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>>2「>>2の3分クッキングの時間だよ!」 PartⅩⅩⅧ

1 ◆WsBxU38iK2:2020/06/17(水) 00:12:06 ID:Ye6lfww6
安価スレのようなそうじゃないよう
なSSスレ


前スレ(ⅩⅩⅦ)
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1556555843/

前前スレ(ⅩⅩⅥ)
https://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1531398039/

前前前スレ(ⅩⅩⅤ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1520423523/

前前前前スレ(ⅩⅩⅣ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1513250979/

前前前前前スレ(PartⅩⅩⅢ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1507460469/

前前前前前前スレ(PartⅩⅩⅡ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1501931181/

前前前前前前前スレ(PartⅩⅩⅠ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1496660857/

前前前前前前前前スレ(PartⅩⅩ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1491735745/

前前前前前前前前前スレ(PartⅩⅨ)
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/anime/10627/1487495156/

前前前前前前前前前前スレ(PartⅩⅧ(再々))
http://karma.2ch.net/test/read.cgi/lovelive/1486897355/

2 ◆WsBxU38iK2:2020/06/17(水) 00:12:47 ID:Ye6lfww6
○てんぷれ


過去編〜土曜編までの略年表
http://urx.mobi/BK9a

日曜編チャート
http://urx.mobi/BK9h

終末編チャート1(『200』まで)
http://urx.mobi/BK9i

終末編チャート2(『201』以降)
http://ur0.link/CNAi

新終末編チャート
http://urx2.nu/L1ur

新終末編・焔チャート(更新)
bit.ly/2B51aGH

現在の登場人物の図(更新)
bit.ly/37EwN6p

3 ◆WsBxU38iK2:2020/06/17(水) 00:13:22 ID:Ye6lfww6
○Part表


Part1 Part2:クッキング編
Part3:クッキング編〜前世編〜土曜編秋葉原深夜決戦前
Part4:土曜編秋葉原深夜決戦〜日曜編序盤
Part5:日曜編(ディズニーシー決戦編、博物館編、冥界内乱編、ビワッシー編、アノールロンド編)
Part6:日曜編(アノールロンド編、幕張メッセ編、英玲奈家襲撃、ドスケーブ城厨房騒動)
Part7:日曜編(病院編、亜里沙編、魔王軍過去編、ドスケーブ城襲撃編)
Part8:日曜編(魔王様日記編、亜里沙北海道編)
Part8再:日曜編(大雪山拠点決戦)〜終末編(ドスケーブ城防衛戦、津軽海峡偵察戦、神田明神地下研究所編)
Part9:終末編(大阪防衛戦)
Part10:終末編(滋賀・琵琶湖追撃戦)
Part11:終末編(ロシア編、ドスケーブ城三者会談、深海とっり編)
Part12:終末編(冥界襲撃・対ミナ仮面勢力編)
Part13:終末編(深海バーミヤン編、竜宮城編)
Part14:終末編(イオンモール草津パニック編)
Part15:終末編(名古屋編、空中名古屋支部〜ドアラランド突入)
Part16:終末編(黄金ドアラランド決戦・前)
Part17:終末編(黄金ドアラランド決戦・中)
Part18:終末編(黄金ドアラランド決戦・後)
Part19:終末編(凍結名古屋決戦)
Part20:新終末編(狭間の世界編、冥界ムスペル編、天空の城編、音ノ木坂跡編、GODの里編、ほのキチ倶楽部VS魔王キチ団前編)
Part21:新終末編(ほVS魔後編、玩具の箱庭編、VS新魔王編、UTX跡編、名古屋凍結砂漠編、バーミヤン下層編、関門海峡偵察編、魔の海域編)
Part22:新終末編(琵琶湖再び編、バーミヤンVSヨルムンガンド編、VS神造人間編、ドスケーブ城崩壊編)
Part23:新終末編(音ノ木坂跡アルパカウイルス編、北方領土地下空洞編)
Part24:新終末編(浦の星女学院編、VS宇宙怪獣編、外郭界探索編、ロードス島地下編)
Part25:新終末編(ロードス島地下編、ヌーマーズ編) 新終末編・焔(ノーデンスエリア編、恥部エリア編、ゲームエリア編、貧弱様編)
Part26:新終末編・焔(にこにー御殿編、VSワルプルギス編、浮遊塔編、VS双子の穂乃果編、神戸編)
Part27:新終末編・焔(伊勢編、京都編、九州ハリケーン編、宇宙結界編、ムスペル決着編)

4 ◆WsBxU38iK2:2020/06/17(水) 00:14:04 ID:Ye6lfww6
◯前スレのあらすじ


神戸、京都、大阪での激闘
九州でのムスペルウォールの破壊と腹黒ムスペルの討伐
それらを乗り越えついに辿り着いたムスペルゲート
これで長きに渡るムスペルヘイムとの戦いに終止符が打たれる

はずだった……


物語は反転する

小さな終止符は火種となり、火のついた導火線は天へと伸びる
英雄となるはずだった少女はその身を炎へと投げ、世界の敵へと姿を変えた

全ては終焉を終焉たらしめるため、平穏な世界を取り戻すため
少女は天上の神々へと牙を剥く

さぁ、反転した物語に反抗の狼煙をあげよう   


ラグナロク真最終章
反逆の焔編、開幕

5 ◆WsBxU38iK2:2020/06/17(水) 00:16:26 ID:Ye6lfww6
てんぷれおわり

また適当にダラダラやっていきます
何かあれば適宜どうぞ


では本編

6 ◆WsBxU38iK2:2020/06/17(水) 00:17:13 ID:Ye6lfww6
反逆の焔編『1』

─────────────────
──全世界

AM5:15



ダル子(現在、地球の空は2つの色に染まっていた)

ダル子(1つは炎の紋章を象った赤い映像転送陣)

ダル子(もう1つは緑の槍の紋章を象った緑の映像転送陣)


ダル子(科学風に言えばホログラムのスクリーンというイメージが近いだろうか)

ダル子(発光していて半透明、片面にエンブレムが施され、もう片面に映像が流れるモニターが表示されている)

ダル子(そんな形のスクリーンが地球の空に数え切れないほど浮かび上がっている)


ダル子(世界中の人間……いや、この世界にいる人間以外の種族も含めて、全ての生物がそれを見上げていた)
 
ダル子(事情を知る者、知らない者、多種多様な反応がそこにはあるだろう)

ダル子(けれど、誰もが悟っていた、この世界に暮らす生物の本能として直感的に分かっていた)


ダル子(私たちは今、人と神が紡いできた歴史の重大な転換点を目撃してるのだと――――)



オーディン『……さて』



ダル子(宣戦布告以降、出方を伺っていた両者、その中で口火を切ったのはオーディンだった)

ダル子(槍を象った緑の映像転送陣、そのスクリーンに映るオーディンは穂乃果へ声をかける)


オーディン『宣戦布告は受諾した、では交渉を次のステップへ進めよう』

オーディン『ラグナロクに基づいた聖戦、だが具体的にはどうする?』

オーディン『誰が、何処で、どのように、そこを詰めていかねば話は進まないだろう?』


心ノ穂乃果『……うん、それについてもちゃんと考えてるよ』

ダル子(オーディンの質問に、炎を象った赤い映像転送陣、そのスクリーンに映る穂乃果が迷わず応える)


心ノ穂乃果『地上へ被害を出さないのがこちらの提示する条件』

心ノ穂乃果『戦いの場所はラグナロクの記述通りヴィーグリーズの野でどうかな』

オーディン『ふむ……』


ダル子(ヴィーグリーズの野はラグナロクにおいてスルトが地上と天上を繋ぐ虹の橋ビフレストを超えて到達する場所だ)

ダル子(オーディンらアース神族たちはそこで、攻め込んできたスルトや彼に引き連れられたムスペル、ロキやフェンリル、霜の巨人たちと最終決戦を行うことになる)

ダル子(ラグナロクをなぞるのであればこれ以上相応しい場所はないだろう)
 


心ノ穂乃果『何か不都合が?』

オーディン『いや構わない、こちらにとってもあの場所は戦のための場所という認識だ』

オーディン『此度の戦の舞台としては申し分ない』 

心ノ穂乃果『良かった、じゃあ次は戦いの形式、ルールについて話すね』


心ノ穂乃果『今回のバトルはずばり、>>7

7名無しさん@転載は禁止:2020/06/17(水) 00:22:04 ID:MP7miem2
ある程度記述に則った一対一

8 ◆WsBxU38iK2:2020/06/18(木) 00:15:54 ID:d7Ju8MGo
心ノ穂乃果『ある程度記述に則った一対一のバトルだよ!』

オーディン『一対一とは大きく出たな、神の力を舐めているか、それとも確固たる自信があるのか……どちらにしろ蛮勇だな』


心ノ穂乃果『こっちにいるのは5人、だからそっちも代表を5人出してもらう』

心ノ穂乃果『5対5で全部で5戦! それで決着をつけよう!』

オーディン『くっくっくっ……やはり愚か、だが分かりやすくていい、シンプルなのは私も好きだ』


心ノ穂乃果『おっ、ということは……』

オーディン『良かろう、その提案に乗ろうではないか』

オーディン『一対一、力と力のぶつかりあい、全世界に神の力と威光を堂々とアピールするまたとない機会だ』

心ノ穂乃果『よっし!』


ダル子(神とのタイマン……穂乃果は本気で言ってるの……?)

ダル子(スルトの力を取り込んだ穂乃果は別格として、他の4人……海未、ことり、にこ、希は人間の領域を逸脱しては無いはずなのに)

ダル子(オーディンの言う通り蛮勇か、焔ノ力の修行で何かを見出してるのか)

ダル子(とにかく現時点では不利なマッチと言わざるを得ない……)



オーディン『場所はヴィーグリーズの野、対戦形式は1対1の5連戦』

オーディン『改めて考えると戦争というより試合じみているな、勝敗を判定するにはフィールドや細かいルールを詰めていく必要がある』

オーディン『それには……ジャッジ役が必要だな』

心ノ穂乃果『うん、私もそう思う』


オーディン『勢力的に完全に中立な者……というのは難しい話か』

オーディン『これだけ世界を巻き込んだ戦いを行ってきたんだ、他神話世界、他次元世界の住人とてそちらに恩義がある者は多い』

心ノ穂乃果『そうだねぇ……』



ダル子(2人の間に流れる暫しの沈黙)

ダル子(確かにこの戦いの間に入って取り持つのは並大抵ことではない)

ダル子(そんなことが出来る人がそう都合よく見つかるはずはないだろう)


心ノ穂乃果『うーん……これはオーディンが良いならなんだけど、ジャッジやフィールドのセッティングはそっちで準備してくれると助かるかな』

オーディン『……良いのか?』

心ノ穂乃果『ん? 良いってなにが?』

オーディン『いや、戦いの場にこちらが手を加えたら不都合なのではないかと思ってな』

心ノ穂乃果『あー……そうだね、思わなくはないけど、私たちだけじゃ準備するのに人材も時間も足りないし』

心ノ穂乃果『それに、有利なアースガルズ側が全世界の見てる前で不正なんて働かないでしょ?』

オーディン『……ふっ、確かにな』



オーディン『よし分かった、ヴィーグリーズの野の整備と試合の運営はこちらで担おう』

オーディン『余ってる人材を総動員し、この世紀の勝負に相応しい決戦の場を作り上げようではないか』

心ノ穂乃果『うん、助かる』


オーディン『そして試合の進行に関わるジャッジ役は……そうだな、>>9に任せることにする』

9名無しさん@転載は禁止:2020/06/18(木) 00:36:03 ID:VXKPPnws
ダル子

10 ◆WsBxU38iK2:2020/06/19(金) 00:12:56 ID:NX3Z/hnc
オーディン『そうだな、ダル子に任せることにする』

心ノ穂乃果『おお! ダル子ちゃん!』


ダル子(なるほど、ジャッジ役はダル子に…………)

ダル子「……ってえぇ!? 私!?」


オーディン『そうだお前だ』ブォンッ!

ダル子「わっ!」ビクッ!

ダル子(急に顔の横に緑のフレームのスクリーンが現れ、その中のオーディンに話しかけられた)

ダル子(2人で会話してたから何となく察してはいたけど、この映像転送陣、向こう側からも見る場所を選べるみたいだ)


ダル子(私は恐る恐る緑のスクリーンに対して話しかける)

ダル子「えっと、その……私ですか?」

オーディン『そうだ』

ダル子「……っ」

ダル子(オーディンの眼力を有無を言わせぬ力強い返答)

ダル子(普段は遊び歩いて妻にお仕置きされてるような浮ついた性格なのに、こういう時だけ妙な迫力がある)

ダル子(これも主神故の格というわけか……)


オーディン『お前の能力なら勝負を判断するのに申し分ない、それにお前はミッドガルズとアースガルズ、両方の事情に首を突っ込んでいた』

オーディン『ジャッジ役が片方に肩入れするのは問題だが、逆に両方に肩入れしてる人材なら問題あるまい』

オーディン『どちらも公平に情があるならどちらかを特に贔屓することもないだろう』


ダル子「いや、肩入れなんて、そんなことは…………」

オーディン『ん?』

ダル子「……い、いえ、了解しました!」


ダル子「光の神、ヘイムダルが娘! ダル子! この大役引き受けさせて頂きます!」ビシッ!

オーディン『うむ、頼むぞ』

ダル子「はいっ!」


ブォンッ

心ノ穂乃果『よろしくね、ダル子ちゃん』

ダル子「………………はい」プイッ

心ノ穂乃果『ありゃりゃ、ちょっと嫌われちゃったかな』

ダル子「……いえ、勝負のジャッジは公平に行いますので心配なく」


ダル子(穂乃果さ……じゃないない、穂乃果はもう戦士の1人なんだ)

ダル子(μ'sだからと言って変に情をかけてはいけない、あくまで公平に、冷静に、私はジャッジ役を任されたんだから……)


ダル子「……ふぅー」

ダル子(大きく息を吸って吐いて気持ちを落ち着かせる)

ダル子「よしっ……!」グッ

11 ◆WsBxU38iK2:2020/06/19(金) 00:13:16 ID:NX3Z/hnc


オーディン『ではダル子、早速だがアースガルズに戻り準備に取り掛かってくれ』

オーディン『こちらもラグナロク運営本部を作りフィールド設営に向けて動かす』

ダル子「はいっ」



オーディン『そして人の子穂乃果よ、諸々の準備、こちらの代表戦士の選定を考えると決戦までに幾らか時間をもらいたい』

オーディン『アースガルズの時間で半日程度あれば間に合うと考えているが……どうだ? 了承できるか?』

心ノ穂乃果『問題ないよ、こっちもまだ仕込みが残ってるし』

心ノ穂乃果『決戦に向けてじっくりコトコト煮詰めていく時間を貰えるのは助かる』

オーディン『なるほど、では半日後にビフレストにポータルを開き現れるといい、使いを出して案内させる』

心ノ穂乃果『了解〜、遅れないように気を付けるね』


ダル子(想定していたより話し合いはスムーズに進んでいる)

ダル子(両者の余裕の現れなのか、変に衝突したりいがみ合ったりする気配もない……)

ダル子(……って、いけないいけない、私も既に当事者、いつまでも観客気分じゃいられない)ブンブンッ



オーディン『……よし、他に言っておくことがなければ通信は一旦切って準備に移ろう』

オーディン『何かあるか? 愚かな人の子よ』


心ノ穂乃果『他か、他に言っておきたいことは……>>12

12名無しさん@転載は禁止:2020/06/19(金) 05:46:05 ID:vqU36DyM
戦いのライブ中継もお願い!

13 ◆WsBxU38iK2:2020/06/20(土) 00:30:04 ID:scqgflQY
心ノ穂乃果「そうだ!戦いのライブ中継もお願い!」

オーディン『心得た、戦いの行く末を見届ける観衆は多ければ多いほど良いからな』

オーディン『中継班を組織してこの映像転送陣の要領で中継させよう』

心ノ穂乃果『うん、じゃあそれで』



オーディン『では次に合う時は決戦の地だ、首を洗って待っているが良い』

心ノ穂乃果『それはこっちのセリフ、絶対に負けないんだから!』


心ノ穂乃果『ラグナロクで勝つのはこの――――』

オーディン『ラグナロクで勝利を手にするのはこの――――』


『『『『私!』『私だ!』』』

ドンッ!!



シュンッ シュンッシュンッ シュンッ シュンッシュンッ

ダル子(2人がそう高々に宣言すると空に散らばっていた赤と緑の映像転送陣は次々に消滅していく)

ダル子(宣戦布告が終わり、最終決戦に向けて動いていく世界)

ダル子(もう引き返すことはできない、私も頑張らなくちゃ)


ダル子「よし、まずはアースガルズに向かう前に現場の引き継ぎを…………」

キョロキョロ

ダル子(私は辺りを見回して誰かいないか探してみる)

ダル子(とは言ってもミッドガルズにいる殆どのワルキューレとエインヘリヤルは城や船の制圧にかかりきり)

ダル子(私と同じようにゲート周辺を調査してるワルキューレとなると…………お、いたいた)


ダル子「あのー!」

??「……ん? どしたの?」

ダル子(私は一番近くにいた青髪で短髪のワルキューレに声をかける)

ダル子(彼女は穂乃果たちを拘束する際に私が呼んだワルキューレ姉妹の1人)

ダル子(背中に大きく2という数字が刻まれていて、腰には左右に2本の短剣)


ダル子「えーっと……」

ダル子(確か……名前は)


??「ああ名前? それならツヴァイノートだよ」

ダル子「す、すみません」

14 ◆WsBxU38iK2:2020/06/20(土) 00:31:59 ID:scqgflQY
ツヴァイノート「良いって、ワルキューレの名前は基本的に記号みたいなものだし」

ツヴァイノート「それにほら、私たち姉妹は神話に名前が乗ってるような歴戦のお姉さま方に比べると新参だからさー」

ツヴァイノート「ニーベルングモデル以降に生まれたワルキューレなんて無名も無名、名前覚えられてないなんてよくあること」

ツヴァイノート「覚えづらかったら2とか2番とかって呼んでもらっていいよ〜」

ダル子「だ、大丈夫です、しっかり覚えましたから」

ツヴァイノート「そう?」


ダル子(そういえば聞いたことがある)

ダル子(“とある1つの力”を5分割して生まれた特殊なワルキューレたちがいると)

ダル子(背中な刻まれた数字、それから名前……そのワルキューレが彼女たちなのだろうか)


ザッ

??「どうしました姉様」

ツヴァイノート「いやさ、この人が声かけてきて〜」

??「この人って……一応神族様ですよ」

??「姉様が失礼しました、改めまして、私はドライノートと申します」

ダル子「これはご丁寧に」


ダル子(ツヴァイノートと似た容姿で薄い桃色の短髪、けれどツヴァイノートとは対照的に落ち着いた真面目な雰囲気を持っている)

ダル子(ワルキューレとしての武器は……なんだろう、刃のないノコギリのような……薄い長方形の金属に柄が付いてる形の剣を腰にさげている)


ダル子「それであの、実は……」

ドライノート「審判の件ですよね、放送を見ていたので察しはつきます」

ドライノート「ここは任せてもらって構いません、ダル子様はどうぞアースガルズに戻って使命を果たしてください」

ダル子「う、うん」

ダル子(丁寧だけど……ちょっと取っ付き辛い感じはあるかな……)


ダル子「では私は戻るので、引き続き調査をお願いします」

ダル子「それと特記戦力……ロトーチカ、トゲわん、アレイスター、理事長には気を付けてください」

ドライノート「了解しました」

ツヴァイノート「気を付けてね〜」


ダル子「はいっ」

ダル子(私は2人に軽く会釈するとアースガルズへの転送術式を起動させた)

カッ!

15 ◆WsBxU38iK2:2020/06/20(土) 00:32:30 ID:scqgflQY


ダル子(天上から光の柱が降り注ぎ、私の体がすっぽりとその柱に包まれる)

ダル子(体に軽い浮遊感を覚えたかと思うと、すぐさま私の足は地面から離れ、天上へと吸い上げられる)

ヒュンッ!!


ヒュォォォォォォォォッ!!

ダル子(光の柱の中を通ってる間は外がどうなっているか確認することはできない)

ダル子(けれど自分の体が上へ上と昇っている感覚だけは感じられた)

ダル子(地上を離れ、ミッドガルズの領域を超え、天上の世界アースガルズへと――――)

バシュッ!!


ダル子「……到着っと」

スタッ

ダル子(私を包んでいた光の柱が消えると、私の体は建物の中へと移動していた)

ダル子(ここは移動先に指定したヴァルハラ内部の転送ポータルの間、どうやら問題なく転送されたみたいだ)


タタタッ

ロスヴァイセ「ダル子! こっちですわ!」

ダル子「ロスヴァイセ!」

ダル子(さて運営本部はどこだろうと私が考えていると、白い鎧に身を包んだワルキューレがこちらに走ってきた)


ロスヴァイセ「急いで! すぐ運営本部に案内しますわ!」

ダル子「すぐって……やけに焦ってますね、運営本部はどんな様子なんです?」

ロスヴァイセ「もー! それが>>16

16名無しさん@転載は禁止:2020/06/20(土) 08:54:24 ID:HqDJStTM
飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ

17 ◆WsBxU38iK2:2020/06/21(日) 00:09:29 ID:q.C1hzTk
ロスヴァイセ「もー! それが飲めや歌えのどんちゃん騒ぎで大変なのよ!」

ダル子「はぁぁ……!? 確かにラグナロク決戦はヴァルハラ全体を巻き込んだ一大イベント、気分が高揚するのは分からなくもないですが、今から飲んでどうするんです!」

ダル子「今から半日で準備を終わらせなくてはならないんですよ!」

ロスヴァイセ「ほんとよほんと〜、運営本部がろくに機能しないせいで私のような電話係まで駆り出されてる始末」

ロスヴァイセ「困り果てちゃってどうしようかと思ってとこなのよ」


ダル子「もぅ……仕方有りませんね、案内しながら状況を説明してください」

ロスヴァイセ「ええ、こっちよ!」

タタタッ

ダル子(転送ポータルの間から出た私はロスヴァイセの案内で運営本部が設営されてるという大広間へと向かう)

スタスタ スタスタ

ダル子(彼女の話によれば、そもそも運営本部というものは元々その場に設営されていたヴァルハラ司令本部の人員をそのままコンバートしたものらしい)

ダル子(中身が同じなら名前を変える必要があったのか……という疑問は出る) 

ダル子(まぁ、ラグナロクが全面戦争から少数決戦へ形を変えた今、名目上とは言え一旦解散して新たなチームを立ち上げる必要があったのだろう)


ダル子(しかしそこで気の緩みが起きた、と彼女は言った)

ダル子(ピリピリした戦争のムードから一転、どちらかと言えば決戦、大会、お祭り的な雰囲気が強くなったラグナロク決戦)

ダル子(一時の緊張から解放された運営本部の面々は景気づけにと酒を飲みだし、そこからはあれよあれよと言う間もなく宴のムード)


ダル子「全く……元々バカ騒ぎが好きな連中ではありますがここまでとは……」

ダル子「ロスヴァイセ、決戦に参加する戦士の選定の方はどうなっています?」

ロスヴァイセ「そっちはオーディンが先導してやってるって聞きましたわ」

ダル子「なるほど、ではこちらはルールの制定とフィールド作りに集中すればいいわけですね」

ロスヴァイセ「そうなるわねぇ」

ダル子「まずはヴァルハラ中の手の空いてるものを集め、役割を決めて分担させ――――」

スタスタ スタスタ


ダル子(そうこう考えてるうちに宴会場、もといラグナロク運営本部が見えてきた)

ダル子(ロスヴァイセの言ってたとおり広間に近づくだけで聞こえてくる騒がしい音楽と歌、酒と料理の匂い、多くの者が好き勝手に喚く声)

カッカッカッ


バンッ!!

ダル子「何をやってるんですか! 大バカ者たちが!!」  

モブヘリヤルA「なんっ……!?」

モブへリヤルB「あぁーん……?」


ダル子(広間に入ってとりあえず壁を叩き叫んでみた)

ダル子(一部はビクッと反応したものの、大半が酔って虚ろな目をしているか宴に熱中して聞いていない)

モブヘリヤルC「おぉー! いぇー! ふぅー!」

ダル子(仕方ない、あれを使うか)


スッ

ダル子(私は懐から大きな角笛を取り出し、宴会場に向けて思いっきり吹き鳴らす)

ダル子「ふんっ!」

ブウォーーーーーーーーーーーーンッ!!!!

グワンッ グワンッ グワンッ グワンッ グワンッ!


モブヘリヤル「「ぐっ……ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」

ドドドドドドドドドッ!!

18 ◆WsBxU38iK2:2020/06/21(日) 00:09:41 ID:q.C1hzTk


ダル子「ふぅ……」

ダル子(大広間に響いた轟音に酔っていた人たちが一斉に地面へと倒れ臥せ転げ回った)

ダル子(これで酔いも醒めることだろう)


ロスヴァイセ「すごいわね、その笛、もしかしてあの……?」

ダル子「いえ、父さんのギャラルホルンは奪われてしまったので、これはまた別の角笛です」

ダル子「ギャラルホルンのように特別な性質は持ちませんが世界に響き渡る威力は同じ、酔い醒ましには丁度いい音色でしょう」


ロスヴァイセ「これ普通の人間にぶっ放したら酔い醒ましどころか気絶するやつね……まぁエインヘリヤルたちは鍛えてるから平気でしょうけど」

ダル子「ええ、ほら、そろそろ立ち上がってきますよ」


モブヘリヤルD「うぐ……」ググッ

モブヘリヤルE「あれ……オレたちはいったいなにを……」ググッ


ダル子「はい皆さん注目!」パンッ!

モブヘリヤルF「おおっ!?」


ダル子「ここはラグナロク運営本部、皆さんのやるお仕事は主にヴィーグリーズの野に決戦のためのフィールドを作成することです」

ダル子「各自に分担して役割を与えますので通信魔法陣を携帯、常に連絡を取り合えって効率的に進めましょう」

ダル子「まだまだ人材が足りません、手の空いてる者を見かけたらすぐに運営本部へ連絡してください、すぐに戦力として投入します」


ダル子(よし、皆ちゃんと話を聞いてくれている)

スタスタ

ダル子(私は入り口から宴会場の残骸が残る通路を通り、話を続けながら広間の中心へ)

ダル子(皆が一番よく見える場所へと移動していく)



ロスヴァイセ「さすがダル子ちゃん、テキパキしてるわぁ」

フレイヤ「そうねぇ……この子が来たなら何とかなるかも……」ムクッ

ロスヴァイセ「フレイヤ様!? 宴会場にいたんですか……!」

フレイヤ「ううっ……頭いたい……」



バンッ!

ダル子「残された時間は多くありません!」

ダル子「神と人との歴史的な決戦の場です、全世界が見ている場で準備が間に合いませんでしたお話になりません!」

ダル子「しかし、逆に言えば我々裏方の実力も注目されているということ」

ダル子「ここで運営を成功させれば大きな功績となり、後々の賞与や昇進に良い影響を与えること間違いなし!」


モブヘリヤルG「それは……!」

モブヘリヤルH「おおおぉっ!」


ダル子「さぁ皆さん! 一世一代の見せ場です!」

ダル子「気合入れて頑張って行きましょう!!!!」グッ!


モブヘリヤル「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!!!」」」


ダル子(気合を入れて突き上げた拳、大広間にエインヘリヤルたちの歓声がこだまする)

ダル子(気合は十分注入された、あとは絶対に成功させるだけ)

 

ダル子(運命のラグナロク決戦まで――――あと半日!)



─────────────────

全世界
ムスペルゲート付近〜ヴァルハラ

AM5:15〜AM6:00 反逆の焔編『1』了

19 ◆WsBxU38iK2:2020/06/21(日) 00:10:42 ID:q.C1hzTk
というわけでここまで

反逆の焔編『2』に続く
かもしれない

20 ◆WsBxU38iK2:2020/06/22(月) 00:34:09 ID:Rgx6etSQ
反逆の焔編『2』

─────────────────
──ヴァルハラ・運営本部

AM7:00


カチッ カチッ カチッ

ダル子(大広間の時計は7時を指していた)

ダル子(他の世界との時流のズレはいざ知らず、ここアースガルズに限っては紛れもなく朝)

ダル子(普段なら穏やかに過ごしているはずのこの時間、ヴァルハラ内は上を下への大騒ぎに見舞われていた)


バンッ!!

モブヘリヤルI「おいあの資料どこにやった!」

モブヘリヤルJ「知らんって! それより私の所に人手が足りてないんだが!」

モブヘリヤルK「じゃあお前はこっち、オレはこっちで行くぞ!」

ドダダダ!! ドタバタタッ!!!


ダル子(大広間の中ではエインヘリヤルたちがてんやわんやの大騒ぎ、大広間に複数展開されてる通信魔法陣からも困惑した声が多く聞こえてくる) 

ダル子(まぁヴァルハラ中のエインヘリヤルが殆ど駆り出されてるなんてのは初めての事態だし、これだけの人数が一斉に動けば多少指揮系統が混乱するのは仕方ない)

ダル子(今のところ大きな事故やトラブルの報告はないから上手く事が運んでくれるのを祈るばかりだ) 


ダル子「さてと……他人の心配だけではなく私の仕事も進めないと」

バッ

ダル子(そう言って私が机の上に広げたのはヴィーグリーズの野の見取り図だ)

ダル子(ヴィーグリーズの野は一辺が数百キロから数千キロとも言われる広大な土地)

ダル子(そのため、全体を一対一のフィールドたして扱うには規模が大きすぎる)

ダル子「ふむ……」

ダル子(実際にはあり得ないと思うが、仮に片方が逃げに徹した場合、何日も決着が付かないことが想定できるだろう)

ダル子(全世界に中継されている神と人との世紀の一戦が、そんな塩試合では示しがつかない)

ダル子(それを避けるためにはフィールドを区切ってスタジアムのような領域を作る他ないだろう)

ダル子(しかし……しかしなぁ)


ダル子「せっかくの神との戦いを狭いスタジアムの中だけで行うというのも……少々味気ないような――――」

フレイヤ「じゃあスタジアムを複数作るってのはどう?」ヒョコッ

ダル子「わっ! フレイヤ姉さん!?」

ダル子(私の背後から急に顔を出したのはフレイヤ姉さんだった)

ダル子(相変わらず男性が好きそうな緩い服装をしている……というか全身がお酒くさい)

ダル子(この人、さてはあのどんちゃん騒ぎの宴会に紛れ込んでいたな……?)

21 ◆WsBxU38iK2:2020/06/22(月) 00:34:28 ID:Rgx6etSQ


ダル子「ええとそれで、複数というのはどういう意味です?」

フレイヤ「そうねぇ、まずこうしてスタジアムを1個置くでしょ」

トンッ

ダル子(私の肩越しに手を伸ばすフレイヤ姉さんは、机に広げたヴィーグリーズの見取り図の上に空の瓶を1つ置く)

ダル子(続いてそこから離れた場所に更に1つ、2つ、3つ、4つ)


フレイヤ「そしたらヴィーグリーズの各所に他のスタジアムを作るの」

フレイヤ「真ん中のスタジアムはベーシックな作りに、他の場所のスタジアムはその土地の地形や性質を取り入れてバラエティ豊かにする」

フレイヤ「こうすればバトル毎に違う画が撮れて観客も楽しめるだろうし、広いヴィーグリーズのフィールドを上手く使えるんじゃない?」


ダル子「確かに……スタジアム間の移動は転送ポータルを使えばいいし、観客のことはライブ中継だから考えなくていい」

ダル子「フィールドを制限しつつ、一辺倒にならない絵面、ヴィーグリーズを東へ西へ移動しながら行われる決戦の数々……」

ダル子「良い! これ行けますよ姉さん!」


フレイヤ「へっへ〜ん、でしょう?」

ダル子「はいっ!」

フレイヤ「そこでさダル子、お願いなんだけど、発案者の特権として私にスタジアムを1個考えさせてくれない?」

ダル子「え? それは構いませんし私も1人で考える量が減って助かりますが……いったいどんなものを?」


フレイヤ「おっ! よくぞ聞いてくれた!」

ダル子(聞かないと作れないから聞いてるんだけど……まだ酒が残ってるのかな)


フレイヤ「私の考えるスタジアム、それは>>22

22名無しさん@転載は禁止:2020/06/22(月) 07:01:52 ID:4Gpc8hbk
アダルトなお城風

23 ◆WsBxU38iK2:2020/06/23(火) 00:47:12 ID:D1PUt7cg
フレイヤ「それはアダルトなお城風」

ダル子「ふむ、城ですか」


フレイヤ「アダルティックでロマンティクでムーディな雰囲気あふれる大人の城塞型スタジアム!」

フレイヤ「どうどう? 素敵じゃない!?」グイグイッ

ダル子「え、ええ……確かに」


ダル子(フレイヤ姉さんが体を寄せてせまってくるせいで少し気圧されてしまう)

ダル子(豊穣神特有の高めの体温とパーソナルスペースなど気にしない絡み方が暑苦しさを増している)

ダル子(まぁ、これが姉さんが親しまれる理由でもあるんだろうけど……)


ダル子「そうですね、城塞型スタジアムというのは画的にも派手そうで良いアイディアだと思いますよ」

ダル子「中身はおそらく私と姉さんで思い描いてるものが違う気がしますが……大丈夫です、それで行きましょう」

フレイヤ「やった〜!」ピョンッ


フレイヤ「ありがとう、一回バカみたいにでかくて豪華なラブホ作ってみたかったのよねぇ」

フレイヤ「ただ建設費がそれこそアホほどかかるから兄さんや経理部に止められててさ〜」

ダル子「それはそうでしょうね、ただでさえ姉さんは散財気質で迷惑かけてますから」


フレイヤ「だけど大義名分を得たからには止められない! 私は私の理想の超巨大ラブホスタジアムを作る!」

フレイヤ「そしてラグナロクが終わったら私が私物化するのよ〜! 完璧な計画ね!」

ダル子「はははは……」



ダル子(世界の終末をかけた戦争だというのに、姉さんはいつもの姉さんと変わらない)

ダル子(どこまでも欲望に純粋で、自分本位で、ワガママで……ここまで明け透けだと逆に好感さえ持ててくる)


ダル子(それにしても、ラグナロクが終わったらか……)

ダル子(果たしてラグナロクが終わった後に世界は今のままでいられるのか、姉さんがホテルで楽しむ暇があるのか、それは誰にも分からない)

ダル子(分からないからこそ……私たちは今できることをするだけだ)

24 ◆WsBxU38iK2:2020/06/23(火) 00:47:34 ID:D1PUt7cg


ダル子「では姉さん、姉さんにはエインヘリヤルの一部隊を貸します」

ダル子「彼らと共に城の設計や建設場所の選定、必要な人材の確保に動いてください」

ダル子「準備が済み次第こちらに連絡を入れてくれたら、要求された数のヴァルハラ大工を派遣します」


フレイヤ「おっけおっけ〜、じゃあやってくるね〜」タタタッ

ダル子「はーい」


ダル子(フレイヤ姉さんは元気に走り去っていく)

ダル子(さて……これでスタジアムは1つ、私はあと4つ考えなければいけないわけか)

ダル子(一体どういうものが良いのやら、私は広げたヴィーグリーズの見取り図に目を通しながら思案していく)


ダル子「中央がここ、メインスタジアムはここで良いとして、その他環境ががらっと変わる地域は……この辺り、この辺り」

トンッ トンッ

ダル子「スタジアムを考える上では出場する戦士との相性も重要になってくる」

ダル子「なるべくスタジアムの構成による有利不利が大きく出ないようにしないと」

ダル子「ふーむ……」


ダル子(現時点で分かってる穂乃果チームの属性は、穂乃果が炎、ことりが氷を使える、あとは主な属性は持ち合わせておらず白兵戦がメインだろう)

ダル子(対するこちらは……)


ダル子「……ん? そういえばまだうちの出場戦士を聞いてないような……」

ピピピッ

ダル子「おっ、私の机の通信魔法陣が……って玉座の間から直通!?」

ピッ

ダル子「はい、ダル子です」

オーディン『忙しい時に悪いな』

ダル子「いえ、大丈夫です……何かありましたか?」


オーディン『ああ、今こちらで戦士の選定をしていてな、4人目までが決定したから伝えておく』

ダル子「それはご丁寧に、ありがとうございます」


オーディン『まずは無論私、オーディン』

オーディン『次にトール、フレイ、ここまでは自然と手が挙がった』


オーディン『そして今しがた決まった4人目が>>25

25名無しさん@転載は禁止:2020/06/23(火) 05:18:26 ID:xUyeJ/16
ヴァーリ

26 ◆WsBxU38iK2:2020/06/24(水) 00:17:30 ID:aVa0X7Vo
オーディン『そして今しがた決まった4人目がヴァーリだ』

ダル子「……!」


ダル子「ヴァーリって……“あの”ヴァーリですか?」

オーディン『そうだ、我が息子の一人にして屈強なる戦士のヴァーリだ』

オーディン『やつならラグナロク決戦に相応しいと私が推薦した、皆の承認も得ている』

ダル子「え、ええ、それなら特に問題はありません」

オーディン『最後の1人についてはまだ会議中だが決まり次第追って連絡する』

オーディン『今の所はこの4人だということを頭に入れておいてくれ、ではまた』

ピッ


ダル子「了解しま――――あ、切れてしたった」



ダル子「それにしても……ヴァーリか」

ダル子(私は頭の中でオーディン側のメンバーを再確認する)


ダル子(まずはオーディン、言わずもがな我らが主神でありアースガルズの統治者)

ダル子(戦争の神でありその武力と魔術の知識は他の神を凌駕する、武器のグングニルはあまりに有名だろう)

ダル子(神話記述によればラグナロクにおいてフェンリルに殺される運命を辿るとのこと)


ダル子(次にトール、これもオーディンと並んでアースガルズ最強格の神だ)

ダル子(雷神であり手にした大槌ミョルニルで多くの巨人を屠っている)

ダル子(神話記述によればラグナロクにてヨルムンガンドと相討ちになる)


ダル子(次にフレイ、眉目秀麗な豊穣の神で妖精の国の支配者)

ダル子(フレイヤ姉さんの兄であり、勝利の剣と呼ばれる剣を手にしている)

ダル子(だがラグナロクにおいては、この剣を持ち合わせないことでスルトに敗北してしまう)


ダル子「負け……相討ち……負けか」

ダル子(記述はあくまで記述、運命が定めた未来の話に過ぎない)

ダル子(実際、神話に描かれたラグナロクと今の状況では異なる部分も多い)

ダル子(神と戦うのが巨人の軍勢ではなく人、決戦が一対一の形式、ヨルムンガンドは既に排除されていて、フレイも勝利の剣を失っていない)

ダル子(他にも多くのことが記述された運命とは異なるため、この通りに進むかと聞かれたら十中八九否だろう)

27 ◆WsBxU38iK2:2020/06/24(水) 00:17:49 ID:aVa0X7Vo


ダル子(しかし、不安要素を1つでも減らしておきたい気持ちも分かる)

ダル子(そのためオーディンは本来の記述ではラグナロクに関わらないものを呼び寄せたのだろう)

ダル子(4人目の戦士、ヴァーリ――“復讐者ヴァーリ”を)


ダル子(私はヴァーリに直接会ったことはないけど、噂だけは聞き及んでいる)

ダル子(オーディンの息子という立場ではあるものの、その実“とある復讐”のためだけにオーディンが意図的に生み出した戦闘マシーン)

ダル子(復讐のために驚異的なスピードで成長し、生まれてから数日と経たず標的を殺害せしめたという)

ダル子(弓の名手でもあり、復讐を果たした後のことは語られていない)


ダル子(まさかここでヴァーリの名前が出てくるなんて……予想だにしていなかった)
  
ダル子(オーディンのこの判断が吉と出るのか凶と出るのか……)

カタンッ

ダル子(まぁ、ここでずっと考えていても仕方がない、私は私の作業を進めよう)

スッ

グビグビッ ゴクンッ

ダル子「ぷはっ」

ダル子(私は机の端に置いてたヴァルハラエナジーを飲み干し自分に気合を入れ直す)

パチンッ!


ダル子「よしっ、がんばろう!」





──
────
────────






ダル子(そこからは追い込みの時間だった)

ダル子(チームのエインヘリヤルや近くにいた神の助けを借りて、4つのスタジアムの考案から設計図までを1時間半足らずで完成させる)

ダル子(設計図ができた所で早速現地班に建設予定地の視察をしてもらい、目算がついたとこから順に基礎工事に取り掛かってもらった)

ダル子(その傍らで、ラグナロク決戦の細かいルールなども詰めて行く)


ダル子(現場で動く建設組への指示を出しながら、大広間でルールや進行の詳細を話し合う会議に参加する慌ただしい時間)

ダル子(そんなことをしていると1時間、2時間と、残り少ない時間があっという間に過ぎ去っていく)

ダル子(その間オーディンからの連絡は無かった、あっちはあっちで話し合っているのだろう)



ダル子(やがて11時頃となってくるとスタジアム完成の報告が少しずつ舞い込むようになった)

ダル子(さすがはオーディンお抱えのヴァルハラ大工たち、作業のスピードが段違いだ)


ダル子(ここまで軌道に乗ってくればあとは順調に――――)


モブヘリヤルL「ダル子さん! 緊急の通信が入ってます! 通話に出てほしいとのこと!」

ダル子「ってえぇ? こんな忙しい時に誰から?」 

ダル子「今は最終チェックと仕上げの段階だし、わざわざ私に口頭で確認をとる作業はもう残ってないような……」

モブヘリヤルL「それが、なんでも>>28だそうで……」

28名無しさん@転載は禁止:2020/06/24(水) 05:21:31 ID:JC6fofaw
使徒が観戦するからと申し出てきた

29 ◆WsBxU38iK2:2020/06/25(木) 00:54:07 ID:WjWJbTfI
モブヘリヤルL「それが、なんでも使徒と名乗ってるそうで……」

ダル子「使徒!?」

ザワッ!

ダル子(思わず大きくなった声に周囲が反応してざわつきはじめる)

ダル子(しまった、あまり動揺を与えてはいけない……落ち着いて、落ち着いて)


ダル子「……分かりました、私の方に取り次いでください」

ダル子「他の皆さんは引き続き最終確認の作業をおねがいします」

モブヘリヤルたち「は、はいっ!」

モブヘリヤルL「では……お繋ぎしますね」

ピピッ

ダル子(私の机の通信魔法陣に通話が転送される)

ダル子(念の為二重三重に魔術防壁を張ってから魔法陣をタッチして通話に出る)

ピッ


使徒『えーと、あなたがえらい人でいいのかな』

ダル子「偉いかどうかは分かりませんが……一応この場の実質的な責任者は私です」

ダル子「ラグナロク運営に意見があるのなら私に直接言うのが早いかと」

使徒『なるほどなるほど、じゃあ私がが使徒だってのは伝えてあるかな』

ダル子「ええ、いったい使徒が何用で?」

使徒『んー? なんの用だと思うー?』

ダル子「早くしてください、こちらは決戦の準備に追われて忙しいんですよ」


ダル子(使徒を名乗る通信者、その真偽を証明する手段はない)

ダル子(しかし相手がヴァルハラの魔術回線に割り込める力を持ってるのは事実、警戒しつつ弱みを見せないように強気に出る)

ダル子(ただでさえ状況がひっ迫してる今、第三勢力に構ってる余裕はないのだから)


使徒『圧をかけてくるねぇ、まぁ簡単に言ってしまえばラグナロク決戦を私たちも見に行きたいなぁって話なんだ』

ダル子「使徒が……?」

使徒『そう言ってるじゃーん』

ダル子「いえ、ラグナロク決戦はアースガルズで行われる戦いですし、その間地上では一切の戦闘行為が禁じられることになります」

ダル子「地上の災厄を殲滅するのが役目の使徒に、ラグナロク決戦に介入する理由や大義はありませんよね?」

使徒『うん、だからさ、これはお役目とかじゃなくて素直に観戦』

使徒『せっかくスタジアム作ったのに中継のみで無観客試合じゃ寂しいでしょ』

使徒『まぁミッドガルズの人間をヴィーグリーズまで連れてくるわけにはいかないから仕方ないんだけど』


ダル子(この使徒……スタジアム建設のことまで知って……?)


使徒『そこで私たちが観客になって盛り上げてあげるってわけ』

使徒『どう、良い提案じゃない?』


ダル子「はぁ……良いも何も、ただの人間でさえ立ち入れないのに、なぜ自分たちは入れると思ってるんですか」

ダル子「使徒がアースガルズに侵入する、そんな危険なことを二つ返事で了承するわけないでしょうに」


使徒『ふーん……まぁそういう反応だよねぇ』

ダル子「…………」

ダル子(含みのある反応、こちらの反応を見越した上での質問だろうけど、何か他の意図が……?)


使徒『でもねぇ、結局受け入れることになっちゃうと思うよ、だって>>30

30名無しさん@転載は禁止:2020/06/25(木) 06:23:22 ID:CP0Emv5g
観戦は決定事項だから

31 ◆WsBxU38iK2:2020/06/26(金) 00:27:58 ID:NfLODqDI
使徒『だって、観戦は決定事項だから』


ダル子「決定事項? 何を言って……」

カサッ 

ダル子「……ん?」

ダル子(その疑問を口にしたところで私は机の上の違和感に気づいた)

ダル子(何枚も重ねられ所狭しと並べられた書類、その一番上に目を通した覚えのない紙が置かれていた)

ダル子(紙に書かれていたのはスタジアムに動員予定の観客の一覧、そこに見たことのない名前が並んでいて、一番下には私の名前と承認のハンコが押されていた)


ダル子「……いや、ちょっと待って、何ですかこれ」

バッ!

ダル子「誰か! 誰かこの書類について知ってる人はいますか!?」


ダル子(私は思わず紙を掴んで近くのエインヘリヤルたちに見せつけるように掲げた)

ダル子(偽造? 混入? どこ時点で? どこから紛れ込んだ?)

ダル子(これだけ人数のいる大広間なら1人くらい知ってる人がいるかもしれない……!)


ダル子(けれど、返ってきた反応は私の予想と全く違うものだった)


モブヘリヤルM「ええ、知ってるも何もダル子さんが承認したものじゃないですか」

ダル子「……は?」

モブヘリヤルM「ですから、使徒たちが観戦に来るからリストを作ってくれとダル子さんから言われ」

モブヘリヤルM「私を含めた数人が向こう側から提出された個人情報をまとめてリスト化したものです」

モブヘリヤルM「ダル子さんも出来上がったものを確認してたと思いますが……」

ダル子「……っ!」


バッ!

ダル子「使徒! あなた何をしたんですか!?」

使徒『だから決定事項だよ決定事項、承認してくれてたみたいで助かる〜』

ダル子「……!」


ダル子(私にはこんなものを承認した覚えはない)

ダル子(だとしたら記憶操作? 認識汚染? 過去改変? いったいどこから……!?)


ダル子「使徒! 答えなさい!」

使徒『ま、そうカッカすることはないよ、私たちの目的はあくまで観戦』

使徒『世界をかけた神と人との戦いがどうなるか興味があるだけで、手出しする気はないよ』

使徒『使徒はあくまで雇い主がくれる報酬目当てで動く存在だから、自分のメリットにならない戦いには首突っ込まないって』

ダル子「その話……本当でしょうね」


使徒『本当だよ、じゃあまた後で、ラグナロク決戦が始まる頃には皆を連れてスタジアムに行くからさ』

ダル子「くっ……」ググッ


使徒『っと、そうだ、使徒は団体名だし申し込みした私の名前も伝えておくね』

使徒『あなたが今持ってるリストの一番上の欄、そこに乗ってる>>32が……私だよ』

32名無しさん@転載は禁止:2020/06/26(金) 05:55:58 ID:XmoyWhqA
カリオペー

33 ◆WsBxU38iK2:2020/06/27(土) 00:03:58 ID:7x6uqSLM
使徒『そこに乗ってるカリオペーが……私だよ』

ピッ

ツー ツー ツー


ダル子「ちょっ……!」

ダル子(それだけ言うとカリオペーと名乗った使徒は私の返事を待たずに通信を切断した)


ダル子「いったいなんなんですか……」

ダル子(困惑しつつ書類に目を通すと、言われた通りの名前がリストの一番上に記載されている)

ダル子(カリオペー、種族は神族、形状はヒューマン女型、出身はギリシア神話世界)

ダル子(つまるところ神話世界から召喚されて契約した女神系の使徒なのだろう)


ダル子(ただ、リストにこれ以上の情報がないためカリオペーの詳細は分からない)

ダル子(あの使徒はいったい…………)


タタタタッ

フレイヤ「ダル子ー!」

ダル子「……ん、姉さん」


タタッ

フレイヤ「はぁ、はぁ、やったわ! 理想のラブh――じゃなくてお城スタジアムが完成したわ!」

ダル子「お疲れさまです、残りのスタジアムも順調に完成報告が来てるので、このまま行けば開戦までには間に合いそうですよ」

フレイヤ「ふぅーっ、なんとか間に合ったわねぇ」


ダル子「…………」

フレイヤ「ん? どうかした?」

ダル子「…………姉さん、カリオペーという神について知ってますか?」

フレイヤ「カリオペー? 確かギリシアの方にそんなのがいたけど……それが?」

ダル子「いえ、先程使徒として観戦に来るとの通信が来てお話したので、どんな方なのかなーと」

フレイヤ「あーなるほど、そういうわけね」


ダル子「…………」

ダル子(使徒が観戦する、という話に姉さんはこれといって疑問を持たない)

ダル子(姉さんの中でも使徒の観戦は確定した事実として認識されてるのだろう)


フレイヤ「私の記憶が合ってればカリオペーは文芸の女神よ」

フレイヤ「叙事詩を司っていて書板と鉄筆……まぁ筆記具を携えて現れるらしいわ」

ダル子「叙事詩……筆記具……」

ダル子(物語を詠んだり書き記したり、そういうことに特化した女神なのだろうか)

ダル子(書類を偽造して認識を書き換えたのも彼女の能力に関係していたり……?)

34 ◆WsBxU38iK2:2020/06/27(土) 00:04:16 ID:7x6uqSLM


ダル子「なるほど、ありがとうございます」

フレイヤ「あ、それとカリオペーは9姉妹の長女なのよ」

ダル子「9姉妹?」

フレイヤ「ムーサっていう文芸を司る9柱の女神、その1柱がカリオペー」

ダル子「ほう……ムーサ」


フレイヤ「他の呼び方だとムサだったりムーサイだったりミューゼスだったり」

フレイヤ「そうそう、あとは……」



フレイヤ「“ミューズ”って呼び方もあるわね」

ダル子「……!」

ダル子(その単語に私の心臓はドキリと跳ね上がる)


ダル子「ミューズ……?」

フレイヤ「ええ」コクンッ


ダル子(ミューズという名、文芸を司る9柱の女神)

ダル子(“彼女たち”と符合するキーワードに動揺を隠せない)

ダル子(カリオペー……本当に観戦だけがやつの目的なの……?)



ザッ!

モブヘリヤルO「ダル子さん! 全スタジアムの最終チェック、並びに進行表の見直しが終わりました!」

ダル子「……あ、ああ、ありがとうございます」

モブヘリヤルO「ダル子さん……?」


フレイヤ「も〜、ダル子も疲れてるんだって、連日の徹夜からこの怒涛の作業だったんだし」グイッ

ダル子「おわっ……ははは、姉さん、お気遣いありがとうございます、でも私は大丈夫ですよ」

ダル子「決戦が始まればジャッジ役としての仕事がありますし、ここで根を上げるわけにはいきません」

フレイヤ「ダル子頑張りやだなぁ〜、だったら尚更今は休んでおくの」グッ

ダル子「え?……わっ!」

ダル子(私の肩に手を回してた姉さんはそのまま私を抱き上げ、大広間の端にあるソファへ運んでいく)


フレイヤ「開戦まではまだ少し時間があるし、準備や指示出しはもう終わったんでしょ」

ダル子「……ええ、まぁ」

フレイヤ「だったら休む、スタジアムに立つ子が元気なかったら盛り上がるものも盛り上がらないんだから」

ダル子「姉さん……」


ダル子(姉さんの言うことは一理ある、そうだな……ここは姉さんの好意に甘えておこう)

フレイヤ「よっと」スッ

ダル子(ソファに降ろされた私は、その無駄にフカフカなクッションに身を沈めながら目を閉じる)

ダル子「ふぅ……」


ダル子(大丈夫、ラグナロク決戦のことは全て手配済みだ)

ダル子(会場となるスタジアムの準備、進行表の作成、スタッフの雇用と配置と、出場戦士への情報共有、全て問題ない)

ダル子(穂乃果たちがやってくる予定のビフレストへも、>>35を案内役として派遣しておいた)

ダル子(後は……時間まで……少し仮眠を取って……)

スゥ

35名無しさん@転載は禁止:2020/06/27(土) 00:25:34 ID:qYFRh.Ms


36名無しさん@転載は禁止:2020/06/27(土) 00:25:48 ID:K.XlNY1M
スレイプニル

37 ◆WsBxU38iK2:2020/06/28(日) 00:11:51 ID:v/ZsySdM
ダル子(少しだけ、ちょっとだけだから……)

スゥ

スゥー

ダル子(知らずしらずのうちに疲れが溜まっていたのか、自分でも驚くほど自然に眠りに落ちていく)


ダル子(たぶんこれが開戦前の最後の休息になるだろう)

ダル子(再び目を開けた時、私は中立の立場から戦いを見届けるものとなる)

ダル子(甘えも、同情も、応援も許されない)

ダル子(どちらかが傷つき死の瀬戸際に立たされようと私は手を差し伸べることはできない)


ダル子(ならば……せめて今だけでも)

ダル子(全てを忘れて、この安息に見を預けよう――――)





38 ◆WsBxU38iK2:2020/06/28(日) 00:12:44 ID:v/ZsySdM




──ビフレスト

AM11:50



侑(アースガルズの端の端、緑すらなくなった無人の荒野)

侑(山ほどの大きさのある岩がゴロゴロ転がり、地面には大河より大きな亀裂が何本も伸びている)

侑(ポッカリと空いた亀裂の隙間から見えるのは遥か空の下、ミッドガルズと呼ばれる地上の世界だ)

 
侑(シンプルに相対的な位置を考えればアースガルズが上でミッドガルズが下)

侑(だが地上の世界から空を見上げたところでアースガルズは見えないし、人間が飛んで空を超えたところで宇宙に出るだけだ)

侑(私もアースガルズに来た頃はこの関係性を不思議に思ったけど、神様たちに言わせれば“角度が違う”的なことらしい)

侑(宇宙もアースガルズも上向きのベクトルは同じで、そのベクトルの角度によってどっちに辿り着くかが変わる)

侑(魔術の介在しない角度にいる限りは、人間がいくら空を探したところでアースガルズには辿り着けない……らしい、よく分からないけど)


侑「よっと……」

タタッ

侑(私は乗っていた馬を停めてそんな荒野の端に降り立つ)


侑「スレイプニル、こんな遠いとこまでありがとう」

スレイプニル「ヒヒーンッ! いいってことよ! 可愛い女の尻にしかれるのはたまらないからなぁ!」

侑「その余計な一言が無ければもっとカッコいい馬なんだけどなぁ……」

スレイプニル「ヒヒーンッ!」

39 ◆WsBxU38iK2:2020/06/28(日) 00:13:02 ID:v/ZsySdM


侑「さてと……」ザッ

侑(私の目的地はこの先、切り立った鋭い崖から地上に向かって伸びる虹の橋)


ザッ ザッ

侑「あれが……ビフレスト」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

侑(こうして近くまで来ると本当に大きい……スケールが地上とは何もかも違う)

侑(天から地へと続く長さはもちろんのこと、左右の幅でさえかなりのもの)

侑(橋の表面は虹を横から見た時のように7色に分けられていて、その1色の幅が軽く1キロはあるほどだ)

侑(正に神が渡る橋……人間の物差しでは計り知れないことばかり)


侑「って、いけないいけない、観光に来たんじゃなかった」

侑(私の仕事はここに来る人たちを出迎えて案内すること)


侑「もうすぐ待ち合わせの時間のはずだけど――――」


カッ!

侑「……っ!?」

侑(そうして辺りを見回した瞬間、空が赤く染まり、空中に炎の紋章を象ったポータルが展開された)

侑(そこから1つ、2つ、3つ、4つ、5つの炎の玉が隕石のように降り注ぐ)

ドドドドドドドドドッ!!!!


侑「わっ……!」

侑(虹の橋に突き刺さった炎の玉は辺り一面に火の手を広げ、その炎の海の中から5つの人影が起き上がった)

侑(全員が私と同じような歳の女の子)

侑(各々が炎をモチーフにした衣装を着ていて、その凛々しさと可愛さが融合した姿は戦士と言うよりアイドル)

侑(けれど、その身に纏うオーラは人間を遥かに超えている……!)


ドドドドドドドドドドドドドドド


心ノ穂乃果「…………」ユラリ



侑(これが神に挑む者たち……穂乃果チーム!)


ドンッ!!


─────────────────

アースガルズ

AM7:00〜11:50 反逆の焔編『2』了

40 ◆WsBxU38iK2:2020/06/28(日) 00:52:29 ID:v/ZsySdM
というわけでここまで

反逆の焔編『3』に続く
かもしれない

41 ◆WsBxU38iK2:2020/06/29(月) 00:19:13 ID:TZXI2OZk
反逆の焔編『3』

─────────────────
──ビフレスト

AM11:50



心ノ穂乃果「…………」

ドドドドドドドドドドッ!!


侑(これが穂乃果チーム……なんて迫力なんだ)

侑(圧倒的なオーラに飲まれてしまいそ――――)


心ノ穂乃果「ってうわぁぁぁぁ! 間に合った!? 間に合ったよねぇ!!」


侑「……ん?」


海未「は、はい! 今こっちの時間と時計を合わせて……大丈夫です! 間に合ってます!」

心ノ穂乃果「良かったぁぁぁぁ」

にこ「もー! あんたが直前に『皆でお揃いの衣装あったらカッコよくない?』とか言い出すから遅れるとこだったでしょ!」

心ノ穂乃果「それはごめん!」

にこ「おかげでこんな隕石ドーンみたいな派手な移動をするハメになったじゃない」

希「まぁまぁにこちゃん、今責めたところでしゃーないって」

海未「修行が終わってからまだ時間に余裕があったのは事実ですし、まさかここまでギリギリになるとは思ってませんでしたが」

ことり「そうだよね、私が作るのが遅かったからだよね、もっと計画的に作業を進めてれば……」クスンッ

にこ「い、いや、ことりを責めるつもりはないのよ?」

心ノ穂乃果「でもさほら見て! 全員でお揃いのテーマの衣装映えるよね!」バッ!

にこ「まぁ私もこのセンスは良いと思うけど……ってそうじゃなーい!」

ワイワイ! ガヤガヤ! 

ワイワイ! ガヤガヤ!


侑「あ、あのー……」

ワイワイ ガヤガヤ

ワイワイ ガヤガヤ


侑「あのっ!!」

心ノ穂乃果「……わっ! ごめん気付かなかった! 案内人の人かな?」

侑「はい、私は高咲侑、今回皆さんの案内を務めさせて頂きます」

心ノ穂乃果「おー! よろしくー!」

ギュッ ブンブンッ

侑「は、はい」

42 ◆WsBxU38iK2:2020/06/29(月) 00:19:30 ID:TZXI2OZk


侑(なんだろう……一瞬すごいオーラを感じたんだけど、すぐに雰囲気が歴戦の戦士から女子の集団へガラリと変わってしまった)

侑(すごい笑顔を私の手を握って振ってるけど、正直どういう態度を取れば良いのか全然分からない)


心ノ穂乃果「むぅ……」ジーッ

侑「ど、どうかしましたか?」

心ノ穂乃果「ねぇ、侑ちゃんの着てる服さ、学校の制服っぽいけど学校に通ってるの?」

侑「はい、一応高校2年生ですけど……」

心ノ穂乃果「だったら同い年じゃん! 敬語とか使わなくていいって!」

侑「そうです……そ、そうかな?」

心ノ穂乃果「そうそう!」


にこ「あのねぇ穂乃果、制服やら歳やら突っ込む前にまず疑問に思うところがあるでしょ」

心ノ穂乃果「……え?」

にこ「……え? じゃなくて、こんな見た目普通の女子高生がアースガルズの使いってとこからおかしいのよ」

心ノ穂乃果「確かに!」


にこ「あんた、いったい何者? どうして天界で出迎え役なんかしてるわけ?」

侑「どうして、ねぇ……んー、あんまり人に話すことでもないけど、別にひた隠すほどの秘密でも無いから言っていいかな」

侑「実は私、>>43

43名無しさん@転載は禁止:2020/06/29(月) 05:50:45 ID:5FN7Uv2o
可愛い女の子達が大好き

44 ◆WsBxU38iK2:2020/06/30(火) 00:26:08 ID:wbK1CYfM
侑「実は私、可愛い女の子たちが大好きなの」

にこ「おぉ……これまた予想外の方向からの回答が来たわね」


侑「特に夢に向かってひたむきに頑張る女の子たち、そんな子たちを見てると応援や手助けをしたくなってくる」

侑「ちょうど幼馴染や学校の知り合いにそういう子たちがいて、スクールアイドル……って知ってる?」

にこ「……まぁ、知ってるわよ」

希「ねぇ?」

海未「私たちもやってましたし」

侑「ほんと!?」ガバッ!


にこ「おわっ! 急に距離を詰めてくるわね」

にこ「ほんとよほんと、ただこの世界線じゃないから知名度は殆ど無いけど……」

侑「ご、ごめん、ついつい興奮して話が逸れちゃったね」

にこ「それで? あなたもスクールアイドルをしてたの?」

侑「いやいや、私はそういう表舞台に立つのには向いてないから、皆のことをサポートする役目、マネージャーみたいなことをしてたんだ」

にこ「ほう」


侑「その活動自体はほら……このご時世だし? あまり上手く行ったとは言えないけど、皆とても楽しそうですごい輝いてた」

侑「そんな子たちを応援するのが好きだって気付いた私は、スクールアイドル活動が終わってからも色んな女の子の夢の手助けをしてきたんだ」

侑「それは些細な日常の中の願いだったり、時には命をかけるような非日常の展開だったり、ジャンルを問わず可愛い女の子の為ならたとえ火の中水の中」

侑「ってな感じで無茶を繰り返してたら、いつの間にか人間以外の知り合いも多くなっちゃって、こうして天界まで呼び出されることもしばしば」


にこ「女の子助けてたら神様連中とまで知り合いになるとか……あんたどこのラノベの主人公なのよ」

侑「あはは、そんなガラじゃないんだけどね」


侑「ダル子ちゃんともそうした手助けの過程で知り合ったんだ」

侑「だから私はただの無能力者の人間、今もダル子ちゃんのお願いでこうして迎えに来てるだけ」

侑「これで分かってもらえた……かな?」


心ノ穂乃果「うん! 私は分かったよ! にこちゃんは?」

にこ「その経歴で無能力……ってのは少々疑問が残るけど、構わないわ、人となりは好感が持てるし、案内してちょうだい」

侑「おっけー、こっちだよ、付いてきて!」

ザッ ザッ ザッ



ことり「侑ちゃん、ヴィーグリーズまではどのくらいかかるの?」

侑「距離的な話だと……車のスピードで飛ばしても数日はかかる距離かなぁ」

ことり「そんなに!?」

侑「アースガルズは無駄に広いからね」

侑「けど各所に転送ポータルがあるから問題ないよ、一番近くのポータルまで行けば一気にヴィーグリーズに飛べると思う」
 
ことり「あぁ……それは安心」



侑「そうだ、特にやることが無ければこのままヴィーグリーズまで直行するけど、何かすることある?」
  
にこ「そんな移動の途中でSAかコンビニ寄る? みたいなノリで急に聞かれても」

希「一応うちらは向こうで準備してきたからなぁ、こっちの世界でやることとなると……うーむ」


侑「何もないなら良いんだけど、ヴィーグリーズのスタジアム入ると自由に外出たり連絡取ったりできなくなるみたいだから」

侑「自由に行動できる今のうちに一応確認だけ取っておこうかなつて」


心ノ穂乃果「海未ちゃん、何かある?」

海未「そうですね……>>45

45名無しさん@転載は禁止:2020/06/30(火) 06:33:48 ID:937ZFqik
自分の秘密を暴露大会

46 ◆WsBxU38iK2:2020/07/01(水) 00:19:02 ID:wXOnB4Ro
海未「自分の秘密を暴露大会をしましょう!」

にこ「なんで今!? 意味分かんないわよ!」

海未「戦地へと赴く今こそ私たちは結束を高めねばなりません、そして結束を高めるには秘密の共有が一番!」

にこ「嫌な方向性の結束ね……」



ことり「それに、今はチームのメンバー以外に侑ちゃんもいるよ?」

海未「彼女は運営側の人間でしょう、ならば原則中立、秘密を知られたところで不利には働きません」

心ノ穂乃果「そうなの?」

侑「……ええ、まぁ、私はボランティアみたいなものだから厳密には運営側ではないけど、秘密なら人に話したりしないよ」

侑「本当に聞かれたくないなら馬のとこに着くまで耳塞いでるし」


にこ「でもねぇ……いきなり秘密と言われてもねぇ、大体洗いざらい喋ってるわよ?」

ことり「うん、ここまで来た仲だから過去含めてお互いのことは知ってるし」

心ノ穂乃果「私なんてこの体になって一週間も経ってないからなぁ」


希「はいはーい! うちは前日の修行の終わりのデザートをにこちゃんの分まで食べちゃいました!」

にこ「あれ希だったの?」

希「ごめんなー! 言い出すタイミングが中々なくって」

にこ「まぁ良いけど……てか秘密の暴露ってこういうノリ!?」


海未「どんな秘密かまでは指定してませんからね、ジャンルや重さを問わずガンガン行きましょう!」


ことり「うーんと……じゃあはい! 皆の衣装を作った時に実は穂乃果ちゃんの衣装だけ時間かけて凝っちゃいました!」

にこ「ことりは相変わらず穂乃果が好きねぇ」

ことり「結婚した仲ですし」エッヘン

ことり「勿論皆の分だって本気で作ったよ、それに加えて穂乃果ちゃんの衣装には更に特別な仕掛けがしてあるの」

ことり「穂乃果ちゃん、楽しみにしててね〜」

心ノ穂乃果「へー、なんだろう、ぱっと見じゃ分かんないなぁ」キョロキョロ


海未「にこは何かあります?」

にこ「私? そうだなぁ……少し毛色が違うけど、私はラグナロク決戦でトールと戦おうと思ってるわ」

海未「ほう」

希「それって秘密なん?」

にこ「あんたたちには修行中ずっと黙ってたから秘密ってことで良いでしょ」

にこ「ちょっと試してみたいことがあってね、そっちは本当にまだ秘密だけど」

47 ◆WsBxU38iK2:2020/07/01(水) 00:19:36 ID:wXOnB4Ro


希「トールかぁ、予想通りに出てくるんかな?」

海未「神話記述的にオーディン、フレイ、トールの3本柱は固いと思いますよ」

海未「問題は残り2柱、対策の取れない相手に対してどう立ち回るかが重要になってきます」


心ノ穂乃果「ま、手札を完全に見せてないのはこっちも同じ」

海未「と言うと?」

心ノ穂乃果「5対5とは言ったけど私たち5人からメンバーが増えないとは言ってないからね〜」

海未「あぁ……なるほど、穂乃果は文字通り友を産み出せますからね」

海未「能力の一部ならルールには違反しないし、逆転に繋がる手ではありそうです」

心ノ穂乃果「そうそう、向こうが予想外の戦法で来たときのために秘密の手段は講じてあるわけですよ」

心ノ穂乃果「いざって時には誰を呼ぶかはロトーチカさんと話し合ったけど、詳しい中身はにこちゃんと同じでまだ秘密かな」

海未「ふむふむ」



にこ「じゃあ残りは海未と侑ね」

侑「ええっ! 私も!?」バッ!

にこ「ノリよノリ、話しちゃいなさいって」


侑「困ったなぁ……」 

侑(秘密……秘密と言えるものが何かあっただろうか)


侑「そうだ、言える範囲だと……こっそりダル子ちゃんに隠れて資料を見てたくらい?」

にこ「資料?」

侑「運営本部の机に広げられてたやつ、ダル子ちゃんには見ないでって注意されてたけど、つい目に入った資料に見覚えのある名前があって……」

希「運営の資料に乗ってる名前ってなんやろ、天界側の知り合いとかかな」

侑「ううん、私が見た資料は地上で拘束された穂乃果チームの協力者のリストなんだ」

侑「その名前の羅列の中に紛れ込んでたのが……知ってる友達の名前」


ザッ

侑「穂乃果さんたちには話したよね、スクールアイドルの子たちを応援してた時の話」

心ノ穂乃果「うん」

侑「その時の仲間の名前があったの、エマ、愛、璃奈……そして歩夢」

心ノ穂乃果「……!」

侑「もちろん同名の別人って可能性もある、というかそっちの可能性の方が高い」

侑「みんな私から見たら普通の女の子で……特に歩夢なんかは戦えるような子じゃなかったから」

48 ◆WsBxU38iK2:2020/07/01(水) 00:19:48 ID:wXOnB4Ro

侑「だけど流石に並んでると気になって……その後はダル子ちゃんに見つからないように資料は机に戻した」

心ノ穂乃果「…………」

侑「ま、ちょっと引っかかってるくらいだから穂乃果さんたちは気にしなくていいよ」

侑「出来るなら確かめたいなーくらい、ラグナロク決戦が行われてるうちは無理だけどね」

心ノ穂乃果「侑ちゃん……」


侑(……ま、本音を言えば今すぐ地上へ確かめに行きたい)

侑(だけど今の私はダル子ちゃんに協力してる立場だ、彼女に黙って役目を放棄するのは筋が通らない)

侑(何より形式上は敵側の人間たち、心配だから様子を見に行く……なんてダル子ちゃんには言えない)

侑(あの子が誰よりも覚悟を決めてることくらい、鈍感な私にだって分かるんだから)
  
ザッ ザッ


海未「……となると、残りは私ですか」

にこ「そーよ、無茶振りの言い出しっぺが逃げれると思わないで」

ことり「海未ちゃん、あまり無理しなくていいからね?」

海未「分かってます、ことりもお気遣い感謝しますが大丈夫です、問題ありません」 

希「なんや……やけに堂々としとるな」


海未「私が暖めていた秘密、それは>>49

49名無しさん@転載は禁止:2020/07/01(水) 06:25:13 ID:.tnst6SI
戦いが終わったらことりを寝取る予定

50 ◆WsBxU38iK2:2020/07/02(木) 00:07:03 ID:fGNpmWNQ
海未「戦いが終わったらことりを寝取る予定ということです!」

心ノ穂乃果「えぇ!?」

ことり「私!? 海未ちゃんが求めてくれるのは嬉しいけど私は穂乃果ちゃんのものだからなぁ〜」

海未「ハードルが高ければ高いほど燃えるというもの」

海未「見ててください、ことり、そして穂乃果! 私はラグナロクに勝利しあなたたちに想いを伝えますから!」


にこ「これまた堂々とした寝取り宣言ね……逆に健全なのかしら?」

希「変にドロドロさせず相手に直接言うのが海未ちゃんらしいというか何というか」

希「揉めないのは助かるけど健全の概念が迷子になってくるな」



侑「え、ええと……何か関係性が複雑っぽいんだね」

にこ「ほら希、侑が軽く引いてるわよ」

希「うち? いやいや、一見複雑そうやけどうちらは至って仲良しやで」

侑「そうなの……?」

希「うん、穂乃果ちゃんたちは元々幼馴染の仲良し3人組、うちとにこちゃんも同じ学校でスクールアイドルやってた」

希「たまに喧嘩することはあっても誰が誰と付き合ったところで今更嫌なムードにはならんよ」  

侑「へー、なんか大人だね」


希「ってかすでに穂乃果ちゃんとことりちゃんには子供がいるし、うちとにこちゃんにも子供がいるからなぁ」

侑「うんうん、更に大人っぽ……ってえぇ!?」

希「にこちゃんは別のメンバーの子供も産んでるし、穂乃果ちゃんは自分でもう1人産んでるで」

侑「どええっ!?」


にこ「ちょっと希、さらに驚かせてどうするのよ」

希「あぁごめんごめん」

侑「い、いや大丈夫だよ、同年代くらいなのに進んでるんだなぁ……」


侑「……むしろ私が遅れてる?」

にこ「そんなこと無いから安心なさい、それよりあそこに見えるのがあなたの馬? やけに興奮してるみたいだけど」

侑「え? ああ、そうだよ、あの馬はスレイプニル、オーディンが所有してる馬で私をここまで連れてきてくれたんだ」


スレイプニル「ヒヒーンッ! 可愛い女の子がいっぱいじゃねーか! うひょおおおおっ、そそるねぇぇ!」

カカカッ ブルルルルルルルッ!!


にこ「…………」

海未「あれが……噂に聞くスレイプニル……?」

侑「そういう反応になるよねー、変態なとこを除けば良い馬なんだよ、一応」


パカラッ パカラッ

スレイプニル「侑! 侑! あの胸とお尻の大きい子を乗せてくれよ、なぁ良いだろ〜? 感触を味わいたいんだよ〜」

侑「ダーメ、あなたには帰りも私が乗るから」

スレイプニル「ぶ〜、侑も悪くないんだがオレの好みはもうちょいセクシーでダイナマイトな……」

侑「はいはい聞いてないから」ペシッ

スレイプニル「あひゃうんっ!」


海未「侑、これでポータルのある場所まで行くのですか?」

侑「そうだよ、虹の橋ビフレストから最寄りのポータルまでもそこそこ距離があるから」

にこ「いちいち移動するさえ大変ねぇ、私たちも何か移動用のものを召喚するべきかしら」


侑「大丈夫、私はスレイプニルに乗るけど穂乃果チームの分も足を用意してあるよ」

にこ「ほう」


侑「みんなに乗ってもらうのはこの、>>51

51名無しさん@転載は禁止:2020/07/02(木) 00:20:13 ID:fODoIo9E
ペットの@cメ*?? ? ??リ

52 ◆WsBxU38iK2:2020/07/03(金) 00:40:04 ID:EOoBakak
侑「みんなに乗ってもらうのはこのペットの@cメ*?? ? ??リだよ」

心ノ穂乃果「え? 侑ちゃん今なんて?」

侑「@cメ*?? ? ??リだよ@cメ*?? ? ??リ」

心ノ穂乃果「ん……?」

海未「やはり聞き取れないですね」


侑「あーやっぱりか、この発音はアースガルズ独自のもので人には認識さらにくいらしいから、私も覚えるの苦労したんだよね」

侑「ちなみに書くとこう」スッ

ササッ

侑(スマホのお絵かきアプリを立ち上げ、指で『@cメ*?? ? ??リ』と書いて見せる)

心ノ穂乃果「んー……んん?」

侑「まぁとにかく召喚するよ、直接見てもらったほうが早そうだし……っと」

ポンッ

侑(私は懐から取り出したボール型カプセルを地面へ投げつける)

カッ! パァァァァァァッ!

侑(するとカプセルは光と共に割れて中から5体の@cメ*?? ? ??リが出てきた)


@cメ*?? ? ??リ「????ゥー!」

ババババババッ!


心ノ穂乃果「おわわっ!」

海未「ピンクの丸い体、そこから伸びた細長い4つの四肢、しかし肝心な体の中心はモザイクがかかっていてよく見えない……?」

にこ「中々独特なフォルムをしてるわね、ずっとモザイクの部分を見てると脳がバグってきそう」


侑「人の視覚にも影響を与えるらしいから、人間が完全に姿を捉えようとするにはそれなりの訓練が必要だって話」

希「完全に認識したらしたで狂気状態に陥りそうな気がして怖いな……」

@cメ*?? ? ??リ「??ゥー! ??ャー!」

カシャカシャ ガチャガチャ 

侑「まぁ見た目は不気味だけど乗り心地と踏破性能は中々のものだよ」

侑「アースガルズでは人気があってペットとして飼ってる神も多いの、私が召喚した5体もレンタルペットの@cメ*?? ? ??リなんだ」

53 ◆WsBxU38iK2:2020/07/03(金) 00:40:18 ID:EOoBakak


にこ「ペット……これが?」

海未「ツッコミどころは色々ありますが、今は四の五の言ってる時ではありません」

海未「決戦に遅れないようこれに乗って目的地へ急ぎましょう」

にこ「仕方ないわねぇ……」


にこ「よっ……と」グイッ

スタッ

にこ「こうして丸い体の背中に乗ってと、うわっ……妙にブニブニしてる、不思議な感触……」

にこ「ええと……それで掴むところはこの突起で良いのかしら、モザイク越しだからよく分からないわね」モギュッ

侑「そうそう、@cメ*?? ? ??リは勝手にスレイプニルに付いてくるよう仕込んであるから、振り落とされないようにしっかり掴まっててね」


侑「他のみんなも乗れたー?」


海未「はいっ!」

ことり「な、なんとか……おわわっ」

希「いけるで!」

心ノ穂乃果「大丈夫だよー!」



侑「じゃあ出発するよ! ポータルを通ってヴィーグリーズの野へ!」

スレイプニル「ヒヒーンだぜ!」

パカラッ!

ダタタタタタタッ!


─────────────────

ビフレスト

AM11:50〜12:10 反逆の焔編『3』了

54 ◆WsBxU38iK2:2020/07/03(金) 00:41:04 ID:EOoBakak
というわけでここまで

いざ決戦の地へ

反逆の焔編『4』に続く
かもしれない

55 ◆WsBxU38iK2:2020/07/04(土) 00:12:52 ID:S6dHqztY
反逆の焔編『4』

─────────────────
──ヴィーグリーズ

AM12:30



スレイプニル「ヒヒーンッ!」

パカラッ パカラッ ダタタタタタタッ


@cメ*?? ? ??リ「??ゥー!」

ドドドドドドドドドドッ!


侑(ビフレストから馬で飛ばして10分ほのにある最寄りのポータル)

侑(騎乗したまま通れる大きさのポータルを走り抜けると、そこはもうヴィーグリーズだった)

侑(荒れ果てた大地の面影はどこへやら、辺り一面見渡す限りの新緑の草原が広がっている)

サァァァァァッ

侑(地平線の果てまで続く緑、緑、緑、生命力溢れる自然が神々しく太陽の光を照り返していた)


侑(そんなヴィーグリーズを駿馬スレイプニル、そして後に続く@cメ*?? ? ??リの集団が駆け抜けていく)

パカラッ パカラッ ドドドドドドドドッ!!


海未「侑! あとどのくらいの時間で着きますか?」

侑「もうちょっとかなぁ、見えたら一発で分かるはずだよ」

海未「なるほど……確かスタジアムがあるという話でしたよね」

侑「うん」コクンッ

侑(細かい操縦に慣れたのか、海未ちゃんは走った状態の@cメ*?? ? ??リをスレイプニルの横に付けつつ器用に話しかけてくる)

侑(基本的にはオートでスレイプニルを追いかけるようにしてあるけど、この短時間で操縦を会得するとはさすがだ)


侑「ヴィーグリーズに建設されたスタジアムは全部で5つあって、今向かってるのがメインスタジアム」

侑「主に運営本部や選手控室があって開会式や閉会式なんかの試合進行はそこで行われる」

侑「観客が入るのもここだけらしくて、試合中は巨大スクリーンに別のスタジアムの映像が映るみたい」

海未「ふむふむ」


侑「まぁ私もダル子ちゃんから伝えられたことしか知らないから」

侑「詳しくは向こうに着いてから運営の人が教えてくれると思う」

海未「分かりました」


侑「……で、流石にそろそろ見えてくると思う、というか見えてこないと困るんだけど――――」

心ノ穂乃果「お? 見て! アレがスタジアムじゃない?」

侑「……よしっ! 道間違えてなくて良かったー」


侑(草原が広がる地平線の彼方、そこに巨大な建造物が姿を見せた)

侑(間違いない、あの>>56みたいなのがメインスタジアムだ!)

56名無しさん@転載は禁止:2020/07/04(土) 07:00:25 ID:9YzKrttg
コロッセオ

57 ◆WsBxU38iK2:2020/07/05(日) 00:27:45 ID:7vCdFfh6
侑(間違いない、あのコロッセオみたいなのがメインスタジアムだ!)


希「見えてきた見えてきた!」

にこ「これまた巨大なコロッセオね……でも北欧神話世界にローマ時代の建造物がドンと構えてるのは変じゃない?」

心ノ穂乃果「そう?」

海未「まぁ、元から建ってるならその違和感には概ね同意ですが……あのスタジアム、元々あったものではないのでしょう?」

侑「うん、穂乃果チームとの決戦が決まってから急遽建てたものだって言ってた」

海未「ですよね、ならば建設者の意図は理解できます」

海未「全世界中継の場であれほど決戦の雰囲気を伝えるランドマークとして分かりやすいものはないでしょうから」

にこ「なるほど、見栄え重視か、分かりやすくて良いじゃないの」


パカラッ パカラッ 

ダタタタタタタッ


ことり「それにしても……こうして近づいていくと迫力が増していくなぁ」

ことり「存在は知ってたけど、実際見ると違うものなんだねぇ」

海未「私たちが普段写真などで目にする遺跡としてのコロッセオとは違い、完全に新規で建てられたものという面もあるのでしょう」

海未「ローマ全盛期の再現……いえ、神々の手によって造られた全盛期を遥かに超えるコロッセオ」

海未「それが目の前に見えている建造物ですよ」

ことり「ひゃー、すごいんだなぁ」


侑(そんな風にコロッセオを外側から見た感想を言い合ってるうちに、私たちはコロッセオの近くまでやってきた)

パカラッ パカラッ

侑「確か……穂乃果チームの入り口は方角的にこっちの……」スッ

侑(私はダル子ちゃんの指示を書き留めたメモを見つつ、コロッセオの外周をグルっと走り先導していく)

パカラッ パカラッ


侑「えーと……あった! あそこだ!」

侑(コロッセオの外壁の一部にやたら装飾の施された入り口を発見)

侑(ぽっかりと開いた入り口のふちは炎を象ったアーチのようになっていて、近くの壁には炎に苦しむ地上の光景が描かれていたり、悪魔の像が設置されていたりする)

侑(神に敵対する穂乃果チームの入り口ということがこれでもかとアピールされた場所だ)

58 ◆WsBxU38iK2:2020/07/05(日) 00:28:13 ID:7vCdFfh6
海未「これまた……さながら地獄の門ですね」

にこ「時代錯誤というか世界観錯誤というか、たくさんの職人を呼んで好き勝手造らせた統一感の無さが見えるわ」

ことり「なんか普通に怖いな……入ったら死んじゃったりしない?」

希「まぁ実際死ぬかもしれん戦いなわけやし、今のうちらには合ってるんじゃないかな」

ことり「もー! 希ちゃん!」

希「ごめんごめん」



海未「この門くぐるものは一切の希望を捨てよ……か」

にこ「ん? 神曲? 地獄の門だから?」

海未「ええ、この門がそんなことを言ってる気がして……」

にこ「確かにねぇ、でも……そんな気はさらさらないでんしょ?」

海未「……ふっ、当たり前じゃないですか、私たちが希望を捨てることなんてありえません」


海未「そうですよね、穂乃果!」

心ノ穂乃果「もちろんっ!」

ダンッ! 

心ノ穂乃果「地獄の門? 大歓迎だよ、何が来ようと私たちはそこに飛び込んで希望を掴み取る、それだけ!」

ダタタタタタタッ!


侑「……!」

侑(5人は入り口へ向かって迷いなく@cメ*?? ? ??リを走らせる)

侑(すごいな……神との決戦を前にして少しも怖気づいていない)

侑(こっちに圧をかけるような意匠を見たところで跳ね返してしまう自信がある)

侑(私も私で常人とはかけ離れた生き方をしてきたつもりだけど、いったいどんな経験をすればここまで強くなれるのか――――)



??「こちらです! お待ちしてました!」

ことり「あれ? 入り口から誰か出てきたよ」

侑「おそらく運営の人だね、私はメインスタジアムまで案内したら引き継ぐように言われてるから」

侑「中に入ったらあの人がサポートや案内してくれると思うよ」


心ノ穂乃果「え? ってことは侑ちゃんとはお別れなの?」

侑「いやまぁ……私は知り合いが沢山いるとは言っても部外者だし、お手伝いはできてもあんまり内部事情には踏み込めないんだよ」

心ノ穂乃果「そっかー」

侑「でもスタジアムの中にはいるし、戦いも客席側で見てるから、頑張ってね!」

心ノ穂乃果「うん! 頑張るよ!」

侑「ふふっ」


侑(頑張ってね……か、どっちも本気で応援できない立場なのによく言えたなぁ)

侑(けれど陰りの見えた穂乃果さんの顔を見たらそう言わずにはいられなかった)

侑(出会ってから大して時間が経ってないというのに、穂乃果さんには不思議と元気でいてほしいと感じる)

侑(これが彼女たちの纏うオーラの力なのか、スクールアイドルとして培ってきた魅力なのか)

侑(できることなら、この笑顔をもう少し特等席で見ていたかったな……)


パカラッ パカラッ

キキッ

侑「……よし! 皆ここに停めて降りて!」

侑(そんな妙な名残惜しさを感じながらスレイプニルを壁の横に停める)

スタッ


侑「ええと……ここで引き継ぎで良いんですよね?」

??「はい! ここからはこの>>59にお任せください!」

59名無しさん@転載は禁止:2020/07/05(日) 08:02:59 ID:pFCxOFQ6
ヨハネ

60 ◆WsBxU38iK2:2020/07/06(月) 00:29:07 ID:xnGjgn22
??「はい、ここからはこのヨハネにお任せください!」

侑「分かりました、ヨハネさんよろし――――」

心ノ穂乃果「ヨハネ!?」ビクッ!

希「ヨハネってあの……でも顔や格好は似てるよなぁ」

海未「ヨハネシリーズが量産されてますから似た人間がいること自体はおかしくありません、ですが何故アースガルズに……?」

ことり「ほのりたちが回収してきた善子ちゃんはアースガルズに迷い込んだヨハネだけど、実はもう一体いたとか」

海未「いたとしてヴァルハラで雇いますかね、しかも運営側ですよ運営側」

ことり「うーん……」

にこ「ああもうっ、わけわかんないわねぇ!」


侑「みんな……?」

侑(運営の人の名前を聞いた瞬間に穂乃果さんたちは驚いた顔を見せた)

侑(そのまま少し入り口から離れて円陣を組んで何やら話し合いまで始めてしまった)

侑(なんだろう……聞き覚えのある名前だったのかな?)


ヨハネ?「みなさーん! どうかされましたー?」


心ノ穂乃果「あ、ごめんいきなり、あははは」

侑(私の視線に気づいたのか、穂乃果さんたちは円陣を解散すると誤魔化し笑いをしながら戻ってくる)


心ノ穂乃果「ちょっと動揺しちゃって、これからよろしくね、運営の善子ちゃん」

ヨハネ?「ヨハネよっ!!」ビシッ!


にこ「ふむ、この反応……やっぱり私たちの考えてるヨハネで合ってるわね」

希「口調が丁寧だったから半信半疑かところはあったけどこれは決まりやな」

海未「ということは堕天使計画で量産されたヨハネシリーズの一体」

海未「何故ここにいるかは……まぁ、今考えたところで仕方ありませんか」

ことり「そうだねぇ、聞けるタイミングで後々聞こうよ」

海未「はい、今は入り口からスタジアムの中へと入りましょう」



ヨハネ?「もーびっくりしましたよ」

ヨハネ?「皆さんが何に戸惑ってるかは分かりませんが、私のことはヨハネ、もしくは運営ヨハネとお呼びください」

海未「分かりました、では運営ヨハネさんと呼ばせて頂きます」

運営ヨハネ「はいは〜い、ではこちらへどうぞー、通路は少々薄暗くなってますので足元お気をつけてー」

テクテク テクテク

61 ◆WsBxU38iK2:2020/07/06(月) 00:29:25 ID:xnGjgn22


にこ「よしっ、ついにスタジアムね、興奮してきたわ……!」

希「張り切りすぎて決戦前に転んで怪我したりしないように気をつけるんやで」

にこ「転ばないわよ、子供じゃないんだし」

海未「ほらほら、遅れずついていきますよ」

ことり「ごーごー!」


侑(1人、また1人と薄暗い地獄の門の中へ穂乃果チームのメンバーが消えていく)

侑(そんな中、穂乃果さんが入り口の外で見送る私の方を見て手を振ってくれた)


心ノ穂乃果「侑ちゃん! 侑ちゃんもここまでありがとう! 私たちの戦い見ててね!」

侑「うん、がんばってね!」

侑(私は思わず手を振り返す、変な立場になってしまったけど、可愛い女の子を応援するのは素直にいいものだ)


心ノ穂乃果「がーんばーるよー!」

ザッ ザッ ザッ ザッ

侑(穂乃果さんは更に力強く手を振りながら入り口の中に消えていった)

侑(これで壁の外に残ったのは私一人だけ、他には思いの外大人しく待ってるスレイプニルしかいない)


侑「さてと……」

侑(ダル子ちゃんから頼まれた仕事は完了した)

侑(後は観客用入り口からスタジアムに入って観戦するなり、どこかで適当に遊んでるなり自由にできる)

侑(スタジアムには観客席以外にも飲食店やお土産屋さん、アミューズメント施設など見て回る所は多いらしい)

侑(気になる場所は多い、けど……)


侑「……うん、そうだね」

侑(私にはもっと気になって早く確かめたいことがある、今はそれをするべきだ)


侑「スレイプニル、もうちょっとだけ付き合ってもらえるかな、今度はお仕事じゃなく私の個人的なお願い」

スレイプニル「……ふんっ、構わねえぜ、レディーからの頼みとあっちゃ断れねぇのがオレってもんよ」

侑「ありがとっ」


スレイプニル「で? これから一体何をするんだ」

侑「それはね、>>62

62名無しさん@転載は禁止:2020/07/06(月) 06:26:36 ID:/a9/gyVo
ナンパ

63 ◆WsBxU38iK2:2020/07/07(火) 00:21:34 ID:3befEWzE
侑「ナンパだよ!!」ビシッ!

スレイプニル「ナンパだぁ!?」


スレイプニル「確かにまぁ、オレもナンパは好きだけどよぉ、今率先してやることかぁ?」

侑「スレイプニルこそ何言ってるの! 全然状況を分かってないよ!」

スレイプニル「じょ、状況……?」

侑「今このメインスタジアムにはアースガルズ中から色んな女の子が観戦に集まってる」

侑「ううん、それだけじゃない、別世界からの使徒も観客として足を運んできてるの」

侑「そんな可愛い女の子パラダイスな状況でナンパをしない選択肢はないでしょ!」


侑(私はスレイプニルと並んで一般入り口に向かって歩きながら、今が絶好のナンパタイミングだということを熱弁する)

侑(スタジアムの外壁に沿ってグルっと歩いて一般入り口に辿り着くには少し時間がかかる)

侑(その間にこの口だけ好色馬にナンパの真髄というものを教えてやらねば……)

ウンウン


スレイプニル「お前なぁ、観客には神のおっさん共も多いし使徒だって女の子だけとは限らんだろうが」

侑「ちっちっち、スレイプニルには夢がないねぇ、もっと夢を見なきゃダメだよ」

侑「想像してみて……人間とはまた違った可愛い異種族の女の子」

侑「人間離れした美貌、すらっと伸びる手足、絹のような髪、背中からは柔らかな純白の翼が広がっている」 

侑「そんな女の子が私の胸に飛び込んできて――――」


ダタタタタタタッ!

スレイプニル「……お、前から誰か走ってくるぞ」

侑「え?」


??「うおぉおおおおおおおっ!」

ダタタタタタタッ!

侑「……! あの子! あの子だよスレイプニル!」

侑「正に私の想像していた純白の羽を持つ可憐な女の子!」

スレイプニル「可憐なわりには全力疾走してるが……」

侑「それだけ早く私に会いたかったんだよ!」


侑「さぁそこの彼女! 遠慮しないで! 思いっきり私の胸に飛び込んで――――」

ブォンッ!

??「うぉおおおおおおっ!」

タタタタタッ 

タタタッ 

タタッ

64 ◆WsBxU38iK2:2020/07/07(火) 00:22:04 ID:3befEWzE
スレイプニル「思っきりスルーされたな」

侑「まぁ……そういうこともある、これがナンパだよ! 1人に振られたくらいでめげちゃいけない!」

スレイプニル「オレが言うことでもないが、お前は本当に貪欲だな」

侑「可愛い女の子には妥協したくないからね〜」


侑「そ、れ、に」クルッ

スレイプニル「……?」

侑「何かを成すには、まず人脈が必要不可欠なんだよ、特にこういう味方と敵が混在してる場所ではさ」

スレイプニル「あぁ……なるほどね」


侑「可愛い女の子をどんどんナンパして、どんどん繋がりを作って、どんどん情報を得ていく」

侑「そうして異種族ハーレムでウハウハしてる頃には何か彼女へ繋がる足掛かりの1つくらいできてるはず」

ザッ


侑(これは人だの神だの難しいお話じゃない)

侑(単に私の好奇心に答えるためだけの趣味と実益を兼ねた素晴らしい作戦だ)

侑(きっと他人の空似だろう、きっと私のことなど知らないだろう)

侑(それでも良い、気になる女の子を一方的に覗きに行きたいってだけなんだから)


侑(だから少し待っててね……歩夢)

侑(天界と地上を自由に移動できて、城まで潜り込める方法を決戦の間に見つけるから)

グッ

侑「よーし! 片っ端からナンパしてナンパして、ナンパしまくるぞー!」

スレイプニル「お、おー?」





65 ◆WsBxU38iK2:2020/07/07(火) 00:22:56 ID:3befEWzE




──メインスタジアム・外周通路

同時刻



タタタタッ

ロスヴァイセ(あれ? さっきすれ違った馬を連れた人に何か声をかけられたような気が……?)

ロスヴァイセ(いえ、今は余計なことを考えてる時間はありませんわ)


ロスヴァイセ(せっかくお姉様方を出迎えようと準備してたのに、まさか入場口を間違えて一般入り口のほうで待機してたとは……)

ロスヴァイセ(このロスヴァイセ、一生の不覚!)

グッ

ロスヴァイセ(とにかく今はスタジアムの外周を走って穂乃果チームの入り口までダッシュダッシュ)

ロスヴァイセ(お姉様、今駆けつけますわ!)


ロスヴァイセ「うぉおおおおおおおおおおっ!」

ダタタタタタタッ!

ビュンッ!







──穂乃果チーム・控室前


ザッ

ロスヴァイセ「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……」

ロスヴァイセ(神力を大量に消費するワルキューレダッシュをしたせいでふらつきますわね……)

ロスヴァイセ(でもそのおかげで、どうにか遅れは取り戻せたはず)


ロスヴァイセ(穂乃果チームの入り口を通ってスタジアムの中へ突入)

ロスヴァイセ(薄暗い通路をしばらく進むと十字路に出て少し迷ったけど、お姉様の残り香が消えてなかったからそれを追跡)

ロスヴァイセ(こうして穂乃果チームの控室の前まで来ることができた)


ロスヴァイセ(さぁ、息を整えて、汗を拭いて、今行きますわよ――――)

バンッ!!!!

ロスヴァイセ「お姉様ぁあああああああああっ!」   


ことり「うわっ!? ろ、ロスヴァイセ!?」

ロスヴァイセ「ワルキューレハグ!」

ことり「おわっ……!」グラッ

ゴロゴロゴロゴロゴロッ!

ガシャーンッ!

ロスヴァイセ(私が部屋に突撃して抱きついた衝撃でお姉様は椅子から落ち、私と一緒に床を転げ回って壁に激突した)


心ノ穂乃果「ことりちゃん!」

海未「ことり!」

ロスヴァイセ「しかしご安心を、転倒や激突のダメージは全てこの私が受けましたから! お姉様は無傷です!」


にこ「ったく……不審者に絡まれてる状況でご安心も何もないわよ」

にこ「運営ヨハネ、こいつつまみ出せる?」

運営ヨハネ「お任せください、部外者ですから」グイッ

ロスヴァイセ「待って待って、待ちなさいって! 私も一応運営側の1人なのですわ! ほら身分証!」スッ

運営ヨハネ「ほう」

66 ◆WsBxU38iK2:2020/07/07(火) 00:23:24 ID:3befEWzE


ロスヴァイセ「全く、失礼してしまいますわ」パンッ パンッ

ロスヴァイセ(床に倒れた立ち上がり、お姉様を優しく椅子に座らせ、お姉様についたホコリをはらって差し上げる)


希「ロスヴァイセ……確か量産魔王化されてたワルキューレで、ことりちゃんとミナリンスキーちゃんが助けたんやっけ」

にこ「そうそう、それで2人がお姉様〜って懐かれてたはずよ」

海未「あれは懐いたというか、洗脳したというか……まぁ深く追求しないほうがお互いのためでしょう」


運営ヨハネ「ふむ、身分証は問題ありませんね、ロスヴァイセ様、失礼しました」

ロスヴァイセ「分かってくれたらいいのよ」

運営ヨハネ「いえ、本当に申し訳ありん、どんな処罰でもお受けします」

ロスヴァイセ「もう……だから良いって、前から思ってたけど、あなた無駄に丁寧過ぎて相手しづらいのよ」

ロスヴァイセ「他のヨハネシリーズの奔放さを少しは見習ったら?」

運営ヨハネ「ですがこれが私ですので……今から性格を変えるのは難しいです」

ロスヴァイセ「も〜」



ことり「ん? ロスヴァイセは運営ヨハネのことを知ってるの?」

ロスヴァイセ「ええ、例の善子の一件以来、何故かアースガルズの各地で定期的にヨハネシリーズが見つかるようになりまして」

ロスヴァイセ「この運営ヨハネもその一体」

ロスヴァイセ「見つかった後、>>67という経緯でヴァルハラで働くことになったのですわ」

67名無しさん@転載は禁止:2020/07/07(火) 00:27:21 ID:EJE.JZK.
人手が足りなさすぎる

68 ◆WsBxU38iK2:2020/07/08(水) 00:18:48 ID:cYsK5.kk
ロスヴァイセ「人手が足りなすぎるという経緯でヴァルハラで働くことになったのですわ」

ことり「そんなに人手が足りないの? こんなスタジアム作って運営できるのに」

ロスヴァイセ「そもそも管理する規模が地上のそれとは違いますから」

ロスヴァイセ「エインヘリヤルが数千人いたとして、ヴァルハラ全域、およびアースガルズ全体となると手が足りないのですわ」

ことり「なるほどー」


ロスヴァイセ「大昔はもうちょっと人手が足りてたと聞きますが、神話世界は神同士の諍いが耐えない世界」

ロスヴァイセ「おそらくはそういった小規模な戦に巻き込まれて死亡したり……後はロキの起こした騒動だったりでしょうか」  

心ノ穂乃果「……!」

ロスヴァイセ「とにかく諸々の理由で現在は人材が減り続ける一方、ヴァルハラ人事部も内外からの積極的な採用を方針にしてるらしいですわ」



運営ヨハネ「本当、私のような素性の知れぬものを雇って頂けてヴァルハラには感謝しかありません」

ロスヴァイセ「私みたいな戦闘屋が事務仕事に回されてる現状を見るに、まだまだ人材問題は解決しそうにないでしょうけど」

海未「なんだかヴァルハラにも世知辛い事情があるのですね……」


運営ヨハネ「おほん、すみません、話が少々脱線しました」

運営ヨハネ「ではロスヴァイセ様が突撃して来る前の続きをしましょうか」

ロスヴァイセ「続き?」

運営ヨハネ「はい、ちょうどラグナロク決戦の進行と試合のルールについて話していたところだったのです」

ロスヴァイセ「それはタイミングが悪かったわね、続けてちょうだい」



心ノ穂乃果「確か開会式がどうこう〜の辺りまで聞いたよね」

運営ヨハネ「そうでしたね、皆さんには時間になったらスタジアムの中央にある闘技場へ入場してもらいます」

運営ヨハネ「闘技場は円形のバトルスペースとなっておりますが……まぁ説明するより見たほうが早いでしょう」

69 ◆WsBxU38iK2:2020/07/08(水) 00:19:01 ID:cYsK5.kk
運営ヨハネ「そこへ出場戦士の入場が済んだら開会式となります」

運営ヨハネ「主神からのお言葉、戦士宣誓、観客に向けてのルール説明、ヴァルハラ歌斉唱などがあります、詳しくはこちらの紙を」スッ

海未「ありがとうございます」

にこ「ふむふむ、結構長々とプログラムがあるわね……」


運営ヨハネ「開会式が終わり次第、休憩を挟んでラグナロク決戦へと移ります」

運営ヨハネ「決戦形式は事前に両リーダーが同意した通りの1対1」

運営ヨハネ「これを5回繰り返すわけですが、この時戦士たちは毎回別のスタジアムへと飛ばされることとなります」

ことり「別のスタジアム……?」

運営ヨハネ「このメインスタジアムの他にある4つの特殊なスタジアムです、詳細は実際に飛ぶまで両戦士には伏せられています」

にこ「ほう、だったらフィールドを理解して適応する速さも勝負に関わってきそうね」

希「なんや難しそうやなぁ」


運営ヨハネ「その特殊スタジアムで戦い、どちらかが戦闘不能かリタイアを宣言、もしくはスタジアムの範囲外へ出てしまった時点で決戦は終了」

運営ヨハネ「戦闘不能とはダウンから10カウントで立ち上がれない、または気絶、または死亡のどれかを指します」

希「……おぉ、やっぱ死ぬこともあるんか」

にこ「大会っぽくなってるけど戦争に変わりはないからね、気を引き締めていきましょ」

希「せやな……」

運営ヨハネ「決戦が終了されると戦っていた戦士たちが自動的にメインスタジアムへ送還され、次の決戦へと移ります」


海未「なるほど……それを5回繰り返すと」

運営ヨハネ「はい」

海未「一戦ごとの勝敗の付け方は分かりましたけど、総合的にはどうなるのでしょうか」

海未「やはり勝ち星の多いチームが勝ちなのですか?」

運営ヨハネ「基本的には……そうですね、ただし両チームのリーダーが合意されすればルールの適宜変更は可能です」

海未「ふむ……それはまた一波乱ありそうな」


運営ヨハネ「それともう1つルールとして>>70

70名無しさん@転載は禁止:2020/07/08(水) 06:16:40 ID:DWhN/ObM
露出度の高い服装で参加

71 ◆WsBxU38iK2:2020/07/09(木) 00:15:06 ID:0yDFVNtk
運営ヨハネ「それともう1つルールとして露出度の高い服装で参加となっています」

にこ「露出度……?」

海未「動きやすい服装でってことですかね」

にこ「だとしたらそう書くし、動きやすさと露出度はイコールじゃないし、これは単純に肌面積じゃない?」

希「ふーむ……今着てるアイドル衣装も一般的には露出度高めやけど、もう少し肌見せた方がええんかな」スッ

海未「ちょっ、希!」

にこ「希はそのくらいでいいわよ、それ以上布を少なくすると色々はち切れて飛び出しそう」

希「そう?」


にこ「それより露出度で言ったら海未、あんたはもうちょっと詰めたほうがいいわね」

海未「……え? わ、私ですか?」

にこ「そーよ、私たちの中で一番スカート長いし、こんなとこでルールに引っかかってられないからね」

海未「いや……私はこのくらいで充分露出度あるかと……」

にこ「行きなさいことり!」

ことり「うおーん!」ガバッ!

