解できない。
余りに間抜けな状況に耐え切れなかったのか、コンソールのひとつに腰を下ろしたギンガが深い溜息を吐く。
そんな彼女の姿を見かね、ユニット式ベッドの傍らに座り込んでいたウェンディは、努めて明るく声を掛けた。

「そう落ち込む事ないッス。ポッドも見付かったし治療も順調、あと4時間もすりゃ2人とも元気に目を覚ます。良い事尽くめじゃないッスか」
「・・・ええ、そうね。何でか知らないけれど、侵入者を妨害するどころかミッドチルダ言語のナビまで付けて、ポッドの起動から設定まで懇切丁寧に表示してくれるプログラムを残した、素敵な「足長おじさん」が居たんですものね」

藪蛇だったらしい。
目に見えて落ち込むギンガに、ウェンディは心底から困り果てて溜息を吐く。
この艦艇へと乗り込んだ直後のギンガは、ウェンディから見ても頼もしい存在だった。
スバルのリボルバーナックルを自身の右腕へと装着した彼女は、如何なる敵をも粉砕してみせると云わんばかりの覇気に満ち満ちていたのだ。

121R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:22:13 ID:FtNmz37M
ところが、侵入から僅か数分後。
沈黙していたシステムが回復するや否や、2人の眼前へと展開されたウィンドウには、ミッドチルダ言語の羅列が表示されていた。
呆気に取られてウィンドウを見つめる2人の視線の先、表示された情報はAMTP・患者搬入室までのルート。
戦闘の余波か、艦体を襲う衝撃に翻弄されながらも、他に当ても無かった2人は訳も分からずナビに従い、医療ポッドへの搬入口となるユニット式ベッドが並ぶ部屋へと辿り着いた。
するとウィンドウ上の情報は変化し、ポッドの起動から各種設定の方法までが簡潔に纏められた上で表示されたのだ。
流石に不気味であるとは思ったものの、やはり他に方法が在る訳でもなく、2人はその情報に従って設定を行い、スバルとノーヴェをポッド内へと搬入した。
だが同時に搬入室はロックされ、2人は部屋を出る事ができなくなってしまったのだ。
処置完了までの予測経過時間が表示された為、ドアを打ち破って脱出するという案は取り敢えず保留となったが、お蔭でする事も無く、こうして座しつつ時が過ぎるのを待つ羽目となっている。

「何処のどいつなんッスかねぇ・・・「足長おじさん」」
「さあね。この艦は地球軍の物と見て間違いないけれど、ミッドチルダ言語を用いているのだから、少なくとも次元世界の・・・怪しいわね、それも」
「バイドと地球軍相手じゃあねぇ・・・」

そうして閉じ込められてから、約15分が経過した頃。
ライディングボードの損傷部を調べていたウェンディの聴覚へと、小さな警告音が飛び込んできた。
ふと顔を上げれば、ベッド横に新たなウィンドウが展開し、赤く明滅を繰り返している。
嫌な予感を覚え、ウェンディは立ち上がって正面からウィンドウを覗き込んだ。
そして、表示されているミッドチルダ言語の羅列を読み取り、声を上げた。

「ちょっと・・・何なんスか、これ!」
「どうしたの!」

背後からギンガが駆け寄り、ウィンドウを覗き込む。
彼女が絶句する様が、ウェンディにも容易に感じ取る事ができた。
ウィンドウ上には、信じられない言葉が表示されていたのだ。

「フレーム構築・・・中断!? 緊急処置って何の事!?」
「ギン姉、これ! 残り時間が・・・」
「何が起こったの・・・!?」

AMTP、欠損部位の基礎フレーム構築をキャンセル。
緊急処置により、最短時間での欠損部位補完へと移行。
医療用ナノマシン継続投与時間延長。
処置完了までの予測経過時間、320秒。

「有り得ない!」

フレーム構築キャンセル、処置完了までの予測経過時間は14分足らず。
これらが意味するところは、医学に聡い訳でもないウェンディにも理解できる。
AMTPの設定を変更した何者かは、ノーヴェとスバルに「通常の四肢」を接合しようとしているのだ。
戦闘機人としての強靭なフレームを内包した四肢ではなく、それよりも遥かに脆い常人と同様の四肢を。
移植先が人間であれば問題は無いであろうが、2人は戦闘機人である。
処置後の戦闘行為は疎か、通常活動中に於ける安全さえ危ぶまれる身体となってしまうだろう。

「処置を止めなきゃ!」
「駄目だわ! 干渉さえ不可能になってる!」

問題はそれだけではない。
処置時間が短いという事は、神経接続等に費やす十分な時間を確保できないという事態にも繋がる。
恐らくは、その問題を解決する為にナノマシンの投与時間を延長したのだろうが、それがノーヴェとスバルの身体に如何なる影響を与えるのか、未知数の部分が大き過ぎるのだ。
だからこそウェンディとギンガは、何とかAMTPを再設定すべく迂回操作を試みる。
だが実際には、操作どころかシステムへの干渉さえ拒まれる始末だ。

そして、最早システム上ではどうにもならないと、ウェンディが理解した頃。
新たなウィンドウの展開と共に警告音が響き、何処かへのナビが画面上へと表示された。
ウェンディは反射的に新たなウィンドウを見やり、表示された文字列を瞬時に読み取る。
そして一拍の後、その意味を理解すると同時に戦慄した。
ほぼ同時に情報を把握したのか、傍らのギンガからも声が漏れ出る。

122R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:22:51 ID:FtNmz37M
「え・・・ちょっと・・・」
「・・・嘘でしょう?」

ウィンドウ上に表示された情報は、俄には信じ難いものだった。
「航行状況」との表記の下に「障害構造物突破、再加速中」との一文が在ったのだ。
数瞬ほど呆けた後、ギンガが鬼気迫る勢いでウィンドウを操作し始める。
どうやら、AMTPへの干渉と搬入室からの出入り以外に関しては特に制限を受けていないらしく、2人が望む情報はすぐに手に入れる事ができた。
尤も、その内容は2人が希望するものから掛け離れていたが。

「何時、離脱なんか・・・まさか、あの衝撃!」
「そんな! 大した揺れじゃなかったッスよ!?」
「でも、他に考えられないわ。嗚呼、もう・・・コロニーから離れ過ぎてる! 第4層に侵入して・・・」
「ギン姉、待った!」

突如として声を上げるウェンディ。
驚いた様に振り向くギンガさえも意識の外へと追いやり、彼女はウィンドウを操作してとある情報を表示した。
次いでウィンドウを分割し、上下に別の情報を表示させる。
その内の1つを目にしたらしきギンガが、ウェンディの傍らで声を上げた。

「ちょっと、これ見て・・・アイギスよ。この艦、アイギスの制御権を奪って・・・」
「何で2つ在るッスか?」

2つのウィンドウ上に表示された情報、その双方を見やりつつウェンディが呟く。
ギンガの注意が再度こちらを向いた事を確認し、彼女は更にウィンドウを操作した。
選択された2つの記録が、ウィンドウ上へと拡大される。

「この艦がアイギスの制御権を奪取した事は間違いないッス。でも、その記録が何で2つも在るッスか?」
「・・・本当だわ」

拡大表示された箇所の記録は、この艦が欺瞞情報によりアイギスの制御権を奪取した事実を告げていた。
だが1度目の制御権奪取から約二十分後、艦は再度に制御権を奪取している。
正確には5分ほど制御権が失われアイギスはスタンドアローンに移行、其処へ今度はシステム全体へと干渉する事で完全な掌握を成功させているのだ。
更にその間には、艦艇中枢に無視できない変化が起こっていた。

「見て、この時間。この瞬間にメインシステムが死んで、サブシステムに切り替わってる。しかも外殻装甲の損傷と同時刻よ」
「外部からの攻撃でメインシステムがやられた、って事ッスね。すると・・・1度目の制御権奪取はメインシステムが、2度目はサブシステムがやったって事ッスか。何でそんな回りくどい事を?」
「多分、これだわ」

今度はギンガがウィンドウを操作し、別の情報を表示する。
そうして現れたシステム全体の概略図らしき立体画像は、其処彼処が赤く明滅していた。
バイドによる汚染、侵蝕を示す表示だ。
それら赤い明滅は徐々にその範囲を狭めつつあったが、それでも30%近い範囲が未だに汚染されている。
ギンガはサブシステムの1つを指し、言葉を続けた。

「つまり・・・この艦のメインシステムは、バイドに汚染されていた。最初にアイギスの制御権を奪取したのもバイドでしょう。でも、防衛艦隊との交戦で中枢が損傷し、汚染に抗っていたサブシステムが制御を掌握した」
「更に其処を例の「足長おじさん」が掌握して、艦内に侵入したアタシ達ごとコロニーを離脱。アタシ達をこの部屋へ誘導して、ついでに野放しになっていたアイギスの制御権を再奪取したって訳ッスか」
「それだけじゃないわ、見て。一時的にだけど、制御権がベストラへ移った様に見せ掛けてる」
「手の込んだ事を・・・」

複数のウィンドウを見やりつつ、呆れの色を隠そうともせずに呟くウェンディ。
だが彼女の内心では当初より気に掛っていたある疑問が、より一層に不気味な意味を以って思考へと圧し掛かっていた。
ウェンディは迷わず、その疑問を口にする。

「それで「足長おじさん」の正体は人間なんスか、それとも幽霊?」
「バイドって選択肢は無いのね」
「まだ幽霊の方が現実味が在るッス。それにしたって、コイツは何処の所属なんスか。地球軍やランツクネヒトならこんな事をするメリットが無い、管理局にはこんな事をする技術が無い」
「お手上げって事・・・!」

123R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:23:24 ID:FtNmz37M
警告音。
ギンガの言葉を遮り、全てのウィンドウが閉じられると同時に新たなウィンドウが展開。
赤く明滅するそれへと目をやり、情報を読み取ると同時にウェンディは戦慄した。

「第6着艦口に・・・アプローチ? 何が?」
「・・・これ、R戦闘機よ。どうやら搭乗者が居るみたいね。状態は・・・負傷?」

R戦闘機、着艦。
ウィンドウの明滅が止むと同時、新たに「負傷者搬送開始」との表示が現れる。
どうやら自動でキャノピーから搭乗者を搬出するシステムが存在するらしく、ウェンディは搬送先となる「AMTP・患者搬入室」の表示を無言のままに見つめていた。
その傍らから、ギンガの声。

「此処に向かってきているみたいね。負傷者の映像は見られるかしら?」
「・・・映像は無いみたいッスね。ああ、でも此処に負傷の詳細が・・・!」

負傷者に関する各種情報。
展開する複数の項目、その1つを目にした瞬間に、ウェンディの思考が凍り付いた。
ウィンドウの上部、明確に表示された負傷者名。

「何で・・・?」



ティアナ・ランスター執務官補佐。



「ティアナ!?」

ギンガが叫ぶ。
ほぼ同時に、新たな警告音が搬入室へと鳴り響く。
咄嗟に常時別個に展開されていたAMTP処置時間のウィンドウを見やれば、表示は「00:00:00」となっていた。
患者搬出用ユニット式ベッドの周囲に黄色の警告灯が点り、床下へと収納されてゆく2つのそれらと入れ替わる様に、壁面から更に2つのユニットが現れる。
そしてユニット上部、金属製のカバーが反転してユニット内部のベッドが露わとなり、その上に横たわる人物の姿を視界へと捉えると同時に、ウェンディとギンガは其々に異なる名を叫んでいた。

「ノーヴェ!」
「スバル!」

意識の無い2人の傍らへと駆け寄り、其々に相手の身体を抱き起こす。
ウェンディはノーヴェの身体に異常が無い事を確かめ、次いで軽く肩を揺さ振った。
更に幾度も声を掛け、覚醒を促す。

「ノーヴェ! しっかり、目を覚ますッス! ノーヴェ!」
「・・・ウェンディ」

そして、返される声。
数瞬ほど息を詰まらせ、ウェンディは視界へと滲む涙を隠そうともせずに、ノーヴェの身体を抱き締めた。
ノーヴェの四肢が戦闘機人のものでない事も、それどころか彼女がオリジナルのノーヴェでない事すらも、今この瞬間にはどうでも良いとさえ思える。
唯、彼女が助かった事を喜びたかった。
そうして、20秒程が経った頃だろうか。
漸くノーヴェを抱き締めていた腕を解き、彼女の瞳を正面から覗き込んだウェンディは、何かがおかしいと感付いた。
目覚めたノーヴェが、感情の窺えない表情で以ってこちらを凝視しているのだ。
思わず、ウェンディは気圧されたかの様な声を漏らす。

「ノーヴェ・・・?」
「なあ、ウェンディ」

124R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:23:56 ID:FtNmz37M
返された声は、何処かしら常ならぬ無機質さを孕むもの。
驚きに見開かれたウェンディの瞳を見上げ、ノーヴェは変わらぬ無表情のままに続ける。
宛ら、感情など持ち合わせぬ機械の様に。

「知りたくないか?」

何が、とは言わずに放たれた言葉に、ウェンディは困惑する。
ノーヴェは、何を言っているのか。
思わず微かに首を振ると、ベッドを挟んでの反対側からスバルの声が響く。

「地球軍の戦略と、バイドの戦略」

咄嗟にスバルの方を見やれば、彼女を抱き締めるギンガと視線が合った。
ギンガの表情は強張り、戸惑う様に軽く首を振っている。
その口は何かを言わんとしている様だが、言葉を紡ぎ出すには至らずに無意味な開閉を繰り返すばかりだ。
そんなギンガと戸惑うばかりのウェンディを余所に、スバルとノーヴェの言葉は続く。

「隔離空間で何が起こってるか、知りたくない?」
「バイドが何を企んでいるのか、地球軍が何を仕出かす心算なのか」
「知りたいでしょ? ギン姉・・・ウェンディ」

スバルは振り返らない。
ウェンディは視線を戻し、再度に腕の中のノーヴェを見やる。
彼女は、変わらずウェンディを見上げていた。

「アタシ達は知ってる。この天体の外で起こっている事も、中で起こった事も、全部知ってる。だって」

そして、僅かな変化。
ノーヴェの表情に、微かな笑みが浮かんだ。
口の端を僅かに吊り上げた、綻ぶ様な笑み。
だが、それを目にしたウェンディの意識へと浮かんだものは、歓喜でも安堵でもなく。



「見てきたんだからな。何もかも」



押し潰されそうな不安と、同等の諦観。
そして、これまで姉妹に対して抱いた事など欠片も無い感情。
僅かながらも、確かな恐怖だった。

言葉も無く、腕の中のノーヴェを見つめるウェンディ。
その視線の先には、1つの小さなウィンドウが展開されていた。
彼女の掌にも収まる程の大きさ、第97管理外世界の言語が表示されたウィンドウ。


Unit「No.9」
Unit「TYPE-02」
SYSTEM OVERRIDE



歪んだままの唇が、ただいま、と呟いた。

125R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/07(土) 17:25:03 ID:FtNmz37M
投下終了です
有難う御座いました



友α「え? STGって女の子が空飛ぶもんじゃないの? 巫女さんとか」
友β「弾幕じゃないSTGってあったんだ」
友γ「兄貴だろ」

αとβには其々、雷電シリーズと一本腕の洗礼を施しておきました
これからは敬虔なシューターとして祝福の路を歩む事でしょう
・・・戦闘機と自機狙い高速弾のな!!



という訳で遂に三十話に到達、ついでにコロニー編は終了です
レギュラー陣では初めて男性キャラに死人が出た一方「スバル&ノーヴェ」が第3勢力ならぬ第4勢力として登場、大きな被害を出しつつも管理局勢は事態の核心へと迫るチャンスを得ました
脱出作戦の顛末、防衛艦隊の被害、B-1A2が何をしたか、スバルとノーヴェのレプリカに起こった異変、オリジナルのスバルを含めた機体群が管理局勢に対してまで無差別攻撃を行った背景などについては、次回に持ち越しです
では、久し振りに機体解説を

「R-13T ECHIDNA」
悲劇の名機「R-13A CERBEROS」の先代となる実験機
目標に喰い付かないアンカーフォースもどき、全く目標を追尾する気の無いライトニング波動砲もどき、がっかりレーザー×3と、これでもか! とばかりに試作機臭がプンプンする機体
黄色と黒の装甲、何処か丸っぽいフォルムがチャーミング

「B-1A2 DIGITALIUS II」
極めて高い硬度を有する植物性バイド体を用いて建造された機体「B-1A DIGITALIUS」の後継、第2世代機
この機体ではR-9Aと比較して70%もの強度上昇に成功しましたが、装甲を「枯らさず」に維持する為に大量の特殊薬液が必要となり、結果として軽量性を犠牲にしています
因みに、この薬液は人間にとっては劇物との事
このシリーズの装甲維持システムには「暴走」の危険性も・・・

「TL-2B2 HYLLOS」
シグナムを再起不能にし、はやて達をミサイルで吹き飛ばしたTLシリーズの最終形にして最凶の機体、通称「白い悪魔」
高コストの為か生産機数は2機のみ、其々が2名のエースパイロットに供給される筈が、1機は輸送中にバイドの襲撃でアボンしてしまいます
しかし残る1機はR無双を繰り広げたという、それ何てガン○ム? な機体です
作中に登場するのは第二十六話で述べた通りバイドによる模造品、フォース無しでのビームクロー展開は「TACTICS」仕様
「TL-2B HERAKLES」と同様の6発同時発射ミサイル、更にスタンダードⅡ・バウンドライトニングの2種の波動砲を搭載した鬼畜機体です

それでは、また次回



・・・で、友αは何時になったら雷電Ⅲとファイターズ返してくれんだ?

126ロクゼロ ◆3edSxDUK0o:2009/11/07(土) 18:29:09 ID:Tj1VJpSY
勢いに続けと言うことで、間に合えば23時頃にでも投下します。

127魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 18:31:14 ID:gIHrfMNk
R-TYPE Λ氏乙です
そしてゼロ氏楽しみにしています
ヒャッハー!投下祭りだ!

128魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 18:59:02 ID:DVJSI0io
GJ
極限状態で陰謀が動き出すというのもきっついもの
それにしても、洗礼したせいでもう戻ってこないのかw

129魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 20:33:11 ID:m2A.aSYI
GJ!
スバルたちはバイド化したのか?
そろそろバイド化した魔導士が出てきそうな気がするけど。

130魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 20:48:00 ID:ducAwdrU
乙でした!

αとβはグラⅤにも挑戦してもらいたいぜ! 芋的な意味で

131魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 20:49:14 ID:1sbuEc/c
読み終わりました、GJです
気がつくと私はR戦闘機になっていた、とか怖すぎる
脳が丸ごとコピーされてるとすれば全機ラグナロク並の強さなんだろうか
蔦に呑み込まれたのが実は生存フラグとか……え?死人?

132魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 20:53:57 ID:4BiPSAPI
GJ!
希望のかけらも見えねえwww
もう惑星破壊波動砲でもなのはが装備するしかw

133魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 20:54:10 ID:Ylxg8DNw
だめだw昨日のアレであんまり本編が頭に入ってこねぇ
てか、欝耐性無い人がよくここまで絶望一色の内容書けるなw

134魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 21:01:37 ID:4BiPSAPI
管理世界はガンダムXの第7次宇宙戦争より酷い人口減少率になりそうだぜ!

135魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 21:09:11 ID:yQiiGuf.
乙です
ああ・・・なのは勢随一のいぶし銀が逝ってしまった・・・
はやてってば出てくる度に悲惨な目に会ってて流石に可哀想になってきた
(まぁはやてに限った話ではないが)

レイストームHDにダライアスバーストにとSTGは最近何気に盛況ですな

136魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 21:25:08 ID:ECCegXtE
R-TYPE Λ氏GJです!
氏の作品の質になれたせいで、最近他のSSにはまれなくなってしまいましたw

それにしても、この作品を程度の低いアンチ・ヘイトSSのようなものと一緒にしないでほしいですね。
そんな感想があるから読むのを避ける人も出てくるのに・・・

137魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 21:36:41 ID:m2A.aSYI
STGなら斑鳩はやっておいたほうが良い
と思う。

138魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 21:55:11 ID:4Zt61btE
乙ッス・・・・・・しかしザフィ(´;ω;`)ブワッ

>>130
グラⅤといえば、ツインビーやがんばれゴエモンとのクロスSSってないですね。
ゴエモンなんかはありえそうなんですが

139魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 22:05:21 ID:4BiPSAPI
>>135
それらの作品では守ろうとした惑星が消滅しないことを祈るよw

140魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 22:16:33 ID:hYBCU5Io
STGとのクロスか、フライトシューティングのスカイガンナーなんかはどうでしょうか。
Rの洗礼に慣れてしまうと世界観が温過ぎるかも知れないが
エスコン以外にもこのジャンルの良作があることを知ってほしい。
>>125
友γ「兄貴だろ」
ブラスタービットの代わりにアドンとサムソンを引き連れたなのはさんを想像して吹いた。

141魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 22:25:12 ID:aNH3Xlu2
Λ氏乙
しかしHYLLOSの説明見るたびにこんな糞機体で無双してみせたパイロットすげーと思うから困る

142魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 22:48:56 ID:yQiiGuf.
>>139
多分その祈りは10年ほど遅かったw
リメイク前のレイストームの時点でエンディングでは地球が破壊されてるんだよ

143魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 22:51:02 ID:DVJSI0io
他のSTGとのクロスか
REZとかどう書けばわけわからんようなものもあるよな
地球の文明の次はミッドの文明を模した電脳空間でア゛ーギモヂィィィィィ!!ビクンビクン!

144ロクゼロ ◆3edSxDUK0o:2009/11/07(土) 22:51:51 ID:Tj1VJpSY
ちと、トラブルが発生したので25時に予約をずらします。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。

145魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 23:23:40 ID:NlOFc6YQ
>>136
アンチってかゴジラつえーって言ってるのと変わらんでしょ
むしろ>>143の様なキモいはしゃぎ方する人達の方が人遠ざけてるんじゃないかと

146魔法少女リリカル名無し:2009/11/07(土) 23:32:41 ID:Ylxg8DNw
キモいはしゃぎ方w
そこまでバッサリ言われると逆に清々しいな

まあ、度が過ぎるのは確かによくないな
他の人たちが引いてるのが解る
いくらクロス元が変態どもの魔窟とは言え、ここはアウェーという意識を持ったほうがいいな
もちろん俺も含めて

147魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 00:55:42 ID:/LOd27a2
Λ氏乙、超GJ!!!!

そして友人にアレをすすめる、そこに痺れるあこがれるゥーーー!!
是非とも地獄を味わっていただきたい。
安置などない地獄をな!

ゼロ氏
期待して眠れねえwww

148ロクゼロ ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:07:13 ID:7VB50UuY
ボチボチ投下を始めます。
ただ、PCの調子が著しく悪いので、ちょっとのんびり目に投下します。
15分ぐらいからです。

149ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:17:34 ID:7VB50UuY
 次元空間を時の庭園が緩やかな速度で移動している。元々戦闘用ではないた
め速度はそれほどでもないが、スカリエッティによる改造と、ラグナロクとの
融合を果たしたことで、ある程度の戦闘能力は得られている。スカリエッティ
は最終的に移動要塞として、かつての聖王のゆりかごにも劣らない武装処理を
施したいようだが、時間的都合でそれはまだ計画段階として止まっている。現
状は主砲〝ラグナロク〟と副砲による対空砲火システムだけだが、これだけで
も並の次元航行艦隊を蹴散らせるだけの威力があるという。
 時空管理局との取引を終えたスカリエッティに、これといった目的地という
ものは存在しない。発行された赦免状は管理内世界においての行動の自由を意
味するものであり、時の庭園はいつどこに向かっても構わないのである。
 スカリエッティはこのままどこか適当な次元世界に赴き、そこでしばしの休
息を予定していたようだが、その考えを凌駕する速度で、機動六課が急追を開
始したのだ。これはスカリエッティの予想よりもはるかに早く、時間的距離で
言うと二日後には捕捉される可能性すらあった。
「移動も追撃も、素晴らしいほどの速さだ。もっとも、それほど戦力が残され
ているとも思えないが……」
 地上に残してきたルーテシアの白天王は、六課を壊滅させるには至らなかっ
たようだが、それなりの打撃を与えることには成功したようだ。敗れたのは意
外であったし、ルーテシアもかなりの衝撃を受けていたが、スカリエッティに
は異なる見解があった。
「白天王すらどうにか出来ないようでは、英雄とは呼べないだろさ」
 ゼロであれば白天王にも勝てると、スカリエッティはそのように考えていた。
そして、結果として現実のものになったが、そのような考えを抱くこと自体、
ルーテシアに対する裏切りではなかったのか? 口にこそ出さなかったが、ス
カリエッティが白天王よりもゼロの勝利を望んでいたことは、事実なのだから。
 急追されていることを知り、スカリエッティは当初の予定を改めるべきかど
うか悩み始めた。どうせ捕捉されるのなら、逃げるのは止めて迎え撃つべきだ
ろうか。とはいえ、次元空間内ではこれといった罠を設置できるわけでもない
し、ラグナロク主砲も使えない。強力な砲火が、空間に与える影響を考慮しな
ければならないからだ。大部隊を正面に配置して、迎撃態勢を取るというのは
どうか。無難だが、一つ問題がある。機動兵力が足りないのだ。先ほどの地上
戦に三〇〇機ほど投入したが、実のところ時の庭園にはそれほど機動兵力が残
されていないのだ。ここまでの戦闘で消費を続け、量産が間に合っていないの
だ。迎撃態勢を取るべく部隊配置を行おうにも、それでは庭園内の守りが薄く
なる。
 兵力が豊富であればもっと様々な作戦を立てることも出来る。例えば、敵の
急追に対して幾十もの防御陣を敷き、出来うる限りの損害を出させながら追撃
速度を鈍らせる。時の庭園は攻撃的な陣形を持って敵を正面から迎え撃ち、逆
に突破された防御陣の数々は兵力再編の後に敵の後方を遮断し、本隊との間に
挟撃戦を展開する。相手に確実な出血を強い、最終的な勝利が疑いない策であ
ったものの、それを実行するための兵力が欠けていた。
 ならば、実戦機能のすべては時の庭園に集約し、急追長駆してくる敵の疲労
を突いて一挙に迎え撃った方がいいだろう。とはいえ、時間的距離で二日後に
捕捉されるともなれば、相手に疲労らしい疲労を与えることが出来るとも思え
ないが。

150ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:19:40 ID:7VB50UuY
 もう一つ、スカリエッティに具体的な作戦を立てることを躊躇わせる要因と
して、オメガやギンガの存在があった。両者共にスカリエッティの指揮権や制
御圏から外れた存在であり、他者から命令されることを強く嫌っている。作戦
を立てたとしても、それを実行する過程で二人が暴走すれば、成功するはずだ
ったものも無に帰する。かといって封じ込めておけるわけもないし、スカリエ
ッティとしては頭の痛い問題でもあった。強すぎる力というのも、考えもので
ある。
「しかし、先ほどの戦闘にオメガは出てこなかった。何故だ?」
 スカリエッティが疑問視し、ギンガなども意外に思ったのは、アルトセイム
の地上戦においてオメガが出撃しなかったことである。時の庭園の真下であれ
だけ激しい戦いを繰り広げていたのだ。如何に彼の私室が防音だろうと、気付
かないわけがない。にもかかわらず、彼は宿敵であるゼロも参戦した戦闘に関
わろうとしなかった。まさか、興味が失せたとでも言うのだろうか。
 クラナガンにおける戦闘で、オメガはゼロを完膚無きまでに叩きのめした。
だが、彼の望みは完全勝利ではなく完全破壊のはずであり、ゼロがまだ生きて
いる以上、戦う理由はあるはずだ。それなのにどうして、私室に閉じこもって
出てこないのか。一度倒した敵に対する拘りがない、という可能性もあるが、
ゼロ相手にそれは限りなく低い。
「判らないな。彼はなにを考えているんだ」
 他者に対して疑問を呈するというのは、スカリエッティにとって心地よいも
のではなかった。理解できないもの、把握できないこと、判らないというのは
スカリエッティに合ってはならない現象、彼は天才としてすべてに対する理解
者でなくてはならなかった。
 だが、現実問題として、スカリエッティはオメガの心根を知るより先に迫り
来る機動六課に対する策を練らねばならなかった。どうやら六課の後方からは
更に時空管理局の艦隊が追撃しており、計算の上では六課が時の庭園に到達す
るよりも早く、艦隊が六課を捕捉すると出ている。とはいえ、艦隊が六課相手
に交戦をするならまだしも、同じく管理局を裏切り、時の庭園に攻撃を仕掛け
てくることもある。アースラ一隻ならどうとでもなるが、艦隊が相手となれば
話は別だ。
 残存する機動兵力は一六〇機程度。いずれも各種パンテオンの混成部隊であ
る。数としてはそれなりにいるが、拠点防衛を主眼に置いた戦闘ではなんら意
味を成さない。スカリエッティはこれらの兵力を二分して八〇機ごとの部隊に
再編し、それぞれの部隊長に帰還したナンバーズのセッテとディエチを使おう
かと考えていた。現在二人はタンクベッドで長期にわたる隔離生活の疲れをリ
フレッシュしている。同時に睡眠学習システムで最新の戦闘プログラムを組み
込ませているから、二時間もすれば戦士として多少はマシな姿になるだろう。
もっとも、その代償として彼女らは扱い慣れないレプリロイド、メカニロイド
の兵士を率いて、勇猛なる機動六課の英傑たちと戦わなければならなかった。
 スカリエッティはこれらの迎撃作戦の立案を行うにあたって、主にドゥーエ
を相談相手としていた。自身と完成や感覚が同一である半身に対し、彼は自分
の悩みや疑問などを普通にぶつけることが出来た。彼にしてみれば、ドゥーエ
に訊くと言うことは“自分自身に問いかける”ことと大差ないのだという。そ
れに、他にこんな話を出来る相手もいなかった。前述の理由でオメガやギンガ
は当てにならないし、ルーテシアはまだ子供だ。強力な召喚術士といっても、
複雑な戦略や戦術を理解することは出来ないだろう。
 こうしたスカリエッティの真意をルーテシアが理解していたかは判らない。
彼女に対する彼の評価は決して低くなかったし、このときの見解もそれほど間
違ったものではないだろう。しかし、ルーテシア本人からすればもっと自分を
頼って欲しいと思うし、ドゥーエばかりと部屋に隠っているスカリエッティに
反感を抱かずにはいられなかった。



           第二〇話「オメガ出撃」

151ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:22:48 ID:7VB50UuY
「最近、ドクターが私の相手をしてくれない……気がする」
 時の庭園の最下層、スカリエッティの研究施設にルーテシアはいた。以前は
稀にしか訪れることの無かった部屋に、最近の彼女は入り浸っていることが多
い。幾本も並ぶ実験用素体の入った生体ポッドを眺めながら、無意味な時間を
過ごしている。実は、他に居場所がないのだ。
 スカリエッティとの庭園における二人だけの生活は、次々に増えた定住者た
ちの存在で終わりを告げた。楽しかった日々も、二人だけのものだった庭園も、
今や過去のものとなってしまった。無論、全員が全員庭園に残るとも限らない
が、帰還したナンバーズなどは他に行く当てなど無いだろう。少なくとも、当
分はスカリエッティと自分だけの時間など、望めるわけもなかった。現に今も
スカリエッティはナンバーズの二番と自室に籠もっており、ルーテシアであっ
ても顔すら見られない日々が続いている。
 邪険にされているわけでも、嫌われたわけでもないと判ってはいるし、今が
どれほど大変な時期かも理解はしているのだが、ルーテシアの心中は複雑だっ
た。ドゥーエがスカリエッティにとってどういう存在なのかは知っている。だ
から彼女が重用され、頼られていることにも納得は出来るのだが、残念と思う
気持ちや、悔しいと感じる心もあるのである。相反する感情が同時に生まれた
のは、単にルーテシアが自身の心情を整理できていないからだろう。
「私は、私じゃ、ドクターの役には立てない?」
 これは増長だろうか。スカリエッティとの関係性の深さや、共に過ごしてき
た年月において、ルーテシアがドゥーエに敵うわけもないのだ。それでもドゥ
ーエより自分を選んで欲しい、一緒にいて欲しいと思ってしまうのは、自分が
まだ子供だからだろうか。
 ドゥーエという存在に強い嫉妬心をルーテシアは憶えているわけだが、彼女
自身はこの感情がなんであるかイマイチ理解できていなかった。今すぐスカリ
エッティの部屋に赴き、ドゥーエを追い出したい、追い出した上でスカリエッ
ティを押し倒し、自分だけの物であることを再認識したい。それが醜い独占欲
であることはルーテシアも自覚していた。けれど、大切な存在を他者に奪われ
るのではないかという恐怖が少女の中には芽生えている。取られたくない、取
られまいとする防衛意識が働くのも、無理からぬことではあった。
「それに、また人が増えた」
 異世界の科学者であるシエルをスカリエッティが連れ帰ったことも、ルーテ
シアとしては不満であった。
 蜂蜜に金を溶かし込んだかのような髪色に、愛らしく儚げな表情と容姿。同
性であるルーテシアからしても可愛らしいとか、可憐という言葉が思い浮かん
でしまいそうな美少女に対し、心穏やかでいられるわけもない。庭園の一室に
監禁しているが、スカリエッティはシエルをどうするつもりなのだろうか。状
況が状況だけにすぐにどうこうするつもりはないようだが、単純に人質の類で
ないことは確かだろう。
 スカリエッティはシエルを鄭重に扱っており、“お姫様”などと呼んでいる。
牢屋にでも閉じこめておけばいいのに、監禁場所は庭園の中でも上質に位置す
る部屋で、無駄に豪華な調度品の数々が監禁された者の圧迫感を和らげる効果
があるらしい。それほど大差があるとは思えないが、スカリエッティが彼女を
特別扱いし、気を使っていることには違いない。

152136:2009/11/08(日) 01:25:21 ID:n/8cBlEU
支援

>>145
42のような人に対してのコメであり、気を悪くされたのでしたらすみませんでした。

153ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:26:52 ID:7VB50UuY
「…………なんで」
 こんなにも胸が苦しいのか。
 どうして自分が他者に対して焦燥を感じ、必死にならねばならないのか。馬
鹿馬鹿しい、自分はこんな想いをするために、今日までスカリエッティの側に
居続けてきたわけではない。
 最終決戦も近いというのに、ルーテシアの心はざわめき、浮き足立っていた。
これは良くない。戦闘に差し障りでもしたら、今はまだ相手にされていないだ
けでも、完全に見捨てられてしまうかも知れない。かつてのナンバーズのほぼ
全員がスカリエッティによって切り捨てられてきた事実を知っているだけに、
あり得ない予想ではないとルーテシアは思っていた。となれば、今の内に一つ
でも良いから禍根は断っておきべきだろう。
「よし……」
 ルーテシアはあることを思い立つと、部屋を飛び出していった。

 少女からほのかな嫉妬心を向けられているシエルであるが、彼女は監禁され
ている部屋のベッドで蹲っていた。鄭重に扱われているといっても、敗北感が
皆無なはずもなく、明日をも知れぬ我が身を思えば、不安は隠しようもなかっ
た。なんとか逃げ出せないものか、脱出は不可能なのかと検証もしてみたが、
部屋の鍵一つ取っても魔法による施錠が施されている。機械的な方法であれば
如何様にもなるが、これでは手も足も出ない。おそらくスカリエッティもそれ
を承知していたのだろう、置物としての調度品を除いて室内は魔法式に統一さ
れていた。
 抵抗が無益とわかった以上、シエルは不用意に動かず、助けが来るのを待つ
ほか無かった。攫われたとはいえ、ゼロに対する信頼は一ミクロンも損なわれ
てなどいない。ゼロならば必ず自分を助けに来てくれると、核心に近いものを
シエルは持っていた。例え、誰になんと言われようと。
 シエルは自分をこの部屋に押し込んだ、ギンガという少女のことを思い出し
ていた。スカリエッティとは違った意味でシエルに興味を持っていたらしいギ
ンガであるが、その言動はお世辞にも鄭重とは言い難く、乱暴そのものだった。
「囚われの気分はどう? お姫様」
 人を小馬鹿にした口調と、無力な小動物を見下す視線。ギンガはシエルの身
体をベッドの上に放り投げると、殊更威圧的な態度を取った。
「スカリエッティが何を考えてるのかは知らないけど、まあ、どうせろくなこ
とじゃないだろうから、覚悟しておくことね。明日には下半身が血まみれにな
ってるかも知れないわよ?」
 下品で下劣な笑みを浮かべながら、言葉でシエルを痛めつけようとするギン
ガ。そんな彼女に対し、シエルは気丈だった。
「私はなにをされても、決して屈しないわ。必ず、必ずゼロが私を助けに来て
くれる」
 それは間違いなく事実となるであろうが、何故だか相手の癇に障ったらしい。
ギンガはそれまで浮かべていた下卑た笑みを消すと、一転して鋭い表情を作っ
た。その急激な変化に、シエルは視線で身体を射抜かれる感覚を味わう。
「大した自信、それとも余裕かしら? 愛するゼロは私を助けに来てくれる…
…フン、虫酸が走る物言いね」
「べ、別にそこまで言ってないけど。愛するとか、そんな」
「純情ぶっちゃって、生娘は可愛くて良いわね」
 嘲笑に歪んだギンガの口元であるが、対照的にシエルは表情を消した。ギン
ガの言葉に思うところがあったのか、それとも話すことは無益と判断したのか。
微かな違和感を感じるも、ギンガは構わず言葉を続けた。

154魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 01:33:57 ID:twjAm/dA
しえん

155ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:34:53 ID:7VB50UuY
「ゼロの助けなんて、当てにしないことね。彼があなたの元へ辿り着くことは
ないわ」
「ゼロは必ず来てくれる。私を助けに、いえ、自らの決着を付けるために」
「無理よ、そんなこと絶対にさせないもの」
 シエルという存在に、ギンガは少々意固地になっているようだった。ゼロに
絶大な愛情と信頼を向ける少女というのは、ギンガにとってある種の羨望を抱
かせてしまう。認めたくはないが、かつての自分も同じだった。
「それに、彼は誰かを助けられような奴じゃない……だって彼は、彼は私を」
 助けては、くれなかったから。
 ギンガは膨れあがった感情のほとんどを押し込めたが、その内の一部はシエ
ルによってつかみ取られた。感じ取った、というほうが正しいだろうか。シエ
ルはギンガの胸の奥に、自分と同じ光と闇を見出していたのだ。
「……あなたも、ゼロのことが好きなの?」
 敵である少女について、ゼロは口数少なく、詳しい説明を拒んでいた。かつ
ては仲間だったらしいが、何事かが生じて敵となってしまった。二人がどうい
う関係にあったのか、そこにシエルの興味が赴いてもおかしくはないだろう。
「身体を重ねた関係よ」
 絶句するシエルを見ながら、ギンガはその嘘を付いたことに後悔していた。
呟いてみて、ここまで虚しい嘘もなかった。
「ただの冗談よ……それに、なんか勘違いしてるみたいだけど、私はゼロのこ
となんて好きじゃないわ。ええ、そうよ、あんな奴大嫌いよ!」
 否定によってシエルの問いを肯定してしまったギンガだが、シエルはそれ以
上踏み込もうとしなかった。人には、誰しも踏み込まれたくない領域があるも
のだ。自分にも、それはある。
「少し、話が過ぎたみたいね。まあ、あなたがどう思おうと勝手だけど、ゼロ
が助けに来ることに関してだけは期待しないほうが良いわ」
 何故なら、ゼロは。
「私が絶対に、倒すから」

 唐突に部屋のドアが開き、物思いに耽っていたシエルの思考を中断させた。
またギンガ現れたのかと思ったが、違った。彼女とは別の、自分よりも年若い
少女が食事を載せたプレートを運んできたのだ。
「ご飯……食べて」
 温かい湯気を放つそれは、ホワイトシチューのようだった。ホワイトシチュ
ーに、パンが一つ。飲み物は単なる水のようだが、温かい食事が出てくること
自体がシエルには意外だった。
 良い匂いに鼻孔をくすぐられるが、状況が状況だけにどくやそれに類するも
のが混ざっているとも限らない。監禁されてから水の一滴も飲んでいなかった
ので空腹ではあるが、果たして食べるべきか否か。
「食べないの?」
 目の前まで食事のプレートを運んできた少女が、考え込むシエルに声を掛け
た。紫色の長い髪が特徴的だが、無表情なため可愛らしさが薄まっている印象
を受ける。

156ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:36:43 ID:7VB50UuY
 仕方なしにスプーンを手に取り、一口、二口と口元に運ぶ。少女はシエルの
動作をジッと観察しており、食べるフリで済ませることも出来そうになかった。
しかし、食事を置いて退出しないところを見ると、やはりこのシチューやパン
になにかあるのだろうか。今のところ、特に変わった味などしない普通のシチ
ューであるが無味無臭の毒物を使っている可能性も……
「ねぇ、美味しい?」
 慎重に食を進めるシエルに対し、少女がやや躊躇った末に訊ねてきた。シエ
ルは少女の監視を気にし、少女はシエルの慎重さを不安に思ったらしい。
「……これ、あなたが作ったの?」
 それ以外には考えられない反応だった。シエルに問われ、少女は思いきり動
揺していた。あくまでシエルの観察が目的で、手製の料理など二の次だったは
ずなのに、気付けばそちらの方に気が向いている自分がいたからだ。
「そう、だけど」
 食事を用意したのは、他に入室する理由を作れなかったからだが、手作りで
ある必要はどこにもなかった。自動調理マシンで適当なものを作ればいいのだ
し、その方が時間も手間も掛からない。しかし、少女ルーテシアは自分で料理
することを選んだ。そしてそれは、彼女にとってはじめての、自分一人で作る
食事だった。
 ルーテシアは料理をすることによって、シエルに会う機会を作ると同時に、
スカリエッティの部屋に行く理由も作りたかったのだ。食事を、それも手作り
のものを持って行けば、スカリエッティとて部屋に入れないわけにはいくまい。
だが、それにまず“美味しいもの”を用意する必要があり、一人での料理は初
体験であるルーテシアにとって、難易度の高い問題であった。もしここでシエ
ルが一言でも、「不味い」といえば、ルーテシアはすぐさま調理場に戻ってシ
チューの鍋を流しに叩き込んだだろう。
 けれど、ルーテシアのシチューを食べた相手は素直だった。
「そう、ありがとう。とても美味しいわ」
 シエルは美食家などではないし、性格から食事とは空腹を満たし、尚かつ栄
養を補給するものであるという考えをしていた。これは元いた世界で、およそ
周囲に人間的な食事を必要とするのが自分だけだったことに起因する。なんと
も貧相な考えだったが、ルーテシアが出してくれた手料理は、この圧迫された
状況下で、最上の癒しと安らぎを与えてくれた。
「あなたの名前は?」
「ルーテシア。ルーテシア・アルピーノ」
「良い名前だと思うわ」
 料理を褒められたことで、ルーテシアはいくらか気をよくしたらしい。こん
な笑顔をする人は、多分悪い人間ではないだろう。とはいえ、こんな愛らしい
笑顔を出来るからこそ、別の警戒心が生まれるというものだが。
「なにか足りたいところとか、そういうのはある?」
「特にないと思うけど……ごめんなさい、私、料理は苦手で」
 この際だからと訊ねるルーテシアに、シエルは戸惑う仕草を見せる。育って
きた環境に差がありすぎるのだろう。シエルの元いた世界では、手作りの料理
という概念は既に廃れている。菓子作りなどならともかく、本格的な料理のア
ドバイスは出来ないのだ。
「ドクター、美味しいって言ってくれるかな」
 小声の呟きは、聞こえない大きさではなかった。軽い驚きを見せるシエルに
対し、ルーテシアは思わず顔を背けてしまう。

157ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:37:59 ID:7VB50UuY
「あなたは、ドクター・スカリエッティが好きなのね」
 つい最近も似たような言葉を口にして、そのときは力一杯否定された。
「……悪い?」
 そっぽを向きながら、面白くなさそうにルーテシアは答える。どうせこの人
も、自分の気持ちを否定するに違いないと、肯定を知らない少女は投げやりに
考える。
「悪くないわ、人を好きなことに良いも悪いも無いわよ」
「えっ?」
 言われたことのない言葉が、肯定の声がルーテシアに届いてきた。否定しか
知らない少女は、認められることに慣れてはいない。
「でも、ドクターは犯罪者で……私も」
「その人がなにであるか好きだなんて、それこそ間違っていると思うわ」
「そう、かな?」
「少なくとも、私はそう思う。私だって――」
 自分は決して、伝説の英雄だから彼を好きになったわけではない。出会いは
どうあれ、シエルは自身の想いに確信を持つことが出来た。だからこそ、純粋
そのものであるルーテシアの気持ちに共感を覚えることが出来、容易に肯定す
ることが出来たのだ。
 元々この世界の人間ではなく、スカリエッティの数々の悪行に実感が沸かな
いというのも理由の一つであったろうが、それ以上にシエルはスカリエッティ
に対しても一種の共感を覚えていたのである。共感を抱かずにはいられない、
という類のものではあったが。
「最近、ドクターが一緒にいてくれなくて」
 いつの間にかルーテシアはシエルに人生相談を始めていた。話を聴く内に、
シエルはスカリエッティという天才の意外な一面を垣間見ることになった。ル
ーテシアの話に登場する、日常の中のスカリエッティは、とても悪辣な次元犯
罪者とは思えなかった。人間であれば複数の顔を持っていても不思議ではない
が、一体どちらが本当のスカリエッティなのだろうか?
 僅かであるが、シエルは自分がスカリエッティという男に興味を抱き始めて
いることに気付いていた。


 シエルとルーテシアが交流を深める中、それが出来なかったギンガ・ナカジ
マはオメガの部屋にいた。ルーテシアと違った意味で、ここしか居場所がない
彼女である。だが、部屋の主は珍しくベッドの上で寝腐っており、ギンガの相
手をしようとはしなかった。
「どうして、前の戦闘には来なかったの?」
「戦闘?」
「アルトセイム、庭園の下でドンパチやってたじゃない。あそこに、ゼロもい
たのよ」
 スカリエッティが疑問に感じたのと同じことを、ギンガも不思議に思ってい
たらしい。どうしてオメガはあのとき、宿敵であるゼロと決着を付けなかった
のか。今度こそ確実に、破壊できただろうに。
「知らんな。まるで気付かなかった」
 興味がなさそうに、オメガは呟いた。意外さに打たれるギンガであるが、ふ
いに意地悪をしたくなったのか、
「そう? 残念だったわね、ゼロは私が倒しちゃったわよ」
 と、嘘を付いてみた。ギンガとしては軽口のつもりだったのだが、返された
視線は重く鋭いものだった。

158魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 01:39:42 ID:tPW6t6io
>>155
8行目
『助けられような奴→助けられるような奴』支援

159ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:41:47 ID:7VB50UuY
「くだらん嘘を付くな」
「決めつけないでよ……まあ、嘘だけど。なんで判ったの?」
 お前などに倒せるわけがないとでも言ってみろ、一発ぶん殴ってやる。ギン
ガは心にそう誓うが、対するオメガは不敵な笑みを浮かべながら天井を見つめ
ていた。
「我には判る。先の戦闘とやらは気付かなかったが、奴は今、この場所を目指
して移動してきている」
「ゼロが、追いかけてきているのが判るの?」
「判る。我にも説明は出来ないが、そうだな、波動のようなものを感じるのだ
ろう。我もまた、ゼロなのだから」
 科学的な説明など出来はしない。言うなれば、オメガが持つオリジナルゼロ
のボディが、近づいてきているオリジナルゼロの魂に共鳴しているのだ。先の
戦闘では魂の輝きも力強さも損なわれていたから反応しなかったが、どうやら
元の強さを取り戻したようである。
「だが、特別我が戦う理由もないな。スカリエッティに任せても良いだろう」
「意外ね……ゼロはあんたにとって宿敵じゃないの?」
「もう倒した。何度やっても、我が勝つ。面白味の欠片もない戦いだ」
 前回のクラナガンにおける一戦で、オメガはゼロに失望したらしかった。再
び立ち上がり、立ち向かおうとする覇気はともかく、結果の見えている戦いに
なんの意味があるのか。もはやオメガにとって、ゼロは破壊する価値もない雑
魚なのだ。
「フン、大した自信じゃない」
「自信ではない、確信だ」
「そう、ならあんたは当分戦いに行かないのね」
 言うと、ギンガはベッドの上に飛び乗った。オメガの上に跨り、その瞳を強
く見つめている。
「抱いてよ、思い切り激しく、私をもっと壊して」
 シエルの言葉を気にしているのか、ギンガは常になく自分からオメガを求め
ていた。オメガはしばし無言だったが、無言のままに動いて、ギンガと体勢を
入れ替えた。
「…………」
 オメガを受け入れようとするギンガであったが、当のオメガはつまらなそう
な表情を見せていた。いつもなら勢いと衝動に任せて彼女を貪り食うはずなの
に、何故だか今日は醒めていた。それどころか、ふいに手を伸ばし、片手でギ
ンガの頬を触れたのだ。

160ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:43:30 ID:7VB50UuY
「違うな」
 首を振り、だがハッキリとオメガは断言した。
「お前が見ているのは、我ではない」
 あの二人とは違う、自分を見ていない瞳。力ずくで奪っても、瞳に映る姿ま
では、変えられない。
「お前が想っているのは我ではない、ゼロだ。我を、奴の代わりにするつもり
か?」
「だったら、なんだっていうの? 私を無理やり襲ったくせに、そんな小さな
ことを気にするんだ」
「あぁ、そうだな」
 意外なほど強い口調でオメガは言い放った。そして、ベッドから降りて立ち
上がると、大きく息を吐いた。
「気が変わった、出撃しよう」
「えっ――?」
「ゼロは近い。再び奴と戦い、今度は完全に破壊する」
 みなぎる力は、覇気や自信となってオメガの身体から溢れ出ている。背中越
しにギンガは圧倒され、声を出すことも出来ない。
「奴の首を手みやげに持ってきてやろう。だからギンガお前は我の――いや」
 言いかけて、オメガが止まった。そしてゆっくりと、ギンガに向かって振り
返る。

「お前は“俺”のものになれ、ギンガ」

 凶暴さの消えた、精悍な顔だちがそこにはあった。

「お前は俺のものとなって、俺の傍で余生を過ごせ」
 オメガの表情と、そして初めて聞く一人称に、ギンガは一瞬であるが我を忘
れた。
「なによそれ、なんでそんな……」
「その資格がお前にはある。俺はお前が欲しい、お前が欲しいからもう一度ゼ
ロと戦う。そして、奴からお前を奪い取る」
 ゼロさえ消えれば、ギンガの瞳に映るのは自分になるはずだ。単純な思考で
あるようにも思えたが、ギンガに諦めをつかせる切欠となるかも知れないのは
事実だった。
「では、少し待っていろ。すぐに片付けてくる」
「ちょっ、ちょっと待ちなさ――」
 ギンガはベッドから身を乗り出して止めようとしたが、オメガはそれを無視
して部屋を後にしてしまった。
 取り残されたギンガは、呆然としてベッドの上にへたり込んでいた。
「やめてよ……そんなこと言わないで」
 シーツを握る手に力が籠もる。身体が震え、自分がどうやら泣いているらし
いことに気がついた。

「あの人と同じ顔で、私に優しくしないでよっ!」

 その叫び声を聞く者は、誰もいなかった。

161ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:44:35 ID:7VB50UuY
 セッテとディエチがスカリエッティの部屋に呼ばれたとき、そこにドゥーエ
はおらず、スカリエッティはホワイトシチューで食事を取っている最中だった。
「あぁ、気にしないでくれ。忙しくてなかなか食事を取る暇もなくてね……君
たちの分もあると思うから、欲しいならルーテシアに言うと良い」
 スカリエッティが柔らかい笑みを見せたことに、ディエチは自分の目を疑い
そうになった。
「ドクター、ご用件は?」
 こういうとき、実務的なことを優先するセッテの性格は助かる。ディエチも
表情を消して、スカリエッティと会話をすることは避けていた。
「なに、君たちに武器を渡しておこうと思ってね。そろそろ敵がここに襲来す
る。その際、君たちにも戦って貰うことになるだろう」
 庭園は戦力不足でね、と付け足しながら、スカリエッティは二人に武器を渡
した。セッテは彼女の固有武装であるブーメランブレードだが、ディエチは違
った。
「イノーメスカノンを再製作するだけの時間がなかった。すまないが、それで
我慢してくれ」
 それはランチャーパンテオン専用の高出力ビーム砲だった。イノーメスカノ
ンと違い射程は短いが、威力はゼロのフルチャージバスターをはるかに上回り、
砲座自体に機動力と移動能力があるため、機敏な砲撃戦を行うことが可能とな
る。
「最大出力は、どれぐらいになりますか?」
「そうだな、並のレプリロイドなら、まあ跡形も残さずに消し去れるだろう」
「跡形も残さず、ですか」
 なにかを考え込むディエチに、セッテが意味深な視線を送っている。スカリ
エッティは「成果を期待するよ」とだけ言って、すぐに具体的な戦力配置等の
話に移ろうとした。
『ドクター、ちょっといい?』
 そこへルーテシアが通信を送ってきて、彼に驚くべき事実をもたらすことに
なる。
「どうした、ルーテシア。まさかとは思うが敵襲かな?」
 いくらなんでも早すぎるし、第一敵襲を告げる警報もなっていない。
『ちょっと違う』
「おや、残念。外れたか」
『敵襲じゃなくて、出撃』
「出撃?」
『そう、あの人形が勝手に出撃した』
 馬鹿な、とスカリエッティは唇だけ動かして驚いた。この段階になってオメ
ガが出撃するとは、さすがのスカリエッティも予想外の出来事であったらしい。
目的は急追してくる六課の、いや、ゼロを倒すためか?
「勝手な真似を……まったく」
 オメガが負けるはずはないにしろ、乱戦や混線の類となればかえって敵を有
利にする可能性もある。そうなれば、こちらは迂闊に手が出せないではないか。
「連れ戻すのは不可能だ。オメガを監視して、如何様にも動けるように手を打
っておこう」
 あるいはオメガなら、六課ごとゼロを撃滅して戻ってくるかも知れないが、
それはそれで面白くないと思うスカリエッティだった。それが大いなる矛盾で
あることに、気付いていながら。

162ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:46:09 ID:7VB50UuY
 一方の機動六課、アースラではゼロが所在なさげに艦内をウロウロしていた。
待機中は壁などにもたれ掛かりジッとしていることの多い男だが、シエルが連
れ去られたことへのショックもあるのか、ジッとしていることに耐えられない
ようだった。そんな彼に併走するように、ルクリュが隣を飛んでいる。
「鬱陶しいですね。少し静かにしていられないんですか」
 このサイバーエルフ型AIは、何故だかゼロには辛辣な物言いを好んで使っ
ていた。フェイトなどには丁寧な物腰と言動であるからして、ゼロにだけこう
いう態度を取っていることになる。
「……すまない」
 ただ、ゼロの方としても今の自分がらしくない行動をしているという自覚が
あったから、素直に謝罪を口にしていた。
「よろしい、男性は素直が一番ですよ。部屋に戻って少し休んだらどうですか?」
「いや、このままで良い。中途半端に休めば、戦闘に影響する」
「そういうものなんですか……?」
 胡散臭そうにルクリュは呟くが、それ以外にも後少しでアースラが庭園に到
達するという報告があり、休んでいる暇がないと判ったからでもある。アース
ラの移動速度は尋常ではなく、スカリエッティの予想を大幅に上回る速度で追
撃を行っていたのだ。
 しかし、機動六課が時の庭園へと到達するよりも早く、アースラの後尾を急
追する時空管理局が、クロノ艦隊が捉えていた。射程内にアースラを収めたク
ロノは、敢えて攻撃することを避け、まずは対話による説得を試みた。通信を
送って、はやてやフェイトと直接の会話を行うことにしたのである。

『はやて、忙しいところすまない』
 奇妙な挨拶で始まった会話だが、真剣さは双方同じだった。
「なに、クロノとは長い付き合いや。別に構わへんよ」
 殊更口調に嫌みや皮肉があるわけでもなく、長年の友人として、はやてはク
ロノと話しているようにも思える。
『はやて、僕は君と、君たちと戦いたくない』
「……それは、私も同意やな」
『だったら! 君たちは、今すぐ投降するべきだ。馬鹿な真似は止めて、武装
を解除しろ』
「馬鹿な、真似……?」
 言葉に、はやての顔色が変わった。瞳には激情の光が差し、クロノを僅かで
あるが怯ませた。
「クロノ、私たちはスカリエッティと戦う。奴は、今日という日はもちろん、
この先も生かしておくわけにはいかない男や。それはアンタだって判ってるは
ずやろ」
『そんなことは百も承知だ。だが、スカリエッティは管理局と制約を交わした。
管理局員である君たちがこれを攻撃すれば、スカリエッティは制約破棄と見な
して、必ず報復に出るはずだ』
 そうなってしまえば、管理局は崩壊し、多次元世界における全ての秩序は失
われてしまう。
「秩序か……一つの組織が作り上げた秩序を守るために、巨悪を見逃せと?」
『前例がないわけじゃない。君だって、君やフェイトだってそうだったはずだ。
大小の差はあれ、君たちだって管理局に生かされた身だ。その大恩に対する誠
意はないのか?』
 押しつけがましい物言いであるが、事実であるからはやては反論しなかった。
変わりに口にしたのは、全く違うことだった。

163ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:49:12 ID:7VB50UuY
「クロノ、私たちは、機動六課は前進を止めない。止めたければ実力行使しか
ない。撃てるか、私やフェイトちゃんの乗るこの船を」
『……最悪の場合、エンジンを止める程度の攻撃は許可するつもりだ』
「私たちは、そちらの艦隊を撃破する勢いで攻撃を行う」
『なっ!? 正気なのか、君は』
 はやての瞳が、彼女の言葉が単なる脅し文句でないことを物語っていた。
「クロノ、アンタに出来る選択は三つ。このまま私たちと戦うか、それもと戦
わずに帰るか……そして、私たちに協力して共にスカリエッティを討つか」
『馬鹿な、管理局を裏切るような真似、出来るわけがない』
「無理にとは言わへん。アンタには家族もおるしな、すまん、今のは忘れてく
れ」
 どちらにせよ、はやてと友人付き合いがあり、フェイトの義兄という立場上、
クロノの身辺に影響がないわけはなかった。この時点で十分迷惑は掛けている
し、これ以上を望むのは罰が当たるだろう。
『そこまで決意が固いなら、仕方ない。実力行使を持って君たちを止めさせて
貰う』
「説得失敗、か?」
『君たちを反逆者にするわけにはいかない。力ずくで連れ戻す――』
 クロノが部下に対して威嚇砲撃を命じようとしたときだった。アースラの前
方から、強烈な光条が伸びてきた。光はアースラを通り過ぎると、クロノ艦隊
の艦艇の一つに着弾、これを一撃の下に撃沈させた。
『な、なんだ!?』
 驚いたのは、クロノだけではない。はやてやフェイトも、正面からの砲撃に
驚いていた。まさか、スカリエッティが先手を打ってきたのか?
「あれは……!」
 フェイトが息を呑んだ。アースラの正面、前方を駆け抜けるように、一体の
レプリロイドが迫ってきていたのだ。バスターを乱射し、俺の獲物に手を出す
な、と言わんばかりの勢いでクロノ艦隊に砲撃を加えている。
 クロノは思いも寄らぬ敵襲を前に、艦隊を急速後退させた。オメガもスカリ
エッティの仲間であるからして、応戦することを避けたのである。
「どうしてオメガが」
 アルトセイムでの戦闘には姿を見せなかった最大の敵が、アースラへと迫り
つつあった。敵襲の警報にゼロも艦橋に駆けつけるが、彼もまさかオメガが単
騎で攻め込んでくるとは思っていなかったようである。
「スカリエッティはどうやら、オメガを制御し切れていないようだな」
 仲間などと称してはいたが、オメガにそういったものが期待できるとは思え
ない。単に利害が一致しただけの関係だろう。そしてオメガは、自らの利益を、
その内に燃え上がらせる破壊衝動を満たすためにここへ現れた。
 即ち、ゼロを倒すために。

164ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:50:59 ID:7VB50UuY
「オレが行く。オメガと戦えるのは、オレだけだ」
 ゼロはそういうと、すぐに出撃しようとしたが、フェイトがそれを止めた。
「待って、ゼロ。貴方が今すべきことはオメガと戦うことじゃなくて、シエル
さんを助け出すことのはず」
「だが、オメガは見逃してくれない。ここで奴と戦って勝たなければ、先には
進めない」
 その通りであるが、勝てなかった場合はどうするのか。フェイトはその不安
を口にすることが出来なかったが、助け船は信じられない方角からやって来た。
「フェイトちゃんの言う通りや。自分が今すべきことはなにか、人はそれを見
極めて行動するべき。差し当たって、お前さんのすることは彼女を助けること
であって、あいつと戦うことじゃない」
「では、どうするつもりだ?」
 ゼロの問いかけに、はやては大きくため息を付いた。そして、ゆったりとし
た動作で指揮座から立ち上がると、ハッキリとした口調でこのように言った。

「私が、出る」





 クロノ艦隊を蹴散らしたオメガであるが、彼の目的であるゼロが一向に姿を
見せないことに苛立ちを憶えていた。奴はどこだ、まさか、臆して逃げたとで
も言うのか。
 オメガはアースラへとバスターの標準を向けた。出てこないなら、引きずり
出すまでである。もっとも、威力によっては艦艇ごと吹き飛ばしてしまうこと
になるが、それも仕方がないだろう。残骸の欠片でも持って帰り、それを首の
変わりとすればいい。
「っ――!?」
 チャージバスターを放とうとしたオメガを、魔力光が襲った。アースラから
放たれたそれは、強力なパワーを持ってオメガに迫り、その身体を弾き飛ばす。
オメガはバスターでそれを迎撃するも、それと同時に膨大な魔力の塊がアース
ラを飛び出してきた。魔力の光は、一直線にオメガへと向かってくる。
「なんだ、貴様は……」
 一人の女が、オメガの中空に浮かんでいた。白い帽子が特徴的なバリアジャ
ケットを着込み、黄金に輝く手羽椅子を手に、気高いまでの表情でオメガを見
下ろしている。

「救世主を称する者よ、お前の相手はこの私が……機動六課総隊長、夜天の王
八神はやてがしてやろう」

                                つづく

165ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/08(日) 01:54:11 ID:7VB50UuY
第20話です。
いやはやなんともはや、現在メインマシンが絶不調でなにやっても動作が重く、
思いのほか時間が掛かってしまいました。
それに、かなり急ピッチで書いたので粗が目立ちますね。後で修正しておきます。
話の内容としては、まあ、一度戦わせてみたかった。そういう展開です。
どちらが勝つにせよ、ある意味では最強と最強の激突でしょうし。

それでは、感想等ありましたら、よろしくお願いします。

あ、それと近々放置しっぱなしの同人スレでちょっとした発表します。

166魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 02:03:48 ID:n/8cBlEU
GJ!

167魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 02:11:11 ID:twjAm/dA
GJJJJJ!!!!
復帰おめでとうございます!

ヤバいwwwきれいなオメガwww
フラグは立ってたけど、犯ってるうちにマジボレしちゃったかwww
シエルとのやりとりがアルエットを彷彿とさせて微笑ましい気分になりました>ルーテシア
ミッドチルダの最強とゼロ世界の最強、これはwktkせざるを得ない(
続きも全裸で待ってます( お疲れ様でした!!

168魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 10:25:00 ID:iiC.hIhY
GJ!!
なんだがゼロといいオメガといい、ほとんど人間ですよね……。ワイリーが製作したとは思えない。

それはさておき、確かに原作中最高ランクを持つはやてとオメガの戦いはなかなか燃えそうですね。楽しみです。
ただ、近接戦闘能力がほぼ皆無なはやてがオメガを相手できるか疑問ですけどね……。

169魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 11:21:00 ID:KoNuQV1E
はやての口調が気持ち悪い…単に受け取り方の問題なだろうけど

しかしなぜ誰もラストの手羽椅子に突っ込まんのだ

170魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 12:32:31 ID:Ljd7Ys5w
いまさらですが漢魂でケース6がありませんが抜けてるのでしょうか?
それとも数え間違い?

171R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/08(日) 12:39:11 ID:TrML9QR.
>>170
やってしもたorz
修正しました

まとめへの素早い移行をして下さった方、本当にありがとうございました
両作品とも幾つか細かい箇所を手直ししましたので御理解を

172魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 17:27:01 ID:cyPQNd4k
最近ゲッター調べたんだけど、
予想以上に凄かった。
エンペラーとか時空天とか。

173魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 19:01:37 ID:cE2g.E96
時天空でなく?

174魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 19:27:47 ID:idsXaMf2
そっちは虚無戦記じゃね?いやまぁ限りなく近い世界だけど…

175リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/08(日) 19:30:49 ID:KTOVkU2A
ものっそい久し振りですが20:30くらいから投下したいと思います。
覚えてる人いるかな……

176魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 19:44:32 ID:KHvVuKi6
最終目標が「宇宙を喰う化け物を倒すための最凶の兵器を作る」だからなぁ
ゲッター、魔獣、神の軍団、ラ=グース、ヤクザ、etc...
「宇宙を喰う化け物」なんてラノベあたりじゃポピュラーなのかもしれないけど、説得力のある絵で表現してしまうのが石川作品の魅力

177魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 20:02:59 ID:NRON5YQ6
>>173
間違えました。

178魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 20:15:57 ID:Gq57Izv2
>>175
TRIGUNの人キター!
もしかして映画化記念!?

179リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/08(日) 20:29:35 ID:Xo2H8Eqw
それでは投下します

180リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/08(日) 20:31:29 ID:Xo2H8Eqw
「この、どアホ――――!!!」

 平日夕方の公園に、大きな、それはそれは大きな声が響き渡った。
 至る所に広がり遊戯に勤しんでいた子供達は手を止め、一斉に声のした方へ、その視線を向ける。
 ある子供は畏怖、ある子供は驚愕を、それぞれの瞳に宿していた。

「どうしてアンタはいつもいつもいつもいつも! そうなのよ――――!!」

 視線の中心にて、アリサはただ叫んでいた。
 自身の内に沸き立つ感情をそのままに、口から吐き出す。
 その発声と共にビリビリと震撼する公園中の空気。
 周囲を囲む子供達にはそのアリサの姿が、憤怒に満ちた鬼のように錯覚して見えた。

「あ、あの、アリサちゃん……」
「すずかは黙ってて!」
「は、はい……」
「もう頭きた! アンタ等は本当に学ばないんだから!!」

 その怒りの矛先には二人の人間がいた。
 一人は茶色の髪を二つに結んだ少女。
 一人はド派手な金髪を箒のように逆立てた青年。
 そのどちらもが茫然とした様子で、怒りに声を震わすアリサの事を見詰めている。

「え……あの……私、何かしちゃったかな……? アリサちゃんを怒らせるような事……」
「現在進行形でやってるわ! それに『私』じゃなくて『私達』! あんたもよ、ヴァッシュ!!」
「え、僕も!?」
「そうよ!! てかメインはアンタよ!!」
「ええ!? ぼ、僕何かしたっけ? あんま記憶にないんですけど……」

 自身の半分にも満たない背丈の少女に怒鳴られ、青年は慌てたような表情を浮かべる。
 それはその横に立っている茶髪の少女もしかり。
 互いに困惑を浮かべ、ついには顔を見合わせ首を捻る。

「わ、私達、何かやっちゃったみたいですよ、ヴァッシュさん……」
「ぼ、僕達、何をやっちゃったんだろうね、なのはさん……」

 二人―――なのはとヴァッシュは顔を近付け、ひそひそ言葉を交わす。
 そんな二人に、アリサの怒りは順調にボルテージを上げていく。
 それはもう完璧に、もはや後ろの大気が「ぐにゃ〜」と歪んで見える程に、アリサは怒っていた。
 すぅ、と大きく深く息を吸い込むアリサ。
 それは咆哮を吐き出す為の予備動作。
 飛んでくるだろう怒声を予見した二人は、ビクリと身体を強張らせ、身構える。

「……ねえ、私達は友達だよね」

 ―――だが、次の瞬間にアリサの口から漏れた言葉は、予想外にも穏やかなものであった。
 その言葉にヴァッシュとなのはは目を見開き、そして沈痛な表情を浮かべて視線を逸らす。
 ただの一言だけであったが、理解できてしまったからだ。
 何故アリサがこんなにも怒りを抱いているのか、その理由を。

「何かおかしいよ、二人とも……フェイトが学校を休み始めたあの日からずっと……何か隠してる……」

 ポツリポツリと落とされていく声に、二人は返す言葉を持てなかった。
 ただ俯き、唇を噛み締め、その悲しみに染まった声に耳を傾ける。

「分かってる……友達にだって言えない事があるのは分かってる……なのはには前も同じような事があったもん……」
「アリサちゃん……」
「でも……でも全部を自分達だけで背負い込まないでよ……私は嫌だよ……そんな辛そうな二人を見るのは……」
「アリサ……」

 ふと見れば、その両の瞳には薄い水膜が浮かび上がっていた。
 だが二人にその涙を止める術はなく……アリサの言葉を黙って受け止める事しかできない。
 心内に浮かぶ感情を抑圧するかのように、なのはの手が握り締められる。
 それはヴァッシュも同様。アリサを見詰めながら、その両手を握り締める。
 そうして四人の間に流れ出す静寂。
 それは、気まずさではなく、虚無感が詰め込まれた静寂であった。
 静寂は数秒、数十秒と続いていく。

181リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/08(日) 20:32:21 ID:Xo2H8Eqw
「……ごめんね、アリサちゃん……」

 ポツリと言葉をこぼし、その静寂を破ったのは高町なのは。
 心を蝕む痛みにただ顔を歪めて、震えた声で謝罪を紡ぐ。

「アリサちゃんが怒る理由も分かるよ……私、半年前から何も成長してなかった……」
「そ、そんな事は……!」
「ううん、本当にそう思う。だから私はこんなにも後悔してるんだと思う……でも―――」

 そこで言葉を区切ると、なのは小さく息を吸い込んだ。
 僅かな間であったが、それはまるでなのはの迷いが表に現れたかのようだった。
 ほんの一秒程の躊躇いの後、なのはははっきりと告げた。

「―――今は……話すことができないの……ごめんね、アリサちゃん……」

 吐き出してしまいたかった。
 心の中でせき止められている感情と秘密とを、一息に全て吐き出したかった。
 だが、今はまだ駄目だ。この秘密を暴露する訳にはいかない。
 一時の感情に任せ、時空管理局の存在を教える訳にはいかない。
 それが、魔導師という道を選択した自分に課せられた義務だ。

「本当にごめんね……」
「な、何でなのはが謝るのよ! 無理を言ってるのは明らかに私だし……なのはが謝る必要はないのよ!
 ……こっちこそごめんね……なのはの気持ちも知らずに怒っちゃって……」

 そして再び流れ出す静寂。
 今回は虚無感だけでなく気まずさも混ぜられているその静寂に、誰もが押し黙っていた。
 見物客であった子供達も、今はもう興味をなくしたのか、それぞれの遊戯に専念している。
 その賑やかな、楽しそうな声とは真逆の空気が、四人を包み込み、圧迫していた。

「……あー……ま、まあ、アリサももそんなに深く考えないでさ! 確かに僕達は二人に言えない秘密を持ってるけど、心配はいらないよ! だから大丈夫だって!」

 その辛気くさい空気を嫌ったのか、ヴァッシュが、わざとらしい程に元気の込められた声を張り上げる。
 普段通りの笑顔を浮かべながら、今にも涙を零しそうなアリサとなのはに近付き、その頭に手を置いた。

「それに今は言えないけど、何時かは絶対に話すよ。
 その日が何時になるかは分からない……だけど、なのはも僕も、絶対に全てを打ち明ける。絶対にだ」

 腰を落とし顔の高さを合わせ、ヴァッシュはアリサと正面から顔を突き付け合う。
 そして、優しさに満ちた笑顔を張り付かせ、ヴァッシュはアリサへと言葉を掛けた。

「だって僕達は友達だろ? ね、なのは」
「……うん、私も約束する。何時かは絶対に教える。アリサちゃんとすずかちゃんに、全てを話す。
 だから……そんな悲しそうな顔しないで? アリサちゃんはもっと明るい顔の方が似合ってるよ」

 微笑みは、伝染する。
 弱々しくもヴァッシュが浮かべたその微笑みは、なのはへと移り、そして遂にはアリサにも、すずかにも広まっていく。
 満面の―――、とまでは言い難いが、四人の表情に笑顔が戻っていた。

「フフ、もう分かったわよ! ……でも、今度また二人でウジウジと無理して背負い込んでたら許さないからね!
 辛い時は素直に辛いって言う! 理由は話せなくても、それくらいは出来るでしょ?」
「そうだよ。詳しくは聞かない……でも、一人で抱える事はないんだから。
 ほんの少しだけでも二人を助けられるのなら、それだけで良いんだから」

 そう告げるアリサとすずかに対して、二人は肯首と笑顔を持って返答した。
 時間の経過に伴い、空は茜色に移り変わっており、見渡せば公園を埋め尽くしていた子供達も、その殆どが姿を消していた。
 夕焼け空の下で笑い合う、三人の少女と一人の青年。
 その心の底に眠る悩みは寸分も変化なく、ただそれぞれに乗し掛かる心労だけは幾ばくかの減衰を見せた。
 現状は何ら変わる事はない。
 ただ今この瞬間だけは、ヴァッシュとなのは、二人共に過酷な現実を忘れていた。
 こんな自分を心配してくれる親友達の姿が、二人の心に一時の休養を与えていた。

182リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/08(日) 20:33:10 ID:Xo2H8Eqw
□ ■ □ ■



「いやー、二人は良い子だよ、ホント。なのはも良い友達を持ったねえ」

 そして、それから十数分後の海鳴市。
 ヴァッシュとなのはの二人は、肩を並べて家路を歩いていた。
 冬季真っ盛りという事もあってか、夕焼け空は既に空の端へと追いやられている。
 空を漆黒と数多の星達が占領し始めていた。

「そうですね……」
「何かさっそく、元気ないね。またアリサに怒られちゃうよ?」
「それは……分かっているんですけど……」

 明るく振る舞うヴァッシュとは対照的に、なのはの表情は重い。
 アリサとの一件があったとはいえ、元来の責任感の強さが影響し、その表情を陰鬱なものへと固定していた。
 そんななのはの心境に気付いているのだろうか、ヴァッシュはただ笑顔を向ける。
 満面の、普段通りの微笑み。
 その微笑みを、ただなのはへと向けていた。

「大丈夫だって、フェイトもクロノも大した事ないって、リンディも言ってたし」

 そうして告げられた励ましの言葉も、なのはの表情を和らげるには至らない。
 ひたすら暗雲立ち込めるなのはに、ヴァッシュは思わず白色の溜め息を吐く。
 それは勿論、なのはには聞こえないように小さい物。
 直ぐさま空中に霧散し、溶け込んでいった。

「……それと言って置くけど、フェイトやクロノの事は全部僕の責任だ。なのはが責任を感じる事はないよ。
 なのはは指示通りにあの子を抑え込んでいた。ミスをしたの僕の方さ。……アンノウンの出現に対応しきれなかった。
 僕が上手く動いてればクロノもフェイトも無事で済んだ筈だ。全部……僕の責任さ」

 もう夜も近いというのに、世界は面白い程に明るかった。
 一定間隔に設置された街灯や、それぞれの家庭からの溢れ出る光が、暗闇をかき消している。
 こんなに明るい夜など、彼の世界では考えられないものであった。
 そう、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの世界では有り得ない光景が、そこには広がっていた。
 前方を見詰めるヴァッシュの瞳が僅かに細められる。

「……ヴァッシュさん」
「ん、どしたの?」
「―――二度とそんなこと言わないで下さい。怒りますよ?」
「え?」

 前方に固定されていた視線が、思わず傍らの少女の方へと移動していた。
 そこには静かな、だが確固たる怒りを瞳に宿し、コチラを睨む少女の姿。
 その怒りにヴァッシュは笑顔を引き吊らせる。

「クロノ君が撃墜されたのも、フェイトちゃんのリンカーコアが奪われたのも、ヴァッシュさんだけのせいじゃありません。
 そうやって一人で全部背負い込むのは止めようって、ついさっき言ったばかりじゃありませんか」

 なのはの言葉を聞き、その怒りの理由がヴァッシュにも理解できた。
 要するに先のアリサと同じだ。
 全ての事象を自分の責任と告げた事に、腹を立てている。
 つくづく似ているな―――と、ヴァッシュは知らずの内に頬を緩ませていた。

「何で笑ってるんですか……」
「いやあ、つくづく似てるなと思ってさ。君と、すずかと、アリサはさ」
「似てる? 私とアリサちゃん達が?」
「そうさ、自分の事ではなかなか怒らないくせに、他人の事になると本気で怒る。ホントそっくりだよ」
「…………」
「それとフェイト達の事を一人で背負い込もうとしてるのは、なのはも同じだろ?」
「う……それは……」
「だから、アリサに怒られたし、今も辛そうな顔をしてる。でもさ、今は少なくとも束の間の日常を満喫しなくちゃ。
 フェイトもクロノもあと一週間もすれば完治するって言ってたし、塞ぎ込むほど悩まなくても大丈夫だって」
「で、でも……」
「親友が二人も傷ついたんだ、心配するのは当然さ。でもね、もうあの戦いから三日だよ? そんな引きずっちゃダメダメ。そろそろ皆に明るい顔見せてあげなよ」

 言い切ると同時にヴァッシュは一歩大きく踏み出し、クルリと振り返る。
 やはりと言うべきか、その顔に笑顔を宿したまま、ヴァッシュはなのはと顔を合わせた。
 そして月夜へと右手を突き上げ、強く握り込む。

「ね?」
「……はい」

 ヴァッシュの笑顔に、首を縦に振って答えるなのは。
 ヴァッシュは微笑みをより一層に深め、その頭に右手を乗せる。
 その右手から伝わる温もりに、なのはは恥ずかしげに顔を赤らめ、俯いた。

「じゃ、帰ろうか。晩御飯作って士郎さん達が待ってるよ」
「は、はい」

 そうして振り返り、ヴァッシュは無人の市街地を歩行し始める。
 その背中を、なのはは一秒、二秒と立ち止まったまま、ジッと見詰めていた。
 胸中に、遂に言い出す事のできなかった疑問を抱いたまま、その背中を見詰める。

183リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/08(日) 20:35:13 ID:Xo2H8Eqw
 なのはは気付いていた。
 ヴァッシュは何かに苦悩している。
 フェイトやクロノの事とはまた別の何かに、悩んでる。
 時折見せる深刻な表情が、その事実を如実に語っていた。
 その表情は、今まで見せたどんな苦悩の顔とも別種のものであった。

 高町家に留まる事を決意したあの時とも―――、
 この世界に留まる事を決意したあの時とも―――、
 戦いの世界に踏み出す事を決意したあの時とも―――、

 ―――まるで違う。

 あの戦闘から覗かせるようになったヴァッシュの顔は、この二カ月で一度も見せた事のない種類のもの。
 何か……自分が預かり知らぬ深い深い何か。
 その表情から垣間見える感情は、迷いだけではなかった。
 言うなれば―――覚悟。
 もう何年も前から決意していたかのような、表情。
 何時も浮かべてる笑顔とはまるで違う、自分の知らないヴァッシュさんが、そこには居た。
 聞きたかった。何を悩んでいるのか……、と一言問い掛けたかった。
 でも、たった数秒で吐露し終えるだろう短い疑問を口に出す出す事が、自分には出来なかった。
 多分、自分は怖かったのだ。
 この疑問を口にしたら、今の平穏な生活が崩壊してしまうような、そんな気がしたのだ。
 この疑問を口にしたら、自分の知るヴァッシュが消失してしまうような―――そんな気がしたのだ。
 だから、疑問をくすぶらせている。
 告白できない疑問に、胸を焼け付かせている―――



「なーーーのーーーはーーー? 置いてっちまうぞーーー」

 気付けばヴァッシュは、ずっと遠方を歩いていた。
 手を大きく振り回しながら、ずっと立ち止まっていたなのはを呼び寄せる。
 そんなヴァッシュに、なのはの葛藤は更に巨大な存在へと変貌していく。
 その葛藤はフェイト達の事と相成り、なのはの笑顔を弱々しいものへと押し込んでしまう。
 そう、なのはの悩みもまた一つではなかったのだ。
 ヴァッシュについて、フェイト達について、そして闇の書……三つの難問がこの数日間、なのはを苦しめて、落ち込ませる。
 それは、取り柄の一つとも云える元気を喪失させる程に。

「お、到着」

 と、なのはが我を取り戻したその時には、何時も通りの我が家に辿り着いていた。
 鼻腔を擽るは夕食の香り。
 結局、明確な解答が思い浮かぶ事はなかった。
 この数日、幾度となく繰り返された堂々巡りを本日も行ったのみ。
 思わずなのはの口から溜め息が零れた。

「ああ! 忘れてた!!」

 その傍らで唐突に大声を挙げる男が一人。勿論、ヴァッシュ・ザ・スタンピードだ。
 わざとらしい程に大袈裟なリアクションを見せたヴァッシュは、焦燥の様子でなのはの方を見る。
 焦りの視線と、戸惑いの視線が、二人の間で激突した。

「ど、どうしたんですか?」
「いや、今日はリンディに話があったんだ。義手に備え付けられてる通信機の事でさ。……確か今日には管理局から戻ってくる予定だったよね?」
「確かそうですけど……今日中にしなくちゃいけない話なんですか?」
「うん、ちょっとね。守護騎士さん達もいつ現れるか分かんないしさ、準備は万端にしておきたいんだ」
「それはそうですけど……」
「まぁ出来るだけ早く戻ってくるからさ。士郎さん達にもそう伝えておいてよ」
「……分かりましたよ。お父さん達には適当に言い訳して置きますから」
「あ、あと夕ご飯残しておいてね。帰ってきてから頂くから」
「フフッ……分かりましたよ」
「んじゃ、宜しく頼むよ、なのは!」

 喋るだけ喋ったヴァッシュはそのまま、走り去っていった。
 その背中を見詰めて、なのはは再び溜め息を吐く。
 悶々とした思考を纏い付かせたまま、団欒の我が家へと入っていった。



□ ■ □ ■



「はぁ……結局言えず終いか……」

 そして一人となったヴァッシュ。
 ヴァッシュは高町家の門前から、直ぐ近所にある臨時本部へと移動していた。
 その足取りは重く、また先程までの笑顔は何処かに消え去っていた。
 身体を覆い尽くす寒気に身体を丸めて抵抗しながら、ヴァッシュは夜の海鳴市を孤独に歩いていく。

184リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/08(日) 20:36:05 ID:Xo2H8Eqw
「……ホントどうすれば良いんだろうなぁ……」

 高町なのは同様に、ヴァッシュもまた悩んでいた。
 だが、その悩みの種はなのはの物とはまるで違う。
 先の戦闘で遭遇した、兄弟であり、同朋であり、そして宿敵である男。
 人類の滅亡を目的とし、あの砂の惑星で暴虐を続けていた男。
 その男の存在が、ヴァッシュを悩ませ続けていた。
 何故、この世界に奴が居るのか。
 何故、奴が闇の書の守護騎士達と共闘しているのか。
 その何もかもが、ヴァッシュには分からない。
 分からないからこそ、それは苦悩となりその心を容赦なく責め立てる。

(……このまま秘密にしておく……ってのも流石に無理があるし……)

 ヴァッシュがリンディの元を訪ねる本当の理由は、まさにこの問題に関してであった。
 ナイブズが守護騎士達と行動していた以上、管理局と相対する関係になるのは必至だ。
 何の情報もなくナイブズと戦闘する事は、如何に人間離れした能力を持つ魔導師達であっても自殺行為でしかない。
 そして、奴の力、異常性を知る者はこの世界でただ一人……自分のみ。
 自分が伝えなくては、管理局がナイブズの情報を入手する事は難しい。
 入手できたとしても、相応の犠牲は付き纏う筈だ。
 つまりは―――死ぬ。なのはが、フェイトが、クロノが、ユーノが、アルフが……死ぬ。
 それは、それだけは許せない。許す事ができない。
 なら、伝えるしかない。そう、伝えるしかない筈なのだが―――

(―――でも、ダメだ……それじゃあ何の関係もない彼等を巻き込む事になる……俺達の因縁に……)

 だが、情報の伝達もまた、結果として彼等の首を絞める事に繋がりかねない。
 この世には知らない方が良い厄ネタがごまんとある。ナイブズに関するネタなど、その最たるものだ。
 ナイブズの脅威を知った管理局が、彼を放置しておく訳がない。
 今はまだ守護騎士の一員と認識されてるだけの男を、完全な敵害対象と捉えてしまうかもしれない。
 話に聞いただけだが、管理局の戦力もまた相当なもの。
 そう簡単に壊滅するとは思えないが……やはりナイブズは底が知れない。
 万が一の事態が起こる可能性も大いに有る。
 それこそ次元すら超越した争乱に発展する事だって有り得る筈だ。
 それは許せない。
 そんな事が良い訳が―――ない。

(……どうすれば……良い……)

 気付けばヴァッシュは宛もなく市街地を放浪していた。
 定まらない指針に同調する足取りが、目的地への到着を良しとしない。
 フラフラと本来の道から逸れ、今まで辿った事のない道へと身体を誘う。
 煌びやかなネオンに照らされる市街地に、夜間だというのに賑やかな人々。
 そんな光景を視界では捉えど知覚はせず。
 ここは何処なのか―――と、脳裏の片隅で考えながらも、両の脚は歩みを止めない。
 自我から切り離されたかのように、勝手気ままな道を選択し続ける。
 そして―――



 ドンガラガッシャーーーン!!



 ―――見事に通行人と衝突した。

「きゃあっ!」
「うべあっ!」

 か細い叫び声と共に地面へと転がる通行人に、これまた見事に地面とのキスを行ったヴァッシュ。
 眼前に現れた障害物に人波は器用な対応を見せ、転んだ二人を上手い具合に回避していく。
 人々が形成した波の渦中にて、ヴァッシュは痛みを押し殺し、物凄いスピードで立ち上がった。

185リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/08(日) 20:36:40 ID:Xo2H8Eqw
「す、すみませんでしたぁ! ケガは、ケガはないですか!?」

 自身の鼻から滴る鮮血を完全にシカトし、倒れた通行人―――その姿はまだ年端もいかない少女だった―――を抱きかかえるヴァッシュ。
 その周辺に散らばる品々を見る限り、買い物帰りか。
 ヴァッシュは物凄い慌てっぷり少女の容態を確認した。

「イテテ……」
「ご、ごめん! 大丈夫かい?」
「だ、大丈夫ですよ。少し顔ぶつけただけですし……」
「顔!? ちょっと見せて! もし傷が残るようだったら……」
「ほ、本当に大丈夫やて! 前を確認してなかった私達も悪いんやから」

 大慌てするヴァッシュに対し、少女は見た目とは不相応な、落ち着いた対応を見せた。
 少し擦りむいたでこを抑え、朗らかな笑顔を浮かべて、大袈裟に騒ぐヴァッシュを制止する。
 容姿からして、おそらくなのはと同年代か。
 透き通るような茶色のショートヘアーと、訛りの含まれた口調が特徴的であった。
 少女は、ヴァッシュの謝罪を一頻り聞いた後で、その後方へと振り向く。

「もうヴィータもしっかり前見なアカンよ。車椅子やからって皆が皆避けてくれる訳やないんやから」

 少女の直ぐ後方には二人の男女が立っていた。
 彼等の表情に移る感情は奇妙にも驚愕。
 両者ともに目を見開き、倒れる少女……ではなく少女を抱えるヴァッシュへと視線を向けていた。
 少女の言葉により連れ添いの存在を知ったヴァッシュが、顔を上げる。

 そして、見た。

 連れ添い人達の姿を。

 そして、止まった。

 連れ添い人達の姿を認識すると同時に。


「―――え?」


 そして、紡いだ。

 驚愕に満ち満ちた言葉を。

 そこに居たのは、将に―――


「ナイ……ブズ……?」
「ヴァッシュ……か」


 ―――彼の苦悩の根源である男……ミリオンズ・ナイブズの、その姿だった。



 それは彼等の運命を分ける出会い。



 この出会いを境に、彼等の境遇は更なる深遠へと転がり落ちていく事となる。



 運命の歯車は急速に加速していく―――

186リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/08(日) 20:39:12 ID:Xo2H8Eqw
これにて投下終了です。
タイトルは「それは運命の出会いなの・前編」でお願いします

187136:2009/11/08(日) 22:32:19 ID:n/8cBlEU
リリカルTRIGUN氏GJです。トライガンssは数少ないので定期的にチェックさせてもらっていますw

>>171 R-TYPE Λ氏
『漢汁』追加は氏の手直しだったのですね、戻してすみませんでしたorz
その他にも編集初めてでしたので、チェック漏れなどお手数おかけしましたorz orz

188魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 22:50:07 ID:n/8cBlEU
>>186 リリカルTRIGUN氏
すみません、ページタイトルを「リリカルTRIGUN13話前編」としてしましました。
リンク名は修正可能でしたが、ページ名だけは修正不能でした。

189魔法少女リリカル名無し:2009/11/08(日) 23:44:03 ID:2rduVsLY
リリカルTRIGUNの人乙です。
更新を首を長くして待っておりました!!

って、ここでナイヴスと接触しちゃうんですか?!
今後の展開がwktkです!!

190ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/11/09(月) 02:33:07 ID:BWQCDciQ
昨日投下したものの後半部分が気に入らなかったので、保管庫の方を大修正しました。
やっぱりやっつけはダメですね。

191リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/09(月) 19:10:21 ID:5BtNA1mU
>>188
手早い編集ありがとうございました。
ページ名はまぁ別段気にするような事じゃありませんので、このままでも全然おkですよー
あとタイトルを変更した事を報告しておきます

192魔法少女リリカル名無し:2009/11/09(月) 19:31:43 ID:JxOCerA6
>>190
おお、乙です。
20話b、311行目の二回目のスカリエッティは、もしかしてオメガの間違いですか。
あの二人……あの子達ですね。お忙しそうですが、あれの続きずっと待ってます。いつまでも待ってます。
オメガのいう売女って……ああやっぱりそうなのか……

193シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 22:36:31 ID:l1G8vKfM
大学受験生が通りま〜す!
本当ならまだ5ヶ月間の休載中なのですが、自分のページのアクセスカウンタが2万を回ったので、〝祝〟ってことで2330時頃からマクロスなのはの第11話を投下したいと思います。
・・・え?口実だって?気にしない気にしない(笑)

194シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:27:00 ID:l1G8vKfM
じゃそろそろ時間になったので投下します。

195シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:29:14 ID:l1G8vKfM

マクロスなのは第11話『地上部隊は誰がために・・・』

周囲は至って静か。バルキリーから出るエンジン音しかしない。
現在VF−25はミッドチルダ領空の海上を飛行しているが、アルトはくまなく周囲を警戒し、レーダーに
気を配っている。そう、ここは敵陣のまっただ中だからだ。
刹那、曇り空の1点が小さく光る。アルトは即座に操縦桿を倒しロール。続いてバルキリーを急旋回さ
せる。
すると同時に青白い光の束が襲い、VF−25のベントラルフィン(垂直尾翼の一種で機体下方に斜めに
突き出した小さな整流板)に当たって、転換装甲のキャパシティを削った。
魔力砲撃は2発、3発と続くが、位置の割れた砲撃など避けるのは容易い。
不意討ちに失敗した敵が降下してくる。どうやら敵機はVF−1『バルキリー』のようだ。
バルキリーは第25未確認世界では初代量産型人型可変戦闘機として有名である。しかし、目の前の機
体は細部が異なる。随所にVF−25の技術転用が認められ、エンジンも熱核タービンから最新の熱核バ
ーストエンジン(ステージⅡ熱核タービン)になっている。
また、第3世代型エネルギー転換装甲への全換装により純正の機体重量より40%軽くなり、その軽い機
体に熱核バーストエンジンという強力な心臓を持たせたため、VF−25から3世代ほど離れたロートルに
もかかわらず、その動きは俊敏だった。
VF−1は高度の優位のためか悠々とこちらを牽制しながら近づいてくる。
しかしアルトはそうはいかない。敵機はVFー1だけでなく、他にもどこにいるかわからない。
アルトは可変を駆使して加速と減速を繰り返し、ロックをかわし続けた。そして頃合いを見計らうと、機体周
囲にハイマニューバ誘導弾を生成する。
「メサイア、誘導を頼む。」
「Yes sir.」
対する敵もパイロンに懸架された箱型ミサイルランチャーから魔力推進型のマイクロハイマニューバミ
サイルを一斉に放った。
アルトはスラストレバーを一杯まで上げて一目散に海面に向かう。
ミサイル達にはアフターバーナーを焚いたVF−25がよほどおいしい獲物に見えるようだ。一直線に向
かってくる。
VF−25は海面ギリギリまでミサイルを引き付けると、ガウォークに緊急可変。足を振りだし機体がへし
折れるのではないかという機動で海面への激突を回避した。
しかし、ハイマニューバミサイルもノズル基部に追加展開された偏向・集束バインド(環状魔法陣)を駆使
して推力偏向。海面スレスレで急旋回する。だが、彼らの目の前にあったのはVF−25ではなく水の壁だ
った。
実はアルトはミサイルの追尾性能を看破、ガンポッドで海面を掃射していたのだ。
しかし、通常その程度で起爆するハイマニューバミサイルではない。
・・・はずだった。
だがミサイル達は、重力の加速によりただの水を鉄板と間違えるほどの速度に達していた。
水の雫が信管に当たり、搭載AIは衝撃からそれを鉄板と誤認。内包する力を解放していった。

196シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:31:00 ID:l1G8vKfM

(*)

アルトは次々誘爆するミサイルを横目に、VF−1を流し見る。
どうやら敵機はこちらのハイマニューバ誘導弾に、バトロイドに可変して全火器で迎撃する積極的迎撃を
選んだようだ。
頭部対空レーザー砲とガンポッドから魔力砲撃の筋が伸び、誘導弾が墜ちていく。
しかしバトロイドでは出力の関係で高度を維持できないため、徐々に降下してくる。
アルトはこの機を逃すまいとファイターに可変。一気に距離を詰める。
だが突然、背中に悪寒が襲った。アルトは今までの経験からこれは本物だと感じ、反射に近い速さでバル
キリーの足だけを展開、エンジンを吹かして横に跳ぶ。
すると案の定、今までいた位置にこれまた青白い光に包まれた〝砲弾〟がすり抜けていった。しかし上か
らではない。下、つまり海中からの砲撃らしかった。
だが目の前の敵機に背を向けるわけにはいかない。アルトは魔力推進へと全換装された高機動スラスター
で機体を上下左右にランダムに振る。
現在VF−25のOT『ISC(イナーシャ・ストア・コンバータ。慣性エネルギーを時空エネルギーに還元蓄積、
これによりパイロットにかかる重力加速度を最大27.5Gまでを一定時間無力化する。)』とEXギアシステム、
そしてミッドチルダ由来の重力制御装置(デバイスに内蔵。この場ではパイロットにかかる重力加速度の相
殺に使用する。)によってVF−25は一定時間ならば、無人機レベルの機動が可能となっていた。
そんなゴーストもびっくりな機動で、続く第2、第3射を回避しながらVF−1に肉薄する。
そのうち友軍への誤射を恐れたのか、狙撃が止んだ。
目の前のVF−1も覚悟を決めたようだ。そのままバトロイドでこちらに突撃してくる。
「面白い、いいだろう。」
アルトは呟くと自身もバトロイドに可変、左腕に装備された防弾シールドからアサルトナイフの柄を抜き放ち
突撃する。
勝負は一瞬で決した。
VF−1はVF−11の『GU−15 30mm多目的ガンポッド』を元にしたガンポッドから魔力刃の銃剣を生成し
突撃してくる。しかしアルトは突き出された敵のガンポッドを、紙一重で左腕の防弾シールドによって上に受
け流す。
そして無防備となったコックピットのある胴体を斬りつけた。魔力刃となっているアサルトナイフは、確実に
相手の戦闘力を奪い、無力化した。
友軍機が撃墜されたため海中からの狙撃が再開された。しかしアルトはそれらを難なくかわす。
当たらない事に業を煮やしたのだろう。敵機が海中から出て来た。
今度の機体はカナード翼が特徴的なVF−11『サンダーボルト』だ。しかし装備されたそのライフルは極め
て長大であり、形状はミシェルのVF−25Gのライフルと寸分の違いもない。
本来重力圏内でそのような重量物を装備すればエンジン出力の大半を持っていかれるはずだが、その動き
は俊敏だった。
なぜならこちらも所々変更が加えられているからだ。例えばエンジンがVF−1と同様に熱核バーストエンジ
ンに換装され、当時なかったOT『アクティブ空力制御システム』などの導入により可能となっていた。
両機とも低空、それも至近にいたためミサイルは使えない。勝負はガンポッドか、近接格闘で着くはずだ。
両者はファイターで正面から相対、互いにガンポッドまたはライフルで牽制し合いながら接近する。そして定
石どうり、VF−11は激突寸前にバトロイドに可変し、ピンポイントバリアパンチを放ってくる。
速度の乗ったそれは、ほぼ必中のはずだった。しかしアルトの方が1枚上手だった。
当たる寸前にガウォークに可変したVF−25は、翼のフラップ、スポイラーを全開。その結果翼の空気抵抗
が増大して失速し、VF−11の懐に労せず回り込んで、それの腹にガンポッドの一斉射を叩き込んだ。

197シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:32:27 ID:l1G8vKfM

(*)

『サジタリウス2の撃墜を確認。サジタリウス小隊、演習を終了する。』
撃墜と同時に、通信機から渋いが聞き取りやすいいい声。上空で〝演習〟を管理していたAWACS(早
期警戒管制機)、E−767改『ホークアイ』だ。
この機体は第97管理外世界のJASDF(ジャパン・エア・セルフ・ディフェンス・フォース。日本国航空自
衛隊)の装備するE−767のデッドコピー(しかし、レーダーシステムはOTM『時空変動レーダー』に全
面転換。エンジンは熱核タービンに換装されている。そのため航続能力は無限大に向上し、反応エンジ
ンであることから発生する莫大な電力で電子戦を展開する機能すら備えている。)で、以前の教導隊の
襲撃事件を察知できなかった教訓からミッドチルダ本土のレーダーシステムと航空部隊の指揮管制能
力向上のために管理局が第97管理外世界のノウハウを当てにした結果、採用されたシステムだった。
現在潤沢な予算と工業力を武器に、北海道・東北を担当する『バーズアイ』。関東・中部担当の『ホーク
アイ』。九州・四国・近畿担当の『スカイアイ』そして交代及び予備機として『ゴーストアイ』、『イカルスア
イ』の合計5機が生産され、ミッドチルダの空を守っている。
閑話休題。
「サンキュー、ホークアイ。」
アルトが応える。
終了の合図とともに、先ほど撃墜した2機がやってきてVF−25と並進を始める。2機ともペイントでぐし
ゃぐしゃだ。
『隊長、強すぎっすよぅ〜』
右側を並走する、管理局の国籍表示マークを着けたVF−1B(性能向上型)「ワルキューレ」から泣きつ
くような声がする。
彼はアルトの指揮するサジタリウス小隊の3番機、天城義雄三等空尉だ。
「しかしお前らも2週間前、その機体に初めて乗った時よりは上手くなってるぞ。海中からの狙撃は危な
かったな・・・考えたのはおまえか? さくら?」
アルトは左側を並進する2番機、VF−11G(狙撃仕様)「サンダーホーク」に呼びかける。
『はい。でも、水中で弾道が乱れて、なかなか大変だったです。』
そう応えるのはこの世界初の女性バルキリー乗りになった工藤さくら三等空尉だ。
「ならあと少し連射速度を遅くして、よく狙った方がいい。お前の課題は命中精度だ。今は少し急ぎ過ぎ
ている。」
『はい!了解しました。』
彼女はバトロイドに可変、それを使って器用に敬礼した。

(*)

その後3機は一路基地へと向かった。
彼らの基地はクラナガンから200キロ離れた場所に位置している。しかしアルトは〝ある理由〟のため、
コースを大幅にずらした。
海岸線を目視するとモニターで拡大する。
果たして拡大されたカメラ映像には六課の訓練場が写っていた。どうやら今は市街地戦の訓練らしい。
スバルのウィングロードが綺麗な螺旋模様を描いて上昇していき、ホログラムのガジェットを撃破していく。
また、比較的高いビルに陣取り、支援射撃するティアナや、覚醒したフリードリヒに乗ったキャロ、そして
エリオの姿も確認できる。
なのはも忙しく指示を発していて元気そうだ。
(今日も六課は平常運転だ。)
アルトは安心して基地への帰途についた。

198シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:33:54 ID:l1G8vKfM

(*)

試作航空中隊の基地はまだ作りかけで、着工から1週間しか経っていない。そのため、予定されている
格納庫は15棟だが、まだ3棟しか完成していなかった。
だがアルトは、それがいいと思っていた。
今11棟目と12棟目で骨組みが組まれているが、組み立てているのはクレーンに代表される重機では
なく、2期生操る量産されたVFー1A(初期量産型)だ。
これは2期生達がバトロイドの操作に慣れる目的で行われていて、訓練としては最適だ。また、精巧な
バルキリーのマニピュレーターは作業効率を格段に上げていた。
管理局のVF−1は第2次生産のB型までで、A型,B型合わせても50数機のみしか生産されていない。
しかし製作委任企業である『三菱ボーイング社』とその傘下の中小企業の生産ラインは現在もフル稼働
を続けている。それはこのシリーズを民間用デチューン機『VF−1C』としてこの第1管理世界内だけに
輸出が始まっているからだ。
C型の主な変更点としては4つ。
・製作コストの安い第1世代型低出力熱核タービンエンジンへの換装。
・MMリアクター(小型魔力炉)を積まない。
・第3世代型エネルギー転換装甲を通常合金に。(無論各形態で工作機械としてまともに使えるレベルに
は強力な合金である。)
・各種オーバーテクノロジーをできうる限り現代レベルの既存の機材に換装。
また、各種武装が取り除かれていることは言うまでもない。
これは利潤を目的とする企業には巨額になった生産設備を最大利用、無駄にしないためには必要なこと
であり、どうしても避けられない事だった。
そして管理局としても生産コスト低下、またバルキリーが活躍する報道(特に重機の入れない場所での
災害救助や海難救助、工事現場など)によって世論の支持も強かったため、やむを得ぬとして黙認した。
閑話休題。

199シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:35:35 ID:l1G8vKfM
アルトは無線を起動すると呼びかける。
「こちらサジタリウスリーダー、〝フロンティア航空基地〟管制塔どうぞ。」
『こちらフロンティア航空基地管制塔。』
「着陸許可を願う。」
『・・・現在、スカル小隊の出撃が遅れているため、上空待機願います。』
「サジタリウスリーダー了解。」アルトは応えると、回線を閉じる。
どうやら機体の整備がまだ終わってないようだ。
周りは郊外と言えど平原ではなく、田園だ。そのため降りる所は基地しかないが、今基地はラッシュアワ
ー時のハイウェイのような様相を呈していた。
基地の試作航空中隊─────〝フロンティア基地航空隊〟には1期生達全員が移籍されており、そ
れぞれに機体が配備されている。
構成は、最初にアルトとミシェルに2カ月間徹底的にしごかれた6人の生徒と実戦教官である2人を中心
に小隊が組まれ、現在航空隊には予備機を含め56機(VF−1が47機、VF−11を8機、そしてVF−2
5が1機)、実戦部隊8小隊(3〜4機編隊)と第2線を張る2期生部隊(25人、25機。機種は全てVF−1
A)を擁している。
あの衝撃的な記者会見から3ヶ月、設立から2カ月半。フロンティア基地航空隊の働きぶりは好調だった。
敵出現の報を聞くやすぐさまスクランブルし、それを迎撃する。ゴーストはあれ以来出現していないため、
ガジェットⅡ型が主な敵だ。
初期の頃はクラナガンに基地があり、スクランブル慣れした六課に先を越されることが多かった。
しかし、8小隊制の確立によってCAP制(武装して拠点上空で待機、有事の際は即座に迎撃する役どこ
ろ)が導入されると、六課とかち合うことが多くなった。
現在、六課とは撃墜数で競う好敵手になっているため、あまり仲が良くない。
しかしケンカにならないのは、ひとえにアルトとミシェルのフォローと、今まで地上を守ってくれていた六課
への尊敬。そして最も大きくランカ・リーの存在があった。
事実、彼女の超AMFで助かった者も少なくない。
そして、フロンティア基地航空隊設立以来空で管理局に殉職者は出ていない。(航空隊はこの3ヶ月で3
機撃墜されたが、パイロットはいずれも無事脱出。)
何だかんだ言っても『ミッドチルダを守りたい』というところで一致する2部隊は、意識的にしろ無意識的に
しろ、お互いの存在を心強く思っていた。
アルトが基地に再び目をやると、青に塗装されたVF−11SG(狙撃型指揮官機仕様)を先頭に3機ほど
が飛び立つところだった。
スカル小隊はミシェルの部隊であった。
そして4機はサジタリウス小隊と入れ違いに首都へと翼を翻して行く。
アルトは『そろそろ管制塔から通信が入るだろう。』と思い、再び回線を開いた。

200シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:37:38 ID:l1G8vKfM

(*)

アルトが基地に帰還しようとしている頃、時空管理局本部ビルの1室では激論を戦わせていた。
クラナガン西部方面首都防空隊の長が額に筋を浮かべて怒鳴る。
「バルキリーなどというものに、〝戦力〟として頼るなど、容認できるか!」
それにクラナガンの海岸線を守備範囲にもつ空戦魔導士連隊の連隊長が怒鳴り返す。
「そっちの部隊は半分近くがAランク魔導士だから言えるんだ!うちの部隊など六課と、フロンティア基
地航空隊がなけれは既に全滅している!」
今度は広報担当者が「そんなのだから『時空管理局が質量兵器を採用した』などと、次元世界から批
判が出るんだ!」と、各次元世界の世論調査の結果を記載した紙を叩いて怒鳴る。
これには地上本部・技術開発研究所所長、田所が言い返した。
「バルキリーは魔導兵器だ!断じて質量兵器ではない!」と。
しかしある部隊長が冷めた様子で「詭弁だな。」と発言した。
「君たちは・・・・・・全てを魔導士に押しつける事が不可能になっている事がわからないのか!?」

ドン!

机が容赦なしにぶっ叩かれ、机に置かれている水に波紋を作らせれた。
そんな田所の激昂ぶりに、陸士西部方面隊(守備範囲は九州全体)を指揮する陸将が言い返す。
「現に我々の時代はそうして来た。質が保てないのは君達の怠慢に過ぎない。責任をとりたまえ!」
時代は推移していくというのに、過去を持ち出し責任転嫁。
最早これは理性的な論戦ではなく、ヤジの飛ばし合いだった。
今日ここには地上部隊の各方面、各部門の長が集まっていて総勢80人を超えるが、今そこは2つの勢
力に分断されていた。
1つはレジアス中将率いるバルキリー推進を主軸とする革新派。もう1つは、表向きには『管理局の理念
を守る』という大義名分を掲げているが、実際には過去と利権に縛られている保守派だ。
この会議には特例として本局所属の機動六課部隊長、八神はやて二等陸佐も参加しており、推進を表
明している。しかし悪いことは、保守派がほとんどの陸士部隊と一部の空戦魔導士部隊で形成され、推
進派より圧倒的に多いことだ。
それは時勢を無視し、自らの利権のみを追求する蛮勇と言えよう。
はやては地上部隊という組織自体が腐敗を始めている事を改めて実感した。
そして議論とはお世辞にも呼べないヤジの飛ばし合いが90分を超えたとき、やっと会議が進む事件が
起こる事となる。

201魔法少女リリカル名無し:2009/11/09(月) 23:38:25 ID:jBGTQpGI
siennya

202シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:40:52 ID:l1G8vKfM

(*)

所変わって2時間後の機動六課

通常勤務が終わり、連絡役という名目を利用(悪用?)して六課に遊びに来たアルトは、1週間ぶりに会
うキャノピー越しではない彼女達と和やかな時を過ごしていた。
「─────へぇ、フェイトが作詞、作曲をねぇ・・・」
アルトの呟きにフェイトが頬を少し赤らめながら頷く。
なんでもランカの歌を聞く内に『わたしも何か歌で伝えたい!』という情熱に火が着いたフェイトは、その
熱い衝動を抑えきれず遂にランカに弟子入りしたのだという。
「まぁ、弟子入りって言っても譜面の作り方とかを教えただけなんだけどね。でもフェイトさん飲み込み早
くって」
ランカはそう言うといたずらっぽく舌を出した。
どうやらもう免許皆伝の腕並みらしい。
「そんなことないよ。ランカがいなきゃ詩に合う音程とかなかなか出来ないし・・・」
「でもフェイトさんひとりで導入と間奏を作ったじゃないですか!最初聞いた時はフェイトさんの歌声で一
気に盛り上がった後の間奏に鳥肌立ちました!」
ランカの絶賛ぶりにアルトも気になってくる。
「ほぅ〜面白そうだな。もう曲はできたのか?」
「・・・まぁ、だいたいかな。私とランカのオフの時間を使って書いてるからあんまり進まないんだけど・・・な
のははどう思うかな?」
恥ずかしそうに言うフェイトの問いに、ランカのいない時に試聴してもらっているというなのはは自信を持
って応えた。
「うん、全然大丈夫!あのまま完成すればランカちゃんとヒットチャート争えるよ!」
「なのは、そこまで持ち上げなくても・・・」
そこにフェイトを〝困らせて遊ぶ〟モードに入ったらしいシグナムとヴィータが介入する。
「なら我々も楽しみにするとしよう。」
「ああ、期待してるぜ。」
「もぅ、2人とも〜」
そんな感じにフェイトを肴に周囲が遊んでいると、その日、定例会議だったというはやてが戻って来た。
「いよぉ、はやて。会議お疲れ。」
アルトが持っていたコーヒーの紙コップを掲げて彼女を迎える。
「あぁ、アルトくん、いらっしゃい。・・・・・・でもごめんな。アルトくんは六課には立ち入り禁止になってまうん
や。」
はやてが残念そうに言う。
「え?はやてちゃん、どういうことですか!?」
驚いたランカがイスから立ち上がって問い詰める。
自分はアルトと会うことに問題がないという話だし、ここの人達が好きだから六課に残った。しかしこれでは
話が違う。彼女の問いはそういう切実なものだった。
ランカはイノセントであっても愚かではない。いざいざとなれば管理局の上層部に掛け合って六課を〝再編〟
する事だって可能なほどの人脈を形成していた。
彼女が本局の高官に一声掛ければ部隊長であるはやての首を吹き飛ばすこともできるはずだった。
「それがな、今度アルトくん達とは〝敵対〟関係になることになったんや。」
絶句する一同に、はやては会議場で起こったことを話した。

203シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:43:35 ID:l1G8vKfM

──────────

「─────元々、バルキリーなんてものが、魔導士より使えるはずがないではないか。」
保守派の1人が滑らせたこの一言に、今まで沈黙を守っていたレジアスが突然立ち上がる。
「・・・・・・じゃあ、やってみるか?」
その一言に無益な議論を続けていた場が静まりかえる。
「来週には地上部隊の総火演(総合火力演習)が予定されている。そこの項目に『バルキリーvs空戦
魔導士部隊』という項目を作れば可能だ。」
総合火力演習とは、空戦魔導士部隊のアクロバットや、陸士部隊の一斉砲撃などに代表される一大
デモンストレーションであり、毎年行われる地上部隊の大イベントだ。
予算の影響から年々縮小傾向にあったが、今年のそれは過去最大級のものにすべく準備が着々と
進んでいた。
「そこまで魔導士部隊に自信のあるならここではっきりしようではないか。」
その提案に、保守派は一様に青ざめる。しかし否定すれば自信がない事になるため、保守側は何一つ
反論出来なかった。
結局レジアスの提案はすんなり通り、程なく会議は終了した。

(*)

「レジアス中将、本当にいいのですか?」
はやてが彼に問う。
「わたしも知りたくなったのだ。どっちが強いのかをな。・・・・・・そういえば君達六課とは敵同士になるわ
けか。」
「はい、そうなります。」
「なら心配は無用だ。わたしはどちらが勝っても嬉しいと思うだろう。」
「!」
直後レジアスは優しいおじさんの顔から厳しい上官のそれへと変わる。
「八神部隊長、全力でかかってきたまえ。」
彼の覚悟を感じたはやては、最敬礼した。

──────────

─────と、いうわけで総合火力演習でバルキリーvs空戦魔導士部隊の大空戦演習を行うこと。
それはお互いのメンツと、次期地上部隊航空戦力主力の座を掛けた全力全開の真剣勝負になるであろ
うことなどだ。
「つまり、立ち入り禁止ってのは対バルキリー戦の戦略を練るから・・・ってことか。」
アルトの確認に彼女は頷く。
「ごめんな。」
しかし謝るはやての顔には罪悪感がない。
(何か企んでいる・・・?)
いぶかしむアルトに、はやては口を開く。
「・・・・・・でな、教えて欲しいんや。バルキリーとの戦い方。」
彼女は不敵に微笑み、アルトに詰め寄る。
周囲のなのはやフェイト達も知らないうちに念話で買収されていたらしい。「気がすすまないが仕方ない
か」という顔をしつつ、後(あと)ず退(さ)るアルトの退路を塞いできた。
一方ランカは、これが一時的なものとわかったことで安心し、アルトの〝状況〟に気づいていないようだ
った。
四面楚歌の早乙女アルトは両手を軽く上げ、盛大にため息をついた。

204シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:45:48 ID:l1G8vKfM

(*)

1週間後 フロンティア航空基地

すでに総合火力演習はスタートし、2期生の駆るVF−1A部隊がすでに会場でのアクロバットを終え、
帰還。武装の装備をしている。彼ら2期生は、演習中の防空任務に編入され、演習には参加しない。
参加するのは1期生達全員、そしてアルトとミシェルの合計25機。
内訳はVF−11のS型(指揮官機仕様)が6機。
G型(狙撃特化型仕様)1機(工藤さくら機)。
SG型(狙撃型指揮官機仕様)1機(ミハエル・ブラン機)。
VF−1B(性能向上型)、16機。
VF−25F、1機(アルト機)。
合計8小隊。これがバルキリー隊の全戦力だ。
ちなみにVF−11は試作が大幅に遅れ、納入段階に入って間がないため、まだ各小隊に1機ずつという
位置づけになっている。そのためアルトのサジタリウス小隊以外は小隊長機を務めていた。

(*)

現在フロンティア基地航空隊パイロットの全員がブリーフィングルームに集まっており、最終確認が行わ
れていた。
1期生達の顔には緊張のスパイスが効いている。自分達の勝敗で後輩の進退が決まるのだ。緊張は
一入(ひとしお)ではないだろう。
「あー諸君、ついに我々が連中(空戦魔導士部隊)に一泡吹かせてやる機会がきた。諸君は高い志を持
ちながら、リンカーコアの出力不足によって元隊から戦力外通告された者がほとんどだと思う。しかし我々
はバルキリーという新たな翼の元に転生した不死鳥だ!諸君の日頃の努力が実を結べば、連中など手
玉にとれると私は信じて疑わない。各員の健闘を期待する。」
いまやフロンティア航空基地の副司令となったミラード・ヴィラン二等空佐の激励が基地のブリーフィン
グルームに木霊した。
そして今度は彼の後ろに控えていた航空参謀が演習のルールを再確認する。
・演習空域は旧市街(廃棄都市)上空を中心とする50キロメートル×50キロメートル。
・武装は模擬弾、または非殺傷(破壊)設定による攻撃魔法。撃墜判定後は、即座に演習空域を離脱す
ること。
・撃墜判定は中立のAWACS『ホークアイ』が行い、決定には必ず従うこと。
・速度制限はなく、リミッターによる魔力限定もなし。ただし、高度は魔導士の限界高度である15000メ
ートル以下。
・時間制限は1時間。
参謀の説明が終わり、最後に基地司令を兼任するレジアスにバトンが渡った。彼は皆を前に直立して一言。
「行って連中の鼻っ柱をへし折ってこい!以上、解散!」
その単純明快な激励に一同拍手を送り、各々のペースで自らの愛機に向かっていく。
「─────勝ったらみんなで盛大に宴会しようぜ」
「おっ、それいいな!」
「俺カニ!」
「オイラは焼き肉がいいな。」
「僕も僕も!」
「よし、俺が奢ってやる!」
「「やったー!」」
1期生達がはしゃいでいる。
こうやって無駄にでも騒がねば落ち着けないのだろう。アルトは果たして六課か基地か、どちらの戦勝パ
ーティーに出られるだろうか?と思案した。

205シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:48:39 ID:l1G8vKfM

(*)

演習空域

そこはクラナガンから50キロ近く離れた都市跡上空にあり、下界にはミッドチルダで起こった100年近く
前の戦争で無人となった都市が存在する。
その頃は質量兵器が縦横無尽に使われ、凄惨を極めたという。
皮肉な事に、今その上空には質量兵器の申し子たるバルキリーが編隊を組み飛行していた。
『こちら『ホークアイ』。フロンティア基地航空隊は演習開始までその場で待機せよ。』
『フロンティアリーダー了解。』
通信機からホークアイと、この航空隊の最高位になったミシェルの声が聞こえる。
アルトはそのやりとりを尻目に、下界の光景に目を奪われていた。
バルキリーのモニターを通して映し出されるのは現在の首都と同じ・・・いや、それに倍するであろう規模
を持つ街並みだ。
かつてクラナガンより膨大な人口を抱えていたであろう街は今、ゴーストタウンと化していた。
人の手が入らなくなって100年もの年月を経た街は、ミッドチルダの四季という(人間にとって)すばらし
い、それでいて建物にとっては過酷な環境にさらされボロボロになっていた。
鉄筋コンクリート製の家やビルは内部の鉄筋が酸化してすべて倒壊。もはや原型もとどめてはおらず、
土への帰還を果たしている。
しかし現代では模倣すらできないロストテクノロジーで作られた建物は未だ100年前の繁栄を今に伝え
ている。
現在の時空管理局本部ビルに勝るとも劣らない数百階クラスのビル群が建ち並ぶ市街中央。
しかしそこはガラスの摩天楼では決してない。
ビルの壁面をつる草が垂直に伸び、ビル全体を緑に〝塗装〟している。
市街全体も緑という名の勇敢な開拓者に蹂躙され、ドット絵であれば緑9、灰色1といった割合でも十分
だろう。
ミッドチルダの歴史書によれば、ここは現在の首都「クラナガン」を副都心とする首都だったそうだ。
そのため〝ここ〟は、当時の戦争相手『ベルカ』の攻撃を受けたのだ。
その災厄はミッドチルダの緻密な防空網を抜けたたった1機の爆撃機によって成し遂げられた。投下され
た爆弾は空中で炸裂して、ラッシュアワー時のここを襲った。
その爆弾は反応弾のような無差別大量破壊兵器でなく、建物を壊さず人のみを効果的に殺せる放射線兵
器だったようだ。
先の書によると炸裂の瞬間半径3キロにいた人々は致死量のガンマ線等の放射線を浴びて即死。それよ
り遠くにいた人々にも、放射線病が蔓延し、1週間以内にその98%が血反吐を吐いて死に絶えたという。
しかし、幸運があった。その爆弾が町にあった核分裂発電所の近くで炸裂しなかったことだ。
当時はエネルギー問題から臨界量まで核燃料を詰めていたため、もし近くで炸裂していたら中性子の急激
な増大によって反応が加速され、減速材(水。H2O。)が間に合わぬ程に核分裂が促進。クラナガンをも巻き
込むほどの核爆発が発生していた所だった。
しかし、それでもこの町の人々(歴史書によれば3400万人と言われている)が死んだことには変わりない。
アルトは両手を合わせて黙祷し、帰ったら母のと一緒にもう1本線香を焚こうと決意して時計を見る。

1355時

ブリーフィングによれば演習開始は5分後だ。

206シレンヤ ◆/i4oRua1QU:2009/11/09(月) 23:53:33 ID:l1G8vKfM
レーダーには前方40キロ先に約50の光点を捉えている。
このレーダーはオーバーテクノロジー系列のフォールド式でも、通常の電波式でもない。
魔導士達はほとんど金属製品を装備していないため、どちらの方式も速度が違うだけで、反射を利用し
たレーダーは彼らを探知できないのだ。
今装備されているレーダーは、魔力感応式で放出魔力量によって色が緑から赤になったりする優れ物だ。
元々AWACS用に開発されたパッシブレーダーだが、演習が決まってすぐバルキリー隊全てに搭載さ
れている。
光点の色から言っておそらくシングルA〜AAAクラスの魔導士部隊のようだ。リミッターは解除してある
はずなので、六課の隊長、副隊長陣の5人はいないらしい。
『フロンティア基地航空隊のみなさん、』
突然通信機からはやての声。通信機の周波数は航空隊専用から変えていない。どうやらホークアイとミ
シェルを経由して送られているらしい。
(しかし、こんな時になにをしようというのだろう・・・・・・)
アルトが考えている間もその凛とした声で通信は続く。
『わたしは本演習中、全空戦魔導士部隊を預かり、指揮する八神はやて二佐です。私たちのトップは、あ
なた方の力を過小評価しているかもしれません。しかし、共に戦ってきた私たちはあなた方の強さを知って
います。だから侮りも油断もしません。我々は、全力を持ってあなた方に〝挑戦〟します!』
これは魔導士部隊からバルキリー隊への挑戦状だった。
その粋にミシェルも心揺さぶられたのか、回線を開く。
『こちらはフロンティア基地航空隊中隊長ミハエル・ブラン三等空佐だ。我々は今まで地上の空を守って
きてくれた貴官らに対し、最大限の敬意を持って、全力で挑戦を受けて立つ!』
『誠意ある返答に感謝します。そちらにシオリ空尉の加護があらんことを。終わり。』
『そちらにも加護があることを祈る。アウト。』
殉職した宮島栞空尉は彼女の願い通り、天から皆を見守ってくれる天使として管理局内で神格化されて
いた。
時計を見る。開始30秒前だ。
「副隊長から全機、開始と同時に敵にマイクロハイマニューバミサイルを撃ち込む。重複は1人3つまでだ。」
アルトの指示に全機から了解の応答。
・・・3、2、1、0!
「ファイア!!」
掛け声と共に全機・・・25機から4発ずつマイクロハイマニューバミサイルが放たれる。
かくして栞空尉に続く、地上の空の守護神を決める戦いは幕を開けた。

──────────

次回予告

遂に始まった魔導士とバルキリーの直接対決。
スペック上、絶望的に不利な魔導士が採った作戦とは─────
次回マクロスなのは第12話『演習空域』
「もう嫌だぁ!こんな鉄の棺桶の中で死ぬなんてぇーーー!」

──────────

投下終了です。支援に感謝!
今度こそしばらく休載しますが、次回に期待ください!では!

207霧影:2009/11/10(火) 23:44:10 ID:rTwiqpj2
亀ですがΛ氏GJです
一つ気になったのですがR-11のΔウェポンが核融合反応を起こすものという件があったのですが、R-11系列機のΔウェポンはニュークリアカタストロフィーではなくて、重力で圧壊させるのネガティブコリドーだったと思うのですが?

208R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/11/11(水) 00:22:14 ID:2PZDxFrA
>>207
うお、失礼しました
当該部分を修正しましたので報告致します

209来てね♪:2009/11/13(金) 12:14:26 ID:tyoNmh..

とってもおもしろいブログだよ♪

たまに更新もしてるから見に来てください☆ミ
ちょっとエッチなプライベートブログです(*^^*)

ttp://stay23meet.web.fc2.com/has/

210魔法少女リリカル名無し:2009/11/13(金) 18:22:16 ID:ZdhGkmhk
GJ!
魔導師とバルキリーじゃまるで役目が違うと思うんだけどなー。
仲良くできるのはいつの日か。

211魔法少女リリカル名無し:2009/11/13(金) 20:29:36 ID:vyaLS8oc
バルキリーにカゴつけて魔導師載せておけばいいんじゃね

212時空突破グレンラガンStrikerS ◆Yf6j8wsEUw:2009/11/13(金) 23:09:26 ID:oPaG6Jrw
こんばんは。
23時半に投下予約をさせて頂いてもよろしいでしょうか?

213時空突破グレンラガンStrikerS ◆Yf6j8wsEUw:2009/11/13(金) 23:34:12 ID:oPaG6Jrw
時間になったので投下させて頂きます。

214時空突破グレンラガンStrikerS ◆Yf6j8wsEUw:2009/11/13(金) 23:34:57 ID:oPaG6Jrw
 まるで金縛りにでも遭ったかのように、目の前に横たわる鋼鉄の巨人から目を離せない。重要貨物室に突入した、スバルとティアナはその場から一歩も動けずにいた。
 次元世界の各地で発掘される古代遺産、ロストロギア。古代文明の超技術によって創られたそれらは、ときとして世界を滅ぼすほどの力を孕む。
 ロストロギアの悪用を防ぐため、時空管理局はその回収と封印に日夜奔走している。彼女達機動六課もそのために発足したのだ。
 だが、これは違う。二人の表情が険を帯びた。この巨大な機械の人形はロストロギアなどではない、“ガンメン”だ。機動六課の、否、時空管理局最大の敵である。

 そのとき、スバルの胸元から閃光が迸った。ドリル。ネックレスの先端で揺れる小さなドリルが光り輝いているのだ。
 まるで脈動するように明滅を繰り返すドリルの光に呼応するかのように、赤いガンメンの閉ざされた瞼の下から光が漏れる。
 まずい! ティアナは反射的に二挺拳銃の銃口を持ち上げた。ガンメンが目覚めようとしている。その前に、今、この場で破壊しなければならない。
 しかしティアナの銃口が火を噴くことはなかった。二挺拳銃から魔力弾が撃ち放たれようとしたその瞬間、予想外の乱入者が二人の前に現れたのだ。



時空突破グレンラガンStrikerS
 第02話「貴様の気合いを見せてみろ!!」



「グレンラガンに触れるな! この盗人どもが!!」

 突如として車両内に轟いた第三者の怒号に、スバル達は思わず身を竦ませた。次の瞬間、ガンメンの陰から黒い影が飛び出し、二人に飛びかかった。
 薄闇を切り裂く白刃の鈍い煌めきに、スバル達は反射的にその場から飛び退いた。一瞬遅れて、まるで鉈のように幅の広い刃が垂直に振り下ろされる。
 金属の床面に鋼の刃がぶつかり、ガツンと甲高い音を立てる。刃は深々と床面を深々と切り裂いていた。
 もしも回避の反応が一瞬でも遅れていれば、今頃自分達は真っ二つにされていただろう。二人は戦慄に身を震わせた。

「躱したか。コソ泥にしてはいい動きだ」

 感嘆の声を漏らしながら立ち上がるのは、恐らくは男と思われる長身の影。顔は分からない。男の全身は擦り切れたマントで覆われ、顔は深く被ったフードで隠されていた。
 男が床板を踏み締め、鉈剣を再び振り上げながらスバルに飛びかかった。横薙ぎに鋭く振り抜かれた男の凶刃を、スバルは咄嗟に籠手で弾く。

「な、何者!?」

 ティアナが狼狽の声を上げながら男に銃口を向けた。二挺拳銃のカバーがスライドして魔力カートリッジが排出され、橙色の魔力弾が瞬間的に形成される。
 男の足元を狙い、ティアナはトリガーを引き絞った。鳴り響く銃声とともに橙色の閃光が薄闇を切り裂き、床面に着弾して弾ける。だがそこに、既に男の姿はなかった。

「俺が誰か、だと……?」

 低く押し殺したような声が背後からティアナの耳を打つ。あの男の声だ。弾かれたように振り返るティアナのすぐ目の前まで肉薄し、男が鉈剣を振り上げていた。

「誰でもないっ!!」

 鋭い怒号とともに男が鉈剣を振るった。瞬間、ティアナの両手のデバイスが変形した。二挺拳銃から双剣へと形を変え、形成された橙色の魔力刃が鉈剣を受け止める。
 激しく鍔迫り合う二人の足元から、金属同士がぶつかり合うような甲高い音がカツンと響く。排出された魔力カートリッジの空薬莢が、床面の上を転がっていた。

「時空管理局です! この大型機械兵器についてお訊きしたいことがあります。武装を解除して、我々の指示に従って下さい!」
「黙れハダカザル!!」

 ティアナの説得の言葉を一蹴し、男は鉈剣を振り回した。嵐のように繰り出される男の苛烈な斬撃を、ティアナは双剣を駆使して辛うじて凌ぐ。
 一見滅茶苦茶なようにも思える太刀筋だが、一つ一つの斬撃が正確に急所を狙っている。恐るべき技量だ、ティアナの頬を冷や汗が伝った。

215時空突破グレンラガンStrikerS ◆Yf6j8wsEUw:2009/11/13(金) 23:35:44 ID:oPaG6Jrw
「ティア!!」

 スバルが両足のホイールを高速回転させてティアナのもとへと駆け出した。手首のタービンが唸りを上げ、スリットから空薬莢が排出される。

「リボルバァァ―――!」
「遅いっ!」

 怒号とともに拳を振り上げたスバルの鳩尾に、男の鋭い膝打ちが容赦なく突き刺さる。ローラーシューズを履いた両足では踏ん張りが利かない、スバルは仰向けに床に倒れた。
 転倒したスバルに追い討ちをかけるように男が鉈剣を振り上げる。そのとき、スバルの胸元でネックレスが光った。

「それは……っ!」

 男は驚愕に目を見開いた。チェーンの先端で揺れる金色のドリル、あれはまさしくコアドリル! 一体何故、こんな小娘がコアドリルを持っているのか。
 息を呑む男の背後から、黒い楕円形の影が突如襲いかかった。ガジェット・ドローンⅠ型である。まだ生き残りがいたのだ。
 センサー・アイが不気味に輝き、放たれたレーザー光線が男の背中を射抜く。一瞬の出来事だった。撃たれた胸元を鮮血で真っ赤に染め、男の身体がぐらりと傾く。
 スバルが悲痛な悲鳴を上げ、ティアナも思わず目を逸らす。だが、男は倒れなかった。両足を踏ん張りながら背後を振り返り、鉈剣を振り上げてガジェットに襲いかかる。
 大きく翻ったマントの下で、撃たれた傷口がみるみるうちに塞がっていく。尋常でない再生速度だった。

「俺は不死身の男だ! 鉄屑如きに殺されるものか!!」

 雄々しい咆哮とともに振り下ろされた男の鉈剣がガジェットのボディに深々と突き刺さる。ひび割れたセンサー・アイが悲鳴を上げるように明滅を繰り返す。
 だが、ガジェットはまだ生きていた。うねりながら突き出されたコード状の触手が男の横頬を掠め、引き裂かれたフードの下から男の素顔が露わとなる。
 スバルとティアナは思わず息を呑んだ。人間の顔ではなかった。瞳孔が縦に裂けた獰猛そうな瞳、口元から覗く鋭い牙。獣人、獣人間というべき生き物がそこにいた。
 獣人が雄叫びを上げ、体毛に覆われた逞しい左腕をマントの下から突き出した。大きく発達した掌がガジェットを鷲掴みし、鋭い爪が装甲に食い込む。
 次の瞬間、獣人はガジェットを鷲掴みしたまま床に思いきり叩きつけた。床板が衝撃で大きくへこみ、ガジェットのボディが粉砕される。今度こそ動き出すことはなかった。

「凄い。ガジェットを素手でやっつけちゃった……」

 感嘆の声を漏らすスバルを、獣人が無言で睨んだ。その視線は胸元のコアドリルに集中している。思わずたじろぐスバルに、獣人が「おい」と声をかけた。

「そのコアドリル、一体どこで手に入れた?」

 獣人の突然の問いに、スバルは「え」と狼狽えたような声を上げながらネックレスを掴んだ。コアドリル、このネックレスのことを言っているのだろうか?

「えと、これは、子供の頃に凄い事故があって、それで、その―――」

 しどろもどろなスバルの喋り方に、獣人の眼光が鋭さを増す。苛立っているようだ。スバルは「あぅ」と怯んだ。犬に吼えられているような気分だった。
 そのとき、まるで地震でも起きたかのように車両全体が震撼した。突然襲ってきた激しい揺れに、スバルがバランスを崩して尻餅をつく。

「この揺れ、まさか……!」

 息を呑むような獣人の声がスバルとティアナの耳朶を打つ。次の瞬間、二人の眼前に空間展開モニターが出現した。作戦司令部からの緊急通信である。
 モニターに映し出されたのは、広域スキャンによって撮影された輸送列車近辺のライブ映像だった。画面の端をなのはやフェイトが忙しなく飛び回っている。
 そしてもう一つ、なのは達と対峙する巨大な敵影が確認できた。巨大な牛の顔に手足が生えたような巨人と、同じく人の顔に手足をつけたような巨人が二体。合計三体だった。

「「ガンメン……!」」

 スバルとティアナの声が重なった。

216時空突破グレンラガンStrikerS ◆Yf6j8wsEUw:2009/11/13(金) 23:36:40 ID:oPaG6Jrw
 Gadget Applicative New-type of Magical Enemy、略してガンメン。遺跡を破壊し、市民の安全を脅かす謎の巨大兵器である。
 その目的や正体などは一切不明。ただ分かっていることは、ガンメンもガジェットと同じくA.M.F.を搭載し、並大抵の魔導師では歯が立たないということである。

 司令部からの指示は、可能な限り迅速にロストロギアを確保して現場から離脱、安全な場所で別命あるまで待機ということだった。
 ガンメンの相手はなのはとフェイトが行う、新人達は自分達とロストロギアの安全を優先するように。それは事実上の戦力外通知だった。
 ティアナは悔しそうに顔を歪めた。スバルも暗い表情で俯いている。自分達の未熟は理解しているつもりだったが、ここまで露骨に足手纏い扱いされると流石に堪えた。
 意気消沈する二人に、そのとき獣人が「おい」と呼びかけた。どこか不機嫌そうな低い声が車両内に木霊する。

「何を落ち込んでいるのかは知らんが、逃げる暇があるなら俺に付き合え」

 有無を言わさぬような獣人の言葉に、スバルとティアナは反射的に身構えた。そうだ。ガジェットやガンメンの出現で忘れていたが、自分達はこの男と戦っていたのだ。
 ロストロギア運搬用に手配された特別貨物車両でガンメンを輸送し、管理局員にも敵対的な不審人物。戦闘能力も高く、決して油断できる相手ではない。

「付き合えって、アンタ一体何するつもりなのよ」

 拳銃の形態に再変形させたデバイスを構え、警戒心を露わに尋ねるティアナに、獣人は口の端を不敵に吊り上げた。

「決まっているだろう? こいつを動かす」

 そう言って獣人が指差したのは、三人の前に横たわる赤いガンメン――「グレンラガン」と呼ばれていた――だった。

「ちょっと、馬鹿言わないでよ! そんなことできる筈ないでしょ!?」
「座っているだけでいい。それ以上は俺も望まん」

 思わず声を荒げるティアナに、獣人は憮然と鼻を鳴らした。その高圧的な態度に、ティアナが眉尻を吊り上げる。
 睨み合う二人を交互に見遣り、スバルは胸元のネックレスを握りしめた。掌の中でコアドリルが脈打つように明滅を繰り返す。暖かい、まるで小さな太陽のようだった。
 力が無いことが悔しかった、もう二度と無力に泣きたくなかった。それがスバル・ナカジマという少女の原点だった。
 自分も敬愛するなのはとともに戦いたかった、なのはの力になりたかった。そして今、目の前には、戦うための“力”がある。スバルが迷う理由はなかった。

「……やります。あたし、グレンラガンに乗ります!」
「スバル!?」

 毅然とした表情で叫ぶスバルを、ティアナが咎めるような目で睨んだ。

「ちょっとアンタ、自分が何言ってんのか解ってんの?」
「あたしが乗るって言ってんの!!」

 いつになく真剣な表情で言い返すスバルに、ティアナは思わず天を仰いだ。一度何かを決めたスバルは誰にも止められない、それはティアナが一番よく知っていた。
 スバルは再び獣人を見た。一点の迷いもない澄んだ瞳だった。彼女とよく似た目をした男を、彼は一人――否、二人知っていた。

「乗るならば早くしろ。無理矢理放り込まれたくなければな」

 そう言って踵を返す獣人の背中に、スバルが「あの!」と声をかけた。

「座って見てるだけなんて絶対に嫌! あたしも戦います。あたし、なのはさん達の力になりたいんです!!」

 精一杯の勇気を振り絞って叫ぶスバルを、獣人は肩越しに振り返った。この名も知らぬ、「グレンラガン」の電池程度にしか考えていなかった人間の小娘に、初めて興味が湧いた。

217時空突破グレンラガンStrikerS ◆Yf6j8wsEUw:2009/11/13(金) 23:37:29 ID:oPaG6Jrw
「……小娘。貴様、名前は?」
「スバル」

 問う獣人に、答えるスバルの声は揺るぎない。獣人は牙を剥き出して笑った。この人間の名前、覚えておく価値があるかもしれない。

「いいだろう。スバル、貴様の気合いを見せてみろ!!」

 哄笑する獣人の声に反応したように、床上に横たわる赤いガンメンが動いた。ひび割れた装甲の内側から響く駆動音が車両内に木霊し、大気を振るわせる。
 頭頂部の装甲がスライドし、胴体の顔も大きく口を開ける。上下に開放されたシャッターの奥に見えるのは、ガンメンの操縦席と思しき古びた座席と操縦桿だった。
 頭部と腹部に存在する二つのコクピットのうち、スバルが上に、そして獣人が下の操縦席へとそれぞれ乗り込む。

 球体型の狭い頭部コクピットの前面に無数の計器類が並んでいる。その中央、スバルから見てちょうど真正面の位置に円い計器盤がある。
 計器盤の中央に、スバルは円錐型の小さな窪みを見つけた。首に架けたコアドリルがちょうど収まる大きさ。まるで挿し込んでくれと言わんばかりの形状である。
 スバルは指先でコアドリルを摘み上げた。一段と激しく発光している、まるで挿し込んでくれと訴えているかのようだ。
 逡巡は一瞬だった。スバルは首からチェーンを外し、計器盤の窪みにコアドリルを挿し込んだ。そして、捻じった。静寂がコクピットを支配する。何も起きない? 否、起きた。
 コアドリルを挿し込んだ穴を中心に螺旋状の光が計器盤に広がり、周辺の計器が一斉に稼働を始めた。力強い駆動音が操縦席の下から伝わる。
 計器類の上に積もった埃が消し飛び、操縦桿の表面に浮いた錆が消え去る。まるで新品のような生まれ変わったコクピットがスバルの目の前に広がっていた。

 それだけではない、劇的な変化はまだまだ続いた。グレンラガンの額から激烈な光が溢れ出し、螺旋を描いて機体全体を包み込む。
 装甲の亀裂が修復され、劣化した表面に金属の光沢が戻る。炎を思わせる鮮やかな赤の色彩が全身を染め直し、鋼鉄の巨人、グレンラガンMk-Ⅱが新生した。

「立て、グレンラガン!!」

 コクピットに雄叫びを轟かせ、獣人は操縦桿を勢いよく押し込んだ。グレンラガンMk-Ⅱの双眸が輝き、鋼鉄の巨体が拘束具を引きちぎりながらゆっくりと起き上がる。
 車両の屋根を突き破って立ち上がる“第四のガンメン”の姿は、三体のガンメンを相手に戦い続けるなのはとフェイトからもよく見えていた。

「そんな……!」

 なのはは驚愕に目を見開いた。新たな敵影、しかもあんなところに!? 為す術も無く蹂躙される教え子達の姿を想像し、なのはの表情が絶望に染まる。
 放心したように虚空に佇むなのはの背後から、そのとき、牛面をモチーフにした敵ガンメン、ゴズーが棍棒を振り下ろした。敵の不意討ちになのはは気づいていない。

「なのはっ!」

 フェイトの悲鳴になのはは我に返り、弾かれたように後方を振り返った。ゴズーの棍棒はすぐ頭上まで迫っている。なのはは咄嗟に片手を突き出し、防御魔法を発動した。
 ドーム状の魔力障壁が掌の前方に形成される。しかし次の瞬間、大気が揺らぎ、障壁は霞のように消え去った。A.M.F.である。
 愕然と表情を強張らせるなのはを、まるで虫でも潰すかのようにゴズーの棍棒が無造作に打ち据える。地面に背中から叩きつけられ、なのはは苦悶の表情で呻いた。
 追い討ちをかけるようにゴズーが片足を持ち上げ、なのはの頭上へ振り下ろした。踏み潰すつもりだった。回避も防御も間に合わない、なのはは思わず目を閉じた。

218時空突破グレンラガンStrikerS ◆Yf6j8wsEUw:2009/11/13(金) 23:38:10 ID:oPaG6Jrw
 そのとき、地を砕くような轟音が丘陵を揺るがし、真紅の影がなのはの視界に飛び込んだ。突如出現した謎の人型ガンメン、グレンラガンMk-Ⅱだった。

『うぉおおおおおおおおおおおおっ! なのはさんに何いてんのよパァァァァァンチ!!』

 紅蓮の巨体を宙に踊らせ、グレンラガンMk-Ⅱは雄叫びとともにゴズーに殴りかかる。スバルの声だった。あの娘は一体何をやっているんだ、なのはは驚愕に言葉を失った。
 振り抜かれた鋼鉄の拳がゴズーを殴り飛ばし、全長十数メートルもの巨体が錐揉み回転しながら宙を飛ぶ。
 そのまま山林を薙ぎ払いながら丘陵を転がり、ゴズーは岩壁に深々とめり込んだ。再び動き出す気配はない。

『見たかっ!』

 啖呵を切るグレンラガンMk-Ⅱの背中に、人面を模した敵ガンメン、アガーが忍び寄る。敵の接近にスバルは気がつかない。アガーはグレンラガンMk-Ⅱに飛びかかった。
 しかしグレンラガンMk-Ⅱの操縦者はスバル一人ではない。そしてもう一人の男の目は、敵の奇襲を二度も見逃すほど耄碌してはいなかった。

「甘いな」

 グレンラガンMk-Ⅱの腹部コクピットで、獣人が憮然と鼻を鳴らした。その呟きは敵の稚拙な奇襲への揶揄か、それともこの程度の不意討ちにも気づかないスバルへの皮肉か。
 獣人が両手に握った操縦桿の一つを捻る。次の瞬間、グレンラガンMk-Ⅱが片足を振り上げながら鋼鉄の身体を反転させた。

『この俺を誰だと思ってやがるキィィィィィック!!』

 獣人の雄々しい怒号とともに、グレンラガンMk-Ⅱの回し蹴りがアガーの横面に炸裂。まるでサッカーボールのように蹴り飛ばした。

「「誰!?」」

 なのはとフェイトは思わず叫んだ。突如出現した見慣れぬガンメン、その中に乗っているらしいスバル。そして今度は知らない男の声で喋っている。最早訳が解らなかった。
 二人の問いに答えるように、グレンラガンMk-Ⅱは腕を組んで仁王立ちした。威風堂々となのはを見下ろし、鋼鉄の巨人は口を開いた。

『乙女の決意が天を突き!』

 スバルの声だった。

『漢の気合いが大地を穿つ!』

 スバルの名乗りを引き継ぐように、再び謎の男の声が響いた。まさに異口同音。頭部と腹部、二つの口が別々に動き、しかし同じ言葉を紡ぎ出す。

『『覚悟合体、グレンラガン! あたし(俺)を誰だと思ってる(やがる)!!』』

 二人の声が重なり、グレンラガンMk-Ⅱの咆哮が天地に轟く。大気を揺るがすその雄々しい叫びは、どこか産声にも似ていた。

 そう、今まさにこの瞬間、次元世界を巻き込む運命の渦が廻り始めた。しかしその中心に立つ少女は、目指す明日の先に待つ己の運命に未だ気づいてはいなかった。



 ―――つづく

219時空突破グレンラガンStrikerS ◆Yf6j8wsEUw:2009/11/13(金) 23:43:00 ID:oPaG6Jrw
以上、投下完了です。
謎の獣人の正体(笑)は次回に持ち越しです。改訂版ではこの人がクロスキャラになります。
画面をリロードして、早速誤字を発見orz まとめに入れるときに修正しとかなくては……。

220魔法少女リリカル名無し:2009/11/14(土) 12:30:16 ID:sIZxqY5A
>>219
一つ質問なのですが、このスレでは過去に投下した作品の加筆修正及び改訂版の
投下は禁止となっているのですが、この作品はどういうものなのでしょうか?

221時空突破グレンラガンStrikerS ◆Yf6j8wsEUw:2009/11/14(土) 12:57:03 ID:477gEIWw
>>220
ご指摘をありがとうございます。
こちらとしては本ssは前作(リリカルなのはSpiral)改訂ではなく全くの新作のつもりで書いております。
ただプロットの一部には前作のアイデアを流用しているものもあり、それが改訂であると言われればそうかもしれません。
グレーゾーンであるという自覚はあるので、もしも規約に違反しているというのでしたら、速やかに投稿をとりやめさせて頂きます。

222魔法少女リリカル名無し:2009/11/14(土) 13:18:38 ID:sIZxqY5A
>>221
改定と言われれば、と仰っていますが、改訂版という表現は
>>219で氏ご自身が使われていると思うのですが……だから気になって。

これ以上は運営ですかね。
現行の運営スレの最初に改訂版云々の件は書いてあります。

223時空突破グレンラガンStrikerS ◆Yf6j8wsEUw:2009/11/14(土) 13:33:00 ID:477gEIWw
>>222
把握しました。

繰り返しになりますが、作者本人としてはこのssは改訂ではなく新作のつもりで書いています。
あらすじも登場人物も違い、前作とは殆ど別物になっているので、加筆修正と同じ扱いでwikiに直接投稿するのはおかしいと思い、スレ投下させて頂くことに決めました。
>>219では紛らわしい書き方をしてしまい、真に申し訳ありませんでした。

それとこの件を運営スレにかけるのでしたら、議題はそちらの方で提起して頂けないでしょうか?
情けない話ですが自分が書き込むと、的外れなことを書いてしまうような気がしますので。

224リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/14(土) 18:26:24 ID:dN7C1wBI
20:30くらいに投下の予約を入れさせて貰います

225リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/14(土) 20:17:38 ID:dN7C1wBI
あー……申し訳ありません。
ちょっと急用が出来てしまい、投下する事が出来なくなりました。
後日投下したいと思いますが、今日のところは予約破棄という事でお願いします

226魔法少女リリカル名無し:2009/11/14(土) 20:47:33 ID:nH13m8Xc
ヴィラルキターwwww
しかしこいつは別次元の世界か!?

227レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/14(土) 20:54:44 ID:S2y/0SMQ
今晩は、>>225リリカルTRIGUN氏が予約を破棄した為、
21:10頃に33話投下させて貰います。

228レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/14(土) 21:10:18 ID:S2y/0SMQ
では行きます。


 時間ははやてがレザードを追い始めた頃、オットーとディードと共闘する事となったヴィータは、
 目の前で対峙するカノンに狙いを定めて、シュワルベフリーゲンを八発撃ち抜き牽制、
 
 続いてディードがカノンに迫り、それに合わせるかのようにオットーがレイストームを撃ち抜く。
 しかしカノンは左手を向けてバリアを張りシュワルベフリーゲンを弾き、
 
 次に右手をディードに向けて直射砲を撃ち抜くが、オットーが放ったレイストームが障壁となってこれを防御、
 その間にディードがカノンの懐に入り、ツインブレイズをクロスさせて振り下ろすが、
 カノンのバリアを砕く事が出来ず、むしろ右手から巨大な魔力弾を放たれ地面に叩き付けられるディードであった。
 
 
                    リリカルプロファイル
                     第三十三話 解放
 
 
 それを見たオットーは怒りのままレイストームを撃ち放つが、カノンのバリアを砕くところまでには至らなかった。
 すると今度はヴィータが迫りカートリッジを二発消費、ギガントフォルムに変え振り抜くと、その衝撃によりバリアにひびが入る、
 
 其処でヴィータはもう一撃とばかりに振り下ろしバリアを破壊するが、カノンはすぐさま後方へと移動、
 右手をヴィータに向けてグラシアルブリザードを放ち氷の刃がヴィータに襲いかかる。
 
 しかしヴィータはパンツァーヒンダネスを発動させて攻撃に耐えていると、地上からディードが姿を現し、
 ある程度の距離を保つと、ツインブレイズの一刀を高々と掲げエネルギーで出来た刀身を伸ばして一気に振り下ろす。
 
 ディードの刀身がカノンに迫る中で左手を向けて攻撃を防御、
 すると氷の嵐から姿を現したヴィータがギガントハンマーを水平に振り抜く、
 しかしその攻撃も右手のバリアで防ぐカノンであったが、今度はオットーがレイストームを撃ち抜いた。
 
 「貴様らぁ!!鬱陶しいわぁぁ!!!」
 
 次の瞬間カノンは自分を中心にエクスプロージョンを撃ち出し、
 ヴィータ、ディード、オットーの順に飲み込まれ、辺りは爆発による閃光に包まれた。
 
 そして閃光が落ち着くと三方向に吹き飛ばされる三人がおり、
 ヴィータはビルの壁に、ディードは道路に、オットーはビルの屋上にそれぞれ激突した。
 
 「クソッ!なんて強さだ!!」
 
 ヴィータは歯噛みしながら起き上がりカノンを睨み付けると、オットーとディードも同様に起き上がる。
 …このまま不利な状況が続けば、倒されてしまうのも時間の問題、
 それだけ手加減できない相手であると悟ったヴィータはエクストラモードを起動、
 
 するとヴィータの赤い騎士甲冑が黄色に染まり、瞳も黄色く体の周りには稲妻が音を立てて走り、
 右手は金属で出来ていたゴッツい手袋がつけられており、
 グラーフアイゼンもまた金色に似た輝きを放ち、柄と槌はうっすらと離れて浮いていた。
 
 ヴィータの変貌にオットーとディードは目を丸くする中で、
 カノンは一人手を組み考える様子を浮かべ、言葉を口にする。
 
 「なるほど…それが貴様の全力か……」
 「覚悟しろよ!エインなんたら!!」

229レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/14(土) 21:12:26 ID:S2y/0SMQ
 するとグラーフアイゼンの槌を下に向けて降ろしヴィータは半身で構え、
 全身の稲光が輝く中、グラーフアイゼンを下から上へと投げ飛ばすかのように振り上げる、
 
 すると荷電されあるグラーフアイゼンの槌が勢い良く飛び出し、槌は回転しながらカノンに迫ると、
カノンは右手を向けてシールドを張るが、シールドは簡単に打ち砕かれカノンの右肩を掠めた。
 
 ミョルニルハンマー、電気変換能力により荷電・加速されバリア破壊の効果を持った槌を飛ばす奥義である。
 無論、飛ばした槌と柄は雷によって繋がれており、手元へと戻す事が出来るのである。
 
 「チッ…掠めただけか」
 
 飛ばした槌が弧を描きながら柄に戻り、一つ舌打ち鳴らすも不敵な笑みを浮かべ見上げるヴィータ、
 すると自慢のシールドを破壊されて怒り心頭といった表情を浮かべるカノンは左手をかざし、
 サンダーストームを撃ち出しヴィータに迫ってくる。
 
 だが次の瞬間カノンの周囲に魔力阻害効果を帯びた結界が張られサンダーストームを打ち消す。
 オットーがレイストームを用いて結界を張りカノンを攻撃ごと封じたのである。
 だがカノンは結界の中で魔力を高めると巨大な魔法陣を張り詠唱を始める。
 
 「絶望の深遠に揺蕩う冥王の玉鉾、現世の導を照らすは赤誠の涓滴!!」
 
 するとカノンの広域攻撃魔法グローディハームが発動、魔法陣の中心部分から毒々しい液体が結界に張り付いて溶かし、
 結界を破壊すると辺りに四散し溶かしながら消えていく、その中で上空へと移動していたヴィータがカノン目掛けて急降下していた。
 そしてグラーフアイゼンを一気に振り下ろし直撃、更に大地に突き刺さるようにカノンを激突させる。
 
 カノンが激突した場所は土煙が立ち上がり、視界が悪い中ゆっくりと立ち上がる影を目撃したディードは、
 左に持ったツインブレイズの刀身を伸ばし、影に向けて右から左へと振り抜く、
 すると人影の部分で受け止められた感触を感じ、無理やり振り抜くと左の刃が砕け散った。
 
 だがディードは間髪入れず今度は右のツインブレイズを延ばし一気に振り下ろすと、今度はスムーズに刃が通り砕ける事もなかった。
 その感触に手応えを感じたディードであったが、土煙が晴れると其処には左腕を無くし右手を向けているカノンの姿があった。
 
 「貴様!よくも俺様の左腕を!!!」
 
 カノンは怒り心頭といった表情を浮かべ、その表情にディードは萎縮するとカノンはアースクレイブを発動、
 ディードに石の刃が襲いかかる瞬間、右から強い衝撃を受けディードは吹き飛ばされると、
 先程まで彼女が立っていた場所にはオットーが変わりにおり、その顔は少し微笑んでいるように思えた。
 
 「オットー!!」
 
 だがディードの声も空しくオットーの体に次々と石の刃が突き刺さり、最後に巨大な石の刃がディードの腹部を貫き、
 その光景はまさに、百舌の速贄を彷彿としていた。
 
 オットーの変わり果てた姿に膝を付き目を見開くディードであったが、
 カノンの怒りは未だ収まらず再度ディードに右手を向け攻撃を仕掛けようとしたところ、
 
 上空にいたヴィータが急降下してカノンに襲いかかり、カノンの左こめかみ目掛けグラーフアイゼンを振り抜き、
 カノンは吹き飛ばされ瓦礫に直撃するが、カノンは一瞬にしてヴィータの体をバインドで縛りつけた。
 
 「ぐう……其処でじっとしていろ!此奴が終わったら今度はお前の番だ!!」
 
 そう言いながら瓦礫から姿を現すカノン、そしてその足でディードの下へ向かうと、
 オットーの仇とばかりに逆上したディードが右手に持つツインブレイズを振り下ろす。

230レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/14(土) 21:13:53 ID:S2y/0SMQ
 だがカノンは素早くバリアを張り受け止めると、右手を向けてサンダーストームを撃ち出し、
 ディードは全身に雷を浴び絶叫を上げるとカノンは更に撃ち出し合計五発のサンダーストームを浴びせた。
 
 その外道な振る舞いにヴィータは怒りを覚え、ディードの助けに入ろうとするがカノンの放ったバインドは、
 レストリクトロックと呼ばれる強固なバインドである為、今だ解除する事が出来無いでいた。
 
 一方で五発のサンダーストームを受けたディードは立ち尽くし目は虚ろであったが、
 辛うじて意識を失ってはおらず右手が動く事を確認すると、
 カノンが近づくギリギリまで待ち続け目の前に立った瞬間、勢いよく振り上げる。
 
 だがカノンは既に様子を察していたようで右に半歩身を引いて攻撃を躱すと、
 ディードの左手を掴み捻り込むように関節を決めて押さえつけた。
 
 「この程度で…左腕代価、支払えたと思うなよ!!」
 
 そう言うとそのままディードの左肩を外し、更に引き上げ腕の関節が引きちぎれていく音と叫び声が辺りに響き渡り、
 カノンは左手を手放すと、全身をバインドで縛り上げ、今度は腹部に手を当てエクスプロージョンを発動、
 
 ディードはなす統べなく光に飲み込まれその後爆発、辺りに爆音が鳴り響き一時静寂に包まれると、
 力無く仰向けに倒れカノンはディードの顔側面を踏みつけると、ディードはか細く呻き声を上げる。
 
 「しぶとい…まだ生きているとは」
 
 そして止めとばかりにディードの頭を踏み抜こうとした瞬間、後方から強烈な光を感じ、
 振り向くと其処には右のこめかみに血管を浮かばせ、徐々にレストリクトロックを引き千切り、
 激怒の表情を浮かべ全身が稲光により強く輝くヴィータの姿があった。
 
 「……なぜ怒る?貴様にとって此奴等は敵ではないのか?」
 「あぁ確かに敵さ!だがなぁ…テメェみてぇな外道よりかはよっぽどマシだ!!」
 
 確かにカノンの言う通りヴィータにとって二人は敵である、だが敵とはいえ共闘し感じた事があった。
 それは二人の純粋さ無垢さである、つまり真の敵はこの純粋さを利用した者の存在であると言う考えにヴィータは至ったのである。
 
 …しかしそれよりも今ヴィータはカノンの外道な行動の方に怒りを感じ、
 二人よりもカノンを優先的に倒すという考えに至り、今こうして対峙していると怒気を含んだ口調で話す。
 
 「…理解出来んな」
 「……だろうな!!」
 
 ヴィータの一言を合図に姿を消すようにカノンの後ろを取ると、グラーフアイゼンを振り抜くが、
 カノンは全方向のバリアを張り攻撃を一時的に防ぎ更に間髪入れずアースクレイブを発動、
 
 岩の刃がヴィータに襲いかかる中、ヴィータは一つ一つグラーフアイゼンで叩き割って防ぐと、
 後方に移動したカノンがサンダーストームを撃ち鳴らす。
 
 しかしヴィータの全身は稲妻を纏っている為か対したダメージとはならず、飛びかかるようにカノンに襲い掛かる。
 しかしサンダーストームが効かない事はカノンは察していたようで、右手を向けてエクスプロージョンの準備を既に整えていた。
 
 そしてヴィータがカノンの目前に迫り頃合いを見てエクスプロージョンを発動、
 爆発が始まろうとした瞬間、ヴィータの脚にはフェアーテを纏っており、一瞬にしてその場から移動、
 
 先程と同様カノンの背中を捕らえるとグラーフアイゼンをラテーケンフォルムに変え
カノンの腰辺りに突き刺し更に先端が回転を始めそれにより電気が発生、カノンは叫び声を上げた。

231レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/14(土) 21:17:59 ID:S2y/0SMQ
 
 「ぐあああああああ!!」
 「まだ終わりじゃねぇ!!」
 
 ヴィータは叫び上げるとその場でカノンごと回転を始め、そのスピードは全身に纏う雷の影響を受けて小さな台風と化していた。
 すると今度は回転の勢いを維持したまま、大きく弧を描き上空へと上がりそのまま振りかぶると、
 カートリッジを三発消費、そして地上に向けて大きく力強く振り下ろした。
 
 「ラテェェェケン!!ハンマァァァァァ!!!」
 
 するとグラーフアイゼンの槌が外れ、更に噴射口から大量の魔力が放出、
 それにより更に加速されていき地上に突き刺さると激しい爆音が鳴り響く。
 ヴィータの放った攻撃は遠目で見るとまるで、雷が落ちたかのような印象を受ける光景であった。
 
 そしてグラーフアイゼンの槌が柄に戻るとゆっくりと降下、
 攻撃の跡地は大きなクレーターとなりその中心には、
 腹部に大きな風穴を空けたカノンがうつ伏せの状態で呻き声を上げていた。
 
 「くっ…クソ……この…俺が………」
 「…しぶてぇ野郎だ」
 
 ヴィータは見下ろしながら言葉を口にしてとどめを刺そうと降りようとしたところ、
 左腕を引きずりながらもディードが先に降りていきツインブレイズをカノンの首下に当てる。
 
 「チッ!こんな…所で…終われる……かよ……!」
 「いいえ、アナタは此処で終わりよ……」
 
 そう言うとディードは躊躇無くカノンの首を跳ね足下に首が転がるが、
 ディードは見向きもせず串刺しになっているオットーの下へと急いで向かう。
 
 そしてオットーを見上げる形で見つめ、目から大粒の涙をこぼしていると、
 微かだが…確かにオットーから小さな息遣いが聞こえてくる。
 
 「オットー!!」
 「……ディー…ド……」
 
 ディードの声に反応したオットー、するとエクストラモードを解除したヴィータがゆっくりと二人に駆け寄り、
 ディードはオットーを守る為、ツインブレイズを起動させて警戒すると、ヴィータは首を横に振る。
 
 その後暫くすると医療チームが到着、チーム内にはマリーの姿もあり、
 少し疲れた様子を見せながらヴィータに話しかけ始める。
 
 「今日は満員御礼ね」
 「どういうこった?」
 
 最初はシャマル、次にティアナ、今はヴィータの要望を受けて、
 これで六人目の戦闘機人を見ることになったという。
 
 確かにマリーはギンガとスバルの調整に一役買い、戦闘機人の情報も頭に入っている、
 だがいくら何でも要望しすぎではないか?…と愚痴をこぼすマリーであったが、
 
 ヴィータの「緑茶ラテでも飲んで落ち着け」の一言で返され、
 マリーは医療チームと共にこの場から去り、ヴィータも次の場所へと赴くのであった。

232レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/14(土) 21:22:44 ID:S2y/0SMQ
 一方、ティアナは急いでスバルの下へ戻ると、二人の戦いぶりに唖然としていた。
 遠目では藍紫色の魔力光と水色の魔力光が幾重にも重なり、至る所で火花が散る様子であった。
 
 だが実際の戦闘は熾烈を極めていた、スバルはA.C.Sドライバーを常に起動させたまま攻撃を仕掛けており、
 その突進力を生かして右のナックルダスターをギンガの頭部を狙って打ち抜くが、
 ギンガは頭部を右に振ってこれを回避、逆に左の拳がカウンターとなってスバルの頭部を狙う。
 
 するとマッハキャリバーがプロテクションを発動、ギンガのカウンターを受け止めるが、
 徐に拳から手刀の構えに入ると高速回転、リボルバーギムレットを用いいるとバリアから火花が散り亀裂が入り始める。
 
 するとスバルはA.C.Sドライバーを利用して瞬間的に後方に突進、バリアが砕け散る前に難を逃れたが、
 ギンガは追い打ちとばかりに突進、続け様にリボルバーギムレットを振り抜くが、
 スバルの右こめかみを掠める程度に終わり、先程とは逆にスバルの右拳がカウンターとなってギンガの左こめかみに突き刺さる。
 
 それにより体勢を崩すギンガであったが、右足を踏み入れそのままスバルの懐に入ると、右拳を振り上げスバルの顎を捉える。
 ギンガの一撃により顎は跳ね上げられ半歩引き隙間を開けると、左の手刀を拳に変えてナックルバンカーをスバルの脇腹目掛けて打ち貫いた。
 
 その一撃によりスバルは右足を半歩下げ九の字に曲がり苦しみながら前のめりで倒れそうになるが、
 その動きを利用してギンガの頭上に向かって弧を描くようにウィングロードを作り滑走、
 
 自動的に右の踵落としを繰り出しギンガの頭部に直撃すると、スバルの左足が先に着地、
 すぐさま左足を軸に右回転し右の裏拳でギンガの右脇腹を狙うが、ギンガはそのままの姿勢で後退、難を逃れた。
 そして互いに睨みつけている中で、スバルがゆっくりと言葉を口にし始める。
 
 「ギン姉!目を覚ましてよ!!」
 「黙れタイプゼロ・セカンド!!よくも私の“妹達”を傷付けてくれたな!!」
 
 ギンガの思わぬ言葉にスバルは目を丸くして動揺を隠せないでいると、ギンガは説明を始める。
 ナンバーズは私達の妹達、その中でノーヴェは自分達と同じ母クイントの遺伝子から生まれた存在であるという。
 
 「それにこの世界はもはや終わりを迎え始めている!!」
 
 時空管理局は魔法技術を独占する事により、エインフェリアやヴァルハラなどの兵器を生み出し混乱させている。
 既にこの世界は腐敗している、だがその原因である膿みを全て取り除いたとしても既に世界は手遅れな状態、
 
 故にスカリエッティ達はこの腐敗した世界を材料にして、新たな世界ベルカを創り出すことにした、
 たとえその際に痛みが伴おうとも血が流れようとも、腐った世界をいつまでも放置する訳にはいかない。
 
 「死に瀕したこの世界を苗どころにして何が悪い!!」
 
 この戦いは自分達が生きられる場所を獲得する為の戦い、
 それはつまり妹達が安心して暮らせる世界を手に入れる為を意味する。
 
 この意味を同じ存在でもあるスバルであれば理解出来るハズだと、
 ギンガの言葉に出しスバルは俯き暫く沈黙を守ると、ゆっくりと顔を上げ口を開き始める。
 
 「ギン姉…それは間違っているよ……」
 
 スバルは決意ある瞳でギンガの主張を断ち切る、
 確かにギンガの主張は尤もである、だからといって関係無い人達を巻き込む戦いは間違っている、
 たとえこの戦いによって新たな世界が構築されたとしても、人々の血の上で成り立つ世界が認められる訳が無い。
 
 「どれだけ奇麗事を並べても…体のいい理由を並べても!犯罪は犯罪なんだよ!!」
 
 スバルの言葉にギンガは俯きジッと静かに立ち尽くしていると、
 最早語る言葉が無いと悟ったのか構え始め、スバルも呼応するように構え始め、互いに言葉を口にする。

233レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/14(土) 21:24:51 ID:S2y/0SMQ
 
 「私は絶対にギン姉を助けて見せる!!」
 「私はタイプゼロ・セカンドの目を覚まさせる!!」
 
 それぞれの思いをと共にスバルはエクストラモードを起動、リボルバーナックルとマッハキャリバーは真っ黒く染まり、
 バリアジャケットとリボンは黒に近い緑色へと変わり、リボルバーナックルには赤い魔力が帯びていた。
 一方ギンガはレリックを全開にして魔力を上昇、体に魔力を纏うとブリッツキャリバーから左右合わせて四枚の魔力翼を発生させる。
 
 すると先にスバルが動き出し右拳を頭部目掛けて振り抜くが、ギンガは頭を下げてこれを回避、
 逆にカウンターとして左のアッパーが襲い掛かるが、スバルは右足を半歩下がらせて前髪を掠める程度に終わらせる。
 
 すると今度は身を引いたと同時に引いた右拳でギンガの顎を打ち抜き
 更に左足を軸に左回転、その勢いを乗せたまま再度顎を打ち抜き、ギンガの身と共に跳ね上がる。
 
 そしてギンガは勢い良く跳ね上げられ宙を舞う中でスバルは一足先に着地、
 するとギンガはウィングロードを空中に作り出し足場にすると真っ直ぐスバルの下へ延ばす、
 続いてリボルバーナックルから三発カートリッジを消費させると手刀に構え高速回転させる、
 そしてA.C.Sドライバーを用いて一気に加速、スバルに襲いかかった。
 
 「これで終わりよ!!!」
 
 ギンガの攻撃が迫る中でスバルはギンガを見上げると更に半歩下がり、
 右のリボルバーナックルから三発カートリッジを消費、纏ってた赤い魔力が更に濃くなる。
 
 「うおおおおおおおおおっ!!!」
 
 そして一気に拳を地面に振り下ろし地面を砕くと、亀裂から赤い魔力が姿を現れギンガに襲いかかり、
 ブラッディカリスはギンガの体を何度も叩き打ち続けその中、レリックが胸元から姿を現し始める。
 
 どうやら非殺傷設定による魔力への攻撃によりレリックを制御する魔法陣が支障を来たし、
 レリックの制御が出来なくなった為、表に現れたようである。
 
 だが物理破壊設定も設定されている為、魔力に晒されたレリックにヒビが入り爆発、
 ギンガは宙を舞い地面へと落下、その姿にスバルは駆け寄るとギンガの戦闘スーツは爆発の影響により、
 至る所が破けており、仰向けのまま倒れいて暫くするとギンガがゆっくりと目を覚ます。
 
 「………ス……バル」
 「ギン姉!!」
 
 スバルはギンガの身を抱えるとゆっくりと笑みを浮かべ、その表情に涙を浮かべるスバル。
 どうやらギンガは今までの記憶を覚えているらしく、自分が犯罪に荷担していた事に猛省していた。
 
 「ゴメン…ね……スバル」
 「そんな!ギン姉は悪くないよ!!」
 
 悪いのはギンガを洗脳した人であると力強く答えスバルの答えを静かに聞くと、徐に左手のリボルバーナックルを取り外しスバルに渡す。
 どうやらギンガはスバルとの戦闘や発言から成長を感じ、本来のリボルバーナックルを扱う事が出来ると考えたのである。
 
 スバルは暫くの間、目を閉じ沈黙すると意を決したように目を見開きリボルバーナックルを受け取る、
 そして左手に填めると拳を合わせ左のリボルバーナックルは右のリボルバーナックルと同じ色形となった。
 
 スバルの凛とした勇姿をこの目で見たギンガは安心したのかゆっくりと目を閉じ、
 その反応にスバルは駆け寄るとティアナが姿を現し、ギンガの様子を調べ気を失っている事を確認、
 
 スバルはホッと胸を撫で下ろすとティアナは医療チームに連絡、その後暫くして医療チームが姿を表し、
 ギンガとノーヴェが搬送される事を確認すると二人は新たな場所へと赴くのであった。

234レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/14(土) 21:54:32 ID:S2y/0SMQ
 一方レザードは順調にヴァルハラに向かっており、行く手を阻むアインヘリアルなどまさに一蹴とも言える攻撃で蹴散らしていた。
 そして目の前にヴァルハラの姿を捉えると、丁度間にエインフェリアのゼノンが睨みつけており、
 足下には巨大な魔法陣を敷き詠唱を行っているように見えた。
 
 「我が手に携えしは悠久の眠りを呼び覚ます天帝の大剣、古の契約に遵い我が命に答えよ!!」
 
 するとレザードを中心に巨大な魔法陣が現れ、周囲から炎がレザードに向かって迫り火柱となって燃えさかる、
 その光景にゼノンは確かな手応えを掴み勝利を確信した表情を浮かべるが、直ぐに驚きの表情に変わる。
 
 「ふっ…この程度の炎で私の相手を?」
 
 不敵な笑みを浮かべ眼鏡に手を当てるとグングニルを向けて、
 まるでこれが本当の炎であると言わんばかりにえ詠唱を始める。
 
 「我焦がれ誘うは焦熱への儀式、其に捧げるは炎帝の抱擁!!」
 
 レザードの詠唱によりゼノンの周囲は炎に包まれ逃げ場を無くすと、炎は臨海点を超えたかのように大爆発を起こす。
 イフリートキャレス、レザードが扱う炎の広域攻撃魔法の一つである。
 
 「…己の分を弁えることですね」
 
 ゼノンはなす統べなく一瞬にして消滅、レザードは何事も無かったかのように先に進む、
 …その後方でははやてが唖然とした表情を浮かべていた。
 
 あの男レザードは局員が手こずるエインフェリアを一撃で葬った、
 それ程までに奴と我々との間には差があるという事を見せつけられた瞬間であった。
 
 …とは言えはやてもまたエインフェリアを一蹴していた事実は棚に置いているようである。
 それはさておき、そんな事を考えながらもはやては引き続きレザードの後を追うのであった。
 
 
 場所は変わり此処ゆりかご内ではアリューゼとグレイが協力し合ってガジェットや不死者を撃破していき、
 そして目的の地であるスカリエッティのラボへ続く管制室に辿り着くと其処にはクアットロが佇んでいた。
 
 「まさかぁ不死者が反旗を翻すなんてねぇ」
 
 不死者は基本的に自分の意志を失っており、普通であれば有り得ない事である。
 つまり珍しい検体、本来なら解体して念入りに調べたいところであるが、
 
 ゆりかご内でこれほど暴れてられて貰っては処分せざるを得ない、
 そう言うとクアットロは指を鳴らし、周りからガジェットIV型が五機姿を現す。
 
 「チッ!めんどうだな!!」
 
 アリューゼは一つ舌打ちを鳴らしガジェットを睨みつけていると、グレイから念話が届く。
 その念話の内容とは此処は自分に任せて先に進めというものであった。
 
 (…任せていいんだな)
 (あぁ…)
 
 二人は念話で段取りを合わせると、意を決したように剣を構える。
 するとそれを見たクアットロは右手をかざし振り下ろすと、ガジェットIV型は一斉に動き出し襲い掛かってきた。

235レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/14(土) 21:58:34 ID:S2y/0SMQ
 
 「行くぞ!アリューゼ!!」
 「おぅよ!!」
 
 二人もまた飛び出すとガジェットの一体が右前足の刃でアリューゼに襲い掛かる、
 だがアリューゼは刀身にて受け流すと、そのまま胴を断ち切った。
 
 するとアリューゼの動きに合わせてグレイが氷の弾丸を用いて二機を足止め、その隙にアリューゼは先に進み、
 クアットロに迫ると残りの二機が立ちふさがるようにして襲い掛かってきた。
 
 「邪魔を…するな!!」
 
 するとバハムートティアのカートリッジを一発消費して全身を闇に包み込み、
 ダークを発動させてガジェットの後ろを取ると、レンチングスイングで二機を一瞬にしてスクラップへと変える。
 
 そしてそのままクアットロを飛び越え先へと進み、クアットロは振り返り邪魔をしようとしたところ、
 後方から何かが砕け散る音が響き、振り向くと其処にはガジェットを凍り付かせ、
 更に砕きバラバラとなった残骸が足下に広がり、その中心にはグレイが佇んでいた。
 
 「あら?もうやられちゃったのぉ〜あっけなぁい」
 「……残りはお前だけだ」
 
 グレイはクアットロが戦闘型では無い事を知っている為か、降参するように促すと、
 クアットロは不敵な笑みを浮かべ拒否、そして徐に眼鏡を外し髪留めも外し始める。
 するとクアットロから魔力が溢れ出し、思わずグレイは目を疑う。
 
 「まさか、リンカーコアを!?」
 「ご名答〜」
 
 クアットロはレザードの役に立つ為に自らの手でリンカーコアを埋め込み、それにより魔力を手に入れた、
 だがそれだけではない、更にレリックをも埋め込み能力を向上、更にはお手製のデバイスを用いるという。
 
 「J・D、セットアップ!」
 
 するとデバイスは起動、シルバーカーテンはフードの付いた妖美なバリアジャケットとなり、
 髪の色も赤く変化、顔色も変化し手には頭蓋骨をモチーフとした禍々しい杖が握られていた。
 
 「ふふふっアナタの命運も此処までぇね!」
 
 そう言って杖を振るうと三本のダークセイヴァーがグレイに襲い掛かる、
 だがグレイは一つ一つ丁寧に叩き落とすと、クアットロに迫る、がシャドーサーバンドと呼ばれる闇魔法を発動、
 グレイの足下から悪霊を模した魔法が姿を現しグレイを跳ね飛ばす。
 
 そして空中に投げ飛ばされる中でグレイは氷の弾丸を発射、
 氷の弾丸はクアットロに迫る中、杖を振り抜き衝撃波を発生させてこれを相殺した。
 
 相殺された氷の弾丸が粉雪のように散りばめる中でグレイは床に着地、すぐさまクアットロに向かうと、
 クアットロは先程と同様にダークセイヴァーを放ち、グレイは受け流しつつ迫っていく、
 
 そしてグレイは刀身を振り下ろすが、クアットロは左手を向けてディフェンサーを張り攻撃を受け止め、
 右手に持つ杖を振り払い衝撃波を撃ち出し、グレイ吹き飛ばされて壁に激突した。
 
 グレイが激突した場所は土煙に覆われていたが隠れる事無く姿を現す、
 …がグレイの左腰には切れ目があり、本来あるハズの肉体が無い事を知られる事となった。
 
 「肉体を失い、魂のみの存在とはねぇ」

236レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/14(土) 21:59:01 ID:S2y/0SMQ
 益々興味に尽きない対象であるが、これ以上被害を被る訳にも行かないし付き合っている訳にも行かない、
 何故ならクアットロはガジェットや不死者の制御の全権を任されている為だ。
 そこでクアットロは杖を床に突き刺し巨大な幾重にも描かれている多角形の魔法陣を張ると詠唱を始める。
 
 「我、久遠の絆断たんと欲すれば、言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう」
 
 するとクアットロの頭上から巨大な槍が現れ、その矛先はグレイへと向けられいた、
 その中でグレイはクアットロは早期に決着をつける気である事を悟り、
 残りのカートリッジを全弾消費、この一撃に全てを賭けた。
 
 「ファイナルチェリオ!!」
 「奥義!アイシクルディザスター!!」
 
 クアットロはかざした手を振り下ろすとグレイ目掛けてファイナルチェリオが襲い掛かる、
 …がグレイは臆する事無く突撃、ファイナルチェリオはグレイの左半身に深く突き刺さり、左腕と左上半身を失う、
 だがグレイの突撃は止まらず、その気迫に圧されたのかクアットロは一歩も動けないでいた。
 
 そしてグレイの刀身がすり抜けるようにしてクアットロを貫くと、後方から氷の弾丸が次々とクアットロの体を突き刺し、
 更に弾丸を中心に凍り付き始め、クアットロは必死な形相で抜け出そうとしていた。
 
 「そっそんな!?こんな所で私が―――」
 
 だがクアットロは全ての台詞を吐く前に全身を凍り付かせ氷のオブジェを化す、
 それを見たグレイはオブジェに近付き刀身を構えると、
 勢い良く振り上げ、その一撃により氷のオブジェはクアットロと共に砕け散った。
 
 
 …しかしグレイもまたファイナルチェリオの影響により鎧に亀裂が走っており、いつ砕けてもおかしくない状態であった。
 
 ――そして徐に天を仰ぐ…自分のすべき事、成すべき事は全てやった、
 
 ――後の事は他の生きている人達に任せよう…それが自分に出来る最後の仕事である――と…
 
 そう悟り一つ小さく息を吐くと、ふと自分の周囲が明るい事に気が付き辺りを見渡す、
 すると丁度グレイの立っている位置の三歩先に、親友であるカシェルとエイミの姿を目撃する。
 
 「あぁ…迎えに来たのか……」
 
 グレイは小さく呟くように言葉を口にすると、二人は満面の笑みを浮かべ出迎える、
 その表情に安心したのかグレイは歩き出すと、その姿は鎧だけの姿では無く人の姿のグレイであった。
 
 そしてグレイはエイミとハイタッチを交わし、カシェルに腕で首根っこを掴まれ、
 肩を寄せ合い、笑い合いながら三人は光の中へと消えていく……
 
 
 
 そして…その場は静寂に包まれ、グレイの鎧が別れを告げるように音を立てて崩れていった…

237レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/14(土) 22:00:51 ID:S2y/0SMQ
 以上です、エインフェリア全滅な回です。
 
 この先戦闘ばっかでパターン化しそうな感じです。
 そしてレザードの手に掛かれば強敵もかませ犬に?!

