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海未「私が悪の組織の怪人に!?」

1 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 17:20:49 ID:.NYd9Kao
海未「くっ、もう追いつかれてしまうのですか…!」

なぜこんなことになってしまったのか、と海未は自問する。

「おまたせ、魔法戦士ホムラだよ!」

「キャプテンアンカー、到着であります!」

「瞳に翠玉、髪に黒曜!胸に秘めるは――」

海未(ええ、そんな自己紹介をされずとも当然知っています…私たちの暮らしを守るヒーローですから)

海未(昨日まではあの姿をテレビの中に見ていたはずなのに、どうして私は)

海未(怪人として相対しているのでしょうか?)

海未「ああもう!考えていても始まりません!とにかく生き延びさせてもらいます!」

海未(とは言っても、本当にどうしてこんなことになってしまったのか…朝はいつもの日常だったというのに…)

2 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 17:40:27 ID:.NYd9Kao
『おまたせ!魔法戦士ホムラだよ!』

海未「昨日のVTRですか…」

海未が朝食の席につきテレビをつけると、そこに映るのはオレンジを基調とした服と顔の半分を覆うバイザーを身に着け、茶色い髪をなびかせながら空を舞う少女。

手には炎の意匠をあしらった自身と同じほど大きな杖を携えて、見上げるほどの怪獣に立ち向かっていくその姿はまさに「ヒーロー」である。

魔法戦士ホムラ、東京を中心として活躍するヒーローであり、その名が示すように炎を振りまき町を守る姿が市民の人気を獲得するのにはそれほど時間はかからなかった。

海未(あのサイズの怪獣ですら瞬く間に倒してしまうヒーロー…彼女がいなかったらと考えるとぞっとしますね)

『いっくよー!ホーリープロミネンス!!』

朝食を済ませた海未がテレビに目を向けると、少女の杖から放たれた熱線が怪獣を焼き払うところであった。

海未「焔、というよりもみんなの笑顔を照らす太陽、といったところですね」


海未「っと、私が遅れて行っては穂乃果に何を言われるか分かったものではありません」

3 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 18:06:56 ID:.NYd9Kao
ことり「昨日も怪獣さんが出てきたけど二人は大丈夫だった…?」

海未「大丈夫だったからこそこうして一緒に登校できているのですよ?ヒーローだっていますしね」

穂乃果「そうそう、学校にだって避難設備がちゃんとあるんだから平気だよ!」

ことり「そう、だよね…最近怪獣さんが出てくるのが増えてるから、もし静岡みたいになったらって心配で…」

海未「人が立ち入る事すらできなくなった、過去最大級の怪獣被害…もうあれから5年が経つのですね…」

ことり「あっ…ご、ごめんね…?」

海未「いえ、大丈夫ですよ?それこそ、もう5年も経っていますからね」

穂乃果「大丈夫だよ!今はヒーローも増えてるし、ここは強いヒーローがたくさんいるもん!」

海未「昨日だってホムラのおかげで被害は最小限に抑えられたそうですしね」

ことり「そ、そうだよね…!テレビで見たけど昨日のホムラもかっこよかったぁ…穂乃果ちゃんも見たでしょ?」

穂乃果「えっ!?あー、うん、もちろん見たよ!テレビで!」

海未「何をそんなに慌てているのですか?まさかまたヒーローを見に外に出ていたなんてことはないでしょうね?」

ことり「あの時は穂乃果ちゃん部屋で寝ちゃっててそれを雪穂ちゃんが勘違いしただけじゃなかったっけ…」

海未「それも怪しいものです…雪穂に口裏を合わせるようお願いしたのではないですか?」

穂乃果「海未ちゃんは雪穂ばっかり信じるんだからー…」

4 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 18:31:46 ID:.NYd9Kao
穂乃果「そうだ!今日の帰り買い物してから帰らない?今日は私の店番ないし、海未ちゃんとことりちゃんも何もないでしょ?」

海未「ええ、今日は弓道部も休みですし寄り道して帰りましょうか」

ことり「うん!私も新しいお洋服もほしいところだったんだぁ」

穂乃果「それじゃあ決まり!よーし、放課後に備えて今日の授業は…」

海未「授業は…何ですか?真面目に授業を受けていないようでしたら寄り道はなしですからね!」

いつもの朝、いつもの通学路、その日常を引き裂くようなブザーが三人の携帯から鳴り響く。

ことり「警報!?」

海未「ここからだったら学校に行く方が早いはず…!急ぎますよ!」

【怪獣転移警報、怪獣転移警報、30秒後に怪獣の出現が予想されます、避難設備までの移動を開始してください。繰り返します――】

穂乃果「30秒!?検知が全然間に合ってない――!もしかして…?」

海未「穂乃果、いったい何を…!?」

ことり「二人とも早く逃げようよ!危ないよ!」

5 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 18:39:55 ID:.NYd9Kao
三人が走り出すとほぼ同時に、轟音と地響きが襲う。

ことり「そんな…近すぎるよ…!」

ほど遠くない場所に黒い靄が凝り固まるようにして現れる、見上げるほどの大きさで龍のような姿をした怪獣が咆哮をあげる。

海未「ヒーローもすぐに到着するはずです!とにかく今は学校に――!?」

いち早く冷静さを取り戻し、幼馴染二人を誘導しようとした海未の目に飛び込んできたのは、その幼馴染二人の頭上から降り注ぐ瓦礫。

海未(さっきの地響きで建物が…!)

海未「穂乃果!ことり!」

間に合わない、そう判断した海未は幼馴染二人を突き飛ばし

「「海未ちゃん!?」」

二人の泣きそうな表情を最後に、その視界は黒く染まった。

6 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 18:47:02 ID:.NYd9Kao
――海未ちゃん!海未ちゃん!!

(穂乃果…ことり…)

――こ、ことりちゃんは学校に行って助けを呼んで!それまで私一人で頑張ってみるから!

(また穂乃果は無茶を言って…あなたも早く逃げなさい…)

――ダメだよ!それくらいなら私もここに…!

(ああ、二人ともそんな泣きそうな声をしないでください)

(泣きそうな声…泣きそうな顔…そんなのは二人には似合わない…)


(そうです、こんなところで寝ている場合ではありません…放課後だって出かける約束をしているのですから…!)

海未は親友のために意識を覚醒させていく――



『目を覚ましたまえ』



聞こえたのは、ざらりとした、黒い悪意だった。

7 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 18:54:32 ID:.NYd9Kao
海未「ここは…?」

目が覚めた海未は、今まで自分が何をしていたかが頭から抜けてしまったような感覚に陥っていた。

瓦礫に飲まれ、目を開いたところで闇が広がっているだろうと思っていたはずが、自分の四方を取り囲むのはコンクリートの壁。

海未「四畳半ほどの大きさで窓もドアもない…どこからここに運び込まれたのか…」

その場所の異様さに気を取られていたが、もう一つ奇妙なことに海未は思い当たる。

海未「体に、傷一つ残っていない…!?もしあの瓦礫の隙間に入り込んだとしても、服の汚れも何もないというのは――」

【――素体の覚醒を確認、オペレーションを開始します】

海未「!?」

天井の隅に取り付けられたスピーカーと思しきものから機械的な音声が流れてくる。

【オペレーションフェイズ1、システムの適合および転送の既済を確認、フェイズ2、状況の説明を開始します】

【素体名 園田海未、あなたの肉体は人間のものから怪人のものへと造りかえられています】

海未「な、なにを言っているのですか!?そんなことを言われて信じるとでも――」

【事実の説明のみを行っています。あなたの肉体は一度致命的な損傷を受け、生命活動の維持が困難となったため、感情エネルギーでの補填を行っています】

8 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 19:01:15 ID:.NYd9Kao
海未(感情エネルギー…確かヒーローシステムの運用にあたって実用化に成功したエネルギーのはずですが、なぜここでそんなものが?)

【それに伴い、あなたの生命活動は感情エネルギーに依存します。それでは、左腰部に転送、装着が完了しているシステムを確認してください】

海未「左腰部…これは、鞘に入った日本刀でしょうか?」

海未の左の腰にいつの間にか取り付けてあるのは、機械めいた見た目をした日本刀…だがその長さは30〜40cmと小型の脇差ほど。

【そのシステムは、怪人体へ変異するためのシステムであり、感情エネルギーの収集機能も備わっています。あなたの生命を維持するのに必要な感情は】

【負の感情】

9 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 19:04:43 ID:.NYd9Kao
海未「なっ…何を――!?」

【怒り、悲しみ、憎しみ、恐れ、妬み、それらの感情を、悪の組織の一員として収集していただきます。先ほど説明した通り、この行為にはあなたの生命維持という目的も含まれています】

海未は逡巡する――テレビの中で繰り広げられる怪獣や怪人による暴虐、それに自分が加担する…自分の命さえ投げ出せばそれは避けられる。


しかし――


海未「そんなのは最初から決まっていましたね」

――海未ちゃん!!

海未「私の幼馴染に、あんな顔をさせるわけにはいかない!」

【意思を確認しました。それではシステムへの声紋認証を行ってください。変異完了後、転移を行います】


海未(いつもテレビの向こう側で憧れを込めて見ていたあの行為…まさか反対の立場で行うことになるとは…)


海未「変身!!」

10 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 19:40:35 ID:.NYd9Kao
海未「ここは…私が瓦礫に飲まれたところからはあまり離れていないようですね」

気付くと、海未はマンションの屋上に立っている。そんな唐突な移動にも海未は驚かずに現状を整理していく。

海未(恐らくあの声が言っていたように転移させられたというわけですね…そして、この状況からすると、時間も20〜30分ほどしか経っていない…他には――!?)

頭がパンクしそうな状況でも冷静さを失わなかった海未だったが、ここにきて思考を停止させる。

海未(なんですか、これは!)

それは、自分の姿――マンションの屋上に立つものが園田海未だと判断できる材料はあまりにも乏しかった。
身長、体形、そして長い黒髪くらいでしか彼女を彼女だと見せるものがない。

海未の体は、漆黒の剣道着を模したスーツを基本とし、要所要所が鋭角的なアーマーで包まれている。さらに顔はすっぽりと黒い仮面で覆われており、その見た目はまさに――

海未「悪の怪人というわけですか…」

さらに腰に取り付けられていた脇差のようなシステムはいつのまにか1mを超えるほどの日本刀となっている。

11名無しさん@転載は禁止:2017/07/30(日) 19:43:05 ID:.NYd9Kao
海未「この刀が勝手に感情を収集してくれるようですね」

海未がその刀に目を向けると、町のあらゆるところから、どす黒い煙のようなものが立ち上り、それが刀に吸い込まれていく。

海未「しかし、あの時に現れた怪獣はいったいどこに消えたのでしょう…?あれと戦わなければならないかと思っていましたが…」

海未「そういえば、穂乃果がまだ私を捜し回っているかもしれませんね…一刻も早く無事を知らせて――っ!?」

その瞬間、海未は自分の身に迫る危険を察知し瞬時にその場を跳躍し逃れる。

「イグニションレーザー!!」

海未「最悪です…!この技は…!」

その姿は海未とは対極の太陽のような衣装、そして巨大な杖を手にする少女。

「おまたせ!魔法戦士ホムラだよ!」

12 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 19:44:36 ID:.NYd9Kao
海未(マンションの屋上で黒い煙を吸い込む黒ずくめ…こんなのヒーローに狙われるに決まっています!なぜ一刻も早く逃げなかったのか!)

海未「ですがホムラの戦い方はテレビで見て知っている…逃げきれないほどでは…」

「面舵いっぱーい!」

海未「んなっ!?」

海未が着地してきたところに突っ込んできたのは巨大な錨――海未はこの技もテレビ越しにではあるがよく目にしている。

「キャプテンアンカー到着であります!」

姿を現したのは、海軍の制服を思わせるアーマーに身を包み、頭はどういう組み合わせか海賊の帽子を模した仮面に包んだ少女。

声の高さと体格から、おそらく海未と同年代であろう彼女もまた、この付近を中心に活躍するヒーローである。

そしてさらに――


「瞳に翠玉、髪に黒曜!胸に秘めるは――」


海未の背後に現れたのは、黒く艶やかな髪をなびかせて西洋の鎧を思わせる鎧に身を包み、細身のレイピアを携える少女。

「珠玉騎士ジュエル、見参ですわ!」

毎回長い口上を最後まで言い切ってからでないと戦い始めない彼女だが、高い実力を持つヒーローである。その口上にどんな意味があるのかは謎に包まれている――

13 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 19:45:34 ID:.NYd9Kao
海未「この地域の有力ヒーローが揃い踏み!?なぜこうなるのです…!」

「怪人は全てこのわたくしが始末させていただきます!」

海未「ええい、考えていても始まりません!生き延びさせてもらいます!」

海未(しかしこんな超常のヒーローに対し、私にあるのは刀がひと振り…どうすれば)

海未「待ってください!こちらの話を――」

「何を寝ぼけたことを!この町の被害、知らず存ぜぬが通るとでも!?星の瞬きに消えなさい!スターラピスラズリ!!」

ジュエルがレイピアを掲げるとそこに現れるのは夜空のような藍色の空間、そしてそこから無数に放たれる純白の光弾はその名が示すように満天の星。

海未「や、やはり無理です!!」

そう叫ぶと同時に海未は身を翻し、三人のヒーローたちに背を向けて逃げ出す。

「敵に背を向ける気ですか…!お待ちなさい!」

14 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 19:47:09 ID:.NYd9Kao
海未「なんとか撒けましたか…」

海未はどこをどう逃げてきたのか、ヒーローたちを振り切って路地裏に逃げ込み、変身を解く。

海未「この刀はカバンに入れて、と…あとは避難が遅れた風を装って学校に向かえばおそらく怪しまれたりはしないはず…」

そのまま学校に向かってもよかったのだが、海未の頭に浮かぶのは無鉄砲な幼馴染の顔。

海未「まだ私を捜して走り回っているかもしれませんからね…放ってはおけません」

海未は怪獣によって瓦礫が散らばったところを走り回る覚悟を決めるが、少し走ったところで自分よりも少し小さい影とぶつかる。

海未「す、すみません!人を捜していて…って、穂乃果…!?」

穂乃果「う、海未ちゃん…?海未ちゃんだ…!よかった…!生きてる…!!」

海未「心配をかけてしまいましたね…けれどもう大丈夫です」

海未(泣いているのか笑っているのか…けれど穂乃果らしい顔です)

海未「ほら、もうどこにも行きませんからそろそろ離してください!制服が鼻水でべとべとになってしまいます!」

穂乃果「だって…海未ちゃんが死んじゃうかもって…心配で…」

海未「…」

海未「大丈夫、この通り元気です…それに幼馴染はもう一人いるんですから、早くことりにも会いに行きましょう」

15 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 20:06:48 ID:JXXZrD8w
「○○ちゃんは!?」

「さっき到着してたけど怪我が…」

「よかった…パパもママも無事だった…!」

「ホムラが怪獣を退治したらしいよ!」

ことり(海未ちゃん…穂乃果ちゃん…お願い、無事で…!)

「近隣の人の受け入れも理事長から許可が出ているから講堂の方に通して!浦女の方にも受け入れができるか今連絡を取っているから――」

ことり「あれって…?あ、あの!生徒会長さん!」

絵里「あら?えっと…南さん、で合ってたかしら?」

ことり「はい!えっと、私の友達とはぐれちゃって、それで…2年生の高坂穂乃果と園田海未っていう子なんですけど…」

絵里「分かったわ、少し待っていてちょうだい?2年生っと――うーん…まだ到着はしていないみたいね」

ことり「そう、ですか…」

絵里「けど、音ノ木坂の生徒が病院に運び込まれたという連絡も受けてないから無事だとは…あら?もしかして、あの子たちじゃないかしら?」

絵里が指さす方をことりが見ると、そこには大好きな幼馴染の二人の姿。

ことり「穂乃果ちゃん!海未ちゃん!!あっ、生徒会長さん、ありがとうございました!」

絵里「いいえ、私は何もしていないしね?今度からははぐれないようにしてあげなさいね」

ことり「はいっ!」

16 ◆JaenRCKSyA:2017/07/30(日) 20:07:40 ID:JXXZrD8w
〜〜〜〜〜

希「えーりち、また眉間にシワよってるよ?考え事?」

絵里「希…ええ、今日のことについて少し、ね」

希「怪獣の転移検知、やね…30秒前の検知ってことは…」

絵里「何かの邪魔が入った、と考えるべきなのかもしれないわね」

希「けどうちらにできることなんて、ね」

絵里「ええ、それでもやれることを――やるべきことを進めるだけよ」

17名無しさん@転載は禁止:2017/07/30(日) 21:32:55 ID:RsBVJUc.
面白い世界観
期待

18名無しさん@転載は禁止:2017/07/30(日) 23:51:44 ID:mkB2Cq4.
ヒーローアカデミア的な感じだね

19名無しさん@転載は禁止:2017/08/04(金) 21:36:16 ID:ku741g5U
その身に起きた事の大きさに反して、あれから海未の生活が劇的に変化したわけではなかった。

海未(それでも、ヒーロー絡みのニュースは嫌でも目に入りますね…)

『今月○日に起きた無差別凍結事件、これを警察は怪人グレイシアによるものと――』

『魔法戦士ホムラ、キャプテンアンカー、珠玉騎士ジュエルの追跡をかわした怪人の行方はいまだ――』

『民間企業初めて月面への有人探査機着陸に成功したSWコーポレーションが、月面での研究所の建設に着手――』

『今月×日に怪人モビィディックの引き起こした大規模な浸水による被害ですが、建物や地下鉄の浸水等が報告されていましたが、死傷者は出ておらず――』

海未「今日は何事もなく過ごせればいいのですが…」

あの騒動の後に買い物になど行けるはずもなく、週末に延期になっていたのだった。

海未「……本当ならば持っていきたくもありませんが、身に着けておいた方がいいでしょうね」

海未は、日本刀の形状のシステムをカバンに無造作に詰め込み、家を出る。

20 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 21:45:48 ID:ku741g5U
海未「少し早く着きすぎてしまいましたね…遅れるよりかはいいのですが」

海未(手持無沙汰ですし、少し見て回ってみましょうか)

フロアガイドでも見ようかと歩き出した所で後ろからぶつかられてしまう。

「ピギッ!ご、ごめんなさい…急いでいて…!」

「もう!だから走るなって言ったじゃない!」

「ふ、二人とももうちょっとゆっくり走ってほしいずら…あの、本当にごめんなさい…!」

ぶつかってきた勢いのまま三人は走り去って行ってしまう。

海未「気を付けて…!って聞こえていませんね…」

ぶつかってきたのが穂乃果だったらきつく叱っているのに、と考えてクスリと笑う。

海未「ですが何をそんなに急いでいたのでしょうか…終わりそうなタイムセールがあるわけでもなし…」

ふとあたりを見回すと、ツインテールの少女の写ったピンク一色の大きめの立て看板が目に入る。


『愛され系アイドルヒーロー・プリティ♡スマイルのラブリーライブ!屋上広場にて開催!』


海未「これ、でしょうか…」

21 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 21:56:27 ID:ku741g5U
ヒーローシステムが普及した今、システムに適合さえすれば一瞬で姿を変えることができるためヒーローシステムを使ったアイドルが増えている。

海未(けれど、ことりはこれに怒っていましたね…曲やその時に合わせた衣装を着るべきだ、なんて言って)

そこまで考えて海未は、さっきから思い浮かぶのは幼馴染の事ばかりだとおかしくなり口元を押さえる。

穂乃果「うーみちゃーん!お待たせー!…わっ、海未ちゃんがアイドルの看板の前でニヤニヤしてる!」

ことり「きっと穂乃果ちゃんが考えてるようなことじゃないと思うな…けど珍しいね?」

海未「開口一番穂乃果は変なことを言わないでください…実はさっき――」

海未は先ほどあったことを説明する。

穂乃果「へー…私はこういうの詳しくないからよく分かんないけど、人気なのかなあ?」

ことり「秋葉原のあたりで人気が出てるアイドルで…確か音ノ木の人じゃなかったかなぁ」

海未「学生がやっているのですか!?なんて破廉恥な…」

穂乃果「さすがにそれは言いすぎじゃない…?ほらほら!もう行かないと時間なくなっちゃうよ?」

ことり「えへへ、そうだね?今日楽しみにしてたんだぁ」

22 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 22:06:18 ID:ku741g5U
穂乃果「ほら!絶対似合うって!着てみないと分かんないってば!」

海未「無理です!そんな布面積の少ないものなんて服ではありません!下着と同じです!」

ことり「あはは…」

試着室に海未を押し込めながら穂乃果が手にしているのはデニム地のホットパンツとへそが見えるほどのショート丈Tシャツ。
穂乃果とことりからしたら珍しく、海未が自分の私服を買いたいから付き合ってほしいと言い出したのだった。

穂乃果「海未ちゃんが頼んできたんじゃん!自分では何が似合うか分からないから見繕ってほしいって!」

海未「それはそうですが私は着せ替え人形ではありません!それにこういう時にはことりを頼りにしているんです!」

ことり「ほ、穂乃果ちゃん?私もそういう服着た海未ちゃんは見たいけど、そろそろちゃんと選んであげよう?」

海未「そうです!ことりもこう言っていますし…え?」

ことり「ほら、海未ちゃんってすらっとしてるからそういうのもきっと似合うと思って…」

海未「それは嫌味ですか…?」

ことり「ピィ!?な、なんでそうなるの!?」

海未「いえ、何でもないならいいのです…」

穂乃果「ほら、ことりちゃんも見たいって言ってるし…」

海未「あなたは調子に乗らない」

23 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 22:15:38 ID:ku741g5U
ことり「やーんかわいいー…!じゃあ次はこれね!他のも取って来るから着替えててね!」

試着室に押し込まれ、ことりが持ってくるままにシャツワンピース、フレアスカートにGジャン、キュロットにテーラードと目まぐるしく着替えていく。

穂乃果「…ねえねえ海未ちゃん」

海未「…なんでしょうか」

穂乃果「私が何かするよりも着せ替え人形になってない?」

海未「それは言わないでください…」

ことりは真剣に選んでくれているわけですから、と言い訳をするように口にするも、

穂乃果「それって断れないから逆に大変じゃないかな?」

と言われると何も言えなくなってしまう。

ことり「海未ちゃーん!次はこれを…」

そこへことりが持ってきたのは異様に丈の短いワンピース。

穂乃果「真剣に選んでる…?」

海未「…」

24 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 22:29:27 ID:ku741g5U
ことり「えへへ…楽しかったあ…」

穂乃果「ことりちゃんなんかつやつやしてない?」

海未「なんだかすごく疲れた気がします…けれど、二人とも付き合ってくれてうれしかったです」

穂乃果「いいのいいの!幼馴染なんだから!…って言っても私何にもやってないんだけどね」

海未「いいえ、そんなことはありませんよ?それに、こうやって三人で出かけられること自体がかけがえの無い時間なのですから」

ことり「なんだかこんなに面と向かって言われると照れちゃうよお…」

穂乃果「海未ちゃん急にポエマーになるんだから…」

海未「うう、やっぱり忘れてください…」

ことり「けど、どうして急にお洋服を選んでほしいなんて言ったの?」

穂乃果「そうそう!私もそれ聞きたかった!」

海未「そんなに大した理由があるわけではないのですが…中学生の時までは、服は姉さんに選んでもらっていましたから、これからは自分で買う必要があるでしょう?」

穂乃果「あ、そっか…」

ことり「あぅ…」

25 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 22:35:49 ID:ku741g5U
海未「ほら、そんな顔をしない!しょげかえっていたら、姉さんにも怒られてしまいますよ?」

穂乃果「…そう、だよね!」

ことり「うん…!これからは海未ちゃんのお洋服は私たちに任せてください!」

海未「ええ、そう言ってくれればきっと姉さんも安心します…さて、これからどうしましょうか?どこかお店に入ってお茶でも――」

海未が言いかけた時、天井に取り付けてあるスピーカーからポーン、と無機質な音が響く。

『て、店内に小型怪獣と怪人が侵入しました!各階の避難設備へ落ち着いて避難を行ってください!繰り返します!――』

26 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 22:42:04 ID:ku741g5U
その繰り返しの放送が海未達の耳に入ることはなかった。
時が止まったように天井を見上げて放送に聞き入っていた、周囲の人が一つの悲鳴を号令とするかのように駆け出し始めたのだ。

海未「二人とも!私たちも急ぎますよ!」

海未は返事も待たずに両手で幼馴染の手を握りしめて焦りを抱えて走り始める。

海未(このパニック状態では他の人の避難を待たずに避難所が閉められかねない…!)

走り始める時に二人が転んでしまわないかと不安が頭をよぎるも、握った手に重みを感じることもなくひとまず胸をなでおろす。

海未(大丈夫、この階の地図は頭に入っている、それに周りから大きく離されなければ避難所に入り損ねることもないはずです)

27 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 22:48:27 ID:ku741g5U
ことり「はあ、はあ…」

穂乃果「もう少し…だよね…?」

海未「ええ、もうすぐそこです!」

三人一緒に走ることでどうしてもスピードが落ちてしまい気付くと集団の一番後ろになってしまっていたが、海未は大丈夫だと自分に言い聞かせる。

海未(避難設備の扉は安全のため、閉まる前にブザーが鳴るはず…それが聞こえないうちは――)

しかし、三人の視界の先に避難設備が見えたところでブザーが鳴り響く。

ことり「ほ、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、私はいいから、二人は急いで――」

海未「ありえません!」
穂乃果「絶対ダメ!」

海未「大丈夫、間に合います!」

そして、ゆっくりと頭上から降りてくる扉をついに三人は潜り抜けた。

28 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 22:57:46 ID:ku741g5U
ことり「はあ、はあ、はあ…」

穂乃果「きっつい…けど残されてる人とかいないよね…?」

海未「私たちが最後尾だったはずなので――!?」

海未は視界の隅、閉まる扉の先に細く、小さい足をとらえる。

海未(仕方ない、ですね…!)

海未「絶対に戻ります!」

声と共に、二人に選んでもらった買い物袋を後ろ手に押しやり、二人の息をのむ音も背中に受け流しながら自分の腰ほどの高さにまで降りた扉に駆け出す。

海未(間に合え…!)

今日一日幼馴染にも中身を見せないよう気を付けていたカバンを胸に抱きかかえ、スライディングの要領で扉をすり抜ける。長い黒髪をタッチの差で逃すようにして扉は完全に空間を隔ててしまう。

「お、お姉ちゃん…」

海未の前には、親とはぐれてしまったのだろうか、はんべそになった幼い少女。その不安を取り除くように、自分を奮い立たせるように笑顔を浮かべて話す。

海未「もう大丈夫、私が一緒です」

29 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 23:14:21 ID:ku741g5U
海未(とは言っても、どうするべきか…)

やみくもに動き回ったところで、侵入したという怪獣か怪人に遭遇しては意味がない。

海未(恐らく警備員なら避難設備の扉を開けて入ることができるはず…ですが――)

やはりネックになるのが怪獣と怪人の存在。

海未「…これしかありませんね」

海未は軽く息を吐き出すと、避難設備から唯一持ち出した自分の鞄を開き、漆黒の刀を取り出す。

「お姉ちゃん、それなあに?」

海未「すぐに分かりますよ――それと、お姉ちゃんは悪い人ではないので、びっくりしないでくださいね?」

身をかがめ、少女と目線を合わせるようにして声をかけ、すぐに背中を伸ばす。その手に取った刀を腰に当てがい。

海未「変身!」

その体は黒く染まる。

30 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 23:22:00 ID:ku741g5U
「わああ…お姉ちゃんって怪人だったの…?」

海未「え、ええ、ですが正義の心に目覚めた怪人なのです」

「そうなんだ…!かっこいい!」

海未「ふふ、頼りにしてくださいね?――絶対に、お母さんに会わせてあげます」

なぜ海未がわざわざ怪しまれる怪人へ変身したのかは、生身のままで少女と歩いているところを怪獣か怪人に遭遇してしまえば、問答無用で襲われてしまう。しかしこちらが怪人の姿でいることで出合い頭に攻撃されることはないだろうとの考えだ。

しかし、怪人の姿では救助に来たヒーローに敵視されてしまう可能性を秘めている。それを海未は考えた末、少女を連れていることで相手が攻撃を躊躇うと踏んだ。

海未「そういえば、お母さんは今日どんな買い物をするのかとかは言っていましたか?」

「うーんと、服を買って、洗濯バサミと洗剤と、それと…本屋さんに行きたいって言ってた、と思う…」

海未は買い物をする前に確認していたフロアガイドを頭に思い浮かべる。

海未(婦人服はこの階、本屋に薬局、百円均一は一つ上の階…このあたりには警備員の姿が見えませんから上の階を目指すのがいいですね)

海未「それでは出発しましょうか」

31 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 23:33:42 ID:ku741g5U
海未と少女は階段を使って一つ上の階へ上る。警備員は避難設備からそう遠く離れるはずもないだろう、と考え、頭の中の地図を頼りに足を進める。

海未(このまま何事もなく無事なところまで送り届けられればと思いましたが…そううまくはいきませんか)

この階の休憩スペースのようにベンチがいくつか置かれた開けた場所に、狼のような姿をした怪獣が何頭もうろついていた。海未は手のひらを後ろに向けて少女に動かないよう示す。

海未(この階を移動するならここを通り抜けるのは必須…何とか見つからないように…)

海未は少女の手をしっかりと握り、小声で話しかける。

海未(そこの植木の影を通って向こう側まで走り抜けますが、お姉ちゃんが手をつないでいますから心配しないでくださいね)

(う、うん、わかった…!)

海未はその黒い姿をまるで影のように静かに躍らせて障害物を怪獣の間に挟みながら駆け出す。

海未(もう、少し…!お願いですから、気が付かないで…!)

しかし、あと少しで広場を抜けられるかといったところで、怪獣たちが顔を上げ、耳と鼻をしきりに動かし始める。

そして、臭いを嗅ぎつけたのか、一斉に海未と少女の方を向く。

32 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 23:38:14 ID:ku741g5U
海未(刀を…!?いや、それよりも…!)

海未はこちらが怪人なのだから襲われはしないと思い直し、刀の柄にかけた手を放し、怪獣の群れに向ける。

海未「いいですか、私は怪人です…!今はまだ待機していなさい…!いいですね!?」

海未は左手で背後の少女をかばいながら怪獣に強く言葉を投げる。
怪獣は喉を鳴らしながら海未を、いや、海未の背後の少女のことを睨んでいたが、やがて海未の視線に押されるようにして顔を背けていく。

「お姉ちゃんすごい!」

海未「ふふ、伊達に怪人ではないんですよ」

内心では冷や汗をかいているのだが、少女を不安にさせないように余裕を見せながら海未は答える。

海未(ですが、怪獣はこれで何とかなることが分かりました…あとは、警備員を見つけること、それに――)

怪人までもがそう簡単に騙されるとは思えない、海未はそう考えてこの少女をできるだけ早く保護できるよう祈った。

33 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 23:41:08 ID:ku741g5U
海未の願いはすぐに叶うことになる。避難設備に続く通路、そこを守るように二人の警備員が立っていたからだ。

しかしその警備員は警棒を手に持ち、警戒しながら海未を見据えている。それも当然だろう、全身を黒い鎧で覆った怪人が少女を連れて歩いて来ているのだから。

「止まれ!そしてその少女を離すんだ!」

「待って!お姉ちゃんは――」

言い切る前に海未は少女の口をふさぎ、片膝となり少女と同じ高さから小声で話しかける。

海未(お姉ちゃんの事は二人だけの秘密です…これから私は他の取り残された人を助けに行きます。なのでここからはあのお兄さんたちについて行ってください)

少女は声は出せなくとも、不安そうに海未の方を見つめる。

海未(大丈夫、あのお兄さんたちと一緒にいればお母さんと会えますからね)

「おい、聞いているのか!その子から離れるんだ!」

海未「…ここで事を構えるのも面倒ですね――引かせていただきましょう!」

精一杯自分のイメージする悪人声を出し、芝居がかったようなセリフと共に後方へ跳躍、着地するとともにその場から背を向けて走り去っていく。

34 ◆JaenRCKSyA:2017/08/04(金) 23:44:38 ID:ku741g5U
海未(各階の避難設備ですが、唯一屋上にだけはそれがありませんでした――逃げ遅れた人がいるならそこ!)

海未は今日このショッピングモールに着いた時のことを思い起こす。なんらかのイベントがあるのなら確実に人は集まっているはずだ。

海未(往復することになりますが、仕方ありませんね)

自分の足と人命となど比べるまでもない、そう胸に呟き海未はフロアを駆け抜ける。

海未(またあのスペースを通る羽目になるとは…襲われないと分かっていても緊張はするんですよね)

先程少女と共に怪獣と遭遇した広場にたどり着くも、海未は自分の記憶と目を疑う。

海未(怪獣が、いない…?道を――いや、間違えるはずがありません、ならどうして――)

「スターラピスラズリ!」

背後から聞こえた声と同時に海未の体に衝撃が走る。

海未「がっ…!」

床に投げ出されながらも必死に体を起こし、自分に攻撃を仕掛けてきた相手の姿をとらえる。銀色の鎧に身を包み、レイピアを手にしたヒーロー。


海未「珠玉騎士、ジュエル…!」

35 ◆JaenRCKSyA:2017/08/05(土) 00:31:03 ID:8mKCrIPQ
「あの時の怪人…!今日も逃げられるとは思わないことです…!」

海未「待ってください!私は争うつもりは――」

「滅ぶべき怪人に交渉の余地などありはしません!」

言うが早いか、ジュエルは滑るように距離を詰めてレイピアで刺突を繰り出す。

海未(刺突を受け止めるのは困難…!それなら――)

海未は刀を鞘から抜く勢いのまま、居合いのようにしてレイピアを打ち払う。そしてレイピアの軌道がそれたことで無防備となった体をめがけて蹴りを放つ。

「小賢しい…!」

しかしジュエルは刀からの衝撃に逆らわずに体を回転させ、回し蹴りのように海未の脇腹へ足をめり込ませる。

海未「かはっ…!」

こみ上げる吐き気をこらえながらも、蹴り飛ばされるがままに距離を取り刀の切っ先をジュエルへと向け続ける。

「距離を取ったところで意味がないと知りなさい!燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!!」

レイピアを海未に向かって振りかざすと、そこから生まれるのは紅蓮の炎。それは蛇が鎌首をもたげるようにうねり海未を飲み込もうとする。

36 ◆JaenRCKSyA:2017/08/05(土) 00:37:48 ID:8mKCrIPQ
海未「んなっ!?こんなのをまともに食らったら…」

海未はとっさに身を翻し、熱気を背に感じながら必死に駆け出す。しかし振り切ろうとする動きに合わせて炎は追ってくる。

「諦めて灰になりなさい!」

海未「そういうわけには――いきません!」

間近にまで迫ってきていた炎をギリギリまで引きつけたうえで海未は肩を床に叩きつけるように転がって逃れる。直撃は避けたものの、地を撃つ炎の余波が周囲に撒き散らされ、海未もその熱波に揉まれる。

海未「ぐっ…!なぜそこまで…」

海未を睨み付ける緑色の瞳には燃えるほどの憎悪が見て取れる。

海未(珠玉騎士ジュエル――浦の星女学院生徒会長、黒澤ダイヤが自らの素性を明かして活動をしているヒーローだったはずですが…いったい何が彼女をここまで突き動かしているのか…)

しかし海未には悠長に思考を巡らせている暇は与えられていない。炎が周囲を焼き尽くした際の灰や煙が姿を隠しているうちに海未はジュエルの眼前に躍り出る。

37 ◆JaenRCKSyA:2017/08/05(土) 00:46:23 ID:8mKCrIPQ
海未「やああっ!」

海未は右肩に担ぐようにして振り上げた刀を斜めに切り下ろす。

「甘いですわ!」

海未の動きを予測していたジュエルは力むことなくレイピアを水平に構え、その刃に添わせるようにして刀をいなす。本来レイピアは突き刺すことに主眼を置いた武器ではあるが、そこから体を開くようにして斬撃を繰り出す。

海未「こ、のっ!」

海未はそれを膝を曲げて体勢を低くすることでかわす。さらに海未のその動きは避けるだけにとどまらない。縮んだばねが元に戻ろうとするように、曲げていた膝を思い切り伸ばしてジュエルの懐に入る。
そして屈む瞬間に左手で逆手に持ち替えた刀で飛び出す勢いのままに撫で斬る。

「ぐぅっ!?」

当然纏った鎧によって体が斬られることはないものの、その衝撃は身体に伝わりその動きを鈍くする。

その隙を逃さず、海未は踵を返し刀を振り上げながらジュエルへと迫る。

38 ◆JaenRCKSyA:2017/08/05(土) 00:55:41 ID:8mKCrIPQ
「怪人風情が調子に…!猛るは大地の怒り!バルジトパーズ!」

海未の刀が届く直前、ジュエルがレイピアを地に突き立てると海未の真下の地面から茶色の大岩が突き上がり、その身を吹き飛ばす。

海未(ま、ずい…!空中で狙われてはよけることなど…!)

「星の瞬きに散りなさい!スターラピスラズリ!」

ジュエルがレイピアを頭上に掲げると同時に紫色の空間が出現、そこから間をおかずに放たれる純白の光弾が海未を襲う。

海未(ヒーローシステムは声紋照合によってコアを活性化させ、システムに記憶させている技を放つ――それならばこの刀でも…!!)

海未「閃刃・裂空!」

宙に投げ出された状態から、自分に迫りくる光弾へ向けて刀を振り抜く。その軌跡は黒い衝撃波となってジュエルが放った光弾とぶつかり、相殺する。

39 ◆JaenRCKSyA:2017/08/05(土) 01:02:08 ID:8mKCrIPQ
「この程度ではやられないということですか…けれどいつまでもそうやって逃げられると思わないことです!」

互いの攻撃がぶつかりあった際に生じた煙の中、ジュエルは声を張り上げる。

そして煙が晴れた時にジュエルが目にした光景は、窓ガラスへと駆けていく黒い影であった。

「んなっ!?またしても敵に背を向けるつもりですか!?」

海未はそんな声を気にすることもなく、窓ガラスを蹴破り外へと身を躍らせる。

「ここは6階――ですがそんなことは関係ないでしょうね…次こそは必ず打ち滅ぼしますわ…!」

そう呟いてジュエル――いや、ダイヤは自らの変身を解除し、黒い髪をなびかせながら頭を振る。そしてはっとしたように動きを止める。

ダイヤ「そうでした、あんな怪人などにかまっている場合ではありません!ルビィを探さなくては!」

40名無しさん@転載は禁止:2017/08/05(土) 15:56:15 ID:dqHiWLq6
お、更新きてた

41名無しさん@転載は禁止:2017/08/07(月) 19:04:10 ID:8Y.iHv7s
待ってたわよ。

42名無しさん@転載は禁止:2017/08/12(土) 13:52:51 ID:tAW3IKNc
待つわよ

43 ◆JaenRCKSyA:2017/08/14(月) 23:37:51 ID:yCrBUtPM
海未「追ってきては、いないようですね…」

海未は砕け散ったガラス片の中で膝をつき呼吸を整える。
しかしそこはショッピングモールの外ではなく、いまだフロアの中。しかし先ほどまで海未が戦っていた階の一つ下であった。

ガラスを蹴破り外へと飛び出した海未は、手にした刀を壁面に突き刺し固定することでそこを支点とした振り子のように体を一つ下の階へと投げ込んだのだ。

海未「寿命が縮むかと思いましたが…命があるだけ良しとしましょう」

海未(さて、当初の目的通りに屋上へ向かいますか…幸い、さっきの無茶でこの体の使い方が分かりました)

愚直に階段やエスカレーターを使ってフロアを移動していったのでは、いつまたヒーローと出くわすか分からない。そう考えた海未が向かったのはエレベーターホール。

もちろんエレベーターは使用中止のランプが点灯しており、その全てが海未のいる階よりも下に止まっている。

海未「これなら好都合ですね」

そう独り言ちて、一瞬の躊躇ののちにエレベーターの扉を縦横無尽に斬り刻み、真っ暗なエレベーターシャフトを覗き込む。

海未「はあ…こうなるともうまるっきり人外のそれです、ねっ…!」

嫌そうに目をぎゅっと閉じたのは一瞬のこと、海未は暗い空間の奥にある壁に向かって飛び込んだ。

44 ◆JaenRCKSyA:2017/08/14(月) 23:40:45 ID:yCrBUtPM
海未は跳躍した先にある壁が目の前に迫ったところでタイミングよく壁を上向きに蹴り出し、反対側の壁に向かって飛び移る。

海未(いったい何度こんなことを続ければいいのか…)

屋上は先ほどまで海未がいた階の3つ上であり、壁を蹴り出すことでのぼれる高さは微々たるものだ。
幸いなことに怪人に変身しているおかげで体力がなくなる心配はしなくてもよさそうではあるが、気の遠くなることには違いない。

時折、頭上から降りているワイヤーに飛びついてしがみつきながら上へ上へと昇っていく。

海未「ようやく…!」

暗い中に天井が見え、さらに壁面に先ほどまでに何度か通り過ぎたものと同じ扉が目に入る。

海未「ふっ!」

海未はその扉に飛びつきながら刀を振るい、肩をぶつけるようにして扉の残骸を崩して屋上へと転がり出る。

海未「疲れました…精神的に、ですが…」

45 ◆JaenRCKSyA:2017/08/14(月) 23:50:52 ID:yCrBUtPM
屋上広場にはイベント用の簡易ステージ、そしてその前に整列していたはずのベンチがなぎ倒されている。

海未(ベンチは倒れていますが、血がついていたりということはない…犠牲者は出ていないと願いたいものです…)

そして海未は、簡易ステージの横にある建物に目を止める。屋上に唯一存在する建物であり、おそらくそこはフロアスタッフの事務所やイベント出演者の控室として使われているのだろう。

海未(逃げ遅れた人がいるならここしかないでしょうね)

海未はその建物に慎重に近づき、ゆっくりとドアノブを回してドアを開いていく。中を覗き込むと、通路の壁に一つドアが備え付けられており、そのすぐ先に曲がり角がある。

海未(ドアには大きめののぞき窓、ここから見える分には中に誰もいない…ですが、問題はその先の曲がり角)

海未(もし怪人が中に入り込んでいるとしたら、ドアを開けた音でこちらの侵入はばれている…そしてそこの角は待ち伏せをするには絶好の場所――刀で牽制をするべきか)

そう心に決めた海未は、曲がり角まで息を殺して進む。通路の壁に体を押し付け、刀を構えて呼吸を落ち着かせる。

海未(よし…行きます!)

角から躍り出て切っ先を通路の先に向けた海未の眼前には、桃色の銃口が突きつけられていた。

46 ◆JaenRCKSyA:2017/08/14(月) 23:52:09 ID:yCrBUtPM
「悪いけど、こっから先は一歩も通さないわ」

海未に銃を向けて立っているのはピンク色でファンシーな衣装に身を包んだツインテールが特徴的な少女。

海未(今の言葉、そしてこの姿…怪人ではない!)

海未「待ってください!私は避難し遅れた人を助けに来たのです!」

海未は両手を頭上に挙げ、敵意が無いことを示すが少女の刺すような視線は変わらない。

「はあ?そんな見るからに怪しい黒ずくめで何言ってんのよ?今すぐ消えないと撃つわよ」

海未「もう分かりました…!これなら信じてもらえますか!?」

ジュエルから問答無用で襲い掛かられたことを思い出し、海未がもはややけくそ気味に自身の変身を解いてみせると、少女も態度を少し和らげてみせる。

「ちょ、正気?けど、明らかにあんた怪人よね…?」

海未「不本意ながら怪人に身をやつしています…あ、そうです!正義の心に目覚めた怪人なんですよ!すごいでしょう!」

「子ども扱いすんじゃないわよ!」

階下での少女とのやり取りを思い出して口にするも、目の前の少女からは怒鳴られてしまう。

47 ◆JaenRCKSyA:2017/08/14(月) 23:59:05 ID:yCrBUtPM
「っはあー…ま、一応は信じてあげるわ、ほんとに襲ってくるつもりならわざわざ変身なんて解かないだろうし」

そう言って少女は銃を下し、興味深そうに海未の事を見つめる。

「それにしても、女の子があんなにいかつい格好してたのね…」

海未も緊張が解け、ようやく目の前の少女の事を観察できる。

「あによ、人の事じろじろ見て」

海未の頭の中で少女の姿と、今日ショッピングモールに着いた時の記憶が重なっていく。

海未「…ああ!もしかして怪しい系アイドルヒーロー・ぷりぷりスマッシュでしょうか!」

「愛され系アイドルヒーロー・プリティ♡スマイルよ!バカにしてんの!?」

海未「す、すみません、そういったものに疎くて…音ノ木の生徒と聞いていましたがまさか1年生とは…」

「3年生よ!」

海未「と、年上…!?」

「どこ見てしゃべってんのよ!!」

48 ◆JaenRCKSyA:2017/08/15(火) 00:10:16 ID:AJYCm3hs
「あーほんとバカバカしくなってきた…」

海未「なんだかすみません…あの、話を始める前に名前を聞いてもいいでしょうか?」

「もう忘れたの!?だから愛され系――」

海未「いえそっちではなく!名前で呼び合った方が便利かと思いまして…っと、先に私が名乗るべきですね――園田海未、音ノ木の2年生です」

「あー、そういうことね…ま、いいわ、にこ、矢澤にこよ」

海未「にこ先輩、ですね、これからよろしくお願いします」

にこ「よろしくされても困るんだけど…ま、こうしてあったのも何かの縁よ、呼び捨てで呼ぶことを許してあげるわ」

海未「分かりました、にこ」

にこ「遠慮ってもんはないのね…」

にこは独り言ちるも、にこにこ顔の海未には聞こえていないようだった。

49 ◆JaenRCKSyA:2017/08/15(火) 00:21:07 ID:AJYCm3hs
海未「さて、にこのさっきの言動から察するにこの奥に逃げ遅れた人がいるのですね?」

にこ「ええ、人数で言えば20人くらいかしら…私のイベントが終わってからも屋上に残ってる人がいたからね」

海未「20人、結構多いですね…その人たちを連れて避難設備まで行くことは?お客さんも高校生や大人が多いのでしょう?」

海未は今日、ショッピングモールの入り口で自分にぶつかってきた三人の姿を思い浮かべながら話す。

にこ「いや、その時のイベントがちょうどちびっこ向けの時間帯でね…もう一つ早い回なら大人ばっかだったんだけど、今逃げ遅れたのは小さい子が多いのよ」

海未「そういうことですか…」

海未(では、あの方たちはその時間帯のイベントに参加したということですね)

海未「ん…そういえばにこも銃を構えていたということは戦えるはずですよね?それなら、にこがヒーローなりを呼んでくることもできたのでは…」

にこ「それはできないわ」

にこはぎゅっと目を閉じて口を開く。そして再びまぶたを開いた時そこには強い意志がこもっていた。

にこ「この奥にいるのは私のファンでいてくれている人たち…その人たちの笑顔を守るのが私の仕事なの――だから、私がここを離れることで、一瞬でも不安な気持ちになんて絶対にさせちゃいけない」

にこ「申し訳ないけど、私にできるのはせいぜいこの屋上にきた連中を追っ払うことぐらい」

50 ◆JaenRCKSyA:2017/08/15(火) 00:27:22 ID:AJYCm3hs
海未は、アイドルというものがどういうものか全く知らず、さらに目の前のアイドルもどこかコミカルでどこか軽いものだと考えている節があった。
しかし今の言葉は、にこの事を信頼し、少しばかり尊敬するに至るものであった。

海未「では、にこはここにいてファンの方を守ってあげてください――私が、助けを呼んできます」

にこ「…大きいこと言っといてあれだけど、任せても大丈夫?あんた、正直言ってさっきのかっこじゃヒーローに怪しまれて終わりよ?」

海未「そのあたりは…どうにかします!それに、さっきヒーローのジュエルを見かけましたから、何とかもう一度会ってここまで誘導してみます」

まあ本当は戦ったんですけどね、と海未は心の中で続ける。

にこ「分かった、今はなんとかにもすがりたいからね…あんたのことを信じるわ――海未、お願いね」

海未「ええ、まかせてください!――変身!」

そう言って姿を漆黒に染めると海未は踵を返し、建物の外へと出て行った。

51 ◆JaenRCKSyA:2017/08/15(火) 00:40:56 ID:AJYCm3hs
海未(さて、気は進みませんがジュエルを探しに行きましょうか…)

彼女がいるとすれば、先ほど戦った階の上下くらいだろう、とあたりを付けて歩き出す。

しかし、広めの屋上の中央近くまで来たところで、いまだ太陽は高いはずなのに周囲が暗くなっていることに気が付く。

海未(この暗さ…何かおかしい!?)

海未はこの暗闇は自然のものでないと判断し周囲を注意深く見渡すと、黒い霧のようなものが漂っていおり、それを警戒するように刀を鞘から抜く。

そして、海未は自分が怪人となったあの日、巨大な怪獣が現れる際の光景が頭に思い浮かぶ。

海未(そうか、怪獣が現れる時にこの霧のようなものが発生して…)

海未はもう一つ、この黒い霧をどこかで別の場所で見た覚えがあるような気がしたが、その考えがまとまる前に黒い霧の方が集まり、凝り固まっていく。

そして、海未を取り囲むようにして先ほども少女と一緒に遭遇した小型の怪獣が姿を現した。

52 ◆JaenRCKSyA:2017/08/15(火) 00:55:00 ID:AJYCm3hs
海未(数は、10体…いや、もう少し多いでしょうか)

喉を鳴らしながら海未を睨みつける怪獣に気を払いながら海未は思考をまとめる。

海未(とにかくにこがいるあの建物に近づかないよう命令すればどうにかなるはず)

海未は左手を刀から離し、手のひらを怪獣に向けながら語り掛ける。

海未「いいですか、私からの命令です…あの建物は我々の重要拠点ゆえ、近づいてはなりません、いいですね?」

海未(私が離れた後もこの命令が有効なのかどうかが怖いですが…)

そんなことを思っていた海未だが、やがて異変に気が付く。先ほど命令した際にはその言葉を聞き入れるそぶりをみせていたが、自分を取り囲む怪獣はいまだに喉を鳴らし続けている。

海未(命令を聞かない…!?裏切り者扱いが随分早いようですね…!)

海未は即座に戦闘態勢に入ろうとするも、獣の肉体の方が俊敏であり、自分を取り囲んでいるうちの正面にいる1体が牙をむいて海未に飛び掛かかる。

53 ◆JaenRCKSyA:2017/08/15(火) 01:01:15 ID:AJYCm3hs
海未(早い…!)

この間合いでは刀で斬りつけることはできないと判断した海未は、後ろに倒れこむように背中をそらし、殴りつけるように右手の刀の柄を怪獣に向かって振り抜き、その顎を砕く。

殴りつけた怪獣の後ろからもう1体の怪獣が迫ってきているのを視界にとらえた海未は、そらした上半身はそのままに、突っ張るように左足を体の後ろに踏み出す。

海未「はあっ!」

そして殴りつけた勢いのままに体の左側にまで振り抜いた刀の柄に左手を添え、重心を右足に移動させながら刀を振り下ろし眼前の怪獣を両断する。

怪獣を一体退けても海未の緊張は解けない。両断したのち黒い粒子となって消えた怪獣を尻目に、体重をかけていた右足で地面を蹴り出し、後方へと跳躍することで左右に控えていた怪獣をけん制する。

当然海未の意識は自分の背後にも向けられており、獲物が近づいてきたと判断して飛び掛かってきた怪獣にも気が付いている。

海未「ふっ!」

先に着いた左足を軸にして、直後に地に着いた右足を間髪入れず横に蹴り出しバスケットボールのピボットのようにして半回転、その勢いをもって怪獣を撫で斬る。

54 ◆JaenRCKSyA:2017/08/15(火) 01:05:56 ID:AJYCm3hs
しかし、いかに周囲に気を配ったところで人間の目は一方向にしか付いていない。海未の死角から飛び出してきた怪獣が海未の足に食らいつく。

海未「ぐうっ…!」

海未は痛みに歯を食いしばりながらも噛みつかれている足を振り抜き、怪獣を宙に放ると、刀を切っ先からねじ込み黒い粒子へと変える。

海未(囲まれていてはいずれやられる…包囲の外へ!)

海未は正面から飛び出してきた怪獣を後ろに飛びのいてかわし、手にした刀を怪獣ごと地に突き立てる。そしてそれと同時に刀から手を離し跳躍する。

海未(このジャンプだけでは包囲を抜けられない…ですがっ!)

地に突き立てた刀の柄に杭を打つようにして自分の足裏を叩きつけ、さらに高く飛び上がる。

海未(この刀を手放してしまったらどうなるのかと考えました…が、変身の際に生成されるアーマー、それと同じだとすれば…!)

海未は先ほど斬撃を放った時を思い起こす。

海未(あの時に感じた力の流れ…それをコントロールして!)

自らの左腰に手を伸ばすと、そこには刀が生成されて鞘に収まっており、海未はそれを素早く抜き去る。

海未「閃刃・裂空!」

体を空中でひねり、先ほどまで自分がいた方向を見やると同時に刀を振り抜き、斬撃を飛ばす。
海未が着地すると、目の前の怪獣は片手で数えられるまでに数を減らしていた。

55 ◆JaenRCKSyA:2017/08/15(火) 01:09:30 ID:AJYCm3hs
この数ならばもうどうにでもなる、そう考えて少し緊張を緩めた海未であったが次の瞬間、突如として感じた悪寒に背筋を震わせる。

海未(恐怖…いや違う、冷気?)

一瞬、死角から怪獣が襲ってきたのかと勘違いしたが、すぐに屋上を包む異様な冷たい空気に気が付く。

海未(いったい、これは…?)

そして感覚を研ぎ澄ました海未の耳に、何か細かい破片を砕くような音が届く。

海未(ガラス片を踏みしめるような音ですが、この冷たさ――まさか!?)

海未は気が付く。砕けているのが氷であることに。
海未は思い至る。氷を纏う悪しき存在に。

屋上から階下へと伸びる階段、そこからひときわ大きい氷を砕く音と共に姿を現す。

その姿は氷を乱雑に砕いたような水色の武骨な鎧が全身を覆い、踏みしめた大地には真冬を迎えたかのように氷が広がる。

海未「怪人、グレイシア…!!」

幾度となく街に甚大な被害をもたらし、討伐のために対峙したヒーローをことごとく打ち破ってきた怪人、それが海未の眼前に立ちふさがる。

56名無しさん@転載は禁止:2017/08/15(火) 14:49:00 ID:6Kca4Jl2
待ってた

57名無しさん@転載は禁止:2017/08/15(火) 16:29:24 ID:JtiruUDw
待ってたわよ。もっと続けて、どうぞ

58名無しさん@転載は禁止:2017/08/20(日) 01:44:50 ID:YdCQJKWk
待ってるわよ。

59 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 00:40:12 ID:dJDosh5M
海未(ここにいるのは私一人、私を仕留めにきたと見て間違いない…とにかくあの建物にだけは近付けないようにしなくては――ですが…)

海未は対峙する相手が無手であることを見てさらに委縮する。海未は自身の剣に自信を持っており、たとえ相手がジュエルであっても自分の間合いに持ち込めれば通用すると考えている。

しかしグレイシアは武器を手にしておらず、得意とする間合いが近距離で無いことは明白。

その事実は海未の心を暗くし、その不安は切っ先の震えとして現れる。

「……」

グレイシアはそれを見ると鼻先で笑うかのように肩を震わせ、右手を海未に向かって振りかざす。

「ヘイルストーム」

そう発した声はがらんどうの中を響くようにくぐもり、本来の声がどのようなものかを分からなくしていた。
そしてその声と同時に、海未の頭上に拳ほどの大きさをした氷の塊が無数に降り注ぐ。

60 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 00:45:41 ID:dJDosh5M
海未(やはり遠距離からの攻撃…!)

降り注ぐ氷は海未のみならず、その場に残っていた怪獣をも打ち抜いていく。

海未は嵐のように襲い来る氷弾を致命傷になり得る物のみをかわし、刀で打ち払いながらグレイシアに向かって駆け出す。
いなしきれなかったものは体に当たるにまかせて、グレイシアを自らの間合いにまでとらえようとする。

「……」

今度はそれを見つめながらグレイシアは手を払うように振る。その瞬間、単調に降り注ぐのみだった氷弾の動きに変化が現れる。

水色がかった冷たい弾丸は上下方向の動きに加え、左右から海未の動きを追うようにして乱れ舞う。

海未(やはりさっきのは様子見ということですか!)

全方向から襲う氷弾に海未は足を止めざるを得なくなり、その場で苦し紛れに刀を振るう。

海未「かはっ…!」

しかし全てをさばききれるはずもなく脇腹に氷が突き刺さり、その衝撃で海未は地面を転がる。

61 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 00:52:34 ID:dJDosh5M
「アイシクルスピア」

海未は地面を転がる中でくぐもった声と、振り下ろされる腕を視界の隅にとらえる。

海未(まずい、こんな状態ではただの的でしか…)

床に刀を突き立てて無理やり体を止めると、自分を中心として大きな影が落ちていることに気が付く。

海未「上!?」

瞬時に頭上を見上げると巨大なつららが鋭くとがった先端を下に向けて落下しているのが視界に広がる。

海未(まずい、これを食らったらひとたまりも…)

先程の脇腹を撃ったダメージが残る体にむち打ちながらその中心からはい出そうとするも、いまだにつららの真下から逃れられないと分かると海未は無理やり体を起こしながら刀を握る手に力を込める。

海未(斬撃を飛ばした所で意味がない…力を刀に収束させる…!)

つららが落ちきる寸前、海未は後ろに飛びのきながら渾身の力を込めて刀を振るう。

海未「閃刃・断空!」

刀に黒い力がほとばしるも、それは斬撃として飛び出さずに刀にとどまり続けてつららを直撃する。しかし砕くには力が足りなかったのか、つららは轟音を上げて落下する。

62 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 01:03:06 ID:dJDosh5M
「……」

氷の破片が飛び散り、さらに霧のように冷気があたりを包み込む中をグレイシアは身じろぎ一つせずに見つめ続ける。

霧が晴れると、そこは恐らくグレイシアが想像したであろう光景とは違っていた。

つららの落下に巻き込まれた海未だったが、無傷ではないもののいまだ健在であり片膝をついて刀を構えていた。海未は最初からつららを砕こうとは考えておらず、刀を振るった際の反動で直撃を避けようとしていたのだった。

海未(なんとかしのげましたが、これでは防戦一方…少しでもミスを犯せばやられる…)

頭に浮かんだ悪いビジョンを振り払い、海未は立ち上がる。

戦意を失わない相手を物珍し気に眺めていたグレイシアだったが、海未が立ち上がるのを見て再び動き出す。

「ヘイル――」

「ラブリーバレットォ!」

腕を振り上げかけたグレイシアの背後から突如としてピンク色の光弾が雨あられと浴びせかけられる。

にこ「ったく…ヒーロー呼んでくるって言ったくせに、なんて奴呼び寄せてくれてんのよ…」

そこには、辟易とした表情でファンシーな銃を構えるにこの姿があった。

63 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 01:19:23 ID:dJDosh5M
にこ「この屋上に今私たちを見てる人はいない…どういうことか分かるわね!?」

海未「ええ、分かっています!」

ヒーローシステムはプラスの感情をエネルギーとして稼働しているものの、それは使用者本人の感情のみではとても賄えるものではなく、周囲にいる人間の感情を収集してエネルギー源としている。

声援や期待を力に変えて戦っていると言い換えてしまってもいい。にこの活躍を見ている人がいない今、長時間戦い続けてしまえば彼女のスタミナ切れが起きる可能性が出てくるため、二人の考えは一つ。

((狙うは短期決戦!))

必ずしも勝つ必要はない、痛手を与えて撤退させることができればそれでいいのだ。

海未「閃刃・裂空!」

「スノウプランク」

海未が刀を振り抜き黒い斬撃を飛ばすも、グレイシアは手のひらをかざし雪の結晶を巨大化させたような盾を出現させてそれを防ぐ。

64 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 01:23:18 ID:dJDosh5M
海未「ぜいっ!」

しかし斬撃自体がブラフ。正面の視界を遮った海未はグレイシアのすぐ左側に現れて刀を振るう。

「……」

グレイシアが見えない鞘から刀を抜くような動作をすると、氷でできた剣が作り出されていく。そしてその剣で海未の刀を受け止める。

海未(接近戦までこなすとは…!)