海未「いやっ、ちょっとことり……いやぁああああああっ!」


バッ! シュバババッ!

海未「あああぁ……」


ことり「くっくっく、こうなったら海未ちゃんだけじゃなく皆の衣装を調整するよ!」キランッ

ことり「ミニスカ、肩出し、へそ出し、胸元開け、背中開け、元の衣装のデザインは残しつつ肌見せられるとこはどんどん見せてくから!」

ことり「さぁ順番に並んで!」

海未「ひぃぃぃぃぃっ!」



心ノ穂乃果「なんだかまた大変なことになってきたな……」

ロスヴァイセ「がんばってー!お姉様ー!」ブンブンッ


心ノ穂乃果「……ロスヴァイセ、そういえばダル子ちゃんとは会った?」

ロスヴァイセ「え? ええ……はい、会いましたわ」

ロスヴァイセ(お姉様が海未さんを縛り上げ衣装をいじってるのを少し離れて応援していると、隣の穂乃果さんが急に話しかけてきた)

ロスヴァイセ(にこさんや希さんも海未さんの方に行っていて、近くには私たち2人しかいない)

心ノ穂乃果「その……様子はどうかな」

ロスヴァイセ「…………」

ロスヴァイセ(なるほど、穂乃果さんはダル子のことを気にかけているのですね)

72 ◆WsBxU38iK2:2020/07/09(木) 00:15:29 ID:0yDFVNtk
ロスヴァイセ(尚且お仲間には不安な気持ちを見せたくない、だからこの2人のタイミングで話しかけて来たと……)

ロスヴァイセ(急に声をかけられ少し戸惑いましたが、そうと分かれば話は簡単)


ロスヴァイセ「心配しなくても大丈夫ですわ、ダル子は元気にやっています」

ロスヴァイセ「運営のお仕事で忙しそうでしたけど、彼女なりに一生懸命自分のやるべきことをこなしてる……そんな様子でしたわ」

心ノ穂乃果「そっか、元気そうなら良かった」

ロスヴァイセ(表情はさっきと変わらない、けれど安心したのか声のトーンは少し高くなった)

ロスヴァイセ「もう……リーダーがそんな顔するものじゃありませんわ」

心ノ穂乃果「ははは……ごめんごめん、分かってる、今だけだからさ」


ロスヴァイセ(言葉では吹っ切れてるように見えても、背負う重責は人の身にはあまりに重すぎるもの)

ロスヴァイセ(戸惑いや不安が完全になくなることはないのでしょう)

ロスヴァイセ(けれど、きっと穂乃果さんは決戦が始まればそんな様子など一切見せず果敢に振る舞うのだろう)

ロスヴァイセ(だって、この方は私の敬愛するお姉様の友なのだから……)


ロスヴァイセ「良いですわよ、今くらい」

心ノ穂乃果「え?」

ロスヴァイセ「私はあなたのチームでもなければ敵チームでもない、仕事もなく暇してるだけのワルキューレですから」

ロスヴァイセ「こんな相手にくらい弱音をこぼしても良いのです」

心ノ穂乃果「うん……ありがと」

ロスヴァイセ「いえいえ」



心ノ穂乃果「ん? 仕事が貰えず暇だったから遊びに来たの? 運営にいるのに?」

ロスヴァイセ「うぐっ……そ、そこは掘り下げなくて良いのですわよ?」



運営ヨハネ「では皆さん! 説明は終わりましたので開会式の時間までしばしお待ちを」

運営ヨハネ「時間になりましたら迎えに来ますから、その間にやること済ませておいてください」

スタスタ パタンッ 

スタスタ

ロスヴァイセ(運営ヨハネはそう言うと控室のドアを閉めて出ていった)


ロスヴァイセ「開会式の時間まで待機ねぇ……何かすることあるんですの?」

心ノ穂乃果「そうだなぁ、時間的にはあと30分くらいだし……>>73

73名無しさん@転載は禁止:2020/07/09(木) 07:04:31 ID:rIuqEEIo
手軽に3分クッキング

74 ◆WsBxU38iK2:2020/07/10(金) 00:19:45 ID:4rh4ZrJI
心ノ穂乃果「手軽に3分クッキングでもしようかな」

ロスヴァイセ「クッキング? ここで?」

心ノ穂乃果「そうそう」ガサゴソ


ロスヴァイセ(穂乃果さんはそう言うと荷物が置いてあるスペースへ向かい自分が持ってきたであろう荷物を漁る)

ロスヴァイセ(私が後ろからその様子を覗いていると、いつの間にかにこさんが戻ってきていた)


にこ「ちょっと穂乃果、決戦前なんだからあまり重いものは食べられないわよ?」

心ノ穂乃果「分かってる、どのみちこの控室だと本格的な調理器具は置けないし」

心ノ穂乃果「あくまでお手軽クッキングだよ」

ガサゴソ ガサゴソ


ロスヴァイセ「荷物……随分と中に沢山の物が入ってるのですわね」

心ノ穂乃果「うん、替えの服やタオル、エネルギー補給用の食料や簡易的な調理器具、応急手当ができるような医療品一式」

心ノ穂乃果「決戦会場に何があって何かないか分からなかったからさ、取り敢えず使いそうな物は全部詰め込んで来たんだ」

にこ「これでも削ったほうだけどね、最初はもっとパンパンだったのよ」


心ノ穂乃果「……よし、これとこれで良いかな!」

トンッ トンッ トンッ

ロスヴァイセ(穂乃果さんは荷物から取り出したものを机に並べていく)

ロスヴァイセ(あれはパンと……いくつかの小瓶?)


にこ「またパン、あんたもいい加減パンが好きねぇ」

心ノ穂乃果「やっぱり手軽に取れる軽食と言ったらパンでしょ」 

心ノ穂乃果「サンドイッチ風にしたらお弁当っぽさが出るし、今食欲がなかったら後で決戦の合間に食べたっていいし」

にこ「確かに……まぁカットして挟むくらいなら私も手伝うわ、てかパンを切るなら私の方が上手いでしょ」

心ノ穂乃果「そうだね、じゃあお願いしようかな、にこちゃんがパン担当で私が具材担当だね」


ロスヴァイセ「サンドイッチ……ミッドガルズの食べ物ですわね、確かパンの間に具を挟んでバリエーションを出す……」

心ノ穂乃果「そうだよ、そのサンドイッチ」

ロスヴァイセ「いったいどんなものを作るんです?」


心ノ穂乃果「うーんと……まずはベタに野菜やハムのあっさりとしたものが中心かな、少しデザート系を混ぜるのも良いかも」

心ノ穂乃果「その他には>>75

75名無しさん@転載は禁止:2020/07/10(金) 05:24:38 ID:dssVP5Kw
カツサンド

76 ◆WsBxU38iK2:2020/07/11(土) 00:18:33 ID:7UdbN3ls
心ノ穂乃果「その他には……やっぱりこれでしょ!」

ドンッ!

にこ「へぇ〜、験担ぎってわけ? 良いじゃない」

心ノ穂乃果「でしょー」


ロスヴァイセ(穂乃果さんが取り出したのは透明な密封容器に入った揚げられた肉の塊)

ロスヴァイセ(予め切り分けられていたそれを容器から出して等間隔に並べていく)


ロスヴァイセ「そのお肉? カツですか?」

心ノ穂乃果「うん、私たちの国には勝負ごとの前にカツを食べる験担ぎがあって……験を担ぐって分かる?」

ロスヴァイセ「なんとなくは、縁起のいい食べ物みたいな意味ですわよね」

心ノ穂乃果「そうそう、だからカツサンドも縁起が良いの」

トンッ トンッ

心ノ穂乃果「カツ自体は円卓での修行生活の時に作った余り物だけど、持ち運べるように冷凍してタッパーに入れておいたんだ」

心ノ穂乃果「これを……」スッ

ボォォォォウッ!

ロスヴァイセ(等間隔に並べた冷凍カツに穂乃果さんが手をかざすと、手が出た炎がカツを炙った)

ロスヴァイセ(すると次の瞬間にはもうカツは解凍されていて、揚げ物の香ばしい匂いが辺りに漂う)


にこ「ほんと便利ね、今の穂乃果がいたら光熱費が浮きそうだわ」

心ノ穂乃果「これでもたまに火加減ミスして焦がしちゃうことあるし、料理は難しいというか、調理器具を作った人はすごいというか」

心ノ穂乃果「完璧に火加減を掴むにはまだまだ練習が足りないよ」

にこ「十分だと思うけどねぇ、はいカットしたパン」

心ノ穂乃果「ありがと……じゃあこれを挟んでっと」

ポンッ

ロスヴァイセ(にこさんがカットしたパンに穂乃果さんが用意してた具材を丁寧に挟んでいく)

ロスヴァイセ(ハムや野菜、果物、それに解凍したサクサクのカツ、具材に合ったソースやクリームを塗るのも忘れない)

ロスヴァイセ(ふむ……即席にしては結構美味しそうですわね)


心ノ穂乃果「カツサンドのパンは表面を少しトーストしておいて……」

ボォォォォウッ

心ノ穂乃果「よしっ」

77 ◆WsBxU38iK2:2020/07/11(土) 00:18:47 ID:7UdbN3ls


スタスタ

希「……ん? なんかいい匂いしてるなぁ」クンクン

海未「うぅ……私の衣装が一回り破廉恥に……」

ことり「美味しそう〜!」


心ノ穂乃果「みんな来て来て! 決戦前の軽食を用意したよ!」

心ノ穂乃果「カツサンドを食べて決戦にも勝とうー!」

ことり「わ〜い!」 

にこ「ほら希、海未も取って食べなさい」スッ

希「おぉ」

海未「あ、ありがとうございます」


ハムッ モグモグ

ことり「うん! 美味しい!」

希「いけるなぁ、こう決戦に向けて気合が入ってきたで!」

心ノ穂乃果「ふふっ……それは良かった」



にこ「ロスヴァイセも1つどう?」

ロスヴァイセ「私?」

にこ「遠慮しないで食べなさいってば」

ロスヴァイセ「で、では……」スッ

パクッ

ロスヴァイセ「……! 美味しい……!」

にこ「でしょ?」

ロスヴァイセ(あまり人間の食べ物は食べないけど、それでもこれが美味しいのは分かる)

ロスヴァイセ(この美味しさは食材の味だけじゃない、何故だろう、穂乃果さんたちが作っていたのを見ていたから……?)


にこ「そういえばロスヴァイセはこの後どうするの? 観戦?」

ロスヴァイセ「……む、むぐっ」ゴクンッ

ロスヴァイセ「……ぷはっ、そうですわね、本当なら近くでお姉様を応援したいですけど、穂乃果チーム側のベンチには当然入れませんし」

ロスヴァイセ「運営関係席から応援しつつ、>>78

78名無しさん@転載は禁止:2020/07/11(土) 10:16:15 ID:l5DEhtIU
情報を流す

79 ◆WsBxU38iK2:2020/07/12(日) 00:14:38 ID:RUtnMQEM
ロスヴァイセ「私は運営関係席から応援しつつ、時折情報を流しますわ」

にこ「情報? スパイみたいなことしてくれるわけ?」

ロスヴァイセ「ええ」コクンッ

にこ「私は歓迎だけど……穂乃果やことり辺りはどう思うか分からないわね」

にこ「こっちだけ情報をもらうと公平な勝負感は薄れちゃうじゃない?」

にこ「あくまで勝負の形式を取った戦争だから四の五の言ってられないのは理解できるけど、モチベーション的にどうなのか」

ロスヴァイセ「ふむ……だったらにこさんだけに流しましょうか、お姉様たちはサンドイッチに夢中でこの話を聞いてないようですし」

にこ「おっけー、それでお願い」

にこ「あんたの情報が使えると判断したら私の方でそれとなく誘導するから」

ロスヴァイセ「お気遣い感謝しますわ」


ロスヴァイセ「ただし、私が得られる情報はあくまで運営サイドから私の権限で探れるもののみ」

ロスヴァイセ「あの老獪オーディンが自らなチームのことを無闇やたらに運営側に漏らすとは考えにくいですし」

ロスヴァイセ「核心的な情報というよりは皆さんのサポートになる程度の情報になると思いますわ」

にこ「大丈夫よ、問題ない」

ロスヴァイセ「ええ、ではそういう手筈で――」スッ

にこ「うん」

ロスヴァイセ(そう言って私は通信用のアーティファクトをにこさんの手に握り込ませた)

ロスヴァイセ(小さなペンダント型で特殊な術式が組み込まれてるため傍受されにくく見つかりにくい)


ロスヴァイセ「ではお姉様方! 私はこれで帰ります!」

心ノ穂乃果「……んお! もういっちゃふふの!?」

海未「こら穂乃果、食べながら喋らない」

心ノ穂乃果「ほへんほへん」

ことり「ロスヴァイセ、わざわざ顔を出してくれてありがとうね」

ロスヴァイセ「いえいえ」


ロスヴァイセ「体は離れていても心はいつも近くに、応援席の方から活躍を祈っておりますわ〜!」ブンブンッ

ガチャ タタタタタッ


海未「すごい勢いで帰っていきましたね……」

希「来るときもいきなりで帰るときもいきなり、元気な人やなぁ」

希「だけどうちらを応援する気持ちはしっかり伝わってきたで」

心ノ穂乃果「うんっ」ゴクンッ


心ノ穂乃果「侑ちゃんやロスヴァイセ、こっちにも私たちを応援してくれる人がいる、それが分かっただけで元気が出るよ」

にこ「そうね」

海未「はい」

ことり「一生懸命頑張らないとっ」


心ノ穂乃果「開会式の時間まであと少し」

心ノ穂乃果「みんな、パン食べて気合入れていこう〜!」

「「「おー!!」」」


─────────────────

ヴィーグリーズ 
メインスタジアム前〜控え室

AM12:30〜PM1:10 反逆の焔編『4』了

80 ◆WsBxU38iK2:2020/07/12(日) 00:15:25 ID:RUtnMQEM
というわけでここまで

次から開会式

反逆の焔編『5』に続く
かもしれない

81 ◆WsBxU38iK2:2020/07/13(月) 00:51:11 ID:mNFPQuFc
反逆の焔編『5』

─────────────────
──メインスタジアム・地下通路

PM1:30


カツンッ カツンッ

ダル子「ふぅ……」


ダル子(仮眠したおかげで体調は万全、入念な準備のかいあって進行に対する不安要素もない)

ダル子(けれど、やはりこれだけの大舞台だ、緊張しないと言ったら嘘になる)


ダル子(長く続くひんやりとした地下通路、そこに響くのは私の呼吸音と足音だけ)

ダル子(ゆっくりと息を整え、緊張の成分を口から逃していく)

ダル子「すぅー、はぁー」


ピピッ

運営本部『ダル子さん、いけます?』

ダル子「はい、いつでも」

ダル子(耳に付けた通信機から運営本部にいる通信手の声が届く)


ダル子(さぁ、開会式が……始まる)

グッ

ダル子(私は通路の一番奥にある円形の台座の上に立ち、手に持ったマイクを強く握りしめた)


運営本部『では……始めます!』

ダル子「……!」

バンッ!! 

ダル子(地下の台座から見上げた天井、そこに取り付けられたハッチが円形に開き、台座が一気に地上まで競り上がる)

ダル子(私の体は台座に押し上げられ、頭上に見えた青空に吸い込まれるように上昇していく)

ゴッ!!!!

ダル子(そうして私がスタジアムの地下から地上の闘技場へ飛び出すと、スタジアムに盛大なファンファーレが鳴り響いた)

ダル子(続いてヴァルハラ神曲楽団による生演奏、満員のギャラリーによる歓声がメインスタジアムを包み込む)

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


ダル子「おぉ……!」

ダル子(正に圧巻の一言だった)

ダル子(コロッセオ型のスタジアムに詰め込まれた人、人、人)

ダル子(種族が違えば大きさも違う、様座な容姿の神や使徒の群衆)

ダル子(私の立つコロッセオの中心の闘技場からは、そんな混沌を具現化したような観客席の全てが一望できる)

82 ◆WsBxU38iK2:2020/07/13(月) 00:51:29 ID:mNFPQuFc


ダル子「くっ……」グッ

ダル子(ダメだ……空気に飲まれちゃいけない)

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

ダル子(私の立つ闘技場は円形の石で出来たベーシックなフィールド)

ダル子(これと言った特徴のない白い舞台にポツンと1人でいるせいで、スタジアムにいる観客の視線は私に全て集中していた)

ダル子(良い……それで良い、注目されてるなら良いことじゃないか)

ダル子(私は怯まず私の仕事をこなすだけだ!)

バッ!


ダル子「さぁ皆様! ついにラグナロク決戦が始まりました!」

ダル子「場所はアースガルズ、ヴィーグリーズの野、メインスタジアムから全世界中継でお送りいたします!」

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

ダル子「聞こえますでしょうか! このスタジアムに溢れんばかりの歓声!」

ダル子「ミッドガルズの人間のみならず、アースガルズの神々や他世界の使徒までもが世紀の決戦に注目の目を向けています」

ダル子「進行、および審判を勤めるのはこの私、光の神ヘイムダルが娘ダル子!」

ダル子「未熟者ながら皆さんに熱い決戦をお届けしたいと思ってます、どうぞ宜しくお願いします!」

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


ダル子(よし、行けてる……!)

ダル子(マイクを握りしめる手が少し震えてるけど、この分なら大丈夫!)


ダル子「観客の皆様も気合が入ってるようですね、長々と前口上を述べたところで退屈でしょうし、早速戦士入場と行きましょう!」

ダル子「皆様から見て左側、青色のゲートから入場するは挑戦者!穂乃果チーム!」

ダル子「スルトの力を身に宿した人間を筆頭に据えた異能集団、果たしてどんな戦いを見せてくれるのでしょうか!」

ダル子「では入場どうぞ!」

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


ダル子(私の合図と共に青色に塗られた巨大なゲートが音を立てて開く)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

ダル子(ここから先、戦士が入場して中央の闘技場まで来る間は進行予定表では自由パフォーマンスとなっている)

ダル子(つまりは自由にチームをアピールしながら入場してきていいわけだ)

ダル子(神々や使徒、ひいては全世界が注目している場でのアピールは、チームの印象に強い影響力を与えるだろう)

ダル子(勝負が一対一の形式とは言え、勝負事で観客の心を掴むことは大きなアドバンテージになる)


ダル子(さて、穂乃果チームの入場パフォーマンスの様子は……>>83)

83名無しさん@転載は禁止:2020/07/13(月) 01:01:04 ID:ZSOblMSk
歌を歌いながらの入場

84 ◆WsBxU38iK2:2020/07/14(火) 00:18:51 ID:UR3Q2Erg
カッ!

ダル子「……!」


ダル子(開いた青ゲートの奥、その暗がりがスポットライトで照らされると同時に曲が流れ始めた)

ダル子(静かな立ち上がりの曲に乗せて聞こえてくるのは、穂乃果の綺麗な歌声)

ダル子(大好きで何度も何度も聞いた、μ'sとしての歌声だ)

ダル子(さっきまでざわついていたスタジアム内の観客も、しんとなって歌声に耳を傾けている)


ダル子(そして曲が盛り上がりを見せ始めると、青ゲートの両端から炎が地面を伝って伸び、スタジアム中央の闘技場まで繋がる) 

ダル子(左右に広がった炎の帯で区切られ出来上がるのは炎の花道)

ボォォォォウッ!!

ダル子(戦士を迎える下準備が整うと、ついにスポットライトの下に穂乃果チームの戦士が現れた)

バッ!

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


ダル子(右から穂乃果、ことり、海未、にこ、希と5人が立ち並び、順番に1人ずつ炎の花道を歩き始める)

ダル子(1人目が歩き出すと歌のパートがその人に、1人目が花道を渡り終わって2人目が歩き出すと歌のパートがその人に)

ダル子(そうして5人で歌を順番に歌い紡ぎながら入場し、曲がサビに差し掛かるところで闘技場のステージの上に5人が揃う)

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


ダル子「穂乃果……」

心ノ穂乃果「来たよ…ダル子ちゃん!」


ダル子(歓声に包まれるスタジアムの中心で私の穂乃果は再び相まみえた)

ダル子(もう前の時のような迷いはない、私は私のやるべきことをやるだけだ)


ダル子「はい穂乃果、観客に向けて一言お願い」スッ

心ノ穂乃果「うん」

ダル子(私が穂乃果へ司会用のマイクを渡すと、穂乃果はマイクのスイッチを入れて客席を見上げる)


カチッ

心ノ穂乃果「穂乃果チームの代表の穂乃果です!」

心ノ穂乃果「人間側の代表として精一杯戦うので観客の皆さん、画面の向こうの皆さん、どうか暖かい応援を宜しくお願いします!」

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


ことり「おぉぉ……予想以上に盛り上がってるね、ライブ会場並のテンションだよ」

海未「私たちは立場的には神様の敵に当たるのですが関係ないのでしょうか」

ダル子「一応盛り上げてって指示はしてますけど……まぁ、酔狂な祭り好きの神が多いんですよ」

ダル子「何よりラグナロクという滅びを受け入れて待ち構えてたのが北欧神話の神々ですから」

ダル子「そんな一大イベントを目の前で見ることが出来てテンション上がらないわけがありません」

希「なるほどなぁ」

85 ◆WsBxU38iK2:2020/07/14(火) 00:19:09 ID:UR3Q2Erg
ダル子「それに、客席の3分の1くらいはどちらの勢力にも所属してない使徒ですし」

海未「……え!?」

にこ「使徒!?」

ダル子「……む、やはり穂乃果チームは違和感を感じ取れるんですね」

海未「穂乃果チームは……という言い方をしましたね、他はそうではないと?」

ダル子「ええ、アースガルズ側、運営側の関係者まで含めて使徒の完全に疑問を持ってる人はいません」

ダル子「おそらくは書類に関する認識改竄能力、カリオペーという使徒に心当たりは?」

海未「いえ……特には」

にこ「知らないわね」


ダル子「そうですか、まぁカリオペーが言うには使徒はあくまで観戦に徹するそうですし、何かあればこちらで対応します」

ダル子「穂乃果チームは気にせずラグナロク決戦に集中してください」

にこ「気にせずって……今の聞いて気にしない方が無理な話よ」

ダル子「大丈夫です、試合に手出しはさせませんから」

にこ「うーむ……」



心ノ穂乃果「――というわけで、じゃんじゃん盛り上げてってくださいねー!」

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!


心ノ穂乃果「はいダル子ちゃん、マイク」

ダル子「ありがとうございます」

ダル子(挨拶が終わった穂乃果からマイクを受け取る)


ダル子「というわけで、使徒のことはこちらに任せてください」

にこ「……ええ、完全に納得はできてないけど了解したわ、どのみちこれから戦う私たちには対応の仕様がないし」

心ノ穂乃果「え? 使徒? 何の話?」

海未「穂乃果には後で私から話しておきます、ダル子は進行の続きを」

ダル子「はいっ」


ダル子(歓声が鳴り響くスタジアムでは、闘技場の上でのマイクを使わない会話はかき消され遠くまでは届かない)

ダル子(つまりさっきまでの私と海未たちの会話みたいなものは、ごくごく近距離にいる人にしか聞こえないのだ)


ダル子(だからこうして、しっかりとマイクのスイッチを入れて――――)

カチッ


ダル子「では続いて! 赤ゲート! オーディンチームの入場です!」

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!


心ノ穂乃果「オーディンチーム……!」

ダル子(スタジアムの中に穂乃果チームの時とはまた違った、ピリっとした緊張感が走る)

ダル子(神格5柱からなるオーディンチーム、残る1人の戦士の詳細は私たち運営側にも知らされていない)


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

ダル子(そして赤ゲートが開くと、>>86)

86名無しさん@転載は禁止:2020/07/14(火) 06:59:15 ID:grB2QID6
ミュージカル風に入場

87 ◆WsBxU38iK2:2020/07/15(水) 00:12:45 ID:ZGAJ9R7E
ダル子(そしてゲートが開くと、こちらもまたスポットライトの光が放たれた)

カッ!

ダル子(流れ始める音楽は穂乃果チームの馴染みのある曲調とは違い、重厚で迫力のあるクラッシックのような曲)

ジャッ! ジャッ! ジャジャッー!


オーディン「我が覇道を止めるものなし! 戦列を開けよ!!」

ドドドドドドドドドドドドッ!!

ガガガガガガガガガッ!!

ダル子(オーディンの勇ましい声と共に赤ゲートから闘技場へ続く地面が競り上がり左右に分割される)

ダル子(岩で作られた強固な花道、そこをオーディンは歌いながら歩いてくる)


オーディン「ああ〜、今滅び行く世界よ〜、黄昏に落ち行く未来よ――――」

ダル子(声の出し方、抑揚の付け方、芝居がかった大げさな身振り手振り)

ダル子(それらはライブと言うより演劇、ミュージカルに近いものだった)

ダル子(演劇の内容はラグナロクに直面した世界を憂いながらも、それに立ち向かう覚悟と力を誇示するようなもの)

ダル子(スタジアムに集まった神々と使徒、中継を見てる全世界に向けて自分の決意をアピールしているんだろう)


オーディン「さぁ! 今こそ! 我が元に戦士よ集え!」

ダル子(先頭を歩くオーディンが道の中程で手を突き上げると、オーディンの後ろに天から4つの影が舞い降りた)

ドドドドッ!!

ダル子(おそらくオーディンチームのメンバーだろうけど、全員が全身を覆うローブを纏っていて顔を確認することはできない)

ダル子(分かるのは各自のローブの背中の部分に雷や剣と言ったその神を表す個別のエンブレムがついてることくらい)

 
オーディン「刻みし勝利は数知れず、その豪腕で振るうは神の槌! トール!」

トール「……」バッ!

ダル子(オーディンがトールの名を謳い上げるように叫ぶとローブ集団の1人が前に出る)

ダル子(だけどローブを取る様子はなく、観衆に向けてポーズを取るとまた後列へ戻っていく)


オーディン「掲げたるは勝利の剣――――」

ダル子(その調子でオーディンは続けてフレイ、ヴァーリの紹介をし、2人目、3人目のローブ姿が前に出た)

ダル子(残るは4人目……私も知らされていない最後のオーディンチームの戦士)


オーディン「――そして最後、我らと共に戦う同胞に誰を迎えるべきか、我らは決戦の直前まで議論に議論を重ねた」

オーディン「そして決まった最後の同胞、その名は>>88

88名無しさん@転載は禁止:2020/07/15(水) 06:23:11 ID:9BgrLoB.
ヘイムダム

89 ◆WsBxU38iK2:2020/07/16(木) 00:27:03 ID:Km2WQn5M
オーディン「その名はヘイムダム!」



ダル子「ヘイム……ダム?」

ダル子(オーディンの叫びに呼応し、最後のローブ姿が前に出た)

ダル子(その背中に刻まれているのは光を模したエンブレム)


オーディン「かの者こそ死から蘇った光の神ヘイムダル! 新たにヘイムダムの名を冠した戦士なり!」

オーディン「我らはこの5つの力を結集し! 世界を滅ぼす黄昏へと立ち向かう!」

オーディン「勝利は我らオーディンチームの手に!!」

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!



心ノ穂乃果「ねぇ、ダル子ちゃん、ヘイムダルって……」

ダル子「…………」

ダル子(最後のオーディンチームの戦士紹介に湧く会場、だけど私はそれどころではなかった)

ダル子(頭の中がグルグル回って考えが纏まらない、いったい……どういうことなの……?)


ダル子「分からない……どうして……なんで……だって……」

ザッ


ダル子「お父さんはあの時、死んだはずなのに……!」

90 ◆WsBxU38iK2:2020/07/16(木) 00:28:03 ID:Km2WQn5M





──スタジアム・運営関係者席



フレイヤ「どういうことよ!」

ロスヴァイセ「フレイヤ様……?」


ロスヴァイセ(メインスタジアムの一画にある、運営に携わったエインヘリヤルやワルキューレが観戦するためのスペース、それがこの運営関係者席)

ロスヴァイセ(他の席とは壁で区切られていて、スタジアムの内部を通るスタッフ通路からしか入ってくることはできない)

ロスヴァイセ(席の作りなども格の高い神用のVIP席とまでは行かないけれど、一般席よりはそこそこ快適な作りになっている)


ロスヴァイセ(そこで私は他のワルキューレと情報収集がてらの談笑をしつつ、開会式の様子を見ていた)

ロスヴァイセ(運営関係者席での観戦はお姉様たちのパフォーマンスもあって楽しく、大きなハプニングもなく進んでいた……)

ロスヴァイセ(そう、近くに座っていたフレイヤ様がこうして叫び声を上げて立ち上がるまでは)

 
タッ

ロスヴァイセ「フレイヤ様、どうされました? 落ち着いてください!」

フレイヤ「これが落ち着いていられるかっての……! 死んだはずのヘイムダルが5人目? 運営側は知らなかったの!?」グイッ

モブヘリヤル「……い、いえ、オーディンチームの戦士は4人目までしか判明していませんでした」

モブヘリヤル「戦士の事前登録は義務ではありませんし、ルールには反してないかと……ひぃぃ……」

ロスヴァイセ(フレイヤ様は手近にいたエインヘリヤルの胸ぐらを掴み上げて詰め寄る)

ロスヴァイセ(あらら……あのエインヘリヤルも怯えて可哀想に)


ロスヴァイセ「そうですわ、運営側が知らなかったのは事実、それに死した神が蘇ることなど珍しくもないでしょう?」

フレイヤ「……はぁ、そうね」パッ

モブヘリヤル「あひぃ……ひぃ……」

ロスヴァイセ(私が間に入るとフレイヤ様はエインヘリヤルから手を離す)


フレイヤ「別にそこに文句があるわけじゃないわ、私が言いたいのは何でこのタイミングかってこと」

ロスヴァイセ「タイミング?」

フレイヤ「ヘイムダルを蘇生できるなら何で今までしなかったわけ?」

フレイヤ「そのせいで私は……ううん、私なんかよりあの子、ダル子は1人で使命を抱えるはめになったのよ」

フレイヤ「父親が帰って来れてたなら、あの子の苦労はもっと少なかったはずなのに……!」


ロスヴァイセ「フレイヤ様……」


フレイヤ「もちろん、あいつが帰ってきたからって、あいつの死の原因を作った私の負い目が消えるわけじゃないし、あいつを殺したロキへの憎しみが消えるわけじゃない」

フレイヤ「けれど、もっと早く帰ってきてたら、変わってたことは沢山あったはず」

91 ◆WsBxU38iK2:2020/07/16(木) 00:28:22 ID:Km2WQn5M


フレイヤ「オーディンもオーディンよ」

フレイヤ「蘇生できることを私たちに伝えず、ラグナロクが来たら戦士として蘇らせ、それを直前までダル子には黙っていた」

フレイヤ「いったいあの爺、何を考えてるわけ、こうなったら直談判してきて――」

ロスヴァイセ「い、いけませんわ!」ガシッ

フレイヤ「……っ、何を」

ロスヴァイセ「今は開会式の最中、それにラグナロクへの介入は何人たりとも許されていませんわ」

ロスヴァイセ「お気持ちは分かります、私だって少なからずダル子やあなたの事情は知ってますから……」

ロスヴァイセ「でも今はどうか落ち着いて、確かめる手段は他にもあるはずですわ」


フレイヤ「…………そうね、ごめん、少し熱くなっちゃったみたい」

フレイヤ「ほんと、こんなの私の柄じゃないんだけど」

フレイヤ「未だにあいつの死に顔、ダル子を頼むって言った時の声……何度良い酒を飲もうが、何度良い男を見つけようが、全然忘れられなくてさ」

ロスヴァイセ「…………」

      
ダル子『さぁ! 両チーム揃い踏み! 闘技場の上に10名の戦士が並びました!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


ロスヴァイセ(スタジアムにダル子のアナウンスと歓声が響く)

ロスヴァイセ(先程までと変わらない元気なダル子の声……けれど少しだけ震えが混じってる気がする)


フレイヤ「ダル子……あの子は強いわね、戸惑いながらちゃんと自分の仕事をしてる」

フレイヤ「私が焦って余計なことしてあの子の面子を潰すわけにはいかないか」


ロスヴァイセ「……フレイヤ様、もしよろしければ一緒に運営本部に戻って資料を洗い直してみませんか?」

フレイヤ「え?」

ロスヴァイセ「ヘイムダル……もといヘイムダムを示す直接の情報が無かったとは言え、オーディンチームに関する情報を探り直せば何か見えてくるかもしれません」

ロスヴァイセ「運営本部はその緊急の立ち上げや開会までの時間の無さから、細部を各部署に任せて上がってきた情報を統括し承認する形式を取っていましたし」

ロスヴァイセ「私やフレイヤ様、ダル子だって全ての資料に目を通せていたわけではないでしょう?」


フレイヤ「確かに……そうね、洗い直してみる価値はあるかも」

ロスヴァイセ「ええっ」コクンッ
 


ロスヴァイセ(……よし、これで運営本部の資料を探りつつお姉様方に有利な情報を流せるはず)

ロスヴァイセ(フレイヤ様が付いてきてくれるなら余計な邪魔は入りにくいでしょうし)

ロスヴァイセ(あ……もちろんフレイヤ様やダル子のためにヘイムダムことを探りたい気持ちも本当ですわ)

ロスヴァイセ(両方を一気にこなせるなら、これほどお得なことはありませんもの)


フレイヤ「そうと決まれば善は急げね」

フレイヤ「この後の開会式のプログラムは>>92が挟まるから、一回戦の開始までにはまだ時間があるはず」

フレイヤ「ヘイムダムが仮に初手で出てくるとしても、それまでに間に合う可能性はある……」

ロスヴァイセ「ええ、今すぐ行きましょう!」

92名無しさん@転載は禁止:2020/07/16(木) 06:02:59 ID:/ECPuG6c
レクレーション

93 ◆WsBxU38iK2:2020/07/17(金) 00:09:58 ID:L5OVizQk
タッ!

ダル子『ではこれから戦士宣誓へと移ります、両チームのリーダーは前へ!』

  
ロスヴァイセ「こっちですわ!」

フレイヤ「ええ、絶対に……何か手がかりを見つけてやるんだから!」

タタタタッ ガチャッ

ロスヴァイセ(進行を続けるダル子のアナウンスを背に、私とフレイヤ様は運営関係者席から駆け出し、扉を開けてスタッフ通路へと入っていく)

ロスヴァイセ(周りのエインヘリヤルやワルキューレは驚いていたものの、止めに来る様子はない)

ロスヴァイセ(奔放なフレイヤ様の起こすトラブルに関わりたくないというところだろうけど……こちらとしては都合が良い)

カンッ カンッ カンッ

ロスヴァイセ(薄暗い通路を一目散に走り運営本部の方へ)

カンッ!


ロスヴァイセ(待っててくださいお姉様方、このロスヴァイセが謎の敵の手がかりを掴んで見せますわ!)

タタタタッ!





94 ◆WsBxU38iK2:2020/07/17(金) 00:10:26 ID:L5OVizQk




──スタジアム・一般観客席


カンッ カンッ カンッ

侑「よっと……」

スタッ

侑「お、もう始まってるみたいだね」


侑(中の階段を上ってスタジアムの観客席に出ると、既に開会式は始まっていた)

侑(客席は見渡す限りの超満員、段々に伸びてる客席の一番後ろに通路にさえ、立ち見の客がこれでもかと詰めかけている)

侑(階段から出てきた私のいる最前列近くはまだマシな混み具合だけど、この分だとどこも変わらなそう)


侑(そんな最前列の真ん前、手すりのついている通路の向こう、闘技場の上では戦士宣誓が行われてる最中だった)

侑(闘技場に立った10人の戦士のうちの代表2人が前に出て、片手を上に掲げてマイクへ宣誓をする)


心ノ穂乃果『宣誓! 私たちはラグナロクという聖戦に対し、自らの戦士としての精神に則って!』

オーディン『正々堂々! 戦うことを誓おう!』
 
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


侑(運営側が用意したのだろう、ある程度テンプレじみた口上の最後を2人が言い終えると、観客席から拍手と歓声が上がる)

ダル子『ありがとうございました、続きましてヴァルハラ歌斉唱!』

チャーッ チャーッ ジャジャジャーン!


侑「さて、席を探さないと……」
 
スタスタ

侑(もちろん一般席のチケットなんてものを私が持っているはずはない)

侑(今私が片手でひらひらさせているものは、さっきスタジアム内でナンパしたケモミミ美少女ちゃんから好意で譲り受けたものだ)

侑(どこぞの世界の使徒の1人で、仲の良い友達と観戦に来る予定だったけど、相手に急な用事が発生してしまいチケットが1枚余ったとのこと)

侑(じゃあ私が代わりに! と立候補したら余ったチケットを貰えたというわけ)


侑「……で、そのチケットに書かれた番号の席が――――」

キョロキョロ

侑「あった!」


侑(ほぼ満員の客席の中に2つ連続して空いている席がある、あそこが私とケモミミ美少女ちゃんの席だろう)

侑(既に座ってる客が沢山いるため、少し申し訳無さそうにしつつ、前をそそくさと通り過ぎて席へ向かう)

侑「すみません、通ります、すみません……っと」

95 ◆WsBxU38iK2:2020/07/17(金) 00:10:51 ID:L5OVizQk


侑(どうにか席へ着くことができた)

侑(とりあえず2つ並んでる右側の席を開けて私は左側へ腰を下ろす)

侑「ふぅ……ちょっと来るのに苦労したけど、こうして見ると闘技場の眺めは悪くないな」

侑「偶然手に入ったチケットの割には、ここってかなり良い席かもしれない……」



??「――でしょ? 頑張って申し込んだかいがあったってものだよ」

侑「おわっ!」ビクッ

侑(独り言に介入されたことに驚き、私は思わず立ち上がってしまった)
  

??「くくくっ、ごめんごめん」

侑(声の方を見ると、そこは私の左隣の席)

侑(綺麗で大人っぽいお姉さんがお腹を抱えて子供のように笑っていた)


侑「え、えっと……」

??「いやー、そんなに驚くと思って無くてさ、ほんとごめんって」

侑(外見とのギャップにも戸惑うけど、何より……さっきまでまるで気配がしなかった)

侑(誰かが左隣に座っていた記憶はあるものの、こんな一度見れば忘れないような美女じゃなかったはず)

侑(だとしたら、可愛い女の子大好きな私が気付かないはずがない……!)


??「自己紹介しようか、私は“カリオペー” 君は?」スッ

侑「……侑です、高咲侑」

侑(差し出された手に私は自分の名前を言いながら手を重ねる)

侑(冷たい手だ、汗ばむような熱気のある会場の中で汗1つかいていない)

カリオペー「よろしくねー侑ちゃん、侑ちゃんも観戦?」

侑「ええ、まあ」

侑(ケモミミ美少女ちゃんの席の近く、ということはこの人も使徒なんだろうか……)


カリオペー「ほーら、いつまでも私に見とれてちゃダメだよ? 開会式を見ないと」

侑「そ、そうですね」

侑(腕を軽く引っ張られ、私は促されるまま席に座って闘技場の方へ目を向ける)

カリオペー「なんでも今からレクリエーションをするみたい」

侑「レクリエーション……?」

カリオペー「レクレーションって言い方も聞くけど、ようは前座のミニゲームみたいなものよ」

侑「なるほど」

カリオペー「ゲームの内容はあの様子だと、>>96

96名無しさん@転載は禁止:2020/07/17(金) 06:15:31 ID:9Ks9K1T.
エインヘリヤル式SASUKE

97 ◆WsBxU38iK2:2020/07/18(土) 00:13:05 ID:mBXfyYN.
カリオペー「エインヘリヤル式SASUKEってとこね」

侑「……?」


侑(聞き慣れない言葉の組み合わせに首を傾げていると、闘技場の上の戦士たち一旦闘技場から降りていく) 

侑(すると闘技場自体が音を立てて巨大なアスレチックへと変形し始めた)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


ガシャーンッ!


侑「おおぉ……!」

カリオペー「ね? 言ったとおりでしょ?」


ダル子『皆様! 見えますでしょうか!』

ダル子『これはヴァルハラの戦士エインヘリヤルが日夜特訓を行っている訓練場を模したアスレチックコース!』

ダル子『このコースを踏破するには力、スピード、バランス、その全てを駆使する必要があります!』

ダル子『この舞台を使って行われるレクリエーションと言えばー』

ォォォォォォォォォォッ

ダル子『エインヘリヤルSASUKE!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!








ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!



心ノ穂乃果「エインヘリヤルSASUKE……?」

心ノ穂乃果(周りがお約束が来たみたいに盛り上がってるけどいまいちピンと来ない)

心ノ穂乃果(闘技場の左側にはけた私たちのチームの皆も同じ様子だ)

にこ「すごい盛り上がり……」

海未「アースガルズだと定番のゲームか何かなのでしょうか」

希「SASUKEに似た何かなのは確かなんやろうけど」


心ノ穂乃果(逆に反対側、右側にはけたオーディンチームの様子は……)


オーディン「全く……こんな茶番に突き合わせおって」

フレイ「まぁまぁ」

心ノ穂乃果(オーディンは眉間にシワを寄せていてあまり乗り気じゃなさそう)

心ノ穂乃果(剣のエンブレムが書かれたローブの人が苛立つオーディンを落ち着かせている)


ダル子「もちろんレクリエーションなのでSASUKEでの勝敗は決戦には関係ありません」

ダル子「ですが記念すべきラグナロクの開会式! 派手に盛り上げて行こうじゃありませんか!」

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ


ダル子「ルールは簡単、各チーム代表者を1人指名してコースに挑戦、より速くゴールしたほうの勝利」

ダル子「両者脱落した場合は相手より少しでも多く進んでいたほうの勝利となります」


オーディン「はぁ、仕方あるまい……こうして期待の目を向けている観客を裏切るわけにはいかぬからな」

オーディン「そのレクリエーションまやら付き合ってやろうではないか」

心ノ穂乃果「そうだね、よく分からないけど取り敢えずやってみよう!」


海未「しかし代表ですか、考えていませんでしたね……どうします?」

心ノ穂乃果「うーん……ここは>>98

98名無しさん@転載は禁止:2020/07/18(土) 06:46:35 ID:aekj.e.g
海未ちゃん

99 ◆WsBxU38iK2:2020/07/19(日) 00:17:08 ID:uRqxE4.I
心ノ穂乃果「うーん……ここは海未ちゃん、お願いできる?」

海未「分かりました、身体能力が問われるとなるとシンプルに眷属化のできる私が適任でしょう」

海未「他のメンバーも出来ないことはありませんが、本戦前にこちらの能力を明かすことは避けたい」

海未「手札を温存するという意味でもやはり私が行くべきです」

心ノ穂乃果「ありがとう、だけど海未ちゃんの言う通りこれは本戦じゃないから無茶はしないでね」

心ノ穂乃果「無理だと思ったらすぐにリタイアしていいから」

海未「はい、出来る限りやってみます」コクンッ

スタスタ

心ノ穂乃果(海未ちゃんはそう頷くとコースに向かって歩いていった)


心ノ穂乃果「海未ちゃん……」
 
にこ「大丈夫、海未なら心配ないわよ」ポンッ

心ノ穂乃果「うん」

にこ「それより気になるのは相手側が誰を出してくるか」

希「せやね、うちら的にはこのレクリエーションでなるべく相手の能力を探りたいけど……」

ことり「うーん、向こうも向こうで何か話し合ってるみたいだね」ジーッ


心ノ穂乃果(アスレチックコースに変形した円形闘技場を挟んだ反対側、オーディン以外ローブで姿を隠したオーディンチームの姿が見える)

心ノ穂乃果(そう言えばオーディンを始めとするチームの面々は背格好が普通の人間くらいのサイズだ)

心ノ穂乃果(神様でもみんな巨大なわけじゃないのか、それとも闘技場に合わせてサイズを縮めているのか)

心ノ穂乃果(このタイミングで気にすることでも無いんだけど、一旦気付いてしまうと妙に引っかかる)

100 ◆WsBxU38iK2:2020/07/19(日) 00:17:24 ID:uRqxE4.I



フレイ「……で? どうします?」

トール「どうってなんだよ」

フレイ「代表者ですよ、こちらの大将のオーディンは興味なさそうですし、ヴァーリは性格的に余興というものに向いていない」

フレイ「ヘイムダムに至っては……」

ヘイムダム「…………」


フレイ「ほら、ご覧のようにだまんまり」

トール「こいつ……オレらと顔合わせてから一言も喋ってねーんじゃないか、おいっ!」ガンッ

ヘイムダム「………」

トール「反応なしかよつまんねー、てかフレイ、そういうオメーはどうなんだよ」

フレイ「私は誰かさんと違ってこういう体を張る余興に喜んで出るタイプではないので」

トール「……ちっ、まるでオレがそういうタイプだとでも言いたげだな」

フレイ「いえいえ、そんなことは――――」

トール「あーはいはい分かったよ、オレが出てきてやる、それで良いんだろ?」


フレイ「……ええ、助かります」

トール「回りくどいんだよオメーは」

フレイ「トールがいささかせっかちなのでは」

トール「ふんっ……何事もせっかちなくらいが丁度いいんだよ」


トール「そうじゃねえと、気づいた時には全部手遅れになっちまうからよ」

ザッ ザッ

フレイ「トール……」



心ノ穂乃果(向こうのチームの話し合いが終わったのか、1人が輪から抜け出しアスレチックコースの入り口へ移動)

心ノ穂乃果(先に行っていた海未ちゃんの隣に並び立つ)



ことり「向こうの代表が出てきたよ!」

希「あのローブは雷のエンブレムのローブ、ってことはトールか」

にこ「私が対戦したい相手ね……いったいどんなやつなのかしら」


ヒュォォォォォォォッ

海未「…………」

トール「…………」


ダル子「両チームの代表者、入り口へ辿り着きました」

ダル子「これよりラグナロク決戦開会式レクリエーション、エインヘリヤルSASUKEを行いたいと思います!」

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


ダル子「勝敗の関係ないレクリエーションとは言え、ラグナロク決戦においての初の両チームの激突」

ダル子「会場の皆さん、中継先の皆さん、どうぞモニターから目を離さずに!」


ダル子「熱いレースのスタートは目前に迫っています!!」



─────────────────

メインスタジアム

PM1:30〜2:00 反逆の焔編『5』了

101 ◆WsBxU38iK2:2020/07/19(日) 00:18:06 ID:uRqxE4.I
というわけでここまで

反逆の焔編『6』に続く
かもしれない

102 ◆WsBxU38iK2:2020/07/20(月) 00:14:28 ID:ExIzNEP2
反逆の焔編『6』

─────────────────
──メインスタジアム

PM2:00


ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


海未「エインヘリヤルSASUKE……ですか」

海未(歓声が鳴り響くメインスタジアム、その中心に位置する円形闘技場が変形したアスレチックコース)

海未(そのスタート地点はコース全体を見渡せる高台に設置してあった)

海未(促されるまま長い階段を上り、スタート地点へと到着した私は、コース全体を俯瞰しながらダル子のアナウンスに耳を傾けている)


ダル子『では説明を始めます!』

ダル子『エインヘリヤルSASUKEは行く手を阻むギミックが10個待ち構える全長500mのアスレチックコースです』

ダル子『挑戦者はギミックを乗り越えてゴールへ辿り着けば勝利』

ダル子『しかし制限時間10分以内に辿り着けなかったり、ギミックで下の池に落下した場合などは脱落』

ダル子『その地点までの進行具合が成績となります』


海未(ふむ……この辺りは私の知っているSASUKEとあまり変わりはありませんね)

海未(私の記憶だとSASUKEは100mにつき100秒くらいでしたから、この設定だと制限時間が多少長いような気はしますが……)

海未(ダル子が言うにはエインヘリヤルの訓練場を模したアスレチック、制限時間が長めなのは難易度の高さ故なのかもしれません)


海未(そしてここからが、おそらく私の知っているSASUKEとは違うところ)


ダル子『スタートは両者同時、能力の使用や能力による妨害などは自由、存分に持てる力を発揮してください!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


海未(そう、ここがポイントだ)

海未(これは自分との戦いであると同時に相手との戦いでもある)

海未(私の隣に立っているローブ姿の人物――――雷神トールとの)


トール「…………」

海未(全身をローブで覆ってるため詳細な姿は分からず、顔の部分が影になっていて表情を伺うこともできない)

海未(こうして並んでみると背丈は私より一回り大きいくらい……神にしては小さ目でしょうか)    


ダル子「両者ルールは理解したでしょうか、では位置について!」

ダル子「よーい――――」

トール「待った待った!!」

ダル子「え?」


トール「ああもう! これから飛んで跳ねてって時に暑苦しいローブなんて着てらんねぇだろ!」

トール「我慢してたが限界だ! フレイには悪いが取らせてもらうぜ!」

バッ!!

海未「……!」


海未(トールが自分の纏っていたローブを勢いよく天へと舞い上げる)

海未(分厚いローブの奥から現れたトールの姿は>>103)

103名無しさん@転載は禁止:2020/07/20(月) 01:38:06 ID:Me2We8lA
赤い髪のパーマかけたヤ○ザ

104 ◆WsBxU38iK2:2020/07/21(火) 00:16:29 ID:MmqIF/JI
海未(トールの姿は赤い髪のパーマかけたヤ○ザだった)


海未「んなっ……!」


海未(私はトールの方を見たまま、驚きで口をあんぐりと開けて固まってしまった)

海未(想像していたトールとは似ても似つかない、バリバリのヤ◯ザみたいな姿)

海未(パーマをかけた赤い髪、鋭い眼光を宿した目つき、ビシッと着込んだスーツ、磨かれた革靴、どれもが人間然とし過ぎている)


トール「ふーっ! これで動きやすいってもんよ」

海未(トールはそんな私の目線など気にせずに、首元のネクタイを緩め、準備運動とばかりに肩を回している)

海未(これが本当にあの噂に聞く雷神トールの姿なのだろうか)

海未「むむ……」

海未(私がそう訝しんでいると、アスレチックの下からトールに向かって叫ぶ声が聞こえてきた)


フレイ「トールー! あれほどローブを取るなと言ったのに何をしているんですか!」

フレイ「化身の姿とは言え、決戦の前に衆目に身を晒すことがどれだけ情報を与えることになるか分かってますよね!」

フレイ「私たち神にとって神秘を暴かれることこそ弱点に他ならな――――」


トール「あーはいはい、分かってるってのー!」

海未(仲間の忠告にトールは準備運動を続けながら適当に返事をする)

海未(この様子だとマトモに話を聞いてはいないだろう、フレイがどんな神か分からないが少し気の毒ですね)


ダル子『あのー、トール様、レクリエーションを始めても……』

トール「おぉ良いぜ、待たせて悪いな」

ダル子『いえいえ』


ザッ

トール「人間のネーチャンも悪いな、待たせちまったか?」

海未「……お気遣いなく」

トール「そうか、なら遠慮なくいかせてもらうぜ」


海未(私とトールは再びスタート地点に並び立つ)

105 ◆WsBxU38iK2:2020/07/21(火) 00:16:47 ID:MmqIF/JI


海未(しかしこうして見ると……やはりそこまで私と体格差があるわけではないようですね)

海未(ローブ越しでも同じことを思いましたが、本当に私より一回り大きい程度)

海未(成人した人間の平均身長で考えても、そこまで特別大きいわけではない……むしろ小さい部類に入るのでは……)


トール「どうしたジロジロ見て、何か顔についてるか?」

海未「あぁ、いえ」

海未(フレイは確か“化身”と言っていた、つまりこの姿は神としての仮の姿なのかもしれない)

海未(化身状態で身体能力はどこまで引き出せるのか……それをSASUKEで見極めたいところですね)


ダル子『では両者位置について!』

トール「おっし!」

海未「……!」

ダル子『よーい――――』


ダル子『スタート!』

バンッ!!!!

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!


海未「はっ!」

タンッ!

海未(ダル子の合図と共に私は弾かれたようにスタート地点から飛び出した)

海未(一瞬で焔ノ力を点火、右目に紋章が展開される)

ボォウッ!

海未(眷属化によって跳ね上げられる身体能力)

ダンッ!!


海未(それを駆使して挑むエインヘリヤルSASUKE最初の障害物、そのギミックは>>106)

106名無しさん@転載は禁止:2020/07/21(火) 06:17:37 ID:5PbUnBOs
高すぎる跳び箱

107 ◆WsBxU38iK2:2020/07/22(水) 00:23:10 ID:4Iz8IaTA
海未(高すぎる跳び箱!)

タタタタタッ


海未(コースの前方に立ち塞がるは目算で高さ30段以上はあるかと思われる跳び箱)

海未(それも設置されている数が1つや2つなど生易しい数ではない)

海未(微妙に高さの違う無数の跳び箱がコース上に密集して大きく分厚い壁となり立ち塞がっている)

海未(一応跳び箱の前に踏切板は設置してあるものの、これほど焼け石に水と言う言葉が似合う光景はないでしょう)



ダル子『さぁー! 穂乃果チーム園田海未が速くも最初の関門、高すぎる跳び箱へ差し迫ってきました!』

ダル子『果たして行く手を阻む跳び箱の壁をどのようにして突破するのか!』


海未「ふぅ……」

海未(息を整え目の前の箱に集中する)

海未(そう、これは別に綺麗に跳び箱を飛ぶ競技ではない)

海未(どのような方法を使っても前に進めばいい、だとすれば――――)

ダンッ!!


海未(踏切板を力の限り踏みしめ上へ跳び、そのまま跳び箱の側面へ足をかける)

タンッ

タタタタタタタタタタッッ!


ダル子『な! なんと園田海未! ほぼ垂直な跳び箱の側面を走っている!』

ダル子『踏切板で生まれた上方への加速を生かしたまま一気に跳び箱を駆け上がるつもりでしょうか!』


海未(いける……!)

海未(眷属化の身体能力さえあればこの程度の壁など問題にはならない)

ダダダダダダダッ!

ビュンッ!

海未「よし、難なく手前の跳び箱を登り切っ――――」

ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

海未「なっ……!?」


海未(跳び箱の一番上の白いクッションへ足をかけた瞬間、一列奥の跳び箱が勢いよく競り上がった)

海未(その新たな壁の高さは登ってきた跳び箱の高さより倍は高く、より飛び越す難易度が高くなっている)


ダル子『ふっふっふ、エインヘリヤルSASUKEにおける“高すぎる跳び箱”というギミックが、そこらの人間でもよじ登れるたかが数十段の高さと思ってもらっては困ります』

ダル子『高すぎる跳び箱の真髄はここから始まるのですから!』

108 ◆WsBxU38iK2:2020/07/22(水) 00:24:21 ID:4Iz8IaTA
海未「……っ!」

海未(戸惑っていても仕方がない、立ち止まっていては後ろから来るトールに追いつかれてしまう)

海未(跳び箱の段と段の隙間へ足をかけ、力の限り上へとジャンプする)

ググッ… ダンッ!!

ヒュー��ッ 


カンッ!

ググッ… ダンッ!!

海未(今度は踏切板がない分、上方向への勢いが弱い)

海未(体全体のバネと足の筋力を使い、大きくジャンプして張り付く動きを素早く繰り返して上へ進む)


海未(そうして2つ目の跳び箱の頂点まで来ると――)

ドドドドドドドドドドドドッ!

海未「またっ……!」


海未(……なるほど、高すぎる跳び箱とは登るほどに次の跳び箱が高くなっていくギミックなのですか)

海未(バカ正直に乗り越えようとすれば時間がかかる)

海未(となれば横から回るか……しかし側面はコース外、足を滑らせればコースアウトの危険が待っている)

海未(舞空術を使えば問題はないですが……空を飛べるという情報はできるならまだ隠しておきたい情報)


海未「というか、トールはどこに……?」

海未(なるべく自分なりに急いで来ましたが、いつまで経っても後ろからトールが追いかけてくる気配が感じられない)

海未(2つ目の跳び箱の頂上に立ち、後方を振り返ってトールの姿を探してみると……)

海未「なっ、まだあんな所に……!?」


ダル子『おや? 登り続けてる園田海未とは対照的にトールは踏切板の手前で立ち止まっています』

ダル子『助走する様子や跳び越そうとする様子は一切見られません、いったい何をしようと言うのでしょうか!』

109 ◆WsBxU38iK2:2020/07/22(水) 00:24:46 ID:4Iz8IaTA


トール「何をって……こんなの律儀に跳び越す必要なんてないだろ」

トール様「あのネーチャンみたいによじ登るのも手は手だが、もっとシンプルに行こうじゃねーか」

トール「例えばよ――――」

ガチャンッ グググググッ!

海未(トールが右手にメリケンサックのようなものを嵌め、右腕を後ろに引き、腰を落として構えを取る)

トール「こんな風に――――」

海未(力を込めた右腕に迸り始める雷ののような火花と閃光)

バチッ! バリバリッ! バリバリッ!


海未(そして、放たれた拳は)


トール「――ぶっ壊してみたりよォ!!」

ゴッ!!!!


メキメキメキッ! バキバキバキバキバキバキッ!

海未(目の前の跳び箱へ無数の亀裂を走らせ、跳び箱の壁を崩壊させていく)

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!


ダル子『おおーっと! トールが強烈なパンチを繰り出し高すぎる跳び箱を崩壊させたぁ!』

ダル子『その拳圧の勢いは跳び箱1つだけじゃ収まらない、1つ目、2つ目、3つ目を貫通しまだまだ奥へ進んでいくー!』


グララララッ!

海未「……っ!」

ドドドドドドドドドッ!!

ダル子『これは跳び箱の上にいた園田海未にとっても想定外! 足場が崩され空中に放り出される形となります!』


海未「全く……無茶苦茶してくれますね……!」


海未(トールは吹き飛ばした跳び箱の破片が降り注ぐ中を悠々と走り抜けている)

海未(このまま素直に落下し安全に着地してから追いかけても良いですが……それだと離されるのが癪ですね)

海未(ならば……!)

グイッ バッ!

海未(空中で姿勢を制御、落下する跳び箱の破片の動きを見極める)

海未「よし、このルートなら……行けます!」

シュンッ! シュタタタタタッ!!


ダル子『なんと! 園田海未も負けてはいない!』

ダル子『空中へ舞い上がった多数の跳び箱の破片を足場にし、破片から破片へ飛び移ることで空中を駆けています!』

ダル子『これが本当に人間の為せる技なのかぁ!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 
トール「ほぉー、やるねぇ」

海未「遅れは取りません!」


ダル子『力技で障害物を吹き飛ばし地上を進むトール、吹き飛ばされた障害物を利用し華麗に空中を進む園田海未』

ダル子『同じコースを走ってるとは思えない2人、その距離の差はほぼありません!』

ダル子『地上と空中を疾走する2人はそのまま第ニ関門のギミックへと突入します!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!






110 ◆WsBxU38iK2:2020/07/22(水) 00:25:05 ID:4Iz8IaTA




──メインスタジアム・運営本部


『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


ロスヴァイセ「またすごい歓声……トール様が何かをやったみたいですわね」

フレイヤ「アレが無茶苦茶なのはいつものことでしょ、それより早く資料を探すわよ」

ロスヴァイセ「ええ」コクンッ


ロスヴァイセ(メインスタジアム、運営本部、私とフレイヤ様はそこでモニターから流れてくる音声を聞きつつ資料を探していた)

ロスヴァイセ(ヴァルハラにあった方の運営本部と比べるとメインスタジアムの方はやや小規模、常駐している運営関係者の人数も少ない)

ロスヴァイセ(だけど運営に必要な資料はコピーして運んできてるし、データベースに保存したデータにはここからアクセスできる) 

ロスヴァイセ(機能的にはヴァルハラの本部と遜色ない)


運営A「あ、あのー、何かお探しなら手伝いましょうか?」  

フレイヤ「構わないわ、こっちで探すから貴方は自分の仕事に集中していて」

運営A「は……はい」


ロスヴァイセ(普段あんなに浮ついているから想像しにくいけれど、この圧はさすが高名な神というべきか)

ロスヴァイセ(この場においては私たちの方が部外者だと言うのに、四の五の言わせず運営を黙らせてしまう)
 
ロスヴァイセ(本当に彼女を連れてきてよかった、私一人ならあれこれ口を出されていたことだろう)


フレイヤ「ロスヴァイセ、探すのはオーディンチーム関連の資料で良いのよね」

ロスヴァイセ「はい、オーディンチームからあった通信のログ、出場戦士についてまとめた資料、何か少しでも関連するポイントがあるものを」

フレイヤ「ふむ……今の所見つかったのはオーディンチームの本戦の順番の書いてるメンバー表くらい」

フレイヤ「ヘイムダムに関するものはまだ見つからないわね、後は……」

ガサゴソ ガサゴソ

フレイヤ「……ん?」ピタッ

ロスヴァイセ「どうしました?」



フレイヤ「これは……>>111について書かれたもの?」

111名無しさん@転載は禁止:2020/07/22(水) 04:42:42 ID:I/NZRQ2A
【削除済み】

112 ◆WsBxU38iK2:2020/07/23(木) 00:12:07 ID:GuUqMAts
フレイヤ「これは……おそらくオーディンチームの情報について書かれたもの」

フレイヤ「だけど肝心な所が【削除済み】になってて消されてるみたいなの」

ロスヴァイセ「ふむ……ちょっと見せてください」

フレイヤ「ほら」スッ


ロスヴァイセ(フレイヤ様から受け取った紙は何かのデータを印刷した薄いコピー用紙のような紙)

ロスヴァイセ(目を通してみると確かに削除済みだったり黒塗りになってる箇所が多く見られる)

ロスヴァイセ(かろうじて読める場所にはオーディン、戦士、光の神、蘇生などの単語が書かれていた) 


フレイヤ「この紙、資料の山の奥に埋もれていたのよ、何か怪しくない?」

ロスヴァイセ「そうですわね、フレイヤ様の読み通り、これにはヘイムダムの情報が書かれていたと考えて間違いないでしょう」

ロスヴァイセ「そして周到に削除が成されているということは、それだけ重大な情報だったということ」

スッ ペラッ ペラッ

ロスヴァイセ「うーむ……」

ロスヴァイセ(試しに紙を振ってみたり天井の光に透かして裏から見たりしても何もない)

ロスヴァイセ(試しに炙ったりしたら…………っていやいや、そういう類の仕掛けではないでしょう)


ロスヴァイセ「しかし困りましたわね、これが削除済みとなると、他の資料まで証拠隠滅の手が回ってると考えるのが自然」

ロスヴァイセ「ここの運営本部でこれ以上情報を探るのは厳しそうですわ」

フレイヤ「……………」

ロスヴァイセ「フレイヤ様?」


フレイヤ「……そうだ、ここでダメなら情報の発信元に行けば良いのよ!」

ロスヴァイセ「発信元?」

フレイヤ「そう、削除済みとは言え存在してるってことは、発信元には元のデータが残ってる可能性が高いわ」

ロスヴァイセ「オーディンチームの情報の発信元というと……まさかヴァルハラ!?」

フレイヤ「ええ、もう一度ヴァルハラに戻って探るわよ」

フレイヤ「今ならオーディンを始めとした主要な神々は殆どメインスタジアムに集まってる、ヴァルハラの警備は手薄になってるはず」

ロスヴァイセ「……!」


フレイヤ「目指すはオーディンたちが会議をしていた玉座の間」

フレイヤ「そこに残ってる何かを探しに行くわよ!」





113 ◆WsBxU38iK2:2020/07/23(木) 00:13:02 ID:GuUqMAts




──闘技場横・オーディンチーム側


ワァァァァァァァァァァッ!


ダル子『園田海未! トール! 第ニ関門に続いて第三関門のギミックも突破!』

ダル子『ここまで2人の距離はほぼ変わらず、熱いデットヒートを繰り広げています!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!



フレイ「全く……トールのやつ、本当に言うことを聞かないのですから、困ったものですよ」

オーディン「今更どうこう言うことでもあるまい、それに奴の荒々しい勢いに任せた走りっぷり、私は嫌いではないぞ」

フレイ「荒々しいというか、ギミックを全て壊してるだけというか、これでレースの体裁が保てているのかどうかは甚だ疑問ですが」

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!

フレイ「まぁ……観客は盛り上がってるようですし、これはこれで良いとしますか」


フレイ(私は目線を周囲の観客席から頭上の巨大モニターに戻す)

フレイ(円形闘技場が変形したアスレチックコースはかなり巨大で、こうして近くで見上げている私たちにも全景は見渡せない)

フレイ(いや、近くだからこそ余計に見えにくいと言ったほうが適切か)

フレイ(なのでこうして大多数の観客と同じく、メインスタジアムの上部に浮かぶ複数の巨大モニターとダル子の実況を頼りにしている状況だ)


フレイ(トールと相手戦士との差は未だ開かない)

フレイ(好き勝手するのは構いませんが、人間に負ける失態を晒すのだけは勘弁してくださいよ……)

クイッ クイックイッ

フレイ「ん?」

フレイ(モニターに集中していた私は、後ろからローブを軽く引っ張られる感覚に気づき振り向く)

ヴァーリ「…………」

フレイ「ヴァーリですか、どうしました?」


ヴァーリ「……アレ」

フレイ(私が聞くと、ヴァーリは頭上の巨大モニターを指差す)

フレイ(そこに大きく写っていたのはトールではなく対戦相手の人間の姿だ)

ヴァーリ「アレも、ニンゲンなの?」

フレイ「ああ、トールとレースをしてるのは園田海未という人間です」

フレイ「化身とは言えトールに離されず付いていく姿を見るに、彼女も中々の実力者のようですが……」


ヴァーリ「おぉぉ……」

フレイ「ヴァーリ、彼女が気になるのですか?」

ヴァーリ「……うん、そう、かも?」

フレイ「ほう」

フレイ(ヴァーリは食い入るようにモニターを見つめている)

フレイ(あの一件以来、ヴァーリは抜け殻のようになり、何か特定のものに強い興味を示すことなど無かったが……これは面白い反応ですね)

114 ◆WsBxU38iK2:2020/07/23(木) 00:13:14 ID:GuUqMAts


??『フレイ、フレイ様!』

フレイ『……! 次から次へと、今度はなんです』

??『今度?』

フレイ『いやすみません……こっちの話です、その声はエルファですか』

エルファ『はいっ、エルファです!』


フレイ(エルファ――私の配下でアルフヘイム出身の光のエルフ族の1人)

フレイ(エルファは他数名のエルフ族と共に会場の各地の警備と監視を任せ、何かあったら秘匿回線の念話通信で伝えるようにと命令していましたが……)

スッ

フレイ『どうしました、何かありましたか?』

フレイ(周りに気取られぬよう、こめかみに手を当てて、こちらも念話で問い返す)


エルファ『はい、私はフレイ様の命令通り転移ポータルの出入りを隠密に見張っていたのですが、実は妹様、フレイヤ様がポータルを使ったようで……』

フレイ『フレイヤが? 行き先は?』

エルファ『それがヴァルハラのようなのです』

フレイ『ヴァルハラ……』


フレイ(あれだけ観戦を楽しみにしていたフレイヤがこのタイミングでヴァルハラに戻る……?)

フレイ(フレイヤは運営として準備に携わっていた、運営本部に何か用があるのは不自然では無いですが、だとしたらメインスタジアムの本部で事足りるはず)

フレイ(今は運営本部としての機能はほぼ全てこちらに移行されているのですから)

  
エルファ『フレイ様、どうします? 止めて事情を聞くか、こっそり追跡するか、それとも別の……』

フレイ『そうですね……とりあえず>>115

115名無しさん@転載は禁止:2020/07/23(木) 00:39:24 ID:0TbAoZOc
どうせ忘れ物か何かだろうから気にしなくていい

116 ◆WsBxU38iK2:2020/07/24(金) 00:47:45 ID:D2wMVQrk
フレイ『そうですね……とりあえず気にしなくていいかと、どうせ忘れ物か何かでしょう』

フレイ『あなたたちは変わらずスタジアム周囲の監視を続けてください』

エルファ『了解しました!』

シュポンッ


フレイ(念話通信が途切れる)

フレイ(まぁ、フレイヤに関しては心配することはほぼないでしょう)

フレイ(多少奔放ではありますが根は良くできた妹です)


ダル子『怒涛の勢い! 第四関門ハイパーローリング丸太、第五関門ネオロープジャンプ、第六関門アルティメットシーソーをクリア!』

ダル子『立ちはだかるギミックを物ともせず一気に駆け抜けていくぅ!』

ドドドドドドドドドドドッ!!

ダル子『コースは折り返しに差し掛かり、制限時間も間もなく半分の5分に迫ろうとしています』

ダル子『そんな2人が次に挑むは第七関門、反りたち過ぎた壁だぁぁぁぁぁっ!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!





117 ◆WsBxU38iK2:2020/07/24(金) 00:48:06 ID:D2wMVQrk




──エインヘリヤルSASUKE・コース上


タタタタタッ タンッ!

海未「反りたち過ぎた壁……!?」


ダル子『皆様見えるでしょうか、コースを走る2人の前にそびえ立つ壁が!』

ダル子『第一関門の高すぎる跳び箱よりも遥かに高い壁が挑戦者を待ち構えております!』


海未(確かに……ダル子の説明通りスタジアムの天井まで届くのではないかと思うほどの壁が目の前に見える)

海未(けれど今まで通りなら単に高い壁など障害にはなり得ない)

海未(何故なら、私の僅かに先を走るトールが全てを破壊して進むからだ) 


トール「はっ……今更壁かよ、こんなものオレが――――」スッ

グッ ビリビリッ バリバリッ!!

トール「ぶち壊す!!」

ゴッ!!!!


メキメキ…

キィーンッ!

トール「……なっ! 弾かれた!」

海未「壊れない……!?」


ダル子『そう! この反りたち過ぎた壁はあらゆる物理魔術耐性を兼ね備えた最強の防護壁なのです!』

ダル子『その堅牢さはあらゆるギミックを破壊し尽くしてきたトール様の拳が僅かにめり込む程度!』


トール「おいおいマジかよ……」


海未「…………」

タタタタタッ


海未(トールは壁の前でどうしたものかと立ち尽くす)

海未(そのおかげで絶妙に縮めきれていなかった私とトールの僅かな距離が少しずつ近づいていく)

タタタタタッ!

海未(このまま戸惑ってるトールを追い越すのは容易)

海未(しかし……このレースはあくまでレクリエーション、勝つことに大した意味はない)

海未(場を盛り上げて士気を上げる意味はあるだろうけど……それより大事なのはなるべく相手の能力を明かすことだ)

海未(こうして目の前に出てきてくれているトール、奴と対戦を望むにこのためにも、一つでも多く手は見ておきたい)

海未(ならば――――)

シュンッ!!

海未「ルール上妨害はあり、恨まないでくださいよ!」
  

海未(手元に弓を召喚し、トールに背中に狙いをつける)

グググッ

海未「ラブアローシュート――B!!」

バシュッ!!


海未(私の放った矢は高速でトールの背へと迫る)

海未(こんな攻撃は到底神には効かないだろう、これはトールの反応を見るための一撃)


トール「……お?」

海未(そして矢の存在に気づいたであろうトールは>>118)

118名無しさん@転載は禁止:2020/07/24(金) 08:27:36 ID:kQo.RZo6
矢に自分のパワーを上乗せして壁に当てた

119 ◆WsBxU38iK2:2020/07/25(土) 00:19:35 ID:syjGZ1J6
海未(飛んで来た矢をひらりと躱すと、矢じりを狙って自らの拳を叩きつけた)

ドッ!!

海未「……!」


カッ! バリバリッ!

海未(矢の勢いは殺さず、むしろ自分のパワーを上乗せして加速させる)

海未(雷の力を纏った矢はそのまま目の前の壁に直撃し――)

ドゴォンッ!!

海未(凄まじい轟音と共に壁へ深く突き刺さった)


トール「ひゅー、やるじゃねえか」

トール「オレの力を上乗せしたとは言え、この拳でも貫けねえ壁を貫くんだからなぁ」

トール「耐性を無視するとなると矢自体が破魔の属性なのか、それとも矢を放ったネーチャンの固有能力なのか」

トール「まぁどっちでもいいや、有り難く利用させてもらうぜ!」

ガッ!

ビリリリリリリリッ! バリリリリリリリリリリリッ!!


海未(トールは矢を握ると、自らが放つ電撃を矢を通して壁の内部へと送り込む)

海未(先程のラブアローシュートへの雷エンチャントと言い、奴は自分の電撃かなり器用に操れるようですね)


トール「いくら外側からの耐性があろうが、こうして中から力を流し込めば――――」

バリリリリリリリリリリリッ!!

ビシッ ビシッ ビシッビシッ!

トール「どらぁっ!」

ゴッ! ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


ダル子『ああーっと! まさかのまさか! トールの雷撃が内部から反りたち過ぎた壁を崩しましたあああああ!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

ダル子『これは妨害を狙った園田海未、上手く利用された形になりましたね」

ダル子『これで残るギミックはあと3つ』

ダル子『依然としてトールが僅かにリードしたままエインヘリヤルSASUKEは終盤戦に入ります!』


トール「よっ!」ダタッ!


海未「……っ!」タタッ

海未(結果的に利用されたものの、トールの力の片鱗を見ることはできた)

海未(チャンスは残り3回、位置的にはトールの背中を狙えるこの距離がベスト)

海未(同じ調子で隙を見つけつつトールに攻撃を仕掛けて行き、なるべく手の内を明かす!)


タタタタタタタッ

海未「……む?」

トール「お? なんだありゃ」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

海未(トールと私の向かう先でコースが先程までとは別の形に変形していく)

海未(今までのギミックは事前に設置されたもの、こんなギミックは初めて見る)


ダル子『ふっふっふ、ここまで安々と突破されると少しは難易度を上げたくなるというもの!』

ダル子『エインヘリヤルSASUKEは戦士のさらなる練度口上のため、ギミックを追加したり組み合わせたりするシステムが搭載されております』

ダル子『今回はそれを使い、第8ギミックと第9ギミックをリアルタイムに融合!』

ダル子『待ち構える最強の難所、>>120を作り上げることにしました!』

120名無しさん@転載は禁止:2020/07/25(土) 12:22:14 ID:hjsog2o.
超重力自転車

121 ◆WsBxU38iK2:2020/07/26(日) 00:10:15 ID:b.xSfsW6
ダル子『超重力自転車を作り上げることに成功しました!』 


海未(確かにダル子の言う通り、私たちの走る先には二台の自転車が用意されている)

海未(しかし問題なのはその先のコースの形だ)

海未(スタート地点から伸びる道はすぐに途切れ、その先には細切れになった“道のパーツ”と呼ぶべきものが空間の至るところに浮遊している)

海未(ぱっと見50を超えるパーツたちは円球状に広がって存在し、パーツ同士の距離は自転車に乗りながら飛び移るには到底無理な距離)

海未(さらにパーツの地面、自転車の接地面となる面の向きがパーツごとバラバラという始末)


海未(こんなもの、どう渡って行けと言うのか……)

タタタタッ


ダル子『このギミックは第8関門のギミックである「爆走!自転車ロード」と第9関門である「変幻自在!超重力空間」を融合させたもの!』

ダル子『挑戦者たちは用意された自転車に乗り、予想不可能な重力が支配する空間へ飛び込むことになります』

ダル子『コースが地続きなんて甘いことはありません、上下左右に散らばるコースへ超重力に乗ってジャンプジャンプ!』

ダル子『ただし超重力の読みを間違えるとコース外へ真っ逆さま!』

ダル子『自転車の操作と重力を読んだコース取りの力が試されるギミックとなる「超重力自転車」』

ダル子『果たして、挑戦者の二人は切り抜けることができるのか!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!



トール「なるほどねぇ……」

タンッ

トール「じゃあオレは先にこっちの自転車に乗らせてもらうぜ!」

ガシャンッ!


海未(トールは横に2つ並んでいた自転車の片方へと乗って超重力空間へ突入する)

海未(そういえば……融合した2つのギミックのうち片方は自転車メインのものだったはず)

海未(コースが超重力側のギミックなら、自転車自体にギミック……何か差異はあるのだろうか)


タタッ

海未「これですね」

海未(ギミックのスタート地点に辿り着いた私は、残った一つの自転車を注意深く観察する)

海未(トールには少し離されてしまうが仕方ない、自転車の性能を知らずコースアウトしてしまう可能性を無くす方が今は大事だ) 

サッ サッ

海未「む……これは」

海未(一通り観察したところ、自転車のハンドルの所にギアを変えるものとは別のスイッチが付いているのに気づいた) 

海未(そこに書かれていた機能は>>122)

122名無しさん@転載は禁止:2020/07/26(日) 08:27:26 ID:bVAukr4E
ライトの出力操作

123 ◆WsBxU38iK2:2020/07/27(月) 00:16:04 ID:tTI.0Kj6
海未(ライトの出力操作)

海未(つまりここを押すと自転車のライトの明るさが段階的に切り替わるのだろう)

海未(しかしこんな明るい場所でライトなど必要なのでしょうか……)

カチッ

パッ!

海未(とりあえず自転車に跨りスイッチを押して見ると問題なくライトが点灯した)

海未「点きましたけど……ん?」

海未(そのライトは通常の自転車のライトから発せられる光の色とは違った色の光を発している)

海未(そして光の先に目を向けてみると、光の通り過ぎた空間に波のような揺らぎが見えた)

海未(光を当てた時だけ見える波、一定方向へ動く波、この波はまさか……)


海未「はっ!」

カチャツ シャシャシャシャッ!!

海未(ペダルを回し、自転車を発進させる)

海未(向かうコースの先はスパッと途切れていてこのまま進めば遥か下の水へ真っ逆さま)

海未(しかし問題はない、先程見えた波の場所へ突っ込む!)

ガッ!


ブォンッ!!

海未「おおっ!」

海未(その瞬間、自転車に乗った私の体が90度右に回転し、向かって左に浮かぶコースの破片へと吸い寄せられた)

海未(やはり読み通り……! あの波は重力の方向を示す波、そしてこのライトは見えない波を映し出すことができる!)

海未「よし、これを利用すれば……!」

シャシャシャシャッ! 

カッ

ダンッ!! 


ダル子『おおーっと! 出遅れていた園田海未、ここで追い上げを見せます!』

ダル子『上手く重力を読み、球状に広がるバラバラのコースを着実に前に進んでいくー!』

ダル子『一方の先を行くトールは変幻自在の重力迷宮に苦戦中の様子、上手く先へ進む重力を捉えられず、2歩進んで3歩戻るといった進み具合を繰り返しています』


ヒュンッ!

トール「……っ、3つの破片を経由してまた元の場所に戻ってきちまったか」

トール「大体破片の端からジャンプした周囲に2方向か3方向への重力の分岐が働いてやがる」

トール「要は狙いの重力に飛び込めば良い話なんだが、見えないせいで如何せん総当りになっちまう……」


トール「あいつ……なんであんなに当たりの道を選べるんだ?」ジーッ

124 ◆WsBxU38iK2:2020/07/27(月) 00:16:21 ID:tTI.0Kj6

カッ!

海未(ライトを付けるのは一瞬、あまり長く付けているとトールに盗み見られる危険性がある)

海未(ライトを付け、一瞬で波の数と方向を把握して消す、そして先へ進むであろう重力を練らってジャンプする) 

海未(このフィールド自体が360度の迷路と化しているため、見えたところで最短を進めてる保証はない)

海未(しかし重力の未知そのもの見えてないトールと比べれば最適な道を選ぶための効率は上がる)


海未「ほらっ! 追い越しましたよ!」

トール「……っ!」 

ダル子『逆転! 逆転です! ここで園田海未がトールを追い越します!』

ダル子『このまま先に超重力自転車を突破してしまうのかー!』


トール「くそっ、あいつがジャンプする直前に一瞬だけチカチカとライトを点滅させてるのは分かった」

トール「だがアレがなんだってんだ……それに何より、オレの自転車にはライトが付いていねぇ」 

バッ!

トール「あいつが先に進めてるのがライトのお陰だとすれば、向こうの自転車が当たりだった……?」

トール「いや、訓練に使うものな以上、片方だけ有利な機能が付いてるのは考えにくい」

トール「ってなりゃ、オレの自転車に付いてるのは別の機能か……」


ダンッ!

トール「ああもうっ、飛び乗る前に確認しておくんだったぜ……」

トール「今更言っても後の祭りだが……しゃーねー、切り替えていこうぜ!」

ガッ!!

ダル子『トール、ここで自転車を両手でわしづかみにして持ち上げます!』


トール「よーく観察しろよオレ、この自転車にライトの代わりについてるもの……そいつは>>125

125名無しさん@転載は禁止:2020/07/27(月) 00:29:31 ID:kAx3Bz6g
バナナの皮

126 ◆WsBxU38iK2:2020/07/28(火) 00:23:26 ID:AiZKSj7Y
トール「そいつは……バナナの皮だ!」

トール「初めに見た時には付いてなかったのに、いつの間にかバナナの皮が後輪の上についてやがる!」

トール「そしてハンドル近くに取り付けられてるブレーキとは別のトリガー、こいつはまさか――」

ガチャンッ!


ボンッ!!

ダル子『出たー! トールの自転車から発射されたバナナの皮は緩やかな軌道を描いて園田海未の元へ!』
 
ダル子『そしてバナナの皮は上手く園田海未の目の前に着地!』

スッ!

ダル子『園田海未、ここはスリップを恐れてかバナナの皮の前でブレーキをかけて止まります!』

キキッ!

海未「……っ!」



トール「で? 次のバナナの皮はどうやって出るんだ?」

トール「えーっと、ハンドルの真ん中に取り付けられた謎のメーター、こいつは……」

クルクル

トール「なるほど、ペダルを回すとメーターの針が振れていくわけか、そしてメーターが完全に振り切れると――」

キュインッ!  

トール「後輪の上に半透明のボックスが出現、さらにその中で複数の絵が回転する」

クルルルルッ

トール「抽選……されてるのか? さっき出てきたバナナの絵も見えるが……」

ポンッ!

トール「おおっ、出てきた! 今度はコウラ型のアイテムだ」 
 


トール「よし……大分把握できたな、要はレースをしてるとアイテムメーターが溜まり、ランダムで出現したアイテムを使って相手を妨害する自転車か」 

トール「本来のレースならばあいつの見えない仕掛けを見れる自転車か、オレのアイテム妨害自転車を選んでレースする仕様だったんだろう」

トール「だが……そうだな……この重力迷宮ではメーターを溜めるための距離が稼ぎにくいし、相手と自分が立体的に動いていて乗りながら当てにくい、こっちの自転車が不利くせぇな……」


トール「……はっ、ならこれしかねぇな」

ガシッ!!

ダル子『なんと! ここでトールが自転車を肩に担いだぁ!』

ダル子『担いだ肩とは逆の手をペダルにかけ、自転車の先を遠くの園田海未へと向けます!』


トール「こいつは乗り物じゃねぇ! アイテムを発射するための砲台よ!」

カシャカシャカシャカシャカシャカシャッ!

トール「うおおおおおおおっ!」

ダル子『凄まじい速度でペダルを回すトール、あっという間にメーターが溜まり自転車からアイテムが発射されます!』


トール「行けコウラ!」ボンッ!

カシャシャシャシャシャッ!

トール「次はバナナ! ブーメラン!」ボンッ! ボンッ!

カシャシャシャシャシャッ!

トール「イカにバクダン! 真っ赤なコウラも喰らえ!!」ボンッボンッ! ボンッ!


海未「くっ……!」

海未(トールのやつ、完全に走ることを諦めてこちらを蹴落とすムーブに変更したようですね)

海未(重力迷宮アスレの一つ一つの足場は短く狭い、ここで自転車に乗りながらの回避行動は難しいでしょう)


海未(一旦前に進むことを諦めトールの放つ無数のアイテムを迎撃するか、それともリスクを承知でゴールを目指すか) 

海未(ここは……>>127)

127名無しさん@転載は禁止:2020/07/28(火) 06:21:00 ID:H850SZPo
リスク上等

128 ◆WsBxU38iK2:2020/07/29(水) 00:08:18 ID:FEupyqP2
海未(ここは……リスク上等!)

海未(ここまで差をつけた状態で立ち止まるのは悪手、一気にゴールまで駆け抜けるのみ!)

ガッ カシャシャシャシャシャッ!!


ダル子『しかし園田海未は止まらなーい!』

ダル子『コースの破片から破片へと素早く飛び移り、妨害アイテムの雨の中をゴール目指して進んでいきます!』

ダル子『一つ間違えばタイヤを滑らせコースアウト一直線の賭けとも言える攻めの姿勢』

ダル子『これに対し引き離されたトールはどうするのでしょうか!』


シャシャシャシャッ!!

トール「なるほどねぇ……そう簡単に足を止めちゃくれねえか」

トール「もし立ち止まって迎撃しようもんなら加速系アイテムを引いて追い抜こうという算段だったが……こっちの思う通りに動きはしないよなぁ」

トール「ま、だったらそれはそれで考えがある」

ガシャシャシャシャシャッシャシャシャシャッ!!


ダル子『おや、トールが更に勢いよくペダルを回し始めました』

ダル子『溜めては出てきたアイテムを捨て、また溜めては出てきたアイテムを捨てています』

ダル子『あの様子、何か狙いのアイテムがあるのでしょうか?』


ガシャシャシャシャシャッ! 

トール「今から追いかけたとこでこの自転車じゃ追いつけねぇ、だったら必要なのは最強の妨害アイテムだ」

トール「アイテムボックスの中に表示される絵のパターンはもう把握した、そんなかで中々表示されないレア枠もな」

トール「今狙ってるのはそいつ……見た目だけで強そうなトゲの生えた青い甲羅――」

キュィンッ!

トール「出たぜ……」ニヤリ


ガチャンッ!

トール「行け! トゲゾーこうら!」

ドンッ!!!!


ビュィンッ!

海未「……っ!?」


ダル子『出たー! 出ました! トールの担いだ自転車から発射された青い甲羅こそがトゲゾーこうら!』

ダル子『先を行く相手をホーミングする点では赤こうらと同様ですが、トゲゾーこうらは更に強力無比!』

ダル子『相手がどれだけ遠くにいようとも、相手がどんな防御をしようとも、決して止まることはありません!』

ダル子『狙われたら最後、待っているのは回避不能の大爆発、これは園田海未、一転して窮地に追い込まれました!』

129 ◆WsBxU38iK2:2020/07/29(水) 00:08:30 ID:FEupyqP2


海未「なっ、そんなものまで……!」

海未(しかし……ゴールはもう目の前、今更止まることなどできません)

海未(当たることを避けられないのなら、当たる前に走り切るしか道は残されていない!)

シャッ シシャシャシャシャッャシャシャシャッ!

海未「うおおおおおお!」

海未(力の限りペダルを回転させ、コースを前へ前へと駆け抜ける)

ダンッ!

海未(ジャンプして重力ゾーンを通過し別の道へ、さらにジャンプしてまた別の道へ)

ダンッ! カシャシャシャシャシャッ! ダンッ!

海未(あと少し……この道を駆け抜けて最後の重力に飛び込めばゴール――)


ゴッ!!

キシュィィィィィィィィィィンッ!!

海未「……っ!」


ダル子『だがここでトゲゾーこうらが園田海未の背中を捉えた!』

ダル子『園田海未が走るっているのは浮遊している足場のうちの最後、ここを超えればゴールは目前です』

ダル子『園田海未の操る自転車が速いか! トゲゾーこうらが速いか!』

ダル子『さぁ、その距離は縮まり、さらに縮まり、トゲゾーこうらがどんどん園田海未に近づいてきます!』


海未「ぐ……うおおおおおおおおおおおっ!」

ガシャシャシャシャシャッ!!

ダル子『そして――――』


カッ!!


ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!!

ダル子『爆発うううううううっ!』

ダル子『最後の浮遊した足場、最後のコースの破片の上で青白い円形の爆風が広がりました!』 


ダル子『この威力の爆発、直撃したら行動不能、そうでなくても吹き飛ばされてコース外に落ちていてもおかしくありません』

ダル子『仮にそうなった場合はリタイア、コースアウト判定となりトールの勝利となります』


シュゥゥゥゥゥゥッ

ダル子『……さて、爆風により舞い上がった粉塵が段々と晴れてきました』

ダル子『爆発に巻き込まれた園田海未は……>>130

130名無しさん@転載は禁止:2020/07/29(水) 06:25:14 ID:/rotmBks
自分の足でゴール

131 ◆WsBxU38iK2:2020/07/30(木) 00:39:05 ID:qY8KBU46
ダル子『園田海未は……おおーっと! 出てきました! 爆風の跡地を園田海未が2本の足で歩いています!』

ダル子『爆発の影響か少々ふらつきは見えますが大きな怪我は見られずほぼ無傷と言った状況』

ダル子『片手には前半分だけになった自転車が見受けられます、これも爆発で捻じり千切れたのでしょうか』

ダル子『園田海未はほぼ前輪だけになった自転車のハンドル部分を片手で持ちながら、着実にコースの端へと歩みを進めています!』


トール「あいつ……自転車を爆風の盾にしたのか……!」



海未「はぁ……レクリエーションからとんでもない目に会いましたよ」

ザッ ザッ

海未「しかしこれで足場は最後」

カチッ 

パッ!

海未(自転車の前方についてるライトが最後の足場からゴール地点に向けての重力の波を映し出す)

海未(後はそれに向かってジャンプすれば――――)

タンッ!


グインッ!


スタッ

海未「……っと!」


ダル子『ゴーーーーーーール!』

ダル子『難関の融合ギミック!第8+9関門を先に突破したのは園田海未!』

ワァァァァァァァァァァァァッ!!!!

ダル子『今までトールの僅か後ろを追いかけていた園田海未ですが、この終盤にてトールに大きくリードを取りました!』

ダル子『残すはラストの第10関門のみ!』
  
ダル子『ここを先に突破した方がレクリエーションの勝者となります!』  
 
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!





132 ◆WsBxU38iK2:2020/07/30(木) 00:39:25 ID:qY8KBU46


  

──闘技場横・オーディンチーム


ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!



フレイ「これでトールは園田海未とほぼ1ギミック分の差を付けられたわけですか」

フレイ「今から重力迷宮を攻略する時間を考えると、これはほぼ勝負は決まったと考えて良いでしょうね」  

オーディン「全く……トールの奴め、少し仕置が必要だな」


フレイ「まぁ相手に幸運が味方したとも言えます、あの爆風を自転車で防ぐ機転は素晴らしいですが、一歩間違えば自転車が大破しライトまで壊れる可能性がありました」

フレイ「前半分が運良く残り、ライトの機能を使い最後のジャンプを成功させられたからこそ、園田海未のリードは――――」

ヴァーリ「ちがう」

フレイ「……え?」

ヴァーリ「ウンじゃない、あのニンゲン、バクハツのチョクゼンにジテンシャをキっていた」


フレイ「自転車を……斬っていた?」

ヴァーリ「……そう、ケンをつかって、うしろだけをキりはなしてコウラに あてた」

ヴァーリ「それでバクハツのチョクゲキをずらしつつ、ジブンとライトをまもったんだよ」

フレイ「まさか、そんなことが……」


フレイ(私とヴァーリは確かに同じモニターを見ていたはず) 

フレイ(だけど私にはヴァーリの言う爆発の瞬間の所作を捉えることはできなかった)

フレイ(生まれついた身体能力や動体視力を比較するのであれば、悔しいがヴァーリの方が私より遥かに勝っている)

フレイ(その発言自体を疑う気は無いが……もし本当だとすると、異常なのは園田海未のほうだ)


フレイ(抜く、斬る、収める、一連の動きがこの私の目を持ってしても捉えきれない剣さばき)

フレイ(あの技が実戦で相対した時厄介になることは想定できる)


ヴァーリ「すごいなぁ、いいなぁ、やっぱり……たたかってみたいなぁ」

フレイ「…………」



ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

ダル子『さぁ! 残すあと1つはもう見えていることでしょう!』

ダル子『第8+9関門のゴールから眼と鼻の先、完全クリアを狙う挑戦者を阻む最後の砦』

ダル子『第10関門に待ち受けるギミックは>>133

133名無しさん@転載は禁止:2020/07/30(木) 06:37:04 ID:EQmBzwCI
そり立つおっぱい

134 ◆WsBxU38iK2:2020/07/31(金) 00:23:35 ID:qTvuBPWM
ダル子『待ち受けるギミックはーーそり立つおっぱいだー!』

ドドーンッ!! 


ダル子『天に向かってそり立つ全高20m越えの巨大のおっぱい』

ダル子『それを見事に踏破し頂に辿り着くというシンプルなギミックです』

ダル子『おっぱいの頂にはボタンが置いてあり、そのボタンを押せばクリア!』

ダル子『同時にこのエインヘリヤルSASUKEの完全踏破となります!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!



ヴァーリ「おぉ〜、すごいおおきい……どハクリョク……!」 

フレイ「ふむ」

フレイ(最後はシンプルな登攀系ギミックですか)

フレイ(園田海未が素直に登るにしろ他の手を使うにしろ、長く足止めを望めるような複雑なギミックではありませんね)

フレイ(トールには悪いですが、化身体である以上、この差を今から詰めることは無理でしょう)


フレイ(一応念話で連絡を……っと)

スッ

キィーンッ


フレイ『トール、聞こえますか?』

トール『なんだ! オレはまだやれるぞ!』  

フレイ『はぁ……やはり諦める気は無いようですね、念話して正解でした』

フレイ『これがレクリエーションで良かったです、本戦ならばこう言った通信もルール違反なのでしょう』


トール『だからなんの話だよ、オレに諦めろってか?』

フレイ『ええ、その通りです』

135 ◆WsBxU38iK2:2020/07/31(金) 00:23:48 ID:qTvuBPWM
フレイ『コースの踏破を断念して妨害に全力を出すという賭けが失敗した時点で取り返しの付かない距離が生まれました』 

フレイ『重力の波を読めないその自転車では迷宮の突破には時間がかかり、どうあがいたところであなたの負けは明白』
  

フレイ『良いですか? レクリエーションで大事なのは勝敗より観客への印象です』

フレイ『負けが確定した中で未練たらしく足掻くより、すっぱりリタイアを宣言したほうが戦士として高潔というものでしょう』

フレイ『神としての矜持、プライド、それを忘れてはなりません』



トール『……はぁ〜、なるほどねぇ』

フレイ『分かってくれましたか?』

トール『分かった分かった、オメーの言い分は十二分に分かったよ』

フレイ『では――』

トール『だけどな、オレはこんなとこで諦めねぇぞ!!』

フレイ『……はぁぁぁぁっ!?』


フレイ『あなたバカですか! 私の話を聞いてましたよね!?』

トール『聞いてたよ、聞いた上で判断したんだ』


トール『オメーの言う通りオレの選んだ自転車じゃ今からあいつには追いつけねぇ』

トール『だから、こんなものは捨てる、ついでに神としてのプライドとやらもな』

ポイッ 

ガシャンッ! 


トール『あいつはつえー、つえーから……オレも少し本気だすわ』

トール『良いよな、フレイ?』

フレイ『ちょっ、待ってくださいトール! レクリエーションでそれは早――』

トール『答えは聞いちゃいねえええええええ!!』

ドンッ!!!!


バリバリバリバリバリッ!!!!


ダル子『トール、ここで担いでいた自転車を投げ捨て、激しい雷鳴と共に何かを召喚しました!!』

ダル子『コースの床にめり込んだ形で出現したアレは……あの武器はまさか……!』


トール『”ミョルニル” 第一限定解除』

ガシャンッ!


フレイ『トール! 何をする気ですか!?』

トール『安心しろ、別に全てを台無しにしようってわけじゃねえよ』

トール『オレはオレでちゃんとゴールを、あのデカ乳の天辺を目指すさ』

ガッ!

トール『このハンマーの第一の能力、>>136を使ってな!』

136名無しさん@転載は禁止:2020/07/31(金) 06:58:18 ID:RReRNzuY
飛雷神の術

137 ◆WsBxU38iK2:2020/08/01(土) 00:15:39 ID:EhdRJqbY
トール『飛雷神の術を使ってな!』

ドドドドドドドドドドドドッ!







カッ!! ゴロロロッ! バリバリバリッ!!

海未「……っ!?」

海未(既に巨大なおっぱいの中腹まで登攀していた私は、その雷鳴に思わず背後を振り返りトールのほうを見た)

海未(トールの真横の地面に雷が落ちたよあな亀裂が走り、そこを中心に電流を伴う魔法陣が展開)

海未(魔法陣へトールが手をかざすと、その内部からハンマーが柄の方を上部にして浮かび上がってきた)

キィィィィィンッ!


海未「……!」

海未(トールの扱うハンマー、そんな武器はミョルニル以外にあり得ない)

海未(ドワーフ族によって作られた、壊れず投げても手元に戻ってくる槌)

海未(今トールが手にしてるミョルニルは神話の技術より大分柄が長く、スレッジハンマーに似た形をしている) 

海未(大きさを変えられる、という記述辺りを拡大解釈してるのでしょうか……)


海未(ともかく、トールが己の武具を出してきたということは本気の証)

海未(このおっぱいの側面を急いで登りきらねば――――)


トール「おらっ!!」

ブンッ!!

ダル子『おーっと! トールがここでミョルニルを取り出し園田海未の方へ投げたー!』

海未(なっ……! 直接攻撃!?)

ブンッ ブンッ ブンッ ブンッ

ダル子『ミョルニルは回転しながら第8+9関門の上を飛び越えーーーー』


ガンッ!!!! ボイーンッ!

ダル子『園田海未の数メートル上、おっぱいの側面へと叩きつけられる!』

海未「……!」

海未(……違う! これは私を狙ったものではない!)


トール「行くぜ! 飛雷神の術!」

カッ!!!!

海未(私が張り付いる場所の数メートル上に投げつけられたハンマー)

海未(それはハリのあるモチモチの肌に赤い跡を付けながら、おっぱいの弾力で軽く空中へ跳ね返る)

海未(そのハンマーの柄に、一筋の閃光が走った)

バリリリリリッ!!

138 ◆WsBxU38iK2:2020/08/01(土) 00:15:51 ID:EhdRJqbY
海未(細長いハンマーの柄を避雷針のように誘導された青白い閃光)

海未(それは一瞬で細い線から人の形へとシルエットを変化させ、“トール自身”をそこに現出させる)


バシュッ!!

トール「……っわけで、先に行かせてもらうぜ!」

海未「……っ!」

海未(ハンマーで転移先を指定、雷を媒介に一瞬で移動する転移術式ですか!)


海未(私の数メートル上へ転移したトールは、そのままハンマーの柄を踏み付けておっぱい上部へとジャンプする) 

トール「はぁっ!」タンッ!

海未「負けません、ここまで来たら負けるものですか!」

海未「そちらが飛ぶならならこちらを飛びます……舞空術!」

海未(本気の片鱗を見せたトールに思わず私も対抗心が燃えてくる)

海未(体内の気をコントロールし、希に教わった舞空術を発動、体を浮かせて一気におっぱいの側面を駆け上がる!)


海未「はあああああああっ!」

トール「おっ、やるねぇ!」


タンッ!

ダル子『園田海未がトールを追いかけ、ほぼ同時におっぱいの上部へと着地しました!』

ダル子『ここまで来れば後は緩やかな坂を走っておっぱいの中央へ辿り着くのみ!』

ダル子『そこにある突起、ゴールのボタンを押せばエインヘリヤルSASUKEの完全クリアとなります!』


トール「うらあああああっ!」ダッ!

海未「うおおおおおおおっ!」ダッ!

タタタタタタタタッ!

ダル子『両者全力でボタンへと走り出しました!』

ダル子『最後は小細工なしのお互い全力ダッシュでの勝負!』


ダッ!