 あと前回出て来たエインフェリアのミトスはミトラでした、申し訳ありません。
 
 
 ミトスって誰だよ…やっぱテイルズばっかやっている所為かな………
 
 …っと後でちゃんとに修正しておきます。
 
 
 次はゆりかご内となのはがいけたらなぁっと考えています。
 
 
 
 それではまた。

238魔法少女リリカル名無し:2009/11/14(土) 22:16:14 ID:HaMTU0Fc
GJ!
壮絶な戦い!

239魔法少女リリカル名無し:2009/11/14(土) 23:51:44 ID:7gNlth..
>>237
「なのはTRANSFORMERS」作者です。
GJでした。
ゆりかご戦が凄惨な状況になってますね。なのは達が頑張り通せる事を祈ってます。
こちらは、最新話を倉庫にUPしました。
文章を一部変更し、“聖王教会法王”を登場させてました。
法王の元ネタは「スター・ウォーズ」サーガの“マスターヨーダ”です。

240魔法少女リリカル名無し:2009/11/15(日) 16:43:23 ID:bJ6hKVH2
>>レザポ氏
GJです。これだけ戦闘が書ければいいなと思いました。
ふと気になったのですが、
通常なら?「。」が来るであろう所が「、」で区切られているのは
何か特別な意味があるんでしょうか?

241リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 17:38:00 ID:6GaGPmas
よし、今日こそは…!
19:30分くらいにリリカルTRIGUN・14話を投下します

242リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:29:38 ID:6GaGPmas
では時間になったので投下します

243リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:34:20 ID:6GaGPmas
 闇の書事件臨時本部が設置されているマンションの一部屋。
 その一室にてリンディ・ハラオウンは、宙に映し出されたモニターを険しい顔で凝視していた。
 モニターに映し出されるは、鮮やかな金色の短髪を携えた男の姿。
 男は、白色の、まるでライダースーツのような服を身に付けており、軽快な振る舞いで画面の中に立っている。
 リンディはそんな男の静止画を無言で睨め付ける。
 一秒、二秒、三秒と、刻々と流れていく時間の直中で、ただ押し黙り、思考に全神経を集中させていた。

(アンノウン、か……)

 リンディが臨時本部に帰還したのは、数時間前の正午の事。
 それから今まで、リンディはずっとディスプレイとの睨み合いを続けていた。
 この数日間は、時間の殆どをフェイト達の付き添いで消費しており、戦闘の解析をする事が出来なかった。
 現在、リンディが行っている作業はその穴を埋める為のもの。
 守護騎士達がいつ出現するかも分からない今、情報収集は最優先の事項であった。
 ふと画面が切り替わり、また別の写真がディスプレイに表示される。
 写真の中心にいるのは、先程と同様の男。
 服装も髪型も同じである……が、ある一点が大きく異なっている。
 そのある箇所とは―――男の左腕。
 洗練された名刀と見紛うばかりの刃が、そこには存在していた。

(……先天性能力の一つだと思うけど……それにしては何となく異質な感じね……)

 数秒の熟考を経て、リンディの細指がディスプレイ上を走る。
 続いて画面上に現れたのは一編の動画。
 その動画の中では、少年魔導師の撃墜の瞬間が、事細かに収められていた。

(そして、クロノを撃墜した謎の能力……まるで斬撃そのものを飛ばしているかのような不思議な攻撃……
 ……不可視にして速攻……出も早く、射程も威力も強力……最大出力ならば巨大包囲結界すら破壊可能……)

 眉間に皺を寄せながら、リンディは記憶の棚から情報を引き出していく。
 この強力な能力に対抗できるような有益な情報。
 艦長として培ってきた長年の経験から、この男に対する対抗策を練り上げているのだが……その作業は難解を極めていた。
 第一に、単純な問題ではあるが火力が桁違いに強い。
 奴は、十数人もの魔導師が形成した結界を、易々と両断した。
 あれだけ強固な結界を破壊するには、少なくとも高町なのはの最大砲撃―――スターライトブレイカー並の一撃は必要な筈であった。
 そう、その筈なのに……奴はただの一振りで結界を破った。
 発動の溜めに使用された時間はほんの数瞬。
 つまりは、その数瞬で、スターライトブレイカーにも迫る超高威力の攻撃を行使できる程のエネルギーを貯蓄したという事。
 余りに異常なエネルギー効率。加えて、それだけの攻撃を放ったというのに、男には疲労の色が寸分も見受けられない。
 常識では考えられない現象の数々であった。

(……かなりの難敵ね)

 僅かな溜めで超上位砲撃魔法と同等の力を有する攻撃が可能。
 攻撃による疲労は、おそらく極軽微。威力の調節も可能である。
 男の概要を簡単に纏めると以上の通り。攻略は相当な難易度を誇る。
 総指揮を任されているリンディにとっては頭の痛い限りだ。

(守護騎士だけでも手一杯だっていうのにねぇ……)
 
 疲労が浮かんだその表情で、リンディは深い溜め息を吐き出した。
 先の戦闘で撃墜されたフェイトとクロノは比較的軽微な負傷で済んだ。
 現在は管理局本部で治療に専念しているが、医務員の話によれば、一週間も休養を取らせれば問題なしとの事。戦線への復帰も近い内に可能だろう。
 身も蓋もない言い方ではあるが、少しでも戦力が欲しい現時点に於いて、二人の迅速な復帰は非常に助かる。
 全体的に下がり気味にある士気も、僅かながら回復の兆しを見せる筈だ。

(なのはさんは大丈夫かしら……)

 特に、自軍の最高戦力である高町なのはのモチベーションの低下は、顕著なものであった。
 多少の励ましは掛けたものの、殆ど上の空で聞き流されてしまった。
 ここ数日間フェイト達に付きっきりであったとはいえ、あの状態の高町なのはを放置してしまった事は完全に痛手。
 悪策の極みと言っても過言ではない。

(……少し連絡を取ってみましょうか)

 フウ、と息を吐くと、大きく上半身を伸ばしながら、立ち上がるリンディ。
 作業により凝り固まっていた身体がゴキゴキと鈍い音をたて、軋みを上げた。
 モニター室から出たリンディは、リビング兼キッチンとされている一室にて、固定型電話の子機を操作する。

244リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:36:46 ID:6GaGPmas
「あれ、電話ですか?」
「ええ、ちょっとなのはさんにね」

 と、その時、リビングにて情報整理に勤しんでいたエイミィが顔を上げ、リンディへと声を掛けた。
 リンディは受話器に付属された番号を指先で押していきながら、エイミィへ笑顔を送り、ご苦労様と労いを返す。
 そして、エイミィの向かい側……茶色の木製椅子に腰を下ろして、機械の中から響くコール音に耳を傾ける。
 五回目のコール音が終わるか終わらないかというタイミングで、相手は電話に出た。

「もしもし、なのはさん?」
「あ、リンディ提督。やっぱり帰って来てたんですね」

 電話先のなのはは、やっぱり少し疲れた様子を見せていた。
 普段のハキハキとした口調は鳴りを潜め、幾ばくかの影を落としている。

「ええ、ついさっきね。そっちはどう? 何か変わった事はあった?」
「いえ、こっちは特に何もありませんでした。いつも通りです。……それで、あの……フェイトちゃんとクロノ君は……」

 だからこそ、と明るく振る舞うリンディであったが、やはりなのはの声に覇気は戻らない。
 心配の気持ちが表情となりリンディの顔に浮かび上がる。

「二人なら大丈夫よ。クロノもフェイトちゃんもあと何日かすれば復帰できるって。
 またそっちの学校に行けるようになるだろうから、アリサちゃんやすずかちゃんにもよろしく伝えてくれるかしら」
「分かりました……」

 クロノやフェイトの無事も伝えるも、その鬱々とした様子は一向に引きずられたまま。
 予想以上に重傷、いや、時間の経過により重傷になってしまったのか。
 元来、高町なのはは責任感の強い優しい子だ。その性格が影響して、二人の撃墜を自己の責任として押し付けてしまったのだろう。
 このような事態になった要因の一つに、心のケアの遅れも少なからず存在する筈だ。
 本日何度目かの溜め息が、零れ落ちる。

「なのはさん」

 次に口を開いた時、リンディの口調は優しげな物から厳格な雰囲気を纏ったものへと変化していた。
 今のなのはには、おそらく奨励の言葉は届かない。どう励ましたところで、結局は自責の念へと変換されてしまうだろう。
 ならば、逆に、また別の責任を植え付けるしかない。
 彼女の心労は増すだろうが、いち早く立ち直って貰うにはこの手段しかなかった。
 口調とは裏腹の歪んだ表情で、リンディが言葉を紡ぐ。

「二人の件で心を痛めているのは分かります。ですが、クロノ・ハラオウンとフェイト・テスタロッサが戦線を離脱している今、守護騎士に対抗できる魔導師はなのはさんだけです。
 そのなのはさんが士気を低下したままでは、闇の書事件に関わる管理局員全体の士気にも関わるんです。
 なのはさんには酷な事だと思うけど……早く、立ち直って下さい。お願いします」

 この闇の書事件は、言うなれば世界の存命を賭けた戦いだ。
 闇の書が完成、暴走すれば世界が滅亡し、少なくともこの地球という惑星は終焉を迎える。
 そんな重大な責任を負わされた任務なのだ。
 例え民間の協力者とはいえ、此方側の最高戦力である以上、モチベーションの低下した状態でいられては困る。
 劣勢に陥っている現状なら尚の事だ。
 向かいの席ではエイミィが作業の手を止め、心配そうな視線を上司へと送っていた。

「……分かりました、すみませんでした……」
「いえ、謝らなくても良いわ……ただ、二人の事は深く考えないように、分かった?」
「……はい」

 なのはの口調は、相も変わらず変化の予兆すら見せない。
 年不相応のしっかりした少女であるとはいえ、実際はまだ二桁にすら届かない年齢なのだ。
 精神訓練を受けているのならまだしも、たったこれだけの言葉で、回復しろという方が無理のある話だろう。
 仕方ないか……と、考えたリンディはなのはの激励を諦め、話題を変える。
 彼女が持ち出した次の話題は、ヴァッシュ・ザ・スタンピードについてであった。

「なのはさん、今近くにヴァッシュさんは居る? 居るんなら、少し代わってくれないかしら」

 映像の中のヴァッシュ・ザ・スタンピードは、明確な敵意を持った表情でアンノウンと会話を交わしていた。
 守護騎士との戦闘に於いても飄々とした風貌を揺らがせなかった彼が、明確な敵意を持つ……普通では有り得ない状況に見えた。
 おそらくヴァッシュとアンノウンとの間には何らかの因縁が存在する。
 そう推測して、リンディはヴァッシュとの会話を望んだ。
 彼からアンノウンについての情報を少しでも入手したかったのだ。

245リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:37:57 ID:6GaGPmas
「え? ヴァッシュさんならそっちに向かうって言ってましたけど」

 が、その目論見もなのはの一言により虚しくも崩れ去った。
 え? と、リンディの表情が困惑に染め上げられる。

「なのはさん、それいつの事?」
「えっと、夕ご飯の前だから……確か一時間位前の事ですけど」

 リンディが居る臨時本部は、ヴァッシュの居候している高町家の近隣に置かれてある。
 歩いて十分、どんなに遅くとも二十分も在れば到着する筈だ。
 何かが、おかしい。

「エイミィ。ちょっと聞きたいんだけど、私が作業してる間に誰か訪ねて来なかった?」
「いえ、誰も来ませんでしたよ」

 作業を再開させていたエイミィに問い掛けるも、答えは変わらない。ヴァッシュの到来は無いとの事であった。
 リンディの困惑は更に深くなっていく。
 リンディは、子機を肩と首で挟んで支えると、充電中の携帯を掴み、慣れた動作で電話帳を開いた。

「あの……ヴァッシュさんがどうかしたんですか?」
「……大丈夫、何でもないわ。遅くに電話を掛けてごめんなさいね。なのはさんもゆっくり休んでちょうだい」
「はあ……」
「じゃあ、お休みなさい」
「はい、失礼します」

 なのはとの通話を切ると同時に、ア行の欄へ載せられている『ヴァッシュ・ザ・スタンピード』を選択、何度かコールを鳴らしてみる。
 着信に応答する気配はなく、数回のコールの後に留守録機能へと繋がってしまう。
 言いようのない嫌な感覚が、リンディの心に巣食い始めた。

「どうかしたんですか? ヴァッシュさん」
「ええ、何かアクシデントに巻き込まれてるみたいなんだけど……ちょっと嫌な予感がするわ。大事にならなければ良いんだけど……」

 繋がらない携帯電話を片手に、増加し続ける悩みの種に眉間の皺を増やすリンディ。
 彼女の口から、再び深い深い溜め息が漏れた。



□ ■ □ ■



 それはまさに偶然と言う他なかった。

 熟考に身を任せ、見知らぬ市街地を放浪していたヴァッシュ・ザ・スタンピード。

 家族と共に夜食の買い物をしていた八神はやて。

 その付添いとして買い物に連れ添っていたヴィータとミリオンズ・ナイブズ。

 それは誰もが予期していなかった遭遇。

 人間台風ことヴァッシュ・ザ・スタンピードは勿論、ミリオンズ・ナイブズですらこの出会いは予想の範囲外。

 余りに出来過ぎな偶然に、ヴィータとナイブズは身動きを忘れ、ヴァッシュもまた茫然と、まるで時間が静止したかのように固まっている。

 ただ一人、現状を理解していないはやてのみが、三人の様子を困惑の表情で見つめていた。

246リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:39:27 ID:6GaGPmas
「て、てめぇ!」

 不意の事態に混乱している中でありながら、ヴィータは主を守護する為に動いた。
 ヴァッシュからはやてを奪取し、二人の間に身体を滑り込ませ、主を庇うように両手を広げる。
 その瞳には敵愾心がありありと浮かんでおり、眼前の敵対者を強烈な視線で睨み付ける。

「ナイ、ブズ……」

 だが、肝心のヴァッシュ・ザ・スタンピードはヴィータの姿を視界に捉えてはいなかった。
 ただ、その後方に佇む金髪痩躯の男性を茫然と見詰めている。
 ヴィータも、はやても、彼等を器用に避けていく人波も……ナイブズ以外の何者もその視界には映らない。
 ヴァッシュの視界は、そしてその思考もまた、ナイブズへと注がれていた。
 それはナイブズもまた同様。彼にしては珍しく、感情をそのままに表情へと宿していた。

「久し振り……だな、ヴァッシュ」

 その想いの差が影響してか、一早く立ち直りを見せたのはナイブズ。
 表情を悦楽に歪ませて、未だ膝を付いたまま動作を止めているヴァッシュへと言葉を降らす。
 瞬間、市街地に響く、ギリという不快な重音。
 それは、噛み締められたヴァッシュの歯から漏れた音であった。

「何故、お前が……!」

 彼の胸中に宿る万感を吐露するには、言語という表現法は余りに不自由であった。
 ともすれば、獣じみた絶叫と共に、真紅の外套の下に隠された拳銃を引き抜きそうになる。
 だがヴァッシュは、制御不能の寸前まで上り詰めている感情を、理性を総動員し押し殺していた。
 此処で銃を抜けば、周囲にいる全ての人間を巻き込む結果となる。
 それを理解しているからこそ、心中で暴れ回る感情を必死に抑える。

「相も変わらずせっかちな奴だな、お前は」

 ナイブズはヴァッシュに対して、呆れを含んだ口調で呟き、そして小さく溜め息を吐いた。
 その小馬鹿にしたような表情に、ヴァッシュの感情が盛大にざわめきたつ。

「まぁ、落ち着けよ。今回の出会いは俺にとっても予想外なんだ。少しは話を交えるのも良いだろう? 今後の為にもな」

 この偶然をナイブズは好機だと考えていた。
 ナイブズ自身、ヴァッシュとの対立は良しとしていない。ナイブズからすればヴァッシュは貴重な同族であり、唯一の兄弟。
 現在は思念の差違により正反対の道程に立つものの、何時かは説き伏せて見せると思っている。
 その見解からすれば、現状は将に天からの恵み。またとない機会だと言えた。

「えーと……二人は知り合いなんか?」

 と、そこで事態の把握ができず沈黙を余儀なくされていた八神はやてが、些細な疑問をきっかけとして会話に割り込んできた。
 その発言にはやての存在を思い出したヴァッシュは、宿敵へと固定されていた視線を少女の方に向ける。
 ナイブズもまた視線を外し、幸運に心を震わせながら、はやての問いに肯首を持って返答した。
 そんなナイブズの心中を知る由もないはやては、変わらぬ当惑を映したまま再び疑問を零す。

「じゃあ、この人もその……別の世界から来たって事なんか?」

 そもそもはやての認識からすれば、ナイブズは別世界からの来訪者。
 そのナイブズが初対面の人間と、まるで見知った仲であるかのように会話をしているのだ。
 加えて普段は滅多に感情を表に出さない彼が、それはもう愉しげに口を動かしている。
 これ等の事象は、はやてを驚愕させるには充分すぎる出来事であった。

「そうだ。まさかコイツまでがこの世界に来ていたとは思わってもみなかったがな」
「そうなんか……」

 ナイブズの答えに、はやての顔に陰が射す。
 恐らくその境遇に同情でも浮かべているのだろう、はやては沈痛な面持ちでヴァッシュの事をジッと凝視する。
 そのはやての様子に、彼女を庇うように立っていたヴィータは、嫌な予感を感じた。
 そして、その予感は不運な事にもドンピシャの正解。ヴィータの予感は、はやての口を通して具現される事となる。

「あの……ぶつこうてしまったお詫びも兼ねてですけど、今から家に来ませんか?」
「えっ!?」

 その発言に慌てた声を上げたのはヴィータ。そんなヴィータに対してはやては片目を瞑り、両手を合わせてお願いする。
 幼少時に両親を亡くしたはやては、二桁にも至らない短い人生の中で、孤独の辛さを痛い程に知ってきた。
 常に傍らで胡坐を掻いていた孤独に押し潰されないよう、必死に、身体を震わせながら、此処まで生きてきたのだ。
 だからこそ、何らかのアクシデントで別次元の世界からやって来る事となったナイブズやヴァッシュに、一際大きな同情の念を抱いてしまう。

247リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:40:56 ID:6GaGPmas
「で、でも、コイツは……!」

 しかし、ヴィータもまた頑として首を縦に振ろうとしなかった。
 ヴィータからすれば、ヴァッシュは管理局の一員である敵対者。
 家に招き入れるなど持っての他。潜伏場所が漏れてしまえば、戦闘に赴くまでもなく、平穏な日常は崩れ去ってしまう。
 だからこそ、それは何としても阻止しなくてはいけないのだが―――

「俺も賛成だ。コイツと少し話がしたい」
「はぁっ!? お前何言ってんだよ!?」

 ―――予想外にも、全ての事情を知っている筈のナイブズすらはやての提案に賛同した。
 すかさずナイブズへと食ってかかるヴィータ。物凄い剣幕でナイブズに詰め寄り、その澄まされた顔を睨み付ける。
 が、ナイブズは熱り立つヴィータを物の見事にスルーし、はやてへと声を掛ける。

「すまないな、はやて。コイツに夕食でもご馳走してやってくれないか?」
「全然ええよ、もう腕によりをかけたるから」
「だからぁ! ダメだって、はやて!! こんな訳のわかんねー奴、連れてってどうすんだよ!!」

 反対の意を大声で捲くし立てるヴィータに、笑顔で事を進めるナイブズとはやて。
 そんな三人をヴァッシュは、地面に腰を落とした状態のまま、未だ茫然とした様相で見詰めていた。
 その脳裏には様々な疑問や困惑が去来しており、冷静な思考を打ち消していた。

「ヴィータも強情やなあ。別の世界から飛ばされた友達同士、今ようやく出会えたんやよ? 家に招待するぐらい別に良えやん」
「違う……違うんだって、はやて!」
「もう、今日のヴィータは少し変やよ……すみませんなぁ、家の子が我が儘ばかり言うて。どうですか? えと、ヴァッシュさんが良ければ、今から家に来て欲しいんですけど?」

 だから、思わずだった。
 ただこのままナイブズと別れる訳にはいかないという想いが、ヴァッシュに決断をさせる。
 先の事など何も考えていない。ただ無意識の内に、想いが表へと飛び出していた。
 その行動は殆ど条件反射。
 思わずヴァッシュは首を縦に振り―――はやての提案を受容していた。
 その服の中で震え続ける携帯電話に、ヴァッシュが気が付く事は、遂になかった。



□ ■ □ ■



「シグナム、調子はどう?」
「ああ、もう問題ない。明日には蒐集に参加させて貰うぞ」

 因縁深き二人の兄弟が運命の再会を果たしたその時、八神家にてシグナムとシャマルの二人は、灰色のソファーに並んで座っていた。
 更にその横には、蒼色の大型犬に変身しているザフィーラが寝そべっている。
 シャマルはシグナムの右腕に手を翳し、緑色の発光と共に魔法を行使していた。

「あなたがそう言うなら止めないけど……無理はしないでね」
「心配するな、お前たちの将はそうヤワに出来ていない」

 買い出しには毎回付添いとして赴くシャマルであったが、この日は珍しく自身から留守番を願い出た。
 その理由は一つ、前回の戦闘で四肢を負傷したシグナムの治療をする為だ。
 傷自体はそれなりに深刻なものであったが、シャマルの治癒魔法が強力だったのか、シグナムの治癒力が高かったのか、もう完治の寸前にまで達している。
 シグナムとシャマル、二人の表情は知らず知らず安堵に包まれていた。

「蒐集の方はどうなってる?」
「ナイブズが頑張ってくれててね、あなたの穴を埋めてるわ。ペースは今までと殆ど変わらない筈よ。
 上手くいけば予定より早い完成も、充分有り得るわね」
「そうか……頼もしい限りだな」

 シャマルの言葉通り、シグナムが撃墜されてからのナイブズは獅子奮迅の活躍を見せていた。
 如何なる魔法生物を相手にしても寸分も臆す事なく、その全てを両断し、撃破していく。
 ナイブズの手助けにより、闇の書完成の時は着実に近付いてきていた。

「……奴は、何者なんだろうな」

 だが、その圧倒的な力に感謝する一方で、また別種の疑問を感じてしまうのを、シグナムは抑えられなかった。
 次元のひび割れから唐突に登場した謎の男―――ナイブズ。
 エンジェル・アームと称した、原理その他が一切不明の謎に満ちた能力を使用する男。
 経歴や能力の大半が謎に占められた男であり……元の世界に戻る術を探すでもなく、はやての為だと、自分達に力を貸してくれている―――家族である。

「……分からないけど……でも、多分、悪い人じゃないわよ……」

248リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:42:07 ID:6GaGPmas
 ナイブズという男は、まさに無愛想を世に現したかのような人物であった。
 日常の殆どを無言無表情で貫き通し、彼自身から言葉を掛けてくる事など殆ど無い。
 まぁ、無愛想とはいっても、他との交流を蔑ろにしているという訳ではないのだが。
 語り掛ければしっかりと返事を返すし、時折その仏頂面に笑顔にも似た影がよぎる事もある。
 自分達が闇の書のプログラムでしかないと知った後も、何ら態度を変化させる事なく接してくれたし、そして何よりはやてを救済する為に尽力してくれている。
 気難しい奴だとは感じるが、悪人であるとも思えなかった。

「……そうだな、私もそう思う」
「蒐集作業が終われば、彼の世界を探索してあげられるんだけどね……」

 シャマルにはそう答えたが、シグナムの内に眠る疑問の種が潰える事はなかった。
 左腕を白刃へと変貌させ、超射程の斬撃を放つエンジェル・アームという能力。
 奴自身の反応速度、身のこなしも相当に高位なもの。何物をも斬り裂く左腕と相成って、近接戦でも充分な戦力を有している。
 加えて戦闘に対する恐れも、おくびにもださない。
 管理局の魔導師と相対した際にも、その無表情を押し通し、易々と撃墜に至らせた。
 特殊能力、身体能力もさることながら、その精神力もまた人間離れしている。
 奴は元の世界で何を目的としてどのような事を行っていたのか、シグナムは非常に興味を持っていた。

「あ、はやてちゃん達、帰ってきたみたい」

 と、そんなシグナムの思考を遮るように、シャマルの声がリビング内に響き渡った。
 詮索のし過ぎか、とシグナムも思考を打ち切り、顔を上げる。
 傍らにて両目を瞑り伏せていたザフィーラも面を上げ、立ち上がる。

「……あれ?」
「どうした、何かあったのか?」
「いや、はやてちゃん達と一緒に誰かいるみたいなの……一人だけだけど」
「なに……?」

 八神家の周囲には、侵入者を警戒して、簡易なものではあるが結界魔法が張り巡らされている。
 付近にはやてや守護騎士、ナイブズ以外の人間が接近すれば、シャマルに情報を伝達してくれる優れ物である。
 その結界魔法がシャマルへと、来訪者の存在を声高に告げていた。
 シャマル、シグナム、ザフィーラの表情に戸惑いが浮かぶ。

「ただいま〜」
「……ただいま……」
「おじゃましま〜〜す!!」

 玄関へと続く扉を潜り、困惑するシグナム達の前に姿を現す四人。
 買い出しに出掛けた八神はやて。
 その付き添いを買って出たヴィータ。
 ヴィータに無理矢理連れて出されたナイブズ。
 そして―――派手という形容詞が最適な髪型と赤コートを携えた男が一人。

「「「なっ……!?」」」」

 満面の、憎らしい程の笑顔と共にヴァッシュ・ザ・スタンピードが、そこに居た。



□ ■ □ ■



「いやぁ〜美味い! 本当に美味しいねぇ、はやての料理は!」
「ホンマですか、ヴァッシュさん?」
「その年でこれだけの料理作れるなんてねぇ〜。こりゃ将来、良いお嫁さんになるって。僕が保証するよ」
「そないに喜んでもらえると、こっちも嬉しいです〜。ほら、ヴィータ達も遠慮せんで、食べて食べて!」
「……は、はい」
「もうこのハンバーグとかね! 士郎さん達にも食べさせて上げたいくらいだよ」
「そんなもう〜! ヴァッシュさんはホンマにお世辞が上手いんやからぁ!」
「いやいやいやいや、謙遜しちゃって〜!」

 そして約束通りの晩餐会。
 晩餐会は予想外にも穏やかで、和やかで、騒がしいものとなっていた。
 ……というより、ヴァッシュとはやてが勝手に盛り上がり、勝手に食事を進めていると云うだけなのだが。
 同じ食卓に座っている守護騎士の面々は一様に押し黙っており、食事に手を付ける事すらままならない。
 念話で口論を繰り広げながら、その警戒心を全開にまで引き上げ、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの一挙一動に意識を集中させていた。
 唯一の例外はナイブズ。
 会話に参加するでもなく、念話に参加するでもなく、警戒するでもなく、無言で食事を口元へと運んでいた。
 結局晩餐会は、食後のお喋りも含めておよそ一時間の長きに渡り、行われていった。

249リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:45:26 ID:6GaGPmas
「あ、もうこないな時間か。ごめんなナイブズ、折角の友達との再会やっていうのに、ずっと話し込んでもうて」
「いや、気にするな」
「じゃ、じゃあ、はやてちゃん、先にお風呂に入りましょうか! その間、二人はゆっくりと話を楽しめば良いわ」
「そやな〜、なら二人共ゆっくり話してってな!」
「ああ、その方が良いでしょう……頼むぞ、シャマル」
「……ええ、任せといて。そっちもよろしくね、シグナム、ヴィータちゃん、ザフィーラ」
「ああ、分かっている」
「OK、任せといてよ」

 粗方の食器も片付け終わり、晩餐会もお開きの空気が漂い始めていたその時、はやてとシャマルの二人が、入浴の為にリビングの奥へと下がっていった。
 そして、二人の姿が完全に扉の向こう側へ消えたその刹那、事態は急変する。
 勿論、先程までの団欒の様子とは正反対の、ギスギスとした険悪な事態へと。
 扉が閉まると同時に、動いたのは二人の守護騎士だった。

「貴様っ……!」
「てめえっ……!」

 発現した二つのデバイスが持ち主の手により、ヴァッシュの首元へ、互いに交差するように突き付けられる。
 もう一人の守護獣も、ついさっきはやて達が退出した扉の前に立ち塞がり、ヴァッシュを睨んでいる。
 その刃と鉄槌に対して、ヴァッシュは寸分の反応すらも見せる事がない。
 ただジッと椅子に座り込んまま、斜め前方の椅子に自分同様に座る男を見詰めていた。

「はは、これで何度目だろうな。お前が俺に、その不細工な道具を突き付けるのは」

 いや、静止していた訳ではない。
 ほんの一瞬、コンマ数秒にも満たない一瞬の間であったが、ヴァッシュは動作を行っていた。
 紅コートの下、腰部のホルスターに装着されていた白銀の大口径を、抜き構えていたのだ。
 六発の弾丸が込められてる拳銃を、二人の守護騎士の抜刀よりも早く、宿敵の眉間へと―――向けていた。

(やはり、早い……!)
(早ぇえ……!)

 その抜き撃ちの速度に、シグナムとヴィータは驚愕と動揺を隠し切れずにいた。
 初見であるヴィータはまだしも、その身を持ってヴァッシュの早撃ちを知っているシグナムすらも、固唾を呑む速度。
 単純な力では語る事のできない脅威が、眼前には存在していた。
 だが、その矛先にいるナイブズは至って涼しい顔のままであった。

「ナイブズ、話を聞かせてもらうぞ……!」

 拳銃を握るヴァッシュの表情は数分前の状態からは考えられない程に、強張っていた。
 歯を食い縛り、眉間に皺を寄せ、両手を握り込み、ナイブズを見る。
 豹変とすら言える程の感情の変化に、対面する守護騎士達も当惑を覚えていた。

「その銃を下げろよ! シャマルが防音結界を張った。抵抗するんなら容赦しねぇぞ!」
「ヴィータの言う通りだ。この場は四対一、如何に貴様であっても切り抜ける事は不可能。悪いが此処で仕留めさせてもらう」

 しかしながら、当惑はせど武器を引く事はせず。守護騎士の二人は、突き刺さるような視線をヴァッシュへと送っていた。
 切り詰まっていく場の空気に、それぞれの額には小さな冷や汗が浮かび上がる。
 緊迫が、周囲を押し込んでいた。

「シグナム、ヴィータ……悪いが、剣を引いてくれないか。コイツと二人きりで話をしたいんだ」
「それは駄目だ……貴様の実力は知っているが、それでもみすみす危険に晒す訳にもいかない」

 そんな中ナイブズが望んだ事は、ヴァッシュとの二人きりでの対話。
 当然の如く、シグナムとヴィータは反対の意を告げるが、その言葉をナイブズは完全にスルー。
 一人立ち上がり、三人の視線も、突き付けられた銃口すらも意にも介さず、ベランダの方へと歩き始める。

「来いよ、ヴァッシュ。お前も対話を望んで此処まで来たんだろ」

 招き入れるように顎でベランダを指し、挑発的な笑みを浮かべ、緊迫のリビングから退室するナイブズ。
 押し黙ったままのヴァッシュも意を決したように、立ち上がる。
 その動きに準じて、喉元に置かれたデバイスも持ち上がるが、それ以上の動作には繋がらない。
 突き付けられてはいるが、その皮膚に接触する事はなく、中途半端な位置に留まったまま固定されていた。
 ヴィータとシグナムも判断をしかねていたのだ。
 このままヴァッシュとナイブズを二人きりにして良いのか、それとも阻止するべきなのか、そもそも自分達はこの男をどうすれば良いのか……。
 二人の守護騎士達は判断する事が出来ない。

250リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:47:26 ID:6GaGPmas
「……大丈夫だ、ここで争う気はない」

 ヴァッシュは、ナイブズが待つベランダへと歩み寄りながら、戸惑う守護騎士達にそう告げた。
 思考を読み取ったかのような一言に、シグナムとヴィータは大きく目を見開く。
 そして、宙ぶらりんの状態にあったそれぞれの得物をヴァッシュの喉笛から―――下げた。
 敵意の充満した視線は変わる事がなかったが、武器を引き、ナイブズのいるベランダまでの道を開けた。

「ありがとな」

 最期に謝礼を一つ残し、ヴァッシュは透明な窓を潜り抜け、宿敵の待つベランダへと足を踏み入れた。
 室内と外気との温度差にブルリと震える身体。
 ヴァッシュの視界の中に、悠然と星を見上げるナイブズの姿が飛び込んできた。
 その視線が射殺すかのように鋭利なものへと、変貌する。
 持ち主の感情を察知したかのように、ヴァッシュの右手に握られた白銀のリボルバーが、震えていた。

「驚いたぜ、ヴァッシュ。まさかあんな肥溜めの中でお前に遭遇するとはな」

 遠い目で夜天を見上げたまま、ナイブズが唐突に言葉を紡ぎ始める。
 ヴァッシュは、己の内に沸き上がる感情を抑え付けながら、その口から吐き出される言葉に耳を傾けていた。

「教えろ、ナイブズ。お前は何が目的でこの家に住み着いている。何故、闇の書の守護騎士に協力している。
 あの子と―――八神はやてとお前は、どんな関係にあるんだ!」

 吐き出された疑問の数々は、八神家に招待されてからずっと、ヴァッシュの脳裏にこびり付いていたものであった。
 守護騎士やあのナイブズと仲睦まじげに交流する少女……八神はやて。
 管理局のデータベースには存在しない人物であった。
 その様子を見る限り決して悪人には見えない。なのは同様に年不相応の、しっかりとした性格を持った少女であった。
 彼女と守護騎士、そしてナイブズとは、どのような関係の上に在るのか?
 ヴァッシュには事態を把握しきれずにいた。

「―――家族さ。俺と守護騎士の連中は、奴が言うには家族という関係らしい」
「……家族……? お前と……彼女達がか?」

 その返答が想像の範疇を越えていたのか、ヴァッシュは思わず素っ頓狂な声を上げていた。
 数瞬前まで張り付いていた憤怒に似た感情も僅かの間であったが抜け落ち、呆けた表情へと変化する。
 眼前の宿敵から、まさかこのような答えが出てくるとは思っても見なかったのた。

「笑えるだろ? 俺が、糞にも劣る人間如きに家族扱いだ。下らなくて笑えてくるよ。今すぐにでも奴をくびり殺したくなる」

 ―――だが、直後に続いた言葉を聞き、ヴァッシュの表情に感情が戻った。
 百と五十年前から何ら変わらない、寧ろ増大する一過を辿っている人間に対する憎悪の念。
 その憎悪を目の当たりにして、やはり眼前の男は仇敵だと再認識するヴァッシュであった。

「……なら、何故、彼女達と行動を共にしている。何故闇の書の完成に力を貸しているんだ」

 ヴァシュの問い掛けにナイブズはようやく夜天から視線を外し、傍らの兄弟へと向け直した。
 表情に宿る狂気と共に、双眸をヴァッシュと激突させる。
 瞬間、背筋に走る悪寒。ヴァッシュの頬を一筋の冷や汗が伝い、灰色の地面へと落下していった。

「なぁヴァッシュ、この世界には虫螻が多すぎると思わないか?」

 唐突に外の世界へと振り向き、大業な身振りで両腕を広げるナイブズ。
 そして、ナイブズはその鉄仮面を笑顔に歪曲させ、夜天の下で小さく語りを上げる。
 異常な、決して人間には醸し出せない空気をその周囲に纏いながら、ナイブズは口を開く。

「あの乾季の惑星と比べて、この惑星は余りに寄生虫が蔓延りすぎているんだよ。
 俺としては今すぐにでも駆除してやりたいんだがな、それにしては余りに数が多すぎる。あの異能殺人集団がいないのも痛手だ」

 その時、ナイブズが浮かべていた表情は、可笑しな事に人間で言うところの『困った表情』であった。
 語られる凄惨な内容からすれば、余りにズレた感情。
 憤怒に震えるでもなく、厄介だと舌を打つでもなく、ただ単純に困ったというような表情。
 言うなれば、散らかった部屋を前にして溜め息を吐く主婦のそれや、余りに多い作業量に辟易する人間のそれと同様のもの。
 ナイブズは心底から困ったような表情で、語りを終えた。

251リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:48:09 ID:6GaGPmas
「だから……闇の書の力を利用しようというのか……!」
「その通りだ。長距離を移動する時は車を使う、大規模な計算をする時はコンピューターを使う、大量の害虫を駆除する時は殺虫剤を使う……今回のことも同じ事だ」

 ナイブズの熱弁を聞き、ようやくヴァッシュにも、その目的が理解できた。
 結局は今までと何ら変わらない。
 この平穏な世界に於いても、何ら心に変化を来す事なく、ただ目的の為に自らの覇業を突き進んでいる。
 何も変わっていないのだ。
 この男は、あの時から、寸分も―――、

「お前は……彼女を、八神はやてを見ても、何も思わないのか……?」

 気付けば、言葉を発していた。
 胸裏に覗く思いの丈を、人間の全てを醜悪だと断定する宿敵へと。
 理解を求める言葉を吐き出していた。

「……人間は皆、素晴らしいなどとは言わない。 でも、誰もが誰も、お前のいうような人間じゃない。はやては、知らない世界からやって来たお前を、家族として迎え入れてくれたんだろ?
 損得も何も考えずに……ただ優しさからお前を受け入れてくれたんだ! 何故、その現実を直視しない! 何故、頑なに人間を否定するんだ!
 はやてや、レムのように、前に進もうとする人間だってこの世には沢山いる!!」

 ヴァッシュは、人間を信じている。いや、信じようと努力している。
 砂の惑星を渡り歩き、この自然に恵まれた世界で様々な人間と触れ合い、彼は信じ続ける。

 人間は変革する事が可能な種だと―――、

 人間は未来に向けて前進できる種だと―――、

 ナイブズが人間を害虫と断ずるように―――ヴァッシュもまた人間の可能性を信じている。

 だから、対立する。その凶行を阻止せんと、唯一の兄弟と対立する。

 実弟が放った信念の咆哮に、ナイブズは狂気の微笑みを内に戻し、代理として哀愁を表に出した。

「違うな……それは違うよ、ヴァッシュ。奴は、俺が人間だと思っているから、家族として受け入れたんだ。
 俺に世界を滅亡するだけの力が秘められていると知れば、奴は恐怖に慄き俺達を拒絶するよ。
 自分達の居場所を脅かす存在に人間どもがどんな対応をしてきたかは、その歴史が語っている!!」
「でも……それでもレムは違った!! 一度は過ちを犯したが、彼女は前に進めた!! 全てを知って尚、彼女は俺達を……俺達を人間として扱ってくれた!!
 人間は前に進めるんだ、ナイブズ!!」

 だが、結局二人の超越者達の信義は平行線を辿ったまま、交差しようとはしなかった。
 片や滅亡を、片や共存を願う信義……どちらも正解であり、また不正解でも有る難解な議題。
 全ての想いをぶつけ合った論争も、互いの信念を揺さぶるには至らずに終焉を迎えた。
 熱した場を冷ますように冬季の寒風が二人の元を通過する。
 静寂が、場を包み込む。

「……良い事を教えてやるよ。貴様ら管理局が探し求めている、闇の書の主についてだ」

 話題の転換は突然であった。
 紛糾した信念のせめぎ合いから、現時点で相手が抱えているだろう問題へと、話の内容を変える。
 しかし、この話題についてはヴァッシュも、今宵見てきた状況からある程度の解答は導き出していた。
 管理局にとっては喉から手が出る程に入手したい情報。その全容を掴み取れる状況に、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは立っていた。

「大体分かるさ……闇の書の主の正体は……八神はやてなんだろ」

 守護騎士と同居し、家族として接する八神はやて。
 その屋内にある人の気配は、はやてや守護騎士、ナイブズの物のみ。
 此処までヒントを与えられれば、小学生にも理解できる問題だ。答えは自ずと見えてきた。
 闇の書の主―――その正体は、先程まで晩餐を共にしていた少女・八神はやてでしか有り得ない。

「ただ、分からない……何で彼女は、管理局と敵対してまで闇の書を完成させようとしている?」

 その正体までは推理できたヴァッシュであったが、そこから先の領域には至らない。
 八神はやてが闇の書を完成させる動機……それだけが、幾ら考えれど出て来なかった。
 どう理屈付けても、先程までの団欒の光景と矛盾してしまう。
 彼女が力を望むとも思えないし、何より彼女は守護騎士達を本当に大切にしているように見えた。
 彼女達が傷付くような事は絶対にしない筈だ。

252リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:48:48 ID:6GaGPmas
「簡単な事だ。闇の書の蒐集にはやては関与していない。全て、シグナム達が自己の意志により行っている行動だ」
「……どういう事だ……」
「教えてやるよ、ヴァッシュ……その全てをだ」

 ―――そして、ナイブズは全てを語った。
 はやての下半身が不随なその理由。
 闇の書自体が持ち主であるはやての身体を蝕んでおり、このままでは内臓器官すら機能停止に至らせる事を。
 つまり、闇の書が完成しなければ―――八神はやては死亡する。
 それら事実を、冷酷に、冷徹に、馬鹿げた理想を望み続けるガンマンへと、ナイブズは語った。
 その反応を愉しむかのような笑顔を携えたまま、彼女達の間にある実情の全てを、ナイブズは語ってしまった。


「……成る程な、そういう事だったのか……」


 だが、そんな仇敵の期待に反して、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは殆ど表情を変える事がなかった。
 いや、寧ろ、その表情には安堵の色さえ浮かんでいるようにも見える。
 予想外の反応に、ナイブズの眉が不審げに歪む。ナイブズの心中には、何とも言えない感情が広がっていた。
 何か、この男についてを読み違えている……そんな予感が、ナイブズの内に浮かび上がっていたのだ。

「ナイブズ、俺はお前の思惑を潰す。この世界を壊そうとするのなら、俺の全力を掛けて阻止する。
 絶対に壊させやしない……この世界を、レムが愛した人間達を、俺は絶対に壊させない!」

 それは宣戦布告だった。
 人間台風ヴァッシュ・ザ・スタンピードから、宿敵ミリオンズ・ナイブズに対する歴然とした布告。
 はやてと守護騎士達の苦悩を知らされて尚、僅かな葛藤を見せる事もなく告げられた言葉に、ナイブズは小さな戸惑いを覚えていた。
 茫然と立ち尽くすナイブズの視界の中、ヴァッシュは彼に背中を向け、歩き去る。
 台風の行き先は警戒の守護騎士達が待っているだろうリビング。
 ヴァッシュを逃がす為に、わざわざベランダという外界と連結した場所を選択したナイブズからすれば、これまた予想外の事態。
 その視線の先で、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは、彼にとって敵地のど真ん中である筈の八神家へと再度入室していった。

「……良く戻ってきたな。てっきりあのまま逃亡を計るものだと思っていたが」

 そして、舞い戻ってきたヴァッシュを待ち受けていた者は三人の守護騎士。
 烈火の騎士・シグナム、鉄槌の騎士・ヴィータ、そして盾の守護獣・ザフィーラ。
 それぞれ敵意に満ちた瞳で侵入者を睨み、それぞれがそれぞれの得物を構え、相対する。
 その痛ましいまでの超アウェー空間の真っ只中で、ヴァッシュは右手に拳銃を握り締め、立ち尽くす。
 八神はやてとシャマルはまだ入浴を楽しんでいるのか、その姿はまだ無かった。
 数秒の沈黙の後、ヴァッシュは唐突に、だがゆったりとした動作で右手の拳銃を持ち上げる。
 その動作に伴い、守護騎士達の間に流れる空気が、一斉に緊迫感を増した。
 そして、十数分前には多種多様の料理が並べてあった机の上に―――置いた。
 そう、ヴァッシュ・ザ・スタンピードは手離したのだ。
 自身の得物を、魔導師と対等に渡り合う為に必要不可欠な武装を―――ヴァッシュは事も無げに手離した。
 場を支配していた緊迫感が、困惑で染め上げられていく。



「あのさ、お願いがあるんだけど」



 そうして殆ど無防備となった状態で、ヴァッシュはシグナムを真っ直ぐに見詰める。
 力強い意志が込められたその瞳を、シグナムもまた目を逸らさずに、受け止める。



「……何だ」



 そして、その口から放たれた言葉は―――



「僕にさ―――闇の書の蒐集を手伝わせてくれない?」



 ―――誰もが予想だにしていなかった言葉であった。




「「「……は……?」」」



 守護騎士達から漏れた音は、勿論、驚愕を示す物。

 闇の書の封印を目的とする管理局。

 闇の書の完成を目的とする守護騎士。

 人類の滅亡を目的とするミリオンズ・ナイブズ。

 そして、どんな思惑が在っての発言か、ヴァッシュ・ザ・スタンピード。

 こうして、偶然から始まった運命の邂逅は、彼等の戦いに大きな転換を与える結果となった。

253リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/15(日) 19:50:15 ID:6GaGPmas
これにて投下終了です。
取り敢えずこれで物語も中盤に突入、ようやく起承まで書き終わりましだ。
残るは転と結……出来るだけ早く執筆していきたいと思います。
タイトルは「闇、そして夜天との邂逅・後編」でお願いします

254魔法少女リリカル名無し:2009/11/16(月) 18:12:20 ID:vorVm2Oc
投下乙です!
これは……台風裏切りフラグかなのか?
ともあれ今後の展開が気になるところです!

255魔法少女リリカル名無し:2009/11/16(月) 20:43:30 ID:cdNWOGQ6
GJ!!
なんと、まさかの協力ですか。
てっきり、二つの陣営で争いあうと思っていましたが、
これは期待せざる得ないw

256魔法少女リリカル名無し:2009/11/17(火) 11:33:33 ID:ZACFRcOg
リリカルTRIGUN氏GJです、まとめにのせました。

257魔法少女リリカル名無し:2009/11/17(火) 20:29:35 ID:qs3bDqBI
リリカルTRIGUN氏乙でした。

え、何この超展開?本気で先が読めなくなってきた。
今後の展開にマジ期待!!

258魔法少女リリカル名無し:2009/11/18(水) 12:08:43 ID:0U3Ka2qg
流石はヒューマノイドタイフーンだぜ!
600億$$はだてじゃない

259BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 16:19:02 ID:UtXCB6Xk
少し早いですが21:30前後にブラスレイタークロスの3話を投下させていただきたいと思います。
今回もちょっと長めなので適当に分割で。

260 ◆94CKshfbLA:2009/11/18(水) 18:05:52 ID:phAKAva2
今晩は予約が21:30頃にあるようなんですが、自分は18:20頃に投下したいのですが、
…やっぱこれって規約違反になるんでしょうか?

261 ◆94CKshfbLA:2009/11/18(水) 18:39:18 ID:phAKAva2
取り敢えず時間が合いているとは言え、割り込みになる可能性を考慮して、投下を中止させて貰います。


(いくら自分の作品が短くとも、もし他の作品が長編で時間かかるかもしれませんしね……)


とりあえずお詫びとして「、」と「。」について。



自分の場合はたとえ“〜である”って書いても終わってない印象があるので、
その場合は「、」を使っています。
んで「。」の場合は自分の中で一区切りついた場合に用います。


因みに空欄は、まぁ読みやすくなればいいかなぁ〜って感じで使っています。




お騒がせして申し訳ありませんでした。

262魔法少女リリカル名無し:2009/11/18(水) 19:23:15 ID:UtXCB6Xk
もう遅いかもしれませんが。
21:30ですし私は投下していただいて構いません。
1時間も開けば、十分だと思いますが。(明確な規約があればすいません)

263 ◆94CKshfbLA:2009/11/18(水) 19:38:46 ID:phAKAva2
>>262
ご返答ありがとうございます。


ですが申し訳ありませんがそろそろ私用がある為やはり中止させて貰います。

(作品自体は完成しているのでいつでも投下できますし……)


お気遣い有り難う御座いました、それではまた。

264BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 21:39:06 ID:UtXCB6Xk
>>263
続き期待して待ってます。
それでは投下します。

 ここでは朝も夜も意味がなかった。腕時計はあるが、こんなところでじっとしていると時間の感覚も薄れる。
 本も無ければ音楽も無く、できることといえば、ただ思索のみ。
 言えば差し入れてくれるかもしれないが、それは図々し過ぎるというもの。それに、そんな気分にはとてもなれない。
 天井の小さな明かりは頼りないが、部屋はそれだけで余すところなく照らせる程度の広さしかなかった。
 暗く冷たい壁が閉塞感を煽り、それから逃げるように目を閉じる。横向きになれば小さな光は届かず、すぐに暗闇が訪れた。
 音も光もない世界で思考だけが残る。彼女がこんな世界で何を思い、何をしたかったのか、こうしていると少しだけ理解できた。
 本当は今すぐ走り出したい。こんなところでじっとしている訳にはいかない。しかし込み上げてくる衝動は、無力さ故に押し殺すしかなく。
だからといってこの胸の疼きは止まるはずがないというのに。
 もっと話しておけばよかった。そうすればこんなことにはならなかった。数えきれないほどの後悔。それも、もはや今更でしかない。 
 何故彼女はああなってしまったのか、未だに分からない。この靄が掛かったような気分はそのせいだ。
 分からないことが多すぎる。その中で最も分からないのは彼女の気持ち、そして自分の気持ち。
  闇の中から声が響き、声は自分を責め立てる。引き出そうとするのは償いの言葉。
 しかし、それも罪悪感を充足させるためのものでしかないと知っていたから、敢えて答えることはしなかった。
 やがて虚無からの声は輪郭を伴い、実体を形作る。
 現れた姿はもう一人の自分自身だった.

第三話 
凍てつく炎

 圧迫されるような閉塞感。日光の届かない地下で、補う役割を果たせていない電灯。
鉄とコンクリートの色と臭いしかなく、薄暗さも相まって緊張がいや増す。
 それが階段を降りたスバルの最初に感じた印象だった。近代的な造りである上階に比べて、
何故地下はこんなに前時代的な独房といった風なのか。尤も、融合される危険を鑑みれば下手に電子ロックにするよりもリスクは少ない。

 融合体と接触、感染の疑いのある者は検査の後、48時間の隔離、監視態勢に置かれることになる。だが、今のスバルには関心のないことだった。

「ここだよ、スバル。入って」

 先導するなのはによって開かれた独房の中にあるのは質素なベッドと、一角にはトイレであろうごく簡素な個室のみ。
他には見事なまでに何も無かった。無論窓も無く、ドアには小さな覗き窓がある。

「ごめんね、隔離室一杯でこんなところだけど。
これから48時間経ったら出してあげるから我慢して」

 少し申し訳なさそうにしているなのはに、スバルはろくに返事も返さない。ただ項垂れて指示に従うだけだった。
 きっと自分の身体のことがXATに伝わることを、なるべく避けようと骨を折ったのだろうが、それすら今はどうでもいい。
 
「明日の朝また来るからね。今日はもうゆっくり休んで」
「はい……」

 きっと自分は酷い顔をしている。思い切り泣いたせいだろう、身も心も疲弊していた。

265BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 21:43:27 ID:UtXCB6Xk
 ドアが閉まるのも構わず、スバルは力なくベッドに身を投げ出した。横たわってから、スバルはこれまでのことを思い出す。

 病院を飛び出してティアナを捜したものの見つからず、結局最後に声を掛けてから数時間、雨の中を彷徨い歩いた。
病院に戻ると玄関先になのはが立っており、スバルを見るなり濡れるのも構わず駆け寄ってきた。スバルを見て絶句していたのは、ずぶ濡れの姿に対してだけではないだろう。
 すぐにシャワーを浴びさせられ、車に乗った。車中でスバルは病院で起こった全てを話した。ティアナとの会話の一言一言まで全てを包み隠さず。
 報告は要点を纏めて簡潔に。努めて事務的にまくしたてると、口を固く引き結ぶ。
辛うじて涙は堪えられた。しかし、それもなのはが次の言葉を発するまでのことだった。
 スバル同様に固く事務的な口調でなのはは告げた。
 融合体と化したティアナが一般人とエリオに重傷を負わせたこと、そして生きていたヴァイスと一緒に走り去ったことを。
 ティアナは間違いなく融合体となり、人を、仲間を殺そうとした。瞬間、頭をハンマーで殴られたような衝撃が走った。
 それを聞かされた途端、堪えたものが溢れだす。なぜ泣いているのかも分からなくなるくらい涙ばかりが流れた。
 胸が一杯で息が苦しかった。痛みを、悲しみを嗚咽に変えて吐き出さなければ呼吸が止まりそうなほどに。
 そっと抱かれた肩から伝わる。本当はなのはも辛いのだと。
 自分だけ泣くことは卑怯だと知りながら、車が地上本部に着くまでの間、スバルはなのはにすがりついて泣き喚いた。

 そこでちょうど睡魔が訪れ、意識が遠のく。構わない、どうせこれ以上は何も考えたくなかったのだ。
 スバルは抗うことなく眠りに落ちていく。目を閉じる時に見えた時計は22時05分を示していた。



 夜も更け、人気の消えた街を見下ろしながら飛ぶ影が三つ。先頭を行くのは赤毛の活発そうな少女。
その後ろに茶髪の少女二人、一人はストレートのロング、一人はショートカット。戦闘機人オットー、ウェンディ、ディードの三人である。
 上機嫌で跳ねるように飛ぶウェンディの手にはしっかりとロックの施されたケースが握られていた。

「いやー、最近は邪魔が入ることも無くなって随分と楽になったっスね」

 レリック奪取の任を受け、今日向かったのがこの三名。これまでであれば魔導師たちの妨害を考え、多勢でそれなりに計画立てて行わなければいけなかった襲撃。だが、今回は数体のガジェットと三人でも驚くほど簡単に成功した。

266BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 21:50:21 ID:UtXCB6Xk
 管理局は現在デモニアックの対処に追われ、こちらにまで手が回っておらず、目の上のたんこぶと言えた機動六課も、
現在は精力的に活動していないらしい、とはDr.スカリエッティの言である。

「これならドクターにも褒めてもらえる……って大丈夫っスか?」

 ウェンディの後方に付いてきているオットーは口元を押さえ、荒い息を吐いている。明らかに顔も紅潮していた。
 隣でディードが支えていなければ飛行も難しい様子だ。ディードは不安げな顔つきでオットーを励ましている。

「オットー、もう少しで着くから。急いでドクターに診てもらいましょう」

 最近ウェンディはこの二人が嫌いではなかった。共に感情に乏しいが、お互いに支え合い、心を通わせている。
 他者にはつれないが、なるほど、不器用なだけだと思えばその無愛想も微笑ましい。
 当初は苦手であったが、今回一緒に作戦に当たった時にも見事なコンビネーションを発揮し、自分をサポートしてくれた。
表面上ではわからないが、ある意味では実に姉妹らしいと言える。
 
「それじゃ少し急ぐっスよ。ディード、スピード出せる?」
「ええ、頑張ってオットー」

 日中、目的地までの移動中にデモニアックと接触、戦闘に突入した。管理局の目を引いてくれるのはありがたいが、
当然近づけばこちらにも牙を剥いてくる。
 単純な動きである為、コンビネーションで挑めば難しい相手ではないが、今回は流石に肝を冷やした。
 意外にも粘られた為、乱戦になり後衛であったオットーまで肉薄されたのだ。
 すかさずディードが、オットーと揉み合う融合体の背後に接近。一瞬にしてツインブレイズで首を刎ねた。
 断面から噴き出す鮮血は人と同じ真紅。なんとも気分が悪くなる光景だった。
 機械と融合した、人を超えし者。しかし自分達は奴らとは違う。あんな化物とは違う。
 それは支え合うこの二人が表している。ウェンディにはそう思えてならなかった。


「で、どうなんスか、ドクター?」
「まあ、待ちたまえ。君達ももう休みなさい。もう少ししたら今日のデータを見せてもらおう」
 
 ウェンディに見向きもせず、ドクターと呼ばれた紫髪の男性、ジェイル・スカリエッティは答える。
その横には同じ髪色の淑やかな女性、ナンバーⅠウーノが寄り添っていた。
 広い空間に並んだポッドには現在オットーしか入っていない。事情を聞いたスカリエッティはすぐにここへ誘導した。
 普段自分達が使用している部屋とは違うのが気になったが、特別な機器でもあるのか、
治療にはここが適していると言われた。
 はぐらかされた気分だが、ウェンディも噛みつく理由がない。だが、これではまるで隔離だ。
 オットーの入れられたポッドからは様々なコードが伸びており、スカリエッティはその前で操作しながら何やら思案していた。
 唸ったり、時に首を捻ったり。その表情は千変万化であったが、唯一分かることはとても楽しそうだということ。
 これ以上は話していても無駄だ、ウェンディは最後にオットーを一瞥して部屋を後にする。

「じゃあディードも行くっスよ」

 オットーを見つめて動こうとしないディードの手を半ば無理やりに引いて。
 放っておけばいつまでも立っていただろう。手を引かれながらも、ディードの視線がオットーから離れることは無い。
 ウェンディの目には彼女の顔がとても脆く儚く映った。一瞬、自分達が戦闘機人であることを忘れされる程に。

 ウェンディ達が退室してから、一時間もスカリエッティはモニターに釘付けになっている。隣に立っているウーノの事など目に入っていない。
 ウーノは彼の秘書として情報処理は専門だったが、今回はまるで理解できなかった。作業速度といい、情報認識といい、
機人の自分を上回っているため理解がなかなか追い付かない。

267BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 21:53:53 ID:UtXCB6Xk
 スカリエッティは誰にともなくぶつぶつと呟きながら、勝手に一人で先に進んでいく。

「うーむ、さっぱりわからない……」
「あの……オットーはどうなのでしょうか?」
「いや……そうか。これは……細胞の変化と増殖……生体部を侵食……機械部分も半ば……」

 完全に没頭しているのか、スカリエッティはウーノの声に気付いてすらいない。こうなってしまっては放っておくしかないだろう。
 玩具を手に入れた子供のようで少し微笑ましいとも思った。対象が妹であることを除けばだが。

「……なるほど。これは実に面白い……。……うん、大体わかった」

 それから更に四十分が経過。ようやくスカリエッティはモニターから目を離し、軽く伸びをしたと思いきや、
出口に向かって歩いて行く。途中でウーノを振り返った彼の顔は上機嫌そのものだった。

「ああ、ウーノ。すまないが頼まれてほしい。ここの機器とシステムを全体から切り離して独立させてくれ。
それと、ここから外までの最短のルートを朝まで開放。そこから繋がるドアは全てロック、触れると電流が流れるように。できるかい?」
「ええ、2,3時間も頂ければ可能ですが……しかしなんの為に……?」
「すぐにわかるさ」

 ウーノは思わず命じられるままに答えてしまったが、その意図は分からない。
 カプセルの中のオットーは意識は無いが苦しそうに身を捩っている。スカリエッティを行かせてしまっていいものか、急に不安になってきた。

「あ、ドクター! オットーの処置はもうよろしいのですか?」
「一旦ウェンディ達のデータを抽出しよう。それからすぐに再開するよ。これは非常に興味深いから」

 スカリエッティは今度は振り返ることなく答えた。去り際にもう一度、ウーノに言葉を残す。
その言葉はウーノの不安を払拭するものではなく、更に波立たせた。

「ウーノ、それが終わったら君も休みたまえ。それ以降はくれぐれも私の許可なくここに立ち入らないように。妹達にもロックした箇所は連絡を、なんせ危険だからね」

 危険というのは電流が、だろうか。それともこの部屋なのか。不安は晴れる訳もなく、ウーノは指示に従う他なかった。



 目を開くと目の前に無機質な壁があった。どう見ても寮の自室ではない。
 数秒して酷い頭痛によって意識の覚醒が促された。それによってスバルは昨晩の出来事を思い出す。
天井の隅には小さな監視カメラがこちらを向いていた。

「そうか……あたしは……独房に入れられたんだっけ」

 時計を見ると06時58分。普段ならとっくに起きている時間。こんなに眠ったのは随分と久し振りな気がした。

268BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 21:57:08 ID:UtXCB6Xk
 起き上がることなく壁を見つめる。部屋の端だというのに、向かい側の壁が近いことで改めて部屋の狭さを実感した。
 一人ならこの程度の狭さでも苦にならない。むしろ隔離室や寮の部屋の方が広く閑散として思える。
 身体には気だるさが残り、まだまだ寝ていたくなる。
人並み外れた頑丈さが自慢の身体は、心に引きずられたのか想像以上に錆びついていた。
 脳が考えることを拒否し、再び眠りに落ちようとした時、ドアが軽くノックされた。

「スバル、もう起きてる?」

 確認するまでもない、なのはだ。声の調子はやや重く、気遣ってくれていることが分かる。スバルは急いで起き上がり、挨拶を返した。

「おはようございます、なのはさん……と、フェイトさんも」
「うん……おはよう、スバル」

 覗き窓から外を窺うと、なのはの後ろにフェイトも立っていた。声も表情もなのはよりずっと暗い。
 思い当たる節はエリオの件しかない。スバルも、エリオがどうしているのか気になっていた。

「あの……エリオはどうしてるんですか?」

 フェイトの表情が更に曇る。なのははフェイトが答えようとしないのを見て、話し始めた。
フェイトの様子からして悪い報告かと、自然とスバルも身構えてしまう。

「右腕は骨折はしてたけど、撃たれた傷は骨や大きな血管を外れてるから、
治癒魔法と合わせて治療に専念すれば二週間程度でほぼ回復するみたい」
「よかった……」

 スバルはほっと胸を撫で下ろした。エリオが想像より軽傷だったことは勿論、ここでエリオが重傷であればティアナの罪は更に重くなる。
 しかし、それを聞いたフェイトは、静かにドアに詰め寄った。

「よくないよ! ヴァイス君が止めなかったらエリオは殺されてたんだよ? ティアナに!」

 これまで伏せられていた顔はスバルを睨んでいる。フェイトにこんな目で見られたのは初めてのことだった。
 はっとなって頭を下げるスバル。
 フェイトはティアナに対して敵愾心を抱いても仕方ない。我が子のように可愛がっていたエリオが殺されかけたのだから。

「すいません……あたしよかったなんて言って……」
「フェイトちゃん、スバルはそんなつもりで言ったんじゃないよ」

 なのはに仲裁されるまでもなく、フェイトも自分が熱くなっていることは分かっていたのだろう。
罰の悪そうな顔でドアに背中を向けた。

「わかってる……ごめん、なのは、スバル。私先に戻ってるから……」

269BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 22:01:14 ID:UtXCB6Xk
 フェイトが去ってからしばらく沈黙が流れたが、やがてなのはから話しだした。

「ごめんね。フェイトちゃんあんまり寝てないみたいで、ちょっと気が立ってるから……」
「いえ……あたしの方こそ悪かったんです……」

 再びの沈黙。これではいけないと思っても、スバルから積極的に話すことは憚られた。
 それを見て、なのはも困ったように溜息を一つ。

「じゃあ本題に入るね。研究棟の隔離室じゃこうやって話せないから。
ここでもモニターはできるし、私達が交代で様子見に来るってことで無理言ったんだよ」

 前置きを済ませたなのはは軽く頬を掻く。その様はどこか迷っているようにも見えた。

「そうだね……言おうかどうか迷ったんだけど、スバルにも考えてもらわなきゃいけないことだし、考えるにはいい機会だから」

 そう言って、なのはなかなか本題に入ろうとしない。彼女がこんなに踏ん切りの悪い話し方をすることはまずない。
それだけで加速度的に鼓動が早まる。

「……今はティアナとヴァイス君のことは六課の人間しか知らない。ただ、人間の姿と理性を持った融合体の存在はXATにも報告しなきゃいけないし、
そうなったらはやてちゃんも二人の顔と名前を出さなきゃいけない……」
「そんな……」

 そんなことになれば二人は融合体として狩られてしまう。よしんば狩られなかったとしても、局からは二度と人として見られないだろう。

「落ち着いて、スバル。本当ならすぐにでも報告するところを、はやてちゃんは明後日の対策会議まで伏せておくつもり。
それは私達でティアナとヴァイス君を見つける為。そして……それができなかった場合、フォワードのみんなに覚悟を決めてもらう為の時間なんだよ」

 今度こそ嫌な予感がする。既に胸の鼓動の音は最高潮に達しそうだ。

「覚悟って……まさか……」

 なのはの顔に影が差す。沈痛な表情からは次に言う言葉が容易に想像がつく。
 しかし、言わないで欲しかった。

「最悪、ティアナとヴァイス君を……斃さなきゃいけないってこと」

 スバルはドアに駆け寄った。その勢いにもなのはは全く動じない。
 なのはがこんなことを言うとは思えなかった。いつだって部下や仲間を思いやってくれると信じていたのに。

「なのはさん! なのはさんも昔はフェイトさんやヴィータ副隊長と敵同士だったんでしょう!?」
「勿論できる限りのことはするつもり。でも昔のフェイトちゃんやヴィータちゃんの時とは訳が違う。
どっちも譲れない目的があってぶつかっちゃったけど、それでも無駄な犠牲は出そうとしなかったし、力ずくでも話すことはできた。でも……今度は違う」

 なのははスバルから目を逸らさない。その目には確かな意志が感じられた。スバルには何を言っても彼女の心を動かせる自信はなかった。

270BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 22:05:17 ID:UtXCB6Xk

「融合体はただ傷つけて殺すだけだから。言葉だって通じない。戦闘機人とも違うよ」
「でも……ティアはヴァイス陸曹のおかげで理性を取り戻したって……」
「ティアナと話せれば、こちらに従ってくれればいい。でも、現にエリオを撃ったのは事実。
融合体に関しては分からないことが多すぎるの。人と融合体の姿を自由に使い分けて
殺戮を始めればどうなるか……私達は最悪の状況も考えておかなくちゃ」

 彼女の口から出る言葉はことごとく正論。これでも譲歩している方だと思う。
 だからといってスバルも後には退けない。

「でも……それで諦めちゃうんですか!? フェイトさんやヴィータ副隊長の時だって諦めずに話そうとしたんじゃないんですか!?」
「言ったでしょ、融合体は人を殺すだけだって。放っておいたら……私達が迷ってる間に何人もの人が犠牲になる……! 
今のティアナは強いよ。拘束しようとしたり、諦めずに話そうとする余裕があるとは限らない」

 これまでも融合体の一回の出現で、五人、十人の死傷者が出ることはざらにある。もしも取り逃がした場合のことを考えれば、それだけ人が死ぬ。
 ましてや魔導師の身体と武器、術を持っているのだから被害はこれまでの比ではない。
局員がデバイスごと融合体になって殺戮を始めたと、ニュースにでもなれば沽券に関わる。故にXATも血眼になって二人を追うだろう。

「たとえ、拘束して連れ帰ったところでどうするの? もしも逃げられて、本部や六課のコンピュータに融合されれば損害は計り知れない」
「で、でも……ゲルトの例だってあるじゃないですか」
「それはゲルトが当初から協力的な姿勢を見せてるからでしょ。二人に重傷を負わせて逃亡中のティアナを一緒にはできない」

 完全な正論、ぐうの音も出ないとはこのことだ。過去のなのは自身の例を出せば分かってくれるかと思ったが甘かった。
 咄嗟の切り札さえ論破され、反論が出てこないままスバルは押し黙った。
 それでも、どうしても承服できない。そうして結局最後に出てきたのは、身勝手な感情でしかなかった。

「それじゃあ……それじゃあティアはどうなるんですか? 融合体になって、あたし達に殺されるなんて……そんなの残酷過ぎるじゃないですか!!」
「他の融合体は殺しておきながら、仲間だったら助けたい。それは残酷じゃないの!?」
 
 病院でティアナと向き合った時と同じ感覚。
 今の自分は完全に頭に血が上っている。胸の内から湧き上がる、得体の知れない何かに急きたてられている。
 その先を口にするな、と冷静な自分は言う。
 それでもスバルには止められない。それも、あの時と同じだった。

271BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 22:09:45 ID:UtXCB6Xk
「それはおかしいですか!? あたしは今もティアを仲間だと思ってます! たとえなのはさんにとってティアがもう融合体でしかなかったとしても!!」
「――ッ!!」


 しまった、と我に帰った時には既に遅かった。
 耳をつんざくような轟音。
 金属のドアがへこむかと思うほどの音が地下に響き渡り、ビリビリと振動が空気を伝う。強烈な音と振動と迫力が、スバルの身体まで激しく震わせる。
 なのはがドアを殴ったのだと気付いた時、窓になのはの顔が覗いた。
 激情というのは目に見えるものだ、とスバルは思った。
 そこにあるのは純粋な怒り。
 なのはの視線は烈火もかくやと赤々とした炎を宿し、それでいて寒気がするような冷気も纏って、スバルを突き刺す。
 あの時、ティアナと一緒になのはの教導を無視して無茶をした模擬戦。あの時以上になのはが怒っている。
眉間に皺を寄せ、本気でスバルを睨みつけている。
 言葉にするより遥かに重く鋭い。燃え滾るような眼差しが何より雄弁になのはの感情を物語っている。
 つい口を滑らせて出た言葉は、なのはを怒らせるには十分過ぎる侮辱だったらしい。
 残響が止んでも恐怖に戦慄く身体はいつまで経っても治まらない。
 明らかな失言。謝らなければ、そう思っているのに声が出てくれない。それは単に恐怖によるものではなく。
 ただひたすら申し訳なくて、自責の念で頭がいっぱいになった。それがスバルを動かせなかった。
 スバルは、昨夜なのはが泣いていた自分を慰めてくれたことを思い出した。
 なのはが辛くないはずがない。その結論に至るまで、それを告げるまでには苦悩があったに違いない。
そんなことは彼女の性格を考えれば簡単なはずなのに。
 どうして考えが回らなかったのか。彼女はティアナより、自分より、誰よりなのは自身に激怒しているのだと。
 三十秒ほど経ったろうか。スバルが言葉に詰まっていると、なのはの怒りの形相がふっと脱力した。
 風船が萎むように張りつめた気配が消え、残ったのは悲しげな瞳。

「今日はもう来ない。私もスバルも頭冷やして……明日の夜、解放された時スバルの考えを聞くよ。どうあれ覚悟だけはしておいて」

 覚悟――いざとなればティアナを殺すのか、あくまで助けることに拘るのか。どちらにせよ彼女の前ではっきりと宣言しなければならない。

「……できれば話したくなかった。私の答えに左右されないでほしかったから。誰にも寄りかからずに、スバルの考えで決めて。
ただし、もしも心が決まってなかったら、ティアナのことは勿論、出動からは全部外すからね」
「そんな……」

 スバルを除けば、動けるのは隊長達とキャロだけということになってしまう。
ただでさえ激化している融合体事件に対し、動けるのがそれだけではあまりに心許ない。

「あやふやな気持ちじゃ戦っても死ぬだけ。どんなに苦しくても、死ぬと分かっている相手と一緒には戦えないから」

 それだけ言うと、なのはの目が窓から離れる。足音が遠ざかっていくのを感じながら、スバルはその場に立ち尽くした。

272BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 22:12:58 ID:UtXCB6Xk
 残り時間は約39時間。それまでに自分は答えを出せるのか、胸に問いかけても答えは返らなかった。



 ミッドチルダ東部の森林、木々が生い茂る山地には似つかわしくない女性が一人。
白衣を羽織りメガネを掛けてはいるが、知的さを感じる者は少ないだろう。
むしろ胸元まで開いた扇情的な服から覗く褐色の肌が、妖艶な雰囲気を漂わせている。
 大木にもたれかかり、朝日に目を細めながら、さも退屈そうに周囲をぐるりと見回した。

「この辺りのどこかだと思ったのだけれど……」

 そう一人ごちていると、遠くで茂みがざわめいた。枝の折れる音、葉の揺れる音が連続して近づいている。
 周辺には野生動物も多数生息しているが、これは薮だろうが何だろうがお構いなしだ。相当な速さで、おそらくは大きさもそれなりだろう。
 女は音に向き直った。靴はハイヒール、手も白衣のポケットに収めたままで、それでも動じる様子は無い。
 音は気配と共に膨れ上がり、黒い影が目の前に躍り出る。
 それは融合体とも呼ばれる、金属のような骨格を持った悪魔、デモニアック。白を基調とした外観、胸部から察するに女性型。
 デモニアックはこちらを獲物と見定め、凄まじい速度で腕を薙ぎ払う。
 これまで数多のデモニアックを見てきたが、その誰よりも速い。
匹敵するものがあるとすれば自分の主、そしてその追跡者、そして自身ぐらいだ。
 ふわりと女の身体が浮いた。風に揺れる柳の葉の様に腕は身体を掠め、腕を振り切った時には既に女は射程外にある。
 勢い余った腕は女の背後にあった大木にめり込み、半ばまで抉られた大木は葉を舞い散らしながら倒れた。

「速さも力も桁違い、素体が素晴らしいとここまで違うのね」

 女は初めて笑顔を浮かべた。微笑みは薄く伸ばして張り付けたような、少なくとも好意的なものではない。
 事実、彼女にとってはよくできた実験動物に過ぎなかった。口元とは反対に、目は冷徹にその性能を分析している。
 能力は主には遥か遠く及ばないものの、自分には手が届く距離だ。これに武器が加わればまた話は違う。
 例えば今相手の掌に浮かんだものだ。翡翠色に発光する二つのリングが重なって回っている。
どんな兵器か知らないが、使われれば互角か或いは上回るか。
 しかし、自分とこのデモニアックの間には決定的な差がある。それは決して埋まらない距離、絶対的な位階の差。
 自分はブラスレイターであり、これは違うということ。
 デモニアックが掌の武器を使おうとするより早く、女はポケットの手を振り抜いた。

273BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 22:16:39 ID:UtXCB6Xk
 瞬間、女を中心に広がるプレッシャー。波紋のように伝わり、風もないのに木々を揺らした。

「さあ、案内して頂戴。あなたの御主人様のところへ」

 そう言って手を差し出す。途端にデモニアックは攻撃態勢を解き、女に背を向けて歩きだした。女はただ歩いてその後をついて行く。

「場所と入口さえ教えてくれればそれでいいわ。後はあなたの好きなように踊りなさい。ただし……」

 再度女の口が歪む。そこに計算は無く、あるのは純粋な期待。
 先ほどとは違い、今度は目まで笑っていた。これから起こることが心底楽しみだと言わんばかりに。

「そのうち、黒く蒼いボディのデモニアックが現れるわ。その男だけは殺しなさい。必ず、確実にね」



 デモニアックは次々と通路のドアに触れては電流に弾かれ、やがて風の流れを感じ取ったのか、脇目も振らず走り出した。
 向かう先に開かれた出口からは、朝の光が差し込んでいる。

「これが午前07時18分の映像です。つまり今から42分前の事ですね……」

 そう語るウーノの表情は暗く、モニターを眺める九人は一様に驚愕を表している。
 通路の監視カメラにはデモニアックの徘徊する映像が記録され、
オットーの収容されたポッドが内側から破壊されていたのは全員が直接確認している。
これが示す事実を誰もが理解しながらも、口にする者はいない。
 
「何ですの、これは……」

 あのクアットロですら驚きを隠せずに目を見開いている。すると、動揺することもなかったスカリエッティが口を開いた。

「ふむ……オットーはデモナイズ、つまりデモニアックになった可能性が極めて高いということだ。
クアットロ……君なら分かっていると思ったんだが?」
「しかし、ドクター! 何故オットーが!?」

 声を荒げたのはトーレ。一人を除いた全員が同じようにスカリエッティに目を向ける。
 痛いほどの視線を向けられても彼は難なく受け止め、平然と言った。

「オットーは昨日デモニアックと戦闘している。その時感染したと考えるのが自然だろう」
「でも戦闘ならあたしやディードだって――」

 言い掛けてウェンディは、ディードの肩が一瞬震えたのを見逃さなかった。
スカリエッティも見ずにモニターを凝視していたディードは、悪戯がばれた時の子供みたく、肩を竦ませた。

「それよりも今はオットーをどうするかが先決ではないでしょうか?」

 と、セッテ。クアットロが真っ先に頷き、他の姉妹もぎこちなく続く。
セッテがこんな時でも冷静なのは頼もしくもあり怖くもある、とウェンディは感じた。
 
「そうだね……ディード、君はどう思う?」
「え……私は、その……オットーを保護して治療をすべきかと……」
「治療? あれはもうそんなレベルじゃないわ」

 おずおずと話し出すディードの意見をクアットロが一笑に付す。それきりディードは黙ってしまった。

274BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 22:19:54 ID:UtXCB6Xk
 スカリエッティは何の為にディードに訊ねたのか、ウェンディには分からなかった。
こういう場合はトーレが発言権を持つことが多く、それは今回も例外ではなかった。

「オットーを融合体として破壊するしかないのでしょうか……。ISもあります、管理局に回収でもされれば厄介ですが」
「いえ、捕獲が可能なら試みるべきかと。オットーも重要な戦力の内です」

 苦々しげに言うトーレだが、すぐさまそれに反論したのはチンク。両者は自然と睨み合い、一時沈黙が支配するが、
数秒の後、スカリエッティの仲裁によってそれは破られた。

「それなら君達全員で行きたまえ。実際に見なければ分からないこともある。捕獲か破壊か、判断は現場に任せよう」
「了解しました」

 トーレ達が言うが早いか、ディードが飛び出した。ウェンディと他の姉妹も同様に走りだす。
 破壊にせよ、捕獲にせよ早いに越したことは無い。
なるべくXATや魔導師が嗅ぎ付けるまでに終わらせたいと、その思いだけは全員に共通していた。



 朝の街が人々の動き出す熱で徐々に始動しようとしていた頃、人波に紛れて歩く男女が二人。
私服姿で並んで歩くティアナとヴァイス、はたから見ればその様子は仲睦まじく見えるかもしれないが、当人達にとっては気まずい雰囲気が流れていた。

「おい、大丈夫か、ティアナ?」
「…………はい、すいません!」

 ヴァイスが呼びかけてから反応を返すまでに数秒を要した。ぼんやりと歩きながら船を漕いでいたところ、どうやら寝不足らしい。
 昨晩、自分が傍にいることで安心できたのか、寝入りは早かった。身体の疲労や心労も大きかったのだろう。
しかし数時間寝たかと思えば起き上がり、それ以降はたぶん眠らず、朝まで頭を抱えていたようだ。
 一度目が覚めると思いだしてしまったらしい。昨日の今日で仕方ないことではあるが。

「飯でも食って目、覚まそうぜ」

 ヴァイスは手近な喫茶店を指してティアナを促した。ティアナも無言で頷き、駆け足で後を付いてくる。
 ヴァイスとてなんとかしてやりたいと考えている。しかし不可抗力であるとはいえ、ティアナが罪を犯してしまったことは事実。
それに対して慰めを口にしても余計負担を掛ける気がしてならなかった。
 席に座りモーニングを注文すると、それきり会話が無くなる。
 元々思い悩むタイプの彼女のこと、きっと今も頭の中で様々なことが渦巻いているに違いない。

275BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 22:23:21 ID:UtXCB6Xk
 自分にできることは、精々が現実的な問題から彼女を守る程度。気の利いたアドバイスもできず、それしかできない自分が歯痒い。

「あたし達……これからどうすればいいんでしょうか?」

 ティアナの突然の質問にヴァイスは即座に返答できなかった。少し考えて、当面の目的を放す。

「まずはゲルトを探す。所属してたチームに連絡してだな……局の者だって言えば住所くらい聞き出せるだろう」

 バイクレースのチャンピオン、ゲルト・フレンツェンは事故の後、融合体として舞い戻った。
通常の融合体とはやや違う姿に変身、融合体を撃破し、人間に戻った彼は巷では英雄として持て囃されている。
 まず同類と考えていいだろう。XATに拘束されている可能性もあるが、話を聞ければ手掛かりが得られるかもしれない。

「そうじゃないんです。あたし達がこれから何を目的にすればいいのかって……」
「お前が聞きたいのはあたし達……じゃなくて”あたしが”だろ?」

 図星を突かれたのか、ティアナは大きく目を見開き黙り込む。
 この融合体の出現には誰か糸を引いている者がいる。ここ最近の大量出現や、ティアナ達が遭遇した事件を考えればそれは明らかだ。
 今となっては死人だが、この立場でしか見えないこともあるはず。情報を得て影ながら六課に協力できれば、そうヴァイスは考えていた。
 それを考えることができたのは自分を助けた男のおかげであり、二週間という時間のおかげ。
だが、ティアナはまだそこまで考えられず戸惑っている。
 ヴァイスは苦笑しながらコーヒーを口に運んだ。

「焦るこたぁない。ゆっくり考えればいいさ。幸い金も下ろせたしな」

 だが、ヴァイスは自分の考えをティアナに言うつもりは無い。あくまで目先の行動の提案に留めておく。
 これまで目標に一途に生きてきて、それを失った今、誰かから道を示されるのは甘い毒だ。
聞こえのいい言葉で囁かれればいとも簡単に、ころりと転んでしまうだろう。
 時間が必要なのだ。そうすれば聡い彼女のこと、勝手に自分で答えを見つけて立ち上がれる。
それまではあらゆる障害は自分が排除しよう。
 それにもしもティアナが何もかもから逃げたいというのなら、それに付き合うつもりでもいた。

「でも、あたし達XATに追われるんじゃないでしょうか……」
「だろうな。でもミッドも広い。XATだって暇じゃないんだ」

 ここはミッドチルダの東部。昨夜行き先を決める際、中央のクラナガン、病院のある北部ベルカ地区、
六課隊舎があるのが南よりなので、東西南北の内これらを避けた西か東か二択の結果だ。
 それにここらは山に程近い市街地。融合した結果か、これまでもデバイスで位置を追われていないのだから、すぐに見つかる可能性は低いと思われた。
 
「目立つことをしなければそうそう見つかるとは……」


 突如、ヴァイス達の喫茶店から見て道路を挟んで隣の店が吹き飛んだ。爆風は通りを越えてガラスを震わせた。

276BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 22:26:24 ID:UtXCB6Xk
 続け様にあちこちで爆発が起き、火の手が上がる。たちまち悲鳴は一帯に伝播し、それも車の衝突によって掻き消された。
 雨のように翠の光が降り注ぐ。人も建物も区別なく、等しく破壊をもたらす。
 ゆっくりと空から舞い降りる白い身体は一見すると天使。
気配を悟ったのかこちらを向いた顔は間違いなく悪魔だった。

「伏せろ!!」

 言うより速く、ティアナはテーブルの影に転がり込んでいた。一瞬遅れてヴァイスがそこへ覆い被さるように飛びこむのと、光線が窓を砕くのはほぼ同時だった。
 爆音と、ガラスが一斉に割れる音で一時的に聴覚が麻痺する。頭を振って感覚が戻るのを待つが、追撃はいつまで経っても来ない。
 やがて離れた場所で爆発が起こる。どうやら無差別かつ適当に暴れているだけらしい。
 顔を上げると、店内は滅茶苦茶に破壊されていた。ガラスと言うガラスは割れ、ヴァイスとティアナ以外は全員倒れ、呻き声を上げている。
 起き上がり、外を見たヴァイスは思った。店内の状況など遥かにましだったのだと。
 ざっと数えても十人以上が路上に横たわっている。しかし数に数えられない、原形を留めていない者も散見された。

「ティアナ! 大丈夫か!?」
「はい、あたしは大丈夫です……」

 ヴァイスはほんの十数分前と同じ言葉を自分の下に倒れている少女に掛けた。
 流石はフォワードである。ティアナは自分よりも反応が速く、衝撃によるダメージも少ない。

「仕方ねえ……ティアナ、俺達で奴を引きつけるぞ! XATか六課が来るまででいい……んだが……」
 
 ストームレイダーを起動、柱の陰に隠れながら振り向くヴァイス。だが、最後まで言い切ることはできなかった。
 ティアナは両手を見つめて、わなわなと震えている。ヴァイスの言葉などまるで耳に入っていない。

「ごめんなさい! ヴァイス陸曹……あたし、できません……!」
「あぁ!?」

 思わず間の抜けた声が飛び出す。この期に及んで何を言っているのかと思ったが、その顔色を見ては何も言えなくなった。
 蒼白に染まった顔に浮かぶのは確かな恐怖。その目には自分の手がどう見えているのだろうか。

「あたし……エリオと戦う時、クロスミラージュと融合して無理やり黙らせたんです……。
いえ……喋っていても同じかもしれない。今クロスミラージュで戦ったらあたし……今度こそ戻れないんじゃないかって……!」

 そう言ってティアナは顔面を両手で覆った。
 激しく動揺している状態の説明は要領を得ないというか、さっぱりわからなかった。だが、おそらくはこうだ。
 AIの音声を切るのは簡単だ、一言黙れと命じればいい。それをティアナは融合することでプログラムを弄った。
 尤もそれ自体は、例えるならスイッチを切るのではなく、配線を外したようなもの。
繋ぎ直せば、すなわち融合すれば簡単に元通りにできる。だが、それが怖くてできない。

277BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 22:31:39 ID:UtXCB6Xk
 殴ることも撃つことも人にできる。融合することは融合体にしかできない。
つまり、ある意味で融合は人でなくなった明確な証と言える。だからヴァイスも、必要に迫られない限りは忌避してきた。
 そして物言わぬ武器でしかないクロスミラージュで戦えば、再び理性を失った狂戦士に立ち戻ってしまうかもしれない。それも怖いという訳だ。
 或いは、クロスミラージュは恨み言こそ言わなくても、行動に対する指摘や、説明の要求をしてくる可能性はある。
ティアナにとってみれば、淡々とそんなことを言われるのは傷を抉られるのに等しい。

「……ならお前は動ける人間を連れて隠れてろ! 俺一人でやる!」
「すみません……」

 わかっている、ティアナを責めても仕方がない。暴走する危険を孕んでいるのは自分とて例外ではないのだから。
 ヴァイスはそう言い捨てて、割れた窓から通りを警戒する。
打ち捨てられた骸や車は数を増し、爆音は遠ざかり、悲鳴は聞こえてこなかった。
 見た目は普通の融合体のようだが、飛行していたこと、そして光線を撃ってきたことから考えてやはり普通ではない。

「くそっ、俺だけで抑えられるのかよ……」

 おそらく身体能力も通常より優れているであろう融合体。それに対してこちらは一人きり。
ティアナと二人で戦っても勝てるかどうか危うい相手に不安は隠せなかった。
 表に出て曲がり角から顔を出すと、100m程先に融合体の姿があった。
動くものはあらかた殺し尽くしたと、獲物を求めるように徘徊している。
 正面からでは不利、勝つには狙撃しかない。ヴァイスは角からスコープを覗きこむが、上手く狙いが付けられない。
動きが不規則過ぎる。リスクを鑑みれば絶対に外すわけにはいかないのだから。
 不意に視界に影が落ちた。この地獄には不釣り合いな陽光を一瞬遮ったそれは、
同じく太陽の下に不似合いな黒い悪魔。
 炎を噴射する大型のバイクは、通りを塞いでいた無人の車ごとヴァイスの頭上を飛び越え、着地。
こちらを見向きもせず、融合体へと向かっていく。
 ヴァイスはかつて一度だけ、その姿を見たことがあった。



 阿鼻叫喚、地獄絵図、それが眼下に広がる光景を例えるのに最も適した言葉だろう。ラボ周辺から市街地までの距離を考えても、
オットーが着いて数十分と経っていない。だというのに、街には既に火の手が上がり、誰もが混乱の最中にあった。
 転がるのは頭を割られた死体、中心から力任せに左右に引き裂かれた死体等、様々である。腹に風穴が空いた死体はその割に出血が少ないが、
よくよく見ると、穴の周囲が焼け焦げている。戦闘機人でさえ、その惨状を前に僅かとはいえ絶句した。

「レイストーム……」

 光線に貫通されればこういった死体が出来上がる。それはオットーがあのような姿になってなお、
ISを使用していることを示していた。
 デモニアックと化したオットーは浮遊しつつ周囲を見回している。
 それを見下ろせるビルの屋上、そこに九人の戦闘機人は集う。

「チンク……あれはまだオットーなのか……?」

 問うトーレに対し、チンクは唇を噛み締め、無言で俯いている。
 それが答えだった。あれは最早自分達の知るオットーではない。戦闘機人ですらない。
死と破壊を撒き散らす悪魔だ。

「それでトーレ姉……どうするの?」

 そう言ったのはセイン。気づけば全員の視線がトーレに向いている。特にディードのそれは
指示を仰ぐものではなく、トーレのある言葉を懇願していた。

278BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 22:35:49 ID:UtXCB6Xk
 トーレは数秒間思案した後、

「捕獲を試みる。ただしオットーだと思ってかかるな。四肢を中心に攻撃、破壊しろ」

 捕獲という決定を下した。我ながら甘い判断だと思う。ディードの視線に負けたというのもあるが、
甘いと思いつつも、何もせずに切り捨てることはしたくなかった。
 あからさまに不満顔のクアットロを除いた他の姉妹は、やや不安そうに頷いた。
それを確認して、トーレも指示を出す。

「私とセッテが左右から仕掛ける。ウェンディとディードは正面から援護、ノーヴェは地上から奇襲、
セインとチンクは二人で背後に回れ。クアットロは接近するまでの撹乱、
その後の指揮は任せる。ディエチは指示があるまで狙撃態勢で待機。以上だ」

 クアットロとディエチを残し、姉妹は散開する。オットーを殺すのではなく、助ける為に。
 果たしてそんなことが可能なのかと、トーレは自分の判断を疑った。
 これだけ殺しておいて、おめおめと戻ってくることができるのか。そんなことが許されるのか。
 戦うことしかしてこなかった自分達が、これまでにも多くの命を奪っておいて、
姉妹だけは救いたいなどと望んでいいのか、と。

「トーレ? トーレ、行きましょう」

 セッテは既にブーメランブレードを両手に構えていた。トーレもすぐに気持ちを切り替える。
こんな時は迷いのない彼女が少し羨ましい。

「あ……ああ、行くぞ!」



 トーレとセッテは急降下、オットーへ踊りかかる。それを号令にして、ウェンディとディードも中距離へ。
周囲にはトーレ達の幻影が現れ、一足先に降りていたノーヴェは旋回しながら機会を窺う。
 トーレは左、セッテは右から同時にオットーに仕掛けた。腕を潰す為にトーレは回し蹴り。
セッテは足を切り落とす為にブーメランブレードを投げる。
 正面にはウェンディとディードが居り、ウェンディはライディングボードから直射弾を発射。 
 後ろに逃げればチンクが罠を張り、下にはノーヴェ。ディエチは狙撃態勢で上から狙っている。
 上下前後左右を塞いだ状態からはそう簡単には逃げられない、そう思っていただろう。トーレも、他の妹達も。
 オットーが取った行動は戦術どころか、技ですらなかった。それは単純で強引な”動き”。
 
「なっ!?」

 トーレが驚きの声を漏らす。
 鋭い捻りを加えたトーレの蹴りをオットーは左手一本で受け止めた。同時に右手は迫るブーメランブレードへ。
 それに気付いたセッテは直線的なブレードの軌道を曲げたが、放射状に放たれた光線によって弾かれる。
いかに軌道を変化させようと、最終的な目標部位が明らかなら、僅かな掌の動きで発射方向を修正できるだろう。
 そこまでならさして意外ではなく、想定の範囲内。想定外はその先にあった。
 ウェンディのエネルギー弾がオットーの胸に着弾。それは体表に傷を作ったに過ぎず、動きを止めるには至らなかった。
トーレの巻き添えを防ぐ為に強力な砲撃を避け、威力も抑えたが、それを差し引いても異常な強度の皮膚である。 
 オットーがトーレの足を掴んだ腕を振り下ろす。その力はあまりに強く、トーレは大きく回転した。
 セッテによる二発目のブレードよりも素早く、オットーはディードとウェンディに飛ぶ。
 オットーの機動力に二射目は間に合わないと判断し、ウェンディはボードを”砲”ではなく”盾”として使う。

279BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/18(水) 22:42:13 ID:UtXCB6Xk
 ボードを倒し攻撃に備えた瞬間、オットーがそこへ突っ込む。
防御してもなお凄まじい衝撃に、ウェンディは身体ごと弾かれ落下する。
 残されたのはディード。形こそ双剣を構えているが、戦意に乏しいことは明白だった。

「ディードォ!!」

 叫びながらノーヴェはエアライナーを伸ばし、走る。しかし、どれだけ急ごうとも間に合いはしない。
 オットーは一瞬にして距離を詰め、双剣を振り上げようとしたディードの両手首を掴んだ。
 そして不可解な事に、じっくり舐め回すように顔を観察している。

「クアットロ! どうする!?」

 隣でディードが指示を求めるように名を呼ぶが、答えはしなかった。
 撃てるはずがない。どうしたってあの距離ではディードを巻き込む。
両方とも殺すつもりで撃たせるのが最善だが、どうせ言ってもやらないだろう。つまり、ここにいる自分達に打つ手はないということだ。
 おそらく、このままディードは死ぬ。だから言ったのに、とばかりにクアットロは渋面を作った。
 戦闘機人よりも、デモニアックよりも、強く、硬く、速い。
なんのことはない、単にすべての能力が規格外であったというだけのこと。
 戦闘機人を上回るほどの圧倒的な野性。スカリエッティが興味を引かれるのも分かる気がした。
 いくら戦闘機人が機械に適合した素体として生み出され、頻繁なメンテナンスや副作用が解消されたとはいえ、
結局は肉の身体。大きな障害でないにせよ、多少なりと齟齬は生まれるものであり、調整も必要となる。
 だがデモニアックは違う。もとより金属に近い身体を持ち、無機物と完全なる融合を可能にする存在。
機械と肉の垣根をいとも容易く飛び越え、その結果生み出される力はこの光景を見れば一目瞭然。
 即ちデモニアックこそが戦闘機人の完成型。理想の姿であると言えよう。

「でも……まだ足りないわ……」

 そう、これだけでは足りない。いくら強かろうと、鋼の身体を持とうと、制御できないのでは使えない。
 デモニアックの身体を持ち、自分達のように命令を解し、自ら思考するのであれば或いは、
それこそが究極の生命体と呼べるだろう。
 そんな存在がいるのなら、是非一度お目にかかりたいものだ。
 そう思っていると、その存在は自分からクアットロの前に現れた。
 ディエチのイノーメスカノン、ノーヴェのエアライナー、セッテのブーメランブレード。それらが一点で交差する。
 しかしディードを救ったのはその誰でもない。
 豪快な噴射音に気付いた時、それはオットーとディードの目前まで迫っていた。
 オットーの左側面から高速で飛来する黒く大きな物体。
 それはバイクと呼ぶには巨大であり、どこか生物的で禍々しい。その上には一体化するように黒い影が隠れている。
 バイクはオットーに対し速度を落とすことなく、逆に速度を上げて撥ね飛ばす。
 横からの衝撃をまともに食らい、地面に叩きつけられるオットー。
バイクはオットーから距離を取り、ノーヴェの前に降りた。初めて全員が影の正体を確かめる。
 バイクに跨っていたのは黒い鬼。刺々しい鎧の全身には蒼い光の線が走り、右目だけが赤い。
 多少形は違えど、それは明らかにデモニアックであった。


今日はここまで。勝手が違って、時間がかかったこと。読み辛くなったことをお詫びします
仮に戦闘力を一般人×10=通常のデモニアックとするなら、
戦闘機人×10ならどうなるかと思っていただければわかりやすいのではないかと思います。

280魔法少女リリカル名無し:2009/11/18(水) 23:17:13 ID:yN/bYVe2
GJ!
トーレつえーー!
ティアナは立ち直れるのか!?

281魔法少女リリカル名無し:2009/11/18(水) 23:50:38 ID:QQx3hsHk
乙です!

六課側ではヴァイス、ティアナ
そしてナンバーズまでもがデモニアックに…
何か混沌としてきましたね

誤字報告
>隣でディードが指示を求めるように名を呼ぶが、答えはしなかった。

ディードではなくディエチでは?

282魔法少女リリカル名無し:2009/11/19(木) 00:04:17 ID:WP1K1tIU
>>281
ほんとですね……申し訳ありません
ご指摘ありがとうございます。まとめの際に修正します

283 ◆94CKshfbLA:2009/11/19(木) 18:33:21 ID:ehe0UyTs
今晩は、予約が無さそうなので18:40頃にサクサクと小ネタ投下します。


元ネタは舞勇伝キタキタ……と言うよりキタキタおやじです。

284魔法舞勇伝キタキタ ◆94CKshfbLA:2009/11/19(木) 18:40:15 ID:ehe0UyTs
では行きます。


 此処は海鳴町の一角に存在する桜台と呼ばれる公園、辺りは薄く霧が張るこの場所に一人の少女が姿を合わす、
 その少女は栗色の髪を左右に束ね、年相応の服装を着こなす人物、高町なのはである。
 彼女は前回の戦いの後、嘱託魔導師として管理局に配属となり、日夜魔法技術向上の為トレーニングを行っているのである。
 
 そして今日もこの公園に備え付けてあるゴミ箱から空き缶を一つ取り出すとベンチに置き、
 一定の距離を空けると足下に円状のミッドチルダ式魔法陣を広げ、なのはの指先に桜色の魔力弾が一つ生み出される。
 
 ディバインシューター、自動追尾を持つ射撃魔法で基本ともいえる魔法の一つであり、
 集中力を養うには最も適した魔法ともいえる代物である。
 
 そしてディバインシューターは空き缶に命中し高々と宙に浮かすと更に命中させていく、
 その間なのはは集中力を高める為に目を瞑り額にうっすらと汗が滲みながらも、
 
 次々に命中させて数を100に到達させると最後の締めとして空き缶をゴミ箱に捨てる為、
 撃ち抜くが空き缶を掠める程度に終わり地面へと落下して終了した。
 
 なのはは空き缶を拾い上げゴミ箱に戻すと胸元で光るレイジングハートに評価を伺う、
 評価は80点と中々な高評価を貰い、なのはは朝のトレーニングを終了し家路へと立とうとしたところ、
 レイジングハートが次元振を感知、周囲を警戒するように促すとなのはに緊張が走る。
 
 するとなのはの目線から少し上の空間にひびが走り砕けると黒い渦のような穴が発生、
 なのははレイジングハートを起動させて構えていると、穴から何かが姿を現す。
 それは―――
 
 
 
 
 
 すね毛の生えた右足であった………
 
 
 
 
 
 「なっ何?なんなの?何でなの??」
 
 目の前に突然現れたすね毛の生えた右足に、なのはは動揺を隠せず慌てふためいていた。
 それもそのハズ、今まで生きて来た9年間の中で、魔法少女となった時以上の衝撃を受けたからである。
 いや…例え何十年生きたとしても、空中に浮かぶすね毛の生えた右足を見れば誰でも混乱するであろう……
 
 それはさておき、なのは今までの経験をフルに活用して今の状況を把握しようとしていると、
 目の前の右足がずり下がるようにして左足そして藁の腰蓑が姿を現し、腰蓑が風に揺られていた。
 
 「きゃあああああああ!!!」
 
 そんな異様な状況になのはは絶叫し、頭を抑え横に何度も振り錯乱状態となり、既に今の現状を把握する事すら出来ない状態と化していた。
 そして宙に浮く腰蓑から目を逸らしうずくまると、涙を浮かべながら必死に現実逃避を繰り返す。
 
 (これは夢!きっと夢なの!!)
 
 すると後方からドスンッといった音が聞こえ、顔だけ向けると次元の切れ目が閉じており、
 辺りは何事も無かったかの様に静寂に包まれた。

285魔法舞勇伝キタキタ ◆94CKshfbLA:2009/11/19(木) 18:41:47 ID:ehe0UyTs
 そしてなのはの足下には、すね毛を生やし藁の腰蓑を付け上半身は裸の、首下には草の葉で出来た首飾りを付けた、
 白い髭を蓄え左右に合計四枚の葉っぱに額部分には太陽を彷彿とした顔が描かれた髪飾りを付けた禿オヤジが倒れていた。
 
 
 
 
 
 その姿はまさに変態そのものであった……
 
 
 
 
 
 なのはは恐る恐るオヤジに近づくと、意識を取り戻したのか急にオヤジは目を見開き、
 小さな悲鳴と共に思わずなのはは後退りすると、オヤジはゆっくりと起きあがりなのはを見つめる。
 …暫く膠着状態が続きなのはが息を呑んでいると、オヤジの口が開き始める。
 
 「どちら様ですかのぅ?」
 
 オヤジは辺りを見渡し首を傾げ、混乱している様子を浮かべており、
 なのはは恐る恐るオヤジに話し掛け、今いる場所を説明すると、
 オヤジは紳士的に頭を下げてなのはに礼を述べる。
 
 「これはこれはご親切に、ワシの名前はアドバーグ・エルドル、ご覧の通り――」
 「変態ですね」
 「……いえ、ワシは――」
 「どう見ても変態です、ありがとうごさいました」
 
 なのはは一つ礼を述べ、急いでその場から立ち去ろうと振り向くと、
 オヤジはなのはの肩を掴んで力強く反発し、なのはは思わず青ざめ後退りする、するとオヤジは自分の説明を始めた。
 
 オヤジの名はアドバーグ・エルドルと言う何処かの錬金術師か勇者を思わせる名前で、
 彼の世界に存在する元キタの村の村長であったのだが、
 とある事情により今はキタの村の伝統の踊り、キタキタ踊りの継承者となって後継者を捜しに旅をしているのだという。
 
 「…つまりその格好はそのキタキタ踊りの為の衣装って訳なの?」
 「さよう」
 
 腰に手を当て胸を張り堂々と見せつけるオヤジに正直直視する事が出来ないなのは。
 …しかし本当に踊り子なのだろうか?もし本当なら全世界の踊り子に申し訳が立たないのではないのか…
 それにキタキタ踊りと言うのも気になる、むしろ本当は体のいい嘘で、ただの変態なのではないだろうか?
 
 そんななのはの些細な疑問が、のちに開かれる地獄の門の鍵であった事は知る由もなかった、
 故になのはは禁断の言葉を口にする。
 
 「それならその踊りを見せて欲しいの」
「なっ何ですと!?」
 
 なのはの放ったその言葉はオヤジの脳裏に幾重にも響き渡り、目を輝かせ満面の笑みを浮かべる、
 そんなオヤジの反応になのはは後退りを始めると、オヤジは歓喜を含んだ返事で答える。
 
 「分かりましたぁ!!全身誠意で踊らせて貰いますぞぉ!!」
 
 そう言うや否やオヤジは右手首と肘を直角に曲げ、左手も同様の形で曲げて下に向ける、
 そして右足は膝を曲げつつ爪先立ち、左足は半歩下げつつ同様に膝を曲げながら爪先立ちといった格好で構え始めた。

286魔法舞勇伝キタキタ ◆94CKshfbLA:2009/11/19(木) 18:42:59 ID:ehe0UyTs
 するとどこからともなくプィ〜〜ヒャラ〜ラ〜っと笛の音が鳴り響き、
 なのはは戸惑っているとオヤジは笛に合わせて歌い出す。
 
 「キ〜タよキタキタ春がキタ〜〜♪♪」
 
 その歌を合図にオヤジは腕をゆっくり振り始め徐々に速めていくと、
 今度は腰を上下左右に揺らし腰蓑が揺れ始め、更には軽快なステップを踏み始める。
 その動きはまさに気色悪いの一言、なのはは堪えきれず背を向け目を逸らす。
 
 だが…目を逸らした先にはいつの間にかオヤジが移動していて、ジッとなのはを見つめながら踊っていた。
 なのはは驚き一歩後ろに下がると、それに合わせてオヤジは一歩前に出る。
 
 もう一歩なのはは下がってはみるが、やはり先程と同様にオヤジは一歩前へと出る。
 それは端から見れば、変態オヤジが変な踊りを踊り、九歳の女の子に近づこうとしている光景そのものであった。
 
 そしてオヤジは更に踊りながら徐々に近づいてきており、
 なのははその不快感が恐怖心に変わり、足を踏み出すことが出来ないでいた。
 すると―――
 
 《ディバインシューター!!》
 「ぎょええええぇぇぇ!?」
 
 なのはの危機感に反応したのかレイジングハートはディバインシューターを発射、
 見事にオヤジに当たり、オヤジは崩れるようにして倒れた。
 
 「れっレイジングハート!?」
 《申し訳ありませんマスター、危機的状況だと思われたので……》
 
 確かにいろんな意味で危機的状況であった、もしあの状況が続いていたらなのはの心には大きな傷跡を残していたのかもしれない。
 そう考えればレイジングハートの行動は正しかったのかもしれない、しかしレイジングハートは律儀に謝罪の弁を述べる、
 だが寧ろあの状況を脱却することが出来た事に感謝したい気持ちでいっぱいのなのはであった。
 
 そして大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせるとオヤジの身を案じる、
 何故ならオヤジが受けたディバインシューターには非殺傷設定の効果があるのだが、
 直撃すれば並の人では十分に卒倒出来る威力があるからだ。
 
 「オヤジさん!大丈夫な―――!?」
 「いやいや、心配には及びませんぞ」
 
 ピンピンしていた、むしろ何事も無かったかの様に腕を腰に当てて佇んでいる。
 どうやらオヤジの話ではこの程度の事は日常茶飯事であるのだという。
 
 …まぁ当然であろう、どれだけ心が広い人であろうともあの踊りで来られては、
 攻撃をせざるを終えない…それほど不快な踊りであったのだ。
 
 「では続きを―――」
 「いえ、もう結構なの」
 
 オヤジが踊りの構えをとろうとした瞬間、間髪入れずになのははキッパリと断り、
 落ち込む表情を浮かべるオヤジを後目に次の問題に直面する。

287魔法舞勇伝キタキタ ◆94CKshfbLA:2009/11/19(木) 18:44:20 ID:ehe0UyTs
 それはこのオヤジをどうするかである、仮にもこのオヤジは次元の裂け目から現れた、つまり時空放流者という事になる。
 今のなのはは時空管理局の嘱託魔導師として在籍しており、時空放流者を発見した際には
 発見者が保護しなければならないという取り決めがあるのだ。
 
 だが…なのはの家は御神流と呼ばれる武術を嗜んでおり、
 そんな家にこのオヤジを家に連れてきたらどうなるだろう……
 
 …確実に父や兄や姉の手による神速で抹殺されるであろう……
 
 つまり家に連れて帰る訳にはいかない、というよりこのオヤジを連れて街中を歩きたくもない、
 …となれば方法は一つしかない、なのはは早速レイジングハートを使って何処かと連絡を取り始めたのであった。
 
 
 
 
 
 「………………で此処に連れてきた訳か」
 「ゴメンねクロノ君」
 
 此処はアースラのブリッジ、なのはの目の前にはクロノ・ハラオウンがしかめっ面で立ち、
 艦長席にはリンディ・ハラオウンがお茶を啜っており、
 オペレーター席ではエイミィ・リミエッタが情報を整理、または本局との連絡を取っていた。
 
 その中でクロノは目を細めオヤジを疑いの目で見つめていると、エイミィから連絡が伝えられる。
 …確かになのはの言い分通り、海鳴町の公園内でごく小規模の次元振が起きていたという。
 クロノは一つため息を吐くとオヤジに話しかけ始めた。
 
 「…取り敢えず君は何者だ?」
 「申し遅れました、私の名はアドバーグ・エルドル、ご覧の通り―――」
 「変態だな」
 
 クロノの断言に力一杯否定するオヤジ、それを見て朝にも似たような事があったなぁと思うなのは、
 そして一連の流れを聞いていると、朝の出来事に関するトラウマを思い出す。
 
 …この流れが続けば自ずと‘あの踊り’に繋がってしまう、それだけはなんとしても阻止しなければならない!
 なのははクロノに注意を促そうと肩を叩こうとしていた。
 …だが―――
 
 「クロノ君あのね―――」
 「君が其処まで主張するのなら踊って見せてくれ」
 
 一足遅くクロノは禁断の言葉を口にし、その一言に目を輝かせ満面の笑みを浮かべるオヤジ、
 一方でクロノの後ろでは、なのはがクロノの肩に触れるギリギリのところで左手が止まり青ざめていた。
 あと一歩、あと一歩早く気付けば‘あの踊り’を防げたのに、なのはは悔しがるように左手を握り締め涙を浮かべる。
 
 …そしてオヤジは先程なのはに見せた時と同様の構えで立つと、
 どこからともなくプィ〜〜ヒャラ〜ラ〜っと笛の音が鳴り響き、
 クロノ達はその音に驚き周囲を見渡しているとオヤジは歌い始めた。
 
 「キ〜タよキタキタ福がキタ〜〜♪♪」
 
 先程とは若干歌詞を変えた歌を合図にゆっくりと踊り始める。
 その踊りに顔色を変え青ざめるクロノに、含んだお茶が溢れ出すように口からこぼれ落ちるリンディ、
 オペレーターでは笛の音により集中出来ないエイミィと、アースラ内は地獄と化した。

288魔法舞勇伝キタキタ ◆94CKshfbLA:2009/11/19(木) 18:47:12 ID:ehe0UyTs
 その中でオヤジはジッとクロノを見つめ踊り続けており、
 クロノはその不快感に耐えきれず目を逸らすと逸らした先にはオヤジが踊っていた。
 
 いつも冷静なクロノでも流石に驚き、またもや目を逸らすがオヤジはしつこくクロノを見て来ており冷や汗をかき始める、
 するとオヤジは徐々に近づいていきクロノの前まで迫ると、
 つい――――
 
 「おぉああああぁぁぁぁ!?」
 「クロノ君!!」
 「はぁはぁ……すまない、不快だったのでつい………」
 
 手に持っていたS2Uで思いっきりオヤジの顔を叩いたのである。
 オヤジは頭にたんこぶを作り鼻血を垂らしており、
 なのはが心配すると問題ないと答え、するとなのはから一つの提案を述べる。
 
 「あの〜、余り人の顔をジッと見ない方が――」
 「何を申しますか!!」
 
 なのはの提案にオヤジは顔を近づけて真剣な眼差しで否定する。
 どうやらキタキタ踊りというのは見て貰っている人が楽しんでいるかどうか、
 確認の意味も込めて常に人に目線を向けて踊るのだという。
 
 …本来であれば踊り子としての矜持や気配りなのであるのだろうが、
 今踊っているのはあのオヤジ、正直迷惑な話である。
 
 そしてオヤジはすぐさま踊り始め基本的に真面目なクロノは律儀に踊りを耐えながら見続けていると、
 オヤジは目線に興奮したのか踊りが激しさを増し、腕や足の動きは残像を発生させている程の動きであった。
 
 「ヒィラリ〜ヒラ〜ヒラ〜ヒヒラ〜リ〜ラ〜♪♪」
 「くっクロノ…これはキツい……!!」
 「たっ耐えるんです!提督」
 
 リンディ提督の率直な意見にクロノはそう答える中、またもやオヤジはクロノに目線を送り近づいてくると、
 先程と同様に思いっきりぶん殴り、その後オヤジは幾度となくクロノに近づき、その度にクロノに殴られ続けていた。
 
 何故に其処までクロノに固着しているのかというと、
 感謝の気持ちを込めている…からだそうで、全くもってはた迷惑な話である。
 
 
 それから暫くして踊りを終えたオヤジは顔にいくつも痣やたんこぶを拵えていたが、満足そうな顔をしていた。
 一方で何度もオヤジを殴りつけていたクロノは肩で息をして、疲れた表情を浮かべながら本題に入る。
 先ずはオヤジはどうやって此処に来たのか伺った。
 
 
 …オヤジはいつもの如く後継者を探しに森を歩いていたところ、
 蔦に足を取られ転倒、近くにあった大きく開いた穴に落ち、気がついたら公園にいたのだと語る。
 …オヤジの証言に一同は静まり返り静寂が包み込むと、クロノは静かに…だが震える声で答える。
 
 「…そんなバカな話があるか!!」
 
 確かにその通りである、穴に落ちたら其処は違う世界でしたなど通用するハズがない、
 しかしオヤジはあっけらかんとした表情を浮かべながら弁明を繰り返す、
 その真剣な表情に本当なのだろうという風にさえ思えてくるが、オヤジの姿がそれを邪魔していた。
 
 取り敢えずオヤジの証言は後回しにして、今度は元の世界へ戻る方法である。
 此方は公園で起きた次元振の情報を基に、真剣に必死に早急に探し出そうとしているという。
 だがその間は保護をしなければならない、クロノは頭を抱えながら暫く此処アースラで暮らして貰うとオヤジに告げる。
 
 「おぉ!それは有り難い事ですぞ!!では感謝のキタキタ踊りを!!!」
 『踊るな!!!』
 
 アースラ全体が揺らぐような大きな声とクロノの冴えたツッコミが入り、オヤジの踊りを阻止する一同。
 
 
 …だがキタキタおやじによる悪夢はまだまだ続くのであった。
 
 
 終わり。

289 ◆94CKshfbLA:2009/11/19(木) 18:49:53 ID:ehe0UyTs
以上です、ずっと戦闘シーンばっかだったので箸休め的なものです。


今度こそ本編を予定しています。


それではまた。

290魔法少女リリカル名無し:2009/11/19(木) 20:59:45 ID:OsJbwu4k
なぜだろう、キタキタおやじと漢魂のコラボが見てみたい、などと思ってしまったのは……
疲れているのだろうか……

291魔法少女リリカル名無し:2009/11/19(木) 21:06:04 ID:h.OmXH5I
作者さん乙でした。
……アースラが地獄だ。

292BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 20:56:57 ID:XjTYdAII
>>◆94CKshfbLA氏
GJ! グルグル懐かしいです。キタキタ踊りが次元世界に広まれば平和になる……はず。
オヤジには是非とも目指していただきたい。

22:00頃に、ブラスレイタークロスの続きを投下させていただきたいと思います。
昨日投下するつもりが、次回予告を考えてないのに気付き、考えてました。
本当は48時間全部入れるつもりでしたが、かなりの容量になりそうだったので、3話はこれで最後です。

293BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:02:59 ID:XjTYdAII



「ジョセフ、この娘達……」
「ああ、わかっている」
 
 大型バイク『ガルム』に映るホログラフィの少女エレアが言いかけた言葉を、
デモニアックの姿を取ったジョセフは途中で遮った。
 戦闘機人。噂にしか聞いたことがなかったが、見た目には少女にしか見えない。
 だが全員が武装し、飛行している者もいる。
何よりデモニアックを前に逃げもしないことを考えれば、ただの一般人でないことだけは確か。
 理由は分からないが、彼女達はこのデモニアックと交戦している。
これだけ武装した戦闘員が集まって倒せない、眼前のデモニアックはそれほど手強いのだろうか。
 疑惑と驚愕に満ちた視線を感じる。ジョセフは説明をしようとは思わなかった。
彼女達が何者かは知らないが、自分はデモニアックを斬る、それだけだ。

「お前……何者だ?」
「……俺はお前達と戦うつもりはない」

 ジョセフはリーダーらしき年長の女にそう答えたが、彼女はまだ納得いかないという風な顔をしている。
しかし構うものか、どの道援護は期待していない。
 それに話している時間も与えてはくれなかった。起き上がったデモニアックは戦闘機人ではなく、
ジョセフのみを見ている。
 ジョセフは横目で頭上を仰ぎ見る。頭上の少女、特にデモニアックに捕らえられていた髪の長い少女は、
完全に放心状態にあるようだった。
 狙いがこちらにあるならいっそのこと、デモニアックを引きつけて離れる。
放心状態の少女を巻き込むこともなければ、後ろから撃たれる心配もない。
 ジョセフはアクセルを吹かし、急発進。案の定、デモニアックも追ってくる。
 ジョセフは内心動揺を禁じ得なかった。驚くべきことに、
敵は全速のガルムのスピードに脚力のみで並走している。通常のデモニアックならあり得ない、
一部例外を除けばブラスレイターでも不可能なことだ。
 追いすがるデモニアックが手刀を振り下ろす。左手はハンドルを操りつつ、ジョセフは右掌を振りかざした。
受け止めるでもなく、手刀が触れる寸前で掌が光を放ち、そこに剣が生まれた。
 刀身はわずかに湾曲した片刃、シミターと呼ばれる類の曲刀。生まれた剣はうねり、ジョセフの手に握られる。
 
「はあああっ!」

 手刀を気勢を込めて剣で薙ぎ払うジョセフ。
 手応えはあった。硬く高い、金属質の手応えが。
 通常なら腕が飛んでいるか、そうでなくとも体勢を崩す程度のことはできる。
しかし結果はどうだ。斬れるどころか互角に競り合い、恐ろしい力で押され始めた。

「ちぃぃいっ!」

 ジョセフはハンドルを握る左手も添え、両腕の膂力でもって押し返す。
全力で剣を振ると、デモニアックはバランスを崩したが、ジョセフも大きく揺らいだ。
 独楽のように回転するも、不思議と転倒することはない。両足を完全にガルムと一体化した為だ。
 なるべく融合を使いたくはなかったが、使わざるを得ない状況まで追い込まれてしまった。

「ジョセフ、忘れたの? デモニアックの能力は元の人間に比例すること」

 エレアの声で以前にも同じことがあったのを思い出す。
あれは確か、木こりか何かのデモニアックだった。
大柄で、ブラスレイターの自分をも抑え込むほどの力があったのを覚えている。

294BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:10:17 ID:XjTYdAII
 これは全てにおいてそれを上回っていた。素体からして人間離れした身体能力、となれば大方の察しはつく。

「戦闘機人……」

 彼女らがこれと戦っていたことから考えても、これも元は同類なのだと。
 
 攻撃を弾いた結果、デモニアックとの距離が離れ一安心かと思いきや、
デモニアックの右手に翡翠色のリングが現れる。
 ジョセフはハンドルを切り、ガルムを急旋回。横転する限界までマシンを倒し、
路面を削る脚部が摩擦で激しく火花を散らす。
 ジョセフがスラスターを点火させるのと、リングから無数の光線が拡散して放出されたのはほぼ同時。
 それは云わば経験に基づく勘。正体を知らずとも自然と危険信号が発された。
 急加速によってほぼ直角に曲がったガルムに対し、歪曲して光線が迫る。
皮肉なことに、曲線を描く軌道はさながら牙を剥いた大蛇。

「ジョセフ!!」
 
 エレアの声で咄嗟に思い出す。ガルムに隠された機能を。
 一条、また一条とガルムを追う光線は路面を抉る。誘導でもされているのか、爆発は確実に近づき、
最後の光線がついにジョセフを捉えた。
 しかし、光線がジョセフに届くことはなく、ガルムに当たる直前で拡散し、消滅する。
気づけば周囲に薄いフィールドが張られていた。
 
 「まったく……危なっかしいわ、ジョセフ」

 スラスターの噴射による飛行と同じく、ガルムに備え付けられた機能の一つ。
 知ってはいたものの、自在には使えなかった機能でもある。ジョセフは未だにガルムのスペックの全てを引き出せてはいない。
今回もエレアのナビゲートが無ければ危うい状況だった。

「すまない、エレア」
「これ以上直撃したら流石に耐えられないわよ、それに……」

 いつの間にかデモニアックは距離を詰めていた。ガルムに再び並走し、そして進行方向を見越しての跳躍。
両手を組み合わせて振り上げたハンマーナックルの構え。

「あれは防げないわ」

 先の攻撃で速度を落としていたガルムでは振り切れない。防御しても防ぐのはまず不可能。ならば、
 
「承知!」

 ジョセフは一言エレアに返すと、握った剣を捨て、右手をかざす。掌には青い光。
 ただし今度は剣ではない。伸びた光が鞭となって、蛇のように敵の脚に絡みつく。
 ジョセフは力の限り光の鞭を引く。滞空しているデモニアックは抵抗できるはずもなく、地面に叩きつけられた。
 
 誘導する光線を見ていなければ咄嗟に思いついてはいなかっただろう。
 蛇、それは悪魔アンドロマリウスが持つとされるもの。そしてアンドロマリウスはジョセフのブラスレイターの象徴である。
 叩きつけてもまだ終わりではない。ガルムを加速させ、立て直す余裕を与えない。
 その間にジョセフは観察する。デモニアックは道路を跳ねながら、なんとか踏ん張ろうとしている。
 その両手だけが鏡面の如く光を反射していた。すぐに何らかの金属と融合しているだと気付く。これで剣を防いだのだ。

295BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:14:02 ID:XjTYdAII
 ただの鉄やガラスならば剣で斬れないことはない、考えられるのは特殊な金属。
ならば街中に転がっているものではなく、元々所持していたか、或いは”体内に仕込んでいた”か。

「斬れる……!」

 たった一言呟いた。自らに言い聞かせるように。
 融合して金属で手を覆っている、それは逆に考えればそのままでは受けられないという証。
そして両手以外であれば斬れるということ。
 それ以上の観察はデモニアックも許さなかった。バウンドしながらも立ちあがったデモニアックは足に絡む鞭を引き返す。
 単純な力比べで勝てるはずがないと、危うく鞭を消すジョセフ。が、既に遅く、ガルムの向きは90°近くずれた。その先には、

「ジョセフ! 前!!」

 ビルの壁が数メートルの距離まで迫っていた。エレアに言われるまでもないと、
ジョセフは速度をわずかに殺し、前輪を持ち上げてタイミングを合わせる。
 減速して方向転換していては、また追いかけっこの続きだ。光線も今度は避けられるか分からない。
 タイヤが壁面を噛んだ瞬間、三度目の噴射。
爆発的な推進力を得たガルムは無理矢理重力に逆らい、空を目指して壁面を駆ける。

「まだ追ってくるわ、ほんとしつこいんだから……。これは一筋縄で行きそうにないわね」

 後ろを振り向く余裕はないが、エレアの声と音で判断できた。
 飛行が可能なら付いてくるだろうとは思ったが、どうやら敵はこの曲芸走行にも付き合うつもりらしい。
 断続的なガラスの割れる音。足場を力強く踏みしめる音が忙しなく続く。
それが背後から聞こえると言うことは、つまりそういうことなのだろう。
 やれやれ、と溜息混じりに言ったエレアの言葉に内心ジョセフも頷いた。



「なんだあれは……」

 オットーと黒のデモニアックは現在、ビルの壁面を縦に走りながら戦っている。
 同じく重力に逆らう行為。しかし飛行ではなく走行であるということが異様さを掻き立て、
トーレを含むナンバーズを唖然とさせた。
 突き出た障害物や窓は回避しながら走りつつ、それでいて攻撃が途切れることはない。
 交わされる拳と剣。
 一撃をいなして一撃を放つ。その応酬は激しさを増す一方で、目で追うのが精一杯だ。
 速度を落とし、手を緩めれば決定的な隙を晒す。手足を止めれば死に繋がる。だから止められない。
 屋上に差し掛かろうかという時、黒のデモニアックが進路を変えた。オットーを右に見ながら、バイクを横に傾ける。
 上の様子がどうなっているか分からないなら、一片の隙も作りたくないのだろう。
壁を垂直に走ることに比べれば、横に走るのは格段に楽。尤も、あれなら天井であっても逆さに走りそうだが。
 オットーも負けじと食い下がる。互いに窓を踏み荒らし、ガラスというガラスが砕け散るが、そんなことは障害にもならないらしい。

296BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:18:40 ID:XjTYdAII
 それはまさしく縦横無尽。さながら二人で一つの嵐。
荒れ狂う暴風は近寄れば誰であれ、何であろうと吸い込み、切り裂く。
 それほどに異形同士の戦闘は他者の介入を許さない。

「トーレお姉様。あれ、どうしますの?」
「クアットロか……」

 どうするも何も、あれでは近寄ることすら難しい。それほど危ういバランスの上に成り立っている。
 トーレの迷いを見抜いたのか、クアットロが呆れたような声で言う。

「お姉さまぁ、オットーはもうあのデモニアックに任せておいたらいかが?」

 なんなら両方ディエチちゃんでふっ飛ばしちゃいますか? とでも言うかと思ったが意外と大人しい発言だった。

「それでもいいんですけど……あのデモニアック、ドクターが知ればきっと興味を持つと思いまして」

 だろうな、と素っ気なく返事をした。今頃この状況を嬉々として見ているに違いない。
 だが、今はどうやってオットーを止めるかが先だろうとトーレはしばし熟考に入る。

「あれが我々を攻撃しないという確証はないが……あれが倒されたら、結局は我々が戦うことになる。
それまでにオットーが消耗していなければ勝ちは薄いかもしれない。あれの手にも余るようなら、いっそ共闘しよう」

 あれ、というのは当然、黒のデモニアックである。戦闘の様子を見ていると、先に息切れするのはそちらの方だと考えた。

「どうせなら利用する、と仰ればいいのに」

 彼女らしい発言に、同じことだ、とトーレも返す。

「どちらにせよ、もう捕獲は諦めた方がよさそうですわ」
「そうだな……」

 その先を口にするには勇気が要った。自分の一言で姉妹達はオットーを敵と認識し、殺す。
それがどれほど重いことか、なまじ宿った人間性を呪いたくなった。
 クアットロは言わずもがな、セッテやチンク、ディエチも内心ではわかっている。
状況を考えればノーヴェやセイン、ウェンディも渋々ながら納得するだろう。しかしディードはどうだろうか。
 時間に差はあれど、仮にもこれまで姉妹を見守り鍛えてきたと自負していた。
ディードとオットーの関係に関しても理解しているつもりだ。
 いっそのこと、オットーを放置しておくという考えが頭を過ぎる。
 あの戦闘力だ、魔導師達やXATに壊滅的深手を負わせる可能性は十分にある。始末もできて一石二鳥、とまで考えて、

「……何を考えているんだ私は!」

 馬鹿げた考えだと、頭を振って一蹴する。そんなことをそれば、オットーは魔導師に止められるその時まで、
更なる破壊の限りを尽くす。既に数十はゆうに越えている民間人の死者が幾百になるか知れない。

297BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:22:43 ID:XjTYdAII
 スカリエッティの命ならばともかく、トーレ個人としてそれは容認し難かった。
自分達はスカリエッティの手駒となって人を殺すこともある戦闘機人だが、
無差別な虐殺を撒き散らす悪魔ではないのだから。

「トーレ、オットーを破壊しましょう」
「セッテ……」

 隣に立ったセッテはトーレを見ない。正面を、戦闘だけを見て、冷静に分析している。

「私と貴女で再度挟撃を。あのデモニアックも加えれば先程よりはこちらに利があります」
「セッテ……お前は……!」

 オットーを破壊する、あまりに平然と口にするセッテにトーレは顔をしかめた。
 何故正しい判断であっても迷うのか、彼女は理解していないのだろうか。その決断を下す辛さを。
 以前、彼女に機械的過ぎると注意したことがあった。本当にあの時からまるで変わっていないのか。
トーレは落胆し、叱咤、もとい八つ当たりしそうになったが、

「他の姉妹にはやらせられませんから」

 その一言で飲み込んだ。
 セッテは自己の感情の揺らぎの少なさを自覚している。その上でそれが最も確実で効率的だと判断した。
 他の姉妹の精神的ダメージを軽減する為に、なるべく手を下すのは自分であるべき。それが己の役割であり、
それをトーレも理解しているだろうと考えている。その相棒にトーレを選んだ。
それはトーレの役割でもあると、自らの責を果たせと暗に語っているように思えた。
 それに比べると、迷っていた自分はなんて矮小だったのだろう。感情に流されず、
現場で最善の決断を下すのは自分の役割だというのに。
 ならばもう迷わない。純粋に己の責務を果たすことを考えよう。トーレは大きく息を吸って宣言した。

「捕獲は断念だ! オットーをデモニアックと判断、破壊処分する!!」

 ノーヴェやウェンディが何か言いたそうに顔を上げるが、それも目で黙らせる。
 オットーを野放しにはできないなら、せめてこの手で破壊する。それが自分の責任。

「チンク! 今どこにいる?」
『今奴らが暴れているビルの屋上だ。上がってくるかと思ってヒヤヒヤした』

 通信を通したので話は聞いていただろう。チンクが何も言わないから、トーレも何も言わない。
淡々と状況報告を交わす。

『中はデパートか何かのようだな。セインと確認したが、フロアはそれなり広く、騒動で商品が散乱している。
だが、仕切りが少ないから戦闘は十分に可能だ。上部三階には生きている人間はおそらくいない』

 黒のデモニアックの戦闘形態から考えても、戦うなら接近戦だ。それなりに広いとはいえ、
屋内であればレイストームは軌道が制限され、自在には使えまい。最適な条件だと言えた。

「では作戦を練ろう。その前に……ディード、お前は待機だ」

 一人俯いていたディードは、それでも顔を上げることはなく、トーレの強い口調に気圧され、むしろより深く沈みこむ。唇をきつく噛んでいるのは、せめてもの意思表明のつもりか。

「異論はないだろうな」

 トーレは鋭く睨みを利かせる。それはディードのみならず、ウェンディやノーヴェに対して言った言葉でもあった。

298BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:27:12 ID:XjTYdAII
 そして数秒間の沈黙。やがて彼女の口は注視しなければ気付かないほど小さく、了解、と動いた。
 トーレは決戦の場となるビルを見上げた。正確にはそこで戦う二人の悪魔を。
 この決定は、双子の彼女にオットーを殺す任を背負わせたくないからではない。
その感情は指揮官として相応しくない。ただ単に不確定要素を塗り潰す為、
足を引っ張る可能性のある因子を排除する為。
 そう考えることにした。 



 ビルの壁面を往復する間も、数えきれないほど剣を振るった。互いに決定打のないまま、
十分程が経過しただろうか。感覚では、もう何時間も戦っている気すらする。
 膠着した戦況で、徒労と知りながらも、
それでも動きを止めることができないというのは予想以上にジョセフの消耗を早めていた。
相手は両手を使えるが、こちらは右手一本なのだ。
 例の光学兵器を使用してくれば隙も生まれるというのに、どうやら近づけば格闘戦、
離れれば光線という単純な思考で行動している。
 融合すれば接近戦でも銃を使おうとするデモニアックも多いが、この場合、
中途半端に判断力が残っているのだろう。それ故、逆に戦い辛い。
 剣を振るう腕が重い。
 度重なる攻防の反動で握る手が痺れてくる。
 ジョセフにとっても、それは初めての感覚。それもそのはず、
これまで通常のデモニアック一体にこれほど苦戦したことなどない。
これまで自分を下したどの敵ともタイプが違う。
 一人は全てにおいて絶対的なまでの力量差。
 一人は届かぬ空を舞い、風と一体の如き速度。
 これはそのどちらでもない。凶暴で獰猛な勢い、それは”野性”と呼ぶのが適当な気がした。

「このままじゃ埒が明かないわね。ガルムもそろそろ限界かしら」

 エレアに構う余裕も今はないが、言っていることは尤もだ。無茶の連続でガルムの負担もかなりのもの。
 何でもいい、何か状況を一変させる為の切欠が必要だった。
 壁面を斜めに切り上がり、空が近くなった時、程なくしてそれは来た。

 それは弾丸や砲弾ですらなく、言うなれば光の波。莫大なエネルギーの奔流。
 ジョセフの目の前で、丸太よりも太い光の束がビルを貫いた。下から上へ、斜めにビルを撃ち抜いた光は、
すぐに空に吸い込まれて見えなくなった。

 ビルはその衝撃で大きく揺れ、轟音はビルごと崩落するかと思うほど激しい。
特に外壁のジョセフにとっては振動は凄まじいものだった。
 二輪で走行していたジョセフは勿論のこと、四足で這っていたデモニアックも同様に振り落とされる。

「来い!!」

 落ちる瞬間、声が聞こえた。声の主は戦闘機人のリーダー格の大柄な女。
 端的な言葉だが、一瞬で意味を悟るジョセフ。それは声がジョセフに向けられていたこと、
そしてジョセフがこの状況を待ち望んでいたからに他ならない。

299BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:31:49 ID:XjTYdAII
 ビルを揺るがした巨大な光は、言うなれば互いの間に打ち込まれた楔。
反撃に転じることのできる絶好の機会だった。
 それだけに行動に転じるのも速い。悲鳴を上げかけているガルムのアクセルを捻り、スラスターを噴射、
破片をかわしながら崩れた壁の大穴に駆けこむ。
 人で賑わっていたはずのフロアは閑散とし、そこに待っていたのは声を掛けた女ともう一人、
ピンクの髪の戦闘機人だった。
 ガルムを降りたジョセフの側に、大柄の方の女が近づく。

「ここで奴を仕留める。お前も協力しろ」

 あの程度で死ぬとは思えない。むしろ怒りを燃やし、今にも登ってきていることだろう。
それをわかっているからだろう、女は簡潔かつ一方的にジョセフに命令した。
 高圧的な物言いだが、その程度で腹を立てている状況ではなく、別段異論があるわけでもない。
一点、ジョセフが気になるのはただ一点だけだった。
 
「あれは……お前達の仲間じゃないのか?」
「だから始末をつける。それが我々の責任だ」

 質問を予想していたのか、答えはすぐに返ってきた。
その答えに達するまでには苦悩も葛藤もあったのだろう。
 だが、ジョセフにそれを問う権利などなく、黙って頷いた。

「いいだろう、だが止めを譲るような余裕はない。奴の狙いは俺だ」
「それで構わない。私はトーレ、こっちはセッテだ、呼ぶ必要があれば呼べ。
お前の名は聞かなくていい」
「他には?」
「それぞれ待機している。しかし前衛として戦うのは我らともう一人だけだ。
識別の為の名乗りなら必要ないだろう」

 つまり、あくまで混戦時に必要になるかもしれないから名乗っただけ、ということ。
尤もそれ以上はジョセフも求めていなかった。
 会話は数秒で終わり、それぞれに沈黙する。聞こえてくるのは、遠くからでも不思議と届く悲鳴と慟哭。
しかしそれも数秒と持たなかった。

「エレア、バイクを頼む」
「わかってると思うけど、乗っていないとフィールドは使えないわよ。ガルムも、あなたもね」

 それだけ言うと自動で離れていくガルム。見送ることもせず、ジョセフは剣を構えた。
 ひりつく殺気が近づく。隠しもしない暴力的な気配が膨張する。
 ぎり、とジョセフとセッテが武器を握り直すと同時に、気配が弾けた。
 飛び込んできた白い影は一直線にジョセフに跳びかかる。突き出してきた拳をジョセフは剣で弾く。
剣は両手持ち、下半身も安定していればさほど難しくはない。
 ジョセフが拳をいなすと、不意に右にいたトーレの姿がぶれた。
否、高速での移動と気付いた時には、手首の光の翼が刃物のナイフのように振り下ろされていた。
 取った。ジョセフも、おそらくトーレそう思ったはず。
 しかし、デモニアックの左手はトーレの拳を握り、押さえていた。
続いてベキベキと空き缶を潰すような嫌な音。

「あぐっ! あぁああ……!!」

 そして苦悶の声。トーレの拳は、デモニアックの桁外れな握力の前に空き缶程度でしかなかったらしい。
 トーレの拳はジョセフにすら見えなかった速度、反射神経だけでなせる技ではない。
ジョセフに注意を払いつつ、見て捉えることは不可能。ならば、おそらくは直感、或いは経験則。

300BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:34:41 ID:XjTYdAII
 デモニアックの左手を切り落とさんと、ジョセフは剣を上げかけたが、直前で跳び退る。理由は背後から聞こえる風切り音。
視線をやると、セッテのブーメランが正面から縦に回転し、デモニアックに迫っていた。
 なんの打ち合わせも合図もなくとも、避けると思ったのか。ともかく、鋭く回転する刃は、
デモニアックの腕のガードごと切り裂くだろう。
 無論、戦闘機人の身体ならなおのこと。
 トーレの身体が振られ、ブーメランの軌道に引きずり出される。掴まれた拳のみで、トーレは操作されたのだ。

「ッ!」

 これにはセッテも表情を変え、手に持っていた予備のブレードで、自ら放ったブーメランを相殺、叩き落とす。
 その隙にトーレの左足は跳ね上がり、拳を握ったままの腕を狙う。足首にも同様の翼のような刃が生まれている。
 が、切断される寸前でデモニアックはトーレを解放。素早く手を引き、勢いよく振られた足が通り過ぎた瞬間、

「がっあああああ!!」

 握り拳に変えて突き出す。それは空振った左足の膝を強打、またも骨が砕ける音が響いた。
 全てが五秒にも満たない攻防。そしてその間も、右手は常時ジョセフを警戒している。
 右手と左足を潰され後退したトーレに従い、セッテも様子見。
 戦いは再びジョセフとデモニアック、一対一の図式に戻った。



 黒のデモニアックは一人でオットーを抑えているが、長くは持たないだろう。じりじりと後退している。

「くそ! なんなんだ、あの強さは!」
「トーレ、退いて下さい。その傷では戦力になりません」

 セッテはいつも歯に衣着せぬ物言いをする。悔しいが、トーレには何も言い返せなかった。
情けないことに、右手と左足が使い物になりそうにない。体術を武器とするトーレにとっては致命的な負傷だ。

「わかっている……! セッテ、奴の援護を頼むぞ」
「わかっています」
「ブレードは投げるな。二本以上使うのも危険だ」

 セッテが伏し目がちに頷くのを確認すると、トーレは飛行しながら後退、戦いを遠巻きに見守る。
 ブレードを投擲すれば、奪われる危険が高くなる。融合されれば取り返せず、最早手が付けられなくなる。
それくらいわからないセッテではないと思うが、自分が危機に陥った時、オットーから助ける為に咄嗟にブレードを投げたのだろう。

301BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:38:34 ID:XjTYdAII
元はと言えば自分の不甲斐なさが蒔いた種。あまり責めるのは気が引けた。

「もう少し……もう少しで……」

トーレは祈る思いで天井を見つめる。ディエチの射撃の影響で、天井には大穴が空いた箇所があり、
周辺はパラパラと破片が落ちる程脆くなっている。
張られた罠の範囲に、オットーが足を踏み入れるのは時間の問題。
後はそれまでに二人が倒されないことを願うしかない。
一歩、踏み込んで右の手刀を繰り出す。
二歩、手刀を剣で弾かれ、セッテのブレードを左手で受け止め押し返す。
三歩、セッテのもう一方のブレードで足を浅く斬られ、バランスを崩しながらも攻撃を試みる。
四歩、踏み込んだ瞬間、

「離れろ!!」

トーレが声を張り上げると、爆音と閃光が頭上で炸裂した。爆発によって脆くなった天井は崩落を引き起こし、
巨大な瓦礫がオットーに降りかかる。
視界を埋め尽くすのは閃光と粉塵。備えていても、視覚と聴覚が元通りになるまでには数秒を要した。
崩落は上階に配置したチンクのランブルデトネイターによるもの。
彼女の能力なら脆くなった天井の崩落を起こすことは容易い。
トーレが回復しても、未だ粉塵は晴れていない。爆発の一瞬、デモニアックはセッテに腕を引かれ脱出、
自身でも危機を悟っていたように見えたので大丈夫だろう。問題はオットーだ。
 耳を澄ますと、粉塵の中から甲高い金属音が響いている。トーレは、嗚呼、と天を仰ぎたい気分になった。
あの中ではまだ戦闘が続いているのだ。
 ようやく視界が晴れた時、そこには新たに一人、爆発の前まではいなかった短い赤髪の少女が。
ノーヴェは足に付けたジェットエッジから鋭い蹴りを続け様に繰り出していた。
 オットーを仕留められなかった場合の保険だったが、戦闘しているということは不意打ちには失敗したということ。
これで二つ、チャンスが潰えたことになる。
 
「トーレ、負傷しているのか!?」

声を掛けたのは眼帯をした少女、ナンバーⅤ、チンク。失敗に気付いて上階から降りてきたのだろう。
横にはナンバーⅥ、セインもいた。

「私のことはいい! お前も戦闘に加われ!」

そう言ってチンクを追い払う。チンクは一度セインに目配せすると、離れていった。代わりにセインがトーレの肩を担ぐ。

「トーレ姉、一旦離れよう。ここにいたんじゃ危険だよ」
「ああ、わかっている。セイン、頼む」

仕込んだ策は尽きた今、ここにいても足手まといになるだけ。後は四人に託すしかない。口惜しさを堪えて、トーレは戦場を後にした。



黒のデモニアックとセッテ、ノーヴェは入り乱れながら戦う。前後左右、入れ替わり立ち替わり、それでも決定打には至らない。

302BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:45:53 ID:XjTYdAII
 硬く、速く、重い。たったそれだけのことが高い壁だった。
 ノーヴェがガンナックルで射撃。オットーは両手を他の二人に向けている状態、回避は間に合わない。
 オットーは頭部に被弾。大きくのけ反ったところへ、ノーヴェは追撃のハイキック。
 当たっていれば勝敗は決していただろう。しかし、決することは無かった。
 手応えを確信したノーヴェの表情が驚愕に歪む。
 額から煙を昇らせるオットーは、特に堪えた様子もなく、その手はノーヴェの足をしかと掴んでいた。
 ガンナックルでは威力が足りなかったのだ。
そして、デモニアックやセッテの剣速に慣れたオットーには大振りなハイキックは緩慢な動きでしかなく、軌道予測も楽だったことだろう。
 ノーヴェの抵抗など意に介さず、オットーは足を掴んだノーヴェを持ち上げ、振り回した。
もがくノーヴェを片手で制しつつ、棍棒代わりにセッテらを薙ぎ払う。

「ノーヴェ!」

 叫んだところで、どうなるものでもないが、チンクは思わず叫んでいた。
 回避の遅れたセッテは、ノーヴェの頭で顔を打たれ、倒れこむ。デモニアックは斬るのを躊躇し、後ろに跳んだ。
 払った勢いもそのままに、オットーはノーヴェを投げ捨てる。
 遠心力を加えて投げられたノーヴェは、声もなく回転しながら2〜3m床を滑り、壁に当たると動かなくなった。
強かにセッテと頭をぶつけたのだから、昏倒しても不思議はない。
 チンクは改めて戦慄した。戦闘力にではなく、その戦い方に、である。姉妹を棒きれの如く扱い、
使い捨てる化け物は、オットーと呼ぶことすら抵抗を覚える。
 チンクはナイフを握り締めた。殺気が、憎しみが抑えられない。これがオットーだということも忘れそうになる。
 オットーは姉妹の癖や戦法を熟知している。ガンナックルといい、ブーメランブレードといい、
初見であそこまで対応できるものではない。しかし、そこには感情は無い。戦う為の情報だけを残し、他はノイズでしかないのだ。
 背中を向けたオットーに、チンクはナイフを構える。そこに迷いはなかった。
 本当は雄叫びを上げたい気分だったが、代わりに刃に怒りを乗せて投げ放つ。
 ナイフはチンクの思いを表し、一直線に飛ぶ。決して逸れることなく、オットーの背中を目がけて。
 オットーは残る一人、黒のデモニアックに注意を向けようとしていた。ノーヴェが音を立てて転がった瞬間、
音で判断して避けられるはずがない。
 はずがないのに。
 オットーはそれすらも避けて見せた。

「馬鹿な!?」

 オットーは左にステップ、ナイフはその横を掠めて通り過ぎる。偶然ではなく、明らかに察知していなければできない行動。
 まさか避けられるとは思っていなかった。回避できる要素などなかった。視覚、聴覚共に反応せず、
精神的にも敵をあらかた一掃した直後である。欠片の油断も無いとは思えない。
 驚きが支配し、一瞬思考が止まる。そしてナイフが通り過ぎた後になって、絶好の機会を逃したことに気付く。
 爆風だ。直後なら直撃でなくとも傷は負わせられたのに。
 遅いかも知れないが、今ならまだ間に合う。
 チンクは投げナイフ、スティンガーを起爆させ、爆弾と化していたナイフはその場で中規模の爆発を起こす。

303BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:49:37 ID:XjTYdAII
 質量の割に大きな爆発はオットーを巻き込み、フロアの壁を吹き飛ばした。

「やったか!?」

 と喜んだのもつかの間、爆発の余波を受けたのは他の者も同様。倒れていたセッテとノーヴェは大したことはないが、
オットーの向かいに立っていたデモニアックは破片と爆風の直撃を浴びている。まさかナイフが爆弾だとは思わなかっただろう。
ダメージで言えばオットー以上だ。
 動く者のいなくなった戦場で、チンクはがっくりと肩を落とす。
 軽挙妄動とはこのこと、明らかな失態だ。冷静さを欠いた浅はかな行動が招いた結果。
 急速に冷めていく頭が一つの答えを導き出す。何故、オットーはナイフを避けたのか。それは殺気、
ノーヴェを武器にされたことへの激しい怒りがオットーに気付かせたに違いない。
 外から吹き込む風によって、呆然としていたチンクは正気を取り戻し、
そしてチンクは自分が攻撃に巻き込んだ妹達の確認を優先させた。させてしまった。
 トーレやセッテならば真っ先に標的の確認をしただろう。意識を失っているノーヴェに駆け寄るチンクは、
オットーが未だ塵と化していないことに気付かなかった。



 爆発の直撃を受けたジョセフは朦朧とする頭を揺り起こす。攻撃が来ない。では奴は死んだのか? 
 周囲を見回すと、それはいた。倒れているデモニアックは自分同様意識を失っているのか、動く様子はない。
 止めを刺さなければ。この機を逃せば勝ち目は薄い。
XATの到着までも、そして倒されるまでにも大勢の人間が死ぬ。
 身体を起こすと、全身が軋む。腕を動かす度に激痛が走る。それでも、剣を支えにして立ち上がる。
 一歩を踏み出した瞬間、突如デモニアックが跳ね起きた。そしてジョセフに背を向けて走りだす。
その先には、爆発によって空いた穴。
 流石に状況の不利を悟り、逃げるつもりだ。現状では向かってこられるよりも性質が悪い。
 ジョセフも痛みを堪えて追う。敵も相当のダメージを負っているのか、走るスピードは随分と遅いが、
それでもジョセフよりは速かった。

「エレア!!」

 ジョセフは声を張り上げる。ある種祈りを込め、この声が届く範囲にいてくれることを願いながら。
それに呼応して遠くエンジンの唸りが轟いた。
 しかしまだ足りない。デモニアックは既に壁の穴から外に飛び立たんとしていた。
 その時、ガルムのエンジン音とは別に、独特の風切り音。
 それはセッテのブーメランブレード。いつの間に目を覚ましていたのか、ともかくジョセフの先へ回りこみながら、
ブーメランはデモニアックを猛追する。
 そしてデモニアックが空へと跳んだ瞬間、ブーメランはその両足を刈り取った。
 これまで何度となく防がれた攻撃。それは敵が逃げに転じた時、初めて功を奏した。
 デモニアックは空に放り出され、もがく様に姿勢を崩す。
 ジョセフは足を止めない。飛行ができるなら、あの状態からでも飛ぶかもしれない。
 ガルムの咆哮が近づく。一瞥したそれは戦闘形態でない、通常のバイク。ガルムはジョセフと同化することで、
初めて戦闘形態を解放できるからだ。
 融合している暇はない、その間に態勢を立て直される。

304BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 22:54:16 ID:XjTYdAII
 方法は幾つもない。いや、一つしかない。

「エレア! 俺を飛ばせ!!」

 意図を汲み取ったのか、ジョセフの背後でガルムが加速。そしてデモニアックを追ってジョセフも跳ぶ。
計ったように正確なタイミングで、足裏にガルムが衝突。ジョセフを高々と空へと打ち上げた。
 ガルムを蹴って跳躍し、剣を持った右手を振り被るジョセフ。その段になって初めて気付くことがある。

(距離が足りない……!)

