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よう「ちかちゃんとだんごの節句」
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――この時期になると思いだす、ちょっとした思い出。
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〜小学生時代〜
よう「うーん、最近の飛び込みの練習、なかなかうまくいかないなあ」トボトボ
よう「いつものプールより高い場所に行くと、足がすくんで、怖くなっちゃうんだよね」
??「おーい、ようちゃーん!!」
よう「あっ! この声は!!」
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ちか「ようちゃん、練習お疲れ様!!……悩んでるみたいだけど、あまり無理しちゃダメだよ?」
よう「うん、大丈夫! それより、迎えに来てくれてありがとう! 今日はなにして遊ぼっか」
ちか「そうだ、ようちゃん! 面白い話があるんだけど」
よう「どうしたの? 嬉しそうだね」
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ちか「問題! 今日は何の日でしょう?」
よう「ええっと、こどもの日だよね」
ちか「正解! でも……それだけじゃないんだよ!」
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よう「それだけじゃない……?」
ちか「そう。今日は『だんごの節句』なのだ!」
よう「だんごのせっく?」
ちか「お姉ちゃん達がそう話してた!」
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よう「どういう意味?」
ちか「んっとねー、季節ごとに行事とかをする日を、昔の言い方で節句って言うんだって」
よう「どうして『だんご』なんだろう?」
ちか「わかんないけど、多分、おだんごを食べる日だからだよ、きっと!」
よう(なるほどー。ちかちゃんは何でも知ってて凄いなあ……)
よう「ちかちゃんがそう言うなら、私、信じるよ!」
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ちか「でも、おだんごを食べる日なのに、手元に無い!」
よう「そりゃ大変だぁ!」
ちか「おだんごを食べないと『だんごの節句』じゃない!」
よう「史上最大のピンチだ!!」
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ちか「おりゃー!」ゴシャゴシャ
よう「ちかちゃん、何してるの!?」
ちか「泥だんご作ってみたけど……やっぱり食べられるおだんごがいい……」
よう「ちかちゃん……」
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ちか「うーん、諦めるしかないのかな……」
よう「……ちかちゃん、おだんご食べるの……やめる?」
ちか「っ!!……やめない!!!」
よう「だよね!」
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よう「……って言ってみたけど、これからどうすればいいんだろうね」
ちか「決まってるよ! 無いなら探しに行けばいいんだよ!」
よう「探しに行く!?」
ちか「そう。伝説のおだんごをこの手に掴むんだ!!」
よう「そっか……! さすがちかちゃんだ!!」
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よう「ねえ、ちかちゃん。良かったら私も協力していい?」
ちか「もちろん。ようちゃんが居てくれたら頼もしいよ!」
よう「よーし、じゃあ張り切っちゃうからね」ガサガサ
ちか「?」
よう「じゃーん! そのへんにあった長い葉っぱを結んで作った船長帽!」
ちか「わー! ていうか船長っていうより勇者みたい!」
よう「じゃあ、勇者船長ヨーソローだ!!」
ちか「かっこいい!!」
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ちか「こうして私たち二人は、おだんごを探すための、そーだいな冒険に出発するのであった。行こう、キャプテン!」
よう「よーし、高海一等航海士、準備はいいかー!」
ちか「オッケー! 手を伸ばせ! それから悩め!」
よう「全速前進、ヨーソロー!!」
****
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〜近所の林〜
ちか「だんごだんごだんご〜〜」
よう「だんご出てこーい!」
ちか「いやあ、林の中まで来ちゃったね」
よう「大冒険だねえ。って、千歌ちゃんについてきたんだけどね」
ちか「そうだった!」
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よう「ここで、ようちゃん天気予報! 天気は……晴れのち雨であります!」
ちか「あー、なんだか蒸し暑いもんねえ。当たってるかも」
よう「そうだと思って、アイス買ってきたよー。はい、ちかちゃんの分も!」