ダル子『そして! 先にボタンへ手が届いたのはーーーー>>139

139名無しさん@転載は禁止:2020/08/01(土) 00:27:18 ID:Lv73ybOw
完全に同時

140 ◆WsBxU38iK2:2020/08/02(日) 00:08:24 ID:M6ECRnEI
ダル子『同時! 同時だぁあああああああああっ!』

ダル子『巨大なおっぱいの頂点、そこに位置するボタンに両者が手をかけています!』


トール「あんっ!?」

海未「なっ……!」 


海未(ダル子のアナウンスに驚いて左を見ると、同じようにこちらを見たトールと目が合う)

海未(ボタンを半分ずつ分けるように置かれた私の左手とトールの右手)

海未(当事者の私の目から見ても“ほぼ同着”という事しか分かりませんが、果たして……)


ダル子『ただいま運営本部の方で映像判定を行っています! しばしお待ちください!』

ダル子『映像での判定が……出ました! モニターをご覧ください!』

バンッ!!


海未(スタジアム上空の巨大なモニターにゴールの瞬間の映像が映し出される)

海未(映像はボタンと手の距離が近付くほどにスローになり、指が触れる瞬間にピタリと静止した)

海未(そこに映る私の指とトールの指は0.01秒のズレもなく完全に同時にボタンに触れている)


ダル子『これは……完全に同時! 完全に同時にゴールしています!!』

ワァァァァァァァァァァァァッ!!

ダル子『少なくともこの映像を見る限りではそう判断せざるを得ません!』

ダル子『ラグナロク決戦のスタートを飾るレクリエーションは両チームのクリアという展開を迎えました!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!


ダル子『皆様! ゴール地点の両名に今一度声援と拍手をお願いします!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

ババババババババババババッ!!



トール「……っはぁ〜、同着かー」バッ!

海未(結果を見たトールはボタンから手を離し、勢いよく後ろに倒れると肌色の地面へと寝転がった)

海未(両手両足をストレッチのように伸ばし、息を吐いて脱力する)

トール「力を使ってこの結果はさすがにフレイに怒られるかねえ」


海未「観客は盛り上がってるようですし、勝敗関係なしの余興としては十分に役目をこなせたと思いますよ」

トール「ま……そうだな、本戦はこれからだしな」

トール「というか長髪のネーチャンも中々やるじゃねえか、少し見くびってたから驚いたぜ」

トール「名前は確か……えーと……」

海未「園田海未です」

トール「海未な、覚えとくぜ」


海未「ええ、それと……ん?」

心ノ穂乃果「おーい! 海未ちゃーん!」

海未(おっぱいの上から真下を見下ろすと、穂乃果たちがこちらを手を降っているのが見えた)

海未(私もそれに対して手を振り返す)

141 ◆WsBxU38iK2:2020/08/02(日) 00:08:48 ID:M6ECRnEI
トール「それと……なんだ?」

海未「私もあなたの本気を少し引き出せたようで良かったです、事前に情報をどれだけ得られるかが勝負を左右しますから」

海未(私がそう言うと、トールは自分の横に放り投げてあるミョルニルを見て笑う)

トール「あー……これか、くくくっ、海未が手強いから年甲斐もなく本気だしちまったよ」

トール「だが安心しろ、さっきのはオレのほんの一部にすぎねえ」


トール「本戦で当たるのが誰になるかは知らねえが、そん時は完全なオレを見せてやるから期待しとけ」グッ

海未「はい、楽しみにしてますよ」



ワァァァァァァァァァァァァッ!!

ダル子『これにて開会式におけるレクリエーション「エインヘリヤルSASUKE」は終了!』

ダル子『アスレチックコースを闘技場へと戻し、引き続きプログラムを行っていきます!」


ダル子『次が開会式最後のプログラム、「主神オーディンによる開戦のことば」となります』

ダル子『皆様どうぞ席に付き、ご清聴のほどよろしくお願いします!』


─────────────────

メインスタジアム

PM2:00〜2:15 反逆の焔編『6』了

142 ◆WsBxU38iK2:2020/08/02(日) 00:09:44 ID:M6ECRnEI
というわけでここまで

レクリエーション終了

反逆の焔編『7』に続く
かもしれない

143 ◆WsBxU38iK2:2020/08/03(月) 00:26:32 ID:5rmb4cE.
反逆の焔編『7』

─────────────────
──メインスタジアム・観客席

PM2:15


ワァァァァァァァァァァァァッ!!


カリオペー「いやー、前座のレクリエーションにしてはすごい盛り上がりだったなぁ」

カリオペー「ねぇ侑ちゃん?」

侑「……は、はい」


侑(SASUKEの結果に湧く観客席の中、私だけがその熱狂に取り残されていた)

侑(こうして体はスタジアムの熱気に包まれているのに、まるで遠くから画面越しに映像を見てるかのようなひどく現実感のない感覚)

侑(それでいて肌には汗が滲み、喉が張り付くように乾く、どこかソワソワして心が落ち着かない)


侑(きっとそれは全て……隣に座っているカリオペーとか言う綺麗なお姉さんのせいだ)

カリオペー「ん?」

侑「は、ははは……」

侑(今まで可愛い女の子の相手はそれなりにしてきた自信がある、今更見た目程度で緊張するなんてあり得ない)

侑(なのに隣に座ってるだけでここまで精神を乱されるなんて……)

侑(見た目だけじゃない、カリオペーの計り知れないオーラみたいなものが私を萎縮させているんだろう)

ギュッ

侑(大丈夫、落ち着け、落ちつんだ私)


侑「……すぅー、はぁー」


カリオペー「どうしたの? 体調でも悪い?」

侑「いえ、それよりお願いがあるんですけど……良いですか?」

カリオペー「お願いかー、いきなりな話だね、どうするかは内容によるけど……まぁ聞くだけ聞いてみるよ」


侑(神様たちにそこそこ慣れてるはずの私さえ萎縮してしまう、そんな雰囲気を醸し出す強い使徒)

侑(何人かナンパしたツテを辿って会えれば……と考えたけど、こんなに早く出会えるなんて)

侑(ここは勇気を出して突っ込んで見るべき……!)


侑「実はそのー……ですね、例えばの話なんですけど、例えば特別な身分でないと入れなかったり、仲間じゃないと追い出されるような場所ってあるじゃないですか」

侑「そう言った場所に疑われず侵入できる方法があったりしないかなー……って、はははは」


侑(……って、何笑って誤魔化してるんだ私は)

侑(勇気を出すとか言っておきながら、いざ宝石のように綺麗な目を見ると気圧されてしまう)



カリオペー「なるほどねぇ、侑ちゃんのやりたいことは大体分かったよ」

カリオペー「そして侑ちゃんは運がいい」

侑「え?」

カリオペー「私の能力ならたぶん侑ちゃんの望むことができると思うよ」

侑「ほんとですか! じゃあ――――」

カリオペー「待って待って、もちろん私からも条件……というかお願いをしようかな」

侑「……!」


カリオペー「私のお願いは>>144、それで良いなら侑ちゃんのお願い叶えてあげよう」

144名無しさん@転載は禁止:2020/08/03(月) 05:05:01 ID:ZVKV/JfU
私とキスしてもらうこと

145 ◆WsBxU38iK2:2020/08/04(火) 00:24:06 ID:e/0fMEvE
カリオペー「私とキスしてもらうこと、それで良いなら侑ちゃんのお願いが叶えてあげよう」

侑「キ、キスですか……」

カリオペー「うんっ」


侑(キスか……すぐにいいよと即決できるものではないけど、高位の存在から能力を借り受ける代償としては安いのかもしれない)

侑(命やお金、他の何かを差し出したり、難しい使命を課されるよりは全然マシ)

侑(それに……)

チラッ

侑(こんな綺麗なお姉さんとだったらあんまり抵抗はないし……ね?)


侑「……わ、分かりました」コクン

侑「能力を使ってもらえるならキスを――」

カリオペー「ありがと、じゃあ早速」グイッ

侑「え?」

チュッ

カリオペー「んっ……」

侑「んんっ!?」


侑(カリオペーはこちらに身を乗り出し、有無を言わさず私にキスをした)

侑(冷たく柔らかいカリオペーの唇が火照った私の唇と重なり、密着した粘膜を通じて冷気と熱が混じり合う)

侑(女の子から軽くほっぺにキスされることくらいなら何度かあった、けれどこんなに真正面から迫って来られたのら初めて)

侑(息苦しさと火照りで頭がクラクラして来ちゃう……) 


パッ

侑「……ぷはっ、はぁ、はぁ」

カリオペー「ごちそうさま、これで契約完了だね」

侑「……け、けいやく?」

カリオペー「約束通り、侑ちゃんには私の能力で役立つものを作ってあげよう」

146 ◆WsBxU38iK2:2020/08/04(火) 00:24:26 ID:e/0fMEvE
スッ

侑「……?」

侑(未だキスの衝撃でぼーっとしてる私の前で、カリオペーは紙とペンらしきものを取り出しスラスラと何かを書いていく)

サッ サササッ  

カリオペー「よしできた、どうぞ」

侑(カリオペーは20秒ほどで書き終えると、私に対してその紙を渡してきた)

侑(手にとった紙は名刺のような固めの材質で大きさは学生証くらい、表面には文章らしきものが4行ほど書いてある)

侑(使われてる文字は私には読めない、というかどこの国の言語でもない可能性が高い)

侑(たぶんカリオペーの世界の言葉か、カリオペーの使う独自の文字なのだろう)


侑「これは?」

カリオペー「見せた相手の思考を読み取ってその場に適した身分証に変化する文字を仕込んでおいた」

カリオペー「変化後は本物と寸分違わない作りになるから、調べられても偽造と看破されることはない」

カリオペー「怪しまれた時にそれを見せれば大体の身分は偽装できるはずだよ」

侑「おぉ……それはすごい」


カリオペー「ただし改竄能力が及ぶのはあくまで書面としてのものだから、あまり派手に立ち回るのはお勧めしないかな」

カリオペー「侑ちゃんの望みが達成されるかは侑ちゃん自身の行動にかかってる、落ち着いて頑張ってね」

侑「はい、ありがとうございます!」


侑(私は深くお辞儀をすると観客席の椅子から立ち上がる)

侑(目当てのものは手に入れた、ならば行動あるのみ!)

スタッ

侑「私ちょっと用事ができたので、本当にありがとうございました!」

タタタタッ

カリオペー「いってらっしゃ〜い」



タタタタタタタタッ

侑(人混みをかき分け、階段を下り、まず向かうは会場の外)

侑(そこから待たせてるスレイプニルに乗って第二世界樹まで走り――――)

タンッ!

侑(目指すは地上! そこに私の目的がある!)





147 ◆WsBxU38iK2:2020/08/04(火) 00:24:51 ID:e/0fMEvE




ワァァァァァァァァァァァァッ


カリオペー「らっしゃ〜い……」フリフリ


カリオペー「はぁ……侑ちゃん可愛いのに居なくなっちゃった」


テテテッ

カリオペー「ん?」

カリオペー(侑ちゃんが消えた方向から入れ違いで誰かが走ってくる)


テテテッ

ケモミミ「もーっ! 遅れちゃいましたミャー! 侑さん、侑さんは……」

カリオペー「侑ちゃんならもういないよ、別の用事ができたみたい」

ケモミミ「えーっ!?」


カリオペー(私の目の前まで走ってきたのは大きなケモミミの目立つ獣人型の使徒)

カリオペー(その両手は限界を超えて盛られたポップコーンの容器と飲み物2つを乗せたトレーで塞がれている)

カリオペー(たぶん侑ちゃんがチケットを一枚譲ってもらった使徒がこの子なんだろう)


ケモミミ「うぅ……ミャーが調子に乗って売店に並んでたからぁ」

カリオペー「まぁまぁ、席も隣だし来れなかった子の分まで私が話し相手になってあげるから」スッ

ケモミミ「ありがとうございますミャ、ってそれ侑さん用に買ってきた方のジュース……」

カリオペー「細かいことは気にしないのー」チューー

ゴクンッ

カリオペー「ぷはっ」


カリオペー「あの子のものは私のもの、そういうことなの」

ケモミミ「あの子……お姉さんは侑さんの知り合いか何かで?」

カリオペー「うーん、強いて言うなら……キスした仲かなぁ」

ケモミミ「ききき、キスミャ!?」

カリオペー「ふふふっ」


カリオペー(そう、アレは契約のキス)

カリオペー(侑ちゃんはポカーンとして気付いてなかったみたいだけど、私の固有能力なんかよりよっぽど強い魂の繋がりを結んじゃったんだよね)

カリオペー(だから“あの子のものは私のもの” 女神との契約が唇1つで済むなんて思ったら大間違いなんだから)



ダル子『では最後のプログラムを始めます! 皆様席についてください!』

ワァァァァァァァァァァァァッ!!


カリオペー「ほら、あなたも隣に座りって、続きが始まっちゃうよ?」

ケモミミ「は、はいミャ!」


カリオペー(契約で繋がってる限り、あの子に権能や加護を与えるも自由、逆に何かを制限したり奪ったりするのも自由)

カリオペー(ふふっー、何をしてみようかなぁ)ニヤニヤ

カリオペー(……そうだ、例えば>>148)

148名無しさん@転載は禁止:2020/08/04(火) 06:22:55 ID:QwJu/qLM
快感を与える

149 ◆WsBxU38iK2:2020/08/05(水) 00:16:17 ID:kiKtDHOk
カリオペー(快感を与える、なんてのもいいかも)

グイッ ワサワサッ


侑『ひゃうんっ!』
  
カリオペー「ふふっ、ちゃんと反応してる」

カリオペー(頭の中で侑ちゃんの敏感な所をイメージしながら手を動かすと、快感を与えられた侑ちゃんの反応が脳内にフィードバックされる)

カリオペー(契約を結んだ相手の状況もリアルタイムで確認できるから本当に便利な術式だ)


カリオペー(よしよし、後は何か事が動くまで侑ちゃんをイジって遊びながらスタジアムの様子でも見てますか)

スッ
 
カリオペー「はむっ」サクッ

カリオペー(隣の席に置かれたポップコーンをひとつまみ、うん、中々いける味じゃない)


カリオペー「さーて、そろそろラグナロク本戦が始まる、楽しみだなぁ」





150 ◆WsBxU38iK2:2020/08/05(水) 00:17:13 ID:kiKtDHOk




──闘技場上


ダル子『ではオーディン、壇上へ移動してはじめの言葉をお願いします』

オーディン「うむ」

タッ


にこ(ダル子に呼ばれたオーディンが前に出て壇上へ登っていく)

タンッ タンッ タンッ


にこ(エインヘリヤルSASUKEが終わった後、再び闘技場は元の平らな円形に戻った)

にこ(私たちはその円形闘技場の上で整列している状態だ)

にこ(壇上に向かって左側に私たち穂乃果チームが、向かって右側にオーディンチームが、それぞれ5人一列に並んでいる)


タンッ

オーディン「まずはこのような場を作ってくれた者達、そして決戦を見に足を運んでくれた観客、諸君らに心からの礼を伝えよう」

ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!

にこ(オーディンが壇上でマイクのスイッチを入れて話し始めると、会場は一気に歓声に包まれる)


オーディン「ご清聴……というのも無理があるな、構わん、そのまま聞いてくれ」

ワァァァァァァァァァァァァッ!!


オーディン「今日この日! ついにラグナロク決戦が始まる!」

オーディン「地上の大凍結から始まったラグナロクが、ついにここヴィーグリーズで決着を迎えるのだ!」


オーディン「攻め入りしはスルトの火を受け継いだ5人の人間、目の前に並ぶ穂乃果チーム」

オーディン「だが人間だと言って舐めてかかってはいけない、諸君らも先程のレクリエーションを見ただろう」

オーディン「彼女らの力は神々に引けを取らない域まで仕上がっている」

オオォォォォォ


オーディン「しかし! 決戦の申し出を受けた以上我々は負ける気はない!」

オーディン「我が揃えし精鋭、フレイ、トール、ヴァーリ、ヘイムダム」

オーディン「そして我を含めた5柱の神が必ずアースガルズに勝利をもたらすと約束しよう!!」グッ!

ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!



にこ(突き上げられた拳はオーディンの自信の現れ)

にこ(それに鼓舞されたかのように会場の歓声と熱気はより一層強まっていく)


にこ(ついに始まるのね、ラグナロクの最後を飾る戦いが――――)


ピピッ!

にこ「……ん?」

151 ◆WsBxU38iK2:2020/08/05(水) 00:17:25 ID:kiKtDHOk
にこ(なんだろ、何か小さく音が聞こえる、これはいったい……)

にこ(……あっ、ロスヴァイセから貰った通信用のアーティファクトだわ!)


にこ(全くもう、こんな時に何よ……)

にこ(確かペンダントの裏のボタンを押せば念話の回線が繋がる仕様だったはず)

にこ(これをポケットの中でこっそり押して――――)

カチッ


ロスヴァイセ『にこさん! 開会式は終わりましたか!』

にこ『まだよ、ちょうど最後のプログラムをやってるとこ、ってか本当にこの通信バレないのよね? 大丈夫?』

ロスヴァイセ『それは保証します、何食わぬ顔で脳内で会話を続けてくださいませ』

にこ『まぁ……今はオーディンの話を立って聞いてるだけだから良いけど』


ロスヴァイセ『ではこちらの報告を、私は今フレイヤ様と一緒にヴァルハラまで来てます』

にこ『ヴァルハラ? オーディンの館の!?』

ロスヴァイセ『ええ、メインスタジアムの運営本部では有力な情報が見当たらず、なら本家本元まで探りに行こうと』

にこ『なるほど……』


ロスヴァイセ『それでオーディンが痕跡を残してそうな所を探った結果、ヘイムダムに関しての情報が1つ手に入りましたわ』

にこ『ヘイムダム、ダル子のお父さんよね……私たちもアレには驚いたわ、ダル子もかなりショックを受けてたみたい』

ロスヴァイセ『ええ、ヘイムダムことヘイムダル様は既に死んだ身のはず、それがヘイム“ダム”として復活してるんですから』

ロスヴァイセ『ダル子の胸中は察するに余りあるというものですわ……』


ロスヴァイセ『それにまさか、あんなことが……』

にこ『あんなこと?』


ロスヴァイセ『……いえ、そうですわね、先に結果から報告した方が良いでしょう』

ロスヴァイセ『私たちが見つけたヘイムダムに関する1つの情報、それは>>152

152名無しさん@転載は禁止:2020/08/05(水) 05:05:17 ID:qMzUpgeU
通信が遮断されました

153 ◆WsBxU38iK2:2020/08/06(木) 00:10:04 ID:w9MXlJpE
ロスヴァイセ『それは――――』

ビーーーーーッ!

にこ「……っ!?」


??『通信が遮断されました』

プツッ

にこ『ちょっ……ロスヴァイセ! ロスヴァイセ!?』


カチツ カチツ

にこ(謎のエラー音とシステムメッセージを最後にロスヴァイセとの通信が途切れてしまった)

にこ(何度通信機のスイッチを押し直しても念話が繋がる様子はない)  

にこ(通信が遮断って聞こえたけど、何者かに介入されて止められたのか、通信機自体の故障なのか)
 
にこ(なんにせよロスヴァイセと連絡が取れない限り、私が原因を知ることはできない)


にこ(ロスヴァイセ……無事だと良いけど……)


希「にこちゃん、険しい顔してどうかした?」

にこ「……ううん、何でもないわ」


にこ(私の表情の変化を察したのか声をかけてくる希、余計な心配はかけたくないから笑顔でごまかす)  

にこ(そんな行動とは裏腹に、私の心中は分からないことことだらけで混乱しっぱなし) 

にこ(全くもう……向こうでいったい何が起こったのよ……!)



オーディン「さぁお膳立ては済んだ! 諸君らも待ち望んでいるだろう!」

オーディン「ここに! ラグナロク決戦の開始を宣言するううぅぅぅぅぅ!!」

ウオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!





154 ◆WsBxU38iK2:2020/08/06(木) 00:10:21 ID:w9MXlJpE


 
──ヴァルハラ

同時刻


カッ タタタッ

フレイヤ「……っと」スタッ


フレイヤ(階段を駆け下り、誰か付けてないか確認……よし、誰にも見られてないわね)

タタタッ

フレイヤ(ヴァルハラに着いた後、私とロスヴァイセは手分けしてオーディンチームの情報の痕跡を探すことにした)

フレイヤ(主にロスヴァイセがこちらの運営本部跡を、私がオーディンたちの会議していた玉座の間を調べるという形だ)

フレイヤ(あの場で仕事をしていたロスヴァイセの方が運営本部に詳しいというのもあるけど、玉座の間が私みたいな格の高い神じゃないと入れないって理由の方が大きい)

フレイヤ(手分けは単純に効率を上げるため)

フレイヤ(お互いに持ち場を調べたら大広間で合流するという手筈になっている)


タタタタタッ

フレイヤ(だから玉座の間を調べ終わった私は、こうしてロスヴァイセの待つ大広間に急いでるというわけ)

フレイヤ(少し時間はかかってしまったけど、オーディンが玉座の間に残していった資料には重大なことが書かれていた)

フレイヤ(これをロスヴァイセの分と合わせれば――――)

タンッ


フレイヤ「おーい! ロスヴァイセ!」


タッ

フレイヤ「……ん?」

フレイヤ(大広間の隅にいるロスヴァイセは何故か声をかけても反応しなかった)

フレイヤ(聞こえなかった、ってことは無いと思うけど……)


フレイヤ「ねぇロスヴァイセ、私よ私、フレイヤだって」 
 
スタ スタ

フレイヤ(壁の方を向いたロスヴァイセは通信機らしきものを耳に当てながら動かずにいる)
 
フレイヤ(その背中に声をかけながら歩いて近づくけど、何度声をかけても反応がない)


フレイヤ「ちょっと、どうしたのよ」 

フレイヤ「あんまり大声出すと目立つし早いとこ立ち去らないと――」

グイッ

フレイヤ(そうしてロスヴァイセの背後まで近づき、その肩を軽く掴むと>>155)

155名無しさん@転載は禁止:2020/08/06(木) 10:04:14 ID:j1c8HgVs
失禁した

156 ◆WsBxU38iK2:2020/08/07(金) 01:07:41 ID:t0etyTN2
フレイヤ(その肩を軽く掴むと――――)  


ロスヴァイセ「……っ!」ビクンッ!

ジョボッ ジョボボッ  

ジョボボボボボッ! ビシャァァァァァァッ!!

 
フレイヤ「なっ……!」

フレイヤ(ロスヴァイセは無言でビクリと体を跳ねさせ失禁した)

フレイヤ(ロスヴァイセの股から染み出した温かい液体が腰巻きの布や足を伝って流れ落ち、大広間の大理石の床に激しく音を立て広がっていく)

シャァァァァァァァァァァッ!!

ロスヴァイセ「あっ……うぐっ……あうっ……」

フレイヤ(声を出せないのか、出さないのか、ロスヴァイセは無言で苦しそうに呻きながら定期的に体を痙攣させる)

フレイヤ(そして出すものを全て出しきると、力なくその場に倒れ伏した)

フラッ


フレイヤ「ロスヴァイセ!」

ジャッ!

ガシッ

ロスヴァイセ「うぅ……うぅ……」

フレイヤ「しっかり、しっかり!」

フレイヤ(ロスヴァイセが完全に床に倒れる前に滑り込んで抱きとめたから、どうにか彼女が自分の尿塗れになることは避けられた)

フレイヤ(しかし……いったいロスヴァイセに何が起こったのか)

フレイヤ(突然の体調不良にしては様子がおかしすぎる、あまりに唐突であまりに不自然)



フレイヤ(何か治療を……ううん、症状が分からないうちに具体的な処置をするのは危険ね)

フレイヤ(とりあえず気力と体力を回復させて容態を見ましょう)

パァァァァァァッ


ロスヴァイセ「ううっ……フレイヤ……様……」 

フレイヤ「ロスヴァイセ!」

フレイヤ(私の手から放っている回復魔術の光のおかげか、段々とロスヴァイセの意識が戻ってきている)


フレイヤ「そうよ、私よ、何があったの?」

ロスヴァイセ「わたくし……スタジアムのにこさんに……ヘイムダムの情報を渡そうとして……」

ロスヴァイセ「そうしたら……急に、そう……急に通信が遮断されて……気付いたら目の前が真っ暗で……」

フレイヤ「真っ暗……?」

ロスヴァイセ「何も、何も分からない……真っ暗、暗闇、こわい……それで……げほっ! げほげほっ!」

フレイヤ「大丈夫よ、落ち着いて、一気に全部話そうとしなくていいから」

トントンッ

ロスヴァイセ「は、はい……」

157 ◆WsBxU38iK2:2020/08/07(金) 01:07:54 ID:t0etyTN2


フレイヤ(今のロスヴァイセの話が本当だとすると……うん、ヘイムダムの情報自体に何かしらの罠が仕掛けられてる可能性があるわね)

フレイヤ(情報を他者に伝えようとした瞬間、遮断され、隔離され、何かしらの精神攻撃を受ける)

フレイヤ(情報自体が危険なものだとすると、メインスタジアムの運営本部で見つけたデータが黒塗りや削除済みのものばかりだったのも頷ける)


フレイヤ(問題は……それが自動発動型なのか、何者かが監視しながら手動で発動させてる術式なのかという所)

フレイヤ(後者だと仮定すると、無論怪しいのはオーディンチームの関係者)

フレイヤ(いったい誰が、どんな方法でこんなこと…………)


フレイヤ「……って、考えたところで仕方ないか」

スタッ

ロスヴァイセ「……?」

フレイヤ「ロスヴァイセ、ちょっとこっちの隅で寝といて」

フレイヤ(抱きかかえたロスヴァイセを少し離れた所に運んで降ろす)

フレイヤ(ついでロスヴァイセの手から通信機らしきアーティファクトを拝借)


ロスヴァイセ「……あっ、それは」

フレイヤ「物は試し、どんな罠かはかかってみれば分かる!」

ピッ


フレイヤ『もっしー? 私フレイヤ! あなたはロスヴァイセの知りあいよね?』

にこ『……え!? ロスヴァイセの声……じゃない、フレイヤって? どうなってるの!?』

フレイヤ『まぁ通じてるならそれで良いわ、今からできる限り伝えるからよーく聞いておいて』

フレイヤ『最初にオーディンチームが出してくる戦士は主力の3柱を抜いた2人のどっちか、個人的にはヘイムダムの可能性が高いと読んでる』

フレイヤ『選ばれるスタジアムは半分くらいの確率で私のラブホ、もう半分で別の3つのどこかって感じ』

フレイヤ『さらにヘイムダムの正体についてなんだけど――――』

ブチッ!!


フレイヤ「……お?」

ゴッ!!!!!!!!!!!!!


フレイヤ(ヘイムダムの情報を漏らそうとした途端、アーティファクトでの通信が遮断された)

フレイヤ(それと同時に視界の端から闇のようなものがブワッと広がり、まるで荒波に飲み込まれたかのように上下左右の感覚が喪失)

フレイヤ(気が付くと四方八方が闇の世界へと変化していた)


フレイヤ「なるほどねぇ……こういう感じか」

フレイヤ(本当に水中にいるみたいに息苦しく、自分の体が重くなって手足が上手く動かせない)


フレイヤ「力を抑え込まれてる感覚、息苦しいのは魔力の出力を制限されている……?」

フレイヤ「感覚を奪われた……というよりは異空間、術者が作り出した領域に放り込まれたって感じかしら」


クンッ クンックンッ

フレイヤ(それにこの空間に満ちる気配……私は心当たりがある)

フレイヤ(この匂い、この気配、この領域の発動者は……>>158)

158名無しさん@転載は禁止:2020/08/07(金) 08:39:35 ID:pCdCV0XE
ヘイムダル

159 ◆WsBxU38iK2:2020/08/08(土) 00:09:51 ID:j1VJluRU
フレイヤ(この領域の発動者は……)

フレイヤ「ヘイムダル! あなたでしょう!」バッ!


フレイヤ「どこに隠れて見てるのか知らないけど出てきなさい!」

フレイヤ「他のやつならともかく、私がこんな領域1つで弱ると思ったら大間違いよ!」

フレイヤ「ヘイムダル! ヘイムダルってば!!」     


フレイヤ「はぁ……はぁ……」

フレイヤ(声を張り上げて叫んでみたけど、私の声は暗闇に吸い込まれ消えていくばかり)

フレイヤ(ここにヘイムダルがいるのは分かってるのに、知覚が制限されてるせいで居場所に当たりが付けられない)

フレイヤ(仕方ない、こうなったら力尽くでも――――)

ググッ


??「おっと、待った待った」

フレイヤ「……!」


??「君という人は変わらないな、無節操で無鉄砲で無軌道、僕の予知の枠に収まらないじゃじゃ馬娘だ」  

??「まぁ……だからこそ君は美しいのだがね」

パッ!


フレイヤ「ヘイムダル……!」

ヘイムダル「やぁ、久しぶりだね……フレイヤ」


フレイヤ(暗闇の牢獄に降り注いだ一筋の光、その下に現れたのはヘイムダル)

フレイヤ(見間違えようもない、あの日の……死ぬ前と同じヘイムダル本人の姿なんだから)

 
フレイヤ「ヘイムダル! やっぱりあなただったのね!」
 
フレイヤ「待ちなさい! 今……そっちにぃぃ……ぐぬぅぅぅううう」

フレイヤ(私は振り上げていた拳を降ろし、鉛のように重くなった体を動かしてヘイムダルの方へ歩いていく)

グッ ググッ


ヘイムダル「フレイヤ、無理はしないほうがいい」  

ヘイムダル「君に耐性があるとは言え、僕の領域の効果からは逃げられない」

ヘイムダル「聡明な君なら気付いているだろう? 自分の五感から伝わる感覚が段々と鈍くなっていることに」

ヘイムダル「今は神族の抵抗力と体内の魔力で進行を抑えてるようだが、無理して動き続ければやがて尽きてしまう」


ヘイムダル「感覚が喪失すれば残るのは心だけ」

ヘイムダル「残った心は知覚できない闇に恐怖し、精神を蝕んで壊れていく」


ヘイムダル「なぁフレイヤ、君が壊れる所は見たくないんだ、そこで止まってくれないか」


ググッ

フレイヤ「うるっ……さい! 止まるわけないでしょ!!」ガッ!

フレイヤ「アンタには聞きたいことが山ほどあるの! 全部答えるまで私は止まらないわよ!」

160 ◆WsBxU38iK2:2020/08/08(土) 00:10:47 ID:j1VJluRU


ヘイムダル「はぁ……仕方ないな、僕に応えられることなら応えるよ」

ヘイムダル「でも満足したら諦めてくれ、君はもうこの件に関わるべきじゃない」

フレイヤ「……っ! そういうこと言うわけ……諦めるかどうかは答えを聞いてから考えるわ」

ググッ 

タンッ

フレイヤ「まず1つ、アンタは本当に死んだのよね?」


ヘイムダル「ああ、僕はあの日ブリーシンガメンを取り返そうとしてロキに挑んで負けた」

ヘイムダル「そこで僕が死に体が朽ち果てたのは紛れもない事実だ」

ヘイムダル「僕の油断と慢心が生んだ死、君が気に病むことはないよ」


フレイヤ「……へぇ〜、だったら今ここにいるあなたは何者?」

フレイヤ「仮に生き返ってたとしたら、どうしてダル子に会いに行ってあげなかったのよ」

タンッ

フレイヤ「どうして1人でこんな暗い空間に閉じ籠もってるのよ」

タンッ

フレイヤ「どうして、どうして……あんな“ヘイムダムなんて紛い物”を隠蔽する手伝いなんかしてるの!!」

ダンッ!!



フレイヤ「はぁ……はぁ……」ググッ


フレイヤ(オーディンの玉座の間で見つけた極秘資料、それから察するにヘイムダムはヘイムダルとは似て非なる存在)

フレイヤ(ラグナロク決戦に勝つために作り上げられた、ヘイムダルの名を騙る紛い物)

フレイヤ(そんな彼の尊厳を汚すような行為を私は許せなかった……証拠を元にオーディンを問い詰めてやろうと思っていた)


フレイヤ(その矢先に知った、本物のヘイムダルが隠蔽に関わってる事実)

フレイヤ(彼はこの件にはもう関わるなと私に向かって言い放った)

フレイヤ(なんで……なんでそんなこと……!)



ヘイムダル「……分かった、1つ1つ応えていこう」

ヘイムダル「まず今君の目の前にいる僕についてだが、僕は>>161

161名無しさん@転載は禁止:2020/08/08(土) 23:54:42 ID:mBr0wMHg
エインヘリヤル

162 ◆WsBxU38iK2:2020/08/09(日) 00:55:12 ID:LfWpm0hI
ヘイムダル「僕はエインヘリヤルだ」

フレイヤ「……は?」


ヘイムダル「まぁ、そういう顔をするだろうね、そこは僕の予想通りで少し安心したよ」

ヘイムダル「これを言っても戸惑いや驚きの表情を見せなかったらどうしようかと」


フレイヤ「待って、冷静に何を言ってるかが分からない」

フレイヤ「エインヘリヤルは死した人間の戦士の魂がヴァルハラに招かれ神の戦士となった存在」

フレイヤ「神であった貴女がエインヘリヤルなるはずなんて……」


ヘイムダル「……あり得ない、うん、僕もそれが一般的な考えだと思うよ」

フレイヤ「だったら――――」

ヘイムダル「僕はね、死ぬ寸前に人の身に“堕とされた”のさ」

フレイヤ「……!」


ヘイムダル「ロキとの最後の決戦、僕は万全の状態で挑んでいた、僕の計算によれば僕が負けることはあり得なかった」

ヘイムダル「持てる戦術の差、戦場の環境、敵の心理状態、ノルンの予言、あらゆるものが僕の勝利を示唆していた」

ヘイムダル「だが僕は負けた、あまりに予想外の方法で……いや、予想出来なかったことが慢心、僕の敗因なのだろう」


フレイヤ「その予想外の方法と言うのが……」

ヘイムダル「……そう、神の存在を書き換え人の身に堕とす術だ」

ヘイムダル「決着が付くかと思われた瞬間、ロキの術により人へとなった私は敢え無く敗北した」

ヘイムダル「そして人として死んだことで、エインヘリヤルへと生まれ変わったんだ」


フレイヤ「まさか……そんなことが……」

ヘイムダル「うんうん、僕もそういう反応だったから気持ちはよく分かる」

ヘイムダル「僕の知ってるロキはあんな術を使うことはできなかった、おそらくオーディンにさえ不可能な所業だろう」

ヘイムダル「神という概念を書き換えるのは運命を改竄するに等しい行為」

ヘイムダル「ということは、既にあの時のロキは僕の知るロキでは無かったということだ」


ヘイムダル「なんでも僕が死んだ後、ロキはミミルの泉からギャラルホルンまで奪ったそうじゃないか」

ヘイムダル「今のあいつは単なる悪戯の神……なんて枠に収まる存在ではない、もっとおぞましい何かだ」

フレイヤ「…………」ゴクッ

163 ◆WsBxU38iK2:2020/08/09(日) 00:55:39 ID:LfWpm0hI


ヘイムダル「……ま、ここまでが今の僕という存在についての話」

ヘイムダル「以前ほど万能ではないけど劣化版の能力は使えるし、エインヘリヤルだから怪我や病気には苦労していない、至って健康体さ」
 
ヘイムダル「不便な面を言うなら……うむ、やはり自由に外を出歩けないことかな」 


フレイヤ「それはオーディンの命令?」

ヘイムダル「オーディンと、他数名のね」

ヘイムダル「君も聞いて分かったと思うけど、僕の死と再生はかなり特殊な事案でね」

ヘイムダル「この話が広まるとアースガルズに混乱を招きかねない、だから秘匿された存在となったんだ」


ヘイムダル「これについては僕も了承してること、もちろん君やダル子には悪いと思ってる……すまないね」

フレイヤ「ふんっ……謝るならダル子に直接謝りなさいよ」

ヘイムダル「ははは……面目ない」




フレイヤ「……で? アンタがエインヘリヤルだってことは分かった」

フレイヤ「次はアンタがオーディンたちに協力してる理由を話してもらおうじゃない」


ヘイムダル「協力……か、そうだね、君が紛い物と呼ぶヘイムダムのことについてか」

ヘイムダル「アレについての僕のスタンスを言うのであれば、>>164

164名無しさん@転載は禁止:2020/08/09(日) 11:08:45 ID:RalxpXws
分離のでよくわからない

165 ◆WsBxU38iK2:2020/08/10(月) 00:11:30 ID:ywwKnrCg
ヘイムダル「中立、傍観、そう言った言葉が相応しいだろう」

ヘイムダル「正直なところ、僕はアレに対して良いとも悪いとも思っていない」

フレイヤ「なっ……」


ヘイムダル「アレについて知ってることも“僕から分離した何か”が使われていることくらいだし」

ヘイムダル「分離されて残された側、つまり本体の僕にはよく分からないんだ」

フレイヤ「じゃあ、オーディンに協力してるのは……」

ヘイムダル「単に彼の頼みだからだよ、それ以外に特別な理由はないだろう」

フレイヤ「……っ!」


ヘイムダル「ああ、僕も心がないわけではない」

ヘイムダル「死したまま存在を隠蔽され、オーディンに都合よく使われている、僕が君の立場なら間違いなく不快に思うだろう」

フレイヤ「だったら……」

ヘイムダル「でもねフレイヤ、僕たちは戦争に勝たなくちゃいけないんだ」


ヘイムダル「僕は神から人の身に堕ちたけど己の使命を忘れたわけじゃない、ヘイムダルはアースガルズを守護する存在なんだ」

ヘイムダル「世界を終焉に導く存在と戦うためにこの身を犠牲にする、そこに何の疑問があるんだい?」

フレイヤ「…………っ」ググッ 



フレイヤ(……そうか、ヘイムダルは何も変わってはいない)

フレイヤ(昔からドが付くほどの真面目で、規律を守り、仕事に励んでいた)

フレイヤ(私やロキが好き勝手遊び歩いてたのに比べて、ヘイムダルはずっとアースガルズのことを考えていた)

フレイヤ(その姿勢は死した今も変わっていない……神の力を失ってもまだ、ヘイムダルは職務に殉じ続けている)


フレイヤ「でも……それじゃヘイムダルは……!」

ググッ ググッ


ヘイムダル「……はは、君やロキのそういう我を通せる所は僕には無い長所だな」

ヘイムダル「けれど……とても僕には真似できそうにないよ」

フレイヤ「ヘイムダル……」


ヘイムダル「フレイヤ、これは友人としての忠告だ、この件からは早めに手を引いた方がいい」

ヘイムダル「オーディンは本気だ、本来隠匿すべき僕という存在を引っ張り出して使用してるのがその証拠」

ヘイムダル「手段など選ばず徹底的に勝利を目指すつもりだ」

ヘイムダル「その勝利を邪魔するものは……例え身内だとしても容赦しないだろう」


ヘイムダル「こうして僕が捕らえて忠告してる段階なら引き返せる」

ヘイムダル「オーディンに本格的に目を付けられる前に手を引くんだ、それが君のためだ!」
  
フレイヤ「…………」


ヘイムダル「分かってくれ、フレイヤ」

ヘイムダル「君まで失ったら、ダル子は…………」グッ

 


フレイヤ「……私は>>166

166名無しさん@転載は禁止:2020/08/10(月) 08:24:00 ID:LWkqjCJc
手を引く(…けど残念ながら遮断される前に通信機に私が戻った瞬間遮断されてから戻るまでの記憶を送信する術式を仕込んであるのよね)

167 ◆WsBxU38iK2:2020/08/11(火) 00:13:22 ID:PsdPBHHE
フレイヤ「……私は」グッ
 
 

フレイヤ「……分かった、手を引くわ」

ヘイムダル「おおっ、理解してくれたか!」


ザッ

フレイヤ(私は半ばもがくようにヘイムダルに向って歩み進めていた足を止める)

フレイヤ(そして俯いたままヘイムダルの言葉に頷いた)
  

ヘイムダル「そうか……また君は辛い想いをさせてしまうな」

ヘイムダル「だがこれもアースガルズのため、いつかダル子も分かってくれる時がくるさ」

フレイヤ「……ええ、そうね」


ギリッ

フレイヤ(頷きながら、私は奥歯を噛みしめる)


フレイヤ(決してヘイムダルの言葉に納得したわけじゃない、ホントなら今すぐこの領域ごとヘイムダルをぶん殴ってダル子の前に引きずっていきたいくらい)

フレイヤ(だけど……私がここで我を通した所でヘイムダルもダル子も幸せにはならない)
 
フレイヤ(2人がこれ以上悲しみを背負うのを私は見ていられない……)



ヘイムダル「本来の処置ならこの領域での記憶は消失させる手筈なのだが、どうやら君には効かなそうだ」

ヘイムダル「口約束ですまないがどうか私やこの領域のことは口外しないでくれ……お願いだ」

フレイヤ「ええ」コクンッ



ヘイムダル「そしてダル子のこと、重ねて頼む」

ヘイムダル「どうかあの子のことを変わらず見守ってやってくれ」

ヘイムダル「こんな……こんな不甲斐ない父の代わりに……どうか――――」


スゥーー

フレイヤ(懇願するようなヘイムダルの声が段々と弱々しく、遠くなって消えていく)

フレイヤ(それと同時に周囲を覆っていた闇の領域は収縮して行き――――)


シュンッ!

フレイヤ「……!」

フレイヤ(気が付けば私は、元のヴァルハラの大広間に立っていた)

168 ◆WsBxU38iK2:2020/08/11(火) 00:13:36 ID:PsdPBHHE
フレイヤ(近くの壁際には先程と変わらずロスヴァイセが横になっていて、私の手には通信用のアーティファクトが握られている)


フレイヤ「状況的には領域に捕まる直前とほぼ同じ……向こうにいた分の時間はこっちでは流れてはいないみたいね」

フレイヤ「ロスヴァイセ、具合はどう?」

ロスヴァイセ「……あぁ、だいじょう……うっ! ううぅ……すみません、もう少し……」

フレイヤ「構わないわ、ゆっくり休んでいなさい」


フレイヤ(相変わらずロスヴァイセの焦点は合わず、息は荒く、体は小刻みに震えている)

フレイヤ(体の感覚を奪い魂に闇の恐怖を刻み込むヘイムダルの術式の影響だ)

フレイヤ(確かにこうなってしまえば、自発的に秘密を探り続けようという気は起こさないだろう)


フレイヤ(オーディンに目を付けられ反逆者となる前に警告するヘイムダルなりの優しさ)
 
フレイヤ(全く……そういう不器用すぎる真面目な所は昔と変わってないのね、ヘイムダル)

 
スタッ

フレイヤ(……だけどね、私のワガママで自分勝手な所も昔と変わってないのよ?)

ピロロンッ

ロスヴァイセ「フレイヤ……様? 今……通信機が……何か反応を……」

フレイヤ「しーっ」

 
フレイヤ(実は予め、この通信機には“とある術式”を仕込んでいた) 

フレイヤ(それは記憶を転送する術式、転送範囲は私が領域に囚われてから戻るまで、転送のタイミングは私が戻ってきた瞬間)

フレイヤ(つまり、ヘイムダルが話してくれた秘密は、この通信機を通してロスヴァイセの協力者に渡ったということになるわけ)

 

フレイヤ(ごめんヘイムダル、だけど私は諦めきれない、あなたもダル子も本当の意味で助けたいのよ)

フレイヤ(だから託すの、今この決戦でオーディンを負かすことのできる可能性のある子たちに)

グッ

フレイヤ(あなたを救うには、このくだらない運命の連鎖をさっさと終わらせる以外に道はない……!)



フレイヤ「頼んだわよ、穂乃果チーム……!」



─────────────────

メインスタジアム・観客席
ヴァルハラ・大広間

PM2:15��2:30 反逆の焔編『7』了

169 ◆WsBxU38iK2:2020/08/11(火) 00:14:34 ID:PsdPBHHE
というわけでここまで

新終末編・焔『8』へ続く
かもしれない

170 ◆WsBxU38iK2:2020/08/12(水) 00:19:51 ID:bCAVUtHA
反逆の焔編『8』

─────────────────
──メインスタジアム・穂乃果チームベンチ

PM2:40


希「…………ちゃん?」


希「……こちゃんっ!」


希「なぁ、にこちゃんってば!」

にこ「……はっ!」


希「もう〜、やっと気付いてくれた、さっきから様子変じゃない? 大丈夫?」

にこ「……え、ええ、平気よ、心配かけてごめん」

希「大丈夫ならいいんやけど、開会式の最後辺りから上の空が多いし、何かあったら相談してな」

にこ「うん、ありがと」



にこ(……いけないいけない、フレイヤから受け取った情報を整理するのに必死で希たちの話を聞いてなかったみたい)

にこ(もう一度今の状況を振り返ってみましょう)


にこ(ここはメインスタジアム、円形闘技場がある中心部から少し離れた所にある穂乃果チームのベンチ)

にこ(こっちのベンチは青ゲートの近くにあり、相手のベンチは円形闘技場を挟んで反対の赤ゲートの近くにある)

にこ(日差しを遮るように作られたベンチには出場戦場分の長椅子や武器や装備を置いておくための棚が設置済み)  

にこ(他には水分補給用の大きなタンクや応急手当用の救急セットなんかが置いてあった)

にこ(オーディンチームのベンチがどうなってるかは知らないけど、うちのベンチはこんな感じ)

にこ(ベンチ内にも小型モニターが置いてあって、これと闘技場上空に浮かぶ複数枚の巨大モニターを合わせて出場戦士をモニタリングするんだろう)


にこ(そして今は……)


にこ「何の話してたっけ?」

海未「しっかりしてください、初戦に挑むメンバーをどうするかという話だったでしょう」

にこ「あーそうだったわね、ごめんごめん」


にこ(ベンチ内にいるチームメンバー5人、穂乃果、ことり、海未、希、そして私)

にこ(この5人の中から第1回戦目に挑むメンバーを話し合いで決めなくてはならない)

にこ(そこで私の脳裏に浮かぶのはフレイヤが渡してくれたオーディンチームの情報……)

カチッ カチッ

にこ(あれから何度ボタンを押しても通信機が繋がる様子はない、おそらく通信がヘイムダルの罠に引っかかるリスクを考えて敢えて切ってるんだろう)

にこ(意図はなくともヘイムダムの秘密を伝えてると認定された時点で領域に引きずり込まれてしまう)


にこ(情報と同時に伝えられた領域内でのフレイヤとヘイムダムのやり取り、あれが真実ならフレイヤの気持ちを無碍にはできない) 

にこ(なるべく……なるべく慎重に行動していかないと……)

171 ◆WsBxU38iK2:2020/08/12(水) 00:20:12 ID:bCAVUtHA


海未「にこ、にこは相手の出方をどう考えます?」

にこ「……そうねぇ」

にこ(あくまで考察した風を装って、私たちが自然と知り得る情報で辿り着ける答えを提案する)


にこ「たぶん北欧神話で主要とされる3柱、オーディン、フレイ、トールは温存してくると思う」

海未「そうですね、初戦で出てくる面子ではないでしょう」

海未「特にこの3名はラグナロクにおいて負ける相手が記述されている、つまりは弱点の知られている神です」

希「確か……オーディンがフェンリルに、フレイがスルトに、トールがヨルムンガンドと相討ちだっけ?」

海未「はい」コクンッ


海未「うちにはスルトと融合した穂乃果、フェンリルの属性を持つことり、この2名がいますから、相手は余計に慎重になると考えられます」

希「ふむふむ」

にこ「……となると、初戦の可能性があるのはヴァーリかヘイムダムね」


ことり「うーん……どっちも未知数な相手だなぁ」

海未「ヴァーリは記述が少なく、ヘイムダムにとっては存在自体が謎」

心ノ穂乃果「本当にダル子ちゃんのお父さん本人なのかも分からないよね」


にこ「…………」

にこ(どうにか自然と候補を2人に絞れたわね)

にこ(フレイヤの読みによればヘイムダムが初手の可能性が高いけど、根拠がないのにここでゴリ押しするのは変か……)

にこ(うん、ここは流れに任せてみましょう)


海未「どっちみち未知数な戦士が相手となるなら、こちらも相性の関係ないメンバーを出すのが得策でしょうか」  

希「せやなぁ、穂乃果ちゃんやことりちゃんはなるべく相性の良い相手にぶつけたいし……」

希「そうだ、にこちゃんは対トール用の修行をしてたんよな」

にこ「ええ」コクンッ


希「ってことは必然的に……うちか海未ちゃんが初手か?」

海未「そうなりますね」

希「うちは何番手でもええで、皆の助けになるなら一発目ド派手にかまして相手の実力測ってくるわ」

海未「私も構いません、どんな相手が来ても対応できるような修行はしてきたつもりです」


ことり「どうする? 穂乃果ちゃん」

心ノ穂乃果「……そうだね、初戦は>>172

172名無しさん@転載は禁止:2020/08/12(水) 09:35:01 ID:DoxiZK7g
希ちゃん

173 ◆WsBxU38iK2:2020/08/13(木) 00:23:56 ID:Bn31a/rE
心ノ穂乃果「初戦は希ちゃんにお願いしようかな」

心ノ穂乃果「どう? 大丈夫?」

希「うん、任せて! 大船に乗ったつもりで安心して見ててな!」


海未「分かりました、では装備や物資の準備に移りましょう」

希「装備?」

海未「希の実力は信じていますが、ヘイムダムが未知数な相手なのは事実」

海未「不足の事態に対応できるよう、なるべくお助けアイテムは多めに持ち込むべきです」
 
タタッ

にこ(海未はそう言うとベンチの奥の棚まで歩いて行って、そこに並べておいた荷物を漁り始める)
    

ことり「確か持ち込める物品の種類に関して制限はないんだっけ?」

にこ「ええ、事前に配られた決戦概要の紙、そこに載ってる持ち込み品の例を見るに、武器や防具、医療道具や食料、サバイバルキットまで生身以外のあらゆるものが許可されてるわ」

にこ「ただし転移されるには転移時に本人が所持してると判断されなきゃいけないみたい」

ことり「所持……? 手に持ってるとか?」

にこ「そうね、直接手に持つ、体のどこかに巻く、服のポケットに入れる、袋などに入れて背負う、この辺りなら大丈夫」

にこ「要は自分では動かせないほど巨大な砲台を横に置いておいて一緒に転移! みたいなことを禁止するための制限だと思うわ」

ことり「ふむふむ」


希「それにしても、単なる1対1の決闘とは思えないほど持ち込み品がバラエティに富んどるな」

海未「1戦ごとに飛ばされるスタジアムが変わるからでしょうね、どんなフィールドになるか見当も付きませんし……」ガサゴソ
 
海未「……あっ、にこ! そこの取ってもらって良いですか?」

にこ「おっけー、これね、私も手伝うわ」

海未「ありがとうございます」


心ノ穂乃果「じゃあ私とことりちゃんで海未ちゃんが選んだものをリュックに詰めていくよ」  

ことり「そうだね、背負う形なら戦闘中も両手が使えて楽だろうし」

  
心ノ穂乃果「とりあえず戦闘が長引いた時の簡易食料や水、あと医療品なんかも基本だよね」

心ノ穂乃果「武器は……何か使う?」

希「うちは使わんからいいよ、防具もことりちゃんが作ってくれたこのアイドル衣装の機能で事足りるし」

心ノ穂乃果「ってことは後は……」


海未「神鎮めの水、これは持っていってください」スッ

にこ(海未が机の上に置いたのは液体の入った円柱状の容器、大きさは大体2リットルのペットボトルくらいだ)

にこ(メタリックな外装の一部が透明な素材になっていて、中の液体が揺れる様子が見て取れる)


希「おおっ、確かにこれは重要やな」

海未「神鎮めはムスペルヘイム戦を経て私たちが手に入れた数少ないアドバンテージの1つです」

海未「おそらくオーディンたちも存在は認知してるはず、真正面から使用しても効果は薄いでしょうが……ここぞと言う時に使えは事態は有利に運ぶはずです」  


海未「ロトーチカさんが捕まる危険を承知で倉庫まで移動し、ポータルを通じて渡してくれた神鎮めのボトル」

海未「そのうちの1本、大事に使ってください」

希「うんっ」


にこ「よし、大体必要なのはこんなところかしら……希、他に持っていきたいものはある?」  

希「……せやなぁ、あると助かるのは>>174

174名無しさん@転載は禁止:2020/08/16(日) 22:19:04 ID:iNjsyyFs
砂鉄

175 ◆WsBxU38iK2:2020/08/17(月) 00:09:50 ID:EBwiWWPw
希「……せやなぁ、あると助かるのは砂鉄やろうか」

にこ「砂鉄……ああ、そういや円卓での修行の時も砂鉄を使った練習してたわね」

にこ「大丈夫、ちゃんと余った砂鉄を瓶に詰めて持ってきていたはずだから――――」

ガサゴソ ガサゴソ

にこ「……あった! ほらこれ」

ガトンッ


希「おお、ありがと」

にこ(神鎮めの水のボトルより一回り小さいガラス瓶、その中には砂鉄がぎっしりと詰まっている)

にこ(希は台の上に置かれたその瓶を手にとって確認すると、リュックの中へ詰めていく)


希「うん……こんなところかな、じゃ! 行ってくるわ!」ビシッ

海未「ご武運を」

ことり「応援してるよ〜!」

心ノ穂乃果「ファイトファイト!」    

希「うんっ」


にこ「希……気をつけてね、無事で帰って来なさいよ」

希「もー、そんな不安な顔しなくても平気やって」

希「うちは勝つから! 応援よろしくな〜!」フリフリ

タタタタッ


にこ(リュックを片方の肩に担いだ希は、笑顔で手を振りながらベンチから飛び出して行った)

にこ(ラグナロク決戦の初戦、何が起こるか見当も付かない決闘に臨むのに不安がないわけがない)

にこ(それは見守る私たちより実際に戦う希の方がもっともっと大きいはず)

にこ(なのに希は弱気な事は一言も口に出さずにベンチを出た)


にこ(ほんと……希はそういう所に気を使うわよね)

にこ(希のためにもヘイムダムの情報を教えてあげたかったけど、正直フレイヤの記憶だけでは不鮮明な所が多い)

にこ(決戦前までに正確な情報が手に入ってない以上、余計なことを言って混乱させない方がいいでしょう)


にこ(ここは希を信じて見守るしかない……頑張れ、希……!)

176 ◆WsBxU38iK2:2020/08/17(月) 00:10:10 ID:EBwiWWPw


タッ タッ

ザッ


希「よっと」タンッ

ヘイムダム「…………」スタッ


にこ(希が円形闘技場の上に乗ると、反対側の端にヘイムダムも軽やかに着地する)

にこ(相変わらず長いローブに見を包んでいて、隙間から顔や体が見えることはない)


にこ(円形闘技場の中央に立つダル子は2人の到着を確認すると、マイクを使って進行を始める)


ダル子『さぁ! ついにラグナロク決戦の初戦! 第一回戦が開始されます!』 

ダル子『両チームから選定された最初の戦士も闘技場の上に揃いました!』
 

ダル子『まずは穂乃果チームより放たれた挑戦者、東條希!』バッ!

希「よろしくー!」

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


ダル子『それを迎え撃つはオーディンチームのヘイムダム!』

ヘイムダム「…………」スッ

ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!


ダル子『ではここから、ルール説明にもあった通り、両戦士の決闘の舞台となるスタジアムを決定します』

ダル子『皆様! 頭上のモニターにご注目ください!』

パッ!


にこ(ラグナロク決戦のためにヴィーグリーズに用意されたスタジアムは、今いるメインスタジアムを含めて全部で5つ)

にこ(1番盛り上がる大将戦にメインスタジアムを使うだろうと考えると……ここで選ばれるのは残り4つのうち1つ)

にこ(候補にはフレイヤのラブホスタジアムも入ってるみたいだけど、それ以外の3つはまるで情報がない)


ダル子『ルーレット、スタート!』

ドゥルルルルルルルルルルルルルルル!!


にこ(スタジアム上空の巨大モニターに別のスタジアムの外観らしき写真が表示され、それが高速で次々切り替わっていく)

にこ(やがてルーレットの速度はBGMと共に次第に緩やかになって行き――――)

ピッ ピッ ピッ


バンッ!

にこ(ファンファーレと共に1つのスタジアムがモニターに表示される)


ダル子『出ました! 第一回戦目のステージは「>>177スタジアム」です!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

177名無しさん@転載は禁止:2020/08/17(月) 00:18:22 ID:Xn6zUFPw
宇宙

178 ◆WsBxU38iK2:2020/08/18(火) 00:39:11 ID:fbBkwqik
ダル子『宇宙スタジアムです!』

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


にこ「宇宙スタジアム……?」

海未「またスケールの大きな名前ですね、いったいどんなスタジアムなのでしょうか」


ダル子『ヴィーグリーズの野の最西端、アースガルズにおいて世界樹より最も離れたその地に広がるはグラビティゼロと呼ばれる空間』

ダル子『一年を通して世界樹の加護が届かぬその空間は、大気や土地に染み込む魔力濃度の薄い枯れ果てた地となっています』

ダル子『故にグラビティゼロは私たちの生きる9つの世界が織りなす宇宙とは別の法則が成り立つ“外宇宙”とでも呼ぶべき秘境』

ダル子『時空が歪み、光がねじ曲がる、世界の中にありつつも世界の常識の通じない、そんな空間に私たちラグナロク運営はスタジアムを建設しました』

ダル子『それこそが第一回戦のフィールド、宇宙スタジアムなのです!!』

バッ!

 
にこ(ダル子が手を挙げると同時に巨大モニターに宇宙スタジアムの外観が表示される)  

にこ(背景に広がる一面の黒い空間は正しく私たちの想像する宇宙そのもの)

にこ(画面に中央には、その黒い空間に浮かぶ銀色の建造物が映し出されていた)


心ノ穂乃果「あれが希ちゃんの戦うスタジアムかな」

海未「はい、あの円と十字の組み合わさった形をしたものがスタジアムで間違いないでしょう」

海未「周囲に比較するものがないため大きさは分かりませんが、外観を見るに宇宙ステーションのような印象を受けます」

心ノ穂乃果「確かに、映画とかでよく見る地球の上に浮いてる建物っぽいかも」


ことり「でも良かったー、宇宙と言ってもいきなり宇宙に放り出されるわけじゃないんだね」

ことり「希ちゃんがサイヤ人化できるとは言え、宇宙空間にポーンだったら厳しすぎるよ」

にこ「そうね、でも油断できないのは同じ」


ダル子『では転送フェーズに入ります!』 

ダル子『両戦士はその場から動かずに! 観客の皆さんは一緒にカウントダウンをお願いします!』


キュィィィィィィンッ!

ダル子『転送開始までーーーー10!』

観客『10!』


にこ(希とヘイムダムの足元に魔法陣が広がり、そこから青い光がほとばしる)

にこ(カウントダウンに合わせ魔法陣は一定の角度ずつ回転し、回転するたびに光は大きくなっていく)

ダル子・観客『9! 8! 7!』

にこ(このまま光が大きくなり続けると、最後には2人の体を全て包むだろう)


にこ「希……」

にこ(じっと動かず時を待つ希)

にこ(あと5秒もすれば希は頭上のモニターに映る宇宙スタジアムへ転送される)


にこ(さっき見た時、あの宇宙ステーション風スタジアムの一画に>>179らしきものが見えた気がする)

にこ(転送先がスタジアムの何処になるかは不明だけど、もしあそこの近くに出れば有利になるかもしれない……!)

179名無しさん@転載は禁止:2020/08/18(火) 07:14:18 ID:Bq5xzQiY
主砲

180 ◆WsBxU38iK2:2020/08/19(水) 00:18:02 ID:8NLHoQhM
にこ(希はあの主砲に気付いてるのか気付いてないのか、どちらにせよ今からこっこり伝えてる時間はない)

にこ(転送されたらされたで念話を始めとした一切の通信が遮断されるから助言をするのは無理)
 
にこ「……っ!」


にこ「希! 気合入れなさいよ!」

ことり「がんばってー!」

海未「勝利を祈っています!」

心ノ穂乃果「ベンチから精一杯応援するからねー!」


にこ(今できるのはこうして声援で後押しすることくらい)

にこ(ここから先の命運は希自身にかかっている)


ダル子・観客『3! 2! 1!』


ダル子『転送!』

バシュンッ!!!!


にこ「……!」

にこ(足元に展開された魔法陣の光が完全に2人を包み込んだかと思うと、光は大きな柱となって天高く伸びた)

ドドドドドドドドドドッ!

にこ(下から上へと流れる光は肉眼で目視できる限界を超えてどこまでも立ち昇っていく)

にこ(そして10秒ほどで光の柱が消えると、元の場所に2人の姿はなくなっていた)

スゥーーーッ シュパッ!


ダル子『転送完了! 皆様巨大モニターにご注目ください!』

バッ!

にこ(スタジアムの中央上空、客席のどこからでも見えるように複数設置されたモニターにマップらしきものが表示される)

ダル子『表示されたのは宇宙スタジアムの全体マップ』

ダル子『こちらのマップ上の青い点が東條希、赤い点がヘイムダムの位置を表しています』


にこ(2人の初期位置は宇宙スタジアムの外周に位置するリングの中、希が左端、ヘイムダムが右端に転送されている)

にこ(位置的には真反対だからいきなり戦闘になることはなさそうだけど……主砲からはどちらも同じくらい遠いわね)


ダル子『宇宙スタジアムは主に2つの円環と2本の線で構成されています』

ダル子『戦士たちが転送された宇宙スタジアムの外周をグルっと回るアウターリング、その内側に配置されたインナーリング』

ダル子『これら二重の円環を貫くようにして十字の形に2本の直線が交わっておりリング間を移動するにはこの通路を通る必要があります』


ダル子『しかーし! たかが通路と侮ってはいけません!』

ダル子『直線部分にも特殊な施設が多数存在し、一筋縄で通り抜けることはできません!』


ダル子『独自の物理法則と謎のテクノロジーが待ち受ける銀色の檻、宇宙スタジアム!』

ダル子『このフィールドを制し決戦に勝利するのは果たしてどちらなのか!』


ダル子『ラグナロク決戦、第一回戦、東條希vsヘイムダム――――』


バッ!

ダル子『決戦開始!!!!』


ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



─────────────────

メインスタジアム

PM2:40〜2:50 反逆の焔編『8』了

181 ◆WsBxU38iK2:2020/08/19(水) 00:18:47 ID:8NLHoQhM
というわけでここまで

ついに次から一回戦の開始  

反逆の焔編『9』に続く
かもしれない

182 ◆WsBxU38iK2:2020/08/20(木) 00:07:21 ID:ciiqbBRk
反逆の焔編『9』

─────────────────
──宇宙スタジアム・アウターリング

PM2:50


シュンッ!

希「……っと」

スタッ

希(うちを包んでいた光の柱が消えると、うちを取り囲む景色は別のものへと変化していた)


希(暖かな日の差し込むメインスタジアムとは違い、無機質な人工の光を放つ電灯が等間隔で並ぶ天井)  
 
希(冷房の効いたヒンヤリとした空気に、さっきまで熱気の只中にいた身体が戸惑いを覚える)

希(足元も荒い石造りの闘技場から滑らかで均一的な床へと変わり、響く足音は通路の奥まで響いていく)

カンッ  
   カーーーーー��ンッ  カ��ーーーンッ  カーーンッ


希(そう……通路、通路や)

希(恐らくここは宇宙スタジアム通路のどこかに違いない)

希(通路の広さは縦横が5メートルを余裕で超えててかなり広い)

希(そんで通路がどこまで続いてるかと言うと……)


希「……ん?」

希(目を凝らして見た通路の先は緩やかにカーブを描いていて曲がり角らしきものが見えない)

希(ということは……や、ここは直線の通路じゃなくて円形の通路のどちらかってこと)

希(そしてそれを確かめる方法は――)

タタッ


希「窓を見れば一発や!」

希(うちは円を描く通路の外側の壁に取り付けられた窓へと駆け出した)

希(窓はカーブする壁に沿って左右に伸びていて、高さは3mほど、幅は左右の通路の奥まで続いてる巨大なもの)

希(その窓に張り付くようにして外の景色を覗くと、そこにあったのはどこまでも続く暗闇と星明かりの世界)

希(うちも知ってる宇宙空間そのものが通路の外には広がっていた)


希「ええと……」

希(うちは転送前に見た宇宙スタジアムのマップを思い出す)

希(朧気な記憶だけど、確か円形の通路は内側と外側に1つずつあったはず)
 
希(ここから外側を覗いても他の宇宙スタジアムの通路が見えない、ということは……今いるのは最も外側の通路、外側の円ということになる)


希「なるほど、大体の位置は把握できた」

希「そしてこれだけ状況把握に時間をかけたり音を出したりしても、ヘイムダムが襲ってくる様子はない」

希「たぶんうちとヘイムダムの初期位置がかなり離れてるか……もしくは向こうに何かの意図があるか」


希「……ま、ともかくスタジアムを探索しながら情報を集めるのが最優先やな」

希「お互いに初見のフィールドや、構造やギミックを把握するアドバンテージはでかいはず」

希「さてさて、近くに何か気になるものは……>>183」  

キョロキョロ

183名無しさん@転載は禁止:2020/08/20(木) 00:16:12 ID:uMesiJio
宇宙服と脱出口

184 ◆WsBxU38iK2:2020/08/21(金) 00:18:21 ID:uWhhv6rQ
希「気になるものは……ん?」ピタッ


希(ゆったりとしたカーブを描いて伸びる通路、その内側の壁には一定間隔で扉が設置されてる)

希(察するにリングの外側がすぐ宇宙空間なのに対し、内側の方には扉を通って入れるスペースが存在するんやろう)

希(つまり、うちがいる通路がリングの横幅を全て占めてるわけではなく、リングはもう何メートルか内に幅があるってことや)

185 ◆WsBxU38iK2:2020/08/21(金) 00:22:45 ID:uWhhv6rQ
希「ふむ……」
  
カツンッ カツンッ


希(通路を歩きながら観察すると、どの扉もドアノブや取っ手などはなく、代わりにカードリーダみたいな装置が扉の横に取り付けられている)

希(十中八九カードキーで認証して開けるタイプの自動ドアで間違いないやろう)

希(このくらいの薄さならうちの能力で壊せそうな気もするけど……何が起こるか分からんし今は保留)

スッ


希「それよりも、うちが1番気になったのはこれや」

タンッ

希(通路を窓に向かって右、時計回りの方向に歩いてったうちは1つの扉の前で足を止めた)

希(それは他の薄っぺらい扉とは違った重厚感のある頑丈な扉、形は円形で大きさは人1人がくぐれる程度)

希(扉自体が床より少し高い場所に取り付けられていて、扉というよりハッチに近い印象を受ける)


希「宇宙ステーションじみた場所でハッチ言うたら……そりゃ外に出るための気密扉、エアロックに決まってるよなぁ」

ガチャッ ガチャガチャッ

希「当然閉まってるか……」

希「しかしどういうことや? スタジアムを使った決戦なのにスタジアムの外に出る扉があるなんて」  

希「それにおあつらえ向きに扉の横に宇宙服の入ったケースまで置いてある」

希「こっちも鍵はかかっとるが叩けば割れそうなガラスやし、どうぞ脱出してくださいと言わんばかりやな」

 
希「えーと……確か決戦のルールだと……」

希(うちは目を閉じて控え室で見ていた決戦についてのルールを思い返す)

希(確か……そうや、スタジアムの範囲はスタジアムの中心から一定の半径内を定義するものだったはず)

希(その範囲に入っているのならば、例え建物の外に出てもエリア外にはカウントされない)

希(加えてこのハッチはリングの内側に向かって備え付けられている、だったら扉の先は中庭のようなものだ)

希(つまり、ここから出たところでルール的には何の問題もないわけで……)


希「……なるほどなぁ、そういうわけか」  

トンッ トンットンッ

希(この宇宙スタジアム、特に気にしてなかったけど通路の中は重力がほぼ地球と一緒やな)

希(こうして軽くその場でジャンプしてみても違和感がない、おそらくスタジアム内のどこかの施設で重力や環境を整えているんだろう)

希(だけど、“スタジアムの外”に出れば話は別……)


希「比較的安全な中を進むのか、宇宙空間の影響を受ける外を進むのか」

希「そのルートの選択から宇宙スタジアムでの戦いは始まっとるわけやな」


希「だとしたら……や、うちの進むルートは>>186

186名無しさん@転載は禁止:2020/08/21(金) 12:48:35 ID:7.ZIHOHA
重力発生装置を止める

187 ◆WsBxU38iK2:2020/08/22(土) 00:24:15 ID:7WryN0kM
希「うちの進むルートは内部、それでいて目的地は重力発生装置!」


希(理由は単純、ヘイムダムの動向が分からない状況で宇宙空間に身を投げ出すのはリスクが高いから)

希(じゃあ何でわざわざ重力発生装置を止めて内部を宇宙空間に近づけるのか……)

希(それは“これ”を見つけたからに他ならない)


希「よっ!」シュンッ!

希(うちは宇宙服の収納されたガラスケースを手刀で切り裂くと、中から宇宙服を取り出して肩に担ぐ)

希(この宇宙服があるのなら宇宙環境下での動作はこっちが有利)

希(ヘイムダムがのんびりしてる間に環境を変化させて隙を突く作戦や!)

タンッ!


希(そうと決まれば話は早い)

希(宇宙服を担いだまま走り出し、通路を時計回りに進んでいく)

トンッ  

  タンッ  

     タタンッ!

希(呼吸、姿勢、足を踏み出す力、接地するタイミング)

希(自分にかかる空気抵抗や消費するエネルギーを調整した無駄のない走り) 

希(肉体を自在に操る方法は円卓の修行の中でも基礎の基礎、まずこれができないと灼熱の空間で生活することさえままならない)

タンッ タタタタタッ

ヒュンッ ヒュンッ!


希「さて、重力発生装置がある可能性が高いのは施設の中央、つまりは十字の交差してる場所が怪しい」

希「そこへ行くには……まず外側のリングから十字の端が繋がってる所まで走らんとな」


希(リングはループする一本道、適当に走っていけば内側に曲がる角が見えてくるはず)

希(十字だったら角は4つ、4分の1周進むごとに見かける計算やからそう遠くはない)

タタタタタッ

希「おっ、予想通り角が見えてきたな」

希「ここを曲がって真っ直ぐ進めば十字の交差点、宇宙スタジアムの中心へ辿り着ける」

キィッ


希(速度を落とさないように直角の角を右に曲がり直線の通路に突入)

希(するとその先には>>188)

188名無しさん@転載は禁止:2020/08/22(土) 09:09:18 ID:c3OzazDA
転送装置A〜Fと書かれた小部屋の扉が並んだ通路

189 ◆WsBxU38iK2:2020/08/23(日) 00:19:49 ID:VQDdXdR.
希(するとその先には予想通りスタジアム中心部まで続くと思われる通路が伸びていた)
  
希(広さや見た目に関しては円形通路と変わった所は見られない)

希(だけど、予想とは違ったことが2つ)

タンッ


希(1つは通路の奥、中心部へ向かう道の途中にシャッターが降りてること)

希(距離的に考えると今走ってる直線通路と内部の円形路が交差する辺りだろうか……)

タタタッ

希(もう1つはこの直線通路の両側面にある小部屋)

希(部屋自体は円形通路にもあったから不思議やないけど、ここの扉の表面には大きくアルファベットが描かれている)

希(種類はAからFまで、逆に言うとそれ以外の部屋が存在しない)


ザッ

希「……で、もうシャッターに辿り着いてしまうわけか」

希(外側の円と直線の交点から内側の円と直線の交点、その間に存在する部屋は全部で6つ)

希(シャッターに近い方から左にACE、右にBDFと交互に振り分けられている)


希「ふむ……転送装置か」

希(試しに近場のAの扉に近寄ってみると扉の横のプレートには転送装置Aと書かれていた)

希(加えて近づいただけで扉が自動的に開き、内部の魔法陣仕掛けの転送装置が見える)

シュンッ!


希「うちが宇宙スタジアムに飛ばされたのと同じような仕組みの転送陣やね」

希「ロックのようなものはかかってなくて既に稼働中、転送先の案内とかは……特に見当たらないな」

希「さすがにスタジアム外にワープさせられるようなことはないだろうから、スタジアム内のどこか、該当する6箇所にワープするんかな」


クルッ

希(とりあえず今は引き返してシャッターの方も調べよう)  

希(こっちは自動で開く気配はない、緊急時に隔離する目的なのかやたら丈夫な作りになってる)
 
ガンッ ゴンッ ゴンッ

希(ちょっと強めに叩いて見ても傷一つすらつかない)

希(ただ音の反響的にシャッターの向こうに通路があるのも事実)

希(中心部に行くにはどうにかシャッターを破壊するか、転送装置を使って回り込むか……どっちもそれなりのリスクはあるよなぁ)


希「さて、どうしたものか――――」







──メインスタジアム・実況席



ダル子『東條希、ここはシャッターの前で足を止め考え込みます』

ダル子『転送装置でワープするという手が確実ですが、詳細なマップを見ながら観戦してる私たちと違い、どの装置がどの場所と連動しているか戦士目線では分かりませんからね』

ダル子『適当に転送したら敵とばったり鉢合わせ! なーんてことがありえるかもしれません!』

ダル子『宇宙服をゲットし、順調に中央部へ歩を進めていた東條希、ここでさらなる選択を迫られます』


ダル子『さてさて、そんな東條希と相対するヘイムダム、そちらの様子も見ていきましょう』

カチッ

ダル子(東條希を映すカメラ、ヘイムダムを映すカメラ、全景を映すカメラ)

ダル子(スタジアム上空の巨大モニターに同時に映してる複数の映像を、今度はヘイムダム視点が1番大きくなるように切り替える)


ダル子『はい出ました!』

ダル子『東條希とはスタジアム中央を挟んで反対側のアウターリングへ転送されたヘイムダム』

ダル子『ヘイムダムも同様に動き出しており、現在は>>190

190名無しさん@転載は禁止:2020/08/23(日) 18:29:41 ID:4ytM8fag
希も同じように外側に飛ばされてると推測して円に沿って移動中

191 ◆WsBxU38iK2:2020/08/24(月) 00:14:46 ID:.P7hNWqY
ダル子『現在は円に沿って移動をしている様子』

ダル子『おそらく東條希が同じ外側の円に飛ばされたと推測し、敵を見つけるべく動いているのでしょう』

ダル子『本来のヘイムダルであればこの程度の距離の索敵など朝飯前のはずですが……』

ダル子『こうして足を使って探しているということは宇宙スタジアムを取り囲む法則の歪んだ空間のせいで能力が阻害されているのか』

ダル子『もしくは敢えて能力を使わない別の意図があるのか』


ダル子『モニター越しでは計り知れませんが、とにかく2人の位置関係を再確認しましょう』

ダル子『皆様、再びモニターのマップにご注目ください』

カチッ パッ!


ダル子『便宜的にマップの上をN方向、下をS方向、右をE方向、左をW方向と定義』

ダル子『さらに十字とアウターリングの交点をそれぞれN1、S1、E1、W1』

ダル子『十字とインナーリングの交点をN2、S2、E2、W2と呼称します』

ピッ ピッ ピッ ピッ

ダル子(私の実況に合わせてマップ上の表示が更新されていく)


ダル子『宇宙スタジアムはアウターリングとインナーリングの二重円、そして二重円に貫通して北から南のN-S方向に伸びる直線と、東から西のE-W方向に伸びる直線で構成されたスタジアムです』

ダル子『東條希の転送地点がアウターリングの南西であるS-W区間、ヘイムダムの転送地点がアウターリングの北東であるN-E区間』

ダル子『東條希は転送地点から時計回りに進み、W方向からE-W直線へ侵入、そのままインナーリングとの交点であるW2の直前まで進んで立ち止まっています』

ダル子『一方のヘイムダムも転送地点から時計回りに歩を進めていて間もなくS1を通過しようという所』


ダル子『互いに違う点は東條希が中心部を目指してるのに対し、ヘイムダムは直線に入らず外周を埋めるように動いてるところでしょうか』

ダル子『実際ヘイムダムは交点E1を通過し、交点S1を只今通過し、交点W1を目指して高速で移動しています』


ダル子『このままだと2人が出会うことはまだ無さそうですが――――』

ピピッ


ダル子『おっと! ここで東條希に動きがあるようです!』

ダル子『W2地点の手前のシャッターと6つの転送部屋に頭を悩ませていた東條希ですが、次の一手が決まったのでしょうか!』

カチッ

ダル子(スイッチを切り替え、モニターに希を大きく映す)

ダル子(そこに映った希は>>192)

192名無しさん@転載は禁止:2020/09/02(水) 00:13:23 ID:YZ9FtfYM
転送装置に入っていた

193 ◆WsBxU38iK2:2020/09/03(木) 00:02:05 ID:ohjWutYU
ダル子(転送装置にその身を預けていた)


ダル子『おおっと! 東條希、どうやら転送装置に入ることを選択した模様!』

ダル子『この選択が吉と出るか凶と出るか、果たして――――』







──宇宙スタジアム・W2前シャッター


希「……っ! しゃーないか!」

タタタッ

希(うちは通路の両サイドに並んだ転送装置の1つ目がけて走り込んでいた)

希(こっちを選んだ消極的な理由は単純にあまり壁を力尽くで壊すのが良くない気がしたから)

希(正規の手順を踏まずに発生させた想定外のトラブルで足止めさせることだけは避けたい)

希(そんで積極的な理由は――――)


ゾクッ!!

希「……!」

希(うちに段々と近付いてるこの強大な気配のせい!)


希「……っ、こうしてる間にも近づいてきてる!」ピッ

ピピピピッ

希(おそらく……というか十中八九ヘイムダムの気配)

希(開会式の時とは比べ物にならないほど闘志を剥き出しにしたヘイムダムがうちを探してるのが肌で感じ取れる)

希(正面はシャッター、だけど今いる通路を戻れば間違いなく外側の円に出るとこでぶつかる)

希(それなら素早く逃げる手段は転送装置しかない)


ピピッ

希「このパネルをこう操作すれば……よし、転送準備は完了や!」


希(転送装置が6個なら転送先は6箇所)

希(うちには転送先が分からんから完全にランダムと同じ)

希(転送した瞬間にヘイムダムと出くわす可能性だってあるし、逆にシャッターの向こう側に飛ぶ可能性だってある)

希(ま、どちらも確率としては6分の1くらいやろうな……)


グッ

希「とにかく転送や! その後のことはその後で考えればいい!」

希「はぁ!」バッ!

ポチッ!


キュィーーンッ!

希(転送開始を押すとうちの体はまた光に包まれて――――)


バシュンッ!!!!


希「おおっ!?」

希(次の瞬間には別の場所に転送されていた)

スタッ


希「ここは……」

希(着地した床の感触、吸いこんだ空気の匂い、同じ宇宙スタジアムの何処かだということはすぐに分かった)

希(問題のその場所、近くにヘイムダムがいないか、重力発生装置がある部屋らしきものはないか、素早く辺りを見回す)

バッ! バッ!

希(そこには>>194)

194名無しさん@転載は禁止:2020/09/04(金) 15:33:33 ID:IcAXvJfg
宇宙食の倉庫

195 ◆WsBxU38iK2:2020/09/05(土) 00:25:03 ID:Wf0eBows
希(そこには宇宙食の倉庫があった) 


希「ふぅ……とりあえずヘイムダムとばったり鉢合わせる展開は避けられたみたいやな」

希「とは言え背後の見覚えのある横長の窓の景色を見るに、飛ばされたのは外周のどこか」

希「中心部に近づいたわけでも無さそうなのが残念なポイントかな」


希「ま、とりあえず倉庫の中でも探ってみようか」

スタスタ


希(うちは開きっぱなしになった倉庫の扉に近づく)

希(この扉が何故か開いていて中が見えたおかげで食料保存用の倉庫だとひと目で分かったけど……なんで空いてたんやろうなぁ)

希(うちが通ってきた通路の部屋の扉は基本的にしまってたし、これだけ宇宙食の箱が積み上げられた倉庫が無防備に開放されてるとも考えにくい)

希「いったいどうして……」



希「……ん?」

ガリッ

希(そんな考えを巡らせながら開ききった扉の縁に手をかけたとこで気づく)

希「この扉……鍵が無理やり破壊されて――――」


ゾクッ!!

希「……っ!!」

希(間違いない、何か熱線のようなもので焼き切られた破壊の跡、ヘイムダムの仕業や)

希(中の宇宙食の箱を見ても、所々に焼き切られた開封された痕跡が見て取れる)

希(ってことはこの場所は既にヘイムダムが探索して通り過ぎた場所)


ピクッ

希「まさか戻ってきたりはしないよ……ねぇ?」


ドドドドドドドドドドドドッ!!

希「するんかいっ!」


希(遠くに感じていた強大な気配が反転、一転してこっちに向かってくる)


希「……っ、どうする!?」


希(このまま迎えつつか、隣の宇宙食倉庫に隠れるか)

希(どっちみち最終的に見つかるのは確定やろうけど……)

グッ

希(ここは>>196)

196名無しさん@転載は禁止:2020/09/05(土) 07:35:47 ID:U7YnQyHI
元の場所に転送されて別の転送装置を使う

197 ◆WsBxU38iK2:2020/09/06(日) 00:18:43 ID:kri4gINo
希(ここは……)


希「そうや! 転送されてここに来たんなら転送で戻ればいいんや!」

希「そしてまた別の転送装置に乗れば逃げ切れる」

希「ワープにワープを重ねて移動すればヘイムダムの裏をかくことだってできる……」


希「……ん?」
 


希「でも、こっち側の転送装置はどこに?」

希(向こう側、転送部屋が6つ並んだ通路では転送装置は小部屋の中に設置されていた)

希(だけど転送された先はただの通路の真ん中、足元に表示されていた魔法陣もすぐに消えてしまった)

希(この宇宙スタジアムに転送された時と同じ一方通行の転送に近い)


希「ま……さすがにそんな都合の良い逃げ方はさせてくれへんか」

グッ

希(ここはラグナロク決戦用に作られたスタジアム、決戦を無駄に長引かせるような仕組みは無いってこと)

希(そして一瞬の思考は、ヘイムダムがうちへ追いつくまでには十分すぎる時間だった)


ゴッ!!!!

希「……っ!」

希(緩やかなカーブのその向こうから快速列車と見間違うほどの速度で突っ込んでくる人影)

希(光とローブを纏ったヘイムダムが宙を滑空しながらこちらに狙いを定める)


希(最早逃げ隠れしてる時間はない)

希「はっ!」ボォォウッ!!

希(脳内で意識的にスイッチを切り替え一気にサイヤ人化)

希(全身にみなぎる気をワシワシの形をした右手に集中させる)

キュィィィィィンッ!


希(そして右手を前に突き出すと同時に手のひらから気のビームを放つ!)

希「ワーシワーシー波ァ!!」

ドッ!!!!


希(一直線に伸びるビームはそこまで広範囲をカバーできるわけではない、あのヘイムダムの機動力なら避けるのは造作も無いだろう) 

希(だけど、ここは宇宙スタジアムの外周通路、限られたスペースではいくら機動力が高くたって関係ない!)


ドンッ!!!!

希「よっし!!」

希(うちの予想通り、高速で突っ込んで来たヘイムダムは回避行動が間に合わずビームに直撃した)

希(直撃地点の前後に壁や床の破片を巻き込んだ爆風と衝撃波が広がる)

希(けれど――――)


ゴッ!!!!

希(それくらいで倒れるヘイムダムではない)

希(広がる爆風を突き抜けて、直撃前と変わらないスピードで突進を続けてくる)


希(ただ、体を覆っていたローブは爆風で吹き飛んでしまったようだ)  

希(あれだけ厳重に隠されていた姿が無機質な通路の灯りに照らされ露わとなっている)


希「あれが……ヘイムダム……!」


希(その姿は>>198)

198名無しさん@転載は禁止:2020/09/08(火) 20:38:50 ID:3L.kpImI
繋ぎ目のない人型実体

199 ◆WsBxU38iK2:2020/09/09(水) 01:48:28 ID:WisrTg52
希(その姿は�壓ぎ目のない人型実体だった) 


希(細い体躯、スラリと伸びる長い手足)

希(その全身は陶器を思わせる滑らかな白い表皮のようなもので覆われていて、本来人にあるべきはずの凹凸が一切存在しない)

希(顔を見ても鼻や口や耳と言った器官が見当たらず、辛うじて目に当たる部分に二筋の切れ目が確認できるだけ)

希(瞼の奥に闇を湛えるその目からは感情が全く読み取れない)


希「なんなんや……あの姿はっ!」


希(あんな全身タイツみたいなバケモンがかつてアースガルズを守護していた光の神?)

希(違う、ダル子ちゃんのお父さんがあんな姿をしてるはすがない……!)


ヘイムダム「……………」

ゴォォォォォォォォォォッ!



希「はっ……だったらうちがその仮面の下を暴いたる!」 

バッ! ボォォウッ!

希(勢いよく開いた左手の掌に焔の紋章が浮き出てその輝きを増していく)

希(焔ノ力を開放したうちは、突進を続けるヘイムダムを再び見据え、目線で照準を合わせる)

スゥーッ


希(狙うはカンウター、交差するタイミングでヘイムダムの一部を削り取る)

希(どうせ逃げ道は無いんや、相手の攻撃を一発貰う覚悟でこっちも一発食らわせたる!)

ググググッ!


希「行くで二の矢! 奇跡掌握――――」


ヘイムダム「…………」ブォンッ!!

希「ワシワシッ!」


ゴッ!!!!!!

ガギンッ!! 




ドゥンッ!!

希「がっ……!?」

200 ◆WsBxU38iK2:2020/09/09(水) 01:48:40 ID:WisrTg52
希(その瞬間、うちの視界は180度回り、天地が逆さまになった)


希(跳ね飛ばされる……ってのは正にこういう事を言うんやろう)

希(うちへ突撃してきたヘイムダムは何か特別な攻撃をしたわけではなかった)

希(両手を後方に伸ばし、体全体を前に傾けた浮遊姿勢を崩さないまま、単純な速度と質量の暴力でうちを跳ね飛ばしたのだった)


希(錐揉み状態で宙を舞う体、口からは血が零れ、引き裂かれそうな痛みに全身が悲鳴を上げている)

希(というかサイヤ人化してなければ間違いなくうちの体は四方八方に飛び散ってお陀仏やろうな……)



キキィッ!!

ヘイムダム「…………」

希(回転し続ける視界の先、うちを跳ね飛ばしたヘイムダムは空中で急ブレーキをかけて止まる)

 
希「せやけどな……こっちも取るもんは取らせてもらったで」



ピキッ  ピキッ  

ヘイムダム「…………?」


ピキッ  ピキキッ 


バキンッ!!

ヘイムダム「……!」


希「はっ! どうや!」


希(奇跡掌握ワシワシは対象との距離や対象の硬度、物質非物質を問わず、狙った獲物を抉り取って手の中に転送するうちの焔ノ力)

希(交差する瞬間、その能力でヘイムダムから奪っていたもの)

希(今うちの握った左手の中にあるものは>>201)

201名無しさん@転載は禁止:2020/09/12(土) 07:33:25 ID:PBTNCO3M
ヘイム玉

202 ◆WsBxU38iK2:2020/09/13(日) 00:33:23 ID:E/V9Q4xY
希(左手の中にあるものはヘイムダムの体内にあったと思われる何かの器官)

希(野球ボールほどの大きさで表面は真珠のように白くて硬い)

希(けれど僅かにその白が赤みがかっていて、内部の脈動に合わせて赤みが濃くなったり薄くなったりを繰り返している)

ドクンッ ドクンッ


希(こいつが何なのか、詳細はうちにも分からんけど、取り敢えずヘイムダムにとって大事なもんってことは見て分かる)

希(その証拠にヘイムダムの陶器のような体表には何本かヒビが走り、その断面からは体表を構成する物質が塵になって床へと落ちていた)

希(きっとこの玉が体内から消失したことでヘイムダムに悪い影響が出とるんやろう)


希(だったら好都合、うちはこの玉を盗んだまま一気にスタジアムの中央部を目指す!)


希「悪いなヘイムダム! うちは行くとこがあるから先に行くで!」

ダンッ!!

ビュンッ! ビュンッ!



ヘイムダム「…………」ピキッ

パララッ






203 ◆WsBxU38iK2:2020/09/13(日) 00:33:42 ID:E/V9Q4xY





──メインスタジアム・オーディンチームベンチ



ダル子『おおーっと! 東條希、ここは逃げて当初の目的通り重力制御室を目指す動き!』

ダル子『ヘイムダムとの衝突でそれなりのダメージは負っているはずですが、それを感じさせない軽やかな身のこなしです』

ダル子『一方のヘイムダムは東條希と衝突した地点に立ったまま、その場から一歩も動いていません』

ダル子『一体どうしたと言うのでしょう、そして……あの姿は……!』

ワァァァァァッ! ワァァァァァッ!



フレイ(実況を務めるダル子の言葉が少しずつ困惑の色に染まっていく)

フレイ(それは実況のみならず、スタジアムで決戦を見守る観客も同様)

フレイ(まぁ……アレを目の当たりにして奇妙に思わない方が珍しい、仕方なのないことです)


フレイ(こちらのチームにも首を傾げて理解に苦しんでる者がいるくらいなのですから)


ヴァーリ「むむ……ねぇフレイ、どうしてヘイムダムはウゴかなくなったの?」

トール「不思議だよなぁ、さっさと追いかけてぶん殴っちまえばいいのに」


フレイ「はぁ……ヴァーリはともかく貴方は分かっていてくださいよトール」

フレイ「アレを製造する決議はオーディンを含めた私たち3柱で行ったのですから」

トール「あー? そうだっけか、覚えてねぇわ」

フレイ「…………」


トール「で? ヘイムダムの野郎はどうしたんだよ」

フレイ「……アレが停止しているのは再演算を行っているからです」

トール「再演算?」

フレイ「ええ、東條希にヘイム玉を奪われたことによる肉体や能力への影響」

フレイ「その影響による今後の戦術の変化などを頭の中で計算しなおしているんです」

トール「ほー」


フレイ「ヘイム玉……のこともいちから説明したほうが良さそうですね」

ヴァーリ「うん!」

フレイ「ヘイムダムの体内は私たち神とも彼女ら人間とも違う、独自の構造になっています」

フレイ「簡単に言うなら……そうですね、神性を付与した絡繰人形のようなもの」

フレイ「体内にはその活動を成立させるための神具宝具が多く埋め込めれており、その中の1つがヘイム玉と呼ばれる機関です」



フレイ「この程度……拳ほどの球体であり、これを失うと肉体に>>204などの影響が現れます」

トール「なっ! マジかよ!」

204名無しさん@転載は禁止:2020/09/13(日) 08:45:45 ID:MUG4fSgQ
形を維持するための力の制御ができなくなる

205 ◆WsBxU38iK2:2020/09/14(月) 00:17:38 ID:EkE3Tik2
トール「なっ! マジかよ!」

フレイ「マジもマジ、おおマジです」


トール「じゃあよ、形を維持するための力の制御ってやつが出来なくなったあいつは……」

フレイ「ええ、間違いなく始まるでしょうね」


フレイ「内に抑え込んだ力、その暴走が――――」


バギィンッ!!

トール「なっ!」

フレイ(ヘイムダムを映したモニターから大きな破砕音が鳴り響く)

フレイ(ヘイムダムの体に走っていたひび割れは全身へと広がり、耐えきれなくなった右肩の部分が砕け落ちたのだ)

フレイ(原因はヘイム玉を失ったことによる力の暴走、内側から膨れ上がる力がヘイムダムの殻を砕き外へ出ようとしてるからに他ならない)


フレイ(しかし……あの様子を見るにヘイムダムはその流れに逆らっていない)

バキンッ! バキンッ! バギィンッ!

フレイ(むしろ好都合と考えたのだろう)

フレイ(ここで無理やり力を抑え込むより、暴走させた方が東條希を倒す目があると)


ゴボッ! ドコボッ! ゴボボボッ!!

ダル子『これは……いったい……アレはなんなんです!!』

ダル子『大きく割れた肩口から這いずりでようと藻掻いてるアレはっ!!』



フレイ「ふふっ、流石にダル子も混乱していますね」

トール「おいフレイ、お前はあの中身を知ってんのか……?」

フレイ「ええ」コクンッ


フレイ「蛹が割れて蝶が羽化する、卵が割れて雛が生まれる、今行われているのはそういった行為とあまり変わりないもの」

フレイ「1つ違う点があるとすれば溢れ出す中身はまだまだ未成熟なこと」

フレイ「変態中の蝶のように、分裂中の卵のように、完成体に至らないドロドロとした生命の塊」

フレイ「ヘイムダムの力を注入された神の肉、“神のなりそこない”とでも呼ぶべきものです」

206 ◆WsBxU38iK2:2020/09/14(月) 00:17:52 ID:EkE3Tik2


ゴッ! ドバッ!!!!!!!

ビチャビチャッ!!

ダル子『……っ!』


フレイ(ヘイムダムの肩口から白い肉が勢いよく溢れ出し、膨れ上がって宇宙スタジアムの窓に飛び散る)

フレイ(それは止めどなく溢れ出し、膨張を続け、元のヘイムダムの体の何十倍もの大きさへと成長する)

ジュドドドドドッ! グニュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!

フレイ(溢れ出した白い肉の塊は円形通路いっぱいに広がり、元のヘイムダムの殻さえも肉の洪水に飲み込まれて見えなくなってしまった)


ヴァーリ「おー、すごーい」


トール「なぁフレイ……あんなんがオレらの秘密兵器だったってのかよ……」

フレイ「それは少し語弊がありますね」

フレイ「オーディンとしては最終試験を兼ねての実戦投入及び、アレの力をアピールするつもりだったのでしょうが……いやはや、殻の耐久力を無視して内部へ干渉されることは想定外だったのでしょう」

フレイ「私はもっと実験を繰り返しあらゆる次元からの干渉を防ぐような殻にすべきだと考えていましたが、時期尚早だったというのが率直な感想ですね」


ヴァーリ「おー? ならシッパイサクなのか?」

フレイ「……さぁ? それを決めるのはまだ早いですよヴァーリ」

フレイ「神の肉の暴走は想定外、故にデータの取れていない部分です」

フレイ「この実戦でアレがどのように進化を遂げるのか、結論はそれを見てからでも遅くはないでしょう」




ドボッ!!!!

ダル子『手……手です! 通路を埋め尽くした白い肉の塊から巨大な手が突き出されどんどん伸びていきます!』

ダル子『進行方向は反時計回り、東條希が逃げた方向と同じです!』


フレイ「ほう、面白い、あのくらい大雑把な形状なら肉体を再構築できるのですね」

トール「いや、それだけじゃねえ、こっちの画面を見ろ、やつが通路の反対側にも肉の範囲を広げてるのが分かる」

ピッ ピッ

フレイ(ベンチに設置された各チーム用の観戦モニター)

フレイ(トールがそれを操作して画面を切り替えていくと、既に円形通路のあらゆる所に白い肉が蔓延ってるのが分かる)

フレイ「ほう」

トール「さらにここだ、やつは自分の質量を増加させる他に>>207

207名無しさん@転載は禁止:2020/09/14(月) 22:32:48 ID:XCVyuz4o
啓蒙を増やしている

208 ◆WsBxU38iK2:2020/09/15(火) 01:28:33 ID:umNg99qY
トール「やつは自分の質量を増加させる他に啓蒙を増やしてやがる」

ピッ ピピピピピピピピピッ!

フレイ(音を立てているのは観戦モニターに内蔵された映像解析ツール)

フレイ(画面の端に表示された様々なグラフのうち、啓蒙度を測るグラフがけたたましい音を立てて跳ね上がっている)


フレイ「なるほどなるほど、器の外に漏れ出て尚、神の肉は順調に進化を続けてるようですね」

フレイ「啓蒙が高まるということはそれだけ神性を持った存在だということですから」

トール「しかしよォ……ちょっとこれ不味くねえか?」

フレイ「そうですね、確認をするのでしばし待ってください」

スッ


フレイ(念話通信を使い、会場の監視をしているエルフチームへ連絡を取る)

キュインッ

フレイ(先程通信したエルファ……いや、ここはもっと客席に近い位置に配備されてる……)


フレイ『エベルータ、聞こえますか』

エベルータ『こちらエベルータ、通信は良好ですわフレイ様』

フレイ『そちらから確認できる客席の様子を報告してください』

エベルータ『それはヘイムダムの……?』

フレイ『はい、啓蒙が想定以上の速度で高まり発露されています』


エベルータ『……そうですか、妙な胸騒ぎがすると思ったらやっぱり』

エベルータ『私がざっと確認したところ、高名な神格に目立った問題は見られません』

エベルータ『しかし下級の神、それに一部の使徒が体調不良を訴える様子が僅かながら見られます』

エベルータ『メインスタジアムでこれなのだから、中継で観ている下界の人間はどうなってることやら』


フレイ『ふむ……エベルータ、貴女は?』

エベルータ『私はまだ平気ですが……この勢いで啓蒙が高まり続けると流石にきつくなりそうですわね……』

エベルータ『強大な神性は自らの啓蒙を高め、また見るのものの啓蒙さえも引き上げる』

エベルータ『しかし脳の許容量を超え嚥下しきれない知識は毒でしかない……』

209 ◆WsBxU38iK2:2020/09/15(火) 01:28:53 ID:umNg99qY
エベルータ『フレイ様、発狂者で医務室を渋滞させたくないのなら早めに対処をすべきです』

フレイ『そうですね、私も同意見です』

フレイ『画面越しの啓蒙伝達を抑えるような情報処理をするよう、運営本部へ急ぎ伝達しておきます』

エベルータ『ええ、お願いしますわ』

キュインッ


フレイ「ふぅ……」スッ


フレイ(強大な神性、本来ならばそれだけで啓蒙を振りまくことはない)
 
フレイ(何故ならば私たちには肉体という器がある、他の生物の理解の範疇に収まるような概念に収まっている)

フレイ(わざわざ人に似せた姿形を取るのだってそのため)

フレイ(いたずらに人智を越えない統一規格の器に神性を収めることで、異なる種族とのコミュニケーションに障害が出ない作りになっている)


フレイ(もちろんそんな手間をかけたって、価値観の違いや死生観の違いと言った交渉の決裂要因は数えるほどある)

フレイ(しかし交渉以前に“見ただけ” “知っただけ”で相手の脳が吹き飛んでいては会話にすらならない)

フレイ(そういう破綻を防ぐための手間が肉体という器なのだ)



ヘイムダム『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』


フレイ(つまり器を破ったヘイムダムは剥き出しの神性と啓蒙を無差別に振りまいている状態)

フレイ(人智の理解を越えたナニカに成り果てつつも、神を目指し藻掻く神のなりそこない)



フレイ「くくくっ……どうします東條希、アレがあなたのつついた藪から出てきた蛇ですよ」

フレイ「ま、蛇というにはあまりに可愛げのないものですが」

  

ダル子『……い、一旦カメラを東條希の方へ切り替えましょう!』

パッ!

ダル子『ヘイムダムから距離をとった東條希、彼女の手には最初にゲットした宇宙服とヘイムダムから抉り取ったヘイム玉が握られています』

ダル子『再びスタジアム中央の重力制御室を目指す動きを見せていましたが、現在の様子は>>210

210名無しさん@転載は禁止:2020/09/15(火) 13:53:40 ID:mUP9bukM
ヘイム玉の力を取り込んだ

211 ◆WsBxU38iK2:2020/09/16(水) 00:52:44 ID:wsulnwEQ
ダル子『現在の様子は……おおっ! 東條希が何か見慣れない武器を取り出しています!』

ダル子『細長い黒い剣のように見えますが……あれは果たして――――』





フレイ「……ほう、そう来ましたか」

トール「どういうことだ? あんな武器さっきまで装備してなかったよな」

フレイ「なに、しっかりと映像を見れば簡単なことですよ」

フレイ「彼女、逃げる時には持っていたヘイム玉を今は持っていないでしょう?」

トール「確かに……! 右手は剣を掴んでいて左手は空になってんな」


フレイ「加えて足元に転がっている空き瓶、その表面に付着している黒い砂のようなもの」

フレイ「おそらくはそれがあの黒い剣の正体です」

トール「あぁ……?」

フレイ「まだ分かりませんか? 彼女はヘイム玉を取り込みその力を我が物としたのです」


フレイ「万物の形状を維持するその力をね――――」






212 ◆WsBxU38iK2:2020/09/16(水) 00:52:58 ID:wsulnwEQ




──宇宙スタジアム・シャッター前



ギュィィィィィィィィィンッ!!


希「一か八かの賭けやったけど、どうやら上手く行ったみたいやな」


希(円卓での修行の結果、うちの焔ノ力は奪い取ったものを取り込み、自分の力とする能力へ進化していた)

希(いや、むしろうちが気付いてなかった焔ノ力の拡張性に気付いたと言ったほうが正しいんやろう)

希(おそらくこの左手は、今までの旅でうちが会得した能力の殆どを適用できる、思ったより応用の効く能力や)

グッ


希「さてとっ」

希(ってなわけで、取り込んだ玉の力と、出発前にリュックに詰め込んでいた砂鉄の瓶)

希(それらを組み合わせて作ったんが右手に持ってる新たな武器)


希「名付けて砂鉄ブレード! とりゃぁっ!」ブンッ!!

グウィンッ!!!!

希(右手を力強く振ると、玉の力で制御された大量の砂鉄が形状を変えて長い鞭のような形になる)

希(そして目の前のシャッターへと接触した砂鉄は激しく高速で振動し、硬い壁をいとも容易く切断していく)

キュィーーーーーーーンッ!!


希「直線通路から内側の円形通路へ進むのを阻むシャッター、悪いけど壊させてもらうで」

希「この宇宙スタジアム全体に広がってく禍々しい気配、さすがのうちもアレを感じて悠長にはしてらんないからな!」

キュィーーーーーーーンッ!! 