ギリギリと音をたてて刀と剣は交わるがグレイシアにはつばぜり合いを続ける気はなく、早々に刀を打ち払い後ろへと飛びのく。

にこ「おおっと!キープアウトリボン!」

「――っ!?」

しかしグレイシアが飛びのいた先にはピンク色のテープが幾重にも張られ、グレイシアの後退を阻む。
グレイシアが周囲に目をやると先ほど放たれたピンク色の弾丸が宙にとどまっており、それらがつながるようにしてテープが作り出されていた。

にこ「ここから先は関係者以外立ち入り禁止ニコ〜」

「……!」

鬱陶し気に氷の刃を振るって自分に絡みつく拘束を引きちぎり、海未に注意を向けるもすでに刀を振り上げて眼前に迫っている。

海未「閃刃・断空!」

海未の繰り出した刃は黒い閃光となってグレイシアを襲う。

65 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 01:27:57 ID:dJDosh5M
「――っ!」

瞬時に刀と自分の間に氷壁を作り出すも、黒い斬撃の前に砕け散りグレイシアの体に衝撃が走る。

しかし、そのダメージも意に介さずにグレイシアはその場から大きく跳躍し、銃を構えているにこに迫る。

にこ「うげっ…!」

「アイシクルスピア」

今度はつららを落下させるのではなく腕に纏わせ、鋭い切っ先で薄いにこの胸板に風穴を開けようとする。

にこ「お触りはご法度だって、の…!」

にこがいまだ漂っている自分が打ち出した光球に銃口を向けて引き金を引くと、そこからピンク色のロープが伸びていく。
そしてそれが光球にまで達すると、にこの体を引き寄せるようにロープが縮み、グレイシアとの間に距離が開く。

海未「私を忘れないでもらいたいですね!」

にこをとらえ損ねたグレイシアの背後に海未が迫り、刀を水平に振り抜く。

「……!」

グレイシアはその場で体を回転させ、海未の刀を腕に纏わせたつららで跳ね除ける。

66 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 01:31:17 ID:dJDosh5M
「チリーブロウ」

追撃をしようとした海未の体めがけ、グレイシアは手のひらから吹雪を叩き込む。

海未「くっ…!」

にこ「ラブリー――」

「ヘイルストーム」

にこが背を向けたグレイシアに銃口を向けるも、背を向けたまま手を振りかざして氷の礫を降り注がせる。

にこ「やばっ!」

にこは縦横無尽に襲い来る氷の嵐の中を駆け抜けながらさっきと同じように銃口を浮かぶ光球に向けようとする。

にこ「うっそでしょ…!?」

にこが狙いを定めようとした先に光球は残されていない。グレイシアは広範囲に氷を届かせることでにこの細工を崩していた。
逃げ場を失ったことで一瞬足を止めてしまったにこは氷の弾丸に打ち抜かれ、地面に転がってしまう。

にこ「ぐ、ぇ…」

海未「このっ!!」

海未は槍投げのように腕を振りかぶり、そのままの勢いで刀を切っ先から投擲する。

「……」

しかしグレイシアはそれを難なくかわし、丸腰となった海未に肉薄して手のひらをかざす。

67 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 01:34:55 ID:dJDosh5M
海未(そう、丸腰になったと思わせる…!)

海未は刀を投擲してすぐに新たな刀を鞘に生成、そしてすでに手はその柄を握りしめている。

さらに海未の目はグレイシアの背後にまで向けられている。

にこ「――っ!」

海未の視線の先には体を走る痛みに歯を食いしばりながらこらえ、銃を真っすぐに構えるにこの姿。

にこが地面に投げ出されたのは一瞬のこと、グレイシアの視線が外れたのを見計らって跳ね起き、グレイシアの背後にまで迫っていた。

にこ(取った!ゼロ距離!)

海未(鞘にエネルギーを集中!この前後からの挟撃で…!)

にこ「プリティ――」
海未「冥凶――」

グレイシアは前後からの攻撃を前に頭を一度振り、空を見上げる。そして――

「アイスエイジ」

世界は、氷雪に包まれた。

68 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 01:37:11 ID:dJDosh5M
グレイシアを中心にして吹き荒んだ吹雪は屋上広場の大半を雪と氷で覆い尽くした。

当然至近距離にまで迫っていた海未とにこもその猛威に巻き込まれている。

海未「そん、な…ここまでの力を…」

にこ「ほんっと、化け物…!」

地面へと這わされた二人は身体に力を入れようとするも、負ったダメージに加えて全身を包む冷たさに、体を起こす事すらままならない。

にこ(立ち上がれたって、戦えっこないわよ…!)

破壊の中心で立ち尽くしていたグレイシアは、思い出したように足を進める。しかしその動きは油の切れかかった機械のように緩慢なものだった。

海未(まさかあちらも消耗している…?ですが今の私とにこの状態では…)

海未(誰かっ…!)

海未の願いは確かに届いたのかもしれない。しかしそれが叶ったところで事態が好転するとは限らない。

69 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 01:43:30 ID:dJDosh5M
海未「あれは…」

にこ「カード…?」

二人が目をそらしたわけでもないのに、まるで最初からそこにあったかのようにグレイシアの近くに2m弱ほどのカードが浮かんでいた。

「……」

屋上の三人が見つめる中、まるで目に見えない手がめくるようにそのカードはくるりと回転する。

そのカードから現れたのは、サーカスのピエロかカジノのディーラーを模したような衣装に身を包み、顔をのっぺりとした仮面で覆った姿。

その姿かたちは海未とにこが噂としてのみ聞いたことのあるものであった。

にこ「最っ悪…怪人、アルカナムじゃない…!」

その神出鬼没さからヒーローが交戦したという報告は出てきていないものの、グレイシアと並ぶほどの被害が報告されている怪人。

海未「ここにきて敵の援軍なんて…!」

70 ◆JaenRCKSyA:2017/08/22(火) 01:48:53 ID:dJDosh5M
しかしアルカナムは二人の覚悟をよそにグレイシアへと歩み寄り、にこの事を一瞥するとグレイシアに顔を寄せて何事かをささやいた。それを聞いたグレイシアは軽く肩をすくめたあとに小さくうなずく。

アルカナムはおもむろにカードを一枚取り出すとそれを軽く宙に放り出す。するとカードは巨大化してアルカナムとグレイシアの姿を覆い隠す。

先ほどアルカナムが現れた時のようにカードが回転すると、すでに二人の姿はそこから影も形も無くなっていた。

にこ「嘘…?」

海未「助かった、のでしょうか…」

海未とにこはいまだ寒さに固まる体を起こし、対峙していた敵の消えた場所を呆然と見つめる。

海未「分からないことだらけですが、今は生きているだけで十分ですね…」

にこ「安心するのはいいけど、あんた変身解いときなさい…ヒーローが来たらとどめ刺されるわよ…」

海未「それは困りますね…あとは怪獣も撤退していることを祈るだけです…」

海未は変身を解いたのち、少しためらいながら口を開く。

海未「あの、にこ…私の事なのですが…」

にこ「秘密にしろってことでしょ?分かってるわよそんな事…誰に言うつもりもないし、そもそもグレイシアにぼこぼこにされてるんだから疑う理由もないっての…」

海未「ありがとうございます…」

海未はにこの言葉を聞くと安心したように目を閉じ、床に大の字に横になった。

71名無しさん@転載は禁止:2017/08/22(火) 17:03:55 ID:I7yb6aAw
待ってたわよ

72名無しさん@転載は禁止:2017/08/22(火) 19:56:53 ID:manr.rA6
更新乙

73名無しさん@転載は禁止:2017/08/23(水) 08:34:29 ID:eqVcxVH2
おつおつ

74名無しさん@転載は禁止:2017/09/05(火) 02:23:14 ID:BII8ZWG6
待ってるぞ

75名無しさん@転載は禁止:2017/09/05(火) 12:35:02 ID:dZMBuKho
待ってるわよ
ゆっくりでもいいからエタらないでちょうだいね

76 ◆JaenRCKSyA:2017/09/06(水) 19:16:16 ID:jCHHj6Zs
海未「全くどうしてこんな目に…けれど買い物が済んだ後だったのが幸いでしょうか…」

海未はすっかり陽が落ちて暗くなった帰り道で一人呟く。

あの後、ショッピングモール内の怪獣がいなくなったことで屋上にも救助の手が入り、騒動は収束に向かっていった。

海未は怪獣に襲われずに屋上に向かえたことを疑問に思われつつも、避難をし損ねたところをにこに保護されたという形で落ち着いた。

再会してすぐに心配そうな顔で縋りついてきた幼馴染二人をなだめつつ家まで送り届け、一人で帰路に付いているところだった。

海未「しかし、なぜとどめを刺すのに絶好の機会だったというのに撤退していったのか…あそこで仕留めるほどの脅威と思われなかったか、あるいは…」

考えをまとめるようにして言葉としてそこまで呟いたところで海未は立ち止まり、曲げた人差し指を口元に当てて頭の中で続ける。

海未(それに、私が怪人になってから何もコンタクトがなかったので組織立っていないと思っていましたが…怪獣が命令をきかなくなったことや撤退のタイミングを考えると…)

海未(…考えたところで答えが出るわけでもありませんね)

これ以上足を止め帰宅が遅くなって母を心配させるわけにもいかないと海未が歩き出そうとすると、暗い路地に声が響く。

「あなたよね?黒ずくめの怪人の正体」

77 ◆JaenRCKSyA:2017/09/06(水) 19:17:13 ID:jCHHj6Zs
海未「!?」

海未(私の正体を…?いったい…)

海未「…何の話かはよく分かりませんが、私に用があるのなら姿を見せてほしいものですね」

「……」

海未が暗闇に声を投げかけるも、しばしの間沈黙のみが返ってくる

「用があるのは事実だけど、あなたが危険人物じゃない証拠なんてないもの」

海未は相手の声を注意深く聞きながら思考を巡らせる。

海未(断言はできませんが、恐らくは女性…それに私に対して敵意を持っているわけでもない、か…)

海未「私の言葉を信じろ、とは言いませんが話を聞くくらいの分別は持ち合わせている、とだけは言っておきましょうか」

「そう…それはこっちにとっても好都合――けど、ここで話すつもりもないわ」

「月曜日の放課後、音ノ木の音楽室まで来なさい」

海未(音楽室…ならば音ノ木の生徒?冷静ではあるようですが、素性がばれるようなことを口にする…交渉事がうまいわけではない?)

海未「わざわざあなたが指定した場所に行くことで、私には何もメリットはありませんが…私はそこで何を得られるのでしょう?」

「……」

78 ◆JaenRCKSyA:2017/09/06(水) 19:18:27 ID:jCHHj6Zs
「私は、あなたの纏うソレについての情報を持ち合わせてる…けど、あなたに聞きたいこともあるの」

海未「情報交換、ということですか?」

「ええ、あなたをどうこうするつもりなんてないし…どうなのよ?」

海未(私の正体が知られている以上、断ったことで発生する問題の方が対処しづらい…)

海未「分かりました、月曜日の放課後、音楽室で」

「ええ、それでいいわ」

その返事を最後に、路地は静寂に包まれる。

海未(…もう話しかけてはこない――気配も無いようですね)

海未は息を吐き出し、どうしてこうも次から次へと厄介ごとに巻き込まれるのか、と頭を抱える。

海未「今度こそは乱暴なことが起きなければいいのですがね…」

愚痴を吐き出しながら足取りも重く、海未は自分の家へと向かうのだった。

79 ◆JaenRCKSyA:2017/09/06(水) 19:22:13 ID:jCHHj6Zs
待たせてしまって申し訳ない…それなのに短くて申し訳ない…

80名無しさん@転載は禁止:2017/09/06(水) 20:07:24 ID:oAwO.a4Q
おつかれさん
たのしみにしてまっせ

81名無しさん@転載は禁止:2017/09/06(水) 21:15:51 ID:Nf/MZjXE
更新乙乙待ってた
好みの世界観だからゆっくりでもエタらず書き切ってほしい

82名無しさん@転載は禁止:2017/09/07(木) 07:59:48 ID:A47nrJcM
乙かれさま
待ってたわよ!少しでも投下してくれてすごく嬉しいわよ

83 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 21:13:38 ID:pD318zVg
週が明けた朝、海未は一人通学路を歩いていた。基本的に朝は幼馴染二人と一緒に通学をしているが、弓道部の朝練であったり、考え事をしたい時には一人にしてもらっているため、海未にとってそこまで珍しいことではなかった。

海未(放課後の事を考えると、今日の授業に集中はできそうもありませんね…穂乃果にいい口実を与えてしまうことにはなりますが)

海未(しかしあの声の人物、いったい何が目的なのか…私のシステムについて知っているようでしたが――)

「もし、そこのお嬢さん」

海未「っ!?」

海未は考え事をしていたところに声をかけられ、自分の正体を暴かれたような気持ちで振り向く。

「ちょ、そんなに警戒しなくてもいいやん…」

建物の間から体をのぞかせていたのは、フード付きのローブを目深にかぶり水晶玉を手に持った女性。

海未(身長はそこまで高くない…それにこの声の感じ、年は私とそう変わらない程度でしょうか…?)

84 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 21:18:46 ID:pD318zVg
海未「…何の御用でしょうか?」

「ふふふ…お嬢さんも悩み事、困り事、そういうのを抱えてるんやない?うちの占いを聞いていったらたちまち――」

海未「急いでいるので失礼します」

「ちょ、待って待って!話くらい最後まで聞いて!」

ただの胡散臭い占い師、そう判断して足早に立ち去ろうとした海未だったが、焦ったように縋りつかれてため息をつきながら足を止める。

海未「はあ…学校もあるので手短にお願いします…聞く価値が無いと思ったら行かせていただきますからね」

「ふっふっふっ…やっぱり気になるんやね?ウチの占いは――」

海未「ごきげんよう」

「わーうそうそ!ちょっとふざけただけやん!」

「ゴホン!…けど、本当にウチの占いはよく当たるって評判なんよ?実際、ウチには手に取るように見える…その胸の内にある、真っ黒い悩み、秘密…」

その言葉を聞き、海未は心臓をつかまれたように感じる。

海未(真っ黒な、秘密…)

その海未の反応を見て、フードの中で口角を上げる。

85 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 21:28:52 ID:pD318zVg
「詳しく話をしたいなら、こっちに着いて来てな?」

海未「…分かりました」

少しの可能性、この少女が自分の事を知っているかもしれないという不安から、海未は用心しながらも路地裏へと着いて行く。

「…ふらふらと着いて来て、随分と不用心やん?」

海未「…っ!」

海未は後ろから差す光が薄くなったことに気が付き、弾かれたように後ろを振り返る。

「にゃっふっふっふ…」

路地をふさぐように立っているのは、占い師の少女と同じく目深にパーカーのフードを被った小柄な影。

海未(挟まれた…!?やはり迂闊でしたか!)

「さあ覚悟するにゃー!!」

「恐れおののけー!!」

前後から両手を掲げて迫る二人を視界に入れながら海未は素早くカバンからシステムを取り出して腰に装着する。

海未「変身!」

86 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 21:38:24 ID:pD318zVg
「えー嘘!怪人!?どうしよう希ちゃん!」

「うろたえたらダメや凛ちゃん!ウチらのこれまでの特訓の成果を見せる時やん!」

「りょ、りょーかい!」

二人は海未の前後で言葉を交わすと、足に力を込めて飛び上がる。

海未(来る!)



「「すみませんでしたー!!!」」



海未「は…?」

平身低頭、平伏叩頭。海未の前後対称に見事な土下座が並んでいた。

87 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 21:43:45 ID:pD318zVg
海未「…つまり、感情エネルギーを集めるために通行人を騙して路地裏に連れ込んでいたと?」

凛「はい…」

希「そういうことです…」

占い師の格好をしていたのが東條希、あとから現れたのが星空凛というのが二人の名前であること、その二人ともが怪人であること、そして感情エネルギーを集めるためにこのようなことを続けていたということを海未は聞き出していた。

海未「音ノ木の生徒だったとは…それにあなたは確か生徒会副会長だったはずでは…?」

凛「でもでもっ、絶対ケガさせたりはしてないよ!二人で驚かせてただけ!」

希「うんうん!それは誓って本当!」

今にも泣き出しそうな凛と首を痛めかねない勢いで首を振る希を前に、海未もこれ以上強く追及する気はなくなる。

海未「はあ…まあいいです…けれど、どうしてこんなに効率の悪いことを?言い方は悪いですが、怪人ならもっと簡単に感情エネルギーを集める方法なんてあるでしょう」

凛「自分のために人の事ケガさせたりするのは嫌だし…」

希「……それともう一つ理由があるんよ」

88 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 21:48:20 ID:pD318zVg
希「ウチらに埋め込まれた怪人のコアが、なんていうか不良品だったみたいなんよ…それで、まともに変身もできない――だからまずそもそも人を襲うなんてできなくて…」

凛「それでも感情エネルギーが無くなったら死んじゃうから仕方なく…」

海未「なるほど、そういう事情が…では、二人とも一般人とは全く変わらないということになるのですか?」

希「うーん、それともちょっと違うかな?少しだけ怪人に近いというかなんというか…」

凛「例えば凛だったら鋭い爪と猫耳が出せるよ!」

希「ウチは占いが良く当たる!」

海未「それは…何とも言えませんね…」

凛「それは言わないでほしいにゃ…」

89 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 21:53:13 ID:pD318zVg
凛「そうだ希ちゃん!海未ちゃんにも悪の組織に入ってもらおうよ!」

海未「悪の組織!?さっき人を襲ったりはしないと――」

希「あーごめん海未ちゃんそういうことやなくて…」

凛「凛と希ちゃんの二人で悪の組織!…って言っても何かするわけじゃないんだけど――」

凛「凛ね、仲良い子はいっぱいいるんだけど、やっぱり自分一人だけ怪人っていうの心細くって…それで、希ちゃんと会えてうれしかったんだ!やっと一人じゃないーって!だから、もしよかったら、海未ちゃんとも仲良くなれないかなー…って」

海未「凛…」

その孤独感は海未にも覚えがあるものだった。いくら幼馴染に悲しい思いをさせたくなかったためとはいえ、秘密を抱えながらヒーローにも怪人にもおびえながら過ごす事への不安はそう簡単にぬぐえるものではない。

海未(三人きりの悪の組織…それも悪くはないですね)

海未はクスリと笑い、芝居がかったように声を上げる。

海未「…いいでしょう!ホムラやジュエル、キャプテンアンカーから逃げ切ったこの私がいれば百人力です!」

90 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 21:55:06 ID:pD318zVg
希「おお!それならば海未ちゃんには悪の組織幹部の座を与えようではないか!」

凛「えー!なんで新入りなのに凛よりも上なの!希隊長!」

希「ふっふっふ、この世は実力主義なのだよ凛二等兵…でも隊長のウチよりも上は明け渡さぬのだ…」

凛「職権濫用だにゃー!」

海未「ほら、遊ぶのもいいですがこのままでは遅刻してしまいますよ?生徒会副会長が遅刻だなんてもってのほかです!」

「「はーい…」」

91 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 22:03:37 ID:pD318zVg
海未「昇降口でようやく実感するのも変な話ですが、私達三人とも学年が違うんですよね…」

凛「希ちゃんって3年生で副会長なのにせんぱいーって感じがないもんね」

希「ひどいなあ、親しみやすいって言ってほしいやん?」

「責任感が無い、とも言うんじゃないかしら…?」

三人が昇降口で話していると、急に前から凛とした、けれどあきれ返ったような声が響く。

海未「あ、絢瀬生徒会長…!」

凛「お、おはようございます!」

希「あ、えりち…えっと…おはようさん?」

絵里「おはよう、じゃなくておそよう、じゃない?私は事前に今日の集合時間を伝えてあったはずなんだけれど…それは私の記憶違いだった?」

希「いやいや実はこれには海よりも深ーいわけが…」

絵里「あら、それはさっきまで私が処理していた山のような書類よりも高いものなのかしら?」

希「いや、その…」

絵里「今すぐに来なさい」

希「はい…」

92 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 22:08:48 ID:pD318zVg
絵里「ごめんなさい、ちょっと希を借りてくわね?」

海未「あ、あの、すみませんでした、まさか生徒会の仕事があったとは…」

絵里「あら、だって知らなかったんでしょう?そんなことで目くじらを立てたりはしないわ」

希の両肩をしっかりと捕まえながら涼しげな笑顔で絵里は応じる。

海未「いえ、それでも…」

絵里「そうね…それじゃあ今度から希がサボってそうだったら私に言いつけてくれるかしら?どうしても浦女との交歓会が控えていて忙しいのよね…」

海未「ええ、分かりました」

希「海未ちゃんウチの事裏切るん!?」

絵里「希?」

希「なんでもありません」

希が口を開くも、絵里が半目で睨み付けるとすぐに黙り込む。

絵里「それじゃあ、失礼するわね」

そう言って海未と凛に背を向けて少し歩くとすぐに立ち止まり、首だけを回して振り返る。

絵里「それと最後にもう一つだけ――希と仲良くしてくれてありがとうね」

93 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 22:14:16 ID:pD318zVg
希「…えりち、その…」

絵里「もう、そんな顔しないでよ…別に気にしてないから」

希「けど…」

絵里「いいの、楽しそうに過ごしてくれている方が希らしいわ」

希「ん…ありがと」

絵里「だけど、やらなきゃいけないことは、ね?」

希「うん、それは大丈夫…ウチにまかせて?」

絵里「ありがとう…それと――ごめんなさい」

94 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 22:20:02 ID:pD318zVg
凛「生徒会長さんかっこよかったねー…」

海未「ええ…人前に立っているときの感じから勝手に冷たい雰囲気なのかと思っていましたが、気さくで生徒会長になるべくしてなったような方でしたね」

凛「凛はあんな素敵なれでぃーにはなれそうにないにゃ…」

海未「何を言っているのです、凛だって十分にかわいらしいではないですか」

凛「にゃっ!?何言ってるの!そんなことないよ髪だってこんなに短いし…」

海未「おや、ショートカットがそれだけ似合うのは美人だからだと思いますよ?」

凛「うー…ダメダメ!もうこの話終わりー!」

顔を真っ赤にしてバタバタと手を動かす凛の事を見ながら海未はおかしそうに笑う。

海未(もし妹がいたらこんな感じなのかもしれませんね)

しばらく頬を膨らませていた凛だったが、ふと海未の後ろに目を向けるとぶんぶんと手を振り始める。

凛「あ!かーよちーん!おはよー!」

95 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 22:32:35 ID:pD318zVg
「あ、凛ちゃん…おはよう」

凛「もーなんで無視して行っちゃおうとするのー?」

「えっと…お話してるかな、って思って…」

海未「凛のお友達ですか?」

海未はおずおずとこちらを伺いながら話す少女に幼少期の自分を重ねながら話しかける。

「は、はい…えっと、凛ちゃんの幼馴染で、小泉花陽と言います…」

海未「花陽ですね、よろしくお願いします。私は2年生の園田海未の申します」

そう言った後で、学年はリボンの色で分かりましたね、とほほ笑む。

花陽「よ、よろしくお願いします、海未先輩」

海未「直接の先輩というわけでもなんですし、そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ?と言っても難しいかもしれないですけれど…」

凛「そうそう!海未ちゃんはちょっぴり厳しいけど優しいんだから!」

花陽「え、えっと、私も海未ちゃんって呼んでも、いいんですか…?」

凛「もっちろん!」

海未「なぜ凛が答えるのですか…ですがもちろんいいですよ」

96 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 22:37:14 ID:pD318zVg
花陽「あっ、ごめんなさい!ちょっと飼育委員の仕事があるので失礼します…!」

そう言って花陽は海未に向かってぺこりと頭を下げ、凛には手を振りながらパタパタと駆けだしていく。

海未「飼育委員というと…あのアルパカですか?」

凛「うん!かよちんはアルパカさんとすごい仲がいいんだよ」

海未「なんというか…変わっていますね…」

けれど花陽の優しげな雰囲気なら動物とも仲良くなれそうだ、と海未は思い直す。

凛「ねえねえ、そういえば海未ちゃんは浦女の人と会った事ってあるの?」

海未「浦女ですか?ああ、交歓会も近いですもんね――ですが残念ながら私の知り合いにはいませんね…」

黒澤ダイヤと戦ったことを除けばですが、と心の中でつぶやく。

凛「凛の友達にもいないからなー…けど、その分楽しみだにゃ!」

海未「ふふ…ええ、楽しみですね」

海未(浦の星女学院――どんな方がいるのでしょうか?)

97 ◆JaenRCKSyA:2017/09/08(金) 22:40:40 ID:pD318zVg
今日はここまで
次回は浦女編

98名無しさん@転載は禁止:2017/09/09(土) 00:06:42 ID:VUl2jkrg
乙かれさま、待ってたわよ
リリホワが3人怪人っていうのにとてもワクワクしてるわ

99名無しさん@転載は禁止:2017/09/09(土) 00:51:29 ID:cItShMLc
更新おつおつ、安定のリリホワ組
浦女編も楽しみ

100名無しさん@転載は禁止:2017/09/09(土) 18:45:43 ID:O6.NeNXg
休日利用して読み返した
凄く面白いしこの先の展開にも期待

101 ◆JaenRCKSyA:2017/09/10(日) 22:26:37 ID:iP/woMWQ
時間は少しさかのぼって朝。

携帯にセットしたアラームが部屋に鳴り響くと、布団から伸びた手がその音を止める。そのままもそもそと探るように動いて、近くに置いてあった眼鏡ケースの中身を手にとる。

曜「ふああ…ねっむい…」

広がった髪を手櫛で梳かしながら、大きくあくびをして曜は居間への階段を下りていく。

曜「いただきまーす」

朝食を口に運びながらテレビのニュースに耳を傾ける。

『関東地方の週間天気――』

『日経平均株価の――』

『秋葉原のショッピングモールに怪獣が現れた事件――』

曜「うわーこれ近所じゃん…しかも千歌ちゃんが見に行きたいって言ってたアイドルのイベントこの日じゃなかったっけ…」

幼馴染に他の予定があってよかった、と胸をなでおろすとともに、その日のうちにこの事を耳に入れられなかったことに少し後悔する。

曜(ま、それはしょうがないか…)

朝食を食べ終えた曜は身支度を済ませ、玄関から飛び出そうとしたところでふと立ち止まる。

曜「っとと…これ忘れたらダメだよね…いってきまーす!」

慌てて手首に巻き付けたのは、小さな操舵輪をあしらったブレスレットだった。

102 ◆JaenRCKSyA:2017/09/10(日) 22:34:06 ID:iP/woMWQ
曜「うーん、もうこのビル群にもすっかり慣れたなあ…」

曜は元々静岡の沼津に住んでいたのだが、5年前に起きた静岡の怪獣被害によって退去を余儀なくされた。

曜が受験をしようと考えていた私立浦の星女学院も存続できないところであったが、東京に移設できることになり、学区がたまたま近かった曜は当初の考えの通りに志望校に通うことができている。

学校が近づいてきたころ、曜は自分の前を歩く良く見慣れた後ろ姿を見つける。

曜「おっ…!千歌ちゃーん!おはヨーソロー!」

千歌「あっ、よーちゃん!おはヨーソロー!」

二人は向かい合って敬礼をしながら笑いあう。

千歌「曜ちゃん今朝やってたニュース見た?あのショッピングモールの…」

曜「見た見た、あそこってこないだ千歌ちゃんが言ってたイベントの会場だったでしょ?」

千歌「そうなんだよね…いやー普通怪獣の私にこんな運がいいことがあっていいのか!って感じだよねえ」

曜「それは言いすぎだと思うけど…っていうか千歌ちゃん別に運悪くないじゃん」

千歌「そうかなあ…」

103 ◆JaenRCKSyA:2017/09/10(日) 22:42:28 ID:iP/woMWQ
千歌「あれ、梨子ちゃんまだ来てないの珍しいね?」

曜「ほんとだ、いつも私達よりも早く来てるのにね」

教室に入った二人はいつも一緒に行動しているクラスメイトの姿が無いことに気付き、きょろきょろと見回す。

曜「けど、もう少ししたらくるんじゃない?ほら、梨子ちゃんって…」

千歌「うんうん、普段真面目なのにたまーに変になるからねー」

曜「そんなこと言ってるとまた怒られるよ?…あ、噂をすればなんとやらだ」

二人が教室の扉に目を向けると、肩で息をしながら教室に入ってくるクラスメイトの姿があった。

千歌「わー、梨子ちゃん今日はワイルドだねえ…」

曜「何かあったの?」

いつもはきれいにまとめられた髪も乱れている友達の息が整うのを待って二人は話しかける。

梨子「犬が…通学路に…」

曜「犬はどこにでもいるでしょ…野犬でもいたらそりゃ大事件だけど…」

梨子「それはそうだけど…怖いものは怖いんだもん…」

104 ◆JaenRCKSyA:2017/09/10(日) 22:51:34 ID:iP/woMWQ
千歌「さっき曜ちゃんとも話してたんだけど、ショッピングモールの事件あったでしょ?あそこ、私が行こうとしてたイベントの会場だったんだよ!」

梨子「ええっ…だ、大丈夫だったの?巻き込まれたりとか…」

曜「いやいや、千歌ちゃんが行こうとしてただけで、他の予定が入って結局行かなかったんだよね」

千歌「そう、私にしては運がいいなーって!」

少しつり上がった目と反対にハの字に眉を下げておたおたとする梨子を見ながら千歌はへらりと笑って言葉を続ける。

千歌「けど、最近本当に怪獣の事件って多いよねー…ヒーローが多いから助かってるけど…」

曜「ついこないだも近所ですごい大型の怪獣が出たもんねえ」

ホムラがちゃちゃっと倒してたけど、と苦笑いしながら曜は続ける。

梨子「そういえば、あの時に現れた怪人もショッピングモールにいたっていう話なんだよね…それと、まだ確かな情報じゃないけど、グレイシアもいたかも、って…」

105 ◆JaenRCKSyA:2017/09/10(日) 22:57:33 ID:iP/woMWQ
曜「あー、あの黒ずくめの…あの時逃げられちゃったからなあ…」

千歌「逃げられちゃった?」

梨子「曜ちゃん…」

曜「あ!いや!ほら色んなヒーローがいたのに逃げられちゃったっていう意味で!」

千歌「?」

ぽかんと口を開ける千歌、半目で見つめる梨子に挟まれながら曜は慌てたように話し続ける。

曜「けど、浦女の近くに怪獣とかが来ても大丈夫でしょ!我らが梨子ちゃんがいるのでありますから!」

千歌「うんうん!友達がヒーローだなんて安心だし私も鼻が高いよ!」

梨子「もう、私は支援専門のヒーローっていっつも言ってるのに…それになんで千歌ちゃんが鼻を高くするの…」

梨子はいつも通りに明るいクラスメイト二人を見ながらため息を吐いた。

106 ◆JaenRCKSyA:2017/09/10(日) 23:06:30 ID:iP/woMWQ
曜「まあでも、生徒会長さんがいるんだからほんとに心配いらないんじゃない?」

梨子「それはその通りかも、すっごく強いもんね」

千歌「確かに強いしかっこいいけど、なんかヒーロー!って感じしないんだよねー…怖いっていうか…」

曜「あーそれはちょっと思うかもなあ…怪獣や怪人を倒すだけ!みたいな?」

梨子「生徒会長さんって妹がいて、私の友達が同じクラスみたいなんだけど、その子はすごいおとなしい子みたいなんだよね…」

曜「そうなんだ…まあ姉妹で性格が全然違うなんてのは千歌ちゃんちを見てればそんなもんだよね、って感じかな」

千歌「そんなもんだよねえ、美渡ねえなんてあんなに乱暴だし」

梨子「千歌ちゃんは…二人のお姉さんの元でのびのび育ったのかな…?」

腕組みをしながらしきりに頷く千歌を見ながら苦笑いをしていた梨子だったが、珍しくいたずらっぽく笑う。

梨子「そういえばさっきの話だけど、千歌ちゃんはどのヒーローがヒーローっぽいって思うの?やっぱりホムラ?」

千歌「うーん…ホムラもかっこいいと思うんだけど、やっぱり私はキャプテンアンカーかな!なんとなくだけど!」

曜「げほっげほっ!」

107 ◆JaenRCKSyA:2017/09/10(日) 23:16:49 ID:iP/woMWQ
梨子「私、ちょっと職員室に行ってくるから二人はお昼先に食べちゃってて?」

千歌「はーい」

曜「行ってらっしゃーい」

午前の授業が終わり、昼休みになると梨子はそう言って教室を出て行った。

千歌「そーいえば、そろそろ音ノ木との交歓会だよね?楽しみだけど、場所が浦女じゃなくあっちだから行くのがめんどくさいよ…」

曜「それは仕方ないよ…音ノ木は避難設備もあるし、校内に怪獣が入れないようなシステムだって完備してるみたいだし」

千歌「そりゃ怪獣に襲われるよりは少し歩いた方がいいかあ…なんでこんなに浦女はお金がないんだろ…」

曜「移設できただけでも奇跡みたいなものだからね…」

いつもの昼休み、いつもの日常、その中に異質な音が混じる。普段はめったに鳴ることのない、教室に取り付けられたスピーカーから放送が流れだす。

ダイヤ『お昼時に失礼いたします!周辺地域で怪獣の発生が確認され、ヒーローによる討伐が行われましたが複数の個体を取り逃がし、浦女の方へ向かっているとのことです!落ち着いて、迅速に体育館まで避難を行ってください!繰り返します――』

108 ◆JaenRCKSyA:2017/09/10(日) 23:24:20 ID:iP/woMWQ
途端に騒がしくなる教室の中、クラスの中心になる生徒が声をかけて落ち着かせようとする。

千歌「うそ…また怪獣!?曜ちゃん!私達も逃げないと!」

曜「え、えっと、ごめん千歌ちゃん!私トイレに…!」

千歌「ええ!?さすがに今いっといれなんて言ってられないよ!曜ちゃんってば!」

千歌の視線から逃げるように曜は教室から飛び出していき、それと入れ違いになるようにして梨子が教室へと戻ってくる。

梨子「千歌ちゃん!他のクラスも避難を始めてるから私達も――」

千歌「どうしよう!曜ちゃんがいきなりトイレとか言って出ていっちゃって、それで…!」

梨子「ト、トイレ…!?あー…曜ちゃんなら、大丈夫じゃない、かな…?」

千歌「曜ちゃんがいくらすごいって言っても怪獣に襲われちゃったら…!」

梨子「え、っと…ほら、私もみんなの避難が済んだら学校回るから、その時に私が見つけてくる、ね?」

千歌「…曜ちゃん、大丈夫、だよね?」

梨子「大丈夫!だから心配しないで?――みんな!このクラスの避難誘導は私がするから着いて来てください!」

今にも泣き出しそうな千歌をなだめ、梨子はクラスに声をかける。そして前髪を留めているヘアピンを、ポケットから取り出したものに付け替えて口を開く。

梨子「変身!」

109 ◆JaenRCKSyA:2017/09/10(日) 23:35:14 ID:iP/woMWQ
曜「とっとっと…よし、誰もいない…!」

曜は教室を飛び出してから、少し離れた場所にあるトイレの個室に入っていた。

曜「はあ…千歌ちゃんにいつ打ち明けよう…」

ため息交じりにそう独り言ちると、曜は手首に付けたブレスレットの操舵輪を指で弾いて回転させる。

曜「けど、危険にはさらせないもんね…!」

曜「変身!」

曜がその言葉を口にした次の瞬間、その姿は海軍の制服のようなアーマーと海賊帽のような仮面によって覆われていた。

曜「キャプテンアンカー、出動であります!」

110 ◆JaenRCKSyA:2017/09/10(日) 23:48:14 ID:iP/woMWQ
曜(怪獣対策ってことで学校の周りは高い塀で覆われてる…だからきっと入ってくるなら校門の方から!)

トイレから飛び出した曜は昇降口へと続く廊下を駆け出す。

曜(ビンゴ!さっそくだよ…!)

廊下の向こう側から現れたのは大型犬ほどの大きさをした狼のような怪獣が二匹。

曜「この程度の怪獣なんて…!」

曜はスピードを落とすことなく廊下を駆け抜けながら、その手に銛のようなものを生成する。

曜「ぜえいっ!」

加速したまま怪獣に迫る瞬間、最後の一歩を強く踏み込みながら銛を怪獣に向けて力の限りに突き出す。

怪獣はその一撃を避けることも叶わず、真正面から貫かれて黒い粒子へと消える。

廊下に残されたもう一匹の怪獣は攻撃を終えて真横を向いている曜めがけて飛び掛かる。

曜「ほっ!」

曜はその場で軽く真上に飛び上がり、体のひねりを使って回し蹴りを叩き込む。

曜「終わりっ!」

そして壁に叩きつけられた怪獣に銛を突き刺し、黒い粒子へと変える。

111 ◆JaenRCKSyA:2017/09/10(日) 23:58:06 ID:iP/woMWQ
曜「取り逃がしたって言ってたけど、いきなりこれだし、もしかしてかなりの数が入り込んでんるんじゃ…」

銛を肩に担ぎながら試案するも、考えがまとまる前に先の廊下から悲鳴が飛んでくる。

曜「逃げ遅れた人…!?」

即座に曜は走り出し、曲がり角の先から聞こえてきた悲鳴の元へと向かう。

角を曲がると廊下の先に、腰を抜かしたのか尻餅をついて後ずさろうとする女子生徒二人の姿と、そこに向けて走ってくる怪獣の姿が見えた。

曜(さっきのよりも大きい!)

先程倒した怪獣をそのまま二回りほど大きくしたような姿を見据えて曜は廊下を駆け抜ける。

曜「動かないで…ねっ!!」

女子生徒に近付くと曜はその勢いのままに跳躍、へたりこんだ二人の頭上を飛び越えながら背中を大きく反らすようにして銛を振り上げる。

曜「タイダルハープーン!」

叫びながら銛を投げつけると、銛からは水が勢いよくほとばしりながら怪獣の体を貫く。

曜「っふー…もう大丈夫!立てる、かな?それじゃあ体育館に…」

曜(あー、けどそれよりぱっぱと怪獣を倒した方がいいのかな?困ったな…)

どうしようかと悩む曜の後ろから声がかかる。

梨子「ようちゃ…じゃなくて、キャプテンアンカー!」

112 ◆JaenRCKSyA:2017/09/11(月) 00:05:48 ID:Mk3Kjkyo
パタパタと駆けてくるのは、音符やピアノの鍵盤の意匠をあしらった薄ピンクのスーツ、そしてヘッドホンを身に着けた梨子であった。

曜「えっと…ハルモニアリリーって呼んだ方がいいのかな?」

梨子「私は普通でいいから!」

顔を赤らめながら言い返し、そばでへたり込んでいる女子生徒にちらりと目を向ける。

梨子「この二人は私が連れて行くから、曜ちゃんはまだ校舎にいる怪獣をお願いしていいかな?」

曜「まかせて!それと、怪獣ってどれくらい入り込んでるか分かるかな?」

梨子「ちょっと待っててね…」

そう言うと梨子は目を閉じてヘッドホンに手を当てる。

梨子「――ちゃんと把握できたわけじゃないけど、小型の怪獣はかなりたくさん侵入しちゃってるみたい…けど、これは私でもなんとかなる、と思う…」

曜「もしかして、もっとおっきいのもいたりする感じ…?」

梨子「うん…中型の怪獣が何体か――」

曜「よーし、私はおっきいのを追いかけつつ、通りすがりに小さいのをやっつけてけばいいね!」

113 ◆JaenRCKSyA:2017/09/11(月) 00:11:33 ID:Mk3Kjkyo
梨子「ごめんね、私も戦えればよかったんだけど…」

曜「いいのいいの!適材適所って奴!」

曜の言葉に少しほっとしたような笑顔を見せる梨子だったがすぐに険しい顔を作る。

梨子「そういえば、いつになったら千歌ちゃんにこの事ちゃんと伝えるの?毎回ごまかすの大変なんだから…」

曜「うう、面目ない…なんていうか、言うタイミングを逃しちゃって…」

悪さした子供じゃないんだから、とため息交じりに言うと、女子生徒に手を貸して立ち上がらせる。

梨子「それは二人の問題だからあんまり強く言えないけど、早く言った方がいいと思うよ?…それじゃあ、またあとでね!」

そう言い残して梨子は女子生徒を先導して走り去って行ってしまう。

曜「私も分かってるよお…って、今はそんなこと言ってる場合じゃないか…」

曜はそう呟いて、校舎の中を駆け出した。

114 ◆JaenRCKSyA:2017/09/11(月) 00:20:02 ID:Mk3Kjkyo
ここまで
レス返してないけどめちゃくちゃうれしいです

115名無しさん@転載は禁止:2017/09/11(月) 00:23:10 ID:phtx4ugY
乙ー
よかった

116名無しさん@転載は禁止:2017/09/11(月) 15:57:56 ID:uxcQeK0I
更新おつー続きが気になる展開
レス喜んでもらえてるならこっちも嬉しい

117名無しさん@転載は禁止:2017/09/11(月) 21:17:56 ID:oketmDBM
おつおつ

118名無しさん@転載は禁止:2017/09/12(火) 02:04:28 ID:chj.Tyfc
お、更新されてる 待ってたよー

119名無しさん@転載は禁止:2017/09/14(木) 15:49:43 ID:81rrHW12
乙よ
気づいたら来てたわね
レスは自分が返したいときに返したら良いわよ
また待ってるわ

120名無しさん@転載は禁止:2017/09/17(日) 19:03:09 ID:2hZv643g
時間は少し前、お昼休みまでさかのぼり、同じく浦の星女学院の一年生の教室。

善子「うう…不幸だわ…」

ルビィ「わっ善子ちゃんびしょ濡れ…手洗いに行っただけなのに…」

花丸「さすがにここまでくると気の毒だよね…呪われてるとしか思えないずら」

善子「善子じゃなくてヨハネよ…ずら丸の家でお祓いとかできないの…?」

花丸「そういうの頼むなら神社じゃないかな?うちでは善子ちゃんに座禅を組んでもらうくらいしかできないずら」

善子「私が座禅組んでどーするのよー!それに堕天使は座禅なんて組まないの!」

花丸「あっ、おっきいタオルとかは常備してるんだね?準備万端ずら」

善子「そりゃ毎度こんなことがあるなら準備するようにもなるわよ…こないだのショッピングモールだっていきなり怪獣が出てくるし…ほんと神に見放されてるわ…」

ルビィ「うゅ…ごめんね、ルビィがアイドルのイベント見に行きたいなんて言ったから…」

花丸「大丈夫、あれはルビィちゃんのせいじゃないよ?善子ちゃんの運の悪さにオラたちも巻き込まれただけずら」

善子「ちょっと!私のせいにするのやめてよね!」

花丸「えへへ、冗談ずら」

121 ◆JaenRCKSyA:2017/09/17(日) 19:10:27 ID:2hZv643g
ルビィ「けどお姉ちゃんも花丸ちゃんも善子ちゃんもヒーローで…なんだかルビィが偉くなったみたいに思っちゃうなあ」

善子「しーっ!私の事は秘密だってば!」

ルビィ「あっ、ご、ごめんね?」

花丸「ヒーローな事ってそんなに必死に隠す事なのかなあ?」

善子「当たり前でしょ!身バレしたらなんて考えたら…もう生きていけない!」

花丸「そんなに気にするならいつもやってる…配信?放送?っていうのをやめたらいいと思うずら…」

善子「何言ってるのよ!あれは私のアイデンティティ!レゾンデートル!欠かすことができないものなの!もう、分かってないわね!」

花丸「マル、当然のことを言っただけだと思うんだけど、なんで責められてるのかな?」

122 ◆JaenRCKSyA:2017/09/17(日) 19:28:36 ID:2hZv643g
三人が話していると、廊下の方からお昼時に似つかわしくない騒ぎ声が聞こえてくる。

花丸「ご飯食べる時間なのになんだか騒がしいね?」

善子「なんかあったのかしら?ちょっと見てくるわね」

善子が席を立ち廊下に向かって歩き出すのと同時に、クラスの生徒が教室の放送用スピーカーの音量つまみをひねったことで、教室に放送が流れだす。

ダイヤ『――を行ってください!』

ルビィ「あ!お姉ちゃんだ!」

花丸「待ってルビィちゃん様子が――」

花丸は放送からいつもと違う様子を感じ取り、自慢の姉の声が聞こえてきたことで目を輝かせながらスピーカーを見上げたルビィの事を制しながら聞き逃さないように耳を澄ませる。

「きゃあああぁぁぁ!!」

しかしそれはクラスメイトの大きな悲鳴によって意味のないものとなる。

花丸「――っ!」

花丸が悲鳴の聞こえた方を振り返ると、狼のような怪獣が一匹教室に入り込もうとするところであった。

花丸は腕輪のように手首に巻いた数珠に触れる。

花丸「変身!」

123名無しさん@転載は禁止:2017/09/17(日) 19:31:09 ID:2hZv643g
次の瞬間には花丸の体は狩衣を模したようなスーツに包まれ、手には身の丈を超えるほどの錫杖が握られている。

花丸「ずらっ」

今にも生徒に飛び掛かろうとする怪獣を見据えながら花丸は錫杖を軽く地に打ち付け、シャン、と澄んだ音が響くと同時に怪獣の足元が白く輝き出す。

花丸「縛!」

花丸がそう唱えるとそこから白く輝く鎖が何本も現れて怪獣をがんじがらめに縛りつけた。

花丸「オラ、じゃなくって…私が誘導するから着いて来てください…!これもあんまり長くはもたないし…」

教室にそう声をかけて移動を始めようとすると、ルビィが肩を叩いておずおずと口を開く。

ルビィ「ねえ花丸ちゃん、善子ちゃん戻ってきてなくない…?」

花丸「え…?ほ、ほんとだ…!どこいっちゃったんだろ…」

すると先ほど悲鳴をあげた生徒がそのやりとりを聞いて話し始める。

「あ、あのね、この教室に入ってきたのは一匹だったけど、ほんとはもっとたくさんいて…実はそれが全部津島さんのことを追いかけていっちゃって…」

ルビィ「…」

花丸「…」

友人の安否が心配ではあったが、それよりもその不幸さに唖然とするばかりであった。

124 ◆JaenRCKSyA:2017/09/17(日) 19:40:28 ID:2hZv643g
善子「ひいいぃぃぃん!!もうやだああぁぁぁ!!」

花丸たちが怪獣と対峙した少しあと、善子は何匹もの怪獣に追い掛け回されながら校舎内を疾走していた。

善子「階段んんん!!」

階段の下からも怪獣が駆けてくるのが目に入ると、逃げ場所が無いことを理解しながらも善子は屋上へ続く階段を駆け上がって扉を蹴り開ける。

善子「たすけ――へっ?」

屋上を駆け抜けた善子は自分が予想していた以上の距離を走り抜けたこと、そしてその身に感じた浮遊感に思考が止まってしまう。

善子「な、なんで柵が無くなってるのよおおぉぉぉ!!」

駆け抜けた先の柵が破れており、そこを飛び出してしまった善子は悲鳴と共に落下を始める。

善子「いやああぁぁぁ!!」

落下しながらも善子は自分の制服をまさぐり、やっとのことで取り出した黒い羽根を自分の頭に作ったシニヨンに突き刺して悲鳴を言葉に変える。

善子「変身んんん!!」

125 ◆JaenRCKSyA:2017/09/17(日) 19:45:49 ID:2hZv643g
善子「あああぁぁぁぁぁ!!」

無我夢中で善子は自分の手の中に自分の背丈と同じくらいの大鎌を作り出して自分の真上に円を描くように薙ぐ。

その湾曲した刃は校舎壁面の出っ張りに引っかかり、振り子のように運動の方向を落下から円へと変える。

善子「ひいいいいぃぃぃ!!」

必死で大鎌にしがみついていた善子は身体が振られるがままにまかせ、その体で窓ガラスを突き破って教室に投げ出される。

善子「ぎゃん!――ヨ、ヨハネ、降臨!」

なんとか立ち上がってポーズを決めるも、教室の中の異様な雰囲気を感じ取って辺りを見回す。

生徒の影は見えず、教室の机はなぎ倒され、白くべたついた太い糸があちらこちらにまとわりついている。

善子「何よこれ…この白いやつ…もしかして、蜘蛛の糸――」

そこまで口にした善子は、嫌な予感を感じてそろりそろりと視線を上に上げていく。そして目に入ったのは、天井近くに張られた蜘蛛の巣に絡めとられた何人もの生徒の姿だった。

善子「い、生きてる、わよね…?」

遠目に見る限り、衰弱はしているものの息があると分かって安堵するも、そんな善子の前に耳障りなカサカサという音と共に巨大な影が躍り出る。

126 ◆JaenRCKSyA:2017/09/17(日) 19:50:39 ID:2hZv643g
善子「ひっ…!気持ち悪…!」

その怪獣の下半身は八本の足と紡錘形に膨らんだ腹と蜘蛛のものであったが、そこから伸びるのは筋骨隆々の肉体に牛の頭。そしてその太い腕には巨大な斧が握られていた。

善子「…けど、ここで私が逃げるなんてわけにはいかないわよね!来なさい!」

善子が鎌を自らの前で斜めに構えるのと同時に、怪獣は鼻息を荒げ、足を蠢かせながら善子へと迫り斧を振り上げる。

「ブモオオォォ!!」

善子「そんな大振り、当たる方が難しいわよ!」

頭上からまっすぐに振り下ろされた斧を横に飛び退いてかわし、自分の背に付くほどに振りかぶった鎌を振り抜く。

刃は怪獣の胴体の肉をえぐるもその傷は浅く、8本の足を動かしてその場で回転するように善子に向き直る。
そして足の内の1本の先にある鋭い爪で善子の事を引き裂こうとする。

善子「っくうう…!」

善子はその場に踏ん張り、大鎌の柄でそれを受け止める。

127 ◆JaenRCKSyA:2017/09/17(日) 19:55:22 ID:2hZv643g
善子(まずいわよねこれ…!)

押し返そうと大鎌に力を込めるも、蜘蛛の足は微動だにしない。そればかりか視界の端で鈍い光が煌めくのが目に入る。

善子「こんのっ!」

頭上に迫る斧にすくむ身を奮い立たせ、善子は手にした大鎌の柄の刃の付いていない側を真上に蹴り上げる。

それによって柄は斜めに傾き、競り合っていた爪もその傾きに沿って滑り始める。

善子「ピアシングシェイド!」

柄の傾きが大きくなり、刃が教室の床に埋まると同時に善子は声を上げる。その声に呼応するようにして、怪獣の巨体が作り出した影から漆黒の棘が突き出し、斧を振り下ろす怪獣の腕を貫く。

「ブルオオォォ!!」

善子「よっし!このままいけば――」

攻撃が決まり、気を抜いた善子の目の前から突如として怪獣の姿が消える。

善子「えっ?どこに――きゃっ!」

死角から突進してきた怪獣の巨体に善子は吹き飛ばされる。

128 ◆JaenRCKSyA:2017/09/17(日) 20:44:37 ID:2hZv643g
善子(なんで気付かなかったのよ…!蜘蛛なのよ蜘蛛…!)

怪獣はその八本の足で跳躍、そして自身の張った巣の上を自在に動き回っていた。

善子(けど、あんな巨体でジャンプ力があるなんて普通思わないわよね…)

善子は怪獣の姿が視界から外れないように注意しながら、教室のそこかしこにはびこっている蜘蛛の巣に狙いを定める。

善子「せえい!」

善子は高く跳躍するとともに大鎌を振りかぶる。そして壁と床、天井をつなぐように伸びた白い糸を善子が振るう刃が次々と刈り取っていく。

善子「――っ!」

床に着地するとともにその場で半回転、その体の振りはそのまま大鎌の勢いへと変わり、背後から振り下ろされていた大斧を受け止める。

善子「んぎぎっ…!む、無理…!」

すんでのところで受け止めたはいいものの善子の細腕では跳ね除けることはおろか、長く持ちこたえることすらもできないと悟り、大鎌を地面へと振り下ろすようにして斧を受け流す。

129 ◆JaenRCKSyA:2017/09/17(日) 20:53:06 ID:2hZv643g
善子「はっ!」

善子は怪獣の斧が地にめり込んだ隙をついて8本の足の内へと潜り込み、鎌を一閃させて足の一本を刈り取る。

「ブモオオォォ!!」

怪獣は咆哮を上げながら斧を振り回すも、自身の真下にいる善子にはかすりもしない。

善子(あれ?もしかしてここって安置じゃない?)

ふとそんな考えがよぎった善子の目の前に突き出されたのは、紡錘形に膨らんだ怪獣の腹部の先端。
そこから勢いよく吐き出されたのは柔らかそうな見た目に反して粘性を帯びた白い糸であり、それは善子の足元へとまとわりついて足を固める。

善子「ちょ、ちょっと嘘でしょ!?待って待って待ってえ!」

カサカサと善子の真上から移動した怪獣は善子を視界にとらえると斧を高く振り上げ、善子めがけて振り下ろす。

善子「っぐうぅ…!」

善子は自身を真っ二つに引き裂こうと迫る斧に向かって渾身の力で鎌を振り抜きその軌道をそらす。

130 ◆JaenRCKSyA:2017/09/17(日) 21:00:20 ID:2hZv643g
怪獣は斧が床に埋まるのを待つこともなく、足の先にある鋭い爪で善子の事を貫こうとする。

善子「いやああぁぁ!」

善子は両足が完全に固定されているのをいいことに、体を思い切り弓なりに反らしてそれをかわす。そしてそれと同時に鎌から片手を離し、その手を地面に付ける。

善子「こんのおおぉ!!」

床に置いた手を突き出して体を跳ね上げ、その勢いを使って鎌を振るい再び自身に迫っていた斧を跳ね除ける。

善子(む、無理…!こんなの死ぬから…!)

再び迫ってきた爪に狙いを定めて善子は鎌を振り切る。

善子「ブラッディサイズ!」

怪獣の足と交わる直前、鎌の刃は赤黒く染まりながらうなりをあげる。足を半ばから刈り取ったその刃からはその軌跡をなぞるように三日月形の斬撃が飛んでいき、怪獣の巨体へと直撃する。

131 ◆JaenRCKSyA:2017/09/17(日) 21:10:28 ID:2hZv643g
善子「よっし命中!」

その一瞬をついて善子が鎌を地に突き立てると、自身の足元の影から黒い触手が伸びて足に絡みついた糸を斬り裂く。

善子「あいつは…!?」

放った斬撃による粉塵が晴れ、目の前に怪獣の姿がないことが分かると善子は上を見上げる。

善子「くっ!」

怪獣は自身の腹部から吐き出した糸を天井に張り付け、ターザンロープのように宙吊りのままスイングしながら斧を振り迫っていた。
善子は床に腹ばいになるように飛び込んでそれをかわす。

善子「元気に飛び回ってるようだけど…もう瀕死なのはわかってるのよ!」

怪獣は糸を断ち切り、自身に残された足で教室の壁に張り付く。しかしその体には大きく傷が刻まれており、そこから黒い霧が漏れ出ている。

怪獣は再び糸を吐き出すとそれにぶら下がるようにして善子へと迫る。

132 ◆JaenRCKSyA:2017/09/17(日) 21:19:18 ID:2hZv643g
善子「迎え撃ってあげ…って無理ぃ!」

善子は飛び掛かってくる怪獣に鎌を叩き込もうとするも、先ほどと違い足を広げて抱え込もうとする姿に恐れをなしてその場から飛びのく。

善子「もう!なんなのよ気持ち悪い!」

善子が振り返ると、怪獣は糸にぶら下がったまま振り子が戻るようにして再び善子へと襲い掛かる。

善子「これで終わりにしてあげる!」

タイミングをつかんだ善子はその場から大きく跳躍、そのまま怪獣の体を飛び越すと鎌を振り抜いて天井へと伸びた糸を断ち切る。

善子「私の勝ち――っ!?」

自分の鎌が怪獣の体を斬り裂く未来を確信した善子の着地した場所にあったのは、なぎ倒された机に入っていたであろう一枚のプリント。それを踏み込んだ善子は足を滑らせてその場に顔面から転倒してしまう。

自身を吊り下げる糸を斬られて床に投げ出された怪獣は、少し離れた場所から鼻息も荒く善子に迫ろうとする。

133 ◆JaenRCKSyA:2017/09/18(月) 00:17:06 ID:Nj45rh/k
善子「クリミナルアビス――」

顔面をしたたかに打ち付けた善子の口から発されたのはつぶれたような声だったが、それと共に怪獣の体は自身の影から伸びた黒い触手に絡めとられ、影へと沈んでゆく。

善子「これくらい予想できてなきゃ、不幸だなんて名乗れないのよ!」

赤くなった鼻で得意げにする善子の手に握られた鎌の先端は地に突き立てられていた。

善子「随分手こずらせてくれたけど、これで終わりよ!」

足の根元まで影に沈み、斧を振り回しながらもがく怪獣へと歩み寄り、善子は腰を落として鎌を斜めに振りかぶる。

善子「デッドリーパニッシュ!」

善子の振り抜いた刃はどす黒い軌跡を残しながら、怪獣の体を真っ二つに斬り裂く。薄らいでいく黒い霧を残してその体も完全に消滅していった。

善子「――疲れたあぁ!」

黒い霧が完全に晴れたのを見て、善子は声をあげて床に大の字に寝転がる。

134 ◆JaenRCKSyA:2017/09/18(月) 00:28:55 ID:Nj45rh/k
善子「…そういえば必死すぎて気にしてなかったけど、捕まってた子たち巻き添え食らってないわよね?流れ弾とか…」

急に心配になった善子は上体を起こしてきょろきょろと教室を見回すと、自身の周囲は荒れ果てているものの蜘蛛の巣に絡めとられた生徒たちには戦いを始める前とほとんど変わらない状態だった。

善子「ふう、大丈夫そうね…って駄目じゃない助けなきゃ!」

安堵したように床に寝そべろうとしたが自身の勘違いに跳ね起き、鎌で教室に張られている巣を斬り裂いていく。

善子「にい、しい、ろお…七人ね」

救出した七人の生徒を床に寝かせながら思案する。

善子(さすがに私一人じゃ全員移動させるなんて無理だし…やっぱりここにいた方がいいかしら?けどいやーな予感がするのよね…私の不幸さを考えると)

まあそれはその時考えればいいか、と思い直し、教室の扉から怪獣が飛び出してくる想像をしながらも気楽に構えるのだった。

135 ◆JaenRCKSyA:2017/09/18(月) 00:33:53 ID:Nj45rh/k
ここまで

136名無しさん@転載は禁止:2017/09/18(月) 00:40:53 ID:Irt5Skz2
待ってたぜ

137名無しさん@転載は禁止:2017/09/18(月) 22:33:59 ID:kV8r6k3M
おつおつ

138名無しさん@転載は禁止:2017/09/19(火) 17:10:49 ID:Q.paQHfc
乙よ、乙!

