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穂乃果「リザードン!行くよ!」
-
【ポケモンリーグ!】
【さあ、アキバリーグ防衛戦は佳境を迎えようとしています!
アマルルガとニョロボンのダブルノックアウトでチャンピオンの残りは三体、挑戦者の残りは二体!
両者、まったくの同時で次のボールへと手を掛けるッッ!!】
絵里「行きなさい、フリーザー」
【出たァ!アキバリーグチャンピオン絢瀬絵里!ここでエース、蒼麗なる氷鳥!フリーザーを繰り出していく〜っ!!
その姿はまさに!凍って・カチコチ・エリーチカ!KKEのお出ましだァー!!】
果南「うわ、来ちゃったか。じゃあ私も下手な子は出せないね…頼んだよ!ギャラドス!」
【来たァ!挑戦者の松浦果南、四天王のうち二人にトドメを刺したエース格の登場だ!
登場と同時に膨大な水がフィールドを支配したッ!その凶顔はまさしく水上の暴君!ギャラドスッッ!!】
絵里「フリーザー、“フリーズドライ”」
果南「ギャラドス!“ストーンエッジ”だ!」
【さあ、お互いの技が猛威を奮う!
氷点下の羽ばたきが生み出す真空、凍結、乾燥のトリプルコンボはみずタイプにも効果はバツグン!
対して水面から急襲する岩の顎!こおり・ひこうのフリーザーにとっては刺さる!まさに一撃必倒!ただし当たればの話!
フリーザー、冷気を放ちながら空を舞っていく〜ッッ!!!】
…
《高坂家、居間》
穂乃果「おおお…っ!ここ!この場面!本っっ当手に汗握るよね!」
雪穂「お姉ちゃんテレビ近すぎ。怒られるよー」
━━ピンポーン!
雪穂「あ、お客さんだ」
ほのママ「穂乃果ー!ちょっと出てくれる?」
穂乃果「うえぇ〜!?良いとこなのに!」
雪穂「何度も見てる録画じゃん…」
-
穂乃果「あーあ、決着まで見たかったのに。まああの後ギリギリでチャンピオンが勝つんだけどさ。はーいどなたですか」ガチャッ
海未「………穂乃果。」
ことり「あはは、穂乃果ちゃんおはよ〜」
穂乃果「あっ………」
穂乃果(二人と待ち合わせをしてたんだった!!!)
海未「すぅ〜っ……穂乃果ァ!!!」
〜
穂乃果「ひぃ…めちゃくちゃ怒られた…」
ことり「よしよし…はい、クッキー食べる?」
海未「全く…ことり、甘やかしてはいけませんよ?私たち二人をまたせるだけならいつもの事ですが、今日は大切な人と会う用事なのですから」
穂乃果「大切な人って言っても真姫ちゃんじゃん。海未ちゃんことりちゃんとそう変わんないよ」
海未「もう、自覚してください!今日は“友達の真姫”と会う日とは違うのですよ!」
穂乃果「わかったわかった。『ポケモン研究の若き権威、西木野真姫博士からポケモンをもらって旅立つ日〜』でしょ」
ことり「穂乃果ちゃん権威って言葉知ってるんだね〜、すごいっ♪」
穂乃果「ふっふっふ、今のフレーズは耳にタコができるほど海未ちゃんから聞かされたもんね!」
海未「常用語ですよ…?と、着きましたね。オトノキタウン、西木野ポケモン研究所!」
-
真姫「………遅い。30分以上待たされてたんだけど」クルクル
海未「すみません、真姫…私の監督不行き届きで…」
ことり「ことりがちゃんと電話入れておけばよかったの…ごめんね、真姫ちゃん…」
穂乃果「ふ、二人に謝られると余計に胸が痛む…私の責任です…」
真姫「はぁ、まあいつもの事だけど。じゃあ手短に話を済ませるわよ。はい、ポケモン三種類。それぞれ好きなの選びなさい」
穂乃果「雑っ!なんかこうもうちょっと余韻が欲しいっていうかさぁ」
真姫「知らない子に渡すならともかく、あなたたち相手に畏まっても仕方ないでしょ。私も忙しいの。ほら選びなさい、早く」
海未「やれやれ、真姫らしいですが。ええと、三種類のポケモンは…」
ことり「ほのおタイプのヒトカゲさん、みずタイプのケロマツさん、くさタイプのモクローさん。わぁっ、みんなカワイイっ♪」
穂乃果「おお〜、ちょっとテンション上がってきた!二人ともどの子がいい?」
海未「私は最後で構いませんよ」
ことり「うふふ、穂乃果ちゃんから決めていいよ♪」
穂乃果「いいの?えへへ、それじゃあ…うーん…決めた!
ほのおタイプのヒトカゲ!穂乃果と一緒に旅に出よう!」
-
ボフン!
モンスターボールから出たヒトカゲは火をしっぽに揺らめかせ、つぶらな瞳で穂乃果を見つめ返す。
『カゲ!』と鳴き声。一目でフィーリングはばっちりだ!
真姫「ヒトカゲが穂乃果。まあ、らしいかもね。ちなみにどうしてその子に?」
穂乃果「私の目標はポケモンリーグチャンピオン!そのためにはこおりタイプ使いのチャンピオンを倒さないといけなくて、だからこの子がいいな!って」
真姫「ふぅん」
穂乃果「でも何より…なんか気が合いそうだったから!」
『カゲッ!』
真姫「…合格。トレーナーとしての気構えとかを説く必要もなさそうね。それで、ことりと海未は?」
-
ことり「ことりはぁ…この子!ふくろうみたいなモクローさんにします!」
ボールから出たモクローは首をカクリと90°傾け、品定めをするようにことりの目をじっくりと見つめる。
やがて目元をにこりと笑ませ、パタパタと羽ばたくとことりの懐へすっぽりと収まった。
『ポロロッ♪』
ことり「わぁ!ふわふわでカワイイっ〜♪よろしくね、モクローさん!」
真姫「ことりはポケモンコーディネーター志望だったわよね」
ことり「うん、旅ではそこを頑張ってみるつもり。体験して勉強して、ゆくゆくはコンテスト用の衣装デザイナーになりたいなぁ〜って」
真姫「うん、センスの良いことりには似合ってると思う。きっと上手くいくわ。頑張りなさいよ」
ことり「ありがとう、真姫ちゃん♪」
海未「では私は貴方を。ケロマツ、これからどうぞ、宜しくお願いします」
『ケロッ…!』
流し目で返事をする姿はどこかニヒル。
けれど海未のことはすぐ気に入ったようで、ピョンと一跳ね隣に歩み寄ると、握手を求めるように小さな片手を差し伸べた。
海未「おや、小さくても凛々しいのですね。そして紳士的です」
-
ことり「うふふ、なんだか海未ちゃんとお似合いかも♪」
海未「お互い、残り物には福があるとも言います。仲良くやっていきましょうね、ケロマツ」
『ケロ!』
真姫「海未の旅はやっぱりバトルがメイン?」
海未「ええ、立場もありますので…穂乃果と同じようにジム戦を巡る旅になるかと」
穂乃果「ふっふっふ、ライバルだね!海未ちゃん!」
海未「ふふ、穂乃果には負けませんよ?」
真姫「世に名高い園田流ポケモン術の継承者。重圧もあるでしょうけど…応援してるわ、海未」
海未「ありがとうございます、真姫」
穂乃果「真姫ちゃん!穂乃果の旅に激励は!?」
真姫「別に…穂乃果はきのみ齧ってでもしぶとく生き延びてそうだし」
穂乃果「えへへ、そんなぁ」
ことり「褒められてないと思うなぁ…?」
海未「やれやれ…」
-
真姫は赤いフォルムの端末を手に取ると、ひょいひょいと三人に渡していく。
それにガサガサと道具が詰め合わされた小袋も。
真姫「はい、これがポケモン図鑑。選別のボールときずぐすり。これで一通りおしまいね、それじゃ行ってらっしゃい」
穂乃果「そっけない!」
真姫「ヴェッ…仕方ないじゃない、忙しいのよ。私もあちこち飛び回ってるし気には掛けとくから、旅の途中で会うこともあると思うわ」
海未「引き留めては悪いですよ、穂乃果」
穂乃果「むむ…もっとこう、これから旅に出るぞー!って区切りが欲しかったのに」
間延びした表情で不満足を訴える穂乃果、それを真似てぐぐぐと伸びをしてみせるヒトカゲ。
そんな様子を目の前に、海未とケロマツは顔を見合わせてくすりと微笑う。
海未「ふふ、ではどうです?旅立ちの記念に私と一勝負!」
穂乃果「勝負…?あ、そっか!私たちもうポケモンバトルできるんだ!よーし、行けっヒトカゲ!」
-
穂乃果とヒトカゲ、海未のケロマツが向かい合う!
トレーナーの気持ちを汲んでいるのだろうか、二匹ともが乗り気に前かがみの臨戦態勢。
『カゲェッ!』
『ケロロロ…!』
あるいはこの二匹も、旅立ちの予感に高揚しているのかもしれない。
真姫「ちょっと…研究所壊さないでよね」
ことり「穂乃果ちゃんも海未ちゃんもがんばれ〜っ」
真姫「ことりはいいの?バトルの練習をしておかなくても」
ことり「私は一匹目じゃないから、大丈夫かなぁって」
真姫「ああ、お母さんから貰ったイーブイがいるんだったわね」
ことり「ニンフィアに進化させてあげるのが目標なんだぁ。うふふ、モクローさんもイーブイさんも仲良くしてね♪」
真姫「ニンフィアね、ことりには似合いそう。ん、始まるわよ」
-
海未「お先にどうぞ」
穂乃果「ほんと?遠慮しないよ!」
そう息巻いたはいいものの、さて初のポケモンバトル、とにかく勝手がわからない。
(どうするの?)
とばかり振り向いてくるヒトカゲに「ちょっと待ってね」と苦笑いを浮かべ、穂乃果は不慣れに図鑑をヒトカゲへと向ける。
穂乃果「“ひっかく”と“なきごえ”?あ、こうしたら使える技が見られるんだ。よーし、どんどん技を増やしてこ」
真姫「一匹のポケモンが覚えられる技は四つまでよ」
穂乃果「へ、なんで?」
真姫「ポケモンバトルは競技だけど、ポケモンたちにとっては生存闘争の延長線上。
サバンナのライオンをイメージしなさい。吠えて、突進して、ひっかいて、噛み付く。行動パターンなんてこんなものでしょ?」
穂乃果「おお〜確かに!」
真姫「思考パターンが多すぎればその分だけ選択が遅れる。行動が遅れる。スピードを損なわずに練度を高められるのは四つが限界ってコト」
穂乃果「なるほどね…!」
頷き、「待たせてごめんね!」とヒトカゲに謝る。
そして初めての指示を!
-
穂乃果「ヒトカゲ、“ひっかく”!」
海未「ケロマツ、“あわ”で受けてください」
海未は落ち着いた声で指示を出す。
ケロマツは応じ、ぶくぶくと白い泡を身の回りに膨らませた。
弾性に富んだ泡がヒトカゲの爪、その勢いを軽減させる。
食い込んで弾け、飛沫がヒトカゲの体へとはねかかる!
『かげぇ…』
穂乃果「あっヒトカゲ!?やっぱみずタイプには弱いか…ずるいよ海未ちゃん!」
海未「ずるいも何もないでしょう、私は最後に選んだのですから…」
ことり「うふふ、二人が戦ってる姿、かっこいい…♪」
真姫(ズブの素人の穂乃果とは違い、海未は判断が速い。
海未の実家はポケモン道場の園田流。園田流は旅立ちまでポケモンの所持を許さない代わりにトレーナー自身の体力、知識、精神を鍛え上げるスタイル。
勝負は初めてでも、技量は一定の域にあるわね)
海未「ケロマツ、泡を踏み台にして跳躍を」
『ケロ!』
-
明確かつシンプルな指示はポケモンに迷いを抱かせない。
ケロマツは海未の声に従い、大きめに膨らませた泡を地面に、ぶよんぶよんとしたその泡へ思い切り踏み込む。
ぐぐ…と沈み込み、トランポリンの要領で上へ!
穂乃果「跳んだあ!?」
ことり「ええっ!天井に張り付いてる!?」
真姫「ケロマツは最大でビル3階まで飛び上がれるポケモン。あれくらいはこなせるわね」
海未「高所で距離を保ったまま、“なきごえ”を」
穂乃果「ケロケロケロケロケロ…って、あ!ヒトカゲ!集中力なくしちゃダメだよ!」
『カゲ〜』
海未(なきごえは集中力を削って攻撃の勢いを削ぐ技。こうしておけばケロマツを近付かせても大丈夫でしょう。
…ヒトカゲの初撃、穂乃果は気づいていないようですが、泡で勢いを殺しきれずにケロマツを掠めていた。ある程度のダメージが入っています。警戒を!)
海未「ケロマツ!飛び降りて“はたく”!」
『ゲロォ!』
『カゲぇ…!?』
穂乃果「ヒトカゲ、大丈夫だよ。穂乃果を信じて」
『……カゲッ!!』
真姫(瞳をまっすぐ、ポケモンと意思を疎通させている)
穂乃果「怖がらずに、しっかり目を開いたままだよ。狙いを定めて…」
-
自由落下に脚力をプラス、墜ちてくるケロマツは肩の可動域いっぱい、大きく腕を引いている。
全力の平手打ちでヒトカゲを昏倒させようと狙っている!
対してヒトカゲ、穂乃果の燃えるハートはヒトカゲから恐れを取り除いた。
宿る決意。タイプが不利なら気持ちで覆せ!!
そして穂乃果のポケモン図鑑に新たな技、“ひのこ”の表示が点る。それを見逃さない!
穂乃果「ヒトカゲ!!“ひのこ”だよっ!!」
『かぁぁ…ゲェッ!!!』
海未「なっ!?」
ことり「ほのおタイプの技!」
真姫(ありえない…“ひのこ”はレベル7で習得する技なのに。
まさか穂乃果…戦闘中にポケモンを成長させているって言うの?)
『ゲロロっっ!?』
-
尻尾を振り回し、撒き散らすは火の粉!
花火めいて散った赤がケロマツを驚かせ、その“はたく”をヒトカゲからわずかに逸らす。
叩かれる床、砕けるフローリング!
穂乃果「硬い床が壊れたぁ!?」
海未「なんという、これがポケモンの力!」
ことり「この力を悪用する人がいたら…」
真姫「そう、ポケモンは愛すべき存在であると同時にとても恐ろしい存在。最上の友人にも、最悪の兵器にもなる。
私たちは常に、友情と畏敬を併せて抱き続けるべきなの。負けた方に床の修理代を請求するわ」
穂乃果「それは嫌だ!チャンスだよっ!ひっかいて!」
海未「それを受けてはまずいっ、泡を全開にしてください!全て出し尽くす勢いで!!」
交差する指示、受ける二匹、眼光が重なる!!
……
-
…
『かぁ…げっ…』ドサリ
『けろ、ろ…!』ヨロ…
倒れてしまうヒトカゲ、あとわずかで踏みとどまるケロマツ。
紙一重の差で、軍配は海未に上がる!
穂乃果「ああっ…ヒトカゲぇ!ごめんね…」
海未「あ、危なかった…頑張りましたね!ケロマツっ!」
お互いのポケモンを抱きしめて褒め、穂乃果は謝り、海未は労い。
そして立ち上がり、二人は固い握手を交わす。
旅立ちの一戦はここに幕を閉じた。
見つめることりは穂乃果と海未、大好きな二人の幼馴染の勇姿に少しだけ瞳を潤ませている。
戦いこそしていないが、そんなことりはモクローを撫でていただけですっかり懐かせている。ことりもまた、平凡ではない。
真姫はそんな三人を眩しげに、少しだけ羨ましそうに見つめている。
真姫(この三人にどんな旅路が待ち受けているのかしらね…一筋縄ではいかないだろうけど)
ここは始まりの地オトノキタウン。
かくして今、三人の主人公の旅路が幕を開ける!!
-
【ダイイチシティ】
海未「さて、どうにか街まで辿り着きましたね」
ことり「ううん、旅ってあんなに草むらを歩くんだねぇ…靴がドロドロ…」
海未「ふふ、お洒落なことりが私は大好きです。けれど旅路では少し、実用性に傾けたチョイスをした方がいいのかもしれませんね。その靴では長旅に不向きでしょう」
ことり「う、海未ちゃぁん…♪もう一回言って?」
海未「へ?何をです」
ことり「ことりのこと、大好きって…♪」
海未「はうっ!そ、そういう意味ではなくてですね…!」
しどろもどろの海未、ことりは蠱惑的なふわとろボイスで海未の耳をくすぐって悦ばせる。
赤い屋根に白地、ポケモンセンターの壁へふんわりと海未をおしやり、顔を寄せ…耳たぶをついばんだ。
海未「ひゃうう!?」
ことり「うふふ、ごちそうさまでした♪」
穂乃果「なにやってんの、二人とも」
-
遅れてポケモンセンターから出てきた穂乃果は、幼馴染二人の茶番を目に呆れ気味。
穂乃果の隣に並んだヒトカゲは、ことりと海未の捕食者と被食者の関係性を敏感に察知する。
『カゲェ』
海未「な、なんです…その哀れむような目は!」
そんなやりとりを終え、三人は町の地図を並んで眺めている。
海未「ダイイチシティ、ここはジムがあるのでしたね。物は試し、私は早速挑んでみようかと思います」
ことり「ここはオトノキタウンより大きいからお店も多いんだよね。ことりはポケモン用のお洋服を色々見て回ろうかなぁ。穂乃果ちゃんは?」
穂乃果「ううん、穂乃果はさっきの草むらでもうちょっと戦う練習してこようかなー」
海未「え、さっきもかなり戦っていたではないですか。泣きながら逃げていくポッポやコラッタを何匹見たことか」
穂乃果「いやー…ヒトカゲは頑張ってくれてるんだけど、海未ちゃんと戦ってみて、私って勉強不足だなぁと思ったんだ。
もうヒトカゲに悔しい思いさせたくないんだよ。だから私は…コツコツ頑張ってみる!」
海未「穂乃果…」
ことり「穂乃果ちゃん…」
-
穂乃果「………ん?どうしたの、二人とも変な顔して」
海未「穂乃果から、コツコツなんて言葉が聞ける日が来るだなんて…!」
ことり「海未ちゃん…ことり嬉しいっ、でも少し寂しいよ…!」
海未「ああっ、わかりますよことり…!しかし保護者はいつか離れていかなくてはいけないのです…!」
ことり「穂乃果ちゃぁん…!」
穂乃果「私ってどんな風に見られてるんだろう…とりあえず、一旦それは置いといてさ!」
穂乃果は海未とことり、大好きな幼馴染二人の手をギュッと握りしめる。
少しだけ、瞳を潤ませ…意を決したように力強く言葉をかける。
穂乃果「ここからはバラバラの道だね」
海未「っ…!…そう、ですね。基本的にトレーナーの旅路は、単独行ですから」
ことり「……穂乃果ちゃん、海未ちゃん…っ」
誰からともなく、三人はお互いの体をギュッと抱きしめる。
オトノキタウンはそれほど人口の多くない街。そんな田舎で三人近所、同い年。長い時間を一緒に過ごしてきた。
初めての別れ、初めての一人旅。
-
もちろん二度と会えないわけではない。
連絡は取れるし、道行きに交わることも多いだろう。
それでも一旦の別れはやっぱり辛いし寂しい。油断すれば溢れそうな涙をぎゅっと食いしばり、三人はハイタッチをして背を向ける!
ことり「それじゃあ行くね!穂乃果ちゃんも海未ちゃんも強いトレーナーになってね!」
海未「もちろんです!決して負けません!ことりも…良い旅路を!」
穂乃果「ことりちゃんなら最高のコーディネーターにも天才デザイナーにだってなれるよ!」
ことり「っ…バイバイ!二人とも大好きっ!!」
海未「……行ってしまいましたね。では、穂乃果。私もそろそろ…」
穂乃果「海未ちゃんっ!」
呼び止め、穂乃果は海未へと力強く拳を向ける。
そして高らかに高峰への宣言を!
穂乃果「ポケモンリーグで会おう!!」
海未「…!ええ、絶対に負けませんよ!私のライバル!」
-
【現在の手持ち】
穂乃果
ヒトカゲ♂ LV9
海未
ケロマツ♂ LV8
ことり
モクロー♀LV5
イーブイ♀ LV13
-
…
穂乃果「……あーんな格好良く別れて、元の道を戻って草むらをガサガサってのもなーんか冴えないなぁ。ね、ヒトカゲ」
『ゲ?』
穂乃果「あ、“えんまく”覚えた」
コラッタにポッポを倒しては倒し、怪我をすればポケモンセンターへの繰り返し。
往復三度目にして、飽きっぽい穂乃果にはそろそろ限界だ。
穂乃果「“ひのこ”ー」
『カゲー』ボボッ
穂乃果「“ひっかく”ー」
『カゲ。』ガリッ
穂乃果「お、あのキャタピーふんばってる。根性ある子なのかな?えーいっ!モンスターボール!」ボムッ
『きゃたっ!』
穂乃果「やったぁ!自力でポケモン初ゲット!よろしくね、キャタピー!」
こんな調子、手持ちを二匹に増やしてうろつきを継続している。
そろそろ街へ向かおうかな、そう考えたその時、同じように草むらを歩いてきた一人の少女と視線がクロスする。
みかん色の髪、前髪の横に三つ編みが一つ。腰にはボールが二つ、少女も同じくトレーナー!
千歌「あ…」
穂乃果「お…っと、目が合った?」
千歌「目が合った、こういう時は!」
穂乃果「と、トレーナーとのバトルだ!いけっ、ヒトカゲ!」
千歌「頑張れヨーテリー!」
バトル開戦だ!
-
…
海未はジムの中を歩いている。
ダイイチシティジム、リーダーへと挑むためには居並ぶジムトレーナーたちを薙ぎ倒すだけの戦力を見せなければならない。
そんな条件の中、海未とケロマツは園田流の名に恥じない連戦連勝の実力を見せつけていた。
海未「やれやれ、流石に少し疲れますね。ケロマツは大丈夫ですか?」
『ケロ』
海未「おや、頼もしいですよ。ふふっ」
ジムの入り口ではバッジの所有数を聞かれる。
旅に出たばかりの海未は当然ゼロ。
トレーナーの身分を保証する博士…海未たちの場合は真姫がしてくれたトレーナー登録に照らし合わせて申告に虚偽がないかを確認。
そんな手続きを済ませた上で、ジムトレーナーたちはバッジ数に合わせたレベルのポケモンで相手をしてくれるというわけだ。
海未(バッジ数ゼロで挑むジムは、ある程度の心得さえあれば突破できる難度設定。
そう踏んで吶喊しましたが、悪くない判断だったようです)
海未(経験の効率も良い。ケロマツのレベルは14まで上がりました。
“あわ“、“でんこうせっか”、“したでなめる“、“みずのはどう”。この四つの技構成ならリーダーも突破できるはず)
ジム内は和風の内装。長い廊下、一歩一歩に床が微かな軋みを鳴らす。
少し実家に似ていて心地よく、同時に身が引き締まる。
そして現れる広いバトルフィールド、ジムリーダーとの対面だ。
和装に身を包んだ黒髪の少女が、凛然とした佇まいで海未を迎える。
ダイヤ「ようこそトレーナー。わたくしがダイイチジムのリーダー、黒澤ダイヤですわ!!」
-
海未「初めまして、園田海未と申します」
ダイヤ「あら、美しい所作ですわね。洗練されている…好感が持てますわ」
海未「光栄です。私からも同じ言葉を送らせていただきますよ」
ダイヤ「ところで…園田海未さん。もしや貴女、園田流のご息女でして?」
海未「御察しの通り、その園田です」
ダイヤ「そう…楽しみですわ。天下に名高い園田流が…
わたくしの操る!硬度バツグンの!いわタイプのポケモンとどう対峙なさるのかが!!」
ダイヤのボールから繰り出されるのはイワーク!
いわ、じめんタイプを併せ持つ、硬質な巨躯を誇る岩蛇だ!
しかし海未は動じない、その姿を目の当たりにしてほくそ笑む。
海未「そう、このジムはいわタイプ。ですので、多少無理を押して挑ませていただきました。ケロマツはみずタイプ!このジムは私たちにとってカモなのです!」
迷いなき海未の指示!
“みずのはどう”がイワークを叩き、その奥深くへとダメージを浸透させる。撃破!!
-
…
ことり「今頃、穂乃果ちゃんと海未ちゃんは何してるのかなぁ…」
『ポロロ』
ことり「寂しいな…」
『ブイ!』
ことり「ふふ…ありがとう、イーブイ♪」
ことりは鞄を抱え、公園のベンチに座り、膝に手持ちの二匹を抱きかかえている。
ふかふかとした毛皮が心地よく、ぽっかりと空いた二人分の寂しさを少しだけ暖かくしてくれる。
ことり(ことりはポケモンたちを戦わせるのは、なんとなく可哀想で気が進まないんだ…
ううん、ポケモンたちは戦うことを嫌がらないよ。適度に戦わせてあげた方が長生きするって研究もあるみたい)
ことり(だけど…ううん、これはポケモンさんたちよりも、ことりの性格の問題だよね…)
適した年齢になれば旅に出るのがこの世界の通例。
ポケモンと関係のない職業を目指していればその限りでないが、ポケモンの衣装デザイナーを目指すことりは旅を避けて通れない。
ことり(穂乃果ちゃん…海未ちゃん…)
ルビィ「わぁ…モクローさん…!」
ことり(ん…?)
-
ことり(赤い髪の…かわいい女の子。少しだけ年下かな?)
ルビィ「イーブイさんも…えへへ、かわいい…」
ことり「あの…」
ルビィ「ピギィ!?ごめんなさいごめんなさい!ルビィはポケモンさんに悪いことしようとしたわけじゃなくて可愛かったから近くで見たくって本当にごめんなさい…!」
ことり「わ、わぁ…?大丈夫だよ、落ち着いて♪」
ルビィ「うゆ…」
ことり「よしよし。ルビィちゃん…っていうのはお名前?」
ルビィ「は、はい…ごめんなさい…」
ことり「謝らなくて大丈夫ですよ♪私は南ことり。ちょっと珍しい名前でしょ?一緒だね♪」
ルビィ「あ…うん、えへへ…」
ことり「モクローとイーブイ、あなたに撫でてほしいみたい。ちょっとだけ撫でてあげてくれないかなぁ?」
ルビィ「いいの?ぅゆ…」
『ポロっ♪』『ブイ!』
ルビィ「かわいい…」
ことり「あ、ボールを持ってるんだね。あなたもトレーナーさん?」
ルビィ「うん…でもルビィ、戦いはあんまり好きじゃなくて。かわいがる方がいいなぁって…」
ことり「うふふ、ことりもそうなんだ。よかったらちょっと、お話に付き合ってくれませんか?少しだけ…寂しかったから」
ルビィ「あ…はいっ。なんだか、ことりさんとは仲良くできそうだな…」
ルビィは自分のボールからピィを出し、優しい手付きで撫でながらベンチに腰掛ける。
ことりもピィの頭をそっと撫で、寂しさを紛らわしてくれたルビィに感謝しながら会話に花を咲かせるのだった。
-
…
穂乃果「ヒトカゲ!“ひっかく”だよっ!」
『かぁぁ…ゲッ!!』
ヒトカゲが張った“えんまく”が濃く視界を遮っている。
その中から瞬迅、ヒトカゲが飛び出して爪を突き出した!
『タチィ…!』
千歌「ああっ!ヨーテリーに続いてオタチがぁ!」
穂乃果「これで二匹、次は…」
千歌「いないよぉ…負けです…うう」
穂乃果「や、やった?やった!勝った!勝ったよヒトカゲー!!」
トレーナーとの戦いではこれが初勝利!
手を取りジャンプ、全身で喜びを表現する穂乃果とヒトカゲ。
そして勝負を交わした少女へと手を差し伸べ、快く握手を交わす。
穂乃果「自己紹介が遅れちゃったけど…私、高坂穂乃果!8月生まれの16歳!あなたは?」
千歌「高海千歌です!わあ、ほとんど同い年!私も8月生まれの16歳だよ〜!」
穂乃果「おおー!それじゃあ、千歌ちゃんって呼んでもいい?」
千歌「いいよー!私も穂乃果ちゃんって呼ばせてね!」
-
なんとなくだが波長が合う。
意気投合した二人は春の並木道、桜の木陰にしゃがみ込む。
木を軽く蹴って、ビードルが落ちてこないか確かめておくのも忘れずに。
千歌「はぁ。それにしても同い年…凹むよぉ〜」
穂乃果「へ、何が?」
千歌「私ね、幼馴染や友達にすごく強い子が多くて…同い年ぐらいの子と戦って勝てたことが一回もないんだ…」
ぴょんと跳ねた頭頂の毛が、こころなしかひょろりと落ち込んでいる。
はぁ〜と溜息を吐いた千歌に苦笑いを返し、穂乃果も同意に首を縦に振る。
穂乃果「わかるなぁ。私にも同い年の幼馴染が二人いるけど、二人ともすごい子なんだよね。
負けないぞ!って思ってるけど、本当に勝てるのかな、なんて時々考えちゃったり」
千歌「穂乃果ちゃんもなんだ…うん、私だけじゃないんだよね」
穂乃果「それにその子たちにまだ勝てなくたって、他のことをたくさん経験してからまた挑戦すればいいんだよ。私はさっき千歌ちゃんにギリギリ負けそうだったし」
千歌「え、でも穂乃果ちゃん、もう一匹持ってたよね?」
穂乃果「この子?さっき捕まえたばっかりのキャタピーなんだ。
弱ってるし、ヒトカゲがやられたらギブアップしようかなって思ってたよ、えへへ…」
千歌「そう、だったんだ。そうだよね…うん、私だってもっと頑張れるよね…!よぉし!」
-
がばっと勢いよく立ち上がり、千歌は太陽へと思いっきり手を伸ばす。
そんな姿はとても好感が持てて、大きな伸び代を感じさせて、穂乃果の心に“高海千歌”という名前が深く刻み込まれる。
と、草むらの向こうから一人の少女が手を振っている。
曜「おーい千歌ちゃーん!」
千歌「あ、よーちゃーん!」
穂乃果「お友達?」
千歌「うん、さっき言ったとっても強い子。渡辺曜ちゃん!」
千歌の表情は大好きな親友を紹介している人のそれで、けれどほんの一瞬陰りがよぎる。
くるりと穂乃果へ振り返り、「はい、プレゼント!」とみかんを手渡して駆けていく。
千歌「また会おうね、穂乃果ちゃん!」
穂乃果「うん、千歌ちゃんとはまた必ず会う気がするよ。頑張ろうね、お互い!」
とたたと小走り、千歌は友人のところへ駆け寄り、もう一度大きく手を振って去っていった。
隣にいた“曜ちゃん”がほんの一瞬、穂乃果へと悋気めいた値踏みの視線を向けていたような気がしたが…今気にしても仕方ないだろう。
穂乃果「幼馴染って楽しいけど大変だ…うん。さて、穂乃果たちも街に帰ろっか!」
『カゲ!』
初めての勝利に意気揚々、もらったみかんをヒトカゲと半分こにしながら穂乃果はイチバンシティへと歩いていく。
…木陰。
そんな穂乃果の背を凝視する人影があることに、穂乃果はまだ気付いていない。
-
…
ダイヤ「コドラ!“がんせきふうじ”ですわ!」
『ヤコッ…!』
海未「よくやってくれました、戻ってください!ヤヤコマ!」
イチバンシティジム戦は詰めの段階を迎えている。
海未のケロマツはダイヤの先鋒イワークを“みずのはどう”による四倍ダメージの一撃で沈めた。
ダイヤが繰り出した後続はコドラ。
鉄鎧ポケモンの名を冠する堅牢な進化ポケモンだ。
対して海未は、相性に優れるケロマツを引っ込める。
そして代わりに繰り出したのは道中で捕まえていた鳥ポケモンのヤヤコマ。
相性最悪の相手に敢えてのひこうタイプ、海未の選択肢は“でんこうせっか”。
無論、与えたダメージはごく微小。
コドラが返しの刃、効果バツグンの“がんせきふうじ”でヤヤコマを沈めて状況今に至る。
海未「もう一度お願いします、ケロマツ!」
『ゲロロッ!』
ダイヤ(………お見事。詰みましたわ)
海未「これで終わり!“みずのはどう”ですっ!!」
-
ケロマツは視線鋭く、アマガエルがする雨鳴きに似た声色で声帯を震わせる。
その声は空気中の水分を結集、振動させ、音の波動を振動する水へと瞬時に変化させる。
そして生じた水塊を全力で投げ放つのが今のケロマツの十八番、“みずのはどう”!
炸裂!!
滴り落ちる水滴、フィールド全域に水が飛び散っている。
ケロマツが投じた小さな水塊にどれほどの水量が圧縮されていたのかは推して知るべし。
コドラはおよそ120キロの鋼体をぐらり、その身を床に転がした。
ピシュン、と赤線がコドラを包み込み、その体がダイヤのモンスタボールへと引き戻される。
イワーク、コドラの二体を撃破し…
ダイヤ「貴女の勝ちですわ。おめでとうございます。
そして…ジムリーダーの権限を以って、園田海未をバッジ一つに値するトレーナーと認定致しますわ!」
海未「や、やりました…!ありがとうございます!」
海未は小さく控えめに手を握り、戻ってきたケロマツとこつんと拳を突き合わせた。
そしてダイヤへと深く頭を下げて感謝を示す。
ダイヤは微笑んでそれを受け、海未へ賛辞と問いを。
-
ダイヤ「コドラの特性“がんじょう”を“でんこうせっか”で崩す。それ自体はシンプルですけれど、初見で備えていたことが既に評価に値しますわ。
海未さん、貴女の目標はどこにあるのです?」
海未「目標…ですか。私の大切な幼馴染の一人が、チャンピオンを目指しているのです。
ならば私も同じ場所を。チャンピオンを目指すのが親友としての礼儀!」
ダイヤ「……素敵ですわね。でも」
海未「でも?」
ダイヤ「現チャンピオンは!エリーチカは無敵ですわ!決して負けません!
凍って・カチコチ・エリーチカ!KKE!覚悟して挑むのですね!勝てないでしょうけれど!」
海未「は、はあ…熱烈なファンなのですね…」
ダイヤ「……さておき、もう一つ大切な話を。次はどうされるつもりですの?」
海未「次、ですか。目標はもちろん次のバッジですが、尋ねているのは成長の指針でしょうか?」
ダイヤ「ええ、その通りですわ」
海未「そうですね、差し当たっては手持ちの数を増やしていこうかと。6匹フルにいれば戦術の幅が大きく広がるでしょうし」
ダイヤ「………一つだけ、忠告です。戦闘に不慣れなうちに数を増やしすぎるのはオススメできません」
海未「……?何故でしょうか」
ダイヤ「選択肢が増えれば思考が増える。思考が増えれば行動が遅れる。トレーナーの迷いは危機を呼ぶ」
海未「……」
ダイヤ「ポケモンへ攻撃してくる相手ばかりだと思い込まないように。
…それを、貴女への餞別の言葉に代えさせていただきますわ」
海未「……ええ、深く心に刻んでおきます」
海未はジムから外へ、空は夕暮れの赤へと染まりつつある。
忠告を送るダイヤの真剣さ、反して歯に物が挟まったような物言い。違和感が胸に不安をよぎらせる。
海未「……穂乃果とことりを探しましょう。旅路を分かつには、少し早すぎたのかもしれません」
そう呟く海未にもまた、一つの足音が迫りつつあった。
-
…
ルビィ「ピギャッ!?いつの間にか夕方になっちゃってる!」
ことり「わあ、ほんとだ…楽しくて気付かなかった…!」
ルビィもことりと同じく、コーディネーターの方面、さらには衣装デザインに興味があるらしい。
お互い愛でたい派、お互い衣装に興味があって、裁縫も趣味にしている。
そんな二人の話が合わないはずもなく、春の夜風が吹き始めるのにも気付かず公園のベンチで長々と話し込んでいたのだ。
くしゅん!と可愛らしくクシャミを一つ、ルビィは慌てて立ち上がると頭を下げる。
ルビィ「帰らなきゃ門限で怒られちゃう…!あの、ことりさん、ルビィ…すっごく楽しかったです!」
ことり「うんっ!ことりもだよ♪ルビィちゃんはいつもこの街にいるの?」
ルビィ「えっと、住んでる家はここなんですけど、用事で他の街に行くこともあって…でも!ジムが実家だからすぐわかると思います!」
ことり「えっ、ジムが?お姉さんのダイヤさんがジムリーダーなの?」
ルビィ「はい!お姉ちゃんはとっても強くて…ルビィの憧れなんです!」
ことり「うふふ、仲が良いんだね。ルビィちゃんとはまた今度、時間がある時に遊んだりゆっくりお話ししたりしたいな」
ルビィ「うん!ルビィもことりさんともっとお話ししたい!えへへ…いつでも家に遊びにきてくださいね」
-
そう言うと踵を返し、ルビィは慌ただしく公園の外へと駆けていった。
話が合う、ポケモンも可愛い、おまけに本人も愛らしいと三拍子。可愛いもの好きのことりにはたまらない少女だった。
旅に対して後ろ向きになっていたことりの心も、素敵な出会いにふんわりと浮き立っている。
それはそうと、そろそろ夜だ。
まだ旅慣れない身、夜は出歩かずに宿へと身を落ち着けよう。
ことり「ええっと、慣れないうちはポケモンセンターに泊まるのがオススメだったよね。穂乃果ちゃんと海未ちゃんとも会えるかも…」
ことり「だけど、どっちがポケモンセンターだったかなぁ…?」
見慣れない街並み、暗くなってしまえば様相は一変して、目印にしていた看板はネオンサインに印象を上書きされている。
まだ身の危険を感じる時刻というほどでもないが、長く外に座っていたせいで体が冷えた。
早く戻りたいところだが…
「ねえ、アナタ。ポケモンセンターを探してるの?」
ことり「えっ…」
-
振り向いたことりの目に留まったのは一人の少女。いや、女性と呼ぶべきか?
ことりより背の低いその女性は、強気で美しい顔、コートを羽織って凛とした佇まいだ。
年齢は不詳。
ことりよりも下のようにも上のようにも、あるいは世間の荒波に揉まれた凄味をも感じる。
その雰囲気を一言で言うならば“カリスマ”。
問いかけに対し、ことりは無防備に首を縦に振っていた。
ことり「そ、そうなんです。道がわからなくなっちゃって…あはは」
「そう。道案内してあげるから付いてきて?」
ことり「わぁ、ありがとうございます!」
女性だということ、自分より背が低いということ、何より醸し出すカリスマ、有無を言わせぬ雰囲気に、ことりは疑うことなく追従してしまう。
そして辿り着いたのは…廃ビルの一画。
ことり「ここ、は…?」
「自己紹介がまだだったわね。私の名前は綺羅ツバサ。大陸からやってきたチャイニーズマフィア、『洗頭(アライズ)』のリーダーよ」
ことり「マフィア…っ!?」
ツバサ「オトノキタウン出身者、南ことりさん。悪いけど、アナタのポケモン…いただくから」
同刻、人気のない工事現場。
英玲奈「抵抗しないでもらえると助かるんだが」
海未「…戯言を」
同刻、埠頭の倉庫街。
あんじゅ「人払いをしているのよ。つまりあなたは…完っ全に袋のネズミ!」
穂乃果「ふ、ふく?なんだかよくわかんないけど…私は負けない!」
三箇所同時、狙い澄ました急襲。
世界の闇が穂乃果たちへと牙を剥く。
-
…
夕暮れの港、どこか寂しげな汽笛が遠鳴り、残響を残している。
本来ならまだ港湾労働者たちが残っているはずの時刻なのだが、穂乃果が周囲を見回してみてもまるで気配がない。
優木あんじゅ。そう名乗った相手はゆるりとした仕草でコートを脱ぐと、腰に並んだいくつかのボールから一つを手しにて婉美に嗤う。
あんじゅ「踊らせてあげるわぁ。おいでなさい、ビビヨン」
繰り出したのは紫色の羽をした蝶のポケモン、ビビヨン。
複数の柄がいるポケモンだが、その中でもとりわけ雅な色味のものだ。
穂乃果(って、図鑑に書いてある。むし・ひこうタイプ、それならヒトカゲで…)
穂乃果は深呼吸、対峙するあんじゅを観察する。
綺麗だが、どうにも派手な印象。
収まっているボールがゴージャスボールなのが、彼女の趣味をわかりやすく表現している。
あんじゅ「うふふ…仕掛けてこないのかしら?」
穂乃果「倒してやる!ヒトカゲ、“ひのこ”だよっ!」
あんじゅ「炎は怖いわ…けど、それではビビヨンは落とせない。次はこっちの番…あら?」
穂乃果「逃げるよ!ヒトカゲ!」
『カゲェ!』
あんじゅ「あらあら…」
-
威勢良く放った初撃から一転、くるりと踵を返して逃走に転じる。
穂乃果は存外冷静…と言うより、とんでもなく肝が座っているタイプ。
ピンチにも決断力は鈍らない!
穂乃果「あの人かなり強い!まともにやり合ったらやられちゃうよ!」
『ゲッ、カゲ!』
あんじゅ「一目散に角を曲がって…これじゃあ逃げられちゃうわぁ?」
穂乃果「えへへ、上手く撒いた…ってえ!こっちはダメだ!そこを曲がって…ここもダメ!?」
走り回って息を切らし、逃走路になりそうな道を駆け巡り、そして穂乃果はいよいよ窮地を自覚する。
道の全てが資材や横倒しのトラックで封鎖されてしまっている!
歩いてゆっくり、悠々と追いついてきたあんじゅは口元を隠し、可笑しげにくすくすと息を漏らす。
あんじゅ「満足したかしら?それじゃあ私の番。ビビヨン、“かぜおこし”」
穂乃果「う、わ……っ!!」
-
鳥に比べて優雅な印象の蝶の羽ばたき。しかし生じる風はまるで小規模な台風。
穂乃果とヒトカゲは風の壁に殴りつけられ、体がふわりと空に浮く。
飛び、転び、叩きつけられて擦れる頬。
ヒトカゲに刻まれたダメージはさらに重い!
穂乃果「っ、痛…口の中が切れて血が…それよりヒトカゲ!大丈夫!?」
『か、カゲッ…!』
穂乃果「よかった、まだ大丈夫だね…」
あんじゅ「当然、とっても手加減したもの。生きててくれないと捕まえられないでしょう?“ねむりごな”」
穂乃果(ねむりごな!あれは警戒しなきゃいけない技だけど、けっこう外れることも…)
『………かげ…』
穂乃果「うああっ、バッチリ吸っちゃってる!?」
あんじゅ「運良く回避を期待したかしら?でもムダよぉ、私のビビヨンの特性は“ふくがん”。複眼で捉えた相手を易々とは逃さない…」
穂乃果「ヒトカゲ!起きて、ヒトカゲ!」
あんじゅ「くすっ、呼びかけただけで起きるほどビビヨンの鱗粉は甘くない。そして同じだけの量を浴びれば…」
穂乃果「ヒトカ……っ!…これ、は…?」
あんじゅ「どうして人は眠らないと思ったのかしらぁ。
むしろ逆、ポケモンよりも耐性に劣る人間がたっぷりと浴びれば昏睡、限界量を超えれば廃人まっしぐら…」
穂乃果(…っ、息を吸っちゃ駄目だ!でも息を吸わずに、どうやって戦えば…!)
-
あんじゅ「ゆっくりおやすみなさい?あなたのヒトカゲちゃん、私がもらって有効活用してあげる」
穂乃果「そんなの…嫌だ!お願い、キャタピー!」
もう一つのボールが弾け、現れたのは緑色のいもむしポケモン、キャタピー!
もぞもぞと動くその姿を目に、あんじゅは心底おかしそうに首を傾げる。
あんじゅ「蝶に芋虫が勝てると思う?」
穂乃果「キャタピー!私の腕に張り付いて!そして…“いとをはく”!」
あんじゅ「はぁ…?どこに向かって糸を…あっ」
穂乃果がキャタピーの糸を射出させたのは高所に聳える大クレーン。
船舶建造用、資材を運ぶための重機のフックをめがけてキャタピーの糸を絡めつける。
穂乃果の腕にぎゅっとひっつくキャタピー、ギリギリで届いた糸。
とびきりの粘り気と伸縮性のあるそれを穂乃果が思い切りの引っ張ると…ゴムのように反動!穂乃果の体が宙へ跳ね上がる!!
あんじゅ「何を考えて…そのままじゃ海に落ちるだけよ」
穂乃果「まだっ!キャタピー、もう一回“いとをはく”!」
-
新たに射出した糸がもう一台のクレーンフックを捉え、穂乃果はターザンめいた、あるいはスパイダーマンめいた挙動で勢いよく空を切る。
水面すれすれ、たとえ水でも激突すれば死にかねない速度で穂乃果の体は海上を滑空。度胸が据わっている。
腕にブレーサーのように装着したキャタピーが全力で踏ん張っている。
小さな体にかなりの負担をかけているはずだが、そこはポケモン。人間よりはよほど頑丈に出来ている。
そして穂乃果は無事すたり。港の対岸へとバンザイで着地!
あんじゅ「あら…あっちは逃走経路を塞いでいない。あれじゃ逃げられちゃうわねぇ。ビビヨン、私たちも飛ぶわよ?」
『ビヨ…!』
あんじゅの背中を掴み上げ、1メートルを越す翅でビビヨンは空を舞う。
進化したポケモンの能力は凄まじい。百メートル近い距離を一瞬で横断、逃げようと背を向けた穂乃果へと迫っていく!
あんじゅ「逃げたって無駄。どれだけだって追いついて…」
が、穂乃果は振り向く。逃走の仕草はブラフ!
あまり考えていないように見せかけての意外性と閃きこそが穂乃果の武器なのだ。
穂乃果「逃げないよ。だって、まっすぐ飛んできてる今が最高のチャンスだから!キャタピー、もう一回“いとをはく”!」
あんじゅ「っ、ベタベタと鬱陶しい。
確かに今は最高速で直線軌道、回避性能は落ちているわ。だけど糸を付けられたからって…」
穂乃果「そしてヒトカゲ!キャタピーの糸に“ひのこ”だよっ!!」
あんじゅ「ええ!?あの、それはちょっと、待っ…」
『カァァ…ゲェッ!!!』
-
ヒトカゲが全力で放った炎はキャタピーの糸へと引火する。
火に弱いむしタイプの糸、もちろん可燃性でよく燃える。
火の粉は炎へと姿を変え、張られた虫糸のラインを辿って一直線にあんじゅへと向かっていく!
そう、これは擬似的な“かえんほうしゃ”だ!!
あんじゅ「きゃああっ!!?」
『ビヨヨヨッ!!?』
いくらレベル差があるにせよ、二倍威力の相性技をこれだけまともに浴びれば沈む!
すっかり目を回してしまったビビヨンはバランスを崩し、落ちたあんじゅはなかなかのスピードで地面をゴロゴロと転がった。
「ふぎゃっ!」
…と情けない声が聞こえた。
が、それでも手櫛で髪を直し、ビビヨンをボールへと戻して表情を固め直し、どうにか気品を保っている。
そして少し憎々しげに、穂乃果へと問いかける。
あんじゅ「どうしてヒトカゲが起きているのかしらぁ…」
穂乃果「……」
あんじゅ「安易に答えるほどバカじゃないのねぇ…けど、見てわかったわ。
あなたの左手、グシャグシャに折れてる。海面ギリギリを滑空した時、手が砕けるのを承知で水を掬った。そしてヒトカゲの顔を洗って目を覚まさせた。そうでしょう?」
穂乃果「うわっ、バレてる」
あんじゅ「これだからオトノキの田舎出は…イカれてて嫌いなのよねぇ」
低めの声でそう呟くと、あんじゅは二体目のポケモンを繰り出した。
現れたのは禍々しいフォルム、体長2メートルを優に超えるオオムカデ。
あんじゅ「ペンドラー、蹂躙なさい」
『ドラァァァ!!!!』
穂乃果「さてと、左手痛いし…どうしよっかな?」
穂乃果の頬を、初めての冷や汗がゆっくりと伝った。
-
…
英玲奈「キリキザン、“つじぎり”」
『斬ッ!!』
海未「ケロマツ!飛び回って避けてください!」
『ケロォッ!』
舞台は建設中の工事現場。
穂乃果とことりを探す途中で追っ手がいることに勘付いた海未は、それを振り切ろうと歩いているうちにこの場所へと追い込まれてしまっていた。
人気はなく、この時刻に新たな出入りも期待できない。
どうにか振り切れないかとさらなる前進行、辿り着いたのは不安定な細い鉄骨の上。
落ちれば死が待つ吹き抜けを挟んでの対峙だ。
それでも海未は毅然と立ち、恐れを見せずにケロマツへと指示を出す。
カエルの跳躍力で跳ねるケロマツ、全身が刃で構成されたキリキザンの斬撃が一瞬遅れてその場を通過。
過ぎた斬撃の残滓…
それだけで鉄骨が豆腐のように切断される!
海未「なんという斬れ味…!」
英玲奈「エースではないが相棒だ。これくらいは容易いさ」
海未(統堂英玲奈と名乗ったこの方、明らかに荒事のプロ。あの追跡術や気配の殺し方、暗殺者…かもしれません)
英玲奈「園田流の息女だそうだな。表の世界の最強を継ぐ遺伝子、純粋に興味深い」
海未「買い被りです。かと言って、負ける気もありませんがね。ケロマツ!“みずのはどう”!」
-
ジム戦の経験を経て、ケロマツは技の使い方をさらに上達させている。
波動を球形ではなく楕円形に、ラグビーボールのような形状へと変化させて投じることで、風の抵抗を減らして命中精度を高めているのだ。
しかし。
英玲奈「避けなくていい。受けてくれ、キリキザン」
『キザン!』
英玲奈の冷静な指示。
キリキザンはケロマツ渾身の一投を、腕の刃で切り払うだけで消失させてしまった。
ケロマツは目を見はり、小さくたじろぐ。これが通らなければどうすればいいのか!
海未(ケロマツ、私も貴方と同じ感想ですよ。ですがトレーナーが動じれば、それはポケモンへ伝わってしまう。ここは…)
海未「ケロマツ、もっと上層へ!そこに打開策はあります!」
『…!ケロッ♪』
ケロマツの迷いを払い、海未は揺るがぬ瞳で不安定な足場を駆け上がっていく。
強風が吹いている。落ちれば死ぬ。怖い!
海未(ですが、私はケロマツに命を晒させている。ならば私もリスクを踏みましょう。それが園田流の心意気!)
英玲奈「逡巡はわずか、次善策をすかさず提示。なるほど、優れたトレーナー像だ。だがこれはどうだ?キリキザン、“あくのはどう”」
『キリ…キッ!!』
海未「なっ…!」
-
キリキザンから放たれた黒い波動が、登るケロマツへとめがけて広がっていく。
そして恐るべきことに、技の効果範囲は海未をも含んでいる。
海未は英玲奈の目を目に、その冷めきった光に確信を得る。
偶然の巻き込みではない、意図してトレーナーをも狙った攻撃!
海未「止まれば当たる…駆け抜けるのです!」
『ケロロロ!!』
英玲奈「ほう、動じないか。面白い」
海未(物理技を主体とするキリキザンに特殊技の“あくのはどう”…
今ので確証を得ました。この方の技構築はポケモンを倒すことに拘っていない。トレーナーを殺めることを勝利条件の一つとする技の構成!)
英玲奈(威力は“それなり”でいい。射程と効果範囲、それさえバラけていればいいんだ。
頑丈なポケモンを倒すより、脆弱な人間を手折る方がよほど早いさ)
黒の波動が背後を襲う中、海未は必死に上を目指す。
そして上層、くるりと見回してケロマツへ指示を!
海未「“みずのはどう”を!」
『ケ…ロォッ!!』
英玲奈「外へ向けて放っただと?いや、これは…」
-
ケロマツの放った水弾は空中で炸裂。
人同士の争いなどどこ吹く風、パタパタと空を舞っていたオニスズメを撃墜したのだ。
あくまで目を回させただけ、落ちても死なないようにクッションになる“あわ”を添えて、ともかくオニスズメを一匹撃破。
英玲奈「それで、どうする?」
海未「これでいいのです。さあ、もう一度“みずのはどう”を。ケロマツ…いえ!ゲコガシラ!」
『ゲロロッ!!』
英玲奈「なるほど、進化させたのか…!」
ジムリーダーダイヤとの一戦を経て、ケロマツのレベルはあとほんの少しで上がる域にあった。
レベルに経験値に…
アナログ派の海未にはどうにも理解しがたい概念だが、ポケモン図鑑にはポケモンの力量をはっきりとした数値で測定できる技術が備えられている。
理解はしていなくても利用はする。
それに従い、上空のオニスズメを倒すことで“あと少し”の経験値を稼いだのだ。
そして逆巻く水。
一回り大きく、より戦闘的な姿へと変化したゲコガシラが姿を現している!
英玲奈「進化はポケモンにとって最たる強化。侮るなよ、キリキザン」
海未「今の貴方ならある程度のダメージが見込めるはず。思いきりぶつけてください!ゲコガシラ!」
-
放たれた波動はこれまでより一回り大きく、遥かに力強く!
迫る水弾をキリキザンは両腕で受け、それでもわずかに身が後退る。
弾ける水、夕暮れの空に虹が架かる。
その輝きを透かすように…
海未はボールを片手に肩を引き、全力の投擲姿勢を!
海未(統堂英玲奈、私は貴女の生き方を否定しません。何故なら…今から私も同じことをしますので!)
英玲奈「ほう…ボールで私を狙うか!」
海未「大方、穂乃果とことりも狙われているのでしょう?助けに行かなくてはならないのです!邪魔はさせませんっ!!」
鉄面皮の英玲奈、その口元が初めて小さく弛む。
ニヤリと、それは好機を見出した笑みでもなければ侮りの笑みでもなく、きっと園田海未を敵として認めた小さな歓喜。
硬質なモンスターボールは人に当たれば案外痛い。
海未は生まれながらに地肩が強い。それを園田流モンスターボール投擲術でさらに強めていて、こんな高所で頭へとボールの直撃を受ければふらつき、転落死は免れない!
しかし英玲奈は死線を抜けてきたプロ。臨死の際にもまるで慌てず、首を傾けるだけでその一投を避けてみせた。
英玲奈「キリキザン、本気でやっていいぞ。もう一度、“つじぎり”」
『キ、キキキキキ…!斬ッッ!!!』
『ゲッロォ!!??』
海未「っ!!ただの一斬で、建物の骨組みを支える支柱四本が、全て斬られて…!?」
英玲奈「派手にいこう」
-
悲鳴のような金属の摩擦音、低く高く、長く短く、断末魔を上げている。
海未と英玲奈がいる建物の骨組み、その全てが倒壊しようとしている!
英玲奈はまるで動じた様子もなく、傾き始めた足場で斜めに姿勢を保っている。
対する海未もまた、体幹には自信がある。グラグラと左右に傾ぐ鉄骨の上、ボールを投じた姿勢のままに腕を伸ばしている。
英玲奈「いい一投だったが、私が避けた以上はそれで終わりだ。その伸ばした腕は未練だろうか?」
海未「いえ、これでいいのです…“つつく”」
英玲奈「つつく…?何を、…!?がっ!」
『キザンっ!?』
突然苦悶の声を漏らした英玲奈、キリキザンは動揺した様子で振り返る。
背後から、その肩へ。わたどりポケモン・チルットの嘴が食い込んでいる!
焦燥、突きを放つキリキザン。
しかしチルットはパタパタと羽ばたき、鷹匠のようにすらりと伸ばされた海未の腕を止まり木とする。
理解の及ばない攻撃に、英玲奈の思考が巡る。
二秒、思い至る。
英玲奈「そうか、そのボールは私を狙っただけではなく…」
海未「ええ、二段構えで。あなたの背後に飛んでいたチルットを捕獲したのです。弱らせていないので、一か八かではありましたが」
英玲奈「しかしだとして、捕獲に成功したボールは自動で君の手元へと戻るはず。それを私の背後で、どうやって再展開した?」
海未「指弾です」
英玲奈「指弾、だと…?」
海未「手頃なボルトを拾いましたので、それを指弾の要領で弾きました。
そしてボールの開閉スイッチへと直撃させることでチルットを外へ出したのです」
英玲奈「ふ、フフ…これが園田流か。面白い…!」
海未「っ、足場が、崩れる…!」
足場に海未が気を取られた一瞬…
英玲奈の瞳が無慈悲な光を宿す。
パン!と乾音。
海未の脇腹、じわりと滲む赤。
海未「ぴす、トル…!?」
英玲奈「悪いが…君が思うより、大人は汚いんだ。さあ、生き残ってみせてくれ。園田流!」
直後…
大音響を轟かせ、六階建ての鉄骨が倒壊した。
-
…
ツバサ「ねえアナタ、AK47って知ってる?カラシニコフとも呼ばれるんだけど」
ことり「…知りませんっ」
問いかけに取り合わず、後ろへジリリ。
ことりはボールへ手を掛けて距離を測る。
埃っぽい廃ビルの一室、走る車のクラクションが随分と遠い。
逃げられる位置取りではない。助けは…期待できそうもない。
ことり(チャイニーズマフィア、そう名乗ったよね。中国から来たマフィアってこと?
じゃあ悪いことをするつもりで、それにことりのポケモンたちを奪うって…)
ことり(穂乃果ちゃん、海未ちゃん…っ。ううん、ダメだよことり。
今は二人には頼れない。この子たちを守れるのはことりだけなんだから…!)
ことり「そんなことさせない…!」
ツバサ「ん、何?で、カラシニコフの話。銃なんだけどね、世界で最も売れた軍用銃なんて言って、とにかくベストセラーなのよ」
ことり「……」
ツバサ「何がウケたかって、安価で大量生産できてそれなりの性能ってとこ。
私たちはチャイニーズマフィア、中国から来てるから、そういう設計思想って大好きなのね。ほら、粗悪品を大量生産して大量消費〜みたいなイメージあるでしょ?」
-
身振り手振りを交え、ことりの反応を気にすることもなくペラペラと。
やたらによく喋るツバサの意図が汲めず、底知れない不気味さにことりの心臓が早鐘を打つ。
ことり「……何の話を、してるの…?」
ツバサ「ん。でね、私たち『洗頭(アライズ)』は、ポケモン界のAKを作りたいわけ。
安くたくさん作れてそこそこ使えてポイ捨てできる、兵器転用に最も適したポケモンを」
ことり「そんなのっ、ひどいです!」
ツバサ「でしょう?酷いことってお金になるのよ。だからとりあえず今んとこはねえ」
そこで言葉を切ると、ツバサは纏ったコートを脱いで横へ放る。
腰のボールは六個。そのうち“五個”を器用に片手で掴むと、床へ無造作に放り投げた。
ツバサ「試作品。行きなさい、コラッタ×5 」
ことり「一度に五匹も!?ど、どうすれば…モクローさんっ!」
『ポロロローッ!!』
-
モクローはことりにすっかり懐いている。
大好きな主人の危機を感じ取り、この子ネズミたちを蹴散らせばいいのかと睨みを利かせている。
が、ツバサの弁舌はまだ続く。
ツバサ「基本はタイマン、上級者はダブルバトルに興じる。トリプルバトルなんてのも昔はあったけど廃れちゃったわね。どうしてかわかる?」
ことり「難しいから…」
ツバサ「はい正解。人間が一度に指示を出せるのなんてせいぜい二匹が限界ってこと。それ以上を欲張れば隙だらけになる。
けどね、ポケモンを傷付かせないように、丁寧にバラバラの指示を出そうとするからダメなのよ」
すうっと、モクローへ向けて伸ばされる指。
ツバサの冷酷な声がコンクリート張りの部屋に響く。
ツバサ「全員で“でんこうせっか”」
『ポロっ!?っ!?』
ことり「モクローさんっ!?」
タイミングも何もあったものではない、五匹一斉の突撃攻撃。
ツバサのコラッタたちはモクローの体を強かに打ち据えて昏倒させる。
ツバサ「攻撃の個体値がVのコラッタを大量生産、何も考えずに“でんこうせっか”を打たせるだけ。
難しい事なんて一つもないし、傷付いたとして代わりはいくらでも作れるわ。ネズミだもの。
コラッタだろうが重ねればそこそこの威力は出る。ま、これは試作だけど、こんな感じの商品を作りたいのよ。私たちは」
ことり「…こんなの、ひどすぎるよ…」
絶望に涙を浮かべることり。
手持ちは残りはイーブイだけ。ツバサはくすりと、無邪気に悪辣な笑顔を見せる。
ツバサ「さあ、次の子を出しなさい?」
-
どこか遠くから、ガラガラと猛烈な倒壊音が響いてきた。
ツバサは音の方向へちらりと目を向け、「英玲奈ね」と小さく呟く。
ツバサ「今の音、巻き込まれたのはアナタのお友達のどっちかしら」
ことり「友達…!穂乃果ちゃんと海未ちゃんに何かしたの!?」
ツバサ「したっていうか、今してるとこ。色々面倒になるから殺すなとは言っておいたんだけど、あの音じゃどうだか」
ことり「っ、どうして…どうして、ことりたちを狙うの?」
ツバサ「オトノキ産のポケモンは優秀なのよ。それを新米トレーナーが持ってると聞けば奪わない手はないわね」
ことり「……負けないっ。二人はきっと一生懸命戦ってるから、ことりも絶対に諦めません…!」
倒れてしまったモクローを抱きかかえ、浮かべてしまった涙を拭う。
穂乃果や海未みたいに戦っておくんだった、レベルを上げておけばよかった。
自分が戦いを嫌ったせいで、モクローに痛い思いをさせてしまった。
そんな悔悟の数々をぐっと飲み込み、あくまで気丈に、ことりは綺羅ツバサとコラッタたちから目を逸らさない。
-
ことり(この子たち、野生で見かけたコラッタさんよりも気性が荒そう。もしかして、性格も調整されてるのかな…)
短く呼吸を整える。
海未のように落ち着き払い、穂乃果みたいに肝を据えるイメージ。
そしてもう一つのボールへと手を掛け、タマゴから今まで育ててきた親友をボールから出現させる。
ことり「お願い、イーブイさん!」
『ブイっ!!』
ツバサ「オトノキ産のイーブイ、高値で売れそうね」
ことり(お母さんからもらったこの子は、普通のイーブイとは少し違う技を覚えてる。いつもは実用的じゃない技だけど…今なら!)
ツバサ「フフ、何か企んでる?でも無駄。進化体ならともかく、イーブイではこれを耐えられない。コラッタ×5、もう一度“でんこうせっか”」
『ブイ…!?』
ことり「安心してね、イーブイさん。隙は…ことりが作るから!」
震える足をぱしりと叩き、決意の踏み出し。
ツバサが電光石火の指示を出す一瞬前、ことりはイーブイの前へと身を晒した。
ふんわりと柔らかくてしなやか、そんな少女の細身の体へと、コラッタたちの猛然の突進が激突する!!
ツバサ「へえ…!」
ことり「あっ!ぐっ、う、ぎっ…!あ……!」
ぐらり、五発のでんこうせっかを身に受けたことりはくずおれ、膝から床へと倒れ込む。
-
『ブイ!ブイッ!?』
ツバサ「フフ、まさか自分を盾にして防ぐとはね。生きてる?」
ことり(………っ!死んじゃうぐらい、痛い…痛いよぉ…っ…。けど、イーブイを心配させちゃダメ…!)
ことり「大丈夫、だからね…♪」
ことりはイーブイへ、いつもと変わらない羽毛のような笑顔を浮かべてみせる。
服の下、コラッタの突撃を受けた箇所は青黒く腫れ上がっていて、右肩は力なくぶらりと垂れ下がっている。
折れたか、外れたか…いずれにせよ重症だ。
身を呈して守る。
主人の決意を目の当たりに、イーブイはコラッタたちに技の狙いを定める。
ことり「コラッタさんたちに罪はないけど…いくよっ、“シンクロノイズ”っ!」
ツバサ「あー、っと。そう来るかぁ」
-
ことりの指示に従い、イーブイはその全身から特殊な電波を撒き散らす。
シンクロノイズは自分と同タイプの相手にのみ効果を及ぼす怪電波。
それ以外の相手には無効になるが、条件さえ揃えばその威力は最上級。
そして広い範囲を巻き込む全体攻撃!
イーブイはノーマル、コラッタも同じノーマル。
ノーマルタイプ同士のエネルギーが共鳴、内部から体組織に甚大なダメージを発生させる。
次撃の準備ができていなかったコラッタたちは怪電波に巻き込まれ、体を痙攣させながら昏倒する!
ことり「やったっ、がんばったね…!」
『ブイ…?』
ことり「うん、ことりは大丈夫だよ…よしよし…」
ツバサ(タマゴ技の“シンクロノイズ”ね…普通に考えれば産廃技。
けれど野生ポケモンにはノーマルタイプが多い。親が娘にボディガードを兼ねて与えるポケモンになら、頷けるチョイスか。偶然見事にハマったけど)
ことり「あと一体…っ」
ツバサ「甘ちゃんに見えてもオトノキ出身、やっぱり侮れないわね。
……それじゃあ、私のエースでお相手するとしましょうか」
ことり(エース、何が来るの…?)
ツバサ「さ、出ておいで」
ことり「そのポケモンは…!あ、ああ…っ!」
-
ことりの表情に戦慄が走る。
トレーナーを志す人間で、そのポケモンの名を知らない者はいないだろう。
ツバサのボールから現れたのは、青い肌に凶眼、シュモクザメめいた、それでいて竜。
その強さだけを依代に、数々の逸話を打ち立ててきたドラゴンタイプの雄。
最強のポケモンはと聞かれれば伝説級を差し置いて、このポケモンの名を挙げる者も少なくない。
ツバサ「遊びの時間よ、ガブリアス」
ことり「ガブ、っ…!」
一撃。
ことりの目が反応するよりも遥かに早く、ガブリアスはその強靭な爪腕でイーブイを床にねじ伏せていた。
「マッハポケモン」の異名を持つガブリアス。
生体力学に基づいて設計されたかのような流線型の体はひたすらに疾い。
ことりの真隣でイーブイが潰れたような声をあげていて、鮫竜の腕ヒレがことりの首筋を掠めていた。
頸動脈…その一枚上の皮が裂けている。
もし、仮に、あと数センチずれていたら…!
-
ことり「ひ……っ……」
思わず、引き攣るような声が漏れた。
それは死の擬似体感。
大切なイーブイがやられたというのに、ガブリアスの爪にボロクズのように引っ掛けられてツバサの手元に運ばれていくというのに。
ことりは身を動かすことも、声を発することすらできずにいる…。
ツバサはイーブイを掴み、何かよくわからない小さな機械をイーブイの小さな体へと押し当てている。
ツバサ「6V!売るのはやめね、私の手持ちにするわ」
ことり(何を、言ってるの?今は、ことりは今は何をして…)
ツバサ「このアンプル、見えるかしら?この薬剤の名前は『洗頭』。私たちの組織名と同じね」
ことり(注射器、持ってる…)
-
ツバサ「私たちがどうしてこの国に来たかってね、このクスリを売りたいのよ。
ロケット団にギンガ団、マグマ団とアクア団。ヤクザだのヤバめの思想団体だの、この国には過激な組織が育ちやすい土壌がある」
ことり(わからないよ…なにを言ってるのか全然わからない…)
ツバサ「小日本人と蔑むのはもう古い。我々はアナタたちと最上のビジネスパートナーになりたいの。
過激派が潜んでるこの国なら、『洗頭』は知名度が上がれば確実に売れる。そのために組織名もクスリと同じにしてるのよ。涙ぐましいでしょ?」
ことり「イーブイを…返してください…」
ツバサ「このクスリの効能を説明するとね…ま、早い話がカンペキな洗脳剤」
ことり「洗、脳…!?」
ツバサ「フフ…見て?このイーブイ、瀕死の状態でもまだアナタのことを心配してる。
こんなに懐いてる子でも、このクスリを使えば…」
ことり「あ、ああ…!そんな、嫌、嫌だ、嫌!やめて!やめてください!嫌ぁ!嫌だっ!嫌だぁ!!!」
ことりの悲鳴をBGMに、楽しげに、ツバサはイーブイの首筋へと注射針を近付ける。
ゆっくりと針が刺さり…赤紫の薬液がじわり、じわりとその量を減らしていく。
ボロボロの体で声を振り絞る、ことりの必死の懇願にもツバサはまるで揺らぎを見せない。
やがて、薬液の注入が終わり…
-
『………』
瀕死だったはずのイーブイが、むくりと起き上がる。
しかしその目には、ことりを慕っていたつぶらな輝きは残されていない。
まるで野生のような…いや、さらに荒く、闘犬のような目つきでことりを見据えている。
その目はまるで、助けてくれなかったことりを咎め、責め立てているように感じられて…
ことり「……っ…」
ツバサ「はい、おしまい」
ことり「イーブイさん…イーブイさんっ!!」
ツバサ「近付くと危険よ?今のイーブイにとってアナタは…」
ことり「きゃああっ!!」
ツバサ「敵でしかないんだもの」
あんなに仲が良かったのに。
親友だったのに、イーブイは勢いよく体をぶつけてことりを弾き飛ばした。
打ちっ放しのコンクリート上を転がり、ことりはその傷をさらに深くする。
-
仲が良かったからこそ、大切な子だったからこそ、今の一撃はことりに決別をはっきりと理解させてしまう。
ことり「そんな…そんなの…、ことりのせいで…ごめんね…ごめんなさい…」
ツバサ「すごいでしょ?このクスリ。どんなに忠誠心が強いポケモンにでも、主人を上書きしてしまうことが可能になるの。
ついでに強心剤の効果もあるから、げんきのかたまり代わりにも使えたり。便利よね」
上機嫌でそう呟くと、ツバサは再びことりへと歩み寄る。
ことりは目を回したままのモクローを抱いたまま屈みこんでいて、ツバサは小首を傾げてからことりに声を掛ける。
ツバサ「さ、そのモクローも渡してくれる?」
ことり「私が…私は、なんでもします。だからこの子だけは許してください…」
ツバサ「アナタ可愛いからお金になるかもしれないけど、でも人間を使って商売するとアシが付きやすくて面倒なのよ。ポケモンの方が楽なの」
下から爪先で顔を蹴りあげ、思わず顔を上げたことりの髪を鷲掴みに。そのまま硬い床へと打ち付ける。
くぐもった悲鳴、だくだくと鼻血を流しながら、それでもことりはモクローを抱きしめて離さない。
そんなことりの真心に反応したのだろうか…
瀕死だったはずのモクローがゆっくりと目を開け、ことりの頬を優しくつついた。
-
『ポロっ』
ことり「駄目、駄目だよモクローさん…守るから…ことりが絶対に守るから!そのまま…!」
『ポロロッ!』
ツバサ「自ら腕を抜け出て、大好きなご主人を守るためにフラフラで立ち向かう。浪花節ってやつね。ま、洗脳するんだけど」
果敢に立ち向かうモクロー、その小柄な体へとガブリアスの鋭爪が振り下ろされ…
部屋の側面!コンクリートの壁が豪腕にブチ抜かれる!
何の脈絡もない突然の乱入劇!!
にこ「ゴロンダ!ラブにこ…“アームハンマー”ぁ!!!」
『ンダァッ!!!』
ことり「!!??」
ツバサ「っと、面倒なのが来た」
にこ「動くな!国際警察よ!『洗頭』のリーダー綺羅ツバサ、あんたを逮捕するわ!」
ツバサ「コードNo.252、刑事スマイル…か。いい加減覚えちゃった。アナタしつこいわよね」
にこ「ママの仇。ゴロンダ!“ばかぢから”!!」
ツバサ「ガブリアス、“げきりん”」
激突!!!