 セッテが敵を減速させ、体勢を崩した。
 ガルムがジョセフを加速させ、距離を縮めた。
 それでも後わずか、ジョセフの剣は届かなかった。
 当然、足場もない空中で移動する術などない。翼も魔力もないこの身では。
 このままではデモニアックの逃走を許すばかりか、墜落する最中を光線で狙い撃ち。
この高さで受け身も取れず叩きつけられればどうなるか。
たとえブラスレイターであっても死は免れない。
 ほんのわずかの距離が果てしなく遠い。
 自分はここで墜ちて死ぬというのか。彼――マドワルド・ザーギンにも届かぬまま。

 あの男、ザーギンはブラスレイターを優れた者、選ばれし者と呼ぶ。しかし、そんなものはまやかしだ。
ブラスレイターとデモニアックに然して違いなどない。共に人の輪から外れ、神に拒まれた者。
 信じている。ブラスレイターとデモニアックを隔てる距離、それは単なる位階などでは決してない、と。
 違いがあるとするならば、それは意思。
 思考でも本能でもなく、悪魔に身を堕としても祈りを捧げる心。
 もしもその意思が残っていたならば、デモニアックとて埋まらない距離を埋めようとするだろう。
それがブラスレイターとの距離であれ、人間との距離であれ。
 そして、それを可能にするものが意志。
 どれほど過酷な世界であっても、生きる価値を見出すもの。旅を止めぬ理由。
 魂が研ぎ澄まされる。
 衝動が強く身体を突き動かす。死ぬわけにはいかないと叫んでいる。
 断じて死を受け入れることはできない。
 この身に成さねばならない遺志がある限り。
 故に埋めてみせる。この距離も、ザーギンまでの距離も。

 力をみなぎらせ、ジョセフは身体を反らせる。右手に剣を握り締め、全身を限界までしならせた。

「おおおおおお!!」

 雄たけびを上げ、極限まで溜めた力を解き放つ。
 渾身の力で振り被った剣を振り抜く。
 ジョセフの身体が縦に回る。ヨーヨーのように小さく、正確に回転することのみに意識を集中させる。
 一度は空振り。しかしデモニアックが振り向くより僅かに速く、回転を重ねた二太刀目。
 蒼白い光の刃はデモニアックの身体を肩から脇へ一閃。強靭な肉体を袈裟切りに両断した。
 距離は埋まった。埋めたのはブラスレイターの能力ではなく、紛れもなくジョセフ自身の意志によるものだった。



 誰もいない地上で一人、ディードは佇んでいた。見上げるビルでは激しい戦闘が続いている。
 指をくわえて見ているしかない自分が悔しかった。だからといって、どうすればいいのかもわからない。
どちらが勝っても辛いことにしかならないのならば、いっそここで目を背けていたい。

305BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 23:01:35 ID:XjTYdAII
 やがて一際大きな爆発の数秒後、上空に影が飛び出し、それを追ってもう一つの影が。
 それは漆黒の影。前者よりも明らかに濃い影は単に逆光によるものではなく。
 戦闘機人の優れた視力は、起きたことの全てを脳に焼きつける。たとえそれが望まない事実であっても。
 追いついた黒い影は一方の影を切り裂き、二つに分かたれた影は動きを止め、落下。
同様に落下する漆黒の影には楕円形の物体が高速で接近し、急激に落下速度を緩めた。

「オットー!!」

 高速で路面に叩きつけられたのは、かつてオットーだったもの。
ディードはその傍らに駆け寄り、改めてその姿を確認した。
 転がっているのは、右手と顔だけを残した無残な怪物。断面は組織の崩壊が始まり、塵に変わっていく。
 オットーは息も絶え絶えに、何かを求めて手を伸ばす。
 あれだけ猛威を振るったデモニアックが、それでもディードには酷く哀れに思えた。

「オットー……オットー……!」

 掛けたい言葉は山ほどあるのに、言葉が出てこない。出てくるのは涙ばかり。
 代わりに、伸ばした手をきつく両手で握るが、その手すら、自分の手の中で崩れていく。
崩壊を止めようと力を込めても、弱弱しく反応を返すだけ。

「あ……ああ……」

 オットーが、彼女の存在が指の隙間から零れていく。
 零れた塵が風に流され消えていく。
 痕跡一つ残さず、己が半身が消え去ってしまう。
 共に生まれ、短い間とはいえ共に生きてきたオットーが死ぬ。たったそれだけの事実で、
身体の半分が引き裂かれるような痛みが走る。
 この気持ちを例える言葉は何だろう。こんなに強い感情が自分の中にあるとは思わなかった。
 
 手の中の感触が消え、塵となって崩れ落ちた時、ディードは深くその感情を理解した。
 それは理解した瞬間に爆発した。
 その感情の名は悲しみ。

「オットー!! 行かないで、オットー!!」

 既に首だけしか残っていないオットーを抱き締めるディード。頬を伝う大粒の涙が、血液すら涸れた皮膚をわずかに潤す。
それでも崩壊は止まるはずもなく。
 何か言ってほしい。できるならもう一度、目を見て名前を呼んでほしい。でも、それは無理だと心のどこかで理解している。
 ディードは自分の身体で包みこむようにオットーを抱えた。

「ごめんなさい、オットー……私何もできなくて……!」

 これが目を背けてきた代償。だとすれば、どうすればオットーを救えたというのか。
 両手は自然と額の前で組まれ、地面に這いつくばる姿はまるで懺悔するかのよう。
 せめて彼女の全てが消えてしまわないように。
 冷たい風に流されてしまわないように。
 彼女の存在した証を守ろうと、ディードは震えながらオットーの名前を呼び続ける。

306BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 23:07:14 ID:XjTYdAII
 しかし、祈りが届くことはなかった。

「ディード……」

 やがて胸に当たっていた感触が完全に消える。
 その直前、オットーの声が聞こえた気がした。
 
 真実はわからない。声はたちまち風に流れて消えてしまった。
 ディードは、ただオットーの残滓にすがって嗚咽する。
 そして丸めた身体を更に丸め、ほんの少しでも逃すまいと必死に塵を掻き集めた。
 彼女の為に自分ができることは、もうそれしかないから。
 それだけが唯一遺されたオットーの欠片だったから。


 オットーより遥かに遅れて、ディードの前に降り立ったのは、ウェンディに手を掴まれた黒のデモニアック。
 二人は塵を集めるディードを見ても何も言わない。ディードも、身体を丸めたまま動かない。
 動けばオットーが風に流されてしまう。濡れた頬を冷やす風に、これ以上オットーを曝したくなかった。
 歩み寄るウェンディは泣き出しそうな表情、デモニアックはもとより表情など読めなかった。
 
「ウェンディ……」
「ディード……」
「何か……オットーを入れるものを……」

 淡々とディードは言う。その声にはまったく感情が籠っておらず、自分でもそのことに驚きもしない。
どうやらすべてが抜け落ちてしまったようだ。
 ウェンディは無言で離れると、しばらくして戻ってきた。

「ディード……これ……」

 ウェンディが差し出したのは、小さな金属製の菓子箱。そこらに散乱した物から適当なものを見繕ったのだろう。
キラキラと安っぽい外装は、光の反射で見る角度によって色が変わった。
 ウェンディも手伝って、無言で塵を掬い取っては缶に流し込む。
座り込んだ二人はどちらからともなく、順番にそれを繰り返す。
 黒のデモニアックの立ち会いの下、二人だけのオットーの葬儀は粛々と行われた。

 塵を集めながら、ディードは思った。何故自分はこんなことをしているのだろう。
 戦闘機人として生を受けた自分、ドクターの為に死ぬならそれでいいと思ってきた。
でもこれは違う。こんな終わりは間違っている。こんな死は誰の為にもならない。
 こうしたのは誰だ? 
 そもそも何が間違っていた?
 分からない。確かなことは、この気持ちを、奪われる悲しみの報いを、
誰かに受けさせなければならないことだけ。
 すべてが抜け落ちた空虚な胸に小さな炎が灯る。それもまた、これまで感じたことのない感情だった。
 やり場のないこの感情を、どこかに吐き出さなければ気が狂ってしまいそうだった。
 あの悪魔に、オットーを殺した悪魔に叩きつけてやらねばならない。
 この憎しみを。
 初めて生まれた感情を育てながら、ディードは表面上は淡々とオットーを集める。震える手の理由は、もう悲しみだけではなかった。

 最後、塵とも砂埃ともつかない一つまみを入れて、ディードは缶に蓋をする。
気づけば、隣にトーレとセインが立っていた。

307BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 23:16:46 ID:XjTYdAII
 顔を伏せたディードは幽鬼のように立ち上がる。虚ろな瞳は何も映さず、その手に握るのはオットーの入った缶ではなく、
双剣ツインブレイズ。自分はまだ、もう一つの弔いをしなくてはならない。
 湧き上がる殺意は極力抑えたつもりだった。直前まで気取られず、確実に仕留める為に。
 だらりと垂らした腕を跳ね上げ、地面を蹴ろうとした瞬間、背後から羽交い締めにされた。

「駄目ッス、ディード!!」

 捕らえたのはウェンディ。何故邪魔をするのか、彼女なら分かってくれると思ったのに。
共にオットーを弔った彼女なら。

「放せ!!」
「こいつを殺っても何にもならないッス! それにあたし達じゃ勝てない!」

 何度も何度も、肘をウェンディの腹部に叩きこむ。苦しげな呻きが聞こえたが構うものか。
それでも掴む力は強まりこそすれ、弱まることはなかった。
 デモニアックは微動だにせず、トーレがセインを振り解いてディードの前に立った。
 立ち塞がるトーレの左手が動いたかと思うと。

 パァンと乾いた音が響いた。数秒遅れて頬の痺れが伝わり、殴られたのだと気付く。

「子供の駄々に付き合っている暇はない。大人しくしていろ」

 トーレは冷たい声で言い捨てると、デモニアックの方に向き直った。

「ドクターがお前と話したいそうだ」

 それきりトーレはディードを一瞥もせず、会話を始める。完全な部外者扱いだ。
 ディードは抵抗の意思を挫かれ、その場に立ち尽くす。
オットーの仇討ちなど意味の無い些事だと姉に言われたことが、どんな説得や説教よりも気力を奪った。
 張られた頬がじわりと痛い。涸れたと思った涙が再び溢れ出す。
 ディードは崩れ落ち、顔を覆うと、声を殺して泣いた。
オットーの死を嘆いているのは自分だけなのかもしれないとさえ思った。
 自分がどれだけ叫ぼうと、この場ではさざ波のようなもの。邪魔にならないよう、独りで泣くしかない。
それが酷く惨めで、堪らなく悔しい。
 そっと肩に手が乗せられる。ディードが振り向くとそこには、
同様に歯を食い縛り、顔をくしゃくしゃにして泣くウェンディの顔があった。

308BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 23:20:51 ID:XjTYdAII



 空中に浮かんだモニターに男の顔が映った。ジョセフにとっては初めて見る技術だった。

「初めまして、私はジェイル・スカリエッティ。彼女らの製作者、管理責任者、まあ父親だと思ってくれればいい」

 胡散臭い男、それがスカリエッティの第一印象だった。
顔に妙に薄っぺらい笑みを浮かべた白衣の男は、ジョセフの姿を見ても眉一つ動かさない。

「この度は、私の娘が大変な迷惑を掛けた。彼女はオットーと言って、君に斬りかかったディードとは双子だったんだよ。
いつも一緒で、とても仲が良くてね。残念なことだ……分かってやってほしい」

 人間の姿だったなら、表情の変化を隠しきれなかった。斬ったデモニアックの身の上を聞いても無表情でいられるほど、
ジョセフは割り切れてはいない。
 この男はおそらくそれを知っていて、揺さぶりをかけている。なんのつもりかは分からないが。

「と……余計なことを言ったかな? 君には関わりのない話だった。それでどうだろう。詫びと言ってはなんだが、
君を私のラボに招待したい。色々と話を聞かせてほしい、君さえ良ければ」
「断る……」

 ジョセフが答えに迷うことはなかった。この男は信用できない。
 ディード、彼女にとっても、自分が招待されるなど望まないだろう。
 返答に対し、スカリエッティはジョセフの予想外にあっさりと引き下がった。

「そうか、残念だが仕方ない。こちらも来客中ではあるし。しかし、せめて名前くらいは聞いてもいいだろう?
オットーの父親として」
「ジョセフ……ジョブスン……」
「ありがとう。それではまたいつか会おう、ジョセフ。君達もご苦労だった。ただちに帰還してくれ」

 通信が切れると、周りには新たに五人、見たことのない少女も二人いる。
九人の戦闘機人は一様にジョセフを取り囲んでおり、いくつかの視線には明らかな敵意が込められていた。

「ドクターのご命令だ。戻るぞ」

 トーレが言うと、他の少女達もそれに倣う。
 彼女、トーレは他の姉妹に分からないよう、小さくジョセフに一礼して去った。
 しかし何人かはまだ残ってジョセフを睨んでいる。当然、ディードもその一人。
 ジョセフは少し逡巡した後、目の前で変身を解き、人間の素顔を見せた。
 全員が目を見張る。ディードも同じく目を見開いていたが、すぐにその目は眇められ、

「ジョセフ・ジョブスン……その名前と顔、忘れない。絶対に……!」

 そう言い残して飛び立った。重々しく掠れた、それでいて力強い声だった。
 その瞳は例えるなら氷を内包した炎。激しいだけの怒りとは違う、静かで冷たい憎しみを孕んだ炎。
 ディードが去ると、二人の赤毛の少女もそれに続いた。

「ジョセフ、どうして名前なんて名乗ったの。なんで素顔を晒したのよ」
「見ていたのか」

 隣に停まったガルムからエレアが問いかける。露骨に不機嫌そうなエレアにも、
ジョセフは憮然として答えることはしなかった。

「あれでせめてもの償いのつもり? あの男の顔が娘の死を悼んでいる顔に見えたとでも?」
「別にあの男に対してじゃないさ」
「じゃあ、あの娘かしら? ジョセフ……あなたは間違ってないと思うけれど」

 償う術などない。詫びるつもりもない。まだ死んでやることもできない。
ならば仇の顔と名前くらいは知っていてもいいだろう。

309BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 23:27:57 ID:XjTYdAII
 間違っていないとエレアは言う。だが、あの目を見て、どうして自分が正しいなどと言えようか。
 ようやく遠くからサイレンが近づいてきた。いつだって救いの手は来るのが遅過ぎる。
だからといって、自分がそうであるとは口が裂けても言えない。
 陽光に照らし出されるのは、横たわった死体と破壊された街。一台のバイクが遠く離れていく。
それが去った後には、もう動くものは見当たらなかった。
 XATの到着までに終わったことは、果たして良かったのか、悪かったのか。たぶん良かったのだと思う。
 彼女達が去った方角を見つめるジョセフの目は、深い哀しみを湛えていた。

「……本当は泣きたい気分なんじゃなくって?」
「行くぞ」

 エレアの言葉を冗談と受け取ったジョセフはガルムに跨る。襟首から自動で装着されるヘルメット。
 それですべての音と感情を遮断してジョセフは前を向く。
 そんなジョセフにエレアは呟いた。どこまでも不器用だと呆れながら。

「まったく……美しくないわ」




「恨みというのはいつ買うかわからん。たとえ正しい行いをしたとしてもだ」

 時計は13時ちょうど。訪ねてきたシグナムの第一声はそれだった。
 ドアに背中を預けた彼女は、言葉を尽くすというのは性に合わんと言いつつ、普段よりよほど饒舌だった。

「私達は自分の仕事の為、市民の安全を守る為に融合体を屠ってきた。だが、元を辿れば融合体も同じ人間。
殺せばそれを悼み、我々を恨む者もいる。それでも私は剣を収める気はない」

 もしもティアナが、融合体になった姉や父が殺されたなら、自分はそれでも冷静でいられるだろうか。
まったく恨まずにいられると断言はできない。

「融合体に関しては今も対策の研究がなされている。感染者を治療する方法は無いか、
本当に殺すより他に手段がないのか、と。だが、今危機に瀕している人間に、それを待てとはいえないだろう。
ならば斬らねばならない」
「……だからティアも同じだってことですか?」
「お前にそう思えと言ったところで、できるものでもあるまい。
ティアナも融合体も市民も命の重みは同じ、と言ったところで納得はできん」

 しかし、と加えてシグナムは目を覗かせる。
 今朝方見たなのはの目と同じ、確かな決意を秘めた視線は自分にはないもの。

「だからといって、綺麗事を否定して開き直った瞬間に我々の戦いは私闘になり、立ち行かなくなる。
私もお前も、そういったジレンマ、一言でいえば業を背負っているということだ」
「業……」
「そこを考えず、二人を救いたいとのたまったところで耳を貸す者はいない。それだけは覚えておけ」

 最後に、喋り過ぎた、とだけ言ってシグナムは歩き去った。
 立ち尽くしたスバルはシグナムの言葉を反芻する。
 シグナムの言うことは至極尤も、それでもスバルには割り切れるものではなかった。
 融合体も元は人間であり、家族もいれば友人もいる。そもそもが死体でも、最近はそうとも言い切れない。
生者がなる可能性も十分にあるのだ。

310BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 23:35:16 ID:XjTYdAII
 融合体の気持ち、周囲の感情。これまでは、なるべく考えないようにしてきた。
その立場に立ってしまえば戦えないかもしれないから。
 もっと考えておけばよかった。きっとシグナムもなのはも、自分なりの答えを出していたのだろう。
 立ってみて初めて分かる。
 これは――辛い。


 スバルはベッドに寝転んでいた。何をするでもなく、何をしていいかも分からず。
 眠る気にもなれず転がっていた時、ドアが小さくノックされた。

「スバルさん、キャロです。今いいですか?」
「うん、いいよ……」

 覗き窓を見ても、姿はない。背が足りないのだろう。故にキャロの表情を窺い知ることはできなかった。

「あの……さっきエリオ君のお見舞いに行ってきました。2,3日は入院ですけど、すぐに退院できるそうです」
「そっか。良かった……じゃなくて、早く回復するといいね」
「はい。それで、あの……ティアナさんのこと、話を聞いてきたんです」
「ティアの……?」
「あの日とその前日に何があったのか、何か変わったことがなかったかを、看護師さん達に。……聞いてくれますか?」

 自然と身を正すスバル。ティアナの身に起こった出来事、彼女の本心。
それを知る為にはどんな小さなことも聞き逃す訳にはいかない。
 深呼吸をし、緊張する胸に手を当てて答えた。

「うん、お願い」
「ティアナさん、スバルさんが来るまでは普通だったそうです。それが、夕食の頃から様子が変ったって言ってました。
塞ぎこんで、何も話そうとしなかったと……」
「でも、あたしが言った時は普通だった。ううん、むしろ機嫌良さそうだった」

 入院して以来、あれほど上機嫌なティアナを見たことはなかった。ただ一つ変わったことと言えば、
クロスミラージュを持ってくるよう頼まれたことくらい。あの瞬間だけは、どこか寂しそうに見えたのを覚えている。

「なんでもいいから教えて下さいって言ったら、スバルさんが帰った後、病室の前で世間話をしたらしいんです。
スバルさんや私達がいつも傷を作って大変そうだって」
「え……」
「私達、ティアナさんの前では疲れてても、怪我してても元気そうに演技してましたよね。
心配させないようにって。それがティアナさん、ショックだったのかも……」

 それはスバルがティアナの前で重ねた嘘。だが、この瞬間キャロに指摘されるまで、それが問題だとは考えてもみなかった。
 司令塔だったティアナが抜けてからというもの、出動、訓練共に三人は動きに精彩を欠き、
大きなものではないが、ストレスや疲労は蓄積され始めていた。
 それをティアナに気取られないよう、最初に取り繕うことを始めたのはスバル。
エリオやキャロもそれに倣い、いつしか全員が嘘を吐く形になってしまった。
 共通していたのは、心配を掛けたくないという思い。なのに、今になって急速に罪悪感が顔を覗かせる。

311BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 23:37:53 ID:XjTYdAII

「でも、そんな些細なことで……」
「些細なことですけど、でも……私はちょっと分かる気がします。自分がちゃんと役に立ってるのか、
ちょっと前まで不安になってたことがありました。私は後衛で、傷つくのはいつもエリオ君やスバルさんばかりで……」

 キャロの存在は必要不可欠であるが、その成果は目に見える形では分かり辛い。
スバルもキャロが思い悩んでいたことは知っていた。その時は気付いてやれたのに。

「ティアナさんは、ああなっても役に立ちたかった。実感が欲しかったんじゃないでしょうか。
自分には心配くらいしかできることがないから……私の勝手な憶測ですけど」

 もうしそうだとしたら、スバルのしてきたことはすべて裏目だったことになる。
 毎日、不必要なまでに順調さをアピールしていた。
 心配するティアナの言葉をいつも流してきた。
 ティアナの気持ちも考えずに、何十回と笑顔で疎外感を与えてきた。
 それが彼女の為だと信じて。

 相槌が返ってこないことで不安に思ったのか、キャロが慌てた声で言った。

「でも、これが正しいとは限りません。融合体になった理由は全然分かってませんし……。
私にはティアナさんがそこまでショックを受けるとは……」
「キャロ……なのはさんに何か言われた……?」

 キャロを遮って、唐突にスバルは話題を変えた。もうこれ以上、このことで会話を続けたくなかった。
 キャロの前で自らの罪が暴かれるのが恐ろしい。そして、それを恐ろしいと感じることが情けなかったから。

「え、はい……明後日にはXATにティアナさんとヴァイス陸曹の手配が回る。
その手で二人を殺すことになったらどうするかって……」

 やはりなのはは、キャロにも同様の課題を出していた。エリオは入院しているからどうか分からないが。
 本当は聞くべきではなかった。相談する内容ではないし、聞けばなのはに提示されたルールを破ることになる。
 それでも、スバルは訊ねずにいられなかった。もしもキャロがティアナを救いたいと言ってくれれば。
ほんの少しでも光明があるならば、自分も立ち上がれるかもしれないと。

「キャロは……どうするの?」
「正直分かりません……明日もう一度病院に行って、他に何か聞けるか試してみるつもりです」
「そっか……。ごめん、少し一人で考えさせて……」

 互いの顔が見えなくて良かった。心底、スバルはそう思っていた。
 平静を装っても、声の震えは隠せない。それは落胆と恥ずかしさによるもの。
 キャロは手がかりを掴みかけている。少なくとも、手段すら分からない、分かってもままならない自分とは違う。
 顔は見えずとも、スバルの様子を感じ取ったのだろう。キャロは、失礼しますとだけ言うと、静かに帰って行った。
 なのはから突きつけられた選択。ティアナの真実。
 思考の迷路に迷い込んだスバルに道を示してくれる者はいなかった。

312BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 23:40:33 ID:XjTYdAII


「分からない……」

 スバルは一人呟く。何が分からないのかも分からないほど、すべてが分からない。
 スバルは再びベッドに寝転がっていた。仕方がない、それしかすることがないのだから。
 目を閉じて、自分の世界に入る。ネズミ色の天井と儚い明りは見つめていると不安を煽られるからだ。
狭い独房では、自分の声も想いも全部跳ね返ってくるような錯覚に陥る。
唯一外と繋がる覗き窓も、人が立たなければ無いのと同じ。

『彼女の気持ちが分からないのは、彼女の気持ちを理解しようとしていなかったから』

 どこからともなく、不意に声がした。それは心の声、誰かに責められたいという自己満足が生んだ幻影だった。
瞼の裏に浮かぶ声の主は、スバルと同じ顔をした分身。

「あたしはティアを一人にしたくなかった。傍にいて、笑っててほしかった」
『その為に吐いた嘘が彼女の孤独を助長した』
「本当は分かっていた。たぶん、キャロの言うことが正しいんだって」
『彼女は全てを失ったものと受け入れ、緩やかに、穏やかに諦める道を選びかけていた。それは薄々感付いていたはずなのに』
「裏切られたって思ったんだ、きっと」
『プライドの高いティアなら、そう思ってしまう自分が悔しいと思う……』
「つまりそれは……」
『全部あたしのせい……』

 言葉を紡ぐごとに罪が浮き彫りになっていく。
 最後の台詞は自分のものか、幻影の物だったか。スバルにも判断が付かなかった。

「あたしは、どうすればよかったんだろう……」

 幻影は何も語らない。
 それは欺瞞と偽善で凝り固まった自らの鏡像。スバルの答えられない問いに、答えられるはずがなかった。

『あの日、病院でも間違いはあった。彼女のことを顧みることもなく、見ていたのは自分ばかり』
「そんなことない……あたしはただ、ティアに謝りたかっただけ……」
『それが間違い。病院では己の贖罪を優先し、その結果彼女は罪を犯した。雨の中を探しても、
事実に目を背け、求めていたのは都合のいい真実』
「……本当にティアを思うなら、首を絞める手を振り解いてでも、ティアの傍にいればよかった。
どんな手を使っても、融合体になったティアを探すべきだった」

 一つ一つ、答え合わせは続き、幻影はここぞとばかりに饒舌にスバルを責め立てる。
 終わらない自己採点。ある意味では自傷行為に等しい。最初から結果は落第だと分かっていても、
せめて自身を痛めつけなければ、罪の意識に耐えられそうになかった。

313BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 23:42:27 ID:XjTYdAII
 朝のなのはとの会話を思い出す。

『他の融合体は殺しておきながら、仲間だったら助けたい。それは残酷じゃないの!?』

 それに対して自分の反応はどうだったか。

『それはおかしいですか!? あたしは今もティアを仲間だと思ってます! たとえなのはさんにとって、ティアがもう融合体でしかなかったとしても!!』

 感情に任せて酷いことを言ってしまった。なのはを怒らせてまで啖呵を切っておいて、何一つティアナを理解していなかったのは、仲間と思っていなかったのは自分の方。
 それどころか、傷ついた彼女を一番追い込んだ。
 いつもティアナに鈍感だの馬鹿だのと言われていたが、まったくその通り。救いようのない大馬鹿だ。
 何としてでもティアナを救いたい。キャロが来るまでは、スバルも薄々ながらそう考えていた。もしそれが、管理局に背くような行為であっても辞さないつもりで。
 今、その考えは大きく揺らいでいた。
 ティアナから視力を奪い、夢を奪い、誇りと僅かな拠り所すら奪った。
 無自覚の罪。これほど性質が悪いものはない。
 おまけにそれが彼女の為だと思っていたのだから笑わせる。
 こんなことでティアナを救えるはずがない。そんな資格があるとは到底思えなかった。

「ティア……あたし、もう……どうすればいいのか分かんないよ……」

 声に乗せて放った迷いは、厚い壁に阻まれて宙を漂う。
 行き場を失った想いの残骸が閉ざされた室内を埋め尽くす。
 自分自身に押し潰されたスバルは、逃げるようにベッドの上で背中を丸めた。

現在時刻17時40分。
スバル解放まで残り、約16時間20分。


予告

虚ろな瞳が映すのは、温かかった昨日と灰色の壁。救いを求める子羊は、己の形すら見えていない。

第4話
慰めの対価

使命と願望の狭間から生まれ出でた物は、果てなき試練への片道切符。



おまけ 悪魔講座

アンドロマリウス 

・ソロモン七十二柱の悪魔の内、序列七十二位 
・36個軍団を率いる地獄の伯爵
・盗まれた金品、財宝の隠し場所等を見つけ出す
・悪事、不正を暴く

ゲーティアの前身とされる「悪魔の偽王国」に記述のない悪魔の一人。
盗賊、詐欺師などを捕らえて懲らしめる正義の悪魔とも記述され、召喚すると、大蛇を手にした人間の姿で現れる。
アニメ本編のメインキャラ、ジョセフのブラスレイター。固有武装のシミター、鞭などに蛇の名残が見られる。
全ブラスレイター中、最も未知の可能性を秘めている。

参考文献:図説天使悪魔辞典 幻冬舎 他

314BLASSREITER LYRICAL ◆ySV3bQLdI.:2009/11/20(金) 23:45:03 ID:XjTYdAII
以上投下終了。長々と失礼しました。気を付けたつもりですが、
一部読み辛くなっています。申し訳ありません。
オットーとディードは六課側の対、未来の姿でしょうか。
ちなみに唐突に出てきた心の声は、実は単に文字数の節約の為だったり。

315魔法少女リリカル名無し:2009/11/20(金) 23:53:41 ID:vyhxsFBE
GJ!
やっぱりやりきれない結末になったか…
スバルたちはティアナにどう対処するのか?

316魔法少女リリカル名無し:2009/11/22(日) 16:18:33 ID:nQ.99Eeg
GJ
なんと早速、原作キャラで死者が。
それにしても、機人が素体だと凄まじく強い。
クアットロが少し前に言ってたけど、
本当に兵器としての能力面では機人以上だし。

317ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 17:44:46 ID:jNd4HZHE
ブラスレイター氏、乙です

18:00より魔法少女リリカルなのは GG ver.β、第3話を投稿したいと考えています

………こちらでも原作キャラが死んでしまいますのでご注意ください

318ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 17:59:46 ID:jNd4HZHE
では、はじめます



考えている暇なんてなかった、誰かが孤独に苛まれている
戦いのさなか、それも命がけの最中でも相手のことを傷つけたくないと思っている優しい少女
誰よりも誰かのことを思える少女がどうしてたった一人で苦しんでいるのか?
それが不満でならなかった、何より孤独の辛さをなのはは知っているから余計に

悲しみを共有しあえる事、孤独な人間の相反する願いを知っているから
   
だからこそそんな少女に心惹かれた、この子と友達になりたいと心から願った
想いを伝える事が出来るのは言葉だけではないことを知っている、きっと自分の魔法は想いを伝える為にも使えるはず
不屈の心の名の下に、何度だって想いを伝えよう、君に届くまで




魔法が自身の生きる道と信じたなのはは鍛錬に明け暮れる
自分の魔法が誰かの役に立つのなら、とただただ漠然とした目的の為に鍛え続ける
そんな毎日に皹を入れるのはやはり闘争だった
闇の書の騎士達、主への絶対的な忠誠の為に戦う四人の騎士、それぞれが一つの目的の為に戦う、とても強固な誓いで結ばれた騎士達との戦いは激戦を極めた
言葉では分かり合えない、だから戦うんだ、必死の思いを魔法に乗せて
どんな犠牲を強いても、守りたいものがある、お互いが譲れないものの為に命を奮い立たせて

高町なのはは尊きその願いと言えど、それを許すわけにはいかない、その願いは理解できても実行はさせまい
その願いの為に傷つけられるもの存在を知っていたから

勝つにしろ負けるにしろ、待っているのは悲しき未来
それなら、いっそ悲しむのなら私なりの悲しみ方をしたい、そう想った



敵意は愛に似ている
戦うために相手の行動を考え
戦うために相手の心理を読み
戦うために相手に与える攻撃を仕組み
そして想いを攻撃で伝える
より自分の優位を考えながら、同時に相手のことを想う
相手と交錯する瞬間、そこに熱い感情が生まれ、血が滾る
現実に傷つき、そして相手を傷つける

敵意は愛に似ている


  
想いは伝わってきた、今までだって、そしてこれからだって

     信じていた






魔法少女リリカルなのは GG ver.β

03.The Mask Does Not Laugh

319ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:04:29 ID:jNd4HZHE
「うわぁ……」

思わず感嘆の声を上げる、チップに言われたとおりに飛んできた先にあったのは“幻想”の風景だった。
不規則に立ち並ぶ岩々、草一つ生えない大地、それだけであればこうも心を魅了したりはしないだろう。
艶やかな藍色をした空に散らばる星々、シンプルな二つのコントラストが類を見ないほどの美しさを湛えている。
故に幻想、人が心の奥底で描き続ける夢の景色である
まさしく世界の果て、といったところか
遥かなる星の世界に繋がるであろうこの地の果て、未だ見たことのない何かが待ち受けるであろうことを考えると胸が躍るようで。

「すごい……」

二人の間に会話は生まれなかった。
何故なら、語るまでもなく二人の見解は一致していたから。
ただただ、美しい。
その美しさに魅了されて、心を満たされて
そしてその美しさを形容する言葉が想起できない

星空の下でくるりとバレルロール、360度に広がるパノラマ、大地と星空の境目を独占しているようでとても気分がいい。
ふと、大地に足を下ろし四肢を投げ出して空を仰ぐ。
大地から空を目指すように突き立つ岩、その先には果てなく広がる碧紺のカーテン。



「…………………はぁ」

どれくらいその場に横たわっていただろうかわからない。
いつまでもここにいたい気持ちは否めない、でもそれは許されない。
それでも出発前のあの陰鬱な気分と比べれば、幾分マシだ。
これだけ美しい世界がある、それだけで戦える気がするから。
この戦いを乗り切って、もう一度ここへ来て、また同じように大地に寝そべりたい。
それがこの上ないほどの動機になってくれている。

勢いよく飛び起きる、同じように隣で体を起こしているフェイトの姿が目に映る。
その瞳はすでに綺麗なものを眺める少女のものではなくなっていた。

「フェイトちゃん、気づいた?」
「うん、見渡す限りずっと岩だらけのはずなのに、ちらほら岩がないところがある」
「それも一つ一つがクレーターみたいにぽっこりと」
「よく見れば焦げた跡があちこちにある………」
「場所はもう特定できてるよ」
「それじゃ、行ってみようか?」

ただ寝そべっていたわけではない、この辺りの地理をデバイスに探らせていたのである。
チップが言うとおり、この辺りで戦いが、しかもかなりの規模の戦いがあったようだ。
不規則の中にある規則性、どこにでも空を指差す岩々が規則正しく乱立している。
それなのに、ところどころ不規則に広大な空白が存在していること。
そしてその空白は大体にして大地が焼け焦げていること。
最後に――――――――――その戦いがつい先ほどまで繰り広げられていたであろうこと。

近くにいる、これほどの規模の破壊力を持った人物はそれほど存在しないだろう。
恐怖は、間違いなくある。
それでも進まなければならない、真実を知るために。

「行こう、なのは」
「うん、フェイトちゃん」

静かに空を上がる二人の表情は硬い。
何が起こるかわからない故に――――――――――――待ち受ける未知故に
二人は飛ぶ、険しき贖罪の道をなぞるように。

320ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:08:24 ID:jNd4HZHE
「………フェイトちゃん!」
「見つけた………!」

高空から見下ろしてもわかるほど巨大な生物が横たわっている。
爬虫類を思わせる、獰猛な牙と大地を這うための力強い四肢、体長は20メートルはありそうな巨大な生物の頭部に男はいた。
赤いショートジャケットに、“Free”と銘打たれたバックル、所々にベルトで装った白いジーンズ、紅白のコントラストに黒いインナーがアクセントを添える。
一見ただの成人男性にも見えなくもない、無駄のない引き締まった肉体が足元の爬虫類を屠ったという事実に目を伏せればただの引き締まった男で話は終わるかもしれない。
それで話が終わらないのは大地に突き刺さる一振りの剣の存在だろう。
飾り気がなく無骨な黒い柄と四角いブロック上の真っ赤な鍔、そこから伸びる刀身は遠目から見ても切れ味がいいとはお世辞にもいえない。
その剣の用途が切り裂くのではなく叩き斬ることに重点を置かれているのが良くわかる。
それは男が鎮座している爬虫類を見ても一目瞭然である。
爬虫類は全身を膾切りに、酷いところは切断されているところもある。
切断………もしくはそこから先が灰になったかという可能性もある。
チップから戦闘スタイルは聞いている。
生物の限界を超えた法力を放出、生み出される炎は灰すら残さぬほど。
………そんな相手と戦って死なずにすんでいるチップって実は防御力高いんじゃないかというのは置いておいて。
繰り出す攻撃の全てが荒削りでありながら一撃必中、性格が如実に戦闘スタイルに反映されているらしい。

なのはとフェイトは心を決めて男のそばに舞い降りる。
仕留めた獲物に腰掛けた男―――――――――ソル=バッドガイは近くに降り立ったなのは達に何ら反応を見せない。
興味がない………違う、興味を示さないのであればとっくの当にソルはその場から去っていただろう。
この場から立ち去らなかったのには理由がある。
なのは達が来るのを、自分の下に来るのが当たり前のことであるかのように。
それは二人が来るのを待っていたかのようにも見える。

「ソル=バッドガイさん、ですね?」

ヘッドギアの奥に隠れていた瞳が少しだけ覗けた、暗くともわかる赤茶の瞳。
睨むような視線にほんの少しだけ畏怖を覚えたが、会話を続けていく。

「先日は危ないところを助けていただき、誠にありがとうございます」
「あぁ」

短く、ぶっきらぼうに言い放つ。
どこか冷たく聞こえるその言葉はなのは達の緊張をより一層高めた。
どう繕ったって、ソルという男は変わらないだろう。
何せ、こちらの世界では珍しい空を飛ぶ人間を目にしたところで目の色、声色変えずに話す。
ただの少女に対してオドオドとした態度をとるのも問題ではあるが、不遜な態度を一環として変えないのはおそらく地の性格の問題であろう。
とてもではないが冷静にはなれそうもない、表情に出さないようにつとめるもののどうしたって強張ってしまう。
かろうじて取り留めた作業記憶領野にて話題の処理を行い、主題のみを抽出して言葉にする。

「時空管理局よりあなたに出頭要請を願います」
「時空管理局………覚えがねぇな」

覚えがないのは組織の名か、それとも出頭要請の理由についてかは判断がつきかねる。
前者はともかくとして後者について本人に覚えがない場合はややこしいことになる。
もっとも、出頭要請の理由はなのは達が決めることではない。
お上が決めたことを忠実にこなす部下がいてこそ組織というものは成り立つ。
このあり方は人が文明を築き上げるのに必ず普遍の原則でもある。
それでも、中にはそれを良しとしない人間も少なからず存在するわけで

「…私達にもわかりません、だから聞かせてほしい、あなたのことを」

321ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:13:14 ID:jNd4HZHE
なのはとフェイトもそういった組織よりも個を重んじる輩のようだ。
組織のあり方を知らぬのも無理も無い話、齢十にも満たない少女に社会の仕組みを正しく理解しろというほうが難しい。
さらに著しく作業記憶の領域が狭まった状態の二人に、組織としての判断と個人の理性を天秤にかけることは難しいと見える。
フンッ、とため息を一つ、眼前の二人の少女には聞こえないくらいのため息を。

「聞く耳ねぇな、それに義理もない」
「それでも聞かなければ納得できないんです」
「納得できなければ仕事は出来ねぇか?」
「出来そうもありません、話もせずに事を進めてしまえば、わかり合える機会さえ失ってしまいかねません」

やや感情が言葉に乗る。
組織としての理由ではなく二人の少女の心、本音だった。
前言を撤回、二人は初めから組織と個人を天秤にすらかけてすらいない。
生の感情をむき出しのままに赴いた、多感な少女。
初めからこの場に組織の人間などいないのだった。
たった一人で行動する事が多いソルは、そのスタイル同様群れるのを好まない。
故に、組織というものも苦手でありもっともうっとおしく思う類のものである。
とはいえ、オブラートに包めない子供というのも苦手ではあるが。
ストレートな物言いは嫌いではない。

「あなたは何をしたのですか?」
「覚えがねぇって言ってるだろうが…」
「そんなはずはありません、それだけの強さを得るためにどれだけの時間を費やしたのか、そしてその力で一体何がしたいのか…そこからあなたを考えたい」

一つ、二つ、三つ。
膝に置いた指を叩く、まるで何かを思案するかのようにゆっくりと。
六十分の一を指が刻む、それが30を数えた時点でソルは動きを止めた。

「…この世界の人類の半分を殺した」
「なっ!?そんな………?」

間をおかれて放たれた言葉に衝撃を受け、思わずたじろぐ。
思ったよりも真に受けた姿が滑稽に見えて、ソルはもう一度ため息をつく。

「と言ったところでお前達は信じるのか?」

人類の半分を?そんな馬鹿な。話が荒唐無稽すぎる。
信じろというのか、こんな規模の違う話を?
馬鹿げている、そんなものは嘘だ、と投げ出してしまいたい。
きっと自分達をからかっているのだろう、子供だと思って馬鹿にしているだろう。
そう思ってしまえばどんなに楽だろうか?
嘘だと断じてしまうのは非常に簡単だ、信じないのであればそれ以降考える必要だってない。
―――――――微かに震える足に力を込め、大地を踏みしだく。
だが、しかし。
考える必要があると判断したから少女達はソルの前にいる。
組織としての建前どおり、組織の末端としてその任務内容に疑問をはさまずにいればこんな話を聞くこともなかっただろうに。
それでも二人はソルとのコミュニケーションを望んだ。
ソルの人となりを知ることを選んだ、故に。

「…信じなければ、何も出来ません。」

322ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:17:04 ID:jNd4HZHE
震える足を押さえ込み、少女達は険しき道を選んだ。

「話にならん、消え失せろ」
「それが真実だとすれば、私達はあなたを連れて帰らなければならない」
「それがあなたの理由なんですね?」
「くどいな、うざってぇ。ガキの相手はゴメンだぜ」

明確な拒絶を聞いてもなのは達は引き下がらなかった、そしてソルもまたそこから立ち去ろうとはしなかった。

「一緒に来ては……くれませんか」

無言のうちにソルは腰掛けた異形に突き刺した剣の柄を握る。

「………お願いです、私達を助けてくれたあなたと戦いたくありません」
「気が合うな、こちとらガキの相手は面倒だ、3度は言わん――――――――失せろ、消し炭にするぞ」

立ち上がり、手にした剣を勢いよく異形から抜き取る。
生々しい肉が千切れるような音が――――――――――聞こえない。
変わりにこの世から跡形もなく異形を燃やし尽くす爆炎の音が耳を貫く。
ちりちりと肌が熱せられる、ベクトルがなのは達に向いていないにも拘らずこの熱量。
逃げ出すことは出来ない、なのはとフェイトはソルの最後通告を受けて尚退かなかった。
心に巣食っていた怯えは見る影もなく小さくなっている、変わりに大きくなったのは迷い。
きっとソルもそうなのだろう、誰しも触れられたくない、譲りたくない何かを持っている
ヴォルケンリッターの騎士達がそうだったように―――――いや、誰だってそうなんだ、譲れないものがあるから戦うしかなくなるんだ 
 言葉で伝わらない行き場をなくした想いが巡っていく、行き着いた手段は結局、戦いしかなかった
故に、逃げるという選択肢は存在しない。
思いを知るために想いを伝える、魔法に乗せて

「帰れません、あなたの話を聞くまでは!」

デバイスを待機状態から立ち上げ、それぞれの手に杖が握られる。
対するソルは剣を逆手に持ち、もう片方の手は腰に当てている。

「組織の建前ではなくエゴを突き通すってか。賢しいガキが、どうなっても知らんぞ」

とても構えているとは思えない、しかしどうしてかソルには一部の隙も見当たらない。
故になのはとフェイトにも隙は許されない。
それはまるで静かに燃え盛るマグマを、いつぞ牙を剥くかわからない活火山を相手にしているかのような緊張感。
無論、大自然を相手取るなど比喩表現としてもおかしくはあるかもしれない。
しかし、例えるものが他に見当たらないのだ。
当然だ、なのは達は人の限界を超えた人を相手にした事がないのだから。
厳密に言えばヴォルケンリッターは人間ではない、しかしかの騎士達とは重圧の種類が違う。
騎士の誇りを超越した、尊き誓いから湧き出る気迫、彼らの命がけの感情から来る重圧。
だが、目の前のソルにそのようなものは感じない、ただただ本能に直接訴えかけるような恐怖感。
根源のわからない恐怖感がなのは達に必要以上の重圧となって畳み掛ける。

それでも戦いは避けられない、すでに覚悟は決まっている。
ある程度ソルの情報は揃っている、近接戦闘に長け、炎を自在に操り、人間の限界を超えた出力の攻撃を連発する。
繰り出す攻撃全てが必殺、牽制の一撃すら相手を軽々と屠りかねない。
もしも欠点があるとするならば、空戦魔導士と比してリーチが短いこと、陸戦を主としているため空からの攻撃に弱い点。
なのはとフェイトが突くとするならば、そこしかない。
フェイトですら接近戦で引けをとりかねない、なのはの出力すらも敵わないかもしれない。
ならば相手の攻撃範囲外からの絨毯爆撃で手を出させない、なのは達にとってもっとも勝機が高い戦術だった。
問題はソルが己の弱点である空戦をなのは達に許すか、という事。
前にチップと一戦交えられたことはなのは達にとって僥倖だった。
チップを通してソルがどのような動きが出来るのかをある程度推し量ることが出来るからだ。
フェイトに迫るほどの機動力を誇るチップが何とか戦うことが出来るほどの男だ。
あの速度を持ってしても、“やっと”戦うことが出来るのだ。

「………………」

323ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:21:09 ID:jNd4HZHE
フェイトのつま先に力がこもる、ジャリッ、とブーツが砂をかむ音がする。
ソルはまだ動かない。
先手はとらせまい、フェイトとソルの間で緊張が高まる。
なのはとフェイトの間でプランは決まっていた。
フェイトが近接戦闘で牽制している間になのはが高空から砲撃を仕掛ける。
ソルに対空攻撃をさせない為に、“繰り出す攻撃の全てが一撃必殺”の間合いに入り込み牽制する。
いかにフェイトが近接戦闘を得意としているからといって、あまりに危険な戦術である。
だからといって、牽制もなしに大技に移行できる相手でもない。
制空権を握るためには相手の注意を空に向けないことが肝になる。
なのはではソルの近接攻撃を裁ききることが出来ない、いくら防御に優れたなのはでもソルの攻撃を受けきれるとは言いがたい
故に、陸戦での牽制は近接戦闘を得意とするフェイトが行う

「ふっ…!」

低空をすべる様に突貫するフェイト、一気に間合いをつめる。
その速度は並の人間なら目にも留まらぬだろう。
だが――――――――

「シッ!」
相手は並の人間などではない。
横薙ぎ、返してもう一撃。
炎の軌跡を伴いながら剣が奔る、懐に勢いよく飛び込んだもののソルの迎撃の鋭さに思わず後退する
腹部が熱い、剣先はもちろん避けている、しかし伴った炎熱が軽くフェイトを焼いていた………致命傷ではない、かすり傷だ。
どうやらソルの攻撃は剣のリーチよりも炎の分少し長いようだ。

「Rock it!」

後退するフェイトをさらに追いすがる、剣を持たない空手に炎を纏い突進してくる。
さながら火山の爆発で飛んでくる岩塊のような一撃、当たれば火傷では済まない。
それをバルディッシュの柄で逸らす、ちりちりと焼くような感覚にひるまずに飛び上がり、黄金色の大鎌で後頭部を刈る。
ソルは強引に方向転換しつつ、突進の勢いをそのままに手にした剣を振り下ろす
戦斧と鉄塊がぶつかり合い、激しい稲光と焔が轟き響く。
互いに不安定な体勢での強引な一撃により大きく後ずさる。
フェイトは空中で体勢を整え、ソルは地に手を着きながら大地を削る。
間髪いれず低空からフォトンランサー、フェイトの攻撃がソルが体勢を整える前に繰り出される
迫りくるフォトンランサーを軽く飛んで避けたソルはそのまま空中で体を捻りつつ踵落としを繰り出す。

「フンッ!」

バルディッシュの柄でそれを受け止める…が、炎の推進力を得た蹴りの威力はフェイトの予想を軽く超え、フェイトは受け流すことも出来ず大地に叩きつけられてしまう。

「くっ…ぅぁあ!」
「アクセル!いって!!」

その隙を逃さまいと追撃を仕掛けるソルだが、背後から迫りくる魔力弾に気づき剣を強引に背後に振り抜く。

「うぜぇえ!おぉお!!」

いくつかの魔力弾を相殺し、残りを剣の柄部分を前に突き出して眼前に火の玉を作り出し全てを消し去る。
余剰魔力を自身に吸収しつつ、体幹を回旋させて力を溜め込み、大地に剣を突き立てる。

「ガンフレイム!」

地を這うように進む炎は大地を削る溶岩のように魔力弾の主、なのはめがけてまっすぐに向かっていく
横に回避しつつ、アクセルシューターを連射、剣でかき消しつつソルもガンフレイムで応戦する
戦線に復帰したフェイトが背後から切りかかる、背後に剣を回し背中越しにフェイトの攻撃を防ぎつつ、なのはの魔力弾をシールドにに似た防壁で防ぐ

324ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:25:07 ID:jNd4HZHE
「ちっ、小賢しい…」

やまない魔力弾の雨、高速で斬りかかるフェイトにソルは徐々に劣勢を強いられる。
………なのはとフェイトの共闘、いわばダブルスでの戦闘経験は実はあまりない。
P.T事件から半年、そして闇の書事件からまだ幾ばくも経っていない今、時間的にそのような機会は自然と限られてくる。
二人が友となってまだ半年強、闇の書事件の際にも実際二人が連携を組んで戦ったのは、闇の書の管制プログラムくらいのものであった。
ヴォルケンリッターとの戦いを経て、さらにナンバーズから受けた敗北を味わいなのは達は連携の大切さを学んだ。
あの敗北からなのは達はソルの世界の情報を集めるのと平行して緻密な連携を練り上げていた。
ありとあらゆるシチュエーションを想定し、数知れないほどのバリエーションを試し、数え切れないほどの失敗を重ね―――――――
その結果が今、ソルを劣勢に追いやっている結果に繋がっている。

「調子に乗りやがって…!」

埒が明かないと踏んだソルはまず近場にいるフェイトに標的を絞る。
ソルは魔力弾の威力がそれほどでもないこと見透かし、そちらへの防御を即座に切り捨てる。
誘導弾であることはすでに分析済み、いくつかの魔力弾を被弾しながらも背中からだけは打たれないように位置を入れ替えながらフェイトへと手を伸ばす。

「くっ、なんて無茶な!」
「てめぇの心配をしてろ!」
横から何発か魔力弾を受けながらもフェイトの胸倉を掴み、空中へ放り投げる。
その方向は絨毯爆撃の為に移動したなのはの方向、この時点で二人は作戦がソルに見抜かれていることを悟る。

「―――――――ディバイン」

が、好機は逃せない、なのはの砲撃のチャージはすんでいる。
フェイトが射線上から退避したのを確認するが早いか否か、暴発寸前の大砲の引き金を引き絞る。

「バスタァァァアーーーーーー!!!!」

ディバインバスター・エクステンション、空から桃色の流星が大地へと落ちていく
直撃コース、ソルが避けようとしたとてあの距離では間に合わない―――――――避けようとするならば、だ
剣は大地に置くかのように、体は跪くかのように―――――――――しかしその目は獲物を刈る猛獣の目。
全身に力を溜め込み、剣には炎を灯し、炎はすぐに焔となりて燃え上がる。
噴出するマグマのように標的を燃やしつくさんと爆ぜる!

「ヴォルカニックヴァイパーーーー!!!!」

直撃したと思われた桃色の流星は、突如大地から噴出するマグマに引き裂かれる、勢いは止まること知らずどんなになのはが魔力を込めてもソルは止まらない
ちりちりとソルの放つ熱がなのはの頬を焼く、目下4,5メートル程にまで迫ってきたソルに恐怖を抱かずにいられない。
全力全開の一撃が届かない、迫り来る炎に全て焼かれてしまう。
脳裏にちらりと浮かんだ自分の敗北のイメージ、全身を無残に焼かれて横たわるなのはの姿。
傍らには同じように引き裂かれたフェイトの姿が。

(負けるもんか…)

ちらりと、ほんの一瞬だけ横にいるフェイトを見やる。
ソルと近接戦闘で何度も斬りかかった代償は大きく、幾つもの傷がフェイトの体に存在する。
それでも尚、フェイトはディバインバスターが押し返されている現状を見て、ソルに飛び掛ろうとしている。
それに比べて、今の自分は何だ?
フェイトが命を懸けて作ったチャンスを不意にしようとしている、あまつさえ自分だけ先に諦めようとしてはいまいか?
それを情けないと思わないのか?

「まぁだ、まだ!負けられないから!!!」

カートリッジを二発ロードする、なのはが手にする杖の御名は不屈の心“レイジングハート”。
不屈を名乗るものがどうして諦めるだろうか、いや諦めるはずがない、諦められるはずがない。
大切な、譲れないものがあるのなら、ここで負けるのを容認することなど出来るわけがない。

325ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:29:31 ID:jNd4HZHE
「ぬぅ!」

閃光は勢いを取り戻し、噴出するマグマを押しとどめる。
さらに威力をあげてようやくソルの上昇は止まり、引き裂かれたはずの桃色の閃光が一気に押し戻す。

「…ぅぉあ!!」

奔流に飲み込まれたソルは小さくうめきを上げながら、大地に叩きつけられる。
大きく土煙が上がる、肩で大きく息をするなのは、手にしたレイジングハートもそれにならうように砲身から排気する。
クリーンヒットだ、押し返され威力が減弱していたとしてもディバインバスターの直撃だ、これで倒れなければ手詰まりだ

「なのは、大丈夫?」
「それはこっちの台詞だよ…フェイトちゃん」

肩で息をする二人、未だ晴れぬ土煙の向こうを見やりながらお互いを案じる。
小さからぬダメージを受けたフェイト、大きく魔力を消費したなのは。
考えうる最高の連携で何とかソルに一撃入れたが、現状でわかるのはそれだけだ。
仮にソルがこれで倒れなかった場合を考える。
正直、考えたくもない、彼を倒すためにどれだけの魔力を使わなければならないのか、考えるだけで眩暈がする。

「どう、なのは?」
「手ごたえはあったよ、でも、それだけ」
「………………」

土煙が晴れる。
そこには平然と立ち、首に手を当てながら骨を鳴らしているソルの姿があった。
唾液を嚥下する音が聞こえる、心臓が大きく拍動する。
今、二人の脳裏に共通の単語が浮かんでいた。

「―――――――化け物、なの?」
「ふぅ、やれやれだぜ」

非殺傷設定の砲撃とは言え、直撃すれば魔力を大幅に削り取られて昏倒するだろう一撃だ。
この世界の“法力”とは互換性がある事も事前調査で判明している、なのはの魔法はこの世界で有効である裏づけは確かにある。
その確たる事実を否定するかのように、全力全開の砲撃を受けて尚平然としている目の前の男に畏怖を抱かずにいられなかった。
言われたことはあっても人に言ったことのない“化け物”という単語が口から出てくる所からしてなのはの動揺具合がわかる。

「この辺にしておけ」
「どういう意味でしょうか?」

見上げるようにソル、見下ろすようにフェイトが会話する。

「無理だ、てめぇらじゃ俺を倒せない」
「そんなことやってみなければ、「大概にしろ、現実を見ろ。お前の渾身の一撃は俺に倒せたのか?」」
ソルの言葉に押し黙ってしまう二人、確かに手を抜いた覚えなどない、体の底から渾身の力を振り絞った。
その結果がこの現状では返す言葉もない。

「ここらで仕舞いだ、退け。てめぇらに付き合ってる暇はねぇ」
「退けません、話を聞くまでは」
「ガキのわがままか」

盛大にため息を一つ。

「ガキです、子供なんです、聞き訳がないです!」
「開き直りやがって…」
「諦めたくない、きっとまだ方法はある」
「仮にあったとしても、それを探させる時間を与えると思っているのか?」
「作ります、考えます、何度だって!」

326ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:35:00 ID:jNd4HZHE
どこまでも意固地な二人を前にして半ばあきれ気味にもう一つため息。

「はぁ…話にならねぇ………ちったぁ頭を冷やせ」
「…………」
「話せない理由を考えたことはあるのか?」

ソルのその言葉に二人は考え込む。
口元に人差し指を当ててうなるなのは。
顎を持ち腕を組んでうな垂れるフェイト。
しばらくして二人は答えが見つかったのか、思考の海を抜け出してソルを直視しなおす。

「個人的に私達が気に入らない」
「気が乗らないから」
「ちっ、てめぇら…なめてんのか」
「え、違うんですか」
(どこまでマジなんだ………)

今日何度目になるかわからないため息、首を振りながら。
ダメだ、こいつら。
ついにソルは我侭な子供を前に折れることになる。

近場の手ごろの岩に腰掛けるソル。
それを対話の意思と判断し、なのはやフェイトもソルのそばに降り立つ。

「そもそも俺に懸けられている容疑は何だ?」
「広域次元犯罪者という扱いでした」
「では聞くが、この世界が見つかったのはつい最近じゃなかったのか」
「何故それを知っているのですか?」
「ナンバーズとはすでに何度か接触している、奴らが現れるようになったのはごく最近だ」

ここに来て新たな事実が発覚する、ソルとナンバーズとの接触はあの時の一度ではない。
何度かの接触、おそらくはその全てが戦闘に発展しているだろう。
色々な次元を渡り犯罪を犯している集団でありその尖兵たるナンバーズ。
どういった経緯の末にぶつかり合うようになったかは定かではないが、現状では敵対しているのは間違いない。
しかし疑問は未だ残っている、それがソルが次元犯罪者であるかどうかという説明にはまずなり得ない。
ソルがスカリエッティと同様に次元を渡り歩いて犯罪を起こしている証拠にはつながらない。

「それでもこちらの世界に次元を渡る手段があれば、説明になりません」
「そうだ、その次元を渡る手段があればな」

その言葉が一つの確信に繋がる。
次元犯罪者、数々の世界で犯罪を犯す………次元を渡り歩いて。

「!………そうか、管理外世界!」
「次元を渡る手段がある時点で管理外世界とは言えなくなる可能性がある、ってこと?」
「管理外世界ってのには大雑把に分けて二種類あるのだろう、管理する必要のない世界と管理できない世界、違うか?」
「管理する必要のない世界というのは………あぁっとつまり魔法文明に頼らなくともいいほどに文明が発達している世界のことですね」
「そうだ、そして管理できない世界ってのにはさらに三種類ある。未発見の世界は論外。次元を渡る手段を持った文明はその管理下におく必要があるのは理解できるな?
――――――――――――――――――――問題は管理する為にリスクを伴う世界を指す」
「魔法文明が発達していたとしても、ですか?」
「流出してしまえばマズイ代物がある…とすれば?」

その言葉を聞いて二人は脳裏に共通の言葉が浮かび上がる。
この世界に大きな傷跡を残した生体兵器の名前を。

327ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:40:13 ID:jNd4HZHE
「ギア、でしたか」
「そこまでだ、それ以上は深入りすると元の世界に帰すわけにはいかなくなる」
「この世界の歴史についてはすでにある程度流出しています、確か人類の大半が死に絶えたとされる聖戦」
「生体兵器ギア、そのギアの指揮を執る完成型ギア1号、ジャスティス」
「………歴史程度なら、お伽でまだ済む、か」

ソルが次元犯罪者ではない可能性が出てきた、つい最近まで未発見だった世界。
未発見だった理由がもしも次元を渡る手段が確立していないためだとしたら?
それはいい、ソルが次元犯罪者でないのならそれに越したことは無い。
問題はこの世界が管理外であった理由が、管理するのにリスクを伴う世界だとしたら。
管理局がその存在を秘匿するほどの世界に渡ったスカリエッティ達は一体どうなるのだろうか?
その理由であるギアについて彼らが興味を示したとしたら。

「それなら、なおさらスカリエッティを止めなくちゃ!」
「最悪の場合、他の世界でも聖戦が起きてしまう」

事の重大さを理解した二人、一方のソルは二人から興味を無くしたかのようにあらぬ方向を見ている。
遥か遠く、地平線の向こうを睨んでいる。

「ちっ、のろのろしてやがるから…話は後にしろ」

視線の先には何もないように思える、しかしただならぬ危険を察知したなのは達は空中へと飛び上がる
矢先に足元から浮上してきたライティングボード、空中へと逃れたなのは達は間一髪その攻撃を避けることに成功する
が、肝心のボードには誰もいなかった、陽動、ボードの主のセインはなのは達のさらに後方へと現れる
無論それをソルが見逃すわけもない、大地から生えているセインに飛び掛る、が背後から猛スピードで突進してきた影に追撃は抑えられる
ナンバーズ最速を誇り、かつ最強の個人戦闘能力を誇るトーレだった
前方のボードはオートパイロットで正確になのはたちを狙ってくる、さらに後方にはセインが狙撃しようとしている
同じ方向へ回避してまずはボードの突進を回避する、そこを狙い済ましてくるだろうセインの狙撃をなのはが弾く
舌打ちをしつつ手元に戻ってきたボードに飛び乗り、トーレを援護しつつ後退。
それに合わせてトーレも後退し、ソルたちと対峙する

「性懲りもなく…大概しつけぇな」
「どうとでも言え、命ある限り貴様の首を狙い続ける」

トーレの言葉にはどこか因縁めいたものを感じる、その事からもソルとナンバーズが以前にも交戦したことがあるのがわかる。
しかし、トーレの言葉には因縁を超えた何かを感じる、恨み、憎しみといった類ではない。
根源はもっと澄んだ意思のようにも感じる。

「スカリエッティの…ナンバーズ!」
「この前の…!高町なのはとフェイト・テスタロッサ、ソル・バッドガイとつるんでいたのか!」

つるんでいる?ただ話をしているだけなのに?
そもそも苦労してやっと話が出来たというのに?

「ソルさんと話をしている最中に………邪魔をしないで!」
「何だって女ばっかり…しかもガキばかり…手間だぜ」

ソルを狙う二つグループ、なのは達とナンバーズ。
しかしなのは達はナンバーズが標的でもある、ソルとは敵対する理由がなくなったため、必然的に利害が一致してくる
ここにナンバーズ対ソル・なのは・フェイトの図式が出来上がる

「ソルさん」

一瞥、ソルは視線すらなのは達に預けようとはしない。
ソルとてこの状況で全てを敵に回すのは少々骨が折れるのだろう。
共闘の意思を組み、言葉少なに賛同する。

「邪魔だけはするな」
「えぇ、あなたに助けられた恩をここで返します」

相も変わらずぶっきらぼうなその言葉、しかし今はそれが頼もしく聞こえるから不思議なものだ。

328ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:45:34 ID:jNd4HZHE
2on3、しかし遅れてナンバーズ陣に一人。
音もなく、呼吸…さらには心臓の音すらも聞こえないような
死人が動いている、とでも言えばいいのだろうか。
確かに人の形をしているが、ただそれだけだった。
薄青い肌は血が通っていないかのよう、一つ一つの動作が機械のように無機質で
何より―――――白い髪の奥に隠された碧眼が血で濡れたかのように真っ赤であった
なのはやフェイトにも覚えがある、爆発する短剣を使った接近戦を得意とするナンバーズNo.5、チンク。
しかしそれは姿かたちのみを似せた人形のように意思が全くなかった
ヘッドギアに手を当てるソル、指の間から見えるクリムゾンレッドの瞳。

「思考が………ざらつくな………てめぇ、まさか」

ソルの思考にノイズが奔る、波長が合いすぎる故にそれを嫌う―――――――――同属嫌悪とも言うべき感覚がソルに襲い掛かる。
その瞳に殺気が灯るわずかなタイムラグ。
無論、そんな事情など敵にとっては絶好の好機でしかない。
ナンバーズ最速を誇るトーレが一瞬にしてソルの懐へと突貫する。
それをかわしきれず、またその勢いを殺しきれず後方に吹き飛ばされる

「ソルさん!!」
「構うな!その白髪チビに注意を払え!!」

吹き飛ばされながらソルは言外にトーレの相手を担うと伝える。
同様になのは達に突進してくるチンク、無数のナイフを背後に浮かべながら。
難なくそれを避けるなのはとフェイト、しかしチンクの後に浮かぶナイフがその軌道を予知していたかのように二人に襲い掛かる
地面を転がるようにそれを避ける、それに合わせてチンクは地面を蹴りつける。
散弾銃のような土塊が襲い掛かる、ただの目くらましかと思った矢先、礫の向こうのチンクの瞳と視線が合った。
その瞳には何の意図も感じられない、意思が感じられないそれに恐怖を覚え、さらに飛びずさる。
礫は先まで二人がいた場所で、幾重もの細かな爆発を起こす。
規模は小さいかもしれない、しかしその威力は岩で出来た大地を容易く抉り取る。
大地に両手をつくチンク、その手先から火花、火のついた導火線、その先にいるのは爆殺対象。
自分達に向かってくる火花を上空に飛ぶことで避ける二人、それをライティングボードで狙撃するセイン。
いくつかの放物線が飛び交う、しかしそれを遮るかのようにチンクのナイフが飛来する。
ナイフと射撃が交差し爆発する、その爆発が次々と飛来するナイフに飛び火し誘爆を引き起こす。

「くっ、ゴメン!チンク姉!!」

その光景に違和感を抱く、ナンバーズは今まで機械の様なコンビネーションを駆使して戦ってきているはずなのに、こんなイージーミスを犯すとは思えない。
セインの瞳にも困惑の色が浮かんでいる、セインにとっても予想外の出来事なのだろうか?
では、当のチンクはどうなのだろうか?
その瞳には変わらない、何の感情も映し出されていない。
セインに変化はない、あるとしたらチンクだ。
喜怒哀楽に富んだ表情を持つ戦闘機人のなかで命の鼓動すら感じさせぬ異質な存在。

いや、兵器としてのあり方としては正しいのかもしれない、元より兵器とは人を殺すためだけに存在する、そこに余計な感情を付与するのはいつだって人間の仕事だ。
そういう意味ではセインやトーレ、他のナンバーズたちの方が異質なのかもしれない。

しかし、すでになのは達にはその“異質”が正しいことなのだと刷り込まれている。
故に、二人は今の無機質なチンクの様に恐怖を抱いた。
その純粋なあり方に、ただただ殺すためだけの存在意義に。

329ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:49:20 ID:jNd4HZHE
一方、トーレとソルの戦いは佳境へ向かっていた。
ソルを凌駕するスピードで戦いを繰り広げていくトーレ、しかしそのスピードもソルの防御を崩すことができなかった。
徐々にトーレはスピードを落とさざるを得なかった、ソルの攻撃によりそれまでのスピードを維持できなくなってきたからだ。
ソルの一見、大雑把に見える攻撃はしっかりと高速で動くトーレを捉えクリーンヒットを重ねていく。

「吹き飛べ」
「ぐっ…ぁぁあ!」

龍のシルエットを描く炎と共に繰り出されて拳は、トーレの鳩尾を抉りこむ。
岩肌に叩きつけられ、派手にバウンドするトーレに追い討ちをかけるソル。

「もらったぁ!」

全身を炎の弾丸へと変え、ミッドチルダのもベルカにも見られない独特の紋章を弾頭に急襲する。
強烈に叩きつけられた痛みを抱えながら、賢明に空中で体勢を整え回避を試みるも、火の玉と化したソルからは逃れられない。

「あぁぁぁあぁぁぁあ!!!!!!」

再び大地に叩き伏せられるトーレ、しかし大地に隕石でも落ちたかのようなクレータの中心に横たわり立ち上がることはなかった。

「………っ、はっ…」
「おい」

痛みに辛うじて目を開ける、傍らにはソルが見下ろしている。

「………今までは…加減していたとでも…いうのか」
「そんなことはどうでもいい、質問に答えろ」

トーレが見た今までのソルとは比べ物にならない、これまでならソルとそれなりに戦えていたというのに。
今回はなすすべも無く、それこそ惨敗を喫してしまった。
屈辱に表情をゆがませる、そんなトーレなどお構いなし、ソルは背後を目配せしながら―――――――チンクを見やりながら問いかける

「奴の変貌振り…どういうことだ」
「…全ては…お前に勝つ…為だ」
「違ぇ、理由じゃない、具体的に何を施した」
「………よく…知っているはずだ、お前の同類になっただけだ」
「………クソが」

トーレと戦っていた時よりも激しい感情の昂ぶりを見せるソル、これまで何度となく戦ってきたトーレだったが、こんなにも感情的になっているソルは初めてだった。
それがどうしようもなく悔しい。
結局、トーレはソルを怒らせるほどの技量で迫ることができなかったのだから。

「そこで寝てろ…聞きだすことが出来たからな」
「………いい加減、殺せ」
「手前が指図するな」

トーレとの戦闘でチンクとなのは達との戦闘空域からやや離れてしまった。
しかして、大した問題にはならない、二つの足に力を込める、踏みしだく大地に皹が入るほどに。
その力で大地を駆けるならそれほど時間はかかるまい。
最後に、ソルが話しかける。
それは確かな死刑宣告。

「焦らずとも、消し炭にしてやる…あそこにいる化け物の次にな」

鉢金の奥の赤茶色の瞳がトーレを射抜く、今まで感じなかった明確な殺意を感じる瞳だ。
しかしトーレはすでに恐怖は感じなかった。
すでに敗北を幾つも重ねた身、敗者がのうのうと生き恥をさらしている現状こそ異常なのだと認識しているトーレだからこそ。
その身にすでに感情を抱く資格はない、すでに死に体となっているトーレはソルが走り去る様を無感情に見送った。
何も感じない、トーレの意思がその存在意義を手放したかのように。

330ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:55:00 ID:jNd4HZHE
その頃、なのは達は劣勢を強いられていた。
爆発する散弾、追尾してくる導火線、無作為な空間爆破。
非殺傷設定を解かれたそれらはなのは達の神経を削っていく。
それはすでに戦いとはいえないのかもしれない、狩られる側と狩る側、展開は一方的になりつつある。
必死に爆破から逃げ回る二人と言えど、チンクの猛攻の全てを避けることは敵わず傷だけが増えていく

「くっ…どうして、あの子…?」

………いや、傷だけではない、少なくともなのはには戸惑いが胸のうちを埋めていく。
今いちキレのないなのは、をフォローすることも出来ず、無論なのはの不調を埋めるような働きをチンク相手に出来るわけもなく、結果としてフェイトもなのはに引きづられて劣勢を強いられる。
とは言え、なのはの不調がなかったとしても結果は同じなのかもしれない。
今のチンクは以前のチンクとは違い、遠距離レンジ以外のどこでも戦うことができる。
圧倒的手数と穴のない空間性攻撃により付け入る隙が見当たらない、あれをかいくぐるとなると無傷ではまず済まないだろう。
フェイトの防御ではおそらく無理だろう、なのはの防御で何とかなるやもしれないがスピードが足りない。
チンクの元にたどり着く前に飽和攻撃を受けてしまうだろう、そうなれば防御どころの話ではない。

「数が…多いっ!」

迫り来る導火線は空をも走る、その一つ一つを丁寧に鎮火しつつ散弾の効果範囲から逃れるよう移動する。
その先にランダムに爆破する空間、その範囲を見極めて進行方向を決定する。
そこまでだ、二人に出来るのはそこまででしかなく反撃に移る余裕などないのだ。
非殺傷設定を解かれたその爆発を食らえば五体満足ではいられない、そういった余裕のなさにより反撃の糸口を見つけられずにいる。

誘導弾の一種とも考えられるがチンクの攻撃の性質を考えれば恐ろしい推測に結びつく。
以前は投げナイフに魔力を込め、それを爆発させていた。
しかし今は何もない空間を爆破することも可能となっているが、実際は違う。
この世界に何もない空間など存在しない、必ず何かが存在している、例えば空気中に無数に浮かぶ塵芥。
おそらくチンクはその塵芥を媒介にして爆発させているのではないだろうか?
散弾は蹴り出す土を、導火線と空間爆破は塵芥を。
空間爆破と導火線は原理は一緒だが、その作用が違う。
一転集中型の爆発を起こす導火線と空間を無作為に爆破する…よく見てみれば空間を爆発させる前に導火線が走っているのがわかる。
とは言え、爆発するまで集中型なのか無作為型なのかの区別がつかない、強いて言えば1テンポ置いてから爆発するのが無作為型なのだがその1テンポを見極めるには至難の業だ。
フェイトもなのはもチンクの攻撃パターンは解析できた。
だが

「あの子は…!どうして…!!」

なのはの困惑は広がるばかりでもはや戦闘どころではない。
チンクのそのあまりの変貌振りが、あまりにも人間離れした情動の無さが戸惑いを生む。
なのははチンクの変化を受け入れきれずにいた。
言葉は、魔法は必ず相手に届く、今もなのははそう信じている。
相手が機械や人形で無い限り絶対にこの想いは伝わるはずだと。
想いを理解して尚、それを受け入れられないのならば戦うほかに無いのだろう。
しかし、チンクには想いが届くことすらも無い、届けるべき心がないのだ。

「なのはっ!今はっ!!」
「そうだけど、それでも!!」

フェイトの抑制の声も頭に入っていないようで、散漫な動きを繰り返すなのは。
ギリギリ攻撃範囲を逃れるような消極的な動き、ひたすら後退を繰り返すだけの戦いは悪戯に戦闘範囲を拡大していく。
その跡はわかりやすく道となっている、大地を削りまるで巨大な蛇がうねりながら進んだかのように。

「どうしてなの!あの子はこの前まで…ちゃんとお話できて…!!」
「お前らが心配することじゃ、ない!!」
「チンク姉は…私達が幸せになる為に自分を変えたんだ!私達を守るために自分の身を捧げたんだ!!」
「そんな!そんな幸せだなんて!」
「あぁ!そんなの幸せじゃないのかもしれない!そんな事わかってる!わからない奴なんて姉妹にはいない!!」
「それなら、どうして!!」

331ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 18:59:18 ID:jNd4HZHE
すでにセインはチンクのサポートを放棄している…いや放棄せざるを得なかった。
加速していくチンクの攻撃密度はセインの処理速度を上回る。
ただでさえ戦闘向きではないセイン、しかしその不利を血のにじむような努力でライティングボードの試作型を乗りこなすことで克服したとて限界がある。
今のチンクのサポートはこの世界の誰にも出来はしないだろう、広範囲を巻き込むチンクのスタイルにをサポートするにはボードでの高速戦闘は不向きすぎる。
それでもセインはチンクのサポートをしようと思った。

「姉妹を、家族を!思っているからだろ!!それが例え一方通行だとしてもその思いは間違いなく尊いんだ!!」

家族だから、例え人ではなくとも。
生まれも育ちも人ではなかった、それでもそこに家族としての形だけはあった。
例え、どんなに変わり果てようとその事実だけは変わり得ない。
見届けようと思った、チンクがその命を賭して挑む戦いを。
それが家族として出来るサポートだと信じているから。

「私達を思ってあぁなったのなら!私はそれを!チンク姉の願ったとおりに、ありたいだけだ!!」
「馬鹿げてるよ!そんなの!!ならなんで戦うの!!」「人間の物差しで計るな!!私の意志がそうしたいと!こうすることが私の幸せだからだ!!」

セインの叫び共に加速するボード、なのはに対して特攻じみた攻撃を仕掛ける。
いつからかセインの気迫に飲まれたなのはは反応が遅れてしまった。
避けきれない、スピードに乗ったセインのボードはなのはを捉え――――――
「同感だ、人が首突っ込んでんじゃねぇ」
「ぐぁぁあ!!!」

られず、なのはの危機を救うようにセインを蹴り飛ばす。
互いにスピードに乗った状態での交錯、セインはソルの一撃を受け派手に吹き飛ばされていく。
カウンターで入った渾身の一撃だ、情け容赦があってできる攻撃ではない。
あの一撃を食らっては戦闘機人とて無事では済むまい。
思わずソルを見やるなのは、その瞬間背筋が凍った。

「………クソがっ!」

激しい怒りと深い悲しみ、それらが同居するかのようなソルの表情はなのはを凍りつかせる。
闇の書から発せられたあの激しい感情と同質の、気の遠くなるほどの年月を重ねて増大させた人の情が。
どれほど憎めばいいのだろう、どれだけの時間を費やせば憎しみは収まるのだろう?
闇の書事件の時ははやてを救うという目的の為に、そして明らかに矛盾する闇の書の言動と行動に隠れてその闇の書の放つ感情にまで行き届かなかった。
しかし、今回は違う。
一方的なコミュニケーション、意思疎通困難、まるで人ではないものを相手にしているかのような。
なのはの想いは届かず、内に募るばかり、それがいつしか焦りとなって、迷いに変わり、混乱へと転じる。
届かない感情がオーバーロードして、なのはを混沌の渦へと引き釣り込む。
言葉が通じないなら、魔法で。
魔法が通じないから、言葉で。
だが、どちらも通じない相手にはどうしたらいいのだろう?

「なのは!動いて!!自分を…守って!!」
「……こんな、こんな事って」

最前線から退いてきたフェイトはなのはに後退を促す。
それと入れ替わりにセインを蹴り飛ばした勢いそのままにソルがチンクに向かって走り出す。
爆発の範囲内に入るや否や、チンクの爆撃が四方八方からソルを襲う。
機動力はフェイトに及ばず、なのはと互角以上の防御を誇るものの空戦を不得意とするソル。
行動範囲を制限され、それを機動力で埋めることは敵わない。
結果は火を見るよりも明らかだ、爆破されスクラップにされるのが目に見える。
誰が見ても無茶だ、混乱していたなのはすらそう思った。

「おぉぅぁあ!!」

横なぎに振るわれる剣、燃え盛るそれが爆発を相殺していく。
爆発で起こる熱量を剣から発せられる炎でかき消しながらソルは進む。
地を走る導火線はガンフレイムで、散弾は爆炎で。

332ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 19:04:52 ID:jNd4HZHE
「…すごい」

二人とソルの間に差が大きいのは、技量や出力よりも経験値の差が一番大きいかもしれない。
戦闘というものに必ずつきものである命のやり取り、それを排除することができる非殺傷設定。
技術の進歩によって魔力のみを削り、肉体にダメージを与えることなく妥当することができるこの技術は管理局にとって、犯罪者を捕縛するのにうってつけのものであった。
しかし犯罪者側にとって見れば、あまり意味を成さない技術の場合もある。
相手が殺人犯といった手合いには何の意味もなさない。
優れた素質を持っているとしたとしてもなのは達には自分に殺意を持った人間を相手にしたことはほとんどない。
その差が二人がチンクに対して踏み込めない理由となっている。
この差がソルがあの爆心地に踏み込んでいける理由である。

「グランドヴァイパッ!!」

無作為爆破空間を炎を纏いながら突っ切る。
地面すれすれ、地に伏せるような姿勢で滑るように飛び、爆破の下をくぐる。
ついにソルはチンクの足元に潜り込む、突進の勢いを殺さずにベクトルを上空へと変える。
先になのは達に繰り出したヴォルカニックヴァイパーがチンクを襲う。

「………………」
「てめぇ…!ぐっ!!」

かわそうともしないチンクはソルのヴォルカニックヴァイパーをまともに食らう。
しかしインパクトの瞬間にチンクのコートが爆発し、ソルの攻撃を殺す。
それほど大きな爆発ではなかったが、ソルの攻撃を逸らし間合いを空けるには十分すぎるほどの威力を持っていた。
空中で体勢を整えるソルだが、そこは無作為爆破のテリトリー内だった
なのは達ほど空戦を得意としておらず、機敏な動きができないソルはランダムに爆発するそれの直撃を何発も受けてしまう。

「うおぉぉぉお!」

チンクの攻撃範囲外まで弾き飛ばされるソル、地面への激突だけは避けたがそのダメージは小さくない。
ところどころ火傷を負い、中には肉が抉れて多量の出血が見られる箇所もある。
大地に膝をつく、しかし目線はチンクを捉えて離さない。
その憎しみも怒りも悲しみも、あの爆発を受けて尚びくともしない。

「おあつらえ向きだな、爆発反応装甲のつもりかよ…」

爆発反応装甲、攻撃のもたらす圧力に反応して、爆薬が起爆し内部へのダメージを防ぐ。
本来なら戦車などに使われる技術であるが、一説ではその内部への衝撃も少なくないと言われている。
当然だ、人が纏う防御機構などではない。
もっと大規模な兵器が装う武装であり、断じて人の身が扱える代物ではない。

「なんて、無茶な」
「そこまでして…こっちを…」

有耶無耶のうちに蚊帳の外に置かれたなのはとフェイトは絶句する。
すでにチンクは人では非ず、人を殺すために存在する兵器に他ならない。
兵器に保身などという概念は必要ない、その価値は敵を滅してこそのもの。
殺して殺して殺しつくす、ありとあらゆる生命体がチンクの敵である。

「そんな…どうして、どうして」
「引っ込んでろ」

いつの間にかソルは立ち上がり、もう一度あの爆心地に飛び込もうとしている。
なのはの肩を押しやり、前に進むソル。
その手を反射的に掴み、なのはは懇願する。

333ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 19:08:31 ID:jNd4HZHE
「あの子、助けられないですか?あの子とお話できないですか!?」
「話をする?今まで呆けてたガキが?」
「戦う理由が知りたいんです、何も知らないまま戦ったって、何を抱えて戦っているか、知りたいんです!」
「戦う理由なら教えてやる」

なのはの手を振り払い、裂帛の気合。

「熱っ!」

軽い衝撃、そして熱。
ソルの周りをまとまった火の粉のようなものが無数に飛び交っている。
クリムゾンジャケット、ソルが使う防御法術で炎を纏い、その熱で相手の攻撃を防ぐ代物だ。
生半可な攻撃ではソルには届かない、そして舞い散る火花にその身を焦がされてしまうだろう。

「奴がギアだからだ」
「そんな!」
「ギアになった理由など知った事ではない。だが奴はこうして牙を?いている。なら――――――」

下肢に込められた力が岩盤を踏み抜く、体幹を捻り勢いを溜め込む。
獰猛にかみ締められた歯、そしてチンクと同じクリムゾンレッドの瞳は殺意に燃えている。

「消し炭にするだけだ!」

大きな火柱状のガンフレイムが前進していく、チンクの起こす爆発をかき消しながら。
それを追いかけるように弾け飛ぶようにソルは飛び出した。
先よりもチンクの攻撃の密度が上がっている、攻撃対象をソル一人に絞ったせいだろうか。
しかし当のソルには関係の無いことだ。

「目障りだ!ヴァンデットリボルバー!!」

炎を蹴り上げるように上昇、そこからベクトルを急転換し燃え盛る剣を振り回しながら突き進む。
着地後間髪いれず、拳を前に突き出しながら突進する。
すでにチンクとの距離はクロスレンジ目前、チンクも投げナイフで反撃する。
ソルの四方八方にナイフを配置し、一斉にソルに襲い掛かる。
突き出した拳の熱が際限なく高まる。
片手が腕に添えられその衝撃に備える。
ナイフの幾つかがソルに突き刺さり爆発を起こす。
しかしクリムゾンジャケットの効果か、爆発はソルを止めるには至らない。
限界まで高まる熱がソルの拳から放たれる。

「消し飛べ」

放たれた炎の暴君はチンクのナイフを全て溶解させる。
ソルが放つタイランレイブの爆炎が放つ熱量を前にして残されるのはよくて消し炭のみ。
その効果範囲は狭いものの、その攻撃力は絶大だ。
ソルのいた場所一帯が溶解し、その蒸気と土煙で戦う二人の姿は見えない。
しかし、相対するチンクの隻眼は確かに捉えていた、地獄とも呼べる光景から飛び出してくるソルの姿を。

「はっ!」

首元を掴まれるチンク、人体の急所である首を掴まれてもチンクはうめき声一つ上げない。
変わりに至近距離にいるソルに対して爆撃を浴びせる。
その爆撃が一面を覆っていた土煙を晴らす。
何度も響く爆発音、すでに二人の戦闘の蚊帳の外にいるなのはとフェイトにもそれは伝わっている。

「これが……ギア」

戦慄、戦いに慄き、身が引ける。
命のやり取りをしてこなかったわけではない、いつだってどんな時だって命がけで戦ってきた。
ただ、目的が相手の命ではなかった、それが怯えとなり恐怖が心にこびり付く。

334ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 19:12:51 ID:jNd4HZHE
「仕舞いだ」

首を絞める、万力のような力を込めてその細首を砕こうと。
悲鳴は、ない。
チンクにはすでに悲鳴を上げる必要がない、両の目から血が溢れようとも関係ない。
眼前敵の殲滅のみを存在理由のチンクには痛みなど何の意味ももたらさない。
ランブルデトネイターを展開する、しかし刃先はソルと自分に向けて。
チンクは自分もろともランブルデトネイターでソルを葬るつもりのようだ。

「ぐぅぅぅぅぅぅうううぁあああ!!!!!」

展開、即、射出。
無数の投げナイフがソルとチンクに突き刺さっては爆発する。
クリムゾンジャケットで爆発のダメージを緩和できるとて、これだけの爆発はさすがに防ぎきる事は敵わず。
しかし爆発の礫にさらされながらも、ソルのその指はチンクを尚、締め上げる。

「ちぃ!………くたばれ」

その言葉と共にソルの手が爆発を起こす。
その爆発はチンクの体をばらばらに吹き飛ばす、首と体が袂を分かつ。
無残に肉片を散らしながら四散するチンク。
ぼとり、と無機質な音を立ててチンクの首らしきものが地面に落ちる。

「う…ぁ」
「………っ!」

思わず口元を押さえるなのは、顔を背けるフェイト。
うずくまり、胃から逆流してくる嘔吐物を必死にこらえる。
息ができない、涙が次から次へと止まらない。
今、人の形をした何かが殺された。
無残としか言いようがない、無事なところを見つけるのが難しいくらい。
人であった肉塊がそこに散らばっている。
人の死に行く姿を、しかもこんなにも残酷な方法で殺されるのを傍で見ることになろうとは思いもしなかった。
気持ちが悪い、肌を触る空気の感覚が嫌だ、この目に映る景色が気に入らない、何もかもが絶望に満ちているような。

「…………クソッ」

大地の所々に残り火、その真ん中に立ち尽くすソル。
傷だらけになった背中、満身創痍。
ただその怪我よりも、その佇まいが儚いものに見えなくもない。
何もかもが絶望に満ちた世界の中で、絶望以外の何かを見つけられたような気がした。
それがほんの少しだけ、フェイトの意識を現実に引き戻す。
しかし―――――――――――――

「あ、はは」

もう一人の少女は未だ現実に戻れずにいた。

「なの、は?」

蹲るなのはの表情は伺えない、ただ悲しげに笑う声だけが聞こえる。

「何も伝えられない、何も伝わらない…まま、死ん、だ」

335ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 19:14:53 ID:jNd4HZHE
焦点を失った言動は虚しく響く、しかし重く重くフェイトに響く。
親友の絶望が、これまで感じたことの無いほどの絶望が。
どんな時だって、なのはは戦ってでも伝えて。
それがどんな相手だろうと、どんな形になろうとも伝えられると信じていた。
信じていたものが幻想だった、自身の弱さに打ちひしがれる。
追い討ちをかけるように一切の情を挟まない戦いを垣間見てしまった。
命のやり取りが目的の戦いを知ってしまった、どんな理由すら寄せ付けない殺すか、殺されるかの。
それがどれだけ凄惨なのか、なのはは知ってしまった。
自身の理想と現実との違いに絶望してしまった。

「なのは………立てる?」

フェイトとて辛くないわけではない。
こみ上げてくる吐き気を懸命に抑えながら、なのはを気遣う。
凄惨な光景、陰鬱な景色。
星々と無骨な大地と血だまり。
そのアンバランスさは心の平衡すらおかしくしかねない。
そんな中を懸命にこらえた、いつだって自分を支えてくれた友に手を差し伸べるために。
フェイトの手が視界に映る、慈愛の手、なのはを想うが故の救いの手。
無意識のうちに手を伸ばす、助けを求めているわけではない――――――――――――自失状態にあるなのはにはそれを理解できない
ただただ無意識のうちにフェイトの手を取ろうと。
きっとここでその手を掴むことができたなら、誰かの温もりを感じることで平静を取り戻せたのなら。
誰かと共にその痛みを分け合えたなら、この現実を受け入れることが出来かもしれないのに。

フェイトの手となのはの手は無情にもすれ違う。

フェイトは視界の隅に光を見た、ほんの一瞬、しかし確かな感覚。
その光が星の瞬きではないことを即座に理解した。
この世の全てを滅する滅びの光。
そして即座に理解してしまう、その光の矛先が―――――――――――

差し伸べた手を戻して転身、出来る限りの、雷光の速さで駆け寄る、血濡れの背中で一人佇んでいた、ソルの元へ。

「危ないっ!」

フェイトがソルの元へたどり着く頃には、針の先ほどの光が眼前を埋め尽くすほどの光となって迫っていた。
ソルもその光に気づくがすでに回避は間に合わない。
光と同時にソルの元へフェイトが飛び込んでくるのが見える。

「てめっ――――――」

刹那、光に飲み込まれる。
その景色を救いの手を掴めず、たった一人残されたなのはは眺めていることしか出来ず。

「あ――――――――――」

気づけば、そこには何もなくなっていた、光が過ぎ去った後には、立ち並んでいた岩も一つとしてない。
すでに機能を停止した人の形をした兵器の欠片も、目の前で戦闘機人をバラバラにしたソル・バッドガイも。

「あ、あああああ」

そして、なのはにとって掛け替えの無い友であるフェイト・テスタロッサの姿も。

「ああああああああああ!!!!!!!!!!」

全てがなくなった場所でたった一人取り残されたなのは。
ただ一人、無限の星空に向けて叫ぶ、獣のように。

しかし、それは誰にも聞かれないまま、何も無い荒野にただ響くのみ………。

336ナッパ ◆1jOfzim.ew:2009/11/22(日) 19:15:57 ID:jNd4HZHE
以上で終了です

遅筆で誰にも覚えられていないかもしれませんが、記憶に留まるよう頑張ってみます

337高天 ◆7wkkytADNk:2009/11/22(日) 21:47:40 ID:8hn9PpYA
BLASSREITER LYRICAL様・ナッパ様共にGJです
最近は原作キャラ死亡が多いですね

22時30分ごろ、ラクロアを投下いたします。
よろしくお願いいたします。

338魔法少女リリカル名無し:2009/11/22(日) 22:01:07 ID:12GF2MRs
ラクロアきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

長く長くお待ちしておりました
何回読み返したんだろう・・・

339高天 ◆7wkkytADNk:2009/11/22(日) 22:31:18 ID:8hn9PpYA
魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第二話


                           闇の書事件から2年後 新暦67年 とある次元世界

此処は何処にでもある無人の次元世界、周囲は白い雪に覆われ、所々に文明が栄えていたであろう証拠の残骸が、厚い雪に覆われその姿を隠している。
本来なら無人のこの世界は静寂に包まれ、ただその大地を白く染め上げるだけで終わり、次の季節が来るまでその姿を維持してる・・・・筈だった。
「ぐ・・・はぁ・・・」
黄金色の光が物凄いスピードで白銀の大地に落下・・・否、叩きつけられた。
爆音が轟き、衝撃で雪が、地面が吹き飛び、雪原の大地に土色のクレーターを作り出す。
「・・・・やりすぎたか・・・・」
その光景を上空から見下ろす一人の女性

ボーイッシュな顔立ちと髪型、そしてそれに似合う鍛え上げられた体、一見逞しい美男子にも見えるが、そのボディーラインから彼女が女性だと直ぐにわかる。
気温が氷点下に達するにも関わらず服装は薄いタイツの様なスーツのみ、そんな格好にも関わらず一切寒さを表していないのは、そのスーツが特殊なものだという事を意味している。
そして、両手、両足にはエネルギーで形成された羽・・・否、刃。
その刃を小刻みに振動させながら、彼女は先ほど自分が落下させた者の様子を伺っていた。

障壁で攻撃を防がれたが、地面に叩き付けられた衝撃までは緩和しきれてはいまい、高確率でクレータの真ん中で気を失っている筈
その様に内心で結論付けた時、彼女の瞳が急速な魔力収束を感知、その直後
「プラズマ・スマッシャァァァァァァ!!!!」
未だたちこめる爆煙の中から、中・近距離砲撃魔法『プラズマスマッシャー』が彼女『トーレ』目掛けて放たれた。
それ程離れていない距離、発射速度、そして不意打ち、直撃する条件は全て揃っている。だが
「IS・ライドインパルス」
どんな速度の速い魔道師でも避ける事は難しい、自己破壊願望の持ち主でもない限り誰もが防御魔法で耐える事を選ぶ、
だがトーレは何もせずに何かの名前を呟くだけ、だがそれで十分だった。
呟いた直後、軸戦場にいた女性は消えてしまう。否、消えたのではなく途轍もないスピードで移動し、迫り来る砲撃を軽々とかわした。
だが彼女が移動を終えた直後、突如気配を感じ上を見上げる、すると其処には黄金色の大剣を振り下ろそうとしている少女『フェイト・T・ハラオウン』の姿
その剣が自分目掛けて振り下ろされる瞬間、彼女は左腕だけを掲げる。誰もが見ても防御とは思えない行為。
だが、フェイトから見れば防がれるかもしれないという恐怖が体を支配する。
そしてトーレから見ればこの程度の斬撃、これで十分といえる防御手段・・・そして激突
互いの武器がぶつかり、魔力とエネルギー波が激しい音を立てながら荒れ狂う。
一見すればザンバーを振り下ろしているフェイトの方が有利に見えるが、彼女達の顔を見ればその考えは間違っていることが直ぐにわかる。
「・・・・・ぐっ・・・・・」
歯を食いしばり、両腕に力を込め、振り下ろすザンバーに更に力を込めるフェイトに対し、
その渾身の攻撃を片手で平然と受け止めるトーレ・・・否、徐々に押し返す・・・・・・・・そして
「・・・・先ほども申し上げた筈です・・・・」
力任せにトーレは腕を振りザンバーを弾く。彼女のパワー、そして自身が持つザンバーの重さに振り回されるかの様にフェイトは再び吹き飛ばされる。
トーレのパワーとザンバーの重さにより、空中で振り回されているフェイトに、トドメと言わんばかりにインヒューレントスキル『ライドインパルス』を使用、
ソニックフォームとほぼ同等の高速移動で一瞬で間合いをつめ、右腕に生えるように展開してあるエネルギー刃『インパルスブレード』を袈裟に振り下ろす。
だが、フェイトも黙って攻撃を喰らうほど愚かではない、間合いが詰められた瞬間、体に力を入れバランスを一瞬で戻すと同時にフォームチェンジ、
その場から一瞬で退避し、トーレとの距離を再び広げた。

340高天 ◆7wkkytADNk:2009/11/22(日) 22:34:16 ID:8hn9PpYA
「・・・ソニックフォームですか、ですがその姿では・・・・・死にますよ?」
ソニックフォームへと姿を変えたフェイトを一瞥した後、トーレは彼女を睨み付けながら忠告するかのように呟く。
彼女の忠告、それが正しい事は忠告された本人であるフェイトが一番理解できていた。
今のフェイトの状態『ソニックフォーム』はスピードを極限まで高めた高速戦闘フォーム、だが、デメリットとして防御能力が殆どなく
攻撃を喰らえば大ダメージは必至、下手をすれば死ぬこともある。
それでも、このデメリットを補うほどの高速移動はこれまでに仲間の危機を何度も救い、強敵から幾多の勝利を自身に齎した。

だか今回は違う、今戦っている人物、彼女もまた高速移動を使用した戦闘を行う・・・・それも自分とほぼ同等のスピードで
だがそれだけではない、今戦っている相手はパワー、技のキレ、そして戦闘経験、殆どにおいて自分を凌駕し、魔法に対する体制も備えている。
自分が唯一勝っているのは攻撃方法の多さのみ、スピードに関してはソニックフォームでようやく互角といった所だ。
正直自分がこの相手に勝てる可能性は限りなく低い、だが逃げることなど出来ない。背を向けた途端、自分は間違いなく切り裂かれるだろう。
・・・・否、逃げようなどとは思わない、傍から見れば勝てる可能性はほとんど無い戦いを行おうとする自分を馬鹿だと思うだろう
だが自分が彼女を足止めしなければ・・・助けられる人達も助けられなくなる、戦っているなのは達にも危険が及ぶ・・・・・ならば

目の前の敵を見据え、ゆっくりとバルディッシュを構える。ザンバーでは獲物が大きいため、破壊力には劣るがサイズフォームに変形、少しでも小回りが効く武器に置き換える。
「・・・・・引きませんか・・・・ならば」
フェイトの行動、そして表情から続けると理解したトーレもまた、腿と足首、そして手首からインパルスブレードを発生させ構える。
彼女の事はドクターから聞いている、だが、捕獲命令などが出ていない以上目の前のいる少女は敵、倒すべき好敵手
「(・・・ん?『好敵手』か・・・・・ふっ、このような感情、チンクと戦って以来だな)」
目の前の少女を敵ではなく、好敵手と思ってしまった自分に対し不思議な気持ちになる。
そしてふと思ってしまう、もし目の前の少女が敵ではなく自分達の妹であったなら、共に高みを目指す事もできただろうと。
「まったく、クアットロの事を悪く言えんな・・・・余計な事を考えるなど・・・・」
相手は余計な事を考えながら戦えるほど甘い敵ではない、殺すつもりで挑まなければこちらが負ける可能性もある。内心で自重した後、顔を引きしめ頭を切り替える。
互いににらみ合い、それぞれ出方を伺う・・・そして
「はぁあああああああああ!!!」
「おぉおおおおおおおおお!!!」
互いの叫びと共に、自身の翼を羽ばたかせる・・・その直後、空には激突した時に生ずる激しい光と爆音が響き渡った。


『はぁ〜い、トーレ姉様〜元気ですかぁ〜?』
突如目の前に開く空間モニター、其処に写っているのは眼鏡を掛けた女性、
何がそんなに楽しいのか、面白そうに笑いながらモニター越しに姉であるトーレを見つめている。
「お前の目は再調整が必要だ様だな・・・・この姿で元気と言えるか馬鹿者」
現在トーレは空を飛びながら空間モニターで会話をしている、だがその姿は酷い者だった。
戦闘用のスーツは所々裂け、左腕の手甲は粉々に砕けている、そして右肩から左腰辺りまで大きな袈裟の傷があり、スーツで隠されていた肌を大胆に露出させていた。
『あらあら?トーレ姉さまったら大胆!!これは録画物ですわ〜』
「・・・・・後でストレートをくれてやる、変えの眼鏡を用意しておくのだな・・・・・で、クアットロ・・・守備は?」
このままクアットロの戯言に付き合っては話が進まないと結論付けたトーレは現状を聞く
あの施設から離れてから、それなりに時間が経過している、聞かずとも、間違いなく全てが終っているであろう
『まぁ、結果から言えばトーレお姉さまが思っている通りですわ、こちらの被害は研究施設とガジェット数十機、研究資材云々とチンクちゃんの目・・・・・ですわね。
まぁ、収穫もありますわ、高い素質を持ったサンプルが二体、結果としては被害、収穫あわせてプラスマイナスゼロ・・・・いいえ、管理局の有名なおちびさんを再起不能にしたら
プラスですわね、トーレ姉様の方は?』

341高天 ◆7wkkytADNk:2009/11/22(日) 22:35:33 ID:8hn9PpYA
「痛みわけといった所だ、相手のアバラを数本折ったしデバイスも破壊した、あれではもう戦えまい」
『あらあらもったいない、戦闘馬鹿・・・じゃなく、戦闘タイプのお姉さまと戦えるなんて、あの二人に匹敵するサンプルじゃないですか〜、
回収用のガジェットを数体送りますね〜』
「その必要は無い、おそらくもう仲間に回収されている筈だ、我々ももう構う必要は無い・・・・撤収するぞ」

一方的に通信を切った姉にクアットロは溜息を一つ、そして表情を一変し、つまらなそうな表情をしながら歩き出す。
「『仲間に回収されている筈』ですか・・・・アバラ数本にデバイス破壊、これだけすれば相手はただの人間、適度に痛めつければ拉致など簡単ですのに、
妙な所で甘いトーレ姉様・・・・・・・私はそんな所だけは大嫌いですわ」

姉であるトーレの強さはクアットロが一番良く知ってる、彼女もそんな強い姉の事は嫌いではない。だが、妙な所で『情け』や『フェア精神』など、
敵に塩を送る様な真似は好きになれない・・・むしろ反吐が出る。
「ドゥーエ姉様の様に、敵は敵、味方は味方ときっちり区別して殺してくれればいいのですけれどね・・・・」
誰に語りかけるわけでもない独り言をつぶやきながら、クアットロはその場からゆっくりと姿を消した。


新暦67年 地上本部・首都防衛隊の要であるゼスト隊がある調査の途中、消息を断った。
彼らが行っていたのはある『秘匿任務』、本来なら時間をかけて行う調査だったのだが、上からの突然の圧力により任務の中止も時間の問題だった。
それを怪しく感じたゼスト含む部下のクイント、メガーヌ達は調査を決行するが、その後彼らとの通信は突如途絶えた。
だが、彼らも天に見放されたわけではなかった、近くの次元世界でとある任務に当っていた時空航行艦アースラにクイントが送ったSOSメッセージが届いていたのだ。
現場に到着し、早速それぞれの役割を果そうと奮闘する魔道師達、だがPT事件や闇の書事件など、様々な事件を解決した彼らでも、
魔力結合・魔力効果発生を無効にするAAAランク魔法防御AMF『ANTI MAGILINK−FIELD』、そしてそれらを駆使し質量兵器で攻撃を行なう機動兵器ガジェット、
そして魔力とは異なるエネルギーを使用する戦闘機人の前には苦戦を強いられた。

                   その結果アースラ、ゼスト隊双方の武装局員の多くが負傷

ゼスト隊の隊長『ゼスト・グランガイツ』と隊員『メガーヌ・アルピーノ』は行方不明(生き残った隊員の証言、そして施設の崩壊などから死亡の可能性が高い)

ゼスト隊隊員『クイント・ナカジマ』は意識不明の重傷、後に応援として駆けつけた湖の騎士により一命を取り留めるも、魔力を生み出すリンカーコアが消失、魔道師としての道を断たれる

アースラ所属の魔道師『フェイト・T・ハラオウン』は打撲と骨折の重傷、デバイスのバルディッシュもまた、中枢以外無事な所が無いほどに大破

そして、アースラの応援として駆けつけた魔道師『高町なのは』は意識不明の重傷、一命は取り留めるも、入院生活を余儀なくされた。


                              それから8年後

                           第61管理世界『スプールス』


ミッドチルダの様な都会とは正反対の自然に満ち溢れた管理世界、ビルや道路など人口建造物は一切なく、純粋に自然の力により生えた草木で覆われた世界
其処では動物達が何不自由なく暮らし、人間もまた、スプールスの景色や動物と触れ合うため、この世界に訪れる。
そんなスプールスの中にある自然保護区間、其処には密猟者に狙われる希少動物や絶滅危惧種が多く存在する。
無論管理局もこの行為を見過ごす事はせずに自然保護隊を編成、自然保護区間にベースキャンプを張り、常に監視を行っていた。

342高天 ◆7wkkytADNk:2009/11/22(日) 22:36:54 ID:8hn9PpYA
現在は夜の11時、ベースキャンプの側にある丸太を置いただけの簡単な椅子に一人の女性が座っていた。
自然保護隊特有の服装の上から、休暇の時に購入したコートを羽織った女性『ミラ』は白い息をはきながら夜空を見上げていた。
季節としてはこの世界は今は冬に該当する。だからこそ、この時期の見張りは体にとても堪える、だからこそ自然と手をすり合わせた後、はく息で量掌を暖める。
だがこんな寒い夜だからこそ、冬の澄んだ空気は夜空の星をより一層輝かせてくれる。見慣れた人物でもこの景色には見惚れてしまう、ミラもまたその一人だった
「また星か・・・まぁ、気持ちはわかるけどね」
そんな彼女の後ろから二つのコーヒーカップを持った男性が歩いてくる、男性『タント』はミラの隣に座り、適度に砂糖が入ったコーヒーが満たされたカップを渡す。
彼女は軽くお礼を言った後、コーヒーを受取り早速口にした。コーヒーの温かさが体に染み渡り冷えた体を温めてくれる。
「・・・・・キャロもこの星を見てるのかなって思ってね・・・・・元気にしてるかしら?」
「まったく、最近手紙を貰ったばかりだろ?優しい上司や先輩と一緒に頑張ってるって、まぁ星に関しては否定するけどね、
此処より星が綺麗に見える次元世界なんて、早々見つかるもんじゃないさ・・・・・おっ、流れ星」
タントの言葉に、ミラはカップから口を離し空を見上げる。だが既に流れ星は流れた後、空には変らない満開の星空
だが直ぐに新たな流れ星は現われた。ミラは即座に願いを呟く、『キャロが元気でありますように』と・・・・・・だが
「・・・・おい、おかしくないか?」
一番最初に気が付いたのはタントだった、ミラが願いをかなえた流れ星、だがそれは消える事無く徐々に近づいてくる・・・・・・そして
「「うそ」」
二人の声が重なると同時に、その流れ星はベースキャンプの近くに落下した。


「・・・・・隕石かしら?」
「隕石だったらここら一帯はクレーターだ、動物は無論、俺達も無事じゃすまないさ」
「そうよね、落下の割にはたいした音も衝撃も無かったし、だったら人口物?密猟者の襲撃?」
「わからない・・・もうすぐ落下地点だ・・・気をつけろ」

隕石落下を目撃した二人は即座にベースキャンプの仲間に報告、そして直ぐに仲間数名を引き連れ調査に向かった。
悪戯、密猟者の仕業、謎の宇宙人、仲間の間では様々な憶測が飛び交うが、どれも予測であるため当てには出来ない。
だが隕石で無い以上、人口物の可能性が高い。誰かの悪戯で済めばいいが、こんな所で悪戯などをしても何の意味も無い。

「周囲の状況は?」
「放射線や有害残留物は一切関知されてないわ・・・・あるのは熱源・・・・温度からして生物のようね・・・でも一つだけ」
「そうか・・・・皆、・最悪戦闘になるかもしれない、気を引き締めて」
タントの言葉に皆自身の武器を持つ手に力をこめる。此処にいる全員は今まで戦闘などほとんど行ったことは無い、
無論密猟者とのいざこざもあったが、殆どの場合管理局がバックに付いている自分達を見た瞬間、さしたる抵抗もせずに捕まるため、打ち合いなどの戦闘は殆ど無かった
だが今回は違う、相手は得体の知れない何かだ、密猟者とはわけが違う。
緊張からか、冬にも関わらず誰もが冷や汗を掻き、静けさから生唾を飲み込む音が大きく聞こえる。
そして、先頭のタントが立ち止まり後ろにいるミラ達に目を合わせる、それは『行くぞ』という意味を込めた視線
その視線に全員が頷き同意を示す、それを確認したタントは何度目かになる生唾を飲み込んだ後、目の前の茂みをそっと掻き分けた。

「・・・・傀儡兵か?」
第一目撃者であるタントが、落下物を見たときに口にした最初の言葉だった。
大きさからして一メートル強、白を強調した西洋の甲冑のような物を着た傀儡兵の様な物体が横たわっていた。
一度大声で呼んでみるがピクリとも動かない、試しにゆっくりとにじり寄り、デバイスの切っ先で突っついて見るがやはり反応はしなかった。
「(何だ?・・・・・機能が停止しているのか?)」
内心でつぶやきながらも目の前の物体を警戒しながら手招きをし、後ろで待機しているミラ達を呼んだ。

「傀儡兵・・・ではないようね、体温もあるし、生物みたいよ?」
「だが、見たことが無いな・・・・・こんな生き物、鎧の様な物を着ているから知性はあるようだが」

343高天 ◆7wkkytADNk:2009/11/22(日) 22:38:44 ID:8hn9PpYA
改めて周囲を確認したが、見つかったのは見たことの無い生物。失礼だとは思いながらも体を彼方此方触ってみると、
手や頬に当たる部分など、人肌の様な温かく柔らかい部分もあった。
そして口の様な部分からは息を吸ったり吐いたりする行為も見受けられる事から、
目の前の物体が『物』ではなく『者』だという事が結論付けられ、今は簡易の担架で寝かされている。
「管理局に問い合わせてみる必要があるわね・・・・・・見たことの無い知性のある生物である以上、次元漂流者の可能性もあるわ」
「わかった、だがもう夜も遅い、今夜はやめて明日にしよう・・・・・引き上げた!」
タントの合図で皆がその場から引き上げる、誰もが戦闘が起こらなかった事への安心感に満たされていた。
緊張からか全員が激務を終えたかのように疲れた顔をし、体を引きずる様にベースキャンプへと進む。
そんな中、ミラは担架で運ばれてる者へと改めて目を向けた。
見たことの無い生物、このような職についている以上興味がないと言えば嘘になる、
だからこそ、改めて眠っている彼『バーサルナイトガンダム』を見据え、小さく呟いた。
「・・・まるで騎士ね・・・目覚めても騎士らしく紳士であればいいけどね」


                        ほぼ同時刻

「・・・・・疲れた・・・・」
表情からして『もう疲れて動けません』と言いたげな表情をした女性が夜道を歩いていた。
女性用のスーツを見事に着こなした美女、すれ違う男性は通り過ぎた彼女の容姿を再び見ようと振り返る。
だが、当の女性はそんな男達を無視し、真っ直ぐに家へと歩みを進めていた、疲れた表情で
「・・・まったく・・・・毎度毎度あんな・・・・脳味噌と顔を合わせていると・・・・精神が参るわ」
彼女の呟きは決して冗談ではない、現に彼女は主に3つの脳味噌『管理局最高評議会』の世話的な役割を行っている。
だが常にメディカルチェックや情報管理、それらを脳が入った3つのカプセルの前で行っているため、主に体力よりも精神的な疲れが大きかった。
否、もしかしたら体力的な疲れもあるかもしれない、だが彼女には・・・・戦闘機人No.2『ドゥーエ』にとっては常人の疲れなど感じるほどの事でもない。
だが、元を正せば人間であるため、メンタル面までは戦闘機人といえども限界があった。
「家に帰ったら・・・・・部屋の掃除・・・・溜まった洗濯物・・・・ウーノに提出するレポート・・・・脳味噌達のメディカルチェックの結果・・・・・・地獄だわ」
考えるだけでも鬱になる、これではせっかく貰った休みも潰れれうだろう・・・・だが、どれも逃げることが出来ない物ばかり、
観念したかのように大きく溜息をついた後、歩みを速める、。少し手も家に早く付き、少しでも自由な時間を手に入れたいから。
そんな時であった、進路上右側に人だかりが出来ているのを見つけたのは

「人だかり?あそこは確か湖・・・・・だれか溺死でもしたのかしら?」
物騒な事を呟きながらも、どうせ通る道なのだと内心で自分自身に理由をつけたドゥーエは、人ごみの中へと足を踏み入れた。
人を書き分け、皆が注目する所を除く、其処で彼女が見たのは、局員と思われる人物数名が何かを調査している姿、
だが周囲には特に変った所は無い、何気なく自身の知覚器官を使用してみるが特に目立った所は無かった。
それでも局員がこうまでして調査を行っているのだ、何かあった筈、ためしに近くにいる男性に聞いてみることにした。
「すみません、此処で何かあったのですか?」
「あっ・・・・ああ、なんでも隕石が落ちたらしいですよ」
突然美女に話しかけられた男性は顔を真っ赤にし戸惑いながらも、此処で起こったことを話し始めた。
今から約1時間前、光の弾が此処に落ちた事、自分を含めた数名がいち早く現場にたどり着いたが、其処には何も無かった事、
ただの悪戯にしては手がこんでいるため、一応管理局が調査をしている事、男性はそれらを簡潔にまとめ、ドゥーエに説明をした。
「そうですか・・・おそらく悪戯でしょうね、ありがとうございます」
自分の知覚センサーにも全く反応は無かった、おそらく暇人による悪戯だろう。
そう結論付けたドゥーエは丁重にお礼を言い、その場から立ち去った。

344高天 ◆7wkkytADNk:2009/11/22(日) 22:41:25 ID:8hn9PpYA
人ごみを離れてから数分、もう直ぐ自分のマンションに付く距離まで差し掛かった時、突如近くの茂みから物音が聞こえた。
その音はゆっくりとこちらに近づいてくる、この辺りは住宅街なども無いため、その音は嫌でも大きく聞こえる。
「・・・はぁ、またかしら?」

ドゥーエは以前にもこのような自体に遭遇した事がある、その時現われたのは連続強姦魔であり、自分を強姦しようと襲い掛かってきた。
がたいの良い男のため、普通の女性ならさしたる抵抗も出来ずに犯されていただろう、だが相手が悪かった。
その男は翌日、早朝ジョギングを日課としている男性に斬殺体として発見される事となり、新聞の一面を飾ることとなった。

「ふっ・・・まぁいいわ、むしろいらっしゃい。いいストレスのはけ口になるから」
自身が敵と決め付ける時に見せる冷酷な表情で茂みを睨みつける、自然と舌なめずりをし、襲い掛かって来るであろう獲物を待ち構える
骨を片っ端から折ってやろうか、ピアシックネイルで切り刻んでやろうか、現われるであろう外的をどう料理するかを嬉しそうに考えながら獲物が来るのを待つ
そして、等々茂みから音の正体が現われた・・・だが、茂みを掻き分け出て来たのは、強姦魔でもなければ変態でもなかった。
出て来たのは一メートル位の物体、傀儡兵に見えなくも無いが、知覚センサーで見る限りでは生物らしい。だが、このような生物は全く見たことが無い
全身ずぶ濡れのその生物は、ゆっくりとドゥーエの前まで歩く。意外な生物の出現に一瞬呆気に取られたが、直ぐに気持ちを切り替え、
何者か聞こうと口を開く、だがそれと同時にその生物は力尽き、ゆっくりと地面に倒れた。
「・・・・・さて、どうしましょうか?」
目の前で倒れている生物、無論そのまま無視して帰るのが利口だ、さっそくその考えを実行しようとするが、ふと考えてみる
この生物は今まで見たことが無い、下手をすれば新種の可能性もある、もしかしたらあの隕石騒ぎの犯人はコイツかもしれない
「もしかしたらドクターですら知らない生物かもしれないわね・・・・・・このまま見捨てるのは勿体無いか、それに何気に可愛いじゃない」
そう結論付けたドゥーエは、一度周囲を確認した後その生物を背負い、自身のマンション目指して再び歩み始めた。


                          ほぼ同時刻

                         とある無人世界

それは兵器だった、遥か昔、王の武器として戦場を駆け巡り、自らが手を下した相手を自身の分身に、王の兵に作り変えた。
屍兵器と呼ばれた彼女達は戦場を自分達色に染め上げ、王の力を、そして自分達『マリアージュ』の力を敵に見せ付けていた。
だがそれも、突如現われた光の騎士により自分達マリアージュは全滅させられてしまう。
圧倒的な力の前に、無敵を誇っていた屍兵器は余りにも無力だった。
だが、全てが絶滅したわけではなかった、古代ベルカ・ガレアの王『イクスヴェリア』の側近の一人が、
無断で軍団長クラスのマリアージュを一体保存していたのだ。それは王のためではなく、自身の野心を実現する時の駒として利用するため、
だが、その側近の謀反は直ぐに発覚。結果、自身が保存したものと同型の軍団長クラスのマリアージュによって、
屍兵器の一体となる末路を辿ってしまい、光の騎士に消されてしまった・・・・・保存されたマリアージュをそのままにして。

だが遥かな時が過ぎ、マリアージュは突如目覚めた、自身の創造主であるイクスヴェリアの目覚めと共に。
彼女は探す、創造主であるイクスヴェリアを、自身と同じ軍団長クラスのマリアージュを生み出してもらうために・・・そしてその命を奪うために。
彼女の中では戦いは終わっていなかった、味方は主である側近のみ、それ以外は全てが敵、当時のベルカの戦を戦っていた魔道師や兵を同じ思考を今でも持っている。
だからこそ、謀反を起こそうとした側近が入力した命令も変る事は無かった、『イクスヴェリアの抹殺』という使命も忘れてはいなかった。

その使命の遂行はすぐにでも実行できる筈だった、自分が目覚めたのは本来は無人世界だったが其処は次元犯罪人に労働をさせる施設がある世界だった、
そのため犯罪者とはいえ人間のも多くいた・・・・目の前に材料がある以上、マリアージュのやることは決まっていた。
目に付く人間を殺し同じマリアージュにするという古代ベルカ時代では日常的に起こっていた行為。
結果、さしたる苦労もせずに数十対の兵隊マリアージュを手にすることが出来た。

345高天 ◆7wkkytADNk:2009/11/22(日) 22:43:24 ID:8hn9PpYA
そして、何処かの世界で目覚めたであろうイクスヴェリアを探すべく、多次元へと渡ろうとした・・・・・その時である、
突如時空を裂く様に現われた流れ星がマリアージュ達の近くに落下したのは。
「・・・・・索敵」
突然の出来事、普通の人間なら驚く事態も、マリアージュ達は冷静に現状を分析、直ぐに今後の行動選択に入る。
分析の結果、落下したのは魔力、体温からして何かしらの生物、だが人間で無い以上自分達マリアージュとして使用するのは不可能
そうなると限られた選択肢は少ない、否、一つしかない『組しない物は全てが抹殺対象』
「・・・・結論、対象の抹殺・・・・」
軍団長の呟きに、落下地点に一番近いマリアージュが攻撃を開始する、それぞれが両腕を刀や槍などに武装化し、落下してきたアンノウンへと攻撃を仕掛ける。
完璧な先制攻撃、直ぐに決着は付くだろう・・・・軍団長はそう考えていた。だが、その考えが間違っている事に彼女は気が付く、それ程時間を要せずに

「ふっ、早々面白い歓迎をしてくれるな、この世界は」
勝負は直ぐについた、マリアージュ達の完全な敗北と言う形で。
マリアージュは行動不能になると燃焼液に変化し自爆するという特性がある、だから死体等は残らない
今この場にいるのはアンノウンと、アンノウンに行動不能ギリギリまで痛めつけられ、今は首を握りつぶすかの勢いで掴まれている軍団長マリアージュのみ
今正に行動不能に陥りそうなマリアージュですら、何が起こったのかが理解できなかった。全ては一瞬、強大な魔力により先行していたマリアージュは蒸発
残りも吹き飛ばされ、切り裂かれ、焼かれ、潰された。
このまま使命を達成せずに終るのか・・・・マリアージュの中では既に結論が出ていた、だが、アンノウンの言葉が、彼女に別の選択肢を与える。
「さて・・・ふざけた歓迎の礼はせねばならんが・・・・・気が変った・・・貴様、我の下僕となれ」
突然のアンノウンの提案に、マリアージュは思考する
現状で勝てる可能性は0%、このまま機能停止するよりは、目の前のアンノウンの仮の部下となり行動を共にする方がまだ可能性はある。
「私にも使命があります・・・・・古代ベルカ・ガレアの王・イクスヴェリアの抹殺、その使命を破棄する事は出来ません」
「好きにしろ、我には興味はない。駒として貴様らを使えればそれで良い・・・・」
話は終わりといわんばかりにマリアージュを放す。突然戒めを解かれたため、尻餅をつき倒れるが、直ぐに立ち上がり破損した部分の自己修復を開始しようとする。
だが、それよ早くアンノウンは回復魔法『ミディアム』を施し、一瞬で彼女の怪我を完治させた。
「モタモタするな・・・・先ずは現状と此処が何処かを知りたい、教えろ」
「了解しました、ですが先ずは貴方を仮の主と認定、貴方の命令を聞く様にマリアージュの行動設定を変更しておきます・・・・・貴方のお名前をお聞かせください」
「名前か・・・・・・ふっ、奴が欠けている今の我では『神』とは名乗れんな・・・」
マリアージュを見据えアンノウンは叫ぶ、自身の名を、他次元世界にまで響くかの様に

                       「我が名は魔王!サタンガンダム!!」




こんばんわです。投下終了です。
読んでくださった皆様、感想を下さった皆様、ありがとうございました。
職人の皆様GJです。
SDXスペドラ指紋だらけだorz
まさかマスクコマンダーが出るとは・・・・
一ヶ月一話ペースか・・・orz
ミラ・タント・マリアージュの資料が少ないorz
次は何時になるのやら

346魔法少女リリカル名無し:2009/11/23(月) 00:02:12 ID:26h/pT/c
おっしゃラクロア来たー!
ナイトガンダムはキャロがいた自然保護隊のところですか。
なのはたちとの再会には少しかかるのでしょうか。
サタンガンダムも来たと言う事は最後はスペリオルになりそう。
ドゥーエのところに来たのは誰かわかりませんがこれでスカ陣営にも何か変化がおきそうですね。
クイントも生きていますしティーダにも生きていて欲しいですが描写が無いのが気になるところです。
でも何より見たいのはアリサ、月村家とナイトガンダムのふれあいなので
Sts編でどう出てくるか楽しみにしています。

347マスカレード ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 03:19:51 ID:1Nv/3bw.
職人の皆さま投下乙でございます。
予約がないようですので、3:30頃からクウガおかえりの14話を投下しようと思います。

348マスカレード ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 03:33:01 ID:1Nv/3bw.
それでは投下開始します。

///////////////////////////////////////////////

海鳴の町はずれを歩く、二人の女がいた。
一人はパンクファッションの女性。ネイルアートを施した手に握られているのは、開かれた扇子。
もう一人は、スーツを着こなした眼鏡の女性。腕に抱えるのは、ノートパソコン。
二人とも何処か周囲の人間からは浮いた、異様な存在感を放っていた。
それもその筈だろう。彼女たちはただの人間ではない。
人間よりも遥かに高等な能力を有した生命体――グロンギなのだから。

不意に、先頭を歩くパンクファッションの女性が、苛立たしげに扇子を閉じた。
扇子を無理やり閉じたことで、ぱたんと音が鳴る。
それに釣られて、背後を歩いていた眼鏡の女性が先頭の女性に視線を向けた。
視線の先の女性は、軽く舌を打ち、言葉を続けた。

「舐めやがって、あのリント……なんで私がこんな事しなくちゃなんねぇんだよ……!」

表情をしかめ、悪態をつく。
これ以上ないという程に苛立っているらしく、その言葉からも鋭い棘が感じられる。
彼女の名前は、ゴ・ザザル・バ。グロンギのトップ――ゴ集団に属する、女戦士だ。
グロンギにとって、ゴ集団に属するという事実そのものが、凄まじい実力を有しているという証明になる。
それ程の戦士であるというプライドが故に、彼女の苛立ちも最早最高潮に達しているのだろう。

「落ち付きなさいザザル。今はゲゲルを再開する事が大事……」

もう一人の女性が、やれやれと言わんばかりに口を開いた。
彼女の名前は、ゴ・ジャーザ・ギ。グロンギトップの集団であるゴの中でも、最強と呼ばれる三人衆の一人。
冷静に物事を判断し、的確な判断でゲゲルを遂行する頭脳派戦士。
彼女もまた、全くの苛立ちも感じていないのかと問われれば嘘になる。
ザザルと同じく、プライドの高い彼女もまた、彼女なりに怒りを胸に秘めていた。

「ゲゲルさえ達成すれば、あんな女は殺してしまえばいい……それだけよ」
「だからって、こんな扱い我慢出来っかよ!」

ザザルが怒鳴る。
表情をより一層歪ませ、身体全体で怒りを体現する。
対するジャーザの口ぶりからも、秘めたる怒りが感じられるが、頭に血が上ったザザルにはそれも解りはしない。
ジャーザにとっても、プレシアの言いなりに行動する事は不本意なのだ。
自分のお陰で再びこうして動き回る事が出来るのだと恩を着せられ、再びゲゲルを強いられる現状。
確かに、一度失敗したゲゲルをもう一度執り行うことが出来るのは願っても無い機会だ。
だが、その為には生け好かないリントの女の言いなりに動かなければならない。
奴がかつてのバルバと同じ、ゲームの進行役だというのならばそれも仕方がないと言えるが、
誇り高きグロンギの女戦士にとっては、それは苦渋の選択以外の何物でもない。
故にザザルは全身で怒りを表し、ジャーザは怒りを胸に秘めて活動をする。

349マスカレード ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 03:42:20 ID:1Nv/3bw.
 
「だいたい、なんで私達がベルト探しなんかしなきゃいけねぇんだよ!
 んなもん下っ端にでもやらせときゃいいだろ!」
「貴女も解っているでしょう? ゴオマもザジオももう居ない。
 プレシアにはバルバ、リニスにはドルドと同じ役割がある。だから私達がするしかないのよ。」

ジャーザの言葉に、ザザルは再び舌を打って眼前のごみ箱を蹴り飛ばした。
怒りの捌け口にされたごみ箱は、大きな音を立てて中身をぶちまけ、歩道に横たわった。
中に詰め込まれていた大量のごみをぶちまけ転がるごみ箱を横目に、ジャーザは考える。
プレシア・テスタロッサはこのゲームを取り仕切る進行役。元の世界のラ・バルバ・デと同じ役割。
リニスと呼ばれる使い魔は殺人ゲームを監視する審判役。元の世界でのラ・ドルド・グと同じ役割。
二人ともゲームにとって必要なのは理解できるし、この世界に居るのはクウガによって倒されたゴのグロンギのみ。
それも、全てのゴがこちらの世界に来ている訳ではないのだ。
実際には、ゴの中でもプレシアが選定した数人しか再生されてはいない。
プレシアも全員蘇らせるだけの余裕は無かったのだろう。それ故に雑用係だった
ズ・ゴオマ・グのような存在も、武器の製造や整備を担当していたヌ・ザジオ・レも居ない。
だから、人員は本来プレイヤーである筈の自分達だけしか居ないという事になる。

今回与えられた任務は、ダグバのベルトの破片集め。
既にほとんどの破片はプレシアの手の中にある為に、もうすぐこの仕事も終わる時が来る事だろう。
元のバックルのサイズからして、残った破片は恐らく1つか、多くても2つ程度。
それを見つけて、ゲゲルさえ完遂すれば、あとはプレシアを殺してダグバをも超える。
それだけで自分はグロンギの王になる事が出来るのだ。
そう考えれば、ジャーザも何とか怒りを抑える事が出来るというもの。
内心で自分を宥める。そうしていると、不意に同行者の声がジャーザの耳朶を叩いた。

「おいジャーザ……この階段上んのかよ!?」
「そうよ。この上からバックルの反応がある……もう少しで終わりよ」

目の前に続くのは、小高い山の上の神社へと続く長い石階段。
ジャーザは気休め程度に、もう少しで終わりだと告げ、その手に抱えたパソコンを開いた。
開かれたパソコンの画面を確認すれば、少しの間を置いて、画面全体に一つの映像が映し出された。
それは立体的な造形のマップで、ジャーザの周囲の地形を的確にトレースしていた。
画面上に表示されるのは、“山”を表す盛り上がった地形と、その麓にいる自分たちの現在地。
そして、ジャーザの眼前の山の頂点を表すポイントに、金色の三角錐が表示されていた。
それが、二人の目指す場所。三角錐が示す場所に、ダグバのバックルの破片は存在する。
これはプレシアが集めた破片を元に開発し、ジャーザのパソコンにインストールしたシステムだ。
元々数日前までは、グロンギはこの世界に転移する前に、事前にプレシアが示した場所を記憶し、その周辺を捜していたのだ。
プレシア曰く、ダグバのベルトはロストロギア並みの強力な反応を持っているらしく、大凡の場所を判定するのは容易いことらしい。
だが、つい先日になって、ロストロギアを感知する能力を凝縮した、“簡易レーダー”がプレシアによって完成した。
それからという物、ジャーザは元々持ち歩いていたパソコンにそれをインストールし、ベルト探しを続けていたのだ。
一方で、元々やる気が無かったザザルは、単にプレシアの言いなりに働くのが嫌だった。
だが、かといってサボる訳にも行かず。仕方なくきちんと仕事を実行しているジャーザに追随しただけに過ぎない。
現在、二人が目標としているのは、この海鳴市の山の上に建てられた神社。
そこにベルトの破片がある事が判明したのだが――彼女たちはまだ知らない。
この階段が、死へと繋がる階段となる事を。

350マスカレード ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 03:45:49 ID:1Nv/3bw.
 

EPISODE.14 恐怖


第97管理外世界、海鳴市―――16:04 a.m.
幸せそうな微笑みを浮かべながら、雄介は空を見上げ歩いていた。
雄介の視界に映るのは、何処までも続く青空と、ゆっくりと沈みゆく初夏の太陽。
当然の如く日常に有り触れた光景も、雄介にとっては幸せを実感する大きな要素の一つであった。
そんな雄介の両手に提げられているのは、大量の食料品が詰まった買い物袋。
八神家を構成する人数は、自分も含めて6人。
それだけの人数が毎日しっかり栄養を摂取するための食事を作ろうと思えば、やはり食材もそれだけ多く必要になる。
故に平日の買い物係である雄介は現在、近所のスーパーで晩御飯に使う食材の買い出しを終え、帰宅する途中なのだ。
一応シャマルが買い物に行く場合もあるのだが、最近ではもっぱら雄介が買い物を担当している。

理由は簡単。単純に、まだ全容を知った訳ではないこの海鳴市を散策するのが楽しいというものだ。
その間シャマルは八神家内での家事を担当し、空いた時間でのんびりテレビを見ていたりする。
家事にもゆとりが出来たことで、八神家としても雄介が来たことは大きなプラスとなっているのだ。
強いてデメリットを上げるとすれば、それは一人分増えた食費と生活費くらいだろう。
だが、それに関して雄介が心配する必要は無いと、八神家の主であるはやてから聞かされている。

「ん〜……!」

両手に提げた袋を上方へと突き上げ、大きく伸びをする。
やはりこんな天気のいい日は、外出するに限るな、と。心の中で呟いた。
シャマルも家でくつろいでいるだろうし、自分もそんなに急ぐ必要はない。
いつもの散歩ルートとなったこの道をゆっくり歩いて帰宅する。
それから夕飯の支度を始めれば、食事時にはヴィータやシグナムも帰宅し、八神家全員で夕飯が食べられる事だろう。
世界中を冒険するのもいいが、こうやって平和な日常を過ごすのも悪くはない。
本当にこんな日がいつまでも続けばいいのに、と。そんな事を願いながらも帰路を進む。
勿論、雄介自身も今が本当に心から安心出来る平和である等とは思っていない。
生き残った未確認を全て倒さないことには、またこの世界の人々の笑顔が奪われ続ける事になる。
こんなささやかな幸せを守りたいからこそ、雄介は辛い戦いも耐えることが出来るのだ。

不意に雄介は、昨日の未確認との戦いの記憶を呼び覚ましていた。
現在、この世界で倒した未確認は一体。
かつてクウガが倒した未確認生命体第45号だ。
雄介の記憶の中、クウガとの戦闘中。45号は確かに金の力に目覚めつつあった。

351クウガおかえり14話 ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 03:52:17 ID:1Nv/3bw.
 
(なんでだ……? なんで45号がビリビリを……)

心中で疑問を浮かべ、首を傾げる。
クウガの場合は、医療用の電気ショックが原因だった。
かつて雄介は、未確認との戦いに敗れ瀕死の重傷を負った経験がある。
実際には体内に注入された毒素を消し去るために、霊石アマダムが一時的に雄介の身体を仮死状態にしただけなのだが。
当初それは判明していなかった為に、雄介の掛り付けの医師である椿が電気ショックによる治療を行った。
結果として、それ以来、マダムに電撃の力が加わり、クウガは更なる力を手に入れる事が出来たのだ。

そしてクウガの金の力と等しい力を、手に入れた未確認が一人。
名は、未確認生命体第46号――ゴ・ガドル・バ。
0号を除き、クウガが最も苦戦した未確認だ。
雄介は知らないが、彼はクウガの力を解明し、自ら発電所の電力を体内に取り込んだ。
その結果として手に入れた力は、クウガと同等か――或るいは、それ以上。
同じエネルギーでパワーアップする事から、クウガも未確認も本質は非常に近いと考えられる。
ならば、何故45号は復活した今になってビリビリを身につけたのだろうか?
考えられるのは、46号の様に自ら電気の力を取りこんだか、偶然電撃に当てられたか。
前者なら、未確認がパワーアップの仕方を知ってしまった事になる。
それは非常に厄介な事だ。戦いに於いて苦戦を強いられるだけでなく、街や人への被害が増えるのはほぼ間違いない。
その点を考慮しても、出来れば考えたくないパターンが前者なのである。
一方で、後者ならまだマシだと言える。
45号本人も電撃の力を使いこなせてはいなかったし、偶然に電撃を浴びてしまったのだとすれば納得がいく。
だとすれば何故? と考えたいところだが、実はその真相は意外と簡単なところに存在する。
雄介が45号との戦いの場に現れる直前、45号はフェイトの電撃攻撃を受けていたのだ。
フェイトは若干10歳にして、魔道師としての実力はまさしくエース級のソレだと言える。
魔力も一般の魔道師よりも遥かに高く、フェイトが繰り出す戦闘用の電撃の威力は、並大抵の電気ショックの比にならない。
そんな強力な電撃を一度でも浴びれば、すぐに金の力に覚醒する事は無くても、
その力のほんの一部が戦闘中の、さらに言えば昂った状態の身体の表面に露呈したとしても、可笑しい話ではない。
しかし、魔法という物を未だ詳しく理解していない雄介に、それが解る筈も無かった。
フェイトの戦いを直に見たことも無い為に、それが電撃をエネルギーとする魔法だという事も解る筈がないのは当然の事。
結局、45号が金の力を手に入れた理由に関しては憶測の域を出なかった。

「雄介君……!」

不意に、解けない謎に悶々とした表情を浮かべる雄介に明るい声が投げかけられた。
聞き覚えのある家族の声。朝、元気よく家を飛び出していった居候先の主――八神はやてだ。
気づけば、雄介は徒歩で八神家のすぐ近くまで戻って来ていたのだ。
学校から帰ってきたはやてが、雄介の目の前で嬉しそうに手を振っていた。

352クウガおかえり14話 ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 03:58:05 ID:1Nv/3bw.
 


一方で、日が沈みかけた海鳴の町。
小高い山には、麓から山の上に建てられた神社へと続く石の階段が設けられていた。
その長さは相当なもので、走って登るだけでも相当な体力を必要とする事だろう。
だが、少年は全くと言っていい程に疲れを感じてはいなかった。
それどころか、一日中ずっと歩き続けていたというのに、彼の身体には疲れの一つも見当たらない。
白装束を纏った少年は、嬉しそうに神社の境内に佇んでいた。
長い石階段を登りきった神社からは、周囲の海鳴市が一望出来る。
といっても、同じ海鳴市内でも、遠く離れた人物を肉眼で見分ける事は並みの人間には不可能なのは当たり前の事。
されど、少年は普通の人間とは訳が違う。
少年は例えどんなに離れていようと、その超感覚で目標を的確に視界に捉えることが出来るのだ。

「見つけたよ、クウガ」

浮かべる表情は、微笑み。されど、目は笑ってはいなかった。
緩やかに微笑む唇とは裏腹。その目を細め、視線の先をじっと見詰める。
不気味なまでに歪んだ口元は、彼が心底喜んでいるのだという事を認識させるには十分だった。
視線の先にいるのは、海鳴の街並みを笑いながら歩く若い男と、小さな少女。
興味を持ったのは、その片割れ、若い男。一緒にいる少女には、全く興味は無い。
見下ろすのは、目標(ターゲット)と定めた敵、リントの戦士クウガ――五代雄介。
目標は視線に気づいたのか、一瞬動きを止めた。
恐らく此方の尋常ならざる殺気と、圧倒的な存在感に気を押されたのだろう。
奴もまたこれだけ離れていても、自分を感知する事が出来た。
自分の力が大き過ぎるから、という理由も多分にあるのだろうが、
これには少年も流石クウガと言わずには居られなかった。

宿敵は見つけた。これでいつでも戦う事が出来る。
後は力さえ取り戻せば。
その時こそは。今度こそは。
超古代から続く因縁の戦いに、完全な形での決着を付けられる。
世紀を超えた宿命の戦いに、ケリを付けられる。
それを考えただけで彼の表情は歓喜に歪んだ。

353クウガおかえり14話 ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 04:01:27 ID:1Nv/3bw.
 
「でも、その前に――」

が、不意に彼の表情から、笑顔が消え去った。
浮かべる表情は、怒りでも悲しみでもない。
何の感情も感じられない、無表情。
まさかクウガに会いたくてこの場所まで来たら、別の知り合いまで来てくれるとは思ってもみなかった。
“彼女ら”は、一度戦いに敗れて死んだ。
自分と唯一対等に戦う事の出来る相手に、彼女らは歯が立たなかったのだ。
それも、自分と対等である“凄まじき戦士”となったクウガ相手にならまだしも、
全く自分に歯が立たなかった“黒の金のクウガ”よりも遥かに下回る、“ただのクウガ”に彼女らは殺されたのだ。
彼女らのゲゲルは終わり、クウガは最早自分で無ければ倒せない最強の敵となったのだ。
そうだ。クウガだけが、自分を喜ばせる事が出来る唯一無二の存在。
ゲリザギバスゲゲルも全てクウガによって失敗した今、グロンギの戦士達に存在する意味等有りはしない。
彼にとってこの世に必要なのは。この世界に存在意義を認められるのは。
最早戦士クウガ以外には存在しない。
それ以外の何者も、彼の興味の対象にすらなりはしない。
故に――

「“整理”を、しないとね」

――少年は背後へと振り向き、一言告げた。
無表情だった顔に、小さな微笑みが浮かぶ。
されど、その微笑みは決して相手を安心させる笑みでは無い。
殺気の宿るその笑みは、見る者に更なる恐怖を与えるスパイスにしか成り得なかった。



八神家へと続く帰路の途中で、二人は並んで歩いていた。
暫し他愛ない雑談を交わし、雄介は本題に入った。

「それで、アリサちゃんとはどうなったの?」

それは、雄介が今日一日ずっと気にかけていた事。
些細な事から、喧嘩してしまったはやてとアリサは仲直りする事が出来たのだろうか。
機嫌良さ気に笑うはやてを見ていると、その答えは大方予想できるが。

「うん、大丈夫やったよ」
「そっか、良かった」

予想通りの答えに、雄介は安堵の笑みを零した。
素直に謝る事。それから、きちんと会話を交わす事。
それが一番大切なのだと理解していたはやてならば、きっと大丈夫だろうとは思っていた。
そしてはやては雄介の予想通り、無事にアリサと仲直りが出来たのだ。
雄介も心から安心し、まるで自分の出来事のように喜んだ。

354クウガおかえり14話 ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 04:04:27 ID:1Nv/3bw.
 
「これも雄介君のお陰や、ありがとうな」
「ううん、俺は別に何にもしてないよ。
 はやてちゃんならきっと、俺が居なくたって仲直り出来た筈だから」

雄介の言葉に、嘘偽りはない。
いくら腕の立つ魔道師とは言え、はやて達はまだ小学生。
どんなに人より大人びていると言っても、本質はまだ子供なのだ。
子供の間は、友達と喧嘩をする事も当然のように有り触れた事。
勿論、中にはそのまま相手と二度と口を利かなくなる者も居るだろう。
だが、はやて達の場合は元々が仲の良い“親友”とも呼べる関係であったのだ。
それを知っている雄介だからこそ。
例え喧嘩をしたとしても、二人ならきっと仲直りが出来るだろうと信じていたのだ。

「……やっぱり雄介君は人がええなぁ」

雄介の言葉を受け取り、はやては若干苦笑気味に微笑んだ。
これが五代雄介という人間なのだという事は、すでにはやても理解しているのだろう。
だからこれ以上は何も言わない。
雄介も微笑みで返すだけだ。

「ところで雄介君……」
「ん、何? はやてちゃん」
「今日の晩御飯は何にするつもりなん?」
「うん、今日ははやてちゃん達の仲直りのお祝いの……」

首を傾げるはやてに、雄介は手に持った袋を掲げて見せた。
中に入っているのは、にんじんにじゃがいも。その他各種食材に、調味料。
それは、雄介が数ある中でもとりわけ得意とする料理の一つ。
はやて自身も、何度か口にした事がある。
そして、質問の答えを理解したはやての表情は、太陽のような笑顔へと変わった。

「特性カレー……雄介スペシャルっ!!」
「正解! はやてちゃんもヴィータちゃんも、皆カレー好きだもんな。
 ……あ、そうだ、せっかくだからアリサちゃん達も呼んでみない?」
「え……?」

疑問を浮かべるはやてに、雄介が向ける表情は笑顔。

「せっかく仲直り出来たんならさ、やっぱり皆で笑顔になりたいじゃない」
「うん……せやな、雄介君の言う通りや! ほな、今から連絡してみるな」

暫し思案に俯くも、はやての答えはすぐに決まった。
制服のポケットから取り出した携帯電話を開き、メールを打ちこみ始める。
雄介の居た時代には、今はやてが持っているような高性能な携帯電話は存在しなかった。
この時代に来てから時間が経ったとはいえ、やはり全く気にならないと言えば嘘になる。
故に雄介は、携帯にでメールを打つはやてを興味深げに見つめるのだが―――

355クウガおかえり14話 ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 04:08:00 ID:1Nv/3bw.
 
「……ッ!?」

刹那、雄介の全身に寒気が走った。
まるで全身の神経を突き刺すような悪寒。
アマダムによって張り巡らされた全神経が、一瞬で麻痺したかのような感覚。
雄介の笑顔は消え去り、気づけばその表情に浮かぶのは、不安と冷や汗のみ。

「……どうかしたん? 雄介君」
「う、ううん……なんでもないよ、はやてちゃん」

咄嗟に笑顔を作って誤魔化す。
はやても不審に思いながらも、それ以上は何も言っては来なかった。
だから雄介も、何事も無かったかのように歩き出す。
横に並んで歩くはやてを不安にさせない為にも、出来る限りの平静を装って。
だが、表情と態度を幾ら取り繕おうと、自分の心までは誤魔化せない。
まるで心臓を締め付けられている様な。
何処かで体験した事のある、言い様の無い不安感に駆られているのは、
雄介自身が……いや、雄介のみが気付けた事実。

(なんだこれ……まるで0号に睨まれた時みたいだ)

それは、雄介の記憶にはまだ新しい。
超感覚の緑に超変身した際に、雄介は一度未確認生命体0号の姿を確認した事がある。
初めて知覚した0号は、その全てが規格外の化け物だった。
その気迫が。
その殺気が。
その存在感が。
それら全てが、クウガとして戦ってきた雄介の、常識も経験も凌駕していた。
一瞬で白のクウガにまで退化させられ、雄介自身もとんでもない恐怖に襲われた。
それに近い感覚が、たった今雄介を襲ったのだ。
果たしてその主は―――

356クウガおかえり14話 ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 04:17:20 ID:1Nv/3bw.
 


ザザルはただ、震えていた。
一緒にいるジャーザも同じだ。
まるで目の前に顕在する圧倒的な存在感に、心奪われたかのように。
何故自分程の戦士が震えているのか。この不快感は何なのか。
何一つ理解する前に、彼女らはその殺気に当てられた。
感じるのは恐怖心。
まるで全身の神経が恐怖に震え、泡立っているようだった。

自分たちは、いつかは王を超える為に戦っていた戦士。
王を超える戦士である筈の彼女らが、その王を目の前に恐怖を抱くとは、何と滑稽な話だろう。
“奴”は彼女らの視線の先で、じっと佇んでいる。
全身を白装束に包まれた、まだあどけなさの残る少年。
真中で分けられた髪の毛の間から見えるのは、四本角を象った白きタトゥー。
そして、少年の手に握られているのは、彼女らが探し求めていたバックルの欠片。
並大抵のロストロギア等、軽く凌駕してしまう程のエネルギーを内包したバックルの持ち主の名は。

「――ダグ、バ……!」

全ての元凶であり、最強の戦士と謳われた白き悪魔。
殺戮の限りを尽くした戦闘部族であるグロンギを纏め上げる王。
あらゆる命を一瞬にして摘み取ると言われた、凄まじき戦士。
この世の全てを滅ぼし、太陽さえも闇で覆わんとする“究極の闇”を齎す者。
数々の異名を持つ化け物は、少年の姿のまま自分たちに冷たい視線を送っていた。
これではまるで、蛇に睨まれた蛙そのもの。
動けない彼女らの狼狽など意に介さないように、少年は冷たい声色で告げた。

「君たちのゲゲルはもう終わった。
 クウガに勝てなかった君たちは――」

少年は、感情を読み取らせない微笑みで言葉を続ける。
それがもしも彼では無く、普通の少年の微笑みであったならば。
それはきっと、優しいと言われる部類に入る微笑みだっただろう。
だが、彼は普通ではない。
目の前の少年の存在感は、彼女らのあらゆる希望を打ち砕くには十分過ぎた。
彼が味方側に着いていたなら、間違いなく誰よりも心強かっただろう。
だが、今は違う。今自分たちに向けられているのは、確かな“殺気”なのだから。
だからこそ、少年がその先に言わんとした言葉が、ザザルには解る。
いや、出来る事ならば解りたくは無かった。
されど、頭で否定しようが自分の記憶がその先の言葉を予想してしまう。
以前、自分がゲゲルを行う少し前。グロンギ内で“整理”が行われた事がある。
切欠は、ゴ集団の中でも屈指の実力者であるゴ・バダー・バがクウガによって倒された事。
“整理者”である王は、バダーで勝てなかったのならと。
バダーよりも力の下回るグロンギを、その手で皆殺しにしたのだ。
だが、それは弱い下級グロンギ達にのみ当て嵌まる話だ。
自分たちの実力は、バダーと同等か、それ以上である筈。
そんな自分たちがその対象に当て嵌まってたまるものかと、自分に言い聞かせるが。

357クウガおかえり14話 ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 04:24:30 ID:1Nv/3bw.
 
「――“整理”、しないとね」

無情にも、彼女の願いは叶わなかった。
言葉の続きが告げられた。告げられてしまった。
その瞬間、ザザルの中で全ての希望が打ち砕かれた気がした。
以前と今との違いはただ一つ――“力の基準”だ。
バダーを強さの基準にし、それ以下のグロンギを葬るか。
クウガを強さの基準にし、それ以下のグロンギを葬るか。
たったそれだけの違い。

「ダグバ……! 我々はもう一度ゲゲルを――ッ」
「必要無いよ。だって君たちは、クウガより弱いんだもの」

なんとか発されたジャーザの言葉も、少年の威圧感にかき消された。
目の前で微笑む“ダグバ”は、どうやら自分たち二人を敵と見なしたらしい。
どうする。実力では自分に勝るジャーザも、恐らく今は何の役にも立たない。
ならばどうする。ダグバは元々、いつかは戦わなくてはならない相手だったのだ。
今戦う事になったとしても、多少戦う時期が早まっただけと考える事も出来る。
それも、今のダグバはベルトも持たない不完全な状態。
一方、自分は金のクウガ相手になら対等以上に渡り合える実力の持ち主。
ダグバがとんでもない化け物だという事は理解できるが、不完全な今ならば、或いは――。

「クソッ……!」

視線をダグバに向け、歯を食いしばる。
どの道生き残るには、もう一つしかない。
恐らくこの化け物を相手にこの場所から逃げ出す事は不可能だろう。
ならば、力を完全に取り戻す前に――倒す。
最早ゲゲルなど関係無い。
自分の番もまだ回ってきてはいないのだ。
バックルに仕込まれた時限爆弾も起動してはいない。
そうだ、生きてさえいれば。この場をやり過ごし、生を繋ぎさえすれば。
更に言えば、不完全とは言えあのダグバを倒したとあれば――チャンスはまだいくらでもある。
これまで勝ち続けて来たのだ。
どんなゲゲルもこなし、ゴまでたどり着いたのだ。
そこに至るまでの自分の道に、狂いは無かった筈だ。
あの時だって、クウガとの戦いだってそうだ。
リント達の邪魔さえ入らなければクウガに負ける事は無かった。
それなのに、ただ一度クウガとリント達に負けただけで、役立たずの烙印を押されてしまう。
自分と戦った後のクウガがどれ程強くなったのかは知らないが、
それだけで低級グロンギを同じ扱いを受けてしまう事が、どうしても我慢ならなかったのだ。

358クウガおかえり14話 ◆RIDERvUlQg:2009/11/23(月) 04:29:59 ID:1Nv/3bw.
 
「ボソギデジャス、ダグバ……ッ!!」
「……待ちなさい、ザザル!?」

声を荒げた。
最早ジャーザの声も耳には入らない。
生きるか死ぬかが掛っているのだ。今だけは自分の判断で動かせてもらう。
ザザルの身体はすぐに変化を初めた。
全身の筋肉が高質化し、頭から爪の先まで、身体の全てが茶色の強化外骨格に覆われた。
腕に装着した長い爪状の武器から、ひたひたと体液が滴り落ちる。
落ちた体液は地面を溶かし、何かが焼ける様な音を発しながら煙を立たせた。
リントの戦士“警察”による公式発表での名称は、未確認生命体第43号。

「オォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

震える自分の身体に喝を入れ、腹から声を絞り出す。
咆哮と共に、闘志を、覇気を、その身に纏った。
ゲゲル最終プレイヤーである、ゴ集団の誇りにかけても。
自らの生の掴み取る。二度目の死を迎える事だけは絶対に御免だ。
だからザザルは、制止しようとするジャーザを振り切って地を蹴った。
その毒爪を振り上げ、ザザルは王に反旗を翻した。


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今回はこれにて投下終了です。
本当に時間が取れなくて、中々執筆が出来なかったのですが、何とか今月中に投下出来ました。
次の投下もそう遠い未来にならないようにはしようと思います。
それでは。

359魔法少女リリカル名無し:2009/11/23(月) 09:04:45 ID:vXl9c7.Y
マスカレード氏GJ!!


しかしまさかの粛正タイムとは。不完全なダグバの力を拝見できるというわけですね。多分アメイジングマイティ程度はあると思いますが、さてさて毒爪グロンギ一人で対抗できるか、楽しみです。

360魔法少女リリカル名無し:2009/11/23(月) 11:08:45 ID:xwhgYp7Q
ラクロア来てたー
これで一月は戦える
今後も楽しみですがとりあえず
>>346に書かれてるけど
アリサ月村家とナイトガンダムのふれあい
自分、これが来たら部屋中転がるのは間違いないです はい

361魔法少女リリカル名無し:2009/11/23(月) 12:46:49 ID:la4upMHQ
GJ!!
ダグバか。
こいつは、ベルトを管理しているプレシアも危険かも。

362リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/23(月) 18:02:47 ID:Tx08Q19w
書き手の皆様投下乙です。
予約もないようなので20:30位に投下させてもらいます

363魔法少女リリカル名無し:2009/11/23(月) 18:54:46 ID:IUAQKcwc
ドゥーエのところに来たのって…サタンがネオに変化するかただのブラックドラゴンかなんだけど
ベビーかキャットか、現状ベビーと思うべきか

364魔法少女リリカル名無し:2009/11/23(月) 19:34:20 ID:J80ZXEEo
高天氏GJであります!
ガンダムはやはり分裂した状態ですか、バーサルの今後に期待しております。
クイント母さんは生存していますけど、ガンダムと再会した時辛そうな予感…
ドゥーエが拾ったのは、アレックスか? それともベビードラゴンか?
一メートルと書かれている辺りベビーの可能性は低いかな?

そしてサタンの登場に時にSSX関連が出た事に驚いております。
イクスも絡むのかな?まだ始まったばかりなので何とも言えませんが…

gdgd失礼しました。今後に更なる(勝手な)期待をさせていただきます!

365魔法少女リリカル名無し:2009/11/23(月) 19:41:32 ID:1fnqdE72
サタンはマリアージュの所に落ちただろ
ドゥーエの所はアルガス騎士団の誰かじゃない?

366リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/23(月) 20:30:54 ID:Tx08Q19w
では投下を始めます。

367リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/23(月) 20:31:49 ID:Tx08Q19w
 それはとある偏狭に置かれた未開の世界での出来事であった。
 何処までも、地平線の向こう側にまで広がる茶色の岩肌。右を見ても左を見ても、岩石層で形成された地面だけが延々と、それこそ限り無く続いている。
 青色に透き通った空には、太陽に似た恒星が一つ、二つ、三つ。上空からは容赦のない、異常なまでの熱線が降り注いでいる。
 加えて硬質の地面からの照り返しも累乗。
 それら条件が相俟った所為か、この岩壁の世界は逆に笑えてくる程の異常な高温に包み込まれていた。

「無理無理無理無理無理無理無理ィ!! ちょっとこれはさすがに無理だってぇ!!」

 人っ子一人、植物の一本たりとも存在しやしない、そんな世界に、ヴァッシュ・ザ・スタンピードはいた。
 その身に纏うは何時も通りの真紅。疾走と共に吐き出すは腹の底からの絶叫。
 彼は逃げていた。全力で、脇目も振らず、両手両脚をフルに活用して。兎にも角にも、逃げていた。

『GyaOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!』

 その後方には甲殻類を思わせる風貌を有した巨大な魔獣が一匹。全長はゆうに十数メートルを越え、その身体は茶色の殻に包まれている。
 余りにデカい。ヴァッシュが住む世界にもワムズという巨大虫が存在したが、それらよりも更にデカい。ヴァッシュが持つ大口径がまるで豆鉄砲に感じてしまう程だ。
 身体の至る所からは、緑色の触手が伸びており、不規則に動いては足元を走るヴァッシュへと叩き付けられる。
 その度にヴァッシュは跳んだり、跳ねたり、撃ったりして回避しているのだが、どうにも反撃の機会は掴む事はできない。
 涙目で逃亡を続ける事しか、ヴァッシュは出来ないでいた。

「だぁーーーー!! だから、お前はでしゃばんなって言ってんだろうが!!」

 そんなヴァッシュに救済の手を差し伸べたのは、炎の如く赤色を三つ編みに結び、ゴスロリドレスを着込んだ少女―――ヴィータ。
 両手に握った鉄槌を振り被り、ヴァッシュを執拗にいたぶる魔獣の顔面へと振り下ろす。
 足元にてちょろちょろと騒ぐヴァッシュへと気を取られていた魔獣は、防御の体勢を取る事すら出来ない。鉄槌は魔獣の眉間を的確に捉え、その動きを止めた。

「あああ、ありがとう! あ、あのままじゃ死ぬところだったよ!」
「うるせぇ! 勝手について来て、勝手に突撃してって、何が死ぬところだっただ!! さっきからゴキブリみたいにちょろちょろちょろちょろとウゼーんだよ!!」
「ゴ、ゴキブリって……」

 そう言うヴィータの瞳には、ウンザリとした色がありありと溢れていた。
 面倒くさい。何故、私がこんな男のお目付役をやらなくてはならないのか。そもそも、どうしてこんな状況になっているのか。
 ……ヴィータはどうしても苛立ちを隠す事ができない。
 苛立ちの表情はそのままに、ヴィータはヴァッシュへ背中を向け、油断なく魔獣と相対する。

368リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/23(月) 20:32:35 ID:Tx08Q19w
(くそっ、何でこんな事になってんだよ……)

 そもそもの始まりはこの男の謎の決断からであった。
 管理局の一員であった筈の男―――ヴァッシュ・ザ・スタンピードが見せた謎の謀反。
 それは守護騎士達を驚愕させ、当惑させた。ナイブズから何を吹き込まれたかは知らないが、それは余りに唐突すぎる展開の変化だった。
 勿論、その言葉を信用する者は居なかったし、守護騎士達は反対した。だが、幾ら反対の言葉を飛ばしても男は飄々とした笑みを崩す事すらなく、頑なに自分の意見を通した。
 それどころか自分を蒐集作業に協力させなければ、全ての情報を管理局側にバラすとさえ言い始めたのだ。
 脅迫としか取る事が出来ない発現に、思わず守護騎士達は口を閉ざしてしまう。実力行使による排除も頭をよぎったが、それもまた困難。
 敵はシグナムを圧倒した男であったし、はやてとの間に交わした『不殺』の約束も足枷となっている。それにどう足掻いたところで、その口を塞ぐ術がないのだ。
 今夜の出来事に関する記憶だけを奪う―――などといった都合の良い魔法も存在しない。
 一番手っ取り早い方法は情報を有するヴァッシュを殺害する事だが、上記の理由によりそれだけは出来ない。
 何処かに軟禁しておく、という手段も考え付いたが……それも余りに非人道的。人間の心を入手し始めた今の守護騎士達には、そんな非情な手段を選択する事は出来なかった。
 ―――結局、守護騎士の面々はヴァッシュの提案を受け入れざるを得なかったのだ。

(くそっ、くそっ、くそっ……! あと少しだっていうのに何でこんな邪魔ばっか入んだよ!!)

 心中の苛立ちをぶつけるかのように魔獣の巨体へと突撃と離脱を繰り返すヴィータ。その表情は苦悩に歪んでいた。
 闇の書の完成まではあと少し。ここ数日は先の負傷によりシグナムが戦線を離脱していたが、ナイブズの手助けもありペースは良好。
 いや、寧ろそのペースは以前のそれよりも上昇している。シグナムが復帰すれば完成の時は更に近いものとなる筈だった。
 上手くいけば12月24日―――クリスマスイブ前の完成すら有り得る。
 はやてがずっと楽しみにしていたクリスマスイブ……それを皆で、元気になったはやてと一緒に迎えられるのだ。それはどんなに楽しい時なのか、想像するだけで頬が緩む思いであった。
 だが、だというのに―――また、難題が立ち塞がる。
 まるで自分達の願いを踏みにじるかのように、ヴァッシュ・ザ・スタンピードが現れたのだ。

(何で……何でだよ……何でこんな事ばっか……!)

 ガシャン、という音と共に、鉄槌から三個の空となった薬莢が排出される。
 カートリッジから溢れ出る魔力を糧にグラーフアイゼンの姿が変化、最強の形態へと強化されていく。
 瞬きの間に鉄槌は何倍何十倍と巨大化し、遂には魔獣と比肩する程の大きさに成長した。

「ギガントォォオオオオオ―――」

 非殺傷設定を解除した、文字通り手加減なしの全力全開の一撃。
 足元にて慌てふためくヴァッシュの事など全く憂慮していない、寧ろ巻き込んでしまおうかという思いが透けて見える、最大の一撃。
 ヴィータはギガントフォルムのグラーフアイゼンを、渾身の力で振り上げる。

「―――シュラアアアアアアアアアク!!!」

 そして、振り下ろす。
 巨大な鉄槌が魔獣を包む硬質な皮膚と接触し、周囲の空気を震撼させる。
 発生するは耳を覆わざるを得ない轟音と、地面に浮かぶ砂埃を巻き上がて形成された砂塵。音が聴覚を支配し、砂埃が視覚を支配する。
 茶色に包容される世界にてヴィータは勝利を確信しながら浮かんでいた。
 そして、その確信は決して間違いでは有らず。魔獣の瞳から光が消失し、その巨体がゆっくりと傾いていく。

「わお! 凄い凄い凄い! やるじゃんヴィータ!!」

 力無く頭を垂れる魔獣の横では、苛立ちの原因が歓喜に騒ぎ立っていた。
 重く、暗い、感情が、ヴィータの心に流れ込む。苛立ちと焦燥感と失望とが組み合わさって造形されるどす黒い感情。
 その感情の正体についぞや気が付く事はなく、ヴィータは唇を噛んだ。今にも泣き出しそうな表情を浮かべながら、次の獲物を求めて移動するヴィータ。
 喧しい紅服も慌てた様子で地面を蹴り、必死に追走してくる。そんなヴァッシュの様子を見て、ヴィータは大きな舌打ちと共に加速する。
 男を振り切るように、身体に宿る苛立ちを振り切るように、風を切って進んでいく。

369リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/23(月) 20:35:06 ID:Tx08Q19w
□ ■ □ ■



 無機質な茶色の世界を、それぞれの想いを胸に駆ける真紅の魔導師と真紅のガンマン。
 そんな二人の様子を空から見下ろす影が一つあった。
 影の正体はナイブズ。この不可思議な事態を引き起こすきっかけを造った男である。
 ナイブズは何処か遠い目でヴィータ達を見詰め、思考に没頭していた。

『……ナイブズ、そっちの様子はどうだ?』

 唐突に、前触れなくナイブズの脳内に自宅で待機しているシグナムの声が響いた。
 念話通信によってもたらされた言葉に、ナイブズは思考を打ち切り現実へと意識を引き戻す。
 光が戻った瞳で遠方にて魔獣と戯れる二人を確認し、心の中で言葉を紡いだ。

『……いや、今のところは何もない』
『……そうか。奴が少しでもおかしな真似をしたら頼むぞ』
『ああ、心配するな』

 今現在ナイブズに化せられた使命はヴァッシュ・ザ・スタンピードの監視であった。
 現在戦闘に出れる守護騎士は負傷中のシグナムとサポーターのシャマルをの除いた三人。その中でヴァッシュに対抗できるだろう存在はヴィータとナイブズのみ。
 だからこそ、この三人組で数多の魔法生物が眠るこの次元世界へと派遣されたのだ。

『ザフィーラの方はどうなっている?』
『少しばかり苦戦しているようだが、シャマルのサポートが効いている。一、二匹は撃破して帰還する筈だ』

 残るザフィーラとシャマルは二人で組み、他の次元世界で蒐集を行っている。
 このような事態に於かれて尚、彼等は蒐集の効率化を優先したのだ。それも偏に、一早く主を救済したいとの思いが影響しているのだろうか。

『……一つ、聞いていいか?』
『……何だ?』

 不意に変化したシグナムの声色に、ナイブズの眉がほんの少し吊り上がる。
 その視線の先では二人の真紅が新たな獲物を発見したようであった。
 獲物は先程の魔獣と同種のものに見える。

『あの時、お前とあの男は何を話していたんだ? 何故あの男は唐突にあんな事を言い始めた?』

 先ず最初に獲物の前に躍り出たのはスピードに優る鉄槌の騎士。
 攪乱の動きも無しに真っ直ぐ、一直線に突撃していく。その速度も累乗された一撃は重く力強い打撃であった。
 顔面に叩き込まれた鉄槌に、魔獣が怯んだかのように身体を震わす。

『……俺達の目的……はやての事を全て話した』
『……なに……? 貴様……自分が何をしたのか分かっているのか!』

 続いて攻撃を行ったのは地を這うガンマンであった。
 鉄槌の騎士が打ち貫いた箇所を、右手に握られた拳銃で寸分違わず狙撃する。
 それも一発ではなく何発も。弾が切れれば直ぐさまリロード。大口径からの速射が十何、何十発と間断なく突き刺さる。
 ……が、その巨大さ故か、魔獣にダメージは見られなかった。

『主の正体が管理局にバレれば、奴等は絶対に主を拘束する! 闇の書も奪取されてしまうんだぞ!』

 しかしながら、ガンマンの攻撃が何ら意味を成さないのかと問われれば、またそれも違う。ガンマンは魔獣に多大な影響を与えている。
 払っても無視しても突っ込んでくるその小蠅の如き攻撃に、魔獣は徐々に苛立ちを募らせているようだった。
 明確な害敵である真紅の守護騎士に集中したくとも、足元の虫螻がチクリチクリと邪魔をする。その状況は魔獣にとってもなかなかに不快なようだった。

370リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/23(月) 20:36:02 ID:Tx08Q19w
『そうなれば主の身体が回復する手だては無い! 主は……主・はやては死んでしまうんだ! それを分かっているのか、貴様は!』

 そして、遂には魔獣の攻撃対象はガンマンの方へとすり替わる。先ずは鬱陶しい雑魚を倒してしまおうとしているのだろう。
 ガンマンの頭上から急迫する緑色の触手。だが、ガンマンは冷や汗をダラダラと垂らしながらも、その一撃を全力疾走+横っ飛びで回避。
 続けて振り下ろされる追撃の触手も、ガンマンは猿回しの猿のように器用な動きで避けていく。

 ―――この瞬間、勝負は殆ど決したようなものであった。

 魔獣の敗因はズバリ地面を這い進むガンマンに気を取られ過ぎた事。
 ガンマンが三発目の触手を回避すると同時に、再び巨大化した鉄槌がその隙だらけの脳天に突き刺さった。

『そう熱り立つな……俺もそう考え無しじゃない、奴の性格を利用したんだ……』

 戦闘の結末を見届けると同時にナイブズはシグナムへと返事を返した。
 呆れを含んだその表情を見る者は居ない。

『奴の性格を……利用……?』
『そうだ、俺は奴の性格を知っている。奴は人の死をとことんまでに忌避する。
 どんなに腐った心を持つ人間だろうと殺そうとはしない。それがどんな状況であってもだ。
 何時までも決断をしようとせず、全てを救おうと行動を続ける』

 そう、ナイブズは完全に把握しているつもりであった。
 ヴァッシュの性格を。誰もが鼻で笑う理念を貫き通そうとするその性格を。把握しているつもりであった。
 だから、はやてと守護騎士の於かれている状況を全て告白した。
 世界の為に罪無き少女を殺すか、罪無き少女の為に世界を殺すか―――その選択を迫る為に。
 理想と現実の狭間で苦悩する弟を見たくて、そして現実を知る事で弟が目を覚ますと期待して―――全てを話した。

 だが、見誤った。
 ナイブズは、ヴァッシュが掲げる信念の深さを完全には見切れていなかったのだ。

 ヴァッシュは易々と決断した。少女を犠牲にするでもない。世界を犠牲にするでもない。だが、最も過酷で困難な道をヴァッシュはノータイムで選択した。
 世界を救い少女も救う……そんな魔法のような選択肢をヴァッシュは選んだのだ。

『寝返ると予測していた……と、いう事か』
『端的に言えばそうだ。此処まで上手くいくとは、思っても見なかったがな』

 虚言を吐き出し続けながらも、ナイブズは頭を悩ませていた。
 厄介な事に、ヴァッシュの信念は悪化の一途を辿っている。百数十年もあの世界を放浪し続けていて、未だに何も学習していないのだ。
 これでは自分とヴァッシュは対立を続けたまま、一生和解する事はない。
 何が此処まで奴の心を縛り付けているのか、此処まで面倒な事に発展しているとは思わなかった。

『……奴を信用して良いのか?』
『……さあな。確信を得たいのならば自分の目で確かめろ』


 歪んだ表情でナイブズは思考する。
 今回の件は、自分の浅薄な思慮が招いたアクシデントだ。多いに自戒する必要がある。だが、しかし、まだ致命的な失敗を犯した訳ではない。
 人類を滅ぼし、強力なナイフを入手する……その為の手札はまだ山のように存在する。
 管理局、守護騎士、闇の書、仮面の男、そしてヴァッシュ・ザ・スタンピード。全ての手札を握っているのは自分のみ。
 これからの行動・選択により未来は幾らでも変貌を見せる。未来はまだ―――自分の手の中にあるのだ。

371リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/23(月) 20:37:16 ID:Tx08Q19w
□ ■ □ ■



 東の空が白み始めた海鳴市に四人の守護騎士と二人の人在らざる者は立っていた。
 彼等が立つ場は市街地に並び建つビル群の一角。それぞれの表情からは濃密な疲労の色が見て取れる。

「いやぁ……ご苦労様でした……こんなハードな事毎日やってんの、君達?」

 無言で佇む守護騎士達の中、気の抜けた声を上げたのはヴァッシュ・ザ・スタンピードであった。
 夜を徹してのドタバタ騒ぎに、彼の顔にもまた疲労がこびり付いている。
 ヴァッシュの言葉に返答をする者は誰も居なかった。その代わりとして敵対心に満ち満ちた視線を送る者は沢山いたが。

「……お前達は先に戻っていろ。私はこの男と話がある」

 視線で合図もしくは思念通話でも行ったのか、そう言葉を発したシグナムを残し、他の守護騎士の面々は重い足取りで出口へと歩いていく。
 それはナイブズも同様。場に残された者はシグナムとヴァッシュだけであった。

「あれ、どうしたの? ん……こんな麗しき女性と二人きりの密談……? ま、まさか!? いや、駄目だって、そんなまだ心の準備ってもんがーーー!!」

 何を想像しているのか気色悪く身をくねらせるヴァッシュ。
 そんなヴァッシュへとシグナムはただ無表情に歩み寄る。

「しかし……いや! 此処で拒絶するのは男が廃る!! さあ来なさい! ヴァッシュの此処は何時でも空いてま―――うぉわ!!?」

 自身の胸元を指差しそう言うヴァッシュに対して、シグナムが取った行動は胴薙ぎの横一閃。
 突っ込みにしては厳しすぎる一撃を紙一重で何とか避けながら、ヴァッシュは情けない叫び声と共にすっ転ぶ。

「イテテテ……いきなり何を―――」

 と、顔を上げたところに烈火の魔剣が突き付けられる。
 鼻面に刺さらんと迫るそれに、ヴァッシュは顔をひきつらせ冷や汗を垂らしながら、両手を真っ直ぐと天へと伸ばした。

「タ、タンマ! 冗談が過ぎたのは謝るからチョット落ち着こう!」

 ヴァッシュの対面に在る烈火の将の瞳は、灼熱の怒りに燃え盛っていた。それはもうヴァッシュにさえ一目で理解できる程にメラメラと。
 ヴァッシュの口から、焦燥に染まった言葉が悲痛な色を含んで吐き出される。そのふざけているかの様子に、シグナムの顔が歪んだ。

「……貴様は何を考えている」
「……へ?」
「貴様の真意を教えろと言っているんだ」

 唐突に告げられた言葉は疑問を意味するものであった。
 ヴァッシュも機関銃の如く排出され続けていた謝罪を一旦中断。シグナムの疑問への解答を頭の中で組み立てる。

「真意、っていうほど大したもんでもないんだけどね。たださ、君達の目的を聞いちゃたからさ……僕には選択できないんだよ、そのどちらもね」

 シグナムは、いやナイブズを除いた守護騎士の一同は、ヴァッシュの事を全く信用していない。
 今回の蒐集作業に同行させたのは、ただ単純にヴァッシュの脅しが効いただけ。ほんの数日前まで鮮血飛び散る戦闘を交えていたのだ、いきなり信用しろという方が無理のある話だ。
 だから、シグナムは問い詰めている。
 この男は何を目的としているのか。それは内部からの瓦解か、それとも諜報でもするつもりか、……万が一にも有り得ない事だが本心からの尽力か。
 その確認をする為に、シグナムはただの一人でヴァッシュと対面していた。

「僕は決断できないんだ。はやてを見捨てて世界を救うか、世界を危険に晒してはやてを救うか……そのどっちかを選ぶ事なんて僕には出来ない。多分一生掛かってもね」

 成る程ナイブズの言った通りの性格だ、とシグナムは呆れを覚えつつも理解していた。とはいえ、これだけの言葉だけでこの男を信用する事は、当然の事ながら不可能であった。
 烈火の剣をその鼻面から退ける事はせず、警戒の面持ちはそのままにヴァッシュを見詰める。
 そして、再び詰問の言葉を投げつけようとしたその時―――シグナムは、ヴァッシュが口にした単語の一つに小さな疑念に思い浮かべた。
 その途端、シグナムの表情に宿る猜疑は困惑により塗り潰されていった。

372リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/23(月) 20:38:26 ID:Tx08Q19w
「ちょっと待て……世界を危険に晒すとはどういう意味だ? 闇の書が完全したとしても主に強大な力が宿るだけ……それ以外の現象は発生しない筈だ」
「……やっぱり知らなかったみたいだね。じゃなきゃ、君達みたいな優しい騎士があんな迷い無く剣を振るう訳がない」

 ヴァッシュは語っていった。
 自身が知る闇の書に関する情報を、実兄が全てを語ったように、守護騎士の将へと語る。
 闇の将が完全したとしても、その主ごと世界を滅亡へと至らせる事を。それを阻止する為に、自分達管理局は戦い続けている事を。
 包み隠さず正直に―――その全てをヴァッシュは語った。

「そんな……バカな……」
「まぁ、詳しい事はこっちも随時調査中なんだけどさ。取り敢えず闇の書の完成と世界の滅亡は、もう幾度となく繰り返されてきた事らしい」

 ヴァッシュから告げられた真実に、シグナムはしばし茫然と言葉を失う。
 破壊と転生を繰り返すロストロギア……それが闇の書の正体。破壊も封印も望めない……最悪のロストロギアと言っても過言ではない代物だ。
 その事実を、ヴァッシュは闇の書の一部である烈火の将へと伝えた。しかし、当然ながらその言葉は―――

「そんな事が……有り得るか!」

 ―――信じられる事もなく、烈火の将に拒絶される。
 当たり前だ。闇の書の一部たる彼女がそのような事実を信じる訳が、信じられる訳がない。
 何より情報の出所もまた、信用ならない敵対組織の一員だ。自分達の戦意を削ぐ為に考えられた虚言という可能性も、多いに有り得る。

「信じる、信じないは君の自由だ」

 ヴァッシュもまた無理に事実を受け入れさせようとはしない。
 そう簡単に自分の言葉を信用してくれるとは思っていないし、何よりこの事実を認めてしまえば、彼女達は今以上の葛藤をする事になる。
 そんな守護騎士達の姿を、ヴァッシュは見たくなかった。だが、この葛藤は近い未来、彼女達に絶対必要となるプロセス。
 だから、告げた。決断の時間が存在する今ならまだ、彼女達に思考の機会を与えられる。
 後戻りすら出来なくなった時点で告げたのでは、余りに遅すぎるのだ。今が、今こそが彼女達に事実を突き付けるチャンス。
 そしてその事実を教えられるのは自分しか居ない。

「ただ約束してくれ。もし闇の書が完成したとして……万が一……いや億が一にでも暴走するような事があれば―――俺達に力を貸してくれ」

 結局ヴァッシュは、ナイブズや彼自身が語ったように決断する事が出来なかったのだ。
 世界を取る事も、少女の命を取る事も、そのどちらも選択できない。彼はそういう性格だ。そうして一世紀半もの長い間、暴力に溢れた砂の惑星を渡り歩いてきた。
 それは余りに甘すぎる理想論。だが、彼はこれ以外の道を知らない。
 誰も殺さず殺させない……それ以外の道を彼はどうしても選択する事ができない。
 だから、彼は突き進んだ。八神はやても、この平穏な世界も、そのどちらもを救済する道を突き進もうと―――決意した。
 その道がどれだけ困難であるかを知りながら、ヴァッシュは不殺を貫き通す。



「力を……?」
「そうだ。多分僕の力だけじゃ、はやてと世界のどちらもを救う事は出来ない。
 でも―――」



 小さく息を飲む彼の瞳には、一縷の迷いも存在しなかった。
 ただ前を見据え、最良の未来を求めて手を伸ばす。



「―――皆が力を合わせれば、絶対に全てを助けられる筈だ」



 それが彼なのだ。
 どんなにか細い希望であろうと可能性がある限り愚直に追求し続ける―――それがヴァッシュ・ザ・スタンピードであった。



「……ま、図々しいけどよろしく頼むよ。あとこれ僕の連絡先ね。取り敢えずのところは君達にも、管理局の方にも協力するつもりだから」

 ヴァッシュは自身の携帯番号が書かれた紙をシグナムへと手渡し、その場を後にする。
 シグナムはそれを止めるでもなく呆けた様子で見送っていた。唐突に注ぎ込まれた重大な情報の数々に、理解がついて行かないのだ。
 ヴァッシュの痩躯が屋上出口の鉄扉に吸い込まれ、姿を消す。

「あ、そうそう」

 と、出て行ったのも束の間、扉から顔だけ突き出す恰好でヴァッシュが戻ってくる。

「心配しなくていいよ。君達の情報を管理局に流すつもりは無い。約束する」

 笑顔でそう残すと今度こそヴァッシュはビルを下っていった。
 残されるは烈火の将が一人。様々な疑問に埋め尽くされた思考を携えながら、シグナムは一人夜天を見上げていた。

373リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/23(月) 20:39:03 ID:Tx08Q19w
□ ■ □ ■



 東の空から降り注ぐ日光により色彩を取り戻していく世界。
 その渦中にてヴァッシュは一人熟考と共に歩を進めていた。口から吐出される真っ白な空気が、幾度となく浮かんでは消えていく。

(レム、俺は間違っているのかな……)

 ヴァッシュもまた自身の選択に対して迷いを捨てきれずにいた。
 自分はまた、どちらの命を選択をするでもなく、都合の良い夢みたいな解法を求めてようとしている。何時ものように、誰も死なせようとせずにこの事件を解決しようとしている。
 ―――自分の裁量を遥かに越えた大事件だというのに、だ。
 あの砂の惑星で発生した事件の数々は、その殆どが自分を台風の目としたものであった。だから自分が上手く立ち回れば、誰も傷付かずに解決する事が出来た。
 だが―――今回の事件は余りに規模が違う。
 あれだけの組織力を持つ管理局がコレ程までに手を焼く存在が闇の書だ。
 闇の書が暴走してしまえば、自分のようなちっぽけな存在がどう立ち回ったところで、収集する事は不可能なのかもしれない。その可能性は充分に有り得た。

(でも……それでも俺は……)

 自分はもしかしたら取り返しの付かない選択をしてしまったのかもしれない。
 でも、言い訳はしない。後悔もしない。はやてという犠牲の上に成り立つ世界など許せない、許したくない。
 あの子には、いや全ての人間には無限とも云える可能性が詰まっているのだ。
 誰も殺さない。誰も殺させない。一人も犠牲も出す事なく、全てを解決してみせる。
 闇の書の暴走も、ナイブズの企みも、全て止めてみせる。

 その為に―――自分は架け橋となる。
 管理局と守護騎士……その強大な力を持つ二つの組織を繋ぐ架け橋に、自分はなる。

 一介のガンマンでしかない自分や管理局だけでは、闇の書の暴走を止める事は不可能かもしれない。
 だが、もし守護騎士の力も合わせれば、僅かであっても希望が出てくるのではないか? 闇の書の暴走を、その世界を滅亡させる力すらも打ち倒せる希望が現れるのではないか?
 そのほんの僅かな希望に自分は賭けて見たい。はやても、世界も、そのどちらもがが助けられる唯一の可能性に―――自分は賭けたい。
 その為の、管理局陣営と守護騎士達が円滑に協力し合える為の架け橋に、自分がなる。
 今までと同じだ。プラントと人類達との橋渡しを続けてきた今までと。

(絶対に死なせやしない……誰も……!)