ちか「わー、みかんアイスだ! ありがとう。ようちゃん!」
よう「美味しいよねー。これ」
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ちか「さて、おだんごといえば?」
よう「いえば?」
ちか「ダンゴムシ!」
よう「たしかに林の中に居そうだけど!」
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ちか「石をひっくり返してみよう!」
よう「えーい!」クルッ
ちか「おー、ダンゴムシがいっぱいいるね」
よう「ダンゴムシもいるけど、背中がちょっと平べったいのはワラジムシだね」
ちか「ほんとだ。ちょっと違う!」
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かわいい
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よう「ダンゴムシとワラジムシって、見た目は似てるけど、ワラジムシは丸まらないんだ」
ちか「不思議だねえ」
よう「海の近くに住んでるフナムシとも親戚なんだって。パパが教えてくれたんだ!」
ちか「じゃあ、陸に住んでても昔からの友情で繋がってるんだね!」
よう「たぶんそういうことだね!」
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よう「でもさ……」
ちか「?」
よう「ダンゴムシを食べるのはちょっと」
ちか「そりゃそうだよねえ」
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よう「おだんご、おだんごはどこに……」
ちか「あ、そういえば、どうして林に来たのか思い出した!!」
よう「なになに?」
ちか「おだんごって、お米からつくられるけど、お米がなかった昔は、木の実をすりつぶしてつくることもあったんだって」
よう「ほんと!? じゃあ、林の中に来たのは正解だったね!!」
ちか「よーし、じゃあ木の実を探そう!」
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〜1時間後〜
ちか「このあたりは、あまり落ちてないねえ」
よう「そうだねー。あっ!!」
ちか「どうしたの!?」
よう「木の実がたくさんなってる樹、見つけた!!」
ちか「やったー!!」
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よう「でも……あれなんだけど」
ちか「え、えええ、あんな高い所にあるの!?」
よう「私たちの背じゃとても届かないね」
ちか「どうしよう……」
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ちか「よし。じゃあこうだ……えーい!!」ユサユサ
よう「幹が大きくて、ゆさぶっても落ちてこないね」
ちか「うーん」
よう「空も曇り始めてる……わたしの天気予報が合ってるなら、この後、雨降ってきちゃうけど」
ちか「…………」
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よう「このまま、おだんごは手に入らないのかな……」
ちか「……だめ」
よう「ちかちゃん?」
ちか「諦めない!」
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ちか「見てて、ようちゃん!」ゴソゴソ
よう「それ……行く前に作ってた泥だんご!!」
ちか「こんなこともあろうかと、作っておいたのだ!! えーい!!」ヒューン
よう「うわ! 投げた!!」
ドンッ!!! ボトッ
よう「枝に当てて、木の実を落とした!?」
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ちか「どうだー! 私ね、ソフトボールできるんだ!」
よう「ちかちゃん、す、すごい!!!」
ちか「まだまだやるよー! 数撃てば当たるよ!」ヒューン!
よう「わああ……」
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よう(絶対に無理だと思ってあきらめかけてたのに)
よう(自分から行動して、夢をほんとうにした)
よう(諦めないって言うだけじゃ叶わないけど、動けば変わるんだ)
よう(ちかちゃんは……最強の友達だ!!)
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ちか「まだまだー!」
よう「待って、ちかちゃん」
ちか「え?」
よう「私もやる!!」
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ガシッ
ちか「ようちゃん、樹に登るの!? 危ないよ!!」
よう「ちかちゃん、私、頑張るから!!」
ガシッ
ちか「わー、本当に登ってる!!」
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よう(ちかちゃんは、いつも私をはげましてくれる)
よう(どんなに怖くても、ちかちゃんを見てると勇気が湧いてくる。そんな気がするんだ)
よう(ちかちゃんは言ってた。手を伸ばせ! それから悩め!)