-
…
キリキザンの斬撃で完全に崩れた大量の鉄骨。
折れて曲がって突き刺さり、山のように折り重なったその頂上に、小さな呻き声が漏れている。
海未「………う、ぐ…」
『ゲロ…』
海未は生きている。
脇腹を撃たれ、崩壊、転落。そんな危機でも生存本能を明確に働かせた。
チルットに加えてヤヤコマを出し、二匹に上へと引っ張らせることでどうにか崩落の中に巻き込まれることを避けた。
だが、進化前のポケモン二匹で海未を飛ばせ続けるのは無理がある。転落のダメージはゲコガシラの泡を最大展開することで軽減した。
それでも銃で撃たれた事実に変わりはなく、落ちた痛みもゼロにできたわけではない。
体を動かせずに呻いている海未を、ゲコガシラが心配そうに覗き込んでいる。
…足音。
英玲奈「生き延びたか…ああ、感動すら覚えるよ」
海未「……統堂、英玲奈…ッ」
-
同じく崩落に巻き込まれたはずなのに、英玲奈はさも当然のように無傷でいる。
殺される。
海未は唇を噛みしめる…が、英玲奈は少し離れた位置で、ただ面白そうに海未を見つめている。
英玲奈「三度だ」
海未「……」
英玲奈「私は三度までの殺意で殺せなければ、その日は諦めることに決めている」
海未「……」
英玲奈「キリキザンの技で一度、足場崩しで一度。そして銃撃。君はとっさに体を逸らし、致命傷を避けていた。自覚があるかは知らないがな。
とにかく三度、君は私の殺意から逃れてみせた」
終始、淡々とした語り口調。だが声のトーンでわかることもある。
明らかに上機嫌、海未の生存を喜んでいる。
殺そうとして殺せなかったのなら悲観するべきじゃないのか、海未は疑問を抱くが、殺し屋の論理と倫理など理解できるはずもないと考察を諦める。
-
海未(ただ、わかるとすれば…この方は戦闘狂の類。それも、ルール不要の殺し合いに特化した)
英玲奈「感覚さ。肌で感じるんだ。君はきっとやがて私を滅ぼす可能性へ…大きな脅威へと成長する」
海未「……ならば、ここでトドメを刺すべきでは?」
英玲奈「いや…実のところ、今日は殺しはご法度でね。つい忘れて楽しんでしまった。反省しなくては」
海未「殺しを楽しむ、ですか」
英玲奈「死は結果に過ぎない。脳までヒリつく、互いの全てを賭した生存闘争。
それを最も強く体感させてくれるのがポケモンを介した殺し合いというだけさ」
そこまでを言い終え、英玲奈は後ろをゆっくりと振り向く。
英玲奈「さて、園田流。君と話せる時間は実に有意義だが、今日はここまでのようだ」
靡く黒髪、気高い眼差し。
黒澤ダイヤが部下のジムトレーナーたちを引き連れ、英玲奈を睨みつけている。
-
ダイヤ「チャイニーズマフィア『洗頭』幹部、統堂英玲奈。ジムリーダーの威信にかけて、今ここで貴女を捕らえますわ」
英玲奈「悪いが、いわタイプが主体の君に私のキリキザンは止められない」
ダイヤ「いわタイプ主体…?フ、それはジムリーダーとしての責務と枷。本来のわたくしは…マルチタイプのトレーナーですわ!」
手にした鉄扇を投げる。
英玲奈がそれを避ける間隙の秒瞬、ダイヤは素早くボールからポケモンを繰り出している。
現れたのは艶めく光沢、鋼水で統べる気高き皇帝ペンギン!
ダイヤ「エンペルト!その方と斬り結んで差し上げなさい!」
英玲奈「ほう、マルチタイプか。やはりこの国のジムリーダーは質が高い。キリキザン!」
腕刃と鋼翼が摩擦し、神経の削れるような高音が幾度となく響く。
力押しではキリキザンに分が見える。
だがエンペルトは“ハイドロポンプ”などを惜しみなく放ち、幅の広い戦いを見せている。
しかし、ダイヤは小さく歯噛みをしている。
-
ダイヤ(いけませんわね…この方のキリキザン、異様なまでに練度が高い。押し負ける可能性すらある…)
英玲奈「“つるぎのまい”だ。敗北は、死は見えているか?ジムリーダー」
ダイヤ「悔しいけれど、見えますわね。ただしそれは…わたくし一人で戦っていればのこと!」
真姫「シャンデラ、“かえんほうしゃ”」
海未「真姫っ!」
とっさに飛び退くエンペルト。
そこを真姫のシャンデラが放った炎波が舐めていく!
流石のキリキザンも、その一撃にまで耐えることはできなかった。
ガクリと膝をついたところへ英玲奈のボールから赤光が伸び、帰還していく。
英玲奈「ご苦労だった」
『ザン…!』
-
一拍置いて、「さてと…」と真姫。
真姫「私の手持ちはシャンデラを含めて三体、ダイヤの手持ちは五体。あなたは今一匹倒れて、こっちは他にジムトレーナーたちもいる。詰んでると思うけど?」
英玲奈「西木野真姫、若きポケモン博士か。流石に育成に無駄がない。威力が最大限に高められているな」
真姫「犯罪者に褒められても嬉しくないわ。同郷の友人を傷付けられて、最高にハラワタが煮えくり返ってるの」
海未(真姫が怒っているのに、カッカしていない…?
まずいです!これは私たちも数回しか見たことのない、本当の本当にどうしようもないほどに怒り狂っている時の真姫!!)
真姫「ポケモンだけじゃなくてあなた自身も強いのよね?それじゃあ…最大火力をお見舞いしたって!死なないわよね!!!」
海未「く、来る!」
ダイヤ「エンペルト!海未さんを連れてきなさい!総員っ…退避ですわ〜!!!」
真姫「シャンデラ。“オーバーヒート”」
大爆炎が一帯を包み込む!!!
-
鉄をも焼き溶かす溶鉱炉のような、想像を絶する高温。
ポケモン博士の真姫は当然ながら三値の理論を熟知していて、そんな真姫が愛情たっぷり、手塩にかけて育てたシャンデラの火力は凄まじい。
崩れていた鉄骨の山は全てが溶解。
(これ、真姫は本当に英玲奈を殺してしまったのではありませんか!?)と海未は動揺する。
瞬間、炎の中に新たな炎が噴出する!!
真姫「ッ!」
海未「真姫!」
真姫「大丈夫よ、だけど…逃げられたわね」
ダイヤ「へ…もういませんの?たった今し方、何かの攻撃をしてきましたのに?」
-
真姫「そうみたい。何かのポケモンを繰り出して、飛んで逃げていったわ。オーバーヒートで火力出しすぎてたせいでよく見えなかったけど…」
ダイヤ「残念でしたわね…幹部の一人を捕らえれば色々とわかることもあったのでしょうけれど…」
統堂英玲奈が逃げた。
逃してしまった。しかしそれは同時に、海未が窮地を完全に切り抜けたということでもある。
極度の緊張からの解放と大量の失血、海未の意識が急速に薄れていく。
真姫とダイヤがそれに気付き、慌てて抱きかかえてジムトレーナーたちへと指示を出している。
数秒後に自分が失神してしまうことを知り、海未は片腕を力なく空に泳がせる。
海未「すみません、穂乃果、ことり…助けには、いけな……」
-
…
穂乃果「……う、っ…」
あんじゅ「さっきは少し驚かされたけど…ここまでみたいねぇ?」
穂乃果は冷たい舗装路の上、仰向けに倒れている。
夕陽は水平線の向こうへと姿の大半を沈めていて、赤紫のどこかグロテスクな空だけが目に映る。
ヒトカゲとキャタピー、二匹ともがすぐ傍らに倒れていて、ヒトカゲの足にある刺し傷は紫色に変色している。受毒の跡だ。
才気走った機転と連携でビビヨンを倒したまでは良かった。
だが、二匹目の突破には至らない。
獰猛かつ残忍、執念深い性格のペンドラーは、格下のヒトカゲやキャタピー相手にも一切の容赦を見せない。
200キロオーバーの体重でキャタピーを轢き、ヒトカゲへは首のツメを食い込ませて毒を打ち込む。
絶対的なレベル差を前に、穂乃果の天性のセンスもヒトカゲたちの底力も効果を発揮しない。
健闘一転、わずか二分足らずでの完全敗北を喫していた。
-
あんじゅ「はぁっ、快感ね〜。まぐれ当たりで調子に乗られて、ちょっとだけカチンと来てたのよぉ」
穂乃果(体が…動かない…)
穂乃果の体も擦り切れ、ボロボロの状態になっている。
ヒトカゲたちが倒された後、あんじゅは高らかに哄笑しながらペンドラーへと攻撃の指示を出したのだ。
ムカデの巨体が穂乃果を突き飛ばし、体へと負傷を刻み、思うがままにいたぶられて今へと至る。
あんじゅはゆるゆるとした足取りで穂乃果へ歩み寄ると、両手を後ろに組んだ姿勢で上から顔を覗き込んでくる。
あんじゅ「苛立ちを解消して見てみれば、なかなか可愛らしい顔をしてるのね…」
穂乃果「……う、みちゃんと、ことりちゃんに…手を出すな…!」
あんじゅ「あら、まだ抵抗の意思があるのねぇ…泥臭い。そういうのって個人的には好きじゃないの。少年漫画じゃあるまいし」
穂乃果「ヒトカゲとキャタピーも…奪わせたりしない…!」
あんじゅ「はぁい、威勢だけ。今のあなたはボールへポケモンを戻すことさえできないボロ雑巾。
でもそうね、見た目はなかなか好み…決めた。あなたを私のコレクションに加えてあげるわ?」
-
そう告げ、穂乃果の唇へと指を触れさせる。
グロスのように塗りつけた薄紫の粘液は、ペンドラーの毒針から滴る毒の汁。
痛みや熱、気持ち悪さではなく、体へじわじわと広がるのは痺れ。
「う、ぐ…!」と身じろぎする穂乃果、その口中へとあんじゅの指が侵入してくる。
ぬるりぬるり、前戯めいて舌や内頬を弄び、大量の毒液を穂乃果の体へと染み込ませていく。
あんじゅ「むしタイプを中心に使ってるとね、必然的に毒にも詳しくなるの。
ペンドラーの神経毒を致死量ギリギリまで摂取させてあげる。
そうすれば脳幹に麻痺が残って、可愛らしい穂乃果ちゃんは私のお人形コレクションの仲間入り〜というわけ♪」
穂乃果「…!ほはほ、ひほひほ…?」(他の人にも?)
あんじゅ「私、綺麗で可愛い女の子が大好きなの。本物みたいなお人形が欲しくって、じゃあ捕まえればいいじゃない。ポケモンみたいに♪…って、DIY精神に目覚めちゃったのよねぇ」
やっぱりこの人、野放しにしちゃ駄目だ。
穂乃果の瞳はまだ死んではいない。だがあんじゅの指が蠢くたびに、体の奥まで痺れが浸透していく感覚。
このままじゃ…!
…と、ここにもまた乱入者の影が。
今ひとつキレのない小走り、「ぅぅ…」と怯えたっぷりの声で駆け込んできた少女はあんじゅへと突進を敢行する!
-
ルビィ「うゅ…っ、え、えぇぇ〜い!!」
穂乃果「……!」
あんじゅ「ちょっ、あなた…誰?」
ルビィ「くっ、黒澤ルビィです…その人を離してぇ…!」
穂乃果(なんか、頼りない子が来た…??)
ルビィは両腕をつっぱり、穂乃果にマウントを取ったあんじゅの体をグイグイと押してくる。
どうにも非力で押しのけられるほどではないのだが、あんじゅからすればなんとも鬱陶しい。
興を削がれたとばかりに眉をひそめながら、毒液と穂乃果の唾液で濡れた指をふわふわと空に泳がせる。
あんじゅ「黒澤…?ああ、ジムの。けど、あなたがリーダーには見えないわねぇ。ポケモンも出さずに体当たり?面白いことするのねぇ」
ルビィ「ルビィは、おねえちゃんの妹だから…この街で悪いことをする人は、許しません…!」
あんじゅ「あらあら、可愛らしい啖呵。で?あなたが生身でポケモンと勝負してくれるの?それともあなたも私のコレクションになりたい?」
穂乃果「逃…げ、て…!」
ルビィ「ううん、逃げない…です。ルビィは…道案内をしただけだから」
-
寒気…
ここでようやく、あんじゅは異変に気付く。
足元の水たまりには薄氷が張っていて、波に揺れていた海面はその動きを止めている。
あんじゅ「海が、凍ってる?この滅茶苦茶な冷気、まさか…!」
「“れいとうビーム”」
あんじゅ「避けなさいペンドラー!」
『ドラ…ァ…』
あんじゅ「ッッ…一瞬で!」
現れた援軍、美しい金髪を靡かせるその少女は、青い夜を背負っている。
生じた猛烈な凍気が海辺の空気に含ませる水分を凍らせ、夕陽の沈みきった空を青く光らせているのだ。
薄雲の掛かった月に腕を水平に。
倉庫の屋根に立った彼女は、青白の雪をまとったアローラ産のキュウコンへ、冷然と次撃の指示を出す。
「キュウコン、“ムーンフォース”」
あんじゅ「待っ、まだ次のポケモンを出してな…!きゃあああっ!!?」
月光の波長を攻撃波へと変えるフェアリータイプの攻撃があんじゅを襲う。
繕った優雅が嘘のように転げて躱し、あんじゅは穂乃果とルビィから離れた位置へと移動する。
その二点を遮るように、金髪碧眼の少女はキュウコンを伴い降り立った。
テレビでも録画でも何度も何度も、実況の一言一句を覚えるほどに見た姿。
彼女こそがアキバ地方チャンピオン!
穂乃果「絢瀬絵里さん!」
-
穂乃果からの呼び声に、絵里は茶目っ気たっぷりにウインクをしてみせる。
絵里「ふふ、正解。キュウコン、もう一度“れいとうビーム”」
穂乃果(ビームが通り過ぎた後、全部が氷山に飲み込まれてく!?)
ルビィ(す、すごい…お姉ちゃん、やっぱり絵里ちゃんはすごいよ…!)
穂乃果とルビィが感嘆の息を漏らす。
対し、一転して狩られる側になったあんじゅは息を切らしながら駆け回っている。
あんじゅ「何発も何発も人に向けて!あなたッ、馬鹿なのかしらぁ!?」
絵里「犯罪者相手にマナーを守る必要がどこにあるのかしら」
あんじゅ「くああっ…その態度!気に食わないわ!あなたなんて、ツバサなら…!
出てきなさいアーマルド!そして“ロックブラスト”!!」
絵里「撃ち落としなさい」
-
蒼白のキュウコンはその尾全てに冷火を灯し、鳴き声と共にれいとうビームを撃ち放つ。
飛来した岩弾を凍らせて落とし、さあ次はとポケモンを見るが…忽然。
ルビィ「あ、あれ…?あの女の人、いなくなっちゃった…」
絵里「……ふう、随分と逃げ足が速いのね。その思い切りの速さが悪党らしいと言えば、そうなのかしら」
穂乃果「あ、あの…ありがとうございました!チャンピオン!」
絵里「ふふ、畏まらなくて大丈夫。さっきみたいに絵里さんって…ううん、絵里ちゃんって呼んでくれていいのよ」
理知的に愛らしく、チャンピオンはそう言って笑ってみせる。
海面は凍り、港一帯の空気は未だに凍結に引き締められていて、チャンピオンってやっぱり凄い…と穂乃果は感嘆の声を漏らす。
と、そんな場合じゃない!!
穂乃果「そうだ絵里ちゃん!まだ私の友達二人が襲われてるかもしれなくて!」
絵里「ええ、知ってる。他にも援軍が向かってるわ。各所に誰がいるかわからなかったのが心残りね。綺羅ツバサを私が引いていればよかったんだけど…」
穂乃果「綺羅、ツバサ…」
笑みの奥に含まれている少しの不安。
きっとそれはあんじゅが捨て台詞で言い残したのと同じ人物なのだろう。
ことりと海未と…
燻る不安を消せないまま、穂乃果はビリビリと抜けない痺れに両手足から力を抜いた。
-
…
ツバサのガブリアスが咆哮する。
怒りのままの蹂躙、逆鱗の一撃はにこのゴロンダへと痛烈な打撃を浴びせて揺らがせる。
にこ「チィっ…!ゴロンダ、まだ大丈夫?」
『ンダァ!』
にこ「オッケー、にこぷりに闘志燃やしていきなさい」
ツバサ「フフ、世界を股にかけるエリート刑事の相棒は流石にしぶといわね」
にこ「舐めたら痛い目見るわよ、ガブリアスみたいなバケモノ級が相手じゃなきゃマジにやれる子なんだから」
ツバサ「知ってるわ、何度も見てるし」
ゴロンダもまた丹念に育て上げられ、場数を踏んでいるのが一目でわかる。
にこの指示に繰り出される“スカイアッパー”は驚異的な切れ味、しかしそれを避けてみせるのがガブリアスの凄まじい高性能!
ことり(この子は誰?どうしてここに…これは現実なの?わかんない、全然わからないよ…)
-
ことりは戦いを見つめている。
ズキズキと痛む全身は思考を鈍らせ、にこが隙を塗って手渡してくれた痛み止めと水を飲むことすらおぼつかない。
死の恐怖と重度の混乱に塗り潰された心の奥に、ただガブリアスの恐ろしさ、ドラゴンタイプの強靭な強さだけが刻み込まれていく。
ことり(ドラゴン、ドラゴンタイプ…)
一方、ツバサとにこの応酬は続いている。
にこ(なんなのよコイツのガブリアス…!全然攻撃が当たんないんだけど!!)
ツバサ「ねえ、“ママの仇”って、まだ根に持っているのかしら」
にこ「あァ!?当然に決まってんじゃない!国際警察で働いてたママが、まだ子供だったアンタを更生させようとした時…!」
ツバサ「ええ、不意打ちを決めて逃げてやったわ。その傷が元で矢澤刑事は半身不随、才能のあったあなたが後継にスカウトされてNo.252を引き継いだ…」
にこ「だったらアンタは!私がブッ倒すしかないじゃない!!」
ツバサ「見逃してくれてもいいでしょ?生きてるんだから」
-
にこが傷薬を使って持ちこたえさせていたゴロンダだが、幾度目かの猛撃についに限界が近い。
睨むように根性の座った面構えはそのまま、しかし膝をついて立ち上がれずにいる。
ツバサ「ねえ、逃げていいかしら。アナタとガチでやり合うには…そうね、レギュラー三体は欲しいとこなんだけど」
にこ「今はガブリアスだけ、そんな好機を見逃してやるわけないでしょうが。マタドガス!頼むわ!」
『マ〜タドガ〜ス』
ツバサ「………私の勘が告げてるわ、その戦術は刑事としてどうなのかって」
にこ「フン、絆と信頼あってこそよ。行くわよマタドガス!ラブにこぉぉぉ…!“だいばくはつ”!!!」
『ドガッ。』
カッと閃光、激震轟くガス爆発!!!
-
ことり「きゃああああっ!!!」
にこ「頭伏せて、吹っ飛ぶわよ。ゴロンダ、“まもる”」
『ゴロッ』
にこの戦術は自爆上等、ゴロンダが張った防壁にことりと自分も隠れて爆風をやり過ごす。
廃ビルの一室は炎で満たされ、窓は割れて炎が噴き出している。
煙と炎熱が引いて視界が確保されるよりも早く、にこは無線機へと鋭く号令を掛ける。
にこ「確保!!」
応じ、付近を固めていた捜査官たちがバタバタと駆け込んでくる。
ウインディやヘルガー、警察犬ポケモンの精鋭たちが、我先にと生死すら定かではない綺羅ツバサへと殺到していく。
が、響く声。
ツバサ「ガブリアス、“じしん”」
にこ「生きてる!?」
ツバサ「困った時の“きあいのタスキ”…ってね」
『ガブ…リァス!!!!』
-
重轟がビル全体を駆け巡り、ガブリアスの内に秘められたじめんタイプのエネルギーが一帯を駆け巡る。
警察犬ポケモンたちと捜査官たちはその衝撃に吹き飛ばされ、にこはすかさず無線機に「第二班突入!」と声を飛ばす。
ツバサ「残念、今日はここまで」
ことり「あのっ…コラッタが一体蘇って…」
にこ「コラッタ?本当ね、げんきのかけらでも使ったのかしら。なんで今わざわざ…あっ!」
ツバサ「さらば警察諸君、これぞ悪党の常道よ。“けむりだま”!」
コラッタのうち一体に持たせていたけむりだま、ツバサはそれを起動させたのだ。
視界の全てが深い白煙に包み込まれ、大勢の捜査員たちが混迷に包み込まれる。
にこ「綺羅ツバサァァァ!!!覚悟しなさいっ!絶対に!絶対に!捕まえてやるからっ!!」
ことり「けほっ、げほっ!?イーブイ、イーブイは…!」
ツバサ「もちろん、この子はしっかり貰っていく」
ことり「返し…!」
鳩尾への痛打。
ツバサの膝蹴りが容赦なくめり込み、ことりの意識を強引に断ち切る。
寸前、最後に聞いたのはイーブイの悲しげな一鳴きと…
拭っても消えない烙印、ツバサの囁き。
ツバサ「人間社会も所詮は野生、力が全て。返して欲しければ強くなりなさい。手段を選ばずに…ね」
ことり「イー…ブイ……」
そこで、意識は途切れた。
-
《ダイイチシティ総合病院》
にこ「高坂穂乃果、園田海未、南ことりね。疲れてるとこ悪いけど、何があったか全部聞かせてもらえる?」
刑事スマイル、矢澤にこと名乗った少女に請われるがまま、三人は体験した全てを語っていく。
親切そうに近寄ってきたこと、突然の豹変、遥か高みにいる闇の実力者たち。
にこは安い同情は見せず、話を聞き終えた最後に三人へと力強く一声をかける。
にこ「頑張ったわね、あんたたち」
シンプルで暖かい労いが、疲れ切った体にじんわりと染み込んでいく。
小柄であどけなくて自分たちより年下に見えるくらいの少女だが、しっかり場数を踏んだ刑事なのだなと穂乃果は実感する。
幸い、三人の怪我は長引かない。
ペンドラーの毒にはにこが血清を所持していて、海未の銃創を含めて怪我の全ては一週間ほどで完治するとのこと。
ダイイチシティは医療技術が割に進んでいる街なのだ。
ハピナスやタブンネ、患者のメンタルを落ち着かせる癒し系ポケモンがつきっきりで看病してくれていて、穂乃果はぼんやりとしたままその頭をふにゃふにゃと撫でている。
海未は静かに黙して体力の回復に努めていて、問題は…
-
ことり「…………」
海未「ことり……」
穂乃果「……っ、洗脳なんて…」
にこの聴取が終わり、部屋にはダイヤと真姫、それに絵里も入ってきている。
沈痛な静寂が部屋を支配する中、ダイヤが俯き加減で口を開く。
ダイヤ「……申し訳ありません。海未さんと戦った後、はっきりと忠告できていればよかったのですが…
刑事さん、もう、話しても構いませんわよね?」
にこ「……ええ、見ちゃったんだもの。仕方ないわね」
説明を要約すると…
チャイニーズマフィア『洗頭(アライズ)』、及び同名の洗脳薬【洗頭】。
警察機関と立場のあるトレーナーたちには既に、その存在と脅威は知らされていた。
しかし、警察は社会や一般トレーナーへとその存在が知れ渡ることを良しとせず、箝口令を敷いていたのだ。
トレーナーのポケモンを奪い取れる洗脳薬、手段を選ばない中国マフィアの暗躍、知れ渡れば社会にパニックを招く。
人間とポケモンの絶対的な絆の象徴であるモンスターボール、その前提を破壊してしまう薬は社会の枠組みさえ壊してしまいかねない。
-
ダイヤ「……というわけで、細かな説明をすることができませんでしたの。けれど、胸騒ぎがしていました。規則を曲げてでもわたくしが話していれば…」
絵里「ダイヤ、あなたが気に病んではダメよ?」ポン
ダイヤ「はい…そうですわね…」(エリーチカが!わたくしの肩に手を…!って、今は不謹慎ですわね…)
海未「箝口令…そうだったのですね。どことなく違和感は覚えていましたが」
にこ「日本警察のお偉いさんたちの決定でね。…それにここだけの話、ボールの製造元、シルフカンパニーとかが報道に圧力を掛けてたりもするらしいわ。ボールの信頼性に関わる話だから」
真姫「にこちゃん、それ口滑らせちゃっていいわけ?」
にこ「別にいいわよ。現場は上の方針にイラついてんの」
真姫「怒られたって知らないわよ」
にこ「うっさい七光り」
真姫「にこちゃんだってそんなようなものじゃない」
-
真姫博士と刑事にこ、どうやら二人は既知の仲。
真姫の父は世界的に有名なポケモン研究者の一人、ポケモンを用いた医療技術研究の第一人者、ニシキノ博士だ。
真姫が若くして博士として活躍しているのは自身の才能もさることながら、“あのニシキノ博士の娘”として脚光を浴びているおかげでもある。
にこの言う七光りとはきっとそのことを指していて、真姫もまたにこが母親の立場を引き継いで国際警察で働いていることを知っているようだ。
…ともあれ、聴取と説明はこれで終わり。
にこ「…ま、元気出しなさい。あいつらはにこが必ず捕まえてやるから」
ダイヤ「何の慰めにもならないとは思いますが…困ったことがあれば、いつでも黒澤家へおいでなさい。ルビィと一緒に歓迎させていただきますわ」
絵里「……立ち止まっては駄目よ。才能あるトレーナーさんたち。ポケモンリーグ…頂点で待っているわ」
真姫「……私はやることがあるから行かなくちゃいけないけど…穂乃果、海未、ことりをよろしくね」
順に言葉を残し、後ろ髪を引かれるような表情のままに真姫が退室していった。
-
病室の外や廊下には警官やジムトレーナーたちが警護のために張っているが、病室の中には三人だけが残されている。
ふと、ぽつり。
ことり「………ごめんね、モクローさん」
海未「ことり…?」
穂乃果「ことりちゃん…?」
疲れて眠っているモクローを抱きしめて、掠れた声でことりが呟いた。
その声には思いつめた雰囲気が漂っていて、穂乃果と海未は体の痛みも忘れて思わず半身を起こす。
一番窓際のベッド、ことりは小さく呻きながら立ち上がると、隣の海未に声をかける。
ことり「海未ちゃん…お願いがあるの」
海未「お願い…ええ、ことりのお願いなら、私はなんだって聞きますよ。遠慮なく言ってください」
ことり「海未ちゃんが捕まえたチルットと、この子を…モクローを、交換してくれないかな」
海未「な…」
穂乃果「も、モクローを?」
-
穂乃果と海未は目を見張り、思わず顔を見合わせる。
ポケモンの交換、それ自体は普通のことだ。お互いの同意を持ってボールの所有権を譲渡しあい、ポケモンの親を入れ替える。
しかし、ことりは…
穂乃果「こ、交換って…ことりちゃん昔から、ポケモンがかわいそうだから、交換は絶対しないって」
海未「ことり、一体どうして…?」
ことり「……ことりじゃ、モクローを守ってあげられないから。海未ちゃんならきっと大丈夫だから」
言葉を切り、もう一言。
ことり「それにね、その子がいいの」
ことりは知っている。チルットはチルタリスへと進化することを。
タイプはドラゴン・ひこう。
鮮烈な記憶、刻まれた烙印。ことりにとっての力の象徴…
ことり(ドラゴンタイプ…)
-
結局、海未とことりはモクローとチルットを交換した。
穂乃果と海未に、ことりの心変わりの本質は定かでない。
幼馴染の二人でさえ、今のことりにこれ以上踏み込んで尋ねることはできなかったのだ。
翌朝…
目を覚ましたモクローは未だにことりから手放されたことをよく理解できていない。
しきりに首を傾げながら、隣のベッドにいることりへ近付いては寂しげに鳴く。
(どうして構ってくれないの?)と不思議そうに。
しかし、ことりはそんなモクローと目を合わせようとせず…
ことり「……」
『ポロロ…』
海未「……モクロー、大丈夫ですよ。私が守りますから…私が…」
穂乃果「……ことりちゃん…」
そして、一週間の後…
ことりは忽然と、病室から姿を消した。
-
【二ヶ月後】
ザリ、ザリと、靴底が砂を踏む。
吹き荒れる砂嵐、穂乃果は乾燥地帯、道なき道を歩いている。
揺れるサイドテール。
砂漠に住まう民族めいて、顔にグルリと巻き付けた粗布は口へと砂を入れないため。
風に騒ぐ前髪、鼻までを覆った布。
瞳だけが前を見据えていて、その眼差しは旅路の中で少女に生まれた変化を感じさせるものだ。
その時、両側から気配!
『ワァルビッッ!!』
『ノク…ッ』
さばくワニポケモンのワルビル、カカシぐさポケモンのノクタスの同時襲撃だ!
どちらもが野生、共謀したわけではないだろうが、とにかく二つの対応を迫られる!
が、穂乃果は既にポケモンを展開させている。
穂乃果「リザード、“ほのおのキバ”」
『ザァッ!』
-
ヒトカゲから進化、攻撃力を大きく増したリザードがノクタスへ猛然と噛み付く。
くさタイプには効果覿面、たじろぐノクタスをそのまま圧倒していく。
だが逆からは迫るワルビル、ワニの顎は見るからに強靭だ!
穂乃果「リングマ、“きりさく”!」
『グマアアア!!!』
もう一匹!
繰り出したのは茶色の毛並み、大柄な男性ほどの体長から振り上げられる豪腕、熊のポケモン、リングマ!
鋭利なナイフのような五爪がワルビルの硬いワニ皮を傷付け、『ギャッ!』と悲鳴をあげさせる。
野生のポケモンは劣勢と見ればこだわりを持たない。
並び立つリザードとリングマに形勢悪し!そう見るやいなや、踵を返して砂嵐の中へと逃げ帰っていく。
ボールを投げてどちらかを捕まえようか、少し迷うが、穂乃果は二匹の背中を見送った。
穂乃果「旅してて気付いたけど、手持ちが増えると食費もかかっちゃうんだよね」
『グマッ』
穂乃果「うん、特にリングマはよく食べるし…」
-
そう呟いて二匹をボールへ戻し、なんとなしに財布を除いて中身の貧相さに溜息一つ。
その姿は相変わらずどこか情けないが、野生ポケモンを冷静に一蹴してみせる姿は実力の向上を物語っている。
━━━突風!
穂乃果「わぷっ」
思わず荷物を取り落とし、バッジケースが落ちて開く。
その中に輝くバッジは三つ。
ダイイチシティ、ニバンメタウン、サンバンタウンのジム戦を突破した証!
いけないいけないと拾い上げ、穂乃果は砂塵の彼方を目指す。
死線を越えたせいだろうか、既に佇まいには熟達者の雰囲気。
トレーナーにとっての一つの大きな壁は三つ目のバッジだと言われている。
穂乃果は既にそこを通過していて、リザードやリングマといった進化系ポケモンを連れているのにも頷ける。
代わりに、明るい笑顔はなりを潜めて…
穂乃果「あああ〜〜!!もう!つーかーれーたぁぁぁぁ!!!」
-
一変、クールな雰囲気は一瞬でどこかへと霧消する!
砂地の柔らかさに背中を預け、手と足を左右にわしゃわしゃと泳がせる。
雪原でスノーエンジェルを作って遊ぶ時のように、砂地に模様が刻まれていく。
穂乃果「暑いよ!!」
季節は六月、梅雨を前にした初夏の頃。
旅立った頃に比べれば暦通りに日差しが強くなってきていて疲労を誘う。
喉はカラカラ足はヘトヘト、ほんのり怠惰な穂乃果が長く耐えられるはずもなし。人間、性根はそうそう変わらない。
そのまま一分ほど「ううー…」と不機嫌に呻き、目を閉じてみる。
「ほのかちゃぁ〜ん…」「全く、これだから穂乃果は…」
そう言って手を引いてくれる幼馴染は、今はいない。
穂乃果「……うがぁっ!」
吠えてピョンと跳ね立つ。
右手に見える小高い丘へと駆け登り、遠方に見える煌びやかな大都市を見下ろす。
穂乃果「あれがヨッツメシティ…」
-
広い盆地に沿うように築かれた街は円形で、その中心には巨大なタワーが聳え立っている。
アキバ地方の各種産業の中心を担う大企業、『オハラコーポレーション』の本社であるオハラタワーだ。
穂乃果「アキバ地方で一番の大都市、かぁ。もしかしたら、海未ちゃんとことりちゃんも…」
病院から姿を消したあの日以来、ことりとは連絡が取れずにいる。電話を掛けてみても繋がらないのだ。
ことりの旅の元々の目標はコンテストへの出場だった。
しかし最寄りにあるコンテスト会場、ニバンメタウンのポケモンコンテストに出場した記録は残っていない。
ただ、ポケモンセンターへと立ち寄っている記録は定期的に残されていて、真姫がその足取りを気にかけてくれている。
少なくとも、生きているのは間違いない。
穂乃果「あれだけのことがあったから、仕方ないよね…でも、心配だよ。会えなくて悲しいよ。
声だけでも聞きたいよ。ことりちゃん…」
-
一方、海未とは連絡を取り合えている。
ダイイチシティジムの突破後、海未は穂乃果とは別のルートでジム戦に挑んでいる。
ダイイチシティの港からロクノシティへと渡航、ナナタウンジム → ロクノシティジム → イツツタウンジムと逆打ちで突破していると聞いた。
もちろん、ジム戦の順序は好きに選んで問題ない。バッジ数によって戦力を変えてくれるのだから、要は好みの問題なのだ。
今の海未は穂乃果より一歩先を行く、バッジ四つ持ち。園田流後継者の名に恥じない快進撃。
なかなか追いつけないライバルの背中に、悔しさと誇らしさを感じている。ただ…
穂乃果「あの日からずっと、海未ちゃんも少し雰囲気が変わった気がする。
優しくて恥ずかしがり屋でキリッとしてて、それは変わらないけど、心の奥に影があるみたいな…」
……ピピ、と着信。真姫からだ。
テレビ電話の画面に真姫のつんと澄ました顔が映し出され、穂乃果は笑顔で手を振ってみせる。
真姫「ヨッツメシティには着いた?」
穂乃果「うん、もうすぐ着くよ」
-
真姫「そう、良かった。ところで穂乃果はオハラコーポレーションを知ってるかしら」
穂乃果「むむ、真姫ちゃん!私も流石にそこまでバカじゃないよ!トレーナー用グッズとかもほとんどがオハラ製じゃん」
真姫「フフ、流石に知ってたのね。そう、アキバ地方で流通してるモンスターボールも大半がオハラ製。
で、そのオハラなんだけど、数日後に新社長の就任パーティーが開かれるのよ」
穂乃果「へー」
真姫「興味なさそうね…新聞とか読んでる?」
穂乃果「いやあ、あはは…」
真姫「はぁ…その新社長って私たちと変わらないぐらいの年の子なのよ。穂乃果も少しはニュースに興味を持ちなさい」
穂乃果「まあ、うん、それなりにね!」
真姫「……ま、いいわ。そのパーティー、あなたが出席できるように手配しておいたから」
穂乃果「へ?パーティーに出席…」
-
画面から目を離し、穂乃果は自分の身なりをくるくるとチェックする。
砂汚れた衣服、磨り減ったスニーカー、乾燥地帯でパサついた髪。
制汗剤で汗臭さを抑えているのはせめてもの女子らしさ、穂乃果なりの身だしなみだ。
穂乃果「……この格好でパーティーに!!?」
真姫「行かせるわけないでしょ…私の信頼に関わるじゃない」
穂乃果「さりげなくひどっ!」
真姫「親戚の店に話をしてあるわ。お金はいらないから、そこで衣服を揃えなさい」
穂乃果「おおっ、さすが真姫ちゃん!セレブリティ!」
真姫「髪もなんとかしなさいよね」
穂乃果「え、美容院代もくれるの!?」
真姫「それくらいは自分で出しなさい!」
-
真姫曰く…
オハラコーポレーションの新社長ともなればトレーナーにとって関わりの深い人物。
故に、パーティーには有力なトレーナーも数多く参加する予定らしい。あの四天王からも。
チャンピオンを目指す以上、顔を出しておいて損はない…と、そういう話。
穂乃果「なるほどぉ…ありがとう!真姫ちゃん!」
真姫「ヴェッ、別に…。海未にも同じ連絡を入れるわ。ことりには最初に掛けてみたけど、やっぱり出てくれなかった。…だけど、招待だけは文面で送っておいたから」
穂乃果「じゃあ、もしかしたら…」
真姫「ええ、また三人で会えるかもしれない。時間が合えば私もね」
……真姫との通話を終え、穂乃果は俄然、元気を取り戻している。
「よーし!」と一声、新たな一歩は力強く。
いざ、ヨッツメシティへ!
-
【現在の手持ち】
穂乃果
リザード♂ LV29
バタフリー♀ LV26
リングマ♀ LV30
海未
???
ことり
???
-
《オハラタワー》
202メートルの超高層、オハラタワーの屋上へ、けたたましいプロペラ音が近付いていく。
夜空を駆けるショッキングピンクの機体、オゥオゥオゥ…とアンニュイなBGMが聞こえてきそうな雰囲気。
やがてヘリポートへと着陸したその機体から、さも高級そうな白のワンピース、ラグジュアリー感に溢れる金髪の少女が姿を現した。
小原鞠莉。
彼女こそが数日後、世界的大企業オハラグループの、新たな経営者へと就任する少女なのだ。
出迎えの社員たちへとグラマラスな笑顔を浮かべ、帽子を片手にポケウッド女優めいたエモーショナルさで挨拶を。
鞠莉「アローラ〜♪半年ブゥリですネ!」
タラップを降りかけ、ふと立ち止まる。
おや?とばかりに小首を傾げて少し考え、「oh!」と納得顔で片手を打った。
鞠莉「oops…半年のアローラバカンスで、すっかりキャラがブレブレね!改め…チャオ〜♪」
「「「「お帰りなさいませ、鞠莉お嬢様」」」」
-
一糸乱れぬ統率。
オハラタワーの上層、居住スペースに勤める使用人らと社の重役たちが、まだ20歳にも満たない少女へ、次期社長へと頭を下げている。
親の威光…そう見られかねない状況だが、それは違う。
鞠莉は親から課された様々な課題を早々とクリアし、任された事業の一部門で莫大な利益を生み出してみせた。
幾度かの実績を積み、若き辣腕経営者として財界にまで広く知られた存在なのだ。
内心はともかく、彼女の社長就任に表立って異を唱えられる者はいない。
…と、SPたちが俄かに色めき立つ。
居並んだ出迎えの列の中心を堂々、見知らぬ人影が鞠莉へと歩み寄っていくではないか。
黒服たちが一斉に鞠莉の前に立ち塞がり、クロバットやルガルガンを繰り出して不審者の動きに備えている。
現れたのは短い前髪、小柄な体躯にロングコート。
エメラルドグリーンの眼差しに不敵を宿し、両手を広げたのは綺羅ツバサ!
-
ツバサ「そう身構えないで。ビジネスの話をしましょう?次期社長さん」
鞠莉「umm…?あなたが誰かがまず気になるけれど、聞かせてもらいましょうか」
ツバサ「フフ、そう来なくっちゃ」
ツバサは手にしたアタッシュケースを開き、その中に収められた赤紫のアンプルを鞠莉に見せる。
ツバサ「洗脳薬『洗頭(アライズ)』。天下のオハラコーポレーションになら、話は回ってきてるでしょう?」
鞠莉「……オゥ、サプライズ。アローラにいても耳に入っていました。ダイイチシティの騒乱、あなたがあれを引き起こした一員の?」
ツバサ「ご明察。リーダーの綺羅ツバサよ」
鞠莉「………」
黙り、思考する鞠莉。
黒服たちが仕掛けようとするも、鞠莉は片手で彼らを制する。
この相手、迂闊に動けば人死にが出る。鞠莉はそれを理解しているのだ。
-
ツバサ「有能ね。有能な人間は大好きよ。敵でも味方でもね」
そう嘯くと聡明な鞠莉を楽しげに見つめ、綺羅ツバサはヘリポートをくるくると見回している。
眼下に広がるヨッツメシティ、その大夜景が気に入ったようで、「わぁ」と小さく感嘆を漏らしてパシャリと写真を一枚。
鞠莉へと顔を向ける。
ツバサ「それにしても…フフ、オハラコーポレーション。安心と信頼を謳う大企業も、その前身はイタリア系マフィアのオハラファミリー。異国の地で上手く化けたものね?」
重役の一人が血相を変え、「貴様、何故それを知っている!」とツバサへ掴みかかる。
しかしツバサはボールからポケモンを出す素振りすら見せず、男の顎を裏拳で叩いた。
スパンと小気味の良い音が鳴り、元ラグビー部の大柄な重役は糸が切れたようにその場へ崩れ落ちる。
場の全員が息を飲む。あまりにキレのある動き、これがチャイニーズマフィアの身のこなしかと。
-
鞠莉「元マフィア…否定しません。でもそれはグランパの代まで。今のオハラは至極マットーな商売にしか興味ナッスィング!」
ツバサ「けれど、今でも裏の人脈に顔が利くでしょう。頭のいいアナタならもう話はわかってるわよね?
モノは相談、『洗頭』の流通と販売を担ってもらえないかしら」
鞠莉「論外ね。そんな醜悪な薬、聞くだけで反吐がリバース!」
即答。
鞠莉は親友のダイヤが住む街、ダイイチシティで悪事を働いたツバサたちを強く敵視している。
そして鞠莉もまたポケモンへの愛情深きトレーナー。
そんな非道な薬の存在を許せるはずもない!
交渉の破談に首をすくめ、ツバサはひらひらと片手を煽る。
ツバサ「そ。なら、死んでもらうわ」
鞠莉「……パードゥン?」
ツバサ「オハラが抑え役になってるせいでアキバ地方は悪党が大人しい。けれど、あなたを殺せば一時のカオスが生まれる。ビジネスチャンスは待つものじゃない。作るものよ」
-
恐るべき暴力理論。
叶わぬなら力で押し通す。それが綺羅ツバサの世界観。
鞠莉は小さく息を呑み、しかし一歩も退かずに返答を。
鞠莉「なるほど、理には叶っています。理解した上で、ダイヤ風に言うなら…片腹ペイン!
やると言うのならこのマリーと、オハラグループの精鋭SPたちが総力を挙げてお相手しマース!」
ツバサ「あら、今ここでやるとは言ってないわ。殺るなら大勢の注目が集まる時に。悪党なんだから派手に行かなくっちゃね」
そしてツバサは鞠莉を指差す。
手をピストル型に、眉間にぴったりと銃口を合わせて宣言を。
ツバサ「新社長就任パーティー、そこでアナタの命を奪うと予告するわ。フフ、それとも…パーティーを中止にでもしてみる?」
鞠莉「Can’t be.オハラは悪には屈しない。今ここで!あなたを捕らえればいいだけですもの!」
-
鞠莉のセリフは戦闘の許可。
SPたちがツバサの周囲を一斉に包囲する!
そして鞠莉も鞄に手を。
白波のあしらわれたダイブボールを握り、華麗な仕草で投げ放つ。
舞い散る水のエフェクトと共に現れるは優美なる水の音楽家。
鞠莉「カモンマイコォ!アシレーヌ!」
ソリストポケモン・アシレーヌが姿を現した!
その耽美な佇まいはかなりの高レベルを伺わせ、鞠莉は躊躇なくツバサを指し示す。
鞠莉「マイコォ!“うたかたのアリア”!」
鞠莉の指示に従い、アシレーヌは流麗にその声帯を震わせる。
美しい歌声は無数の泡沫球を生み出し、ツバサめがけて殺到していく。
ポケモンを出す間は与えない。
みずタイプの高威力技、人に当たれば軽い怪我では済まないはず!
━━━上空、飛来する影。
鞠莉「ホワァッツ!?」
ツバサ「逃走経路の確保なんて基本中の基本。それじゃあオハラ新社長、命日までさようなら」
鞠莉「…!oh…なんてスピードなの…」
社屋直上を“何か”が凄まじい速度で飛び抜けて行き、ツバサはそれから垂らされた縄ばしごに掴まって去っていった。
飛行機、機械の類ではない。何か巨大な…おそらくはポケモン。
チャイニーズマフィア『洗頭』
底知れない大敵からの殺害予告、寒気がするのは夜風のせいだけではないだろう。
小さく身震いをして…鞠莉は自らの肩を、両手でかき抱くのだった。
-
飛行する巨大ポケモンの背上、その主である英玲奈が登ってきたツバサを出迎える。
英玲奈「首尾よく、か?」
ツバサ「うん、首尾よく。お菓子とかある?」
英玲奈「ほら、食え」
手渡されたチョコスナックをポリポリと齧りながら、ツバサは楽しげに悪い笑顔を。
ツバサ「パーティー、決行するって」
英玲奈「止めないんじゃない、止められないのさ。政財界のお偉方も数多く出席するパーティー、数日前にそう易々と中止にできるはずもない」
ツバサ「その通り。中止にするなら理由が必要。殺害予告されたのを公表しないといけなくて、その話を詰めていけばオハラがマフィアだった過去へと突き当たる」
英玲奈「だが小原としては、その部分だけ上手く隠せないものだろうか?」
ツバサ「無理ね。隠せたとしてもマスコミは甘くない。疑いを買えば執拗に調べ上げられるわ。事が事だもの、圧力を掛けて抑えられる内容でもない」
英玲奈「確かに。詰みだな」
ツバサ「そ、あの子はもう詰んでるのよ。オハラのお姫様はね…」
どさりと大の字に寝転び、全ては完全に他人事とばかり、面白げにもう一言。
ツバサ「がんじがらめのお姫様は、いつだって悪の犠牲になるモノよ。そうでしょう?」
英玲奈「ああ、違いない」
ツバサ「フフ…舞台の役者は多ければ多いほどいい。政治家やセレブ、ジムリーダーに四天王。さて、後は誰が来るかしら?」
雲間、月明かりが稚気と悪意の相貌を照らす。
描く彼女のイメージに、穂乃果たちの姿はまだいない。
-
…
ヨッツメシティの中央通り、高級ブティックが立ち並ぶ歩行者天国。
多くの人が行き交う道にあるオープンカフェで、一人の女性がぐぐ…と伸びを。
くつろぐ彼女は優木あんじゅ、悪の組織『洗頭』の三幹部が一人だ。
あんじゅ「OLだって悪党だって、余暇のリフレッシュは必要よねぇ」
そう呟き、注文を運んできたウェイトレスへと上機嫌に会釈を一つ。
帽子からヒール、下着に至るまでを高級ブランドで武装。六万相当のサングラスを掛ければ姿はまるで芸能人。
髪の毛一本までが洗練されている…ように見えて、鞠莉のような本物のセレブに比べると若干ゴテついた印象を拭えない。
ツバサや英玲奈に言わせれば『エセセレブ』なのだが、少なくとも当人は組織のファッションリーダー、あるいはオシャレ番長を自認している。
芳香を漂わせるロズレイティーを口元へ運び、唇を湿らせる。
スイーツセットの注文はサヴァラン。ブリオッシュにシロップを染み込ませ、洋酒で浸した大人向けの焼き菓子だ。
表情は優雅、フォークを手に取り…
手の形はグー、逆手にフォークを握りしめてケーキを突き削る。
まるでエレガントさを欠いている。
親から正しい躾を受けたかどうかとは悲しいもので、食器の扱いに育った環境の貧相さが滲んでしまっている。
-
…ともかく、当の本人の気分はセレブ。もぐ…と咀嚼、満足げに溜息一つ。
あんじゅ「ん〜流石、大都市のスイーツは質が違うわぁ。これこそ美味礼讃…なぁんちゃって」
一人でくすくすとやたらに楽しげ。オンオフをしっかりと切り替えるタイプなのだ。
腰掛けた椅子の脇には大量の袋。買い込んだブランド衣類の数々だ。
その姿を遠目にだけ見れば、大都市によくいるお上り系成金女子の一人に過ぎない。
服の趣味やテーブルマナーは悪くとも、顔立ちは美しくスタイルも抜群。例えるならば極彩の薔薇が如く。
行き交う男性たちは老若問わず、立ち止まっては彼女へと振り返る。
もっとも、あんじゅ自身は女子にしか興味がないのだが。
そんな休日の薔薇…しかし、その本性は肉食の女王蜂。
サングラスの奥に潜む眼光は粘性。通りを道行く少女たちを入念に物色していて、傍らの衣類は“お人形用”。
「感じる…堕天使の鼓動を」
「置いてくずらよ」
「ちょ、待ちなさいよぉ!」
「ルビィちゃんと会うの久々で楽しみずら〜」
あんじゅ「ふふ…まずは二人。やっぱり都会には美味しいごちそうが豊富ねぇ?」
-
目星を付けて、すぐに手を出すわけではない。
『洗頭』直属の部下たちに後をつけさせ、対象の情報を入念に調べてから仕留める。
手際は鮮やか、辿れる痕跡は残さない。コレクションの中には警官の身内だっている。
三流犯罪者の衝動的なそれとはわけが違う。極上の獲物を得るためには相応の労力を掛けなければならない。これは崇高なハンティングゲーム。
故に…どんな相手であれ、彼女に目を付けられた時点でその人生は幕を閉じたも同然なのだ。
あんじゅ「あら?ふふっ…」
別で、もう一人。
新たな獲物へとあんじゅの目が映る。
千歌「はぁ〜…おっきい街だぁ」
あんじゅ(口に出しちゃって、可愛いわね。いかにもな“おのぼりさん”?)
自分も片田舎の出なのを棚に上げ、あんじゅは下唇を舌先で濡らす。
-
観察…
童顔、目鼻立ちは愛らしい。プラス、あんじゅの審美眼はその印象に隠れがちなスタイルの良さを見逃さない。
ふんにゃりとした表情は無防備で、その顔を狂うほどの苦痛とヒューズの飛ぶような快楽で彩ってみたいと嗜虐を誘う。
あんじゅ(ああ…良いわ?これはコーディネートしてあげたくなるわねぇ)
あんじゅ(……?)
あんじゅはケーキをつつく手を止める。
張り付いていた薄笑みは失せ、彼女の感覚は野生へと身を移す。
“おのぼりさん”の隣にはもう一人、友人らしい少女が立っている。
灰色の髪。別の方向を見ていたはずのその少女が突如として、グルリとこちらへ目を向けたのだ。
こちらもまた上玉。
スポーティな雰囲気と快活な明るさで全身が構成された、それでいて少女らしいナチュラルな曲線美も併せ持っている。
あんじゅ好み、どんな服を着せても似合いそうな100点級の美少女だ。しかし…
あんじゅ「残念、あの子は一旦保留ねぇ…」
-
目を逸らす。
灰髪の少女はこちらを見ている。
トレーナー同士、目が合ったらポケモンバトル?
あんじゅ(ないない。今日はオフだもの。戦闘用のポケモンは持ってないの)
灰髪の少女は、まだこちらを見ている。
視線で穴を穿つかのように、あんじゅの横顔をピタリと凝視してきている。
まるで悪意を鋭敏に感じ取ったかのように。
それを同じだけの、否、上回るほどの敵意で焼き尽くすように!
傍らの友人、みかん色の髪の少女の肩へと添えた手。
指先には強く力が込められていて、それは灰髪の少女の妄執を物語っているようで…
千歌「ん、曜ちゃん」
曜「………」
千歌「おーい、よーちゃーん。肩ぎゅって掴んだら痛いよー?」
曜「わわ!ごめんね!」
-
それでようやく、灰髪の…曜ちゃんと呼ばれた少女はこちらへの視線を切った。
あんじゅは終始、無視を決め込み。
“千歌ちゃん”が“曜ちゃん”を引っ張っていくことで、会敵は回避された。
彼女らの去り際、やれやれと背へ目を向けると…
もう一度、“曜ちゃん”はこちらへと視線を向けていた。
ゆっくりと口が動き、その形からあんじゅは少女の意思を読む。
あんじゅ(て・を・だ・し・た・ら…“潰す”。ねぇ。あらあら…)
あんじゅ「ツバサ然り、たまぁにいるのよねぇ。ああいう危険人物って」
「怖い怖い」そう呟くと、温くなった紅茶を一息に飲み干した。
君子危うきに近寄らず。
悪に身を置き、暴力と闘争の中で磨かれた感覚は手を出すべきでない相手をはっきりと見抜く。
あんじゅは脳内、千歌をターゲットの一覧から外している。
だが運命は三人を再びの邂逅へ。
鮮血の激突へと導いていく。
-
…
千歌「あ、ポケモン勝負ですか?」
海未「ええ、よろしければいかがでしょうか。街中ですがここは公園、それなりの広さのある噴水広場。周りの迷惑にもならないかと思いまして」
真姫の誘いを受け、海未もまたヨッツメシティへと到着していた。
穂乃果やことりと会えるかもしれない嬉しさと一抹の不安。
それを紛らわせるためにと観光を兼ねての散歩の道中、ばったり出会った同世代の少女へと勝負の申し入れを!
みかん色の髪をした少女は乗り気のようで、「よーし!ちょっと待ってね…」と言いつつ、手にしていた旅行パンフレットをゴソゴソ鞄へしまい直して勝負の準備を。
海未(ふふ、受けてくださるようですね。楽しみです!)
…と、一声!
曜「おっと、っと!ちょ〜っと待った!」
海未「…?」
-
千歌「あれ、どしたの曜ちゃん」
曜「あはは、邪魔してごめんね?千歌ちゃん、多分だけど…この人すごく強いよ?」
千歌「へ、そうなの?確かに強そうだけど…」
曜「そうだなー、私の見立てでは…バッジ四つのトレーナーさんと見た!……合ってます?」
海未「…!驚きましたね。ええ、ちょうどバッジは四つです」
海未は思わず驚き、何かそれを窺わせる要素はあっただろうかと自分の外見を確かめる。
だが衣服は至って普通のトレーナースタイル。
相手から見えている情報は所持ボールが四つだという一点だけであり、それは決してトレーナーのレベルを図る指標とはならない。
海未「バッジは鞄の中にしまっていますし…はて」
曜「ふっふっ、曜ちゃん'sアイはカモメの目!航海士の予測みたいに、トレーナーの力量をバッチリ見抜くのであります!」
千歌「うーん、さっすが曜ちゃんだなあ」
海未「本当です。重ね重ね、驚きです」
曜「あはは、照れるなぁ。それで千歌ちゃん、どうする?」
-
問われ、千歌は「むむむ…」と考え込む。
千歌もまたジム巡りの旅の道中。二つ目までは苦労して乗り切ったのだが、三つ目のバッジ取得に手間取り、別のジムリーダーへと相手を変えて打開を図ろうとこの街へ来たところなのだ。
それが相手の海未はバッジ四つ。
正直、勝ち目なさそうだなぁ…と、千歌の戦意が薄れていく。
勝てる見込みのない相手に挑めば負担を負うのはポケモンたちだし、と。
ボールに掛けていた手が下りる。それを見て、海未は「ふむ」と小さく唸る。
海未「やめておきますか?」
千歌「うん…ごめんなさい。今までも私のせいでポケモンたちにいっぱい痛い思いをさせちゃってるから」
海未「そうですか…残念です。ではどうです?そちらの方は」
曜「え、私?」
海未「はい。相当にお強いのではとお見受けしますが」
-
それは考えてなかった。
そんな表情を浮かべている彼女へ、千歌ちゃんと呼ばれた少女は頭の後ろで手を組み、にこにこと笑顔で後押しをする。
千歌「うんうん、やりなよ曜ちゃん!せっかく声をかけてくれた…えっと?」
海未「園田海未と申します」
千歌「海未さん!えへへ、私は高海千歌って言います。こっちは渡辺曜ちゃん」
曜「よろしく!ヨーソロー!歳近そうだし海未ちゃんって呼んでもいいかな?」
海未「ええ、どうぞお気軽に呼んでください」
千歌「あ、じゃあ私も!それで、海未ちゃんの誘いを断ったの申し訳ないし…海未ちゃんと曜ちゃんの戦いを見てみたいな!
曜ちゃんはバッジ五つだし、すごくいい勝負になるよ!」
海未(バッジ五つ!次のジム戦へ向けての調整としてはこの上ない相手ですね)
千歌に言われ、曜はまんざらでもない表情。
けれど小さく「うーん」と唸り、公園の時計へ目を向ける。
-
曜「でも千歌ちゃん、いいの?見に行こうとしてた映画まであんまり時間ないけど」
千歌「うああっ!そうだったぁ!?」
海未「あの、無理にでなくても構いませんよ?」
曜「でもそうだな、私も海未ちゃんと戦ってみたさはある…
そうだ!フルに戦うと時間も掛かっちゃうし、お互い手持ちから二匹だけ使うってのはどうかな?」
海未「ええ、それなら時間も掛かりませんね。乗りましょう!」
「なんだなんだ、ポケモン勝負か」
「可愛い子たちじゃないか、どっちも頑張れよ!」
都会の公園には人通りが多い。
向き合う二人がボールに手を掛ければ、必然ギャラリーは集まってくる。
照れ屋な海未は旅立った頃はこれが恥ずかしくてたまらなかったが、二ヶ月も経てば視線にも慣れてくる。
「ねえ、あの黒髪の子ステキじゃない?」
「凛々しい!彼女にしてほし〜い!」
海未(女子からの歓声が多いのは未だに納得が行きませんが…)
曜「それじゃ海未ちゃん、行くよ!」
海未「ええ!まずは先鋒、お願いします!キルリア!」
『リア!』
-
ボールから現れたのは少女のような外見、人間に近い容姿のエスパー・フェアリー複合タイプ、キルリアだ。
こう見えて性別は♂。
キリッと相手を見据える眼光はなかなか強気、ファイターの資質を秘めている。
海未(私の手持ちでは一番の新参。これまでは野生を相手にじっくり育成してきましたが、そろそろトレーナー戦の経験も積ませてあげましょう!)
曜「お、キルリアだ。まだ見たことないポケモンを見られるのは嬉しいな!それじゃあこっちも…ペリッパー!ヨーソロー!」
『ペルィッパ〜』
ボフンと飛び出したのはみずどりポケモン・ペリッパー。
進化前のキャモメは幾度か遭遇したこともあり、海未にとってまるで知らないポケモンというわけではない。
半身を覆うほどに巨大化したクチバシ、ほんのりと間の抜けた顔立ち。
しかし全体の骨格が海未の知る同種よりもガッシリとしていて、目の前の個体はなかなかの高レベルだろうと窺い知れる。
ペリッパーの出現に合わせ、ふんだんに放出された水気が空に雨雲を作り出す。特性の“あめふらし”が発動したのだ。
-
海未(ふむ、相性はお互いに等倍。ここは素直に…)
海未「キルリア!“ねんりき”ですっ!」
『きるるっ!』
キルリアが念じると同時、エスパータイプ特有の念波動が空間をぐにゃりと歪ませながらペリッパーへと迫っていく。
同時、曜もペリッパーへと指示を出している。
曜「ペリッパー、いつもの行くよっ。“そらをとぶ”!」
『ッパァ!』
海未「む、空へ…」
曜「だけじゃないよ、よっと!」
海未「ペリッパーの羽に掴まり…自らも上へ…!?」
キルリアのねんりきはペリッパーに当てられず、空中でその力は離散する。
海未とキルリアは揃って雨天を見上げ、高空でばさりばさりと羽ばたくペリッパーの姿を確認。
上昇後、水平飛行へと移行していて、その背中にすっくと立つ曜の姿が見える。
海未(目も眩むほどの高度でしょうに、怖くはないのでしょうか)
その時ふと、海未の耳は傘をさした観客たちの雑談を捉える。
「ん、あの子…渡辺曜じゃないか」
「知ってるの?」
「飛び込み競技のジュニア代表だよ。最近見なくなってたけど、トレーナーになってたんだな」
海未(なるほど…何か他の道にも長けているトレーナーとは総じて強いもの。ますます気を引き締めなくては)
-
思考する海未、戦いは次の手番へ。
飛ばれている以上、次撃のタイミングは向こうに合わせるしかない。
海未(ペリッパーは物理よりも特殊よりのポケモンだったはず。直接攻撃の“そらをとぶ”ならキルリアも一撃は耐えられる公算…)
海未「キルリア、もう一度“ねんりき”です。降下軌道に合わせてのカウンタータイミングを狙いましょう」
『リアっ』
曜(…海未ちゃんはきっちり理論までを理解したトレーナーに見える。だったらこそ、“そらをとぶ”の一撃じゃ仕留められない、きっとそう考えてるだろうな)
曜は空中、ペリッパーの上で両手を水平に広げている。
曜「でも違う。上空からの降下攻撃ってのはもっと強いものなんだ。トレーナーみんながそれを活かせてないだけ」
下方、キルリアのいる落下方向へゆっくりと背を向ける。
曜「落下中に細かい指示が出せないのが問題なんだよね。なら…一緒に飛べばいい。行くよー千歌ちゃん!」
千歌「がんばれよーちゃーん!」
海未「…?一体何をする気で…」
曜「ヨーソロー!前逆さ宙返り3回半抱え型!!!」
海未「なっ!跳んだ?!」
-
ペリッパーの降下より一瞬早く、曜は遥か下方の地面へと向けて死のダイブを敢行している!
足を抱えて体を丸め、クルクルと回転しながら下へ!下へ!!
観客たちから悲鳴が上がる!海未も思わず焦りの声を!
海未「しっ、死んでしまいますよ!!?」
千歌「曜ちゃんは大丈夫だよ〜」
海未「そうなのですか!?な、なら戦闘を継続ですね…!」
曜の落下をペリッパーの羽ばたきが追い抜いて行き、キルリアへと凄まじいスピードで落下してくる!
その速度は一般的な“そらをとぶ”に比べて遥かに速い!!
海未「あんな速度で降下したのではペリッパーの動体視力が追いついていないはず!キルリア、脇へずれて回避、直後に“ねんりき”です!」
曜「その目の役目をするのが私!ペリッパー!左に30°修正、そのまま突撃だ!!」
『リッッパ!!!』
『きるぅー!!?』
-
海未「しまった!キルリア!」
ペリッパーの高速降下はキルリアの小柄な体を強かに打ち、そのまま気絶へと追い込んだ。
海未は悔やみながらすかさずキルリアをボールへ収め、労いの言葉を掛け、ペリッパーに遅れて落下してきていた曜へと目を向ける。
千歌は大丈夫だと言うが、あのまま落ちれば間違いなく死…
海未「あっ!」
曜「よーし!えらいよペリッパー!」
海未「ははあ、受け止めて…ドククラゲですか?」
曜は手持ちから一匹、青いフォルムのクラゲの頭に乗っている。
落下の途上、もうすぐで地面に直撃してしまうというタイミングで曜はボールの一つを地面に投げた。
繰り出されたのはドククラゲ。その柔らかな触手をウネウネと束ねて組み合わせてネット状にして頭の上に構える。
そこへ曜、全身を伸ばして抵抗を最小限に、水へとダイブするかのような飛び込みを!
無駄を極力排除した姿勢、触手による大幅な減速、ドククラゲの柔らかな体を最終クッションとして盤石の受け止め。
曜はまるで無傷、変わらずの笑顔でペリッパーを労った。
海未はあっけにとられ、戦闘中にも関わらず曜へと尋ねかけてしまう。
-
海未「あの、お怪我は…」
曜「うん、大丈夫!心配してくれてありがとう!…あ!このドククラゲはバトル用に出したんじゃないんだけど、いいかな?」
海未「ええ、心得ています。トレーナーの危機を回避するためであれば、戦闘中のポケモン以外の繰り出しもルール上で許可されていますからね」
曜「おおっ、流石。海未ちゃんはルールの条文の細かいとこまでしっかり熟知して…って、あれ!?」
『リ…パッ。』
曜「なんでペリッパーがやられて…あっ!」
『ポロロゥ……!』
海未「素晴らしい一撃でしたよ、ジュナイパー」
-
千歌「すっ、すごいよ…!」
繰り広げられた一瞬の攻防に、千歌は目を皿のようにして見入っている。
ペリッパーの急降下攻撃と曜の命知らずな同伴指示、それはいつもの戦術で見慣れている。
(やっぱり曜ちゃんはすごいなあ)なんて思いながら見ていたのだが、もう一つの見所はその直後に待っていた。
キルリアがやられた直後、海未は素早くボールへと収める。
それとほとんど同瞬、次のボールからスナイパーめいた姿のフクロウ、やばねポケモンのジュナイパーを繰り出したのだ。
その入れ替えの速度はまるで達人の居合い。
落下直後の曜の視界がペリッパーから離れたほんのわずかな数秒を縫い、ジュナイパーの“かげぬい”がペリッパーを仕留めていた!
曜「そっかあ、あの何秒かのうちに…びっくりだなぁ」
海未「ビックリはこちらの台詞ですよ。凄まじい戦術ですね…」
千歌「こ、この二人…すごすぎだよ〜」
「おいおい凄いぞ!?」
「なんだこの二人!」
「無料で見られるレベルの試合じゃないよ!」
その凄まじさを感じているのは千歌だけではない。
大都市で日夜繰り返される数々のポケモン勝負に目を肥やしたヨッツメシティの住民たちをも驚愕させるレベルの一戦!
-
曜「それじゃドククラゲには一旦戻ってもらって、次のポケモンは…っと、っと?」
海未「おや、なにやら騒がしく…」
ピピピピピー!と笛の音、数人の警官がこちらへと向かってきているではないか。
戦闘に夢中で気づいていなかったが、ハイレベルな戦いにギャラリーの数がやたらに膨れ上がっている。
それは公園の利用を妨げるほどの人数になっていて、まるで著名なアーティストがゲリラライブを行ったかのような状況!
警官のガーディがワンワンと吠え散らし、ギャラリーを解散させていくのが見える。これは…
曜「うーん海未ちゃん、ここまでにしとかない?」
海未「ええ、同感です。別に捕まるわけではありませんが、事情聴取となれば面倒ですからね」
千歌「げ!映画始まっちゃう!」
曜「わっ本当だ!それじゃ海未ちゃん、ここはドローってことで!」
海未「ええ、楽しかったです。またお会いしましょう!」
群衆をかき分け、海未と二人はそれぞれの方向へと去っていく。
ギャラリーからはその背へと万雷の拍手が送られ、警官たちが少女らへ追いつかないように緩やかな妨害が行われている。
-
海未「あ、ありがとうございます…ありがとうございます…え、サイン!?そういうのは、あの…これで良いでしょうか?」
海未は生来の礼儀正しさと生真面目さで、拍手に礼を述べつつ退場していく。
手渡されたペンで色紙へとやたらに達筆なサインを書き付け、我も我もとサイン希望が続出したところを必死に抜けて逃げていく。
雑踏を抜けて落ち着いたところで、海未は並走するジュナイパーの頭を優しく撫でた。
海未「頑張りましたね、ジュナイパー」
『ポロロ!』
海未「本当に…よしよし」
ジュナイパーはあのモクロー、ことりとの交換で譲り受けたモクローの最終進化。くさ・ゴーストの複合タイプポケモンだ。
交換で貰ったポケモンは環境の変化に適応するためにレベルアップが早まる。
海未の愛情を受けながらスクスクと育ち、中間進化のフクスローを経て、今や海未の手持ち、ダブルエースの一角として活躍を見せている。
そんなジュナイパーをボールへと収め、海未は今の一戦を脳内に振り返る。
海未(見られたのは二匹だけ、片方は姿しか見られませんでしたが、バッジ五つの実力は十二分に感じられました。
ペリッパーの雨を起点として展開していく、俗に言う雨パーティーかもしれませんね。
ただ、あの曜という方…型に嵌めて考えると痛い目を見るタイプのトレーナーでしたが)
千歌と曜、二人はとても仲の良い親友のようだった。
ただ海未は、そんな二人の関係にどこか歪さがあるのも感じ取っている。
-
海未(同い年くらいの友人だというのに、曜は千歌を庇護しようという意識が強すぎるような印象を受けました。その庇護が千歌の成長を妨げている…そんな印象も)
…と、ピシャリ。
自分の頬を叩いて思考を追い払う。
ちゃんと会話をしたわけでもないのに勘繰りと憶測、それは海未にとっての美徳ではない。
ただそれでも、脳裏に印象が残っている。
明るく朗らかで人当たりの良い曜。
しかし落下の最中、彼女の目は一切の恐怖を映していなかった。
それはひどく破滅的。明るく見える彼女の本質は、千歌以外にまるで関心を抱いていないような、自分の命にさえ無関心であるような…
海未「ああ、もう。一人旅というのは余計なことを考えてしまう癖がついていけませんね。穂乃果やことりが隣で騒がしくしてくれていれば…」
去来する寂しさに小さく嘆息を一つ。
自分だけではない、ジュナイパーもことりに会いたいだろう。
もう海未のことを主人として認め、懐いてくれているが、それでもあれだけ慕っていたことりが恋しい時もあるに違いない。
何より自分がことりと会いたくて、穂乃果と三人で笑いあいたくて…
海未(だから私は『洗頭』を許さない。必ずイーブイを取り戻してみせましょう。たとえ…この手を血に染めたとしても)
闇を刻み込まれたのはことりだけではない。
海未もまた手段を選ばぬ暗殺者との殺し合いに、心の箍を一つ外されてしまっている。
「必ず」と小さな呟き。
海未は踵を返し、キルリアの治療のためにポケモンセンターへと足を向けるのだった。
-
《ヨッツメシティジム》
穂乃果「バタフリー!“ぎんいろのかぜ”!」
『フリィィィイ!!!』
『ロォォット…!』
穂乃果が放った銀の鱗粉がくさ・ゴーストタイプのオーロットを襲い、動く樹木のようなその全身を包み込む。
その一撃は見事な威力を発揮し、ズズン…と音を立てて倒れ伏す。
「オーロット戦闘不能!」
公式戦を見届ける審判員が片手を高々と上げて宣言を。
「ジムリーダークニキダ、ポケモン残数0!よってこの勝負…挑戦者、高坂穂乃果の勝利!!」
穂乃果「よぉーし!やったねバタフリー!」
『フリッ♪』
「いやはや、お強い。お見事でございます」
バタフリーと舞うようにひらひら、全身で喜ぶ穂乃果へ、ジムリーダーを務めている住職の男性が穏やかな声を掛ける。
敗戦にも感情の乱れは皆無。ゆっくりと歩み寄り、徳の高そうな笑みを浮かべて穂乃果へとバッジを差し出した。
「これで、四つ目ですね」
穂乃果「えへへ、ありがとうございます!」グゥゥゥ…
穂乃果「……あっ」
激しいバトルにカロリーを消費、穂乃果のお腹は盛大に鳴いて空っぽを訴えている。
照れ笑いを浮かべる穂乃果に住職、クニキダ氏は笑って声を掛ける。
「よろしければ、夕食を食べて行かれませんか。もちろんお金などはいただきませんよ」
穂乃果「へ?いやあ、それはちょっと悪いです…あ、良い匂い…」
「はは、奥へお上がりなさい。まだ挑戦者の予定があるので私は参れませんが、娘に案内をさせましょう」
そう言い、手をポンと鳴らして奥へと声を掛ける。
すたすたと穏やかな足音、ジムリーダーの娘、おっとりとした表情の少女が姿を現した。
花丸「お客様ですか?こちらへどうぞ、マルがご案内するずら♪」
-
…
花丸「ほわー、穂乃果さん、大変な旅をしてるんですねえ」
穂乃果「そうなんだよねえ。で、結局、幼馴染のことりちゃんがポケモンを奪われちゃって…」
花丸「あらいずって人たち、許せないずら…マルのツボツボが連れて行かれちゃったらと思うと…」
穂乃果「花丸ちゃんもやっぱりトレーナーなんだね。さすがジムリーダーの娘!」
花丸「あ、マルは全然!戦わせたりはほとんどしてなくて、ツボツボだけずーっとお友達として一緒にいるんです」
穂乃果「そうなんだ?トレーナーになれば強そうな気が…なんとなくだけど」
花丸「ううん、マルはどん臭いから…あ、ここが居間です」
そう言って花丸が引き戸を開けると、ぐでぇ…っと寝そべった少女が不満げな顔を持ち上げた。
頬を膨らませ気味、ふてくされた声で「おそい!」と一声。
「どんだけ待たせるつもりなのよぉ!人の家で一人で待たされる時間って結構気まず………知らない人がいるう!!?」
穂乃果「あはは、どうも〜」
花丸「この子は善子ちゃん、マルの幼馴染のお友達です。そういえば善子ちゃん、人見知りだったね?」
善子「善子じゃなくてヨハネ!じゃなくって、お、お客さん?なら私は帰るから…嗚呼、ゲヘナからの呼び声が…」
花丸「うちに泊まってるのにどこへ帰るずら?」
善子「そうだったぁ!?ピィンチ!!!」
穂乃果「賑やかな子だなぁ」
-
パニック状態の善子を花丸が落ち着かせ、自己紹介を済ませてちゃぶ台をぐるりと囲む。
慌てていた善子だが、穂乃果が屈託のない絡みやすい性格だと認識したところで動揺は収まった。
それでもまだ、すうっと通った鼻筋の先にまだ視線を泳がせているあたりに人見知りがよく表れている。
(ちょっとタイプは違うけど、子供の頃の海未ちゃんもあんなとこあったなぁ)とほんのりノスタルジー。
さておき、国木田花丸と津島善子、二人は揃って穂乃果より一つ歳下。
聞けば、共にジムリーダーの娘らしい。
善子はロクノシティで母親がジムリーダーをしている。
その母がオハラタワーでの式典に参加するので、くっついてこの街へ遊びに来たというわけだ。
善子「へえ、バッジ四つ持ち…」
花丸「さっきうちのお父さんを倒したところなんだって。強いトレーナーさんって憧れるずら〜」
穂乃果「いやそんなぁ、照れるなぁ…善子ちゃんはポケモンは?」
善子「私もずら丸と一緒、バトルとかはさせない派。ヤミカラスを一匹だけ」
穂乃果「そっかぁ、ジムリーダーの家族ってバリバリなのかと思ってたよ」
善子「それよ、その期待が苦手なの。プレッシャー掛けられちゃたまらないし、ポケモンとは気楽に付き合えればそれで…」
花丸「うーん、マルも同じ感じかなぁ。お父さんもお母さんも優しいけど、なんとなーく勝手に重圧を感じちゃうなぁ…って」
穂乃果「なるほどー…」
親が達人というのも大変なんだなぁと、そしてそれを真正面から背負っている海未ちゃんは凄いんだなぁと、穂乃果の中でライバルの評価が上がる。
煮付けや焼き魚、優しい味付けの和食をたっぷりと堪能し、穂乃果はタタミの上にごろりと伸びを。
穂乃果「いやーお腹いっぱい!雪穂お茶…って、実家じゃなかった…えへへ」
花丸「ふふふ、そんなにくつろいでもらえるとマルも嬉しいです」
善子「なんかこう、年上感のない人ね…緊張して損した」
やがて話題は自然と、オハラタワーで行われる式典の事へと移っていく。
-
穂乃果「へー!じゃあ花丸ちゃんと善子ちゃんもオハラのパーティーに参加するんだね!」
花丸「はい、ジムリーダーの家族も出席できるんです。立食パーティーで美味しいご馳走とかもあるみたいだから、マルもお父さんについていって、ご相伴に預ろうかなぁって」
善子「ずら丸は食い意地張りすぎ。太るわよ」
花丸「ずらぁ!」
穂乃果「うっ、私も食べ過ぎそうだなぁ…でも滅多にない機会だし、どうせなら胃袋の限界に挑戦して…!」
花丸「ですよね!どんなご馳走があるのかなぁ…!」
穂乃果「うーん、楽しみ…!」
善子「同類か…」
善子はきのみを細切りにして干したものを指でぶら下げ、ヤミカラスへと食事を与えている。
トレーナーたちが食事をしたなら、もちろんポケモンたちにも食べさせてあげなくては。
ヨッツメシティジムの裏手は大きな寺。庭では穂乃果のポケモンたちも食事をしている。
リザード、バタフリー、リングマの三匹はきのみやフードをパクつきながら、見慣れない枯山水に興味津々だ。
穂乃果「そこ入って模様崩したらダメだからねー」
『リザッ』
花丸「とってもいい子たち。穂乃果さんの人柄が窺えるずら〜」
善子「やっぱ旅してきてるポケモンって強そう。ヨハネの眷属…この子にも、ちょっとはトレーニングさせた方がいいのかしら。堕天使ヨハネが命ず…飛翔せよっ!」
善子は持っていた干しきのみ、ついばまれて短くなった根元の部分をひょいと投げ上げる。
ヤミカラスはパタパタと小さく飛んで、クチバシの中へきのみを収めて満足げに『カァ』と鳴いた。
-
善子「ナァーイス・キャッチ!」
花丸「それはトレーニングじゃなくて芸ずら」
やんわりとツッコミを入れながら、花丸はツボツボの殻を撫でている。
にょろりと出た口元へと手を差し伸べ、乾燥フードを与えている。
花丸「マルはゆったりできればそれでいいなぁ。ね、ツボツボ」
『つぼぼ』
穂乃果「うーん、花丸ちゃんとツボツボを見てるとのんびりする…
それにしても、パーティーって知らない大人ばっかりだと思って緊張してたから二人も参加するなら安心だな」
花丸「えへへ、おんなじです。お父さんたちは多分色々な人との挨拶で忙しいだろうし、穂乃果さんもいるなら心強いずら。ルビィちゃんとも会えるし」
食事中の会話に、穂乃果と花丸、善子は、黒澤ルビィが共通の知り合いであることを認識している。
穂乃果もダイイチシティでの一週間ほどの入院生活とその後の数日にルビィと友達になっていて、可愛らしく妹気質の少女にまた会えるのが楽しみだ。
穂乃果「うんうん、なんだか乗り気になってきたよ。よーし花丸ちゃん!パーティーの日はどっちがたくさん食べられるか勝負だよっ!」
花丸「望むところずら!」
穂乃果「ご飯も麺もお肉もスイーツも!全部制覇しちゃうぞ!」
花丸「お〜!」
善子(穂乃果さんとずら丸…この二人、一緒にいさせちゃ駄目なタイプね)
半眼、呆れた様子でツボツボをちょいちょいと突きながら、善子は庭越しにオハラタワーを見上げる。
(ま、楽しみは楽しみだけど!)と。
-
…
宵の時刻、街明かりは煌々と灯ったままに空を照らしている。
眠らない大都市ヨッツメシティ、昼夜を問わず、その輝きが途絶えることはない。
その中心であるオハラタワー、最上階には社長である鞠莉の居室がある。
本来なら両親と住むべき広さの部屋なのだが、世界各地に支社を持つオハラグループは多忙に多忙を重ねている。
父も母も仕事のために世界中を忙しく飛び回っていて、今は鞠莉が一人で暮らしている状態なのだ。
もちろん、使用人や社員は呼べば30秒ほどで飛んで来る。
食事は朝昼夜と最高級のものが用意されるし、掃除洗濯は頼まずとも全て済まされている。
日中は多忙で寂しさを感じる暇などない。
それでも、静かな夜更けに寄り添ってくれる人間は誰もいない。
重責を課された少女の背中はぽつんと、ひどく寂しげだ。
鞠莉「……oh、残念…。ううん、気にしないで。大変な時だものね」
窓の外を眺めながら、電話機を片手に通話をしている。
鞠莉「……ホワイ?元気がない?んーん、ダイヤは心配性すぎ!マリーはいつだって元気一杯よ♪」
-
話相手は親友のダイヤ。
通話して曰く、先日の『洗頭』絡みの一件で警察の諸々の調査に連日協力をしているらしい。
その上で、ジムリーダーとして挑戦を受ける責務もきっちり果たしているのだから鞠莉に劣らぬ多忙ぶりだ。
さすがにリーグの許可を取り、一時的に事前予約制にはなっているらしいが。
ともかくそういう事情で、ダイヤは式典に出席できないと謝罪の連絡を入れてきていたのだ。
鞠莉「んもう!申し訳申し訳〜ってしつこいよ!謝罪はノーセンキュー!