139 ◆JaenRCKSyA:2017/09/21(木) 23:44:47 ID:8eb/55qg
怪獣が現れる直前のこと、ダイヤは浦女に怪獣が向かっているという連絡を受けて理事長室へと向かっていた。

ダイヤ「失礼します!」

鞠莉「ダイヤ!」

律儀にノックをし、ひと声かけてからドアを開けたダイヤを出迎えたのは、今しがた通話を終えて受話器を置いた理事長、小原鞠莉だった。

ダイヤ「鞠莉さん!さっきの連絡は本当なのですか!?」

鞠莉「ええ…大型の怪獣はもういないみたいだけれど、小型、中型の怪獣が相当数散らばったみたいなの…」

ダイヤ「怪獣の人が多い場所に引き寄せられるという性質を考えれば――ここにくるのは必然ということですか…」

ダイヤが歯を軋ませるのと同時に、鞠莉の座るデスクの電話機が着信を告げる。

鞠莉「ダイヤ、悪いんだけれど校内放送お願いしていいかしら…?使い方は生徒会室のと同じだから――」

ダイヤ「ええ、任せてください」

ダイヤは放送機材の前に立ち、マイクに向かって話し始める。

ダイヤ「お昼時に失礼いたします!周辺地域で怪獣の発生が確認され、ヒーローによる討伐が行われましたが複数の個体を取り逃がし、浦女の方へ向かっているとのことです!落ち着いて、迅速に体育館まで避難を行ってください!繰り返します――」

140 ◆JaenRCKSyA:2017/09/21(木) 23:50:29 ID:8eb/55qg
ダイヤが放送を終えて振り返ると、ちょうど鞠莉も通話を終えたところであった。

ダイヤ「連絡の方は大丈夫そうですか?それと一つ聞きたいことが…あの不良学生の姿を今日一度も見ていないのですが…」

鞠莉「ああ…私も見ていないから、果南はまた…サボりかしらね?」

ダイヤ「こんな時に…!まったくあの人は私たちに心配ばかりかけて…!」

ダイヤは安否すら確認できない友人に腹を立てるも、今怒っても仕方がないと自分を落ち着かせる。

ダイヤ「まあ果南さんならば大丈夫だと信じましょう…さ、鞠莉さんも早く避難を!」

鞠莉「いいえ、私はここに残るわ」

ダイヤ「…本気ですか?いくらここの部屋に防衛機能があると言っても最低限のものでしか――」

鞠莉「それでも、私を頼ってここに逃げ込んでくる子がいるかもしれないでしょう?それなら私がいてあげなくちゃ」

ダイヤ「ですが…」

鞠莉「No problem! だからそんな顔しないの!せっかくの吊り目が台無しよ?」

ダイヤ「どういうことですか全く…けれど、それがあなたのやるべきことだと言うのなら、分かりました」

ダイヤは首から下げたペンダントトップを握りながら続ける。

ダイヤ「私の成すべきことは一つ――変身!」

141 ◆JaenRCKSyA:2017/09/21(木) 23:54:00 ID:8eb/55qg
ダイヤ「怪獣も怪人も全て…滅ぼし去るまで!」

フルプレートの鎧を身に纏い、手にはレイピアを握りしめてダイヤは振り返ると、そこにあったのは鞠莉の寂しそうな笑顔。

ダイヤ「そんなに心配しないでください…私の強さは分かっているでしょう?――では、行って参ります!」

そう言い残してダイヤは理事長室を飛び出していく。

鞠莉「怪人も全て、か…」

自分しかいなくなった部屋で鞠莉はそう零したのだった。

142 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 00:19:50 ID:5RsMlP.o
ダイヤ「一年生の教室に――いえ、それは公私混同が過ぎるというものですわね…」

妹の元へと向かいたい気持ちを抑え、ダイヤは思考を巡らせる。

ダイヤ(各教室の避難は浦女に在籍しているヒーローの方が行ってくれるはず…わたくしは校舎内の怪獣の排除に当たるべきですわね)

考えをまとめたダイヤは、校舎をぐるりと回るルートを頭の中に思い浮かべて走り出す。

ダイヤが廊下を駆け抜け、一つの教室の前を通り過ぎようとしたところで、その扉を貫いて槍が突き出される。

ダイヤ「ふんっ!」

奇襲を受けたにもかかわらずダイヤは動じることなくその槍を手にしたレイピアで跳ね除ける。

ダイヤ「随分と姑息な真似…ですが汚らわしい怪獣にお似合いですわ…!」

怒りを隠さずにダイヤはレイピアを煌めかせて扉を切り刻み、教室の中へとその切っ先を向ける。

生徒が去った後のがらんとした教室にいたのは甲高い鳴き声をあげる、それぞれ槍と棍を手にした猿のような怪獣だった。

143 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 00:40:28 ID:5RsMlP.o
「キキッ!」

ダイヤが教室へ飛び込むのと同時に猿は高く跳ね上がり、手にした武器を振り上げながら飛び掛かる。

ダイヤ「はあっ!」

ダイヤはその攻撃に向かって身を躍らせて槍の刺突をかいくぐると、振り下ろされている棍をレイピアに力をこめて弾く。

ダイヤ「星の瞬きに散りなさい!スターラピスラズリ!」

槍を持った猿が着地すると同時にダイヤに迫ろうとするが、ダイヤの撃ち出した無数の光弾に貫かれて床に転がる。

「キキャッ!」

その隙にダイヤの真横にまで接近したもう一匹の猿はその脇腹をめがけて水平に棍を振り抜く。

ダイヤ「小賢しいですわ!」

即座にダイヤはレイピアを打ち下ろして棍を地面に叩きつけると、棍と共に床に這った猿の脳天にかかとをめり込ませる。

144 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 00:49:27 ID:5RsMlP.o
「ウキッ!」

ダイヤ「猛るは大地の怒り!バルジトパーズ!」

槍を持った猿が迫るのも意に介さずにレイピアを地に突き立てると、かかと落としを食らわせた猿の真下から岩が突き出してその体を真上に吹き飛ばす。

ダイヤ「はっ!」

そしてレイピアから手を離し、一歩分だけその場から飛びのいて刺突をかわすと、突き出された槍の柄をつかみ取り、猿の体ごとそれを振りかぶり宙に投げ出す。

ダイヤ「終わりです!」

その猿が投げ出された先にはもう一匹の猿。体が重なるようにして宙に浮いた二匹の猿をダイヤは地から瞬時に抜き去ったレイピアでまとめて串刺しにする。

その体が黒い粒子に消えてゆくのを見てダイヤはふうっ、と息を吐き出す。

ダイヤ「こんなものに構ってはいられません」

吐き捨てるように言ってその教室を後にしようとしたダイヤの耳元に声が響く。

鞠莉『ダイヤ!聞こえるかしら?』

ダイヤ「鞠莉さん…一体いつ私のシステムに通信機能を?」

鞠莉『気にしない気にしない!…ってそんな場合じゃなくて、今連絡が入って逃した怪獣のうち、飛行型がこちらに向かってるそうだから迎撃をお願いしたいの!』

ダイヤ「飛行型、ならば屋上ですね…分かりました、すぐに迎え撃ちます!」

145 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 00:55:12 ID:5RsMlP.o
鞠莉『お願いね!』

鞠莉のその声を残して耳元でブツリと音がするのを聞き、ダイヤは教室から飛び出す。
そして廊下を走り抜けていくと前方から二匹の狼のような怪獣が向かってくるのが目に入る。

ダイヤ「邪魔!」

すれ違いざまに素早くレイピアを二閃して怪獣を一瞬のうちに葬り去る。ダイヤは振り返りもせずに駆け抜けて屋上へ続く廊下を急ぐ。

ダイヤ(思っていたよりも数が多い…!飛行型までが侵入したら本格的に収拾がつかなくなってしまう…!)

階段を駆け上がり、屋上につながる扉を開けてダイヤは屋上の中央にまで足を進める。

ダイヤ「どこから現れ――!?」

ダイヤは肌を刺すような感覚に襲われ、とっさにレイピアを自身の頭の上に構える。

ダイヤ「ぐっ…!」

上空から浴びせられたのは円錐形をしたいくつもの針。突きに主眼を置いた細いレイピアでは全てを防ぐことはできず、針はダイヤの体に突き刺さる。

ダイヤが空を見上げると、目に入ったのは大きく羽ばたく鳥の翼。しかし頭から体までは鳥のそれであったが、本来尾羽の生えているはずの部分には蜂の腹部がつながっていた。

146 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:01:30 ID:5RsMlP.o
ダイヤ「また醜悪な…」

その身に負った傷はそう大きくないと判断し、怪獣の姿を視界に入れるとダイヤは眉間にしわを寄せ、レイピアを構えなおす。

怪獣が甲高く鳴き声をあげて左右の翼を大きく一振りすると、その翼から羽根が弾丸のように撃ち出される。

ダイヤ「星の瞬きに散りなさい!スターラピスラズリ!」

ダイヤはレイピアを高く掲げ、白い光弾を撃ち出す。相殺できないものは身に当たるに任せて怪獣を仕留めることのみを考える。

ダイヤ「このちょこまかとっ…!」

光弾で怪獣の姿を追うも、相手は空を自在に飛び回りそれをかわす。そして光弾がそれた隙をついて怪獣は膨らんだ腹部をダイヤに向けて針を発射する。

ダイヤ「くっ…!猛るは大地の怒り!バルジトパーズ!」

掲げていたレイピアを地面に突き下ろすと、ダイヤの身を隠すようにして茶色の大岩が突き出す。

針の射出が終わると同時にダイヤは岩の影から躍り出てレイピアを振るう。

ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」

レイピアから放たれた炎の触手は怪獣を焼き尽くそうと迫る。

147 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:05:35 ID:5RsMlP.o
怪獣が自身に迫る炎に向かって翼を羽ばたかせるとそこから暴風が吹き荒れ、炎は透明なハンマーで殴られたように形を崩す。

ダイヤ「ならば…これでどうです!」

ダイヤがタクトのようにレイピアを振るうとまっすぐに伸びていた炎は根元から裂けて二股となる。

ダイヤ「はああっ!」

二筋の炎は蛇のようにその身をくねらせながら、怪獣に巻きつくようにして迫る。

しかし怪獣は甲高い鳴き声をあげると、自身の背面から振り下ろすように大きく翼をはためかせて放射状に暴風を吹かせて炎をかき消す。
そして腹部をダイヤの方へと突き出して体を震わせると、ひときわ巨大な針をダイヤめがけて発射する。

ダイヤ(発動が間に合わない…!)

ダイヤは眼前に迫る針を見据えながら腰を低く落としてレイピアを構える。

ダイヤ「ぜええぇい!!」

声をあげながらダイヤは腕に重さを感じながら渾身の力でレイピアを振り抜く。針は打ち返されて屋上の柵を破りながら消える。

148 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:08:48 ID:5RsMlP.o
ダイヤ「このままではジリ貧…気は進みませんが覚悟を決める必要がありますわね…」

ダイヤはレイピアを目の前に垂直に構えてぎゅっと一瞬目を瞑る。

ダイヤ「吹き荒ぶは翠の薫風!ウィンディエメラルド!」

ダイヤの周囲に風が舞い踊り、その体をふわりと宙に浮かび上がらせる。

ダイヤ「本来このような使い方ではないのですけれど…仕方がありませんわ」

怪獣と同じ高さにまで飛び上がり、ダイヤはレイピアを構える。

ダイヤ「さあ、かかってきなさい!」

怪獣は一度大きく翼を羽ばたかせると、鋭くとがった嘴を真っすぐに向けてダイヤへと飛び掛かる。

ダイヤ「ふっ!」

それをダイヤは宙返りをするかのように舞い上がってかわし、無防備となった怪獣の背中めがけてレイピアを突き出す。

しかしその刺突には体重を乗せることもできなかったためえぐった肉は浅く、傷を意に介さずに怪獣はそのまま飛び去って行き十分に距離を取ったところで向き直る。

149 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:12:23 ID:5RsMlP.o
ダイヤを再び視界へと入れた怪獣は即座にその場で翼を振り、無数の鋭利な羽根を撃ち出す。

ダイヤ「くっ…!」

ダイヤは宙を飛び回りながらそれをかわしていくが、一瞬ぐらりと体勢が崩れ、そこを羽根の弾丸は次々と打ち抜いていく。

ダイヤ(やはり空中での戦いは不利…!)

傷を負い落下を始める体をなんとか風で立て直し、自分の上空を羽ばたく怪獣を睨み付ける。

ダイヤ(風を飛行だけに使っているようでは勝機はありませんわね…)

短く息を吸い込んでダイヤは自身を包む風の勢いを強め、一気に怪獣の上まで飛び上がる。

怪獣はダイヤのその動きをとらえると、その場に滞空しながら蜂の腹部を上に向けていくつもの針をダイヤへと撃ち込んでいく。

ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」

ダイヤはレイピアを躍らせて炎の鞭を作り出し迫る針を灰へと変えていく。しかし炎を繰り出した瞬間、ダイヤを取り巻いていた風は消えて体は自由落下を始める。

150 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:20:47 ID:5RsMlP.o
ダイヤ「吹き荒ぶは翠の薫風!ウィンディエメラルド!」

針を全て焼き尽くし、自身の落下するスピードが加速していく中でレイピアを振るい再び風によって飛翔を始める。

その時にはすでに怪獣よりも低い位置まで落下しており、逆さにした放物線を描くようにして怪獣の懐にまで飛び込んでいく。

ダイヤ「はあっ!」

真下から突き上げるようにレイピアを繰り出し怪獣の体を串刺しにしようとする。炎によってダイヤの姿を見失った怪獣はかわすことも叶わず、その肉を削られる。

ダイヤ「ふっ!」

刺突の勢いのままに怪獣よりも高い位置にまで飛び上がったダイヤに向かって、甲高い鳴き声をあげながら翼を羽ばたかせて怪獣は羽根の弾丸を撃ち出そうとする。

ダイヤ「星の瞬きに散りなさい!スターラピスラズリ!」

しかしダイヤはそれよりも早くレイピアを掲げて純白の光弾を怪獣の体へと叩き込んでいく。

ダイヤ「吹き荒ぶは翠の薫風!ウィンディエメラルド!」

怪獣へと光弾が着弾した瞬間にダイヤは風を生み出して落下を始めていた自身の体をさらに加速させていく。

ダイヤ「これで終わりです!!」

レイピアを真っすぐに構え流星のように飛び出したダイヤは、光弾のダメージにひるんだ怪獣の体に風を纏わせたレイピアを突き入れ風穴を開ける。

151 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:22:43 ID:5RsMlP.o
ダイヤ「ふう…」

身を翻し、屋上の床へと着地したダイヤは黒い粒子になって消えていく怪獣を見つめながら息を吐き出す。

ダイヤ「――飛行型の姿はもう見えないようですわね…校舎内の掃除に戻りましょうか」

空をぐるりと見渡して、怪獣の影がないと分かるとダイヤはそう呟いて屋上の柵へと駆け寄り、ひらりと飛び越えて校舎壁面の窓から校舎へと入っていった。

152 ◆JaenRCKSyA:2017/09/22(金) 01:24:43 ID:5RsMlP.o
ここまで
戦闘いちいち長すぎて話が進まないナア…

153名無しさん@転載は禁止:2017/09/22(金) 19:51:09 ID:l.8doYIw

戦闘も楽しく読ませてもらってるよ
何より定期的に投下してくれるのが嬉しい

154名無しさん@転載は禁止:2017/09/23(土) 00:15:51 ID:sF4.xycM
更新おつー
戦闘描写読み応えあって好きよ

155 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 18:40:15 ID:9Syix17E
曜「ふっ!せいっ!」

曜は梨子と別れてから、遭遇する小型の怪獣を次々と手にした銛で貫いて葬り去りながら廊下を駆け抜けていた。

曜「やっぱり結構多いなあ…避難はちゃんとできてるみたいだからいい、け、どっ!」

大きく踏み込んで鎌首をもたげたコブラのような怪獣の口に銛をねじ込みながら足裏でブレーキをかける。

曜「おっきい奴ってほんとにいるのかな?生徒会長さんが実はもう全部倒してたり――」

そう独り言ちると、曜は静まり返った校舎の中に響く軽快に何かを打ち鳴らすような音を感じ取る。

曜「?なんだろこのパカパカって音…どっかで聞いたことあるような…」

首をひねっていると、その音はどんどんと大きくなっていき、ついにそれを発生させているモノが曜の視界へと入り込んでくる。

曜「げっ…!梨子ちゃんが言ってたのの一匹があれ…!?」

曜の耳に響いて来ていたのは蹄が廊下の床を叩く音。廊下を曜に向かって疾走してくるのは、馬の脚に熊の上半身、そしてその毛むくじゃらの腕につながっているのは手ではなく蟹かザリガニのような甲殻類の巨大なハサミであった。

曜「こっわ!っていうか速いし!」

156 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 18:48:32 ID:9Syix17E
異様な姿で疾走してくる怪獣に曜は身震いしたが、銛を構え直して怪獣に向かって走りこんでいく。

曜「全速前進…ヨーソロー!!」

すれ違いざまに銛を渾身の力で突き出して怪獣の体を貫こうとするも、硬い殻に覆われたハサミで打ち払われてしまう。

曜「硬っ!…けどっ!」

曜は即座に身を翻して反転、自分の真横を駆け抜けて背を向けている怪獣を追うようにして足を踏み出す。

数歩で一気に加速、そして体が開くほどに銛を振り上げて半身になりながら足を進める。

曜「タイダルハープーン!!」

最後の一歩を踏み込むと同時に曜の手から放たれた銛は水流をほとばしらせながら怪獣へと迫る。

「グルオォ!」

蹄を鳴らしながら曜へと向き直った怪獣は喉を唸らせて腕にあるハサミを銛めがけて振るう。しかし怪獣の剛力をもってしても跳ね除けることはできず、怪獣は後方へと吹き飛ばされる。

157 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 18:58:46 ID:9Syix17E
曜「これでやっとダメージって厳しいなあ…」

吹き飛ばされながらも転倒することなく再び曜に向き合う怪獣の姿を見て曜は零す。

曜「ま、絶対負けないけどね」

あどけなさすら残る顔に勝気な笑顔を浮かべて曜は手の中に銛を作り出す。

「グルル…!」

怪獣は低く喉を鳴らすと廊下を走り始める。

曜「ワンパターンは嫌いじゃないよ!」

迫ってくる怪獣を睨みつけながら曜は動かずに体勢を低くして待ち構える。そして怪獣がハサミを大きく開いてそれを振り抜こうとするのに合わせ、高く跳躍する。

曜「ぜえいっ!」

体をひねるように空中で180度反転し、曜は真下をくぐり抜けていく怪獣の背に向かって銛を突き出したが、銛と怪獣の間に現れたのはムチのようにしなる尾。そしてその先端にはナイフのような刃がつながっており、銛の一撃をはじき返す。

曜「ええっそんなのあり!?」

158 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 19:06:13 ID:9Syix17E
跳ね除けられた銛を握りしめて着地すると、怪獣は曜に背を向けたまま廊下を走り去っていくところであった。

曜「やばっ…!逃がさないよ!」

慌てて曜はその後ろ姿を追って走り出すも馬の脚力には及ばず、みるみる内に距離が開いていってしまう。

曜「そりゃやっぱ速いよね…!けど私だって…!」

そう言って手首に巻きつけたブレスレットの操舵輪を弾いて回転させると、曜のアーマーの背部からバーニアが展開、そしてそこからの噴射の勢いを利用して一気に加速していき怪獣と並走を始める。

曜「いっくよ…!」

曜は真横を疾走する怪獣の体めがけて鋭く銛を突き出す。その先端は一瞬のうちに三筋の軌道を描く。

「グルァ!」

それに対し怪獣はハサミと尾を使って防ぐも、最後の一撃はいなしきれずにその体に傷が刻まれる。

しかしその傷は浅く、何もなかったかのように走り続けながら曜の背後から尾に付いた刃で斬り裂こうとする。

曜「よっと!」

背後に迫る気配を感じた曜はバーニアを止め、瞬時にヘッドスライディングのように床に滑り込んでそれをかわす。そして床についた手で体を跳ね上げて再びバーニアを点火、怪獣の真横について走る。

159 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 19:13:39 ID:9Syix17E
怪獣と駆け抜ける曜の視界に入ったのは廊下の曲がり角、それを見て曜は作戦を立てる。

曜「よーし…!全速、前進!」

バーニアの勢いを強めて怪獣を追い越し、曲がり角の所で曜は反転して怪獣に向き直る。
そして手にした銛はアーマーへと取り付け、新たに手の中に作り出したのは自身の体と同じくらいはあろうかという巨大な錨。

曜「面舵いっぱーい!!」

怪獣が曲がり角に差し掛かるタイミングで、曜は手にした巨大な錨を水平に振り抜く。が、怪獣は蹄の音を高らかに上げて跳躍、その一撃を難なく飛び越えて行ってしまう。

曜「うそっ!自信あったのに!」

再び遠ざかってしまった怪獣の背中越しに、こちらに目を向けながら青い顔で固まっている生徒の姿を曜は目撃する。

曜「――っ!!」

即座にバーニアを点火させて加速、生徒に狙いを定めてハサミを構える怪獣の背を追いかける。

160 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 19:23:43 ID:9Syix17E
曜「させるかああぁぁ!!」

怪獣に迫りながら曜はその左手に持った銛を投擲するが、まるで怪獣には当たらず、怪獣と生徒の間の床に突き刺さる。

右手に錨を構えた曜は一気に怪獣を追い越して生徒の目の前――銛が突き刺さった場所にまで躍り出る。

「グルアァ!!」

曜を引き裂こうと大きく開いたハサミを振り上げて怪獣は突進する。

曜「ぜええぇい!!」

閉じられようとしたハサミに錨をねじ込んでその動きを止めるが、怪獣の巨体による突進の勢いは衰えていない。

曜「ぐうぅ…!」

曜は真後ろの床に突き刺さった銛の先端に足裏を叩きつけて踏ん張り、さらにバーニアを点火させて怪獣と競り合う。

曜「早く逃げて!!」

曜が振り返らずに自らの背後にいる生徒に声を投げかけると、先ほどまで放心していた生徒は弾かれたように立ち上がり近くの教室の中へと逃げ込む。

161 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 19:27:59 ID:9Syix17E
「グルル…!」

蹄を鳴らしながら曜を押し切ろうとしていた怪獣は自身の尾を躍らせて曜を狙おうとする。

曜「ネイヴァルファイア…!」

曜が全身に力を込めたままそう声を発すると、曜の身に纏ったアーマーの両肩、そして腰の部分から計四門の砲塔が現れて怪獣へと向く。

曜「撃ち方――始めっ!!」

曜のその掛け声とともに四門の大砲は一斉に火を噴く。その砲撃によって怪獣は吹き飛ばされて辺りには煙が立ち込める。

曜(これで倒せるとは思ってないけど――っ!)

目の前の煙が乱れるのを見て曜は瞬時に錨を地に落とし、さらに背後に埋まっている銛を後ろ手に引き抜き自身の前で勢いよく回転させ始める。

煙の中から現れたのは怪獣の尾の先端につながっていた刃、それと同じものがいくつも煙を突き破って曜を貫こうと飛んでくる。

曜「よっと!」

しかし曜が振り回し唸りをあげる銛によってその全てが撃ち落とされる。

162 ◆JaenRCKSyA:2017/09/30(土) 19:32:13 ID:9Syix17E
曜「っ!」

刃の弾丸が止んだ瞬間に煙をかき乱しながら怪獣の巨体が躍り出てハサミを振り上げる。その体はところどころの肉がえぐれ、そこから黒い霧が漏れ出していた。

曜「はあっ!」

床に落とした錨を拾い上げ、その勢いのまま真下からハサミを打ち上げる。さらに無防備になった怪獣の太い腕めがけて銛を突き入れる。

「ガアアァ!!」

曜「ラミングアンカー!!」

腕に傷を負い雄叫びをあげる怪獣めがけて曜が錨を構えるとその先端の形状が鋭く尖っていく。そしてバーニアで加速していき、そのままの勢いで怪獣の体に風穴をあけ貫く。

曜「なん、とか…勝てたあ…」

晴れていく黒い霧に包まれながら曜は手にした武器を消して背伸びをする。

曜「校舎の中だいぶ走り回ったけど新しい怪獣は見当たらなかったし、そろそろ打ち止めって感じかな?」

そう言って緊張を解いたようにきょろきょろとあたりを見回す曜の耳に、窓の外から轟音が飛び込んでくる。

曜「何今の!?外…校庭の方…!?」

音の聞こえた方の窓を開け放ち、曜は校庭へと飛び出していった。

163名無しさん@転載は禁止:2017/10/01(日) 22:18:56 ID:4ZUhnZoc
おつおつ

164名無しさん@転載は禁止:2017/10/11(水) 23:39:51 ID:65jqRgrU
待ってる

165名無しさん@転載は禁止:2017/10/12(木) 16:30:54 ID:k2YaNFME
あたしも待ってるわよ

166名無しさん@転載は禁止:2017/10/12(木) 18:42:39 ID:FpsDQrWg
おいどんも待ってるでごわす

167 ◆JaenRCKSyA:2017/10/14(土) 18:23:15 ID:7FybnJKI
校庭に降り立った曜の視界に入ったのは巨大なトカゲのような怪獣と、それと対峙する白銀の鎧を身に着けたヒーローの姿だった。

曜「生徒会長さん…!」

曜がダイヤに加勢しようと駆け寄ろうとすると、怪獣は身体を震わせて大口を開きその中から勢いよく舌を吐き出す。

ダイヤ「くっ!」

ダイヤがそれをレイピアで打ち払おうとするも、まるで意思を持っているかのように軌道を変えてダイヤの背中を狙う。

曜「こっの!」

それを見た曜は飛び出していき、ダイヤを狙う舌を蹴り上げて軌道をそらす。

ダイヤ「キャプテンアンカー!お力添え、感謝します!」

怪獣から目を離さずにダイヤは曜へと声をかける。

曜「うわあまた変な見た目の…」

曜はダイヤと並び立ち、改めて怪獣の姿を眺めると、一見した時のトカゲのイメージからは離れた見た目であることを感じる。

大部分は爬虫類染みた姿かたちではあるが、その背には剣竜のような背板が並び、眼球は異様に肥大して眼窩から大きく露出している。そして尾は二股に分かれて先端には牙をむいた口が開いていた。

168 ◆JaenRCKSyA:2017/10/14(土) 18:45:54 ID:7FybnJKI
ダイヤ「来ますわよ!」

曜「はい!」

ダイヤがレイピアを、曜が銛をそれぞれ構えるのと同時に怪獣は背中に生えた背板をミサイルのように撃ち出す。

曜「ほんとなんでもありだよねっ…!」

ダイヤ「吹き荒ぶは翠の薫風!ウィンディエメラルド!」

曜は自身を追うように飛ぶ弾丸から逃げるように走り出し、ダイヤは自らの周囲に風を躍らせる。

曜「ううっ、便利でうらやましいよ…!」

ぼやきつつ校庭を駆け抜けながら曜は銛を振り回して自身に迫る弾丸を撃ち落としていく。それに対しダイヤは周囲に逆巻く風によって攻撃を寄せ付けない。

ダイヤ「はっ!」

曜「やああっ!」

弾丸の雨が止むと同時にダイヤは暴風を、曜は手にした銛を怪獣に叩き込もうとする。

怪獣はダイヤの方に首を向けて大口を開き灰色のドロドロとした液体を吐き出すと、その吐き出した液体はみるみる固まっていき怪獣の目の前にそびえたつ壁となり風を遮る。さらに二股に分かれた尾につながった口で曜の銛をがっちりと咥え込みその動きを止める。

ダイヤ「んなっ!?」

曜「うわっ…!」

169 ◆JaenRCKSyA:2017/10/14(土) 19:02:04 ID:7FybnJKI
ダイヤ「ふっ!」

ダイヤは怪獣との間を隔てる壁を駆け上り、そこから落下の勢いを使って怪獣へレイピアを突き立てようとする。

曜「おおおりゃあああ!!」

銛に噛みついていた口を離してその場から移動しようとした怪獣の尾に曜は手を伸ばしてしっかりと握りしめる。そして逃げようとした怪獣の体を渾身の力でダイヤの着地地点へと押し戻す。

ダイヤ「はああっ!」

怪獣は身体をよじりレイピアの直下から離れようとするも逃れられず、足の一本をレイピアによって貫かれる。

ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」

さらにダイヤはレイピアを引き抜くと同時に炎の鞭を生み出し、怪獣を焼き尽くそうとする。

曜「うわ危なっ…!」

自分を巻き込みかねない炎の勢いに曜は慌てて怪獣から離れていく。しかし、怪獣は口から灰色の液体を吐き出すことでその炎を遮る。

170 ◆JaenRCKSyA:2017/10/14(土) 19:10:46 ID:7FybnJKI
曜「タイダルハープーン!」

曜は怪獣のそばから飛びずさりながら銛を振り上げ、頭をダイヤの方へと向けている怪獣へと投擲する。

それを察知した怪獣はその巨体に見合わない俊敏さでその場から跳躍する。曜の手から放たれた銛は怪獣の腹をかすめながら飛び去って行く。

曜「これもよけるんだ…!」

重量感のあるズシリという音と共に地面に着地、そして大きく露出した左右の眼球をぎょろりと動かし、それぞれでダイヤと曜を見据える。

ダイヤ「何を…」

すると眼球が毒々しい紫色に輝き、そこから二人めがけてまっすぐに光線が放たれる。

曜「やっば!」

ダイヤ「猛るは大地の怒り!バルジトパーズ!」

曜は巨大な錨を、ダイヤは目の前に茶色の岩を作り出すことでそれを防ごうとする。

曜「っぐうう…!」

ダイヤ「かはっ…!」

しかし曜の振るった錨は一瞬の拮抗の後に跳ね飛ばされ、光線は曜の左肩を貫く。さらにダイヤの作り出した大岩をも貫通し、ダイヤの脇腹を抉る。

171 ◆JaenRCKSyA:2017/10/14(土) 19:24:38 ID:7FybnJKI
曜「ぜええぇい!!」

曜は後ろに吹き飛ばされながらも肩の痛みをこらえて錨を怪獣へと投げ込む。目をぐるりとそちらへ向けると、口を大きく広げて灰色の液体を吐き出し始める。

ダイヤ「星の瞬きに散りなさい!スターラピスラズリ!」

その瞬間、ダイヤは脇腹を押さえながらレイピアを高く掲げて純白の光弾を発射する。怪獣は固まっていく液体で錨を防ぐことには成功するが、ダイヤの放った弾丸を体に受けていく。

ダイヤ「これでどうです…!」

ダイヤの攻撃によって煙が立ち込めた校庭で二人は立ち上がり、怪獣のいた位置を油断せずに睨み付ける。

そして煙が晴れるとそこに怪獣の姿はなく、校庭の砂地が広がっているだけであった。

曜「あっけないけど…終わったの…?」

ダイヤ「動いた気配も無かった…しかしあの程度で…」

周囲を見回しても怪獣の姿はどこにも見当たらず、拍子抜けだと感じつつも二人は武器を下ろす。

172 ◆JaenRCKSyA:2017/10/15(日) 00:24:34 ID:.byO1VKM
ダイヤ「がはっ…!」

曜「ジュエルさん!?」

緊張を解いた瞬間、ダイヤは真後ろから巨大な腕に殴りつけられたかのように前へと吹き飛ばされる。

曜「一体――ごぼっ…!」

周囲を警戒しながらダイヤに駆け寄ろうとした曜は何かに脇腹をしたたかに打ち据えられて校庭へと転がる。

曜(今のは――鞭?尻尾?)

ダイヤ「なるほど、思い違いをしていたようですわね――トカゲではなく、カメレオン…!」

曜「カメレオン…?じゃあさっきのって…」

ダイヤ「ええ、姑息にも姿を隠しての奇襲…!」

完全に周囲の景色と同化した目に見えない敵とどう戦えばいいのか、まるで突破口を思いつかない二人を尻目に怪獣は攻撃を仕掛け始める。

173 ◆JaenRCKSyA:2017/10/15(日) 00:38:53 ID:.byO1VKM
風を切る音が聞こえたかと思うと、ダイヤと曜の足元の地面が次々と炸裂していく。

曜「う、わっ!」

ダイヤ「くっ!」

二人はその場から飛びのくも、それを追いかけるように目に見えない攻撃は続いていく。

ダイヤ(地面が爆発しているように見えても、これはおそらく飛び道具によるもの…それならばっ…!)

ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」

ダイヤはレイピアを振るい二筋の炎を作り出すと、その炎を鞭のように周囲へと躍らせて降り注ぐ弾丸を焼き払っていく。

曜「どこにいるか分からないんだったら…!ネイヴァルファイア!」

曜の両肩と腰から砲塔が突き出し、それと同時に曜はダイヤの近くへと跳躍する。

曜「撃ち方、始め!!」

砲口が火を噴き始めるとともに曜は体の向きを変えていき、校庭のほぼ全域を掃射していく。

174 ◆JaenRCKSyA:2017/10/15(日) 00:47:13 ID:.byO1VKM
曜「いぶりだしたっ!」

砲撃を放つ中で一か所、空中で爆発が起きた地点があるのを見つけた二人は自身の武器を手にそこへと飛び込んでいく。

曜「やああぁ!!」

ダイヤ「はああぁ!!」

曜は銛を、ダイヤはレイピアを、怪獣のいるはずの場所めがけて力の限りに突き出す。しかしその攻撃は途中で何か硬いものに食い込んだかのように止められてしまう。

曜「これ…また尻尾が…!」

曜は一度銛による攻撃を尻尾の先に開いた口によって阻まれており、その時と同じ感触を感じていた。

そして二人の目の前で二か所、毒々しい紫色の光が輝き出す。

ダイヤ「がはっ…!」

曜「ぐ、あ…!」

そこからまっすぐに放たれた光線に撃ち抜かれ、二人は勢いよく地面へと投げ出されてしまう。

175 ◆JaenRCKSyA:2017/10/15(日) 00:59:47 ID:.byO1VKM
曜「きっつ…!」

ダイヤ「姿が見えないというだけでこれほど…!」

自らの武器を支えに体を起こし、一見すると何もないように見える校庭を二人は睨み付ける。しかし、見えない敵へ有効な手段がいまだ見つからず、立ち尽くすしかない。

『ジュエルさん!キャプテンアンカー!』

その時、二人の耳元で声が響く。

曜「この声…梨子ちゃん…?」

梨子『ヒーロー、ハルモニアリリーです!今、直接二人の耳元に音を届けています』

ダイヤ「ハルモニアリリー…我が校に在籍するヒーローでしたね?こちらの声が届いているかはわかりませんが、校内の状況はどうなっていますか?」

梨子『校内の怪獣は全て撃退、残るは校庭のその一体だけになります』

曜「あと一体だけ…!けど、その怪獣の姿が見えなくて大変なんだよね…」

梨子『それも大丈夫、今から助っ人がそっちに行くのでその子が今の状況をなんとかできます!』

ダイヤ「助っ人…?それはいったい…」

二人が疑問に思ったその時、突如として校舎の方から大きな声が響く。

「ヨハネ、降臨!!」

176 ◆JaenRCKSyA:2017/10/15(日) 01:00:56 ID:.byO1VKM
お待たせしました…
今日はここまで

177名無しさん@転載は禁止:2017/10/15(日) 02:10:45 ID:opzetKj.
更新おつ待ってた

178名無しさん@転載は禁止:2017/10/15(日) 22:28:45 ID:8mjli.d6
待ってたわよ!おつよ、おつおつ!

179 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 18:26:18 ID:FNaOhoIs
声の聞こえた方に目を向けると開け放たれた二階の窓枠に、大鎌を背中に背負い黒を基調としたスーツを着た少女が立っていた。

曜「ちょっと、そんなに目立ったら…」

曜が言いかけた時、校舎に向かって風を切る音が聞こえたかと思うと、校舎の壁面が少女の立っている窓に向かって砕けていく。

善子「きゃあああぁぁぁ――ぶべっ!」

ダイヤ「…」

曜「…」

武器も手に持たずに仁王立ちしていた少女は足を乗せていた窓枠が破壊されて落下していき、地面にべちゃりと叩きつけられる。

ダイヤ「…キャプテンアンカー、姿が見えずともわたくしたちが戦うほかありません、いいですね?」

曜「え、あ、えっと…はい!」

梨子『あの、気持ちは分かるんですが…』

何も見なかったかのように話し始めるダイヤに梨子は遠慮がちに口を開く。

180 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 18:40:52 ID:FNaOhoIs
善子「もう!黙って聞いてたら!」

涙声で反論しつつ起き上がり、善子はダイヤと曜の近くにまでひと飛びで近付く。

善子「ここは私たちに任せときなさい!」

曜「私『たち』って――」

善子「いくわよ!準備いいわねリリー!」

梨子『もちろん!』

「「バディレゾナンス!!」」

梨子と善子の声が重なった瞬間、ダイヤと曜は校庭に広がる空気が澄み渡っていくような感覚を感じ取る。

ダイヤ(バディレゾナンス――ヒーローシステムに内蔵されているコア同士を共鳴させることで機能の拡張及び出力の増強を行う決戦機能…)

ダイヤ「ですが、いくら強力な技でも姿を捉えられなければ――」

善子「そのためのこの技よ!」

「「ディメンションアナリーゼ!!」」

ダイヤに言葉を返すと、善子は鎌を自身の目の前に垂直に構えて再び梨子と声を重ね、静かにまぶたと口を閉じる。

181 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 18:47:37 ID:FNaOhoIs
曜(なんだろ、これ…耳鳴り、とも違う…?)

曜が自身の耳に何かが響くような音をとらえたのと同時に、静寂を保っていた善子が弾かれたように動き出す。

善子「見つけた…!私の前で日陰に隠れるなんて大間違いよ!ピアシングシェイド!」

善子が大鎌を振り下ろし刃が地面に埋まると、校舎から伸びる影が落ちたある一か所から漆黒の棘が突き出し、その場所から何かが押しのけられたかのように土埃が立つ。

善子「まだまだ!ハンズオブアビス!」

善子が直前の動きを巻き戻すように大鎌を地面から引き抜き、石突を地面に叩きつけると、地面から突き出した棘はばらりとほどけて何もないように見える宙へと伸びる。

そして透明なキャンバスに絵の具を塗り重ねるようにして、漆黒の触手が絡みつくことで怪獣の輪郭が足の先から現れていく。そして怪獣の姿がまだらにが黒く浮き出たところで漆黒の触手が引きちぎられる。

善子「攻撃に加えて影のマーカーのおまけつき!どうよ!」

曜「すごっ…!今なら――セイリングヴォーテックス!!」

どうやって場所が分かったのかという疑問は浮かんだものの、それを頭の隅に追いやって曜は手首にある操舵輪を指で弾いて回転させる。それは回転の加速を続けながら巨大化していく。

曜「いっけえええぇぇ!!」

曜は円盤投げの選手のように上体をひねりながら前へ足を進めながらぐるりと一回転、そして怪獣の方向へと遠心力を使って腕を振り抜き巨大化した操舵輪を勢いよく放つ。

182 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 19:01:17 ID:FNaOhoIs
放たれた操舵輪は丸鋸のようにうなりをあげながら怪獣へと迫り、地面をえぐりながら怪獣を吹き飛ばす。しかし怪獣の体から黒い霧が立ち上るものの倒すには至らない。

曜「これでも、まだ…!」

ダイヤ「いいえ、これで十分ですわ!」

歯ぎしりをしながら声を漏らした曜の言葉を引き継いだのは、曜の放った操舵輪を追うように駆け抜けて怪獣の間近にまで迫ったダイヤ。

ダイヤ「瑕疵なく煌めく我が誇り!」

ダイヤの言葉に呼応して手にしたレイピアが純白の光を放つ。さらにその光はプリズムを通したかのように七色に輝き出す。

ダイヤ「ブリリアントダイヤモンド!!」

目をつむってしまうほどの眩い光とともにダイヤはレイピアを怪獣へとねじ込み、勢いを落とすことなく突き抜ける。

光が収まるとそこには、薄くなっていく黒い霧と、その中に立つダイヤの姿だけが残っていた。

183 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 19:07:54 ID:FNaOhoIs
梨子「ふう…よかったあ…」

固く瞑っていたまぶたを開き、息を吐き出した梨子が立っていたのは理事長室の放送設備の前。

梨子「いきなり駆け込んできてすみません…それに放送設備まで使わせてもらっちゃって…」

鞠莉「It’s nothing! ヒーローのサポートは私のお仕事だもの!」

オーバーと言えるほどのリアクションを返して、鞠莉はさらに続ける。

鞠莉「それにしても、バディレゾナンス――やっぱりさすがね!一気に形勢逆転するなんて!」

梨子「理事長さんがそれを言うんですか…?」

鞠莉「もう!マリーって呼んでって言ってるのに!――まあ、我ながらってところかしらね?」

梨子「けど、本当に感謝してます――そのついでに私のこのスーツのスリットを減らしたりは…」

鞠莉「それはダーメ!」

梨子「うう…」

184 ◆JaenRCKSyA:2017/10/22(日) 19:08:56 ID:FNaOhoIs
短いけれど今日はここまで

185名無しさん@転載は禁止:2017/10/23(月) 23:46:57 ID:PiG4P6.g
更新おつー合体技熱い

186 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 16:05:33 ID:F.rpGOF6
曜「倒せた…!」

善子「ふふん、私のおかげね!」

ダイヤ「口に出さなければ素直に尊敬いたしましたのに…ですがお二人とも、ご助力感謝いたします」

三人は各々の武器を下ろし、ようやく、といったように緊張を解く。

曜(あ、そういえば一応私って正体不明ってことになってるんだった…きっと浦女の生徒ってばれてそうだけど…このあとどうしようかな…)

怪獣と対峙していた時とはまた違う緊張をする曜、そしてこの場を離れたそうにダイヤをちらちらと見る善子の二人を横目にしつつダイヤは口を開く。

ダイヤ「さて、怪獣も片付けたことですし、ここから先は学校関係者としての仕事しか残っていませんわね…ですので、お二人はご自由になさってください」

曜「あ、ありがとうございます!」

善子「え、ええ!勝手にさせてもらうわね!」

ダイヤのその言葉に、二人はいそいそとその場を立ち去ろうとしながら、どうやってクラスに合流しようかを考え始める。

「……」

ダイヤ「――っ!あれは…!」

二人を呆れたように見ていたダイヤは、校舎から離れていく一つの影を視界にとらえ、目を見開く。

187 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 16:16:25 ID:F.rpGOF6
ダイヤ「ハルモニアリリー!聞こえていますね!?鞠莉さん――ではなく理事長と先生方及びヒーローと協力して校内の被害の確認をお願いします!」

そう言うとダイヤは先ほどとらえた人影を追って走り始める。

ダイヤ(私の目に狂いがなければ今のは…!)

学校をぐるりと囲んでいる塀を駆け上がり、降り立った先にはヒト型の、しかしヒトの外見とは離れた姿があった。

ダイヤ「やはり、怪人モビィディック…!」

その声に振り返った怪人、その体は灰色のウェットスーツを着込んだように女性的な体のラインが浮き出ている。しかしその体の表面はサメ肌のようにざらついている。
すらりと伸びた足の先はフィンのような足びれ状になっており、頭部はシャチのような外見、そして後頭部からはポニーテールのように尾びれが突き出ている。

「……」

ダイヤ「汚らわしき怪人…覚悟しなさい!」

そう言い放ちレイピアを構えたダイヤを見つめて、モビィディックは肩をすくめると重心を低く落として待ち構える。

188 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 16:23:03 ID:F.rpGOF6
ダイヤ「はあっ!」

ダイヤは一気に距離を詰めてレイピアを鋭く突き出す。

「……!」

モビィディックは後ろへ軽く跳躍しながら右手の指を束ねてレイピアに向かって無造作に突き出す。

するとその右手の肉が蠢き、その形を細長い鋸――まるでノコギリザメの吻のように変えてその歯でレイピアを止める。

ダイヤ「くっ…!」

レイピアと鋸はしばし競り合いを続けていたが、モビィディックが腕をひねることでレイピアを弾き、さらにそのレイピアを思い切り打ち据える。

「……」

ダイヤの体が大きく開いた隙をついてモビィディックは右手を元に戻し、くるりと背を向けてダイヤから離れていくように走り出す。

ダイヤ「この…!逃がしはしません!」

ダイヤはレイピアを打ち付けられて痺れる腕を無理やり動かし、モビィディックを追って走り出す。

ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」

そして走りながらレイピアを躍らせて炎の鞭をモビィディックの背めがけて走らせる。

189 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 16:29:33 ID:F.rpGOF6
「ハイドロスパウト!」

モビィディックは背中に熱波を感じると駆け抜けながら身を翻し、腕を真上に上げるとその掲げた手の上に水の球が現れる。そして掲げた腕を振り下ろすと、その水球から勢いよく水流がほとばしり炎の鞭とぶつかり合う。

ダイヤ「やああっ!」

炎と水はお互いに打ち消し合い、辺りには蒸気が立ち込める。ダイヤはその中へと飛び込んでいきレイピアを突き出す。

「……」

しかしモビィディックはそれを予測していたように待ち構え、刺突を潜り抜けるとダイヤの腕をがっしりと掴んで投げ飛ばす。

ダイヤ「…っ!」

空中で身を翻して地面へと着地したダイヤは再びモビィディックが水球を作り出しているのを目にする。

「……!」

モビィディックが腕を振り下ろして水流を放つも、それが直撃したのは腕で頭を覆ったダイヤの目の前の地面。水流は地をえぐり、土埃が立ち込める。

190 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 16:38:21 ID:F.rpGOF6
ダイヤ「目くらまし…!」

モビィディックが駆けだしていく気配を感じ取ったダイヤは土埃の中を走り抜けていく。

ダイヤ「観念して――!?」

学校から遠ざかっていき、市街地の道路へと出たダイヤは少し先でモビィディックが立ち止まっているのを目にする。

「……」

モビィディックが腕を振るうと真横の地面にあるマンホールから、蓋を高らかに跳ね上げながら勢いよく水柱が立ち上がる。

ダイヤ「なるほど…自らに有利な場所を選んだということですか…!」

大蛇のようにうねる水柱を警戒しながらダイヤはレイピアを構える。

191 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 17:09:56 ID:F.rpGOF6
「……」

モビィディックが動いたのを視界にとらえた次の瞬間、ダイヤの視界の大半を黒い影が覆い尽くす。

ダイヤ「なっ――ピギャッ!」

ダイヤへと飛び込んできたのはマンホールの蓋。落下してきたそれをモビィディックが蹴り飛ばし、スタンプを押すようにしてダイヤの顔面に衝突したのだった。

「……!」

愉快そうに肩を震わせると、モビィディックはひらりとマンホールの中へと飛び込んで姿を消してしまう。
それと同時に、意思を持っているかのように立ち上っていた水柱は力を失ったように形を崩し、雨のように地面へと降り注いでいく。

ダイヤ「――っ!!あの半魚人んんん!!」

マンホールの蓋の模様がくっきりと残った顔を怒りに歪めながら、一人残されたダイヤは忌々し気に自分の顔に付いたものと同じ模様の蓋を強く踏みつけるのだった。

192 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 17:28:11 ID:F.rpGOF6
千歌「もう!本当に心配したんだよ!」

曜「うう、ほんとにごめんってば…」

怪獣の撃退が終わったのちに校内の状況と生徒の被害を確認した結果、通常通りの授業は行えないという学校の判断から下校の連絡が出ていた。

そしてその下校の途中、曜は少し赤らんだ目で頬を膨らませる千歌にひたすら謝っていた。

千歌「むー…そういえば曜ちゃん、怪獣が出るたびいなくなってる気が――」

曜「あー!ほんと梨子ちゃんが来てくれて助かったなー!あはは!」

梨子「はいはい…どっちかって言うとキャプテンアンカーのおかげじゃないかな?」

千歌「?キャプテンアンカーに助けてもらったの?」

曜「ぅえっ、と…そ、そんな感じ…」

呆れたような視線を送ってくる梨子と物問いたげな視線を送ってくる千歌に挟まれて、視線をさ迷わせていた曜だったが、よく見知った姿を見つける。

193 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 17:52:55 ID:F.rpGOF6
曜「ねえねえ、あれって果南ちゃんじゃない?」

千歌「ふえ?あ、ほんとだ!おーい果南ちゃーん!」

三人の歩く少し先には千歌と曜にとってはよく見慣れたポニーテールの後ろ姿。千歌は大きな声で名前を呼びながら姉のように慕っているその姿めがけて駆け出していく。

果南「ん?わっ、とっと…こーら千歌、いきなり飛び込んでこないって何回も言ってるんだから」

千歌「えへへ、それでも受け止めちゃう果南ちゃんはさすがだよねえ」

振り返るのと同時に飛びついてきた千歌をしっかりと抱きとめ、果南は千歌をとがめながらもからりとした笑顔を浮かべる。

曜「ごめんね果南ちゃん!止める間もなく…って言っても果南ちゃんがいるって教えたの私だけど…」

果南「まったく、曜がいるのに監督不行き届きじゃないの?梨子もおはよ、二人が迷惑かけてない?」

梨子「あはは…おかげさまで楽しく毎日過ごしてます…」

194 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 18:11:28 ID:F.rpGOF6
曜「っていうか果南ちゃん私服だし…また学校サボったの?」

果南「あちゃーばれた?起きた時からなんか気が乗らなくってさ…それにしても、私がいない時に大変だったみたいだね?」

千歌「そうなの!しかも怪獣が学校に入ってきたっていうのに曜ちゃんはトイレーって言って教室から出てっちゃうし…」

果南「あれ、今日は普段と逆で曜が心配かける立場なんだ?」

曜「あはは…梨子ちゃんに無事救出してもらいました…」

梨子「普段からこんなことばっかりだからどうにかしてほしいんですけどね…」

同情するように笑った果南にくっ付いたままだった千歌はふと果南の頭の後ろに揺れるポニーテールに目を留める。

千歌「むむ、果南ちゃん髪濡れてない?」

果南「えっ?…あー、ちょっとひと泳ぎしてきたところだったからね、まだ乾いてなかったかあ…」

195 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 18:33:01 ID:F.rpGOF6
千歌「ほんと泳ぐの好きだねえ…あ、けど果南ちゃん体が乾くと死んじゃうから仕方ないか!」

果南「人の事を河童みたいに言わないの!ま、とにかくみんなが無事でよかったよ」

って言ってもダイヤがいるから滅多なことはないと思ってたけど、と眉を少し下げた何とも言えない笑顔で果南は続ける。

曜「あれ、果南ちゃんって生徒会長と友達…ってそっか、同級生だからそりゃ知ってるよね」

果南「まあね、それに実は千歌や曜とはなかなか一緒に会う機会がなかったけど、内浦にいた時から知ってるくらいの仲なんだよ?」

千歌「そうだったの!?もっと早く教えてよー!」

果南「ごめんごめん、色々ごたごたしてたからさ――っと、学校が早く帰したってのにあんまり話し込んでちゃ教育的に良くないね」

よいせ、と女子高生らしからぬ声で動物を扱うように千歌の両脇を抱えて曜と梨子の間におろす。

196 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 18:42:02 ID:F.rpGOF6
果南「今日くらいは寄り道せずに帰りなよ?」

曜「もちろんそのつもり!…って、果南ちゃんだって危ないんから帰った方がいいんじゃないの?」

果南「私みたいな不良学生は別にいいの!それじゃあまたね」

三人の頭をそれぞれ撫でながら言い、果南は手を振りながらその場から去っていった。

梨子「私、果南さんみたいなお姉ちゃん欲しかったなあ…」

撫でられた頭に手を当てながらくすぐったそうにはにかんで梨子は口にする。

曜「果南ちゃんの包容力ほんとすごいからね…」

千歌「私も果南ちゃんがお姉ちゃんならよかったのになあ…」

梨子「千歌ちゃんはお姉さんがもう二人いるんだから贅沢言わないの」

千歌「それはそうだけどさー…」

まあ今でもお姉ちゃんみたいだしいっか、と笑って続ける。

千歌「よーし、せっかく早く帰れたんだしどっか寄り道していこっか!」

曜「千歌ちゃん…果南ちゃんの話聞いてた?」

197 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 19:01:04 ID:F.rpGOF6
浦の星女学院の理事長室、そこでダイヤは鼻息も荒く苛立ちをぶつけるかのように足裏を鳴らす。

鞠莉「もう、荒れてるわね…イライラはお肌の天敵よ?」

ダイヤ「苛立ちもしますわ!あのように何度も何度も怪人を取り逃がすなど…!」

落ち着きなく部屋の中で行ったり来たりを繰り返しながらまくし立てると、立ち止まって鞠莉に向き直りダイヤは口調も荒く続ける。

ダイヤ「鞠莉さん!ジュエルのシステム強化はできないのですか!」

鞠莉「できないって前にも言わなかった?」

ダイヤ「なぜです!?わたくしが持てあますとでも――!」

およそ冷静ではない友人に呆れたようにため息をついて鞠莉は口を開く。

鞠莉「ジュエルの感情エネルギーの変換先が多岐にわたる、っていうのは知っているでしょう?だからこそ誤作動を起こさないためのプロテクトもかけているわけだし…だからこれ以上に出力を上げてしまうとシステム全体としてどんな影響が出るかが分からないの」

鞠莉(それに――ううん、これは今のダイヤには届かない、かな…)

198 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 19:05:44 ID:F.rpGOF6
鞠莉「それに、今使ってるジュエルをちゃーんと信頼してあげなきゃダメなんじゃないの?」

ダイヤ「うっ…確かにそれを言われてしまうと弱いのですが…」

鞠莉の言葉に一旦は気勢をそがれたダイヤだったが、奥歯をかみしめると言葉を絞り出すようにして続ける。

ダイヤ「それでも、このまま負け続けるわけにはいかない…わたくしは、敵を滅ぼさなくてはならないのですから」

鞠莉はその言葉を聞くと、ダイヤに背を向けて窓の外を眺めながら口を開く。

鞠莉「ねえダイヤ?…自分がヒーローだっていうこと、忘れちゃだめよ?」

ダイヤ「…今日はいつにも増しておかしなことを言いますね…何か悪いものでも食べましたか?」

鞠莉「ひっどーい!私なりのダイヤへのアドバイスなのに!」

ダイヤ「まったく、真面目なのかそうではないのか…ですが言われなくても分かっています」



ダイヤ「怪人は全て――滅ぼし去る」

199 ◆JaenRCKSyA:2017/10/29(日) 19:09:18 ID:F.rpGOF6
今日はここまで
一旦浦女編終わりです

200名無しさん@転載は禁止:2017/10/30(月) 23:23:21 ID:NEbdwc1.
更新おつー浦女編良かった
ダイヤさんちゃんはなにか闇抱えてそうだなあ…

201 ◆JaenRCKSyA:2017/11/10(金) 17:44:19 ID:de1r6.Vo
土日のどっちかに更新する
あと一応、男キャラ出てきます

202名無しさん@転載は禁止:2017/11/13(月) 00:56:27 ID:QyE3JrMY
待ってる

203 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 22:59:47 ID:zyarr09E
海未「さて、とりあえず来てはみたものの…」

正午ごろには浦女に侵入した怪獣の事で色めき立ちはしたものの、沈静化が早かったため大きな騒ぎにもならずに放課後になり、海未は音楽室へと足を運んでいた。

海未「まあ待ち構えているとも思ってはいませんでしたが…」

辺りに注意を払いつつ教室の中ほどまで足を進め、ほこり一つ被っていないピアノに手を添える。

海未「考えてみれば放課後というのも適当な指定ですね…時間で言ってくれればいいものを――」

まだ顔も知らない相手にため息をついた時、海未の背後でカチャリと音が鳴り響く。

海未「――!」

海未が瞬時に音がした方向を振り返ると、先ほどまでは開いていなかった音楽準備室のドアが半開きになっている。

海未「…随分と無機質な歓迎ムードのようですが、門を開いてくれるだけましと思いましょう」

204 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:07:30 ID:zyarr09E
視線は前方に向けたまま後ろ手にドアを閉めて部屋の中へと入ると、海未は自分の記憶にある音楽準備室とは全く違うことに気が付く。

海未(部屋の改装をしたなどとは考えられませんし…あのドアから別の場所に飛ばされたと考えるべきか…)

部屋の中は薄暗い電灯で照らされた奥へと続く通路のようになっており、周りには紙の束や段ボール箱、さらに何に使うのかも分からない器具や機械が乱雑に置かれている。

海未(奥へ進むしかないようですが…これはさすがに散らかりすぎではないでしょうか…)

胸の中で小言をこぼしつつ、左腰に取り付けた刀に手を添えて警戒しながら通路を進んでいく。

海未(…?扉、ですか…)

通路を進んだ海未の前に現れたのは無機質で機械的な白い扉。その前に海未が立つとその扉は静かな音と共に開かれる。

205 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:14:08 ID:zyarr09E
海未「っ!?」

開いた扉の先、部屋の中に海未が入った瞬間、海未の三方を囲むようにして真っ赤なレーザーの檻が現れる。

海未「変し――」

「ちょっとは待ちなさいよ…」

即座に変身しようとした海未の前から声がかかる。レーザーによる檻の前に姿を現したのは、癖のある赤い髪に気の強そうなパープルの吊り目、そして黒いブラウスの上に丈の長い白衣を羽織った少女だった。

「あなたが危険人物じゃない証拠がない、ってこの間も言ったばかりじゃない…私は危害を加えるつもりはないわ」

海未(私の命を狙っているのならいつでも機会があった…それなら相手に警戒させるのは得策ではない、か…)

海未「分かりました、私も今日は話を聞きに来たわけですし…これでひとまずは信用してもらえますか?」

そう言って海未は自身の腰から刀を外してカバンの中へとしまい込む。

206 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:21:15 ID:zyarr09E
「そうね、物分かりのいい人で助かるわ」

そう言って少女が手に持ったタブレット端末を操作すると海未を取り囲んでいたレーザーは消え、少女は背を向けて部屋の奥へと歩いていく。

海未「…」

口を開かずに海未がついていくと、その先には灰色のテーブルとそれを挟んで二脚の椅子が置いてあった。

少女は海未に背を向けて電気ケトルをいじりながら声をかける。

「ぼーっとしてないで座ったら?」

海未「え、ええ、そうさせてもらいます」

海未は少女の目的もよく分からないまま、居心地が悪そうに椅子に座っていたが、ようやく少女は湯気の立つティーカップを手にして海未の方に向き直る。

「紅茶だけど、文句言わないでよね?これしかないんだから」

海未「は、はあ…いただきます…」

「別に毒なんて入れてないわよ…」

いただきます、と言ったきりカップを手に取らない海未を見てため息交じりに零す。

207 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:27:29 ID:zyarr09E
「とりあえず、自己紹介だけはすませておくわね――西木野真姫、一応音ノ木の一年生よ」

海未(ニシキノ…?確か…)

真姫「色々聞きたそうにしてるところ悪いけど、後にしてくれる?」

聞き覚えのある名前を耳にして反応を示した海未のことを真姫と名乗った少女は制する。

海未「分かりました、そちらにも段取りがあるのでしょう――ですが、音ノ木の生徒だというのに制服も着ずに…授業はどうしたのですか?」

真姫「べっ、別にそれは今関係ないでしょ…!」

急に指摘され、焦ったように髪をいじりながら答える様子は年相応のものであり、内心に気を張っていた海未は密かに胸を撫で下ろす。

海未「まあいいです、他人の私が口を挟むべきではないでしょうし――私は園田海未、音ノ木の二年…と言ってもすでに知っているのでしょう?」

海未はその切れ長の目で相手の反応を探るようにして言葉を返す。

真姫「…そこは隠しても意味がないわね――ええ、一通りのことは調べさせてもらっているわ」

って言っても常識的に集められる程度の情報だけれど、と真姫は続ける。

208 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:34:44 ID:zyarr09E
海未「…」

真姫「…そろそろ本題に入りたいから、質問は後でまとめてしてくれない?」

海未が考えのまとまらないまま口を開きあぐねていると、焦れたように真姫は話し始める。

海未「…ええ、分かりました」

海未(まず話を聞かないことには、この方の事すら確信が持てない…)

真姫「何から話そうかしら――そうね、それじゃああなたはヒーローシステムについてどれくらい知っているかしら?例えば、その沿革だとか」

海未「ヒーローシステムについて――世間一般に知られている程度の事くらいですが…」

海未はテストを受けているようだ、と思いつつ自身の記憶を探り口を開く。

海未「ヒーローシステムが完成したのは私たちが生まれる少し前、20年ほどだったでしょうか…増加する怪獣被害に有効な対策として、現在のSWコーポレーションが発表した、感情エネルギーによって起動する兵器――」

兵器という表現に、ヒーローとして思い浮かべたホムラの姿とはまるでそぐわないと感じながらも続ける。

209 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:38:36 ID:zyarr09E
海未「発表後すぐにSWコーポレーションはヒーローシステムの理論を公開――ですが、それを理解して再現ができた研究者や技術者、企業は無く、しばらくは一つの企業によって流通が続けられた、と聞いています」

真姫「ええ、その通りね…そもそも怪獣には銃火器による攻撃も有効で、ヒーローシステムの需要はそこまで高まらなかった――ある時までは」

海未「怪人の出現、ですね…?」

真姫「そう、今から10年前、そこを境にして『悪の組織』を自称する怪人が現れ始めた――人の知能と怪獣の力を持ち合わせた連中が、ね」

どこか遠くを見るような目で真姫は少しだけ口を閉じ、カップを口元へと運ぶ。

真姫「…続けるわね?怪人の出現を契機として少しずつヒーローの数は増えてきていたけれど、あの静岡の大災害が起こるまではそのペースは緩やか…そしてあの災害以降、ヒーローシステムは爆発的に普及していった」

海未「…」

海未は切れ長の目を伏せて押し黙るもそれは一瞬だけであり、再び真姫に視線を戻して口を開く。

210 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:42:42 ID:zyarr09E
海未「そのヒーローシステムの需要に対し、実際には供給が追い付いていなかった記憶があります…それもそのはず、システムの実用化ができていたのはSWコーポレーションのみなのですから」

真姫「…そうね」

海未「SWコーポレーション…今でこそ多角的に事業を展開していますが、その前身は企業ですらなかった」

海未は正面に座る、表情のまるでうかがえない真姫の瞳をまっすぐ見つめながら言葉をつなぐ。

海未「西木野総合病院――それが前身であると、聞いています」

真姫「…」

口を開かない、ヒーローシステムの大元となった病院と同じ名を持つ少女を前に、海未は続ける。

海未「そして今、SWコーポレーションの他にヒーローシステムの製造を行っているのは一か所のみ…そしてそれは、ニシキノ・オハラ社」

海未「2年前に突如として設立、その名前から様々な憶測を呼びましたが設立の経緯や会社の代表すらも明らかになっておらず、唯一分かっている事はヒーローシステムの普及を第一に掲げているということだけ…」

海未「――これでもまだ、質問は後回しなのでしょうか?」

211 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:47:43 ID:zyarr09E
真姫「…一つ、話をするわね」

真姫は海未の問いには答えを返さずに、しかし返事をするようにして話を始める。

真姫「ある所に、一人の女の子がいました。医者から社長になった父親がいて、母親がいて…両親は忙しそうにしていたけれど、幸せに暮らしていたわ…」

真姫「けれどある日、母親は事故で亡くなってしまい、それから父親は女の子にまるで構う暇もないほどに仕事と研究に没頭するようになった――」

真姫「そこから何年かの間、女の子は勉強漬けの毎日…いえ、それくらいしかすることが無かった、って言うべきね…」

真姫「そして2年前、ヒーローシステムの理解と解析を終えた女の子は、知り合った研究者や技術者と共に会社を立ち上げる…その少女が――」

海未「西木野真姫――あなたなのですね…」

言葉を引き継いだ海未に口を閉ざしてこくりと頷いてみせると、ティーカップから一口だけ紅茶をすすって目を閉じる。

212 ◆JaenRCKSyA:2017/11/13(月) 23:49:48 ID:zyarr09E
土日間に合いませんでした…
次かその次くらいまでほぼ説明回

213名無しさん@転載は禁止:2017/11/14(火) 23:10:24 ID:kLTC8pCQ
待ってたよーおつおつ

214名無しさん@転載は禁止:2017/12/04(月) 22:32:52 ID:q//RZZWg
エタらないで…

215名無しさん@転載は禁止:2017/12/05(火) 11:27:40 ID:uNEi2Ivg
まってる

216 ◆JaenRCKSyA:2017/12/06(水) 22:25:00 ID:cp0303f.
書く時間がなかなか取れないのとキリの良い所まで終わらないのでもう少しお待たせします…申し訳ない…
死んでもエタらないつもりです