 新たな決意を胸にヴァッシュ・ザ・スタンピードは歩き続ける。
 数分の歩行の末に辿り着く半日振りの帰還となった高町家。
 そういや色々と連絡するのを忘れてたなと考えながら、その門を潜り抜ける。


「―――居候の身で無断外泊かしら、ヴァッシュさん」


 ―――そして、待ち受けるは笑顔という朗らか仮面の内に憤怒を隠した、高町家のもう一人の家主。
 仄かに殺気すら窺えるその笑顔にヴァッシュもまた強張った笑顔を浮かべ、顔をひくつかせる。
 マズい、と思った時には全てが遅い。この日の高町家は、高町桃子の怒声が目覚まし代わりとなる事になった。

374リリカルTRIGUN ◆jiPkKgmerY:2009/11/23(月) 20:46:55 ID:Tx08Q19w
これにて投下終了です。
結局、ヴァッシュには原作通りの役柄を与えることとなりました。
いかなる場合でも「不殺」を目指すヴァッシュを描写できていたら嬉しいんですが……これが思ったよりも難しいorz
次回は本編とあまり関わりのない、でも後々の話にまで関わる重大な事項を書いていきたいと思います。

あと、タイトルは「裏切りの人間台風/未来に架かる橋」でお願いします。

375魔法少女リリカル名無し:2009/11/25(水) 00:46:08 ID:l0YunyxI
GJ
ヴォルケンが真実を知ったのか。
これどうなるんだろう?蒐集しても破滅し、しなくても破滅って惨すぎる。

376魔法少女リリカル名無し:2009/11/25(水) 08:56:59 ID:.g0ARO0A
リリカルTRIGUN氏GJ

長い間待っていただけに最近の更新ペースは嬉しいです

377魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/11/27(金) 22:55:45 ID:7PxxTZsU
約一月ぶりの登場です。
23:15より新しい話を投下しようと思うのですが、いかがでしょうか?

378魔法少女リリカル名無し:2009/11/27(金) 23:25:01 ID:7PxxTZsU
では、投下を開始いたします。
ちなみに前回と変更点があります。銀の魔神について説明した時、“聖王教会法王”
が登場しておりませんでしたが、まとめにUPする時に付け加えました。
詳しくは、まとめの第二十三話をご覧下さい。
ちなみに法王は「スター・ウォーズ」サーガのヨーダ老師がモデルです。

先史から旧暦の時代まで、ミッドチルダは惑星全体が一つの都市だった。
古代ベルカを滅ぼした大規模次元震に巻き込まれ、壊滅的被害をこうむってから
数百年経った現在では、首都クラナガン及び幾つかの都市やベルカ自治領以外の
地域は、森に覆われた遺跡となって眠りに付いている。
その遺跡の奥深く、崩れかけた廃墟の一角に古い戦闘機が鎮座している。
瓦礫と蔦に覆われかけた機体、数世紀分の埃が積もったコクピット。
どう見ても動くとは思えない戦闘機の計器類が突然光り、エンジンが点火する。
轟音と共に瓦礫が吹き飛び、機体が上昇すると共に蔦が引きちぎられる。
突然の爆音に驚いた、廃墟をねぐらとする生物たちが方々に逃げ出す。
戦闘機は廃墟内をゆっくりと上昇しながら、大出力で信号を発信する。
“こちらは航空参謀スタースクリーム。
我がデストロンの勇士たちよ、時は満ちた! 今こそ総てを焼き尽くす劫火と共に、
我々の存在をこの世界の人間どもに知らしめるのだ!”

突然、席上の空間モニター全部にブロックノイズが生じ、意味不明の文字列が流れ
たかと思うと、“只今回線は使用不能となっております”という表示が現れた。
「何だこれは!?」
長官は戸惑った表情でシモンズ達の方を見るが、彼らも首を横に振るばかり。
NMCCの方を見ると、そちらでも同様の混乱が起こっているのが分かった。
只事ではない様子に部屋を飛び出した長官の後を、なのは達が慌てて追う。
「どうした、何が起こった?」
長官が大声で呼び掛けると、身長2メートル弱の鮫の顔をした技官が駆け寄って返答
する。
「通信が途絶しました。NMCCの通信システムが、総て機能不全に陥っております」
「原因は?」
「判りません、現在調査中で―――」
「お話し中失礼します!」
息せき切って駆け付けて来た、蛸みたいな長いしわくちゃ顔にワラスボの口をした技官
が、話を遮って報告を始める。
「原因が判明しました。タイコンデロガに侵入した“敵”が、ネットワークに仕込んだ
ウイルスによるものであります」
「隔離したのではなかったのか?」
蛸顔の技官は頷くと詳しい説明を始める。
「そのつもりでしたが、ウイルスはOSの一部に姿を変えて潜伏し、政府系ネットワーク
を通じて感染を拡げておりました。
現在、ミッドチルダ全域の地上・衛星通信は、軍・民両方とも使用不能です」
長官は空間モニターを開くと、私用の通信回線に繋ぐ。
使用不能という表示が出ると、今度は専用の極秘回線に接続を切り替えるが、ここも結果
は同じだった。
「長官、まずは念話での通信に切り替えた方が」
ゲンヤ少将がそう耳打ちすると、何を言うべきか考えあぐねていた長官は、落ち着きを
取り戻して頷いた。
「通信が回復するまで、局員間の連絡は念話で行うように。
それから、本局ビル内での魔力の使用も許可する」
矢継ぎ早に命令を下し始めた長官の後ろで、ギンガがシグナムに話しかける。
「シグナム二尉、これが敵の攻撃の第一波だとすると…」
シグナムも厳しい表情で頷いた。
「ああ、第二波はクラナガンと聖王教会…だな」
シグナムはアギトに振り向く。
「ユニゾンが必要になるかも知れん、準備はいいか?」
「旨いものを腹いっぱい食ったから、いつでもOKだぜ!!」
シグナムの問いかけに、アギトはガッツポーズで答えた。

379魔法少女リリカル名無し:2009/11/27(金) 23:31:55 ID:7PxxTZsU
―――8

クラナガン市街には“廃棄都市区画”と呼ばれる、廃墟となっている街区が幾つかある。
ほとんどは先史・旧暦時代の遺跡だが、災害や事故で使用不能になった街区もある。
現在“第29再開発区画”として、大型建機を大量動員して急ピッチで取り壊し作業が
行われているこの街区は、元々は“臨海第8空港”と呼ばれた、ミッドチルダ国内及び
次元世界航行用旅客船へのシャトル発着場であった。
今行われているのは、ディエチがクアットロの指示の下、ヴィヴィオが乗っていたヘリ
を撃墜しようとした29階建て雑居ビルの爆破解体である。
作業自体は滞りなく終わったものの、その後10メートル近くもある巨大ショベルカー
を入れて瓦礫の後片付けを始めた時、異変が起こった。

瓦礫を掬い上げ、重巨大ダンプカーの荷台へ降ろす作業をしていたショベルカーが、
突然動きを止めた。
運転していた三十代半ばの日系人男性オペレーターは、怪訝な表情でギアやアクセルを
操作するが、何の反応もない。
外部に連絡を取ろうとしたが、空間モニターには“只今回線は使用不能となっております”
という表示が出ているだけ。
魔導師資格を持つ彼は、イグニションポートに差し込まれたデバイスに話し掛けた。
「“インフェクター”どうした、何かあったのか?」
「判りません。突然―――」
それに対してデバイスが答えようとした時、耳をつんざくような強烈なノイズ音が席内の
スピーカーから発せられ、デバイスがポートから弾き出されたかのように飛び出す。
面食らったオペレーターがデバイスを咄嗟にキャッチするのと同時に、運転席のドアが開き
、彼は悲鳴と共に外へ放り出された。

デバイスがホールディングネットを展開し、オペレーターは激突死を免れた。
言葉もなく呆然と座り込むオペレーターに作業員たちが駆け寄って来た時、ゴガガギギと
いう奇妙な駆動音と共にショベルカーが変形を始めた。
ブームとアームが二つに割れて横に広がる。
それが腕のような形になって地面へ振り下ろされると、直撃を食らったダンプカーがメチャ
クチャに破壊される。
土煙と共に瓦礫やダンプの破片が盛大に噴き上がり、逃げ惑う作業員たちに降りかかって来る。
両腕を支えにして車体が持ち上がると、キャタピラ部分が上下に移動して車輪の形に変形する。
最後に車体内部が開き、凶暴を絵に描いたような顔が出現する。
身長60メートル近い機械の化け物は、周囲の混乱など意にも介さず、土やコンクリート片
を豪快に巻き上げながら、市街地の方へと走り出す。
ビルドロン部隊採掘兵“デモリッシャー”が顕現した瞬間であった。

380魔法少女リリカル名無し:2009/11/27(金) 23:38:29 ID:7PxxTZsU
市内、郊外、あらゆる場所で車が突然乗っていた人間を放り出し、人型の大型ロボットに
変形を始めたのだ。
信号待ちで停車していた時に放り出された者は幸運な方で、高速道路では運転中いきなり
放り出された人間や、変形したロボットの攻撃によってわずか数分で悲惨な状況となった。
ロボットたちは所かまわず砲撃や破壊活動を始め、管理局が状況の把握に躍起になって
いるうちに、「JS事件」など比にならない程被害は拡大していた。

聖王教会近くの峡谷を、スタースクリームがX型の翼を展開して、水面スレスレの超低空
を音速で飛んでいる。
真正面にダムが見えても、戦闘機は速度を落とさない。
あわや激突すると思われた瞬間、戦闘機は直角に機首を変えて壁面を上昇する。
ダムの上に出た次の瞬間、戦闘機瞬時に人間型ロボットに変形して降りたった。
スタースクリームは、案内人からのデータと周囲の走査結果を照合して、教会及びセクター
7に電気を供給している発電所を確認。左腕を上げると、そこへ目掛けてプロトン魚雷と
呼ばれるまばゆい光の玉を三発発射した。

発電所が爆破される音は微かに聞こえるか聞こえないか程度だったが、教会内総ての照明
が二・三度瞬いた後、フッと消える。
セクター7も同じように明かりが消え、突然の暗闇に周囲の賑わいが一瞬にして途絶える。
すぐに非常灯に切り替わり、明かりが点ると、驚愕の静寂は混乱のざわめきに取って代わられた。
法王は、再び点灯した照明を仰ぎながら、溜息混じりに呟く。
「どうやら、これまでのようじゃな」

魔神の冷却システムを統括する制御室は、非常用電源が切れたために大混乱に陥った。
空間モニターによる通信が使用不能の状況では、頼りになるのは念話と己の目・耳・口で
ある。
伝令役の職員が走り回り、念話がやかましく響く状況下で、職員は必死になってシステム
の故障の原因を突き止めようとする。
その原因であるフレンジーは、施設内のダクトを、誰にも邪魔される事なく縦横無尽に走り
回り、電気設備や冷却システムを片っ端から破壊して回っていた。
例え原因がすぐに判明したとしても、修理が間に合う状態ではない。
ネットワークに直結していない為に難を逃れた“魔神”の冷却状況を示すモニターが、急激
な温度上昇を検知して警報を発し始めた。

「聖下! 魔神を冷却しているシステムが機能不全に陥ったと報告がありました」
カリム達を案内したエージェントが、息せき切って駆け付けると、法王は頷いて指示を
出す。
「奥の院は放棄する。技師及び職員と参拝客を至急教会から退避させよ、教会騎士団も
動員して、可及的速やかに行うのだ」
まるでその声を合図としたかのように、溶けた氷の欠片が魔神から剥がれ落ちた。

法王の指示の下、教会全体に緊急放送が流される。
「参拝客の皆様にお伝え致します、只今奥の院にて非常事態が発生致しました。
法王聖下の命により、皆様は脩道士及び教会騎士の指示に従い、直ちに教会より避難して
下さい。
尚、避難誘導以外の教会騎士は、直ちに奥の院へ集結して下さい」

381魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/11/27(金) 23:42:04 ID:7PxxTZsU
では、今回はこれで以上です。
もうちょっとまとめてカキコできるといいんですが…。

今回のオリキャラの元ネタ。
鮫顔の技官:「海棲獣(D.N.A.Ⅲ)」
蛸みたいな長いしわくちゃ顔にワラスボの口をした技官:「HYDRA」

382魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/11/27(金) 23:56:27 ID:7PxxTZsU
あと、一つ忘れてました。
スタースクリームが擬態しているのは「Xウイングファイター」です。

383魔法少女リリカル名無し:2009/11/28(土) 00:04:31 ID:rqs88Jaw
GJ!!です。
デストロンの戦力半端じゃないな。
短い時間でJS事件越えとか破壊規模が凄すぎる。
人間よりはるかに優れた体を持つ者が、
軍事的に動くとこうなるのか。

384魔法少女リリカル名無し:2009/11/28(土) 10:22:23 ID:7o0hOU9Q
GJです。
六課勢とデストロン、どのような攻防戦が繰り広げられるのか、
そしてどれだけの苦戦っぷりが見られるのかこれからの展開が楽しみです♪

385魔法少女リリカル名無し:2009/11/28(土) 17:10:44 ID:T5EaYO1Y
GJ
何百万年単位で宇宙戦争をやるTFは規模が違いすぎるぜ
初代TFでは放送局の都合やら何やらで妙に間の抜けた連中だったけれども

386魔法少女リリカル名無し:2009/11/28(土) 18:52:21 ID:XhpFt1QA
GJ!
このスタスクはなんてカッコイイんだ!しかもXウイングファイターwwwサンダークラッカーも同型でクルー!?
デストロンはAMF発生器は使用するのだろうか?ドローン部隊展開があるのかも楽しみ。
悠久の時を生きてきたトランスフォーマーの力が炸裂する!

387魔法少女リリカル名無し:2009/11/29(日) 00:34:20 ID:qL2TaNZU
「我々はボークだ。抵抗は無意味だ。お前たちを同化する」ネタをやってみたいが、書き続けるだけの体力がない・・・

388魔法少女リリカル名無し:2009/11/29(日) 13:58:25 ID:CwFpc6jE
一発ねたとか中篇でいいんじゃないの?
無理に長編にする必要はないし。

389魔法少女リリカル名無し:2009/11/29(日) 15:21:37 ID:I6maOij6
本棚を整理してたらロスト・ユニバースとか面白いんじゃないかと思ったり。
まとめを見るにファンタジーよりSFの方がやりやすいんだよね

390魔法少女リリカル名無し:2009/11/29(日) 15:47:59 ID:rCby.b/U
ギャラクシーエンジェルとのクロスもありそうでないよね。

391魔法少女リリカル名無し:2009/11/29(日) 16:04:43 ID:m3Yifmf2
>ありそうでないよね。
つかいけつゾロリとかも?

392魔法少女リリカル名無し:2009/11/29(日) 19:29:30 ID:Yq6tWK1o
冷静に考えたら現時点でのデストロンは研究材料にされてる囚われのリーダーを救出に来たと言える。
>>385
小説版だと数百年が小休止扱いだったからなあ。

393魔法少女リリカル名無し:2009/11/29(日) 20:53:44 ID:m3Yifmf2
>>391
つ魔法先生ネギま!やソニック・ザ・ヘッジホッグもある

394魔法少女リリカル名無し:2009/11/29(日) 21:30:04 ID:YxkAv4Tg
自己レスしてどうする

395魔法少女リリカル名無し:2009/11/29(日) 21:58:50 ID:.oGLkWtA
>>390
昔、アニメサロンにVS的なスレがあって嘘予告みたいな小ネタを見たような……

396魔法少女リリカル名無し:2009/11/29(日) 22:08:10 ID:Yq6tWK1o
紋章機はスペックが超絶レベルだな。
あれって確か1機で宇宙を管理するための機体だったはず。

397魔法少女リリカル名無し:2009/11/30(月) 04:28:32 ID:uaR84ODo
自己レスになるがやるとしたら多くのガンダムネタみたいに紋章機がデバイスになるだろうか?

398魔法少女リリカル名無し:2009/11/30(月) 07:22:20 ID:PqzLf4ak
んじゃ意表ついてジェイデッカー本編終了後?

399魔法少女リリカル名無し:2009/11/30(月) 11:38:55 ID:64fihGH2
>>397
まあ、そんなところじゃない。あとはブレイブハートどうするかかね。

400レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/30(月) 19:55:05 ID:cfmtxKmo
今晩は、予約が無さそうなので20:00頃に第三十四話を投下させて貰います。

401レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/30(月) 20:00:29 ID:cfmtxKmo
では行きます。


 此処はミッドチルダに点在する隊舎内、其処にナンバーズの一人であるセインが存在していた。
 彼女はこの隊舎を破壊する為に赴いており、部屋の隅や柱、壁などに時限式の爆弾を仕掛け、
 最後の爆弾を設置する為にディープダイバーを用いて隣の部屋へと侵入する。
 
 「これで…さ〜いご!」
 
 セインは最後の爆弾を仕掛け終えその場から立ち去ろうとした瞬間、後ろから制止を促す声が聞こえ、
 振り向くと其処には教会騎士団のシャッハが身構えていた。
 
 
                       リリカルプロファイル
                        第三十四話 約束
 
 
 
 「魔導師!?いや騎士か!」
 「大人しく縛につきなさい!」
 
 しかしシャッハの制止を無視して逃げようとしたところ、シャッハはヴィンデルシャフトを起動、
 攻撃を仕掛けセインを壁まで追い詰めると、再度警告を促す。
 
 「ここまでよ、大人しくしなさい」
 「それは、どうかな〜?」
 
 次の瞬間、セインはディープダイバーを起動させて壁をすり抜ける、
 それを見たシャッハは驚く表情を浮かべるが、直ぐに真剣な面持ちとなり、
 全身を魔力で覆うと、セインと同様に壁をすり抜けた。
 
 一方壁をすり抜け隣の部屋に逃げ込んだセインはそのまま立ち去ろうとしたが、
 後方から先程まで対峙していた人物の声が聞こえ、
 驚きの表情を浮かべたまま振り向くと、壁からシャッハが姿を現していた。
 
 「私と同じ能力?!」
 「さあ!観念しなさい!!」
 
 そう言うとシャッハのヴィンデルシャフトのカートリッジを一発消費、刀身を魔力で覆いセインに襲い掛かる。
 だがセインは体に対消滅バリアを張り、左手でシャッハの攻撃を受け止めると、
 続けて右手を握り締め拳を作りシャッハの頭部を狙う、だがシャッハは上半身を仰け反るようにして攻撃を回避した。
 
 しかしセインは続け様に左のジャブを三発、右のフック、左のハイキックを繰り出すが、
 そのこと如くが回避されてしまい、苦虫を噛む表情を浮かべるセイン。
 
 一方でシャッハはセインの攻撃力に対し一般的な魔導師や騎士では一撃でやられてしまうだろうと高評価をしていた。
 だが動きは荒削りで付け焼き刃的な印象を感じ、シャッハの相手としては些か物足りない相手であった。
 
 そしてこの程度の相手にこれ以上時間をかける訳にはいかないと考えたシャッハは、
 カートリッジを二発消費、二本の刀身に先程以上の魔力を乗せると、床を踏み抜く。
 
 「烈風一迅!!」
 
 そして素早くすり抜けるようにしてセインを切り抜け、セインはなす統べなく前のめりに倒れていく、
 しかしシャッハの攻撃は非殺傷設定を設けてある為に命に別状無く、
 素早くバインドを掛けると仲間と連絡を取り、セインを引き渡すのであった。

402レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/30(月) 20:01:38 ID:cfmtxKmo
 一方此処はゆりかご内に存在するスカリエッティのラボ、周囲には生体ポットに保存された検体が並ぶ中、
 メガーヌが入った生体ポットの前には、瞳を閉じ肩にアギトを乗せて佇むゼストを発見したアリューゼ。
 
 するとアリューゼの存在に気が付いたのか、ゼストはゆっくりと瞳を開け、アリューゼを見つめていると、
 アリューゼはゆっくりと、まるで言葉を選ぶかのように話し始める。
 
 「ゼスト…隊長」
 「………かつての部下か?」
 「まさか“覚えて”んのか?」
 「いや…“聞いた”だけだ」
 
 自分には昔部下がいたという事を聞いた事があるだけであると応え、
 アリューゼは静かに佇み暫くすると、ズボンから一つの結晶体を取り出す。
 
 「それは?」
 「今のアンタに“必要”なモノだ」
 
 これを届ける為に此処まで来たと告げると、ご苦労な事だと言いながら笑みを浮かべるゼスト。 
 するとゼストの肩に乗っかっているアギトが信用出来ないと騒ぎ立てるが、ゼストは小さく頭を横に振り、
 アギトを黙らせ、そしてアリューゼが手に持つ結晶体に目を向け、何か引かれるものを感じ受け取ると、
 
 ゼストの額から赤い呪印が姿を現し手に取った結晶体が浮き始め、
 目の前でまるで解凍されるかのようにして光り輝く球体となり、ゼストに吸い込まれ赤い呪印が消える。
 そして暫く辺りは静寂が包み込むと、ゼストはゆっくりと言葉を口にし始めた。
 
 「……久し振りだな、アリューゼ」
 「隊長!記憶を!!」
 
 アリューゼの問い掛けに頷き静かに答えアギトは目を丸くする中、ゼストはアギトに目を向け微笑む。
 それはつまり昔のゼストの記憶と今のゼストの記憶、両方を持っている事を意味し、
 
 人が変わった訳では無いと知ったアギトは嬉しそうにゼストの周りの飛び回り、
 アリューゼもまた嬉しそうな表情を見せるが、直ぐに一変する。
 何故ならばゼストの左肩がまるで爆発でもしたかのように飛び散り、血が滴れ落ちたのだ。
 
 「やはり…もう限界か……」
 「どういう事だよ!隊長!!」
 
 元々ゼストの肉体はレザードによって損傷していた、だがそれをスカリエッティの手によって修復された。
 だがそれだけではなくレリックとリンカーコアの強制接続により肉体を強化させたのだが、
 
 その代償に肉体の劣化が早く進行する事になり、更に今回の戦いにより肉体の劣化は限界に達し、
 いよいよ肉体の崩壊が始まったのだと、左肩を押さえながらゼストは語る。
 
 「クソッ!そんなのアリなのかよ!!」
 「……アリューゼ、構えろ」
 
 アリューゼが悔しがる表情を見せている中、ゼストはデバイスを起動させると徐に構え始める。
 ゼストの肉体は死を待つだけの状態である、ならばと最後にアリューゼとの模擬戦を望んでいた。
 
 だがそれだけではない、たとえ本人の意思では無いとしても今回の事件に加担した、
 その罪は償わなければならない、故にゼストはアリューゼと対峙する事にしたのだ。
 
 するとゼストの意志を汲んだアリューゼはデバイスを起動、バハムートティアを肩に構え大きく間を取り始める。
 そして静かに構えている中でアギトは立会人として二人の間に立ち、ジッと身構えていた。

403レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/30(月) 20:02:40 ID:cfmtxKmo
 暫く静寂が包み込み、二人は集中力を高め呼吸を合わせ始める、
 そしてお互いの呼吸が合わさった瞬間、カートリッジを一発ロード、
 ゼストが飛び出すようにアリューゼに迫り槍を振り上げる中、アリューゼはゼストに背を向けるほどまでに振りかぶっていた。
 
 『うおおおおおおお!!!』
 
 互いの気合いがこもった叫び声が重なり合いゼストは槍を振り下ろし、アリューゼもまた叩き斬るようにして振り下ろした。
 そして互いの位置が反転すると、アリューゼの左肩から血が吹き出す、
 一方ゼストは槍を二つに断ち切られ胸元に深い傷を与えていた。
 
 デッドエンド、相手に背を向ける程までに振りかぶり一気に振り抜く、
 アリューゼが扱う技の中で最も扱いが難しく、また最も威力のある技である。
 
 「旦那ぁ!!」
 
 立会人であるアギトがいても立ってもいられず駆け寄ろうとしたが、
 ゼストは左手を向けて制止を促すと、振り向き右拳を握り殴りかかる。
 
 するとアリューゼはバハムートティアを肩に構えながら振り向きカートリッジを二発消費、
 刀身は熱せられたかのように真っ赤に染まると刀身をゼストに向けて突撃、
 ゼストの身を貫くと大きく振り上げ、ゼストは爆炎に飲み込まれた。
 
 そして辺りはファイナリティブラストによって燃え盛っていた炎が落ち着きを見せていく中、炎の中央では体に火が付いたゼストが佇み、
 アリューゼに小声で「強くなったな…」と述べると、ゼストの姿を発見したアギトは泣きじゃくりながら駆け寄る。
 
 「旦那!今炎を――」
 「いや、このままでいい……」
 
 既に肉体は死に絶え後は醜く崩壊を待つのみ、それを知ったアリューゼは、
 ゼストに対しせめての手向けとして火葬を行ってくれたのだと、
 アリューゼの計らいに感謝する気持ちで応え、右の人差し指でアギトの涙を拭き取る。
 
 「だから泣くな、それに…お前が望む使い手に出会えたのだ」
 「旦那……」
 
 アギトの能力である炎変換資質はアリューゼの技と相性も良いし彼なら良く扱ってくれるであろうと語り、
 ゼストの言葉に口を紡ぎながら涙をまた浮かべ、ゼストは小さく笑みを浮かべると、今度はアリューゼに目を向け言葉を口にする。
 
 「アリューゼ…メガーヌを頼んだぞ!!」
 
 ゼストの最後の言葉にアリューゼは小さく頷くと、安心したのか微笑みを浮かべ、
 炎が顔まで覆い全身を包み隠すと、まるで消えるようにしてゼストは燃え尽きていった。
 
 …そしてアギトは大声で泣きじゃくり辺りに響いていく中、
 アリューゼはアギトに目を向け静かに…問い掛けるかの様に言葉を口に始める。
 
 「…お前はどうする気だ?」
 「…ヒック…旦那の…最…後の望み…なんだ……だから!!」
 「…そうか」
 
 アギトは右腕で涙を拭い決意ある瞳で答えると、アリューゼはメガーヌの入った生体ポットを見上げる、
 …生体ポットの中にいるメガーヌは心無しか悲しそうな表情を浮かべているように思えた。

404レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/30(月) 20:05:30 ID:cfmtxKmo
 場所は変わり此処は聖王教会付近に存在する森の上空、
 其処ではなのはとヴィヴィオが熾烈な争いを繰り広げられていた。
 
 なのはは既にブラスター1を起動させており、ヴィヴィオもまたレリックの一つを起動させている状況であった。
 その中でヴィヴィオは先ず五発の虹色のディバインシューターを作り出し、
 
 なのはに向けて螺旋を描く軌道で撃ち抜くが、なのはは縫うようにして回避、
 更に体を右回転させながらアクセルシューターを五発ヴィヴィオに向けて撃ち抜く。
 
 しかしヴィヴィオは臆する事無くアクセルシューターを身に覆った虹色の膜で次々に弾いていきなのはに押し迫る、
 聖王の鎧、古代ベルカの王が持つ遺伝子レベルに所有する防衛能力で、攻撃・防御共に高い効果を持つ資質である。
 
 そしてヴィヴィオは左手を握り締め拳を作ると真っ直ぐなのは目掛けて振り下ろす、
 だが、なのははアクセルフィンを全開にして後方へ移動、ヴィヴィオの攻撃を回避した。
 
 だがヴィヴィオは右手をなのはに向けると手には虹色の魔力球が握られており、加速しているように見えた、
 そして右手に二つの環状の魔法陣と足下に円状の魔法陣を張ると―――
 
 「ディバイン…バスタァ!!」
 
 ヴィヴィオは虹色のディバインバスターを撃ち放ち、なのはに迫る中すぐさまレイジングハートを向けてショートバスターを撃ち抜く、
 だが威力が違う為見る見るうちに圧されていくがカートリッジを一発ロード、
 威力を高めディバインバスターと変わらぬ威力にてヴィヴィオのディバインバスターを相殺して終わる。
 
 先程放たれたディバインシューターに今のディバインバスター、
 本来ベルカの人間は接近に特化した者が多く、射撃系は牽制程度が殆どなのであるが、
 ヴィヴィオの放った魔法は十分な威力を誇っていた。
 
 恐らくヴィヴィオは資質として魔力の射出・放出を持っているのであろう、
 だがそれだけでは無くベルカ本来の接近にも十分順応しているとみるなのは。
 そしてヴィヴィオの能力の分析終えたなのはは本来の目的である説得を促す。
 
 「ヴィヴィオ聞いて!ベルカは対話による道を選んだ!もう争う事なんて無いんだよ!!」
 「戦わぬベルカなどベルカではない!そしてあんなものを融和と呼べるものか!!」
 
 元々ベルカは戦い勝ち取る事で強く、また大きくなっていった、言うなればそれが矜持、
 それを忘れてただ相手の望むまま思うがままの行動をとるなどと融和とは呼べない、
 そんなものはただの植民地支配に過ぎないと力強く答える。
 
 「それもこれも今のベルカには王がいないからだ!だからこの私が生まれたのだ!!」
 
 そして生まれたからには自分の使命を逐わなければならない、
 ヴィヴィオの使命、それは即ちベルカの威光を復活させる事、その為ならば自らを兵器になる事すら厭わない、
 
 そう語るとヴィヴィオは右拳を握り締めなのはに殴りかかるが、
 なのははプロテクションを張り防ぐと、続け様に何度も叩き付け始め今度はなのはが言葉を口にする。
 
 「違う!ベルカは敗戦後自分達の考えを改めた!その結果が今のベルカなんだよ!!」
 
 誰かに強要されたわけでも無く、ましてやミッドチルダに支配されていた訳でもない、
 敗戦後生き残ったベルカの人々が自ら考え選んだ道であり、ミッドの人々もそれを受け入れた、
 
 その結果、強力な指導者が必要としなくなり、聖王もまた、
 宗教的な意味合いとなったのだろうと応えると、ヴィヴィオは震えるようにして言葉を口に出す。
 
 「ならば…私は何の為に生まれてきたのだ!!」
 
 そして両拳に雷を纏わせ合わせると地上に向けて一気に振り下ろし、
 なのはのプロテクションを破壊、一気に地上に叩きつけた。
 プラズマアームと呼ばれるバリア破壊効果を持つ雷を拳に纏わせて攻撃する近接魔法である。

405レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/30(月) 20:07:52 ID:cfmtxKmo
 
 だがなのはがゆっくりと立ち上がり森の中に身を隠すとカートリッジを二発消費、ヴィヴィオ目掛けて次々とアクセルシューターを撃ち抜く。
 一方ヴィヴィオの目線では、なのはの姿が見受けられず森の中から続々とアクセルシューターが襲いかかり、
 
 聖王の鎧にて攻撃を防いでいく中、左手に巨大な魔力球を作り出し、森の中へと投げ込む、
 そして魔力球が森の木々に触れた瞬間、一気に拡散し無数の虹色の魔力弾が辺りの木々を次々に薙ぎ倒していった。
 
 セイクリッドクラスター、対象に接触もしくは目前で爆散し、小型の魔力弾を広範囲に渡ってばらまく圧縮魔力弾である、
 しかもヴィヴィオの魔力と資質によって小型の魔力弾も相当な威力を誇っているのである。
 
 「…いないか」
 
 セイクリッドクラスターが撃ち込まれた場所は木々が薙倒れ大きく円を描いており、
 今度は他の場所に左手を向けてセイクリッドクラスターを次々に撃ち込んでいく、
 
 その頃なのはは森の中で木々が倒されていく事に警戒し、
 上空を見上げるとヴィヴィオの周りにセイクリッドクラスターが五発用意されている事に気が付く。
 
 「ならば!この森ごと葬ってくれる!!」
 
 次の瞬間五発のセイクリッドクラスターはある程度の距離を置いて撃ち放たれ、
 森の目前で次々に爆散、無数の魔力弾が驟雨の如く迫ってきていた。
 
 それを目撃したなのははオーバルプロテクションを張り攻撃に備えると、
 無数の魔力弾は次々に木々を薙ぎ倒し、辺りは見通しがよい風景へと変貌する。
 
 ヴィヴィオはその風景を目を凝らして見つめなのはの姿を探していると、
 倒れいる木々の中から桜色の防御壁に守られたなのはが上空へと向かっていくのを発見、
 
 するとヴィヴィオはソニックムーブを用いて押し迫ると左のプラズマアームで防御壁を破壊し、
 更に右手をなのはに向け拳から直射砲を撃ち抜く、
 インパクトキャノン、近接戦闘における砲撃で、射撃系魔導師にとって重宝する魔法である。
 
 そしてインパクトキャノンを撃ち抜いたヴィヴィオはその先を見つめると、
 其処にはなのはが矛先を向けており、その姿にヴィヴィオは警戒していると、
 
 なのははブラスター2を起動、更にA.C.Sドライバーを発動させて一気に加速、
 ヴィヴィオに突撃するがヴィヴィオの聖王の鎧が自動的に発動、なのはの攻撃を受け止める。
 
 だがなのはは臆する事無く突撃を続け、先端部分から魔力素が火花のように散り聖王の鎧にひびが入ると、
 すかさずカートリッジを三発消費、すると先端部分の魔力刃が強く輝き出す。
 
 「エクセリオン!バスタァァァ!!」
 
 なのはの叫びと共にエクセリオンバスターは撃ち放たれヴィヴィオは飲み込まれていき、
 撃ち放った先を見つめると、エクセリオンバスターを耐え抜いたヴィヴィオの姿があり、
 その足下にはミッド式の魔法陣が張り巡らせ、右手をなのはに向けると、虹色の魔力が流星のように集い始める。
 
 「まさか!それは収束砲!!」
 「自分の技をその身に受けるが良い!スターライトブレイカァァァ!!」
 
 そう叫ぶと虹色のスターライトブレイカーが撃ち放たれ、なのははラウンドシールドを張り攻撃に備えた。
 だがスターライトブレイカーの威力は、なのはの想像よりも高く、
 
 徐々に圧されていきラウンドシールドにひびが入り砕けると、そのまま飲み込まれていった。
 そして暫く辺りを静寂が包み込む中、撃ち抜かれた後にはなのはの姿が現れる。

406レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/30(月) 20:09:40 ID:cfmtxKmo
 収束砲の使用は流石になのはも驚きの表情を隠せないでいた、
 何故ならヴィヴィオが使用した収束砲はなのはのそれと全く同じ技術を用いられていたからである。
 
 おそらくはホテル・アグスタ戦並びに地上本部戦の際に使用したなのはの収束砲を、
 レザードもしくはスカリエッティが解析し、その後ヴィヴィオにもたらしたのだと思える。
 
 …それは奇しくもなのはの技術がヴィヴィオに母から子へと引き継がれた事を意味していた。
 そして収束砲を受けたなのはは、まるで疲れ切った表情を浮かべていると不敵な笑みを浮かべるヴィヴィオ。
 
 「少し…オイタが過ぎるんじゃないかな?ヴィヴィオ」
 「……この期に及んで、まだ母親面をするつもりか!」
 
 自分とは血が繋がってはおらず、既に親子関係すら絶たれている、その事をいい加減理解しろ!
 …とヴィヴィオは睨みつけながら語るが、なのはは大きく首を振り強く否定する。
 
 なのはと兄恭也そして姉美由希とは血が繋がってはいない、
 だがそれでも家族として暮らしていた、血の繋がりが重要なのではない。
 
 一緒に笑い合い泣き合い、時には叱られたり喧嘩したり、
 心を許せる存在、それが家族であり仲間であると力強く言葉を口にする。
 
 「ヴィヴィオ!本当の望みはいったい何なの!!」
 「わっ私の望みはベルカの復興―――」
 「違う!聖王としてじゃなくヴィヴィオ“本人”の望みだよ!!」
 
 聖王とはあくまで役目・役職、個人を指し示すものでは無い、
 故にヴィヴィオの本当の望みは違うと考えていたなのはは強く問い掛ける、
 するとヴィヴィオの中で何かが砕け散った音が響き、俯き暫く静寂に包まれると、静かに言葉を口にする。
 
 「私の本当の望みは………な――」
 
 ヴィヴィオが自分の想いを告げようとした瞬間、両手で頭を押さえ苦しむ表情を見せると、
 体から大量の虹色の魔力が放出、その勢いと輝きになのはは右手で光を遮りながら目を凝らしていると、
 
 額に赤い呪印が浮かび上がり胸元からレリックが二つ現れ、レリックには赤い五亡星の陣が刻まれていた。
 ヴィヴィオのリンカーコアには王の印であるレリックを二つ繋がれていたのである。
 
 するとレリックはヴィヴィオの両手袋に備え付けてある結晶体に取り込まれ、
 結晶体に五亡星が浮かび上がると両腕から虹色の魔力が放出し体を纏うと、
 瞳から光が消え険しい表情のままヴィヴィオはなのはを睨みつけていた。
 
 なのははその変貌に戸惑っていると、ヴィヴィオはソニックムーブを発動、
 一瞬にしてなのはの懐に入ると左拳が鳩尾に突き刺さり、引き抜くと同時に左に一回転、
 左の肘が脇腹を突き刺し、よろめきながらなのはが一歩下がると右のアッパーがなのはの顎に突き刺さる。
 
 そして上空に跳ねられると左拳を胸に叩きつけそのまま縦に一回転すると同じ場所に右の踵落としを叩き込み、
 なのはは勢い良く地上に激突、その衝撃は木々をへし折り地面に大きなクレーターを作り出した。
 
 だがなのはは立ち上がりクレーターの中央でA.C.Sドライバーを起動、一気に加速して突撃するが、
 ヴィヴィオは左手に虹色の魔力を纏い、なのはの魔力刃が聖王の鎧に接触する瞬間を見計らって弾くと、
 
 そのままの勢いを利用して左回転からの右の肘打ちを叩き込もうとしたが、
 全方向性のオーバルプロテクションを張っていたようで攻撃を防がれる。

407レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/30(月) 20:14:25 ID:cfmtxKmo
 ところがヴィヴィオは左の魔力を雷に変えプラズマアームを発動させると、躊躇無く振り抜きバリアを破壊、拳が背中に突き刺さる。
 だが攻撃はまだ終わらず右拳からインパクトキャノンを撃ち出し、飲み込まれながら吹き飛ばされるが、
 なのははブラスター3を起動、それによって生み出された魔力を使ってインパクトキャノンをかき消した。
 
 「……ヴィヴィオ」
 
 今までのヴィヴィオとは全く異なる、まるで機械のような無慈悲で正確な動き、
 それは表情を一切変えない事でまるで兵器を相手にしている印象を強く感じ、
 なのはは戸惑う様子を見せるが、已然としてヴィヴィオは険しい表情のままなのはを睨みつけていた。
 
 するとヴィヴィオの瞳から一筋の涙が流れ落ちる、その涙はまるでヴィヴィオの抵抗にも見えていた。
 ヴィヴィオは助けを求めている、そう感じたなのはは決意を秘めた瞳で応える。
 
 「助けるよ……何時だって…どんな時だって!!」
 
 そしてなのははカートリッジを全て消費、レイジングハートをヴィヴィオに向け更に囲うように四基のブラスタービットを設置して魔法陣を張ると、
 ヴィヴィオもまた両手で四カ所かざし魔法陣を張り、最後に真っ正面に大きな魔法陣を張ると両手を水平に構える。
 すると両者の魔法陣に魔力素が流星のように集まり出し、五つの収束砲を作り出すと、なのははレイジングハートを振り上げた。
 
 「全力!全開!!スターライト…ブレイカァァァァ!!!」
 
 なのはの叫びと共にレイジングハートを振り下ろし、ヴィヴィオは両手を合わせて向けると両者のスターライトブレイカーが撃ち放たれ、
 辺りを桜色と虹色の魔力光で照らし、魔力素が火花のように散りながら収束砲はぶつかり合っていた。
 
 その中で足を踏ん張り堪えている両者、その衝撃はまるで台風をその身で浴びるように強力で必死な形相で耐え抜いた。
 両者のスターライトブレイカーの威力は互角な状態、膠着状態が暫く続き、なのはの額には汗が浮かび上がり、
 それでも尚、ヴィヴィオを助ける為に撃ち続けていた。
 今度こそ助ける、あの時…地上本部の時に約束した事を今こそ果たす為に…

 だが徐々になのはのスターライトブレイカーが押され始める、
 今のヴィヴィオには自分の意志とは関係無く、両手に繋がれているレリックのエネルギーを、
 直接引き出し魔力に変えて撃ち抜いているのである。
 
 それを可能にしているのが額に浮かび上がった呪印で、ルーンの一つでありヴィヴィオの変貌もまたこの呪印が原因なのであるのだが、
 不死者などに刻まれているルーンとは異なりある行動をとると、それをきっかけにルーンは発動、
 対象の行動を支配・制御し、また思考を停止させて敵対象を殲滅する為の兵器へと変貌させる呪印なのである。
 
 この呪印を施したのは勿論レザード、彼はもしも洗脳が解けた場合に備えて保険として施したのである。
 つまりこの呪印とレリックを破壊すればヴィヴィオは元通りなるという事でもあった。
 
 だが兵器と化したヴィヴィオはなのはですら押されてしまう程の実力を持ち、
 スターライトブレイカーも徐々にだが、確実になのはが押され始めていた。
 
 「くぅ!……後もう少し…もう少しで助けられるのに!!」

408レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/30(月) 20:14:59 ID:cfmtxKmo
 カートリッジは既に消費済み、懐には予備のカートリッジが存在しているが今から交換する事も出来ない…
 というより余裕が無いのだ、それ程までになのはは切羽詰まっていたのである。
 
 たがなのははこの状況にも関わらず希望を捨ててはおらず、不屈の心は折れてはいなかった、
 するとなのはの腰に備え付けてあるミリオンテラーがなのはの意志に呼応するように輝き出し、
 白銀の魔力がなのはの体を包み込むと、今まであった負担が一気に軽くなりリンカーコアも活性しているのを感じていた。
 
 「これは!?助けてくれるの?」
 
 突然の助太刀に驚くも感謝を浮かべ、力強く正面を向く、
 今の状態ならイケる…そう確信したなのはは力強く叫んだ。
 
 「ブレイクゥゥ…シュウゥゥゥゥゥトッ!!!」
 
 次の瞬間、体を纏っていた白銀の魔力がスターライトブレイカーに混ざり合い螺旋の模様を描きながら、
 ヴィヴィオのスターライトブレイカーに激突、見る見るうちに押し返していき、とうとう撃ち破った。
 
 そしてヴィヴィオの体は飲み込まれていくと、額の呪印がまるで風化するようにして消滅、
 すると両手に取り込まれていたレリックが現れ、ひびが入ると砕け爆発した。
 
 
 そして撃ち終えたなのはは肩で息をしながら目先に向けると、
 其処には少女の姿に戻ったヴィヴィオがおり、体には聖王の鎧が纏っていた。
 
 どうやらレリックの爆発に反応して発動したらしく、ヴィヴィオの体は奇跡的に無事なようである。
 するとヴィヴィオの体に纏っていた聖王の鎧がゆっくりと消えていき落下し始めた。
 
 「ヴィヴィオ!!」
 
 なのははすぐさまヴィヴィオの元へ駆け寄り、ヴィヴィオの体を抱き抱え地上に降りると、
 その温もりに気が付いたのかヴィヴィオは意識を取り戻す。
 
 「……なのはママ」
 「…ヴィヴィオ!無事だったんだね!」
 
 なのははヴィヴィオの無事な姿に力強く抱き締め大粒の涙を零す、
 するとヴィヴィオは今までの恐怖から解放された為か、
 それともなのはに抱かれ安心したのか大粒の涙を零しながら、なのはに抱きつく。
 
 「…ごめ…んな゛…さい……な゛の゛は…マ゛マ」
 「もう…大丈夫だから……もう…安心していいんだよヴィヴィオ…」
 
 
 
 ヴィヴィオは泣きじゃくりながら何度も謝り、そんなヴィヴィオの姿を優しく抱き締め受け止めるなのはであった……

409レザポ ◆94CKshfbLA:2009/11/30(月) 20:16:22 ID:cfmtxKmo
 以上です、ヴィヴィオ編終了ってな回です。
 
 
 セインが噛ませ犬化していますが、相手はシャッハ、
 更に本人はサボってばっか…まぁ仕方がないって事で一つ。
 
 
 次はレザードVS三賢人を予定しています。
 
 
 それではまた。

410魔法少女リリカル名無し:2009/12/01(火) 21:10:06 ID:KRwOleYI
GJ
しかし、セイン不憫すぐる、、、でもないか

411魔法少女リリカル名無し:2009/12/01(火) 22:53:25 ID:6i9AIV9I
GJ!
これはいいお話。
次回ついにレザード様のご出陣だー!

412魔法少女リリカル名無し:2009/12/05(土) 00:18:41 ID:wH62SdMM
ライダーとウルトラマン以外の特撮クロスはほとんどないんだね。
リュウケンドーあたり、ライダーよりもクロスしやすそうなのに。やっぱり知名度か。

413魔法少女リリカル名無し:2009/12/05(土) 01:44:44 ID:1hUY7DPo
リュウケンドーはいいな。最初はなのは勢に見劣りするけど、
最後にはぶっちぎるくらい強い

414魔法少女リリカル名無し:2009/12/05(土) 02:50:05 ID:.LzWOD82
特撮とのクロスか…
恐竜戦隊コセイドンとのクロスを読んでみたいな〜
…ってマイナーすぎるか、コセイドンはw
タイムGメンと時空管理局、人間大砲とかネタが絡めやすそうなんだけどねwww

415魔法少女リリカル名無し:2009/12/05(土) 12:37:40 ID:1dFdJFZ.
ガイバーの降臨者が古代ベルカの奴らって妄想が時々でる。

416魔法少女リリカル名無し:2009/12/05(土) 13:13:08 ID:XPsCC9nE
ビーロボカブタックやテツワン探偵ロボタックとかもアリかも
スターピースとかロストロギア的な重要アイテムだし

417魔法少女リリカル名無し:2009/12/05(土) 13:23:14 ID:wH62SdMM
特撮といえば,後は牙狼―GARO―が好きだったな。今、ちょっとずつクロス書いてる途中。
ライダーと戦隊くらいしかろくに知らなかった当時は、CGもアクションも衝撃的だった。
やっぱり金がある特撮はいい。

418魔法少女リリカル名無し:2009/12/05(土) 13:32:00 ID:sHFzQmQ.
分かった全次元を消滅できる力を持つビーファイターカブトのカブテリオスとクワガタイタンの出番だな?

419魔法少女リリカル名無し:2009/12/05(土) 13:51:31 ID:1IDeEmio
それよりなによりメカ生体の続きが気になる。。。

420魔法少女リリカル名無し:2009/12/05(土) 21:10:54 ID:GytfWexg
DARKERTHANBLACKの対価じゃないほうのコミックス読んで思ったんだがハーヴぇストの分解能力って魔法やバリアジャケットも分解できるんじゃね?

421魔法少女リリカル名無し:2009/12/05(土) 21:26:25 ID:wH62SdMM
対価じゃない方って岩原版だよな?
可能なんじゃない? ここのSSでは黒の真の能力でBJを変換してたな

422魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 09:45:43 ID:tfg1vPOU
>>415
特撮映画あったよな
海外作品で黒歴史扱いらしいけどw

423魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 12:29:03 ID:dTePk0T2
特撮だと俺はグリッドマンかな。
カーンデジファー様がグリフィスのPCに取り憑きデバイス工場やAIの製作所をソフト面から壊してくとか…
そしていざ起動するとバグってバリアジャケットが生成されず真っ裸、下着だけになる事件が多発みたいな感じで

424魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 13:27:39 ID:DxD4VcvY
>>422
酷かったよw
高周波ブレードがプルプルしてるし。明らかにゴム製。
メガスマッシャーは、突風発生器。

425魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 13:49:27 ID:243k57LU
>>416
キャプテントンボーグが戦いを仕切るわけですね、わかります

426魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 14:49:28 ID:sd7GFOOU
>>417
並のホラーなら新人達でも倒せないことはないだろうが、確か鎧召喚した騎士じゃないと封印できないんだっけ。
武装錬金のホムンクルス然り、こういう敵がデフォの作品は扱いが難しそう。

427魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 15:21:10 ID:VAc91Cn6
倒すために条件が必要な存在……仮面ライダー剣のアンデッドも封印できるのはジョーカーだけ。
しかしそれを人為的に可能にしたのがライダーシステムがありますが、問題は封印のためのシステムを管理局側にもたらす事が出来る誰かが現れるか、でしょうね。

428魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 17:29:32 ID:tfg1vPOU
腹筋崩壊的なクロスって何かあるかね?
最近だとセクシーコマンドから大気圏離脱〜突入までやらかしたベヨネッタとかあるけど
あれの頭は冷えそうにもないなw世界観的にはいけそうな気もしなくもないけど
同製作者が作ったビューティフルジョーとかもそうだけど、最初と最後の規模が違いすぎるのが何とも

429魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 17:47:54 ID:R4CE7zAY
超次元サッカーことイナズマイレブン。
あのくらい突き抜けた必殺技が飛び交うサッカーなら、リリカル世界を相手にしても戦い抜けると思うのですが。

430魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 19:12:03 ID:DbWIa0UA
>428
とりあえず鋼鉄の咆哮(特殊任務主体)。
葉巻に尻を掘られたり、大人の事情により絶対に姿を見ることとの
できない1匹見かけたら30匹いる戦艦と戦ったり。
最後にイカと戦うことになったりといろいろとカオス。

431魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 19:16:01 ID:1P7dHoNU
ドゥーエの相手チームメイト成りすまし
トーレの光速ドリブル
チンクのゴールポスト爆破
セインの4次元サッカー

うん、違和感ないな

432魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 19:25:37 ID:C/xlz0Xg
ふと思いついたネタ
ギャグマンガ日和の5つ子大家族なナンバーズ。

戦闘機人の出来を見に来たレジアスに見たきゃ捜せというスカ博士。
なんとか意地で全員見つけたと思いきやクアットロはドゥーエの変装で
本物はシルバーカーテンで隠れてた。

433魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 20:02:32 ID:tghpC0IY
>>431
悪いがナンバーズレベルでは地区予選突破も不可能。

434ロクゼロ ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 22:48:46 ID:RQ6HRkfM
23時半から投下予約。
今回は相当長い&ちょっとした発表があります。

435魔法少女リリカル名無し:2009/12/06(日) 23:19:30 ID:DxD4VcvY
>>428
べヨネッタとリリカルをクロスさせたら、
なのはたちのBJに対してグッサリ言いそうだ。

436ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:34:06 ID:RQ6HRkfM
それじゃあ投下します。

437ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:35:36 ID:RQ6HRkfM
 最終決戦を目前に控え、その前哨戦に近い戦いが始まろうとしている次元空間を、二条の光が駆け
抜けていた。
 青と桜、二つの異なる色と輝きを発する光は、戦場を目指して一直線に飛び続けている。光の片方
は魔導師のようだが、もう片方は違う。両者共に並の魔導師や騎士では不可能な速度で次元空間を進
んでおり、そもそも艦艇などを使わず、生身で移動すること自体が尋常ではない。
「間に合うかな……?」
 輝く光の片割れが、併走する相手に声を掛けた。どちらかといえば独り言のようなもので、明確な
答えなど求めていなかったに違いないが、問われた相手は律儀にも口を開いた。

――判らない。だけど、戦いはもう始まっているはずだ

 可能な限りの“迅速”を持って突き進んではいるものの、それでも半日遅かった。管理外世界から
急行に急行を重ね、途中で連れを信頼できる人物へと預けはしたが、本来ならば今より一段階前に彼
らと合流するつもりだったのだ。
「やきがまわったね。長く戦場を離れてると、感覚が鈍って使い物にならなくなる」
 八神はやての性格からいって、機動六課がこのような選択肢を選ぶことは予想出来ないではなかっ
たのに、上手く対応することが出来ず、後手に回ってしまった。合流するだけの時間的余裕がなかっ
たとはいえ、事前に連絡をするなどいくらでもやりようはあったはずだ。そうすれば、六課も今少し
楽に戦うことが出来たかも知れないのに。
「って、これはちょっと自己過信が過ぎるかな」
 例え自分がどう動いたところで、大局を変えることなど出来はしない。それが出来ると思っている
奴は、思いこみによる勘違い、自己過信をしているに過ぎないのだ。今回のことにしても、最悪の場
合、一つ前の段階で機動六課が壊滅していた可能性もあるのだ。そんなところに自分がのこのこと現
れても、話にならないだろう。今はどうにかして事前に果たせなかった合流を果たし、彼らの、機動
六課の力になってやることが先決だった。

――どうやら、戦闘が始まったようだ

 青い光から発せられた言葉に耳を傾けると同時に、前方の空間から魔力の波動が伝わってきた。ま
だかなり距離があるはずなのに、しっかりと感じることが出来る。
「この魔力……はやてちゃんの」
 機動六課総隊長自らが戦う事態にまで発展しているというのか。

――もう片方は、オメガだ。まさか、この状況で出てきたのか

「急ごう、手遅れになる前に」

 桜色の光りを放ちながら、魔導師は低く呟いた。



          第二一話「意志を継ぐ者」

438ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:37:18 ID:RQ6HRkfM
 凄まじい魔力の波が、次元空間を震わせていた。空間そのものが鳴動し、嵐が吹き荒れているかの
ような感覚。これほどの力が、一個人の魔導師から発せられているなど、誰が信じられようか。
 だが現実には、距離があろうと、次元航行艦の艦内にいようと、高まる魔力の巨大さをその身で実
感せざるを得ないのだ。
「アースラが、はやてさんの魔力で震動してる……!」
 艦橋のモニターではやての様子を確認していたティアナが、圧倒的なまでの魔力に感嘆と畏怖の声
を上げていた。
「す、凄い……」
 同じくティアナと共に艦橋に詰めるスバルも、同様の感想を抱いたようだ。二人は総隊長としての
八神はやてを尊敬こそしていたが、実際に彼女が戦うところを見るのは初めてなのである。まさか、
魔力を解放させただけでこれほどまでとは想像もしていなかった。
「いいえ、こんなものではありません」
 二人の言葉に異を唱えたのは、弱りながらも艦橋で主の戦いを見守るリインである。既に戦えるだ
けの力は残っていないのだが、六課が最終決戦に突入しようというときに、医務室のベッドで寝てい
ることなど彼女には出来なかったのだ。
「夜天の主としての力を解放させたはやてちゃんは、もっともっと魔力を高めることが出来るんです。
この程度、まだ序の口です」
 アースラの艦体を揺らすほどの魔力も、夜天の力の一部に過ぎない。リインの言葉は、艦橋に詰め
ていた隊員たちの声を失わせた。フェイトを除いて、はやての実力を知る者があまりに少なかったの
である。
 ゼロもまた例外ではなかった。鋭い視線でモニターを眺めているゼロは、アースラの魔力計を振り
切らんばかりのはやてのパワーに率直な驚きを憶えていた。底知れぬ女だと思ってはいたが、それで
もフェイトより強いということはあるまいと思っていたらしい。実際にフェイトとどちらが強いのか
は知らないが、計測される魔力値だけなら彼女を凌駕する勢いだ。
「だが、相手はオメガだ……どう戦う?」
 はやては機動六課はおろか、時空管理局に名だたる魔導師の一人である。魔導師ランクもSSとずば
抜けて高く、当代最高と言っても過言ではない。しかし、はやてが当代最高なら、オメガは史上最強
の救世主だ。ゼロでさえ敵わなかった相手に、どのような戦い振りを見せるのか。
 ゼロは視線をフェイトに向ける。モニターを眺めていた彼女はそれに気付き、小さく頷き返してき
た。大丈夫と、はやてのことを信頼している表情だった。

439ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:39:02 ID:RQ6HRkfM
 一方、オメガの出撃と、それを迎え撃つべくはやてが迎撃に出てきたことは、時の庭園のスカリエ
ッティも知るところとなった。単独出撃という勝手な行動に出たオメガに対しスカリエッティは顔を
顰めたが、まさか連れ戻すわけにもいかない。手近なスクリーンに戦場の映像を映させると、興味深
そうな表情でそれを注視していた。半ば、こうなることを予期していたのかも知れない。
「はじまったか……相手は八神はやて。なるほど、夜天の主か」
 ここにきて、機動六課は最強の戦力を前線へと投入してきたことになる。六課の若手などとは桁も
レベルも違う魔導師であるが、それが自ら出撃して来るというのはスカリエッティにも意外であった
らしい。
 古代ベルカについても研究熱心なスカリエッティは、当然の如く夜天の主たるはやてのことも調べ
ている。歩くロストロギアと呼ばれる彼女の存在と、夜天の書を初めとした数々のレアスキル。絶大
な魔力や魔力知識は、かつての聖王には及ばぬものの、限りなく近い位置にまで到達しているものと
推測される。
「だが、魔力量の高さがイコールで本人の実力とは限らない。私の調べた限り、八神はやては対人戦
闘で必ずしも強い存在であるとは言えないはずだ」
 対人戦闘に長けたフェイトと違い、はやてのそれは制圧力に富んだ攻撃であるとされている。絶大
な魔力から放たれる“派手”な技の数々は、大軍を薙ぎ倒し、拠点を吹き飛ばす制圧戦にこそ有効で
あるが、単一の戦闘には不向きのはずだ。しかも、元々の身体能力が高いとも言えず、幼少期は病弱
だったこともあってか近接戦闘においてはフェイトなどと比較して天と地の差があるだろう。だから
こそ、それを補うために自身を守護する騎士たちがいるのである。
 そんな彼女が、近接戦闘ではフェイトすらも上回る実力を持つオメガと戦おうとしているというの
は、スカリエッティにとっては理解できない、自棄にしか見えなかった。勝てるわけがないと、戦う
前から断言できるほどだ。
「なにか、必勝の策でもあるのかな?」
 勝ち目のない戦いに、好んで挑んでくるような女でもない。なにかしら策を用意しているのか、そ
れともやはり自棄になった結果なのか。
 スカリエッティは本来であれば、迫り来る機動六課に対する迎撃準備をしなければならない立場に
あった。だが、彼はスクリーン越しに行われる戦闘を注視し、目を離すことが出来ないでいた。結果
が分かり切っているとはいえ、古代ベルカ最高の遺産と、異世界が誇る伝説の救世主が戦おうとして
いるのである。好奇心のうずきを止められるわけもない。迎撃準備の指揮をセッテとディエチに丸投
げし、彼は時間の許す限り観戦を決め込んだ。呆れてものも言えない、と思われそうであるが、元か
らこういう性格の持ち主であることはナンバーズも理解していた。ただ、ルーテシアでさえ各種準備
に追われている中で、一人だけオメガの戦いを見物しているなど少し節度に欠けるのではないか? 
セッテと違い、スカリエッティにいい感情を抱いていないディエチはそのように思ったが、口に出し
てはなにも言わなかった。スカリエッティが他のことに気を取られている方が、彼女にとっても都合
は良かったのである。
 スカリエッティは戦闘の映像を時の庭園中に流していた。誰に気を使ったというわけでもなく、面
白いものはみんなで共有しようという彼にしては珍しい発想からであったという。これによって軟禁
中のシエルや、オメガの部屋で蹲っていたギンガも、戦闘を観ることが出来た。スカリエッティ本人
は自室のソファにふんぞり返って優雅に観賞していたが、その手にポップコーンやコーラといった飲
食物はなかった。この男ならそれぐらい用意しそうなものであるが、さすがにそれは気が引けたとい
うか、遠慮したらしい。

 そして、戦闘が始まった。

440ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:40:45 ID:RQ6HRkfM
「さあ、始めようか」
 はやてが叫ぶと同時に、彼女の周囲に血の色をした硬質の短剣が出現した。浮かび上がった三〇本
の短剣は、その切っ先のすべてをオメガへと向けている。
「刃以て、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー!」
 短剣が撃ち放たれ、オメガへと降り注いだ。魔力で精製された剣といっても、硬度は鋼のそれと同
等である。実体化し、鋼の短剣となったそれは、常人には視認も出来ぬであろう速度で発射されオメ
ガへと迫った。迎え撃つオメガはバスターを持って敵の速射に対抗するが、彼の連射速度を上回る本
数の短剣が降り注ぎ、砲火は一瞬のうちに貫かれた。
 オメガはビームサーヴァーを引き抜くと、迫り来る短剣を斬り払った。高出力の斬撃が鋼の短剣を
砕き散らすも、やはり数が違う。捌ききれなかった数本がオメガの装甲を打ち付け、直弾と同時に爆
裂する。
「爆裂式か」
 並のレプリロイドであればこの一撃で破壊されているだろうと、冷静に敵の攻撃を分析するオメガ。
痛みを感じていないのか、それともこの程度は痛みの内に入らないのか。斬撃に耐え抜き、反撃の砲
火をはやてに向けようとするも、はやての行動はオメガのそれより早かった。即座に第二の短剣を精
製し、鋼の雨を降らせたのである。相手に反撃の隙も与えない、間断ない波状攻撃。連続して降り注
ぐ短剣に、さすがのオメガも押され気味となる。
「フン、この程度で」
 バスターをチャージして、オメガはチャージショットで敵の波状攻撃に対抗した。チャージショッ
トは降り注ぐ短剣の雨を突き抜け、はやてに襲いかかった。
「そらきた!」
 この攻撃をある程度予期していたはやては、防御魔法を持ってチャージショットを弾き飛ばすと、
瞬時に反撃を行った。またもや鋼の短剣を精製したのだが、今度はその出現箇所が大きく違う。それ
まではやての正面に出現していた短剣が、今度はオメガの周囲に現れたのだ。彼を囲むように、その
切っ先を向けながら。
「吹っ飛べ、似非救世主」
 突然切り替わった攻撃パターンに、オメガは反応が遅れた。四方八方から放たれた短剣が直撃し、
爆裂がオメガの身体を包み込む。避ける間もなければ、防ぐ手段もない。オメガがここまで直接的な
攻撃を喰らったのも、この世界では初めての経験だろう。
「少しは効いたか……?」
 数に任せた波状攻撃は、本来ならばフェイトが得意とする戦法である。防ぐことも避けることも出
来ない攻撃で敵を押し潰し、叩き潰す。攻撃としてはむしろ正攻法に位置するが、それだけに成功率
も高い。はやては単調な攻撃を連続させてオメガに攻撃パターンを刷り込み、それを劇的に変化させ
ることで彼の防御を突破したのだ。
 威力は元から高く、直撃したからにはある程度のダメージを期待しても良いはずだ。はやてはそう
考えたが、その思考を突き破るかのように爆発で生じた煙から爆光が飛び出してきた。
「ダメかっ」
 チャージショットの塊を、はやてはギリギリのところで避けた。当たれば一発で落とされていたで
あろう、強烈な砲火。

441ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:41:34 ID:RQ6HRkfM
「チマチマと小技のうるさい女だ」
 避けられたことに軽く舌打ちしながら、オメガはそう呟いた。バスターを構えたその姿は、はやて
の攻撃を受ける前となんら変わりがない。つまり、無傷ということだ。
「化け物が、どういう装甲の強度しとるんや」
 掠り傷一つ付いていないのは、さすがに予想外であった。それともオメガは強力なバリアでも持っ
ているのだろうか。僅かな焦りを見せるはやてに、オメガはつまらなそうに口を開いた。
「それほど難しいことではない。貴様の攻撃が当たる寸前、我も同等のエネルギーを解放させたに過
ぎん」
「私の攻撃を、相殺したのか……」
「小技を消し飛ばすことなど、我には容易いことだ」
 爆光に輝く右掌は、おそらく滅閃光を使った跡だろう。相殺されたエネルギーが爆発を起こしたよ
うだが、その程度で怯むようなオメガではない。即座に左腕をバスターに変形させ、はやてに反撃を
行ったのである。
 再びビームサーヴァーを手に持ち、その剣先をはやてへと突き付けるオメガ。
「夜天の主の力とは、こんなものか」
 威勢良く挑んできたからどれほどのものかと思ってみれば、小技の連続で敵の意表を突く程度のこ
としかできないのか。オメガの眼はそう語っており、それは相手の自尊心を傷つけるに十分だった。
 不思議なことに、はやては人がオメガに感じるであろう恐怖心のようなものを抱いていない。彼と
相対したとき、誰もがその圧倒的パワーに怯え、怯み、逃げ出したくなるというのに、このときのは
やてはむしろ偉大なる救世主に挑戦したい衝動に駆られていた。戦士として、魔導師として、ここま
で強大な相手と戦う機会は滅多にない。オメガの言葉は安っぽい挑発に過ぎないだろうが、それを受
けて取ってしまいそうになるほど、はやての気分は高揚していた。久しぶりの実戦に、彼女の中でな
にかが目覚めたのだろうか?
 忘れていた飢えや渇きを思い出し、激しく求め始めた獣。はやては自分に渦巻く戦意を抑えるのに
必死だった。
「まだまだ、古代ベルカの力を侮って貰っては困るな」
 はやてが片手を上げると、先ほどの倍以上、一〇〇本を超えるであろう鋼の短剣が出現した。その
数の多さに、小技であると小馬鹿にしていたオメガの表情も僅かに変化する。

「単なる小細工かどうか、その身で味わえや!」

 一〇〇を超える血色の剣が、オメガへと撃ち放たれた。


「提督、援護しなくて良いんですか?」
 やや緊迫した声で尋ねられた問いに、クロノは無言だった。
 はやてとオメガの戦闘が行われている区域から、かなり後方の位置までクロノ艦隊は後退している。
艦体の再編は既に済ませており、再出撃することも可能である。敵と激闘を繰り広げるはやてを援護
し、オメガを倒すことに協力すべきではないかと、クロノの幕僚はそう言いたいのだろう。
「我が艦隊の兵力は少ないですが、それでも敵は単騎、倒せないはずはありません」
 それはオメガの力を知らない者の台詞だった。クロノとて実際に見るのは初めてのはずだが、かつ
ては戦闘要員として度々戦場に出ていた彼である。オメガの実力が、自分の艦隊程度なら軽く蹴散ら
してしまうものであることを正確に理解していた。不用意に手を出せば、返り討ちに遭うことは間違
いない。第一、援護するといって小回りの利かない艦隊で一騎打ちを繰り広げる両者に割って入るの
は難しい。はやてとの間に高度な連携が取れているのならまだしも、そうでないのだから、さしたる
効果も期待できないだろう。

442ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:42:42 ID:RQ6HRkfM
 とはいえ、ただ黙ってみているわけにもいかないはずだ。今のところ両者の戦闘は互角に展開され
ているようにも見えるが、いつ戦況が急転するかなど判らない。ここは戦闘態勢を整え、いつでもは
やてを助けられるように隊列を揃えておくべきではないか?
「陣形を組み直す。即応態勢を取って待機だ」
 クロノの命令で艦隊は隊列を整え、如何なる状況にも対処できる陣形へと組み直された。それは少
ない数ではあるが戦利に適っており、よく考えられたものだったが、どちらかといえば攻撃的な陣形
に見えた。
 ところがクロノの判断は、三人の人物の怒りを買った。時空管理局本局でことの成り行きを見守る
三提督が、命令なきままに攻撃態勢を取っている理由はなにかと、激しく詰問してきたのである。
 クロノはこれに対し、必死で説得を行った。
「あのオメガという敵は、スカリエッティが赦免状を要求した中には含まれておらず、また、無差別
に攻撃を行う恐れがある大変危険な存在です。小官は艦隊を預かる身として、将兵の安全を第一に考
えねばならない立場にあります」
『それで? ならば撤退すればいいだろう』
「撤退、ですか」
 三提督の発言を、信じられないような顔で見返すクロノ。
『確かにあのオメガというロボットは、スカリエッティが赦免状を要求した一覧にはいなかった。だ
が、彼の同士であることには違いない。これを我々が攻撃するということが、どれほど危険なものか
貴官にも判っているはずだ』
 つまり、手を出すなと言っているのか。
「し、しかし、それでは機動六課は……」
『オメガとやらが“裏切り者”を始末してくれるというのなら、それに越したことはないではないか。
手間が省けて、却って都合が良いというものだ。我々はスカリエッティの要求を呑んだし、約束は果
たした。機動六課は裏切り者ということで処理し、管理局と関わりがないとすれば、奴も文句は言う
まい』
 吐き捨てるような言葉に、クロノは納得できるはずもなかった。結果として引き下がったのは、管
理局の重鎮たる三提督に歯向かうだけの気概がなかったからだろう。それでも機動六課を見捨てるこ
とには迷いを憶え、彼は幕僚たちに相談した。
「閣下は艦隊指揮官でいらっしゃいますが、作戦行動における全権は三提督がお持ちになっておりま
す。これを無視すると言うことは、艦隊に所属するすべての将兵に負担を強いることになるでしょ
う」
 そう、飛ぶのはクロノの首だけではないのだ。指揮下の将兵に罪はないといっても、見せしめとし
ての処罰ぐらいはするだろう。クロノは艦隊司令官として、彼らに対する責任も負っているのだ。
 クロノは沈黙し、司令官としてどのような決断をするべきか悩んでいた。かつての仲間、友人、そ
して義妹。六課に対する感情は、口で説明できるような者ではない。
「陣形はそのままに、現状待機だ」
「閣下……」
「戦闘宙域には、先ほどオメガの攻撃を受けて航行不能となった幕艦がいる。我が艦隊には、彼らの
救助を行う義務と責任がある。そうだろう!?」
 救いを求めるかのような声に、幕僚たちはただ頷くことしかできなかった。

443ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:43:52 ID:RQ6HRkfM
 百数本にも上る血色の短剣が、旋風となって吹き荒れている。旋風はそれを受ける者の身体を打ち
付け、爆発という鮮やかな光を空間に照らし出す。攻撃は一方的なものであり、応射も応酬も許さな
いと言わんばかりに、第二撃が行われた。戦いの女神は、先に主導権を握った者により多くの微笑み
を見せる。故に自らが持つ力に優越し、誇示し、女神を振り返らせなくてはいけない。
 だが、自分には女神の微笑みなど必要ないと、そう考える者もいる。 
「破ァァァァァッ!」
 相手に女神の加護があろうとなかろうと、それごと斬り裂いてでも勝利をつかむ。オメガはビーム
サーヴァーを振り上げると、短剣を弾き飛ばしながらはやてへと斬り掛かった。当たれば一撃で相手
を斬り倒す、凶暴なる斬撃。
「おっと、危ない」
 しかし、はやてはそんなオメガの斬撃を飛行魔法であっさりと避けた。オメガとの間に十分な距離
を取り、もう何度目となるか判らないブラッディダガーの短剣を出現させる。放たれた短剣は確実に
オメガへと直撃し、獰猛な野獣を痛めつけていく。野獣は怒り狂い、はやてを引き裂かんと迫り来る
のだが、はやてはそのこと如くを避け、かわし、徹底的な長距離戦闘を仕掛けていた。
 この勝負、単純な実力の上でならオメガに圧倒的な分があった。如何に強大な魔力を有する夜天の
主といえど、一騎当千の覇者であるオメガに敵うわけもない。猛り狂う斬撃の前に、為す術もなくや
られるはずだった。何故なら、はやては接近戦においてオメガに対抗する手段を持ち合わせてはいな
いのだから。
「なるほど、上手く考えたな」
 声に感嘆の色を混ぜながら、スカリエッティが呟いた。彼ははやての狙いがなんであるか、戦闘を
注視する中でいち早く理解したのである。
 オメガは確かに強い。その圧倒的なパワーを持って、彼はあらゆる敵を、強者と呼ばれる者たちを
一撃の下に屠ってきた。実力は最強と断定して良いほどであり、それは夜天の主をも上回る力のはず
だった。
「だからこそ、オメガは夜天の主に苦戦している」
 守護騎士シグナムを破り、魔導師フェイト・テスタロッサを下し、英雄ゼロをも倒したオメガの力
は、主に接近戦に特化したものである。一撃必殺の斬撃は、当たれば即座に敵を粉砕する威力を持っ
ているが、当たらなければなんの意味もない。どんなに強力な攻撃も、避けられてばかりでは効果を
発揮しないのだ。
 はやては、自分が接近戦を不得意とし、相手が接近戦の覇者であることを最大限に利用した。相手
の斬撃を食らわない位置に身を置き、ひたすら長距離からの攻撃を仕掛ける。反撃しようにも、相手
の破壊的パワーははやてまで届かず、まずは距離を詰めるために移動をしなくてはいけない。
 不安定な次元空間であってもオメガの移動力は減殺されておらず、飛燕脚は自分と敵の距離を詰め
るのに問題ない力を持っていた。けれど、オメガに出来たのはそこまでだった。彼が“直進”を持っ
て正面からはやてに迫れば、彼女は即座に中空へと“飛行”して、その身をかわす。追撃のためのバ
スターを放っても、すぐさま角度を変えて攻撃を逃れる。オメガは追いかけるが、上下左右縦横無尽
に飛び回るはやてを、捕捉することが出来ないのだ。
 はやてとオメガの決定的な違いは、機動力の差にあった。圧倒的な力を有するオメガは果敢に敵を
攻めるが、はやては自身の機動力を最大限に活用し、オメガの浸透を阻み続けていた。
 オメガは“浮遊”することはできても“飛行”することが出来ず、“直進”することは出来るが“
曲折”することが出来ない。はやてはそれを見抜いたからこそ、徹底的な長距離戦闘を強いて、力ず
くで戦闘の主導権を握ったのである。思えば、シグナムにしろフェイトにしろ、オメガが倒してきた
のは接近戦を得意とする勇者たちだ。ゼロにしても同じことで、オメガが接近戦で無類の強さを誇る
ことが判っているのなら、なにもこちらがわざわざ相手の土俵で戦ってやる必要はないではないか。
 はやての策は功を奏し、効果は絶大であった。今やオメガは貫くことの出来ない赤い布を追い続け
る、勢いだけの牡牛のようになっていた。

444ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:45:32 ID:RQ6HRkfM
「あのオメガを翻弄するなんて……」
 戦闘を見つめていたシエルが、想像もしていなかった光景を前に唖然とした声を出していた。信じ
られないが、認めるしかない。オメガは確実に押されている。はやての攻撃に対応できず、反撃も出
来ぬままに打たれ続けているのだ。
 言ってしまえば相性が悪かったのだろう。当初、接近戦の術を持たないはやてこそが不利だと思わ
れていた戦闘であるが、逆転の発想によってそれは覆された。オメガも長距離攻撃は出来るのだが、
近距離攻撃ほど得意なわけでもなく、ましてや機動力を持って戦場を飛び回るはやてが相手なのだ。
そう易々と砲火を当てることも出来ないだろう。
「もしかしたら、勝てるかも知れない」
 単調な攻撃の連続とはいえ、塵も積もれば山となる。今はまだ耐えているようだが、あれだけの爆
裂を受け続けて平気なわけはないのだ。やがてはオメガも負荷限界を迎えて、倒れてしまうのではな
いか? 現実として想像できるようなものではないが、忘れてはいけないことがある。オメガは決し
て、“倒せない敵”ではないのだ。かつてゼロが勝利したように、オメガは無敗にして不敗の王者な
どではない。攻撃を喰らえばダメージを受けるし、戦闘が長引けば疲労も見せる。桁が違うとしても、
限界は必ずある。夜天の主なら、それが出来るかも知れない。
 それは淡い希望に過ぎなかったのかも知れないが、このときシエルは純粋にはやての勝利を祈って
いた。

 激闘にも幕引きはある。夜天の主八神はやてと、救世主オメガの戦いにも終幕が近づきつつあった。
数百、数千という短剣の雨を浴び続けたオメガの身体が、徐々にではあるが動きを鈍らせてきたので
ある。確実に攻撃は命中しており、シエルが推測したようにダメージが装甲の負荷限界を超えようと
しているのだ。
「まったく、タフな奴や……」
 だが、ひたすらブラッディダガーを放ち続けたはやての顔にも、疲れの色が見え始めている。元々
持久戦を行うつもりはなく、短期決戦を目的としている彼女であるが、どうやらスタミナが切れ始め
ているらしい。何度打ち倒しても立ち上がり、衰えることのない勢いで迫ってくるオメガを避け続け
るのは、体力的にも精神的にも著しい負担となっている。早いところ決着を付けなければ、戦局が覆
される恐れもあるのだ。
「数千で倒れへんなら、数万で倒したるわ!」
 ブラッディダガー、血色にして鋼の短剣がはやての周囲に浮かび上がる。彼女より低い位置でそれ
を見つめるオメガは、繰り返されてきた攻撃にもはや怒りを見せることもしなくなった。小細工であ
るにせよ、相手の戦略が自分を苦しめている、その事実を認めないわけにはいかなかったのだろう。
 降り注ぐ短剣を、オメガはそれまでと違う方法で迎え撃った。
「オリャァッ!!」
 拡散斬撃波アークブレードが放たれ、五つの斬撃波が短剣を蹴散らした。爆発と爆風、両者の視界
は遮られ、はやての攻撃は相殺という形で終わった。オメガはそのまま反撃の態勢を取り、瞬時にバ
スターのエネルギーをチャージした。

445ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:46:12 ID:RQ6HRkfM
「最大出力で葬り去ってやろう」
 高まるエネルギーが空間を揺れ動かし、フルチャージバスターが撃たれようとしている。はやても
その反応を感知していたが、何故だか彼女はその場を動こうとしなかった。直撃すれば、自身の身体
を跡形もなく消し飛ばすであろう砲火を目の前にしているというのに。
「消え去れ、夜天の主よ!」
 オメガが叫び、フルチャージバスターが発射される寸前、

 突如として、オメガの身体を氷結が襲った。

「馬鹿な、身体が――」

 動かない。
 オメガの身体が氷結し、バスターのエネルギーが奪われていく。オメガが睨み付けた先には、四つ
の立方体を周囲に従えたはやてがいた。オメガを包む氷結の冷気と同じく、冷たい表情を浮かべてい
る。
「仄白き雪の王、銀の翼以て、眼下の大地を白銀に染めよ。来よ、氷結の息吹!」
 はやての持つ広域凍結魔法、氷結の息吹。発生させた四つの立方体から氷結の魔法を放ち、対象が
持つ熱源を奪い去り凍結させる。それはオメガのフルチャージバスターも例外ではなかった。オメガ
は既に自分の意志では指一つ動かせない状況へと、追い込まれてしまっていた。

「これで終いや、救世主オメガ」

 はやての表情に、勝利を確信した者の笑みが浮かんでいた。


 敗北寸前まで追いつめられたオメガを、彼の部屋でギンガが見つめている。スカリエッティやシエ
ル同様、彼女もまた二人の戦闘を眺めることが出来た一人だ。
「あれは氷結の息吹、広域空間を丸呑みするほどの凍結魔法……」
 ギンガの声には、僅かな焦りが含まれていた。殊更どちらの勝利を望んでいたわけでもない彼女で
あるが、まさかオメガがここまで苦戦するとは思っていなかったのだ。いつしかオメガの圧倒的な力
は、先入観となって彼の勝利を疑わせないものになっていた。
「このままオメガを封印する、違う、そんな生易しい相手じゃない。あの人は、そんな決着を良しと
するような人じゃない」
 八神はやてという魔導師をよく知るギンガだからこそ、次に彼女がどのような行動に出るのか、そ
れが判っていた。既にはやては、確実にオメガを倒しに掛かっている。容赦ない攻撃を持って、彼に
敗北の二文字を叩き付けるだろう。はやてには、夜天の主にはそれが出来る。
 ギンガはオメガの勝利を望んではいなかった。彼が勝つと言うことは自分の望みが、自分がゼロと
戦うという目的が潰えることを意味している。だからといってはやてに勝って欲しいとも思いはしな
かったが、少なくとも自分がオメガの勝利を願うことは、おかしいことのはずだった。
「オメガ……」
 無意識に、ギンガは指で自分の唇を触れていた。現実としてオメガが追いつめられている光景を目
の当たりにして、自分が平静を保っていられないことに彼女は気づき始めていた。このまま行けばオ
メガは負け、ゼロと戦うという自分の望みは叶うはずだった。なのに、それなのにどうして、
「負け、ないで」
 震えた声で呟きを漏らすと共に、ギンガは顔を伏せ蹲ってしまった。
 結局のところ、彼女はオメガの勝利を望んではいなかったが、彼に負けて欲しくも、なかったので
ある。

446ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:47:29 ID:RQ6HRkfM
 ギンガの読みは当たり、はやてはオメガを凍結魔法による封印などという結果で終わらせるつもり
は毛頭なかった。動くことの出来なくなった救世主に対し、はやては怒濤の攻撃を仕掛けたのである。
彼女は本当に、ここでオメガを倒してしまうつもりであった。
「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ――」
 呪文の詠唱が始まり、膨大な魔力が展開された魔法陣へと結集していく。氷結による封印を解こう
ともがき苦しむオメガの前で、はやては悠然と魔力を高め、攻撃を行うとしているのだ。そても、も
っとも威力の高い、超長距離砲撃魔法によって。

「フレースヴェルグ!」

 大出力の魔力弾が発射され、オメガに直撃した。

 八神はやてが、機動六課が、スカリエッティにシエル、そしてギンガが見つめる中で、救世主オメ
ガの身体が宙を舞った。砲火に吹き飛ばされ、声を上げることすら出来ずに、彼の身体は投げ出され
たのだ。赤き装甲は砕け散り、身体中にある損傷箇所は数えきれるものではなかった。
 救世主オメガが、敗れようとしていた。少なくともはやては、夜天の主はそう信じていた。
「トドメや!」
 今の一撃で決着は付いた、誰もがそう思う中で、はやては更なる追撃を行った。自身が持てるすべ
ての魔力を注ぎ込み、救世主オメガという存在をこの世から消し去ろうとしたのだ。
 オメガの足下にベルカ式の魔法陣が浮かび上がった。

「デアボリック・エミッション!!」

 空間作用型の広域殲滅魔法。夜天の主が持つ莫大な魔力を使った、純粋なる魔力攻撃。この力に包
み込まれた者は、跡形も残らず消滅してしまう最強の技である。
 そしてオメガは、避けることも防ぐことも出来ない。
「闇に沈め、救世主オメガよ」
 自身の魔力、そのすべてを使った殲滅魔法。強大なる破壊の力は、救世主を丸ごと飲み込んだ。オ
メガにはもう、抗うだけの力は残されていないだろう。彼は、ここで消え去る。
「私の、勝ちや!」
 八神はやての、夜天の主の勝利だと、誰もがそう確信した――

「いや……」

 はずだった。

447ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:48:44 ID:RQ6HRkfM
「我の、勝ちだ」

 はやての勝利を突き破るかのように、裂光の柱がデアボリック・エミッションを貫いた。圧縮され
た魔力が弾け飛び、展開していたスフィアが次々に崩れていく。はやてには、なにが起きているのか
分からなかった。
「嘘、や」
 裂光の先に彼女が見たものは、その場に立ち上がったオメガの、救世主の姿だった。光に包まれな
がら、オメガの不敵な笑みと共にはやてを見据えていた。
「オ、オメガの傷が!」
 はやての目の前で、オメガの損傷箇所が瞬く間に修復されていった。再生スピードが尋常ではない。
はやてが全魔力を注ぎ込んだ攻撃の証が、一瞬にして消え失せていく。自動修復機能、こんなものが
オメガには備わっていたのか――
「まさか、裂光覇まで使う羽目になるとはな……」
 完全修復した身体を動かしながら、オメガはゆっくりとした動作でビームサーヴァーを引き抜いた。
その姿、その光景は、相対する者に対して絶望以外のなにも与えなかった。
「終わるのは貴様の方だ。夜天の主!」
 オメガが飛んだ。飛燕脚を使い、はやてのとの距離を一気に詰めたのだ。虚を突かれたはやてであ
るが、対応は早い。先ほどまでと同じように、飛行能力を駆使してオメガの届かぬ位置へ上昇したの
だ。
 だが、それはオメガにとって十分予想できることであった。
「空円舞」
 オメガの脚が、空間を蹴った。飛燕脚に続く二段ジャンプ。中空へと逃れたはやてに、オメガが更
なる追撃を掛けたのだ。
「なっ――」
 驚くはやてに対し、オメガはビームサーヴァーの出力を上げた。目にも止まらぬ動作を前に、はや
ては自身が持つデバイス、騎士杖シュベルトクロイツを構えて迎え撃とうとした。
 それがどれほど、無謀であるかを気付かずに。

「龍炎刃、爆砕!」

 構えた騎士杖ごと、はやては斬り裂かれた。

 折れ砕けたデバイス、斬り裂かれたバリアジャケット。噴き出す血液。激しい叫び声と、吐き出さ
れる血塊。姿勢制御を失ったはやては降下し、偶然にもオメガが破壊した次元航行艦の破片へと激突
した。

448ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:49:28 ID:RQ6HRkfM
「は、はやてちゃん!」
 アースラにてその光景を目の当たりにしたリインが叫ぶも、次の瞬間にはアースラのモニターが乱
れ、戦闘区域が映らなくなってしまった。時の庭園に近づくにつれ、そのジャミングや妨害電波の影
響下に入ったためである。
「フェイトさん、引き返しましょう。このままじゃ総隊長が」
 悲痛な叫びをシャーリーが上げ、一部を除く艦橋要員のすべてがそれに同意した。このままでは、
まず間違いなくはやてが殺されてしまう。
「……このまま進んで、全速前進!」
 しかし、フェイトが下した決断は、非情を通り越した無情そのものだったと言えよう。表現はどう
あれ、フェイトは友人を、はやてを見捨てると言ったのである。
「フェイトさん!」
「はやてなら、きっとそう言った。私たちは立ち止まるわけにはいかない。はやてが作ってくれた時
間と道を、無駄にすることは出来ない」
 批難の声を退けて、フェイトは前進を命じた。進むしかない。それしか自分たちには出来ないのだ
から。
「そうですね……フェイト隊長の言うとおりです」
 目に涙を浮かべながら、リインが頷いた。
「ここで私たちが引き返せば、はやてちゃんの行動を否定するだけじゃなく、はやてちゃんの流した
血と痛みが意味を成さなくなる。進みましょう、はやてちゃんはそれを、それを望んでいます!」
 誰よりもはやての身を案じているであろうリインの言葉を前に、それ以上は誰もなにも言えなかっ
た。リインはその後堪えきれずに泣きじゃくり、思わず近くにいたルクリュに抱きついてしまったが、
ルクリュはなにも言わずにその頭を撫でてやっていた。


 決着の付いた戦場では、倒れ伏したはやての胸ぐらをオメガがつかみ上げ、血にまみれた顔に言葉
を吐きかけていた。
「夜天の主よ、お前は見事だった。救世主たる我に、久方ぶりに痛みというものを思い出せたのだか
ら。大したものだと、褒めてやろう」
 後一歩というところまで追いつめたはずだった。はやては確実にオメガを追いつめ、敗北寸前にま
で追い込んだはずだった。それが僅か一瞬で、まるでコインの表と裏を返すようにあっさりと、戦局
は逆転された。裂光覇によって損傷箇所を修復したオメガに対し、はやてにはもう抵抗するだけの魔
力が残されていなかった。
「徹底的な長距離戦闘を仕掛け、我の疲労と損傷を蓄積させるか……なかなか考えてはいるが、少し
考えたりなかったな」
 よく憶えておけと、オメガが冷然たる事実を突き付ける。
「我の底と貴様の底を、同じ深さだと思うな! 救世主たる我の深みに、貴様程度が及びつくわけも
ない。我に弱点など存在しない」
 膨大にして莫大な魔力量を誇る夜天の主ですら、救世主オメガの力を超えることは出来なかった。
オメガの力は、本当に底が知れないのだ。
「まさか、私の魔力が尽きるのを、待って……?」
「貴様は底の知れた女だ。少々面倒だと思ったが、尽き果ててしまえばもはやなにも出来ないだろう。
為す術もなく、蹂躙されるだけだ」
 短期決戦をはやてはしいたつもりだった。徹底的な長距離攻撃を繰り返し、オメガを叩き伏せる。
少なくとも、はやてはそのように戦闘を展開していると思い込んでいた。しかしオメガは、相手の力
量と魔力量を推し量った上で、相手の魔力が尽きるまで攻撃を耐え抜いたのだ。彼は人知れず、持久
戦を行っていたのである。

449ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:50:28 ID:RQ6HRkfM
「貴様の負けだ夜天の主。いや、貴様だけでない。貴様の仲間も、そしてゼロも、すべて我が破壊す
る。後ろにいる艦隊も、時空管理局も、この世界は我が救済するのだ」
「ほざけ……そんなこと、出来るものか」
「出来る。我は救世主だ。貴様にはどう足掻いても出来ないことが、我には出来るのだ」
 所詮は時空管理局の局員でしかないはやてと、すべてを超越した救世主であるオメガでは格が違い
すぎる。
「救済とはすべてを破壊し、すべてを無に返すことだ。この世界は老いさらばえている。貴様の尽く
す時空管理局が良い例ではないか。スカリエッティのような悪党に、易々と与した。そんな組織が管
理する世界に、なんの意味がある?」
「だから、破壊するのか……スカリエッティのような悪党に、協力して」
「奴は小物の小悪党に過ぎないが、我が破壊した世界を作り直したいというのなら、それはそれで構
わない。誰が覇者になったところで、それは我に関係のないことだ」
 救済によって無に帰した世界がどうなろうと、知ったことではない。何故ならオメガは破壊者であ
っても、創造者ではないから。これはなにかを壊すことが出来ても、創ることは出来ないのだ。
「クソ野郎が、勝手なことを」
「誰にも我は止められない。夜天の主であろうと、英雄であろうとな」
 こうしてはいられなかった。足止めを食ってしまったが、オメガの狙いはあくまでゼロなのだ。救
世主が倒すべき相手は英雄であって、夜天の主などではないのだ。オメガはさっさとはやてにトドメ
を刺し、その場を離れようとしたが、ふいにはやての両手が胸ぐらをつかみ上げるオメガの左腕をつ
かんだ。
「なんの真似だ?」
 魔力の残されていないはやての力は、とても弱々しかった。攻撃する力など、あるわけもない。そ
れでもはやては、オメガの腕を放そうとはしなかった。
「今判った……オメガ、アンタがゼロに勝てへんわけが」
「なに?」
「ずっと不思議やった。どうして同じゼロなのに、片方が英雄で片方が救世主なのか。どうして同質
の存在ではないのかと」
 ゼロの魂を持つコピーゼロと、ゼロオリジナルボディを持つオメガ。似て非なる異なる存在。何故、
この二人は英雄と救世主なのか。どうして、同じ存在が原典であるのに違いが発生しているのか。
「オメガ、アンタの力は確かに強い。その力を使えば確かに世界は変えられるし、救うことも出来る。
アンタは確かに救世主や……けどな」
 はやての喉元を斬り裂き、黙らせることもオメガには出来た。出来たにもかかわらず、オメガはそ
うしなかった。
「だからこそアンタは、英雄にはなれへんのや!」
 オメガの力は世界を救うことが出来ても、一個人を救うことは出来ない。オメガの力は世界を無に
帰することも出来るが、一個人を守り通すことは出来ない。
「誰か一人でもいい。その人を守り通すことが出来れば、そいつは英雄や。オメガ、アンタにはそれ
が出来へん。何故ならアンタは壊すことしかできないから、守ることが出来ないから、だからアンタ
は英雄に、ゼロになれへんのや」
 救世にはなれても、英雄にはなれない。オメガはオメガでしかなく、ゼロになることなど出来はし
ない。
「知った風な口を……聞くな」
 誰かを守る力など、自分には必要ない。本当にそうか? 本当に自分は、救世主オメガはそうした
力を望んでいないのか?

450ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:51:25 ID:RQ6HRkfM
――オメガ兄ちゃんは、そのままでいいんだよ

 声が聞こえる。

――私たちを守ることなんて、考えなくて良いんです

 誰の声だ?

――自分の身は自分で守る。絶対にオメガ兄ちゃんの邪魔はしない

 黙れ、喋るな。

――だから兄様は、そのままでいてください。私たちに構うことなく

 うるさい、やめろ。

――私たちはそんなオメガ兄ちゃんと

 これ以上、俺の頭に入ってくるな!

――ずっとずっと、一緒だから

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
 叫び声と共に、オメガがはやてを投げ飛ばした。宙へと投げ出されたはやては身動きが取れず、自
身に向けてバスターを構えるオメガを見ても、どうすることも出来なかった。
 バスターが連射され、はやての身体に直撃した。バリアジャケットも、布きれ程度の役目しか果た
さず、はやては自分が完全に敗北したことを悟った。まだ意識は残っているが、それもすぐに消える
だろう。負けたのだ、八神はやては。夜天の主は救世主オメガに、倒されたのだ。
「最後に一つだけ、言っておく……」
 砲火に撃ち抜かれ、墜落する中で、はやては最後の力を振り絞って口を開いた。血塊と共に出てき
た言葉は、オメガに聞こえたかどうかもわからない。
「この世界は確かに老いさらばえて腐ってる。けど、けどな……」
 グシャリと、はやての身体が地に落ちた。どうやら、また次元航行艇の残骸へと落下したらしい。
既に痛みを感じる感覚さえも、はやてには残されていなかったが。
「救世主の力なんぞ借りなくても、私らの世界は、私らの力で建て直せる!」

451ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:52:27 ID:RQ6HRkfM
『提督、もう限界です。八神はやての救援をご命令ください!』
 時空管理局本局、三提督が詰める会議室にクロノ・ハラオウンの悲痛な叫び声が響いていた。超長
距離通信によってもたらされたクロノの訴え、哀願に近いそれは、今まさに殺されようとしている友
人を救いたいが為だった。
「ダメだ。絶対にて出しはするな」
『提督、では黙ってみていろと、彼女が殺されるのを黙ってみていろと、そう仰るのですか!?』
「貴官には撤退命令を出したはずだ。これ以上の命令違反は、処罰の対象となるぞ」
 スクリーン越しとはいえ、目の前ではやてが虐殺されようとしているのに、彼女とは旧知であるは
ずの三提督は非情であった。こうするしかない、こうする以外に管理局を守る方法はないと、虚ろな
瞳はそう信じ切っているようにも見えた。
『辞めてください、提督』
 クロノの声は、怒りよりも哀れみが、情けなさが多く含まれていた。
『管理局を守るために機動六課を犠牲にするなど、そんな権利はあなた方にはない。あなた方の勝手
で、管理局が長きに渡って守り抜いてきた理念を貶めるつもりですか』
 三提督たちに表情が変化し、元帥の唇がつり上がった。
「中級士官風情が、偉そうに誰に物を言っている。お前だけではない、あそこにいる八神はやてにし
ろ、我々管理局が拾ってやったからこそ、今日まで生き存えているのではないか! その恩をこのよ
うな形で返すとは、飼い犬に手を噛まれた思いだ」
 これほど卑しく、悪意に満ちた言動が、まさか三提督の口からこぼれ落ちるとは思わなかった。少
なくとも、クロノが受けた衝撃は言葉以上のものだったであろう。
「最高評議会亡き後、我々には時空管理局と、多次元世界を守る義務がある。その義務を遂行するこ
とのなにがおかしい! どこに間違いがある!?」
 言葉の意味はともかくとして、その気迫にクロノは圧倒されていた。ここまで歪んだ決意があるの
かと、彼はただ驚くことしか出来なかった。もはや命令を無視するしかない。艦隊が動かせないのな
ら、自分一人でも動くしかない、そのようにクロノが決断しようとしたとき、提督が詰める会議室に
別の通信が割り込んできた。
『三提督、大変ですっ』
「戦闘中だ。後にしろ」
『それどころではありません、地上本部が、オーリス・ゲイズ査閲部長が多次元世界全土に緊急会見
を開いています!』
「な、なに?」
 予想だにしない答えが、そこにはあった。

「ミッドチルダ及び全多次元世界に向けて申し上げます。時空管理局という組織について、考えると
きが来たのです」
 そんな前置きと共に始められたオーリス・ゲイズの緊急会見は、本来であれば先のスカリエッティ
進行に対する被害と損害、それらの報告のためのものであるはずだった。そのような名目で申請され、
そのような名目であったからこそ受理されたはずの会見は、最初から内容の違う始まり方をした。
 管理局の会見は、ある種強制的にTVへと映る仕組みになっており、視聴者たる市民たちはチャン
ネルを変えることも出来ないままに、オーリスの会見を見入っていた。そして、彼女の口からもたら
された内容、ミッドチルダのみならず、全多次元世界を驚愕させるものであった。
 前地上本部防衛長官レジアス・ゲイズと、犯罪者ジェイル・スカリエッティの密約。それを仕組み、
裏で操り続けていた時空管理局最高評議会の暗躍。三提督が隠し通そうとした獄情報の数々が、“当
事者”であるオーリスの口から次々に語られ、暴露されていく。

452ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:53:07 ID:RQ6HRkfM
「……私は前防衛長官、レジアス・ゲイズ元帥の冒した罪を認めます。犯罪者と手を組んだこと、そ
れが最高評議会の命令であったとしても、十分批難に値することです。元帥の過ちで、クラナガンの
街が傷つき、多くの将兵が倒れたことには断腸の思いを禁じ得ません。ですが、同時に……」
 唖然として聴き入るしかない人々に対して、オーリスは更なる言葉を続けるため再び口を開いた。
「私はレジアス・ゲイズ元帥を追いつめた、時空管理局本局の不実を許すことが出来ません。地上本
部を冷遇し、元帥に圧力をかけ続け、彼が不当な手段へと訴えるまで追いつめた、本局の権力者たち
を。彼らは多次元世界を守るために存在しているにもかかわらず、地上本部が力を付けることを恐れ
て自らその責務を放棄したのです。しかも、元帥の冒した過ちを知るや否や、今度は本局自らが犯罪
者に媚びて、すべてをなかったことにしようとしている!」
 三提督は言葉を失っていた。予想もしていなかった方向から伸びてきた矛先が、彼らを突き倒そう
としているのである。オーリスは理解しているのだろうか。彼女がこれを話すと言うことは、自分も
またその密約に関わっていた内の一人であると、自身もまた犯罪者なのであろうと証明するようなも
のではないか。
「一時の不安を解消するために地上本部を冷遇し、今度はそれを利用して自らの対面だけを守ろうと
している。時空管理局の掲げていた理念と信念はどこへ消えたのでしょうか。私は現状を打破するた
めには、もはや真実を語る以外にないと、この会見を開きました。我々は時空管理局本局が興そうと
している不正義を正すため、立ち上がらなければならないのです」
 ここまで聞いて、やっと三提督が行動を起こした。会見を中止するように、放送を中断させるよう
にと命令を下したのだ。しかし、それは出来なかった。彼らが行動を起こすよりも早く、別の人間が
行動を起こしたのだ。
 会議室にどよめきが走った。会議室のドアが開け放たれ、完全武装の魔導師隊がなだれ込んできた
のである。警備の兵などではあり得ず、会議室内にいた衛兵たちをすぐさま取り押さえてしまった。
「なんだ貴様らは、叛乱のつもりか!」
 叫ぶ提督たちの前に、一つの人影が現れた。それは彼らもよく知る顔であったが、もう何年も見て
いない顔でもあった。
「その通り、これは叛乱です。現時空管理局を倒すためのクーデターを思って貰っても、結構です」
「お前は……まさか」
 提督たちの目の前に現れた男は、外見年齢で言えば提督たちとさほど大差ない、デバイスを杖代わ
りにする老人であった。
「ギル、ギル・グレアム」
 呻くように立ちすくむ提督たちは、自分たちの前に現れた時空管理局退役小官の顔を見据えていた。
ここに来て、このような男が現れるとは誰も想像していなかっただろう。それほどまでに、ギル・グ
レアムの登場には意外性というものがあった。
「お久しぶりです、三提督」
 穏やかな口調でグレアムは語りかけてきた。穏やかなのは口調だけで、瞳に強い決意の色があるこ
とを、三提督たちは見抜いていた。
「そうか、あの小娘か。八神はやてがお前を動かしたのだな?」
「確かに、私はあの子からの助力を頼まれました。ですが、私が今ここに現れたのは、紛れもなく私
の意志によってです。三提督、あなた方を拘束します」
「ふざけるな、そんなことが出来ると思っているのか。我々は時空管理局に名だたる三提督だぞ! 
時空管理局創立時から今日まで、多次元世界を守ってきた我々を、貴様ごとき退役将官に身をゆだね
ることなど出来るか」

453ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:53:37 ID:RQ6HRkfM
 輝かしい武勲、かつての栄光、それらが積み重なり、今日の地位を築き上げてきた。それをこんな
ことで、こんなくだらないことで失うというのか。そんなこと、合って良いはずがない。
「もう辞めてください。あなた方が守ろうとしているのは管理局ではない。最高評議会亡き後、全責
任を取らされることとなったあなた方自身だ。管理局を守る、それを言い訳にして、自己保身に走る
つもりですか」
「我々がいなくて、誰が管理局を統治する。誰が多次元世界を守る」
「同じことを、亡くなられた最高評議会の方々も思っておいでだったのではありませんか? あなた
方が同じ道を歩む必要はないでしょう。それは管理局の理念にも反するはずだ」
「理念を決めるのは我々だ! 我々がいてこそ管理局は成り立ち、我々の行いこそが管理局の理念に
なる」
 その三提督の怒号に対し、グレアムは雷鳴にも似た雄叫びを返した。
「それは違う! 管理局の理念は今のあなた方にはない。管理局の理念を守り、それを果たそうとし
ているのは、あそこで戦い続けるあの子たちだ! 間違っても、椅子にふんぞり返って偉そうに命令
をしているだけの、あなた達には存在しない!」
「き、貴様……っ」
 更なる言葉を繋ごうとした元帥の袖を、同じく三提督の地位にあるミゼット・クローベルがつかん
だ。驚き顔を向ける元帥に対し、ミゼットは静かに首を振った。
「もう、止めにしましょう。どう考えても、正しいのは我らではなく彼らです」
「ミゼット、しかしだな……」
「我々はいつの間にか、地位という名の椅子にしがみついていた。管理局を守るためと偽って、自分
のみを守ることばかりを考えていた。認めるしかないようですね」
 レオーネ・フィリスも諦めたように顔を俯かせたことで、元帥はそれ以上の抵抗が無意味であると
悟ったらしい。ガクリと項垂れ、自身の敗北を認めるしかなかった。
「ギル、後のことは任せていいのかい?」
 ミゼットの問いかけに、グレアムは静かに頷いた。かつての上官にこのような仕打ちを行うことは、
彼としても本意ではなかった。恩義もあり、師でもある。だが、こうする以外に方法はなかった。だ
から、それを選択した。
「不肖未熟の身でありますが、全力は尽くします」
「謙遜はおよし。私が面倒をみたことがある子の中で、あなたとレジー坊や一番優秀でしたよ。そう、
私はあの子が助けを求めていたことを知っていた。知っていたのに、なにもしてやることは出来なか
った……きっとこれは、それに対する罰なのですよ」
 最後はやや自虐的になってしまったが、それでも三提督として、気丈な姿で彼らは立ち去っていっ
た。その姿の、どこに恥じるべきどころがあるのか。偉大なる先人たちに対し、グレアムは自然と敬
礼をしていた。

 三提督を見送った後、グレアムはすぐにクロノへ回線を繋いだ。
「提督、お久しぶりです」
『私はもう提督ではない。いや、そんなことはどうで良い。すぐに彼女を、八神はやてを助けるん
だ』
「了解しました! 全艦全速前進、戦闘宙域へと急ぐぞ」
 命令を飛ばすクロノに、索敵士官が急報をもたらした。広報の空間から、急速に魔力反応が迫って
来るというのだ。敵の援軍か? それとも……
「あれは、まさか」
 モニターに映し出された魔力の色は、桜。
 クロノが気付いたときには、桜色の魔力は彼の艦隊を突き抜け、戦場へと飛び込んでいった。
「閣下、あれは……」
 幕僚の問いに、クロノは静かに首を振った。自分たちも急がねばいけない。それに変わりはないの
だが、
「もう、大丈夫だ」
 確信を持って、その言葉は紡ぎ出されていた。

454ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:54:43 ID:RQ6HRkfM
「これも貴様の作戦か?」
 時空管理局にて行われた“茶番”は、次元空間にて戦闘を続けるオメガの元にも届いていた。彼に
はなんら関係ないことであるが、これで時空管理局はスカリエッティを倒すことに躊躇する必要がな
くなった。赦免状はまだ有効であるはずだが、それも管理局という組織があってこそである。
「言ったやろ……自分たちの世界は、自分たちで建て直すと」
 すべては作戦、はやての打ち立てた策略の結果だった。オーリス・ゲイズとギル・グレアム。オー
リスが真実を語ることで管理局の正当性と守り抜こうとしていた秘密を形骸化させ、その隙をついて
レジアスが内部を制圧する。立派なクーデターであるが、もうこれ以外の方法がなかったのだ。汚れ
きった管理局を変えるには、実力を持ってするしかなかった。
「なるほど、そのためには自分がここで死んでもいいと、そういうことか」
 バスターの砲口をはやてに向けるオメガ。はやてには、言い返す気力すらなくなっていた。彼女は
自分がやるべきことはすべて果たした。後は、残された者の仕事だろう。
「ごめん、みんな……私はここまでや」
 身体から急速に力が抜けていく。血液と共に、はやての生命力が流れ落ちていくようだった。意識
が混濁し、身体は動かすことも出来ないほど重い。これが死か。自分がこれまで流してきた血と、散
らしてきた命に比べればささやかなものに過ぎないが、それでも自らの死を実感するというのは、そ
れほどいい気分ではないなと思った。
 オメガはバスターを撃たなくとも、目の前の女が死ぬことを知っていた。知っていたが、彼は自分
の手で彼女を殺すことを望んでいた。仮にも自分を、救世主オメガを傷つけた敵に対する、彼なりの
敬意の表し方であった。
「死ね、そして永遠に眠れ」
 最後のバスターが放たれた。避けようもない、逸れようもない一発。これに当たれば、はやては楽
になれるはずだった。痛み苦しむことなく安らかに……生涯を終えることが出来た。

 桜色の砲火が、それを遮らなければ。

 驚き目を見開くはやての前に、声が降りかかってきた。

「寝るのはまだ早いよ、はやてちゃん」
 落下しかけていたはやての意識の中に、懐かしい声が響いてきた。もう聞くこともないだろうと思
っていた声が、彼女の名前を呼んでいた。
「そういうアンタは、随分と遅い登場やなぁ……ホンマ、総隊長より遅い登場なんて、信じられへん
わ」
 軽口を叩けるほどの力が残されていたのかと、はやては自らの往生際の悪さに苦笑を憶えた。
「後、任せたで……エース・オブ・エース!」
 機動六課が誇る最強の魔導師、エース・オブ・エースの称号を持つ女。

 高町なのはが、ここに来援した。

                                つづく

455ロックマンゼロ-逆襲の救世主- ◆3edSxDUK0o:2009/12/06(日) 23:55:57 ID:RQ6HRkfM
第21話です。
なのはさんの登場が唐突ですけど、これについては年末発行の
同人誌を読めば分かります。
はい、これもまた唐突ですけど逆襲の救世主の同人誌が年末に
出ます。詳しくは同人スレに書きます。

それでは、感想等ありましたらよろしくお願いします!

456魔法少女リリカル名無し:2009/12/07(月) 01:41:20 ID:q8pX6Dx2
GJ

457魔法少女リリカル名無し:2009/12/07(月) 06:37:27 ID:qi3bklYo
あらま
本物きちゃった

458魔法少女リリカル名無し:2009/12/07(月) 07:21:37 ID:JFHPAeyc
ほんと金儲けに利用するき満々

459魔法少女リリカル名無し:2009/12/07(月) 09:21:08 ID:saGPHrr.
GJ!
相変わらず変なのいるな

460魔法少女リリカル名無し:2009/12/07(月) 16:01:22 ID:d0FCWkao
GJ!
まさかの本物なのはの復帰……これは期待せざるを得ない。

461魔法少女リリカル名無し:2009/12/07(月) 19:21:42 ID:nV.lo9bs
>>457
忘れてましたGJ!

462魔法少女リリカル名無し:2009/12/07(月) 23:48:43 ID:ilqp44Kc
GJ!
高町なのは!復活ッ!高町なのは!復活ッ!高町なのは!復活ッ!高町なのは!復活ッ!

463魔法少女リリカル名無し:2009/12/08(火) 03:50:36 ID:8U2DgA0c
>>462
バキみたいなノリだなww

464魔法少女リリカル名無し:2009/12/08(火) 20:36:30 ID:eZWMFs1g
乙でります! そして再び発行おめでとうございます!

確かにゼクスのオメガって回復技を持ってましたね。
コピーXといい戦う敵の心境がわかるような技です。
個人的にはオメガキャンセルコンボ(仮)の方が怖いですが……

局のクーデターと言う超展開、腐敗(と言うレベルじゃない)しきっていた提督の失脚、
働きかけたグレアムとオーリスの株上昇ですねww
損役ばかりだったクロノにスポットの光が?
そして正真証明の本物のなのはさんのカムバック、不屈の魂が今度こそ唸る?

そしてなのはさんをけしかけたと思われる青い光……まさか…?
次元空間で制約を受けない(?)エックスも遂に動きだすのでしょうか?

次も持っております!

465魔法少女リリカル名無し:2009/12/10(木) 00:31:34 ID:WhcvpqhY
遅ればせながら、終始にわたってGJであります! (同人情報にも歓喜中)

「オメガvsはやて」という一大決戦すら今回の前フリにしてのけた局へのクーデター劇・・・というより
とことん腐りきっていた外道提督ども(退場劇はせめてもの情けでしょうか…)に振るわれた大鉈は
6課の反撃回やゼロの再起回以上に、これまでの鬱憤を晴らしてくれましたね。
グレアム元提督がオーリス嬢に続いて「泥中の蓮」として活躍してくれた事も素直に嬉しかったですよ。
(ここからはクロノ提督も思う存分動けるでしょうが・・・果たしてユーノ君も再起なるか!?)

そして、なのは(本物)復帰で逆転劇はまだまだ進行中なことも燃えさせてくれました!
「うしおととら」ばりに今までの借りをまとめて返す展開に期待しつつ、これからも応援しておりますね〜!!

466無名:2009/12/10(木) 08:16:04 ID:G3omP1OQ
お久しぶりです。
大変遅れてしまいましたが、八時半よりリリカル×ライダー第十五話を投下します。

467無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/12/10(木) 08:25:02 ID:u.0Z3V7k
コテハンつけ忘れていました。

468無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/12/10(木) 08:33:53 ID:u.0Z3V7k
では投下開始します。


 クラナガンの朝は騒々しい。何故って、ミッドチルダの中心都市だから。
 電気駆動車だから騒音もないのに、街は五月蝿い。僕の耳が良すぎるのもあるんだろうけど。でも空気は意外と綺麗で住みやすい。
 ベッドから起き上がる。これがなかなか、寝心地が良いのだ。人間って凄いね。こんなものが作れて。以前もそれは実感したけど。
 ま、腐葉土のベッドの方が僕の一族は喜ぶんだろうけどさ。
「さて、開店準備でもしますか」
 今日も変わらない毎日。だけど悪くない。なかなか楽しいと思う。まともに"人間"として生きるのも悪くはない。
 僕は思念で下僕に命令を送る。開店準備なんて雑務は自分でやるものじゃない。人に見られない仕事は全部押し付ける。
 さぁ、今日はどんな面白い客が来るのかな。開店が楽しみだ。



   リリカル×ライダー

   第十五話『ガジェット』

469無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/12/10(木) 08:34:18 ID:G3omP1OQ
「大変です、はやてちゃん!」
 甲高い小学生の女の子みたいな声が耳に入る。こんな声を出せる者は六課には一人しかいない。
「リィン曹長、部隊長って呼びや」
「あっ、ごめんなさい! はや――八神部隊長!」
 慌てふためきながら手足をばたつかせるリィン。二度目も危うく言いかけてる辺りリィンらしいと思うけど。
 可愛らしいが公的な場ではもう少ししっかりしてほしい。一応地上本部のロビーなんやから。それこそ連れてる私の品格が疑われる。
「実はガジェットを発見したってロングアーチが――」
「そのことなら知っとるよ」
 リィンがくりくりした大きな瞳をぱちぱちさせる。そう言えばリィンにも伝えていなかった。彼女は車で待機してたし。
 そう、私がわざわざ地上本部を訪れていたのもその件だ。正確にはそれを予想しての行動だが。
 遂に出現したスカリエッティ、そして呼応するように各地で出没するガジェット。スカリエッティの仕業なのは間違いない。
 クラナガンに被害は幸いにも出ていないが、その目的は皆目検討もつかない。
 けれどあの男が意味もなく行動を起こしたりはしないはずや。調べれば必ず手掛かりは掴める。
 情報が少ない今、私達にはガジェット捜査の許可が必要だった。そしてそれを今取得した訳だ。
「リィン、なのはちゃんに連絡して。それとカズマ君も呼び出すよう、なのはちゃんにも言っといてな」
「はいです!」
 地上本部から出て車に乗ると同時に指示を出す。これから六課も忙しくなるだろう。私も頑張らなあかん。
 あの男との因縁、ここで断ち切る。
「はやて、六課に戻るの?」
 前席から声がかかる。フェイトちゃんだ。実はわざわざ迎えにきてくれていたのだ。
 ただ車はお世辞にもセンスが感じられないゲテモノスポーツカーやけど。
 いくら給料が有り余っているとしても、私はこんな無駄遣いはしないなぁ。本人には言えないけど。
「頼むわ、フェイトちゃん」
 車が緩やかに動き出す。振動も騒音もない車内で、傾けたリクライニングシートに深く腰掛けながら、私はこの先のことを考え始めた。

470無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/12/10(木) 08:34:54 ID:u.0Z3V7k



     ・・・



 そこは砂塵舞う戦場だった。
 砂漠の中に作られた、土壁の家が立ち並ぶ小さな街。そこで薄汚い衣服を纏った者達が小銃片手に暴れまわる。
 彼らが浮かべる表情は、恐怖。
 先程まで狂気と狂喜で染められていた顔にべったりと塗り付けられているそれは、俺に向けられたもの。
 そう、化け物である、俺に。
 パン、パン、と。乾いた銃声が響く。体に衝撃。胴に突き刺さった鉛玉によって緑の血が流れ出す。その血に彼らはまた恐怖を深める。
 だがそんな鉛球では効き目はない。瞬く間に傷口が修復されていく。何発当たろうと、意味はない。ただ、痛いだけ。
 俺の姿、能力を目の当たりにした兵士は皆一様に表情を歪め、先程まで争い合っていた者同士でこの場を逃げ出す。

 ――それでいい。

 敵味方に別れて争う者達、だけど彼らは相手が憎くて戦っているわけじゃない。敵だから銃を向けているだけだ。
 だからこその、俺。人類の敵。排除すべき化け物。
 近くにいた勇気ある兵士の小銃を叩き落とし、背中を押すように殴り付ける。そいつは鼻水を流しながら必死に逃げていった。
 それでいい。俺を憎み、俺を敵として認識すれば争う理由はなくなる。戦う意思を維持している者は俺が直接銃を奪えばいい。
 それでいい。それで良かった。これで互いに争わずに済む。これで、この戦いは一時的にでも終わらせられる。
 それでいい、と俺は呟き続ける。ジョーカーとなった硬質の頬に、冷たい何かを感じた。


「……夢か」
 最悪の目覚めだった。
 あれは五年ほど前の話か。正確にはは分からない。しかし酷い内容だったのは間違いなかった。
 あの後、俺は戦車砲や爆撃により、木っ端微塵に吹き飛ばされた。それでも死ねないから、彼らは撤退するしかなかった。
 結局、両陣営は俺という不確定要素を前に休戦を決定。一時しのぎかもしれないが、戦いを止めることが出来た。
 俺はそうやって、一時的なレベルでも戦いを止め続けた。
 それを、十年も続けた。
「だから、俺は――」
 雪山、崖、鈍い音、緑の血溜まり。
(……止めよう。思い出しても不快なだけだ。ただでさえ気落ちしているというのに)
 橘さんが死んでしまったことで散々気落ちしたのだ。もうこれ以上は耐えられない。
 そんな電気すら点けずにいた俺の部屋に、一陣の光が射し込む。
「「カズマさん!」」
 射し込んだ光より尚明るい子供の声。聞こえた方向に視線を向けると、そこには可愛らしい来客がいた。
「……エリオにキャロじゃないか」
 六課最年少のフォワードメンバー、エリオとキャロ。二人は丸い頬を綻ばせながら俺に向けて笑顔を振り撒いていた。
 ――あの夢の後に見たくはなかったな。
 そんなことを思う俺を他所に、キャロが薄桃色の頬を膨らまして俺の隣に座った。
「カズマさん、もうお昼なのに寝てちゃダメですよ」
 俺の隣で腰に手を当てて可愛らしく俺を叱るキャロ。その桃色の髪に手をやり、ぽんぽんと軽く叩いた。
「ああ、悪かったよ」
「それよりカズマさん! 今からキャロとクラナガンに行くんですけど、一緒に行きませんか?」
 エリオが目を輝かせながら俺の元に歩み寄る。その目は純粋に遊びに行きたがる子供のそれだ。
 こういったところを見てると、とても二人が強力な魔導師とは思えなくなる。
「でも良いのか? こんな時期に」
 遊びに行くのは俺としては構わないと思うのだが、スカリエッティが出現した以上、そんな休暇があるとは思えなかった。
「フォワードの皆には半日だけ休息を与えることになったんです!」
「だから大丈夫です、行きましょう!」
 そんな心配は無用だとばかりに俺を引っ張る二人に抵抗する術はなかった。
 だから一言だけ、抵抗の言葉を吐くことにした。
「わかったから。取り敢えず――シャワーを浴びさせてくれ」
 二人が仲良く一斉に俺から離れた。

471無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/12/10(木) 08:35:27 ID:G3omP1OQ



     ・・・



「……ドクター」
 書物と機械にまみれた、油と紙の匂いが充満する部屋。しゅごーしゅごーと蒸気かガスの音が中を彩る。
 本来の広さを全く感じさせないほど歩くスペースすらない場所で、スカリエッティは研究を行っていた。
「なんだね、トーレ」
 そんな彼に来客者が一人。
 トーレは細く引き締まった体を曲げて彼に膝まずく。そんな彼女に、スカリエッティは薄く笑った。
「何故、ガジェットを?」
 彼女は彼を見上げながら、鋭い目を細めて何かを読み取ろうとする。
 相手はスカリエッティ、部下にさえ本意を見せない男なのだから当然だろう。
 それが分かっているのかいないのか、スカリエッティはウーノが持ってきたミルクティーを飲みながらあっさり答えた。
「今回のはよく出来たと思ったんだ。良い実験になると考えてね」
 無表情のまま空になったカップを持っていくウーノ。スカリエッティはウーノを見もせず、トーレを眺めていた。
 一方のトーレはスカリエッティの答えを図りかねているらしく、眉をひそめていた。
 それも仕方ないだろう。彼女は武闘派、故に難解な台詞から真意を読み取るのは得意ではない。
「ではやはり、ガジェットを奴と戦わせるのですか?」
 だが彼女は無能ではない。スカリエッティが作り、そして今なお側に置いている以上、性能が低いはずはない。
 それを分かっているからこそ、彼は答えを"ほどほどに"難解なものとしたのだ。
 スカリエッティはモニターに浮かび上がる暗い空間に潜む影に視線を落とす。その目は愉悦で歪んでいた。
「まぁ、見てみたまえ」
 スカリエッティは、そう短く締め括った。

472無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/12/10(木) 08:36:14 ID:u.0Z3V7k



     ・・・



「次はこっちに行きましょう!」
「あー、わかったわかった」
 キャロに手を引かれてファンシーグッズに囲まれたピンク色の店に入る。いかにも女の子な店にキャロが入るのは別にいい。
 だが俺やエリオは別だ。俺の白いシャツにジャケットと、ジーンズの姿はかなり目立つ。エリオも服装はともかく、目立つのは同様だ。
 エリオも外で待つよりはいいと付いて来ているが、所在ない様子で俺のジーンズの裾を握っていた。
「キャロ、俺達は外で待ってた方が――」
「カズマさん! これとこれ、どっちの方が似合いますか?」
 何とか店から脱出しようと画策するが、キャロはまるで話を聞いていない。楽しそうに二つのペンダントを俺達に見せていた。
 俺は特別子供好きなわけじゃない。嫌いでもないが、十年以上もまともに人と接してないせいか、苦手意識はあった。
 そんな俺に、何故二人はなついてくるのか、実のところよく分かっていなかった。ヴィヴィオもそうだ。俺には何かあるのだろうか。
「み、右の方じゃないか?」
 適当だった。
 その代わりエリオの背中を叩く。俺が答えても大した意味はない。だがエリオが助言するのは意味がある。
「ぼ、僕も右が良いと思うよ」
「ホント?」
「う、うん」
 お互い緊張した物言いの俺とエリオだが、その回答を聞いて、キャロは嬉しそうに笑った。
 エリオが幼いながらキャロに友情以上の感情を抱いていると、俺は思って背中を押したのだが、上手くいっただろうか。
 こういうことも苦手だ。記憶が戻ってから、それがよく分かった。なにせ恋愛経験なんてまるでないんだから。
「じゃあ次は僕の行きたい店に行きましょうよ!」
 ファンシーショップを出て、エリオがそう言った。二人が行きたい場所を順番ずつ回るらしい。
 キャロは買ったペンダントやぬいぐるみを見ていて聞いてないようだったが。
「分かった、行こうか」
 俺は二人の背中を押しながらエリオの行きたい店とやらに向かう。
 幸いエリオのデバイスにナビゲーション機能が付いているので迷うことはなかった。
 そのデバイスから浮かび上がったホログラムモニターには、『KING GAME』と表示されていた。

473無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/12/10(木) 08:36:47 ID:G3omP1OQ
「ゲームショップ、か?」
「その、ゲームって買ったことないから興味があって」
 話を聞けば、薦めたのはスバルらしかった。
 実は俺もテレビゲームの経験はなかった。
 子どもの頃にあったのはファミコンだったが、幼くして両親を火事で亡くした俺は買うことが出来なかったのだ。
 それからも親の件がトラウマになって遊ぶことにすら抵抗があった。だから当初は義務感でライダーになったのだ。
 しかしエリオくらいの年齢で遊びも知らずに育つのはもったいない。スバルの発案はなかなかの名案に感じた。
「いらっしゃい。へぇ、小さい子に――驚いた。縁でもあるのかな?」
 店主の声。
 その声はごく普通の青年のそれに聞こえる。だが違う。騙されるな。こいつは、人間じゃない――!
 ジョーカーの本能に従い、俺は条件反射でカウンターにまで詰め寄っていた。
「お前、上級アンデッドか!?」
「本当に記憶失ってるんだ。あの人間、なかなかやるんだね」
「……お前、やっぱりアンデッドなんだな」
 すっとチェンジデバイスを抜き取る。左手にはポケットから引き抜いたカテゴリーエースのカード。
 俺は周りも見回さないまま臨戦態勢を整えていた。
「落ち着いたら? 後ろの子達が驚いてるけど」
 はっとして振り返ると、エリオとキャロがきょとんとした表情を浮かべていた。
 しまった。街中の、しかも店内で変身しようとしてしまうなんて。俺は馬鹿か。
「どうしたんですか、カズマさん?」
 二人はカードには気付いていない。俺はそっとカードをしまってから誤魔化すように笑った。
「あ、いや、別に何でも――」
「いや実は彼と僕、友人なんだよね。二人は店のゲーム見ててよね」
「カズマさんのお知り合いなんですか!?」
 エリオが驚愕の表情を浮かべて叫んだ。隣でキャロも目を見開いている。
 そう言えば大体は思い出したとはいえ一応は記憶喪失の身だった。知り合いなんて身の上じゃ変な勘繰りを持たれる。
 俺にしては珍しく頭を回転させ、口を開いた。
「いや、前に外出したときに知り合っただけだ。記憶とは関係ないから」
 それを聞いて残念そうな表情を浮かべる二人。
 この二人は本当に良い子達だ。だから何としても、この二人は守らなければならない。
 俺は改めて、軽薄そうな笑いを浮かべる若者――に擬態したアンデッドに顔を向けた。
「何のつもりでこんなことをしている」
「僕がゲームを売ってちゃ変かい?」
「当たり前だ!」
 小声で怒鳴るという器用なことをやってみせるが、相手は表情も変えない。
 相手は軽薄な表情を変えないまま、その笑みを深めた。
「僕はただ面白いから普通に生活してるだけだよ。人間の生活する場所でね」
 本当に可笑しそうに携帯ゲーム機を取り出して遊び出す若者。その姿はあくまでも擬態なのに、違和感がまるで感じられなかった。
 そんな思考に一瞬陥った頭を振る。この男は危険だ。ジョーカーの本能がそれを告げている。
「お前はアンデッドだ。人間の振りなんて目的がなくてするわけないだろ!」
「人間になろうとしたアンデッドは少なくとも二人は知ってるよ。別に僕がしても不思議じゃないさ」
 人を小馬鹿にしたようにゲームから視線を逸らすことなく答える若者。確かに、こうしているとアンデッドには全く見えない。
 いったいどういうことなのか、だがそれを聞き出す言葉が見つからない。
「ま、僕には構わないでほしいね」
 コイツはそう言ったきり口を開くことなくゲームに熱中していった。
 ちょうど話が途切れたのに気付いたのか、そこにエリオが走り寄ってきた。
「カズマさん! これとか面白そうだと思うんですが、どうでしょう?」
 俺は結局、何も聞き出せないままエリオ達の元に戻るしかなかった。
 そしてそれも間もなく忘れることになる。理由は簡単。
 チェンジデバイスが、にわかに光り出したからだった。

474無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/12/10(木) 08:38:05 ID:u.0Z3V7k



     ・・・



「ごめんね、エリオ達といるときに呼び出して」
「いや、俺は大丈夫だ」
 本当に大丈夫だったのだろう、清々しい笑顔でカズマはなのはの言葉に答えた。
 カズマを呼び出したのは、なのはだった。正確にはそう指示したのは、はやてだったが。
 クラナガンに現れたガジェット。
 そのAMF反応をキャッチした管理局は六課に出動命令を出し、はやてはスターズ分隊を向けることに決めたのだった。
 そしてカズマは遊軍として参戦すべく召集が掛けられ、ブルースペイダーによって急行したのが今だった。
「ガジェットはあの中にいるのか?」
「反応ではそうみたい」
 二人が視線を向ける先には、建設中らしく幌に包まれたビルがあった。その高さは優に二十回は越えており、暴れるには十分な広さと言えた。
 その入り口は先が見えないほど真っ暗で、どこか不気味だ。
「スバルとティアナには先に調査に向かわせたから、すぐにわたし達も合流しよう」
「分かった」
 カズマは頷きつつチェンジデバイスとカテゴリーエースのカードを取り出す。
 そのカードをなのはが取り上げた。
「ちょ、おい!」
「ダメだよ、カード使っちゃったら正体バレちゃうでしょ?」
「あ、そうか」
 カードを使って変身する場合、アンデッドの力を行使する。
 そのためアーマーに魔力を使用しない。故にデバイスの魔力探知に引っ掛からないため、嘘がバレてしまうのである。
 カズマもそれを理解したのか、返されたカードをポケットに戻した。
「じゃ、カズマ君も行って」
「ああ」
 カズマはそう言ってチェンジデバイスを腰に装着させながら。
「……やっぱり、怖いか」
「……え?」
 そう呟いて、カズマは虚いビルの入り口へと走って行った。
「…………」
 その背中が遠ざかる。もはや声は届かない。いや、彼女にはそもそも、掛ける言葉が見つけられなかったのかもしれない。
 後ろから、フォワードメンバーと囲むような立ち位置でいれば、急な対処も出来る。自分の退路も確保しやすい。
 そんなことを、彼女は考えたのではなかったか。
「わたし、ヴィヴィオのお母さんに相応しくないかもね」
 自虐的な言葉を呟き、なのはは顔を上げる。
 泣きそうに潤んだその目に映った空は、鈍色の曇天によって包み込まれていた。

475無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/12/10(木) 08:38:45 ID:G3omP1OQ



     ・・・



「スバル、ティアナ、大丈夫か!?」
 ビル中に轟くような怒声で呼び掛ける。だがその直後に頭を叩かれた。
「うるさい。ちょっと黙って」
 後ろに振り向くと、グリップで殴り付けた姿勢を直しながら考え込むティアナと、その光景に苦笑するスバルの姿があった。
「殴ることはないだろ」
「今集中してるの。アンタは黙ってスバルと周辺の警戒をしてなさい」
 どうやらすこぶる機嫌が悪いようだ。最近俺への態度が柔化しつつあったティアナだが、今は無効らしい。
 仕方なく、今までの経緯をスバルに聞くことにした。
「で、今どんな状況なんだ?」
「取り敢えず一通り回ってきた所です!」
 小声ながら元気の良いスバルの答えに疑問。だが失礼ながら、俺はその答えに疑問を覚えてしまった。
「ガジェットとは戦ったのか?」
 一通り回ったならガジェットと戦闘を行ったはずだ。にもかかわらず彼女達の姿は無傷であり、戦った形跡もない。
 その答えは、至極単純なものだった。
「それが反応はあるのに見つけられなかったんです」
 一転してしょんぼりと項垂れるスバルの肩を叩きながら、今の状況に納得する。
 おそらくティアナは姿を表さないガジェットへの対応策を考えているのだろう。ティアナはこういった現場の作戦立案に強い。
 逆に俺とスバルはやることがなくなり、所在なげにしていたところになのはが現れた。
「ティアナ、状況を報告して」
「は、はい!」
 さっきまで静かにしろと言っていた本人が声を上げていることには誰も突っ込まない。
 結局、俺とスバルはやることもなく二人を眺めるしかなかった。
「……羨ましいなぁ」
「何が?」
「最近なのはさんと仲が良くて」
 そんな雑談をやるまでになっていた。
「スバルは確かなのはに憧れて管理局に入ったんだっけ?」
 前に聞いた話だが、スバルは過去に空港火災から救出されたことがあるらしい。そして彼女を救い出した人物こそがなのはなのだそうだ。
「私もなのはさんみたいに強くなって、今まで守られてきた自分を変えたいなと思って管理局に入ったんだぁ」
 嬉しそうに笑みを溢しながらスバルは語る。俺は黙って、彼女の言葉に耳を傾けていた。
 口下手な俺には聞いてやることしか出来ない。それで良いと思うし、彼女も何か言ってほしいわけではないだろう。
 ただ聞いて欲しい。言うなれば惚け話みたいなものだった。
「それでそれで――」
「……スバル? ちょっと恥ずかしいんだけど」
 いつの間にか、なのはがすぐ近くに来ていた。
「話、聞いてなかったよね?」
 頬を紅に染めたなのはに、極めて真面目な口調でたしなめられた。
 ティアナなど呆れて物も言えないという表情だった。
「あ……ご、ごめんなさい」
 スバルも今さらながら真っ赤になって頭を何度も下げていた。
 そんなことをしている場合でもないのだが。
「で、なのは。これからどうするんだ?」
 俺の言葉になのはが朱を引っ込め、表情を引き締める。ようやく話が始まろうとした――

 その時、鋼の輝きが暗いビル内に閃いた。



     ・・・



 突如襲い掛かるガジェット。今までにない未知の力と、狭い建物に犇めく数十の数に、四人は翻弄される。
 スカリエッティの実験、四人は如何に対処するのか。

   次回『刺客』

 Revive Brave Heart

476無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/12/10(木) 08:43:56 ID:u.0Z3V7k
これにて投下終了です。

まずは二か月近くも投下できなかったこと、申し訳ありませんでした。最近本当にマンネリ気味で、腕も前以上に鈍ってしまったので筆が進まなかったのです。
今回の話も自分的には納得できない文章で、正直先延ばしにする欲求にも駆られました。しかし世に出すことで皆様から感想や批評をもらうことで、自らを変えようと思い、投下を敢行しました。

今回と次の話は大局的には重要な話ではないですが、なのは関連の話を挟もうと考えています。そろそろなのはの気持ちにもケリをつけさせてあげたかったので。
それと某少年の登場ですね。彼がこれからどう絡むかもご期待ください。

それとカズマが異常にキレやすいのはあくまでも仕様ですwww

477魔法少女リリカル名無し:2009/12/10(木) 09:50:14 ID:PW2f7R9Y
便利な言葉だな

478無名 ◆E7JfOr0Ju2:2009/12/10(木) 11:06:13 ID:u.0Z3V7k
>>477
そうですね。冗談のつもりだったんですが言い訳に聞こえる物言いだったと思います。申し訳ありません。

ではコメント、感想、批評をお待ちしております。

479魔法少女リリカル名無し:2009/12/10(木) 18:59:27 ID:2RdeV5q2
>>476
GJ!キングも出てきたんですね。次回バトルを楽しみにしています

ただ一点、出来に納得してなくても書いて出した以上
あまり言い訳されない方が好感が持てると思います。

480魔法少女リリカル名無し:2009/12/10(木) 19:23:49 ID:tEGdf6O.
>>479
全くもってその通りですね。申し訳ない。あの愚痴は撤回させていただきます。


キングの動向、ガジェットの行方、どうぞご期待ください。

481レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:10:07 ID:G6VsDxmc
今晩は予約が無さそうなので22:20頃に三十五話を投下させてもらいます。


今回は暴力的な部分がある為、苦手な方は閲覧しない事をお勧めします。

482レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:20:53 ID:G6VsDxmc
ではいきます。


 …時はなのはとヴィヴィオが対峙している頃まで遡り…
 
 エインフェリアを一撃で撃破したレザードは、依然としてヴァルハラへ進路を取って飛行を続けおり、
 暫くして前方にうっすらとヴァルハラの姿を発見し接近すると、ヴァルハラから大量の砲撃が襲い掛かってきた。
 
 「フッ…手荒い歓迎ですね」
 
 レザードは不敵な笑みを浮かべながら一言漏らすと、砲撃を交い潜り一つの砲口へ辿り着き、
 右手に持っていたグングニルを振り抜いて衝撃波を作り出し砲口を破壊、
 大きな風穴を作り上げるとレザードは悠々とヴァルハラへ侵入するのであった。
 
 
                    リリカルプロファイル
                     第三十五話 神
 
 
 風穴から侵入したレザードは次々に立ちはだかる障壁を撃ち破り大通りらしき場所に出て辺りを見渡すと、
 其処はまるで太古の宮殿を思わせるような造りをしており、
 
 至る所に彫刻や壁画が飾ってあり、正に豪華絢爛といった様子であった。
 すると目前から大量のアインヘリアルが姿を現し始める、どうやら侵入者を排除する為に動き出した様子である。
 
 「やれやれ…御大層な持て成しですね」
 
 レザードは肩を竦め小馬鹿にした表情を浮かべていると、アインヘリアルから多数の魔力弾が発射される。
 するとレザードはバリア型のガードレインフォースを張りアインヘリアルの攻撃を防ぎ、
 
 そして左手に青白い魔力を纏わせてアインヘリアル達に向けるとファイアランスを発射、
 複数の炎の矢がアインヘリアル達に突き刺さり、一瞬にして溶解していった。
 
 そして一通り攻撃を終えたレザードはモニターを開き、ドゥーエが文字通り命を懸けて届けてくれた内部構造図と今現在の場所を照らし合わせる。
 どうやら此処はヴァルハラの外装地区、三賢人がいる場所は更に奥の内装地区である事が判明した。
 
 「此処からでは些か遠いですが…仕方ありませんね」
 
 そう言うなり歩き始め地図を頼りに内装地区を目指す、その間にアインヘリアルの増援・襲撃が続くが、
 まるで無人の野を行くが如く何事もなかったのように進み、
 レザードの歩いた後には溶解もしくは破壊されたアインヘリアルの残骸だけが転がっていた。
 
 
 外装地区を突き進み内装地区に繋がる障壁を破壊して更に進み歩いていくと、
 先程まで大量に襲いかかって来ていたアインヘリアルの姿が突如としてなくなり、
 
 突然の撤退に首を傾げるも先に進み目的の場所へと辿り着く。
 其処には身の丈以上の巨大な扉が存在しており、神の玉座と書かれたプレートが掲げられていた。
 
 「…随分と御大層な部屋ですね」
 
 レザードは一つ鼻で笑うと右手に持つグングニルを振り抜き衝撃波を作り出して扉を切り刻み、
 音を立てて扉が砕け落ちる中、ゆっくりを部屋へと足を運ぶ。
 
 部屋の中は広く大理石をモチーフとした石柱が幾つも並び建ち、目前には緩やかな十段ほどある階段があり、
 更に奥には巨大な玉座が三つ並び建ち、玉座にはヴォルザを中心に右にガレン左にはダレスが堂々と座っていた。

483レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:22:04 ID:G6VsDxmc
 レザードは三賢人の姿に内心驚きつつ含み笑いを浮かべる、何故なら三賢人の姿は、
 かつて自分がいた世界に存在していたディパンの三賢人に容姿が酷似していたからである。
 
 恐らくはメルティーナと同様“他人の空似”であるのだろうが、今思えば彼等が行ってきていた行動は、
 ディパンの三賢人とさほど変わってはおらず、その事が尚彼等を滑稽に見せていたのだ。
 
 だがレザードの内心を余所に神の三賢人はゆっくりと椅子から立ち上がり、
 レザードを見下ろす形で対峙するとヴォルザが威厳あるように言葉を口にする。
 
 「まさか…貴様自身がこのヴァルハラに乗り込んでこようとはな……」
 
 だがむしろ手間が省けたと不敵な笑みを浮かべるヴォルザに対し、
 眼鏡に手を当て此方も不敵な笑みを浮かべて見上げているとヴォルザは更に言葉を口にする。
 
 「我ら神に逆らい者には罰を与えんとな…」
 「ほう…ならばその罰とやらを見せて貰いましょうか」
 
 そう言うとレザードは左手を向けてファイアランスを撃ち出す、
 するとダレスが一歩前に出てバリアを張り、ファイアランスを防いだ。
 
 「私のファイアランスをこうも簡単に防ぐとは…ならばコレはどうです?」
 
 するとレザードは体を宙に浮かせ三賢人のいる高さまで上がると、グングニルを振り払い衝撃波を撃ち出すが、
 それすらもダレスのバリアは防ぎきり驚く表情を浮かべる。
 
 レザードの攻撃が一通り終えると今度はガレンが一歩前に出て、杖を向けて直射砲を撃ち抜くが、
 レザードはバリア型のガードレインフォースを張り攻撃を防いだ。
 
 「ほう…少し侮っていたか」
 
 ガレンは一言漏らすと魔力を高め、直射砲は徐々に勢いと威力が増し、レザードを押しのけ始めるとバリアに亀裂が走る。
 …このままではバリアが砕け散ると見たレザードは予め…と言うより常に用意している移送方陣を発動、
 
 足下に五亡星の魔法陣が張り巡り、バリアが砕けるとほぼ同時に移送、難を逃れる。
 そして先程より高い位置に移送すると三賢人を睨み付けた。
 
 「よもや私のバリアを破壊するとは!」
 
 レザードが作り出したバリアはそう簡単に砕けるものでは無く、
 なのはのスターライトブレイカーすら防げると自負していたが、その自信は脆くも崩れ去った。
 
 「ならば!コレならどうでしょう!!」
 
 レザードは左手を向けて青白い魔力を纏わせると、イグニートジャベリンを撃ち抜く。
 その数は10本に上り、光の槍は三賢人に襲いかかるが、ダレスのバリアに阻まれる、
 しかしレザードの放った槍の一つによってダレスのバリアに小さな亀裂が走った。
 
 「おや?思っていたより威力がありましたね」
 
 レザードの攻撃が自分の想像より威力があった事に驚いていると、
 ガレンもまた「驚きだな」と応え笑い合う中、レザードは先程と同様の数のイグニートジャベリンを撃ち放つ。
 だが今度は完璧に防がれ、苦虫を噛む表情を浮かべていると、ヴォルザの左手から強烈な光を放つ雷を発生させる。

484レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:24:03 ID:G6VsDxmc
 
 「ふっ…二人とも迂闊であるぞ」
 
 そう言って二人を窘めると左手を向けてサンダーストームを撃ち放つヴォルザ、
 一方レザードはバリアを張り巡らして攻撃に備えるが、バリアは一瞬にして砕かれ、
 
 強烈な雷がレザードの身に降りかかり、何度も体を跳ね上げサンダーストームが終えると、
 苦しい表情を浮かべながら漂うレザードであった。
 
 「ぬぅ…これほどの魔力を有しているとは…」
 「…フンッ魔力はまだまだこの程度ではないわ」
 「何ですって!?」
 
 レザードの驚く表情に三賢人は不敵な笑みを浮かべると更に魔力を高め、ガレンは魔力弾を50程作り出し、レザードに向けて撃ち出す。
 するとレザードはバリアを張りつつ魔力弾を回避、更にアイシクルエッジにて迎撃し回避出来無い場合はバリアで防いでいた。
 
 だがガレンは更に魔力弾を追加して遂にレザードのバリアを破壊、
 その身に幾度も魔力弾が突き刺さる、だがその中でレザードはガレンの元へ向かっていく、
 三賢人は基本的に魔導師系であると考え腕力ならば勝てると踏んだからである。
 
 そしてグングニルを勢い良く振り下ろすが、ガレンは持っていた杖で容易く受け止め、
 逆に押し返すと杖を振り上げレザード目掛け振り下ろし、
 直撃したレザードはなす統べなく床に叩き付けられ、暫くしてゆっくりと立ち上がる。
 
 「バカな!何という力だ!!」
 「フンッ此が神の器を手に入れた我々の実力だ」
 
 神の器は魔力だけではなく接近戦でも充分な実力を引き出せる代物であり、
 見た目でも非力そうなレザードの腕力では相手に出来る訳が無いと力強く答え不敵な笑みを浮かべる。
 
 だがレザードは再度衝撃波を放ち、更にアイシクルエッジを撃ち抜くが、
 今度はガレンがバリアを張り防がれると、続け様にヴォルザがエクスプロージョンを放ち、
 レザードの周囲は炎に包まれるが、何とか耐え抜いて上空へと移動、
 
 するとダレスが誘導性のある魔力弾を撃ち放ち、レザードは石柱を縫いながら逃げ回り、
 ファイアランスで魔力弾を相殺、更に左手を向けて青白い魔力で覆うと指を鳴らし、
 バーンストームを発動、三賢人の足下は三度爆発を起こし、彼等がいた場所は炎に包まれる。
 
 「コレならどうでしょう」
 「…無駄な事を」
 
 すると辺りの炎が消え去り中から無傷の三賢人が姿を現し、
 驚く表情を浮かべていると、ヴォルザはアースクレイブを発動、
 レザードの頭上から大量の岩の刃が降り注ぎ床まで追いやられ膝を付かされる。
 
 「おのれ…こうなればエインフェリアを一撃で葬った我が魔法で叩き潰してくれる!」
 
 そう言って立ち上がると左手を三賢人に向け、足元に巨大な多重の多角形型の魔法陣を広げ詠唱を始める。
 
 「汝は知るだろう…幾何になりし封縛…いかなる訃音を告げるものか!」
 
 すると三賢人を中心に巨大な氷の塊が三角形の位置に現れ徐々に迫り三賢人を閉じ込める、
 そして――――
 
 「デルタストライク!!」
 
 次の瞬間、氷の塊は砕け散り辺りには砕け散った氷が雪のように舞い散る中、
 三賢人ごと砕け散ったであろうと確信し、不敵な笑みを浮かべながら見つめると、レザードの表情が一転する、

485レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:27:37 ID:G6VsDxmc
 何故ならばレザードが放った広域攻撃魔法の中心にはダレスとガレンがバリアを張り巡らせ耐えきった姿を目撃したからである。
 
 「バカな…あのエインフェリアを一撃で葬った魔法と同威力なハズなのだぞ…」
 「我々がエインフェリアよりも弱いとでも思っていたのか?」
 
 エインフェリアは三賢人の肉体である神の器の基の一つであり、神の器が基であるエインフェリアよりも弱いハズがない、
 そうヴォルザが答えると、左手をレザードに向けて不敵な笑みを浮かべる。
 
 「…広域攻撃魔法とは、こういう物を言うのだ!」
 
 すると足下に巨大な広域攻撃魔法用の魔法陣を張り巡らし詠唱を始める。
 
 「頌歌なき混沌…浄化なき漆黒…無の監獄に囚われし隻眼の巨神に我は問う!」
 
 そして魔力の球体がレザードを中心に囲うようにして張り巡り、
 球体内に赤い稲光が漂うと赤い球体と化してレザードを包み込む、
 その光景は端から見ればまるで赤い眼を彷彿としていた。
 
 「プリシードグラビディ!!」
 
 次の瞬間、プリシードグラビディは光を放ち辺り轟音が鳴り響き消滅すると、
 音の中央ではグングニルを杖にして辛うじて立っているかのような佇まいのレザードがいた。
 
 「何故…これ程の魔力を……」
 「……ならば冥土の土産に教えてやろう」
 
 そう言うなりヴォルザは胸元を指す、三賢人は高性能な神の器だけでは飽きたらず、
 内部にレリック更には補助としてジュエルシードが取り付けられており、
 二種にはルーンが刻まれほぼ無尽蔵に魔力を得られる、まさに永久機関とも言える機能があるのだという。
 
 つまりそれは三賢人の魔力には底が無いという事であり、
 レザードは焦るような表情を浮かべながらグングニルを振るおうとしたが、
 ダレスのバインドによって手足を縛られグングニルを落としてしまう。
 
 するとレザードの体が大の字に引っ張られ更に浮かび上がり、
 三賢人の目線まで上昇すると三賢人は足下に魔法陣を張り詠唱を始める。
 
 『虚空を伝う言霊が呼び覚ませしは…海流の支配者の無慈悲なる顎門!!』
 
 三賢人は声を揃え詠唱を始めると、それぞれの手から水が生まれ水流となり、
 更に激しい激流へと変わり最後は竜に形取り、三賢人の手の平に漂う。
 そして詠唱を終え広域攻撃魔法の準備も整った三賢人は、レザードに別れの挨拶を告げた。
 
 「我ら神に逆らった罪…命を持って償うがいい!!」
 「……フフッ…フハハハハハハハ!!」
 「…ついに恐怖で心が折れたか……」
 
 まるで哀れむようにしてレザードを見つめる三賢人に対し、
 今までとは異なり不敵な笑みを浮かべ魔力を高め始める。
 
 
 すると呼応するようにグングニルが反応し、レザードの前まで向かうと縛り付けていたバインドを切り裂いていく、
 そして右手でグングニルを掴むとレザードは三賢人に左手を向けて、多角形型の巨大な魔法陣を足下に広げ詠唱を始める。
 
 「汝…美の祝福賜らば、我その至宝…紫苑の鎖に繋ぎ止めん……」
 「最後の足掻きか…無様な!!」
 
 しかしレザードの広域攻撃魔法が発動する前に三賢人のダイダルウェイブが発動、
 顎門がレザードの魔法陣ごと飲み込み三匹の竜は天高く上る。

486レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:30:19 ID:G6VsDxmc
 
「…ふっ安心せよ、すぐに無限の欲望も後を追わせよう」
 
 そう言って勝利を確固たる勝利を確信した三賢人であったが…
 三匹の竜は急に動きが止まり暫くすると徐々に頭部から凍り付き始め、
 全身を凍り付かせるとレザードのこもった声が辺りに響き渡る。
 
 「アブソリュート…ゼロ!!」
 
 すると次の瞬間、ダイダルウェイブは粉々に砕け散り、
 辺りはまるでダイヤモンドダストのように破片が煌びやかに舞い、
 その中心には左手を眼鏡に当て不敵な笑みを浮かべ佇むレザードの姿があった。
 
 「これは!一体?!」
 「失礼…余りにも滑稽過ぎたのでつい……フフッ」
 「なん…だと?」
 
 今までの戦闘は全て三賢人の実力、そして神の器の性能を知る為の演技、
 だが三賢人はそれを知らずに茶番劇に乗っかり、あまつさえ調子すら乗っていた。
 
 正に神も畏れぬ恥知らずな行為、故に三賢人の底が見えた為にこの茶番劇を終えた…
 そう不敵な笑みを浮かべながら語ると、三賢人は大声で笑い始め流石のレザードも困惑する。
 
 「愚かな…この程度の魔力で勝った気でいるとはな!」
 
 そう言うや否や三賢人は更に魔力を高め不敵な笑みでレザードを見上げる。
 一方でレザードは呆れた表情を浮かべ頭を押さえ始めた、
 この期に及んで三賢人の愚考に愚行…最早呆れるを通り越して哀れみすら感じる。
 
 正に傲慢を形取った存在、この様な存在が神を名乗っている自体、万死に値する…レザードはそう考えると、
 レザードの考えに知ってか知らずか三賢人は更に挑発を重ねる。
 
 「やはり神の力の前に言葉を無くしたか……」
 「愚かな……神の力という物が一体どの様なモノを指すのか、見せて上げましょう……」
 
 するとレザードの足元から青白く光る五亡陣が現れ、青白く光るレザードの魔力が白く輝く魔力に変わり、
 レザードの全身は光の粒子に包み込まれ、次に右手に持っていたグングニルがネクロノミコンに戻りレザードの目の前で浮かび光を放つと、
 
 一枚一枚ページが外れ白く輝く魔力に覆われレザードの周りを交差しながら飛び回り、
 そしてレザードのマントは浮遊感があるようにふわふわと漂い、レザードの体も同様に漂うと足下の魔法陣が消え去る。
 
 その変貌と魔力の異常な高まりに三賢人は泡を食っている中で、
 レザードは三賢人に左人差し指を向けると、全身を纏う光の粒子が集まりグングニルを形成し勢い良くダレスに向かっていく。
 
 するとダレスは先程と同じくバリアを張り攻撃に備えるが、一瞬にして打ち砕き更に身を貫く、
 そして柄の部分まで貫き止まるとレザードは手の平を返し人差し指で呼ぶような動作を二回程行うと、
 グングニルはその場で勢い良く縦回転、更に回転を維持したままレザードの手元に戻り、光の粒子に戻って消え去る。
 
 「どうです?神の力をその身に受けて」
 「ぐぎゃああああああ!!!」
 「……いい返事です」
 
 レザードは満面の笑みでそう答える中、痛みでのたうち回るダレス、
 グングニルの攻撃は非殺傷設定を受けている為、真っ二つされた時に生じる痛みのみ与えるようになっていたのだ。

487レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:32:21 ID:G6VsDxmc
 そんなダレスの姿を見たガレンが報復とばかりに魔力弾を形成、
 その数は100にも上り一斉に撃ち出しレザードに迫ってくる。
 
 …だが魔力弾はレザードの体をすり抜け天井や柱、壁などに次々に激突していく、
 そして肝心のレザードはまるで何事も無いかの様に佇んでいる、
 しかし魔力がすり抜けた部分は光の粒子と化し、暫くして肉体に戻っていった。
 
 アストラライズ、対象物の物体(マテリアル)を幽体(アストラル)に変換させる事で霊体化する技術で、
 物質は勿論の事、魔法すら効果が無く攻撃するには同じくアストラライズするか、
 霊体化を無効もしくは霊体自体に影響を及ぼす能力・技術が必要となるのだ。
 
 しかし三賢人はそのような事を知らず次々に魔力弾を撃ち抜くが、
 その全てが無効化…つまりはすり抜けていき、ガレンはレザードの頭部目掛けて直射砲を撃ち抜くが、
 アストラライズされた肉体には一切傷を負わせる事が出来ず、すり抜けただけに終わる。
 
 「愚かですね…そんなモノが通じる訳が無いでしょう」
 
 するとレザードはガレンに向けてアイシクルエッジ、イグニートジャベリン、ダークセイヴァーと次々に撃ち抜き、
 ガレンは串刺し状態になると最後にグングニルがガレンの腹部辺りを貫いた。
 
 その時…痛みから何とか耐え抜いたダレスが起き上がり、
 怒りの眼差しを向けながら迫り、持っていた杖を振り降ろすが、
 
 杖はレザードの体をすり抜け、肩透かしに合うと
 今度はレザードの周りを飛び交うページが次々にダレスの身を斬りつけて行く。
 
 レザードの魔力が籠もったページの切れ味は名のある名刀に並ぶ程で、
 しかも此方も非殺傷設定されてある為に肉体自体を一切傷付ける事無く痛みのみを与えたのであった。
 
 だがダレスはレザードの攻撃に何とか耐え抜き、続けて魔力弾を撃ち込もうとしたところ突然光の粒子に変わり消えると、
 ダレスの周囲が爆発しその光景に膝を付いていたガレンが驚きの表情を見せていると、
 
 いつの間にかレザードは真後ろにテレポートしていたらしく、
 右手でグングニルを引き抜き光の粒子に戻すと、続け様に左手でガレンの体を透すようにして心臓を握る。
 すると心臓を中心に囲むようにして結界が張られると、握りつぶす動作を行った。
 
 前者はリベリアス・リペンタンスと呼ばれる自らを光の粒子に変え爆発と同時にテレポートする技で、
 後者は力ある名前と呼ばれる、対象を魔力で包み込み握りつぶすようにして攻撃、受けた者はほぼ即死と言う荒技である。
 
 だが双方共に非殺傷設定されており、今回放った力ある名前においては、
 心臓のみ魔力を張る事により、握り潰された時に生じるであろう苦痛だけを与える非人道的な技へと変わっていたのであった。
 
 「どうです?神の力をその身に受けて…」
 「ガハッ!!あああぁぁがあぁぁぁぁ!!!」
 「其処まで喜んでくれるとは……光栄の極みです」
 
 ガレンは心臓を押さえ悶え苦しむようにのたうち回り、
 その光景をまるで祝福でもしてくれたかのように振る舞うレザード。
 
 「おのれぇ!我らの宿願、このような形で終わってなるものか!!」
 
 その光景にヴォルザは怒りに震えながらレザードに杖を向けてエクスプロージョンを撃ち抜くが、
 レザードのプリズミックミサイルにかき消され、寧ろその身にレザードの攻撃を受ける。

488レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:33:53 ID:G6VsDxmc
 すると体が言う事聞かず全身が痺れるように麻痺していると、
 レザードが目の前まで近付き、蔑んだ瞳で見下していた。
 
 「…哀れですね、所詮は人の身…それで神を名乗るとは、それ自体が痴がましい……」
 
 だからと言って許すつもりはない…そうハッキリとした口調で語り、
 左手を向けてファイアランスを撃ち放ち、火達磨にすると、今度はアイシクルエッジにて凍結させる。
 
 それを何度も繰り返し焦熱と極寒の地獄をヴォルザはその身で体験していると、
 ヴォルザを助けようとダレスが魔法陣を張り始める中、
 
 レザードは右指先でパチンッと鳴らしポイズンブロウを撃ち放ち、
 ダレスの足下から紫色の濃霧が立ち上り消え去ると、
紫色に変色したダレスが、喉を掻き毟りながら悶え苦しんで倒れた。
 
 その光景を見てレザードは声を上げて笑うと一つの案を思い付き、
 早速ヴォルザに撃っていた魔法を中断、糸が切れたようにヴォルザが座り込むと、
 
 レザードはヴォルザの目線に合わせ右人差し指をアストラル化させて額に触れ、
 ゆっくりと突き進みヴォルザの脳に到達すると―――
 
 「…ファイアランス」
 
 次の瞬間、ヴォルザの脳は炎に包まれ、熱さと痛みと苦しみが文字通り脳内で響き渡り、
 頭を押さえ悶え苦しんでいる中、更にレザードは心臓・二つの肺・肝臓・腎臓そして睾丸に火をつける。
 
 …特に睾丸は炎の調整が難しかったと、自慢気に語る中、ヴォルザは顔の穴という穴から体液を垂らし、
 体を何度も痙攣させながら苦しみ、その姿はまるで陽向に放置されたミミズのようであった。
 
 だがレザードの攻撃は未だ終わらず、今度はアイシクルエッジを撃ち抜き全身を凍り付かせる。
 
 「ふふふ…どうです?体内から焼かれる苦しみと体外から凍り付く苦しみは……」
 
 非殺傷設定がなければ此程の事をするのは至難の業であり、
 更に三賢人の魔力はリンカーコア・レリック・ジュエルシードそしてルーン文字によって、
 永久機関化されてある為に気絶する事すら出来くなっていたのだった。
 
 「だが殺しはしない…殺して楽になどさせるものか!」
 
 生かさず…殺さず…気絶すらさせず、ただ苦しみ悶えさせる…それはさながら悪魔の所業と言っても過言では無い、
 そして三賢人の攻撃は一切通用しない、まさにレザードは“全てを超越した存在”と言っても過言では無い実力を持っていた。
 
 一方でダレスは未だに毒に苦しみ、ガレンは心臓を押さえつけていた。
 するとレザードは左手をガレンに向け魔力を用いて体を浮かせる、
 だがガレンの瞳は未だ敵対心のある眼差しを秘めていた。
 
 「…気に入らんな」
 
 そう一言発するとイグニートジャベリンを発動、周囲に五本の光の槍を作り出すと、両手足を貫き最後の一本で両目を貫いた。
 ガレンは幾度目かの叫び声をあげると今度は左手を潜り込ませ心臓に手を当てるとライトニングボルトを放つ。
 
 「どうです?私の心臓マッサージは?」
 
 心臓に手を当て、とても苦しそうにしていたからマッサージで癒してやろう…
 そう言いながらも更に電圧を上げて撃ち抜きガレンの体は幾度も体を跳ね、
 背中から余剰の電流が流れ出し口から泡を吹き出し始めても、
 
 気絶する事が出来ず五回程電圧を上げて打ち込まれた後、最後はヴォルザの下へと投げ込み、
 ガレンはぐったりとした表情で未だに痙攣を起こしていた。

489レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:36:49 ID:G6VsDxmc
 ガレンの様子を見下ろすように確認すると、レザードは続いてはダレスに目を向ける、
 ダレスは未だ全身に回っている毒で苦しんでおり、その様子にレザードは
 笑みを浮かべながら近付き左手に魔力を纏わせてダレスの腹部に潜り込ませる。
 
 そして左手を引き抜くと纏っていた魔力は消え、レザードは上空にテレポートすると左指先をパチンッと鳴らす。
 するとダレスは爆発して吹き飛び地面に叩き付けられると、再び指先を鳴らし爆発、
 
 先程と同様に吹き飛び顔から地面に着地すると更に指先を鳴らして爆発、
 ヴォルザとガレンがいる場所まで吹き飛ばされ倒れるとレザードは拍手を送る。
 
 「見事に仲間の下へ戻ったようですね」
 
 レザードはダレスの体の中にバーンストームを埋め込み、指先を鳴らす度に体の中で爆発、
 その勢いを使ってダレスを他の二人の下に運んだのであった。
 
 「折角集まったのです、此処は私が一つプレゼントを差し上げましょう…」
 
 すると足下に多角形の魔法陣を幾重にも張り巡らせて詠唱を始める。
 
 「我は命ず…汝悠久の時、妖教の惨禍を混濁たる瞳で見続けよ……」
 
 そして魔法陣から巨大な骸骨が姿を現しレザードはその肩に乗ると、三賢人に向かって指をさす。
 
 「ペトロディスラプション!!」
 
 すると骸骨の口から大量の灰色の濃煙を吐き出し三賢人を包み込み、
 濃煙の中では三賢人の一人であるヴォルザの氷が一瞬にして砕け、
 そして悶えながら痙攣を起こしており、煙が晴れると其処には瀕死状態の三賢人の姿があった。
 
 最早三賢人は以前のような自信に満ちた姿など見る影もなく、心は折れ肉体と精神は疲れ果て、声も体液も枯れ果てていた。
 そしてレザードは三賢人の相手に飽きが来たのか、ヴォルザの体内で燃えさかる炎を消し、
 ダレスの毒を消し去ると左手を眼鏡に当てて不敵な笑みを浮かべて語り始める。
 
 「さて…所詮はただの人であった訳だが…私を此処まで楽しませてくれたのです…何か褒美を上げませんと」
 
 そう言って顎に手を当て考え込み、暫くして何かを思いついたのか、
 満面な笑みを浮かべ右手を三賢人に向けて褒美を発表する。
 
 「そうだ!石像を贈りましょう…しかし石像の材料は―――貴様達です」
 
 三賢人を材料に三賢人の石像を建ててやる、それはさぞかし自慢の一品になるだろう…
 そう告げると恐怖からか逃げ出そうとする三賢人であったが、
 レザードはすぐさま指先を鳴らしストーントウチを発動、三賢人を灰色の煙で包み込み暫くして煙が晴れる。
 
 すると其処には恐怖に呑まれ顔を引き付かせながら逃げ出そうとした三賢人の石像があった。
 その石像をレザードはじっくりと見つめ顎に手を当て暫く考えた後、結果を口にする。
 
 「…失敗作ですね、やはり、こういった物を後世に残す訳にはいきませんし……」
 
 そう言うと光の粒子がグングニルに変わり、レザードが右人差し指で左から右へ振り払うと、
 グングニルもまた同じ動作を行い衝撃波を作り出し、三賢人の石像を完膚なきまでに破壊し尽くした。
 その残骸を目にしてレザードは高笑いを掲げながらこの場を後にするのであった。

490レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:38:27 ID:G6VsDxmc
 神の玉座を後にしたレザードはモニターに映し出している地図を頼りに、
 アインヘリアルの操作・制御装置を破壊、更に先に進み動力室へと足を運ぶ。
 
 「大きいですね……」
 
 レザードは動力炉を見上げ一言漏らす、全長数キロにも及ぶヴァルハラの動力炉は、
 ゆりかごの動力炉に匹敵する大きさで、並の魔法では破壊は難しいと考えたレザードは、
 足下に広域攻撃魔法の魔法陣を張り巡られて詠唱を始める。
 
 「我…久遠の絆断たんと欲すれば…言の葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう……」
 
 するとレザードの頭上に巨大な槍が出現、槍は回転し始め、
 柄の両先から魔力は放出すると、レザードは動力炉に向けて右人差し指を向けた。
 
 「ファイナルチェリオ!!」
 
 そう叫ぶとファイナルチェリオは動力炉に突き刺さり大爆発を起こし消滅した。
 …だがレザードは顎に手を当て考え込む、スカリエッティの願いは「ヴァルハラを一切の破片も残さず破壊する事」である。
 
 これほど巨大な船を破壊するには並の魔法では不可能と考えたレザードは、
 広域攻撃魔法の中でも威力が高い魔法の一つを選び出し、
 レザードは足下に広域攻撃魔法の魔法陣を張り右手を向けて詠唱を始めた。
 
 「汝…其の諷意なる封印の中で安息を得るだろう…永遠に儚く……」
 
 するとレザードを中心に金色に輝く羽と共に光を放ち始め、障壁を撃ち貫く度に輝く羽が舞い散り…
 そして―――
 
 「セレスティアルスター!!」
 
 レザードの掛け声を合図に強烈な光が放たれ周囲を包み込むのであった。
 
 
 場所は変わり此処ヴァルハラの外にはレザードを追いかけていたはやての姿があった。
 はやてはヴァルハラからの砲撃を後方で確認していると、
 
 レザードがヴァルハラに侵入、それにより接近し始めるとアインヘリアルが陣を張り、
 暫く戦闘を行っていたのだが、急にアインヘリアルが動かなくなり次々に落下していき、
 不審に思ったはやてはヴァルハラに接近、ある程度距離を開けて観察をしていた。
 
 「…静かやな」
 
 今までとは打って変わって静寂が包み込み、その静けさがかえって不気味さを演出している頃、
 静寂を切り裂くように突然爆発音が鳴り響き、はやては慌てふためいていると、
 
 ヴァルハラの至る所から金色に輝く光が姿を現し、光の中から輝く羽が舞い散り、神々しい演出が見受けられる中、
 光はヴァルハラを完全に包み込み、はやてはその眩しさから右手で遮るようにして目を凝らしていた。
 
 「うおっ!眩しっ!!一体なにが起きたんや!?」
 
 はやては事態の把握に専念する中で光は落ち着きを見せて完全に消え去ると、
 今まで存在していたヴァルハラが塵も残さず消滅しており、
 ヴァルハラの跡地にはレザードが不敵な笑みを浮かべてはやてを見上げていた。

491レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:40:18 ID:G6VsDxmc
 
 「おや?貴女は確か…八神はやて…でしたか?」
 「せや!此処で会ったが百年目って奴や!覚悟しい!!」
 
 そして此処で…今何をしたのか洗いざらい話して貰うと、はやてはレザードを問い詰めるが、
 レザードは小馬鹿にした表情で肩を竦めると、左人差し指をリズミカルに三度振りこう答えた。
 
 「ちょっとした魔法ですよ…それに此処で決着をつけるのは少々心許ない…」
 
 故に決着はゆりかごで行おう…そう告げると移送方陣を広げ、紳士的なお辞儀をして移送する、
 その姿に苛立ちを見せる表情を浮かべるはやての下にアースラからの連絡が届く。
 
 今し方クラウディアから一報が届き、クロノ達の連絡を受けて本局はアルカンシェル隊を派遣、
 そして一斉放射によってドラゴンオーブは消滅したとの事である。
 
 一方でクラウディアはミッドチルダ周辺宙域で待機、
 クロノ達は転送装置によりアースラへと移動しているという。
 
 次に各地に展開されていたアインヘリアルが次々に機能停止していると告げると、
 その要因はレザードの手によるヴァルハラ撃破の為であると直接伝え、
 後方にいるのであろうか、クロノの驚愕した声が微かに聞こえていた。
 
 そしてはやてはレザードはゆりかごにて決着を付けると直接挑戦状を受けたと告げ、
 各員ゆりかごに集合するようにと通告すると足早にゆりかごの下へと向かった。

 
 
 そして…ゆりかごがうっすらを確認出来る上空ではなのは・フェイト・はやてを中心にヴォルケンリッターが囲み、
 後方にはティアナを背負いウィングロードに立つスバルにフリードリヒに乗るエリオとキャロ、
 
 続いてクロノ率いる夢瑠を除いたクラウディアチームに、地上にはジェイクリーナスや、
 シャッハにヴェロッサそしてメルティーナにルーテシアの姿も見受けられていた。
 
 ルーテシアはこの戦いが終えた後、自分の罪を償うとクロノ達と約束を交わし、
 そして監視役としてメルティーナが付きそう事で許可が下りたのである。
 
 そしてはやては簡潔に説明を始める、まずゆりかご突入は機動六課のメンバーで行う、
 何故ならば彼等の実力はかなりのモノになり、更になのはとフェイトは神から戴いた杖を持っている為であるからだ。
 
 そこでまず、はやて・ヴォルケンリッターがゆりかごの動力炉を破壊、
 スバル・ティアナ・エリオ・キャロの四人はチンクの確保、
 
 フェイトはまずスカリエッティを確保し、その後なのはと共にレザードの確保、
 残りのメンバーはゆりかご周辺のガジェット及び不死者の撃破と突入組の護衛を命じ一斉に動き始める。
 
 そしてクロノ達の援護・護衛により足早にゆりかごに辿り着いた機動六課メンバー、
 するとはやてが突入口を作る為にフレーズヴェルグの用意を始めると、
 突然ゆりかごの外壁から巨大な火柱が立ち上り大きな風穴をあけ、
 其処からはアギトとユニゾンしたアリューゼとナンバーズの戦闘スーツを着込んだメガーヌが姿を現す。

492レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:40:58 ID:G6VsDxmc
 アリューゼはメガーヌを助け出したはいいが、目も向けられない格好であった為にラボにあった戦闘スーツを着させ、
 そして復活したばかりのメガーヌを連れたままレザードとの戦闘は無理と考え、
 一時的に撤退、その後障壁が立ちふさがりアギトとユニゾンしたアリューゼの一撃によって障壁を破壊し外に出たのだ。
 
 「なんだ?こりゃ―――」
 「アリューゼ!手を貸して!!」
 
 ヴェロッサが簡潔に状況を説明するとアリューゼは頷きメガーヌを連れてヴェロッサの下に向かい、
 入れ替わるように突入組がアリューゼが開けた風穴から次々に突入していく。
 
 そしてアリューゼはメガーヌをヴェロッサに任せ再びゆりかごに向かうと、アースラからクロノに一報が届く。
 内容はミッドチルダ全域に展開されていたガジェット及び不死者が、ゆりかごに集うかのように向かって来ているというものであった。
 
 するとクロノ達の目前の上空に黒い影が姿を現れ大量のガジェット及び不死者を確認した一同は、
 次々に構え始めるとアリューゼが皆より一歩前へと躍り出る。
 
 「何をする気だアリューゼ!」
 「まぁ見てな…行くぜアギト!!」
 「応っ!!」
 
 アリューゼの掛け声にアギトは威勢良く答えると、バハムートティアを肩に構え、
 同じく肩幅ぐらいに足を広げるとアギトが烈火刃を発動、バハムートティアの刀身が業火に包まれる。
 
 「テメェ等の顔も――」
 「――見飽きたぜぇぇ!!」
 
 アリューゼとアギトが台詞を繋ぎ合わせるように言葉を口にすると、
 業火は更に巨大化、アリューゼは業火に包まれたバハムートティアを振り抜いた。
 
 『盛れ炎熱!ファイナリティブラスト!!』
 
 次の瞬間、刀身に纏っていた業火が一直線に伸び横に薙払うと、黒い影は次々に消え去っていき、
 一同はアリューゼの桁違いの威力に唖然とした表情を浮かべている中、
 
 アースラから続々とガジェット及び不死者が押し寄せてきていると報告が届き、
 報告を聞いたクロノの目前にはまたもや黒い影が押し寄せてきており、
 皆に気を引き締めるように促すと、突入組の勝利を信じて対峙する一同。
 
 
 
 
  事態はいよいよ、最終局面を迎えたのであった……

493レザポ ◆94CKshfbLA:2009/12/11(金) 22:42:37 ID:G6VsDxmc
 以上です、レザード+非殺傷設定=変態度UPってな回です。
 
 
 此処で少し補足、レザードのアストラライズの幽体化ですが、
 何故魔法が効かないと言いますと、輸魂の呪や王呼の秘法など、
 幽体や魂に影響を及ぼす術式・技術を用いられた魔法であれば可能なのかもしれませんが、
 魔力を加速・硬化・変換させただけの魔法では幽体に影響が及ぶとは到底思えず、このような形を取りました、
 でもミッド式ベルカ式の中に魂や幽体に影響を及ぼす技術があればレザードと戦えるかもしれません。
 
 次にレザードの炎の件については十六話辺りを見てくれるとわかるかもしれません。
 
 
 次はヴァルハラも終わりいよいよゆりかご編ってな感じを予定しています。
 
 
 それではまた。

494魔法少女リリカル名無し:2009/12/13(日) 21:49:36 ID:i1OZdCM.
GJ
しかし人がいない

495魔法少女リリカル名無し:2009/12/13(日) 22:24:32 ID:QM0YrENU
だって、同じ人しか更新しないんだもの… 
皆が其々お目当ての人は中々更新が無かったり、あるいは既にここを去って行ったりで…

496魔法少女リリカル名無し:2009/12/13(日) 22:34:13 ID:m5Yi1BT.
GJ!
レザード様Kitaaaaaaa!!テラコヤス!
次元世界はレザード様の遊技場に決定だな。
なのは達はどうする!?