私たちそんな仲でもないでしょう?落ち着いたらこっちから遊びに行くから♪それじゃ、チャオ〜♪」
受話器を置き、浅く溜息。
艶のあるルームワンピース姿、傍らで心配げに見上げてくるチラチーノのふかふかとした毛を指で透かし、その指は恐怖に震えている。
鞠莉(会社全体の決定で、私がされた脅迫は外部には徹底して隠すことになった。
オハラコーポレーション全体の命と、私一人の命…天秤にかければ当然、前者が大事)
鞠莉(sorry、ダイヤ。あなただけにはと思って電話したのに、結局言えなかった。知ればダイヤはきっと必死に動いてくれる。
だけど必死になればなるほど、情報が漏れてしまう隙は大きくなる…)
-
もちろん、当日は大企業オハラコーポレーションの総力を結集した警備体制が敷かれる。
警備部隊へ下される指示は捕縛ではない。『洗頭』の構成員を発見次第、殺害。
地上は正面エントランス、裏口共に完全防備が敷かれ、空の警備も盤石の体制。
周辺建造物の6ポイントに狙撃班が待機、綺羅ツバサらしき人物を発見、当人であると確認でき次第の発砲が予め許可される。
プラス、地下を破ってくる可能性も当然ながら考慮している。
手持ちの一体がガブリアスだというのだから、高速潜行して床を破って現れる可能性も大いにあり得る。
ので、地下には超出力のサイコバリアが張られている。
それは“とあるエスパータイプポケモン”が生むサイコ力場を防壁へと転用した代物だ。
強力すぎて地上ではおいそれと使えないが、地下なら問題はなし。
たとえガブリアスが耐えて突破したとしても、生身のツバサが突入して生きていられるような出力では断じてない。
トレーナーさえ倒してしまえば、ガブリアスが暴れたとしても御せないことはないのだ。
客やスタッフに多少の犠牲が出たとして、最も硬く警護されている鞠莉へと辿り着くことはできないだろう。
実のところ、オハラコーポレーションの重役たちが警察と関わるのを嫌うのはこの、“とあるエスパータイプポケモン”が原因でもある。
-
天高く聳える巨大なオハラタワーは、地下にもその根を伸ばしている。
その大半は外部の監査が入ったとしても問題のない場所なのだが、見せるわけにはいかない箇所もある。極秘の地下研究棟だ。
そこでは社外秘、それどころか一部の専属チームと役員以上にしか存在の知らされていない研究が行われている。
悪徳めいた目的の研究かと問われれば決してそうではないのだが、それでも内容が漏れれば世間からの批判が殺到しかねない代物だ。
鞠莉の暗殺計画を話せば事態がどう転ぶかわからない。
研究の内容が露見する可能性もあり、故に役員会議は暗殺計画の秘匿を決定した…という経緯。
……鞠莉は不安を感じている。確信めいた死の予感に恐怖している。
綺羅ツバサは甘くない。有象無象の警備がどれだけ役に立つものか。
鞠莉「………果南…」
もう一人の親友…松浦果南の顔を思い浮かべ、そばにいて欲しいと願う。
しかし、それは叶わぬ願い。
彼女もまた大切な用事で他の地方へと出向いていて、戻るのはいつになるかわからない。
今の鞠莉に、頼れる人間はいないのだ。
-
…
穂乃果「おおお…!おおおお……!」
思わず漏れる感嘆、それも二度。
穂乃果が感動のあまり声を上げているのは、目の前にずらりと並べられた豪華な食事の数々を目にしたため。
そう、穂乃果は今、オハラタワーのパーティー会場にいる!
寿司にステーキ、パスタにブルスケッタ。ミートローフは肉汁たっぷりで、デパ地下サラダをもっと豪華にしたような何か。
飾り切りされたフルーツが無駄にたくさん並べられて彩りを添え、なにやらエビっぽいのは多分ロブスター。
あとは穂乃果の語彙と知識ではよくわからないものが色々と!
パエリアではなく“パエージャ”と表記されているところに妙なセレブリティを感じ、穂乃果はもう一度「ほおお…」と感心を。
その横ではリザードが穂乃果と同じ表情、『ザァァド…』と感心の真似を。
ポケモン関連企業のパーティーだけあって、会場内ではポケモンを一匹だけボール外へ出すことが許されている。
バタフリーは鱗粉が食事にかかって迷惑になる。リングマは大柄なので通行の邪魔…というわけで相棒、リザードを随伴させている。
-
すぐそばで客へとローストビーフを切り分けているシェフが、そんな穂乃果たちへと微笑ましげに頬を緩めている。
視線に気付き、匂いにつられて穂乃果はふらふらと寄っていく。
穂乃果「うわあ、ローストビーフだ!」
『リザァ!』
「お取り分けしましょうか?」
穂乃果「いいの!?えへへ、ちょっと多めにお願いします…」
こんもりと盛られたローフトビーフの皿を片手、モフモフと頬張り満面の笑顔。
少し低めの位置に皿を持ってあげていて、リザードも爪で器用にフォークを扱って自分の口へと運んでいる。笑顔。美味しいようだ。
音楽はクラシックが生演奏されている。
それは穂乃果が知らない曲で、けれど素敵なメロディをしていて、きっとベタでない、それでいて洒落と気の利いた選曲なのだろうなと穂乃果は10秒耳を傾ける。
穂乃果「さ、食べよ食べよ。時間は有限!」
『リザァド!』
-
そんな調子で花より団子。
次は何を食べようかな、やっぱりお寿司かなー…と、煌びやかなロール寿司を目にして立ち止まる。
客の前でくるくると巻いて仕上げていく様子を目に、もう一度「おおおー!」と歓声を上げてパチパチと拍手。
最高のオーディエンスだ。寿司職人の口元がほんの少し綻んでいて、穂乃果たちの反応に喜んでいるのがわかる。
…と、背後から聞きなれた声。
真姫「ちょっと!料理の前でほおほお言ってないでよ!」
穂乃果「わわ、真姫ちゃん!久しぶりー!」
真姫「ヴェェェ!?抱きつかないで!ちょ、穂乃果!恥ずかし…」
穂乃果「会いたかったよ!すっごくすっごく会いたかった!真姫ちゃん!」
真姫「ヴェ…別に、私だって会いたくなかったわけじゃないけど…」
叱りつけていたはずがすぐにチョロっと誤魔化される。
相変わらずの真姫に穂乃果はニコニコと笑みを浮かべ…
一変!穂乃果が唐突に声を上げる!
-
穂乃果「あっ!!」
真姫「なっ、何!?」
穂乃果「そのグラスの赤いの…真姫ちゃんいけないんだ!未成年なのにお酒なんて飲んでる!」
真姫「これ?ただのガスパチョよ」
穂乃果「ガス、パ…?」
真姫「トマトの冷製スープ」
穂乃果「ははぁ…」
知識レベルの差はともかく、再会を喜んだ二人は並んで会場を歩く。
真姫の横には上質な毛並みのレパルダスが付き従っている。
豹のしなやかさでしゃなりと控え、しつけの行き届いた佇まいと気位の高い表情はどこか真姫と似ているかもしれない。
そんな真姫は横目に穂乃果の服装を見つめ、ふっと表情を柔らかくする。
真姫「それにしても、馬子にも衣装ね」
穂乃果「ん、孫?」
真姫「いい服を着ると穂乃果でもそれなりに見えるってことよ」
穂乃果「あはは、よくわかんなかったから真姫ちゃんの親戚のお姉さんに全部コーディネートしてもらっちゃった」
-
穂乃果らしいオレンジ系、上品に淡めのドレス姿でくるり。一回転してスカートを膨らませてみせ、ふんわりと笑顔。
真姫は軽く笑みを返してグラスを飲み干し、ウェイターへと器を渡してから一言。
真姫「そんなに目立たないからいいけど、胸元にソースのシミができてるわよ」
穂乃果「あれ?本当だ。ローストビーフかなぁ、ごめんごめん…」
真姫「ちなみにそれ、全部で100万以上するから」
穂乃果「ひゃっ………!!!!」
真姫「服もだけど、ジュエリーがちょっと高いのよ」
穂乃果「……!………!」
真姫「一応無くなさいようにしなさいよ。まあ、別にいいけど」
穂乃果「……!?……別にいいって!ええ!?」
言葉を失った状況からようやく持ち直し、超高額な宝石を「別に」で済ませる西木野家の財力に愕然。
すっと…横から『リザ。』と爪。
リザードは穂乃果がやたらと気にし始めた宝石が気になるようで、爪でそれを触ろうとして来ている。
穂乃果は悲鳴!!!
-
穂乃果「ぎゃあああ!!リザード!それはない!!」
『ザアッ?!』
真姫「何してるのよ…」
未だに落ち着かない穂乃果、この手の式典に慣れきった様子の真姫。
さっきまではパーティーの内容なんて関係なしに食事を食べまくってばかりだったが、いざ立場のある真姫と並んで歩くと大切なパーティーなのだなとそれなりに実感が湧いてくる。
若き博士である真姫へ、挨拶をしようとひっきりなしに人々が寄ってくるのだ。
真姫が挨拶を交わしている間、穂乃果は暇。
所在なくクルクルと見回してみれば、記者やテレビ局の取材もたくさん入っているのが目に止まる。
中にはワイドショーでよく見かけるレポーターの姿もあって、「へえ〜」と穂乃果はまた感嘆。
真姫「穂乃果、行くわよ」
穂乃果「あ、うん!」
真姫は挨拶してくる大人へ真姫なりの愛想で返しながら、穂乃果は数々のグルメをハイペースで胃へと詰め込みながら。
歩く二人は、ずっと視線をキョロキョロと泳がせている。
その目的は共通、会場のどこかにいる海未と、もしかすると来ているかもしれないことりを探しているのだ。
-
真姫「あ!海未がいたわ!」
穂乃果「え、どこ……あっ本当だ!!お〜い!!!海未ちゃあああああん!!!」
海未「…?あっ、穂乃果!真姫!」
穂乃果「う、み、ちゃああああん!!!久しぶりっ!!!」
海未「おっと!もう、穂乃果…人も多いのですから、飛びついてきたら危ないですよ?」
真姫「そこまで嬉しそうな顔をしておいて、よく言うわ」
ずっと会いたかった幼馴染、再会は二ヶ月ぶり。その喜びはお互いにひとしおだ!
穂乃果に頬ずりをされて、海未の叱責にもまるでキレがない。
それを微笑で見守る真姫とも海未は再会の挨拶を交わし…穂乃果の皿を見て眉をひそめる。
海未「………穂乃果、食べ過ぎではありませんか?やたらにこんもりと盛り付けて…」
穂乃果「はっ、海未ちゃんにこの皿を見せちゃまずいのを忘れてた…で、でも!毎日ずぅぅぅっと歩いてるから体重減ったし!」
海未「ふふ、冗談ですよ。顔を見れば頑張っているのだとわかります」
穂乃果「えへへ、海未ちゃんこそ」
海未「……」
穂乃果「……」
真姫「……。ことり、見当たらないわね」
-
三人の間に沈黙が漂う。
最も心優しい愛すべき幼馴染は、一体どこへ姿を消してしまったのだろう。
再会の喜びも、結果として消沈の呼び水になってしまう。
そんな人間たちの悲喜を知ってか知らずか、リザードとゲコガシラは互いを眺めて成長を確かめ合っている。
そんな姿を目に、真姫は静かに想いを馳せる。
真姫(ことり…最初の三匹では、あなたのモクローが一番早く最終進化に辿り着いたのよ。さっさと出てきて、褒めてあげなさいよ…)
そんな折、人の波を掻き分けるようにしてあどけない三人組が駆け寄ってくるのが見える。
花丸「あ、穂乃果さんいたずら!」
ルビィ「本当だ!穂乃果さぁーん!」
善子「集結…これはルシフェルの導き」
穂乃果「ルビィちゃん久しぶり!花丸ちゃんと善子ちゃんも会えてよかったー!」
初対面の海未と花丸と善子と、それぞれ初対面同士の紹介を仲介していると、反対側からも呼び声。
ほ「おーい!」とほんわか、千歌と曜が歩いてくる。
その横には見知らぬ少女がもう一人。
-
穂乃果「千歌ちゃん!久しぶりー!」
海未「ふふ、また会いましたね。…と、穂乃果と千歌たちも知り合いでしたか」
穂乃果「うんうん、前に一回バトルしてて…あ、あなたとちゃんと会うのは初めてだよね!」
曜「そうだね、前にちらっと見かけたっけ。渡辺曜です!よろしくヨーソロー!」
一通り挨拶を交わし、そして穂乃果はもう一人の少女へと目を向ける。
どこかで見たことがあるような?
穂乃果「うーん…?」
海未「おや、そちらの方はもしかして…」
千歌「あ、紹介するね。この子は桜内梨子ちゃん!」
梨子「えっと、初めまして…」
照れ屋なのだろうか、小豆色の髪をした大人しそうな少女は品良く笑って挨拶をしたが、ぎこちなさが少しある。
けれど気遣いの見える笑みには人柄の良さは現れていて、穂乃果はすぐに彼女へと好感を抱いた。
ただ、疑問が消えない。どこで見たんだっけ?
-
…と、千歌。
千歌「もしかしたら知ってるかもだけど、なんと………梨子ちゃんはアキバリーグ!四天王の一人なのだ!!」
穂乃果「へえー、四天王………あああっ!!!見たことあると思ったら!!!?」
梨子「あはは、一応…四天王をやらせてもらってます。よろしくね」
ひたすらびっくりしている穂乃果、海未はその実力を図ろうとつぶさに観察を。
真姫は既知のようで軽く挨拶を交わしていて、花丸たち三人はいきなり湧いて出た最上級のトレーナーに「ははあ…」と目を見張っている。
その時、会場の電気が薄っすらと暗くなり始める。
真姫「新社長のお出ましみたいね」
穂乃果「うーん、堅い話が始まるのかな?」
真姫「いや、あの子はそういうタイプじゃ…」
強烈なスポットライトが壇上を照らし出す!!!
鞠莉「レッディ〜ス&ジェントルメン!チャオ〜!!オハラコーポレーション新社長!小原鞠莉デェス!気軽に、マリー♪って呼んでね!」
穂乃果「うわ、派手だぁ」
海未「ははあ、真似できませんね…」
盛大に華々しく、鞠莉の挨拶が始まった。
口をぽかんと開けて目を奪われる穂乃果たち。
その知らぬところで、事態は動き始めている。
-
…
「大通り、封鎖完了」
「番犬ポケモン部隊、展開完了」
「対ガブリアス用、氷ポケモン部隊配置完了」
「銃火器、発砲用意よし」
淡々、着々と。
オハラタワーの外では武装を固めた警備部隊が、『洗頭』が現れるのを今かと待ち構えている。
道行く人々はその物々しさに一瞬ギョッとした目を向けるが、オハラへの信頼がそれ以上の詮索へと思考を傾けさせない。
「オハラさんのすることなら心配ないわね」と呟く老女、彼女の言葉は住民たちの総意と言えるだろう。
そこから離れて数キロ。
五感の鋭いポケモンたちの捜索をギリギリ逃れる距離を見極め、『洗頭』幹部の三人は様子を伺っている。
鞠莉の挨拶の様子が中継されているのを小型テレビで確認し、英玲奈が短く声を発する。
-
英玲奈「始まったようだ」
ツバサ「へえ、見せて見せて、っと…なかなか派手ねー!オハラのお姫様は」
あんじゅ「ツバサ、嬉しそうね?」
ツバサ「まあね。ああいう子って結構好きなのよ。自分の立場と求められてる役割をよく理解してる。すっごく好感持てるわね」
英玲奈「それを今から殺すのか。しかも私が」
ツバサ「フフ、お仕事お仕事。それに嫌いじゃないでしょ。ガッチガチの守りをこじ開けてターゲットに辿り着くスリル」
英玲奈「フフ…違いない。それを味わいたくてここに居るようなものだ」
ツバサ「派手が好きならお望み通り、ド派手に死なせてあげなきゃね?」
あんじゅ「もぉ…二人とも、野蛮なんだから」
ツバサ「よく言う。一番野蛮なクセに」
抗議の声を上げかけたあんじゅを遮り、ツバサはすっくと立ち上がる。
ビル影から歩み出し、まっすぐに警備部隊たちの視界へと自らを晒す。
-
ざわめく兵士たち。
あれは?
綺羅ツバサか?
本物の?
発砲距離まで引き付けろ、ボールに触れる動きに注意しろ、そんな声が聞こえてくるようだ。
ツバサ「悪手悪手。とりあえず撃てばいいのに。狙撃を優先したいのかしら?でもその位置はとっくに把握済み。単純すぎてアクビが出るわね…」
射程外、安全圏ギリギリで立ち止まり、ツバサはすうっと手を掲げる。
ここが分水嶺、踏み越えれば狂乱の時間だ。
立ち止まる理由は?ない。さあ、ルビコンを渡れ。
パチン!と弾き鳴らす指、ツバサの背後に百人以上の白服集団が現れる。
白地に金のモチーフ、皆一様に同じ服装。
あんじゅがデザインした『洗頭』の団服だ。
あんじゅ「ねえ英玲奈、実働部隊のあの子たちを貸してよ」
英玲奈「ふむ…構わないが、使い潰すなよ。手塩に掛けて育てたんだ」
あんじゅ「はぁ〜い♪」
ツバサ「さあ…パーティーの時間よ。衝撃的に行きましょう!!」
戦いの幕が上がる。
-
おつかれ
-
立て直し乙
集団戦がどんな感じになるのなとても楽しみにしてます
-
この>>1絶対ポケスペ好きでしょ俺は好きだ
-
俺も好きだが同じくらいこのssも好きだわ
-
…
会場内。
鞠莉はアシレーヌの水泡やカクテルライトを織り交ぜ、スピーチというよりはショーと呼ぶべき挨拶を見事に終えた。
その中で自分のスタンスや会社の経営方針についてもそつなく触れていて、それは非の打ち所がない満点の就任挨拶!
穂乃果や千歌たちは圧倒されたまま拍手を送り、ぼんやりと熱に浮かされたまま会話を交わしている。
同年代の少女があんなにも立派に堂々と、新社長として自分のカラーを押し出した振る舞いを見せたことに衝撃を受けたのだ。
穂乃果「すごかったねえ…」
千歌「ほんとだね〜」
海未「あれこそが若くして社長の座に着ける器、というものなのでしょうね」
曜「うーん。尊敬しちゃうな!」
善子「ねえリトルデーモン、ちょっとあの壇に上がってきなさいよ。度胸付くかも!」
ルビィ「ふえ、ルビィが!?むっ、無理だよぉ!」
-
そんな調子、受けた影響に和気藹々。
既知と初対面とで入り混じって思い思いに会話を交わしていると、突然穂乃果が大声を上げる。
穂乃果「あっ!?食事が片付けられ始めてる!!」
花丸「ずらあー!?」
真姫「しばらく時間が経ったから。軽いものとかはともかく、種類によっては片付けていくものもあるわよ」
ルビィ「あれぇ、ルビィまだあの辺の料理食べてないのに…」
花丸「マルも…」
善子「はぁ、さっと行って確保してきましょ。二人の皿、持ってあげるから」
穂乃果「私はそっち側は一通り食べたけど…ああっ!肉コーナーの片付けが始まってる!」
真姫「さっき食べてたじゃない」
穂乃果「いやいや、せっかくだし食い溜めしなきゃ…!ちょっと行ってきます!」
それぞれが慌てて散り、海未、真姫、それに千歌と曜、梨子が残された。
せっかくの機会だ、四天王に細かい技術論を訪ねてみようと海未は梨子へと顔を向ける。
…が、海未の感覚は会場内に広がり始めたざわつきを鋭敏に感じ取る。
-
海未(様子がおかしい。動転したような声、これはどこから?…なるほど、警備の方の無線ですか)
耳を傾け…海未はすぐに、恐るべき事態が進行していることを理解する。
それは絶叫、それは悲鳴。
「防衛ラインが突破され…!」
「狙撃班がやられた!!なんだ、あの速い、白…ぐはっ!!?」
「炎が!デカブツが物凄い炎を…あああああ
あっ!!!!」
「浮き上がって…まずい!!あれはまずい!!!」
海未「これは…!一体何が起きているのです」
梨子「なんだか、様子がおかしいみたいね」
千歌「な、なんか雰囲気が…私、穂乃果ちゃんとルビィちゃんたちを呼んでくる!」
曜「あ、千歌ちゃん!待っ…」
めしゃり。
パーティー会場全体の足場が、一瞬深く沈み込むような感覚…
轟震!!!!
-
「キャアアアア!!!!」
「なんだ、地震か!?」
「おい!どうなってるんだ!」
俄かに会場が喧騒に包まれ始める。
徐々に恐慌へと傾いていく会場、警備員たちが落ち着かせようとしているが、群衆の心を塞き止めるのは容易くない。
海未「……ッ!おそらく地震ではない、揺れたのはほんの一瞬。まるで何か、重い物が落とされたかのような…」
真姫「海未、あれを見て」
海未「黒服のSPたちが鞠莉の周囲に…しかしあれほど大勢がいつの間に?」
梨子「多分だけど、オハラの人たちは何かが起こるのを知っていたんじゃないかしら」
真姫「だとすれば…」
━━━爆音!!!
真姫が喋り始めた言葉を遮るように、入口の扉が吹き飛ばされてガラスの破片が舞う。
血まみれで倒れた黒服を踏み越え、ドカドカと荒々しく白服の集団が乗り込んできた。
その先陣には三人の女性。前髪の短い小柄な一人へ、酒気を帯びた気の短い政治家が食ってかかる。
-
「貴様ら!この会場を一体どこだと…」
ツバサ「英玲奈」
英玲奈「ああ」パンッ
「……あ゛…」
躊躇も容赦もなく放たれた銃弾は、政治家の喉に穴を穿った。
ゴポリ、フゥヴ…。
血にくぐもった呼吸を二つ、政治家は前のめりに倒れ、それきり動かなくなった。
「ッッッ………!?キャアアアア!!!!」
「う、わあ…!」
「殺した!殺したぞ!!?」
ツバサ「総員、ポケモンを展開」
悲鳴が幾重にも重なる中、洗頭の構成員たちは各々にポケモンを展開する。
その大半はコラッタとズバット。掃いて捨てるほどに見かけるその二種も、床と宙を黒く見せるほど大量に展開されれば観客たちの恐怖を誘う。
それはツバサがことりに見せた、“使い捨てにできるポケモン”たち。
そしてただ草むらで捕まえただけの雑魚ではない。
タマゴの段階で性能を攻撃性に特化、バリエーションにズバットを加えた、ひたすらに突撃を敢行させるためだけの生体兵器。
『洗頭』の構成員たちが声を合わせ、一斉に命じるのは“でんこうせっか”。
ツバサ「もちろん、人間を狙って構わないわ?」
悲鳴と絶叫が会場を埋め尽くす!!
-
海未「なんという真似を…!!」
海未たちの立ち位置は会場中央より奥、コラッタやズバットたちの攻撃はまだ届いていない。
ただ逃げ惑う人々の声で大方の状況は把握できていて、海未は義憤に駆られて真姫や曜、梨子へと声を掛ける。
海未「迎撃しましょう!人々を守らなくては!」
真姫「そうね、やるしかなさそう」
曜「千歌ちゃん!!千歌ちゃん!?ああっ人が多くて…!助けに行かなきゃ…助けに行かなきゃ…!!」
梨子「落ち着いて曜ちゃん、千歌ちゃんもちゃんと成長してる。自分の身は守れるはずよ。まずはあの人たちをどうにか…って、きゃあっ!?」
梨子の悲鳴は攻撃を受けたわけではない。
高価なスーツに袖を通した老人と、華やかに着飾った女性がすがるように抱きついて来たのだ。
-
「あんた、四天王だろう!助けてくれ!助けて!」
「殺されちゃう!殺されちゃうわ!」
「四天王!?四天王がいるのか!」「桜内梨子だ!なんとかしてくれ!」
「西木野博士!博士もいるぞ!」「助けて!」「助けろ!!」
梨子「み、皆さん!落ち着いて…!私が戦いますから!戦い…押さないでっ、っ!手を掴まないで!ポケモンを、出せない…!」
真姫「ちょっと!!あなたたち離しなさいよ!死にたいの!?」
海未「こ、これは…この状況は…!」
オハラタワーのパーティー会場には、事前にい聞いていた通りに数多くのジムリーダーたち、四天王の梨子、有力なトレーナーたちが集められていた。
真っ当に戦えば易々と突破される陣容ではない。
だが集ったセレブたちは我先、「自分だけでも助けてくれ」とジムリーダーたちや四天王の梨子に殺到していく。
善子の母も花丸の父も、もみくちゃにされてポケモンを展開できない、スペースがない、そもそも腰のボールを自由に手に取れない!
まだ無名の海未だけが真姫と梨子から引き離され、雑踏の輪の外で愕然とその様を見つめている。
海未「まさか、初めからこれを予測して…!」
-
入口付近、会場の様子を眺めながら、ツバサはこの光景こそ絵図通りと頬を笑ませている。
ツバサ「金持ちが悪人やヘタレばっかだなんて子供じみた見解を語るつもりはないけど、まあ自己保身に長けたタイプは多いわよね。それが集えばこうなるのは必然」
それでも全てのトレーナーを抑えられたわけではない。
知名度の低い実力者だっていれば、警備員やSPたちはまだ残っている。故に次の手を。
ツバサ「あんじゅ、撹乱」
あんじゅ「ふふっ…地獄を見せてあげる。おいでなさい、ビークイン」
不吉な羽音、繰り出したのは黄黒の女王蜂。
その容姿にどこか主であるあんじゅを彷彿とさせる高慢な悪意を秘めていて、そんなビークインへと指示を。
あんじゅ「さぁ…派手に行きましょう?“こうげきしれい”」
声に従い、ビークインは特殊な音波を周囲へ撒き散らす。
音は広範囲へと広がっていき…
突如!
会場へと大量の巨大蜂、数え切れないほどのスピアーが恐ろしげな羽音を立てて乱入して来たではないか!!
その全ては野生。
無数のスピアーたちはビークインの、あんじゅの指示に従い、両手と尻の大針でポケモンを、人々を刺し貫いていく!!
-
ツバサ「うん、相変わらず凄まじい」
英玲奈「あんじゅのビークインは特殊だからな。小型の蜂を使役する通常のビークインとは違い、半径6キロ圏内にいる全てのスピアーを呼び寄せて使役する…」
ツバサ「有能すぎてビビるわね」
あんじゅ「ふふっ、でしょう?ボーナス弾んでね」
英玲奈「遊びグセさえなければな…」
あんじゅ「素直に褒めなさいよぉ」
ツバサ「いいじゃない、油断慢心全て上等。それでこそ悪の組織。って感じで!」
そしてツバサは満を辞して前へ。
倒れた人々とポケモンたちを一瞥もせずに踏み越えていく。
悲鳴と嗚咽は彼女への喝采。
綺羅ツバサは灰色のコートの両腕を広げ、パーティーホールの中心をゆっくりと歩いていく。
我が道を阻むものは何もなし。黒服SPのサンダースが放った“ミサイルばり”が髪を掠めても、顔色一つ変えることはない。
その姿はさながら、悪徳の翼を広げた怪魔めいていて。
-
「くっ…!止まれ!止まれと言っている!サンダース!“10万ボル…!」
ツバサ「コジョンド、“とびひざげり”。…と、私も」
『ダァァスっ!!?』
「が、はっ!!」
いつの間にかコジョンドを繰り出していた。
指示を出すと同時、鋭く切り込んでSPの胸骨を自らの肘鉄で砕く。
レギュラーの一角であるコジョンドとの連携に一分の隙もなし、共にカンフーめいた動きでポケモンとトレーナーの両方を地に伏せた。
素手での一殺。しかし事もなげに服の埃を払い、部下の一人へと目敏く声を掛ける。
ツバサ「そこ、髪が乱れてる。気合い入れなさい。電通に頼んだって打てない一大プロモーションなんだから」
団員の髪をさっと手直し、ぱしっと背を叩く。
と、次は取材に入っていたテレビ局のカメラクルーを目にして歩み寄る。
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ツバサ「ねえ、このカメラ回ってる?うん、じゃあそのまま中継を続けて。切ったら殺すかも」
流れるように脅迫し、怯え上がった女子アナウンサーからフリップとペンを奪い取る。
少し考え、キュキュ、と文字を書き付けた。
ツバサ「今思いついたけど、組織を改名しましょう。うん、そうしよう。郷に入っては郷に従え…ってね。よし、できた」
【アライズ団!!!!】
ツバサの雑然とした、しかし異様に力強い文字がニュース中継を通じ、全国のお茶の間へと映し出される。
アライズ団と書かれたフリップをカメラへ押し付け、組織の存在を国家全体へと知らしめたのだ。
チャイニーズマフィアの暗躍が知れ渡ればパニックになる、そんな日本警察の慎重な判断と隠蔽をコケにする、派手と煽りに特化したパフォーマンス!!
そしてフリップを投げ捨てると、カメラへと酷く魅力的な笑顔を向けてみせる。
その笑顔は世に遍く悪を魅了し奮わせる、悪のカリスマ…
否、悪のアイドル!
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ツバサ「日本のみなさん你好。我々はチャイニーズマフィア、アライズ団。今日はこのクスリ、『洗頭』のPRをしに来ました」
アタッシュケースの中には赤紫の液体。そう、洗脳薬『洗頭』だ。
効果効能の説明は…必要ない。
カメラに映し出されているのは、アライズ団の団員たちがポケモンたちへ続々と『洗頭』を注射していく光景。
ことりがイーブイを奪われたあの時のフラッシュバック。
赤紫の液体が注入され、ポケモンの体が一度、ビクンと跳ねる。
やがて力なく倒れていたポケモンが起き上がり、団員の指示で躊躇なく本来の主人を傷付けていく光景!
あまりに衝撃的かつ冒涜的なその光景を茶の間へと届け、引きの画で役者めいて、画面向こうへと手を差し伸べる。
ツバサ「戦闘中に相手のポケモンを奪える、これがどれほど画期的なことか。
ポケモンバトルは根底から変容する。6vs6は7vs5へ、8vs4へ、やがて12vs0へと形勢を変える。求めなさい?我々は与える!!!」
-
《ダイイチシティ警察署》
ダイヤ「なんですの…これは…」
にこ「っ…!ふざけた…真似を…!!」
署のロビー、捜査に協力しているダイヤはにこと共にいる。
ツバサの姿を見たと情報を得て捕まえてみれば見事に影武者。撹乱されたことに嫌な予感を感じながら待合ロビーで喉を潤していたところでこの中継だ。
絶叫、獣哮、断末魔。
ポケモンが他人の指示に従い、絆で結ばれたはずの主人を傷付けていく。
それは誰もが信じていた前提の崩れ去る、阿鼻叫喚の地獄!
「なんで写してんだよ!!中継切れ!早く!!」
「無理です!切ったら現地が!」
「角度変えろ!死体映ってる!死体!」
「現在情報の確認を急いでいます。オハラタワー付近にお住いの皆様はどうか慌てることなく、警察の指示を…」
騒然とするテレビ局。
中継に裏方の音声が入ってしまっていて、それが却って恐慌ぶりをありありと伝えている。
そんな中でも男性アナウンサーはプロ意識を発揮し、視聴者をパニックへ陥れまいと努めて声のトーンを抑えている。
それでも青ざめた顔色、血の気の引いた様子は隠せていない。
-
「これマジ…?」
「ツイッターも実況板も落ちてる…」
「やばいんじゃないの…」
ロビーでテレビを眺めている人々は唖然としていて、事の凄まじさに頭の回転が追いついていない。
にこはダイヤへ一声残し、ロビーの隅で慌てた様子で本部へと連絡を取っている。
ダイヤもまた思考が追いついていない。
理解が及ばないままに画面を見つめ続けていて、これはオハラタワー…鞠莉は…?
定まらない思考の中…
映し出された映像が、ダイヤに衝撃を走らせる。
画面の奥、見間違えるはずもない、よく目立つ赤髪のツインテール。
ダイヤが溺愛してやまない愛妹が、『アライズ団』の白服を着た二人組の少女に追われているのだ!
ダイヤ「ルビィ!!?」
-
間違いない!見間違いではない!見間違えるはずもない!!
ダイヤは叫び、弾かれたように立ち上がる。
すぐに助けに…
いや無茶だ、ここからヨッツメシティまではどんなに急いでも三時間。
焦燥にもう一度画面を見れば、ルビィは階段の方向へと逃げ込んで駆け上がっていく。
その隣には二人、ダイヤもよく知る花丸と善子の友達コンビが一緒にいる。
三人で協力すればあるいは…
ダイヤ「無理ですわ…!あの二人もルビィと同じ、まるで戦闘には興味のないタイプ…」
ならどうすれば!あの修羅場の中でむざむざ妹が殺されてしまうのを待てと!?
ああ、どうして一緒に行ってあげなかったのか…!!
パニックに泣きたくなるのを堪え、何か打開策はないかと考える。
電話をかけて戦闘のアドバイスを?
駄目だ、もし今首尾よく隠れられていたとして、着信音が敵に居所を知らせてしまうかもしれない。
何か、何か助けは…!
ダイヤ「あ…!穂乃果さん…!穂乃果さんもあの会場に!?」
ダイヤの目は中継カメラ、そのギリギリ見切れるかどうかの位置に、穂乃果の姿を認めたのだ。
それも逃げ惑う観客たちとは違い、手持ちのポケモンを繰り出して勇敢に戦っている。数人の団員を見事に蹴散らしている。
ジム戦で手合わせをして知っている。穂乃果は間違いなく才覚溢れるトレーナー!
一縷の望みに賭け、ダイヤは祈るように電話帳から穂乃果の番号を選択する。
ダイヤ「お願いします…どうか、どうか繋がって…!」
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とりあえずここまでで
また今日中に更新するよ
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乙
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おつ
絶望的な状況だけど穂乃果ちゃんならなんとかしてくれそうだな!
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せっかくだから最初から読み返してきたけど本当におもしろい
続き待ってます
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貼り直しお疲れさまです
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乙です
ツバサの一挙手一投足がカリスマしてる
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曜ちゃんとかいう扱いづらい味方
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貼り直し乙です
ダイヤ様の立場が一番辛そうやな…
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曜ちゃん強いんだろうけど千歌ちゃん以外は死んでもどうでもいいと思ってそう
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貼り直し乙乙!
楽しみにしてる
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このガブはフライゴンにやられるフリャ
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男性アナウンサー有能
根性のある名もなきモブいいよね
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いまだに姿を見せないことりが何かしでかしそうだな
まだ描写されてないだけで、穂乃果にも海未やことりみたいな闇が芽生えてそうな気がする...
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真姫ちゃんの落ち着きは色々と安心感ある
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移転乙です
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俺もどさくさに紛れて梨子ちゃんのお尻触りたい
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更新待ってるぜ
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…
穂乃果「………うん……うん。大丈夫、迷惑なんて何一つないよ。心配しないで待ってて。ルビィちゃんは必ず助けるから!!」
断固と言い切り、電話をしまう。
通話相手は黒澤ダイヤ。姉の思い、微かな望みは繋がった。
安請け合いではない、ルビィ、花丸、善子は穂乃果の一つ下。
こう見えて存外に姉気質な穂乃果が、年下三人のピンチを聞いて黙っているはずもない!
今にも泣き崩れそうな声のダイヤを慰めた勢いのまま、力強く前を見る。
ルビィを助けるために越えなくてはならない障害は確とした悪意の形状、嘲笑として面前に立っている。
あんじゅ「くすくす…電話しながら指先でリザードへ指示だなんて。成長したものね?」
穂乃果「今、出す技は一つだから。コラッタもズバットもスピアーも集団、なら“はじけるほのお”を撃ち込む場所だけ教えてあげれば!」
リザードの技“はじけるほのお”は直撃後の拡散がその本領。周りへと盛大に火の粉を浴びせかけ、ダメージをばらまいてみせる。
普段の戦闘では示威程度のその拡散も、ルール無用でこれだけ展開してくるアライズ団が相手ならば効力はマシマシ、数匹に無視できない痛手を負わせて打ち払う。
その射出タイミングとポイントを、的確に指示してみせたのだ。
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あんじゅ「素敵ねぇ…私のお人形さん?」
穂乃果「優木あんじゅ…」
あんじゅ「うん…?私、名乗ったかしら。ああ、あのちびっ子警察に聞いたのね」
穂乃果「ち、ちびっ子…」
国際警察のエリートであるにこをちびっ子呼ばわり、確かに童顔ではあるのだが。
それはともかくあんじゅはゆるふわり。人差し指を浮かべて穂乃果の口元を指し示す。
あんじゅ「この前は…チャンピオンに出張られたんじゃ、流石に分が悪くて諦めたけど。あなたのことは忘れてない。
毒の後遺症は残らなかったようだけれど…今度は口より、別の粘膜から擦り込んであげようかしらね?」
艶めかしく舌先を覗かせ、ちらりと唇を舐めずって捕食者の目。鉤のように曲げる指はどこか淫猥に。
そんな底冷えするような冷酷にも、穂乃果は動じず背を伸ばす。
穂乃果「前の私と一緒だと思わない方がいいよ」
あんじゅ「もちろん、成長しているんでしょうね。だけどまだまだ雛の域。フフフ…ここで摘んであげるわぁ」
穂乃果「リザード!」
『リザゥ!!!』
-
あんじゅの姿を鮮烈に刻まれているのは穂乃果だけではない、旅立ってすぐに痛手を負わされたリザードも同じ。
ヒトカゲだった頃の悔しい敗戦、ペンドラーに完封された記憶を脳裏によぎらせ、リベンジに燃えて吠える!
あんじゅの頭上には女王蜂、ビークインが羽音を鳴らしていて、そのさらに上をスピアーの群れが縦横無尽に舞い飛んでいる。
アライズ団の構成員たちはあんじゅが交戦の色を見せたところから介入を避けているが、いつ加勢してきてもおかしくない状況、油断も隙も、髪の毛一本分と許されはしない。
穂乃果(ルビィちゃんたちを助けに行くにはこの人を急いで、全力で倒すしかない。最大火力の“はじけるほのお”を連発して…急がないと)
内心に募る焦燥、ルビィたちはどれくらい持ちこたえられるだろう。
それに自分も…と、あんじゅはふいと斜めに視線を逸らす。
あんじゅ「けれど…私は気まぐれなの。だから提案。この場は見逃してあげても構わない」
穂乃果「……なんで?」
あんじゅ「あなたはその気になればいつでも狩れる。私はね、今じゃなきゃやれないことがあるの。どうする?ここで終わるか、お預けか…」
-
穂乃果は考える。
あんじゅを倒さなくては襲われている大勢の人たちを助けられない。
あんじゅと戦えばルビィたちを助けられないかもしれない。
もちろんみんな助けたい、だけどそれにはまだ、穂乃果の力は足りなくて…
三秒即断!
穂乃果「今は戦わない!」
そう言い放つや否や、別方向へと一目散。
「でしょうね」とあんじゅ。
先の戦いで一蹴こそしたが、穂乃果の判断力の高さは強く印象に残っている。
おおらかというか柔軟というか、逃げ恥を気にせずメリットを優先できるタイプだ。
穂乃果(正直言ってまだ勝てないよ!ここでやられて誰も助けられないよりよっぽどいい!)
あんじゅ「無鉄砲かと思えば冷静、天衣無縫って塩梅ねぇ。けれど…“ダブルニードル”」
無論、悪党。
見逃すという約定をあんじゅが守る必要はどこにもない。
去って行くその背へ、毒槍を投擲するかの如くスピアーをさし向ける!
穂乃果「“はじけるほのお”!!」
『グルゥ…ザァッ!!!』
あんじゅ「……しっかり振り向いて反応、スピアーを撃ち落とす。まるで私のこと信用してなかったのねぇ?傷付いちゃう」
一撃を決めて去って行く穂乃果、その背を喧騒の中に見失う。
構わない、今の追撃は単なるオマケ。あんじゅはすぐに思考を狩りへと傾ける。
あんじゅ「ふふっ、ナイトさんとはぐれちゃったのかしら?美味しそうな“お上りさん”は…♪」
-
あんじゅの目が捕捉したのは壁際の方向。
みかん色の髪の毛、ハーデリアへと指示を出して一生懸命にアライズ団員と戦う千歌の姿だ。
ハーデリアの特性“いかく”で電光石火の被弾ダメージを抑え、“とっしん”でどうにか数匹目のコラッタを仕留めて吐息。
巻き込まれていた幼い少女と母親をどうにか助けて逃し、ふらついたハーデリアを傷薬で丁寧にケアして褒める。
「よしよし、えらいよハーデリア〜。まだ行ける?」
『ワウ!』
ポケモンと意思を確かめ合い、飛来するスピアーとの交戦に移行する。
良いトレーナーだ。良いトレーナー止まりだ。
その戦いぶりには穂乃果のような天性のものは感じられず、一生懸命に戦う凡人のそれでしかない。
まるで脆弱というわけでもないが、あんじゅから見れば哀れな獲物。
つい先日見かけた時も、あの少女が欲しくてたまらなかった。
着飾りメイクして楽しむ人形としては、磨けば光る原石といった雰囲気の千歌は最上の素体なのだ。
騒動の中にはぐれたのだろう、厄介そうな灰髪の友人の姿は近くに見当たらない。
あの灰髪と関わり合いになるのを嫌い諦めたが…今なら狩れる!
あんじゅ「ねえ、私と遊んでくれないかしら?昂っちゃって、体が疼いてたまらないの…!」
千歌「ううっ、新しい敵だぁ…がんばろ!ハーデリア!」
『ワフッ!!』
交戦…否、狩猟へ。
曜はまだ、それに気付けていない。
-
…
海未「くっ、人垣が割れない…!人々が完全に恐慌に陥っている。今は梨子や真姫の戦力を計算に入れるのは不可能ですね」
自分だけでも助かろうと梨子やジムリーダーたちに群がる人々、その姿は前に穂乃果から見せられたゾンビ映画めいている。
ちぎっては投げちぎっては投げで真姫と梨子を助け出そうかと本気で迷ったが、海未へも敵のポケモンは向かってきている。その暇はなさそうだ。
ゲコガシラに煙幕を張らせて撹乱、電光石火の敵撃を回避し、コラッタへと水弾をぶつけ、ズバットを叩き落とし、空をクルクルと舞ってスピアーも打ち落とす!
そしてポケモンに戦わせるだけではない。
身を沈めて敵トレーナーへと迫り、「ふ…ッ!!」と発声から一本背負い!
受け身を取らせず叩き落として昏倒させると、襲いかかってきた次の団員へは手刀を喉元に叩き込む。
奥、一人の敵が懐へと手を差し入れている。
何かしらの武器を取り出そうとしている。
「ぎゃっ!?」
ので、放つ指弾!
服の取り出しやすい位置に専用のポケットを縫いつけ、そこにパチンコ玉を詰めている。
まさか銃を持ち歩くというわけにはいかないが、これならそれなりに携行性のある飛び道具になる。
怯ませ、すかさず寄っては足払い、からの足刀で昏倒へ!
-
海未「よし、やれますね」
海未もまた英玲奈との交戦、敗北に自身の道を見つめ直し、心技体を改めて鍛え直している。
並みの大人は一蹴、多少鍛えている程度では相手にならない体術のキレ!
ゲコガシラが五匹目を仕留めたところで一波が途切れ、海未はその頭をさっと撫でる。
海未「上々です、ゲコガシラ。他に戦力になるのは…そうだ、曜は?」
見回し、曜の姿はすぐに見つかった。
それほど離れていない位置、うみイタチポケモンのフローゼルを横に立たせてキョロキョロと周囲に視線を巡らせている。
寄ってくる敵の“でんこうせっか”への回答はさらに凌駕する速度での“アクアジェット”。
飛沫を舞わせての瞬撃で敵ポケモンを迅速に蹴散らしていく。
海未(曜なら頼れそうです!うまく連携して…)
そう考えて駆け寄る。
が、海未は彼女の様子がおかしいことへとすぐに気付いた。
何か明確な意思を持って戦っているわけではなく、寄ってくるポケモンを倒しているだけ。
目を泳がせて動揺も露わ、あれでは危険だ!
-
海未「曜、曜!どうしたのです!まさか、どこか怪我でも!?」
曜「千歌ちゃん…!千歌ちゃんっ…!」
海未「ち、千歌ですか…?」
曜はひたすらに親友の名を呼んでいる。
視界を巡らせ、千歌の姿を見失ってしまったことに激しい狼狽を隠せずにいる。
駆け寄ってきた海未にも気付けているのか定かではなく、海未は仕方なしに片手を引き…ビンタを一発!
海未「すみません!せえいっ!!」
曜「い、痛っ!!?」
海未「曜、どうしたのです!落ち着いてください、やられてしまいますよ!」
曜「ご、ごめん…千歌ちゃんがいないんだ、探しても見つからなくて…!私が守らないといけないのに!!」
海未「友達を心配する気持ちはわかりますが…」
助けないととうわごとのように繰り返している。だが海未はその姿に違和感を覚える。
千歌を呼ぶ曜の声は慟哭めいていて、自分もまた助けを求めてるような、そんな印象が。
-
海未「とにかく落ち着きましょう!深呼吸を、長く息を吸って………吐いて」
曜「すう………はぁ………っ、ごめん、取り乱して…」
海未「千歌の電話には掛けてみましたか?この喧騒ですし、繋がるかはわかりませんが…」
曜「電話は……そうだ、私は千歌ちゃんを探せるんだった。ごめん、海未ちゃん。私行かなきゃ」
海未「……心配ですが…わかりました、気を付けてくださいね」
曜「うん、海未ちゃんも」
一応の平静を取り戻した曜は、まっすぐに走っていく。
どうやって千歌を探すのつもりかまるで見当も付かないが、判断力は戻っていたように見えた。
海未(しかし、あの明るく朗らかな曜が、あれほどに取り乱すとは…)
彼女のアンバランスな、ひどく危うい部分を目の当たりに、海未は自分の心も乱されているのを自覚する。
幼馴染、穂乃果は大丈夫だろうか…?
海未(そうです、私も穂乃果を探しに…
……いえ、穂乃果なら。私が助けなくとも乗り切ってくれるはずです!)
-
久々に再会した親友の眼差しは頼もしく輝きを増していた。
穂乃果なら大丈夫、すぐにそう思い直すことができた。
では今は何をすべきだろうか。海未は思考をまとめ直す。
年下、連れているポケモンが弱い花丸たちも探してあげたいのだが、とにかく混乱の渦の中。
寄る敵を一蹴しながら視線を巡らせる。
…と、海未の目は一人、見覚えがある顔を見つけ出した。
直接見たわけではないが、にこに手配写真を見せられて知ったその顔は…
海未「綺羅ツバサ…!」
陣頭指揮を取り警備を蹴散らし、テレビカメラへ派手に自己を顕示してみせた姿から一転、騒ぎの中を忍ぶようにどこかへと足を向けている。
気配の消し方も達人の域。
人々の目に留まることなく間を抜けていっていて、海未が見つけられたのはほんの偶然に過ぎない。
そしてツバサは鍵を壊し、何処かへと続く扉へするりと姿を消した。
その時、激しい銃声!!
ホールの奥でSPたちが発砲、警護するポケモンたちが咆哮している。
海未が見留めたのは統堂英玲奈の姿。
先日のキリキザンに加えてエアームドを展開していて、鋼の体で英玲奈を銃撃から守りながらSPたちを容赦なく殺め、歩みを緩めることなく正面突破していく。
-
英玲奈「キリキザン、“つじぎり”。エアームドは“はがねのつばさ”だ」
「うわあああっ!!?」
鋼刃がポケモンと人間を撫で斬りに、続々と薙ぎ倒していく。
遠目に見る眼光は温度のない殺意を宿していて、海未はその目的をすぐに理解する。
海未(きっと小原鞠莉が危ない。細かな事情はまるでわかりませんが、彼女に殺されなければならないような咎はないはず…)
その時、突然の停電!!!
ホール全体が暗闇に包まれ、上がる絶叫がますます混迷を加速させる。
この停電には何の意図があるのだろうか?
ともかく、一刻も早く選択をしなくてはならない。
海未(っ、事態は刻一刻と進行していく…猶予はありませんね。綺羅ツバサを追うか、統堂英玲奈を止めるかを選ばなくては…)
数秒考え…
海未は綺羅ツバサが姿を消した扉の方向へと足を向ける。
暗闇の中でも方向感覚を失わず、ある程度自由に歩けるのは園田流の鍛錬の成果だ。
海未(小原鞠莉は…あれだけSPがいるのです。きっと大丈夫、そう思いましょう。私はイーブイを…ことりを助けたい!!)
海未の選択は真摯な思い。
しかし、海未は英玲奈を相手にSPの警護など意味を成さないことを知っている。
その事実を直視こそしていないが…海未は、一人の人間を見捨てたのだ。
キィ、と音。
扉を引き開け、海未は待ち受ける暗闇へと姿を消した。
-
…
善子「いやああああ!!!」
花丸「嫌ずらああああ!!!」
ルビィ「ピギャああああ!!!」
同い年、友人トリオは社屋の廊下をバタバタと走っていく。
追っ手は二人、一応の人数では有利。
だが花丸とルビィはそれぞれツボツボとピッピを抱えて走っていて、とても反撃に転じられる様子ではない。
善子「抱えて走ったら遅いじゃない!」
花丸「だからって置いてけるわけないずらぁ!」
ルビィ「うゅ…!近くまで来てるよぉ!」
善子「うううっ…ヤミカラス!一瞬ストォ〜ップ!」
善子のヤミカラスだけは飛べる分だけ機動性に長ける。
バサバサと羽ばたき、抜けた一枚の黒羽が善子の頭の団子へぷすりと刺さる。反撃を!
善子「追ってこないでよぉ!“あやしいひかり”ぃ!!」
『カァァ〜…ッ!』
茫洋と、捉えどころのない紫の発光が追っ手へと迫る。
善子のヤミカラスはジムリーダーを務めている母のエースであるドンカラスの子供。
戦闘経験は少ないが、ただの野生とは異なり少しばかりの有用な技を覚えている。
怪光が相手のポケモンを包めば混乱させられる。追っ手の歩みを阻むことができる…が、敵は動じない。
聖良「理亞」
理亞「レントラー、“スパーク”!」
-
猛烈な電光が迸り、ヤミカラスが放った光をかき消した。
そしてそのまま猛進、壁床を削りながら突撃してくるではないか!
善子「全然ダメじゃないのよぉぉぉ!!?こっち来なさいヤミカラス!」
『クァ…』
しゅんとしたヤミカラスを抱きかかえ、三人は廊下の角を駆け曲がる。
直後、背後の壁を破壊するレントラーの突撃!
二人の追っ手は明らかに戦闘慣れしていて、必死に逃げ回るルビィたちへの距離を着々と詰めてくる。
今の一撃こそ辛うじて回避できたが、これでもう相手の攻撃の完全な射程圏!
花丸は逃げ込める部屋がないか見回し、いくつかある扉に付けられた機械をピシリと指差す。
花丸「ルビィちゃん!そこに呼び鈴が!鳴らして中の人に入れてもらえば…!」
ルビィ「マルちゃん…それはチャイムじゃなくてナンバーキーだよぉ…」
花丸「なんば…?ははあ、未来ずらね…」
善子「言ってる場合じゃないでしょ!」
足音。
ついに追っ手の二人組が三メートルほどの位置へと近接し、カツリ、カツリ。とその歩みを止めた。
-
目鼻立ちが良く似通った、おそらくは姉妹。
品の良い顔立ちをした姉と気の強そうな瞳の妹は交互に口を開く。
聖良「さて、そろそろ諦めてもらえませんか?」
理亞「追いかけるのももう飽きた」
聖良「何も殺そうというわけではないんですよ、この薬を飲んでもらえないか、というだけで」
ルビィ「お、お薬…?黒っぽくて、ドロっとしてて…」
花丸「美味しそう…ではないかなぁ」
善子「あからさまに毒じゃないの〜!!」
理亞「わめかないで」
聖良「毒、それは否定しません。けれど死にはしない。これはペンドラーの神経毒を抽出した物ですが、致死量には満たない量」
ルビィ「の、飲んだら…?」
聖良「脳に痺れが残って全身不随。だけど心配には及びません。きっと可愛がってもらえますよ?」
ルビィ「ひぇ…!お、おねえちゃ…!」
善子「あっ、頭おかしいんじゃないの…!」
-
鹿角聖良と理亞。
淡々と職務を遂行する二人はアライズ団の実働部隊の精鋭だ。
英玲奈に鍛えられた実力は折り紙つきで、どんな冷酷な指令も一切の疑問を持たずにこなしてみせる。
今回はあんじゅの指示で動いていて、下された命令は眼前の少女たち、善子、花丸、ルビィの三人に毒を飲ませての誘拐。
大きな意味はなく、あんじゅの趣味嗜好を満たすための命令であることは明らか。
しかし二人がそれに疑問を唱えることはないし、手を抜くことも一切ない。
聖良(いつもは英玲奈さんに目を掛けてもらっているけれど、今回はあんじゅさんからの指示。完璧にこなしてみせて、今よりもっとお二人からの覚えを良くしたい)
理亞「早く飲んで」
聖良(私たちは三幹部の皆さんを心から尊敬している。だからこそ手柄を挙げて、早くあの方たちに肩を並べたい)
聖良の傍らには単ゴーストタイプ、怪人めいた姿のヨノワールが睨みを利かせている。
理亞のレントラーがアタッカーの役割を果たすことで、姉妹の連携は磐石だ。
ピッピとツボツボとヤミカラス、いかにも雑魚然とした並びの三匹では抵抗できるはずもなく…
ルビィ「……ぅう…!」
理亞「その目は何」
-
花丸「ルビィちゃん駄目ずら!こっちに…!」
善子「る、ルビィ、怪我するわよ。弱っちいんだからヨハネの後ろに…!」
ルビィ「……ううん、ルビィが…」
理亞「……」
ルビィ「二人を守る!ピッピ、おねがいっ!」
『ピッピッ!』
声は震えて足も震わせ、それでもルビィは前に出た。
ピィから育てたピッピを伴い、言うなればプロの犯罪者である鹿角姉妹を強く見据える。
花丸と善子は親がジムリーダーだ。
そんな二人とルビィの違いは、模範とすべき先達がたった二つ上の姉だということ。
敬愛してやまない大好きなお姉ちゃんは二歳上なだけ。
ルビィだって頑張れる!頑張ってみせる!
ルビィ「ピッピ!“ゆびをふる”!」
理亞「あっ!」
-
チッチッチ、まるっとしたフォルムのピッピの十八番、“ゆびをふる”。
それはありとあらゆる技からランダムに一種の何かを繰り出す秘技であり、運が良ければ大物食いを成すかもしれない技!
善子「おおお!!」
花丸「その手があったずらぁ!!」
理亞「チィッ…!」
理亞は慌てて飛び下がり、聖良は冷静に状況を見つめ…
善子が口を半開き、花丸はぐっと体に力を込めて見つめていて…
ルビィは首を傾げる。
ルビィ「あれ…ピッピ?」
『ピッピ!」
ルビィ「もう技、出したの?」
花丸「あ、ピッピ…心なしか縮んでるような」
理亞「……ちいさくなる?」
善子「も、もっといい技引きなさいよぉぉぉぉ!!!!」
ルビィ「ううぅ…!?」
聖良「ヨノワール、“ほのおのパンチ”」
聖良が冷静に下す指示、火炎をまとったヨノワールの拳が壁に穴を穿つ。
ピッピは辛うじてそれを避けた、しかしレントラーが続けて迫る!
花丸「つ、ツボツボ!ピッピを庇ってあげて!」
善子「ヤミカラス!“フェザーダンス”ぅ!」
ルビィ「ぴ、ピッピぃ…“リフレクター”!」
物理を和らげる防壁が形成され、攻撃の勢いを削ぐ黒羽が舞い、ツボツボの頑強な殻がレントラーの牙を受ける。
戦闘用に育ててこそいないが、なんだかんだと実力者の家族。
技マシンやらなにやらで補強され、レベルの割に芸達者なポケモンたちなのだ。
そんな三人組の遅々とした遅延戦術に、理亞は苛立ちを隠せずに舌を打つ。
理亞「姉さま、この子たち…なまらイラつく…!」
聖良「落ち着いて理亞。シンオウ弁が出てるわ」
理亞「…ッ?!……こいつら、泣かす…!」
ルビィ「る、ルビィたちは何もしてないのに…!」
-
シンオウ弁で不覚にも笑ってしまった
-
土壇場の意地、ポケモンたちの秘めた意外性で凌ぎ、凌ぎ…
それでも実力の差は隠せない。
絶え間ない攻撃の嵐に、三人のポケモンは徐々に疲弊していく。
とりわけ盾役のツボツボは疲弊が激しく、それを見守る花丸は痛みを共有しているかのように苦しげ。
花丸「ごめんねツボツボ…もう少しだけがんばって…!」
『ツボっ…!』
心優しい花丸にとって、仲良しのツボツボが波状攻撃を受けている姿は心を抉られるように辛い光景だ。
ピッピとヤミカラスもアシスト、合間に攻撃を繰り出していくが焼け石に水。
鍛え上げられた鹿角姉妹のポケモンにはそれほどの効果を発揮しない。
やがて姉の聖良がすらりと手を掲げ…
聖良「ヨノワール、“じしん”」
『ノ…ワールッ!!!』
『つぼぉ……!』
花丸「ああっ!ツボツボ!」
ついにツボツボが気絶し、花丸はポロポロと涙を零しながら頑張ってくれた友達を抱きしめる。
絶対絶命の危機…背後から声が響き渡る。
穂乃果「みんな、待たせてごめん。助けに来たよ!!」
-
ルビィ「ほ、ほっ…!穂乃果さぁぁん!!!」
聖良「なるほど、助けが来ましたか。けれど…ヨノワール、“ほのおのパンチ”」
『ヨ……ノッッ!!!』
聖良の冷静な指示。
死神に近い性質を持つヨノワールは浮遊し、炎を纏った拳で天井を強かに殴りつける。
強い火勢に防火装置が作動し、凄まじい重量と堅固を誇る防火シャッターが降りる。
そして穂乃果と五人の間を遮った!
穂乃果「っ、しまった!!でもこんな壁ぐらい…!」
穂乃果はリザード、加えてバタフリーとリングマを繰り出して一斉に指示を出す。
穂乃果「弾ける炎!サイケ光線!それにきりさくだよっ!!」
『リ…ザアッ!!』『フリィィィ!!』『ングマァァ!!』
攻撃が殺到!
しかし、防壁に傷は付けど破れない。
ポケモンに関わりの深い企業の耐火、防犯装置だ。生半可なポケモンの攻撃で破れるようにはできていない!
穂乃果「っ…!」
歯噛みをする穂乃果、焦燥が募る。
どうすれば…もう目の前なのに!
…と、その時、傍らの部屋から呼び声が。
「トレーナーさん、こちらへ!」
穂乃果(…?いや、迷ってる暇はないよ!)
穂乃果はその部屋へと駆け込む!
-
今日はここで切るよ
大晦日は更新するか微妙かも
-
乙!
シンオウ弁は流石に草
-
おつおつ
普通怪獣さんが開花する日はくるのだろうか
-
乙でした
千歌と曜の今後が不安すぎて辛いけど続きは楽しみ
-
乙!いい仕事してますねぇ!
-
この二人vsハノケはいい勝負できそうで楽しみ
-
うみみとゲコガシラのコンビネーション凄くいい
-
道産子かわいい
-
ことりちゃんの闇堕ち具合も気になるが、海未ちゃんも悪人相手ならダイレクトアタック戸惑わなくなってる……
そのうちヒトツキとかニダンギル辺りを懐に忍ばせておいて武器として使いそう
ギルガルドを振るって戦う海未ちゃんみたいけどなー俺もなー
-
マジで対アライズ団用にBハートが欲しくなるな
...海未がゲッコウガやジュナイパーにBurstしてもおかしくないかも
-
乙
レントラーの採用率高いな
-
レントラーとペンドラーを混同してはいけない(戒め)
-
ダンスなう登場めっちゃ嬉しいぞ
口調も違和感なし
-
あとあんじゅとの実力差をちゃんと把握できてる穂乃果ちゃんすごく好印象
-
ほんっと読んでてワクワクする
-
ちらっと出ていた地下にいるというエスパーポケモンはやっぱり石鹸みたいな名前の…だろうか?
今のツバサにはものすごく似合っているけど絶望感がえらいことになりそう
-
自分も思ってたけど展開予想は>>1が嫌がるかもだから止めとこう
-
書くネタ先に潰される可能性あるからねえ…
-
今日は更新来るかなー?
続き楽しみすぎる
-
穂乃果「うわ、まっくら!」
声に招かれるまま一室へ飛び込み、穂乃果はまずその暗さに小さく驚く。
三人を追っている途中で停電したが、社屋廊下はすぐに予備電源に切り替わり、足元から薄ぼんやりと照らされていたので気にしていなかった。
しかし飛び込んだ部屋はすっかり暗闇に包まれていて、雑然としたコード類に足を取られて蹴躓きそうになる。
穂乃果「ごちゃごちゃしてるなぁ…うちだったらお母さんと雪穂と、それから海未ちゃんにまで叱られるよ、こんなの」
「君!こっち、こっちへ!」
穂乃果「あ、さっきの声の人!」
呼ばれ、部屋の奥に光があることに気付く。それは何やらひっそりと稼働している機械類の光で、そこには手招きする男女が数人。一様に白衣を羽織っている。
どうやら敵や罠といった雰囲気ではない。穂乃果は彼らの方へと駆け寄っていく。
-
穂乃果「お姉さんたちは?」
「私たちは研究部門の社員よ。恥ずかしいけど戦う手段もないから、怖くて隠れてたの」
「知識はあっても戦うのはまるっきりでね…」
「モニタで見てたけど君、強いな!」
穂乃果「社員さん!お願いっ、あの防火扉を開けてください!早く行ってあげなくちゃ…!」
息巻いた様子の穂乃果にぐいっと迫られ、管理職らしい年嵩の女性は思わず仰け反る。
しかし、隣にいる男性社員が首を左右にそれを否む。
「いや、ここから開けることはできないんだ。全体の電気が停電してるから…」
穂乃果「そ、そんな!?」
「あ、違うの。開ける手段ならあるわ。これを!」
そう言って手渡されたのは一つのボール。
空ではなく、中には何かのポケモンが入っている。
穂乃果は怪訝に小首を傾げ、社員たちへと問いかける。
-
穂乃果「このボール…ポケモンですか?」
「そう、このチームで研究していた子。化石から蘇らせたのよ。けど、私たちじゃ使いこなしてあげられなくて」
「君、勇敢なトレーナーみたいだからさ。個体値バツグンのこいつなら防火扉もブチ破れる。連れて行ってやってくれないか!」
もちろん断る理由はどこにもない、穂乃果はぎゅっとボールを握りしめる。
手のひらの温かさと想いが中に伝わるように、そんなイメージで。
穂乃果「ちょっと変わった出会い方だけど…よろしくね!」
力強さと愛情を兼ね備えたその姿はどこか眩い。
ポケモンと深く関わるオハラの社員、その多くはかつてトレーナーを目指していた者たちだ。
遠く記憶に思いを馳せて、自然と浮かぶ笑みは憧憬の残滓。
社員たちは頷きあう。この少女に今、できる限りの全てを授けよう!
「君のリザード、技構成は?」
穂乃果「えっと、“はじけるほのお”と“ほのおのキバ”と、“えんまく”と“りゅうのいかり”です」
「それなら、この技マシンを使ってみたらどうだろう!図鑑を貸してくれないか」
穂乃果「これ…うわ、いいの!?」
-
社員の男性は穂乃果が手渡した図鑑と機械を接続し、技マシンのディスクを読み込ませて図鑑へと手早くデータを落とし込む。
そして図鑑をリザードへと向けることで新しい技の知識を学習させる!
穂乃果にとっては初めて使う技マシン。
もちろん存在は知っていたが、その高価さに使う機会に恵まれなかった。
一連の作業をワクワクと見つめる穂乃果の肩をちょいとつつき、女性社員が一枚の板を手渡した。
「それと、これを」
穂乃果「これ…カードですか?」
「ええ、このフロアにある屋内ビオトープのカードキーよ。もし可能ならそこを目指してみて。ほんの少しだけど、サポートしてあげられるから」
穂乃果「うんっ、わかりました!」
頑張れと口々の応援を背に受け、穂乃果は部屋を飛び出していく。
ルビィたちと穂乃果を隔てる扉へ、振りかぶって投じるボールは新たな仲間。
それは太古の竜!頑強な顎を持つ暴君の幼体!
穂乃果「行けっ!チゴラス!!」
恐竜の大顎が唸り、厚い鉄板へ猛然と喰らいつく!!
-
…
千歌「はあ…はあっ…!ごめんねハーデリア、お疲れさま…」
あんじゅ「うふふ…まずは一匹♪」
乱戦の中に目を付けられ、緩々とあしらわれながら誘導され。
千歌が気付けば戦場はホールから離れ、社屋の奥まった位置、人気のない薄暗い廊下へと到達していた。
スピアーの針に倒れてしまったハーデリアをボールへと収め、じりじりと退がりながら距離を取る。
千歌(この女の人、会場に乗り込んできた時に目立ってたなぁ。たぶんきっと…幹部の人!)
あんじゅ「ほらほら、早く次を出さなきゃ“食べちゃう”わよ?うっふふ…」
千歌(な、なんかこの人やばいよ…!)
早くもなく遅くもなく、あんじゅは淡々と一定の速度で千歌を追いかけてくる。
その顔には艶めいた笑みがべったりと張り付いていて、足運び、指の動き、髪をかきあげる仕草、その全てが千歌を怯えさせることを主眼としている。
-
かと言って、隙はまるで見出せない。
彼女の斜め上にはビークインの薄羽がわんわんと不吉に鳴いていて、それを中心点として乱れ飛ぶスピアーの数は三体。
千歌(あのスピアーたち、野生だから一匹一匹はそこまで強くない…だけど数が多すぎだよ〜!倒しても倒しても飛んでくる!)
あんじゅ「来ないの?ならこっちから…ビークイン、“こうげきしれい”」
千歌「また来る!お願いっ、エテボース!」
『エテッ!』
千歌「“こうそくいどう”でスピードアップだぁ!」
現れたのは手のように発達した二本の尾を持つ猿、おながポケモンのエテボース。
旅路で捕まえて辛苦を共にしたエイパムを進化させたばかり、現段階での千歌のエースだ。
『キキキ』と千歌の指示を仰ぎ、尾を束ねてバネのように。
床に体を沈め………バネの反動で床から壁へ、天井へ!縦横無尽の高速移動!!
-
千歌「エテボース!そのままダブルアタック!」
『ウキキャッ!!』
あんじゅ「立体軌道で翻弄、スピアーを叩き落とす。一撃の威力を見るに、特性は“テクニシャン”かしら?思ったよりはやるものねぇ」
千歌「“いやなおと”で脅かして、“スピードスター”だぁ!」
異音による牽制、星型のエネルギーをショットガンめいて射出!
芸達者なエテボースは千歌の指示をきっちりと再現し、さらに二匹のスピアーを打ち払ってビークインへと迫る。
『キキィッ!』
千歌(さっきの“いやなおと”でビークインは苛立ってるよ。それは防御がゆるくなってるってことで、今なら…!)