希(サイヤ人の力任せの攻撃じゃ余計のものを巻き込みそうで躊躇してた壁の破壊)

希(せやけど砂鉄ブレードなら切断面を最小限にとどめて先へ進める、要らんもんを切る心配もない)



キュイーーーーーーンッ!


バジィンッ!


希「よっし! 一刀両断や!」

ズズズズズズズッ ズドーーンッ


希(砂鉄ブレードを元の形に戻し、切り落とされたシャッターを乗り越え先へ進む)


希「さぁ、乗り込ませてもらうで、スタジアム中央部!」

タンッ!


─────────────────

宇宙スタジアム

PM2:50〜3:05 反逆の焔編『9』了

213 ◆WsBxU38iK2:2020/09/16(水) 00:55:05 ID:wsulnwEQ
というわけでここまで

前半戦終わりの区切り

反逆の焔編『10』に続く
かもしれない

214 ◆WsBxU38iK2:2020/09/17(木) 00:10:33 ID:KFWfNQFQ
反逆の焔編『10』

─────────────────
──宇宙スタジアム・インナーリング

PM3:05


タタタタタタッ!

希「ああもうっ! なんやこれ!」


ゾクッ! ゾクッゾクッ!!

希「うっ……」

希(無機質な通路をただ走ってるだけなのに、さっきから吐き気や悪寒といった不快感を覚えてしょうがない)

希(五感……じゃない、もっと心の奥底、生物としての本能がこの空間にいることを拒絶している)


希(ヘイムダム――おそらく原因はあいつや)

希(あいつの発する嫌な気配が宇宙スタジアム内にどんどん増殖してまとわり付いてくる)

希(走ったら離れられる……そんな生易しいものではないやろう)

希(どこまで逃げても、例えこの通路の壁を叩き割って宇宙空間へ飛び出したとしても、増殖を続けるあいつにやがては飲み込まれる)

希(それを避ける手段はただ1つ、あいつに立ち向かって倒すしかない)
 
タタタタタタッ


希「そのための一歩が……ここや! 重力制御室!」

タンッ!


希(シャッターを乗り越えた先、スタジアム中央部を走り回ってたうちは、ようやく重力制御室の扉を発見した)

希(念の為担いでいた宇宙服をいつでも着れるように広げて扉の横に置いておき、扉に取り付けられたコンソールへ近付く)


希「ふむ……当たり前やけどここも電子ロックがかかってるな」

希「ま、砂鉄ブレードを会得した今なら――――」

シュンッ! 


パキンッ!

希(砂鉄ブレードを薄くしてドアの隙間へ潜り込ませてロック自体を切断する)

希(慎重かつゴリ押し、とにかく今は時間がない……)

シュインッ!

希「よし、開いたな」


希(うちは周囲を警戒しつつ重力制御室の中へ踏み込む、すると>>215)

215名無しさん@転載は禁止:2020/09/17(木) 12:22:49 ID:kKMuMBag
部屋の中心に全重力制御レバーと壁一面にスタジアム中のカメラの映像を映すモニターとそれに対応した部分重力制御レバーがある

216 ◆WsBxU38iK2:2020/09/18(金) 02:09:19 ID:TWnse0NI
希(すると部屋の中心にはお目当ての重力制御レバーらしきものが設置されていた)

希(加えて部屋の壁一面には監視カメラのものと思われる映像が流れるモニターが所狭しと張り付けられている)


希「これは……宇宙スタジアム内の映像か?」キョロキョロ

希(うちが最初に転送された外の景色が見える長い窓のある円形通路、頭を悩ませ立ち止まっていた転送装置の並ぶ通路)

希(2回目に転送された食料庫の中から、さっき砂鉄ブレードで切り裂いたシャッターのある十字路まで、様々な場所が映し出されてる)


希「それに……」

カチャッ

希(宇宙スタジアム内を映すカメラのモニター、その前にレバーが設置されていた)

希(1つの箇所を映すモニターの前にレバーが1つ、また別の箇所を映すモニターの前にレバーが1つ)

希(そんな光景がこの部屋の壁に沿ってずらっと並んでいる)


希「こんな大量にレバーが……」

希(レバーの数はモニターと一対一になってるようで、ざっと全部で20、いや30は越えている)


希「もしこのレバーが中央のレバーと同じ役割を持っていて、モニター1つ1つと対応してるのだとしたら」

希「宇宙スタジアムはその区画ごとに重力を個別で制御できる……!?」


バッ!

希(それに気付いたうちは、反射的に制御室にあるモニターの一画を見る)

希(そこに映し出されていたのは醜く膨らんだ白い肉の塊)

希(既に宇宙スタジアムの4分の1程と同化する勢いで膨張を続けるその巨体)


希「あれが……今のヘイムダムか……」

希(ここに来るまで直接姿を見ることはなかったけど、不思議と驚きはない)

希(むしろあれだけのおぞましい気配を放っていたのだから、正体がこんなんなのは逆に腑に落ちる)


希「……っ、てか画面越しに見続けるのでさえ結構きついな……」グッ

希「早めに倒さんとうちの精神が先にまいってしまうで」


希「とはいえ今ここでうちに出来るのは、宇宙スタジアムの各部の重力を制御することくらい」

希「……こうなったらヘイムダムがいるところを>>217

217名無しさん@転載は禁止:2020/09/18(金) 02:24:38 ID:4xxejvxU
超重力に、全重力をゼロにする

218 ◆WsBxU38iK2:2020/09/19(土) 00:35:16 ID:wjbBbrAg
希「ヘイムダムがいるところを超重力に、他の全重力をゼロにする!」

ガチャッ!

ガチャッガチャッガチャッガチャッ!!


希(部屋の内壁に沿って走るようにして大量のレバーを操作していく)

希(モニターにヘイムダムの体が映ってる場所は全部レバーを一番下まで下げる)

希(逆にそれ以外の場所は一番上まで上げる!)

ガチャッガチャッガチャッガチャッガチャッガチャンッ!!



希(最後に部屋の中央のレバーを引き上げると重力制御室の重力までゼロとなり、うちの体は宙へと浮かんだ)

グウィンッ!! フワッ

希「おおっ……これが無重力ってやつか」

希(体がゆっくりと浮かび上がる初めての感覚に戸惑いながらも、どうにか手足を動かしてバランスを取る)

希(重力下ではビュンビュン跳ぶのとはまた違う、捉えどころのない不思議な感覚や)


希「……で、肝心のヘイムダムの様子やけど――――」

希(引き続き空中でバランスを取りつつヘイムダムのいる区画のモニターへ目をやる)

希(するとさっきまで勢い良く蠢いていた白い肉の塊が床へと押し付けられ、その体積を半分ほどにまで圧縮されてるのが見て取れた)

希(白い肉の表面から飛び出た細かい触手のようなものがモゾモゾと動いてはいるものの、ヘイムダムは超重力の檻に囚われてるようだ)


希「よっし! 想定通りや!」


ヘイムダム『ウゴゴゴゴゴ……ウガ……ガガガガガガ……』

希(モニター越しでさえ気を狂わせてくる不気味な鳴き声、せやけど動けない今のヘイムダムを過剰に恐れる必要はない)

希(あの場所に押し留めて時間稼ぎができるんなら、いくらでも対処のしようはある、ゆっくり考えよう)


希「っと、ヘイムダムがいる場所は……うん、ここやな」

ピッ ピッ

希(制御室の中央、全体制御レバーの横の画面にはスタジアム内のマップが表示されている)

希(複数の監視カメラの映像と照らし合わせると、ヘイムダムはスタジアムの左下一帯に文字通り根を張ってると考えられる)


希「……ふむ」

希(あそこまで膨張したヘイムダムには生半可な攻撃じゃ通用しないだろう)

希(うちの焔ノ力は広範囲殲滅には向いてないし、気を使った砲撃は殻さえ破れない威力)

希(砂鉄ブレードにしたって、あの肉の塊を前に何百回切り刻めば活動停止に持っていけるのか……)




希「そうや、確か……転送される前、マップが表示された時、このスタジアムに備え付けの武装があったのが見えたような」

ピッ ピッ

希(マップの画面を指でタッチし、拡大と移動を繰り返して隅から隅まで見回す)

希(するとマップの一画に宇宙スタジアム主砲と書かれた区画があることに気付く)


希「……あった!」

希(たぶんうちの記憶にある武装はこれや、そして肝心の主砲のある場所へアクセスするには……>>219)

219名無しさん@転載は禁止:2020/09/20(日) 00:45:58 ID:TNwZpws.
重力制御室を含む中央エリアの床側の外が主砲だからこの辺りの床下に何かあるはず

220 ◆WsBxU38iK2:2020/09/21(月) 00:20:20 ID:LWNLFBM.
希(アスセスするには……今いる場所の下に行く必要があるな)

ピッ ピッ

希(判明した主砲のある区画は重力制御室と重なっていて、一番下の層の外側、つまりは宇宙スタジアムの底面にあるらしい)

希(念の為マップを立体マップに切り替え拡大、複数の角度から確認してみる)

希「……うん、確かにここやな」トンッ


希「真下ってことはこの辺りの床下に何かあるんやろうか……?」

希「ま、とりあえず手当り次第探してみるしかないか」

タンッ

スーッ

希(うちはモニターのついてる機材に足をつけ、そのまま踏み込んで床や水平に飛び、一旦重力制御室の入り口まで戻る)

希(扉から顔を出して覗いてみると、案の定壁際に置いていた宇宙服は宙を漂っていた)

希(うちはそれを掴み取って引き寄せ、なんとか空中で着込んでいく)

グイッ ググッ

希「よっと……これがこうなって……これがここに来るんか……?」

カポッ キュッ

希(主砲がスタジアムの外にあるのなら宇宙空間で活動することだって考えられる)

希(移動手段を見つける前に着ていたほうが色々都合は良いだろう)


希「よっし、着れた着れた」

タンッ スーッ

希(宇宙服を身に纏い、再び重力制御室の内部へ)

希(何か下へ繋がる通路がないか、床を中心に目を凝らして辺りを観察する)


希「そう広くはない部屋だし、何かあるならすぐ気づきそうなんもんやけど――――」

キョロキョロ

希「お」

希(部屋の角、注意して見ないと分からない箇所にハッチがついている)

希(殆ど床と同化していて見つけづらい……大きさは人間一人が通り抜けられる程度の幅)

キュインッ!

221 ◆WsBxU38iK2:2020/09/21(月) 00:20:33 ID:LWNLFBM.
希(当然鍵はついてたけど、この程度のロックなら砂鉄ブレードを滑り込ませれば切断できる)


希「ふぅ……全部これで解決すれば楽なんやけど、床をやたらめったら切り刻むと主砲関係の重要な配線とか切る可能性あるからなぁ」

希「こういうシステム中枢に近い場所だと確実に余計なものを切らない箇所にしか使えないんがちょっと息苦しいわ」

グイツ パカッ

希(ハッチを開いて一個下の階層へ体を滑り込ませる)


希(そのまま下の部屋へ着地……っと)

スタッ


希「ここは……主砲の制御室か」

希(上の重力制御室と似た作りで、正面には巨大なモニターが一個、なにもない宇宙空間を映している)

希(その手前にはボタンやレバーが多く取り付けられた装置が置いてあり、装置の傍らにひとまとめにされた書類の束が置いてあった)

希(説明書……主砲の制御マニュアルか何かか?)

スッ

パラララララッ

希「やっぱりな」


希(大事なマニュアルがこんな不用心に置いてるのはどうなん……って感じはするけど、ここは決戦用に作られたスタジアムや)

希(重力制御や主砲が運営が想定して作ったギミックなら、うちらに扱えるようにマニュアルがあっても不自然やない)

パラララララッ


希「なるほど、主砲の角度はこのレバーで、狙いをつけるにはこっちのレバーを使えばいいんやな……ふむふむ」

希「そんで肝心の主砲を起動状態にするには……>>222

222名無しさん@転載は禁止:2020/09/21(月) 08:43:15 ID:a5odFlYA
自分のエネルギーを注ぎ込む

223 ◆WsBxU38iK2:2020/09/22(火) 00:34:30 ID:tvI2vgzo
希「そんで肝心の主砲を起動状態にするには……って何やこれ! 宇宙スタジアムの動力炉からエネルギーパイプが主砲のタンクまで繋がってないやん!」

希「照準の制御なんかは今いる制御室で出来るけど、エネルギーの供給はどうやっても無理そうやな」

希「別のページか? ええと注入、エネルギーを注入するには――――」

パラララララッ

希「なっ! 直接!?」


希(そこに記載されていたのは、主砲を起動状態にするには外に出て直接主砲のタンクにエネルギーを注ぎ込まないといけないということ)

希(さらに注ぐエネルギーは戦士自身の生命エネルギーだということだ)


希「これは事前に宇宙服を着てきて正解だったようやな……」

パラララララッ

希(マニュアルに目を通し一通り発射までの全体の流れを確認する)

希(まず照準、これは予め上の制御室で砲撃目標を定めることが可能で、一度セッティングすれば後は自動照準してくれるらしい)

希(それが終わったら主砲制御室から直通のエアロックから外に出て主砲のエネルギー貯蔵タンクへ)

希(タンクに取り付けられた生命エネルギー転送モジュールからエネルギーを注ぎ込んで発射ボタンを押せば主砲が発射される)


希(この形式のメリットはエネルギーがある限り何度でも発射が可能なこと)

希(デメリットは宇宙空間での活動を強いられることと、使用者自身からエネルギーが奪われてしまうこと)

希(一発の発射でどれだけ持っていかれるか具体的には分からんけど、人間1人のエネルギーでそう何度も打てるもんやないやろう)

希(あまり打ちすぎると今度はガス欠になったうちがピンチになってしまう)


グッ

希「せやけど……今はこの主砲を使う以外に道がない」

希「ガス欠したらそこまでや! うちの全力をぶちこんだる!」

カタタタタッ ピピピッ!

希(制御室のコンソールを叩き、目の前のモニターで照準をあわせる)

希(目標は当然、スタジアムの一区画と一体化したヘイムダム!)

グィーーーーンッ

希(主砲上部に搭載されてカメラが主砲と共に動き、スタジアムの8時方向へ砲の先を向ける)

ガチャンッ!


希(ヘイムダムは超重力であそこに押さえつけてるはずやけど……今の様子は>>224)

224名無しさん@転載は禁止:2020/09/23(水) 00:16:23 ID:/rLp8MTs
まだ大きな変化はない

225 ◆WsBxU38iK2:2020/09/24(木) 00:05:09 ID:8RvzWc.U
希「……変わらず、か」

希(大きな変化はなく円形通路にすし詰めになってくれてるヘイムダムを見てほっと胸をなでおろす)


希「正直安心できる要素なんてアレには無いけど、動かずにいてくれるなら好機」

希「今のうちに主砲を発射させてもらうで!」

ピッ ピッ ピピピッ


タンッ!

希(制御装置で狙いを定めてロックオン)

希(そのまま装置を離れて壁際のエアロックへ飛び移る)

タンッ

希(内側の機密扉を開いて中へ)

ピッ ブシューーーーーッ

希(さらに外側の気密扉を開けば……そこはスタジアムの外)

ブィーーンッ ガシャンッ



希「宇宙空間……ってわけやな」



希(目の前に広がるのはどこまでも続く漆黒の空間)

希(うちら人間の知る太陽系の宇宙とは違う、ヴィーグリーズの一地域に存在する大気のない無重力地帯)

希(ま、場所が違うと言ったって理屈は似通ったもんやろう、命綱もなしに放り出されたら戻ってくるのは簡単やない)

カチャンッ!

希(外へ出る扉の取っ手に宇宙服から伸びるロープの先の金具を引っ掛けて固定させる)

グイッ

希「よしっ……」


希(扉から顔を出し、宇宙服のメット越しにスタジアム中央の底に取り付けられた砲台を見据える)

希(大丈夫……ここから真っ直ぐ飛べば問題ない)

希(最悪ルートが外れても命綱があるし、宇宙服の推進剤や気の放出で移動することはできる)

希「ふぅ…………」


希「よっ!」タンッ

希(一瞬の集中の後、扉を蹴って主砲まで一気に宇宙空間を移動する)

希(周囲に何も支えになるものがない、暗黒の世界へ飛び込む恐怖)

希(蹴り出した力だけでうちの体は前へ前へと進んで行き――――)


トンッ

希(主砲の後部、エネルギー貯蔵タンクの側面へと無事に着地した)

226 ◆WsBxU38iK2:2020/09/24(木) 00:05:24 ID:8RvzWc.U


希「はぁ……緊張するなぁ」

希「いや、ここからが本番や、気合を入れ直さんと」

希(主砲の角度は上で設定してきた自動制御システムにより既にヘイムダムに合わせて固定されてる)

希(あとは今張り付いてるタンクの蓋を開けてエネルギーを注ぎ込むだけ)

 
希「蓋……蓋は……おっ、ここやな」

ガポッ

希(探していた蓋は案外小さく、開いてみると中は車のガソリンを入れる給油口のような構造になっていた)

希(口径はちょうど人間の腕が一本入るくらいの大きさ、穴の横には注入と書かれたボタンとメーターが取り付けられている)

希「なるほどねぇ、分かりやすいことで……」スッ


希(躊躇ってる暇はない、右腕をその穴に突っ込みすかさず注入ボタンを押す)

ポチッ

希「さぁ、どんだけ持っていかれるか分からんが……あのヘイムダムを倒せるなら持ってけるだけ持ってけ泥棒!」

キュィィィィィィィィィィンッ!!


グンッ!

希「うぐっ……!」ガクンッ

希(数秒の待機音の後、生命エネルギーの注入が開始されると一気に体を負荷が襲う)

希(なんやこれ、採血で一気に血を抜かれた時みたいな……いや、それよりもっと大きな……)

グゥゥゥゥゥンッ!

希「……っ!」


希(意識を持っていかれないよう、必死に生命エネルギーを奪われる感覚に耐え続ける)

希(目の前のメーターを見るに、満タンまで入れた場合に消費するうちのエネルギー量の割合は>>227)

227名無しさん@転載は禁止:2020/09/24(木) 08:40:58 ID:1.Sl5xzA
11割

228 ◆WsBxU38iK2:2020/09/25(金) 00:17:07 ID:JFy/3qBA
希(エネルギーの割合は……11割!)

ギュィィィィィィィンッ!!

希「ぐっ……!」


希(うちの全生命力を注ぎ込んでもなお1割足りない)

希(充填率を減らせばうちがすっからかんになる事は避けられるけど……)

ブンブンッ

希(……いや、ヘイムダムは手加減して倒せる相手やない)

グッ

希(ここは本気の本気、フル充填の主砲でヘイムダムを撃ち抜く)

希(そのために――――)


希「はっ!!!!」

希(全身の気を一点集中! サイヤ人じゃまだ足りひん……サイヤ人を超えるサイヤ人のパワーを引き出す!)

ゴッ!!

希(もっと、もっと強く、サイヤ人2、サイヤ人3、サイヤ人4、その先へ)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

希「よっし……こんなもんでどうや!」


キュィィィィィィィィィィンッ

希(超サイヤ人化することにより素の形態より多くの生命力を生み出すことができる)

希(この状態なら主砲をフルパワーで撃ってもうちが枯れ果てて死ぬことはない)

希(その後の反動はかなりきついだろうけど……倒した後なら問題ない!)


希「いくで! うちの生命エネルギーフルパワー! 充填率100%の宇宙スタジアム主砲!」

コォォォォォォォォッ

希「発射や!!」

ドンッ!

希(左手で握りこぶしを作り発射ボタンを思いっきり叩く)


ギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

希(タンクに充填されたうちの生命エネルギーが主砲の各部に行き渡り、砲身に光の線が走って輝き出す)

希(その砲身が狙うのはスタジアムと同化したヘイムダム!)


希「いっけぇぇ!!」

カッ!!!!

希(暗黒の宇宙を切り裂くように一本の光の線が走った)

希(砲身の先から伸びたその光は宇宙スタジアム外周の円形通路を中に詰まったヘイムダムごと撃ち抜く)

キュインッ!



ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!

希(一瞬の静寂の後に訪れる大爆発)

希(そして撃ち抜かれたヘイムダムは>>229)

229名無しさん@転載は禁止:2020/09/25(金) 00:34:11 ID:vId.pPUY
コアヘイム玉だけが残った

230 ◆WsBxU38iK2:2020/09/26(土) 00:35:48 ID:zvhKpbys
希(そして撃ち抜かれたヘイムダムの肉体は爆発四散)

希(周囲の宇宙空間に大量の千切れ飛んだ白い塵とスタジアム通路の瓦礫が散乱する)


希「やっ……たか……はぁ……はぁ……」

グッ 

希(対するうちも生命エネルギーをギリギリまで注ぎ込んだせいで体力をかなり持っていかれた)

希(今すぐ横になって気を失うように寝たい衝動にかられるけど……ヘイムダムの敗北を確認するまで気絶するわけにはいかん)

ブンブンッ

希(頭を振って意識を保ち、肉の塵と鋼鉄の残骸が漂う空間に目を凝らす)


希(あの様子を見るに暴走したヘイムダムの中身は自己増殖系、塵一つでも残っていれば再生する可能性は否めん)

希(せやけど何の細胞にだって核となるものは存在する)

希(先に奪ったヘイム玉が形を保つための器官なんただとしたら、体を増殖しるための器官――コアのようなものが体に残ってるはずや)

ジーッ


希「コア……核……丸いもの……」

希(大きさはヘイム玉と同じなら手のひらに収まるサイズのはず)

希(主砲の直撃で蒸発したり、爆発の勢いで吹き飛んでないなら、まだあの辺りを漂ってるはずなんやけど……)


スゥーッ スゥーッ

希「……ん? なんや?」

希(砲撃地点を漂う無数の白い塵、それに僅かやけど謎の動きが生まれてる)

希(一見風で塵の塊が揺らめいてるように見えるけど宇宙空間に空気はない、ってことはあれは自発的な動き)

希(もしコアが残っていて、塵がそこに集まろうとしてるのなら……)

希「……はっ!」


希「あの塵が動く先にコアがある!」

バッ!

希(瓦礫の山に惑わされるな、塵の微かな動きに注目するんや)

希(一粒一粒は本当にゆっくりと、ナメクジが歩くみたいな速度で一方向に動いてるだけど、全体を見れば話は別)

希(上下左右前後、あらゆる場所に散らばった白い塵、各場所のベクトルを伸ばして重ね合わせれば――――)


希「あった! あれがコア、コアヘイム玉やな!」

サッ!

希「引き寄せるで――奇跡掌握ワシワシ!」

シュンッ!!


パシンッ!

希(左手の手のひらに伝わるドクドクと脈打つ玉の感触)

希(肉体は滅んだけど、やっぱりこのコアはまだ生きてるみたいやな……)
 

希「それならこの玉を……」

タンッ

希(玉を掴んだまま気密扉へ戻り、制御室の中へ入る)

ガシャンッ ブシューーッ ガシャンッ


希(そして中に置いてたリュックを乱暴に開き、渡してもらったアイテムの1つ、神鎮めの水入りの容器を取り出す)

ガバッ! ガサゴソッ パッ!!

希「こうして、神鎮めの水に入れて封を閉めれば――――」ポンッ

キュッ!!


希「どうや!!」


ブルッ ブルッブルッ

希(水に入れられたコアヘイム玉は容器の中で弱々しく震えている) 

希(その震えは時間と共に段々と小さくなって行き、やがてピタリと動きを止めると>>231)

231名無しさん@転載は禁止:2020/09/26(土) 10:11:05 ID:uIWOrXCk
ため込んだ啓蒙を周囲にまき散らして消える直前ゲームセット

232 ◆WsBxU38iK2:2020/09/27(日) 02:36:46 ID:dxA/fypA
希(やがてピタリと動きを止めると……)

ボフゥアッ!!

希(水の中で何か黒い煙のようなものを吐き出す)


希「なっ!!」

希(コアヘイム玉から撒き散らされるそれは水中に落とした墨汁のように広がる)

希(ヘイムダム由来なら神の力、本来なら神鎮めの水で浄化されるはずなのに……黒い煙の拡散は止むことを知らない)

ボフゥアッ! ボボボボボッ!!

希(煙はまたたく間に神鎮めの水を黒く染め上げ、それどころか容器を貫通して外へ漏れ出そうとしている)


希「はぁ……ぐっ……」

ガクンッ

希(急に立っていられなくなり、容器を抱えたまま思わず膝をつく)

希(この症状……間違いない、溢れ出したヘイムダムの肉を目視した時と同じや)

希(濃縮された原液に近い神性、人の脳の許容量を越えた啓蒙、神鎮めの水でさえ希釈できない力)

希(おそらくコアに残っていたそいつを、最後の抵抗で周囲に撒き散らしとるんやろう)


希「ぐっ……はぁ……」

希(せやけど、所詮こいつは肉体を失ったコアにすぎない)

希(もう増殖できないのなら神の力を放てば放つほどコアからは力が失われていくはず)

希(だったら最後の我慢比べや……!)

ガッ!

希(蓋を強く抑え、抱え込むような姿勢を取る)


希「ぐっ……悪いな、あんたはワンチャンうちが耐えきれず離れるのを狙っとるんやろうけど……そう簡単には手放さんで……」


希「これはうちの精神がやられて気を失うか、あんたが力を使い切るかの勝負や……はぁ……うぐっ……」


希「ほら、どうした……言うてるそばから段々力が弱まってきたんやない?」


希「心なしか水中の煙の量も、煙越しに透けて見えるコアの大きさも小さくなってきたで……」


スゥーーッ


希「ほら……これ……もう……消えかけ……」



希(我慢比べから何秒経ったのか、意識が朦朧としてるうちには分からない)

希(確かなのは水中にあった黒い煙は殆ど消えて、コアが豆粒ほどの大きさになっていることだけ)

希(もうコアに何かを振りまく力は残っておらず、今にも消えそうなほど弱々しい)

233 ◆WsBxU38iK2:2020/09/27(日) 02:37:20 ID:dxA/fypA
フラッ

希(これで……完全に無力化……できたか……)

希(でもあかんな、うちも意識が……途切れ……)



ビーーーーーーーーーッ!!!!

希「……はっ!」

希(気絶しかけたその瞬間、スタジアム内に大きなブザー音が鳴り響いた)



ダル子『ゲーーーームセット!!』


ダル子『ヘイムダムの戦闘続行不能を確認! これによりラグナロク決戦第一回戦は穂乃果チーム、東條希の勝利となります!!』

ダル子『両者その場から動かず転送をお待ちください!』


希「勝……った?」


バタンッ

希(力が抜け、思わず背中から仰向けに倒れ込む)


希「はぁ……ふぅ……」

希「予想外な相手で苦戦したけど……まぁ何とかなったってことやな」


希(生命エネルギーはすっからかん、頭はガンガン痛いし吐き気はするし、今にも気絶しそうなくらい疲労困憊)

希(いまいち実感沸かへんけど、何はともかく――――)


ダル子『転送まで……5、4』

キィィィィィィィンッ!

希(転送魔法陣の光の中、仰向けで宙に浮かびながら、うちは拳を高く突き上げる)



希「勝ったで! みんな!」



─────────────────

宇宙スタジアム

PM3:05〜3:25 反逆の焔編『10』了

234 ◆WsBxU38iK2:2020/09/27(日) 02:38:03 ID:dxA/fypA
というわけでここまで

一回戦終了の区切り

反逆の焔編『11』に続く
かもしれない

235名無しさん@転載は禁止:2020/09/27(日) 09:10:13 ID:s/6H.Lzw


236 ◆WsBxU38iK2:2020/09/28(月) 00:37:25 ID:kqRAATjE
反逆の焔編『11』

─────────────────

メインスタジアム・実況席

PM3:25


ワァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!

ダル子(一回戦の決着に盛り上がる会場)

ダル子(彼らの目は一様にスタジアム中央の4面巨大モニターに釘付けになっていた)


ダル子(そのモニターの真下なある闘技場に出現する魔法陣と2本の光の柱)

ダル子(激しい初戦を繰り広げた2名の戦士が柱の中を通ってメインスタジアムへ帰還してくる)

キィィィィィィィィィィンッ


フワッ

スタッ


ダル子(1人は穂乃果チームの東條希)

ダル子(大きな外傷はなく見た目こそ綺麗なものの、生命力を殆ど使い精神に大きなダメージを受けている)

ダル子(急いで救急班を――――)


心ノ穂乃果「希ちゃん!」

にこ「希!」

タタタタタッ
 

ダル子「……っと」

ダル子(どうやら私が催促する必要はなさそう)

ダル子(既に穂乃果チームの面々が希の元へ走って駆けつけてるみたい)


ダル子(そしてもう一方の戦士、オーディンチームのヘイムダムは、希と対照的に姿を大きく変えていた)

ダル子(転送前の人型とは似ても似つかない、円筒形の容器に入れられた豆粒ほどの球体)

ダル子(あれがヘイムダムのコア、ということらしいけど……)


ダル子「……ううーん」

ダル子(宇宙スタジアムでの戦いで垣間見えた戦闘人形としての働き、そして暴走から鎮圧までの一幕)

ダル子(たぶん何かしらの素体をベースにお父さんのデータを埋め込んで作ったんだろう)

ダル子(とてもじゃないけど人工的な神としては成功例に程遠いし、アレをヘイムダルだとは思えない)


ダル子(アレをヘイムダルの後継として参加させたオーディンは何を考えてるのか……)

ギリッ

ダル子「……いや、いけない」

ダル子(私はあくまで中立、どちらかに肩入れしたり、どちらかに不信感を持つのは良くない)

ダル子(正しさは戦いが、運命の裁定はラグナロクが決めること)

ダル子(私はただその進行を一心に務めるだけ)


ポチッ

ダル子『両者お疲れさまでした!』

ダル子『これより第2回戦まで30分ほどのインターバルとなります!』


ダル子『2回戦の開始はPM4時、両チーム休憩や作戦会議などを行い、規定の時間までに次の戦士の選出をお願いします』

ダル子『そしてインターバルの間、メインスタジアムでは>>237

237名無しさん@転載は禁止:2020/09/29(火) 00:35:03 ID:7tD8N3hg
前の戦いを振り返りつつ専門家による解説を放送します

238 ◆WsBxU38iK2:2020/09/30(水) 00:35:29 ID:Ta7SZvDA
ダル子『メインスタジアムでは前の戦いを振り返りつつ専門家による解説を放送します』

ダル子『会場の皆様、次の戦いまでしばしお待ち下さい』

ジャッジャ ジャッジャラーン!


ピッ

ダル子(会場内のスピーカーから流れる音を生演奏のBGMに切り替え、マイクのスイッチを切る)


ダル子「ふぅ……」

ドサッ

ダル子(深く息を吐きながら実況席の椅子へ体を預ける)


ダル子(一回戦、進行上は大きなアクシデントなく終えることができた)

ダル子(けれど結果的にオーディンチームの先鋒は敗北してしまった)


ダル子(自らが先鋒に指名した秘密兵器の敗北……)

ダル子(チームのリーダー、オーディンの心境は如何ほどのものなのか)


ダル子「…………」

ダル子(実況席から見下ろすオーディンチームのベンチには慌ただしい様子は見当たらない)

ダル子(至って静かな……)


ダル子「……ん?」

ザッ

ダル子(オーディンチームのベンチから1人が歩み出て闘技場へ向かっていく)


ダル子「あれは……フレイ?」





239 ◆WsBxU38iK2:2020/09/30(水) 00:36:14 ID:Ta7SZvDA




──円形闘技場上



ことり「穂乃果ちゃん、あれ……」

心ノ穂乃果「……!」


心ノ穂乃果(ことりちゃんの指差した方を見ると、私たちの立ってる円形闘技場に向かって歩いてくる人影が見えた)

心ノ穂乃果(剣の紋章が刺繍されたローブってことは……フレイ?)


ザッ  ザッ


海未「穂乃果……」

心ノ穂乃果「大丈夫、海未ちゃんとにこちゃんは希ちゃんを先にタンカで運んであげて」

海未「……分かりました」

にこ「気を付けなさいよ!」

グイッ  

タッ タッ タッ


心ノ穂乃果(海未ちゃんたちが闘技場を降りるのとほぼ同時、入れ替わるようにフレイは闘技場に上がり、私たちの前までやってくる)

ザッ

フレイ「どうも」

心ノ穂乃果「…………」


フレイ「そう警戒しなくても平気ですよ、私は貴女方の足元にあるそれを回収しに来たのですから」

心ノ穂乃果「それ……? ああ、なるほど」

心ノ穂乃果(今ここにいるのは私とことりちゃん、対面するフレイ、そして足元に置いてある神鎮め水入りの容器)

心ノ穂乃果(この中のヘイムダムのコアのことをフレイは言っているんだろう)


フレイ「そのコアには私たちの技術が詰まってますから、返していただけるとありがたい」

心ノ穂乃果「それは構わないけど……水から出すとまた増殖しちゃわない?」

フレイ「ご心配なく、手渡して頂ければこちらで対応しますから」

心ノ穂乃果「ふーん……じゃあ」

スッ

心ノ穂乃果(ローブで表情が隠れていて意図が読めない、少し怪しいけど……まぁこの場面で嘘は付かないだろう)

心ノ穂乃果(メインスタジアムでヘイムダムを暴れさせて向こうにメリットがあるとも思えないし)

カチッ

心ノ穂乃果(容器の蓋を開け、神鎮めの水に手を浸けてコアを掴んで取り出す)

ピチャッ パシャッ

240 ◆WsBxU38iK2:2020/09/30(水) 00:36:26 ID:Ta7SZvDA


フレイ「へぇ……水、平気なんですね」

心ノ穂乃果「……?」

フレイ「いえ、こっちの話です、ではそのままコアを私の手に」

心ノ穂乃果「う、うん」

ソーッ


心ノ穂乃果(受け取るように手のひらを上にむけて差し出されたフレイの手)

心ノ穂乃果(その真上に手を伸ばし、指を離してコアをフレイの手に落とす)

パッ



ドシュッ!!!!

心ノ穂乃果「……!」

心ノ穂乃果(その僅かな落下時間、数センチの距離)

心ノ穂乃果(空気抵抗でコアに付着していた神鎮めの水の雫が微かに剥がれた瞬間、コアから細い糸に似た白い肉が増殖しはじめた)

心ノ穂乃果(まさか、こんな短時間で――――)


フレイ「おっといけない」

ドシュルルルルルッ!! 

心ノ穂乃果「わっ」

心ノ穂乃果(コアが微かに息を吹き返した途端、フレイの手から大量の植物の根のようなものが生み出されコアを包み込んだ)

心ノ穂乃果(根はしばらくモゾモゾと動いていたけど、すぐに静かになる)


フレイ「この子たちは大変食いしん坊な植物でね、素のコアの増殖速度くらいなら上回れるんですよ」

心ノ穂乃果「あの勢いで増える白い肉を養分として取り込んでる……ってこと?」

フレイ「はい、アルフヘイムに自生する植物で、あの程度なら2,3日はこのまま食べ続けられますよ」

心ノ穂乃果「それは……すごいな」ゴクッ



フレイ「さて、私はこれにて戻りますか」

フレイ「そろそろインターバルの解説も始まるでしょうし……」

心ノ穂乃果「ああ、そんなことやるってアナウンスで言ってたっけ」

心ノ穂乃果(希ちゃんのことで慌ててたからアナウンスの内容まであまり頭に入ってなかったな)


フレイ「知ってます? 解説で呼ばれる専門家って>>241らしいですよ」

241名無しさん@転載は禁止:2020/09/30(水) 08:27:20 ID:70KJDbuI
使徒

242 ◆WsBxU38iK2:2020/10/01(木) 00:38:17 ID:7T4RcPwo
フレイ「解説で呼ばれる専門家って使徒らしいですよ」

心ノ穂乃果「いや、知らなかったけど……そうなんだ」


心ノ穂乃果(使徒が解説か、確かにラグナロクに関わらない使徒なら中立だし解説するには持ってこいなのかもしれない)

心ノ穂乃果(だけど……なんだろう、妙な違和感があるな)

クルッ

ことり「ん? 急に観客席を見上げてどうしたの?」


心ノ穂乃果(メインスタジアムの一画を占める使徒用の観客席)

心ノ穂乃果(上位の神様や運営関係のいわゆるVIP席を除いた一般席の中では明らかに特別扱いを受けている)

心ノ穂乃果(確かに使徒は中立だけど、同時にラグナロクに介入するお邪魔者でもあったはず)

心ノ穂乃果(それが普通に大勢で観戦にやってこれて、更に解説までするなんて……)


心ノ穂乃果(北欧神話界って、使徒に対してここまで無警戒だったかなぁ……?)


ことり「穂乃果ちゃん?」

心ノ穂乃果「ううん、なんでもない」

ブンブンッ


心ノ穂乃果「フレイさんもわざわざ引き取りに来てありがとうございます」

フレイ「いえいえ、誰かやらなければいけないことなので」


フレイ「それと、敬称は要りませんよ、決戦では敵同士なのですから」

心ノ穂乃果「敵……」

フレイ「はい、スルトを取り込んだ貴女は私の滅すべき相手、今穏やかに話してるのは決戦の形式に従ってるだけに過ぎません」

フレイ「本当なら今すぐその首を胴体から切り離したいくらいですよ――――」

ゴッ!!

心ノ穂乃果「……っ!」

心ノ穂乃果(丁寧な口調の裏に隠れた明確な殺意、ローブの奥に潜む鋭い眼光が私に向けられる)


ことり「……?」

心ノ穂乃果(なんて鋭い、針のようにピンポイントな殺意の気配を飛ばすんだろう……)

心ノ穂乃果(周りの観客はもちろん、すぐ隣のことりちゃんさえも今の気配には気づいていない)



心ノ穂乃果「…………」ジリッ

フレイ「ふふふっ、少し脅かしすぎましたか、ですが私たちが戦うのはまだ先の話です」

フレイ「次は……そうですね、ヴァーリかトール、うちの戦闘狂のどちからが出ると思いますよ」


フレイ「ではまた、二回戦もラグナロクに相応しい戦いになることを祈っています」

ザッ ザッ



心ノ穂乃果「…………ふぅ」

ことり「帰っていったね、私たちも戻る?」

心ノ穂乃果「うん、そうしよう」

ザッ


心ノ穂乃果(闘技場から降りて自分たちのベンチの方へ歩き出す)

心ノ穂乃果(頭上にある巨大モニターには例の解説者が実況席に到着した様子が映し出されている)

心ノ穂乃果(ってことは、あの>>243な人が使徒……?)

243名無しさん@転載は禁止:2020/10/01(木) 01:12:50 ID:fKtNVoZ6
八重歯のある生徒会長っぽい

244 ◆WsBxU38iK2:2020/10/02(金) 00:18:24 ID:Sbd9LYSY
心ノ穂乃果(あの八重歯のある生徒会長っぽい人が使徒……?)


ことり「インターバルの解説もう始まるのかな」

心ノ穂乃果「そうみたいだね」

心ノ穂乃果(ダル子ちゃんの隣の席に座るその人はダル子ちゃんに促され自己紹介を始める)


ダル子『ではどうぞ』

三船『三船です、ダル子さんと共に解説としてインターバルを振り返ります、よろしくおねがいします』

ワァァァァァァァァァァァ

パチパチパチパチ


ことり「使徒って聞いてたけど普通の女の子っぽい? 学校の制服着てるし」

心ノ穂乃果「まぁ契約して異世界から来てたら種族が何だって使徒扱いだからね」

心ノ穂乃果「でも……確かにあそこまで見るからに一般人な使徒は始めてかも」

心ノ穂乃果「姿が人間に近くても特殊な武器を持ってたり出身の世界や能力にちなんだ服装してるのが大半だし」

心ノ穂乃果「そういうことを考えると、あの三船さんは私たちの世界に似た世界から来たのかもしれないね」


ことり「ふーむ……むむ?」

心ノ穂乃果「……って、どうしたのことりちゃん、そんなにモニター見つめて」

心ノ穂乃果「じっくり見たいならベンチに帰ってチーム専用のモニターで見れば――――」

ことり「ねぇ、あれさ」スッ


心ノ穂乃果「ん?」

心ノ穂乃果(ことりちゃんは頭上のモニターの中心辺り、ちょうど三船さんが映ってる場所を指差す)


ことり「あの胸のとこのリボンだよ、あの制服……どこかで見た気がするんだけど……むむむ」

心ノ穂乃果「どこかで?」

ことり「そう、そんな前じゃない……こっちに来てから……」

心ノ穂乃果(ことりちゃんは思い出そうと頭を悩ませてるけど、私はそこまで服装に着目してなかったからピンとこない)


ことり「ああっ! そうだ!!」

心ノ穂乃果「おわ、びっくりしたー」


ことり「侑ちゃんだよ侑ちゃん!」

心ノ穂乃果「侑ちゃん……ああ、ああ侑ちゃん」ポンッ


ことり「そう! あの制服、私たちをメインスタジアムまで案内してくれた侑ちゃんと同じ服なんだよ!」





245 ◆WsBxU38iK2:2020/10/02(金) 00:18:46 ID:Sbd9LYSY





──第二世界樹・入口前

PM3:15



侑「ふぅ……結構時間かかっちゃったかな」


侑(メインスタジアムからアースガルズ中心にそびえ立つ第二世界樹へ、駿馬スレイプニルの速さを持ってして約1時間)

侑(馬上に座ったままの移動で凝り固まった肩や腰をほぐしながら、片足ずつ地面へ降りる)

トンッ トンッ

侑「よっと、到着!」


スレイプニル「ヴィーグリーズからここまでかなりの距離があったからなぁ」

スレイプニル「それにお前がオレの上で何度か悶えて苦しんでたから休憩してた時間もあるし――」

侑「だぁあああもう! それは触れなくていいから!」ブンブンッ


侑(移動の途中、急に体中の敏感なところが刺激に弱くなってどうしようもないことが度々あった)

侑(しばらく休むとすぐに治ったけどいったいなんだったのか)

侑(心当たりは…………まぁ、間違いなくカリオペーのせいだろう)


侑「綺麗な顔して人にエッチなイタズラするなんて……今度あったら問い詰めてやらないと……!」フンッ


スレイプニル「それよりよ、第二世界樹の入口ってのはここで良いのか?」

侑「……ん? そのはずだよ」


侑「機能停止した先代の世界樹に変わり、貧弱様という名前の樹が世界を結ぶことによって作られた多世界通行システム」

侑「要はアースガルズやミッドガルズ、天上や地上、その他の世界を行き来できる北欧神話界公式の通り道だよ」


スレイプニル「ほぉ、つまりはでかい昇降機ってことか?」

侑「大きなエレベーター扱いすると途端に格式が下がるけど……簡単に言ったらそうなるかな」

侑「私みたいな人間はともかく、神様たちは特別な処理をせず世界を渡るにはかなりの負荷があるらしくて……そう、要は世界樹って回線みたいなものなんだよ」

侑「神格としての容量が大きすぎて、本来は小分けにしてゆっくり送るか、圧縮して化身体になるか、容量の少ない見た目の映像だけ送るとかで工夫してたものが、本体まるまる高速で転送できる」

侑「世界樹が復活したってことは、神様たちからすると最新の光回線が引けたぞやったーって感覚に似てるのかもね」


スレイプニル「お前のモノの例えはよく分からんが……とりあえずニュアンスは伝わった」

スレイプニル「それでその世界樹の入口ってのが……」

侑「うん、あの>>246になってるとこだね」

246名無しさん@転載は禁止:2020/10/03(土) 21:12:48 ID:PowYEO4E
仮設

247 ◆WsBxU38iK2:2020/10/05(月) 01:06:39 ID:VE0hjM1U
侑「うん、あの仮設になってるところだね……って仮設!?」


侑(目の前に広がるのは巨大な第二世界樹の壁面)

侑(その一部にウロのような穴があって、そこが入口になってるはずだけど……)

トンッ

侑(仮設と書かれた立て札が入口を塞ぐように置かれているのは想定外だ)


侑「おかしいな、もう完成していて普通に使えると思ってたのに……」

スレイプニル「おかしいも何も仮設ってこたぁ間に合ってねぇんだろ」

侑「えー」

スレイプニル「ただ、外側が未完成でも中身が未完成とは限らねえ」

スレイプニル「外でウダウダ考えてるよりかは、中に入って直接見てくるのが早いって話よ、ヒヒーン!」


侑「……うん、そうだね!」

タタッ

侑(私は仮設と書かれた入り口に駆け出しつつ、振り返ってスレイプニルに手をふる)

侑「スレイプニル! ここまでありがとう!」


スレイプニル「ここまでって……お前、帰りはどうするんだよ!」

侑「私の個人的な用事に付き合ったのバレたらオーディンに怒られちゃうでしょ、先に帰ってていいよ〜」

スレイプニル「はぁー? お前な、世界樹からメインスタジアムまでどれだけ距離があると思ってんだ」

侑「まぁ……うん、そうだね」

侑「ほんとは待っててもらうと楽だけど、帰ってくるのに何日かかるか分からないし、待つのたいへんでしょ?」

スレイプニル「だったら――――」

侑「それにさ」



侑「また、ここに帰ってこれるとも限らないから」


スレイプニル「……!」



侑「じゃ! そういうことで!」

タタッ!

侑(言うことだけ言って、一目散に入り口に向かって走る)



スレイプニル「おいお前、いったい何を……待て! 侑! 侑!」






248 ◆WsBxU38iK2:2020/10/05(月) 01:06:57 ID:VE0hjM1U




──第二世界樹・アースガルズエントランス


タタタッ

侑(いきなり帰っていいよだなんて、スレイプニルには悪いことしちゃったかな)  

侑(でも私が無事に戻れる保証がないのは確かだし、オーディンの馬をずっと待たせておくなんてできない)
 
侑(少し強引だったけど、スレイプニルも分かってくれるはず……) 


タンッ

侑「……で、ここが世界樹の中か」

侑(世界樹とはよく言ったもので、天井の高いエントランスホールの中の壁や床、あらゆるものが木で作られている)

侑(細かい木材を組み上げたわけではなく、世界樹の中をくり抜いてそのまま形を整えたような構造)

侑(それに外から見た入り口の大きさからは想像もできない、コンサートホールと見間違うくらいの広さ)

侑(周りに人が誰もいないせいで、1人ポツンと立ってるのに若干不安を覚えてくる)


侑「えーと……今いるのはアースガルズ側の玄関口みたいなとこかな」

侑「地上へ降りる道に行くにはどこに――――」

??「すみません、ちょっといいですか?」

侑「わっ!」

侑(声にびっくりして振り返ると、私の背後に明らかに受付っぽい制服を着た女の人が立っていた)


受付「すみません、第二世界樹はまだ試運転段階で一般の方は利用できないんです」

侑「……は、はぁ」

受付「この仮設エントランスを散策していただくことは可能ですが、どのみち世界樹エレベーターの手前まで行くと備の者に引き返しを命令されます」

受付「このラグナロク開催下のご時世、あまりエインヘリヤルの方々に目を付けられるのもよくないでしょうし」

受付「できるなら早めのご退場をなされたほうが良いかと思われます」


侑(世界樹エレベーターって……本当にエレベーターみたいなものがあるんだ)

侑(しかし試運転中で一般は立入禁止と)

侑(試運転できてるなら機能的には問題ないけど……あまり騒ぎになるのはまずいか)

侑(うん、ここは適当な理由で誤魔化そう)


侑「あーー、その……実は私、こういうものでして」スッ

受付「こういう……?」

侑「はい」コクンッ


侑(懐から取り出したのはカリオペーから貰った名刺ほどの大きさのカード)

侑(これにはカリオペーの文章による認識改竄能力が付与されていて、カードの文字を見せることで発動)

侑(カードが完璧な身分証に変化し、自分の偽りの身分を相手に信じ込ませることができる)


侑(この場合は……>>249ということを信じさせた方が世界樹の中を進む上で便利だろう)

249名無しさん@転載は禁止:2020/10/05(月) 16:52:43 ID:usktbZ1A
エレベーター整備士

250 ◆WsBxU38iK2:2020/10/06(火) 00:39:49 ID:VZk.ZsoE
侑「エレベーター整備士の仕事なんですよ、試運転中のエレベーターに少し不調が出たらしくて、今日は様子を見に来たんです」

侑「直接故障に繋がるような深刻なものではないらしいんですけど、早めに確認したほうが良いと思って」


受付「はぁ……こんな日にまでお仕事なんて、整備士さんは大変なんですね」

侑「こんな日に仕事してるのはお互い様でしょう」

侑「本当なら家でお酒で飲みながらラグナロクを観戦してたかったんですけどね」

侑「私みたいな下の人間は命令1つで休日だろうが祝日だろうが駆り出されるものなんです」

受付「ふふふっ……まったくです」


侑「では私は急ぐので、受付さんもお仕事がんばってください」

受付「ええ、お気をつけて」


タタタッ

侑(エレベーター整備士、ぱっと思いついたにしてはもっともらしい職業だろう)

侑(でも明らかに人間の女子高生みたいな格好をした私を疑いなく技術者と信じるなんて……)

スッ

侑(このカリオペーの身分証、思ったよりすごい代物なのかもしれない)


タタタッ

侑(とりあえず入り口近くにいた受付さんから見えなくなる位置まで小走りで進む)

侑(エレベーターの位置は未だに分かってないけど、周りに人がいなくなればゆっくり探索できる)

侑(それに大体こういう公共施設には――――)

タンッ

侑「あった!」


侑(木製の壁に貼り付けられた真新しいパネル)

侑(そこに第二世界樹の構内見取り図が展示されている)


侑「ええと……私はこっちのアースガルズエントランスから入ってきたから……中央エレベーターまではこうで……」

侑「……ってことは、この先の道を右に曲がってしばらく進んで、3つ目の角で左に曲がって、更に突き当りを右に進めば……よし!」

タタタタタッ

侑(エレベーターまでのマップを頭に入れ、また小走りで進み出す)


侑「……お」

侑(世界樹の中の通路を走ってると、一部壁が剥がれてたり、脚立が置かれてたり、ところどころオープン前の作業途中らしき現場に遭遇する)

侑(放置されているわけではなく、今日はラグナロクで作業が休みになってるのだろう)

侑(その証拠にエントランスホールで受付さんに出会って以降は、他の誰かと出会うことはなかった)


タタタタタッ

侑「この調子で警備の人もお休みしてくれてたら嬉しいけど……」

タンッ

侑「……って、そう都合良くはいかないか」シュッ

侑(エレベーターへ辿り着く最後の曲がり角、その先に人の気配を感じた私は壁に隠れてしゃがみ込む)

侑(そろり、そろりと、這うような姿勢で顔を曲がり角から出し、エレベーターの方の様子を伺う)

ジーッ


侑「ちゃんといるなぁ……」

侑(エントランスホールより巨大な空間の中心を貫く一本の円柱、たぶんあれが世界樹エレベーター)

侑(表面は半透明のガラスみたいな素材、内部は七色をパレットで軽く混ぜたようなマーブル模様状の不思議な色に染まっていて、全体が淡く発光している)

侑(それでエレベーターの周りにはエインヘリヤルが見える範囲で5人、それぞれの立ち位置で警戒を続けてるっぽい)

侑(他に目に付くものは>>251)

251名無しさん@転載は禁止:2020/10/06(火) 06:42:44 ID:BpGXM5.s
おっぱい

252 ◆WsBxU38iK2:2020/10/07(水) 00:16:40 ID:8nJEn/R6
侑(他に目につくものは……おっぱい!)


プルンッ プルンッ

侑「おぉ……」ジーッ


侑(むさ苦しい筋骨隆々なエインヘリヤルが徘徊してる中、1人だけ大きなおっぱいを揺らして歩く女性がいた)

侑(金髪でスタイルがよく、見た目は美人のお姉さんとも大人びた学生とも取れるような、年齢不詳な不思議なオーラを醸し出してる)

侑(白衣に似た服を羽織ってるから一見何かの医療関係者か研究者みたいに見える……けど)

ゴクッ

侑(白衣の内側には胸元が大胆に空いたインナーを覗かせていて、とても正規の職員とは思えない)


侑(まぁ神様連中なんて半分露出マニアみたいな服装してるし、これがファッションですと言われたら仕方ないんだけど)
 
侑(どうも私の見てきたエインヘリヤルやワルキューレとはまた違う雰囲気を感じるんだよなぁ)  

 
侑「うーむ……」

侑(悩んで至って始まらない……か)  

侑(カリオペーの身分証があるなら相手がエインヘリヤルだろうが謎の美女だろうが変わらない)

侑(ささっと躱してエレベーターに潜り込むだけ!)


タッ

侑「どうも〜! エレベーターの整備士の高咲です〜!」

スタスタ

侑(潜んでいた角から飛び出し、エレベーター周りの集団に向かって堂々と歩いていく)


侑(カリオペーの身分証を手前に掲げ、大きな声を出して挨拶)

侑(認識の改竄のトリガーは、信じ込ませたい身分を相手に想起させる、その状態で身分証を相手に見せる、この2つだ)

侑(そのためにわざと声で自分に注目を集め、身分を声高にアピールする)

侑(なんなんだと声の方向を見て身分証を視界に捉えた瞬間、相手はもう――)


警備1『おお、これはご苦労さまです』

警備2『わざわざこんな日に仕事とは精が出ますねぇ』

侑(ほら、もう認識が書き換わっている)


侑「いえいえ、警備の皆さんもご苦労さまです」

侑(コソコソするより堂々としたほうが手っ取り早いのは普通の潜入と違うところだなぁ)


侑「そちらのお姉さんは、見ない顔ですが…………」チラッ


鞠莉「ああ、私は鞠莉、写し身の貧弱様――こっちでは第二世界樹と呼ばれているもののシステム管理をしてるわ」

鞠莉「普段は地上に近い階層で仕事してるけど、今日は>>253のためにアースガルズ側のエントランスに来たの」

253名無しさん@転載は禁止:2020/10/08(木) 22:02:37 ID:9efySoe6
整備の立ち会い

254 ◆WsBxU38iK2:2020/10/09(金) 00:23:36 ID:l6ufldNA
鞠莉「整備の立ち会いのためにアースガルズ側のエントランスまで来たの」

侑「なるほど……立ち会い、ですか」

鞠莉「ええ」コクンッ


侑(しまったな、本当に整備の必要があったなんて……)

侑(エレベーターの整備なんて咄嗟に出た嘘だから立会人がいるなんて想定してなかった)


侑「それで……鞠莉さん?は神族なんでしょうか」

侑「地上に近い層で仕事してるという話も聞きましたし、その外見からするに――――」

鞠莉「あぁ〜はいはい、ふふっ」

侑「……え?」

侑(質問の途中で鞠莉さんは何かを察したように頷き上品に笑う)

 
鞠莉「“そういう疑問”を投げかけられるってことは貴女は……ふむふむ、良いわ、着いてきて」

侑「ど、どこに?」

鞠莉「エレベーターの中よ、こんなとこで立ち話も何だし移動しながら話しましょう」

侑「……わ、分かりました」

スタスタ

侑(正体を気取られた……わけではないかな)



侑(手招きする鞠莉さんに続き、様座な色に光る巨大な円柱に近づいていく)

侑(鞠莉さんが半透明の壁に手をかざすと、そこがエレベーターのような両開きのドアとなり、自動的に開いた)

ウィーン

鞠莉「さぁどうぞ」

侑「はいっ」

侑(少し飛び込むのに躊躇するけど、ここは怪しまれないのが大事)

侑(思い切って光の中に飛び込む)

タンッ


侑「わっ……!」フワッ

侑(エレベーターの中は壁も床も天井も存在していなかった)

侑(体全体を不思議な力場が包み、光の奔流の中で体を一定の位置に浮かせている)

侑(無重力のように変に力を入れてクルクル回るような気配はない)

侑(光の中に立っている、という一見おかしな表現が一番しっくりくる不思議な感覚)


侑(これが世界樹エレベーター……?)


鞠莉「何度乗ってもシャイニーな光景よねぇ」

侑「え、ええ」

鞠莉「そんな不思議そうに何度も辺りを見回しちゃって、整備はしてても直接乗るのは初めてだったり?」

侑「ああ……ははは、そんなとこです」


侑(誤魔化せたどうかは微妙なとこ)

侑(それより問題なのはエレベーターの中で整備の話を振られた時だ)

侑(私は身分的には整備士だけど、もちろん整備の知識や技術を持ってるわけじゃない)

侑(実際身分との食い違いが出た場合、カリオペーの能力はどこまで矛盾を許容できるのか……)

侑(できるなら今正体がバレるのだけは勘弁してもらいたい)

255 ◆WsBxU38iK2:2020/10/09(金) 00:23:55 ID:l6ufldNA


鞠莉「じゃあエレベーターを下に、例の点検箇所まで一気に移動して良いわね?」

侑「はい、お願いします」

侑(例の? 例のってどこ……?)


スッ スッ スッ

鞠莉「ぽちっと」

グゥーンッ!

侑「……っ!」

侑(鞠莉さんが虚空を何度か指でなぞり、ボタンを押す仕草をすると、私たちの体が光の中を下降し始めた)


グゥィーーンッ!

侑(囲いがないのに体が固定され、一定速度で下降していく)

侑(うぅ……この感覚は早々慣れるものではなさそうだ)


鞠莉「これでよしっと、それで整備士さん、さっきの話の続きなんだけど……単刀直入に聞くわね」

侑(……来た!)ゴクリ

侑「はい、なんでしょう」


侑(誤魔化すパターンを考えろ、どうにか乗り越えて――――)

鞠莉「貴女、私が人間に見えるの?」

侑「…………は?」


鞠莉「は? って何よ」

侑「ああいや、ごめんなさい、思ってた質問と違ってて」

侑「鞠莉さんが人間かどうかですよね、普通にそう見えますけど……何か?」


鞠莉「はぁ……それで何も不審に思わないのね、思ったよりシャイニーな人なのかしら」

侑「?」

侑(まずい、言ってる意味が尚さら分からなくなってきた)


鞠莉「あのね、ピンときてないみたいだから教えるけど、今この世界樹では人間は自由に出歩けないの」

鞠莉「穂乃果がスルトの力を手に入れたと判明した瞬間、穂乃果と関わりのある人間は一斉に拘束されたのよ」

侑「…………え?」
 

鞠莉「それはこの世界樹、貧弱様の中にあっても同じこと」

鞠莉「拘束状態はラグナロクが行われてる間もずっと続いてて、世界樹の復旧に携わったスタッフだろうが例外はない」

侑「せ、世界樹でそんなことが……」


侑(けど言われてみたらそうだ、神と人が争うこの状況下で、アースガルズ側のエントランスに堂々と人間がいるとは考えられない)

侑(私みたいな穂乃果チームと関わりのない、神様たちから特別お目こぼしされてる人間だって、この期間は世界樹を使用したり地上に降りることは禁止されてるんだから)  


侑「じゃあ、鞠莉さんはどうして自由に行動できてるんです?」

侑「さっきだって警備のエインヘリヤルと普通に話してたし」


鞠莉「それは>>256

256名無しさん@転載は禁止:2020/10/09(金) 08:36:42 ID:TH6RNhJ2
その認識改竄装置…というかその使徒自体私の作品だから

257 ◆WsBxU38iK2:2020/10/10(土) 00:59:30 ID:vA4iXj3g
鞠莉「それは貴女と同じものを使ってるからよ」

侑「同じもの……?」


鞠莉「ええ、貴女が手にしてるその認識改竄装置、カリオペーの作ったものでしょう?」

侑「……っ!」

侑(いきなり確信を突かれて動揺を隠しきれない)


侑(考えろ、考えるんだ私)

侑(カリオペーを知ってるならこの人も使徒……? だとしたら世界樹に潜り込んでる目的は……?)

侑(そもそも、認識改竄を知ってるのなら私が整備士でないことは看破されているんじゃ――――)


鞠莉「混乱してるわねぇ」

鞠莉「1つ言っておくと、私は使徒ではないしカリオペーの仲間でもない」

鞠莉「貴女のようにカリオペーと契約して権能を貸し与えてもらったわけじゃないの」


侑「どうして、契約のことまで……」

鞠莉「ふふっ、貴女からあの女の匂いがするんだもの、見てなくても分かるわよ」

侑「匂い……?」

クンッ クンクンッ

侑「そんな匂いしてるのかな……」

鞠莉「私鼻が良いから、人の鼻じゃ分からないと思うわよ」


鞠莉「ともかく、私の認識改竄装置は私の作ったものだし、更に言うならあの使徒だって私が作ったもの、私の作品の1つ」

鞠莉「随分昔に別れてそれっきりだけど、その様子だとすっかり女神気取りなのね」

鞠莉「ま、私としてはあの子が元気なら何でも良いけど」


侑「…………」

侑(分からない……この人のことが分からない……)

侑(エインヘリヤルを騙して、世界樹の中を自由に行動して、更に使徒まで作った?)

侑「鞠莉さん……あなたはいったい何者なんです……!」



鞠莉「何者……とは難しい質問ね」

鞠莉「使徒ではないし、神様でもなければ悪魔でもない、魔王や主人公にすらなれない傍観者」

鞠莉「個人的にはただの人間のつもりなんだけど……世間的には見るとちょっと浮いてる気がしないでもない」

鞠莉「そうそう、好物はシャイニーなものと面白いこと」

鞠莉「だから私はいつの時代も面白い人の味方で、つまらない人の敵なの」



侑「……だから、穂乃果チームの人たちと一緒に?」

鞠莉「ええ」コクンッ


鞠莉「最初に会った時は敵同士だったし、私の計画を潰してくれた前世たちとの因縁もあったけど、あの子たち以上に追ってて面白いものはない」

鞠莉「だから私はあの子たちに肩入れするし、あの子たちの敵の敵にだってなる」

侑「…………」


鞠莉「ねぇ、高咲さん、貴女は面白い人? つまらない人?」

鞠莉「私の敵と味方……どっちなのかしら」

侑「……っ!」


侑「わ、私は……」ブルッ

侑(笑顔を見せてるはずの鞠莉さんに対し、何故か本能的に後ずさってしまう)

侑(どうしよう……出会ったばかりの鞠莉さんを信用しきるのは怖い、だけど機嫌を損ねると無事に下に着けるかわからない)

侑(正直に私が地上へ行きたい理由を話すべきか、穂乃果チームと敵対しない意思だけ伝えて何とか見逃してもらうべきか)

侑(ここは……>>258)

258名無しさん@転載は禁止:2020/10/10(土) 16:31:29 ID:hW2rhqq2
私は、どうしても確かめなくちゃいけない事があるんだと言う

259 ◆WsBxU38iK2:2020/10/11(日) 00:43:33 ID:BoziyBoA
侑(ここは……)

グッ

侑(うん、そうだよね)


侑(拳を握り、震える体を抑え、鞠莉さんの顔を正面から見据える)

侑(そう、やることが決まってるなら、何も迷う必要はないんだ)


侑「私、どうしても確かめなくちゃいけない事があるんです」

侑「他の人に話せばそこまですることじゃないって止められるような些細なことだし」

侑「私自身、確かめたところで何かが変わるとも、確かめた先に何かが生まれるとも思えない」

タンッ

侑「だけど! そうしたいと思ってしまったから! 私は止まれない!」

鞠莉「……ほう」


侑(人違いならそれでいい、取り越し苦労だったなって笑い話になるならそれでいい)

侑(だけど、今確かめることを諦めてしまったら、私はきっと後悔する)

侑(あの時、皆がスクールアイドルを辞めてバラバラになっていくのを見送った後のように……!)


侑「だから、神様だって使徒だって利用する、ラグナロクも関係ない」

侑「私はどんな手段を使っても地上に降りて、会いたい人に会いに行く!」



侑(どう……だろう)

侑(鞠莉さんは黙って話を聞いた後、しばらく間を開けて口を開く)


鞠莉「……ふ〜ん、ま、詳細は伏せてるようだけど大体事情は分かったわ」

侑「分かった……の?」

鞠莉「このご時世、認識改竄装置を作ってまで忍び込みたい場所なんて限られてるでしょ」

鞠莉「それにリスクを冒す理由が人に会いたいってのも気に入ったわ」


侑「は、はあ……」

侑(とりあえず敵対しないなら良かった)


鞠莉「高咲さん、下の名前は?」

侑「……侑です、高咲侑」


鞠莉「侑、貴女地上に降りた後の当てはあるの? 世界樹の地上側の出口がどこに繋がってるかは分かる?」

侑「それは……」

侑(正直なところ、具体的な策は用意できていない)


侑「このカードを使って人から聞き出して何とか……みたいな」

鞠莉「なるほど、要はいきあたりばったりってことね」

侑「はい」


鞠莉「だったら侑、私に付いてきたらいいわ」

侑「え?」

鞠莉「貴女に興味が出た、私が責任を持って貴女を目的の場所に送り届けてあげる」

侑「いや……その……」



鞠莉「ただしその分、私の野望にも協力してもらうけど」フフッ


侑「…………ええぇ?」



─────────────────

メインスタジアム
第二世界樹〜エレベーター

PM3:15〜PM3:45 反逆の焔編『11』了

260 ◆WsBxU38iK2:2020/10/11(日) 00:46:01 ID:BoziyBoA
というわけでここまで

インターバル時間の前半が終わり
次は後半へ

反逆の焔編『12』に続く
かもしれない

261 ◆WsBxU38iK2:2020/10/12(月) 00:28:02 ID:kFRjEdkM
反逆の焔編『12』

─────────────────
──第二世界樹・エレベーター


ウィーーーーーーンッ


侑「野望……?」

鞠莉「そう、とっておきの秘密の野望」

鞠莉「そのためには侑を私の隠れ家に招待しなきゃ」


侑「ま、待ってください! 私に寄り道してる時間は……」

鞠莉「大丈夫、何の当てもなく地上に着いてからの足を模索するよりきっと早いから」

鞠莉「ね?」

侑「ね? って言われてもなぁ」


ウィーーーーーーンッ


グゥンッ

侑「おわっ!」

侑(鞠莉さんと話に集中していると、降下を続けていた体が急に停止した)

侑(エレベーターが鞠莉さんの設定していた目的地に着いた……ってことで良いのかな)


鞠莉「さぁ、降りるからついてきて」

ウィーン

侑(見えないエレベーターの扉が自動で開き、鞠莉さんが光の中から出ていく)

侑(置き去りにされても行き場がないので、言われた通りに渋々付いていくしかない)

262 ◆WsBxU38iK2:2020/10/12(月) 00:28:13 ID:kFRjEdkM


侑「いや、だからですね」

スタスタ

侑「協力者が欲しいならわざわざ私じゃなくたって……鞠莉さんの元の仲間たちがいるんじゃないですか?」

鞠莉「そっちに頼めるなら私だってわざわざ部外者を巻き込んだりしないわよ」

鞠莉「リスクを抱えてでも得るメリットが大きいから侑に頼んだの」

侑「メリット……ですか」


鞠莉「そうよ」

スタスタ スタスタ


鞠莉「良い? まずこの情勢下で警備に怪しまれず自由に行動できるのがすごいことなのよ」

鞠莉「カリオペーのカードを持ってる貴女には実感できないだろうけど、かなりのチートなのよそれ」

鞠莉「天才の私だってエインヘリヤルやワルキューレの目を掻い潜って抜け出すのは至難の業だったし、拘束されてる仲間を助け出すなんて1人じゃムリムリ」


侑「使徒を作った人でも?」

鞠莉「本業は研究者だから、一応戦う術は心得てるけど……さすがに質と量を兼ね備えた神の軍隊相手には分が悪い」

鞠莉「だから手持ちの認識改竄装置1つを頼みの綱にして、世界樹の中の情報を集めていたってわけ」



鞠莉「……で、そこで出会ったのが貴女!」

鞠莉「私と同レベルの認識改竄アイテムを持っていて、更に北欧勢力ではない独自の目的を持った第三者」

鞠莉「シャイニーすぎる人材、これはスカウトしないわけには行かないでしょ」


侑「……でも、それでも1人が2人になっただけですよ?」

鞠莉「バカねぇ、1人と2人じゃできることが段違いなのよ」


タンッ

鞠莉「ほら、そんな話をしてたら着いたわよ」

侑「?」

鞠莉「ここが現在エインヘリヤルにもワルキューレにも見つかっていないセーフゾーン、私の隠れ家よ」

ガチャッ


キィーーーーーッ

侑「……っ!」

侑(通路の突き当り、鞠莉さんが木の壁に取り付けられた両開きの扉を押して開ける)

侑(その先には>>263)

263名無しさん@転載は禁止:2020/10/12(月) 22:05:21 ID:RDP.0THU
真ん中に何かの機械がある以外何もない部屋

264 ◆WsBxU38iK2:2020/10/13(火) 01:03:42 ID:POz2XcIk
侑(その先にあったのは真ん中に何かの機械がある以外何もない部屋だった)


侑「なんだか……殺風景な部屋ですね」

鞠莉「隠れ家を呑気に飾り付けてる時間がないのよ、ほら入って」

侑「お、お邪魔します」

タタッ

 
ウィーン ガシャンッ

侑(おお、自動で閉まるのか)


鞠莉「貴女も急いでるようだし、簡潔に2つのことを話すわね」

鞠莉「1つは私が今やってることについて、この装置がなんだか分かる?」

侑「いや……」

鞠莉「でしょうね」スタスタ

侑(首を傾げる私を置いて、鞠莉さんは足早に機械の前に歩いていく)


鞠莉「この装置は世界樹のシステムを管理できるコンソール……の予備の1つ」

侑「予備?」

鞠莉「そう、メインの管理ルームは占拠されちゃったけど、予め作っておいた予備のコンソールが世界樹には幾つかあるの」

鞠莉「もちろんエインヘリヤルたちもそれは予想していて、隠し部屋がないか片っ端から世界樹を捜索してる最中」

鞠莉「ここはまだ見つかってないから、幸運なことに邪魔が入らず作業ができるってわけ」

侑「なるほど」

265 ◆WsBxU38iK2:2020/10/13(火) 01:04:01 ID:POz2XcIk


鞠莉「……で、その作業がこれよ」

カタカタッ ピピッ

侑(鞠莉さんがコンソールを操作すると、無機質な壁にスクリーンが投影される)

侑(そこに映っているのは世界樹の立体マップと……なんだろう? 扉?)

侑(ぱっと見ただけでは私には何がなんだか分からない)


鞠莉「大きな扉みたいなものが世界樹の各所にあるのは分かる?」

侑「はい」コクンッ

鞠莉「だったらオーケー、この扉は普通の扉とは違って、世界樹から他の世界へ繋がる扉なのよ」

鞠莉「ほら、ここがさっき貴女が通ってきたアースガルズ行きの扉」

侑「ほう……」

侑(鞠莉さんが世界樹エレベーターの天辺近くを指すと、確かにそこに大きな扉があった)


鞠莉「実はこの扉、各世界に一対一で対応してるわけじゃなく、まだ世界樹側で未登録のものが幾つかあるの」

カタカタッ

鞠莉「私はその未登録扉を使って地上側に秘密の抜け道を作りたいと考えてる」

鞠莉「エインヘリヤルたちの知らない、警戒の薄い場所へ一気にワープできる抜け道よ」


鞠莉「登録先は1つじゃなく複数にするつもりだし、完成した暁には侑の望む場所へ繋げてあげてもいいわ」

侑「え、本当……!?」

鞠莉「もちろん」


鞠莉「ここまでが私の今の野望について、理解できた?」

侑「は、はい!」


鞠莉「よし、じゃあ2つ目の話に移るわね」

鞠莉「こっちも単純で、要は貴女に手伝ってもらう内容についての話」

侑「……!」


鞠莉「実はこの扉、仮に世界扉と呼称するけど、世界扉の登録はこの部屋だけじゃ完了できないの」

侑「そうなんですか?」

鞠莉「ええ、好き放題に世界扉の登録先を変えられるの防ぐためのシステムがあって――」

カタカタッ

鞠莉「私がこうやってコンソールから登録を行うと同時に、もう1人が扉の前で>>266する必要があるのよ」

266名無しさん@転載は禁止:2020/10/14(水) 00:57:30 ID:p.oHHBcM
決められたリズムで扉を開閉か恥ずかしいポーズを

267 ◆WsBxU38iK2:2020/10/15(木) 00:49:00 ID:zn13tmEk
鞠莉「決められたリズムで扉を開閉か恥ずかしいポーズをする必要があるのよ」

侑「待ってください、その二択で後者を選ぶ人いるんですか?」

鞠莉「そうねぇ、扉の開閉での登録が時間かかるのに対して恥ずかしいポーズは一瞬で終わるのが利点かしら」

鞠莉「スマホで言うとこのパスワードを打ち込むか顔認証するかみたいな違いだと思ってもらっていいわ」

侑「は、はあ……」


鞠莉「ま、どっちの方法を選んだところで扉の前での作業は必須」

鞠莉「扉までの道すがらに加え、万が一作業中に見つかっても怪しまれることは避けたい」

鞠莉「つまり自前の認識改竄能力を行使できる貴女が適任なのよ!」ビシッ

侑「……お、おぉ」


鞠莉「どう? 協力してくれる?」
  

侑「…………」

侑(協力……か)
 
侑(正直な話、鞠莉さんの言う通り、地上に出てから歩夢たちのいる飛行船まで潜り込む手段は思いついていない)

侑(もし鞠莉さんの支払う対価が本当で、私の好きな場所へ世界扉を繋げられるとしたら、飛行船へ一気に乗り込めるかもしれない)

侑(だとしたら、無策で挑むよりは手伝ってみる価値がある……か)

コクンッ


侑「……分かりました、その作戦に私も乗ります」

鞠莉「おぉー! そう言ってくれると思っていたわ」ブンブンッ

侑(鞠莉さんは、同意の証として差し出した私の手を両手で強く握りしめ、上下に大きく何度も振る)  

侑「わっ! あは、はははは」


鞠莉「じゃあ渡すものを渡しておくわね」
 
鞠莉「まずはこれ、私特製のスマホ型通信機」スッ

侑「スマホ型……本当に普通のスマートフォンに見えますけど、特別なものなんですか?」

鞠莉「前に使ってたMLINEって名前の念話通信ネットワークが普通にアースガルズ側に傍受されて解析されるようになっちゃったからね」

鞠莉「今度はソフトだけじゃなくてデバイスごと独自規格で製作してみたの、それが試作品2号ね」

侑「ほー、これが」マジマジ


鞠莉「以前とは違う念話周波数帯を使ってるから簡単に盗み聞きはされないと思う」

鞠莉「それと普通に他の電波を拾って聞いたり見たりもできるわ」

鞠莉「ほら、ちょうどラグナロクの中継映像とかだって――――」

ピッ ピッ 

ピピッ!

侑「おおっ!」

侑(鞠莉さんが私の手の中のスマホの画面を何度かタップすると、画面にメインスタジアムの映像が浮かび上がった)

『ワァァァァァァァァァ』


鞠莉「ほうほう、今は第一回戦を振り返ってるみたいね」

鞠莉「ダイジェスト映像を見るに一回戦は穂乃果チーム側の勝ちと、やるじゃない希」

侑「そうですね、神様に勝つなんて本当にすご…………ん? んん?」

鞠莉「侑? どうしたの固まって」


侑「い……いえ、その……ダル子ちゃんと一緒に話してる解説の人、知ってる人な気がして……」

鞠莉「三船って子よね、知り合いなの?」

侑「はい、三船さんとは虹ヶ咲――ああ、虹ヶ咲は今は休校になってる私の通ってる学校です」

侑「以前、そこで私はスクールアイドルのマネージャーみたいなことしてたんですけど、彼女とはその時に>>268

268名無しさん@転載は禁止:2020/10/18(日) 07:33:44 ID:f4e3IWzg
…あれ?スクールアイドル…?

269 ◆WsBxU38iK2:2020/10/19(月) 00:29:29 ID:LAWibdR6
侑「その時に……あれ? スクールアイドル……?」

侑「いや、その……あれ? おかしいな」

侑「な、なんで……」ワナワナ


鞠莉「侑? どうしたのよ、落ち着いて」

侑「はぁっ……はぁっ……」 

侑(鞠莉さんに優しく手を握られるけど、私の思考はこんがらがり、息はどんどん荒くなっていく) 

侑(なんで、どうして、こんなの今まで無かったのに……)

グッ

侑(……ダメだ、気をしっかり保たなきゃ)

侑(落ち着け、落ち着いて、深呼吸、とにかく深呼吸で――――)



侑「……すぅーー……はぁーー」


侑(大きく深呼吸し、なんとか気持ちを落ち着かせる)


侑「あの……鞠莉さん……」

鞠莉「なに?」

侑「スクールアイドルって、なにか分かります……?」


鞠莉「……!」


侑(やっぱり……か)

侑(振り絞るように口に出した弱々しい言葉)

侑(それに対する鞠莉さんの反応を見るに、私が“スクールアイドルとやら”を知らないのは相当におかしいことなのが分かる)


鞠莉「本当に分からないの?」

侑「はい、スクールアイドルだけじゃない、数秒前まで話していた内容が、語ろうとしていた想い出が、何もかも分からないんです」

侑「目を瞑れば情景は薄ぼんやりと浮かんでくるけど、まるで知らない土地の他人の想い出を覗いてるみたいで……」

侑「出てくる登場人物にも、彼女たちの行動にも、何もピンとくるものがない」

侑「自分でも異常なことだってのは感じてるんですが……その……」グッ



鞠莉「そう、じゃあ分かるものと分からないものを整理していきましょう」

侑「は、はい」

鞠莉「スクールアイドルは?」

侑「……分かりません」

鞠莉「三船さんは?」

侑「名前と顔は分かります、ただ私とどういう関係だったかまでは……」

鞠莉「虹ヶ咲はどう?」

侑「同じく、名前や校内のことは覚えてます、でも授業の内容やクラスメイトとの会話なんかは全く……」ブンブンッ


鞠莉「ふむふむ……じゃあ、貴女が地上に行って会いたがってる人については?」

侑「……っ!」

侑「あ、歩夢たちは覚えてますよ! 当然じゃないですか!!」

侑「当然……当然に決まって……」


侑(大丈夫、覚えてる、あの9人との想い出はまだ消えてはいない)

侑(けど……本当に? 本当に忘れない保証があるの……?)



鞠莉「なるほどねぇ」ウンウン

侑「何か……分かるんですか?」


鞠莉「貴女の記憶が消えていってるその症状、考えられる原因は……>>270

270名無しさん@転載は禁止:2020/10/20(火) 08:47:37 ID:0o72F68s
世界改変

271 ◆WsBxU38iK2:2020/10/21(水) 00:36:31 ID:H4UkPV9k
鞠莉「考えられる原因は……世界改変ね」

侑「世界改変……!?」


鞠莉「そうよ、私たちがいま存在しているこの世界は一度改変されているの」

鞠莉「本来あった過去の事象を捻じ曲げて、平行世界とも言える新しい事象が上書きされた世界線」

鞠莉「ねぇ……侑、もしかして貴女の中に残ってたスクールアイドルの記憶は、改変前の世界のものだったんじゃない?」

侑「な……っ!」


侑「待って、待ってください、いきなりそんなこと言われても……」

鞠莉「頭が追いつかない……でしょうね、正しい反応だわ」

鞠莉「だけどね、そう考えると腑に落ちることは多いの」


鞠莉「不自然な記憶の漂白、ただの女子高生だったはずの貴女がアースガルズにいる違和感」

侑「そ、それは……私はあれから色んな異能に関わる事件に巻き込まれて、運良く解決して、ダル子やアースガルズの神様たちと出会って――――」

鞠莉「魔王が行動を開始してから今に至るまでの短期間に? 一般人の貴女が? そんなマンガやアニメじゃあるまいし……」

侑「だって、本当に、実際そうだったんだから!」


鞠莉「……ええ、実際そうなんでしょうね」

侑「……え?」

鞠莉「だから、どっちも本当なのよ」

鞠莉「改変前の虹ヶ咲の生徒として普通に生活していた高咲侑、改変後の昔から異能の事件にやたら巻き込まれる謎の一般人の高咲侑」

鞠莉「どっちの過去も存在していて、貴女はどっちの記憶も覚えている」

鞠莉「2つの過去が混ざり合ってると考えると魔王による日本崩壊が始ってから今に至るまでの不自然な経験の多さと今の貴女のポジションについての説明がつく」

   

鞠莉「侑、貴女が覚えてるのはもう存在しない過去なのよ」

侑「存在しない……過去」   


侑(歩夢たちとの、あの忘れられない日々が、あの世界が、もう存在しない……?)

侑(そんな……バカなことが……)

ブンブンッ


侑「……い、いきなり言われたって信じられませんよ! 私には確かに記憶があるんですから!!」

侑「鞠莉さんに協力するとは言いましまけど、何もかも鵜呑みにできるわけじゃありません!」

グッ タタッ

侑(簡単にはいそうですかと納得はできない)

侑(動揺する表情を見せまいと、扉の方に振り返って鞠莉さんに背を向ける)


鞠莉「……でしょうね、なら当初の目的通り直接会って確かめてきなさい」

侑「……え?」

鞠莉「彼女たちが囚われてる船には貴女の想い人以外にも、私の仲間や共に戦った戦士が乗っている」

鞠莉「そこへ行けば私以外の人からの話だって聞けるし、この世界の真実を深く知れるわ」

鞠莉「色んな人の話を聞いて、貴女なりの答えを見出せばいい」

272 ◆WsBxU38iK2:2020/10/21(水) 00:36:42 ID:H4UkPV9k
トンッ

鞠莉「ほら、時間がないわよ、早く会いに行きたいんでしょ?」

侑「……は、はい!」  

タタタタッ

侑(鞠莉さんに背中を押され、私は勢いのまま隠れ家を飛び出していく)


鞠莉「まずはさっきのエレベーターまで行って最下層へ向かいなさい、乗れたらちゃんと通信機で連絡取るのよー!」

侑「はいっ!」

シュンッ


侑(扉が閉まったのを確認し、私は元来た道を小走りで引き返す)

タタタッ

侑(鞠莉さん……完全に信用はできない人だけど、歩夢たちのとこへ行けるのなら協力は惜しまない)

侑(余計なことは今は考えない、とにかく前へ)

侑(一刻も早く……地上へ!)

タンッ!








ピッ

鞠莉「……全く、私も輪をかけてひどい女ね、自画自賛しちゃうわ」

ピッ ピッ

鞠莉「世界改変の片棒を担いだ悪の研究者のくせに、さも他人事のように語った上、改変の記憶で混乱してる女の子を良いように利用してる」

鞠莉「お互いにメリットがある協定とは言え、一方的に騙してるのは変わらないし」

鞠莉「舞台を降りた程度で黒幕だった過去からは足を洗えないってわけか」

カタカタッ カタカタッ


鞠莉「ただ、侑は面白い子ね」

鞠莉「カリオペー、貴女が手を貸したくなっちゃった気持ちが何となく分かるわ」

鞠莉「舞台裏は随分退屈そうに思えたけど、あの子が掻き回してくれるなら中々面白いことになりそうかも……ふふっ」


『ワァァァァァァァァァ!!』

鞠莉「……っと、舞台のほうはそろそろ第二幕に進む頃ね」

ピッ

鞠莉(コンソールを操作し、サブモニターにメインスタジアムの映像を大きく表示する)


鞠莉「いくら黒幕が暗躍したって舞台上の主役が頑張らないと話は進まない」

鞠莉「期待してるから頑張りなさいよ――人類代表の戦士たち」




─────────────────

第二世界樹エレベーター〜隠れ家

3:45〜4:05 反逆の焔編『12』了

273 ◆WsBxU38iK2:2020/10/21(水) 00:37:20 ID:H4UkPV9k
というわけでここまで

インターバル終わり

反逆の焔編『13』に続く
かもしれない

274 ◆WsBxU38iK2:2020/10/22(木) 00:11:07 ID:y4ts6pBc
反逆の焔編『13』

─────────────────
──メインスタジアム・実況席

PM3:55


ワァァァァァァァァァ!!


ダル子「――――と、言うことで第一回戦は東條希の勝利で終わりました」

ダル子「映像と共に振り返って来ましたが初戦から白熱した対戦でしたね」

三船「ええ、そうですね」


三船「しかしヘイムダムが安定性に欠けた性能だったのは否めません」

三船「それを御し切った東條希の機転と実力は確かなものですが、暴走状態にならなければ勝者は変わっていたかもしれません」

ダル子「なるほど……では次の二回戦からが本番だと?」

三船「はい、次からは力を制御できる本物の神たちが立ちふさがります」

三船「ここでまた勝利を掴めるかどうかで穂乃果チームの真価が試されることになるでしょう」

ダル子「ほうほう、それは楽しみですね」



ダル子「二回戦の時間はこの後4時から」

ダル子「両チーム既に準備は終わり、二回戦の出場戦士のオーダーが実況席側にも上がってきています」

オォォォォォォォォォォォッ!!


ダル子(湧き上がる会場、早く次の対戦を始めろと言わんばかりだ)

ダル子(次は観客の熱気に負けず劣らす血の気の多い戦いになりそうで……どうなることやら)


ダル子「さて、特に無ければこのままインターバルのコーナーを終わりますが……」

チラッ

ダル子「三船さん、最後に何か一言ありますか?」

三船「そうですね……>>275

275名無しさん@転載は禁止:2020/10/23(金) 23:15:21 ID:db7Bz5bo
…準備は順調のようですね(小声)

276 ◆WsBxU38iK2:2020/10/25(日) 00:14:27 ID:r9j5SivI
三船「そうですね……ふふっ……準備は順調のようですね(小声)」

ダル子「……ん? 今なんと?」

三船「いえ、次の決戦も楽しみですねと言っただけですよ」


ダル子「なる……ほど?」

ダル子(小声で聞き取れなかったけど絶対そうは言ってない気がする)

ダル子(でもここで変に聞き返してたら進行が滞るし……一旦流してインターバルを締めておこう)



ダル子「ではインターバルは終了、二回戦の開始をお待ち下さい!」

ウオォォォォォォォォォォォ!!

ワァァァァァァァァァァァァァァ!!







──チームオーディンベンチ


ワァァァァァァァァァ!


フレイ(インターバルの終了を告げるアナウンス)

フレイ(振り返りの映像はよく編集されていて出来の良いものでしたが、肝心の実況と解説が少し噛み合ってませんでしたね)

フレイ(会話の中でちらほら見受けられたダル子の距離感を計りかねてるような態度)

フレイ(相手が使徒だから警戒してるのか、単に打ち合わせが足りないのか)

フレイ(全く……“使徒がこのラグナロクに関わることは何の問題もない”というのに、何を勘ぐっているのやら)


フレイ「はぁ……」

フレイ(次のインターバルまでに運営に改善するように要請しておきましょう)



ワァァァァァァァァァァァァァァ!!

フレイ(とは言え、あんな拙い実況解説でさえ一旦温まった会場の熱気は冷めやらない)

フレイ(むしろに二回戦が近づくにつれますますヒートアップしている様子)



フレイ(……そして、このチームオーディンのベンチにも1人、熱気に当てられ舞い上がってるアホな神が騒いでいた)


トール「良いねェ良いねェ! 盛り上がって来てんねェ!」

277 ◆WsBxU38iK2:2020/10/25(日) 00:15:10 ID:r9j5SivI
ガンッ!

トール「なぁフレイ! 祭りはこうでなくちゃなぁ!」

フレイ(パーマのかかった赤い髪、鋭い眼光を宿とした瞳、スーツ姿のトールはベンチの前の柵に片足を乗せたままこちらを振り向く)

フレイ(全く、今にも飛び出していきたい気持ちを全身から発露させてる子供のようですね)

フレイ(これでも良い歳したアースガルズを守護する神の一柱なのですが……)



フレイ「祭りではありません、これは戦争です」

フレイ「それとトール、まだ貴方を出すと決めたわけではありませんよ」

トール「えーーっ! なんでだよ!」

ガバッ!

フレイ(その言葉を聞いたトールは雷に打たれたような勢いで私に詰め寄ってくる)


フレイ「近い、近いですって」ググイッ

トール「なぁ! 出ていいだろ!? オレも戦いてぇよ!!」

フレイ「貴方の他にヴァーリも出たいと言っているのです、そちらの意見を無視することはできません」

トール「ヴァーリが……?」

フレイ「ええ」


スッ

ヴァーリ「…………」

フレイ(私が頷くと、ベンチの奥、日差しが届かす影になってる場所から、変わらずローブ姿のヴァーリが姿を現した)

フレイ(そのまま私たちの前まで歩いてくると、ピタリと止まって無言でトールの方を見上げた)


ヴァーリ「…………」ジーッ

トール「おう、なんだよ」 

フレイ「ヴァーリ、このバカが第二回戦に出たいと手を挙げています」

トール「バカ……? 誰のことだ?」キョロキョロ


フレイ「私としては貴方の意見を優先させたいと思ってるんですが……」

ヴァーリ「……ボク?」

フレイ「はい、貴方が決めてもらって構いません」

フレイ「この二回戦、自分が出るかトールが出るか、どちらにします?」



ヴァーリ「……え、えーと……だったら、>>278

278名無しさん@転載は禁止:2020/11/05(木) 00:18:33 ID:rLLSJjCk
もっと見ていたいからあとでいいよ

279 ◆WsBxU38iK2:2020/11/06(金) 00:59:10 ID:RBus8WXE
ヴァーリ「……だったら、あとでいいよ」

フレイ「後で?」

ヴァーリ「うん、もっとミていたいからあとでいいよ」コクンッ


フレイ「分かりました、では二回戦はあのバカに出てもらいましょう」

トール「あのバカ……ってオレのことか!?」バッ!

フレイ「今更気づいたんですか、うるさいし暑苦しいから早く行ってきてください」シッシッ

トール「はぁぁぁぁっ? ったくよォ!」

ダンッ! ヒュンッ!


フレイ(私が煙たがるジェスチャーをすると、トールは苛つきながらベンチの策を飛び越え闘技場へと歩いていく)

フレイ(荒々しく髪を掻きむしりながらも、その目は真っ直ぐ戦いの場を見据えている)


フレイ「トール、やるからには勝ってくださいよ」

トール「……当たり前だ、誰に言ってやがる」

フレイ(背中に投げかけた私の言葉に、トールは振り向かず一度だけ片手を挙げて答えた)


ザッ

トール「さぁ出てこい、オレが相手になってやるよ、人間共!」









──チーム穂乃果ベンチ



ことり「うわぁ……なんか荒れてるね」

海未「ええ、ですがオーダー順はこちらの読み通りです」


海未(闘技場を挟んだ向こう、オーディンチームのベンチから出てきたのはトール)

海未(オーディンチームで唯一ローブを羽織っていないため、遠目からでも一発で区別がつく)

海未(雲のようにうねる赤髪、ビシッと決まったスーツ、そしてトールの放つ荒々しい闘気までもがこちらのベンチまで伝わってくる)

海未(決戦を前に昂ぶっているのか、何か気に食わないことがあったのか)

海未(その心中を計り知ることはできませんが……トールが油断できない相手であることに変わりはありません)


海未「にこ、行けますか?」

にこ「勿論よ、誰に言ってるの」

グイッ

海未(トールの出場を読んでこちらの次鋒はにこ)

海未(希の時と同様、あらゆる環境のスタジアムを想定してアイテムを詰め込んだリュックを背負っている)


心ノ穂乃果「……よし、準備はこんなとこで大丈夫かな」パンパンッ

にこ「心配し過ぎよ、遠足前の母親じゃないんだから、リュックがパンパンになってるじゃない」

心ノ穂乃果「えへへ」


心ノ穂乃果「それにしても……その>>280も持っていくんだね」

にこ「ええ、前々からトールと戦う気ではいたからね」

にこ「これはトールを相手取る上で必要なものになるはずよ」

280名無しさん@転載は禁止:2020/11/06(金) 08:18:12 ID:e0cmZ3/A
菓子折り

281 ◆WsBxU38iK2:2020/11/07(土) 00:40:12 ID:PAQTtGj.
心ノ穂乃果「……なるほど?」

にこ「そ、どんな状況だって“手土産”は忘れちゃいけないの」      

海未(にこはそう言うと菓子折りの入った紙袋の紐に手をかけ持ち上げる)


にこ「それじゃ行ってくるわね」

にこ「穂乃果、ことり、海未、それから……希」

海未(にこは私たち1人1人の目を順番に見た後、ベンチで横になっている希の近くに寄ってかがみ込む)


海未(本来、治療ルームのベッドで安静にしておかなければいけないはずの希がベンチにいるのは希たっての希望だ)

海未(近くで皆と応援したいという希の思いを汲み、インターバルの間に簡単な検査だけ済ませて戻ってきた)

海未(症状が生命エネルギーの消耗であって、場所がどこであれ休養さえしていれば回復に向かうというのも医療スタッフに許可された要因だろう)

海未(まぁ、それでも体調が大幅に崩れる様子があれば治療ルームに連れ戻される約束ではあるのですが)



希「ああ……にこちゃん、がんばってな」

海未(まだ生命エネルギーが回復しておらず、弱々しく差し出す希の手をにこが力強く握り返す)

にこ「もちろんよ」ギュッ

にこ「希が懸念材料だったヘイムダムを倒してくれたし、あとはポンポンと連勝してラグナロクを終わらせるだけ」

にこ「このにこにーに任せておきなさいって」

希「うんっ」



クルッ

にこ「はっ!」タンッ!

海未(頷いた希に笑顔で頷き返すと、にこはベンチから飛び出していく)

スタンッ


海未(闘技場を見ると既にトールは到着していて、にこが出てくるのを待っている様子)

海未(そこへにこが歩いていくと、メインスタジアム全体にダル子のアナウンスが鳴り響く)

キィーーンッ


ダル子『会場の皆さん、お待たせしました! 両チームの戦士が出揃ったようなのでこれより第2回戦を始めます!』

ウオォォォォォォォォォォォ! ワァァァァァァァァァ!!
 

ダル子『チーム穂乃果からは矢澤にこ! リボンとツインテールが特徴の宇宙No.1アイドル!』

ダル子『それを迎え撃つチームオーディンからは雷神トール! レクリエーションで垣間見えた雷神の本気が見れるのでしょうか!』


ダル子『そして! この2名が戦うフィールドはーーーーーー』

ドゥルルルルルルルルルルルッ

ダダンッ!

ダル子『>>282スタジアムです!!』

282名無しさん@転載は禁止:2020/11/07(土) 18:40:06 ID:CQbx8thc
マナー講師監修の

283 ◆WsBxU38iK2:2020/11/08(日) 01:08:55 ID:K5AVKKVs
ダル子『マナー講師監修のスタジアムです!』

ワァァァァァァァァァァァァァ!!!!


海未(ダル子の発表と共に上空の巨大モニターにスタジアム名が大きく表示される)


海未「マナー講師監修……ですか」

心ノ穂乃果「一回戦の宇宙スタジアムみたいに名前からじゃどんなスタジアムなのか分からないね」

海未「はい、しかし宇宙スタジアムは周囲の環境をある程度予想できるものでした」

海未「今度は監修者の名前だけで構造や環境、ギミックといった全ての要素が不明瞭です」

ことり「マナーかぁ、うーん……難しいなぁ」


海未「まぁ、とはいえ代表者を送り出した今の私たちにできることは限られてますし」

海未「今は全力でにこを応援しましょう」グッ

ことり「うん、そうだね!」

心ノ穂乃果「がんばれー! にこちゃーん!」



ダル子『さぁ! 観客席、各チームのベンチからの声援を受け、今二人の戦士が闘技場の上に立っています!』

ダル子『お二方、準備ができ次第、目の前の転送陣に乗っていただき……はい、ありがとうございます!』


ダル子『では転送開始まで5! 4!』

キュィィィィィィィィィィンッ!!


海未(にこ、トール、2人の足元で輝く転送陣の光が高く伸びて行き、光の柱となって体を包み込む)


ダル子『3!』


ダル子『2!』


ダル子『1!』


キュィィィィィィィィィィンッ!!!!


ダル子『それではラグナロク第二回戦、矢澤にこvsトール! 開始です!!』


─────────────────

メインスタジアム

PM3:55〜4:05 反逆の焔編『13』了

284 ◆WsBxU38iK2:2020/11/08(日) 01:09:23 ID:K5AVKKVs
というわけでここまで

二回戦の始まり

反逆の焔編『14』に続く
かもしれない

285 ◆WsBxU38iK2:2020/11/09(月) 02:44:07 ID:eApRAEk.
反逆の焔編『14』

─────────────────
──メインスタジアム

PM4:04


ザッ

にこ(闘技場へ上がると既に待ち構えていたトールがこちらを見る)


トール「はっ……遅えじゃねえか、ビビって逃げたのかと思ったぜ」

にこ「レディーのお出かけには時間がかかるの、黙って待つくらいの甲斐性は見せてちょうだい」

トール「はっはっは、レディーとは笑わせる、この雷神を前にしてビビらねぇやつが只の小娘なわけがねぇだろうが」

にこ「…………ふんっ」


にこ(トールは大袈裟な身振りで威圧的に振る舞う、けれど今まで相手取ってきた化物連中に比べれば大したオーラは感じない)

にこ(むしろ、あまりに力を感じなさすぎて不気味に思えるくらいだ)

にこ(この頭の悪そうな振る舞いの裏に海未とのレクリエーションで見せた力の片鱗が潜んでる)

にこ(お遊びであれなら本気を出せばどれほどのものなのか……)


ダル子『さぁ! 観客席、各チームのベンチからの声援を受け、今二人の戦士が闘技場の上に立っています!』

ダル子『お二方、準備ができ次第、目の前の転送陣に乗っていただき……』


トール「よっと」タンッ

にこ「……」スタスタ

ダル子『はい、ありがとうございます!』


にこ(更に戦いの舞台はマナー講師監修のスタジアムというよく分からないスタジアムらしい)

にこ(そんな場所でトールを相手取るなんて……事前に準備した作戦がどこまで通じるにかかってるわね)

ギュッ


ダル子『では転送まで、5! 4!』

キュィィィィィィィィィィンッ!!

ダル子『3! 2! 1!』


ダル子『それではラグナロク第二回戦、矢澤にこvsトール! 開始です!!』

バシュンッ!!!!


にこ「…………っ!」


フワッ

にこ(ダル子の掛け声と共に私の体を光の柱が包む)

にこ(その直後に感じる僅かな浮遊感と明滅する視界)

にこ(足元の石の闘技場の感触や、スタジアムに響いていた歓声がスッと消失する)


にこ(そして再び光の柱が消え去り、足元に確かな感触が戻ってくると……)


スタンッ

にこ(私の体は周りが>>286な場所へと降り立っていた)

286名無しさん@転載は禁止:2020/11/09(月) 06:18:52 ID:X1rlQ3VU
いつぞやの魔女の結界のようなおかし

287 ◆WsBxU38iK2:2020/11/10(火) 01:19:04 ID:g4qvgZ6.
にこ(いつぞやの魔女の結界のようなおかしな場所へと降り立っていた)


にこ「ここは……」

にこ(足元にあるのは転送前と変わらない石の床)

にこ(違うのはただ一つ、転送前は限られた面積だった円形闘技場の床が遥か地平線の彼方まで続いていること)

にこ(障害物が一切ない、延々と続く無味の地平)

にこ(見上げれば昼とも夜とも判別の付かない濁った色の空が広がっている)


にこ「はぁ……また奇妙なとこに飛ばされたわねぇ」


にこ(メインスタジアムとも、宇宙スタジアムとも違う、スタジアムと定義するべきかさえ疑わしい空間)

にこ(そんな中、私の魔術師としての勘はあることを察知していた)


にこ「……やっぱりこれ、結界に似てる」

にこ(漂う空気感が明らかに自然のものではない)

にこ(“元々おかしい空間”にスタジアムを建造したのではなく、建造されたスタジアムをいじって“意図的におかしい空間”を創り出してる)

にこ(ここらへんの違いは微妙だし、判断の理由は私の肌感という他ないけど、とにかくこの空間は鼻につく)

にこ(まるで前に対峙した魔女の結界の中のような不快さだ)



にこ(ワルプルギス――あの魔女も中々に厄介な相手だった)

にこ(あの時の結界は私の心象風景の鏡写しみたいな感じだったけど、ここはどんな結界なのか)

にこ(独自のルールや縛りがあるとしたらそれを解明しないことには――――)


トール「――おい! おーい!」


にこ(しないことには――――)


トール「おいテメェ! 聞いてんのか!!」


にこ「……はぁ」

にこ(考えなかったわけじゃない、後回しにしていただけだ)

にこ(地形が平面で障害物がないということは、当然ながらどれだけ距離があろうがお互いの位置は丸わかりなわけで)

にこ(私を見つけたトールが爆速でこちらへ走ってきてるのくらい数十秒前から知ってるわけで…………)

288 ◆WsBxU38iK2:2020/11/10(火) 01:19:17 ID:g4qvgZ6.
にこ「全くもう! 少しくらい慎重に考える時間作らせなさいよ」

バッ バッ

にこ「トレース・オン!」

ブォンッ!

にこ(開いた両手それぞれに短剣を投影して構える)


にこ(さっきまで地平線の彼方で砂粒程度の大きさだったトールは、もう目と鼻のさきまで迫っている)

にこ(明らかに二足歩行生物が走って出していい速度を超えている、伊達に神様はやってないってわけか)


トール「うおぉぉおおおおおおおおおおっ!!」

にこ「ああもう、こうなったらなるように――――」


ピピーーーーーーーッ!!

トール「あ?」

にこ「お?」


ビタンッ!!!!