217名無しさん@転載は禁止:2017/12/07(木) 00:16:56 ID:H8P85fU.
こういう一部のキャラ悪役にして推しキャラ持ち上げるssはエタってくれて全然良いんだけどなぁ

218名無しさん@転載は禁止:2017/12/07(木) 01:30:46 ID:G53T0.6Q
生きててくれてよかった
ゆっくりでもいいんで是非完結してほしい

219名無しさん@転載は禁止:2017/12/09(土) 01:37:11 ID:kfv8e6yQ
出てくる皆、今後見せ場ありそうで好き
期待してます

220 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 22:29:04 ID:4yUtfNWI
海未「…ご家族の事は、私には何も言う立場にはありません…ですが一つだけ、言ってしまえばただの学生でしかなかったあなたはどうやって今の立場にまで?」

真姫「技術者や研究者とさっきは言ったけれど、私に協力してくれた中には投資者もいたの」

普段の生活に関してはお手伝いさんもいたしね、とティーカップを机に置いた真姫は海未の疑問に答える。

海未「そういうことですか…」

真姫の話を聞いた海未は考えを巡らせていく。

海未(ここまでの事を話すということは私を信用してくれていると考えてもいいか…それもポーズという可能性もありますが…)

海未(いえ、そもそも私が怪人であることが知られているならこれ以上の隠し事は無意味…彼女の立場も考えればなるべく詳しいことを話して協力を取り付けるべきか…)

海未が考えをまとめ終えた直後、黙り込んでいた海未にしびれを切らしたように真姫が口を開く。

真姫「私の話はもう済んだし、そろそろあなたの話を聞かせてくれない?」

海未「…ええ、私としても早いうちに誤解を解いておきたいところですしね」

海未「私が、怪人となった日の事から話させていただきます――」

海未はそう前置くと、この何日かという短い間に自身の身に起きたことを話し始める。

221 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 22:40:12 ID:4yUtfNWI
真姫「なるほど、ね…」

海未が話し終えると、真姫はそう言って口元に曲げた人差し指を添えて考え込むようなそぶりを見せる。

海未(にこの事は隠す形にはなってしまいましたが、それ以外は隠さずに話した――それが吉と出るか凶と出るか…)

真姫「怪人に変身したのは2回って言ってたけど、それは確か?」

海未「?ええ、怪人になってしまった時と先日のショッピングモール、その2回だけですが…」

真姫「そう、それならいいわ」

海未「あの、それが何か…」

真姫「別に、確かめたいことがあっただけだから気にしなくていいわ」

そう言われた方が余計に気になる、とは口にすることはできずに海未は答えずに真姫の言葉を待つ。

222 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 22:55:21 ID:4yUtfNWI
真姫「それともう一つ、変身する時にあなたはシステムを使っていたわね?今それを見せてもらってもいいかしら」

海未「え、ええ、構いませんが…」

海未が鞄から取り出し、机の上に置いた機械めいた小刀状のシステムを真姫は手に取って注意深く眺める。

真姫「…ありがとう」

真姫はシステムを眺める時に寄せた眉根をそのままにシステムを机の上へと戻し、海未を真っすぐに見つめながら続ける。

真姫「単刀直入に言わせてもらうけれど、あなたは怪人として、異端よ」

海未「…それは、他の怪人と敵対しているという意味ではなく、ということですか?」

真姫「ええ、あなたがシステムを所持している、そのことがおかしいって言ってるの」

海未「…は?」

223 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:02:43 ID:4yUtfNWI
海未「待ってください、どういうことですか?私は怪人へと変えられてその時に――」

真姫「そう、あなたはその時にシステムを手に入れた…けれど本来、怪人はシステムを持っていない、知らなかった?」

海未「ですが、現に怪人も変身を行って…」

そこまで口にして、海未の頭の中に疑問が生じる。

海未(変身を行う?なんの疑いも持たずにそう考えていましたが、それではまるで――)

真姫「気が付いた?」

海未「…これは一体、どういうことなのですか」

真姫「ヒーローはシステムに内蔵したコアを感情エネルギーによって励起させることでその機能を発現させている――怪人の場合は、そのコアは体内に埋め込まれているの」

海未「ですが、それでは…!」

真姫「そう、コアが体外にあるか体内にあるか…ヒーローと怪人との間にはその程度の違いしかないのよ」

224 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:06:36 ID:4yUtfNWI
真姫の口から語られたことに、少しの間言葉を失っていた海未だったが、ふと浮かんだ疑問を口にする。

海未「ということは、ヒーローシステムの理論を悪用している人がいる、ということになるのでしょうか…?」

真姫「恐らくそうね…だからシステムの全面公開なんてするべきじゃなかったのよ…」

最後の言葉を真姫は吐き捨てるように言い切る。

海未「ですが、どうして私だけシステムを持たされたのでしょうか?システムがあっても無くても、感情エネルギーが足りなくなれば生きていられないというのは同じことのはず…」

真姫「コアをそのまま人体に埋め込むのは、適合しなければ拒絶反応が起こるから合理的ではない――けれど、今までそんなことを気にしていなかったのに今更、とは思うわね」

海未「…怪人たちと戦っていれば、真相が分かるのでしょうか」

真姫「それ本気で言ってるわけ…?てっきりあなたは自衛のためだけに戦っていると思ってたんだけど」

海未「…元より友人のために投げ出したこの身――私は何があったのかを知りたいのです」

海未(私の事も、あの時の事も――)

225 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:12:14 ID:4yUtfNWI
真姫「ま、本気なんだったら止めないけれど…それじゃあいくつか言っておくことが――」

真姫がそう言った時、真姫の後ろにあるドアのノブがガチャガチャと耳障りな音をたてながら回り、その奥からさらに耳障りなほど大きな声が響く。

「んっんん!お嬢様失礼いたしますよお!」

真姫「…来客中なんだけど」

真姫は不快感を隠しもせずに言葉少なに返し、海未は手にしていたシステムを素早くカバンに滑り込ませる。

「おやおやあ!お嬢様のお友達でございましたかこれは失敬!」

現れたのは緑色の作業着の上に薄汚れた白衣を纏った中肉中背で眼鏡の男。肩に付くほど伸びている髪は脂っこくべたついており、眼鏡の奥からはなめるような視線が伸び、にやついた口からは相手との距離に関係なく大きなだみ声が響く。

真姫「それで、用件は?後に回せるなら後にしてほしいんだけど」

「おやおやこれは手厳しい!それでしたらまた時間を改めさせていただきましょう!」

男はともすれば慇懃無礼ともいえるほどに深々と下げた頭をあげると、海未に視線を移して再び口を開く。

「大変失礼!申し遅れました!わたくし、お嬢様の元でヒーローシステム開発に携わっている肝塚と申します!以後お見知りおきを!」

226 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:14:55 ID:4yUtfNWI
真姫「ドクター、いつまで居座る気?」

肝塚「おやあ!申し訳ございませんお嬢様!それではわたくしは研究に戻らせていただくとしましょう!」

海未が返事をする間もなく真姫はきつい口調で追い返そうとすると、男はまるで気にも留めずににやけ顔で頭を下げ、ようやく部屋から出ていく。

海未「随分と、変わった方ですね…」

真姫「優秀ではあるんだけれど、まるで空気を読めないのは最悪よね…」

げんなりとした表情で真姫が深いため息を吐くと、机に置いていたタブレット端末の通知が鳴り始める。

真姫「どうかしたの?」

それは着信だったようで、真姫が通話をハンズフリーにして問いかけると端末から落ち着いた声が響く。

『お嬢様、来客中失礼いたします…ドクター肝塚がそちらに向かわれてしまい…』

真姫「ああ…もう追い返したから大丈夫よ」

『申し訳ございません…こちらの方でも止めはしたのですがまるで聞く耳を持たず…』

真姫「ドクターが人の話聞かないのはいつもの事だし和木さんのせいじゃないからそんなに謝らないでいいわよ…」

227 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:18:42 ID:4yUtfNWI
『ありがとうございます…それともう一つ、先ほど小原様から連絡があり、席を外しているとお伝えした所、後程また連絡させてもらうとのことでした』

真姫「ええ、分かったわ――ありがとう」

『いえ…それでは失礼いたします』

通話が切れると、真姫はタブレットを操作して画面を消すと机の上に置き、海未に向き直る。

真姫「悪いわね、待たせちゃって」

海未「いえ、構いませんが…今のは?」

真姫「今の電話?あれは小さい頃から私のお世話をしてくれてるお手伝いの人――元々は父親が雇った人なんだけど」

海未「なるほど…真姫に着いて来てくれたのですね」

真姫「ええ、すごい助かってるわ…それを言うならドクターもSWコーポレーションで開発をしていたんだけど――一緒にしたら和木さんに失礼ね」

228 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:22:26 ID:4yUtfNWI
真姫「さてと、それじゃあ話の続きね…あなたは戦い続ける、と言ったけど、それでもなるべくだったら危険は避けた方がいいわ――少なくとも、もっと戦闘経験を積むまではね」

海未「ええ、それは身をもって理解しているつもりです…」

怪人となって日が浅いにも関わらず戦うこととなった、ジュエルやグレイシア。様々な武道を修めてきた海未であっても、ヒーローや怪人との戦いは厳しいものだったことを思い返す。

真姫「改めて言う必要もないとは思うけど、ぶつかるべきじゃない有力なヒーローや怪人が何人かいるっていうのは分かるわね?」

海未「魔法戦士ホムラのような者たち、ですね…」

真姫「そういうこと――って言っても、あなたジュエルやグレイシアと戦ってるのよね…その二人も十分要注意の対象なんだけど…」

苦笑いを浮かべた海未を見ながら真姫は呆れたようにため息を吐き、話を続ける。

真姫「ヒーローで気を付けるべきはまずは魔法戦士ホムラ…まあ当然だけどね」

最強のヒーローと名高いものの、変身しているのが少女であるということ以外は謎に包まれた彼女。海未は以前一瞬だけ相対した時のプレッシャーを思い返す。

真姫「話の通じない人じゃないみたいだけど、まああなたの変身後の怪しさじゃどう考えたって信用してはもらえないわね」

海未「…そうでしょうね」

229 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:26:18 ID:4yUtfNWI
真姫「次いで珠玉騎士ジュエルとキャプテンアンカー、この二人ね…戦って分かったと思うけど、特にジュエルは怪人が相手ならまず間違いなく問答無用で襲い掛かってくるから、もしかしたらホムラよりも近付きたくないかもしれないわね…」

海未「ええ、まるで燃え盛るかのような憎悪…あの時はどうにか逃げ出せましたが、タイミングを逃しでもすれば地の底までも追いかけてくるかのような気迫でした…」

真姫「直接知っているわけじゃないけど、知り合いの知り合いがいて話を聞いてみたんだけど…なんだか要領を得ないのよね…」

海未「要領を得ない、というのは…」

真姫「あんなにも怪人や怪獣を憎む理由も思い当たらない、普段だって毅然としてはいるけれど苛烈な子ではない――ってね」

海未「どうにも妙な話ですね…」

あれだけの憎悪を抱くきっかけが無いのであれば他の理由があるのか、とも考えた海未だったが、すぐにそれは思考の外に追いやりジュエルと遭遇しないことが第一だと思い直す。

230 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:28:24 ID:4yUtfNWI
真姫「キャプテンアンカー…このヒーローは元々ヒーローシステムが普及し始めの頃に活動していたはずなんだけど、急に消息不明――そして、ここ1,2年でまた活動を始めたという形になるわね」

海未「普及し始め…15年ほど前ではないですか…!ですがあのヒーロー、おそらくは私と同じくらいの年齢では…!?」

真姫「ええ、だから恐らくは同一システムを他の者が使用している、ということでしょうね」

海未「…そんなことが可能なのですか?」

真姫「まあ、適合さえすれば変身はできるし…特に血縁者なら適合できる可能性は高いわ」

海未「なるほど…それで、キャプテンアンカーについて他に何か聞けることはありますか?」

真姫「そうね…戦闘力はかなり高い、けれどホムラと一緒で話の通じないわけではなかったはず…って言ってもあまりアドバイスにならないわね」

言いながら海未の変身後の姿を思い浮かべたのか、真姫はおかしそうに笑いながら付け加える。

231 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:31:03 ID:4yUtfNWI
真姫「この世の中、ヒーローは大勢いるけれど本当に気を付けるべきはこの程度かしらね…次は――」

海未「怪人、ですね…」

考えるほどに四面楚歌な状況を突き付けられ、ため息交じりに海未は真姫の言葉をつなぐ。

真姫「戦って分かったと思うけれど、まずはグレイシア、そしてアルカナム…この二人は下手したらジュエルやキャプテンアンカーよりも注意するべきかもしれないわ」

海未「ジュエルからはどうにか逃げられましたが、確かにグレイシアはそうもいかない強さでした…」

海未は二人がかりでも膝をつかされた戦いを思い返す。

海未「アルカナム…あの怪人は謎ばかりですが、何か分かることはありますか?」

真姫「アルカナムは戦闘を行っているところをほとんど目撃されていないから、まるで情報が入ってこないのよね…分かっているのはカードを使って戦うことと神出鬼没であること…」

海未「随分と徹底した立ち回りですね…」

真姫「けれど、あなたが目撃したことから一つの推論を立てることができる」

海未「推論?」

真姫「ええ、おそらくアルカナムが持っている能力の一つは――空間置換」

232 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:35:33 ID:4yUtfNWI
海未「空間、置換…?」

真姫「あなたが入ってきた音楽室の扉もそれを利用したもの――説明すると、本来繋がっていないはずの二か所を、ゲートとなるものを用いることでつなげる技術よ」

海未「ではあの時にアルカナムが急に現れたり消えたりしたのは――」

真姫「恐らくはカードをゲートに見立てた空間置換によるものでしょうね」

海未(アルカナムと戦うときにはそれを頭に入れておく必要がありますね…)

空間と空間をつなぐ能力、そこから思い至るのは当然死角からの攻撃。空間置換に一体どれだけの自由度があるのかは海未に知るすべはないが、できる限りの警戒をしておく必要はある。

真姫「続けるわよ?グレイシアやアルカナムと同程度――いえ、それよりは少しレベルは落ちるわね…ツーマンセルを基本にした二人の怪人、ジェミシス」

海未「ジェミシス――確か、アルカナムほどではないものの、目撃情報の少ない怪人でしたか…」

真姫「そうね、けれど立ち回り方が特徴的だから被害の跡を見ればジェミシスの仕業だと分かるし…撤退が遅れたのかしら、ヒーローとの交戦した記録もいくつか残っているわね」

233 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:39:45 ID:4yUtfNWI
海未「…」

真姫の話を聞いていると、今の自分が置かれている立場には危険が多いことを実感する。

真姫「そして分かっているかもしれないけれど、あと三人、ね」

海未「…ええ、当然です」

海未の脳裏に浮かぶのは、最強最悪と名高い三人の怪人の姿。

真姫「アステグレス、フォートレイ、バビロット…こいつらには何があっても近付いてはいけない――もし狙われでもしたら、問答無用で消し去られるわ」

今までにこの三人の怪人と戦って無事に済んだヒーローは存在せず、大半が重傷か意識不明、最悪の場合には戦ったきり消息を絶った者もいる。
最強のヒーロー、ホムラであったとしても苦戦を強いられるのではないかと噂されるほどの強さを誇る怪人。

海未(今の私が太刀打ちできるような相手ですらない…それに確か、一人一人でも恐ろしいほどの強さを誇るにも関わらず、三人で行動することが多いとも…)

真姫「こんなところかしらね…本当ならもう少しヒーローを挙げてもいいんだけれど、あなたは身体能力が高いみたいだからそこまで心配しなくてもいいみたいだしね」

海未「一応、いくつかの武道は習っていますからね…」

234 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:43:32 ID:4yUtfNWI
話が途切れた時に海未はふと、頭に浮かんだ疑問を真姫に投げかける。

海未「そういえば、モビィディックの名前を挙げていませんでしたが、確か力のある怪人だったはずでは…」

真姫「ああ…私はあまり詳しい話は分かってないしできないけれどモビィディックに関しては気にしなくて大丈夫よ」

海未「大丈夫というのは…」

真姫「こちらから仕掛けたりしない限りは何もしてこないはず――実際、モビィディックが引き起こした被害で人的被害はないでしょう?」

海未「そういえば、そのような話は聞きませんね…」

海未はたびたびニュースでその名を聞くものの、毎回広範囲にわたる浸水被害ばかりで負傷者が出たという話が出ないことを思い返す。

235 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:46:43 ID:4yUtfNWI
真姫「さてと…あとはこれね…」

海未「えっと…これはネットニュースですか?」

真姫がタブレットを操作して差し出した画面を海未が覗き込むと、そこにはニュース記事が表示されていた。

海未「記事のタイトルは…『新たな怪人、呼称を決定』ですか…これが、どうかしたのですか?」

真姫「ちゃんと中身読んでみなさいよ…」

海未「えっと…『最強のヒーローホムラを筆頭として、ジュエルやキャプテンアンカーと言った有力ヒーロー達を出し抜くほどの怪人が現れた』…!?」

記事の内容に加え、記事の隣の写真には自身が変身した時の姿がはっきりと映し出されており、海未は目を白黒とさせる。

海未「『さらに、秋葉原のショッピングモール襲撃に関わっている可能性も挙げられており、これを受けて政府はこの怪人の呼称を「ダークブレイド」に決定すると発表した』…」

呆然とした海未を気の毒そうに眺めながら、真姫は遠慮がちに口を開く。

真姫「…名前が決まってよかったじゃない」

236 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:50:00 ID:4yUtfNWI
海未「そういう問題ではありません!そもそもなんなんですかこの名称って…!」

真姫「あら、知らなかった?怪人が特別名乗ったりしなかった場合は政府のお偉いさん方がわざわざ話し合って決めてるのよ」

時間の無駄だしセンスもないし本当に最低よね、とため息交じりに続ける。

海未「一体こんなものを見せて何のつもりですか…」

真姫「別に嫌がらせしようってわけじゃないからそんな睨まないでよ…あなたが今まで変身した場はどちらもかなり大規模な被害が出ている――つまり、世間からしてみたら悪逆非道の怪人なのよ」

海未「…当然と言えば当然、ですね…」

自分の立場が違えば必ずそう思い込んでいただろう、と海未は考える。

海未「やはり、変身は控えた方がいいのでしょうか…?」

真姫「その方がいいとは思うけれど、どうせその時になったらそんなことも言っていられないでしょ?」

海未「…ええ、当然です」

海未(目の前で人が傷つくのを見るくらいならば…どんなに後ろ指を指されようと構わない)

237 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:52:12 ID:4yUtfNWI
真姫「まあそう言うと思ったわ…それなら、正体がばれないようにするのを最優先にしなさい」

海未「一応今までも気を付けてはいたのですが…」

真姫「現に私にばれてるじゃない…」

まあ私は特殊ではあるけど、と零してから続ける。

真姫「きっと周りに人がいないことは確認していると思うけれど、あとは防犯カメラが無い事を確認することと…あとは上ね」

海未「上、ですか?」

真姫「ええ、衛星写真とかドローンとかで撮られる可能性だってある…変身をするのは上空に遮蔽物がある所に限った方がいいわ」

海未「なるほど、防犯カメラや上空は盲点でしたね…」

真姫「捕まったりしたら使い捨てにされるのがオチだから本当に気を付けなさいよ?」

海未「動員法…よくあんなものが通ったものです…」

怪人動員法――増えていった怪人犯罪者を更生させるための社会奉仕を謳った法だが、実態は危険な怪獣討伐を基本とした、怪人を捨て駒として扱うためのモノであった。

238 ◆JaenRCKSyA:2017/12/17(日) 23:54:50 ID:4yUtfNWI
真姫「何か聞いておきたいことはあるかしら?私から話すことはもう無いけれど」

海未「ええ、大丈夫です…疑わないばかりか色々なことを教えていただけて感謝しています」

真姫「別に…ただ普通と違う怪人に興味があっただけだから…」

そっぽを向いて髪をいじる真姫を見ながら微笑み、海未は続ける。

海未「それでは、私はそろそろお暇させて――」

そこまで言ったところで海未の背後のドアの向こうから物音が響く。

239名無しさん@転載は禁止:2017/12/18(月) 01:17:42 ID:U8AP7p1Q
更新待ってたぞー乙
一気に色んな名前が出てきたな

240名無しさん@転載は禁止:2017/12/18(月) 20:31:09 ID:IYEBQwaw

新展開楽しみにしてる

241名無しさん@転載は禁止:2017/12/18(月) 21:12:23 ID:bBkirhrY
待ってた乙ん
今後出るであろう様々な合体技も期待

242 ◆JaenRCKSyA:2017/12/24(日) 18:37:31 ID:ikyyzMGQ
海未(侵入者…!?)

椅子から静かに腰を浮かせてシステムを手に取った海未が耳を澄ませると、物音ばかりでなく声が響いてくるのを聞き取る。

「ああもう!こないだ片付けたばっかりなのになんでこんなに散らかるのよ!」

海未(?この声はまさか…)

「ちょっと真姫ちゃん!整理整頓しなさいって言ったでしょ!?」

扉が開け放たれると同時に飛び込んできたのは大きい声とそれに対して小柄な体。そしてぴょこぴょこと揺れるツインテール。

海未「にこ…ですか?」

にこ「んなっ…なんであんたがここにいんのよ…!?」

真姫「なに?知り合いだったの?」

にこ「それはにこのセリフよ!っていうかあっちの部屋なんであんなに汚くなってるのよ!」

真姫「別に部屋をどう使おうと私の勝手でしょ!」

にこ「片付けするこっちの身にもなりなさいよ!」

真姫「仕事なんだから文句言わないでよね!最初にやるって言ったのはにこちゃんでしょ!」

にこ「さすがに限度ってものがあるのよ!」

海未「あ、あの…」

自分そっちのけで言い合いを始めた二人に視線を交互にさ迷わせながら海未は遠慮がちに声をかけるしかなかった。

243 ◆JaenRCKSyA:2017/12/24(日) 18:45:03 ID:ikyyzMGQ
「「なに!?」」

海未「いえ、えっと、二人はどういった知り合いなのかと…」

真姫「私がご主人様でにこちゃんが召使い!ほんと口うるさい!」

にこ「はああ!?私がパーフェクトお手伝いさんで真姫ちゃんがダメダメお嬢様の間違いでしょ!?」

真姫「何よ!」

にこ「間違ってないでしょ!」

海未「ちょ、ちょっと!いい加減にしてください…!」

いつまでも口論を続ける勢いの二人に海未がしびれを切らし、強めの口調で二人を落ち着かせる。

にこ「まあいいわ、片付けることに変わりないし…それで、なんで海未がここにいるのよ?」

海未「えっと、私の正体が真姫に知られたところからですね――」

海未はショッピングモールでにこと別れたあとに起きたことを説明し始める。

244 ◆JaenRCKSyA:2017/12/24(日) 21:45:09 ID:ikyyzMGQ
にこ「なるほどね…まあ、真姫ちゃんが勘違いしてないみたいでよかったわ…」

勝手知ったるように椅子を引きずってきて座ったにこは海未の話が終わると腕を組んでしきりに頷く。

にこ「ああ、言っておくと私がアイドルヒーローやってることとかは真姫ちゃんも知ってるから隠さなくていいわよ」

海未が自分の事を隠すように話していたことに気が付いたのか、にこは手をぷらぷらと揺らしながら言う。

海未「それにしても、いったい二人はどうやって知り合ったのですか…?まるで接点が見えてこないのですが…」

にこ「あー、それは…」

真姫「いきなりにこちゃんが押しかけてきたのよ…」

海未「押しかけて…というと?」

にこ「私が使ってるシステムってアイドルものの中でもやっすい奴なのよ…衣装も簡単なのだし――けどその分拡張性があって、衣装パーツを比較的自由に組み込めるの」

真姫「それもタダじゃないわけで…にこちゃんはどこで噂を聞きつけてきたんだか、私のとこに押しかけてきて、格安でパーツの換装をしろって言ってきたわけ」

海未「ではあの衣装は…」

にこ「真姫ちゃんに頼んで組み込んでもらったの…それで、やってもらう代わりに部屋の掃除とかして働いてる、ってわけ」

245 ◆JaenRCKSyA:2017/12/24(日) 21:55:05 ID:ikyyzMGQ
海未「なるほど、そういうことでしたか…」

海未はごく最近知り合った二人が知り合いであることに驚くも、それ以上ににこの強引と言えるまでの行動力に感心してしまう。

にこ「ちなみに戦闘機能も無理言って付けてもらったやつね!アイドルには護身術もひつようだし?」

真姫「明らかに護身の域を超えたレベルだけどね…」

まあカスタマイズしたの私だけど、と呆れたように真姫は続ける。

真姫「そうだ海未、にこちゃんにも協力してもらうといいわ」

にこ「私?」

真姫「アイドルやってると色んなところから情報が入ってくるだろうし、私が仕入れられるルートともきっと重ならない――悪くないと思うけど?」

海未「確かにその通りですね…もしにこが迷惑でないのなら、お願いしたいのですが…よろしいでしょうか?」

海未が少し不安げににこの方をうかがうと、得意げな表情でにこは胸を反らす。

にこ「ま、そんだけ頼りにされちゃったら仕方ないわよね?このにこにーにまかせときなさい!」

246 ◆JaenRCKSyA:2017/12/24(日) 22:34:14 ID:ikyyzMGQ
海未「それでは私はそろそろ本当にお暇させていただきますね」

にこ「あ、ちょっと待って…どこやったかな…」

にこは椅子から立ち上がった海未を呼び止めて、自分の鞄をごそごそと探り始めると、そこから出したのは何枚も綴られた紙の束。

にこ「あったあった、これ、遊園地のチケットなんだけど何枚かもらってくれない?」

海未「遊園地のチケットですか?けれど、にこの物ならにこが行くべきなのではないでしょうか?」

にこ「こないだのイベントで出演料とは別にお礼としてもらってね…私と家族の分を余分に取っても全然なくならないから知り合いに配ろうと思ってたのよ…逆にたくさんもらってくれた方が助かるわ」

海未「なるほど…でしたら、ありがたくいただきましょう」

さて、何枚もらおうか、と考えた海未は頭の中にまず幼馴染の顔を思い浮かべる。

海未(二人の分はもらうとして…)

そして、今日出会った怪人仲間二人の顔、そしてそのうちの一人の親友の顔を思い浮かべる。

海未「6枚ほどもらってもいいでしょうか?」

にこ「もちろん!いちにい…はい、6枚ね」

海未「ありがとうございます」

海未(もし余りそうなら、雪穂の事を誘ってもいいですしね)

247 ◆JaenRCKSyA:2017/12/24(日) 22:41:06 ID:ikyyzMGQ
海未「それでは二人とも、今日は本当にありがとうございました」

にこ「もし何かあったらこのにこにーを遠慮なく頼りなさいね!」

海未「ふふ、そうさせてもらいますね」

真姫「そうだ、最後に一つだけ」

海未「はい、なんでしょうか?」

真姫「システムの能力を引き出すのは、感情エネルギーと想像力――あなたの求める力をイメージすることで、システムは応えてくれるはずよ」

海未「求める力を、イメージする…ありがとうございます、今度試してみますね」

そして海未は再び二人に向き直ってにっこりとほほ笑んでぺこりと頭を下げると、扉をくぐって外へと出て行った。

248 ◆JaenRCKSyA:2017/12/24(日) 22:55:51 ID:ikyyzMGQ
ここまで…

249名無しさん@転載は禁止:2017/12/25(月) 11:43:36 ID:uoTfPSqI
乙!
にこまきは正義

250名無しさん@転載は禁止:2017/12/25(月) 15:51:27 ID:m0Rw97zA
更新来てたのか!続き気になってたから嬉しい…
乙です

251名無しさん@転載は禁止:2018/02/07(水) 19:35:22 ID:.ZkF5l6.
待ってます…

252 ◆JaenRCKSyA:2018/02/11(日) 00:49:26 ID:a/ZPpIRs
めっちゃお待たせして申し訳ない…連休中に更新できるようにします

253名無しさん@転載は禁止:2018/02/11(日) 03:40:42 ID:JnDioNjs


254名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 15:51:10 ID:dnfnDL3o
海未「…」

海未は矢の突き刺さった的を見据えて息を吐き、静かに弓を下ろす。

海未(4射中2射のみ…それも皆中もいまだ無し…)

海未「絶不調ですね…」

「いやいやそこまでじゃないでしょうに…」

海未「部長…」

海未が声に振り返ると白い道着姿の、海未にとっては部活動の先輩に当たる学生が呆れたような苦笑を浮かべながら立っていた。

「ま、確かに普段のあんたに比べたら集中できてないなって感じはするけどさ」

海未「やはり分かりますか?…周りに悟られてしまうようではまだまだ鍛錬が足りませんね…」

「いや思い詰めすぎでしょ…」

255 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 16:07:01 ID:dnfnDL3o
海未「申し訳ないのですが、今日は先に抜けさせてもらってもいいでしょうか?」

「もちろん!集中できない状態で続けても逆効果だし、休むのだって立派な練習のうち!…っていうか今日自主練なんだから自由にしていいのに」

海未「いえ、先輩がまだ残っているのに一人だけ帰るのはどうしても気が引けてしまうので…」

「ほんとあんたの将来の就職先がおうちの跡取りでほっとしてるわ…」

海未「?と、とりあえずお先に失礼します」

げんなりしたように言葉を零した部長を不思議そうに見ながらぺこりと頭を下げて、海未はてきぱきと道具を片付けていく。

海未(弓、か…使い慣れていますし、今度試してみてもいいかもしれませんね)

弓道場を出て昇降口へと向かいながら、黒い鎧に身を包み黒い弓を構えた自身の姿を想像してため息を吐く。

256 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 16:16:32 ID:dnfnDL3o
海未「さてと、少し時間が早いですね…」

何か買わなければならないものはあっただろうか、と考えていると自身の背後からこそこそとした話し声が聞こえてくる。

(隊長!目標を発見しましたにゃ!)

(よーしゆくぞ二等兵!共に突撃ー!)

海未はまだ聞き慣れたわけでもないのになぜだか耳になじむ声を聞き、苦笑を浮かべながら気付かないふりでその場を立ち去ろうとする。

希「確保ー!」

凛「お縄に付くにゃー!」

海未は後ろから飛びついてきた二人をひょいとかわして、とっさに作ったしかめ面を向ける。

海未「全く、用事があるならちゃんと話しかけなさい…」

凛「えへへ…」

希「ごめんなあ凛ちゃんがこうするって聞かなくて…」

凛「凛じゃなく希ちゃんが言ったんじゃん!」

海未「どちらが言い出したにせよ、二人で飛びついてきたのは変わりませんよ…?それで、何か用があったのではないですか?」

すると凛は楽しそうに笑うと海未の耳に顔を近づけて。

凛「悪の組織の定例会!」

257 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 16:26:25 ID:dnfnDL3o
海未「悪の組織の定例会だなんて大仰に言うから何かと思いましたが…」

海未が二人に連れられるがままに向かった先はファーストフード店。流れるようにドリンクバーと軽めのメニューをいくつか注文した二人を眺めながら海未は口を開く。

海未「いつもこんな風に集まっているのですか?」

希「いつも、って言うほど何回も集まってはないんやないけどね」

凛ちゃんと知り合ったのもそんなに前やないし、と希は運ばれてきたポテトを頬張りながら話す。

凛「なんか予定があったらたまに会う!みたいな感じだよね」

海未「それは定例と呼ばないのでは…?」

凛「細かいことは無し無し!飲み放題なんだからどんどん飲むにゃ!」

希「そういえば無理やり引っ張って来ちゃったけど海未ちゃん用事とか無かった?」

海未「私は時間を持て余していましたからいいのですが…希は生徒会の仕事は大丈夫なのですか?」

希「海未ちゃん、ウチにとって二人は仕事よりも大事な存在なんよ…?」

凛「希ちゃん…!」

海未「では学校に戻って生徒会長に伝えてきますね」

希「わー!待って待って!」

258 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 17:09:30 ID:dnfnDL3o
希「もー、海未ちゃんは冗談通じないんやから…今日はえりちからお許しもらってるん!」

海未「仕事が無いわけではないのですね…」

海未は生徒会長の苦労を思いながらポテトに手を付ける。

海未「そういえば、先ほど二人が出会ったのはそこまで昔ではないと言っていましたが、どういった経緯で知り合ったのですか?」

凛「うーん…凛が怪人になっちゃって、どうしよー!ってなってた時に希ちゃんとたまたま会って、みたいな…?」

希「海未ちゃんもそうやったと思うけど、怪獣とか怪人の被害に遭った時に怪人にされるみたいやん?ウチは凛ちゃんが被害に遭ったのと近くにおって、ほんとたまたま会ったんよ」

その時の事を思い出すように瞳を上の方に向けて希は続ける。

希「凛ちゃんに黒いもや――って言うか感情エネルギーなんかな?それが集まってくから怪人だって言うのは分かったんやけど、いきなり襲われてもおかしくないやん?だからかなり一か八か声かけたって感じかなあ」

海未「しかしまあよく声をかけようと思いましたね…」

希「すごい戸惑ってるみたいやったし、この子なら大丈夫かなって」

凛「あの時はほんと怖かったにゃ…変身しろって言われても全然できないし…」

259 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 17:25:56 ID:dnfnDL3o
希「そういえば海未ちゃんってシステム持ってるん、珍しいね?うちも凛ちゃんもそんなの持ってないし…」

凛「それ、凛も気になってた!」

二人の言葉を聞いて海未は内心冷や汗をかく。

海未(さすがに真姫の事を知られるわけにはいきませんからね…隠し事をするのは心苦しいですが…)

海未「普通は持っていないものなのですか?私はこれが普通だと思っていたのですが…」

希「どうなんやろね?知ったようなこと言ったけど、ウチも他の怪人の事なんて知らないからなあ…」

凛「うーん…やっぱり海未ちゃんは強いからなのかにゃ?」

希「それはそうかもしれんけど、もしそうならどっちが先なんやろね?」

凛「…?どういうこと?」

海未「…凛はそこまで考えなくても大丈夫ですよ?」

260 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 17:41:52 ID:dnfnDL3o
海未は凛が何気なく口にしたであろう言葉を頭の中で反芻する。

海未(真姫はああ言っていましたが、それはつまり今までに捕まえられた怪人に過ぎない…グレイシアのような怪人がシステムを持っているかどうかでも話は変わってきますね…)

凛「海未ちゃん、どうかしたの?難しい顔してるけど…」

海未「…いえ、私がシステムを持っているのが不思議だと思っただけですよ」

顔を覗き込んだ凛に笑顔を返し、ふと先日の事を思い出す。

海未「そうだ、二人に渡すものがありました…」

海未が鞄の中を探って取り出したのは、にこからもらった遊園地のチケット。

海未「余ったから、と友人からもらったものなのですが…もしよければ」

凛「にゃ!ほんとにこれもらっちゃっていいの!?」

希「ひゃー…にこっち、大盤振る舞いやなあ…」

花陽の分もよければ、と凛にチケットを渡しながら海未は希の口から出た名前を聞き取る。

海未「おや、希もにこのことを知っているのですか?…と言うよりよくこれだけでにこからもらったものだと分かりましたね…」

261 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 18:09:00 ID:dnfnDL3o
希「あれ?えっと…あー、なんか勝手に海未ちゃんとにこっちが知り合いな気がしてたわ…」

海未の言葉にきょとんとした顔をした希だったが、すぐに苦笑いを浮かべて口を開く。

希「それにそのチケット、こないだウチもにこっちからもらってて見覚えがあったからね」

海未「本当に色んな人にばら撒いているのですね…」

凛「そのにこちゃん、って人、どんな人なの?」

希「どんな、って言われると難しいなあ…」

海未「今度凛にも紹介します――きっと仲良くなれると思いますよ」

希「にこっち、3年生やけど1年生みたいなもんやからね」

海未「…聞かれたら怒られてしまいますよ?」

希「いっつも怒らせてるし変わんない変わんない!」

にこを怒らせている希の姿がありありと思い浮かび、海未はクスリと笑う。

262 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 18:29:15 ID:dnfnDL3o
凛「そういえば、海未ちゃんの事すごいニュースになってたけどそんなに大暴れしたの?」

海未「大暴れなんてしていませんよ…」

大げさに書きたてられた記事を思い出し、ため息交じりに海未は答える。

希「ウチあんまりニュース見てないんやけど、ショッピングモールってどんなことになってたん?えっと…グレイシアもいたみたいやん?」

海未「そうですね…いくつかのフロアしか回っていませんが、小型の怪獣はかなりたくさんいたようでした」

海未(自分が遭遇しただけでも10体を超えていましたし、各フロア同じだけいたとするとかなりの数が現れたということになる…)

海未「それと本来なら喜ぶべきなのですが、変身している時にジュエルに遭遇してしまって――」

凛「えーっ!海未ちゃん大丈夫だったの!?」

希「ちょっと凛ちゃん…!ボリューム高い…!」

周囲の騒がしさを破るほどに大きな声で身を乗り出した凛を希は押しとどめ、海未は何事かと振り向いた周りの人に頭を下げる。

263 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 18:46:27 ID:dnfnDL3o
海未「凛…あまり大っぴらに話せることではないのですから…」

凛「うう…ごめんなさいにゃ…」

元々小柄な体をより縮めてうなだれる凛の頭を撫でて海未は話を続ける。

海未「ですが、心配してくれてありがとうございます――私はこの通りぴんぴんしていますから何も問題ありません!」

希「それにしてもジュエルと戦って無事なんて海未ちゃん本当に強いんやね…」

海未「いえ…どちらかというとどうにかこうにか逃げおおせたと言うか…そのあと戦ったグレイシアには歯が立ちませんでしたからね…」

凛「グ、グレイシアとも戦っ――!!」

希「凛ちゃん!」

また身を乗り出そうとした凛の口を押えて希は凛の事を席に引き戻す。

264 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 19:01:52 ID:dnfnDL3o
海未「まあ、凛が驚くのも無理はありませんよね…私もいまだに夢なんじゃないかと思います…」

希「よく海未ちゃん生き残ってるなあ…最初にニュースになった時もホムラとかから逃げたんよね?」

海未「ああ…初めて変身した時ですね…あれも殺されるんじゃないかと思いました…」

凛「やっぱり、怪人もヒーローも敵だと肩身が狭いにゃ…」

希「世知辛い世の中やね…」

話しているうちにどんどん暗い気分になった三人はうなだれて同時にため息を吐き出す。

凛「けど、なんか最近怪人とか怪獣が出ること多くないかにゃ?前ってこんなにいっぱい出てきてたっけ?」

海未「そう言われてみれば確かに…今年に入ってからは何だか随分と慌ただしい気がしますね…」

希「あっちも予告とか出してから出てきてくれれば――」

そんな辟易したような希の言葉を遮るようにして、店の外、そして店内にある全ての携帯端末からけたたましいサイレンが響き渡る。

265名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 19:04:24 ID:lqZVzddE
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

266 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 19:13:52 ID:dnfnDL3o
海未「なっ…!」

希「嘘やん…」

凛「これって警報だよね…!?」

周囲の客もその音にざわめき出し、店の外に出ようと動き始める。

海未「幸い、警戒レベルは低いようです…このまま避難施設の方に向かいましょう」

海未(とは言ったものの――)

避難を誘導する人が現れないことからこの場にヒーローがいないことは確実、そこに怪獣が現れたらと考えると――。

海未(戦うことも視野に入れる必要がありますね…)

267 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 19:28:44 ID:dnfnDL3o
恐らく凛と希もいざとなればアクションを起こすつもりなのだろう、三人は避難施設を目指す列の後ろの方へと下がっていく。

希「なあなあ、二人とも…」

列を成して進んでいると、二人の肩を指でつついて希は遠慮がちに切り出す。

海未「どうかしたのですか?」

希「ウチ、ちょっと学校の方に戻ろうかと思って…」

凛「学校って…ここからだと結構遠いよ…!?」

希「ごめん!やっぱり心配やから!」

海未「ちょっと希!」

言うが早いか駆け出して行った希を追いかけ、路地を曲がった二人だったが。

凛「あれ…もういない…!」

海未「どれだけ素早いんですか…!」

268 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 19:46:42 ID:dnfnDL3o
海未(私達も学校に向かうべきか…ですがそれではこの周囲に怪獣が現れた時に――)

凛「海未ちゃん!」

どうするべきか考え込む海未に凛は言葉を投げかける。

凛「凛が希ちゃんのこと追いかけるからこの辺の避難は海未ちゃんがお願い!」

海未「なっ…!危険です!凛、あなたは変身ができないのでしょう!?それでもし怪獣に遭遇したら――」

凛は海未の事を制し、ポケットから白い塊を取り出して海未に見せる。

海未「これは…団子、いえ、おにぎりですか…?」

凛「えっとね、あんまり詳しいことは言えないんだけど、凛のコアに合わせた感情エネルギーの塊で、これを使うと少しの間だけ変身できるようになるの…」

負担が大きいからあんまり使わないでほしいって言われてるんだけど、と凛は続ける。

269 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 20:19:09 ID:dnfnDL3o
海未「…分かりました」

聞きたいことはいくつもあったが、海未はここで問答を繰り返している暇はないと判断して凛の頭に手を乗せた。

海未「凛の事を信じます――が、一つ約束してください」

凛「約束?」

海未「絶対に無事でいること、いいですか?」

凛「うん!無理はしないようにするから安心するにゃ!」

それに学校なら避難設備もあるし、と言い残して凛は海未に手を振りながら駆け出していく。

海未「…私も行きましょうか」

小さくなっていく凛の姿から目を離して海未はそう呟き、市街地へと向かって走り始めた。

270 ◆JaenRCKSyA:2018/02/12(月) 20:38:45 ID:dnfnDL3o
ここまで…また近く更新します

271名無しさん@転載は禁止:2018/02/13(火) 00:00:30 ID:5UNhwtsY

のぞりんにも色々秘密がありそう

272名無しさん@転載は禁止:2018/02/19(月) 23:04:47 ID:HKL520Ws
いいね

273スペシャル:2018/03/13(火) 15:16:15 ID:M0Zhuz2.
http://ssks.jp/url/?id=1451

274名無しさん@転載は禁止:2018/03/14(水) 01:27:08 ID:I9EWPd/s
今年更新来てたんか、乙
待ってる

275 ◆JaenRCKSyA:2018/03/25(日) 22:04:07 ID:sV7Op0oA
海未「やはり人っ子一人いませんね…」

足を進めながら辺りを見回してみてもまるで人の気配はなく、逃げ遅れた人はいないのだろう、と海未は考える。

海未「これなら私にとっても好都合ですね…」

戦うことになったとしても周りに人がいなければ最低限の警戒で変身することができる。

海未「っと…早速ですね」

海未が立ち並ぶビルの角を曲がると、様々な生き物の姿をした怪獣の群れが姿を見せた。それぞれ何かを探すような仕草を見せていたが、海未が現れると一斉にそちらを向いて敵意を見せる。

海未「面倒ですが、仕方ありませんね…!」

海未は怪獣の群れを横目に見ながら駆け抜け、通りを挟んだ先に口を広げている屋根付きのアーケードへと飛び込む。

海未「変身!」

276 ◆JaenRCKSyA:2018/03/25(日) 22:10:38 ID:sV7Op0oA
海未「はっ!」

漆黒の鎧を身に纏った海未は振り向きざまに刀を抜き、間近に迫ってきていた狼のような姿をした怪獣を勢いのままに両断する。

海未「さて…すぐに片付けましょう!」

言うが早いか海未は一瞬で怪獣の群れへと間合いを詰め、反応できていない怪獣を駆け抜けざまに次々に撫で斬っていく。

海未「閃刃・裂空!」

怪獣の群れの中を抜けた海未は足でブレーキを掛けつつ体を九十度回転させつつ刀を振り抜いた。
刀からは漆黒の斬撃が飛び、壁に張り付いたトカゲの姿の怪獣が吐き出した火球を破壊する。

海未「このっ…!」

さらに海未は振り抜いた刀を手の中で逆手に持ち替え、飛び掛かってきていたコブラのような怪獣ごと釘を打つように地面へと突き立てる。

277 ◆JaenRCKSyA:2018/03/25(日) 22:19:05 ID:sV7Op0oA
海未「建物の壁面にも相当数いますね…」

群れを成していた怪獣の数が減り、警戒するように動きを止めた隙に海未はぐるりと辺りを見回すと、ビルの外壁を這うようにして動き回る怪獣が目に入った。

海未(さすがに一体一体斬っていくのは骨が折れますね…)

海未「…試してみましょうか」

海未はそう呟くと、自身のシステムに集中する。

海未(求める力をイメージ――)

海未が思い描くのは使い慣れた武器。その形状を強く頭に思い描く。

海未「――っ!」

黒い閃光が一瞬放たれると、次の瞬間海未の左手に握られていたのは漆黒の弓であった。

278 ◆JaenRCKSyA:2018/03/25(日) 22:27:43 ID:sV7Op0oA
海未「成功、ですね…!」

見た目はともかくとして、作り出した弓は海未の手によく馴染むものだった。

海未「試し打ちが実戦とはぞっとしませんが…っ!」

海未は射場では一度も構えたことのないような角度へと弓を向け、何も持たない右手を弓にかざすと実際に番えたかのように漆黒の矢が現れる。

海未「――」

刺すような視線で怪獣を見据えると、静かな雰囲気を身に纏い、引き絞った手を離す。

海未「…なかなかいいですね」

真っすぐに放たれた矢はその場から飛び去ろうとしたトカゲ型の怪獣を射抜き黒い粒子へと変える。

279 ◆JaenRCKSyA:2018/03/25(日) 22:45:03 ID:sV7Op0oA
海未「次っ!」

海未は建物を這い回る怪獣に弓を向けて次々と矢を放ち葬っていく。しかしその怪獣に気を取られているうちに、地上にいる怪獣の接近を許してしまう。

海未「くっ…!」

咄嗟にその場を飛びのき、近づいた怪獣を蹴り飛ばすのと同時に弓を上空へと向ける。

海未「黒散華っ!」

真上に放たれた矢は無数に分裂し、雨のように降り注ぎ地上の怪獣に風穴を開けていく。

280 ◆JaenRCKSyA:2018/03/25(日) 22:56:14 ID:sV7Op0oA
海未「これで…最後です!」

建物に張り付いている蜘蛛型の怪獣を矢で射抜き、海未は息を吐き出す。

海未「この辺りはもう大丈夫そうですね…」

手にした弓をいったん消し去り、刀を鞘に納めて海未は思案する。

海未(戦闘の度に変身を解いていたのでは咄嗟に変身ができない…リスクはありますがこのまま行動した方がいいでしょうね…)

海未はそう結論付け、いつでも刀を抜けるようにしながら漆黒の鎧に身を包んだまま走り始めた。

281名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 09:59:20 ID:rbHrz4oo
お 来てる来てる

282名無しさん@転載は禁止:2018/03/26(月) 14:55:46 ID:cLIxVrKc
追いついた。気長に待ってます

283名無しさん@転載は禁止:2018/04/01(日) 00:40:38 ID:Jlb5ex92
乙です、待ってました!

284 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 17:16:27 ID:Dz3WmQ6I
花丸「本当に、善子ちゃんは、運が、悪いずらね…!」

息を切らしながら花丸は自分の前を走る友人に同情するように声をかける。

ルビィ「おなか壊してる、時に、怪獣さんが、出るなんて…」

善子「くくっ、これは堕天使への試練…これを乗り越えた時、魔界貴族の位を授かることができるのです…!」

花丸「その元気、少し分けてほしいずら…」

三人は秋葉原へと買い物に出たところで怪獣出現の騒ぎに巻き込まれてしまっていた。善子を先頭にしてルビィを挟むように手をつないで避難設備まで駆け抜けていく。

善子「っていうか、本当にごめん…!先に逃げててよかったのに…!」

ルビィ「そんなことできないって、何回も言ったよ…?」

花丸「トイレのドア越しっていうのが、何とも言えないけど、ね…」

善子「うう…ありがと…」

285 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 17:26:22 ID:Dz3WmQ6I
三人が人の気配のしない通りを駆け抜けていると、視線の先に全身黒ずくめの人の姿が見える。

善子「うっそでしょ…」

ルビィ「あれって…」

花丸「だーくぶれいど、ずら…」

三人の前に現れたのは、漆黒の鎧を身に纏ったままの海未であった。

海未(逃げ遅れた人…!かなり警戒されていますね…)

海未は適当に芝居をして避難施設までの道を空けようと考えた。

海未「私の前に立ったことを後悔するのですね…!さあ、この刀の錆になりなさい…!」

海未(決まった…!)

自身の悪役ぶりに満足した海未は刀を鞘から抜き、切っ先を三人へと向ける。

善子「このっ…やるわよ、ずら丸!」

花丸「もちろんずら…!」

「「変身!」」

286 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 17:31:00 ID:Dz3WmQ6I
海未「んなっ…!」

海未(ヒーローだったとは…!こうなったら戦うしかありませんか…!)

変身した善子と花丸はルビィの事をかばうように海未に向かって並び立つ。

善子「いくわよ…!ピアシングシェイド!」

善子は鎌を構えると即座にその刃を地面へと突き立てる。

海未(距離は離れている…つまり遠距離からの攻撃…!)

海未は未知の相手の攻撃に、勘だけを頼りにその場を飛びのく。すると今まで自分がいた地点の地面から、漆黒の棘が突き出すのを目にする。

海未(なるほど…こういう技ですか…!)

善子「まだまだあ!」

善子が地に突き立てたままの鎌にさらに力を込めると、海未が移動した先の地面が黒く染まっていく。

287 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 18:11:46 ID:Dz3WmQ6I
海未「種が分かってしまえば…!」

海未は棘が突き出る前に、と考えて一気に走り始める。海未を追いかけるように次々と地面からは黒い棘が形を成していく。

善子「ここよ!」

海未「――ッ!」

善子は駆け抜けた海未を待ち構えるように大鎌を構え、大きく斜めに振り下ろす。

海未(この刃の形状、間合いが読めない…!)

特殊な武器をなるべく体に近付けないよう、海未は自身の間合いのギリギリで鎌の柄を刀で受け止める。

海未(やはり警戒して正解だった…!)

動きを止めた大鎌の柄は海未から離れた位置であったが、三日月のような刃の先端は海未の体の近くにまで迫っていた。

善子「このっ…!」

勢いの止まった大鎌は柄を軸にして回転、刃は外側を向く。

善子「やああっ!」

善子はその場で回転するようにして、その勢いのままに大鎌を海未へと叩き込む。

288 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 18:36:44 ID:Dz3WmQ6I
海未「っと!」

水平に振り抜かれる刃を前に、海未は刀を垂直に立ててその柄を受け止める。大鎌の勢いは止まったもののその刃は海未の真後ろにあり、海未の体は刈り取られる直前の稲穂に等しい。

善子「ぜえええいっ!」

善子は大鎌を引き、海未の事を斬り裂こうとする。

海未(冗談じゃありません…!)

海未は大鎌の柄に沿って刀を滑らせて自身に迫る刃の勢いを止める。そしてその場で膝を曲げ、刀を刃から離すと同時に宙返りをするように跳躍し自分を斬り裂こうとする大鎌をかわす。

善子「曲芸じゃないんだから…!」

再び大鎌を振り上げた善子を警戒して海未は飛びのいて距離を取ろうとする。

289 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 19:01:39 ID:Dz3WmQ6I
善子「ずら丸っ!」

花丸「縛!」

その瞬間、花丸が手にした錫杖を地面へと打ち付けると海未が着地した先の地面が輝き、そこからのびた鎖が海未の体を絡めとる。

善子「よっし…!ブラッディサイズ!」

善子が赤黒く染まった大鎌を振り抜くと、海未の事をめがけ三日月型の斬撃が飛んでいく。

海未「この程度では…拘束とは言えません…!」

海未は手にした刀を手首だけで操り、自身の体に巻きついた鎖を断ち切る。

海未「閃刃・裂空!」

自由になった海未は刀を振り切り、そこから放たれた斬撃は善子の攻撃を相殺し、周囲には煙が立ち込める。

善子「あの状態から抜けてくるの!?」

海未「敵の前で随分と呆けているのですね…!」

目を見開いている善子の前方、煙を払って海未が善子の懐に飛び込んでくる。

290 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 20:16:00 ID:Dz3WmQ6I
善子(やばっ…近すぎる…!)

大鎌の間合いよりも近い距離に接近されてしまった善子は柄を短く持ち直して対応しようとする。

海未「遅い!」

しかし大鎌は海未が瞬時に振り抜いた刀によって跳ね除けられ、がら空きとなった腹部に蹴りを叩き込まれてしまう。

善子「げほっ…!」

蹴りの衝撃で後方へと吹き飛ばされ、吐き気に顔を歪めて一瞬動きを止めた善子に海未は追撃を加えようとさらに距離を詰めようとする。

花丸「こ、光明!」

二人から離れた位置でルビィをかばうように動いていた花丸が錫杖を振り上げると、その周りにいくつもの光の玉が現れる。

海未(遠距離からの攻撃…しかし、初動が遅い!)

海未は瞬時に刀を鞘に納めると、手の中に弓を作り出して花丸の周囲に浮かぶ光の玉を撃ち落とす。

花丸「わ、わっ…!」

291 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 21:23:15 ID:Dz3WmQ6I
海未(このまま離脱できれば…!)

善子「こ、のっ…!」

海未が花丸に注意を向けている隙に善子は距離を詰め、低い位置に構えた大鎌を海未めがけて振り抜く。

海未「くっ…!」

大きく跳躍してその斬撃をかわした海未は弓から刀へと武器を持ち替える。

花丸「やああっ!」

海未の飛んだ先へと走りこんだ花丸は勢いよく錫杖を海未へと突き出す。

海未「慣れない事をするべきではありませんよ…!」

海未はその軌道を読み切り、小さい動きだけでそれをかわすと突き出された杖をがっちりと握る。

海未「はあああぁぁ!」

そしてそのまま腕を思い切り振り抜き、花丸ごと宙へと放り投げる。

292 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 21:29:12 ID:Dz3WmQ6I
花丸「ずらあああぁぁぁ…!」

善子「ちょっ…なんでこっちに飛んで…ふぎゃっ!」

花丸はまっすぐ善子に向かって飛んでいき、そのまま二人は重なり合うようにして地面に倒れこんでしまう。

花丸「ナ、ナイスキャッチずら、善子ちゃん…」

善子「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!ルビィが――!?」

地面に倒れこんだ二人は海未を挟んだ向こう側に視線を向けると、眼を見開く。

ルビィ「う、うあ…」

そこには尻餅をついて後ずさるルビィに迫る怪獣の姿があった。

293名無しさん@転載は禁止:2018/04/01(日) 22:26:53 ID:OFTgRIBs
更新きた!!!!!ゆっくり待ってます!!!!!

294 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 22:30:02 ID:Dz3WmQ6I
花丸「ルビィちゃん!」

善子(やばい…!これじゃ間に合わな…)

善子たちの位置からではまるで間に合わない。それでも二人はルビィを救うために武器を振り上げる。

海未「まったく…!」

しかし、二人が動くよりも早く駆け出していた海未は怪獣までの距離を一瞬で詰めると、怪獣を一刀のもとに切り伏せる。

善子「えっ…!?」

怪人が怪獣を倒す、そんな光景に善子と花丸が呆然としていると、海未は刀を鞘に納めてルビィへと向き直る。

海未「失礼しますよ!」

ルビィ「へっ…!?」

海未はルビィの両脇を抱えると、

海未「そお、れっ…!」

そのままふわりと宙に放り投げた。

295 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 22:42:40 ID:Dz3WmQ6I
ルビィ「ピ、ピギイイイィィィ!!」

花丸「ルビィちゃん!!」

親友を助けようと動こうとした花丸だったが、真っすぐ自分に向かって飛んでくるその姿を見て慌てて腕を前に広げる。

ルビィ「ピギッ!」

花丸「ずらっ!」

善子「むぎゅっ…!」

そのまま花丸はルビィを抱きとめるも、その勢いに押されて後ろにいる善子を巻き込んで倒れこんでしまう。

ルビィ「は、花丸ちゃん、ありがとう…!」

花丸「無事でよかったずら…!」

善子「…いいから二人とも早く降りてっ!」

296 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 22:47:15 ID:Dz3WmQ6I
海未「その子を連れて早く逃げなさい!」

ようやく立ち上がった三人を呆れたように見ながら海未はそう声をかける。

善子「怪人なのに、なんで…!」

善子はそう問いかけようとするも、海未を挟んだ向こうに何体もの怪獣が現れ始めたのを見て、花丸とルビィの手を取って走り始める。

善子「逃げるわよ!」

花丸「う、うん!」

小さくなっていく三人の姿を視界から外し、自身を睨みつけながら牙をむく怪獣の群れに刀を構える。

海未「小物がいくら増えようが無駄ですよ…!」

297 ◆JaenRCKSyA:2018/04/01(日) 22:57:43 ID:Dz3WmQ6I
善子「…さっきの怪人、なんだったのかしら」

避難施設を目指す道の途中、善子がぽつりとつぶやいた。

花丸「そんなに悪い人じゃなかったのかな?」

善子「そうねえ…けどいきなり襲い掛かってきたしよく分かんないわよね…」

ルビィ「ルビィの事放り投げた時、持ち上げるのも優しかったんだよね…」

三人は道を急ぎながらも行動の意図が読めない怪人について頭をひねらせる。

花丸「それにそういえば、マルたちの事攻撃する時も蹴とばしたりとかしかしてきてなかった気がするずら」

善子「確かに斬りつけられる間合いでもそうしてこなかったわね…代わりに思いっきりお腹蹴られたけど」

眉根を寄せてお腹をさすりながら善子は言葉を続ける。

善子「ま、次また会ったりした時には話し合ったりできないか試してみてもいいかもね」

298名無しさん@転載は禁止:2018/04/02(月) 00:55:30 ID:QIdrMZ4o
短期間の更新・・・うれしい
乙です

299名無しさん@転載は禁止:2018/04/02(月) 20:46:23 ID:i9EiiB6Q

海未ちゃん何だかんだでノリノリになってきたなw

300名無しさん@転載は禁止:2018/04/08(日) 16:43:13 ID:c9FWbVIU
ほしゅ

301名無しさん@転載は禁止:2018/04/14(土) 22:15:54 ID:4pRFDi4Y


302 ◆JaenRCKSyA:2018/04/22(日) 18:08:39 ID:vRS4RTj2
海未「はああっ!」

善子たちがその場を離れたしばらく後、海未は群れを成していた怪獣を一体残らず倒しきっていた。

海未「あの程度のサイズなら数が多くても問題なく片付けられますね…さて、このあたりも少し見て回って――っ!?」

これからの行動を決めて動き出そうとした海未は、足元から伝わる大きな揺れにバランスを崩しそうになってしまう。

海未「地震?いや、これは…!」

揺れの起きた方を見据えて走り出すとほどなく、視線の先の交差点に丸太のように肥大した腕を引きずりながら怪獣が姿を見せた。

海未「言ったそばから随分と巨大なものが出てきてくれましたね…!」

自分の倍以上もの大きさを持つ怪獣を見ると途端に自身の持つ刀が頼りないものに見えてしまうが、海未はそんな弱気な考えを振り払い怪獣を倒す事を心に決める。

しかし。



「ホーリープロミネンスっ!!」

303 ◆JaenRCKSyA:2018/04/22(日) 18:22:49 ID:vRS4RTj2
どこからか聞こえてきた声と共に、辺りは目の眩むようなオレンジ色の閃光に包まれる。

海未「――っ!?」

海未が思わず目を覆っていた腕をどけると、すでにそこに怪獣の姿は無くなっていた。

海未(怪獣は消えましたが…しかしこれは…!)

怪獣のいなくなった交差点へと建物の影、上空からふわりと降り立った姿は太陽を思わせるオレンジ色のスーツに身を包み、背丈ほどもある大きな杖を持ったヒーロー、魔法戦士ホムラだった。

「あなたは…ダークブレイド…!」

目を覆ったバイザーの奥からの視線が海未の姿をとらえると、手にしていた杖を油断なく構える。

海未(よりにもよってホムラ…運が悪すぎます…!)

304 ◆JaenRCKSyA:2018/04/22(日) 19:01:11 ID:vRS4RTj2
刀を構えた海未は、相対したホムラの醸し出す空気に違和感を感じ取る。

海未(威圧感はある…ですが、これは…?)

ジュエルの苛烈と言えるほどの敵意、グレイシアの凍てつくような殺気、自身が今までに戦った強敵たちは海未に対して負の感情を向けていた。
しかし、海未に対する警戒こそあるものの、ホムラからはそう言った感情をまるで感じなかった。

「…逃げたりも、襲ってきたりも、しないんだね?」

海未「…あなた相手に下手な動きなどできませんからね」

海未のその言葉を聞くとホムラは息を吐き出すと、再び話し始める。

「それなら、私に勝てないって事も分かるよね?私は戦いたいわけじゃない、だから大人しく捕まってくれないかな…?」

海未(確かに真姫の言っていたように話の通じない相手ではない、ですが…)

海未「…話し合いは?」

それを聞くとホムラは少しだけうつむいたのち、真っすぐに海未を見て口を開く。

「本当なら話は聞いてあげたい…けど私があなたと会うのは二回目で、どっちも街に被害が出てる…だから、信じてあげられないよ」

305名無しさん@転載は禁止:2018/04/22(日) 19:33:38 ID:oReLLJkU

ほの…ホムラ久々やね

306 ◆JaenRCKSyA:2018/04/22(日) 19:34:03 ID:vRS4RTj2
海未「そうですか…なら、仕方がありません」

海未は刀を鞘に納めると、手の中に作り出した漆黒の弓を構え、ホムラへと向ける。

「戦うなら、手加減はしてあげられないからね…!」

海未「臨むところです…!」

互いに得物を握りしめてにらみ合った状態での一瞬の静寂、それを破るようにホムラは杖を振り上げる。

「イグニションレーザー!」

声と共にホムラの周囲に5つの火球が生まれ、杖が振り下ろされるのと同時にレーザー状の熱線となって射出される。

海未(速い…!ですが、狙うのは一つだけでいい…!)