千歌「エテボース!もう一回“ダブルアタック”で行っちゃえ!」
『エェ…テェッ!!!』
あんじゅ「それは受けたくないわねぇ。ビークイン、“ぼうぎょしれい”」
-
間近へと迫ったエテボースの突撃、猿の身軽さを活かして空中に身を捻り、二本の尾を平手打ちの要領で叩きつけるダブルアタックでビークインを狙っていく!
だがあんじゅはまるで動じた様子もなく指示を。と、新たな兵隊蜂が飛来して女王を守る盾となる。
二匹のスピアーを落とし、しかしビークインは無傷。
千歌「ああっ、またスピアーが飛んできたぁ!」
あんじゅ「“シザークロス”」
千歌「へっ…?」
渾身の二撃を放ったエテボースの高速移動は一旦留まり、すとんと床に足を付ける。
直後、人間の子供ほどの大きさ、エテボースの体が空を舞う。
そして薄暗く無機質な廊下の壁へ、痛烈に叩きつけられた!
エテボースの紫の毛並み、その下には血が滲んでいて、千歌を守るべく懸命に立ち上がろうとするも力なく崩れ落ちる。
状況を理解できない千歌はエテボースへと駆け寄り、抱きしめてボールに収めたところでようやく敵影を認識する。
エテボースを仕留めたのは頑強な対のツメ、岩鎧に包まれた体躯を誇るいわ・むしタイプポケモンのアーマルド!
ビークインは変わらずあんじゅの傍らに羽音を舞わせていて、千歌の口から思わず声が漏れる。
-
千歌「い、一度に二匹で?!ひどいよ…!」
あんじゅ「ああっ…それ。そのリアクションが欲しかったの」
千歌「へ…?なんのこと…」
あんじゅ「ふふっ…私が攻撃したら「ひどい」と感じてほしいし、「なんで私がこんな目に」と混乱してほしいし、泣いて命乞いをしてほしい!」
手入れの行き届いたライトブラウンの長髪を歓喜に震わせ、あんじゅの害意はいよいよ隆盛の気配を滾らせる。
(いきなり切った張ったに対応してくるオトノキの連中ってやっぱり変よね?)
そう内心に悪態を吐きながら、お楽しみはまだまだ。
いたぶって嗜虐心を満たすべく千歌に次の間を与える。
あんじゅ「お次は?可愛いお上りさん」
千歌「だ、だったら私も一気にっ…!オオタチとベロリンガ!出といでー!」
-
ボ、ボンと弾けるボール。
同時に現れたのは千歌の残り二匹、小動物的な愛らしさのオオタチと、舌を自在に武器として戦うベロリンガ!
目には目を、数には数を。千歌はきりりと視線を強く!
しかしそれはあんじゅの想定内。
悠々と笑み、千歌の様子を楽しむように眺めている。
あんじゅ「そうそう、俄かに真似るその感じ…」
千歌「えっと、ベロリンガはたたきつけ…あ、ちがう!オオタチから“てだすけ”をしてからその後に…」
あんじゅ「はぁっ…たまらない♪」
千歌は慣れない乱戦にあたふたと。
ここまで歩んできた旅路はあくまで平穏、千歌は変則的な戦闘を経験していない。
場に出されたばかりのオオタチとベロリンガは状況を理解できておらず、悪意めいた無数の虫ポケモンたちを前にびっくりとしながら千歌の指示を待っている。
そんな二匹をビークインが駆るスピアーが突き、アーマルドの岩爪がかち上げる。
「ああっ…!」と声を上げかけた千歌、その首へと絡みつくしなやかな五指…
あんじゅの指が千歌の首を締め上げている。
-
あんじゅ「遅い。明確じゃない。対象を指定していない。それじゃあポケモンには伝わらないし、何より私が待ちくたびれちゃうわ?」
千歌「か、は……っ!」
まるで万力、気管支が圧搾されて血流が滞る。
引き剥がそうと手を掛けるが、千歌の細腕でどんなに力を込めてもビクともしない。
恐怖にあがく千歌、その瞳を覗き込んでくるあんじゅの瞳は狂喜を爛々と映している。
あんじゅ「ツバサや英玲奈みたいに格闘技だとか射撃だとか、そういうのは面倒だけど…力は鍛えているのよ?それなりに」
千歌(こ、わい…!怖いよ…怖いっ!)
あんじゅ「あっ…はあぁ…その顔、我慢できない。いいわよねぇ、今少しくらい楽しんだって…!」
千歌「あっ…!!」
あんじゅは無造作に千歌を壁へと投げ飛ばす。
後頭部を打ちつけて流血、ふらつきながら、千歌は逃れようと四つ這い…その首筋をあんじゅの手が鉤爪めいて掴み上げる。
ロックの施された扉をアーマルドの一撃でこじ開け、仮眠室と書かれた部屋へと千歌は勢いよく投げ込まれる。
痛みに体を庇う間もなく、歩み寄ったあんじゅは千歌を簡易ベッドの上へと叩きつけた。
-
千歌「やめ…て…んむっ…!…ぅ!?」
熱い何かが口内で蛇のようにのたうっている。
絡め、吸い上げ、まるで千歌の舌を抜き取ろうとしているかのような。
首を圧され、もう片手で荒々しく体をまさぐられ、未体験の感覚、言うことを聞かない自分の体。
千歌の脳内には疑問符と恐怖が吹き荒れている。
長い長い沈黙、衣摺れ………
ぷは、と息継ぎの二秒。
無力の涙を目に浮かべ、千歌の口から漏れた声は…
千歌「梨子ちゃん…たすけて…」
他意はない。
今来てくれる可能性のある千歌の友達、その中で一番の実力者である莉子の名を呼んだだけだ。
それを耳に、あんじゅの口元は三日月の歪笑。
それすらも愉悦だとばかりに身をよじらせ、思い切り千歌の頬を殴りつけた。
-
あんじゅ「最中に他の女の名前を呼ぶなんて、随分と無作法ねぇ?たっぷりと躾をしてあげなくちゃ。ふふ…」
千歌「嫌、やだぁ…!べ、う、ぇ…!」
あんじゅの片手には注射器。
指の第一関節ほどの量の黒い液体が入っていて、長い指がぬるりと千歌の舌をつまみあげる。
そして注射針が舌先に触れ…
あんじゅ「……ビークイン、“ぼうぎょしれい”」
弾ける光!!
飛来した光弾は数匹のスピアーを弾き飛ばし、ビークインへもダメージを与えてその飛翔を揺らがせる。
扉を守らせていたアーマルドは既に倒されていて、青く可視化した強烈な波動を放つポケモンがそこに立っている。
傍らに立つのは見覚えのある灰髪、灼火の怨讐に曇る瞳…
千歌「よう、ちゃん…」
曜「………千歌ちゃん」
あんじゅ「来ちゃったのねぇ…灰髪さん。あぁ、いいところだったのに…とっても面倒」
揺らめいて見えるのはルカリオの波動か、あるいは少女の怒気だろうか。
ぐちゃぐちゃに乱された千歌の衣服を、首筋のアザを、唾液と涙に乱れた顔を視認。
指先を掲げ、あんじゅを指し示す。
曜「………お前は、潰す…!!!」
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千歌ちゃんも心配だけど「梨子ちゃん」の台詞のせいで千歌ちゃん以上に曜ちゃんが心配
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Aqours2年生組はドロドロせずにはいられないのか
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相変わらず面白いな
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一旦切るよ
また後でもうちょい更新すると思う
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溢れだす>>1の性癖
すごくわかるその気持ち
ちかちゃんは虐めたくなる
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超楽しみにしてます。このSS以上に読んでてワクワクするものを知らないです
これ読んだおかげでポケモン熱もラブライブ熱も一気に再熱した
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乙です
千歌ちゃん弱くはなさそうな感じだなあ相手が悪すぎるが
それとチゴラス加入で穂乃果の懐具合が心配される
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曜ちゃんはどこから聞いてたんだろうか
それによっては今後の展開が不安すぎる
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…
「撃て!撃てっ!」
「これ以上近付けさせるな!」
オハラタワー地下、長延と広がる複雑な通路を抜けた先には極秘の研究棟が存在している。
とある一定のポイントを過ぎた辺りから警備が堅牢に。数々の監視カメラや多重に備えられた検問ゲート、強固な電磁バリアなどがその深奥に眠る何かの重要性を物語っている。
この区画に立ち入ることが許されるのは専用のカードキーを所持し、指紋と網膜を認証登録した研究員たち。加えて、この場所の秘密を知るごく一部の役員たちだけだ。
それ以外の人間が立ち入るには役員クラスの人間から通行許可を得る必要があり、まさにトップシークレットと呼ぶべき厳重な警備体制。
だが今、そんな場所に無数の銃声と怒号が飛び交っている。
警備員たちは上階よりも重武装、もはや軍隊とでも呼ぶべき姿で銃を構えていて、さらには強者然としたポケモンたちが侵入者を迎撃すべく力を漲らせている。
-
ツバサ「ふぅん、ここのガードは流石になかなかね。ブーバーンの火炎放射にエレキブルの10万ボルト、それに警備員の銃撃がオマケ。
まともに来られたら黒焦げだけど…コジョンド、“がんせきふうじ”」
『キョォッ!』
侵入者、綺羅ツバサは動じない。
指示に応じてコジョンドは床を踏み抜き、鍛え上げられたその力で硬質な床はコンクリート塊となってめくれ上る。
さながら畳返しのように岩壁、炎と雷、さらに銃弾からツバサを守る盾へと変えてみせる。
種族値で上回るブーバーンとエレキブルの攻撃をコジョンドで易々防いでみせて泰然。
綺羅ツバサの強さは自身の育成力、判断力、着想力。決して使うポケモンの種族値に縛られない。
「バカな!」
「あんな技の使い方が…?」
「手を止めるな!撃ち続け…」
ツバサ「ガブリアス、“ストーンエッジ”」
破砕。
竜腕が殴りつけた岩壁は刃へと姿を変え、人もポケモンも薙ぎ倒して前進。
無論、そんなツバサが種族値の怪物とでも呼ぶべき600族の雄、ガブリアスを使えば生まれるのは圧倒の蹂躙。
許可なく通れば通電に昏倒させられるゲートへと差し掛かり…しかし、作動せず。
ツバサは表情一つ変える事なく数ヶ所目の検問を突破した。
-
「ポイントHを突破されただと…!ふざけるな!!」
ポイントK、秘匿された研究室前の最後の検問所で重役の一人が顔を赤らめ唾を飛ばし、頭の血管がブチ切れるのではないかとばかりに怒気を高めている。
迫るテロリストに呼吸を乱し、手を震わせている警備員、そのメットを拳で殴りつけ、重役の男は耳をつんざく大声で警備員たちを罵る。
「情けない情けない情けない…!ここを抜かれたらどうなるか理解しているのか!?死ぬ気で戦え!!玉砕だ!!死んでこいゴミ共!!!」
ツバサ「宗教国家でもない日本で“死ぬ気”なんて無理無理。私だって死ぬのは怖いし」
「は……!?」
重役の背後に綺羅ツバサが立っている。
もうこんな場所まで?
一体どうやってゲートを突破して?
こんな小柄な女がマフィアの?
なんで私の肩に手を掛けている…?
コジョンドの手が鞭めいて振るわれ、警備員たちの構える銃身は払い落され、あるいはぐにゃりとへし曲げられている。
見下すガブリアスの眼光、あまりの恐怖に戦意を失った警備員たちは床に腰を落としていて、重役を守ってくれる人間は誰もいない。
ツバサは彼の背をトン、と押し…
ツバサ「じゃ、死ぬ気で逃げてみて?」
「ひっ…ひああああっ!!!!」
その背へパ、パ、パンと三点射。拾った銃で殺して前へ。
警備員たちはコジョンドの殴打で昏倒させ、最後のゲートを抜けたところで一人の男が現れた。
-
「全て手筈通り、ですね」
ツバサ「ゲートの解除、謝謝。ご依頼の通りに小原鞠莉はもうじき死ぬわ」
「いえいえ、貴女方の腕前を疑ってはいませんよ」
ツバサ「これで小原鞠莉が死ねば、役員の中で最も強い発言力を持つアナタが次期社長。悪い人ね?」
「ハハ、貴女に言われたくはない。私が社長になった暁には申し出の通り、『洗頭』の流通販売は当社で請け負わせていただきますよ」
そう言い、白髪の男性は狡猾に笑む。
ツバサのゲート突破を手引きしたのは会社の上役、実質的なNo.2であるこの男であり、この騒動を裏で手引きした人間だ。
彼は悪笑一つ、「こちらへ」とツバサを一室の前へ導いていく。
辿り着いた目的地、秘匿された研究室へと重役の男はカードキーを滑らせ、指紋を置き、網膜認証の最終ロックを解除する。
研究室の中は低温に保たれていて、扉が開くと同時に冷気が白くふわりと漏れ出す。
役員の男はツバサへと振り向き、ニタリと笑って気取った一礼を。
「これがもう一つの謝礼、我らオハラの研究の真髄…」
ツバサ「そ、ご苦労様」
銃声、ツバサは短銃で役員の胸元を撃ち抜いた。
仕立ての良いスーツを血に染め、彼はまるで理解できないとツバサの瞳を見据えて尋ねる。
「………は、何故、私を撃って…」
ツバサ「よく言うでしょ、裏切り者はまた裏切るって。ビジネスパートナーとしては下の下よね。
ま、それ以上の利用価値を私に示せなかった時点でアナタは無能だったってことじゃない?」
「馬、鹿…な…」
-
壁に血の跡を残してずるりと崩れ、重役の男はそこで息絶えた。
既にツバサの興味は彼へと向けられておらず、ただ手向けとばかりに一言。
ツバサ「有能な人は好きよ。けど無能も同じくらい大好き。利用するには一番だもの」
「ほら、私って博愛主義だから」とガブリアスとコジョンドに嘯き、首を傾げられながら、ツバサはついに研究室へと踏み入れる。
そこには発光する培養液、人一人が入るほどの巨大なカプセル…
その類はまるで置かれておらず、ひどく小ざっぱりとした円形の部屋、その中央に台座。
寄ってみれば、そこには一つのモンスターボールが置かれている。
ツバサ「カントーで研究されていたミュウ、そのミュウのクローンを攻撃的に作り変えたのがミュウツー。そのミュウツーは現在行方知れず」
ツバサ「けれど、その研究過程で採取された“破壊の遺伝子”はいくつかのサンプルデータとして残されていた。
オハラコーポレーションはそのうち一つを入手し、技術利用のために遺伝子からの再培養を成功させたのよ」
ツバサ「ミュウの次がミュウツーなら、眼前で眠るこの個体はミュウスリー…じゃ、どうも通りが悪いか。
敢えて堅めに、ミュウツークローンとでも呼ぶべきかしら。ねえ、園田海未さん?」
背後、黒髪の少女が義憤を燃やし、腰のボールへと手を掛けている。
隣には相棒のゲコガシラ。やっと追いついた仇敵へ、海未は凛然と言い放つ。
海未「ことりのイーブイ、返してもらいましょうか」
-
????「ミュウスリーだっピ!」
-
クイと首を傾げて笑み。
聞こえなかったはずはないが、ツバサは海未の言葉を無視して長台詞を続ける。
ツバサ「このミュウツークローン、種族値は上から105,109,89,153,89,129の合計674。
クローンのクローンには無理があったのか、ふんわりと劣化気味。
元が凄まじいんから十分すぎるほどだけど、瞬発力のわずかな低下だけは気になるとこかしらね」
海未「聞こえなかったのですか?いえ、聞かなくても結構…元より、貴女を叩きのめして奪い返すつもりですので」
戦意を烈火と猛らせる海未。
傍らのゲコガシラもそれを受けて目を鋭くしていて、(優秀なトレーナーね)とツバサは目元を微かに笑ませてみせる。
ピンと、口の前に人差し指を立ててみせ、「しいっ」と海未へ一声。
ツバサ「聞こえない?この音が」
海未「音?気を逸らそうという小細工なら通用は…」
海未はそこで口を噤む。
ツバサの言葉は虚言ではない、確かに何か…異音がする。その音の方向は…
-
海未「上!?」
どろりと、ずるりと。
硬質なはずの研究室、その天井が紫黒に腐食し、溶けて、もったりと抜け落ちる。
みどろ。
赤茶けた泥のような、経年した藻が固まり命を宿したような、上から現れたのはそんな毒々しい姿をしたポケモンで、溶解した泥をクッションに、べちゃ…と舞い降りる。
クサモドキポケモンのドラミドロ。
どく・ドラゴンタイプのその一体を纏うように寄り添わせ、降りてきたのは。
海未「ことり…!?」
ことり「久しぶり、海未ちゃん」
ツバサ「お久しぶりね、南ことりさん。今日は何の御用かしら?」
海未「ことり!今まで一体何をして…いえ、良いところに来てくれました!ここで力を合わせて綺羅ツバサを…!」
ことり「綺羅ツバサ…ううん、あなたに用はないんです」
海未「こ、とり…?」
すうっと幽鬼めいて、ことりが指差したのは台座の上に置かれたボール。
よく見ればその衣服は旅立ちの頃より遥かに痛んでいて、いつでもお洒落に気を使っていた愛らしい笑顔はどこか奥底へとしまいこまれていて。
ことり「強いポケモンがいるって聞いたから…貰いにきたの。建物を停電させて、警備を機能しなくして、ドラミドロの毒で上から床を溶かして」
ツバサ(オハラタワーの造りを溶解させる強毒…特性“てきおうりょく”のドラミドロかしら。なによりドラゴンタイプ…フフ)
海未「……あ、あの停電は、ことり…あなたが?それより、イーブイは」
ことり「ねえ海未ちゃん、お願い…ことりの邪魔をしないで欲しいな」
海未「何を言って…!」
ことり「邪魔するなら…倒しちゃうよ?海未ちゃんも」
海未「っ、ことりっ!!」
瞳に深い闇光を宿したことり、親友の変貌に慄然とする海未。
蒔いた悪の種、その発露に嗤うツバサ。
地下研究棟の戦いは一転、先の読めない三つ巴の様相へと突入していく。
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ここまでで
また今日の夜に更新するよ
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更新きた!
楽しみにしております!
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穂乃果はなんとかなりそうだが…
曜と海未がヤバそう
まあことりがダントツでヤバいけど…
続きが気になりすぎる!!
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ドラゴンタイプの中でも本来一番ことり好みじゃなさそうなドラミドロとは・・・
完全に闇堕ちしてますね
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カイリューやヌメルゴンみたいな見た目に可愛げが残るものならまだしもドラミドロって……見た目もタイプも闇堕ちしてらっしゃる……
つかリザードだのゲコガシラだのを幼馴染が使ってる中でLv48進化のドラミドロですかそうですか
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ことりちゃん……敗戦からたった2ヶ月とは思えない程強くなってそう……
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ことりはフライゴンが似合うと思ってたけど、この様子じゃ無理だな
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海未ちゃんにルカリオ合ってると思ってたが曜ちゃんに行ったからないな
海未ちゃんに格闘タイプ枠ありそうだがエルレイドなのかな
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伏線どころか、めっちゃ明から様な表現されてるじゃん
>>269
こう見えて性別は♂。
キリッと相手を見据える眼光はなかなか強気、ファイターの資質を秘めている。
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ドラミドロも悪役感あるけどサザンじゃなかっただけまだよし
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>>271
ドラゴン使いなら持ってる可能性が
チルタリス、ドラミドロ、あと4体
非伝説600竜は現状六匹しか居ないけど、600族に拘らなければ結構居るし
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ツバサがガブとサザン
ことりちゃんがマンダとカイリュー
600族の竜はこんな感じじゃね?
ヌメルゴンは何か出なさそう
ジャラランガ?知らない子ですね
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ジャラランガはからやぶとインファ覚えてから出直してどうぞ
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ジャラランガのタイプ一致スカイアッパー<カイリューのタイプ不一致ばかぢからと聞いて戦慄した覚えが
一つも弱点が減らない上に4倍弱点持ちになってSも低くて技も微妙とか、致命傷を負いすぎなんだよなぁ……あのSと技でどうやってはらだいこを生かせとおっしゃるのか
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シリアスモードのことりちゃんがアローラナッシー出したら笑う
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ジャラランガはダブルレート一位の人が使ってるらしいし強い人が使えばちゃんと強いポケモンみたいだよ
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http://i.ntere.st/a/322661397/p
こんな画像見つけたんだけどこの一致って偶然?
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毎晩更新してくれるssなんて有難い...
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>>279
他のキャラもこういう画像と同じポケモン使ってるし参考にしてるんでさょ
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>>278
この絵のシリーズいいよな
ちょいちょい参考にしたよ
-
…
オハラタワー・一階。
洗頭、改めアライズ団の乱入により鮮血に染められたパーティー会場は、しばらくの時を経て状況を変化させつつある。
少しずつ、少しずつではあるが、ツバサ、英玲奈、あんじゅの三幹部が姿を消したことで攻撃の波が弱まった。戦況は収束の気配を見せ始めている。
「ゲンガー、破邪顕正!」
「行きなさい、ドンカラス」
ジムリーダーたちは一人、また一人とそれぞれのポケモンを繰り出していて、その場所を起点にアライズ団員やスピアーの勢いが食い止められている。
そしてまた一人。未だ割けない密集の中で、少女は懸命に手を伸ばし…
梨子(指先が…ボールに…触れた!)
トレーナーとしての峰、四天王であると同時にピアノ演奏を嗜む音楽少女でもある梨子、そのしなやかな指先が腰のボールへ、開閉スイッチへと触れる。
瞬間、弾ける白光。
ぶわり、梨子の姿を覆っている数十人の人垣が一斉に宙へと浮き上がった!
-
彼らは何か魔術めいた、あるいは超能力的な力で持ち上げられたのだろうか?
否、はっきりと否。
息苦しい束縛から解放されて、梨子はすうっと一呼吸。
そんな少女の隣に佇む相棒ポケモンの姿は、宙に浮いた人々が“投げ上げられた”のだと雄弁に物語っている。
筋骨隆々、四本の怪腕。
大胆不敵な面構え、腰に輝く黄金のベルトは勝利の証。
人呼んでかいりきポケモン、その名は!
梨子「蹴散らして、カイリキー♀」
『カァイリキィッッ!!!!!』
寄るコラッタをねじ伏せ叩きつけ、ズバットの群れをはたいて落とし、殺到するスピアーを拳が屋根まで打ち上げる!
まるで暴嵐、カイリキーが鬼神めいて振り回す四腕を恐れてアライズ団員たちはじりじりと後退を余儀なくされる。
彼らが恐れていた事態の一つ、四天王が完全フリーで解き放たれるという脅威が今目の前で繰り広げられているのだ。
-
さすがに草
-
梨子の顔から繊細で気弱な少女の色はどこかへと失せ、居並ぶ敵影を睥睨して笑みはなく、静かな怒りを湛えた絶対的強者の佇まい。
とりわけ女性のアライズ団員たちは梨子の眼光に畏怖、鷹の目に射竦められたような錯覚を覚えて身を震わせる。何故だかはわからないが。
コォォ…と呼吸、カイリキーの全身が鋼のようにパンプアップしている。
近付けば間違いなく仕留められる!
…と、悲鳴!
アライズ団員の一人がホールスタッフの女性を捕まえ、その首筋へとズバットの牙を押し当てさせている。
「動くな桜内梨子!そのカイリキーを今すぐボールに戻せ!さもなくばこの女を」
梨子「カイリキー、“バレットパンチ”」
-
ゴギン!!と重々しい打擲音。
ズバットは遥か遠方へと吹き飛んでいて、何が起きたかをアライズ団員が理解するより先、もう一撃が彼の顔面へとめり込んだ。
鋼拳、まるでトラックに轢かれたかのような衝撃。
男の体はクルクルと宙を舞い、ボロクズのように床へ落ちたのを梨子は一瞥もしない。
人質に取られていたホールスタッフの手をぎゅっと握り、「お怪我はないですか?」と声をかけた。
一応、二発目のパンチは団員が死なない程度に加減はさせている。
梨子「さて…」
梨子は慄くアライズ団員たちを眺め回し、静かな威圧を感じさせる声で問いを投げる。
梨子「私のカイリキー(♀)は2秒に1000発。2秒間に1000発の“壁ドン”が可能なの。この意味がわかりますか?」
息を飲み、誰一人として答えを返さない。
梨子もまた、答えを求めていない。
梨子「あなたたちを吹き飛ばすのに10秒もかからないってこと。カイリキー“ばくれつパンチ”」
野太い咆哮!!!
花火めいて炸裂する拳打の嵐が敵対トレーナーとポケモンたちを怒涛の如く薙ぎ倒していく!!!
-
強すぎて笑うわ
あと出てないのはのぞりんぱな?
-
一方、真姫。
日頃は基本的に屋内での科学研究がメイン、インドア派の真姫は密集した人波に揉まれ、「う゛ぇぇ…」と力なく呻いている。
まともに戦わせれば少なくともジムリーダーたちと比べて遜色のない腕前、しかし本人の筋力が求められる状況となるとまるっきり駄目だ。
そんな真姫の周辺、とりまく人々がまだ無事でいるのは、真姫が立食パーティーの時から隣に付き従わせていたレパルダスのおかげ。
ネコ科のしなやかさで人垣をするりと抜け、主人から指示を受けられない状況下でも持ち前の賢さを発揮し、寄る敵から真姫と人々を守るべく奮戦を続けている。
しかし的確な指示を受けられない状況下、レパルダスの体にも少しずつダメージが蓄積されていく。
「“でんこうせっか”!」と相次ぐアライズ団員の指示と衝突音、レパルダスが痛みに耐える声。
人壁でそれを視認できない真姫は悔しさに歯噛みをし、「もういいわ!下がってレパルダス!」と声を張り上げる。
普通の相手とは違うのだ、このままレパルダスがやられてしまえば洗脳薬の餌食にされてしまう。そんなことをさせるわけには…!
……突如、開ける視界!
梨子のカイリキーが真姫を取り囲む人々を放り投げたのだ。
圧迫からの解放、真姫の明晰な頭脳は為すべきことを瞬時に把握する。
真姫(深呼吸!酸素を取り込め、脳を回せ!思考を整えながら1秒で戦況を把握しなさい西木野真姫!)
真姫「レパルダス!“あくのはどう”!」
『フシャアッ!!!』
-
ジムリーダーたちに加えて真姫までもが解放され、戦力の均衡は完全に崩れ去った。
暴虐のアライズ団員たちは撤退戦を強いられ、強奪したポケモンたちを回収してホール外へと後退していく。
外を包囲した警察部隊との交戦が始まっているようだが、それは警察に任せて構わないだろう。
真姫はくたりと腰を落とし、とりあえずの危機を逃れられたことに安堵の溜息を吐く。
梨子「大丈夫?真姫ちゃん」
真姫「ええ、ありがとう梨子。助かったわ。それにしても…」
真姫は梨子と並んだカイリキーの筋肉を目に、なんと言えばいいのか困ったような表情を浮かべる。
逡巡、言葉を選び…
真姫「その…いつも思うけど意外ね、あなたがかくとうタイプ使いって。ピアノ絡みで子供の頃から顔見知りだけど、もっと繊細なイメージだった」
梨子「あー…うん、ウチウラタウンに引っ越して千歌ちゃんと友達になってから、あの子の家ってムーランドとか、犬がいるから…自衛、かな…?」
真姫「ノーマルタイプ避け…?呆れた、そんなきっかけで四天王にまで上り詰めるなんて…」
-
しつこい♀強調は流石に笑うわ
-
強くなりたいと願い、日々研鑽を積む数多くのトレーナーたちにしてみれば冗談にもならない話だ。
だけど、自衛というのはわかりやすくて強い動機の一つなのかもしれない、と真姫。
真姫「……ま、いいわ。穂乃果と海未、それに他の子たちが見当たらないわね」
梨子「そうみたいね…善子ちゃんたちと、千歌ちゃんと曜ちゃんもいない…」
真姫「……心配ね。撤退していった中にも倒れている連中の中にも幹部たちの姿がない。オハラタワー社屋の中にいるのかもしれない」
梨子「………千歌ちゃん、それと曜ちゃん。もしかしたらまずい事になってるかもしれない…」
真姫「なんだか含みのある言い方ね。いいわ、社員の人に協力を仰いで社屋の中を探しましょう。ジムリーダーたちにも声をかけて…」
梨子「………真姫ちゃん、他の人に話を通すのは任せてもいいかしら。私は先に行くわ」
真姫「先に?いいけど、社屋内の鍵も地図もないんじゃ探す効率が…」
梨子「ううん、大丈夫」
そう告げると、梨子はホールと通路を遮る壁に手をあてがう。
カイリキーを見上げ…
梨子「カイリキー、壁ドンよ」
『リキァッ!!!』
真姫「………ブチ抜いて行ったわね。滅茶苦茶じゃない」
呆れながらにその背を見送り、真姫は状況に考察を巡らせる。
アライズ団にオハラへ襲撃を掛ける目的があるとすれば小原鞠莉の殺害。
しかし、それすら陽動だとすれば…
鞠莉「地下の研究、本命はそっちね」
確信めいて呟き、真姫は協力を仰ぐべくジムリーダーたちへと駆け寄っていく。
-
…
オハラタワー最上階。
鞠莉を守るために集った警備員とポケモンたちは銃を構え、扉の閉じられたエレベーターシャフトへと意識を集中させている。
誰がやったのかは不明だがタワーの電源は落ちたまま、現在エレベーターは作動していない。
プラス、警備員のウォーグルが放ったブレイククローによってエレベーターの籠を吊り下げているワイヤーは切断してある。
つまり現在、この最上階へはまともな手段で登ってくることのできない状態であり、仮に上がってきたとしても一斉の射撃で…
ゴ、ゴン!ガゴ!
「く、来るぞ!!」
「備えろ!!」
硬質な何かが登ってくる音響、しかも相当の速度でだ。
警備員たちはそのポケモンが何であるかを知っている。
後退の途上、その恐るべき戦闘力で同僚たちが殲滅された光景を目の当たりにしている。
音が登り、扉のすぐそばへと迫り…!
「今だ!!爆破しろ!!」
仕掛けていた大量のプラスチック爆弾が破裂!シャフトの中を爆炎が満たす!
その衝撃と震度を前に、しかし警備員たちは誰一人として勝利を感じていない。「やったか」などとは誰も言わない。
ギ、ギ…!
凄まじい剛力に扉が引き開けられる。鉄扉の隙間に覗く、統堂英玲奈の怜悧な瞳!
-
「撃てぇ!全弾撃ち尽くせ!」
「全ポケモン!最強技を斉射!!」
「影も残すな!殺されるぞ!」
英玲奈「メタグロス、“しねんのずつき”だ」
硬質な金属塊を複数繋ぎ合わせたような奇怪かつ無機質な姿、真っ青なフォルムのそのポケモンは四つ足でエレベーターシャフトを登ってきた。
英玲奈はその背に直立不動、滑るようにフロアへと降り立って直後、無感動にメタグロスへと指示を出した。
メタグロスは体を回転機動、前面で英玲奈の盾となり、エスパータイプのエネルギーを纏わせた状態で壮絶な突撃を!!
……
オハラタワーの最上階、鞠莉の居室には静寂が揺蕩っている。
夜の澄み渡った空気がカーテンを揺らしていて、鞠莉は窓枠に指先を滑らせる。
ヘリポートには一機のヘリが停まっている。
最上階へと退避したのは空からの逃走を目指してのこと。
しかし機体には飛べないよう細工が施されていて、鞠莉は全てを、役員の裏切りを理解している。
鞠莉「あんなにノイジーだったのが嘘みたい。みんなやられちゃったのね、私のせいで…」
英玲奈「君に過失があったわけではない」
鞠莉「……慰めてくれるの?フフ、それならこのまま、見逃してくれたり…」
英玲奈「悪いが」
鞠莉「……!」
鞠莉の腹部を、英玲奈のナイフが深々と抉っている。
-
「かは…」と小さく息を漏らす鞠莉。
その指が英玲奈の肩へと掛けられ、救いを求めるように視線が宙を泳ぐ。
ぐ…と、刃が捻り回される。
傷口を歪めて広げ、内臓を確実に壊し、刃渡り20センチほどの刃が鞠莉へと確実な死をもたらす。
鞠莉の目に涙が浮かび……
その顔がふにゃりとシンプルな作りへ、点々に口は“〜”と波線、倒れた鞠莉の顔はすっかり簡単作画とでも呼ぶべき姿に変化している。
英玲奈「フ、やはり影武者か」
鞠莉「sorry…!メタモンっ!」
窓の外からモンスターボールの赤光が伸び、倒れてしまったメタモンを回収する。
広々としたテラスで踵を返し、少しでも英玲奈との距離を取るべくその端へと足早に駆ける。
鞠莉「あ…ぅっ…!」
…が、発砲。
英玲奈はすかさずトリガーを引き、鞠莉の右膝を撃ち抜いた。さらに左のふくらはぎを。
倒れ伏して血を流し、痛みに涙を浮かべ、それでも鞠莉は気丈。
強く、英玲奈を挑発的に睨みつける。
鞠莉「う、ぐ…フフン…noobね。一発で仕留められないのかしら、暗殺者さんは」
英玲奈「君が殺された、そのニュースに意味がある。報道のインパクトを考えれば、“一発撃たれて死亡”よりは“十数発の弾丸を浴びて死亡”の方がよほどセンセーショナルだろう」
鞠莉「………ッ、冷血な…」
-
英玲奈「影武者を用意している、そこまでは良かった。だが甘いな。君はメタモンを見捨てて逃げるべきだった」
鞠莉「No way.そんなこと…できるわけないでしょう?」
英玲奈「命を大切に想える人間は尊敬に値する。私はその生き方を選べなかったからな」
英玲奈は銃を鞠莉へ向け…しかし、その手を止める。
その顔に、初めて人間味のある表情が浮かんだ。
鞠莉は血を流しながらも這いずり、テラスの淵へと手を掛けたのだ。
腰のボールは四つ。
アシレーヌ、チラチーノ、ペルシアンの三体は逃走の路で既に倒れていて、メタモンは今倒したばかり。つまり飛べるようなポケモンは所持していない。
それでも鞠莉はテラスから身を乗り出していて、大量の血を流しながらも明確な意思を持って前へ、前へと。
英玲奈「小原鞠莉。敵の手に掛かるより、誇り高き自死を選ぶか」
鞠莉「自殺?Nop.馬鹿げてる。私は…いつどんな時だって、決して望みを捨てたりしない」
赤に染まったパーティードレス、足の負傷と失血も、彼女の意思を挫くことは不可。
一流の女優めいて、気高く強風を受けるその姿には一切の恐れが見られない。
英玲奈は彼女への興味に銃口を下ろす。
二発撃たれた上で、最上階からの転落死。それも悪くはないだろう。
英玲奈「あるいは、運命が君を助けるか」
鞠莉「女の子はね、いつだって…白馬の王子さまが来てくれるって信じてるの♪」
両腕を広げ、身を傾け…
鞠莉は地上へと身を投げた。
-
果南って出てきたっけ?
-
壁| .^ー^|||
-
>>296
冒頭で絵里とバトルしとった
-
英玲奈「………さて」
この距離から落ちれば肉片と血溜まり、美しくチャーミングな彼女の容姿は原型を残さないだろう。
死に至るまでの過程は警察のエスパータイプポケモンによる過去読で調べられ、一連の出来事はそれで報道に乗る。十分だ。
英玲奈は身を乗り出して地上へと目を向ける。
その態度はあくまで淡々…だが、瞳には微かな期待が秘められている。
小原鞠莉の強固な意思は、果たして奇跡を呼ぶのだろうか?
英玲奈「………なるほど」
見下ろす英玲奈、その頬へと飛沫が掛かる。
膨大に、甚大に、途轍もなく。
202メートルの高所に位置するオハラタワー最上階、そのわずか直下で、大量の水流が逆巻き渦を巻いている。
それは立ち上る水の竜巻。
数百トンに及ぶほどの水量、その渦の中心に圧倒的な存在感。
大海の意思を人の形へと固めたような、その少女の腕は力強く鞠莉を抱きしめている。
紫の瞳が、英玲奈へと津波のような敵意を向けている!
鞠莉「果南…きっと、きっと来てくれるって…!」
果南「ごめんね…鞠莉。ダイヤから鞠莉の様子がおかしかったって連絡を受けてさ、新しく四天王になった研修だとかを放り出して、カントーから帰ってきたよ」
英玲奈「四天王、松浦果南…!」
-
英玲奈は心の底から嬉しげに口元を笑ませている。
アキバリーグの現四天王で最も荒々しい戦闘スタイルと謳われる松浦果南、彼女なら死線を味わわせてくれるだろうかと!
だが、冷静な面も残されている。
ついに屋上、英玲奈より上へと到達した水禍を見上げ、「ふむ…」と唸り、果南へと問いかけを。
英玲奈「思うに…そのポケモン。私が君が全力でぶつかり合えば、オハラタワーの倒壊は免れないが」
果南「はぁ…?鞠莉を泣かせといてさ…利口ぶるなよ…この外道がッ!!!!!」
膨大な水気は暗雲を呼び、タワーを、ヨッツメシティ全域の空を覆い尽くしている!
果南の激昂に応え、大水禍から姿を現わすそのポケモンは水神!!
果南「こいつ殺すよ。カイオーガ!!!」
英玲奈「フフ、素晴らしい…楽しませてくれそうだ…!」
対し、英玲奈が繰り出すのは鋼の巨躯、異世界からの来訪者。
オハラタワー突入前、海未たちが感じた強い振動は、武装部隊を壊滅へと追い込んだのはこのポケモンの重量落下!!
英玲奈「力を貸せ。テッカグヤ!!!」
異様なる咆哮!!
砲台めいた双腕が火を噴き、カイオーガへと害意を放っている。
二体が互いを見合い、オハラタワーを、ヨッツメシティ全域を激震させる!!
-
今日はここまでで
明日も更新するよ
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|с||^.-^||やっぱりかなまり!なんですわね!
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スケールがでかいな(笑)
続きも期待乙
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果南ちゃんきたああああ!
そしてカイオーガとか!!ついに禁止伝説出ちゃったか
バトルの規模がどんどんでかくなっててワクワクが止まらない
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果南かっけー
いやーおもしろいわ、明日も頼むぞ!
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梨子ちゃんがカイリキイズムを信仰していただと...?
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乙
キリキザンエアームドメタグロステッカグヤまで確定か英玲奈さんは
英玲奈がUB持ってるしあとの2人も伝説もしくはUB持ってそうだね
にしても果南さんカイオーガ持ちだし梨子ちゃん強すぎるし
四天王とアライズは完全に別格くさいな
穂乃果の判断は正しかったね
海未ちゃんと曜ちゃんマジでやばそう
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新年乙です。
果南に勝った絵里は更に強いということかな?
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カイリキーへの指示が壁ドンはさすがに草生えるわ
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UBならあんじゅは、フェローチェあたり持ってそうだな
ツバサは...ウツロイド、マッシブーン、アクジキングあたりかな?
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なんかすげー盛り上がる展開だけどまだ出てないキャラもいるしオハラタワー襲撃編で終わるわけじゃないんだよね?
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ウツロイドの神経毒と言うか洗脳効果が……
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けっこう駆け足だな
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これはすぐにでも創造神が出てきそうだな…
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とりあえずみんな展開予想はやめよう
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この世界観で伝説はどのくらいの数が居るのか気になる
テッカグヤは結構な個体数がいてカイオーガは一体のみ?
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>>316
アニポケでルギアの親子出てたし複数いてもおかしくない
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展開予想はほんと荒れるからな…感想スレとか別に作ってやるならいいんだろうけど
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「お前は潰す」の曜ちゃん、某妖怪首おいてけ的なヤバい顔してそう
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そろそろ来てくれ…
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果南ちゃんに殺すと宣言される絶望感
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まだ外出してるから更新はもうちょい後だよ
12時ぐらいになるかも
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そろそろ来るかな
果南とカイオーガの活躍楽しみすぎる
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…
聖良「救いの手は鉄壁に絶たれ、あなた方の望みは潰えました。さて、大人しく服毒していただけますね?」
防火扉の向こう、ルビィ、花丸、善子の三人へと迫る鹿角聖良。
ヨノワールの赤いモノアイは不気味に発光していて、その後ろには理亞がレントラーに牙を剥かせている。
あくまで淡々とした口調を保つ聖良、その態度は強い語気で迫られるよりもよほど、三人に状況の絶望感を提示、印象付けてくる。
ルビィ「……ぅ…っ」
ルビィは親しみやすくて朗らかな穂乃果に懐いている。
そんな穂乃果の実力はダイヤもはっきりと認めていて、(助かったぁ!)と、そう思ったのだ。
目の前にぶら下げられた“希望”を寸前で取り上げられ…
まるでらしくなく、頑張って立ち向かってみせたルビィ。しかし今、その心は折れてしまった。
ルビィ「ぅぇ…あれ…だめだよ、泣いちゃ…泣いたって、この人たちは許してくれないよ…ぅ、立たなきゃ…ひっく…な、涙…止まってよぉ…!」
-
ルビィの頭は一生懸命に考える。状況を理解しようと思考はまだ動いている。
泣いてたらマルちゃんと善子ちゃんを守れないし、
冷蔵庫のアイスはまだ食べてないし、録画したアニメもまだ見てないし、
お父さんとお母さんと、それから大好きな大好きな、とっても大好きなお姉ちゃん…
みんなと、もう二度と会えなくなっちゃうのに…!
それでもルビィの足は言うことを聞かず、へたりと力が抜けたまま立ち上がってくれない。
ピッピの短い手が涙を拭ってくれるが、とめどなく溢れてくる雫はポタポタと垂れて床を濡らしている。
そんなルビィの姿を目に、鹿角妹、理亞は口元を釣り上げて嘲笑を。
理亞「見て姉さま、この情けない子。ぐちゃぐちゃに泣いてみっともない」
聖良「理亞、油断してはダメよ。早く仕事を終わらせましょう」
そんなルビィと姉妹の間へ、花丸と善子が立ち塞がった。
善子「黙りなさい、悪党っ!」
花丸「ルビィちゃんは…ちっとも情けなくなんかないずら」
-
苛立つ理亞、静かな中に威圧を漂わせる聖良。
しかし二人は一歩も引く構えを見せない。
花丸と善子の心は、ルビィが一番最初に挑んでいったことに大きく揺さぶられたのだ。
花丸「ルビィちゃんがマルたちを守ろうとしてくれたこと、本当に嬉しかったし…
思ったんだ、やっぱりマルの大親友は、黒澤ルビィちゃんは凄い子なんだ!って」
善子「まっ、いいやつだけど、ちょ〜っと頼りない…そう思ってたから意外だったわ。
ピンチで見せる底力、そういうのってなーんか…カッコいいじゃない!」
…当然、気持ちだけで抗えるほどに甘い相手ではない。
二人が倒されるまで、三十秒と要さない。
ツボツボを倒され、後続のポケモンを持っていない花丸はレントラーの電撃を浴びて気絶。
善子のヤミカラスはヨノワールの冷凍パンチを受けて戦闘不能、おまけに凍り付いていて、善子もヨノワールに払われて床に伏している。
理亞は倒れた二人を踏み越えて、つかつかとルビィへ迫る。
生まれつきのつり目をさらに鋭く、見下ろす視線には害意が漲っている。
-
理亞「ルビィ、ふざけた名前…お前から飲ませてやる。苛々するのよ、ゆびをふるで脅かしてみたり…!」
ルビィ(お姉ちゃん…もっといっぱい一緒にいたかったな…)
理亞「っ、と…?」
そんな理亞がよろけた。何かが足を…
振り向いて見れば、善子が足首を掴んでいるではないか。
それは意地。善子はあくまで強気に、臆さず、鹿角姉妹へと声を張り上げる。
善子「このヨハネの、リトルデーモンに…大切な友達たちに!手を出さないでよぉ!」
理亞「雑魚のくせに…!」
聖良「良い気概ですね。嫌いじゃないですよ?ヨノワール」
聖良は面白げに、それでいて冷たい声でポケモンへと指示を出す。
ガシリと、ヨノワールは善子の左腕、細い二の腕を両手で掴んだ。
聖良「あなたはこの子たちに手を出すなと要求する。なら私からも要求を。何かを求めるならその対価は支払われるべき、そうでしょう?」
善子「い、痛…!」
-
みし…と、善子の腕が軋むのがわかる。
ヨノワールは善子の細腕へゆっくりと力をかけていく。まるでチューペットを折るかのような簡単さで。
聖良「今からあなたの腕を折ります。右腕が赤髪の子、左腕が茶髪の子。声を上げなければ見逃してあげますよ。両腕とも我慢できればあなたもね」
理亞「ね、姉さま…」
聖良「ほら理亞、左から行くわよ。毒の準備を」
善子「〜〜ッ……!!!(我慢してやる、我慢してやる…!ずら丸もルビィも私が助けるんだ、がんばれヨハネ!がんばれ善子…!)」
ルビィ「やめて!!やめてぇ!!」
聖良「ヨノワール。私のカウントが0になったら折りなさい」
ガチガチと震える歯、善子はキュッと目を瞑る。
3……、2……、
聖良のカウントが進む。
固く食いしばった善子の口、しかし麻酔もなく力任せに骨を折られる、そんな苦痛に耐えられるはずがない。
1……、
ゆったりとしたカウントは想像を招き、増幅する恐怖。善子の喉から嗚咽が漏れ…
聖良「0!」
善子「ひっ…!」
聖良「……と、言ったら折りますからね?ふふ、今のは練習。さあヨノワール。本番を」
善子「あ……あぁ……」
-
再び3……、2……、と、嫌味なまでに猶予を持たせたカウントダウンが始まる。
善子が泣きそうになりながら固めていた覚悟。
聖良の底意地の悪い冗談は、それを無残に、微塵に打ち砕いてしまった。
善子「やだ…もうやだぁ…!」
1……、
と、それを遮る異音!
ヨノワールは手を止めている。
理亞は警戒に身を硬くしていて、聖良の鋭い目は音の出所を既に把握している。
下りた防火扉を何かが貫いている。それは頑強な顎、尖岩のような牙による破壊。
まるで解体用重機が鋼板を食い破るかのように、いとも容易くグチャグニャリと硬質な防火扉がこじ開けられる!
やがて人一人が抜けられるほどの穴が開き…
理亞「姉さま気を付けて、来る!」
聖良(……先ほど、赤髪の子は助けに来た彼女を“穂乃果さん”と呼んだ。
まず間違いなく、あんじゅさんが取り逃がしたという高坂穂乃果。侮るべきではない)
理亞「……来ない?」
聖良「…!理亞!今すぐにマスクをしなさい!」
-
聖良が鋭く発した警句を、穂乃果は扉に開けた穴越しに聞いている。
その傍らにはバタフリー。パタパタと翅を泳がせ、視認されにくい程度の濃度で少しずつ、開けた穴へと“ねむりごな”を送り込んでいたのだ。
ねむりごなが効果を及ぼすのはポケモン相手だけでなく人間にも。
あんじゅとの交戦、ビビヨンの脅威から学んだテクニック。穂乃果は敗戦を糧にできるタイプ!
穂乃果(うーん、楽できるかと思ったんだけどな)
そんなのんびりとした思考とは裏腹、穂乃果は戦術を看破されたと同時に電撃戦めいて穴の中へと踊り込んでいる。
天性の超集中。普段ののほほんとした性格が嘘のように研ぎ澄まされた感覚。
目は左右、高速で滑り瞬時に全員の位置どりを把握。ボールを叩きつけるように繰り出したリングマへとすかさず指示を!
聖良「理亞!」
理亞「な…!?」
穂乃果「リングマ!“きりさく”!」
『グルゥアァァァ!!!!』
理亞「あっ!レントラー!」
-
鋭く振るわれた爪はレントラーを跳ね上げ、その一撃は急所を捉えている。
腹へと深い裂傷を残し、まずは一匹戦闘不能!
聖良はヨノワールに掴ませている善子を人質としてペースを握ろうと思考、しかし穂乃果は先んじている!
穂乃果「バタフリー!もっかい“ねむりごな”!」
聖良(恐らく特性は“ふくがん”、留まればほぼ確実に外さない。まるであんじゅさんのビビヨンを真似たような戦術…!)
聖良「ヨノワール、両手を開けて距離を取りなさい」
怪腕による打撃を主戦術とするヨノワール、善子を抱えたままでは満足に技を放てない。
それを穂乃果は瞬時に看破、善子を巻き込むことを承知の上で眠りの鱗粉を振りまいている!
聖良(ポケモンへの即効性と人体への影響、両方のバランスを視野に収めた絶妙な散布量…高坂穂乃果、やはり侮れない!)
穂乃果(人間はねむりごなを吸い過ぎたら体の機能を壊しちゃうんだったよね、でもそれは吸い過ぎれば、の話。
毎晩自分の体で実験したんだ、どこまでの量なら体に悪影響が出ないのかを!)
-
二ヶ月。
洗頭の三幹部、穂乃果の場合は優木あんじゅに敗北してからの二ヶ月。
海未とことりがその人格を大きく変化させ、あるいは深いところで歪曲してしまったように、穂乃果もまた敗北に大きな変化を得ている。
ただしそれは、悪への追従や憧憬、同じ道を征くことでの対抗ではない。
あくまで我が道を、トレーナーとしての正道を守ったままで悪に抗してみせるという強い決心。
勇気と優しさと覚悟と、そんな少年漫画めいた“良い物”を一つも捨てずに立ち向かってみせるという太陽の精神!
穂乃果(だって悔しいよ、やられたから道を変えるなんて…人生を変えられるなんてさ)
穂乃果(ことりちゃんがいなくなって、海未ちゃんの中でも何かが掛け変わってて。じゃあ穂乃果が二人を助けてあげなくちゃだよね)
穂乃果(そのためにはどうすればいいか、もう悪には負けない。
私らしいままで、私たちのやり方でも悪に勝てるんだって、二人に見せてあげるんだ!)
穂乃果「だって私、結構意地っ張りなんだよね!」
聖良「わけのわからない事を…」
-
穂乃果のバタフリーは悪と対峙するため、穂乃果にとって一つの戦術の要。
人質を取られても能動性を失わず、巻き込みたくない人間を気にせず悪を無力化することを可能とするのが鱗粉。
相手がトレーナーへの攻撃を躊躇わないのなら、こっちもモラルの範疇で最大限の攻撃を!
そんな穂乃果の瞳に意思の光を見たのだろうか、聖良は呼吸を一つ、敵意の深度を今よりも一つ沈めて静謐。
瞳には悪の黒が宿っている。例えるなら星光を覆う深々の夜空。それは三幹部と同じ色。
聖良「認めます、あなたは優れたトレーナーだと。それを理解した上で、改めて。我々はあんじゅさんに代わり、全力であなたを叩き潰す!」
理亞「覚悟…!」
臨戦、しかし穂乃果はナチュラルな微笑を浮かべて敵意を受ける。
そしてあくまで健やかに、自然体のまま言い放つ。
穂乃果「私はもう負けないよ」
アライズ団の鹿角姉妹が勝負を仕掛けてきた!
-
善子「……助かっ…た…?」
ゴーストタイプの怪腕、怖気の立つ悪寒から解放され、善子の視界が安堵にくらりと回る。
倒れた善子をルビィが抱きとめ、引きずって花丸の倒れている壁際へと避難する。
ルビィ「穂乃果さん、すごい…!」
穂乃果はリングマを素早く戻し、新戦力のチゴラスを繰り出している。
理亞が二匹目、グライオンを展開するよりも早く、チゴラスが大顎を広げてヨノワールへと飛びかかる!
聖良「自らレンジに入ってくれるのなら好都合。ヨノワール、“れいとうパンチ”で沈めて」
穂乃果「バタフリー、“しびれごな”!チゴラスはそのまま突撃して“かみくだく”!」
聖良「っ、しまった!麻痺した分、ヨノワールの反応が遅れて…!」
『グルゥアゥ!!!』
チゴラスの頑強なアゴがヨノワールの胴体へと食らいついた。
あくタイプに分類される“かみくだく”、そのキモは憂慮なき即断。
悪と分類されるだけあって、顎撃には相手を傷付けることへの躊躇がまるでない。
ゴーストタイプに共通する特徴、物理撃を無効化する透過能力、その発動よりも先んじて牙を食い込ませる!
-
チゴラスの一撃は効果抜群!
穂乃果の手に加わった新戦力、幼き暴君チゴラスは自慢げ、ヨノワールをふらつかせたことに雄叫びをあげている。
ただ、進化前のチゴラスと進化済みのヨノワールの間では能力差が残っている。
まだ完全な打倒へは至っておらず、聖良は返しの“れいとうパンチ”で弱点を突いて仕留めるべきかを思案する。
聖良(そう、冷凍パンチを当てれば確実に仕留められる。しかし麻痺は痛い。痺れが走れば技が不発に終わる可能性もあり、そうなれば今度こそヨノワールは落ちる)
聖良「戻りなさい、ヨノワール」
思索の果て、聖良はヨノワールをボールへと収める。
その直後にバタフリーがヨノワールのいた場所へとサイケ光線を撃ち込んでいて、「惜しいっ!」と穂乃果は足踏み一つ。
チゴラスの“かみくだく”以降の思考と攻防はわずか五秒足らずの間、目まぐるしく行われていて、既に戦局は聖良のムクホークと理亞のグライオン、チゴラスとバタフリーの交戦へと切り替わっている。
ルビィ(は、早いよぉ…!)
そんな戦場を目の当たりに、ルビィは息つく暇さえ忘れて見入っている。
-
ダイイチシティで洗頭を目の当たりにした一件をきっかけに、ルビィはトレーナーとしての道のりを少しずつ歩み始めている。
なんだか気恥ずかしくてまだ誰にも、姉にさえ教えていないのだが、実家のジムで少しずつ知識を蓄えていっているところなのだ。
実家のジムには新人トレーナー育成用のシミュレーターが設置してあり、属性相性やポケモンの種類、戦闘の流れなどをゲーム感覚で学ぶことができる。
つい先日、その全カリキュラムをクリアしたばかりのルビィは、ほんの小指の爪ほどの自信を付けていた。自分もちょっとは実戦をこなせるようになってるんじゃないかなぁ?と。
ルビィ(けど全然違うよ!動きは早いし考える時間は全然ないし、怖いよぉ!!)
実戦とシミュレーターの一番の違いは求められる判断力。
実戦はターン制ではないし、なにより悪との戦闘ではトレーナーが狙われる。
しかし眼前の穂乃果はそんな戦いを、確とした意思で踏み越えようとしているのだ!
穂乃果「チゴラス!“いわなだれ”!」
聖良「ムクホーク、“インファイト”」
-
チゴラスが顎で壁床を噛み荒らして崩す。
たっぷりと用意されたコンクリートの弾丸、それを恐竜の強靭な尾で叩きつけ、まさしく岩雪崩めいて相手へと打ち出した!
応じてムクホーク、勇敢なる猛禽ポケモンは岩に翼を叩かれるのにも臆さず突撃、チゴラスの懐へと潜り込んで脚と頭突きで壮絶なインファイトを仕掛ける!
激突!互いに効果バツグンの攻撃を受け、双方がほぼ同時にノックアウト!
穂乃果はボールへとチゴラスを収め、リングマを繰り出しながら戦況を思案する。
穂乃果(チゴラスが頑張ってくれたけどやられちゃって、これで私の手持ちは三匹。
向こうはお姉さんの方のムクホークが倒れてて、残りボール二つ。片方のヨノワールはかなりダメージを与えてる)
穂乃果「バタフリー!“サイケこうせん”だよ!」
『フィィィッッ!!!』
理亞「グライオン!“つじぎり”ッッ!!」
『グラァッ!!!』
穂乃果(相打ち!チゴラスの“いわなだれ”がグライオンも巻き込んでたのが効いたね!
これで妹の方はレントラーとグライオンを倒して残りボール一つ。これならいける…)
穂乃果「よーし!行っちゃえリザード!」
『リザァァッ!!!』
-
手応えを掴みつつ、穂乃果は満を持してエースのリザードを繰り出した。
ホールでの乱戦の中でレベルを少し上げていて、さらにさっき立ち寄った部屋で研究員たちの治療を受けて体力は万全!
やる気満々といった調子で尾の炎も燃えている!
対し、鹿角姉妹。
理亞は穂乃果の予想外の強さに、思わず一歩、じりりと後ずさる。
並ぶ穂乃果の残り二体、リザードとリングマはどちらもそれなりに高レベル。
なによりこの穂乃果とかいう女、判断力と思いきりの良さが尋常じゃない!
理亞「…っ」
聖良「落ち着きなさい、理亞」
理亞「姉さま…」
聖良「“この子たち”がいる限り、私たちに負けはない。でしょう?」
理亞「……はい!」
聖良と理亞はそれぞれ、まだ場に出していない残り一つのボールを手に握る。
その瞳は自信に満ちていて、ピッタリと息の合った動作で新たなポケモンを場に放つ!
聖良「行きなさい、マニューラ」
理亞「行けっ!マニューラ!」
-
ルビィ「マニューラ!えっと、ええと…」
ルビィはシミュレーターで学んだ記憶を手繰る。
タイプはあく・こおり。
シンオウ地方などの寒冷地に住まう黒猫に似たポケモンで、武器はその分類“かぎづめポケモン”に示されているように、三本の鋭利で長い鉤爪。
ルビィ(それで、とっても速くて攻撃力が高い!穂乃果さんっ…!)
穂乃果「マニューラ、かぁ…」
呟き、穂乃果は今日初めての強い警戒を心に宿す。
二ヶ月の旅路でマニューラの進化前、野生のニューラとは交戦する機会があった。驚くほどに素早く、かつズル賢い。
それがトレーナーに連れられていて、しかも切り札然とした調子で出てきた高レベルとなれば…
理亞「マニューラ!“ねこだまし”っ!」
ハイスピードの踏み出し、リングマの目の前で叩き合わせる両手!
力士がする猫騙しと要領は同じだ。しかしポケモンが、それも攻撃力に長けた進化体のポケモンが使えば衝撃波が微かなダメージを負わせ、強制的にリングマの目を閉じさせる。
その足元へ滑り込む二匹目のマニューラ!
聖良「マニューラ、“けたぐり”」
ズパン!とキレの良い一撃。
ローキックめいた足払いがリングマの足元を強く掬った。
初撃に怯んでいたところを勢いよく倒された衝撃は激しく、リングマは呻いてそのまま気絶した。
その攻撃力もさることながら、なにより恐るべきは二匹のマニューラの連携速度!
素早い判断力が身上の穂乃果でさえ対応することができなかった!
穂乃果「っ、リングマ!お疲れさま!」
理亞「ようやく追い詰めた」
聖良「さあ、残りはそのリザードだけ。どうします?逃げてみますか?」
穂乃果「逃げるっ!!」
聖良「は…?」
-
言葉通りに偽りなく、穂乃果はくるりと背を向け駆け出した。リザードも一緒に。
理亞「あ、あいつ、本当に逃げたの?」
聖良(……どうする、今追えば確実に仕留められる。けれど下された任務はこの三人の少女たちの確保で、高坂穂乃果が逃げていっている今ならそれは容易に可能)
理亞「姉さま…」
聖良(しかし…正直、この三人の確保はあんじゅさんの趣味でしかない。
あのリザードは元々三幹部の皆さんがわざわざ出向いてまで確保しようとしたオトノキ産ポケモン。
それを確保し、さらに高坂穂乃果に服毒させて連れていけばあんじゅさんだけでなく、三幹部の皆さんを喜ばせることができるのでは?)
理亞「姉さま!どうする!」
聖良「追いましょう」
理亞「この三人は?」
聖良「放置して構わないわ。人質にしようにも抱えて移動すれば機動力が落ちる。高坂穂乃果を逃してしまう」
理亞「わかった」
穂乃果(よし、やっぱり追ってきた!)
-
背後、駆け出した鹿角姉妹を目に、穂乃果は狙い通りと一息。
逃げたことでルビィたちが狙われる可能性はもちろん思案していた。
ただ、諸々の状況を合わせて考えれば、鹿角姉妹にとっては穂乃果とルビィたちとの二択だ。
穂乃果は鹿角姉妹の…とりわけ姉の聖良の思考力を信じ、逃げの一手を打ったのだ。
あの姉なら考え違いをせずに追ってくるはずだと。
穂乃果「これでルビィちゃんたちの方に行こうとするなら振り返って即攻撃しなきゃだった。
逃げからのいきなり攻撃はリザードとたくさん練習してきてるけど、成功率100%!とはいかないもんね」
『ザァドッ』
相棒と顔を見合わせ、穂乃果は猛然とダッシュ。
目指すはフロア内、カードキーを託された屋内ビオトープ!
ルビィ「い、いっちゃった…」
一方、残されたルビィは嵐のように去っていった穂乃果と敵二人を見送り、ぽかんと口を開いている。
穂乃果が逃げ出した時も心配はしなかった。
本気でルビィたちを見捨てて逃げるタイプではないと知っているし、鹿角姉妹からは死角になる角度で「心配しないでね」と穂乃果は口を動かしてみせていたのだ。
-
ルビィ「だけど、残りはリザードだけで…穂乃果さん、大丈夫かな…」
花丸「る、ルビィちゃん…」
ルビィ「あっ!マルちゃん!」
電撃を浴びて気絶していた花丸が意識を取り戻したのだ。
ルビィは心底嬉しそうに顔をほころばせ、大親友のふんわり柔らかい体に思いっきり抱きついた。
ルビィ「体は大丈夫…?」
花丸「うん…少しくらっとするけど、大丈夫そう。痺れがあって起き上がれなかったけど、少し前から意識は戻ってたずら」
攻撃されたと言っても、鹿角姉妹にとってルビィたち三人はあんじゅに捧げる献上品。体に後遺症を残すようなダメージは負わされていない。
善子の腕を折ろうとしたのはブラフのお遊びだったのか、姉の残虐性が暴走したのかは定かでないが。
ともあれ安堵。
花丸をギュッと抱きしめて涙を浮かべるルビィ、花丸もまた華奢な親友の体を抱きしめて涙を浮かべている。
が、しかし。
花丸「…ずら」
ルビィ「マルちゃん…?」
花丸はそんなルビィの体を引き離し、真剣な顔つきでルビィへと声を掛ける。
-
花丸「ルビィちゃん、穂乃果さんたちの戦いが気になってるんだよね」
ルビィ「それは…もちろん、うん」
花丸「あ、ええと、マルが言いたいのは普通の気になってるとは少し違って…
ルビィちゃんは“トレーナー”として、穂乃果さんたちの戦いを気にしてる」
ルビィ「ま、マルちゃん…」
花丸「わかるずら、親友だもん。ずっとピィだったのをピッピに進化させてて、昔よりポケモンを見る目がキラキラしてて…
ルビィちゃん、夢を見つけたんだなって。トレーナーを目指そうとしてるんだって、マルは嬉しかったんだ」
ルビィ「……うん…!」
頷き、肯定。
ルビィは今初めて、姉や穂乃果みたいなトレーナーになりたいという意思を人に示した。
それをそっと尊ぶように花丸は微笑んで、まだ痺れが抜けきらず言うことを聞かない手でルビィの手を引き、立たせる。
花丸「穂乃果さんはすごく強いけど、でもきっとギリギリの戦い。
ルビィちゃん、行ってあげて。穂乃果さんのためにも、ルビィちゃんのためにも!」
ルビィ「………うんっ!!」
トレーナーとしての強い意思を瞳に、ルビィはピッピと共に立つ。まだピッピは戦える!
前を見据えて駆け出すルビィへ、ふと思いついたように花丸はもう一声。
花丸「あっ、でも状況はよく見てね。ルビィちゃんが飛び出して人質に取られて、逆に足を引っ張る、みたいな展開だけは絶対!避けなきゃいけないずら」
ルビィ「そ、そうだよねっ。うん…行ってくる!」
頭脳明晰な友人からの警句を胸に刻み、ルビィの心から初心にありがちな蛮勇の色は失せる。
生来の臆病さをしっかり活かして慎重に。臆病さとは生存能力の裏返し。
廊下の奥から響く戦音が道しるべになってくれる。
穂乃果と鹿角姉妹の戦いはクライマックスへと向け、既に白熱を増している。
ルビィ「穂乃果さん、今行きますっ…!」
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今日はここで切るよ
明日は引き続き鹿角姉妹戦からで
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乙です
正直この先バタフリーで大丈夫なのか?とか思ってたけど穂乃果なりの戦い方をする上で一番重要なポケモンだったのね
あんじゅからの影響をプラスの方向だけ吸収する底抜けのポジティブさがとても頼もしい
ルビィの成長も含め続き楽しみにしてます
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おつかれ
次も楽しみにしてる
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乙です。
待ってるよ!
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穂乃果、ジョジョ第二部の頃のジョセフみたいな戦い方だな
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>>348
なんか既視感あると思ったらそれだ
全行動に抜け目がなく、逃げることを躊躇せず、その逃走も戦術に組み込むのは確かにジョセフだわ
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>>348
激しく同意
まさにジョセフ
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トレーナーの才能で種族値の差をひっくり返せるのは熱いな
ツバサも同じ描写あったけど
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千歌ちゃんレズレイプ未遂とか善子に腕折りカウントダウンとかちょくちょく見える>>1の趣味好き
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ゲームの方でもコイキング1匹縛りで殿堂入りする人もいるし…
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何気にセイントスノーの手持ちはシンオウ統一なんだな
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>>354
北海道だからね
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穂乃果「リザード、“えんまく”であの子たちの邪魔しちゃえ!思いっきりモクモクって!」
『ザルルッ!』
穂乃果の指示する通り、リザードはしっぽの炎から黒煙を燻らせる。
不完全燃焼を起こした焚き火のように濛々、思わず咳き込んでしまうほどの濃度で廊下を墨色に染め上げている。
追う鹿角姉妹は口元を遮蔽度の高いマスクで覆っているが、それでも目がしばつくのは防げず舌打ちを。
理亞「煙た…っ、嫌らしい技を…」
聖良「機転を利かせて搦め手を重ねてくる、かと思えば前に出ることを厭わない。読みにくいタイプ…だからこそ、背を取っているここで仕留めたい」
理亞「姉さま、私のマニューラに突っ込ませる」
聖良「ええ、援護するわ」
穂乃果(煙幕でトレーナーの二人の視界は利かないはずだよね。だとして、私なら…)
『ニュゥラッ!!』
穂乃果「マニューラを突っ込ませての奇襲だよね!受けるよリザード!“ニトロチャージ”で足元!」
『ガァッ!!』
-
黒煙で追っ手の姿が見えにくいのは穂乃果たちにとっても同じ。
鹿角姉妹はそこを突くべく、マニューラを低い姿勢で突撃させている。
技は爪の鋭さを十全に活かせる“つじぎり”、その対象は穂乃果、狙うはアキレス腱!
穂乃果「やっぱり低く来た!」
穂乃果はそれを理解している。
あんじゅとの一度の対峙は未だ鮮烈なイメージとして残されていて、その指示に従っている鹿角姉妹ならトレーナーの足を損ねにくると読んでいた。
技マシンで提供された技の一つ“ニトロチャージ”。
リザードはどちらかといえば特殊技にステータスの寄ったポケモンだが、アライズ団を相手取るにはあらゆる局面に対応できる技が必要。
トレーナーへの攻撃を防ぐために一つ覚えさせておいた物理技がこれだ。
リザードは全身に炎を纏わせ、その熱量を力強さへと変えて手のツメを振り下ろす。
鋭音、マニューラとリザードの爪が衝突し、穂乃果を狙った一撃を見事に防ぎ払う!
-
穂乃果「よしっ」
読みの的中にふふんと少し得意げ、穂乃果はリザードに親指を立てて労いを。
歩きにくいパーティー用のヒールはとっくに投げ捨てていて裸足、旅路に培われた健脚で穂乃果は駆けつつ思考は次へ。
穂乃果(リザードは炎であっちは氷タイプ、正面から戦うよりはトレーナーを狙う方が簡単。
悪の組織になったつもりで相手の立場に立って、それで効率のよさを重視したら結構読めるもんね!)
穂乃果「それでついでに…」
『リッザァ!!』
穂乃果「リザードの素早さも上がる!」
ニトロチャージの発動により、まるでエンジンに点火したように尾の火勢が増している。
炎タイプが炎を纏うことによっての肉体活性、それがニトロチャージの追加効果!
壁を蹴って三角飛びの要領、マニューラは再び機敏に爪を振るう。
リザードは動じず手首を掴み、突撃してきた勢いをそのままに投げ返す!
-
二撃を防がれ、マニューラはくるりと回転着地。
身を伏したアサシンめいた挙動で煙幕の中へと退いていく。
マニューラの二撃目はあくまで牽制、いわば鍔迫り合いで、お互いに有効打は入っていない。
つまりリザードを加速させた穂乃果に一片の歩がある…が、瞬間。穂乃果のふくらはぎにひりつくような痛みが走る。
穂乃果「痛っ!?足に血が滲んで…何かが当たった?」
聖良「“こおりのつぶて”、氷タイプ最速の礫弾。威力はそれほど高くないけれど、数をばら撒かせるには最適の技。一発は掠めてくれたようですね」
理亞「さすが姉さま、これで追いつける…!」
視界は晴れていないが、床に点々と残る血の跡が穂乃果たちが近いことを教えてくれる。
俄然勢いづいた理亞はマニューラと共に黒煙を抜ける!
理亞「……何?これは。今度は白いモヤが…」
聖良「マニューラ!理亞を抱えて下がりなさい!」
『ニャウァ!』
理亞「っ…!?」
穂乃果「リザード、“かえんほうしゃ”」
-
リザードの口から放たれる業火、それは社員たちに提供された技マシンの恩恵。
汎用的な炎技の中で安定性と威力のバランスが最も良い“かえんほうしゃ”。
が、それはいい。
ニトロチャージを使った時点で技マシンの可能性は姉妹の思考に含まれていて、火炎放射は想定の範疇。
様々な戦闘を経ている鹿角姉妹が驚くことはない、そのはずだった。
しかしそれは想像の遥か上!眩く爆ぜる大火!!!
理亞「きゃあっ!!?」
聖良「頭を下げて」
聖良の声を受けたマニューラに間一髪で後退させられた理亞は、突如、理解不能の大爆炎に目を白黒とさせ、思わず少女の悲鳴を上げている。
聖良はそんな妹の肩を抱いて落ち着かせ、炎上範囲からギリギリ手前、その先にいる穂乃果へと鋭く睨みを利かせている。
火が収まった廊下、足元に落ちていたのは“フラワー”と書かれた黄色い袋。
同じ袋が焼け焦げた残骸も複数落ちていて、何袋もの中身をぶちまけたのだと理解する。
-
聖良「小麦粉ですか…味な真似を」
穂乃果「粉塵爆発、頭の良くない私でもこれは知ってるよ。漫画とかでよく見る定番だもんね!」
再び姉妹と距離を開いて走りつつ、穂乃果はしてやったりと笑みを浮かべる。
思ったよりも火力が出て少し驚いたが、あの手練れの姉妹なら炎にまかれて大ヤケドということもないだろう。
穂乃果が手にした鞄はいつもの旅用リュックとはまるで別物、真姫の親戚の店で手に入れたおしゃれな高級ハンドバッグ。
ボールなどのトレーナー用品、着替えや諸々の日用品は真姫の親戚に預けて荷物を減らしてある。せっかくのブランド鞄も、膨れ上がっていてはみっともなく見えてしまうからだ。
それでも穂乃果はポケモン用の薬を少しと、プラス小麦粉だけは断固と鞄に詰めていた。
まさか火薬を持ち歩くわけにもいかないが、小麦粉ならどこのスーパーでだって安価で手に入る。
戦闘時に小麦粉をぶちまければ、それだけでリザードの炎をより強めることができる。まさにお手軽兵器!
穂乃果「こういう廊下みたいな狭い場所でしか使えないけど…っと、ついた!ビオトープ!」
-
素早くカードキーを滑らせ、認証音と共に開いた扉へと飛び込む!