トール「……っ!?」

にこ(文字通りの猪突猛進で殴りかかろうとしてきたトール)

にこ(その拳をどう2本の短剣でいなすかタイミングを測ろうとした瞬間、トールの体が空中でピタリと止まった)


トール「……んだ、これはっ! 動けねぇ……!!」ギリギリッ

にこ「……え?」


にこ(空中で停止したまま叫ぶトール、短剣を構えたまま困惑する私) 

にこ(どうすればいいか決めかねていると、そこへ聞き覚えのない第三者の声がかけられた)


??「ダメマナー、ノットマナー、マナーのなってない攻撃マナー」

にこ「……!」

にこ(私とトールの間、さっきまで何もなかった空間に謎の生物が立っていた)

にこ(その姿は厚紙や布の細かい切れ端とほつれた糸を組み合わせて辛うじて人を象った出来の悪い工作ようなもの)

にこ(喋ってはいるけど目や口はなく、生物かどうかすら定かではない)


にこ(さっき魔女の結界を連想したせいか、結界の中の使い魔に似た印象を受けてしまう)


にこ「あなた……いったい……」

マナー「マナーの名はマナー、マナーの調律者にして、このバトルマナースタジアムの監修者」

マナー「さらに言えばマナーバトルにおいての管理者でもある故、両者よろしく頼むマナー」


トール「テメェか……オレを止めたのは……」ギリギリッ

マナー「このマナーバトルスタジアムにおいてマナーのなってない攻撃は通らないマナー」

マナー「さらにマナーを無視した者にはペナルティとして>>289

289名無しさん@転載は禁止:2020/11/14(土) 08:33:43 ID:lgQBfDzE
減点

290 ◆WsBxU38iK2:2020/11/15(日) 00:15:05 ID:ByP1vqIY
マナー「さらにマナーを無視した者にはペナルティとして減点処置がされるマナー」

マナー「ほい減点っ!」ビシッ

にこ(マナーが毛糸をより合わせて作ったような手でトールを指差すと、トールの頭上に数字の羅列が現れた)

にこ(数字は全部で3桁、左から1、0、0の順番)

にこ(何かで固定されてるわけではなく、本当に数字だけが空中に浮かんでいる状態だ)


にこ(その3つの数字がそれぞれパタパタと捲れるように音を立て回転し、別の数字へと切り替わっていく)

カタカタカタッ シュシュンッ

トート「ぐっ……!」

にこ(それと対応するように僅かに漏れるトールのうめき声)

カチンッ!

にこ(そうして数字の入れ替わりが止まると、3つの数字は0、9、5となっていた)


にこ(100から95、元々の持ち点が100で5点の減点を食らった……ってとこかしらね)

にこ(問題は減らされるとどうなるか、最終的に0になるとどうなるかだけど……)


トール「……おいテメェ、今の感覚は」

マナー「ええ、減点はそのまま肉体的精神的なダメージとなって現れるマナー」

マナー「そして点数が0になると強制敗北、それがこのスタジアムのルール! つまりマナー!」デデーン



にこ「マナーねぇ……」

トール「ったく、厄介なルールを押し付けやがって」


にこ(最初に感じた魔女の結界に似た気配……あれはこの空間、スタジアムに付与された術式によるものだったわけか)

にこ(減点の連続で即敗北になりかねないルール、癪だけどトールが嫌がる気持ちも分かる)


にこ「マナー、それで攻撃する時はどうするのが正解なの?」

マナー「お?」

にこ「あなたマナー講師なんでしょ、だったら教えるとこまで含めてこのスタジアムの仕掛けなんじゃない」

マナー「おお、おーおー、そうですマナー、講師なので特別に最初の1つは教えるマナー」 

にこ「助かるわ」


にこ(特別、最初の1つという点が気になるけど、タダで聞けるものを聞いといて損はない)

にこ(あくまで警戒は解かず、双剣を構えたままマナーの言葉に耳を傾ける)



マナー「良いかマナー? 相手に攻撃をする前は>>291するのがバトルマナーの基本中の基本だマナー」

291名無しさん@転載は禁止:2020/11/17(火) 00:39:23 ID:RZsZNX1k
挨拶

292 ◆WsBxU38iK2:2020/11/18(水) 00:21:13 ID:BiviiPjw
マナー「挨拶をするのがバトルマナーの基本中の基本だマナー」


にこ「挨拶……」

トール「はっ、そいつは随分と礼儀正しいことで、結構結構」


マナー「では一時停止を解除、戦闘を再開するマナー」

マナー「この先はマナー違反があっても警告なしにダメージが入るから注意するマナー」

マナー「それじゃあバトルマナーを守って楽しくバトル! 開始!」

バシュッ!!

にこ「……っ!」


にこ(マナーは両腕らしき布を体の前でクロスさせ消失する)

にこ(それと同時に停止していた空気が、空中で固まっていたトールが動き出した)

スタッ


トール「ふぅ……やっと降りれたぜ、それにしてもマナーか、なるほどねぇ」

トール「厄介なルールを押し付けられたことに変わりはねぇが、つまりは正々堂々戦えば良いんだろう?」

ザッ!

トール「オレの名はトール! 雷神トール! オーディンチームの二番槍!」

トール「人間、お前を倒すのはこのオレだ!」ビシッ!


トール「行くぜ行くぜ行くぜぇ!」

バリィィィィィィッ!!!!

にこ(振りかぶったトールの拳が帯電し青白い閃光を放つ)


にこ「……!」

にこ(このスタジアムの大まかなルールは把握した)

にこ(問題はどういった行為がマナー違反に認定されるのかということ)


にこ(例えば、この場面で私が取れる行動を考えよう)

にこ(攻撃宣言をしたトールの一撃に対して取れる行動は、反撃するか、防御するか、避けるか、逃げるか、といったところ)

グッ

にこ(『挨拶して攻撃』の例やトールの言動を見るに、正々堂々と戦うのがバトルマナーなら、避けるや逃げるなど弱腰になるのはダメ……?)

にこ(もし回避行動を選んでマナー違反に抵触した場合、いきなりダメージを受けて回避自体が失敗するリスクがある)


にこ(……だったら、こちらも反撃するまで!)

バッ!


にこ「チーム穂乃果、矢澤にこ! その勝負受けて立つ!」

シュィンッ!

にこ(手持ちの武器を汎用性のある短剣から対トールを想定した武器へ切り替える)   


にこ「はっ!」

にこ(神を目の前にして少し気圧されたけど、こっちだって入念に修行と準備はしてきたのよ)

にこ(トール、アンタのために用意してきた武器、>>293の威力をとくと味わいなさい!)

293名無しさん@転載は禁止:2020/11/18(水) 09:08:17 ID:xUiIqKUs
AK-47

294 ◆WsBxU38iK2:2020/11/19(木) 02:22:40 ID:EuDRhr3A
にこ(AK-47の威力をとくと味わいなさい!)

ジャキッ!

ダダダダダダダダダダダダダッ!!


トール「おお?」

にこ(両手で銃を構え、突っ込んでくるトールに対して引き金を引く)

にこ(銃の扱いに慣れてなんかないけど、流石にこの距離なら外すことはない)

にこ(僅かに銃身が跳ね上がるもののフルオートでばら撒かれた銃弾の多くがトールの腹部から胸にかけて着弾する)

ドシュシュシュシュッ!!


にこ(だけど……)

トール「……はっ!」ニヤリ


トール「効くかよ! そんな豆鉄砲!!」

にこ(AK-47から放たれた弾丸は確かに着弾してトールのスーツに風穴を開けてはいる)

にこ(だけどそれだけ、出血もなければ怯む様子もない、本体であるトールに有効打を与えられていない)


トール「いいか? 攻撃ってのはこうやるんだよ!!」

ゴッ!!!!

にこ(間近まで迫る雷の拳)

にこ(遅れてくる爆音が、この拳に空気を引き裂くほどのエネルギーが集中されていることを証明する)

にこ(頭に喰らえばひとたまりもなく私の頭蓋は吹き飛ぶ)


にこ(だからこそ、その拳に対して――――)


パッ

にこ(私は両手を離し、抱えていたAK-47を地面へ落とす)



にこ「……ま、そこはまだ想定内ってわけよ」

にこ(当然ながら諦めたわけじゃない)

にこ(私は銃から離した両手を素早く顔の正面に持ってきて1つの印を結ぶ)

スッ


にこ「アンタに撃ち込んだ銃弾、あれは単なる鉛の塊なんかじゃあない」

にこ「魔術師がわざわざ銃を取り出す意味、よく考えてみるといいわ」


にこ(そう、撃ち込んだのは布石、術式を構成するための楔)

にこ(トールの体に埋め込まれた楔を元に、私は>>295の術式を発動させる!)

295名無しさん@転載は禁止:2020/11/20(金) 00:43:12 ID:0ihLtywE
裂傷

296 ◆WsBxU38iK2:2020/11/21(土) 01:10:30 ID:1yKyvsqU
にこ(トールの体に打ち込まれた楔を元に、私は裂傷の術式を発動させる!)


にこ「極小結界――烈風空域!」

キュインッ キュインッ キュインッ


にこ(トールに打ち込まれた弾丸の1つから別の弾丸へ直線的につながる光の線)

にこ(弾丸の数だけ増えるその光の線は体全体に広がり、トールを縛るかのように立体的で複雑な軌道を描く)

にこ(そして、トールの体に生まれる無数の裂傷!)

カッ

ザシュルルルルルルッ!! バシュッ!!!!

にこ(その傷の大きさは小さいもので10cm、大きいもので1mほど)

にこ(トールの体のあらゆる箇所からは勢いよく血しぶきが上がる)


トール「がはっ……!」

にこ(よし……成功した!)


ブォン!!!! ゴッ!!

にこ(直後に振り抜かれるトールの拳)

にこ(しかし予期せぬ攻撃と傷の痛みに動揺したのか、拳を私の頭の横をすり抜け通り過ぎていった)



トール「ぐっ……ぶはっ! はぁ……はぁ……」ガクッ

にこ(背後で血を吐きながら片膝をつくトール)

にこ(私はとりあえず距離を取って、再びAKを手元に投影、銃口をトールに向けて警戒を続ける)


トール「なんだこれ……実体のない裂傷、風の刃か……?」

トール「それにしたって一体どこから、何も見えなかったぞ……」



にこ「ふふっ、混乱してるみたいね、良いわ、だったらこのまま――」

ドクンッ!

にこ「……うぐっ!」

にこ(しめしめ、そう思った瞬間、心臓が締め付けられるような痛みが走った)

にこ(続いて頭の上でパタパタと何かが切り替わる感覚)


にこ「まさか!」バッ

にこ(事態を察して頭上を見ると、そこに表示されてる数字が100から95に減っている)

にこ(まさか……これもマナー違反なの? 相手に手の内を知らせないまま攻撃を続けたらダメってこと!?)

にこ「……っ!」

グッ

297 ◆WsBxU38iK2:2020/11/21(土) 01:10:41 ID:1yKyvsqU
にこ「……はぁ、仕方ないわね」

にこ「トール、アンタが負った傷は外部からの攻撃じゃない、内部からの攻撃よ」


トール「あ? わざわざ教えるのか?」

にこ「マナー違反らしいからね、開示せずに攻撃し続けると私が判定負けするのよ」

トール「はっ……そりゃありがてぇ」


にこ「アンタと戦うことを想定した場合、外部からの物理的な攻撃や術式による攻撃は十中八九通じないだろうと思った、前提としてスペックが違いすぎるのよ」

にこ「だから私が考えたのは内側からの攻撃」

にこ「このスタジアムを覆うマナーの結界や私の固有結界よりもっと小さい、人1人分をちょうど覆うくらいの濃縮された極小結界」

にこ「それをアンタとぴったり重ねて体の内部から術式を発動させればさすがのアンタもダメージを負うと考えたわけ」


トール「……なるほどねぇ、この無数の風の刃はオレの中で生まれて外に向かって体を切り裂いて出てったわけか、随分エグいこと考えるじゃねえか」

にこ「でも効果はてきめんだったでしょ?

トール「ああ」


トール「ああ……そうだな、オレがただの人間だったら危なかったかもな」

ポタ ポタ ポタ

にこ(トールのスーツは血に染まり、端から垂れた血が地面に血溜まりを作っている)

にこ(それでもトールは苦痛に顔を歪めることはなく、むしろ自分がダメージを受けたことに高揚しているようだった)


トール「良いねェ、良いねェ、戦いってのは、喧嘩ってのはこうじゃなきゃ」

トール「刺激的なプレゼントをもらった礼だ、オレもとっておきのやつ、>>298を見せてやるよ!」

298名無しさん@転載は禁止:2020/11/21(土) 08:03:45 ID:n/94zHCc
ミョルニル

299 ◆WsBxU38iK2:2020/11/22(日) 00:18:47 ID:IzXZ.Ywk
トール「ミョルニルを見せてやるよ!」

ゴッ!!!!


にこ「……っ!」

にこ(来る、と肌で分かった)

にこ(トールを取り囲む空気の質が変化する)


にこ「こうなったら対策できるだけ対策するわよ! 極小結界を複数展開するために起点となる弾丸をばら撒くから!」バッ!

にこ(マナー減点をくらわないように説明を交え、抱えたAKから周囲の床に弾丸をばら撒いていく)

にこ(装填されている弾丸は私の魔力を込めた特製の弾丸)

にこ(予め弾丸をばら撒いておけば、周囲のあらゆる場所を起点にして私の魔術を行使できる)

にこ(ツインテの風魔術と固有結界を組み合わせた術式、烈風空域もその対象だ)


ダダダダダダダダダダダダダッ!

ダダダダダダダダダダダダダンッ!!


にこ「これで私は周囲の空間にばら撒かれた弾と弾の間に自由に風の術式を放てるわ!」


トール「結構結構、じゃあこっちも召喚するぜ」パチンッ

トール「来やがれ――トール」

ピカッ!

ゴロロロロロロロッ! バリィィィィィィッ!!


にこ「……っ!」

にこ(いつの間にか上空を覆っていた黒雲から落ちる一筋の雷)

にこ(落雷の破壊の跡が残る地面が熱された蝋細工のようにうねり隆起すると、そのまま円柱状に高さを増していく)

にこ(そして円柱がトールが横に広げた手の高さに到達すると隆起はピタリと止まった)

シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ

にこ(隆起が止まると、今度は地面と繋がってる部分から段々と円柱の表面がヒビで覆われて行き――――)

バキバキバキバキッ!

にこ(ヒビが全体を覆い尽くした次の瞬間には、円柱は跡形もなく砕け散った)

バリィィィィィィンッ!!


にこ(その中から現れたのは一振りの鎚)

にこ(トールハンマーと名高い多くの巨人を葬ってきた戦鎚――ミョルニル)



トール「……すぅーー」

ガシッ

トール「行くぜっ!!」

ダンッ!!

にこ(ミョルニルの柄を握った瞬間、トールの瞳に赤い眼光が宿る)

にこ(体の内側から引き裂かれる痛みに戸惑っていたやつと同じとは思えない)

にこ(今のトールは紛れもない荒ぶる戦士だっ)


ブフォァァァァァァァァァァッ!!

にこ「くっ……!」

にこ(ミョルニルを引き抜き軽く担いだだけで感じる風圧と威圧、やはり神器はとんでもないわね……)


トール「オレの攻撃は至って単純、こいつで殴って殴って殴り倒す!」

ダンッ

トール「さらにもう1つ教えておく、ミョルニルには使い方に応じた複数の形態があるんだぜ」

トール「力任せにぶん殴るための形態、海未の時に見せた素早く移動するための形態」

ガッ!

トール「そんでもって今のこいつは>>300

300名無しさん@転載は禁止:2020/11/22(日) 12:17:05 ID:K28b55.M
蘇生特化

301 ◆WsBxU38iK2:2020/11/23(月) 00:30:12 ID:hBzTseNo
トール「そんでもって今のこいつは――蘇生特化だ!」

ゴッ!!!!

バラララッ!!


にこ(ミョルニルが勢いよく叩きつけられ、砕かれた床の破片が宙を舞う)

にこ(その破片と同時に、破壊の後から緑色の粒子が舞い上がり、トールの体を包みこんだ)

シュウウゥゥゥゥゥゥゥ

にこ「なっ……さっきの傷が……!」


トール「言っただろ、蘇生特化だって!」ゴッ!

バラララッ!

トール「こいつは破壊すればするだけ使い手の傷を癒やし回復させる」

トール「テメーにつけられた傷だってこの通り! だ!」

シュン! シュン!


にこ(トールの言う通り、攻撃するたびトールの体についていた裂傷が回復していく)

にこ(烈風空域で切り裂かれた肉体が、溢れ滲んでいた血が、元に戻っていく)


にこ「脳筋なのに回復まで使えるなんて……ちょっと反則じゃないの!?」

バッ!

にこ「……っ! 烈風空域複数展開! とにかく斬って斬って斬りまくる!」


にこ(ミョルニルを振り回しながら接近してくるトール)

にこ(それに対して再び烈風空域を発動、加えて予め地面に打ち込んでいた弾を起点に風の刃を発生させる)

シュルルルルルルッ!

にこ(トールの肉体を内から切り裂き、地面から発生させた風の刃をトールの死角から複数打ち込む)


トール「はっ! そんなものは効かねえよ!」バッ!

キインッ!

にこ(しっかり弾く……ってわけね)

トール「さらに体の内からの傷はミョルニルで回復!」キュイン!


にこ「くっ……!」

シュルルッ! シュンッ! ザシュッ! ガッ! キィンッ!

にこ(ダメね、回復速度が速すぎる)

にこ(常時連発させてる体内の烈風空域は回復で相殺)

にこ(やつの着地の瞬間、ハンマー振り下ろした瞬間、やつの動きの隙に合わせて設置型トラップのように起動させる風の刃は当たらなくもないけど……)

キュイン!

にこ(当たったとてかすり傷程度、そしてその程度の傷はすぐに治癒される)


タンッ

にこ(とりあえず後退しながら弾を設置し続けてはいるけど、このままじゃ張り合ってたら私の魔力が尽きるのがオチ)

にこ(何よりこんな地平の彼方まで開けたフィールドで後手後手に回ってたら勝機なんて物は訪れない)

にこ「……っ!」


にこ(考えろ、考えなきゃ)

にこ(背負ったリュックに入ってるものは、簡易的なサバイバル用具一式、非常時の食料一式、神沈めの水のボトル、あと菓子折り)

にこ(使える異能は固有結界、今まで使った宝具や武器の投影、風の魔術、空間転移の焔の力)

にこ(やつが現状押してるのは回復ソースの存在、つまりはミョルニル、あれを一瞬でも手放させることができれば有利になるかしら……?)


ザッ

にこ「……そうね、ここは>>302

302名無しさん@転載は禁止:2020/11/25(水) 13:49:58 ID:cKFWjrQE
菓子折り渡さなきゃ

303 ◆WsBxU38iK2:2020/11/26(木) 00:25:13 ID:u80xjhu2
にこ「ここはぜひ菓子折りを渡して受け取ってもらわなきゃ!」

サッ!

バンバンッ!!

にこ(突進してくるトールに合わせて地面に新たな弾丸を打ち込み、上方向へ噴射される風の刃を発生させる)

にこ(狙うのはミョルニルを持ったトールの右手首付近!)


シュルルルッ!!

トール「っと……また同じ手か? 魔術師にしては芸がねえなぁ!」サッ!

にこ(トールは直前でミョルニルを振り下ろす軌道を変えて、自らの手首を刈るように下から飛んできた風の刃を避ける)

にこ(だけど構わない、今のは避けるとこまで織り込み済みの攻撃)

にこ(全てはトールのテンポを狂わせて一瞬の隙を作るため)


にこ「そう! 菓子折りを取り出して渡すための隙をね!」バッ!!

にこ(AK-47を手放し、リュックから素早く菓子折りの袋を取り出す)


トール「ああ? 何だそりゃ、またかの罠を仕掛けてやがるのか?」

にこ「お生憎様、これは正真正銘のただの菓子折り、だから私に説明義務なないしマナー違反にもならない」

にこ「私はただこれを……手土産として渡すだけ!」

タンッ!!

にこ(敢えて踏み込む、トールの間合いの内側へ)

にこ(そして両手で丁寧に、菓子折りをトールの眼前へと突き出す!)


サッ!

にこ「どうぞ、心ばかりのものですが」ニコッ 

トール「…………は?」

にこ(差し出された紙袋にトールの思考が停止するのが分かった)


にこ(普通の戦闘なら武器を手放して菓子を渡すなんて愚の骨頂)

にこ(だけどここはマナーバトルスタジアム、戦闘の常識なんて通用しない)


にこ(加えてトールは知る由もないだろう)

にこ(学校、職場、初対面の相手、あらゆる場所で手土産を渡す慣習など、高位の神として君臨してきたトールとは縁遠いもの)

にこ(だから硬直する、私の行動に対してどう対処するべきなのか、それが分からず硬直する)

にこ(ミョルニルを握ったまま、菓子折りを見つめるその数秒が――――)


にこ「……あれ? これは受け取らずに戦闘を続ける、ってことで良いのかしら」

トール「……!」

にこ(アンタにとっての命取りになるのよ! トール!)

304 ◆WsBxU38iK2:2020/11/26(木) 00:25:25 ID:u80xjhu2
トール「ち、違っ! 今受け取と――――」

ビーーーーッ!!

にこ(ジャッジを促す私の言葉、それを聞いたトールは慌ててミョルニルから手を離すけど間に合わない)

にこ(マナー違反のアラームが鳴り響き、トールの頭上のカウンターが勢いよく減少)

にこ(トールの体にマナー違反のダメージが与えられる)
 
ドンッ!!!!

トール「……かはっ!!」


にこ(点数は95点から70点へ)

にこ(25点、全体の4分の1のダメージを食らったトールはミョルニルを手放したままダメージによろめく)

トール「あっ……うぐっ……はがっ……」

フラッ フラッ


にこ「はいご愁傷様、このルールって一見公平に見えるけど実は割合ダメージなのよね」

にこ「だから元の体力や精神力が多いほど同じ点数でも食らうダメージが多い」

にこ「私には想像できないけど、神様ってくらいなんだし相当な痛みが襲ってるんじゃない?」


トール「はぁっ……うぐっ……このぉぉぉぉっ……!」

にこ「ではバトルマナーに則って、宣言してから攻撃させてもらうわね」

タンッ

にこ(さらにもう一歩、ふらつき後ずさるトールを応用に懐へ飛び込む)

にこ(無防備に空いたボディ、そこへ食らわせる渾身の一撃) 

グッ

トール「……っ!」


にこ「食らいなさい! これが私の全力の、>>305

305名無しさん@転載は禁止:2020/11/27(金) 08:27:55 ID:8HhOFpXY
最大火力技

306 ◆WsBxU38iK2:2020/11/28(土) 00:56:46 ID:nbRkdTjU
にこ「これが私の全力の、最大火力技――――」

ゴッ!!!!!!!





──
────
───────






──円卓 修行期間


海未「必殺技……ですか?」

にこ「そう」コクンッ


にこ(ラグナロク決戦に向けての円卓での修行、その休憩時間に私は海未に相談をしていた)

にこ(サウナのように蒸し暑くなった修練場、お互いにタオルで汗を拭いたり水を飲んだりしながら会話を続ける)


にこ「修練を通じて色々な技術を習得できてる、強くなってる実感もある」

にこ「だけど私には必殺技、ここぞという時に決めるための火力のある技が足りないと思うのよ」

海未「ふむ……なるほど、ですが今までの技でも充分戦えるのでは?」

海未「例え火力が劣ろうとも手数や戦術で弱点を突けるのがにこの戦闘スタイルですし」


にこ「まぁ……確かに固有結界や、そこからの投影魔術、その他の魔術や元型能力、焔の能力なんかを組み合わせれば私は手数が多い」

にこ「宝具や神具をトレースすれば格上相手にだって上手く立ち回る自身はある」

にこ「だけど……」

海未「けど?」

にこ「今度の相手は正真正銘の神様、私の投影する贋作の武器は本物とぶつかればどうしても劣ってしまう」

にこ「それにラグナロクは個人戦、誰の力も借りれない」

にこ「伊勢湾でヨルムンガンドを倒した時のように、皆の力を纏め上げて本物以上の火力を出すような事だって不可能」


にこ「私一人で……何とかするしかない」

海未「…………」


にこ(実際、ちょっと才能のある程度の魔術師の戦績にしてはここまで上手くやってこれた方だ)

にこ(生まれ持った魔術に恵まれ、仲間に恵まれ、状況に恵まれ、細い勝ち筋を拾ってきた)

にこ(穂乃果のような特記戦力でもなければ、海未や希やことりのような人外の体を持ってるわけでもない)


にこ「……ようはさ、自信が欲しいんだと思う」

にこ「神格と1対1、頼れる仲間はいない、利用できそうなギミックがあるかは分からない」

にこ「そんな状況で“こいつ”をぶっ放せれば何とかなるかもしれない」

にこ「そういう希望みたいなものが、心の支えになる技が欲しいの……!」グッ


海未「……分かりました、あまり時間はありませんが考えてみましょう」

にこ「ほんと!」

海未「はい、ではまず試してもらいたい事が――――」







にこ(そこから私は海未と試行錯誤を繰り返してあらゆる技の組み合わせ、進化の可能性を探った)

にこ(そして生まれた私の必殺技、今までの私の攻撃の中でも最大火力を誇る技こそが>>307)

307名無しさん@転載は禁止:2020/12/03(木) 23:55:22 ID:Ay58QGjI
YAZAWA大回転

308 ◆WsBxU38iK2:2020/12/06(日) 00:43:17 ID:PDNYbXWE
にこ(最大火力を誇る技こそが――――)


にこ「YAZAWA大回転!!!!」

ゴッ!!!!







──メインスタジアム



ワァァァァァァァァァァァァ!!

ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!


ダル子『おおっと! 矢澤にこの体が目にも留まらぬ速さで激しく回転し、その周囲を竜巻のようなものが包み込んでいきます!』

ダル子『これはいったい何が起こっているのでしょうか……!?』



──チーム穂乃果ベンチ



心ノ穂乃果「おおおっ!」

海未「出ましたね、YAZAWA大回転」

ことり「知ってるの海未ちゃん?」

海未「はい、私がにこの修行に付き合って共に生み出した必殺技ですから」


海未「YAZAWA大回転はその名の通り回転のエネルギーをパワーへ変換する技です」

海未「まずはにこの二振りのツインテールをプロペラのように激しく回転させます」

海未「さらに両腕を回転させ、その状態で体全体をコマのように回転」

海未「これにより体の周囲に風の魔力で練り上げられた竜巻が発生」

海未「そして、回転する竜巻へ元型能力、ラブにこビームの粒子が混ざることにより――――」


『キュィィィィィィィィンッ!!』

ダル子『見てください! 矢澤にこを囲う竜巻の色がピンクに染め上げられていきます!』  


心ノ穂乃果「すごい!」

ことり「綺麗、まるで桜吹雪みたい……!」


海未「5つの回転により回転パワーは2×2×2×2×2の32倍」

海未「さらにラブにこ粒子が混ざることにより2倍の64倍」

海未「そこから思いっきりタックルを繰り出せばさらに2倍の――――」


にこ『128倍パワーだああああああああああああああああっ!!!!』


海未「にこ! 決めてください!」

心ノ穂乃果「もうなんかよく分かんないけど……やっちゃえにこちゃん!」

ことり「いけーー!!」






309 ◆WsBxU38iK2:2020/12/06(日) 00:43:47 ID:PDNYbXWE




──マナーバトルスタジアム




にこ「はああああああああああああああっ!!!!」

ギュルルルルッ!!

ゴォォォォォォォォォォォォッ!!!!


にこ(吹き荒れる風、舞い上がるピンクの粒子)

にこ(数多の回転を組み合わせることにより練り上げた、全身全霊の魔力の渦)

にこ(目の前には意識を朦朧とさせているトール、回転の速度は最大に達し、行く手を阻むものは何もない)

カッ!!

にこ(決める、決めるしかない、この技でトールを……吹き飛ばす!!)


にこ「YAZAWA大回転――――縦断!」

ゴッ!!!!!!


トール「ぐっ……ぐああああああああああああああっ!!!!」

ブォンッ!!!!


にこ(YAZAWA大回転の直撃を食らったトールは桃色の嵐に跳ね飛ばされ、錐揉み回転をしながら遥か上空へ吹き飛んで行く)

にこ(そして上空で大きく孤を描き、遠く離れた地面に頭から落下)

ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ


ドシャァァァァァァァァァァァンッ!!



にこ「はぁ……はぁ……」

バシュンッ!!

にこ(大回転を解除して停止)

にこ(竜巻の残滓が桜の花びらのように舞う中、私は膝に手をついて呼吸をと整える)


にこ「くっ……さすがにYAZAWA大回転は体力の消費が激しいわね」

にこ「それよりトール、トールの様子は……」

グッ ザッ

にこ(鉛のように重い体を半ば引きずるようにして振り向き、遠くに落ちたトールの様子に目を凝らす)


にこ(隕石でも落下したかのように円形にひび割れた石の床)

にこ(その中心に大の字で仰向けに倒れているトールは……>>310)

310名無しさん@転載は禁止:2020/12/06(日) 08:30:12 ID:ZPh28syE
マナーダメージを受けていた

311 ◆WsBxU38iK2:2020/12/07(月) 00:37:47 ID:Iv6/6ngM
にこ(どうやら大回転のダメージに加えマナーダメージまで受けているようだった)

にこ(大の字に倒れているトールの上にカウンターが表示され、数字が70から50まで下降する)

カタカタカタカタッ パタンッ


にこ「はぁ……はぁ……」

にこ(今の衝突におけるトールは技を受ける側でしかなかったはず)

にこ(攻撃をされる際のマナーなんて私は習った覚えはないけど、ダメージを受けたのならこのスタジアムのマナー違反に抵触したのは間違いない)


にこ(ともかく……だ)

にこ(大回転とマナー違反の20点ダメージ)

にこ(元々25点のダメージを受け前後不覚になっていた所にダメ押しで食らった二重の攻撃)

にこ(普通の人間なら到底起き上がることはできないはず)


にこ(そう、相手が“普通の人間”ならば――――)


ザッ

にこ「……!」

にこ(トールの指がピクリと動いた、と感じた次の瞬間、仁王立ちのトールがそこにいた)

にこ(起きる上がりから起き上がるまでの間の動作が存在しない、一連の映像の途中をカット編集で切り取ったような有り得ない動き)

にこ(物理法則では説明がつかない、人間が構築した理論の輪から外れた現象)

にこ(“今のトール”を私の人としての視覚が、脳が、正常に捉えられていない……)


ピリッ バチバチッ

にこ(かすかに舞い上がる粉塵、俯いて表情の隠れたトールの前髪の先から青い火花が飛び散る)


トール「ははっ、ははははは……」

にこ「…………」


トール「……悪いな、さっきのマナー違反はオレがわざと避けなかったせいだ」

トール「意識が飛びかけてたのはマジだけど、本気で避けようとすりゃ真正面からぶっ飛ばされることはなかったはずだ」


にこ「……あら、そうなの、随分と舐められたものね」

トール「違ェよ、むしろオレは評価してんだぜ」


トール「ずっと考えてた、人間がどこまでオレと戦えんのか、どこまでオレに傷を負わせられるのか」

トール「そんでお前は実際強かった、オレと渡り合えた」

トール「だから受けてみたかったんだよ、お前の最大火力、本気の一撃ってのがどんなもんなのか、この体で試してみたかったんだ」   


トール「……ま、それがこのスタジアムじゃお前の言う舐めてるって判定になっちまうんだろうな」

ビーッ! カタカタカタカタッ

にこ(マナー違反の警告音、トールの頭上の数字が再び減少を始める)

312 ◆WsBxU38iK2:2020/12/07(月) 00:37:59 ID:Iv6/6ngM
トール「でもな、悪いけどオレはオレのスタイルを変えるつもりはない」

トール「相手の全力を引き出し、受けきり、その上でオレが全てを叩き潰す」

トール「マナーなんて知らねェ、そいつがオレの神としてのプライドだ」

ビーッ! カタカタカタカタッ


にこ(マナー違反を知って尚、マナー違反を続けるという違反)

にこ(このままでは数字が減り続ける一方なのに、トールは気にする素振りを見せない)

にこ(それどころか、マナーダメージを受け続けてるはずなのに顔色1つ変えることがない)


トール「お前は本気を見せてくれた、だからオレも本気を見せる」

トール「“人”として敗北する前に、“神”としてのオレの力でお前の全力に応える……!」

ドゥンッ!!


にこ「……っ!」

ガクンッ!

にこ(その瞬間、今までのトールとは比べ物にならない力の圧が辺り一帯に広がった)

にこ(まるで重力が何倍にも増加したような感覚が全身を襲い、強制的に膝をつかされる)

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

にこ「がはっ…………」


にこ(そんな圧の中、私は1つのことを思い出していた)  

にこ(神が人の前に現れる時、必ずしも本来の姿で現れるとは限らないということ)

にこ(あまりに次元の違う存在は、ただ在るだけで下位世界の理をいとも容易く狂わせてしまうから)

にこ(だから神は人の似姿を取る、人と対話するため、人をいたずらに壊さないようにするため)


にこ(じゃあもし、神が本来の姿を表したら、人は耐えられるのだろうか)

にこ(天災の象徴たる神の本気を前に、人はどこまで抗えるのだろうか……!)



トール「忠告してやる」

にこ「……!

トール「オレの姿が変化したら全速力で逃げろ、地平の果てまで逃げろ」

トール「そこまで距離を取ってお前にできる最大限の防御をすればワンチャン生き残れる可能性はある」

にこ「なに……を……」

トール「間違っても立ち向かおうなんて思うなよ」

トール「目の届く範囲にいるうちは、どう足掻いたって殺さねェ自信はねェからなあ」


スッ

トール「せいぜい耐えろ、たっぷりと味わえ、そしてその目に焼き付けろ」

トール「ラグナロク決戦初の化身解放、その姿と力の隅から隅まで!」

ゴンッ!!

にこ(トールはいつの間にか手にしていたミョルニルを地面へと突き刺し、その柄の前へ手をかざす)

にこ(左手は右腕の肘の辺りに添え、右手は真っ直ぐ、開いた手の平を直立した柄へ押し当てるように差し出す)


にこ(そして吐き捨てるように、解放の言葉を呟いた)


トール「化身解放」



トール「轟け――――天雷鏖鎚」

カッ!!!!


─────────────────

マナーバトルスタジアム

PM4:04〜4:15 反逆の焔編『14』了

313 ◆WsBxU38iK2:2020/12/07(月) 00:41:31 ID:Iv6/6ngM
というわけでここまで

2回戦の前半戦区切り
のつもりが3/4くらいの進行
ルールはあれど正面から戦うスタジアムの都合上サクサク進んでしまうから仕方ない

反逆の焔編『15』に続く
かもしれない

314 ◆WsBxU38iK2:2020/12/08(火) 01:05:55 ID:sjpyq8vU
反逆の焔編『15』

─────────────────
──マナーバトルスタジアム

PM4:15


にこ(初めに“それ”に気がついたのは大気だった)


カッ!!!!

にこ(トールを塗り潰すように天へと立ち昇る巨大な雷の柱)

にこ(その柱が出現した瞬間、周囲の大気が柱から遠ざかるように一斉に逃げ始めた)

にこ(それにより生まれた気圧の差で柱を中心とした暴風が吹き荒れる)

ゴッ!!!!


にこ(次に気がついたのは大地だった)

にこ(大気から遅れること0.2秒、大気に呼応するように足元の地面が震え、鳴動し、柱から逃げるように地殻が変動)

にこ(地平線の彼方まで平らだった地面がひび割れ、隆起し、陥没し、バラバラに引き裂かれていく)

ドガガガガガガガッ!!


にこ(次に気がついたのは私の魂だった)

にこ(思考より早く生存本能が逃げろと叫びを上げる)

にこ(ここにいては危険だと、人としての、魔術師としての、あらゆる感覚が警告を発していた)

ゾクッ!

にこ(そして柱の出現から0.5秒、ようやく私の体がそれに気がつく)

にこ(光の柱に背を向け、全速力で走り出す)

ダッ!!!!


にこ(どこまで走れば良いかなんて分からない)

にこ(とにかく真っ直ぐ、地平線の彼方まで突っ切ることだけ考える)

にこ(今優先するべきなのは速さ、次点でトールの全力を受け切るための策)

ガッ!

にこ(少しでも軽量化するため、背負っていたリュックから神鎮めのボトルを取り出し、残りはリュックごと投げ捨てる)

バサッ!!

にこ(神鎮めの水――今更ボトルから捻り出せる程度の水量で立ち向かおうとは思わない)

にこ(水をかける対象はトールではなく自分)

にこ(キャップを外したボトルを逆さまにして水を頭から被り、全身を水で濡らしていく)

バシャッ!!

にこ(こうして神鎮めの水でコーティングすれば、万が一攻撃に飲み込まれたとしても少しはマシになるはず)

にこ(そして不要になったボトルも投げ捨て、更に全力で走り続ける)

ダッ!!!!

315 ◆WsBxU38iK2:2020/12/08(火) 01:06:10 ID:sjpyq8vU

バリッ!! バリバリバリバリッ!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!

にこ(轟音を鳴り響かせる雷の柱)

にこ(横目で確認すると、柱の根元から複数の帯のようなものが生えて来ていた)

にこ(複数の帯は柱の表面に沿って周囲を回りながら上へ上へと伸びていく)

にこ(そして木の蔓のように柱へ絡まると柱の各部をギュッと絞り、莫大なエネルギー体である雷の柱に関節を生み出していく)


にこ(極大の雷そのものと、雷を縛る帯)

にこ(2つの要素によって形作られた“それ”は、巨大な神の姿へと変貌していく)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


にこ「……っ!」

にこ(気圧されてる……場合じゃない!)

ブンブンッ

にこ(考えろ、考えるのよ矢澤にこ、全力で走りながら脳みそもフル回転させなさい)

にこ(アレの一撃を耐えるのに必要な条件は3つ、距離と耐性と盾)

にこ(距離は今稼いでる最中、耐性は神鎮めの水で焼け石に水くらいの効果は期待できる)

にこ(ってことは……あとは盾!)


にこ(私が投影できる盾、色々候補はあるけど……ここで選ぶのは>>316)

316名無しさん@転載は禁止:2020/12/08(火) 21:33:28 ID:np495xR.
イージス

317 ◆WsBxU38iK2:2020/12/09(水) 01:11:58 ID:3N97g.t.
にこ(選ぶのは……イージス!) 


ダッ! ビュンッ!

タタタタタタッ ダンッ!!


にこ(トールからとにかく距離を取って盾の発動タイミングを図る)

にこ(タイミングは早すめぎたらダメだし遅すぎてもダメ)

にこ(早いと充分に距離が稼げないままの展開になるし、距離を稼ぐことを考えて展開が遅くなれば元も子もない)

にこ(トールが渾身が放つ渾身の一撃をギリギリまで引きつけて展開する、その見極めが鍵になる)


トール「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

バリィィィィィィィィィッ!!!!

にこ(背後から叫び声と共に轟音を鳴り響かせる解放形態のトール)

にこ(耳に入るだけで身震いする爆音に思わず振り返って盾を展開したくなってしまう)

にこ(いや……ダメだ、まだ耐えないと)

ギュッ

にこ(震える手を押さえつけて走る、走る、遠くへ走る!)


トール「ぐおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

にこ(まだ……)

トール「ぐおおおおおおおおおおあああああああっ!!」

にこ(まだっ……)

トール「ああああああああああああああああっ!!」

にこ(まだ……!)



トール「ああああぁ……」


にこ「……!」ピクッ


トール「らァ!!!!」

ブォンッ!!!!


にこ(今だ!!)

キィッ!

にこ「トレース・オン――――」

にこ(トールの呼吸が変わった瞬間、足を伸ばし思いっきりブレーキをかけて180度ターン)

にこ(目の前に巨大なイージスの盾を投影、展開する)

バッ!

にこ「イージス!」

シュンッ!!!!

 
にこ(女神アテナの寵愛を受けし不屈の盾、イージス)

にこ(だけど……今はその盾がひどく心細く思えてしまう)


ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

にこ(構えた神の盾、その向こうから迫り来るは視界を覆うほどの雷の洪水)

にこ(巨大なトールが腕を一振りしたことによって放たれたエネルギーの奔流)

にこ(これだけ距離を離しても衰えるということを知らない、大気と大地を引き裂く神の鉄槌)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!

にこ「……っ!」

318 ◆WsBxU38iK2:2020/12/09(水) 01:12:32 ID:3N97g.t.
にこ「あ――――」

ゴッ!!!!!!


にこ(ああ、と声を上げる暇もなかった)

にこ(音速を超えた雷の洪水は私の体を瞬く間に飲み、破壊の濁流の中へと引きずり込む)

バリィィィィィィィィィッ!! ゴォォォォォォォォォォッ!!!!

にこ「がっ……!!」

にこ(迸る電撃のせいで目を開けることができない、轟音が耳をつんざき音が聞こえない)

にこ(痛い、熱い、呼吸ができない)

にこ(体が引き裂かれそうなほどの暴風、さらに全身を焼けるような痛みが走る)

にこ(けど……大丈夫、即死はしていない)

ググッ

にこ(イージスの盾で直撃を防いだから体はまだ繋がってる、神鎮めの水を被ったおかけで感電は軽減できてる)

にこ(手が盾を掴んでる感触はある、足が地面を踏んでる感触はある、雷の洪水の中でも上下感覚は失っていない)

にこ(だったら……!)


にこ「ぐ……ぐううううううううううううううううあああっ!!」

にこ(あとは私が倒れるのが早いか、トールがマナー違反で倒れるのが早いかの勝負!)


にこ(化身解放前からトールのメーターは減っていた、マナー違反を訂正していない以上、今もメーターは減り続けているはず)

にこ(例えトールが神の力を開放しようと、ラグナロク決戦の最中である限りルールの適用からは逃れられない)

にこ(マナーの点数がゼロになれば、どんなに元の力が強大だろうとトールのHPはゼロになる!)


バリィィィィィィィィィッ!!!!

にこ「がはっ……!」


にこ(だから……私がここで耐えれば……)


にこ(あと何秒か……分からないけど……耐えさえすれば……!)


にこ(体がどうなろうと、気さえ保っていれば……私は……勝負に……勝て……………)


フラッ


ガクンッ

にこ(……あれ)


にこ(あれ……力が入らない)

にこ(手が、足が、しびれて、頭が、ぼーっと……してきて……)

にこ(だめ、だめ、よ……しっかり、しなさ……)


ドゴロロロロロロロロロ!! バリィィィィィィィィィッ!!

ビガァァァァァァァァァァァァッ!!!!

にこ「ぐっ……がああああああああああああああああっ!!」


にこ(耐えて、耐えて、削られた体力)

にこ(そこへ追い打ちのように来る、ここ一番の電撃)

にこ(トールも私と同じことを考え、自分の体力が尽きるのを悟り、最後の力を振り絞ったんだろう)

にこ(今まで耐え続けた電の洪水より強力な、何倍にも威力を増した雷の荒波が私を襲う)

にこ(その衝撃に贋作のイージスは砕け、体は宙へと放り出され、肌には幾つもの裂傷が走る)


にこ(そして、蒼白い光の中、私の意識は――――>>319)

319名無しさん@転載は禁止:2020/12/09(水) 21:45:17 ID:UN4bB6LY
別の何かに乗っ取られた

320 ◆WsBxU38iK2:2020/12/10(木) 01:41:32 ID:WOkYiq1k
にこ(――別の何かに乗っ取られた)

ビクンッ!

にこ「……!?」


にこ(無限に回転しながら雷の洪水の中を吹き飛ばされ続ける私の体)

にこ(私は突如としてその体を指一本たりとも動かすことができなくなる)

にこ(痺れや痛みのせいではない、もちろん意識を失ったわけでもない)

にこ(私じゃない別の何かが、私の体を動かし始めたからだ) 
 

グッ ググッ

グインッ! バッ!!

にこ(何者かは空中で無理やり体をひねって姿勢を制御すると、再びイージスの盾を展開する)

バッ! バババババババッ!!

にこ(まず中心に1枚、その1枚の周囲に3枚、その外側に4枚、さらに外側に5枚)

にこ(まるで盾による花弁、雷の波が向かってくる方向に対し、イージスの盾を13面同時展開)

にこ(私が全身全霊を込めて投影した1枚と同じか、それ以上の盾が寄り集まり、トールの雷を後方へと受け流す)

バリィィィィィィィィィッ! ドゴォォォォォォォォォッ!!
 

にこ(そして、そこまでの十数秒がトールの最後の余力だったんだろう)

にこ(13面のイージスが最後の一撃をしのぎ切ると、スタジアム全体を覆い尽くしていた雷の洪水は跡形もなく消失した)

バシュッ!!!!


にこ(まるで夢でも見てたかのよう)

にこ(悪夢のような雷の洪水は一瞬で消え失せて、残ったのは広大な破壊の跡のみ)

にこ(粉々になった地面からは粉塵が舞い上がり、遠くにいるトールの姿は確認できない)

にこ(けど、雷の攻撃が消失したってことはトールも倒れた……はず、たぶんあの粉塵の向こうで気を失っているんだろう) 



にこ(それより、問題なのは――――)


??「ふぅ……何とかなったか」

スタッ

にこ(“私でない何者”かは私の声で一息つくと、荒れ果てた地面へと着地した)


??「それにしても全身酷い火傷、大事には至らなかったけど……当分治療が必要になりそう」ケホケホッ

??「とりあえずトールの戦闘不能を確認するアナウンスを待って、帰還して、それから……」

??「……ん?」

キョロキョロ

??「……ああ、そうだ、そういえば、そっちの意識はまだ残ってたっけ」

にこ(何者かは大げさな身振りで頭に手を当て、私に話しかけるような仕草をする)


にこ(そうよ、体を勝手に乗っ取られて困ってるんだってばー!)

にこ(……って、頭の中で考えたら向こうに伝わったりするの?)


??「もし喋ってるなら残念だけど、そっちの声は届かないんだ」

にこ(ダメじゃないっ!!)

??「いきなりで驚いてると思うから説明はしておく」

??「今この体を動かしてる私は>>321

321名無しさん@転載は禁止:2020/12/10(木) 20:44:40 ID:ZQvsWIa2
中川菜々、またの名を優木せつ菜と申します

322 ◆WsBxU38iK2:2020/12/11(金) 01:44:41 ID:Aumkcs5U
??「中川菜々、またの名を優木せつ菜と申します」


にこ(前者の中川……は聞き覚えがないけど、後者のせつ菜には聞き覚えがある)

にこ(せつ菜……優木せつ菜……?)

にこ(この微妙に思い出せない感じ……過去に直接会ったわけじゃなく、又聞きやデータベースで閲覧した中に混ざっていた名前なんだろう)

にこ(確か……何かのリスト、そう、たぶん要注意組織のメンバーの名前が並んでいたリストだ)

にこ(メインの構成員じゃなく、末尾に載っていたから印象が薄れてるに違いない)

にこ(思い出せ、思い出せ、絶対にそのリストに目を通したはず)


にこ(その組織、組織名は――――)




せつ菜「――新魔王軍」

にこ「……!」


せつ菜「私がよほど戦力として度外視されてるか、あなた達の情報共有がお粗末でない限り、この単語と私の名前でピンと来るはず」

せつ菜「新魔王軍、魔人管理部の優木せつ菜、部下にはゲンムさん……元ゲンムさんがいましたね」

せつ菜「あなたのお仲間とは沼津市のヌーマーズで大変楽しく遊ばせて頂きましたが……そろそろ思い出しました?」


にこ(……そうよ! 優木せつ菜は新魔王軍のメンバーだわ!)

にこ(でもどうして? 新魔王軍が今更ラグナロクに介入してくるなんて……どう考えてもおかしい)

にこ(新魔王軍のトップはフードマン、ラグナロクが発生だってフードマンの筋書き通り)

にこ(新魔王軍にはラグナロクを止める理由も、ましてや私を助ける理由なんてないはずなのに)


せつ菜「……ま、そう自己紹介したところで余計に不審がりますよね、返事を聞かなくてもわかります」

せつ菜「今更信用しろとは言いませんが、これだけは知っておいてください」

せつ菜「あなたの体を操ったこと、あなたを助けたこと、こうしてあなたの口を通して話してること」

せつ菜「これらは全て私の独断で行っていることです」

にこ(独断……?)


せつ菜「考えてみてくださいよ、フードマンを筆頭にした新魔王軍の主力は、ヘヴンズコートの拠点ごと次元の彼方に吹っ飛んでるんですよ」

せつ菜「私はたまたま関西方面防衛の指令を受け、こちらの世界に来ていたことで巻き添えを免れたましたが、中核の消えた穴は大きすぎました」

せつ菜「今や新魔王軍の残党は方針を失って空中分解」

せつ菜「責任の所在を求めて争う名前だけの古参連中、がむしゃらに拠点の修繕とフードマンの捜索を強行する技術者たち、行く当てなくリーダーの帰りを待つもの、組織を見限って抜け出すものまで様々」

せつ菜「こんな体たらくの組織のどこにマトモな指揮系統が残ってるというのでしょうか」フッ

323 ◆WsBxU38iK2:2020/12/11(金) 01:45:11 ID:Aumkcs5U


にこ(……ふむ)

にこ(所属している組織への感想としては辛辣な気がするけど、新魔王軍って忠義ある部下が多い組織には見えないからねぇ)

にこ(利害の一致で席を置いていたタイプならこんな感想になるのかも)


せつ菜「とは言え、ここらの情報の真偽はどうでもいい事なのです」

せつ菜「重要なのは私が単なる業務命令や善意であなたを助けたわけじゃないということ」

せつ菜「ラグナロクへの介入、スタジアムという目立つ場所での能力の行使は大きなリスクを伴います」

にこ「…………」

せつ菜「……お分かりですよね? 取引ですよ」


せつ菜「私の能力は万能ではありませんが、特定の条件下であれば神の如き力を振るえます」

せつ菜「ゲームにおけるゲームマスターと認識してもいい」


せつ菜「現在、このマナーバトルスタジアムは私の能力の支配下にあり、外部からの観測を一時的に遮断しています」

せつ菜「そして、あなたの体は私の操作によってどうにか立っている状態」

せつ菜「私が操作を放棄し、意識を交代した瞬間、間違いなくあなたは100%ぶっ倒れます」

せつ菜「そうした場合、粉塵の晴れたフィールドにはあなたとトールの両者が倒れていることになるでしょう」

せつ菜「ですが、この場で私があなたのHPを回復させればあなたは倒れることはない」


せつ菜「この意味……分かりますよね?」


にこ(はいはい……なるほど)

にこ(取引を了承すれば確実に勝たせる、断れば両者戦闘不能でドロー扱いにさせる)

にこ(単純明快、分かりやすい脅しで助かるわ)


せつ菜「では取引の内容と行きましょう」

せつ菜「こちらも至ってシンプル、あなたを助ける代わりに私の目的に協力してほしい、それだけのことです」

せつ菜「私の目的とはずばり>>324

324名無しさん@転載は禁止:2020/12/14(月) 13:09:01 ID:3AXQaAYs
焔の力を得ること

325 ◆WsBxU38iK2:2020/12/15(火) 00:56:56 ID:8utlhddY
せつ菜「私の目的とはずばり、焔ノ力を得ること」

にこ「……!」


せつ菜「もちろん知らないとは言わせませんよ」

せつ菜「最初の火、根源たる穂乃果から分かたれた27の魂」

せつ菜「その魂の特徴がより濃く滲み出た元型保有者、いわゆるそっくりさんは各平行世界、各分岐世界に数多く存在します」

せつ菜「ですが祖となる27の魂を保有できる者は全世界でも限られた者だけ」

せつ菜「元型保有者の中で最も濃く魂を受け継いだその者だけが焔ノ力を得ることができる」


せつ菜「矢澤にこ、あなただって持っているでしょう、こうして力を込めれば胸の所に紋章が――――」

キィィィィィィィンッ


フッ

せつ菜「おや、消えてしまいました」

せつ菜「さすがは魂とリンクしたシステム……こればっかりは私の能力でも操作できませんか」



にこ(優木せつ菜……やけに焔に詳しいわね)

にこ(私たちだって外郭界まで行ってやっと手に入れた情報なのに)  

にこ(こちらの調査を傍受していたのか、新魔王軍も別で調査を進めていたのか)

にこ(どちらにせよ、そこまで知っていて欲しがるということは…………)


せつ菜「はい、お察しの通り私は27の魂の保有者の1人」

せつ菜「焔ノ力へ到達できるチャンスを持つ唯一の優木せつ菜です」

にこ(……ま、そういうことでしょうね)  


せつ菜「ただ、資格はあるのに力を得る方法が分からなくて……」

せつ菜「私たちは敵同士ですし、頼んだところで素直に教えてくれるはずがない」

せつ菜「だからこそ取引、交渉なんです」


せつ菜「良いですか? 今からあなたの体の中で右手の操作だけを解除します」

せつ菜「動かせるのは右手だけ、了承なら親指を上に、拒否ならば親指を下に向けてください」

せつ菜「サムズアップかサムズダウン、分かりやすいですよね」


せつ菜「では時間もないので、さっさと行きますよ」

せつ菜「せーのっ……はい!」
 

ピクッ!

にこ「……っ!」

にこ(せつ菜の掛け声と共に右手に感覚が戻ってきた)

にこ(変わらず焼けるような痛みはあるけど、指くらいならなんとか動かせそう)


にこ(せつ菜は私の意志を示せと言った)

にこ(ラグナロク2回戦、ここで勝利すれば2連勝で大きなアドバンテージを得る)

にこ(だけどせつ菜に協力することは新魔王軍に加担すること、つまり後々の戦いで不利になる可能性がある)

にこ(リスクと勝利を取るか、リスクを避けて勝利を諦めるか)


にこ(…………そうね、うん、だったら)

グッ

にこ(私はゆっくりと指を動かして形を作る)

にこ(せつ菜へ示す返答は>>326)

326名無しさん@転載は禁止:2020/12/15(火) 15:07:46 ID:aYaDbX9s
サムズアップ

327 ◆WsBxU38iK2:2020/12/16(水) 01:47:36 ID:WpbrChtQ
にこ(せつ菜へ示す返答は――――) 
 
スッ


せつ菜「サムズアップ、良い選択ですね」


にこ(厄介な契約……ではあるんだろう)

にこ(だけど目の前の勝利を逃すことは私にはできなかった)

にこ(ここは悪魔の囁きに乗るしかない……)


せつ菜「では約束通りあなたのHPを回復してさしあげましょう」

せつ菜「ただし、回復と言っても全快させるわけにはいきません」

にこ「……!」バッ! バッバッ!

せつ菜「なんですかその手の動き、不正を疑われて困るのはお互い様でしょう」

せつ菜「気絶せず動ける程度には戻してあげますから、転送されたらちゃんと治療を受けるように」


にこ(確かにせつ菜の言う通り、トールの一撃を食らってピンピンしてるのは逆に怪しい)

にこ(ちょっと騙された気もするけど、私は渋々親指を上に立てる)


にこ「…………」b

せつ菜「よろしい」


にこ(せつ菜はそれに大きく頷くと、左手を前に出して言葉を発する)

せつ菜「フィールド操作、ドロップ――回復ポーション!」

ポンッ!

キュインッ!

せつ菜「はい終了、これであなたのHPは僅かばかり回復したはずです」

せつ菜「あと10秒ほどで私の操作が解除、同時にこのスタジアムへの観測妨害も解除されるのでそのまま待っていてくださいね」


にこ(オッケー……って、ん? 待って待って、焔ノ力を教えるうんぬんはどうするのよ)

にこ「……!」バッ! バッ!
   

せつ菜「……ああ、私の交換条件なら次に会った時でいいですよ」

せつ菜「どうせ近いうちにまた会うことになると思うので」

にこ「…………?」


せつ菜「その代わり、約束は絶対に忘れないでくださいね!」

せつ菜「絶対! 絶対ですからね!」


せつ菜「ではまた!」

バシュッ!!


にこ「はっ……!」バッ!

にこ(せつ菜がそう言い残して一方的に操作を解除すると、一気に体の感覚が戻ってきた)

にこ「ぐっ……あぐっ……!!」

にこ(全身を襲う疲労感、焼けるような肌の痛み、意識が朦朧として立っているのが辛くなる)

ガクッ ザザッ

にこ(思わず膝をつく……が、逆にこれ以上悪くなる様子はない)

にこ(疲労も痛みも耐えれる範疇、せつ菜の回復のおかげでどうやらドロー試合にはならなそうだ)

328 ◆WsBxU38iK2:2020/12/16(水) 01:47:48 ID:WpbrChtQ
サァァ……

にこ(不自然なほどに立ち込めていた粉塵が一気に晴れていく)

にこ(せつ菜による観測妨害の解除、これでメインスタジアムのカメラに映像が再び映るはず)

にこ(顔を上げると、遠くにはうつ伏せに倒れているトールの姿がある)

にこ(頭の上のカウントはゼロ、間違いなく全てのHPを使い切ったことによる敗北)

グッ グググッ

にこ「……っ!」

にこ(痛む節々に力を込めて、私はもう一度立ち上がる)

グンッ!

にこ(両手を大きく掲げ、これを見ている観客たちへ私は生きてるぞとアピールをする)

バッ!

にこ「はぁ……はぁ……」

にこ「どう……見てるわよね……私は立ってる……ここに……立ってる……」


にこ「判定は…………」



ビーーーーーーーーーーッ!!

にこ(鳴り響くブザー音、そしてダル子の声が聞こえた)


ダル子『トールの戦闘不能を確認! よって第2回戦はチーム穂乃果の勝利となります!』

ウォォォォォォォォォォォォォ!!


にこ(勝利を告げるダル子の宣言、そして後ろから聞こえる観客の歓声)

にこ(だけど、私にはそれに応える気力すら残っていなかった)

ガクンッ

にこ「はぁ……はぁ……」

にこ(辛く、細く、苦しい勝ち筋)

にこ(スタジアムのルールと、せつ菜というチートに助けられてなお、結果は満身創痍の瀕死の体)


にこ(全く……不甲斐ない)

ギュッ

にこ(言葉なく、誇りもない、あるのは勝利したという事実だけ)


にこ(私はその事実を確かめるように、固く握った拳を天へと突き上げた)

グッ!


ダル子『勝者! 矢澤にこ!』

ワァァァァァァァァァァァァァァッ!!


─────────────────

マナーバトルスタジアム

PM4:15〜4:25 反逆の焔編『15』了

329 ◆WsBxU38iK2:2020/12/16(水) 01:48:28 ID:WpbrChtQ
というわけでここまで

2回戦終了

反逆の焔編『16』に続く
かもしれない

330 ◆WsBxU38iK2:2020/12/17(木) 00:40:05 ID:6re12p1c
反逆の焔編『16』

─────────────────
──メインスタジアム


ダル子『マナーバトルスタジアムを破壊せんとばかりに放たれたトールの最後の一撃』

ダル子『それを耐え抜き最後に立っていたのはチーム穂乃果の矢澤にこでした!』

ウォォォォォォォォォォォォォ!!

ダル子『戦いを終えた戦士たちが転送陣で帰還して参ります』

ダル子『観客の皆様! 両者にもう一度大きな声援と拍手を!』

ワァァァァァァァァァァァァァァッ!!



──チームオーディンベンチ



フレイ(割れんばかりの歓声がスタジアムを包み込む)

フレイ(戦士と観客が一つになる一体感、決戦が盛り上がるのは大いに結構)

フレイ(結構……なのですが……)

チラッ


ヴァーリ「どしたのフレイ」

フレイ(私の隣に座り試合を見ていたヴァーリが不安そうな視線を送ってきた)

フレイ(ヴァーリは決して頭の良い神ではないが、代わりに人の心の機微を感じ取る本能のようなものを生まれつき持っている)

フレイ(おそらくそれで私の不安な心を感じ取ったのでしょう)

フレイ「いえ、なんでもないですよ」

ポンッポンッ

ヴァーリ「わっ」


フレイ(次に決戦に出るのはこの子だ)

フレイ(出陣前に余計な心配をかけてはいけないと、私はヴァーリの頭に軽く手を置いて安心させる)

ヴァーリ「な、なにー、もうー」


フレイ「私は少しオーディンと話してきます」

フレイ「もう少しするとトールがボロボロの状態で戻ってくるので、彼をベンチまで運んでおいてください」

ヴァーリ「……うん、わかった」コクンッ

フレイ「では」

スッ

331 ◆WsBxU38iK2:2020/12/17(木) 00:40:52 ID:6re12p1c


フレイ(ヴァーリを残し、私はベンチから立ち上がると奥の通路へと進んでいく)

スタスタ

フレイ(スタジアムの内部、観客席の下に当たる通路)

フレイ(ここは決戦の関係者や運営スタッフが移動したり、出陣する戦士たちが自分の控室に移動するために使う)

スタ スタスタ

フレイ(オーディンの控室は更に特別扱いで、私たちチームオーディンの控室とも別の場所にある)

 
ザッ

フレイ「主神控室……ここですね」


フレイ(扉の前に立ち、一呼吸)

スーッ ハァーッ

フレイ(正直、私たちのチームの旗色は悪い)

フレイ(ヘイムダムが一敗、トールが一敗、これで五戦中こちらが二敗という結果)

フレイ(万が一、次の三回戦も敗北すれば負け越してしまう)

フレイ(ホームとも呼べるヴィーグリーズの地で我々がアースガルズの神々の顔に泥を塗るわけにはいかない……)

 
フレイ「……ふぅ」

フレイ(しかし、私が一番に気にしてるのは勝敗ではない)

フレイ(こちらの残る戦士は戦闘に長けたヴァーリ、主神のオーディン、そして私)

フレイ(順当に戦えば勝つ可能性は大いにある、今から悲観するほどではない)


フレイ(むしろ私が気になるのはオーディン自身の機嫌だ)

コンコンコンッ

フレイ「オーディン、私です、フレイです」

フレイ(先鋒と次鋒の連続での敗北、加えてこの会場の盛り上がりよう)

フレイ(それを観ていたオーディンの心境は如何なものなのか)

フレイ(もし荒れてたら私が対応しなければいけないんでしょうねぇ、嫌ですねぇ……)


コンコンコンッ

フレイ「オーディン? 入りますよー」

ガチャッ

フレイ(そんなことを考えつつ、主神控室の中へと入る)

フレイ(するとオーディンは>>332)

332名無しさん@転載は禁止:2020/12/17(木) 14:05:39 ID:fg0PnwoM
投げやりになっていた

333 ◆WsBxU38iK2:2020/12/18(金) 00:32:38 ID:0wFjte.I
フレイ(するとオーディンは控え室の中で槍を振りかぶっていた)


オーディン「ぬおおおおおおおおおおおおっ!」

フレイ「ちょっ! オーディン!? そんな投げ槍にならないでください!」

ダタタタッ! ガバッ!


オーディン「ぐぬぬっ……ええい離せぇ!!」

フレイ「落ち着いて! 落ち着いてください!」

オーディン「あれだけ大見得を切っておいて未だに勝ち星がないのだぞ! これが落ち着いていられるかぁ!」

オーディン「こうなればグングニルでメインスタジアムごと破壊してくれるわぁ! うおおおおおおおお!」

フレイ「いやいや、その投げ槍は洒落になりませんから!」

バタバタッ! ガタガタッ! 

ドッシャーンッ!!


オーディン「はぁ……はぁ……」

フレイ「はぁ……はぁ……」


フレイ(グングニルを振り回しながら暴れるオーディンを羽交い締めにし、何とか落ち着かせることはできた)

フレイ(全く……会場を破壊なんて暴挙に出られたらそれこそ神としての面目が丸潰れですよ)


フレイ「良いですか? ヘイムダムは試作段階で歓声に至ってなかった故の敗北」

フレイ「トールは戦闘にこだわり過ぎてルールを無視した故の敗北です」

フレイ「私たちはまだ実力では負けてはいない、ルールを遵守し慢心しなければ勝てるはずなんです」


オーディン「でも……そんな屁理屈を並べたところで負けは負けだろ?」

フレイ「ぐっ……」

フレイ(いや……いやいや、屁理屈なのは分かってるんですがねぇ、あなたを説得するためにわざわざ屁理屈をこねてるんですよ)

フレイ(それをあなたが指摘しますか、駄々こねた上に床に体育座りをしてへしょぼくれてるあなたが!)


フレイ「……はぁ」

フレイ(しかしそんなことを言っても仕方がない、身内で喧嘩してる場合などではないのです)

フレイ(肝心の主神がこれでは勝てる戦にも勝てない、今はオーディンにやる気を出させるのが最優先)


フレイ「落ち着いて状況を再確認しましょう」

フレイ「ラグナロクは残り3戦、こちらに残ってる戦士はヴァーリ、オーディン、私フレイ」

フレイ「向こうに残ってる戦士は園田海未、南ことり、穂乃果です」

フレイ「このうち南ことりはフェンリルの力を、穂乃果はスルトの力を取り込んでいます」


オーディン「ふむ……ラグナロクにおいて虹の橋を超えて攻めてくる者共だな」

フレイ「神話記述的に考えれば南ことりと当たるのはオーディン、穂乃果と当たるのは私になるでしょうね」

オーディン「ということはヴァーリと当たるのは……園田海未か?」

フレイ「はい、園田海未には特に神話記述に類する因子は見受けられませんし、ヴァーリ自身も彼女を気にかけてる様子」

フレイ「この2人が次の3回戦へ挑むのはほぼ確定でしょう」

オーディン「……ほう」


フレイ「ですが、今までのように個々のスタイルに任せベンチで静観していては同じことの繰り返し」

フレイ「チーム穂乃果は人の身で神に挑むため、あらゆる準備をし、装備を整え、情報共有と相談を欠かしていないと聞きます」

フレイ「おそらくそこが、私たちと彼女たちの決定的な差」

フレイ「私たちの人任せ、いや神任せなスタイルを改善しない限り、万が一の可能性は捨てきれません」


オーディン「だがなぁ……具体的な案は何かあるのか?」

オーディン「正直ヘイムダムがああなった時点で私のプランは狂ってしまった」


フレイ「無論です、考えていないわけがありません」

オーディン「おお、やけに自信があるではないか」


フレイ「ここからの3戦を有利に進めるための策、それは>>334

334名無しさん@転載は禁止:2020/12/18(金) 06:35:49 ID:iPweB5ZU
彼女らの本拠地にあるデータベース

335 ◆WsBxU38iK2:2020/12/19(土) 01:07:59 ID:zccV91RI
フレイ「彼女たちの本拠地にあるデータベースを利用することです」

オーディン「データベース……?」


フレイ「はい、彼女たちは戦闘に関するデータを独自のネットワークを通じて共有、本拠地のサーバーに保存していました」

フレイ「ドスケーブ城、浮遊塔、これらの施設に設置されていたサーバーは襲撃部隊が制圧した際にこちらが接収済み」

フレイ「解析まで終わっていつでも情報が取り出せる状態です」


オーディン「なるほど、仕事が早いな」

フレイ「データベースには敵の情報、作戦の進行状況、もちろん仲間に関する情報も載っています」

フレイ「これを利用すればこちらが有利に立ち回ることが可能」

フレイ「ここからの3勝はより硬いものとなるでしょう」

オーディン「ふむ……」


フレイ(私の言葉を聞き、体育座りでしょげていたオーディンはようやく座り直して顔を上げる)

ドサッ

オーディン「面白い、して具体的な対策はどうする」

オーディン「3回戦までのインターバルは短い、転送が始まれば声は届かぬ」

オーディン「早急に考えねばヴァーリに策を授けることは叶わんぞ」

フレイ「はい、では3回戦の相手、園田海未の情報から整理して行きましょう」

カタッ


フレイ(控え室のテーブルの上に懐から取り出した端末を置く)

フレイ(ドヴェルグたち技術班に作らせたもので、地上のスマートフォンやタブレットと構造はほぼ同一)

フレイ(こちらが乗っ取ったMLINEネットワークの情報にアクセスできる代物だ)


ピッ

フレイ「まずはこちらを見てください、これが彼女の能力で――――」





336 ◆WsBxU38iK2:2020/12/19(土) 01:08:30 ID:zccV91RI





──第二世界樹・隠れ家


ピピッ ピピピッ

鞠莉「おや……」


鞠莉(視界の端、サブモニターに表示させていた監視プログラムに通知が表示される)

鞠莉(クリックして詳細をチェック……)

カチッ

鞠莉(……っと、これは旧MLINEネットワークへのアクセスね)

鞠莉(四次元IPから察するに接続先はアースガルズ側の端末)

カチッ カチッ

鞠莉(参照してるのは海未ちゃんのデータ一覧の箇所か)

鞠莉(体格などのパーソナルデータから、異能、武装、焔ノ力などの能力の詳細までが載っている)

鞠莉(一応こういった敵の手に渡ると困る情報には相応のセキュリティを敷いてたはずだけど、相手方にやり手のハッカーでもいるのかしら)



鞠莉「全く……乙女の秘密を覗き見ようだなんて無神経な神様たちだこと」

鞠莉「手の内を探るのは戦争の常套手段だけど、こんな事しなくたって勝てるでしょうに」


鞠莉(モニターに向かって文句を呟くものの、特に今の私にできることはない)

鞠莉(いや……その気になれば盗み見を止めることは自体できるのだけど、止めれば私の存在が気取られてしまう)

鞠莉(この段階で隠れ家の存在が発覚するのはこちらの作戦としても本意ではない)

鞠莉(彼女たちには悪いけど、神様たちの盗み見はスルーさせてもらうとして――――)


ピッ

鞠莉「侑? 世界扉の前に着いたわね」

侑『はい! 着きました!』

鞠莉「よし、私たちは私たちの作戦を進めることに専念するわよ」

侑『ん?』

鞠莉「気にしないで、こっちの話よ」

侑『はあ……』


鞠莉(メインモニターの映像には目的の世界扉が映っている)

鞠莉(この扉の出口を任意の場所に書き換えるのが作戦の第一歩)


鞠莉(私はマイク越しに現場の侑へ話しかける)


鞠莉「侑、扉の周囲の状況を報告して」

鞠莉「特にカメラに映ってない範囲ね、警備をしてる人物やそれに類する機械、何か不審な物がないか確認してもらえると助かるわ」

侑『分かりました』

鞠莉「気をつけて、慎重に観察するのよ」



侑『ええと……扉の周りには>>337

337名無しさん@転載は禁止:2020/12/19(土) 21:45:30 ID:qZHuOdsA
ダンボールがあるぐらいで特に何も

338 ◆WsBxU38iK2:2020/12/20(日) 00:39:35 ID:8dN.Lhm2
侑『ええと……扉の周りにはダンボールがあるくらいで何も』

鞠莉「ダンボール?」

侑『はい、扉から少し離れた壁際にダンボールが5,6個くらい、二段に積み重ねられて置かれてます』

侑『第二世界樹はオープン前ってことだし、搬入された荷物なんかが入ってるんじゃないですか』


鞠莉「ふむ……」

鞠莉(カメラの死角に位置するダンボールか)

鞠莉(ダンボールと言ったら潜入の際に中に潜り込むのが定石だけど、さすがにそんな分かりやすいことはしないはず)

鞠莉(何より侑の近くの扉は未だどの出口とも繋がってない未登録の世界扉)

鞠莉(他の世界に繋がってる扉ならともかく、こんな重要度の低い場所でわざわざ隠れ潜んでる理由がない)


鞠莉「侑、もう一度聞くけど警備の姿は無いのよね?」

侑『ないです、私以外に人の気配はしません』

鞠莉「…………」


鞠莉「……オーケー、周囲を警戒しつつ作業に取り掛かりましょう」

鞠莉「まず扉に近づいて、取っ手の部分を掴んでくれる?」

侑『はいっ』

タタタッ

  
鞠莉(侑は指示通りに扉へ近づくと、両開きになってる扉の中心に付いてる2つの取っ手に手をかけた)

鞠莉(監視カメラから見える映像、及び侑のバイタルに異常はなし)


侑『こう……ですか?』

鞠莉「ええ、そのまま両開きの扉を手前に開いてみて」

侑『開く……分かりました』

ギィーーーーッ

侑『おぉ、思ったより軽い……私の力でも簡単に開けられる』

侑『それに……あれ? 扉を開くと世界樹の木の壁が見える』


鞠莉「そうね、今は世界樹の内壁に打ち付けられてるだけの扉よ」

鞠莉「そのハリボテに出口を登録させて異空間トンネルを作り出すの、やり方は覚えてる?」

侑『確か……決まったリズムで扉を開閉でしたよね』

鞠莉「ピンポーン」


鞠莉「取っ手を掴んだまま、私の言うリズムに合わせて開閉しなさい」

鞠莉「合図は開く時はツー、閉める時はトンと言うわ」

鞠莉「既に開いてる時にツーと言われたらツーの数だけ開いてる状態を維持、トンの連続も同じく状態を意地」

鞠莉「失敗に特にペナルティはないけど、一度ミスると入力が最初からになるから気を付けて」

侑『は……はい』ゴクッ

鞠莉「じゃあ行くわよ」


鞠莉「トンツーツー、トンツーツーツー、トンツートン」

侑『トンツーツー、トンツーツーツー、トンツートン』

ガチャッ ガチャッ 

ガチャッガチャッガチャッ


鞠莉(転移先の座標を登録用の信号に変換したデータ)

鞠莉(私は間違えないよう注意しつつ、モニターに表示された信号のオンオフを読み上げていく)


鞠莉(悪用乱用防止のためのシステムとは言え、ひどくアナログで時間のかかる作業)

鞠莉(侑がその作業を終えるまで、目立った横やりが入る様子は>>339)

339名無しさん@転載は禁止:2020/12/20(日) 13:40:09 ID:n1gtWNM2
他の扉が使われたがそれだけ

340 ◆WsBxU38iK2:2020/12/21(月) 01:46:31 ID:YoPwBlkE
鞠莉(目立った横槍が入る様子はなかった)

鞠莉(強いて言えば作業中に別の扉が使用されたくらい)

鞠莉(監視プログラムから通知が来てカメラを切り替えた時には既に利用者が通り過ぎた後で、誰がいたのかは分からなかったけど……)

鞠莉(ラグナロク開催中の期間にオープン前の第二世界樹を通れる人物、そう考えると整備関係者の可能性が高い)

鞠莉(もしくは地上に降りてた制圧部隊の誰か……とか)


鞠莉(まぁ、侑がいる場所とは階層の違う遠く離れた場所の扉だし、特に問題はないでしょう)

ウンウン

鞠莉「侑、これで入力は終わりよ、扉の様子はどう?」

侑『そうですね、扉は……うわ光った!!』

パァァァァァァァァァァッ!!

鞠莉「成功の証ね、座標登録が完了してやっと扉が稼働を始めたの」

侑『おおー!』


鞠莉(作業時間は10分ほど、初心者があの量のコードを打ち込んだにしては短く済んだ方ね)

鞠莉(侑は覚えが良いというか、飲み込みが早い? 一度教えると器用にこなすから助かるわ)


侑『鞠莉さん! これが歩夢たちのいる場所へ繋がってるんですよね!』

鞠莉「ええ」コクンッ

鞠莉「扉の先は九州中央、地理的には熊本辺りだけど、ムスペルとの戦いで一面焼け野原だから元の面影は皆無」

鞠莉「穂乃果たちの2大拠点である浮遊ドスケーブ城と浮遊塔はここに集まっていて、その他の飛行船や移動要塞なんかも同様に合流してる」

鞠莉「現在はその全てがワルキューレとエインヘリヤル合同の制圧部隊に襲撃を受けて制圧、乗組員は拘束状態にあるわ」


鞠莉「もちろん、貴女の記憶にあるお仲間たちもその中に……ね?」

侑『…………』

ジリッ


鞠莉(侑の言葉と動きが僅かに止まる)

鞠莉(目の前の扉を開けた先はほぼ敵地と言っていい)

鞠莉(使徒のアイテムを持ってるとはいえ、戦闘能力のない女の子が単身で乗り込むにはハードルの高い場所)

鞠莉(尻込みしたって仕方がない、むしろ当然の反応と言える)

341 ◆WsBxU38iK2:2020/12/21(月) 01:46:53 ID:YoPwBlkE


侑『…………私、行きます、行きますよ』

バッ!

侑『今更そんな話で怖気づいたりしません』

侑『鞠莉さんだって言ってたでしょ、疑問があるなら自分で確かめて来いって』

侑『私はそのために行くんです、そのために歩夢たちに会いに行く!』


鞠莉「ふふっ……そんなこと言って、扉を掴んでる手がプルプル震えてるわよ」

侑『む、武者震いです! 武者震い!』

鞠莉「良いわよ侑、面白いわぁ、私はそういう無鉄砲な女の子は嫌いじゃないの」

侑『むぅー……』


鞠莉「じゃ、ここからはボーナスよ」

鞠莉「扉が作成された時点で私と貴女の目的は達成、協力関係を結ぶ理由は無くなったけど、楽しませてもらったから追加でお節介してあげる」

鞠莉「ここから先、通信機が妨害されずに繋がってる保証はできないから、今のうちによく聞いて覚えておきなさい」


侑『……鞠莉さん、優しい?』

鞠莉「やさっ……あ、貴女がマヌケに捕まるのは勝手だけど、あまりに速攻でポカすると協力者の私まで足がつく、それを避けたいだけよ」

鞠莉「これ以上第二世界樹の中で暗躍しにくくなったら困るでしよ」

侑『うーん……素直なのかそうじゃないのか、やっぱり捻くれてる?』

鞠莉「いーいーから、黙ってアドバイス聞なさい」

侑『はーい』


鞠莉「まず扉の先、繋がった先の座標の詳細よ」

鞠莉「さっきは大雑把に九州中央と説明したけど、荒野にポンと放り出されるわけじゃない」

鞠莉「扉の座標は九州に集結した穂乃果たちの拠点、乗り物、そのうち1つの内部に設定してある」


鞠莉「その場所は>>342

342名無しさん@転載は禁止:2020/12/26(土) 22:17:18 ID:P.4ckm9Y
タイムマシンのあるラボ

343 ◆WsBxU38iK2:2020/12/28(月) 00:52:15 ID:vLaTG1eU
鞠莉「その場所はタイムマシンのあるラボ」

侑『ラボ……研究所?』

鞠莉「そうよ、そのラボ」


侑『へー、それにしてもタイムマシンなんて突飛な話、本当にそんなものあるんですか?』

鞠莉「そんなものを大真面目に研究してるとこなの」

鞠莉「名前は未来ガジェット研究所、元々は浮遊塔内部に間借りする形で存在してたラボよ」

鞠莉「だけど浮遊塔爆散の際に研究者は避難、研究していたガジェットやタイムマシンは一緒に避難先の船へ移送されたらしいわ」

侑『ってことは、今は別の場所に?』」

鞠莉「ええ、研究者たちが避難したのがデータを見るに……うん、バーミヤンだからラボもバーミヤン内に再建されてるはず」

鞠莉『とにかく出口が研究者のような施設に繋がってると理解してたらオッケーよ』


鞠莉「バーミヤンについては……」

侑『……レストラン?』

鞠莉「ま、分からないわよね」

侑『はい』

鞠莉「バーミヤンは元魔王軍の移動要塞、魔王軍と言っても今は殆ど味方みたいなものだから安心していいわ」

鞠莉「内部は三層構造になっていて、ブリッジは一番上の上層にある」

鞠莉「艦長はミナリンスキー、他の乗組員の場所は不明だけど、彼女はブリッジに残ってる可能性が高いわ」

侑『なるほど……』


鞠莉「ただ、バーミヤンも例によってアースガルズの制圧部隊に乗り込まれてるから注意すること」

鞠莉「あとは何とか奴らの目を掻い潜ってブリッジにいるミナリンスキーに接触しなさい」

鞠莉「事情を伝えれば多少なりとも力にはなってくれるはず」

侑『……はい、そうしてみます!』


鞠莉「じゃ、後は扉を開いて潜るだけよ、ここまでありがとうね」

侑『いえ、こちらこそありがとうございました』

スッ


鞠莉(侑は監視カメラに向かって一礼すると、世界扉に手をかけ、両開きの扉を手前に引く)

ギィーーーーーーッ

鞠莉(座標入力の時とは違う、実態を伴った鉄の扉の重み)

鞠莉(その隙間からは眩い光が漏れ出し――――)

ピカァァァァァァァァッ!

侑『いってきます!』


鞠莉(侑が一歩踏み出すと、その体は光の中へと消えていった)

バシュンッ!!

344 ◆WsBxU38iK2:2020/12/28(月) 00:52:36 ID:vLaTG1eU


鞠莉「ふぅ……」

ギィッ

鞠莉(侑を見届け一息、椅子へと腰を降ろす)

鞠莉(思わぬ拾いものだったけど、これで本拠地を取り戻す作戦の第一歩は完了)

鞠莉(イレギュラーな第三者、静止した水面に投げ込んだこの小石の波紋がどう影響するか……)

鞠莉(私が裏で工作するためにも、侑には存分に現場を掻き回してもらわなくちゃ)


カタカタッ

鞠莉「さてと……」

鞠莉(モニターの映像をメインスタジアムへ切り替えると、既に海未と対戦相手が闘技場の上に立っていた)

鞠莉(どうやら私と侑が座標入力の作業をしている間にインターバルは終わっていたらしい)

鞠莉「……わっ、もう始まっちゃうのね」


鞠莉「前のインターバルでは解説が挟まれてたけど、今回は何かあったのかしら」

カタカタッ 

鞠莉(ラグナロク運営が公式に流してる映像は遡って見ることはできない)

鞠莉(ただし、観客たちの撮影した写真、映像、書き込みなどの非公式なものは別だ)

鞠莉(時代の流れか、アースガルズにも地上のネットのようなものが存在する)

鞠莉(魔術か科学かのアプローチの違いはあれど、人並みに痴情のもつれのある神たちの発想は人とそう変わらない)
  
鞠莉(要は便利なものが発明されると行き着くとこには行き着くというだけ)


鞠莉(最初こそ否定派や懐疑派が多かったらしいけど、そこは奔放な性格の多い北欧の神々)

鞠莉(手早くどっぷりと沼に浸かり始め、良くも悪くもネット文化の成長は著しいとかなんとか)


カタカタッ

鞠莉「お、あったあった」

鞠莉(情報収集の1つとして、アースガルズの主要な神たちのアカウントは全てチェック済み)

鞠莉(1クリックであらゆる角度からの検索ができるようにしてある)

鞠莉(とりあえず観戦してる神たちのSNS、TL、掲示板なんかの流れを追ってみて――) 


鞠莉「ふむ……私が見てない間の出来事は>>345

345名無しさん@転載は禁止:2020/12/30(水) 00:18:48 ID:2YJhqoE6
神が相手の能力をデータベースを利用してまで覗き見たことで炎上中

346 ◆WsBxU38iK2:2020/12/31(木) 00:21:32 ID:vrdXTbH2
鞠莉「なになに? 『【悲報】チームオーディン対戦相手のデータを事前に盗み見ていた』……ってあらあら」

鞠莉「神が相手の能力をデータベースを利用してまで覗き見たことで炎上中みたいね」

カタカタッ

鞠莉(複数のサイトやSNSをクロールし抽出された情報をまとめ読みした感じ、発端はオーディン側の不正アクセスの証拠が載った画像が出回ったこと)

鞠莉(これにあることないこと尾ひれを付ける流れが生まれ、大手サイトにまとめられて更に拡散されたみたい)

鞠莉(インターバルの間のネットはこの噂で持ち切り、ネット端末を持ってない神たちにも観客席内の口コミで拡散されてる……と)


鞠莉「しかし……妙ね」

カチッ カチッ

鞠莉(まとめサイトでは幾つかの個人SNSのスクショとリンクがソースとして貼られてるけど、どれも画像自体の出どころを書いてるものはない)

鞠莉(さらに言えば、オーディンたちがデータベースにアクセスした時刻から、情報が流出して話題になるまでの時間が早すぎる)

鞠莉(この速さでアクセスを感知できるのは元々データベースの管理者で、管理権限をこっそり残していた私くらい)

鞠莉(もしくはオーディンたちの計画を事前に知っていて、アクセスと同時にログを保存して流出させた……くらいじゃないと説明が付かない)


鞠莉(無論私は関与してないから前者はあり得ない、となると可能性は後者に絞られる)

鞠莉(オーディンに計画を持ちかけた者、もしくは計画を持ちかけた者の関係者)

鞠莉(それ以外だとオーディン側のベンチ、もしくは控え室の会話を盗み聞ける人も考えられるけど……)


鞠莉「……はぁ〜、そこまで行くと推測のしようがないわねぇ」

鞠莉(忘れがちだけど、メインスタジアムの観客の大多数は使徒、その中にはあのカリオペーだって混じってる)

鞠莉(彼女、彼女に準じる力を持った使徒が悪意を持ってオーディン側を貶めようとすれば幾らでもやりようがあるだろう)


鞠莉「それで……チームオーディン側の釈明はっと」

カタカタッ

鞠莉「……お、インターバルでスタジアム内に流れてたアナウンスの動画がある」

鞠莉「よくこんなものまで律儀に録音してることで」

ピッ

鞠莉(動画をクリックして再生)

鞠莉(ボリュームを大きくすると観客のざわめきに混じってダル子の公式アナウンスが聞こえてくる)


ダル子『えーー皆さん、落ち着いてください、落ち着いてください』

ダル子『チームオーディン側からの説明文が届きましたので代読させていただきます』

ダル子『チーム穂乃果のメンバーの情報が載ったデータベースはこの決戦が始まる前に接収したものであり、アースガルズの所有物となっていたものである』

ダル子『よって、決戦が始まった時点でデータベースはチームオーディンの持ち込みアイテムとして扱われる』

ダル子『管理、運営についても既にヴァルハラ側のスタッフが行っており、なんら不正な手段を用いた行為ではない! とのこと』


ダル子『あーー皆さん落ち着いて! 落ち着いください!!』

ブツッ!

347 ◆WsBxU38iK2:2020/12/31(木) 00:21:47 ID:vrdXTbH2


鞠莉「動画はここで終わり……と、それにしても大した屁理屈ね」

鞠莉「いくら正当性をアピールしたとこで一度卑怯だというレッテルを貼られたらどうしようもないでしょうに」

鞠莉「流出させた犯人だってこの状況を見て今頃ほくそ笑んでいるはず……」


鞠莉「……ん?」ピクッ

鞠莉(なんだろう、何か違和感がある、何かを見落としてるような……そんな気がする)

鞠莉(データベースにアクセスしていたオーディンたち、それを感知して覗き見れたのは私と犯人)

鞠莉(つまりあの時刻、データベースと繋がっていた端末はオーディンの物、犯人の物、そして目の前の物の3つ)

鞠莉(ということは、履歴を遡れば犯人の物と思わしきアクセスを見つけられる……)


鞠莉「……いや、待って、違う」

鞠莉(これが身内による流出みたいなつまらない事件じゃなく、第三者による悪意のある犯行だとしたら)

鞠莉(ヴァルハラ管理下のデータベース内に潜り込み、オーディンたちのアクセス履歴を瞬時に確保できるスキルの持ち主だったとしたら)

鞠莉(ヴァルハラの物とは違う、高位のアクセス権限を持ったアカウントの存在に気付いていたとしたら――――)


ピロリンッ

鞠莉「……!」


鞠莉(メールの通知がディスプレイの端にポップアップする)

鞠莉(この隠れ家、この端末の存在を知ってるのは私と侑だけ)

鞠莉(他の皆は捕まったままだし、スタジアムの穂乃果たちに至っては私が1人脱出し行動を始めたことを知る由もない)

鞠莉(そして侑に渡したスマホにはメール機能なんてつけてない)


鞠莉(つまり、このメールは……)

ピッ ピピッ

鞠莉(解析ソフトにかけ、ウイルスや謎の添付ファイルがついていないのを確認した上でメールをクリックする)

カチッ

鞠莉(そこに書かれていたメールの差出人の名前は……>>348)

348名無しさん@転載は禁止:2021/01/02(土) 21:40:23 ID:Re.PhtWo
カリオペー

349 ◆WsBxU38iK2:2021/01/03(日) 00:30:02 ID:0YCIt1C2
鞠莉「カリオペー……よりによって貴女ってわけね」


鞠莉(開かれたメール、そこに表示された文面に目を通していく)

パッ

カリオペー『ごきげんよう親愛なるお母上、不肖の娘である私のことを覚えるかな』

カリオペー『ま、聡明なるお母上のことだから私の介入にはとっくに気付いているはず』

カリオペー『もしかしたら……そう、私の加護を授けた子がお世話になったかも』

カリオペー『まだ会ってないなら出会った時にはよろしく言っておいて』


カリオペー『って、いけないいけない、偽装通信の仕様上あまり長い文面は送れないし、さっさと本題に入るね』

カリオペー『お察しの通り炎上騒ぎの犯人は私だよ』

カリオペー『拡散させた書き込みに悪意を煽るような術式を混ぜておいたから効果は抜群』

カリオペー『すぐに私の想定した騒ぎに発展してくれた、神様たちってのもチョロいねぇ』


カリオペー『動機は……ま、お母上の動機とそう変わらないと思うよ』

カリオペー『私もチームオーディンにここから逆転勝ちされるとすこーし困るんだ』

カリオペー『さすがにオーディンたちの記憶を消すほどの術式は通用しそうにないし、仮に通用したとしても私の存在がバレそうだからパス』

カリオペー『考えた結果、観客を扇動して叩かせる方向に持っていったわけ、文芸の女神としては良い落とし所じゃない?』


鞠莉「…………」

鞠莉(チームオーディンに勝たれると困る……つまり穂乃果たちに肩入れしての行動ということだろうか)

鞠莉(いや、使徒たちにとってはラグナロクに関わるもの全てが討伐対象、単にカリオペーが心変わりしたとは考えにくい)

鞠莉(あれだけ使徒を観客席や解説席に引き込んだ事と言い、絶対によからぬことを企んでいるはず)


カリオペー『だからさ、ここはお互いに邪魔せずにいこうよ』

カリオペー『お母上の行動に私たちからは口を出さない、私たちの行動にもお母上も口を出さない』

カリオペー『人と神による世紀の決戦、せめてこの戦いが終わるまではぬるーく傍観してない?』


カリオペー『私からの提案はそんな感じ、それじゃあお母上、元気でね〜』



カチッ

鞠莉「ふむ……」

鞠莉(メールの文面はここで終わっている)

鞠莉(一応差出人に気付いた時点で精神干渉系の防護術式を走らせてたけど無反応)

鞠莉(さすがのカリオペーも私まで罠に嵌めようとは思わないか……)


鞠莉「それにしても、カリオペーの提案を額面通りに受け取るか、悩みどころねぇ」

鞠莉「お互いに裏があるのを察しつつ不干渉というのは望むとこだけど、他人の思惑に丸乗りするのは気に食わない」


鞠莉「……ま、とりあえずカリオペーには『>>350』と返信しておきましょう」

カタカタッ

350名無しさん@転載は禁止:2021/01/06(水) 00:32:03 ID:fcF2QqTc
私の邪魔にならなければいいわ
邪魔をしたらわかってるわね?

351 ◆WsBxU38iK2:2021/01/07(木) 00:58:31 ID:Iz/jPjKM
鞠莉「……っと、返信はこれでオーケー」

タンッ


鞠莉「カリオペーだったり侑ちゃんだったり予定外の事態は多いけど、計画自体は概ね順調ね」

鞠莉「アースガルズに気取られて邪魔される前に、さっさと本命の作業に取り掛かるとしましょう」

カチッ

鞠莉「ふふ……誰がどう掻き回そうと最後に笑うのはこの私」

鞠莉「遥か昔からこの地上で、この世界で遊ぶのは私の専売特許って決まってるのよ」

鞠莉「北欧の神様だろうがなんだろうが、手を出したらどうなるか――――」



タタンッ!

鞠莉「徹底的に分からせる、あまり人間を舐めない方が良いってね」






352 ◆WsBxU38iK2:2021/01/07(木) 00:58:47 ID:Iz/jPjKM




──メインスタジアム・観客席

同時刻 PM4:55 



ピピッ

カリオペー「……ん、お母上から返信……っと」

ピッ


『私の邪魔にならなければいいわ』

『邪魔をしたらわかってるわね?』


カリオペー「うわー……相変わらず邪魔者には容赦ない人だなぁ」

カリオペー「自分が面白いと思った者には味方するけど、敵と認定したら徹底的に叩き潰す」

カリオペー「基本的に快不快が行動指針な人だからコントロールはしやすいけど、あんまり調子に乗って利用すると痛いしっぺ返しくらうからなぁ」

ブルルッ

カリオペー「あーやだやだ……実験体の頃を思い出すと未だに寒気が止まらない」

ブンブンッ


カリオペー(とりあえず、文面を見る限りお互いに邪魔しない路線で行くことは受け入れられたみたい)

カリオペー(正直スタジアム側と世界樹側、両面を警戒し続けることは難しい)

カリオペー(お母上が向こうの勢力をけん制してくれるのなら願ったり叶ったりだ)

カリオペー(なにより一番はお母上と正面から敵対することを避けられた、ってのに尽きるんだけど……)


カリオペー(あーあ……そんなお母上の玩具の世界樹を襲撃して制圧したやつら、無事に帰ることができるのかなぁ)



ケモミミ「……ミャ! お姉さん! そろそろ3回戦が始まるみたいミャよ!」

カリオペー「ん、そうみたいだね」

ケモミミ「楽しみだミャ、次はどんな戦いが見れるかミャ」

カリオペー「ふふっ……ケモミミちゃんは純粋で可愛いなぁ」ナデナデ

ケモミミ「ミャミャっ!?」ビクッ



カリオペー(炎上でオーディンサイドを掻き回す仕事は終わったし、次の段階までは普通に観戦して楽しんでようかな)

カリオペー(たまたま隣に座ってたケモミミちゃんもすっかり乗り気みたいだし)

カリオペー(気難しい作戦のことは一旦他の面子に丸投げにして、興行を楽しむのありよりのあり)


ワァァァァァァァァァァァァァッ!!!!

カリオペー(チーム穂乃果、チームオーディン、両方の戦士が闘技場に立ってる様子が巨大モニターに映る)

バッ!

ダル子『えー、色々、非常に色々ありましたが、気を取り直して3回戦を始めさせて頂きます』

カリオペー(解説席からのアナウンスは変わらずダル子ちゃん、彼女も結構な巻き込まれ体質で大変そうだねぇ、かわいい)


ダル子『チーム穂乃果、園田海未!』

ワァァァァァァァァァァァァァッ!

ダル子『チームオーディン、ヴァーリ!』

ウォォォォォォォォォォォォォッ!


ダル子『両者一歩前へ!』

ダル子『これよりラグナロク決戦、第3回戦を開始します!』



─────────────────
 
メインスタジアム・オーディン控室
第二世界樹・隠れ家
メインスタジアム・観客席

PM4:30〜4:55 反逆の焔編『16』了

353 ◆WsBxU38iK2:2021/01/07(木) 01:00:10 ID:Iz/jPjKM
というわけでここまで

インターバルが終わり3回戦へ

本年も続く限りダラダラとやっていきます
よろしくおねがいします


反逆の焔『17』に続く
かもしれない

354 ◆WsBxU38iK2:2021/01/08(金) 01:01:10 ID:O6sdUpgM
反逆の焔編『17』

─────────────────
──メインスタジアム・医務室

PM4:55


ピッ ピッ ピッ ピッ


にこ「…………ん」


にこ(医療機器の鳴らす電子音、ゆっくりと落ちる点滴の音、その向こうから僅かに聞こえる歓声)

にこ(鼻孔をくすぐるのは薬と湿布の匂い、ゆっくり息を吸うとどこまでも空虚な清潔感のある空気が肺へ吸い込まれる)

にこ(まぶたは腫れて重く、ぼやけた視界には真っ白な天井が映っていた)


にこ「ここは……」


希「起きたみたいやね、気分はどう?」

にこ「……希」

にこ(声の方、横に立っている希を見ようと体を僅かに浮かし、首を傾けようとする――――)

ビリッ

にこ「うぐっ……!」

にこ(……が、動かない)


にこ(着せられた服、寝かされたベッドのシーツ、それらとの僅かな衣擦れが痺れるような痛みに変わる)

にこ(体中の筋肉が痛い、皮膚をめくって肉の中に針でも埋め込まれてるんじゃないかって痛さだ)

にこ(この痛みに抗って体を動かそうとする気概は、今の私にはとても持ち得るものじゃない)


にこ「はぁ……」

希「ダメやで、安静にしてないと、まだ動けるような傷やないんだから」


にこ(首さえ動かせない私の代わりに、身を乗り出して私の顔を覗き込む希)

にこ(その顔を見てると段々と記憶が戻ってきた)


にこ(トール戦のあと、メインスタジアムへと転送された私はすぐに地面へと倒れ伏した)

にこ(穂乃果たちは大騒ぎで私を医務室へと搬送)

にこ(私に呼びかける声や医療スタッフを呼ぶ声、様々な声を聞きながら私は意識を失い――――)


ピッ ピッ

にこ(今に至る、というわけね)

355 ◆WsBxU38iK2:2021/01/08(金) 01:01:38 ID:O6sdUpgM


希「にこちゃん、痛い所はある?」

にこ「頭の天辺から指の先まで全身余すとこなく痛いわよ……はぁ、口は何とか動かせるのが御の字ね」

にこ「そういう希は付き添っててくれたみたいだけど……そっちはもう大丈夫なの?」  

希「うち? うちはにこちゃんと違って外傷はないからなぁ」

希「まだ貧血みたいなフラつきは残ってるけど、何とか立って歩ける程度には回復したで」

にこ「へー、それは良かったじゃない」


希「ま、それでもまだ生命力はすっからかんやし、医者の先生に言わせれば絶対安静らしいんやけど」

希「こうやって看病するくらいな問題ないやろ、ってうちが判断して押し切ってここに来た」

にこ「はは……あんまり困らせたらダメよ?」

希「分かってるって」


希「でも……皆の力になりたい、皆を応援したいって気持ちは止められないから」

希「無理してるのは承知、にこちゃんはうちを見習ったらアカンからね」


にこ「見習いたくても動かすに動かせないからへーき……っつ、いたた」


にこ(こんな包帯グルグル巻きで半ばベッドに縛り付けられた状態、無茶のしようがないっての)

にこ(自分の体だから分かるけど、回復して動けるようになるのはかなり先だろう)

にこ(まぁ、あのトールの本気の一撃を受けたんだし、命があるだけマシと考えなきゃ)

にこ(実際……せつ菜が介入して来なければどうなっていたか、今こうして希と話せてるかさえ分からない)


にこ(せつ菜との約束……この体だと果たすのは当分先になるんじゃないかしら)



にこ「それにしても、応援……か」
 
チラッ

にこ(仰向けのまま動かせない視界にギリギリ映り込む時計は4時55分を指し示していた)

にこ(進行表が正しければそろそろ3回戦の始まる時間だ)

にこ(たぶん次は海未だろうけど……大丈夫かしら)


希「そうやね、もうすぐ海未ちゃんの出番」

希「ちゃんと小型モニター借りてきたからこの部屋でも観戦できるで」

にこ「……ありがとう、助かる」


希「……あー、そうそう、海未ちゃんから言われてた事があったわ」

にこ「なに?」

希「にこちゃんが目覚めたら伝えておいてって」


希「『私のことは心配ありません、勝ってきます、それから>>356』」

356名無しさん@転載は禁止:2021/01/08(金) 08:16:39 ID:XkgeENmM
これ死亡フラグになってませんか?大丈夫ですか?

357 ◆WsBxU38iK2:2021/01/09(土) 00:52:18 ID:cgHMqNlU
希「『これ死亡フラグになってませんか?大丈夫ですか?』やって」

にこ「ふふっ……海未らしいわね」


にこ「死亡フラグなんて口に出した時点で大したフラグじゃないのよ」

にこ「私や希だってカッコつけて戦いに臨んだわりにこうして生きてるし」

希「そうやね、にこちゃんはギリギリ死にかけって感じやけど……よっ」

ツンッ

にこ「っ! ったぁっ!!!!」ビリッ!


にこ「ぐ……ぐぅ……の、希!」

希「ごめんごめん」フフッ

にこ「ったくもー……そのふさげたツンツンがこっちは激痛なんだから……たたた」


希「それでどうやろ、海未ちゃん」

にこ「ま……ちょっと心配だったけど、それだけ軽口が叩けるなら大丈夫でしょ」

にこ「この3回戦に勝てば私たちの3勝なんだから順調に勝ってもらわないと」

希「そうやね、これで負けたら死んだにこちゃんも浮かばれんわ」

にこ「いや、死んでないし……」



『ワァァァァァァァァァァァァァッ!!』

希「……お」

にこ(希の持つタブレットのスピーカーからより一層大きい歓声が聞こえてくる)

にこ(追いかけるように鳴り響く3回戦の始まりを告げるダル子のアナウンス)


希「よし、応援の時間やね」

にこ「ええ」コクンッ


にこ(2回戦、自分なりに全力を出したつもりではあった)

にこ(けれど私の力は本物の神様へは届かず、勝利はしたものの結果は不甲斐ないものだった)

にこ(仕方なかった、勝ったんだから良いに決まってる、卑怯なんてことはない)

にこ(事情を聞けば皆はそう言ってくれるだろうけど、私だけはこの結果に満足することはないし、満足しちゃいけない)

グッ……


にこ(頼むわよ、海未)

にこ(不甲斐なかった私の分まで……)


にこ(人が神様に勝てるってとこ、見せつけてきて……!)


・ 


358 ◆WsBxU38iK2:2021/01/09(土) 00:52:34 ID:cgHMqNlU
・ 




──メインスタジアム・闘技場


ワァァァァァァァァァァァァァッ!!!!