海未は咄嗟に後方へと飛びのき、自身に迫る熱線の一つに狙いを定め弓を引き絞る。

海未「黒華一閃!」

弓から放たれた矢は漆黒の軌跡を残しながら真っすぐに熱線の一つを相殺する。しかしまだ距離を取った海未には熱線が迫る。

海未「こ、のっ…!閃刃・断空!」

手にしていた弓を消し、刀を抜き去ると共に迫る熱線へと刀を振り抜く。黒い閃光を纏った刀身で攻撃を打ち払うとその際に生じた爆風に飛ばされるようにして、海未はさらに後方へと下がる。

307 ◆JaenRCKSyA:2018/04/22(日) 20:08:06 ID:vRS4RTj2
海未(呆けている暇などない…!)

力が抜けて地面に付きそうになる膝を無理やり踏ん張り刀を構える。

「やああっ!」

立ち込めた煙をかき分けるようにしてホムラは海未の眼前に躍り出て、身の丈ほどもある杖を上段から振り下ろす。

海未「ぜえいっ!」

海未は放たれたその重い一撃を刀を振り抜くことでいなすが、ホムラは防がれたことを気にも留めずに素早く杖の軌道を変えて続けざまに打撃を叩き込む。

海未「くっ…!」

重い連撃を捌き切れないと判断した海未は最低限のみを受け止め、残りは身を翻しかわしていく。そしてホムラの打撃を受け止めない分、自由になった刀は隙を突き斬撃を繰り出していく。

海未(一撃一撃は重く鋭い…ですが動きの間隙を突けば戦えないほどではありません…!)

308 ◆JaenRCKSyA:2018/04/22(日) 20:24:41 ID:vRS4RTj2
「はっ!」

海未の繰り出した蹴りを距離を取ってかわしたホムラは手にした杖を海未へと鋭く突き出す。

海未「そこっ!」

海未はその場で半身になるようにしてそれをかわすと、自身の真横に来た杖の柄をつかみ取り、ホムラもろとも宙へと投げ出す。

海未「閃刃・裂空!」

「ラッピングフレア!」

空中に浮いたホムラへと海未は漆黒の斬撃を放つが、ホムラは即座に杖を構え直し、自身を包むような球状に広がる炎を放ちそれを相殺する。

「まだまだあっ!」

爆風から抜けて舞うように滞空したホムラが杖を振るうと周囲に火球が生まれ、一斉に海未目がけて降り注ぐ。

309名無しさん@転載は禁止:2018/04/22(日) 20:40:41 ID:7x.KLiv6
海未、どうなるんだ……!

310 ◆JaenRCKSyA:2018/04/22(日) 20:45:46 ID:vRS4RTj2
海未「くっ…!黒散華!」

海未は瞬時に刀を弓へと持ち替え、直上へと向けて矢を放つ。放たれた矢は上空で無数に分裂して降り注ぎ、火球を撃ち落としていく。

(視界が悪い…!けどまだ…!)

互いの技がぶつかり合い生じた粉塵が立ち込め、上空にいるホムラから地面の様子はまるでうかがえなくなってしまう。

海未「く、おおおおっ!黒華一閃!!」

自身とホムラの繰り出した弾丸の雨の中、煙が自分を隠している間に海未は駆け抜けていき、飛び込むようにしてホムラの背後を取り矢を放つ。

「後ろっ…!?間に、合えっ…!」

真後ろ、地上からの攻撃に不意をつかれたホムラはとっさに杖を振りかざして自身と海未の間に炎の防壁を作り出す。

「ぐうっ…!」

即席で作った防壁を突き破った矢をホムラは身をよじってかわそうとするも、動きの一瞬の遅れによってかわし切れずに地上へと落ちていく。

311 ◆JaenRCKSyA:2018/04/22(日) 21:34:51 ID:vRS4RTj2
空中で体勢を立て直し、ふわりと着地したホムラを見据えたまま海未は次の一手を考え始める。

海未(これだけ食らい付いても微々たる傷しか与えられていない…こちらは満身創痍に近いというのに…!)

海未(…しかし意識的か無意識的かは分かりませんが、怪獣を討伐する時と比べて力を抑えている…逃げるならそこを突くしかない)

「…強いんだね?今まで戦ってきた他の怪人はここまでやり合わないうちに大人しくしてくれたんだけど」

海未「ほめ言葉として受け取っておきましょう…私は大人しく諦めるつもりなど毛頭ありません」

「そう、だよね…」

ホムラはそう零すと、顔を伏せる。しかしそれも一瞬のこと。

「あなたの事は、私がここで止める」

海未「っ…!」

二人は再び自分の武器を構えてにらみ合う。

312名無しさん@転載は禁止:2018/04/23(月) 03:11:55 ID:gpiRA.B.
おぉ 来てたか

313名無しさん@転載は禁止:2018/04/24(火) 01:15:37 ID:mxepcm2Y
追いついた
おもしろいし死んでもエタらないは期待大

314 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 15:11:44 ID:s1mHjaWE
「…?」

海未「これは…?」

対峙していた二人は周囲の景色が突然暗く陰った事に気付き、一瞬だけ互いの事を忘れて視線を宙にさ迷わせる。

海未(日が陰った…?いったい…)

事態を把握できていない二人の耳に、遠く甲高い雄叫びが聞こえてくる。それははるか上空から響くものだと気付き、弾かれたようにして上を見上げる。

海未「あれは…!」

「飛行型の怪獣…!」

高くそびえるビルのさらに上、鳥の羽を持った怪獣が三体より住宅街に近い方角へと飛んでいくのが目に入った。

「まさかこのために時間を稼いで…!」

海未「ち、違います…!私は──」

初めて怒気をはらんだ声を出し杖を向けたホムラに対し、海未がそこまで言いかけた時。

海未「がぁっ…!?」

海未は真横から殴りつけられたような衝撃、そして一瞬の浮遊感を感じたのち、再び体が砕けるかと思うほどの衝撃を感じる。

315 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 15:22:30 ID:s1mHjaWE
「な、なんで…」

海未「が、はっ…!」

自らがビルの壁面へと叩きつけられたことにようやく気が付いた海未はまず呆然として立ち尽くすホムラを視界に入れる。

海未(ホムラにやられたのではない…なら…)

さらに視線を移した先には、今まで見てきたどれよりも異様な姿をした怪獣の姿があった。それは丸太のような毛むくじゃらの4本の脚、そしてそこに繋がっているのは赤黒く獣の肉を粘液状にしたような、崩れた顔面のようにも見える肉体だった。

海未「ごほっ…!先ほどの怪獣よりも大きいとは…!」

海未(それに、空を飛んで行った怪獣も追いかけて倒す必要がある…!)

海未は軋む体にむち打って立ち上がり、5mはあろうかという巨大な怪獣に向き直り刀を構えようとする。

「危ないっ!」

海未「──っ!」

聞こえてきたホムラの叫びに反応して警戒をするがそれは一瞬遅く、風を切って伸びてきた肉の触手によって海未の体は巻き取られてしまう。

海未「ぐがあぁっ…!」

その触手は瞬時に怪獣の近くまで戻ると、海未の体をミシミシと締め付け始める。

316 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 15:37:30 ID:s1mHjaWE
「よく分かんないけどっ…!とにかく助ける!イグニションレーザー!」

怪獣が怪人を襲うという光景を見て戸惑っていたホムラだったが、迷いを即座に断ち切って怪獣へと狙いを定め、幾筋もの熱線を放つ。

ホムラの放った熱線は海未を締め上げていた触手を断ち切り、さらに怪獣の肉体に風穴を開けていく。

海未「かはっ…!」

拘束が解けて地面へと投げ出された海未は大きく咳き込みながら這うようにして怪獣から距離を取ろうとする。

「後ろっ!」

海未「…っ!」

今度はホムラの声に素早く反応して体ごと後ろへと向き直ると、視界に入ったのは海未へと伸びる赤黒い触手。

海未「閃刃・裂空…!」

後ろへと飛びずさりながら刀を振り切り斬撃を放つ。

海未「なっ…!?」

その斬撃はたやすく触手を両断したものの、斬り裂かれた触手は二股に分かれてもなお蠢いて海未の体をしたたかに打ち据えようとする。

海未(攻撃を受けた傷もすでに治っている…!何か仕掛けが…!?)

317 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 15:46:17 ID:s1mHjaWE
「コロナブラスト!」

触手が海未に届く前にホムラが杖を振るい、大きく燃え盛る火球を放つ。しかしそれが焼き払ったのは触手のうち片方のみ。

海未「くうっ…!」

海未はとっさに腕で体をかばうもその勢いは殺しきれずに地面に膝をついてしまう。

(助けなくちゃ…!)

その姿を見たホムラは思わず飛び出そうとして怪獣から視線を外してしまう。

「────!!」

くぐもった雄叫びをあげながら怪獣は触手を何本も束ね合わせ、肉のハンマーでホムラを真っすぐに狙う。

「まずっ…!」

318 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 15:56:10 ID:s1mHjaWE
海未「おおおぉぉっ!!」

衝撃に備えて身を固めたホムラと触手の間に割り込んできたのは漆黒の鎧をまとった海未。全身を使ってその触手を受け止めると、体が軋むのも構わず踏ん張りながら声を上げる。

海未「…早く先ほどの怪獣を追いなさい!」

「えっ…け、けどそれだとあなたが…!」

二人が言葉を交わす間に、海未が受け止めた肉塊から細い触手が蠢いて海未の体を絡めとる。そして、身動きの取れない海未ごと触手を振り上げ、地面へと思い切り叩きつけた。

海未「が、はっ…!」

「やっぱり私も──!」


海未「あなたは…ヒーローのはずだ!!」

319 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 16:11:08 ID:s1mHjaWE
海未は全身を襲う痛みをこらえながら立ち上がり、ホムラへと──最強のヒーローへと叫ぶ。

海未「ヒーローの役目は人々を守る事でしょう!!怪人を救うことではありません!!」

「──っ!」

その言葉に、駆け出そうとしていたホムラは足を止める。

海未「さあ、行きなさい…!」

そう言い放つと海未は自らが健在だと言うようにホムラへと振り向いて見せる。

「…っ、ごめん…!すぐに終わらせて、助けに戻ってくるからっ!」

一瞬の躊躇、しかしその迷いを振り切り、ホムラはこの場を漆黒の怪人に託して爆発的なスピードで飛び去って行く。

320 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 16:20:21 ID:s1mHjaWE
海未「行きましたか…」

海未はすぐに小さくなっていくホムラの姿を見送り、言葉を零した。

「────!!」

海未の背後、壁のようにそびえる怪獣は肉の鞭を振り上げて獲物を真上から叩き潰そうとする。

海未「──あまり私をなめないでいただきたい…!」

海未は鋭く怪獣を見据えると、左手を鞘に、そして右手をそこに納められた刀の柄にへと添える。瞬間、鞘からはどす黒い瘴気が溢れ出す。

海未「冥凶死水…!!」

怪獣の腕が海未へと届く直前、海未は一瞬で刀を抜き去る。鞘に蓄えられた漆黒のエネルギーと共に繰り出された斬撃は巨大な肉を根元から容易く両断した。

321 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 16:32:31 ID:s1mHjaWE
切断された怪獣の肉はべちゃりと耳障りな音を立てて地面に落ち、瞬時に黒い粒子になって消えていく。

海未(本体から切り離された部分は即座に消え去る…つまりどこかに弱所があるはず…!)

痛みに悲鳴を上げる全身にむち打ち、海未は刀を手に怪獣へと走り抜けていく。

「────!!」

怪獣は全身を震わせ雄叫びを上げながら、全身から無数の肉の触手を海未へと伸ばす。その先端は硬化し、鋭利な槍のように変化する。

海未(私は戦っていくと決めたはずだ…!)

自身を襲う無数の槍を斬り払いながら海未は駆け抜けていく。

「────!!」

怪獣は何本もの触手を束ねてハンマーのような形状へと変化させると、迫る海未の頭上から振り下ろす。

海未「黒華一閃!!」

海未は足裏で滑るようにブレーキを掛けながら刀と弓を持ち替え、頭上に迫るハンマーへと矢を放ち風穴を開ける。

322 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 17:08:45 ID:s1mHjaWE
海未(ジュエルのようなヒーローとも…!)

開いた風穴へと飛び込みながら刀を振りかざし、邪魔な肉を切り開きながら触手の上まで飛び上がり怪獣の腕の上へと着地する。それは怪獣の本体へと続く道。

海未(グレイシアのような怪人とも…戦うと決めた…!)

怪獣が反応するよりも早く、海未は赤黒く蠢く肉の道を駆け抜けていく。

海未「黒散華!」

怪獣が再び無数の触手を伸ばし始めると、海未は弓を空へと向けて無数に降り注ぐ矢でそれを撃ち抜いていく。

海未(だから…)

海未が駆け抜けていた地面がぐらりと揺れを起こした。怪獣が上に乗っている海未ごと触手を振り上げようとする。

海未「だから…こんなところで負けるわけにはいかない!!」

海未は雄叫びと共に、怪獣の腕の振り──つまり凄まじいほどの地面の上昇に合わせて宙へと飛ぶ。

海未「はあああぁぁっ!!」

その瞬間、海未の体は漆黒の光に包まれる。

323 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 17:26:02 ID:s1mHjaWE
その光が晴れると共に現れた海未の姿は今までと違うものとなっていた。纏っていた道着を思わせるアーマーはより重厚な甲冑を模したものへと変わる。

海未(邪魔な肉をそぎ落とすっ!)

怪獣の頭上へと舞った海未がどす黒いオーラを纏いながら刀を大きく大上段に振り上げると、刀は大きく変形していき海未の背丈を超えるほどとなる。それは刀と呼ぶにはあまりに機械的な刃。

海未「黒烈断・逆鱗!!」

それを渾身の力で振り下ろすと、そこから放たれるのは強大な斬撃。それは海未へと触手を伸ばした怪獣の肉体を斬り裂き、黒い粒子へと変えていく。

海未「…っ!」

そして海未は落下を始める中で、大きく斬り裂かれた怪獣の中に鈍く光る球体を見つけ出す。

海未(見つけた…!あれこそが怪獣の弱所…!)

振り切った刀は元の大きさへと戻り、海未はそれを空中で鞘へと納め、手には弓を作り出す。そして怪獣の弱所、その一点のみを見つめて弓を引き絞る。

海未「……」

重力に引かれるままに落下を続ける海未は、落下していることを除けば、まるで射場に立っているかのような静けさを纏う。そして。

324 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 17:33:28 ID:s1mHjaWE
海未「黒華一閃」

弱所、海未の視線、矢じりの向く先が交わった瞬間、海未が静かに放った漆黒の矢は怪獣の弱所を正確に貫いた。

海未「はあっ、はあ…倒せ、ましたか…」

地面へと降り立ち、崩れ去っていく怪獣を見ながら海未は膝を付いて粗い呼吸を整える。

海未「それにしても、この姿は一体…」

痛む全身をかばいつつ海未は戦闘中に突如として変化した、自身を包む鎧を見つめる。

海未(この見てくれもそうですが、この姿になった途端に堰を切ったように溢れ出した力…)

まるで今までが制限をかけられていたかのように感じるほどの差をシステムから感じるも、海未はすぐに思考を止める。

海未(それは私が考えても無駄ですね…今度真姫にでも相談してみましょう)

海未「さて、ホムラがいつ戻ってくるとも分かりませんし、この場を離れましょうか…それに、さすがにこれ以上戦うのは無理です…」

海未はそう呟くとゆっくりと立ち上がり変身を解くと、痛みが走る重い体を引きずるようにして歩き出した。

海未(病院か避難施設か、はたまた真姫の所か…まあとりあえずはここを離れるのが先です…)

考えるのすら億劫になった海未は成り行きに任せることにしてその場を後にするのだった。

325 ◆JaenRCKSyA:2018/04/28(土) 17:50:28 ID:s1mHjaWE
ここまで
もう少し早く更新する予定だったけどぷちぐるのせいで…

326名無しさん@転載は禁止:2018/04/28(土) 19:17:45 ID:Jz0Q4aNk
おつおつ。
ぷちぐるなら仕方ないねw スタダ終わって落ち着いたらこっちもペース維持でお願いします('ー')/

327名無しさん@転載は禁止:2018/04/29(日) 04:35:30 ID:jSOYMLj2
乙です

ぷちぐるはハマる
最近更新頻度が高くて嬉しい

328名無しさん@転載は禁止:2018/04/30(月) 22:51:27 ID:AleR7212
乙です!
更新嬉しいです。ぷちぐるはハマりますね

329名無しさん@転載は禁止:2018/05/02(水) 22:16:23 ID:VwTuZfmo
いいね

330 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 15:53:15 ID:JaY30Q4c
海未「まったく、希は心配をかけるだけかけて…」

海未はあの戦いの後に凛と希から来た連絡を見返していた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

凛:希ちゃんどこ?

凛:学校着いたけど希ちゃんいない!

希:ごめん!別のところ避難してた!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

海未「無事だったからよかったものの…」

すでにひとしきり小言を並べてはいたが、ため息とともに零れそうになる言葉を抑える。

海未「無事だった二人はいいとして、あとは私の事ですね…」

331 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 16:18:51 ID:JaY30Q4c
負った傷も完治した週末、海未は幼馴染との待ち合わせ場所へ歩く途中、戦いの後に真姫と交わした会話を思い出す。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


海未「機能の制限…ですか?」

真姫「ええ、色々調べてみたけれど、このシステムにはロックが掛けられていた形跡があるわ」

海未は戦いの中で自身のシステムに起きた現象の事を聞くために、真姫へとシステムの検査を頼んでいた。

海未「と、いうと…これが悪の組織に協力的でない人の手に渡る可能性を考えていた、という事でしょうか?」

真姫「そんなこと考えるくらいなら最初から協力的な相手に渡すんじゃない?」

海未「確かにそれもそうですね…それにしても、なぜあの時急にそのロックが外れたのでしょうか?」

真姫「そうね…中までバラしたわけじゃないけど、解析した感じ一定以上の感情エネルギーが解除条件になってたみたいなのよね」

332 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 17:08:41 ID:JaY30Q4c
海未「一定以上の感情エネルギーですか…」

目の前のデスクトップパソコンと手にしたタブレット端末を交互に操作しながら話す真姫を見て視力が悪くなりそうだ、とぼんやり考えながら海未は言葉を返す。

真姫「ええ、それもどういうわけだかプラスの感情エネルギーね」

海未「プラスの…というとヒーローのシステムに使われているエネルギーですか…?怪人のシステムだというのに…」

真姫「そ、だからどういうわけだか、って言ったでしょ?解除させる気が無いようにも思えるのよね…」

座っていた椅子をくるりと回転させて海未に向き直り、真姫は言葉を続ける。

真姫「っていうかあなた、ホムラと戦ったんでしょ?本当に次から次へと…どうなってるのよ?」

海未「そんなの私の方こそ聞きたいです…まあ、真姫の言う通り話の通じる方だったので次からはそうそう問答無用で襲われることは無いと思いますが…」

真姫「それならいいけど…とにかく気を付けなさいよ」

視線を海未から逸らし髪をいじりながら言う真姫を見て海未はふと思い至る。

海未「…もしかして、心配してくれているのですか?」

真姫「な、なに言ってるのよ!私はただそのシステムが貴重な研究対象になると思って…」

海未「ふふ、心配してくれてありがとうございます」

333 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 17:28:17 ID:JaY30Q4c
真姫「もう…!」

頬を赤く染めて海未の事を半目で睨みながら真姫は言葉を続ける。

真姫「けど、本当に気を付けなさいよ?このご時世、いつ怪獣が現れても不思議じゃないんだから」

それにこの調子だと他のヒーローと戦う羽目になるかもしれないし、と真姫は呆れたように海未に言う。

海未「私にはどうすることもできないと思うのですが…まあ、警戒だけは怠らないようにします」

真姫「そうじゃなくて面倒ごとに首を突っ込まない方がいいと思うけど…ま、お人よしらしく好きにしたら?知恵くらいは貸してあげるし」

真姫は顔を背けながらぶっきらぼうに言うが、海未はその言葉に込められた優しさを受け止める。

海未「ええ、ありがとうございます」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

334 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 17:34:40 ID:JaY30Q4c
海未「それにしても、あれだけ怪獣が暴れていましたが被害が小さいのは幸運でしたね…」

大型の怪獣と海未が戦った場所こそ破壊の跡が残ったものの、迅速な避難、ヒーローの活躍によって町全体の被害としてみればすぐに修復できるものであった。

海未(そのおかげでこうして今日も遊びに出かけられますしね)

今日海未はにこからもらったチケットを使って幼馴染二人と共に遊園地へ行く約束をしていた。

ことり「海未ちゃーん!おはよう!」

後ろからのよく聞き慣れた声に海未は振り返り、返事を返す。

海未「おはようございます、ことり…って、なぜそんな嬉しそうなのですか?」

ことり「えへへ、待ち合わせの時に海未ちゃんと同じくらい早いとなんだか勝った気分になっちゃうのっ」

海未「もう、どういうことですか…確かに時間に間に合うのは大事ですが、勝ち負けではありませんよ?」

かわいらしい笑顔で話す幼馴染に呆れたような、楽しそうな苦笑を浮かべて言葉を返す。

335 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 17:41:32 ID:JaY30Q4c
ことり「三人で遊園地行くのすっごく楽しみだったから、張り切って早く家出てきちゃったんだあ」

海未「もう、遠足前の小学生ではないんですから…なんて、私も人の事を言えませんけどね」

クスリと笑ってそう言うと、すぐにしかめっ面を作って言葉を続ける。

海未「もっとも、もう一人は楽しみにしすぎて前日眠れずに寝坊、なんてことにならなければいいんですけどね…」

ことり「あはは…けど穂乃果ちゃん、遊びに行くときは時間通りにくる事多いし…」

海未「それは構わないのですが…学校に行く時も遅れずに来てほしいもの、で、す…」

待ち合わせ場所が見え、足を進めると共に見える光景に海未は言葉を詰まらせ、ことりは驚愕に目を見開く。

海未「穂乃果…?」

ことり「穂乃果ちゃん…!」

336 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 18:06:58 ID:hfyCM6.I
穂乃果「あ、二人ともおはよー!」

海未「穂乃果!どうしたのですかこんなに待ち合わせ時間よりも早く着いているだなんて!」

ことり「大丈夫!?熱とかあったりしない!?」

穂乃果「二人ともひどいよ!私だってたまには時間くらい守るよ!」

いつも二人を待たせる側の穂乃果が、その二人よりも早く待ち合わせ場所で待っている事に驚いた海未とことりは穂乃果に詰め寄る。

海未「す、すみません…ですが、穂乃果が待ち合わせに間に合うだなんて本当に珍しくて…」

穂乃果「それはそうかもだけどー…」

ことり「でも、どうして今日はこんなに早いの?」

穂乃果「いやー、ちょっと考え事をしてて…」

海未「まさかそれであまり寝られなかった、なんてことは…」

頭をかきながら言った穂乃果に、心配そうに眉をひそめて海未は問いただす。

337 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 18:25:30 ID:hfyCM6.I
穂乃果「ああ、違う違う!昨日の晩御飯の後に考え事してたら、そのまま眠っちゃって…そのせいで今日すごい早い時間に起きたんだよね…」

海未「それならいいのですが…本当に無理などはしていませんね?」

穂乃果「してないしてない!っていうか、隠し事とかしてたら大体二人のどっちかにはいつもばれちゃうし…」

ことり「穂乃果ちゃん、嘘ついてるとき分かりやすいから…」

穂乃果「そうかなあ…自分だとうまく隠してるつもりなんだけど…」

穂乃果は自分の顔をぐにぐにといじりながら口をとがらせる。

海未「そのおかげで宿題をやり忘れた時によく分かります」

穂乃果「うっ…ほ、ほら!もうこの話おしまい!電車乗り遅れちゃうよ!」

そう言って逃げるように駆け出していく穂乃果を見て、海未とことりは顔を見合わせてクスリと笑うと穂乃果を追いかけて走り出す。

338 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 18:40:21 ID:hfyCM6.I
海未「そういえば先ほど、考え事をしていたと言っていましたが、何か悩みでもあったりするのですか?」

電車に揺られている途中、ふと思い出した海未は穂乃果へと問いかける。

穂乃果「え?うーん、別にそんなに大したことじゃないんだけどね…」

ことり「けど、小さい事でももし気になる事があるなら私は話してほしいかも…」

海未「ええ、私もそう思います…もちろん、言いたくないことなら無理にとは言いませんが」

穂乃果「…二人はさ、怪人って、悪者だと思う?」

二人の言葉を聞いた穂乃果は、一瞬押し黙り目を伏せて問いかける。

海未「怪人が、悪人かどうか…ですか?」

穂乃果「うん…ほら、よく漫画とかで最初は敵だったけど仲間になる!みたいなのとかあるでしょ?それで…」

ことり「うーん…私はやっぱり怪人さんは怖い、かなあ…」

339 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 18:47:24 ID:hfyCM6.I
穂乃果「やっぱりそう、だよね…海未ちゃんは?」

海未「私は…」

海未は一瞬言葉を詰まらせてしまう。

海未(何を言っても醜い自己弁護にしか聞こえない…ですが、この答えは怪人で無かったとしても変わらないと信じたいものですね…)

海未「私は、怪人であっても必ずしも悪人であるとは思いません…怪人もヒーローも力を持った人間と言う意味では同じだと思いますし」

ことり「そ、そうなの…?」

海未「ええ、悪人かどうかはその人の行動で決まる…悪事を働けば当然その人は悪で、人を助ければそれは善だと、私は思います」

穂乃果「そっか…うん、そうだよね!悪い事したら悪い人!良い事したら良い人!」

ぽかんとした表情をしていた穂乃果だったが、海未の答えを聞いて持ち前の明るさを取り戻して何度もうなずく。

ことり「ふふ、なんだかすごく海未ちゃんらしい答えかも!」

海未「そ、そうでしょうか?ほ、ほら!もう降りる駅ですよ!」

幼馴染二人から笑顔を向けられ、急に気恥ずかしくなった海未はごまかすようにして二人を先導して電車を降りた。

340 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 19:03:57 ID:hfyCM6.I
穂乃果「とうちゃーく!」

ことり「アトラクションいっぱいあるから迷っちゃうね…!」

海未「考えてみれば三人で遊園地に行くのなんて随分と久しぶりですからね…!」

穂乃果「よーし!全部のアトラクション2週するまで帰らないからね!しゅぱーつ!」

ことり「おー!」

海未「ちょっ、待ちなさい!園内マップくらいはもらってから…!」

珍しくそわそわしていた海未だったが、勢いのままに駆け出す二人に気を取り直して地図をつかみ取って二人を追いかける。

穂乃果「おお!海未ちゃんナイス!えーっとアトラクションは全部で…30個もある!」

ことり「それ、子供用のも入ってると思うけど…」

穂乃果「あ、そっか!…よーしじゃあ最初はジェットコースターから!」

341 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 20:28:51 ID:iTHaLMA2
ことり「楽しかったあ…!」

海未「ことりは昔から絶叫マシンが大好きでしたもんね…」

穂乃果「ことりちゃんそういうところあるからね…っていうか、海未ちゃんジェットコースターとか苦手じゃなかったっけ?」

海未「別にそんなことはありませんが…それこそ小さい時の話でしょう」

穂乃果「えー、そうだったっけ?ねえことりちゃん、海未ちゃんって…って、ことりちゃん何見てるの?」

海未「これは…野外ステージの演目ですか?」

ことり「こういうところって、たまにアイドルのステージとかやってたりするから今日あったりしないかなーって思ったんだけど…今日は違うみたい」

穂乃果「あらら、残念…今日は何やってるのかな?」

海未「音楽フェスのようですね…ジャンルも様々ですし、もし時間があれば聞きに行ってもいいかもしれませんね」

342 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 21:12:07 ID:yN6sQ9Jg
海未「さてと、次はどこに…」

海未が園内地図から顔を上げると、少し先にすっかり見慣れた豊かな二つ結の髪を見つける。

海未「希!」

希「ん?あ、海未ちゃん!」

きょとんと振り返った希は海未を見つけると手を振りながら海未へと歩き出す。そんな希の隣には、眩しいほどの金髪を揺らす絵里の姿があった。

絵里「あら、えっと…園田海未さん、だったかしら?」

海未「はい、絢瀬先輩もこんにちは」

ことり「えっと…弓道部の先輩、とか?」

海未「いえ、そうではなく…ひょんなことから知り合ったというかなんというか…」

希「ウチは東條希、海未ちゃんとはこの間ちょっと知り合わせてもらいました!」

絵里「私は知っているかもしれないけれど、絢瀬絵里よ…って、ちょっと自意識過剰かしら」

穂乃果とことりに笑いかけながら二人は自己紹介をすると、穂乃果は海未の袖を引っ張り、こそこそと話しかける。

穂乃果「ねえねえ、知ってるかも、って…絢瀬先輩って有名人なの?」

海未「まったくあなたは…絢瀬先輩は生徒会長でしょう…」

穂乃果「うそ!?」

ことり「あはは…」

343 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 21:28:56 ID:yN6sQ9Jg
飛び上がりそうな穂乃果を見てクスクスと笑いながら絵里は口を開く。

絵里「生徒会長っていっても、そんなに派手な事をやっているわけじゃないからそんなものよ?だから、気にしなくていいわ」

覚えてくれると嬉しいけれど、と少しいたずらそうな笑顔を作って絵里は続ける。

穂乃果「は、はい!」

絵里「ふふ、ありがと…えっと、南さんは一度話した事があったわよね?それと、あなたは…」

穂乃果「こ、高坂穂乃果です!お饅頭屋さんやってます!」

海未「あなたが店主なわけではないでしょう…」

希「あ、もしかして神田にある穂むらさん?ウチ、あそこなら何回か買いに行ったことあるよ?」

穂乃果「本当ですか!またぜひ来てくださーい!」

344 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 21:42:15 ID:yN6sQ9Jg
海未「希もにこからいただいたチケットを使って?」

希「そうそう、せっかくの休みやしえりちとデートでもしたいなーって!」

絵里「はいはい」

希「ぶー、えりちのいけずー」

穂乃果「絢瀬先輩も、その、にこ先輩って言う人と知り合いなんですか?」

絵里「希の友達って言うだけで私は直接知ってるわけじゃないのよね…だからきっと高坂さんと南さんと同じ感じ」

それと、と言って絵里は立てた人差し指を口元に近付けて続ける。

絵里「絢瀬先輩、なんてよそよそしくて落ち着かないから下の名前で呼んでくれていいのよ?」

穂乃果「…!分かりました、絵里先輩!」

絵里「ふふ、ありがと」

345 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 21:53:43 ID:yN6sQ9Jg
海未「さ、あまり二人の邪魔をしても悪いですし、そろそろ失礼しましょう」

ひとしきり話し込んだ後で、長々と呼び止めてもいけないと海未はそう声をかける。

ことり「あっ…会長副会長のデートに水を差しちゃってごめんなさい…!」

笑顔で言ったことりに苦笑いを返して絵里は口を開く。

絵里「もう、希が変なことを言うから…けどそうね、幼馴染の間に入っているのも悪いし、また今度お話ししましょう?」

穂乃果「はい!絵里先輩も希先輩も楽しんでくださーい!」

手を振りながら背を向けて三人はその場から離れようとする。

希「あ、あの!海未ちゃん!」

海未「?どうかしましたか、希?」

希「あ、えっと…その…三人は今日って何時くらいまでここで遊ぶつもりなん?」

海未「穂乃果はアトラクションを2週するまで帰らない、なんて言っていますが、時間までは特には…」

346 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 22:07:22 ID:yN6sQ9Jg
希「そう、なんや…えっと、なんていうか…あんまり、遅い時間まで残らない方がいいかも、なんて…」

体の前で指を組んで伏し目がちに話す希の言葉はどうにも歯切れが悪く、海未は首をかしげる。

海未「早めに帰った方がいい、と…?それはどういうことですか?」

希「……」

それきり口を閉ざしてしまった希を見て絵里は息を吐き出し、希の肩に手をかけて、困ったような表情で絵里は話し始める。

絵里「信じてもらえるかは分からないんだけど、この子の占いってよく当たってね?それで、今日の事を占ったらどうもよくないことが起こりそう、っていう事だったのよ…」

希「えりち…」

絵里「もう、そんな顔しないの…まあそういうことだから、一応、ね」

海未「なるほど…」

穂乃果「最近怪獣が出てくること多いから、何があってもおかしくないですもんね…」

ことり「わざわざありがとうございます…!」

347 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 22:17:44 ID:yN6sQ9Jg
海未「ということでしたが…」

絵里と希と別れてから、三人はベンチに腰掛けて先ほどの事を話していた。

穂乃果「うーん…」

ことり「…海未ちゃんは、希先輩の占いの事って聞いたことはあったの?」

難しい顔で唸る穂乃果の隣、ことりは海未に問いかける。

海未「ええ、希本人から聞いたことがあります…実際に占ってもらったわけではありませんが…」

穂乃果「やっぱり心配だよねえ…けどいっぱい遊びたいし…もー!どーしよー!」

足をばたつかせながら言う穂乃果に苦笑いを浮かべ、海未は考え込みながら返事を返す。

海未「希もすぐに帰るように言っていたわけではありませんが…閉園時間になる前にここを離れた方がいいかもしれませんね…」

ことり「うん…ちょっと残念だけど、何かあってからじゃ遅いもんね…」

348 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 22:24:13 ID:yN6sQ9Jg
穂乃果「けど、何か起きるんだったらそのまま帰っちゃっていいのかな…?」

海未「それは私も考えましたが…通報したとしてもいたずらと思われてしまうでしょうね…」

穂乃果「そうだけど…!」

海未「このパンフレットには一応ヒーローが警備に回っている、と書いてあります…私たちが何かをするよりもヒーローに任せた方がいいでしょう」

海未(ヒーローがいる場では私も変身しづらい…それに二人を安全な場所に連れていくのが先決ですしね…)

ことり「私も、それがいいと思うな…」

穂乃果「…うん、分かった…」

口を尖らせながらしぶしぶ呟いた穂乃果に苦笑と共にため息を吐いた海未は、膝を叩いて立ち上がる。

海未「そうと決まれば、早くアトラクションを回りましょう?2週は無理でも、全種類制覇するくらいはできるでしょう!」

349名無しさん@転載は禁止:2018/05/13(日) 22:31:03 ID:Wq7VqdMc
待ってました!!!

350 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 22:41:38 ID:yN6sQ9Jg
海未「うう…」

片っ端からアトラクションに乗っていき夕方も近付いてきた頃、海未は青い顔でうなだれながらベンチに腰掛けていた。

ことり「あの…海未ちゃん…」

穂乃果「えっと…ごめん、なさい…?」

海未「この年になってコーヒーカップに乗るとは思いませんでしたし、酔うまで回されるとも思いませんでした…」

穂乃果「ほら、ちょっとテンション上がっちゃったっていうか…」

ことり「楽しくなっちゃって…」

海未「それにしても限度と言うものがあるでしょう…」

穂乃果「ごめんなさい…」
ことり「ごめんなさい…」

351 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 22:49:26 ID:yN6sQ9Jg
海未「はあ…まあ、落ち着いてきましたしその態度に免じて許してあげます…」

気まずそうにする二人にため息をついて海未は立ち上がる。

海未「ですが、飲み物がほしいので買いに行ってきますね」

穂乃果「あ、それなら穂乃果が…!」

海未「いいえ、こんな状態で炭酸飲料など飲まされたくないので私が行ってきます」

穂乃果「ぎくっ…」

ことり「穂乃果ちゃん…」

海未「それでは、少し待っててくださいね」

二人の様子にクスリと笑い、声をかけて海未は歩き出す。

352 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 22:51:22 ID:yN6sQ9Jg
海未「えっと、売店はっと…少し離れていますね…」

地図を片手に歩く海未は園内にある時計をちらりと目に入れる。

海未(もう夕方近い…少し夢中になってしまいましたね…そろそろ二人を連れて出るべきか…)

考えながら歩いていると売店の近くまでたどり着き、海未は財布を取り出しながらつぶやく。

海未「二人にも買っていきましょうか…穂乃果はオレンジジュース、ことりはミルクティーで──」

その瞬間、周囲に轟音が響く。何かが破壊されたかのような、破裂したかのような轟音。

海未「…!?今のは…!?」

「なに…?爆発?」

「ショーか何かやってるの?」

周囲の人もその音に反応してざわめき出す。

353 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 22:54:09 ID:yN6sQ9Jg
海未(いや、違う…今のはおそらく、怪獣による…!)

海未が音の響いた方角を見据え、駆け出そうとした時、すぐ近くからぼそぼそとつぶやく声が耳に入る。

「ああ、ようやくか…待ちくたびれた…」

海未「…?」

遊園地という場には少しなじまないスーツ姿の眼鏡をかけた30代ほどの男。その男は騒がしい周囲にはまるで注意を払わずに笑みを浮かべ。

「変身…!」

その言葉と共に男の肉体は異形のものへと変化を遂げる。

「えっ…!?怪人…!?」

「ひっ…!やだ…!」

その男の周囲から波が引くように人が離れていく。その中心には灰色の皮膚に覆われた怪人が立っていた。

「ようやく暴れられる…!」

354 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 22:55:26 ID:yN6sQ9Jg
海未(私のミスだ…!もっと早くここを出ていれば…!)

悲鳴を上げて逃げ始める周囲の人を見据えながら海未は思考を巡らせる。

海未(これだけ人がいては変身できない…!とにかくまずは人のいないところにまで移動する…!)

「さて…それじゃあ片っ端から壊そうかなあ…!」

怪人は重量感のある肉体、そして肩や頭部からは白い角が突き出し、サイか象を思わせる見た目をしていた。そしてその太い腕を振り上げ、思い切り地面へと叩きつける。

海未「ぐっ…!」

その一撃は重く、クレーターのように地面を抉り大地を震わせる。その振動はパニックを起こして逃げようとする人の足を止めるのには十分だった。

「ここにいる全員、サンドバッグになってもらうよ…!」

海未(このっ…!)

海未は咄嗟に自身の前に転がってきた地面の破片を手に取り、怪人へと投げつける。

「ああ…?」

会員は頭に命中したつぶてにイラついたように海未の方を睨む。

海未「これしきも避けられないとは、鈍いのですね…!」

挑発するように声を投げてから海未は背を向けて駆け出し、顔だけで振り返りさらに挑発を続ける。

海未「それでは私一人捕まえられませんよ!」

355 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 22:56:53 ID:yN6sQ9Jg
「この女ァ…!!」

海未の挑発に乗り、怒りのままに怪人は海未目がけて走り始める。

海未(二人は…穂乃果は抜けているようで勘は鋭い、恐らくことりと避難施設に向かっているはず)

海未は残してきた二人を案じながら、アトラクションが無く人通りの少ない方へと走る。

「逃がさない…!ホルンシューター!」

その声と共に怪人の肩と頭部に突き出た角が連続で射出され、海未目がけて飛んでいく。

海未「ふっ…!」

海未は後ろをちらりと振り返り、弾丸をギリギリまで引きつけてから地面に飛び込むように真横へと飛ぶことでそれをかわす。

「ちょこまかと…!」

そのままアトラクションの鉄骨の影へと身を隠した海未を見つけようと怪人が迫るが。

海未「……」

その場にゆらりと姿を現したのは、変身を終えて漆黒の鎧を身に着けた海未だった。

356 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 22:58:32 ID:yN6sQ9Jg
「なっ…!?ダークブレイド…!?」

海未「さあ、仕切り直しです」

その姿を見てうろたえる怪人に対し、海未は真っすぐに刀を構える。

「くそっ…!ハチの巣になりな!ホルンシューター!」

苛立たし気に足を踏み鳴らすと、怪人は再び白い角の弾丸を海未目がけて撃ち出す。

海未「この程度…!」

怪人へと向かって海未は駆け出し、自身を襲う弾丸を刀を振りまわしながら撃ち落としていく。

「う、嘘だろ…?」

怪人は勢いを止めずに自身へ向かって駆け抜ける海未の姿に一瞬動きを止め、その隙に海未は怪人の目の前へと躍り出る。

海未「はあっ!」

海未はそのまま振り上げた刀を怪人へと袈裟懸けに振り下ろす。

357 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 22:59:11 ID:yN6sQ9Jg
海未「なっ…硬い…!?」

「軽いなあ…!」

海未は振り下ろした刀から伝わる硬質な感触に海未はすぐにその場から飛びのこうとしたが一瞬遅く、怪人に殴り飛ばされてしまう。

海未「ぐうっ…!」

「なんだ、この程度かい?これじゃあ傷一つ付かないなあ…!」

すぐに体勢を立て直した海未はそう得意げに言い放つ怪人に向かって刀を構え、口を開く。

海未「なるほど…なら、こちらも遠慮する必要はなさそうですね…!」

海未「閃刃・裂空!」

海未は自身の強固な肉体を誇示するように仁王立ちで構える怪人へと刀を振り抜き斬撃を飛ばす。

358 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 23:00:30 ID:yN6sQ9Jg
「ヘビーストライク!」

怪人の腕の表皮が蠢いて握りこんだ拳を完全に覆い、硬質化した鉄球のようになり、自身へと迫る斬撃を殴りつけ撃ち落とす。

「は?いない…?」

斬撃を相殺し発生した煙越しに海未がいた場所に目を向けるとそこに海未の姿はない。

海未「冥凶死水…!」

斬撃と共に駆け出し、怪人の死角へと低い体勢で飛び込んでいた。

海未(斬るのではなく、打ち据えるイメージで…!)

鞘へ納めた刀を瞬時に居合いの要領で抜き去ると、鞘からほとばしる漆黒の波動が怪人を吹き飛ばす。

「が、はっ…!畜生!まだ…!」

地面にあおむけで投げ出された怪人は手を付いて上半身を起こすが、すでにその眼前には弓を構えた海未の姿があった。

海未「黒華一閃」

359 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 23:02:01 ID:yN6sQ9Jg
海未の放った漆黒の矢は怪人の胸に直撃、怪人は変身を解除されて地面へと投げ出される。

海未「まさか、やりすぎましたか…!?」

慌てたように男へと駆け寄り様子を伺うと、気を失ってはいるものの目立った傷も見当たらない。

海未「脈も呼吸も正常…ですがこのまま放置していて大丈夫なものでしょうか…」

海未が怪獣に襲われたりはしないだろうかと頭を悩ませていると、こちらへと近づく声が聞こえてくる。

「怪人は一人、だが少女の事を追いかけていったらしい…」

「人質にされているかもしれません…慎重に行きましょう…」

海未(これは…ヒーローの話し声?それならもうここを離れても大丈夫ですね)

海未はその声の聞こえてきたのとは逆の方向へと物音を立てないように移動していった。

360 ◆JaenRCKSyA:2018/05/13(日) 23:08:07 ID:HUqOVBms
今日はここまで

361名無しさん@転載は禁止:2018/05/14(月) 14:03:31 ID:2akWrWZA
おつ

362名無しさん@転載は禁止:2018/05/17(木) 19:44:09 ID:IcC4KBes
乙!遊園地編キター!

363名無しさん@転載は禁止:2018/05/31(木) 10:34:45 ID:UQsxc.fs
ほしゅ

364名無しさん@転載は禁止:2018/06/07(木) 21:35:17 ID:gScrE.yw
ドン・ファンの隠しネタ
http://bit.ly/2JVc7to

365 ◆JaenRCKSyA:2018/06/09(土) 21:12:29 ID:ge019AL.
「桜内さん、今日はありがとね!また機会があったらよろしく!」

梨子「いえ、こちらこそありがとうございました!」

時間は怪人が現れる少し前にさかのぼる。梨子は野外ステージで行われていた音楽フェスのジャスバンドにキーボードとして出演していた。

梨子「ふう…謝礼までもらっちゃったけど、別によかったのに…」

渡された封筒を手に、困ったような表情を浮かべていた梨子だったが、考えるように目線を上の方へ向ける。

梨子「ま、まあ、ちょうど欲しい本もあったし…ありがたく受け取って──」

千歌「梨子ちゃんお疲れさまー!」

梨子「わひゃああぁぁ!?」

梨子が思わぬ臨時収入の使い道を考えていると突然後ろから声をかけられて悲鳴を上げてしまう。

366 ◆JaenRCKSyA:2018/06/09(土) 21:35:20 ID:ge019AL.
梨子「ち、千歌ちゃん…!本当に聞きに来てたんだ…」

千歌「そりゃあ梨子ちゃんの晴れ舞台だもんね!」

梨子「そんな大げさだよ…これくらいのステージだったらたまに頼まれることもあるし…」

千歌「ええー!やっぱりすごいじゃん!曜ちゃんも聞きに来れればよかったんだけどなー…この気持ちを分かち合いたいよ」

梨子「ただ機会があるだけなのに…それに曜ちゃんは予定があったんだからしょうがないよ」

千歌「むー、私からしたらすごいと思うんだけどなあ…梨子ちゃんはもうこの後は暇なの?」

梨子「うん、もう全部終わったから大丈夫…って、待たせちゃってごめんね?」

千歌「いーのいーの、私が勝手に聞きに来たんだし!よーし、それじゃあアトラクションにしゅっぱーつ!」

そう言って千歌が右手を高く突き上げた瞬間、周囲に轟音が響き渡る。

367 ◆JaenRCKSyA:2018/06/09(土) 22:12:45 ID:jPt67Jx2
千歌「えっ、チ、チカじゃないからね!?」

梨子「それくらいは分かるよ…!」

梨子(今のって…)

千歌「何か子供向けのショーみたいなのやってるのかなあ?」

梨子「…ううん、この遊園地にあるステージはさっきまで私が演奏してた一つだけ…それに特設ステージも今日は設置してない、って聞いた…」

梨子は千歌にそう答えながらカバンに手を入れて音符型のヘアピンを取り出す。

千歌「梨子ちゃん、それ…」

梨子「きっと怪獣か怪人だと思う…変身!」

今まで前髪を留めていたヘアピンを付け替え、梨子はヒーローへと姿を変える。そして頭に付けたヘッドフォンへと手を添えて目を閉じる。

梨子「──うん、やっぱり怪人が出たみたい…」

閉じていた目を開き、険しい表情で梨子はそう告げる。

368 ◆JaenRCKSyA:2018/06/09(土) 22:26:43 ID:jPt67Jx2
千歌「か、怪人…!早くみんなに教えないと…!」

梨子「ちょっと待ってね…今救援信号を送るから…」

千歌「救援信号?」

梨子「うん、ヒーローシステムを登録すると警察とか避難設備、それと他のヒーローとかに緊急で連絡ができるの」

曜ちゃんみたいに正体を隠してる人だとできないんだけど、と梨子は心の中で続ける。

梨子「…うん、これで大丈夫、きっと警備員の人がみんなの事を避難させてくれると思う」

梨子はそのまま千歌の手を取って小走りでその場から移動を始める。

梨子「私達も避難設備に行こう?」

千歌「う、うん…!」

千歌(あれ?けど梨子ちゃんはヒーローで、いつもは逃げ遅れた人とかを助けてて…でも今は避難設備に行くって言ってて…)

頭をひねる千歌だったが、自分の手を握る梨子の姿を見て思い至る。

千歌(私がいるからだ…!)

369名無しさん@転載は禁止:2018/06/09(土) 22:28:19 ID:TfiCFOR2
おお!更新来てる!!!!!!

370 ◆JaenRCKSyA:2018/06/09(土) 22:38:47 ID:jPt67Jx2
千歌「梨子ちゃん!」

梨子「ど、どうしたの、千歌ちゃん?」

急に立ち止まった千歌に驚き、梨子は目を丸くして問いかける。

千歌「梨子ちゃんは逃げ遅れた人を助けに行ってあげて!」

梨子「えっ…けどそれだと千歌ちゃんが…!」

千歌「私は大丈夫!だって梨子ちゃん、ヒーローでしょ?」

心に広がる恐怖を振り払うように千歌は梨子へと笑顔を向ける。

梨子「…分かった、でも何かあったら絶対に連絡してね?すぐに行くから!」

千歌「りょーかい!それじゃあ梨子ちゃんも気を付けてね!」

二人はお互いに手を振って違う方向へと走り出す。

371 ◆JaenRCKSyA:2018/06/09(土) 23:30:04 ID:PT4LJ0Lk
千歌「って言ったものの…ここからだと避難設備遠いー!周りに人もいないし…」

演奏が終わった後にステージの近くからはすぐに人がいなくなってしまい、千歌は人のいない中を走っていた。

千歌「うう…なんか怖くなってきた…」

「……っ……うう……」

千歌「ひっ!な、なに…?」

近くから急に人のうめき声のようなものが耳に入り、千歌は身をすくませて周囲を見回す。

「うう…お姉ちゃん…ひっく…」

千歌「お姉ちゃん…もしかして、逃げ遅れた子…?」

千歌はその声が聞こえてきた植木の影へとそろりそろりと近づいていく。

千歌「あのー、誰か、いるんですか…?」

「ぴぎっ!あ、あの、えっと…」

屈んで声の出所を覗き込むと千歌の目に入ったのは、鮮やかな赤い髪と、涙で濡れた緑色の瞳だった。

372 ◆JaenRCKSyA:2018/06/09(土) 23:43:23 ID:PT4LJ0Lk
千歌(やっぱり逃げ遅れた子だ!けど…全然年が分かんない…!)

千歌「え、えーっと、もしかして、誰かとはぐれちゃったの?」

ルビィ「あ、えと、そう、です…お姉ちゃん、ヒーローだから、それで…けどルビィ、一人だと怖くって、怪人さんに会っちゃったらどうしよう、って…」

千歌「そっか…そうだよね、怖いよね…よし、それじゃあ私が避難設備まで連れて行ってあげる!」

ルビィ「ほ、ほんと!ありがとう…!あ、えっと…ございます…」

千歌「えへへ、話しやすいしゃべり方で平気だよ?えっと、ルビィちゃん、って言うの?私は高海千歌って言って、浦女の二年生!よろしくね!」

ルビィ「あ、ルビィも浦女!一年生で、黒澤ルビィって言います…!」

千歌「おお!同じ学校で一個下なんだ!」

千歌(もっと下かと思ってた…!)

千歌「って、黒澤…?それで、お姉ちゃんがヒーロー…?」

ルビィ「う、うん…お姉ちゃんは、生徒会長で、それで…」

千歌「珠玉騎士ジュエル…!?」

千歌(うわ!全然似てない!!)

373 ◆JaenRCKSyA:2018/06/09(土) 23:49:44 ID:PT4LJ0Lk
千歌「って、そんな場合じゃなかった!」

しゃがみこんだルビィと目線を合わせていた千歌は跳ねるように立ち上がり、ルビィへと手を差し伸べる。

千歌「さっ、一緒に行こ!」

ルビィ「う、うん!」

ルビィも千歌につられるように立ち上がり、二人は並んで駆け出し始める。

千歌「けどほんと避難設備遠いよね…!もっといっぱい作ってくれればいいのに…!」

ルビィ「ルビィもそう思って、お姉ちゃんに言ったら怒られちゃって…人も物も限られてるんだ、って…」

千歌「ええー…!生徒会長さん厳しいよ…!」

そんな会話をしながらアトラクションの中を二人が駆け抜けていると、二人の前に人影が現れる。

374 ◆JaenRCKSyA:2018/06/09(土) 23:59:11 ID:PT4LJ0Lk
千歌(逃げ遅れた人…?ううん、なんか様子が…)

ひょろりとした長身、ミリタリー風の服に身を包んだ金髪の男は千歌とルビィの姿を視界に入れると、口元を歪めて笑みを浮かべる。

「キシシッ…!女がまだ残ってたかあ…!」

ルビィ「千歌ちゃん…この人…」

千歌「ルビィちゃんは私から離れないで…!」

「最近はもう外も歩きづらくなっちまったんだよ…有名になったせいでさあ…!」

男はしゃべりながら上半身をふらりと揺らしながら二人に向き直る。

「変身…!」

ルビィ「ひっ…!」

千歌「やっぱり、怪人…!」

男の体は人のそれから姿を変え、昆虫を思わせるくすんだ緑色のやせた体となる。そしてさらに手首からカマキリの鎌のような鋭利な刃が伸びていた。

375 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 00:08:18 ID:fOkp3fkc
「連続傷害に連続強姦…それで指名手配されちまったキルマンティスって知ってるかなあ…?まあ俺の事なんだけどさあ!」

自分たちの危機に千歌とルビィは他人事のように眺めていたニュースをぼんやりと思い出す。

「ちょっと腱とか斬って抵抗できないようにしたいから、あんまり動かないでくれよ…?腕の一本や二本無くなっちゃうかもしんないからさ!!」

そう叫ぶと怪人は腕を振り上げて二人へと飛び掛かる。

千歌「ひっ…!」

千歌(逃げ、なきゃ…でも、足が…)

怪人の動きがスローモーションのように見える中、千歌は体がすくみその場を動くことができない。

ルビィ「う、ぁ…」

千歌の視界に入ったのは、自分よりも小柄な体をさらに縮まらせて震えるルビィの姿。

千歌(怖い、怖い、怖い…!けど…!)


千歌(私がルビィちゃんの事は守らなきゃ!!)

376 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 00:21:39 ID:fOkp3fkc
千歌「ルビィちゃん走って!!」

千歌は恐怖に固まる自分の体を無理やり動かし、ルビィの手を握って怪人に背を向けて走り出す。

ルビィ「わ…!ち、千歌ちゃ…!」

もつれそうになる足を必死に動かしてルビィは涙をためた瞳で千歌の背中を見つめる。

ルビィ(千歌ちゃんの肩…震えてる…)

千歌も怖い中で必死に自分の手を引いてくれている。ルビィは一瞬だけ強く瞼を閉じると後ろも振り向かずに千歌と一緒に走り出した。

「おいおい本当に面倒くせえなあ…切り刻まなきゃじゃねえかよ…!!」

ゆらりと体を揺らすと怪人は一気に二人との距離を詰めながら体勢を低くし、二人の足目がけて鎌を振り抜く。

千歌「ルビィちゃん!」

千歌はルビィの腕を思い切り引っ張り、二人で地面に飛び込むようにしてそれをかわす。

「ほら頑張って逃げないとなあ!」

無防備になった背中めがけて怪人は大きく笑い声をあげながら鎌を振り下ろそうとする。

ルビィ「ううっ…!」

二人は間髪入れずに跳ね起きて怪人から遠ざかろうと駆け出す。

377 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 00:34:03 ID:fOkp3fkc
「はーあ、なんかつまんねえなあ」

必死で自分から逃れようとする獲物の背中を見ながらぼんやりと怪人はつぶやく。

千歌(大丈夫、大丈夫っ…!絶対にっ…!)

「残念、もう終わりなんだわ」

離れた位置から一気に跳躍して二人の目の前へと躍り出た怪人は腕の鎌を振り上げる。

ルビィ「う、そ…」

千歌「あ…あ…」

「我慢しないで泣き喚いてくれていいからさあ…!!」

怪人の腕は二人へと振り下ろされる。

千歌(お願い…!)



「ショックノート!」

378 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 00:43:09 ID:fOkp3fkc
「ああ…?」

振り下ろす途中、弾き飛ばされたかのように動きを変えた鎌は千歌とルビィを逸れて地面へと突き刺さる。

梨子「千歌ちゃん!」

千歌とルビィをかばうようにしてその場に滑り込んできたのは、薄ピンクのスーツを身に纏った梨子だった。

千歌「梨子ちゃん!」

梨子「遅くなっちゃってごめんね…!」

千歌は怪人から逃げ回っている間に、一回のタップでつながるようにしていた梨子の連絡先へと通話を入れていた。

「今度はヒーローかよ…まじで面倒くせえな…」

梨子(この怪人、きっと戦い慣れてる…私じゃ…)

ヒーローの姿を見てもまるで動揺することのない怪人の様子に梨子は内心に焦りを感じる。

梨子(けど…)

梨子は視線を動かしてちらりと千歌とルビィの事を見る。

梨子(私が二人の事を逃がしてあげないと…!)

379 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 01:00:22 ID:fOkp3fkc
「女が俺の目の前に出てきたってことは分かってるよなあ?」

梨子「っ…!」

鎌を地面から引き抜き、怪人は梨子へと向き直る。

「ヒーローは暴れられると面倒だからなあ…ダルマにしてからブチ込んでやるよ!!」

怪人はそう叫ぶと鎌を振り上げて梨子へと迫る。

梨子「二人とも走って!ショックノート!」

梨子は二人に声をかけると、自身へと迫る鎌へと衝撃波を飛ばしてその軌道をそらす。

「キシシッ…!あがけあがけ!」

怪人は片方の鎌が弾かれるのも気に留めずにもう一方の腕の鎌を振り抜く。

梨子「きゃっ…!」

咄嗟に梨子は後ろへと飛びずさりながら腕で防ぐも、浅く傷を刻まれてしまう。

千歌「梨子ちゃ──」

梨子「私は大丈夫…!」

「よそ見してる暇あんのかあ!?キリングダガー!」

畳みかけるように怪人は腕の湾曲した鎌の形状を直線的な刃物へと変えて梨子へと突き出す。

380 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 01:18:23 ID:fOkp3fkc
梨子「っ…パーカッシブグランド!」

後ろへと下がりながら体勢をかがめ、手の中に作り出した打楽器のマレットのような武器を地面へと打ち下ろす。

「ちいっ…!」

梨子へと迫った怪人の足元の地面が円形に突き上げられるように弾み、怪人は空中へと投げ出される。

梨子「ショックノート!」

「小賢しいんだよ!」

梨子は怪人から距離を取りながら衝撃波を放つも、空中で体勢を立て直した怪人はそれを鎌で両断する。

千歌「はっ…はっ…!」

梨子が時間を稼ぐ中、千歌はルビィの手を引いて懸命に足を動かす。

「ほらちゃんと守ってやれよ!ソニックサイズ!」

着地した怪人は梨子を煽るように叫ぶと走る千歌とルビィの背中めがけて斬撃を放つ。

381 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 01:38:41 ID:fOkp3fkc
梨子「シ、ショックノート!」

梨子は咄嗟に二人と斬撃の間に割って入り、迫る斬撃へと衝撃波を放つ、が。

梨子(ダメ、相殺できない…!)

牽制を目的とした梨子の衝撃はでは相手を傷つけるための技に敵わず、斬撃はその勢いを弱めながらも梨子を襲う。

梨子「きゃあっ!」

斬撃は梨子に直撃、土埃を上げながら梨子は地面へと投げ出されてしまう。

「キシシッ!支援要員にしちゃ頑張った方じゃねえか?もう終わりだけどな!!」

痛みの走る体にむち打ち立ち上がった梨子の眼前には鎌を振り下ろそうとする怪人の姿があった。

梨子「サプルストリングス…!」

梨子と鎌の間に4本のワイヤーが張られ、鎌の勢いを止めようとするも次々と引き裂かれていき、鎌と梨子を隔てる物は無くなる。

梨子(私じゃ…私だけじゃ、誰の事も守ってあげられないの…?)