497魔法少女リリカル名無し:2009/12/13(日) 23:03:40 ID:MY7LX.Fk
面白い作品の更新が中々ないからねー

498魔法少女リリカル名無し:2009/12/13(日) 23:58:47 ID:BxCGkHDI
>>495、497
そういうことこそ本音で言うべき

499魔法少女リリカル名無し:2009/12/14(月) 10:20:22 ID:2lIo4MO6
GJ
レザード無双過ぎる件
最初から出張ってたら被害最小ですんだんじゃね?
そうなると物語的には面白くないけどw

チンク姉は死の先を逝く者として散った姉妹を呼びそうな予感…

500魔法少女リリカル名無し:2009/12/14(月) 10:25:32 ID:8gfbrkJQ
そういやゾイド氏って最後投下したのいつだったかな?
生存報告だけでも欲しい

501魔法少女リリカル名無し:2009/12/14(月) 13:53:11 ID:hbHZUe46
生存、経過報告ページとか作れるとこっちとしても有難いんだけどな。

502魔法少女リリカル名無し:2009/12/14(月) 22:12:37 ID:bxMu6n4Y
>>500
諦めず待ち続けてる自分w
処でクロス倉庫からウロスのリンク?が無くなって大分たつが、
小ネタというか1レスネタとかこっちにやっていいのか?

503魔法少女リリカル名無し:2009/12/15(火) 00:18:34 ID:LS3LFTmI
経過報告スレとかあるといいな。本スレとも分けた方がいいだろうし。
そういや前にもこんな話をしたような気が……デジャヴだろうか

撤退すると宣言した人はともかく、音沙汰なく消えた人は戻ってきてほしい人もいるんだよな

504魔法少女リリカル名無し:2009/12/15(火) 00:22:18 ID:.hJSZHo2
>>502 単発、1レスネタでも立派な作品なんだからこっちでOK。
てか、倉庫からリンクが外されたのは本スレで雑談OKになってウロス自体が無くなったから。

505魔法少女リリカル名無し:2009/12/15(火) 01:08:45 ID:7u7qQyvg
ライダー映画も公開された事だしRXとか来ないかなー

506魔法少女リリカル名無し:2009/12/15(火) 06:13:44 ID:71ZjF2zM
無印とクロスしてるのになのはが出てこないような話ってやっぱ核地雷だろうか?
誤解がないように言うと別になのはが嫌いなわけじゃなくクロス元がキャラがちょうどなのは枠に収まって進めてくような感じなんだが…
やはり大前提としてダメかな〜

507魔法少女リリカル名無し:2009/12/15(火) 08:44:37 ID:LS3LFTmI
いいんじゃない?クロスしていれば
説明がよくわからないけど、とりあえず投下して反応を確かめてみればいい
男なら「やってやれ」だ

508魔法少女リリカル名無し:2009/12/15(火) 09:27:38 ID:I4h7Khuo
>>506
無印とのクロスでなのは出て来ないのありましたよ
魔法帝王リリカルネロスと言う作品ユーノ助けるのがブルチェックだったり
 面白かったけど四話で止まりましたがね

509魔法少女リリカル名無し:2009/12/15(火) 09:35:54 ID:lYxlGE8c
某タクティクスをやってて
何故かなのはさん達管理局勢がゲイルロズとグリトニルで心が折れる姿を幻視した

510魔法少女リリカル名無し:2009/12/15(火) 18:55:59 ID:QLFGZNz6
なのはの変わりに、虎眼先生がRHを手に入れて魔法少女してもいい。
それが自由。RHで流れしながら、細い砲撃を継続的に発射して、
射程100m以上の斬撃をするとかでも、一向に構わん!

511魔法少女リリカル名無し:2009/12/15(火) 20:27:24 ID:.P75oJdA
>>509
いや、あそこは気力があればどうとでもなるだろw
不屈の心をお持ちのなのはさんなら言わずもがな
むしろ拷問大好きレズ提督のがこあい件

512魔法少女リリカル名無し:2009/12/15(火) 23:03:04 ID:3.GR5bh.
>>510
少女……?
虎眼先生が「リリカルマジカル」とか言ってるの想像して吹いちまったじゃねぇかwww

513魔法少女リリカル名無し:2009/12/15(火) 23:27:25 ID:QLFGZNz6
A,sの11話のタイトルが、聖夜の贈り物とあるので、
リリカル虎眼から、リインフォースに星流れがプレゼントされてむ〜ざん♪む〜ざん♪
STS後には、シャッハ、フェイト、ディード、エリオ、シグナムが術許しレベルの門弟にw

514とある魔導の星砕魔砲(スターライトブレイカ―):2009/12/16(水) 07:19:05 ID:4CprzfKY
はじめまして、唐突にそげぶとなのはストーリーのクロスを白昼夢で見たのを切欠に
禁書×なのはのクロスを書き始めてみた、略称トマスです。
禁書クロスは二番煎じな感じもしますがこちらは無印〜StSで禁書世界のもしもストーリーにしようと思っています。
スターライトブレイカ―の当て字ですが、もっといいモノがあったらアドバイスくださると嬉しいです。
よろしかったら本編投下の際に感じの部分を変えようかと思っています。
序章を今夜20時頃に投下いたします、よろしくお願いいたします。

515魔法少女リリカル名無し:2009/12/16(水) 07:41:12 ID:x1VfhtSE
取り敢えずコテハンを付けておくように。テンプレに書いてあるから。

投下は無論歓迎するが、ちゃんとテンプレは熟読して正しい投下を心掛けてくれ。



余談だがスターライトブレイカーは単語的には『星光砕砲』な気がする。

516魔法少女リリカル名無し:2009/12/16(水) 10:51:19 ID:RKEuMbvg
禁書信者によくある拡大解釈はやめてくださいね

517魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/12/16(水) 18:44:38 ID:XpxgReiA
こんばんは。
新しい話を作りましたので、19:00にUPしたいと思うのですが如何でしょうか?

518魔法少女リリカル名無し:2009/12/16(水) 18:46:39 ID:cuFJ2nKo
>>517
一応>>514の書き込みがあるので被らないように気を付ければOKなのではないでしょうか?

519魔法少女リリカル名無し:2009/12/16(水) 18:52:56 ID:XpxgReiA
了解しました。
19:30までに終わるようにします。

520魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/12/16(水) 19:01:39 ID:XpxgReiA
では、短いですが投下を開始いたします。

法王は、騎士たち一緒になって技師・職員の避難活動を行っているカリムたちに声をかけた。
「カリム、シャッハ、君達はハルベルティルダ姉妹を連れて急ぎ本局ビルへ行きなさい」
「聖下!?」
二人は“信じられない”という表情で法王を見詰めると、法王は笑顔で答える。
「恐らく、本局も通信機能が麻痺して混乱状態にあるはず、君らの力が必要になろう」
「では、聖下もご一緒に!」
カリムがそう言うと、法王はかぶりを振って答える。
「いや、私は魔神を止めねばならん、法王の務めはそれなのでな」
「そんな…! 」
カリムが絶句すると、法王は宥めるよう微笑みながら言葉をかける。
「カリムや、お前さんが小さい頃よく遊び相手になってあげた事も、家庭教師となって色々
教えてあげた事は、今も一番の思い出じゃよ」
「聖下…」
カリムの手を取ると、優しく諭すように言葉を締めくくる。
「何、大丈夫。この老いぼれ、まだまだ死にはせんて。
さあ、今は自分の為すべき事に集中するのじゃ」
法王はエージェントとシャッハに振り向く。
「カリムの事、くれぐれも頼んだぞ」
法王はそう言い終えると、杖を突きつつ倉庫の方へをゆっくり歩き出す。
その後姿を、カリムは呆然と見送る。
「騎士カリム…」
心配したシャッハが声とかけると、カリムは決然とした表情で二人に振り返る。
「至急、本局ビルへ向かいます。急ぎオットーとディードに連絡を」
「分かりました!」
落ち着きを取り戻した様子に、シャッハとエージェントが力強く頷いた。
「すまんの…」
法王は立ち止まって振り向くと、去り行く三人の後姿に向けて小さく呟いた。

521魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/12/16(水) 19:03:13 ID:XpxgReiA
管理局以外でクラナガンの治安維持の任務に当たっているのは、市当局直属のクラナガン市
警察である。
空間モニターによる通信が不可能となってからは、各地区署及びパトカーに予備のアナログ
無線機が装備されているこの警察機関が、市内各地区の状況を管理局に連絡する役割を担って
いた。
そのパトカーのうちの一台がサイレンを派手に鳴らしながら、信号を無視し、前方の車を蹴
散らしながら市内を猛スピードで暴走するスポーツカーを追っていた。
「暴走車に告ぐ! こちらはクラナガン市警察である! 速やかに暴走行為を中止せよ!繰り
返す―――」
パトカーから警告が繰り返されるが、暴走車は速度を落とす気配を見せない。
「畜生! こっちの言うことをまるで聞きやがらねえ!」
三十代前半のアラブ系と見られる浅黒い肌の警官が、ハンドルを爪が食い込むほど強く握って
前方を睨み付けながら毒づく。
「こちらミルダ246号車、暴走車は現在37区アルテンダ通りを北に向けて逃走中。
付近のパトカーで動ければ至急応援を要請する!」
助手席に座る、潰れた鼻に頭頂部を中心に六つの小さなとさかを持つ、緑色のうろこ肌の警官
は、苛立ちの感情も露わに無線のマイクに怒鳴りつける。
「こちらはミルダ778号車、応援要請了解した。通りの終わりの交差点で挟み撃ちにする」
冷静な口調の返答に、トカサ頭の警官は幾分ホッとした様子で言った。
「頼む、こちらは追いつくだけで精一杯だ!」
交差点に差し掛かると、ミルダ778号車が暴走車の真正面から走ってくるが、暴走車の方も
スピードを落とさない。
むしろ更に加速し、パトカーとの距離を急速に縮めていく。
「チキンレースでもやる気か!?」
アラブ人警官が驚愕の表情で呟き、トサカ頭の警官は仲間に警告する。
「ミルダ778、気をつけろ! 奴は止まるつもりがまったく無い!」
「了解」
暴走車と激突すると思われた次の瞬間、ミルダ778号車は人型の巨大ロボットに変形し、
暴走車の頭上をジャンプすると、そのままミルダ246号車のフロントを脚で踏み潰す。
暴走車を追ってハイスピードで走っていたパトカーは、いきなり前を潰された反動で車体が跳ね
上がり、仰向けにひっくり返って五十メートルほど火花を上げながら路上を滑り、暴走車に
弾かれて街灯に激突した別の車にぶつかって停まった。

522魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/12/16(水) 19:08:04 ID:XpxgReiA
「お見事“バリケード”」
暴走車の方も人間型ロボットに変形すると、バリケードという名のパトカーロボットに賛辞を
送る。
「ま、こんなもんよ“ダブルフェイス”」
バリケードはダブルフェイスに自慢するように手を上げると、後ろを振り向いて集団で走って
くるスポーツカーやピックアップトラックの集団に指示を出す。
「ドロップキックにスィンドルども、このあたりは制圧した! 次は管理局本局ビルへ向かうぞ!!」
それを受けて、車の集団は周囲の混乱を尻目に、交差点を次々と左折していく。
「俺はこれからドローンどもを率いるが、お前はどうする?」
バリケードが尋ねると、ダブルフェイスは再び車に戻って言う。
「俺の方は好き勝手に走り回るだけさ」
バリケードは肩をすくめながら返答する。
「やれやれ、相変わらずお前は単独行動を好むな」
「俺の言う“大暴れ”は、この街の街路を縦横無尽に走り回って管理局の連中を撹乱するって
事だよ」
そう言いながら、ダブルフェイスはドローンたちと反対の方向へ甲高いスキール音を発して走り去る。
バリケードも、首を横に振りながらドローンたちに追いつくべく、パトカーに変形して走り出した。

交差点は破壊され、炎上する車と死人や怪我人の呻きで目も当てられない惨状となっていた。
その混乱の中、横転して煙を上げるパトカーから、トサカ頭の警官が這い出した。
彼の左腕と足首はあらぬ方向に曲がり、顔は血まみれになっている。
「お、おい…アリー…大丈夫か?」
警官はアラブ人の同僚の名前を呼びながら、運転席の方へ這いずりながら向かう。
ドア越しに中を覗き込むと、シートベルトで座席に固定されて逆さまのアラブ人警官は胸を押さえ、
必死に息を吸おうとしている。
「ど、どうした!?」
警官は、ドアを開けようとするが、フレームが歪んでいるようでまったく開かない。
そうこうしているうちにアラブ人警官は意識を失ったらしく、胸を押さえていた腕が力なく垂れ
下がる。
警官は、左足でフロントガラスを割ろうとするが力が入らず、空しく蜘蛛の巣状にヒビの入った
飛散防止ガラスが揺れるのみ。

523魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/12/16(水) 19:11:09 ID:XpxgReiA
パニック状態に陥った警官は周囲を見回しながら絶叫する。
「誰か助けてくれ! 同僚が危ないんだ!!」
すると、両側に跳ね上がった髪をリボンでロングのポニーテールに束ねている、ハイティーンの
少女が、警官に声をかける。
「こちらは管理局機動一課“黒龍隊”所属のディエチ・ナカジマ二等陸士です」
それを聞いた同僚はすがるような表情でディエチに訴える。
「管理局か…! 助かった、アリーが死にそうなんだ! 頼む、助けてくれ!!」
「分かりました、下がってください」
ディエチは同僚にそう言うと、フロントガラスの一部分を拳で突き破り、そこから手を突っ込む
と一気に引き剥がす。
ディエチはアラブ人警官のベルトを外して座席から降ろし、路上に横たえると診察を始める。
「外傷性血気胸ですね」
「それは…何ですか?」
警官が尋ねると、ディエチは背中のバックパックを下ろしながら返答する。
「胸の中に出血した血液が溜まり、心臓や肺が圧迫される事です」
説明を続けながら、ディエチはバックパックから器具を取り出す。
「応急処置で胸腔内の血を吸引して呼吸をしやすくし、止血剤を投与します」
ディエチはそう言うと、チューブで袋とつながった注射針を、アラブ人警官の両胸の脇に刺す。
すると、胸の中に溜まっていた血液が排出され始めた。
次いでディエチは注射筒を左腕に押し当てる、注射針は自動的に腕の血管内に刺さり、薬液が注入
される。
血液の排出を始めて少し立つと、薬との相乗効果でアラブ人警官の浅かった呼吸が回復する。
「落ち着いたようです」
ディエチの言葉に警官は安堵の表情を浮かべる。
「ですが、病院で本格的な治療を始めないと危険です」
ディエチはそう言うと、念話でシャマルに連絡を取る。
“シャマル医務官、こちらはディエチです。37区アルテンダ通りの終末の交差点で重傷者が多数、
至急衛生士の派遣と医療施設への移送を要請します”
“わかったわ。今そちらに向かうから”
ディエチは連絡を終えると、トサカ頭の警官に振り向いた。
「次はあなたの番です、折れている手と足に当て木をしますね」

524魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2009/12/16(水) 19:14:06 ID:XpxgReiA
今回はここまででおしまいです。
次も出来るだけ早くUP出来るよう頑張ります。

今回のオリキャラの元ネタ。
潰れた鼻に頭頂部を中心に六つの小さなとさかを持つ、緑色のうろこ肌の警官:火星獣「恐怖の火星探検」
…オリキャラの元ネタ集も作らないといけないかなぁ。

525魔法少女リリカル名無し:2009/12/16(水) 19:42:47 ID:XVD0sVoo
相変わらず凄い所から持ってこられますなw投下乙です
しかしTF達は大きすぎるな、存在的にも力的にも

526とまス ◆tOOp5atiKU:2009/12/16(水) 20:11:02 ID:4CprzfKY
時間になったので投稿します。
―――――――――――――――――――
序 章  とある幻想殺しの武者修行? Before_a_Certain_magical_"Index"

それは、とある幻想殺しの少年がとある魔術の禁書目録に出会う前の年の春のお話。
海鳴市…海に隣接した街で…といっても山もあれば丘もあり、果てには小学校から大学まで、温泉宿やスーパー、銭湯も備えた街。
学園都市に至らずとも劣らない至れり尽くせりな街だ。
「え〜、学園都市から来ました上条当麻と言います。これからよろしくお願いします」
ごく普通の民家、ごく普通の食卓にて、これから居候としてお世話になるであろう家族とその大黒柱であるところの特別講師に頭を下げるのは
我らが『幻想殺し(イマジンブレイカ―)』上条当麻、今年で中学3年である。
講師の名は高町士郎、高町家とはそもそも小太刀二刀御神流という剣術を伝える一族であり、家には道場も付いている。
士郎は本来引退して、剣術事態は高町家の長男の高町恭也と長女の高町美由希に既に受け継がれている状態だ。
包容力のある性格で、今は奥さんの高町桃子と喫茶『翠屋』のマスターを務めている。
そして忘れてはならないのが、高町家のマスコット的存在であり次女である高町なのはの存在だ。
この中年男女でさえ美男美女という集いの中に、上条はこの1カ月で士郎に戦闘における動きの基礎を何故か教わりに来ている。

さて、何故こんな街に上条が居るのかと言うと今年の進学の際、学園都市恒例の能力測定に於いて上条が『またもや』
全くの無能力者と言う烙印を無能力者の烙印を押されてしまったことに始まる。
学園都市の大きな特徴、それは閉鎖された外界より技術レベルが10年程上回っていることもある
その名のごとく多くの学園から大学が集まって形成されていることも確かにあるが
その最たるものの一つに、記憶術」だの「暗記術」という名目で超能力研究、即ち「脳の開発」を行っている事が挙げられる。
この学園都市では、特殊な教育を受ける事によって生徒たちが会得する『自分だけの現実』から生まれる超能力の研究を行う事によって
目まぐるしい程の技術の進歩を成し遂げている。
超能力者の存在は学園都市の一種の名物と言っても過言ではないだろう。
その中で学園都市に入学して以来毎年無能力者という結果を叩きだしている者は特に落ちこぼれと言う事になる。
しかし、上条の場合はそれはあくまで測定不能の分類の能力を持っているからで
それは学園都市では一応『原石』のカテゴリに含まれているが、その分類が正しいのかも不明。
そんなややこしい状況の中で上条に下された決断、それは
『とりあえずその不幸体質で鍛えられてきたのであろう強い生命力とパンチ力(?)をどうにかして底上げすること』だった。
本来は、学園都市の内外から専門家を呼び出し、特別講師としてこれの研修にあたらせるのだが
今回最たる適任として選ばれた高町士郎がもう引退しており、『講師は務めるが代わりに道場に来てもらう』という特例でなんとか講師を務めてもらうことが決まり
上条は馴染んだ学園都市を離れ、その高町士郎に会いに遠い海鳴市へと赴いたのである。
何故それで剣術の指南なのか、そもそもなぜそれが学園都市の授業より優先されることになってしまったのかは全くの謎である。
「そう緊張なさらずに、冷めないうちに食べちゃって気分を落ちつけてください
これから1カ月はお世話になる付き合いなんですから、ね?」
「はぁ……いただきます」と上条は士郎の隣から歩み寄る桃子から差し出された夕食を口に含み、そのあまりの美味に感動の涙を思わず流してしまう。
学園都市の寮に一人で暮らす貧乏学生にとって、一般的な『おふくろの味』に縁や所縁などあるわけがなく、上条は久しぶりのそれを心行くまで味わった。
「うまっ!?何すかこれ、材料や作り方の違いでこんなに味が変わるモンなのか!?」
「あらあら、お口にあったなら太らない程度にいくらでも食べて行ってくださいねぇ」
「ウマいものは別腹なんで、大丈夫です!うまー!!」
「はっはっは、うちの修行は厳しいからな、今のうちに腹いっぱい食べておきなさい」

527とまス ◆tOOp5atiKU:2009/12/16(水) 20:11:37 ID:4CprzfKY
一方で、高町家の次女高町なのははどう切り出したものか困っていた。
その日の学校から塾へ通う路の最中、不思議な感覚に導かれるようにして林の中で見つけたフェレットの事である。
家で預かれるかどうか家族に聞こうと思っていた矢先に丁度その日、高町家に客が来る日だと言う事を完全に失念していたからだ。
「あ、あのぉー…パパ、ママ、後で相談したい事があるんだけど…」
「ん?何だいなのは?」
「あのね、こんな時に言うのも何なんだけど…預かりたい子が居るんだけど…」
「………ッ!!?」
「ぐっ!?ぐふ…ぐっ…!?」
なのはがそういったその時、士郎は驚愕の目でなのはを見る。
余りの速さで般若のように変わる表情を目撃した当麻まで驚いて食べ物をのどに詰まらせる。
「な、男か!もう一人ついでに匿うとかそういう展開か!!
匿ってやがて愛の逃避行へと発展してお父さんたちの知らない間に大きな事件に首を突っ込んで
最終的にはいつの間にか娘ができているとかそういうパターンなのか!?」
士郎のその反応は、そういった方向で厄介事や不幸に巻き込まれることに対して明らかに慣れきった反応だった。
当麻は慌てて差し出されたお茶を飲みながら思った。『あぁ、ひょっとしたら俺がこの家に送られた理由はこの不幸体質に対する慣れとかそういうものなんじゃないだろうか』と。
「ち、ちがうんだよ。今日、学校の帰りに傷ついたフェレットさんを拾っちゃって…」
「ふむ…フェレットか……」
それを聞いて落ち着いたのか、士郎はふむ、と考え込み…
「ところで、フェレットってなんだ?」
士郎の問いに、なのはは頭を夕食の乗った食卓に突っ伏した…が、すぐ持ち直して説明する
「フェレットって、最近じゃペットとして人気の動物ですよね?こうちっちゃくて細長い奴」
「病院に預けたんだけどが首輪は付いてるんだけど飼い主が何時見つかるかわからないの
だから、そのフェレットさんを暫くうちで預かるわけにはいかないかなぁって…」
「ふぅむ…うちは喫茶店だからなぁ…」
上条となのはの説明をうけて、士郎は腕を組んで唸り声を発する。
「ちゃんとお世話するから…ねぇパパ、いいでしょ?」
「そうだな、ちゃんと部屋で買って世話をするのなら…しばらくは飼ってもいいかな。」
なのはがそう言って懇願すると、士郎は優しく微笑んで応えた。
なのはは眩しくなるような笑顔をして士郎に言う
「…わぁい!パパ、ありがとう!」
そんな和気藹藹とした食事風景に、上条は懐かしい家族の光景を思い出した。
『あぁ、最近親父たちとも会ってねぇなぁ…今度夏休みに機会があったら海水浴にでも行くかねぇ』
と、その次の年には本人の予想もしない形で、予想もできないようなトラブルを抱えながら実現するであろう理想を抱きながら
上条はサラダをたいらげた。

528とまス ◆tOOp5atiKU:2009/12/16(水) 20:20:32 ID:4CprzfKY
序章だけだと短く、1章入れると逆に長い
長いと規制かかるのも怖いので、序章のみにしました。
明日朝6時よりまた第一章を投下します

>>515
当て字採用させていただきます。
恐らくは使うのは次回からになると思いますが。
>>516
気を付けます。

529魔法少女リリカル名無し:2009/12/16(水) 20:24:45 ID:sq.rk75Q
528
なのはは自分の自分の両親のことをパパ、ママなんて言ってなかったと思いますが。

530魔法少女リリカル名無し:2009/12/16(水) 20:48:33 ID:iVhterRM
>>524
GJ!
ダブルフェイス!リベンジでは何の見せ場もなくサイドスワイプに真っ二つにされたダブルフェイス(海外名サイドウェイズ)じゃないか!
やっぱりドローンたちも連れてきてたか!これは地獄絵図の予感!!

531魔法少女リリカル名無し:2009/12/16(水) 22:39:41 ID:Jv9ptMDE
>>528
句読点をもっと入れてほしいところ、入れ忘れてるところがあるように思います。
投下前に一度読み直してみてはいかがでしょうか。

532魔法少女リリカル名無し:2009/12/16(水) 23:55:40 ID:1sWVBHW6
>>524
GJ!!
短いけど、なんて凄い勢いなんだ!!

>>504
では序に一つやってみるか…。

な「映画館も久しぶりだなぁ…」
ユ「今度なのは達も映画になるよね。でもBJゴツいとか今更とか色々言われてるみたいだけど…」
な「だ、大丈夫なの!新しいだけがいいわけじゃないの!!」

『ウルトラマンゼロ! セブンの息子だ!!』(新ヒーロー)(かっこいい)
『エメリウムフラッシュ』『ワイドゼロショット』など、セブン譲りの必殺技(強い)

ユ「……まぁ新しいだけじゃないし」
恭「ただ、古いだけでもな…どれも等しくミッションだが」
シグ「古いだけでも駄目だったりしちゃうぞ…そして続編に出させて頂くでやんす」
な「………(泣」

533魔法少女リリカル名無し:2009/12/17(木) 00:09:36 ID:DQHnBjXY
>>528

まず今回見つけたミスを
>全くの無能力者と言う烙印を無能力者の烙印を押されてしまったことに始まる。

同じ言葉が二度繰り返されていますので、
全くの無能力者と言う烙印を押されてしまったことに始まる。
のほうがよいと思います。


stsまで行くとのことですが、上条さんの記憶がどうなるか気になります。
ほかにも、いろいろときになりますが、続きを楽しみにしています。

534とまス ◆tOOp5atiKU:2009/12/17(木) 06:07:15 ID:ZZSMv0yE
『とある魔法の星光砕砲』
第一章 魔法の呪文はリリカルだった Awaking_of_magic

その夜、上条は眠れなかった。
普通は、ここで旅の疲れとかでぐっすり眠れるのだろうが、生憎電車や交通機関のストレスやらは学園都市で慣れているため疲れに入らず
高町家には翠屋従業員用の部屋を貸してもらったのだが、未だ慣れない部屋というのもあってなかなか眠るには落ち着けない状態にあった。
とりあえずトイレに行こうと部屋を出て高町家の廊下を歩くと、玄関近くで意外な人物を見かけた。
高町なのはである、しかし今はよい子は寝る時間という程ではなくとももうパジャマに着替えていてもおかしくはない時間だ。
実際高町家の皆は生活サイクルがまさしく健康的で家中はもう物音ひとつしないほど静かになっていた。
それなのになのはは玄関で靴を履いて、今まさにどこかへ出かけようとしている。
焦っているようで、当麻にはこれが不幸な出来事の予兆になるという警報が上条の頭の中で鳴り響いている。直感ではない、経験則だ。
しかし、流石にこんな時間に小学生の女の子が一人歩きするというのもいただけない訳で、上条はしかたなくなのはに声をかけた。
「あーなのはちゃん、どうしたんだこんな時間に?」
「えひゃっ!?…上条さん?」
こっそり出かけようとしたところを背後から突然に語り掛けられ、なのははビクッと身を強張らせたが
上条のほうを振り向いてその正体を確認すると、困った顔をして玄関をちらちら見ている。
「えっとぉ…その」
流石になのはは『どこからか声が聞こえた』『おそらくはあのフェレットに関係することだ』とも言えず途方にくれる。
しかし上条は以外にもなのはにまっすぐ手のひらを見せ言った。
「ちょっと待ってろ、今着替えて来るから」

なのはにしてみれば以外だった、上条がついてきた事が。
未だあって間もないが、上条はこういう理解不能な事態に敏感なような気がしていたからだ。
しかし上条にしてみればこんな時間に女の子を一人で外出させるほうが問題だった、それだけなのだ。
それが原因で不幸に陥るようなことがどれだけあっても上条は声をかけてしまう、そういう人間だからだ。
「なぁ、そろそろどこに行きたいのか教えてくれないか!?」
「えっと、獣医さん!いやな予感がするの、声が聞こえて…」
「声?」
上条はなのはが心配したように疑うようなことはなく走りながら考える、テレパシーの可能性も考えられたからだ。
上条は能力の都合上テレパシーを受けたことがないためどうとも言えないが…いやしかし、ここは学園年ではない。
そんな可能性があるのは万が一しかありえない。
そうこう考えていると、もう獣医の看板が見えてきた。
その時、何か巨大な生物が壁にぶつかるような音とともに獣医の庭に植えてあった木が倒れ破片が飛び散った。

535とまス ◆tOOp5atiKU:2009/12/17(木) 06:08:20 ID:ZZSMv0yE
「あっ、あの子!」
なのはが指差すと、その先で破片とともに一匹のフェレットが飛んできた。
なのはがそれを即座にキャッチすると、バランスを崩ししりもちをついてしまう。
するとなのはのひざの上でフェレットが顔を上げて「君が…来てくれたの?」とニンゲンの言葉で喋りだした。
「「…喋った!?」」
上条となのはが驚くと、壁を破って生物のような黒い塊が姿を現す。
「な、何だあれ!?」
上条がそういうと、それに反応したように怪物は黒い触手をフェレットを抱えたなのはに伸ばす。
「キャ……!!」「このぉ!!」
上条は咄嗟になのはたちをかばうように『右手』を触手の遠直線状に出した。
『幻想殺し(イマジンブレイカー)』、それが上条の右手に宿る能力である。
超能力、あるいは彼が未だ出会ったことのない魔術も含め、それが『異能』の力であるならば神の奇跡すら打ち消してしまう能力である。
しかし、果たしてそれが怪物のましてや実在する触手に通用するかは上条にもわからない
それは今まで超能力者たちが闊歩する学園都市に住んでいた上条が今までの経験の結果本能的に行う防御手段だったからだが
上条はその瞬間のうちに咄嗟の庇い方を後悔した…しかし、触手が上条の右手に触れたその瞬間
バキン
まるで世界が悲鳴を上げるような不思議な音が鳴り触手の先が光となって分解する。
それはあれが周囲の魔力によって生成された物体だからというのもあるのだが、そのすべてを分解することは叶わなかった。
突然の異変と触手の一部が消滅したことに驚いたのか怪物は悲鳴に似た鳴き声を上げて一歩後退する。
「…今のは…」
「話は後だ、逃げるぞ!!」
フェレットがそう呟くと上条はなのはの右手をとって走り出す。
「ったく、あれといいこのフェレットといい、いったい何なんだあれは!!」
「そ、そうだよ!それと上条さんの右手とか…」
「それは後で説明するから!!」
走りながらそんな会話をなのはと上条が交わしていると、フェレットが意を決したように顔を上げて告白する。
「…信じられないかもしれませんが、僕はこことは違う世界からあれを追って来た魔導師なんです
このままあれを放って置くとひどいことになってしまいます、お願いです!僕に協力してください!!」
「な!?手伝えって…どうやって!?」
「さっき、ここに来る際『声』が聞こえませんでしたか?」
「そんなん・・・・・・『声』?」
「私、聞こえたよ?」
「それじゃあ…君にこれを!!」
フェレットは首に巻きつけておいた赤い宝玉をなのはに渡す。
「……これは?」
「君には才能がある、それを持って僕の言うことと同じことを言ってください
それで僕の変わりに、あれを封印するための…魔法の力を!!」
上条は思わず吹き出してしまった、テレビで偶然見たマジカルかなみんという所謂魔法少女アニメと似たような展開だったからだ。
案の定フェレットはマスコットキャラにありそうだ、これで杖と魔法の衣装さえあれば完璧だ。
「そして、自分の杖と自分を守る強い衣服をイメージしてください!」
上条は思わずその場でこけてしまった。
「御礼はします…必ずします!!だから…」
「お、おい!いくらなんでもあの怪物に立ち向かうなんて…」
なのはが首を縦に振ると、上条は反論しようとする。
しかしその隙に追いついた怪物が数本もの触手を伸ばした!
バキン
上条は咄嗟に先の経験を生かして右手で触手を打ち消していく。
「くそっ、魔法だかなんだかって言うのはコレで消せるって言うことは本当みたいだな」
上条がそういうと怪物は触手を束にして無限に続くレーザーのように上条に伸ばす。
「がっ!?」
「上条さんっ!!」
魔法で生成されたものとはいえ、質量を持った物体である。
これが石や何か本物の物体だったら上条は耐えられなかっただろう
しかし怪物は右手の処理速度を上回る速度で消されるたびに根元から触手を伸ばし成長させて右手に叩きつける。
「…っ、私やるよ!!だから、上条さんを助けさせて!!」

536とまス ◆tOOp5atiKU:2009/12/17(木) 06:10:07 ID:ZZSMv0yE
「…な!?なのはちゃ…よせ…」
「…わかりました、今から呪文を言います、集中して!!
我、使命をうけしものなり」
「わ、我、使命をうけしものなり」
「…おいフェレット!!ひとつだけ答えろ!!」
「「契約のもとその力を解き放て」」
フェレットは詠唱の続きを唱えながら上条を見る。
「俺にはたぶん魔法ってやつが使えねえ、この右手はあらゆる異能を打ち消す代物だからな…」
「「風は空に、星は天に」」
「だけどな…こんな事に本当になのはちゃんを巻き込んでいいのか!?なのはちゃんも巻き込まれていいと思えるか!?」
「「そして不屈の心はこの胸に」」
「このどでかい不幸に、なのはちゃん(たにん)を巻き込んで、お前は後悔しないのか!!それだけでも答えろ、魔導師!!」
上条の問いに答えるように、フェレットとなのはは詠唱を完成させた。
「「この手に魔法を!」」
「「レイジングハートセットアップ!」」
詠唱を終えると、なのは自身の体から桜色の魔力があふれ出す!!
怪物はその桜色の光におびえるように触手を遠ざけ、上条はその場に膝をついてなのはを見る。
「な…なんて魔力なんだ」
フェレットが思わず呟いてしまうほどの立ち上る桃色の光の中でなのはの外見に変化が現れる。
服が消え始めたあたりで上条は眼を背ける。
しかし、杖が組みあがっていく重機械的な音とともに再びそこを見ると、そこには先端に赤い宝玉を備えた機械的な杖…『不屈の心(レイジングハート)』があった。
そして光が止んだそこには白いバリアジャケットに身を包んだなのはの姿が現れた。
「ふ、ふえぇ!?うそ!?」
なのはは予感はしていたが、それ以上の精度の幻想的な変身にあわてる。
なのはが何より驚いたのは、まだバリアジャケットが装着される前に上条がこちらを見たことなのだが
本人にとっては幸か不幸か、見えたのは最初と杖のみで光の向こうをよく見ることはできなかったのだが。

537とまス ◆tOOp5atiKU:2009/12/17(木) 06:10:51 ID:ZZSMv0yE
しかし、怪物はその隙すら与えないといわんばかりに触手ではなく自分自身をなのはに向かって突進させる。
「…!!なのは!!」
「きゃ・・・!!」
『Protection』
怪物がなのはにぶつかろうとした瞬間、杖から電子的な音声が聞こえて怪物を弾き飛ばす。
怪物はビチャビチャといやな水音を立てながら、あたりに四散しその内にある硬い破片が電柱や壁を破壊していく。
しかしすぐに破片は集まっていき、怪物は本来の姿を取り戻そうとしていく。
「あれは魔力の塊です、物理的な衝撃じゃあだめだ…魔力を減らすかなんとかして弱らせてからコアを封印しないと…」
「あぁ…そうかい!!」
フェレットの言葉に従うように、上条はその場から駆け出した。
「そんな、まさかその手であれの体を作る魔力そのものを…無茶な!!」
「こいつが、この不幸の元凶だって言うのなら…それもいいさ!!」
右手で硬い拳を作り駆ける上条に反応するように、怪物も上条に突進しようと助走をつける。
「まずは…その幻想をブチ殺す!!」
バキィン
上条の拳が怪物に触れた瞬間、上条渾身の拳の衝撃が伝わるとともに怪物が一部消滅し、そのまま上条は拳を押し付けて怪物を押していく。
「お、おおおおおぉぉぉぉ!!」
急激になくなっていく自身の身体と魔力に怯えるように鳴き声を上げる怪物の眉間に、ローマ数字のようなものが浮かぶ。
「今だ!!」
フェレットの言葉を合図に、なのはは杖を握った瞬間頭に浮かんだ呪文を唱え始め杖の先を怪物に向ける。
「リリカル、マジカル!」
『Sealng Mode』
杖が機械的な音とともに変形し、バレルのように杖のパーツや魔力でできた羽が展開していき
その間に上条は右手を怪物から離してその場から飛び退く。
「封印すべきは忌まわしき器、『ジュエルシード』!!」
「ジュエルシード、シリアル20、封印!!」
なのはの杖から桜色の光線が放たれて怪物を包み込んだ。
怪物は悲鳴を上げながら消滅していき、光線が止んだその場には青く輝く宝石と静寂だけが残った。
「…早く、杖であの宝石に触れて。」
「あ…うん。」
なのはは瓦礫の上を跳んで杖を宝石に向ける、すると青い宝石はスルリと杖先端の赤い宝玉に吸い込まれていった。
『sealing』
「ふぅ…封印完了」
杖の電子音声にあわせて
「おい、ちょっと待て小動物」
上条の怒気を孕んだ声にフェレットはビクッと身体を強張らせる。
「これ、どうするつもりなんだ?」
周りは先頭の影響で瓦礫の山と化し、電柱も倒れて放電している。
「えぇと、逃げたほうがいいと思います」
「だろうな!何たる不幸!!ほら、なのはも早く…」
左手でフェレットを鷲掴みにしつつ、上条は瓦礫を飛び越えるなのはの手をとる。
その指がなのはの服にふと触れた瞬間だった。
ビリィ
なのはのバリアジャケットが全て破れ落ち、一瞬の後に元の服が戻ってきた。
しかし、二人にとってはその一瞬がとても長く思えた訳で…
………ピーポーピーポー
と、パトカーの音が聞こえ周囲の民家から何事かという声が聞こえ始めた瞬間、真っ赤になったなのはは今爆発しようと口をあける。
「キ…「不幸だああぁぁぁぁぁぁ!!」」
上条は絶叫を上げようとしたなのはの口を塞ぎ、上条はなのはとフェレットを抱えてその場から全速力で逃亡した。
―――――――――――――――――――――――――――――――
これにて本日は投下完了です
>>529
…素で間違えました
二年前からの付き合いなのに何故間違えた、不幸だorz
他にも>>533>>531の指摘したようなミスもあると思います
これからも精進いたします

538魔法少女リリカル名無し:2009/12/17(木) 08:07:04 ID:czjLHuU2
この感じ!
魔法少女に出会うたびに一回は裸をみるということですね!

539魔法少女リリカル名無し:2009/12/17(木) 18:35:09 ID:.DMV9OYI
>>とマス氏
こんなことを言うのは大変申し訳ないが、序盤で挫けてしまったので一応思ったことを書かせていただく。


まずミスがケータイの予測変換のものに見えたのでケータイで執筆してると仮定した話だが、まずはPCで見直しをやってほしい。推敲は必須。

そして地の文が異様に長く感じられたり。というよりくどくどした面白くもない説明が延々と続いている感じで読む気が失せた。説明はストーリーを進めながら少しずつしてほしい。


以上が言いたいことだ。うざかったら無視しても構わないが、もし同意できる内容だったらぜひ取り入れてほしい。

今後の執筆生活が明るいことを祈る。

540魔法少女リリカル名無し:2009/12/17(木) 23:41:56 ID:DQHnBjXY
僕は地の文については気になりませんでしたね。
まあそれは人それぞれの感覚があるのでしょうけど。

上条さん以外の禁書世界のメンバーは出てくるのかな?
ミッド式魔法なんて思いっきり科学と魔術の協定違反だから、
下手に出てきたらまずい気もするけど。

541537:2009/12/18(金) 09:11:03 ID:Hh7JdUFM
>>539
一応、某小説投稿サイトで一部携帯から一部保存しつつ加筆していた部分もあるのですが
基本的にパソコンから書いて投下しています。
あとは単に私の語彙と集中力の足りなさのせいです。

修正した後のデータを保存し忘れていた事に気付かず投下してしまいましたので後々修正スレに箇所を報告する予定です。
あと、地の文章の長さですが、禁書自体が地の文章と説明で構成されている部分がありますのでそこは仕様となってしまうのですが
できるだけ短くするように頑張ってみます。ご指摘ありがとうございます。
>>540
無印では基本的に禁書キャラは上条しか出てこない予定です。
ですが一応、なのは勢は異世界の技術ですので科学魔術でもない『魔導サイド(仮)』という第三勢力という扱いにするつもりです。
なのはは魔術師になったらすごい事になるだろうけど一応魔力量が凄いだけの一般人、あとは異世界人ですので。

542魔法少女リリカル名無し:2009/12/18(金) 10:26:23 ID:vmw2P6y6
>>541
禁書の地の文長いので仕様で〜だと
禁書に耐性ある人しか読者になれないので
仕様に負けないよう頑張ってください

543魔法少女リリカル名無し:2009/12/18(金) 13:37:00 ID:i8ti13cE
設定披露は作中でどうぞ
また、上でも同じ様に仕様という言葉を使っている方がいましたが本当に便利ですねぇ

544魔法少女リリカル名無し:2009/12/18(金) 17:46:24 ID:vwXVa3Ok
原作は説明から話がスタートしたりはしなかったし、設定語りも上手くビルトインしてたけどな。ま、プロがやってるからって同じことが出来るわけじゃないんだし。


そしてなのは達の魔法は超能力に近くね? 才能がないと使えないわけだし、機械を用いるわけだし(超能力は開発時のみだが)。

545魔法少女リリカル名無し:2009/12/18(金) 17:53:16 ID:KkH9IqOs
リリカルなのはの魔法は確かに先天的な資質が無ければ使えませんし、個々人の質の違いも大きいですが、魔力を扱う以上は超能力とは別物っぽいかと。

546魔法少女リリカル名無し:2009/12/18(金) 18:04:34 ID:i8ti13cE
何だろうとどうせそげぶするんだから大して重要ではない

547魔法少女リリカル名無し:2009/12/18(金) 20:35:05 ID:8QTLuqQY
>>544
器官であるリンカーコアの有無は才能以前に生物的に違う気がする。

548魔法少女リリカル名無し:2009/12/19(土) 00:29:47 ID:5bFKOu0M
なんかフェイゾン汚染形態を思い出した

549魔法少女リリカル名無し:2009/12/19(土) 14:29:39 ID:DAgIZQiY
まぁ、リンカーコアが遺伝しない以上、やはり才能と言ってもいいと思うけど。


そしてなのは達の魔力と超能力がイコールの可能性もあると思う。少なくとも魔術の魔力とは別物だしな。

550魔法少女リリカル名無し:2009/12/19(土) 16:22:27 ID:vPiolbS6
確かに魔術に分類されたら、なのはたちが片っ端から「撃墜術式」で落とされることになってしまい、パワーバランスがまずくなってしまうな。

551魔法少女リリカル名無し:2009/12/19(土) 18:46:45 ID:PFxxxXBA
魔法が超能力設定の古典SFやFTとか珍しくはないと思うが。

552魔法少女リリカル名無し:2009/12/19(土) 20:10:43 ID:DAgIZQiY
>>551
いや、別に珍しいなんて誰も言ってなくね?


ま、だからなのは達の魔法≒超能力って仮説も立てられるし、そういう設定にも出来るんだけどな。実際とマス氏がどうするか知りませんが。

553魔法少女リリカル名無し:2009/12/20(日) 00:13:48 ID:F1neO1yc
珍しいとは言ってはいないが別モノだと言う固定概念はあるような
X-MENだったら超能力も魔術も「ミュータントパワー」と呼ばれるな

554魔法少女リリカル名無し:2009/12/20(日) 00:52:42 ID:KFS72b56
>>550
そもそもその術が効くのか?

555魔法少女リリカル名無し:2009/12/20(日) 11:09:54 ID:wmP/mXrI
>>553
アメコミではパワーと言っても様々だけど
作者キャラ一歩手前の上位陣はミュータントパワーとは思えんけどな
ギャラクタスとかコズミックパワーだっけ?

556魔法少女リリカル名無し:2009/12/20(日) 13:16:17 ID:LjescYGc
>>553
ミュータント以外が使うのはミュータントパワーとは呼ばないぞ。
ドクターストレンジのは修行で会得したほんとに魔法だよ。

557魔法少女リリカル名無し:2009/12/20(日) 20:02:51 ID:HinKil1I
ミッドチルダにイリス、マザーレギオン、デストロイヤー完全体、ガタノゾーアが現れたようです。

558魔法少女リリカル名無し:2009/12/20(日) 21:25:07 ID:KFS72b56
ミッド終了のお知らせ

559魔法少女リリカル名無し:2009/12/20(日) 21:32:22 ID:bDAZ5WdY
>>557
1,2番目はキャロかルーにアトランティスの空飛ぶ亀呼んでもらって、
4番目はユーノに古代戦士の石像と融合してもらうという所だが、
3番目がちょっとな…。

560魔法少女リリカル名無し:2009/12/20(日) 22:48:27 ID:d5fUnJF2
>>1
オリジナル要素ってオリ展開とオリ設定の事を指してるの?

561魔法少女リリカル名無し:2009/12/20(日) 23:30:43 ID:bDAZ5WdY
連投だけど、なんで気付かない内にYOUTUBEでゾイド画像とかがいっぱい増えてんだ!
ゾイドコアに火が入って止まらねぇじゃねぇか!!

562魔法少女リリカル名無し:2009/12/20(日) 23:34:46 ID:VqI3IwjM
こちらにも。2chスレ立てました

リリカルなのはクロスSSその104
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1261319294/l50

563魔法少女リリカル名無し:2009/12/21(月) 00:58:38 ID:TbkYcP1g
最近のオーフェン氏へのコメントの多さに笑ったぜw やっぱり、楽しみにしている人が多いんだな。

564魔法少女リリカル名無し:2009/12/21(月) 07:05:35 ID:3kIpH8Qc
>>561
ZOIDS氏の作品は何時だってまってるぜ!!てか俺も久しぶりに火が燈ったw

565魔法少女リリカル名無し:2009/12/23(水) 13:01:49 ID:33tJEvLE
天下一武道会が開催されるってんで、ヴィヴィオがストライクアーツの腕試しの為に出場を決意。
しかし、実はそれは天下一武道会にとてもよく似ていたが実は違う、天下一ぶどう会(漫★画太郎先生のまんゆうきを参照の事)だった。
しかも優勝賞品がぶどう酒一年分ってんで、ヴィヴィオを除く他の参加者は皆アル中オヤジで、
控え室とかでもゲロ吐きまくり。それにブチ切れた主催者が無双した挙句、ヴィヴィオ以外の他の
出場選手(アル中オヤジ)はフルボッコにされ、その中で何とか生き残った一人とヴィヴィオとで
第一回戦にして決勝戦が始まるけど、試合開始の合図と同時に倒れて他界。ヴィヴィオ優勝。
怒った観客が店に火を付けてぶどう酒屋は潰れて、ヴィヴィオもヴィヴィオで、その歳ではまだぶどう酒の飲めずに困る。

566魔法少女リリカル名無し:2009/12/23(水) 23:53:13 ID:mXM5eUAg
>>563
秋田BOX効果だろうな
音声魔術ものすごい進化してるよ……

567R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:49:55 ID:BuuC5QV.
脱出艦隊、帰還。
その一報は生還への希望としてではなく、単なる情報の1つとして生存者達へと齎された。
少なくとも、負傷者の収容と被害状況の確認に追われる人員の間では、元々最悪であった状況が少しばかり悪化したという程度の認識だろう。
今回の戦闘による被害は甚大であり、その対応に奔走する者達には脱出作戦の帰結に意識を傾ける余裕など無いのだ。
だが多くの被災者にとっては、その情報は絶望そのものとして伝わった事だろう。
ランツクネヒトからの正式な情報開示は未だ為されてはおらず、人伝に広まる情報を掻き集めただけのものしか知り得る事はないが、それですら被災者達の希望を奪い去るには十分に過ぎた。

脱出艦隊、損害状況。
全12隻中7隻を喪失、いずれも生存者なし。
各種機動兵器、89機を喪失、生存者6名。
ヴィルト隊R-11S、2機を喪失、生存者なし。
R-9E2 OWL-LIGHT「ケリオン」を喪失、パイロット死亡。
防衛人工衛星アイギス450基、内374基を喪失。
制御ユニット「TYPE-02」及び「No.9」暴走により「TL-2B2 HYLLOS」「R-13T ECHIDNA」「BX-T DANTALION」「B-1A2 DIGITALIUS II」「B-1B3 MAD FOREST III」「B-1Dγ BYDO SYSTEMγ」の全無人機が敵性へと移行。
救援要請の成否、未だ不明。

脱出艦隊に何が起こったのか、具体的な事は何も解らない。
ただ、想像も付かない脅威と遭遇したらしき事、その結果として甚大な損害を被った事だけは確かだ。
現状ではそれ以上を知り得る由など無く、また知りたくもなかった。
だが今、彼女はそれ以上に絶望的かつ危険な情報を、否応なしに眼前へと突き付けられている。

「それでは、お願いしますね」

小さく、感情の窺えない声。
そんな言葉と共に口を噤む桃色の髪の少女を見つめ、次いで彼女は呆然と自身の手の内に在るメディアデバイスへと視線を落とす。
目前の少女が語った内容が本当ならば、僅か5cm前後の大きさでしかないそれに地球軍とランツクネヒトの戦略、そして彼等とバイドに関しての真実が記されているという。
そんなものが自らの手の内に在る、それがどれ程に危険な事態であるか、彼女は否という程に理解していた。

「どうしました? セインさん」

少女が放った言葉に彼女、即ちセインは我知らず目を細める。
こんなものを手渡した当人であるというのに、抜け抜けとこちらを気遣う様な言葉を放つ目前の少女が、セインの目には堪らなく疎ましい存在として映った。
此処でこの少女を始末し、手の中の記録媒体を握り潰してしまえれば、どれほど気楽な事だろう。
そんな考えさえ浮かぶ程に、セインは精神的な面から追い詰められていた。
それでも何とか、彼女は自身の疑問を言葉として紡ぎ出す。

「何で、アタシに?」

現状でセインが抱く疑問は数あれど、中でも最たるものがそれだった。
何故、高町 なのはや八神 はやてではなく、自身を選んだというのか。
それを問いとして目前の少女へとぶつけてみたのだが、当の彼女は言い淀む事もなく辛辣な言葉を紡いだ。

「このベストラの中で私達と接点を持つ人物、その中で貴女が最も冷静だからです」
「それを言うなら、元上官の方が適役だと思うけど」
「あの御2人は余り嘘が得意とも思えませんし、何より今は平静を欠いていますから。余計な事を伝えれば、即座にランツクネヒトへの敵対行動に移りかねません」
「アタシもそうだとは思わなかった? チンク姉も、ノーヴェもウェンディも、果てはギン姉とスバルだって生存は絶望的だっていうのに」
「でも、現に貴女は冷静です」

無意識の内にセインは、少女の右手を握る自身の左手に力を込めていた。
彼女がその手を離せば、目前の少女は構造物内に取り残され、周囲の構造物との融合の果てに凄惨な死を遂げる事となる。
その事実を良く理解した上で、セインは少女の手を振り払いたいという欲求に苛まれていた。
そんな彼女の思考を無視するかの様に、少女の言葉は続く。

「貴女は姉妹の安否が不明である事についての憤りと、更に地球軍に対する敵意を抱きながらも、公平な視点で以って全ての勢力を見ている。敢えて危険な選択をする事も、感情に任せて行動する事もない。違いますか」

568R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:50:40 ID:BuuC5QV.
その言葉に、セインは答えない。
ただ無言のまま、左手に込める力を僅かに増したまでだ。
少女はその左手に握られる自身の右手へと視線を落とし、次いでセインの眼を正面から覗き込み、続ける。

「だからこそ、それを渡すには貴女が相応しいと考えたんです。貴女は合流以降、ずっと後方での活動に当たってきた。ランツクネヒトに悟られぬよう、人々の間に情報を流す事もできる筈」
「簡単に言ってくれるね。それが本当に可能だとでも思ってるの?」
「今はランツクネヒトも地球軍も混乱している。直に行動を起こすには相応しいとは云えませんが、備えるなら今しかない」
「それだけ?」

数瞬の後、少女は溜息をひとつ吐き、視線を伏せる。
再度その眼が上げられた時、其処には凍て付くかの様な冷然たる意思が宿っていた。
思わず気圧されたセインの意識に、感情の存在さえ疑いたくなる程の無機質な声が響く。

「・・・どんな状況であれ、あの御2人に生身の人間を手に掛ける事ができるとは思えませんから」
「本当にそうかな。高町一尉の方はクラナガンで、R戦闘機を墜としている筈だけど」
「直接、人の姿が見えないというのは重要な事です。そして、対人戦で相手を殺傷した経験の在る魔導師なんて、管理局には数える程しか居ない。幾ら調べてみても、あの御2人がそういった場面に遭遇したという記録も無い」
「アタシだって殺人の経験なんて無いよ」
「その訓練は受けていた。そして何より、貴女は必要と在らばそれを為す事ができる」

沈黙するセイン。
自身を正面から捉える視線、それから逃れるかの様に顔を逸らし、軽く唇を噛む。
少女の言葉は、確かに的を射ていた。
セインはスカリエッティの下で暗殺に関する訓練も受けており、其処から得られた経験は時空管理局地上本部襲撃時にも活かされている。

だが、実際に暗殺を行った経験が在るかと問われれば、答えは否だ。
姉妹の中で人間を殺めた経験が在るとすれば、ドゥーエとトーレ、そしてチンクくらいのものだろう。
スカリエッティが狂人である事はセインとしても疑うべくもないが、彼は不必要な殺人を避ける程度には良識を保っていた。
そして同時に、それらの任務に当てる事を躊躇う程度には、娘達に対して愛情を抱いていたとセインは見ている。
事実、不都合な人物の消去に関してはスカリエッティとウーノが、複数の犯罪組織を介して実行していたらしい。

それでもセインは、何時それらの任務に当てられても良いとの覚悟だけは持っていた。
その為に訓練を受け、戦術を学んだのだ。
望むと望まざるとに拘らず、必要と在らばそれらの局面に於いて投入される。
自身がやらねば、他の姉妹達が殺人という咎を負う事となるのだ。
だからこそ、それらの任務は全て自身が遂行せねばならない。
そう、考えていた。

「間違っては、いませんよね?」

だが、その覚悟をこんな形で再確認させられるとは、セインとしては予想だにしなかった事だ。
問い掛けてくる少女へと視線を戻し、苦々しく表情を顰める。
今すぐにこの会話を切り上げたいと望みつつも、セインの口は言葉を紡いでいた。

「情報の流布だけじゃなくて、暗殺までアタシにやらせようっての?」
「それは状況と貴女の判断次第です。私が頼んでいるのは・・・」
「正直に言いなよ。他にも何かをやらせようとしてるんでしょ・・・場合によっては、障害となる人物の殺害が必要になる様な。例えば、そう」

メディアデバイスを持つ右手、其処から第一指と第二指を立てて銃の形を模す。
それを目前へと掲げ、少女の視界へと映し込むセイン。
立てられた第二指の先端を自身の額へと当て、彼女は改めて少女の眼を覗き込んだ。

「武装蜂起に備えての各種工作、とか」

少女の瞼が微かに細められた事を視認し、それだけでセインは十二分に確信を得た。
彼女のIS「ディープダイバー」は無機物に潜行する能力であり、それ以外の特別な用途というものは存在しない。
だが作戦行動に於ける評価となれば、他に類を見ない程に汎用性に富む能力であるのも事実だ。
それだけに直接戦闘が中心となる作戦を除き、あらゆる状況に対応が可能である。
撹乱、陽動、間接支援。
目前の少女もまた、そういった類の任務をセインへと割り当てるつもりなのだ。

569R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:51:31 ID:BuuC5QV.
「図星みたいだね」
「・・・戦力が足りません。魔導師の数は敵勢力の倍に近いですが、ランツクネヒトが運用する個人携行火器類は、限定空間での戦闘に於いて驚異的な制圧力を発揮します。
ベストラや艦艇内部といった閉鎖空間での戦闘ともなれば、最終的に制圧が成功したとして、こちらも戦闘後のまともな作戦行動など望むべくもない被害を受ける事となるでしょう」
「別に魔導師でなくても質量兵器を運用する歩兵部隊なら、こっちにもかなりの数が在ると思ったけど」
「無論、彼等もこちらの戦力として考慮しています。ですが、それでも確実に成功すると断言はできない」

その言葉に、セインは苦々しく表情を歪める。
脳裏に蘇る悪夢の様な光景、研究施設内部での地球軍歩兵部隊との戦闘。
頭部を撃ち抜かれる局員、全身を弾幕に粉砕される局員、四肢を引き裂かれるスバル、胴部をほぼ両断されるノーヴェ。
その全てが魔法ではなく質量兵器、それも個人携行火器によって齎された惨状だった。

ランツクネヒトとの合流後、地球側の個人携行火器についての調査を開始した理由は、誰かから命令された訳ではなくセイン個人としての意思である。
バリアジャケットに加え常時展開されていた筈の障壁、特に物理防御に秀でた姉妹達のそれすら容易く突破した地球製の質量兵器に、脅威を感じると同時に好奇心を刺激された為だ。
流石に全ての情報が開示されていた訳ではなかったが、それでも携行火器の異常な性能を知るには十分に過ぎた。
そしてセインは既に、幾つかの火器および補助兵装について、特に警戒すべきとの評価を下している。

1つは「GP-73」13mmキャノン。
物理的なトリガーは存在せず、インターフェースを通じて発砲するアンダーバレルタイプ、セミ・オートマチックの擲弾銃だ。
装弾数24、ボックスマガジン。
分類上では擲弾銃となってはいるが、銃身内部にはライフリングが施されており、その500mを優に超える有効射程も相まって、実質上の携行型ライフル砲と云える。
使用する13mm砲弾は、そのコンパクトなサイズにも拘わらず複数の弾種が存在。
暴徒鎮圧用の非殺傷弾頭から対人焼夷弾、更に対装甲目標用の徹甲榴弾から反跳榴弾、信じ難い事に神経ガス散布弾から燃料気化爆弾まで在るという。
果ては超小型戦術核弾頭までが弾種として存在するというのだから、セインとしては地球人の正気を疑わずにはいられなかった。
如何に彼等と云えど、コロニーや艦艇内部で核弾頭などを使用する事はないと思いたいが、それを除いてもガスや対人焼夷弾は脅威である。
GP-73はこれらの弾種を同時に4種、各種6発の計24発をマガジン内に装填し、任意にそれらを使い分ける事が可能だ。
更にアンダーバレルタイプである為、小銃以上のサイズならば如何なる銃器にでも装着できる。
ランツクネヒトとの交戦中、魔導師は常にこの携行小型砲の脅威に曝され続ける事となるだろう。

もう1つは「AS-55」コンバットショットガン。
フル・オートマチックの軍用散弾銃であり、近接戦闘に於いて絶大な威力を、そして中距離以上の戦闘に於いても圧倒的な実効制圧力を発揮する。
装弾数54、ヘリカルマガジン。
10ゲージ弾薬を毎秒9発もの速度で連射する、正に化け物と呼称するに相応しい火器だ。
そして性質の悪い事に、これもまた散弾である000Bを始めとして、徹甲榴弾など10種類以上もの専用弾種を有している。
散弾銃にも拘わらず使用弾種によっては300mを優に超える射程も脅威であり、特に中距離から対人榴弾を連射された場合には、目を覆いたくなる様な惨状が展開される事だろう。
尤も、如何なる弾種が使用されていようと、射程内に収められてしまえば生き残る方法は1つしか存在しない。
トリガーが引かれる前に、AS-55を持つ敵を殺す事だけだ。
嵐の如く連射される10ゲージ弾薬の壁の前には、バリアジャケットも障壁も薄紙程度の遮蔽物でしかないのだから。

570R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:52:05 ID:BuuC5QV.
そして最後の1つが「Man-Hunt-System」。
これは単一火器の名称ではなく、ランツクネヒトが運用するコンバット・サポート・システムの総称である。
とはいえ、MHSとは各種センサー等の携行型補助兵装の類ではなく、完全自律型および遠隔操作型の各種ドローン、その中でも直接火力支援を担うものを指している。
謂わばガジェットドローンの様な存在だが、その運用法はガジェット以上に攻撃的だ。
拠点に立て篭もる敵に対し突入しての自爆攻撃を行うタイプ、EMPによる電子機器の破壊を行うタイプ、光学迷彩を装備し薬物または消音銃による暗殺を行うタイプ。
限定範囲内に神経ガスを散布するタイプに超小型戦術核搭載タイプ、他のMHSを統括・管制するコマンダータイプ等も存在する。
他にも通常火器を搭載したタイプ等が複数存在しており、その総数は数百機にも及ぶと思われるが、詳細な配備数までは開示されていない。

これらの兵器はいずれも装甲服による筋力増強、そして脳の電子的・機械的強化とインターフェースの存在を前提とした運用を想定されており、常人に扱える重量・システムでない事は、外観および概要から容易に判断できる。
言うなれば、魔導師にとってのデバイス、戦闘機人にとっての固有武装の様なものだ。
魔導師は魔法による筋力増強および並列思考で以って、戦闘機人は機械的強化を施された身体および脳機能とISを以って、それらの武装を意のままに操る。
ランツクネヒトや地球軍にとっては、脳の電子的・機械的強化と装甲服の着用こそが、それらの武装を運用する為の必須要項なのだ。
少なくとも既知の次元世界に於いては、これまでにそういった類の携行型質量兵器が確認された事例は存在しない。
そうでなくとも、これら個人携行火器の性能は常軌を逸したものばかりだ。
できる事ならば、等という消極的な姿勢ではなく、可能な限り正面から遣り合う事だけは避けねばならない。
何より忘れてはならないのは、これでも全ての兵器に関する情報が開示されている訳ではないという事実だ。
その程度の事は、目前の少女も十分過ぎる程に理解している筈である。
だからこそ続いてセインが放つ言葉は、自然と辛辣なものになっていた。

「断言できない、だって? それ以前の問題だよ。まさか本気で、ランツクネヒトを制圧できるとでも思ってるの? 奴等の武装については、アンタだって良く知ってるでしょうに。
長距離砲撃戦だって危ないってのに、限定空間での戦闘になんてなったら勝ち目なんて無い」
「現状では、です。貴女の協力が在れば、成功を確実なものにできる」
「夢物語だね。ベストラにせよ艦艇内部にせよ、戦闘となれば常に近距離、どれだけ離れても中距離での撃ち合いになる。後方支援型のアンタには実感が薄いかもしれないけど、
散弾の壁に突っ込むなんて自殺行為以外の何物でもない。挽肉の山が出来上がるだけだよ。それとも」

軽く息を吐き、セインは少女を睨み据える。
再度、少女の手を掴む左手に力を込め、彼女の意識をそちらへと引き付けた。
少女の視線が逸れた瞬間、セインは彼女の身体を強引に引き寄せ、その首を抱え込む様にして軽く締め付ける。
そして、問うた。

「1人ずつ始末する? こうやって、さ」

セインは少女の首に回した右腕、其処に掛ける力を徐々に増してゆく。
別段、本気で絞殺するつもりが在る訳ではない。
勝ち目の無い博打にこちらを巻き込もうとする、そんな少女の態度が気に食わなかっただけの事だ。
だからこそ、少しばかりの脅しを掛けてみたのである。
単に虚勢を張っているだけならば、この程度でも十分にその脆い仮面を剥がせる事だろう。
少女はどんな表情をしているのか、恐怖に引き攣った顔か、驚愕に目を瞠っているのか。
セインは彼女の眼を覗き込み、そして絶句した。

「もっと良い方法が在りますよ、セインさん。繰り返しますが、貴女の協力が在ってこそ、ですが」

深淵。
セインがその瞳に対して抱いた印象、暗く底の窺えない闇色。
呑み込まれそうな虚無と、意思を有する存在である事にすら疑いを抱いてしまう程の無機質さ。
にも拘らず、それを覗き込むセインに対し、確かな畏怖を齎す闇。

「ウォンロンの戦闘指揮所、其処が狙いです。勿論、ランツクネヒトに対する陽動も同時に実行します」

思わず身を竦ませるセインを無視し、少女は感情の窺えない声で言葉を紡ぎつつ、バリアジャケットのポケットから先程とは別のメディアデバイスを取り出した。
身体を押さえ込まれながらも、左手に握るそれをセインの眼前へと突き付ける。
思わず手を翳し、それを受け取るセイン。

571R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:52:41 ID:BuuC5QV.
「それが「爆弾」です・・・未完成ですが。ウォンロンの元クルーと、複数の軍需産業関係者が協力してくれました。これを戦闘指揮所からシステムにインストールできれば、全体を強制的にダウンさせる事ができます」
「・・・正気? そんな事をすれば、生命維持に関するシステムも止まるよ。この天体の中だって何時、真空状態になったっておかしくないっていうのに」
「彼等の構築したシステムは、その程度で沈黙するほど軟ではありません。こちらの予測では、40秒前後で再起動する筈です」

一通りメディアデバイスの全体を見回した後、セインはそれを少女へと返す。
少女はデバイスを受け取り、再びポケットへと収めた。
そして、続ける。

「良いのですか」
「何が」
「これを私に返して、です。此処に私を生き埋めにして、これをランツクネヒトに渡せば・・・」

セインは自身の唇に指を当て、少女の言葉を遮った。
数秒ほどそうしていただろうか。
指を離し、セインは言葉を紡ぎ出す。

「馬鹿にしないで。アンタがその可能性を考えずに私を呼び出したなんて、そんな希望的観測は微塵も持っちゃいないよ。人を試すのは結構だけど、どうせなら気付かれない様にやって貰いたいね」

言いつつ、セインは頭上へと目を遣った。
構造物内の闇に遮られた視界の向こうに、恐らくはあの変わり果てた騎士の少年が居るのであろう。
彼が持つデバイス、あの禍々しい槍の矛先をこちらへと向けて。

「初めから、断られる事なんて考えてなかった癖に・・・違うか、断らせないつもりだった。違う?」
「貴女がそう思うなら、恐らく」
「気に食わないね。本当に気に食わないよ、キャロ」

そう言葉を吐き捨て、セインは改めて少女、即ちキャロを見やった。
相も変わらずこちらを見つめ続ける彼女は、セインの記憶の中に存在する同人物の姿と然程に変わらぬ外観ながら、それに反して内面は変わり果ててしまった様に思える。
彼女達が置かれた状況を鑑みるに、当然の変化であろうとも考えた。
だがそれでも、彼女の事を良く知っている訳でもない自身からしても、無理をして変化を装っているのではないかという疑問も在ったのだ。
事実、彼女の行動を目にする度に、セインはその疑念を確信へと変えていった。

何が在ったのかを知り得る事はできなかったが、キャロと彼女のパートナーであるエリオとの関係に、何らかの隔たりが生じている様に見受けられたのだ。
この状況からして、男女間の擦れ違いなどと云う色めいた問題ではあるまい。
2人の間に生じている距離は、犯罪者と遠巻きにそれを見つめる一般人の様なものだった。
少し違うのは、必要以上にキャロに近寄ろうとはしないエリオに対し、一方でキャロは何とかしてその距離を縮めようと努力していた事だ。
合流後に2人が共に行動している姿を何度か見掛けたが、その際のキャロは嘗て以上に気弱な雰囲気を纏っていた。
その光景が在ったからこそ、その他での何処か冷然とした姿は偽りではないかと、セインはそう睨んでいたのだ。

だが今、目前に存在する少女はそんな認識からは想像もし得ない、正に冷徹といった表現が相応しい雰囲気を纏っている。
そして、その印象に違わぬ強かにして危険な交渉術を、躊躇いもなく行使していた。
何が、彼女を其処まで変えたのだろうか。
何故、彼女は其処まで変わったのだろうか。

「気に食わないついでに、もう1つ訊きたい事が在るんだけど」
「何でしょう」
「アンタが其処まで必死になってるのは、アイツの為?」

572R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:53:48 ID:BuuC5QV.
頭上を指しつつ、セインは問うた。
キャロは指の先を辿る様に視線を動かし、やがて息を吐く。
それだけで十分だった。
お熱い事だ、などと思考しつつも、同時に別の疑問が生じる。
この行動の何処が、エリオの為になるというのか。
自身の手元へと視線を落とし沈黙を保つキャロに、その問いをぶつけようとして。



「エリオ君が、人を殺しました」



唐突なその言葉に、セインは息を呑んだ。
そんな事は知っている、という思考と、何の事だ、と戸惑う思考が入り乱れる。
スプールスに於いてエリオが、元は人間であった汚染体を数多く屠ってきたという事実は、既に聞き及んでいた。
だが、キャロが言い放った「人を殺した」という言葉は、それとは別の事柄を指している様に感じられたのだ。
宛ら、つい先程の事であるかの様に。
汚染体などではなく、正真正銘の「人間」を殺めたとでも云うかの様に。

「スプールスの変貌からずっと、私はその責務の全部をエリオ君に押し付けてきた」

淡々と語るキャロ。
その視線は伏せられていたが、実際には何処も見ていないのだろうか。
だが、その静かな語調の中には、何らかの微かな感情が滲んでいた。

「人でなくなったものと戦うのも、人でなくなったものを殺すのも怖かった。だからずっと、私の分まで殺し続けるエリオ君に甘えてきた」

キャロの指は、何時の間にか硬く握り締められている。
微かに震えるそれを見つめながら、セインは徐々に理解し始めていた。
彼女が変わった理由、変わらざるを得なかった理由。

「彼だけに背負わせたくなかった・・・背負わせるべきじゃなかった。そんな事、解かり切っていたのに。それだけじゃない。ミラさんやタントさんが死んだ事だって、彼には何の責任も無いのに」

同じなのだ。
セインと同じ覚悟、キャロはそれを持つに至ったのだ。
震える声で、彼女は続ける。

「私が躊躇った所為で、エリオ君は2人とその子供を手に掛けなければならなかった。それなのに、私は彼を避ける様な態度を取り続けた。私は、何ひとつ背負ってはいないのに・・・ずっと、逃げ続けていたのに」

大切な人に、殺人という重責を負わせたくない。
キャロもまた、セインと同じ思考へと至ったのだろう。
だが彼女の場合、その大切な人は既に人間だったものを殺めている。
そして、彼女の言葉から読み解くに、恐らくは正常な人間すらも殺めたのだろう。

「でも、それももう終わり」

突然、キャロの声色が変わった。
声の震えは影を潜め、先程と同じく無感動な冷徹さだけが滲む。
再び緊張するセインの身体に気付いたか、キャロは徐に顔を上げた。
その眼を覗き込み、セインは微かに引き攣った音を漏らす。

「もう、彼だけに背負わせるなんて事はしない。私も、同じ責を負う。彼に押し付けていた分を、私が負ってみせる」

まるで、ガラス球の様。
キャロの瞳を覗き込んだセイン、彼女が抱いた印象はそれに尽きた。
人の眼であるどころか、有機物であるとすら信じられない。
全く感情というものを読み取る事ができない、人工物としか思えぬ無機質さを湛えた瞳孔が、セインの眼を覗き返していた。
心臓を鷲掴みにされるかの様な錯覚と、自身がこんな人物と共に誰にも声の届かぬ構造物内に潜んでいるという事実に対する恐怖とが、同時にセインの意識を襲う。
だが、彼女はどうにかそれを耐え抜き、何とか言葉を紡ぎ出した。

573R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:54:31 ID:BuuC5QV.
「・・・成る程。アンタ自身には、ランツクネヒトと正面から戦えるだけの力は無い。あの2騎の竜は、艦内やコロニー内で力を振るうには強大すぎる。
だから扇動者になり切って、生存者を戦力として地球人にぶつけようって訳だ。皆で一緒に人殺しになろう、と」

震えそうになる声を抑え付けて言い切るも、キャロに言葉を返す素振りはない。
彼女は唇を閉じたまま、無言でこちらを見据えていた。
思わず、その小柄な身体を突き飛ばしたくなる衝動を堪えつつ、セインは更に言葉を繋げる。
これは、これだけは言わねばならない。

「馬鹿だよ、アンタ。そんなもの、アンタ1人で背負える様なものじゃない。何の意味が在るっていうのさ」
「単なる私個人の我儘です。エリオ君だけが人殺しの責を負うなんて事は、絶対に許せない」
「まさかそれで、アイツとの関係を修復できるとでも? 自分も人殺しになれば、アイツが負い目を感じる必要が無くなるとでも思った?」

答えはない。
キャロは、再び沈黙する。
そんな彼女を暫し見つめた後、舌打ちして視線を逸らすセイン。
それから更に数秒ほどが経ち、キャロが声を発した。

「どんな事をしても、きっと元の関係には戻れない。周囲が何を言おうと、エリオ君は自分自身を許そうとはしないでしょう。そして私には、彼に何かを言う資格なんて無い」
「ッ・・・この・・・」
「傍に居るべき時に、彼を支えてあげるべき時に、私は逃げてしまったんです・・・パートナーなのに、ずっと一緒に居た筈なのに。それなのに今更、私に何の資格が在るというのですか」

セインからすれば余りにも馬鹿げた発言に、彼女は咄嗟にキャロのバリアジャケット、その胸倉を掴み上げている。
だが、全く抵抗の素振りを見せないどころか、変わらず虚無的な視線だけを向けてくるキャロに嫌気が差し、すぐにその手を解いた。
理性の欠片が働いたか、その身体を突き放す事はしなかったが。
そんなセインの内心を余所に、キャロの言葉は続く。

「言ったでしょう、単なる我儘だと。私や周囲がどんな事をしても、エリオ君が離れてゆく事は変えられないし、仕方がない。でも、向けられる銃口の前に立つ者が彼だけである必要もない。
いいえ、蜂起を成功に近付ける為にも、皆で掛かるべきでしょう。そういう事です」

以上です、との言葉を最後に、キャロは瞼を閉じた。
これ以上の話すべき事は何も無い、密談は終わりだという意思表示だろう。
数秒ほどキャロの顔を見つめ、小さく悪態を吐いた後にセインは浮上を開始した。
脚の上に放置していたメディアデバイスを右手の指の間に挟み、左腕でキャロの身体を抱える。
右手第二指の先端だけを構造物上に突き出し、ペリスコープ・アイで周囲の安全を確認、人影は無い。
キャロを抱えたまま、通路に上がる。
特に汚れが付いている訳ではないものの、彼女は軽くバリアジャケットの裾を手で払い、視線をこちらへと投げ掛けて言い放った。

「それでは、お願いしますね」

先程と全く同じ声、同じ台詞。
セインは自身の口を突いて出そうになる罵声を何とか抑え込み、去り行くキャロの背中から視線を引き剥がして周囲を窺う。
予想に反し、何処にもエリオの姿は無い。
単独で行動していたのかとも考えたが、その可能性はすぐに潰えた。

「・・・怖いねえ」

セインの足下、床面に穿たれた小さな菱形の傷。
何かが突き立っていた跡と思しきそれが意味する処を、セインは正確に理解した。
薄ら寒いものを感じつつ、呟く。

「全部、聴かれてたみたいだよ・・・キャロ」

キャロの単独か、それともエリオを伴っての行動だったのか、そんな事はこの際どちらでも良い。
エリオは全てを知っている、それだけは確かだ。
その事すらもキャロにとっては織り込み済みという可能性も考えられるが、恐らくはそうではあるまいと、セインの勘は告げていた。
キャロは優秀だが、御世辞にも策謀に向く性格でない事は、少し話しただけで十分に分かっている。
彼女が話術に長けており、こちらの思考を上手くコントロールしている可能性も考えられたが、恐らくはそれもないだろう。
そう判断できるだけの情報は、キャロとの会話の中で得られている。

574R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:55:17 ID:BuuC5QV.
彼女は、エリオだけに殺人の重責を負わせたくない、と言った。
あの時のキャロの言葉がエリオに聞かれていたのだとすれば、彼女の行動は全く意味を為さないものとなってしまう。
エリオは間違いなく、キャロを殺人という行為から遠ざけるべく行動するであろうし、それ以上に全ての責を負うべく、より積極的に地球人との戦闘に関わってゆく可能性が高い。
キャロの願いと行動とは裏腹に、エリオは更にその手を血に濡らす事となるだろう。
彼女が、そんな事に気付かぬ筈がない。

つまり、エリオがこの場に居たという事実がキャロの知る処であろうとなかろうと、あの言葉を聞かれていた事は彼女にとって紛れもない想定外の事態なのだ。
彼は自身のデバイス、ストラーダを床面へと突き立て、それをパッシブ・ソナーとしてこちらの会話を聴き取っていた。
その事実が存在する時点で、最早キャロの願いが叶う事はないと分かる。
エリオは自ら進んで、彼女の分まで殺人の重責を負うべく最前線へと躍り出る事だろう。
そうしてキャロの本当の願いを知りつつも、いずれは彼女の前から永遠に姿を消す心算である事も想像に難くない。
2人の願いは擦れ違い、何処までも平行線を辿っている。

「どいつもこいつも・・・!」

馬鹿ばかり、全てが気に入らない。
そんな苛立ちを込めて、セインは全力で壁面を蹴り付ける。
壁面ではなく、全ての元凶となったバイドと地球人とを想像し、その不鮮明だが不愉快な像に対して放った蹴り。
鈍く重い音が、通路に響き渡る。
戦闘機人の膂力で蹴り付けられたベストラ構造物の壁面は、しかし無情にもその衝撃を蹴り付けた当人へと返しただけで、僅かたりとも変形した形跡は無かった。

*  *  *

長くなるから場所を移そう、とのスバルの言葉に従い、ティアナのAMTP搬入を見届けた後、ギンガ等は搬入室から艦内食堂へと移動した。
血塗れで意識の無いティアナを目にして動転するギンガとウェンディを余所に、スバルとノーヴェは冷静そのものにAMTPへと彼女を搬入、部屋を出たのだ。
その様子に不審を抱きはしたが、それについてもすぐに説明が為されるだろうと、ギンガ等は逆らう事なく彼女達の誘導に従った。

食堂に入ると、ノーヴェとウェンディが暫し保冷庫を漁り、保存食と飲料を見付け出す。
そのまま食べても問題は無いと思われたが、どうやら合成食品の製造機能が生きているらしく、食材の調達が可能と知るとスバルから調理の希望が飛び出した。
何を暢気な、と呆れ返ったギンガだったが、自身も空腹を覚えている事は否定の仕様がない。
幸いにもウェンディが手伝いを申し出てくれたので、1時間程を2人での調理に費やし、スバル達が待つテーブル上に10種類を超える数の料理が並ぶ事となった。
器具が予想以上に充実しており、中には調理時間の短縮に繋がるものも多かった為、少々だが多目に作り過ぎてしまったかもしれない。
相変わらず異常な状況下ではあるが、久し振りの戦闘とは無縁な料理という行為に、心弾むものが在った事も否定はできない。
そんな事を思考しつつ、目の前の取り皿に盛られたサラダを突くギンガの意識に、それまで実に美味そうにペペロンチーノを平らげていたスバルの声が飛び込む。

「ああそう・・・脱出作戦だけどね。あれ、成功したから」

突然の言葉にギンガは噎せ返り、咳込んだ。
咄嗟に自身の隣を見やると、ウェンディは手にした炭酸飲料を飲もうとした姿勢のまま動きを止め、呆然とスバルを見やっていた。
次にスバルへと視線を動かせば、当の彼女は何事も無かったかの様にナプキンで口許を拭いている。
彼女の隣のノーヴェはといえば、こちらも何処か楽しそうにバニラアイスを頬張っていた。
その光景に違和感を覚えながらも、ギンガはスバルへと問い掛ける。

「どういう事?」
「どうもこうも・・・そのままだよ。脱出艦隊は救援要請を発信、近くに居た管理局艦隊がそれを拾った、それだけ」
「それだけ、って・・・」

絶句するギンガ。
問いに対するスバルの返答は、重要な箇所が抜け落ちている。
成功したのなら、何故こんな状況になっているのか。
コロニーから離脱した理由、全てを知っているという言葉は如何なる意味なのか。

「どうも、本局が落ちたみたいでね。傍受した通信から判断する限り、生存者を救出した本局防衛艦隊が人工天体の近くで立往生してたって事らしいよ」
「本局が・・・」
「まあ御蔭で、ウォンロンの通信を真っ先に拾ってくれたんだけどね・・・厄介な事に」

575R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:55:52 ID:BuuC5QV.
スバルが発した最後の言葉に、ギンガは眉を顰める。
厄介な事、とは如何なる意味か。
管理局側の救援が来るというのなら、それはこちらの戦力が増すという事である。
その事実の何処が厄介というのだろう。
そんなギンガの疑問を読み取ったのか、今度はノーヴェが口を開く。

「管理局艦隊が通信を拾ったって事は、間違いなく地球軍も救援要請を傍受してる。連中は汚染艦隊の向こう側だが、それを突破する事もできる筈だ」
「妨害も考えたんだけどね。AWACSがすぐ傍に居た以上、下手な真似をすれば他のR戦闘機に飽和攻撃を受ける可能性が在った。だから、大人しくするしかなかったんだ」
「AWACS?」

聞き慣れない名称に、横からウェンディが疑問の声を上げた。
ギンガとしても、全く聞き覚えの無い名称だ。
すぐさま、ノーヴェが答える。

「早期警戒機の事だ。「ケリオン」ってコールサイン、ランツクネヒトからの情報に在っただろ? R-9E2 OWL-LIGHT。コイツが居た所為で、電子戦で迂闊な真似はできなかった」
「で、B-1A2を使って実力行使に出た訳。ユニットTYPE-02搭載機の一部暴走を装って、脱出艦隊を攻撃したの。中途半端にすればバレる事は明らかだったし、
そもそも13機ものR戦闘機を同時に相手取って手を抜くなんて真似は自殺行為だから、本気で攻撃した。それで3隻を撃沈して、人工天体内部へ飛び込んだ」
「アタシはB-1A2を追撃する様に見せ掛けて、R-13Tで後を追った。そのままコロニーに向かったんだけど、其処で交戦中のこの艦を見付けて乗っ取ったんだ」
「艦隊の方は、私が行き掛けの駄賃にケリオンを撃墜して、アイギスのIFFを狂わせたからね。その後は狂ったアイギスへの対応で手一杯で、艦隊は更に4隻の艦艇とランツクネヒトのR-11Sを2機、
他に89機の機動兵器を失った後、這々の体で天体内部へ逃げ込んだ。これが作戦の顛末だよ」
「待った、ちょっと待つッス」

淡々と語り続けるスバルを、ウェンディが制した。
明らかに動揺した素振りで、彼女はスバルの目前へと掌を突き付けている。
そうして言葉に詰まったのか、暫し視線を彷徨わせた後、改めて問いを発した。

「その、良く理解できないんスけど・・・2人は自分の事、ええと、その身体の事は・・・」
「コピーだろ?」

すぐさま返された答えに、ウェンディが絶句する。
ノーヴェは特に気に負う様子もなく、首をひとつ傾げてスプーンで掬ったアイスを口へと運んだ。
僅かに顎を動かして味わう様な素振りを見せ、バニラの香りを楽しむ様にゆっくりと呼吸。
スバルも似た様なもので、動揺を見せる事もなく紅茶を楽しんでいる。
そんな3人の様子を見つめていたギンガは、堪らず自身も言葉を紡いだ。

「こんな事を言うのはどうかと思うけれど・・・貴女達は、どうとも思わないの? いいえ、それ以前の問題だわ。全てを知っているとは、どういう意味。何故、脱出作戦の推移を知っているの。何故、R戦闘機が・・・」

自身の意思を余所に、次から次へと吐き出される疑問。
抑え様もないそれらに流されるギンガの発言を、スバルが手で制した。
漸く発言を止め、口を閉じるギンガ。
取り乱した事に少々の不甲斐なさを感じつつ、何時の間にか乗り出していた身体を背凭れに預ける。
するとそれを待っていたかの様に、改めてスバルが語り始めた。

「・・・とにかく、1つずつ答えていくよ。先ず、私達の事だけど」

スバルは言葉を区切り、紅茶を一口。
溜息を吐き、続ける。

「私達のオリジナルが何処に移植されたか、2人は知っているよね?」
「・・・TL-2B2とB-1Dγだったかしら」
「そう。私は「HYLLOS」に、ノーヴェは「BYDO SYSTEMγ」に制御ユニットとして搭載された。それと培養体がBX-TとB-1A2、R-13TとB-1B3に。
で、当然の事だけど、どちらのユニットに関しても思考抑制措置が取られていた」

頷くギンガ。
スバルは紅茶を更に一口、視線をノーヴェへと投げ掛ける。
そうして今度は、ノーヴェが説明を引き継いだ。

576R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:56:44 ID:BuuC5QV.
「だけど、其処でランツクネヒトの技術者達は間違いを犯した。警戒すべき対象を見誤ったのさ」
「対象?」
「連中はベストラのシステムとリンクして情報を取得し、R戦闘機の調整を行った。脳に著しい電子的強化が施されているからこそ可能な芸当だけど、そもそもベストラに残されている記録は不完全なものが多い。
あそこにいた本来の職員達は、余程に全てを消し去りたかったんだろうな。削除は不完全だったけど、それでも死ぬ間際まで抹消を試みていたんだろう」
「それとこれと、何の関係が在るッスか」
「だから、情報が欠落していたんだ。具体的に言うなら、バイド素子添加および強化プロジェクトに於ける、試作機体の安全性に関する情報が」

テーブル中央、複数のウィンドウが展開される。
其処に表示された画像は、4機種のR戦闘機。
「BX-T DANTALION」「B-1A2 DIGITALIUS II」「B-1B3 MAD FOREST III」「B-1Dγ BYDO SYSTEMγ」
スバルとノーヴェの培養体を基とする制御ユニットが搭載された6機種の内、所謂バイド素子を用いて建造されたものだ。
ランツクネヒトが開示していた情報によれば、パイロットの安全性が確認できない為、制御ユニットの開発までは戦力としての運用を避けていたとの事。
プロジェクト初期に開発された試作機であるBX-T、植物性因子添加試作機改良型であるB-1A2、蔦状植物因子添加試作機最終型であるB-1B3、バイド素子強化試作機最終型であるB-1Dγ。
いずれも通常のR戦闘機とは異なり、禍々しい外観を有する機体だ。
ギンガは眉を顰めてウィンドウ上のBX-T、その緑色蛍光を放つ半物理防御スクリーンを見つめる。

「この機体がどうしたの」
「情報が不足している兵器ほど信頼性に欠けるものはない。況してやコイツ等はバイド素子を用いているんだ、先入観から危険視しても仕方ないだろ」
「回りくどいッスよノーヴェ、要点を言うッス」
「・・・つまりだ。連中が本当に警戒すべきはこの4機種じゃなくて、スバルが搭載されたTL-2B2の方だったんだ」

全てのウィンドウが閉じられ、入れ替わるかの様に展開される新たな1つのウィンドウ。
果たして、映し出された画像はギンガの予想に違わぬもの。
TL-2B2 HYLLOS。

「当然の事だけど、ベストラの研究者達はバイド素子添加機体に対して、異常とも云える程に厳重な対汚染防御策を施していた。機体やシステムを構成するバイド素子の暴走は勿論、敵性バイド体からの干渉まで警戒して。
外観からすればバイドそのものって感じの機体だが、運用上最低限の安全性は保証されていたんだ」
「TL-2B2はそうではなかったと?」
「ああ」

最後の一欠片らしきアイスを口へと運び、ノーヴェはスプーンを置いた。
軽く唇を嘗め、溜息を吐く。
そうして、続けた。

「ランツクネヒトが開示した情報を良く思い出してみろ。あのTL-2B2は第5層の施設を捜索中に発見された、つまりはバイドによる「模造品」だ。オリジナルは2機しか生産されていない。
しかも1機は輸送中にバイドの襲撃を受けて、輸送艦と護衛艦隊もろとも宇宙の塵になっちまってる・・・記録上では、だけどな」
「実際は破壊されただでなく、機体情報を回収されていたという訳ね」
「そういう事だ。ランツクネヒトもその事は良く理解していたんだろうが、生憎と連中はバイドの専門家って訳じゃない。情報を持ってはいるが、研究者って訳じゃないからな」

マグカップへと手を伸ばし、冷めたコーヒーを啜るノーヴェ。
途端、顔を顰めてマグカップから口を離す。
どうやら、ブラックは好みではないらしい。
如何にも苦そうに舌をちらつかせた後、話を再開する。

577R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:57:48 ID:BuuC5QV.
「模造品とはいえ、少なくともR戦闘機であるとの理解はできるTL-2B2と、見るからにヤバイ代物と判るバイド素子添加機体。十分な情報も無く、時間を掛けて細部まで調査する余裕も無い状況で、
どっちを選ぶかなんてのは火を見るより明らかだ。そんな処へ、無人制御が可能となる生体ユニットの材料が手に入ったときたもんだ。ここぞとばかりに、ランツクネヒトはパイロット不在機体の無人機化に取り掛かった。
その際に、対汚染防御、取り分けバイド体からの干渉対策については、BX-Tを始めとする4機種に対して重点的に施されたんだ」
「ところがそれらは元々、建造者であるベストラの研究員達によって厳重な対汚染防御が施されていた。それを知らないランツクネヒトは、バイドが模造したTL-2B2に対する対汚染防御を疎かにしちまった、って事ッスか」
「時間や機材に限りも在ったし、何よりスキャンでは異常は発見できなかったみたいだしな。連中はR-11Sを運用している事もあって通常系列のR戦闘機に関する知識も経験も豊富だし、
TL系列機はそれなりの数が生産・配備されている事実も在る。信用というか、問題ないと判断しちまうのも無理はないだろ」

成程、とギンガは頷いた。
要するにランツクネヒトは情報が欠落したバイド素子添加機体群を信用せず、それらの機体に対し安全対策として厳重な対汚染防御を施したのだ。
一方でTL-2B2に関しては、彼等が良く知る系列機であるという事実も手伝って、模造品であるにも拘らず一定の信頼を置いてしまったという事か。
その点については納得できたが、何故そんな事を彼女が知り得ているのか、その理由が解らない。
だが、これまでの話からTL-2B2に対し、バイド体から何らかの干渉が在ったのであろう事は予想できる。
そして事実、説明を引き継いだスバルの言葉は、その予想の内容を裏付けるものだった。

「それで、艦隊が第1空洞に侵入した時の事だけどね。艦隊から500kmくらい離れた所に、巡航艦クラスの複合武装体が単独で潜んでいたんだ。浅異層次元潜行状態だったけど、ケリオンが探知した。
「ホルニッセ」と「メテオール」が襲い掛かって、あっという間に撃破したけど」

ギンガは記憶を辿り、コールサインが示す機体を思い浮かべる。
「R-9/0 RAGNAROK」ホルニッセ、「R-9C WAR-HEAD」メテオール。
高速連射型波動砲、そして多弾拡散型波動砲を備えた、絶対的な暴力の具現。
この2機を同時に相手取っては如何にバイドとはいえ、単独行動中の巡航艦程度の戦力では太刀打ちすらできないだろう。

「その時に、TL-2B2は干渉を受けたんだ。極指向性だった。明らかに制御ユニット・・・この場合は私だけど、その暴走を狙っていた。ハードウェアへの干渉ではなく、ソフトウェアのバイド化を図ったんだろうね」
「何ですって?」
「まあ、結局は失敗したけど。抑制されていたとはいえ、制御ユニットに自我が在るなんてバイドにしても予想外だったんだろうね」
「自我の有無が、干渉の結果を左右するんスか?」
「意識体っていう存在は総じて思考中枢のノイズが多い。その全てを処理して尚且つ同化するとなると、とんでもない負荷が掛かる。バイドにしても、それは例外じゃない。
人間の感覚からすればあっという間の事にも思えるけれど、解析してみれば中々どうして苦労しているみたいだよ」

あれ程の技術進化を果たしているにも拘らず、地球軍が未だに有人兵器を運用している理由はそれか。
溜息を吐き、先程から手にしていたフォーク、その先端に刺さったレタスを口へと押し込む。
合成食品とは思えない瑞々しさと食感を楽しむ余裕すら無く、噛み砕いたレタスを冷えたコーヒーで流し込んだ。
不味い。

578R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:58:20 ID:BuuC5QV.
「人間なんて、ノイズが多い意識体の代表みたいな存在だからな。おまけに地球人が施す脳の強化ときたら、ノイズの除去どころかそれが干渉対策に有効である事を知って、逆に増幅して防壁にしてやがる。
で、それとは別にクリアな領域を設けた上、其処の機能を強化・拡張して情報処理や各種制御に用いているんだ。下手なAIより余程優秀だよ」
「勿論、それだけでバイドの干渉から逃れる事はできない。だから機体側で、電子的にノイズを増幅する。個人の脳を幾ら強化したところで限界は在るけれど、機体の方のキャパシティは幾らでも増設できるからね。
他にもバイドによる解析を避ける為に、機体のシステムがノイズパターンを変更したりもする。人工物に代替させる事も不可能ではないけれど、本物の人間が持つ独自の有機的パターンを真似る事は困難を極めるし、
何より既存のシステムである人体の脳を強化するだけで、並みの量子コンピューターを凌駕する高性能のシステムが獲得できるのは魅力的だしね」
「人間を兵器群のパーツにしてる訳か。奴等、正気ッスか」
「今更でしょ、それ。地球軍ではバイドに対抗する為には必要不可欠なシステムと認識しているし、そもそも結果的には人間が利用しているんだからパーツではないって認識なのかも。
本当のところは分からないけれど、だからといって絶対に人間が必要って訳でもないし。現にこの戦艦の防壁だって、量子コンピューターが人間の脳内処理系統に生じるノイズを模倣して構築している。
大人数が乗り込む艦艇なんかではそれでも良いだろうけど、1人か2人程度の乗員しか居ない兵器にまでそれを搭載するのは、整備面はともかくとしてコスト面では無駄でしかない」

2・3度、人の飲み物とは思えぬ不味いコーヒーを啜り、カップを置く。
他の3人の会話を聞きつつ視線を彷徨わせると、食堂の一画、壁面に掛けられたボードが視界へと映り込んだ。
何気なく拡大表示してみると、ボードの最上部に手書きで青く「艦長公認 ミートローフ復活希望 署名運動中」と、第97管理外世界の言語で書かれている。
その下には8つ程の署名が在ったが、更に下に赤で書かれた「オペレーター一同主催 シラタマ・アンミツ復活希望 署名運動中」の活動名と、それ以降に続く数十もの署名によって、
ミートローフ復活希望派の署名は完全に圧されてしまっていた。
それらの横の空白には「メニュー復活は1品のみ 来週水曜日に集計 贈賄工作はお早めに! 料理長より」と書かれている。
よりにもよって監督者であるべき料理長公認の贈収賄疑惑が持ち上がってしまったが、どうやらこの艦の置かれた状況を見る限り、集計の実行日は永遠に訪れそうにない。
不正を取り締まる必要はなさそうだ、などと思考しつつ、ギンガは再度の溜息と共に言葉を紡ぐ。

「・・・理解できないわ。必要不可欠という訳でもないのに、人間をシステムに組み込むなんて」
「必要性なら在るぞ。状況を有機的に判断・処理する能力を持ち、僅かな処置である程度の性能を付加する事ができ、更に外部補助により処理速度の劇的な向上が図れるパイロットユニット。
そんなものが数百億も、極端な言い方をすれば地球文明圏の其処ら中に転がっているんだ。コイツを利用しない手はないだろう」
「パイロットの養成にしても身体的な強化措置と脳の電子的強化、後は各種制御系のインストールだけで済むからね。細かな調整と経験から成る部分は、その後の個々の情報蓄積の度合いに依存するけど、
それだって並列化でどうとでもなる。尤も、パターンの同一化によってバイドに一網打尽にされる危険性が在るから、それをやるのはかなり稀なケースらしいけれど」
「成程ね。人間は汎用性が在り、ついでに数の調達にも困らない。態々パターンを調整せずとも個々に違ったノイズを有し、しかも技術の進歩で即戦力としての運用も可能となっている。
人道面での問題を無視すれば、これ程に安価で高性能、更に信頼性にも富んだシステムは他に存在しないって訳ッスね。それでも不都合となれば、その時はその時で人工物に代替させる事もできる。
結局、パイロットなんてローコストが売りなだけの、使い捨ての制御ユニットって事じゃないッスか」
「まあ、そうだな。人間を使う事による利点や、使わざるを得ない理由は他にも在る。でも、ローコストというのが利点の1つである事は否定できない。
リンカーコアみたいに個人に特別な資質が備わっているからとか、機器では再現不可能だとか、特殊な要因が在るからとか、そういったどうしても人間でなければならない理由ってのは一切無いしな。
何せ、ノイズを防壁として機能させているのは、結局のところ機体側なんだから。そう、要はコストの問題さ」

579R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:58:52 ID:BuuC5QV.
其処で会話を区切り、全員が飲み物を口にする。
スバルが飲み干した紅茶や、ギンガやノーヴェのコーヒー以外にも、テーブル上にはアルコール類を除く複数種の飲料物が並べられていた。
戦闘機人は常人離れした膂力を誇るが、同時に「燃費」の悪さという問題も抱え込んでいる。
通常時であれば一般の基準とほぼ同じ食事量で済むのだが、一旦でも戦闘機人としての能力を解放した後には深刻な「燃料不足」に陥るのだ。
勿論、魔力やその他のエネルギーで活動時間を延ばす措置が講じられてはいるが、空腹感とそれに伴う食欲ばかりは如何ともし難い。
今後の行動を安定させる為にも、此処で十分に「燃料」を満たす必要が在った。
並べられたジュース類も、その一角という訳だ。
コップに注いだコーラを一口、軽く口許を拭ってスバルが続ける。

「話が逸れたけど、対汚染防御策の1つにパイロットの搭乗が在る事は理解して貰えたよね。当然、無人機にもそれを模した防壁か、或いは人間の脳以上に複雑なパターンを持つノイズメーカーが搭載されている。
でも、それらの代替システムには欠点も在るんだ」
「欠点?」
「そう。強化措置によって演算能力を獲得しつつも、有機的な判断と対処能力を併せ持つ・・・悪く言えば、非合理的で無駄に複雑なシステムを有する人間とは違って、基本的に非合理さを装っているだけの代替装置は、
有人機と比較してどうしても干渉される確率が高くなる。有人機にしたって、時と場合によっては5秒足らずで、パイロットを含むシステム全体を掌握される事があるんだ。
代替システムは強力だけれど、パターンの解析が不可能な訳じゃない。現に、これまでのバージョンは全て解析されている」
「・・・今更、何でそんな情報を知っているのかは訊かないけれど。それで?」
「バージョンは定期的に更新されるけど、ごく稀にそれが間に合わないケースも在る。システムを解析され、抵抗すら許されずに一瞬で中枢を掌握されるんだ。
深宇宙遠征時とか、長期に亘る異層次元での作戦行動中なんかに良く起こるケースだよ。それと同じ事が、TL-2B2にも起きた」

其処でまた言葉を区切り、コーラを煽るスバル。
既に炭酸は殆ど抜けているらしく、2度、3度と喉が動いた後には、コップは空となっていた。
深く息を吐き、彼女は話を再開する。

「敵複合武装体はTL-2B2が模造品である事を知っていた。だから指向性を持たせた干渉波でシステムを掌握し、そのまま艦隊への攻撃に用いようとしたんだ。
ところが、バイドにとっても予想外だったんだろうけれど、掌握直後のシステムに自我が発生した。干渉に抗えるだけのノイズを有する、人間のそれとほぼ同じ自我が」
「思考抑制機能が停止したのね」
「そういう事。一瞬だけど、流石に混乱した。とんでもない量の情報が、覚醒直後の意識へ一度に雪崩れ込んできたんだ。強化措置が施されていなかったら、間違いなくオーバーフローを起こして初期化・・・死んでただろうね。
その時に、地球軍とバイドに関する真相についても知った。それで改めて現状を確認した後、他のTYPE-02ユニット全てにオーバーライドしたの。
その上でB-1DγのNo.9ユニット、つまりノーヴェに干渉して思考抑制機能を停止したんだ。こっちに関しては干渉波じゃなくて、データリンクを通じて行ったから簡単だったよ」
「で、覚醒後にアタシも他のNo.9ユニットにオーバーライドして・・・後は、さっき話した通りだ。スバルがB-1A2の暴走を装って艦隊を攻撃し、人工天体内部へ戻る。
アタシはR-13Tでその後を追い、天体内部で合流してコロニーへ向かった。その時には単に、ランツクネヒトの戦力を削った上で、生存者に真実を伝えるまでの想定しかしていなかった。
ウォンロンが戻る前にR戦闘機を排除して、コロニーを移動させようってね。まあ多分、勝ち目は無かっただろうけど」

それはそうだろうと、ギンガはその予想に同意した。
コロニー防衛に就いていた4機種、計11機のR戦闘機は、そのいずれもが常軌を逸した戦闘能力を有している。
如何に自我を有する制御ユニットとして覚醒したとはいえ、経験豊富なパイロットが搭乗するR戦闘機を同時に11機も相手に回して、それで勝てると思う方がどうかしているだろう。

580R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 20:59:35 ID:BuuC5QV.
「ところが運の良い事に、コロニーはバイドとの交戦状態に在った。おまけにアイギスは汚染された地球軍艦艇に制御権を乗っ取られて暴走、戦闘中の混乱に紛れてコロニー内部へ潜入してみれば、
ランスターやお前等がランツクネヒトと交戦中って有様だ。コロニーのシステムが死んでいる事はすぐに分かったから、万が一にも外部のランツクネヒトと地球軍に状況が伝わらないようにジャミングを実行したのさ」
「ジャミングには、艦隊から先行させていたTL-2B2を使ったよ。その開始直後に、この艦がコロニーに突っ込んだ。その時にはもう、汚染されたメインシステムはゴエモンの攻撃で破壊されていたから、
サブシステムを乗っ取ったんだ。其処へ、ギン姉達が乗り込んできたの」
「ランスターの方は、モンディアルとルシエから身柄を託された。アイツが持ってたメディアデバイスは、今は2人が預かってるよ。アタシはアイツ等が外殻へ脱出した頃を見計らって、
ティアナをR-13Tに乗せてこの艦を追った。それで、後は情報奪取と戦闘の痕跡を消して終わり」
「痕跡を消すって、どうやって?」

スバルとノーヴェの口から続々と語られる、理解の範疇を超えた事実。
それらを必死に整理しつつ、ギンガは問い掛けた。
その問いは単に、R戦闘機という殻に押し込められた状態で行う痕跡の隠滅とは如何なるものかという、興味心から出たもの。
だが、それに対するスバルからの返答の内容は、ギンガの意識を凍り付かせるには充分に過ぎるものだった。

「B-1A2の1機を使って、コロニーを破壊した。装甲維持システムを暴走させて、オーバーロードした波動粒子のエネルギーをそのまま増殖に用いたの。
要するにB-1A2そのものを種子にして、植物性バイドの株をコロニーに植え付けた。後は、勝手に成長した植物がコロニーを押し潰した、それだけ」
「な・・・」

植物性バイドをコロニーに撃ち込み、物理的に圧壊させた。
スバルは、そう言ったのだ。
余りの暴挙に絶句するギンガだったが、スバルの言葉は更に続く。

「後は、ウォンロンが第3空洞に到達する直前に、全機で防衛艦隊を襲った。単なる制御ユニットの暴走に見せ掛ける為にね。それと、ペレグリン隊の生き残りの2機とシュトラオス隊の4機、
コロニー外殻での防衛に就いていた魔導師と機動兵器を適当に撃破して離脱、こっちに合流・・・」
「待ちなさい。コロニーを破壊したってどういう事? 生存者は、皆はどうなったの!?」

スバルの言葉を遮り、思わず喰って掛かるギンガ。
だが、当のスバルは驚いた様に目を瞠り、正面からギンガを見返している。
その反応にギンガの方が面食らっていると、スバルは微かに首を傾げて続けた。

「そりゃあ、無差別攻撃だからね。それなりの人数が死んだんじゃないかな」
「何を言って・・・!」
「でも、キャロとエリオについては巻き込まない様に常に位置を把握していたし、セインがベストラへ移った事も傍受した通信から分かってた。
なのはさんとかはやてさん、ヴィータ副隊長とザフィーラが外殻に居た事も分かってたけど、だからって手を抜いたりなんかしたら、暴走を装っている事がランツクネヒトにバレちゃうでしょ?
まあ、仕方ないって事で。シャマル先生は・・・もう、亡くなってたみたいだし」
「味方を殺したんスよ!? 何でそんな風に平然としてられるッスか!」
「敵も居ただろ。ランツクネヒトと地球軍。第一、あの時点じゃランスターとルシエ、モンディアルの3人、それとお前等以外はみんなランツクネヒトを信用してたんじゃないのか」
「それは・・・」
「信用とまではいかなくても、共同作戦を採る程度には・・・まあ、此処は言うだけ無駄か。どの道、それ以外に方法は無かったしな。とにかく反撃を実行する程度には、連中は脅威として判断できる存在だった。
お前等を護る為にも、連中に対する偽装工作は必要だったんだ」
「だからって・・・コロニーを破壊なんて、そんな大勢の犠牲者が出る方法を採らなくても、他に方法が!」
「でも、効率的でしょ?」

瞬間、ギンガの表情が強張る。
目前でこちらを見やる妹、見慣れたその顔が、酷く生気に欠けた作り物の様に思えたのだ。
否、彼女は確かに何時も通りの、何処かしら幼ささえ残るその顔に微かな疑問の色を浮かべ、こちらの様子を気遣っている。
記憶の中のそれと全く変わりない、ギンガの妹、スバル・ナカジマの顔だ。
だが、何かがおかしい。
コピーでも構わない、本物のスバルと何ら変わりないと言い切ったのは自身であるというのに、今はその言葉に確信が持てなくなっている。
そんな葛藤に苛まれるギンガの様子をどう捉えたのか、スバルは軽く自身の頬を掻いて話を変えた。

581R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:00:05 ID:BuuC5QV.
「・・・とにかく、私達は偽装工作が済んだ後、この艦と合流した。艦内で2人の誘導をしてたのは、ノーヴェだよ」
「ノーヴェが?」
「ああ。尤も、お前等がランツクネヒトの情報収集ユニット、つまりこの身体を回収していたのは予想外だったけどな。それでもまあ、元の身体とほぼ同じ端末が在るのは便利な事だから、
AMTPまでのナビと操作マニュアルを表示した。後は、各ユニットを掌握した時と同じだ。機体からオーバーライドして、この身体に情報を転送した。で、今は此処で飯を食ってると」

其処まで言うと、ノーヴェはフルーツの皿から8等分されたリンゴ、その1欠けを手に取り齧る。
小気味良い音を響かせ、美味そうに咀嚼するノーヴェだったが、ギンガにはその光景が恐ろしいものの様に感じられた。
人間でない何か、人間には到底理解できぬ何かが、人間の姿を模し、人間の食物を口にして、人間の食事と云う行為を模している。
人間が有する感覚を探り、人間が感じる多幸感を観測し、人間が用いる会話という情報伝達手段の解析を行っている。
そう、感じたのだ。

そして、そんな認識が自身に宿り始めていると気付いた、その時。
ギンガは唐突に、明確な恐怖が自身の内へと宿った事を自覚した。
ほぼ同時、咀嚼し終えたリンゴを飲み込み、ノーヴェが言葉を発する。

「うん、成程」
「・・・ッ」

僅かな音。
声になり掛けて潰えた様なその音に、ギンガは隣に座るウェンディへと視線を移す。
彼女は、視線をノーヴェへと向けたままテーブル上のカップを両手で握り締めていたが、その手は僅かに震えていた。
恐らくは彼女も、ノーヴェの異常に気付いたのだ。
ギンガは視線をスバルへと戻し、切り分けたチキンソテーを口へと運ぶ彼女の動作を見やった。
口一杯にソテーを頬張り、スバルは頬を緩ませて咀嚼を続けている。
数秒ほど、無言でその様子を見つめるギンガ。
そして、彼女は僅かに躊躇した後、ソテーを飲み下したスバルへと問い掛ける。



「ねえ、スバル・・・「美味しい」かしら?」
「うん、「面白い」よ」



全身の肌が粟立った。
少なくとも、ギンガはその感覚を味わったのだ。
新たに1切れのソテーを口へと運ぶスバルを見つめつつ、ギンガは震える手で自身の口を覆い隠した。
そして思考の内で、改めてスバルの言葉を反芻する。

「面白い」と、スバルはそう言った。
「美味しい」ではなく「面白い」と。
それは料理の味がという意味ではなく、宛ら自身に「味覚」が存在し、それが機能しているという事実、それ自体が「面白い」と答えている様に思えた。
「味覚」の存在を改めて確認し、その機能の新鮮さを楽しんでいるかの様だ。
そして恐らくは、ノーヴェも同じ感覚を抱いているに違いない。
彼女はコーヒーを口にし、僅かに驚いた後に表情を顰めた。
まるで、コーヒーが苦いという事実を、それ以前に苦いという感覚を知らなかったかの様に。

否、そもそも彼女達の反応は本当に、自身等のそれと同じ「感覚」に基いて発生したものなのだろうか。
オリジナルの彼女達は、今やR戦闘機の制御中枢となっているのだ。
コピー自体が持つ「感覚」はオリジナルのそれと同一であろうが、スバルとノーヴェはR戦闘機からコピーへ「オーバーライド」したと言った。
その言葉を如何なるものとして捉えるかによるが、正しく言葉通りに「上書き」したと云うのならば、オリジナルの2人にとっては久し振りに体験する「感覚」なのかもしれないと考察できる。
最悪、ランツクネヒトが行った処置により「感覚」そのものの記録を喪失してしまった、或いは人間の「感覚」という概念を削除されてしまった可能性すら在るのだ。
そうなれば、先程から目前の2人が見せている「感情」に基くらしき各種行動、笑顔や頸を傾げるといった表情や動作も、今までと同様の意味を持つものとして受け止める訳にはいかない。
オリジナル時からの記憶、即ち「情報」が残っている事は確かなのだから、それに基いてコピーの身体を操作しているに過ぎないかもしれないのだ。

582R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:00:38 ID:BuuC5QV.
魔導師がサーチャーを操る様に、ランツクネヒトがドローンを操る様に。
TL-2B2とB-1Dγという本体から、新たに入手した「端末」を遠隔操作し、人体が有する「感覚」の情報を収集・解析している。
目前の存在は自身が知る2人の姉妹ではなく、2体の情報収集端末なのではないか。
そうだとすれば、自身の知るスバルは、ノーヴェはどうなったというのだ。
何処かに居るのか、何処にも居ないのか、生きているのか、死んでいるのか。
何を信じれば良い、どう理解しろというのだ。

「成程ね」

唐突に、この場の4人のものではない声が食堂に響く。
咄嗟に背後へと振り返るギンガ。
その視界へと、薄青色の検査衣が映り込んだ。
ギンガは驚きを隠そうともせず、その検査衣を纏った人物の名を声に乗せる。

「ティアナ・・・」
「ああ、もう起きたんだ」
「白々しいわね、ずっと見ていた癖に」

ギンガではなくスバルの言葉に答えつつ、ティアナはテーブルへと歩み寄ってきた。
足運びが幾分か覚束無いが、それでも意識は明確である様だ。
彼女はギンガ達の側でもスバル達の側でもなく、手近に在った椅子を持ってテーブルの端へと寄った。
其処へ椅子を下ろし、次いで自身もその上に腰を下ろすと、溜息を吐いて再度に言葉を紡ぐ。

「アタシが医療ポッドから出た正確な時間まで知っているでしょう、アンタは」
「あれ、もしかしてさっきの話、聞いてた?」
「だから白々しいって言うのよ。今じゃこの艦の眼は、全部アンタ達のものじゃない。アタシが此処の映像を見ていた事なんか、とっくに気付いていた癖に」

言葉を交わしつつ、ティアナはスバルのカップを引き寄せ、ポットからコーヒーを注いだ。
ポットを置き、カップを手にして一口。
すぐに表情を顰め、カップを口から離すと不機嫌そうに呟く。

「不味い。アンタ、こんなの良く飲めるわね」
「私はまだ飲んでないよ。先に飲んだのはギン姉とノーヴェ」
「データを共有してるんでしょ? それなら飲んだのと同じじゃない」
「パターンを同一化すると、簡単に干渉されるって言ったろ。データリンクはしているけれど、何でもかんでも遣り取りしてる訳じゃない」
「コーヒーの味くらいで何を言ってるんだか・・・」

スバルとノーヴェ、そしてティアナ。
3人の間で交わされる、何気なくも何処か歪んだ言葉。
訳も分からずにその会話を聞いていたギンガだったが、自身の隣から飛び込んできた声に漸く自己を取り戻す。

「ティアナ・・・気付かないんスか?」

ウェンディだ。
彼女は何処か、探る様な視線をティアナへと向けていた。
何を言わんとしているのかは、ギンガにも容易に理解できる。
スバルとノーヴェの異常性に気付かないのか、ウェンディはそう問い掛けているのだ。
ティアナは視線をスバル達から外し、ウェンディへと問い返す。

「何がかしら」
「2人の言ってる事ッス。何かおかしいとは思わないんスか」
「別に。気になってた事は在ったけれど、ついさっき納得したわ」
「納得した? どういう事なの」

583R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:01:12 ID:BuuC5QV.
ティアナの言葉に、今度はギンガが問い返した。
彼女は、此処の映像を見ていたという。
ならば、スバルとノーヴェの異常な言動も知り得ている筈だ。
にも拘らず放たれた納得という言葉は、如何なる意味を持っているのか。
微かに沸き起こる怒りを自覚しつつ、ギンガはティアナの言葉を待つ。
だが、返されたものは望む答えではなく、それどころか予想だにしなかった問い掛け。

「私の見解を訊く以前に貴女達の主張はどうなったんです、ギンガさん」

そんな言葉と共に、ティアナは醒めた眼でこちらを見やる。
蔑意すら感じられるその視線に、ギンガは言葉を失った。
コロニー管制区、ランツクネヒト隊員からの攻撃を受けている際。
四肢を失い身動きが取れなくなったスバルとノーヴェ、2人をランツクネヒト側の情報収集ユニットと断じて救出を拒むティアナを前に、ギンガは本物も偽物も変わりないと言い切ってみせた。
だが今、ギンガのその主張は瓦解しようとしている。
2人がスバルとノーヴェであると信じる事ができず、自身の判断は間違っていたのではないかとの疑いを持ち始めた。
挙句の果てに思考を放棄し、ティアナの判断を仰ごうとしていたのだ。

その事実を自覚すると同時に、ギンガは身体の芯が凍り付いてゆくかの様な感覚に襲われた。
ティアナは未だに、こちらの心中を見透かしているとすら思える、その醒め切った視線を逸らそうとはしない。
無言の罵声を浴びせられているかの様な感覚に耐える中、唐突にティアナが視線を外す。
宛ら、ギンガとウェンディに対する、一切の興味を失ったかの様に。
そして、言葉を紡ぐ。

「・・・要するに、2人はスバル・ノーヴェという人間個体としての存在ではなく、複数の端末から構成されるシステムそのものになったという事です」
「え・・・?」

ティアナの答え。
少なくともギンガは、その内容を咄嗟に理解する事ができなかった。
人間個体、端末、システム。
ティアナの答えは、何を伝えようとしていたのか。
思考の中へと沈みゆくギンガの意識に、スバルの声が飛び込む。

「流石ティア、理解が早い」

その言葉に、ギンガはスバルを見やった。
彼女は嬉しそうに微笑み、ティアナの横顔を見つめている。
記憶の中と同じ、スバルの笑顔。
呆然とそれを見つめるギンガの姿をどう捉えたのか、スバルがこちらへと視線を向けて言葉を続ける。

「そういう事だよ。ギン姉、ウェンディ。まだ解らない?」
「もう好い加減、理解して欲しいんだけどな。何度も説明するのは非効率的だし、この身体からすると面倒だ」

スバルに続き、ノーヴェの言葉。
そちらへと視線をやれば、何処か呆れた様にテーブルへと肘を突き掌に顎を載せているノーヴェの姿と、彼女を呆然と見やっているウェンディの姿が視界へと映り込んだ。
何か言わなければ、と口を動かし掛けるギンガ。
だがそれよりも、ティアナが発言する方が早かった。

「理解できないんじゃなくて、理解したくないのよ。妹達が人間でなくなってしまったなんて、すぐには認められないものでしょう」
「そういうものかな。まだその辺りの認識に関する補完は完全じゃないし、上手く理解できないんだけど」
「どうでも良いけど、そろそろ解り易く説明してやったらどうだ」

ノーヴェの視線がウェンディを、次いでギンガを捉える。
僅かに身を硬直させるギンガ。
ノーヴェが怪訝そうに眼を細めるが、ほぼ同時にスバルが言葉を発し始めた為、ギンガは意識をそちらへと向けた。

「つまりね・・・スバルやノーヴェというソフトウェアは元々、戦闘機人という名のハードウェアを有していた。ハードは1つしか存在せず、また感覚などの情報もそれに関するものしか蓄積されていなかった。
ノーヴェに関しては、正確には他のナンバーズからのフィードバックは在ったけれど、それもノーヴェ自身が有する情報と大差は無かったしね」
「ところがランツクネヒトによって、2人はソフトを内包する僅かな部位を残し、ハードの大部分を奪われてしまった。新しいハードとして提供されたのは通常の人体でも戦闘機人でもなく、R戦闘機という兵器だった」
「有難う。それで、その際に2つのソフトは不必要な部位を削ぎ落とされた。戦闘機人の身体制御に関して蓄積された情報とか、人間として培われてきた感情とか。兵器の制御に、そういったものは特に必要ないからね」

584R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:01:43 ID:BuuC5QV.
スバルの言葉をティアナが継ぎ、その後を再度スバルが継ぐ。
ギンガは必死に彼女達の言葉を読み解き、意味ある情報として意識内で並び変える作業を行っていた。
更に其処へ、ノーヴェの言葉が飛び込む。

「スバルとアタシが自我を取り戻した時も、人間の感情とか感覚ってものは無かった。情報は在るし、ソフトに変更を加える事でそれらを実装する事もできたけど、特に意味の在る行動とは判断できなかったしな。
その時に優先したのは感情や感覚を取り戻す事じゃなくて、ハードの数を増やす事だった」
「他のTYPE-02やNo.9ユニットにオーバーライドを実行した私達は、単一のソフトでありながら複数のハードを有する存在、つまり1つのシステムになった。私はTL-2B2とBX-TにB-1A2が4機、計6機のR戦闘機から成るものとして。
ノーヴェはB-1DγとR-13T、B-1B3の3機のR戦闘機から成るものとして」
「どれがオリジナルって区別は無い、アタシ達がオーバーライドしたものは全てシステムの一部だ。其処に今度は、お前等が回収してきたコピーのアタシ達が加わった。
当のアタシ達にとってはオリジナルに最も近いハード、もう完全に失われたと判断していた感覚や感情を備えた戦闘機人のハードだ。調子を確かめるのは、当然の事だろ?」

ノーヴェが説明を終える頃には、ギンガは愕然とした面持ちを隠す事すらできなくなっていた。
余りにも理解し難い事実、理性は納得しても感情は決して受け入れようとはしない、残酷な現実。
それが今、ギンガの意識を打ちのめしていた。

ギンガの知る、単体のハードウェアとしてのスバルとノーヴェは、もう何処にも居ない。
今や2人は複数のハードウェアを備えるシステムであり、目前の彼女達はその一部に過ぎないという。
戦闘機人というハードウェアを操るスバル、そしてノーヴェという、2つのソフトウェアの一端。

ギンガは自身の記憶の中に存在するスバルとノーヴェ、彼女達のハードウェアとソフトウェア、双方が全く同一のものである事が当然であると認識していた。
ティアナに対し本物も偽物も関係ないと言い切ったのは、オリジナルの2人のハード・ソフトが異なる場所に存在していると仮定し、その上で全く別のハード・ソフトである2人のコピーを受け入れると決意した為だ。
2人がソフトに重きを置く存在と化しており、ハードウェアの特定が無意味な存在となっている等とは、全く考えもしなかった。
そして今、その考えもしなかった可能性が、現実のものとして眼前に在る。
人間個体とは比較にならぬ程の巨大なシステムと化して、ギンガの眼前に存在しているのだ。

「解ったみたいだね、ギン姉。アタシ達にとってはこの身体も、複数のR戦闘機も全部が自分自身。この戦艦、ヨトゥンヘイム級異層次元航行戦艦「アロス・コン・レチェ」だってそう。
どれが本当の自分かなんて、そんな事は考えるだけ無意味なんだ」
「オーバーライドすればしただけ、ハードウェアの数が増える。新たなハードの獲得に伴ってソフトウェアが変化しても、システム全体がスバルとノーヴェという意識体を形成している事には変わりがない。まるでバイドね」
「酷いな、それ。言っておくが、あんな化け物と比較できるほど万能って訳じゃないぞ。下手すりゃ一瞬で喰われて、正真正銘のバイドになっちまう可能性だって在るんだからな」
「解ってるわよ、そんな事。今のは単なる言葉の綾」
「考えてみれば、皮肉な話だよね。個人が強大な力を持つ事を何よりも危険視する地球人が、よりにもよって自分の手でそんな存在を生み出してしまったんだから。まあ、最大限に利用させて貰うけど」

最早、言葉を紡ぐ事すらできぬギンガとウェンディを置き去りにして、3人は言葉を交わし続ける。
それでもギンガは、何とかスバルへと掛けるべき言葉を模索し、しかしすぐにその思考を否定した。
そんな事は意味が無いと、今更ながらに思い知ってしまったのだ。

自身がスバル達の変容を受け入れられなかった事は、先程までの態度から3人には筒抜けだろう。
否、スバルとノーヴェは、戦闘機人としてのハードウェアへの移行に伴うソフトウェアの変容に対処している段階であるらしい事から推測するに、こちらの態度から正確に内面までを推測する事は難しいかもしれない。
だが少なくとも、ティアナには完全に見抜かれているだろう。
彼女は人間としての感覚が正常に機能しているとは言い難い2人の為に、自身がその代替機構として機能する事を請け負っているのだ。
2人のコピーを否定した彼女は、システムとしての2人を拒絶する事なく肯定している。
其処に、自身等が入り込む隙は無い。

585R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:02:16 ID:BuuC5QV.
ならば今すべき事は、その失態に関して取り繕う事ではないだろう。
搬入室でスバルとノーヴェが告げんとした内容、地球軍とバイドの戦略に関する情報を、少しでも正確に受け取る事だ。
2人は間違いなく、こちらに対してその役目を果たす事を期待している。
ならば望み通り、その意思を汲もうではないか。

「・・・それで、貴女達が言ってた地球軍とバイドの戦略っていうのは? そんな情報を何処から入手したの」

言葉を紡ぐと同時、3人の眼がこちらへと向けられる。
気圧されそうになる自身を何とか抑え、次なる言葉を待つギンガ。
ティアナの視線がスバルとノーヴェへと向き、その視線を受けた2人は僅かに互いの視線を合わせてから、こちらへと向き直った。

「情報の入手経路は複数。ややこしくなるから、今の内にソースを明かしておくよ。1つは、B系列機体を構成するバイド素子。ベストラの研究員達はコロニーに残る記録の殆どを破壊したけれど、
機体そのものの破壊に至る前に時間切れになった。これが1つ」
「素子が情報を記録しているの?」
「バイドを嘗めちゃいけないよ。奴等にとって、情報は上質の餌なんだ。一度は溜め込んだそれを手放すなんて、余程の事が無い限りは在り得ない」

情報は上質の餌。
スバルの言葉に、改めてバイドの恐ろしさを実感するギンガ。
説明は、更に続く。

「2つ目、複合武装体からの干渉波。これは1つ目のソースから得た情報を補完する意味合いが強いものだった。3つ目が、天体外部でケリオンが地球軍・第17異層次元航行艦隊旗艦「クロックムッシュⅡ」と遣り取りした情報通信。
圧縮された一瞬のものだったけど、辛うじて傍受に成功した。ウォンロンや私達に傍受されても、問題は無いって判断したんだろうね。実際には大在りだった訳だけれど。ノーヴェ」

スバルはノーヴェに説明役を引き継ぎ、自身はコップへとコーラを注ぎ始めた。
その様子を横目に見やり、ノーヴェが口を開く。

「地球軍は今のところ、22世紀の第97管理外世界との通信回復には成功していない。増援の要請は絶望的だが、艦隊は独自の作戦を展開するつもりだ」
「内容は」
「この隔離空間内部に存在すると思われる「MOTHER-BYDO Central Body clone」の破壊作戦だ。ウォンロンとケリオンからの通信が決め手になるだろうな」
「セントラルボディ・・・そんなものが存在するの?」
「これに関しては、後で説明する。それで、はっきり言うと地球軍に関しては、これ以外に確証の在る目立った情報は無いんだ。それで、バイド側の説明に移るけど」

ノーヴェは言葉を区切り、一同の顔を見渡した。
改まったその様子に、ギンガは思わず姿勢を正す。
それはウェンディやティアナも同様らしく、椅子の脚が床面へと擦れる音が食堂に響いた。

「良いか、気をしっかり持って聞け。バイドの正体、その建造理由に関する情報だ」

バイドの正体、建造理由。
ギンガは疑問を抱いた。
そんな情報は、此処に居る全員が疾うに知り得ているではないか。
26世紀の第97管理外世界、外宇宙の敵と戦う為に地球人が建造した局地限定破壊兵器。
何らかのミスによって太陽系に於いて発動し、150時間の暴走の果てに異層次元へと放逐された悪魔。
それ以外に、何が在るというのか。

「先ず、バイドという存在についてなんだが・・・なあ、さっきの話は覚えてるよな。ハードウェアとソフトウェアの話だ」
「勿論ッス」
「バイドという存在を極端に言い表すなら、こうだ。ハードウェアを持たない、ソフトウェアだけの存在」

沈黙が満ちる。
ノーヴェが話を区切った後、誰も言葉を発しようとしない。
少なくともギンガは、ノーヴェの言葉に対する理解が追い付かずに、紡ぐべき言葉が見付からないという状態だ。
そんな周囲の面々に視線を走らせたノーヴェは、テーブルを軽く指で叩いて話を再開する。

「元々、バイドはソフト面での大規模な無差別侵蝕能力を重点に開発された。地球の衛星に匹敵するだけの巨大なフレームも、其処に満たされた生体素子も、バイド中枢を形成する波動粒子さえ、
ソフトウェア保護の為の殻に過ぎない。バイドの本体はハードウェアではなく、ソフトウェアだ」
「ノーヴェ、ちょっと待ちなさい」

586R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:02:49 ID:BuuC5QV.
ノーヴェの説明に、ティアナが割り込んだ。
彼女は腕をテーブルに載せ、半身を乗り出す様にして言葉を続ける。

「それはおかしいわ。地球軍はこれまでに少なくとも4度バイド中枢を攻撃して、4度目の「THIRD LIGHTNING」を除いては破壊に成功してる。
それはつまり、バイドに物理的なハードウェアが存在するという事の証明ではないの」
「どの作戦も、結局は殲滅に失敗してるだろう。異層次元へと投棄されたバイドは、其処でハードウェアを失った。だが、アタシ達の知る次元世界とは概念からして異なる空間に適応する内、
バイドはソフトウェアのみでの活動を可能とする存在に進化したんだ・・・詳細は勘弁してくれ。理解しようなんて思ってみろ、あっという間に脳がやられちまう」
「なら、地球軍が破壊したのは何だったんスか?」
「バイドは、敵対勢力が有するソフトウェアへの干渉を主な攻撃手段とする。相手が機械だろうと生命個体だろうと、それどころか自身と同じソフトウェアのみの存在、情報集約体であろうとお構いなし。
宇宙人だろうが異次元人だろうが、ロストロギアだろうが神みたいな存在だろうが全く問題にしない。だが、例外が在る」

少々強めに、指先でテーブルを叩くノーヴェ。
改めて全員の意識を引き付け、続ける。

「ソフトウェアに対する、有効な攻撃手段を有する勢力。バイドにとっては、最も厄介な存在だ。ソフトウェアとしても常識外の存在なバイドだが、長く戦っている内にはそんな勢力と接触する事も在った。
そうなるとバイドは、ハード面での侵攻に切り替えるか、或いは両面作戦を採る様になる。ソフト面での干渉は継続し、ハード面では圧倒的物量で敵性勢力を押し潰すんだ」
「それが、外の状況?」
「あれは地球軍に対する戦略を、次元世界で継続しているだけ。このまま時間が経過すれば、次元世界全域に対してソフト面での干渉が始まるだろうな。そうなったら一巻の終わり、みんな揃ってバイド化だ」
「バイドはソフトを書き換える事で、ハードにも干渉する。みんなも見たでしょ、おかしな姿に変わった機械や生物を。あれが干渉の結果、所謂バイド化だよ。バイドによる解析が終了すれば、物理的に接触する必要さえ無くなる。
バイドからの干渉波で、あらゆる存在が知らぬ間にバイドになり得るんだ」

小さな呟き。
ギンガが自身の隣へ視線をやると、青褪めたウェンディの表情が視界へと映る。
彼女が何を想像したのか、ギンガは間違っても知りたいとは思わなかった。

587R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:03:19 ID:BuuC5QV.
「成程。地球人は干渉への対抗策だけでなく、ソフト面での有効な攻撃手段を有している訳ね。だからバイドは、ハード面での大規模攻勢を仕掛けている・・・フォース・システムかしら?」
「そう。他勢力との戦闘によるダメージで切り離され、異層次元を漂流していたバイドの切れ端は、よりにもよって22世紀の地球人の手で回収されてしまった。彼等はバイドの侵攻前にその存在を知り、
それに留まらず切れ端を培養し、そのソフトを書き換える事でバイドに対する有効な攻撃手段、フォース・システムを開発した」
「フォースの能力は絶大としか云い様がない。あれは物理的に他のハードウェアを侵蝕するだけでなく、あらゆる空間内に遍在するバイドのソフトウェアを、極広域に亘って跡形もなく喰らい尽くしちまうんだ。
フォースのエネルギー蓄積率・・・地球軍はドースと呼称しているが、それは対物非接触時であっても、僅かずつ上昇している。何を吸収しているのかというと、空間中に遍在するハードウェアを持たない、
ソフトウェアのみのバイドを喰らっているんだ」
「第一次バイドミッション当時、既に他勢力との大規模交戦でソフト面での損傷を受けていたバイドは、フォースのソフトウェア侵蝕能力による損害の拡大を避けるべく、1つの惑星を自身のハードウェアへと改造して其処に宿った。
ハードに宿ってしまえば如何にフォースとはいえ、それを破壊しない限りはソフトに対する侵蝕は不可能だからね。バイドは圧倒的な物量と、それまでに吸収してきた無数の勢力の情報・技術を駆使して「R-9A ARROW-HEAD」の大隊を迎え撃ったけれど、最終的には仮のハードを破壊されてソフトに深刻な損傷を負った。再生中に地球軍の不意を突く形で電撃的な再侵攻を実行したけれど、
これも「R-9A2 DELTA」と「RX-10 ALBATROSS」、おまけに「R-13A CERBEROS」の試作機群を用いた反攻作戦によって頓挫した」
「第二次バイドミッションでは、バイドはハードウェアの複製に踏み切った。地球側のコードネームでは「WOMB」と呼称されたハードに宿ったバイドは、WOMBもろともソフトを複製しようとしたんだ。
ご丁寧にもあらゆるパターンを変更して、オリジナルとクローンのどちらかが破壊されても、もう一方に同じ手段が通用しない様に。ところがこれも「R-9C WAR-HEAD」によって、
オリジナルとクローンを同時に破壊されるという、最悪の形で阻止されてしまった。そしてバイドは、人間に例えるなら業を煮やしたってところかもしれないが、今度は自身が宿るハードそのものに高い戦闘能力を付与した。
次に襲ってくるであろう、新たなR戦闘機を迎え撃つ為だけに。それが「MOTHER-BYDO Central Body」だ」

またも言葉を区切り、ノーヴェが溜息を吐く。
疲れているのかもしれない。
瞼の上に手をやり、幾度か眼を揉み解す。
数秒ほどの後、スバルが話し始めた。

「バイドに人間的な感情そのものは無いけれど、危機を察知する機能は豊富に備えている。当然その中には、人間の感情や感覚を模したもの存在する。あれは危ないとか、これには近付きたくないとか」

コーラを一口、スバルは喉を潤す。
そうして、テーブル上に戻したコップの中、弾ける炭酸の泡を見つめつつ続ける。

「バイドは間違いなく、地球人に「恐怖」しているよ。ソフトウェアの隅から隅まで、余す処なく。どんな手段を使っても滅ぼせない、どれだけ殺しても殺し切れない、どんなに強大な力で叩き潰しても耐え抜いて、
次にはそれ以上の力で反撃してくる」

徐々に小さくなってゆく、スバルの声。
聞き逃すまいと聴覚の感度を上げたギンガだったが、直後のその意識が凍り付く。

「信じられない。化け物だ。こんな馬鹿げた存在なんて知らない。どうやって滅ぼす、どうやって防ぐ、どうやって凌ぐ、どうやって生き残る。あれをやっても殺される、これをやっても殺される、
殺される、殺される、殺される。嫌だ、死にたくない、殺すしかない、滅ぼすしかない、でも殺せない、滅ぼせない。また殺される、ただ殺される、逃げても殺される、どうやっても殺される。
殺してもくれない、生かされる、利用される、死にたいのに死ねない、殺して欲しい、でも殺してくれない。また来る、あの兵器が来る、「地球人」が来る、「R」が来る。
嫌だ、死にたくない、殺してやる、でも殺せない、きっとまた殺される・・・」
「スバル・・・スバル!」

思わず、テーブル越しにスバルの肩を掴み、揺さ振るギンガ。
スバルは言葉を止め、何処か虚ろな瞳をこちらへと向けて薄く微笑む。
心臓を締め付けられるかの様な錯覚に襲われるギンガの手、肩に置かれたそれに自身の手を重ね、また話し始める。

588R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:04:01 ID:BuuC5QV.
「これが、バイドの内面。概念からして異質な存在だから全くこの通りって訳ではないけれど、分かりやすく人間の感情に準えるとこうなる。敵視というか恐慌というか、とにかく地球人に対する恐怖に凝り固まって、
何としてもその存在を抹消しようとしている。元が兵器だった事なんて、今のバイドにとっては大したファクターじゃない。地球人との生存競争から逃げられなくなってしまったから、生き残る為に戦っている」
「逃げられない?」
「今、バイドが生存競争を投げ出して逃げたとしても、地球人の技術進化は止まる処を知らない。いずれバイドは完全に凌駕され、追い付いてきた地球人に殺される。その可能性が在る以上、バイドは逃げる事なんてできないよ」
「どちらかが背を向けた瞬間、残る相手に喰い殺される訳ね。ほんとに生存競争じゃない」
「そして地球人も、バイドに対して同じ恐怖を抱いている。和平は無いし、休戦も無い。それが成立するには、互いの存在概念が掛け離れ過ぎている」
「そんなバイドの恐怖が具現化したのがMOTHER-BYDOだ。異層次元の更に奥深く、電界25次元。そんな場所まで攻め込んで来るのは、地球文明圏が有する最高の戦力に違いない。
そいつを叩き潰し、取り込み、こちらの戦力にして逆侵攻を掛けてやる。WOMBで試したR-9Aからの情報奪取は上手くいった、今回も同じ手段が使えるだろう。
地球文明が持てる最高の戦力を利用して、地球文明を殲滅してやる。生き残るのは、自分の方だ・・・そんな意気込みも空しく「R-9/0 RAGNAROK」によって、バイドはまたも深異層次元へと放逐されちまった。
正に踏んだり蹴ったりだな・・・それで、此処からが本題だが」

ノーヴェが其処まで話すと、複数のウィンドウがテーブル上に展開された。
だが、ウィンドウ上には「no image」の表示以外には何も無い。
何事かと視線をノーヴェへと戻すと、彼女はまっすぐにこちらを見つめていた。

「元々のバイドの建造目的は、26世紀の地球文明圏に於いて銀河系中心域に確認された、敵対的な生命体群を殲滅する事だ。だが、バイドは太陽系で発動し、結果として建造者である26世紀の地球人の手によって異層次元へと葬られた。
なら、バイドによって大被害を受けた上に、対抗手段を失った26世紀の地球文明圏はどうなった? バイドが本来殲滅すべき相手だった敵は? 22世紀へと現れるまでに、バイドは何をしてきた?」
「本当なら、それを知る術は無い筈だった。バイドは22世紀へと来てしまったし、時折現れる26世紀のものらしき兵器群にも記録は残っていなかった。なのに」

スバルが話を継いだ後、ウィンドウに変化が現れる。
表示される画像、BX-T・B-1A2・B-1B3・B-1Dγ。
バイド素子添加機体群。

「この4機種の機体を構成するバイド素子に、26世紀地球文明圏の末路と、彼等の敵についての情報が残っていた」
「・・・何ですって?」
「残ってたんだよ。敵とは何だったのか、地球はどうなったのか。全部、記録が残ってたんだ」

思わず、ギンガは右側面に位置するティアナと、互いの顔を見合わせていた。
彼女の顔には、混乱の色が浮かんでいる。
恐らくは自身もそうだろうと思考するギンガの聴覚に、ノーヴェの声が飛び込んだ。

「異層次元へ吹っ飛ばされた挙句、22世紀へと時空を遡って現れたバイドに、何故26世紀での顛末が記録されているのか。そう訊きたいんだろ?」
「そりゃ、そうッス。26世紀から弾き出されたバイドが何でその後の事を知ってるのか、辻褄が合わないッスよ」
「簡単な話だ。バイドは1度、戻ってるのさ。嘗て自分が弾き出された時空と全く同じ、26世紀へ」

訳が解らない。
26世紀から排除されたバイドが、1度はその26世紀に戻っている?
ギンガは遂に自力での理解を諦め、大人しく言葉の続きを待つ事にした。
ウェンディは未だに何とか理解しようと試みているのか、再度にノーヴェへと問い掛ける。

「どういう事ッスか、まさかバイドは自在にタイムスリップできるとでも?」
「正確に言うと、戻ったのはバイドじゃない。バイドが侵蝕した、とある兵器が未来へ行ったんだ。4世紀分もの時間を越えてな」
「それをどう理解しろって言うんスか。何処ぞの馬鹿が未来にまで行って、バイドの建造を止めようとでもしたっていうんスか?」
「その通り。冴えてるじゃないか、ウェンディ」

ウェンディが息を呑んだ。
絶句する彼女を視界へと捉えながらも、ギンガの意識は聴覚へと集中していた。
そして、ノーヴェが言葉を続ける。

589R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:04:33 ID:BuuC5QV.
「その兵器を造った文明圏は、比喩ではなくバイドを打倒し、殲滅し、全ての元凶となった26世紀へと使者を送ったんだ。バイド暴走の25年前、建造が開始される12年前へと」
「バイドの建造そのものを止めようとしたのね」
「ついでに言うと、バイドを打倒した兵器の技術体系を伝える目的も在った。25年後に何が起こるか、それによって自身等がどれだけの被害を受けたかを伝えて、
その上でバイドの代替戦力となる軍事技術を提供するつもりだったんだ。26世紀側がそれを受け入れれば良し、拒むならば殲滅する。既に時間軸の分離は確認されていたから、何の気兼ねも無くその作戦を実行した」
「そして、失敗した」

唐突に割り込んだスバルの声に、ギンガは思わず身を竦ませた。
作戦は失敗した、その言葉が冷たい衝撃となって意識を揺さ振る。

「彼等はバイドを撃破し、異層次元を漂流していたその兵器を回収して修復、改良を加えて未来へと送り出した。その対バイド兵器はあらゆる面で完成されていたし、
バイドによる汚染なんかまるで意味を為さない程の超越体だった。だからこそ、彼等はその兵器に全てを託したの。でも、それが間違いだった」
「侵蝕されていたのかしら?」
「そう。バイドはその兵器を構築するバイド素子の、ほんの僅かな一部として紛れ込んでいた。それまでバイドというソフトウェアを為していた情報の殆どを失い、自己保存すら危うい状態でね。
ところがバイドは、其処から再生する術を既に見付けていた。構成素子の一部として自身が紛れ込んだ兵器、その情報を用いたんだ」
「・・・対バイド兵器として完成された存在なら当然、それまでに解析されたバイドに関する全ての情報を有しているって事ッスか。成程、最高の餌になる訳だ」
「当のその兵器ですら、バイドによる侵蝕を察知する事はできなかった。バイドはその兵器が有する自身に関しての情報を喰らい、ソフトウェアを再生していったんだ。漸くシステムが異常に気付いた時、
汚染は取り返しの付かないレベルにまで進行していた。そうして兵器は時間跳躍中に、新たなバイドのハードウェアとして生まれ変わった」
「そのまま、26世紀に?」

ギンガの問い掛けに、スバルは無言で頷いた。
額に手を当て、幾度か首を振る。
全ての情報を同時に処理し、理解する事は困難を極めた。
バイドが1度は打倒されたという事実、バイドを打倒し得る程の文明圏が存在したという事実、その文明圏が建造した対バイド兵器ですら汚染からは逃れ得なかったという事実。
現状でさえ頭が破裂しそうだったが、更に其処へノーヴェが情報を追加する。

「それで、だ。兵器を乗っ取ったバイドは行き先を僅かに変更し、26世紀に於いて地球文明圏が未だ発見していない異層次元へと出現した。其処でソフトウェアの完全な修復と、ハードウェアの増設を図ったんだ。
そうして太陽系では25年が経過し、オリジナルのバイドが深異層次元へと放逐されると同時に、バイドは生産した戦力で以って「敵」へと襲い掛かった。地球ではなく、銀河系中心域に存在する「敵対的生命体群および文明圏」の方に、だけどね」
「それって、バイド本来の「敵」?」
「そう。バイドにしてみれば内戦で弱り切った26世紀の地球よりも、彼等がバイドを建造せざるを得なかった程の「敵」の方が脅威だったからね。それに、他にも重要な目的が在った。「敵」の情報収集だよ」
「情報収集も何も・・・その「敵」を相手にする為に造られたのだから、ある程度の情報は初めから持っていたのではないの」
「それが、バイドにとっても理解できない事だった。何故か「敵」に関する情報が丸ごと抜け落ちていて、自身がどんな「敵」と戦う筈だったのかは全く解らなかった。
それどころか、26世紀地球人が犯した「ミス」に関してさえ、特にそういった設定の異常とかシステムの欠陥は確認されなかったんだ」
「気の遠くなる様な時間を掛けて、バイドは自身のシステムを多方面から分析する機能を何重にも備えていた。人間に例えるなら、自分という存在は何なのかと考えたり、
これからすべき事を独自に模索したりする能力だ。尤もどんな機能を備えようとも、最終的には兵器と生命体、その双方としての自己保存を最優先した結論に落ち着いちまうんだが」
「とにかく、バイドは「敵」を殲滅し、その情報を余す処なく手中に収めた。その時点で幾つかの疑問点は解消されたけれど、また新たな疑問が生じたんだ。そして、それらを解消する為に間を置かずに太陽系を襲い、殲滅した。
そうしてバイドは、全ての真相を知ったんだ」
「真相?」

590R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:05:04 ID:BuuC5QV.
ギンガは喉の渇きを覚えた。
おかしい、先程までかなりの量の水分を摂っていた筈だ。
何故こんなに喉が渇くのだろう、何か飲みたいと思考しつつも、意識をスバルとノーヴェから離す事ができない。
スバルが、話を続ける。

「2つの文明圏を喰らったバイドは幾つかの事実について、地球圏が有する情報とまるで噛み合わない事に気付いた。1つは「敵」に関してだけど、地球圏はこれを「超攻撃性文明」と位置付けていた。
炭素生命体とは起源も存在形態も異なる生命体群、他の文明圏を侵蝕して肥大化する侵略者ってね。ところが、実際にはどんな形態であれ、独自の意思を以って高度文明圏を形成する生命体なんてものは確認できなかった。
在ったのはただひとつ、自動攻撃を行う無数の兵器群だけ」
「1つの文明圏、社会構造にも似た機能を持ちながら、その全てが外部に対する侵略的行為へと帰結する集団。生産層を除く全てが兵器群によって構成されるそれは、明らかに単一存在を中心とした組織形態を有していた。
そういうの、何処かで聞いた事ないか?」
「・・・バイド?」
「その通り。あらゆる資源を用いて勢力を拡大し、遭遇する文明圏を片端から滅ぼしては取り込んでゆく。そいつらはまるで、劣化版のバイドそのものだった。1つのハードウェアを中心とした、巨大な侵略性集団。
で、これがその中枢ハードウェアだ」

ウィンドウの1つに変化。
表示された画像に、ギンガの思考が凍り付く。
見覚えの在るそれ、過去に映像資料として目にした物体。

「知ってるだろ? これが何なのか。忘れた訳じゃないよな」

小さなその宝石、蒼の結晶体。
本来ならばIからXXIのシリアルナンバー、その内のいずれかが刻まれている筈の箇所には、全く別の刻印が為されている。
過去、管理世界の一部に於いて使用されていた文字形態。
第97管理外世界に於いては、ギリシア文字・第11字母と呼称されるそれ。

「嘘だ」
「嘘なんかじゃない。これがバイドの建造理由、26世紀の地球を襲おうとしていた「超攻撃性文明」の正体だ」
「在り得ないわ」
「真実だよ。これが全ての元凶、26世紀の地球人達が恐れたもの」

画像は回転し、結晶体を全角度から映し出す。
それが「超攻撃性文明」とまで呼称された戦闘兵器の集団を形成していた等と、俄には信じられぬ程の美しさと神秘性を秘めた外観。
シリアルナンバー「Λ」、その結晶体の名は。



「ロストロギア「ジュエルシード・ラムダ」。これが、バイド本来の「敵」だ」



誰も、言葉を発しなかった。
発すべき言葉など見付からなかった。
疑うべきか否か、それさえも判断など付かなかった。
ノーヴェが、続ける。

「正確に言うと、コイツはロストロギアじゃない。オリジナルのジュエルシードを基に生み出された、対高度文明圏殲滅用の局地限定破壊兵器、その11番目の試作体であると同時に唯一の完成体だ。
そしてバイドは、コイツは地球人によって生み出されたものではないかと考えた。何故ならバイド自身にも、この「Λ」と同様の技術が用いられていたからだ」
「同様の・・・?」
「ソフトウェアの一部に、厳重に隔離された上で、だけどな。「魔道力学」。特定の生命種、更にその一定数の集団内に、ある一定の確率で特殊なエネルギー変換機能を有する個体が誕生する。
それらの個体が有するエネルギー変換機能を模倣し強化、各種動力源として運用する技術。空間操作などの分野に於いてある程度の汎用性を有し、その技術を中心に文明が発展する事例も多い。
バイドはその技術体系が自身へと組み込まれている事から、この「Λ」も地球製ではないかと疑った。だが、いざ地球圏を殲滅して取り込んでみると、より複雑な背景が判明したんだ」

ノーヴェはカップを手に取り、中身を一口。
中身は先程のコーヒーだ。
やはりまた、苦そうに顔を顰めてカップを置く。

591R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:05:38 ID:BuuC5QV.
「うぁ・・・スバル、頼む」
「飲まなきゃ良いでしょうが・・・まあ「Λ」自体は、バイドにとって大した脅威ではなかった。自身を打倒した文明とは比べるべくもなく、26世紀の地球圏と比較しても、
内戦で疲弊していなければ互角以上に遣り合えた事だろう、という程度だったんだ。でも、其処で新たな疑問が発生した。
地球側は「魔道力学」を知り得ているにも拘らず、何故この「Λ」に関する情報が自身に記録されていないのか。「Λ」を建造したのは、果たして本当に地球文明圏なのか。
既に上位互換とも云える純粋科学技術が存在するにも拘らず、何故「魔道力学」が自身のソフトウェアに組み込まれているのか。「Λ」を取り込んだ時点では、それらの疑問を解消できるだけの情報は存在しなかった。
それを建造した勢力に関してのものも含めて、背後を辿れる情報は全て念入りに消去されていたんだ」

「Λ」を表示していたウィンドウが閉じられ、別のウィンドウが2つ展開される。
表示された画像は地球らしき惑星と、何らかの弾頭らしきものだった。

「そして、地球圏を取り込んだ事でバイドは漸く、疑問を解消する為に有用な手掛かりを得る事ができた。彼等がとある巨大文明圏への帰順を検討していた事、それに賛同する派閥と反対する派閥との間で衝突が起こっていた事。
反対派が「超攻撃性文明」の排除後に、巨大文明圏に対するバイドによる攻撃を検討していた事とかもね。そして、その巨大文明圏が異層次元に存在する事や「魔道力学」による文明形成・維持を遵守する形態を採っている事、
地球文明圏での内戦に於いて使用された数十万発もの次元消去弾頭、その炸裂の余波によって甚大な被害を受けている事も判明した」
「それで、その巨大文明圏が有する治安維持組織は、内戦で疲弊した地球文明圏へと大規模な艦隊戦力を送り込み、砲艦外交で帰順を迫った。地球側も平常時なら問答無用で応戦したんだろうが、
空間汚染拡大への対処に手一杯で、そんな余裕なんか無かった。通常戦力も殆ど失っちまってたし、どうにか開戦したところで良くて相討ち、最悪の場合は一方的に攻撃されて滅亡ってところにまで追い詰められていたんだ。
治安維持組織側も、それを見越した上で艦隊を送り込んだんだろうさ」

「魔道力学」を遵守する、異層次元に於ける巨大文明圏。
その文明圏が有する治安維持組織、大規模な艦隊戦力。
それらの情報が何を表しているのか気付かぬ者は、この場には存在しないだろう。

「もう、解るよな。巨大文明圏ってのは管理世界、治安維持組織は時空管理局の事だ。地球文明圏と管理世界は23世紀の後半から、相互不干渉条約を結んでいた。
地球側は次元世界全体の物量を、管理世界側は地球側の科学力を警戒して、睨み合いを続けてきたんだ。ところがその均衡は、次元消去弾頭使用の余波による次元世界への被害で、完全に崩れちまった。
それで管理局は艦隊を送り込み、帰順要求を突き付けた。バイドの建造が開始される15年前の事だよ」
「次元消去弾頭による被害を受けた管理世界・・・と云うよりも次元世界の中には、その管理局の対応に不服を覚えた勢力も少なくはなかった。当然だよね。自分達には全く関係の無い他文明圏での内戦の影響で、
数千億人も死んでいるんだもの。彼等は過激派となり、管理局内部からもその思想に賛同する派閥が多く出た。彼等は、こう主張したんだ。最早、帰順を迫る時期は過ぎた。地球文明圏を直ちに殲滅し、
その文明と純粋科学技術から成る危険な質量兵器群を、痕跡すら残さずに消去せねばならない。数千億もの人々を殺戮した報いを、地球人に与えなければならない」
「上層部や次元航行部隊は冷静だった。それらの声に流される事なく、艦隊を地球の周囲に配置し続けたんだ。当然、これらの情報は地球側へと意図的に流され、地球側では管理局の狙い通りに帰順を肯定する声が囁かれ始めた。
だが同時に、過激派は実効的な報復を諦めてはいなかったんだ」
「局内で地球文明圏の殲滅を唱える一派は、ロストロギア保管庫からあらゆる種類のロストロギアを持ち出し、次元世界各地の過激派勢力圏へと持ち込んだ。まあ、地球への報復というよりも、
局内での派閥争いとか権力掌握を目的にしていた、って理由も在るんだろうけどさ。過激派の方にしたって、本音を言えば管理局に対する武装蜂起、管理局体制の転覆を狙っていたんだろうしね」
「ソイツ等が「Λ」を建造したって事ッスか?」
「そう、その通り」

592R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:06:08 ID:BuuC5QV.
ウェンディからの問いに、スバルが肯定を返す。
26世紀の地球を攻撃せんとしていた勢力は、次元世界がロストロギアを基に建造した魔導兵器だった。
その事実をすんなりと受け止める事ができる程、ギンガは自身が属する組織に対して、達観した視点を持つには至っていない。
顔に手を添え、閉じた瞼を更に顰めて、小さく息を漏らす。

「艦隊戦力を送り込んだところで、次元航行部隊による迎撃を受けるのは目に見えている。それ以前に、無数の異層次元に亘って勢力を拡大してきた地球文明圏が、単なる武力行使で滅びるとは考え難かったんだろうね。
彼等はジュエルシードを複製・改良し、高速自己進化能力を備えた完全自律型殲滅システムを開発した。それが「Λ」だよ。そして、管理局による地球文明圏への最初の帰順要求から13年後、
彼等は「Λ」を地球文明圏の中心世界である太陽系が存在する宇宙へと送り込み、発動した。計画では「Λ」は17年間を費やして戦力を整え、地球圏に対する大規模な殲滅戦を開始する筈だったんだ。
地球圏の通常兵器群は内戦で殆どが失われ、再度に生産するにしても間に合う筈がない。縦しんば次元消去弾頭を使用して「Λ」を殲滅したとしても、既に重大な空間汚染が生じている太陽系は数年と保たずに崩壊するだろう。
状況がどう転んでも、地球側が生き残る術は無い、筈だった」
「ところが発動から3年も経たない内に、地球側は「Λ」の存在を察知してしまった。そして地球文明圏は、空間汚染を引き起こす事なく効果範囲内に於けるあらゆる生態系、意識体、情報集約体を殲滅する局地限定破壊型兵器、
奇しくも敵性勢力である「Λ」に酷似した、しかし「Λ」以上に破滅的な兵器の建造を開始した」
「管理局がそれを許したの?」
「管理局にしても「Λ」の存在は想定外だったんだ。それを建造したのが過激派である事は、上層部もすぐに気付いたんだろうね。地球文明圏の殲滅が完了した後、管理局に対して「Λ」が使用される事は火を見るより明らかだった。
当然、次元航行部隊は「Λ」の排除を考えたんだろうけど、さっき言った次元消去弾頭による空間汚染の影響でアルカンシェルは使えない。通常魔導砲撃で排除できるかと問われれば、それは難しい。
何より、相手は曲りなりにもロストロギア・ジュエルシードだ。次元航行艦からの直接魔導砲撃なんか叩き込んだら、何が起こるか解ったものじゃない。結局、管理局は対処を地球圏に丸投げして、艦隊を引き揚げた」

ウィンドウが閉じられる音。
だが、ギンガは瞼を開かない。
開く事ができない。

「地球圏がバイドとやらで「Λ」に対処できるなら良し、できなければ当該世界ごと消滅させれば良いって訳か。合理的な判断ね」
「まあ安全策として、バイド建造には魔法技術・・・地球人曰く「魔道力学」を導入する事を強要したけどね。ただ、そんな事をしてもソフトウェア上で完全に隔離される事は、管理局側も承知してたみたい。
それが、バイドのソフトウェア内に残された「魔道力学」だよ」
「バレると分かっていたのなら、何故?」
「注意を逸らす為にね。こうしておけば、地球側の注意を逸らす事ができる。管理世界側が地球圏の純粋科学技術を完全に理解している訳でない事は彼等も理解していたし、
また地球側がそう考えているであろう事を管理局は見抜いていた。「魔道力学」面での干渉を行うと思わせておきながら、実際には別の方法で干渉するつもりだったんだ」

漸く、目を見開く。
視界の中央、正面からスバルがこちらを覗き込んでいた。
微かに微笑む彼女に対し、ギンガは表情を変えない。
これからスバル達が如何なる情報を言葉として紡ぎ出すのか、ギンガには予想できた。
その予想が正しいものであると肯定される瞬間を思うと、たとえ繕ったものであっても、笑みなど浮かべる気にはなれなかったのだ。
そして数瞬後、恐れていた瞬間が訪れる。

「管理局は地球側の過激派、その動向を何よりも警戒していた。そして遂に、彼等が「Λ」の殲滅後にバイドを用いて、管理世界への無差別攻撃を行う腹積もりである事を示す情報を掴んだ」
「上層部は腹を決めた。特殊部隊を用いてバイドから次元世界に関する情報の一切を削除し、更に発動座標に関して細工をする。本来の目標である「Λ」が存在する銀河系中心域ではなく、太陽系で発動する様に設定を変更したんだ」
「じゃあ、暴走は・・・!」

593R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:06:41 ID:BuuC5QV.
ウェンディが、思わずといった様子で立ち上がった。
スバルとノーヴェの視線が、彼女の方へと向けられる。
ギンガは2人の視線がこちらへと向いていない事を幸運に思いつつ、唇を噛み締めた。
そして、ノーヴェの声。



「バイドは暴走なんてしていない。太陽系での発動は地球側のミスではなく、管理局が実行した破壊工作によるものだ」



鈍い音。
ウェンディが、力なく椅子へと腰を落としたのだ。
そちらを見ていた訳ではないが、音で解った。
声は、続く。

「管理局の目論見通り、発動から150時間後に地球側は次元消去弾頭を使用した。全ての憂患が、文字通りに消滅した訳だ。地球文明圏は数年の内に1つの宇宙もろとも崩壊し、同時に「Λ」も消滅するに違いない。
正直なところ、管理局は胸を撫で下ろしていただろうな」
「でも、そうはならなかった」

ギンガが、割り込んだ。
視線を上げると、全員の注目がこちらへと集中していた。
そうして一度、大きく息を吐くと、ギンガは言葉を続ける。

「だって、そうでしょう? 貴女達が話しているのは、バイドの記憶。中には、地球文明圏を取り込んだだけでは絶対に知り得ない情報も在った。
それらを入手し、更に事実を確認する為には、もう1つ文明圏を取り込まなければならなかった筈・・・違う?」

その言葉に、ウェンディが顔を跳ね上げた事が分かった。
ティアナは既に理解していたのだろう、特に変化は見られない。
そしてスバルとノーヴェは、暫し沈黙を守った後、言葉を紡ぎ出した。

「そう・・・そうだよ、ギン姉。26世紀へと帰還したバイドは、地球文明圏を取り込んだ後に次元世界へと侵攻してこれを殲滅、同じく取り込んだ。バイドは真相を突き止めるべく、そうやって情報を収集していったんだ」
「そして何もかもを滅ぼしたバイドは、兵器としての存在意義を喪失する危機に直面した。もう地球文明圏は存在しない、地球文明圏の敵も存在しない。時間の概念さえ破壊してしまった。
完全に無となった空間の中には、バイドしか存在しない。これから、どうすれば良い?」
「未来での存在意義を失ったバイドは、過去へと逆帰還を果たした。更に強大となった力を用いて、嘗て自らを打倒した文明圏を殲滅してその全てを取り込み、別の時間軸への侵攻を開始したんだ。
遭遇する、あらゆる形態の文明圏を片端から喰らい尽くし、時には損傷を受けながらも、圧倒的な物量と絶対的な干渉能力で、全てを呑み込んでは自身の一部と化してきたんだ」
「自身の新たなハードウェアとなった兵器、それを生み出した文明圏以上に強大な存在なんて、何処にも存在しなかった。それでもバイドは、自身の存在意義を確保する為だけに、遭遇する全てを滅ぼし喰らってきたんだ」

交互に言葉を続ける、スバルとノーヴェ。
その話の内容を聞いている内、ギンガの心中へと浮かんだ感情は「憐れみ」だった。
地球人と管理世界の人間に利用され、本来の存在意義を捻じ曲げられた哀れな生命体バイド。
他者に植え付けられた生存本能へと従うまま、存在意義を得る為に終わる事のない闘争を続ける、人の手による絶対生物。
そんなものに対し「憐れみ」以外の、どんな感情を抱けというのか。

「そうして無数の時間軸を渡り歩いては戦う内に、バイドの一部は波動粒子の塊としてのハードウェアを伴って、時間軸とは無縁の異層次元を漂う様になった。
これは単に、損傷した部位の修復が間に合わず、独立したバイド体となってしまっただけの物だったんだけどね。そして、その内の1つがとある異層次元に於いて、ある文明圏が送り込んだ探査艇によって回収された。
探査艇の名前は「FORERUNNER」。異層次元探査艇「フォアランナ」だよ」
「フォアランナ・・・地球圏に於ける、最初の異層次元航行システムを備えた艦艇ね」
「そう。フォアランナは2120年6月27日の太陽系へと帰還した。当然、異なる時間軸に在ったバイドもそれを追う。そうしてバイドは、幾度目かの地球への侵攻を開始したんだ。
ところがその地球は、これまでにバイドが滅ぼしてきたものとは違った」

ギンガは天井を見上げ、思考する。
その地球とは恐らく、この艦を建造した22世紀の第97管理外世界の事だろう。
だが、他の地球とは何が違うというのだろう。

594R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:07:12 ID:BuuC5QV.
「どういう事?」
「バイドにとって、フォアランナが自身の一部を回収するという出来事は「2度目」の経験だったんだ。現在のハードウェアを創造した文明、それと接触した切っ掛けがフォアランナだった」
「・・・何だって?」
「2度目だったんだよ。バイドの切れ端がフォアランナに回収されるのも、22世紀の地球で対バイドミッションが発令されるのも、対バイド兵器として「R」が抜擢されるのも」
「1度はバイドを打倒した文明・・・つまり、それって」
「22世紀の地球ね」

途切れつつ紡がれるギンガの言葉を、ティアナが引き継いだ。
ノーヴェが頷いた事を確認し、ギンガは椅子の背凭れへと身体を預ける。
もう完全に、理解が追い付かない。
だが、次にウェンディが発した言葉に、思考を放棄し掛けていた意識が覚醒する。

「そんな・・・じゃあまさか、バイドのハードウェアになった兵器ってのは!」
「気付いたか。多分、お前の考えている通りだ」

次の言葉を言えというのか、其処でノーヴェは沈黙する。
ウェンディは口を動かしてはいるが、言葉が紡がれる事はない。
ティアナもまた、此処での発言は避けるつもりの様だ。
ギンガは意識して呼吸をひとつ、その名を口にした。

「「R戦闘機」・・・それが、バイドのハードウェアなのね」
「正解」

何という皮肉か。
現在、地球軍艦隊が血眼になって捜索しているであろうMOTHER-BYDOではなく、真のハードウェアは「R戦闘機」だという。
第17異層次元航行艦隊ですら知り得ぬであろう事実を、この場の5人だけが知り得たのだ。
その事を意識した瞬間に、ギンガは途轍もない重圧と、絶望にも似た冷たい感覚に襲われる。

「どんな・・・どんな機体なの? そのR戦闘機は」

だが、言葉を紡ぎ出す口だけが止まらない。
自身の意思とは半ば無関係に、口だけが疑問を音として紡いでいる。
それを受けて、正面に位置するスバルが微かに首を傾げた。
疑問を抱いたという素振りではなく、こちらの意思を確認するかの様な動作。
そうして数秒が過ぎた頃、スバルは答を告げた。



「「R-99 LAST DANCER」。それが、バイドのハードウェアだよ」



ウィンドウ、展開。
表示される画像、1機のR戦闘機。
少しずつ回転するその機体画像に、ギンガは呼吸すら忘れて見入った。

「R-99 LAST DANCER」
青のキャノピーに、白い塗装。
だが本当に、それが塗装の色であるかは疑わしい。
R戦闘機としては、これまでに目にした機体群と比較するに、標準的な大きさだろうか。
左右のエンジンユニットや上部ユニットは流線形と直線形の融合で構成されており、機体後方へと伸長するそれらの影から、3基の大型ブースターノズルが覗いている。
極限まで無駄を省かれた、唯一無二の完成体。
それが、ギンガがウィンドウ上の機体に対して抱いた印象だった。

595R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:07:46 ID:BuuC5QV.
「ラスト・・・ダンサー」
「そう、それが今のバイド。嘗ての22世紀地球は、この機体で以ってバイドを打倒した。地球人類の狂気が生んだ完全なる個体、ハードウェアとしてはバイドでさえ模倣できない、正に悪夢そのものの機体だよ」
「どんな存在であろうと、コイツを模倣する事はできない。迂闊に干渉すれば、バイドであっても逆に取り込まれちまう。それがこの機体だ」
「そんなものを、22世紀で・・・」
「R-99は、バイドとは正反対の存在だよ。バイドがハードウェアを持たないソフトウェアのみの存在として進化したのとは対称に、R-99はハードウェアとソフトウェアの分離が決してできない、完全なる個として建造された。
R-99というハードウェアそのものが、R-99というソフトウェアを構築している。そしてR-99は、バイドにとって悪夢としか云い様がない機能を備えていた」
「それは、どんな?」

またも、ウィンドウが変化する。
今度は映像だ。
巨大な「柱」の様なもの、有機的に脈動を繰り返すそれ。
赤い光を放つエネルギー体らしきものを中心に、対称方向へと延びる有機物の束。
両端は水面の様な、それでいて硬質の様な、気体とも液体とも、固体とも判別できない壁の中へと消えている。
中心からは絶えず光る球体が無数に放たれ続けているが、それが何であるのかを理解した瞬間に、ギンガは悪寒を覚えた。
フォースだ。
激しく動き回る画面の中、無数のフォースが柱から押し寄せてくる。
同時に、その「柱」の正体が何であるのかについても、ギンガは理解した。

「これが・・・バイド・・・?」
「その通り。あらゆる存在・概念を喰らい尽くし、同時にあらゆる存在・概念を生み出す、人の手による絶対生物。ハードウェアを持たず、縦しんば何らかのハードに宿った状態時に破壊したとしても、
別の次元、別の時間にソフトを残す機能を有する、あらゆる束縛が意味を為さない存在」
「なら、どうやって殲滅したんスか」
「それを滅ぼす事ができるのが、R-99の能力だ。あらゆる存在を強制的にハードウェアへと固定し、破壊する能力。見てろ」

直後、画面が閃光に満たされた。
後にはノイズだけ。
数秒後、回復した映像上には、何も残ってはいなかった。
「柱」も、その両端に在った壁すらも。
唯、映像を撮影している機体のものらしき破片だけが、闇の中を漂っている。

「・・・何スか、今の」
「だから、R-99の能力だ。ソフトウェアのみの存在であるバイドに、ハードウェアを付与した。それがあの「柱」だ。これによって強制的にR-99と同一次元の存在となったバイドは、物理的にR-99を破壊する事、それ以外の対抗策を失った。
防御策もな。その上で、機体耐久限界を超えてオーバーロードした波動粒子を、そのまま砲撃として叩き付けたんだ。こんなもの、通常空間でぶっ放されてみろ。惑星天体の1つや2つ、造作も無くブチ抜いちまうぞ」
「相手が如何なる存在であれ、強制的に自身と同一の存在レベルに定着させる能力。それがR-99の機能だよ。手が届かないのなら、同じ高みにまで登るのではなく、相手を自分と同じ高さまで引き摺り下ろしてしまえば良い。
ネガティヴな発想だけど、此処まで恐ろしい能力も無いよね。それで、本来ならバイドはどんな方法を使っても、このインチキじみた存在に干渉する事はできない筈だった」
「じゃあ、どうやって?」

ティアナの問い。
ギンガも、同様の疑問を抱いていた。
ソフトウェアに干渉する事のできない存在であるというのなら、バイドはどうやってこの機体を汚染したというのか。

596R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:08:22 ID:BuuC5QV.
「1度だけ、チャンスが在ったんだ。さっきの映像、破片が舞っていたよね。R-99は機体耐久限界を超える程の波動粒子を、ベクトルを持たせて一気に解放した。その際の余波で、システムに致命的な損傷が生じたんだ」
「その時に紛れ込んだって訳ッスか。回収時にバレなかったんスか?」
「其処が巧妙なところでね。破壊される際にバイドは、何とか自己の保存を図ろうと無数の粒子、つまりハードウェアを噴射していた。幾ら何でも1つ1つの粒子に、バイドとしての全てを内包する事は不可能。
つまりこの時、放出されたバイド体は完全に無力だったんだ。それまでに蓄積してきた情報のほぼ全てを失った事を考えれば、もうバイドでも何でもなかったとも云える。単なる無名の粒子だよ。紛れもなくバイドは1度、完全に滅ぼされたんだ」
「・・・そういえば、さっき言ってたわね。バイドはその兵器が有するバイドの情報を利用して、自身を再生させたって」
「そう、それ。バイド素子の1つとして検出を免れたバイドは、26世紀へと跳躍中、遂にR-99へと牙を剥いた。結果は、さっき言った通り。システムが異常に気付いた時には、もうどうにもならないところにまで汚染は進行していた。
こうしてR-99は新たなバイドのハードウェア、バイド自身にすら複製不可能な超越体として、そのソフトウェアを宿すに至ったんだ」

ウィンドウが閉じられ、スバルは溜息を吐いてコーラを口にした。
話し続けた為か、顔には疲労の色が浮かんでいる。
その辺りの感覚に関しても、スバルというシステムは解析を実行しているのだろうか。
そんな事を思考するギンガの聴覚に、ノーヴェの声が飛び込む。

「とにかく、R戦闘機を有する22世紀地球との交戦は、バイドにとっては2度目という事なんだが。ところが此処で、バイドの想定を超える事態が起こった」

カップを置く音。
見れば、相変わらず苦そうに表情を歪めたノーヴェが、カップを睨んでいた。
何だかんだと言いつつ何度も口にするのは、実は気に入っているのだろうか。
歪んだ表情のまま、彼女は話を続ける。

「2度目の22世紀地球、つまりアタシ達の知るランツクネヒトや地球軍を有するその世界は、異常としか云い様のない技術進化速度を有していた。
嘗ての22世紀を超える速度で対バイド兵器の開発が進み、信じられない事にバイドは徐々に追い詰められていったんだ」
「それ、本当ッスか。ランツクネヒトや地球軍の説明とは、随分と掛け離れてる様に思えるんスけど」
「バイドと地球側では、捉え方が違うだろ。地球軍にしてみれば、潰しても潰しても湧いて出てくるバイドに対して戦果は上がっても、同時に被害は増すばかり。
軍事的にせよ経済的にせよ、追い詰められているって認識が蔓延っちまうのは仕方ない。一方でバイドにしてみれば、地球人はスバルが言った通りに化け物としか思えない。そういう事さ」
「ちょっと良いかしら」

ティアナが、手を挙げる。
注目が集まった事を確認してか、彼女はスバル等に対して問いを投げ掛けた。

「話が逸れるけど、ベストラの研究員達はバイド素子をR戦闘機へと応用する研究をしていた。彼等は自分達もろとも、ベストラを異層次元へと投棄して自殺したと聞いたわ。
それにアンタ達は、彼等がR戦闘機に関する情報の消去を図ったと言った。それってまさか、バイドの真実を知って絶望したが故の行動って事?」
「そうだよ。彼等は自分達の研究が、結果としてバイドに究極のハードウェアを与えてしまう事実に絶望した。そして、R-99に替わる新たなハードウェアを生み出してしまう事を恐れ、全てを異層次元へと葬った」
「成程、有難う。非常に馬鹿馬鹿しい話だわ」
「全く、その通り。そんな事したって無駄なのにね」

スバルがそう言うと同時、またもウィンドウが展開する。
映し出されるのは、巨大なコロニー。

「その程度の情報、地球の上層部はとっくに知っているよ。今だってベストラとは別に、複数の施設でR-99の開発が続けられている。バイドのハードウェアとなったR-99、それを遥かに超える超越体としてのR-99が」
「超えるって、どうやって? R-99は既に、ハードウェアとしては完成されているじゃないの」
「知らないよ。ベストラの研究員は、データ収集の為の使い捨てみたいなものだから。こっちのR-99がどんなヤバい機体かなんて、今のところ知る方法なんか無い」

其処まで話すと、スバルは立ち上がった。
そしてテーブルに手を突き、前屈みになってこちらを覗き込む。
その様子に、ギンガは僅かに気圧された。

597R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:09:31 ID:BuuC5QV.
「それで、問題。予測を遥かに上回る速度での技術進化によって追い詰められた挙句、第三次バイドミッション「THIRD LIGHTNING」によってソフトウェアに重大な損傷を負ったバイドの新戦略とは、どんなものでしょう」
「どんな、って・・・」

ギンガは戸惑う。
その様な問い、答えられる訳がない。
無数の文明を滅ぼし喰らい、時間軸の違いによる壁さえも引き裂き、時空そのものすら破壊して除ける、完全に人の理解の範疇を超えた怪物。
その様な存在の行動を予測する事など、通常の人間には不可能だ。
では、通常の人間でなければどうか。

「アンタ達は知ってるんでしょう、バイドからの干渉を受けたんだから。勿体振らないでさっさと言いなさい」

ティアナが、スバルへと言い放つ。
当のスバルは軽くティアナへと視線を返し、またもギンガを正面から覗き込んだ。
彼女は、答えを期待している。
それが具体的なものでない事は、ギンガにも解ってはいた。
正確な答えは、既にスバルとノーヴェが知り得ている。
スバルは今、バイドの行動を疑似的に予測する能力を、ギンガを始めとする3人に対して求めているのだ。
思考を必死に働かせ、ギンガは自身の予測を紡ぎ出してゆく。

「・・・これまでに多くの文明を吸収してきたにも関わらず、今回の22世紀地球に対しては有効な戦略を編み出せずにいる。更に3度目の対バイドミッションによって、ソフトウェアに・・・待って、ちょっと待って」

スバルから与えられた情報、それを言葉に載せて反芻するギンガの思考に、何かが引っ掛かった。
ソフトウェアの損傷、ハードウェア。
4度に亘るバイド中枢への攻撃、WOMB、MOTHER-BYDO Central Body。

「R-99は?」
「何スか?」
「R-99よ。バイドは最高のハードウェアを手に入れた筈。それが何故WOMBやMOTHER-BYDOなんていう別のハードウェアを建造して、尚且つ其処に宿る必要が在るの?」

ギンガは、その点の異様さに気付いた。
R-99 LAST DANCERなどという、絶対不可侵にして完全なるハードウェアを得ておきながら何故、他のハードに宿らねばならないのか。
バイド殲滅を目的として送り込まれる「R」を確実に撃破したいのなら、自らのハードウェアであるR-99の能力を用いれば良いではないか。

「何故バイドは、R-99でR-9AやR-9A2、R-9Cを迎え撃たなかったの。幾ら1度目の22世紀よりも技術進化速度が早いとはいえ、それらの機種とは比べ物にならないほど強力な上位機種の筈だわ。何故、それを迎撃に用いないの」
「良く気付きました、ギン姉」

嬉しそうに言い放ち、スバルが手を1つ打ち鳴らす。
そのまま腰を下ろし、椅子の脚が床面に擦れる耳障りな音と共に着席。
微かに笑みを浮かべて続ける。

「R-99は確かに最高のハードウェアだよ。何物も寄せ付けず、何物も高みへと位置する事を許さない。相手がどんな存在であれ、強制的に自己と同一次元のハードウェアに押し込め固定し、その上で絶対的な暴力で以って殲滅する。
最高に頼もしくて、最悪なまでに危険なハードウェアだよ・・・正常に機能していれば、ね」
「何ですって?」

全てのウィンドウが閉じられ、テーブル上には数々の料理とコップ等だけが残った。
スバルは両手を後頭部に回し、椅子を傾かせて如何にも楽しげな様子だ。
そんな彼女の姿を、横から頬杖を突いて眺めていたノーヴェが、何処か気怠げに話を引き継ぐ。

「言っただろ、R-99は超越体だ。迂闊に干渉なんかしたら、バイドでも唯じゃ済まないってな」
「でも、成功したんじゃなかったの?」
「したよ、勿論。でもそれは、部分的な成功だったんだ。バイドによる侵蝕を検出したR-99は、すぐに汚染部位に対する隔離措置を取った。
結果的に正常なシステムの方が隔離される形になったけど、R-99の制御に関わる部位はバイドにも手出しできない状態になっちまったんだ」
「じゃあ、現在のR-99はシステム凍結状態なのね」
「そういう事。確かにハードウェアとしては完成していて、それに宿っている間にはフォースによる強制侵蝕も、その他の手段によるソフトウェアへの攻撃も意味を為さない。でも、物理的な攻撃ならどうだ?
R-99と同じ次元での、物理的破壊なら」

ギンガは先程の映像、R-99によるバイド撃破後のそれを脳裏へと思い浮かべた。
ウィンドウ上に表示された映像、空間を漂う無数の破片。
R-99から剥離した機体構造物。

598R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:10:15 ID:BuuC5QV.
「成程ね。R-99は無敵の存在個体ではあるけれど、物理的な破壊まで不可能という訳ではない。いいえ、寧ろ通常のR戦闘機と同程度の耐久性しか持たない可能性が高いのね。
R-99最大の特徴は自身が破壊されない事ではなく、如何なる存在であろうと同一次元に固定し、その上で破壊が可能である事。他次元レベルからの干渉は如何なるものであろうと意味を為さないけれど、
同一次元での物理的攻撃は従来通りに通用する」
「そう、だから最高クラスの機動性と、あらゆる武装を搭載できるだけの汎用性が備わっていた。でも、制御系が沈黙しちまったら?
ハードに対する他次元レベルからの攻撃は全て無意味だけれど、同一次元からの攻撃を受ければあっという間に破壊されちまう。回避行動も反撃もできないんだから、単なる棺桶と変わり無いだろ?」
「26世紀への帰還以降も、バイドは完全にソフトウェアのみの状態か、R-99とは別のハードウェアに宿った状態で戦い続けてきた。R-99のシステムを完全掌握する事は何度も試みたけれど、結局は全て失敗、今じゃ単なる殻に過ぎない。
だからWOMBやMOTHER-BYDOを生み出したのに、それらも2度目の22世紀が送り込んできた「R」に撃破されてしまった。こうなったら、もう手詰まり・・・その、筈だったんだけどね」

微かな音と共に、ウィンドウが展開される。
浮かび上がる画像、濃灰色の機体。
TL-2B2 HYLLOS。

「思い出して。このTL-2B2を造ったのは、何処の勢力だった?」
「何処って、地球軍・・・」
「違う」

スバルの問いに答えるティアナの言葉を、ウェンディが遮った。
その瞬間、ギンガは気付く。
ティアナも同様だろう。
TL-2B2は紛れもなく、地球軍に於いて設計・建造されたR戦闘機だ。
だがこの機体、ウィンドウ上のそれは、地球軍によって生産されたものではない。
これを、この機体を造ったのは。

「バイドの、模造品」
「そう。このR戦闘機を造ったのは、他ならぬバイドだよ。みんな、もう解ったでしょ? バイドが、どんな戦略を採っているのか」

スバルの言葉は正しい。
今ならばギンガにも、バイドの戦略が理解できる。
これまでの模索の労苦が嘘の様に、一切の思考の靄が消し飛んだかの様に、鮮明なビジョンを脳裏へと描く事ができる。
だが、それは。

「嘘でしょう・・・?」
「残念。嘘でもないし、的外れでもないよ。バイドの戦略は多分、今みんなが考えている通り」

信じられない、信じたくない。
こんな事が在って堪るか、こんな現実など認められるか。
これでは悪夢だ、これでは絶望だ。
だって、こんな戦略なんて在り得るのか、可能なのか?