海未「ふぅ……」


海未(会場を包み込む歓声は2回戦より大きなものとなっていた)

海未(応援する声、鼓舞する声、煽る声)


海未(そんな大歓声の中であっても、味方のベンチにいる2人の声はしっかりと聞こえる)

穂乃果「がんばれー! ファイトだよ!」

ことり「海未ちゃーん! 大丈夫! おちついていこー!」


海未「……よし」

海未(穂乃果、ことり、2人の声が私の力になる)

海未(医務室で見守ってくれてる希とにこ、2人の想いが背中を押してくれる)

海未(皆がいる限り、私の芯は揺るがない……!)


ダル子『両者一歩前へ!』

海未「……」タンッ

ダル子『これよりラグナロク決戦、第3回戦を開始します!』

ワァァァァァァァァァァァァァッ!!

ウォォォォォォォォォォォォォッ!!

 
海未(闘技場の中心へ歩み出ると、反対側のチームオーディン代表との距離が縮まる)

海未(相手はヴァーリ、北欧神話ではオーディンの息子として記述され、復讐者の名を持つ神)

海未(一応の知識はあるにせよ、神話はあくまで神話)

海未(同じ運命、同じ元型に縛られていたとしても、全くの同一人物になるとは限らない)

海未(数多の世界で見てきたその現象は、北欧神話世界だって同様に生じている)


海未(本来ならばアースガルズに存在しない文化や技術の数々、神の模造品として作られたヘイムダム、人に似た化身体を持つトール)

海未(相手が“どんなヴァーリ”か確定できない以上、油断は一ミリも許されない……)


ヴァーリ「よ! おねえちゃん!」

海未「……」

ヴァーリ「ぼく たたかうならおねえちゃんがいいってずっとおもってたんだ」

ヴァーリ「だからおねえちゃんが相手でうれしい、わくわくする!」


海未(ローブを纏ったヴァーリはこちらに向かって大きく手を振る)

海未(背はトールより小さく、発する声は甲高くて中性的、捉えようによっては男児にも女児にも聞こえる)


海未「これから戦う相手にお姉ちゃんとは馴れ馴れしいですね、私は海未です、園田海未」

ヴァーリ「じゃあウミおねえちゃんだね」

海未「はぁ……まぁ何でもいいです」



ダル子『では両者揃ったところで3回戦のスタジアムを決定していきましょう』

ダル子『3回戦の舞台となるスタジアムは――――』

ドゥルルルルルルルルルルル


ドドンッ!!


ダル子『>>359スタジアムです!!』

359名無しさん@転載は禁止:2021/01/09(土) 09:50:42 ID:dUZtXlGA
ラブホ

360 ◆WsBxU38iK2:2021/01/10(日) 00:34:30 ID:af0Fm2W6
ダル子『ラブホスタジアムです!』

ワァァァァァァァァァァァァァッ!!


海未「ラブホ……」

ヴァーリ「らぶほ……?」


海未(とんちんかんな名前のスタジアムに疑問を持っていると、頭上の4面巨大モニターにスタジアムの全景が表示される)

バッ!

ダル子『こちらのスタジアムは豊穣神フレイヤ様の設計したスタジアムであり、城塞型のラブホテルをモチーフとしています』

ダル子『敷地面積は1万平方メートル、中央塔を含めた全高は150メートル』

ダル子『部屋数は1万をゆうに超え、広大な庭や多くの娯楽施設を内包』

ダル子『フレイヤ様の趣味も多少入った規格外の巨大ラブホテル、それがラブホスタジアムなのです!』

ウォォォォォォォォォォォォォォ!!


海未(この説明でそんな歓声があがります? 神様たちの感覚というのはよく分かりませんね)

海未(昨今のラブホというものはバラエティ豊かなものと聞きますが……この規模ではまるで某夢の国並のテーマパーク)

海未(逆にラブホの意味があるのかどうか問いただしたくなってきますね)


海未「はぁ……」

海未(まぁ、この際ホテルとしての機能は置いておきましょう)

海未(単純に巨大な城塞を舞台にした戦いと考えていい)

海未(一回戦の宇宙ステーションほど限定された施設内ではなく、2回戦の結界ほど開けた空間ではない)

海未(中庭、室内、外壁、屋根上、塔、どこに陣取るかでロケーションは大きく変化する)


海未(転送地点とそこからの立ち回りが戦況に大きく影響しそうですね……) 


ヴァーリ「ねーねー、ウミおねえちゃん、らぶほってなに?」

海未「……特に知る必要はありませんよ」

ヴァーリ「ふーん……テキにイうとフリになるから?」  

海未「しょ、勝負には関係ないことですから……」

ヴァーリ「じゃあよくない?」

海未「……っ」

タジッ


海未「と、とにかくいいんです!!」
 

ヴァーリ「えー、おしえてよー」

ヴァーリ「ねーえ、ねーえー」

海未「ぐっ……」


海未(無駄にしつこいですね……ここは>>361)

361名無しさん@転載は禁止:2021/01/12(火) 22:18:30 ID:7Tyfog5E
ビンタ

362 ◆WsBxU38iK2:2021/01/14(木) 00:49:06 ID:LQeGuOJE
海未(ここは……)


海未「そこまでっ!」ブンッ!!

ヴァーリ「おっ」タンッ


海未(私が空の右手を右から左に薙ぎ払うように振り抜く)

海未(それと同時にヴァーリが半歩下がると、ヴァーリの足元に一直線のラインが刻まれた)

ザッッッッッッッッッッ!


ヴァーリ「すごい、なにこれ」

海未「ただのビンタです」

ヴァーリ「いや……ビンタはトばないでしょ」

海未「気合入れたら飛びますよ」

ヴァーリ「そういうもん……かなぁ」


海未「今のビンタであなたの足元の石床の表面を削り境界線を引きました」

海未「そこを踏み越えたら今度はあなたの頬に今のビンタを食らわします」

スッ

ヴァーリ「いじわる、ぶー」


海未「私たちは世界を背負って戦う武人の身」

海未「武人ならば口より戦で語り合おうではありませんか」

海未「それでも己の我を通すなら勝利すればいい、そのための戦場だって用意されていますし」


海未「ふふっ……まさか、神ともあろう方が口だけ達者というわけではないでしょう」

ヴァーリ「むっ」


クルッ

ヴァーリ「……はいはい、わかったよ」

ヴァーリ「よーはごちゃごちゃイうなってことでしょ」


ヴァーリ「もっとウミおねえちゃんとはなしたかったけど……うん、しかたないか」

ヴァーリ「ボクもダイヒョウらしいし、イチオウがんばりますよー」

スタ スタ


海未「はぁ……」

海未(誤魔化しが効いたのか、ヴァーリは渋々といった様子で定位置へ帰っていく)

海未(全く……ラブホだ何だと私の口から語らせないでほしい)

海未(大事な決戦にこんなスタジアムを混ぜてくるなんて、フレイヤとやらは何を考えているんだか……)

363 ◆WsBxU38iK2:2021/01/14(木) 00:49:22 ID:LQeGuOJE


ダル子『おや……トラブルでしょうか、何事ないなら良いですが……はい、大丈夫そうですね、では転送へ進みます』

キィィィィィィィィンッ

海未(足元に現れる魔法陣)

海未(その光は段々と強くなり私の体を包み込んでいく)


ダル子『事前説明の通り、転送先はラブホスタジアムのランダムなスポーン地点となります』

ダル子『転送終了と共に第3回戦の開始となるので油断しないようご注意を』


海未「すぅー、はぁー」

海未(深呼吸、精神を集中、気を高めていく)

キィィィィィィィィンッ!



ダル子『では転送まで、3……2……1』


海未「……よし、いきましょう!」


ダル子『転送!』

バシュンッ!!


ワァァァァァァァァァァァァァッ!!

ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!







──ラブホスタジアム・??



バシュンッ



海未(光の中、数秒、僅かな浮遊感)

海未(体を包んでいた光が泡沫となり消えていくと、再び体は重力に引かれ、足元に確かな感触を覚える)

スタッ


海未「…………」

海未(着地と同時に姿勢を低くし、腰の剣の束に手を当て、周囲に気配がないか気を張り巡らせる)


海未「……ふぅ」

海未「とりあえず襲撃はないようですね」

スッ


海未「それにしても……」

海未(私が転送された場所、ここはラブホスタジアムの>>364)

364名無しさん@転載は禁止:2021/01/14(木) 01:47:19 ID:lq713LAk
理事長☆ルーム

365 ◆WsBxU38iK2:2021/01/15(金) 01:34:33 ID:QqC3rw8g
海未(ここはラブホスタジアムの一室でしょうか)

タン

海未(大きな窓から差し込む光、機能美を兼ね備えた高級な机と椅子、掃除の行き届いた清潔な環境)

海未(寝具などが無いことから寝泊まりする部屋でないことは分かりますが……)

スタ スタ

海未(スタッフの事務室、いや……それにしては値段が張る内装すぎますね)

海未(大机も1つですし、校長室や社長室に似た雰囲気を感じます)


海未(部屋は見る限り無人のようですが、念の為――――)

スゥーー

海未「ヴァーリ! そこにいるのは分かっていますよ!!」





シーーーン

海未(ふむ、返事は無し……と)


海未(もちろん気配で付近にヴァーリがいないことは察知済み)

海未(万が一私の気配探査を潜り抜ける魔術を使用していた場合を考えカマをかけてみましたが、出てくる様子はなさそうです)

 
海未「他に誰かーー! いませんかーーーー!」

海未(加えて2回戦のようにスタジタムを管理する存在も出てこない)
 
海未(今回は特殊ルールなどは無いということでしょうか……?)


スタスタ

スッ

海未(机と反対に歩くと大きく厚いドアに突き当たる)

海未「翡翠の眸――――透」

カッ!

366 ◆WsBxU38iK2:2021/01/15(金) 01:34:46 ID:QqC3rw8g
海未(視覚強化の翡翠の眸)

海未(元々は強力無比なロックオン効果の瞳力でしたが、修行により別系統の力を発現させることに成功しました)

海未(それが透視能力、範囲は狭いものの翡翠の眸を通して障害物を透視することができる)

キィーーーーンッ

海未「ドアやドアノブに罠のようなものが仕掛けられてる様子は……ありませんね」

海未「ドアの向こうは廊下、左右に伸びているからここは突き当りの部屋ではない」

海未「……む、ドアの反対側に何か文字の印刷されたプレートが貼り付けられていますね」

海未「裏から読む手前、少々読みにくいですがこれは……り、じ、ちょ、う ☆ る、ー、む」


海未「り、理事長☆ルーム……?」


海未(上の役職の人物の部屋、という推測は間違ってなかった)

海未(しかし理事長とは、ラブホに何故理事長の部屋が……正直困惑を隠せない)

チラッ

海未(部屋を探索すれば何か手がかりが見つかる……かもしれませんね)


スタスタ

海未「まずは如何にもな机、その引き出しから……」

ガチャッ

ガチャッ

ガチャッ

海未「外れ、外れ、外れ」

ガコッ

海未「……おや、一番下の引き出しは鍵がかかってるようですね」

海未「こんなものは少し強く引っ張れば――――」

メキッ バキッ…バキンッ!

海未「はい、開きました……っと、ここには何か入ってますね」


海未(鍵を破壊し取り出した机の引き出し、その中に入っていたものは>>367)

367名無しさん@転載は禁止:2021/01/15(金) 09:15:21 ID:dlylGJQo
ルールブック

368 ◆WsBxU38iK2:2021/01/16(土) 01:01:42 ID:vDb4dstQ
海未(入っていたのは一冊の薄い冊子)

海未(本というよりパンフレットと言った方が近い数ページ程度のもので、指で挟んで持ち上げてみても厚さというものを感じられない)

海未(その表紙に書かれているタイトルは――――)


海未「……ルールブック」


サッ ササッ

海未(一度左右を見て周囲を確認してから慎重にページを捲る)
 
ペラッ

海未「ルールブック、名前の通りならこのスタジアムのルールが書いてあるはず」

海未「ヴァーリより先に詳細なルールを知ることができれば有利に立ち回れるのでは……」


海未(ともかく読んでみないことには始まらない)

海未(周囲の警戒を続けたまま、ルールブックに記された文章に目を通していく)


海未「ふむ……」

海未(序文や前置き、そういった要らない要素を除外すると、まず目に付くのは勝敗の条件について書かれた項ですね)

海未(勝利条件は対戦相手の戦闘不能、もしくは降参、エリア外での時間切れ)

海未(敗北条件は逆に自分が上記の状況に陥ること)

海未(この辺りは事前に教えられた共通のルールで特に変わりはありません)


海未「エリアと言うのは……あれですね」

海未(本から目を離し、視線を大きな窓の方へと向ける)

海未(窓から見える景色には城塞型ラブホの各施設が立ち並んでおり、それらの外側に広大な庭や花畑が広がっている)

海未(更にその向こう、城全体を取り囲むように覆っているオレンジ色のドーム、あれがエリアを区切る境界線)


海未「あのドームの外に行くと体力の減少が始まり、ゼロになると戦闘不能扱いになる」

海未「さらにドームは時間と共に範囲を縮小して行き、最終的には城全てがエリア外となる……と」

海未「実質的な時間切れのシステム、要はあのエリアが縮まり切る前にヴァーリを倒せば勝ちですか」



海未「それで、エリアが完全に消失するまでの時間は…………1時間」

海未「敷地面積から考えると短めですね、手早く動いていく必要がありそうです」


海未(主な勝敗についての記述はこんなところ、後は細かいルールや注意点について載っている)

海未(城の壁や物品などを壊すことについてのペナルティは無し)

海未(あらゆるものを自由に使用して自由に立ち回ることが許可されているそう)

海未(その他、Q&Aなどを読み進めていくものの…………)


海未「……なんでしょう、これといって把握したから有利になる事は書かれていませんね」

海未「鍵付きの引き出しから手に入れたものですから少しは期待したのですが……はぁ、こちらの考えすぎでしたかね」

ピラッ

海未(そんなことを思いながら最後のページに目を通す)

海未(そのページに書かれているのは>>369)

369名無しさん@転載は禁止:2021/01/17(日) 15:56:08 ID:IbDdF1Is
これを読んだら地下牢に来い

370 ◆WsBxU38iK2:2021/01/18(月) 01:24:52 ID:TkGVT.Ak
海未「“これを読んだら地下牢に来い”」

海未「なんでしょう……この文章は」


海未(この文章だけが明らかに異質、ルールについて記述していた他の文章と毛色が違う)

海未(ルールブックを読んだものへの指示なのだとすれば、従ったほうが良いのか、はたまた罠なのか)


海未「ふむ……」

海未(10秒ほど思考を巡らせるも答えは出ない)

海未(ルールブックを閉じて筒のように丸め、背負ってるリュックの脇に突き刺す)

スッ

海未「……ま、他に手がかりもありませんし、とりあえず地下牢とやらまで行ってみますか」

海未「これと同じものが各部屋に隠してあるなら、ヴァーリも見つける可能性は充分にある」

海未「ならば先に行って確かめるべきですね」

タンッ


海未「善は急げ、宝だろうと罠だろうと、先に見つけるのは私ですから!」

タタンッ!







──メインスタジアム・実況席



ダル子『さぁ始まりました第3回戦、チーム穂乃果の園田海未が早速動き出すようです』

ダル子『見てる限り地下牢へ向かうようですが……解説の三船さん、この動きはどう思います?』

三船『ええ、判断が早い、良い動きだと思います』

ダル子『ほぉ、と言うと――――』


ダル子(実況席には一回戦のインターバル、2回戦、2回戦のインターバルから続いて三船さんが隣に座っている)

ダル子(何か質問をすれば的確に返してくれるし知識も豊富、解説として不満のあるところは無いけど……)

ダル子(なんだろう、やっぱり使徒って言うところが気になる)

ダル子(仕事に集中しつつなるべく挙動から目を離さないようにしないと)


三船『ランダムに選ばれるスタート地点が理事長ルームだったの幸運ですが、転送されてからの初動が得に素晴らしい』

三船『素早い索敵と安全確保、注意深く鍵のついた棚を見つける探索力と強引に鍵を破壊する思い切り』

三船『そこからルールブックを読んで地下牢へ動くところまで、一つ一つの動作に無駄がありません』

ダル子『なるほど』


三船『ラブホスタジアムは広く、広大な敷地と複数の建物が連なるため接敵しにくい戦場となっています』

三船『故に必要なのは素早い判断と正確な立ち回り方』

三船『ここを疎かにしては準備が間に合わず接敵するはめになるか、無様にエリアに飲み込まれるか、どちらにせよ勝機はないでしょう』

ダル子『ほー、そういう意味でも園田海未の動きは理想的というわけですね』

三船『はい』コクンッ


ダル子『では一方のチームオーディン、ヴァーリの様子はどうなっているのか』

ダル子『こちらの様子も見ていきましょう』

パッ!

ダル子(私の実況に合わせ、巨大モニターの映像がヴァーリの方へ切り替わる)


ダル子『現在ヴァーリがいる場所は……>>371

371名無しさん@転載は禁止:2021/01/22(金) 22:24:00 ID:NB6aLaw6
受付

372 ◆WsBxU38iK2:2021/01/24(日) 00:56:22 ID:ME2xNJqs
ダル子『現在ヴァーリがいる場所は受付、ホテルの入り口にある受付を探索してるようです』

ダル子『しかし三船さん、この受付……というかエントランスもホテルに負けず劣らず大きいですね』

三船『はい、フレイヤ様及びスタジアム建築班から配布されて資料によればエントランスには一層の気合を入れて作ったそうですね』

三船『ホテルの入り口はホテルの顔、ここを豪華にしなかったら気分が乗らない、とのことです』

ダル子『ほー』


三船『その他には妖精族から巨人族まで、様々な種族が利用できるようにとの意味もあるそうです』

ダル子『なるほど、これだけ広ければ体の大きな種族でも難なく入れますからね』

ダル子『誰とでもやりたがりの……い、いえ、グローバルな視点を持ったフレイヤ様らしい設計思想です』

三船『……?』

ダル子『と、ともかく、ヴァーリの動きに注目してみましょう』


──────────────


ヴァーリ『おー? んー?』

ガサゴソ ガサゴソ

ヴァーリ『ダメだなぁ、おもしろそうなものぜんぜんないや』

──────────────



ダル子『あれは……受付のカウンターの中に入って物色してるようですね』

三船『初動としては間違った行動ではないでしょう』

三船『しかし園田海未と比べると雑な探索で見落しが多く見受けられますね』

三船『性格の違いとは言え、手がかりを見落とすのは痛いところではあります』


ダル子『ふむ……しばらく探索は続けられるようですね』

ダル子『ではここで園田海未のいた理事長ルーム、それから地下牢との位置関係を整理しましょう』

ピッ

ダル子(ヴァーリの姿を映していた巨大モニターにワイプで全体マップが表示される)

パッ!


ダル子『えーラブホスタジアムには多くの建物が立ち並んでいますが、ホテルとしての機能を持った施設は敷地の中央に密集しています』

ダル子『それが今映してるマップ、中央塔と中央塔に繋がる東西南北4棟の建造物の図です』

ダル子『1本の長い塔と4つの高層ビルの集合体……みたいなイメージだと想像しやすいでしょうか』

ダル子『高さ150mの中央塔とそれを囲む東西南北のビルは空中を結ぶ連絡通路で移動することが可能となっています』


三船『これを見ると……理事長ルームがあるのは北のビル、北館の上層階ですね』

三船『対して地下牢は中央塔の地下、受付は南館の一階にあります』

三船『北館の上層階から降りてきて連絡通路を通り中央塔を降りることを考えると、位置関係的にはヴァーリの方が地下牢には近い』

三船『両者地下牢を目指すのであればヴァーリが有利ですが……』

ダル子『はい、ヴァーリはまだそこには至ってない様子です』


ダル子『この間にどこまで差を縮められるかが園田海未には求められ――――』

──────────────


ヴァーリ『そうだ! だったらこうすればいいんだ!』

──────────────


ダル子『……おおっと! 物色を続けていたヴァーリ、ここで新たな行動に移る様子』

ダル子『その行動とは>>373

373名無しさん@転載は禁止:2021/01/24(日) 12:12:29 ID:BEGISWaw
歌う

374 ◆WsBxU38iK2:2021/01/25(月) 00:35:04 ID:da1W9RK.
ダル子『その行動とは……歌っています!』

ダル子『チームオーディン代表ヴァーリ、ここに来て探索の手を止め歌うという選択』

ダル子『受付のカウンターの上に飛び乗り、上機嫌に歌いながら歩いています』


ダル子『三船さん、これはどういう……?』

三船『……私にも分かりません、歌そのものに効力があるのか、歌うという行為に意味があるのか』 

三船『この行動はいったい何を――――』









──チームオーディン・ベンチ



フレイ「…………」


ザッ

トール「なんだありゃ、ヴァーリのやつ歌ってんのか」

フレイ「……ええ、そのようですね」


フレイ(ベンチに座り、ヴァーリを観戦していた私に背後から声をかけたのはトールだった)

フレイ(全身に包帯を巻き、足運びは重く、顔色も青く全体的にぐったりとしている)

フレイ(さすがのトールと言えど生命力を搾り取られるのは相当憔悴した様子)


フレイ(まぁ……それでも数十分の休憩を挟むだけでここまで回復するのだから、トールのタフネスさには驚嘆するばかりです)


フレイ「トール、体の方は大丈夫なのですか」

トール「傷は問題ねェよ、ただ生命力の回復にはどうしても時間がかかるな」

トール「あと少し時間が残ってりゃ仕留めきれたってのに……矢澤にこ、運の良いやつだぜ」

フレイ「…………運、ねぇ」



トール「そんで? もうヴァーリは戦い始めてんだろ」

フレイ(トールは立ったまま体重をベンチに預けるように、ベンチの後ろから背もたれに手を置く)

ギシッ

トール「あいつ、随分とテンション高いな、あんなにテンションの高いヴァーリは見たことないぞ」

フレイ「ええ、私もです」


フレイ(この世に産み落とされヘズを殺した後、ヴァーリは生きる理由を失ったようにふさぎ込んでいた)

フレイ(多少の言語や知識は教え込まれたものの、自ら外に出ることはなく引きこもる日々を送っていた)


フレイ(そんなヴァーリを見ていた私としては驚きもあり、また喜ばしく思うところもある)


トール「加えてあの歌、戦地にいるのに歌うとは呑気なことで」ハッ

フレイ「あの歌は……ああ、そうですね、トールは知らなかったのでしたね」

トール「ん? 何の話だ」

フレイ「ヴァーリが口にしているあの歌は>>375

375名無しさん@転載は禁止:2021/01/26(火) 15:57:24 ID:3KcRAXx.
夢への一歩

376 ◆WsBxU38iK2:2021/01/27(水) 00:19:56 ID:IS4sBpJI
フレイ「ヴァーリが口にしてるあの歌は夢の一歩、地上のアイドルの歌です」 

トール「地上のねェ……」

フレイ「ヴァーリが引きこもっていた時、ヴァルハラのお世話係たちが元気を出させようとあれこれ試していたんです」

フレイ「外の世界へ興味をもたせるような物品、遊戯、文化、芸術」

フレイ「まぁ……殆どの物は空振りに終わりましたが」

トール「ほォ」

フレイ「その中でヴァーリが唯一興味を示したのがあの歌です」


フレイ「ヴァーリを外に出すことは叶いませんでしたが、それでもあの歌がヴァーリに勇気を与え続けたことは間違いない」

フレイ「ヴァーリにとって、あの歌は自らを奮い立たせる大切な歌なのです」








──ラブホスタジアム・北側連絡通路



??『はてしなーい みちでもいっぽーいっぽ』

??『あきらーめなければゆめはにげない』


タンッ

海未「……! この声は……?」


海未(理事長ルームを出た私は階段を使って北館を下り、途中にあった館内案内図で地下牢が中央塔の地下にあることを知った)

海未(そこで北館の中層から北側連絡通路を通り、中央塔へと足を踏み入れたのですが……)


海未「歌……誰かが歌ってる……?」

海未(中央塔は各階の真ん中が大きな吹き抜けになっている)

海未(吹き抜けはおそらく一階から始まり、私が今いる連絡通路と繋がるフロアを超え、さらに十数階上まで続いている)

海未(そんな長い長い吹き抜けを通り、歌声は階下から響いていた)


??『ぎゃっきょーも、ふあーんも、のりーこえーてゆけるよー』


海未「翡翠の眸――――」キィンッ

海未(遠視で吹き抜けの最下層を見てみるが人影は見当たらない)

海未(ということは、中央塔の外から発せられた声が中央塔まで届いて響いている……?)


海未「……ふむ」

海未(ラブホスタジアムで発せられる私以外の声、そんなものは十中八九ヴァーリに違いない)

海未(そう考えるとこの歌声も転送前に聞いたヴァーリの声と似ている気がしてきた)

海未(どうして歌ってるのか、どんな声量ならここまで届くんだ、という疑問は今は置いておくとして――――)


海未「このまま地下牢へ向かうと、間違いなく歌声の方へ近付くんですよね……」

ギュッ

海未(吹き抜けの周囲に張り巡らされた転落防止用の手すりを握り、階下を見下ろす)

海未(歌声に近付くということは当然ヴァーリに察知されるリスクも高くなる)

海未(しかしこれといった手がかりのない今、地下牢という選択肢は捨てがたい)


海未「そうですね、ここは……>>377

377名無しさん@転載は禁止:2021/02/07(日) 00:34:47 ID:rnsmXkVk
様子見

378 ◆WsBxU38iK2:2021/02/08(月) 03:29:08 ID:yPs3WZSo
海未「そうですね……ここは様子を見ましょう」

海未(地下牢へ向かうという判断を曲げることはしないとしても、このまま無策で階下へ飛び込むのは早計)

海未(せめて歌が終わった後にヴァーリがどう行動するのか探ってからでも遅くはない)


ヴァーリ「あなたーがてをにぎってーくれーたー」


海未(しかしこの歌、どこか聞き覚えがある気が…………)


フッ

海未「……ん?」

海未(歌に耳を傾け始めた瞬間、唐突に歌声が消失し吹き抜けが静寂に包まれる)

シーーーーン

海未(歌はこれからサビという所で途切れたから歌い終わったわけではない)

海未(歌っていたヴァーリに歌を中断アクシデントがあったのでしょうか)

……ゴクッ


海未(急に静まり返ると、今度は自分の呼吸音や鼓動がやけに大きく聞こえてくる)

海未(気をつけなければ……足音などでヴァーリに存在を気取られるわけにはいかない)

海未(慎重に、慎重に、気配を、存在を霧消させて――――)


ヴァーリ「ごめーん! それはムダだよーー!」

海未「……っ!」

海未(先程までとは違う、明らかに“私を認識した”ヴァーリの呼びかけ)


ヴァーリ「だってーー! さっきのウタのトチュウさーー! ウミおねえちゃんのとこだけオトのハねカエりがちがったもん!」

海未「音の跳ね返り……まさか、反響定位、エコーロケーション!?」

海未(あり得ない、あんな距離からあんな適当な歌で私の位置を察知したなんて)

海未(いや……相手は神そのもの、あり得ないなんてことはあり得ない)

海未(思考を切り替えろ、対応するのです私!)


ヴァーリ「だからさーー! いくよーーーーー!」

海未「っ!」バッ!

海未(翡翠の眸による索敵、声の反響からの逆算的にヴァーリが中央塔にいないのは確実)

海未(残る可能性は私の来た北館以外の3つの建造物、そして北館と同様に連絡通路で繋がっているのならそれ相応の距離がある)

海未(距離を詰めるには時間がかかり、ヴァーリとしては私を逃したくはないはず)


海未(ならば、“弓の名手ヴァーリ”として取る選択は1つ!)



ヴァーリ「はっしゃー! どーん!」

海未(やはり……!)


ゾォォォッ!!

海未(南館の方向から飛来した物体が凄まじい速度で空気を切り裂きつつ、中央塔の吹き抜けを垂直に駆け上がってくる)

海未(ヴァーリの打ち出した一の矢、その正体は>>379)

379名無しさん@転載は禁止:2021/02/08(月) 21:39:02 ID:5clf4loE
歌いたい気持ち

380 ◆WsBxU38iK2:2021/02/10(水) 00:50:16 ID:Npcvsg6k
海未(その正体は……見えないっ!?)

ゾォォォッ!!

海未(形のあるもの、弓矢や弾丸のようなものではない)

海未(目視できない力の塊が風切り音を鳴らし駆け上がってきている)


海未「いや……見えないなんてことはありませんっ!」

カッ!!

海未(両目を見開き翡翠の眸の能力を最大限まで発揮する)

海未(音がするということは質量がある、移動の際に空気を押しのけてるなら気流の乱れができる)

海未(その風の流れをこの瞳で捉えることができれば――――)


バシュッ!!

海未「そこですっ!!」

海未(階下からスクリューのように回転し登ってきた空気の流れ)

海未(その流れが速度を落とし、私のいる階の天井付近の高さで数秒の溜めを作る)

海未(そして再加速、吹き抜けの近くにいる私めがけて飛んでくる見えない弾を……ぶった斬る!!)

ザンッ!!!!


海未「どうです! これで……」



海未「……?」

海未(おかしい……確かに私は見えない弾の位置を見定め、タイミングよくファントムエッジを振るったはず)

海未(それなのに……無い、どこにもない)

海未(振り抜いた刃、その柄を握る手に感触が伝わってこないのだ)

海未(そこにあったはずの弾を斬った感触が……)


海未「……ない!?」

ブフォアッ!!

海未「ぐっ!」

海未(その事実に気付いた瞬間、私の顔面に生温い風のようなものが吹きかかった)


ヴァーリ「ざーんねーん! ケンをぬいたオトがしたけど、それはキれないんだよー!」

ヴァーリ「だってそれー! かぜなんだもーん!」


海未「……っ!?」

海未(しまった、判断を誤った)

海未(見えない弾丸が風を纏っていたのではない……その風こそがヴァーリの放った弾丸だったのだ)


海未「しかし……」

海未(風の弾丸と言えど、ダメージを与えるほどの密度や威力は無かった)

海未(むしろ私に当たる直前で霧散し、そよ風程度の風速に減速してしまった)

海未(だからこそ、私が剣を振るったところで感触がなかったわけなのだが……)


海未「ダメージを与える目的ではない、となれば状態異常……麻痺や毒を与える目的……?」

海未「ですが体のどこにも異常は感じられません、呂律も回ってますし意識もハッキリしている」


ヴァーリ「なーんかキョロキョロしてるーー? だいじょーぶだいじょーぶ、そんなカラダにドクなものじゃないってー!」

ヴァーリ「そのカゼにフウじられてたのはウタいたいキモチだよー!」


海未「歌いたい……気持ち?」


ヴァーリ「そのカゼをあびるとウタをウタいたくなってー! それからー>>381

381名無しさん@転載は禁止:2021/02/20(土) 08:43:14 ID:dke9UntI
歌を聴くと歌わずにいられなくなる

382 ◆WsBxU38iK2:2021/02/21(日) 00:15:30 ID:Jne5w/gk
ヴァーリ「それからー、ウミおねえちゃんのことだからガマンするとオモうけどー!」

ヴァーリ「ウタいたいキモチはウタをキくたびにつよくなっていくんだよー!」

ヴァーリ「そのうちウタをキいただけでウタわずにはいられなくなるはず……」

スゥーー


ヴァーリ「らーーーー♪ あーーーーーー♪」


海未「……あぐっ!」ビクッ!


海未(遠くから響くヴァーリの歌声を聞いた瞬間、脳内が歌いたい気持ちで満たされる)

海未(自然と口腔が開き、肺に空気が吸い込まれ、押し留めようとすると体が震える)

ブルルッ

海未「…………あ、あーーーー」



ヴァーリ「はい、そこ」

海未「――――くっ!」


海未(こらえ切れず響かせてしまった私の歌声)

海未(その歌声を目印に今度こそ本当の攻撃が飛んでくる)

ビシュッ!

ザザザザザンッ!!!!

海未(足元のフロアに突き刺さったのは4本の矢)

海未(見た目は何の変哲もない木の矢だが、その鏃はフロアを砕く勢いで刺さっている)

海未(明らかに普通の矢ではない、ヴァーリの力が込められた弾丸――――)


ザザザザザンッ!!!!

海未「っ!」

バッ!

海未(1射目、さらに2射目を斜め前方への飛び込むようなローリングで回避)

海未(起き上がった勢いでそのまま走り出す)

ダダダッ!


ヴァーリ「おっとー! どこに逃げても無駄だよー!」

ヴァーリ「ウミおねえちゃんのコエがきこえるかぎり、どこにいたってネラいウてるから!」


海未「ええ、そうでしょう」

海未(分かっている、だから逃げはしない、前に進むだけ……!)

ダンッ!

海未「そうでしょう……ねぇぇぇぇえぇぇぇぇええ♪」

バッ!

海未(ビブラートを響かせながら、私は吹き抜けの手すりに足をかけ、階下へと飛び降りる)


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!

383 ◆WsBxU38iK2:2021/02/21(日) 00:15:49 ID:Jne5w/gk


海未(まだヴァーリとの位置には距離がある)

海未(全力で中央塔へ走りながら距離を詰めてきているだろうけど、この距離なら私の落下速度の方が早い)


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


海未(こうなってしまえば様子見は無意味、このまま一気に……地下牢へ突入する!)


ヴァーリ「あれ? このオトはもしかしてオちてる?」

ヴァーリ「ダメだよー! クウチュウじゃイイマトなんだからーー!」


海未「……っ、誰が良い的ですって……テンタクル!!」

ビシュッ! バシュッ!!


ヴァーリ「おおっ? なにそのウゴき!?」


海未(背中から伸ばした2本の触手を各階層の手すりに絡め、スイングと伸縮でヴァーリの矢を避けていく)

海未(某スパイダー男並の空中機動力で加速して行けば、そこはもう一階の床――――)


海未「ファントムエッジ!!」 

チャキンッ


ザンッ!!!!!!


海未(テンタクルで加速した落下の速度に抜刀の速度を加えたファントムエッジの斬撃)

海未(放たれた一文字の閃光が中央塔一階のフロアを崩壊させる)

バララララララララッ!!

ガラガラララララララララッ!!!!


海未「よし……!」

海未(開かれた穴、崩れ落ちる瓦礫)

海未(その瓦礫の中に飛び込み、一緒に地下空間へと落ちていく) 

ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ


海未「お先に失礼しますよ〜〜♪」

ヴァーリ「だーーっ、まってぇぇぇぇぇぇ♪」


海未(段々と遠くなる頭上の穴、そこにヴァーリの姿はまだ見えない)

海未(どうやら私のほうが先に地下牢へ着くことができそうだ……)


海未「……さて」

海未(視線を頭上から足元に広がる薄暗い空間へと移す)

海未(地下牢がある……とだけ説明があった中央塔の地下空間、そこには>>384)

384名無しさん@転載は禁止:2021/02/21(日) 20:11:07 ID:2HXCDwEs
何者かの拠点

385 ◆WsBxU38iK2:2021/02/23(火) 01:11:58 ID:b3JD90RM
海未(そこにあったのは何者かの拠点だった)


海未「これは――――」キュインッ

海未(翡翠の眸、明)

海未(暗視の効果を持つ新たな翡翠の眸のモードの1つ)

海未(このモードならば薄暗闇が包む広大な地下空間さえハッキリと見通すことができる)


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ


海未「……イメージしていた地下牢とは程遠いですね」


海未(岩盤をくり抜いて作られたであろう大空洞にはコンクリート打ちっぱなしのような無骨な白の建物が1つ)

海未(建物の上部の四隅には大きなサーチライトが設置されてるが点灯されておらず、建物の窓からも灯りが漏れている様子はない)

海未(周囲にはビニールシートを被せられた山積みの物資が所々にまとまって置かれている)

海未(それら全てを囲う用に何重にも張り巡らされた金網のフェンス、分解されたままの機械類)

海未(明らかに何者かが備えていた形跡、拠点として利用していた形跡が垣間見える……)


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ


スタッ

海未「……っと」


海未(体のバネを使い難なく地下空間の地面に着地)

海未(地面はこれまたコンクリート張りのようになっていて着地の風圧で軽く埃が舞い上がる)

海未「こほっ……んんっ」


海未(見た目は完全に放棄された拠点)

海未(しかしそう決めつけるには早い、あの建物の中からは僅かだが息を潜めた何者かの気配がする……)

ザッ

海未(何より、ルールブックに記載があってハズレということはないだろう)


海未「よしっ」


タンッ タタタタタッ

海未(建物に向かって走り出す)

海未(私の足音が地下空洞に響くが注意したところで完全に物音を立てないというのは無理な話)

海未(僅かな音でもヴァーリが追跡してくるというのなら、物音に気を使うより全速力で急いだ方が早い)

タタタタタッ タタンッ!


海未(何度か金網を飛び越えて中央の白い建物に近づいていく)

海未(今頃ヴァーリは私が切り開いた一階の大穴の辺りまで来たのだろうか)

海未(そこから躊躇いなく飛び込んでくるのか、様子を見て矢を放ってくるのか)

海未(ま……どちらにせよ急いだほうが良いことに変わりはない……)


海未「……ですね、っと!」


ガシャンッ! 

タタタンッ!

海未(最後の金網を飛び越え、白い建物の側まで辿り着いた)


海未「ここが……地下牢なのでしょうか」


海未(とりあえず建物の周囲をグルっと回りながら様子を探る)

海未(すると>>386)

386名無しさん@転載は禁止:2021/02/27(土) 07:56:26 ID:bZkdfgs6
宝箱がある牢屋が1つあった

387 ◆WsBxU38iK2:2021/02/28(日) 00:34:44 ID:hhtZa.ag
海未(すると建物の一角にこれまた奇妙な場所があった)


海未「む……?」

ザッ

海未(そこはコンクリートの天井がむき出しのガレージのような場所)

海未(しかしガレージと言っても車があるわけでもなければシャッターが閉まっているわけでもない)

海未(その場所と外を分け隔てるのは天井から床へと伸びる何本もの鉄の棒)

海未(それらは外部からの侵入を、または内部からの脱出を防ぐかの如く、僅かな隙間を開けびっしりと等間隔に並んでいた)

海未(正に……牢屋、その呼び名がしっくりと来る場所だ)


海未(さらに奇妙なことに牢屋の中を覗くと宝箱が置いてあった)

海未(映画やゲームなどでよく見る宝箱然とした宝箱)

海未(古今東西老若男女、ひと目見れば誰でも宝物が入ってると勘付くあの宝箱だ)


キョロキョロ

海未(一通り観察し終わった私は辺りをもう再び見回す)


海未「あの〜〜〜〜♪ どなたか〜〜〜〜♪ いませんか〜〜〜〜♪」


海未(隠密行動をする気はさらさらない)

海未(こうして口を開けば歌ってしまう状況で隠密なんて出来ないし、行動の遅れはヴァーリに追いつかれる可能性を上げてしまう)

海未(建物の周囲を不用心に歩き回ったのも、こっそり嗅ぎ回るというよりは私の存在を中にいる何者かにアピールする意味合いが強い)

海未(要は時間がないから敵でも味方でもさっさと姿を表して欲しい……という話)


シーーーーン

海未「……反応なしですか」


海未(ミュージカル風に呼びかけてみても声が帰ってくることはない)

海未(謎の拠点、怪しげな牢、潜んでいる気配、あからさまな宝箱)

海未(誰がどう考えても罠としか思えないシチュエーションですが……)


海未「まぁ……ここまで来たなら仕方がありません」チャキッ

海未「虎穴に入らずんば虎子を得ず! です!」

ガキィンツ!!!!!


海未(牢の鉄棒を刀でなで斬りにし、内部へ侵入)

海未(そのまま暗い牢の中を宝箱の元へと進んでいく)

スタ スタ


海未「ふぅ……」

海未(一息整え、姿勢を低くし、宝箱へ手をかける)

海未(そして宝箱を開けると……>>388)

388名無しさん@転載は禁止:2021/02/28(日) 23:11:42 ID:TRle7JfU
めのまえが まっくらになった

389 ◆WsBxU38iK2:2021/03/03(水) 00:35:45 ID:5rLHdXpw
ガブンッ!

『めのまえが まっくらになった』


海未「……なっ! なんですかこれ!?」

海未(謎のテキストが視界に表示されると同時に視界が暗転、目の前が真っ暗になってしまった)

海未(翡翠の眸の能力を一通り試して見るが……)

海未「遠視! 透視! 暗視!」

キュインッ キュインッ キュインッ

海未(……ダメ! 視界は暗闇のまま、効果は全く感じられない)


海未「くっ……」

海未(視力と瞳術系スキルの封印、それも元型能力が通用しないほどの高度なもの)

海未(罠があるかもとは思っていましたが、まさか物理的なものではなく視界を奪ってくるとは……)

海未(ただでさえ聴力に長けているヴァーリ相手に視力を縛って戦う?)

海未(いやいや、そんな勝負勝ち目があるわけがない!)


海未「くっ……ど、どうして〜〜♪」

海未「いったい誰がなんのためーにー♪ こんなー罠を〜♪」


ピロンッ

『ようこそ! ドキドキ地下の大冒険! 目隠しプレイルームへ!』

海未「……は?」


海未(疑問を口にした瞬間、再び真っ暗な視界にテキストが表示された)


『運悪く敵勢力の手に落ちてしまったあなたを待っていたのは敵拠点での捕虜生活!』

『逃げ出すことの出来ない地下空間で牢に入れられ自由を奪われる日々』

『さらに敵の兵から目隠しをされたあなたは、あ〜んな風やこ〜んな風に体を弄ばれちゃうの、やっだ〜! ぴ〜んち!』

海未「…………」


『……と、そんなシチュエーションプレイを楽しめるのがこの地下施設となっています』

『パートナーと存分に楽しんでね〜! バァ〜イ』


海未「……は はぁあああああああああああああああっ!?」

390 ◆WsBxU38iK2:2021/03/03(水) 00:36:04 ID:5rLHdXpw
海未(忘れていた、失念していた、このスタジアムは頭のおかしい色ボケ女神が陣頭指揮を取った複合ラブホ施設だった……!)

海未(つまりこの広大な地下空間こそがプレイを楽しむためだけに作られた1/1のジオラマ! 完全な趣味の空間!)

ガクッ!

海未(思わず膝をつき項垂れる)


海未「な……な……」

海未(なーにがプレイルームですか! こちとら命をかけたやり取りしてるんですよ! ふざけるのもいい加減にしてください!)


海未「はぁ……はぁ……」


海未(いや、一旦冷静になりましょう)

海未(ここが頭のおかしな施設とは言えど、地下牢へ行けというメッセージがあったことは事実)

海未(あのメッセージが目隠しプレイをさせるための指示だったとは思えない)

海未(そしてこのガイドテキストらしきものは私の声に反応する)

海未(……と、考えれば)


海未「すみませーーん♪ プレイに関して聞きたいことがあるのですが〜〜♪」

ピロンッ

『なんでしょう』

海未(やはり……!)


海未「この目隠しを取る方法を〜♪ ご存知ないでしょうか〜♪」

海未(プレイなのなら終わらせばいい)

海未(目隠しを取った後でこの拠点の探索を再開する……!)


『はい、それでしたら>>391

391名無しさん@転載は禁止:2021/03/17(水) 07:33:48 ID:R9jJuvJo
クッキングssの1スレ目見たのって5年くらい前だった気が

392名無しさん@転載は禁止:2021/03/17(水) 07:34:50 ID:R9jJuvJo
あっkskst

393名無しさん@転載は禁止:2021/03/21(日) 17:57:49 ID:5rx9Bp/w
プレイが終われば外れます

394 ◆WsBxU38iK2:2021/03/22(月) 01:19:01 ID:U0Sh0Qn2
『プレイが終われば外れます』

海未「……い、いや、ですからそのプレイを終わらせる方法というものを質問してるわけでして〜♪」

『プレイが終われば外れます』

海未「だからあの〜♪ そういうことではなく〜♪」

『プレイが終われば外れます』

海未「……っ!」


海未(完全に堂々巡り、いくら質問してもシステムが具体的な解決策を提示することはない)

海未(良いアイディアだと思っただけに悔しさが隠しきれず思わず歯噛みする)

ギリッ


海未(聞き方の問題か、目隠しのどこかに別のシステムコンソールを開くボタンがあるのか)

海未(どちらにせよ文字通り手探りをしている時間は――――) 


ビュォンッ!!!!

海未「っ!」


ドゴォォォォォォンッ!!

バラララララララッ


海未(拠点内へ迫ってきた風切り音に反応して身を撚ると、私の横を衝撃が通過しコンクリートの壁が破壊される音が響いた)

海未(間違いない……ヴァーリによる狙撃)

海未(やつはもう地下空洞まで降りてきて私が拠点に潜んでいることに気付いている)


海未「だからっ、そんな時間はないと言ったでしょうに!」

海未(初撃を回避できたのは偶然の産物)

海未(ヴァーリとしても狙いを絞るために放った矢でトドメを刺すつもりは毛頭ないだろう)

海未(私が動けば動くほど、音を立てれば立てるほど、ヴァーリは正確に私の位置を把握できるのだから……)


海未(ここから始まるのは文字通りの目隠しプレイ)

海未(視界を奪われ彷徨う標的となった私を、追い立て追い詰め撃ち抜く一方的な遊戯)

海未(私に勝ち目などは端から用意されてなどいない)


海未(ならば……少しでも盾にできる障害物のある方、音の反響する拠点内へ移動するのが吉だろう)

海未(暗闇に怯える2本の足に活を入れ、私は拠点の奥へと走り出す)

ダタタッ!!





395 ◆WsBxU38iK2:2021/03/22(月) 01:19:28 ID:U0Sh0Qn2




海未「くっ……! ぐぅっ……!」

タンッ! タタタタタッ!!

海未(視界を奪われた状態で走るのが怖いことが、目を瞑って歩いてみればすぐ分かることだろう)

海未(それが勝手知った自分の家ならまだしも、全く未知の建物の中を走らなければならないと来ている)

海未(失われる平衡感覚、把握できない壁に衝突する可能性、吹き飛んだコンクリの破片が床に転がれば避ける術など有りはしない)

海未(さらに背後からは自分を狙う複数の風切り音!)

ビュォンッ! ビュォンッ!

ドゴォォォォォォンッ! ドゴォォォォォォンッ!!


海未「はぁっ……! はぁっ……!」


海未(頼りになるのは眷属化で研ぎ澄まされた聴覚と反射神経だけ)

ビュォンッ!

海未「くっ……!」ヒュンッ!

ゴッ!!

海未「ぐっ!」タンッ!

海未(矢の音が迫った瞬間に身を翻して回避をし、壁に体が触れた瞬間に身を捻って飛び退く)


海未(だがそれでも――――)

ブシュッ!! 

海未「がっ……!」

海未(完全に躱しきれなかった矢が肌を裂き、熱した鉄の棒を押し付けられたような痛みが走る)

グッ

海未「止ま……るな、止まるなぁぁぁぁぁ♪」

ダタタタタタッ!

海未(僅かな傷や打撲は仕方がない、今はとにかく走ることだけを考えなければ死あるのみ)



ヴァーリ「あのさーーーーー!」

キィーーンッ

海未「……!」

海未(ヴァーリの声、遠くにいるはずなのに相変わらず大きく響く声だ)

海未(狙う獲物に呼びかけるその様は、狙われる側からすればプレッシャー以外の何物でもない)


ヴァーリ「ぼくさーー! あんまりイッポウテキなカリってすきじゃないんだよねーー!」

ヴァーリ「いやなオモイデしかないんだよーー! にげるアイテをおいつてるってのはーー!」


海未「はっ……だったら少しは手加減してくれても良いんですよ……?」

海未(ボソリと口元で呟く声、だがこんな音量の声もヴァーリの耳には届いているのだろう)


ヴァーリ「だからさー、イッキにおわらせてあげるね」

海未「……なっ!?」


ヴァーリ「ほーーらっ!」

バシュンッ!!!!


海未(音で分かる)

海未(ヴァーリが今放った矢はこれまでのどの矢とも違う)

海未(一本だった矢が空中で無数の矢に分裂、この拠点ごと殲滅せしめようと雨の如く降り注ぐ)

バババババババババババババババッ!!


海未(そして、矢が拠点の外壁へ到達すると>>396)

396名無しさん@転載は禁止:2021/04/02(金) 09:06:52 ID:QZB6Yd9Q
「激しいプレイですね」とガイドメッセージに言われた

397 ◆WsBxU38iK2:2021/04/05(月) 00:25:05 ID:pHNozD1U
海未(矢が拠点の外壁に到達するとコンクリートの牙城は無残にも砕け散り――)


『激しいプレイですね』


海未「は……? このタイミングで何を……………」

ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

海未「ぐっ……! ぐあああああああああああっ!!」

ゴロロロロロロロロッ



ガンッ!

海未「がはっ……」


海未(おそらく拠点は全壊、そうはいかずとも半壊したのだろう)

海未(立っていられないほどの揺れに私の体は転倒し、衝撃波で床を激しく転げ回った後に壁へと叩きつけられた)

海未「はっ……がはっ……」

グッ ググッ

海未(衝突した壁面に鉄筋などが突き出してなかったのが不幸中の幸いか)

海未(打撲のダメージはあるものの矢は刺さっておらず、まだ走り出す程度の余力は残されている)


海未「しかし……先程のは……」

海未(狙撃の枠を超えた爆撃とも言える矢の雨、ヴァーリの攻撃が衝撃的だったのは確かなのだが、私にはそれより引っかかってることがあった)

海未(拠点が崩壊した際のガイドメッセージの言葉)

海未(『激しいプレイですね』と残したあの言葉だ)


海未「つまり……そういうことですか……?」

海未(考えられるのは、ガイドメッセージが、私とヴァーリの一連の攻防をプレイと認識している説)

海未(ヴァーリが攻めで私が受け、命懸けのやり取りをしている点を除けば広義の意味で目隠しプレイとは言える)

海未(自分の中ではあくまで悲観的な比喩に過ぎなかったが、もしシステムが同じ判断を下しているのならば……)




海未「……終わらせればいい」

グッ

海未「この逃走劇に明確な決着が付けば私の目隠しは外れる」

海未「『決着によりプレイが終了した』とシステムに錯覚させるような状況を作ればいいんです……!」


ググッ

海未(決着……決着……)

海未(私は瓦礫の山の陰で伏せの姿勢を続けたまま考えを巡らせる)


海未(一番手っ取り早いのは私が敗北することだ)

海未(何も命を差し出したり、第三回戦自体の勝利を諦める必要はない)

海未(あくまでシステムに、“この地下空間での一連のプレイが園田海未の敗北で終わった”と思い込ませればいいだけ)

海未(私がこの状況と能力を使って敗北を演出すればいいだけの話だ)


海未「ならば……することは1つ……>>398

398名無しさん@転載は禁止:2021/04/05(月) 19:50:01 ID:iPc246i.
催眠を自分にかけアへ顔ダブルピースする

399 ◆WsBxU38iK2:2021/04/07(水) 00:48:47 ID:Eq/4uYqQ
海未「ならば……することは1つ……」

シュルルルッ

海未「マインドコントロールテンタクル――――」


カッ!

海未「セルフコントロール!」







──メインスタジアム


ワァァァァァァァァァァァッ!

ウォォォォォォォォォォッ!!


──実況席


ダル子「第三回戦、ラブホスタジアムの地下空間での戦闘」

ダル子「中央の拠点へ逃げ込んだ園田海未へ降り注ぐ矢の雨、雨、雨」

ダル子「ヴァーリの手により堅牢な外壁は崩壊し、園田海未の逃げ場は殆どなくなってしまいました」


ダル子「三船さん、この状況をどう見ます?」

三船「そうですね、両者の位置関係を考えると一方的に撃ち続けられるヴァーリが圧倒的に有利と言えるしょう」

三船「彼女の耳は優れておりあらゆる音が敵の位置を正確に捉えることができます」

ダル子「なるほど」


三船「一方で園田海未は視覚をゴーグルのようなもので封じられた状態、このまま逃げ回るのは不利と思われます」

三船「ところで……あのゴーグルのようなアイテム、宝箱の中から飛び出て装着されたように見えましたが……」

三船「実況の方に何か情報は来てるのでしょうか」

ダル子「い、いやぁ……特にこれといった情報は入ってませんね」

ガサガサ パラララッ

ダル子「スタジアム内のアイテムに関してはフレイヤ様が好き勝手に配置したとのことなとで、彼女に聞けば分かるとは思いますが――――」

三船「ふむ」


ピピッ!!

ダル子「おっと! ここで画面が切り替わりました、また何か動きがあったようです」

三船「これは園田海未側を映しているカメラですね」


ダル子「瓦礫の山の間、伏せていたはずの園田海未が仰向けになり、口をだらしなく開けて両手でピースしています」

三船「両者で……ピース?」

ダル子「あ……アヘ顔ダブルピース! これはアヘ顔ダブルピースだあああああああ!!」

ワァァァァァァァァァァァッ!!


三船「は……?」


ダル子「園田海未、ここに来てアヘ顔ダブルピース、開けた口からは舌を出し、天井に腹を向け、がに股のポーズまで取っています」

ダル子「三船さん、いったいどういうことなんでしょうか」

三船「いや、私に聞かれても……」

ダル子「目元はゴーグルで隠れていますが一切の躊躇が見られません、喘ぎながら涎まで垂らしています」


ダル子「まるで獣が見せる服従のポーズ」

ダル子「園田海未、どうしたのか! 全てを諦めてしまったというのか!!」





400 ◆WsBxU38iK2:2021/04/07(水) 00:50:55 ID:Eq/4uYqQ




──地下空間


ヴァーリ「おねえ……ちゃん?」

ピタッ


ヴァーリ(おねえちゃんのコエが、イキが、かわった)

ヴァーリ(さっきまでのヒッシににげるものじゃない、ヒッシにあがくものじゃない)

ヴァーリ(これは、これは――――)







──チームオーディン・ベンチ



トール「おいどうした、ヴァーリまで動かなくなっちまったぞ」

トール「引き絞ってた弓まで降ろして……どうなってんだおい!」


フレイ「悟ったんでしょうね、獲物が抵抗を止めたのを」

トール「あぁ?」

フレイ「ヴァーリには分かるんです、感じ取れるんですよ」

フレイ「あの子は敵を狩るためにオーディンより生み出された天性の狩人」

フレイ「声、震え、息遣い、そういったものから獲物の感情を読み取ることができる」


フレイ「だから悟った、園田海未がこれ以上抵抗する気を無くしたことを」

フレイ「だから落胆した、これ以上楽しい時間が続かないことに」


トール「……わっかんねぇなぁ、相手が諦めたんなら勝利だろ、勝ちゃ楽しいじゃねェか」

トール「端から戦う気のない相手をいたぶるならともかく、園田海未は十分に抵抗した」

トール「その上で相手を詰ませたのはヴァーリの力量と時の運だ、何もバツの悪いことはしてねェだろう」


フレイ「まぁ……私たちにとって戦いは戦闘や娯楽の一部ですから、本当の意味であの子の気持ちを理解することはできません」

フレイ「あの子にとって戦いは、狩りは生そのもの」

フレイ「最初に腹違いの兄であるヘズを殺した時も、その後にオーディンの命令で別の標的を殺した時も、あの子の生は狩りの中にあった」

フレイ「そんなことを繰り返すうちに気づいたのでしょう、自らの生は狩りの中にあり、外にはない」

フレイ「戦ってない自分は無価値で、無意味で、抜け殻のような存在だと」


トール「なっ……! んなこたねェだろ!!」バンッ!

フレイ「はい、私もそう思います」

トール「……っ」


フレイ「ですから私は引きこもったあの子を外に出すように努力を重ねてきました」

フレイ「ま、無駄でしたけどね……ラグナロクが始まるまでは」


トール「このラグナロクが、またあいつの心に火を付けたのか」

フレイ「ええ、特に園田海未、彼女の活躍を見てね」


フレイ「ヴァーリは思ったのでしょう、彼女とならばまた心熱くなる戦いができると」

フレイ「戦場でしか示せない自分の生の輝きに浸れると」

401 ◆WsBxU38iK2:2021/04/07(水) 00:51:45 ID:Eq/4uYqQ
フレイ「ですが、希望が大きければ絶望もまた大きくなる」

トール「…………」


フレイ「どうします、ヴァーリ」

フレイ「あなたが初めて自ら焦がれた標的が、他の愚鈍なる獲物と同じ末路を辿ろうとしている」

フレイ「そんな獲物を前に、あなたは――――」







──地下空間、崩壊した拠点



ザッ

ヴァーリ「おねぇ……ちゃん」


ヴァーリ(ガレキのヤマのナカ、アシモトにウミおねえちゃんがころがっている)

ヴァーリ(ここまでサッキをだしてムボウビにあるいてきたけど、ハンノウするヨウスはない)


海未「あへ……あへへへ……」

ピクッ ピクッピクッ

ヴァーリ(あおむけになって、だらしないヒョウジョウ、ハツジョウしたニオイまでする)

ヴァーリ(シをサトっておかしくなった……?)


ヴァーリ(ベツに……おかしいことじゃない)

ヴァーリ(イマまでもそう、おいつめられたエモノはヘンなことばかりしてきた)

ヴァーリ(みにくくなきさけんだり、イノチごいをしたり、すべてをあきらめてムになったり)

ヴァーリ(だからわかる、おねえちゃんのこれはエンギじゃない)


ヴァーリ(おねえちゃんは……ココロのソコから……ほんとにこわれちゃったんだ……)

ギリッ


ヴァーリ「……ちがう、ちがう、ちがうちがうちがう!」

ヴァーリ「そうじゃない! こんなんじゃない! ボクがやりたかったのはこんなんじゃない!」

ヴァーリ「おねえちゃんとだったら、ウミおねえちゃんとだったら……もっとあつくなれるたたかいができるとおもったのに!!」


海未「あへぇ……あへあへ……ぐへへへへへ」

ヴァーリ「…………っ」



ヴァーリ「……もういい、もういいよ、ケッキョクみんなおなじなんだ」


ヴァーリ「だから、ボクが、ボクが……おわらせる」

ガシッ

ヴァーリ(ヤをミギテでつかみ、ヤジリをおねえちゃんのシンゾウにあわせて、おもいっきりふりかぶる)

ググググググッ


ヴァーリ「これで……おわりだっ!!」

ブンッ!!!!

402 ◆WsBxU38iK2:2021/04/07(水) 00:52:08 ID:Eq/4uYqQ
ザクッ!!


ヴァーリ「ささっ……あれ?」


ポタッ ポタッ ポタッ

ヴァーリ(ふりおろしたヤはたしかにつきささった)

ヴァーリ(でも、ささったのはおねえちゃんのシンゾウじゃない、おねえちゃんのテだった)

ヴァーリ(いつのまにか、かかげられていたおねえちゃんのヒダリテ)

ヴァーリ(そのテにヤがカンツウしたまたま、ボクのテをにぎりしめるようにうごきをとめられている)


ポタッ ポタッ ポタッ

ヴァーリ(そのテからたれおちるチでそまるクチモトは、さっきまでのほうけたヒョウジョウとはちがっていた)

ヴァーリ(ぎゅっとかたくむすんだ、ケツイのヒョウジョウ)



ピーーーーーーーーッ

システム『敗北のポーズ、終わらせる宣言、両者のプレイ終了の希望により目隠しプレイを終了』

システム『視界の封鎖を解除致します』

バシュンッ!!

ヴァーリ「……っ!」


ヴァーリ(ナゾのコエとドウジに、おねえちゃんのメをおおっていたキカイがバラバラにはじけとんだ)

ヴァーリ(そのムコウにみえるのは、ヒカリをうしなっていない、キボウにみちたヒトミ……!)


ググッ  ググググググッ

海未「……ええ、そうですよ」

ヴァーリ「……ぐっ!」

海未「私だって、こんなところで戦いを終わらせるつもりは毛頭ありません」

グググググッ

ヴァーリ(おしもどされる……)

ヴァーリ(ヤをにぎるボクのミギテが……ヤのつきささったおねえちゃんのヒダリテに……おしもどされる……)

ググググググッ

ヴァーリ(ゆるみきっていたはずのカラダにチカラがはいる……ボロボロでキズだらけのカラダにチカラがみなぎる……)

ググググググッ

ヴァーリ(たちあがる……とめられない……!?)

グンッ!!


ヴァーリ「なっ……!?」

海未「はぁ……はぁっ……」

ザッ


海未「随分と無様な姿を見せてしまったようですね、落胆させてしまいすみません」

ヴァーリ「ええ、ああ……うん、まぁ……そうだね」


海未「ですから、ここからが本番です」

ヴァーリ「……っ!」

ヴァーリ(にぎられたコブシにチカラがはいる)

ヴァーリ(おねえちゃんのあついコドウが……つたわってくる……!)



海未「あなたのしたがっていた熱いバトル」

海未「本当の園田海未の力というものを、存分に見せてあげます――――!」



─────────────────

メインスタジアム
ラブホスタジアム

PM4:55〜5:30 反逆の焔編『17』了

403 ◆WsBxU38iK2:2021/04/07(水) 00:53:56 ID:Eq/4uYqQ
というわけでここまで

ちょっと長くなりましたがこれで3回戦の前半終了
次から後半ですね

反逆の焔編『18』に続く
かもしれない

404 ◆WsBxU38iK2:2021/04/08(木) 00:15:23 ID:bIwAgezA
反逆の焔編『18』

─────────────────
──地下空間・崩壊した拠点 

PM5:30


海未「さぁ……いきますよ!」

ヴァーリ「なっ……!」ビクッ

海未(私の宣戦布告によりヴァーリが動揺するのが手にとるように分かる)

海未(ま、実際に手と手は物理的に繋がれてるわけなのですが……)


ヴァーリ「だ、だましたの!? ぼくをここまでおびきよせるために!」

海未「騙すとは人聞きが悪いですね、こちらのデバフを解除しつつあなたを適正距離まで引っ張り出す戦術です」

ヴァーリ「そんな……アレがエンギだとはとても……」

海未「ええ、ですから演技ではありません」

ヴァーリ「は、はぁ!?」


海未(マインドコントロールによる自己洗脳、ヴァーリの五感を持ってしても見抜けないのは仕方ない)

海未(むしろ狩人としての感覚が優れているからこそ、本物を疑うことができないとも言える)

海未(生まれついての戦闘マシーン、だが経験は浅く、常に追い立てる側故に搦手を知らない)

海未(付け入る隙は……そこにある!)



海未「ほら、戸惑ってる時間はありませんよ」

海未「弓の使えないこの距離なら有利なのは私です!」

ヴァーリ「くっ……」グッ

海未(矢を握ったままのヴァーリの手を私が掴んでる以上、戦闘はインファイトの距離で行われる)

海未(そして片手を封じてる限りヴァーリは次の矢を放つことができない)


ヴァーリ「それは……そっちだっておなじだよ!」

ヴァーリ「このキョリじゃケンをぬいてふりまわすことだって――――」

海未「はっ!!」

ゴッ!!

ヴァーリ「ぐがっ!?」

メキメキメキッ


海未(私の放った掌底がヴァーリに突き刺さり、ヴァーリの体が地面から僅かに浮かび上がる)

ヴァーリ「ぐっ……かはっ」

海未「忘れましたか? 転送前に見せた私の腕前」

ダンッ

海未「はっ! とうっ! たぁっ!!」

ヴァーリ「ぐっ! がっ! ごぁっ!!」

海未(一歩踏み込み、落ちてきたヴァーリの体に打撃を連続で叩き込んでいく)

405 ◆WsBxU38iK2:2021/04/08(木) 00:15:40 ID:bIwAgezA


ガンッ! ボコッ!! ゴリッ! メキィィッ!!

海未(拳! 拳! 蹴り! 蹴り! 拳! 蹴り! 拳!)

海未(息もつかせぬ連打、反撃を許さぬ乱打)

ヴァーリ「こ、このっ……」バッ!

海未(そしてヴァーリの目が私の打撃に慣れてきたところで――――)

フッ

ヴァーリ「……こない!?」

海未「フェイントです、たぁっ!!」

メキィィッ


ゴッ!!!!

海未(掴んでいた手を離し、力を込めた一撃を食らわせると、ヴァーリの体は後方へ吹き飛び瓦礫の山へと突っ込んだ)

バァァァァァァァァァンッ!!

ガシャァァァァァァァァァァァンッ!!!!


海未「ふっ」


ヴァーリ「く……このちから……ほんとに、にんげん……?」

ガラララッ


海未「人間離れしてるとはよく言われます」

海未「一応眷属化してる手前、身体能力は“あの吸血鬼”水準、あまり舐めると痛い目を見ますよ」

ヴァーリ「っ……もうおそいっての……」ググツ


海未「それとご忠告ついでにもう1つ」

海未「人と話す時はそのローブ取って目を見て話すべきです」

海未「まぁ、さっきの私の一撃でローブは千切れとんでしまったようですが……」


ヴァーリ「え……あぁっ!」


海未(ローブが剥がれた状態で起き上がるヴァーリ)

海未(今までローブ越しに隠れていたその姿は>>406)

406名無しさん@転載は禁止:2021/04/15(木) 18:44:01 ID:kQJw3rPw
超絶美少女

407 ◆WsBxU38iK2:2021/04/17(土) 00:41:32 ID:HXkRgfFE
海未(その姿は超絶美少女だった)


ヴァーリ「くっ……」


海未(髪は手入れされてる様子がなく無造作に伸びてるものの絹のような滑らかさ)

海未(長く伸びた前髪の間から覗かせる美しい顔は芸術品と言っても過言ではない)

海未(私たちの世界の北欧神話ではヴァーリの息子という伝承でしたが、こちらではどうやら娘だったみたいですね)


海未「あらあら、随分と綺麗な顔をしていますね」

ヴァーリ「う……うるさいっ!」

海未「ですが……手加減はしませんよっ!」

ダンッ!!

海未(瓦礫の山で上体を起こしているヴァーリに対し、ファントムエッジを鞘から抜いて斬りかかる)


海未「はっ!」

ヴァーリ「……っ!」バッ!!

海未(しかし流石ヴァーリと言ったところ)

海未(瓦礫の積み上がった足場、上体を起こしただけの姿勢、そんな不安定な状態から両手の力と反動だけで斜め後方に飛び上がり、私の斬撃を回避する)

海未「ほう」

ヴァーリ「そんなカンタンに……やられてたまるかっ!」


海未(先程は虚を衝いて乱打に持ち込めましたが、やはり神族というだけの身体能力はある)

海未(来ると分かっている攻撃を避けることは容易いか)


ザンッ!!

海未(私の放った斬撃に両断される瓦礫の山)

海未(その上、飛び上がったヴァーリは空中で態勢を整え弓を引き絞る)

ギギッ


海未「ですが、この距離はまだ私の射程圏内……!」

408 ◆WsBxU38iK2:2021/04/17(土) 00:41:48 ID:HXkRgfFE
バッ!

海未「引きずり落とせ、テンタクルズ!」

バシュルルルルルルルルルッ!!

ヴァーリ「……っ!?」

海未(私の髪の毛の先が纏まり、10本の太い触手となってヴァーリへ伸びる)


ヴァーリ「このっ!」

バシュッ! ダダダダダ!!

海未(正に文字通りの神業、発射から接触まで1秒とかからないであろう速度の触手をヴァーリは目にも留まらぬ速射で落としていく)

海未(一本、また一本、さらに一本、的確に撃ち抜かれた触手が動きを止めて髪の毛へと戻る)

海未(しかしこの距離、いかに神業を持ってしてもは全てを撃ち落とすことは――――)


海未「できない!」

シュルルルッ! ガシッ! ガシッガシッ!!

ヴァーリ「ぐっ……!」

海未(生き残った3本の触手がヴァーリの左手と右足と腰に絡みつく)


ヴァーリ「こ、こんなもので……」グググッ

メリリリッ

海未(もちろんこんなもので物理的に、拘束できるとは思っていない)

海未(実際ヴァーリが力を込めるだけで楽に引きちぎられてしまうだろう)

海未(だから、一瞬触れられればいい……!)


海未「マインドコントロール・テンタクル!」

ヴァーリ「ぐっ……」ガクンッ!

海未(拘束、洗脳、文字通りの絡め手にヴァーリの抵抗が弱くなり、その体は地面へと落ちていく)

ヒュゥゥゥゥッ


海未(アース神族相手に人間の私の異能がどれほど効くのか、おそらくそう長くはないだろう)

海未(10秒か、5秒か、1秒か、あるいは瞬きにも満たないのか)

海未(確実なのはその後にヴァーリが再び意識を取り戻すということ)


海未(この一瞬が……私にとって最大のチャンスとなる!)

ダッ!!


海未(駆け出す、前傾姿勢、見据えるは触手で繋がれたヴァーリの落下地点)

海未(そこに叩き込むのは>>409)

409名無しさん@転載は禁止:2021/04/23(金) 22:46:48 ID:bJSzsKnw
すべての剣を弓で放つ

410 ◆WsBxU38iK2:2021/04/25(日) 00:05:19 ID:G/Av1alI
海未(そこに叩き込むのは必殺の一撃)


海未(ただし文字通りの“一撃”では勝負を決めることはできないだろう)

海未(何故なら一撃加えた時点でヴァーリは間違いなく意識を取り戻す、そして一撃だけではヴァーリに大きな痛手を負わせるには程遠い)

海未(打撃、投げ、射撃、斬撃……)

海未(人間相手なら必殺となり得る一撃も神族相手に放つにはどこまでも心許ない)


海未(だから……私は束ねる!!)


バッ!

海未「ファントムエッジ――ディープミラージュ!」

バシュシュシュッ!

海未(剣を振りかざしそう叫ぶと、私の周囲に3本のファントムエッジが召喚される)

海未(ファントムエッジは巨海霊の力を宿した変幻自在の刀身を持つ幽鬼剣)

海未(今まで刀身の変化ばかり重視して来ましたが、応用すれば霊力によって自らを海に浮かぶ蜃気楼のように複製することだって可能)

海未(これも円卓での修行の成果の一つというわけです)



海未(そしてこの蜃気楼は……実体を持つ蜃気楼!)

シュルルルッ! ガシッ! ガシガシッ!!


海未(ヴァーリへと駆ける足はそのままに、伸ばした触手で宙空に召喚されたファントムエッジを掴んでいく)

海未(複製したファントムエッジは掴む触手は3本、ヴァーリを捕らえている触手は3本、つまり空いてる触手は残り4本)

海未(その残りの手を埋めるのは――――)

海未「ラブアローシュート! ディープミラージュ!」

バッ! バッ! バッ! バッ!


海未(同じように召喚、複製した4つのラブアローシュートの弓)

海未(それらをすかさず残りの触手で掴み、ファントムエッジを掴んだ触手へと、ニ本一組になるよう近くへ持っていく)

海未(ファントムエッジを巨大な矢とし、ラブアローシュートの弓へとつがえる)

ギリリッ

海未(触手同士で1組、2組、3組……最後の4つ目の弓を掴んだ触手は私の胸の前へ)

シュルルルッ

海未(痛めて弓を握れない左手の代わりに最後の触手を使い、右手に掴んでる本物のファントムエッジを放つ!)

411 ◆WsBxU38iK2:2021/04/25(日) 00:05:49 ID:G/Av1alI


海未「ふっ!」

海未(短く浅く息を吸い込む、ヴァーリはもう目の前、手を伸ばせば届く距離)

ダンッ!

海未(最後の一歩を力強く踏みしめ、姿勢を固める)

ギリリリリッ!!

海未(4つの弓を触手と右手で同時に限界まで引き絞り、狙いをヴァーリへと向ける)


海未「はああああああああああ!!」

ググググググッ!

海未(これは複製した“全ての剣を弓で放つ”一撃)

海未(一撃だが一撃ではない、4つの連撃を束ねて同時に放つ、一撃を超えた一撃)

海未(これなら……ヴァーリに届く!)



海未「超超近距離、4連――――」

バッ!!

海未「ファントムアローインパクト!!!!」

ドドドドンッ!!!!!!!!



ザザザザンッ!!!

ヴァーリ「がっ……!」

海未(到底弓の距離でない、クロスレンジから放たれる、パイルバンカーにも似た4連撃)

海未(最高速で射出された4本の剣はヴァーリの体に突き刺さってなお速度を落とさず、ヴァーリを貫いたまま地下大空洞の壁へと吹き飛んでいく)

ゴッ!!!!



ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!

バリバリバリバリッ


海未「はぁ……はぁ……」

海未(ヴァーリが壁へと激突するのに1秒とかからなかった)

海未(その衝撃で岩壁には大きなクレーターが生まれ、四方に長い亀裂が走る)

海未(振動が天井まで伝わったのか、小さな岩や砂が上から落ちて来る始末)


パラララララッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 
海未「これ……天井崩れたりしませんよね、大丈夫ですよね……?」


海未(そんな心配をしているうちに、壁に叩きつけたヴァーリを覆い隠していた粉塵が晴れてくる)

海未(私の渾身の一撃を食らったヴァーリ、その様子は……>>412)

412名無しさん@転載は禁止:2021/04/27(火) 23:22:26 ID:1Wc4zVQI
弓をこちらに向けていた

413 ◆WsBxU38iK2:2021/04/29(木) 00:21:05 ID:zrZpH/Zo
海未(その様子は……)


海未「……っ!?」

海未(粉塵の向こう、ヴァーリの目に灯る戦意の光は消えてなどいなかった)

海未(体には確かに貫通した5本の剣、傷口から壁面へと流れる血がその証左)

海未(常人ならば死んでいてもおかしくない傷を受け、なおヴァーリは不敵に笑い弓をこちらに向けていた)



バシュッ!


海未「っ!」バッ!

海未(そこから放たれた風を纏う1本の矢)

海未(咄嗟に身を捻り回避したものの、肌には一筋の赤い線が走る)
 
ツーーーー


海未(避けきれなかった……?)

海未(ヴァーリの姿は確かに目視していたはず)

海未(先程までの目隠し状態ならまだしも、今は翡翠の眸の動体視力と眷属の体の反射速度をフルに活用できる)

海未(それなのにたった一本の矢を避けきれない、まさか今までのダメージで私の体のパフォーマンスが落ちて――――)


バシュッ!!

海未「……っ!」

海未(思考を引き裂く二発目、これもすんでのところで回避したものの、明らかに反応速度が遅れている)

海(やはり私の体が……いや?)

海未(待て、よく考えよう、もしかしたら……そうだ……私は遅くなってない、これは逆に……)


バシュッ!!!

海未「くっ……!」

海未(3発目、どうやら私の考えは合っているようだ)

海未(とても悪い予想が的中して思わずため息が溢れてしまう)

海未「はぁ……」


海未「ヴァーリ、あなた……ここに来て矢の速度が上がっていますね」



ヴァーリ「……くくっ、あはははははは!!」

バシュッ! バシュッシュシュ!! バシュッシュシュシュシュシュシュ!!

海未「だっ……もうっ!!」


海未(ヴァーリが矢筒から矢を取り出した瞬間に矢は弓へとつがえられ、弓を引き絞った瞬間に矢は発射されている)

海未(まるでコマ数の少ないパラパラ漫画のような、翡翠の眸を持ってしても捉えきれない物理現象を逸脱した速射)

海未(そこから放たれる矢は空中で再加速を繰り返し、こちらの予測より速く目標へと着弾する)

ズダダダダダダダダダダダダダダ!!


海未(最早マシンガン、矢の嵐は真横から叩きつけるように降り注ぐ)

海未(全てをかわし切ることは不可能、素早く身を翻し、近くに転がっている拠点の瓦礫への裏へと走る)

ダダダダダダダダダダ! 

ゴシャァッ!!

海未「……っ、保たないっ!」

海未(1つの瓦礫が盾として機能するのはよくて数秒)

海未(コンクリートがヴァーリの連射により砂塵と変えられるまでの間に別の瓦礫へと走る)

ダタタッ

海未(けれどこんな一時しのぎな回避、いつまでも続くはずがない)

414 ◆WsBxU38iK2:2021/04/29(木) 00:21:42 ID:zrZpH/Zo
ヴァーリ「はははははっ! たのしい! たのしいよおねえちゃん!」

ヴァーリ「ぼくがやりたかったのはこういうたたかい、チとニクがココロからわきおどるたたかい!」

ヴァーリ「いま、さいこうにいきてるってかんじがするよ!」

ズダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!


海未(力を出し惜しみしていた……ということは性格上ないだろう)

海未(今正にこの瞬間、ヴァーリの中に秘められていた天賦の才がさらなる成長を遂げたのだ)

海未(致命傷に近い傷を負い、死の淵に追い込まれてなお、戦闘本能の進化は止まることを知らない)



ヴァーリ「あつい、あつい、からだがあついんだ!」

ヴァーリ「ねぇおねえちゃん、いまならぼくにもできるかな」

ヴァーリ「トールがやってたみたいに、チカラをめいっぱいつかうほうほう」

ヴァーリ「いまなら―――――」

キィィィィィィィィィィンッ


海未「……!」

海未(ヴァーリが握った弓を天高く掲げると、周囲に漂っていた力がヴァーリの元に集まってくる)

海未(そして、その力の奔流が眩い光と共に爆発し……)


ヴァーリ「けしん! かいほう!」

カッ!!







415 ◆WsBxU38iK2:2021/04/29(木) 00:22:12 ID:zrZpH/Zo




──メインスタジアム


──チームオーディンベンチ



ガタッ!

トール「化身解放だと! あのヴァーリが!?」

フレイ「どうやらそのようですね」


フレイ(ヴァーリの発した化身解放の言葉にスタジアム全体がざわめき、隣で観戦していたトールまでもが思わず立ち上がる)


トール「おいフレイ、ヴァーリが化身解放使えるって知ってたのか?」

フレイ「いえ、おそらく初めての試みでしょう」

フレイ「2回戦で見たあなたの化身解放の見様見真似、きちんとした形になるかは分かりませんが……あの神力の高まり、案外成功するかもしれまんね」

トール「マジかよ……」


フレイ(トールが驚くのも無理はない)

フレイ(何故なら化身解放とは“単なる化身解除”とは意味合いが大きく異なる、一朝一夕で会得できる技術ではないのですから)



フレイ「ふふっ」

フレイ(化身とは神族が周囲への影響力を軽減させるため人や他の生物の似姿へと体を変化させること)

フレイ(この化身体と本体を行き来すること自体はなんら難しいことではない)

フレイ(しかし私たちのような強大な力を持つアース神族の場合は事情が異なってくる)

フレイ(化身と共に増減する力が大きすぎるため行き来のたびに身体に多大な負担がかかり、無理をすれば体が崩壊する危険性まである)

フレイ(そのため自らの力を一度切り離し、武具の形に封じ込め、負担の少ない形で化身体となるのです)


フレイ(そして、武具に封じ込めた力の全てを攻撃へと転化し、解放することこそが化身解放)

フレイ(単に元の姿へと戻る化身解除とは違い、自らの力を増幅して取り込むことにより、100%を超えた真なる力を発揮する形態へと姿を変えることができる)

フレイ(その姿は天災を体現した巨人のようなものから莫大なエネルギーを持つ火や雷のエレメントに包まれたもの、大地や遺跡と一体化したものから巨大な武具を鎧として纏ったようなものまで様々)

フレイ(いずれも共通するのは日々の鍛錬とたゆまぬ努力により到達する領域ということ)

フレイ(それ故真なる化身解放に至った者は例外なくアースガルズの歴史に名を刻まれる)


フレイ(少なくとも“お試し”で出来てしまうことではないのですが……)

コトンッ

フレイ「さて……ヴァーリ、あなたはその領域に至ることができるのでしょうか」



ヴァーリ『はあああああああああああああああああ!!』

カッ!!!!


フレイ(モニターの向こう、光に包まれるヴァーリ)

フレイ(化身解放へと挑んだその姿は>>416)

416名無しさん@転載は禁止:2021/04/29(木) 08:48:17 ID:oRF0qRsY
明らかに暴走してる

417 ◆WsBxU38iK2:2021/04/30(金) 00:12:13 ID:kQJ9j/mQ
フレイ(その姿は……明らかに暴走していた)


ヴァーリ『うっ……ぐうううううううううううう!!』

ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


フレイ(化身解放で封を解かれた力の塊を何とか周囲に形として留めてはいるものの、完全な具現化とまでは至っていない)

フレイ(宙に浮かぶ無数の光の束を無理やり重ね合わせ、力で抑えつけてるような状態)

フレイ(表面は白一色、群体を無理やり束ねているせいか輪郭は定まらず、沸き立つ水のように耐えず変化を続けている)

フレイ(ヴァーリを中心に、左右対称に斜め後方へ弧を描きながら伸び行く光の奔流)

フレイ(その輪郭は遠目で見れば辛うじて巨大な弓の弦のように見えなくもないが……やはり荒削り)

フレイ(とても化身解放と呼べるものでないことは確かだろう)

ドドドドドドドドドドドドッ!!



トール「おいアレ、暴走してんじゃねェか!!」

フレイ「ええ、あの状態で溢れ出す力に押しつぶされず、無理やり捻じ伏せてる所はヴァーリの才能でしょうね」

フレイ「しかしすぐに崩壊しないとは言え安定とは程遠い代物、そう長く保つものではないでしょう」

トール「あいつ、勝手に無茶なことしやがって……!」ドンッ!


フレイ「まぁ、おそらく武装一体型の解放なのが不幸中の幸いと言ったところですかね」

トール「武装一体型……オレみたいに体が直接変化するわけじゃねェ、武具を鎧のように身に纏うタイプのやつか」

フレイ「ええ、あなたのようなタイプの解放で暴走してしまうと体へのダメージが深刻ですから」

トール「……ったく、武装一体型だろうが暴走してんだからダメージ自体はあんだろうがよ」チッ

フレイ「ですから最悪ではない、という意味です」

トール「ふんっ」


フレイ「化身解放を使ってしまった以上ヴァーリ自身タダではすまない」

フレイ「そして相対する敵もまた同じ」


フレイ(さて、どうします園田海未)

フレイ(未熟な力とは言え、本質は2回戦であなたの仲間を焼き尽くした神の力と同じもの)

フレイ(仲間の二の舞となるのか、対抗策を用意して来ているのか)

フレイ(さぁ……あなたの実力、しかと見せてください)


フレイ「ふふっ……くくくくっ」






418 ◆WsBxU38iK2:2021/04/30(金) 00:12:39 ID:kQJ9j/mQ




──ラブホスタジアム・地下大空洞


ドドドドドドドドドドドドドドド!!

ヴァーリ「ぐうううううう、がああああああああああああ!!」



海未「……っ!」

海未(地下大空洞にヴァーリの咆哮が響く)

海未(ヴァーリの目の前からV字に迸る白い光の塊は間違いなく高純度の神の力だ)

海未(完成された術式とはかけ離れてるものの、驚異的なエネルギーを秘めてることに変わりはない)


ヴァーリ「ぐぅぅぅぅっ、いくっ、い……いくよおおおおおおおっ!!」

グググググググッ

海未(光の中心で悶えるヴァーリが何か重いものを押し込むように開いた手をゆっくりと下げていく)

海未(それに呼応し、V字の光の塊が地面と垂直になるまで傾く)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ

ガキンッ!!


ヴァーリ「はぁ……はぁ……さすがにきついけど……やれなくない」

ヴァーリ「さぁ、いくよおねえちゃん、ぼくのホントウの……サイコウの……イチゲキってやつ!!」

グッ


海未(間違いない……来る!)

バッ!


ヴァーリ「いっけえええええええええええっ!!」

ゴッ!!!!

海未「……っ!」


海未(ヴァーリが突き出した拳の先、V字の光の頂点から放たれる閃光は>>419)

419名無しさん@転載は禁止:2021/04/30(金) 18:13:35 ID:ua.OFfdg
防御の上から私の胸を貫いた

420 ◆WsBxU38iK2:2021/05/01(土) 00:59:40 ID:Erzzp69Y
海未(防御の上から私の胸を貫いた)

ズンッ!

海未「え……?」



海未(貫かれた、と気づいたのは全てが終わった後だった)

海未(意識より先に反射で動いたのは10本の触手)

海未(触手全てが盾のように重なり合い防御姿勢を取るも、化身解放したヴァーリの矢はそれら全てをいとも容易く貫いていた)

ジジッ ジジッ

海未(意識も、思考も、痛みも、あらゆるものが遅れていた)

海未(ポッカリと空いた胸の穴に現実感が追いつかない)

海未(光で焼き切れ止血されているのか、穴からは血の一滴すら垂れていない)

海未「あ……」


海未(心臓や肺、その他機能を失っている可能性がある)

海未(だけどそれをゆっくり確認する時間が残されてるか――――)



ヴァーリ「あははははははははははははははっ!」

ヴァーリ「いい! いい! ぼくならこのチカラをつかいこなせる!」

ヴァーリ「ボウソウしてたってかんけいない、ゼンブぶっとばす!!」

ドガガガガガガガガガガ!!


ボンッ!! ボンッ!! ボンッ!!

海未(その攻撃は最早射撃と呼べるものではなかった)

海未(化身解放体のヴァーリから閃光が放たれた直後、地下大空洞の壁が一瞬で削り取らるように吹き飛ぶ)

海未(10秒と経たず天井は次々と削り取られていき、暗い地下空間へと光が差し込んでくる)

海未(地盤が崩壊し、頭上にあるホテルが落ちてくるのはそう遠くないだろう)



海未(だけど……それより今は私の体の方が問題)

海未(呼吸が止まる、血が回らなくなる、地盤が崩落するより私の意識が消失する方が絶対に先だ)

グッ

海未(意識は保ってあと数秒、ここで命を繋ぐためには……>>421)

421名無しさん@転載は禁止:2021/05/05(水) 09:56:09 ID:3.hcbfjg
吸血鬼の眷属としての能力をフル活用

422 ◆WsBxU38iK2:2021/05/06(木) 01:12:12 ID:g6.CXdoQ
海未(吸血鬼の眷属としての能力をフル活用するしかない)



海未「眷属化――第ニ段階!」

ドクンッ!

海未(私の焔ノ力は眷属化のコントロール)

海未(力を練って高めれば眷属化を更に進めることだって可能だ)

ドクンッ!

海未「ぐっ……」


海未(しかし、私の眷属の力の源は吸血鬼穂乃果の物)

海未(眷属化を進めるということは吸血鬼穂乃果との繋がりを強めるということと同義)

海未(人の領域を更に離れ、未だ不安定な立場にある彼女に近付くことに不安が無いわけがない)

海未(それでも……今は四の五の言ってはいられないのです!)


海未「はあああああああああ!!」

ドッ ドッ ドッドッドッドッドッドッ!

海未(心臓を失ったはずの体内で血流が熱く脈動する)

海未(筋肉のポンプで押し出されるのではない、血液の一粒一粒が自分自身で血管内を移動している)

海未(その感覚は手にとるようにハッキリと分かった)


海未(そして、あたかも最初から体に備わっていた体の機能であったように――)

バシュッ!! 

海未(脳内でイメージするだけで、血流を自由自在に操れる!)

シュルルルッルルル!  

ギュルルルッ!  

海未(胸に空いた穴の断面から激しく吹き出した血流が空中でラインを描き、別の断面から吹き出した血流と合流)

海未(繋がった血流の外側だけが凝固するとそれは擬似的な血管となる)

海未(それは一本だけではない、何本も何本も同時に作り出され、絡み合い、毛糸玉のように球体の形を取る)

海未(そうして穴の中に生み出されるのは心臓と肺を代替するための器官)

ギュインッ!

海未「……っ!」ビクンッ!


海未「……ぐっ……はぁ……」

ドクンッ ドクンッ

海未(一度は途切れかけた体内の循環を取り戻したことで体に熱が戻ってきた)

海未(ポッカリと空いた胸の穴の内側では血管の塊が激しく脈打っている)


海未「ふぅ……」

海未(一命をとりとめたことに安堵しつつ、同時にまた人外へと近付いたことに憂慮を覚える)

海未「……ま、やってしまったことは仕方ありません、今はこの力を活用させて頂きましょう」

バッ

シュルルルッ

海未(開き伸ばした左手)

海未(その手のひらの中心に貫通した矢傷から溢れ出した血液が空中へと浮かび上がる)

海未(吸血鬼穂乃果と同じ血液を意のままに操る異能力)

海未(そうして左手の上に顕現せしは血で形作られた>>423)

423名無しさん@転載は禁止:2021/05/06(木) 15:29:21 ID:tSapB8kU
目玉

424 ◆WsBxU38iK2:2021/05/07(金) 01:12:56 ID:PbClzxO6
海未(顕現せしは血で形作られた目玉)

海未(ドロリと血の滴る赤い眼球は自身を直径1メートルほどまで膨張させながらゆっくりと浮かび上がっていく)

海未(そして頭上でピタリと止まると遠くで暴走しているヴァーリへと照準を合わせた)


ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


海未(暴走し四方八方へ神速の光弾を撒き散らすヴァーリにより、地下空洞の耐久力は限界へと近づいている)

海未(早く勝負を付けなければ2人纏めて岩盤の下敷きとなってしまうだろう)


海未「すぅーー」

海未(大きく息を吸い込み、神経を集中させ、ヴァーリを見据える)


海未「クリムゾンアイズ!」

カッ!!

海未(眷属の瞳、翡翠の瞳に続く第三の目)

海未(頭上に浮遊する真紅の瞳が瞳孔を開く)


海未「位置情報入力、地形情報補正」

キィィィィィィィンッ

海未(焔ノ紋章が浮かぶ右目と翡翠色の光が強まる左目)

海未(両目で得たヴァーリを取り巻く座標データを左手から真紅の瞳へと伸びる1本の血管を通じて送り込む)

海未「ロック――――」

キィィィィィィィィィィンッ!

海未「オン!」


ギィィィンッ!!

バシュッ!!!!

海未(真紅の瞳がより一層瞳孔を開くと、ヴァーリの前後に瞳を模した紋章が出現した)


海未「さぁ、もう逃しませんよ……」

海未(真紅の瞳、クリムゾンアイズの能力はロックオンで捉えた相手に対し>>425)

425名無しさん@転載は禁止:2021/05/14(金) 08:07:33 ID:gsEnNGaQ
自分のダメージを移す

426 ◆WsBxU38iK2:2021/05/16(日) 03:02:47 ID:ONDtqJHY
海未(クリムゾンアイズの能力はロックオンで捉えた相手に対し自分のダメージを移す)

海未(反転、鏡像、返しの瞳術)


海未(高度な術式であるため、準備から発動までに時間がかかるのが現状の弱点ではあるものの、幸運なことに相手は暴走状態でこちらに目もくれない)

海未(そのため初の実戦での使用にも関わらずゆっくりと狙いを定めることができた)

海未(だからこそ、言葉通り逃しはしない)

海未(私があなたから受けたダメージをそっくりそのまま……)


海未「お返しいたします!!」

カッ!!!!

海未「クリムゾンペイン!!!!」




ドドドッ!!

海未(能力を発動した瞬間、赤い氷柱のような物体がヴァーリの体に突き刺さった)

海未(柱は全部で4本、しかしそのどれもが真紅の瞳から物理的に発射されたものではなく、瞳に捉えられたヴァーリの内側から突き出したものだ)

海未(柱はヴァーリの皮膚を突き破るように四方に伸び、出現地点の周囲の肌を赤く染めていく)

海未(真紅の瞳の能力による侵食、私のダメージがヴァーリの体に伝わり肉体と精神を蝕んでいく)



ヴァーリ「ぐっ……ぐああああああああああああああああっ!!!!」

バリバリバリバリバリバリィッ!!


海未(ただでさえ力を抑えきれず暴走状態だったヴァーリが更に激しく悶え苦しむ)

海未(彼女が放つ閃光は最早ビームとしての形さえ保てず、放たれたそばから粒子となって空気中に消えていく)


海未(反面、ダメージを移した私の体は途端に楽になった)

海未(変わらず体のど真ん中に穴は空いてるものの、痛みなく体は軽い、動くのに支障はなさそうだ)


海未「さて……」

海未(一息付きたいところだが、周囲の状況がそうさせてはくれない)

海未(化身解放したヴァーリの攻撃により虫食いにされた天井はホテルの重量を支えるほどの強度を失い、崩落までは秒読み寸前)

海未(一方のヴァーリ自身はクリムゾンペインと自らの暴走の板挟み状態になり一歩も動けない状態)

海未(おそらく追撃はない、私に構っていられる余裕はないからだ)


海未(ならばヴァーリが開けた天井の岩盤の穴からさっさと脱出するのが現状では一番安全な策……なのだろう)

海未(が、敢えてリスクを取るのであればヴァーリに確実にトドメを刺すチャンスとも言える)

海未「…………」

海未(しかし、どうせ岩盤に埋まる相手、わざわざトドメを刺す必要があるのだろうか……いや、神族だからこそ念入りに……いや、それにしてもまずは生存を優先……いや、そもそも他の手がないか……)

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

ガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!

海未「……っ!」

海未「悠長に考えてる暇はありませんね、ここは>>427

427名無しさん@転載は禁止:2021/05/17(月) 00:09:36 ID:Ra3qrrko
一か八か洗脳もしてみる

428 ◆WsBxU38iK2:2021/05/18(火) 00:15:44 ID:7A04gXpc
海未「一か八か洗脳もしてみましょう」

ダンッ!!

海未(時間はない、決断したなら即行動あるのみ)

海未(地面を蹴り上げ駆け出し、崩壊する天井から降り注ぐ岩石を避けながらヴァーリの元まで走る)

シュッ! シュッ! バシュンッ!!

海未(岩石の落ちない箇所から箇所へとダッシュ、そうしたらまた落ちない箇所から箇所へとジグザグにダッシュを繰り返す)

海未(飛び出すタイミングが0コンマ数秒ズレるだけで命取りになる芸当だが、ダメージを消失させた今の体ならこれくらいはお手の物)

海未(ある程度近づいたら今度は落下途中の岩石を足場として乗り継ぎ、更にヴァーリとの距離を詰める)

タンッ! タンッ! ダタンッ!!


海未「マインドコントロール――」

シュルルルッ

海未(先の洗脳攻撃ではヴァーリの動きを数秒止めるほどの効果しか得られなかった)

海未(しかし今なら、真紅の瞳と自己暴走により精神を乱してる今なら、ヴァーリの心の隙間に入り込めるかもしれない)

海未(本当に一か八かの賭け、成功しなけれな二人揃って生き埋めとなる)

海未(それでも――――)

バッ!!!!

海未「テンタクル!!!!」


シュルルルッ!! ガシィッ!!!!


海未(ヴァーリへと絡みつく10本の触手)

海未(この10本がヴァーリから発せられる光に消し飛ばされるまでの一瞬が勝負)

海未(その一瞬でヴァーリの心の奥深くへ……一気に……入り込む!)

グンッ!

海未「……!」



海未(つながっ……た……?)






429 ◆WsBxU38iK2:2021/05/18(火) 00:16:30 ID:7A04gXpc
────────
────
──






──??



海未(気が付くと私は暖かな空間にいた)

海未(手を伸ばせばすぐ壁に届くほど手狭で、光はなく真っ暗、しかし不安はなく妙に心地良い)

海未(水面に揺蕩うような、誰かの腕に抱かれるような、不思議な感覚を覚える)


海未(何も見えない……しかし、声は聞こえた)

海未(頭に響くその声が聴覚を通してものなのか、心に直接働きかけられたもなのか、判断はつかない)

海未(ただその声は低く、冷たく、荒々しく、今いる暖かな空間とは正反対のものだった)


??『……ヴァーリ、聞こえるか、我が子ヴァーリよ』

??『お前の兄ヘズは許されないことをした』

??『たとえあのロキに騙されたとは言え、兄弟であるバルドルを害することなどあってはならない』

??『ヴァーリ、お前の使命はヘズを殺すことだ、お前は生まれついての復讐者となるのだ』

??『何も問題はない、お前の体は一夜にして成人となるだろう、お前の体は既に殺しの術を身に着けているだろう』

??『さぁヴァーリ……早く生まれておくれ』



??『そして……やつを殺すのだ』




バシュッ!!





430 ◆WsBxU38iK2:2021/05/18(火) 00:17:18 ID:7A04gXpc




──森


海未(次に気が付くと、私は暗い森の奥にいた)

海未(右手には弓が握られ、左手は矢を掴んでいた)

海未(視線を向ける先にあるのは一本の天へと伸びる大樹……いや、その根本だろうか)

海未(大樹の根本には血溜まりが広がり、1人の男が幹に体を預けるように座り込んでいた)


??「あ……ああ……」


海未(男の顔は恐怖に歪み、拒絶と懇願が入り混じったような顔でこちらを見る)

海未(近寄らないでくれ、助けてくれ、許してくれ)

海未(最早言葉にならない呻き声だけが静かな森に響く)


海未(私はその哀れな姿に何の感情も沸かなかった)

海未(いや、どちらかといえば失望していた)

海未(こんなものか……と)

ギリッ

海未(あの男が頼んだもの、私の使命は、私の生きる意味は、こんなものだったのか……と)


パンッ!


海未(何の感慨もなく放たれた矢は男の脳天を貫き、哀れな男は物言わなぬ屍となった)


海未(血溜まりに倒れる屍、この男の生に果たして意味はあったのだろうか)

海未(生きる意味のない生など、それはどちらにせよ最初から屍と変わらないのではないだろうか)

海未(では、使命を果たした後の私はどうなる……?)

ドクンッ


海未(生まれた使命を終えてしまった私は……私は……私は……僕は……)




ヴァーリ「ボクは……ナニモノなんだ……」



バシュンッ!







──???



海未「今のは……ヴァーリの……」


海未(3度目の場面転換、私が目を覚ましたのはまたしても真っ暗な空間だった)

海未(しかし一度目ほど狭くはなく、暖かくもない)

海未(どこまでも広がる荒涼とした冷たい闇、埋まることのない、満たされることない、空っぽの空間)


海未(私はここにきて今までのものがヴァーリの記憶の追体験だったことに気付く)

海未(おそらくはマインドコントロールのためにヴァーリの精神と繋がった所で私の精神が取り込まれたのだろう)

431 ◆WsBxU38iK2:2021/05/18(火) 00:17:54 ID:7A04gXpc
海未「こんなケースは初めてですね……」

海未(眷属化が進んで能力の基盤が強化されたからか、相手が人並外れた神族の精神だからか、理由は定かではない)

海未(ただ、今いる空間は今までのようなヴァーリの記憶とは明らかに違う)


海未「動ける……みたいですね、浮いた状態で移動できる……変な感じです」

スーーッ

海未(こうして私が思考できて、精神体とはいえ移動できて、“私を私と知覚できる”場所)

海未(ということは、まさかヴァーリもここに……?)

スーーッ

海未(私が個として存在できるなら、ヴァーリの精神が同様に個として存在する可能性が高い)


海未「ヴァーリ……どこかに姿は……」

パッ!

海未「……わっ!」

海未(探すまでもなかった)

海未(私がその思考に至った瞬間に、空間の中心にヴァーリの姿が現れた)

海未「認識による空間の変化……これも精神世界特有の現象でしょうか……」


海未(真っ暗な空間の中心にポツリと現れたヴァーリは腕で膝を抱えた態勢で座り込み俯いていた)

海未(こちらに向ける小さな背中は時折震えているようにも見える)


海未「あれがヴァーリの精神の核……なんて小さく……弱々しい」


スーーッ


ストンッ

海未(すぐ側に降り立つ、反応はない)

海未(こんなに広大な空間の真ん中に1人孤独に、これがあなたの心の中だと言うのですか)

海未(あれだけ闘争を求め、渇望していたあなたの本当の姿だというのですか)


スッ

海未(背中に手を伸ばす、抵抗はない)

海未(今ならいける、彼女の精神体をどうするも私の自由)


海未「……ヴァーリ」


海未(そう呟くと、私は精神体を>>432)

432名無しさん@転載は禁止:2021/05/20(木) 16:31:39 ID:7cEc2bz2
ビンタした

433 ◆WsBxU38iK2:2021/05/21(金) 01:45:22 ID:SBv6oWlk
海未(私は精神体をこちらへ振り向かせ、その頬に向かってビンタを繰り出した)

バチィンッ!!!!


海未(始点と終点しか捉えることのできない超高速のビンタ)

海未(掌からは摩擦の熱で僅かに煙が上がっている)

海未(そんなビンタの快音が広い空間に響いた数秒後、頬を赤く腫らしたヴァーリが僅かにうめき声を上げた)


ヴァーリ「……え?」

海未「え? ではありません、何を呆けているんです」

ヴァーリ「…………え……いや……」

海未「その無様な姿はなんなのです、あれだけ大見得を切っておいて、実際は単なる臆病者ですか」

ヴァーリ「そ……その…………」

海未「ハッキリ答えなさい!!」

バチィンッ!!!!

ヴァーリ「がっ……!!」


ドサッ!!

海未(二回目、再びのビンタにヴァーリは態勢を崩して床へとひれ伏す)

ヴァーリ「う……ぐ……」

海未(そうすると今度は這いつくばった姿勢のまま、私から逃げるように距離を取り始める)

ヴァーリ「や……やめて……」

ズズ ズズ


海未「逃げても無駄です」

ブォンッ!!



バチィンッ!!!!

ヴァーリ「がっ……!」

海未(飛ぶビンタ)

海未(私が自らの正面で手を振ると、床のヴァーリが横方法へと吹き飛ぶ)

ドッ!!