「わぁ…」と思わず漏れる声。
そこに広がっていたのは広々とした自然の風景。
ビオトープと言うだけあって、ポケモンたちを野生に近い環境で棲息させている部屋のようだ。
突然部屋に入ってきた見知らぬ人間に驚いて姿を隠しているようだが、チチチ、キリキリとなにかしらのポケモンの声も聞こえている。
木々に草が生い茂り、部屋の隅には池と川のせせらぎ。
そよぐ風は自然風かと間違うほどに柔らかで、新緑の香りに鼻先をくすぐられ、穂乃果はくしゃみを一つ。
『リザッ!!』
穂乃果「うんうん、まだバトル中だよね!」
聖良「その通り。ようやく追いつきましたよ、高坂穂乃果さん」
背後、部屋の入り口に聖良とマニューラが立っている。
思った以上の手こずりにも表情は余裕を保ったまま。嫌味なほどに落ち着き払った語調は繕いではなく、あくまで本質の性格に近いものらしい。
だがそれは姉だけ。
少し遅れて現れた理亞の顔は青ざめていて、これまでルビィたちや穂乃果へと浴びせていた、強気かつ辛辣な語気は鳴りを潜めている。
-
(あれ、どうしたんだろ?)と穂乃果は内心に疑問を抱く。
そんな穂乃果の心中を悟ったかのように、聖良は穂乃果を軽く睨みつけて口を開く。
聖良「あなたが起こした爆発、巻き込まれかけた理亞は軽いショック状態です。
火は根源的な恐怖を呼び覚ます。よくもやってくれましたね」
穂乃果「あー、さっきので」
理亞「ね、姉さま…」
聖良「理亞、無理をしないで。私があなたのマニューラにも指示を出すから、後ろで見ていなさい」
理亞「私は…私はまだやれる!」
声を張り上げて主張する理亞。
聖良は振り向き…そんな妹の頬を優しく撫でた。
聖良「理亞、気負う必要はないわ。あなたは妹、私よりも年下。あなたが追いついてくるまでは私が守る。だから今は、成長のために観察しなさい」
理亞「………はい…」
-
諭され、妹は一歩引いた壁際へと位置を移す。
それに従い二匹のマニューラは姉の両側に立ち、聖良は穂乃果とリザードを静かに見据える。
ふと、穂乃果が尋ねかける。
穂乃果「妹さん、大事にしてるんだね」
聖良「ええ、たった一人の肉親ですから」
穂乃果「そっか。私にも妹がいるから、その気持ちはわかるよ」
少し間を置き…
穂乃果は聖良を鋭く睨む。
穂乃果「あなたたちが酷い目に遭わせようとしてたルビィちゃん。あの子にもお姉さんがいるの」
聖良「……」
穂乃果「ジムリーダーだから知ってるかもだけど、ダイヤさんって言ってね。ルビィちゃんのことをデロデロに可愛がってるんだ」
聖良「…そうですか」
穂乃果「同じお姉さんって立場、もし妹が連れ去られたらって…二度と会えなくなったらって!自分で考えてみてよ!あなたは何も思わないの!?」
-
表情豊かでこそあれ、基本的にはいつも笑顔。そんな穂乃果らしくない、怒りを感じさせる口調での問いかけだ。
それを受けて、少し目を伏せ…聖良は低い嘲笑、問いを斬って捨てた。
聖良「同じ立場になってみたら。そんなこと考えたこともないし、これから先も考えることはないでしょうね。他人のことなんて知ったことじゃ…
穂乃果「今だリザード!“かえんほうしゃ”だよ!!」
『リザァァァッ!!!!』
聖良「は?、っ…!」
困惑、飛び退く!!
マニューラたちと聖良が辛うじて横飛びに躱したその位置を、リザードの吐き出した火炎が猛然と焼き抜いていく。
見れば穂乃果は「惜っしい!」と指打ちをしていて、リザードと共に戦いやすい位置どりへと走って行っている。
聖良の答えに怒っての攻撃か?
いや、そういう雰囲気ではない。まるで…否、間違いなくタイミングを見計らっての決め撃ちだ。
義憤に震えて放ったようなあの問いかけは、単に聖良の隙を作るためでしかなかったのだ!
理亞「ひっ、卑怯…!」
-
穂乃果「別に、本当に聞きたかったわけじゃないもんね。人の立場で考えられる人はそもそも悪の組織なんかに入らないし、聞いたって意味ないのはわかってるもん。それに…」
聖良「……それに?」
穂乃果「戦隊モノとか変身ヒロインとかを見てる時、敵は変身中に攻撃すればいいのに〜…って昔から思ってたんだ!」
聖良「それとこれとは別の話でしょう。そっちから質問しておいて…つくづく舐めた方ですね、あなたは」
聖良は気を取り直し、ハンドサインでマニューラたちへと指示を出す。
聖良(“つばめがえし”、からの“つじぎり”)
穂乃果(マニューラが動き出した!もう指示を出したの?)
技名を口に出さないことで、相手のトレーナーの対応を遅らせるのだ。
アライズ団の実働部隊、三幹部の英玲奈直々に鍛えられたテクニックの一つ。
二匹のマニューラはその機動力を活かして左右上下、目まぐるしく立ち位置を入れ替えながらリザードへと迫っていく。
聖良(高坂穂乃果、いかにその判断力が優れていようと、人間の目にマニューラたちの速度を見切ることは不可能!)
穂乃果(だったらシンプルに!私の目で見なくたっていい。任せるよ、リザード!)
聖良(“かえんほうしゃ”ですか?確実に仕留めるためにはそれしかないでしょうね。
ですがリザードはまだ中間進化体。その火力からの射出半径ならマニューラは避け切ってみせる!)
穂乃果「行くよリザード!!全力ぅっ…“かえんほうしゃ”!!!!」
『ゥゥヴ…ッッ!!リザァァァァド!!!!』
-
聖良「何故!」
聖良は叫んでいる。叫ばずにはいられなかった。
マニューラの速度なら避けられるはずの、当たるはずのないリザードの火炎が、理亞のマニューラを強かに捉えて焼き飛ばした!
猛然の火勢にマニューラは舞い、ドサリと草むらに落ちて戦闘不能。
「マニューラ…!」と悲しげな声を漏らす理亞、姉ははっきりと怒りに満ちた目で穂乃果とリザードを睨む。
聖良のマニューラが放った“つじぎり”がヒットしてふらついてはいるものの、未だリザードは健在。
高坂穂乃果の瞳は、得体の知れない確信に満ちている!
聖良「何故…リザードにそんな火が出せる!」
穂乃果「上だよ!」
聖良「上…?」
見上げ…理解。
穂乃果がビオトープへと走った理由を鹿角聖良は理解する。
野生ポケモンたちの健康を保ち、その棲息のために必要な環境を整える設備がそこにある。
指を高らかに掲げ、天を指し…高坂穂乃果はその瞳に陽を宿す。
穂乃果「“にほんばれ”」
聖良「強い日光が、炎の威力を飛躍的に高めている…!」
穂乃果へとビオトープのカードキーを託した社員、彼女の言った手助けとはこれだ。
停電に陥ったオハラタワーの中でも、このビオトープは動作している。仮に生態系が壊れれば損害額が大きいため、優先して予備電源が回されるのだ。
その日照システムを、社員たちは遠隔操作でMAXに!
リザードが最高火力を出すための条件を揃えてくれていた!
…その経緯を聖良は知らない。
穂乃果自身の力なのか、誰か他人の助力があったのか、それは聖良にとって関係のないこと。
過程はどうあれ、穂乃果が状況の全てを活かしてこの戦況にこぎつけてみせたのは事実なのだ。
そして今、ただ一つ理解すべきは、高坂穂乃果はここで倒さなくてはならないということ。
聖良(さもないと、高坂穂乃果はアライズ団にとっての天敵になるかもしれない!)
-
穂乃果とリザード、聖良とマニューラ。
互いに見合い…決着は一瞬、それを双方が理解している。
呼吸…
聖良「マニューラ…全身全霊で!“つじぎり”!!!」
駆ける!
聖良のマニューラは理亞のよりも数レベル上。
たとえリザードの火炎が増幅されているとしても、それを避けて爪を叩き込ませる自信が聖良にはある!
残火燃える草原を踏み越え、重心を左に、フェイントで右上方へと跳躍!
マニューラは高く、鋭く魔爪を尖らせる。主人の意思を、聖良の悪としての矜持を乗せた一斬を、縦回転から凄絶に直下させる!!
『マニュアッッ!!!!』
穂乃果「“猛火”」
穂乃果の呟き、それはリザードの特性。
傷を負い、危機に追い込まれた時に目覚める真の力。竜の体に眠る真炎の力!
リザードの尾先から全身へとまさに猛火、劫火が轟然と燃え哮り、照りつける日差しの力と重なり、その炎は烈烈の赤を成す!!
すっと、穂乃果は指し示す。
穂乃果「リザード、思いっきり…“かえんほうしゃ”!!!」
迸る絶炎!!!!
-
理亞「あ…ありえない…!」
二匹目、聖良のマニューラが倒れている。
リザードが咆哮に吐した爆炎はあまりに広くあまりに大きく、マニューラの機動性を以ってしても回避は能わなかった。
戦闘の継続…できるはずもない。聖良が手塩にかけて鍛え上げたエースは完膚なきまでにノックアウトされていて、意識を完全に断ち切られている。
理亞にとってマニューラの敗北は尊敬してやまない姉の敗北に等しく、到底認められるはずもない現実に嗚咽めいた叫びが漏れる。
理亞「……ざけるな……認めない…認めない!姉さまは強いんだ!すごいんだ!!高坂穂乃果!お前さえいなくなれば!!!」
裂けるように声を張り、理亞はその懐から黒い塊を取り出す。
それは“黒星”、中国製の密造トカレフ!
認めたくない現実は決してしまえばいい、理亞は穂乃果の横顔へと銃口を向け!
ルビィ「ぴ、ピッピ!“はたく”っ!」
『ピッピ!』
理亞「ぶはっ!!」
ルビィ「………か、勝ったぁ!」
まるまるとマスコットめいていてもポケモンはポケモン、思いきり叩けば人間の意識ぐらいは飛ばせるものだ。
部屋の外でこっそり見守っていたルビィのピッピに痛烈な張り手を食らい、理亞は拳銃を手放しどさりと気絶する。
そんな妹たちのやりとりに目を向ける余裕がないほど、聖良はマニューラの敗北に衝撃を受けている。
-
聖良「…………っ、負けた。……が、まだ!」
マニューラは聖良にとってのプライド。
誇りを折られた精神的な痛手は隠せないが、それでも任務を遂行しなくては。
聖良が手を掛けるのは残り一つのボール、負傷と麻痺を重ねているヨノワール。
しかしリザードの全身は未だ炎に巻かれていて、まるで限界を超えて発揮した火力にオーバーヒートを起こしているようにも見える。
穂乃果はその傍らでリザードを見つめていて、こちらへの注意が散漫になっている。
ならば殺れる。穂乃果とリザードをまとめて葬り去れる、絶好の一撃をヨノワールは持っている!
気配を殺し、そっと静かに展開。
現れたヨノワールは聖良の目配せに、両の怪腕を高く掲げ…それを振り下ろす!
聖良「ヨノワール!“じしん”!」
拳が地面を叩き、ヨノワールの体に詰め込まれた魔力めいたエネルギーが地を駆ける!
それは大地の力へと変換され、ほのおタイプのリザードが苦手とするじめんタイプの大技として襲いかかる!
聖良「この位置なら…高坂穂乃果も巻き込める。私は負けない。私が負ける姿を理亞には見せない!!」
-
…バサリ、バサリと、勇壮な羽音は上から。
地震のエネルギーが到達するかという寸前、リザードの炎は膨れ上がって穂乃果を飲み込み。そして上へ。
飛べば地震は当たらない、当然だ。
聖良は見上げている。
冷静と微笑を保ち続けたその口元は丸く開かれていて、唖然を隠せない。
聖良「戦闘中に…進化、させた?」
ルビィも見上げている。
橙の竜体、鋭い両翼。
穂乃果を背に乗せ、漏れる呼気は火炎に染まり、尾の灯火はさらなる隆盛を。
勇ましいその姿は、ルビィに強い感動を覚えさせる。
ルビィ「すごい…すごいよ、穂乃果さん…!」
穂乃果はさらなる進化を遂げた相棒の頭をよしよしと撫で、首にギュッと抱きついて満面の笑み!
穂乃果「えへへ、かっこいいよ!これからもよろしくね、リザードン!」
『リザァッ!!』
穂乃果「それじゃとりあえず…トドメ!“かえんほうしゃ”だ!!」
『グルゥゥ…!ザァァァドッ!!!』
上空から降り注ぐ火炎、進化したリザードンの炎は烈火!
壮絶な火柱がヨノワールの全身を包み込み、完全なる打倒!!
すとんと降り立ち、穂乃果はルビィへと満面の笑みを向ける。
穂乃果「よしっ、私の勝ち!!」
-
この進化は燃える!!!
-
…
ガクッと膝を折り、呆然と佇む聖良。
はたかれて気絶したままの理亞。
戦闘こそ勝利で終わったが、さて、この二人をどうしたものかと穂乃果とルビィは顔を見合わせる。
穂乃果「縛って下に連れてけばいいのかな?」
ルビィ「し、縛って…でも、まだちょっと怖い…」
穂乃果「うーん、ポケモン抜きにすれば私とルビィちゃんより断然強いもんね…」
ルビィ「ぅゅ…銃とかも持ってたし…」
と、そんな会話を数分、二人の心配は杞憂に終わる。
ドヤドヤと足音を鳴らし、警官隊が踏み込んできたのだ。
細かく状況を説明しなくてはならないかと身構える穂乃果だが、真姫が穂乃果たちの人相については説明を済ませてくれていたようでやりとりはスムーズに終わる。
花丸と善子の二人も警官隊にもう保護されたらしく、ルビィはほっと胸を撫で下ろす。
そして警察たちが聖良に手錠を掛けようとした時…聖良が動く!
-
聖良「……ッ!」
「銃を取り出したぞ!」
「取り押さえろ!」
「う、撃った…自分のヨノワールを撃ったぞ!?」
聖良(アライズ団特製、遠隔で射ち込める強心剤。さあヨノワール、起きなさい)
「うわっ!このヨノワール起き上がった!?」
穂乃果「え!?」
聖良「ヨノワール!“トリックルーム”!」
ルビィ「ぅえぇ!?変な感じがするよぉ!」
聖良が指示を出した瞬間、グニャリと室内の空間が歪む感覚。
速度を反転させる特殊な技、“トリックルーム”を発動させたのだ。
物理法則の書き換えに動揺する穂乃果、ルビィと警官たち。
その一瞬の隙に、聖良はヨノワールへと一声を張り上げた。
聖良「理亞を連れて逃げなさい!」
『ヨ……』
聖良「私はいい!逃げて!早く!!」
『ッ…ヨノワール!!』
-
聖良は悪に加担している人間だ。
しかし少なくとも、ヨノワールにとっては良い主人だったらしい。
自分を見捨てろという聖良の指示に、ヨノワールの無機質なモノアイが一瞬の揺らぎを示す。
再度の強い指示に、ヨノワールはようやく反転。
壁際で気絶している理亞を抱え、猛然と部屋から飛び出していく!
「撃て!逃すな撃て!」
「駄目です!弾丸が遅い…!」
「この女…よくも!」
聖良「ぐっ…!」
悪党とはいえ年頃の少女、そんな意識からどこか遠慮があった警官たちも、一瞬の隙をついた立ち回りに意識を改める。
聖良は大の大人たちから全力で床に抑え付けられ、苦痛の呻きを漏らす。
だがその目は優しげで、妹が無事に逃げおおせることを心から祈っている…少なくとも、穂乃果とルビィにはそう見えた。
ついに手錠をかけられ、聖良は荒々しく連行されていく。
すれ違いざま、聖良は穂乃果へと初めて素直な表情で笑いかけた。
聖良「こう言うのもおかしいけれど…楽しかったですよ、あなたとの戦い。次は負けませんけど」
穂乃果「……うん、私も。楽しかったよ!」
その言葉を最後に聖良は姿を消した。
…と、ビルが揺れていることに穂乃果とルビィは気付く。
ルビィ「ぅぇ…!な、なんの揺れ…?」
穂乃果「誰かが戦ってる…?海未ちゃん…ことりちゃんかもしれない!」
ルビィ「あっ、穂乃果さん!?」
穂乃果「警察の人たち!ルビィちゃんをお願いします!」
「君!危険だぞ!」という警察の声を振り切り、穂乃果とリザードンは上の階を目指す。
窓の外は豪雨が降りしきっていて、飛んで上がるのは少しリザードンに負担がかかりすぎるだろう。
穂乃果「………はぁ、階段か」
『リザ。』
疲労に溜息一つ。
穂乃果は上を目指し、バタバタと階段を駆け上がっていく!
-
…
豪雨が頬を濡らしている。
曜の頬には血が滲んでいて、片目は流血に塞がっている。
打撲、裂傷。肋骨に、鎖骨が折れているかもしれない。
しかし曜の瞳はその痛みをまるで認識していない。
打ち砕かれた壁、吹き込む烈風と雨。
ただ視界の邪魔をする赤。
曜にとってはそれだけの意味しかない血を雑に拭い、敵対者、優木あんじゅへと恨みを込めた指先を向ける。
曜「……ルカリオ、次は右腕だよ」
あんじゅ「いい加減にしてくれるかしら?この気狂い…!」
あんじゅの左腕は肘から逆に曲がり、へし折れている。
綽々、悠然。そんないつもの表情は若干曇り、痛みに血の気が引いているようにも見える。
あるいは面前、曜の狂気に圧されての戦慄か。
アーマルド、ビビヨン、ビークイン。
三体が倒されていて、手持ちは残り半分。
あんじゅ(底知れない)
そんな恐るべき怪物を目の前に、あんじゅは切り札の一つへと手を掛ける。
それは最速の白。突入前、ツバサを撃ち抜かんと照準を定めていた狙撃部隊を壮絶な速度で仕留めてみせた怪物。
あんじゅ「嬲り殺しよ…!フェローチェ!」
むし・かくとうタイプ。その性能を速度へと特化させ、極限まで細さを追求した歪な、それでいて限りなく美的なフォルム。
英玲奈のテッカグヤと同じ、UB(ウルトラビースト)と分類される異世界からの来訪者だ。
そんな超常の存在を目の前に、曜の瞳は未だ憎悪を絶やさない。
曜「……次はそいつか」
呟き、開戦。
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今日はここまでで
明日は帰りが遅いから更新できるか微妙だけど、明後日には必ず更新するよ
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乙でした!
ついにリザードンきたか、ずっと一番好きなポケモンだからこれからの活躍がますます楽しみ
そして曜ちゃん案の定危ない戦い方してるのか・・・ことりちゃんと同じくらいこっちも心配だ
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乙です。
ルビィにも見せ場があってよかった。
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曜ちゃん頑張って!
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何書いても面白いな
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曜ちゃんやべぇよ…
千歌ちゃんもその場にいるんだよな
千歌ちゃんには今の曜ちゃんはどう映ってるのか…
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乙!
盛り上がりっぱなしだな!
まってるぞー
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俺の毎日の楽しみになってる
この作者の他のssも読みたいんだけどだれか教えて
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ここで調べればでてくる龍狩り、穂乃果「野球で廃校を救うよッ!」ってやつ
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聖良いいキャラしてんな
理亜ちゃんはちょいちょいポンコツ臭して草
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理亞がサンシャイン組で一番すきだわ
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オラついてるくせに打たれ弱い可愛さ
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陽ちゃん勝てるのか気になる
ココ最近一番気になるスレだわ
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龍狩り読み始めていまpart5くらいまで来たけどこの作者は何者なんだ。
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敵が手段選ばないから穂乃果ちゃんの明るさと柔軟さがめっちゃ心強いな
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>>390
仮に名のある物書きだったとしても、ここで名無しでやっている限りはただのラブライブ!が好きな一人のファンだろう
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マジで同人活動してないの?
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おもしろすぎるわ
最近のわかんないから調べながら読んでるけど数年ぶりにポケモンやりたくなってくる
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VIPでポケモンとかアルファベットとか書いてた人だったりするのかな
あの人のも面白かった
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>「ほら、私って博愛主義だから」とガブリアスとコジョンドに嘯き、首を傾げられながら
ここのツバサさん何気に好き
聖良もそうだけどエグいことやってる悪役も手持ちポケモンとは仲良いのがなんか親しみ持てて好き
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最近のポケモンはドラゴン/毒なんているんだな
久しぶりにやりたくなってきた
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>>397
最近はドラゴン多いぞ
ドラゴン単色:オノノクス、クリムガン等
ドラゴン/飛行:カイリュー、ボーマンダ等
ドラゴン/水:キングドラ、パルキア
ドラゴン/地面:フライゴン、ガブリアス等
ドラゴン/エスパー:ラティオス、ラティアス
ドラゴン/鋼:ディアルガ
ドラゴン/ゴースト:ギラティナ
ドラゴン/炎:レシラム、メガリザードンX等
ドラゴン/電気:ゼクロム、メガデンリュウ等
ドラゴン/氷:キュレム
ドラゴン/毒:ドラミドロ
ドラゴン/悪:サザンドラ、アクジキング等
ドラゴン/岩:ガチゴラス等
ドラゴン/草:メガジュカイン、アローラナッシー
ドラゴン/フェアリー:メガチルタリス
ドラゴン/ノーマル:ジジーロン
ドラゴン/格闘:ジャラランガ等
4倍弱点持ちが多いのは宿命なのかな……
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毎回600族がドラゴンなのやめてほしいわ
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ドラゴン使いだから毎度の600ドラゴンの供給はありがたいがジャラは使いずらい、そろそろ合計600でスピード特化のドラゴンとか来てほしいわ
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あとはドラゴンとむしの組み合わせだけか
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>>401
メガメガヤンマはドラゴン/虫を期待してる
あとメガカイリューはまだですか?
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>>401
フライゴンじゃん
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あんじゅ(ああもう、これだから関わりたくなかったのよ。この手合いとは)
内心に悪態を吐きつつ、あんじゅは顔に降りかかる雨粒を不愉快げに掌で拭う。
高圧の電極を押し当てられたような、ずくりずくりと荒く重い痛みが呼吸ごとに駆け上がってくる。
無理やりにへし曲げられた左腕はポケモンに、対峙するルカリオにやられた傷ではない。
交戦のさなか、身一つで踏み込んできた灰髪、渡辺曜のその手で極められ、グキリと力任せに捻られての負傷。
あんじゅ(全く、全くもってふざけてる。この私がどうしてこんな目に!)
その思考はあんじゅが千歌へと上機嫌に語った狩られる側のそれなのだが、気付いていない。とにかく不愉快な痛みにそれどころではない。
深呼吸を一つ。
仮にもマフィア、アライズ団の三幹部が一柱。
腕を一本折られた程度、腹は立てど、動揺するほどヤワではない。
-
一旦、戦況を整理するべきだ。
とにかく得体の知れない相手、“曜ちゃん”とかいうイカれ女。
その行動パターンを理解する必要がある。
あんじゅ(あの忌々しいルカリオがアーマルドを倒したとこから開戦。
私はビークインに加えてビビヨンを展開、向こうはルカリオに加えてフローゼルを出した)
あんじゅ(この雨で素早さの上がったフローゼルがビークインに一撃…けれど私のビークインは鍛えられてる。返り討ちにしてあげたわ。
続けて出てきたのはペリッパー。これも問題なし。ビビヨンの“ぼうふう”で落としてやった)
そこまでを思い返し、あんじゅは小さく舌打ちを。
アーマルドが倒されたのは予想外とはいえ、ここまでの戦況は順調に推移していたのだ。
だが、ここからあんじゅの計算は狂い始めた。
あんじゅ(フローゼルとペリッパー、あの二匹はざっと見てレベル30前後。私の敵じゃない。
それが一体どういうことか…あのルカリオはどう低く見積もってもレベル50…いや、60オーバー!
それも、他の二体を私が倒している隙に抜け目なく“つるぎのまい”で攻撃力を上積みしていた…!)
直後、ルカリオは“しんそく”を発動させる。
まさに神速、目にも留まらぬスピードでビークインの防御網を突破して撃破。返す刃でビビヨンの懐へと潜り込み、続けて撃破してみせたのだ。
-
そうして三体が倒され、今に至る。
思い返してみても募る不審、あんじゅは内心に首を捻る。
エースを集中して育ててレベルを突出させるタイプのトレーナー、それ自体は珍しくない。
しかし、この渡辺曜とかいう少女のそれはあまりに歪。
エースのルカリオだけが他のポケモンの倍以上のレベル?構築としてありえない!
あんじゅ(………けれど、いいわ。向こうの手持ちはルカリオを含めて残り二匹。こっちはまだ三匹。それもこのとっておき、フェローチェがいる)
あんじゅの傍らでは美麗なる白細、フェローチェが指示を待つ。
このUB(ウルトラビースト)と類されるポケモン、数ヶ月前にアローラ地方に出現した異空間の生物なのだという。
伝聞調なのは、あんじゅ自身が捕まえたわけではないからだ。
アローラ地方にも中国資本は多数進出していて、複数体現れたUBのうち数体を国際警察が把握するよりも先に確保していた。
それが裏の人脈を巡り、高額での売買を経てツバサ率いるアライズ団へと渡ってきた。
そんなわけで、あんじゅはフェローチェを所持している。
しかしこのフェローチェ、どうにも気位が高い。
こちらの世界の存在する全てを汚らわしく感じているフシがあるようで、同様に気位の高いあんじゅとしては今一つソリの合わない部分がある。女王は並立しないものだ。
-
あんじゅ(まあ…戦ってくれるのなら文句は言わないけれど)
曜「ルカリオ、あの白いのは速そう。見極めに気をつけて」
『リオッ』
向かい合う曜は幽と佇み好機を窺っていて、隙など見せてやるものかとあんじゅは心中に中指を立てる。
鬱陶しく降り続く雨を右腕で拭い…仕掛けないのには理由がある。
フェローチェの強さは攻めに極振り。高速鋭撃、ながらに紙耐久。
並の敵ならいざ知らず、あのルカリオを相手に仕留められなければ返しの一言で落ちる可能性がある。でなくても縺れれば苦戦は免れない。
迂闊に仕掛けるのではなく、磐石のタイミングを狙うべきだとあんじゅは踏んでいる。
そんな敵を睨み据えながら、曜の意識は部屋の片隅…
気を失って倒れた千歌へと向けられている。
曜「ごめんね…」
小さな声で謝る。
千歌を気絶させたのはあんじゅではない、曜だ。
-
思い起こす…
千歌「曜ちゃんっ…!」
部屋に踏み込んだ曜へ、千歌は涙を流しながら駆け寄ってきた。
よほど怖かったのだろう、あるいは死も頭を過ぎったのかもしれない。
曜の腕の中に収まった千歌は、瘧のように体を震わせながら必死にしがみついてきた。
そんな幼馴染、想い人の香りが愛しくて胸が苦しくて、曜は共鳴するように肺を震わせ、深呼吸を一つ。
曜「もう大丈夫だよ、千歌ちゃん」
優しく囁き、隠し持っていたスタンガンを背から当てたのだ。
防犯用スタンガン、それを人体に後遺症を残さないギリギリまで高圧に改造した物だ。抱きしめた姿勢から押し当てれば何もわからないままに意識は飛ぶ。
糸の切れた人形のように力の抜けた千歌を壁際へと寝かせ、今に至る。
あんじゅ「それにしても、どうしてその子を気絶させたのかしらぁ?
そんな物騒なスタンガンなんて持っちゃって…フフ、いつか手篭めにする計画でもあったとか?」
-
フェローチェを臨戦に待機させたまま、あんじゅは嘲るような調子で曜へと尋ねかける。
与し難し。
そう見て、おそらくは曜の弱みである千歌について探りを入れ、あるいはそこに付け込もうという魂胆だ。
曜はそれを受けて表情を変えず、しかし無視するでもなく静かに応え。
曜「今の私の姿を、千歌ちゃんには見せたくないから」
あんじゅ「はぁ…?」
曜「血みどろで、汚れてて、大切な幼馴染に言えないような気持ちを抱いてて…お前を殺したいほど憎んでる。こんな私を千歌ちゃんには見せられない」
あんじゅ「少なくとも、自分がイカれてるって自覚はあるのねぇ…?
いいわ、ここで終わらせてあげる。あなた見た目は素敵だけれど、私のコレクションにジャンク品は必要ないの」
フェローチェが姿勢を低め、突撃体制へと移行する。
加速度は全てのポケモンで最速。
瞬時に到達する最高速は200キロオーバーだと、あんじゅはフェローチェの性能に関してそう聞いている。
実際に共に戦ってみて、それは決して誇張ではないと感じてもいる。
曜とルカリオは呼吸を沈め、眼光を燃やし…
先に仕掛けたのはあんじゅ!
あんじゅ「フェローチェ!“とびひざげり”!」
-
超加速!!!
フェローチェの踏み出し、瞬間吹き荒れる突風。
跳んだ白魔、その膝はまさに凶器と化して鋭利。
波動エネルギーを礎とした鋼質の皮膚を有するルカリオであれ、まともに受ければ一撃必倒は逃れえない。
だが曜とルカリオはあんじゅの指示と同時、前へと駆け出している。
人が直撃すれば即死を免れないフェローチェの鋭打、曜は躊躇なくその方向へと進み、かつ瞳を見開いている!
曜「ルカリオ、左。三番で受けて」
ごく端的な指示、それだけで曜とルカリオはそれぞれ左へとずれる。
直後、曜はフェローチェの突撃、その左脇を掠めて抜ける!
曜の指示で位置をずらしたルカリオは“とびひざげり”の直撃軌道、そこからわずかに外れた立ち位置にいる。…激突!!
あんじゅ「そ、そんな…!?」
肘と膝で挟み受け、ルカリオはフェローチェの“とびひざげり”を止めている!
あんじゅは驚きに声を漏らす。あの速度を見切った?まさか!
-
絶対的に確信していたフェローチェの速度を受けられ、あんじゅの思考に僅かな空白が生まれる。
その隙、曜は振り返ることなくルカリオへと指示を出している。
曜「“インファイト”」
『リオッッ!!!』
あんじゅ「……っ!ぐうっ!?」
曜「捕まえた…!」
ルカリオへとインファイトの指示を出すと同着、曜はあんじゅへと組み付いている。
全体重を乗せて飛びかかり、押し倒してマウントを取った状態。
こちらもまたインファイト、曜の瞳は爛々と怒りの火を燃やしている。
あんじゅ「この…!」
背を痛打した痛みに低く呻き、しかしあんじゅは怯んでいない。
フェローチェをルカリオに受けられたことに驚きこそしたが、思考は既に曜をどう振りほどくべきかへと移行している。
(どうすればいいか?そんなの簡単。嫌ってほど知ってるわ…経験上ね)
優木あんじゅは衣・食・住の万事において高価、上質を好む。それは貧民から悪の道を這い上がってきたからこその反動だ。
暴力にまみれ、力がなければ搾取され、そんな生涯を辿ってきたからこそ、血で血を洗う喧嘩には慣れている。
親指を立て、曜の左目へと目掛けて右腕を突き出す!
-
あんじゅ(どんな相手であれ目を狙われれば一瞬怯む!その隙を…)
曜「関係ない」
あんじゅ「がっ…!」
曜は目を瞑らない!
親指が瞼の中へ入ったのにも構わず、拳を真上から鉄槌めいて振り下ろす。
千歌の頬、殴打の痕とまるで同じ位置へと打擲を与え、さらにもう一撃を顔面へ!
あんじゅ「う、ぐっ…!この…!」
曜「街で言ったよね?千歌ちゃんに手を出したら潰すって」
あんじゅ「黙…あぐっ!」
曜「お前が黙れ」
三発、四発…
力加減など皆無、自分の拳が痛むのをまるで無視して殴り落とす打撃。
あんじゅの顔、殴られた箇所は内出血に青黒く腫れ、頬骨は恐らく折れている。
対する曜の顔は左目からの流血に赤く染まり、それでも表情に苦痛や畏れは宿らず、ただ優木あんじゅへの復讐心だけがドス暗く燻っている。
その様はまさに修羅めいていて、その鬼気は数々の死線を渡ってきたあんじゅに息を飲ませるほど。
-
すう…と、
連打の合間に息継ぎ一つ、曜はわずかに手を止める。
血混じりの唾を吐き捨て、あんじゅは曜へと問いかける。
あんじゅ「……あなた、恐怖心はないわけ?」
曜「恐怖ってさ、二種類あるらしいんだ」
あんじゅ「……」
曜「一つは先天的。人間が生物として元々持ってる危機回避本能、ってやつ。この部分はどうも壊れてるみたいなんだ、私。
小さい頃から飛び込みとかやってて、一度も怖いって思ったことがないから」
あんじゅ「……もう一つは?」
曜「後天的な恐怖。失敗したこと、上手くいかなかったことを通じて覚えていく恐怖の記憶。
でもね、私…やろうとしてできなかったことって、人生で一つもないんだよね」
あんじゅ「っ…」
曜「お喋りは終わりだよ。千歌ちゃんに触れた手は…千歌ちゃんを汚そうとしたのは、その右手だよね」
掴む。
片腕を肘の裏へと差し込んでテコに、もう片腕で全体重を乗せ、みし、みしと関節と靭帯が損なわれていく音が…!
あんじゅは叫ぶ!
あんじゅ「フェローチェ、“どくづき”!この女を殺しなさい!!」
-
来てた!!乙
陽ちゃんがとんでもないけど、本家よりタイプかも
ルカリオがメガか否か気になるところ
-
>>414
誤字
曜
-
曜とあんじゅが組み合う背後、格闘タイプ同士で行われていた激しい戦闘は紙一重の差でフェローチェの勝利に終わっていた。
あんじゅが曜へと問いかけたのはフェローチェがルカリオを倒しきるまでの時間稼ぎ。マウントを取って一心不乱に殴り続けていた曜には後背の決着は見えていないと踏んだのだ!
迫るフェローチェ、その手先は白液に包まれている。
白い樹液が往々にして毒性と言われるように、自然界における白は強毒を示す色でもある。
それを指先に纏わせての貫手、時速200キロで!仕留められないはずがない!!
あんじゅ「殺った!!」
……が、殺せず!
フェローチェが突き出した腕を、灰色の剛腕がはしと掴み止めている。
そのレベルはおそらく60前後、あんじゅは考え得る可能性の中で最悪の展開に、ぎりりと歯噛みをする。
あんじゅ「四天王、桜内梨子…!」
『カイリキィッ!!』
梨子「曜ちゃん!大丈夫!?」
曜「ああ。梨子ちゃんか…」
-
アローラ図鑑見てると、割と人間がポケモンに殺されたり被害を被ったりしてるのが分かるから、ダイレクトアタック有りの世界観だとくっそ殺伐としそう
そんな中で嬉しそうに筋肉を見せつけるマッシブーンや、メレシーを捕まえてただ見つめているガバイトの可愛さよ
-
救援がなければ曜は敗北していたかと言えば、そうではない。
フェローチェの刺突に合わせるように、背後へとドククラゲを展開していた。
守備的に育成されたドククラゲは現れると同時、曜の指示で対物理用の“バリアー”を展開させている。レベル差はあれ、“どくづき”の一撃には耐えてみせていただろう。
ただそれでも曜の手持ちは残り一体。
今の交撃の隙にあんじゅは曜の下から這って抜けていて、戦局は仕切り直し。
曜の手持ちは残りドククラゲのみ。
あんじゅはフェローチェと、他に二体。
そんな戦況と壁際で気を失っている千歌を併せて見て取り、梨子は曜へと歩み寄り、肩に手を掛け労おうと近付いていく。
梨子「曜ちゃん、お疲れさま…。あとは私が…」
曜「手を出すなッ!!!」
梨子「…っ!」
停電と雨空に薄暗い社屋、その闇絹を裂くような叫び声。
あんじゅに浴びせたいくつもの怒気より、梨子への警句はよほど鋭利だ。
梨子は思わずたじろぎ、無自覚に半歩身を引いている。
浴びせられた曜の眼光は無軌道な感情で濁りきっていて、それは怒りや悲しみ、あるいは…嫉妬だろうか。
-
汗と戦塵、血に乱れた自らの灰髪を鷲掴み、毛先のウェーブを強めるのようにワシャワシャと掻き乱す曜。
口元は譫言のように動かされていて、瞳は熱病に浮かされたように揺れている。
曜「私の役目だ…私の…!私だけの千歌ちゃん…!!」
梨子「……」
肌が粟立っている。
曜の鬼気迫る表情に、梨子は畏怖めいた感情を抱く自分に気が付いている。
この友人は、身の内に得体の知れない怪物を飼っている。
そしてきっとその煮え滾る感情の一部は、自分への拒絶として向けられている。
それは果たして、本当に友人と呼べるのだろうか。
しかし梨子は踏み出す。
臆さず…いや、少し臆しながら、それでも曜へと歩み寄ってその肩に手を掛けた。
梨子「ううん、手を出すよ。大切な友達が怪我をしてるんだから。
少なくとも、私にとっては曜ちゃんも千歌ちゃんも同じくらい大切」
曜「……っ、う…違う、違うんだ。ごめん梨子ちゃん、私も梨子ちゃんは大切な友達だと思ってて…でも、でも…!」
-
曜は狂気と正気の狭間、誠実な梨子の瞳に動揺を走らせる。
引っ越してきて知り合ったもう一人の友達。自分にないものをたくさん持っていて、女の子らしくて繊細で、少し怖がりで優しくて。
嫌いじゃない。嫌いな訳がない。
だけどあんじゅに襲われた危機の中、千歌が呼んだのは梨子の名前で、それを聞いてしまっていて…
曜(私の世界を奪わないで…)
声にならない嗚咽に呻き、よろめく曜。
恐怖を知らない少女にとってただ一つの恐怖、それは千歌を失うことであり、千歌が自分から離れていってしまうことだ。
それでも梨子は優しく声を掛けてくれていて、自分の燃えるような悋気が愚かしくて余計に辛い。
梨子「大丈夫だよ…落ち着いて。ひどい怪我…痛くないの?」
曜「……相手が強いのはわかってたから、事前にドククラゲの毒を薄めて注入して、麻酔みたいにしてきたんだ。痛みを感じないように」
梨子「……曜ちゃんは、もっと自分を大事にしなくちゃ駄目よ」
曜「………うん」
梨子「あとは私に任せて、ゆっくり休んでて…」
-
どこかぎこちない曜と梨子のやり取りを遠目に、あんじゅは考察を深めている。
不意打ちを掛けようにも梨子とカイリキーは共に隙がなく、無闇に突っ込ませたところで手札を無駄に消費してしまうだけだ。
故に考察を。
曜は何故フェローチェの初撃を見切れたのか。
曜は何故見ていない背後からの攻撃にドククラゲの展開を合わせられたのか。
あんじゅ(ようやく理解できた。私の目で見切ったのね…バケモノめ)
曜の目はポケモンではなく、指示を出すあんじゅの側を常に凝視していた。
それは激怒からの凝視だと思い込まされていたが、その実この少女は淡々とあんじゅの所作から次動を洞察、ごく早いタイミングでの対応を続けていたのだ。
恐怖を抱かず、刮目し続けるからこその見切り。やはり狂気めいていると評せざるを得ない。
しかしルカリオは倒した。
場に出ているドククラゲも耐久力はあれど、レベルはせいぜい30台そこそこ。
あんじゅ(実質、曜とかいうのは倒した。手負いのフェローチェと残り二体、それでどうにか桜内梨子を…!)
曜「いや…まだ、私は負けてないよ」
-
戦闘を引き継ぐという梨子の申し出を、曜は強くはない口調、しかし断固とした意思を感じさせる目で断った。
まさか、それは想定していなかった。あんじゅは驚きに眉を顰め、距離を保ったままに思わず尋ねかける。
あんじゅ「正真正銘、馬鹿なのかしら?イカれてるとは思っていたけれど、詰んだ勝負もわからないだなんて…」
曜「ドククラゲ、戻っててね」
あんじゅ「はぁ?残り一体をボールに戻してて …」
曜「誰も、手持ちがこれで終わりだなんて言ってない」
そう呟くと、おもむろに鞄から取り出したのはもう一つのボール。
腰に提げた四つ以外に、もう一つボールを隠し持っていたのだ、
これが正式なトレーナー戦であれば、互いの手持ちを確認してからの戦闘開始がマナーでありルール。
ホルダーにセットしたボール以外からポケモンを繰り出すことは許されない。
相手の戦略を崩して追加で一体という騙し討ちめいたことが可能になってしまうからだ。
しかし今はルール無用の野良試合、流血の殺し合い。隠していた一匹を繰り出すことに何の問題もなし。
曜はそのボールを手に…投げ放つ。
曜「頼むよ、カイリュー」
-
現れた竜体、600族の一角はルカリオを上回る高レベル。
烈風と雨に吹き付けられながら、その眼光で驚くあんじゅとフェローチェを射すくめている。
梨子(曜ちゃんはバッジ五つのトレーナー…というのは、本当は嘘。
嘘と言えば語弊があるけど、曜ちゃんは実力を隠してる。私はポケモン博士で事情通の真姫ちゃんからそれを聞いて知っている)
梨子(小さい頃から飛び込み競技のジュニア代表で海外遠征をすることが多かった曜ちゃんは、旅の寂しさを紛らわす友達としてポケモンを育てていた。
そして気まぐれに、各街のジムに挑戦していた。…たったそれだけ。そんな簡単な経緯で、集めた海外のバッジは八つ)
梨子(千歌ちゃんはそれを知らない。海外の事だから隠そうと思えば隠せるものね。
千歌ちゃんと一緒に、足並みを揃えて旅をしたいと願った曜ちゃんは育てたポケモンたちをボックスに預けた)
梨子(なにかあった時のためにルカリオだけを持ち歩いて、他のポケモンたちは一から育て直して。
ルカリオのことはお父さんから貰ったポケモンって説明していたみたい。だから、本来の曜ちゃんの姿は…)
曜「“げきりん”」
あんじゅ「………っ…!!」
-
カイリューの剛腕がフェローチェを叩き伏せた。
ビル床は粉々に砕け割れ、その一撃が驚異的な威力なのだと雄弁に物語っている。
死闘の中に底を見せていなかった。
血塗れで竜を従え、風雨にその鬼気が一層際立つ。
地上からは警察の強烈なサーチライトがタワーを照らし上げていて、差し込んだ強光が曜の姿をあんじゅから見て逆光に隠す。
曜「カイリュー…“げきりん”を」
梨子「!?待って曜ちゃん!まだポケモンを出してない…!」
曜「右腕に」
『ァァイ…リュウッッ!!!』
あんじゅ「……ッッ!あ゛あああああっっ!!!」
潰れている。
UBフェローチェを打倒してみせる竜の一撃を、曜は人間の、あんじゅの右腕へと目がけて振り下ろさせたのだ。
それは初対面、街での宣言通り。
曜は静かに指を掲げ、あんじゅに訓示めいて指し示す。
あんじゅ「嫌…私の腕が…っ、そんな、痛い…痛い…!そんな…!」
曜「“潰した”」
あんじゅ「ひ…っ…!」
-
黒影に包まれた曜の姿…
その目だけが爛々と輝いていて、それは絶対的な威圧と暴威を宿していて。
あんじゅはごく幼い頃、怯えて耐えるしかなかった自分の無力を垣間、思い出す。
思わず漏れた小さな悲鳴…
それを心底から恥じるように、あんじゅは自らの唇の端を噛み切って立つ!
あんじゅ「何を…怯えているの、優木あんじゅ…!私は!!もう過去の、弱い私じゃない!!!」
へし折られた左腕を気合いで動かし、掴むは残るボールの一つ。
激痛に溢れる涙を呻いて堪え、力任せにボールを叩きつける!!
あんじゅ「目にモノ見せるわよ…!サザンドラ…!!」
梨子「サザンドラ!?虫タイプ専門のトレーナーじゃ…!」
あんじゅ「誰もそんなことを言った覚えはないわ…!私は好きなポケモンを好きなように使う!それだけよ!」
曜「関係ないよ、何だって。まだ悪あがきするなら、脚まで潰さなきゃ」
と、壁際…動く気配。
曜が顔を向けると…
千歌「曜、ちゃん…?」
目を覚ました千歌が、引きつった表情で曜を見つめている。
曜「千歌、ちゃん…!?」
-
伊波; ;
-
どうして目を覚まして?
あの電圧でこんなにすぐ目を覚ますはずは
千歌ちゃん
雨…吹き込んでる雨!
顔が濡れて
それより戦場、音も震動も普通の場所とは違うんだ!
風も吹いて寒くて
なんでそれを計算に入れなかった
無事に目を覚ましてくれてよかった
そんなところにいたら雨で風邪を引くよ
いや、そんなことより
曜(見ら、れた…!)
千歌「曜ちゃん…!曜ちゃん!大怪我してるの…!?」
曜「だ、駄目だよ…見ないで。千歌ちゃん、見ないで…!」
千歌「ごめん曜ちゃん…私のせいだ…私が弱いせいだ…!!」
梨子「千歌ちゃん!曜ちゃん!今は話よりも敵を!」
あんじゅ「まさか千歌ちゃん…あなたに助けられるなんてね。サザンドラ、“りゅうせいぐん”」
梨子「っ…!」
逆曲がった左腕を高らかに掲げ、あんじゅが命じたのはドラゴンタイプの奥義、“りゅうせいぐん”。
読んで名の通り、竜の咆哮が天から無数の隕石を、流星群を呼び寄せるのだ。
三つ首の邪竜サザンドラは主人の危機を見て取り、その命に全霊を賭けた一撃を。
猛然と降り注ぐ星々がオハラタワーの側面へと突き刺さり…
梨子「………逃した、わね」
カイリキーに加え、梨子が素早く展開したキテルグマとバシャーモの二体が竜の狂乱から梨子たちを守っていた。
縦横に大きくこそぎ落とされたフロアに立ち尽くし、梨子はサザンドラの飛び去った夜空を見上げる。
振り返れば、曜は自らの狂気を、自らの秘密であるカイリューを千歌に見られた絶望と混乱にうずくまっていて自失。
千歌は未だはっきりとしない意識のまま、自らの無力が曜を傷つけたことを嘆いている。
ひどく不安定な状態、親友たちをいたわしげに見つめ…
梨子は二人の肩を抱きしめ、少しでも傷を癒せるようにと呟いた。
梨子「千歌ちゃん、曜ちゃん…お疲れさま…」
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今日はここまでで
明日も更新するよ
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乙
曜ちゃんがアニメのの何倍も何十倍もハイスペックで病んでてやべぇ
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乙乙
曜ちゃんスペック高すぎませんかね…
海未ちゃんより絶対リアルファイト強いでしょ
下手したらポケモンより強いで
しかも普通にあんじゅより強者だし
あと梨子ちゃんにキテルグマはぴったりだと思います
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ちょっとくらい趣味趣向が歪でもなんだかんだ常識人な梨子ちゃんまじえんじぇー
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乙です。
あんじゅの扱いがどんどん可哀想な方向に…
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乙です。人間の腕に躊躇なくげきりんをかます曜ちゃん…先が心配…
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あんじゅさんは覚醒すると信じているがゲスすぎて覚醒しないほうがいいとも思っている
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>>433
悪党にはかいこうせん撃ち込むチャンピオンもいるし(震え声)
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曜が「私が弱いせいで千歌ちゃんが離れて行っちゃうんだ……」的な展開かと思ったら超強かった
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そう考えると人間に破壊光線ぶっぱなしたワタルさんやべぇな
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セイントスノーが捕まったのは私用の指示したあんじゅのせいだしその上負けて帰ってくるし責任やばそう
任務を果たしてればセーフかな
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何気に時系列はアローラの後なんだな
ラブライブSSとしてもポケモンSSとしても最高に面白い
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ようそろやべぇな…
壁ドンやら犬嫌いやらのアニメ設定と
元々の正統派美少女な梨子が良い具合に混ざってて好き
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あんじゅちゃん悲惨な幼少期送ってそうね
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一日中読みたいからもう仕事やめてくれ
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乙
ほんと最高
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ハンサム達より先にフェローチェ捕まえてもまだアローラに4匹も残ってたとかさすが白ゴキ
1匹見たら100匹はいると思わないと
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ウツロイドとかもゲーム本編でウルトラスペースん中にウジャウジャいたしな
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ハンサム達が発見したUBは他に狩られた後の残骸説
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残骸(6V)
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今日も楽しみ
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…
衝突、打音。衝撃!
突き出される拳を掌打が払い、巻き込むような蹴りもまた同様に打撃が払う。
飛沫!水柱が高々と立ち上り、その中からクルクルと華麗にバック転、ゲコガシラがコジョンドとの距離を離す。
海未「ゲコガシラ!“みずのはどう”!」
ツバサ「避けときなさい、コジョンド」
低空、身を捻ったサイドスローから投擲される水弾。コジョンドは指示通り、軽やかなステップでそれを回避してみせる。
繰り広げられているのは体術メインの凄まじい高速戦。地下研究棟の戦いは既に始まっている!
ゲコガシラとコジョンド、その交戦は人の目では捕捉に苦労するほどの目まぐるしさ。
しかし海未とツバサ、それをはっきりと視認できる者の目には、二体の力量差は歴然としている。
海未(厳しいですか、ゲコガシラ?しかし…私たちはそれでも勝たねばならない!)
(ゲコッ!)
-
再びの近接、海未から飛ぶ指示。
ゲコガシラは身を沈め、コジョンドの隙を縫うように背を地へと滑らせる。
そしてそのまま背筋を頼み、ブレイクダンスめいた体制での高速回転蹴りへと移行する!
海未「“でんこうせっか”です!」
ツバサ「面白い、けれど曲芸ね。“はたきおとす”!」
コジョンドは眼光刹那、だらりと伸びた腕の体毛を恐るべき速度でしならせる。
縦振りでの打擲、鞭打にも似た一撃は音速を超え、ゲコガシラの蹴撃を上から殴りつけて静止!
ゲコガシラの青い体が研究室の床へと打ち付けられる!
『ゲコオッ…!!』
海未「ゲコガシラ!大丈夫ですか!?」
ツバサ「アナタも余所見をしてる暇はないわよ」
海未「━━ッ!」
ツバサが海未を間合いへ捉えている!
海未(…が、好機!)
そこは無論、海未の間合いでもある。
親指以外の四指を折り、親指は横で曲げて添え、するりと流体の所作から放つは平拳!
-
園田流はトレーナー道、ながらに日本武術をも総じて修めている。
カウンタータイミングで突き出された拳がツバサの首下、胸骨へと向かっている。
鍛え上げられた拳は凶器、海未に躊躇は既になし。呼吸器系を損壊せしめる一打が伸びる!
が、しかしツバサはそれを受ける!
左右の手で交互、挟むように叩いて海未の打撃を殺すと、目にも留まらぬ高速連打が海未の上体へと叩き込まれていく。そして蹴り!!
連打を受けて後背へと転がる海未へ、蹴りの姿勢から立ちへと再移行。
ロングコートの裾を翻しながら、ツバサは浅く笑いかける。
海未「ぐっ、う…!(強い…!)」
ツバサ「あら、ギリギリで身を引いて致命傷を避けたのね。やるじゃない」
海未「その速度…、詠春拳、でしょうか?」
ツバサ「我流よ。八極拳とか諸々…あと、格好いいから截拳道をミックスで」
海未「……適当な…」
よろめく海未の元へ、ゲコガシラも同様に吹き飛ばされて転がってくる。
切り返すように身を捻り、すかさず体勢を整えて臨戦。未だ戦意は失われていない。
しかしその身には軽くないダメージが刻まれていて、このまま無策に戦わせても勝ち目はないことがありありと見えている。
海未(策を…タイミングを見計らわなければ!)
-
そうして海未をあしらいながら、ツバサは横目に離れた位置、台座に眠るミュウツークローンのボールを見やる。
そしてさらに横目、もう片方の戦闘へと気を向ける。
そこで戦うのはガブリアス、対するはドラミドロとチルタリス。そしてトレーナー南ことり!
ツバサ(へえ、粘られてる。やるじゃない?)
南ことり、ダイイチシティでツバサが直々にイーブイを奪い取った少女。絶望に瞳を染めたその姿はツバサの記憶にもはっきりと残っている。
ふわふわとした印象だったその少女がドラゴンタイプ、ドラミドロを伴って現れた姿は凄絶な雰囲気を漂わせていた。
(正直、シビれるわね。好きよ、そういうの)とはツバサ。
そんなことりはさらにチルタリスを繰り出し、竜族を専門とするトレーナーとして歩み出した…否、既に道を歩んでいるのだと示してみせる。
ことり「ドラミドロ、“ヘドロウェーブ”」
ことりは従えるドラミドロの毒液、コンクリートを腐食、溶解させるだけの強毒をツバサへと目がけて解き放つことを躊躇わなかった。
ト、ト、と後歩。
ツバサの回避は危なげないが、しかし躱したことでツバサはミュウツークローンとの距離を離されてしまった。
そこで海未とゲコガシラが挑みかかってきたのを迎え撃ち、ガブリアスをことりの方へと差し向けて今に至る。
-
地下研究棟の堅牢な警備を前に、圧倒的蹂躙を為してみせたツバサのガブリアス。
しかし見るに、ことりは猛然の攻勢を受け流すような戦術を見せている。
『ガブァァ…リアッ!!!』
ことり「“げきりん”…チルタリス、“コットンガード”で受けてね」
『チルルゥ』
ことり「ドラミドロは距離を取りながら、“ねっとう”をおねがい」
『ドルァッ!!』
枯木にも似た体、細身の竜口から煮え滾る熱湯が放出される。
ガブリアスは高速でそれを避けるも、高温の飛沫が少量跳ねかかるのは免れていない。
ツバサ(私のガブリアスとはまだレベル差がある。易々とは落ちない。けれど、“ねっとう”でヤケドを負わされている。火力が落ちてるわね)
強靭かつ無敵のガブリアスもトレーナーの指示あってこそ。
食らいついてくる海未と遅々とした防御型戦術のことり、二人を両面で相手にしつつの戦いは、ツバサにも少々の厄介さを感じさせている。
-
ツバサ(南ことりは、なんかこう戦い方が…ねっとりしてるのよね。面倒臭い。ガブリアスの方に指示出してあげるべきかしら?
けど園田海未も何かを狙っている雰囲気があって…っと!)
ツバサの思考の隙を縫い、海未が駆け出している!
その脚はツバサへと向いておらず、横、斜めへの疾走。
海未の目が捉えているのは台座に置かれたミュウツークローン!
海未(戦局の打開…そのためには貴女の狙いを、先んじて私が奪う。
もちろんこの局面を乗り切ればオハラへと返します。これが最善!)
ツバサ「悪くない発想ね。けれど私に脇腹を見せて無事で済むと?」
ツバサは懐へと手を。抜き放つは拳銃!
手慣れた流れで素早く構え、海未へと照準を合わせて引き金を…
ことり「ドラミドロ、“ヘドロウェーブ”を…海未ちゃんに」
『ドルァッッ!!!』
海未「な、…!?」
飛び退く!!
濃紫の怪液が飛散し、海未の行く手を強毒が遮った。
ジュウ、と不気味な音を泡立てながら床は腐食。とっさに背後に飛び下がっていなければあるいは、海未も…!
-
海未「………っ、ことり…!」
ことり「注意はしてたよね…海未ちゃん。ことりの邪魔をするなら、海未ちゃんでも倒しちゃうって」
海未「……貴女の目的とは、親友を殺めてまで成さなければならないものなのですか」
ことり「私はね…もう、何も失くしたくないんだ…。そのためには力が…たくさんの力がいるの」
海未「問いへの答えになっていませんよ、ことり。今の貴女には…私の言葉は届かないのですか?」
ことり「そのためにはね、そのボールの中身が必要なの」
海未「ふざけないでください…姿を晦まして、連絡もよこさず…!穂乃果や、真姫が…私が!!どれだけ心配したか!!!」
ことり「もう一回言うね?邪魔しないで、海未ちゃん。おねがい」
海未「どうやら何を言っても無駄のようです。穂乃果はともかく、貴女に手を挙げたことはありませんが…叩き直してあげますよ!!その捻じ曲がってしまった性根を!!!」
ツバサ「あら、バトルロイヤル?それは楽しいわね。こっちに戻りなさい、ガブリアス」
くすりと怪笑、ツバサの両隣にガブリアスとコジョンドが並び立つ。
闘争、騒乱を好む気性、ツバサの心はお互いを大切に思い合っているはずの幼馴染たちの激しく深い仲違いを目の前に、さながらヒーローショーの開演を前にした少年のように浮き立っている。
ことりの手出しはドラミドロとチルタリスのまま。
海未はゲコガシラに加え、ボールからヒノヤコマを開放し…“あらぬ指示”を出す。
海未「今です、“かげぬい”」
-
ツバサ「影縫い?何を…、っ!?コジョンド!?」
突き飛ばされ、よろめく。
ツバサは突如、背後からコジョンドに押されたのだ。
何故?まるで理解が追いつかず、ツバサの声に初めての狼狽の色が混じる。
振り向けば…コジョンドの足元、その影へ。
つい今しがたまでツバサが立っていたその位置へ、数本の矢羽が突き刺さっている!!
ゲコガシラとの交戦に、少量のダメージを負わされていた。
そこへ放たれた影の矢は覿面の効力を!
ツバサを庇ったコジョンドは十分な回避を取り得ず、会心の一撃とでも呼ぶべきダメージをその細身へと刻み込んだのだ!
コジョンドは横目、主人の無事を確かめ、瞳に安堵の色を浮かべ…
ぐらり、前に傾いでそのまま倒れ伏した。
それは打倒。打倒…!
綺羅ツバサが所持するレギュラーパーティの一角を、完全な形での打倒!!
一体だ。しかしそれは大きな一歩。
悪の首魁、綺羅ツバサへ、自分たちは抗い得るのだと示してみせる大きな足跡!
海未は冷静の仮面をかなぐり捨て、片腕に力を込めて握りしめる。そして声を!
海未「やりました…やりましたよ!ジュナイパー!それに…ことり!!」
ことり「うん…やったね、海未ちゃん。それに、ジュナイパーも…♪」
『ポロロゥ!!』
-
状況…
つまるところ、コジョンドは攻撃からツバサを庇ったのだ。
どこから?誰からの攻撃を?
ツバサの理解は早い。
ガブリアスがツバサを守り立ち、今が好機とばかり殺到する攻撃からツバサを守っている。
その背後、百戦錬磨の瞳は、その経験値をも凌駕した海未の…そして、ことりの戦術を把握した。
つまり、園田海未と南ことりは連携していたのだ!
ツバサ「ジュナイパー…くさ・ゴーストタイプの狙撃手を、部屋の影に沈めて潜ませていたのね」
海未「私は貴女から見て遥か格下。それが何の策もなく、この部屋へと踏み込むわけにはいかない。ですので、事前に開放して忍ばせていたのです」
ツバサ「そして私の隙を狙っていた…けれど、いつ?南ことり、アナタはいつ海未の仕込みを理解して、私を欺くために喧嘩の真似を?」
ことり「仕込みを理解…は、してません。だけどここに入ってきて、目を合わせた瞬間わかったの。海未ちゃんには何か策があるって。女の勘かな?うふふ」
海未「自慢ではありませんが、私の隠し事がことりに見抜かれなかったことは一度もありません!」
ことり「だから、あとはお互いアドリブ。綺羅ツバサ、あなたを油断させるためにはどうすればいいか、お互いに考えて動いて、即興で合わせた。それだけなの」
ツバサ「即興…まさか」
海未「舐めないでもらいましょう。私たちの…オトノキタウンの絆を!!」
ツバサ「………全く、楽しませてくれるわね」
不敵。
ツバサの口元には笑みが張り付いている。
-
海未「ゲコガシラ!“えんまく”!」
ことり「チルタリス、煙幕の中から“りゅうのいぶき”っ!」
海未「ジュナイパー!“みだれづき”で間隙をフォローしてください!」
ことり「ドラミドロは“どくどく”。ガブリアスを自由にさせないように、海未ちゃんたちのサポートっ」
海未「ヒノヤコマはチャージが終わり次第、“かまいたち”を放ってください!」
ここが好機、その見解は海未とことりに同一。
対立の真似が完全なる虚構だと顕示するような磐石の連携がツバサを襲う。
対し、ガブリアス。
主人を守るように仁王立ち、攻撃を捌き、流し、受ける様はさながら弁慶か。
しかし倒れる気配は未だ見せず、その遥か高レベルの実力をこれ以上ないほどに…
『ッ、ガブ…!』
海未「揺らいだ!」
ことり「今っ…!集中攻撃しちゃえ!」
ツバサ「ごめんガブリアス、少し考え事してたわ。“ストーンエッジ”」
『ブリアスッッッ!!!』
ことり「っ…」
-
ツバサの指示に従い、ガブリアスが殴りつけた床が隆起して岩牙を成す。
それを防壁に、トドメとばかりに海未とことりが重ねた一斉射を防ぎきる。
岩壁が砕け…パチ、パチと二度だけ、ツバサは両手を打ち合わせた。
それは拍手か、あるいは仕切り直しの合図だろうか。
ツバサ「正直…侮っていた。あなたたちの事を」
海未「それは結構、そのまま侮っていてください。その間に倒しますので」
ツバサ「けれど間違いだった。流石はオトノキタウンのトレーナーね。代々アキバ地方で有名なトレーナーを輩出してるだけはある」
ことり「綺羅ツバサ…イーブイさんを、私のイーブイを返してください!」
ツバサ「ダメダメ。ただいまアジトで絶賛育成中なんだから」
ことり「っ…イーブイ…」
海未「ならばここで、痛め付けてアジトの場所を吐かせるまで。そのガブリアスの体力も風前の灯火。こちらはまだ一体も倒れていません!」
海未の力強い宣言にことりが並び立つ。
海未、ことり共に未だ展開していないボールもある。
その中身のレベルはともかくとして、ツバサの数的不利は明らかだ。
しかしツバサ、海未とことりの力量を把握し、認め、それでもなお泰然自若は崩れない。
腰のボールの一つを手に取り…ツバサは軽やかに言い放つ。
ツバサ「ゲームをしましょう。今から繰り出すポケモン、この子と、フラついてるガブリアス。二匹を倒せたら、私は残りのボールを使わない」
-
ツバサは片手をぶらり、そんな提案を。
その意図がまるでわからず、海未は怪訝に薄く疑問符を漏らす。
海未「……?」
ツバサ「煮るなり焼くなりご自由に。警察に突き出されても抵抗しないし、知りたければアジトだって教えるわ」
ことり「……な、何か企んでるの…?」
ツバサ「全然。ただ、ちょっと悔しくて。私の油断のせいでコジョンドが倒されて、ガブリアスもボロボロ。だからさしずめ…腹いせかしら?」
海未「……その一体が貴女の手持ちである以上、こちらとしてはそもそも倒さなければならない相手。
ゲームとやらに取り合うつもりはありませんが、降参するならどうぞご自由に」
ことり「そうだよね…うん、私たちは倒すだけ」
海未とことりは共に身構え、一体何が出るのかと息を飲む。
ツバサはフフと微笑み、ボールの開閉スイッチを押す。そして現れたポケモンは…
ツバサ「出ておいで、ベラップ」
『ベラップ♪』
海未「………ん?ベラップ、ですか?」
ことり(……か、かわいいっ)
-
うわあ…
-
い...意味がわからない...
-
ぺラップじゃね
-
>>463
今の今までベラップだと思ってた…ありがとう
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>>464
(ニックネームかとおもってた…)
-
おんぷポケモン・ペラップ。
タイプはありがちなノーマル・ひこう。
鳥のインコによく似た、これといって強力というわけでもないポケモンだ。
決して侮るべきではないが、少なくともガブリアスに比べれば戦闘向きではない。
ましてや、悪の首魁の手持ちとしては見劣りするポケモンかもしれない。
そんなペラップはツバサのすぐそばをパタパタと舞い、愛嬌のある鳴き声を響かせている。
海未(少々拍子抜けしましたが…ポケモンであることに間違いはなし。仕留めてみせる、それだけです!)
ことり「…海未ちゃん、ことりから仕掛けるね」
連携のため、まずは声を掛けて確認を。
海未が頷き準備は万端、先陣を切るべくことりが声を上げる!
ことり「ドラミドロ、
ことり『ドラミドロ、“ヘドロウェーブ”を…海未ちゃんに』
『ドルァッッ!!!』
海未「な…」
ことり「え…っ?」
間近、指示を受けたドラミドロは迷わず海未へと毒液を浴びせかける。
神経を張り詰めさせている海未も、まるで警戒していない方向からの攻撃には対応が遅れる。
石床を溶かし切る毒液が海未の頭上から降り注ぎ…!
-
ペラップか...あいつばくおんぱとかあるしうたうとかおしゃべりみたいな嫌がらせなのもそろってるからな...
-
某決勝戦を彷彿とさせることうみエセ喧嘩
-
『ポロっ!!ロロ…ゥ!』
海未「じゅ、ジュナイパー!私を庇って…すみません!」
ことり「こ、ことりは指示を出してないのに…!?っ、海未ちゃん!ガブリアスが来てる!」
倒されたジュナイパー、混迷する思考。
ことりと海未は共に理解が追いつかないまま、猛然と来襲するガブリアスを迎え撃たなければならない!
ツバサ「ガブリアス、“ストーンエッジ”」
海未『ゲコガシラ!“えんまく”!』
『ゲロロッ!!』
海未「煙幕!?違いますゲコガシラ!それは私の指示ではありません!」
海未の訂正は間に合わない。
ガブリアスは眼前、ゲコガシラは忍術めいて煙を展開するも、そのまま岩の刃に突き上げられて昏倒する。ここまで接近されてから目眩しをしたところで無意味!
と、ことりが声を上げる!
ことり「う、海未ちゃん!あのペラップが私と海未ちゃんの声を真似してる!」
海未「な…!?」
海未『ヒノヤコマはチャージが終わり次第、“かまいたち”を放ってください!』
海未「駄目ですヒノヤコマ!隙のある“かまいたち”は…!」
『ガブァッ!!!!』
-
これはエグい
-
一閃。
ガブリアスの腕刃が薙ぎ、ヒノヤコマの体が床へと叩きつけられる。
狼狽する海未、ことりは体制を立て直すべくチルタリスを防御役に立てようと前へ。
ことり「チルタリスお願い!みんなを守っ…」
ツバサ「ペラップ、“おしゃべり”」
『ペララララララァップ!!』
『チルっ……!??』
ことり「あっチルタリス!そっちを向いたら駄目…!」
ツバサ「ガブリアス、“げきりん”」
重轟が地下室を揺らす。
やけどに力を減じていても、それでも恐るべきはガブリアスの剛腕。
タイプ相性も相まって、高い物理体制を誇るチルタリスが一撃で沈む!!
チルタリスがその動きを乱されたのはペラップの“おしゃべり”による撹乱。
特殊な音波でけたたましく鳴き喚き、ポケモンの思考を揺さぶり確実な混乱を招くのだ!
そしてガブリアスのヒレが振り上げられ、斧めいてことりへと振り下ろされる!!
ことり「きゃあああっ!!」
海未「くっ…!」
間一髪、海未はことりを抱えて横へ飛びのいて回避。致死の一撃こそ免れたが…
ほんのわずかな時間、手負いのガブリアスとペラップ。
その二体に海未とことりのパーティは半壊へと追い込まれている!
-
海未はキルリアをボールから出し、生き残っているドラミドロが海未とことりを守る位置で立ちはだかる。
圧倒的劣勢!このまま攻勢を掛けられれば勝負どころか、命さえ危うい状況だ。
海未(せめて…せめてことりだけでも助ける方法は…!)
だが。
ツバサ「ガブリアス、ストップ」
ツバサは楽しげに笑んでガブリアスを制止する。
鮫竜は踵を返し、ツバサの傍らへと引き返していく。
バクバクと脈打つ心臓、抱きしめたことりの体からも同じように、荒い心音が伝わってくる。
耳元で吐息は乱れ、じとついた汗は自分の手汗かことりの冷や汗か、定かでない。
海未(一撃を躱し、床に倒れた姿勢…今攻撃をされていたら…!)
ことり(ことりも海未ちゃんも、確実に死んでた…)
ツバサ「……と、まあ、こんな感じ。賢いでしょ?このペラップ。
ボールの中でじーっと会話を聞いててね。私が指示した通りのセリフを同じ声で再生してくれるの」
悠然とツバサは歩み、そして台座に置かれたミュウツークローンのボールを手に取った。
ポン、と手慰みに放り上げて掴み、おもむろに腰のホルダーへと収めて笑う。
ツバサ「ミュウツークローン、この綺羅ツバサが頂いたわ」
-
ギリ…と、海未は歯噛みを。
オハラの秘密、ミュウツークローン。
それを奪われたことより、紙一重で永らえたことより、近付いたと思った相手との間にまだこれほどの差が残されていたことが悔しくてならない。
それもガブリアスやコジョンドのような戦闘向けのポケモンではなく、ペラップに敗れて!
海未「目的を遂げた今、我々にはトドメを刺す価値さえない…と?」
ツバサ「ああ、勘違いしないでね。もうアナタたち二人を舐めてはいないし、情けをかけたわけでもない。
いくら私でも、並んだジムリーダー御一行とポケモン博士様を相手取るのは面倒ってだけ」
ことり「あっ…真姫ちゃん!」
部屋の入り口には真姫、そして花丸の父や善子の母らジムリーダー数人の姿が。
立場のある彼らにはアライズ団の行いの数々は伝わっていて、さらにパーティー会場での暴虐を乗り越えたばかり。皆一様に目に怒りを燃やしている。
その先頭、真姫の瞳に宿った怒りはとりわけ深い。
穂乃果、海未、ことり。
同じオトノキタウン出身、一つ年上の大好きな友人たち。
その旅路を血で彩ったことが腹立たしくてたまらない!!
真姫「綺羅ツバサ…!逃がさないわ!」
ツバサ「若き天才様はご立腹みたいね?フフ、とても怖い」
真姫「色々機材はあるけど、パパが弁償するから構わないわ…シャンデラ!まとめて焼き払いなさい!!“オーバー…
ツバサ「おっと、それはさせない。ペラップ、“ばくおんぱ”」
大爆音!!!!!!
ペラップの小柄な体から発されたとはとても思えない音の爆轟が部屋を満たし、海未やことり、真姫にジムリーダーたちの鼓膜を痛めつけて床に薙ぎ倒す。
ゴーストタイプのシャンデラは影響を受けていないが、真姫の指示が途中で途切れてしまったので動けずにいる。
その音波は指向性、ツバサとガブリアスには影響を及ぼしていない。
鮫竜の背に手を掛け、ツバサは床に伏した海未とことりへと声を掛ける。
ツバサ「また会いましょう、オトノキタウンのトレーナー。アナタたちの存在…悪くない暇潰しになりそう」
ガブリアスは咆哮。
潜行にも最適化されたその体で猛然と跳ね、フロアを上へ突き破っていく。
その速度は恐ろしいほどに速く、ジムリーダーたちも追走を諦めざるを得ない。
綺羅ツバサはミュウツークローンを奪取し、その目的を遂げた。
海未はその背、掘削の痕跡を見上げ…
強く、拳で床を叩き付けた。
海未「またしても……完敗ですっ……!!」
-
…
真姫「色々聞きたいことも、言いたいこともあるけど…ことり、無事でよかったわ。本当に」
短く、万感の思いを込めて。
それだけを告げ、真姫はジムリーダーたちと諸々の連絡に追われている。
そんな背中を(立派なものですね…)と見ながら、海未はことりと肩を並べている。
間近で爆音波を受けて鼓膜を破かれたが、ジムリーダーの一人が所持している治癒能力のあるポケモンの応酬処置でそれなりの聴力は戻っている。
それでも曰く、完全に戻るまでは一週間ほどを要するらしいが。
まだ、自分は無力だ。
見せつけられた実力差、奇策を弄して一体を倒し、それでもなお圧倒されてしまった。
無念に肩を落とす海未。その肩をちょんちょん、とことりの指が叩く。
ことり「………」
海未「………(なんです?あ、お互い耳がやられてるので聞こえませんね…)」
お互いに口をパクパクと、無駄に気付いて交わす苦笑い。
さっきの真姫の声もことりにはちゃんと聞こえていなかった。
少し不機嫌そうに、目の端に涙を滲ませた表情でおおよその感情は伝わっているが。
さて、ことりの意思を読み取るにはどうしたものかと首を傾げ、そんな海未の耳元へ“ふうっ”と息が吹きかけられる。
-
海未(ひいっ!?)
ことり(うふふ…)
海未(や、やめてください!破廉恥ですよ!)
ことり(こうやってヒソヒソ話みたいに口を近づけたら、聞こえるね。声♪)
海未(む、むむ。なにやら恥ずかしいですが…今は仕方ありませんね…)
くすくすと笑うことりにペースを乱され、そんな状況に海未はこの上ない安らぎを覚える。
ああ、ここが私の正しい居場所だと。
大切な幼馴染、ことりにからかわれ、あとは穂乃果も一緒にいれば。
そんな海未の横顔を愛しげに見つめ、ことりはもう一度海未へと囁く。
ことり(強くなったね…海未ちゃん。かっこよかったよ)
海未(………変化の度合いで言えば、貴女の方がよっぽどでしょう、ことり。連れているポケモンもなにやらやたらと高レベルなようですし…)
ことり(あ、このドラミドロさんは他のトレーナーさんと交換で手に入れたんだ。だから成長が早いの♪)
海未(ははぁ、交換で。昔からちゃっかりしていますからね、ことりは。ふふ…)
-
コッティーが暗黒面に堕ちたわけではなくて一安心
-
笑みを交わし合い、ふとことりは表情に陰りを見せる。
その横顔は寂しげで、海未と同じことを考えているのだとすぐにわかる。
海未(早く穂乃果も一緒に…三人で、ゆっくりしたいですね)
ことり(うん…ことりも穂乃果ちゃんに会いたい。穂乃果ちゃん分が不足してるのを感じるの。このままじゃしわくちゃのお婆さんになっちゃう…)
海未(ふふ、それは大変です。早く穂乃果を引っ張ってこなければ)
ことり(穂乃果ちゃんの食べ残しが食べたい…穂乃果ちゃんのお風呂の残り湯に浸かりたいよぉ…ハノケチェン…)
海未(ちょっと何を言っているのかわかりませんね)
そんなとりとめもない会話、二人は自然と肩を寄せ合っている。
ことりはおもむろに腰のボール、戦闘に出さなかった一つを手に取った。
何気ない興味から、海未はその中身が気になり尋ねかける。
海未(そういえば、ことりは他に何のポケモンを連れているのです?ドラミドロやら、趣味が変わっていたようでしたが…)
ことり(ううん、この子は…ことりが捨てられてない甘さかな)
海未(……?)