無力感に唇を噛み、やがて訪れるであろう痛みに体を固まらせながら梨子は思わず目を固く瞑ってしまう。

382 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 01:41:10 ID:fOkp3fkc
今日はここまで、続きを明日更新します

383名無しさん@転載は禁止:2018/06/10(日) 05:05:57 ID:00sbVZ4.
連続更新なんて贅沢させてもらった気分だ

384名無しさん@転載は禁止:2018/06/10(日) 05:47:41 ID:81L/dGEo
また気になるとこで引くなあ

385 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 18:28:37 ID:DF3P8VzE
梨子「……?」

目を固く閉じた梨子はいつまでも訪れない痛みに疑問を感じ、薄く目を開いていく。

「て、めえ…!」

鎌を止めたのは水平に構えられたレイピア、そしてそれを手にするのは白銀の鎧を纏ったヒーロー。

ダイヤ「わたくしが来たからには、妹にも、我が校の生徒にも、これ以上手出しはさせません…!」

梨子「ジ、ジュエル…!」

自身を守った頼もしい背中が視界に入ると、梨子は緊張がほどけその場にへたり込んでしまう。

386 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 18:38:34 ID:DF3P8VzE
ルビィ「──お姉ちゃん!」

ルビィのその声をきっかけに状況は動き始める。

「ジュエルだろうが誰だろうが関係ねえんだよ!!」

レイピアと競り合う鎌はそのままに、怪人は左腕を水平に振り抜き、梨子もろともダイヤを斬り裂こうとする。

「後ろに仲間がいるんじゃ避けらんねえよなあ!」

下卑た叫び声を上げる怪人を一瞬だけ冷ややかに見据えると、ダイヤは鎌ごとレイピアを跳ね上げる。

ダイヤ「はっ!」

それと同時に左足を軸にして体をひねり、右足を大きく振り上げてレイピアに跳ね除けられた怪人の腕に回し蹴りを放つ。

「クソが…!」

回し蹴りと共に体を半回転させて怪人に背を向けたダイヤは、そのまま自身の左側の地面へとレイピアを突き立て、迫る鎌を受け止める。

387 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 18:56:30 ID:DF3P8VzE
ダイヤ「猛るは大地の怒り!バルジトパーズ!」

「がはっ…!」

怪人の足元から突き出した赤茶けた大岩が怪人を空中へと投げ出す。

ダイヤ「はあっ!」

ダイヤは振り返りざまに足裏を怪人へと叩き込み、怪人の体を後方へと吹き飛ばす。

ダイヤ「ハルモニアリリー」

梨子「は、はいっ!」

ダイヤ「よく今まで持ちこたえてくれました…そして、わたくしの妹を守ってくれました──感謝いたします」

ダイヤはレイピアを地面から引き抜きながら梨子へと語り掛ける。

ダイヤ「あとはわたくしが…あなたは二人の事をお願いします」

梨子「分かりました…!」

梨子は痛みの走る体を引きずって千歌とルビィの元へと移動する。

千歌「梨子ちゃん…!大丈夫…!?」

梨子「うん、私は大丈夫…変身もしてたしね」

千歌に笑顔を見せると、梨子は油断せずにダイヤが対峙する怪人へと目を向ける。

388 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 19:00:18 ID:DF3P8VzE
「舐め腐ってんじゃねえぞゴミが!スピニングデッド!」

立ち上がった怪人が両腕を振り抜くと、鎌は腕から離れ、ブーメランのように回転しながらダイヤへと向かう。

ダイヤ「燃やすは我が熱き思い!ヒートルビー!」

ダイヤがレイピアを掲げるとそこから二筋の炎の鞭が現れ、それぞれが唸りを上げて迫る鎌を迎え撃つ。

「オラァ!」

爆炎と粉塵が舞う中を怪人はダイヤの眼前へと躍り出て、両腕の鎌を振り回す。

ダイヤ「……」

怪人の二本の鎌に対し、ダイヤが振るうのは一振りのレイピア。その手数の差をものともせずに相手の斬撃を全て火花へと変えていく。

「キリングダガー!」

曲線的な斬撃を繰り返していた怪人は突如鎌を直線的な形状へと変化させ、刺突を繰り出す。

ダイヤ「っ…!」

咄嗟にレイピアで相手の刃に添わせるようにしてそれをいなすが、勢いを殺しきれずにダイヤの手からはレイピアが弾き飛ばされる。

389 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 19:04:41 ID:DF3P8VzE
しかし、怪人が勝ち誇っていられたのは一瞬の間だけ。

ダイヤ「ぜえいっ!」

ダイヤは自身の顔を掠めるようにして伸びた怪人の腕を空いた両手で掴み取り、一本背負いの要領で投げ飛ばす。

「なっ…!?」

そして宙に浮いたレイピアを掴み、頭上へと掲げる。

ダイヤ「星の瞬きに消えなさい!スターラピスラズリ!」

ダイヤが放つ無数の光弾に怪人は全身を貫かれ、地面へと倒れ伏せた。

ダイヤ「三人とも、ご無事ですか?」

短く息を吐き出すと、ダイヤは振り返り三人の元へと歩いていく。

(クソが、クソが、クソが…!俺様はまだ…!)

「まだまだこれからも暴れてやんだよおおぉぉ!!」

怪人は倒れこんだまま、両腕の鎌を根元深くまで地面へと突き立てる。

梨子「そんな…まだ…!?」

390 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 19:07:23 ID:DF3P8VzE
「シザーズパニッシャー!!」

怪人の叫びと共に、ダイヤたちの立つ足元からアリジゴクが顔を出すように、巨大なハサミが姿を見せる。

「下が残ってたら使ってやるからさあ!!安心して死ねよ!!」

ルビィ「ひっ…!」

千歌とルビィが身を縮める中、ダイヤは冷静に動く。

ダイヤ「瑕疵なく煌めく我が誇り──ブリリアントダイヤモンド!」

ダイヤが七色の輝きを放つレイピアを振るい、四人を両断しようと迫るハサミは粉々に砕け散る。

「なっ…これでも…」

ダイヤ「……」

目を見開く怪人の元へと、ダイヤは何の感情もうかがえない冷たい表情を顔に張り付けて歩いていく。

391 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 19:07:43 ID:DF3P8VzE
「てめえみたいなクソヒーローに…!」

怪人はよろよろと立ち上がり、自分へと近づくダイヤを憎々しげに睨み付ける。

「くそったれ…俺はまだ好きに暴れてやるんだ…!まだだ…!まだまだ刻み足りねえんだ!まだまだヤり足りね──」

怪人の声は、そこで途切れる。ダイヤは手にしたレイピアを、怪人の肩へとねじ込んでいた。

「あっ、があああぁぁぁ!!!」

ダイヤ「…あなたのような怪人は、痛みをもって知るほかないのでしょう…!」

ダイヤは怪人からレイピアを抜き去り、それを再び構え直す。

「クソが…!死ね…!俺の邪魔をする奴は全部…!」

ダイヤ「…いいでしょう、それが答えだというのなら──汚らわしい声が二度と出ないようその喉笛、掻き切ることとします…!」

──思考が、どす黒く塗りつぶされていく。

「は…?正気か…?おい!や、やめ」

──怪人ハ全テ滅ボシ去ラナケレバナラナイ…!

392名無しさん@転載は禁止:2018/06/10(日) 20:52:19 ID:qTHMUJOw
更新乙です
ダイヤさんの描写が遂に・・・

393 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 21:36:10 ID:DF3P8VzE
もうちょっとだけ更新できそうです

394 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 21:56:55 ID:DF3P8VzE
ルビィ「お姉ちゃん!!」

395名無しさん@転載は禁止:2018/06/10(日) 22:04:59 ID:41kbagI2
本当にちょっとでワラタ

乙です

396 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 22:07:20 ID:DF3P8VzE
ダイヤ「っ…!?」

ルビィの叫び、それが聞こえた途端に霧が晴れていくように思考がクリアになっていく。

ダイヤ(わたくしは…一体…後輩の、ルビィの前で何をしようと…!)

早鐘を打つ心臓、頭が冷えると同時に吹き出した汗を感じながらダイヤは自分を落ち着かせるように深く呼吸をする。

ダイヤ「ふっ…!」

レイピアの柄でみぞおちを打ち、立ちすくんでいた怪人を気絶させると、肩に怪人を担ぎ三人へと話し始める。

ダイヤ「…この怪人はわたくしが連れていきます…三人は避難所へと向かって手当を受けてください」

梨子「は、はい…えっと、その…大丈夫、ですか…?」

ダイヤ「…ええ、やっと頭が冷えました…見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません」

ダイヤは一瞬だけルビィへと視線を向け、すぐに目を閉じると三人に背を向けて歩き出す。

ダイヤ(さっきの感覚は…ただ頭に血が上っただけ?それとも…)

397 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 22:18:59 ID:DF3P8VzE
梨子「……」

千歌「……」

ルビィ「……」

梨子(…き、気まずいっ…!)

避難所へと向かう道中、三人はうつむいたまま暗い表情で歩いていた。

梨子「えっと…ルビィちゃん、でよかったかな…?」

ルビィ「あっ、えっと…はい、ルビィ、です…」

沈黙に耐え切れずに切り出した梨子を恐る恐る伺うようにルビィは顔はうつむけたまま視線を向ける。

梨子「あー、えっと…そ、そう!津島善子ちゃんって知ってるよね?同じ一年生の」

ルビィ「う、うん!知ってる…えと、知って、ます…!」

無理に敬語じゃなくていいよ、と梨子はクスリと笑いながら、慌てて言い直したルビィへと言う。

梨子「私、あの子とヒーロー活動してる時に知り合ってね?それでルビィちゃんの事も少し聞いてたから…」

ルビィ「そうなんだ…!善子ちゃん、かっこいいよね…」

梨子「か、かっこいい…かな…?」

善子の奇抜な普段の言動を思い返しながら、梨子は自身とルビィの認識の差に目を白黒させる。

398 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 22:27:45 ID:DF3P8VzE
千歌「善子ちゃん、って前に梨子ちゃんが言ってた子だっけ?どんな子なの?」

梨子「うーん…なんて言ったらいいんだろう…ちょっと変わった子、っていうか…」

ルビィ「堕天使さん、って言ってるよね?変身した時も黒いし…」

千歌「だ、堕天使…?ど、どゆこと…?」

頭にハテナを浮かべている千歌を見ながら、善子がヒーローであることを隠したがっていたことを梨子は思い出す。

梨子(…まあいいいかな?ノーカンってことで…)

千歌「あ、避難所!やっと着いたあ…!」

しばらく歩くと、ようやく遊園地内の避難所へと三人はたどり着いた。

梨子(そういえば怪人とは会っちゃったけど、怪獣は全然見なかった…どうしてだろう?)

ルビィ「梨子ちゃん?」

歩く途中で頭に浮かんだ疑問に梨子が考え込むと、ルビィが顔を覗き込んで声をかける。

千歌「どうかしたの?やっぱり怪我した所、痛い…?」

梨子「あっ、ううん、ちょっと考え事してただけだから大丈夫!それじゃあ入ろっか」

そう言って三人は避難所の入り口の前へと歩いていく。

399 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 22:35:17 ID:DF3P8VzE
「避難所への怪人の侵入を防ぐため、緊急時に申し訳ありませんが身分を証明するものの提示をお願いできますでしょうか?」

梨子「あ、えっと、ヒーローシステムでも大丈夫ですか?ハルモニアリリーっていうヒーローネームなんですが…」

「少々お待ちください──ありがとうございます、確認取れました…奥で救護班が怪我人の手当てを行っていますのでそちらへ」

梨子「ありがとうございます」

入り口をくぐり、三人は説明された救護班のいる奥へと歩いていく。

千歌「それにしても、ルビィちゃんが生徒会長さんの妹って聞いてびっくりしたよー!ほら、全然雰囲気違う、し…」

話すうちに先ほどの事を思い出し、千歌の言葉は尻すぼみになってしまう。

梨子「…ほ、ほら、やっぱりルビィちゃんが危ない目に遭ってたから、それで怒ったんじゃ、ないかな…?」

フォローをするようにそう言った梨子の言葉を聞いてもまだ悲しそうに目を伏せていたルビィだったが、ポツリポツリと話し始める。

ルビィ「けどお姉ちゃん、普段はあんなじゃなくって…」

400 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 22:42:27 ID:DF3P8VzE
ルビィ「ルビィ、いっつもダメダメだから、お姉ちゃんに叱られてばっかりで…けど、それでも、本当は優しいお姉ちゃんで…」

千歌「……」

梨子「……」

辛そうな表情を浮かべるルビィの話を聞き、千歌と梨子はお互いに眉をハの字に下げて顔を見合わせる。

梨子「…やっぱり、怪人の事になるとあんな風に?」

ルビィ「うん…変身するといっつも怖くなっちゃって…」

そう答えて一瞬だけ口を閉ざすと、顔を上げて再び話し出す。

ルビィ「お姉ちゃんが強いヒーローなのは、かっこいいし、うれしいけど…あんなふうに怖くなっちゃうのは…」

千歌「複雑、だよね…何か理由があるのかなあ?例えば、友達が怪我させられちゃった、とか…」

401 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 22:47:51 ID:DF3P8VzE
ルビィ「それが、ルビィも分かんなくって…」

梨子「ルビィちゃんも分かんないんだとお手上げ、だよね…」

千歌「うーん、果南ちゃんなら何か知らないかなあ…」

三人で頭を捻っていると、パタパタと近づいてきた薄緑色のスーツを身に纏ったヒーローが声をかけてくる。

「お、お待たせしました…!えっと、怪我をしている人は…」

千歌「あっ、梨子ちゃん…!この子が怪我をしちゃって…」

梨子「わ、私はそんな大きい怪我じゃないから…千歌ちゃん達も怪我してるでしょ?」

「わわっ、大丈夫ですよ、三人ともちゃんと診ますね…!」

ヒーローはふわふわとした茶髪を揺らしながら慌てたように三人の怪我の具合を確認していく。

「…うん、三人とも大きい怪我じゃなさそうなので、すぐ治りますよ」

そう言って手の中に三つ、白い塊を作り出す。

402 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 22:54:29 ID:DF3P8VzE
「ちょっと嫌かもなんですけど…これを食べてくれればもう大丈夫ですっ」

一人ずつその塊を手渡しながらふわりと笑顔を向ける。

千歌「わあ!ありがとうございます!」

そう言って千歌はぱくりとそれを口に入れて飲み込む。

千歌「おお?わ、なんか体がぽかぽかしてきた!」

「えっと、このあとでちょっぴりだけ疲れが出るかもしれないんですが、怪我を治す副作用みたいなものなので、心配しなくて大丈夫です…!」

そうヒーローが話していると、後ろから誰かを探すような声が聞こえてくる。

「わわっ、他の人の所にもいかなくちゃ…!えっと、お大事にしてください…!」

梨子「あ、ありがとうございます…!」

パタパタと駆けていくヒーローに三人はぺこりと頭を下げる。

403 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 22:55:10 ID:DF3P8VzE
千歌「さっきの人もヒーローなの?」

梨子「うん、ヒーローって言っても戦う人だけじゃなくって、あんな風に治療専門のヒーローもいるの」

現に私も支援要員だしね、と梨子は少し自嘲気味に言葉をつなぐ。

ルビィ「さっきの人、この辺だと結構活躍してるヒーローだったよね?」

梨子「確か、多人数を一度に治療できるのが重宝されてるみたいで…」

ルビィ「えっと、ライスシャワーっていうヒーローだった、かなあ…?」

千歌「おお、ルビィちゃんヒーロー詳しいんだねえ」

ルビィ「えへへ…ヒーローってやっぱり、あこがれるから…」

梨子「──私も、戦えたら…」

ルビィの言葉を聞いて梨子はうつむき、小さくそう零す。

404 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 22:55:33 ID:DF3P8VzE
千歌「私もルビィちゃんも、梨子ちゃんが助けてくれた!」

千歌はうつむいた梨子の手を握り、明るい笑顔で梨子に言葉を投げかける。

梨子「千歌ちゃん…」

千歌「最後に怪人を倒して助けてくれたのは生徒会長さんだけど、梨子ちゃんが来てくれなかったら私達、今ここにいないんだよ?」

ルビィ「うん…!梨子ちゃんが来てくれた時、ルビィすっごく安心したもん!」

千歌の言葉にルビィも力強くうなずいて見せる。

千歌「だから梨子ちゃんは、そんな下向かなくていいんだよ!だって、私達を助けてくれたヒーローなんだもん!」

梨子「…ふふっ、ありがと、千歌ちゃん!」

千歌の言葉に救われたように胸が軽くなった梨子は二人に笑顔を向ける。

梨子(うん、私は、今の私にできる事を探すんだ…!)

405 ◆JaenRCKSyA:2018/06/10(日) 23:07:15 ID:DF3P8VzE
今日はここまで

406名無しさん@転載は禁止:2018/06/10(日) 23:11:28 ID:81L/dGEo

ポーションおにぎり欲しい

407名無しさん@転載は禁止:2018/06/11(月) 19:21:59 ID:FJFEseXc
更新多くて嬉しい乙乙
ダイヤさんの闇は深いな…

408名無しさん@転載は禁止:2018/06/12(火) 00:11:36 ID:vXCs/Fos
いいね

409名無しさん@転載は禁止:2018/06/16(土) 23:30:31 ID:XAs5/KIo
http://url.ie/12aa4

410 ◆JaenRCKSyA:2018/06/25(月) 21:53:10 ID:unHae8zA
お待たせしています…今週中には更新できそう…

411名無しさん@転載は禁止:2018/06/26(火) 17:37:40 ID:aTdO2cX6
まってる

412名無しさん@転載は禁止:2018/06/26(火) 19:24:31 ID:xX5OCQ9M
ゆっくりあせらずな

413名無しさん@転載は禁止:2018/06/27(水) 21:47:53 ID:03WWQlVw
生存報告嬉しみ

414名無しさん@転載は禁止:2018/06/30(土) 11:59:03 ID:BWQdXuyA
ひょおおおお!!

415 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 16:57:34 ID:Uq8k7ElA
海未(さて、避難所はここから少し離れていますが…向かうとしましょう)

海未は怪人と交戦した直後にヒーローが現れたことから、園内にはヒーローが多いと考え、自分は変身を解除して避難所へと移動を始めた。

海未「しかし、急に怪人が現れたからてっきり怪獣も大量にいると思っていましたが…」

先程から怪獣とも遭遇はするもののいまだに片手で数えられる回数であり、さらに小型の怪獣が単独でいるところにしか遭遇していなかった。

海未「っと…」

海未は前方に蛇の姿をした怪獣が地を這うのを見つけ、ジェットコースターの鉄骨の影に身を隠す。

海未「変身…!」

海未は漆黒の鎧に身を包むと、怪獣までの距離を一瞬で詰めると抜刀と共に怪獣の体を両断する。

海未「ふう…やはりこの程度の怪獣しか──っ!?」

次の瞬間海未は背後に嫌なプレッシャーを感じ、前方へと跳躍する。
海未(さて、避難所はここから少し離れていますが…向かうとしましょう)

海未は怪人と交戦した直後にヒーローが現れたことから、園内にはヒーローが多いと考え、自分は変身を解除して避難所へと移動を始めた。

海未「しかし、急に怪人が現れたからてっきり怪獣も大量にいると思っていましたが…」

先程から怪獣とも遭遇はするもののいまだに片手で数えられる回数であり、さらに小型の怪獣が単独でいるところにしか遭遇していなかった。

海未「っと…」

海未は前方に蛇の姿をした怪獣が地を這うのを見つけ、ジェットコースターの鉄骨の影に身を隠す。

海未「変身…!」

海未は漆黒の鎧に身を包むと、怪獣までの距離を一瞬で詰めると抜刀と共に怪獣の体を両断する。

海未「ふう…やはりこの程度の怪獣しか──っ!?」

次の瞬間海未は背後に嫌なプレッシャーを感じ、前方へと跳躍する。

416 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 16:59:44 ID:Uq8k7ElA
なんかミスった、415は無視してください…

417 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 17:00:30 ID:Uq8k7ElA
海未(さて、避難所はここから少し離れていますが…向かうとしましょう)

海未は怪人と交戦した直後にヒーローが現れたことから、園内にはヒーローが多いと考え、自分は変身を解除して避難所へと移動を始めた。

海未「しかし、急に怪人が現れたからてっきり怪獣も大量にいると思っていましたが…」

先程から怪獣とも遭遇はするもののいまだに片手で数えられる回数であり、さらに小型の怪獣が単独でいるところにしか遭遇していなかった。

海未「っと…」

海未は前方に蛇の姿をした怪獣が地を這うのを見つけ、ジェットコースターの鉄骨の影に身を隠す。

海未「変身…!」

海未は漆黒の鎧に身を包むと、怪獣までの距離を一瞬で詰めると抜刀と共に怪獣の体を両断する。

海未「ふう…やはりこの程度の怪獣しか──っ!?」

次の瞬間海未は背後に嫌なプレッシャーを感じ、前方へと跳躍する。

418 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 18:27:10 ID:Uq8k7ElA
海未「閃刃・裂空!」

空中で身を捻りつつ刀を振り抜き斬撃を繰り出すと、海未の間近でそれは何かと衝突して炸裂する。

海未「あれは…!」

立ち込める粉塵が揺らめき現れたその姿は、道化師かカジノのディーラーを模したスーツを身に纏い、のっぺりとした仮面で顔を覆い隠した怪人。

「……」

海未「アルカナム…!」

海未は油断なく刀を構えながら、以前真姫と交わした会話を思い返す。


──海未『空間置換?』

──真姫『ええ、本来繋がっていない二か所をゲートとなるものを用いることで繋げる技術よ』


海未(どこから現れるか分からない…姿が消えた時は警戒する必要がありますね…)

419 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 18:35:36 ID:Uq8k7ElA
海未と対峙したアルカナムは一度だけ首を振ると、大げさともいえる手ぶりと共に何枚ものカードを宙に浮かべる。

海未(来るっ!)

アルカナムが手を振りかざすと、宙に浮いたカードは海未へと真っすぐに放たれる。

海未「くっ…!」

海未は即座に刀を振り上げてアルカナムへ向かい駆け出し、カードを斬り払いながら接近を試みる。

海未「閃刃・断空!」

海未は最後の一枚を斬り裂くと、刀を振り上げてアルカナムへと迫る。

「……」

アルカナムはカードを一枚後ろへと放り投げると続けて後ろへと飛びずさる。

海未「ぜえい!」

海未が袈裟懸けに刀を振り抜くと、そこに残ったのは斜めに斬り裂かれた2mほどのカードの残骸。

420 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 18:42:39 ID:Uq8k7ElA
海未(いない…!ここまで自在に…)

海未は見失ったアルカナムを探して視線を巡らせる。

海未「がはっ…!」

しかし直後に襲う背後からの攻撃に体を吹き飛ばされてしまう。

海未(死角に回るのは当然ですね…!)

足を地面へと突っ張り、その足を軸として体を回転させて視界にとらえたアルカナムへと向かって駆け出す。

「……」

それを見たアルカナムは片手を大きく頭上へと振り上げながら滑るようにして後ずさっていく。

海未「逃がしませ──っ!?」

振り上げた手を注視しながら海未が足を踏み出すと、その足元で小さな爆発が立て続けに起こり、その場でよろめき膝をついてしまう。

海未(地面から注意をそらすためのブラフ…!)

海未は離れた場所でカードを放とうとするアルカナムを視界にとらると、顔をしかめながら刀を鞘へと納め、弓を手にする。

海未「はっ!」

海未は自身を襲うカードへ向かって駆け出しながら矢を連続で放ち、撃ち落としながらアルカナムとの距離を詰める。

421 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 19:01:01 ID:Uq8k7ElA
「──っ!」

海未「冥凶死水!」

海未は最後のカードをスライディングでかわすと共に弓を手から離し、刀を鞘から抜き去ると同時に黒い斬撃を放つ。

「ディスカード…!」

アルカナムは瞬時に海未との間に巨大なカードを壁のように並べてその斬撃の勢いを一瞬だけ止める。

「っ…!」

黒い斬撃はカードに勢いをそがれながらもアルカナムへと直撃し、海未は追い詰めるようにさらに距離を詰める。

海未「やああっ!」

海未が振り上げた刀を斜めに振り下ろすも、アルカナムはそれをバックステップでかわしながら何枚ものカードをつなげて剣の形に変えて構える。

422 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 20:04:40 ID:Uq8k7ElA
海未(接近戦…それなら好都合です!)

近距離で迎え撃とうとしたアルカナムを見て海未は距離を取らせないように一気に攻めかかる。

「っ!」

アルカナムは縦横無尽に降りかかる斬撃を剣で跳ね除け、身を翻してかわしていくも海未の手数には及ばず、体に傷を作っていく。

海未「そこっ!」

アルカナムの体がぐらりと揺れた瞬間、海未は渾身の力で刀を振り下ろす。

「──っ!」

アルカナムは手に持った剣を咄嗟に自身の体と刀の間に滑り込ませ、刀から受ける衝撃のままに後方へと飛びのく。

「ダイスクラップス!」

海未はそのままアルカナムへと追撃を仕掛けようとするも、アルカナムの動きを見て足を止める。

423 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 20:24:29 ID:Uq8k7ElA
海未「これは、サイコロ…?」

アルカナムが地面へとばら撒いたのは一辺10cmほどのサイコロ。海未はそれを警戒し地面から跳ね飛ばすように刀で切り上げる。

海未「くっ…さっきの爆発はこれですか…!」

海未が切り上げたサイコロは爆発を起こし、周りのサイコロも巻き込まれるように次々に爆発していく。

「ウェイジャーシュート!」

距離を取ったアルカナムは海未目がけて金色に光る弾丸を無数に放つ。

海未「くっ…黒散華!」

海未は刀から弓へと持ち替えると瞬時に無数に分裂する矢を放ち、再び距離を詰めようとアルカナムへと駆けだす。

海未(距離が開いていては常にあちらのペース…早くこちらの間合いに…!)

海未が近付いてくるのにも関わらず、アルカナムは素早いとはとても言えないような動きで後ろへと下がっていく。

424名無しさん@転載は禁止:2018/07/01(日) 20:44:33 ID:t2WN8/kQ

まってたよ

425 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 20:52:01 ID:Uq8k7ElA
海未「覚悟しなさ──!?」

一瞬前までは目の前に映っていたいたはずのアルカナムの姿が、階段を踏み外すような感覚と共に海未の視界から消える。そして次の瞬間に感じたのは浮遊感。

海未(これは…!)

海未はアルカナムが消えたのではないことに、そして、自身が今どこにいるのかにようやく気が付く。

海未「ひっ、やあああぁぁ…!」

海未の体は遊園地の上空、ジェットコースターのレールを見下ろすほどの高さまでに投げ出されていた。

海未(何が起きて…!?)

落下を始める中で海未は自身の真上に巨大なカードが浮いているのを視界にとらえる。

海未(そうか、私の足元と空間をつないで…!)

海未「って、そんな冷静に考えている場合ではありません…!」

426 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 21:43:28 ID:Uq8k7ElA
海未は地面へと落下する中で必死に思考を巡らせる。

海未(変身していれば落ちても死にはしないはずですが絶対に避けたい…!着地…?それともどこかに捕まる…?)

何か手はないかと視線を動かしていると海未の目は自身から離れた場所にあるジェットコースターのレールを捉える。

海未「あああもう!こうするしかありません!閃刃・裂空!」

海未は半ばやけくそ気味に鞘から刀を抜き去り、何もない場所へと斬撃を放つと、その反動で海未の体はレール目がけて投げ出される。

海未「あああぁぁぁ…!届、けええぇぇ!」

必死で伸ばした手はうまくレールを捕らえ、飛ばされた勢いはそのままに、まるで鉄棒で逆上がりをするようにして飛び上がりようやくレールへと着地する。

海未「はあ、はあ…どのアトラクションよりも恐ろしいですね…!」

うるさいほどに鳴り響く左胸を抑えつつ、海未は不安定な足場の上に立ち上がる。

427 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 22:08:57 ID:Uq8k7ElA
「……」

海未「ここまで追ってきますか…」

レールの先、海未からは離れた場所にカードが現れ、その枠をくぐるようにしてアルカナムはレールの上へと降り立つ。

海未(こんな場所で戦うなんて正気の沙汰とは思えませんが…背に腹は代えられません…!)

海未は刀を構えると、甲高い金属音を足元で鳴らしながらレールの上を駆け出す。

「……!」

アルカナムは空中に大量のカードをばら撒くと、それを海未へと放ちながら手にはカードの剣を作り出し、後ろも足元も見ることなくバックステップで海未から距離を取っていく。

海未「まったくあなたは曲芸師ですか…!?」

自身を襲うカードを斬り払いながら前へと進もうとするが、地面の透けて見える細いレールに足がすくみアルカナムとの距離は開いていってしまう。

海未(このままでは相手のペースのまま…腹をくくるしかない…!)

アルカナムが海未へと向かってサイコロをばら撒くのを見て海未は刀の代わりに弓を手にし、空中のサイコロを撃ち落としながらアルカナムへと駆け抜けていく。

海未「ぜえいっ!」

一気にアルカナムの懐に飛び込むと同時に弓を手放し、鞘からの抜刀と同時に刀を振り切る。

「……」

しかしアルカナムは自身の背後に背丈ほどのカードを作り出し、その中へと飛び込むようにして飛びずさる。

428 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 22:20:47 ID:Uq8k7ElA
海未(逃した…!ですがこのレールの上、移動する場所は限られる!)

再び海未は弓を手にすると、細い足場の上、動きが硬くなる体を無理やりに動かし、その場で180°回転して弓を構える。

海未「黒華一閃!」

海未が構えた弓の先にはカードから現れたアルカナムの姿があり、真っすぐに漆黒の矢を放つ。

「っ!」

アルカナムは咄嗟に両腕で体をかばいながらレールの外へと飛び出すが、回避は一瞬遅く、腕に傷を作る。

海未(飛び降りるつもりですか…!?)

海未は宙へと飛んだアルカナムの姿を視線で追うと、アルカナムは器用にレールの端を掴んでおり、空中ブランコから飛ぶように体を振り上げ、再びレールの上へ着地する。

海未(今なら狙える…!)

海未はアルカナムへと狙いを定めて弓を引き絞り、矢を放とうとする。

海未「っぐ、あ…!」

しかし突如として自身の真横、何もないはずの場所からの衝撃に、ぐらりとバランスを崩してしまう。

429 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 22:26:58 ID:Uq8k7ElA
海未(いったい、何が…!?)

海未は攻撃の放たれた方ではなく、アルカナムの方へと視線を向ける。

「……」

海未(なるほど、そういうことですか…!)

アルカナムは自身のそばにカードを浮かべており、そこに向かって手を向けていた。つまり海未を襲ったのはカードをゲートとした互いの位置を無視した攻撃。

海未「このっ…!」

海未は痛みに耐えつつアルカナムとの距離を詰めると、刀を鞘から抜き、アルカナムへと攻撃を仕掛ける。

「……」

しかし体の痛み、不安定な足場、そしてどこから攻撃が飛んでくるか分からないという状況にその太刀筋は鈍く、アルカナムはのらりくらりとそれをかわしていく。

430名無しさん@転載は禁止:2018/07/01(日) 22:28:38 ID:C4DNSK42
更新来てる!待ってます!

431 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 22:32:04 ID:Uq8k7ElA
「……!」

アルカナムは海未の刀をかわしつつ、ひと際大きく後ろへと飛び下がると巨大なカードを宙に浮かべてその中へと姿を消してしまう。

海未「くっ…またですか…!」

海未は正面にもう姿がないと分かるとすぐに体を反転させて自身の背後へと目を向ける。

海未「いない…?いったいどこへ…」

海未が姿を消した敵を警戒し周囲に気を張ると、一つの違和感に気が付く。

海未「これは…地震…?いや、まさか…!」

海未が踏みしめているレールは小刻みに振動を始めている。そしてこのレールは元々アトラクションを運ぶためのレール。

海未「ジェットコースター!?」

海未が血相を変えて振り向くと、その視線の先には今にも頂上まで迫るコースター。もしもこれが走り出したら、それを思い浮かべた海未はコースターから離れるようにレールの上を駆け出す。

海未「あああぁぁぁ!もう!振り回されっぱなしではないですか!!」

432 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 22:39:44 ID:Uq8k7ElA
海未はなんとか飛び降りられる場所は無いかと探しながら走るもまるで見つからない内に、ついにコースターの先頭は頂上を越え、猛スピードで海未目がけて走り始める。

海未「飛び移れる場所は!?……ない!!」

海未はパニックになりながら視線を動かすも、地上からはほど遠く、近くに飛び移れそうなアトラクションもないと分かると、半ばやけくそ気味にくるりと振り向いてジェットコースターへと向かって走り始める。

海未「失敗したら大けがか即死か…!そんなのこの姿になってからいつものことです!!」

ジェットコースターとぶつかる寸前、海未は大きく真上へと跳躍、さらに足が巻き込まれないよう体を丸めるようにして宙返りを披露する。

海未「う、あああぁぁ!」

海未の真下、体を掠めるようにしてコースターは通り過ぎていき、海未は呼吸も荒くレールの上に膝をつく。

海未「アルカナム…もう絶っ対に許しません…!何があろうとこの手で懲らしめます…!」

433 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 22:46:33 ID:Uq8k7ElA
海未から逃げるように地上へと降り立ったアルカナムは悠々と園内を移動しようとしていた。

海未「黒散華!」

「…っ!?」

無防備に歩くアルカナムを襲うのは黒い矢の雨。咄嗟に両腕で頭をかばうようにしてその範囲から飛び出すようにして逃げ出す。

海未「待ちなさい!もう逃がしませんよ!」

鉄骨から鉄骨へと飛び移りながら海未は地面へと降り立ち、自身から遠ざかろうとするアルカナムに向けて矢を連射していく。

「っ…ディスカード!」

海未「閃刃・断空!」

アルカナムは自身と海未との間にカードの防壁を作り出して姿を隠そうとするも、防壁は一刀のもとに斬り払われる。

「ミラージュインストール」

しかし、両断されたカードの向こうに姿を見せたのは、まったく同じ見た目をした二人のアルカナム。

海未「分身…!?次から次へと…!」

434 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 22:51:50 ID:Uq8k7ElA
アルカナムはどちらもカードで作り出した剣を手にし、海未の周囲を回るようにして間合いを測る。

海未(一対一でも厄介だったというのに、二人相手となると…!)

海未は動き回るアルカナムをどちらも視界に入れようと身を躍らせ、距離を詰めて斬りかかってきたアルカナムの剣を打ち払おうとする。

海未「…っ!?」

しかし、海未が振るった刀は確かにアルカナムの斬撃を捕らえたはずだったが、手ごたえは全くなく、そのままアルカナムの体を通り抜けていってしまう。

海未(そうか、幻…!これならなんとか…)

海未は空を切ってよろけた体勢を戻し、即座に二人を視界に入れる。

海未「くっ…!」

しかしアルカナムは巧みに偽物と位置を入れ替えながら動き回り、海未に狙いを定めさせない。

海未「ああ、もう!黒散華!」

海未は目まぐるしく動き回るアルカナムにしびれを切らし、海未は弓を上空に構え周囲に黒い矢の雨を降らせる。

435 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 23:00:55 ID:Uq8k7ElA
海未「そこですねっ…!」

二人のアルカナムは同時に防御態勢を取ったが、矢が体を通り抜けていく方を海未は無視し、本物へと刀を振るう。

「…っ!」

海未の連撃を受け止めきれないアルカナムはカードを出現させてその中へと飛び込む。

海未「空間置換…ですがもう通用しません!閃刃・裂空!」

海未はアルカナムが消えていったカードには目もくれずに、後ろへと振り返りざまに漆黒の斬撃を放つ。

「──!」

海未の死角へと降り立とうとしたアルカナムはその斬撃に反応できずに正面から攻撃を食らう。

「……」

しかしアルカナムはひるむことなく海未から遠ざかるようにその場を飛びのき、手元にカードを作り出し、手をかざす。

海未「その攻撃はもう一度見ています!」

アルカナムのその動作を見た海未は視線をアルカナムから外し、自身の死角へと弓を向ける。

436 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 23:12:04 ID:Uq8k7ElA
海未「黒華一閃!」

海未が弓を構えた先にはカードが浮かんでおり、放たれた矢はそのカードの中を潜り抜け、アルカナムの手元のカードから現れてアルカナムの体を射抜く。

「…っ!」

海未「さあ、いい加減覚悟して──」

海未が再び刀を抜きアルカナムへと構えると、アルカナムはそれを見て地面に投げ出された体を起こす。

「バンクラプトプレス!」

アルカナムはその声と共におろしていた両腕を振り上げ、その手から放たれたのは2枚のコイン。そのコインは海未に迫る中で巨大化、海未の背丈をはるかに超えるほどとなる。

海未「当たらなければ──!?」

自分の横を通り過ぎる軌道を描くコインに海未は気を払わなかったが、2枚のコインは海未の真横に到達すると、互いに引き寄せられるかのように動き出し、海未の体ごと空間を押しつぶす。

437 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 23:16:30 ID:Uq8k7ElA
「……」

その光景を見ていたアルカナムは一瞬だけうつむくと、左右に首を振りその場から立ち去ろうとする。

「──!?」

海未「ぐ、うおおおぉぉぉ!!」

しかしアルカナムが放った2枚のコイン、それは海未の事を押し潰せてはいない。海未は以前の戦いでそうして見せたように刀を巨大化、それを支えとしてコインの壁を押しとどめていた。

海未「ぜやあああぁぁぁ!!」

海未は渾身の力で刀を振り切り、自身を押し潰そうとするコインを粉砕する。

海未「黒烈断・逆鱗!!」

海未はそのままの勢いで頭上へと振り上げた刀を真っすぐに振り下ろし、巨大な漆黒の斬撃をアルカナムへと放つ。

海未「いっ…けええぇぇ!!」

「…っ!」

438 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 23:20:39 ID:Uq8k7ElA
しかし、刀を振り下ろした海未が次の瞬間に感じたのは、肌を刺すような冷気。

海未(っ…これは…!)

そして海未が放った斬撃とアルカナムの間に何枚もの巨大な氷のプレートが降り注ぎ、斬撃は次々にそれを砕いていくものの、ついにはアルカナムに届くことなく消えてしまう。

海未「グレイシア…!」

砕け散った氷が消えた先には膝をついたアルカナムへと手を差し伸べる、氷でできた鎧を纏った怪人、グレイシアの姿があった。

「……」

海未(三連戦の最後にこの怪人を相手取るのは厳しい…ですが、やるしかない…)

海未は緊張と共に刀を構えたが、グレイシアは海未にはまるで気を払わずにアルカナムを立ち上がらせると、ちらりと海未へと視線を向ける。

「……」

そしてアルカナムへと頷くと、アルカナムはカードを取り出して二人の姿はその中へと消えていく。

海未「消えた…?」

海未は注意深く周囲を見渡すも、どこにも表れる気配を感じられない。

海未「撤退した、と考えていいのでしょうか…」

海未はもう一度だけ周囲を見渡し、怪人の姿も怪獣の姿も見えないと分かると変身を解き、大きく息を吐き出す。

海未「さて…また遠ざかってしまった気もしますが、そろそろ避難所へと向かいましょうか…」

439 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 23:28:01 ID:Uq8k7ElA
海未は傷ついた体にため息をつきながら避難所へと向かうと、その道中には怪人とも怪獣とも遭遇することは無かった。

海未(どうやら本当にあれで撤退していったようですね…)

疲労がたまった体では遥か彼方に思えた避難所へやっとのことでたどり着いた海未は、入口の警備員に傷だらけの体を見られると即座に中の救護スペースへと連れていかれた。

「ここで待っていてください!今治療専門のヒーローをお呼びします…!」

海未「い、いえ、そこまで重症ではありませんので…って、聞いていませんね…」

慌てたように駆け出す警備員の背中を見送りながら案内された場所へと腰を下ろす。

海未「いたた…やっぱりそこそこ痛みますね…まあ、この間ほどではありませんが…」

海未が体の傷の具合を見ていると、後ろから自分の事を呼ぶ声が耳に入る。

穂乃果「海未ちゃあああん!!」

ことり「海未ちゃん…!」

海未「穂乃果…ことり…!わっ、とっと…」

海未が振り返ると同時に飛び込んできた幼馴染の二人を咄嗟に抱き留め、鍛えている体幹で倒れないよう持ちこたえるも、体の傷に顔を歪める。

440 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 23:34:37 ID:Uq8k7ElA
海未「痛っ…!もう、心配をかけたことは謝りますがいきなり飛びつかないでください…!」

穂乃果「わっ、ご、ごめん…海未ちゃん、怪我してるの…!?」

ことり「大変…誰か呼んでこないと…!」

海未「いえ、大丈夫です…!先ほど、警備員の方が呼びに行ってくれましたので…」

弾かれたように立ち上がり、そのままでは走り出しそうな勢いの二人を落ち着かせて座らせていると、奥から白衣を模したスーツを纏ったヒーローが近づいてくる。

「さっき避難してきたっていう子は…ああ、君かな?」

穂乃果「あ、あの…海未ちゃん、治りますか…?」

心配そうに穂乃果はヒーローに問いかけるも、そのヒーローは海未の体をざっと見渡して穂乃果へと笑顔を向ける。

「ああ、もちろん!傷は多いけど全部浅いみたいだからね、この場ですぐ跡も残らずに治せるよ」

ことり「よかったあ…」

441 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 23:42:35 ID:Uq8k7ElA
「それにしても、こんなにたくさんの傷…怪人と会ってしまったのかい?」

聴診器のような器具から暖かな光を傷へと当てながら、心配そうな顔でヒーローは海未へと尋ねる。

海未「えっと、そうですね…サイのような怪人に…」

どう答えたものかと困りながら海未が口を開くと、ヒーローは納得したように何度もうなずく。

「そうか、なるほど…じゃあ君が怪人を引きつけて皆を逃がした女の子なんだね?ここで話題になっていたよ…無事でよかった」

海未「え、ええ、まあ…」

「しかし、よく無事に逃げ切れたね?誰か他のヒーローに?」

海未「い、いえ、動きの遅い怪人だったので、なんとか逃げられて…」

「そうか…本当に勇気も度胸もすばらしい…!…うん、治療も終わりだ!きっともう痛みもないはずだよ」

海未はようやくこの質問地獄から逃れられると内心でほっと息をつき、改めてヒーローへとお礼を口にする。

海未「ありがとうございました…!」

「いやいや、お礼を言われることじゃないよ、ヒーローだからね!」

そう言ってそのヒーローは三人に手を振りながら去っていく。

442 ◆JaenRCKSyA:2018/07/01(日) 23:52:17 ID:Uq8k7ElA
穂乃果「じーっ」

ことり「じーっ」

海未「…二人してなんですか?」

ヒーローが去っていった直後、穂乃果とことりは半目で海未の事をじっとりと見つめる。

穂乃果「海未ちゃん、何か隠してるよね?」

ことり「ことりもそう思います…」

海未は幼馴染の鋭さに内心で舌を巻きつつ、先ほどのヒーローとの会話では隠していたことを一つ告げる。

海未「はあ…二人には敵いませんね…騒ぎになりそうだったので言いませんでしたが、実はサイの怪人から逃げた後に、怪人アルカナムを見つけて…」

ことり「アルカナムって…!」

穂乃果「あのすごい強いっていう怪人だよね…!?海未ちゃん大丈夫だったの…!?」

海未「ええ…幸い、遊園地には姿を隠せる場所が多いので、なんとかやり過ごせました…」

海未(隠し事をするのは胸が痛みますが、余計な心配をかけたくありませんしね…)

443 ◆JaenRCKSyA:2018/07/02(月) 00:05:02 ID:GnnDvKBs
穂乃果「けどよかったあ…穂乃果たちは避難所が近くだったからすぐに逃げちゃったけど、海未ちゃんにもし何かあったらって心配で…」

ことり「うん…穂乃果ちゃんなんて、ここ飛び出してっちゃいそうだったんだよ?」

ことりもそうしたいくらい心配だったんだから、と頬を膨らませることりと、子犬のような表情の穂乃果、二人の頭をなでながら海未は口を開く。

海未「本当に心配をかけて申し訳ありません…けど、私はこの通り無事です!…これで許してはもらえませんか?」

穂乃果「もー…最近海未ちゃん私たちに心配かけすぎだよお…無事だからいいけど…」

心配そうな表情は引っ込み、唇を尖らせる穂乃果に苦笑いを返しつつ、ふと湧いた疑問を投げる。

海未「そういえば、希と絵里先輩は見ていませんか?」

ことり「うーん…ことりたちは結構すぐに避難所に着いたけど、見てないかなあ…」

穂乃果「ちょっと早めに遊園地出た、のかなあ…?」

海未「ええ、そうであることを祈ります…希はかなり気にしている様子でしたし…」

たとえ無事だったとして、今連絡をしてもきっと返事をよこさずに心配が募るだけだろう、と考え、海未は友人の無事を祈るのだった。

444 ◆JaenRCKSyA:2018/07/02(月) 00:07:35 ID:GnnDvKBs
ここまで、遊園地編終わりです
亀更新でごめんなさい

445名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 00:17:03 ID:NgwIkB9c
乙です!最近は毎度楽しみにしてます

446名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 03:39:04 ID:Kv1End9I
いいね

447名無しさん@転載は禁止:2018/07/02(月) 13:52:04 ID:sU9Dk55g
http://pr4.work/g/kiyo

448 ◆JaenRCKSyA:2018/07/04(水) 22:09:46 ID:C1M4xV8E
その日の晩、騒ぎが終息を迎え家に帰っていた穂乃果は、自分の部屋で携帯を耳に当てていた。

穂乃果「もしもし、ことりちゃん?うん…ごめんね、夜遅くに…」

ことり『ううん、大丈夫だよ?ことりも、穂乃果ちゃんに話したいことあったから…』

穂乃果「…海未ちゃんの事、だよね?」

ことり『うん…やっぱり海未ちゃん、まだ何か隠してる、よね…?』

穂乃果「たぶんそうだと、思う…」

ことり『大丈夫かな…最近、怪獣とかが出るたびに巻き込まれてるし、何か危ないことになってたりしたら…!』

穂乃果「穂乃果も、心配だけど…だけど、海未ちゃんはきっと何か理由があって隠してるんだって思ってる」

ことり『理由…』

穂乃果「うん、それが何かは分からないけど…だから、海未ちゃんが話したくなった時に聞いてあげられるようにしてたいな、って思うんだ」

ことり『うん…そう、だよね…』

穂乃果「えへへ、ごめんね?なんか自分でもしゃべっててよく分かんなくなっちゃったけど、そんな感じ!」

449 ◆JaenRCKSyA:2018/07/04(水) 22:10:11 ID:C1M4xV8E
雪穂『お姉ちゃん!遅くなると近所迷惑だから早くお風呂入ってー!お姉ちゃんが最後なんだから!』

穂乃果「わわっ、ごめんねことりちゃん、雪穂に怒られるからもう切るね!もし何かあったらいつでもかけてきていいから!またね!」

ことり『ふふ、うん、ありがとう穂乃果ちゃん!またねっ』

穂乃果「……」

通話が切れても穂乃果は自分の部屋で立ったまま、ぼんやりと窓の外を眺める。

穂乃果「隠し事、か…」


雪穂「お姉ちゃんってば!早くしないともうお湯抜くよ!?」

穂乃果「わーっ!待って待って待ってえ!今入るからあ!」

バタバタと部屋から出る時に穂乃果は自分の机の上に、手にしていたものをコトン、と置く。それは、太陽を閉じ込めたかのような、オレンジ色の石だった。

450 ◆JaenRCKSyA:2018/07/04(水) 22:10:35 ID:C1M4xV8E
ことり「ふふ、うん、ありがとう穂乃果ちゃん!またねっ」

電話が切れると、ことりは小さくため息をついてベッドの上にぽすんと腰を下ろす。

ことり(私も海未ちゃんの事を信じたい、けど…やっぱり、心配だよ…)


──海未『心配をかけて申し訳ありません…けど、私はこの通り無事です!』

──穂乃果『だから、海未ちゃんが話したくなった時に聞いてあげられるようにしてたいな、って思うんだ』


ことり(穂乃果ちゃん、海未ちゃん…ことりの事、置いて行かないで…!)

二人の言葉を思い出して不安が一気に押し寄せ、ことりはお気に入りの枕を抱きしめて目を強く瞑る。

451 ◆JaenRCKSyA:2018/07/04(水) 22:10:57 ID:C1M4xV8E
理事長『ことり?』

部屋のドアをノックする音と共に部屋の外からことりの母親が声をかける。

ことり「お母さん?」

枕をベッドへと戻し、ことりは部屋のドアを開ける。

理事長「お母さん、明日は少し早いからもう寝るわね?もしまだ起きてるんだったら、寝る前に電気だけ消してちょうだい」

ことり「うん、まだちょっと起きてるから、寝る前に消しておくね…」

理事長「ことり?どうかしたの?」

ことり「あっ、ううん、大丈夫…!今日、色々あってちょっと疲れてるみたい…」

理事長「そうよね…あんなに危ない事、無くなってほしいんだけれど…」

うつむいたことりの頭を撫でながら、部屋の中に目を留めてことりの母は少しうれしそうに口を開く。

理事長「ことり、今日もあれ、着けて行ってくれたの?」

ことり「あれ?…うん、もちろん!お母さんがくれたお守りだもんっ!」

ことりは嬉しそうに笑顔を返す。二人の話題に上るそれは、羽根のモチーフをあしらった、ペンダントだった。

452 ◆JaenRCKSyA:2018/07/04(水) 22:11:43 ID:C1M4xV8E
めっちゃ少ないですがここまで

453名無しさん@転載は禁止:2018/07/05(木) 06:28:45 ID:0oppAyPc

ことりちゃんにも何やら秘密が?

454名無しさん@転載は禁止:2018/07/05(木) 07:08:11 ID:WizGNK8w
理事長って背後でなんかやってそうだし

455名無しさん@転載は禁止:2018/07/05(木) 18:51:05 ID:zYooQQJc
めっちゃ乙です
理事長は悪役ポジ似合い過ぎる!そこも魅力的だけど!

456 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 21:04:46 ID:3oHADIkM
海未「やあああぁぁぁっ!!めええぇぇん!!」

声を張り上げ、海未は手にした得物を振るう。しかしその手に握られているのは竹刀であり、身に着けているのは白の道着に黒の袴、そしてその場所は海未の自宅の道場だった。

海未「こてぇっ!めえぇぇんっ!!」

休日の午前中、海未は自己鍛錬のために道場で一人竹刀を振るっていた。これは海未にとって戦闘訓練としてではなく、ずっと前からの習慣としての物だった。

海未(怪人に変身しての戦いは型破りな動きが要求される…ですが、型を破れるのはこういった基本の稽古をおろそかにせず、型を修めてこそ)

海未「やあああぁぁぁっ!!めええぇぇん!!」

海未(本当なら、父に対面での相掛かりでも頼みたいのですが…改めてそんなことを言って何か聞かれるのも嫌ですしね…)

海未は空へと向けた打ち込みを終えると、最後に軽い素振り──海未にとっての軽い、ではあるが、素振りを始める。

海未「めぇんっ!」

素振りを終えた海未はふっ、と短く息を吐き出し、蹲踞、そして納刀。海未は立ち上がり、一人稽古を終えたあとの道場へと礼をする。

457 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 21:48:29 ID:3oHADIkM
海未(一度穂乃果が稽古を見に来た時にはあの大声に驚いていましたね…気剣体一致に欠かせないのだと言ったらぽかんとしていましたが…)

シャワーで汗を流した海未は首からタオルを下げてぼんやりと考え事をしながら居間へと入り、麦茶のコップを片手にテレビの電源を付ける。

『こちらは秋葉原です!SWコーポレーション、月面研究所完成記念式典はもう間もなく!会場には大勢の人が詰めかけ──』

海未「そういえば、そろそろ始まる時間でしたか…」

SWコーポレーション、ヒーローシステムを普及させた会社の月面研究所完成記念式典、海未は元々、今テレビに映っている場所へと穂乃果に誘われていた。

海未「穂乃果には申し訳ありませんが、日舞の稽古はすっぽかせませんからね…」

けれど穂乃果が頼み込めば母は簡単に折れそうだ、と思い海未はおかしくなってクスリと笑う。

『SWコーポレーションの関係者も式典の開始時間を今か今かと待ちわびている様子です!』

そのリポーターの声と共にテレビへと映し出されたのは、赤い髪を短く切り揃え、ぎこちない笑顔を周囲に向ける眼鏡の男。

海未(これが、真姫の父上…)

真姫から聞いた話とメディアからの情報しか持っていない海未はなるべくフラットな目線で見ようとする。

海未(それにしても…)

真姫の父のぎこちない笑顔、海未はそれを緊張からくるものではなく、まるで表情の浮かべ方を忘れてしまったかのような印象を受けた。

458 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 22:09:35 ID:3oHADIkM
海未「っと、いけない…」

勝手に冷たい印象を持ってしまっている、と海未は頭を軽く振りテレビへと視線を戻す。

海未「さて、穂乃果が映っていたりしたら面白いのですが…さすがにそんなことはないでしょうね」

『式典を前にして快晴、天気にも恵、まれ…?』

今まではつらつとした笑顔で話し続けていたリポーターの表情が、怪訝なものとなる。それと共にテレビに映る秋葉原の町並みは薄暗くなっていく。

海未「…?」

『突然の曇り空…あれ、でも青空…?黒い霧、でしょうか…?』

海未「黒い霧…まさか…!」

海未が嫌な予感を感じ取り腰を浮かせると同時、テレビから爆発音が轟き、映像が激しく揺れる。

459 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 22:22:03 ID:3oHADIkM
『ひっ…!怪獣…!』

カメラは地面へと落ちたのか、低いアングルのまま動かなくなり、おびえたようなリポーターの声と、周囲の悲鳴と怒号が響く。

『怪人がこっちに…!』

『変身…!』

悲鳴に交じってヒーローの物か怪人のものか分からない声が聞こえ、直後に映像は放送局へと切り替わる。

『秋葉原にて行われる予定のSWコーポレーション月面研究所完成記念式典の会場に怪獣及び怪人が現れたとの情報が入りました…!近隣の住民の方は避難施設への移動、また、施設から離れた場所に住む方は家から出ないよう──』

テレビから聞こえるアナウンサーの声を聞き流しながら海未は自分の部屋へと走り、小刀型のシステムを掴み取って服の中へと隠し、踵を返して廊下を走る。

海未(穂乃果…!)

460 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 22:31:20 ID:3oHADIkM
海未母「きゃっ…!海未さん…!?いったい何を…!」

海未が玄関へと走る途中、部屋から飛び出した自分の母と鉢合わせてしまい、母は海未の姿を見ると青い顔をして海未の肩に両手をかける。

海未母「ニュースを見たでしょう…!?何があったかは分かりません、ですが今外に出たら──」

海未「穂乃果が…!穂乃果があそこにいるんです!それなら私は行かなくてはなりません!」

その言葉を聞いた海未の母ははっと息をのみこみ、海未はそんな母の手を握りまっすぐに目を見つめる。

海未「お願いです…止めないでください…!」

青い顔のまま顔を歪めた母を見て、海未は一つ頭に思い浮かぶことがあった。

海未(きっと、今の私と、姉の事を…)

目まぐるしく色んなことが頭に渦巻いていたが、海未は一度深呼吸をして頭をクリアにすると、母に笑顔を見せて口を開く。

海未「大丈夫です、絶対に生きて帰ってきます…私も、穂乃果も!だから、心配しないで…というのは難しいかもしれませんが、待っていてください」

461 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 22:43:39 ID:3oHADIkM
その言葉を聞いた海未の母は大きくため息を吐くと、憂いはそのままに、けれど毅然とした表情で海未に語り掛ける。

海未母「海未さん…いいえ、海未、私にはあなたが何か大きなことを隠している気がしてならないの…あの子のように…」

海未(隠し事…姉さんが…?)

海未母「そしてあの子は帰ってこなかった…海未、お願いです、あなたは──」

海未「当然です…何があっても、帰ってきます」

小さく、しかし力強く海未は頷き、もう一度だけ母の手を握ると、振り返ることはせずに玄関から外へと飛び出していった。

海未母「お願い…神様でも、仏様でも、誰でもいい…あの子の事を…」

462 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 22:54:51 ID:3oHADIkM
海未たちの住む古くからの住宅街を駆け抜け、繁華街に近付くにつれ、破壊の音と粉塵の匂いが近くなっていく。

海未(被害が大きいのでしょうか…とにかく、早く穂乃果を見つけなくては…!)

流れていく景色の背丈が高くなってきた頃、ついに海未は怪獣の姿を視界に捉える。

海未(数は少ない…どちらかというと迷い込んできた感じですね)

様々な動物の姿をした怪獣を視界に入れたまま海未はビルの間の路地へと飛び込む。

海未「変身!」

漆黒の鎧をまとい、路地から飛び出すと同時に海未は抜刀とともに怪獣をまとめて切り伏せる。

海未「さあ、出し惜しみは無しでいきます!」

鋭い踏み込みとともに大口を開けたトカゲのような怪獣へと切っ先をねじ込み、返す刀で地を這う蛇の怪獣を両断する。

海未「黒散華!」

さらに建物の壁に這う蜘蛛の姿をした怪獣に刀を投げてその体を貫くと、即座に手の中へ弓を作り出し矢の雨を降らせる。

海未「ふう…」

宙に浮かんでいた怪獣も全て撃ち落とすと海未は軽く息を吐くとすぐに繁華街へと視線を向けて走り出す。

463 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 23:06:19 ID:3oHADIkM
大通りへと近づくに連れて海未の耳におぼろげながら聞き覚えのある音が聞こえてくる。

海未(これは、銃声…?ですが、やけにファンシーな──)

そこまで考えた所で海未はようやくその音の心当たりに思い至る。

海未「そうか、これはにこの…!早く助太刀に…!」

一刻も早く駆けつけようと足を早めると、銃声に混じって聞き覚えのある声が聞こえてくる。それも、二人分。

海未「あ、あれ…?これはまさか…」

先程までとは全く違う嫌な予感を感じ、海未はその場所まで駆け抜ける。



にこ「待ちなさいこの猫怪人!私が懲らしめてやる、わ、よっ!」

凛「わー!待って待って待って!まだ何もしてないにゃー!」

にこ「まだって事はこれから何かするってことでしょうが!!」

凛「誤解だよー!理不尽すぎるにゃー!」



海未が大通りの開けた場所で見た光景は、頭にフードを目深に被った凛が泣き声をあげながら逃げ回り、にこがそれに銃を乱射しているというものだった。

464 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 23:15:19 ID:3oHADIkM
海未「にこ!待ってください!一旦落ち着いて!」

にこ「あぁ!?…って何よ、海未じゃない…ゴツくなってたから一瞬分かんなかったわ…何?イメチェン?」

海未「イメチェンの一言で片付けられるのはさすがですね…」

ピンクのファンシーな衣装に似合わぬ荒んだ目付きで海未を睨むと、一瞬の間を置いてにこは落ち着いたように言葉を返す。

凛「う、海未ちゃん…」

目深に被ったフードを脱ぎ、目に涙を溜めながら凛は海未へとすがりつく。
その姿は普段の物とは異なり、頭からは猫の耳が生え、さらに手には手甲をはめたような爪、そして体の要所要所がオレンジ色の毛で覆われていた。

にこ「あー、もしかしてこの怪人、あんたの知り合い?」

海未「ええ、そういう事です…凛、前に話していた矢澤にこというのがこの方です」

凛「こ、この人が…?」

怯えたような表情で凛がにこの事を伺うと、にこはバツの悪そうに口を開く。

にこ「あー、うん、悪かったわ…話も聞かずにいきなり襲いかかったりして…」

465 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 23:21:35 ID:3oHADIkM
凛「う、うん…凛もこんな見た目だから気をつけなきゃだったから…」

お互いに態度を和らげた二人を見て海未はホッとしたようにため息をつく。

海未「まあ、大事になる前でよかったです…それにしても凛、一体何をしていたのですか?それにその姿は…」

凛「凛が変身するとこんな感じになるの!ほら、海未ちゃんに前話した…」

海未「ああ…少しの間だけ怪人に変身できるという…」

凛「そう!それで、急に怪獣が出てきたからなるべく怪獣をおびき寄せようと思って走り回ってて…」

にこ「そこで私に会った、ってわけね…」

海未「なるほど…何があったかは分かりました…が、凛、あなたは元々戦えないのですから無茶をしてはいけません」

凛「はーい…ごめんなさいにゃ…」

しゅんとうなだれた凛を見て苦笑を浮かべながら海未は二人に向けて口を開く。

海未「さて…ヒーローのにこと私達が一緒にいてはにこにあらぬ疑いがかかりますし、ここは二手に別れて──」

海未がそこまで言った時、晴れ間に照らされていたはずの周囲が急激に暗くなる。

466 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 23:31:37 ID:3oHADIkM
にこ「やばっ…これって…!」

海未「怪獣の出現…!」

周囲に漂う黒い霧は海未たちの周囲、様々な場所で凝り固まっていき、怪獣の群れが姿を現す。

凛「嘘っ…なんかすごい多いよ…!?」

にこ「やっぱ今日なんかおかしいわよ!」

周囲に視線を動かす二人に対し、海未は一つ深呼吸をすると静かに刀を正眼に構える。

海未「二人はなるべく自分の身を守ることを優先してください」

凛「えっ!?けど海未ちゃん…!」

海未「大丈夫です、この程度なら──」

海未は駆け抜けざまに怪獣の群れを撫で斬り、さらに体を反転させながら刀を振り下ろし反応できていない怪獣を両断する。

海未「苦戦することはありません」

467 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 23:37:42 ID:3oHADIkM
凛「すごいにゃ…!」

にこ「あいつ、前より全然強くなってるじゃない…!」

瞬時に何体もの怪獣を葬り去った海未にあっけに取られていた二人は、自分たちへと襲い掛かろうとする怪獣を見て我に返ったかのように動き出す。

凛「よーし…凛もいっくよー!」

にこ「はあ…もう、にこはアイドルだっていうのに…!」

凛は体勢をほぼ四つん這いになるほど低くしながら怪獣の間を駆け抜けながら爪で怪獣を引き裂いていき、にこはピンク色の光弾をばら撒きながら着実に怪獣の数を減らしていく。

海未「閃刃・裂空!」

海未は自分たちから距離のある怪獣へと斬撃を放ち、その行く先を見ることもせずに近付く怪獣へと刀を構える。

凛「海未ちゃん後ろ!ソニッククロー!」

突如として黒い霧が海未の背後に集まると狼のような姿の怪獣となるが、凛それを見ると一気に加速をしながら爪で斬り裂く。

海未「ありがとうございます!」

468 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 23:42:25 ID:3oHADIkM
にこ「ラブリーバレット!」

海未と凛が地上の怪獣を相手にしているうちに、虫や鳥のような姿をした怪獣は一気に高度を上げて飛び去ろうとする。しかし目ざとくそれを視界に入れていたにこは上空に向けて光弾をばら撒き、それを一掃していく。

にこ「ほらもうあと少し!さっさと終わらせ──」

にこがそこまで言ったところで、先ほどまでに怪獣が現れる時とは比べものにならないほどに黒い霧が立ち込め、一気に三か所に寄り集まっていく。

凛「なんかこれって…!」

凛が顔を引きつらせながら声を上げるのとほぼ同時、2mを越えるほどの大きさの怪獣が三体出現する。
その姿はそれぞれ、大斧を手にしたミノタウロス、鶏のような羽毛が全身に生えた巨体に熊の手足が伸びた怪獣、そして爬虫類の下半身からザリガニの体が生えたような怪獣だった。

にこ「うわキモっ…!どうすんのよこれ…!」

海未「さっき言ったことは変わりません!とにかく自分の身を守って!…黒華一閃!」

海未は鋭くミノタウロスのような怪獣を睨むと同時に刀を鞘へと納め、手に作り出した弓を引き絞り漆黒の矢を放つ。

469 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 23:49:04 ID:3oHADIkM
「ブルルッ!!」

怪獣は手にした斧で海未が放った矢を撃ち落とすと、矢の放たれた方向へと突撃しようとする。

海未「冥凶死水…!」

しかし、すでに怪獣の懐には海未が飛び込んでおり、黒いエネルギーを蓄積した鞘から放たれる居合いが怪獣の体を斬り裂く。

凛「海未ちゃんすごーい!」

にこ「バカっ…!よそ見してる場合じゃ──」

凛が目を丸くして海未を見た隙に、羽毛の生えた怪獣は身体を震わせ、凛へと無数の羽根を弾丸のように放つ。

にこ「ラブリーバレットっ…!」

にこは横からピンク色の光弾をばら撒き、その羽根の弾丸を撃ち落としていく。

にこ「今よ!」

凛「ありがとっ…!ビーストスティング!」

凛は足のばねを使ってその場から一気に怪獣の頭上にまで跳ね上がり、その頭部目がけて肘を叩き下ろす。

にこ「ラブリーバレット!」

さらに追い打ちをかけるようににこは光弾を怪獣へと叩き込んでいく。

「──!!」

しかし怪獣の体から黒い霧が漏れ出していくもののまだ倒れることは無く、二人へと丸太のような腕を振り上げる。

470 ◆JaenRCKSyA:2018/07/10(火) 23:58:14 ID:3oHADIkM
海未「閃刃・裂空!」

両腕を振り上げた怪獣はその体勢のままに、海未が放った斬撃に体を斬り裂かれ、黒い霧となって消えていく。

凛「海未ちゃんナイスタイミング!」

にこ「よっしあと一体!」

鈍重な動きで三人から遠ざかろうとしていたザリガニのような怪獣へと三人は目を向ける。

海未「黒華一閃!」

海未が先んじて漆黒の矢を放つと、それはトカゲの下半身へと突き刺さり、風穴を開ける。

「──!」

そしてその怪獣はその傷をつけられたことでのたうち始め、三人から離れようと動きを速める。

凛「待って!向こうに人が…!」

「うう…おかあ、さん…ひっく…」

怪獣の向かう先へふらふらと、泣きじゃくりながら少女がさ迷い出てきてしまう。

471 ◆JaenRCKSyA:2018/07/11(水) 00:08:22 ID:gNadS55.
海未(まずい…ここからでは間に合わない…!)