ゴロロロロロロロロッ

海未(その勢いのまま床を何回転か転がり、先後には仰向けになって力なく両手両足を投げ出した)

ヴァーリ「あぁ……うぐ……」

バタッ


海未「転送前に飛ぶビンタは見せたでしょう」

海未「こんな物も避けれないとは、精神体のあなたはよっぽどの腑抜けのようですね」

ヴァーリ「…………」



海未「ヴァーリ!! なんとか言いなさい!!」


キィーーーーンッ

434 ◆WsBxU38iK2:2021/05/21(金) 01:47:18 ID:SBv6oWlk
海未(広く暗い空間に私の声が虚しく響く)


海未(そこから何秒経っただろうか)

海未(仰向けのヴァーリが虚空を見つめながらポツリポツリと話し出した)


ヴァーリ「……たぶん、もう、終わりだから」

海未「……終わり?」

ヴァーリ「そう、ボクの体はもう保たない、始めは制御できていた化身解放の力がボクの体を蝕み始めている」

ヴァーリ「だからもう終わり、瓦礫に押しつぶされるか、その前にぶっ壊れるか、どっちみち助からない」


海未「…………」

海未(外にいた時よりヴァーリの言葉がハッキリと聞き取れる)

海未(いや、聞き取れる……というより言葉の意味が、言葉に込めた意味が心に直接伝わってくるような感覚だ)

海未(お互いに精神体だからこそ、ヴァーリの意志が鮮明に伝わるのだろうか)



ヴァーリ「海未お姉ちゃんは呆れるだろうけど、これが本当のボクなんだよ……」

ヴァーリ「今いるこの世界と同じ、どこまでも空っぽで、空っぽで、空っぽ」

ヴァーリ「与えられた使命をこなすこと以外に意味のない、空っぽの人形」


ヴァーリ「それに気付いたら……もうダメだった」

ヴァーリ「ヘズを殺して、みんな殺して、殺して、殺して、その先に何が残るの」

ヴァーリ「誰かの命を取ったって、ボクはなんの感情も沸かない、ボクの空っぽは少しも埋まらない」

ヴァーリ「こんなボクに……生きる意味なんてあるはずがないんだよ」


ヴァーリ「はぁ……」

海未(浅いため息の後、ヴァーリは上半身を起こす)


ヴァーリ「でもさ、最後にお姉ちゃんと戦えて良かった」

ヴァーリ「最後に……少しだけ熱くなれた、この暗くて空っぽな心の中に少しだけ明かりが灯った気がした」


ヴァーリ「だからさ……」

海未「…………」プルプル

ヴァーリ「……ん、お姉ちゃん?」


ザッ ザッ ザッ ザッ

海未「あなたは――――」

ガシッ!!

ヴァーリ「うぐっ……!」

海未「あなたは卑怯です!」


海未(思わずヴァーリの胸ぐらを掴みあげていた)

海未(近付いたその顔には困惑の色が浮かんでいる)


海未「あれだけ人に突っかかってきて、自分が満足したらそれで終わり? 最後を受け入れる?」

海未「馬鹿なことを言わないでください!」グイッ!

ヴァーリ「ひっ」

海未「生きる意味? そんなもの知りませんよ、私だって教えてほしいくらいです」

海未「生涯のうちに生きる意味を悟れる人なんてごく僅か、殆どの人はそんなもの知らずに死んでいくんです」

ヴァーリ「じゃ……じゃあ……どうやって……」

海未「それでも生きるんですよ!」

ヴァーリ「……っ!」

435 ◆WsBxU38iK2:2021/05/21(金) 01:48:07 ID:SBv6oWlk
海未「必死に、必死に生きるんです」

海未「無様でも、格好良くなくてもいい、生きる意味なんてなくても、自分勝手にこじつけて、足掻いて足掻いて足掻いて」

海未「最後の瞬間まで……必死に……生きて……」

スッ

海未(ヴァーリを掴む手から力が抜ける)

 


海未「……私は、この戦いで多くの人を見てきました」

海未「誰もが満足に生きていたわけではありません、夢半ばで、無念に、朽ちて、託して、散って」

ヴァーリ「…………」

海未「何の力が無くても、使命なんて無くても、過酷な世界に翻弄されたって、私たち人間は生きている」


海未「私はね、ヴァーリ、運命に抗うためにここにいるんです」

海未「天から与えられた使命なんてクソくらえだと、自らを縛る運命なんて跳ね除けてやると」

海未「神の鼻っ柱に叩きつけてやるためにラグナロクに参加してるんです」


海未「ですから、神の力を持ったあなたが“生きる意味ごとき”で落ち込んで、さらには自滅までされては張り合いがないんですよ」

ヴァーリ「……お姉ちゃん」

海未「ほら、手を取ってください、そして叫ぶんです」

海未「あなたの願い、使命などではない、あなた自身の、本当の願いを」



ヴァーリ「ボクは、戦いたいっ!」

ヴァーリ「最後の、最後の瞬間まで……諦めず戦うんだああああああっ!!」


キィィィィィィィィィンッ!!!!


カッ!!!!!


海未(暗く空虚だったヴァーリの心象風景に光が広がる)

海未(宇宙誕生のような、熱く燃えたぎる光が瞬く間に広がる)

海未(そして――――)






──
────
────────

436 ◆WsBxU38iK2:2021/05/21(金) 01:48:29 ID:SBv6oWlk





──ラブボスタジアム・地上


ゴッ!!

ドドドドドドドドドドドドドドッ!!


海未(崩れる地盤に飲まれゆく地上の娯楽施設たち)

海未(大きく陥没した中央の穴に、城型の巨大ホテルが、屋外プールが、整えられた自然公園が、なすすべなく吸い込まれていく)

海未(そんな流れに逆らうかの如く、瓦礫の濁流を突き破り、地下から飛び出した影が2つ)

ドッ!! ドッ!!


海未(赤と白、2つの影は勢いのまま空高く舞い上がり、スタジアムを囲む範囲ドームの上限スレスレまで上昇)

海未(崩壊する地上など目もくれず、互いに視線を交差させた)


海未「いいです、いいですよヴァーリ!!」

ヴァーリ「おねえちゃんこそ!!」


海未(血の装甲を纏い赤い光を発する私と神力を纏い白い光を発するヴァーリ)

海未(二人の距離は1キロは離れていたが、今の私たちにとってこんな間合いは無いに等しい)

海未(戦術も、駆け引きも、最早意味をなさない)

海未(互いに全力をぶつけ合う最後の激突)



ヴァーリ「はぁああああああああああっ!!」

バリ! ビリバッ! バリバリバリッ!!

海未(ヴァーリが薄く纏う神力が線香花火のように弾けていく)

海未(あれだけの暴走の後だ、残された神力は残り少なく完全な制御など夢のまた夢)

海未(対する私はダメージのない万全の体、見ようによっては結果の見えた勝負と言えるのかもしれない)

海未(けれど――――)



ヴァーリ「それでも!!」

海未「ええ、それでも!!」


海未(勝負は最後まで分からない)

海未(戦意を取り戻したヴァーリの全力に私も全力で立ち向かう)


海未「はあああああああああああああっ!!」

ヴァーリ「だあああああああああああっ!!」


海未(ラブボスタジアム、上空)

海未(崩れゆく城塞の頭上で赤と白、2つの影が交差する)

ゴッ!!!!!!


海未(一瞬の激突、一瞬の決着)

海未(一人が残り、一人が堕ちる)


海未(交差の後、天に立っていたのは>>437)

437名無しさん@転載は禁止:2021/05/21(金) 15:06:09 ID:s.rCDjqc
笑顔のヴァーリ

438 ◆WsBxU38iK2:2021/05/23(日) 00:58:24 ID:eE8Wt6uU
海未(天に立っていたのは笑顔のヴァーリだった)


ヴァーリ「やった……やった、やったあああああああっ!」



海未「……っ」

海未(油断など微塵もなかった、慢心など欠片もなかった)

海未(間違いなくこの身に宿る全ての力を用いて放った一撃だった)


海未(しかし、あの瞬間)

海未(空中で交差するあの一瞬、ヴァーリの戦闘における天賦の才が私の技術をほんの僅かだけ上回ったのだ)

海未(それは土壇場で見せたヴァーリのさらなる成長と言えるだろう)

海未(その僅かな差が勝敗を分けるには充分な要素だった)


海未(私の攻撃は紙一重で躱され、代わりに突き刺さるヴァーリの芸術的なまでに美しいカウンター)

海未(お互いにここが最後と覚悟した上でのノーガードの激突)

海未(それ故に受けた傷は深く大きく、私は姿勢を制御し続けることができなくなった)

海未(傷口から血を吹き出したまま、地上にポッカリと空いた奈落へと落ちていく)



海未「全く……本当に……」

ヒュゥゥゥゥゥゥゥ


海未(敵に塩を送ってしまったのか、眠れる獅子を起こしてしまったのか)

海未(どちらにせよ、私は後悔などしていない)

海未(最後に本気のヴァーリと相見えたあの一瞬は本当に濃密な一瞬だった)



海未「本当に……あなたは素晴らしい戦士ですよ……ヴァーリ……」


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ



海未(ただ、穂乃果たちには謝らないといけませんね)

海未(1敗とは言え人類側にとっては手痛い敗北、叱咤される覚悟はできています)


海未(……それでも、たぶん穂乃果は笑って問題ないと励ましてくれるでしょう)

海未(ことりも大丈夫だよと慰めてくれるはず、そういう所がまだまだ甘いのですが)

海未(そしてにこは皆の代わりに厳しい言葉をかけてくれて、希はその意図を察して和ませてくれる)

フフッ

海未(ああ……そうですね、ちゃんと謝らなければ……)


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥ



海未「ちゃんと、生きて帰れたら………」

ガシッ!

ヴァーリ「おねえちゃん!」

海未「……ん、ヴァーリ?」

439 ◆WsBxU38iK2:2021/05/23(日) 00:59:00 ID:eE8Wt6uU
海未(真っ暗な奈落へと落ちるはずだった私の体は気がつけば空中で停止していた)

海未(見上げればヴァーリが大層慌てた顔で私の腕を掴んでいる)


ヴァーリ「ちょっ、なにかってにおちてるの! あぶないじゃん!」

海未「いや……あなたが叩き落としたのでしょうに……」

ヴァーリ「え!? ああいや……そうだけど……ごめんなさい」

海未(今度は申し訳なさそうにそっぽを向くヴァーリ)

海未(何か言いたげな表情を浮かべるも言葉が上手く出てこないと言った様子)

海未(はぁ……全く、世話の焼ける神様ですね)


海未「……助けてくださるんですか?」

ヴァーリ「まぁ、うん、ケッチャクはついたし」

海未「確かに」

ヴァーリ「それに……おねえちゃんがしんじゃったら、もうイッカイたたかえなくなるし、それはイヤだから!」

ヴァーリ「だから……だからね……その……」

海未「ふふふっ、はははははっ」

ヴァーリ「なっ! わ、わらわないでよ!」


海未「いえ、すみません、あなたは本当に戦いが好きなのですね」

ヴァーリ「……バカにしてる?」

海未「褒めてるんですよ」

ヴァーリ「あやしい……」ムッ

海未「ふふふっ」




ヴァーリ「……まぁいいや、テンソウジンまでいくから、しっかりつかまってて」

海未「ええ、そちらこそうっかり落とさないでくださいよ、今の私は本当に飛ぶ余力さえないのですから」

ヴァーリ「ヘイキヘイキ、おもってたほどおもくないから」

海未「思ってたほど……? ヴァーリ、ちょっと後でお話しましょうね」ニコッ
 
ギリリリリッ

ヴァーリ「いたいいたいっ、おちるって!」

海未「全くもう……」

ヴァーリ「というかおねえちゃんホントウはゲンキなんじゃ……」

海未「……」ペシッ

海未「いやごめん、ふふふ、いたっ、いたたっ、ははははっ、だからごめんってー!」

ペシッ ペシッペシッ






440 ◆WsBxU38iK2:2021/05/23(日) 00:59:48 ID:eE8Wt6uU




海未(夕焼けが近づく空、崩れゆく城を尻目に一柱の神と一人の人間が去っていく)

海未(振り向けばスタジアムは跡形もなく、全ては大地の底へと飲み込まれていた)

海未(本当に、全てを破壊し尽くした戦いだった)


海未(しかし、これで良かったのだと私は思う)

海未(運命の鎖など引きちぎり、私達はただあるがままにぶつかり合った)

海未(お互いを高め合い、競い合い、蹴落とし合い、今はこうして笑い合っている)

海未(本気で命のやり取りをした相手と手と手を取り合っているのだ)


海未(神も人も関係ない、己の生き様は己が決めるものだ)

海未(でなければ……あまりに報われない)



ヴァーリ「ねぇ、おねえちゃん」

海未「なんです?」

ヴァーリ「ボク、かわれるかな」


海未「……ええ、きっと」



海未「きっとあなたは――――」




─────────────────


ラグナロク第3回戦

勝者 チームオーディン ヴァーリ


─────────────────



ラブボスタジアム

PM5:30〜PM6:00 反逆の焔編『18』了

441 ◆WsBxU38iK2:2021/05/23(日) 01:01:33 ID:eE8Wt6uU
というわけでここまで

なんとか3回戦も終了
次はインターバル

反逆の焔編『19』に続く
かもしれない

442 ◆WsBxU38iK2:2021/05/24(月) 00:29:05 ID:X50PjkwA
反逆の焔編『19』

─────────────────
──メインスタジアム

PM6:00


ダル子『き、決まりましたああああああああ!!』

ワァァァァァァァァァァァァァァ!

ウォォォォォォォォォォォォォォォ!


ダル子『ラグナロク第3回戦、園田海未対ヴァーリの戦いはヴァーリに軍配が上がりました』

ダル子『またもや息をもつかせぬ激しい攻防の連続』

ダル子『いやー三船さん、すごい戦いでしたね』


三船『はい、序盤は常にヴァーリが追い立てるような形でしたが中盤から園田海未が勢いを取り戻し競り合う形に』

三船『そこから終盤のダメージ交換で園田海未の勝利は確定かと思いましたが、ヴァーリが意地を見せての再逆転となりました』

三船『真紅の瞳によるダメージの負荷、神力の暴走によるガス欠、多くのハンデを最後の最後で跳ね除けたヴァーリの戦闘スキルは素晴らしいの一言でしょう』

ダル子『そうですね、正に二転三転した運びとなった3回戦でした』



ダル子『えー、ラブボスタジアムが全壊し予め用意していた転送システムが使えないので、両戦士は現在急遽用意した転送陣へ向かっているとのこと』

ダル子『両戦士の帰還まで3回戦のダイジェスト映像を見ながらお待ちください』

ダル子『ではこちらをどうぞ』

パッ!






ダル子「……ふぅ」

ダル子(巨大スクリーンに3回戦の映像が流れる中、マイクを切り軽くため息をつく)

ダル子(これでラグナロクは2-1、まだ穂乃果チームが優位とは言え、オーディンチームには大本命のオーディンが残っている)

ダル子(ここから逆転を許すのか、止めるのか、次の4回戦はどちらにとっても落としたくない戦いになるはず)



三船「お疲れですか?」

ダル子「……ああ、いえ、平気です」

三船「そうですか」

ダル子「…………」


ダル子「そういえば三船さん、準備はどうなりましたか?」

三船「……え?」

ダル子(2回目のインターバルで三船が口にしていた準備が順調と言う言葉)

ダル子(あの時は聞き流したけど、妙に頭に引っかかっている)


ダル子(もし使徒側が企みをしているのなら少しでも追加の情報がほしい)

ダル子(カマをかけるというにはストレートな聞き方すぎるけど、何かぽろっと零さないか淡い期待で聞いてみる)


三船「ああ……やはりちゃんと聞いていたんですね」

三船「準備……ええ、準備なら……>>443

443名無しさん@転載は禁止:2021/06/02(水) 10:47:14 ID:gHXKtOAI
完璧

444 ◆WsBxU38iK2:2021/06/03(木) 00:42:30 ID:jpm/j9cM
三船「完璧です」フフッ

ダル子(そういって三船は不敵に笑う)


三船「1回戦、2回戦、3回戦、仕掛けをする時間はたっぷりとありました」

三船「最早この世界の人も神も私たちの計画を止めることはできません」

ダル子「……………」


三船「ふふっ、そう怖い顔で睨んだ所で私は何もしませんよ」

三船「私はあくまで観測者、この終末の神事が私達の望むように運ばれるかどうか見定めるのが役目」

三船「そして万が一不測の事態に陥りそうなら本隊へ報告をする、そのために全てを俯瞰できる席に腰掛けているのですから」


ダル子「私は何もしない……ですか」

三船「ええ、ですから私を捕らえようとも無意味、いたずらに混乱をもたらすだけです」

三船「私とあなたはただ成り行きを見守ることしかできない」

ダル子「…………」


ダル子(狭い実況ブース内の空気がひり付いて行くのを感じる)

ダル子(私たちの間にあるのは椅子1つ分の距離、お互いに手を伸ばせば容易に届いてしまう)

ダル子(三船が戦闘タイプの使徒とは思えないけど、油断は禁物)

ゴクッ

ダル子(重い……さっきまでの気まずさとは違う)

ダル子(どこに地雷が埋められているか分からない道をジリジリと歩くような、強い緊張感が場を支配し始めている)


三船「例えば……そうですね、そろそろ地上の別働隊が動き出している頃ですが、それを知ったところであなたに何ができます?」

ダル子「……っ」

ダル子「な、舐めないでください、私だってヴァルハラに連絡をし、応援の部隊を手配させることくらい――――」

三船「ふふっ、ふふふっ、ははははははっ!」

ダル子「何がおかしいんです!」

445 ◆WsBxU38iK2:2021/06/03(木) 00:42:44 ID:jpm/j9cM
三船「“だから”無駄なんですよ」

ダル子「…………?」

三船「“既に別働隊は動き出している”んです、今ではない、3回戦の途中からです」

三船「それなのにあなたには何の連絡も来ない、ラグナロクは予定通り続けられている」

三船「この状況こそが私たちの計画の完璧さを意味しているのです」

ダル子「…………っ!」


バッ!

ダル子(通信機を手に取り大会運営本部へ連絡を取る)

ダル子(三船が邪魔してくる様子は特にない、ただ私の行動を不敵な笑みで眺めているだけだ)

ピピッ

本部『はい、こちら運営本部……』

ダル子「運営本部! 会場警備及びヴァルハラ本館から至急の報告は来ていませんか!?」

ダル子「第二世界樹、地上部隊からの物でも同様に! 不審者、不審物、どんな小さな報告でも構いません!」

本部『……い、いえ、そのような報告は来ていませんね』

本部『ラグナロクを妨害するような外部からの不審な動きは見られず、プログラムは順調に進んでいます』

ダル子「…………」

本部『……あれ、ダル子さん? ダル子さん?』



ダル子(本当に本部は何も気付いていない……?)

三船「ふふっ、言った通りでしょう」

ダル子「…………」

ダル子(三船の言葉がブラフという可能性、確かにそれはある)

ダル子(だけどここまでハッキリと言い切られた以上、無関係だと捨て置くこともできない)


三船「……ま、あまりデタラメを言っていると思われても不本意ですし、1つだけ具体的なことを教えてあげましょうか」

ダル子「それはどうも……ご親切に」


ダル子(惑わされるな、クールになれ、判断を誤るな……!)


三船「現在地上で活動してる私たちの別働隊、その作戦目標の一つは>>446

446名無しさん@転載は禁止:2021/06/04(金) 05:50:51 ID:kJDsCo.M
予備のよりしろの覚醒と回収

447 ◆WsBxU38iK2:2021/06/05(土) 02:02:26 ID:FGB6T6hw
三船「その作戦目標の1つは予備のよりしろの覚醒と回収」

ダル子「依代?」

三船「ええ、“よりしろ”です」



本部『ダル子さん? ダル子さん?』

スッ

ダル子「……ヴァルハラに待機してるワルキューレを地上へ追加投入してください」

ダル子「続いて地上部隊へも警戒を強化するよう通達してください」

本部『え? それはどういう……』

ダル子「私の名前を出してもらって構いません、責任は私が負います、早く!」

本部『は、はい!』



三船「ふふふっ」

ダル子「…………」

ダル子(慌てふためく私を眺めて楽しむような三船の余裕ある態度)

ダル子(どんな仕掛けは分からないけど、天上から地上の様子は観測できず、向こうからの報告も上がらない状況にされてるのは確か)

ダル子(私がここからどんな指示を出そうと事態は既に手遅れ……ということだろう)



三船「他の神に伝えるもよし、インターバルの間に話し合うもよし」

三船「しかし天上にいる限り真偽が分かることはなく、曖昧な情報で大事な戦力を割くわけにもいかない」

三船「万が一スタジアム警備の戦力を分断してこちらが襲撃されることがあっては本末転倒」

三船「正確な判断を下すには放った偵察兵が戻ってくるのを待つしかないてすが……」


三船「そうなればどのみち……ねぇ」

ダル子「……っ!」


ダル子(まるで私の考えを先読みして代弁してるかのよう)

ダル子(流暢に紡がれる三船の言葉に私は段々と追い詰められていく)



ダル子(使徒はラグナロクの裏で行っている計画……)

ダル子(そして依代とやらの覚醒と回収)


ダル子(いったい地上で何が起こってると言うんですか……!)







────────
────
──

448 ◆WsBxU38iK2:2021/06/05(土) 02:02:48 ID:FGB6T6hw





──地上・九州上空

PM4:50







──移動要塞バーミヤン・ラボ



バシュンッ!!


侑「……っ!」

侑(世界扉を開いた先、眩い光の中に飛び込んだ瞬間、私の体は別の空間に転送されていた)

ガッ

侑「うおっ!? わっ、とっ!」

タッ タッ タッ

侑「うぎゃっ……!」

ドシャァァァンッ!!


侑「あいたたた……」


侑(そこは第二世界樹の中とは打って変わって真っ暗な場所)

侑(足元もよく見えず、床に転がっていた何かに足を引っ掛け思いっきり転んでしまった)


侑「けほっ、けほけほっ、なんだか埃っぽいし……ここが鞠莉さんの言ってたラボなのかな」

侑「とにかく地上に来れたからには早く歩夢に会わないと」

侑「そのためにはブリッジにいってミナリンスキーって人を探す……よし、ちゃんと覚えてる」グッ


侑(そうこうしてるうちに暗闇に目が慣れたのか、徐々に部屋の様子が見えてきた)

侑(すると>>449)

449名無しさん@転載は禁止:2021/06/06(日) 18:20:19 ID:2nzSowVE
躓いたのは「絶対に触るなよ!絶対だぞ!」と書いてあるものだった

450 ◆WsBxU38iK2:2021/06/08(火) 00:32:09 ID:30ISaUgg
侑(すると当然さっき自分の躓いたものの形も見えてくる)


侑「んん……?」

侑(それは黒い布で包まれた横長の物体)

侑(横幅は1.5mから2mほど、高さは足の膝下……スネくらいの高さがある)

侑(ちょうど人か、それに近しい大きさのものを横にして布でグルグル巻きにしたらこんな風になるはず)


侑「人……いやまさか」ゴクッ

侑(私の頭の中を嫌な想像がよぎるが確かめないわけにもいかない)

ソーッ

侑(恐る恐る、ゆっくりそれに近づいて様子を観察する)

侑「……ん?」

侑(なんだろう、黒い布の表面に張り紙がしてある)


侑「文字……? あ、そうだ!」

侑(すっかり忘れていた、私には鞠莉さんから渡されたスマホ型の通信機があったんだ)

侑(連絡できるかは置いといて、画面を表示させたらライト代わりにはなるはず)

ガサゴソ ガサゴソ

侑(手探りでポケットから通信機を
取り出し電源ボタンを押す)

パッ!

侑「よし、これなら読めそう」 



侑(通信機の灯りに照らし出されたのは短い日本語の文章)

侑(赤く太い文字でデカデカと書かれ、!マークがこれでもかと強調されている)


侑「『絶対に触るなよ!』『絶対だぞ!』……って、ええ!?」

バッ!

侑(明らかに警告を鳴らすその文章を見て私は思わず飛びのいた)


侑「待って待って、触るなって言われたって、私これに思いっきり躓いちゃったんだけど」

侑「足で蹴ったのは触った判定にならない――――」

黒い物体?『ビガーー!! ドガドガビガガーー!!』

侑「わあああああああっ!」ビクッ!!

451 ◆WsBxU38iK2:2021/06/08(火) 00:32:48 ID:30ISaUgg
侑(謎の物体は突然激しい音と光を発しながら立ち上がった)

侑(黒い布越しにカラフルな光が点滅を繰り返し、壊れた機械のようなくぐもったノイズ混じりの叫び声を響かせる)

侑(生き物なのか機械なのか判断がつかたい、もしかしたら化け物なのかもしれない)

黒い物体?『ドガッ! ビガッ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!』

侑「え……ええ……え……」

侑(完全に予想していなかった事態に私は頭がフリーズしてしまい……)


ダッ!!

侑(次の瞬間には黒い布の化け物に背を向けて走り出していた)


侑「うわっ! うわああああっ!」

黒い物体?『ガビビーー!』

侑「ちょっ、追ってくる、追ってくるの!?」

ダタタッ


ガチャッ ガチャッガチャッ!

侑(一目散に部屋の扉まで辿り着くと取っ手を掴み、勢いよく扉を開け放つ)

バッ!

侑「……まぶっ!」

侑(明るい、強い光に目を細める)

侑(どうやらラボの外は普通に電気が付いてるらしい)


侑「それに……誰?」

侑(光の中、廊下側の扉の横に立っている人影が見える)

侑(見えると言うか、私は今正に扉から飛び出た所だから私の真横にその人はいる)

侑(背が高く、筋骨隆々で、兜と鎧を纏って、巨大な剣を携えた、まるでヴァイキングのような大男――――)


侑「エインヘリヤル!?」

見張り「なぁっ!?」

452 ◆WsBxU38iK2:2021/06/08(火) 00:33:02 ID:30ISaUgg
侑(いや、考えてみれば当たり前のことだろう)

侑(地上の穂乃果関係の船はエインヘリヤルとワルキューレの混合部隊によって全て制圧済み、それはバーミヤンも例外じゃない)

侑(部屋の中はそうでなくても、部屋ごとに出入りがないよう見張りが付いていても全然おかしくない)


侑(だけど、あまりに突然の出来事)

侑(私も、見張りのエインヘリヤルも、何が起こったか理解できずに一瞬固まってしまう)


黒い物体?『ガガピーー!!』


侑「はっ!」バッ!

侑(その硬直から一瞬早く抜け出たのは私だった)

侑(頭で考えたわけじゃない、黒い布の化け物の声に反射的に体が動いただけ)


見張り「お、おい!」

侑「ええと、ごめんなさい!」


侑(何故謝ったか、それは次に起こることが予想できていたからだった)

侑(反射的に一歩早く踏み出した私、遅れて私を追う見張りのエインヘリヤル)

侑(そして彼の背後には私を追ってきた――――)


黒い物体?『ガガガッ!!』

見張り「な……?」



侑(ちょうど私と黒い化け物の間に立ち塞がってしまったばかりに、黒い化け物のターゲットは目の前のエインヘリヤルへと移る)

侑(見張りのエインヘリヤルには悪いけど、黒い化け物の正体を安全な所から見極めるチャンス)

侑(逆に化け物を倒してくれるなら、それはそれで都合が良い)


見張り「貴様……何者だ!」

黒い物体「ガガガ! ピピー!!」


侑(エインヘリヤルは剣の柄に手をかけ、化け物は黒い布をマントのように広げ威嚇する)

侑(そして、>>453)

453名無しさん@転載は禁止:2021/06/09(水) 14:48:05 ID:qV8Ea96Y
鎧が黒く染まってきた

454 ◆WsBxU38iK2:2021/06/11(金) 00:21:51 ID:ktmWSwj2
侑(そして、お互いに威嚇の姿勢を保ったまま時間が経過する)

侑(10秒、20秒、30秒……)

侑(不思議なことに1分近く経っても両者が動き出す様子は見られない)



侑「……いや、違う?」

侑(よく観察すると変化はあった)

侑(剣を引き抜こうとする体勢で固まったエインヘリヤル、その鎧が段々と黒く染まってきていた)

ズズ ゾゾゾゾ

侑(ゆっくり、少しずつ、だけど確実に鎧が黒に侵食されていっている)

侑(鎧の他にも携えている剣や身に着けている装飾品、目の色や髪の色までもが鎧と同様の侵食を受けている)


黒い物体?『ガガ! ガガピー!』

侑「……っ!」

侑(その瞬間、私にはハッキリとわかった)

侑(エインヘリヤルは動かないのではない、黒い化け物の何かしらの影響を受けて動けなくなっているんだと)

侑「…………」ゴクッ

侑(黒の侵食が完了したらエインヘリヤルはどうなってしまうんだろう)

侑(完全に動きを封じられるのか、存在を消されてしまうのか、はたまた化け物の手下となるのか……)

侑(何にせよ、エインヘリヤルの侵食が終われば次の標的は私)

侑(だとしたら……ここでのんびり観察なんてしてられない!)

ダッ!!


侑「おさらば!」

ダタタタタッ!


侑(とにかく走る、廊下を闇雲に走って黒い化け物から距離を取る)

侑(やつの正体を確かめるにはあのラボの人間、もしくはその関係者に話を聞くのが一番だ)

侑(だけどこの要塞の乗組員は全て制圧部隊によって閉じ込められているはず)

侑(加えて私には誰が何処に捕まっているのか全く情報がない)


タタタタッ

侑「ま、分からないんだったらもうやることは1つ――――」

タンッ!

侑(角を曲がると、廊下の通路の先に別の見張りが立っているのが見えた)

侑(見張りがいるということは重要な部屋のはず、つまり誰かが捕まってる可能性が高い)

侑(好都合……私はニヤリと笑いながらポケットから身分証を取り出す)

スッ


侑(カリオペーの身分証、相手に好きな身分を信じ込ませられる万能の偽造書)

侑(これがあれば私は何にだってなれる!)

455 ◆WsBxU38iK2:2021/06/11(金) 00:22:10 ID:ktmWSwj2
侑「そこのエインヘリヤル! “私と同じ”このフロアを担当する兵士だな!」

見張りB「ん? そうだが……どうしたんだ、そんなに息を切らせて走ってきて」

侑「大変なんだ! 向こうのラボから正体不明の化け物が現れて見張りが襲われた!」

見張りB「な、なんだって!」

侑「上に報告したら化け物の対処には専門的な知識が必要らしく、それには捕まえた乗組員に話を聞く必要があるらしいんだよ」

侑「ここの部屋にも捕まえた乗組員がいるんだろう?」

見張りB「ああ、確かにいる、だが奴らが素直に答えるどうか……」

侑「問題ない、私は尋問のための能力を有したエインヘリヤルだ、そのために上が私をよこしたんだよ」

見張りB「なに? そうなのか……そんなエインヘリヤルが……」

侑「だから早く扉を開けろ! もたもたしてると手遅れになってしまうぞ!」

見張りB「……わ、わかった!」コクンッ!

ピピッ

バシュッ!

侑「助かる!」タタッ


カシュンッ!



侑「ふぅ……」

侑(開いた扉に駆け込み、閉じたのを確認してほっと一息をつく)

侑(かなりアドリブになってしまったけど、カリオペー身分証はエインヘリヤルにも問題なく効くみたいだ)

侑(見張りは完全に私のことを仲間と信じ込んでいる)


侑(そうやって潜り込んだ1つ目の監禁部屋)

侑(場所が分からない以上はこうやって片っ端から潜入していく他ないだろう)

侑(とにかく今は情報、誰でもいい、乗組員を助けて手がかりになる情報を手に入れないと……)


侑「……よし!」

侑(気合を入れ直し部屋の奥へと進んでいく)

侑(そこに捕まっていたのは>>456)

456名無しさん@転載は禁止:2021/06/30(水) 08:05:02 ID:tCSMm.gI
知らない人

457 ◆WsBxU38iK2:2021/07/02(金) 00:41:52 ID:mwDfZBvg
侑(そこに捕まっていたのは知らない人だった)


侑「あの……大丈夫ですか?」

侑(まぁ、知らないのは当たり前と言えば当たり前)

侑(私がぱっと見分かるのは虹ヶ崎のスクールアイドルのメンバー……のそっくりさん顔くらい)

侑(この船に乗っている9割9分は知らない人なんだから適当に部屋に入ればそりゃ知らない人と出会う)


??「あ、ああ……」

侑(だけど、この人がミナリンスキーでないことは一目でわかった)

侑(背の高いヒョロッとした男、やつれた顔にシワだらけの白衣)

侑(何かの研究者か、私が転送されたラボの関係者なんだろうか)


??「君は……」

侑「私は高咲侑、あなたは?」

??「私は鳳凰院凶魔、ここのラボ、未来ガジェット研究所2ndのラボメンだ」

侑「凶魔……」

凶魔「君は見たところガチムチ筋肉男や鎧の女戦士たちの仲間ではないようだが、いったい何者なんだ?」

侑「何者……ま、味方だと思ってくれて構わないかな、とにかくあなたを解放するから」

ガチャッ ガチャッガチャッ

侑(後ろに回って凶魔の拘束を解く)

侑(厳重な見張りのわりに拘束自体は素人でも簡単に解けるような煩雑なもの)

侑(目や口も塞がれていないし部屋に閉じ込めておけないとたかをくくっていたのか……)

ガチャンッ!

侑「とれた!」

凶魔「……ああ、ありがたい」


凶魔「早く、他の者も解放せねば……」

ヨロッ

侑「ちょっ、大丈夫?」

侑(凶魔はゆっくりと立ち上がるけど、長く拘束されていたせいかふらついて上手く歩けないようだ)

458 ◆WsBxU38iK2:2021/07/02(金) 00:42:10 ID:mwDfZBvg
凶魔「問題ない、この鳳凰院凶魔がこの程度で屈するわけにはいかんのだ」

凶魔「早く、早く、早く行かねば……ぐっ……」

ガクンッ

侑「もう、焦ったって仕方ないって」

凶魔「し、しかし……」


侑「一応見張りは遠ざけているけど、エインヘリヤルやワルキューレたちの配置すら分かっていない」

侑「そんなところを1人無策で進んだってまた捕まるのがオチだよ」 

凶魔「うむ……」


侑(私1人なら身分証でどうとでも騙せる、けれど2人なら話は別だ)

侑(この鳳凰院凶魔と口裏を合わせるための時間を作らなきゃいけない)


侑「それに……近くの通路にはラボから出てきたあの化け物もいるし」

凶魔「なに!? ラボからだと!」

バッ!!

侑「え? ……うん」コクンッ

侑(凶魔はその言葉に反応するようにして勢いよくこっちを振り向いた)


侑「そうだよ、なんか黒い布を纏ってガシャガシャ動いてるやつ」

凶魔「馬鹿な、あれは外部から触られなければ決して動かないはずなのだが」

侑「あ、あははー、なんでだろうねー」


凶魔「そうか、あれが動いているとなれば話は別だな」

侑「ねぇ凶魔、あの化け物っていったいなんなの? エインヘリヤルを侵食して同化してたのは見たけど」

凶魔「ああ、あれの正体は>>459

459名無しさん@転載は禁止:2021/07/02(金) 08:54:48 ID:PmLaakKQ
対エインヘリヤル特化型未来ガジェット

460 ◆WsBxU38iK2:2021/07/03(土) 00:19:00 ID:YIcEykGQ
凶魔「あれの正体はエインヘリヤル特化型ガジェットだ」

侑「特化型未来ガジェット……!?」


凶魔「あのガジェットはエインヘリヤルを優先的に追跡するようにできている」

凶魔「そして実際に稼働している現場を見たということは知ってると思うが、エインヘリヤルを見つけると内部に格納されてるチューブから特殊な薬液を注入、侵食を開始するんだ」

凶魔「侵食されたエインヘリヤルは自我を失い敵味方の区別をつけることができなくなるんだ」

侑「それはすごい!」


凶魔「ただ……」

侑「ただ?」


凶魔「あ、あのガジェットには欠点……ごほごほっ、いや、特殊な機能が付随していてな……」

侑「急に端切れ悪くなりましたね」

凶魔「侵食されたエインヘリヤルは敵味方の区別がつかない化け物になる」

凶魔「つまりだな、同じエインヘリヤルを襲う可能性もあれば我々を襲う可能性もあるわけだ」

侑「じゃあダメじゃん……」


凶魔「だ、ダメではなーーーーい!!」バッ!!

侑(急に大声出すなこの人……)


凶魔「侵食された時点で知能のない暴走した獣になることは間違いないんだ」

凶魔「ということは裏をかかれたり待ち伏せをされることがない、きちんと警戒していけば恐れることはない!」

侑「はぁ……」


侑(その理屈だといずれこのフロアのエインヘリヤルは全てあの黒い布の化け物に侵食されるわけか、軽く地獄だな)

侑(まぁ同情はするけどこっちにも退けない事情がある)

侑(特化型ガジェットとやらを止めるのはまた今度にして上層を目指そう)


凶魔「どうした? 黙り込んでしまって」

侑「……いや、考えことをしていただけ」


侑「凶魔さん、お仲間を助けたい気持ちは分かりますけど、1人1人解放していても埒があきません」

侑「この移動要塞を占拠している天界の勢力と乗組員の戦力差、人数差は明白です」

侑「例え何人か助けだしたとしても再び捕まってしまったら同じこと」

凶魔「だがガジェットはあるぞ?」

侑「このフロアでは……ですよね、デコイとしては有用ですが限界はあります」

凶魔「まぁ……そうだな」


侑「ですから優先順位をつけましょう」

凶魔「優先順位?」

侑「はい、優先目標はミナリンスキー、この移動要塞の制御権を持つ人です」

侑「いかに相手が物量で勝っていようと要塞のシステムを奪い返してしまえば手の打ちようはあります」

凶魔「確かに……理にはかなっているな」 


侑「凶魔さん、知りませんか? ミナリンスキーが今どこに捕まってるか、どういう状況にいるのか」

凶魔「ミナリンスキーか……そうだな、信憑性は薄いが見張りが話していたのを耳にはしたな」

凶魔「彼らの話によるとミナリンスキーは今>>461

461名無しさん@転載は禁止:2021/07/03(土) 22:31:51 ID:gg/FE21c
動力炉付近に連れていかれた

462 ◆WsBxU38iK2:2021/07/04(日) 00:20:24 ID:eusOG4Fk
凶魔「ミナリンスキーは今動力炉付近に連れて行かれているらしい」

侑「動力炉……この要塞の? 場所は!?」

凶魔「そ、そうまくし立てるな」

侑「ご、ごめんなさい」


凶魔「そうだな……場所は下層にあるということしか分からない」

凶魔「今我々がいるフロアは中層、つまり1つ下に降りる必要があるということだ」

侑「階段かエレベーターみたいな?」

凶魔「ああ、各層の中央に直通のエレベーターがあるという話は聞いたことがある」

凶魔「だが直通なだけに警備は厳重、通り抜けることは難しいだろう」

侑「うん……」


侑(私1人ならワンチャン行けるかもしれない、ただ凶魔や他の協力者を連れてとなると無理だ)

侑(エインヘリヤルに身分を偽装し、凶魔たちを捕虜に見立てたとて、捕虜をわざわざ別のフロアへ移送する理由がない)

侑(ワルキューレやエインヘリヤルの能力は多彩、末端の見張りならまだしも中央の警備を任されるような強者の中に偽装を見抜く能力持ちがいないとも限らないし……)


侑「だとしたら、中央エレベーター以外のルートで下層に降りるしかない……か」

凶魔「こちらも同意見だ、非常用の階段などなら監視の目をかいくぐれる確率は高い」

凶魔「だが、それには1つ問題があってだな……」

侑「問題?」

凶魔「道が……分からないんだ」

侑「え?」


凶魔「この要塞に来てから日が浅いんだよ」

凶魔「元々未来ガジェット研究所は浮遊塔にあった施設だ、要塞の構造を完璧に把握するにはまだまだ時間が足りない」

凶魔「主要な施設と行き来するメインの道は覚えていても、裏路地のような細かな通路は把握できていないんだ」

侑「なるほど……」


侑「となると、必要なのは道案内役か、詳細な地図か」

凶魔「地図……そうだ!」

侑「ん?」

凶魔「ラボにならバーミヤンの通路を記したマップが置いてあったかもしれない」

凶魔「それにラボにはこれからの救出作戦で役立つであろうガジェット、>>463もあるはずだ!」

463名無しさん@転載は禁止:2021/07/07(水) 14:54:33 ID:w/xgsWjg
ステルス迷彩

464 ◆WsBxU38iK2:2021/07/08(木) 02:38:39 ID:6rZr5UMU
凶魔「ステルス迷彩もあるはずだ!」

凶魔「だからラボまで戻ることができれば何とかなるかも……しれない」


侑「よし! じゃあ早速行きましょう!」

凶魔「行く? いや、行くのは賛成だが外にはまだ多くの見張りが彷徨いているはず」

凶魔「迂闊に飛び出そうとした身で言うのもなんだが無策ではラボに辿り着くことさえ――」

侑「ほう……誰が無策だと言いましたか?」

凶魔「え?」


侑「私が慎重になっていたのはミナリンスキーの居場所とそこへ辿り着くための道が分からなかったからです」

侑「それが判明したとなれば最早恐れることはありません」

凶魔「し、しかしエインヘリヤルたちが……」

侑「ちっちっち」

凶魔「……?」



侑「凶魔さん、いったい私がどうやってここまで来たと思ってるんです?」





465 ◆WsBxU38iK2:2021/07/08(木) 02:39:12 ID:6rZr5UMU




──ラボ

PM5:05


ガチャッ


侑「……よし、中には誰もいないみたいです、電気つけますね」

パチンッ

凶魔「しかし驚いたな、こうもスムーズに移動できてしまうとは」

侑「ふっふっふ、すごいでしょう」

凶魔「ああ、そんな便利なものがあるとは思わなかったぞ」


侑(凶魔に身分証のことを説明した私は再び廊下を通りラボへと戻ってきていた)

侑(手に入れた経緯などを伏せたせいか凶魔は初め半信半疑だったものの、実際にすれ違ったエインヘリヤルに効果を発揮したのを見ると信ざるを得ないようだった)

侑(ちなみにすれ違ったエインヘリヤルには化け物の騒ぎが起きたから捕虜を少し離れた部屋に移すと話しておいた)

侑(近場で化け物が暴れているのは本当だし、同フロアでの移送ならそこまで怪しまれないだろう)


凶魔「ふむ……どうやらラボには内にも外にも見張りがいないようだな」

侑「あの黒い布の化け物、対エインヘリヤル特化型未来ガジェットでしたっけ?」

侑「あのガジェットの姿が見えませんし、離れたところへエインヘリヤルたちを引きつけてるのかもしれないですね」

凶魔「そうか、ならばチャンスだな」 


凶魔「ステルス迷彩ガジェットを探してくるからそちらはマップを探してくれ」

侑「分かりました、それでどの辺りに……」

凶魔「その机の辺りだ、頼んだぞ!」

ダダッ!


侑(凶魔は私の近くの机を指差すとラボの奥の方へと駆けていった)

ドッタンバッタン ガシャンッ! ガシャンッ!

侑(何やら物をひっくり返してるような音がしてきている、私も言われたものを探すことにしよう)


侑「マップ、マップっと」

侑(転送されて来た時と違い明かりがついてるため探索はしやすい)

侑(そのおかげか目的のマップはあっさりと見つかった)

侑「えーと……あった! これだ!」


侑(おそらくはタブレット的な端末なんだろうけど、本物の紙と見間違うくらい薄くてペラペラ、巻いて筒状にできるくらい柔軟性がある)

侑(そして端末の表面に表示されているのはこの移動要塞の詳細な見取り図)

ピッ

侑(画面を直接タッチで操作できるようなので指で拡大しつつルートを確認していく)


侑「なるほど、ここが中層でここが今いるラボ」

侑「だったらここから下層へ行くために一番近いルートは……」

ピッ ピッ

侑「……うん、この>>466って場所を通るのが一番早そう!」

466名無しさん@転載は禁止:2021/07/08(木) 20:47:57 ID:HNY7xfAU
外側緊急通路

467 ◆WsBxU38iK2:2021/07/10(土) 00:31:29 ID:Y6EpPE6Q
侑「この外側緊急通路って場所を通るのが一番早そう!」


侑(ルートを間違えないよう、指でなぞりながら二度三度と確認を重ねる)

侑(そうこうしてるうちに凶魔がラボの奥から戻ってきた)


ガタンッ ガタガタガタンッ

凶魔「あうっ! いたたた……」


侑「ステルス迷彩見つかりました?」

凶魔「あ、ああ、少々探すのに手間取ったが確保してきた」

凶魔「とりあえず今いる2人とミナリンスキーの3人分だ、1つは渡しておこう」スッ

侑「ありがとうございます」


侑(手渡されたのは見るからにベースが雨合羽の装備だった)

侑(表側に銀紙をぐしゃぐしゃに丸めてから広げたようなフィルムが一面に貼られていて、内側には沢山のコードが張り巡らされている)

侑(見た目は夏休みの工作程度の出来栄えに見えるけど、本当にこれで姿が消せるのかな……)


凶魔「なんだその目は、見た目はアレだが機能はバッチリだ、しっかり実験もしてある」

侑「ま、まぁそんなドヤ顔で言うなら……信じます」


凶魔「ところでマップの方はどうだ? 見つかったか?」

侑「はい、こっちは普通に置いてあったのでアッサリと見つかりました」

侑「凶魔さんが来るまで軽く目を通してたんですけど、この外側緊急通路ってとこが一番近そうです」

ピッ

侑(見ていた箇所を拡大し画面を凶魔へと向ける)


凶魔「ふむふむ……なるほど」


凶魔「よし!それで行くぞ!」

侑「え……提案したのは私ですけど、そんな軽いノリでいいんですかね、凶魔さんの案とかは――――」

凶魔「いいか、よく聞け新ラボメンよ」

侑「ラボメンではないです」

凶魔「何を隠そうこの鳳凰院凶魔は道を知らないのだ、貴様と同じくらいにバーミヤンにおいては初心者だと言っていい」

侑「はぁ……そうらしいですね」

凶魔「だから心配などは皆無! 己の直感の信じた道を進めばいいのだ!」ビシッ!

凶魔「ハッハッハ、フハーハッハッハ!!」


侑「…………」


侑(ええと、つまり自分も知らないから口出しすることはないし黙って付いてくると)

侑(うーん……この人連れて行く意味あるのか疑問に感じてきた)

侑(でもミナリンスキーに会うなら乗組員がいたほうが話が早いしなぁ……)


侑(いや……仕方ない、これも目的のため!)


侑「では移動します! 付いてきてくください!」

凶魔「心得た!」





468 ◆WsBxU38iK2:2021/07/10(土) 00:32:19 ID:Y6EpPE6Q



──外側緊急通路

PM5:10


侑「……って、ノリで飛び出してきたは良いものの」

凶魔「これは……なかなかスリリングな道のりだな」

ヒュォォォォォォォォッ

ガタガタンッ ガタガタンッ


侑(外側緊急通路C-26、そう書かれた扉を開いた私達の目に飛び込んできたのは一面の空だった)

侑(吹き付ける風、揺れる足場に目を向ければ、それは“要塞の外側”に取り付けられた外装メンテナンス用の通路)

侑(垂直の外壁に階段のような狭い足場と心もとない手すりが打ち付けられているだけの通路だった)


侑「お、おお、押さないでくださいね! ゆっくり行きますから!」


侑(特に高所恐怖症だったりするわけじゃないけど、流石にこの高度は足がすくんでしまう)

侑(足元を見ればその隙間から遥か下の地面が見える)

侑(地上まで何百メートルあるんだろうか、分かるのは足を踏み外せば間違いなく命はないということだけ)

カンッ 

カンッ

侑(ゆっくり……ゆっくりと、確実に階段に足を置いて下っていく)


ヒュォォォォォォォォッ

侑「わっ!」バサバサッ!

侑(時々吹く突風に羽織っているステルス迷彩カッパがはためく)


凶魔「さすがにこれだけ上空だと強風が吹くな……」

侑「上空……確かにそうですね」


侑(足元ばかりに気を取られていたけど、少し慣れてくると周囲の風景も目に入ってきた)

侑(間もなく夕暮れ時、赤い空が荒涼とした九州の大地を照らしている)

侑(削り取られた山々、吹き飛ばされた平地、燃えた森に崩壊した街、戦の傷跡がどこまでも続いている)


侑「本当にここで戦いがあったんですね」

凶魔「ああ、痛ましい戦だった、そして今は――――」


侑(凶魔の目線の先、そこにあるのはスクリーン型の紋章陣)

侑(天を覆うように並ぶ無数の赤と緑のスクリーンは人と神の最終決戦、ラグナロクの模様を全世界へと中継している)

侑(ちょうど今は3回戦、海未さんとヴァーリの戦いが映し出されているみたいだ)


侑「そうですね、これで戦いが終わると良いんですけど…………」


侑「……ん?」

凶魔「どうした?」



侑(上空に浮かぶスクリーンを見ていた私は気づいた)

侑(何かがバーミヤンとバーミヤンに一番近いスクリーンの間に浮かんでいると)


侑「あの、凶魔さん、あそこ――――」


侑(逆光のせいか最初はスクリーンにちらつくノイズかと思っていた)

侑(でも違う、あの影は画面と関係なしに動いている)

侑(スクリーンと私たちとの間に何かが浮遊しているからこそ見える影だ)


侑(あれは……>>469)

469名無しさん@転載は禁止:2021/07/14(水) 15:01:06 ID:3.geCbK.
飛行型の敵

470 ◆WsBxU38iK2:2021/07/15(木) 01:21:49 ID:WXQOtLxQ
侑(あれは……飛行型の敵)

侑(純白の翼を広げ剣を携えた戦乙女――)


侑「……ワルキューレ!」

凶魔「ワルキューレだと!? どこだ!」

侑「いいから走って!」

凶魔「りょ、了解した!」

カンカンカンカンッ! 

カンカンカンカンッ!


侑(バーミヤンの外壁に打ち付けられた金属の足場を駆け足で降りていく)

侑(もう怖いだのなんだのと言ってる場合じゃない)


侑「油断してた、てっきり見張りは要塞の中だけかと……まさか要塞の外を飛び回っているワルキューレがいるなんて!」

凶魔「どうする? もうステルス迷彩を使うか!」

侑「それはなるべく最後の手段、確か電気の消費量が多くて長持ちしないんでしょ」

凶魔「ああ、その通りだ、さっきの移動の最中に話したことをよく覚えているようだな」

侑「感心してる場合じゃないって!」


カンカンカンカンッ! カンカンカンカンッ!


侑「私の身分証もあるし、見つかっても誤魔化せる可能性はある」

侑「そもそも向こうが私たちを発見できていない可能性だってある」

侑「だから、今はとにかく手早く移動しちゃおう!」

凶魔「なるほど……だが……」

ピタッ


侑「え、ちょっと凶魔さん! どうして止まったの!?」


凶魔「その可能性の片方は、どうやら断たれてしまったようだ」

侑「え?」

471 ◆WsBxU38iK2:2021/07/15(木) 01:22:04 ID:WXQOtLxQ
侑(背後で急に停止した凶魔を振り返って見上げた視線の先)

侑(こちらに向かい真っ直ぐ突っ込んでくるワルキューレの姿があった)


ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

侑(翼を畳んで空気抵抗を減らすスピード重視の飛行形態)


侑「……っ! 流石にバレるか!」



侑(仕方ない、ここは例の身分証で……)

スッ

侑(……と、懐に手を入れたところでふと気付く)

侑(私がカリオペーの身分証で相手を騙すには自分の身分を宣言して相手に信じ込ませる時間が必要だ)

侑(それには相手が私を疑うこと、つまり私の存在に対しての興味がなければいけない)

侑(怪しい人物だ、何者なんだと思考を巡らせ手を止めるからこそ付け入る隙ができる)


侑(それならば、もし相手がそう考えなかったとしたら?)

侑(目についた不信人物は全て排除しろと命令を受けていたとしたら?)

侑(私の声が耳に届く前に攻撃を放ってきたとしたら?)


侑「…………あ」


凶魔「どうした! 早く能力を!」

侑「あ、わ、私は――――」


ワルキューレ「はぁっ!!!!」

侑「……っ!」


侑(眼前に迫るワルキューレの刃、そして次の瞬間>>472)

472名無しさん@転載は禁止:2021/07/15(木) 17:31:51 ID:r4y1LO.M
私が刺されているのが見えた

473 ◆WsBxU38iK2:2021/07/16(金) 01:23:33 ID:7HyCkEeo
侑(そして次の瞬間、私が刺されているのが見えた)

ザンッ!!

侑「……っ!?」


凶魔「おいっ!!」


侑(しまった……油断にもほどがある)

侑(カリオペーから渡されたアイテムが完全に目を曇らせていた)

侑(身分証が万能なのは曲がりなりにもコミュニケーションが通じる状況だけ)

侑(一触即発の戦場でそれを期待するのはあまりに甘い考え……)


ズズズッ

侑「がはっ……!」

侑(薄刃の剣が私の脇腹を貫いている)

侑(裂けた傷口が焼けるように熱い、痛い、体中から汗がドッと吹き出る)

凶魔「おいっ、――――、おいっ、――――」

侑(耳鳴りがする、自分の心臓の音が大きい、隣の凶魔が何か喚いているけど耳に入ってこない)


ワルキューレ「標的、排除」

侑「はぁ……っ、はぁ……っ」


侑(ただ、私はまだ生きている)

侑(心臓は動いてるし、喉も潰れていない)

侑(だったら――――)


ガシッ!

ワルキューレ「……?」

侑「私は……」

侑(ワルキューレの腕を掴み、その無機質な瞳を見つめ、震える唇から声を絞り出す)


侑「……私は、追加で派遣されたエインヘリヤルの1人……敵では……ありません」

ワルキューレ「敵ではない、なら何故この場所に」

ワルキューレ「エインヘリヤルは全員内部の警備に当たっているはずだが」


侑(ああ……やっぱりそういうことになってたんだ……)

侑(凶魔もいるし、上手い言い訳を考えないと……)



侑「……ええと、それは>>474

474名無しさん@転載は禁止:2021/07/16(金) 07:59:46 ID:XRaVM2DY
中でこいつが開発した化け物が誤作動して暴れてるから制御装置があるという動力炉に向かっている

475 ◆WsBxU38iK2:2021/07/17(土) 00:14:33 ID:NJYj.LTo
侑「それは……中で化け物が暴れてて、それを開発したのが横のこいつで……制御装置が動力炉にあるから……それで……向かってる………途中……ぅぐっ!」

ワルキューレ「中で、化け物? 確認する」


侑(痛みで集中できない中、なんとか絞り出した都合の良い理由付け)

侑(それを聞いたワルキューレはロボットのように表情を1ミリも変えないまま黙り込み、代わりに顔の横の耳飾りが僅かに点滅を繰り返す)

ピピッ ピピッ ピピッ


ワルキューレ「確認終了、確かに中層で未確認兵器が暴走してるのは事実なようだ」

ワルキューレ「しかし動力炉へ向かうのならばわざわざ外を通る必要はないだろう」グッ

侑「……っ!」

侑(ワルキューレが剣を握る拳に力を入れるたび、私のお腹に言葉にならない激痛が走る)

侑(まだ完全に疑いが晴れたわけじゃない、私の命は未だにワルキューレの機嫌次第)

侑「っはぁ……はぁ……」

侑(次……次だ、言葉を途切れさせるな……)


侑「いや、だから、中では化け物が暴走してると言ったでしょ……」

侑「私の任務は……こいつを死なせず、迅速に、下層の動力炉まで連れていくこと……がっ、ぐはぁ……ぐっ……」

侑「……そういうこと、考えるとさ、外側の緊急通路通った方が良いって……思わない……かな」


ワルキューレ「なるほど、一理ある、失礼した」

侑「で、でしょ……」

ワルキューレ「この剣は引き抜こう」

ブンッ!!

侑「ってちょ……がぁっ!!!」 

ビシャァァァッ!!


ワルキューレ「ふっ」チャキンッ


凶魔「おい貴様! いきなり抜いたら出血が止まらなくなるだろ!」

ワルキューレ「口を挟むな人間、エインヘリヤルの戦士ならこれくらいの傷では死なん」

凶魔「だが、この子はエインヘリヤルでは……」

ワルキューレ「……?」

凶魔「……い、いやその……」


侑(済まし顔で鞘に剣を収めたワルキューレの視線に凶魔は気まずそうに口籠る)

侑(だけど私にはそんなやり取りを気にしてる余裕はなかった)


ズキンッ ズキンッ ズキンッ ズキンッ

侑「はぁっ……はあっ……はあっ……」

ドクンッ ドクンッ ドクンッ ドクンッ

侑(熱い、痛い、うるさい、眩しい、苦しい、もう何がなんだか分からない)

侑(叫び声を上げてのたうち回りたい衝動を死ぬ気で我慢し、目の前の手すりと震える二本の足でなんとか体を支える)

476 ◆WsBxU38iK2:2021/07/17(土) 00:14:57 ID:NJYj.LTo
凶魔「そう、そうだ、死ななくたって支障が出るじゃないか!」

ワルキューレ「支障?」

凶魔「小さな傷だと舐めてはいけない、いつどんな時に悪化して足を引っ張るか分からぬのだぞ」

凶魔「この鳳凰院凶魔と契約を交わたのはこのエインヘリヤル、我はこの者以外には身を任せん!」

凶魔「つまりこの者が倒れたなら我は動かんということだ、そうなれば化け物の暴走は止まらず任務は失敗となる」

凶魔「わかるか? ワルキューレ、貴様が我々の任務を邪魔した事になるのだ! 個人でその責任が取れるか!!」ビシッ!!


ワルキューレ「……捕虜のくせに任務の心配をするとは、加えてよく喋る」

凶魔「悪いか!」
 
ワルキューレ「善悪は問うてない、しかし……そうだな、些細な事とは言えエインヘリヤルとの間に軋轢を生むのも本意ではない」

ワルキューレ「そこまで騒ぐのであれば傷口は治そう」

パッ


キュィィィィンッ

侑「……!」

侑(ワルキューレが手をかざすと緑色の粒子が放出され傷口を塞いでいく)


凶魔「おお! 大丈夫か!」

侑「……な、なんとか」フラッ

侑「まだ痛みは残ってるけど……うん、これなら歩けそう」



ワルキューレ「…………」


侑「じゃ、じゃあワルキューレさん、私たちはこれで――――」

ワルキューレ「待て」

侑「え?」


ワルキューレ「そこの人間の言葉で考えを改めた」

ワルキューレ「このような不測の事態の判断、たかが1兵士の自分が独断で決めていいことではない」

ワルキューレ「ワルキューレ警備部隊の隊長格へ連絡し応援を要請するからしばし待て」


侑「あぁ……いや、ほら急ぎの任務なので! お忙しい?隊長さんたちを待ってる暇がないんで! ね?」

凶魔「そ、そうだ! その通りだ!」


侑(凶魔の言葉で無駄に責任感に芽生えたのかもしれないけど、こっちとしては隊長格と関わるなんてお断り)

侑(時間を言い訳にしてさっさとこの場を離れてしまいたい)


ワルキューレ「時間ならば気にするな、自分の直属の隊長は現在動力炉近くにいる」

ワルキューレ「つまりお前たちが移動する道すがら合流できるはずだ」

侑「えっ……動力炉近くに、隊長?」

ドクンッ

侑(なんだろう、不味い、すごい不味いことになりそうな予感)


ワルキューレ「ああ、地上のワルキューレ部隊は第1から第5までの5つの部隊に分けられていて各部隊に1人ずつ隊長がいる」

ワルキューレ「このバーミヤンを担当しているのは>>477番目の部隊長だ」

477名無しさん@転載は禁止:2021/07/17(土) 00:36:53 ID:4rzr/oNk
2番と3

478 ◆WsBxU38iK2:2021/07/18(日) 00:29:34 ID:maST7Aoc
ワルキューレ「2番と3番目の部隊長だ」

侑(しかも2人……!?) ビクッ!


ピピッ ピピッ

ワルキューレ「よし、報告は完了した、これでお前たちのことは伝わっているはず」

侑「…………」

ワルキューレ「どうした? 時間がないのだろう、早く行け」

侑「う、うん……」

 
侑(状況は悪くなったけど、このまま残っていたって怪しまれるだけ)

侑(今はとりあえず下層に向かうしかないだろう)


侑「行くよ!」

凶魔「ああ……了解した」コクンッ


タンッ

カンカンカンカンッ 
 
カンカンカンカンッ


侑(下層に待ち受ける2人の部隊長)

侑(彼女たちの目をすり抜けてミナリンスキーを助ける方法)


侑(早く、それを思いつかないと……!)


カンカンカンカンッ





479 ◆WsBxU38iK2:2021/07/18(日) 00:30:00 ID:maST7Aoc




──動力炉制御室

同時刻


ウゥーーーーーーーーーーン


ミナリンスキー(動力炉からガラスの壁一枚隔てた制御室には低く小さな駆動音が鳴り響いていた)

ミナリンスキー(半待機状態の動力炉に火は灯っておらず、ただ移動要塞を浮遊させるだけの僅かなエネルギーを生成している)

ミナリンスキー(普通ならばブリッジで指揮しているはずの私が何故こんな場所にいるのか……)

ミナリンスキー(その答えは単純明快、ワルキューレたちに捕まったからなのである)


ガチャッ ガチャガチャッ


ツヴァイノート「いやさぁ、だからその手枷を解くのは無理なんだって」

ツヴァイ「何度も説明したけどその手枷はうちの末っ子ちゃんの特製手枷であなたの能力を封じることができるの」

ツヴァイ「無駄な抵抗を続けてないでさっさと吐くこと吐いちゃってよ」


ミナリンスキー(後ろ手に手枷を嵌められ自由を奪われた私)

ミナリンスキー(目の前に立つのはその手枷から伸びる鎖を握った青髪のワルキューレ)

ミナリンスキー(背中に2の文字を背負い、腰の両側に2本の短剣を携えた彼女はツヴァイノートと名乗っていた)



ドライノート「そうよ、姉さんの言う通り」ジッ


ミナリンスキー(更に少し離れた位置に立っているのはドライノート)

ミナリンスキー(短く切り揃えられた桃色の前髪の隙間から、こちらを鋭い目で睨みつけている)


ドライノート「私たちが聞きたいのは御託じゃなくて動力炉の制御の仕方」

ドライノート「それを吐きさえすれば貴女はこんな尋問に付き合わなくて良くなるのに、やれやれだわ」


ミナリンスキー(そう、私は動力炉を再び稼働させるために捕縛されこんな所まで連れてこられていたのだ)

ミナリンスキー(現在、バーミヤンの動力炉は半待機状態にあり、それ以上の機能は全てロックされている)

ミナリンスキー(要は乗っ取りを防ぐためのセキュリティシステム)

ミナリンスキー(管理権限を持つものが許可しない限り、バーミヤンはただの巨大な箱で、移動することも兵器として運用することもできない)

ミナリンスキー(ま、この2人はそのロックを解く方法を私から聞き出そうとしてるわけだね)


ドライノート「はぁ……変わらずだんまり、賢くない選択よ」

ツヴァイノート「仕方ない、じゃあ尋問を続けよっか」

ガシャンッ

ミナリンスキー「うぐっ……」


ミナリンスキー(……で、さっきから行われている尋問方法というのが>>480)

480名無しさん@転載は禁止:2021/07/19(月) 00:25:47 ID:FAtrzuP.
中学生の頃の日記の音読

481 ◆WsBxU38iK2:2021/07/20(火) 00:23:39 ID:mgXqXU96
ミナリンスキー(尋問方法というのが……)


ツヴァイノート「『今日は穂乃果ちゃんと遊んだよ、今日も穂乃果ちゃんは天使みたいにかわいい、好き好き大好き、その目で見つめられると甘く蕩けちゃう』」

ツヴァイ「『気持ちはホイップ、心はマカロン、今すぐ私ごと食べちゃって』」

ミナリンスキー「ぐわああああああああああああああ!」


ミナリンスキー(私の中学生の頃の日記、その音読だった)



ツヴァイノート「……ふむ、書いてあることは相変わらず意味不明だけど効果は抜群、さすがドライの考えた尋問ね」

ドライノート「いえ、姉さんに褒めてもらうほどではないわ」

ツヴァイノート「も〜そんな謙遜しちゃって」

ドライノート「さ、姉さん続きを」

ツヴァイノート「おっけー」


ツヴァイノート「ええと……『すきすきちゅっちゅ、すきすきちゅっちゅ、だいす――――」

ミナリンスキー「うがああああああああああああ!!」


ミナリンスキー(……ぐっ、ひどい、なんて残酷な責め苦、精神がかき乱されて頭がどうにかなっちゃいそう)

ガクッ

ミナリンスキー「はぁ……はぁ……」

ドライノート「効いてる効いてる」



ミナリンスキー(でも、ワルキューレたちは私の日記なんて何処から持ってきたんだろう)

ミナリンスキー(あの黒歴史日記の存在を知っていたのも、日記の場所を知っていたのも私だけ)

ミナリンスキー(それに存在を知っていたとしてわざわざ東京まで取りに行くとは思えないし、何よりそんな時間はなかったはず)


ミナリンスキー(ブリッジで拘束され、下層まで降りてくるまでの十数分間)

ミナリンスキー(移動中の目隠しがあったとは言え、常に2人の声は近くで聞こえていた)

ミナリンスキー(目隠しが取れたときには既に日記が彼女たちの手にあったことを考えると、その間に何かしたと考えるのが自然……)


ミナリンスキー(でも、日記なんて本当にどこから……?)

482 ◆WsBxU38iK2:2021/07/20(火) 00:25:48 ID:mgXqXU96


ツヴァイノート「どう? これ以上苦しみたくなかったらさっさとバーミヤンの制御権を渡すのよ」

ツヴァイノート「私たちだって本職は戦闘、こんな専門外の地味な仕事さっさと終わらせたいんだから」グイッ

ミナリンスキー「ぐっ……」フラッ

ガシャンッ!


ツヴァイノート「あっ、ごめんね〜、鎖を強く引っ張り過ぎちゃったかな」 

ツヴァイノート「この程度で転んじゃうだなんてメンタルだけじゃなくて体力も無くなってるんじゃない」

ミナリンスキー「……っ」ググッ


ミナリンスキー(正直青髪の言う通り、私のコンディションはボロボロに近い)

ミナリンスキー(バーミヤンの初陣から続く連日の戦闘であまり休めてないし、加えてあの日記は実際私に効く)


ツヴァイノート「『ねぇ穂乃果ちゃん、明日はどんな幸せな日になるかな』」

ツヴァイノート「『明日も、明後日も、穂乃果ちゃんがいるだけでことりは幸せだよ』」


ミナリンスキー(あの日記に書かれている言葉は、青髪の口を通して聞こえる言葉は、何も知らなかった過去の私だ)

ミナリンスキー(穂乃果ちゃんと世界を愛し、未来が絶対の物だと信じ込んでいた頃の私)

ミナリンスキー(ああ……なんて、甘ったるい……)


ググッ グググッ


ミナリンスキー(そんなんだから、“こんな私”になっちゃうんだ……!)

ミナリンスキー(世界を破滅に導く親友を止める覚悟さえ持てず、寄り添うことが愛だと思い込む)

ミナリンスキー(愛する人のために世界さえ超え、自分を省みず戦いに見を投じる、“向こうの私”とは大違い……)


ミナリンスキー「そうだよ、そんなんだから貴女は……」

ググッ 



ミナリンスキー「“南ことり”さえ捨てることになっちゃうんだよ!」

ダンッ!!


ツヴァイノート「お?」



ミナリンスキー「はぁ……はぁっ……ぐっ……」

ミナリンスキー(顔も髪も全然可愛くない、本当にかっこわるい立ち姿)

ミナリンスキー(でも、どんなに無様でも構わない、私はまだ倒れるわけにはいかないんだ)



ドライノート「へぇ、まだ立ち上がる気力が残っていたのね」

ドライノート「尋問用に一番心を抉る物を記憶から切り取ったはずなのに……逆に火をつけちゃった感じかしら」

ミナリンスキー(記憶から……?)


ツヴァイノート「ん? どういうこと?」

ドライノート「偶にいるのよ、嫌な記憶に屈せずそれをバネに立ち上がってしまう愚か者が」

ドライノート「過去に学ばず、己を曲げず、どうせ足掻いた所で同じ未来しか待ってないというのに……」



ミナリンスキー「へー、じゃあ私も相当な愚か者だったみたいだね」

ドライノート「構わないわ、そういう愚か者は全員――――」

スッ 

キィンッ

ドライノート「私がこの手で切り捨てて来たから」

ミナリンスキー「……っ!」

483 ◆WsBxU38iK2:2021/07/20(火) 00:26:59 ID:mgXqXU96


ミナリンスキー(薄い縦長の長方形の刀身、刃の付いてないノコギリのような剣を桃髪のワルキューレが構える)


ツヴァイノート「こ、殺しちゃったらまずくない?」

ドライノート「バカね、死なせはしないわよ」

スッ

ドライノート「私の剣で、もう少し記憶の深いとこまで探ってみるだけ」


スタッ スタッ

ミナリンスキー(切っ先をこっちに向けながら、桃髪のワルキューレはゆっくりと距離を詰めてくる)


ドライノート「ま、当たりどころが悪かったら精神が歪んじゃうかもしれないけど、それは仕方ない犠牲と考えましょう」

ミナリンスキー「こ、このっ……!」

ガシャガシャ!!


ミナリンスキー(手枷から乱暴に引き抜こうと当然外れるはずもない)

ミナリンスキー(手枷が直接鎖に繋がれてるから逃げられないし、能力が封じられてるから抵抗もできない)

ミナリンスキー(何か……何か……ここを切り抜ける方法は……)


ドライノート「ないわ」

ザンッ!!

ミナリンスキー「っ!」



ミナリンスキー「…………あれ?」


ミナリンスキー(思わず瞑った目をゆっくりと開くと、桃髪のワルキューレの剣が私の額へと差し込まれていた)

ミナリンスキー(だけど私は普通に生きていて、意識はあって、痛みはこれっぽっちも感じない)

ミナリンスキー(え……えぇ……?)



ドライノート「言ったでしょ、死なせはしないって」

ミナリンスキー「ど、どういうこと!?」


ツヴァイノート「ふふっ、驚いた? ドライの剣の名は『栞のグラム』!」

ツヴァイノート「普通の剣とは違い殺傷能力は無いけど、記憶に差し込むことで記憶から過去の物質を取り出せるのよ!」

ドライノート「……はぁ、姉さん喋りすぎ」

ツヴァイノート「あ、ごめん……」


ドライノート「別にいいわ、栞のグラムの能力は分かっていたって防げるものじゃないし」グッ

グリグリ グリグリ

ミナリンスキー「記憶から過去の物質を……? ってかなんで剣を頭の中でグリグリやってるの!?」

ドライノート「うるさいわね、栞のグラムは記憶を探れるけど私自身に記憶を覗く力はないのよ」

ドライノート「だからこうしてグラムを動かして手探りで記憶を探ってグラムを通して伝わる感触で記憶の性質を判別するの」

ミナリンスキー「感触で……分かるんだ」

ドライノート「そうね、嬉しい記憶、楽しい記憶、悲しい記憶、柔らかかったり硬かったり、それぞれちゃんと感触が違うわ」

ドライノート「あとは刃を差し込む角度と深度、ミリ単位の調整……まぁここらへんは経験のなせる技ね」

ミナリンスキー「は、はあ……」

484 ◆WsBxU38iK2:2021/07/20(火) 00:27:27 ID:mgXqXU96


ミナリンスキー(頭の中を直接剣でグリグリ探られてるのは不思議な感覚だ)

ミナリンスキー(私の日記もこうやって目隠しの間に抜き取られたんだろうか)

ミナリンスキー(だとすると……1つ疑問が残る)


ミナリンスキー(どうして直接バーミヤンの情報を引き出さず、日記なんて遠回りな手段を取ったんだろう)

ミナリンスキー(もしかしたら栞のグラムでは記憶の情報自体は取り出せない……?)

ミナリンスキー(あくまで取り出せるのは物質、記憶の世界に形としてあるものだけかもしれない)


コンッ!

ドライノート「ん」

ミナリンスキー「お?」


ミナリンスキー(私の頭の中で刃が何かに当たって快音を立てる)

 
ドライノート「この感触は……良さげなものに当たったわね」

ドライノート「あなたの記憶のより深い場所にある、あなたをより揺さぶるもの――――」

グッ

ドライノート「出てきなさいっ!」

ブンッ!!

ミナリンスキー「うっ!」


ミナリンスキー(桃髪のワルキューレは小さく笑うと剣を一気に引き抜いた)

ミナリンスキー(それに引っ張られるようにして出て来たのは>>485)

485名無しさん@転載は禁止:2021/07/20(火) 10:52:33 ID:zfWfcPIM
三枚のパンツ

486 ◆WsBxU38iK2:2021/07/21(水) 00:11:29 ID:pjI.I4GQ
ミナリンスキー(出て来たのは三枚のパンツだった)

ヒュッ! ヒュヒュンッ!

ミナリンスキー(刃の角に引っかかるようにして飛び出たパンツがひらひらと宙を舞う)


ドライノート「なにこれ……下着?」

ヒラッ ヒラッ ヒラッ


ドライノート「心を揺さぶるトラウマの対象、もしくはそれに類するものを取り出したはずだけど……予想外の物が出てきたわ」

ドライノート「ほんと、人の記憶というのは物質の記憶と比べて個人差が大きい」

ドライノート「釣り上げるまで中身が確定しないのが困りどころね」



ドライノート「……ま、当の本人に見せつけてみれば分かること」パシッ

ミナリンスキー(桃髪のワルキューレはそう言うと宙に舞うパンツのうちの1枚を掴み取る)

ミナリンスキー(そのまま私の顔にパンツを近づけようとしたところで……)


ツヴァイノート「ねぇドライ、ちょっといい?」

ドライノート「なんです姉さん」

ミナリンスキー(青髪のワルキューレが桃髪の肩掴んで引き止めた)


ツヴァイノート「外の子から報告が来た、どうやらこの制御室の近くにお客さんが来るみたい」

ドライノート「客?」

ツヴァイノート「うん、担当のエインヘリヤル1人と研究者の捕虜が1人」

ツヴァイ「「中層で暴走してる化け物を止めるため……って名目らしいけど、ちょっと怪しいから同行して欲しいんだって」

ツヴァイ「おそらくその研究者が隙をついて何かしでかすことを危惧してるんじゃないかな」

ドライノート「なるほど……承ったわ」



カツンッ

ドライノート「では、客人が来る前に尋問をさっさと終わらせてしまいましょうか」

ミナリンスキー「……っ!」
 
ドライノート「ほら……この下着、どこか見覚えがあるんじゃないかしら」

ドライノート「思い出しなさい、この3枚の下着のこと、あなたの奥底に眠る記憶のこと」

ドライノート「さぁ、さぁっ!」

グイッ! ググイッ!


ミナリンスキー「う……あ……」

ミナリンスキー(ワルキューレは私の眼前でパンツを広げ、顔と触れ合う寸前まで押し付けてくる)

ミナリンスキー(視界いっぱいに広がるパンツ、それを見ていると脳がチリチリ焼けてくるような感覚が湧き上がってくる)


ドクンッ!

ミナリンスキー(はっ、そうだ……私はこの3枚のパンツに見覚えがある……)

ミナリンスキー(このパンツは……>>487)

487名無しさん@転載は禁止:2021/07/27(火) 08:49:09 ID:3o79lTpQ
穂乃果ちゃんちに泊まりに行った後何故か消えたと穂乃果ちゃんが言ってた洗濯前、洗濯後、タンスの中のパンツ

488 ◆WsBxU38iK2:2021/07/31(土) 00:29:01 ID:i2FRFvek
ミナリンスキー(穂乃果ちゃんちに泊まりに行った後何故か消えたと穂乃果ちゃんが言ってた洗濯前、洗濯後、タンスの中のパンツ……!)

ドクンッ


ミナリンスキー(ああ……そうだ、間違いない、鮮明に記憶が蘇ってくる)

ミナリンスキー(パンツを失くして戸惑う穂乃果ちゃんの表情と、素知らぬ顔をした私のポケットの中の温もり)

ミナリンスキー(欲望に身を任せた衝動的な行動に募る後悔、チクチクと刺してくる胸の痛み)

ミナリンスキー(結局言い出せず家に持って帰ってしまい、ベッドの下と記憶の底に封じ込めた罪の証)


ミナリンスキー「うぐっ……!」


ドライノート「良いわね、そうやって苦しむといいわ」

ドライノート「苦しみから開放されたいのなら制御方法を吐くのよ!」


ミナリンスキー(眼前に広げられたパンツに思わず目を瞑る)

ミナリンスキー(こんなこと思い出さなきゃよかった、あんなことやらなきゃよかった)

ミナリンスキー(私はいつも欲望に負けて、楽な方に流れて、逃げてばっかりで)

ミナリンスキー(私は、私は――――)



クンッ

ミナリンスキー「……?」


ミナリンスキー(……匂い、匂いだ)

ミナリンスキー(目を瞑ったことで鋭敏になった鼻が、パンツから香る匂いを感じ取った)

ミナリンスキー(パンツに染み込んだ穂乃果ちゃんの濃厚な匂い)

ミナリンスキー(大好きで、愛していて、何度も何度も嗅いでいたあの匂いだ!)

ビクンッ!

ミナリンスキー「あああああっ!」


ドライノート「……なっ、何事!?」

489 ◆WsBxU38iK2:2021/07/31(土) 00:29:40 ID:i2FRFvek
ミナリンスキー(その瞬間、私の体に電流が走り抜けたような衝撃が走った)



ドライノート「ほ、ほら、跪きなさい! これがあなたの後悔の象徴なのでしょう!」

ミナリンスキー「……そうだね、そうかもしれない」



ミナリンスキー「だけど、それだけじゃないんだ」

ドライノート「……?」


ミナリンスキー「確かに私は友達のパンツを盗んで後悔した、心が痛かった、でもね、同時に満たされた気持ちもあったんだ」

ミナリンスキー「ズタボロの心の中に残った、ほんの一欠片の温かい気持ち」

ミナリンスキー「パンツを顔に当てて息を吸うと胸の中が穂乃果ちゃんでいっぱいになったの」

ミナリンスキー「南ことりを捨ててミナリンスキーになった今もそう」

ミナリンスキー「道を間違えて後悔だらけの毎日、だけど間違えたからこそ出会えた仲間もいる、抗える今がある」

ググググッ


ミナリンスキー「私に残ったのは後悔だけじゃないんだって、そのパンツが教えてくれる!」



ドライノート「……わ、わからない、分からないわ姉さん、こいつはなにを言ってるの!?」

ドライノート「友達の下着を盗んだ話からどうしてこんな過去を吹っ切るみたいな話に――――」


ミナリンスキー(分からなくたっていい、軽蔑されたって構わない)

ミナリンスキー(これが私の向き合う罪と、超えていくための試練なんだ)



ミナリンスキー「だからっ!!」

ガブッ!

ドライノート「っ!?」

ミナリンスキー(私はワルキューレが押し付けてきたパンツを口で咥えて奪い取る)


ミナリンスキー「はむっ、はむはむっ!」

ドライノート「なっ、なっ!?」



ミナリンスキー(パンツを噛みしめ、心の中で穂乃果ちゃんを思い描くと、全身に力がみなぎってくる)

ミナリンスキー(心の奥が熱く燃え、まだ自分の知らないエネルギーが湧き上がってくるのを感じる)

ビキッ ビキッビキッビキッ

ミナリンスキー「んおおおおおおおおおおおおっ!」

490 ◆WsBxU38iK2:2021/07/31(土) 00:30:00 ID:i2FRFvek
ドライノート「こいつまさか、下着で興奮した力で手枷を壊す気じゃ……!」

ツヴァイノート「だ、大丈夫よ! あの手枷は人間の腕力じゃ壊すことなんてできないから!」

ドライノート「でも、実際に今ヒビが入って――――」



ミナリンスキー「ほっ、ほっ、ほむむぅうううううううううううううんっ!!」

バキィィィィィィィィィンッ!!!!


ドライノート「割れたぁ!」

ツヴァイノート「嘘ぉ!?」



ミナリンスキー「はぁ……はぁ……」

パシッ

ミナリンスキー(咥えていたパンツを自由になった右手でキャッチする)


ミナリンスキー(自分でも不思議だ、私に金属製の手枷を壊すほどの筋力はなかったはず)

ミナリンスキー(もしかして、この穂乃果ちゃんのパンツの力……?)


ミナリンスキー(分からない、だけどそう考えるなら残りの2枚のパンツにも同じような力があるかもしれない)


ミナリンスキー「……」ジッ

ミナリンスキー(残りの2枚が落ちてるのは桃髪のワルキューレの後方、右と左にそれぞれ1メートルくらい離れた位置)

ミナリンスキー(拾って試してみる価値は……ある!)



ミナリンスキー「はぁあああああっ! たあっ!!」

ガシッ ブンッ!!!!

ドライノート「っ!?」


ミナリンスキー(目の前の桃髪のワルキューレの襟首を掴み力任せに投げ飛ばす)

ミナリンスキー(そうすると意表を突かれたワルキューレは勢いよく反対の壁に向かって吹き飛んだ)

ゴッ!!!!


ミナリンスキー「よしっ!」

ミナリンスキー(やっぱりそうだ、私は穂乃果ちゃんの匂いのついた1枚目、言うなれば『濃厚のファーストパンツ』で人を超えた筋力を発揮している)



ツヴァイノート「ドライ!」

ドライノート「姉さん! 私は良いから下着を、やつに他のパンツを拾わせないでっ!」

ツヴァイノート「……っ、分かった!」

シュンッ!!



ミナリンスキー(来る……!)

ミナリンスキー(青髪のワルキューレが腰の双剣を抜いてこちらに迫ってくる!)

ツヴァイノート「拾わせない!」

ミナリンスキー「拾う!」


ミナリンスキー(床のパンツへ手を伸ばした私へ振り下ろされようとする双剣)

ブォンッ!!

ミナリンスキー(……実は、私はこの双剣の能力を知っている)

ミナリンスキー(バーミヤン制圧時の戦い、その時に青髪のワルキューレが剣を使っていたのを見ていたからだ)


ミナリンスキー(この双剣の能力、それは>>491)

491名無しさん@転載は禁止:2021/08/02(月) 12:55:43 ID:yOOjkAO2
片手は斬ったものを重くしてもう片方は軽くする

492 ◆WsBxU38iK2:2021/08/04(水) 00:35:51 ID:ImYQqcaA
ミナリンスキー(片手は斬ったものを重くしてもう片方は軽くする能力)

チッ!!

ミナリンスキー「……っ!」


ミナリンスキー(2枚目のパンツへ手は届いたものの、僅かに引き戻すのが遅かったせいで剣先が腕をかする)

ミナリンスキー(切り口は薄皮1枚程度、僅かに血がにじむくらいで大した怪我ではないけど……)

ガクンッ!!

ミナリンスキー「ぐっ……!」

ミナリンスキー(急に体が重くなり思わず片膝をついてしまう)



ツヴァイノート「かかったみたいね!」

ツヴァイノート「この『秤のグラム』の効果は切り口の広さと深さに比例して増大する」

ツヴァイノート「逆に言えばほんの少し切れただけでも貴女は重くなるってわけ!」

ダッ!


ミナリンスキー(そう言って青髪のワルキューレはさらに距離を詰めてくる)


ミナリンスキー(重くなれば秤のグラムの攻撃は避けにくくなり、当たればさらに重くなる)

ミナリンスキー(防ごうにも盾や防具を重くされてしまえば同じこと)

ミナリンスキー(最初の1かすりが延々と相手を苦しめる厄介な攻撃だ)



ツヴァイノート「無駄な抵抗しないでよ! 加減を間違えると自重で潰しちゃうから!」

ブンッ!!


ミナリンスキー(……だけど、私にもリスクと引き換えに手に入れたものがある)

ギュッ

ミナリンスキー(2枚目の穂乃果ちゃんのパンツ、洗濯後のパンツだ)

バッ!

スゥーーーーーーッ!


ツヴァイノート「っ!? あいつまたパンツを――――」


ミナリンスキー(鼻孔に充満するのは洗濯された清涼感のある穂乃果ちゃんの香り)

ミナリンスキー(濃縮されたパワーとはまた違う、透き通った青空のようなエネルギーが私を満たす)


ミナリンスキー「清涼の――セカンドパンツ!」

バシュンッ!!

ツヴァイノート「消えた!?」

493 ◆WsBxU38iK2:2021/08/04(水) 00:36:27 ID:ImYQqcaA
ミナリンスキー(私の体はその場から消え去り、青髪のワルキューレの剣が空を切る)



ドライノート「姉さん! 後ろよ!」


ツヴァイノート「なっ……!」

バッ!

  
ミナリンスキー「……っと、流石にその位置からだと見えちゃうか」



ミナリンスキー(壁際の青髪、その背後に回り込んだ私、更に反対側の壁へと投げ飛ばされた桃髪)

ミナリンスキー(壁際に拘束され追い詰められていた時とは立ち位置が大きく変化する)


ツヴァイノート「嘘でしょ、あの体重でこんな機敏な動きができるわけがない!」

ミナリンスキー「ふっふっふ、できるんだなーこれが」



ミナリンスキー(どうやら1枚目のパンツがパワータイプとするなら2枚目のパンツはスピードタイプみたいだ)

ミナリンスキー(秤のグラムで1段階目の負荷を打ち消すほど超スピードで動くことができる)


ドライノート「姉さんっ!」

ツヴァイノート「……っ、分かってる! 未知の力には慎重に対処すべし!」

ツヴァイノート「私と貴女で両端から追い詰めていくわよ!」

ドライノート「ええ!」


ミナリンスキー(投げ飛ばされ体勢を崩していた桃髪が立ち上がり剣を構える)

ミナリンスキー(背後の桃髪とは大体制御室1つ分の距離があるものの、挟まれて警戒されてることに変わりはない)

ミナリンスキー(私が指一本でも動かせば、2人も同時に動き出すだろう)



ミナリンスキー「ふぅ……」

ジリッ

ミナリンスキー(……どうしよう、このままセカンドパンツのスピードを活かして青髪の近くに落ちてる3枚目を拾いに行くか) 

ミナリンスキー(それとも前後どちらかのワルキューレをかいくぐって外へ逃げることを優先すべきか)
 
ミナリンスキー(ちなみに制御室から廊下への出入り口は青髪側に近く、動力炉本体への出入り口は桃髪側に近い)


ツヴァイノート「…………」ジリッ


ドライノート「…………」ジリッ



ミナリンスキー(うん……だったら、ここは>>494)

494名無しさん@転載は禁止:2021/08/04(水) 09:09:38 ID:GhhNwuSM
パンツを拾い勢いで廊下に出る

495 ◆WsBxU38iK2:2021/08/05(木) 00:24:58 ID:2jrVxBJk
ミナリンスキー(パンツを拾った勢いで廊下に出る!)

バッ!!



ツヴァイノート「やはり狙いは3枚目……そうはさせないっ!」シュッ!

ミナリンスキー(私がパンツへ駆け出すと、青髪はもう1つの剣で自分の腕を斬りつける)

ブンッ!

ツヴァイノート「止めるっ!」

ミナリンスキー(秤のグラムのもう1つの能力、軽くする能力で自分の重さを軽くして私に対抗するつもりだ)



ギュンッ!!

ミナリンスキー(重くするのが右の剣、軽くするのが左の剣)

ミナリンスキー(当たりたくないのは右……だからこっちも右に踏み込む)

タンッ!

ミナリンスキー(右にステップした私を狙うために青髪の右手の剣の軌道は横なぎに)

ツヴァイノート「はっ!」ブンツ!

ミナリンスキー(それに合わせて姿勢を低くして今度は左に切り替えし――――)

ギュィンッ

ミナリンスキー(振られた剣の下を潜るようにスライディングで滑り込む!!)

ザッ!!


ミナリンスキー「ついでにパンツも頂くよ!」

ツヴァイノート「なっ!?」



ミナリンスキー「そして逃げる!」ビュンッ!

ツヴァイノート「ま、待ちなさい!」



ミナリンスキー(一目散に廊下へと続く扉へ駆け込み、扉を蹴り飛ばす勢いで廊下へと出る)

バンッ!!


ミナリンスキー「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

タタタタタタタタタタッ!!

ミナリンスキー(とにかく遠くへ、制御室から遠くへ!)






496 ◆WsBxU38iK2:2021/08/05(木) 00:26:07 ID:2jrVxBJk



──廊下


タンッ

ミナリンスキー「よし……ひとまずここまで来れば……」 


ミナリンスキー(想定通り上手く逃げることができた、だけど一息つくにはまだ早い)

ミナリンスキー(パンツを拾って脱出できたのはワルキューレが油断していたからに過ぎない)

ミナリンスキー(単に清涼のセカンドパンツの速さが1段階軽量化を上回っただけだ)

ミナリンスキー(さらに軽量化を重ねて追ってこられたら逃げ切れる保証はない)


ミナリンスキー「うん、まずは何とかして上へ帰る道を見つけないと――――」

凶魔「ミナリンスキー!」

ミナリンスキー「……え?」


ミナリンスキー(声をした方を見ると白衣の上からカッパを羽織った奇妙な姿の鳳凰院凶魔がいた)

ミナリンスキー(その隣には同じカッパを来た女の子も立っている)


ミナリンスキー「凶魔、どうしてここに? 自力で脱出を?」

凶魔「ああ、こっちの侑という少女に助けられた」

ミナリンスキー「侑……この子が」

凶魔「そうだ、ミナリンスキーも無事なようで何よりだ」


侑「あなたが……ミナリンスキーさん……はぁ……くっ……」

ミナリンスキー(侑と呼ばれた女の子は浅い呼吸を繰り返しながら私の名前を呟く)

ミナリンスキー(体調が悪いのだろうか、顔も青ざめてるように見える)



ミナリンスキー「この子のことも気になるし、あなたがここに来た理由も気になるけど、それより今は逃げないと!」

凶魔「逃げる?」

ミナリンスキー「追ってくるんだって! ワルキューレが!」

凶魔「な、なんだと!?」

497 ◆WsBxU38iK2:2021/08/05(木) 00:26:27 ID:2jrVxBJk


侑「ワルキューレなら……大丈夫、私はなんとかできるから……」

ミナリンスキー「なんとかって……」

侑「これ、ミナリンスキーさんの分のカッパです、少しの間なら姿を消せるらしいので使ってください」スッ

ミナリンスキー「……う、うん」


ミナリンスキー(渡されたカッパを手に取る)

ミナリンスキー(なんだろう、ただの弱ってる女の子のはずなのに……目の奥に強い意志が宿ってるのを感じる)


侑「ミナリンスキーさんはどうにかブリッジを取り戻してバーミヤンの制御を取り返してください」

侑「そのための時間稼ぎは……私がしますから」グッ


ミナリンスキー(侑には有無を言わせない気迫があった)

ミナリンスキー(その気迫に押されていると通路の奥からワルキューレの声が響いてくる)


侑「早く!」

ミナリンスキー「う、うん」


ミナリンスキー(侑の言う通り、この場を任せて離れるのが今は最善なんだろう)

ミナリンスキー(ただ、見ず知らずの子に追手を任せて逃げるというのも心苦しくはある)


ミナリンスキー「……あ、そうだ、せめてこのパンツを持ってて!」

侑「え……パンツ!?」

ミナリンスキー(驚く侑の手に、私は3枚目のパンツを握りこませる)


ミナリンスキー(本当は私が持っていたい、ずっと嗅いでいたいのが本音だけど、この場を任せるのなら渡すべき)

ミナリンスキー(私の心の友、穂乃果ちゃんのパンツならこの子のことも守ってくれるはず)


侑「いや……でもこれ、ミナリンスキーさんの私物――――」

ミナリンスキー「大丈夫、穂乃果ちゃんのパンツなら私は2枚持ってるから、1枚はあなたが持ってて」ギュッ

ミナリンスキー「私の予想だけど、たぶん3枚目のパンツ、タンスの中にしまわれていたパンツの効果は>>498

498名無しさん@転載は禁止:2021/08/06(金) 20:57:56 ID:hZi.ldsg
防御系

499 ◆WsBxU38iK2:2021/08/09(月) 00:10:31 ID:2yiisNbM
ミナリンスキー「効果は防御系、名付けるなら堅牢のサードパンツだね」

侑「……?」

ミナリンスキー「そんな難しい顔しなくたって大丈夫、使い方はパンツを鼻に当てて息を吸い込むだけだから」

ミナリンスキー「私以外にどこまで効果があるか分からないけど、いざって時には頼ってみて」グッ

侑「……あ、はい」



ミナリンスキー「じゃ! ここは頼んだよ!」タタタタタッ

侑「き、気をつけて!」



ミナリンスキー(とにかく急ごう、侑ちゃんと凶魔が稼いでくれるこの時間を無駄にはできない)

ミナリンスキー(このスピードでバーミヤン中を回って片っ端から戦力を開放)

タンッ!

ミナリンスキー(一気にブリッジを取り戻す!!)





500 ◆WsBxU38iK2:2021/08/09(月) 00:10:55 ID:2yiisNbM




ヒュンッ! ヒュンッ!



侑「……な、なんだったんだろ」


侑(ミナリンスキーさんは有無を言わさず私の手にパンツを押し込めるとそのまま走り去っていってしまった)

侑(一応こっちの目論見通りではあるけど……謎の副産物をもらってしまった)


侑(とりあえずこれはポケットに入れておいてっと……)スッ


??「ちょっとー! どこまで逃げたのー!?」


侑(通路の奥から響いてくるワルキューレの声)

侑(ミナリンスキーさんにあれだけ大見得を切った以上、何がなんでもこの場は時間を稼がないと)

侑(外側緊急通路でのような失敗は二度と繰り返さない……!)




侑「うぐっ! ぐあああああああああああっ!! いたたたたたたっ!」

凶魔「なっ! どうした!?」

侑「しっ……演技だよ演技」

凶魔「ああ、なるほど」



??「悲鳴? どうしたの!? 大丈夫!?」

タタタタタッ

侑(私の悲鳴を聞きつつけて通路の奥から姿を見せたのは青髪のワルキューレ)

侑(その後ろから少し遅れて桃色の髪のワルキューレが走ってくる)

侑(おそらくこの2人がバーミヤンに割り振られた部隊長だろう)



侑「私は中層担当のエインヘリヤル、ここに来ることは予め連絡はしていた……と思います」

侑(床に倒れたまま、弱々しさを強調するように話す)

侑(もちろん紐で首にかけられるようにした身分証を視界に収めさせることも忘れない)

侑(あくまで味方の弱者、被害者をアピールすることで初手の攻撃性を減衰させる)


侑「あ、あなたは……」

ツヴァイノート「私はツヴァイノート、それより大丈夫なの? すごい声がしてたけど」

侑「……う、うん、さっきこの通路をものすごい速さで何かが走っていって、それに衝突してしまって」

ツヴァイノート「……!」ハッ


ツヴァイノート「ミナリンスキー、ドライ! ミナリンスキーだわ!」

ドライノート「そうね姉さま、ここは私に任せて姉さまはミナリンスキーを追ってちょうだい」

ツヴァイノート「ええ」コクンッ


侑(……これで1人は足止めできる、一通り介抱されてから凶魔を連れてきた理由を適当にでっち上げれば時間も稼げるだろう)

侑(ただ、出来ることならもう1人の青髪の方まで足止めしておきたい)


侑(そのためには>>501)

501名無しさん@転載は禁止:2021/08/15(日) 22:15:14 ID:0e7ZAmi6
警報を鳴らす

502 ◆WsBxU38iK2:2021/08/17(火) 00:35:51 ID:kO1FURvs
侑(そのためには……)

カチッ


ビーッ! ビーッ! ビーッ!

ツヴァイノート「今度はなに!?」


侑(私がこっそりポケットに手を滑り込ませてスイッチを押すと、警報がけたたましく鳴り響いた)

侑(床と接してる側のポケットは私の体で死角になってるから、ワルキューレから気付かれることもない)


侑「これは……下層の警報音、さっき逃げた女が下層のどこかで暴れてるのかも……」

凶魔「あ、ああ、設計に携わった者として言うが間違いない」

凶魔「この警報音の種類はどこかの重要な機関に損傷が出ている時に発せられるものだ」


ツヴァイノート「……っ、ミナリンスキーのやつ、まさか下層から破壊してバーミヤンを物理的に使えなくするつもり?」

ドライノート「奪われるくらいなら自分で、という考えね、無くはないと思うけど……どうする姉さん」

ツヴァイノート「どうもこうも確かめてくるしかないでしょ、ドライはここ、二手に分かれるわよ!」

ドライノート「はい、お気をつけて」


ダッ!! タタタタタッ


侑「…………」


侑(……ま、もちろん警報音なんてのは嘘なんだけど) 


ググッ

ドライノート「あなた、体は平気? 無理して今すぐ立つ必要はないわよ」

侑「いえ、大丈夫です……」グッ

侑(青髪のワルキューレ、ツヴァイが走り去ったのを確認し、私はゆっくりと立ち上がる)


侑(あの警報はここに来るまでに凶魔に手伝ってもらって仕込んでおいたトラップの1つ)

侑(隊長格のワルキューレの元に向かうのに無策で真っ直ぐ歩いていくなんて流石にあり得ないからね)

スタッ

侑「ふぅ……」

侑(警報自体は下層のシステムとは全く関係ないダミー、私の持ってるスイッチに合わせていくらでも鳴る仕組みになっている)

侑(さっきの凶魔の設計に携わった〜のくだりも真っ赤な嘘、咄嗟に話を合わせてくれて助かった)




侑「さて、私たちは私たちで――」

クラッ

侑「うっ……ととと」タタッ


ドライノート「本当に大丈夫?」

侑「あはは、ご心配なく」


侑(軽い立ちくらみで足元がふらつく)

侑(倒れ込んだのが演技とは言え、血を失っているのは本当のこと)

侑(顔色の悪さで演技に迫真さを出してくれるのは助かるけど……本格的に参ってしまったら元も子もない)


侑「とにかく急ぎましょう、こっちはこっちの仕事を済ませないと」

ドライノート「そうね」


ドライノート「それで……具体的にはどうするの?」

侑「はい、私たちの仕事は中層で暴走してる機械を止めることなんですけど――」

侑(大丈夫、理由の候補は幾らか考えてきたし、凶魔とも口裏を合わせてある)


侑「そのためには>>503

503名無しさん@転載は禁止:2021/08/20(金) 08:22:52 ID:arE05h4Y
中層の動力を遮断する

504 ◆WsBxU38iK2:2021/08/21(土) 00:06:37 ID:wBYT0Tlk
侑「そのためには中層の電力を遮断する必要があるんです」

ドライノート「電力を……遮断?」


侑(ドライは訝しげな顔をする)

侑(それはそうだろう、中層の電力を遮断するということは中層のシステムをシャットダウンすることと同義)

侑(それはつまり捕虜がいる各部屋のドアロックの解除にまで繋がりかねない)



侑「ドライノートさん、不安に思うのは分かります、しかしこれしか手段はないんです」

侑「中層は今、あの機械のせいで大混乱、これではエインヘリヤルの警備もままなりません」

侑「仮にミナリンスキーが下層の破壊を終えて中層に上がったとしたら、捕まえるのは更に困難になるんです!」


侑(……まぁ、実際ミナリンスキーさんは真っ先に中層へ向かってるはず)

侑(だからこそ、ここで中層のシステムを落とせればミナリンスキーさんが皆を解放しやすくなる)


ドライノート「…………」

侑「確かに他の捕虜を逃してしまう危険性はあります、しかし今は他の取るに足らない捕虜よりミナリンスキー」

侑「中層で暴れてる機械を止めさえすれば我々エインヘリヤルは必ずミナリンスキーを捕まえるでしょう」


ドライノート「しかし……」

侑「電力を落とすのはほんの一瞬、ほんの一瞬でいいんです」

侑「どうにか……どうにか許可をもらえませんか!?」

バッ!

侑(ドライの前で深く頭を下げる)

侑(ドライの顔は見えないけれど迷っている空気は伝わってくる)

505 ◆WsBxU38iK2:2021/08/21(土) 00:07:14 ID:wBYT0Tlk
侑(そして、数十秒ほど時間が流れた後……)


ドライノート「……はぁ、分かった、そこまで言うならやってみなさい」

侑「あ、ありがとうございます!」


侑(よし、これで時間が稼げる……!)