ことり(ううん、何でもないの。ねえ海未ちゃん、ちょっとこの子を抱きしめてあげてくれる?)
ボフ。とボールから現れたのはふわふわでもこもこ、わたげポケモンのメリープだ。
羊のような外見、そのタイプはでんきのみ。ドラゴンタイプではない。
ことりらしい愛くるしいポケモンだ。
そのことに海未は安堵し、嬉しくてたまらなくて、ことりに請われるままに満面の笑みでメリープを抱きしめた。
━━━バチン!
視界が明滅する。
痺れ、体が言うことを聞かない。
抱きしめたメリープから、ことりから、“でんじは”を浴びせられたのだと気付くまでに数秒を要した。
ことりは愛しげに、海未の頬をそっと撫で…床へと優しく寝かせて立ち上がる。
ことり(ごめんね…)
間近にいたジムリーダーへ、海未は疲れているようだから起こさないでと、そんな台詞を告げて部屋から出ていく。
ボールの開閉音。廊下の影、治療を受けたチルタリスの羽が散っている。
そして、ことりがどこかへと羽ばたいていく音だけが耳に残り…
海未(こと、り……)
海未の世界は暗転した。
-
…
穂乃果「ぜえっ…ぜえっ!?ぐはっ…うぐ、ひぃ…!」
ガランと無人のオハラタワー、その中程より少し下の階。
情けなく響く、なんとも悲惨な声は穂乃果のものだ。
鹿角姉妹との戦いを制し、このままの勢いで!
そう息巻いて上を目指したまでは良かった。
だがその勢いもエレベーターが停止していて階段を使わなくてはならないと気付いた瞬間から急降下。
戦音に響き、揺れるオハラタワーをただ一人で延々と登り続けるというまさに苦行!
穂乃果の心は今にも折れそうに揺らいでいる。
穂乃果「も、もう…やめ、とこうかな…!?」
『リザァ』
穂乃果「呆れ、た…ように…見られてもさあ!たっ、多分これ上で戦ってるの…うみちゃんでも、ことりちゃんでもないよ!」
『グルル…』
穂乃果「だよね?なんか震動とか凄すぎるし、海未ちゃんとことりちゃんでもいくらなんでもここまで強くなってはない…はず」
自信なさげに語尾が揺れる。
穂乃果は親友を深くリスペクトしている。もしかしたら、万が一、二人かもしれない。その可能性を拭いきれないのだ。
実際のところ、上の戦いは果南と英玲奈、カイオーガとテッカグヤが鎬を削る、まさに怪獣大決戦。
穂乃果の考えは当たっているのだが、しかし引き返す踏ん切りが付かない。
-
穂乃果「真ん中ぐらいまで登って来ちゃったしなぁ…」
切なげにボヤく。
ふと、窓の外へと目を向け…
破砕音!
それは数フロア下から、爆ぜるように飛び出した青黒の弾丸。
その“何か”は鋭い飛び出しから腕に鋭利な翼を広げ、滞空の状態へと移行する。
直感。穂乃果の五感が研ぎ澄まされる。
雨中、空に浮かぶそれをじっと見つめ…向こうもこちらを見つめている。
交錯する視線。
穂乃果「短い前髪、ガブリアス…」
ツバサ「オレンジ色のサイドテール。それにリザードン…」
穂乃果「綺羅ツバサ!!」
ツバサ「そう、貴女が…高坂穂乃果」
すうっと息を吸い、指示を!!
穂乃果「リザードン!!“かえんほうしゃ”!!!」
ツバサ「ガブリアス、“げきりん”」
相殺!!!
窓を突き破った火炎放射と逆鱗の咆哮が宙にぶつかり、その波及でオハラタワーの窓が数フロアに渡って砕け散る。
散る残火は花火のように、ガラスの破片が虹めいて空間を照らし…
ツバサ「面白い…!」
二人は、互いを明確に認識する。
穂乃果「行くよ!リザードン!」
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今日はここまでで
明日も更新するよ
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今日もお疲れ様!
ぺラップのあの使い方は予想外で凄い
初見殺しっぷりがヒドイ
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遂にこの2人が出会ったか
期待しかない
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タイトル回収かと思ったら微妙に違うな
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>>483
最初立てた時は「行くよ!リザードン!」だったんだけど、こっちで立て直した時になんとなく逆がいいような気がして変えたんだよね
けどやっぱ「行くよ!リザードン!」の方が良かったかなぁと今更思ってさ
まあ一応タイトル回収って事にしといてね
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タイトル回収おつ!
今日も最高だった。
初代赤からポケモン入った俺的には、やっぱリザードンって特別なんだよなぁ
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乙です。熱い展開だ
キャラの台詞は「」でペラップの声マネは『』なんだな
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ことりの演技にはすっかり騙されたけど闇堕ちしてなくて良かった
そしてついにツバサと穂乃果が出会ったか!タイトル回収はやっぱり熱い
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これだけ続いてもダレない面白い
ことうみの演技にすっかり騙されたわ
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本気の平手打ちくらったり、天使と龍の喧嘩を仲裁したり、今回は毒やら電気やら浴びせられるしetc
どの世界線でもことりちゃん絡みで苦労が絶えない園田さん乙
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種族値だけに頼らないツバサさんマジ素敵
ジークンドー使いだし最高にカリスマしてる
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ぺラップチートすぎてヤバい
どう対処するんだろう
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ことりちゃん完全に闇落ちってわけではなさそうだけどやっぱ少し闇を抱えてるかんじなのかな
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>>492
ジョジョの用語を例にするとことりちゃんと海未ちゃんの中には漆黒の意思が芽生え育ちつつあるけど、穂乃果ちゃんだけは黄金の精神を失っていないということじゃないかな
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でてない600族は
バンギ、マンダ、ヌメルゴン、ジャラランガか
果たしてフライゴンに出番はあるのか…
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アライズはこんな全方位に全面戦争仕掛けるような真似して大丈夫なのか
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>>493
曜ちゃんの精神が暗黒物質すぎる
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>>496
そこは「こいつの精神こそ暗黒空間だッ!こいつの心の中がバリバリ裂けるドス黒いクレバスだッ!」だろう。
ついでに、そう言われたキャラも色によっては銀髪で同性を崇拝するキャラだよな
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お得意様になるであろうお偉いさん方を殺しまくってて草生える
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パーティーに来るような正統派お偉いさんより潜伏してる悪党に売りたいんじゃね
中継ジャックでちゃっかりCMしたし
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ツバサさんたちも潜伏してる悪党たちを煽りたいみたいな話してたしね
ツバサさん確定はガブリアスコジョンドぺラップミュウツーか?
マンダも持ってそうだしそれに6Vのことりのいを
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途中で書き込んじゃった
ことりのブイズもいるだろうしかなり強そう
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マンダじゃなくて、UBの誰かじゃね?
たぶん毒タイプのあいつ
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>>498
>>257にあるようにオハラの幹部たちは単に無能でまた裏切ると考えたから切り捨てたんじゃない?
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今のところ伝説は
禁止伝説:ミュウツー(クローン)、カイオーガ
準伝説(UB含む):フリーザー、フェローチェ、テッカグヤ
だけか
洗頭が本当にただのマフィアならディアパルとかガレオアーラ辺りの出番はなさそうだな……三王とかカプが悪人に手を貸す絵面も想像できんし
穂乃果たちの手持ちに伝説が入るかどうかは気になるところ
本家ゲーム内はいざしらず、アニポケでもポケスペでも伝説系は基本レギュラーの手持ちにならないからなぁ
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テッカグヤでカイオーガに勝てる気がしない
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HD全振りしても必中雷で確2だからな
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レベル差ってのがある
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展開予想多すぎィ!
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これだけおもしろいといろいろ語りたくなる気持ちもわかるけどネタ潰しになるかも知れないから抑えようぜ
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本家UBは厳つい名前に恥じぬステでありながらバランスブレイカーではないところがいいよね
洗頭のお薬には某くらげが関係してそうではあるが……ツバサもUB持ってそうだけどウツロイド、マッシブーン、デンジュモク、カミツルギ、アクジキング、どれも微妙に合わない感じがある
俄にUB説が浮上したドータクンの可能性が微レ存……?
-
…
オハラタワーから少し離れた位置、路上には十重二十重に居並んだ警官たちが包囲線を敷いている。
パトカーに救急車、回転灯の光が街並みを照らし、降りしきる雨の中に臨戦態勢のポケモンたちの呼気が重なっている。
そこからさらに後方、立ち入り禁止線にはマスコミの群れ。
ツバサによって全国中継されるに至ったオハラタワー襲撃テロの衝撃は凄まじく、NHKはもちろんのこと、テレビヤマブキを例外として民放各局が通常放送を取りやめ、画面を緊急中継へと切り替えている。
国内のみならず全世界から耳目の集まる状況、各局の画面には犠牲者の名前を羅列したテロップが延々と流されている。
タワー内部から撤退してきたアライズ団との交戦は概ね警察方の勝利に終わっている。
事が事、腰の重い日本警察も躊躇なく特殊部隊を投入してポケモンと銃撃による波状攻撃で掃討、大勢を逮捕してみせた。
それでも数が多すぎたため、一部の団員を取り逃がしてしまっている。そのため、市内の各所には依然として厳重な規制網が形成されている。
警察と医療関係者は怒号めいてやり取りを交わし、マスコミは情報を得ようと声を張り上げ、そこに駆けつけた犠牲者の家族たちの悲鳴が入り混じってまさに阿鼻叫喚。
そんな中、報道陣の垣根を蹴散らすようにけたたましくクラクションを鳴らしながら、一台の警察車両が現場へと滑り込む。
-
「どきなさい!」とばかりドリフト気味に車を横付け、小柄な少女が運転席から現場へと降り立つ。
刑事スマイル、矢澤にこだ。
ともすれば小中学生に見られかねない幼い風貌も、その表情に宿った怒気で印象を塗り潰している。
今の彼女の顔は海千山千のベテラン捜査官めいていて、騒がしいマスコミ記者たちも思わず一瞬気圧される。
ちなみに免許は国際警察仕様、世界各国で使えるものを所持している。
にこ「ついにやらかしてくれたわね…洗頭!」
国際警察に所属するポケモン犯罪捜査のエキスパート。アライズ団を追い続けている現場指揮官の到着に、警官たちは一斉に気を引き締める。
降りしきる雨にまるで構わず歩くにこに若い警官が傘を差し、現場責任者と並んでツカツカと。
未だ戦火に揺れるタワーを見上げながら話し、状況の細部を手早く頭に入れていく。
にこ「じゃあ三幹部は逮捕できてないわけね」
「ええ、タワーから撤退してきた集団の中には姿を確認できていません。
優木あんじゅについては四天王の桜内氏から取り逃がしたとの報告を受けています」
にこ「綺羅ツバサの確保を最優先。アイツさえ潰せばアライズ団は殺せる!」
-
そんな会話が交わされる後方、にこの運転していた車両から一人の少女が飛び出している。
荒い運転に大いに酔い気味、今にも吐きそうな表情でいるのは黒髪の麗女、黒澤ダイヤだ。
ダイイチシティからどんなに飛ばしても三時間、そう思っていた道のりを国際警察専用ライドギアで高空をかっ飛ばし、車へと乗り継いで二時間半での到着。
振り落とされそうな高速飛行によるGの負荷、からの荒々しいにこの運転のコンボでグロッキー。
しかしダイヤの顔を蒼白にさせているのはそれよりも何よりも、ルビィの安否を確かめたいという一心。
ダイヤの瞳は左右に巡り、救急車のパトライトが回っている箇所で軽傷者たちが治療を受けているのを目に留める。
そこには見慣れた赤髪が。ツインテールこそ解いているが、大切な妹を見間違えはしない!!
ダイヤ「ルビィ!!!」
ルビィ「お…おねいちゃあっ…!!!」
駆け寄り、強く抱きしめる!!
もう会えないかもしれないと胸に過ぎった悲観と絶望、しかし腕の中の温もりははっきりとルビィの命がそこにあると教えてくれて、心を満たしていた暗雲を拭い去ってくれる。
未だ緊張に固まっていたルビィの心も姉に抱きしめられたことでついに溶け、ぎゅうっとしがみつきながら人目も憚らずにわんわんと泣き叫んでいる。
-
「おっ!被害者と家族の感動の再会だ!」
「いい画だぞ!」「撮れ!!撮れ!!」
そんな調子でまるで無遠慮、“KEEP OUT”と書かれたテープを踏み越え、ハイエナよろしく駆け寄ってくるマスコミたち。
…へ、にこがダッシュからのソバットを叩き込む!
水溜まりを転がる記者、割れ砕けるカメラのレンズ!!
「ぐはあ!!?」
にこ「ごめん、雨で足が滑ったわ。機材の弁償と医療費は国際警察に請求しといて」
ひらひらと手を煽って警官たちに指示、マスコミを強制退去。
ダイヤの肩をポンと叩いて「良かったわね」とそっけなく、しかし温かい声をかける。
ダイヤ「うう…ぐすっ…本゛当に良゛かったですわぁ…!」
にこ「か、顔グチャグチャじゃない…それにしてもルビィ、アンタよく助かったわね」
ルビィ「ぅ…は、はい…!穂乃果さんが、ルビィたちのこと助けてくれて…!」
ダイヤ「感謝してもしきれませんわぁぁぁ…!」
にこ「なるほどね…やるじゃない、穂乃果!」
その時、タワーを見上げる警官たちが声を上げる!
「なんだ!?何か飛び出したぞ!」
「ビル中層、滞空するポケモン一体!」
にこ「上?スコープ貸して!」
-
漢、矢澤
-
パイセンかっけえ…
-
隣の警官から双眼鏡をひったくり、にこは上空へと目を凝らす。
青く流線のフォルム、凶暴な顔相…にこはそれを決して見間違えない!
にこ「ガブリアス、あれは綺羅ツバサよ!総員、上空へと攻撃準備!!!」
拡声器を手に声を張り上げるにこ。
騒がしいマスコミも静まり返り、焚かれるシャッター音とフラッシュだけが現場に満たして走る緊張。
にこの指示を受け、警官隊とポケモンたちは一斉に空へと銃口と技の照準を、視線を集める。
にこの指示さえ降ればいつでも一斉射を浴びせられる体制だ。
しかしにこは慎重、手を水平に留めたまま攻撃のタイミングを図っている。
にこ(あのガブリアス、普通にやってもムカつくほど速くて逃げられるのよね…
だから加速に掛かる一瞬前のラグ、そこを狙って砲火を浴びせる!)
凝視…と、その瞬間!ビルの中から炎が放たれる!
ツバサのガブリアスはそれを咆哮で受け、
相殺!!!
砕け散る窓、降り注ぐガラス片。
警官隊やマスコミたちは慌てて顔を覆うが、にこは掌で目だけを保護して上を見上げ続けている。
そしてビルから飛び出すオレンジの竜影、尾に揺れるは赫火。
一匹のリザードンとその背の人影が、綺羅ツバサへと挑みかかっていく!
ルビィ「ほっ、穂乃果さぁん!!?」
にこ「総員待機!様子見!」
高空へと向けた銃口を留めさせ、にこは穂乃果へと目を細める。
にこ(気を付けなさいよ、穂乃果。そいつは何をしてくるかわからない!)
-
…
高空、吹き荒ぶ烈風が穂乃果の髪を真横へと流す。
生えたばかりの両翼は、リザードンを地上100メートル超の高空へと導いた。
羽ばたき、初めての飛翔だが違和感はない。まるで生まれた時から飛べていたかのように危なげなく滞空。
そんな相棒の大腿に足を掛け、首に片手を掛けて半身の姿勢、穂乃果はツバサと対峙する。
雨は横殴りに降りつけていて、目の中へと入り込む飛沫にともすれば気を取られてしまいそうだ。
しかし穂乃果は瞼を閉じない。理屈ではなく本能で理解している。この相手に対しては、ほんの瞬きの隙さえ見せてはならないと。
ただまっすぐに見つめてくる穂乃果の眼光に、ツバサは薄く笑んで声を掛ける。
ツバサ「なかなか面白かったわよ、アナタの友達二人」
穂乃果「海未ちゃん、ことりちゃん…戦ったの?」
ツバサ「ええ。めでたく生き残ってるわ。殺そうとしたんだけどね」
穂乃果「そっか」
ツバサ「当たり前、って顔?フフ…」
二人が揃っていたならやられるはずがない。
穂乃果の中にはそんな確信がある。
実際は危機一髪だったのだが、それでも二人が生き残ってみせたのは事実。
親友たちへと穂乃果が抱く信頼は裏切られていない。
-
主人公VSラスボスを皆が見てるって展開大好き
-
反応いかんで揺さぶりを掛けようと考えていたツバサだが、穂乃果の揺るぎなき精神を知り、無意味だと理解。その舌鋒にブレーキをかける。
すっと、ざらついたガブリアスの肌を撫でて微笑。
ツバサ「ガブリアスは今、ヤケドを負っている。攻撃力は半減していて、その逆鱗とリザードンの火炎放射で同等。それだけのレベル差があるわけだけど」
穂乃果「じゃあ今が倒すチャンスってことだね」
ツバサ「やれやれ…ポジティブね」
くすりと笑い、肩を竦めるツバサ。
口ぶりと仕草から、(戦いを避けたいんだ)と穂乃果は判断する。
ツバサのガブリアスは疲弊していて、できれば穂乃果の側から矛を収めさせたいのだと。
逃すわけには行かない。仕掛けるには今!
穂乃果「リザードン、近付き過ぎないように飛びながら“かえんほうしゃ”だよ!」
『リザァァァッ…ドン!!!!』
ツバサ「ガブリアス、避けて」
放出された大火が空を薙ぎ、ガブリアスは腕ヒレで泳ぐようにそれを避ける。
上にいたリザードンと下方のガブリアス、その位置取りが入れ替わった瞬間、ツバサは二つのボールの展開スイッチを押している。
ツバサ「ペラップ、コイル。出てきなさい」
『ペラップ!』
『━━ッ、ジー』
穂乃果「ペラップ…と、コイル?」
穂乃果の卓越した直感力も、ツバサのこの展開には首を傾げてしまう。
ペラップ…は、なんとなく嫌な感じがする。だけどコイル?
どうしてあんなにレベルの高いトレーナーが、進化前のポケモンを連れてるんだろう?
-
性格わるない?
-
ツバサ「携行性の問題ね、コイルなのは」
そんな穂乃果の疑問を読み取ったかのように、ツバサは答えを返してみせる。
もちろんそれだけで理解できるはずもなく、携行性?何の話をしてるんだろう?続けて浮かんでくる疑問に穂乃果は戸惑いを。
もちろん、やるべきことに変わりはない。
攻撃のバリエーションに音と電気が加わったことに気を付けて、遠距離からの火炎放射で狙い撃つだけ!
だが…嫌な予感が穂乃果に警戒心を抱かせる。
ツバサ「この子、これでも個体値はバツグンなのよ。進化前だけど強力な電波が出せるから、無線ジャックをするには最適」
穂乃果「無線ジャック…?」
ツバサは手首、おそらくは腕時計で時間を目にし、「もう来てるわね」と呟く。
そしてコートの内ポケットからおもむろに黒い無線機を取り出すと、その裏面をコイルへとあてがった。
続けてペラップへと何かを指示し…ペラップの口が無線へと向けて人間の声を真似る。
にこ『今よ!!撃ちなさい!!』
-
地上、警察たちが所持している全ての無線から確たる口調での命令が響き渡る。
『今よ!!撃ちなさい!!』と、さっき到着した年若い現場指揮官の声が!
「発砲許可!!」
「撃て!」「今だ!撃て!!」
「上空に一斉攻撃!!」
まるでタイミングを計れていない、統率の取れない砲火と技の数々が空を輝かせる。
その様を目の当たりに、にこは愕然と呟く。
にこ「……やられた…!」
にこの誤算を生んだ要因は、彼女が国際警察だということ。
日本警察は捜査においては優秀だが、修羅場慣れしていない。
緊張に張り詰めた警官たちは、拡声器で指示を出しているにこの声が無線機から聞こえた矛盾に思い至ることができない。
これが現場慣れした海外の警官たちなら、無線機から聞こえた声をにこの指示だと勘違いすることもなかっただろう。
普段世界の最前線を飛び回っているにこは、日本警察の戦場での練度の低さに気が回らなかった!
あるいはにこが到着してからもう少し時間の余裕があれば、ペラップの脅威を全体に知らせることもできただろう。
恐るべきはツバサのタイムスケジュール管理。
にこにダイイチシティで偽のツバサを逮捕させ、中継で騒動を知ってオハラタワーへと向かうと逆算し、今は現場に到着したばかりと見抜き、その存在を逆手に取ったのだ!
様々な攻撃に照らし出された空を見上げながら、ダイヤとルビィが同時に声を上げる。
ダイヤ「ほっ、穂乃果さんっ!!」
ルビィ「うぁぁ!穂乃果さんがぁ…!」
-
穂乃果「何、これ!?り、リザードン避けてー!」
ツバサ「ずらりと展開した警官隊からの攻撃よ。経験は浅くても戦力はなかなかよね、日本警察って」
穂乃果とリザードンが慌てふためくのと対照的、ツバサはガブリアスに高度を上げさせ、易々と攻撃を回避している。
出鱈目に飛び交う攻撃も威力だけは十二分、
そして穂乃果にとっては予期せぬ方向から、避け得ざる攻撃の嵐。
リザードンの体へと弾丸が当たり、翼に“冷凍ビーム”が直撃し、ぐらりと飛行姿勢が揺らぐ。
その様を楽しげに見つめながら、ツバサはガブリアスに悠然と背を翻させる。
ツバサ「そう簡単に戦えないのよ、王である私とは」
穂乃果「……っ!!」
地上部隊のドサイドン、その“ロックブラスト”がリザードンの体を激しく叩く。
漏れる苦悶の咆哮…そしてついに、リザードンは浮力を失い自由落下へと移行する!!
落ちていく穂乃果、その目は見下ろすツバサと交錯している。
ツバサ「さようなら、穂乃果さん。また会いましょう?運が良ければね」
穂乃果「綺羅ツバサ…あなたは私が倒すよ!絶対に!!」
ツバサ「………!」
毅然たる瞳がツバサを見据え、穂乃果はその指を天へ、遥か高みの巨悪へと指し延ばす!
瞬間。ツバサはその指に運命めいた引力を感じ…
しかしそれを表情には出さず、西の空へと高速で飛び去っていった。
なす術なく見送り、残された穂乃果は気絶したリザードンを守るように抱きしめる。
地上からの攻撃は止んでいる。にこが必死に止めさせたのだろう。
それでも落下が止まるわけではなく…
穂乃果「うわああああああっ!!!!!!」
落ちていく!!!
-
…
果南「カイオーガッ!!“かみなり”をぶちかませ!!!」
英玲奈「ギルガルド、受けてくれ」
炸裂する豪雷!!
意思を宿した剣盾、そんな容姿のはがね・ゴーストタイプ、ギルガルドが硬質な体を英玲奈の直上へと構えて落雷を受ける。
英玲奈は両腕から火炎をジェット噴射めいて噴き出すテッカグヤの背に立っていて、さらに屋上にはメタグロスをも展開した三体体制。
対する果南は暴力的なまでの性能を誇る大海の覇者、カイオーガを駆っての烈海怒涛。
自然の理そのものを敵に回したような凄まじさで暗殺者を攻め立てている!
果南「邪魔なんだよ、その盾…!カイオーガ!構わずに雷をありったけ叩きつけてやれ!!!」
『ギュラリュルゥゥゥ!!!!!』
英玲奈「その量、まともに受ければギルガルドでも落ちるな。済まない、エアームド」
英玲奈はボールを展開し、上空へとエアームドを舞わせる。
鋼でできたその体は避雷針代わりとなり、果南のカイオーガが風雨を利用して奔らせる必殺の雷を受け止める!!
戦闘不能となり落ちてくるエアームドを回収し、英玲奈は未だ冷静なままで果南の戦いぶりを見つめている。
-
ムドーさん…(´;ω;`)
-
英玲奈「松浦果南、さながら怒り狂うポセイドンだな」
果南の怒号に沿うように打ち付けた波がオハラタワーの堅固な外壁をごっそりと削ぎ落としている。
それを生身で受ければどうなるかは明白で、テッカグヤのロケットめいた機動でそれを紙一重に躱しながら英玲奈は小さく苦笑する。
どうやら小原鞠莉と松浦果南は親友同士で、私は虎の尾を踏んだらしい。
そんなざっくりとした考察を巡らせながら、英玲奈は落ち着きを保ったままに黒手袋の両手を擦る。
ポケットから小さな包み紙を取り出すと、クシュ、と音を立ててその両端を引き開く。
どこかオートマチックな所作でそれを三度。掌に転がしたカラフルな飴玉を口に放り込むと、すぐさま噛み砕いて飲み込んだ。
果南はその様子を目に、ますます激怒の色濃く声を発する。
果南「飴玉…?ふざけてるの」
英玲奈「同時に三体、四体と指示を出すと脳が疲労する。だから糖分で補う。それだけさ」
果南「あっそう、ぶっ潰れろ!!!“こんげんのはどう”!!!!」
-
伝説のポケモン、カイオーガが誇る独自の技、根源の波動。
カイオーガの体が震え、咆哮と共に水流がレーザーのように放たれる。
場に居合わせるだけで呼吸が苦しくなるほどの水圧が英玲奈の後を追い、高速で飛ぶ英玲奈と凄絶なチェイスを繰り広げる!
地上を追うメタグロス、そのサイコパワーが空間を歪ませてテッカグヤへの直撃を防いでいる。
決殺の一撃を潜り抜けてなお健在、英玲奈は横だけでなく縦にも機動するテッカグヤ、その背へと卓越したバランスで未だ立ち続けている。
あまつさえ、カイオーガの上空をすれ違いざまに草タイプの種爆弾を撒いて絨毯爆撃じみてカイオーガを狙ってみせる!
果南「っチ、苛つくなぁ…!」
鞠莉「果南…」
果南「鞠莉!ケガしてるんだから動いちゃ駄目だよ」
鞠莉「っ、少しだけ。あの英玲奈って人、ずっとテッカグヤの上に立ち続けてる。あれだけ激しく動いてるのにほとんど手すら付いてないよ」
果南「だね。さっさと振り落としてやらないと…!」
鞠莉「そうじゃなくて!強すぎる相手は無理に倒そうとせずに、退かせた方がいいんじゃない?果南が危ない目に遭ったら…」
果南「……いや、あいつは倒す。じゃなきゃ私の気が済まない!!」
-
松浦果南の行動理念は基本シンプル。
プラス、そこに反骨の精神が宿っている。
喜んだり楽しければ笑い、腹がたてば怒る。
だが哀しくても簡単には泣かないし、だったらその悲しみの原因をぶっ潰してやろうと思い至るタイプだ。
そんな果南にとって何より大切な友人の一人、鞠莉が泣かされた。
果南(だったら、そいつをブン殴るしかないよね)
鞠莉を守りきれば実質的勝利?
いや違う、果南にとっては鞠莉が殺されかけて泣かされたという事実は拭えない物であり、それを飲み込むことを良しとしない。
それ相応の罰を浴びせてやるまで退くつもりも逃すつもりもない。怒りの大禍は増大し、深度を増していく。
果南はカイオーガよりも低空を飛ぶテッカグヤを睨み付け、再度の指示を。
果南「カイオーガ、もう一度“こんげんのはどう”だ!!」
英玲奈(あの水弾は厄介だ。速く強く、追尾性までがある。しかし発動中は若干の硬直が生まれる。そこを突く!)
英玲奈「ギルガルド!メタグロス!」
カイオーガが水弾を放つその瞬間、英玲奈は防御を担わせていた二体を攻撃へと転じさせる!
二体の激突で隙を作り、上空へと転じて果南と鞠莉の二人をテッカグヤの“だいもんじ”で焼き尽くしてしまおうという算段だ。
英玲奈の思考は海未と戦った時と同じ、徹底している。
たとえカイオーガが相手だろうと動じない。
英玲奈「どんな強力なポケモンが相手だろうと、トレーナーを殺してしまえばそれで終わりだ」
果南「確かに、同感かな」
英玲奈「…!?」
果南「当たらないからさ…直接叩き込みに来たよ」
果南は低空のテッカグヤを目がけ、カイオーガの背から飛び降りたのだ。
英玲奈の背後、その手には渦を巻く水塊。膨大な水圧を一点に留めた、カイオーガの“根源の波動”の一欠片!
それはあまりに予想外に過ぎた。あまりに命知らずの特攻!
振り向きつつの手刀も間に合わず、果南の掌が英玲奈の胸元へと水塊を捻じ込み…
果南「鞠莉のお返しだよ」
英玲奈「………ッ…!ぐはっ!!!」
螺旋する暴水が暗殺者の胸元を抉り、大穴を穿つ!!!
-
統堂英玲奈は自身の国籍を知らない。
中国出身なのかもしれないし、日本なのかもしれない。
顔立ちからしてモンゴロイドであるのは間違いないだろうが、それ以上のことは調べたことがない。
知っているのはごく幼い頃にどこかの国で拉致され、中国で特殊部隊の一員となるべく徹底した教育を受けて育ったということ。
それが国家機関だったのか怪しげな一研究施設だったのかはわからないが、ともかく英玲奈は厳しい訓練を受けながら、機械のように育てられた。
本名も知らない。親の顔も覚えていない。統堂英玲奈という名前もこちらで活動するために付けた偽名だ。
そんな英玲奈にとって大切なことはただ一つ。
英玲奈が訓練を受けていた研究施設を襲撃した綺羅ツバサによって、初めて英玲奈は人生を与えられたのだという事実。
悪党として名を売り出したばかりだったツバサは、自身の才覚と少しの部下だけを頼りに堅牢な研究施設を叩き潰し、秘匿されていた研究内容や資源を奪い取って一財とした。
迎え撃った英玲奈はツバサに叩きのめされ、そして手を引かれるままに研究所から外の世界へと出たのだ。
そよぐ風、多彩な草花、鮮烈な記憶。
それが同情からか単なる気まぐれか、戦力として使えそうだったという打算からなのかはわからないし興味もない。
ただ今の英玲奈にとって重要なのは、命より大切な友人であるツバサを悪の覇道へと導くこと。
そんな英玲奈にとって、胸部を吹き飛ばされた程度は些事に過ぎない。
英玲奈「なるほど…中々、悪くないな。松浦果南」
果南「な、立って…!?」
-
果南の一撃に吹き飛ばされた骨肉を、周囲の組織が異常増殖して補い、すぐさま自己再生を果たしている。
実験施設で兵士として育てられていた日々、英玲奈の体には何らかのポケモンの細胞や組織が埋め込まれている。
露出した血肉は緑とオレンジが入り混ざったようなグロテスクな色味をしていて、小刻みに脈動する様に果南は思わず顔をしかめる。
統堂英玲奈は非人道的な実験により生み出された生体兵器だ。
テッカグヤの上でバランスを崩さず立ち続ける異常なまでの身体能力の礎はその過去にある。
そして英玲奈は目にも留まらぬ挙動でキリキザンを展開、“つじぎり”を命じると同時、自身も果南へと貫手を繰り出す!!
果南(やッ、ばい…!)
英玲奈「二度目だ」
果南「ニョロボン!!」
天性のポテンシャル、優れた反射神経でニョロボンを出し、キリキザンの一撃は辛うじて防いでいる。
だがしかし、英玲奈の貫手は果南の脇腹を鋭く抉っている!
-
英玲奈さんいっつも人外になってるな
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ナルトみたいだ…
-
果南(なんとか、ギリギリで身を捻れた…けど浅くない)
鞠莉「果南っ!!」
果南「カイオーガ、鞠莉だけは守るんだ」
英玲奈「見上げた精神だな。だが終わりだ」
英玲奈はもう一撃を繰り出すべく手を引き…
ふと、耳元のインカムに手を当てる。よろめく果南を注視したままに耳を傾け、そして手を下ろした。
英玲奈「……撤収らしい。讃えよう、松浦果南。君は勝っていた。私が普通の人間であればだが」
果南「っ、…わけわかんない、体してるな…」
英玲奈「今日はこれで退かせてもらう。が、私にはポリシーがある。今のところ君を二度殺そうとしたわけだが…」
出血に揺らぐ果南をニョロボンが抱えて跳ぶ。
カイオーガの背までは距離が遠い。
一旦、英玲奈とキリキザンとの距離を開けるべく、オハラタワーの屋上へと退避する。
英玲奈はそれを意に介さず、ゆっくりと手を掲げていく。
併せ、テッカグヤはじりじりとその高度を高めていき…
英玲奈「今日は場所柄、テッカグヤに足場としての役割ばかりをさせてしまった。
その鬱憤を晴らさせてやるとしよう。そして同時に、これが君へと向ける三度目の殺意だ」
果南「……ッ、来る…!」
両腕のジェット噴射が上を向き、下方への推進力を増進させる。
10メートル規模の体が高空から降る。その重量は生物の域を超えている。
それはシンプルな重量落下。アライズ団の突入前にオハラグループの用意した戦闘部隊を一蹴し、盛大な揺れを走らせた一撃。
重ければ重いほど威力を増す、ごく単純かつ強力極まりない質量攻撃。
英玲奈「テッカグヤ、“ヘビーボンバー”」
落下、テッカグヤの体がオハラタワーを豪打!!
凄絶な衝撃…
戦闘に痛みきったオハラタワーがついに断末魔のように軋みながら倒壊していく。
飛び去っていく英玲奈を見送りながら、果南は大量の瓦礫と共に遥か地上へと落ちていく…!
鞠莉「果南っっ!!!」
-
…
ダイヤ「ほっ、穂乃果さんっ!!」
ルビィ「うぁぁ!穂乃果さんがぁ…!」
にこ「だああっ、やられた…!穂乃果を撃墜してどうすんのよ!全員撃ち方やめ!!撃った奴はブン殴るわよ!!」
震動!!!
マスコミや警察たちが騒然と声を上げる。
「上の方で何かぶつかったぞ!!」
「戦いが決着したのか?」「お、オハラタワーが…!」
「崩れてくる!!!」
最後の一声は悲鳴に近い。
202階、長大にして重厚な超高層ビル、オハラタワー。
ヨッツメシティの中央に建っているそれが崩れれば大被害が出るのは明らかで、それほど離れていない位置にいる警察やマスコミたちの全滅は免れない!
穂乃果がツバサの策略に嵌められて落ちたのと英玲奈が果南ごとオハラタワーを崩壊させたのはほぼ同時刻。
にこ「あー…これは」
パニックに包まれる現場の中、にこは今にも落ちてくる大量の瓦礫を呆然と見上げている。
こんな事態、にこの力ではどうにもならない…にこの力では。
ので、冷静に。
にこ「……ツバサの逮捕には間に合わなかったけど、あいつら呼んどいて良かったわ」
足音。
二人の人物が颯爽と美しく、足並みを揃えて現場に現れる。
アキバリーグチャンピオン絢瀬絵里!
同リーグ四天王、東條希!
-
クールかつ美しく、窮地にあってもかしこくかわいく。
金髪を靡かせながら、絵里は落ち着き払って現場を歩いている。
その隣を歩くのは紫がかった長髪、浮かべる笑みは愛らしくかつミステリアス。
相棒とばかり絵里の隣、同様に動じず周囲を見回す。
そんな二人はにこの姿を見つけ…手を振る!
絵里「あっいたわよ希!にこ〜!にこ〜!」
希「おお〜本当に刑事してるんや。にこっち〜!」
にこ「ちょっ、呼ばなくてもわかるから!その間の抜けた呼び方やめなさいよ!にこの威厳が!」
そんな調子で二人はにこの側へ。
仕事柄ちょくちょく顔を合わせているうちに何故だか絵里と希に気に入られ、すっかり親友のような腐れ縁のような、そんな関係の三人だ。
と、もちろん今日は遊びで呼んだわけではない。
にこは「ん。」と指差し、落ちている穂乃果と崩落するビルに二人の目を向けさせる。
もちろん二人に抜かりはない。
一目見ればわかる状況、絵里はフリーザーを、希は傍らにマフォクシーを待機させている。
にこ「頼むわよ」
希「じゃ、とりあえずマフォクシー。あの落ちてくる子受け止めよか?」
発動するサイコキネシス!
錐揉みしながら落ちてくる穂乃果とリザードンを強力な念波が包み込み、その落下速度を段階的に緩和させながら徐々に地上へと近付けていく。
数億枚の薄布をクッションにして受け止めるような、そんな柔らかで微細なサイココントロール。
頭から落ちていたのを最後にくるりと足を下にするサービス付きで、すとん。と穂乃果は地上に降り立った。
穂乃果「…………っ!……?ん、あれ?」
微妙に間の抜けた表情で首を傾げる穂乃果を一瞥し、絵里と希は崩れ落ちてくるビルを見上げている。
絵里「さて、こっちは骨が折れそうね」
希「ふふふ、腕の見せ所やね?」
-
絵里は上から下部にまで亀裂走ったビルを見上げ、片目を閉じて塩梅を測る。
二秒ほどそうして、感覚を掴んだのだろうか。
隣で待機している伝説の氷鳥ポケモン、フリーザー、それとユキノオーを追加で繰り出して指示を出す。
絵里「よくわからないから全部凍らせましょう。フリーザー、“ぜったいれいど”。ユキノオーは“ふぶき”」
嘴から、コォォと凍てつくような鳴き声、あるいは呼気が漏れ…フリーザーは蒼白の両翼を広げる。
同じくユキノオーは擦れるような唸りを響かせ、大きく呼吸を吸い込み…猛吹雪として吐き出す。と、瞬間!
発せられた冷気が蒼く走り、倒壊するビルを下から上へと駆け上がるように凍らせ、堅固な氷晶へと包み込んでいく!!
穂乃果「う、わっ…!!凄い…なにこれ!!」
にこ「ダイイチシティの時も一応見ただろうけど…よく見ときなさい。これがチャンピオン。アンタが挑もうとしてる大きな壁の姿よ」
ダイヤ「はぁぁぁっ…エリーチカ…!クールですわぁ…!」
穂乃果「……凄い!」
その冷気の勢いは凄まじく、今にも剥がれ割れて崩れようとしていた上層部の構造を固めて繋ぎ止めている。
さらには地上から幾本もの頑強な氷柱を打ち立て、支え棒としてオハラタワーを斜めからも支えている。
絵里「動かない標的には“絶対零度”も簡単に当たるから楽ね♪」
そんな調子で上機嫌の絵里。それでも剥がれて抜け落ちてくる瓦礫は少なくない。
そこはエスパータイプのエキスパート、希の出番だ。
-
希「ウチももう一匹出しとこか。フーディン、お願いね」
『シュウ…!』
希「それじゃマフォクシーもフーディンも、サイコキネシスで落ちてくる瓦礫を受け止めよか」
迸る念動力!!
本来不可視であるはずの念波だが、二匹の高レベルが故に明確に空間が捻じ曲がっていて人の目にも視認できる!
マフォクシーとフーディンの二体はそらに巨大な受け皿を作り、広範囲に落ちてくる瓦礫をまとめて漏斗を伝わせるかのように一箇所へと集めて積み上げていく。
希はフフフンと鼻歌を口ずさみながら微細なコントロールを指示し、街に瓦礫が落下する被害は一切皆無。
入れ替わりの激しいアキバリーグで、現四天王の中では最古参。
チャンピオンの絵里とほぼ同じだけの在位期間を保っている実力は伊達ではない!
穂乃果「四天王、希さんも凄い…」
希「希ちゃん、でええよ。穂乃果ちゃん?」
穂乃果「え…あれ、私のこと知ってるの?」
希「ふふ、エリチから聞いたんよ。面白そうな子がいるってね」
…と、その時。タワー最上層に溜まっていた大量の水が決壊する!
鉄砲水のように吹き出した勢いで凍結の戒めを破壊し、最上層の数フロアが大量の瓦礫となって地上へと降り注ぐ!!
絵里「ちょっと厄介ね。うーん、希」
希「了解、エリチ」
以心伝心、二人はほんの一言で次の一手を合致させる。
そして共に、それぞれの手首に嵌めたバングルのような物へと指を触れさせた。
希はくるりと振り向き、穂乃果へと神秘的に笑みかける。
希「よく見といてな。これは、ヒトカゲをリザードンにまで進化させた穂乃果ちゃんが…次に目指すべきもの」
絵里と希、二人のバングルが激しく発光する!
その光を翳し、極光がポケモンへと伝播していく!
絵里「メガシンカ。行くわよ、メガユキノオー!!」
希「メガシンカ…本気モードや。メガフーディン!!」
-
…
穂乃果「………はぁ、すごかったなぁ…」
静まり返った病院の一室、穂乃果は一連の出来事を思い出して嘆息している。
あまりに鮮烈な出来事が多すぎた。凄惨な現場がまだ目に焼き付いている。
だが穂乃果が“すごかった”と思い返しているのは、絵里と希が見せたメガシンカの力だ。
二人が手に着けたバングル…メガリングと言うらしいが、そこから放たれた光はそれぞれのユキノオーとフーディンを異形めいた姿へと変貌させた。
二匹は崩落するビルの全てを凍て付かせ、また強力無比な念動力で固定して落下を食い止めた。
それでいて変わらずの精密なコントロール。瓦礫と水をより分け、その中から気絶した四天王の松浦果南を救い出してみせていた。
病室、穂乃果がいるのは窓際のベッド。
カーテンを開ければ歪なオハラタワーが見え、鎌首をもたげた爬虫類のような姿は恐るべきテロの現場に刻まれた悪意を模したオブジェのようだ。
【あくまで氷による一時的な処置であり、一週間を目処に崩落の危険性があるとの…】
穂乃果「……はぁ。テレビも何もないし」
各局が特番、特番、特番。
アライズ団について早くも報道特集を組んでいる局もあるが、今は見る気になれない。
穂乃果の怪我はマニューラの氷が掠めた足の傷だけ。
あくまで軽傷なのだが、精神的なショックの可能性などを踏まえて数日は入院とのことらしい。
にこ「ま、幹部連中と対峙したアンタたちには聞かなきゃいけないことも多いし」
と、にこの弁。
そんなわけですることもなくて、穂乃果はぼんやりと思考を巡らせている。
海未は気絶したまま意識が戻っていない。命に別状はないらしいが、疲労が深いのだろう。
真姫曰く、ことりはまたしても姿を晦ましてしまったらしい。
どうしてだろう…
なんでなのかな、ことりちゃん。穂乃果は静かに親友へと想いを馳せる。
穂乃果「アライズ団、綺羅ツバサ、チャンピオン、メガシンカ。それに…ことりちゃん。ああ、もう…疲れたよぉ……」
時計はじきに十二時。激動の一日が幕を閉じようとしている。
重く、粘つくような疲労が指先にまで広がっている。心と体、両方の疲弊を休めなければ。
ベッドへと顔を埋め…穂乃果はゆっくりと瞳を閉じた。
-
今日はここまでで
明日でオハラタワー編終わりの予定
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遅くまで乙です。
投稿時間に幅があるけど、もしかして書き溜めではなく即興で書いているのかな?
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乙ありです
書きだめだと思うけど……
短い時は1分くらいで投稿来てたし……
即興なら天才すぎない?
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乙乙
全員入り乱れたオールスターでこんだけ上手く書かれると豪華で楽しい
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乙
とても面白い
ツバサと英玲奈強すぎて相対的にあんじゅさんが…
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あんじゅはまだ切り札を出してないはずだブーン
マッシブーンを出しておけば余裕だったブーン
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>>545
もうフローチェ出してるからブーンさんの出番はないんやで
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エレあんでサザンガルドの構えができるぞ
タッグに活路見出だして行こう
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のぞえりタッグには誰も太刀打ちできなさそうだな
KKEさんずっとかっこ良かったのににこちゃん呼ぶときのポンコツ感可愛すぎてギャップでヤバい
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テロでも通常放送なテレビヤマブキとかいうテレビ東京
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のぞえりとツバえれだけ桁が違い過ぎて草
相手と状況が悪かったとは言えあんじゅさんが本当に立つ瀬がないな
日本の警察もそこまで無能じゃないはずだから(震え声)
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あんじゅさんだってそりゃあレベル30のフローゼルやぺリッパーを出してくるような相手なら油断しても仕方ないし……手持ち二体残ってるし……
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>>2を見る限りのぞえりと果南ちゃんにはあんまり実力差はないと思うぞ
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アライズ団もかなり団員削られたけど補充きくのかな
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これだけ大々的にテレビで広告うったんだから感化されるやつらはいるだろ
ヒロアカのステインに感化されたやつらみたいな
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ずっと敵の思う壺な展開ばっかでストレスたまるな
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聖良捕まえてあんじゅの片腕潰したんだから上々じゃないか
リーダーのツバサと戦闘屋の英玲奈はまた別格として
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ランターンの全宇宙合わせたエネルギーすら軽く凌駕する光を使えば余裕で勝てるやろ(適当)
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海未vs英玲奈のマッチアップはまた後半で来るのかな
自己再生持ちだしトレーナー攻撃できる海未ちゃんでも苦戦しそう
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>>523
毎回素晴らしいけど、このあたりは、ちょっとツバサが有能すぎる感じが否定できないな。
にこが拡声器を使って…か警官隊の攻撃準備…あたりでツバサがにこの存在を認識し、電波ジャックをして攪乱なら臨機応変な感じだったけど、来ることを逆算していたまではさすがにちょっと強引な感じがする。
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今のところジムと違って四天王はみんなメインキャラだけどこうなってくると最後の1人もそうなのかな?
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>>552
キングのデュエルはエンターテイメントでなければならない!的なアレだと思う。チャンピオンは相手の戦術戦略を全部受け切って勝たなきゃいけないんでしょ多分
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お、エンタメバトルか?
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これもう果南がポケモンの力纏って戦った方が…
てか、タワーに居た人は皆銃殺シーンとか結構目にしちゃってるだろうに、穂乃果ちゃんやよはまるびぃの心は大丈夫なん?
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りんぱながまだ出てないけど残りの四天王はりんぱなか?
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オハラタワーは結晶塔みたいになってんのかな
よくわからないから〜で崩れてきてる200階建てのビル全部凍らせちゃう絵里ちゃんほんとかしこい
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>>559
>>163でにこがダイイチシティにいるように誘導してるから可能じゃね?
タワー襲撃のちょっと前に偽ツバサがにこに捕まった連絡は受けてるだろうし、いつも追いかけられてるから国際警察のライドギアの速度は知ってるはず
あとはにこなら必ず来るって執念を信頼してるんでしょ(適当)
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サツバツ版トムとジェリー
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今回は飴玉か
甲子園決勝やのぞにこまきえれで旅してた時の食卓シーンとか、英玲奈の甘い物好きは1が勝手に考えた設定なのに妙にしっくりくるよな
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>>568
劇場版ファンブックにA-RISEのプロフがのる予定だったらしいから…きっと…
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のぞえりがどっちも手持ちにキツネポケモン入れてるのええな
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>>570
炎エスパーと氷フェアリーで対なのも良い。1のセンス凄いな
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今のところ活躍してるけど絵里ちゃんからアデク臭がする
ツバサの噛ませになる予感
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>>572
展開予想はやめとこうや
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出かけてて帰り遅くなったから今日でタワー編終わりまでは行けなさそうだわ
>>541
更新するつもりの半分ぐらいまで書き溜めてから投下始めて、残りはその都度書いてるよ
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…
ヨッツメシティ総合病院、アキバ地方最大規模の患者受け入れ体制を誇る大病院。
穂乃果が入院しているそこには、同様にオハラタワー襲撃に巻き込まれた人々が入院して治療を受けている。
重い怪我を負った人々はもちろん、そうでない人々もPTSDを発症する可能性がある。メンタル面のケアが重要だ。
幸い、対処法は確立されている。
ポケモンを用いた医療研究の権威、真姫の父であるニシキノ博士がエスパータイプポケモンの力を借りてのメンタル医療を提唱し、実用化へと導いている。
この病院でも取り入れられていて、サーナイトのような精神感応力を持つポケモンたちが医師と共に医療へと従事しているのだ。
とある一室…
ここでもエスパーポケモンによる治療が行われている。
善子、花丸、ルビィ。同室に入院している三人へと治療を施しているのはエスパータイプのエキスパート、希だ。
まだ幼く、しかもアライズ団の戦闘員との激戦を経た三人のメンタル面にはとりわけ深いダメージが刻まれている可能性がある。
そういうわけで、卓越したサイキックトレーナーである希にお株が回ってきたというわけだ。
-
ゆっくりと時間を掛けた対話。
経験したことを話してもらい、そこに紐付けられている恐怖をサイキックで薄め、遠ざけていくのだ。
希は花丸の瞳を見つめ、焚かれたアロマ香が心をほぐし、念波の浸透率を高めていく。
花丸「マルはお寺生まれだから…死とかには、みんなより少しだけ、慣れてると思うんです。
それでも思うところはいっぱいあって…死んでしまった人たちがせめて安らかに眠れるように、お父さんの供養のお手伝いをしようと思ってます」
希「うん…自分の中で消化できてるみたいやね。えらいえらい、流石はクニキダさんの一人娘」
自然な笑みを返してくれた花丸。
その表情に、(この子は大丈夫やね)と希は安堵の息一つ。
これで二人目。
最初に治療をした善子はかなりのショックを受けていたが、影響を受けやすい性格らしく念波によるケアがすんなりと浸透して落ち着いてくれた。
善子「ずら丸、終わった?」
花丸「うん、終わったよ。善子ちゃんはもう大丈夫?」
善子「フフ、堕天使の身に厄災が降りかかるのは、天が与えし必然……って、流石にふざける気にはならないけど…うん、大丈夫」
花丸「そっか、よかったずら」
もちろん、しばらくは継続的な治療が必要。
様子を見ながら通院してケアを受けることになる。
それでも迅速に対処できたことで、トラウマが心に塞げない傷痕を残すことはないだろう。
-
希「んん〜……」
希は両手を組み合わせてぐっと伸びを。背筋を伸ばし、掲げた腕を横に降ろしてそのまま無意味にチョップを放つ。
希「せいっ」
にこ「痛あっ!?なにすんのよ!!」
希「やー、治療の場に警察のにこっちがいると念波の浸透率が下がるんよ。ちょっと疲れるから腹いせに」
にこ「なぁにが腹いせよ。仕方ないじゃない、アンタの対話が事情徴収も兼ねてんだから」
希「ま、せっかく治療した後にもう一回同じ話をさせるのも可哀想やんね…さて、あと一人の子行こか。ルビィちゃん、どうぞ」
ルビィ「………はい」
にこ(昨日よりも表情が暗い。不安定になってるわね…)
部屋に入ってきたルビィの顔には、一夜が明けてぶり返してしまった恐怖が根深く刻み込まれている。
付き添っているダイヤ、それに花丸と善子も心配そうに見つめていて、
(これは少し、気ぃ入れんとアカンかな)と希は息を吸い直した。
-
右・左・右・左。
ルビィの前で振り子が揺れる。
発せられる念波が心の深層の亀裂の形を、その深度を測る。
希は優しい笑みを湛えたまま、じっとルビィの話に耳を傾けている。
訥々と…やがて溢れ出すように。
怖かったと、悲しかったと感情の全てを吐露していくルビィ。
そんな様子を見つめながら、にこはどうにも希のポケモンが気になって仕方ない。
真面目な治療が行われている横に立ち、チラチラと希のポケモンに目を向けている。
黄色い体、ブラブラと揺れる振り子。
さいみんポケモンことスリーパーだ。
にこ(………サーナイトとかだと、なんていうか見映えもいいんだけど…スリーパーねぇ。
ルビィみたいな幼い子とスリーパーが向き合ってると、なんかこう、絵面が危ういっていうか…)
そんな雑念、無駄に胸をざわつかせているうち、希から優しく頭を撫でられ、ダイヤから抱きしめられ、たまらず駆け寄ってきた友人二人に手を握られ…
ルビィの表情へ、徐々に安らかさが戻っていく。
希「ルビィちゃんは人一倍優しい子やから、その分だけ深く傷が入っちゃったんやね」
ダイヤ「ルビィ…」
ルビィ「うっ…ぐすっ…こ、こんなに泣いたら、っ、恥ずかしいよね…えへ、へ…」
にこ「恥ずかしくないわよ。泣ける時に思いっ………きり!!泣いときなさい」
希「そうそう。ちゃんと泣いとかんと、後から心が辛くなっちゃうから」
ダイヤ「本当に…頑張りましたわね、ルビィ」
-
語彙力凄いっすね
-
スリーパーかわいそうに…確かにFLRG辺りで幼女を襲おうとしてたけども
-
希がエスパータイプの使い手として優れている一つは、本人にもサイキッカーの素養があるという点。
スリーパーの振り子を介してルビィの心理へそっと踏み込み、巧みな話術で心を癒していく。
また同時に、悲しみの底に芽生え、輝きを増した小さな感情を読み取っている。
それは自分もトレーナーとして強くなりたいという夢。
希「ルビィちゃん、これはウチからの贈り物」
ルビィ「へ、ボール…あの、ポケモンですか?」
希「うん、ウチにはわかる。その子はルビィちゃんのところに行きたがってるんよ。出してあげてくれる?」
ルビィ「は、はい。えっと…わぁ!かわいい!」
ルビィの手元に現れたのはピンク色、丸々とした体につぶらな瞳。
希がルビィへと渡したのは、ゆめくいポケモンのムンナだ。
初めてのポケモンにおっかなびっくり、そっとその背を撫でるルビィを横目に、希はダイヤへと声を掛ける。
希「夜に寝てる時、ムンナがそばでピンク色の煙を出してたらルビィちゃんが楽しい夢を見られてる証。そしたらもう大丈夫。気にしといてあげてな
ダイヤ「何から何まで、本当に感謝しきれませんわ…」
希「ううん、困った時はお互い様やん?」
ルビィ「えへへ…なかよくしてね、ムンナさん」
花丸「雰囲気がふんわりしてて、なんだかルビィちゃんとお似合いずら〜」
善子「ククク…ルビィ、そのムンナ。ヨハネのヤミカラスと勝負よぉ!」
ルビィ「え、えぇ…!?」
花丸「エスパー単色と見るやいなや勝負を挑む…善子ちゃんズルいずら」
善子「フッ、私は決めたのよ。最強の悪タイプマスター、堕天使トレーナーになると。
そのためには…手段は選ばないっ!勝負よルビィ〜!」
ルビィ「ひ、ひええ!おねえちゃん!マルちゃぁん!」
-
やにわに賑やかしくなる病室、沈んだ気分と雰囲気を変えるべく、ちょっぴり大袈裟にはしゃいで見せる善子。彼女もまた優しい少女だ。
善子へ向けた視線をじとりと湿らせつつ、やっぱり一緒に楽しげな花丸。
その背に隠れつつ、ムンナを抱きかかえて善子から逃げ回るルビィ。
希の持つサイキック能力、ささやかな未来予知は語っている。
この三人には遠くない未来、もう一度悪と対峙しなければならない時が来ると。
希(…でもまあ、今伝えて怖がらせるのもアレやからなあ。
うん、大丈夫。きっと乗り越えられるから、頑張ってね)
内心に呟き、微笑みを浮かべる希。
そんな希を横目に、にこはどうしても気になっていたことを尋ねかける。
にこ「ねえ、その、アンタの手腕を疑うわけじゃないんだけど…スリーパーで子供のケアして大丈夫なわけ?」
希「ん?失礼やなあ。ウチのスリーパーはピュアッピュアやのに」
にこ「ピュアッピュア…ねえ」
希「信じてくれないにこっちにはお仕置きや。スリーパー、ワシワシMAX」
にこ「ひぃぃいやぁああ!!?やぁめなさいよ!!そのネットリした目付きで来られると身の危険しか感じないのよ!!」
希「ちなみににこっちには血ヘド吐くほど大変な未来が待ってるけど、まあ頑張ってな」
にこ「さらっと不吉な予言してんじゃないわよ!!!」
-
…
憮然。果南は憮然と腕を組んでいる。
垂れ気味の愛らしい目元にたっぷりと不服を含ませ、差し入れのフルーツ盛りからリンゴを掴み、皮もそのままにガリリと齧る。
鞠莉「oops…果南ったら激おこが長い!そんなワイルドに食べなくても剥いてあげるのに!」
果南「自分に腹が立つよ。あーもう、なんであそこで突っ込んじゃったかなぁ?
落ち着いてカイオーガで攻めてればジリ貧にできたかもしれないのに」
鞠莉「果南は昔っからmuscle brainだから…」
果南「マッスルブレイン?ああ、脳筋ね…今は反論できないのが悲しいよ…」
拳で自分の頭をぽかりと叩き、傷口の痛みにぐうっと呻いて仰向けに。
英玲奈との交戦の末に傷を負った果南もまた、総合病院の一室へと入院している。
脇腹を抉られた傷を覆うように腹部にグルグルと包帯が巻かれていて比較的重傷、それでも起き上がって平然と果物を食べてみせるのは、基礎ポテンシャルの高さ故だろう。
-
部屋の場所はルビィたちの病室の隣。
とりわけ事件に深く関わった面々をまとめて警護するために、同じフロアへと固めて入院させているのだ。
ちなみに鞠莉も足の銃創の治療のため、同じ病室にベッドを並べている。
仮にもオハラコーポレーションの社長、個室を手配することもできるのだが、鞠莉から望んでこの部屋に入室している。
果南と同じ部屋で、ダイヤも妹の付き添いで隣室にいるため頻繁に顔を出してくれる。
鞠莉にとっては豪華な個室より、よほど満たされる部屋というわけだ。
そんな病室に見舞い客が二人。
ベッドサイドの椅子に、絵里と真姫が並んで腰掛けている。
チャンピオンの絵里と四天王の果南はもちろん、真姫も鞠莉もそれぞれに顔が広い。
四人揃って知り合いなので、これといって気兼ねした様子もない。
鞠莉が大量の見舞い品の中から適当に開けた菓子折りからゴーフレットをつまみ、サクリと歯を立てながら絵里が口を開く。
絵里「でも、仕方ないんじゃないかしら…まさか人間が再生するなんて思わないものね」
果南「うん、あれは…正直ゾッとした。胸の真ん中らへんに穴を開けたのに、グチャグチャっと膨れ上がって塞がってさ」
鞠莉「私も見たけど、そこらのポケモンよりよっぽどクリーチャーみたいだった」
真姫「人体にポケモンの組織を移植…私のパパも医療方面でその研究をしてたことはあるけど、結局実現できなかった。
それを実用化して、さらに軍事利用だなんて。倫理観はともかく凄まじい技術力ね」
鞠莉「umm…?まさか、ニシキノ博士が全ての黒幕!!」
絵里「はっ…!?」
鞠莉「なぁんちゃって。it's joke♪ ニシキノ博士はとびきりのモラリストだものね」
果南「まぁた、タチの悪い冗談を」
真姫「……エリー、一瞬信じかけてなかった?」
-
冗談交じりのとりとめもない会話だが、お互いが見た物、知った情報の交換と確認も兼ねている。
今後アライズ団と対峙していく上で、幹部の英玲奈が人外めいた再生力を有していると知れたのは重要だ。
加えて、主力が五匹まで判明した。アライズ団がUBを所持していることも分かった。
敗北こそしたが、果南は鞠莉を暗殺から守り抜いてみせた。
しかし、失ったものも大きい。
持ち去られたミュウツークローンが綺羅ツバサに利用されて牙を剥くのは確実。
そしてそれより大きなダメージは…
真姫「鞠莉、その…オハラの状況は知ってる?」
鞠莉「……ええ、療養のためにニュースは見ないようにって言われているけど、どうしたって耳には入ってくるもの」
少し眉根を下げ、鞠莉は困ったような表情で笑う。
おもむろにリモコンを手に取ると、あまり見ない方がいいと止められているテレビの電源を入れた。
薄型テレビの画面は民放のワイドショーを映し出し…
その中では賢しらなコメンテーターたちが沈痛な面持ちで、しかし口調は辛辣に、アライズ団へ、そしてオハラコーポレーションへと批判を浴びせている。
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絵里「やっぱり、オハラへも批判が集まってるのね…」
鞠莉「……メディアへのリークでオハラがマフィアだった過去が発覚、襲撃事件と合わせて株価は大暴落。
世間からは反社会組織同士のいざこざだと見られていて、犠牲者を出した責任の一端はオハラにある……マスコミもネットも、たった一日でそんな世論ができ始めてる」
果南「難しいことはわかんないんだけどさ、なんでこんなに早くオハラ叩きになってるの?
まさか、これもまたアライズ団が誘導してるとか…」
真姫「リークしたのはアライズ団だろうけど、世論に関してはまた別ね。
同業他社がオハラを追い落とすチャンスだし、色々な企業の思惑が絡んでるはずよ」
鞠莉「襲撃で会社がパニックだから、メディア対応が後手後手に回ってしまってるの。too late…全てはもう手遅れ」
果南「………鞠莉…」
明るく振舞っている鞠莉だが、ふと気を抜けば表情に深い疲労が浮かぶ。
経営を学んできた鞠莉は理解している。オハラコーポレーションは死に体なのだと。
オハラが潰れればアキバ地方に潜む悪党たちの抑え役がいなくなる。
訪れるのは暗黒。すぐ未来に待ち受けているのは、綺羅ツバサが望み描いた混沌だ。
-
長い睫毛を伏せ、俯く鞠莉。
覚悟を決め、経験を積み、生涯を賭して育て上げていくつもりだった企業をテロリストの暴虐に潰されてしまうのだ。
その落胆は深く、心は絶望に渋み…
それでも鞠莉は顔を上げる。
大胆不敵、果断かつ豪気。そんな女傑の片鱗が金の瞳に燃えている。
鞠莉「………だけど、このまま引き下がるつもりはありません。
売られた喧嘩は買って返す。小原家の流儀をガツンと!見せつけてやるんだから!」
果南「ふふ、落ち込んでるかと思えば…それでこそ鞠莉って感じだね。
手伝うよ、負けっぱなしでいられるもんか。アライズ団…叩き潰してやる!」
病室の片隅だとは思えない力強い宣告。
鞠莉と果南がアライズ団へと燃やす闘気に、絵里と真姫も頷いて応える。
絵里「やられっぱなしはここまでにしないとね。リーグチャンピオンの名に懸けて、綺羅ツバサたちをこれ以上のさばらせはしない」
絵里もまた怜悧。
プライベートで垣間見せる気の抜けた部分は鳴りを潜め、アイスブルーの瞳は身を裂くような零度を宿す。
絵里や果南だけでない、希や梨子もそう。
アライズ団はチャンピオンと四天王、それにジムリーダーたち。このアキバ地方そのものを敵に回したも同然なのだ。
真姫(このまま好き放題できると思わないことね…アライズ団!)
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ちょっと短いけど今日はここで切るね
明日も更新するよ
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毎日乙です
明日も楽しみにしてる
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乙
スリーパーは草生える
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乙です
チャンプーチカのポンコツ可愛かった
明日も楽しみにしてます
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乙です
真っ先に甘いお菓子に手を付けるチャンピオンチカほんとかわいい
にこちゃんへの大変な未来って予言は不穏だけどさらなる活躍が楽しみだね
そしていよいよトレーナーとして本格的に歩みだしそうなAqours一年生組の成長も気になるなぁ
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おつ 絵里にポンコツの片鱗が見えてにやけた
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キャラはどのラインまででてくるのだろうか
セイント姉妹出たしゆきありもでるんかな?
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乙
エスパータイプの精神治療は便利そうだけど、いきすぎると精神操作や洗脳になりそうでちょっと怖いね
自分が殺されかけたり目の前で他人が殺されたことに対する恐怖感を薄めてるわけだし、エスパー治療を繰り返せば次第に倫理観狂いそう
>>594
雪穂は初っ端から出てるよ
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真姫パパねぇ…
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前作があれだから真姫パパ疑っちゃうけどモラリストなら違うのかな
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脳筋果南ちゃんちょいちょいアホっぽくて好き
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スリーパーはサンムーンでついに「非常に危険なポケモン」って図鑑で明記されてんのが笑う
ルビィちゃんと並べるのは完全にアウトだわ
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この世界の2ちゃんとかすごいことになってんだろうな
各企業の工作員がスレをオハラ叩きで伸ばしまくったりして
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穂乃果のリザードンがメガシンカするかわからんが
ピンチの時にもうかが発動する流れ大好きなんでえりち戦とかで見たいなあと久しぶりにシンオウリーグのサトシ対シンジを見て思った
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どっちに進化するのか楽しみ
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四天王はどうなったら交代なのかな
挑戦者に負けたらおしまい?
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>>597
そこをアライズ団が狙ってくるってところじゃない?
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>>603
ジムリーダーから上がるんじゃない?金銀版にそんなやついなかったっけ?
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ピンチにもうかはかっこいいけどメガシンカしたら特性変わるからなー
あとメガシンカどちらか片方しか駄目ってわけでもないし楽しみ
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とても面白いけど
フライゴンじゃなくてガブリアスがツバサの
相棒だからこのssはくそ
108 130 95 80 85 102で舞うことすらできない半端者より先制技もあってきれいな
80 100 80 80 80 100のが強いに決まってる
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そうだよ(りんしょう)
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>>607
すまん、フライゴミ?
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相棒はメガシンカできないと映えないからな
メガシンカ出来るようになってから言おうか
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>>610
サンムーンの図鑑でも言われてる通り
ガブリアスとかメガシンカ失敗しとるやん
しない方が強いレベル
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強いレベルは言い過ぎだな
遜色ないレベル
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メガシンカを失敗と見てるっぽいからな...
アレ不遇ポケ救済の最終手段だったのに...
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持ち物と何を持ってるか分からないという情報アド考えたらメガシンカしない方が強いと言っても過言ではない
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>>613
格差が広がっただけだったとも言われてる
まるで経済のようだ()
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海未のゲコガシラの特性はげきりゅうなのかへんげんじざいなのか…それとも進化して例のあの特性に変わるのだろうか
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…
果南と鞠莉が入院している病室、その窓から見下すと緑が生い茂る中庭が広がっている。
昨日の出来事が嘘のように閑静、まるで田舎に建てられたサナトリウムのような雰囲気だ。
初夏のうららかな日差しに照らされていて、世間の雑事もここへは届かず。
そんな庭園の片隅、胡桃色のベンチに二人の少女が腰を下ろしている。
片方の少女は頬や全身に打撲を負っていて、湿布の香りをふわりと漂わせているが、その怪我は辛うじて軽傷の範疇だ。
もう一人は見るからに重傷。全身のあちこちに包帯が巻かれていて、片目は眼帯で覆われている。脇に添えた松葉杖が痛々しい。
みかん色と灰色の髪。
千歌と曜は黙したまま、そよ風に吹かれながら肩を並べている。
-
むしり、むしりと音。
千歌は目を落とさずに手慣れた仕草で小ぶりなみかんを剥くと、一房ちぎってぽいと口に放り込む。
もぐ、と噛んだところで「……」と沈黙。
顔をしかめ、二房まとめて曜へと差し出す。
千歌「曜ちゃん。あーん」
曜「え、いいの?ありがと…っ、痛ぁ…!」
千歌「あはは、口の中の傷に沁みちゃうね。おんなじだ」
いたずらっぽく目元を緩ませ、ふにゃりとした声でへにゃりと笑う。
しかし笑顔はすぐに曇り、千歌は顔を伏せて絞り出すように声を漏らす。
千歌「……全然同じじゃないよね。曜ちゃん、私のせいでこんなに大怪我させちゃった…」
曜「千歌ちゃん…ううん、そんなことないよ。千歌ちゃんは何も…」
千歌「私ね、子供の頃からずーっと一緒にいて、曜ちゃんのこと全部とは言わないけど、ほとんど知ってると思ってたんだ」
曜「……うん」
千歌「でも…全然だった。曜ちゃんのこと何も知らなかった。バッジのことも、カイリューのことも」
-
言葉を切る。
二人ともが顔を伏せていて、視線を合わせられずにいる。
自分の非力が、嘘をついていたことが、互いに気まずくて後ろめたくて、心苦しさに顔を見ることができない。
長い沈黙が続き、やがて曜が絞り出すように、意を決して口を開く。
曜「ごめん…言わなかったのは、私、私は、千歌ちゃんと一緒に旅がしたくて…!」
それは偽りのない気持ちの吐露だ。
嘘をついていたのは事実だが、悪気なんて微塵もなかった。
ただ一緒にいてほしかった、千歌に気後れを感じずにいてほしかった。それだけなのだ。
しかし、既に時は遅く。
偽りのままに死線を経てしまった今、その想いは千歌に届かない。
千歌は寂しげに笑い、掠れ、弱々しく声を震わせる。
千歌「あはは、私、足手まといになっちゃってるね…曜ちゃんはなんでも凄いのに、私なんかに合わせてくれてるせいで…」
曜「そ、そんなことない!私は、私なんて千歌ちゃんがいなかったら何もできない…千歌ちゃんがいてくれるから…!」
千歌「私が迷惑かけたせいで、曜ちゃんにこんな大怪我させちゃった。それでね、昨日からずっと考えてたんだけど…」
曜「っ……!ち、千歌ちゃん…私は…!」
千歌「もう、一緒にいない方がいいんだと思う。私と曜ちゃんは」
-
それは決定的な決別の言葉。
言葉としての意味以上に、表情が、声色が、断固とした別れの決意を曜に悟らせてしまう。
大好きで、愛していて、ずっと千歌だけを見てきたからこそ悟ってしまう。
二人の間柄は壊れてしまったのだと。
「う……あ……!」と座ったままによろめく。曜の瞳には闇の絶望が宿っている。
その色は深く濃く、眼帯をしていない右目からボロボロと溢れる大粒の涙、曜はそれを拭おうともしない。その気力すらない。
千歌は立ち上がり、重い足を動かし、一歩ずつ曜から離れていく。
曜の視線はゆらゆらと虚ろ、まるで夢遊病のように千歌へと片手を伸ばし、指先を泳がせ…
千歌はその手を一瞥もせず、死人のような足取りで立ち去っていく。遠ざかっていく。
やがて角を曲がり、中庭を出た。
もう振り向いてもそこに曜の姿はない。
「千歌ちゃん」と呼ぶ声、「ヨーソロー!」と朗らかな号令は聞こえない。
こんな別れ方だ、あるいはもう、ずっと…
力なく俯いたまま、壁にもたれかかる。
じわりと溢れ出した涙が四滴、五滴、コンクリートの床を黒く濡らしていく。
…そんな千歌の肩に、そっと手が添えられる。
-
誰だろう…?
顔を上げてみれば、そこにはもう一人の親友、梨子。
その顔には笑みが…梨子が怒っている時の硬質な笑みが張り付いている。
梨子「ちーかーちゃん」
千歌「梨子ちゃん…?」
壁ドン!!!
千歌「…!ひゃあっ!?」
病棟、白塗りの壁へと亀裂が走る!!
…ような錯覚を抱くほど、キレ、威力共に最上の壁ドン。
梨子の右腕が千歌の逃げ道を遮っている。
そして笑みを崩せば、梨子の表情は普段のおとなしく控えめな性格が嘘のような鬼面へと変貌を遂げる。
一体なんなのか。普段ならリアクションいっぱい、ちょっぴりおどけながら大いに怖がってみせるところだが、今の千歌にその気力はない。…と、梨子が口を開く。
梨子「私ね、千歌ちゃんのことが好きよ」
千歌「え…う、うん。私も梨子ちゃんのことは好きだけど…」
梨子「友達としてじゃないわ。恋愛対象として。好きで好きでたまらないの」
千歌「へ…?」
千歌の思考が硬直する。
-
レズの擬人化
-
何を?梨子ちゃんはいきなり何を言い出してるの?