海未が一か八か弓で怪獣を仕留めようと構えるのとほぼ同時、にこが弾かれたように手に持った銃を構える。

にこ「届けえええぇぇぇ!!」

にこがあらかじめばら撒いていたピンク色の光球は少女のそばにまで漂っており、にこはそこ目がけて銃口からロープ状のエネルギーを放つ。

にこ「ルミナスブレード!!」

一気にロープは縮んでにこの体を運んでいき、それと同時ににこはもう一方の手に握った銃の銃口からピンク色に輝く刃を作り出す。

にこ「ふんぬうううぅぅぅ…!!」

にこは怪獣へとその刃を突き立て、運ばれる勢いのままに怪獣を両断していく。

にこ「…っぶはあ!」

怪獣の体を真っ二つに斬り裂ききると、にこの体は少女の前へと投げ出されてしまう、が、にこはすぐに立ち上がり、少女と目線を合わせて笑顔を見せる。

にこ「ほらっもう大丈夫!怪獣もいなくなったし、お母さんの所には私が連れて行ってあげる!」

「ほんと…?おかあさんと、あえる…?」

にこ「もちろん!だからほら、お母さんに会った時笑った顔見せてあげよう?にっこにっこにー!だよっ!」

「にっこにっこにー…!えへへ…」

にこ「うん!かわいい!忘れないでね?笑顔は魔法、だよ!」

472名無しさん@転載は禁止:2018/07/11(水) 00:23:50 ID:.U7bPEmI
うひょー更新来てるぅ乙です!

473 ◆JaenRCKSyA:2018/07/11(水) 00:23:56 ID:gNadS55.
海未「にこ…」

凛「さすがアイドルだにゃ…!」

ついさっきまで泣きじゃくっていた少女を笑顔に変えてしまったにこに二人は感心しきってしまう。

にこ「ごめん、ってわけだから私はこの子と一緒に避難所まで行くわね…」

海未「分かりました、私たちが避難所に行けば大変なことになるでしょうから、ここからは別行動としましょう」

「ねえねえ、お姉ちゃんは怪人とも仲良しなの?」

にこ「う、うん…!お姉ちゃんの笑顔はね、怪人さんもいい人に変えられる魔法なの…!」

「わああ…すごい…!」

キラキラとした純粋そうな目でにこを見つめる少女に苦笑いをしながら海未は口を開く。

海未「それではにこはここから避難所へ、凛は…」

凛「凛も一人で大丈夫!…っていうより、なるべく手分けした方がいいかなーって思うんだけど…どうかにゃ?」

海未「ええ、そうですね…恐らく被害は広範囲ですし、その方が効率的です…が、絶対に無茶をしてはいけませんよ?」

凛「うん!分かってるにゃ!」

海未「それでは、何かあったら適宜連絡を取りましょう──二人とも、どうか無事で」

凛「うん!」

にこ「分かってるわよ!」

三人は互いに手を振り合い、別々の方向へと駆け出して行った。

474 ◆JaenRCKSyA:2018/07/11(水) 00:24:23 ID:gNadS55.
ここまで

475名無しさん@転載は禁止:2018/07/11(水) 07:52:00 ID:AxJCeqaY
乙です
色々気になってた情報がちらほら…

476名無しさん@転載は禁止:2018/07/13(金) 14:23:17 ID:0IzTafyk
いいね

477名無しさん@転載は禁止:2018/07/15(日) 02:56:57 ID:PA7SHG/A
http://nazr.in/11y6

478 ◆JaenRCKSyA:2018/07/21(土) 22:48:18 ID:WYJRfBi2
海未「はああっ!」

次から次へと現れる怪獣を斬り伏せながら通りを駆け抜ける海未は、足元から感じる違和感に気付く。

海未「これは…水…?」

海未が走る先の地面が水に濡れており、その水位は段々と上がり走る度に水音が響くほどになる。

「……」

海未「…っ!あれは…!」

海未の視線の先に佇むのは、鮫肌のようにざらついた表皮、そして水棲哺乳類の特徴を持った姿。

海未「モビィディック…!」

真姫からは警戒する必要がないとは言われたものの、海未は油断無く刀を握りしめる。

「…ハイドロスパウト」

モビィディックは海未を視界に捉えると、腕の振りと共に幾筋もの水流を海未へと放つ。

479 ◆JaenRCKSyA:2018/07/21(土) 23:00:39 ID:WYJRfBi2
海未「…ここまで接近を許すとは、何を企んでいるのですか?」

刀は油断無く構えたまま、海未はモビィディックへと問いかける。

海未(攻撃を仕掛けてきてはいたものの、まるで当てる気がなかった…)

「…それが分かってて近付いてきたってことは、応じる気があるって事でいいんだよね?」

モビィディックは海未に言葉を返しながら、敵意がないことを示すように両手をひらひらと挙げて見せる。

海未「……」

それを見て海未も、警戒はしたままに刀をひとまず下ろす。

「ふう…ニュース見たり噂聞いたりして、もしかしたらって思ってたから、話が通じそうな相手でよかったよ」

海未「…あなたも街に被害は出していても、人的な被害は出していないと聞きました」

「まあそりゃあさすがに人に怪我はさせらんないよ──って、このかっこのままじゃあんまり信用できないか」

未だ警戒を解いていない海未に気付き、そう言ってモビィディックが頭を振ると、水しぶきと共に頭だけ変身が解ける。
そして紺色のポニーテールを踊らせながら海未の事を見つめ、笑顔を見せる。

果南「私は松浦果南、浦女の3年生!よろしく!」

480 ◆JaenRCKSyA:2018/07/21(土) 23:39:59 ID:WYJRfBi2
海未(まさか、モビィディックが私と同じくらいの歳とは…というより、この方は私に対する警戒は無いのでしょうか…)

モビィディックの正体に驚くと同時に、警戒心のない相手を試すように海未は口を開く。

海未「…簡単に正体を明かして、私があなたを騙していたらどうするつもりなのですか?」

果南「あれ、私騙されてるの?…ま、その時は戦って倒すだけだから別に良いけどね」

海未の言葉に一瞬だけ不思議そうな顔をするものの、果南はすぐに自信に満ちた好戦的な笑みを浮かべる。

海未「いえ、冗談です…では…」

海未は果南に短く言葉を返すと、見様見真似ではあるが自身も頭部の変身を解除する。

海未「ふう…園田海未、音ノ木の2年生です」

果南「へえ…年下だったんだ…」

海未の姿を見た果南は何度もうなずきながら目を丸くする。

481 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 00:00:11 ID:u9jhLXaI
果南「さてと、自己紹介も終わったわけだし──」

果南が言いかけた時、海未にとってはもう見慣れてしまった黒い霧が周囲に立ち込める。

海未「くっ…またですか…」

果南「いったん話は中断かな?」

海未と果南は互いに背中合わせになり、重心を低く落として周囲へと意識を向ける。

果南「なんだ、このくらいの数だったら…!」

海未「問題ありませんね…!」

周囲に現れたのは10体程度の小型の怪獣。海未と果南は一気に踏み込み、海未は刀を一気に振り抜き怪獣をまとめて撫で斬り、果南は正面の怪獣に蹴りを叩き込み、そこから片足を軸にしつつ周囲の怪獣に回し蹴りを放ち、さらに近付いてきた怪獣へと拳を振り下ろす。

果南「ハイドロスパウト!」

流れるように果南は掲げた片腕を振り下ろし、水流を海未へと向けて放つ。

海未「はあっ!」

海未はそれを視界に入れると同時に果南へと踏み込み刀を突き出す。

果南「ん、オッケー!」

海未「ふう…ひとことぐらい声をかけてくれればいいのに…」

果南が放った水流と海未が突き出した刀は互いの背後に迫っていた怪獣を狙ったものであり、怪獣は黒い霧へと消えていく。

482 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 00:14:32 ID:u9jhLXaI
果南「あはは、ごめんごめん、まあ大丈夫かな?って思ったからさ」

海未「まったく…」

あっけらかんと笑う果南に海未が苦笑を返すと同時に、周囲の建物の窓ガラスがびりびりと振動を始める。

果南「お?どうしたんだろ…?」

海未「…地面も揺れていませんか?」

周期性を持った振動も地面を通して伝わり始め、海未と果南は目つきを鋭くしてその発生源へと目を向ける。

果南「っ!海未下がって!」

果南が声を上げると共に海未の事を突き飛ばし、重心を低くしながら右腕を後ろへと振りかぶる。
建物の上部を砕きながら巨大な赤茶けた拳が現れ、果南へと振り下ろされる。

果南「ハンマーヘッド…インパクト!」

果南の右腕の肉が蠢いてハンマーのような形状へと変化し、果南は振り下ろされる拳へと渾身の力で振り抜く。

483 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 00:28:06 ID:u9jhLXaI
果南「ぜえええい!!」

果南の腕と振り下ろされる拳が交わると同時に果南の足元のアスファルトがひび割れ、拳は果南から逸れた場所へと打ち下ろされる。

果南「…っはあ…はあ…」

海未「果南!大丈夫ですか!?」

果南「へーきへーき、パワーと頑丈さが取り柄だからね…!それにしても…」

振り抜いた腕をぶらぶらと振りながら果南は少しひきつった笑顔を海未へと向け、すぐに真剣な表情となって姿を現した相手を見据える。

果南「いや、でかすぎない?」

海未「ええ…これを相手にするのはなかなか無茶ですね…」

地面を軋ませてビルの間から姿を現したのは10mはあろうかというほどの体躯をした怪獣。その体は赤茶けた筋肉で覆われ、頭には短い二本の角が生えた、『赤鬼』とでも言うような怪獣だった。

484 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 00:43:21 ID:u9jhLXaI
果南「来るよ!」

海未「ええ!」

怪獣は建物やアスファルトの砕けた破片──怪獣にとっては小さいが、海未達にとっては大岩と言っていいような大きさの瓦礫をぶちまける。

海未「黒散華!」

果南「ハイドロスパウト!」

海未と果南が放つ矢と水流は降りかかる瓦礫を次々と撃ち落としていく。

「──!!」

海未「っ…!黒華一閃!」

怪獣が低く吠えると同時に角が発光し、その間から勢いよく電撃が迸る。海未は即座にそれへと狙いを定め漆黒の矢を放ち相殺する。

海未「このままではじり貧ですね…!」

果南「…海未さあ、一発であの怪獣の頭落とせたりとかしない?」

海未「はあ!?無理に決まって──」

海未は突然何を言い出すのかと果南の事を見るも、果南の表情はいたって真剣なそれであり、海未は思考を巡らせる。

485 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 00:54:06 ID:u9jhLXaI
海未「…高さとタイミングが揃えば、可能性はあります」

果南「高さね…じゃあ、あのビルあたりかな?」

果南が指さしたのは少し離れた場所に建つ怪獣の背丈よりも少し高い建物。

果南「よっし…それじゃあ海未はあそこの屋上にスタンバってて!」

海未「スタンバってと言っても…怪獣をあそこまで誘導しないと意味が──」

果南「もちろんそれは私の役目!まあまかせといてよ!」

海未は一瞬の逡巡の後、果南の軽やかな笑顔を見て心を決める。

海未「分かりました…とどめは任せてください!」

果南にそう言い残して海未は果南が指し示したビルに向かって駆け出していく。

果南「さーてと…」

果南は腕を伸ばして一度背伸びをすると、眼をギラつかせて怪獣を睨み付ける。

果南「こっからは私が頑張る番かな?」

486 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 01:02:02 ID:u9jhLXaI
果南「ハイドロスパウト!」

果南は無数の水球を発生させ、一斉に怪獣へと向けて水流を放つ。

果南「んー、やっぱり威力足んないよねえ…」

怪獣はその大木のよな両腕でそれを防ぎ切り、果南へと拳を振り下ろす。

果南「よっと…ハンマーヘッドインパクト!」

真っすぐに振り下ろされる拳を身を翻してかわすと、右腕をハンマーの形へと変化させて地面へとめり込んだ腕へと叩きつける。

「──!」

怪獣は低く吠えると果南の攻撃によって抉れた腕を地面から引き抜き、頭の角から雷撃を繰り出す。

果南「うっわ…スワールブリーチ!」

果南は雷撃へと向かって広い円錐状に渦巻く水の塊を作り出し、雷撃を防ぎきる。

果南「げっ…!」

水の渦が消え、開けた果南の視界の先に現れたのは怪獣が投げつけた巨大な瓦礫。

果南「プリスティスブラント…!」

咄嗟に果南は右腕を鋸のような形状へと変化させ、迫る瓦礫へと飛び掛かりながら真っ二つに斬り裂く。

487 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 01:20:41 ID:u9jhLXaI
果南「はああぁぁっ!!」

さらに果南はその勢いを止めることなく怪獣の巨体へと飛び蹴りを叩き込む。

「──!」

怪獣は身体をぐらりと揺らすが、下がったのは一歩だけ。果南は怪獣が動き出さないうちに即座にその場から飛びのく。

果南「さてと…」

「──!!」

離れるように動いた果南に向けて怪獣は拳で殴りかかるも、果南は顔色一つ変えずにその場から動こうとしない。

果南「よっと!」

果南が前方へと突き出した手を上に振り上げると、怪獣の拳の真下にあるマンホールから勢いよく水が吹き上げ、怪獣の腕を真上へと跳ね上げる。

果南「よーしタイミング完璧!まだ行くよ…!」

マンホールから吹き上がった水は空中へと留まり、まるで生きているかのようにその形を変える。

果南「ディープパイソン!!」

488 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 01:31:12 ID:u9jhLXaI
大蛇が鎌首をもたげるようにうねる水塊は一瞬だけその動きを止めると、一気に怪獣めがけて放たれる。

果南「いっけえええ!!」

果南が声と共に腕を思い切り前へと突き出すと同時に水の大蛇は怪獣へと直撃する。

「──!!」

怪獣は真正面からの激流に地面を軋ませながら一瞬だけ持ちこたえたが、その勢いに逆らえずに後方へと押し流される。

「ガアアァァ!!」

果南「悪いけど、あともうちょい後ろなんだよね…!!」

大きく吹き飛ばされた怪獣は雄叫びを上げながら立ち上がるも、果南はその隙を逃さずに追撃を仕掛ける。

果南「ぜええぇぇい!!」

果南が作り出した激流は果南の体を飲み込み、その勢いのまま一直線に怪獣へと飛び蹴りを叩き込む。

489 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 01:44:46 ID:u9jhLXaI
「──!!」

怪獣は今度は倒れこむことは無く、地面に降り立った果南を襲うため前掲した姿勢で拳を振り上げる。

果南「あっはは、タフだなあ…けど、もう私の出番は終わりだからさ──」

怪獣の真横に伸びるビルの屋上、そこから漆黒の影が躍り出る。

果南「あとよろしく、海未」



海未「黒烈断・堕椿!!」

空中へ舞った海未が振り上げた刀は一気にその大きさを変え、どす黒いオーラを纏う。

海未「はああぁぁっ!!」

海未は漆黒の軌跡を残しながらその巨大な刀を振り下ろし、怪獣の首を斬り落とした。

490 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 02:02:59 ID:u9jhLXaI
果南「よっと…お疲れさん!さすが強いねえ」

果南は上空から落ちてくる海未を粘性のある水の塊で受け止め、からりとした笑顔を向ける。

海未「ありがとうございます…ですが、果南がスムーズにあの場所まで誘導させてくれたおかげです」

元の形に戻った刀を鞘へと納め、海未は果南へと返事を返す。

海未「さて…新たに敵が現れる気配もありません…一般人に見られる前にここから離れた方がいいでしょうね」

果南「私達が一緒にいたら完全に黒幕だもんねえ…それだったら私、浦女がある方に向かってもいいかな?別行動にはなっちゃうけど…」

海未「ええ、もちろんです…が、浦女の周辺というならジュエルに遭遇しないよう気を付けてくださいね?」

果南「あっはは、分かってる分かってる!まあ、私が行かなくてもダイヤがいれば心配ないとは思うんだけどね…」

491 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 02:19:46 ID:u9jhLXaI
困ったような、どこか寂しそうな表情で言う果南に海未は口を開く。

海未「黒澤ダイヤ…知り合いなのですか?」

果南「まあ幼馴染ってやつかな?出身同じなわけだしね──っと、あんまりのんびりもしてられないか」

気を取り直したように果南は首を振り、戦いの最中で半開きになったマンホールの蓋を蹴とばして退かせる。

海未「果南?マンホールを空けてどうするつもりですか…?」

果南「ん?もちろんこの中を泳いで行くんだよ?」

海未「……あまり言いたくはありませんが、衛生的によくないと思います…」

果南「へーきへーき、私水は自由に動かせるから汚くない水で泳げるし、あとでシャワー浴びれば大丈夫!」

海未「まあ、果南が気にしないのであればいいのですが…」

あまりにもあっけらかんと言う果南に海未は若干引きながら言葉を返す。

果南「それじゃあまた今度!なんかあったら連絡してきていいから、絶対無事でいるんだよ?」

海未「ええ、果南の方もご武運を!」

ひらりとマンホールに飛び込む果南を見送って海未も走り出してその場を離れていった。

492 ◆JaenRCKSyA:2018/07/22(日) 04:33:02 ID:l3ELSDc6
ここまで

493名無しさん@転載は禁止:2018/07/22(日) 10:21:12 ID:.NXG6cv6
乙!果南と交流出来たか…

494名無しさん@転載は禁止:2018/07/23(月) 01:08:25 ID:5tq55MOo
このコンビは熱い

495 ◆JaenRCKSyA:2018/07/23(月) 12:51:53 ID:WLK3OxKg
>>478>>479の間が抜けてたので



海未「くっ…閃刃・断空!」

海未は自分に当たる軌道の水流へと刀を振り抜き、足を止めずにモビィディックへと接近する。

「……」

モビィディックは足を止めたまま海未を見ながら、腕を前に伸ばし、手を上に振り上げる。

海未「地面から…!」

海未が走る周囲のマンホールから蓋を跳ね上げながら水しぶきが上がっていく。

海未(しかし、これはもしかして…)

足元、そして正面から襲う水流を、海未はさして大きな動きもせずにかわしていき、ついにモビィディックの眼前にまで迫る。

496 ◆JaenRCKSyA:2018/07/28(土) 00:16:11 ID:fje2bcyM
明日のどこかで更新します

497名無しさん@転載は禁止:2018/07/28(土) 12:42:24 ID:WZH9hH5E
やったぜ

498名無しさん@転載は禁止:2018/07/28(土) 13:43:14 ID:/HZABERg
明日もどこかで園田海未〜

499名無しさん@転載は禁止:2018/07/28(土) 16:22:26 ID:0Av.NjrQ
更新待ってます〜〜!

500 ◆JaenRCKSyA:2018/07/28(土) 20:44:51 ID:/3hw.65k
善子「あああぁぁ!もう!」

既に変身していた善子は周囲に次から次へと湧き出てくる怪獣相手に大鎌を振り回しながらうんざりしたような声を上げる。

善子「ただ買い物しに来ただけなのにい!」

秋葉原へと買い物に来ていた善子は唐突に現れた怪獣に追い掛け回され、咄嗟に変身をして戦っていた。

善子「ピアシングシェイド!」

善子が大鎌の刃を地面へと突き立てると、怪獣の足元から漆黒の棘が突き上がりその体を貫く。

善子「ふう…さすがにもう出てこないわよね…」

周囲を注意深く見渡してこれ以上怪獣が出てこないことが分かると善子は大鎌の構えを解き、石突を地面に付ける。

「さすがの手際ですね?」

善子「…っ!」

突如として背後から聞こえた声に善子は咄嗟に体を反転させて大鎌の柄を水平に自身の前に構える。

501 ◆JaenRCKSyA:2018/07/28(土) 21:05:08 ID:/3hw.65k
「ふふ、反応も良いですね?」

善子「くうっ…!」

善子が自身の前に構えた大鎌の柄は、繰り出された短剣を受け止めていた。

「はっ!」

善子「ごほっ…!」

善子は腹を蹴飛ばされ、咳き込みながら後ろへと吹き飛ばされる。

「悪いとは思いますが…ここで倒させてもらいます」

善子は吐き気をこらえながら改めて襲い掛かってきた相手の姿を観察し、自身の記憶にある怪人の特徴を見つけて絶句する。

善子「嘘…ジェミシス…?」

紫色を基調とした体のラインがはっきりとしたスーツを身に纏い、両手にはシンプルな形状の短剣を持ち、頭には紺色のサイドテールが揺れる。

「ご存知でしたか?ふう…もう少し隠密を徹底しなくてはいけませんね…」

ため息をつきながら首を振ると、余裕のある笑みを浮かべたかと思うと一気に善子との距離を詰める。

502 ◆JaenRCKSyA:2018/07/28(土) 21:21:11 ID:/3hw.65k
善子(やばいやばいやばい!こんなのと戦って勝てるわけない!けど…!)

善子は何とかジェミシスの動きに反応して鎌の柄で短剣を受け止めると、視線を周囲へと向ける。

善子(絶対まだ逃げ遅れた人、いるわよね…!)

視界に入るだけでも逃げ遅れ、建物の影からこちらを伺っている人影を善子は確認する。

「戦闘の中でよそ見とは…感心しませんね!」

ジェミシスは鎌の柄を跳ね上げると、体を屈めながら駆け抜けざまに善子の腹部を撫で斬る。

善子「痛っ…このっ…!」

スーツが破られることは無かったが痛みの走る体を庇いながら善子がその場で反転すると、視界に入ったのは大きく足を振り上げるジェミシスの姿。

「はっ!」

善子「くうぅ…!」

鋭く放たれた回し蹴りを咄嗟に鎌の柄を立てて防ぐも、勢いを殺しきれずにバランスを崩し地面に倒れこんでしまう。

「そこですっ…!」

善子「ピ、ピアシングシェイド…!」

善子は倒れこみながらも鎌を地面へと突き立て、短剣を振り上げて迫るジェミシスの足元から黒い棘を突き出させる。

503名無しさん@転載は禁止:2018/07/28(土) 21:41:42 ID:0Av.NjrQ
更新来てたーー!!乙です!!

504 ◆JaenRCKSyA:2018/07/28(土) 21:49:55 ID:/3hw.65k
「っ…!」

ジェミシスは咄嗟に短剣を体へと引き寄せ、真下から襲う棘に添わせるようにして受け流す。

「なるほど…動けないわけではないようですね?ですが、これで私とやりあえるとは──」

善子「くっくっく…矮小な人間があまり大きい口を開かない方がいい…」

「……!?」

ゆらりと立ち上がり、ゆっくりとした動きで振り返ると大鎌を構えながら善子は余裕の笑みを浮かべ、大仰に口を開く。

善子「今宵、この鎌が選んだのはあなたの生き血…覚悟するといい…」

「…あの、昼、ですが…」

善子「……」

505 ◆JaenRCKSyA:2018/07/28(土) 22:05:46 ID:/3hw.65k
善子「さらばっ!」

沈黙を破って善子はジェミシスへと背を向けて駆け出す。

「逃げる気──」

善子「ブラッディサイズ!」

「っ…!」

少し走り出した所で善子はジェミシスへと振り返り、その勢いで鎌を振り抜いて斬撃を放つ。

善子「この程度かしら?」

斬撃を正面から食らい、膝を付くジェミシスへと挑発するようにそう言って善子は再び走り始める。

善子(とにかく、人がいない場所に…!)

「…ヒーロー気取り、英雄気取りですか…本当に──」

ジェミシスの顔から表情が消え、翳りを帯びた目で善子の背を追いながら吐き捨てる。


「本当に、忌々しい」

506 ◆JaenRCKSyA:2018/07/28(土) 22:22:14 ID:/3hw.65k
善子「はっ…はっ…思ってたよりも、速いわねあいつ…!」

善子は瞬く間に距離を詰めてくるジェミシスの気配を感じながら必死に足を動かす。

「癪ではありますが、鬼ごっこに乗ってあげましょう…!」

善子「っ…!クリミナルアビス!」

声が聞こえるほどにジェミシスが近付き、善子は顔を引きつらせながら鎌の石突を地面へと何度か打ち下ろす。

「っ…!」

善子とジェミシスとの間の地面に何か所にも黒くインクを垂らしたような染みが広がり、それは底なし沼のように瓦礫を沈み込ませていく。

「子供だましですね…」

ジェミシスは大きく跳躍してその黒く染まった地面を飛び越えると、技を繰り出すためにスピードを落とした善子の真横にまで迫る。

善子「やば──」

「はあっ!」

視線だけしか反応しきれなかった善子の脇腹に深々とジェミシスの回し蹴りがめり込む。

507 ◆JaenRCKSyA:2018/07/28(土) 22:40:23 ID:/3hw.65k
善子「ごぼっ…!お、え゛…」

咳き込み、えずきながら善子は蹴り飛ばされた先の周囲を見渡す。

善子「これ…解体工事現場?」

吹き飛ばされた善子が破ったのは工事現場の白いフェンスであり、そこはだだっ広い空間に解体もまだ終わりそうにないように鉄骨や建材が視界を遮るようにしてそびえる場所だった。

善子「けどここなら人もいないし──」

「なんとかなる、と?」

善子「っ!」

声が聞こえると反射のように鎌の柄をそちらへと善子は突き出す。

「残念ですが、ここではあなたに勝ち目はありません」

鎌の柄に衝撃が走るのと同時に声が聞こえ、一瞬でジェミシスはその場から飛びのき、姿を消してしまう。

508 ◆JaenRCKSyA:2018/07/28(土) 22:56:42 ID:/3hw.65k
善子「すばしっこいわね──っ!ブラッディサイズ!」

姿を消したジェミシスに警戒すると、風を切る音が背後から聞こえ、善子は鎌を振り抜いて斬撃を放つ。

「ふっ…!」

善子「きゃっ…!」

放った斬撃は空中で何かとぶつかり相殺するも、次の瞬間には善子は死角から短剣で斬り裂かれてしまう。

善子「何よそれ…!」

善子はその場に立ち止まっては的になると判断し、その場から駆け出して身を隠せる場所を探そうとする。

「鬼ごっこはまだ終わらないようですね…?」

善子「うるっさい、わね…!」

どこかから響くジェミシスの声に善子は苛立ちを隠さずに歯をかみしめ、L字状の建材へと背を張り付けて呼吸を落ち着かせる。

善子(あいつはきっとこういう障害物が多い場所で戦うのが得意なのよね…防戦一方だからこっちからは相手の場所が把握できないし…)

善子が必死に考えを巡らせていると、背にした建材がぴしりと小さく音を立てる。

509 ◆JaenRCKSyA:2018/07/28(土) 23:42:28 ID:/3hw.65k
善子「やっば…!」

「悪の華!」

即座にその場から飛びのくと、一瞬遅れて青みがかった閃光が建材を砕きジェミシスが姿を現す。

善子「ブラッディスクリーム!」

身を翻すと共に善子が正面で鎌を回転させると、そこから無数の黒い斬撃が放たれる。

「銀輪!」

ジェミシスは六本の短剣を投げると、それは空中で動きを止めて短剣を頂点とするように六角形の盾を作り出し、斬撃を食い止める。

善子「そこまで甘くないわよ!」

善子が放つ斬撃の勢いは止まらずに一気に盾を砕き、その向こうへと斬撃を叩き込んでいく。

善子「これで──」

「これで、どうしたと?」

善子「っ…!」

善子は響く声に振り返ろうとするも、容赦のない蹴りが突き刺さり地面へと投げ出される。

510 ◆JaenRCKSyA:2018/07/29(日) 00:04:54 ID:Mba0eD0I
善子「ぐ、う…!ブラッディサイズ…!」

痛みにひるむことさえ許されず、善子を追うように放たれた短剣を斬撃を繰り出して撃ち落とす。

善子「っ…!」

生じた粉塵をろくに見もせずに即座にその場から飛びのき、全く違う方向から放たれた短剣をかわす。

善子(相手の場所さえ分かればなんとかなるはず…)

そのまま鉄骨や建材に身を隠すようにして走り出した善子は状況を打開するために思考を巡らせる。

善子(けどそれは──)

「考え事ですか?」

善子「くっ…!」

走る善子の目の前に短剣を振り上げながら姿を現したジェミシスに善子はワンテンポ遅れて鎌を振る。

「遅いっ…!」

大鎌の間合いの内側へと入り込んだ短剣は善子の体を浅く斬り裂き、痛みに顔を歪めながら善子は近くの瓦礫へと姿を隠し、再び駆け出す。

善子(迷ってる場合じゃない…!ほんとごめん…!)

善子は攻撃がやんだ隙に、ヒーローシステムに備えられた通信機能を起動させた。

511 ◆JaenRCKSyA:2018/07/29(日) 00:06:30 ID:Mba0eD0I
ここまで、また近く更新します
善子ちゃんがやられてるけど次は視点が変わります

512名無しさん@転載は禁止:2018/07/29(日) 10:33:40 ID:WAYUoqyE
乙です
最近の中では更新多いし嬉しい限り

513 ◆JaenRCKSyA:2018/08/20(月) 20:40:05 ID:5PG54jno
ごめんなさい、体調悪くて更新が遅れています…代わりに今度たくさん更新しますので…

514名無しさん@転載は禁止:2018/08/20(月) 20:42:36 ID:E/spFr0s
暑さでやられたのかな?
おだいじにー

515名無しさん@転載は禁止:2018/08/21(火) 05:50:26 ID:kn6QGbJM
近況報告乙です、お大事にしてください!

516名無しさん@転載は禁止:2018/09/21(金) 21:53:44 ID:o3mYTIew
もう1ヶ月だね
体調大丈夫かな?

517名無しさん@転載は禁止:2018/09/24(月) 06:37:18 ID:9qzEN13A
待機…待機…

518名無しさん@転載は禁止:2018/09/24(月) 18:28:25 ID:hBSZ5MA2
待ってる……

519名無しさん@転載は禁止:2018/10/21(日) 22:35:15 ID:MFAvZ7tM
1さん、大丈夫かね……

520 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:26:16 ID:I7O/z9eY
「お姉ちゃん、ありがとう…!」

「本当にありがとうございます…!なんとお礼したらいいか…!」

にこ「気にしないでください!みんなの笑顔が私の元気の源!プリティスマイルの応援、よろしくお願いしまーす!」

少女を避難所へと連れていき、そこで見つけた母親へと預けるとさりげなく営業も挟みつつにこは再び町中へと走り出していた。

にこ「ほんとなら、私も避難所にいた方がいいと思うけど…そういうわけにもいかないわよね…」

次から次へと現れる怪獣をピンク色の弾丸で撃ち抜きながらにこは逃げ遅れた人がいないかと探す。

にこ「っ、とと…」

建物の影からちらりと見えた光景に、足でブレーキをかけて顔をのぞかせて様子をうかがう。

にこ「あいつ…!」

その先に見えたのは、何人もの逃げ遅れた人、地面へと倒れたヒーロー、そしてその中心に立つのは黒と濃紫のスーツに身を包みツインテールを揺らす怪人の姿。

にこ「私と髪型被ってるんですけど!?──じゃ、なくって…」

髪を結う高さ、髪の長さも近いそれに思わず声を漏らすも、気を取り直して首をぶんぶんと振る。

521 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:27:07 ID:I7O/z9eY
にこ「確か、ジェミシスの片割れよね…」

以前真姫から見せられていた怪人たちの情報、それと一致する姿の怪人を前ににこは足を止める。

にこ(私に勝てるわけないわよね…他のヒーローも倒されてるし…)

逃げる?助けを呼ぶ?どっちでもいい、見つからないうちに早くこの場から離れよう──そんな考えがにこの頭の中を埋めていく。


「やだ…誰か助けて…」

「ママ…パパ…」

「お願い、この子だけでも…!」


にこ(違う)

にこの目に映るのは、強大な怪人を前にして希望を失った泣き顔。にこの心臓は一度大きく跳ねる。

522 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:27:56 ID:I7O/z9eY
にこ(私がいる前で、あんな顔をしている人がいちゃいけない)


──にこには笑顔が似合う、きっとにこの笑顔を見たらみんなが笑顔になる

──笑顔は魔法、にこは笑顔の魔法使いなんだ


それは、声も、ともすれば顔すらもおぼろげになってしまった、けれど心に刻まれた大切な人の言葉。

にこ(私はアイドル…勝つために戦うんじゃない、みんなの笑顔を取り戻すために、戦うんだ)


にこ「そうだよね?──パパ」

にこは小さく呟くと、目に強い意志を宿して一歩を踏み出した。

523 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:28:35 ID:I7O/z9eY
「…なに?また新しいヒーロー?」

ひと際目を引くピンク色にフリルの衣装に身を包んだにこがその場に現れると、ジェミシスも、逃げ遅れた人も全ての視線がにこへと向く。

にこ「……にっこにっこにー!みんなのハートににこにこにー!アイドルヒーロープリティスマイルでーす!みんなに笑顔を届けに来ましたあ!」

一度大きく深呼吸、そしてキメポーズと共に流れるように、軽やかに言葉を紡ぐ。ひびの入ったコンクリートに殺風景なビルに挟まれていようと、自分を見ている人がいるならそこはもうステージだ、と言わんばかりに輝く笑顔を見せながら。

「アイドル…バカじゃないの?死にたいなら──」

にこ「もう〜そんなしかめっ面してたらメッ、だよ?かわいいお顔が台無しになっちゃうんだから!」

相手の言葉を遮り、ウインクを決めながら怪人相手に軽口で返す。

「うるさい…!」

苛立ったようにそう言うとジェミシスは一瞬で距離を詰めてにこの頭目がけて蹴りを放つ。

にこ「わ、っとっと…!」

咄嗟に反応したにこは上体をそらすようにしてそれをかわし、後ろに倒れそうになる動きに合わせて飛びのいて距離を取る。

にこ(めちゃくちゃ素早いわね…!けど、どうにか反応はできる…!)

海未と共に挑んだグレイシアという強敵との戦い、そしてつい先ほどの戦い、その経験はにこの感覚を鋭く成長させていた。

にこ(こんな物騒なスキル、アイドルにはいらないんだけどね…!)

524 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:29:13 ID:I7O/z9eY
「このっ…!」

蹴りをかわされたジェミシスは苛立ちを隠さずに再び距離を詰めて足を振り上げる。

にこ「あっぶなっ!」

にこは足を落ちつける暇もなく即座に横っ飛びで繰り出さるはずの蹴りをかわそうとする。

「ふんっ!」

にこ「っ…!」

しかし足を振り上げたのはブラフ、飛びのいたにこへと一気に距離を詰めてジェミシスはその体に蹴りを叩き込む。

にこ「にごお…」

「戦えもしないくせに大きい口叩かないで…!」

地面を転がるにこには目もくれずにジェミシスはまだ近くにへたり込む人へと歩き出す、が、そこに銃声が鳴り響く。

「つっ…」

にこ「…あれー?すっごくつよーい怪人のジェミシスが、戦えもしないアイドルの攻撃を食らっちゃうのかなー?ぷぷっ、恥ずかしーい!」

地面に倒れこんだまま状態を起こして銃弾をジェミシスへと打ち込んだにこは、立ち上がると挑発するようにそう言って両手の銃を構える。

にこ「ほら、あんたが見なきゃいけないのはこっちでしょ?──アイドルのステージでよそ見なんて、許さないわよ?」

525 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:30:03 ID:I7O/z9eY
「調子に…乗らないで!」

一気ににことの距離を詰めたジェミシスは苛立ちをぶつけるようにしてにこへと連続で蹴りを放つ。

にこ「だっ、ちょっ、待っ…!」

にこはばたばたと動き回りながら、ジェミシスの攻撃を紙一重の所でかわしていく。

にこ「ラブリーバレット!」

ジェミシスの回し蹴りを地面へと飛び込むようにしてかわすと、にこは上体をひねって銃口を向けるとピンク色の光弾をジェミシスへとばら撒く。

「こんなの…!クラッシュウェイブ!」

ジェミシスがその場で蹴りを放つとそれは衝撃波となって自身へ迫る光弾を飲み込んでいく。

「まともに私に当たる弾も少ない…やっぱりただの雑魚…」

にこ「そりゃあ私はアイドルだし、ねっ!」

ジェミシスが放った衝撃波をかわすと、距離を取りながらにこは外れるのにも構わず光弾をばら撒いていく。

526 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:30:28 ID:I7O/z9eY
「だから食らわないって、言ってる…!」

にこ「キープアウトリボン!」

にこの放つ光弾をかわしてジェミシスはにことの距離を詰めようとするが、宙に浮いた光弾同士を繋ぐようにしてピンク色のテープが張られ、ジェミシスの動きを妨げる。

「っ…!邪魔!」

にこ「……」

鬱陶し気にジェミシスがそのテープを引きちぎる間に、尚もにこはジェミシスから距離を取りながら光弾をばら撒き続ける。

「こんな小細工ばかりで勝てると思って…!」

にこ「別に思ってないわよ?キープアウトリボン!」

距離を詰めて真っすぐに放たれたミドルキックを身をよじってかわし、後ろへと大きく飛びずさりながらジェミシスとの間に幾重にもピンクのテープを張っていく。

527 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:31:42 ID:I7O/z9eY
「このっ…クラッシュウェイブ!時間稼ぎのつもり──」

蹴りと共に衝撃波を放ちテープを引きちぎりながらそこまで口にし、はっとしたように立ち止まってジェミシスは辺りを見回す。

「人が、いない…!?」

にこ「…アイドルとしてオーディエンスが少ないのはやる気削がれるけど、みんなの安全の方が大事だしね?」

二人の戦いを見守っていたはずの人達の姿は消え、その場にはにことジェミシスしか残っていない。
にこはジェミシスから逃げ回っている間に、人々の近くへと光弾を移動させ、それを使って逃げ道へと誘導していたのだった。

「ふざけないでっ…!」

食いしばった歯の間から低くそう吐き出すと、一瞬でジェミシスはにこの眼前にまで躍り出る。

にこ(速っ…!けどこれはフェイント…!)

にこは直感だけで正面から視線を背けると右へ90°体を反転、腕をクロスさせて防御態勢を取る。その目の前にはジェミシスの姿。

にこ(ビンゴっ…!)

衝撃に備えてにこが顔をしかめたその瞬間、にこの視界からジェミシスの姿が消える。

「はっ!」

にこ「あがっ…!」

ジェミシスは宙返りをするようにしてにこの頭上を飛び越えて背後に回ると、がら空きの体へと蹴りを叩き込む。

528 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:32:19 ID:I7O/z9eY
にこ「がっ…げほっ…!」

「消えて…ドライブアロー!」

高く飛び上がったジェミシスの足のアーマーは変形して槍のようになり、空中で加速しながらにこへとドロップキックのように突っ込んでいく。

にこ(まずい…弾も近くにない…!)

地面へと倒れたにこは立ち上がる事すら間に合わず、襲ってくであろう痛みに固く目を瞑る。

にこ「っ…!」

黒い視界の中、にこの間近で地面をこする音が聞こえる。

「ぜええぇぇい!」

「ぐっ…!」

次に聞こえたのは威勢のいい気合のこもった大声、そして金属音。

にこ「……?」

にこが恐る恐る目を開くと、まず視界に飛び込んできたのは地面へと落とされた巨大な錨、そして離れた場所に油断なく構えるジェミシス。錨を握りしめてにこへと手を差し出しているのは、海軍の制服のようなアーマーに身を包んだヒーロー。

曜「ギリギリセーフ…!無事だった?」


「キャプテンアンカー…!」

529 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:33:02 ID:I7O/z9eY
曜「えーっと…プリティスマイル、で合ってたっけ?」

にこ「ええ、そうよ…って、もしかしてキャプテンアンカーって私のファンだったり!?」

曜「え!?い、いや、そういうわけじゃ──」

にこの視線から逃げるように曜は目を泳がせるが、そのまなざしが瞬時に真剣なものとなる。

曜「…っと!」

「っ!」

飛び込むようにしてジェミシスは蹴りを放つが、それが届く一瞬前に曜は手に銛を作り出してその蹴りを受け流す。

「ぜやっ!」

曜「はああっ!」

ジェミシスは外した蹴りが地面に突き刺さるのにも構わずに体を捻り回し蹴りを叩き込むが、曜はそれに合わせて銛の柄をぶつけて受け止める。

にこ「てえいっ!」

「ふんっ…!」

力が拮抗して動きが止まった一瞬の隙を突いてにこは銃弾を撃ち込んでいくが、ジェミシスは宙返りをするようにそれをかわして二人から距離を取る。

530 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:33:35 ID:I7O/z9eY
「クラッシュウェイブ!」

曜「タイダルハープーン!」

着地すると同時にジェミシスが放った衝撃波を曜は飛沫を纏った銛で打ち払うと、その勢いを止めぬまま煙が立ち込める中を衝撃波が放たれた方向へと投げつける。

「クラッシュアクス!」

しかしジェミシスが煙を破って現れたのは正面ではなく、二人の真横。振り上げた踵を一気に叩き下ろす。

曜「うわっ…!」

にこ「ぐえっ…!」

二人とも咄嗟にその場から飛びのき直撃は免れたものの、その衝撃に地面は砕け、二人は吹き飛ばされてしまう。

曜「まだ──」

「遅い…!」

曜は飛ばされつつも体勢を整えて再び銛を手に取るも、一瞬にしてその背後に回ったジェミシスは蹴りを放つために足を振り上げる。

531 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:34:02 ID:I7O/z9eY
にこ「待ちなさいよねっ…!」

曜とは違い地面に投げ出されたままのにこは身をよじって銃口をジェミシスへと向けて弾丸を乱射する。

「邪魔…!クラッシュウェイブ!」

にこ「げえっ…!」

ジェミシスが瞬時に体を捻り衝撃波を放つと、それはジェミシスを襲う弾丸ごとにこを飲み込む。

曜「っ…!」

ジェミシスに攻撃を仕掛けるかにこの安全を確保するか、曜の一瞬の迷い、その隙を突いてジェミシスは曜へと回し蹴りを叩き込む。

曜「がはっ…!」

曜が投げ出された先には片腕で体を起こし、銃を構えるにこの姿。

にこ「伏せてなさい!プリティバレット!」

にこは二人の周囲に半円を描くようにして地面へと光弾を放ち、周囲の空間は巻き上がった粉塵で満たされる。

532 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:34:51 ID:I7O/z9eY
にこ「やっばいわねあいつ…!」

曜「うん、速すぎて全然追えないよ…!えっと…」

にこ「あー…うん、私の事はにこでいいわ、いちいちプリティスマイルって呼ぶのもあれだろうし」

曜の視線に気づいたにこは身体を起こしながら言葉を返す。

曜「にこちゃんだね?おっけー!」

にこ「ちゃんってどういうことよ!絶対あんたより年上よ!?」

曜「ええ嘘!?だって私よりも背低──」

にこ「小柄で愛らしいと言いなさい!…それで、あんたは?」

曜「あ、えっと、私は…」

言い淀む曜を見てにこは一つため息を吐き出すと、そのまま口を開く。

にこ「…ま、別に無理には聞かないわよ、その調子だと隠してるんでしょ?」

曜「あはは、ばれちゃってるや…うん、隠してると言えば隠してるんだけど、どうしてもってわけじゃないから大丈夫!私は曜って呼んで!」

533 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:35:22 ID:I7O/z9eY
「はあっ!」

にこ「とりあえず今日この場ではそう呼ぶわね!来るわよ!」

ジェミシスが粉塵を突っ切って姿を見せると同時ににこはそう叫び、曜とにこは別々の方向へと飛びのく。

にこ「プリティバレット!」

飛び退きながらにこは身体を捻りジェミシスへと銃口を向けると光弾を一気にばら撒く。

「しつこい…!クラッシュウェイブ!」

にこ「うげっ!あっぶな!」

光弾を飲み込み迫る衝撃波を前に、にこは銃口からピンク色のロープを伸ばして逆バンジーのようにしてそれをかわす。

534 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:35:51 ID:I7O/z9eY
にこ「やっぱあの程度じゃ歯が立たない──」

「はあっ!」

にこがぼやきながら地面に着地すると、瞬時にジェミシスは距離を詰めて足を振り上げる。

にこ「嘘っ…!」

曜「させないっ!」

ジェミシスとにこの間に飛び込んだ曜はジェミシスの放つ回し蹴りを銛で受け止める。

曜「ネイヴァルファイア!」

「くっ…!」

ジェミシスの動きが止まった瞬間、曜はアーマーから砲身を展開、一斉に射撃を開始する。

曜「まだまだっ!」

曜は砲撃を正面から食らい後方へと吹き飛ばされたジェミシスへと距離を詰め、手にした銛を振り上げて追撃を仕掛ける。

535 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:36:28 ID:I7O/z9eY
曜「はあっ!」

「遅い…!」

曜は銛を一瞬で三度突き入れるも、ジェミシスは顔色一つ変えずにそれを蹴りで跳ね除け、その場から姿を消す。

曜「っ…後ろ!」

曜は勘だけを頼りに銛を背負うようにして背中へと回すと、ちょうど曜の背後に回ったジェミシスの蹴りをそれで受け止める。

曜「せやあっ!」

受け止めたジェミシスの足を背中で押し出すようにして跳ね上げると、曜はその場で回転するようにして銛を叩き込もうとする。

「…それで私に当たると思ってる?」

しかしジェミシスは身軽にそれを高跳びのようにしてかわすと曜から離れた位置へと着地、そしてまたしても瞬時に移動し、曜はその姿を見失う。

曜「今度は…!」

体の向きを反転させて銛を構えるも、曜の視界にジェミシスの姿は映らない。

「クラッシュアクス!」

曜「がっ…!?」

ジェミシスは曜の頭上に現れるとエネルギーの満ちた踵落としを叩き込み、曜はその衝撃に吹き飛ばされてしまう。

536 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:37:06 ID:I7O/z9eY
曜(一撃一撃が重いわけじゃないからいいけど、このスピードについていけなきゃ勝ち目もない…!)

必死に踏ん張り、銛を構え直す曜へとジェミシスは一気に距離を詰めて連続で蹴りを放つ。

曜(あれを使えば絶対勝てるけど…今ここで使うのは…)

「考え事なんて…バカにしてるの…!?」

曜「っ…!」

ひと際重い一撃を銛で受け止めると、曜は再びジェミシスの姿を見失ってしまう。

「消えて…!」

にこ「はーいそこまで!」

曜の背後へと回り足を振り上げたジェミシスは、いつの間にか距離を詰めたにこが放つ銃弾に撃ち抜かれる。

「この…!雑魚のくせに…!」

にこ「あれあれー?その弱い相手の攻撃を食らっちゃって恥ずかしくないのかなー?」

「っ…!」

歯を噛みしめるジェミシスにふざけたように言葉を返すと、ジェミシスの顔は怒りに歪む。

537 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:37:53 ID:I7O/z9eY
「殺す!」

にこ「はいはい頑張ってねー?」

一直線に飛び蹴りを放つジェミシスに手を振りながらにこは離れた場所にある光弾へと銃口を向けてロープを伸ばし、ジェミシスとすれ違うようにしてその場から離れる。

曜「わわっ!」

その途中、地面から起き上がろうとした曜の事を拾い上げながら少し離れた場所へと着地する。

にこ「あれあれー?自慢のキックもよけられちゃったねー?もしかして、ジェミシスって…そんなに強くないとかー!?」

「ふざけるな!!」

にこ「はーい残念」

足元の地面を抉るほどの力でジェミシスは踏み出し、二人との距離を詰めるが、にこは一瞬早く銃口からロープを伸ばしてその場から離れる。

曜「ちょ、ちょっとにこちゃん、そんな挑発して大丈夫なの!?めっちゃ怒ってるけど…!」

にこ「怒らせてんのよ!ああいうプライド高い奴はどーせ怒れば単純な攻撃しかしてこなくなるわ!」

焦る曜へにこが言葉を返すと、二人がさっきまでいた場所では今までよりも格段に派手な破壊音が響く。

にこ「…そりゃ、ちょっとは力が強くなったりはするかもだけど?」

曜「本当に大丈夫なの!?」

538 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:38:30 ID:I7O/z9eY
にこ「よっと!」

曜「ええ!?」

にこは空中を移動する最中に曜の事を地面に放り出し、自身は離れたところに着地する。

にこ「大丈夫よ!どーせ今のあいつ──」

「はああっ!!」

にこ「私しか狙ってこないだろうし」

一瞬でにこに接近したジェミシスの蹴りをにこはなんなくかわして弾丸を打ち込んでいく。

「なめないでっ!!」

吠えると共に弾丸を目にもとまらぬ蹴りで撃ち落とすと、ジェミシスは再び加速する。

にこ「っ…!」

真っすぐ踏み出したジェミシスの姿を捉えたにこは正面に向けて銃を構える。

(わざわざ正面なんて狙わない…!)

しかしジェミシスは途中で地面を蹴り出し、にこの背後へと回り足を振り上げる。

539 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:39:05 ID:I7O/z9eY
にこ「はーい、キープアウトリボン!」

しかしにこは周囲に浮いた光弾を使って自身とジェミシスの間に幾重にもピンク色のテープを張っていき、ジェミシスの動きを止める。

「このっ…!」

にこ「困りますぅ〜お触りはめっ、ですよお?」

「っ…!!」

あざといと言えるほどの仕草で振り返るにこの姿にジェミシスは苛立ちを隠そうともせずに体に絡みつくテープを引きちぎっていく。

「殺してや──」

曜「タイダルハープーン!」

にこへと踏み出そうとしたジェミシスの背後へと回った曜は飛沫を纏った銛をジェミシスの体へと叩き込む。

「がはっ…!」

曜「させないよ…!」

540 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:39:38 ID:I7O/z9eY
「弱いくせにちょろちょろと…!」

吹き飛ばされつつも空中で体勢を立て直して着地したジェミシスは曜を睨み付けると一気に距離を詰める。

曜(素早いって思ってたけど、基本的に行動はワンパターンなんだ…!)

正面からの怒涛の蹴りを曜は銛で防ぎ、間に合わないものは身体をかするのも構わずに最小限の動きでかわしていく。

「っ…!」

曜(消えた…!なら次は…)

曜は身体を180°反転させて銛を構える、が、そこにジェミシスの姿はない。

「はあっ!!」

ジェミシスが現れたのは曜の頭上、足を振り上げて踵落としを叩き込む。

曜「ぐうっ…!」

曜は必死に踏ん張り、体勢を立て直して顔を上げる。

「結局私の動きにはついてこれない…!」

541 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:39:55 ID:I7O/z9eY
曜(そう、あそこで仕掛けてくるなら踵落とししかない…!だからそれで仕留められなかったらとどめは絶対に──)

「消えてっ!!」

曜(背後に回ってからの回し蹴りっ!)

ジェミシスが回し蹴りを放つよりも早く、曜は振り返ることもせずに真後ろへと銛を突き入れる。

「なっ…!」

曜「ぜええぇぇい!」

さらに曜はジェミシスの体を捕らえたまま銛を真上へと振り上げ、ジェミシスを宙へと投げ飛ばす。

「ふざけ──」

にこ「スポットレーザー!」

空中で体勢を立て直そうとしたジェミシスだったが、にこの声と共に周囲に漂う光弾から一斉に光線が放たれ、ジェミシスの体を貫く。

「がっ…!」

542 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:40:13 ID:I7O/z9eY
にこ「曜!もう一発!」

曜「分かってる!セイリングヴォーテックス!」

曜が右手首の操舵輪を指で弾くと、それはみるみる内に巨大化していき、その回転は唸りを上げて激しくなる。

曜「てりゃあああぁぁ!!」

ジェミシスの浮く方向へと曜は踏み出しながら、曜は身体を捻り、180°回転、そしてその勢いのままに右腕を振り抜いて唸りを上げて回転する操舵輪を放つ。

「ク、クラッシュウェイブ!」

ジェミシスが放った衝撃波は一瞬操舵輪とせめぎ合うが、次の瞬間にはかき消され、そのままジェミシスの体へとめり込む。

「が、はっ…!」

ジェミシスは大きく吹き飛ばされ、体勢を立て直すこともできずに地面へと投げ出される。

543 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:40:33 ID:I7O/z9eY
曜「ふう…お疲れ…」

にこ「お疲れ…そんじゃ、まあとっ捕まえておきますか…」

体の疲労感とダメージにため息をついた二人は、捕まえるためにジェミシスへと向き直る。

「はあっ…はあっ…!この…許さない…!」

曜「っ…!」

にこ「嘘でしょ…?」

二人の視界に入ったのは、傷だらけになりながらも立ち上がり二人を睨み付けるジェミシスの姿だった。

「こんな…こんな奴らに…ヒーローなんかに──」

『理亞?』

「っ…!姉様…!?」

544 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:40:52 ID:I7O/z9eY
曜「ねえ、さま…?」

にこ「まさか、味方と通信…!?」

動揺したように口を開いたジェミシスの姿に、にこは咄嗟に銃口を向けるも、ジェミシスはダメージを負った体にも関わらず大きく跳躍して建物の屋上へと立つ。

『バイタル状態が乱れています、何かありましたか?』

「へ、平気!ただ、ヒーローと交戦しただけ…!」

『そうですか…ですがその状態では継戦は難しいはず、撤退してください』

「そんなことない!私はまだ──」

『理亞、こちらの目的はあと少しです…あなたに万が一のことがあってはいけません…それに、今回はあの方たちも出ています』

「…分かった、帰還する」

『ええ、戻ってゆっくり休んで』

ジェミシスが話し終えると同時に、曜とにこはジェミシスが立つ建物の隣の屋上へとたどり着き、武器を構える。

545 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:41:07 ID:I7O/z9eY
「あんたたちヒーローなんか、認めない…!ヒーローじゃ何も救えない…!」

曜「待っ──」

曜が動く前にジェミシスは屋上の床を削るように砕き、粉塵を発生させる。

にこ「逃げられた、わね…」

その煙が晴れた時にはすでにジェミシスの姿は無くなっていた。

曜「かなりダメージあったと思ったけど、あれだけ動けるんだと、捕まえられなかったかもね…」

にこ「ま、撃退したってことなんだしいいでしょ!もー私これ以上戦えって言われても無理よ…」

曜「あはは、そうだよね…けど、にこちゃんがいなかったら絶対勝ててなかったよ…ほんとありがとね!」

にこ「いいのよ…っていうか、たまたまこっちの作戦にかかってくれただけだしね…」

屋上で大の字になるにこを見てクスクスと笑い、曜は気を取り直したように一度大きく深呼吸をする。

曜「さて、と…私はもう少し周りを見てこないとかな!」

にこ「はあ…?さすがに無茶でしょ…休んだ方がいいと思うけど…」

曜「ううん、平気!…それに、ヒーローはみんなを守らないと、だしね」

546 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:41:29 ID:I7O/z9eY
にこ「そ、なら止めないわ…けど、私はもうギブ、感情エネルギーがもうすっからかん」

曜「戦う用のシステムじゃないっぽいもんね…うん、にこちゃんはアイドルなんだから、避難所でみんなを元気付けてあげるのも仕事だよ!」

にこ「よく分かってるじゃない!…それじゃ、あんたも無事でいなさいよ?」

曜「もちろんであります!それじゃあまたね!」

にこ「ええ!今度私のライブ見に来てくれてもいいんだからね!」

曜「あっはは!考えとくね!」

からりと笑って手を振りながら、曜は建物から飛び降りて姿を消す。

にこ「…さてと、私も移動しますか」

重い体をゆっくりと起こすと、にこもその場から移動を始めた。

547 ◆JaenRCKSyA:2018/10/27(土) 19:42:06 ID:I7O/z9eY
お待たせしました(土下座)
ちまちま更新していきます…

548名無しさん@転載は禁止:2018/10/28(日) 00:29:08 ID:TQPeWIPY
乙乙
曜にこは相性良さそう

549名無しさん@転載は禁止:2018/10/28(日) 11:08:36 ID:b1OCI3A.
乙です!待ってますた!
理亜ちゃんこっちに居たのか

556名無しさん@転載は禁止:2018/10/29(月) 07:58:05 ID:GLO333wk
乙 久しぶりすなあ!!

557名無しさん@転載は禁止:2018/10/30(火) 22:28:42 ID:d/vvCmGM
乙です!待ってました!!