侑「では手順を電力制御室へ向かいながら話しましょう」

侑「手順についてはこちらの凶……捕虜になっていた技術者が詳しいはずです」

トンッ

侑「……ほら、喋って」ボソッ


凶魔「……あ、ああ、そうだな、電力の遮断自体は簡単だ、この鳳凰院凶魔の手にかかれば些末なことだ」

凶魔「機器に触るのが許されるならあっという間に実現してみせよう」

ドライノート「そう、ならさっさと歩いて」ゲシッ

凶魔「あいたっ! ちょっ、捕虜の扱いが雑では……あいたっ、分かった、歩く歩くから」

タタッ



スタスタ

スタスタ


侑(そうして私と凶魔、ドライノートは通路を歩き出した)

侑(先頭に凶魔、ついで私、少し離れて後方にドライ)

侑(一番後ろを歩く様は私たち2人を監視しているようにも感じられる)



侑(でも、話を信じさせて連れ回す事ができる状況に持ち込めただけで上々)

侑(あとはなるべく時間を稼いで――――)


スタスタ

スタスタ




・ 
・  



──電力制御室

タンッ

侑(――と、あれこれ努力した結果、電力制御室にたどり着いた時には>>506分の時間が過ぎていた)

506名無しさん@転載は禁止:2021/08/22(日) 08:20:26 ID:l5c/QGa6
15分

507 ◆WsBxU38iK2:2021/08/24(火) 01:33:17 ID:7XOJortI
侑(なんとか遠回りと中身のない会話で時間を稼いで15分、実際よく稼いだ方だとは思う)

侑(電力制御室の時計をチラ見すると時間はPM5:45を指していた)


侑(ミナリンスキーさん……上手くやってくれてると良いけど)



ドライノート「全く、やっと着いたみたいね」

ドライノート「私はここで見てるから早く作業を済ませてしまいなさい」


侑「はーい」


侑(ドライは電力制御室の入り口の横に立ったままこちらを見つめている)

侑(その視線に追い立てられなが私と凶魔は奥の操作盤が並ぶ一角へと足を運ぶ)


侑「ほら行くよ凶魔、ここからはそっちが頑張る番なんだから」

凶魔「分かっている、分かってはいるが……うむ」

侑(操作盤の前で立ち止まった凶魔は難しい顔をして腕組みをする)


侑(まぁ……それもそのはず、凶魔はラボの研究者ではあるけどバーミヤンについて詳しい技術者ではない)

侑(格好が白衣でそれっぽいからだけで電力制御室の操作なんて分かるはずがない)


侑「はぁ……」

侑(私は小さくため息を吐き、ワルキューレに聞こえないように小声でアドバイスをする)


侑「電力を切るだけなら片っ端からポチポチすれば何とかなるって、少なくとも私よりは機械に詳しいんだし」

凶魔「うむ……」

侑「とにかく手を動かして、何より立ち止まってるのが一番怪しまれるから」

凶魔「あ、ああ」コクンッ


スッ

パチッ ポチッ

ガチャンッ ゴチャンッ


侑(私の言葉で一歩前へと出た凶魔は操作盤についているボタンやレバーを適当に触っていく)

侑(ここまで来たら後は数撃ちゃ当たる時間との勝負)

侑(後はドライが不審がる前に凶魔が電力遮断の手順を当てずっぽうで探り当てることができれば……)


ガクンッ!!!!

侑「え!?」

凶魔「おお!?」


侑(そう考えていた矢先、予想外の出来事が起こった)

侑(凶魔の適当な操作が原因だったのか、突然>>508)

508名無しさん@転載は禁止:2021/08/28(土) 08:57:24 ID:Ci3UMiMg
内部にいる登録者を会議室に転移させる緊急会議システムが作動

509 ◆WsBxU38iK2:2021/08/30(月) 00:17:58 ID:RXpnzRqs
侑(突然大きな揺れと共に施設内にアナウンスが鳴り響いた)

ウーッ! ウーッ! ウーッ!


『緊急会議システム作動、緊急会議システム作動、転送までその場でお待ちください』



侑「ちょっ、何これ、凶魔がやったの!?」

凶魔「適当にやってたんだ分かるわけないだろ! だが……何が起きたのかは分かる」

侑「アナウンスで流れてる緊急会議システムってやつ?」

凶魔「ああ、事前に登録した人間を会議室へと強制転送させるシステムだ」

凶魔「間もなくこの体はシステムによってこの場から転移、消失するだろう」


侑「待って、事前に登録した人間ってことは……私は!?」

凶魔「設計者でないから確かなことは言えないが、おそらく適用外、ここに残されるんじゃないか」

侑「えぇ!?」



ドライノート「そこの2人、何をコソコソ喋っているの!」

ドライノート「それにこの放送もなんなの? 早く説明しなさい!」ビシッ


侑(あぁもう……後ろのワルキューレもワーワー騒いでるし、こんな状況で残されて1人で対処できるのかな)


ドライノート「ちょっと、聞いてるの!?」


侑「…………」

侑(事前の登録、おそらくはバーミヤンの乗組員が招集されるよう設定されてるんだろう)

侑(このシステムによってミナリンスキーを含め捕まっていた乗組員たちが一箇所に集合することになる)

侑(そうなればまたとない反撃のチャンスが生まれるはず)


ゴソッ

侑(カリオペーの身分証……か)

侑(私の首から下げられたこの身分証は対人相手なら強力な認識改ざん効果を発揮する)

侑(以前からバーミヤンに乗船していた人員と思い込ませることだって簡単だろう)

侑(ただ、機械相手にはどうなるのか)



『転送まで、5、4、3……』



侑「ええいっ、もうやってみるしかない!」

スッ

侑(使徒カリオペーの造りしアイテム、機械だって騙せる……はず!)


バッ!!

侑(私は身分証の紐を首から外し、身分証を操作パネルに向かって掲げる)


侑「緊急会議システム! 耳があるかどうかは分からないけど、聞けるなら聞いて! 私もバーミヤンの登録者なの!!」


『……1、転送開始』


キィーーンッ!

凶魔「……おお」


侑(凶魔の体がオーラのように青く薄い光を纏って輝き出す)

侑(そして私は>>510)

510名無しさん@転載は禁止:2021/08/30(月) 12:45:42 ID:0WgmvfXg
気が付いたら異空間にいた

511 ◆WsBxU38iK2:2021/08/31(火) 00:10:49 ID:utCXvhgA
侑(気づいたら異空間にいた)


侑「……え?」







──特別会議室

PM5:50



シュンッ! シュンッ! シュンッ!


タッ

ミナリンスキー「……っと」


ミナリンスキー(転送のアナウンスの後、一瞬の暗転、そして気がついたら会議室の床に着地)

ミナリンスキー(どうやら緊急会議システムは問題なく作動したみたい)


オペ子「わわっ」

蛸穂乃果「ふむ、これは僥倖」

分霊ゴースト「誰が発動させたか分かんないけど、やっと自由になれて清々したわ」


ミナリンスキー(オペ子、蛸穂乃果、ゴースト、その他の乗組員たちも次々に転送されてきている)


凶魔「うおっ」

ドンッ

凶魔「あいたた……着地失敗してしまったな」


ミナリンスキー「……! 凶魔!」

タタッ

凶魔「おおミナリンスキー、無事だったか」

ミナリンスキー「それはこっちのセリフ、一緒にいた女の子は?」

凶魔「侑……そうだ侑!」

バッ バッ

ミナリンスキー(尻もちを着いていた凶魔は立ち上がり辺りを見回す)

ミナリンスキー(だけど会議室の中に侑の姿はどこにもない)


凶魔「いない……か」

ミナリンスキー「まぁ登録はされてないから仕方ないよ、1人残されちゃったのは心配だけど」

凶魔「ああ、転送の直前に認識を改ざんさせるアイテムを使用していたから、もしかすれば……と思ったのだが、やはりダメだったみたいだな」

ミナリンスキー「……ん? 待って、認識改ざんのアイテム?」

凶魔「そうなんだ、実は――――」



ミナリンスキー(私は凶魔から侑ちゃんのことと、侑ちゃんの所持していたアイテムについての話を聞いた)

ミナリンスキー(相手の認識に割り込み自分の身分や所属を誤認させることのできるカード)

ミナリンスキー(侑ちゃんはその能力を使ってワルキューレやエインヘリヤルの目をかいくぐっていたということ)


ミナリンスキー「ふむ……」


ミナリンスキー「もしその効果が緊急会議システムにまで働いたとなると、ちょーっと厄介なことになってるかもね」

凶魔「どういうことだ?」

ミナリンスキー「このシステム、変な介入を受けると転送先が変わっちゃうことがあるんだよね」

凶魔「なっ、つまり違う場所に飛ばされてる可能性もあるのか?」


ミナリンスキー「うん、大抵こういう場合、飛ばされる先は異空間の>>512

512名無しさん@転載は禁止:2021/08/31(火) 08:10:08 ID:i.t6JiZA
遠くはないどこか

513 ◆WsBxU38iK2:2021/09/01(水) 00:27:54 ID:A5vI3Lo2
ミナリンスキー「飛ばされる先は異空間、それも遠くないどこか」

凶魔「遠くないどこかの異空間……か、また曖昧な言い方だな」


ミナリンスキー「大丈夫、具体的な場所が分からなくても近場の異空間ならバーミヤンのシステムを使って探知できる」

ミナリンスキー「そのためにも指揮系統を私たちの手に取り戻さないと」

凶魔「ああ、そうだな」

 
ミナリンスキー「じゃ、オペ子! 早速お仕事頼むよ!」

オペ子「はい、ミナリンスキー様!」

タタタタッ

ミナリンスキー(振り向いて声をかけるとオペ子は会議室中央の机へと走っていく)


オペ子「ええと……ここをこうして、よし……」

タンッ タタタタンッ


オカン「なんや、机ぺたぺたしてなんかあるん?」

前世穂乃果「よいしょっと」スタッ

前世穂乃果「広くて丸いテーブルだね、上も歩きやす……わわっ!」

ゴゴゴゴゴゴゴッ!

ミナリンスキー(机をいじるオペ子の後ろで興味深そうに様子を眺めるオカン)

ミナリンスキー(その肩から前世穂乃果が机と降り立つと同時に、机の形が会議室のそれとは別物に変形していく)


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

ガシャンッ ガシャンッ ガシャンッ

ガシィィィィィィィンッ!


前世穂乃果「おおっ!」

オカン「これは……」


オペ子「緊急用の第二ブリッジです、もしもの場合はこちらからバーミヤンを操作することができるよう設計されています」

前世穂乃果「すごい、一気にカッコいい形になった!」

オカン「なるほどねぇ、これで上層のブリッジを占拠してるやつらに対抗できるんやね」


オペ子「まずはシステムの制御権をこちらに取り返します、蛸穂乃果さんお手伝いお願いできますか?」

蛸穂乃果「任せて、あよよいっと」シュルルルッ

ミナリンスキー(オペ子と蛸穂乃果がコンソールを操作し、協力してバーミヤンの機能を1つずつ取り戻していく)

カタカタッ カタタッ 

ピピピピピッ



ミナリンスキー(よし……このペースならいけるはず)


前世穂乃果「……ん? ミナリンスキー、このモニターに映ってるのはなんだろ」

ミナリンスキー「え?」

ミナリンスキー(2人が作業を進めてる中、ブリッジのモニターの1つを前世穂乃果が指差す)

ミナリンスキー(それはバーミヤンの外、外部を監視するカメラの映像が流れているモニター)


前世穂乃果「地上に人っぽい集団が見えるけど、エインヘリヤルやワルキューレじゃないよね」

前世穂乃果「普通の人間がこんなとこに近づけるわけないし……もしかして使徒?」

オカン「使徒だとしたって、どうしてあんなことやってるんやろなぁ」

前世穂乃果「さぁー、なんだろ」



ミナリンスキー(2人が見つめるモニターの先、使徒と思われる集団は地上で>>514をしていた)

514名無しさん@転載は禁止:2021/09/01(水) 13:31:00 ID:OmAs44yQ
弾き語り

515 ◆WsBxU38iK2:2021/09/02(木) 00:21:08 ID:J11KoT/.
ミナリンスキー(使徒と思われる集団は地上で弾き語りをしていた)


ミナリンスキー(主に視認できる集団は2つ)

ミナリンスキー(様々な楽器を持ち寄って演奏をしている集団と、それを取り囲むように耳を傾けている集団)

ミナリンスキー(前者は10人ほどで、後者はその倍くらいの人数)


ミナリンスキー「……やっぱりおかしい」

凶魔「そうだな、あんな荒れ果てた場所で弾き語りだなんて」

ミナリンスキー「いや、状況もおかしいけど一番おかしいのはあの弾き語り集団がワルキューレに見つかってないことだよ」

ミナリンスキー「ワルキューレは艦内は元より上空や地上まで監視しているはず」

ミナリンスキー「飛行船に滞空している空域の真下に近付く不審者を見逃すはずがない」

凶魔「確かに、あんな音を出していたらすぐさま警備に見つかって止められてもおかしくないか……」


前世穂乃果「でもさミナリンスキー、実際に弾き語り集団は楽しそうに歌ったり聞いたりしてるよ」

ミナリンスキー「うん、そうなんだよね……」


ミナリンスキー(ワルキューレたちが意図的に見逃してる……とは考えにくい)

ミナリンスキー(ってことは、私たちには認識できて、天上の警備舞隊には認識でき無いような特殊な結界でも貼っているのか)


ミナリンスキー「……ま、どっちみちバーミヤンの制御を取り戻さなきゃ手出しのしようはない」 

ミナリンスキー「今は監視を続けるだけにしてシステムの復旧に集中しよう」

前世穂乃果「そうだね」


オペ子「任せてください! 速攻で片を付けますから!」

カタタタタタタッ





516 ◆WsBxU38iK2:2021/09/02(木) 00:21:29 ID:J11KoT/.





──異空間




侑「それにしても……ここほんと何処なんだろ」

スタスタ スタスタ


侑(凶魔とはぐれた私は1人謎の空間を歩いていた)

侑(屋外でもなければ屋内でもない、白い壁のようなものに囲まれた広大な空間)

侑(ところどころが濃い霧に包まれていて、空間すべてを一度に見通すことはできそうにない)


侑(だけど、別に闇雲に歩いているというわけでもなかった)


ジャッ♪ ジャジャッ♪

??「あ〜♪ あぁ〜♪」


侑(音楽……どこからか流れてくる楽器の音と人の歌声)

侑(途方に暮れていた私はその音に惹かれるように、濃い霧を掻き分け歩みを進めていた)


スタ スタ


侑「うん、やっぱりそうだ、こっちの方から弾き語りの声が……」


タンッ

侑「……あっ!」


侑(音の間近まで来た私が目にしたのは、霧に映し出された人型のシルエットだった)

侑(僅かに手の部分が動き楽器を弾いてるように見える)


侑「あのっ、あなたはいったい……」


侑(私が呼びかけるとシルエットの主は手を止め、口を開いた)


??「>>517

517名無しさん@転載は禁止:2021/09/05(日) 09:30:31 ID:twAWB22g
いらっしゃいませー

518 ◆WsBxU38iK2:2021/09/07(火) 01:51:14 ID:pc6Z7XJc
??「いらっしゃいませー」

侑「……え?」 


侑(警戒するわけでも驚くわけでも気さくな物言いに私は困惑を覚える)

侑(敵なのか味方なのか声の印象だけでは判断がつかない)



??「この空間にお客さんが迷い込むなんて珍しいね」

??「使徒の中でも一部の特別な使徒しか侵入できないはずなんだけど……」

侑(使徒……!)ピクッ


??「……ああ、なるほど、君からはカリオペーの音色がするね」

??「彼女の寵愛を受けたのなら……うん、ただの人間が私の空間に入り込んでも不思議ではないか」


侑(霧のシルエット越しの人物は1人納得した様子を見せて楽器の調整に戻る)


ジャンッ ジャラランッ

??「ふむ、現代の楽器というのも中々悪くない」


??「君も音楽は嗜むのかい?」

侑「え? 私? まぁ……一時期音楽を学んでたことはありましたけど」

??「ほう」

侑(歩夢の、みんなの、スクールアイドル活動を支えていたころの記憶)

侑(今はもう無い、改変前世界の記憶)


侑「……って、違う違う」ブンッブンッ 

侑(頭を振って余計な考えを振り払う)


侑「そんなことより貴方は誰なの? ここで何をしてるの?」

??「ん? 弾き語りの準備だよ、これから地上で演奏会があるからね」


??「そして私は>>519

519名無しさん@転載は禁止:2021/09/07(火) 20:04:05 ID:rNcMvEfg
ギターソロだ

520 ◆WsBxU38iK2:2021/09/09(木) 00:17:00 ID:ogye0l9o
ギターソロ「そして私はギターソロだ」

侑「なんか……そのまんまな名前」



ギターソロ「迷い込んで来たところ悪いけど、私はそろそろチューニングを終えて演奏会に向かわねばならないんだ」

ギターソロ「既に向こうで私の仲間たちが待機してるはずだし」

侑「向こう?」

ギターソロ「地上だよ、愚かな異教の神々の手によって破壊された荒涼の大地」

ギターソロ「その悲しく寂しいステージで私たちは音楽を奏でるんだ」


侑「……?」


侑(待って、どういうことなんだろう、急な展開に頭の中で整理が追いつかない)

侑「えっと……その……」

侑(考えよう、ギターソロはこの異空間には使徒しか入ってこれないと言っていた、つまりギターソロ自身も使徒)

侑(ギターソロはこれから地上で仲間と、他の使徒たちと弾き語りの演奏会をするらしい)

侑(いったい何のため? それにそんなことしたら……)


侑「そんなことしたら、地上を見張っているワルキューレやエインヘリヤルたちが黙ってないよね」

ギターソロ「ふふっ、そこは問題ない」

ギターソロ「天上の彼らはアースガルズでラグナロクに夢中だし、地上の彼女らも私たちを止めることはできない」

侑「それはどういう……」


ギターソロ「ん? そこに疑問を持つのは妙な話だな、君だってここまで来るまでにワルキューレやエインヘリヤルに捕まらなかったんだろう?」

ギターソロ「それが術式なのか神器なのかまでは分からないが、カリオペーの力が働いてるのは間違いない」

ギターソロ「とすれば……つまりはそれと同じことを私もやるだけ」

侑「……!」



ギターソロ「私たちムーサの卓越した文芸は他者の心に用意に入り込み認識を狂わせる」

ギターソロ「詩、音楽、劇、舞踊、歌唱、物語、人や神が五感に頼る存在である以上、文芸を享受する魂がある以上、私たちから逃れる術はない」


侑(確かにカリオペーの身分証の効果は恐ろしい、それは身に沁みて分かっている)

侑(それと同じ力を持ってる使徒なら、ワルキューレたちに気付かれず行動を起こせてもおかしくはない)


侑「……っ」グッ


侑「でも、そんなこと誰とも知らない私にペラペラ喋って大丈夫なの?」

ギターソロ「問題ないさ」


ギターソロ「これは既に決められた旋律、君にも誰にも邪魔することはできない」

ギターソロ「そして私たちの音色が大地に満ちた時、作戦目標である>>521が達成されるのだ」

521名無しさん@転載は禁止:2021/09/13(月) 09:04:16 ID:4/aBmSx.
音楽の女神の召喚

522 ◆WsBxU38iK2:2021/09/14(火) 00:08:20 ID:312bqMWU
ギターソロ「音楽の女神の召喚が達成されるのだ」

侑「音楽の……女神?」


ギターソロ「そうさ、かの女神が降臨する時こそ本当の黙示録の始まり」

ギターソロ「愚かな闘争により汚された大地が女神によって浄化される時が来るのだ」

スッ

侑「あっ、待って!」


侑(そう言い放つとギターソロはチューニングしていたギターを手に取り立ち上がる)

侑(深く濃い霧越しのシルエットが段々と遠のいていく)


侑「黙示録? 大地の浄化? そもそも貴方たち使徒ってなんなの?」

タタタタッ

侑(遠ざかる影を走って追いかけるも距離は一向に縮まらない)


侑「まだ聞きたいことが山ほど……」

シュンッ!

侑「……くっ」



侑「もうっ!」

侑(ギターソロの影は完全に消失し、真っ白な異空間に私の声だけが虚しく響く)


侑「ギターソロの言う女神の降臨が何かは分からない、けれど実際に起きたら地上が滅茶苦茶になっちゃうのは間違いないはず」

侑「早くこの空間から出てミナリンスキーたちに知らせないと」

グッ


侑(そして……早く歩夢たちに……)


ピピッ


侑(歩夢に……)


ピピピピピッ!


侑(ん……?)

523 ◆WsBxU38iK2:2021/09/14(火) 00:10:32 ID:312bqMWU
侑「なんだろ、何かがポケットの中で鳴ってるような……あっ!」

侑(取り出して見ると、鳴っていたのは鞠莉さんから貰ったスマホ型の通信機) 

侑(ライト代わりに使ったっきりですっかり忘れていたけど、私ちゃんと連絡手段持ってたんだった)


ピッ  

侑「はいもしもし」

鞠莉『良かった、別世界でもちゃんと通信できるみたいね』

侑(通話ボタンを押して耳に当てると鞠莉さんの声が聞こえてくる)

侑(一度出会っただけなのに妙な安心感を覚えるのは、この白くて殺風景な異空間に孤独を感じているからだろうか)


鞠莉『それで進捗の方はどうかしら、お目当ての子には会えた?』

侑「はい、実は――――」







侑「……というわけです」

鞠莉『なるほどねぇ』


侑(私はこれまでに起こったこと、今のバーミヤン内の状況、使徒たちの不穏な動きを簡潔に鞠莉さんへ報告した)

侑(鞠莉さんは時折相槌を打ち、驚くというよりは納得するような反応を見せていた)


鞠莉『ふむ……まずバーミヤン内のゴタゴタはミナリンスキーが解決してくれるから任せておきましょう』

鞠莉『気になるのは使徒の動きだけど……そうね、あなたがギターソロから聞いた通り、アースガルズで地上の動きに気づいてる者はいないわね』

侑「やっぱり隠蔽が成功してる?」

鞠莉『ええ、警備用の通信ログもハッキングして漁ってみたところ目立った報告は無し』

鞠莉『ついさっきダル子名義で警戒を強めるよう要請が来てるけど、使徒の妨害を解かない限り異常なしと返答されるだけでしょうね』

侑「ダル子ちゃんが……」

鞠莉『彼女、役職柄スタジアムで使徒の近くに座ってるから、会話や動向から何か怪しんだのかもしれないわね』

鞠莉『けれど、その役職故に自由に動くことはできない、特に今からはね』

侑「今から?」


鞠莉『ええ、だって今の自刻は午後6時、次のインターバルが終われば始まるのは第4回戦よ』

鞠莉『アースガルズ中の神が注目する大一番、かの主神の出番だもの』

侑「……え、まさか!?」



鞠莉『そうよ、ラグナロク第4回戦の組み合わせは――――』



─────────────────


バーミヤン内部〜異空間

PM4:50〜6:05 反逆の焔編『19』了

524 ◆WsBxU38iK2:2021/09/14(火) 00:12:50 ID:312bqMWU
というわけでここまで

あまりに区切りがなさすぎましたが一区切り

反逆の焔編『20』に続く
かもしれない

525名無しさん@転載は禁止:2021/09/14(火) 21:38:21 ID:U1el7Lqc


526 ◆WsBxU38iK2:2021/09/15(水) 00:09:39 ID:WIYMbiaQ
反逆の焔編『20』

─────────────────
──メインスタジアム


──医務室

PM6:15



海未「面目ないです……」


海未(目線の先には白い天井、メインスタジアムへと帰還してきた私はすぐさま医務室へ運び込まれ、清潔なベッドの上に寝かされることとなった)

海未(個人的にはそこまで大怪我の印象は無かったのですが……駆け寄ってきた穂乃果とことりにあれだけ強く言われては大人しくしてるしかありません)


海未「はぁ……」

にこ「良いのよ気にしなくて、お互いボロボロなんだし」

海未(落ち込みを隠せない私へにこが声をかけてくる)

海未(にこが寝ているベッドは私のすぐ隣、見た目だけなら仲良く並んで療養中ですが、にこが辛勝したの対して私は惜敗)

海未(勝ち星の差を考えると同じ怪我人とは言え申し訳なさが滲み出てしまう)


海未「しかし……あれだけ大見え切った伝言を残しておいて、この結果は……」

にこ「だから良いのよ、あんたは立派に戦ったわ」

にこ「ほんと、私なんかよりよっぽど――」

海未「え?」

にこ「……ううん、なんでもない」



ガチャッ

希「はいはい、怪我人と怪我人で言い争わんといてなー」


海未(にこが気まずそうに押し黙ってしまったところで希が医務室へ入ってきた)

海未(片手はドアノブに、もう片手で何本かのジュース缶を抱えている)


海未「希……!」
 
にこ「あんた、さっきからやたら出歩いてるけど体はもう大丈夫なの?」

希「んー、日常生活するくらいなら平気やで、来る途中に自販機があったから飲み物買ってきたわ」


希「はい海未ちゃん、こっちはにこっち」

海未「ありがとうございます」

にこ「まだ口の中もヒリヒリして飲めないから置いといて」

希「はーい」


海未(希から渡された缶を見ると『ヴィーグリーズアップル!黄金の林檎味!』とラベリングがされていた)

海未(これ……人間が飲んで大丈夫なものなんですかね……)

527 ◆WsBxU38iK2:2021/09/15(水) 00:11:09 ID:WIYMbiaQ
希「ま、2人とも怪我人なんやから後はの雑務はうちに任せて休んでもらって……」

フワッ

希「……ん? なんか今……」

海未「……ええ、何か匂いが……」

海未(希が喋ってる途中、嗅いだことのない匂いが一瞬鼻孔をくすぐった)

海未(まるで一枚の花びらが顔の前を掠めたのような僅かな甘い香り)


クンッ

海未(今にも消えそうなか細い匂いの糸、それを辿ると――)

バッ!

海未「なっ……!?」

海未(今まで注意を払っていなかった医務室の一角、部屋の角にローブ姿の人物が立っていた)

海未(その足元には桃色の花びらが何枚か落ちている、おそらく私たちが気付いたのはあの匂いだ)



希「だ、誰やっ!」

海未「待ってください希、このローブの柄に見覚えがあります」

海未「あなた……チームオーディンのフレイですね」

希「えっ?」


フレイ「正解、流石は園田海未、記憶力がいい」

海未(正体を言い当てられたフレイは小さく笑いながら体を震わせる)


海未「…………」

希「戦闘を控えたやつが医務室になんの用や? 怪我なんてしとやんやろ」

にこ「ちょっ! 何が起こってるの!? 私にも説明して!」バタバタ

海未(全身包帯で起き上がれないせいで現状を把握できてないにこが暴れてるが、フレイを前にして余計なことに気を使う余裕はない)

海未(にこには悪いがしばらく放っておこう)


フレイ「……おっと、君たちにどうこうする気はないよ、私は単に付き添いなんだ」

フレイ「警戒するなというのは無理な話だが……まぁ、落ち着いてくれると助かる」

海未「付き添い? いったい誰の――――」

ヴァーリ「おねえちゃん!」バッ!

ドンッ!!

海未「へぶっ!!」


海未(私が疑問を口にし終わる前にフレイの後ろから飛び出してきたヴァーリがベッドへ飛び乗ってきた)

海未(ヴァーリの膝が私のお腹にめり込み何本か追加で骨が逝った気がする……あぐ……)


海未「……って、なんですかいきなり!」バッ!

ヴァーリ「ごめんごめん」

528 ◆WsBxU38iK2:2021/09/15(水) 00:13:15 ID:WIYMbiaQ
海未「全く、私が眷属だから良いものの、普通は怪我人のベッドにダイブなんてしてはいけません、分かってますか?」

ヴァーリ「えへへ……」

海未「笑い事ではありません」キリッ

ヴァーリ「……き、きをつけます」シュンッ



希「な、なんや……?」

フレイ「ヴァーリがどうしても様子が気になると言って聞かなかったんですよ」
 
フレイ「お姉ちゃんは大丈夫かだの、お姉ちゃんは元気かだの、昔はあんなに特定の誰かに懐く子では無かったんですが」

希「はあ……それでフレイが連れて来たと」

フレイ「はい、ヴァーリ1人で行かせるのは心配ですし、私の術なら見た通りこっそり侵入できますから」



海未「ええと……要はあなたなりにお見舞いに来たかったと?」

ヴァーリ「うん!」

海未(私のベッドの片隅であぐらをかくヴァーリは無邪気に首を振る)

ヴァーリ「おねえちゃん、からだはへいき?」

海未「今あなたに軽い追い打ちを喰らいましたが概ね支障はありません、眷属の体なら数時間もすれば完治するはずです」

ヴァーリ「おーー! じゃあまたたたかえる?」

海未「いや……それは遠慮しておきます、あなたと戦うのそれなりに疲れるので」

ヴァーリ「なんで! なんで! なおったならたたかえるよ!」

バンッ! バンッ!


海未「ああもう、病室でうるさくするならフレイに引き取ってもらいますよ!」

ヴァーリ「うぐっ……しずかにします」



海未「はぁ……」

海未(少し柔らかくなったとは言え、ヴァーリから戦闘マシーンとしての気質が抜けたわけではない)

海未(他者と一般的なコミュニケーションを取るには欠けてるものがあまりに多すぎる)


海未「ヴァーリ、お話をしましょうか」

ヴァーリ「おはなし?」

海未「はい、人間は話をして他者のことを知るのですよ」

海未「力だけが、戦いだけが、他者と分かり合う術ではないのです」

ヴァーリ「へぇ……」

529 ◆WsBxU38iK2:2021/09/15(水) 00:14:41 ID:WIYMbiaQ
海未「ではまず、ヴァーリのことから教えてくれますか? 私、まだまだ知らないことが多いと思うので」

ヴァーリ「わかった!」


ヴァーリ「えっと、えっと、ボクは――――」








希(ベッドの上で楽しそうに会話する海未ちゃんのヴァーリ)

希(ここだけ切り取ればまるで歳の離れた親戚のお姉ちゃんに懐く小さな女の子)

希(とてもさっきまで殺し合いをしていた2人とは思えん)


希「……ま、こういうのを見てるとフレイがあの2人を会わせたがった気持ちも分からなくはないかな」

フレイ「ええ」コクンッ

フレイ「後は単純に私以外に付き添える者がいなかったという事もありますが」

希「ほう」


フレイ「ヘイムダル仮はあなたに壊されましたし、トールはプライド的に矢澤にこのいる部屋には行きたがらないでしょうし」

フレイ「我が主神オーディンは……次の戦いのことで頭がいっぱいですから」フフッ

希「次の……ああ、せやね」



希(今の勝利数はチーム穂乃果有利の2-1、チームオーディン的には後がない状況や)

希(そんな中でチームリーダー、北欧神話界の主神として出場する重さ、他の事を考えてる余裕なんてないやろうな)


フレイ「そちらは南ことりが出場予定でしたよね、今はどちらに?」

希「ん? ことりちゃんなら穂乃果ちゃんと準備運動しとくって出てって、今はたぶん>>530

530名無しさん@転載は禁止:2021/09/15(水) 00:35:53 ID:AHOKDbXg
焼かれてるころ

531 ◆WsBxU38iK2:2021/09/16(木) 00:09:53 ID:SNBGd8tU
希「今はたぶん焼かれてる頃なんちゃうかな」

スルト「焼かれてる……?」


希「うん、穂乃果ちゃんと一対一でな、そりゃもうあっあつに――――」








──スタジアム内・トレーニングルーム


ゴォォォォォォォォォォッ!!


ことり「あぁっ! あついあつい! もう熱いって〜!」

心ノ穂乃果「……そうかな、私的にはもうちょっと焼いた方が良いと思うけど」

ことり「それは穂乃果ちゃんの好みの問題でしょー」

心ノ穂乃果「そうとも言う」



ことり「もぉー」パタパタ


ことり(手で顔を扇ぎながらトレーニングルームの大きな鏡を見る)

ことり(映っているのは練習着までびっしょり汗だくの私)

ことり(そして、そんな私の肌は健康的な小麦色に染まっていた)


心ノ穂乃果「いや、でもこの服との境目のラインをもうちょっと……」

ゴォォォォォォ ゴォォォォォォ

ことり「だからもう日焼けは充分だってば」

心ノ穂乃果「うーむ……」


ことり(穂乃果ちゃんは難しい顔をしながらパーにした両手を色んな角度からかざしてくる)

ことり(なんでも穂乃果ちゃんが言うには、両手から日焼けマシンに似た効果のある炎を放てるとかなんとか)

ことり(スルトの能力はそんなことまで出来るのかー……という感想は置いといて、私はあんまりこの行為に意味を見いだせていない)


ことり(まぁ、褐色はそれはそれで服を選ぶ楽しみは増えるけど)

ことり(……っていやいや、今は関係ないってば)

ブンブンッ



ことり「ねぇ穂乃果ちゃん、いい加減に教えて」

ことり「今このタイミング、4回戦前に日焼けをすることに何の意味があるの?」


心ノ穂乃果「ふっふっふ、それはねー、>>532

532名無しさん@転載は禁止:2021/10/20(水) 23:42:28 ID:9BFMzP6U
チャージインって感じ

533 ◆WsBxU38iK2:2021/10/22(金) 00:56:52 ID:deOoXqck
心ノ穂乃果「それはねー、チャージインって感じ!」

ことり「チャージイン?」


心ノ穂乃果「そう、ボーグバトルの全てはチャージインに始まりチャージインに終わる」

心ノ穂乃果「次のスタジアムがチャージ3回フリーエントリーノーオプションバトルの基本ルールなのか、はたまた違うルールなのかは不明だけど、チャージインを怠ったら勝てないのは同じ」

ことり「……えぇっと、つまり?」


心ノ穂乃果「とにかくチャージインだよ、ほら素振りして!」

ことり「素振り!?」

心ノ穂乃果「手はこう、そして腕をこう振る!」

ことり「こ、こうかな……」ブンッ!

心ノ穂乃果「そう! 心を込めて!」

ことり「こ、心を込めて!」ブンッ!

心ノ穂乃果「チャージイン!」

ことり「チャージイン!」


心ノ穂乃果「チャージインヌッ!」

ことり「チャージインヌッ!」

ブンッ! ブンッ!


ことり(……って、ついついやってるけど本当になんだろこれ)

ことり(穂乃果ちゃんの目は真剣だからふざけられないし、口を挟める雰囲気でもないし)

ことり(チャージしてイン、本番の前に力を貯めておく……的なことなのかな?)

ブンッ! ブンッ!

ことり(穂乃果ちゃんの力を全身に受けての日焼け、このよく分からない素振り)

ことり(私が感知できないだけで何か見えないエネルギーが溜まってる……?)



心ノ穂乃果「ほら、ぼーっとしないで!」

ことり「う、うんっ」

心ノ穂乃果「チャージイン!」

ことり「チャージイン!」


心ノ穂乃果「熱き闘志に!」


心ノ穂乃果・ことり「チャージイン!」



バンッ!!

??「この常識知らずのボーグ馬鹿!」

心ノ穂乃果「ぐっ……あいたたたたたたたた!」


ことり「え?」

ことり(突然開いたトレーニングルームの扉、その奥から投げかけられた声に穂乃果ちゃんはうずくまって苦しみだす)


ことり「どうしたの!? 大丈夫?」

心ノ穂乃果「いたたたたたた」

ことり「穂乃果ちゃん!?」


??「問題ない、ボーガー特有の発作のようなものだ」

ことり「発作? いや、それよりあなたは……」


ことり(海未ちゃんとにこちゃんは医務室で治療を受けてるし、希ちゃんはその看病をしている)

ことり(あの3人じゃないとしたら、他にチーム穂乃果のトレーニングルームを訪れる人なんて……)


??「ああ、私は>>534

534名無しさん@転載は禁止:2021/12/05(日) 23:03:24 ID:ZtiNTvVw
君の想像通りだよ、南ことり君

535 ◆WsBxU38iK2:2021/12/06(月) 03:00:58 ID:.rA/W5s.
??「君の想像通りだよ、南ことり君」


ことり「ま、まさか……その仮面は……」

??「そうだ、この仮面の私は……」



ことり「誰!?」

??「ええーーっ!?」ズコッ��!!



心ノ穂乃果「なんかすごい勢いでコケたけど大丈夫かな……」


謎の仮面「ま、まさか私を忘れてしまったのか!?」

ことり「ごめんなさい、きっと過去にどこかでお会いしたとは思うんですけど」

ことり「あまりにそこから時間が経ったというか、私も目の前のこと……4回戦のことに頭が一杯で」

ことり「だから本当に……ごめんなさい!」バッ!


謎の仮面「いやいいんだ、頭を上げてくれ、私の名前なんて些細なことだからね」

心ノ穂乃果「そこは名乗るんじゃないんだ……」



謎の仮面「私は君たちのファンのようなものだ、訪ねたのは応援の品を渡そうと思ってのこと」

ことり「応援の品?」


ことり(不思議に思って振り返ると、胸の痛みをケロリと忘れている穂乃果ちゃんも私と同じような顔をしていた)


ことり(このスタジアムに詰めかけている観客の多くは北欧神話の神様か使徒のはず)

ことり(前者は当然チームオーディンの勝利を願ってるし、後者は中立であってどちらかに肩入れしてるわけじゃない)

ことり(そんな中、いきなり私たちの控室を訪ねてきてファンだなんて言われても……)


ことり「…………」ジリッ


謎の仮面「ははは、そう警戒しなくたっていい、私が味方なのは本当だ」

謎の仮面「この通り手ぶらだし、君たちほどの実力なら敵意があるかどうかくらい見破れるだろう?」

ことり「…………」


ことり(……確かに、この仮面の人から私たちを害する意思は感じられない)

ことり(武器は持ってないし、魔力を練ってる様子も見られない)

ことり(私が本気を出せば1秒かからず喉笛を切り避けそうなほどに隙だらけ)


ことり「まぁ……ファンかどうかは置いといて、敵じゃないってことだけは信じます」

ことり(私が忘れてるだけで、本当にどこかで会った関係者かもしれないし……)


謎の仮面「うむ、それで応援の品なのだが――――」

ガサゴソ ガサゴソ


謎の仮面「どぅるるるるるるるる、じゃん!!」

ことり「……?」


ことり(仮面の人はあまり上手くないドラムロールを口ずさみながら、足元に置いてあった紙袋から何かを取り出した)

ことり(本人曰く応援の品だと言うもの、それは>>536)

536名無しさん@転載は禁止:2021/12/06(月) 20:00:14 ID:ewlpAh4Y
小さな箱に入ったチョコレートだった

537 ◆WsBxU38iK2:2021/12/07(火) 20:45:02 ID:.t9PruwQ
ことり(小さな箱に入ったチョコレートだった)


ことり「これは……」

謎の仮面「チョコレートは嫌いかね?」

ことり「え? ああいや、嫌いではないですけど……」

謎の仮面「それは良かった」


ことり(ずいと目の前に差し出された箱、不審に思いつつもとりあえず受け取ってみる)


ことり「…………」クンッ

ことり(私の嗅覚は海未ちゃんほどではないけど、あからさまな毒物は入ってなさそう)

ことり(食べれないものでは無いって感じかな……それでも怪しいものは怪しいけど)


謎の仮面「ま、渡したからにはチョコレートは君のものだ、焼くなり煮るなり捨てるなり好きにするといい」

謎の仮面「もし食べる気があるなら……そうだな、ピンチの時に食べてみると良いことがあるかもしれないな」



謎の仮面「では私はこれで失礼しよう、本番前の調整頑張ってくれたまえ」

ザッ!

ことり「は、はい」


ことり(戸惑いは収まらないまま、謎の仮面の人は踵を返し廊下へと出ていく)

ことり(どうしよう、声をかけてもう少し探りを入れるみるべきだろうか)


ことり「あの――――」

謎の仮面「そうそう」ピタッ

ことり「……?」


ことり(私が引き止めようと声をかけるより早く、謎の仮面の人がドアの前で足を止めた)

ことり(そのままこちらを振り返ることなく、ひょうひょうとした口調で言葉を続ける)


謎の仮面「君たちはまだ知らないだろうが、先程4回戦のスタジアムが発表されたよ」

ことり「4回戦の!?」

心ノ穂乃果「もう出たんだ」


謎の仮面「ああ、4回戦の舞台となるスタジアムの名は>>538

538名無しさん@転載は禁止:2021/12/08(水) 21:35:35 ID:McVCvSyA
……簡単に言えば『遊園地』だな

539 ◆WsBxU38iK2:2021/12/09(木) 00:53:49 ID:tycWVgMY
謎の仮面「スタジアムの名は――ヴァルハランド」

ことり「��ぁるは……なんて?」


謎の仮面「……簡単に言えば『遊園地』だな」

 







──医務室



希「遊園地?」

フレイ「分かりやすく表せば」

フレイ「ま、実態はそんな可愛げのあるものではありませんが」

希「なんか含みのある言い方やなぁ」


──

ワーワー ワーワー

モニター『4回戦がこのスタジアムなるとは……何か運命的なものを感じますね』

モニター『ええ、正にオーディンに相応しいスタジアムと言えるでしょう』

ワー ワーワー ワーワー

──


希(医務室の壁に取り付けられたモニターから流れるスタジアム発表の中継映像)

希(うちはダル子ちゃんと解説の三船さんがスタジアムの説明をするのを眺めつつ、隣に立つフレイと会話をしていた)

希(ベッドの上のにこちゃん海未ちゃん、海未ちゃんのベッドに腰掛けてるヴァーリも同じようにモニターの映像を見ている)



フレイ「彼女たちが説明してるようにヴァルハランドとはオーディンの偉業を讃えた巨大施設」

フレイ「彼に関する様々な神、動物、建物、土地をモチーフとしたモニュメントやアトラクションが立ち並ぶ北欧神話界の一大テーマーパーク」

フレイ「それを決戦用のスタジアムとして改造したのがヴァルハランドスタジアムというわけです」

希「はぁ……なるほどぁ」


希(○ッキーの遊園地といえばディ○ニーランドみたいにオーディンの遊園地はヴァルハランドってわけか)

希(しかしランド……ランドねぇ、ランドと名のつく物にはうちらはあんまり良い思い出がないんよなぁ)


希「それにしてもよくオーディンは自分のテーマパークをスタジアムに改造するのを許したというか……てか許可済みなら事前に存在は知ってたん?」

フレイ「ええ、おそらく」

希「知ってて自分の出番まで引かれなかったと、はー……なんか作為的な匂いを感じるわ」

フレイ「はは、あの人ならやりかねませんね」

希「そこは否定しないんかい」


希(オーディンもオーディンやけど、こよフレイという神も本当に掴みどころがない)

希(トールみたいに闘争心バリバリで向かってきた方がまだやりやすいまである)


フレイ「オーディンは本気です、本気で勝利を狙いに行く、そういう神ですから」

フレイ「あのオーディンのオーディンによるオーディンのためのテーマパークでは全ての要素が彼の味方となる」

希「…………」

フレイ「ですが片方がホームで片方がアウェイというのはあまりフェアとは言えません」

フレイ「そこでどうでしょう、私から1つヴァルハランドについてアドバイスをするのは」

希「……取引かな?」

フレイ「いえいえ、単なる好意ですよ」

希「それが一番怪しいんやけどなぁ」



フレイ「あのテーマパークで南ことりが有利な勝負に持ち込める可能性があるとすれば、それは>>540

540名無しさん@転載は禁止:2021/12/09(木) 09:02:36 ID:ZTchO24w
唯一オーディンが設置に反対したお化け屋敷

541 ◆WsBxU38iK2:2021/12/10(金) 00:17:15 ID:TFBFowhM
フレイ「それは唯一オーディンが設置に反対したお化け屋敷」

希「なんや、お化けが苦手ってことなん?」

フレイ「どうでしょうねぇ、理由はそれこそ神のみぞ知るわけですが、あそこまで反対してた以上、彼にとって好ましくないのは確か」

フレイ「上手くお化け屋敷へ誘導して戦うことができれば南ことりにも勝ち目があるかもしれません」

希「ほー」



フレイ「もちろん信じるかどうか、実際に活用するかどうかはあなた方次第です」スッ

希(ロープを目深に被ったフレイはうちの方を向くと自分の胸に手を当て軽く頭を下げる)

希(フェアプレーなんて言葉を頭から信じるはさらさらないけど、だとしたらこいつの目的は一体なんなんや)

希(外野からはお祭りやとしても、ラグナロクは神たちにとって負けられない戦いのはず……)



希「…………」


フレイ「……どうしました?」

希(……いや、考えてもここで答えはでんか)

タンッ

希「とりあえずことりちゃんにお化け屋敷のこと伝えてくるわ」

希「情報持ってる方が無策よりかはええやろし、使う使わんはことりちゃんに任せる」


フレイ「ふむふむ、では気をつけて」

希「そっちは残るんか?」

フレイ「ヴァーリはまだ此処に残るつもりでしょうし、帰りの付き添いもありますから」

希「なるほど」


フレイ「……あ、やっぱり心配ですか? 敵チームのメンバーを残して部屋を出るのは」

希「そりゃ心配だよ、でも燃料切れのうちなんかいてもいなくても戦力に変わりはないし」
 
希「あなたが本気で殺す気なら、こんな会話する前に指先1つで全滅させとるやろ?」

フレイ「やだなぁ、怖い怖い」


 
希「本当に……どこまで本気なんだか」

スタスタ スタスタ


希(フレイの意図は測りかねたまま、にこちゃんと海未ちゃんに声をかけ、うちは一旦医務室を出る)


ガチャ


希「さて、ことりちゃんたちのいるトレーニングルームは――――」

タタッ

542 ◆WsBxU38iK2:2021/12/10(金) 00:17:39 ID:TFBFowhM





──トレーニングルーム 



心ノ穂乃果「うーん……なんか喋るだけ喋ってあの仮面の人消えちゃったな」

心ノ穂乃果「いったい正体は誰だったんだろう、ねぇことりちゃん」



心ノ穂乃果「ことりちゃん……?」


ことり(ヴァルハランドスタジアム……か)

ことり(元々オーディンは一筋縄じゃ行かないと思ってたけど、スタジアムまでオーディン有利だなんて)

ことり(本当に今の私でオーディンに勝てるのかな……)グッ


ことり「穂乃果ちゃん! 何か残りの時間で出来ること……というか、そうだよ、さっきのチャージインはどうなったの!?」

心ノ穂乃果「チャージイン?」

ことり「仮面の人が来るまでやってたでしょ、こう右手を動かしてチャージインって! あれって効果あったの?」

心ノ穂乃果「あー……うん、アレねアレ、覚えてるよ、うん」

ことり「ほんと……?」



心ノ穂乃果「本当だって! あのチャージインをしたことによって、>>543

543名無しさん@転載は禁止:2021/12/11(土) 13:39:58 ID:mzCyY93c
必殺技の演出や効果が変わる

544 ◆WsBxU38iK2:2021/12/12(日) 01:21:55 ID:szFiw0A2
心ノ穂乃果「あのチャージインをしたことによって、必殺技の演出や効果が変わるんだよ」

ことり「本当かなぁ」

心ノ穂乃果「信じてよ、この日焼けもチャージインも、絶対ことりちゃんの役に立つから」

ことり「うーん……」


ことり(チャージインの素振りはせいぜい体がポカポカする程度で、あれで私の必殺技――マカロンやほのリルの技が強化されたとは考えにくい)

ことり(ただ、スルトを取り込んだ穂乃果ちゃんの力は私でも理解の及ばない領域まで到達してるはず)

ことり(何より、他でもない穂乃果ちゃんの言葉だ、穂乃果ちゃんが言うのなら私は信じるだけ……)


ことり「……うん、わかった、信じるよ」

心ノ穂乃果「ありがとう! 信じてくれたら後はチャージインあるのみ! ほら手を動かして〜」

ことり「う、うおおおおおお!」

ブンッ ブンッ

心ノ穂乃果「いいよいいよ! チャージイン!」

ことり「チャージイン!」


心ノ穂乃果「いいチャージインだ! もう1回!」

ことり「チャージイン!」

心ノ穂乃果「まだまだ!」

ことり「チャージイン!!」

心ノ穂乃果「もっといける!」

ことり「チャージぃぃぃぃ――――」







ピンポンパンポーン!


ことり「――はっ!」


アナウンス『間もなく4回戦が開始されます、各チームはメインスタジアムのベンチへ移動してください』

アナウンス『繰り返します、間もなく――――』


ことり(数分程度の時間だったけど、すっかりチャージインに夢中になっていた)

ことり(もう決戦の時間、準備を整えて!ベンチに向かわなくちゃ)


ことり「穂乃果ちゃん!」

心ノ穂乃果「うん、いい感じにアップできたと思う、移動しようか」


タタタッ

ガチャッ

545 ◆WsBxU38iK2:2021/12/12(日) 01:22:18 ID:szFiw0A2
ことり(トレーニングルームを出て外の通路へ)

ことり(チーム穂乃果側のベンチへと続く道を気持ち早足で歩いていく)


ことり「えっと、あっちが控室だから、このT字を右に曲がればいいんだよね」

心ノ穂乃果「そうそう、そっちでいいはず」


希「おーーい!」

ことり「ん?」

ことり(そのT字を曲がろうとしたところで、目的地とは反対側の通路から希ちゃんが走ってくるのが見えた)


心ノ穂乃果「希ちゃんだ!」


タタタタッ

希「見つけられて良かったわ、トレーニングルームの場所がいまいち分からなくて迷っちゃって」

希「どうせ時間だからベンチに向かえばどこかで合流できるやろと思ってたんや」

ことり「あー、このスタジアム、関係者側の通路が妙に入り組んでて分かりにくいよね、防犯対策なのかな」

希「防犯ねぇ……それにしては味方以外がほいほい乗り込んで来すぎやけどな」

ことり「?」

希「いや、こっちの話だから気にせんといて」


希「それより次のヴァルハランドスタジアムについての情報を手にいれたんや、時間ないから歩きながら話そ」

ことり「………情報?」


スタスタ スタスタ


希「実はな、ヴァルハランドスタジアムにはお化け屋敷ってアトラクションがあるらしいんや」

ことり「へー、お化け屋敷」

心ノ穂乃果「なんだか怖そう」

希「なんでもオーディンはそのお化け屋敷を避けてるらしくてな、理由は不明だけど、もしかしたら弱点になるかもしない」

心ノ穂乃果「なるほど、じゃあオーディンをお化け屋敷へ誘いこめばいいんだね」

ことり「はは……、言うのは簡単だけどね、弱点の自覚があるとこに誘導するのは相当難し――――」

バッ!!

ワァァァァァァァァァァァァ!!!!

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!

ことり「わっ」


ことり(ベンチへと続く出口を通り抜けた瞬間、スタジアムの熱気と歓声が一気に辺りを包み込む)

ことり(会場のボルテージは休憩の間も冷めやらぬまま、4回戦へ向けてさらなる高まりを見せていた)


心ノ穂乃果「すごいすごい! 盛り上がってる!」

希「ことりちゃんがベンチに姿を見せたからやろなぁ」


希「さーて、そんなことりちゃんと対戦するオーディンの姿は……っと」

ジーッ

希「おお、もう闘技場の上におるみたいやな」


ことり(メインスタジアムの中央に備え付けられた円形の石畳)

ことり(そこに1人立っているオーディンの様子は>>546)

546名無しさん@転載は禁止:2021/12/14(火) 22:41:15 ID:KnTedgis
その石畳の中心に立っていた

547 ◆WsBxU38iK2:2021/12/15(水) 01:32:35 ID:F.o5J6JM
ことり(オーディンはその石畳の中心に立っていた)

ことり(威厳を感じさせる堂々とした立ち姿、ローブ越しでも最高神としての気迫が伝わってくる)


希「待ち構えとるねぇ、お相手は準備万端って感じやな」

心ノ穂乃果「準備ならことりちゃんも負けてないよ、ファイトだよ!」


ことり「……うん、行ってくる!」

タタタッ

タンッ

ことり(ベンチを飛び出し、スタジアム中の観客が注目する闘技場の上へと躍り出る)

スタッ



ダル子『おおっと!来ました!』

ダル子『南ことりが到着したことにより、ラグナロク4回戦を行う両戦士が揃い踏みです!』

ワァァァァァァァァァァァァァァァ!!

オォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!


ことり(降り注ぐ視線と歓声、スクールアイドルとしてだってこんな舞台にはまだ立ったことがない)

ことり(人類の未来をかけた一戦だっていうのに、なんだろう……ワクワクするなぁ)

ことり(アースガルズ、ミッドガルズ、全世界が私に注目している)

ことり(ここで私はどんなパフォーマンスを見せることができるんだろう)

ゾクッ



オーディン「笑っているな」

ことり「……?」

オーディン「緊張の誤魔化しか、己を奮い立たせるためか、何れにせよ些末なことだ」

オーディン「この戦いの勝者は我、最高神オーディンと決まっているのだからな!!」

バッ!!!!

ことり「……!」



ことり(目の前のオーディンが纏っていたローブを勢いよく取り払った)

ことり(その奥から現れた顔は神話に描かれる通りの髭を蓄えた隻眼の翁)

ことり(ただ、これを単なる眼帯のおじいちゃんと片付けるには全身から発する気迫があまりに桁違いだ)
  


オーディン「くく……ただのジジイと侮るでないぞ」

オーディン「最高潮に漲っておる今の我ならば、こういうことさえ容易いのだからな」

グッ!

オーディン「ふんぬっ!」


ことり(オーディンがそう言って自らの肉体に力を込めると、>>548)

548名無しさん@転載は禁止:2021/12/18(土) 11:00:24 ID:aknXsPsU
身体全体が大きく膨れ上がったような錯覚に陥るほどの圧迫感を感じた

549 ◆WsBxU38iK2:2021/12/19(日) 00:09:54 ID:w8MJdz4c
ことり(身体全体が大きく膨れ上がったような錯覚に陥るほどの圧迫感を感じた)


ことり「くっ……!」

ビリビリッ! バリバリッ!

ことり(異能や魔術なんかの類なんかじゃあない、私に幻覚を見せているのはオーディンの“凄み”そのもの)

ことり(実際に相対して分かる、これが一つの神話の頂点、最高神オーディンなのだと)


オーディン「存分に恐れるがよい、愚かにも神に立ち向かおうとしたことを」

オーディン「存分に怖れるがよい、今から貴様が辿る末路を」

オーディン「存分に畏れるがよい、我こそが比類なき最高位の神であることを!!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


ことり「…………っ!」



ダル子『……で、では、両者指定の転送魔法陣の位置へ移動をお願いします』

ダル子『準備が整い次第4回戦の開始を宣言させていただきます』


オーディン「ふっ」クルッ

ザッ ザッ


ことり「…………」

スタ スタ


ことり(あのとんでもない迫力、私は何も言い返すことができなかった)

ことり(世界のため、穂乃果ちゃんのため、絶対に負けられないと思ってたけど、それは相手も同じなんだよね……)


タンッ

ことり(私は本当に、オーディンに勝つことができるのかな……)







550 ◆WsBxU38iK2:2021/12/19(日) 00:11:10 ID:w8MJdz4c
──医務室



海未「オーディン……物凄い気迫でしたね」

ヴァーリ「ねー」


海未(常人であればモニター越しでさえ体が震えが止まらなくなるであろう威圧)

海未(アレと直に対面してることりはたまったものではないでしょうね)


ヴァーリ「あんなにおこってるオーディンははじめてみたよ」

海未「そうなのですか?」

ヴァーリ「うん、いつもはもっとおちついてるし、あんなにカンジョウテキになるのはめずらしいよ」

海未「ほう」

海未(ヴァーリは私のベットに腰掛け足をぷらぷらさせながらモニターを物珍しそうに眺めている)

海未(味方からそこまで言われるということは実際珍しいのだろう)


海未「やはりもう後がないからでしょうか」

にこ「そりゃねぇ、あと1勝で私たちの勝ちが確定するわけだし、そんな状況で焦らないほうが不自然でしょ」



スルト「まぁ……それもありますが、オーディンがあれだけ気合を入れてるのは対戦相手が彼女なのも大きな要因でしょう」

海未「……彼女、ことりだからですか?」

フレイ「ええ」

海未(私とにこのベットから少し離れ、医務室の壁に背を預けているフレイ)

海未(フレイは私の言葉に頷くと、ローブの袖の隙間から植物の蔓らしきものをスルスルと出していく)

シュルルル

海未「それは……」


海未(出てきた複数の蔓はお互いに複雑に絡み合い、フレイの手の上で蔓の人形とでも呼ぶべき塊を作り上げた)

海未(右手の上には槍を持った老人、左手の上には大きな獣)

551 ◆WsBxU38iK2:2021/12/19(日) 00:12:22 ID:w8MJdz4c
海未「オーディンと……フェルリルですか」

フレイ「正解」
 

フレイ「私たち北欧神話の神はほぼ全ての者が必滅の定めにあります」

フレイ「それは全ての者に、己を殺す天敵が存在してるということ」

フレイ「お互いに殺し、殺され、破滅へと向かっていく、それこそが世界の終末、ラグナロクの予言」


フレイ「その運命の中では例え最高神と言えど例外ではなく、オーディンはラグナロクにおいて魔狼フェンリルに噛み殺されることとなる」

グシャッ

海未(フレイが左手を右手に近づけると
オーディンを象った蔓人形が潰れる)


フレイ「もちろん多くの神はこの運命を知り、ある程度は受け入れています」

フレイ「中には運命を意味嫌い、流れの外へ出るため愚かか計画に手を染めた神もいますが……」

海未「……!」

にこ「…………」

フレイ「……ロキ、今はフードマンでしたっけ、彼に関しては貴方たちの方が詳しいでしょうし、今は関係ないので置いておきましょう」



フレイ「ともかく、運命は受け入れはしてるものの、最初から負ける気があるかと問われればそうでもないわけで」

フレイ「いずれ自らを滅ぼす存在と同じ力を持った相手と対面できる、そんな機会が来たらやはり疼いてしまうのでしょう」

フレイ「自らの天敵にどこまで抗えるのか、どこまで己の力は通用するのか、試したくてたまらなくなる」


にこ「ほー、だからあのお爺ちゃんは最高神のくせに4回戦に出てきたと」

海未「ほのリルと融合していることりと戦うことで、自分の力を試すために」


フレイ「伊達に巨人や荒くれ揃いのこの世界で最高神なんてやってませんからね、根の気性が荒いんですよ」

フレイ「天敵の力を持つ者を正面から打ち倒してこそ全世界に神の力を知らしめることができる、なんてことを真面目に考えてるはずです」


にこ「なんというか、そこのバトルジャンキーと変わらない荒っぽさね」

にこ「私が戦ったトールもイケイケだったし、北欧神話の神ってそんなのばっかり」

ヴァーリ「ん? ボクはウンメイとかきにしたことないよ、たのしくたたかえたらそれでいいし」

にこ「うーん……そういうとこなのよねぇ」



海未(運命の克服、ラグナロクによる終末)

海未(本来ならばロキ陣営は終末の日にビフレストを通りアースガルズへ攻め込み、このメインスタジアムのあるヴァーグリーズの野で最終決戦となる)

海未(ですがロキことフードマンは次元の狭間へ飛ばされ行方不明、地上に出てきたヨルムンガンドはにこたちが地球圏外へかっ飛ばし、日本を侵略しかけたムスペルも私たちが壊滅させた)

海未(現状、彼ら北欧の神の天敵と言えるのはフェンリルの因子を持つことりと、それから……)


海未「……スルト、あなたもラグナロクではスルトと戦いますよね」

フレイ「ええ、ラグナロクで私はスルトと戦って敗れる、つまりはそちらのリーダーと戦って負けるのが運命らしい」


海未「だから、あなたも5番目を選んだ? 穂乃果と戦える最後の勝負を」

フレイ「半分は成り行きみたいなものですよ、でも……そうですね、どちらにしろ彼女と戦うことを選んでいたはずです」


フレイ「私にはね、理由があるんですよ、彼女がスルトであるということ以外にもう一つ、彼女と戦いたい理由が」

海未「理由?」

フレイ「ええ、理由です……」

海未(どこか掴みどころのなかったスルトの纏う空気に、じっとりとした感情のようなものがにじみ出る)


フレイ「それは>>552

552名無しさん@転載は禁止:2021/12/19(日) 08:30:53 ID:DUfK8R/c
推しだから

553 ◆WsBxU38iK2:2021/12/20(月) 00:33:10 ID:wNHyF3o.
フレイ「それは彼女が推しだから」

海未「……は?」


フレイ「推しですよ推し、わかりません?」

海未「いや、推しという概念が分からないわけではなく……」

フレイ「私はね、貴方たちμ'sの中で穂乃果さんが推しなんです」

フレイ「自らが応援する推しと直接戦えたらそれはもう光栄という他ありません」


フレイ「ああ、楽しみですね、最終決戦をするためにオーディンにはぜひ勝ってもらわなくては」

海未「は、はは……」



海未(推し……推しと来ましたか、なんだかいきなり俗っぽい話ですね)

海未(フレイの言葉を鵜呑みにするわけではありませんが……全くの嘘を言っているとも思えない)

海未(何故ならフレイからは私と同じ匂いがするから)

海未(かつて私も穂乃果を好きで好きでたまらなかった時の私と、同じ匂いが)



にこ「推しなら少しは手を抜いてくれたりはしないわけ?」

フレイ「いえいえ、そこはフェアプレイの精神ですよ、全力で当たらなければ推しに失礼です」

にこ「はー、そういうとこだけ妙にしっかりしてるんだから、ファンの鏡ではあるけどさぁ」



海未(例え何か裏に企みがあったとしても、その匂いだけは本物だと……そう感じてしまう)

554 ◆WsBxU38iK2:2021/12/20(月) 00:33:24 ID:wNHyF3o.

ヴァーリ「ん! そろそろはじまるよ!」

海未「お……」


海未(ヴァーリに肩を揺さぶられモニターの方を見ると、ことりとオーディンは既に転送陣の上に立っていた)


モニター『では転送を開始します、転送まで5秒前――――』


海未「そうですね、今はことりのことを応援しなければ」

にこ「ことり、きつそうだけど踏ん張りなさいよ……!」

ヴァーリ「どっちもがんばれー!」


モニター『4! 3! 2!』



海未「……ん?」

海未(気持ちを切り替えてはみたものの、何か心に引っかかるものを感じる)

海未(さっきのフレイの言葉にどこか違和感があったような――――)

チラッ


フレイ「どうかしました?」

海未「い、いえ、なんでも」


海未(不安げな視線を向けると、何故かフレイも同時に私に顔を向けていた)

海未(ローブのせいで直接目があったわけではないものの、思わず視線をそらしてしまう)


海未(まぁ……話を深く聞くのは4回戦が終わってからでも遅くはないはず)

海未(今は自分の言った通りことりの応援に集中しなければ)



モニター『1! 転送!』

シュンッ!! シュンッ!!


ウォォォォォォォォォォォォォォッ!!

ワァァァァァァァァァァァァァァァ!!


フレイ「さて、始まりますよ」

フレイ「最高神と滅びの運命のどちらが強いのか、この戦いで審判が下ります」

海未「…………」



モニター『それではここに、ラグナロク第4回戦の開始を宣言いたします!』

ドンッ!!


─────────────────

メインスタジアム

PM6:15〜6:45 反逆の焔編『20』了

555 ◆WsBxU38iK2:2021/12/20(月) 00:36:14 ID:wNHyF3o.
というわけでここまで

ラグナロクも後半戦

反逆の焔編『21』に続く
かもしれない

556 ◆WsBxU38iK2:2021/12/21(火) 00:09:57 ID:gkT9syqw
反逆の焔編『21』

─────────────────
──ヴァルハランドスタジアム

PM6:45



ことり「…………」


ことり(転送陣の光が消え去ると、そこは一面の暗闇だった)

ことり(足元には舗装されたコンクリートの感触、肌に触れるのは冷え切った空気)

ことり(天上を見上げれば夜空に浮かぶ微かな星の瞬きがここが閉じられた空間でないことを教えてくれる)


ことり(野外なのは確か、だけど外にしては土や木の気配が全くしない)

ことり(流れてくる風もどこか妙な循環をしているように感じる)


ことり「いったい、ここは…………」


ことり(そんな僅かな逡巡の後、私が一歩を踏み出そうとした、正にその瞬間だった)

バッ!!

バッバッバッバッバッバッバッバッバッバッ!!!!

ことり「っ!?」


ことり(夜闇を切り裂くレーザービームが四方八方から飛び交い、辺り一面を昼のように照らし始める)


アナウンス『ようこそ! ヴァルハランドへ!』

ことり(続いて歓迎を告げるアナウンスとテーマパーク風の音楽が大音量で鳴り出す)

ことり(大小様々な建物に付けられたイルミネーションがレーザービームに負けじと輝き、遠くでは大量の花火が打ち上がっていた)


ことり「これが……ヴァルハランド!」

ことり(今いる場所からじゃ全景は見渡せないけど、テーマパークとしての巨大さは十分に感じ取れる)

ことり(ここから見える建物には高層ビルくらいの大きさのものも幾つかあり、夜に負けじと主張を強める輝きは一つの都市と言っても過言ではない)


ことり「とくにアレは目立つね」

ことり(このヴァルハランドのシンボルか何かなんだろうか)

ことり(光り輝くテーマパーク内で一際目を引くのは>>557)

557名無しさん@転載は禁止:2021/12/21(火) 21:49:00 ID:9PZ2bgXg
大人気のジェットコースター

558 ◆WsBxU38iK2:2021/12/23(木) 00:44:56 ID:ioVakTo6
ことり(一際目を引くのはジェットコースターのレールだ)

ことり(中央の高い塔を中心にランド全体の空を駆け抜けるようレールが縦横無尽に敷かれている)

ことり(さすがに地上から手を伸ばして届く距離ではないけど、高い建物の横スレスレを通ってたりしてかなり危ない)

ことり(神様用のテーマパークだから安全性は二の次なんだろうか、中々にスリリングなアトラクションだ)


ことり「……お」

ことり(目線を遥か頭上のレールから地上へ戻すと園内に設置された案内板が目に入った)

ことり(園内全体の地図が書かれているよくあるやつで、端にはパンフレットが置いてある)

ことり「今これを全部記憶するのはちょっと無理かも、一応パンフレットは貰っておこうかな」

スッ

ことり(案内板へ近づき折りたたみのパンフレットを一冊もらう)


ことり(広げてみると園内の地図の他に主なアトラクションの説明が書いてあった)

ことり(それによるとあのコースターは大人気のジェットコースターで、名前を『駆けよスレイプニル』と言うらしい)

ことり(その名の通りスレイプニル……空を飛び地を駆けるオーディンの愛馬をモチーフにしたアトラクション)

559 ◆WsBxU38iK2:2021/12/23(木) 00:45:11 ID:ioVakTo6
ことり「ふむふむ、これは確かに目玉のアトラクションだなぁ」

ことり「……って感心してる場合じゃない」

ことり(いきなり地図を見つけられたのは私にとっては幸先が良い)

ことり(希ちゃんから教えてもらったお化け屋敷を探すため、地図に指を滑らせていく)


ことり「ええと、お化け屋敷、お化け屋敷、どこだろう……」

ことり(ただでさえヴァルハランドは面積が広くアトラクションが多い)

ことり(地図に書いてある番号とアトラクションの名前を照らし合わせていくだけで一苦労)


ことり「ここでもない、ここでもない、ここでも――――」


ヒヒィーーーンッ!!!!

ことり「っ!?」


ことり(馬の嘶くような声が園内に響き、私は思わず地図から顔を上げる)

バッ!!


ことり「ほ、ほのリル!!」

バシュッ!!

ことり(間髪入れずに獣人化して五感を研ぎ澄ませる)

ことり(近くに……いや違う、気配の正体は……)


ことり「空だ!!」


ヒヒィーーーンッ!!!!

ことり(獣人化して生えた獣耳が音の正体を確実に捉える)

ことり(馬の嘶きのような音は、レールの上をコースターが滑ることによるもの)

ことり(夜空に目をこらせば、馬の形を模した漆黒のコースターがこちらへ近づいてきているのがハッキリと分かる)

ことり(さらに悪いことに――――)



ヒヒィーーーンッ!!!!

ガタタタタタタタタタタタタッ!!

オーディン『はははは! 駆けよスレイプニル!!!!』



ことり「オーディン……!」


ことり(見間違えようがない、そのコースターにはオーディンが乗っていた)

ことり(腕を組み仁王立ちでコースターに立ってるオーディンは純粋にアトラクションを楽しむような声を張り上げているため、こっちに気付いてるのかまでは分からない)

ことり(けれどコースターに乗ってる以上、このまま放置していれば私の近くを通るのは確か……!)



ことり「まだオーディンとは距離がある、先手を打つなら今のうち……だよね」

ことり「ここは>>560

560名無しさん@転載は禁止:2021/12/23(木) 08:50:21 ID:RRpusOlc
レールに罠を仕掛ける

561 ◆WsBxU38iK2:2021/12/24(金) 00:23:28 ID:Aczd/UrE
ことり「ここはレールに罠を仕掛ける」

ググッ タンッ!!


ことり(まずは獣の足に力を込め、ジャンプで近場のアトラクションの屋根に飛び移る)

トンッ

ことり(テントのような屋根が少し沈むけど大きな音は出てないし問題はない)


ことり(そこからさらに別のアトラクションの壁で三角飛びをしてレールの上へ)

タンッ タタンッ


スタンッ

ことり(体のバネで衝撃を殺し、なるべく静かに着地)

ことり「ふぅ……」


ことり(手をレールに付けていると、冷え切ったレールの冷たさと僅かな振動が伝わってくる)

ガタンッ ガタンッ

ことり(間違いない、オーディンを乗せたコースターはこの向こうからやってくる)


スッ

ことり「――ぴゅあぴゅあマカロン」

ことり(レールの上でかざした手のひらからマカロンが想創される)

ポンッ ポポンッ

ことり(1つ、2つ、3つ、4つ、重量に引かれて落ちていくマカロンをもう一方の手で受け取り、レールの上に並べていく)

ことり(そしてマカロンを並べ終わったら、その上から氷でコーティング)

スッ

ピキッ パキパキッ パキパキッ

ことり(氷は見て分からないほど薄く張っていく、事前に見つかってコースターを止められたら元も子もない)

パキパキッ パキンッ



ことり「……よし、できた」

ことり(氷でコーティングしたことによって、貼り付けられたマカロンが自然と剥がれ落ちることはない)

ことり(ここをコースターが通った瞬間、コースターからの圧力でマカロンは氷ごと割れることになる)


ことり(つまりその時に、今埋め込んだマカロンの能力、>>562が発動するということ)

562名無しさん@転載は禁止:2021/12/24(金) 20:49:50 ID:TC/rihk.
ペイント

563 ◆WsBxU38iK2:2021/12/25(土) 00:34:55 ID:A.elLJd2
ことり(今埋め込んだマカロンの能力、ペイントが発動するということ)


ことり「よっ」

タンッ

ことり(罠を仕掛けたらもうこの場所に用はない、すぐにレールから飛び降りる)

ヒューーーーーッ




スタッ

ことり「さて、隠れる場所は……あの建物の裏でいいかな」

タタタッ

ことり(さすがにオーディンに気づかれたかな……いや、今はバレてないと信じるしかない)

ことり(コースターが来るまでの間にできるだけレールから離れて、建物の物陰に身を隠す)

ササッ

ことり(ほのリル化も解いて、なるべく気配を断って……)

シュルルル


ことり「……さぁ、どうなるか」



ヒヒィーーーンッ! 

ガタンッ ガタンッゴトンッ! ヒヒィーーーンッ!!


ことり(けたたましい嘶きが段々と近づいてくる)

ことり(漆黒のコースターは大きくコーナーを曲がり直線へ、私が罠を仕掛けた場所へと近づく)


オーディン「ふはははは! いいぞスレイプニル! 爽快だ!!」

ヒヒィーーーンッ!!

ことり(あと10m、5m、1m――――)



パキッ

オーディン「ん?」

ことり(来たっ!)


バキッ バキッバキッバキッ!

バシャァッ!!!!!!


ことり(コースターに轢かれて割れるマカロン、その中から吹き出すのは大量のカラーペイント)  

ことり(それはコースターの勢いで大きく跳ね上がり、コースターの表面とオーディンの体に降りかかる)

ビシャァッ! バシャッ!!!!

オーディン「なっ!?」



ことり(もちろん、このペイントはただの塗料なんかじゃあない)

ことり(このペイントで塗られた対象は>>564)

564名無しさん@転載は禁止:2021/12/25(土) 08:10:51 ID:ibTqPPKk
離れてもどこにいるのかがわかる

565 ◆WsBxU38iK2:2021/12/26(日) 00:11:44 ID:8/cnXVa.
ことり(このペイントで塗られた対象は離れてもどこにいるのか分かる)

ことり「――Tracker Paint Macaron」

ポンッ

ことり(手のひらの上に新しく出現したマカロンはそのまま垂直に浮かび上がる)

ことり(そして私の頭くらいの高さまで来ると、1mほど横に離れて停止した)

スーーッ ピタッ


ことり「……よし」

ことり(このマカロンは私にオーディンの位置を教えてくれる監視衛星)

ことり(浮いたマカロンは私を中心とした軌道上を移動する)

ことり(オーディンのいる方角はマカロンがある直線上、オーディンとの距離は私とマカロンの距離)

ことり(これを使えばオーディンの位置を確認しながら移動することができるはず)


タタタタッ

ことり「さてと……」
 
バッ

ことり(オーディンから離れるように走りながらさっき拾ったパンフレットを開く)

ことり(私の優先目標は変わらない、オーディンの弱点であるお化け屋敷を見つけること)


ことり「ええと、お化け屋敷お化け屋敷……それっぽい名前が見つからないな」

ことり「ホラー○○とか、戦慄〇〇とか、独自の名前が付いてたり?」


ことり「うーむ……」

タタタタッ


ことり(そういえば希ちゃんの話だとオーディンはお化け屋敷の建設に根強く反対してたみたい)

ことり(だとしたら……そう、少なくとも目に付きやすい場所には置かないはず)

ことり(例えばテーマパークの入り口近くとか、人気アトラクションやランドマークの近くとか)


ことり「……ん? 人気のアトラクション?」


ことり「あっ!」

ことり(そうだ、このテーマパークにはメインのアトラクションである駆けよスレイプニルのレールが張り巡らされている) 

ことり(オーディンがお化け屋敷を嫌っていたのなら、そのレールから見える場所にお化け屋敷を置くわけがない)


ことり「レールだ、園内を埋め尽くすように走るレールが通ってない空白地帯を見ていけば――――」

スーーッ

ことり「……あ、あった!」


ことり(園内の端、不自然にコースターが通らない地域にホラーテイストのアトラクションがある)

ことり(その名前は>>566)

566名無しさん@転載は禁止:2021/12/26(日) 18:44:28 ID:Bk2OJK4U
A・ZU・NAの森

567 ◆WsBxU38iK2:2021/12/27(月) 00:12:10 ID:YrEH.iQU
ことり(その名前はA・ZU・NAの森)


ことり「あ……ず……な? あずなの森って読むのかな」

ことり「とにかくここが今考えられる一番の候補だよね、急いで行ってみよう」

タンッ

タタタタッ







──医務室



モニター(ダル子)『おおっと、オーディンとの衝突を間一髪避けた南ことり、一目散にどこかへ向かっています』

モニター(三船)『先程までのような迷いがありませんね、パンフレットに置いていた指の位置から考えるに、これはホラーランドに向かっているのでしょうか』

モニター(ダル子)『ホラーランド、あまり人気のアトラクションは無かったように思いますが……』

モニター(三船)『ええ、何か考えがあるのか、引き続き両戦士の行動に注目していきましょう』


 
海未「ホラーランド……ですか」

海未「となると、ことりはアドバイス通りにお化け屋敷を目指すのでしょうね」

海未「なんでしたっけ、その、あずな……?」


フレイ「A・ZU・NAの森ですね」

海未「ええ、それです」


にこ「ってか、さっきから話聞いてて思ってるんだけど、そのなんちゃらの森はどんなアトラクションなのよ」

にこ「オーディンを讃えるテーマパークに普通のお化け屋敷があるわけでもあるまいし」


ヴァーリ「おばけやしきってなに?」

にこ「あんたは逆に何も話聞いてなかったみたいね」


海未「ええと、そうですね……」

海未(ヴァーリはお化け屋敷すら知らないのですか、西洋の神様に端的に説明するにはどう言ったものか)

海未「……そう、お化け屋敷というのはゴーストやモンスターに襲われるような怖い体験ができる施設なんですよ」

ヴァーリ「こわい? ころされる?」

海未「うーん……怖いけど殺されはしませんね、あくまで娯楽施設ですから」

ヴァーリ「なーんだつまんない」プイッ

海未「ははは……」



フレイ「まぁ、概念的には人類が想像するお化け屋敷とそうかけ離れたものではありませんよ」

にこ「そうなの?」

フレイ「ええ、さすがに森というだけあってアトラクションとしての規模は違いますけど、ヴァルハランドの物は皆巨大なのでそれが売りというわけではないです」


フレイ「A・ZU・NAの森が地上のお化け屋敷のそれとは違う最大の特徴は>>568

568名無しさん@転載は禁止:2021/12/28(火) 08:58:28 ID:gWKo238U
本物を使ってる

569 ◆WsBxU38iK2:2021/12/29(水) 00:39:49 ID:lazyGXXQ
フレイ「本物を使っているという点にある」

にこ「本物?」

フレイ「そう、作り物なんかじゃない、本物のゴースト」
  

にこ「ふーん、本物ねぇ」

海未「それは中々迫力がありそうですね」

フレイ「……おや、本物という点にはあまり怖がらないんですね」



にこ「まぁ幽霊の知り合いなら沢山いるし、今更驚くことでもないというか」

海未「なんなら私は死んで冥界に行ったことだってありますし、私の愛刀も幽霊の取り憑いた魔剣ですから」

フレイ「それは中々……奇想天外な冒険を繰り広げた来たようで」フフッ



にこ「で? まさか本物のお化けが出るからオーディンがビビってるとか言わないわよね」

にこ「あそこまで胆力のあるお爺ちゃんがそんなことでへっぴり腰になるとは思わないわよ」


フレイ「ええ、そうですね」

フレイ「ここに来て貴方たちに説明する必要は無いと思いますが、北欧神話界は他の世界に負けず劣らず争いの絶えない世界です」

フレイ「争いが多いということはそれだけ敵味方問わず死者が多く出るということ」

フレイ「それで終わればまだ良いのですが、今度はその死者をいずれくる戦いの兵としてかき集める始末」

フレイ「死してなお終わらない、戦、戦、また戦、いやはや虚しいことですよ」


にこ「……? つまり何が言いたいのよ」


フレイ「死者に因縁のある者が多いんですよ」

フレイ「自らを殺そうとしたもの、自らが殺したもの、本物のゴーストたちを集めれば当然そういった者たちも紛れ込む」

フレイ「最高神ともなれば尚更、知り合いと出会う確率は多くなるでしょう」


フレイ「つまりですね、オーディンは忌避してるんです、自らが最も出会いたくないゴーストと出会うことを」

フレイ「だからお化け屋敷の建設そのものに反対していたんですよ」



海未「……なるほど、自らのテーマパークにかつて手をかけた敵や忌み嫌っていた相手が住まうのは、確かに良い気がしませんね」

にこ「最も出会いたくない……ねぇ」


にこ「フレイ、もしかしてあんたそれが誰かまで知ってるとんじゃない?」

フレイ「ええ、もちろん」

にこ「ちょっ! だったらそこまで教えてくれたら良かったのに!」

フレイ「いやいや、私はあくまでオーディンの勝ちを願ってますから、そのまでサービスしたらフェアではありませんよ」

にこ「むっ……それはそうだけど」

 

フレイ「まぁ、今なら南ことりに伝える術はありませんし、ここで口にするだけなら構いません」

フレイ「オーディンの最も忌避するゴースト、それは>>570

570名無しさん@転載は禁止:2021/12/29(水) 08:37:31 ID:r11uBFfQ
ユミル

571 ◆WsBxU38iK2:2021/12/30(木) 03:13:10 ID:77PEYmnU
フレイ「それはユミル」

海未「ユミル……あの!?」


フレイ「そう、この北欧神話界の元となった始まりの巨人、ユミルですよ」







────────
────
──




──ヴァルハランドスタジアム




──ホラーエリア


タタタタッ

ことり「なんだか雰囲気が暗いなぁ」


タンッ タタタタッ

ことり(ヴァルハランドの端、ホラーエリアに足を踏み入れてから、辺りはどんどん陰鬱になっていく)

ことり(外灯やイルミネーションは煌々とした発色の良いものから明滅するぼやけたものへ)

ことり(お店やアトラクションなんかも数は少なく、手入れが行き届いてないのか廃屋のようになってる場所も多い)

ことり(全体的に廃れた雰囲気が漂っていて、とてもさっきまでと同じテーマパークの中とは思えない)


ことり「……で、あれが森か」


ことり(ホラーエリアを進むと巨大な森が見えてくる)

ことり(場所はこのエリアの更に端、それでいてエリア全体の1/3を占める広大な面積)

ことり(あれが一つのアトラクションって言うんだから流石に神様のテーマパークは規模が違う)


ことり「よしっ」

ことり(目的地はもうすぐ、今のうちに考えを口に出してこれからの行動を整理しよう)


ことり「まずはあの森に侵入、お化け屋敷に行ってオーディンの弱点を探る」

ことり「そしたらオーディンをおびき寄せ、なんとか有利に戦えるようにする」

ことり「って、なんとか……なんとかかぁ」


ことり(改めて口に出すと、自分で立てた作戦ながらフワフワしたところが多すぎる)

ことり(不確定要素の多い作戦……けれど今はやれることをやるしかない)

グッ


ことり「うん、それと今のオーディンの位置を確認しておいて――――」

ことり(私は走りながら後ろを振り向き、浮いてるTrackerPaintMacaronの様子を見る)

ことり(今、オーディンは>>572)

572名無しさん@転載は禁止:2022/01/03(月) 08:26:27 ID:do3mHQmA
マカロンが仕掛けられていた位置を中心に探索中

573 ◆WsBxU38iK2:2022/01/04(火) 00:40:33 ID:4Wj9vsEo
ことり(今、オーディンは遠く離れてるみたい)

ことり(距離と角度から考えるに……まだマカロンを仕掛けた場所、レールの辺りを中心に探索してる)

ことり(私が森の方に向かってることには全く気付いてなさそう)


ことり「なら今のうちに森の中へ、だね」

タタタタッ







──A・ZU・NAの森


ザワザワ ザワザワ


ことり(森の中は幾くつも重なった葉がテーマパークの灯りを遮り、ホラーエリアより一層暗くなっていた)

ことり(ただひたすらに暗い森を草の匂いと木々のざわめきだけが支配している)

ザッ ザッ

ザッ ザッ

ことり(泥濘んだ地面を踏みしめ、とにかく奥へ奥へと進んでいく)



ことり「それにしても、どこまで行っても木、木、木の同じ景色、ここまで暗いと迷いそうで怖いな」

ことり「さすがに遭難しちゃったらオーディンと戦うどころじゃないし気を付けないと」

ザッ ザッ


ことり「灯り代わりのマカロンと、それから方位が分かるマカロン」

ポンッ ポンッ

ことり「あとは―――」

ザザザザザッ!!

ことり「っ! なに!?」バッ!


ことり「…………」

ことり(私が森の中で使えそうなマカロンを召喚していると、近くの茂みの奥から物音がした)

ことり(トラッカーを確認すると、オーディンはさっきの場所からまだ動いてない)

ことり(つまりは私でもオーディンでもない第三者)


ザッ

ことり「まさかお化け屋敷のある森だからって本物が出たりは……」

ゴクッ



ことり「――ほのリル」バシュッ!

ことり(獣人化して感覚を研ぎ澄まし、一歩ずつ慎重に、音のした方向へ歩みを進める)

グッ グッ グッ


ガササッ

ことり(そして、茂みの奥をそーっと覗いてみると>>574)

574名無しさん@転載は禁止:2022/01/05(水) 10:56:44 ID:g6zAG4MM
私のようなものがいた

575 ◆WsBxU38iK2:2022/01/06(木) 01:01:25 ID:5XKWqGYY
ことり(そこには、私のようなものがいた)


ことり「……え?」


ザッ ザッ

ことり(茂みの向こうは鬱蒼としたこっち側とは打って変わって小綺麗に整えられた空間だった)

ことり(舗装された石畳の道、その脇にはぼんやりと道を照らすガス灯が点在し、遠くには大きな建物の影が見える)

ことり(おそらくは、あれが目指しているお化け屋敷なのだろう)


ことり(だけど、私の目線はその道を歩く私に似た女の子に吸い寄せられていた)


少女?「…………」

カツンッ カツンッ


ことり(外見は私に瓜二つ、ぱっと見年齢もそう変わらない)

ことり(違うところと言えば服装が牧歌的で現代のものとはかけ離れてるところ、そして……)

スーーッ

ことり「体が……透けてる?」



少女?「……!」パッ!

ことり「……っ」ビクッ


ことり(偶然なのか、こちらの気配を何かで察したのか、半透明な女の子と目があってしまう)


少女?「お客様ですね、A・ZU・NAの森へようこそ」

ことり「…………」

少女?「そんな茂みの中でどうかされましたか? お屋敷はあちらですけど」  

ことり「ああ、いや……うん」

ガサッ


ことり(女の子の毒気のない純粋な雰囲気に吸い寄せられるように私は茂みから出る)

ことり(敵意は無さそう、言い回しからしてここのキャストさんなんだろうか)



ことり「驚かせたならごめんね、ちょっと道に迷っちゃったんだ」

ことり「A・ZU・NAの森のお化け屋敷っていうのはここで合ってるのかな」

少女?「はい、そうですよ、屋敷までご案内しましょうか?」

ことり「うん、お願い」


少女?「では早速……っと、いけない、その前に自己紹介ですね」

クルッ

少女?「私はこの森のゴーストで、名は>>576

576名無しさん@転載は禁止:2022/01/06(木) 11:09:10 ID:ykFkLXPQ
コトーリ・サウスバード

577 ◆WsBxU38iK2:2022/01/07(金) 15:51:43 ID:gTvX8fBs
少女?「名はコトーリ・サウスバード」

少女?「コトーリでもサウスバードでも好きな方でお呼びください」ペコリ

ことり(半透明の女の子はそう自己紹介をすると丁寧にお辞儀をする)


ことり「分かった、じゃあ……サウスバードって呼ぶね」

ことり(コトーリは身内にいるから被るとややこしいし)


ことり「私は南ことり、今このヴァルハランドはラグナロクのスタジアムになってて……」

サウスバード「はい、私たちゴーストにも通達はあったので知っています」

サウスバード「それでも訪れてくださったのであればお客様、ご案内いたしましょう」


ザァァァァァァッ

ことり(サウスバードの優しい笑みと共に森の木々が風によって揺らめく)


サウスバード「私たちの主人の待つお屋敷――A・ZU・NA屋敷へ」



────────
────
──







──コースター付近


タンッ


オーディン「ふむ……」


オーディン「あらかた調べ終わったが、どうやらこの塗料からは微弱な波動が出ているようだな」

オーディン「それも我に対して害を成すようなものではない、となれば波動を受信して我の位置を探るのが目的だろう」

オーディン「しかし……それはそれで妙な話だな」


スタ スタ

オーディン「先程からこうしてわざと無防備に身を晒しながら近場を歩いているというのに、やつが攻撃を仕掛けてくる気配がない」

オーディン「てっきり周囲に身を隠しながら我の位置を特定し不意打ちを食らわす策かと思ったのだが……」


タンッ

オーディン「まさかこの我が気配を感知できない場所まで一目散に逃げたか?」

オーディン「確かに時には撤退も有効な戦術だが、このラグナロクに制限時間がある限り逃げ続けることはできない」

オーディン「何よりヴァルハランドの知識のない者が園内をいくら駆け回ったところで、我を打倒する新たな手立てなど沸いてこないはず」


オーディン「ではいったい……?」


オーディン(迷いのない、しかし不自然な対戦相手の行動)

オーディン(それに対し、我が為すべきことは>>578)

578名無しさん@転載は禁止:2022/01/11(火) 22:10:50 ID:Ec9izkpk
フギンとムニンの力を使い逆探知

579 ◆WsBxU38iK2:2022/01/13(木) 00:13:46 ID:J2Lb9o8Q
オーディン(我が為すべきことは……)


オーディン「フギン! ムニン!」

パチンッ!

オーディン(指を鳴らすと何もない空間から2羽のワタリガラスが出現する)

バササササササッ!

オーディン(その鴉はすぐに形を変え、背中に羽を生やした天使のような姿を取る)

フギン「はいはーい」

ムニン「どうしたの?」


オーディン「この絵の具から使用者の位置を逆探知したい、できるか?」

フギン「わー、いつになく真剣な顔してるね」

ムニン「真面目ー、眉間にシワがぐぐぐっとよってるー」

オーディン「いいから答えろ」


フギン「うーん……そんな犬みたいな真似は好きじゃないんだけど」

オーディン「けど?」

フギン「オーディンが真面目に頼むのは珍しいことだし、特別にやってあげる」

ムニン「あげるー!」

オーディン「ならば迅速にだ」



フギン「わかった、ムニン、塗料の性質を記憶できる?」

ムニン「はーい……」ペロッ

オーディン(ムニンが絵の具に舌をつけると、羽の色が絵の具と同じ色へと変化した)


ムニン「うん、甘い味、甘い匂い、覚えた、そっちに共有するね」

フギン「おっけー」キュインッ

オーディン(ムニンの採取したデータが2人の間で共有されると、フギンは素早く飛び立ち鴉の姿へと戻る)


バサササッ

フギン「じゃあこの性質の持ち主を探しに行ってくるよ、見つけたらムニンを通して教えるからー!」

オーディン「ああ、頼んだ」


バサッ! バサッ!

オーディン(普段は世界中を飛び回りその目と耳で情報を集めるフギンのことだ、この園内程度の広さならすぐに探知するだろう)


オーディン「さて……」ググッ

ムニン「ん? 何かするの?」


オーディン「ただ待ってるというのも無駄であろう」

オーディン「位置を特定した時にすぐに打ち込めるよう、術式を練っておこうと思ってな」

ブォォォォォンッ
 
ムニン「おお、大きな魔法陣だ」



オーディン「くくっ……このオーディンから逃げ切れると思うなよ、小娘」


──
────
────────





580 ◆WsBxU38iK2:2022/01/13(木) 00:14:21 ID:J2Lb9o8Q




──A・ZU・NAの森


ザッ ザッ

ザッ ザッ


ことり(どのくらい歩いたのだろうか、辺りは木々に覆われ薄暗く、目の前を歩く女の子の持つランプが石畳の道を照らしていた)

ことり(道の両脇にポツポツと置かれているガス灯は迷い込んだ人間を奥へ奥へと誘い込むように妖しく揺らめいていて、森の深くへ進んでいくほど時間と場所の感覚が曖昧になっていく)

ことり(一本道ではあるはずなのに、一人で来た道を引き返す自信がまるでない)

ことり(案内人を見失った途端、森に取り込まれてしまいそうな、何とも言えない不安が心中に広がっていくのを感じる)


ことり「……あの、あとどれくらい」

サウスバード「着きましたよ」

ことり「え?」


ことり(着きました、と言われても私には何も見えない)

ことり(サウスバードが指差す先にはただ一面の闇が広がっているだけだ)


サウスバード「ほら、あなたにも見えるはず」カチャッ

フッ

ことり(サウスバードは持っていたランプを顔の高さまで持ち上げ、優しく息を吹きかけた)

ことり(その途端、何故かガラス越しの炎が大きく揺らめき、炎の端が細かい粒子となってガラスから外へと流れ出した)

サァァァァァァァァァァッ

ことり(赤と橙と金が混ざった曖昧な光の粒)

ことり(それらが闇を優しく撫でると、カーテンが開かれたように景色が変わり――)


バッ!!

ことり「わっ……!」


ことり(目の前に巨大な屋敷が姿を現した)


サウスバード「……ね?」

ことり(狐につままれる、というのはこんな感覚なんだろうか)

ことり(アワアワしそうになる心をどうにか落ち着かせ、目の前の屋敷に目を向ける)


ことり(その屋敷は>>581)

581名無しさん@転載は禁止:2022/01/25(火) 15:02:14 ID:jugrYWuE
水晶のようなものでできていた

582 ◆WsBxU38iK2:2022/01/26(水) 00:19:04 ID:/MFoJoMc
ことり(その屋敷は水晶のようなものでできていた)


ことり「綺麗……」

ことり(素直な感想が思わず口をついて出る)

ことり(屋根や壁、扉や柱、あらゆるものが青白い水晶で形作られた建造物は、周囲のガス灯の光源と相まってより一層幻想的な雰囲気に包まれていた)

ことり(ここが戦いの場だということを一瞬忘れてしまうような、そんな光景)


ことり「いつの間に……さっきまであんな屋敷なかったよね」

ことり「幻術か、結界か、それとも……」 

サウスバード「ふふふ、ちょっとした余興、お客様に愉しんでもうためのサプライズですよ」

サウスバード「そこまで深く考えることではありません」

スッ

サウスバード「さぁ、顔を上げてこちらへ――」

ことり「う、うん」



ことり(サウスバードに促されるようにして、私は水晶の屋敷の大きな扉へと近づいていく)

ザッ ザッ


サウスバード「このA・ZU・NAの屋敷は主人によって建てられたものです」

ことり「え? このテーマパークに初めから建ってたものじゃないの?」

サウスバード「はい、A・ZU・NAの森とお化け屋敷というコンセプトは最初からありましたが、肝心のオーディン様があまり乗り気ではなかったんですよ」

サウスバード「それ故、森の中は口出しされない反面、これといった開発計画もなく、オープンしてからも手付かずだった場所が多いのです」

サウスバード「そんな中で私たちの主人が直接指揮を取って作り上げたのがこのA・ZU・NAの屋敷というわけです」

ことり「へー」

ザッ ザッ


ことり(オーディンが最後まで作るのに反対していたエリアでそんなことをする偉い人か)

ことり(なんかどんな人なのか気になってきたなぁ)


ことり「ねぇ、サウスバードたちのご主人様って……どんな人?」

サウスバード「主人ですか?」

ことり「ああ、人というか、神? 精霊? 幽霊? なんて言えばいいか分からないけど……」

サウスバード「ふふふっ、そうですね、主人も私たちと同様にゴーストです」

サウスバード「A・ZU・NAの森を統率するマスターゴースト、その名をユミル」

ことり「ユミル……」


サウスバード「ゴーストになる前は巨人だったと聞いていますよ」

ことり「巨人かぁ」


サウスバード「ええ、そしてユミルがどんな人かと簡潔に言うのであれば……>>583

583名無しさん@転載は禁止:2022/01/30(日) 23:12:26 ID:u1Gidjfo
多分想像してるより小さい

584 ◆WsBxU38iK2:2022/02/01(火) 00:42:17 ID:SUPF15w.
サウスバード「多分想像してるより小さいかと」クスッ

ことり「え?」








──ヴァルハランド・中央エリア



ピクッ

ムニン「オーディン様、フギンが見つけたみたいだよ」

オーディン「ほう」


オーディン(コースターのレールの上、隣に立つムニンが口を開く)

オーディン(その指差す先に見えるのはヴァルハランドの一画に広がる忌々しき黒い森)


ムニン「あの絵の具の匂いの持ち主は森にいるっぽい」

オーディン「A・ZU・NAの森か……はぁー」

オーディン(無意識に深いため息が出る)


オーディン(何処かで知ったのか、知らずに迷い込んだのか、あの森は“やつ”の支配下にある)

オーディン(勝負の場とは言え、攻撃を加えればやつが反撃してくるのは自明の理)

オーディン(やれやれ……此処に来てあの森が邪魔をしてくるとは、あんなものはさっさと焼いておくべきだったな)


ムニン「どうする? もうちょっと詳しい位置まで特定する?」

オーディン「いや、それには及ばん」

スッ


オーディン「ムニン、我から離れていろ、フギンも同様に森から遠ざけろ」

ムニン「あー、なるほど、おっけー」

バサッ バサッ

オーディン(ムニンは我の行動を察し、その場から後方へと飛び立つ)


オーディン「ふんっ!!!!」

カッ!!!!

オーディン(一歩前に踏み出し、体に力を込めると、足元に展開していた魔法陣が光輝く)

オーディン(そして魔法陣へかざした手に吸い込まれるように、陣から一本の槍が姿を表す)

スーーッ


ガシッ!

オーディン(逆手に掴んだ槍を上段に構え、投擲の姿勢を取る)

ギリッ ギリギリッ

オーディン(全身の筋肉が軋むほど力を込め、その槍を――――)


ブォンッ!!!!

オーディン(投げる!!!!)


ゴッ!!!!

オーディン「ゆけ、グングニル」



オーディン(我がグングニルは万能たる槍にして魔術の増幅器)

オーディン(刻まれたルーン文字により如何様にもその姿を変え神敵を殲滅する)


オーディン(その証左、空を切り裂き森の上空へと達した槍は、>>585となって森へ襲いかかる)

585名無しさん@転載は禁止:2022/03/12(土) 14:14:43 ID:tnu2qXtA


586名無しさん@転載は禁止:2022/03/14(月) 00:11:57 ID:tXt5y5L2
オーディン(“私”となって森へ襲いかかる)

カッ!!


ドドドドドドドドドドドドドドド!


ムニン「わっ! 槍が森の真上でたくさんのオーディン様に分裂した!」

オーディン「『ᚨ(アンスール)』、それは私、つまり神たる我を意味するルーン文字だ」

ムニン「おぉー」


オーディン「さぁ、どうする南ことりよ、貴様の頭上から降り注ぐのは1つ1つが我の分身と言っても過言ではない存在」

オーディン「その身で神域の魔術を解くと味わうがよい!」






587名無しさん@転載は禁止:2022/03/14(月) 00:12:34 ID:tXt5y5L2


──A・ZU・NAの屋敷、エントランス前



サウスバード「ではこちらへどうぞ」

ガチャッ

ことり(……と、サウスバードが水晶の屋敷のドアに手をかけた瞬間だった)


ことり「……っ!」ドクンッ!!

ことり(瞳孔が開き、全身の毛が逆立ち、鼓動と血流が加速する)

ことり(生物的な本能が訴える危機に、私は無意識に戦闘態勢を取っていた)

バッ!

ことり(そして、視線は自然に空への水困らるように動く)


サウスバード「どうしました、急に空を見上げて――――」

ことり「来る!!!!」


カッ!!

ことり(遥か森の上空で閃光が瞬くと、そこから多数に分裂した影が投下される)

ことり(数はぱっと見20〜30、透過されたのは矢か、槍か、爆弾か、はたまた魔術か)

ことり(いや……違う、あの大きさと形は……)


ヒュォーーーーッ!


ことり「オーディン!?」

ことり(思わず自分の目を疑ったけど間違いない)

ことり(30近い数のオーディンが森へと高速で降下して来ている)


ことり「……っ!」

ことり(一人でさえ手をこまねいていたのに、いきなりこんな数で攻めてくるなんて)

ことり(でも、こうなったらやるしかない……!)


サウスバード「お客様!」

ことり「サウスバードさんは中に避難してて!」

バッ!

ことり(ほのリルで獣化、マカロンと焔ノ力を発動、とにかくありったけで迎撃をするしかない)


ことり「はあああああああっ!!」

ドンッ!! ドンッ!!

ことり(焔ノ力で強化したマカロン砲を空に向けて放ち、降下してくるオーディン軍団を撃ち落とす)

ギィンッ! ゴンッ!! ガンッ!!

ことり(1体、2体、3体……ダメ! 全然迎撃が間に合わない!)



ヒューーーーッ ヒューーーーッ ヒューーーーッ

ドドドドドンッ!!

ことり「……っ!」

ことり(屋敷の前の開けた空間、そこに降り立つ筋骨隆々のオーディンたち)

ことり(その目は獲物を狙うハンターのように私に注がれている)


ことり「もう、作戦を練る時間も与えてくれないんだからっ!」グッ!!

槍オーディン「うおおおっ!」ダンッ!

ことり(一番近いオーディンが拳を振り上げ襲いかかってくる)


ギィィィンッ!!

ことり(交差するオーディンの拳と獣人化した私の爪)

ことり(槍から生まれた槍オーディン、その1体1体の力は、私と比べて>>588)

588名無しさん@転載は禁止:2022/05/21(土) 20:32:36 ID:zY8K32bQ
強いのと弱いのが入り混じってる

589名無しさん@転載は禁止:2022/05/25(水) 01:17:18 ID:NJYr/VGw
ことり(私と比べてそこまで強くなさそう)

ことり(真っ先に襲いかかってきた槍オーディンの拳は私の爪より柔らかいし、突きを繰り出す挙動も目で追える)

ことり(これなら多少数が多くても――)

ヒュンッ!!!

ことり「……え?」


ゴンッ!!!!

ことり「うぐっ!!」メリメリッ


バンッ!!!!

ことり「がはっ!」

ことり(一体目の槍オーディンを切り裂いた瞬間、背後から背中にめり込むような衝撃を加えられ、私はそのまま地面へと叩きつけられた)

ことり「な、なにが……げほっ」


ことり(すぐに立ち上がり、辺りを確認すると、そこには二人目の槍オーディンが立っている)

ことり(そうか…私が一体目と交差した瞬間、二体目が瞬時に背後に周り込み、死角から背中を殴りつけたんだ…)


ジリッ

ことり(見えなかった、目で追えなかった、一体目と二体目では……いや、この槍オーディンたちは皆強さが違う?)


槍オーディン1「はっ!」ダンッ!

槍オーディン2「はっ!」シュッ!

槍オーディン3「はっ!」ゴッ!

ことり「くっ……やっぱり!」


ことり(今度は更にもう1体加わって、3体が同時に襲いかかってくる)

ことり(同時……だけど、個体ごとに速度、構え、体から溢れる闘気の強さに明確な差がある)

ことり(見た目が全部同じなのに強いのと弱いのが入り混じってるなんて、これじゃ……)


ゴッ!!

ことり「ふぐっ……!」

ガンッ!! バキッ!! ゴッ!!

ことり「がっ! ぐっ! あぐっ……!」


ことり(弱く遅いオーディンから片付けようとすると、意識の外から強く早いオーディンに刈られる)

ことり(逆に強く早いオーディンを警戒してタイミングを読んで反撃しようとすると、弱く遅いオーディンにタイミングをずらされ隙を作ってしまう)

ことり(まるで豪速球とスローボールを巧みに投げ分けられてるような感覚)

ことり(ほのリルの身体強化を持ってしても戦いのリズムが全く掴めない)



バッ! ザザザッ!

ことり「ぐっ……!」


ことり(ダメだ、捌き続けてるだけじゃジリ貧になる、こっちから反撃して状況を変えないと)

ことり(とは言え、これだけ多くの槍オーディンに囲まれてたら時間のかかる大技を放つ余裕はない)

ジリッ

ことり(こうなったら、>>590)


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