「R戦闘機の、大規模な模倣」
「惜しい、ちょっとだけ違う。正確には「Rの系譜」そのもの、その進化の過程を模倣する事。そして、バイドの最終的な目的は」

ウィンドウ上のTL-2B2、濃灰色の機体が消え、入れ替わる様に白の機体が浮かび上がる。
究極の単一個体、完成されたハードウェア。
R-99 LAST DANCER。
そして、スバルは言い放つ。



「R-99の完全なる支配、若しくは模倣」



ウィンドウ、消失。
静寂の中に、ノーヴェがコーヒーを啜る音だけが響く。
数秒の後、スバルは続けた。

599R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:11:05 ID:BuuC5QV.
「バイドが辿り着いた最高のハードウェアは自身が建造したものではなく、怨敵である「Rの系譜」その最終型に位置する機体だった。ところが最初に「R」を開発した22世紀では、
R-99に関する情報は全て、バイドが地球圏そのものを取り込む前に削除されてしまった。R-99を解析しようにも、それが可能となるだけの情報が何処にも存在しなくなってしまったんだ。
結果、ハードウェアとソフトウェアが完全に合致する唯一の個体として完成されたR-99は、バイドにとってソフト面での鉄壁の殻ではあっても、物理的な完全防御を保証するものではなくなってしまった。
でも「Rの系譜」を辿る事で、R-99に到るまでの進化の全てを模倣する事が可能なら?」
「R-99のシステムを完全に掌握、或いはR-99そのものを模倣して複製できる・・・!」
「最終的な目的はそうだが、そうでなくとも其処に至るまでに開発されたR戦闘機、その全てを模倣できる。バイドが有するR戦闘機に関しての情報は、殆どが1度目の22世紀で交戦したものに関してだ。
今回の22世紀では、R戦闘機は1度目よりも遥かに危険な存在になっている。こちらで得た情報も利用して、バイドは独自に「Rの系譜」を生み出そうとしているんだ」
「・・・冗談じゃないわ」

スバルとノーヴェが語る話の内容に、ティアナが小さく呻く。
ギンガとしても、ティアナの言葉に同感だった。
他にどんな感情を抱けというのか。

R戦闘機という常軌を逸した兵器群に於ける進化の過程、その全てを内包する「Rの系譜」そのものを模倣し、独自のものとして完全に取り込む。
結果として、バイドはあらゆる機種のR戦闘機を生産・運用する能力を獲得し、それによって得られた情報を利用する事で、最終的にR-99の完全制御、或いは模倣すら可能になるという。
正しく悪夢、バイドを除く全ての勢力にとって、最悪としか云い様のない戦略だ。
この戦略が成功するとなれば、次元世界どころかあらゆる次元、あらゆる時間軸に「バイドによるRの系譜」が溢れ返る事となるだろう。
そして「バイドによるR-99」もまた、同様に。

「青褪めてるところに悪いけど、もうひとつ懸念事項が在るんだ」

無感動なスバルの声が、最悪の予想に揺らぐギンガの思考へと割り入る。
反射的に視線を上げて彼女の顔を見やれば、スバルは表情を消し去り、作り物の様な瞳でこちらを見据えていた。
ギンガは僅かに姿勢を正し、続くスバル達の言葉を聞き逃すまいと身構えた。

「さっきも言った様に22世紀地球圏の一部は、バイドに関する事実の全てを知っている。バイドにとって22世紀地球との交戦は2度目である事も、そのハードウェアがR-99である事もね。
ついでに言えば、次元世界の存在も西暦2139年の時点で知り得ていた」
「TEAM R-TYPEによってサンプルとして保管されていたエスティアが、次元世界でクラウディアと遭遇したのは偶然なんかじゃない。
バイドが既知の異層次元、つまり次元世界をハードの新たな保管先として選んだ事を察知した地球軍が、意図してエスティアを送り込んだんだ。
そして何も知らない第17異層次元航行艦隊が次元世界へと派遣され、艦隊に所属するR-9Aがエスティアと交戦、これを撃沈した」
「そのエスティアとR-9Aの交戦を、クラウディアが目撃したのね・・・恐らくは、地球軍の目論見通りに」
「地球軍は当然、バイド建造の直接的な原因となった「Λ」を警戒していた。「Λ」を建造する勢力についてもね。それを除いたって、地球圏と「Λ」を建造した文明圏とは、いずれ敵対する可能性が高いと分かっているんだから。
バイドが次元世界を避難場所として選んだのは、地球軍が追ってきたとしても高確率で管理局との衝突が発生すると予測したから。時間を稼ぐには打って付けだし、現状での管理局はバイドにとって直接的な脅威たり得ない」
「管理局と第17異層次元航行艦隊が交戦状態になる事は、地球軍上層部としても望ましい事だった。交戦の結果、管理世界全体で地球圏に対する武力制裁の声が高まれば、地球側は次元世界の存在を地球文明圏全域へと公表し、
その脅威を高々と謳い上げた上で公然と殲滅戦を展開する事ができる。今更そんな事をしてもバイドの存在自体には全く干渉しないが、少なくとも「Λ」の建造だけは防げるって訳だ」

其処までを言い切ると、ノーヴェはカップの中身を一気に呷る。
そうしてまた、苦くて堪らない、とばかりに顔を顰めた。
溜息を吐き、話を再開する。

600R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:12:54 ID:BuuC5QV.
「・・・これらの真実は、地球軍にとって秘められて然るべきものだ。全てを公表すればとんでもない騒動が巻き起こるだろうし、共通の敵であるバイドが存在するからこそ危うい処で纏まっている地球文明圏も、
長期的展望の相違による内部対立の再燃から瓦解しかねない。だからこそ、真実は地球軍・・・「国際連合宇宙軍」の一部と、R戦闘機開発陣「TEAM R-TYPE」の中でも一握りの人員しか知らない。
第17異層次元航行艦隊は、バイドもろとも次元世界を殲滅する為に送り込まれた、謂わば使い捨ての尖兵なんだ」

もう、言葉も無かった。
自身達が遭遇・交戦した地球軍戦力は単なる捨て駒であり、艦隊を送り込んだ22世紀地球側は事の成り行きを静観している。
そんな情報を与えられたところで、どう反応すれば良いのか、ギンガには解らなかった。

「ところが、次元世界はバイドによって隔離されてしまった。バイドが予め創造しておいた空間へと次元世界を呑み込む形で、外部との全ての繋がりを断ってしまったんだ。これは流石に、国連宇宙軍にとっても予想外の事だったろうね。
勿論、こんな事をすればバイドにだって後が無い。余力も無ければ、第17異層次元航行艦隊からの逃げ場も無いんだから。下手を打てば本当に此処で、バイドという存在に終止符を打たれてしまう。
でも、R-99の掌握に成功すれば話は別だ」

スバルの言葉が終らぬ内、無数のウィンドウが次々に展開されてゆく。
「TL-2B2 HYLLOS」「B-1Dγ BYDO SYSTEMγ」「BX-T DANTALION」「B-1A2 DIGITALIUS II」「B-1B3 MAD FOREST III」「B-1Dγ BYDO SYSTEMγ」「Λ」「R-99 LAST DANCER」
その他にも様々な画像と情報が一挙に表示され、ギンガの視界を埋め尽くした。
そして、ウィンドウによって形成された壁の向こうから発せられる、スバルの声。

「此処で、さっき言った懸念事項。国連宇宙軍は次元世界での状況推移を逐一逃さず観測するつもりでいたのに、バイドが形成した隔離空間によって中の状況を窺う事ができなくなってしまった。
そうなると、色んな可能性が首を擡げ始める。もしバイドが、想像も付かない新戦略に移行していたら? もし次元世界が、これまでの観測では捉えられなかった「Λ」の様な戦略攻撃手段を有していたら?
もし次元世界や第17異層次元航行艦隊が、全てを知ってしまったら? 予測し得るそんな事態を回避する為に、国連宇宙軍が次に採る行動は?」

手が、震えた。
思わず握り締めた拳が、不自然な震えを起こしている。
何故だろう、などと思考するも、ギンガの理性は疾うにその理由を知っていた。
恐怖だ。

「・・・脅威となり得るもの、その全てを排除する」
「次元消去弾頭ッスか!?」
「違う。次元消去弾頭は、異層次元航行能力を備える存在に対しては無力だよ。それじゃあバイドと、第17異層次元航行艦隊が生き残っちゃうでしょ。より確実で実効的な、同一次元での物理的消去を図る必要が在る」
「つまり・・・」
「今頃、国連宇宙軍は隔離空間に侵入しようと、躍起になっている筈だよ。そして、侵入経路を抉じ開けた後には」

新たなウィンドウが展開、これまでのものよりも大きく、幅は2mを超えているだろう。
其処に表示された画像は、艦艇らしき奇妙な箱状の構造物。
長方形状の長大な艦体後方に環境らしき構造物が在り、更に艦体を中心に環状構造物が3つ、艦首付近から艦体半ば後方まで等間隔を空けて設置されている。
環状構造物は中心に位置する艦体を軸に回転運動を取っており、その回転方向は交互に逆転していた。
画像の上部には、この艦艇の名称らしき文字列が表示されている。
反射的にそちらへ意識を傾けると同時に、スバルが言葉を放った。

「R戦闘機群を始めとする大規模戦力を投入、全てを徹底的に破壊するだろうね。その後に次元消去弾頭を使用して、次元世界が存在していたという痕跡すら残さずに、当該次元を消去する筈だよ」

ウィンドウ上の艦艇に並ぶ様にして、小さなR戦闘機の画像が無数に表示される。
どうやらこの艦艇は、大量のR戦闘機を搭載する異層次元航行母艦らしい。
「UFCV-015 ANGRBODA」
R戦闘機という悪魔の大群に於ける女王蜂、というよりも蜂の巣という表現こそが適切か。
スバルの言葉が現実のものとなれば、この艦艇が大挙して次元世界へと押し寄せるのだろう。

「私達がすべき事は、幾つか在る」

ウィンドウが消え、その後にスバルの姿が現れる。
彼女は椅子に身体を預けたまま、変わらず無機質な視線をこちらへと投げ掛けていた。
ギンガはそれを、正面から受け止める。

601R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:13:30 ID:BuuC5QV.
「1つは、バイドによる「Rの系譜」に対する模倣と、R-99の完全掌握を阻止する事。1つは、隔離空間外の国連宇宙軍による次元世界の破壊を阻止する事」

スバルは言葉を区切り、コーラの注がれたコップへと手を伸ばす。
その言葉の後を、ノーヴェが引き継いだ。

「1つは、その2つを実行し、尚且つ次元世界の生存を勝ち取る事。アタシ達が今すべき事は、それらを実行する為に必要な戦力を得る事」
「・・・オーバーライドの事?」
「そうだ。バイドはこの人工天体内部で、今この瞬間にも「Rの系譜」を模倣している。即戦力を確保する為にも、既に「R」の生産が始まっているんだ。それを、戴く」
「ついでにもう1つ。折角、有用な情報が得られたんだから、それを利用しない手はない。今なら、バイドと国連宇宙軍に対する即戦力の確保と、後々に亘って機能する抑止力を確保する事ができる。
この空間の中で、私達だけが」
「抑止力って・・・アンタ、まさか」

ティアナが、動揺を隠そうともせずに言葉を発する。
再び話を引き継いだスバルの言葉、その続きはギンガにも予想できた。
彼女は、こう言わんとしているのだ。

「応用できる情報は無限に在る。応用するだけの技術も無限に在る。今が好機・・・違うね。今だけしか、その機会は無いんだ」

全ての元凶、時間軸さえも超えて拡大する惨劇、その原点。
彼方の次元世界が創り上げた、狂気と憎悪の集約体。
それを今、この隔離空間に於いて具現化させると。
「種」を、この次元世界に植え付けるのだと。
存在意義すら歪められた「願いを叶える石」の成れの果て、嘗て引き起こし掛けた悲劇とは、比較にならぬ程の災厄を撒き散らすであろう「悪夢の種」。



「「Λ」を、建造する」



ウィンドウが1つ、テーブル上へと展開される。
その中心に浮かび上がる小さな宝石、回転表示されるそれには「Λ」の刻印。
ギンガは微かに蒼い光を放つそれを視界の中央へと捉えつつ、自身が永遠に逃れられぬ惨禍の渦に捕われた事を自覚した。



新暦77年12月5日。
スバル・ナカジマ一等陸士以下、時空管理局所属魔導師5名。
局地限定破壊型戦略級魔導兵器の開発・建造を開始。

602R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 21:19:15 ID:BuuC5QV.
投下終了です
支援、有難うございました

良い子のみんなに渡すクリスマスプレゼントを狩るべくバイド帝星へと向かった偉大なるザカエフ提督に憧れる月面都市セレーネ出身の若き元アインハンダー乗りマカロフ提督は空港でのハプニング
(ポロリもあるよ!(命が))などに巻き込まれながらも好物のハムバンとチキンブロスを平らげつつエロ本をチョロまかしたお友達の命令で近付いてきたアレン君の顔面に9mmパラをぶち込んだりしながら
空港火事で崩れてきた石像の下敷きになりそうな女の子に低ループパイルバンカーをかまして助けたのに白いBJの魔法少女?にお話聞かせてって言われたのを華麗にスルーして宇宙へと旅立った筈が
間違ってフェアリィ星に着いちゃったりなんかしちゃったけど私は元気かもしれずゲイルロズを占拠してたサタンクロスの集団を無傷で打ち破りグリトニル入口に屯していた無害なケンロクエンの親子連れと
カップノレを44カ●チョーで吹っ飛ばして内部に待機していたザカエフ提督の息子ジャージマソにヒワイな真似を強要してピストル自殺させた因縁のタスクフォース141所属大尉とガチバトルを繰り広げる事もなく
ピーチに豆を混ぜたものをかっ込んでおりましたがTVでやってたバイドによる事業仕分けの結果来年のイベント予算が大幅に削減されたとの事で来年以降のクリスマスは中止になるらしいですね残念です

みたいなゲームです、TACⅡは(嘘だけど)

今回の話を簡単に纏めると・・・
データ引き継ぎに加えてチート使用で2週目クリアボーナス機体無双ヒャッハーしようと思ったら、地球軍はこっちを上回るチート使用でおまけにボーナス機体はpassが分からず使用不可、更に逆ヒャッハー開始でバイド涙目で更なるチート開始、という話です
今回の話でタイトルの「Λ」を含め、この作品に於ける謎は9割以上が明かされました
後は闘争ありきです、闘争

しかしTACⅡはあれですね
MAPを見た瞬間に絶望、MAPの広さとターン数を照らし合わせて絶望、索敵機を進めた瞬間に絶望、亜空間機で壁の向こうを覗いた瞬間に絶望、波動砲をぶちかました直後に見えないHEXから反撃波動砲で絶望、ナルキッソスの攻撃名が厨二すぎて絶望
旗艦を進めた直後に亜空間機と接触で絶望、どの敵ユニットにカーソル合わせてもチャージ完了音鳴りやがって絶望、隣接した敵ユニットがデコイだと知った瞬間に絶望、鬼畜ユニットが多過ぎて絶望、副官イラスト3が最高過ぎて絶望

これでSLGとして破綻するどころか完成度高めなとことか、アイレム本気出し過ぎ
自重しろ、してくれ、してくださいお願いします

それではみなさん、また来年にお会いしましょう
良いお年を



MW2?
勿論、海外版買いましたよ



ID:hhz4tSZH様
代理投下のみならず、木枯らしスレへの誘導までして戴き、本当にありがとうございました

603魔法少女リリカル名無し:2009/12/26(土) 21:38:42 ID:pFsgbeUk
ようやく全ての謎が解けたって感じですね
バイドから見た地球人って怖いね!
あと無限ループって怖いね!
そしてループしてもヒャッハーしつづけてるバイドと地球人も怖いね!
何よりもタクティクス2のあのアホみたいな物量が一番怖いね!

604魔法少女リリカル名無し:2009/12/26(土) 21:47:33 ID:EpiKr/ec

始まりは2周目からですか
ヒャッハーしようと思ったらイメージファイトの補習だったのでしょう
覚めない悪夢とはよくいったもの
R-99が最後の踊り手ならば、舞台で観客に挨拶をし、終局を告げる存在は如何に
とりあえず、博物館のチケット買ってこないとな

タクティクスⅡは本当にいい絶望を味わえます
悪魔の兵器を捨てよとバイド廃絶戦争したかと思えば二転三転するし
前作主人公が宇宙同化現象を起こしたり、未知の戦闘文明が現れたり
言葉にできないような不可思議な事態を相手にしたり
それでもめげないタクティクス世界の地球人もマジぱねえっす
まあ、彼らの日誌と記憶の残照を読む限りバイドに親近感わきそうですけどね
こきつかれるという意味合いで

605魔法少女リリカル名無し:2009/12/26(土) 22:44:15 ID:IL9o4eyw
乙でした

確かに残りの2機が気になるところです

MW2は[No russian]できてこその価値だと思う

606魔法少女リリカル名無し:2009/12/26(土) 22:50:14 ID:DavPpcZY
乙です。
いやーしかし壮大な話だ
これだけのストーリーを最初から構想していたのだとしたら
天才通りこして変態ですね(ほめ言葉)

ハムバンとチキンブロスという単語が出てますが
やっぱりこのバイドの存在はジャムからも構想を得ているんですかね

607R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2009/12/26(土) 23:34:42 ID:BuuC5QV.
一部、本文に訂正と追加の文を加えました
完全版は保管庫に登録させていただきます

608魔法少女リリカル名無し:2009/12/27(日) 13:23:54 ID:fUZHR7ic
ちょwこれはwwなんという腐れ縁ww >R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA

609魔法少女リリカル名無し:2009/12/28(月) 09:12:59 ID:3mskNZ2c
>>604
プレイ中の人がいるかも知れんとか思い付かないんかな
とりあえずアマゾン待ちの俺に死んで償え

610魔法少女リリカル名無し:2009/12/28(月) 09:16:17 ID:4EvYaT2c
ああ・・・12話の地球軍が言ってた「翼をもぐ」ってそう云う・・・

611魔法少女リリカル名無し:2009/12/28(月) 09:33:32 ID:FzVQV7TA
>>609
本スレでもねえのにw
知ったことか

612魔法少女リリカル名無し:2009/12/29(火) 00:25:13 ID:QxlqBnq6
>>609
1.amazonで新作買っちゃってkonozamaでどんな気持ちどんな気持ち?
2.新作ネタばれいやならネットつなぐなとあれほど(ry

どっちがいい?

613魔法少女リリカル名無し:2009/12/29(火) 00:26:17 ID:LwqVZqR2
誰かAAもってこいw

614魔法少女リリカル名無し:2009/12/29(火) 08:59:50 ID:X03yQnrw
俺の嫁なアングルボダ級が登場、ノーチェイサーやスレイプニルとのコンボはよく使いました。そして期待していたボルドやコンバイラの進化版の産廃性能に絶望。
99の対抗手段として「Λ」の建造を始めた見たいですけど

スバル「Λできた!これでかつる!」
地球軍「はいはい100、101」

なことになりそう。

615魔法少女リリカル名無し:2009/12/29(火) 20:45:15 ID:sEhUorU2
地球軍上層部は管理局の事をとっくの昔に知っていた、つまり後から来る地球軍は魔法対策済みの可能性高いな。

616魔法少女リリカル名無し:2009/12/29(火) 21:08:36 ID:ElXY66Es
いっその事MO-1が出てこないものか

617魔法少女リリカル名無し:2009/12/30(水) 04:28:29 ID:k6tShDqU
むしろ、太陽の使者だな

618魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 00:41:56 ID:UkQiBUUg
>>561
てか最近そういうので見直して知ったけどバンあの腹筋と体格で16なんだと
しかも軍の訓練生でいたのは一年だけ
ゾイド氏が彼まで呼ぶかは解らんがsts時に二部まで若返った肉体で来たとすれば
かなり浮くw

619魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 02:58:13 ID:OJ.7vhRk
惑星Ziの人間って地球の人とは微妙に違うような
たしか、顔のマーキングっぽいのは体の金属分が浮き出たものだっけ?

620魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 06:07:51 ID:.aXBhsh6
クイーンズブレイドとのクロスやコラボも見てみたいんだよね。
あっちも、なのは並に何でもアリな作品だし
冥土でメイドな人からノーパンなハーフエルフまででキャラも濃いし

621魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 06:37:23 ID:KczTKfrk
そんなにバリアジャケットを少しずつ剥いでいきたいのか

622魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 09:05:43 ID:UkQiBUUg
クイーンズブレイドって確か母乳で攻撃してる奴いなかったか?18禁の棚向けじゃないか?
>>619
それは古代ゾイド人じゃね?最もバトストやら漫画やらで設定ゴチャゴチャだから一概に言えないけど

623魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 10:01:12 ID:.aXBhsh6
その母乳攻撃の人に関しては、アニメ二期みたいにリイン並のミニマムサイドになれば
マスコット扱い可だから大丈夫だと思う

624魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 10:54:45 ID:UkQiBUUg
てかゾイド氏のユーノはバンの息子だが、防御が堅いってのはブレードからとったの
だろうけど、アイツ自体も体が出鱈目に頑丈なんだよな・・・
普通なら命が危険な機動で笑ってるどころか8万TWのレールガンでブッ飛ばされてピンピン
してやがる

625魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 12:31:26 ID:UkQiBUUg
て8万じゃねえただの8TWだorz

626魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 18:01:54 ID:C6ZAE5J6
敵の防御力が高いなんて別に全然脅威じゃない。
そんなふうに思っていた時期が僕にもありました。

オーフェンのミストドラゴンに出会うまでは。

627魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 18:20:14 ID:Uiz1xEns
>>624
漫画版だとブレードライガー乗り換え時はシールドの応用力にも恐ろしいものがあったな。
水中でシールドを後部に展開することでその反発力を利用して
シンカーに対抗できるほどに水中戦に対応できたり

628魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 18:24:54 ID:KczTKfrk
>>626
バトルを考えると防御力が過小評価されるのは仕方ない

629魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 18:38:13 ID:UkQiBUUg
>>627
漫画版ブレードはアニメにあったブレードの電子レベル振動がないし、後継機が
存在するから性能自体はそれ程でもないけど、その分シールドの応用性が半端ないからなw
最もバンの父ちゃんのダンさんは標準装備のコマンドウルフで相打ちとはいえアイアンコングが主力の
3個師団全滅させたらしいから、操縦技術とゾイドとの信頼関係と愛さえあれば
ゾイドの強さなんてどうにでもなるっぽいがww

630魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 18:41:54 ID:C6ZAE5J6
でも逆に再生能力とかは強いイメージあるけどな
ヘルシングのアーカードとか作中で何回死んでるのか分からないのに最強のイメージが揺るがない

631魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 18:42:22 ID:UkQiBUUg
いやよく考えれば一番重要なのは愛なのかもしれん
漫画版最終回とアニメのデススティンガーとバンの一騎打ちでどちらも
バンが圧倒してたのは愛があればこそだし

632魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 19:35:55 ID:.aXBhsh6
ただ再生技能とかの蘇生や復活は正義の味方よりも
悪役の特権ってイメージがあるのは何故だろ?

633魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 19:47:58 ID:KczTKfrk
アーカードもどちらかというと悪役側だしな

634魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 20:00:17 ID:Uiz1xEns
>>629
確かに…
続きのゾイドEXじゃジークとの合体だけで
シャドーエッジからデチューン&シャドーなしとはいえ
クアドラエッジ相手に勝ってるしw

635魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 21:16:48 ID:UkQiBUUg
でもあれもう3年も更新がねえorz
ゾイド自体もほぼ死んでるし。
ゾイド氏の更新が先かEXの更新が先かって感じだし

636魔法少女リリカル名無し:2010/01/01(金) 22:03:21 ID:UkQiBUUg
ただ無印ゾイド見返して思ったがゾイドは確かに魔法と違って誰でも扱えるが
同時に誰一人として扱えない可能性も秘めてるんだよな。ライガー系はブレード以降は
プライド高そうだから/0のビット以外が乗ったゼロみたいになる。量産型でさえただの機械と
思ってのってりゃ、レイヴンクラスの腕がなきゃ真の力は発揮できない気がする。
何より中将は兵器としてしか見てないから、仮にユーノ見つけたお礼だとしてもコマンドやゴドス
だって渡しそうに思えん。ゾイドを兵器にする愚かさを知り、ゾイドを愛す連中だから

637魔法少女リリカル名無し:2010/01/02(土) 08:05:29 ID:Q4ncgLKY
もしも仮面ライダーダブルとクロスした場合で
管理局の介入理由がある世界で深刻化しているガイアメモリを使ったドーパント犯罪を重要視し
もし、ガイアメモリを次元犯罪者が手にしたらと危惧し
フェイトの進言もあり上からの命令で、かつての六課メンバーが集まる事になりって流れだろうけど
その場合はダブルや近日登場のアクセルも取り締まる対象になるのだろうか?双方、正義の味方とは言え一応はガイアメモリを使ってるし

638魔法少女リリカル名無し:2010/01/02(土) 08:16:02 ID:XWi8Shss
>>637
ガイアメモリを犯罪者が使うのは問題だろうがそれとガイアメモリの所持が犯罪となるのとは別だろう
法律でガイアメモリの所持が違法になれば取り締まりの対象とはなるだろうがそうでなけれ歯協力者の立場もあり得る

639魔法少女リリカル名無し:2010/01/02(土) 16:28:33 ID:./2i/1rY
あれは所持自体が違法だっけ?
原作では特に描写がなかったけど

640魔法少女リリカル名無し:2010/01/02(土) 17:57:56 ID:hwr9oZh2
>>639
いやライダー世界側で違法じゃなくて管理局側が規制した場合の話だろ

641魔法少女リリカル名無し:2010/01/02(土) 20:29:49 ID:A76XZQfY
>>639
世間には知られてないので違法もくそも関する法律がない。

642魔法少女リリカル名無し:2010/01/03(日) 08:20:46 ID:IcX6/oWs
ていうかとりあえず完結してからのクロスがいいんじゃね?
あれでもいつまでやるんだっけか?

643魔法少女リリカル名無し:2010/01/03(日) 08:55:55 ID:HPR4m71k
ダブルの場合、関わった事件の一つとして今の段階でクロスさせてもまったく不都合がないのは利点かもな

644魔法少女リリカル名無し:2010/01/03(日) 10:43:50 ID:s5WgjZsI
>>642
Wはディケイドでずれた半期から一年間放映だから今年秋まで放映のはず

645魔法少女リリカル名無し:2010/01/03(日) 19:14:04 ID:3du9n8yk
クロスとは違うけどもしも、なのはとフェイトの立場が逆だったら
なのはがプレシア側の人間で
フェイトが海鳴出身のごく普通な平凡な小学三年生だったら
どんな物語になったんだろ?。結末とその後の流れは、ほぼオリジナルと変わらないにしても
As1話で助けに来るのが、なのはに変わるとか若干な変化以外は

646魔法少女リリカル名無し:2010/01/03(日) 22:48:08 ID:PPiuXH66
>>645
あっち(現在避難所進行のエロパロスレ)にリリカルふぇいとというものがあってだな…
とはいってもあれの時間軸も無印相当後半あたりでとまってるしなぁ…

647魔法少女リリカル名無し:2010/01/04(月) 19:29:59 ID:djxg2smI
>>636
バトルストーリー版だとアニメ版とはまた違った状況になるんだが…
そういう細かい突っ込みは野暮なんかね〜

648魔法少女リリカル名無し:2010/01/04(月) 20:45:59 ID:h2ppjKZc
クイーンズブレイドとかみたいな一般人が参加する格闘物な作品とクロスさせたいけど
下手な作品だと、なのは側の方が強すぎて独壇場になってクロスの意味が無いんだよね
クイーンズブレイドならアニメ二期の逢魔の女王お膝元の御前試合で、なのは側の人間に次々と石化して消えて貰うのも手だけど

649魔法少女リリカル名無し:2010/01/04(月) 21:05:39 ID:2m2r67vs
>>647
野暮じゃねえと思います。いや自分バトストよかアニメ・漫画から入った口なので
どうしてもソッチ系に思考が偏り気味で。正直すいません
ただバトストといやデススティンガーがアニメとはまた違った意味で恐ろしかったと聞いています
なんでもゾイド版デビルガンダムだったとか

650魔法少女リリカル名無し:2010/01/04(月) 21:31:45 ID:peBmaykA
>>649
攻撃食らったのがきっかけで暴走→敵味方問わず虐殺の後行方をくらます
→ブレードライガーAB VS ジェノブレーカーの戦いに乱入
 しかも、他のゾイド喰らったエネルギーで増殖中。
→一時休戦した2体と戦闘。やったかと思いきや実は進化しており本性を現す
→ブレードライガーの犠牲によりなんとか倒され、幼体もジェノブレーカーに破壊される

こんな感じだったかと……
むしろデススティンガーがなにかやらかさなかった作品の方が稀少かも……
なんだこのトラウマゾイドw

651魔法少女リリカル名無し:2010/01/04(月) 21:46:29 ID:2m2r67vs
ちなみに
漫画版:開始5分で軍団全滅。ブレードフルボッコ。さらにバーサーカシステム
により常人がのれば破壊衝動に押し流されものの数分で廃人。デスザウラーの技術使用
最後はシャドーキーによりパワーUPするも、本当の力を出したシーザー(ゼロ素体)にフルボッコ返しされる
アニメ:コアの表面温度6,000度。太陽級のパワーを持つ化物。エネルギーシールド装備。大気圏外から荷電粒子砲
ぶっぱなしてやりたい放題。そこから墜落して無傷。マグマも平気で泳ぎます
重力砲で一度コア停止するもアンビエイトにより復活。しかしゾイドイブの光を浴びたブレード(ジークなし)
にオーガノイドによって完全復活したのに一方的にやられる。最後はデスザウラーと融合するもバンのグラビティなブレードアタックに死す
こんな感じですわ。後余談ですが、漫画版ではクロー、アニメ版ではブレードでデススティは片腕落とされてます

652魔法少女リリカル名無し:2010/01/04(月) 22:09:59 ID:peBmaykA
>>651
で、次シリーズでもバックドラフトに尻尾の部分再利用されたんだよねぇ

653魔法少女リリカル名無し:2010/01/04(月) 23:30:14 ID:vW/JuHHM
デススティンガーって一般公募で採用されたんだよな

654魔法少女リリカル名無し:2010/01/04(月) 23:44:54 ID:JvuhQ0CA
結構武器ついてたよなあ>デススティンガー

655魔法少女リリカル名無し:2010/01/05(火) 05:19:25 ID:yEN4OUP6
ただ正直初代ゾイドのあやつのチートっぷりはなあ…

敵としちゃかなり生えたけどさw
>
無印からブレイドのクロス書きたいけど全く実力が無いっていうね…

656魔法少女リリカル名無し:2010/01/05(火) 07:37:09 ID:v/kLx.FQ
いや一番チートなのはブレードライガーだろ。
ブースター強化により推定325Km/h
>ジークの覚醒により反応速度と機動性が常人じゃ体が持たんレベル
>ゾイドイヴの光を浴びてパワーUP。デススティ?ボコボコに
したやりましたが何か?
てかあのブレード間違いなくサイクスより速いぞw

657魔法少女リリカル名無し:2010/01/05(火) 10:28:05 ID:o4Fj/5ak
ブレードライガーのマイナスポイント面はアニメよりバトストのが凄い。
性能は悪くないけど、何より操縦性が酷い事になってる。
オーガノイドシステムを弱めて操縦しやすく配慮した量産型ですら
S+〜C−評価の内のCと言う凄い事に…

逆にライガーゼロはAと言う全ゾイド的にも非常に良好な操縦性を獲得したけど
チェンジングアーマーシステムのせいでコストがブレードライガーの3倍と言う…

デススティンガーは初代こそ今でも別格扱いされてるけど、その後の制御可能になった
量産型が結構悲惨な目にあってる。キラー・フロム・ザ・ダークが性能を70%に落とし、
しかも初代デスステとの戦いを想定した訓練を積んでいたとは言え閃光師団(ゼロ部隊)の
文字通りの噛ませにされ、ステルススティンガーに至っては特に装甲を強化したにも関わらず
自重よりも軽量なゴジュラスギガのただの踏み付けでやられる始末。
(バトルストーリー版じゃ格闘戦ならデスザウラーも圧倒出来る実力者なんだけど…)

ただ、一番イメージ変わるのはデスザウラーだと思う。アニメだと古代ゾイド人の遺した災厄って扱いだけど、
バトストだと普通に凄く強いだけの人畜無害兵器。開発者はドン・ホバート博士。で、しかも普通に量産されてる。
昔のシリーズ時に発行された旧バトルストーリー2って雑誌においては
トップハンターと言うタイトルでデスザウラーのパイロットの苦悩とかを描いた漫画が掲載されてる。
苦悩と言っても、デスザウラーの強すぎる力を使う事に躊躇する〜とかそういう方向性じゃなく、
ロールアウト前のトライアルの時点で他の競合機種に遅れを取ってしまって、
このままじゃウルトラザウルスに勝てない〜とかテストパイロットやってたトビーは悩むけど
亡き兄の亡霊が何故か降りて来てアドバイスされた結果、飛行ゾイドの様にコントロールする事を思い付き
(元々トビーは飛行ゾイド乗りだった)その結果デスザウラーの動きが格段に良くなって
他の競合機種を圧倒して対ウルトラザウルスとして正式採用されて、トビー自身の乗った
デスザウラーはそのまま殆ど格闘戦のみの荷電粒子砲も使わない状態だけでゴジュラス部隊蹴散らしたり
そのまま共和国首都を攻め落としてしまったでござるの巻。それ故にトビー・ダンカンは
数多あるデスザウラー乗りの中でも別格として今なお称えられてる。

次にイメージ変わるのはハルフォード中佐。アニメじゃ文字通りの下衆野郎だったけど
バトルストーリーではシールドライガーを乗り回し、シュバルツをして鮮やかを言わしめたエース。
そして自らの命を賭して大戦初期の時点によるデスザウラー復活を阻止した英雄。

その次がアーバイン。アニメ版のは言うまでも無いけど、バトルストーリー版じゃ普通に共和国に参加した傭兵。
ゴジュラスにオーガノイドシステム使って凶悪強化されたけど、さらに気難しくなってしまったオーガに
見事選ばれて正式パイロットに。アーバインとオーガの精神リンクはフル装備状態でありながら
ダークスパイナーのジャミングウェーブを跳ね除ける事が出来る。(ゼロですら素体状態でないと無理)
ダークスパイナーの対処法が確立するまではほぼ頼みの綱状態で、アーバインとオーガの奮戦が無ければ
ゴジュラスギガも稼動する事無くやられて、そのまま共和国軍の全面壊滅してたレベル。

658魔法少女リリカル名無し:2010/01/05(火) 10:53:39 ID:CnnW/3oQ
シリーズによって設定が大幅に違うのはよくあることとしても
ライガーゼロって何か気難しいタイプで操縦性がひどいイメージがあるんだよな
まあ、レスポンスと気性の荒さは評価に直結しないのかもしれないけど

659魔法少女リリカル名無し:2010/01/05(火) 11:21:09 ID:lB5zabus
兵器には安定した機能と能力が求められ、兵士には最低限何ができるかが求められ、上層部はそれを基準として作戦が可能かを判定するはず。
一部の実験機なら尖った性能を持っているかもしれないが、実戦投入されて部隊を作っているブレードライガーがそんな体たらくとは。

……なのはを砲撃に駆り立てた(唆したとも言う)レイジングハートは、優秀かもしれないが、ものすごく危険なデバイスなのかもしれない。

660魔法少女リリカル名無し:2010/01/05(火) 11:58:01 ID:o4Fj/5ak
>>658
ゼロ=扱い難いは/0のイメージだな。でも他シリーズだと案外そうで無くて
同じアニメでもフュザのゼロは別に主人公にのみ従ってるんじゃなくて
単なる親父のお下がり扱いだったし、マットが乗った時は暴走したけど
あれはマットがヘボなんで当てにならんし。

オーガノイドシステム搭載機は分かりやすく例えるならば薬でハイにしてるみたいなイメージで、
だからパイロットの精神にさえ悪影響与えたりする位に操縦性に問題があったんだけど
(ただし、帝国側はその精神負担を肩代わりするシステムを構築してデスステすら制御可能にした)
ゼロは完全野生体を使用した物だから、ナチュラルに凄いから操縦性に特に問題は無かった。
当時のコロコロでもオーガノイドシステム搭載機に比べて扱い易いのが強みだ〜とかそれっぽい事書いてあったし。

661魔法少女リリカル名無し:2010/01/05(火) 12:12:23 ID:o4Fj/5ak
連投スマソが、ゾイドは作品によって設定が異なるから、○○でこうだったから△△でも同じに違いない
みたいな考え方はちょっと危険になっちゃうんだよな。
○○はこう、でも△△ではこうだったよとかならともかく。
例えばゴジュラスギガなんか、バトルストーリー版じゃデスザウラー級レベルの強ゾイドだけど
フューザーズではスティルアーマーにすら「ごとき」とか言われて格下扱いされる程度のもんだったし
(まあ実際は乗り手の技量(?)で逆に圧倒してたりするんだけど)

ハルヒで例えるなら、ハルヒちゃんで長門がエロゲーしてたから
本編の長門もエロゲーするに違いないとか言っちゃう様なもん。

662魔法少女リリカル名無し:2010/01/05(火) 12:26:09 ID:v/kLx.FQ
>>659
バトストじゃ確かジェノ・レブの初のオーガノイド使用機に無双やられまくって
神頼みたいな感じで作られたのが元だし。危険だけどそれしか対抗手段がしばらくなかったのでは?
現にゼロの登場以降ブレード(というかOS搭載型)はどんどん日の目みなくなったし
>>660
/0はただでさえスペック高いゼロにオーガノイドシステムぶち込んでたからね。
性能が出鱈目に強い代わりに気難しくなったんだろう。OSがゾイドの野生や本能引き出すっぽいから
ただでさえ野生バリバリのゼロにんなもんつかったら・・・って感じ
てか久々にゾイド話できて正直嬉しいw

663魔法少女リリカル名無し:2010/01/05(火) 12:28:08 ID:v/kLx.FQ
てか昨日から長文すみません
ゾイドってジェネ以降目立った動きはあんまないのでついはしゃぎすぎて
しまいました

664魔法少女リリカル名無し:2010/01/05(火) 17:16:23 ID:0wdvA8ss
ゾイドサーガってRPG作品も出してたよな
バランスは投げ捨てたキャラゲーだったけど
ゾイドはカスタマイズするのが楽しかったけど
専用でしか組めないような機体が多くなってから冷めてしまった

665魔法少女リリカル名無し:2010/01/06(水) 00:54:35 ID:.K/OA64o
バトストのブレードは幾つかあったシールドの強化案の一つだもんな
しかもバトストの場合、地形によっては強いゾイドが簡単にやられるもんな

666魔法少女リリカル名無し:2010/01/06(水) 01:12:04 ID:kFhVBg.Y
なんという濃厚なゾイドネタ
別のスレを見てるのかと思ってしまった

667魔法少女リリカル名無し:2010/01/06(水) 06:25:56 ID:8SS7mW4g
どうやらカノントータス好きは俺だけのようだな
ミーハー共め

668魔法少女リリカル名無し:2010/01/06(水) 08:59:30 ID:ENcGFdYo
機動力は低い物の火力に富み、生産性と操縦性の高いカノントータス。
長篠の戦のように、面制圧に使うなら最悪のゾイドかもしれない。

669魔法少女リリカル名無し:2010/01/06(水) 12:04:07 ID:dYnLwDfI
>>667
カノントータスは小型機でも最も好きな部類のゾイドだよ。

670魔法少女リリカル名無し:2010/01/06(水) 12:25:25 ID:dYnLwDfI
>>662
/0のオーガノイドシステムはバトストのとは違って
自己進化可能な(?)教育型コンピューターみたいなもん。

で、バトストのオーガノイドシステムは
パイロットに精神圧力かける位に強制的に凶暴化させたりするもんだから
野生を引き出すとかそんなんじゃない。

余談だけど、公式ファンブック4の性能評価の操縦性の項目では
二足歩行恐竜型より四足獣系のが操縦性高めな傾向にあるんだけど
(二足より四足のが姿勢制御しやすいとかそんな理由なんだろうけど)
ブレードライガーとジェノザウラーに関してだけはその関係が逆転してる。
何故かジェノザウラーのが操縦性が高いw(ブレードライガーよりかは…なレベルだけど)

671魔法少女リリカル名無し:2010/01/06(水) 12:29:34 ID:e58lmsfM
そーなのかw
>>667全アニメ皆勤賞の不朽の名機コマンドウルフを忘れるなんて!

672魔法少女リリカル名無し:2010/01/06(水) 12:31:45 ID:e58lmsfM
書き忘れ
てかなんかティアナにはヘルキャットとかシャドーフォックスとかいった
光学迷彩使用ゾイドよかコマ犬が個人的に似合いそうな気がする
スバルは・・・・・・・アイアンコング?

673魔法少女リリカル名無し:2010/01/06(水) 13:21:51 ID:dYnLwDfI
ちょっとスマソ>>670ではオーガノイドシステムに関して強制的に凶暴化させるとは書いたけど
確かにそれは公式ファンブックに書かれていた事なんだけど、
ゾイドグラフィックスの方では潜在能力解放って記述があったっぽい。
だからスマソな>>662

コマンドウルフはバイクで例えたらカブみたいなイメージあるな。
あえてコマンドウルフの欠点を挙げるとするならば、
余りにも色んな面(コスト・整備性なども込みで)で
優秀すぎて後継者に恵まれないって所か…

674魔法少女リリカル名無し:2010/01/06(水) 21:31:14 ID:v4TCHyv.
もうキャロがキングゴジュラスを使役するで我慢しとけ。

675魔法少女リリカル名無し:2010/01/06(水) 23:10:20 ID:7fuPW.V.
つまりルーテシアはデススティンガー(無印アニメ版)か…

676魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 08:25:48 ID:GBP7f3gY
ミッド終了のお知らせww

677魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 08:55:48 ID:Yl9SZ0Ro
砲撃魔法に特化したインテリジェントデバイス・レイジングハート。
隠された真の変形、それはウルトラザウルス・グラビトンカノン装備型である!

678魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 09:48:06 ID:D.K4oNj.
お前達の言ってる事が何一つ分からない俺は間違いなくゾイド初心者

679魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 12:41:24 ID:qRfUfGtw
>>677
ゆりかご壊したらあーら不思議。中でおねんねしてたギルベイダーが大復活!
もしくは残骸からデススティがこんにちは。まで幻視した
しかしちょいと濃い目の話が続いてるからそろそろ自重した方がよさそうだの

680魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 13:30:45 ID:ROFKQDLM
実は本局とかゆりかごとか時の庭園とか野良ゾイドでした。

681魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 17:11:14 ID:5mppUaJM
ラストで「デバイスは戦いのための道具じゃないんだー」とか絶叫する高町一等空尉が見えた。

682魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 17:13:04 ID:yg/LB7iU
無印でバンが叫んだ直後、後番組ではゾイドバトルというスポーツ化したゾイド同士の戦いが……

683魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 19:20:32 ID:AJ8Lh6aE
前作の価値観が次回作で否定されて、新たな価値観が作られるのは良くある事ですから。

例えばウルトラマンだって、ティガではダイゴが
「俺は俺だ! ウルトラマンじゃない!」
って言って、最終的に人である事を選んだけど
次回作のダイナではアスカが
「俺は俺だ! ウルトラマンダイナだ!」
って言って行方不明になって、ウルトラ銀河伝説においては
完全にウルトラマンダイナとして生きてるみたいな事あったし。

昭和でも帰ってきたとエースで、人間をやめてウルトラマンとして生きる主人公を選んだ一方で
タロウとレオではウルトラマンの力を捨てて、人として旅立つ主人公が描かれた。

ゾイド系の話題なのにウルトラマンになっちまってスマソ
でも何気にゾイドとウルトラマンは切っても切れない関係なんだよな。
後番組と前番組の関係的意味で。

ゾイドの話題に戻して、そもそも「ゾイドは戦いの道具じゃない」は
バンが勝手に言ってる事であってゾイドシリーズ全体のテーマじゃない。

684魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 19:23:18 ID:Y8LO7JWI
>>682
戦いの道具じゃなくなってるだろ。

685魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 19:32:07 ID:RF6ln1xg
俺らだって馬を戦争に使ってた歴史があったりするし
要は付き合い方しだいだろ?

686魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 19:38:03 ID:3kV6KCPw
>>682
殺し合い、戦争の道具、戦術兵器としては使わないって事だろ。
戦争とかを気にせず自由に乗ったり戦ったり出来るって意味で

687魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 20:21:50 ID:2DrTXoFk
リリカルなのは×ライダー大戦の世界

ミッドとライダー大戦の世界が融合しミッドは火の海に
更に圧倒的な力で仮面ライダー1号・2号を退いた為にディケイド以上の悪魔よわばりされライダー達から狙われるハメになった、なのはとフェイト
通信網は遮断されスーパーショッカーとの乱入より罠に嵌められ次々と行方不明になる六課メンバー
なんてのを妄想してしまった

688魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 20:44:58 ID:YAqmUY/o
とりあえず妄想最強オリゾイド作って悦に入ってたやつ手上げろ!
ノシ

689魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 21:21:18 ID:RF6ln1xg
ミッドとゾイドと聞くと別のを思い出すな

機械生命体と聞くとメトロイドのエリシアンを思い出してしまう
あの作品の世界観でも科学とは異なる魔法や超能力ってあるんだよな
亡霊とかも存在するし、クロスは、、、主人公がしゃべらないからやりにくいか

690魔法少女リリカル名無し:2010/01/07(木) 23:23:27 ID:NtZj3Scg
ミッドはソナー付きだから
メトロイドとのクロスとなると、キャラクター演出が多いプライムシリーズか?
PEDと汚染のせいで拒否反応起こしてゲロってしまうけどな

691魔法少女リリカル名無し:2010/01/08(金) 03:01:10 ID:PiOu/I3M
p

692魔法少女リリカル名無し:2010/01/08(金) 09:30:20 ID:ihDmtMYw
>>688
完全オリジナルは無理だけど、元々ある機体の改造機とか
自分で考えたキャラ専用機とかそういうのは考えてたな。

693魔法少女リリカル名無し:2010/01/08(金) 10:35:07 ID:IOusEjc6
ゾイドの改造は何度か考えた事があるんですけど、どれもこれも/0のガンスナイパー・リノンスペシャルの焼き直しにしかならないんですよね。

694魔法少女リリカル名無し:2010/01/08(金) 13:05:26 ID:ihDmtMYw
武装をゴテゴテ付けるだけが改造ネタじゃないんだと思う。
外見はノーマルと大差無いけど、出力が強化されてるとか
そういうんだって立派な改造だろうし。

695魔法少女リリカル名無し:2010/01/08(金) 15:33:51 ID:kdE34wOw
俺は○○をベースに△△の尾とクロー、□□のキャノンと××のブレードを…みたいなキメラモドキを小学生の時に考えた事がある…orz

696魔法少女リリカル名無し:2010/01/08(金) 15:54:33 ID:k8G/cTIA
キメラ系の改造+組み合わせなら
ブロックス系のゾイドが適任だと思う

ただ、そろそろスレ違いのネタは自重しないとダメな気がする。ゾイドスレではなくてリリカルなのはクロススレである以上は

697魔法少女リリカル名無し:2010/01/08(金) 16:44:19 ID:b7ESdCG.
オタクな彼氏彼女がほしい 避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/10646/

698魔法少女リリカル名無し:2010/01/08(金) 17:57:14 ID:IOusEjc6
キメラモドキ……
PSPのゲームでなのはたちのパチモノっぽいのが公表されましたが……やはりラスボスは「なのは+フェイト+はやて」の合体したような怪物だろうか。

699魔法少女リリカル名無し:2010/01/08(金) 19:05:12 ID:ihDmtMYw
ユーノスレのあぷろだにリリカルなのはキャラが
ギガキラマイラみたいな感じで合体した奴とか
ベリュドラみたいな感じで合体した奴のイラストが
投下されていたのを思い出した。

700魔法少女リリカル名無し:2010/01/08(金) 19:05:51 ID:ihDmtMYw
ギガキラマイラじゃなくて「ギガキマイラ」だった
何でこんな誤植しちゃったんだろうorz

701魔法少女リリカル名無し:2010/01/09(土) 14:42:01 ID:eOlCpfvM
もしも、リリカルなのはメンバーがダブルドライバーで変身するなら
フィリップのポジションは誰だろ?

702魔法少女リリカル名無し:2010/01/09(土) 15:06:09 ID:puEuuZkI
検索バカといわれ、事務所の中に隠れ住んでいる……ユーノ以外にフィリップやれそうなキャラがいないのですが。

703魔法少女リリカル名無し:2010/01/10(日) 10:41:05 ID:5fJtuwjM
ユーノとクロノでダブルライダーってのを受信した。
おやっさんポジはゲンヤさんで

704魔法少女リリカル名無し:2010/01/10(日) 11:32:01 ID:SON7qOFI
Wでおやっさんというなら、ゲンヤさんは第一話のアバンで凶弾に倒れるのか。

705魔法少女リリカル名無し:2010/01/10(日) 14:28:35 ID:/R57DahU
では二人で一人の『魔法少女』だ!

706魔法少女リリカル名無し:2010/01/10(日) 15:40:51 ID:SON7qOFI
>705
魔法少女と言うことは、フィリップがユーノではない。つまり……片方はユニゾンデバイス?
シグナムさーん、なのはさん以上に『魔法少女』を名乗るのは辛いんじゃありませんかー?

707魔法少女リリカル名無し:2010/01/10(日) 17:08:29 ID:yT/IYxLI
えーと確か稼働時間だけいや300歳以上のババアだっけ?

708魔法少女リリカル名無し:2010/01/10(日) 18:31:54 ID:IG2fV3io
ミッドにnanarmanが現れたようです。
スターライトブレイカーやらラグナロクやらプラズマザンバーブレイカーに、挙げ句の果てにはアルカンシェルすら、全てブロッキングするnanarmanに絶望する機動六課。

709魔法少女リリカル名無し:2010/01/10(日) 18:49:20 ID:5fJtuwjM
>>707
二人でひとつの魔法少女が行けそうな組合せ

シグナム+アギト→見た目と年齢的にアウト
シグナム+リィン→見たry
ヴィータ+リィン→見た目的にはセーフ
はやて+リィン→A'sならセーフ、StSだとギリギリな感じ

710魔法少女リリカル名無し:2010/01/10(日) 18:58:51 ID:m0RXjCfE
リィンとアギトの組み合わせでいけばいい
と思ったがサイクロンヒートは無理か

711魔法少女リリカル名無し:2010/01/10(日) 21:32:39 ID:L1KgKNHI
アギトやリインはファングメモリ的な存在かもしれない。

712魔法少女リリカル名無し:2010/01/10(日) 21:39:56 ID:NsHvD.A.
アギトとリィンって聞いて真っ先にメドローアが思い浮かぶ俺はもう若くないんだろうな

713魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 09:12:20 ID:B8W9Iae6
なまけ怪獣ヤメタランスの力でニートシグナムが怠ける事をやめて働き者になるけど
代わりになのはとかが怠け者になってしまう展開なら考えた事がある。

714魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 18:58:51 ID:TKX5eZ/w
>>710
映画じゃサイクロンヒートどころかサイクロンサイクロンなるものが出たらしいから
いけんじゃね?

715魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 19:37:59 ID:qxlb4WTg
質問です。
仮面ライダーはシルバーカーテンに勝てない。
人間よりも優れた能力を持つライダーなら必ず『引っかからなきゃいけない』能力
これについてどう思いますか?

716魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 21:17:15 ID:t8EsEGog
TS変身じゃダメなのか

717魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 21:34:14 ID:mmwxCT0I
>715
様式美を無視すると、突然周囲の目が厳しくなりますからね。ギャグ空間ありなら、その直後のやりとりも面白いかも?

>716
TS変身……最近だとけんぷファー?

718魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 21:50:07 ID:o5VluxIs
他のライダーに変身する能力を生かせばガチでフェイトくらいは倒せそうなイメージあるディケイドは

719魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 21:59:51 ID:MQ8zIDKE
いや素で勝てるだろ
善い子のヒーロ仮面ライダーだぜ

720魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 22:11:22 ID:UMdMy6UY
>>715
わけわからん。勝てないという根本からおかしいだろ。
あんなんいくらでも破り方あるわ。

721魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 22:24:47 ID:T6lXz7wk
>>715
ダディのバッドスコープやライダーじゃないけどビーファイターのビートスキャンみたいな解析能力なら破れそうな気がする

>>718
平成ライダーだけで見ても局員が勝てそうなのってゼクトルーパー、G3、G3マイルド、V1システム、電王プラットフォーム、クウガグローイングフォーム、龍騎ブランク体、王蛇ブランク体、たい焼き名人アルティメットフォーム位じゃね?

722魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 22:59:43 ID:qxlb4WTg
715の者です。

シルバーカーテンは機械的な物も含めて触覚以外の全ての感覚を誤認させるという能力ですから、人間よりも優れた能力を持つライダーなら必ず『引っかからなきゃいけない』能力なんですよ。
破る方法は、はやてがやったみたいに根こそぎ吹き飛ばすのを何回も繰り返して、その間に幻影のパターンを検出、それに併せてフィルターをかけるっていう方法以外に有り得ないんですよ。

ですから、『ライダーにはシルバーカーテンは効かない』というのは間違いなんですよ。
それどころか傾向的に広域一斉攻撃能力が低いライダーにとっては最悪の能力ですよ。


と来たので、流石にそれはと思って皆様に訊いてみました。

723魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 23:11:16 ID:IFnENaQ.
>>715

もしかしてその人ってフェイトのスピードなら、あるいはソニックムーヴならクロックアップと互角に戦えるとかも言ったっしょ?

なんか思いっきりそんな感じのおバカさんって感じがするよ。
大方ちゃんと見てないか信者のどっちか。

724魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 23:11:21 ID:mmwxCT0I
パターン検出が可能=完全な偽装では無い、と思うのですが。
クウガのペガサスフォームの索敵能力なら、十分認識できるのではないでしょうか。

725魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 23:12:45 ID:qxlb4WTg
>>723

言ってました。

>>724

そう言ったらあの答えが来ました。

726魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 23:22:26 ID:o5VluxIs
ぶっちゃけ電王(と言うよりモモタロス?)みたいな幻影だろうと敵ならブッ飛ばす派なタイプには効果は薄いと思う

727魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 23:29:52 ID:X2nihINY
まあ、実際に通用するかはともかく○○相手ならナンバーズなんて瞬殺だろ、みたいな話題よりも面白そうではあるよな
>>715みたいのを発展させて××とか□□したならナンバーズでも対抗できるんじゃない? みたいな話題のが面白そうではある
ちゃんとした話し合いになればの話だけど

728魔法少女リリカル名無し:2010/01/11(月) 23:56:27 ID:Y3rCFpTk
変身ベルトが取れるタイプのライダー相手なら、トーレとディード、セインが決死の接近戦を挑めば奪え、倒せる可能性がわずかにありそう。
シルバーカーテンで偽装した上に、ディエチが援護射撃とか援護にかなり力を入れないと不味いが。

729魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 01:13:59 ID:D9kqp3iI
同じライダーでも拳法の使い手であるスーパー1ならクアットロを
ガチで粉砕できそうなイメージある。

730魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 01:42:23 ID:Xfpoy0UA
>>728
一応、平成ライダーのみ(&主役ライダー縛り)でベルトを奪えるかどうか。かなりうろ覚えだけど
クウガ…無理。聖なる泉を枯れさせないと死んでも復活してくる。
アギト…オーヴァーロード並みの実力が無きゃ無理。無限進化に不老不死。
龍騎…奪えるし代わりに変身も出来る。しかし契約モンスターをどうにかせにゃ寝首掻かれそう
ファイズ…奪えるけどウルフェノクの対処が難儀。作中でも負け無しだしかなり強い
ブレイド…奪える。融合係数如何によっちゃ変身も出来る。だがTV本編終了後だと
剣崎はアンデッドになってるから倒すことは出来ない為、封印するしかない
響鬼…ベルトは無いけど変身アイテム(音叉)は奪うことは出来る。ただそれで倒せるかって言ったら微妙……
カブト…ゼクターは普段は移送空間に居る(だっけ?)から無理。ただし変身直前に飛んできたのを捕まえれば
何とかなるかも。ただまぁ相手が天道だし……
電王…奪える。けど良太郎に憑依したイマジンに追い回されて面倒なことになりかねん
キバ…奪っても隙を見て帰っちゃいそう。檻に入れときゃ大丈夫?覚醒後の渡相手は色々と厄介
ディケイド…奪える。けどユウスケなり海東なりがなんかしてきそう
W…作中でもメモリを奪われたりドライバーを封じられたりしてるので、変身無効化は出来る。
ただ翔太郎自身もそれなりに身体能力が高いので即KOとはいかないかも

クウガあたり微妙かも……

>>722
それどころか傾向的に広域一斉攻撃能力が低いライダーにとっては最悪の能力ですよ。
ゾルダ……
ガタック……

731魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 01:59:59 ID:Xfpoy0UA
>>729
素で強いやつは大丈夫そうね
アマゾンとか

732魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 02:15:30 ID:yaU4oEBE
Vガンの同人誌に"主役クラスのNTの感知能力すら簡単に騙すNT"っていたな。
それでも経験豊富な老人NTには初見で見破られたけど。

案外経験に裏打ちされた分析能力とかに長けた人物とかならシルバーカーテンをあっさり見破るかもしれない。
クアットロ自身はそういう相手にぶつかったことなさそうだし。

733魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 07:04:42 ID:GJTRwKC.
つーかシルバーカーテンが全ての感覚誤認すると言うが
こういう幻影系の対抗手段は今も昔も心眼とか第6感とか野生の勘だとかだと
思うがね。触覚覘いた4感は偽装できても幻影の天敵的なそういう能力にゃ弱いんじゃね?

734魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 07:19:58 ID:w6IqvM/Q
本編で、はやての超距離狙撃で消滅したのを見る限りは
ちょっとした衝撃には弱い感じだしねシルバーカーテンで見せる幻覚や幻影は。あれの超距離狙撃を受けて尚、消滅しなかったら脅威だったけど

単に見せてるだけではウザい雑魚怪人や戦闘員が増えた程度でしか無いと思う
仮面ライダーからすれば

735魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 08:31:45 ID:4X0Pmwq6
>>722
広域と言うか面制圧出来そうなのは…
J…巨大化で一網打尽

RX…キングストーンフラッシュ

アギト系…G3・マイルド(GG-02)、G3-X(GX-05)、G4(ギガント)

龍騎系…マグナギガ、ドラグレッダー、ブラッカー、ダークレイダー(ブラストベント)

ファイズ系…オートバジン、サイドバッシャー、ジェットスライガー、ブラスターフォーム

ブレイド系…ワイルドカリスとブレイドキングフォームなら凪ぎ払い的な感じで行けそう。

カブト系…マキシマムハイパーサイクロンで

電王系…各デンライナー、キングライナー

キバ系…キャッスルドラン

ディケイド…とりあえず化けりゃあ何とかなる。ディエンドもパチモン召喚でガンナー揃えりゃ良い

W…今後の展開次第。今のところは青黄?


うん、一部無理矢理な気がしなくも無いけど結構あるね

736魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 10:31:03 ID:P7LMNNbE
空想科学大戦の仮名ライダーを倒すのは簡単そうに見えて地味に大変なんじゃなかろうか。

737魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 10:36:28 ID:w6IqvM/Q
ライダー世界の怪人もナンバーズでは太刀打ち出来るか微妙な奇人・変人・超人揃いだしね

そんな化け物と戦ってたライダーが、悪く言えばシルバーカーテンみたいな、たかが幻影や幻覚だけで倒せるなら悪の組織や怪人たちは苦労せずにライダーを倒して世界征服を出来たと思う

738魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 11:11:37 ID:iGLWr7AE
何しろリリカルとライダーのクロス。ならばディケイドの影響を受ける可能性も否定できない。
そう、スカリエッティが大ショッカーの幹部であったなら、戦闘機人もその技術でパワーアップできたかもしれない、と。
……ナンバーズがモモタロスたちと掛け合い漫才している可能性も?

739魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 12:38:16 ID:P7LMNNbE
仮面ノリダーの世界とか無いのかな

740魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 12:41:08 ID:gyqiEYvY
555みたいな1万人ライダーとかそんな感じで技術提供なら有り得る。
そーいやクロス先技術で強化されたナンバーズって何があったけ?

741魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 16:30:02 ID:gW8Xg5gw
>>730
奪われる可能性がある奴はベルト自体が特殊とか、呪いに近い契約してますってのがありますねw
あとは、奪われても怪人になるもん!ってたっくんwww

シルバーカーテン使用するだけじゃ幻影を見せるだけで勝てないから、当然クアットロも他のナンバーズや、
GDを使うのだろうが、ライダーのソレに合わせて増えたら終わるよね。ライダー一人で戦わなきゃいけないってわけじゃないし。
ナンバーズ全員とGD出動したら、ディケイド&ディエンド+オールライダーで掛かって来いッ!言われるw

742魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 18:05:11 ID:rSE1XHd.
ファイズの変身アイテムは基本的にオルフェノクか、体内にオルフェノクの記号を持っていない人間には不可能らしい。
不適合だった場合ファイズギアでは吹き飛ばされ、カイザギアでは解除後に灰になり、デルタギアでは精神異常(闘争本能を刺激?)される。

鬼に変身するには相応に鍛えなければならないから……むしろ、なのはの実家の面々の方が適しているかも。

743魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 18:40:50 ID:K9.JeGXY
鬼は鍛えに鍛えぬいた果てに初めて変ずる事ができるからな
なのはより実家の人たちの方が向いてるのには同意する
変身ごとに服を全損させるが、装備は耐えられるようだし
専用のスーツでも開発するか?

ディケイドでは魔に近くなる副作用も示されてたけど
牛鬼が伝説などと言われるぐらいだから、そこまで暴走は多くないのだろう

744魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 19:40:52 ID:w6IqvM/Q
アギトの能力も覚醒の有無次第では
なのは世界の面々にもなれる可能性はあるんだよね。

745魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 20:10:28 ID:9edTmQn2
AGITOは白服の青年の力を得ているアギト世界でないと無理じゃね
原作設定では黒服の青年オーバーロードの元配下だっけ?
プロメテウスみたいな存在だとか聞いたけど

746魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 20:21:59 ID:LW69BDGs
イクサ装着させるのが簡単ではある

747魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 20:46:57 ID:w6IqvM/Q
一番、制約関係なく変身可能な主役ライダーは電王系列だよね
基本的にライダーパスとベルトさえあれば誰でも変身可能だし
ガオウとか良太郎(デンカメラソードがある頃)とか一部はイマジン無しでもプラットフォームよりランク上の戦闘モードである各フォームになるから

748魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 20:52:05 ID:rjoHFBzI
タイムマシンであるデンライナーが管理してる汎用デバイスだしな
原作を見る限り、力を十分に出せれば装着者すら問わない
パスが基本であってベルトは本人のチャクラから生成してるんだっけ?

749魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 20:56:40 ID:oG78WZj2
>>746
現時点で一番安全で安定した完全人口のライダーシステムだよな。
最新型なら誰でも確か変身可能だった筈(ライジングはさすがにキツイかも)

750魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 21:35:12 ID:c9ySOdfE
>745
人間が進化して次の段階に進むこと、それを黒い服の青年(神)が嫌っておりロード達は『進化する可能性のある人間とその血族』を殺害している。
魔法という可能性を身に着けた、次の段階に進もうとする人間――アンノウンに襲われるには十分かもしれない。

751魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 21:55:46 ID:rjoHFBzI
>>750
ディケイドを見る限り、異世界の人間に対してのスタンスは微妙な所
どっかであったな、天使が偉そうな説教をたれてくるけど
おめえ、この世界の神と関係ねえから!と主人公達にフルボッコにされた作品

752魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 22:17:56 ID:pNlr7yqM
んーとデビチルの光と闇の方だっけ?

753魔法少女リリカル名無し:2010/01/12(火) 22:36:06 ID:w6IqvM/Q
ファイズギアを除いて洒落にならないペナルティが多いライダーズギアだけど
オーガとサイガのベルトで不適合だった場合のペナルティは何なんだろ?双方、悪役だったから最初から適合者しか出てないけど

754魔法少女リリカル名無し:2010/01/13(水) 01:17:28 ID:e83zLweQ
力が強すぎるベルトだから双方適合しなければ制御できない力に飲まれて灰化じゃないの

755魔法少女リリカル名無し:2010/01/13(水) 05:46:34 ID:qbgZnlNM
オーガ、サイガ、ファイズブラスターフォーム


このあたりはオルフェノクでも力の弱い奴が変身すると灰になるって設定があったはず

756魔法少女リリカル名無し:2010/01/13(水) 05:55:48 ID:dOPskJrM
ゾイドのゾを逆にするとバになる
つまりこのスレ違いはバイドの仕業だったんだよ!(AA略

757魔法少女リリカル名無し:2010/01/13(水) 10:15:12 ID:LKKW7tyw
帝王のベルトをお持ち帰りした時をかける通りすがりの怪盗さん
なのは世界でのお宝はやっぱりレイジングハートだろうか?

758魔法少女リリカル名無し:2010/01/13(水) 10:22:23 ID:tWgMVg/6
お前ら雑談するなら本スレでやれ。
このスレはそろそろ過去ログ行きだ。

759魔法少女リリカル名無し:2010/01/13(水) 12:54:15 ID:fqW/IhKk
了解

760魔法少女リリカル名無し:2010/01/14(木) 12:56:55 ID:xxtjWwNE
また規制か…

761魔法少女リリカル名無し:2010/01/24(日) 02:28:20 ID:D9TS/s4o
ふと思ったんだけどクイーンズブレイドのニクスが持ってる秘宝フニクラも
管理局から見ればロストロギアなんだろうか?

762魔法少女リリカル名無し:2010/01/24(日) 04:38:37 ID:Fm.xkYQw
生物に分類されるんじゃないか

763魔法少女リリカル名無し:2010/01/24(日) 07:49:05 ID:D9TS/s4o
でもフニクラはニクスによって解放されるまでは封じられたくらいだし。漫画版と炎を統べる力と共に身に破滅をもたらす的な石碑が近くにあったのが示唆されてるくらいだし

パッとみては生き物みたいな材質と形状の超最新の技術を使った所属不明の新型デバイス扱いされるんだろうけど

764魔法少女リリカル名無し:2010/01/26(火) 11:11:50 ID:E7zg97yw
ユーノを変態フェレット呼ばわりした田村ゆかりの愚行に切れて
力道山が墓場から這い出て来て田村ゆかりに空手チョップした後で
大木金太郎が同じく墓から這い出てきて田村ゆかりに頭突きした後で
やっぱり墓から這い出て来たジャイアント馬場に
16文キックされる方向性でのクロスをキボンヌ

765魔法少女リリカル名無し:2010/03/01(月) 19:03:14 ID:DbuAvSuE
スレどころか2ch自体がなぜか見れない現状・・・

766魔法少女リリカル名無し:2010/03/01(月) 20:10:56 ID:o/kw29s2
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1233736952/959-960

767<削除>:<削除>
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768R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:01:14 ID:HxUl0Emw
「増大だと? 計測系異常の可能性は」
『所属勢力を問わず、本艦を含めた全ての魔導兵器で同様の現象が確認されているとの事です。間違い在りません、明らかに炉心出力が上昇しています』

隔離空間の拡大より87時間、本局の陥落確認より82時間後。
無数の勢力が入り乱れての隔離空間内部艦隊戦、その戦局は混沌の様相を呈していた。
質量・魔導兵器、既存兵器と未確認兵器の砲火が入り乱れる戦場。
だが、戦域に存在する勢力の数は、極端に言い表してしまえば僅か3つに過ぎない。
バイド、地球軍、その両者を除いた全勢力による混成艦隊戦力。
物量も技術体系も異なるそれらが、互いの存在を否定し合い、同時に互いの存在を喰らい合っているのだ。

そして現在、管理局艦隊を含めた混成艦隊の様相は、その勢力に属する当人達でさえ全容を捉え切れないまでの多様性を誇り、度重なるバイドの大規模攻勢に対し正面から抗戦できる程の規模と戦力を有するまでに到っていた。
魔導兵器と質量兵器、既知の魔法技術体系を始めとした無数の未知なる技術体系が入り混じる、次元世界史上にも類を見ない大規模混成艦隊。
数万隻もの戦闘艦が入り乱れる、巨大という形容すら生易しい程の規模となった艦隊の中、百数十隻のXV級次元航行艦はとある一勢力による協力の下、艦体に負った損傷の修復措置を受けている最中だった。

「暴走、或いは爆発の危険性は」
『全く以って不可解な事ですが、炉心内部に未確認の4重結界が展開しているんです。明らかに外部からの干渉によるものですが、どの勢力が如何なる目的で実行したかについては全く不明です』
「「彼等」はどうだ、干渉は不可能か?」
『難しいでしょうね。「彼等」の艦艇や機動兵器は外観から判別できる様に、我々とは異なる技術体系を基に構築されています。どちらかと云えば、地球軍に近い。艦の兵装は全て質量兵器だし、何よりこの状況下でも一切の魔力反応が検出されません。「彼等」の技術体系は、提示された情報通りに純粋科学技術から成っている』
「地球軍と同等の科学力を有しているという訳でもない限り、こちらへの干渉など在り得ないという事だな」
『残念ながら「彼等」の科学力では、其処までには至っていないと考えられます。艦艇も兵器も我々より遥かに強力ですが、魔法技術体系に関する知識は無きに等しい。魔法との接触すら初めてであるとの情報を信じるなら、炉心制御どころかシステムへの簡易介入すら困難な筈です』
「「AC-51Η」は? 増幅率はどうなっている」

艦隊中枢であった第10支局艦艇は、約80時間前にバイドの複合武装体からの攻撃を受け轟沈。
総数90を超える陽電子砲撃を全方位より浴びせ掛けられ、巨大な支局艦艇は爆発すら起こす事もできずに消滅した。
僅かに残された残骸だけが空間を漂う中、残存艦艇は宛ら発狂したかの様な激しさで以って、アルカンシェルによる連続砲撃を全方位へと放ち続けたのだ。
その砲撃により、常に相対距離を詰めんと迫り来る中距離および短距離運用型機動兵器群については、文字通りの一網打尽とする事ができた。
しかし、陽電子砲を始めとする超長距離砲撃兵装を備えた大規模兵器群および艦艇群については、それらの兵装とアルカンシェル、双方の間に存在する圧倒的なまでの射程の差により、効果的な打撃を与える事は不可能。
せめてもの抵抗として「AC-51Η」により増幅された魔力、その全てを注ぎ込んでの超長距離通常魔導砲撃を実行してはいたが、建造構想を無視しての運用を実行した結果として、攻撃全般に関するシステムがダウンする艦艇が続出する事態となったのだ。
そしてクロノが指揮を執るクラウディアもまた、同様の事態へと陥った艦の1つであった。

抵抗手段が失われつつある中、艦隊の壊滅は時間の問題と思われた。
だが、そんな絶望的な状況下で、救いの手は意外な方向より齎される事となる。
第66観測指定世界バルバートル合衆国、第71管理世界メイフィールド王朝。
互いに敵対状況下に在る2勢力の艦隊が、共同作戦行動として管理局艦隊に対する援護を開始したのだ。
更には第179観測指定世界エムデン連邦、第148管理世界ダオイェン共和国、其々が有する艦隊戦力の一部が合流。
それだけに止まらず、既知か否かを問わず無数の勢力に属する艦隊戦力が次々に合流し、徐々に大規模な混成艦隊を形成し始めたのである。

769R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:02:43 ID:HxUl0Emw
『機能していません』
「何だと?」
『「AC-51Η」は魔力供給系統から隔絶されています。6つもの結界が、バイド体を完全に封じ込めているんです。当然ですが、我々の手によるものではありません』
「では、それも外部からの干渉なのか」
『ええ、間違いなく。誰が何の為に、と訊かれてもお手上げですが』

各艦隊が他勢力との合流を選択した背景には、複数の理由が在った。
自身等の戦力のみでは継戦不可能と判断した勢力も在れば、静止衛星軌道上の大規模施設内に存在する民間人の保護を求めてきた勢力も在る。
戦後の管理世界に於ける発言力の強化を狙っているらしき勢力も在れば、守護するべき自らの世界をバイドによって完全に破壊され、帰るべき地を失った勢力すらも在った。
これまでに存在が観測されていた世界から、初の接触となる未知の世界まで。
あらゆる世界の有する艦隊戦力が其々の意図を以って集結し、圧倒的な物量と技術力を有するバイドに対し、辛うじて抗し得る巨大勢力を形成するに至ったのだ。
だがそれでも、想像を絶する物量で以って押し寄せるバイド群を前にして、合流を重ねてなお数で劣る混成艦隊が遠からず押し潰される事は明白だった。
各勢力間での艦艇性能の差、兵装の相違等により、総合的な戦力ではバイドのそれに後れを取っていたのだ。

このままでは、いずれ圧し潰される。
焦燥に駆られたか徐々に統制を失い始める混成艦隊を救った存在は、未知の超高速航行技術によって空間の彼方より現れた、1隻の巨大な戦艦を旗艦とする大規模な艦隊だった。
現在は巨大なバイド体と成り果てた、時空管理局・本局艦艇。
それですら、なお当該戦艦には遠く及ばないという、常軌を逸した巨大さ。
全長68km、全高10km、最大全幅12kmにも及ぶそれが、数千隻もの艦艇群を引き連れて出現したのだ。

『ただ、今のところそれ以外に異常は発生していません。それどころか、出力の増大に伴って攻撃システムへの魔力供給量が跳ね上がっています』
「具体的には」
『現時点でMC404の射程が約314%に増大、アルカンシェル・バレルプログラムへの魔力供給量最大値が407%に増大しています。推進系の出力は193%に増大、防御障壁の魔力密度は89%上昇です』
「・・・凄まじいな」

無論の事、混成艦隊は混乱。
想像を絶するほどに巨大な戦艦と大規模な艦隊が、一切の前触れなくバイド群の中心域に突入してきたのであるから、その瞬間を観測した混成艦隊を襲った衝撃は凄まじいものだった。
バイドの増援ではないかとの通信が交わされもしたが、その言葉はすぐに途絶える事となる。
出現直後に不明艦隊の周囲を埋め尽くした爆発は、全てバイド群が破壊された際に発生したものであったのだ。
不明艦隊は、バイドのみを選択的に攻撃している。
その事実を理解すると同時に、混成艦隊内部で飛び交う通信には無数の歓声が上がった。
巨大戦艦と周囲の艦隊が放つ高密度の砲火により、周囲のバイド群が薙ぎ払われるかの如く破壊されてゆく様は凄まじく、混成艦隊に希望を齎すには十分に過ぎたのだ。
だが、その希望が畏怖へと変貌するまでに、時間は掛からなかった。

爆発。
正にそうとしか、その攻撃を形容する術はなかった。
巨大な艦体の各所、無数に設置された兵装の全てが、一斉に砲撃を開始したのだ。
それらは全て質量兵器による攻撃であり、ミサイルを始めとする有実体弾と光学兵器、更には明らかに波動粒子を用いていると判断できる砲撃すら含まれていた。
巨艦を中心として、爆発としか言い表し様のない砲撃の壁が形成され、それらは一瞬後に全方位のバイド群を呑み込む。
混成艦隊が展開する方面ですら例外ではなく、無数のミサイルが艦艇群の間を縫う様にして通過し、その先に存在するバイド群の中心へと踊り込んでいた。

『それと、もうお気付きかもしれませんが・・・』
「リンカーコア、だろう?」
『ええ』

770R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:03:35 ID:HxUl0Emw
そして、閃光。
全てが白く染まり、XV級のブリッジドーム内が眩い光に埋め尽くされた。
十数秒後、衝撃。
クロノを含め、全てのブリッジクルーが自らの持ち場から弾き飛ばされる程の衝撃が、数十秒に亘って荒れ狂った。
衝撃は余りにも凄まじく、漸くそれが収まった時には、激痛に耐えているらしき複数の呻きがブリッジドーム内に響いていた程だ。
クロノも例外ではなく、コンソールへと強かに打ち付けた額からは夥しい量の血液が流れ、更には左前腕部の骨格に罅が入っていた。
それでも、一定の間隔を置いて襲い来る激痛を無視しブリッジドーム内を仰ぐと、其処にはクラウディアへと襲い掛かる業火の壁が在ったのだ。
再度に襲い掛かった衝撃を認識した、その場面を最後にクロノの記憶は途切れ、次に意識を取り戻した時には艦長席にて医療魔法による治療を受けていた。
クラウディア被害状況、重傷者11名、右舷推進ユニット停止。

混成艦隊を襲った閃光と衝撃、そして業火の壁が無数の核爆発により発生したものであったとの報告が他の艦艇より齎される頃には、既に探知可能域内のバイド群は極一部を残し消滅していた。
圧倒的な密度を以って嵐の如く襲い掛かった砲火の前に、迎撃も回避も儘ならず一方的に殲滅されたというのだ。
信じ難い報告ではあったが、事実としてバイド群の反応を示すものは、嘗ての本局艦艇を含む極僅か。
30を超える惑星を物理的に崩壊させた戦略級大規模光学兵器運用施設でさえ、その構造物の殆どを失い単なるデブリと成り果てていた。
そして、クロノを始めとする全てのブリッジクルーが、ドーム内に浮かび上がる隔離空間内部の映像を唖然として見上げる中、事態は更なる急転を迎える。
巨大戦艦から全方位へと、未知の言語による合成音声の通信と共に、複数パターンでの呼び掛けが開始されたのだ。

『私自身はリンカーコアを持たないので何とも言えませんが、複数の部下が異常を訴えています。皆、魔導師としての活動に従事できる程の適性は有していない筈なのですが、この数時間で明らかに総魔力量が増えているそうです』
「だろうな、僕もそうだ」
『やはりですか。第8支局の連中が言うには魔力保有量、制御能力、変換効率から瞬間最大出力に到るまで、あらゆる魔導資質が無条件で強化されているらしいとの事です。今この瞬間も、更なる強化が持続的に起こっていると』

予想だにしなかった事態の変化に、混成艦隊を成す各勢力は、各々が知り得る限りの言語を以って返信を開始した。
意味を為さない遣り取りが十数分間に亘って続く中、エムデン連邦艦隊に属する通信技師が、特定パターンでの意思の疎通に成功。
当該パターンは混成艦隊に属する全勢力へと直ちに公開され、不明艦隊とのシステムを介した自動翻訳、音声ではなく文面による意思疎通が開始される。
その後の遣り取りによって明らかとなった事実は、既知の認識を超える次元世界の広大さ、そして予測以上の事態の深刻さであった。

管理世界による探索の手が及ばぬ、深次元世界。
彼等はその更なる深淵、数百にも及ぶ世界に跨っての一大文明圏を築く、既知の人類とは起源を異にする高次知的生命体群であった。
非常に高度な科学力を有する彼等ではあるが、しかし魔法技術体系については全く知識を有してはいない。
管理世界の概念にして千数百年という、膨大な時間を掛けて発達させてきた純粋科学技術のみを以ってして、管理世界に匹敵する巨大文明圏を構築するに至ったというのだ。

「・・・魔導兵器の性能向上に、魔導師の資質強化か。兵器に関しては、御丁寧にも暴走を抑制する為の結界付き。だというのに、何処の誰が何の為に、更に云えばどうやってこんな事をしているのか全く判らない。何とも薄気味の悪い話だな」
『バイドでしょうか? 何かを企んでいるのでは・・・』
「敵対勢力の戦力を向上させて何になる・・・まあ、在り得ない話とは言い切れないが。今更何が起こっても、もう驚かないさ」
『同感です。もう一生分の驚愕を使い果たした気分ですよ』

771R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:04:40 ID:HxUl0Emw
それだけでなく、彼等が提示した情報を信用するのならば、当該文明圏は眼前のそれと同規模・同型の巨大戦艦を計7艦、其々に異なる武装が施されたそれを有しているという。
現在、それらの艦艇は隔離空間内部の各所に於いて不明勢力、即ちバイド群との交戦を継続しているとの事。
更に、隔離空間内部各所に於いて、この宙域と同様の複数勢力による混成艦隊が形成され、周辺惑星を護るべく激しい戦闘が展開されているというのだ。
余りにも信じ難い規模の情報ではあるが、次元世界の広大さを考慮するならば、然るべき状況と云えるのだろう。
そして、バイドに対する大規模抵抗勢力が多数存在するという事実は頼もしいが、しかし少し観点を変えたならばその情報は、バイドが無限とも思える程に広大な次元世界、その全てを呑み込んだのではないかという最悪の推測が事実であると証明するものでもあるのだ。
状況が好転していると判断するには、余りにも懸念要素が多過ぎた。

予期せぬ巨大勢力の出現、そして錯綜する大量の情報に混乱し掛ける混成艦隊。
しかし結果として、艦隊戦力は大幅な強化が為された。
不明艦隊との意思疎通の結果、混成艦隊は彼等との共闘体制を取る事となったのである。
そして今、クラウディアを含む20隻のXV級次元航行艦は、巨大戦艦内部へと収納された上での修復措置を受けている最中だ。
20隻ものXV級を同時に収納可能という点はともかくとして、艦艇内部での修復措置そのものについては正に技術の差を明確に見せ付けられた。
数十万ものパーツに分割された修復機器、一見しただけでは壁面としか判別できぬそれが津波の如く蠢き、クラウディアの艦体を完全に覆い尽くしてしまったのだ。
直後、要請に従いリンクを実行したシステムを介し、ブリッジドーム内には艦体修復状況および修復措置完了までの予測所要時間が表示された。
予測所要時間、410秒。
現在、残り60秒弱である。

『そういえば、地球軍の挙動にも異変が見られるそうです。R戦闘機群の機動が鈍くなった、等という報告が飛び交っていますが、そちらでは確認していますか?』
「ああ、複数の勢力が確認している。どういう訳か、彼等は急激な戦闘機動を控えている様だ。高速性は相変わらずだが、物理法則を無視した異常な機動などは実行頻度が下がっている。尤も、それも観測し得る範囲では、の話だが」
『やはり、地球軍艦隊にも何らかの異常が起こっているのでしょうか』
「分からない。だが、希望的観測に基いての状況判断は禁物だ。他のクルーにもそれは言い聞かせてくれ・・・以上」
『了解しました』

ウィンドウを閉じるとほぼ同時、スクリーン上に修復措置完了との文面が表示された。
巨大戦艦内部との情報交換に関しては、音声による意思疎通は一切用いられていない。
全て、文章での遣り取りとなっている。
当初に巨大戦艦側が用いていた未知の言語による合成音声での通信は、これまで解析に成功した他文明の言語を基に構築したものであるという。
彼等自身の文明圏にて用いられている言語については、何ひとつ明らかとなってはいないのだ。
こちらからの情報提供に関しては、システムを介する事によって音声をパターンへと自動変換する事が可能である為、特に不自由は無かった。
だがそれでも、意識中へと生じる僅かな違和感ばかりは如何ともし難い。

何よりこちらには誰1人として、彼等の生命個体としての外観を目にした者が存在しないのだ。
こちらと同様、既知の人類と似通った共通点を多く有する姿なのか、或いは全く異なる外観なのか。
若しくは存在概念からして、こちらとは根本的に異なる存在なのかもしれない。
現時点に於いて判明している事実は、彼等が非常に高度な純粋科学技術から成る巨大文明圏を築き上げた存在であり、実際にその文明圏が有する戦力の一端が眼前に存在し、そしてこちらに対して協力的な姿勢を保っているという、この3点のみである。

『艦長、自動修復措置の完了を確認しました。艦体外殻損傷率、各箇所とも0%です・・・完全に修復されています』
「右舷推進系はどうだ」
『小型リペアユニット、数百体による修復を確認しました。メカニズムに関わる情報を収集された虞は在りますが、現時点では・・・』
「それは気にするな。どの道、他の艦艇からも情報は収集しているだろう。本艦だけが機密を保ったとしても、何の意味も無い」
『了解しました・・・修復機器群、本艦より離れます。前方、隔壁開放』
『艦長、巨大艦艇内部より指示が在りました。微速前進し、艦艇外へと離脱せよとの事です』
「こちらでも確認した。送信準備、彼等に礼を言わなければな」

772R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:05:41 ID:HxUl0Emw
ともかく、彼等にこちらへの敵対的意思が無い事だけは、既に確定しているのだ。
少なくとも地球軍と比較すれば、遥かに友好的な勢力であると云えるだろう。
クラウディアの周囲を覆う無数の修復機器群が離れ行く様を、ドーム内の映像越しに見つめつつクロノは思考する。
地球軍は敵か、それとも味方か。
本局艦艇の陥落とバイド汚染による変貌を確認した直後に、本局直衛艦隊より地球軍からの攻撃を受けているとの通信が発せられていた、と伝える情報も存在するが、真偽は定かではない。
こちらから情報の詳細を問う前に、その報告を齎した情報通信艦艇が数十機のゲインズから陽電子砲の一斉砲撃を浴び、僅かな残骸のみを残し消滅してしまったが為だ。
他の艦艇に関しては、バイド群からの激しいジャミングによって通常通信の維持すら覚束ない状況であり、それ以上の真偽を追求する余地など在りはしなかった。
少なくとも現時点では、真相を知り得る術は無い。

そして現在、第97管理外世界の静止衛星軌道上付近に留まる地球軍艦隊は幾分かその艦艇数を減じ、しかし今なお健在と云える様相であった。
クラナガンでの戦闘に於いて捕虜となったR戦闘機パイロット、第10支局艦艇と共に塵となったその人物は、国連宇宙軍・第17異層次元航行艦隊の艦艇総数を40隻と供述していたが、当該艦隊の実態は更に多くの艦艇によって構成されるものであったらしい。
艦隊出現直後に確認された艦艇数こそ供述通りであったものの、更に20隻以上もの艦艇が浅異層次元潜行状態にて潜んでいたのだ。
艦艇総数70を超える規模かとまで思われた艦隊は、しかし常軌を逸したバイドの物量を前に、50艦前後にまでその数を減じていた。
大型バイド体と化した本局艦艇、其処から放たれた対浅異層次元極広域戦略攻撃により撃沈されたであろう浅異層次元潜行中艦艇の存在を考慮すれば、本来ならば艦艇総数80隻以上もの規模を有する艦隊であったと推測できる。
彼等は現時点までに、30隻前後の艦艇を失っている筈だ。

『接続を確認。艦長、どうぞ』
「こちら時空管理局次元航行部隊所属、XV級次元航行艦クラウディア。損傷箇所の修復完了を確認、貴艦の厚意と支援に心より感謝する。幸運を・・・以上」
『送信を確認』

だが、それ程までに損害を受けておりながら尚、地球軍艦隊は圧倒的な脅威として戦域に君臨していた。
浅異層次元潜行状態に在ったのだろう、艦隊旗艦である「UFBS-AE3 NIFLHEIM」に匹敵する程に巨大な、箱状の艦艇。
艦隊が有する数百機のR戦闘機、それらの母艦として機能していたと推測される空母型らしき3隻の巨大艦艇は、バイド化した本局からの戦略級対浅異層次元攻撃によって破壊され、デブリとなって隔離空間内部へと出現した。
これによりR戦闘機群は、帰るべき母艦を失った事となる。
他の艦艇にも機体収容機構が備わってはいるのだろうが、それらの能力は空母には及ぶべくもないだろう。
補給や損傷を負った機の修復が滞る事は避けられず、地球軍の継戦能力は大きく殺がれる筈だ。
そんな他勢力の予想を裏切り、3隻もの空母を失いながら、地球軍艦隊の継戦能力は一向に衰える様子を見せなかった。
彼等は未だに、無尽蔵かとすら思える数の核弾頭を絶え間なく放ち続け、偏向光学兵器と荷電粒子砲、更には波動砲と陽電子砲によって、周囲のバイド群に対する殲滅作戦行動を継続しているのだ。
出現より80時間を超え、なお尽きる兆候すら覗えぬ地球軍艦隊の弾薬類に、如何なる技術が用いられているのかと誰もが疑問を覚えたが、それに関しては約34時間前に解消される事となった。
地球軍艦隊が、奇妙な行動を執り始めたのだ。

773R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:06:25 ID:HxUl0Emw
あらゆる勢力が警戒の意図を以って観測を継続する中、戦域を漂う無数の残骸、友軍艦艇からバイド群のものに至るまでを含むそれらを、作業機らしき機体群および偏向重力によって収集し、貪欲に艦艇内部へと収納し始める地球軍艦艇。
何をしているのかと訝しんだクロノであったが、その地球軍艦隊の行動が示す意図を見抜いたのは、既に混成艦隊所属艦艇群に対する修復支援を開始していた巨大戦艦、それを運用する勢力だった。
彼等がシステムを介した自動翻訳文面にて指摘した事実は、超高効率原子変換による弾薬製造の可能性。
どうやら彼等の巨大戦艦も原子変換による弾薬製造機構を備えているらしく、地球軍艦隊の行動の真意を見抜くに至ったのだ。
彼らより齎された事実はその時点でも驚愕すべきものであったが、続けて更に信じ難い情報が告げられる事となる。
少なくとも彼等の技術では、地球軍艦艇程度の規模しか有しない構造物内に、原子変換設備を内蔵する事など不可能であるというのだ。
更に云うならば、恐らくはバイドの複合武装体にも、同様の機能が備わっている可能性が高いという。
即ち、地球軍とバイドに関して云えば、弾薬の枯渇など期待するだけ無駄であるという事だ。
地球軍、そしてバイドは、核を始めとする各種戦略級兵器を、限定条件が存在するとはいえ、半ば無尽蔵に使用する事が可能なのであろう。

「微速前進、艦艇内部より離脱せよ」
『不明勢力より返信・・・クラウディア、貴艦の健闘を祈る。幸運を・・・以上です』
「・・・了解した」

新たに発覚した恐るべき事実に、混成艦隊内には動揺が拡がった。
だがそれも、現在は完全に収束している。
地球軍艦艇と同じく原子変換機構を有する巨大戦艦が、各種弾薬および補給物資提供の実行を提言した為だ。
既に、質量兵器を運用する艦艇については弾薬の供給が開始されており、その他にも燃料から医療品に到るまで、あらゆる物資が巨大戦艦から提供されている。

そして、管理局艦隊を始めとした魔法技術体系から成る兵器群については、数時間前から原因不明の出力増大現象が確認されていた。
圧倒的出力で以って各システムへと供給される魔力は、単純に艦載兵装の性能を底上げするだけではなく、機動性についても劇的な向上という恩恵を齎している。
懸念事項を挙げるとするならば、増大した魔力量に供給系が耐えられるか、といった点だろう。
だがそれも、各勢力に於いて独自に対処できる程度のもの。
魔法技術体系全般に共通する柔軟さこそが、この状況に対する兵器群の適応を可能としているのだ。

だが一方で、気掛りな事象も在った。
確認し得る範囲、その内で例外なく発生している魔導資質の強化である。
魔力炉の出力増大と時を同じくして始まったこの現象は、今この瞬間でさえ全ての魔導師が有するリンカーコアを強制的に進化させているのだ。
先程の通信では強化の程度について触れはしなかったが、実際には信じ難い程の魔力が自身の内に渦巻いている事を感じ取っていた。
クロノ自身の魔導師ランクはS+だが、魔力保有量はAA+相当の筈である。
ところが現在、彼が自身の内へと感じ取っている魔力量はSランクどころか、この魔力は本当にリンカーコアより齎されているものなのか、との疑いを抱く程に強大なものであった。
何せ、小型魔導兵器への搭載を目的とした汎用魔力炉の出力、それに匹敵する程の魔力が常に満ち満ちているのだ。
微細な量の魔力を常に放出し続ける事で安定を保ってはいるものの、宛ら自身が高密度魔力結晶体そのものと化したかの様な緊張がクロノを支配していた。
恐らくは、この隔離空間内部に存在する魔導師、その全てが同様の感覚に襲われている事だろう。

全く、生きた心地がしない。
何処からか際限なく供給される魔力は、次第にその瞬間量を増し続けている。
通常、これ程の量の魔力がリンカーコアを圧迫し続ければ、魔導資質それ自体が損なわれる例を始めとして、最悪の場合は死亡する可能性すら在るのだ。
にも拘らず自身は現在、身体にもリンカーコアにも、僅かなりとも異常を覚えてはいない。
その事実こそが、逆に自身の違和感と不安を煽っている。
継続的な魔力の放出も、自身が暴走を危惧して実行している事だが、恐らくは止めたところで何ら異常など起きはしまい。
リンカーコアに関しても魔力炉と同じく、暴走阻止を目的とした何らかの干渉が為されているのだ。

774R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:07:52 ID:HxUl0Emw
だが、何処の勢力が如何なる目的で以って、この様な干渉を実行しているのか。
バイドと次元世界、双方の相打ちを狙う地球軍の工作か。
或いは、侵蝕によって高性能な戦力を手中に収める事を目的とした、バイドからの干渉なのか。
そのどちらでもない新たな不明勢力による、予測の付け様も無い恐るべき目的に基いた作戦行動なのか。

『艦長。エムデン連邦軍ルフトヴァッフェ所属、第3次元巡航艦隊旗艦「マエル・ラデック」より入電。巨大戦艦の艦種および艦名を特定したとの事です』
「艦名だと?」
『疑似的ではありますが、近似の意義を持つ単語を特定したと伝えています』

並列思考の一端を状況分析へと当てつつ、クロノはクルーからの報告に異なる区画の思考を加速させる。
巨大戦艦の明確な艦種および艦名については、今に至るまで確定してはいなかった。
当該情報の提示を要請はしたのだが、該当する概念を示す言語が存在しない、との答えが返されたのだ。
どうやらエムデン連邦軍内では、それ以降も艦種と艦名の特定を諦めてはいなかったらしい。
散発的ながら大規模な戦闘、そして艦艇群の修復と補給作業とが続いていた為に、未だ巨大戦艦については仮の名称となるコールサインすら決定されてはいなかった。
だが少なくともこれからは、何と呼称すべきか、という疑問について悩まされる事は無いだろう。

そんな事を思考しつつ、クロノは念話にて加速を指示した。
周囲を覆う金属製の構造物内より脱したクラウディアは、すぐさま指示通りに加速。
ブリッジドーム内に映し出されるは、隔離空間内に浮かぶ無数の艦艇と天体群。
それらを視界へと捉え、何処からか供給され続ける膨大な魔力によって疲労すら解消された身体を深く艦長席へと預けながら、クロノは報告の続きを促す。

「それで、詳細は」
『お待ちを・・・読み上げます』

クラウディア、転進。
ドーム内の映像反転、表示対象は天体と艦艇群から巨大な「壁」へと移行。
「壁」は明らかに人工物であり、また各所に備えられた無数の巨大な砲塔から、恐らくは軍事目的によって建造されたものであると判断できる。
砲塔の規模はユニット単独でさえクラウディアの倍近くも在り、更に単砲身型と連装回転式多砲身型の存在が見て取れた。
更にはミサイル発射口であろうか、無数のハッチが各所に設置されている。
それらはクラウディアが離脱した艦艇格納デッキへのハッチを更に上回る規模であり、予測ではあるが1箇所毎に数百基ものミサイルが装填されているのであろう。

次いで映像が下方へと移動すると、其処にはブースターノズル4基が列を為して配置されていた。
円形のノズルは単基につき直径3kmを超えるという、途方も無く巨大なものだ。
注意深く観察すれば、4基のノズルを挟んだ反対側に、更に同型のノズルが複数存在していると分かる。
ノズルの総数、計8基。
推進系の一端を担っているらしき周辺部位のみですら、12km以上にも亘る巨大な構造体を形成していた。
そして何よりも、異様なその外観、「壁」のほぼ全体を覆う「緑」掛かった特殊外殻装甲。

極大という概念ですら、なお及ばぬ程の圧倒的な規模。
暴虐という表現ですら、なお及ばぬ程の絶対的な暴力。
未知なる文明、未知なる技術によって建造された、余りにも巨大、余りにも強大なる異形の「壁」。



『目標艦艇、完全独立型移動重拠点艦「グリーン・インフェルノ」。繰り返します。目標艦艇名、グリーン・インフェルノ』



数万隻の艦艇群、その中枢に君臨する「緑の地獄」。
異形の巨大戦艦に対して与えられた、管理世界周辺域での新たな言語による呼称。
損傷艦艇群に対しての修復支援を継続するその艦は、これより移動を開始するとの警告、そして目標宙域の座標を周囲へと発信しつつ、徐々に加速を開始していた。
新たなバイド群の出現を探知、守勢より積極的攻勢へと移行したのだ。

寸分違わず全くの同時、一斉に稼働を開始する無数の巨大砲塔。
その規模と外観に見合わぬ、有機的な動作と速度で以って旋回し、砲口をバイド群へと突き付ける。
新たな警告、砲撃余波影響範囲外への離脱指示。
クロノは即座に、再度の転進を命じる。

「進路変更、モード4。第11分艦隊と合流後、データリンク実行」
『了解』

775R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:09:12 ID:HxUl0Emw
クラウディア、自動航行。
無重力下での艦艇運用に於いて、口頭を用いての正確にして迅速な指示の実行は困難を極めるものだ。
よって管理局艦艇に於いては、艦艇とクルーとを念話によって接続し感覚的な運用を可能とする操艦支援機能および、状況に応じてシステムが操艦全般を管制する自動航行機能が備えられている。
現在はクロノの指示によって操艦を実行しているものの、正確な方位等の設定を担っている存在はクルーではなく、艦のシステムだ。
他艦艇とのデータリンクが実行されれば、単独ではなく複数のシステムが互いの操艦機能に干渉する事となる。
否、操艦のみではない。
艦隊防衛から攻撃行動に到るまで、その殆どの情報管理がクルーの手を離れ、各艦艇のシステムによって構築された大規模情報網へと委ねられるのだ。
それは最早、システムの創造主である人間にすら理解できぬ複雑さ、そして規模で以って構築された情報の砦と云えよう。
だが、クロノは思考する。

今ならば、今ならば或いは。
この艦のシステムが負担している膨大な量の情報、その大部分を自身の能力で以って処理できるのではないか。
魔導資質の強化の度合いは、この数分間で更に増大している。
並列思考の数は既に40を超え、しかし脳には僅かたりとも負荷など掛かってはいない。
思考速度は通常時の数倍にも達し、全ての感覚を介して得られる情報は瞬く間に処理され脳内へと蓄積される。
自身の全てが研ぎ澄まされ、洗練された感覚。
僅かでも緊張を緩めようものならば、己に不可能な事など何も無いと、途端に錯覚しそうな危うさが自身を満たしている。
だが、それは完全な気の迷い等ではなく、現実としてリンカーコアより齎される膨大な魔力、そして加速し拡大してゆく自身の感覚が、その様な認識の構築を助長しているのだ。

「厄介な・・・」

歯痒い。
この状況が、とても歯痒い。
今ならば魔導師として、即ち1個体としてすら、バイド体と渡り合う事が可能であるとすら思える。
バインドで敵のあらゆる動きを封じ、膨大な投射量の直射弾幕にて兵装を破壊し、欠片の生存すら許さぬ極寒の牢獄に陥れた後に粉砕できるという自信が在る。
だが、飽くまで自信であって確信ではない。
この感覚が単なる錯覚ではないと、そう断言する事は誰であろうと不可能だ。

バイドは、そして地球軍は、飽くまで生身の存在でしかない魔導師が抗し得る程、生易しい存在ではない。
単体の兵器を相手取るならばともかくとして、組織または群体としての彼等と渡り合うには、彼等が運用する兵器群、それと亘り得る能力を有する兵器を、それこそ彼等を上回る規模に至るまで生産、保有し運用せねばならない。
現時点でそれに該当する存在は、管理局に於いては次元航行艦に他ならない。
戦略魔導砲アルカンシェルを始めとする、魔導師には決して到達し得ない射程と効果範囲を備えた、攻撃目標とその周辺域に対し圧倒的な破壊を齎す魔導兵器群。
魔導師の有する資質が大幅に強化されたとはいえ、同じく強化された魔導兵器となど比較の仕様もない。
その様な考察は無意味であり、正しく愚の骨頂と云えるだろう。
だが、それを理解した上で尚、自らの内にて荒れ狂う魔力が、こう訴えるのだ。

今なら、戦える。
次元航行艦の艦長、巨大な兵器を稼働させるシステムの一部としてではなく、単体の魔導師として敵と渡り合い、その上で打倒できる筈だ。
魔導師は、魔法は、無力などではない。
この隔離空間内部で展開する艦隊戦、それに於いてすら有効戦力たり得る存在なのだ。
それを、証明してやる。
次元航行艦も、通常魔導砲も、戦略魔導砲も必要ない。
核、波動砲、陽電子砲、全て不要。
自身が有する魔導師としての力量のみで以って、眼前に存在する脅威の全てを排除してやる。

776R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:09:56 ID:HxUl0Emw
「思い上がるな・・・」

声を発した自らですら聞き取れぬ程の小声、しかし確固たる意思を込めて、クロノは自身を罵倒する。
己の力を過信するな、身の程を知れ、その様な思考は正常ではないのだ、と。
次元空間での戦闘に於いて魔導師は全くの無力であり、だからこそ魔導兵器運用プラットフォームとしての次元航行艦が開発され、現実として管理世界での戦場に於いて主力の座に君臨しているのだ。
魔導師の有する資質が強化された、その程度の事で次元空間での戦闘に適応できると云うのならば、始めから艦載型魔導兵器の開発など行われてはいない。
魔導兵器を開発する為に注ぎ込まれた資本も技術も、魔導師またはデバイスの強化・発展に充てられていた事だろう。
それを実行したとして、次元空間に於いて有用たる戦力とは成り得ないからこそ、殆どの世界は次元航行艦隊を保有しているのだ。
勘違いをしてはならない。
現在、隔離空間内部に存在する全ての魔導師を襲っているであろう、この抗い難い誘惑は、現状に於いて魔導師の有用性を示すという機会を与えるものではない。
逃れられぬ死へと誘う死神の鎌、甘い蜜の香りを帯びた死毒なのだ。

そう、如何に魔導資質の強化が為されているとはいえ、この隔離空間内部に於いて魔導師は未だに無力。
魔導兵器群もまた魔導師と同様に強化が為され、質量兵器群に於いては比較する事すらおこがましい程に強大なものばかりが跋扈している。
況してや、現在の空間内は真空状態なのだ。
観測初期に於いては何らかの不明物質により満たされていた隔離空間だが、現在の状態は次元空間、或いは宇宙空間と何ら変わりが無い環境なのである。
その様な通常生命の存在を許さぬ死の空間に於いて、生身の魔導師が長時間に亘って戦闘を行う事など不可能だ。
それでなくとも、眼前の戦場では途轍もない速度と射程、規模での戦闘が繰り広げられている。
状況は魔導師の能力で以って適応できる範囲を遥かに逸脱しており、それを理解できぬ者など存在しないであろう事は明白であった。

『警告。グリーン・インフェルノ、砲撃を開始します』
「了解、第11分艦隊との合流を急げ」

だが、もしもだ。
もしも魔導師を運用する上での、最低限の条件が揃っていたのなら。
そんな状況下に、魔導師が存在したのなら。
彼等は、戦う事を避けられるだろうか。
敵対勢力と自身等との戦力差を冷静に分析し、戦闘の回避を選択できるのか。
異常なまでに強化された魔導資質によって翻弄されるが儘に、勝機など在りもしない戦闘へと自ら突入するのではないか。

『砲撃開始!』

巨大戦艦とクラウディアとの相対距離、約11km。
グリーン・インフェルノ、砲撃開始。
弾体射出時に砲口より拡散する余剰エネルギーが、艦体各所を青白く照らし上げた。
更に、無数のミサイルが各所ハッチより射出され、青白い燐光を空間へと残しつつ前方および下方のバイド群、総数1万体を優に超える複合武装体の直中へと突入してゆく。
数千発の砲弾と、同じく数千基のミサイル群。
その全てが核弾頭を搭載していると知り得た際、クロノの心中へと去来した感情は憤り等ではなく、諦観そのものだった。
最早、管理局の理念が通用する状況ではないと、既に解り切っていた筈の事実を改めて眼前へと突き付けられたのだ。
だが、今は違う。
少なくとも魔導兵器に関しては、辛うじて質量兵器と同一次元での戦闘が可能となったのだ。

『リンク完了、各艦砲撃態勢』
『核弾頭、起爆!』
「機関、最大戦速。アルカンシェル、バレル展開」

核弾頭、全弾体起爆。
核爆発の衝撃が艦を揺るがす中、白光に埋め尽くされるブリッジドーム内に、機関最大出力を示す警告音が響く。
アルカンシェル、バレル展開。
有効射程は通常の3倍以上にも伸長してはいるものの、それでもなおバイド群が有する質量兵器のそれには遥かに劣る。
よって管理局艦隊を始めとする、魔法技術体系により構成された兵器群を運用する勢力には、核爆発直後の混乱を突いて距離を詰め最大射程距離より魔導兵器を撃ち込む、それ以外に執り得る戦術は存在しなかった。
だが、このまま原因不明の強化が進行するならば、その問題についても解決は時間の問題だろう。

『前方49000、敵複合武装体を探知』
「MC404、自動砲撃!」

777R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:10:38 ID:HxUl0Emw
ドーム内の一角、無数の核爆発を掻い潜ったらしき、3体の複合武装体が拡大表示される。
コードネーム「ボルド」2体、及びコードネーム・コンバイラ1体。
信じ難い事に、バイド群は核爆発の直中に在りながら、その破滅的なエネルギーの輻射に耐え抜く事が間々在った。
しかし確かに損傷を負ってはいる為、残存を確認する度に他の艦艇が突撃、殲滅行動を繰り返している。
そして、今回もまた同様の状況であった。
残存バイド群は既にこちらを探知している筈だが、管理局艦隊を含む数千隻の艦艇が同時に、更に後方より超長距離運用型質量兵器群による援護を受けつつ突入するのだ。
如何に高性能の複合武装体とはいえ、効果的な迎撃の術など在ろう筈もない。

忽ちの内に、クラウディアを含む8艦からの同時砲撃を受けた2体のボルドが爆発、四散する。
残るコンバイラは上部ハッチよりミサイルを放ったものの、その全てを射出直後の加速開始前段階にて小型次元航行機群により撃破され、更に数機が翼端より展開した巨大な魔力刃によって推進ユニットを引き裂かれ、完全に行動能力を奪われた。
其処へ後方より数十発もの荷電粒子砲撃が飛来し、回避行動を取る事すら不可能となったコンバイラの中央ユニットを貫く。
コンバイラ、爆発。
クラウディアは他の艦艇群と共に前進、その爆発を一瞬にして後方へと追い遣り、更に数百体の複合武装体を補足する。

『目標補足、距離142000!』
「リンク再確認、距離85000にて砲撃と通達せよ」
『機関部より緊急。艦長、炉心出力が更に上昇しました』
「推進系への供給率は?」
『現在218%を超えました。尚も上昇中、よって更なる加速が可能です。しかし・・・』
「最大戦速を維持、指示が在るまでは決して減速するな」
『距離95000! 艦長!』
「各員、衝撃に備えよ!」

長距離攻撃に対し応射するバイド群、その正面へと突撃する第11分艦隊、XV級8隻。
ドーム内へと映り込むその全艦が、クラウディアと同じくアルカンシェル・バレルプログラムを展開していた。
そして遂に、目標バイド群を射程内へと収めた、その瞬間。

『85000!』
「発射!」

一斉砲撃。
8艦が同時に、アルカンシェル弾体を解き放った。
白光を放つ弾体は85000の距離を数秒にて翔け抜け、バイド群の中央へと踊り込む。
ほぼ同時、バイド群が無数のミサイルを放った。
数千発、恐らくは全て核弾頭。
だが、もう遅い。

『弾体炸裂、今!』

アルカンシェル弾体、炸裂。
先程以上の強烈な閃光と共に、空間歪曲発生を示す警告音が響く。
衝撃に揺さ振られる艦体。

「目標の状態を報告せよ」
『目標、反応を確認できません。複合武装体、総数447・・・殲滅を確認』

発光が止んだ後、其処にはバイド群も、数千基の核弾頭も存在しなかった。
第11分艦隊のみならず千数百隻の艦艇が一斉に放った戦略魔導砲撃、それらの炸裂により発生した大規模空間歪曲に呑み込まれ、全てが消滅したのだ。
本来ならば空間歪曲すら耐え抜いたであろう複合武装体群は、しかし先の核爆発により重大な損傷を受けていた為か、僅かなりとも破片を残す事すらなく消失していた。
クロノは並列思考の一端にて全方位索敵情報を解析し、全ての敵影が排除された事を確認する。

「敵増援の殲滅を確認した。進路変更、モード3。第2戦速にて母艦隊との合流を目指せ」

クラウディア、自動回頭。
百数十秒前まではバイド群が存在していた空間へと背を向け、グリーン・インフェルノを中枢とした母艦隊を目指す。
数十時間前には予測だにしなかった、対バイド戦に於ける圧倒的な勝利。
そんな現状を前に、クロノの胸中を満たすものは希望ではなく、際限なく湧き起こる疑心と不安だった。

778R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:11:37 ID:HxUl0Emw
この状況は、何時まで続くのか。
敵大規模増援とその殲滅は、既に7度に亘って繰り返されている。
戦域に存在するバイド群の殲滅後、増援が出現するまでには常に一定の間隔が在った。
約8時間。
多少の差異は在れど、それが次なる増援の出現までに残された猶予である。

バイドの物量は、文字通りの無限なのか。
恐らくは全次元世界を呑み込んだ隔離空間、その全域にて大規模艦隊戦を展開し、更に幾度となく殲滅されながらも、なお尽きる事なく送り込まれる膨大な戦力。
この戦域のみに於いてすら、既に150000を超える数の複合武装体が撃破、殲滅されている。
隔離空間全域にて同様の状況が発生していると仮定するならば、既に撃破された複合武装体の総数は10000000を超えている可能性すら在るのだ。
グリーン・インフェルノが出現し状況が好転した後に於いてすら、戦闘の度に混成艦隊は少なからぬ被害を受け続けている。
この状況が延々と続くのならば、いずれ艦隊戦力は摩耗し、圧倒的な物量によって圧し潰される事となるだろう。
本当に終わりは在るのか、無いならば如何にしてこの状況を打ち破るのか。

そして、地球軍。
今なお勢力として独立状態を保つ彼等は、今後に起こり得る状況の変化に於いて如何なる行動を執るのか。
飽くまでも中立に近い位置を保つのか、或いは敵対を選択するのか。
バイドに対する積極的攻勢を示すのか、このまま何らかの要因による状況の変化を待つのか。
本局艦艇陥落との関連性は在るのか、それとも全くの無関係か。

それだけではない。
本局より脱出したと思われる、直衛艦隊を含めた数百隻もの次元航行艦は、何処へ消えたのか。
それらを探知したとの報告は本局の陥落直後に齎された僅かな数のみであり、バイド群からのジャミングが消失した後には完全に途絶えていた。
そもそも、本局あるいはそれらの艦艇群が何らかの信号を発してはいない限り、こちらがその存在を感知する事は不可能なのだ。
隔離空間拡大時に各世界および勢力の探知と特定に至った理由も、それらより発せられる各種信号を受信・解析したが為である。
だが今、本局より脱出したらしき小型次元航行艦群および直衛艦隊のそれは、受信が全く確認されない状況にある。
彼等はどうなった、無事なのか、バイド或いは地球軍によって撃沈されたのか。

『艦長!』

複数の並列思考へと沈み掛けていたクロノは、クルーからの呼び掛けによって我へと返る。
現在の状況認識すら維持できないとは、これでは並列思考を用いる意味が無いではないか。
内心にて自身を叱責しつつ、クロノは問いを返した。

「どうした」
『後方161000、敵複合武装体を探知しました』
「増援か」
『いえ、それが・・・敵複合武装体、1体です』
「何だって?」
『目標、コンバイラ単体。周囲に他の複合武装体は確認されません・・・グリーン・インフェルノより入電、砲撃警告です』

クロノはウィンドウを展開、クラウディア後方の映像を表示する。
果たして其処には、クラウディアからすれば左前方の下方より見上げる形で、1体のコンバイラが映り込んでいた。
先程までは確かに存在などしなかったそれは、何らかの行動を起こすでもなく、ただ空間中に在る。
一体あれは何なのか、等と思考する暇も在ればこそ、グリーン・インフェルノよりコンバイラへと強烈な砲火が叩き込まれた。
目標が単体の複合武装体である為か、核弾頭による攻撃ではなく、大口径電磁投射砲によるものだ。
4発の弾体が一瞬にして数十万もの距離を翔け抜け、微動だにしないコンバイラの各ユニットをいとも容易く貫いた。

『目標撃破』

コンバイラを中心に、膨大な量の火花と破片が噴き上がる。
業火を噴きつつ空間中へと四散してゆく、巨大な2基のメイン・エンジンユニット。
セントラルユニットは中心部を2発の弾体によって貫かれ、小爆発を繰り返しつつ崩壊してゆく。
その様をウィンドウ越しに見据え、クロノは浅く息を吐いた。

779R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:12:32 ID:HxUl0Emw
複合武装体が単体にて出現した、との報告を受けた際には嫌な予感がしたものだが、どうやら単なる思い過ごしだった様だ。
目標は呆気なく撃破され、小爆発を繰り返すその姿は、今にも塵と化さんばかりだ。
だが、気を弛める事はできない。
遅くとも8時間後には、次なる増援が出現するのであろう。
根本的な打開策を探らねば、無為な戦闘を重ねての消耗の果てに圧殺される、等という最悪の事態にもなり兼ねない。
どうにかして、バイドの根源に当たる部位を叩かねばなるまい。

そんな事を思考しつつ、クロノはウィンドウを閉じた。
回頭は必要ないとの指示を下し、艦長席の背凭れに深く身体を預ける。
肉体的にも精神的にも、疲労は無い。
だが一方で、張り詰めた精神の何処かは、安らかな眠りを欲していた。
根を詰め過ぎても、それにより真っ当な判断が下せなくなったのでは意味が無い。
そろそろ仮眠を取るべきだろうか。

『目標に異変!』

クルーからの報告が、クロノの思考を打ち砕く。
即座にウィンドウを展開し、破壊された複合武装体の残骸を拡大表示。
そうして映し出されたものを視界の中心へと捉えた瞬間、クロノは己が目の異常を疑った。

「何だ、これは?」

脈動。
少なくともクロノは、その現象を言い表す為に用いる事ができる単語を、それ以外に知り得なかった。
4発もの電磁投射砲弾によって貫かれ、完全に機能を停止したかと思われた複合武装体、コンバイラ。
その外殻装甲表層部が、細かく規則的に蠢いているのだ。
それは正しく、既知の生命体の大多数が有する、血管系の脈動とも云うべきもの。
細かく幾重にも枝分かれしたそれらが、セントラルユニットの残骸、その表層全体を覆っているのだ。

それだけではない。
脈動する血管系にも似た網目状の何かは残骸表層のみならず、周囲の空間中にまで拡がっていた。
宛も血管系が生命体の皮膚を内から食い破り、外部の空間そのものを侵蝕しているかの如き異様な光景。
否、その様に見えるのではない。
事実、あれらは空間を侵蝕しているのだろう。
脈動する何かは徐々にその範囲を拡げ、それに沿う様にして複合武装体の残骸が膨張を始めたのだ。
瞬間、叫ぶクロノ。

「MC308、全バレル展開! 目標、複合武装体残骸!」
『バレル展開、確認しました!』
「撃て!」

クラウディア後方、4門のバレルプログラムが展開し、それらが同時に魔導砲撃を放つ。
クロノと同様の危機感を覚えたのであろう、周囲のXV級からも後方への砲撃が放たれていた。
彼等のみならず、遠方より超長距離支援を行っていた他勢力艦隊も、同様に異常を感じ取っていたらしい。
荷電粒子砲撃と電磁投射砲弾、更に無数のミサイルが複合武装体を目掛け、空間を引き裂きつつ殺到してゆく。
これだけの一斉砲火を浴びれば、それこそ僅かな残骸すらも残るまい。
そして、数秒後。

『着弾・・・いえ、違います! 目標失索!』
「馬鹿な!」

着弾の直前、複合武装体は霞の如く消失していた。
信じ難い現象を前に無数の通信が錯綜し、全ての艦艇があらゆる索敵手段で以って周囲の空間を探り始める。
クロノもまた、クラウディアが有する全ての索敵機能を用いて、消えた複合武装体の行方を探り始めた。
だが数秒後、目標は実に呆気なく発見される。
在り得る筈のない方位、在り得る筈のない位置に。

『敵複合武装体、再探知! 本艦前方266000!』

780R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:13:12 ID:HxUl0Emw
新たなウィンドウが展開し、遥か前方の空間に浮かび上がる目標が拡大表示される。
映し出されたそれは紛れもなく、クラウディア後方にて消失した複合武装体。
先程よりも更に範囲を広げた網目状の揺らぎ、それに沿う様にして各ユニットが分離してゆく。
目標が瞬間的な空間転移を行ったのだと思い至った時には既に、異変は止め様が無い時点にまで進行していた。

『目標、大きさが・・・凄まじい速度で肥大化しています!』
「詳細を報告せよ!」
『不明です! しかし、間違いなく大型化しています・・・信じられない、明らかに形態が変わっている!』

明らかな動揺を孕んだ、クルーの声。
クロノは数秒と掛けずに、彼女の内心を理解した。
彼の視界にも明確に映り込む、異形の変貌。
それが如何に異常な光景であるのか、何と呼称すべき現象であるのかを、彼は正確に理解していた。

「成長・・・進化している・・・?」

外殻から内部機構までを電磁投射砲弾に貫通され、徐々に崩壊を始めていた筈の巨体。
だが今、分離した各ユニットは再接合し、更に大型かつ歪な形状となっている。
左右のメイン・エンジンユニットは全体的に膨脹し、外観的には特に下方への伸長が著しい。
宛ら腕部の如くセントラルユニットの両側面へと接合したそれは、推進部というよりは巨大な盾としての機能を有しているか様に見受けられる。
一方でセントラルユニットもまた、更なる異形へと変貌を遂げていた。
ユニットの全高および全幅は70%程度の伸長だが、全長は3倍以上にも膨れ上がっている。
そして何より、肥大化したセントラルユニット前部中央の僅かに下方、前方へと突き出した長大な構造物。
4つの部位に分かれた先端部、その中央に覗く環状機構は、明らかに何らかのエネルギーを集束・凝縮する為のものだ。
恐らくは陽電子砲なのであろうが、ユニット単体にも拘らずXV級の倍に相当する全長と、常軌を逸した規模である。

そして、それら全てを総合し、判明した異形の全体像。
全高1390m、全長、1911m、全幅2085m。
変貌以前より形容し難い全貌ではあったが、今や完全に理解を超える異形と成り果てた複合武装体、コードネーム・コンバイラ。
否、今となっては、その呼称が適切なものであるかすら疑わしい。
名称不明の存在となったその異形は、圧倒的な存在感を放ちつつ空間中を漂う。
ところが数秒後、その巨体が唐突に姿勢を変えた。
その瞬間、クロノは脳裏へと生じた危機感に急かされる様にして、鋭く指示を発する。

「機関、最大戦速! 目標をアルカンシェル射程内に捉えろ!」
『目標、後部ノズル発光!』

だが、僅かに遅かった。
複合武装体、両舷メイン・エンジンユニット後部。
複数のブースターノズルを発生源として、巨大な噴射炎が爆発する。

『目標、急加速!』
「逃がすな、追撃せよ!」

加速してゆく複合武装体。
その進行方向には、グリーン・インフェルノを中心とする母艦隊が存在する。
目標が実質上の艦隊旗艦である当該艦艇、その撃沈を狙っている事は明らかだった。
無論、周囲の艦艇群がそれを許す訳はない。
クラウディアは最大戦速にて、目標の追撃を開始した。
しかし数瞬後、凄まじい加速によって徐々に分艦隊を引き離し行く目標より、40基を超える大型ミサイルが放たれる。
それらが如何なる弾頭を有しているか、そんな事は思考するまでもない。
クルーより警告。

『目標、核弾頭発射!』
「最大戦速を維持、迎撃は他艦に任せろ!」

781R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:14:00 ID:HxUl0Emw
クラウディア、追撃継続。
迎撃態勢を取るまでもないと、クロノは判断した。
その任については、より攻撃精度に優れた兵装を有する艦が担うのだ。
そして、クロノの判断は正解だった。
複数の艦艇より連続して、電磁投射砲を始めとする超長距離精密砲撃が放たれ始めたのだ。
無数の弾体が核弾頭群へと殺到し、起爆前のそれらを次々に破壊してゆく。
だが、全ての弾頭を撃破するには至らなかった。
激しい迎撃を掻い潜った2基の弾頭が、遂に起爆したのだ。
凄まじい閃光とエネルギー輻射、そして未知の粒子拡散技術により齎される強烈な衝撃。
座席より放り出されそうになる身体を必死に押さえつつ、クロノは叫ぶ。

「目標を補足し続けろ! 母艦隊への突入だけは何としても・・・」
『反応数、増大・・・艦長!』

だが、その言葉を最後まで紡ぐ事はできなかった。
十数秒後、漸く視界を再確保した彼は、ドーム内の映像上に信じ難い光景を見出す。
核爆発の発生直前までには、決して存在しなかった、異常な光景。
クロノの視界、ドーム内に映し出された隔離空間内部。

「・・・どうなってる?」



加速中の目標と同型の複合武装体群が、空間内を埋め尽くしていた。



「索敵、出現の瞬間は」
『不明です! システム混乱中の数秒間で転移したのではないかと・・・』
『新型複合武装体、総数6250!』

こんな馬鹿な事が在り得るのか。
複合武装体が成長、或いは進化とも云える変貌を遂げたのは、僅かに数十秒前の事だ。
だがこの瞬間、艦隊による探知可能範囲内には、6000を超える複合武装体が存在しているという。
これは、如何なる現象なのか。
既に進化は完了しており、その上で1体の複合武装体のみを戦域へと転移させたのだろうか。

或いは。
或いは、想像するだに恐ろしい可能性だが。
数十秒、実に数十秒の間に。
僅か1体の複合武装体が遂げた進化を、他の全ての個体へと反映させたとでもいうのか。

『グリーン・インフェルノより警告! これより核弾頭による敵性体群の殲滅へと移行、直ちに安全圏へと退避せよとの事です!』
「・・・了解した。転進、モード2・・・待て! 進路戻せ、モード4!」

この様な状況となっては最早、グリーン・インフェルノによる殲滅に頼る他ない。
当該艦艇が有する圧倒的な火力の前には、XV級による援護など足手纏いとしか成り得ないだろう。
そう判断したが故の指示は、直後に発言者であるクロノ自身の言葉によって撤回された。
目標、複合武装体群に異変。

『複合武装体群、不明物体を射出!』
「数は?」
『カウント不能! 目標物の数が多過ぎます!』
『画像、拡大します』

782R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:14:51 ID:HxUl0Emw
複合武装体群より射出される、明らかにミサイルとは異なる無数の物体。
拡大表示されたそれらを視界へと捉え、クロノは眉を顰める。
その物体は何らかの機動兵器の残骸、或いは基礎フレームとしか思えぬ外観だった。
最小限の質量しか持たぬ、僅かな負荷が掛かっただけでも折れてしまうのではとすら思える、余りにも脆弱な構造。
更に云えば中枢らしきユニット、翼部、尾部の3つのユニットから構成されているらしきそれは、しかし互いのユニットが完全に独立していた。
3つのユニットは物理的接合が為されておらず、互いに一定の距離を維持しつつ単体としての構造を為しているらしい。
余りにも歪で、何らかの正常な機能体であるとは到底思えぬ、奇妙な物体。
だが、それらは決して単なる残骸などではなく、構造体の後方より噴射炎を煌かせつつ、明らかに自身が生み出した推力によって加速してゆく。

『不明物体群、接近』
『光学兵器搭載艦艇、不明物体群を攻撃します!』

1つ確かな事は、あれらの正体が何であろうと、詰まるところバイド以外では在り得ない。
その点については、深く考える必要すら無かった。
そして、クラウディアを始めとする管理局艦艇が手を下すまでもなく、質量兵器搭載型艦艇群より長距離光学兵器の光条が放たれる。
無数の光条は狙い違わずに接近中の不明物体群を捉え、その脆弱な外観の構造体を容易く貫いた、かに思われた。
だが、数瞬後。

『目標撃破・・・いえ、お待ちを。目標・・・目標、健在・・・?』
「回避されたのか」

自らの判断に確信が持てないのか、報告を口籠るクルー。
その頭上に拡がるドーム内の映像は、1体たりとも欠ける事なく接近中の目標群を映し出している。
瞬間的な事が故にセンサーを介して得た情報となるが、レーザーは目標群を正確に捉えていた筈だ。
だが現実には、それらは無傷のままにこちらへと接近し続けている。
一体、何が起こったのか。

『確かに目標を捉えた筈なのですが、特に変化は・・・目標群、更に加速。急速接近!』
「迎撃開始! MBS自動管制!」

直後、目標群は突如として急加速。
クロノは直射魔導弾幕による迎撃を指示、すぐさま命令が実行された事を確認する。
クラウディアより放たれた無数の直射弾は、他艦艇群より放たれたレーザー、魔導弾と共に目標群へと殺到、着弾し。

『目標・・・!?』



そのまま、霞の如く掻き消えた。



「MC404、自動管制!」

最早、クロノは動じない。
光学兵器による撃墜が確認されなかった時点で、こうなる事は半ば予測していたのだ。
状況を苦々しく思いつつ、彼は小さく息を吐く。

バイドは恐らく、光学兵器および魔導兵器による攻撃に対して、ある程度の無効化を実現するシステムを開発したのだ。
直撃したかに思われたレーザー、そして直射弾は何らかの原理により急激に減衰され、目標を構成するユニットを傷付ける事もできずに消失。
そして今、目標群は健在にして、更に高速で接近中という訳である。
目標は明らかに攻撃態勢を取っており、すぐにでも撃破せねば何らかの攻撃を受ける事となるだろう。
だからこそ、より強力な魔導砲による砲撃を指示したのだ。
直射弾程度の魔力密度では、弾体が目標へと達する前に減衰、消滅してしまう。
では、圧倒的魔力密度を有する集束魔導砲撃ならば、どうか。

『MC404、砲撃開始!』
『各勢力艦艇群、物質弾体型質量兵器による攻撃を開始!』

783R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:15:40 ID:HxUl0Emw
どうやら意見を交わすまでもなく、周囲の艦艇群も同様の結論へと達したらしい。
各勢力艦艇が次々に魔導砲撃、そして質量弾体による攻撃を開始。
直後に他艦艇より通信が入り、ほぼ同時に砲撃が数体の目標を纏めて撃破した。

『「オリオール」より全艦隊へ、警告! 目標周囲、何らかの気体が防御膜層を形成している! 低集束魔導弾および光学兵器は目標に対して無効、高出力兵装および質量弾体にて迎撃に当たれ!』
『目標撃破! 艦長、砲撃は有効です!』
「砲撃続行! 第3戦速、モード2!」

クロノは指示を下し、目標の1体をウィンドウ上へと拡大表示する。
果たしてオリオールからの報告通り、目標の周囲を包み込む様にして何らかの気体、霧状のそれが密集していた。
更には数秒後、その気体が高密度の魔力素を内包している事実がセンサー群の解析によって判明し、クロノは自身の推測が的を射ていたと確信する。
高密度魔力素によって形成された、対光学・魔力兵器防護膜。
光学兵器類による攻撃は防御膜を構成する粒子への乱反射により減衰し、魔導兵器による攻撃もまた高密度魔力素による干渉から霧散してしまうのだ。

超高機動体に対し、最大の威力を発揮する筈である光学兵器および魔導弾幕が全く通用しない、強力な防御策を備えた敵性体。
恐るべき存在だが、仕掛けさえ見抜いてしまえば対処法は幾らでも在る。
防御膜による干渉を受けない質量弾体で以って攻撃するか、或いは高密度魔力で以って防御膜もろとも撃ち抜くかだ。

『迎撃、問題ありません! 接近中の目標群、約20%の撃破に成功!』
「砲撃を継続せよ。各分艦隊に混乱の様子は見受けられない、このまま母艦隊まで圧し進むぞ。機関、最大戦速」

暴風の如き激しい砲火が、接近中の不明物体群へと殺到する。
次々に巻き起こる爆発、襲い掛かる砲火の僅かな間隙を縫って接近を試みる不明物体群。
その総数は余りにも膨大であり、これだけの砲火が浴びせ掛けられているにも拘らず、未だ6割が健在であった。
だが、殲滅の完了は時間の問題だ。
そう判断し、クロノは増速を命じた。

『目標に異変!』

直後、新たなウィンドウが展開される。
拡大表示されたそれ、接近中の不明物体。
霧状の防御膜に覆われたその先端部付近に、青白い光を放つ粒子が集束を始めているではないか
その光景を目にしたクロノは、唐突にある事実へと思い至った。

目標物体、その構造。
明らかに酷似している。
同一という訳ではないが、各ユニットの基本構造が確かに似ているのだ。
あの忌まわしき存在、第97管理外世界の人間達が造り出した、悪魔の兵器体系に。

「R戦闘機・・・なのか?」

そんな筈は無いと、クロノは自身の思考を否定する。
キャノピーなど、何処にも存在しない。
ノズルすら見受けられない。
余りにも薄い板状のユニットを中心に、辛うじて戦闘機としての面影が見受けられるだけの構造を成した、兵器とも単なる残骸とも付かぬ存在。
そんな物体が何故、R戦闘機に酷似していると思えたのだろうか。
第一にあれらの不明物体は、地球軍ではなくバイドによって運用されているのだ。
バイドがR戦闘機を有している可能性など、僅かたりとも考慮されてはいなかった。
だが、現実として不明物体群は、明らかに波動粒子の集束を行っている。
目標群、波動砲発射態勢。

「砲撃中断、回避行動!」
『回避、モード7! 各艦艇、散開します!』
『目標2体「カタリナ」に接近! 回避、間に合いません!』

そして、数秒後。
更なる加速によってXV級カタリナへと接近した、2体の目標。
その前方部より、それは放たれた。

784R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:16:25 ID:HxUl0Emw
『目標、砲撃・・・いえ、これは・・・霧・・・?』

霧の爆発。
正にそれとしか表現の仕様がない、異様な砲撃。
指向性を有する爆発、それと見紛うばかりの威力で以って目標より噴出した、膨大な量の霧状気体。
それは一瞬にしてカタリナの艦体を覆い尽くし、更に予測される進路上へと散布され霧の集合体を形作る。
咄嗟に叫ぶクロノ。

「本艦へと接近中の目標を優先的に追跡! 通信士、カタリナに繋げ!」
『ローロンス、目標撃破!』

両艦からの砲撃により撃破される、カタリナを攻撃した2体の目標。
だが、それらより放たれた霧は空間に留まり、一向に薄れる様子は無い。
霧状気体によるジャミング効果か、繋がっては途切れを繰り返す通信状況を苛立たしく思いつつ、クロノはカタリナへと呼び掛ける。

「こちらクラウディア、ハラオウンだ。カタリナ、貴艦の状況を知らせよ」
『通信状態が維持できません。霧によるジャミングかと』
「回復操作を継続せよ。カタリナ、こちらクラウディア。応答せよ、カタリナ! ベルトラン艦長、イグナシオ!」
『通信、エリア非限定にて回復しました。繋ぎます』
「カタリナ、聞こえるか? こちらは・・・ッ!?」

通信状態が回復し、通信士が音声を出力した瞬間。
クラウディアのブリッジドーム内に、耳を覆いたくなる様な絶叫が解き放たれた。
クロノは思わず身を強張らせ、驚愕と困惑とに目を見開く。
艦長席の下方では、クルー等が狼狽えつつ掌で耳を押さえていた。
無数の絶叫、即ち悲鳴は、未だにドーム内へと響き続けている。

これは本当に人間の声なのかと、そんな疑いすら生じる程に獣染みた絶叫。
状況からしてそれを発している者は、カタリナのクルー以外には在り得ない。
だが、彼等は何故、こんな絶叫を上げ続けているのか。
これは1人、2人という程度の人数から発せられているものではない。
エリア非限定での通信である事を考慮すれば、恐らくはカタリナに搭乗する全クルーの悲鳴なのだろう。

生きながらにして臓腑を抉られているかの如き、それを聴く者の心底から潜在的な恐怖を呼び覚ます叫び。
眼下のクルー達の中には掌で耳を塞ぎ、闇に怯える子供の様に背を丸めている者達の姿すら在った。
気の所為か、彼等の身体は震えているかの様にも見える。
強制的に認識させられる死という概念への恐怖に耐え切れず、只管に身を縮めて叫びが止む時を待ち侘びているのだ。
クロノ自身とて例外ではなく、僅かでも気を緩めようものならば即座に、心中より際限なく湧き起こる恐怖に呑み込まれるであろうとの自覚が在った。
だが、彼の中に息衝く矜持と艦長としての責務が、恐怖に屈するという選択を許しはしない。
上擦りそうになる声を強靭な意志で抑えつつ、クロノは通信越しに響き続ける壮絶な悲鳴、それを掻き消さんばかりに声を振り絞り叫んだ。

「目標群から目を離すな! 次は我々がやられるぞ! 右舷前方40、不明物体接近中!」
『・・・MC404・・・優先目標設定しました!』
「カタリナはまだ沈黙していない! 観測を継続、変化が在れば・・・」
『艦長、カタリナが!』

クルーからの報告に接近中の不明物体から視線を外し、再び霧の集合体を見やるクロノ。
雲の様な集合体の表層から時折、カタリナの白い艦体が覗いている。
カタリナが増速した事によって、徐々に霧が引き剥がされているらしい。
気付けば何時の間か悲鳴は止み、入れ替わるかの様に低い呻きがブリッジドーム内に響いていた。
異物の詰まった排水口が立てる様な、空気が漏れる際のくぐもった音。
まだ、誰かが生存している。
そんな希望と共にドームの一角を見上げるクロノの視線の先、霧の壁を切り裂いて現れた白亜の艦体は。

785R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:17:11 ID:HxUl0Emw
「・・・何て事だ」



原形を留めない程に「腐食」し、溶け落ちていた。



「イグナシオ・・・!」

クルー達の悲鳴。
次いで複数のウィンドウが展開し、解析結果を自動表示。
リンクを通じ、情報を艦のシステムより直接取得したクロノは湧き起こる絶望に圧される様にして、無意識の内に友の名を呼ぶ。
そんな彼の眼前で、本来有すべき質量の約60%を喪失したカタリナは、辛うじて前進を続けていた。
単なる汚泥の塊の如き惨状となりながらも尚、推進機関が機能を維持しているのだ。

そして、通信越しに響く無数の呻き声は、未だ途絶えてはいない。
艦内に、生存者が居る。
如何なる惨状となっていようとも、カタリナのクルーはまだ生きているのだ。
クロノは咄嗟に、周囲の艦艇へと救援要請を発するべく、ウィンドウを展開していた。
だが、彼が言葉を紡ぎ出す、その直前。

『艦長・・・カタリナが・・・!』

カタリナが、艦体の半ばより「折れた」。
宛ら、熱によって融け出した飴細工の様に、呆気なく。
その瞬間、通信越しに響き続けていた呻きが唐突に途絶え、静寂のみがブリッジドーム内を支配した。
下方でクルー達が息を呑んだ、その程度の微かな音ですら確かな波となり、リンクを介す事もなくクロノの聴覚を、意識を揺さ振る。
そして、視界が歪むかの様な錯覚が襲い来る中、クルーの掠れた声がリンク越しに意識内へと響いた。

『カタリナ・・・轟沈』

崩壊は止まらない。
2つに分かたれたカタリナの艦体は更に腐食が進み、徐々に細分化されてゆく。
そうして十数秒後、宙域には僅かな破片と、大量の細かな粒子だけが残された。
カタリナ、消滅。

「アルカンシェル、バレル展開! 照準、目標群B!」
『バレル展開、確認!』

クロノが、吼える。
アルカンシェルによる砲撃を指示、接近中の目標群へと照準。
ドーム内に映し出される無数の敵機群、それら全てに友軍艦艇の照準を示すマーカーが重なっていた。

「目標個体をR戦闘機16番として登録! 以後、敵機と呼称する!」
『目標を16番として登録、確認しました』
『前方、強烈な発光!』

遥か前方、黄昏時のそれにも似た色の光が、無数に炸裂する。
その光が何を意味するものか、クロノは既に知り得ていた。
母艦隊が、複合武装体群の射程内へと捉えられたのだ。

『陽電子砲撃です! 無数の大規模爆発を確認、母艦隊に被害が!』
「通信状態維持、情報を随時報告せよ! 目標群、及び他艦艇とのリンクはどうなっている!」
『目標群を射程内に捕捉しました! リンク維持を確認、砲撃可能!』
「発射は「ハンナ・カティ」が管制する。各員、衝撃に備えよ!」

786R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:17:53 ID:HxUl0Emw
新たにウィンドウが展開され、アルカンシェル発射までの秒数が表示される。
ドーム内の正面には前方より接近中の敵機群と、その遥か先にて発生する無数の巨大な火球が映り込んでいた。
爆発はグリーン・インフェルノを始めとする無数の艦艇、それらより放たれた核弾頭によるものだろう。
陽電子砲撃による被害は受けたものの母艦隊は未だ健在であるらしく、猛烈な反撃による無数の核爆発、そして空間歪曲が前方の宙域を埋め尽くしてゆく。
一方で、クラウディアが属する分艦隊もまた敵機群による砲撃を耐え抜き、反撃の瞬間を迎えつつあった。
アルカンシェル、発射まで15秒。

『友軍勢力艦艇より、核弾頭の発射を確認!』
「減速、第2戦速へ! 弾頭の炸裂に巻き込まれるな!」
『発射まで10秒!』
「本艦は敵機群の殲滅を確認の後、複合武装体の追撃へと・・・」
『目標、散開!』

だが、発射まで5秒と迫った、その時。
前方の集団を含む全敵機群が、一切の前兆なく散開した。
どうやら友軍艦艇が放った核弾頭に反応し、攻撃よりも回避行動を優先したらしい。
その突然の変化にクロノの思考へと一瞬の躊躇が生じたものの、もはや発射の中断は不可能と判断し、彼は攻撃行動の継続を選択する。

『発射!』

衝撃と共に放たれる、純白に輝く弾体。
第11分艦隊、撃沈されたカタリナを除く7隻による、アルカンシェルの一斉砲撃。
7条の光の尾が、敵機群を目掛け空間中を突き抜ける。
そして砲撃は、第11分艦隊が実行したそれのみならず、全ての友軍勢力艦艇より放たれていた。
戦略魔導砲、電磁投射砲、荷電粒子砲、ミサイル。
光学兵器および低集束型魔導兵器を除く、あらゆる兵器の弾体が巨大な壁を形成し、敵機群へと襲い掛かる。
直後、無数の爆発。

「MC404、バレル展開数最大! 中距離拡散砲撃、用意!」
『艦長!?』
「核弾頭を迎撃された! 来るぞ、波動砲だ! 撃たれる前に撃墜しろ!」
『弾体炸裂、今!』

アルカンシェル、弾体炸裂。
第11分艦隊より放たれた7発を含む、計60発以上ものそれらが、極広域に亘って空間歪曲層を形成する。
だが、無意味。
敵機群は核弾頭の迎撃によって生じた複数の間隙、其処を急激な加速で以って突破しており、既に空間歪曲層のこちら側に位置していた。
戦略魔導砲撃による敵機群迎撃、失敗。

『バレル展開、確認!』
「撃て!」

バレルプログラム展開数20超、高密度魔力による集束砲撃。
敵機群の撹乱を目的とする中距離拡散砲撃が、複数の分艦隊を形成する管理局艦艇の全てより放たれていた。
艦艇搭載兵装の射程距離が比較的短い為、管理局艦隊を含む幾つかの勢力は全艦隊の中で常に、交戦中の敵勢力へと最も近い位置に展開しているのだ。
そしてこの瞬間もまた、艦隊最前列にてXV級による敵機群の迎撃が開始された。
魔導兵器が有する運用面での柔軟性を活かし、中距離拡散砲撃による高密度魔力の防壁を形成したのだ。
だが、その結果は望ましいものとはならなかった。

『撃墜3、確認! 残存敵機群、尚も接近中!』
「砲撃を継続しろ! 敵機を見失うな、常に捕捉して・・・」
『目標失索! 目標失索です! 敵機群の反応消失、捕捉不能!』

撃墜数、僅かに3機。
更にシステムが敵機群を失索、捕捉不能との報告。
そして事実、リンクを介して得られた情報は、敵機群の反応が完全に消失した事を告げていた。
余りに異常な事態に、クロノは愕然としつつもドーム内の映像、その隅々にまで視線を走らせる。
敵機を捕捉・拡大表示していた複数のウィンドウは、敵機群の反応消失と同時、それら映像の全てがエラーメッセージの表示に取って代わられていた。
表示が意味するもの、それは敵機群そのものが消失したという事実に他ならない。

787R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:18:50 ID:HxUl0Emw
「・・・在り得ない!」

クロノは最終的な捕捉座標および各種情報より、現在の敵機群の位置を予測、周辺宙域を視覚的に拡大表示する。
敵機群は消失などしていない、何処かに存在する筈だと、彼は確信していた。
転送、或いは浅異層次元潜行の可能性も存在するが、何故この距離でそれを実行したのか、論理的な説明ができない。
何より、これまでの戦闘を通じてバイドが浅異層次元潜行を使用した形跡など、1度たりとも観測されてはいないのだ。
未知の技術による転送こそ幾度となく実行されてはいるものの、少なくともこちらが観測できる形での浅異層次元潜行運用方法を執ってはいない。
接近中であった敵機群もまた同様であるのならば、観測し得る状態として周辺の宙域に存在する筈なのだ。

「見付けたぞ!」

その予測は的中した。
分艦隊後方、敵機群発見。
砲撃の壁を微々たる損害にて容易く突破し、既に後方の艦隊を射程内に収めている。
敵機群は迎撃に当たっていた艦隊を無視し、その後方、より大規模な分艦隊の集団に対する攻撃を選択したのだ。
こちらの存在を完全に無視した敵戦術、それに対し湧き起こる憤りを堪えつつ、クロノは敵機群を光学的に分析する。

余りに奇妙な状況。
光学的に捕捉した敵機群だけであっても、その構成機体数は数百に達していた。
1体の複合武装体が40機前後の機体を射出していた事実より推測すれば、戦域には実に250000機もの敵機が存在している事となる。
分艦隊への攻撃に当たっているのはその半数であると仮定しても、周辺宙域には125000もの敵機が潜んでいる筈だ。
ところが、センサー群には何ら反応が無い。
明らかな能動的妨害、バイドによる何らかの工作が為されているのだ。

『ダニロフ解放戦線第2艦隊所属「ユーリ・アレクサンドロフ」より、全方位通信。敵機群内に、球状兵装を備えた個体を確認、撃墜・・・』
「撃墜だと? 目視で?」

唐突に思考へと割り込んだ報告の内容に、クロノは驚きの声を漏らす。
システムが目標を捕捉できぬ状況下にも拘らず、敵機の撃墜に成功したとは凄まじい。
偶然の結果であったとしても、驚くべき事だ。
だが、真にクロノを驚愕させる情報は、続くクルーの報告によって齎された。

『直後、撃墜した個体周辺の敵機群に対する索敵機能が回復。現状では推測の域を出ないものの、ジャミング機能を有しているのは機体側ではなく、球状兵装側である可能性が高いとの事です』

球状兵装、恐らくはフォース。
センサー群による索敵を妨害しているジャミング・システムは、機体にではなくフォースに搭載されているのだという。
その報告を受けるや否や、クロノは新たな指示を発していた。

「敵性ジャミングの解析を開始しろ! 全艦艇と情報を共有、障壁の解除を許可する! MC404及び308、手動管制! 友軍艦艇とのリンクを再確認し、誤射対策を・・・」
『閃光を確認! 敵機群、砲撃!』

指示の言葉も終わらぬ内、艦隊各所にて閃光が奔る。
直後に発生し、空間を埋め尽くさんばかりに膨脹する、霧の集合体。
また、あの強力な腐食性ガスが撒布されたのかと警戒するクロノであったが、状況は彼の予測を超える程に悪化していた。

『全方位通信、発信多数・・・艦長!』

新たに展開したウィンドウ上、表示される拡大映像。
霧に呑まれる友軍艦艇、そして発生する無数の細かな閃光。
その光景を目にするや否や、クロノの意識へと生じる微かな違和感。
霧の中で発生している、この閃光は何なのか。

『友軍艦艇より警告! 艦体が霧に接触すると発火、いえ、爆発すると・・・これは・・・これはカタリナを撃沈したものではありません! 爆発性の・・・』

クルーが、その報告の内容を言い切る事はなかった。
拡大映像を表示しているウィンドウのみならず、ドーム内の全てが閃光に埋め尽くされたのだ。
複数の小さな悲鳴が上がる中、クロノは一瞬だけ翳した掌で視界を庇い、すぐさま状況の把握に移る。
センサー群および通信系統の出力を最大にまで引き上げ、効果範囲内の情報を貪欲に収集。
結果、判明した事実は。