フリーズした千歌におかまいなし、梨子は壁に手を突いたまま、さらに顔を近付けて熱っぽく語る。
梨子「でもね…私、欲張りなの。実は曜ちゃんの事も同じくらい大好き。天才肌のくせに打たれ弱くて、サッパリしてそうなのにうじうじした所があって。
そんな曜ちゃんを見てるとじれったくて、力任せにぐいっと押し倒したくなるの」
千歌「り、梨子ちゃん??」
梨子「私はね、大好きな千歌ちゃんと曜ちゃんが、二人で仲良くしてるのを見るのが大好き。もっといちゃつけばいいのにっていつも思ってる。
それを横からたっぷりと眺めて堪能した上で、二人をまとめて美味しく食べちゃうのが私の夢、目標、野望…」
千歌「なんだかすごいこと言ってるけど!?ひええ…目が怖いよ…!」
梨子「どうして逃げるの、曜ちゃんから」
梨子の瞳がまっすぐに千歌を見据える。
-
梨子「幼い頃からずっと一緒にいる親友で、大好きな人なのよね?」
千歌「……大好きだよ。でも、だから一緒にいられない。私のせいで曜ちゃんを危ない目に遭わせちゃったから」
梨子「それは違うよ千歌ちゃん。はっきり自覚できていないなら教えてあげる。
千歌ちゃん、あなたと曜ちゃんは親友だけど…それだけじゃなくてライバルなの」
千歌「……ライバル…?」
梨子「見ていればわかるわ。同い年なのに何歩も先を歩いててなんでもできる曜ちゃんを「すごいな」と思いながら、心の中では対等でいたいと願ってるのよ。
でも本当の実力を知っちゃって勝てそうにないから、一緒にいるのが辛くなったんでしょ?」
まくしたてるように喋る梨子。
その言葉を受け、噛み砕いて理解し、千歌は表情を崩して泣きそうな顔になる。
千歌「それは…でも、私が一緒にいたら、曜ちゃんが危ない目に遭うから…!」
梨子「わかるよ、それも本心だよね。じゃあ、強くなればいい。曜ちゃんと並べるぐらいに」
千歌「曜ちゃんと、並ぶ?」
それは持ち合わせていなかった、否、無意識のうちに心の奥へ遠ざけていた概念だ。
はっきりと提示され、逡巡。しかし千歌は弱々しく首を左右する。
千歌「でも、曜ちゃんはすごくて、私なんて普通だし…」
梨子「普通、その言葉で自分の限界を決めちゃ駄目。並ぶ…ううん、訂正。越えるぐらいに。
今度はあなたが、曜ちゃんを守れるように強くなればいい」
千歌「私が、曜ちゃんを、守る…」
-
クレイジーサイコレズ
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さすがオトノキタウン出身者
格が違う
-
ずっとずっと、後塵を拝してきた。
周りからの認識は“曜ちゃんの友達”。あるいは“オマケ”。
曜ちゃんは特別だと、とってもすごいんだと、追いついたり越えたりなんて発想をいつからから、自分の心の中にある海、その深く深く底へと沈めてしまっていた。
でも違う、本当は!
千歌「曜ちゃんが怪我したのが悲しい…悔しいよ…!一緒に戦いたい!守られるだけじゃなくて…私も曜ちゃんを守りたい!!」
梨子「仲直りしなさい。このまま二人が決別するなんて許さない。私が死ぬ時は千歌ちゃんと曜ちゃんに挟まれて、満面の笑顔で大往生するの。それが今の…私の夢だから」
千歌「うん…うん…!!」
もう一人の親友が示してくれた道。
それは暗雲に覆われ、暗く閉ざされてしまっていた千歌の心へと差す、光り輝く一筋。
千歌は力強く頷き、梨子への感謝を胸に宿し、それとは別で気になる点をふと尋ねる。
千歌「ところで梨子ちゃんってレz…むぐっ…!!?」
電光石火。
梨子は千歌へ、さらに顔を近付けた。
それは互いの鼻が当たる距離、零距離、唇と唇が触れていて…
キス!!!
-
やったッ!!
-
たっぷり五秒、唇を外す。
目を白黒と、茹で上がったように頬を染めている千歌を満足げに見つめ、梨子は内心に呟く。
梨子(曜ちゃん、モタモタしてるからいけないのよ?これは今からしてあげる手助けの分。先払いでもらっちゃった)
ボフ、とおもむろ、梨子はボールからカイリキーを呼び出す。
そして千歌へと語りかける。
梨子「………ところで、千歌ちゃん。ポケモンの記憶をなくさせる技術があるのを知ってる?主に技を忘れさせたい時に使う技術なんだけど…」
千歌「え…あ、うん。テレビで見たことあるよ。プロフェッショナルって番組で。わすれオヤジさんって人…
それより今、あの、キス…??あれ、梨子ちゃん。どうしてカイリキーを出してるの…?」
梨子「知ってるなら話は早いわね。私のカイリキーはね…同じことができるの」
千歌「お、同じことって…」
耽美な笑みが梨子の口に浮かぶ。
梨子「私が今喋ったこと、したこと…覚えてられたら生きていけないから。カイリキー、記憶を飛ばして。優しめにね?」
千歌「うぎゃあっ!!?」
-
クロスチョップめいて四腕、交差する手刀!!
側頭部をバチーンと思いきり挟まれて千歌が倒れる。
技術は熟練、体に他の悪影響が出ないかは然るべき機関で検証済みだ。
梨子は倒れこむ千歌を抱きかかえ、「うう…」と呻く顔を覗き込む。
幼さの残る輪郭、鼻先にかかった三つ編みを指でどけてあげると同時、千歌はゆっくりと目を開いて一言。
千歌「り、梨子ちゃんは…レズ…」
梨子「……やっぱりちゃんと脳まで揺らす必要があるわね。カイリキー、もう一回」
千歌「ぎゃあああ!!!ぐへっ…」
同じ流れを繰り返し、パチリと目を開いた千歌はぽかんと梨子の顔を見つめている。
きょろきょろと左右を見回し、小首を傾げて尋ねかける。
千歌「あれ、なんで梨子ちゃんがいるの?私、曜ちゃんと話をしてて、
……んん?なんか梨子ちゃんが大変なことを言ってたような。あとなんかちょっと梨子ちゃんを恐ろしく感じるような。全然思い出せないけど…」
梨子「気のせいよ。それよりも千歌ちゃん、曜ちゃんは?」
千歌「曜ちゃん…そうだ曜ちゃん!私、曜ちゃんと話を、謝らなきゃ…伝えなきゃ!!」
-
草
-
他の二次創作のネタをパクるなんて…
やっぱりちゃんとアナルまで犯す必要があるわね…
-
千歌は激しく狼狽する。
記憶を飛ばされても感情だけは残る、そういうものらしい。
大切な親友とこのまま一生離れ離れになっちゃうなんて嫌だ!
でも作ってしまった溝は深くて、一刻も早く本心をぶつけなきゃ…!
そんな千歌の焦りに、梨子は病棟の屋上を見上げる。
そこには梨子のバシャーモが立っていて、高所から曜がどこにいるかを見定めてくれている。
バシャーモがピッと指差した方向、そこに曜がいるのだろう。
距離、角度、風速…目算は十分。
梨子のカイリキーが千歌を掴み上げた。
千歌「へ?」
梨子「千歌ちゃん、頑張ってね。行ってらっしゃい」
千歌「ま、まさか…ぎゃあああああああ!!!!!」
投げた!!!
砲弾のように飛んで行った千歌を見送り、梨子は一仕事を終えた充足感に深呼吸を一つ。
あとはバシャーモが宙空で受け止め、程よい高さから曜の上に千歌を落としてくれるはずだ。
さっきの今、真正面から行けばお互い身構えて上手く仲直りできないかもしれない。
だけど空から降ってきたのでは心を固める暇もないだろう。
千歌「曜ちゃんっ…私、やっぱり曜ちゃんと一緒にいたいよぉ…!」
曜「千歌ちゃん…っ、うん…私も…私も千歌ちゃんと離れたくない!!」
やがてそんな声を遠くに聞き、小豆色の髪をふわりと風にそよがせる。
積年、仲が良いからこそ踏み込めず、言えずに溜まってしまうわだかまりもある。
今日だけで全てが解消できるとも思えない。それでも、きっと大丈夫。
梨子「さてと…仲直りした二人を見に行かなきゃ」
ちょっとした私利私欲と、心からの友情と。
梨子は優しく小さく笑みを一つ。ゆっくり中庭へと足を向けるのだった。
-
…
千歌と曜が決別を免れ、それから数時間の後。
時刻は夕方を迎え、病棟の中庭からは人気が失せ、ひっそりと静まり返っている。
草むらからは夏虫の鳴き声。
中心に建てられている幾何学的な形状、クリスタルで象られたオブジェには水が流されていて、ごく穏やかな噴水として蕭々、せせらぎの水面を揺らめかせている。
その前には黒髪の少女が静かに佇み、その隣にはポケモンの姿。
青い体、首回りには長い薄紅。
それは伸ばされた舌なのだが、口元を隠すマフラーのように見え、そのポケモンにクールな印象を醸している。
タイプはみず・あく。しのびポケモンのゲッコウガ。
海未の相棒のゲコガシラが進化を遂げ、最終進化へと至った姿だ。
傍ら、入院着の海未はそっと手を伸ばしてゲッコウガの頭を撫でる。
アライズ団の構成員たちとの戦闘を経て、ツバサとの一戦で拳を交えたコジョンドが倒されたことにより進化レベルへと至っていたのだ。
海未「立派ですよ、ゲッコウガ。これがあと少し早ければ…私にもっとトレーナーとしての才覚があれば、綺羅ツバサとの戦い、何か違ったのでしょうか」
-
人間大砲…四天王ってやっぱりどこかおかしい(誉め言葉)
-
一人と一匹は静かに悔いる。
コジョンドを撃破し、確たる手応えを得た。
しかし蓋を開けてみればツバサのペラップに翻弄されての完敗。
柔よく剛を制す…いや、剛でも負けている。
力量不足。結果として、自らの未熟を痛感させられている。
せっかく再開し、心を通いあわせて共闘できたことりもまた去ってしまった。
大切な幼馴染は心優しさを残したままに力強く成長を遂げていて、しかしその深部にはやはり闇が根を張っている…そんな印象。
海未(ことり…何故、一緒にいてくれないのです。私と、穂乃果と…)
と、背後に気配。
穂乃果「うーみーちゃんっ!!」
海未「おっ、とっ…ほ、穂乃果!?いきなり背後から抱きつかないでください!危険です!」
穂乃果「えへへ、だって海未ちゃんが無事で、目も覚ましてくれて嬉しいんだもん」
海未「穂乃果…ええ、私も。あなたが無事で何よりです。ので、その…そろそろ離してくれませんか?む、胸が当たってまして…」
穂乃果「え?あ、ごめんごめん!」
-
いつもの旅姿の感覚で思いっきり抱きついた穂乃果だったが、今はそれほど厚くない素材の病院着。
柔肌の感触に動揺しきっている海未から慌てて離れ、照れ隠しに頭を掻きながらへらりと笑う。
さて、この二人が会えば最初に浮かぶ話題は自然と一つ。
穂乃果「ことりちゃん、元気だったってね!」
海未「ええ…相変わらず、ちゃっかりとふんわりと」
海未は出来事の始終、ことりの様子、会話、格好から手持ちのポケモンまでを穂乃果へと語り聞かせる。
穂乃果は笑い、心配し、目を丸くしては歓声をあげる。その豊富なリアクションはいつだって海未の話の滑りをよくしてくれる。
滞りなく語り終え、「そっかぁ…」と穂乃果。
穂乃果「心配だったけど…うん、やっぱり、ことりちゃんなら大丈夫だよ」
海未「ええ、私もそう思いました。こんな時に言うべき言葉ではないかもしれませんが…少し、ほっとしました」
穂乃果「でも穂乃果にだけ会ってくれてないのはすごく不公平だから、ことりちゃんに会ったら一発パンチするんだ。ボスッ!って」
海未「こ、ことりにパンチですか?ことりは女の子ですが…」
穂乃果「ん…?穂乃果だって女子だよ!?」
海未「あ、いえ、そういう意味ではなくてですね、線の細さの問題というか…」
穂乃果「線が太いって!?まったく海未ちゃんってば、自分も女子なのにことりちゃんにはレディーファーストとか言いだしそうなとこあるよねー」
-
若干ふてくされ顔、穂乃果は遺憾の意とばかりに片腕をぶらぶらさせる。
そんな穂乃果の手首に、キラリと見慣れない輝き。
腕輪?アクセサリー?
穂乃果がその類を付けているのが珍しくて、海未は首を傾げて尋ねかける。
海未「あの、それは…?」
穂乃果「あ、そうそう!これを見せに来たんだよね〜!なんと…ジャジャーン!」
海未「はあ、既に見えているものをジャジャーン、と言われましても…」
穂乃果「気分だよ、気分!これね、メガバングルっていうんだ」
海未「メガ…まさか、メガリングの一種ですか!?そんな稀少な物、一体どこで…」
穂乃果「えへへ、絵里ちゃんと希ちゃんからもらったんだ」
海未「絵里、希…?チャンピオンと四天王の、ですか?」
穂乃果「うん!」
-
メガシンカ。
それはごく限られたトレーナーにしか扱えない一時的な超進化。
それはある種のエネルギー暴走であり、ポケモンに多大な負荷を掛けてしまう。
そのため、深い絆と信頼で結ばれたトレーナーとポケモンにしか使いこなすことのできない力だ。
絢瀬絵里と東條希、二人がメガシンカの力でオハラタワーの倒壊を防いだ場面。
海未は気絶していてそれを生で見ることは叶わなかったが、ニュース報道で何度も何度も映像を目にした。
園田流ポケモン術の継承者である海未はメガシンカの存在をもちろん知っていたが、改めてその凄まじさに息を飲んだ。
メガシンカに必要となるメガリングの希少性、さらにはポケモンに対応したメガストーンの入手が必要となるため敷居が高く、使用できるトレーナーは数少ない。
穂乃果が着けているメガバングルはそのメガリングの一種であり、それをチャンピオンと四天王から直々に託された…
つまり、穂乃果はメガシンカの使用者たちから、それを使いこなせるだけの資質があると見込まれたということだ。
もちろん、海未は穂乃果にそれだけの実力があると知っている。
大好きな親友が正当な評価を受けたことが嬉しくてたまらなく、思わず頬の筋肉が緩み、「流石は穂乃果です!」と声をあげる。それと同時に気になって問いを。
海未「ところで、その二人はどこへ…」
穂乃果「うん、忙しいみたいでもう帰って行っちゃった。海未ちゃんにもよろしくって言ってたよ」
海未「……そうですか…」
-
ウッミ...
-
顔を伏せる。
予感してはいたが、自分でも思った以上にショックを受けている。
穂乃果が認められたのは心から嬉しい。だが自分にはリングが与えられず、そして自身でもそれは妥当なのではないかと感じている。
素人からここまで一息に駆け上がってきた穂乃果に比べ、自分は凡才なのではないか。
自分たちの成長はここで打ち止めなのではないか…と。
穂乃果「む…」
そんな海未の姿が、穂乃果にはひどく気に入らない。
それほど人心の機微に聡くない穂乃果にも一目でわかる。海未は完全に自信を喪失してしまっている。
絵里からメガリングを受け取ると同時、希から海未への言伝を聞かされている。それは海未が目指すべき、穂乃果とは異なる成長の指針。
希と海未はまだ会ったことがないはずで、そんな相手に言伝とはなんとも不思議。
だが、デタラメを告げているとはまるで思わせない説得力が希の言葉にはあった。
それを伝えようと思っていたのだが…穂乃果は口を噤む。
そして腰からボールを掴み、腑抜けてしまった幼馴染へ、ライバルヘと突きつける。
トレーナーの迷いを断ち切るには、いつだってバトルが一番の良薬だ!
-
穂乃果「海未ちゃん、勝負しようよ」
海未「勝負…ですか。生憎ですが、色々と気付いていなかった怪我があって、しばらくは安静にするようにと…」
穂乃果「じゃあリザードンとゲッコウガだけでいいから!」
ピクリ、海未の表情に険が宿る。
海未「あなたのリザードンも進化したばかりですよね。つまりレベルは同等。
その上で、属性相性は完全にこちらの有利。まさか…侮っているのですか?」
穂乃果「そう思うならさ、掛かってきなよ。海未ちゃん!」
二人、視線に走る稲妻。それは開戦の合図!
海未「ゲッコウガ!臨戦のまま、まずは見です!」
既にゲッコウガを展開している海未、対し穂乃果はリザードンをボールから出すところから。
つまり思考、指示は海未に時間の優位。
海未(見てからで間に合う。まずは穂乃果の初動を…)
穂乃果「リザードン!“ニトロチャージ”!」
海未「!」
-
登場、即座の指示!
ニトロチャージは火炎を纏っての加速突撃。
シンプル故に始動が早い。が、加速が乗り切るまでに若干の助走距離を必要とする。それは海未が突くべき綻び。
しかしその小さな欠点を、穂乃果は加速のための必要距離ギリギリへとボールを投じることでカバーしてみせている。
プラス、リザードンが穂乃果の間髪入れずの指示にタイムラグなく対応している。
それはポケモンとの間に確固たる信頼を築けている証であり、さらには穂乃果が行き当たりばったりではなく自身の戦闘スタイルを確立できている証明でもある。
ゲッコウガがリザードンの突撃を受ける!
水拳が炎爪を受け、そこへ返しのカウンターを決めるよりも早くリザードンは穂乃果の元へと舞い戻っている。
双方ダメージはなし、リザードンだけが加速に成功。
初手アドバンテージを取られ、加速されたことでスピードという優位性が失われてしまった。
穂乃果「偉いよ!リザードン!」
『リザァッ!!』
海未「…焦る必要はありませんよ、ゲッコウガ。進化した貴方の火力ならリザードン程度、すぐに落とせます」
『ゲッコ…!』
海未「遠慮は不要です。全力で…“みずのはどう”!」
ゲッコウガの手元に結集する大量の水分。
それはゲコガシラだった時よりも鋭く硬く最適化され、まるで忍者の投じる風魔手裏剣めいた形状へと変化していく。
そして投擲!弾け散る水塊!!
これが進化しての初戦闘。
海未はその火力…否、水力に手応えを感じる。遥かにパワーアップしている。仕留めた!
…が。
『ザルル!』
穂乃果「ナイスだよ、リザードン!」
リザードンは健在、瀕死ですらない!
-
海未「何故です…!ゲッコウガ、もう一度“みずのはどう”!」
『ゲッッ…コウガッ!!!』
弾け飛ぶ水塊、直撃の手応え!
しかし再現される光景、リザードンは健在のままでいる!
散る飛沫、夕映えに照らされた中庭は燃えるような紅。
そんな光景の中、海未はリザードンが持ち堪えている理由をはっきりと目に留める。
穂乃果「リザードン、もう一回!“みがわり”!」
海未「みがわり!?」
穂乃果の指示に従い、リザードンは自身の体力を削るほどの勢いで猛烈な火炎を傍らへと放射する。
それは瞬時に圧縮されたエネルギー体へた姿を変え、リザードンの姿を模したデコイへと変貌する。
ゲッコウガが放つ三発目の波動は高濃縮されたエネルギー体である“みがわり”へと引き寄せられ大破、炸裂!!
本体であるリザードンへは直撃せず、結果として撃破へと至らない!
穂乃果(絵里ちゃんと希ちゃんならいい技マシンを持ってると思って聞いてみて、使わせてもらったんだよね!)
海未「小癪な…しかしそれでは時間稼ぎにしかなりませんよ。リザードンの体力は削られていっている!」
穂乃果「そう、だからいいんだよ」
穂乃果は不敵、はっきりと笑みを浮かべる。
体力を削り、リザードンの体は烈炎へと包み込まれていく。
聖良との一戦、決定的な火力を与えたリザードンの特性を、穂乃果は能動的に発動させる!
穂乃果「“猛火”!!」
『リザァァッッッ!!!!!』
-
海未とゲッコウガは同時、相手が発動させた凄まじい炎に微かに怯む。
初めての戦い、ヒトカゲの頃から見知っている相手が、これほどまでに激烈な炎を!?
そんな海未たちの動揺を、穂乃果の天性の嗅覚は鋭敏に感じ取っている。
炎と水の優劣、それは常に絶対ではない。
相手が動揺しているならば、時にはゴリ押しも有効!
穂乃果「“かえんほうしゃ”!!!」
飛翔したリザードンへと穂乃果は放炎の指示を下す!
タイプ相性をガン無視!!
上空から凄絶な炎で煽り立てられ、ゲッコウガと海未はたじろいでしまう。
素早く水壁を生じさせて防戦へと移行するも、ゲッコウガは攻めてこそのポケモン。
猛火を発動させているリザードンに対し、粘る戦いは決して好ましくない。
そして何よりこの状況は、自信を喪失している海未の心を激しい動揺へと落とし込んでいく!
海未(穂乃果がテクニカルな戦術を…それも、昔からの思い切りの良さを保ったままで。成長している。凄まじい速度で!)
海未(ですが、私は…?)
『ゲッッ…!ゲコッ!!?』
海未「しまった!ゲッコウガ!」
海未の脳裏に迷いが浮かんだ数秒。
その間はゲッコウガの迷いへと繋がり、水壁に脆さが生まれ、そんなゲッコウガを飲み込むリザードンの火炎!!
ここが押しどころ。それを理解している穂乃果は絶え間なく火炎放射の指示を下し続けている。
盛大な火柱の中にゲッコウガの姿を見失い、どの程度のダメージを負っているのか、ゲッコウガがどんな気持ちでいるのか。
まるでわからず、指示を出せず、海未は不甲斐なさと無力に歯噛みをする。
海未(私のせいで…ポケモンたちに苦痛を与え、敗北させて…情けない…!)
穂乃果「いいよリザードン!そのまま炎で抑え続けて、反撃させずに終わらせちゃえ!!」
海未「ゲッコウガ…っ」
-
これはペラップの時と同じだ。
いくら知識があっても、ポケモンの性能で上回っていても、指示を下せないようにされてしまえば何もできない。
その状況を作り上げてしまったのは自分の慢心、迷い、力不足。
いっそ、いっそ自分が代わってあげられればどんなに…!
海未「私は…私は!!」
━━━熱。
海未「っ!熱い…?」
走る閃光、宿る感覚。
得体の知れないそれは、海未の肌へと強烈な熱を感じさせた。
一体それは何なのか、海未は即座に確信を得る。
海未(これは今、ゲッコウガが感じている熱。痛み。何故それが私に…?)
疑問…それは不要。
一切の迷いなく、海未はその奇妙な感覚の中へと五感全てを落として委ねる。
(ゲッコ…!!)
海未(渦巻く火炎の乱流、焼け付く皮膚の痛み。ああ…これが今、貴方が見ているもの。感じている感覚なのですね?)
(ゲロロ…!?)
海未(何故だかはまるでわかりませんが…今なら貴方と感覚を共に出来ています。見ているものがわかる。負担はありますが…担い合えるのなら望むところ!!)
海未「ゲッコウガ、二秒後です!」
穂乃果「…!?」
海未「火炎を浴びて理解しました、そこで息継ぎのタイミングが来ます!
隙を縫って“みずのはどう”を…いえ、纏めるのではなくエネルギーを分散させてください!」
穂乃果(海未ちゃん…!何か掴んだんだね!)
-
ソノダゲッコウガ
-
海未に宿った共感覚、それが何なのかは海未もゲッコウガも理解していない。
ただ今までよりもその絆はより深く、鋭く。
放たれた海未の指示はゲッコウガの耳へと届き、磐石を以って理解を!
感覚の相互理解は新たな技を呼び覚ます。
水の波動を分散させ、ゲッコウガが手元へと生み出すのは五発に別れた鋭利な水弾!
海未「今です…“みずしゅりけん”っ!!!」
『ゲッ、コウガァッ!!!』
穂乃果「あれは…リザードン!避けて!」
鋭く投擲!!
曲射軌道で鋭く放たれた水弾は空を裂き、高速で回避を試みるリザードンへと迫っていく。
翼は夕空を一線に流れ…急直下!
上下動によりゲッコウガの水手裏剣をやり過ごそうという狙いだ!
が、海未とゲッコウガは動じない。
海未「下です」
『ゲロ…!』
いつの間にかゲッコウガの体を水の本流が取り巻いている。
渦を巻く烈水は水の操作能力が大幅に高まっている証。
共感覚は海未にだけでなく、ゲッコウガにも成長を齎している。
下への動きにも惑わされることなく、直角に近い角度で水弾は追尾!!
穂乃果(メガシンカ…!?違う、別の何かだ。海未ちゃん…やっぱり海未ちゃんは凄いよ!)
海未「……そこです!!」
炸裂!!!!
華麗なる散水、絵画めいた光景。
五発の水塊から直撃を受けた火竜がゆっくりと落下してくる。
穂乃果はすうっ、と息を吸い…ふう!と肩で大きく息を吐く。
リザードンを労ってボールへと収め、海未へと笑って声をかける。
穂乃果「はあ…やっぱり海未ちゃんは強いね!」
海未「それを言うなら穂乃果…強くなったのですね、リザードンも、貴女も」
穂乃果「希ちゃんからの伝言ね。「海未ちゃんにはメガシンカは必要ないよ、別の方法で強くなる未来が見えるんや」…って」
海未「ええ…穂乃果のおかげで、道が少し見えた気がします」
憑き物が落ちたような笑み。
海未は勝利に、ゲッコウガと軽く拳を突き合わせた。
穂乃果は思う、そうこなくっちゃ!と。
チャンピオンに挑むその前までは、海未ちゃんに自分の先を走っててもらわなくては。
穂乃果(だって私、自慢じゃないけど誰かに引っ張られないとすぐ飽きちゃうタイプだもんね!)
そして暮れた空を見上げ、どこかで同じ空を見ているはずのことりへも届くように。
穂乃果「大丈夫。きっともっと…今よりずっと強くなれるよ。私たちは!」
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オハラタワー編おしまい
明日は更新お休みで明後日から続きやるよ
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乙。楽しみに待ってる
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乙
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ウミゲッコウガは熱い
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メガリザードンXorYの穂乃果、ウミゲッコウガの海未
この2人のフルバトルは絶対熱い(確信)
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井の中の蛙が大海を得たわけだな
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乙
いつもいつも白熱した文書けてすげぇなぁ…
ようちかは丸く収まったように見えて、その実曜→千歌の依存とか何も解決してないからこそ先が気になっちゃうね
梨子ちゃんガンバレ!
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梨子ちゃんのフォローがなかったら千歌も曜もこの先相当危なかったよな
だからキスくらいは正当な報酬と言えるだろう
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きずなへんげはポケモンと共に己自身も鍛え上げる園田流に相応しいな
今の海未ならグリーンみたいに斬れないモノも斬れそう
アニメ1話では王道且つド安定だったようちか
ここまでもどかしく不安定なのが板についてしまうなんて……そこも含めて好きだけど
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ようちかのやっとライバルになった歪な未熟さとほのうみの健全なライバル関係の対比が面白い
あと桜内はちょっとした私利私欲とか言ってるけど全然ちょっとじゃないんだよなぁ…欲望まみれのサイコレズ
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や脳揺必
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ウミゲッコウガのつじぎりとかとんでもないことになりそう……
しかし梨子ちゃん四天王なんてやってるだけあってやっぱ頭のネジ外れてんな
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四天王全員が頭のネジ外れてるみたいな言い方やめーや
確かに果南ちゃんは脳筋だし希はスピリチュアルだしえりちはポンコツだけど
最後の1人がマトモかもわからないだろ!
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穂乃果ちゃんめっちゃ安心感あるわ
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いつも乙です。
一旦、区切りのようだから
これまでのまとめ
話のはじまりと作者のID、主な出来事
>>1 ID:xLZ7WluY 立て直し分
>>183 ID:uk/WwcxQ よしまるびぃ対セイントスノー
>>233 ID:SEt6gyo6 穂乃果とチゴラス/千歌対あんじゅ
>>254 ID:VFf0taYI ツバサ、地下施設でことうみと対峙
>>282 カイリキー無双
>>292 ID:4qhEIhUU 屋上で英玲奈と鞠莉の攻防
>>324 ID:KhvixB2g 穂乃果対セイントスノー
>>356 ID:rXFu3Z2k 穂乃果対聖良
>>404 ID:CqANyeG6 ID:L6msQfoc 曜対あんじゅ
>>449 ID:L6msQfoc ID:4XqhC7hs ことうみ対ツバサ
>>511 ID:4XqhC7hs 穂乃果対ツバサ/果南対英玲奈/のぞえり登場
>>574 ID:gYCwgAWw 病院でのやり取り
>>617 ID:GIoGUEzU ちかようりこ/穂乃果対海未
これからも楽しみにしてます。
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まとめ乙
タワー編を10日ちょいで終わらせるペース凄いわ
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梨子ちゃんは「恋愛対象として千歌ちゃんも曜ちゃんも同じくらい好き」なんて言うけど
唯一無二じゃないならそんなの恋じゃない
その程度の気持ちで親友の想い人にキスするなんてギャロップに蹴られても文句言えないと思います
梨子ちゃんは友情と性欲と萌えを混同して恋と錯覚Crossroadしてるんです
梨子ちゃんにはどうか親友としてようちかを支えて欲しい
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梨子は格闘vs悪で善子にも優位取れるから実質よしりこ
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ここまでストレートなのは逆に清々しいからこの梨子ちゃんには是非夢を叶えて欲しいわ
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清々しくて好感持てるのは同感だけど
3Pとか無理だって
想像しただけで吐く
まあポケモンSSだからそんなの描写しないはずだから安心だけど
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すまん
本当マジで余計なこと書いたわ
お目汚ししてごめんなさい
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読者さまがたwwwwwwこんばんわwwwwww
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流石に展開予想、希望酷すぎない?
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バッジ数的にストーリー全体の五割ぐらいは来たんかな
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海未のキズナへんげはマジで熱い
楽しみすぎる
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まあまだポケモンのゲームの流れの大筋から考えたら
・伝説のまえふりがあるジム戦、敵と戦闘
・敵とラストバトル
・リーグ戦ENDってながれだろうから
多く見積もっても2〜3割りくらいじゃない?
多分>>1は否定するけど予定より長くなるだろうね。終盤に行くにつれ書きたいことおおくなってね
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うわあ…
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>>674についか
あと長くやるうえで外野が展開にギャーギャー
言うだろうけど気にせず>>1はそのまま押し通せ
3Pだろうが18Pだろうが気にしないから
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>>676
展開ギャーギャー言ってる奴が言ってて草
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>>677
18Pみたい…みたくない?
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だから展開予想とかすんなや
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まぁ落ち着けって
荒らしじゃない限りレスが沢山つくのは嬉しいみたいなことを龍狩り中盤で言ってた気がするし、読み手は和気藹々と感想言い合ってた方が1のモチベになるんじゃねーの?
明から様な予測は控えるに越したことないけど
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全然スルーしてくれていいけど>>1の推しポケが気になる
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りんぱなが気になる
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>>681
フライゴンだぞ
ラストバトルはメガフライゴン(地・妖・龍)が専用z技で大活躍するんだ
ガブカスwwwwww
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読み返して思ったんだが、ちかよしの恐怖に歪んだ泣き顔とか絶対好きだろ
アクアでホラーなんて書いたらえげつないことになりそうだな
それはそれで楽しみだけど
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そういえば、捕まった聖良については今回なかったのか。
名のあるキャラだけに今後が気になる
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今帰ってきたから更新は12時前後になると思うよ
>>681
タブンネ
-
…
季節は初夏から針を進めて晩夏、初秋へ。
樹々は深緑から鮮やかな黄紅、鮮やかに色付いて人々の目を楽しませ、ポケモンたちへは多くの実りをもたらしている。
時節が移ろえば世間も動き、数多くのニュースが人々の間を駆け巡る。
【オハラコーポレーション国内撤退へ、今後は海外事業を中心に…】
【ボールの信頼性に翳り?シルフ、デボン、株価下落の傾向】
【ジョウト地方でアライズ団の目撃情報が…】
【アキバ地方の犯罪件数が急増、アライズショックの影響か】
“オハラタワー襲撃テロ”、先日の一件は世間でそう通称されている。
あるいはその日付に因み、“6.13”と。
比較的治安が良いとされる日本で起きたテロ、それも世界に名の知れ渡った大企業のパーティ会場への襲撃は国内だけでなく、世界各国へと衝撃を走らせた。
犠牲者数が100人を越えたという規模もさることながら、洗脳薬【洗頭】の存在が人々へとショックを与えている。
モンスターボールで所持しているポケモンが所有者へと牙を剥く。そんな光景が中継を通して余すところなく映し出されたのだから、世間の反応は推して知るべし。
シルフ、デボンなどのボール製造企業がその安全性に関して公式声明を発表する事態にまで至ったほどだ。
-
【洗頭】はツバサがテレビ越しに宣言してみせた通り、社会の闇を通じ、巧妙に着々と流通網を広げている。
それは港で、それは酒場で、公園で、荒野で、都市の路地裏で。
ありとあらゆる場所に売人が蔓延り、求めさえすれば誰でもが手に入れることができる…そんな悲惨な状況。
遍く悪たちにとって、洗脳薬の存在は魅力的に過ぎたのだ。
そして何より、綺羅ツバサの見せた圧倒的な邪智暴虐、悪辣なる蹂躙、輝かしい黒の笑顔は、アキバ地方に潜む悪人たちへと蜂起を強く促した。
“アライザー”。
6.13後にアキバ地方で急増した犯罪者たちはそう呼称されている。
中継映りを意識した白備えの団服も覿面の効果を発揮している。
アライザーたちは白ずくめの服装に憧れを感じて真似、あるいは団服のレプリカを好んで身に纏い、怯える人々へと暴威を撒き散らしている。
抑え役となっていたオハラコーポレーションの撤退も悪の隆盛を手伝い、いつどこで犯罪に巻き込まれるかわからない…
アキバ地方の人々は、そんな無間の混沌へと閉じ込められようとしていた。
そんな折、衝撃的な一報が世間を震撼させる。
【綺羅ツバサ、逮捕!!!】
-
アキバ地方チャンピオン絢瀬絵里。
同四天王東條希。
アライズ団のアジトを掴んだ警察からの要請を受け、二人は警察特殊部隊らと共に突入を敢行。
発見、交戦。イツツタウン近郊の森の中、壮絶な激闘の末に綺羅ツバサを逮捕。
無論、その裏には数ヶ月に及んで執念深く捜査を続けた刑事スマイル、矢澤にこの活躍がある。
その名が世に明かされ讃えられることはないが、ツバサへと手錠を掛けたのはにこだ。
しかしその事実は絵里と希、さらに居合わせた大勢の警官たちが知っている。
拘束衣に身を包まれ、さらには絵里のポケモンによる氷で手足を拘縛された状態で拘置所へと護送されるツバサ。
そんな姿を撮影された写真がネットへと流出したのは、警察の…さらに言えば、にこの発案による苦肉の策。
悪にとっての絶対的アイドルとなってしまったツバサの完全なる敗北を世に晒すことで、その影響力を絶とうと試みたのだ。
残る二幹部、統堂英玲奈と優木あんじゅ。
さらに戦闘員として悪名高い鹿角姉妹の妹、理亞らの姿はアジトにはなく、今も姿を晦ましたまま。
アライズ団を旗頭に世界を転覆させよう、そんな調子で息巻いていた“アライザー”たちはハシゴを外された形となる。
ツバサが収監されたロクノシティ刑務所の前では大勢のアライザーたちがツバサの解放を求めて、日夜罵声を張り上げ、警官隊との小競り合いを、時には乱闘からの逮捕騒ぎを繰り返している。
大量に流通した洗脳薬、鬱憤を募らせて散発的に暴れるアライザーたち。
そんな不安定な状況の中…
アキバ地方の端、小さな田舎町であるハチノタウン。
その中央に位置する広場で、騒動の気配が。
-
《ハチノタウン》
「聞けえ!田舎者ども!」
「この街は我々アライズ団の志を継ぐ者、アライザーが占拠したァ!」
「通行人は全員手ぇ上げろ!腰のボールを外して地面に起きな!」
奇抜な色に染め上げた髪、顔から首筋へと施した刺青、まるで品性を欠いた顔付き。
いかにもな悪党然とした男たちが10名ほどで中央広場、昼下がりの憩いを楽しむ人々へと怒声を張り上げている。
そんな風貌でいて、身に纏う衣装は白地に金のモチーフ。
アライザーを名乗っている通り、彼らはアライズ団の団服レプリカへと袖を通している。
上品な印象のその団服に男たちの外見はとても似つかわしいとは言えないのだが、彼らにとって似合う似合わないは問題ではない。
憧れの存在であるアライズ団に少しでも近付きたいと願っているのだ。
しかしそんな“エセ”であれ、アライズ団の白の団服が人々へと刻み込んだ恐怖は大きい。
そして何より、彼らが手にしている赤のアンプル、それは洗脳薬【洗頭】。
蘇る凄惨な中継の記憶、オハラタワーでの虐殺の光景…
湧き上がる悲鳴と喧騒!
恐怖の声が昼下がりの広場へと満ちる!
その声を耳に、(ああ〜…最高だぁ…)とばかり、快感に打ち震える悪党たち。
刹那的な享楽主義である彼らにとって、これで警察に追われる身になるだとか、そういった後先は関係ない。
奪い、破壊する。アライズ団のように!
……と、そんな広場の只中。
東西の両脇からそれぞれ一人、少女が歩み出てくる。
-
片方はスポーティな印象、まるで猫のように
しなやかな細身の少女。
もう片方は柔らかな印象、春の花畑を思わせる穏やかな相貌の少女。
二人は不機嫌に視線を尖らせ、ツカツカとアライズ団へと歩み寄り…
その前を通り過ぎる。
そして広場中央、対峙した二人は睨み合う。バチバチと視線を飛ばす!!
凛「かよちんの頑固者!今日っていう今日こそは絶対に絶対に!やっつけてやるもんね!!」
花陽「凛ちゃんの方がよっぽど分からず屋だよ!ずうっと喧嘩してきたけど、今日は覚悟しませんっ!!」
凛「ガオガエン!いっくにゃー!!」
花陽「お願いっ!フシギバナさん!」
繰り出されるポケモンたち!
バトルを始めようとしている!
アライザーを完全無視で!!
「おいお前ら、シカトしてんじゃ…」
凛「うるさいにゃ!“フレアドライブ”!!」
花陽「邪魔ですっ!“ギガドレイン”っ!!」
業火繚乱、炸裂する双方の大技!!!
ズタボロに叩き潰され、昏倒、沈黙するアライザーたち。
それにチラリとも目を向けることなく、星空凛と小泉花陽、ハチノタウンの名物少女たちは丁々発止の戦いを繰り広げ始めている。
道の傍ら、穂乃果は手にした牛乳パックをストローで吸い上げ、ズゴゴ…と音を立てて飲み終えながら呟く。
穂乃果「うーん、逞しいなあ」
-
>>691
あ、訂正
二人は不機嫌に視線を尖らせ、ツカツカとアライズ団へと歩み寄り…
↓
二人は不機嫌に視線を尖らせ、ツカツカとアライザーへと歩み寄り…
-
《ハチノタウン・喫茶店》
穂乃果「二人とも強いね!びっくりしちゃった!」
いつもながらに身振りバッチリ、穂乃果は両手を広げ、目にした一戦の驚きを表現してみせる。
テーブルを挟んで二人、凛と花陽。
凛はえへんとばかり得意げかつ嬉しげに、花陽ははにかんだ仕草で控えめに喜びの笑顔を。
花陽「え、えへへ…そんなことないよぉ」
凛「この町で一番強いのは凛とかよちんなんだー。ジムリーダーより強いよ!」
穂乃果「げえっ、ジムリーダーより…」
花陽「あ、でも、穂乃果ちゃんもこの町のジムを突破したところなんだよね?」
穂乃果「うん!ふっふっふ、これで集めたバッジは…7個目!」
ババン!とばかり、穂乃果はバッジケースを開けて二人へと見せて誇らしげ。
凛と花陽は仲良く顔を近づけてそれを覗き込み、「おお〜!」と声を合わせて歓声を上げる。
ヨッツメシティでの動乱後、療養を終えた穂乃果は再び海未と別れて各町のジム巡りを再開していた。
イツツタウン、ナナタウン、ハチノタウンと順に巡り、現在のバッジは7個!
ポケモンリーグへの挑戦権にもう少しで手が届くというところまで到達している。
そんな旅の道中、二人と知り合い食事を共にしている。そんな状況が今だ。
-
穂乃果「ん、でも…」
穂乃果はふと、素朴な疑問を口にする。
穂乃果「あんなに強いんだったら二人もバッジ持ってるんじゃないの?すっごくハイレベルだったけど」
凛「んー、凛はバッジにはあんまり興味ないんだよね」
花陽「私も、ポケモンリーグに挑戦するつもりはないかな…」
穂乃果「え、そうなの?そんなに強いのにもったいない…」
そんな会話に、横から涼やかな声が割り込んでくる。
海未「二人はトレーナーですが、ポケモンを育てているのは別の目的のためなんですよ」
穂乃果「別の目的?……って海未ちゃん!?なんでここに!!」
海未「貴女より先にいましたよ。逆にどうして気付かないのです」
やれやれと溜息一つ、カウンター席に座っていた海未は、紙ナプキンで上品に口元を拭いながらこちらを向いた。
時刻は2時過ぎ、駆け込みのランチタイムでパスタセットを食べている。
紙にトマトソースの微かな赤、それを丁寧に畳んでテーブルに置くと、穂乃果へフッと笑いかける。
海未「お久しぶりです、穂乃果。貴女もバッジを7つ集めたのですね」
穂乃果「えへへ、久しぶり!ん?あなたも、ってことは…」
海未「ええ、私も現在バッジは7つ。お互い順調なようですね」
-
そう告げると、海未はバッジケースを開いてみせた。
確かにバッジは7つ。海未もまた歴戦のトレーナーへと成長しつつある!
ライバル同士、互いの健闘に笑みがこぼれる。
そんな二人へ、凛が不思議そうに声をかけた。
凛「あれれ、海未ちゃんと穂乃果ちゃん知り合いなの?」
海未「ええ。幼馴染で、同じ日にオトノキタウンを旅立った仲です」
穂乃果「親友で、ついでにライバルなんだ!」
花陽「そっか、幼馴染で親友…ふふっ、私と凛ちゃんと同じだね♪」
凛「えへへー♪」
凛と花陽、二人はなんとも仲睦まじげに笑みを交わす。
そんな光景に、穂乃果の頭に次の疑問符が宿る。
穂乃果「あれ、じゃあ…なんであんな喧嘩してたの?」
凛「にゃあああああ!!!!」
花陽「ぴゃあああっ!!!!」
穂乃果の言葉をトリガー、すっかり仲良しムードだった二人は思い出したように睨み合う!
両手を掲げて大きく見せて、威嚇しあう双方。まるで小動物同士の喧嘩だ!
やれやれとばかり、海未は今日二度目の溜息を。
海未「説明するならば…思想上の対立、と言ったところでしょうか」
-
星空凛、伝説ハンター。
小泉花陽、伝説ウォッチャー。
二人の立場を簡潔に表現すればこうだ。
穂乃果「へええ、伝説のポケモンかあ」
海未「このハチノタウンのそばにある大山、ミカボシ山。そこに現れるという伝説のポケモンを巡って二人は対立しているのです」
穂乃果「んん?ハンターとウォッチャー、二人とも伝説のポケモンに逢いたいんだよね。なんで対立するの?」
穂乃果の疑問はすぐさま、凛と花陽がプンスカと怒りながら交わす言葉に回答を得る。
凛「ミカボシ山にはたくさんアライザーが入ってて伝説のポケモンが危ないにゃ!だから凛が早く捕まえて保護してあげなくちゃいけないの!」
花陽「捕まえて保護?話にならないよ凛ちゃんっ!伝説のポケモンは超自然の存在、人間なんかが安易に手を出してはいけないものなんですっ!」
凛「そんなこと言ったって危ないものは危ないじゃん!かよちんは頭が固いんだよ!その時その時でリンキオーヘンに動かなきゃ!」
花陽「危ないのはわかってるよぉ!だから私がミカボシ山のアライザーを倒して縛って通報して回って辿り着けないように守ってるの!」
凛「そんなことしてたらかよちんが危ない目に合っちゃうよ!かよちんは可愛くて悪い人に狙われそうだし、危険なことは凛に任せて町で待っててくれればいいの!!」
花陽「ピャア!自覚なし!凛ちゃんの方がもっと可愛いよぉ!?悪い人たちも危ないし、それに伝説のポケモンだって安全かはわからないんだから町で大人しくしててっ!」
「ははあ…」と穂乃果。
海未もこくんと首を縦に振る。
穂乃果「めちゃくちゃ仲良いね?」
海未「故に、こんな妙なこじれ方をしているのです」
-
凛「ふふん!いいもんね!」
花陽「むむっ」
ニャアピャアと交わしていた戟を収め、凛はくるりと回って穂乃果たちの方を向く。
跳ねるように身軽、海未へと近付くとその腕をひしっと掴み、花陽へと勝ち誇った笑みを。
凛「かよちんは一人で伝説ウォッチャーやってればいいよ!凛には超強力な助っ人、海未ちゃんがいるもんね!」
穂乃果「え、そうなの?」
海未「ええ、まあ…成り行きで」
凛「凛と海未ちゃんでババーッとアライザー全部やっつけて、そして伝説のポケモンも捕まえちゃうよ!
かよちんは後から綺麗な紅葉を眺めてゆっくり登山して美味しくおにぎりを食べてればいいにゃ!」
花陽「むむむむ…!」
悔しそうに歯噛みする花陽。
内心では凛の提示した登山おにぎりプランもちょっと悪くないな、なんて思っているのだが、当然それをおくびには出さない。
おっとりとした顔を精一杯凄ませ、眉根にシワを寄せて熟考…
駆け寄り、穂乃果へと耳打ちを。
花陽(穂乃果ちゃん!私に力を貸してくれませんか!)
穂乃果(えっ、でもバッジ集めの途中だしなぁ…)
花陽(穂乃果ちゃんからは、私と同類の香りがします…協力してくれたら最高に!最っ高に!美味しいごはんをご馳走しますっ!)
穂乃果「その話、乗ったぁ!!」
海未「む?」
花陽は凛に見せつけるように穂乃果の腕を取り、ふふん!と得意顔で凛へと勝ち誇ってみせる。
花陽「ふふふ…花陽にも強力な助っ人ができちゃいました!穂乃果ちゃんが協力してくれたら百人力!
凛ちゃんと海未ちゃんは山頂で綺麗な星空を見ながら一泊して、朝焼けに照らされながらとっても美味しいインスタントラーメンを食べてればいいんですっ!」
凛「にゃにゃっ!!?」
-
戦力は再び拮抗、ぐぬぬと睨み合う花陽と凛。
ちなみに先刻の街中での戦いを含め、二人のポケモンバトルは20戦連続で引き分け中だ。
使用ポケモンはまるで別、種族値個体値もそれぞれ。
普通なら何かしらの決着が付くところなのだが、この二人はあまりに長く一緒に居すぎている。
幼い頃のじゃれあい程度のポケモンバトルに始まり、激しく火花を散らす今へと至るまでに数百戦のバトルを経ている。
それでいてプライベートでもずっと仲良しと来ているものだから、お互いの思考や次の手がはっきりと読めてしまうのだ。
もちろん互いの手持ちや技も余すところなく把握、お互いのポケモンたちが凛と花陽の二人に懐いている。
きっとそれぞれの手持ち六匹を丸々入れ替えてバトルしたとしても何ら問題なく使いこなし、何の変わりもなく引き分けになるのだろう。
と、いうわけで、二人が戦って結果を決めるというのは不可。
お互いが山に入り、花陽は伝説のポケモンへと警句を告げることで、凛は伝説のポケモンを捕まえることで、主張を通して目的を果たそうとしているのだ。
さて、すっかり巻き込まれた格好の穂乃果と海未は訝しげにお互いを見つめる。
海未「……穂乃果、貴女は何に釣られたのです?」
穂乃果「別にぃ、人助けだよ!海未ちゃんこそ、“あなたは”って言ったよね。何に釣られたのさ」
海未「まさか。純然たる人助けです」
希「けど本当は?」
穂乃果「えへへ、花陽ちゃんが最高に美味しい食事をご馳走してくれるって…」
海未「知る人ぞ知る最高の登山ルートを案内してくれるというので、つい…」
向き合う!!
海未「やはり私利私欲ではないですか!!!」
穂乃果「海未ちゃんこそ!!!」
バッと振り向く!!
穂乃果「って!?どうして希ちゃんがここに!!」
-
希「や、お久しぶり〜。海未ちゃんとは初めましてやね?」
海未「あ、東條さん、どうもその節はお世話になりまして…」
希「うひゃー堅い堅い。希ちゃんでも呼び捨てでも、のぞみん♪とかでもええよ?」
海未「そ、そうですか?では…園田海未です。よろしくお願いします、希」
希「うんうん、しっくり感。で、なんでここにって質問やけど…ま、休暇やね。色々と大変やったから、ポケモンリーグも一週間休業中」
穂乃果「あ、そっか。アライズ団と…」
絵里と希、それににこによる綺羅ツバサの逮捕。
アライズ団と深く関わってしまった穂乃果たちにはにこから少しばかり細かな連絡が回されている。
遠くない未来、正面から立ち向かわなければならない大敵。
ツバサと交わした双眸、そんな運命を感じていた穂乃果にすれば、なんだか肩透かしを食らってしまったような印象がある。
しかしツバサの逮捕自体は素晴らしいことで、直接交戦した絵里、希、にこの三人が無事だったことは何より喜ばしい。
穂乃果は満面の笑みを浮かべ、希へと労いの言葉をかける。
穂乃果「色々とお疲れ様、希ちゃん!」
海未「ええ、本当にお疲れ様でした!」
希「いやあ、メインで戦ったのはほとんどエリチなんやけどね。で、まあ休暇で、ハチノタウンは温泉地やろ?ちょっとゆっくりしに来たってわけなんよ」
穂乃果「なるほど〜」
-
希「なんで温泉に来たかって、どっちかと言えばエリチがメインなんよ。綺羅ツバサとの戦いでちょっと怪我してて」
海未「怪我、重いのですか!?」
希「あ、いやいや。腕をグサッとナイフでやられただけ。毒も塗られてなかったし。ただまあ、念のために温泉療養しに来たってわけなんよ」
そこで希は言葉を切る。
顔を横へと向け、初対面の愛想笑いを浮かべている花陽、軽めの人見知りを発動させて身を硬くしている凛へと優しく笑いかける。
希「ウチ、東條希。よろしくね!」
朗らかな希の笑顔は人心へするりと滑り込む。
花陽と凛の緊張を瞬時にほぐし、二人の表情は昔からの知り合いに向けるような笑顔へと変わっている。
花陽「えへへ、小泉花陽です。よろしくね」
凛「星空凛だよ!よろしくにゃー!」
希「さて、これで自己紹介はおしまい。ウチがなんでこの喫茶店にいるかって話やけど…」
やんわりと歩み寄り、凛の肩へポンと手を置く。
希「ウチ、凛ちゃん海未ちゃんチームに加入するわ」
それは強者の気まぐれ!
「えええっ!?」と、穂乃果や凛たち四人の驚きが重なる!
-
穂乃果「ちょ、ちょっと待った待ったぁ!いくらなんでも四天王の希ちゃんが味方したら決着付いちゃうよ!」
花陽「そっ、そうです!不公平だよぉ!」
海未「いいではないですか!四天王とはいえ一人のトレーナー、その自由意志を縛ることは誰にもできません!」
凛「そうにゃそうにゃ!ツイてるにゃ!」
希を挟んで両サイド、正反対の意見が喧々諤々と交わされる。
希は挟まれて鼓膜をわんわんと苛まれ、両耳を抑えて困り顔。
まあ待った待った、と両手を掲げて双方を制する。
希「花陽ちゃんたちはそんなに心配せんでもええよ、今は休暇中、護身用のフーディン以外は趣味パやから。
そんでフーディンもお疲れやからあんまり戦わせたくないんよ、だから仮にそっちのチームと戦う時も、ウチが使うのはあくまで趣味パの五体だけ。なら大丈夫やろ?」
花陽「う、ううん…それなら…」
穂乃果(待った待った!花陽ちゃん、こういう交渉事はもっと吹っかけて有利になるようにしなきゃダメだよ!)
海未(……と言うような事を囁いているのでしょうね。相変わらず勝因は僅かでも拾いに行くタイプというか…)
ヒソヒソと囁き、花陽へと交渉指南を授ける穂乃果。
そんな様子を苦笑いで見つめ、希は穂乃果へといたずらっぽい表情を向ける。
希「穂乃果ちゃん、心配せんでも大丈夫。そっちにももう一人、強力な助っ人が入る。ウチのスピリチュアルがそう告げてるんよ」
穂乃果「もう一人…?」
パタン。
乾いた音を立て、軽い立て付けの扉が開閉される。
そこには独特のトサカ、純白の羽毛を思わせる笑顔。
-
ことり「初めまして、オトノキタウンの南ことりです♪
途中からだけど、扉の外で話を聞いてました。花陽ちゃん、参加させてもらってもいいかなぁ?」
花陽「あっ、う、うん…!お願いしますっ!」
唐突な登場、浮かぶ困惑。
それでもなんとなく、なんとなくだが波長が合いそうだなと、嬉しそうに花陽は頷く。
そんな花陽へといっぱいの優しさを込めて微笑んだことりは、ゆっくりと穂乃果と海未に目を向ける。
もう一人の幼馴染、穂乃果とはおよそ半年ぶりの再会…!
穂乃果「海未ちゃん、それに、穂乃果ちゃん…久しぶりっ…!」
穂乃果「こ、ことりちゃん…!!」
ダイイチシティの病院から姿を消して以来。
オハラタワーの一件でもすれ違いになってしまった。
ずっと、ずっと会いたかった、もう一人の親友。
穂乃果はぐすっと涙を浮かべ、今にも大声で泣き出しそうな顔で駆け出す。
店の入り口で佇むことりもまた泣きそうな顔、穂乃果を抱擁で受けようと両手を広げ…!
ことり「ハノケチェンっ!!」
穂乃果「なんで穂乃果にだけ会ってくれなかったの!!!」
ことり「げふぅっ!?」
海未「なっ、殴ったぁー!!??」
…
同刻、ハチノタウンの民宿に三人の少女の姿が。
絵里「希ぃ…なんで私を置いて遊びに行くのよぉ…」
にこ「ププ…落ち込んでるやつを見ながら食べる温泉卵は最高ね〜」
真姫「はあ、悪趣味…」クルクル
チャンピオン、国際警察、ポケモン博士。
立場のある三人だ。無論、それぞれ遊びに来ているわけではない。
にこはアライズ団の残党が潜伏しているとの情報を得て。
真姫は伝説のポケモンが現れる兆候があると聞いて。
絵里は怪我の療養と…観光で。
三人ともが狙われる可能性のある身、相互に護衛を兼ねるために同行している。
目的こそ異なれ、三人もまたミカボシ山へと入山することになる。
さらに同日、もう三人、修行を目的とするトレーナーたちがミカボシ山へと足を踏み入れていく。
かくして、トレーナーたちはミカボシ山へと集結した。
ある者は伝説のポケモンを目指し、ある者は食事のため。ある者は登山のため。
面白半分の者、紅葉狩り気分の者も。
複数の思いが交差する中、物語の舞台は霊峰ミカボシ山へと移行する。
-
これは予想の斜め上の展開
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【現在の手持ち】
穂乃果
リザードン♂ LV50
バタフリー♀ LV47
リングマ♀ LV45
ガチゴラス♂ LV44
??
??
海未
ゲッコウガ♂ LV50
ファイアロー♂ LV48
ジュナイパー♀ LV51
エルレイド♂ LV43
??
ことり
チルタリス♀ LV51
ドラミドロ♀ LV55
デンリュウ♂ LV50
??
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今日はここまでで
また明日も更新するよ
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乙
穂乃果だけ6体揃ってるのか
海未ちゃんのパーティーいいね
色々気になる展開だし明日も楽しみにしてるよ!
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乙です。
リリホワ対プランタンとは面白い
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乙!
ツバサさんあっさり捕まってるが、、
ついにりんぱな来たね。新編期待!
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穂乃果ちゃんの手持ちがバタフリー以外重量級なのに対して海未ちゃんは比較的軽量級な対比がいいね
そしてことりちゃんの四体目がフライゴンであることは最早自明の理なんだフリャ
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乙です
いよいよ伝説編か、何が飛び出すか非常に楽しみ
しかしのぞにこえり対ツバサも読みたかった
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ジャラランガなんだよジャラなぁ…
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ツバサ捕獲編もスピンオフでもいいからお願いしたい……
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はえ〜先が読めなくて面白い
メタ的に見ちゃうと穂乃果の未取得バッジがロクノシティでツバサが収監されてるのもロクノシティなのが不穏だ
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>>1はかよちん推しでタブンネ推しなのか
エグいの書くくせにかわいいもの好きで草
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ツバサ脱獄編が今から楽しみ
ことりちゃんは伝説かっさらいに来た感じかな?
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ツバサさん捕まえてさらに大活躍なはずのチャンピオンがポンコツ感増してるのはなぜだろう
でも腕刺されてるのに元気そうでなにより
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ちょっと優しく扱われがちなことりちゃんにも鉄拳制裁を躊躇わないハノケ大好き
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出てくる伝説を予想
ミカボシ山に現れる…だから単体で複数ではないと予想
山の名前との関連性が高いのは
ジラーチ、クレセリアあたりで
現れるのが山頂だと考えれば、ホウオウ、レックウザあたり
温泉=火山と考えたら、グラードン、ファイヤー、エンテイ、ヒードランになるな
絞りきれてないな…
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>>718
二転三転しすぎて清々しいほど絞りきれてなくて草
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流石かよちん推し
りんぱなから可愛さが溢れてる
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あと圧倒的有能エリチカをアデク呼ばわりした>>572は絵里ちゃんに土下座な
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>>721
絵里ちゃんごめんなさい
でもツバサが捕まったのはわざとでしょ
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絵里だけなら利用された感あるけどガチエスパーの希と有能にこも一緒だからな
流石のツバサもしてやられたのかもしれん
脱獄はしてくるだろうけど
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実力的に負けたけど、負けて捕まること自体は想定内って感じがするな
他の幹部が捕まっていないあたりツバサが捕まることに何か目的はありそうだな
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おいおいアライザー湧いてるじゃねーか
ツバサは純粋に負けたんだよ、認めるんだよ
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>>725
リベンジしないとはいっていない
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この手のもので主人公たちが有能でも味方が無能ってのはよくあるぞ
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これ見てポケモン買いたくなった
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これ見てポケモン買った
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なんでお前らはそんなに絵里ちゃんを無能にしたがるんだよ
ポンコツだけど有能なのがそんなに気に食わないのか
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絵里「ハラショー!ハラショ〜!にこ、真姫、紅葉が鮮やかでとっても綺麗よ!」
民宿の窓から身を乗り出し、紅葉に目を輝かせて歓声を。
そんな絵里の姿はまるで子供だ。
素直なのはいいのだが、窓枠から身を乗り出してはしゃがれたのでは同室のにこと真姫は大いに恥ずかしい。
童心であれ、絵里の背格好はわりに大人の女性に見えるのだから尚更だ。
真姫「ちょっとエリー、観光で来たんじゃないのよ」
絵里「え…?」
一瞬、ぽかんと擬音が付いているような表情を浮かべる絵里。
しかしすぐにキリッと表情を引き締め、心得たりとばかりに華麗にウインクを決めてみせる。
絵里「なぁんて。色々やることがあるのはもちろんわかってるわ?」
にこ「……着くなりソッコーで浴衣に着替えた奴の言うことかしらね」
-
そう、絵里はもう浴衣に着替えている。
窓際に配された小机で早々に淹れたお茶を啜り、サービス品のポケモン用ポロックをキュウコンに食べさせている。
モクモクと口を動かす青い毛並み、アローラ産のキュウコンにも主人の浮かれムードは伝わるのか、心なしかその目は楽しげに見える。
絵里「おいしい?」
『コンッ!』
フフッと微笑み首筋を撫でて、「んん〜」とゆっくり背伸びを一つ。
秋風にそよがれながら深呼吸をしてみせる姿は、まるで旅行雑誌の宣材写真のよう。
なまじ見た目が美女なため、どんなに気の抜けた姿をしていてもやたらに様になっている。
にこ(ぐぬぬ…腹立つわね…)
真姫「はぁ…ま、別にいいけど」
絵里「ふふっ、晩ごはんは何が食べられるのかしら。あ、露天風呂も大きいのね〜」
にこ「ツバサとの戦いが終わってから気が抜けてるって言うか、アホになったと言うか。
まさか、あのナイフに脳に作用する何かの成分が…」
真姫「元々でしょ、エリーは」
絵里「ちょっと二人とも!?」
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やっぱりただのポンコツだわこの子(超かわいい)
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扱いに不服を唱える絵里を適当にあしらいつつ、にこは内心に改めての妙な感嘆を抱いている。
にこ(これがあのツバサを仕留めた絢瀬絵里と同一人物だとはね〜…)
イツツの森、アライズ団アジトでの一戦をにこは思い出している。
絵里たちによる襲撃を察知、直後、遊撃に現れたのが下っ端の構成員たちでなく綺羅ツバサ本人だというのは、実にあの女らしかった。
首魁であれ行動派。アジトの奥、玉座に鎮座しているタイプではないのだ。
にこと希、それに警官隊が、ツバサに続いて続々と現れる構成員らを抑え込んた。
そして状況は絵里とツバサによる一騎打ちへ。
蒼輝、氷点下の世界。
人工物のみならず自然をも圧倒する絵里とポケモンたち。
その凍気は凄まじく、イツツの森全体のおよそ15%にも及ぶ面積を真冬のシベリアめいた一面の銀世界へと変貌させてみせた。
そんな厳冬の中にも絵里の横顔、怜悧な青の瞳が何よりも熱い熱を宿していたのを、にこははっきりと目にしている。
クールな性格をしているようでいて、その実、内面は高温に揺れる青の炎。
アキバ地方にとっての大敵を決して許しはしない。静かに盛る情熱の灯火を飼っている。
絵里「トドメよ…“ふぶき”」
ツバサ「……ッ…!」
絶対零度の怒りを内燃、令じた姿はさながら蒼氷の魔神。
あの瞬間、絢瀬絵里は間違いなく綺羅ツバサを圧倒していた。
そしてついに絵里のメガユキノオーがツバサのガブリアスを打倒し…
にこの長きに渡る追走劇に終止符が打たれたのだ。
-
にこ(ママを半身不随にした綺羅ツバサに、この手で手錠を掛けることが出来た。絵里には感謝してもしきれない…それはそれとして弄るけど)
未だ不服げな様子をからかいつつ、にこはたっぷりの親愛を隠した目で絵里を見る。
理知的で冷静、かつ無欠。
絵里が外見の美麗通りにそれだけの人間ならば、それほど踏み込んだ関係にはなれなかった。
だが蓋を開けてみれば存外に熱しやすく、脆いところがあり、ポンコツ感…もとい、お茶目な愛嬌に溢れている。
(ま、面白いやつよね〜)と、にこはそう考えている。
やたらに喜ばれても鬱陶しいので、口に出してやるつもりはないが。
にこ「そういえば…この辺の民宿、“出たり”するって聞いたことがあったっけ〜?」
絵里「で、出…!?にこ!ねえにこ、何が出るの!」
にこ「さあ、小耳に挟んだだけだから詳しくは知らないにこ〜」
絵里「ま、まさか、幽霊…!」
真姫「……なんで怖がってるのよ。ゴーストタイプのポケモンとは普通に接してるじゃない、私のシャンデラとか」
絵里「ご、ゴーストタイプも得意ではないわ。真姫のシャンデラは可愛げがあるけど…
お、お札。お札とかがどこかに貼られてたら駄目って言うわよね…」
にこ「掛け軸の裏とか、ベッドの下とかね」
絵里「ひいっ…!に、にこ、真姫、どこかにお札がないか確認したいんだけど、手伝ってくれない…?」
真姫「私は別に気にならないわ」
にこ「ま、気が向いたらね〜」
-
「もおぉ…!」と泣きそうな声、絵里はキュウコンと共に部屋中のあちこちをつぶさにチェックし始めている。
それを余興に眺めつつ、にこは畳に腰を下ろしてテレビを点けた。
まだ時刻は昼過ぎ、実のないワイドショーばかりが放映されていて、毒にも薬にもならない芸能ニュースにぼんやりと視線を泳がせる。
その傍ら、真姫は机へと広げた資料へと、熱心に何やら細々としたデータを書き付けている。
その大半は専門用語や数式など、素人目には意味のわからない文字の羅列。
そんな中に一列、目立って大きく書き付けられた文字がある。
【UB01 PARASITE】
その一文で視線を留め、真姫はフィールドワーク用のリュックから一本のアンプルを取り出した。
赤紫に揺れる薬液…それは中継に世界を震撼させた洗脳薬、洗頭。
所持するだけで違法となる薬だが、真姫は警察から直々に分析を依頼されたため特例として数本を所持している。
と、言っても大っぴらに持ち歩く権利があるというだけで、違法を気にしなければどこでも買えるほどに普及してしまっている薬なのだが。
ともあれ、そんな洗頭のアンプル。真姫は既に成分の分析を済ませている。
その大半はごちゃごちゃとした化学薬品の数々なのだが、一つ異質な成分が配合されている。それは…
真姫(UB01、通称ウツロイドの体細胞…)
-
アローラ地方での動乱は、世間にその全容を知られていない。
しかし無論、国際警察は事態を把握済み。
その一件にポケモンの一種と分類されているUBが深く関わっていたため、各地のポケモン博士たちへも事のあらましは伝えられている。
真姫もまた若きポケモン博士、そのUB、ウツロイドが起こす現象を既に知っている。
真姫(ウツロイド、その特性は寄生と洗脳。人間を洗脳した事例があるそうだけど、その効果を上手く対ポケモン用へと作り変えてある…)
国際警察が所有しているウツロイドの体組織のサンプル、それと照らし合わせることで成分を分析したのだ。
それが把握できれば、いずれは対抗薬も作れるだろう。
どれだけ掛かるかはわからないが…問題はない。既に綺羅ツバサは獄中なのだから。
「はあ」と目頭を押さえ、細々とした文字を見つめた目疲れに真姫はパタリと大の字になる。
やたらにはしゃぐ絵里に呆れてみせたが、こうして寝そべり、畳の香りを嗅ぎながら木造りの天井を見上げてみると安らぎを覚える。
絵里とにこの二人も年上ながら、それなりに気の置けない仲。真姫からすればなかなか悪くないメンツと言える。
(日頃は研究所に篭りきりなんだし、エリーじゃないけど、少しくらい旅行気分でも大丈夫かもね?)と。
ふと、にこに目を向けると…
にこ「……」
真姫「にこちゃん、どうしたの?難しい顔して」
-
>>729
俺もさっきメルカリで買った
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にこはリモコンを片手、その目は相変わらずテレビ画面へと向けられたまま。
しかし画面は番組表を呼び出したところでそのままになっていて、テレビに意識が向いていないのは明らか。
にこ(初手、フリーザー - コジョンド。冷凍ビームでコジョンドを撃破)
にこ(絵里、コジョンドを戻してアマルルガ。ツバサ次手、ジバコイル。ラスターカノンでアマルルガを撃破…)
絵里とツバサの決戦、恐らくは現在のアキバ地方で最高峰のフルバトルを、まるで将棋の棋譜のように思い出している。
にこの脳内に克明に残されたイメージは鮮烈。
まるで録画した映像のようにありありと、絵里とツバサの呼吸一つ一つまでをはっきりと思い出すことが出来る。
絵里がツバサに勝ったのは間違いない。
追い続けてきたにこが直々に確認して手錠を掛けたのだから、替え玉や影武者であるはずもない。
だが、にこの心にはいくつかの違和感が残されている。
にこ(まず一つ、これは明らかにおかしい点。
ツバサが繰り出したポケモンは先鋒から順に、コジョンド、ジバコイル、ラッタ、クロバット、ペラップ、ガブリアス。
ツバサはオハラコーポレーションから強奪したはずのミュウツークローンを使っていない…)
-
アジトの内部も徹底的に捜索されたが、結局ミュウツークローンの入ったボールを見つけ出すことはできなかった。
他の構成員が持って逃げた可能性はゼロ。
アジトの内部にいたアライズ団は希のサイキックエネルギーによる感知の網を広げ、一人と漏らさずに全て捕らえたからだ。
このミュウツークローン、オハラからの聴取によれば、体は完成しているが実戦への投入テストはまだの段階だったのだという。
だとすれば、入手したはいいが、制御できなかったのだろうか。
あるいは綺羅ツバサでなく、あの日現場に姿を見せなかった統堂英玲奈か優木あんじゅの手持ちとなっている?
にこ(いいえ、にこの刑事としての勘が、そのどちらもが間違いだって訴えてる…
だからって答えはわからないけど)
わからず、にこは小さく首を左右に振る。
ちなみに希の占いでもミュウツークローンの所在は不明。
感知も占いも、対象の発しているサイコ力場が強力すぎて探知を弾かれてしまうのだという。
仕方がない、とりあえずは保留だ。
にこの思考はもう一つの違和感へ。
にこ(コジョンドにガブリアスに…にこの印象より、少し弱くなかった?)
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アマルルガさん四倍多いからね…仕方ないよね…
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これはあくまでにこの勘、言いがかりに近い違和感だ。
押収したツバサのポケモンたちは本部の調べで70オーバーの高レベルだったと報告が来ているし、幾度も目にしたツバサの手持ちと相違ない。
ラッタとクロバットは初見だったが、あれだけのコラッタを育成しているのだからラッタを手持ちに採用することだってあるだろう。
そんなツバサのポケモンたちもアライズ団と関わりのない地へと送られ、悪人に使われていたポケモンの更生施設で既に穏やかな日々を過ごし始めている。
にこ(だけど、どうしても違和感がある。あのポケモンたちが替え玉だとしたら?
……でもメリットがまるでわからない。だってツバサは…)
そう、アライズ団にとって肝心要のツバサは獄中、両手には枷。
それほど身動きの取れる服装ではなく、さらに囚われている独房は全面がサイドンの突進にも耐えられる強度の材質で固められている。
さらには独房内には専用の監視カメラが24時間稼働、女性としての最低限のプライベートさえ無視した徹底的な監視体制が敷かれている。
映画のように食器で掘り進んで抜け出すことは不可能、そもそも供される食事は全て自殺のためにさえ使えないシリコン製のもの。
当然ながら、外部からの仲間の襲撃にも備え済み。鍛え上げられた刑務官ポケモンたちと火器による防衛は並みの硬さではない。
決して脱獄のできる環境ではないのだ。
-
にこ(細かい点を挙げればいくつだって違和感はある。ことりのイーブイの姿がどこにもなかったりだとか…
だけどにこが心配していることの大半は、突き詰めて考えればそれほど問題にならない点で…)
にこ(駄目ね。もうこの違和感は、この不安は、にこの勘でしかない。これを晴らすには自力で、可能性を虱潰しに…)
真姫「にこちゃん!」
にこ「へ、あ、何?真姫」
真姫からの呼びかけに気付いて振り向けば、真姫と、それに幽霊に慌てふためいていた絵里までが心配げににこの顔を覗き込んできている。
どうやら随分の間、呼びかけに気付けずにいたようだ。
真姫「大丈夫…?なんだか顔色が悪く見えるけど」
にこ「あー、そうね。ずっとアライズ団を追いかけて来てたから、こういうのんびりした時間に慣れてないのかも?」
真姫「その、体調が悪かったらいつでも言って。少しくらいは診てあげられるから」
本人に自覚はないが、顔に出るタイプだ。
真姫の顔からはにこを案ずる気持ちが十分に伝わってきて、いじらしい年下の博士へとにこはにこにーポーズで満面の笑みを。
それから、苦笑いを向けてみせる。
にこ「気持ちはありがたいけど、ポケモン博士の真姫ちゃんじゃポケモンしか診られないでしょ?」
真姫「にこちゃんなら別に、ポケモンみたいなものでしょ」
にこ「ぬぁんですって!?このガキ!」
一転、ガルルとばかりに牙を剥く。
そんなにこの肩へ、絵里が優しく手を置く。そして静かな口調で語りかける。
絵里「にこ、大丈夫よ。もし仮に綺羅ツバサが逃げ出したって…私が、何度でも止めてみせるから」
それは女王としての矜持。優しく、それでいて力強く。
そんな絵里の瞳に、にこは安堵の息を吐く。
仮に何かが起きたとしても、一人で抱え込む必要はないのだ。
にこはとびっきりの信頼を込めて、同い年のチャンピオンの胸をポンと軽く小突いた。
にこ「ま、頼りにしてるわよ。アンタも希もね」
-
…
ミカボシ山。
標高2000メートル越えの大山は、高さだけでなくその裾野の広さも国内屈指。
もちろん最高峰のシロガネ山には及ばないが、規模としてはシンオウ地方のテンガン山と同程度かもしれない。
冬になれば雪に閉ざされる天険の地なのだが、今は夏を過ぎたばかりの初秋。
暑くもなく寒くもなく、登山初心者でも深入りしなければ山歩きを楽しめる地としてアキバ地方では親しまれている。
午後の空は日本晴れ、秋風が心地よく木々には実り。
ポケモンたちが食べるきのみや、人が食用にする栗やキノコなども多く見受けられ、例年ならば収穫に訪れた人々の姿も多く見受けられる。
しかし、今年は人気がまばら。
散発的にうろついているのは白ずくめのアライザーたち。
先日ハチノタウンで一騒動を起こそうとしていたアライザーたちはかなりの過激派であり、もう少し凡々とした悪党たちは道に潜む。
通りかかった不幸なトレーナーを襲い、金品を奪い、洗脳薬でポケモンまでを奪おうという目論見だ。
そんなアライザーたちにとって観光地である登山道は格好の狩場。
今もまた、何も知らないような顔をした三人の少女たちが山道を歩いてくる。
襲い、奪い、抵抗するなら殺したって構わない。
アライザーたちは恐ろしげに歪な笑み、少女たちへと声を掛ける。
「金目のモンとポケモン置いて、命が惜しけりゃ…」
ダイヤ「ラランテス、“ソーラーブレード”」
「は?」
『ララン…テスッッ!!!』
-
光斬!!!