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ちか「もう上まで登っちゃったね!」
よう「うん! 幹をゆさぶるのは無理でも、枝をゆさぶれば!!」ユサユサ
ボロボロッ
ちか「わー、たくさん木の実が落ちてきた!!」
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よう「よーし、こんな感じかな。後は下に行って回収だね」ガシッ
ちか「気をつけて降りてね……」
よう「うん。慎重に慎重に……。わあっ!」ヒューン
ちか「ようちゃん!?」
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よう「ほっ!!」
――咄嗟のことでよく覚えてないけど、回転して着地した、気がする
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ちか「ようちゃん! ようちゃん大丈夫!?」
よう「うん。大丈夫!!」
ちか「もう、もしようちゃんに何かあったら、お母さんやお姉ちゃん達に怒られちゃうところだったよ……」
よう「ごめんね。ちかちゃん。もう心配ないから」
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よう「やっぱりちかちゃんは凄いよ!」
ちか「?」
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よう「私、高い場所からとびこむの怖くて、悩んでたんだ」
ちか「やっぱりそうだったんだね」
よう「でもね、それは今日でおしまいなんだ」
ちか「おしまい?」
よう「うん。怖かったけど、ちかちゃんのおかげで勇気が湧いてきたんだよ!」
ちか「ええっ! 私のおかげ? ほんとかなー?」
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よう「ほんとだってー!! そして、ちかちゃんはきっと、将来もっと凄いことをやるに違いないって思うよ!」
ちか「うーん、おおげさじゃないかなあ」
よう「おおげさじゃないよ。ほんとだよ。ちかちゃんが、自分で気付いてないだけだよ!」
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ちか「そっかー。うん。でも、ようちゃんの役に立てたみたいで嬉しいよ。今日は一緒に冒険に出かけてくれてありがとう、ようちゃん!」
よう「こちらこそ!」
ちか「雨降ってきちゃうし、早く木の実を回収して、帰っておだんご作ろう!」
よう「うん!」
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〜高海家〜
よう・ちか「「ええええええええ!!!! だんごの節句じゃないのー!?」」
美渡「ほんとバッカだなー。だんごの節句じゃなくて端午の節句だよ」
ちか「そんなー。おだんごを食べる日じゃなかったなんて……今までの冒険はなんだったんだろう……」
よう「無念……」
志満「あらあら。泥だらけになるまで遊んできちゃったのにねえ。でも……」
よう「?」
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志満「端午の節句は『ちまき』や柏餅を食べることも多いけど、日本では地域によって、端午の節句に食べるものは色々変わるの」
ちか「そうなの!?」
志満「うん。そして、その中には、笹団子を食べる地域もあるの。だから、お団子を食べる日というのも間違ってるわけじゃないわ」
よう「やったー!」
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ちか「あれ、でも……」
よう「?」
ちか「木の実をすり潰しておだんごをつくるのはいいけど、笹だんごなら、笹の葉がないと」
よう「あっ……そっか」
志満「ふふ……笹の葉ならもうあるわよ」
ちか「ほんと!? しま姉すごい!……って、それ!! もしかして!!」
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よう「私がかぶってた、長い葉っぱでつくった勇者船長帽!」
ちか「それ、笹の葉だったんだ!!」
よう「これで笹だんごが作れるね!」
志満「ふふふ。近くにあったのに気付かない、幸せの青い鳥みたいね」
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志満「曜ちゃん。よかったらこの後、うちでご飯も食べていかない?」
よう「えっ、いいの?」
志満「うん。お母さんに連絡しておくから」
美渡「おお、おお。こりゃ、今日は団子パーティーするしか無いみたいだなー!」
ちか「ようちゃんとおだんごパーティーだ!!」
よう「やったー!!」
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――小さいころの思い出は、宝物だ。
金貨や宝石を見つけてきたわけじゃない。収穫は両手いっぱいの木の実と葉っぱだけ。
あまりにもちっぽけな大冒険だったけど、千歌ちゃんと一緒に、夢中で何かやることはこんなにも楽しいんだ。
このとき、そんな想いを強く感じたんだ。
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――端午の節句は昔からあるけど、それに合わせてつくられた『こどもの日』は、実は結構新しい記念日で、
幼い子に対する、幸福と成長への願いがこめられているんだって。
千歌「曜ちゃーん、おはヨーソロー!」
曜「おはヨーソロー!」
千歌「では問題! 今日は何の日でしょう?」
曜「はい! こどもの日、そして……『だんご』の節句だね!」
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――私と千歌ちゃんは高校生になって、Aqoursのみんなと活動して、少しは成長したのかな?
それはわからない。でも、二人の絆は、こどもの時も、今も……そしてこれからも変わらないよね!!!
千歌「正解! 優勝者には、十千万旅館から賞品が提供されます」
曜「賞品はもちろんアレだよね!」
千歌「うん。もちろん!」ゴソゴソ
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千歌「曜ちゃん! おだんご持ってきたから、一緒に食べよ!!」
おわり
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おつ、めっちゃいい話
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ありそうな話で面白かった
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おつおつ
ようちからしさに溢れた幼少期の描写が良いね!
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