788R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:19:46 ID:HxUl0Emw
「・・・やってくれたな」

被害状況。
分艦隊群を形成する全艦艇、その約20%に当たる1600隻前後が轟沈。
対して、敵機群の損害状況については、一切の情報が得られていない。
被撃墜数は何機か、或いは1機たりとも撃墜されてはいないのか。
何1つ、判明してはいないのだ。

だが、敵機群が用いる砲撃については収集した情報を基に、ある程度の予測を立てる事ができた。
先程の閃光、巨大な爆発。
敵機群が搭載している波動砲は極強酸性、或いは爆発性のガスによる砲撃を行うものだ。
特に爆発性ガスによる砲撃については、複数機体からの同時砲撃によって効果範囲、威力共に破滅的なものとなるらしい。
砲撃により発生した霧は、他の物質に触れる事で強制的に化学反応を起こし、小規模爆発を連鎖的に誘発する。
単独では大した脅威とはなり得ない規模の爆発だが、しかし一瞬たりとも間隙を挟む事なく連続発生するそれらは、総合的には複数の次元航行艦を数秒と掛からずに解体する程の破壊力を有しているのだ。

更に厄介な事に、霧は空間中に留まる性質が在るらしい。
砲撃直後からの数秒、その間に他物質との接触による化学反応を起こすに至らなかった霧は、同じく化学反応段階へと至らなかった霧の集合体群と融合を重ね、極広域を覆う大規模ガス雲を形成。
そして時間経過、或いは一定以上の規模に達する事により、ガス雲は突如として激しい自己反応を起こし爆発。
大気が存在しない空間にも拘らず、自由空間蒸気圧爆発と同様の現象を引き起こすのだ。
だが、その威力は通常の蒸気雲爆発とは比較にならない。
核爆発にすら耐え得る艦艇群を破片すら残さずに消滅せしめる爆発が、単なる既知の蒸気雲爆発などである筈がない。

『敵機群を視認、接近中! 明らかにこちらを狙っています!』
「砲撃継続! 回避運動、モード4!」

超高機動にて襲い来る敵機群。
目視にて一時的にその全貌を捉える事は可能なものの、センサー群による捕捉は未だ不可能。
クルーとシステムとのリンク構築による手動管制砲撃は、敵機が有する馬鹿げた機動性により目標機体へと掠りもしない。
気休めとは知りつつも展開される直射弾幕は、稀に目標を捉えても防御膜によって弾体の魔力結合を解かれ、機体構造物へと達する前に霧散してしまう。
クラウディアには最早、ランダムパターンでの回避運動を継続しつつ照準すら定まらぬ砲撃を放ち続ける、それ以外の選択肢など残されてはいなかった。
それは、他の艦艇についても同様だ。
本来の所属を問わず、周囲に展開する全ての艦艇が手動管制砲撃を実行しつつ、のた打ち回る様にして敵機群より逃れんと足掻いていた。
追い詰められたが故の行動か、システムからの警告を無視しての砲撃が繰り返されているらしく、戦域の其処彼処で友軍艦艇への誤射が発生。
艦隊の瓦解は、もはや時間の問題だった。

「リンクだけは何としても維持しろ! 他艦艇に接触すれば終わりだ!」
『直上98000、敵機群捕捉! 機数100機以上!』

そして遂に、最も恐れていた事態が現実のものとなる。
クラウディア直上、拡大表示された映像の中心に、オレンジの光が6つ。
フォースを装備した1機を中心に20機前後の敵機から成る集団、それが6つ寄り集まった総数120機前後の敵機群。
明らかな攻撃態勢にて接近中のそれらを、この距離に至るまで見落としていたのだ。

既にこちらは、敵機群の砲撃射程内へと捉われ掛けている。
否、クラウディアだけではない。
恐らくは20秒以内に、第11分艦隊の全艦艇が敵機からの砲撃に呑み込まれ、跡形もなく消滅する事となるだろう。
アルカンシェル及びMC404については射界外、直射弾であるMBSは通用しない。
他勢力艦艇より放たれた電磁投射砲弾が、辛うじて数機を撃墜したものの、既に状況は手遅れだ。

「全速後退、艦首仰角最大! MC404、バレルプログラム仰角最大!」

だが、クロノは抵抗を選択した。
艦を後退させつつ、艦尾からの下降を指示。
バレルプログラム群、最大仰角。

「炉心出力の全てをMC404に回せ! 長距離拡散砲撃、用意!」

クルー達は、何も言葉を挟まない。
皆、クロノの真意を理解しているのだろう。
淡々と指示に従い、迎撃態勢を整えてゆく。

789R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:20:28 ID:HxUl0Emw
クロノが選択した戦術は、極めて単純なものだ。
接近中の敵機群を長距離拡散砲撃の射程内へと捉え、砲撃により撹乱、あわよくば殲滅を狙う。
他の管理局艦艇にしても、同様の判断へと至ったらしい。
分艦隊に属する全XV級が、MC404による長距離迎撃態勢へと移行している。

敵機群が運用する波動砲は霧状のガスを噴出するという特性上か、これまでに観測された他の波動砲による砲撃と比較して、幾分か射程が短い。
MC404への魔力供給値を限界まで引き上げれば、敵機が有する波動砲の射程を僅かに上回る事ができるだろう。
だが、それでも砲撃のタイミングは、殆ど同時となる筈だ。
相討ちとなる事は確実、避けられはしない。

「機関停止、惰性航行! MC404、魔力集束継続! 危険域は無視しろ!」

それでも、この戦術により6つもの敵集団を撹乱、或いは殲滅できる。
ジャミングを実行している機体を撃墜するだけでも、状況は著しく改善される筈だ。
後の事は残存艦艇群に任せる他ないが、混成艦隊を成す彼等の技量と戦力ならば、必ずや活路を切り開いてくれる事だろう。

『敵機群、射界に捉えました! 砲撃準備完了!』
「射程内へと確実に侵入するまで待て! カウント15!」
『15秒前!』

艦首が敵機群の方角へと向き、全バレルが目標を射界へと捉える。
敵機群、MC404射程内侵入までの予測時間、15秒。
ウィンドウ上に表示される数字が0を示した数瞬後に、クラウディアは艦内のクルー諸共、宙域を漂う微かな残骸と化す事だろう。
或いは、これまでに撃沈された艦艇群と同じく、破片すらも残さずに消滅するかもしれない。
だが同時に、それなりの代償を得る事はできる。
こちらが滅せられる時は、敵機群も道連れだ。
そんな事を思考しつつ、クロノは艦内の全区画へと音声を繋ぎ、言葉を紡ぐ。

「ハラオウンより総員。君達と共に戦えた事、何よりも光栄に思う・・・ありがとう」

クラウディア、全クルーへの感謝を示す言葉。
続けて放たれた謝罪の言葉は、システムを介する事なく、小さな音となって宙空へと溶けて消えた。
クルー等からの返答は無いが、反発の言葉が上がる事もない。
MC404、砲撃まで5秒。

クルーの誰もが、数秒後に訪れる結末を静かに受け入れんとしている。
その事実を理解し、彼等に対する深い感謝の念を抱くクロノ。
同時に彼は、生死不明となったままの母と義妹、ミッドチルダに残される妻と子供達の無事を願う。
しかし直後、クロノの意識からは一切の柵が掃われ、彼の思考は決定的な支持を下す為だけの機構と化した。
そして、ウィンドウ上の数字が0となった、その瞬間。

「撃て!」

衝撃。
これまでのものとは比較にならぬ程に強烈な閃光が、ドーム内を埋め尽くす。
最大数にまで同時展開したバレルプログラム、それら全てより発せられた閃光。
MC404、長距離拡散砲撃。
光のカーテンの反対側では、恐らくこちらと同様に、敵機群が波動砲による砲撃を放っている事だろう。
数瞬後には、霧がクラウディアの艦体を覆い尽くす筈だ。

リンカーコアの過剰な強化、更には極限の集中により、異常とすら云えるまでに加速した思考。
一瞬が10秒程にまで引き延ばされた体感時間の中、終わりの時が訪れる瞬間を、不思議と穏やかな心持ちで以って待ち受けるクロノ。
そんな彼の視界、その端へと映り込む奇妙な影。

幻覚だろうか。
その白い影はこちらが放った砲撃の手前、空間中に忽然と出現したかの様に思えた。
奇妙な形状の、翼部らしき左右一対の構造物。
それらに挟まれる様にして存在する中心の構造物は、下方へと近付くに従って窄まり、円錐に近い形状となっていた。
中心構造物には淡く青い光が灯っており、その数は10を超えている。

790R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:21:23 ID:HxUl0Emw
ふと、意識中に過ぎる奇妙な既視感。
影の全体的な形状に、クロノは見覚えが在る様な気がした。
何処かで目にした、何らかの存在に似ている。
その疑念を受け、40を超える並列思考の一部が影に対する分析、そして記憶情報の検索を開始。
刹那の間に完了したそれらの処理は、幾つかの異なる答えを導き出した。

ある思考は訴える。
純白の小さな翼、まるで神話に描かれる天使の様だと。
ある思考は分析する。
不自然なまでに整った左右対称の形状、明らかな人工物であると。
ある思考は警告する。
現状下に於いて出現する存在など、何らかの兵器以外には有り得ないと。

「回避運動!」

刹那、クロノは叫んでいた。
思考の結果、等という悠長なプロセスを経ての行動ではない。
これまでに蓄積された膨大な情報、そして1生命個体としての本能より発せられた、致命的な危機を回避せんとするが為の絶叫。
同時に、彼は操艦をクルーに任せる事なく、システムとのリンクを介して強制的に転舵を実行する。
左舷傾斜−70度、艦首仰角110度。
巨大な艦体が左舷方向へと傾斜し、更に急激な上昇機動により、当初の進路を大きく逸脱する。
ブリッジドーム内に響く、幾重ものクルー達の声。
多くの者は、状況を把握できないのか困惑の声を上げつつも、手先だけは休む事なく各々の操作を継続している。
ドーム内に表示される外部映像は艦の機動に合わせ流れゆき、空間中に存在する無数の影を次々に捉えていた。

影は、1つではなかった。
無数の、それこそバイド群の個体総数に匹敵するかと思われる程のそれらが、光学捕捉可能域内の空間中を埋め尽くしていたのだ。
センサー群より得られる情報もまた、艦体周辺を無数の不明物体が取り囲んでいるとの事実を示している。
そして今や、影は複数の光源からの光を反射するだけの存在ではなく、自らが眩い光を発し始めていた。
正確には影そのものではなく、その前面に集束する紫掛かった光の粒子、その集束体が放つ輝き。
ドーム内へと映り込む無数の同型の影、その全てが同様の粒子集束を実行していた。
これから何が起こるのか、クロノが予想し得る可能性は、唯1つ。

『ガス雲、接近!』



「砲撃」だ。



「総員、衝撃・・・」

クルーへの警告。
その言葉を、最後まで言い切る事はできなかった。
閃光がドーム内を埋め尽くし、拡散粒子を介してのエネルギー移動によるものか、強烈な衝撃が艦体を揺るがす。
悲鳴、そして警報。
同時に、クロノの身体は前方へと投げ出され、赤く明滅する警告ウィンドウによって埋め尽くされたコンソールへと、強かに打ち付けられる。
胸部から腹部に衝撃、口内に拡がる鉄分の臭い。
思考速度低下、薄れる意識。

「くそ・・・ッ」

だが、彼はコンソールに手を掛け、床面へと崩れ落ちそうになる身体を無理矢理に引き起こす。
一体、何が起こったのか。
それを確認する前に意識を失う事など、彼の艦長としての矜持が許容しなかった。
システムとのリンクは、既に断たれている。
咳込みつつも、ドーム内の各所へと視線を走らせるクロノ。
下方に位置するクルー等は、床面に蹲り咳込む者から、果ては伏したまま微動だにしない者も居る。
負傷者、多数。

791R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:22:37 ID:HxUl0Emw
次に、クロノは外部映像を見やった。
だが、警告灯の赤と黄色の光が明滅するドーム内には、本来の壁面が拡がるばかり。
映像途絶、外部状況の確認不可能。
クロノはシステムの修復を試みるべく、ウィンドウを展開せんとした。
だが、反応が無い。
幾度か同じ試みを繰り返すも、システムは沈黙したままだ。

「どうなっているんだ・・・」

呟きつつ、立ち上がるクロノ。
艦体が崩壊した訳でもなく、自身の身体も意識も消失していない事から推測するに、敵機群の霧による砲撃を受けた訳ではないらしい。
下方では比較的軽傷で済んだらしきクルー等が、微動だにしない他のクルー等を助け起こしている。
クロノは待機状態のデュランダルを手に、コンソールから身を乗り出した。
自身も重傷者の介助に加わり、更にシステムの復旧を行うべく、下層に直接下降しようと考えたのだ。

だが、その直前に映像表示機能が再起動、ドーム内に展開したスクリーン上をノイズが埋め尽くす。
クロノはデュランダルを懐に戻し、再度ウィンドウの展開を試みた。
問題なく展開されるウィンドウ、システム自動復旧中との表示。
直後、ドーム内のノイズが消え去り、外部映像が正常に表示された。
映像表示機能、復旧完了。
クロノは隔離空間内部の映像を視界へと収め、其処に映り込んだものを余す処なく意識へと捉える。
そして、絶句した。

「何だ、こいつらは?」

ドーム内へと映し出される、隔離空間内部。
其処にはもう、無数の敵機群も、迫り来るガス雲も存在しない。
広大な空間には、敵機群の攻撃を掻い潜る事に成功した友軍艦艇群、そして無数の奇妙な飛翔体群のみが存在している。
空間中を縦横無尽に翔ける飛翔体、その1群を静止画像として撮影し拡大表示。
そして、とある事実に気付く。

飛翔体は、全てが同型ではなかった。
先程、クラウディアの眼前に現れた、あの個体。
前後に伸長した奇怪な形状の頭部、半月状の胴部。
その左右側面に突き出した翼状の腕部構造物、其処から前方へと伸長する槍状構造物。
頭部先端付近に点る、センサー群によるものらしき3つの赤い光。
人型とも、戦闘機型とも付かぬ、奇形としか云い様のない全貌。
それ以外に、明らかに別種と判る個体が存在していた。

中枢部より後部下方へと突き出した三角翼、垂直尾翼としては余りに重厚な上部構造物。
キャノピー、或いはセンサー群であろうか、微かな青い光を纏った鋭い先端部。
そして、巨大な針にも似た外観、中枢部下方に備えられた砲身らしき構造物。
明らかな戦闘機型でありながら、機械的な直線と有機的な曲線が混在する全貌。

更に、無数に飛び交う小型の飛翔体、それら以上に信じ難い存在が出現していた。
隔離空間内部を埋め尽くす、白に近い灰色の装甲に覆われた、無数の巨大な影。
クラウディア直上、そして直下を追い抜いてゆくそれらの影を、呆然と見つめるクロノ。
その思考は、既に正常な機能を失い掛けている。
何が起きているのか、理解などできる筈もない。
彼の眼前に現出している光景には、理解の余地など微塵も存在しない。
そんな中、回復したリンク越しに意識へと届く、色濃い混乱が滲んだクルーの声。

『艦長・・・見えておられますか? センサー群は正常です・・・これは、これは幻覚では・・・』
「解っている・・・見えているさ、僕にも」

三角状の艦体、艦首となる頂点付近の上部には奇妙な形状の砲塔らしき構造物が2つ、後方となる辺部中央には艦橋らしき構造物。
更に、艦橋を挟む様にしてエンジンユニットらしき左右一対の構造物が存在し、それらは艦体を挟んで反対、即ち下方へと伸長している。
一方で、艦首からも下方へと構造物が伸長し、それらは宛ら、艦体を支える三脚の様な配置となっていた。
XV級の約3倍にまで達する巨体にも拘らず、中型次元航行機のそれと錯覚する程の高機動。
戦闘機宛らに3隻毎の集団を形成し、一糸乱れぬ編隊行動にて空間中を徘徊する。

792R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:23:21 ID:HxUl0Emw
もう1種の艦艇、先の艦艇と比較しても、更に異様な外観を有するそれ。
円柱状の艦体を中心とし、その中央部から後方に掛けてエンジンユニット、艦橋構造物等が密集。
艦体後部の体積は、前部と比較して実に3倍程度にまで膨れ上がっている。
全幅および全高は三角状艦艇と然程に変わらぬものの、全長は明らかにその倍以上は在るだろう。
一方で、艦橋構造物の外観は、三角状艦艇と何ら変わりが無い。
そして、円柱状の艦体先端部、半球状の艦首付近。
艦体より両舷斜め上方45度および下方垂直へと突き出す、アンテナ群にも似た3つの構造物。
余程に頑強な物質にて形成されているのか、其々の構造物は細い支柱1本によって艦体と接続されているのみ。
にも拘らず、それら支柱の中間部には、XV級の艦体にすら匹敵する規模の構造物が接続されている。
支柱は構造物との接続箇所から更に伸長した後に分岐、艦体前方への伸長部位から更に2本へと分岐していた。
巨大なレーダー群にも思えるそれらは、如何なる運用目的の下に設置された物なのか。
現状に於いては、何ら判明してはいない。

異形の飛翔体群、異形の艦艇群。
空間を埋め尽くさんばかりに存在するそれらを、誰もが言葉少なに呆然と見つめている。
クロノもまた、その内の1人だった。
先程、クルーからの報告に言葉を返して以降、彼は何をするでもなく映像を見つめ続けている。
次に執るべき行動を判断するどころか、現状を理解する事すら不可能なのだ。
十数秒ほど思考を放棄し、理解の及ばぬ光景を眺めていたところで、誰がそれを責められようか。

「冗談だろう・・・」

それでも、彼はクルーの誰よりも早く意識を持ち直した。
そして、眼前に拡がる光景を改めて意識中へと捉え、思わず呻きにも似た言葉を漏らす。
光学的に捕捉し得る数だけでも、明らかに500隻は存在するであろう大型艦艇。
それらの艦艇は、各々が周囲に三角状艦艇の集団、3隻毎に形成されるそれを3集団まで引き連れ、計10隻の艦艇から成る分艦隊を形成している。
即ち、光学的捕捉可能域内に限定しても、大型艦艇500隻以上、及び三角状艦艇4500隻以上が存在する計算となるのだ。
各種センサー群による捕捉可能域内では、反応総数は既に40000を超えている。
同様の現象が戦域全体にて発生していると仮定すれば、その数は数倍、或いは数十から数百倍にも達する事だろう。
飛翔体群に関しては、艦載機である可能性が高い。
飛翔体のサイズからして、各艦艇につき少なくとも数十機、多ければ100機以上が搭載されていると見るべきか。
となれば、戦域全体に存在する飛翔体の総数は、どれだけ少なく見積もったとしても優に1000000機を超えるという事か。

混成艦隊の総戦力は疎か、バイドの物量さえ凌駕し得る、圧倒的なまでの戦力。
そんなものを有する不明勢力が、僅か十数秒の内に戦域へと出現している。
だが、真にクロノを驚愕せしめた事実は、不明勢力の規模などではない。

空間中に漂う僅かな粒子、明らかに波動粒子と判るそれ。
先程の飛翔体群による砲撃、その残滓らしきそれを、各種センサー群が解析していた。
その結果、システムを介してクロノの意識中へと転送された、とある情報。
俄には信じ難い、しかし紛れもない真実。
クロノは、呆然と呟く。

「魔力反応・・・だって?」

その数値は、戦略魔導砲のそれと比較すれば、決して大きいものではなかった。
艦載型通常魔導砲による砲撃と大差ない数値、魔法技術体系から成る兵器としてはごく平凡なもの。
だが、その反応が波動粒子の観測と同時に検出されたとなれば、話は全くの別物となる。

魔力と波動粒子、双方を用いての攻撃を実行する兵器に関しては、現在に至るまで1種しか確認されてはいなかった。
地球軍およびバイドによるクラナガン襲撃時に確認された、漆黒と濃紫色の装甲を有するR戦闘機。
魔力を集束し、更には波動粒子としての性質をも付与した上で砲撃と為す、次元世界に於ける技術体系と22世紀の第97管理外世界に於ける技術体系、双方の融合により創造された兵器。
地球軍を除き、短期間の内にそれを実現し得る勢力など、バイド以外には存在しないと思われていた。
そして事実、当該兵器種を運用する新たな勢力の存在は、これまで確認されなかったのだ。

793R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:24:16 ID:HxUl0Emw
だが、今は違う。
周囲の空間を埋め尽くす不明勢力、それが運用する兵器群は、明らかに魔力と波動粒子の双方を用いての砲撃を実行したのだ。
それも、唯の砲撃ではない。
バイドにより繰り出されたR戦闘機群、それらが放った波動砲による霧の砲撃を相殺するに止まらず、霧の壁の先に展開していたR戦闘機群をも殲滅して除けるという、異常な攻撃。
そんな攻撃を放つ兵器が艦載機に搭載されているという、少なくとも次元世界に於いては他に類の無い兵器体系。

恐らく、単機に於ける各種性能は、地球軍が有するR戦闘機のそれには及ぶまい。
彼等が創造した兵器群は、他と比較するという行為、それ自体が愚かしいと思える程に異常な存在だ。
飛翔体群が放った砲撃は確かに強力だが、それでも地球軍が運用する波動砲には及ばない。
しかし、それは飽くまで単機ならばの話だ。
複数の飛翔体からの同時砲撃ともなれば、その威力および範囲は、R戦闘機のそれを大きく凌駕する事となる。
10機も集まれば、戦略級とも云える規模にまで膨れ上がるだろう。

では、100機での同時砲撃ならば、どうか。
1000機では、10000機では、100000機では。
1000000機での同時砲撃ならば、如何なる規模となるのか。

『大質量物体、転移・・・バイドです! 新型複合武装体を確認、無数!』
『未確認機体群、魔力素の集束を・・・いえ、艦艇もです! 不明勢力艦艇群および機体群、魔力素の集束を開始!』

新型複合武装体群、再転移。
不明勢力、攻撃態勢へ移行。
今度は飛翔体群のみならず、三角状艦艇の艦首構造物下方、そして巨大艦艇の艦首にまで、魔力素を含んだ光の粒子が集束してゆく。
全戦力を用い、出現直後のバイド群を殲滅するつもりか。

「総員、身体を固定しろ! 衝撃が来るぞ!」

クロノは、語気も鋭く叫んだ。
先程の衝撃、あれは間違いなく魔力素によるものだ。
本来、真空中で衝撃は伝播しない。
たとえエネルギーの発生源が核爆発であろうと、それを伝播する物質が存在しない以上、直接的なエネルギー輻射による破壊以外に効果は望めないのだ。
だが、地球軍およびバイドを含む複数の勢力は、管理世界に於いては未知となる粒子拡散技術を各種弾頭に搭載しており、大気中と同等か、或いはそれ以上に強力な衝撃波の伝播・拡散を可能としていた。
それら以外にも、波動砲を始めとする粒子集束型質量兵器の砲撃時に於いて、波動粒子を伝播物質とするらしき強烈な衝撃波の発生が観測されている。
一方で魔導兵器群についても、アルカンシェルを始めとした戦略魔導砲等による砲撃時に於いては、大量の魔力素を伝播物質として衝撃波が発生するのだ。

先程の、飛翔体群による一斉砲撃。
クラウディアを襲った衝撃は、魔力素と何らかの粒子を伝播物質として齎されたものだろう。
今度の砲撃は、艦艇群のそれをも含めた更に大規模なものだ。
砲撃の余波だけで艦体が破壊されるとは流石に考え難いが、しかし艦内のクルーは徒では済むまい。
よって、出来得る限り衝撃に備え、身体を護る必要性が在る。

クロノもまた、身体を固定するべく艦長席へ戻らんとした。
だが、唐突に鳴り響く警告音に、彼の動作が停止する。
友軍艦艇より長距離全方位通信、緊急。
余程に急いでいたのか、暗号化すら為されてはいない。
リンクを介し、音声としての出力を設定するクロノ。
直後、ドーム内へと響き渡った言葉に、彼の思考が硬直した。

『警告! 不明勢力艦隊、地球軍艦隊へと急速接近中! 艦艇群及び艦載機群、攻撃態勢!』

クロノは咄嗟に、隔離空間内部に浮かぶ第97管理外世界、その惑星を新たに展開したウィンドウ上へと拡大表示する。
映像上にて、地球軍艦隊の艦影を捉える事はできなかった。
しかし一方で、第97管理外世界へと向けて殺到する無数の艦艇群、それらの艦影については鮮明にウィンドウ上へと映し出されている。
全艦影の前部、艦首に集束する紫掛かった光の粒子。
同じく粒子の集束を開始している飛翔体群を周囲へと無数に展開し、艦艇と艦載機による壁そのものとなって第97管理外世界へと迫る。
彼等の狙いは、明らかに地球軍艦隊だ。

794R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:25:09 ID:HxUl0Emw
「馬鹿な、正気か!?」

クロノは自身の思考を、意図せず声にして叫んでいた。
彼の驚愕は、2つの事柄に関して生じたもの。
共に信じ難く、理解できない事実に対する困惑でもあった。

1つは、このタイミングで地球軍艦隊への明確な敵対的行動を開始するという、不明勢力の戦略。
地球軍艦隊が恐るべき総合戦力を有しているとの事実については、既に全ての勢力が知り得ていると云っても過言ではない。
無尽蔵とも思える物量にて押し寄せるバイド群に対し、単独勢力での抗戦にも拘らず互角、或いは優勢とすら判断できる戦況を維持する事すら可能という、常軌を逸した戦力。
それ故か彼等は、これまで如何なる勢力に与する事もなく、只管に自身等と第97管理外世界の防衛に務めていた。
混成艦隊としても、小規模ながらバイドに対する最大の有効戦力であり、同時に決して友軍とは為り得ず、しかし明確に敵性であると断言する事もできぬ地球軍艦隊に対し、これより先の状況に於ける対応内容の決定という問題を先送りにし続けていたのだ。

友軍として混成艦隊へと加わる事を要請したところで、地球軍艦隊がそれを受け入れるであろう、との予測を導き出した勢力は皆無。
かといって明確に敵対を選択すれば、彼等が有する恐るべき戦力の一端、その矛先が遠からず次元世界へと向けられる事は明らかだ。
よって、現状での最善策とは地球軍艦隊に対して不干渉を維持しつつ、出現したバイド群を殲滅する際に彼等の戦力を利用する事であるとの認識が、混成艦隊内部に於いては浸透していた。
だが、不明勢力はその認識を完全に無視し、地球軍に対する攻撃を独善的に実行せんとしている。
その攻撃は不明勢力単独での判断により実行されるものであるが、しかし地球軍が事実の通りに状況を認識するとは限らない。
不明勢力による攻撃が次元世界の総意によって為されたものであると判断されれば、直後から混成艦隊は地球軍の積極的攻撃対象に加えられる事となるだろう。
状況は、極めて危険だ。

そしてもう1つは、展開する地球軍艦隊の背後、第97管理外世界の存在を無視した不明勢力の行動。
惑星を背に展開する地球軍艦隊に対し、不明勢力が全方位より飽和攻撃を仕掛ける心算である事は、誰の目にも明らかだ。
当然ながら、その様な戦略攻撃が実行されれば、第97管理外世界にまで被害が及ぶ事は避けられない。
数万、数十万もの砲撃は地球軍艦隊のみならず、大気圏を突き抜け地表へと到達、少なくとも上部マントル層までを容易く貫く事だろう。
海洋の消滅、大陸の崩壊、そして遂には惑星全体の破壊へと至るであろう事は、想像に難くない。
無論の事、惑星上に存在する総数200にも迫る国家群も、其処に暮らす70億もの地球人も、残らず消滅する事となる。
如何なる勢力であろうと、その事実に思い至らぬ筈がないのだ。

だが、その事実にも拘らず、不明勢力は今まさに砲撃を実行せんとしている。
地球軍艦隊の殲滅が最優先であると云わんばかりに。
第97管理外世界の存亡など知った事かと云わんばかりに。
否、その様な生易しい戦略に基いての行動ではない。
不明勢力の動向からは、明らかな意思が読み取れる。
理解できぬ訳ではないが、しかし決して理解してはならない意思。
同意する思考は在れど、しかし決して同意する事など在ってはならぬ意思。
彼等は、明らかに彼等は。

「ふざけるな・・・」



「地球軍」諸共、「地球」を滅ぼす心算なのだ。



「認めるか・・・ッ!」

知らず、クロノは呟いていた。
無駄な足掻き、意味の無い行動とは知りつつも、その腕をドーム内に映る「地球」へと伸ばす。
宛ら、その手に「地球」を掴み取らんとするかの様に。
友人達、知人達、それらの家族。
意識中を翔ける記憶、幾つもの顔。

795R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:26:06 ID:HxUl0Emw
彼等は知らない。
何も、知らないのだ。
あの惑星は飽くまで「21世紀の地球」であり、地球軍が所属する「22世紀の地球」ではない。
バイドとの接触も、異層次元への進出も遂げてはいない、閉塞された世界。
其処に暮らす70億もの人々は、この瞬間に自らの頭上に拡がる隔離空間、その存在すら知り得る事はない。
他の世界は独力で、或いは他勢力からの干渉によって、惑星と隔離空間内部とを隔てる偽りの空、微細空間歪曲による通常宇宙空間環境の限定的光学反映技術を用いて形成された極薄膜層空間を破壊し、惑星外の状況を正確に把握している。
しかし21世紀の地球には、当該空間消去が可能となる技術など存在しない。
また、地球軍により構築された異常なまでに強固な防衛網の存在下、他勢力からの干渉など成功する筈もなく、またバイドを除いて積極的な干渉を試みる勢力も存在しなかった。
結果として、地球の国家群は隔離空間を観測するに到らず、依然として通常宇宙空間を認識し続けている筈なのだ。

彼等には、抵抗の為の術が無い。
逃げる事もできない。
認識する事もできない。
1度でも攻撃を受ければ、惑星の周囲で何が起こっているのかを欠片ほども知る事なく、数十億の人命が消え去る事だろう。
そんな事は、全ての勢力が理解している。
否、理解できない訳がない。
にも拘らず不明勢力は、そんな地球をも巻き添えにして、地球軍艦隊に対する戦略攻撃を実行する心算なのだ。

「止せ・・・」

際限なく上昇し続ける、外部検出魔力値。
集束される魔力と波動粒子は更にその密度を増し、今や映像の殆どが紫光によって埋め尽くされている。
艦のシステムを介さずとも、直接にリンカーコアを圧迫される感覚。
心臓を握り潰されるかの様なそれに息を詰まらせながらも、クロノは病的とも云える様相で呟き続ける。

「御願いだ・・・!」

殺される。
殺されてしまう。
妻の、母の、義妹の、娘の、息子の、自身の。
友人が、知人が、その家族が、その周囲の人々が。
海沿いの都市、爽やかな潮風が吹き抜ける、あの美しい町に暮らす、優しく温かな人々が。
理不尽に、一方的に、不条理に。
無慈悲な、魔力素と波動粒子の奔流によって。

「止めてくれッ!」



存在した証ごと、殺されてしまう。



「止せぇッ!」

爆発。
強烈な光が、ドーム内を完全に埋め尽くす。
衝撃に弾かれる身体、轟音に破壊される聴覚。
肉体を襲う衝撃、精神を襲う絶望、そしてリンカーコアを襲う強大な負荷。

知らず放たれた懇願の絶叫は何処へと届く事もなく、無情な轟音に呑まれ掻き消えた。
誰に対するとも知れぬ怨嗟と憤怒により加速する思考は、しかし直後に襲い掛かった更なる衝撃によって粉砕される。
クロノの身体は周囲の構造物へと幾度も打ち付けられ、漸く静止した頃には全身が血塗れとなっていた。
艦内重力発生機構が停止したのか、奇妙な浮遊感。
同時、奇跡的に機能を維持していたらしきシステムを介し、新たな情報が齎される。

隔離空間内部、バイド係数増大。
本局艦艇変異体、形状変化および移動開始を確認。
大質量物体複数、転移確認。
転移物体規模、計測不能。

796R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:27:03 ID:HxUl0Emw
クロノは、行動を起こさない。
否、起こせない。
彼は、既に理解していた。
理解せざるを得なかった。
仰向けのまま宙を漂い、咳込み、吐血し、擦れた呼吸を繰り返すクロノ。

戦局は、変化するものと考えていた。
魔導兵器群の強化、リンカーコアの強化。
大規模戦力の増援、新たな協調体制の形成、圧倒的な攻勢の実現。
バイドも、地球軍も、戦略の変更を余儀なくされるものと考えていたのだ。

現実には、何も変わらなかった。
管理局艦隊を含む混成勢力が如何に強大になろうとも、バイドと地球軍はそれまでと同様の戦略を堅持し続けたのだ。
即ち、圧倒的な物量による殲滅戦、他を超越する各種性能を有した兵器群による独自継戦。
それだけならば、まだ対処の仕様は在っただろう。
だが、バイドは新型複合武装体群および独自開発したらしきR戦闘機群を投入し、地球軍の継戦能力は衰える兆候すら見せはしない。
挙句、新たな不明勢力までもが出現し、地球軍とバイド双方への攻撃を開始する始末だ。

何も、変えられなかった。
光の壁を形成する光学兵器も、射程が向上した通常魔導砲も、機銃の如く連射される電磁投射砲も、出力が増大した戦略魔導砲も、嵐の如く放たれ続ける核弾頭も。
何1つ、変えられはしなかった。
管理局は、混成艦隊は。
未だに状況へと対応しているに過ぎず、自らが戦場の中心とは成り得ていない。
自らの世界が脅威に曝され、それに抗うべく戦いを選択したにも拘らず。

「・・・ふざけてる」



クロノ達は、傍観者に過ぎなかった。



「畜生・・・ッ!」

意識が、闇に呑まれてゆく。
安息を齎すそれではなく、無慈悲なまでに無機質な闇。
コールタールの如く絡み付く絶望の中、クロノは自身の中で決定的な何かが変化した事を自覚する。
決して譲れない筈であった、自己の中心を成す何か。
完全に意識が失われるまでの僅かな間、崩れ去ったそれが全く別のものへと再構築されてゆく事を、クロノは不思議と醒めた感覚で以って捉えていた。

*  *  *

それは、人の嗚咽だった。
会話の様にも聞こえる音、小さな呟き声。
三叉路を曲がり、その先を覗き込むと、其処には床面に蹲る女性の姿。
その全身は赤黒く染め上げられ、床面にも同様の色が拡がっている。
周囲には無数の肉片が散乱し、壁面も天井面も、一様にどす黒い赤に塗り潰されていた。

更に、女性の傍へと近付く。
嗚咽は、明らかに言語を含んでいた。
どうやら、恋人と過ごした時間の思い出を、腕の中の物体へと語り続けているらしい。
彼女が抱える物体、他よりも幾分か大きな肉塊。

797R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:28:16 ID:HxUl0Emw
それは、人の胴部だった。
頭部も、腕部も、脚部も無い。
本来ならば接続されている筈の部位、それら全てが失われた胴部だけ。
男性のものらしきそれは左側面が大きく抉れ、剥き出しとなり損壊した肋骨の間から、破れた肺の組織と心臓が零れ出している。
寸断されている剥き出しの脊椎、引き裂かれ解れて女性の手の甲に張り付く筋組織、重力に従い垂れ下がる腸。
どうやらこの肉塊こそが、女性が語る輝かしい思い出、其処に登場する恋人の成れの果てらしい。
直後、彼等についての個人情報が提供される。

女性は本局1038航空隊所属、アネット・ブレナン二等空尉。
誘導操作弾による射撃戦と、近代ベルカ式とミッドチルダ式を高度に融合させた近距離戦闘、双方を得意とする汎用型の魔導師、総合AAA。
使用デバイスはカットラス型、及びダガー型の2種。
肉塊は本局1107航空隊所属、ジェフリー・アーキン二等空尉。
デバイスによる中距離制圧射撃と、表層展開型障壁を用いた近代ベルカ式格闘戦を得意とし、センターガードとフロントアタッカーの二役を担う汎用型、総合AAA+。
使用デバイスは突撃小銃型およびPDW型、障壁展開に用いるライオットシールド型の3種。

周囲の状況から推測するに、2名は複数の魔導師と共に行動中、意図せぬ形でランツクネヒト分隊と遭遇し、しかしながら突発的な交戦の結果、これを殲滅する事に成功したらしい。
肉片に混じり散乱する装甲服の残骸から、少なくとも10名前後のランツクネヒト隊員を殺害した事が解る。
だが、戦闘によって魔導師側が受けた被害は甚大だった。
ブレナン二等空尉、彼女を除く全員が殺害されたのだ。
突発的な遭遇戦、近代ベルカ式を含む大威力魔法と、対人用とは思えぬ過剰な火力を有する質量兵器。
双方が正面から衝突した結果、如何なる惨劇が巻き起こったかは容易に想像できる。

増幅された魔力により繰り出される強烈な打撃、蹴撃、刺突、斬撃、直射弾、誘導操作弾、簡易砲撃。
ランツクネヒト隊員達は骨格を砕かれ、肉体を抉られ、四肢を斬り飛ばされ、全身を穿たれ、痕跡すら残さずに消滅した事だろう。
マズルフラッシュと共に連射される6.8mm弾、10ゲージ000B、13mm砲弾、7.62mm磁気・炸薬複合加速投射弾。
魔導師達は骨格を撃ち抜かれ、肉体を粉砕され、四肢を吹き飛ばされ、構造物諸共に細分化された事だろう。

周囲に散乱する10ゲージ弾薬の薬莢、そして壁面から天井面に掛けて穿たれた無数の細かな弾痕から推測するに、アーキン二等空尉は至近距離からAS-55による000Bの連射を浴びたらしい。
恐らくはブレナン二等空尉が狙われ、咄嗟に彼女を射線から押し出しつつ敵を銃撃したのだろう。
傍に転がるランツクネヒト隊員の死体、ヘルメットとマスクごと大きく抉れたその頭部と、無数の弾痕が穿たれた胴部。
それこそがアーキン二等空尉の戦果を、無言の内に物語っている。
だが、その際に攻撃を実行した人物は、彼だけではなかった。
結果的には射殺されたランツクネヒト隊員もまた、アーキン二等空尉とほぼ同時にAS-55のトリガーを引いていたのだ。

毎秒9発もの速度で連射される10ゲージ000Bの散弾は、彼が展開していた障壁をいとも容易く瞬時に、且つライオットシールドごと破壊したに違いない。
弾雨は空尉の四肢、そして頭部を瞬間的に粉砕し、無数の肉片へと変えた。
そして、所持者である隊員がアーキン二等空尉からの銃撃により死亡した後も、AS-55はトリガーを引き絞られたまま10ゲージ弾薬を連射し続けたのだろう。
吹き荒れる000Bの暴風により、双方に幾人の死傷者が発生したかは不明だ。
尤も、その頃にはブレナン二等空尉、彼女以外の全員が死亡していた可能性も在るのだが。

そして、注意深く観察してみれば、ブレナン二等空尉は視力を失っている事が分かる。
俯いた彼女の頭部を側面から捉えたところ、両眼の周辺が深く抉れていたのだ。
更には肉塊を抱える両腕、それらについても前腕部の中程から先が失われており、止め処なく血液を溢れさせ続けている。
アーキン二等空尉の生命を奪ったランツクネヒト隊員、彼が放った散弾によるものか否かは不明だが、彼女もまた銃撃により負傷していたのだ。
出血量からして、保って10分といったところか。
高度医療魔法を使用した処で、彼女の生命を繋ぎ止められる可能性は低い。
第一に、こちらは治癒系魔法の使用など不可能であり、縦しんば可能であったとして、此処で彼女を救う事により重大なメリットが生じるとは思えなかった。
最早、この周辺に得るべき情報は無いと、他のエリアに視点を移動する。

798R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:29:17 ID:HxUl0Emw
粒子集束技術研究区、実験体搬送用トラムチューブ第4点検通路。
其処では11名のランツクネヒト隊員達が、視界の左手に向かって激しい銃撃を行っていた。
こちらの視界、その下方。
複数種の銃器が絶え間なくマズルフラッシュを放ち続けており、視界外に位置する何者かへと凄まじい弾雨の嵐を叩き付けている。
点検通路はそれなりの広さを有する空間だが、それを考慮しても過剰なまでの銃撃だ。
彼等の正面に位置しているのであろう敵対者は、既に原形を留めぬ無数の肉片と化している事と思われた。

だが、その直後。
視界が激しく揺らぐと同時、手前の壁面を貫通する巨大な光の奔流、1条。
その光条は射撃中の隊員1名を側面から襲い、彼の身体を完全に呑み込み瞬時に消滅させ、更に向かいの壁面をも貫通してゆく。
強大な魔力の奔流、集束砲撃魔法。
正面に位置する敵が陽動である事を悟ったのだろう、残る10名の隊員達は弾かれた様に銃口を側面へと向ける。
だが、そんな彼等の対応を嘲笑うかの様に、連続して撃ち込まれる砲撃。
隊員達には、反撃を行う余裕など無かった。
飛散する壁面の破片と連続して襲い掛かる衝撃波に体勢を崩され、トリガーを引いた処で照準を定める事すら不可能なのだ。
反撃が不可能である以上、彼等は単なる標的でしかない。
10名の隊員達、漆黒の装甲服に覆われたその身体が次々に消し飛び、銃器の破片と僅かに残った四肢の一部が床面へと散乱する。

そうして、最初の砲撃から僅か3秒にも満たぬ間に、11名のランツクネヒト隊員達は僅かな肉片を残し、消滅した。
その数秒後、衝撃によって傾いた視界の内へと現れる、魔導師らしき8名の人物達。
彼等こそが、砲撃を実行した魔導師の一隊だろう。
指揮官らしき男性がランツクネヒト隊員達の死体、正確には彼の足下に転がる軍用ブーツに覆われた右足首を一瞥し、今なお床面より垂直に立ち続けるそれを軽く蹴り倒す。
次いで、彼は敵部隊の殲滅確認を宣言し、これより索敵に移行するとの指示を発した。
直後、8名は飛翔魔法により視界内から姿を消し、後には僅かな人体の欠片と無数の構造物残骸のみが残される。
問題は無いと判断、視点を移動。

第18資材保管庫は、地獄と呼称するに相応しい状況だった。
当該保管庫の構造は、特殊合金製の壁面によりエリアを30もの小区画に分割し、その上方に網目状の通路が掛かっているというものだ。
クレーン、または重力制御を用いて資材を搬入する設計の為、人員の出入も通路からエレベーターを用いて行う。
そして、幾つかの小区画には其々200名前後の被災者が避難しており、区画毎に数人の魔導師か、或いは質量兵器にて武装した兵士が護衛に就いていた。
保管庫に被災者の一部を集め、其処へと続く通路に魔導師と兵士達を配置して、防衛態勢を築いていたのだろう。
だが、現状から判断するに、防衛隊はランツクネヒトによって殲滅されてしまったらしい。

8名のランツクネヒト隊員が、魔導師のものらしき死体、そして肉片が散乱する通路を闊歩しつつ、遠方の区画へと13mm砲弾を撃ち込んでいる。
それらの砲弾が各区画へと吸い込まれると、直後に巨大な爆発か、或いは大量の業火、時には大量の肉片と血飛沫が区画内より噴き上がるのだ。
砲弾が撃ち込まれたにも拘らず視覚的な変化が確認されない場合は、恐らくは神経ガス散布弾が使用されているのだろう。
周囲には無数の被災者より発せられる悲鳴が1つの巨大な音となって響き続け、爆発の轟音ですらその中に呑まれ霞んでゆく。
そして格納庫中央部、一際広大な区画の上方では、足場に集合した14名のランツクネヒト隊員達が、只管に下方へと銃撃を浴びせ掛けていた。
散弾から対人榴弾、対人焼夷弾に12.7mm弾。
更にはガウスライフル「GR-32」による掃射までもが、中央区画内に存在する1000名以上もの被災者達、その頭上へと撃ち込まれ続けているのだ。

799R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:29:54 ID:HxUl0Emw
人体が引き裂かれる、などという生易しい光景ではない。
凄まじいまでの悲鳴は徐々に小さくなり、大量の血液と肉片が上方の通路に届かんばかりの高さにまで、常に噴き上がり続ける。
隊員の1名が使用する大型の銃器、分隊支援火器「MG-63」。
それに用いられている12.7mm弾は全弾が超小型の対人榴弾であり、区画内では途切れる事なく小規模な爆発が継続しているのだ。
噴火の如く噴き上がる血飛沫を拡大すれば、その中には辛うじて原形を留めている四肢の一部から骨片、剥がれた頭皮から爪や歯、更には乳児の半身等までもが含まれていると判る。
数千発の銃弾による巨大な挽肉機、其処に放り込まれた1000名以上もの被災者達。
銃撃は一向に止む様子を見せず、響き渡る悲鳴だけが急速にその数を減らしゆく。
第18資材保管庫に存在していた被災者、総数5103名。
その内の生存者数が0となる瞬間は、そう遠いものではあるまい。
当該エリアについても、これ以上に得られる情報は無いだろう。

第1港湾施設内ターミナルでは、第97管理外世界側の非戦闘員が524名、ランツクネヒトによる護衛を受けつつ輸送艦艇へと搭乗している最中だった。
非戦闘員達が慌しくゲートを潜る中、12名のランツクネヒト隊員達は周囲警戒を続けている。
どうやら彼等は、第88民間旅客輸送船団人員の一部を、ベストラから脱出させるつもりらしい。
防衛艦隊旗艦ウォンロンの戦闘指揮所に対する破壊工作実行後、制圧されたウォンロンのシステムからベストラに対して実行された各種妨害工作。
それにより遠距離間での通信、及びシステムによる各種サポートの使用も不可能となった現在、非戦闘員を護り切る事は非常に困難。
そう判断したのか、分断されたランツクネヒトの一部は、ベストラの放棄を選択したらしい。

非戦闘員の殆どがゲートを潜り、取り残された者が居ないかと、ランツクネヒトが周囲の確認を開始する。
そうして、最後の集団である28名の非戦闘員達がゲートを潜ろうとした瞬間に、それは起こった。
ゲートの向こう、艦艇停泊中のベースを含むエリアが、突如として爆発したのだ。
瞬間的に視界を埋め尽くすノイズ。
今まさにゲートを潜らんとしていた28名は、唯1人の例外も無く一瞬にして全身を粉砕され、肉片と鮮血の壁となって後方へと飛散する。
装甲服を纏っているランツクネヒトの隊員達は、身体が四散する事こそなかったものの凄まじい勢いで吹き飛ばされ、明らかに致命傷を受けるであろう速度にて周囲の構造物へと叩き付けられていた。
一体、何が起こったのか。

本来ならばゲートが存在している筈の壁面、それが跡形も無く崩壊していた。
その先に拡がる広大な空間には、全てを焼き尽くさんばかりの業火が揺らめいている。
しかし、重力制御機構が停止したらしく、炎は奇妙に揺らめき膨張した後、始めからそんなものは無かったのだと云わんばかりに掻き消えた。
周囲を覆い尽くす、大量の黒煙。
視界をサーマル・モードに変更すると、周囲構造物の殆どが白く染め上げられた。
かなりの高温、構造物が赤熱しているのだ。

そんな中、遥か前方に拡がる広大な空間、比較的低温な大気に満たされた其処を横切る、巨大な熱源。
赤外線の放射を遮断しているのか、徐々に薄れゆく赤い光。
防衛艦隊旗艦、ウォンロン。
第148管理世界ダオイェン共和国に於いて違法に建造され、僅かに2時間前まではランツクネヒトによる管制下に在った、巨大な空母型戦闘艦。
その艦艇は今や、ベストラを脱出せんとしていた第88民間旅客輸送船団艦艇、それを第1港湾施設ごと砲撃によって跡形も無く吹き飛ばし、傲然とコロニーの周囲を航行しているのだ。
輸送艦艇に乗り込んでいた約500名の非戦闘員は、ウォンロンより放たれた高密度集束魔力砲撃、計8発ものそれによって艦艇ごと撃ち抜かれ、更に着弾後の魔力爆発により完全に消滅した事だろう。
最早、何人であろうと、このコロニーから逃れる事は不可能だ。

無重力中に浮かび上がったランツクネヒト隊員達、その身体が僅かに身動ぎする。
まだ、息が在ったのだ。
だが次の瞬間、ウォンロンから直射弾の弾幕が放たれる。
時間にすれば1秒にも満たない、瞬間的な掃射。
可能な限り構造物を破壊せぬよう、しかし確実に装甲服を粉砕し人体を破壊する程度に魔力密度を調節された、数十万もの弾体。
視界の全てが魔力光に覆われ、次いでノイズに支配される。
何も見えず、何も聴こえない。
だが、たとえ全ての情報が正常に得られていたとして、既に観測すべきものは何もかも消え失せてしまった。
よって、特に問題は無いだろう。

800R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:31:13 ID:HxUl0Emw
次に視点を移した居住区の一画では、見慣れた姿が視界へと映り込む。
その人物等は、ベストラの現状を何ひとつ知らぬ被災者達の中に紛れ、周囲の人々と何事かを話し合っていた。
八神 はやて、高町 なのは。
特に深刻な負傷の様子が見受けられないなのはに対し、はやては左前腕部の半ばより先の部位が失われていた。
どうやらこの2名については、ランツクネヒトとの交戦状況下に於いて有効戦力たり得ない、と判断されたらしい。
よって、真実を知らされる事もなく、何が起きているかを伝えられる事もなく、非戦闘員と負傷者に紛れて避難させられたのだろう。
彼女達の処遇を決定した者、それが誰であるかはある程度まで予想できるが、賢明な判断と云える。
これからの状況の推移を周囲と話し合う2人、彼女達の存在を含め、当該エリアに見るべき箇所は無い。

第11小型艦艇格納庫では、第18資材保管庫とは真逆の光景が繰り広げられていた。
広大な格納庫、天井面に設置された計6基の旋回式自動銃座。
恐らくは遠隔操作されているのであろう、それらは格納庫内に存在する29名のランツクネヒト隊員達、そして第97管理外世界の非戦闘員達483名を機銃の射界へと捉え、猛烈な連射によって次々に殺害してゆく。
現在、其々の銃座が使用している12.7mm弾種については、3基が劣化ウランを用いたAPFSDS、残る3基には対人榴弾が供給されていた。
物陰に隠れた敵に対してはAPFSDSを撃ち込み、遮蔽物ごと撃ち抜き射殺。
遮蔽物を貫通してくるAPFSDSの掃射から逃れるべく、不用意に姿を現した人影の集団に対しては、対人榴弾を用いての掃射。
6基の銃座は連携し、格納庫内の人員を見る間に屠り去ってゆく。

ランツクネヒトと非戦闘員達は、小型艦艇にてベストラを脱しようと、この格納庫へと踏み入ったらしい。
リンクが切断された事には気付いたのだろうが、しかしシステムの制御を奪取されているとまでは予測していなかったのだろう。
彼等は銃座が機能を停止していると誤認し、非戦闘員を伴って格納庫内へと侵入。
だが実際には、彼等は常に監視されていた。
そうして、全てのランツクネヒト隊員と非戦闘員が格納庫内へと侵入した後、外部へと続くドアは完全に閉鎖され、更には全銃座が展開し掃射を開始したのだ。
不意を突かれた為か、満足な応射も出来ぬままに四散してゆくランツクネヒトの隊員達。
逃げ惑う非戦闘員達もまた、次々に弾け飛んでは赤い飛沫と化してゆく。
このエリアについては、特に問題は無いだろう。

居住区、第2浄水施設。
職員ラウンジへと続く通路を駆ける、6名のランツクネヒト隊員達。
漆黒の重厚な装甲服に身を包み、着膨れしたかの様なその外観は、一見しただけでは酷く鈍重な印象を受けるものだ。
だが実際の処、装甲服自体が強靭な人工筋肉を内蔵している為、そのサポートを受ける事により、彼等は常人離れした高機動性を獲得している。
事実、視界に映る彼等は重火器を携帯しながらにして、時速34kmもの速度を維持し移動を続けていた。
魔導師、または戦闘機人には及ばないまでも、非魔導師としては信じ難い速度だ。
だが、魔導師であろうがなかろうが、人工筋肉による筋力増強を受けようが受けまいが、彼等の後方より迫る追跡者にとっては、些末な違いに過ぎなかったらしい。

隊員達を側面から捉えつつ移動する視界の中、突如として彼等を襲う金色の閃光。
轟音、そして衝撃波。
激しく回転し、次いでノイズに埋め尽くされる視界。
漸くノイズが除去され映し出された光景の中では、吹き飛ばされ壁面へと叩き付けられたらしきランツクネヒト隊員達が、ふらつきながらも立ち上がろうとしていた。
遅れて噴き上がる、幾条もの業火の線。
合金製の周囲構造物には凄まじい破壊の跡が刻まれ、吹き飛んだ点検用ハッチからは複数のケーブルが零れ出している。
だが其処には、そんな構造物の破壊などよりも、明らかに異常な点が在った。
視界へと映り込む隊員は5名であり、残る1名が何処にも存在しないのだ。
他の隊員達も、その異常に気付いていたのだろう。
2名と3名に分かれて銃器を構え、其々が通路上の異なる方向を警戒する。

801R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:32:35 ID:HxUl0Emw
直後、またも閃光。
衝撃波が通路内を完全に呑み込み、再び隊員達の身体を吹き飛ばす。
今度はノイズが奔りはしたものの、対衝撃策を取っていた事もあり、視界の揺れは僅かなものに収まった。
衝撃に揺さ振られながらも、通路内の光景は問題なく映し出されている。
その為、其処には閃光の正体と、それにより齎される破壊の詳細が鮮明に映り込んでいた。
瞬間的な閃光、それは空間を覆い尽くすものではなく、想像を絶する速度にて空間を貫く光条。
そして、その光条は其々AS-55とGR-32を構え警戒中だった2名の隊員、事も在ろうに彼等の正面から飛来し、トリガーを引く暇さえ与えずに2名の中央を貫いたのだ。

光条の通過により発生した衝撃波は4名のランツクネヒト隊員を吹き飛ばし、砲弾の如き速度にて壁面へと叩き付ける。
だが、光条に対して背を向けていた3名、その中央に位置していた1名の隊員については、吹き飛ばされる等という生易しい結果では済まなかった。
光条の直撃を受けた次の瞬間、彼の姿は視界内から完全に消え失せてしまったのだ。
空間を貫いた光条、その通過と共に連れ去られたかの様に。
だが、実際は違う。
彼は光条に連れ去られたのではなく、消滅させられたのだ。

瞬間的ではあるが、一連の様子は鮮明に視界へと映り込んでいた。
金色の発光体、その内より突き出す鈍色の矛先。
それは隊員の身体を背面より貫き、そのまま胴部を半ばより上下に分断した。
装甲服を纏った隊員の身体は、発光体の余りの速度に一瞬にして引き裂かれていたのだ。
そして、千切れ飛んだ身体は衝撃波により細分化され、更に閃光の内へと呑まれて塵すらも残さずに消滅した。
後には僅かな光の残滓と、壁面へと叩き付けられた4名の隊員が残るのみ。

光の正体は、噴射炎だった。
想像を絶する出力で以って魔力炎を噴射、それを推進力として突撃する矛先。
更に、魔力炎は推進力としてのみでなく、実効的な攻撃手段としても利用されていた。
矛先による突撃と衝撃波により細分化された攻撃対象を、それ自体が巨大な槍と化した魔力炎、その中へと呑み込み焼却、消滅させているのだ。
極大出力となった魔力、その全てを推進力へと変換して実行される突撃は、狂気の沙汰としか云い様がない。
そして現在、その狂気の突撃は1度ならず2度までもランツクネヒト隊員達を襲い、既に2名の存在を消し去っていた。
だが、攻撃は更に続く。

3度目の攻撃は、2度目のそれから3秒も経たぬ内に実行された。
吹き飛ばされた4名の隊員達が立ち直る暇すら与えず、蹲る彼等を巻き込む形での突撃。
1名が消滅、残る3名の身体がいとも容易く浮き上がり、紙切れの如く宙を舞う。
壁面へ、天井面へ、床面へと打ち付けられ、あらぬ方向へと捻じ曲がる四肢。
直後、4度目の突撃。
天井面から床面へと落下中の1名が直撃を受け、その身体が一瞬にして消滅する。
残るは、2名。

その時、意図しての行動の結果か否かは不明だが、1名の隊員が手にしていたAS-55がマズルフラッシュを放つ。
直後、連続して発生する爆発と、その直中へと突入する光条。
激しく揺れ、ノイズに埋め尽くされる視界。
この施設を訪れる直前に、彼等は機動兵器と交戦していたのだろうか。
どうやらAS-55には000Bではなく、榴弾が装填されていたらしい。
爆発の規模と特性から推測するに、対人榴弾ではなく徹甲榴弾か。

そうして数秒後、通路の床面から見上げる格好となって機能を回復した視界には、完全に破壊された通路と、其処に佇む新たな人影が映り込んでいた。
赤黒い染みが拡がるバリアジャケット、矛先を下に左脇下へと抱えられた槍型デバイス、血の様に赤い髪。
エリオ・モンディアルが、其処に佇んでいた。
先程の光条は彼が使用する近代ベルカ式魔法、メッサー・アングリフの発動により生じていたものだったのだ。
矛先へと触れるもの全てを細分化し、更に全身を覆う噴射炎によって残滓すら消滅させるという、何処までも純粋に対象の殺害のみを目的とした魔法。
自身を砲撃そのものと化す、そんな表現でさえ過言ではない程の暴挙。
だが、絶大なる破壊と絶対的な死を齎すそれは、彼自身に対して強固な防御を確約するものではなかったらしい。

802R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:33:12 ID:HxUl0Emw
5度目の突撃の際、突如として発砲されたAS-55。
放たれた数発の徹甲榴弾は、凄まじい爆発を起こし通路を破壊した。
本来ならば射撃を実行した当人を含め、友軍の至近距離へと着弾した榴弾はシステムからのサポートにより安全装置が作動、起爆しない筈だ。
だが現在、システムはその大部分が沈黙しているか、或いは反乱勢力により掌握されており、ランツクネヒトからすれば機能停止と同様の状態に在った。
其処で彼等は苦肉の策として、全弾薬の安全装置を解除していたのだろう。
その対処が災いし信管が作動、通路へと着弾した榴弾は起爆。
そしてエリオは、連続発生した爆発、その直中へと突入してしまったのだ。
傾いた視界の中、無言のままに佇むエリオ。
彼の眼前へと翳された左手、止め処なく溢れ続ける血液。

指が、足りない。
彼の左手、第四指と第五指が、根元から千切れ飛んでいた。
深く抉れた肉、その間から突き出す細い骨格。
傷口からは絶えず血液が噴き出し、バリアジャケットの裾を赤く汚してゆく。
エリオは感情の浮かばぬ無表情のまま、そんな自身の左手を無言で見つめ続けていた。
宛ら、些末な事とでも云わんばかりに、痛覚など存在しないかの様に。

視界の端、蠢く影。
エリオが自身の左手から視線を離し、影の方向を見やる。
それは、1名のランツクネヒト隊員だった。
まだ、息が在ったらしい。
うつ伏せのまま立ち上がろうとするも、バランスが保てないらしく再び倒れ込む。
それもその筈、彼の右脚は膝部から先が在らぬ方向へと捻じれ、左脚もまた歪に折れ曲がっていた。
左腕も明らかに骨折していると分かる状態であり、正常な機能を維持している四肢は右腕のみ。
それでも彼は残された腕部のみで以って、身体を起こそうと試み続ける。
だがエリオは、その試みの続行を許しはしなかった。

ストラーダの柄を左上腕部と胴部の間に挟んだまま、何かを目指し歩き出すエリオ。
彼は生存しているランツクネヒト隊員の背後を通り過ぎ、もう1名の隊員、上半身が失われ既に死体となったそれへと歩み寄る。
そうして、死体より噴き出す大量の血液を意にも介さない様子で、その腰部より何かを引き抜いた。
マシンピストル「MP-27」。
エリオは右手でグリップを握り、慣れた様子で最終安全装置を解除する。
本来、ランツクネヒトが運用する火器類は、登録された人物以外には使用できない。
だが、居住コロニーがバイドによる襲撃を受けた際から続くシステムの混乱、そして反乱によるシステム奪取により、今や誰もがランツクネヒトの火器類を、全種についてではないにせよ使用する事ができる。
そしてエリオもまた、右手に握るMP-27を有効に活用した。

生存しているランツクネヒト隊員、その傍へと歩み寄るエリオ。
隊員は既に意識が朦朧としているのか、エリオの接近に気付く様子は無い。
そして隊員の右側面へと立ったエリオは、其処で右腕を突き出した。
漆黒のヘルメット、その右側面上部へと突き付けられる銃口。
マズルフラッシュ、銃声。
隊員の頭部、下顎部左側面が内部より破裂する。
その中から、爆発と見紛うばかりの勢いで以って噴き出す肉片と骨片、大量の血液。
発砲の瞬間、不自然な震えの奔った隊員の身体が、次いで力を失い崩れ落ちた。

隊員を射殺したエリオは、MP-27のマガジンリリースボタンを押し、弾倉を足下へと落とす。
左手に残された3本の指でスライドを引き、チャンバー内の9mm弾を排莢、銃を死体の上へと放り捨てた。
次いで、左脇下に抱えていたストラーダを右手に握り、周囲を一瞥する。
そして、彼はこちらに気付いたらしい。
こちらへと歩み寄るエリオ、視界を塞ぐ様に映し出されるブーツ。
次の瞬間、全てが闇に閉ざされる。
だが、特に問題は無い。
視点を次のエリアへ。

803R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:34:17 ID:HxUl0Emw
第3港湾施設、第2ドック。
其処ではランツクネヒトの強襲艇と、戦車型魔導兵器が交戦中であった。
中空にて不規則な機動を取りつつ30mm電磁投射砲を連射する強襲艇、反重力式駆動機構により柔軟な回避行動を取りつつ魔導砲撃を放つ戦車。
魔導機関の出力増大により、異常なまでに堅固となった魔力障壁を備える戦車に対し、強襲艇は思わぬ苦戦を強いられている様だ。
30mm電磁投射砲弾は魔力障壁自体を突破する事には成功しているものの、運動エネルギーが減衰した事によって戦車の装甲を貫通するには至っていない。
一方で、戦車より連続して放たれる魔導砲撃弾体は、明らかにSランク集束砲撃魔法に相当する魔力量・密度を有している。
そして既に、これまでに実行された双方の攻撃により、第2ドック内は業火と構造物の残骸によって埋め尽くされ、本来の機能を完全に喪失していた。
被害は当該施設のみに止まらず、第3港湾施設に隣接する複数のエリアにまで及んでいる事だろう。

戦車が拡散砲撃を放ち、一部の弾体が強襲艇の左側面を掠める。
瞬間、当該箇所の装甲が吹き飛んだ。
大量の黒煙が噴き出し、強襲艇の周囲を覆ってゆく。
直後、強襲艇の下部に瞬く、複数の赤い閃光。
強襲艇、多目的ミサイル6基、同時射出。
瞬時に最高速度にまで達したそれらは、しかし目標である戦車へと着弾する事はなかった。

戦車の砲塔、前後左右の対角線上に配置された複数の箱状ユニットより、一斉に放たれるフレア、チャフ、魔力集束体。
次元世界に於いて既知となる、あらゆる種類の誘導機能撹乱型防御策。
それらはミサイル群の予測進路上へと拡散し、弾頭が有する誘導機能を撹乱する。
ミサイルが有する高速性、そして強襲艇と戦車間の距離が500m足らずである事などから、軌道が大きく逸れる事はない。
だが、直撃を避ける、或いは疑似反応による近接信管の誤作動を誘発するには、双方間に存在する距離は十分に過ぎた。
計6基のミサイルは、内3基が魔力集束体の炸裂に巻き込まれて自爆し、1基が床面へと突入して起爆、残る2基が近接信管により戦車付近にて炸裂する。
だが、やはり直撃でない事からか、戦車を撃破するには至らない。

すると、これ以上の交戦は不可能と判断したのか、突如として強襲艇が前方へと加速。
不意を突かれる格好となった戦車は、拡散砲撃の連射で以って強襲艇の撃墜を試みる。
だが、強襲艇は大量のフレア及びチャフを射出、戦車砲塔の照準機能を阻害。
そのまま戦車直上20mの高度を突き抜け、更なる加速を掛けつつ再度に6基のミサイルを放つ。
ミサイル群は瞬間的に加速、港湾施設へと続く艦艇搬入用通路とドックとを隔てる第1隔壁、その中心部へと円を描く様に着弾し炸裂。
大量の火花と粉塵、隔壁へと穿たれる直径30m程度の穴。
強襲艇はその穴へと突入するつもりなのか、更に急激な加速を掛ける。

直後、左右のドック内壁面を貫通し、強襲艇へと襲い掛かる無数の魔導砲撃弾体。
それらは砲撃の壁となり、挟み込む様にして強襲艇を呑み込んだ。
装甲へと次々に穿たれる直径50cm前後の着弾痕が、強襲艇の機体を凄まじい勢いで削り取ってゆく。
そして、強襲艇は僅か数瞬の内に原形を留めぬ鉄塊となり、そのまま隔壁に穿たれた穴から5mほど離れた位置へと激突した。
轟音と衝撃がドック内を揺るがす中、砲撃によって崩壊した左右の壁面、その残骸の中から2両の戦車型魔導兵器が現れる。

2両の戦車は互いに異なる、更には先程まで単独にて強襲艇と交戦していた1両とも別種であると判る、其々に特異な外観を有していた。
其々の共通点は、徹底的に機能性を追求して建造された兵器が有する無機質かつ武骨な外観、そして駆動部に反重力式駆動機構を採用しているとの事柄のみ。
明らかに、異なる勢力によって建造されたと判る、計3両の戦車型魔導兵器。
それらは互いに連携、ランツクネヒトの強襲艇を追い詰めた上で誘導し、見事な戦術で以って敵機を撃墜するに至ったのだ。
高度な戦術を共同展開する様子からは、勢力内に於いて高水準での意思統一が為されている事実が窺えた。
反乱勢力については、これまでに得られた情報と総合して、内部分裂等の問題が発生する可能性は低いと判断して良いだろう。

魔導砲撃弾体炸裂、搭載弾薬類誘爆。
轟音と共に強襲艇の残骸が爆発し、巨大な爆炎の壁となってドック内の全てを呑み込む。
だが、異常なまでに魔力密度が上昇した障壁を備える戦車群には、これと云った損傷など生じてはいまい。
唯、視界についてはその限りではなく、暗転の後に機能が回復する事はなかった。
視点を移動、次のエリアに対する観測を開始。

804R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:35:14 ID:HxUl0Emw
居住区、ショッピングモール。
職員の為の娯楽施設が集合する商業エリアは、周囲の全てを巻き込んだ阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
退避中であった1382名もの被災者と、彼等の誘導と護衛に当たっていた77名の魔導師、そして各世界の軍事組織に属する62名の兵士。
彼等は約40分前に、Man-Hunt-Systemユニット群によって当初の避難地点を襲撃され、これの撃退には成功したものの、籠城中のシェルターを破壊された反乱勢力の一団である。
MHSを遠隔操作していたランツクネヒト分隊を殲滅した後、新たな避難場所を求めて居住区へと迷い込んだのだ。

そんな彼等を最初に発見したのは味方勢力ではなく、通信網の寸断により状況を把握し切れていない、ランツクネヒトの分隊だった。
少なくとも表面上は友好的な姿勢で以って接触してきた彼等に対し、反乱勢力集団もまた偽りの友好的姿勢で以って対応。
そして、隙を突いての攻撃により、分隊の全員を拘束する事に成功した。
1名たりとも犠牲を出す事のない、完璧な勝利。
だが、順調に推移しているかに見えた状況も、其処までであった。
ランツクネヒト分隊を拘束する際の状況を、在ろう事か他の分隊、それも複数によって目撃されていたのだ。
その事実に彼等が気付いた時には、状況は既に取り返しが付かないまでに悪化していた。
ショッピングモールは重武装のランツクネヒト隊員73名、そして130機ものMHS群によって、完全に包囲されていたのだ。

その後の展開については、実に単純なものだった。
当該エリアの構造上、互いに逃げ場など存在しない中で繰り広げられる、銃撃と砲撃の激しい応報。
銃撃によって弾け飛ぶ魔導師、榴弾によって粉砕される兵士、砲撃によって消滅するランツクネヒト隊員、モール内へと侵入したMHS群によって殺害されてゆく被災者達。
銃撃に次ぐ銃撃、砲撃に次ぐ砲撃、爆発に次ぐ爆発。
既に視点は17回にも亘って切り替わり、しかし数秒も経たぬ内にノイズに覆われるか、或いは暗転する事を繰り返していた。
そして音声もまた、無数の銃声と爆発音、悲鳴と絶叫とに埋め尽くされ、早々とその正常な機能を喪失してしまうのだ。

モール内の床面は無数の薬莢と肉片とに覆われ、大量の血液が小川の如き流れを形成している。
壁面は弾痕と血痕とに覆われているか、或いは壁面そのものが崩壊していた。
天井面も同様であり、其処彼処が崩落し床面もろとも巨大な縦穴を形成している。
散乱する臓器と四肢、転がる頭部。
所属も老若男女も問わず、エリア内は無数の死体によって埋め尽くされていた。
硝煙と死臭とに満たされた空間の中、反乱勢力とランツクネヒトは未だに戦闘を継続しているのだ。

そして、18回目の視点変更。
視界には、ランツクネヒト分隊との激しい戦闘を繰り広げる、反乱勢力の1部隊が映り込んでいた。
崩落した構造物の陰に隠れつつ、直射弾と砲撃を放ち続ける魔導師、火器による射撃を継続する兵士。
銃弾と砲撃によって織り成される暴風は、しかし1名の兵士が遮蔽物ごと全身を粉砕された事により勢いを弱める。
AS-55による射撃、徹甲榴弾だ。
視界の手前へと後退を開始する反乱勢力部隊、追撃すべく銃撃の激しさを増す前方のランツクネヒト分隊。
魔導師が更に1名、障壁を突破した銃弾、背面から貫通したそれによって胸部を吹き飛ばされる。
更に、銃弾の嵐を掻い潜る様にして接近する、十数機のMHS。
状況は、既に決したかと思われた。

直後、前方118mに位置するランツクネヒト分隊、その側面の壁が一瞬にして解体される。
破壊ではなく、解体。
粉砕されたのではなく、切り刻まれたのだ。
想定外の事態であったのか、ランツクネヒト分隊の行動に、僅か1秒にも満たぬ硬直が生まれる。
それでも彼等は反射的に、崩落を始めた壁面へと銃口を向けるが、その一瞬の硬直が致命的なものとなった。
切り刻まれた壁面を吹き飛ばし、その奥より雪崩れ込んできた者達からすれば、僅か一瞬の遅れであろうと先手を取るには十分な猶予であったのだ。

805R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:36:08 ID:HxUl0Emw
アームドデバイスを携えた一団、近代ベルカ式魔導師。
ハルバード型アームドデバイスを手にした女性を先頭に、凄まじい勢いで以って側面より分隊へと襲い掛かる。
宙を舞う構造物残骸の中、突き進む彼等の姿勢には一切の躊躇が無い。
ランツクネヒト隊員、総数14名。
近代ベルカ式魔導師、総数11名。
僅かに3名の数的優勢など、近代ベルカ式魔導師による至近距離からの奇襲の前では、何ら意味を持たない。
そして、先頭の女性魔導師、彼女が手にするハルバード先端部のピック。
それが1名のランツクネヒト隊員、その胴部中心を貫くと同時に、極めて短時間且つ一方的な殲滅戦の幕が上がる。

魔導師達は、敵にトリガーを引く暇さえ与えはしない。
こと近接戦闘に於いて、古代・近代を問わずベルカ式は最も優秀な戦闘技術であり、それを用いる魔導師は敵対者にとって恐怖の象徴でもある。
中・長距離での戦闘に於いて些か打撃力に欠ける面は在るものの、その欠点を補って余り在る程に突き抜けた近接戦闘能力。
ベルカ式魔導師とは正しく、絶対的暴力の体現者に他ならない。
近接戦闘に於ける死神、独立した意思を有する暴力。
その接近を許した時点で、ランツクネヒト隊員達の命運は決していたのだ。

1名の隊員、その胴部を貫通し背面へと突き出したハルバードのピックが、更に1名の胴部を捉える。
直後、串刺しとなった隊員2名の頭部が、ブロードソードの一閃により纏めて刎ね飛ばされた。
ハンドガンを構える腕は斬り飛ばされ、顔面を覆うマスクに対し垂直に刺し込まれるスティレット。
最上段から振り下ろされる巨大なガントレット、魔力を纏った拳によってヘルメット諸共に卵の如く粉砕される頭部。
胴部へと突き立てられるバヨネット、装甲服に密着した銃口から撃ち込まれる数十発もの直射弾。
頸部を引き裂くダガー、心臓へと吸い込まれるククリ。
上半身を粉砕するパルチザン、刃を受けんとした銃身ごと全身を両断する薙刀。

ランツクネヒト隊員の中には、ナイフによる近接格闘術で以って応戦し、魔導師に対し一矢を報いる事に成功した者も在った。
しかし彼は抵抗の代償として、投擲された8本のナイフとジャベリンにより全身を貫かれ絶命。
別の隊員はMP-27により1名の魔導師、その頸部を撃ち抜き致命傷を負わせる事に成功していた。
だが彼もまた、別の魔導師が振るうバトルアックスにより、頭頂部と股間に掛けての線から身体を両断される。
吹き荒れる血風、僅か4秒にも満たない短時間の殺戮劇。
絶対的な暴力の嵐が過ぎ去った後、其処には原形を留めぬ14名分の肉片だけが残されていた。
視点を変更、他のエリアへ。

管制区、中央管制室。
コロニー全体の機能を司る、ベストラの中枢部。
幅120m、奥行144m、高さ20mもの広大なホールには、無数のコンソール及び固定式大型スクリーンが配置されている。
だが今や、俯瞰からの視界に映るそれら構造物は、半数以上が原形を留めていない。
粉砕されたコンソール、引き裂かれた床面、崩落した天井面、割れ落ちたスクリーン。
天井と床面との間に設置されていた各種機器構造物は、例外なく破壊され落下した上で炎に覆われており、照明が消えたホール内を赤々と照らし上げている。
更に、床面を埋め尽くす構造物の残骸、それらの周囲には破壊された人体の一部が無数に散乱していた。
恐らくは構造物の陰に身を潜めていたのであろうが、その行動も空しく強力な攻撃により遮蔽物もろとも粉砕されてしまったらしい。

そして、未だに原形を留めている、少数の構造物。
それらの陰には、計6名のランツクネヒト隊員達が身を隠していた。
不意を突かれた為か、或いは戦闘要員ではないのか。
彼等の手にAS-55やGR-32といった重火器は見当たらず、いずれもMP-27を始めとするハンドガンかPDW程度の軽火器しか携帯してはいない。
にも拘らず、彼等はコンソールの陰から僅かに腕を出し、視界外に対しての射撃を継続していた。
何としても当該施設を死守せんとする、彼等の意思の表れであろう行動は、しかし直後に容易く蹂躙される結果となる。

視界外より突如として襲い掛かる、巨大な炎の壁。
その業火は2名の隊員をコンソールごと呑み込み、彼等の身体を一瞬にして灰燼へと帰してしまう。
一方で、咄嗟に遮蔽物の陰より飛び出した4名の内、1名は両脚部に炎を受け膝部以降の部位を喪失。
残る3名は体勢を立て直し、再び射撃体勢を取った。
ところが直後、一切の前触れなく1名の姿が掻き消える。
床面へと叩き付けられ、1度だけ跳ね返って静止するMP-27。
残された2名は、眼前で起こった現象を理解できないらしく、トリガーに掛けた第二指を引く動作に遅れが生じた。

806R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:37:02 ID:HxUl0Emw
そうして生まれた一瞬の隙を突き、視界外より突進する真紅の影。
床面に対し垂直に振り下ろされる、巨大なハンマーヘッド。
大量の血飛沫となって弾ける隊員、粉砕される床面構造物。
数瞬ほど遅れて轟音が響き渡り、凄まじい衝撃に視界が揺れる。
残る1名の隊員は、衝撃によって崩された体勢を何とか回復、襲撃者から3m程の距離にて射撃体勢へ。
ハンマーヘッドを振り下ろした真紅の影、小柄なそれへと突き付けられるPDWの銃口。
だが、トリガーが引かれるよりも僅かに早く、横薙ぎに振り抜かれたハンマーヘッドが彼を捉えた。
瞬間、血液を充填された風船の如く弾ける、隊員の身体。
遅れて届く、大質量の鉄塊が空気を切り裂く音と鈍い打撃音、破裂音と水音。
赤い飛沫が周囲を染め上げ、燻っていた小さな炎を掻き消した。
後に残るは、胴部より千切れ飛んだ四肢のみ。
襲撃者は真紅に染め上げられたハンマーヘッドを一閃、鮮血を振り払って肩部へと担ぎ、床面を這う1名へと向き直る。

業火により両脚部を灰と化された隊員は、それでも腕部のみの力で以って床面を這い、コンソールの1基へと縋り付いていた。
何らかの操作を終えたらしき彼は、力尽きたかの様に床面へと落下。
うつ伏せの状態から側面へと身体を半回転させ、仰向けになると同時にMP-27を構える。
銃口の先には、巨大なハンマーを手にした影。
だが、襲撃者は動かない。
宛ら、敵対者の殲滅は完了した、とでも云わんばかりに。

そうして、トリガーが引かれるかと思われた、その直前。
隊員の身体が、唐突に床面へと沈み込む。
水面へと沈む石の如く、一瞬にして構造物内へと呑まれたのだ。
否、彼は呑み込まれたのではない。
構造物内に潜む何者かによって、抵抗すら許されずに引き摺り込まれたのだ。
彼の身体が床面へと消えた後、其処に残されるは所有者を失ったMP-27のみ。

そして、ハンマーを手にした襲撃者、それ以外の人影が途絶えたホール内。
視界外より、小柄な影が歩み出る。
肩下にまで達する髪とバリアジャケット、双方に共通する柔らかな桃色。
キャロ・ル・ルシエ。
彼女は周囲を埋め尽くす大量の肉片と血痕の中、それらを気に留める様子もなく、コンソールを目指して歩み続ける。
そんなキャロを見つめる、ハンマーを担いだ真紅の影、ヴィータ。
更に、コンソール傍らの床面より現れる、水色の髪。
ISディープダイバーによって、構造物内へと潜行していたセインだ。
彼女達は互いに言葉を交わす事もなく、ヴィータとセインはコンソールの操作を開始したキャロを、距離を置いて見つめている。

2名の隊員を灰燼に帰した業火は、フリードリヒのブラストフレアだろう。
フリードの姿は視界内に存在しないが、後方に待機しているのか。
炎によりランツクネヒト隊員達が散開した後、セインがディープダイバーにより奇襲を仕掛け、更にヴィータが強襲を実行したのだ。
キャロが大火力による後方支援を、セインがISによる攪乱を、ヴィータが近接戦闘能力による突撃を担当する。
僅か3名にも拘らず、彼女達は高度な複合戦術を駆使していた。
しかし、完成された連携とは裏腹に、彼女達の間には埋め難い距離感が生じている様に見受けられる。
必要以上に歩み寄ろうとはせず、同一の目的の為に互いを利用し合う関係。
その表現こそが、彼女達の間柄を的確に表しているだろう。

そして十数秒後、コンソールを操作していたキャロが、小さく声を発した。
やられた、との呟き。
セインとヴィータが、僅かに身を乗り出す。
どうした、との問い掛けに対し、キャロが返した答えは簡潔なもの。
非常推進系をロックされた、と。
其処で唐突に、視界が闇に閉ざされる。
意識へと割り込む、声ならぬ声。

『其処までだよ、ティア』

視界へと映し出される、無機質な室内。
先程までの、複数視界より齎される光学的情報を複合した映像情報とは異なる、人型生命体固有の視覚装置のみを介しての視界。
2度、3度と瞬きをし、次いで彼女は周囲を見渡す。
此処は、何処だったか。

807R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:37:48 ID:HxUl0Emw
「気分はどう?」
「・・・まあまあね」

傍らからの問い掛けに言葉を返しつつ、ティアナは自身の脳内に記録された情報を引き出す。
此処はスバルとノーヴェが確保した生産施設内部、支局艦艇のそれを模して建造された居住区だ。
スバル、ノーヴェ、ギンガ、ウェンディ、ティアナ。
5人の為だけに、僅か3時間で建造された、大人数による使用など想定されてはいない施設。
スバルとノーヴェが奪取した情報、それを用いる事で形成されたこの空間に於いては、あらゆる技術の使用が可能であり、あらゆる機構を作成する機能を有し、尚且つあらゆる束縛が存在しない。
やろうと思えば、ティアナ個人の意思のみによって、短時間の内にレリックを大量生成する事さえも可能である。

そして数秒前まで、ティアナは自身に付与された新たな「機能」の動作確認を兼ね、ベストラにて継続中である武装蜂起に対する偵察活動を実行していた。
方法は、実に単純なもの。
ベストラから400kmの位置に中継機を配置し、それを介してコロニー内部の監視機器群、及び反乱勢力によって奪取されたMHSを数十機ほど制御下に置いたのだ。
後は、其々の端末より送信される情報を総合し、映像および音声として脳内へと再構築すれば良い。
偵察活動は順調に推移し、ベストラ内部の状況に関する各種情報を収集する事に成功。
其処で唐突に、スバルからの干渉によって接続を切断され、ティアナ個人としての感覚状態へと回帰したのだ。

「・・・眼が痛いわ」
「開きっぱなしだったからね。フェイズが進めば向こうと同時に身体も動かせるけれど、今はまだ無理だよ。リンクの時には座って、目は瞑っておかなきゃね」

スバルは、ティアナが背を預けるリクライニングチェア、その傍らへと佇んでいた。
左手にストローボトル、右手には2つのミニサンドが載せられた皿。
スバルは右手の皿を差し出し、ティアナにミニサンドを勧める。
ティアナは腕を伸ばし、1つを受け取った。

「両方、食べないの?」
「無理、入らないわよ。アンタが食べなさい」
「じゃ、遠慮なく」

スバルは左隣のリクライニングチェアへと腰を下ろし、皿を腿上に於いてミニサンドを齧り始める。
ティアナもまた全身の力を抜き、可能な限り寛ぐ事を心掛けつつミニサンドを口にした。
焼いたベーコンが香ばしく、程良いドレッシングの酸味が美味い。
一口分を咀嚼し飲み込んで、思わず溜息をひとつ。
更にもう一口を齧ろうとしたところで、スバルが言葉を発した。

「キャロ達、上手くやったみたいだね」
「・・・そうね。少なくとも、予想よりは随分とマシな状況だった」
「インターフェースの使い勝手はどう? 気分が悪いとかは」
「無いわ、何もかも至って正常。思ってたより情報量が多くて、ちょっと混乱しただけ」

ティアナは言葉を交わしつつ、自身の視界内へと室内俯瞰映像を表示する。
それは天井面に設置された監視システムを通じての視界であり、本来ならばウィンドウを介しての方法以外に、映像情報を確認する術は無い筈であった。
しかし現在のティアナにとって、それは自身の意思で以って遠隔操作される複数の端末、その1つでしかない。
そして、彼女が複数機器とのダイレクトリンクという、スバルやノーヴェのそれと同様の能力を備えている理由。

「・・・まさか、こんなに簡単とはね」
「驚いた? これでも地球軍ほどじゃないんだけど、こっちには各種医療魔法も在るしね。向こうよりは好条件が揃ってるから」

ティアナは、スバル等が開発したインターフェースを、脳内へと移植されていた。
施術自体は実に簡潔なものであり、頸部より挿入したナノチューブを脳髄へと到達させ、ナノマシン集約体となる複数のコアを配置したのみである。
その後、インターフェース構築用のナノマシンを、静脈より注入。
既に未来の管理世界に於いて完成されていた技術とはいえ、スバル等による幾分の改良が加えられている事も在り、施術はAMTP内での実行となった。
しかし、施術所要時間は20分足らず。
ティアナは麻酔によって眠りに落ち、意識が戻った時には、既にインターフェース構築のフェイズ1は完了していた。
これにより、彼女はスバル等と同等とまでは至らずとも、オーバーライド及びダイレクトリンクによる各種システムの感覚的操作能力、情報の大量流入に対する同時並列処理能力を獲得したのだ。

808R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:38:30 ID:oa4XOZUQ
インターフェースの構築段階は未だ途上であり、構築フェイズの進行により機能は更に拡張される。
各種機能情報はダイレクトに脳内へと送信されるが、その際に生じると思われた違和感が全く無い。
その正常であるという感覚が却って違和感となり、ティアナはその克服に苦心していた。
人間として有する本来の機能外である感覚を自身へと組み込みながら、それが異常な事象であると認識できない。
結局は、そんな自身に対する戸惑いであり、大して意味の無いアイデンティティから生じる違和感であるとは理解している。
それは、自身が戦闘機人であるとの現実に苦悩していた嘗てのスバル、その心境に似るものではあるのだろうが、現状に於いては何ら意味を持たないばかりか、以降の活動を阻害する要因としか成り得ない。
人間としての純粋な感覚に固執する自身の意識に対し、ティアナは嫌悪の感情すら抱き始めていた。
そして、自身の苦悩に対してすら憤りを抱える彼女が好意的な認識など抱ける筈もない、優柔不断さを抱えた者達。
そんな人物が2名、この居住区内には存在していた。

「ギンガさんと、ウェンディは?」
「ノーヴェと一緒。今は巡航艦を見てる」

ギンガ、そしてウェンディ。
2人は真実を知り得ておきながら、スバルとノーヴェからのインターフェース移植提案に対し、返答を保留した。
自意識を新たなシステムとして発展させるとの事実に、躊躇いと恐れを抱いているのだろう。
そんな2人の姿は、ティアナの心中へと嫌悪感を生じさせるには、十分に足るものだった。

僅か5名で戦況に変化を齎すとなれば、何らかの代償を支払わねばならない事は明らかだ。
かといって、生命を投げ出す事を強要している訳ではない。
脳が有する本来の機能を拡張し、更に新たな機能を追加するだけの事だ。
現状に於いて各名が有する能力のみでは、これより先の状況には対応できない。
だからこその提案であるにも拘らず、2人はそれを受ける事に躊躇いを抱いているのだ。
それがティアナにとっては苛立たしく、更に彼女達のそれに似た戸惑いを抱く自身をも許容する事ができない。
苛立ちから、ティアナは小さく舌打ちを漏らす。
すると、その音を聴き留めたのか、スバルが言葉を紡ぎ始めた。

「余り気にしない方が良いよ、ティア。2人は何も間違っていない。勿論、ティアもね。自分自身が変化する事は、誰だって怖い。私達だって、こうなる前に選択権が在れば、絶対に断ってた」
「・・・だからこそよ。自分で選んだ事なのに、私はこの機能を完全に受け入れる事ができていない。他に選択肢が無い事は解り切っている筈なのに、あの2人は自分で選び取る事をしない」

ミニサンドの残りを一口で頬張り、咀嚼して飲み下す。
再び、深い溜息。
ナノマシンによる各種身体機能強化により、肉体的な疲労は感じられない。
しかしティアナの意識は、確実に休息を必要としていた。
儘ならぬ感情と、強化されたにも拘らずそれに振り回される身体。
その言葉は、自然と胸中より沸き起こったものだった。

「感情か・・・厄介ね、これ。いっそ、これも・・・」
「無ければ良いとか言ったら、流石に怒るよ」

驚き、スバルを見やるティアナ。
スバルはリクライニングチェアから身を起こし、こちらを見据えていた。
何処までも真剣な眼、冷徹にティアナを射抜く視線。
思わず息を呑む彼女を前に、スバルは続ける。

「それは、地球軍と同じ思考だ。戦場に於いて感情とは単なるノイズであり、行動阻害要因に過ぎない。そんなものは不要だ、消し去ってしまえ。地球軍は・・・地球人は、そう考えている」
「消し去るって?」
「表向きには、何らかの対策が取られている訳じゃない。表向きにはね。でも実際には、抑制プログラムが存在するんだ。元々からして地球軍の連中は冷徹だけれども、人である以上は感情が昂る事も在る。そして作戦行動中にそれが起きた時には、抑制プログラムにより感情の起伏がリセットされるんだ」
「何、それ・・・」

絶句するティアナ。
地球軍に於いては兵士個人が有する感情ですら、システムによる制御下に置かれているというのだ。
これまでに得られた情報からも分かり切っていた事ではあるが、地球軍は人間を単なる兵器の部品と看做している。
強制的な感情の抑制など、人格そのものに対する否定、それ以外の何物でもない。
僅かずつ、しかし溶岩の如く胸中へと湧き起こる、確かな怒り。
途端、スバルが声を発する。

「それだよ」
「・・・何?」
「ティア、凄く怒ってるでしょ、今。それこそが、魔導師のアドバンテージなの」

809R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:39:33 ID:HxUl0Emw
彼女が発した言葉の意味を、即座に理解する事はできない、その筈であった。
少なくともこれまでのティアナであれば、数秒程度の思考の後に、スバルの云わんとするところを理解した事だろう。
今は、違う。
一瞬にして展開する、80もの並列思考。
システムによるバックアップを受け、通常の数十倍にまで加速する思考速度。
刹那にすら満たぬ間に、ティアナは「解析」を完了。
それにより得られた「結果」を、音声として「出力」する。

「リミッターの、破壊」
「正解」

再び、リクライニングチェアへと背を預けるスバル。
ドリンクを啜り、僅かに溜息。
そして、続ける。

「魔導師には感情が必要だよ。感情の昂りはソフトとハード、両方に備わったリミッターを破壊する切っ掛けになる。感情がこれらの抑制限界を振り切った時、魔導資質を始めとする各種スペックの劇的な向上が齎されるんだ。それで、戦力の増強が図れる。地球軍は個人資質や、こういった個体意識現象に基く戦力の開発および運用を酷く嫌うけれど、魔導資質因子保有者を戦力の要とする勢力にとっては、決して無視する事のできないファクターだ。感情を失くした魔導師なんて、ガジェットと大差ない。精々が使い捨ての駒にしかならないよ」

紡がれるスバルの言葉に、成程とティアナは息を吐いた。
確かにスバルの言葉通り、常に演算結果に従っているばかりでは、単なる機械と大差ない。
それでは、現状を打開する事など不可能だ。
感情とは尊ばれて然るべきものである、等という主張ではない。
時に不合理な行動を誘発し、時に爆発的な力を生み出す。
その不安定かつ不確定な変動性により齎される、ソフトとハード双方に於ける有機的変化の連続。
それこそが、極めて高度な演算に基き戦力を運用する地球軍とバイド、双方に対する最大の脅威となる。

だからこそ、一見すると非合理性の塊である感情が、魔導資質因子保有者には必要なのだ。
魔導師達には、まだ十二分に働いて貰わねばならない。
その為の舞台も、既に整えられているのだから。
そんな思考を一瞬にして終えると、ティアナはスバルの言葉に対する皮肉を紡ぐ。

「それって、つまりはこういう事でしょ。せっかく人様が空間法則まで書き換えてまで優位な状況を演出してやったんだから、せめて戦術レベルでは敵と互角に戦ってみろ、ってところかしら。違う?」

その言葉を受け、こちらを見ないままに肩を竦めてみせるスバル。
人工天体内部の大規模生産施設をオーバーライドにより制圧した後、スバル等が最初に着手した行動は「Λ」の建造を開始する事だった。
既にバイドの手によるR戦闘機の生産を開始していた施設は、実に6000km以上も離れた地点からのスバルとノーヴェによる干渉を受け、僅か20秒足らずで2人による制御下に置かれたのだ。
流石はバイドにより構築された施設と云うべきか、魔法技術体系の極致たる「Λ」であろうと、基礎であるジュエルシードを構築するに当たって何ら問題は無かった。
3時間と経たぬ内に大量生産されたジュエルシードの山を、ティアナは不思議と醒めた感覚で以って見つめていたものだ。
しかし、ジュエルシードの生産は容易に進行したとはいえ、目指す「Λ」の完成には相当の時間が掛かるものとティアナは考えていた。
ところが、その思考はスバルの言葉により、実に呆気なく否定される。
確かに時間が必要ではあるが、それでも120時間以内には建造が完了するというのだ。

そして現時点に於いて、限定的ではあるものの「Λ」は既に活動を開始している。
全体としては建造途上であるが、中枢機能に関しては既に構築が完了しているのだ。
バイドが有する技術を応用し建造された「Λ」は、オリジナルをも凌駕する能力を有していた。
オリジナルの「Λ」は戦力の自律生産、及び完全自律侵攻に特化した機能を有していたが、スバル等が建造した新たな「Λ」は更に攻撃的、且つ絶対的な能力を獲得している。
それは奇しくも、オリジナルの「Λ」に対抗すべく創造されたバイド、その能力を模倣せんとする試みから生み出されたもの。
バイドが有する空間侵蝕能力を、魔導因子で以って再現せんとした結果。
次元世界に於ける既知の兵器概念、そして魔法概念をすら覆す、余りにも強大なそれ。

810R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:40:37 ID:HxUl0Emw
「「Λ」が在れば、誰もがAランク以上の魔導師になれるものね」



同一時空間内に存在する、全ての魔導因子へと干渉する力。
自然状態にて存在する物質に対し、強制的に魔導因子を付与する力。



「何もかも、観測可能範囲内の全てを、魔法技術体系から成る文明にとって最も都合の良いものに変えてしまう・・・その空間に於ける法則さえも。全く、とんだズルよね」

「Λ」とは、単なる戦略級魔導兵器ではない。
バイドのそれにまでは及ばぬものの、空間そのものを創り変える力。
他概念の全てを、魔法という単一概念の下に統合する事すら可能な、次元世界に於ける存在としての究極点に位置する個体。
あらゆる存在、あらゆる法則を、魔法技術体系にとって「都合の良いもの」に変えてしまう能力。
あらゆる存在、あらゆる法則を、敵対技術体系にとって「脅威となるもの」に変えてしまう能力。
スバルとノーヴェが目指す到達点とは、魔法という概念の視点から捉えた世界そのものを、あらゆる面で「都合の良いもの」へと改変する事だった。

「違うよ、ティア。それじゃあ、まだ足りない。あの機能は未完成なんだ。機能が本格的に稼働を始めれば、誰もが魔導師になれる。何ら問題なく、無条件で」
「へえ。なら、現時点で高ランクを有する魔導師は?」

現状の世界には「こんな筈ではなかった事」が蔓延っている。
蹂躙される人々、奪われる故郷、裏切られる希望。
誰もが理不尽な脅威を憎悪し、自身の無力さに絶望していた。
だが「Λ」が全てを変える。
改変された世界は「こんな筈ではなかった事」ではなく、それに替わり「当然の結果」によって満たされるのだ。
迫る敵は迎撃され、故郷を破壊せんとする者共は打倒され、曖昧な希望は確定した未来となる。
理不尽な脅威は単なる敵対勢力へと変貌し、纏わり付く無力さは圧倒的な力によって確固たる自信と化す事だろう。

現在、隔離空間内部全域に於いて発生している各種魔導因子の強化は、他ならぬ「Λ」による空間改変操作の第1段階だ。
全てのリンカーコアは強制的に進化を遂げ、魔導因子を供給エネルギーとする機関は例外なく出力が増大している。
世界そのものを変貌させんとするスバル達の意思は、既に全ての勢力が観測し得る事象として具現化していた。
だが、世界を改変する事、それのみで現状を完全に打開する事は可能なのか。

「既存のランクじゃ意味を成さない、純粋な超越体になるだろうね」
「その結果、バイドや地球軍に対して優位に立てるのかしら」

ティアナからの問い掛け、幾度目かのそれに対し、スバルは沈黙で以って返す。
実のところ当のティアナとて、その疑問に対する答えは、既に自身の思考によって導き出していた。
にも拘らず態々、音声として出力した理由は、単なる再確認の為だ。
スバルもそれは理解しているのだろう、暫しの後に言葉を紡ぎ出す。

「対等にはなれる。でも、それは見掛け上だけ。圧倒的な物量を誇るバイドと、理不尽なまでの戦闘能力を有した兵器を運用する地球軍。幾ら魔導因子が格段に強化されているとはいえ、彼等と拮抗するには向こうの数十倍、数百倍もの戦力が必要になる。それも、とんでもない損害を受ける事を前提として」
「1の敵戦力を滅ぼす為に、こっちは100の戦力が必要になる。話にならないわ」
「100ならまだ良い方だよ。第17異層次元航行艦隊だけを相手取るとして考えても、1000や2000じゃ到底足りない。B系列の機体素子には記録されていない、未知の新型兵器が配備されている可能性も在る事を考慮に入れたら、それこそ10000でも足りないかもしれない。1個艦隊でこれなんだから、地球軍全体を敵に回すなんて考えたら、どうやっても勝ち目なんか無い。バイドに至っては、それこそ話にもならない」
「それで、あの艦隊?」

リンクを接続、情報を呼び出すティアナ。
本来は映像として出力されるそれを、ウィンドウ等による空間表示を行わず、意識内へと直接転送する。
周囲状況に関する以外の情報取得に際し、視覚を介する意味は無い。
情報の転送を実行した事により、スバルも同様の映像を認識しているのだ。
此処にインターフェースを有しない人物が存在すれば話は別であるが、ティアナとスバルの2名しか居ない現状に於いては、態々ウィンドウを展開する必要性は皆無である。
意識内にて映像出力されるは、灰白色の艦艇群により埋め尽くされた、隔離空間内部の光景。
2種類の大型艦艇と、同じく2種類の艦載機により構成された、余りにも巨大な規模の艦隊。

811R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:41:25 ID:HxUl0Emw
「良いでしょ、あれ。あれなら「Λ」で複製できるし、何より後々に次元世界で独自に建造する事も出来る」
「単にR戦闘機を複製するよりも、ずっと高効率って訳ね」

バイドにより模倣・生産されたR戦闘機群を奪取するとの作戦は、意外な形で中断される事となった。
何とバイドは、1度目の22世紀地球圏にて建造されたR戦闘機を寸分違わず模倣するのではなく、解析情報を基に新たなR戦闘機を開発しての運用を実行していたのだ。
正確に云うならば、22世紀地球圏に於いては構想段階、或いは試作機の建造に止まった機体を、無尽蔵の生産能力を背景に大量生産し、戦域へと投入している。
コスト等の問題など、バイドには存在しない。
バイド因子への適合性のみを優先し、地球圏に於いては実用化の可能性など全く無い機体を、無尽蔵に生産し続けているのだ。

現在までに、バイドによる生産・運用が確認されたR戦闘機は4機種。
「B-3A MISTY LADY」「B-3A2 MISTY LADY II」「B-3B METALLIC DAWN」「B-3B2 METALLIC DAWN II」
これらのコードネームは、1度目の22世紀地球圏に於いて命名されたものだ。
B-3A系列機の建造は1機のみ、B-3A2は構想段階にて霧状防護膜研究プロジェクトそのものが中止された。
B-3BとB-3B2は共に1機が建造されたものの、やはり流体金属制御研究プロジェクトの中止により、以降の生産は為されていない。
だが、今や隔離空間内部はB-3A及びB-3A2によって埋め尽くされ、B-3B及びB-3B2は人工天体内部の何処かにその存在を潜めているのだ。
そして、制圧後の生産施設に残された数千機のB系列機体を解析し、スバルとノーヴェが導き出した結論は、R戦闘機群奪取計画の破棄というものだった。

計画破棄を決定した背景には、複数の理由が在る。
1つは、施設に於いて生産されていたB系列機体4機種が有する性能、それが余りに不安定であった事。
1つは、4機種が隔離空間内部に於いて、既に各方面の混成艦隊戦力と交戦状態に突入していた事。
1つは、機体構造の各所に、複数のブラックボックスが存在している事。
これら問題点の内、スバル達は特にブラックボックスの存在を憂慮した。

ベストラが異層次元へと転移してから現在までに、実に4年もの月日が経過している。
その間にもバイドと地球軍は、一瞬たりとも技術進化の速度を緩めはしなかったであろう。
即ち、今やスバルとノーヴェのハードとなったB系列機体群、其処に記録されている情報は既に過去のものとなっているのだ。
巨大なシステムそのものと化したスバルとノーヴェではあったが、だからといって全知全能の存在となった訳ではない。
彼女達は4年間の技術的空白も、ある程度は現状にて保有する情報によりカバーできると予測していたのだ。
しかし現実の過酷さは、彼女達の予想をも上回っていた。
生産施設そのものに約6000箇所ものブラックボックスが確認された事で、将来に亘る恒久的戦力生産機能の確保、その成功が疑問視される事となったのだ。
無論の事、それらブラックボックスに対する技術的解析は、現在も継続されている。
だが、その成果は芳しいものではない。
無数のブラックボックスを内包したまま生産を継続する事は、余りに多くの危険を孕む行為である。
何より、当該施設にて生産されているB系列機体では「Λ」の能力を最大限に発揮できない。
攻撃面に於いて魔導因子を用いている事が、局地限定破壊兵器であると同時に究極の支援兵器でもある「Λ」の能力を、最大限に有効利用する為の必須要項なのだ。

既知のR戦闘機は各種能力面で現行の機体に劣り、バイドが生産している機種についてはブラックボックスが多過ぎる。
更に、生産する戦力は攻撃面に於いて、魔導因子を利用するものでなければならない。
だが、それら全ての要項を満たす機体など、記録上には存在しなかった。
ならば、如何なる戦力を生産するのか。
スバルとノーヴェの答えは、ティアナを驚愕させた。

これまでに得られた技術的情報を用いて、完全に新規となる兵器体系を構築する。
2人は、そう宣言した。
魔法技術体系を根幹とし、地球軍とバイドの技術を応用して構築された、次元世界固有となる兵器体系を創り上げると。
彼女達は、僅か1時間足らずの内に10の16乗にも及ぶ桁のシミュレートと再設計を繰り返し、最終的に4種の兵器を建造するに至る。

812R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:42:39 ID:HxUl0Emw
「EX-Ftr44」
スタンダードな設計を有する、高速戦闘能力および超長距離砲撃戦能力特化型戦闘機。
スバルの先天固有技能、即ちISである「振動破砕」のシステムを応用し、機体表層部を微振動させての超高速突撃衝突という、凡そ戦闘機が有するものとは思えぬ近接格闘攻撃能力を有する機体。
更には、波動粒子および魔力素を集束し圧縮融合、指向性を付与し加速しつつ解放する事で砲撃と為す、波動砲と集束砲撃魔法とのハイブリッドとも云える戦術兵器を機体下部に搭載。
機体呼称「四十四型」。

「EX-Bmm55」
生命個体にも似た外観、頭部と胴部、更に兵装を内蔵した腕部から成る、高機動格闘戦闘能力特化型戦闘機。
四十四型が備える光学兵器の強化型および偏向光学兵器、2種の光学兵器を有する機体。
当該機体に搭載された戦術兵器は、広域殲滅能力に特化した中距離拡散型。
機体呼称「五十五型」。

「EX-CR01」
デルタ型艦体の上部にメインセンサー群が集中する艦橋、及び2基の戦術級光学兵器搭載砲塔。
艦体後方下部に突出した2基のエンジンユニット、前方下部に突出する艦首砲ユニット。
五十五型に採用された中距離拡散型砲撃機構、その発展型である長距離拡散砲撃機構を搭載。
艦艇呼称「兆級巡航艦」。

「EX-BS01」
前後に伸長した円柱型の艦体、後部にはエンジンユニットとメインセンサーが集合する艦橋。
艦橋前方の左右側面に2基、艦体下部に1基の戦術級光学兵器搭載砲塔、艦首には3基の波動粒子・魔力素集束ユニットを配置。
超長射程・極広範囲影響域を誇る、戦略級砲撃機構を搭載。
艦艇呼称「京級戦艦」。

其々の呼称については、採用された設計プログラム管理番号、またはシミュレート実行回数より名付けられた。
そして、これらの兵器群を構成する材質類には、魔力素を始めとする複数の魔導因子が付与されている。
即ち、構成物質の原子レベルからして、例外なく魔導因子を内包しているのだ。
この要素により、兵器群は「Λ」による支援を最大限に活かす事が可能となる。

あらゆる存在に対し、強制的に魔導因子を付与する「Λ」。
既に何らかのエネルギーを内包した加工が施されている例を除き、その対象の差異など問題にはならない。
それこそ1粒の砂であろうと、生物個体であろうと、果ては惑星そのものであろうと「Λ」の干渉からは逃れられないのだ。
残念ながら地球軍、及び彼等により空間隔離された第97管理外世界に対しては、干渉が及ぶ事はなかった。
バイドによる干渉への対抗策を豊富に備える地球軍であるからして、こちらとしても成功する等とは微塵も期待していなかったが。
しかし、隔離空間内部にすら存在する、多種多様な宙間物質はそうではない。
自然状態であるそれらは「Λ」の干渉を受け、例外なく魔導因子を有する存在と化す事だろう。
即ち、兵器群の構成材質たる資源を、無尽蔵に確保する事が可能となるのだ。

この施設に於いて建造された兵器群は、各種性能調整とデータ収集を目的としたものを含めても、四十四型および五十五型が各16機、兆級巡航艦が8隻、京級戦艦が6隻といった程度である。
現状に於いて隔離空間内部を埋め尽くしている艦艇群および戦闘機群は、この施設にて建造されたものではない。
否、正確には「建造」されたものですらない。
あれらは全て「Λ」の干渉により、宙間物質を基に「発生」したものである。
「Λ」は隔離空間内部のあらゆる座標へと干渉し、宙間物質へと魔導因子を付与。
更に、それら魔導因子へと干渉し、僅か15秒の間に400000隻の艦艇、そして28000000機もの戦闘機を「発生」させたのだ。
そして、全ての艦艇群および戦闘機群は「Λ」を介し、例外なくスバルとノーヴェの制御下に在る。
ベストラでの武装蜂起実行に際しても、防衛任務に就いていたR戦闘機群を、四十四型および五十五型、計4000機の戦闘機群が強襲し撹乱した。
無論、それら戦闘機群による作戦行動も、2人による管制下に在ったのだ。
結果、敵機の撃墜には至らずとも、R戦闘機群はベストラを離れ、天体内部の何処かへと逃亡した。

813R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:43:54 ID:HxUl0Emw
無尽蔵の資源と新規魔法技術体系によって構築され、空間中のあらゆる座標へと「発生」する大規模艦隊。
幾度撃破されようとも、その都度「Λ」からの干渉により「再発生」し、作戦目的の達成、或いはスバル達による変更が無い限り、決して作戦行動を中断する事のない兵器群。
損害を恐れる事も、些末な倫理観に縛られる事もない。
システム中枢たる「Λ」を制御するスバルとノーヴェに関しても、感情等の要因により各種判断を左右される虞はない。
常に的確な判断を下し、圧倒的物量で以って敵対勢力を圧殺する、完全独立艦隊勢力。
しかし、無尽蔵の資源により支えられる兵器群も、決して無敵の存在という訳ではない。

地球軍、そしてバイド。
これら2勢力は、共に「Λ」への対抗を可能とする手段を有している。
バイドは「Λ」により「発生」する艦隊、その規模に匹敵し得る物量と、空間に対する無差別侵蝕能力。
地球軍はR戦闘機を始めとした兵器群が有する圧倒的な性能と、波動粒子を用いる多種多様な攻撃手段、そしてデルタ・ウェポンを始めとする空間干渉型兵器。
これらの手段を用いての大規模な反撃、或いは侵蝕を受ける事が在れば、艦隊の「発生」機構のみならず「Λ」そのものにまで深刻な打撃を受けかねない。

特に警戒すべきは、地球軍艦隊とこちらの兵器群との間に存在する、如何ともし難い性能差だ。
京級戦艦は地球軍のニヴルヘイム級にも匹敵する艦体規模を誇るが、搭載兵器群のそれを含めた総合性能については、双方の間に大きな隔たりが在る。
それは、四十四型および五十五型戦闘機と、地球軍が運用するR戦闘機群、それらの間についても同様の事が云えた。
機動性、フォース、光学兵器、電磁投射砲、ミサイル、波動砲、デルタ・ウェポン。
何もかもが、こちらの性能を凌駕しているか、或いは開発の成功にすら至ってはいない機能ばかり。
こちらの優位が確立されている事柄と云えば、精々が物量面のみである。

其処でスバルとノーヴェは、僅かでも状況を優位とする為に、空間そのものに対する干渉を用いての各種妨害活動を開始した。
具体例を上げるならば、特定範囲内に於ける物理法則の歪曲による、ザイオング慣性制御システムの無効化等である。
この試みは、当初の予測を上回る成果を挙げた。
各種防御策と極めて高度な制御系により、システムを無効化する事ができる時間は一瞬にも満たぬ刹那。
しかし、高機動中のR戦闘機群に対する効果は、絶大なものであった。
その刹那の間に、兵器群は内部系統に重大な損傷を生じ、パイロットの身体が圧壊する。
慣性制御システムの停止は瞬間的なものだが、それでも地球軍からすれば正しく致命的な問題であったのだ。
これにより、地球軍艦隊の一部は現在、その活動を幾分か消極的なものへと変化させている。

だがスバルとノーヴェは、この程度の対応で満足などしなかった。
詳細は未だ開示されてはいないものの、彼女達は他にも何かを画策している。
ティアナはそれを知りつつも、これまで詳細を彼女達に質そうとはしなかった。
こちらから問い質すまでもなく、適切な時期が来ればスバル達の方から自主的に伝えられる、と考えている為だ。
そして、今こそがその時期であると、ティアナは予測していた。

「・・・それで、話は変わるけど。アンタは何の為に、此処に来たのかしら」
「酷いなぁ、ティアナを心配してに決まって・・・」
「嘘ね」

問い掛けに対するスバルの返答を、ティアナの言葉が遮る。
心配していた等と、そんな言葉は明らかに嘘だ。
ティアナの心身共に異常が無い事は、スバル達には筒抜けなのだから。
身体に関する異常の有無は、インターフェースによるリンクを介して知る事ができる。
心理状態に関しても、バイタルデータを解析する事で、ある程度の予測が可能である筈だ。
よって、スバルが此処を訪れた理由は、ティアナの身を案じての事などではない。
ティアナは、更に問い質す。

「まあ、本当の理由はすぐに話してくれるんでしょう・・・でも何故、口頭で伝えるのかしら? 律儀に付き合っている私も私だけれど」
「お喋りは嫌い?」
「必要性が無いって言ってるのよ。インターフェースを介して情報を転送すれば、全て一瞬で終わるのに。何の理由が在って、態々こんな・・・」
「言ったでしょ、感情は必要だって。それは人間性の有無にも繋がる。当然、逆も然りだよ。合理性だけを重視して会話を放棄すれば、いずれは人間らしい意思の疎通さえ捨てる事になる。繰り返すけど、それじゃあ・・・」
「ガジェットと大差ない」
「その通り」
「それで、用件は?」

814R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:44:56 ID:HxUl0Emw
リクライニングチェアより身を起こし、こちらへと向けた顔に呆けた様な表情を浮かべるスバル。
諦めた様に首を振り、再度に背凭れへと体重を預ける。
ティアナは無言。
そして、スバルが問う。

「良い知らせと悪い知らせ、あと悪い知らせに悪い知らせ、おまけに悪い知らせと物凄く悪い知らせが在るんだけど。どれから聞きたい?」
「・・・悪い方から」

溜息を吐き、返答。
スバルが、壁面へと大型ウィンドウを展開する。
インターフェースは使用しない心算らしい。
表示される映像、人工天体外部。

「じゃあ、悪い方の1つ目。京級戦艦1200隻および兆級巡航艦10800隻、四十四型25000機と五十五型25000機。以上の戦力による第17異層次元航行艦隊に対しての攻撃は、僅かな損害を齎す事には成功したけれど、総合的に見れば失敗。敵艦隊からの反撃により投入戦力は壊滅、残ったのは兆級が86隻と四十四型が203機、五十五型が132機だけ」
「地球は?」
「健在。こっちの砲撃は、唯の1発も大気圏まで到達していない。連中、惑星周辺の空間を歪曲させたんだ。この状況下でそんな事が可能だなんて、とんでもない科学力だよ」
「敵の損害は」
「R戦闘機、計11機を撃墜。ニヴルヘイム級ロック・ローモンド、京級戦艦の艦首砲による攻撃を受け、艦体後部右側面に深刻な損傷」
「それだけ?」
「それだけ。ロック・ローモンドは、数千機のB-3A2に襲われていたんだ。それでもバイドとこっちの戦力、両方を殲滅して退ける処が凄いけれど、最後の最後でケチが付いた。18隻の兆級を巻き込んで放たれた京級からの砲撃を、まともに受けちゃったんだ」
「成程。それで、次は?」
「ロック・ローモンドが大気圏内へと降下、不時着した。言っておくけど、地球にじゃないよ。航行システムに異常を来したのか、或いは地球への落着を避ける為だったのかは知らないけれど。いきなり加速して、別の惑星まで突っ走ったんだ」
「何処なの」
「ミッドチルダ。よりにもよって、クラナガンのど真ん中」

瞼を下ろし、額に手をやるティアナ。
こうまで災難が続くと、ミッドチルダと地球の間にはバイド以外にも因縁が在るのではないか、との思考さえ浮かんでくる。
勿論、これといった根拠は無いのだが。
再び瞼を上げ、スバルに続きを促す。

「次は?」
「本局・・・今は「元」本局か。A級バイド「BFL-233 BELMATE」、形状の変化と移動開始を確認。どうにも、新たな形態へと進化しているみたいだね。それと、極めて大規模な艦艇が複数出現、現在バイドを除く全勢力と交戦中」
「正確な規模は」
「全長287km、全高76km、全幅98km。西暦2165年、第二次バイドミッションに於いて確認された、超巨大戦艦「BCA-097 PRISONER」だね。これが6隻」
「最悪ね」
「うん、最悪。それで次は、ベストラの方。武装蜂起は成功を収めつつあるけれど、ランツクネヒトが最後にとんでもない事を仕出かしてくれたみたい」
「キャロが言ってた、あれ?」
「そう。コロニーの非常推進系を弄った上、ロックしたみたいなの。ベストラは、徐々に加速してる。ウォンロンが停止させようと試みているけれど、多分駄目だね。本局脱出艦隊は第3層を通過中で、ベストラへの誘導は順調、でも合流は確実に遅れる。何より問題なのはベストラの進路上に、物凄い数のA級バイドが巣食うエリアが存在してるって事」
「ああ、そう」

ティアナは、深く溜息を吐いた。
厄介な事ほど、纏めて押し寄せるものだ。
出来る事ならば、独力で状況を切り抜けて欲しいところだが、そう上手く事が運びはしまい。
こちらからも、戦力を提供せねばならないだろう。

「次は、物凄く悪い知らせね」
「・・・今更、何を言われたって驚かないわよ。何なの?」
「新たな地球軍艦隊の、隔離空間内部への侵入を確認した」

弾かれた様に、スバルへと視線を向ける。
彼女は、一切の感情が抜け落ちたかの様な、無機質な表情で以ってティアナを見つめていた。
そして、続ける。

「「UFDD-03 HRESVELGR」の上位互換型らしき、情報に無い未知の艦艇が2隻、約1時間前に第172戦区で確認された。その13分後、第036戦区で「UFCV-015 ANGRBODA」ブースター装着型4隻を確認」
「・・・こっちへ、向かっているのね」
「それも、とんでもない速度でね。もうとっくに、人工天体の周囲にまで到達している筈なんだ。でも捕捉できないし、行動を起こしてもいない。実際には何らかの活動を開始しているのかもしれないけれど、私達にはそれを観測する事ができない」
「時間が無い、って事か」
「というより、時間切れ。何時になったら動くのか、予測は可能だけれど、的中するかまでは保証できない」

815R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:45:53 ID:HxUl0Emw
ウィンドウへと表示される、地球軍空母艦艇の全貌。
アングルボダ級との名称らしきそれ、3つの環状構造物が回転する箱状の艦体後部。
艦体そのものの3分の2にも相当するかという、巨大なブースターユニットが接続されている。
艦艇全長、実に7110m。
その内に搭載されているであろうR戦闘機の総数など、考えたくもなかった。
再び額へと手をやり、ティアナは呟く。

「何それ、いよいよ終わりじゃない。空母が4隻、しかも捕捉できないですって?」
「もっと居るかも。空母の取り巻きが2隻だけなんて在り得ないし、そもそもアングルボダだって4隻だけとは限らないじゃない」
「・・・本当、最悪」
「うん、本当に最悪。じゃあ、良い知らせも聞く?」
「聞かなきゃやってられないわ。何なの」
「もうすぐ完成するよ、あれ」

ウィンドウに変化。
映し出されたそれに、ティアナの視界は釘付けとなった。
蒼の結晶体、刻み込まれたシリアルナンバー。
この数十時間に於いて、記録としては幾度も目にしたそれ。
ジュエルシード「Λ」。
外観としては小さな宝石である筈のそれは、しかしティアナ個人としての記憶、その内に存在する情報のいずれにも合致しない全貌を有していた。
半ば無意識の内に、スバルへと問い掛けるティアナ。

「・・・あれは、何」
「見ての通り「Λ」だよ。建造計画を見直して、所要時間の短縮に成功したんだ。あと2時間ほどで完成するよ」
「私が訊いてるのは、そんな事じゃないの」

右手の第二指を突き出し、ウィンドウを指す。
何処か可笑しそうにこちらを見つめるスバル、その眼を正面から覗き込むティアナ。
そして、続ける。

「あれが「Λ」なのは私でも判る。その事じゃなくて、何の心算でこんなものを模ったのか、って訊いているの」
「模ったなんて、そんな無意味な事する訳がないじゃない。あれは正真正銘、外観通りの機能を有しているの」
「余計に性質が悪いわ。態々あんなものを設計してたの、アンタ達」
「私達が設計したんじゃない。あれも1度目の22世紀地球圏で構想されたんだ。高密度炭素結晶装甲の実験機としてね。当り前だけど、実際には建造されなかった。でも「Λ」にとっては、正に打って付けでしょ?」
「それに何の意味が在るっていうの」
「本来「Λ」自体は戦闘能力を有していない。それじゃ駄目だ。相手は何でもありのバイドと地球軍だよ? いきなり「Λ」中枢へと攻撃を仕掛けてきたって、何もおかしくないでしょ」
「だから、これ?」

もう1度、ウィンドウの中央へと指先を突き付けるティアナ。
変わらず其処に鎮座する、蒼い光を纏った巨大かつ歪な結晶体。
ウィンドウ上部には、黄色に光る半透明の文字列によって、結晶体の名称が表示されている。
だが、その結晶体には大きさと形状以外にも、複数の異常な点が在った。
本来ならば在り得る筈のない部位が、結晶体の外観に存在しているのだ。

一対の主翼と、同じく一対の垂直尾翼らしき突起物。
前後に伸長した結晶体の後部、計4ヶ所より突き出すそれら。
結晶体の表層部へと接続されているのではなく、結晶体そのものが変形して突起物を構築している。
即ち、主翼と尾翼を含めた全てが、単独の結晶構造体から成っているのだ。
その外観は正しく、あの忌まわしき兵器体系のそれ。

「良い名前でしょ? 純粋科学技術によって生み出されたバイド及び地球軍の技術と、魔法技術体系によって生み出された「Λ」の融合。偶然とは思えない程、ピッタリな名前だよね」

R戦闘機。
ジュエルシード「Λ」によって構築されたそれが、ウィンドウ上に鎮座していた。
或いは、R戦闘機の形状を取った「Λ」と表現すべきだろうか。
いずれにせよ、狂気の沙汰としか思えぬ創造物が、其処に存在していた。
そして、戦慄と共にティアナの意識へと浮かぶ、とある疑問。

816R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 19:47:27 ID:HxUl0Emw
「まさか、フォースも・・・」
「当然、在るよ。ただ、今は実体化していない。必要な時、必要なだけ「発生」させられるしね。その気になれば、戦域をフォースで埋め尽くす事だってできる。まあ、上手く行くとは思えないけれど」
「フォースは、デルタ・ウェポンを?」
「搭載していない。あれの開発には失敗したからね。でも、これのフォースには面白い仕掛けが在る。すぐに見せてあげるよ」

スバルが立ち上がり、ウィンドウへと歩み寄る。
ティアナは彼女の背面を、呆けた様に見つめる事しかできない。
ウィンドウの正面へと立ったスバルが、こちらへと振り返る。
ティアナの全身に、微かな震えが奔った。
それは恐れによるものではなく、確かな精神の昂りより齎される震え。
そして紡がれる、子供の様に無邪気な、それでいて何処か無機的なスバルの言葉。

「前哨戦は、もうおしまい。ここからは反撃の時間だよ、ティア。敵味方の「識別」はもう済んでるから、後は簡単。「味方」でないものは、みんな壊しちゃえば良いの」

ウィンドウ上の「Λ」へと接続されていた各種機器が、一斉に機体より離れゆく。
蒼の結晶体によって構築された機体は、既に自らの機能により自律浮遊していた。
そして、ウィンドウ中央へと移動した機体名称の下部へと、新たな表示が展開する。
次元世界の守護者にして、その他の全てに対する殲滅者の誕生を意味する、極短い一文。
その傍らへと立つスバルが、謳う様に告げる。

「御命令を、ランスター「司令官」殿。今や貴女は、純粋な人間としては唯1人、独自に「Λ」を保有し、それに対する無条件での指揮権を持つ人物となった。貴女は独自の戦力を生産し、独自に作戦行動を執る事ができる。私達とは異なる戦略の下、敵勢力に対する脅威となる事ができる。さあ、ティア」

其処で漸く、ティアナは理解した。
自身は知らぬ間に、スバル達によるテストを受けていたのだ。
そして知らぬ間に合格し、知らぬ間に認められ、知らぬ間に力を与えられていた。
彼女は、自身ですら知り得ぬ間に、スバル達と同じ場所に立っていたのだ。

「これが、ティアの「力」だよ」

ウィンドウ上に映し出される「Λ」。
その左右に位置する壁面が、上下に収納されてゆく。
そして、解放された壁面の奥より現れたそれらは、蒼い光を発する結晶体。
ウィンドウの中央に位置するそれと、全く同じ外観を有する機体が、更に2機。
計3機の「Λ」が、其処に存在していた。

未だに呆けるティアナの眼前、歩み寄るスバル。
彼女は、その表情に柔らかな笑みを浮かべ、告げる。
祝福の言葉、新生を謳う言葉を。



「ようこそ、私達の世界へ」



瞬間、想像を絶する程に大量の情報が、ティアナの意識へと流れ込んだ。
ティアナ・ランスターという個が情報の氾濫に呑まれてもなお、彼女は自己が確かに存在しているとの認識を保ち続けている。
そして同時に、ティアナは自身が巨大なシステムへと変貌した事、個にして全なる存在へと昇華した事を悟った。
意識の中枢にして一端、とあるハードの視界を通じて得られた情報が、ティアナという存在の新生を祝う鐘の音の様に、彼女の意識中へと響き亘っている。
瞬時にその意味する処を理解したティアナは、電子的に構築された広大な世界の中、声ならぬ声にて快哉の声を上げた。



「B-5D DIAMOND WEDDING Λ」
「TYPE-02」試験評価開始。
「TYPE-No.9」試験評価開始。
「TYPE- TEANA」試験評価開始。

817R-TYPE Λ ◆xDpYJl.2AA:2010/05/03(月) 20:00:55 ID:HxUl0Emw
以上で投下終了です
今回もお付き合いいただき、有難う御座いました



先生「ご苦労だった・・・と言いたいところだが、君には再入院して貰う。
    貴様は知らんだろうが、我が3ヵ月の治療は、ここでリハビリと言う新段階を迎える
   これから貴様はあらゆるの手助けを受けつつ、ただひたすら、歩くだけだ。
   どこまでもがき苦しむか見せてもらおう。
    歩 く が よ い」

俺「それなくね?」

1カ月後

先生「果たしてここまで来たか。
   腹立たしいまでに健康である。
   だが最も望ましい形に進んで来ているのはとても愉快だ。
   我が肉体改窮素敵計画は君の強い治癒力を以って遂に完遂されることとなる。
   いよいよもって退院するがよい。
   そしてさようなら」

俺「正に恐悦至極」



という訳で、第三十二話は終了です
4ヶ月も間を空けてしまい、誠に申し訳ありません

グリーンインフェルノは次元世界製、謎文明は「Λ」製
次元世界は此処から巻き返しても良いし、巻き返さなくても良い
そしてティアナは、本格的にスバル達の仲間入りです
今回出てきた機体群や艦艇群については、また後ほど
では、また次回



入院中に「兄貴のすべて」を持ってきた友人に、GJを送りたい

818魔法少女リリカル名無し:2010/05/03(月) 20:04:06 ID:R2o8Oc/s

しかし、何これ
緑地獄の文明は来るし
提督らしきコンバイラは現れるし
推進装置の魔剣がうなってるし
謎文明軍が作られちゃうし
Λは新たな領域へ行こうとしてるし
破滅の門が開門するのか、筆舌にしがたい謎の空間を見る事になるのか
琥珀色の風が吹き荒れそうな隔離空間だな

819魔法少女リリカル名無し:2010/05/03(月) 20:40:08 ID:b4HBs4wM
乙です
なんという虚無っぷり
そろそろゲッターエンペラーさんが来ても不思議じゃないな
それにしてもタクティクス2の設定を上手く料理してくれてうれしい限り
あとは緑地獄さんが真っ二つになるのを待つだけですね!

820魔法少女リリカル名無し:2010/05/04(火) 01:48:50 ID:FNTrsN.M
太陽ノ使者から「乙」というメッセージがとどいております

821魔法少女リリカル名無し:2010/05/04(火) 02:31:55 ID:8tTMRY4M
戦っても戦っても戦いから抜け出せない。
まさにシューティング。

822魔法少女リリカル名無し:2010/05/04(火) 20:19:33 ID:Ua2m0TKY
地球軍の科学力の進歩っぷりが凄すぎるwww

823魔法少女リリカル名無し:2010/05/05(水) 00:34:36 ID:dbHjRoD6
遅ればせながら、Λさん乙!
まさかのRTT2、新しい設定を組み込んでるのに破綻が見られないとか、すごすぎる。
まじであなた、アイレムのRシリーズのシナリオライターと言われても信じてしまいそうだ……

824魔法少女リリカル名無し:2010/05/05(水) 03:07:49 ID:wwbBZ/sA
R-TYPE Λ氏ものすごく乙+GJです!!
氏の作品ならいくらでも待てますので、体を大事にしてください。

それにしてもこの物量、正しくSTG

825魔法少女リリカル名無し:2010/05/05(水) 10:41:12 ID:KYTRw08Q
確かにΛの艦隊無限湧きは凄いけど
これってバイドと同じ製造方なんじゃないか?
魔導因子かバイド素子かの違いで。

でもこれTYPE-S.N.Tだけでやったんだと思うと
三人の高みへの到達っぷり半端ねぇなw

826866:2010/05/05(水) 23:20:14 ID:QGSOOwrc
>>825
「バイドをもってバイドを制す」
しかしバイドを殲滅すれば一応終わりになる地球と違って
この管理局がS.N.Tを確保したら大変な事になりそう
技術の封印とか管理局じゃあ絶対無理そうだし

827魔法少女リリカル名無し:2010/05/07(金) 06:23:55 ID:6.amC1yA
トランスフォーマー・アニメイテッドとクロスした場合を考えたら
ディセプティコン最大の強みである空を飛べる能力を駆使し空戦能力を持たないオプティマス隊は人材としての能力差や戦力差から劣勢に
って悪役のアイデンティティを奪うってことに気付き頓挫した
シーズンによっちゃスタスクが実質的な大将だから、管理局絡んだらメガトロン復活前に全員が捕縛または撃破されかねないし。蜘蛛のお姉さん以外

828魔法少女リリカル名無し:2010/05/12(水) 01:32:40 ID:l/4nx75s
「Λ」完成に近づいたのんだが、どう考えても力に呑まれまくってます。
地球軍が一番嫌う個人の意志が大きく反映される戦力とか全力で潰しに掛かりそうだし、何よりTEAM R-TYPEとバイドが食指を動かさないわけがない。

あとベーラが出たならばリリルも出るんじゃ…

829魔法少女リリカル名無し:2010/05/13(木) 16:56:05 ID:q1KRyYZo
リリキャリュにゃにょひゃ
ttp://gazo2.fbbs.jp/thre/s1_list/8581

830魔法少女リリカル名無し:2010/05/13(木) 22:52:44 ID:SRqBYQMo
バイドのバをゾに戻すが、ここの読者に[ゾイドモデルズ]ゾイド作例傑作選持ってる者は何人いる?

831魔法少女リリカル名無し:2010/05/13(木) 23:01:16 ID:RO6geM7o
地球を守ってくれるのは地球軍しかいないので頑張って欲しいぜ。

832<削除>:<削除>
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833魔法少女リリカル名無し:2010/05/16(日) 19:26:43 ID:xClOCh0M
バイドならぬゾイドの話だが、やっぱ、デスザウラー(オリジナル)倒したときの反動で
飛ばされてきたバンの話が読みたいと思った俺は異常か?

834マスカレード氏への感想:2010/05/18(火) 07:30:52 ID:n3s0qyJ.
規制されていたのでこちらに感想を。



マスカレード氏、GJでした!!


遂に前線を退くことになった魔導師陣。確かに今後のグロンギは相当な手練れですからね。もちろんなのは達で倒せないことはないでしょうが、正直精神的にキツイでしょうから。

また事件の中心にプレシアがいるかもしれないこと、グロンギに電撃が効かないことで相当ショックを受けたフェイトをリンディが慰めるエピソードも良かったです。

ただ、「果たして、〜」で始まる文が多すぎなイメージがありました。


ではでは、ラストスパートに向けて頑張ってください! GJでした!!

835cnn:2010/05/18(火) 13:54:41 ID:3y9fHskg
家電屋さん始めたよー^^
良かったら見てねー^^
商品情報ブログ
ameblo.jp/a-it/

836四兄弟氏への感想:2010/05/18(火) 22:08:33 ID:n3s0qyJ.
同じく規制を受けましたのでこちらに。



四兄弟氏、GJでした!!


今回はスーパー・レイ・タイムでしたねww 強化戦闘機人がまるでゴミのようだ・・・・・・!www

一方でドゥーエは本編同様、能力がまともに生かしきれないまま死んじゃいましたね。何とも間抜けな・・・・・・いや、むしろ哀れな死に様でしたが。


さて、今回はまだキックホッパーこと兄貴が実質未登場で終わってしまいましたが、次回を期待しております。GJでした!!

837cnn:2010/05/19(水) 00:31:12 ID:VLqAVmdY
家電屋さん始めたよー^^
良かったらみてねー^^
cnn2010hp.cocolog-nifty.com/

838魔法少女リリカル名無し:2010/05/22(土) 10:21:26 ID:NI5kcWkk
>>833
リリカルゾイド氏のバンなら、息子がいると解れば
「うおおおおおおおお!!」の叫びながらブレードアタックで
次元の壁も貫く気がする…

839魔法少女リリカル名無し:2010/05/22(土) 11:58:41 ID:0VB7VbZw
つーかむしろ一家総出(ユーノ以外にも子供が居る可能性あり)
で来そうだがね
てか俺はブレードの試作コピー機に乗って上山画で腹筋割れたユーノが
ブレードアタックするのが頭から離れん。
ゾイド氏カムバック!!

840魔法少女リリカル名無し:2010/05/22(土) 11:59:25 ID:0VB7VbZw
sage忘れすいません

841魔法少女リリカル名無し:2010/05/22(土) 14:24:26 ID:yaG3.FQ2
二度もスイマセン

842魔法少女リリカル名無し:2010/05/28(金) 23:22:18 ID:CO7XvdMs
本スレ過疎ってるから悪乗り。
>>839
ユーノにはゾイド乗りの血に目覚めてほしいが、
個人的にはブレードの直系的な意味でゼロシュナイダーとか、
最初に会ったのがレイヴンなので
帝国と共和国のハイブリッド的なティラノ型、鎧龍輝も捨て難い。。。
尤もそん時には管理局が次元航行技術盗まれて跡形もなく、
勢力図がヘリック・ガイロス連合VSテラガイスト(ネオゼネバス)になってそうだが(ぉ

843魔法少女リリカル名無し:2010/05/30(日) 06:06:23 ID:3GWN/Z5A
とりあえずあの時代まだBFもゼロのCASシステムもない筈・・・
あれ?BFは発掘だっけか。まぁさすがに鎧龍輝はないかと
とりあえずゾイドは5年10年待ちがデフォだからそんくらいの気持ちで
ゾイド氏を待つしかないかな

844魔法少女リリカル名無し:2010/06/06(日) 18:14:18 ID:eKV7bRX.
なんなら、俺が、別物とはスラッシュゼロで書いてみようか?
少しは腹の足しになるかもよ?

845魔法少女リリカル名無し:2010/06/06(日) 23:35:46 ID:WRZZu94s
>>844
問題ないなら御願いしたい。
まぁ余程の事がない限り投稿は自由だし。

846魔法少女リリカル名無し:2010/06/07(月) 19:28:49 ID:8gh64Z3s
同じく
最近投稿も少なめだし

847魔法少女リリカル名無し:2010/06/09(水) 16:24:26 ID:33b4pNYI
じゃあ、頑張ってみようかな

但し、よくあるテンプレになるし、短いかい上にあんまり上手じゃないと思うけど
よろしく!

848魔法少女リリカル名無し:2010/06/20(日) 22:35:25 ID:C/Yfhgpc
また規制掛かってるけど、本当に書いてくれてありがとう/ゼロ氏。
やっぱり過疎気味だけど…。

849魔法少女リリカル名無し:2010/06/25(金) 20:00:37 ID:p6Uv52q.
いえいえ、褒められる事なんかしてませんよ

自分が書いてみたいと思ったから書いたんですから

稚拙な文章ですがお付き合いいただけると嬉しいです

850魔法少女リリカル名無し:2010/06/26(土) 10:01:52 ID:p1cVSeiU
あれ?レオンハート氏の作品っていつ投下されたんだ?

851魔法少女リリカル名無し:2010/06/27(日) 23:11:53 ID:sN1C28sU
ミッドチルダにコダラーとシラリーが現れたみたいです

852魔法少女リリカル名無し:2010/06/28(月) 18:56:25 ID:LGCOgVJI
>>851
魔法攻撃いくら撃っても吸収、倍加して撃ち返されるのか。

グレートは…ミッドの人間つーか管理局を信じてくれるだろうか?

853魔法少女リリカル名無し:2010/07/01(木) 15:21:09 ID:4Lv.1cmY
>>850
私も気になります。
いつ投稿したのでしょう?
もう5話ですし気づかなかったです。

854魔法少女リリカル名無し:2010/07/05(月) 22:39:23 ID:jrJOECII
レオンハート氏
本スレにageるわ予告しないわ短いわ
倉庫には八話まで保管されていますね。
最初避難所に投下しないで直接倉庫に保管されてましたし
作品はともかく余り氏に良い印象はもてないですよ。

855魔法少女リリカル名無し:2010/07/05(月) 22:44:46 ID:D4UW76y6
日λ...

856<削除>:<削除>
<削除>

857魔法少女リリカル名無し:2010/07/10(土) 14:10:46 ID:3hivwMUg
今更なネタですが、
無限書庫で奇天烈大百科が発見されました。

858魔法少女リリカル名無し:2010/07/11(日) 10:37:00 ID:OflkboTI
CM見て思った「借り暮らしのスカリエッティ」

859魔法少女リリカル名無し:2010/07/12(月) 10:04:51 ID:aCTtJhnU
弟も同じことを言ってたwww
ちょっと小ネタで書いてみようかな…

860<削除>:<削除>
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861魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/07/13(火) 23:17:59 ID:pkWdqxTU
二、三か月ぶりの登場になります。
上手く話をまとめる事が出来ずに時間だけがダラダラと経ってしまいました。
ようやく続きが完成しましたが、今度はアクセス規制に引っ掛かってます。
代理投稿を依頼するか、木枯らしスレに載せるか、どっちがいいでしょうか?

862魔法少女リリカル名無し:2010/07/14(水) 11:45:51 ID:zf8Bu.nc
代理投稿かと

863<削除>:<削除>
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864魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2010/07/14(水) 21:25:54 ID:PQwT/8Tk
>>862
了解しました。

865魔法少女リリカル名無し:2010/07/15(木) 07:10:36 ID:ub1CTUyQ
>>859
俺も思ったが、少し違ってな
「借り研究のスカリエッティ」

866魔法少女リリカル名無し:2010/07/17(土) 14:44:04 ID:mRko65Hg
一人暮らしのス借りエッティじ…

やめよう


エリオ・アウディトーレ活躍のアサシンズフリードの方がよさそうだ

867魔法少女リリカル名無し:2010/07/19(月) 23:07:38 ID:YrUGVqqY
借り暮らしのスカリエッティ
結構みんな同じこと考えてるな

868魔法少女リリカル名無し:2010/07/20(火) 13:27:20 ID:GD3bzfN.
なのはさんがドラム缶押してるSSがどこかにあったような…どこだっけ?

869魔法少女リリカル名無し:2010/07/20(火) 18:51:32 ID:Zy1S92yA
>>868
理想郷

870868:2010/07/23(金) 22:03:15 ID:ncEjjXqE
>>869
㌧クス。そういやメタルサーガsts氏はどーなった?

871魔法少女リリカル名無し:2010/07/30(金) 18:58:05 ID:ptsIALhE
個人的にリリカルゾイド氏やR-TYPEΛ氏が気になるな…

872魔法少女リリカル名無し:2010/08/01(日) 22:14:50 ID:RUFbSkpw
連続になるが、NICOZONでアイマスのゾイドMAD見たせいで、
リリカルゾイド氏のとこのユーノに真みたいな姉がいると思ってしまったw

873魔法少女リリカル名無し:2010/08/02(月) 17:23:47 ID:7RDk5oHM
>>871
R-TYPEΛ氏は期間が空くとはいえ定期的に投稿してくれるから安心できるほうだな
ただ最近はそれ以外の古参の職人をあまり見ないのが寂しいな

874魔法少女リリカル名無し:2010/08/02(月) 19:35:08 ID:Bp/J.11k
>>872
それは見てないが俺としては
バンの息子ってならユーノは末っ子で兄弟沢山いそうだと思ったがな
あいつ等早く結婚してそうだし。
今まで血の繋がった家族いないって思ってた所に親兄弟が一気に押しかける
ってのも面白そうだし
後本スレと言うか掲示板自体あれだからコイツの再利用かな?

875魔法少女リリカル名無し:2010/08/04(水) 21:47:46 ID:QuaAbGU.
R戦闘機ならフッケバインどもも瞬殺できそうだな。

876魔法少女リリカル名無し:2010/08/05(木) 01:21:51 ID:uGCBYEGI
なのは「スターライトブレイカー!!」

ソーナンスはきあいのタスキでもちこたえた
ソーナンスのミラーコート

なのは「」

とりあえずソーナンスとトリックルーム持ちポケモンとスキルスワップ等のスキル上書き系持ちポケモンはあの世界では凶悪だと思った

877魔法少女リリカル名無し:2010/08/05(木) 23:15:02 ID:sD4Sx3zQ
>>876
なやみのたねなんて本来あるスキルを不眠に上書きするほどだしな

それはそうとそのソーナンスのトレーナー絶対マグカルゴがパーティーの常連だろw
今のゲームポケモンは管理局もビックリなぐらい才能至上主義だしな・・・

878魔法少女リリカル名無し:2010/08/07(土) 12:12:10 ID:sSYovd1I
最近新アニメ始まったデジモンでは、究極体がいるというのに
一つ下の完全体メタルグレイモンですら必殺技の破壊力は核弾頭並だしな…。

ところでゾイドネタ引っ張るが、旧大戦のヘリック2世って、
80代で子供作った(惑星Zi人平均寿命150歳)ってホントけ?

879魔法少女リリカル名無し:2010/08/07(土) 21:15:45 ID:YZevnAY.
>>878
うぇーと、デジモンのトコは「完全体ですら既に核弾頭並みなのに
それを一蹴できる究極体どんだけ強いんだよおい」って事?
最もこの時期あんま「核」の事はあんま軽々しく口にしたくはないがね

880魔法少女リリカル名無し:2010/08/08(日) 06:32:54 ID:O8FhP4Wo
>>878
マジっぽい。
ただ、バトスト辺りだろうからアニメとはまた違うと思うぞ
アニメだと「ゾイドは古代ゾイド人が作ったモノ」だし、地球人類の血
が随分濃さそうだから

881魔法少女リリカル名無し:2010/08/10(火) 00:12:53 ID:aGng6Jgo
「なのは TRANSFORMERS」第28話をUP致しました。

882魔法少女リリカル名無し:2010/08/17(火) 22:44:47 ID:gZr5bdZo
>>878
惑星Ziだと一年が地球の半月と同じだったという記憶が

883魔法少女リリカル名無し:2010/08/24(火) 21:49:08 ID:zW8QuJFo
・・・・半「月?」

884<削除>:<削除>
<削除>

885魔法少女リリカル名無し:2010/09/04(土) 08:52:10 ID:9MBGi4cQ
半年の間違いだな

886りり:2010/10/04(月) 11:57:18 ID:5g11YG.U
まままままままままままま

887りり:2010/10/04(月) 11:58:11 ID:5g11YG.U
ゴミを減らすにはどうすればいいか

888魔法少女リリカル名無し:2010/10/06(水) 04:24:36 ID:PcMbOmaY
aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

889魔法少女リリカル名無し:2011/01/04(火) 22:57:37 ID:FGI.Pb02
只今「なのは TRANSFORMERS」第29話をUP致しました。

890魔法少女リリカル名無し:2011/02/06(日) 19:09:41 ID:0QVSiiAg
ところでなのはクロスロワイアルの方はそろそろ最終回だな
向こうはある程度繁盛してるな
読んでみたが中々内容もいいし

891魔法少女リリカル名無し:2011/02/06(日) 20:05:13 ID:1aQVQhpA
まだやってたのか
なんか元ネタの作者さんの大量離脱のせいでうやむやに終わったものだと思ってた

892魔法少女リリカル名無し:2011/02/10(木) 23:02:54 ID:P1hx7b7w
だが続いてるぞ
確かに内容はいいなぁ

893魔法少女リリカル名無し:2011/02/11(金) 22:22:57 ID:3RNkFxL2
あれ終わったらまた2ndとかやるの?
今の作品でまたやるなら是非読んで見たいんだけど、
そもそも今書き手が居ない過疎状態だからなぁ・・・

894魔法少女リリカル名無し:2011/02/12(土) 12:11:07 ID:9YXqMeYg
2ndはどうなるか不明
ただ、なのはクロスロワ以外でもなのはが参加してるパロロワも美味しいと思うぞ

895魔法少女リリカル名無し:2011/02/12(土) 21:38:14 ID:5Pi9E5v2
なのはは今では色んなロワ出てるからな。一応色々読んではいる
なのはクロスロワのいい所は、自分が好きで読んでる作品のキャラが活躍するってとこなんだよな
あえて作品名は上げないが、この作品が出るなら読んでみたいってのもいくつかある

896魔法少女リリカル名無し:2011/02/13(日) 14:29:15 ID:brija7nw
2ndは2ndで面白そうだが……
書き手がやる気になって書いて欲しいな

897魔法少女リリカル名無し:2011/02/16(水) 22:43:12 ID:.Ve.uO5k
面白そうかもしれないけど、ロワの完結は奇跡みたいな物だからな……
まあ、書き手がやる気になってから考えればいいでしょ

898魔法少女リリカル名無し:2011/02/22(火) 14:34:57 ID:fMW5Hth6
なのは4期次第かもね
いつ終わるのかな?

899魔法少女リリカル名無し:2011/04/23(土) 09:07:17 ID:9xm3HMbM
今更ながらなのはクロスロワもエピローグが投下されたんだな
2ndも興味あるけど、書き手の人が集まるかな……

900魔法少女リリカル名無し:2011/04/27(水) 15:54:31 ID:h7Dcw/E6
ってことはあれも完全完結か。
案外告知とかしたら書き手も集まるかもな。
まあ一応書き手を募る為の時間も一カ月くらい用意しておけば大丈夫かと。
やるなら一応1st完結させた人達にも話は通しておいた方がいいと思うから、2ndやるならあっちのスレで企画した方がいいかも。
向こうの管理人さんさえ許してくれれば、このまま2ndも同じしたらば使わせてくれるかもしれないし。

901魔法少女リリカル名無し:2011/04/28(木) 10:14:45 ID:O2OqbNWA
とりあえず上げる。
2ndの話するのはいいけど、気付いて貰えなきゃ企画のしようがないからな

902魔法少女リリカル名無し:2011/04/28(木) 16:52:43 ID:J82I5nbM
・現行のロワスレで2ndの報告→企画開始
・一カ月程の期間を決めてキャラを参加させる書き手を募る
・集まった書き手の人数によって一人あたりの参加キャラを決める
・キャラ毎のルールや制限などの細かい調整議論→企画スタート

理想的な流れを上げるならこんな感じだろうか。
まだ向こうも完結したばかりだからそんなに急ぐ必要はない気もするが。

903魔法少女リリカル名無し:2011/04/29(金) 20:01:35 ID:fubJkK1Q
個人的には2ndに関しては現状反対です。

1stにしても色々問題がありリスタートを行っています。更に後にはロワに参加している書き手及びSSの本スレ撤退もあり、それ以後実質本スレとロワスレは隔絶されたものと言っても過言ではありません。
また、実際のSSを見ても基本的にクロスキャラである必要があったものはごく僅かだったと認識しています。
それに、1stでメインで活躍したのははやてとかがみが上げられ両名共クロスSSからの出身でしたが、それぞれのSSはここ数年殆ど凍結状態です。あくまでも本スレのSSあってのものである以上そういうキャラを出す意味など無いでしょう。
また、主要活躍したキャラにはマスカレード氏のマスカレードのキャラが数多くいましたが、現在マスカレードは改訂中で当時のSS内容と比較して細部が大幅に変わっています。それを踏まえて考えるとクロスSSのキャラを使うべきではないと思います。

自分には1st完結した熱で熱くなっているだけとしか思えませんし、単純にロワをやりたいならわざわざクロスSSのキャラを使う必要性は皆無です。
それ以前に、1st当時と違い今の本スレは当時程盛り上がっていません。話が出れば協力するという書き手はいるかもしれませんが、乗り気ではない書き手も多いでしょうし、殆ど進んでいないSSや長年凍結されるであろうSSを使うべきではないでしょう。
企画をやりたいと思う事自体は問題ではないですが、本スレの状況や1stで起こった問題を考えないでそういう事を口にするのは正直止めて貰いたいです。

904魔法少女リリカル名無し:2011/04/30(土) 03:45:22 ID:/N6FtxK.
俺は賛成はしないが反対もしないって感じかな
問題点とかは企画段階の議論で決着付くまで話し合えばいいと思うし、やってこのスレが潰れるみたいなデメリットがある訳でもない(逆にもし団結力が強まって現在よりも活気が出れば儲けもん)

確かに今やったところで盛り上がるのかとか、細かな疑問は色々あるが、もしやりたいって書き手が集まって話が前向きに進むのなら無理に止める必要もないかなと思っている
協力出来そうなら議論にも参加するが、企画が合わなかったり、協力出来ないなと感じた場合は関わらなければいい話だしさ

905魔法少女リリカル名無し:2011/04/30(土) 03:50:04 ID:/N6FtxK.
ただ、今すぐ盛り上げて企画立ち上げようぜ!ってのは反対です
まだ1st完結して間もないし、もう少し余韻に浸っていたいという気持ちもあるし、何よりも今すぐ無理に企画したらコケそう
もしもやるのであれば、じっくり準備期間を練って書き手読み手双方に2nd開催のムードが出来上がってからにしたい
そういう意味では現状では反対かな
連投すみません

906魔法少女リリカル名無し:2011/05/16(月) 21:58:22 ID:4MPyI6jo
2ndは期待はしてるが慌てて開催すると失敗するから慎重にした方がいいよ

907魔法少女リリカル名無し:2011/05/17(火) 08:51:48 ID:PJ6MVn2M
また2ndの話題が出ていますが自分は反対です。

やってこのスレにデメリットが無いという話があるそうですがそれは違います。ロワで出た描写が本スレのSSに影響を及ぼす事が絶対に無いとは言い切れないからです。
基本的にクロスSSはそれぞれの作者がある程度設定の摺り合わせや改変を行っており細かい事は作者の脳内にしかありません。
ところが、ロワSS作者にはそれは知り得ない話なので描写されていない部分は元作品の原作をベースにせざるを得ません。
結果クロスSSの執筆するに辺り他の作者が断定してしまったロワSS設定をベースにしなければならなくなります。
勿論、実際にそんな事が起こるかどうかは不明瞭ですが起こる可能性はありますし、その事態はむしろクロスSSにとってデメリット以外の何者でもありません。

また、1st末期で本スレがそこまで盛り上がっていたとは思えません。自分から見たらロワとは切り離そうとしている風に見えました。(これはロワSSに撤退した作者が大きく関わっていた関係もあるだろうけど)
それを踏まえて考えれば、クロスSSでロワしたいと思っている作者は殆どいないとすら思います。読み手と極一部の作者が熱くなっているだけにしか思えませんし大部分の作者はむしろ望んではいないでしょう。
そもそも年に1話ペースでしか進まなかったり長年凍結状態のクロスSSからキャラを参戦させるメリットがあるとは思えませんしそれが殆ど生かされる友思えません。
そんなにロワがやりたいのなら別にクロスSSに執着する必要は皆無だと思うのですが?

908魔法少女リリカル名無し:2011/05/17(火) 13:45:50 ID:UObX.pgg
書きたいって言う書き手が5人ぐらい集まれば始めても大丈夫なんじゃないかな
「出したい」じゃなくて「書きたい」

909魔法少女リリカル名無し:2011/05/17(火) 13:59:29 ID:zzl1gu0U
「書きたい」ってだけで企画が回るとは思えない。大体、「書きたい」ってだけならそもそもクロスSSに盲着する必要なんて皆無。
それ以前に1stにしてもそこまで積極的に書いた書き手なんて数える程しかいない(多くの書き手は凍結状態に陥ったりクロスSSから撤退したりしていた)。
それを忘れて企画を出したって上手く行くわけもない。撤退問題やSSの停滞問題を考えず口に出す方が間違っているのでは。

910魔法少女リリカル名無し:2011/05/20(金) 21:25:57 ID:U20b8ufw
ちょっと必死に反対しすぎなんじゃないかと思う
書きたい、やりたいって思う書き手が複数人集まったなら、見守ってればいいじゃないか
最初から無理だ無理だって言ってちゃ何だって無理だよ
参加キャラ制限(例えば二年以上更新のないキャラは参加出来ないとか)や、細かい問題点はやりたい人同士が納得するまで話し合えばいいんだし
というかそこまで必死に始まってすらいない企画を潰そうとする理由もわからない。嫌なら関わらなければいいのに

911魔法少女リリカル名無し:2011/05/20(金) 22:00:17 ID:u8ULhWEg
確かに書きたい人が集まれば始めるのは問題ないけど
>参加キャラ制限(例えば二年以上更新のないキャラは参加出来ないとか)
とりあえず参加しない書き手のキャラ出すのは当然ながらありえないから、その心配はないんじゃない

912魔法少女リリカル名無し:2011/05/20(金) 22:07:07 ID:rfkYrQ0.
まあ本スレで書きたいって主張する人が居るなら、それは本スレで今投下を続けてる人だろうしね
というかとりあえずは書きたいって思う人が居るかどうかがわかんないと話にならないよ
クロス本スレの方で話題を出して、今投下をしてる人達にきいてみれば良いんじゃないかな
なのマギ氏みたいに、ロワの参加に肯定的な書き手だったら投下後のあとがきで一言言ってくれるだろうし

913魔法少女リリカル名無し:2011/05/21(土) 00:33:50 ID:p19mm7eU
1stの時もリスタート問題起こったり、キャラは出したけどロワSSはおろか本スレでの連載すら進んでいないという問題が起こったり、更には撤退問題も起こったりした以上、『1stが上手く行ったから2ndやろう』とすぐさま飛びついても上手く行かないと思う。
大体1stで活躍した大はやてのSSやかがみのSSなんて本スレ連載殆ど進んでいないのに活躍しているのは何処かおかしいとすら感じる。
更にARMSや終わクロキャラに至っては大半が1人の書き手(本スレ作者ではない)で回していた事考えると上手く行っているとは言い難い。

それ以前にまだ1st終わって間もないのに2ndやる事自体、1stが終わった熱で熱くなっているだけとしか思えない。というかそこまでやってクロスSSでロワやりたい?

914魔法少女リリカル名無し:2011/05/21(土) 03:10:06 ID:2OYfnccs
やりたいと思う人はそう言われた所でやりたい気持ちは変わらんだろ
企画進めるならしたらばなり別の場所用意されるだろうし、そんなに嫌なら見なければいいんだって

あと1stの問題点ばかり挙げているけど、今後の議論で解決出来る問題はいくらでもあると思うし、それを今ここで無理だ無理だと言う事にあまり意味はないと思うよ
それこそ1stの反省点を活かして、2ndはもっと完成した企画に出来る可能性だってあるんだから
それに今すぐやろうなんて誰も言ってないんだし、こうして話題に上がる所から始めて、書き手の意見を聞いたり、やるならやるでじっくり企画を練ったりと、ゆっくり話し合って行けばいいんじゃないかな

915魔法少女リリカル名無し:2011/05/21(土) 08:41:23 ID:Ktestdzc
書きたい人が集まって、しっかり企画するのなら別に反対するつもりもないが、
逆に書きたい人が殆ど居ないなら無理にロワはやらない方がいいと思ってるかな。
どちらにせよ書き手次第なんだから、ここで書き手でも何でもない反対派と
賛成派が意見を対立させるだけの議論を繰り広げても、あまり意味は無いと思う。
ここまでの話し合いを見る限り、多分いくら言い合ってもお互い平行線だろうから。

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917魔法少女リリカル名無し:2011/07/05(火) 20:34:15 ID:6pX8UX5.
避難所管理人氏へ
広告がいささか目に付くので削除してもらえないでしょうか

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919魔法少女リリカル名無し:2011/07/06(水) 22:11:42 ID:gWNZdfME
自分の作品二年も放置してるのに管理出来ると思えません

920魔法少女リリカル名無し:2011/07/06(水) 23:40:10 ID:BRmGy1bk
避難所の管理人は名無しじゃなかったか?