558 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 17:14:45 ID:T8i46bsw
なんだかありがとうございます
今はスポットが当たっていないキャラとかもいますがなるべくみんなに見せ場を作ってあげたいと思っているので…

559 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 17:15:20 ID:T8i46bsw
海未「……」

海未は建物の間に身をひそめながら、ダイヤル音の響くスマートフォンを耳へと押し当てていた。

海未「出ない…ですが、ダイヤル音が鳴るということは少なくとも携帯は無事と考えていいはずですよね…」

電話の相手はいまだに出会えていない、この騒動に巻き込まれたであろう幼馴染へのものであり、海未は祈るような気持ちで穂乃果の無事を信じる。

海未「ふう…怪獣と遭遇することもだんだんと少なくなってきていますし、何事も無ければいいのですが…」

海未がそう呟いた時、手にしていたスマートフォンから小さく着信音が鳴り響く。画面に表示されたのは『星空凛』の文字。

海未「凛…!──もしもし、凛、どうかしましたか?」

凛『あ、海未ちゃん!よかったあ、話し中だったから何かあったのかと思ったにゃ…』

海未「ええ、少し…友人の事を探していまして…」

凛『えーっ!そうだったの!?言ってくれたら探したのに!』

海未「いえ、その気持ちだけでもうれしいです──一応聞いておきましょうか…明るめの茶色の髪をリボンでサイドテールにしている、私と同い年の子なのですが…」

聞こえてくる大きな声に耳を少し携帯から離して笑うと、海未は凛へと穂乃果の特徴を伝えると、少しの間、凛の唸り声だけが聞こえてくる。

凛『うーん…多分見てない、と、思うな…』

560 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 17:20:24 ID:T8i46bsw
海未「そうですか…まあ、もしかしたらすでに避難所に行っているということもありますからね」

申し訳なさそうに言う凛に向けて、そして自分に言い聞かせるようにして海未はそう口にする。

海未「それで、凛は何か私に話があったから連絡をしてきたのではないのですか?」

凛『あ、そうそう!凛、あと少しで変身できなくなっちゃうから避難所に行くね、って言おうとしたんだった!』

海未は以前にも聞いた、凛の変身の時間制限を思い出す。

海未「そうでしたね…分かりました、避難所に行くまでも気を付けてくださいね?」

凛『分かってるにゃ!それにもう怪獣も減ってきたみたいだしへーきへーき!』

海未「まったく…そうやって気を緩めないようにと──」

海未がそう言いかけると、電話の向こうから微かな爆発音と凛が息をのむ音が響いてくる。

凛『嘘、待って──』

海未「凛!?どうしたのですか!?」

張り詰めた凛の声と、それに続く先ほどよりも大きな爆発音。そしてその音は直接海未の耳にも遠くから届いてくる。

561 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 17:26:51 ID:T8i46bsw
海未「あっちの方、ですね…!凛!今の詳しい場所…いえ、近くの建物を!凛!?」

音の聞こえてきた方角へと走り出しながら海未はスマートフォンへと声をあげる。しかし聞こえてくるのは風を切る音と小さな凛の息を切らした音。

海未「それどころではないということですか…!」

海未は耳を澄ませながら必死に足を動かして音の出所へと向かう。しかし海未が走る先に黒い霧が立ち込め、小型の怪獣が何体も姿を現す。

海未「あなた方に構っている暇はない…!閃刃・裂空!」

海未は足を止めずに斬撃を放つと、道に残った怪獣を残らず駆け抜けざまに撫で斬ってその場を後にする。

海未(怪獣は確かに減った…しかし私たちを襲ってくるのは怪獣だけではない…)

今までに自身が戦ったヒーローと怪人の事を思い返して凛の無事を祈りながら、もうすぐ近くにまで迫った爆発音の元へと走る。

海未「もうすぐそこ──っ!凛!」

路地へと突き当たる角、その建物の影から少し前に別れた明るい茶髪を揺らす姿が現れる。

562 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 17:40:43 ID:T8i46bsw
凛「……」

海未「凛!よかった!無事──」

しかし、凛からは何の返事もなく、その体は前のめりに地面へと倒れこんでしまう。

海未「凛!何が…」

凛「ご、めん…海未ちゃ…」

海未がその体を抱き留めると、凛は弱々しく体を起こすと、小さく返事を漏らす。そして凛を抱き留めた海未の手には、ぬるりと生暖かい液体の感触があった。

海未「り、凛…この傷…!」

「なるほど…あなたの仲間と言うことですか…」

傷ついた凛の体を確かめる間もなく、凛が歩いてきたであろう方向から聞き覚えのある声が響く。

563 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 17:46:35 ID:T8i46bsw
海未「あなたがやったのですか…ジュエル…!」

ダイヤ「ええ、怪人は全て仕留める…当然でしょう…?」

レイピアを構え、ゆっくりと海未へと向かって歩いてくるのは、白銀の鎧に身を包んだヒーロー、珠玉騎士ジュエル。

凛「海未、ちゃん…」

海未「歩けますか?凛はなるべくここから離れてください…ここは私が食い止めます」

凛「だけど…」

海未「大丈夫、まかせてください」

凛を庇うようにしてジュエルへと向き直り、海未はまっすぐに刀を構える。

ダイヤ「逃がすとでも…!」

海未「閃刃・裂空!」

ビルの外壁に手を付きながらゆっくり歩き始めた凛を見てダイヤは飛び出そうとするも、それよりも一瞬早く海未の斬撃がダイヤの足元に突き刺さる。

564 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 17:50:26 ID:T8i46bsw
ダイヤ「忌々しい…あなたもここで葬り去るしかないようですね…!」

海未「やれるものなら…!」

二人は同時に飛び出してその距離を詰めると、お互いの武器を交わらせる。

ダイヤ「ぜええぇぇい!」

海未「はああぁぁっ!」

一瞬の内に三度付き入れられた刺突を海未は全て火花へと変え、ダイヤが体の近くまで引き寄せようとしたレイピアを大きく打ち払う。

ダイヤ「くっ…!」

海未「はあっ!」

海未は返す刀で開いた体へと向けて斜めに刀を振り下ろす。しかしダイヤはその振り下ろされる腕を掴むと、懐に飛び込むようにして海未を自身の体で跳ね上げるようにして投げ飛ばす。

海未「っ…!」

ダイヤ「吹き荒ぶは翠の薫風!ウィンディエメラルド!」

着地した海未へと間髪入れずにダイヤはレイピアを振るい、暴風が海未の体を叩きつける。

565 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 17:53:33 ID:T8i46bsw
ダイヤ「星の瞬きに散りなさい!スターラピスラズリ!」

海未「くっ…!」

風に吹き飛ばされ、膝をついた海未を狙ってダイヤはレイピアを掲げて白い無数の光弾を放つ。

海未(相殺…いや、この程度なら…!)

海未は距離を隔てた先にいるダイヤを見据え、刀を鞘へと納めると膝をついた状態から飛び出すように駆け出して眼前に迫る光弾をかわす。

ダイヤ「このっ、ちょこまかと…!」

ダイヤは光弾の射線を変えていき海未を捕らえようとするものの、直線的にしか放たれないその攻撃を海未は紙一重でかわし続け、ダイヤへと迫る。

海未「…っ!」

ダイヤ「くっ…猛るは大地の怒り!バルジトパーズ!」

海未をすぐ目の前にまで引きつけたその瞬間、ダイヤはレイピアを地面へと突き立てて海未の足元から赤茶けた大岩を突き出させる。

566 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 17:56:58 ID:T8i46bsw
ダイヤ「なっ、どこへ…!」

ダイヤが見上げた先には宙へと投げ出されたはずの海未の姿は無く、ダイヤは視線をさ迷わせる。

海未「っ…!」

海未はダイヤが技を放つ瞬間、スライディングをするようにしてその場から逃れ、ダイヤの背後へ回り鞘に納められた刀の柄を握りしめる。

ダイヤ「後ろっ…!燃やすは我が──」

海未「遅い…!冥凶死水!」

振り返りレイピアを振るおうとしたダイヤだったが、海未はその隙を逃さず鞘に蓄えられた漆黒のエネルギーと共に刀を抜き放つ。

海未「はああぁぁっ!」

ダイヤ「ぐっ…がはっ…!」

防ぐ事もできず、ダイヤは黒の奔流の直撃ををまともに食らい、勢いよく地面へと投げ出される。

567 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 17:58:35 ID:T8i46bsw
海未「……」

ダイヤ「はあっ…はあっ…!許しません…怪人などが…私を破るなど…」

傷ついた体で海未を睨み付けながら、ダイヤは地面に倒れ伏したまま口を開く。それはもはや呪いのようで、その体からは薄く黒い霧が立ち上り、海未の刀へと吸い込まれていく。

海未(これは、負の感情エネルギー…怪獣が現れる時と同じ…)

海未は憎悪に満ちた視線を送るダイヤの姿を見つめながら歩み寄り、海未は言葉を紡ぐ。

海未「あなたは…なぜそこまで怪人を憎むのですか?」

ダイヤ「何を…怪人は消え去るべき存在…そこに理由など──」

海未「では…あなたは、ヒーローになった時から、そう考えていた、と?」

ダイヤ「っ…」

憎々し気に言葉を絞り出していたダイヤは、海未がそう言った瞬間、その一瞬だけ、表情を変える。

海未「あなたがヒーローになった時…ヒーローを目指したその時、どんな存在を目指していたのか──あなたはそれをもう一度見直すべきです」

海未はそう言うと、それ以上何も言わずにダイヤに背を向けて走り出し、姿を消す。

ダイヤ「私が、ヒーローを目指したのは…」

ダイヤは、海未の事を追うそぶりも見せず放心したようにその場に座り込むと、そう呟いた。

568 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 18:05:55 ID:T8i46bsw
海未(あの体ではまだ遠くまでは行っていないはず…!無事でいてください、凛…!)

海未は凛が歩いて行った先へと走り、建物の外壁と地面にわずかに残る血痕を頼りに凛の姿を探す。

海未「あれは…!」

道の先にようやくみつけた凛はうつぶせに地面へと倒れ伏しており、その傍らには薄緑色のスーツを身に纏ったヒーローが立ち尽くしていた。

海未「凛…!どきなさい!」

海未は刀を抜き放つと声をあげながら加速して凛のそばに立つヒーローへと駆ける。

「っ…!やめて…!!来ないで…!!」

そのヒーローは海未に気付くと、まるで凛を庇うようにして海未の目の前に立つと、必死に震えた声を絞り出す。

海未「っ…!?」

「もう、やめて…!凛ちゃんが…死んじゃう…」

569 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 18:08:29 ID:T8i46bsw
海未「花陽…もしかして、小泉、花陽ですか…?」

それは、ただの勘、そして賭けに近いものだった。しかしそのヒーローのおびえたような姿、そして凛を守ろうとする姿を見て、海未は自身の直感を信じて、そう声をかけていた。

「だ、誰…?なんで、私の、こと…」

海未「私です…!海未…園田海未です!」

海未はそう言うと同時に変身を解き、自身の姿をそのヒーローへとさらす。

「う、うそ…海未先輩…?」

そう言うと、ヒーローは──花陽は、自分の変身も解除して姿をさらすと、こわごわと海未の事を見つめる。

海未「先輩はいらない、と言ったはずですよ?…花陽は、ヒーローだったのですね」

花陽「あ、えっと…うん、そうなの…って言っても、治療専門なんだけど…そっか、凛ちゃんが前に言ってた怪人のお友達って、海未ちゃんの事だったんだね…?」

570 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 18:13:13 ID:T8i46bsw
海未「そういう事になります──治療専門のヒーロー、と言いましたね?では、凛の治療は…」

花陽「応急処置はしたんだけど…傷が深いから、今の私の感情エネルギーだと治し切れなくて…」

今にも涙をこぼしそうな顔で花陽は言葉を繋ぐ。

花陽「あの、凛ちゃんってどうして、こんな…」

海未「ええ、ジュエルに遭遇してしまって…一応、ジュエルは私が食い止めたので追ってくる心配はないと思うのですが…」

自分がもっと早くに凛と合流できていれば、と海未は悔やむが、すぐに気を取り直して今どうするべきかを考え始める。

海未「…とにかく、凛を安全な場所まで連れていくのが先決ですね…ここからなら学校が近いですね」

花陽「うん、そうだね…!変身…!」

海未の言葉に返事を返し、花陽は再びヒーローの姿へと変身する。

海未「花陽、凛の事を背負ってもらっていいですか?…もし何かあった時には、私が戦います」

花陽「それは大丈夫…だけど、海未ちゃんが戦うってことは…」

海未「気にしなくて大丈夫、いざとなったら、花陽は私から逃げているふりをすればいいんです…もちろん、何事もなく避難所まで行けるに越したことは無いのですが」

571 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 18:15:20 ID:T8i46bsw
花陽「…うん、分かった」

海未の事を伺うように視線をさ迷わせていた花陽だったが、凛に一瞬目を向けると、迷いを振り切るように返事をして、凛を背中に背負う。

海未「よし、それでは行きましょう…!」

海未と花陽は互いに一度頷くと、学校を目指して走り始める。当然変身をした花陽は凛を背負っているとは言っても、生身の海未よりも速く、少しスピードを落としながら。

花陽「海未ちゃんはこのスピードで大丈夫…?」

海未「ええ、問題ありません…むしろ、合わさせてしまって申し訳ありません」

花陽「ううん、そんなにスピード落としてるわけじゃないから…」

むしろ花陽としては海未が生身でそこまでのスピードで走れる事に驚いていたが、海未の張り詰めた声が花陽の思考を中断させる。

海未「花陽!次の角を右にっ!」

花陽「は、はいっ…!」

海未の視界に入ったのは少し先にうっすらと立ち込める黒い霧。怪獣の発生を察知した海はそれをかわすように学校までのルートを頭の中に思い浮かべる。

572 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 18:17:40 ID:T8i46bsw
海未「はっ…はっ…」

花陽「もう少し…!待ってて、凛ちゃん…!」

学校はすでに目の前、しかし海未達と学校の間に暗く霧が立ち込めると、次の瞬間には何体もの怪獣が姿を現す。

花陽「うそ…」

海未「ここにきて、怪獣ですか…!」

目の前の障害に海未は鋭く目を細めると、花陽に向かって口を開く。

海未「花陽、さっき言った通りここは私に任せて、凛と一緒に学校の中へ」

花陽「け、けどそれだと海未ちゃんが…!」

海未「大丈夫、この程度の怪獣になど負けはしません!片付けたら頃合いを見計らってまた戻ってきます」

不安そうな花陽へと笑顔を見せると、海未はすぐに怪獣を睨みつけて足を踏み出す。

花陽「海未ちゃん!」

海未「花陽!行きなさい!…さあ、こっちです!」

海未は大きく声を上げると怪獣を引きつけるように走り出し、その場にいる怪獣をおびき寄せてその場から去っていく。

花陽「ごめんね…ありがとう、海未ちゃん…!」

573 ◆JaenRCKSyA:2018/11/10(土) 18:19:58 ID:T8i46bsw
ここまで
ほんと現時点でのダイヤさんは…ごめんなさい

574名無しさん@転載は禁止:2018/11/10(土) 22:53:03 ID:alCKTac6
乙です
このSなダイヤさんも結構あr…ゲフンゲフン

575名無しさん@転載は禁止:2018/11/17(土) 13:27:14 ID:byw9Xjuo
いいね

576 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 18:52:32 ID:ZBbIxkpY
善子「はあっ…はあっ…!」

善子はジェミシスの変幻自在の攻撃に、ひたすら逃げ回りながら息を整えていた。

善子「きっつ…けどとりあえず逃げ切れないことはなさそうね…」

いくつも傷を負ってはいるものの、いまだに致命的なものを食らわずにいる善子はある程度冷静さを失わずに今の状況を分析する。

善子(逃げ切れるって言っても、この工事現場から出ようとすると思いっきり邪魔はされるし…反撃しようにも相手の場所が分かんない…けどたぶんもう少しで──)

「まだ余裕があるようですね…!」

善子「っ…!」

声が響いたのは頭上。善子は咄嗟の判断で大鎌の柄を真上に構えて振り下ろされる短剣を受け止める。

善子「こ、のっ…!」

さらに善子はそこから体のひねりと共に大鎌を大きく振って短剣を跳ね飛ばし、さらにその場で回転をするようにして三日月状の刃を叩き込もうとする。

577 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 19:00:17 ID:ZBbIxkpY
「ふふっ…」

しかしジェミシスはその場でバック宙をするようにして大鎌を飛び越えると、空中で短剣を振りかぶる。

「悪の華!」

善子「っ…ピアシングシェイド!」

青白い光を纏い放たれた短剣を善子は地面から生み出した黒い棘で相殺する。

善子「ディムグルーム!」

善子が間髪入れずにその場で鎌を大きく振るとそこから黒い霧が発生し、辺り一面を薄暗い闇へと閉ざす。

「この程度で私が見失うと──」

善子「悪いけど、少し時間を稼がせてもらうわねっ…」

その霧は目を凝らせば先が見通せるほどの薄さであり、本来ならジェミシスが善子の姿を見失うことなどあり得ない。
しかし善子の姿はその薄暗い霧の中へと溶け込むように消えていく。

「なるほど…暗闇で発揮される迷彩効果ですか…」

ジェミシスは指を口元へと近付けて数秒だけ考えるそぶりを見せると、冷たく微笑を浮かべて地面を蹴り出す。

578 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 19:02:58 ID:ZBbIxkpY
善子(本当なら今さっさとここから逃げられればいいんだけど…)

善子は工事現場の出口へと走るものの、後ろから風を切る音が聞こえると足を止めずに即座に走る方向を変える。

善子(さっき言った通り、時間稼ぎね…!)

善子「ピアシングシェイド…!」

善子は走りながら鎌の先端を地面へと突き刺し、自分とは離れた場所へと漆黒の棘を突き出させる。

善子(こんな子供だまし──)

善子が鎌を地面から引き抜くと同時、いくつもの短剣が善子めがけて飛来する。

善子「そりゃひっかかってくれないわよね…!」

善子は身体を反転させると共に大鎌を振り抜き、自身へと迫る短剣を弾き飛ばす。

「足が止まれば、こっちのものです…!」

武器を振り切った善子の背後、体勢を低くしたジェミシスが手に持った短剣を善子の背中へと振り抜く。

善子「げっ…!」

善子は短剣が体を掠める感覚を感じながら地面へと飛び込むようにしてジェミシスから距離を取ろうとする。


善子「……!」

579 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 19:08:38 ID:ZBbIxkpY
立ち上がり、ジェミシスの方へと振り返った善子は、その場から動くそぶりも見せずに不敵な笑みを浮かべる。

「鬼ごっこは…もうおしまいですか?」

善子「ええ、これで終わり…ここからは、あなたが獲物になる番よ」

「あなたのそのはったりは聞き飽きました…大人しく、倒れてもらいます…!」

笑みを崩さずにその場に立つ善子へと、ジェミシスは短剣を振りかぶりながら迫る。


「パーカッシヴエネルジコ!」


ジェミシスの体は、突如として脇腹へと与えられた衝撃に大きく弾き飛ばされる。


梨子「遅くなってごめん…!ハルモニアリリー、到着しました!」

580 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 19:11:22 ID:ZBbIxkpY
善子「よくぞ我が呼びかけに答えてくれました…リトルデーモン、リリーよ!……巻き込んじゃって、ごめんなさい…」

梨子「ううん、平気、だけど──」

梨子が視線を向けると、ジェミシスは空中で体勢を立て直し、ダメージを感じていないかのように地面へと降り立つ。

梨子「勝てる、かなあ…」

善子「大丈夫、私たちならたぶんなんとかなる、はず…」

少し頼りなさげに話す二人を見据えてジェミシスは口を開く。

「ハルモニアリリー…支援専門のヒーローがこの場に現れて、どういうつもりですか?先ほどの一撃も、斥力という意味では強力でしたが、まるでダメージもない…」

善子「悪いけど、リリーが間に合った時点であんたの負けは決まったような物なのよ!」

「口ではなく、実力で示してもらいたいものですね…!」

そう言い残すと、ジェミシスは地面を蹴り出し、瞬く間に二人の視界から外れてしまう。

581 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 19:12:49 ID:ZBbIxkpY
善子「よし…いくわよ!」

梨子「うん!」

善子は大鎌を垂直に構え、梨子は左手をヘッドフォンへ添え、右手を開き前へと突き出す。

「「バディレゾナンス!」」

二人の死角となる建材の影に潜むジェミシスはその声を聞くと目を細め、足を止める。

(バディレゾナンス…これが狙い…?ですが、私に当てなければどんなに強力な攻撃であっても意味がない…一体、何を…)

「「ディメンションアナリーゼ!」」

二人のその言葉と共に、二人から空気の波のようなものが辺り一面へと広がり、すぐにその場は静寂を取り戻す。

善子「さあ、今度はこっちが鬼の番よ…!」

582 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 19:22:53 ID:ZBbIxkpY
(何も、起こらない──いや、何が起こったのか分からない…それなら、余計な動きをされる前に、仕留める…!)

ジェミシスは先ほどまでと同様、二人の死角から飛び出し、こちらを認識させる前に攻撃を食らわせようと短剣を振りあげる。

善子「残念、見えてるわ」

「っ…!?」

善子からは完全に死角となっていたはずの方向、たとえ気配を感じ取ったとしても反応することはできないはずのスピード。
しかし善子は背後に目が付いているかのように、完璧な大鎌の間合いのタイミングで振り向き、得物を振るう。

「くっ…!」

振り上げた短剣を咄嗟に体に引き付けて大鎌の一撃を防ぐと、その勢いに逆らわずに後ろへ飛び、着地すると同時に駆け出して再び二人の前から姿を消す。

善子「ふう…大丈夫そうね…それじゃあリリーは無理しない程度にサポートお願いね」

梨子「うん…!善子ちゃんも無理しないようにね…!」

583 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 19:29:12 ID:ZBbIxkpY
(なぜ反応できた…?視界からも、意識からも外れていたはず…)

ジェミシスは身を隠しながら一瞬だけ考えを巡らせる。しかしすぐにその場から身を翻し、相手から死角となる場所を駆け抜けながら短剣を宙に舞わせる。

(これなら──)

善子「ブラッディサイズ!」

ジェミシスが短剣を射出しようとする直前、善子は視界を遮る建材を見透かしたかのように大鎌から斬撃を放ち、短剣を破壊する。

「くっ…」

善子「だから見えてるって…言ってるのよ!」

ジェミシスがその場から身を翻そうとするのとタッチの差で善子はその正面に躍り出て大鎌を振るう。

「ずいぶんと生き生きとし始めましたね…!」

善子「そっちは逆に余裕なくなってるわ、よっ!」

善子はジェミシスとの距離を一定に保つように立ち回り、相手の短剣の間合いに入らないように大鎌を振るう。

584 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 19:35:40 ID:ZBbIxkpY
(後手に回っている…あまり、よくありませんね…)

短剣の間合いは極端に狭く、善子が調節する大鎌の間合いでは短剣はまるで届かずに振るわれる刃を弾くことしかできない。

善子「ぜえいっ!」

善子は大鎌を手首の動きで小さく動かして短剣を弾くと、大きく振りかぶった勢いのままに斬撃をジェミシスに叩き込む。

「っ…!」

ジェミシスは手から離れた短剣を目で追うこともせずに、腕で体を庇い咄嗟に後ろへと小さく跳躍する。

善子「逃がさないわよ!」

「悪の華!」

ジェミシスを追うように前へ出た善子へとジェミシスは青白い光を纏った短剣を放ち、その場から大きく跳躍して善子から距離を取る。

585名無しさん@転載は禁止:2018/11/18(日) 19:39:07 ID:eKwKDlnY
おお!更新来てる!ありがとうございます!!

586 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 20:17:16 ID:ZBbIxkpY
善子「どこに逃げても同じよ…!」

善子は視界から消えたジェミシスに一切の迷いを見せることなく、死角であるはずの場所を目指し瓦礫の中を駆け出す。

善子と梨子が発動させたバディレゾナンス、それは共鳴させたシステムの出力の増強及び機能の拡張を可能とする決戦機構。そして二人のシステムに起きているのは、空気振動の感度増強と情報演算処理能力の強化。

梨子のシステムから発せられる様々な波長の音波が障害物にぶつかることで反射、そしてその情報を空間座標情報として変換することができている。

つまり、二人の頭の中にはリアルタイムで更新されていく3Dマップが作られているということになる。ジェミシスがどんなに身を隠したとしても、音波が届く限り二人からは逃れることはできない。

善子「てやあっ!」

善子は建材ごとその後ろに身をひそめるジェミシスへと大鎌を振り下ろす。

「はあっ!」

しかしジェミシスはそれを待ち構えていたかのように短剣を振り抜き、大鎌を打ち払う。

587 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 20:28:17 ID:ZBbIxkpY
善子「っ…!」

得物を弾かれた善子は腕に力を込め、大鎌を正面へと構え直す。しかしその瞬間、ジェミシスの姿は視界から消える。

善子(後ろっ…!)

「ぜやっ!」

梨子「サプルストリングスっ…!」

目まぐるしく展開される戦いを目で追う事しかできていなかった梨子は、咄嗟に4本のワイヤーを繰り出し、ジェミシスの体を捕らえる。

「かわいらしい拘束ですね…!」

ジェミシスは一瞬でそれを引きちぎると、自身へと向き直った善子の腹部へと蹴りを叩き込む。

善子「げほっ…!」

善子はこみ上げる吐き気に思わず前のめりになり、大鎌を持つ腕も体へと引き付けてしまう。

588 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 21:23:27 ID:ZBbIxkpY
「悪の華!」

善子「くうっ…!」

咄嗟に地面へと飛び込むように身を翻して放たれた短剣をかわし、地面へと転がったまま大鎌を振るう。

善子「ブラッディサイズ…!」

「銀輪!」

放たれた斬撃はジェミシスの前に展開された銀色の障壁にかき消される。

善子「…もう、逃げ回るのはやめたのかしら?」

生じた粉塵の中にいまだ姿を見せているジェミシスに、善子はそう問いかける。

「ええ、どうやら私が隠れたとしても見つけられてしまうみたいですからね」

おそらくは、音、でしょう?とジェミシスはそう続ける。

善子「…それが分かったからって何よ?もうあんたなんて──」

「ええ、もう鬼ごっこもかくれんぼもやめにしましょう」

湛えていた余裕を感じさせる笑みを消し、冷酷と言えるほどの無表情でジェミシスは口を開く。

「手を抜いて終わらせられると思っていたのは私の慢心…ここからは、全力であなたたちを潰します」

その言葉と共にジェミシスは二人の視界から、文字通り、姿を消した。

589 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 21:46:09 ID:ZBbIxkpY
善子「ぐ、あっ…!」

善子に与えられたのは一瞬身じろぎをするだけの時間。次の瞬間には反応することもできずに真横から加わる衝撃に、地面へと投げ出される。

善子「うそ、でしょ…!」

善子は痛みの走る体にも構わず、跳ねるように起き上がり大鎌を構える。

善子(相手の場所は分かる…!けど反応できない…!)

梨子「善子ちゃん…!」

善子「下がって!クリミナルアビス!」

善子は刃を地面へと突き立て、自身と梨子の周囲にインクの染みのような影の沼地を作り出す。

「こんなもので、捕らえられると?」

善子が必死に合わせたタイミングは完璧だった。しかしジェミシスはそのスピードにもかかわらず機敏な反応を見せ、軽々とその影を飛び越え、善子の懐に潜り込み短剣を振るう。

善子「くうっ…!」

「長物を扱うなら、間合いを詰められた時の事も考えておくべきでしたね?」

590 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 21:53:23 ID:ZBbIxkpY
至近距離に入られてしまうと、大きく湾曲した刃は邪魔にしかならない。ジェミシスが繰り出す高速の連撃に、善子は大鎌の柄で凌ごうとするも体には傷が瞬く間に増えていく。

善子「こんのっ…!」

大鎌を打ち払われ、無防備に開いた体に突き入れられようとした短剣、善子はその切っ先を紙一重でかわすとジェミシスの腕を掴み取る。

梨子「パーカッシヴエネルジコ!」

咄嗟に飛び込んだ梨子はマレットを振りかぶり、向けられたジェネシスの背中へと振り抜こうとする。

「無駄ですっ…!」

ジェミシスは掴まれた腕にある短剣を離すと、逆に善子の腕を掴み軽々と善子の体を投げ飛ばし、自身へと迫る梨子へと叩きつける。

梨子「きゃっ…!」

善子「くうっ…!ブラッディサイズ…!」

二人はもつれあいながら地面に転がるも、善子は目の端にジェミシスが迫るのを捕らえると地面に倒れこんだままの体勢で無理やり大鎌を振るい斬撃を放つ。

591 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 21:59:06 ID:ZBbIxkpY
「失楽園…!」

ジェミシスがいくつもの短剣を宙に舞わせると、それは一つに連なりその形を大剣へと変える。

「はあっ…!」

ジェミシスはその大剣を振るい善子の放った斬撃を一刀のもとに切り伏せ、二人との距離を一気に詰める。

梨子「っ…!ショック──」

「遅い…!」

梨子が手を前に構えた瞬間、ジェミシスは大きく踏み込み二人の背後へと回ると、手にした大剣を振りかぶる。

善子「リリー伏せてっ…!」

頭の中に流れ込んできているジェミシスの居場所に向けて、善子は水平に薙ぐようにして大鎌を振るう。普通の武器では届かないが、大きく湾曲した刃は自身の背後にまで斬撃を届ける。

「破れかぶれの攻撃が通じると思いますか…!」

ジェミシスは大剣を刃の下へと潜り込ませ、その斬撃を真上へと跳ね上げる。

592 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 22:11:34 ID:ZBbIxkpY
梨子「サプル──」

「遅いと言ったはずです…!」

ジェミシスは技を繰り出そうとした梨子の懐へと飛び込むと、真正面から回し蹴りを叩き込む。

梨子「ごほっ…!」

善子「リリー…!」

「悪の華!」

善子はようやく大鎌を構え直しジェミシスへと向き合ったが、次の瞬間には青白い光を纏う短剣が体へと炸裂する。

善子「きゃあっ!」

「まずは、あなたからです」

自身から離れた場所へと投げ出された善子には目もくれず、ジェミシスは腹部を押さえながら立ち上がろうとする梨子へと歩み寄る。

梨子「う、あ…」

「失楽園」

ジェミシスは手に作り出した大剣を、一瞬の躊躇も無く、振り下ろした。

593 ◆JaenRCKSyA:2018/11/18(日) 22:15:07 ID:ZBbIxkpY
今日はここまで

594名無しさん@転載は禁止:2018/11/18(日) 22:18:12 ID:eKwKDlnY
乙です!続き待ってます!

595名無しさん@転載は禁止:2018/11/19(月) 08:27:10 ID:5tKHmNqo
乙です
やっぱり姉様は強い

596名無しさん@転載は禁止:2018/11/23(金) 17:05:01 ID:3qoWl5I.
やっぱり姉様はすごい
誰よりも強くてしかも美人
控えめに言っても最高の姉だと思う
絶対そう

597 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 19:36:24 ID:tYBKIVVk
善子「ご、ぼっ…!」

「……!」

梨子「う、そ…」

梨子の体には痛みは無い。ジェミシスの振り下ろした大剣は、咄嗟に間に割り込んだ善子の体へ深々と突き刺さっていた。

「この一撃をかばったところで──」

善子「ピアシング、シェイド…!!」

ずるりと地面へ崩れ落ちる瞬間、善子は大鎌の刃を地面へと突き立てる。次の瞬間、善子と梨子の周囲、波紋が広がるように大量の漆黒の棘が地面から突き出し始める。

「くっ…!」

ジェミシスは苛立たし気に眉根を寄せると、その場から一気に跳躍してその棘が届かない位置まで距離を取る。

598 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 19:37:03 ID:tYBKIVVk
梨子「善子ちゃん…!大丈夫…!?どうして、こんな…!」

善子「…リトルデーモンを、守るのは…主の務め、よ…?」

梨子は涙をこぼしながら、力なく浅い呼吸と共に弱々しく言葉を繋ぐ善子の手を握る。

善子「リリー…私の事はいい、から…逃げて…」

梨子「善子ちゃ──」

善子「ディム、グルーム…!」

善子が最後の力を振り絞り大鎌を振るうと、二人のいる解体工事現場は一瞬にして黒い霧に包み込まれる。

そして次の瞬間、大鎌は霧のようにその姿を消し、握っていた手はだらりと地面へと落ちる。

599 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 19:38:01 ID:tYBKIVVk
梨子(どうしよう、どうしよう、どうしよう…!私のせいだ、私が戦えてたらこんなことにならなかった…!)

梨子は真っ青な顔で力なく垂れ下がった善子の手を握りしめる。

梨子(今はこの霧があるけど、これだけだと逃げ切れない…!)

梨子(私じゃ善子ちゃんの傷も簡単な処置しかできない…戦えもしない…)

梨子は、ぐったりとした善子の顔を見つめながら必死に頭を働かせていく。


梨子(けど、今はここに私しかいない…善子ちゃんを残していくなんてこともできない…)

梨子(私にできることを考えるの…私が、やらなくちゃいけないんだから…!)

600 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 19:40:08 ID:tYBKIVVk
「目くらまし…確かに、あの状況での最善手ではありますね…」

手を伸ばした指先も闇に溶け込むほどの暗闇の中、ジェミシスは考えを巡らせる。

(あの傷では堕天使のヒーローは動けはしないでしょう…そしてそれを背負って移動するのであれば、音のヒーローもまともに動き回れはしないはず…)

「…どちらか一人は確実に始末できますね」

ジェミシスは両手に短剣を握ると、感覚を頼りに先ほどまで二人がいた位置へと跳ぶ。

「いない…血の痕は残っていますし、場所は間違っていないはずですが…」

ジェミシスが地面を調べると、まだ新しい血だまりが残っているものの、それが続いている様子は見えなかった。

「止血はした、と…ですが…」

次の瞬間、暗闇の先に瓦礫か砂利を踏みしめるような音が微かに響く。

「……!」

ジェミシスは音を頼りに跳躍すると共に短剣を振るうが、感触は無い。

「この場にいるなら逃げ切れるはずはありません」

じき確実に捉えられる、その確信を得たジェミシスは酷薄な笑みを浮かべ、周囲の気配へと意識を向け始めた。

601名無しさん@転載は禁止:2018/12/27(木) 21:32:00 ID:iR6N4Xv.
待ってた

602 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 21:37:24 ID:tYBKIVVk
梨子「はあっ…はあっ…」

梨子は、血の痕でたどられることのないように善子の傷に応急処置として止血だけを施し、善子の事を背負い、暗闇の中を歩いていた。

善子が気を失ったことでシステムの共鳴は止まり、ジェミシスの位置すらも分からない状態だが、梨子の足取りに迷いは見られなかった。

善子「ぅ、あ…?」

梨子「善子ちゃん…!よかった…ごめんね、揺れて傷に響くかもしれないんだけど…」

善子「な、んで…一人で、逃げ…」

梨子「それは聞けないよ…絶対に、二人で逃げるの」

それに──、と梨子は言葉を繋ぐ。

梨子「策は、ある…っていうより、今もやってるところ、だから」

梨子の額には脂汗がにじみ、痛みに耐えるかのように顔を歪ませながら、しかし強い意志のこもった目で暗闇の先を見据える。

603 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 21:37:48 ID:tYBKIVVk
ガシャン、と梨子の足にぶつかった瓦礫が大きく音を立てて転がる。それどころか、梨子は足音をまるで潜めることもなく足を進めていく。

善子「リ、リー…足、音…あいつが…」

梨子「ううん、音は…わざと立ててるの…」

梨子にかかっている負担は、善子を背負っているものだけではなかった。梨子が操るのは音、それは自身のシステムから放たれるものにとどまらず、周囲に発生した音も例外ではない。

それはつまり、限界ぎりぎりまで能力を引き出した梨子のシステムは周囲一帯の空気振動全てを支配したに等しい。

梨子(っ…!動いた…!)

ジェミシスが風を切る音を感じ取ると、梨子は顔を歪めながらもひときわ大きく足元の瓦礫を蹴り上げながら歩く。
しかしそうして転がるつぶてはその場に音を響かせることは無く、梨子のシステムによって全く違う場所──ジェミシスを自分たちから遠ざける方角へと操作される。

梨子(脳の神経が、焼ききれそう…けど、まだ倒れるわけにはいかない…!)

周囲の音の操作、ジェミシスの出す音の捕集、そして暗闇に包まれた空間での逃げ道の確認。システムの性能だけでなく、自身の脳をも限界近くまで酷使する梨子の視界は、暗闇によるものではなく、確実に狭くなっていく。

604 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 21:45:45 ID:tYBKIVVk
「……」

ジェミシスは何度目かの空振りののち、静かにその場にたたずみ訝し気に眉根を寄せる。

(聞こえた音はそう遠くなかった…そして私の追撃を逃れるほどに早く動けるはずもない…何か小細工をしているということですか…)

そこまで考えを巡らせたところで、ジェミシスは一瞬だけぴくりと目を見開くと、煩わしそうに歯を噛みしめる。

「音…なるほど、そういう事でしたか…」

ジェミシスが頭を一度振り、手にした短剣を消し去ると同時、周囲を包み込んでいた漆黒の霧が徐々に晴れていく。
瓦礫が転がる解体工事現場、ジェミシスが予想した通りそこからは梨子と善子、すでに二人の姿は消えていた。

「…視界を制限された時に出口を押さえなかった私のミスですね…」

そう呟き、ジェミシスは軽くため息を吐き出すと、手を耳元へと当てる。

「──こちらジェミシス、状況報告です」

『…その名前は使わなくていいと言ったはずよ』

帰ってきた声は、一切の感情を殺したように冷たく、乾ききった物。

605 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 22:00:41 ID:tYBKIVVk
「申し訳ありません、作戦行動中でしたので…」

『…まあ、いいわ──報告を』

「目的は余剰込みで完了…ですが、理亞は戦闘でのダメージから継戦不能と判断し帰投の指示を、私は…ヒーローを二人、仕留めそこないました」

『理亞の件は詳細も聞いている…キャプテンアンカー相手では分が悪い』

「キャプテンアンカーでしたか…」

『ええ、それで──あなたが交戦したのは?』

「…どこにでもいるような、凡百のヒーローでした」

『負けた、と言うこと?』

「負けた──はい、そういう事になります…細工に気付くことができず──」

『そう、実力で負けたのでないなら構わない…次もみすみす逃がすことがなければね』

「分かっています…次は、必ず」

『ええ、それでいいわ──残りの掃除は私達で済ませる、あなたも帰投しなさい』

「了解です」

その返事を最後に通信は途絶え、ジェミシスは一瞬だけ目を閉じると、その場から離れていった。

606 ◆JaenRCKSyA:2018/12/27(木) 22:29:08 ID:tYBKIVVk
お待たせしました。今日はここまで
明日また更新します

607名無しさん@転載は禁止:2018/12/27(木) 22:34:14 ID:iR6N4Xv.
乙です
年末で連続更新は期待

608名無しさん@転載は禁止:2018/12/28(金) 06:44:08 ID:hexBzqsM

年末の楽しみが増えたよ

609 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:13:54 ID:H2x5wkpE
海未「ふう…」

怪獣を引きつけながら学校から十分に離れると、海未は自身のあとを追ってきた怪獣を即座に切り伏せ、刀を鞘へと納める。

海未(やはり怪獣もほぼ打ち止めのようですね…これ以上被害が広がらないのはいいですが、穂乃果とはまだ連絡がとれていない…)

焦りを抑えながら海未がまだ探していない場所に見当を付けようとすると、海未の携帯が着信を知らせる。

海未「っ…穂乃果…!」

その画面に表示されたのは『高坂穂乃果』の文字。即座に電話を取ると、海未は携帯を耳に押し当てる。

海未「穂乃果!無事ですか!?」

穂乃果『う、海未ちゃん!ごめんね、何回も電話してくれてたみたいで…』

電話の向こうから聞こえてくるのはいつもと何も変わらない幼馴染の声。海未は安堵しため息をつくと、口を開く。

610 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:19:48 ID:H2x5wkpE
海未「いえ、無事でいるのならいいんです…どこか、避難所に逃げ込めていたのですね…」

穂乃果『う、うん…!そうそう、ちょっと取り込んでて電話は出れなかったんだけど…』

少し慌てたように話す穂乃果の声に、海未は眉をひそめながら話を続ける。

海未「それならいいのですが…」

穂乃果『そ、そうだ、海未ちゃん今どうしてるの?なんか外にいるみたいな音だけど…』

海未「い、いえ…少し外の様子を見ようと思って──」

海未はそこまで言いかけると、言葉を止める。いや、海未の口は、そこまでしか動かない。
海未が感じたのは一言で言うなら、悪寒。しかしそれは、刺し貫くような、押し潰されるような、全身を何かが這いずるような、感じ得る限りの嫌悪感を固めたような、巨大なものだった。

穂乃果『海未ちゃん…?』

耳へと響く穂乃果の声に反応を返すこともできず、どす黒い気配が放たれる方角へと目を向ける。

611 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:50:55 ID:H2x5wkpE
海未の視線の先には3つの人影。それは海未の記憶にもある姿。

一人は、背中に翼を広げ、羽根の装飾を施したベージュを基調とした衣装を纏った小柄な姿。一人は、全身が紫と銀色の機械的なアーマーで覆われた紫の長髪の姿。一人は身体のラインが浮き出る黒いスーツを身に纏ったボリュームのある茶髪の姿。

海未(アステグレス、フォートレイ、バビロット…!)

それは、最強にして最凶と謳われる、今の時代の『怪人』を象徴する存在。

穂乃果『ねえ!?何かあっ──』

海未「すみません、あとでまたかけ直します…!」

海未は穂乃果の声を遮るようにして電話を切ると、後ずさってしまいそうになる足を必死で止め、刀の柄へと手を伸ばす。

「…あれは?」

「あの姿は確かに気になるが…」

「確実に裏切り者の子、よねえ…?」

三人の口ぶりにも、視線にも、敵と対峙している風はまるでなく、ただ目の前にいる虫を潰そうとしているかのように、無感情に話を続ける。

612 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:52:11 ID:H2x5wkpE
海未(どこまでやれるか分からない…!ですが、ここで負けるわけには──)

「なら、ここで潰すべきね」

そう言ってベージュの衣装の怪人──アステグレスが翼を大きく広げると、紫のアーマーで身を包んだ怪人──フォートレイがそれを手で制する。

「ゴミの掃除なら、私が適任だろう」

「そうそう、だからアステグレスちゃんはいったんお休みね?」

黒いスーツの怪人──バビロットがそう言うと、アステグレスは不満げに眉根を寄せる。

「…その名前で呼ばないで」

「ふふ…分かってるわ?」

「さて…!」

二人の会話を微笑と共に眺めていたフォートレイは短くそう言うと、一歩前に踏み出し胸部のアーマーを展開させ、機械的な内部構造を露出させる。

613 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:52:37 ID:H2x5wkpE
海未(あれは…砲台…!来る…!)

「さあ、まずは一撃だ…!レックレスカノン!」

次の瞬間、フォートレイの胸部砲台から海未の身長を越えるほどの紫色の光線が放たれる。

海未(速い…!回避は不可能ですか…!)

凄まじい圧力を持って迫る光線は周囲の建物や地面のアスファルトを砕いていき、その速度に海未は即座に刀を鞘から抜き去り頭上へと振り上げる。

海未「閃刃・断空…!」

感情エネルギーを溜める隙は無く、迫る光線と比べると心もとない細さの黒く染まった刀を振り下ろす。

海未「くっ…おおおぉぉぉ!!」

刀と光線が交わった一瞬の間だけ拮抗を保つが、次の瞬間には海未の姿は紫色の光の中に飲み込まれてしまう。

614 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:54:59 ID:H2x5wkpE
海未「ごほっ…!」

一瞬にして瓦礫が散らばる破壊の跡の中、海未は身に纏った鎧も肉体も傷だらけになりながら地面へと投げ出される。

「ほう…しのいだか…!」

フォートレイは自身の攻撃の中を生き残った相手の姿を認めると喜色を浮かべる。

海未(立て…!あの相手では呆けている暇はない…!)

海未は軋む体を無理やりに立ち上がらせ、急激に迫る殺気に対して刀を構える。

「っ…!」

ほぼ反射のようにして海未が振るった刀が捕らえたのは鋭利な鉤爪。一瞬にして懐にまで飛び込んだアステグレスは追いきれないほどの速度で爪を振るっていく。

海未「ぐっ…!」

致命にならないものは身体に当たるに任せ、海未はアステグレスの連撃の隙を突いて斬撃を繰り出す。

「その程度…?それじゃ私には届かない」

アステグレスは振り抜かれる刀を真下から蹴り上げて弾き飛ばすと同時に右腕を大きく後ろへと振りかぶる。

615 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:55:23 ID:H2x5wkpE
「イーグレット」

海未「閃刃・断空!」

弾丸のように振る抜かれるアステグレスの爪に、海未は咄嗟に刀にエネルギーを込めてそれを受け止めようとする。

海未「ぐ、ううっ…!」

しかしその勢いを止めることはできず、刀から伝わる衝撃に後方へと吹き飛ばされてしまう。

海未「っ…!黒散華っ!」

背中から地面へと倒れこむ中、海未は刀を手放し弓を構えると頭上へ向けて漆黒の散弾を発射する。

「ははっ!いい反射だ!」

海未が見上げた先には無数の小型ミサイルが海未目掛け飛来しており、それを放ったフォートレイは海未の判断に無感情な声の中に感嘆を浮かべる。

海未「っ…」

海未の放った矢ではミサイルの全てを撃ち落としきれず、周囲の地面もろとも海未は爆撃を食らう。

616 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:56:22 ID:H2x5wkpE
海未「っ…!?」

硝煙が立ち込め、爆撃によって方向感覚も鈍る中で海未はふわりと体が宙に浮かぶような、そして腰に何かが巻き付く感覚を感じ、次の瞬間。

海未「がはっ…!」

全身が砕けるような衝撃を感じ、次の瞬間にようやくバビロットが手にした鞭によって建物の壁面へと叩きつけられたことを理解する。

海未「こ、のっ…!」

瓦礫と化した建物に半ば埋まった体を無理やり動かし、地面へと転がるようにその場から逃れると、今まで海未の頭があった場所へとアステグレスの爪が突き刺さる。

海未「黒華──」

「遅いな」

弓をアステグレスへと向けるものの、海未が矢を放つ前にフォートレイの手のひらから細い光線が放たれ、海未の肩を貫く。

617 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 01:57:09 ID:H2x5wkpE
「トマホーク」

アステグレスは一気に加速し海未の懐に飛び込むと、背中から生えた一対の羽根を束ね合わせ、それを海未の腹部へと振り抜いた。

海未「ご、ぼっ…!」

海未は防ぐ事すら間に合わずにその攻撃を食らい、後方へと吹き飛ばされていく。そして受け身すら取れず、地面へと投げ出される。

海未「う、ぐ…」

腕すら動かせないほどに全身を駆け巡る痛みにも関わらず、海未は必死に立ち上がろうと力を振り絞る。

「へえ…ここまでやられてもまだ立とうとするのねえ?」

「その意気はさすがだとは思うが…」

「…何をしようと、ここで消す」

海未(動け、動け、動け…!ここでやられるわけにはいかない…!動け…!!)

一歩ずつ近づいてくるアステグレスの足音を聞きながら激痛の走る体を動かそうとする。しかし深いダメージを負った海未の体は身じろぎをすることしかできなかった。





「うわあ、もうボロボロになっちゃってるよ…」

618名無しさん@転載は禁止:2018/12/29(土) 09:54:19 ID:xQr9h7Kc

最後のは誰かなん?

619 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 23:43:27 ID:6ZxU0Wgc
海未「っ…!?」

突如として聞こえた声、そしていつの間にか海未の傍らにはしゃがみこんで海未の顔を覗き込んでいる女性の姿があった。

「余裕で間に合うって言ってたのに全然間に合ってないよね…うーん、けどあんまり早く着いちゃってもダメなのかな?」

黒の浅いニット帽から明るめの茶髪を背中まで流し、どこか海未にとって既視感のある青い瞳の女性は誰に向けるでもなく話す。その声はハスキーな中に幼い無邪気さを感じさせ、それもまたどこか聞き覚えのあるものだった。

「あれは…なんなのかしら…?」

「いや…そもそも、どこから現れた…?」

目をそらしたわけでも、離したわけでもない、それにもかかわらず気付いたら海未の傍らに現れていたその女性にフォートレイとバビロットは警戒を強める。

「そんなことはどうでもいいわ…私たちの前に出てきた以上、ここで殺す…!」

そう言うとアステグレスは背中の翼を羽ばたかせ、一気に加速を始めようとする。

620 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 23:55:10 ID:6ZxU0Wgc
「あはは…やっぱり三人とも荒んでるなあ…まあそれも仕方ないか」

女性は困ったように笑うと、口元の笑みは残したままに真剣な瞳で怪人たちを見据え、右腕を前に突き出す。

「けど今はみんなと話す時じゃないから、ごめんね」

その言葉の直後、海未達とアステグレスたちの間には眩く燃え盛るオレンジ色の炎の壁が現れる。

海未「あな、たは…?」

「ほらほら、喋るだけでもつらいでしょ?無理しなくていいから私の話だけ聞いててほしいな」

傷だらけとなり地面へと伏せる海未の体に優しく触れ、安心させるようにその女性は海未へと語り掛ける。

「って言っても、あんまり長くおしゃべりしてる時間もないんだけど…」

621 ◆JaenRCKSyA:2018/12/29(土) 23:56:51 ID:6ZxU0Wgc
「さてと、まずは…きっとこれからも、戦っていくつもりなんだよね?あ、返事はしなくても大丈夫、分かってるからね」

海未が声を絞り出そうとするのを分かっていたかのようにその女性は海未の事を制し、話を続ける。

「きっとその中で、えーっと…友達、に、何か大変なことが起こっちゃうかもしれなくて…だから、これ」

そう言いながら取り出したのは、炎を固めたかのような結晶であり、それを海未の手へと握らせる。

「もしそんなことになった時のために、これ、持っててほしいんだ」

海未(あたた、かい…)

感じたことのあるような、そんな仄かな温かさ。海未はそれを手放さないように、力の抜けそうになる手で握りしめる。

「それと──」

その女性がそう言いかけた時、二人の目の前の炎の壁が引きちぎられるように裂け、かき消される。

622 ◆JaenRCKSyA:2018/12/30(日) 00:33:05 ID:0IUx28MQ
「こんなもの、時間稼ぎにもならない…!」

明確な殺意と共にアステグレスが大きく翼を羽ばたかせ、いつでも飛び掛かれる体勢で爪を構えながら吠える。

「時間稼ぎ…まあ、お話しする時間が欲しかったから間違ってないんだけど…なんか勘違いしてない?」

立ち上がり、三人の怪人を見据えると。

「変身」

言葉を唱えると共に、その姿は燃え盛る炎へと包まれる。

海未(これ、は…)

「悪いんだけど、三人が束になっても私には敵わないよ」

その炎が掻き消え、その中から姿を見せたのはオレンジを基調とした服と顔の半分を覆うバイザー、手には炎の意匠をあしらった自身と同じほど大きな杖を携えたシルエット。

623 ◆JaenRCKSyA:2018/12/30(日) 00:39:37 ID:0IUx28MQ
「嘘…!?」

「ちっ…まさかとは思ってはいたが…!」

「ホムラ…!」

海未を相手取った時とはまるで違う、張り詰めた空気を三人は纏う。

海未(ホムラ…?ですが、どこ、か…)

海未は薄れゆく意識、かすんでいく視界の中に少しの違和感を覚える。以前に自身が対峙した時のホムラ、その姿は今と同じだっただろうか?

「これだけ覚えておいて?この力、この炎が使われた時がきっと、分かれ道だから」

海未「あな、た…は……」

暗く、落ちていくような感覚、それを感じながらも海未は自分を庇うように立つ姿へと問いかけようとする。


「ホムラ!!」


自身の名と同じ言葉を口にしたその瞬間、手にした杖からは太陽のような輝き。その眩いほどの炎も海未の視界から遠ざかっていき。



「おやすみ、海未ちゃん」


その言葉を最後に、海未の意識は闇に落ちていった。

624 ◆JaenRCKSyA:2018/12/30(日) 00:54:32 ID:0IUx28MQ
次回でアキバ侵攻編(?)終わります
年内は多分今回で最後です。ありがとうございました

625名無しさん@転載は禁止:2018/12/30(日) 09:56:58 ID:FlyOPqO.
お疲れさまでした! 次の更新も楽しみにしています!!!!!

626名無しさん@転載は禁止:2018/12/30(日) 20:08:35 ID:Sn/CU8ko
謎シンガーさん登場か

ともあれ乙でした、良いお年を!

627 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 18:04:39 ID:jJlFm0rU
梨子「ぅ……ん……」

梨子が目を開けると、背中からは柔らかい感触、そして視界には清潔感のある真っ白な天井が広がっていた。

梨子「ここ、は……」

「あら、目が覚めましたか?」

梨子が重い体を動かし、声のした方へと目を向けると、忙しそうな雰囲気ながら、柔らかい笑顔を浮かべた看護師の姿があった。

梨子「病、院…?」

「はい、そうですよ?それじゃあ…体は起こさなくて大丈夫ですからね、返事だけしてもらえれば──」

看護師の軽い質問や計算に答えているうちに、梨子は意識を失うまでの事を思い出していく。

梨子(そっか…私、ちゃんと逃げきれて──)


──私の事はいい、から…逃げて…


梨子「っ…!」

628 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 18:15:32 ID:jJlFm0rU
「うん、問題なし…大丈夫そうです──」

梨子「あ、あのっ…!私と一緒に運ばれた子は──痛っ…!」

飛び起きるようにして看護師へと聞こうとする梨子だったが、鋭く走る頭痛に顔を歪めてこめかみを押さえる。

「大丈夫ですか!?…ヒーローシステムを酷使した影響で脳に負担がかかっているそうなので、無理はせずに横になっていてください…」

看護師は慌てたように梨子の体を支えながらベッドに横にさせると、改めて口を開く。

「それと、一緒に運び込まれた子も傷は深かったみたいですけど、もう治療室から出たみたいなので安静にしていれば大丈夫ですよ」

梨子「そう、ですか…よかった…」

梨子は息を吐き出すとベッドへと体を埋めて表情を緩ませる。

「それじゃあ、今はなるべく頭を使わないようにして、安静にしていてくださいね?何かありましたら、そちらのナースコールでいつでもお知らせください」

梨子「はい、ありがとうございます…」

629 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 18:44:49 ID:jJlFm0rU
看護師が出ていくと、梨子はしばらくベッドに横たわりながら天井を見上げる。

梨子「よかったけど…今回は運がよかっただけ、だよね…」

梨子は顔を曇らせて今日の戦いを思い起こし、ぎゅっと目を閉じる。

梨子(バディレゾナンスさえ発動できてたら負けない、なんて思っちゃいけなかった…私は足手まといになってた…)

しかし、すぐに開いた瞳には強い意志が込められ、冷静に自身のシステムへと考えを巡らせる。

梨子(曜ちゃんや善子ちゃんが近くにいるから戦うことだけにとらわれちゃうけど、もっとサポートをこなせるように…)

梨子「…たぶん、逃げる時に使ったのがこのシステムの本来の使い方なんだよね…」

そこまで考えたところで、軽い頭痛が再び襲ってきたため、梨子は苦笑いをすると枕に頭を埋める。

梨子「まあ、今は難しい事考えないようにして休もうかな…元気になったら善子ちゃんに甘いものでもご馳走してあげなきゃね…」

そのまま、梨子は疲労で重い体を感じながら眠りに就いた。

630 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 21:02:51 ID:jJlFm0rU
────────────


声が、聞こえる。


記憶の先に残る声が。





──本当……んなことで……の?


──ふうん…私に……だ縁のない話だからよ……かんないけどなあ。


──ああ、けど海未……んがいなくなっ……て考えると、そう……しれないかも。




──こんな……悲しみを広げて………………私は、生きてい………………


──だから、今を………よう………………過去を変え………………

631 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 21:03:46 ID:jJlFm0rU
海未(姉、さん…?)

632 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:02:53 ID:jJlFm0rU
海未「今、のは…」

海未の意識は徐々に覚醒していく。自身がベッドに横たわっていることを自覚したのち、視界に映るのは、無機質な天井、そして癖のある赤髪を揺らす椅子に座った後ろ姿。

海未「真姫…?」

真姫「っ…!海未!起きたのね…!」

海未が声をかけると、真姫は弾かれたように振り返り、安堵したように表情を緩ませて海未の横たわるベッドへと近づく。

真姫「まったく…!あんなボロボロになって…!もしここまでたどり着けてなかったり、花陽がいなかったらどうなってたと思ってるのよ…!」

海未「心配してくれて、ありがとうございます──」

海未は言いかけたところで、真姫の言葉に引っかかるものを感じて言葉を繋ぐ。

海未「私がここまでたどり着いた、と言いましたか…?それに、花陽の事…」

真姫「何言ってるの?あなた、私の研究室の入り口で倒れこんでたのよ?自力で学校まで来たんじゃないの?…それと、一応花陽は同じクラスだし、ヒーローやってるっていうのも知ってるから…」

633 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:30:19 ID:jJlFm0rU
海未(あの方が私を運んでくれた…?私はずっと意識を失っていた…それにあの怪我ではここまでたどり着くなんて不可能のはずですし…)

真姫「…体の調子は、平気?」

考え込み始めた海未の子を覗き込んで真姫は声のトーンを落としながら問いかける。

海未「ええ、もちろん少し痛みが残る所はありますが十分元気と言っていいくらいにはなっています」

真姫「そう…ならよかったわ…」

海未が笑顔と共にそう返すと真姫は息を吐き出して表情を緩める。

海未「花陽が私の傷を治してくれたのですか?」

真姫「花陽の治癒能力と私の手術よ…大変だったんだからね?」

海未「真姫の手術、ですか…?」

真姫「何よ、不満?」

海未「いえ、そういうわけでは…えっと…花陽と知り合いということは、凛の事も知っているのですか?」

真姫「ん?ええ、もちろんあの子の事も、怪人って事も知ってるし──あ、そうね、凛の治療もしてあるから、安心して平気よ」

海未「よかった…!凛を見つけた時はどうなることかと…」

真姫「それは私のセリフよ…知り合いが立て続けに大けがで運び込まれてるんだからね?」

海未「それは…申し訳ありません…」

634 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:34:34 ID:jJlFm0rU
真姫「まあいいわ…それより、何があったの?あなたがあそこまでボロボロになるって、いったい…」

海未「そう、ですね…そのあたりの説明からする必要がありますね…」

海未はそう前置きをしてから、自身の身に起きたことを話し始める。



真姫「…そう、3人の怪人に、ホムラ…それも、一度ホムラと戦った海未が違和感を感じた…」

真姫は海未の話を聞くと、口元に手を添えて考え込み始める。

海未「…同じヒーローシステムを使っていて、姿が変わるというのはあり得ることなのですか?」

真姫「基本的にはあり得ないわね…出力を意図的に絞ったり、制限をかけたりすれば武装を減らす事はできるけど…」

海未「私のシステムはだいぶ特殊だったんですね…」

真姫「そもそも負の感情エネルギーを使ったシステムってだけで特殊なんだからね?」

635 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:39:53 ID:jJlFm0rU
真姫「…今、結論は出せないけど、私の方でも調べてみるから、海未もまた何かあったら私に教えてちょうだい…無理はしないでよ?」

海未「私も好きで危険に飛び込んでいるわけではないのですが…ええ、分かりました」

そこで海未は、先ほどは意図的に真姫へと話さなかったことを思い出し、口を開く。

海未「…以前少し離していましたが、真姫は、モビィディックのことを知っていたのですか?」

真姫「モビィディック?…ああ、もしかして会ったりしたのかしら?私は直接知ってるわけじゃないけど…まあ、知り合いの知り合いみたいなものだから、一応ね」

海未「そういうことでしたか…ええ、途中で遭遇して…私の目から見ても、信頼のおける人でした」

真姫「…怪人にも、色々な人がいる…やっぱり怪人に関してもっと知る必要があるわよね…」

海未「真姫?」

真姫「ううん、なんでもない…ただ、怪人について知らないことが多いと思ってね…」

636 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:47:12 ID:jJlFm0rU
海未「怪人について…普通はコアを埋め込められた人が怪人になるのでは?」

真姫「それにしたって凛だとかモビィディックだとか、怪人として動かないのが多すぎるでしょ?明らかに効率が悪すぎるのよ…」

海未「確かに…私や凛がそうでしたが、怪人や怪獣の被害に遭った人間が怪人にされると考えると…」

真姫「そうなのよ…やってることがちぐはぐすぎる…」

海未と真姫の二人は口を閉じ、それぞれで考え込み始める。

真姫「はあ、やっぱり分かんない事ばっかりだわ…あなたと会ってから立て続けに色々あるから大変よ…」

海未「それは…申し訳ありません…」

真姫「冗談よ…最近になって怪人と怪獣の活動が活発になっているから、なんとかしなきゃいけないのは事実だし」

海未「ええ、その通りですね…」

真姫「あ、そういえば、結構時間も経ってるけど家族とかに連絡入れておかなくても平気なの?」

海未「えっ…?」

637 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:53:02 ID:jJlFm0rU
海未がスマートフォンの電源を入れ直すと、瞬く間にメールと連絡用SNSの通知が増えていく。

海未「うう…心配をかけてしまったみたいですね…」

真姫「まあ、体の疲労とかはあるだろうけど動いても平気なはずだし、家に帰ったら?けど、運動は厳禁だからね」

海未「ええ、そうさせいただきます…」

海未は母親や幼馴染へと連絡を返しながらベッドから降りて身支度を始める。

海未「本当に今回も真姫にはお世話になりました…毎回毎回申し訳ありません…」

真姫「別に謝られるようなことじゃないわよ…けど、もう少し無茶を控えてもらえるとうれしいけど」

海未「肝に銘じておきます…それでは、また学校で会いましょう」

真姫「ええ、まあ私が登校したらだけど…そうだ、今度、浦女との交歓会があるでしょ?一応、浦女の生徒の中で判明してる限りのヒーローの情報を送っておくから確認しておくといいわ」

海未「本当ですか?ありがとうございます…!」

真姫「気にしなくていいわ…それじゃ、また今度ね」

海未「ええ、それではまた」

海未がそう言って出ていくと、真姫はデスクへと戻ると一人困ったような、それでも少し笑みを浮かべた表情で呟く。

真姫「はあ、調べることが多すぎるわよ…」

638 ◆JaenRCKSyA:2019/01/20(日) 22:58:30 ID:jJlFm0rU
ここまで

639名無しさん@転載は禁止:2019/01/21(月) 01:10:46 ID:g2607tOY

次から新展開楽しみ

640名無しさん@転載は禁止:2019/01/21(月) 21:04:33 ID:012QEp72

いよいよ交歓会が見えてきた

641名無しさん@転載は禁止:2019/03/27(水) 23:42:28 ID:ZG.ffyOc
年号変わっちゃうぞ

642名無しさん@転載は禁止:2019/05/01(水) 09:41:24 ID:.TNs1rNE
年号変わっちゃったよ

643名無しさん@転載は禁止:2020/03/05(木) 09:14:13 ID:DdCQ2.jg
http://fanblogs.jp/inabata2019/archive/60/0

644名無しさん@転載は禁止:2020/05/17(日) 04:30:20 ID:TSC6WBPg
待ってる……


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