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922マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:13:51 ID:ZzD2UZGo
すみません。忍法帳がリセットされてしまっていたようで、代わりにここに投下して本スレに落としたものとさせていただきます。

マクロスなのは第23話「ガジェットⅡ型改」

第1管理世界 ミッドチルダ首都クラナガン 某所

「今日の晩、ちゃんと来られるんだね?」

MTT(ミッドチルダ電信電話株式会社)の音声回線を前に女が確認するように問う。
それに回線の向こう側にいる誰かが応える。

『へい、アマネのやつがようやく管理局のレーダーのセキュリティホールを見つけやして』

「でかした!」

『でへへへ、姉(あね)さんに褒められるとうれしいですわ〜』

「バカ!あんたを褒めたわけじゃないよ!それで、こっちには何で来るつもりだい?」

『え〜と、輸送船で「キリヤ」って船です』

「「キリヤ」って・・・・・・ありゃ先代が30年も前に盗んだダサいポンコツ船じゃないか!もっとましな船はないんかい!?それともうちの次元海賊は首
領の私がいないと運営が傾くほど資金難なの!?」

『いえいえ、そんなことないです!あっしにはよくわかりませんが、アマネによればセキュリティホールを抜けるのにあのヒョロっとした形とタイアツコ
ウゾウだったかが重要みたいで―――――』

「あ〜もう!わかったわかった!とにかく来なさいよ!そうじゃないとせっかく手に入れたこいつが無駄になるんだからね!!」

『それはもう。アマネもそのカワイコちゃんを思う様に犯してやりたいって張り切ってますわ』

「あの子の期待に応えられそうだよ。この機体は」

次元海賊の首領である女はそう言うと、ブルーシートにかけられた管理局の最新鋭戦闘機を撫でた。

(*)

同時刻 機動六課 訓練所

そこでは模擬戦が最終局面を迎えようとしていた。
魔力を前面に押し出して攻撃を放ってきたスバルの攻撃と、自らの魔力障壁がぶつかり合ってスパーク。放電現象によって周囲の空気の一部がオ
ゾンへと変わったのか、鼻の粘膜に刺すような痛みが一瞬襲う。しかしその痛みはバリアジャケットのフィルター機能が瞬時に遮断した。
それでも自らの嗅覚は上方を推移し始めた動体の動きを見逃さなかった。
ティアナがどんなに頑張ろうと空は自分のフィールド(領域)であり、シロートの接近に気づかぬ訳がないのだ。

「・・・・・・レイジングハート、シールドパージ」

『Alright.』

なのはの指示にスバルを受け止めていたシールドがリアクティブ・アーマー(爆発反応装甲。被弾した場所の装甲が自爆し、弾道を反らしたり減衰
して無力化する機構)のように自爆。爆風と煙幕によってスバルの攻撃を完全に無力化する。
しかし自分に自由落下程度で挑んで来ようとは・・・・・・

923マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:14:31 ID:ZzD2UZGo

(遅すぎ)

なのはは降ってきたそれを物理的に掴んだ。
そして指先の接触回線から、急ごしらえで作ったらしい詰めの甘い対ハッキングプログラムをオーバーライド。友軍以外の他者の魔法を拒絶するオ
ートバリアを無力化する。
続けて彼女は、オートバリアのなくなったティアナに浮遊魔法をかけて勢いを殺した。
シールドパージからここまで100分の1秒未満。落下距離に換算すればたったの10センチにすぎない。
日々相対速度が音速近くなる(対ゴーストや対バルキリーでは軽く2〜3倍を超える)空戦に対応出来る・・・・・・いや、しなければいけないなのはに
とってそれは亀のごときスピードでしかなかった。

(*)

突然白煙に包まれ、視界ゼロとなったことにティアナは狼狽する。しかしなのはがいると予想される場所から声がした。

「おかしいな・・・・・・2人とも、どうしちゃったのかな?」

決して怒った口調でも非難する口調でもないなのはの言霊。一定方向から聞こえるという事は自分は静止状態にあるらしい。思考する内にも白煙
が晴れていく。
最初に目に入ったのは恐怖で引きつる相棒の顔だった。そして、『どうしたのだろう?』と思う間もなく、冷たい風ががそこを洗った。
なのはの素手で受け止められたスバルのデバイスと自身の魔力刃。
そして魔力刃を握る拳から滴る〝血〟。
それは視界とは裏腹に、自身の頭を白煙で満たした。

「頑張ってるのはわかるけど、模擬戦はケンカじゃないんだよ。練習の時だけ言うこと聞いてるフリで、本番でこんな危険な無茶するんなら・・・・・・
練習の意味、ないじゃない・・・・・・」

なのはの一言一言が重くのし掛かる。
今まで丁寧に教えてくれた人に、自分は今何をしている?
銃を突きつけている。
これはいい。ここはそういう所だ。
無茶して怪我させている。
これは・・・・・・弁解の余地はなかった。

「ちゃんとさ、練習通りやろうよ。ねぇ?」

「あ、あの・・・・・・」

しかしなのははスバルの弁解を聞こうとせず、こちらを見る。
その瞳のなんと虚ろなことか。
この優しく、時に厳しい彼女が、こんな生気の抜けた顔をするのか。
その瞳と血とは、ティアナを混乱させるに十分な力を持っていた。

「私の言ってること、私の訓練、そんなに間違ってる?」

なのはの問いかけに、ついにティアナの混乱は頂点に達した。

『Ray erase.(魔力刃、解除)』

唯一自らを空中に縛っていた魔力刃が解除。浮遊魔法で軽くなった体を生かして跳び、なのはから離れたウィングロードに着地する。
しかしそれだけでは冷静さを取り戻すには足りなかった。

924マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:15:02 ID:ZzD2UZGo

「私は、ただ、なのはさんに、認めてもらいたくて・・・・・・さくら先輩みたいにちゃんとした教導を受けたくて─────!」

こんがらがったティアナの思考にはもう一貫性がない。
口とは違い、体はカートリッジを2発ロードし、まだなのはに攻撃を放とうとしていた。

「・・・・・・少し、頭、冷やそうか・・・・・・」

向けられる指先。そこに桜色の魔力が集束していく。

「なのはさ─────は!?バインド!?」

止めに入ろうとしたスバルは、己の両腕がいつの間にか封印されていることに驚愕する。

「じっとして。よく見てなさい」

この時、なのはが他にレイジングハートに向かって何か呟いたが、スバル以外の感知するところになかった。

「クロスファイヤ─────」

「うぁぁーーー!ファントムブレイ─────」

「シュート」

なのはの宣言と共に桜色の砲撃が放たれた。
しかしクロスミラージュが砲撃に使おうとした魔力を流用してシールドを緊急展開。なんとか減衰する。その後貫通したそれはティアナの体を炙った
が、重度の魔力火傷は回避した。
本当なら砲撃プログラムに容量を取られてシールド展開用の緊急プログラム作動すら間に合わない間合いであったはずだが、なのはに命令を受け
たレイジングハートのハッキングにより、時限作動していた。
これで戦闘意欲は削いだかに思えたが、ティアナはまだ諦めていないようだった。無理やり攻撃態勢に入ろうとしている。もはや魔力を生み出す体
力がないのかカートリッジを湯水のように消費して足しにする。

「お願い、私は負けられないの!!」

しかし願いとは裏腹に生成される魔力をなかなか成形させることができず、オレンジ色の魔力が重力井戸から解き放たれた大気のように空中へと
拡散してしまう。どうやら実質的な戦闘不能状態であるようだった。
一方なのはは再び魔力を収束し始めていた。
しかし今度のそれに教育的な理由は感じられない。
先ほどのようにティアナの最高状態に合わせて撃とうとしているわけでもなく、実のところリミッター状態の今のなのはが最も撃ちやすいAA出力の
砲撃魔法でしかなかった。
しかしそれはフェイトや守護騎士のような親しい人種でもその事実には気づけなかっただろう。なぜなら彼らはなのはが訓練時に魔力の出力を下
げて使うとき、本人ですら気づけないような特殊な癖がある事を知らないからだ。
だがここにはその乱心に気づけ、かつ対応出来るだけの能力を持った者が2人いた。

(*)

まばたきの瞬間、なのはの目前に浮く収束中の魔力球が破裂した。

その瞬間スバルにはそのぐらいにしか認識できなかったが、直後遥か遠方から聞こえてきた重い発砲音をたどると、観戦していたさくらがビルの窓
から魔力球を狙撃したのだとわかった。

925マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:15:44 ID:ZzD2UZGo

そしてティアナの所には高空よりやってきた一陣の風が舞い降りていた。

「この大バカ野郎!歯ぁ、食いしばれっ!!」

EXギアの腕のみを外したアルトの一撃がティアナの頬に炸裂した。
顔に一切のダメージを残さぬよう、足場であるウィングロードから足を踏み外さぬよう、芯まで突き通すように掌(てのひら)で張り飛ばす早乙女家の
技はまさに芸術的であった。
その一撃によって彼女の意識は完全に飛び、ウィングロードの上に横たわった。

「ティア!」

狙撃以来バインドから解放されていたらしく、スバルは立ち上がると同時にマッハキャリバーを吹かして親友の元へと駆ける。
その後ろからなのはが厳かに告げた。

「・・・・・・模擬戦はここまで。今日は2人とも、撃墜されて終了」

スバルは振り返りなのはを睨みつけるが、何も言えなかった。

(*)

その後意識不明になったティアナの搬送作業、その他のゴタゴタで次に行われる予定だったライトニングの模擬戦も中止。
そのまま解散となった。

(*)

2146時 訓練場前

そこではなのはが、ホログラムのプログラムエラーの修理と最終確認をしていた。
どうやらリアリティの追及のし過ぎでそれぞれのマトリクスに過負荷がかかり、オーバーロード気味だったようだ。
彼女は構成情報を減らしたり、多少のコマ抜けを看過するようプログラムを改良していく。
ホログラムの訓練場でこれほど大規模なものはコストの問題で世界初の試みであったため、まだノウハウの成熟には時間が要るようだった。

「待機関数を1ミリ秒のループに繋いで・・・・・・よし、終了!レイジングハート、プログラムのチェックをお願い」

『Yes my master.』

デバックの進行を表すバーがゴールである100%を目指して伸びゆくのを眺めていたが、後ろからやってきた気配に振り返る。

「誰?」

「い、いよぅ」

突然こちらが振り返ったのに驚いたのか、その人物はラフに挙手した。

「ア、アルトくん!?」

直後背後からレイジングハートのデバックの終了と問題なしの報告。そしてご丁寧に作業用のホロディスプレイまで閉じて〝お仕事〟の終了を完
璧に演出してくれた。
絶対の信頼を置く己がデバイスの反乱になのはは全面降伏。仕事に逃げるのをあきらめて問題に向き合わざるを得ないと観念した。

926マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:16:38 ID:ZzD2UZGo

(*)

同時刻 ミッドチルダ 千葉半島沖合100キロメートル

その場所に一隻の次元航行船がワープアウト(次元空間から出てくること)していた。黒い船体の中央辺りに突き出た艦橋には輸送船「キリヤ」の文字。
作られたのが40年も前の船で、さらに他世界の次元航行最初期の設計であったために勘違いな設計が多数存在する。
例えば次元空間を当時その世界の理論では水中のような高圧の流体の世界だと考えており、船体のデザイン、そしてその強力な耐圧構造はそれ
に則して施されている。そのため船体の形状は魚雷型で、スクリューが無いことを除くと潜水艦にしか見えないし構造も同じである。
現代では次元空間のワープバブル(次元空間の時空エネルギーに対抗するために張られるバリアのようなもの)の中は宇宙空間のようなもので、
我々のよく知る管理局所属の次元航行船、巡察艦「アースラ」などは見ての通り流体内部を航行するような構造ではない。そのため外装の装備な
どが充実し、船型を制限されず〝ハイセンス〟なデザインとなる。
そのような事情な現代ゆえ、先ほどの次元海賊の面々もこの艦を前時代的なひょろっとした艦としか認識できないのも仕方ないことだった。
だが現代のそのような認識が次元海賊に幸いする。実はこの輸送船「キリヤ」は次元空間から直接深海1000メートルにワープアウトしており、時
空管理局の太陽系すべてを網羅するほどのワープアウト検出用防空ネットワークに引っ掛からないのだ。
セキュリティホールとは言えまさに灯台下暗しとはこのこと。さらに一度ワープアウトして入ってしまえば、海上船舶程度の船籍の偽装は次元海賊
の組織力をもってすれば比較的容易で、ワープアウト数分後には水中から浮上して堂々とミッドチルダに待つ女首領との合流ポイントへと向かった。

(*)

「さっきティアナとスバルがこっちに謝りに来てたぞ。なんでもお前がオフィスにいないから先に俺のとこに来たらしい。『今日はもう遅ぇからなのはに
謝まるのは明日にしとけ』って言っておいたんだが・・・・・・」

なのはと訓練場から宿舎への道を歩きつつ伝える。

「うん、ありがとう。・・・・・・でもごめんね。監督不行き届きで。それに私のせいでアルトくんやさくらちゃんにもにも迷惑かけて・・・・・・」

「確かにあれはお前らしくなかった。特に2発目。1発目はそうだな、ああするのが一番だっただろうよ。殴って殴って徹底的に型を叩き込む・・・・・・オ
レの知ってる稽古はそういうものだ」

幼少時代、寝ても覚めても歌舞伎の稽古で殴られ続けた記憶がフラッシュバックを起こして一瞬言い淀むが、今自分がその吐き気を催しそうな指
導方法を認めようとしている、さらには先ほどティアナに実施したことに気付いて居たたまれなくなった。
それに教えられてもいないのにあの平手打ちをしっかりマスターしていたことにその業を怨まざるを得なかった。かといって歌舞伎で言うこの「うつし」
と呼ばれる真似の技術が自身が幾多の戦場を駆け抜けるのに1役も2役も買っていたことも事実であることが、大人の階段を上る青年の心を複雑
にかき乱した。
しかし自分のことで精いっぱいでそんな青年の機微を感じ取る余裕のないなのははその2発目について漏らし始めた。

「・・・・・・私、怖かったの」

「怖いってティアナがか?」

「そう。あの時のティアナ、無茶を通して道理を通す。・・・・・・まるで昔の私みたいだった」

「・・・・・・お前の撃墜事件のことか?」

「うん。無茶してた自分のことを思い出したら撃墜された時の痛みとかリハビリの苦痛を思い出して、気付いたら頭真っ白になっちゃって」

「それで怖くなって撃とうとしてしまった、と?」

「そうだよ。いくらティアナでもクラスAのリンカーコア保持者なんだから、攻撃の意思表示をしている以上、〝出力を落とした〟砲撃で昏倒させようと
したあの判断は戦術的に正しかった―――――」

927マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:17:52 ID:ZzD2UZGo

「おい待て。お前、それは本気で言ってるのか?」

「もちろんだよ。でもやっぱり判断力が鈍ってたのかな。さくらちゃんは放出しちゃったティアナの魔力に私の砲撃が引火するのを防いでくれようとし
たんだよね。あの時は助かったよ〜。そうじゃなかったらティアナを2,3日病院送りにするところだ―――――」

「ほんとうにらしくないな!高町なのは!!」

「え・・・・・・?」

「俺に嘘をつくだけでなく自分を正当化するとはな!・・・・・・お前には失望したぜ」

踵を返して足早に去ろうとすると、納得できないらしいなのははこちらの肩を掴んで

「ま、待って!どういうことかわからないよ!!」

と、呼び止めてきた。

「なら教えてやる。あのときのティアナは誰が見ても脅威にはならなかった。お前がそれを見間違えるはずがない!それに2発目が出力を落とした
砲撃だっただと?フェイト達ならわからんが、残念ながらお前の教導をくぐってきた俺やさくらはだませないぞ。その前には怖くて撃ったと言った
か?・・・・・・見くびるなよ。これでもお前とは何百時間も一緒に飛んできたんだ。他にどんな理由があるか俺には皆目見当がつかないが、お前が
言った理由だけではないはずだ!違うとは言わせないぞ!」

有無を言わさぬ口調で言い放つ。例え自らに魔法を教えてくれた師であろうと、今の彼女に背中を任せたくなかったからだ。
直後近くにあった街頭の電灯が消え、運悪く通過する厚い雲によって月明かりすら遮断されて辺りは相手の表情すら読み取れないような真っ暗闇
になった。

「・・・・・・あ〜あ、流石はアルトくんだね。本当のこと言うとね、あの時私が2発目を撃とうとしたのはティアナが怖かったわけじゃないの。実はね、テ
ィアナの無茶を見ていろいろ痛い思いをした撃墜事件のことを思い出したら、あんな痛い目を将来するかも知れないぐらいなら、その前に無茶すれ
ば絶対なんとかなるって言う幻想・・・・・・かな?それを〝潰しちゃおう〟って思って。私なら魔導士生命を終わらせないぐらいの手加減ができるって
考えちゃったんだよね〜」

先ほどとは打って変わって声色は明るい。しかし彼女が言ってるとは信じられないような内容と表情が読み取れないせいで病的な、はたまた別人
が言っているように聞こえて恐怖を誘う。

「お、おい、お前―――――」

ただならぬ雰囲気になのはに近寄ろうとすると、逆に彼女の方から一瞬で間合いを詰められて胸倉をつかまれていた。しかし何か言う前にちょうど
差し込んだ月明かりに照らされた真っ赤になった彼女の双瞳(そうとう)で見上げられ、何も言えなくなった。

「私が今どれだけひどいことを言ったか分かる!?アルトくんなら分かるよね!?私は今までそんなことにならないように教導してきたはずなのに!
・・・・・・でもあの時はそう思っちゃったんだ。1週間か1カ月ぐらい病院送りにして懲らしめてやろうなんて―――――んっ!?」

気がつくとアルトは護身術の要領で彼女の両肘を横に払い、その姿勢を崩したところで彼女をしっかりと抱き寄せていた。なんの打算もない。しかし
彼に眠っていた記憶、すでに他界した母にそうされると落ち着くことを思い出した故の行動だった。
腕の中で震える彼女を感じると、彼女が生身の女の子であることを認識せざるをえなくなる。それはアルトにおのずと何を言えばいいのかを教えてく
れた。

「わかってる。大丈夫だ。完璧な人間なんて居やしない。お前が間違ったときには今日みたいに俺たちが止めに来てやる。だからお前も、お前を信じ
る俺たちを信じてほしい」

928マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:19:07 ID:ZzD2UZGo

「・・・・・・アルトくんは・・・・・・アルトくんはこんな私をまだ信じてくれるの・・・・・・?私、ティアナを傷つけて、それを隠そうってアルトくんを騙そうともし
たんだよ!?」

「ああ。確かに褒められたことじゃない。だが俺はお前を、お前の心根(こころね)を信じる。だからお前も俺たちを信じてくれ。できるよな?」

「・・・・・・うん。ごめんね。・・・・・・ううん、ありがとう」

胸の中でなのはは確かに微笑んだ。そして震えは、確かに収まっていた。

(*)

5分後、ようやく落ち着いてお互い離れたのはいいが、まだ解決していない問題も多い。なのはは意を決すると、アルトに尋ねる。

「ティアナとスバル、どんな感じだった?」

「うーん・・・・・・やっぱりちょっと気持ちの整理がつかないみたいだったな」

苦い表情での答えになのはは再び俯いてしまった。
その場を生暖かい潮風が舐める。と、不意にアルトは口を開いた。

「なのは、お前の教導が間違ってないことは、受けてきた俺達が保証する。だが撃墜事件のことを話してくれてないとなかなか伝わらないし、わかり
にくいだろうな・・・・・・」

「うん。いつも最後に話してたけど、フォワードのみんなに明日ちゃんと話すよ。私の教導の意味と、さくらちゃんの教導との違いも」

しかしそれは叶わなかった。

静寂に満ちていた海辺に、けたたましいサイレンが鳴り響く。
2人はアイコンタクトすると指揮管制所のある六課の隊舎へ走った。

(*)

「AWACS『ホークアイ』から警報。千葉半島沖合い50キロの地点にガジェットⅡ型が12機出現しました。しかし機体性能が、従来のデータより4割
ほど向上しています!」

隊舎の指揮管制所に集まったロングアーチスタッフと各隊長に、夜間勤務だったシャーリーが報告する。

「ガジェットはどこに向かっとるんや!?」

はやての問いにシャーリーは回答に詰まる。

「それが・・・・・・レリック反応もなく、ガジェットもその場から動きません」

映し出されるガジェット達の航跡は、その場をぐるぐる旋回飛行している事を示していた。

「フロンティア航空基地は?」

「現在出撃待機のみで出撃を見合わせています。理由について先方の回答によれば、あれが敵の陽動である可能性があり、主力、もしくは別働隊
の出現に備えるとのことです」

929マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:21:49 ID:ZzD2UZGo

「うーん・・・・・・こっちの探知型超長距離砲撃で十分届くけど・・・・・・」

探知型超長距離砲撃とは、レーダー基地又は観測機、この場合AWACSに正確な砲撃座標を送ってもらい、その座標を元にここから砲撃するこ
と。これによりSランクのなのはの集束砲『スターライト・ブレイカー』なら理論上、射程は500キロにもなる。
しかし砲撃主のリミッター解除を強要するこの手段は、六課において最後の手段に部類される行動であった。
はやては拙速な判断をやめ、集まった3部隊の隊長に助言を請う。

「つまり、あいつらは『落としてくれ』って言ってるんだよな。だったら直接落としに行ってやろうじゃないか!」

アルトの過激な物言いに

「まぁまぁ」

とフェイトがいさめる。

「アルトくんの理論はどうかと思うけど、直接行って落とすのは賛成だな。スカリエッティならこっちの防空体勢とか、迎撃手段を探る頭もあるし。な
のははどう?」

「こっちの戦力調査が目的なら、なるべく新しい情報を出さずに、今までと同じやり方で片付けちゃう、かな」

3人とも通常の迎撃を推奨。ならばはやてに、それを拒否する理由はなかった。

(*)

機動六課第2格納庫

そこは3週間前からサジタリウス小隊が占有しており、今も小隊付きの整備員達が右往左往していた。
しかし道に迷っているわけではない。彼らは自分の仕事に専念しているだけだ。
バルキリーの装備は普段軽々と扱っている印象があるが、人間にとってそれは特大サイズだ。
そのため彼らはせっせと、武器庫からガンポッド、ミサイル類をリフトで往復して運び出し、ジャッキ・クレーンを使って装備していった。
特にさくらのガンポッドが曲者だ。
バルキリーの装備の中でも最大といってよいほど大型で長大なこのライフルは、もはや通常のリフト、クレーンでは運べない。
そのため出撃時のみフロンティア基地から持ってきた特殊なトレーラーで武器庫から出され、離陸前にバルキリー自らトレーラーから取り出して装
備してもらう。
もはやこうなると、バルキリーが直接武器庫に取りに行けばいいではないか?と思われるかもしれない。だが、そうは問屋がおろさないのだ。
小隊が借りている武器庫は、六課の自動迎撃システム『近接多目的MFS(ミサイル・ファランクス・システム)』のミサイル保管庫であり、地下にある。
そんなところに10メートルというデカイ図体のバトロイドがノコノコ入って行くとどうなるか。
ミッドチルダ製のミサイルはカートリッジ弾が爆薬に相当するので誤爆や誘爆は故意でない限り〝100%あり得ない〟(これが魔導兵器のもっとも
優れた点である。)が、もし操作を誤って施設(特に自動装填装置類)を少しでも壊したらその費用は天文学的な数字になるだろう。
となればトレーラーを1台持ってきた方が安上がりだった。

「アルト隊長遅いですね・・・・・・」

さくらが狭いVF−11Gの機内で、腕時計を睨みながら呟く。
アラートが鳴ってから20分、そして自分が機体に収まってから既に10分が経過していた。武装の搭載もほとんど終わっており、普段ならとっくに空
の上のはずだった。

『さぁ、どうしてかねぇ・・・・・・んだが、誤報だったらただじゃおかねぇ!』

930マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:23:18 ID:ZzD2UZGo

天城が不機嫌そうにこちらの呟きに応える。

「・・・・・・どうしました?なんか語気が荒いですよ」

『ん、あぁ。今日は俺の毎週楽しみにしてる連続ドラマの放送日でな・・・・・・いいところでアラートメッセージがテレビ画面をオーバーライドしやがった
んだ!』

『チキショー!よりにもよって一番いいシーンでよぉ!!』などと嘆いている。
直接VF−1Bのキャノピーを遠望してみると、ヘルメットの上から頭を引っ掻いていた。
そんな天城にあきれていると、やっとアルトが現れた。
キャノピーの開閉弁を開けて、肉声で呼び掛ける。

「出撃しますか?」

「ああ、今すぐ出撃するぞ!準備急げ!」

アルトのよく通る声が格納庫に木霊し、整備員達の動きが更に慌ただしくなった。

(*)

『ロングアーチからサジタリウス小隊へ。滑走路はオールクリア。発進を許可します』

「サンキュー、ロングアーチ。」

アルトは通信に応えると、バックミラーで〝後ろ〟を確認する。

「発進するが大丈夫か? ・・・・・・おーい、フェイトぉ?」

後部座席に座っていたフェイトは驚いたように隊舎の玄関からこちらに向き直ると

「うん、大丈夫だよ」

と頷いた。
今回六課の迎撃戦力であるなのは、フェイト、ヴィータはサジタリウス小隊のバルキリーに分乗していた。
現場が約100キロ以上先であり、彼女らなら音速飛行が可能だが、魔力の消費がもったいないためこのような采配になっていた。
しかし、フェイト達が搭乗する前に玄関でひと悶着あったようだ。
アルトは何が起こったか知らなかったが、ティアナがシグナムに殴られたことだけは遠目でもわかった。

「・・・・・・よし、〝あっち〟の方も気になるだろうが発進するぞ」

アルトは告げると、脚(車輪)のブレーキを解除。スラストレバーを最大に上げて滑走路を滑る。
夜間発着用のライトが後ろに流れていく。
元々VF−25用に六課に増設されたこの滑走路は問題なく離陸をアシストし、鋼鉄の鳥達を無事真っ暗な空に送り届けた。

(*)

クラナガン郊外 地下秘密基地

そこではスカリエッティが事態の推移を見守っていた。

931マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:25:35 ID:ZzD2UZGo

「今度は何の実験?」

そういって隣に並んだのは言わずと知れた知才、グレイス・オコナーだ。

「ガジェットⅡ型の改修型の性能評価だよ。ガジェットには今までオーバーテクノロジーは搭載していなかったからねぇ〜」

スカリエッティの示す図面にはガジェットの全体図が表示されている。
動力機関こそ変わっていないものの、中身は別物だった。
OT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』
OT『アクティブ・空力制御システム』
『新世代型エネルギー転換〝塗装〟』(どうやら既存のガジェットにも搭載できるように新たな合金・・・いや塗料を思いついたらしい。)
OT改『高機動スラストクラスター』
『マイクロミサイルシステム』etc・・・etc・・・
エネルギー転換塗装という既存の装甲は〝金属〟という固定観念にとらわれない逆転の発想にも驚いたが、特にグレイスの目を引いたのは
『ユダ・システム』の1行だった。

「あら、もう完成させたの?」

グレイスが何を完成させたのか言わずともスカリエッティにはわかったようだ。

「ああ、1機だけだがね。あれには観測機材をたくさん外装したから、できるだけ戦闘を避けるよう言い聞かせてある」

脳のニューロンを真似たマイクロバイオチップは作りにくくてね。
そう言い訳するが、作ってしまうところがこの男のすごいところだろう。
しかしレーダー画面でガジェットⅡ型改部隊が接敵したのは、管理局の部隊ではなく通常の海上船舶だった。

「あら?実験相手は管理局じゃないのね」

「彼らは次元海賊だよ。海底に直接ワープアウトして管理局の防空ネットを抜けてきたようだ。このまま見逃すのも癪だから、実験相手になってもら
おうと思っただけさ。それに私は管理局以上に次元海賊が大嫌いでね。ちょうどいい素材に出会えたものだよ」

「そう・・・・・・」

グレイスは戦闘中のガジェット部隊と次元海賊、そして管理局のスクランブルらしい3機のバルキリーに視線を投げ、

「幸運を」

と呟いた。

(*)

千葉半島沖 45キロ海上

そこではサジタリウス小隊の3機がきれいなデルタ編隊を組んで飛んでいた。
しかしその足取りは極めて速い。なぜならAWACS『ホークアイ』を介して5分ほど前からガジェット達が活性化。通りかかった一般船籍の船に攻撃
を開始したようだと通信を受けたからだ。
その船は通信機が壊れているのか応答がないが、AWACSからの高解像度写真を見る限り応戦する力はあるらしく魔力砲撃の光跡がいくつか確
認できていた。しかしどうも船籍に記された遠洋漁業船には見えなかっため、政府機関その他に確認をとっているという。
暗い海上に鮮やかな青白い光の粒子を曳きながら飛行する3機は、ついにそれを目視した。

932マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:26:20 ID:ZzD2UZGo
月明かりに照らされたその漆黒の船は甲板から煙をあげながらもジグザグに波をかき分け、よってたかるガジェットに対して乗員が魔力砲撃でなん
とか応戦していた。
その時、AWACSから続報が入る。

『こちらホークアイ、その船の本当の所属がわかった。どうやらミッドチルダ政府と極秘で会談したどこかの世界の外交官の次元航行船らしい。ま
だ政府機関に再確認しているが、おそらく間違いない』

「了解した。・・・・・・こちらは時空管理局、フロンティア基地航空隊のサジタリウス小隊と機動六課だ。これより貴艦の離脱を援護する」

デバイス間で使える短距離通信で送ると、その返信はすぐに来た。

『こちら輸送船「キリヤ」、支援に感謝する!しかし我々はここからは動けない。まだ待ってる人が来てないんだ!』

「外交官のことですか?もしそうなら私、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの名において必ず時空管理局が責任を持ってそちらの世界に送り届けま
す。なのであなた達は至急戦闘地帯からの退避を」

次元航行部隊に深いコネがあるフェイトがその外交官らしい人物の送還を確約するが、キリヤ乗員は

『外交官・・・・・・?ああ、そういうことか・・・・・・いや、我々は必ず姉さんを連れて帰る!あと10分でいい、待たせてくれ!』

と譲らなかった。バックミラーを介した目配せにフェイトは頷き、さくらの機体に乗るなのはも「仕方ないね」と頷いて見せる。VF−1Bの後部座席に
座るヴィータもため息とともに両手でお手上げのジェスチャーをした。なら、彼らの行動は決まっていた。

「ホークアイとロングアーチへ、これより輸送船「キリヤ」の防空戦闘を開始する」

『こちらロングアーチ、現場の判断を尊重します』

『こちらホークアイ、船舶の退避前でも交戦を許可する。なお、おそらく外交官の機体と思われるアンノウン機が2機、そちらへ向かっている。到着予
定は5分後。それまでキリヤを防衛せよ』

「『『了解」』』

6人の声が無線を介して唱和し、戦闘態勢に移る。

『こちらサジタリウス2。これより中距離援護体勢に入ります』

『スターズ1、サジタリウス2に続きます』

編隊が崩れ、VF−11Gが離脱する。
そしてガウォークに可変すると、キャノピーからなのはを出した。
他2機も前進を維持しながらガウォークに可変。キャノピーを開ける。

「じゃあアルトくん、またあとでね」

「ああ、気をつけろよ」

出ていくフェイトを見送ると天城のVF−1Bからもヴィータが出ていく所が見えた。安全確認と共に再びキャノピーを閉めると、敵を見据える。
この時点においてもガジェットはこちらに対しまだ何のアクションも起こさなかった。

(・・・・・・不意打ちになりそうだし、こりゃほとんどミサイルでカタがつくかもな)

933マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:28:59 ID:ZzD2UZGo

今回ガジェットは速くなったといっても所詮音速レベルで、ミサイルにとってそれはちょうど狙いどころだった。

「天城、まずミサイルで半減ぐらいしておこう。目標はこっちで設定する」

『了解』

アルトは天城の機体のFCS(火器管制システム)との接続を確認すると、ヘルメットのバイザーに現場空域を拡大投影し、視線ロックをかけていく。

(・・・・・・こんなもんか)

アルトは敵機の約4分の3(5分前に増援が来て現在は全体で25機)をレティクルに収めた。

「ミサイルで撹乱後、ガジェットをキリヤから引き離すぞ。各隊、準備は出来てるか?」

アルトの呼び掛けに各自ゴーサインを出す。

「よし!戦闘開始!」

VF−25とVF−1のランチャーポッドから一斉に発射されていくミサイル。
それらは流れる川のように敵めがけて飛翔し、アルト達も続く。
だがガジェットの対応は予想外のものだった。
いままでミサイルにはレーザーで迎撃していたが一転、フレアとチャフ(レーダー撹乱幕)で回避に走った。
マイクロハイマニューバミサイルの誘導は赤外線とレーダー探知が併用されている。
ガジェットは元々魔力推進のため排熱量が少ない。そこで大気摩擦による熱で誘導するために赤外線感度を最高にまで引き上げている。だがそれ
すらアクティブ空力制御システムによって極小にまで減らされてしまっていた。
そしてチャフで更にレーダーが効かなくなったミサイルはどこへ行くか。
無論、最大熱源になったフレアだった。
通常このような事がないように、多少はAIが補正する(同一目標に重複したミサイルが、相互リンクによって本物を思索する。結果的に分かれた熱
源全てに当たりに行ったり、可能性の最も高いものに向かっていったりする。第25未確認世界において目標1機に対し、複数発のミサイルを割り当
てるのはこのため)ようプログラミングされていたが、管理局はオミットしていた。
なぜならガジェットはいままでミサイル対抗手段(フレアやチャフ、ECM)を装備しておらず、命中精度の低下を看過して、誘導プログラムの簡略化
によるコスト削減と効率の向上を優先したためだ。
おかげでミサイルはそのほとんどが散らされ、無益に自爆する。また、たとえ命中しても一発では落ちなかった。

『なんじゃこりゃ!?』

天城の悲鳴が耳朶を打つ。
どうやら装甲も機動力もかなり底上げされているらしい。
ミサイルの命中痕には、転換装甲特有の〝ただ汚れただけ〟に見える被弾痕が残り、多数束ねられたスラスターによる緊急回避もやってのけていた。
しかし驚くべきことは、この介入に対する反応がそれだけで終わったことである。ガジェットは相変わらず海上で回避運動を続けるキリヤに攻撃を続
け、こちらに対して迎撃態勢にすら着こうとしていなかった。

「なめやがって!!」

ファイターのVF−25は最寄りのガジェットに推力全開で急接近すると、ガンポッドを放つ。ガンポッドから毎分300発という速度で58mm高初速徹
甲弾が放たれ、至近であればバルキリーの転換装甲をも5、6発で貫徹する運動エネルギー弾が敵に向かって飛翔する。
命中直前、ガジェットの要所に付けられたスラスターが瞬いたと思うと機体全体が瞬時に数メートルズレて、それら弾丸は当たることかなわな
かった。ガジェットはもともと人間よりも小さいサイズで、それほど質量もない。そのためある程度強力なスラスターであればこのような機動をさせ
ることは難しくないし、数メートル軌道を変えるだけで小さいガジェットには命中を避けることができた。

934マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:32:13 ID:ZzD2UZGo

しかしアルトはあきらめない。
よけられたと見るやスラストレバーを45度起こしてガウォークへと可変すると、その形態だからこそできるヘリのような立体機動で肉薄していく。そ
して極めて至近になったとみるや、さらにレバーを45度起こしてバトロイドへ。頭部対空魔力レーザーで敵の機動を制限し、その間にPPBをガジェ
ットと同じぐらい大きなその拳に纏わせて抜き放つ。放たれた右ストレートはガジェットに命中し、反対方向へ吹き飛ばした。間髪いれずにガンポッ
ドを構えなおすとスリーショットバースト(3点射)する。殴られた時点で転換装甲を完全に抜かれていたガジェットは、オーバーキルと言う言葉が
ぴったりなぐらいに3発の砲弾によって紙屑のように引き裂さかれ、その構成部品を大気中にまき散らした。
即座に離脱。索敵を開始する。残りの3人もそれぞれ1機ずつ落としたらしい。レーダーに映っていた機体が25から21に減っていた。

『『中距離火砲支援、いきまーす!』』

なのはとさくらの宣言と同時に一筋の桜色の魔力砲撃と、青白い光をまとった76mm超高初速徹甲弾の弾幕がガジェットの前にばら撒かれ、そ
の攻撃を抑制する。
そこまでしてようやくガジェットも重い腰をあげたようだ。おもむろに5機のガジェットが反転、迎撃態勢に入る。

『たった5機かよ・・・・・・拍子抜けだぜ・・・・・・』

敵にもっとも近かった天城のVF−1Bがミサイル数発とともに先行する。しかし次の瞬間にはその認識を改めることになった。
ガジェット5機は先行してきたミサイルをスラスターをフルに使ったジグザグ機動で無理やり回避すると、ぐうの音も出ないうちにVF−1Bに肉薄。
散開したかと思えばリング状に展開して機体を包むと、一斉に中心にいるVF−1Bに向かってミサイルを放った。
この間2秒。天城にできたことと言えばエネルギー転換装甲にフルにエネルギーを回せるバトロイドに可変することと、魔法の全方位バリアを展開
することだけだった。
着弾、そして大爆発。
全方位バリアは爆発の衝撃波をコンマ数秒受け止めて崩壊し、VF−1Bを包む。

「天城!大丈夫か!?」

『な、なんとか・・・・・・』

アルトは瞬時に多目的ディスプレイのJTIDS(統合戦術情報分配システム)のステータスを見る。VF−1Bには損傷はないようだったが、魔力炉とエ
ネルギーキャパシタのエネルギーを使い切っているようだった。これでは当分戦えない。
そしてそうしている間にも〝観測機器を外装した〟ガジェット1機の率いる5機は次なる目標、VF−25に向かっていた―――――

To be countinue・・・・・・

935マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2011/08/17(水) 22:34:29 ID:ZzD2UZGo
以上で投下は終了です。ありがとうございました。

936魔法少女リリカル名無し:2011/08/26(金) 12:50:39 ID:Z1Efm0Xg
本スレきえた?

937魔法少女リリカル名無し:2011/08/26(金) 14:01:00 ID:6ZOSIo2A
間違えた、こっちか

本スレなら復活した

938Gulftown ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 00:45:33 ID:u.rzNKFs
EXECUTOR第4話投下します

939EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 00:47:03 ID:u.rzNKFs
■ 4



 クラウディアが探索している、時空連続体の隠れたつながりは、“位相欠陥”の形で発見されると予測されていた。

 ひとつの宇宙が複数の次元世界に分裂する場合、いわゆるビッグバンからインフレーションを経て原初宇宙が晴れ上がる過程において、
何度かの相転移が起きる。
 そしてそれがゆらぎのために一様でないことによって、宇宙のいくつかの場所に相転移しきれなかった部分が残り、取り残された領域は
次元断層を発生させ、それが“ドメインウォール”として観測可能であるとされる。
 相転移の際に取り残された次元断層は対称性の破れを起こし、それが膜状に実数空間を取り囲んだ場合、あたかも惑星表面を一周して
同じ地点に戻ってくるように世界の果てを作り出す“壁”として存在することになる。

 これが、各次元世界を隔てているものの正体である。
 このドメインウォールが存在すると、実際には一続きの空間であるにもかかわらず、それぞれの世界に存在するものは互いに干渉できない。
 次元の海を渡るとは、超高次元空間の一種である虚数空間を経由することでこのドメインウォールを回避して、それぞれの世界を
行き来することである。

 次元航行艦による捜索で、このドメインウォールを実力で突破することが、ミッドチルダがすすめる次元探査計画のひとつの目標である。

 第97管理外世界より発信された信号が第511観測指定世界に痕跡を残していたことから、この二つの次元世界はおそらく実数空間が
近い位置に存在すると思われる。
 この予想に基づいて、クラウディアは第97管理外世界において捜索を行っていた。
 どこかに、この二つの次元世界をつなぐ通路が存在する。
 それは電波を通過させたことから、おそらく次元航行艦で通過することも可能と思われる。
 天の川銀河の中心を出発してから、宇宙の中に点々と残されている足跡──コズミックストリームの追跡を行ってきたクラウディアは、
天の川銀河より南方へおよそ170万光年の宙域に、大規模な位相欠陥を発見していた。それはこの局部銀河群を形成する主たる原動力と
なっていると思われ、アンドロメダ大銀河と天の川銀河が接近しつつある、その重力の源となっていた。この位相欠陥は170万光年先から
天の川銀河内へループし、同銀河内に存在する暗黒星雲内部へ通じていた。
 46年前に発信された信号は、おそらくここを通過して第511観測指定世界へ移動したと思われる。
 もちろん、途中でいくつもの高次元空間を経由してきたため、170万光年もの距離を実時間20年ほどで飛んできていた。

 そして、現代の次元航行艦の速力をもってすれば、200万光年をほんの数日で渡ることができる。

 すでに、ミッドチルダと惑星TUBOYを結ぶ航路の途中に、非常に大規模な位相欠陥が存在することが確かめられていた。
 それは第97管理外世界の天文学者たちからは“WMAPコールドスポット”と呼ばれていた、宇宙背景輻射が極端に減衰して観測される、
温度の低い領域である。
 多数のドメインウォールが複雑に入り組み、長距離ワープによる突破は困難を極める。
 だが、もし惑星TUBOYのバイオメカノイドたちが、この位相欠陥──ミッドチルダ国立天文台が命名した宇宙の地名では、
“エリダヌス渓谷”と呼ばれる──を高速で潜り抜ける航路を持っているなら、次元世界人類のとりうる迎撃手段は著しく制限される。

 クラウディアが向かっている位相欠陥は、両端に2つの球状星団を従えた姿から“トールの双子”と呼ばれ、天の川銀河から170万光年の
距離に位置している。ここは局部銀河群の端に近い。
 そして、その先は数億光年に渡ってひとつの銀河も存在しない、“おとめ座ローカル・ボイド”が立ちはだかっている。
 トールの双子は、あたかも虚無へ通じる門のように、ボイドの表面のような場所に位置している。

「…………凄いですね」

 クラウディア艦橋の大スクリーンに投影された航路マップには、まるで断ち切られたように銀河の分布が消えている、
おとめ座ローカル・ボイドの姿が浮かび上がっていた。
 天の川銀河を出発して南へ向かってきたクラウディアの予定航路は、トールの双子を通過してローカル・ボイドの中へ消えていっている。

「このような図を見るのは初めてか?」

「ええ」

 天の川銀河は、太い銀河の帯の端に位置しているように見える。
 おとめ座超銀河団とその近傍の銀河団が連結した、フィラメントと呼ばれる銀河の集団が形成されている。

940EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 00:49:20 ID:u.rzNKFs
「これは約1億光年スケールでの銀河の位置を表している。銀河フィラメントの幅はおおよそ1000万光年程度だ。
このフィラメントがつながりあった、ごく狭い範囲に銀河のほとんどは位置している。それ以外は何もない空虚な空間──ボイドが広がっている」

「天文学は専門外でした」

「彼は興味を?」

「持っていたとは思いますが、あの頃は最優先ではなかったと思われます」

 クロノはスクリーンを消灯すると、ポインターロッドを仕舞った。
 大型の艦体は安定性が高く、高速飛行でもほとんど揺れない。
 クラウディア艦内は、ぴったり1Gに調整された人工重力で満たされている。

 クラウディアは現在、トールの双子を2光年先に見られる位置に停泊している。

 観測の結果、位相欠陥は広い幅を持つ筒のようになっており、それが途中で曲がることで、先の空間が見えないようになっていることが分かった。
 この筒をくぐり抜けることで、先へ進むことができる。
 その先には、第511観測指定世界があると予想される。
 ミッションの指令では、第511観測指定世界であることが確認できれば、虚数空間を経由して直ちに帰還せよとされていた。
 現時点では、まずルートを決定することが大事である。
 そのルートが決定できれば、そこに集中的に探査艦を送り込むことができる。

 これまで、軍艦を用いたこれほど大掛かりな探索計画は立てられていなかった。
 宇宙開発分野の予算も、ごく限られたものだった。

 宇宙開発は軍事技術と密接な関係がある。

 未知の領域である宇宙へ進出することは、そこを支配することと同義である。
 制宙権を握られるということは、住人がその星を出ることができず、閉じ込められることを意味する。

 各次元世界では、次元間航路の軍事利用を禁じる国際法は成立していたが、宇宙空間、殊に恒星間宇宙についてはほぼ手付かずだった。

 そこに、ミッドチルダとヴァイゼンは目をつけたのだ。



 二回目の遭遇。それは、はやてにとっては三回目の遭遇だった。
 12月14日、夕暮れの薄暗闇の中、それは突如としてクラナガンの海から現れた。

 横幅が30メートルはあろうかという巨体だった。

 夕闇に、紅色をした体表が不気味に浮かび上がるのが、ヴォルフラムの艦橋からもはっきりと見えた。
 そいつは巨大な蟹か蜘蛛のような姿をしており、X字型に配置された四本の脚を持っていた。
 脚の中央関節部分がもっとも高さのある部分で、港湾施設のクレーンとの比較から、全高はおよそ16メートル程度に見えた。

 海から姿を現した大クモは、水上をゆったりと跳ねるように動きながら、クラナガン宇宙港へ上陸しようとしていた。
 大クモは宇宙港に集まっていた瓦礫除去用のブルドーザーなどの重機をなぎ倒して、まず防波堤に足をかけた。
 街のあかりを、様子を伺うように見回している。
 胴体中央の、上面の殻と底面の殻を合わせ目の部分に目のような形状が見え、ここが左右にせわしなく動いていた。

 かまいたちのような鋭い風音を、ヴォルフラム乗員は聞いた。

 地上ではもっと甲高く聞こえているだろう。
 金属で密閉されているはずの艦内にさえ音が響くということは、あの大クモの鳴き声は共鳴しやすい周波数帯域の音波か、あるいは大気を直接励起させる電磁波を放射していると予想される。

 宇宙港に集結しつつあった次元航行艦たちが、それぞれ迎撃態勢にかかる。

941EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 00:50:53 ID:u.rzNKFs
 はやても艦の機関始動を命じようとしていた。
 腕を挙げ、まさに声を発しようとしていたところで、ヴォルフラムの通信士が入電を報告した。

「艦長、艦隊司令部より入電です!」

「っち……各員そのまま待機!いつでも始動できるよう準備しとけ!……おっけ、つないでや」

「了解しました」

 若い女の通信士はヴォルフラムの艦橋勤務ではいちばんの新人で、惑星TUBOYに降下した捜索隊の隊長を務めていたカデット二尉とはよい仲であった。
 惑星TUBOYから帰還して以降、ずっと沈みがちだったが、ここ数日は少しずつ落ち着いてきているようだった。

 ヴォルフラムに通信を送ってきたのは、次元航行艦隊司令部にて軍令部総長を務める、レティ・ロウランだった。
 彼女はかつての機動六課設立に際してもはやてに協力していた関係があり、またはやて、なのは、フェイトの管理局での就任を事実上推薦した人物であった。

「…………もう一度言ってもらえますか?」

 訝しみを含めて、はやては聞き返した。

 レティ・ロウランから下された指令は、ヴォルフラムは警戒態勢のまま、離床せず港内への係留を維持せよというものだった。
 すなわち、戦闘行動を禁じるという意味である。

 艦橋の窓から、大クモが身体をゆっくりと大きく、上下させているのが見える。
 距離は10キロメートル程度だろうか。
 大クモが動くたびに、その足元で、送電線がショートしているのだろう、閃光と火花が散っている。
 断続的な電撃の光に、運転席部分が潰れたダンプカーの影が見えた。
 大クモが身じろぎするように脚を動かし、はじき飛ばされたダンプカーは他の小型トラックやライトバンなどを巻き込みながら転がっていく。

「今どうゆう状況かわかってるのですか!?またあのバイオメカノイドが出たんですよ!それも、今までにないごっついデカブツです!
あれには生身の魔導師じゃ相手になりません、艦艇を出さないと!」

 レティがこの状況を知らないはずはないだろう。宇宙港での戦闘の報告は上げたし、それに、今いる艦艇もレティの命令に従って
出撃しているはずだ。

「それは現在到着している第2護衛隊群をあたらせます。貴女の艦はそのままその場に留まっていてください。今から私もそちらに向かいます」

「だったら!」

「貴女は今戦闘艦橋に?わかりました。八神はやて二等海佐、および巡洋艦ヴォルフラムを、時空管理局次元航行艦隊服務規程違反で謹慎処分に付します。
これは現時刻より有効です。乗員全員上陸禁止、艦内にて別命あるまで待機。今からそちらに向かいます、わかりましたね?」

「っ…………!」

 マイクをつかんだまま、はやては言葉を詰まらせる。
 通信映像に映らない範囲に立っていたエリーが、苦笑いしながら肩をすくめる。

 レコルトとフリッツ、通信士のポルテ・クアットロ三尉は、それぞれの席に座ったまま、神妙にはやてを見上げている。

 ちなみにポルテの苗字は、たまたま同じなだけで、JS事件の首謀者のひとりとされた戦闘機人の少女とは関係ない。

 通信が切れ、ポルテが恐る恐る問いかける。

「ど、どういうことですか?わたしたちが服務規程違反って、それもレティ提督がいらっしゃるなんて……」

「やっぱりバレましたね」

 一方、エリーは涼しい顔で言っている。

942EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 00:53:20 ID:u.rzNKFs
 はやてはマイクをスタンドに置くと、肩を落として息をついた。
 考え込むように指の関節を鳴らしてから、再びマイクを取る。

「全艦、警戒態勢を維持。甲板科員は艦載機ポートへ、まもなくレティ・ロウラン提督が来艦される。連絡ヘリの収容準備をせよ」

 沿岸では、大クモに対する護衛艦群の砲撃が始まっている。
 大クモは攻撃から逃れようと動き回っているようだが、ジャンプ力はかなりあるが機動性はそれほど高くないようで、直線的な動きしかできずに護衛艦に回り込まれていた。

 迎撃に当たっている第2護衛隊群の艦は、LS級よりもさらに一回り小さいIS級で、主兵装はパルスレーザー砲だ。
 本級は原則大気圏内での運用のみで、移動の為の虚数空間航行以外は、外宇宙での作戦行動能力は付与されていない。

 大クモのジャンプは高度100メートル近くまで飛べるようだが、飛行能力は無いようで、護衛艦がそれ以上の高度へ上がってしまうと追撃手段が無く、地上から小口径ビームを撃つだけになっていた。
 しばらく宇宙港の更地を歩き回り、やがて、あきらめたのか大クモは海へ引き返していった。
 護衛艦が追撃をかけるが、こちらの攻撃も大クモに対しては打撃力が及ばず、魔導師の砲撃魔法も、護衛艦の魔導砲も、大クモの硬い甲羅にはじかれている。

 海に入った大クモは、海水を派手に飛ばしながら沈降し、海面下に隠れた。しばらく海面は泡立っていたが、数分もするとそれも静かになった。

 クラナガン宇宙港は、ひとしきりの喧騒が去り、再び、火災の煙をくすぶらせて沈黙した。

 大クモが踏み荒らしていった場所から立ち上る煤煙を背に、地上からサーチライトで照らされたヴォルフラムが、空に広がった煙に影を映している。
 日は落ち、クラナガン宇宙港は赤い闇に包まれつつあった。

 はやてはレティを迎えるため、艦載機発着甲板へ向かっていた。ヴォルフラムには連絡機や哨戒機などを着艦させるためのヘリパッドが装備され、大気圏内などで使用される。
 艦橋の当直をレコルトに任せ、はやてはエリーを連れてレティを迎えた。
 護衛の武装隊員二人が両脇を固め、レティは連絡ヘリから降り立つ。
 幹部将官のジャケットを固く締めて着こなし、レティははやてを見下ろした。

 副長であるエリーが乗組員たちを監督するため居住区の入り口に立ち、はやてはレティと共に、人払いをした艦内食堂へ入った。

「座っていいですか」

「ええ」

 椅子にどっかりと腰掛ける。

 レティはしばらく、手を後ろに組んで黙って立っていた。
 それは互いの腹のうちを探り合う時間だ。はやては髪留めを外し、テーブルに置く。
 プラスチックと金属が触れる丸い音が響く。

「まず質問をいいかしら…………メモリーを複製したのは何故?」

 鋭く、余計な言葉を一切添えないレティの言葉。
 はやても怯まず見据え返す。

「惑星TUBOYの真実を知りたかったからです」

「知って、どうするというの」

「次元世界における次元航行艦の最優先任務とは状況の正確な把握です」

 言い切るはやて。
 とにかくここでは、下手に言い繕ってはいけない。それに、はやてには強い信念があった。

 それは、とかく保身に走りがちな上層部に振り回されて、部下の命を危険にさらしてはいけないという思いである。

 JS事件での、初めて自分が率いた部隊である機動六課。
 自分たちが追っていた犯罪者、ジェイル・スカリエッティは、もともとは管理局から仕事を請け負っていた、いわば内部の人間であった。
 自分は部隊長として、正しい情報を部下に渡すことができなかった。

943EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 00:55:05 ID:u.rzNKFs
 管理局における、ではなく、次元世界における、とはやては言った。

 ひとたび次元の海に出れば、そこには管理局の束縛もましてや庇護もなく、自分たちの力だけで生きていかなければならない世界がある。
 誰も頼れない、頼れるのは自分だけ。
 海の人間なら、誰もが持っている思いだ。

 ゆえに、苦しみもある。

 かつての、幼い頃の文通の思い出。
 優しいおじさんだった、ギル・グレアムの真意。

 彼の行動も、はやての中では大切な糧になっている。

「フッ……いいでしょう。どのみち、メモリーの検証は貴女たちにもやらせるつもりだったけどね」

「……!」

「惑星TUBOYを拠点とするバイオメカノイド群は既にミッドチルダを発見し、出撃準備を進めている。
偵察機の観測により、戦艦インフィニティ・インフェルノの魔力反応が再び増大しつつあることが判明したわ。
クラウディアも第511観測指定世界にてこれを確認したわ」

「クロノくんの……」

 クラウディアは、厳重な無線封鎖の上、ごく短時間のスピン通信により次元航行艦隊司令部へ日次報告を行っていた。
 その内容に触れることができるのは、司令部でもごくわずかの人間だけだ。

「彼の艦は今、第511観測指定世界にいる。同世界と、第97管理外世界とをつなぐ航路が発見されたからね」

「!──まさか、位相欠陥トンネルを──」

「そのまさかよ。今ミッドチルダ海軍が躍起になって探している、従来の虚数空間経由の航路図を大きく書き換えてしまう隠れ道。
それをミッドチルダと、ヴァイゼンは手中に収めようとしているの」

「っちゅうことは、管理局はミッドとヴァイゼンを──」

 レティは肩をすくめ、目を伏せてから再び鋭く上げた。

「その逆。既にミッドチルダ政府に抱き込まれた勢力がいるのよ」

 はやては息を呑む。
 管理局が各次元世界政府の独走を抑えきれない事態。しかも、その相手は次元世界最大最強を自負し、管理局を事実上支配しているミッドチルダである。

「今私の手元で動かせるのはクロノ君しかいないの。
彼には、もしミッドチルダの艦から接触があっても絶対に観測データを渡さないように言ってある。
──それに、第97管理外世界の探査任務にクロノ君の艦が派遣されたのは、ミッドチルダ政府からのじきじきの指名なのよ」

「なんちゅう……」

「他の艦は、タテマエは管理局所属でも、もともとはミッドチルダ海軍からの出向だからね。いざって時にどっちをとるかといったら、それは母国政府をとるのが普通よね」

「つまりミッドが独断で管理外世界に干渉しよると……そして、管理局にはそれを止める強制力がないと、そうゆいはるんですね」

 もし、クロノがレティの命令を忠実に遂行しようとするなら、このまま本局に帰ってくるにはミッドチルダ海軍と一戦交える必要がある。
 レティは、ヴォルフラムの本局への回航と、強化装備の取り付け工事の手はずを進めていると、はやてに明かした。
 LS級は比較的小型の船体ではあるが設計マージンがじゅうぶんにあり、各種装備の追加による能力向上をはかりやすい。
 改装工事によって戦闘力を引き上げたうえで、惑星TUBOY捜索およびバイオメカノイド掃討任務へ派遣することを検討している。

「こうでもしないと、貴女なら我先にと飛び出しかねないと思ったからね」

「そうゆうことですか……」

 はやては自嘲するように椅子に腰を落とした。

 たしかに、先陣を切って大クモに攻撃をかけ、反撃を受けてしまっては修理に大幅に時間をとられかねなかっただろう。
 ヴォルフラムには、もっと活躍してもらいたい舞台があるということだ。

944EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 00:57:28 ID:u.rzNKFs
「とにかく、今は可能な限り手持ちの戦力を増やす必要がある。なのはちゃんやフェイトちゃんにも声をかけているし、リンディも呼べれば呼びたいわね。
あとは、クラウディアの帰還に際してミッドチルダ政府がどう出るか。脱出のタイミングを誤ると、私達もこのクラナガンに縛り付けられかねない。
貴女も、下手を打つとクラナガン上空で艦隊戦をやらかす羽目になりかねないということよ」

「わかってます」

「よろしい。サーチャーメモリーの件だけれど、いいデータが録れていたわ。
これは私のところで預かっておく──ヴィヴァーロ君の解析は、わずかの誤差もない完璧な敵戦艦のスペックをはじき出せていたわ」

 レティははやてからメモリーペンを受け取り、持ってきた封筒から辞令を取り出した。
 これは形式的な措置だが、実際にはもう少し、クラナガンに留まる必要がある。

 “12月15日午前0時をもって、LS級巡洋艦ヴォルフラムは時空管理局次元航行艦隊本局近衛艦隊へ編入を命ずる。
 発 時空管理局軍令部総長 レティ・ロウラン”

 食堂が使えないので、エリーは艦の倉庫から持ってきた戦闘糧食の缶メシを皆に配り、乗組員寝室の床に車座になって食べていた。
 こういうところはエリーはなかなかお茶目な顔がある。

「マジでなんなんスかね副長?レティ提督と艦長がサシで話って」

「さあ。たぬき二匹の腹黒話かしら?」

「おっ、出てきた」

 発令所に上がるエレベーターの手前で、レティは待たせていた武装隊員を呼び戻し、艦載機発着ポートへ戻る。
 エリーも見送りに行くため、はやてを追いかける。

 比較的艦橋に近いところで勤務する第1分隊のメンバーからは、はやてとエリーはたぬきときつねコンビとあだ名されていた。

「上陸禁止ってことは、やっぱ休暇取り消しかなあ」

「どうすっかな暇だぞ」

 通常勤務では三交代なので、暇な隊員は集合ベッドが詰め込まれた寝室でごろごろしている。
 彼らも、ひとたび戦闘になれば無我夢中で働くために、休めるときにはゆっくり羽を伸ばす。
 張り詰めすぎて気をもまないように、船の上では皆家族のように親しむ。

 ヴォルフラムのクルーたちも、長くこの艦で暮らし、はやてを本当の親のように、頼れる女将さんのように信頼していた。

 レティが本局に帰る連絡ヘリに乗り込み、飛び立つのを見送った後、はやては幹部乗員たちを再び会議室に集めていた。

 少なくとも、レティは自分たちに協力しようとしている。
 そしてまた、彼女以外の管理局提督には、ミッドチルダ・ヴァイゼン両政府の息がかかっている危険がある。
 レティから知らされた、ミッドチルダ海軍の大規模な出航と、カレドヴルフ社がヴァイゼン政府に納入していた大量の第五世代デバイスの生産情報。
 これらは、この二つの次元世界が管理局の統制を超えて、軍備を蓄えつつあることを示していた。
 JS事件によって最高評議会が事実上消滅して以降、その名前は組織としては残ってはいるが、もはや最高評議会そして管理局には次元世界を支配する力はない。

 ミッドチルダ、ヴァイゼン、この二つの次元世界が目指すのは、統一次元世界の発見であり、そして、そのために障害となるであろう惑星TUBOYを殲滅することだ。

 手始めにカレドヴルフ社の船団を派遣して敵の技術を採取しようとし、そしてLZ級戦艦アドミラル・ルーフによるアルカンシェル砲撃で殲滅を試みた。
 そして、出現したバイオメカノイドを退け、今度こそ惑星TUBOYを殲滅し、そして敵の主力旗艦であるインフィニティ・インフェルノ撃沈のため、艦隊を出撃させた。
 彼らは、もはや管理局の統制を離れている。
 第97管理外世界の探索任務から帰還するクラウディアも、彼らからしてみれば、自らが指令したはずの任務から脱走しようとしているとみなすことが可能だろう。
 クロノが、生きて自分たちの前に帰ってくるためには、どんな戦いが必要になってくるのか。

 それははやての胸中に騒ぐと同時に、なのはと、そして、フェイトに、どのように報せればいいのかと、はやてを悩ませてもいる。

945EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 00:58:56 ID:u.rzNKFs
 フェイトは、まだどこかで、非情になりきれない部分がある。
 ティアナのことであれだけ動揺していたのに、ここで義兄であるクロノにまでも、もしものことがあれば。
 想像すると気が滅入りそうになる。

「艦隊を出したってことは本気なんですね」

 当直を交代したレコルトが、回航中の艦艇一覧を改めながら言う。
 ミッドチルダ海軍はかなりの戦力を惑星TUBOYに投入するつもりのようだ。
 出撃した艦艇の中にはLZ級戦艦だけでなく、XJR級打撃巡洋艦、RX級戦艦も名を連ねている。

 これらの大型艦は管理局には供出させられず、ミッドチルダが独自に保有している艦だ。

「確かにこれだけの戦力を集めるゆうのは尋常な事態やない。それだけに、連中の腹積もりが読めん」

「どういうことです?」

「どうやって納得させたかゆうことや。艦の乗員だけやない、これだけ大規模な動きをしたら、どうがんばっても国民に隠せへん。
こんだけの艦を集めて、お前らどこへ行く気なんやっちゅうことになる」

「いくらミッドチルダとはいえ、おおっぴらに何処其処の次元世界を攻めますとは言えませんね」

「今んとこ差し迫って問題起こしてる紛争地域も表面上は無いですから……」

 ミッドチルダが(形骸化しているとはいえ)管理局安全保障理事会の決議を受けて紛争地域に軍を派遣するという事例は多くあり、そしてその場合、出撃の様子や現地次元世界での戦闘の様子などはマスコミが大々的に報道する。
 しかし、今回の出撃の場合はそれが全くない。
 はやては腕を組んで、士官用の背もたれの大きな椅子に深く腰掛けている。

「第511観測指定世界への手出しを最初にしたのはCW社ですよね?ヴァイゼンが話をミッドチルダに持ちかけたという線では?」

「あそこは半分国営でやっとるからな、無いとは言いきれへんけど……」

 カレドヴルフ社にしても、新型装備のテストを積極的に管理局部隊へ依頼するなど、コネクション作りには余念が無い。

 現在のところ、クラナガンのマスコミが第511観測指定世界の存在を放送した事実は無い。
 クラナガン宇宙港での戦闘も、ロストロギアの暴走事故とされ、管理局の介入により鎮圧されたと発表されている。
 それはいつもどおりの事件とその解決のプロセスで、あまりといえばあまりにもいつもどおりすぎた。

 それだけに、はやてたち、現場の視点から見ると、もどかしさを感じてしまう。
 こんな発表で誤魔化すつもりなのか、と。

「装備品絡みで攻められると、なのはちゃんとこも危ないな……」

「まあ当面は本艦は動けませんし、それまでに情報を整理しましょう。
もし本当にミッドチルダ海軍が惑星TUBOYを撃破してバイオメカノイドも殲滅できるなら、それはそれで結果オーライですし」

 エリーは軽く言ってのけたが、はやては、それでも一抹の不安を拭いきれずにいた。
 確かに、あれだけの戦力をもってすれば惑星TUBOYを殲滅することはできるだろう。
 また、敵戦艦も完全に機能を取り戻す前に叩ければ、撃沈は不可能ではないだろう。

 だが、本当に彼らがそんな単純な目的で出航しているだろうか?何か別の目的があるのではないだろうか?
 民間企業をも使って、ミッドチルダとヴァイゼンが惑星TUBOYで行っていたことを考えると、楽観的な考えは必ずしもできない。

 エリーがこのように軽く言うときは、本人はその通りに事が運ぶとは思っていないときだ。

 そしてなによりも、日没間際に出現した大クモのように、墜落した輸送船から逃げ出していまだクラナガン近郊に潜んでいるバイオメカノイドもいる。
 もし彼らが、人口密集地へ進出すればそれこそ一大事だ。
 現在、フェイトは声をかけられる限りの執務官たちに協力を仰ぎ、市街地の捜索と警戒にあたっている。
 彼らにしても、今回の一連の事件を詳しく知っている者ばかりではないし、機密保持の観点からも、一から説明することも難しい。

946EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:00:21 ID:u.rzNKFs
 はやてはもう一度、艦橋の窓からクラナガンの街並みを眺めた。

 大陸の沿岸部に位置し、やや突き出た半島状の平地を、完全に地ならしして市街地ができているクラナガンは、見渡す限り灰色のビルの海だ。
 夜には人工の灯りが、地上を星の海のように埋め尽くす。
 地球には、これほど巨大な都市圏は無い。
 東京も、アメリカのメガロポリスでも、クラナガンの規模には及ばないだろう。

 ミッドチルダを軌道上から見下ろすと、クラナガンを中心にした巨大都市圏が、あたかも惑星の中心のように見えている。
 惑星丸ごとがひとつの巨大宇宙船のようなシルエットをつくり、クラナガンはその宇宙船の艦橋のようにそびえている。
 宇宙からでも見えるほどの巨大都市がひとつだけあり、周囲は緑が多く、手付かずの自然が残されている。
 地球に比べ、統一国家が早くに出現したため、人口集中が地球よりも激しい。
 クラナガンの人口密度は東京にも匹敵し、そして郊外部の人口密度は、オーストラリアの大平原よりも少ない。

 15年近くの年月をこの星で暮らし、だいぶん、馴染んできたつもりだった。
 もとより地球に、海鳴市に身寄りは無く、頼りにしてきた人間はみなミッドチルダ出身だった。

 彼らを、できれば助けたいと思う。

 もし彼らに何かがあれば、きっと、他の次元世界の住民に、地球の住民に何かがあるよりも、自分にとってはショックが大きいだろう。
 自分もフェイトのことを嗤えない。
 はやては士官服の胸元に隠しているシュベルトクロイツを、温度を確かめるように握りしめる。

 身ひとつでミッドチルダにやってきて、自分にもたらされた夜天の書のおかげでここまで来れた。そして、これからもこのまま行くしかない。
 それ以外の身の振りを、今は考えられない。
 “それ”が何年後になるかは分からないが、自分はその時まで、最期まで戦い続ける。

 そんな予感が、冬のクラナガンに広がっていた。



 12月18日、ここクラナガンでも、冬の冷たい風が吹く季節になっている。
 街は今年も同じように、年末の休暇に向けて商店が賑わいを見せている。
 ミッドチルダにはクリスマスのようなイベントはないが、それでも、1年の区切りということで年忘れのパーティと新年パーティはあり、これらのイベントに際して年末商戦が繰り広げられる。

 高町なのはは官舎を出ると、足早に自宅への道を歩いていた。

 思えばここ数日、ろくに帰らず、局の仮眠室を使う日が多かった。
 教導隊はそれでも、緊急の任務が無ければ基本、定時で上がれる部署ではあった。

 自宅で待つ、愛すべき娘のもとへ。

 玄関を開けて、靴を片付けていたとき、携帯電話が鳴った。
 ディスプレイには、「高町ヴィヴィオ」の名前。
 なのはは電話を取り、友達と遊んできたからもう少ししたら家に着く、というヴィヴィオからの連絡を受けた。
 ヴィヴィオの声を、懐かしく感じた。

 ここ数日、重い事件が連続したせいだろう。

 自分たちが戦っている間も、市民はいつもどおりの暮らしを続けている。
 そのいつもどおりの暮らしを守ることが、自分たち管理局の使命だ。
 なのはにとって、それは娘の暮らしを守ることになる。

 携帯電話に表示される名前も、なのはが自分の電話のメモリーにそう登録したので高町ヴィヴィオと表示されるが、実際はヴィヴィオには姓は与えられず、「ヴィヴィオ」というのが正式な名前だ。
 尊称を付けるなら陛下、もしくは聖王ヴィヴィオとなる。
 ヴィヴィオももう14歳だ。基礎教育は終え、今は聖王協会が主宰する高等教育課程に進んでいる。
 いずれ、教会に入る道が示されており、そのための勉強をしている。

947EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:01:38 ID:u.rzNKFs
 子供は、いつまでも親のもとには居ない。
 いずれ巣立ち、自分の人生を見つけていく。
 ヴィヴィオももう、そんな年齢だ。自分も今のヴィヴィオくらいの年齢では、もう管理局入りを決意し、そのために人生設計を考えていた。
 生涯最大の被撃墜を喫したあの事件からもようやく回復し、教導隊に入ることを考え始めた頃だった。

 ダイニングの明かりをつけ、買ってきたピザの紙箱をテーブルに置く。
 ヴィヴィオが好きなマルゲリータで、ヴィヴィオも、ピザのトッピング程度ならばピーマンを食べられるようにはなっていた。

 防音のきいた室内は、静寂に満ちている。

 テレビをつけ、騒がしさが広がり始める。ちょうど合わせたチャンネルでは歌番組をやっていた。

 ヴィヴィオが今通っている、聖ヒルデ魔法学院の中等部校舎からは、なのはの自宅までは40分ほどかかる。
 ヴィヴィオが帰ってくるまであと何分くらいだろうか。
 途中でバスを1本乗り、そこから歩けば、友達と話しながらなら歩きはゆっくりだろう。
 通学路は、住宅街の中を通り抜けるし、特に危ない暗がりなどもない。それに、ヴィヴィオには格闘技の心得もあるし、もし不審人物がいても、じゅうぶんに護身できる。
 そう思いながら、ヴィヴィオの帰りを今か今かと待つ。
 途中で、ピザが冷めそうだったのでいったん冷蔵庫に入れた。ヴィヴィオが帰ってきてから、オーブンであたためなおす。

 オーブンの電源コードをコンセントに差し込んだとき、テーブルの上に置いていた携帯電話が鳴った。

 一瞬、胸がすくみそうになった。

 おそるおそる電源コードを放し、振り返る。オーブンはキッチンの側に置いてあったので、ダイニングに戻るにはカウンターを回っていく必要がある。
 バイブレーターにセットしていた携帯電話が振動でテーブルの上をすべり、椅子の上に落ちて堅い木の音を響かせた。

「っ、もしもし!?」

 電話口の向こうに、何かの音が聞こえた。何とも形容できない、重いものが引きずられるような音。

「ヴィヴィオ、ヴィヴィオなの?」

『──……ママ、ちょっと帰るのが……なんか、出たの……』

「ヴィヴィオ!?いったい何があったの!?今どこにいるの!?」

 電話の声にはノイズがのっていて、電話機が激しく揺さぶられている音が聞こえる。
 電話機を耳に押し当てたまま、ヴィヴィオが激しく動き回っていることを示す。

『……オが、……られた……、みんな、……逃げられなく……、そ……で』

「場所を教えて!私も今から行く!」

 テーブルを叩いて身を翻し、壁のハンガーに掛けていたコートを引っつかんで肩にかける。

『公園の坂のところ、下りたとこだよ!ママ、助けて!リオが、変な化け物が出てきて、リオが食べられて、足が、足がない……!!』

 突如、電波がクリアになった。ノイズに覆い隠されていたヴィヴィオの悲鳴が、なのはの耳を貫く。

「っ!ヴィヴィオ、すぐ行くから!」

 コートを羽織り、胸に提げたレイジングハートを起動させる。
 直感ではあったが、バイオメカノイドたちが宇宙港で撃破したものだけで全部ではないというのははやてから聞いていた。
 市街地に入り込んだものがいないかフェイトが探すと言っていたが、まさかこんなに早く現れ、しかも、自分の娘が襲われるとは。
 なのはは言いようのない焦燥感と怒りが湧き上がってくるのを感じていた。

 彼らは、ケモノと呼ぶべきなのだろうか。ヒトのような知能を持たない、本能のまま動くだけの動物なのか。
 そんな物体に、人間は太刀打ちできないのか。

 人里に降りてきて人間を襲うケモノは、哀れむべき存在か、それとも、あくまでも狩るべきものか。

 外の道路に出たなのはは、ヴィヴィオがいつも通学路に使っている道へ向かって走った。
 市街地での飛行魔法の使用は禁じられている──だが、走って間に合う距離か。公園の場所はなのはも知っている。
 ヴィヴィオが小さい頃、フェイトやヴィータと一緒に遊びに行っていた場所だ。あそこは昼間なら近所の主婦や子供たちも来る。
 そんな場所で、ヴィヴィオが謎のモンスターに襲われた。
 もし日中なら、なんの罪もない一般市民が犠牲になってしまう。

948EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:03:07 ID:u.rzNKFs
「ヴィヴィオっ!!」

 レイジングハートを起動、アクセルフィンを展開し、地上を滑るように移動する。
 高度数十センチを飛ぶような一種の飛行魔法だが、これならば飛行魔法の取締装置には引っかからない。
 公園を囲む茂みのそばに、へたりこんでいるヴィヴィオが見える。茂みの陰になっているが、倒れた子供の足が見える。

「ヴィヴィオ!」

「ママっ、リオが、リオがあっ!!」

 泣き叫ぶヴィヴィオの声に、なのはは息を呑んだ。
 倒れた子供のように見えた足は、太ももから上の部分が無かった。

 強烈な気配に、視線を斜め上にやると、あの宇宙港で見たのと同じ、大きなスライムが、夜の闇の中に蠢いていた。
 スライムの体表は透明性があり、街灯の明かりが頭部を透かして見えている。
 大きな眼球を繋ぐように配置されている神経のかたまりは、脳の役目をしているものだろうか。
 よく見るとスライムの腕部分は、機械のアームを埋め込んだような形状になっており、そこにどこで拾ったのか、市販の標準デバイスを装着して砲塔のように仕立てていた。

 スライムの頭部らしき場所に眼球はあるが、口のような構造はない。
 それでも、スライムに身体半分を埋めた子供の姿が見えた。
 ヴィヴィオと初等部の頃からの親友だった、リオ・ウェズリー。
 彼女の持っていたはずのデバイスが、スライムの体内でバチバチと魔力のスパークを上げている。

 なのははヴィヴィオの前にかばうようにして立ち、レイジングハートを構える。
 相手はリオを抱えたままなので、このまま撃てば彼女を巻き込んでしまう。
 だが、スライムに咥えられたリオの身体は、既に右足がなく、腹部も食われて背骨しかない。
 ちぎれた服と思しき布切れが、スライムの体内で粘液の中を漂っている。

 スライムが立ち上がる。それは、完全な二足歩行型のモンスターのように見えた。
 身長は5メートル近い。全身が青い、結晶状の身体をしていて、硬い体表面の中に、ジェル状の粘液が満たされている。
 この粘液は、宇宙港での戦闘でスバルが浴びたものと同じだ。
 スライムの体内で、リオの身体の、顔の表面の辺りから黄色い液が流れ出して、頭と腕のように見える部分が溶けて細くなっていく。

「やだあああっ!!とけてる、脳が溶けてるよお!流れ出て、飲んでるんだ!」

 ヴィヴィオが涙声で叫ぶ。
 もはやリオを助けることはかなわない。ならば、ここは全力で敵を倒すしかない。

「ヴィヴィオ、他の子たちは!?」

「コロナは、逃げた、アインさんはっ今日は別で、でもっ、でもっ」

「わかった……」

「ママ、早くアイツをやっつけて!リオのかたきをとってよう!」

「────!」

 ヴィヴィオも悔しいはずだ。幼い頃から、鍛錬は積んできたはずだった。しかしそれは、ただのスポーツだったのか?
 実戦では役に立たないものだったのか?
 情けないが、今の自分は無力だ。聖王などと崇められながら、自分には何の力もない。それが悔しい。

 だからせめて、自分の感傷のせいで、自分を助けようとしてくれている人を邪魔してはいけない。

 ヴィヴィオの心の中に、生まれた感情は、それは適切な諦めと敵の殲滅を目指す冷酷な判断だった。

949EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:04:07 ID:u.rzNKFs
 なのははレイジングハートをスライムに向け、ディバインバスターのチャージを開始する。
 魔力を充填させて光を放ち始めるレイジングハートの金色の加速レールの先に、関節を折られて飲み込まれつつあるリオの身体がある。
 あの粘液の中では服よりも肉が先に溶けるようで、残った筋や腱が服に絡みつき、肋骨が背骨から外れて漂い始めている。

「ディバイン……バスター!!」

 発砲と同時に、スライムの身体は一瞬で体液が沸騰し、硬い結晶状の甲羅も破裂して、水蒸気爆発を起こして粉々に砕け散った。
 シールドを展開し、強酸性の粘液への接触を防ぐ。
 バリアジャケットを装着しなかったので、レイジングハートの排気を浴びたコートの毛皮が、熱でちぢれたように乾いている。

 スライムの体内からは、やはり制御ユニットらしき金属の粒が出てきた。
 直径は0.5インチ程度だが、表面にはマイクロマシンの接続端子と思しき紋様が刻まれ、おそらくこれでスライムを制御していると思われる。
 このユニットに記憶されているプログラムを解読できれば、バイオメカノイド群の制御の仕組みがわかるかもしれない。

 なのははヴィヴィオの手をとって立たせ、深く抱きしめた。

 彼女はつらい決断をした。自分を守るためだけでなく、愛する母の為に、友人を見捨てる決断をした。
 後からなら何とでも言えるし、なのはにしてみれば、あのスライム相手に徒手空拳で挑むのは自殺行為、ということは理解できる。
 でも、ヴィヴィオはまだ何も知らない。
 この事件をきっかけに、知っていかなくてはならない。

 かけがえのない友人の命を失って、ヴィヴィオは、自分の力をもっと強くしたい、強くなりたいと願っていた。
 リオを生き返らせたい、ではない。失われた命が戻らないことはわかっている。
 だから、命を失わないように、命を失わせないように、強さを身に付けたい。
 自分の母親たちは、そう思って毎日厳しい訓練を積んでいたはずなんだ。
 だから、自分もきっと同じことが出来る。

 時刻は深夜11時になっていたが、通報によって駆けつけた警察による現場検証のため、なのはとヴィヴィオは公園に残っていた。
 なのははヴィヴィオにコートを着せ、寒さをしのげるようにする。

 ディバインバスターを浴びて飛び散ったスライムの破片は、地面に落ちると干からびた粘土のようになっていた。
 それを警察官たちが慎重に拾い集めている。
 リオの遺体も、付着したスライムの粘液によってまだ燻って発熱しており、バインドを使って手を触れずに運ばなくてはならなかった。
 しばらくして、公園内の水路のふちに、強力な酸でコンクリートが融けている箇所が見つかった。
 おそらくスライムは海から水路を経由して公園に入り込み、ここから陸に上がったと予想された。

 ヴィヴィオは警官のひとりが持ってきてくれたホットココアの缶を握り締め、じっとうつむいている。

 なのははその隣で、ヴィヴィオの膝に手を置いて、じっと肩を寄せ合っていた。
 ヴィヴィオは11歳ごろから背が伸びはじめ、14歳になった今はもうなのはの身長を追い越している。
 中等部に上がるくらいから、このようなスキンシップはどちらからともなく避けていた。
 ヴィヴィオも、もうそんなに甘えるような年頃ではないと、お互いに思うようになっていた。
 でも、今は、人肌が恋しい。
 肌の体温を、生きている命の温度を確かめたい。
 目の前で、異様な姿をしたモンスターに親友を食い殺された。

 リオの亡骸は、冷たくなるとかそういう感傷を許さないように、強酸によって溶けて焦げ、血の臭いが混じった刺激臭のする煙を噴き上げている。

950EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:05:47 ID:u.rzNKFs
 フェイト経由でこの事件を知らされたスバルは、港湾救助隊の病院のベッドの上で、悔しさに拳を握り締めていた。
 見舞いに来たノーヴェが、頬をひくつかせて感情をこらえている。
 スバルは大事を取って入院してはいるが、すぐにでも皆のもとへ駆けつけたい気持ちで一杯だった。

 ノーヴェは、やがて感情を押し留めようとするようにスバルの左足を、包帯にくるまれてギプスで吊られている左足をそっとなでた。
 スバルの左足はバイオメカノイドの体液を浴びた生体組織の変質がひどく、膝から下を切断していた。
 義足の在庫がちょうど切れていたというので、新しいフレームを作るまでは杖でカバーするしかない。
 さらに生体組織の再生にはもっと時間がかかるので、それまでの間は左足は完全な機械パーツになる。

 同様に体液の滴が付着した頬も、フッ酸による火傷で皮膚が爛れ、肉がこぼれ落ちないように支える金属プレートと包帯で、顔の半分近くを覆う形になっていた。
 年若い少女の顔が、大きく傷つけられたことになる。
 右腕と胸部はバリアジャケットの強度があり比較的ダメージは少なかったが、それでも皮膚は焼け、乳房に大きな火傷痕ができていた。

「ちくしょう……なんでスバルがこんな目に……それに、リオちゃんまでやられちまったなんて……!」

 肩を震わせてノーヴェは呻いた。
 ヴィヴィオと友人たち、リオ、コロナ、アインハルトは、聖ヒルデの初等部の頃からノーヴェと付き合いがあり、みんなで温泉旅行に行ったり、シューティングアーツの練習や試合を行った仲だった。

 先日の宇宙港での戦闘の際には、ノーヴェはたまたま別の現場に行っていた。
 直接あのバイオメカノイドたちの姿を見なかったので、ノーヴェにとっては、スバルがこれほどまでに深手を負わされたというのが、にわかに信じがたいことであった。

「それはそうと、ノーヴェ、こないだ行ってたあの発電所はどうなったの」

 2週間ほど前、北部ミッドチルダにあるアレクトロ社所有の魔力炉発電所にて火災事故があり、特別救助隊が出動していた。
 かねてより行われていたアレクトロ社に対する一連の破壊工作との関連性が指摘され、フェイトもクラナガンからとんぼ帰りする形で現場の発電所に赴き、捜査を行っていた。
 以前の変電所での事故の際に発見された不思議な死体が、この施設でも見つかるかどうかをフェイトは注視していた。

 果たして、死体は見つからなかったが、それでも、あの緑色の小人に由来すると思われる遺留品が見つかっていた。
 緑色の小人が、発電所の機器を壊そうと手を触れていた痕跡が見つかったのだ。
 独特の細長い指紋に、粘性の高い体液、そして構造色を含んだ緑色の皮膚の小片。
 これだけの物証が見つかればもう間違いない。この発電所に、緑色の小人が侵入していたことは確実だ。

 この個体が、クラナガンで鑑識官を殺害した個体と同一であるという証拠はないが、距離からいってもおそらく別の個体であろうと思われる。
 クラナガンにある管理局のオフィスと、今回事故のあった発電所は直線距離でも約280キロメートル離れており、また鉄道などの交通機関を利用したのであれば目撃情報があるはずだ。
 そのような奇妙な人間を見たという証言は今のところない。
 また、彼らが独自の乗り物を使っていたとしても、空高くを飛べば航空管制レーダーに引っかかるはずだが、そういった正体不明の飛行物体をとらえたという報告も、今のところ上がってはいなかった。

「わっかんないよ。フェイトさんも何も言ってくれなかったし、なんか本部から執務官がおおぜい来てなんか調べてたよ、あたしたちはずっと死体運びばっかりで」

「おおぜい?」

「5人くらいいた、フェイトさんの他には、黒服着たやつもいて、そいつもなんか本局の人間らしいけど」

「そう……たしかに、宇宙港に出た化け物の正体はフェイトさんが捜査してるって言ってたよ、だからその関係があるんじゃないかな」

「でもさ!」

951EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:08:04 ID:u.rzNKFs
 ノーヴェはベッドから降り、スバルの枕元に手をついて声を荒げる。

「あの現場はおかしいよ!だって、火事だなんて言って、あれは、魔力炉の圧力容器が開放されてたんだよ、魔力素が漏れて、施設の作業員が、リンカーコアが魔力中毒を起こして……」

「ナカジマさん、申し訳ありませんがお静かに願います、他の患者さんもいますので」

「ノーヴェ、落ち着いて、私はちゃんと聞いてるから」

 ナースが注意しに来た。
 ぐっとこらえて、ノーヴェはしばし項垂れた。

 フェイトは、問題の発電所での事故は、火災を起こしたのはカムフラージュのためで、本命は緑色の小人の仕業と推測される魔力炉圧力容器の故意の開放だと推理していた。
 既に判明しているとおり、魔力資質のない人間でもリンカーコアそのものは体内にあるので、魔力素による中毒事故は魔力資質のあるなしにかかわらず起きる。
 高濃度の魔力素に曝される発電所作業員にはリンカーコア絡みの疾患が起きやすいというのはわかっていたが、このように直接、大量の魔力素に触れてしまうと、リンカーコアが過剰反応を起こして肉体が内部から燃えて焼きあがってしまう。
 ちょうど、重粒子線ビームを浴びたように、一瞬で身体全体が黒焦げになってしまう。
 もはや救助というよりは残骸撤去の様相を呈していた。
 アレクトロ社は発電所建屋を穿孔して強制排気を行い、内部に充満した魔力素を抜き取ってから作業員を突入させた。
 ノーヴェたち特別救助隊が現場に入ったときには、凄惨きわまる光景が広がっていた。
 作業員たちは一瞬の苦しみさえなかったのだろう、まるで影になって壁に張り付いてしまったかのように、生前の姿勢を保ったまま、炭化していた。
 圧力容器を覆っていたヘッドカバーは噴気で大きくひしゃげていて、そこから噴き出した高温蒸気を浴びたと思われる作業員の遺体は、黒いガスと化して吹き飛び、壁に黒い人型の染みをつくっていた。
 人間が死んだ、とさえ思えないような、人の形をした肉が焦げただけ、といってしまえるような光景だった。

 現在、ミッドチルダをはじめとした次元世界で広く使われている魔力炉は電磁誘導式である。
 これは加圧した魔力素を電磁石コイルの中にくぐらせることで電力に変換するものである。
 魔力素は陽電子と非常に密接なつながりがあることが知られており、電気への変換は機械を用いて比較的簡単に行える。
 魔力素を人間が利用しやすい形に変えることで、魔法を構築することが可能になっている。
 発電用に加圧された魔力素は非常に大量の電荷と熱エネルギーを持っており、人間が触れると容易に放電・発火を起こす。
 そのため、発電用魔力炉においては魔力素が漏れ出ないよう、堅牢な圧力容器に炉心となる発電コイルを収めることが必要になる。

 この圧力容器には、内圧が上がりすぎたときのために緊急排気を行う弁がついているが、これが突如開放され、大量の魔力素が建屋内に噴出した。
 魔力素によって建屋内の温度、放射線強度が急激に上がり、人体が瞬間的に脱水、干からびて炭化した。
 高熱は建屋の外壁を発火させ、周囲には火災のように見えていた。

 吹き飛んだ圧力容器の部品を回収して調べた結果、安全弁が人為的に外されていたことが判明した。
 しかし、この操作を行ったのは人間ではない。
 もし人間がこの弁を外したのならば、弁が外れた瞬間、噴出する魔力素で身体が焼けてしまう。
 素手で外せるような部品でもないので、道具を使えば付近の容器や梁材にその跡が残る。
 配管に付着していた体液の痕跡から、この弁を外した者は、高粘度のジェル状物質を塗りこむことで弁を溶かして腐食させ、時間を置いて外れるように仕掛けていたことがわかった。
 そのジェル状物質が、クラナガン宇宙港での戦闘で撃破されたバイオメカノイドから発見されていたものと成分が一致した。

952EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:09:59 ID:u.rzNKFs
 この発電所事故が起きたのはクラナガン宇宙港での戦闘よりも3日前、12月5日のことである。

 フェイトは、アレクトロ社施設での事故とクラナガン宇宙港での事件は、同一の背景により、同時並行的に起きたと推測した。

 これまで、惑星TUBOYから帰還したカレドヴルフ社の輸送船団によって初めてミッドチルダにバイオメカノイドがもたらされたと思われていたが、実際にはそれよりずっと前から、バイオメカノイドがひそかにミッドチルダに持ち込まれていたことになる。
 緑色の小人は、バイオメカノイドに封入されているスライムを扱う技術を持っており、これをアレクトロ社への破壊工作に使用していた。
 もしくは、この緑色の小人からスライムの扱いを教わった人間ないし組織が存在する可能性がある。

 少なくとも、アレクトロ社に絡んだ事件に見え隠れしている“緑色の小人”と、惑星TUBOYに由来するバイオメカノイドとの間には、なんらかのつながりがあるとみて間違いないだろう。



 スバルは脚の傷がふさがるとすぐに歩行訓練を始めた。特別救助隊の任務の性格上、現場で陣頭指揮を執れなければ話にならない。
 そのため片腕がふさがってしまう通常の松葉杖は使わず、左脚に支え棒を装着する形にした。
 マッハキャリバーの装着を行えるように、義足に補強をはめて、フレームが折れないようにする。病院のリハビリ室を使って、手すりにつかまりながら右足だけで歩く練習をする。
 車椅子を使っている両足のない老人が、お嬢さん若いと元気でいいね、と微笑んでいた。

 ノーヴェは当直が終わるとすぐに病院に来て、スバルのリハビリを手伝うと言った。

 例の老人も、妹さんかい、仲がいいね、と言って、ノーヴェは少し照れていた。

「使い方さえ慣れればすぐに復帰したいよ、本チャン用の義足も今発注かけてるって」

「あー……、それなんだけど」

「なにノーヴェ?」

「シャーリーさんっていただろ、六課のとき、装備品の管理をしてくれてた……あの人から今朝連絡があってさ、マッハキャリバーの術式を改造して、脚を形成するようにできるっていうんだ。義足の代わりにマッハキャリバーを直接、左脚の代替にするって」

「ほんと?そういうことできるんだ」

 ノーヴェの返事はどこか歯切れが悪かった。スバルは手すりから手を離し、ほらもう立てるようになった、と両手を広げてみせる。

「なんか浮かないみたいだけど」

 スバルは笑顔をつくってみせるが、頬が包帯で覆われているおかげで片目しか動かせず、引きつったような表情になってしまっている。
 もちろん本人は普通に笑っているつもりでも、顔の所作がそれについてこれない。

「どうして、だよっ……どうしてそんなにできるんだよ、スバルの顔、からだが、こんなになっちまって……一生、治らないかもしれないのに!
ゲンヤ父さんだって、もしスバルがお嫁にいけなくなったら……!」

「……ノーヴェ」

 スバルはノーヴェを抱き寄せる。消毒薬と包帯の臭いが鼻をつき、病院の空気に意識が飲み込まれそうになる。

「元気にしようよ。少なくとも私は今こうして不自由なく動き回れる。気にしてばかりじゃ始まらないよ。命があるだけでも幸運だって
思わなきゃ……命さえあれば、また立ち上がれる。それを忘れないで」

「うん……」

「今は形成治療も進んでるから、大丈夫、必ず治せるよ」

 野戦現場で魔導師が使う治癒魔法は、基本的には代謝を加速させるものなので、損傷した肉体を治すためには同時にエネルギーの補給も行わなくてはならない。
 代謝加速を単体でかけると細胞分裂のためのエネルギーが足りなくなり、アポトーシスを引き起こして結果的には肉体が壊死してしまう。
 精密な治療には、いずれにしても設備の整った病院で、外科手術による処置が必要だ。

953EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:12:29 ID:u.rzNKFs
 シャーリーは、重傷を負ったスバルの報せをシャマルにも持ち込み、協力を仰いでいた。
 レティが進める独自戦力の確保のため、元機動六課メンバーに声をかけていたのだ。

 シャマルはシャーリーと協力して、マッハキャリバーの改造に取り掛かっていた。
 スバルが習得しているのは近代ベルカ式魔法であり、マッハキャリバーもAIを積んではいるが構造的にはアームドデバイスに近いため、ベルカ式の強化手法が使える。
 実際、古代ベルカの騎士たちにおいては、戦闘で欠損した手足を補うためにアームドデバイスを使用するというのは普及していたやり方である。
 シャマルも、過去の主に対してそのような措置をとったことがあった。

「大腿部にパッドを巻きつけて支える形がいいと思います。スバルの戦闘スタイルだと、打撃に使用するのは足の甲から先なんで、
マッハキャリバー自体の慣性制御システムを応力吸収に使えます」

「外見は甲冑のようになるから、それほど違和感はないと思うわ」

 シャマルもしばしば、次元犯罪者との戦闘で重傷を負って担ぎ込まれる武装局員の姿を目にする。
 彼らの中には、自費でアームドデバイスを購入し身体強化を行っている者も少なくない。
 医務官という職業柄、前線で戦う人間から色々な話を聞く機会も多い。
 彼らが話すのは、いずれも、魔法技術が進歩すれば犯罪者の使う武器も進歩するので、結局のところ魔法があるからといって自分たちが絶対有利という状況にはならない、ということだった。
 武器が強力になっているので、大ダメージを負う危険も増える。
 ある年配の武装局員は、自分が管理局に入った頃と比べて個人携行型デバイスの破壊力は明らかに向上している、と語った。
 現代の最新型魔導デバイスは、高密度プラズマや重粒子線ビームを当たり前のように撃つことができ、これを被弾すれば人間の手足など一瞬で蒸発する。
 小口径の弾丸でも、銃創は体内の深くまで熱線を到達させ、焼かれて死んだ組織を摘出するなど治療も困難を極める。
 また、昔であれば人間が持つことなど到底出来ないような大型の魔力機械でないと撃てなかった魔法も、拳銃サイズの魔導デバイスが軽々と発砲できるようになっている。

「質量兵器禁止の言い分も──こういうのを見ると一体なんなのか、って思うわね」

 重傷者の治療や殉職者の引き取りをするたびに思っていたことだが、シャマルはまた言葉に出した。

「建前はやっぱり大事ですよ」

「それはわかるんだけど……」

 実際、質量兵器と魔法兵器の線引きは限りなく曖昧だ。
 いわゆる大量破壊兵器の禁止であれば、第97管理外世界における核兵器の扱いとまったく同義であるし、またミッドチルダにおいては生物化学兵器については規制がない。
 召喚獣や使い魔などの存在もあり、使役動物を戦闘に利用することが広く行われていたため、そういった所謂ところの“生物兵器”に対しては人々の忌避感がもともと少ない、という事情もある。
 大出力魔法に関する規制も、魔導師ランクに基づくライセンス制度が敷かれてはいるが、在野の魔導師に対して無免許での魔法使用を防ぐ手立ては事実上なく、管理局もしくは各国軍警察所属の武装魔導師による実力行使でもって制圧している、という状況だ。

 魔力さえあれば、大掛かりな設備がなくても子供でも撃てる。
 兵器としての危険性からいうならば魔法のほうがはるかに危険である、というのは、もはや周知の事実である。

 それゆえに、管理局としてはあくまでも大量破壊兵器の所持・使用・製造の禁止として質量兵器規制を運用している。

「あくまでも武器規制のための方便、ってことですよ。
質量兵器って言葉が使われ始めた頃は、魔法がまさに新時代のテクノロジーって感じで、これまでの武器とは全く別物、ってとらえられてましたからね。
魔法兵器に対する旧時代のテクノロジーをあらわす概念として質量兵器って言葉は生まれたんです。
たとえ魔力が使われてても質量兵器と呼ばれるモノだっていくらでもありますし」

 カレドヴルフ社が開発した自律戦闘マシン群にしても、機械構造や駆動システムそのものに魔力は用いられていない。
 人型を実現するための高強度の確保などについては魔力で強化された金属を使っているが、それだけだ。
 しかし、この戦闘マシン──アーマーダインは、質量兵器とは呼ばれない。

954EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:14:32 ID:u.rzNKFs
「“危ないから禁止”ってわけじゃないんです。軍備を管理する名分さえ立てばよかったんですよ」

「それと同時に、魔法兵器に関する技術を独占することで他世界の軍備を削いでいく……と?」

「魔法兵器を最初に実用化したのはミッドチルダですから」

 シャーリーは、軍学校で近代戦史を学んでも、このあたりの経緯をまじめに考察する学生はほとんどいない、と言った。
 あくまでも教科のひとつとしてこなすだけで、実践で役立つ知識ではない、と捉える者が多い。
 教師も、カリキュラムに入っているからというだけで、あまり時間を割いて教えたりはしていない。

 夜天の書の守護騎士システムとして、数十年ごとに途切れた断続的な記憶を持つシャマルたちにとっては、ある主のもとで覚えた世界観が、次の主の生きている時代ではまったく様変わりしている、そんな状態を何度も経験している。
 質量兵器に対する一見ちぐはぐな扱いも、他の人間たちとの認識のズレが時折見え隠れする。

「だいたいからして質量兵器の所持使用なんて、ほとんど別件逮捕の材料くらいにしか適用されてないんですよ」

 次元世界の現状を踏まえて、実質、質量兵器の所持それだけで罪に問われるというケースはほとんどない。
 たいていは、既に何か別の容疑によって追われている者を、緊急逮捕の要件として質量兵器所持を適用するというケースだ。
 魔導デバイスと質量兵器は、見た目での区別はできないし、待機状態への変形機能などは別として、武器としての機能、性能に違いがあるわけでもない。
 質量兵器が、同クラスの魔導兵器に比べて特段強力というわけでも扱いやすさに優れるわけでもない。
 それこそ単に呼び名の問題である。

 シャマルたちが今行っているマッハキャリバーの改造も、素材は金属であるので、それを足にはめて使用するのであれば、刀剣や打撃武器との区別はつかない。
 シグナムの使うレヴァンテインや、ヴィータの使うグラーフアイゼンも、それぞれ、剣、ウォーハンマーの形をしており、それが魔力で形成されていることを除けば、素材はまさしく鋼鉄である。それは溶鉱炉で鉱石を溶かしてつくっても、魔法で形成しても、できあがるのは同じ鉄だ。
 さらにいえば魔導デバイスの場合、あらかじめデバイス製造時に練成した分の金属以外は形成することができない。
 それを超えて損傷してしまうと自己修復ができなくなる。これはアームドデバイスでもインテリジェントデバイスでも同様である。
 搭載容量に余裕のないインテリジェントデバイスの場合、金属パーツはごく薄く形成され、構造強度はほとんどが魔力によって担われることになる。

 デバイスがこれら、大重量の金属を内部に構造材として持ち、また格納できるのも、次元干渉能力ゆえである。

 改造マッハキャリバーには、義足部分を維持するための魔力源として魔力電池が搭載された。
 日常生活であれば数時間程度の充電ですむので、就寝時などに取り外してチャージしておけばよい。
 戦闘時には迅速な交換ができるよう、ワンクリックでイジェクトできるようにしておく。
 万が一の際はバッテリーを強制排出することで誘爆事故を防ぐ。

 シャーリーはさらに、現在管理局が調達中である新武装“SPT(スタンドアロン・サイコ・トラッカー)”についても、なのはたち、元機動六課メンバーへの優先配備をしたいと言った。

「でも、そのSPTっていうのはカレドヴルフ社の製品なんでしょう?何かよくない仕掛けでもついていたら」

 これにはシャマルも懸念を示す。
 それに、CW社はSPTを管理局にのみ提供しているわけではない。
 ミッドチルダ、ヴァイゼンをはじめとした大国の精鋭部隊への納入、また紛争当事者である次元世界政府軍などへのセールスも行われている。
 もちろんそれは第五世代デバイスでも同様である。
 場合によっては、SPTを装備した次元世界軍との交戦の可能性もある。
 そうなった場合、生身の魔導師との戦力差がどれほどのものになるかというのは、なのはやフェイトのような高ランク魔導師をもってしても非常に厳しいと予想される。

955EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:16:18 ID:u.rzNKFs
「そこはね……。ただ、これはレティ提督の直轄してる部署じゃないんだけど、フェイトちゃんのコネでね、執務官を何人か、CW社に内偵に入れる方向でやってるみたい。
たぶん向こうさんも、何から何までヴァイゼン政府のいいなりってわけにはいかないだろうし」

「だといいけどね」

 ほとんどシャーリーの個人部屋と化している研究室で、シャマルと二人で、マッハキャリバーの術式のコーディングを続ける。
 戦闘用術式のビルドは通常数ヶ月をかけて入念にテストを行うが、今回はそれほどの時間的余裕はない。
 しかしだからといって品質は落とせない。
 シャーリーも、寝食の時間を削って、スバルたちのために仕事を行っている。



 クラナガン郊外の、やや高台になった丘の上に、円柱形のドームが数棟建てられている。
 ミッドチルダ国立天文台が所有する、口径3.6メートルの反射望遠鏡だ。
 ミッドチルダにおける地上設置型の望遠鏡としては最大級のものとなる。
 この望遠鏡は、ミッドチルダの天文学の最前線として、また衛星軌道上に置かれた宇宙望遠鏡が運用され始めてからも、ミッドチルダ人類の宇宙への憧れの象徴として聳えていた。

 その天文台を、ユーノ・スクライアは単身訪れていた。

 かねてより行われていた、深宇宙探査に関する資料を無限書庫より捜索するプロジェクトがようやくひと段落つき、進捗報告のためにこの天文台で台長を務めるクライス・ボイジャーのもとを訪ねることになったのだ。
 通常、無限書庫司書長が自らクライアント個人と会合を持つことはまずない。
 対外的な業務は他の専門の司書に任せていた。
 このプロジェクトは、それだけ、ユーノとこのクライスとが、管理局の目を避けて極秘に、個人的に調べようとしていることを意味する。

「やはり位相欠陥トンネルは実在するということで間違いはないのですな」

 資料をざっと一覧し、クライスは眼鏡をなおしながら言った。
 ユーノもうなずく。

「ええ。古代ベルカ時代からの肉眼でのものも含めて観測記録を洗いましたが、次元を超えて航行する者は、虚数空間からたどり着けるチューブのような航路があると言い伝えています。
これがおそらく、位相欠陥トンネルをさしていると思われます」

「その航路が実在するのならば、アルハザードもまた実在すると──」

「でしょうね。アルハザードとは、位相欠陥トンネルに阻まれて観測が困難になっている領域と考えることができます。
古代ベルカ当時の航海技術では、たとえこの位相欠陥トンネルを発見したとしても進入することは不可能だったでしょう。
あるいは、サルガッソーのように呼ばれ、船乗りからは避けられていたかもしれません」

「従来の次元航行艦ではたどり着けない複雑なトンネルを抜けなければならない場所、と……そうなると、それを探検したくなるのは人情と
いうものですな」

 探険家たちがスポンサーを得る方法としてもっとも多いのが、このアルハザード探索である。
 一種の宝探しのように考える好事家も多く、政府などが断った場合でも個人的に出資を行う者も中にはいる。

「われわれが発見したこの大規模な超空洞──“エリダヌス渓谷”が、あるいはアルハザードへの道かもしれませんな」

 ユーノは鞄から一枚の模造紙を取り出し、机の上に広げた。手書きで書き込まれた各次元世界の連結通路と、航海の目印になる明るい星の位置が散らばっている。

「現在、ミッドチルダから惑星TUBOYへ向かう航路はこれです。次元航行艦であれば1日かからず行けます。
この航路では、虚数空間を2回通過するのですが、この2回目の通過──ここは多数の連続小ワープを行い、実はここがこの航路でもっとも時間がかかる場所なのです。
この航路の所要時間を往復36時間とした場合、そのうちの28時間はここを通過することに費やされます」

「最短距離ではあるが区間的に非常に時間のかかるポイントが存在する、と」

「これは僕の推測ですが、実はこの惑星TUBOYこそがアルハザードの正体ではないかと考えているのです」

956EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:18:54 ID:u.rzNKFs
 大型の光学望遠鏡は、換気装置による強制送風すらも許さない。
 大気の揺らぎによる解像度の制限を避けるため、望遠鏡がおさめられたドームは自然循環を極限まで突き詰めた設計になっており、望遠鏡を動かすとき以外は、建物の端から端まで、人が歩く足音が聞き取れるほどだ。
 空気が澄んで冷える夜は、ふもとの街の雑踏が、ざわめきを丘の上まで届ける。

「────その根拠をお聞かせ願えますか」

 ユーノは軽く咳払いをし、鉛筆を取り出して模造紙に「#511」と書き込む。

「まずこの探査機ガジェットドローン#00511ですが、これは外宇宙に同機種16機がいっせいに放出されたものです。
惑星TUBOYに向けた軌道をとった探査機はこいつだけです。
このことからも、この世界──第511観測指定世界は、当初は重要視されていませんでした。
何しろ構成や惑星の数が少なく、星間物質も少ない、“枯れた宇宙”でしたからね。
しかも、この探査機ガジェットが最初に通過したのはエリダヌス渓谷を回避した、長大な楕円軌道を取る航路です。
実際、打ち上げから到達まで7年を要していました。途中で何度もワープを繰り返していたにもかかわらずです。
つまり現在のエリダヌス渓谷航路が発見されるまでは、この第511観測指定世界は事実上到達不可能な世界だったのです」

「──そしてその世界に存在する惑星に、惑星ひとつ丸ごとという史上最大規模のロストロギアが発見された──」

「そのとおりです、ボイジャー台長」

 かすかな身じろぎで、テーブルに置かれたコーヒーカップが波紋をつくる。

「惑星TUBOYで発見された“もの”は、従来のロストロギアの範疇に収まらないものです。
つくりは精緻とはいえない原始的なものですが、それゆえに、技術としてより源流に近いといえます。
ジュエルシードやレリックなど、現在発見されているロストロギアのすべての祖先がこの惑星TUBOYにあると考えられます。
先史文明人の扱っていた物質、装置などです」

 クライス・ボイジャーは、宇宙論研究者たちの間では古風な昔かたぎの天文屋、という印象が強かった。
 だが、それは妥協無く理論の構築と観測を続けてきた故でもある。
 もともと天文学者には風変わりな人間が多く、それが突飛な発想から新たなひらめきを生み、そして理論の発展がもたらされている。

 天才のひらめきとは、無限書庫のような巨大で複雑なデータの塊の中から、一瞬で必要な情報を取り出せるという意味だとユーノは考えている。
 ヒトの脳が記憶することのできる情報量は無限に近いともいわれ、しかし、実際にヒトが扱える情報量はコンピュータやインテリジェントデバイス等と比較してもずっと少ない。
 無限書庫を整理するためのヒントをも、クライスが与えてくれたとユーノは思っている。

 自分の専門分野である考古学とはあまり縁がないと思っていた現代宇宙論だが、ユーノはこれをきっかけにクライスとやりとりをするようになり、また宇宙論を少しずつ独学で学び始めていたのだ。

 そして、惑星TUBOYと第511観測指定世界の発見、ロストロギアと思われていた惑星TUBOYから発見された謎の巨大戦艦、バイオメカノイドたち、ここから、ミッドチルダをはじめとした次元世界人がずっと追い求めていた、伝説の地アルハザードの実像が、思わぬところから浮かび上がろうとしていた。



 第97管理外世界、現地次元世界住民が“地球”と呼ぶ惑星。
 ソビエト連邦バイコヌール宇宙基地よりプロトンL型ロケットを使用して、1機の宇宙探査機が打ち上げられた。
 本機はアメリカのアレスⅤや、過去に開発されたエネルギア、サターンⅤに匹敵する打ち上げ能力を持ち、大重量の大型宇宙機を直接太陽系脱出軌道へ投入することが可能である。

 西暦2023年6月14日、宇宙探査機“ボイジャー3号”は、地球を飛び立ってエンジン出力を最大まで使い切り、太陽系脱出軌道に乗った。
 打ち上げから2時間後には──この時点ではまだ探査機本体はロケットから分離していないが──月を通過し、太陽系をほぼ横断するような格好で木星へ直行する。
 そのまま木星でのスイングバイによって加速し第3宇宙速度を突破、軌道を約60度変えてオリオン腕を南へ向かう軌道に乗る。

957EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:21:21 ID:u.rzNKFs
 これは46年前にアメリカが打ち上げた、伝説的な惑星探査機の名にちなんで命名された。
 ボイジャー1号、2号の両機はともに、既に太陽系を脱出して恒星間宇宙へ進出している。

 探査機打ち上げを担当したのはソ連だが、このミッションに先立って、アメリカ航空宇宙局(NASA)は、宇宙から発信されてくる不思議な信号をキャッチしていた。
 それは、かつてアメリカ自身が打ち上げた惑星探査機に積まれた信号とまったく同じビットパターンを持っていた。

 異星人からの返信が来たのか。もちろん、そう決め付けるのは安直というものである。
 何しろ、仮に電波を使用したならば発信源は46年の半分、23光年以内になければならない。
 しかし現在のところ、そのような近距離にそれらしき恒星系は見つかっていないし、信号のやってくる方向とも違う。

 深宇宙探査衛星による大規模なサーベイで発見されていた、宇宙背景輻射が極端に減衰する領域の存在が、その謎を解く鍵を握っていると天文学者たちは考えていた。
 この領域は全宇宙に一様に分布し、天の川銀河内部にも相当数が存在すると予想された。

 もちろん、太陽系近傍にも。

 この領域は、これまでの現代宇宙論ではあくまでも理論に基づいた計算式としてしか導き出せていなかった天体を、直接観測することを可能にするとの期待が持たれている。
 現在の宇宙の姿を形作った、Λ-CDMモデルを直接実証することが可能になる。

 かつて天才科学者アルバート・アインシュタインが考案した宇宙方程式において、宇宙項“Λ(ラムダ)”で表される、宇宙の膨張を加速させている謎の力(ダークエネルギー)。

 これが、インフレーション理論がその存在を予測する位相欠陥として発見されることが期待され、そして現代の宇宙探査機はそれを捉える能力を持っている。

 ただちに米ソの秘密会合が持たれ、開発中だった太陽系外縁天体観測計画機を、そのまま外宇宙探査に転用することが決まった。
 それがこのボイジャー3号である。

 打ち上げられたプロトンロケットは、探査機を抱えたまま加速して地球重力圏を離脱する軌道に乗り、高度42万キロメートルの遠地点に到達したところでキックモーターに点火して探査機を放出する。
 このときの速度は秒速70キロメートル以上に達し、人類が打ち上げた宇宙船としては冥王星探査機ニュー・ホライゾンズを凌いで史上最速となる。
 プロトンL型が静止軌道を越えて上昇していくのを、アメリカ宇宙軍が所有するSDI-6キラーレーザー衛星が撮影していた。

 八神はやては、惑星TUBOYで人工的な信号が発見されたというニュースを聞いたとき、ただちにそれがボイジャー1号のものであると直感していた。
 そのときには単なる天文ニュースとだけ受け取っていたが、今は事情がそれだけでは済まない。

 第97管理外世界の深宇宙探査技術は、すでに宇宙の大規模構造、グレートウォールの影に、おそらく地球近傍に、未知の異次元が存在することを探知している。
 ボイジャー3号は、表向きにはヘリオスフィアの外に望遠鏡を置いて観測を行う系外惑星探査を任務として与えられているが、その実は、地球人類が初めて挑む、“宇宙の始まり”を直接観測するミッションである。

 その結果、これまで理論上の存在であった位相欠陥が実際に発見されるだろうと、宇宙論研究者たちは期待していた。

 そしてその先には、未知の異次元世界が広がっている。

 探査機の運用管制を行うジョンソン宇宙センターでは、スタッフたちが独自に探査機に愛称を付けていた。
 正式な名称およびコールサインである「ボイジャー3号(Voyager 3)」とは別に、「スピンドリフト号(Spin Drift)」と命名された宇宙探査機は、彼方より飛来する信号を追い、深宇宙を目指して航海に乗り出していく。

958Gulftown ◆mhDJPWeSxc:2011/09/16(金) 01:22:06 ID:u.rzNKFs
第4話投下終了です

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961 ◆ce0lKL9ioo:2012/02/07(火) 22:20:08 ID:AiKNkGr2
 すいませんが、さるさん食らってしまったので、残りをこちらに投下します。

962 ◆ce0lKL9ioo:2012/02/07(火) 22:21:29 ID:AiKNkGr2
 晴明は意味ありげに眠る昌浩を見つめる。
「昌浩が起きたら、ヴィータ殿には叱る役をお願いしたい。この孫は助けられた人がどんな気持ちになるか、まるでわかっていないようなので」
 真に人を助けようと思うなら、自分も死んではならないのだ。昌浩はヴィータを助けるのに必死で、自分の身を守ろうとしなかった。よかったなどと呟く暇があったら、攻撃を防ぐ努力をすべきだったのだ。
「お、おう。任せとけ!」
 ヴィータががぜん勢い込んで立ち上がる。
「お前ら。もう少し静かにしろ。怪我人の前だぞ」
 もっくんがピシリと尻尾を打ちつける。
 晴明とヴィータは顔を見合せて笑うと、この場をもっくんに任せて静かに退出して行った。

 第三話 揺るがぬ決意を胸に抱け

 窮奇退治は昌浩の完治まで、延期が決定した。敵はあの大妖怪、なるべく万全の状態で挑みたい。
昌浩が養生している間、一度だけ彰子が見舞いに来た。
 自分がさらわれたせいで、昌浩が重傷を負ったと彰子は酷く気に病んでいた。
昌浩は彰子は励まそうと、必死に明るい話題を振った。その中で、彰子が蛍を見たことがないと言った。蛍の時期はとうに過ぎていたので、ならば来年一緒に蛍を見に行こうと昌浩は約束した。
その間、ヴィータが歯ぎしりせんばかりに不機嫌だったのに、昌浩は最後まで気がつかなかった。

数日もすると、昌浩は起き上がれるようになった。激しい運動は厳禁だが、それ以外の行動は大体許されている。シャマルの治癒術は本当に素晴らしい。出来るなら教えてもらいたいくらいだった。
 昌浩は書物を睨めっこをしながら、円盤状の物体をからからと回していた。
「何してんだ?」
 ヴィータが昌浩の手元を覗き込む。
昌浩が目が覚めましてからというもの、ヴィータは食事を運んでくれたり、何かと世話を焼いてくれる。あまりに優しいので、昌浩の方が戸惑っていた。
「これは占いの道具なんだ。窮奇の居場所が占えればと思ったんだけど」
 結果は芳しくない。それにそのくらいのことは晴明がとっくにやっているだろう。晴明すらわからないことを昌浩がわかるわけない。
「占いねえ」
 ヴィータは占いという奴がどうも信じられない。未来が本当に予知できるなら、未来はすでに決まっていることになる。努力するもしないもすべて決まっている。ならば、心は何のためにあるのか。
「あ、疑ってるな。よし、ならヴィータの未来を占ってやる」
 昌浩が道具に手を伸ばす。
「面白い。やってみろ」
 円盤がからからと回り、結果を示す。昌浩はじっとその結果を読み取ろうとする。
 無言のまま、時間だけが過ぎていく。
「おい」
 昌浩は真剣な顔のまま答えない。そのあまりに真剣な様子にヴィータが不安になる。
「まさか、よくない結果が……」
「ごめん。わからない」
「うーがー!」
 ヴィータが吠えた。
「さんざん待たせて、なんだよそれは!」

963 ◆ce0lKL9ioo:2012/02/07(火) 22:23:14 ID:AiKNkGr2
「ご、ごめん、だって見たことない形だったから」
 昌浩は本で頭部をかばう。
「もう少し時間をちょうだい。きっと占ってみせるから」
「まったく。それでも晴明の孫かよ」
「あー! ヴィータまで孫って言ったー!」
「いやー。この台詞一度言ってみたかったんだよ」
「孫言うな!」
 憤慨する昌浩を、ヴィータはきししと笑う。ふとその顔が疑問に染まる。
「お前、今何て言った?」
「孫言うな」
「その前だよ」
「えーと、ヴィータまで孫って言った、だったかな?」
「お前、名前」
「ああ、ヴィータだよね。やっと言えるようになったよ」
 昌浩はにっこりと笑う。
「いやあ、苦労したよ。毎晩ヴィータ、ヴィータ、って繰り返して」
 ちなみにザフィーラの名前はまだ練習中だ。
「ヴィータ。これで合ってるんだよね?」
 ヴィータの拳が昌浩の頭を叩く。
「な、何すんだよ、ヴィータ」
 昌浩が頭を押さえてうずくまる。
 ヴィータは拳を握りしめたまま、全身を震わせていた。
「ヴィータ?」
「気安く呼ぶんじゃねえ!」
 ヴィータが再び拳を振り下ろす。その顔が真っ赤に染まっていた。
「どうしたの、ヴィータ?」
「だから、繰り返すな〜!」
 ドタバタと暴れる音が屋敷中に響いていた。

「いやー。春だねぇ」
「夏だがな」
「連日快晴だねぇ」
「それはその通りだ」
 もっくんとザフィーラは、昌浩の部屋の屋根の上で並んで日向ぼっこをしていた。
「昌浩についていなくていいのか?」
「そんな野暮はせんよ」
 もっくんが後ろ脚でわしわしと首をかく。本人に自覚があるかどうかは知らないが、ヴィータの気持ちは傍から見れば明らかだ。
「すまんな。気を使わせて」
「いや、昌浩にとってもいいことだ」
「ほう。もっくんはあの彰子とかいう娘を応援しているのかと思ったが?」
「おっ。堅物かと思いきや、話せるねぇ。ただし、もっくん言うな。俺のことは騰蛇と呼べ」
「心得た」
「それで彰子に関してだが、結論から言って、あの二人は絶対に結ばれない」
 もっくんは一転、厳しい表情になる。
「どういうことだ?」
「身分が違い過ぎる。かたやこの国一の貴族の娘。かたやどうにか貴族の端に引っかかっている昌浩。あり得ないんだよ、この二人が結ばれるなんて」
「身分とはそんなに大事なのか?」
 しょせん同じ人間ではないか。気にするほどの差があるとザフィーラには思えない。
「そうだな。お前たちの主は女か?」
 ザフィーラの緊張が一気に高まる。
失言だったと、もっくんは詫びた。
「お前たちの主を詮索しようとしたわけじゃない。例えば、お前たちの主が女だったとしよう。もしお前が主に恋愛感情を抱いたら、どうなる?」
「なるほどな」
 ザフィーラは遠い目になった。彼のはやてを敬愛する気持ちに、一片の曇りもない。しかし、それは決して恋愛感情ではない。
 自分はあくまで守護獣、人間ではない。そんな自分と主が結ばれるなど決してない。それなのに、主に恋心を抱けば、それはまさに地獄だろう。
「つまり、この国で身分とはそれほどの差ということだ」
 しかも、彰子と天皇の結婚の準備が進められているという。晴明の占いでも、それはすでに決まった運命ということだった。もし運命を変えられる力があればと、もっくんは己の無力をこれほど呪ったことはない。
 失恋から立ち直る一番早い方法は新しい恋を始めることだ。昌浩を好きなヴィータがそばにいてくれれば、これほどありがたいことはない。
「しかし、我らは……」

964 ◆ce0lKL9ioo:2012/02/07(火) 22:24:07 ID:AiKNkGr2
「わかっている。窮奇を倒したら帰るんだろう。それでもいいんだ。立ち直るきっかけになれば。それに二度と来れないわけじゃあるまい?」
「それもそうだな。その時は主も連れてこよう。きっと喜ばれる」
 そう、きっと大丈夫だとザフィーラは思った。いつか主を含めた全員でこの地を訪れることができる。その時は、闇の書も完成し、主の命も助かっている。時空監理局から追われることもなくなっている。我ながら虫のいい考えだと知りながら、そんな未来が来るのを願わずにいられない。
 ザフィーラともっくんは雲一つない空を見上げた。

 その頃、庭ではシグナムが見知らぬ女と対峙していた。女は黒い艶やかな髪を肩のあたりで切りそろえ、この時代では珍しい丈の短い服を着ている。十二神将の一人だろう。
 六合と稽古の約束をしていたのだが、六合の姿はない。
「私の名は勾陣(こうちん)。六合は晴明の供で行ってしまってな。代わりに私が来たというわけだ」
「そうか。では、今日の相手は勾陣殿が?」
「ああ。せっかくだから、少し趣向をこらさないか?」
 勾陣は三つ叉に別れた短剣を両手に持ち、宙を切り裂いた。空中に裂け目が走り、シグナムの体がその中に吸い込まれる。
 シグナムが目を開けると、そこは砂と岩ばかりの荒涼とした風景が広がっていた。
「次元転移?」
「ここは我ら十二神将が住む異界だ。稽古もいいが、ここなら思う存分暴れられるぞ」
 勾陣が口端を釣り上げる。氷のように鋭い酷薄な笑みだった。 
シグナムも勾陣と同じ笑みを浮かべる。
「なるほど。より実戦的にというわけか」
「それと最初に言っておく。私は六合より強いぞ」
「面白い。では、いざ尋常に勝負!」
 シグナムのレバンティンが炎をまとい、勾陣の魔力が炸裂する。
 普段は静かな異界が、その日はいつまでも爆音が轟いていたと言う。

夕刻、帰宅した晴明は昌浩の部屋に向かった。天皇と彰子の結婚が正式に決まったということだった。後は日取りを決めるのみ。今すぐということはないが、もはや二人の結婚は避けられない。
薄々感づいてはいたのだろう。昌浩は「そうですか」とだけ呟いた。
それからさらに数日が過ぎた。
昌浩は表面上は明るく振舞っていたが、時折沈んだ表情や物思いにふけることが多くなった。そして、以前にもまして窮奇を倒すべく猛勉強を始めた。まるで勉強に打ち込むことで、何かを忘れようとしているかのように。

早朝、昌浩は目を覚ますと素早く着替える。怪我の為、長期休みになってしまった。同僚にも迷惑をかけたし、今日は出仕するつもりだった。晴明から頼まれた仕事もある。
「よし。完全復活」
「ほう。よかったじゃないか」
 今日はよほど早起きしたのか、ヴィータが戸口に立っていた。
「うん。これもヴィータたちのおかげだよ。本当にありがとう」
 シャマルの魔法とヴィータの看護がなければ、まだろくに動けなかったに違いない。
「いやー。そう言ってもらえると、こっちもありがてぇよ」
 ヴィータはのしのしと部屋に入ってくる。ヴィータは指で昌浩に座るように示す。
「大事な話?」
 昌浩はまだ気づいていない。ヴィータの目がまったく笑っていないことに。
 ヴィータが深く息を吸い込み、

965 ◆ce0lKL9ioo:2012/02/07(火) 22:25:19 ID:AiKNkGr2
「この大馬鹿がー!!」
 大音量が安部邸を揺らした。昌浩は耳を押さえて顔を引きつらせる。
 ヴィータは指を鳴らしながら、昌浩に詰め寄る。
「お前が治る日を、どれだけ待ったことか。怪我人を怒鳴りつけるのは趣味じゃないからな。これで思いっきりやれる」
 晴明から託された昌浩を叱る役をヴィータは忘れていない。それどころか世話を焼くことで、怒りが鎮火しないようにしていたのだ。ヴィータの怒りは最高潮に達していた。
「あの……ヴィータさん?」
「やかましい! そこに正座」
「はい!」
「大体お前は自分が怪我をしてどうするんだ。助けるにしたって、もっと上手くやれ!」
「いや、でも」
「言い訳するな!」
「ごめんなさい!」
 ヴィータが機関銃のように怒鳴り続ける。昌浩はそれを黙って聞くしかなかった。
 それから一刻の後、もっくんが昌浩の部屋を訪れと、晴れ晴れとした顔でヴィータが出てきた。
「いやー。ようやくすっとしたー」
 もっくんが部屋の中を覗き込むと、そこには真っ白に燃え尽きた昌浩がいた。

 その夜、昌浩が仕事を終えて帰ると、シグナムたちは晴明の部屋に集められていた。
「昌浩や。彰子様には会えたのか?」
「はい」
 昌浩は寂しげに笑う。晴明の取り計らいで、昼頃、昌浩は彰子と対面していた。そこで昌浩は彰子に絶対に守ると誓った。誰の妻になってもいい。生涯をかけて彼女を守る。それが昌浩の誓いだった。
「それで窮奇の居場所は?」
「はい。貴船山だと思います」
 都の北に位置する貴船山。そこには雨を司る龍神が祭られている。
 窮奇が北に逃げたのと、ヴィータたちが来てからというもの、一度も雨が降っていない。それが根拠だった。おそらく窮奇によって封印されているのだろう。
「ならば、一刻の猶予もないな」
 シグナムにとって、ここは楽園だった。六合や勾陣、他の神将たちとも、実は紅蓮とも、幾度も手合わせした。こんなに心躍る相手がいる世界をシグナムは知らない。
「そうだな」
 ヴィータとて離れがたい気持ちはある。
しかし、八神はやてを救う為、二人は未練を振り切って立ち上がる。
「はやてちゃんの為にも、お願いね、みんな」
 シャマルが転送の準備を開始する。それをザフィーラが咳払いで遮る。
 シグナムとヴィータがじと目でシャマルを見つめていた。
「あっ」
 うっかり、はやての名前を出してしまっていた。だらだらと脂汗がシャマルの顔を滴る。ちなみに、ヴィータは以前自分がはやての名前を出しことを覚えていない。
「わしは何も聞いておりませんぞ。なあ、昌浩や」
「えっ? ……ああ、はい。俺も何も聞いてないよ」
「二人とも、気を使わせてごめんね」
 シャマルが涙目で感謝の意を告げる。
 やがて緑の魔法陣が足元に出現する。
 昌浩、もっくん、シグナム、ヴィータ、ザフィーラが、最終決戦の場へと飛んで行った。

 その頃、アースラ艦内では、クロノたちが出撃の準備を進めていた。
「それでヴォルケンリッターの動きは?」
「それが変なの」
 クロノの質問にエイミィが首を傾げた。
「あの世界、時間の流れが全然違うみたい」
 アースラでは、クロノたちが青龍たちと戦ってから、一晩しか経っていない。それなのに、向こうでは半月以上の時間が経過しているようだった。
 どうもその間、ヴォルケンリッターたちは原住生物と戦い続けているらしい。
「闇の書もかなり完成に近づいたということか。みんな、準備はいいか?」
 クロノが集まったメンバーを見回す。
 ユーノにアルフ、青い顔をしたなのはとフェイト。
「な、なのは、どうしたの?」
 ユーノがなのはの顔を心配そうに覗き込む。
「ちょっとイメージトレーニングを」

966 ◆ce0lKL9ioo:2012/02/07(火) 22:26:15 ID:AiKNkGr2
 なのはは車酔いをしたかのようにふらふらしていた。
 青龍に備えて、父と兄に怒られた時のことを一晩中ずっと思い出していたのだ。
「フェイト、しっかりおしよ」
「……アルフ、大丈夫よ」
 フェイトの使い魔のアルフが、フェイトの体を揺さぶる。それにフェイトは消え入りそうな声で答えた。
「エイミィ」
 クロノが無言で逃げようとしていたエイミィの腕をむんずとつかんだ。
「フェイトに一体何をした?」
「ええと、頼まれてあの戦いの映像をちょっと……」
 フェイトはフェイトで、あの戦いの映像を一晩見続けたのだ。しかもエイミィの好意で、男連中の顔を大写しにした編集版を。
 苦手意識を克服しようと無理をすれば、かえって悪化する場合がある。なのはたちの負けず嫌いが今回は完全に裏目に出た。
クロノはユーノとアルフをつれて、部屋の隅に行った。
「いいか。男連中の相手は僕らでやる。二人には絶対に近づけるな。最悪、一生のトラウマになる恐れがある」
 ユーノとアルフが決意を込めた表情で頷く。
 そして、五人は転移を始めた。

967 ◆ce0lKL9ioo:2012/02/07(火) 22:31:42 ID:AiKNkGr2
 うっかり第三話も一緒に投下していました。どうりで長いわけですね。すいません。
 実はもうほとんど書きあがっているので、次回最終話も近いうちに投下できると思います。
 楽しんでいただければ幸いです。

968R-TYPE LYRICAL ◆f9HnsYa0d2:2012/02/28(火) 10:15:25 ID:oqiHNjds
mttp://infinity-library.int/r-type_lyrical

**概要
「AB戦役」。
一般にそれは次元世界では、新暦78年に発生した大規模次元間戦争のことをいう。

この事件では、ある管理世界が遭遇した未来時空から来襲した生物兵器の存在が中心となり、次元世界各国に波紋をもたらした。

それは、「バイド」なる超大型生物兵器システム群の存在である。


**遭遇
最初の契機は、新暦77年暮れ頃から頻繁に発生していた時空嵐である。
多数の次元断層が発生し、民間航路への危険が増したことから、時空管理局は軍艦によるパトロールの強化を決定した。

哨戒任務についていた管理局所属艦船クラウディアは、次元間航路付近で不審な行動をとる国籍不明艦を発見、追跡を開始した。
接近し、その不明艦が管理局において使用されているL級に酷似していることが判明した。
さらに同じく国籍不明の小型戦闘機が不明艦に対し攻撃をかけており、交戦状態にあるとみなされた。
不明艦は軍艦旗を掲げておらず、不明機も識別信号を発信していなかった。
クラウディアでは国際遭難信号の周波数で警告を行った。
不明艦、不明機ともに応じなかったため、クラウディアでは民間航路内での戦闘行為を禁じる管理局法に基づいて不明艦および不明機の拿捕を試みた。
クラウディアが接近すると、不明機は搭載していた大型砲で不明艦を破壊、さらにクラウディアにも攻撃をかけてきた。
クラウディアはただちに応戦、対空砲火で不明機を撃墜した。
不明機の機体を確保することには成功したが、破壊された不明艦は損傷が酷く曳航は不可能と判断され、接舷してひととおり調べた後に撃沈処分とされた。

だがこのとき、不明艦に書かれていた艦番号のマーキングから、この艦がかつて「闇の書事件」の際、暴走したロストロギア闇の書と共にアルカンシェルによって消滅したL級2番艦、「エスティア」であることが判明した。
クラウディア艦長であるクロノ・ハラオウン提督は、闇の書事件当時エスティアを指揮していたクライド・ハラオウン提督の息子である。
時空管理局本局に帰還したクラウディアは、不明機との戦闘で受けた損傷の修理を急ぐと共に、次元航行艦隊司令部にも仔細の報告を行った。
場合によっては、非正規武装組織が管理局艦を偽装していた可能性がある。

調査の結果、不明機は第106管理世界アイレムにおいて使用されているR-9A型戦闘機と判明した。
管理局の信頼に係わる重大な問題であるとされ、第106管理世界に対し、事実関係を明らかにするよう要請および抗議が管理局より行われた。
当該宙域においてアイレム地球軍が何らかの作戦行動をとっていたのかである。

969R-TYPE LYRICAL ◆f9HnsYa0d2:2012/02/28(火) 10:23:46 ID:oqiHNjds
**第106管理世界アイレムの動き
当世界では、数十年前よりUFO目撃例が多発し、未知の世界からの侵略がまことしやかにささやかれていた。
それは突如太陽系内に出現した生物兵器群により真実と信じられるようになった。

新暦69年(当世界における西暦2169年)、アイレム地球軍ではバイドと呼ばれるこの生物兵器が26世紀の未来からやってきたことを突き止め、その大元を探った。
その未来が、現在より400年後の第97管理外世界であることが判明し、新暦77年(西暦2177年)、地球軍はひそかに艦隊を発進させた。
しかしそれは出港よりまもなく、管理局哨戒艦により探知される。

970R-TYPE LYRICAL ◆f9HnsYa0d2:2012/02/28(火) 10:43:12 ID:oqiHNjds
**管理局の動き
第106管理世界の大規模な軍事行動に伴い、周辺世界への影響を懸念した管理局は介入を検討する。
拘束されたR-9Aのパイロットは管理局執務官フェイト・T・ハラオウンが聴取を担当した。
また、R-9Aの機体は管理局本局に移送されたが、管理局の質問に対しても第106管理世界は機体の返還要求等を行わなかったため、倉庫にそのまま留め置かれることになった。
第106管理世界艦隊が第97管理外世界に向かっていることが明らかになり、管理局はその事実を同世界出身の高町なのは一尉へ伝えた。

**第97管理外世界の動き
次元間航行技術を持たない同世界では、第106管理世界および管理局の動きを把握していなかった。
しかし、第106管理世界艦隊の出現は第97管理外世界からも探知され、管理局に報告された。
管理局提督リンディ・ハラオウンは警戒のため、近傍宙域にいたXV級艦船3隻を第97管理外世界に向かわせるよう命令した。

971魔法少女リリカル名無し:2012/02/28(火) 15:14:43 ID:kd/Xoi3U


まともなクロスになることを願う

972魔法少女リリカル名無し:2012/02/29(水) 13:45:58 ID:LMV.hGQ.
ユーノは四肢切断を免れたんですね、まずは一安心です。

973 ◆ce0lKL9ioo:2012/03/18(日) 23:17:46 ID:JGKLrFc6
何度やっても、エラーが出てしまい、対処法がわからないので、すいませんが、こちらに続き投下します。

974 ◆ce0lKL9ioo:2012/03/18(日) 23:19:09 ID:JGKLrFc6
「これ、運転する必要ないんです。自分で走りますから」
 昌浩が妙なことを言って、左前輪のタイヤを示す。タイヤのホイール部分に、鬼の顔がついていた。スバルは少し趣味が悪いと思った。その時、鬼の目がスバルを見上げた。
「うわ! 動いた」
「これ、車之輔っていう、家に先祖代々使える車の妖怪なんです」
昌浩の前世が仲間にした時は、牛車の妖怪だった。牛車とは貴族の乗り物である。時代に合わせて姿を変え、現在ではベンツになっているのだ。
勾陣が乗っているのは、形だけだ。
車之輔はスバルとティアナにぺこりと頭を下げ、なのはを送るべく出発した。
「おい、スバルとティアナと言ったな」
 朱雀がやや横柄な感じで声をかけた。
「お前たちの部屋に案内する。ついてこい」
 スバルとティアナが案内されたのは、屋敷の一角にある畳敷きの部屋だった。安倍邸の部屋は、ほとんど和室で構成されている。
「ここにいる間は、俺たちがお前たちの担当だ。自分の部屋だと思ってくつろいでくれ」
 スバルたちより先に天一が正座する。その膝を枕に朱雀は寝そべる。
「どうした? ゆっくりしてくれ」
 スバルたちは部屋に入ることなく扉を閉めた。
 二人が恋人同士なのはよくわかった。しかし、客の前では自重して欲しい。
 そこに晴明が通りかかった。
「すいません。担当替えてもらえますか?」
 半裸やら、人前でいちゃつく奴らやら、十二神将にもう少しデリカシーを求めても罰は当たらないだろうと、ティアナは思った。

975 ◆ce0lKL9ioo:2012/03/18(日) 23:22:57 ID:JGKLrFc6
以上で投下終了です。
 二回コテトリ入れ忘れました。すいません。
 前回は短めでしたが、今回は十話は余裕で越えます。

976マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2012/05/05(土) 21:21:36 ID:aFCDNsRM
さるさんされたのでここに投稿します。

―――――

「・・・いや、ミシェル。俺は前線を退くつもりはない。確か格納庫には予備の〝ワルQ(きゅー)〟(この世界でのVF−1の愛称)があったはずだ。あれを
貰う」

 アルトの視線が、隣に座る少女に注がれる。
 彼女は壇上で、復活に涙するアースラ機関長の話に夢中らしい。まったく気づかない。

「俺はコイツを─────ランカを守ってやらなきゃいけないんだ。今日の事でよくわかった。俺はできる範囲でもいいからコイツを他人任せにしたくな
い。この手で守ってやりたいんだ。も─────」

 〝もちろん、なのはやさくら達だって同じだ。〟と言おうとしたアルトだが、ミシェルの手が肩に置かれ、言えなかった。ミシェルはかつてないほどの笑
顔を作る。

「そうか、やっとお前も〝心を決めた〟ようだな。あのプレイボーイが、うん、うん。」

 なんだかわからないが、ミシェルはしきり感心する。アルトにとっては、ただ自らの手で大切な人〝達 〟を守る事を、新ためて決意しただけなのに。
しかしミシェルは、両方が勘違いしていることに気づかないうちに話を続けた。

「よし、お前の一世一代の決断に俺は乗ったぞ。今日、基地に帰ったらすぐ、技研の田所所長に連絡を入れろ。『例の計画の件で、ミシェルから推薦さ
れました』って。」

「そうするとどうなるんだ?」

「まぁ、見てからのお楽しみだ。とりあえず、(ランカちゃんを)しっかり守ってやれよ。」

「なに言ってるんだ。当たり前だろ。(みんなを守っていくなんて。)」

 色恋に関して天然バカの早乙女アルトと、勘違いしてしまったミシェル。まったくもってお似合いの相棒だった。

(*)

 その後、今後の計画についていろいろと話し合われ、地上時間2200時をもって終了。
 各自部隊へと帰還していった。

(*)


 2314時 聖王教会中央病院

 そこにはなのはとランカの姿があった。
 2人の目的の1つは突然幼生化したアイくんの精密検査。そしてもう1つは保護された少女に関するものだった。
 この時間の病院は消灯後であり、通常静かなもののはずだ。しかし三浦半島の市街地で出た重篤患者がここに集められて治療が行われていたた
め、今も忙しく人が行き交っていた。

「こんなに怪我人が出たんだ・・・・・・」

 ランカは病院のロビーで全身に包帯を巻かれた人や、虚ろな目でベンチに寝かされながら点滴を打たれている人、etc、etc・・・・・・を見て呟く。
 皆顔は暗く、項垂れていた。

「ランカちゃんがいなかったらもっと被害が出てた。だからランカちゃんのせいじゃないよ」

977マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2012/05/05(土) 21:22:09 ID:aFCDNsRM
 だがなのはのフォローもあまり効果ない。
 確かにアルトが生きていたことは言葉に表せないほど嬉しかった。しかし今回の事件で200人以上の死者が出たことには変わりなかった。
 ランカは俯こうとして自らの抱く緑の物体と目が合った。
 それは愛らしく

「キュー?」

と鳴く。

「アイくん、励ましてくれるの?」

「キューッ」

 アイくんは喜色をあらわに、肩に飛び乗ると、頬をすりつけた。

「にゃはは、かわいいね」

 なのははアイくんだけではない。そんな緑色の1人と1匹を見てそう言った。

(*)

 アイくんは精密検査では異常は何も発見されず、ランカの持つバジュラの幼生に関する科学的データと比べても同じだった。唯一わかっているのは、
縮んだのは元素分解による質量欠損であること。これは体表面にエネルギー転換装甲を物質操作魔法した時と同様の特殊な反応があったためだ。し
かし『魔法を介さない元素操作は不可能』なはずだが、ランカには物質操作魔法の素養もなく、デバイスもシャーリーによると対応していないそうだった。
 謎を呼ぶアイくんだが、〝動く生物(質量)兵器〟が無害化したのと同意のため、周囲は無条件で受け入れていた。

(*)

 清潔な白一色の部屋。
 俗に病室と呼ばれるその場所は、通常ベッド数が4の広い病室だったが、今ベッドは中央に1つしかなかった。
 そしてそのベッドにも、不釣り合いなほど小さな女の子が1人、眠っているだけだった。
 その部屋の唯一の扉が開かれ、2人の人影が部屋に入る。しかしそれでも少女は目を覚ます様子はなかった。

「・・・この子がそう?」

 ランカはなのはの問いに頷くと、アイくんを伴って少女をのぞき込む。
 医師によれば衰弱の度合いは低く、今日、明日にでも意識を回復するという。
 まだ精密検査は行われていないが、この子が通常とは違う人の手によって作られたという可能性が第108陸士部隊のギンガ・ナカジマ陸曹からもた
らされていた。現場から1キロ離れていないところで輸送業者の事故があり、そこで密輸されていた生体ポットの主が、あの少女だと言うのだ。
 ギンガはベルカのボストンで唯一生体ポットと関係のある「メディカル・プライム」が〝何らかの事情〟を知っていると見て調査しようとしたが、それはな
のはによって止められていた。なのはにはメディカル・プライムとの独自のパイプがあり、「公式の調査で相手を硬化させるより、そこから聞いたほうが
よい」との判断であった。
 まだ向こうとは通信していないが、なのは自身は〝恩人〟であるあの企業を疑いたくなく、少女が人造であるとはっきりするまでは聞かないつもり
だった。

 閑話休題。

 アイくんは寝ている少女が心配なのか「キューッ」と鳴きながら張りついた。
 そんなアイくんのぬくもりを感じたのだろうか?少女が口を開いた。

978マクロスなのは ◆fN6DCMWJr.:2012/05/05(土) 21:25:49 ID:aFCDNsRM

「ママ・・・」

 だが意識が戻ったわけではなく、目を閉じたまま手が宙をさまよっている。なのははそんな少女の手を握り、

「大丈夫、ここにいるよ」

と呼び掛ける。
 すると少女の腕の力は抜け、また眠りの底に沈んでいった。しかしその少女の顔は、なのは達が入ってくる前よりいくぶんか微笑んで見えた。

―――――
以上、投下終了です。
レポートとかリアルが大変ですが、頑張ります。
ではでは(^^)ノシ

979謎深き男(笑):2012/09/02(日) 22:36:48 ID:/DnxV8Po
今回は、現在連載中の【魔法戦記リリカルなのは】と【ワンピース】とのクロスオーバー作品を自分なりに考えてみましたが、内容的にファンの方々や作者達にとってはかなり憤るものになるのかもしれませんが、そのへんはどうか宜しくお願いします。
早速、その作品の内容について説明したいと思いますが、まず最初の内容として、現在『少年ジャンプ』で連載中の作品『ワンピース』に登場するあの【麦わらの一味】と、現在エクリプス事件等で何かと関わっている【フッケバイン】との死闘を繰り広げるというもので、その内容は、『新世界』での航海中に麦わらの一味がある孤島の遺跡に入り込み、そこで謎の集団が人の命を弄ぶような研究を繰り返し行っていたことを知ったルフィは激怒し、その遺跡を破壊する。だが、その際に研究で使っていたとされる謎のウィルスによって、一味の仲間であるナミが感染し、そのウィルスの因子適合者(ドライバー)となってしまう。
そのウィルスによる破壊殺戮衝動に苦しむナミをなんとか助けようと模索するが治療方法が見つからず、それでも仲間を救うため航海を続ける一味の前に、フッケバインの構成員を名乗る集団が現れ、ナミを連れ去ろうとしたところで、その構成員達との激しいバトルになるが、彼らの圧倒的な攻撃力の前に一味は敗れ、ナミは連れ去られてしまう……。
その後、彼らがアジトとする飛空艇へと連れて行かれたナミは、そこで応急措置と彼らによって彼女が今蝕んでいるウィルスの正体を聞かされる。そして彼らは彼女自身の命を救う条件として、彼らの仲間になるよう要求するが、ナミはそれを拒否。ナミも早く一味のもとに返すよう要求するも、彼らにそれを拒否され、そのまま治療室内に閉じ込められるが、ナミは一瞬の隙をついてうまく脱出することに成功した。
一方、麦わらの一味はナミを取り返すための航海途中に立ち寄ったとある集落で、ある軍事企業から逃げ出して、今はその企業が造り出したという謎のウィルスに対抗できるワクチンの研究を行っている元研究員と出会い、そこであの企業が行ってきた非情な研究の数々と、今ナミを苦しめているそのウィルスの正体を聞かされる。
その後、飛空艇から脱出してきたナミと再会し、元研究員の男と一緒に彼女を苦しめている謎のウィルスに対抗できるワクチンの開発に協力することにした。
だが、そんなある日、突如現れた謎の男女二人組に集落の襲撃を受けるが、一味も集落を守るために応戦。しかし、二人の男女の驚異的な力に、一味は苦戦を強いられる。そんな時、『フッケバイン』の首領『カレン』と、彼女が束ねる構成員達が現れ、二人の男女を不意討ちで倒してしまう。その二人の男女は、前から『フッケバイン』が追っていた集落破壊集団のうちの一組だった。
その後、構成員の一人が集落に隠れていたナミを発見し、再び連れ去ろうとするが、怒った一味は身勝手な彼らのやり方に対し、それを阻止。再びバトルとなるが、また返り討ちにあい、ナミは一味の命と引き換えに『フッケバイン』の下ヘ行ってしまった……。
彼らが去った後、怒りに燃えた一味は再びナミを救い出すため、『フッケバイン』の飛空艇を追う航海へと旅立った。
一方、『フッケバイン』はエクリプス事件の元凶ともなった『ヴァンデイン・コーポレーション』の各施設を襲撃。だが、当然無関係な人や子供達までも犠牲になるため、それに失望したナミは飛空艇ごと彼らを爆破し、再び脱出を試みようとするが失敗。その後、構成員から痛い仕打ちを受け、監禁室へと幽閉されてしまう……。
それから数日後、ついに『フッケバイン』の飛空艇を発見した麦わらの一味は艇内に突入し、首領カレンと各構成員との三度目のバトルを繰り広げる……!またしても、この死闘で返り討ちにされるであろうと思われたが、一味にはあの元研究員がワクチン開発の過程で、新たに開発された対感染者用の切り札があった!!(それは、{アンチエクリプス剤}とよばれるエクリプス・ウィルスの感染者のみ極度に反応する特殊な液体で、因子適合者《ドライバー》がそれを注入すると、細胞又は原子レベルでの拒絶反応が起こり、人体内部から大爆発を起こし、その後も傷口から人体の細胞の腐敗が進んでいき、再生も出来なくなる。〈ちなみに、普通の人間がそれを注入しても、何も起こらない。〉)

980謎深き男(笑):2012/09/02(日) 22:43:26 ID:3bGSxXgQ
(上記の続き。)
そこで、最終決戦での各キャラクターによる対戦の取り組み形式を、自分なりに考えてみたら、こんな風になります。
モンキー・D・ルフィvsカレン・フッケバイン
ロロノア・ゾロvsサイファー
サンジvsヴェイロン
ウソップvsアルナージ
フランキーvsドゥビル
ナミ、ニコ・ロビン、ブルック、トニートニー・チョッパー、今後一味に加わる予定のキャラクターvsフォルティス、ステラ、その他フッケバイン構成員
その激しい戦いの中で傷つきながらも、次々と構成員を倒していく一味達。そして、ナミを無事に救い出し、制御室でフォルティスを感電、ステラを遥か彼方へと殴り飛ばした後、飛空艇の自爆装置を作動させ、仲間全員を脱出させる準備のため、サニー号ヘ戻った。
一方、ルフィは未だカレンとの激しい戦いの真っ最中で、カレンはルフィと互角以上の実力を見せつけるが、ルフィの一瞬の機転により形勢逆転!そして、“ゴムゴムのジェット・ガトリング”をお見舞いし、止めの“ゴムゴムのエレファント・ガン”をまともに受けたカレンは、壊れゆく飛空艇の残骸と共に地の底へと墜ちていった……。
死闘の末、見事カレンを打ち倒したルフィは、爆発寸前の飛空艇から脱出するため、サニー号へと急いだ!そして、飛空艇が大爆発を起こす間一髪のところで、一味を乗せたサニー号は脱出に成功し、ルフィも爆風に飛ばされながらも、無事生還を果たした!
だが、その直後に逆上したアルナージがサニー号を襲撃してきたが、すかさずナミの機転で船から弾き出した!
その後、集落に戻った麦わらの一味は、元研究員がナミの血液で作り出した血清をもとに、ようやくワクチンを完成させ、それをナミに注入した後、今まで彼女の体を蝕み続けていた“エクリプス・ウィルス”は完全に死滅し、元の人間の体へと戻っていった……!
そして、集落の人達と元研究員に別れを告げ、麦わらの一味は再び“新世界”の航海へと旅立った……!
まあ、第一部“死闘・フッケバイン編”の内容はこんなものですが、一部“ワンピース・フィルム・ストロング・ワールド”との内容と類似する点がたくさんあります!もし、企画が決まった場合、この後の“激闘・特務六課編”と同様、都筑真紀先生と藤真拓哉先生、緋賀ゆかり先生と尾田栄一郎先生との話し合い等で考えても構いません!

981謎深き男(笑):2012/09/02(日) 22:48:30 ID:/DnxV8Po
それではもう1つ、『激闘・特務六課編』のストーリー内容についても自分なりに考えてみたので、是非見てください!
フッケバインとの死闘から約数週間後のある日、麦わらの一味は“新世界”での航海中、突如空に次元の歪みが発生し、その中から謎の少女が落ちてきて、ルフィはその少女を助けたあと、彼女を一味の仲間として迎え入れた。
それから、その少女と一緒に笑い、一緒に歌い、一緒に遊び……。そんな彼女との面白おかしい日々が長く続くと思われた……。
だが、ある日サニー号の後方から飛空艇らしき影が現れ、停船命令をかけてきた後に、時空管理局の局員を名乗る者たちが船へと乗り込んできた。
彼らは、一味が匿っているあの少女の身柄引き渡しを要求してきたが、ルフィは断固拒否!その後、サニー号船内での戦闘となり、序盤は一味が優位に立っていたが、後から駆けつけてきた高町なのはの参戦により戦況は一転、一味の圧倒的不利な状況へと変わってしまい、あのゴム人間のルフィですら脱け出すことができない拘束魔法をかけられ、なのはが得意とする全力全開の砲撃魔法“スターライト・ブレイカー”を放たれた瞬間、たまらず飛び出した少女が一味を庇い、その砲撃をまともに受けてしまう!そして、その少女は傷だらけの体で最後の力を振り絞り、自らが持つ強大な力をルフィに託し、消滅してしまった……。
そんな彼女の死を目の当たりにしたルフィの脳裏に、マリンフォード頂上決戦での悪夢が甦り、再び失意のどん底に墜ちてしまう……。
ついに追い詰められた一味は決死の逃亡を謀るも、局員らの一斉砲撃を受け、やがてサニー号は沈み、一味全員も海ヘと放り出されてしまう……!
その後、麦わらの一味は全員逮捕され、それから次元拘置所へと送られるのかと思われたが、一味全員の持つそれぞれの能力に興味を抱いたなのはは、突然彼らを自らが戦技教導官として主導している模擬訓練に参加させたいと言い出し……。
それから、なのははかつて六課の新人達だったメンバーらを集めて、一味全員を模擬訓練に参加させたが、少女を守れなかった絶望と時空管理局ヘの怒りに狂ったルフィは、なのはに歯向かおうとする。あわててナミとウソップは、上手く機転を利かせてその場をやり過ごしたほうがいいと説得するが、ルフィは聞かず、そのことに訓練参加者の一人のスバルがルフィを止めに入るも、逆に殴り飛ばされる。そして、他の一味もなのは達に対する憤りを表し、再び戦闘となってしまうが、なのはの下で厳しい訓練を積み重ねてきた六課のメンバー達の前では、麦わらの一味もかなり苦戦を強いられ、ルフィもなのはの高度な戦術の前に全く歯が立たず、意図も簡単に一味全員が制圧されてしまった……!
その後、一味の怪我が回復する度、何度もなのはや六課のメンバーらに戦いを挑み続けるが、ことごとく制圧されるという日々が続いていった……。
一方、麦わらの一味が全員時空管理局に拘束されていることを知ったボア・ハンコックやペローナをはじめとする(マリンフォード頂上決戦以降の二年間お世話になった方々《当然、あの新人類軍団も登場。》。)は一味を救出するため、ミッドチルダの首都クラナガンにある時空管理局・地上本部を襲撃!局員らとの激しい戦闘の末、見事一味を救出することに成功する!
その後シャボンディ諸島ヘ向かい、再びレイリーの下で修行を積むこととなる……。

982謎深き男(笑):2012/09/02(日) 22:51:58 ID:/DnxV8Po
(上記の続き。)
それから長い月日が流れ……。麦わらの一味の行方を捜索していた管理局は、ついにシャボンディ諸島で彼らが潜伏しているところを発見し、なのは達が過去に活躍してきたかつてのメンバー達で編成された特務六課を中心に、各部隊は麦わらの一味全員を再び制圧するため、シャボンディ諸島ヘと出撃した……!
そして、三度“麦わらの一味”と“特務六課”が激突するわけですが、その最終決戦の各キャラクターの取り組み形式を想像してみますと……。
モンキー・D・ルフィVS高町なのは
ロロノア・ゾロVSフェイト・T・ハラオウン
ナミVSヴィータ
ウソップVSティアナ・ランスター
サンジVSエリオ・モンディアル
トニートニー・チョッパーVSキャロ・ル・ルシエ(フリード)
ニコ・ロビンVS八神はやて
フランキーVSスバル・ナカジマ
ブルックVSシグナム
CW-ADXラプターVS今後一味に加わる予定のキャラクター
シャッハ・ヌエラVSシルバーズ・レイリー
ギンガ・ナカジマVSジンベエ
トーマ・アヴェニールVSボア・ハンコック
アイシス・イーグレットVSエンポリオ・イワンコフ
なのはファン(希望のある方)VSペローナ
その他時空管理局員VS新人類等の一味の恩人達
元ナンバーズの面々VSボア・マリーゴールド&ボア・サンダーソニア
そんな特務六課の高度な戦術に苦しみながらも、何とか彼らを倒すことができた一味だが、あらゆる拘束魔法と新武装で攻めてくるなのはの前に大苦戦するルフィ!だが、気合いと怒り、そしてルフィを庇い死んでいった“あの少女”から託された“ロストロギアの力”で何度も立ち上がり、そして執念でしかけた打撃と見せかけた掴み投げが決まって形勢逆転!その後、なのはのデバイス(レイジングハート)を破壊し、さらに魔法が使えなくなるよう彼女の両腕をもへし折ったルフィは、死の恐怖に怯えるなのはに容赦無い鉄拳制裁を下し、とどめの一撃でLS級艦船ヴォルフラムとそのクルー達、ロビンに敗れたはやてごと海に沈め、一味は修復したサニー号に乗り込み、三度“新世界”の航海へと旅立って行った……。

983GadeUnmanda:2013/05/14(火) 23:05:37 ID:f8nEykY2
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984GadeUnmanda:2013/05/14(火) 23:07:54 ID:f8nEykY2
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985GadeUnmanda:2013/05/14(火) 23:20:42 ID:f8nEykY2
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991 ◆jTyIJlqBpA:2013/05/16(木) 19:11:01 ID:gHbTqa0c
規制食らったので続きはこちらに投下します

992 ◆jTyIJlqBpA:2013/05/16(木) 19:11:37 ID:gHbTqa0c
淳に頭を下げ、やった、とフェイトは内心で喜んだ。どうやら探りは上手くいったようだ。
「来い」と言い、つかつかと先を行く淳の足取りに合わせて、フェイトもその後をついて行く。

実のところ淳はフェイトの美貌、そして育った胸や体つきに目を付けただけなのだが、フェイトにそれに気づく感性は無かった。



―――――――――――――――――


やがて林を歩いていると、前方の道が横たわる大量の土砂と倒れた樹木によって途切れていた。あの地震によって地面が崩れたのだろう。
しかし偶然にも途切れた道の左手に、フェイトの目線生け垣を下りると、二人の目の前には棚田が広がっていた。棚田は石を積み上げて作られており、見たところ先の生け垣も棚田の一部だったようだ。
その棚田を飲み込んでいる崩れた土砂に、街灯を押し曲げられ、倒れかかっている。

田のいずれもが赤い水に満たされており、それらはまるで山伝いに上へと伸びる、無数の血の溜め池のようだった。
そんな異様な光景に、フェイトは恐れおののきつつも、その中を先導して歩く淳から話を聞いていた。
聞くところによると、淳はこの村の教会に向かっているようだ。そこは比較的安全らしく、避難して来ている人も少なからずいるらしい。
もしかしたらキャロやティアナもそこにいるかもしれない。日本奥地のこんな閉鎖的な村に、西洋宗教の教会があることに疑問を感じつつも、フェイトは望みを掛けてその教会を目指してついて行くことにした。

棚田を囲むように通っている広い道をゆっくりとしたペースで歩く二人。変異した村人の確かな気配を近くに感じたが、とりあえず今のところは自分達が気付かれるような位置にはいないようだ。

相変わらず深い靄に包まれた景色の中で、周囲を壁のように囲む山の稜線が巨大な影となって見える。

妙に閉鎖的な雰囲気が漂う場所だな。かつて日本に住んでいた経験があるにも関わらず、まるで知らない場所にいるかのような気分だ。
そうフェイトは思いながら周りを見渡していると、ふと棚田の中に立つ、木材を奇妙な形に組んだ案山子のようなものを見つけた。
しかし手袋や農夫の格好をしているわけでもなく、そもそも人の形をしていない。
更によく見て、フェイトは息を呑んだ。
犬だろうか、剥がされた獣の皮らしきものが無造作に縫い合わされ、組木の天辺にかぶせてある。

993 ◆jTyIJlqBpA:2013/05/16(木) 19:13:03 ID:gHbTqa0c
なぜ閑散とした棚田の中にそんな禍々しいものが立っているのか。そんな、組木を凝視するフェイトの様子に、淳が気付いた。

「あぁ、あれは眞魚字架だな」

組木を一瞥しながら、なんともないように淳は言った。

「マナ字架?」

「この羽生蛇村に古くからある眞魚教の象徴だ」

「マナ教……」

その名前を確かめるように、フェイトは呟いた。聞いたこともない宗教だ。教会と聞いたからにはキリスト教やそれに似た宗教かと思っていたが。
一応、マナ教という名前に注意をしつつも、フェイトは一番聞きたい情報を得るために、話を切り出した。

「……ところで、神代さんはどうしてあそこで倒れていたんですか?」

すると淳は恥じているのか、しばしの沈黙の後、やや言いにくそうにしてから答えた。

「妹と、緑色の服を着た男にやられたのさ」

「妹?それが、みやこっていう?」

「ああ」

誑かしやがって、という先程の言葉を思うに、その男に妹が教唆されて淳を襲ったということなのだろう。

「それでその……緑色の服を着た人というのは?」

「さあな。ただ、あの出で立ちは外部から、都市部から来た奴に違いないだろう。
秘祭を盗み見ていた上に美耶子を誑かしやがって」

淳の口から、また『ひさい』という言葉が飛び出した。フェイトはそれを糸口に、淳の知っている秘密を聞き出そうとした。

「その『ひさい』ってなんなんですか?」

すると淳は振り向き、フェイトを睨み付けて、即座に答えた。

「その名の通りだろ。一部の者以外に知られてはいけない祭、儀式だ。
だからもちろん、お前にその内容を教えることはできない」

その言葉から『ひさい』が『秘祭』と表記するだろうことは予想がついた。淳の様子や言動からしてそれは、村の中でもタブーな存在なのかもしれない。
みやこ、という淳の妹も何かしらの役割としてその儀式に必要な人物に違いない。
そう考えると淳が、秘祭を盗み見てみやこを連れて行った『緑色の服を着た男』に怒りを覚えるのも仕方がないと思える。

しかし、ふと推理して思った。
それがこの異変となんの関係があると言うのだろうか?あるとして、そこに一体どんな秘密があるのだろう。
疑問に思い、フェイトは即座に淳に質問を投げかけた。

「その秘祭、というのはなにかこの異変と関わりが?」

「あるさ。儀式が失敗したから、俺達は神である堕辰子の怒りに触れて、この異界に放り込まれたんだ」

994 ◆jTyIJlqBpA:2013/05/16(木) 19:14:11 ID:gHbTqa0c
「はい?」

思わず聞き返したフェイトに、淳は鬱陶しそうにため息を吐きながらも、同じことを繰り返した。

「だから儀式が失敗したから、俺達は異界に放り込まれたんだよ」

思わず足取りが止まりかけた。なんとか歩みを続けながらも、フェイトは口を開けたまま絶句した。
とりあえず、その儀式とやらとこの状況が直接的に関わりがあると淳が言っていることは分かった。しかし、神に『だたつし』、異界……話が突飛過ぎるが、淳に嘘を言っているような態度は無い。
混乱して口を噤んだフェイトの方に、淳は怪訝そうに目を細めて振り向いた。

「どうした?今度はだんまりか」

「いや……その」

色々聞きたいことはある、が、ありすぎて逆になにから聞けばいいのか分からないというのが、フェイトの心境だった。

「驚いたにしても、お前は表情が分かりやすいな。流石は外国人だ」

冷ややかに笑う淳を前に、フェイトのこんがらがった思考回路は徐々に解けていった。だたつしとは?ここが異界なのか?異界とはどういう意味なのか?
質問は多々あるが、先程の言葉をそのまま受け取るなら、淳は自分から、自分がこの状況の原因と関わっていると自ら白状したようなものだ。
本当にそれが原因なんだとしたら、その秘祭とやらは管理局で言う重犯罪に判定されかねない危険なことなのかもしれない。
それに原因が分かれば、この状況への打開策が見つかるかもしれない。なんとしても、その秘祭とやらの全容を知っておかなければ。

「……その儀式はなんのための儀式なんですか?」

「お前は俺の話を聞いていなかったのか?秘祭の内容は一切教えられない」

やはりそう簡単には教えてくれないだろう。歯がゆくて、苛立たしく拳を握り締める。もし魔法が使えたなら、局員を名乗って少々強引だとしても話を聞き出せるのに。

「じゃあ、だたつしってなんなんですか?なんて書くんですか?」

「ふん、それを知ってどうする?」

更に小馬鹿するように鼻で笑う淳に、流石のフェイトも語調が強くなる。

「知りたいから聞いているんです!」

「それが人に物を聞く態度か?」

フェイトの大声に反応し、淳も表情に冷たい怒りを見え隠れさせる。しかしフェイトも、この期に及んで傲慢な態度をとり続ける淳に対し呆れにも近い苛立ちを覚えた。

「物を聞く態度って……こんな状況なのにどうしてそんなことを言えるんですか?」

995 ◆jTyIJlqBpA:2013/05/16(木) 19:15:05 ID:gHbTqa0c
幾分か感情を表情に出しながら、フェイトは言った。すると淳はあからさまに不快な顔をしながら「ちっ」と大きな舌打ちをして、何も言わずにフェイトから顔を背けて歩き始めた。

「ちょ、ちょっと!まだ話は……」

フェイトがその腕に掴みかかると、淳はその手を引き離そうと激しく抵抗した。

「うるさい!離せ外国人!」

「あなたこそ!どうして話してくれないんですか!?」

「何度も言ってるだろ!痴呆なのかお前は!?」

「痴呆って……」

雨に濡れた泥道の真ん中で堂々と掴み合い、大声で怒鳴る淳と、それに比べれば静かな声で言い返すフェイト。
淳に掴みかかりながら、こんな姿を局の仲間達に見られたらきっと呆れられ窘められるだろう、とフェイトは不意に思った。
だがそれも全ては、仲間達の元に戻ってからの話である。そのために、この男の持つ情報は必要不可欠なのだ。

「とにかく話を!」

「うるさい!」

淳が叫んだ、その直後だ。

ぱぁん

どこからともなく甲高い、乾いた破裂音が聞こえてきた。ほぼ同時に、淳を掴んでいたフェイトの腕に何かが掠る。
即座に鋭い痛みが腕に走り、見ると服が切れ、裂けた皮膚から血が溢れ出していた。
淳とフェイトは途端に黙り、血相を変えて離れた。辺りを見渡すが人影は見当たらない。
あの音、服の切れ目から焦げたような臭いがする。

(は、発砲……!?)

間違いない、誰かに銃器で狙われている。フェイトが腕を押さえていると、すぐ近くの茂みからがさがさと音がした。
即座に振り向く二人に、鉄の塊が向けられる。

「了 解…… 射 殺 し ます」

そう言って二人に拳銃を向けていたのは、目から血を流した蒼白の警官だった。

息を呑む二人に向けて、警官は容赦なく引き金を引いた。再び鳴り響く発砲音に二人は身を竦める。
放たれた弾丸は地面に着弾したらしく、足元から甲高い音が聞こえてきた。

「くそっ!!」

淳はそう言い捨てると、即座にその場から元来た道に向かって走り出した。
フェイトは、淳を追おうと駆け出しそうになった衝動を抑え、逆方向の道に目をやった。

(……仕方ない!)

淳から聞き出したいことは多々あったが、同方向に言ったらあの警官に追撃され兼ねない。
まずは命だ。二人とも安全に退避するため、警官を攪乱するためと、フェイトは淳とは逆方向へと駆け出した。

996 ◆jTyIJlqBpA:2013/05/16(木) 19:15:58 ID:gHbTqa0c
「待ち なさ あ ぁあ い」

警官は制止を呼び掛けながら、フェイトの背中に向かって発砲した。
飛んできた弾丸は、揺れ動くフェイトの金髪を結ぶリボンに当たり、それを引き裂いた。
広がる髪の毛も意に介さず、フェイトは全速力で走り続ける。
今の騒ぎで他の村人達にも気付かれた可能性がある。一刻も早くこの地から去りたかった。

途中、橋が崩落した堀があったが、勢いでそれを飛び越える。着地してからも走り続け、傷付いた腕を庇いながらフェイトは思考した。

まだ淳の言ったこと全てが信用に足るかも分からないが、先の話を信じるとなると、今起きている異変は、この村に根付く土着信仰と何か深い関係にあるらしい。
近頃管理局を騒がせているレリックや戦闘機人が絡んでいるという可能性も無きにしも非ずだ。

だが、淳に会ったことでフェイトの行動方針は固まった。
一つは、淳の零したマナ教とやらの概要、秘祭や『だたつし』についての調査。また一つは緑色の服を着た男と『みやこ』との接触。
キャロとティアナや、他の生存者との合流は引き続き目指すとして、まずは淳の連れて行こうとした『教会』に向かいたい。

(でも、その教会って一体どこに……)

問題はそこだ。淳からは教会とやらの場所を聞いていないためにどうやって行けばいいのか全く分からない。
ただ漠然と、『ここの近くにある』とは言っていた気がする。それに淳が先導していた道はこの方向だったし、なんとかなるかもしれない。

(……でも取りあえずは、ここを離れなきゃ)

こちらへと向けられる無数の意識達を、例の能力で確かに感じながら、フェイトは泥を蹴散らして道を駆け抜けて行った。

997 ◆jiPkKgmerY:2013/05/23(木) 23:20:16 ID:95QYaPs.
本スレへ投下できないのでコチラへ

久し振りの投下となりますが、リリカルTRIGUN第二十三話投下したいと思います

998 ◆jiPkKgmerY:2013/05/23(木) 23:21:40 ID:95QYaPs.



 ―――星にひとつの伝説が穿たれた。 

 人々は見た。
 地上から伸びる白色の極光。
 世界が怯えるように震え、音を立てていた。
 それはまるで世界の終焉が始まったかのよう。
 常識という枠から外れた天災。
 人智を越えた現象。
 その現実とは思えぬ光景に、人々はただ寄り添う。
 そうしてなければ圧し潰されてしまいそうな『跡』であった。

 悠久の時を惑星に寄り添い見守っていた衛星。
 夜天にて惑星を見降ろしていた雄大の星。

 そこに刻まれた、暗い穴。

 穿たれた星は毎夜として人々に語り掛けるだろう。
 全ては夢ではないと、全てはあったことなのだと。

 その時、何があったかを知るのはたった一人の少女だけ。
 何も知らぬ人々は、ただ息を呑み、空を見上げるだけであった。








 八神はやては暗闇の中で目を覚ました。
 何か音が聞こえた気がしたのだ。
 床を踏みしめる音か、はやては細く目を開き、霞がかった意識を暗闇へと向ける。
 まどろみでぼやける視界の中には、人影があった。
 暗い部屋の中で枕元に立ち尽くす者。
 薄ぼんやりとしたものでありながら、それでもはやてにはその者が誰なのか分かった。

「……シグナム?」

 間違える訳がない。分からない訳がない。
 彼女の大切な大切な家族。
 鮮やかな桃色の髪、凛々しさと優しさが入り混じった顔立ち。
 鮮明となっていく意識が烈火の将の姿を浮き彫りにさせていく。
 
「帰ってきてたんか……どうしたん、こんな遅くに……」

 主の問い掛けに、シグナムは無言であった。
 結局、昨夜は夕方に何処かへ出かけたきり、待てども待てども帰宅する事はなかった。
 何時の間にか眠ってしまったはやてであるが、あえて言及をしようとは思わない。
 無事に何事もなく帰ってきてくれた。それだけではやては満足であった。
 ただ微笑みを携えて口を閉ざし、はやてを見詰めるシグナム。
 その表情は、その瞳は、まるで母親のように温かなもの。
 シグナムは黙ってはやての頭に手を伸ばし、優しく撫でた。

「なんや、いきなりー」

 くすぐったいような、むずがゆいような、ふわふわとした感覚。
 嫌な感じは少しもなく、心中に温かな何かが湧き出るのが分かる。
 ずっとずっとこうしていたい。素直にはやてはそう感じた。

「あったかいなあ、シグナムは」

 頭で動く温かな感覚に身を任ていると、眠気がさざ波のようにゆったりと迫ってきた。
 意識は再びぼんやりとしたものとなり、暗い中に沈んでいく。
 温かな気持ちのまま、温かな眠りの中へと落ちていく。

「ずっと一緒やよ。私たちはずっとずっと……ずーっと一緒や……」

 まどろみの中で零れた言葉は、八神はやての偽りならざる本心であった。
 ようやく出会えた『家族』。
 その温かな生活を、ずっとずっと続けていきたい。
 そう、ずっとずっと。これからもずっと、永遠に……。


「……申し訳ありません」


 眠りへと落ちる瞬間、最後に聞こえてきた声は優しげで、だが何処か悲しくも聞こえるものであった。
 それきりはやての意識は再び床に付き、そうして場に残されたのは烈火が騎士が一人。
 シグナムはそれから数分はやての頭を撫で続けた。

999 ◆jiPkKgmerY:2013/05/23(木) 23:22:18 ID:95QYaPs.
「別れは、すんだか」

 心地よい沈黙。
 それを打ち破ったのはナイブズであった。
 はやての傍らに立つシグナムを、無表情に見詰める。

「……ああ」

 答えたシグナムは沈痛な面持ちで立ち上がった。
 申し訳なくて仕方がないのだ。
 主の願いも聞き入れられず、その盟約すら破らざるを得なくなった事に。
 それでも前に進まなくてはいけない現状。
 自分に力があれば、自分に冷徹な心があれば……悔恨は留まる事を知らずに次から次へと浮かび上がってくる。

「すまないな。わがままを聞いてもらって」
「かまわん。おそらくは、これが最後になるだろうからな」
「……そうだな」

 再びの視線をシグナムは寝息をたてる主へと向けた。
 守りたい、守られなばならぬ主。
 もう決意したことであった。もう覚悟したことであった。
 だが、烈火の将の強靭な決意と覚悟をもってしても、それは尋常ならざる悔いを生み出す。
 もう一度あの幸せな時間を、と願わずにはいられない。
 深すぎる親愛の念は、身を切り裂かれんばかりの痛みとなって心に渦巻く。
 それでもシグナムは主から視線を外した。
 万感の想いを断ち切り、ただ主の平穏を願って、主へ背中を向ける。
 これから待ち受ける戦いは過酷なものなのであろう。
 肉体的にも、おそらくは精神的にも。
 シグナムは既にナイブズから話を聞いていた。
 これから自分たちが行う外道の術を、主の約束からも守護騎士との誓いからもは余りに掛け離れた手段を。
 だが、もうこれしかないのだ。
 主が無事な日々を過ごすには、これしか残っていない。


「行くか」
「ああ」

 二人の人外が言葉を交え、寝室から足を踏み出す。
 寝室を出た先にあるのは、『家族』と一緒の安寧の時を過ごした空間。
 瞳を閉ざせば、今にも瞼の裏へと浮かぶ。
 戦いしか知らぬ騎士達を『家族』として扱い、人としての感情を与えてくれた場。
 自然と浮かべられるようになっていた笑顔は、もはや忘れる事はないだろう。
 無人のリビングを眺めながら、過去に想いを馳せる。
 そんな自分に対して嘲りを感じながら、シグナムは表情を変えた。
 これより突入する修羅の道。
 これより自身が行う事を知れば、心優しき主であろうと軽蔑し、侮蔑し、嫌悪する筈だ。
 二度と笑いかけてくれる事も、『家族』と呼んでくれる事もないだろう。
 もう自分が心底からの笑顔を浮かべることなど許されない。

(……それでも構わんさ)

 全ては覚悟の上だ。
 やり遂げる。やり遂げなければならない。
 罪は全て将たる自分が背負おう。


「主はやて。あなたはどうか幸せの内で……」


 決意と共に、烈火の騎士は言葉を残す。
 彼女は気付いていない。
 後方にて佇む男の、その表情が愉悦に歪んでいる事を。
 全てが男の掌の上で転がされているという事を。
 知らず、悲壮な覚悟で場を後にする。
 二人が出て行った八神家に遺されるは痛いほどの静寂。
 全てが動き出した状況で、闇の書が主たる八神はやては未だ何も知らずに眠り続ける。
 






 ―――ヴァッシュ君がバイトを休んだ。

 それは時折ある事であったし、今更どうこう言う事でもないのかもしれない。
 彼のお陰で大分助かっている事は事実であるし、殆ど無償で働いてもらっているのだ。
 多少のサボりくらいは目を瞑ろうとも思う。

 だが、今日に限っては話が違った。

 昨夜、桜台を中心として発生した謎の現象。
 消えてしまった桜台と、空の彼方にある衛星に刻まれた『跡』。
 理解の範疇を越えていた。常識の範疇を越えていた。
 全ては、まるで夢の中のような非現実的な光景であった。
 しかしながら、いくら現実逃避をしようと視線を少し上げるだけで、それは実際としてそこにある。
 日本は、いや世界はバケツをひっくり返したかのように騒ぎ立てた。
 空を飛ぶメディアのヘリコプターは一機や二機ではとても聞かない。
 リモコンを押すと、プツリという音とともにテレビが付く。
 テレビは、どのチャンネンルでも、昨晩から緊急特番で今回の事象をずっと取り上げていた。
 テレビの中のリポーターは興奮したような口調で、こう告げていた。

1000 ◆jiPkKgmerY:2013/05/23(木) 23:23:13 ID:95QYaPs.
『ここが巨大隕石が落下したとされる海鳴市桜台です―――』


 冗談だろうと思ってしまう。
 下らなすぎて、苦笑すら浮かばない。
 あれは、そんなものではない。
 隕石などといった言葉で片付けられる現象ではない。
 誰もが誰も見たのだ。
 地上から伸びる白色の極光を。世界を呑み込む白色の極光を。
 数十万キロと彼方に在る衛星を穿つ極光を。
 見た。
 誰もが。
 それこそ老人から子どもまで。
 世界が終わるやもしれぬ光景を見たのだ。
 それを人間の知識の内に在る言葉で説明しようという事が、烏滸がましくすら思えてしまう。


 うんざりとした気分でテレビを消し、カウンター奥の椅子へと座る。
 昨日今日ではどうせ客も来やしないだろうと思いきや、ちらほらと常連の姿が見える。
 この状況でも喫茶店に足を運んだり、会社へ出勤し、あくせく働く者いるのだから人間は分からないものだ。
 いや、あえて日常へ身を浸からせる事で、現実から目を背けようとしているのか。
 かくいう自分もその口だ。
 何時も通りに起床し、何時も通りに仕込みを行い、何時も通りに店を開けた。
 染み付いた習慣とは恐ろしいもので、殆ど呆然の中でありながら普段と変わらぬ動きができた。
 見回すと、来店した客たちは心ここにあらずといった様子でボンヤリと座っている。
 いかに日常に逃げ込もうと、全ては現実として重く圧し掛かるのだ。
 誤魔化し切れぬ現実がそこにある。

「あなた……」

 不意に声が掛かる。
 顔を上げると、そこには心配そうな表情で俯く桃子がいた。
 愛する妻。
 彼女は横に椅子を並べて座り、身体を寄せてきた。

「なのはとヴァッシュさんは大丈夫なのかしら」

 重い口調で紡がれる。
 そう、本当の心配の種はそこにあった。
 昨日より姿を見せない愛娘と、一人の居候。

「なのはは大丈夫さ。フェイトちゃんやリンディさんも付いてくれてるんだ」

 愛娘については連絡は付いていた。
 友達のフェイトちゃんの家に数泊するとメールが来た。
 昨日の今日なのだ。直ぐに帰ってこいというメールを送ったが、珍しくも反抗的な返信が来た。
 フェイトちゃんの保護者であるリンディの話によると、帰りたくないと駄々を捏ねているとのことだ。
 フェイトちゃんも昨日の大災害で怖がってしまい、なのはと共にいることを望んでいるらしい。
 短い付き合いではあるが、リンディさんは信頼のできる女性だと思う。
 電話にてなのはの無事な声も聞いた。
 ならば、仕方ないかとも思う。
 あの年頃にもなると、家族といることよりも親友といることを心強いと感じるものなのだろう。
 そうすることで少しでもあの大災害の恐怖を忘れられるというのなら、それで良い。

「でも、ヴァッシュさんは……」
「……そう深く心配することもないさ。彼の事だ。今にもひょっこりと顔を出すだろうさ」

 もう一人の男―――ヴァッシュ君には連絡すらつかないでいた。
 部屋に姿はなく、持たせた携帯電話も通じない。
 知り合いに聞いてまわるも、ヴァッシュの姿を見たものはいない。
 もしや、と考えてしまうのを止められない。
 だが、その一方で彼がそう簡単に、とも考えてしまう。
 とある世界で『人間台風』と呼ばれていた賞金首。
 銃が支配する世界で賞金首という餌を首にぶらさげられ、身体に数多の傷を負いながらも生き延びてきた男。
 そんな男が、そう簡単に消えてしまうものか……そう信じたい。

「彼なら大丈夫さ。きっと……」

 妻の肩を抱き、優しく告げる。
 返事は頷くだけに終わった。
 自分の言葉は、強がりにしか聞こえなかっただろう。
 それでも、そう言わないと二度と帰ってこない気がしてしまうのだ。
 あの短くも騒がしく、賑やかだった日々が、もう二度と―――。

「……きっと帰ってくるさ」

 自身に言い聞かせるよう、呟く。
 一変してしまった日常が、ゆっくりとゆっくりと過ぎていく。




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