ハナカマキリに似たポケモン、くさタイプのラランテス。
美しい和服にも似たその姿、鎌状の手先から太陽光を鋭刃へ。
アライザーの髪を削ぎ、服を破き、喉首を皮一枚で裂いてみせた。
明確な力量差、あと1ミリで死んでいたという命の重みをまざまざと見せつけ、ダイヤは優美に笑みを。
ダイヤ「寄らば斬る、ですわ。もう斬りましたけれど」
財布も所持品も放り捨て、悲鳴を上げながらズタボロの衣服で逃げていくアライザー。
その背を見送りながら、「あの目、彼はもう再起不能ですわね」とダイヤは呟く。
そんなダイヤへと二人の少女が声を掛ける。
ルビィ「お姉ちゃん、お姉ちゃんが倒しちゃったらルビィたちの訓練にならないよ?」
千歌「そーだよそーだよ。なんか格好良く決めるのはいいけど、私たちの修行で来てるんだから」
ダイヤ「あ…そ、そうでしたわね」
ゴホンと咳払い。三人組は再び山道を歩き始める。
千歌とルビィ、オハラタワーの一件では凄惨な目に遭った少女たちだ。
しかし今、その足取りと眼差しは力強さを増している。
数分の歩行…
紅葉した樹々が立ち並ぶ場所で、ダイヤたちはアライザーでないトレーナーに出会う。
凛「んん?女の子三人…白服じゃないし、アライザーじゃないよね?」
希「お、黒澤姉妹と千歌ちゃんやん。何してるん?」
海未「おや、お久しぶりです」
-
お互い、それなりに知っている相手同士。
警戒する必要はなく、それぞれが軽く安堵する。
初対面の凛を紹介しつつ、希は何をしているのかと軽く質問を。
ダイヤ「ええ、わたくしたちはルビィと千歌さんの訓練に。この山、アライザーの方々が大勢いらっしゃるでしょう?格好の訓練場所にはなりますので」
希「確かにここ、実戦相手には困らんもんなぁ。ダイヤちゃんがおれば遅れを取ることもないやろうしね」
千歌「えへへ、私もダイヤさんに弟子入り中なんだ。一回ちゃんと鍛え直さなきゃ〜って思って!」
そう言って千歌は笑う。
身のこなしや重心のかけ方、トレーナーとしての技量が向上しているのが窺える。
以前はごく平凡な印象のトレーナーだったが、成長を遂げつつあるのだなと、同い年の成長に海未はほんのりと嬉しくなる。
そこでふと、気になったことを尋ねてみる。
海未「あの、曜はどこです?貴女とはいつも一緒にいる印象でしたが…」
千歌「うん、曜ちゃんとは今は離れてるんだ」
海未「おや、そうなのですか?」
千歌「曜ちゃんと一緒に旅するためには私が力不足だったから…だから曜ちゃんにはちょっとだけ待っててもらって、ダイヤさんに弟子入りしたんだ!」
ルビィ「最近はルビィと千歌ちゃんで一緒に、お姉ちゃんの考えてくれた練習メニューを頑張ってるんです!」
成長しているのは千歌だけではない。
ルビィもまた、表情や雰囲気から以前に比べれば甘えが減った。
もちろんまだまだ末っ子気質に変わりはないのだろうが、腰につけたボールの数も三つに増えている。
曜は千歌と離れて大丈夫なのだろうか?
オハラタワーでの狼狽ぶりを見ている海未は、内心に浮かんだ疑問をそのまま口にせず閉じ込める。
デリカシーを欠いた質問な気もするし、千歌の語り口に不穏の色はなかった。
細かな事情はわからないが、曜の不安定さも今は緩和されているのかもしれない。
ダイヤ「わたくしたちはキャンプを張りながら山を巡る予定ですけれど、希さんたちはどうされますの?」
希「うん、ウチらは今日は下見で明日から山入りの予定。しばらく滞在するんやったらまた会いそうやね!」
そう告げ、手を振って一旦の別れを。
やはり最高の季節、アライザーは危険とはいえ、こうして出入りする人々はいるわけだ。
ダイヤたちの背を見送りながら、凛はちょっとだけ内心に焦燥を募らせる。
凛(うーん、強そうな人だったな…でもでも、伝説のポケモンは凛がゲットするんだもんね!)
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眠くなったからここで切るわ
土日はどっちも更新するよ
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おつー
ポンコツチャンピオンかわいい
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乙です
キュウコンと一緒になって部屋中お札を探し回るチャンピオンとか可愛すぎるけど…やっぱりツバサに躍らされてんのかな
そしてダイヤルビィ千歌は割りと予想外なパーティー
いったいどの組が最初に伝説にたどり着くのか楽しみです
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遅くまで乙
捕まったツバサがそもそも偽者の可能性が出てきたな
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bibiは山登らないんかな?
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>>739で替え玉や影武者のはずがないってわざわざ書かれてるからツバサ本人だろうしナイフまで使って必死抵抗してる辺り捕まったのは想定外だと思うんだがなぁ
ただなんらかの事情で手持ちがベストの全力だったわけではないってことは確かか
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アライザーがツバサたちの真似して白い服装をしてるってことはツバサたちの服装はPrivate Warsだったってことだよね
ならもしかしてツバサたちの本気、Shocking Partyバージョンのもう一段階ある?
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アライザーがツバサたちの真似して白い服装をしてるってことはツバサたちの服装はPrivate Warsだったってことだよね
ならもしかしてもう一段階上、ツバサたちの本気、Shocking Partyバージョンがあるのかな?
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乙
ミュウツーはあんじゅらへんが粛清されかけて離反して持ち逃げとか?
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>>730の熱い擁護の直後にポンコツを晒す絵里ちゃんで笑った
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乙乙
ここまでいまいち活躍した印象のないダイヤ様の活躍に期待
あと牢獄はサイドンのとっしんにも耐える壁らしいがタイプ不一致とっしんって微妙な気が…
まあテッカグヤのヘビーボンバーの前じゃどんな壁でも形無しだろうけど
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サイドン
ツノは ダイヤモンドの げんせきを くだき しっぽの いちげきは ビルを なぎたおす。かたい ひふは たいほうでも キズつかない。
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タイプ一致不一致云々より、物理法則上エネルギーのある技の方がこの世界だと強そうな印象
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イワークよりポッポの方がたいあたりの威力が高いのはゲームだけだよね
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>>753
蹴りのときにコートがなびいてるみたいな文章あったしあの衣装そのままじゃなさそう
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ダイヤ様にラランテスいいね
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サイドンの突進はサイホーンの図鑑ネタからだろ?
タイプ一致とか関係ないと思うよ
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ちなみにサイホーン
頭は悪いが力が強く
高層ビルも体当たりで粉々に粉砕する
この進化形態であるサイドンならそりゃねぇ……
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図鑑ネタとは知らんかった
申し訳ない
確かにそれなら安心感あるわな
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…
海未「それにしても、抜けるような秋晴れ。気分が良いですね…」
希「ほんとやなぁ。お日様をたくさん浴びて、自然の空気をいっぱい吸って、これぞパワースポット!って感じやね」
『リリリ〜ン』
明るく笑う希の隣、ふうりんポケモンのチリーンが風に吹かれて涼やかな音色を鳴らす。
晩夏を過ぎての風鈴、季節感で言えば若干微妙なのだが、それもまた風流か。
希の言う“趣味パ”の一匹、ほんわかとした顔立ちが愛らしいエスパーポケモンだ。
そんなチリーンの尻尾、風鈴の短冊に見える部分にそっと触れつつ、海未は思わず頬を綻ばせる。
海未「ふふふ、可愛らしいです」
希「やろ〜?戦闘向きの子かっていうとそうでもないんやけど、愛嬌があって可愛いんよ」
海未「オフの日は外に連れて行ってあげよう、といったところですか」
希「うんうん、ウチは立場上いっつもバトルバトルやからね、この子らにはお留守番ばっかりさせちゃってるんよ」
-
そう言って微笑む希からは、人柄の優しさがたっぷりと滲み出ている。
なんとも話しやすく、海未はいつもよりも何割増しかで饒舌だ。
饒舌ついで、気になっていたことを尋ねてみる。
海未「ところで、希はなぜ凛の味方を?」
希「うふふ、ウチは気まぐれやからね。海未ちゃんだってそうやろ?」
海未「む、煙には巻かれませんよ。私の場合はその…登山に釣られたわけですが、希は自分から参加してきたではありませんか」
希「んー…ま、海未ちゃんなら話してもいいかな」
そんな調子で前置き一つ、希は瞳に真剣な色を宿して口を開く。
希「このアキバ地方を襲う一連の騒動、綺羅ツバサを捕まえて、これで終息に向かっていく…ウチはそんな風には思えないんよ」
海未「なるほど…残る統堂英玲奈と優木あんじゅ、あの二人が何かをしでかすと」
希「ううん、どうやろ…はっきりとは。これってスピリチュアルとかやなくて、漠然とした不安でしかないんよ。だからね、今のうちに戦力を育てとかないとって」
海未「戦力…希が今連れている、主力とは別のポケモンたちのことですか?」
希「ううん、そうやなくて。海未ちゃんたちに強くなってもらわないとな〜って話」
海未「私たち…ですか?」
不思議そうな顔で首を傾げる海未。
希はそんな海未、それに穂乃果とことり。オトノキタウンのトレーナーたちに、悪との対峙の宿命を見ている。
今後何かが起こったとして、最後の鍵を握るのは自分や絵里ではなく、きっと海未たちだ。
希は海未の肩をポンポンと叩き、「ま、頑張ってな」と声を掛ける。
-
そんな会話を交わす二人よりも前をスタスタ、ミカボシ山を歩き慣れている凛は鼻歌交じりに両手を広げて上機嫌。
そこに並んで歩くのはつぶらな瞳にオレンジの体、凛の手持ちのライチュウだ。
凛「ふんふんふ〜♪」
『ラーイライ!』
尻尾を揺らしながら鼻歌に合いの手を入れていて、見ているだけで仲の良さが伝わってくる光景。
海未と希は思わず微笑を浮かべてしまう。
それだけを見ればなんとものどかな秋の山。
だが、登山者を狙うのはアライザーたちだけではない。
実りの秋、野生のポケモンたちの体調も万全で活動的。
見上げればオニドリルが空を舞っていて、人間の荷物から食糧を掠め取ろうと狙っているのが見える。
整備された登山道へは警戒して寄ってこないが、海未たちが歩いているのは道から少し離れた山の中。
長いクチバシでのいきなりの襲撃にも応じられるよう、警戒は怠れない。
だが鳥ポケモンたちより、もっと恐ろしいのは…
-
『ガアアアアァ!!!!!』
熊!
海未「っと、リングマですか。ふふ、穂乃果を思い出します。それにしても気が立っているようですが…」
希「秋やからね〜、人間と一緒でお腹減らしてるんよ。特に熊は冬眠に備えて食い溜めを始める時期やし」
海未「ははあ、それでは私たちのことは美味しそうな肉にでも見えているのでしょうか」
希「リングマは基本的にはきのみを主食にしてるみたいやけど、一応雑食らしいから…」
海未「ふむ、雑食」
希「海未ちゃんなんかは程よく引き締まった高級なお肉に見えてるんやない?」
海未「なるほど……って、物凄く危険ではないですかぁ!!?」
ようやく気付いて焦燥!
野生だと侮るなかれ、シロガネ山のように、高山という地形では野生ポケモンが強靭に育ちやすい。
目の前で吠えているリングマはおそらくレベル40オーバー。応じなければ命を落とす!
冷や汗を浮かべつつ、海未は展開しているファイアローに指示を出そうとする。
が、それよりも素早く凛!
凛「ライチュウ、“ボルテッカー”でやっつけちゃえ!!」
『ラーイライライ!!!』
-
ライチュウは全身に雷撃を纏わせ猛突進!
リングマの胴体へと全力で体当たりを敢行!!
思わず目を覆ってしまうほどの雷光が一帯を白に染め、海未が目を開けばリングマは数十メートル先へと吹き飛んていく。
木々に生い茂った紅葉をクッションに、地面へとドサリ。
背中から強かに落ち、完全に目を回しているのが見える。
あんな痛めつけられ方をすれば恐怖を記憶に刻み、もう人間の姿を見ても近寄ろうとはしないだろう。
凛「さっすがライチュウ!バッチリにゃ!」
『チュウッ!』
突進の反動を受けたライチュウへと傷薬を吹きかけつつ、パシンとハイタッチ!
そんな凛たちを目に、海未は思わず息を飲んでいる。
海未「わかってはいましたが、凛は本当に強いですね。そのライチュウ、レベル60近くあるのでは?」
凛「凛のエースなんだ!その次はガオガエン!」
海未「バッジを7つ集めてそれなりの強者になった気でいましたが、まだまだ世間は広いのですね…」
希「天才肌やねぇ。凛ちゃんみたいな子がポケモンリーグ目指し始めたらウチなんてすぐ抜かれちゃいそう」
凛「えへへ、かよちんも凛と同じくらい強いよ」
-
褒められて喜びつつ、欠かさずバランスを取るように大親友を持ち上げる凛。
明るく健やか友達思い。まだ数時間の散歩を共にしただけだが、海未も希もすっかり凛のことが好きになっている。
そんな凛はボールから新たなポケモンを。
傾斜を駆け登って高台に立つと、てるてる坊主めいた姿のポワルンを出してその姿を見上げている。
三十秒ほどその姿をじぃっと見つめ、くるりと振り返ると海未たちへと天真爛漫な笑顔を見せる。
凛「うん!明日からもしばらく良い天気だって!」
海未「そんなに先までわかるのですか?」
凛「凛のポワルンはすごいんだよ。これくらいの高さまで来れば、三日ぐらい先の天気まで当ててくれるの!」
希「へえ〜、山歩きのお供ってわけやね!」
海未「なるほど、それはまた魅力的な…」
山の天気は不安定。急変すれば命に関わる。
それをよく知る登山家の海未からすれば、生きた精密天気予報とでも呼ぶべき凛のポワルンはとても羨ましい存在だ。
それはそうと、ガオガエン、ライチュウ、ポワルンと凛のポケモンたちはいずれもタイプ違い。
マルチタイプのトレーナーなのだなと海未は心中で考えている。
海未(花陽はどうなのでしょう。優しい子とはいえ一応の対立相手、戦うことになる可能性もあるわけですが…)
-
穂乃果とことり、それに花陽のトリオ。向こうは今頃何をしているだろう。
そんなことを考えながら、海未は山を見上げて明日の登頂へと想いを馳せる。
これまでの旅路でも山があれば積極的に登ってきた。何故かと問われれば、そこに山があるから。
その経験はトレーナーとしても活きている。体力の向上はもちろんのこと、手持ち五匹で一番の新顔は山地、冷え込む洞窟で捕まえたポケモンだ。
そんな山の経験に富む海未だが、このミカボシ山を登るのは初めて。
初心者にも人気の山ではあるが、上まで登って行こうとすれば労力は跳ね上がる。
登山家魂をくすぐられ、海未はやる気満々に目を輝かせる。
海未「高い山ですね…準備を万端にしなくては!」
凛「凛もてっぺんまでは登ったことないけど、けっこう大変だって聞くにゃ。
でも伝説のポケモンがてっぺんにいるとは限らないし、捕まえたらそこで引き返せばいいよね!」
海未「携帯食は甘納豆と煮干しで良いでしょうか。登山をする以上、万が一ということもあります。希も凛も、今夜中にご家族への遺書をしたためて…」
凛「え、え?」
希「ええ、冬山の単独行やないやから…凛ちゃん、これは相当なガチ登山させられるかもしれんね…」
凛「り、凛は伝説のポケモンを捕まえたいだけなのに〜!!!」
-
…
花陽「ん、凛ちゃん…?」
山のどこかに親友の悲鳴を聞いたような気がして、花陽はふっと顔を上げる。
(うーん、気のせいかなぁ)と小首を傾げ、花陽の意識はすぐに足元へと戻った。
背中にはカゴを背負っていて、金属製のトングを片手にひょいひょいと拾っては集め、拾っては集め。
いっぱいに詰め込まれているのは季節の味覚、イガでいっぱいの栗!
『エルル!』
花陽「ありがとう、エルフーンさん♪」
『ディア〜』
花陽「ドレディアさんもありがとう♪」
手持ちのポケモンたちも花陽と一緒に栗を拾い集めていて、背中のカゴにはなかなかの速度で栗が貯まっていっている。
花陽「おいしそうだなぁ…茹でても蒸しても煎ってもいいし、お菓子にしてもいいし、それより何より栗ごはん…!
ツヤッツヤの新米と一緒に炊いて、ほかほかの湯気とほんのりとした上品な甘みと…はぁぁっ…!」
想像するだけで垂涎!
-
穂乃果「おーい!」
そんな花陽へと駆け寄ってくるのは穂乃果だ。
猛ダッシュで元気よく、面前で立ち止まると、軍手で鷲掴みにした何かをジャジャン!と見せつける。
穂乃果「花陽ちゃん花陽ちゃん!このキノコは食べられるかな!」
花陽「それは、ううん…?メブキジカさん、お願いします」
花陽のメブキジカは穂乃果が握ったキノコ、その香りにスンスンと鼻を鳴らすと、鮮やかな秋色に染まった角でそれを払い落とした。
穂乃果「ああっ!」
花陽「ええっと、毒キノコだったみたい。たぶんツキヨタケじゃないかなぁ」
穂乃果「そんなぁ…おいしそうなキノコだと思ったのに…」
花陽「見た目はおいしそうだよね。でも食べちゃうと下痢とか嘔吐とか…」
穂乃果「ひえぇ…」
花陽「でも大丈夫です!穂乃果ちゃんがさっき見つけてくれたハツタケはどんな食べ方でも美味しいんだよぉ!」
穂乃果「やったね!!」
穂乃果と花陽は二人で万歳。今夜は秋の味覚でフルコースだ!
そんな様子をにこにこと笑顔で眺めつつ、ことりは小声で疑問を呈する。
ことり「伝説のポケモン、探さなくていいのかなぁ…」
-
山に入ってからそろそろ三時間、穂乃果たちの位置はまだそれほどハチノタウンから離れていない。
花陽もまた凛と同じく、本格的な山入りは明日の朝からと考えているのだ。
しかし、まさか延々と食材集めをするだけだとは。
落ちているドングリをおもむろに拾い上げ、隣にいるドラミドロへと見せる。
ことり「食べますか?」
『ドララっ』
頷いたので口の中へと入れてあげ、咀嚼するのを見つめながらぼんやりと物思い。
ことり(ことりもこういうのんび〜りした時間は好きだけど、今はちょっと焦っちゃうなぁって)
人畜無害の笑顔に本音を隠し、ことりは目の前の山を見上げている。
昔ならどんなに海未に誘われても険しい登山はご免被るタイプだったが、一人での旅路にことりもまた健脚へと成長している。
伝説のポケモンが現れる。
なぜ知っているのか?真姫から連絡を受けたからだ。
穂乃果も海未も、そして真姫も、オトノキタウンの友人たちは再び姿を眩ましたことりにも毎日欠かさずメッセージを送ってきてくれていた。
もちろん、目は通していた。
一人旅の寂しさに心を打ちのめされそうになった時、みんなからのメッセージを何度も読みながら夜を明かしたこともある。
それなら何故、返事をしなかったのか?
答えは簡単。「後ろめたかったから」。
では何故、後ろめたかったのか。
-
ことりは食材集めに夢中の穂乃果たちから少し離れ、台地の端、切り立った崖になっている場所から下を見下ろす。
数十メートルの下方、そこには白づくめの衣服に袖を通したアライザーが二人。
ことりは道を戻り、穂乃果たちへと声をかける。
ことり「穂乃果ちゃ〜ん、花陽ちゃ〜ん、ことり、ちょっとだけ別の場所を見てくるね♪」
花陽「あ、はぁい!一人で大丈夫?」
穂乃果「あ、ことりちゃん!またそのまま私の前からいなくなったら怒るからね!パンチ二発だからね!!」
ことり「うんっ大丈夫、すぐ戻ってくるよ♪」
未だに穂乃果からの腹パンチでほんのり痛い腹部をさすり、苦笑いで声を返す。
もちろん、殴られたことを怒ってはいない。
消息を眩ましていた自分が悪いのだし、何よりことりへと痛烈なパンチを決めたまましがみつき、わんわんと号泣した穂乃果を怒れるはずがない。
二人から離れ、再び崖際。
穂乃果たちから死角になる木陰に佇み、鞄から折り畳まれた布を取り出した。
灰色、まるで飾り気のない、言ってしまえばボロ布。
広げれば大きな布だ。それでばさりと全身を包み込み、手先の器用さで縫い付けたフードを頭に被る。
そしてもう一つ、鞄から何かを取り出し…崖から飛び降りる。
-
━━ドチャリ。
「なんだぁ?」
「変な音が…」
振り向いたアライザーたち、二人の男は、紅葉に覆われていた背後の地面が紫に腐食しているのを目に留める。
柔らかく変性した泥土、その中からドロリ…立ち上がるのはドラミドロ。
それだけでも異様。
しかしアライザーたちはすぐさま、次の怪異へと意識を奪われる。
毒竜の体に守られるように巻かれた人影。
灰色のボロ布を巻きつけた何者かが、男たちにゆらりと指先を向けている。
「あなたたち、アライザーですよね」
男たちはその灰色を知っている。
社会の裏側、悪の間でまことしやかな都市伝説として囁かれている存在。
一欠片の意思も読み取れない、無機質かつ狂気を秘めたマスク姿。
「ば、鳥面(バードフェイス)!!」
(・8・)「狩ります」
-
(・8・)に草
-
“鳥面”。
その存在が悪党たちの間で囁かれ始めたのは数ヶ月前、ダイイチシティからことりたちが姿を消した少し後から。
綺羅ツバサに負け、イーブイを奪われたことりはドラゴンタイプの力に魅せられた。
だがそれよりも何よりも、世に遍く“悪”に対し、狂的なまでの憎悪を宿していた。
そんなことりがただひたすらに力を求めたのは社会の裏側、闇の中。
ただし選んだ道は悪への加担ではない。
抱えてしまった狂気と憎悪を存分に叩きつけられる相手を探し、その矛先を悪へと向けたのだ。
夜の街、場末、郊外に廃墟。危険とされる場所へ敢えて出向いた。
善良なトレーナーへと牙を剥く、そんな相手を探すのには困らなかった。
ルールに守られたトレーナーとの戦いとは違う。遠慮のない敵、こちらも遠慮をする必要はない。
ことりはひたすらに戦い続けた。
危うく悲惨な目に遭いかけたこともあったが、実力と機転で乗り切ってきた。
善良な人々を襲う悪のトレーナーをオンラインゲームにおけるPKに例えるならば、ことりの選んだ道は謂わばPKK(プレイヤーキラーキラー)。
報復を避けるために布を纏い、仮面を被り、ジム戦やポケモンコンテストには目もくれずに野試合を繰り返した。
故に、ことりのポケモンたちは穂乃果や海未のそれよりもさらに高レベルへと達しているのだ。
(・8・)「ドラミドロ、“ヘドロウェーブ”」
アライザーの片方へと容赦なく毒液を浴びせかけ、ことりはもう一人へと目を向ける。
「ふっ、ふざけんじゃねえぞ!!ぶっ殺せ!!オノノクス!!」
(・8・)「へえ、ドラゴンタイプ…」
-
やってることは恐ろしいのにトッリの仮面で笑うわ
-
(・8・)私は死神だから…
-
アライザーの片割れは、どうやらかなりの実力者らしい。
オノノクスを繰り出して即座、命じた技は“りゅうのまい”。
龍としての本能を呼び覚まして攻撃性と速度を高め、臨戦の眼光がことりとドラミドロを捉えている。
しかし鳥面(バードフェイス)
ことりは動じず、腰からもう一つのボールを手に取った。
淀みない動きでボールを開き…青の体躯に真紅の翼、暴虐を秘めた600族の暴竜!
「ぼ、ボーマンダ…!?」
(・8・)「ボーマンダ、叩き潰して」
…
決着は即座。
オノノクスとアライザーは倒れ伏し、ドラミドロとボーマンダを従えたことりはそれを仮面越し、冷酷な目で見下ろしている。
「ば、バケモノ…」
(・8・)「……」
ことりはその声に取り合わず、男の懐から転げ出た赤の薬液と注射器を手に取った。
手慣れた仕草で注射器で薬液を吸い上げ、ごく淡々、それを男の首筋へと近付けて静かに問う。
(・8・)「洗頭。人に注射したらどうなるか、知ってますか?」
「ひ、ひいっ!?」
-
男が怯えてバタつかせた手が、ことりの注射器を弾き飛ばした。
割れるガラス、溢れて地面へと吸い込まれる薬液。
けれどことりは事もなげ、小首を傾げて呟いた。
(・8・)「もったいない…だけど、大丈夫ですよ」
「な、何が…」
(・8・)「代わりなら、たくさんありますから」
ことりは鞄を開く。
トレーナーグッズや女の子らしい小物、裁縫道具が入っていて、特に変哲のない鞄だ。
しかし…隠し底。
捲り上げたそこには何本も何本もの赤の薬液。大量の洗頭が隠されている。
新たな注射器を手に、薬液を吸い上げてトントンと針先から空気を抜く。
(・8・)「ポケモンにこんなものを注射しようとする人は、自分も注射される覚悟がないとダメですよね?」
「やめてくれ!やめ…!」
(・8・)「ドラミドロ、黙らせて」
口元を尾に巻かれて強制的に黙らされた男、その首元へと針が突き立てられる。
一切の容赦なく、薬液は急速にその量を減らしていき…
男の体はビク、ビクと痙攣し、瞳からは意思の輝きが失せる。
ドラミドロが尾を解けど、もう抵抗を見せることはない。
命に別状はない。
だがその自我は虚ろに蕩けていて、もう男が何かを思考することは二度とないだろう。
そんなアライザーを無慈悲に一瞥。ことりはドラミドロの毒に飲まれてのたうち回るもう一人のアライザーへと解毒剤を打ち、そして同じことを繰り返した。
(・8・)「こんなものを…」
吐き捨てるように言い捨てて、ことりはボロ布と仮面を鞄の底へとしまいこむ。
ドラミドロとボーマンダを優しく撫でてからボールへと収め、チルタリスの背に乗って崖上へ。
花陽「あ、ことりちゃんが戻ってきたよ!」
穂乃果「はあ、よかった…おかえり、ことりちゃん!」
何事もなかったかのような笑顔で、穂乃果と花陽に笑いかける。
ことり「うふふ、ただいまぁ♪」
-
お面で笑ってたら闇深いぞ…
-
穂乃果「ところでさ、花陽ちゃん。この山の伝説のポケモンってどんなのが出てくるの?」
ことり「あ、それ、ことりも気になるなぁ」
空は茜色に染まり、三人は収穫した秋の味覚をそれぞれに抱えて山を下り始めている。
穂乃果とことりからの質問に、花陽は少し困ったように眉を斜めに。
花陽「あ、ええと…それが、私も凛ちゃんも、どんな伝説のポケモンがいるのかは全然知らないんです」
ことり「えっ、そうなの?」
穂乃果「じゃあじゃあ、なんで伝説のポケモンがいるってわかるの?」
花陽「ううん、一応理論は聞いたことがあるんだけど、難しくてよく理解できてなくて。
伝説のポケモンが現れるって教えてくれたのはオトノキタウンの真姫博士なんだ。二人とも同じ街だから、知り合いだったり…?」
ことり「真姫ちゃん?うん、ことりも穂乃果ちゃんもお友達だよ♪」
穂乃果「あれえ、花陽ちゃんたち真姫ちゃんと友達だったんだ!」
花陽「うん、だいぶ前に何かの調査でこの街に来た時、凛ちゃんと二人で道案内をしたの。それ以来友達なんだ」
花陽は真姫から聞いた話を、理論の部分を省きながらかいつまんで説明する。
-
一般に、伝説と呼ばれるポケモンは人々の前に滅多なことでは姿を見せない。
しかし稀に、各地方で立て続けに伝説の存在が目撃されることがある。
その条件は動乱。
巨大な悪の組織が現れ暴威を見せた地方には、必ず何かしらの伝説のポケモンが姿を見せるのだ。
それは人心の乱れを感知しているのか、それよりもっと大きな時代の流れを感じ取ってるのか。
悪に立ち向かう人類の守護者なのか、あるいは文明の暴走をその牙で噛み砕かんとする自然のストッパーなのか。
その存在は計り知れないが、しかし事例が理論を証明している。
穂乃果「わかるような、わからないような?」
花陽「あはは、私もよくわかってないから…真姫ちゃんによると、今アキバ地方ではアライズ団が暴れてるから何かの伝説のポケモンが現れるはずなんだって」
ことり「なるほどぉ〜」
花陽「えっと、それでね…」
花陽はごそごそと鞄を漁り、タブレットのような端末を取り出して二人に見せる。
画面を灯せばそこにはアキバ地方の地図が映し出されていて、ちょうど穂乃果たちのいるこの地、ミカボシ山に赤いマーカーが点滅しているのがわかる。
「これなに?」と尋ねた穂乃果へ、今度は眉をキリリとさせて花陽が答える。
花陽「これは真姫ちゃんが開発した新アイテム、“伝説チェイサー”です!」
-
真姫曰く。
ジョウト地方のエンテイ、ライコウ、スイクン。
ホウエン地方のラティアス、ラティオスなど。
ポケモン図鑑には、そういった移動型の伝説ポケモンたちを追跡する機能が付随している。
何故そんなことが可能かといえば、伝説のポケモンは普通のポケモンたちと比較し、極めて強力な生体エネルギーを発しているため。
それは離れていても感知できるほどの強さ。故に一度遭遇さえしてしまえば、図鑑の優れた性能で所在を確認し、追跡することが可能となるのだという。
花陽「そんな図鑑の機能を利用して、真姫ちゃんと真姫ちゃんのお父さんが開発したのがこの伝説チェイサーなんですっ!」
穂乃果「おおっ!?」
花陽「強いエネルギーを感知して、伝説のポケモンがいそうな場所をこの地図に表示してくれるの。
だから今、このミカボシ山に伝説のポケモンがいるんじゃないかなあ…?って事がわかるんです!」
ことり「すごいっ♪」
穂乃果「さっすが真姫ちゃん!」
パチパチと拍手を送る穂乃果とことり。
花陽は友人を褒められ、なんとも嬉しそうに笑っている。凛と同じく友達思い。
真姫はそんな二人の誠実な人柄と実力を信頼し、いざという時のために二人へと“伝説チェイサー”を託していたのだ。
さて、ことり。
今のところ食事に釣られただけの穂乃果とは違い、企みを秘めている。
-
ことりの中に友達思いの優しさは残されたままだが、しかしそれと同じくらいに力を求める心も育ってしまっている。
ドラゴンタイプに拘りを持っていることりだが、しかし“伝説”という存在は魅力的だ。
それを保護しようという花陽に同行してこそいるが、その内心は虎視眈々。
ことり(ごめんね、花陽ちゃん。伝説のポケモンがいたら…ことりが捕まえちゃうかも)
と、そこへ穂乃果。
急に歩み寄ってきたかと思えば、ぐいっと顔を近付ける!
穂乃果「ことりちゃん、なんか隠し事してない?」
ことり「ぴいいっ!!?」
唐突な問いは核心。思わず悲鳴が漏れる!
ことりのそんな反応により疑いを深めたのか、穂乃果はより視線鋭くことりの顔を覗き込んでくる。
穂乃果「なーんかこう、企みムードっていうか、ううん…」
ことり「な、な、なんでもないよぉ…?」
穂乃果「あ!わかった!」
ことり「チュンッ!!!」
穂乃果「フッフッフ…おやつを隠してるね!」
ビシッと指差したのはことりのカバン。穂乃果の読みはまるで的外れ!
伝説を狙っていることを看破されたわけではなかった。
ことりは小さく安堵の息を吐き、カバンの中から小袋のクッキーを穂乃果へと手渡した。
-
ことり「うふふ、ばれちゃったかぁ…はい、花陽ちゃんもどうぞ♪」
花陽「いいの?ありがとう♪」
穂乃果「わぁい!クッキーだ!」
穂乃果は大喜びでクッキーを頬張っていて、花陽はぱあっと笑みを咲かせて嬉しそうに口に運んでいる。
一つ年下、花陽は容姿も人柄もほんわかと可愛らしく、ことりから見てとびきりに好感の持てる少女だ。
そんな子を利用している事が心苦しい。…が、今はやむなし。
ことりは自分もクッキーを齧りつつ、ちらりと穂乃果の横顔を盗み見る。
ことり(ほ、穂乃果ちゃん、昔からたまに勘がいい時があったけど…旅ですごく進化してる…)
穂乃果「ふふふ、穂乃果はことりちゃんのことが大好きだからね、騙そうとしてもわかっちゃうよ!」
ことり(あっでも穂乃果ちゃんが大好きって、うふふ、幸せぇ…)
友愛の白と暴虐の黒。入り混じり灰色。
そんなことりの存在が事態を掻き乱していくことを、三人はまだ知らない。
-
今日はここまでで
明日も更新するね
-
乙です!
トッリも暗黒面に半歩踏み込んじゃってるのか...
-
乙
伝説ポケモンがことりの手に渡ったらどうなるんだろ…
あと洗頭は怖すぎ
人間に対しても効果があるとか恐怖でしかない
-
海未ちゃん5体目もう捕まえてたんか
5体目も気になるけど6体目も楽しみ
-
いつも乙
逆に考えるんだ
あのアライザーは洗頭で廃人になったんじゃない
ことりの脳トロボイスでチュンチュンされたのだ
-
つまり俺はアライザーだったのか
-
強肩海未
ポーカーフェイス(・8・)
世界火(オーバーヒート)真姫
脳を破壊し心を砕くことりetc
うっ…頭がッ……
-
マンダは強い
-
>>792 ウツロイドが関わっていた時点で人体に有害なのは目に見えていたからな...
-
特性いかく
ひこうタイプ
そしてメガボーマンダはガブリアスを抜く……
個人的には現状ガブと対面して一番安定する600族だと思う
-
すごくあれなんだが
ボーマンダ「またお祈りメールか…」
ってのを見てほしい
メガなしでもマンダってすごいんだよ
-
マンダのりゅうせいぐんはつよい
-
マンダの夢特性自信過剰だからメガ進化がかならずプラスって感覚がない
-
まぁ人も操られるとかじゃないならまだ……十分怖いけど
-
凛ちゃんのパーティ主人公感あって好き
火御三家とピカチュウ系と
-
悪人レイプ!ダークヒーローと化したトッリ
-
(・8・)の仮面付けてるの想像しただけで笑うわ
やってることはとんでもないんだけど
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現時点でポケモンバトルの強さだけを独断でランク付けするとこんな感じか(バトル以外の要素、リアルファイトは含まない)
(同格なら左が上で、マイナス描写があったら下がる。不安定さはマイナス)
(ミュウツーや最後の四天王など存在が確定していても未登場のポケモン、キャラは含まない)
A.絵里(キャラとしてはポンコツが進行しているが威厳は衰えず)
―チャンピオンの壁―
B.希(未知数、最長の在籍期間)、梨子(未知数、サイコレズの迫力)、果南(四天王になり立てという点、カイオーガを擁していながらリアルファイトに出たあたりで下がった)、英玲奈(果南とは微妙なところだがポケモンバトルなら負けていた)、ツバサ(未知数で最凶だが盤外戦術が多く、手負いながらガブリアスで穂乃果の進化したてのリザードンなど格下を実力であしらいきれなかったあたりでトレーナーとして少し下がる、また真相は不明ながら捕まったあたりもトレーナーとしてはマイナス)
―ポケモンリーグの壁―
C.真姫(未知数でシャンデラのオーバーヒートしか出ていないがジムリーダーらと同格以上の扱い)、ダイヤ(未知数、再戦時のジムリーダー相当)、にこ(未知数だがトレーナーとしてはツバサからのレギュラー三体発言)、曜(狂気じみた戦闘とカイリューは驚異、しかし不安定さとペリッパーらで下がる)、あんじゅ(UB持ちでサザンドラともう一体が未知数ながら、レベル60前後の曜のルカリオに三体倒される、初期の穂乃果にしてやられる)、ことり(Eランクと迷うが、マンダをはじめとしたドラゴンタイプを使う「鳥面」としての活動)
―強者の壁―
E.海未(穂乃果の少し先を行く実力)、穂乃果(応用力と場数でりんぱなより上と判断)、凛=花陽(未知数、穂乃果らと同格)、、聖良(マニューラ二体を指揮)、理亞(アライズ団の精鋭)、千歌(穂乃果たちより一段下と判断)
―挑戦者の壁―
F.、鞠莉(バトル描写がないため未知数、戦闘向けではないと判断)、ルビィ(ダイヤと特訓、希からムンナをもらう)、、善子(良個体であろうヤミカラス持ち)、花丸(ツボツボでマイナス)
―名前ありの壁―
G.アライズ団、アライザー(レベルに差はあるが所詮はモブ)
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>>807
お、これ面白い
ちょうどDランクが抜けてるから穂乃果、海未を一つ上げて、理亞よりは格上の聖良もギリギリそこに入れたぐらいでちょうど良いかも
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りんぱなはハチノタウンのジムリーダーより強いって言ってるけど実際戦ったわけじゃないからそこは度外視か
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ことりちゃん黒いなぁ
ツバサの影響力は凄まじい
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乙乙!
あんまり持ち物には拘りないのかな?
メガマンダは確かに強いが襷ガブ相手だと……
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ことりちゃんの洗頭注入する私刑は海未ちゃんがすごく嫌いそうだよなあ
バレた場合が本当に心配だわ
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リアルファイトとか他の要因入れたらこんな印象
A.絵里、ツバサ(フルメンバーじゃなかった点を考慮)
―チャンピオンの壁―
B.英玲奈(本人が自己再生持ち)、希、果南、梨子
―ポケモンリーグの壁―
C.曜(海外バッジ収集済み&600族)、あんじゅ、真姫、にこ、ことり(600族)
―強者の壁―
C-.凛&花陽(ジムリーダー以上。まだ描写が少ないから一応ここ)、ダイヤ(?)
D.海未、穂乃果
D-.聖良
E.理亞、千歌、鞠莉(四体持ちでアシレーヌもいるしFよりは上)
―挑戦者の壁―
F.、ルビィ、善子、花丸
―名前ありの壁―
G.アライズ団、アライザー
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てっきり絵里はあくまで公式ルールに守られたチャンピオンだと思ってたけどポンコツは伊達じゃなかったか
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>>813
ことりとほのうみはもうちょい拮抗してんじゃない
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多分ことりはD+が妥当だと思う(凛が60近くを所持していることを考慮して)
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ことり、曜、あんじゅはツバサや希あたりに精神攻撃されたら大崩れする可能性があるから、あまり上位には出来ないな
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>>813
俺もだいたいこのイメージ
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よしまるビィって言うほどアライズしたっぱより上か?
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アライザーですらオノノクスとか出してくるわけだしな…
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>>819
オハラタワー時点ではルビィたちのが下だろうな
もっと言えばしたっぱアライズ団でもアライザーよりは上だろう
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アライズ団はヤクザでアライザーはチンピラそんな認識
そして強いのが来ても、もっと強い仲間がやってきて叩きのめされ、名のあるキャラは名のあるキャラが虐げる…
だからモブは所詮モブのまんま
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そろそろかな
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…
ロクノシティ刑務所。
外界で繰り広げられている喧騒が嘘のように、施設内は静寂のヴェールに包み込まれている。
一般の拘置所や刑務所とは異なり、重犯罪者ばかりを捕らえておくための施設。
その牢の多くは独房であり、収容効率などを度外視した堅牢なる鋼鉄のマンション。
オハラタワーテロなどで逮捕されたアライズ団の構成員たちは、皆ひとまとめにこの中に囚われている。
それは戦闘員の中では名の知れていた鹿角聖良も同様。
また、先日逮捕されたばかりの綺羅ツバサはこの刑務所の最下層に収監されている。
ひとところに集めてしまえば残党が囚われたメンバーを、特にリーダーのツバサを奪還しにくる危険性が考えられる。
だが、警察はむしろそれを踏まえ、敢えてアライズ団を一箇所にまとめて収監している。
ロクノシティ刑務所の警備体制は凄絶なまでの厳重、許可がなければ蟻の子一匹入り込むことはできない。
物資や食料の搬入業者も立ち入る人間は事前に登録を済ませる必要があり、虹彩、声紋、指紋の三センサーに門番による顔確認、四段階の多重確認が毎回行われる。
映画やドラマで見かけるような、業者の衣服だけを奪って内部に潜入するなんて大立ち回りは確実に不可能だ。
仮に統堂英玲奈や優木あんじゅがその全兵力を率いて外部からの正面突破を試みるとして、どれくらいの戦力があれはそれは可能だろうか?
ざっと算じて…テッカグヤが20体、プラス、フェローチェを20体。それくらいの戦力を擁して初めて可能性が見えてくる。つまり、まるで現実的でない。
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そんな刑務所の中、鹿角聖良は窓なき部屋の天井を見上げ、静かに思考に意識を傾けている。
独房ではなく殺風景な一室、机を挟んで警察。
あくまで粛々と、確認のために何日も何日も幾度も幾度も同じ問いを繰り返される。そんな一種の拷問めいた取り調べの最中だ。
Q.【洗頭】が人にも作用するものだと理解していたか。
聖良「知っていましたよ。だからどうだと言うんです?人への作用は洗脳ではなくあくまで廃人化。それくらいの事は他の薬剤で、もっと安価に可能。
人に使う輩がいたとして、それはよっぽどの狂人でしょうね」
Q.薬剤に利用されているウツロイドの個体を目にした事はあるか。
聖良「ないですね。あくまで…一、戦闘員ですので」
Q.洗頭へと加入したのはいつか。
聖良「さあ、正確にはいつだったか。両親が事業を失敗して首を括り、路頭に迷いかけた私たちへ、シンオウから国内へと進出したばかりのツバサさんが声を掛けてくださった。
ほんの偶然、気まぐれでしょうね。けれど私たちには悪の華を咲かせるあの方たちが、どんなスターよりも輝いて…アイドルのように見えたんです」
Q.今までに殺害した人数は。
聖良「本当に同じ質問ばかり。そちらも飽きるでしょう?…ゼロ。と言ってみても信じませんよね。
直接なら片手ほど。間接的に殺めたのも合わせれば、両手で数えて足りない程度。
ただ、それは全て私が。妹はまだ人を殺めたことはありません」
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言葉を切り、聖良の瞳はその頑なさから、少し印象を違えている。
妹、理亞を想う。
自らを犠牲にしてまで逃した妹の姿を思い浮かべ、静かに微笑を浮かべる。
聖良「理亞は…気の毒な子です。アライズ団に加入した時、私よりもまだ幼かった。フフ、妹だから当然ですが」
聖良「あの子は善悪の物差しを持てていない。私の後を追って、“姉さまはすごくすごいんだ”と慕ってくれているだけ。
もし、叶うなら…あの子には、闇から足を洗って貰いたい」
失言でした。
そんな調子の微笑を浮かべ、聖良は言葉を切って、瞳を閉じる。
年の割に大人びた口調、声色。
問いを重ねる警官は、彼女が妹を守るために経てきた苦労の色をそこに見て取る。
だからと言って優しく接することはない。何かが変わるわけではないが…
ただその人生は気の毒なものだと、微かにに思う。
……ふと。
聖良は思い出したように、もう一言を紡ぐ。
聖良「それと、もう一つ叶うなら。…高坂穂乃果ともう一度戦ってみたいですね。
あの炎、あの瞳。敵であれ、私は惹きつけられていた。彼女もまた、ツバサさんとは別の…」
“アイドル”。
聖良はそれきり口を閉ざし、質問者の言葉に反応を示さなくなる。
聴取は終わり。彼女の身は再び独房、薄闇の中へ。
しかし…彼女の命運もまた、未だその扉を閉ざしてはいない。
-
…
ブブブ…と羽音。
砂塵を巻き上げつつ低空、トンボめいた姿の緑竜がハチノタウンの軒先をすり抜ける。
背の翼で左右上下に小刻み、器用に町中を飛んでみせ、やがて民宿の庭先で羽ばたきを留める。
黒髪、ツインテールの前にぴたりと滞空。伸ばされた手を受け入れ、頭を撫でられて嬉しげだ。
にこ「ん、お疲れフライゴン。ミカボシ山の様子はどう?」
『フリャ』
緑の体、にこが撫でているのは手持ちの一匹、フライゴン。
にこの手持ちでは貴重な航空戦力として、幾度もの場数を共に乗り越えてきた相棒のうち一匹。
虫のような外見だがドラゴンタイプ。
同タイプの中で劣っていると誹りを受けることもあるポケモンだが、簡単な偵察指示なら単独でこなしてきてくれる程度に賢く、性格が良い。
それににこは、この愛嬌のある緑竜に何故だかシンパシーめいたものを感じてしまうのだ。
一仕事お疲れ様とポロックを与えつつ、にこは労うようにポツリと呟く。
にこ「よしよし、アンタもにこも持たざる者。これからも根性で乗り切ってかなきゃね」
絵里「持たざる者…?まさか、にこ…」
にこ「何よ絵里、いたの…って、悲しそうな目でにこの胸元を見んじゃないわよ!!!」
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やめろよおおおおおおおおお
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フライゴンさぁぁぁぁん!!
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ポカリと殴りつけ、「痛いわにこ!」と抗議の声。
そんな二人を呆れ調子で眺める真姫、その肩がちょいちょいと叩かれる。
「ふっふっふ、かわいいお嬢さん。今晩一緒に晩ごはんはいかがですかぁ?」
真姫「何ですか。気安く触らないで…」
ぷにっと、振り返った真姫の頬に指が刺さる。
すらりと長く優しげな指先、にこにこと笑みを浮かべるその指の主は久々の再会!
真姫「ことりっ!」
ことり「うふふ、久しぶりだね真姫ちゃん♪」
花陽「あ、真姫ちゃん♪久しぶり!」
穂乃果「絵里ちゃんとにこちゃんもいる!」
三人ぞろぞろ、花陽チームのご帰還だ。
背のカゴにたっぷりの秋の味覚を詰め込み、何故この民宿に現れたのかといえばここが花陽の家だから。
民宿小泉、食べログのアベレージは3.5。食事の美味しさに抜群の定評のある人気旅館!
と、そこへさらに三人。
海未「おや、穂乃果にことりもお揃いで」
凛「わあ!かよちんすごい!栗とかいっぱいだね!」
花陽「えへへ、穂乃果ちゃんとことりちゃんに手伝ってもらったからいっぱい獲れたんだぁ」
絵里「希ぃ、私を置いてどこで遊んでたの…」
希「ええ、半日やん。そんな捨てられた子犬みたいな目をされても…よしよし」
にこ「次から次にぞろぞろと…急に騒がしくなったわね」
-
凛と花陽は家族ぐるみの付き合いだ。
日頃から民宿小泉へは実家その2とばかり気軽に出入りしていて、それが今日は海未の宿の便宜も図らなくてはならない。
となれば、普通の一軒家な星空家よりは小泉家に連れてくるのが妥当。
希は希で絵里たちと同室、元々こちらに宿を取っているのだからなおさらだ。
優しげな女将、花陽の母親に宿泊の受付を済ませ、穂乃果たちはお友達料金でと相当額の値引きを受けての宿泊だ。…と、言うよりほんの雑費だけでタダ同然。
海未やことりは申し訳ないと固辞しかけたのだが、その横で輝く満面の笑み。
穂乃果「いいの!?ありがとうございます!!」
と言うことで値引き成立。
にこたちの隣室に荷物をどさり、穂乃果、ことり、海未は同室での宿泊と相成った。
凛「ちなみに凛はかよちんの部屋〜!」
ことり「うふふ、仲良しなんだね♪」
海未「花陽、この栗はどこへ運びましょう?せめてお手伝いはさせていただかなくては…」
花陽「あ、ごめんね海未ちゃん。宿泊客の人たちのお夕飯に使うから、そっちの厨房の入り口に置いてくれれば大丈夫だよ」
絵里「見て穂乃果!露天風呂がすごいのよ!」
穂乃果「ほんとだ!早く入りたいなー!」
真姫(絵里、遊び相手ができてよかったわね…)
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夕暮れの露天風呂。
まだ宿泊客たちで混み合わないうちにと、穂乃果ら九人は早々に乳白色の湯に肩を並べている。
年頃の女子が大勢集えば、聞こえてくるのはなんとも華やかな会話の数々。
ことり「わぁぁっ、絵里ちゃんおっきい〜♪」
穂乃果「うわっほんとだ!絵里ちゃんの大きい!」
絵里「ちょ、ちょっとことり、触ったらくすぐったい…なんだか手付きが…」
海未「ですが、本当に見事なものです。私も触ってみてもいいでしょうか?」
絵里「ええっ、海未まで…もう、少しだけよ」
海未「これは…なるほど、大きさだけでなく、柔らかくしなやか…」
真姫「やっぱり、ロシアの血のおかげじゃないかしら。クォーターでも日本人よりは優れてるみたいね」
海未「ふむ…これは…ふむ…」
絵里「う、海未!触りすぎよ?」
海未「す、すみません。しかし、心から見事だと思いまして。絵里の…上腕二頭筋は!!」
穂乃果「カッチカチだね!!」
穂乃果、海未、ことりに真姫。
修羅場をくぐっているオトノキタウン組は、初めて目にする絵里の裸体、その強固かつしなやかに鍛え上げられた肉体に夢中になっている。
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ことり「僧帽筋もすご〜い!格闘選手みたいでかっこいいっ♪」
絵里「システマはある程度使えるように訓練しているから、それでかしら」
海未「私もそれなりに鍛えてはいるのですが、なかなか筋肉が太くなってくれないのです」
真姫「それはもう体質ね。海未だって引き締まってはいるわよ。ほら、大腿四頭筋なんて鋼みたいじゃない」
絵里「ふふっ、なかなか」
穂乃果「ご立派な筋肉で」
ことり「すべすべでしなやか…♪」
海未「ひゃあっ!くすくったいですよ三人とも!」
和気藹々、筋骨隆々。
そんな五人を見つめながら、凛と花陽はなんとも言えない表情を浮かべている。
なにやら夢を打ち砕かれたような面持ち、ぽかんと口を開いてにこと希へ問いかける。
凛「ねえ、希ちゃん、にこちゃん。女の子大勢でお風呂って、凛はもっと、もっとこう…」
にこ「……言わんとしてることはわかるわよ」
花陽「き、筋肉トーク…みんな強そう…」
希「凛ちゃん花陽ちゃん、覚えとき。どんな世界も上を目指せば目指すほど、色気って失われてくもんなんよ…」
花陽「ピャァァ…」
凛「はぁ…そういうにこちゃんも引き締まってるよねー」
にこ「そうそう、胸筋の辺りが…ってうっさい!!」
希(芸人やなぁ…)
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それでも色気を失わない希さん流石です
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明日朝早いから今日はここで切るよ、短めで悪いね
また夜に更新するよ
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毎日乙!
絵里ちゃんリアルファイトも行けるんやな
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天才ツバサがガブリアスで凡人にこがフライゴンの対比いいな
戦うのかな?
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おつーまってるよ。
9人集合いいね!
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この世界観だとマッスルブレイン呼ばわりされてた果南ちゃんはもっとヤバい(確信)
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かしこいかわいいだけじゃなく筋肉カチカチだったのか
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〜めいたってフレーズお気に入りなのね
自分も好きよ
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遊び相手てww
絵里は穂乃果ちゃんと同じくらいアホの子なのかwww
≫どんな世界も上を目指せば目指すほど、色気って失われてくもんなんよ…
アイドル界で上を目指すには失われちゃいけないんだよなぁ
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>>842 ポケモン世界ならコーディネーター...はトレーナー前に出ないし色気いるのパフォーマーくらいじゃね?
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てっきり穂乃果たちの前ではかっこいいチャンピオンを演じ続けるのかと思ってたけどそんなことはなかったか
まあすっかり仲良しモードだし親しみやすいのは良いことだよね
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姉さまはすごくすごいんだとかいうセリフから伝わる理亜ちゃんのアホ感かわいい
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果南ちゃんとかもうタカさんレベルだろうな
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前作もわりとマッスルだったよな
>>1は女の子の筋肉フェチなのか
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いつも更新乙
なんか九人揃うと至って普通のラブライブss読んでる気分になるな
>>847
前々作はともかく、前作に筋肉要素そんなあったっけ?
真姫ちゃんあたりは頑張って鍛えてた気もするけど
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乙です。
期待してた温泉回と違う…
>>825は
聖良「さあ、正確にはいつだったか。両親が事業を失敗して首を括り、路頭に迷いかけた私たちへ、シンオウから国内へと進出したばかりのツバサさんが声を掛けてくださった。
ってあるけどシンオウって中国だった?
シンオウを皮切りに国内へと進出したって解釈でいいんだよね?
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>>849
シンオウは北海道
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もしかしてセイント姉助けに来たんじゃないだろうね
流石に1戦闘員にそこまでしないとは思うけど
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>>848
海未とか英玲奈とか前衛キャラはちょいちょい筋肉質な描写あった気がする
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弓使いと重砲士がいつの間にやら前衛職になる平行世界...
こっちでは海未よりエリチカの方が筋肉あるのかな?
なんか意外
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絵里ちゃんはスプリンター型の赤筋体質で海未ちゃんは長距離走型の白筋体質なんじゃね
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絵里ちゃんのお胸がどうなってるのかが非常に心配だ
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…
穂乃果「おおおおおぉぉぉ……!!!」
嘆息めいて歓声。
風呂上がり、浴衣姿の穂乃果は並べられた豪華な夕食に思わず目を丸くしている。
秋野菜と地魚の天ぷら、豚と野菜のせいろ蒸し、一人ずつの小鍋では上等な牛肉が温められていて、他にも色鮮やかな小鉢の数々、新鮮な刺身など多種多様。
そして何より見るべきは、おひつからよそって食べるほかほかの栗ごはん!
漆塗りの蓋を開ければ秋の新米、艶めく白。その中に輝く黄金の栗。それは王宮の宝物庫にも劣らぬ光輝!
名前は花陽、花より団子、食べるの大好き小泉花陽。
そのルーツは料理上手な花陽の母にあり!!
…というわけで、穂乃果はもう一度「うおおお…」と鈍く唸る。
-
トレーナー旅というのは概して、食生活が貧相になりがちだ。
街にいるときはポケモンセンター界隈にトレーナー割引の効く安価な食堂が集まっていたりするものだが、旅路の最中は携帯食や小さな商店で買ったカップラーメンだとか、そんなものばかり。
まして穂乃果のパーティはリザードン、リングマ、さらにはガチゴラスと大飯食らいが多く、食費がかさんでかさんで仕方がない。
穂乃果「勝負に勝ったらお金はいいから食糧分けて!!」
そんなひもじい台詞を見知らぬトレーナーたちに何度掛けたことか。
普通の食事ならいざ知らず、ここまで明確に“ご馳走”と呼べる食事は本当に久しぶり。
穂乃果(オハラタワーのパーティー以来じゃないかな…ううっ!)
内心にそんなことを考えている。
実際は各地で真姫とニアミスした時にそれなりの食事を奢ってもらったりしているのだが、それはともかく。
穂乃果はそれほど豊富でない語彙で、にこにこと微笑んでいる花陽ママと花陽へ感謝と賞賛を述べようとするのだが、その感動をうまく言い表せない。
難しい顔で頭を捻り、思考の果てに捻り出した言葉は…
穂乃果「こ、この鍋の火のやつ!修学旅行みたいですごい!」
真姫「散々唸って褒めるところが固形燃料って…」
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絵里や希からの申し出で、九人は絵里たちが泊まっている一室に御膳を並べている。
チャンピオン、四天王、ポケモン博士に国際警察。
面子が面子、泊まっている部屋はかなり広いのだ。
風呂上がりのほのぼのとした雰囲気、食事も絶品とくれば自然と会話は弾む。
凛「んー!やっぱりかよちんのお母さんの料理は最高だにゃー!」
真姫「本当。とっても美味しい」
花陽「えへへ…色々おいしいもの食べてる真姫ちゃんにも褒めてもらえると嬉しいな。お母さんに伝えておくね」
希「お肉もお魚もあって至れり尽くせりやね。ウチもエリチも普段の食事には飽き飽きしてるから嬉しいなぁ」
穂乃果「普段…そういえばチャンピオンとか四天王って、食事もだし、戦ってない時は何してるの?」
海未「それは私も気になります。ポケモンリーグは人里離れたところに位置していますよね。ふらっと街に降りるにも不便そうですが…」
-
穂乃果と海未、二人揃って興味津々の問い。
絵里と希は顔を見合わせ、そんな二人の様子に思わず小さく笑みを交わす。
チャンピオンや四天王の普段の過ごし方が気になる。
そんな疑問がすっと湧いてくるのは、自分たちがいずれその場に立つことを目指しているからこそ。
トレーナーの旅路は険しい。
バッジ集めの道のりの厳しさに、あるいは才能の欠如に打ちのめされて道を諦める者も少なくない。
挫折したトレーナーたちの受け皿がないことが社会問題と化しているほど。
そんな中で穂乃果と海未がバッジを7つまで集め、未だ上を目指す瞳の煌めきを失わずにいてくれている。
それは絵里と希にとって、心から喜ばしいことだったのだ。
希「裏手に居住スペースがあるんよ。何もない時は私室か、専用サロンで過ごしてるかな」
絵里「サロンは24時間利用できて、無料で食事もできるのよ」
花陽「ごはんは美味しいですか!?」
にこ「うおっ食いついた…」
絵里「うーん、味は悪くないと思うんだけど…基本的には同じメニューが限られてるからどうしても飽きちゃうわね。希なんて最近はうどんかカレーとサラダでローテーションしてるもの」
希「その二つはまあ、悪くないんよね」
花陽「そんなぁ…毎日の食事に飽きちゃったら何を楽しみにすれば…」
穂乃果「ううん…チャンピオン目指すのやめよっかな…」
ことり「ほ、穂乃果ちゃん、ご飯を理由に諦めちゃダメだよ…」
-
経歴も立場も九人九色。
質問されて答え、旅路の小話を少々、仕事柄のネタを披露。
そんな繰り返しでエピソードが尽きることはない。
会話をしながらのゆっくりとした食事の時間が流れていく。
その間にも扉を隔てて廊下では、中居さんたちが忙しなく行き交う足音が聞こえている。
秋のハチノタウンは観光シーズン、宿泊客も多く、忙しいのだろうなとことりは気がかりだ。
ことり「花陽ちゃん、ことりたちが急に泊まっちゃって本当に迷惑じゃなかったかなぁ。お代金もちゃんと払ってないし…」
花陽「あ、ううん!本当に気にしなくていいんだよ」
海未「立派なお部屋に気持ちの良いお風呂に、こんなに美味しい食事まで頂いてしまって…観光シーズンですし、些か心苦しいのですが」
花陽「えっと、実はこれでも、この時期にしては忙しくない方なんだ」
穂乃果「ええっ、そうなの?」
花陽「アライザーの人がたくさんいて、ミカボシ山に入りにくくなってるから…」
-
花陽曰く、ハチノタウンはアライザーたちの横行により打撃を受けているのだという。
それは治安の悪化だけでない。
産業の少ない田舎町であるハチノタウン、その収入を大きく支えているのは観光だ。
ミカボシ山の紅葉はそれを支える大きな観光資源であり、その山に入れないとなれば必然客足は減ってしまう。
それでも民宿小泉は食事と温泉という柱があるおかげで持ち堪えている方だが、町全体での損失は看過できないほどに大きいのだ。
花陽「予約のキャンセルとかもあって、ちょうど部屋が余ってて。用意してたお食事も無駄にしちゃうところだったから、みんなに食べてもらえて良かったな…えへへ」
ことり「そっか…言われてみれば、旅行雑誌とかだとこの時期のハチノはもっと人で混み合うって書いてあるよね」
穂乃果「そんな事情があったんだね…よし、食べ物を粗末にしないために頑張らなきゃ。海未ちゃん!そのお肉食べないなら穂乃果がもらうよ!」
海未「あっ、これは最後の一口に取ってあるのです!!!」
絵里「海未、その柿いらないなら私がもらおうかしら?」
海未「それはデザートに食べるために残してあるのですっ!!!」
真姫「やめなさいよみっともない…」
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もちろん、この町で暮らしているのは星空家も同じこと。
わいわいと騒ぐ穂乃果たちを楽しげに見つめながら、凛の顔はふっと寂しげな色を宿す。
凛「凛の家も観光に来たお客さん向けのお土産物屋さんをやってるけど、今年は暇なんだよね」
にこ「土産物屋なんかはモロに煽りを受けそうね…」
凛「そうなんだー。団体さんから予約があれば観光ガイドもやってるのに、今年は全然にゃ…」
にこ「せっかく捕まえたのに、なかなか影響力が消えてくれないわね。綺羅ツバサ」
希「そればっかりは時間の経過を待つしかないやろね…悪党は根気強く捕まえてくとして」
にこ「ったく…忌々しいわねぇ」
ことり(アライザー…)
-
やがて、小一時間が過ぎた。
全員の膳が綺麗に空になっている。
風呂上がり、空腹が満たされたとなれば、それぞれ一日の疲れに眠気が少しずつ顔を覗かせる。
特に普段はインドア派の真姫はうつらうつらとまばたきが増えていて、そんな様子を目にした凛と花陽が真姫の袖を引いている。
凛「真姫ちゃんも凛たちと一緒に寝ようよー!」
花陽「私も真姫ちゃんと一緒がいいなぁ」
真姫「ヴェッ…そ、そこまで言うなら一緒に寝てあげないこともないけど…」
そんな調子の年下組を微笑ましく眺める六人。
さっきまでよりはペースを落としつつも、会話は交わされ続けている。
穂乃果、海未、ことり。
久々の再会に、幼馴染三人での会話もまた楽しい。
-
海未「そういえば、千歌や黒澤姉妹とすれ違いましたよ。千歌とルビィの修行だそうで、山中にキャンプ泊をするそうです」
穂乃果「へー!久しぶりに千歌ちゃんたちと会いたいなぁ…町にいたら一緒に晩ごはん食べられたのに」
ことり「ルビィちゃんかぁ…懐かしいな。久しぶりに会ってお話したいな」
海未「ああ、ことりはルビィと仲良くなっていたのでしたね。ふふ…確かに雰囲気が合うような気もします」
ことり「一緒に泊まれたらよかったのにね。でも、部屋が足りなかったかなぁ」
穂乃果「あ、部屋といえば」
ことり「穂乃果ちゃん?」
ポンと手を打ち、何かを思い出した様子の穂乃果。
にやりといたずらな笑みを浮かべ、いじってやろうとばかり、くるりとにこへ顔を向ける。
-
穂乃果「にこちゃんさっき部屋を思いっきり間違えてたよね!」
にこ「な、何よ急に」
穂乃果「穂乃果たちの部屋から出てきたとこでバッタリ会ったんだよね〜、いくら穂乃果とのサウナ勝負でのぼせて先に上がったからって部屋を間違ったらダメだよにこちゃん」
希「ええ、気を付けんといかんよにこっち。それにこっちが刑事さんやなかったら危うく泥棒騒ぎやん」
にこ「し、仕方ないでしょ。アンタたちが鍵を掛け忘れてくのも悪いのよ」
海未「ははあ、部屋を…」
違和感。
鍵を掛け忘れていった?そうだっただろうか。
-
海未は記憶を手繰る。
部屋で食事ができるこの手の民宿では、夕食を準備してもらうために部屋の鍵を開けておくものだ。
ただ、絵里たちの部屋で食事を誘われたのは入浴よりも前だった。
なので、鍵は掛けたはずなのだ。
穂乃果はいかにも施錠を忘れそうなので、海未がきっちりと鍵を掛けるまでを確認していた。
しかし現実ににこは部屋に入っていたわけで、施錠のやり方に間違いでもあったのだろうか。
否、海未は几帳面な性格だ。ドアノブを回して施錠を確認している。
つまり、にこは何らかの手段で解錠した上でわざわざ海未たちの部屋へと立ち入ったのだ。
海未(何故?)
-
希が言うように、これがにこでなければ窃盗を疑わなければならないところ。
しかし矢澤にこが正義を体現したような優秀な刑事であることを海未は知っていて、ならば別の可能性を考えなくてはならない。
海未(にこは刑事で、刑事が他人の部屋へと立ち入る理由…まさか、私たち三人の誰かを…)
海未はにこを見る。
穂乃果や希に賑やかしくいじられる、間隙。
刑事としての目がことりの横顔へと向けられたのを、海未の鋭敏な感覚は見逃さなかった。
ことりを?
疑って、何故?
そんなはずは…しかし否定できない。庇える要因がない。
ことりが送ってきたこれまでの旅路のほとんどを、海未は知らないのだから。
ことりは花陽たちの会話に混ざっていて、こちらを振り向かない。まるで振り向こうとしない。
にこから浴びせられた視線に気付いていて、それを黙殺しているかのように。
-
ことり、何故ずっとそっちを向いたままなのです?
穂乃果と希がにこをいじり、楽しい会話が繰り広げられているのですよ。
花陽たちとの会話も盛り上がっているのでしょう、それはわかります。
ですがことり、貴女は穂乃果が笑い声を上げていれば必ず振り向く子でしょう?
お願いです、一瞬でいいのです。どうかこちらに視線を。
…どうしてそんなに、頑なに、不自然なまでに…!
海未「ことり…!」
穂乃果「海未ちゃん、伏せて」
海未「えっ?」
━━━破砕、飛散する窓ガラス!
穂乃果に頭を抑えられて屈んだ海未、その真上を掠めるように何かが部屋へと飛び込んできた。
滑空ではなく横滑り。奇妙な軌道で動くそれはうねうねと名状しがたく蠢いていて、誰かが驚きに声を上げようと息を吸う音、それよりも速く絵里が動いている。
絵里「キュウコン、“れいとうビーム”」
表情を弛緩させ、上機嫌にゆるい笑顔を浮かべていた姿が嘘のよう。
絵里の横顔は、チャンピオンとしての威厳と怜悧を取り戻している。
キュウコンの放った蒼白の光線が“何か”を捉え、それは騒動の始まりの合図。
絵里の束の間の休暇が終わりを告げた。
-
絵里ちゃんの切り替えの早さ
これはKKEですわ
-
…
少し時を遡り、ミカボシ山の山中。
木々の隙間、拓けた平地にテントが一つ張られている。
そのすぐそばで揺れるオレンジの炎。立ち上る煙と暖かな芳香が、一帯にふわりと立ち込めている。
ダイヤ「ルビィ、千歌さん、できましたわよ!これぞ…黒澤家特製!おみおつけですわ!」
ルビィ「おみそしルビィ!」
千歌「ふわぁ、いい匂いだぁ…」
ダイヤ「こんなこともあろうかと味噌だけは持ち歩いていましたの!」
師弟トリオのキャンプ組。
三人は大自然の中たくましく、持ち運びしやすいキャンプ用の鍋で見事な一品を作り上げている。
その隣ではふつふつと熱され、蒸らしまでをきっちりと済ませた飯盒が。
開ければ新米の甘い香りが鼻をくすぐり、底を返せばおこげが香ばしく色を付けている。なんと担当はルビィ。姉の監督を受けながらではあるが、しっかりと炊飯を完遂!
ダイヤ「はじめチョロチョロ中パッパ、しっかり手順を守れましたわね。偉いですわルビィ〜」
ルビィ「えへへぇ…それに、千歌ちゃんのお魚も美味しそう!」
千歌「ふっふっふ、魚釣りなら高海千歌とエテボースにおまかせあれ!器用だから上手に捕まえてくれるんだぁ。ね、エテボース」
『キキッ!』
-
ダイヤ「ヤマメだかイワナだか、わたくし詳しくないのでよくわかりませんが…これくらい焼けば大丈夫ですわよね?」
ルビィ「大丈夫じゃないかなぁ…もっと焼いたら真っ黒になっちゃいそう」
千歌「いい匂いがしてきたよ〜!ダイヤさんルビィちゃん!早く食べよう食べよう!」
ダイヤ「アニサキスなる寄生虫も熱を通せば死ぬと、果南さんが言っていましたし…ええ、いただくとしましょう!」
ルビィ「わぁい!」
千歌「いただきまぁす!」
白米はふんわりと立っていて、味噌汁は出汁の具合も完璧。魚も少量の塩を擦り付けただけとは思えない絶妙な味わいだ!
いや、実際のところはそこまで完璧ではないのかもしれない。けれど空腹と山のロケーションが味を何倍にも向上させている!
思わず「うまっ!」と叫び、千歌は二人へと満面の笑顔を向ける。
-
千歌「本当に美味しい!なーんか豪華なご馳走を食べ損ねたような気がしてたけど、これはこれでバツグンだね!」
ダイヤ「そうですわね!ところで豪華なご馳走とはなんですの?」
千歌「あ、いや、なんとなーく」
ルビィ「わぁ、お味噌汁にサツマイモが入ってる!」
ダイヤ「もちろんルビィの好物ですもの。抜かりありませんわ!千歌さんのみかん…は、流石に入れられませんでしたけど」
千歌「あはは…持ってきてるからデザートに食べよ!」
そんな楽しい夕餉の最中、ルビィはふと夜空を見上げている。
故郷のダイイチシティでは見ることのできない満天の星空だ。
いつも漠然と見上げている空も、こうして星々に埋め尽くされているのを目の当たりにすると夜空がイコール宇宙なのだなと実感が湧く。
…というような事を、年齢なりにぼんやりと考えている。
-
ふと、湧いた疑問を口にする。
ルビィ「ねえお姉ちゃん、ミカボシ山ってどういう意味なの?」
ダイヤ「由来ですか?ふふっ、ルビィがそういった事に興味を持つのは珍しいですわね」
ルビィ「うん…なんとなく気になっちゃって」
ダイヤ「喜ばしいことです。由来、わたくしも聞きかじっただけですが、ミカボシというのは天津甕星…星を神格化した神様のことだそうです」
千歌「へー、星かぁ。星が綺麗に見えるもんね、この山」
ダイヤ「そうですわね、それにこの山、星が見えるだけではないんです」
ルビィ「え、だけじゃないって…?」
ダイヤ「実はこの山、隕石がやたらに降ってくる名所でもあるのです。ジムで岩タイプを中心に使っているわたくしとしては、非常に興味深い場所ですわ!」
ルビィ「お姉ちゃん、千歌ちゃん」
ダイヤ「どうかしましたか?」
千歌「なぁに?」
ルビィ「あれ…」
ルビィが指差すのは夜空。
従い、見上げる千歌とダイヤ。そこには一直線、闇から降り注ぐ一筋の火球。
千歌「隕石だ!?」
-
落下。千歌たちが目にした隕石は、燃え尽きることなく山の中腹へと墜落した。
その衝撃は大きく、千歌たちのキャンプ地へも強い震動が伝わっている。
距離的にはそれほど離れていない位置への落下のようだ。
二人を守る立場のダイヤは怯えることなく、冷静に行動の算段を立てている。
ダイヤ(震動、テントは?)
まず考えたのは寝床の確認。
真夜中にこれが倒れてしまったのでは立て直すのも容易でない。しかし無事。
ダイヤ(火の確保を)
焚き火は問題なく灯っているが、万が一消えてしまえば致命傷。
腰のボールから一匹、ほのお・ゴーストタイプのアローラ産ガラガラを繰り出した。
手にした骨の両端がファイアーダンスのように燃えているため、光源の確保には最適だ。
ちなみにこのガラガラ、アローラ旅行に行っていた鞠莉からのプレゼント。
親友の「アローラ〜♪」という気楽な声を思い出し、ダイヤの精神により一層の落ち着きがもたらされる。思考は次へ。
ダイヤ(今の衝撃で野生のポケモンたちが興奮しているかもしれません、警戒を…、…!?)
接近、勘付いてダイヤは叫ぶ。
ダイヤ「千歌さん!ルビィを連れて今すぐ逃げなさい!」
千歌「え、えっ!?」
ルビィ「お、お姉ちゃん!?」
ダイヤ「ここは…私が食い止めます!!」
オレンジと青緑、不気味に蠢く触腕。
浮遊して現れたのは宇宙ウイルスの突然変異、デオキシス。
熟練のトレーナーとしてダイヤが感じ取ったそのレベルは70オーバー。否、80に達している。
およそ意思の読めない瞳にダイヤたちの姿を映し、その右腕を螺旋、鋭利に尖らせ…
急襲!!!
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今日はここで切るよ
明日も更新する予定
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おつ
明日も待ってる
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こんないいとこで切られたら禿げてしまうわ
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ジラーチとデオキシスがでてくるのかな?
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花陽誕記念で更新増やしたりは…
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>>1はやっぱりポケスペ好きやな
あのバトルの再現楽しみにしてる
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乙です。
凛の星空にゃ!ネタは来るか
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おみそしルビィが妙にツボにはまってヤバイ
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花陽誕生日だし、デオキシスVSかよちんに少し期待
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絵里ちゃん有能
絵里ちゃんと同じタイミングで敵に気付いてる穂乃果ちゃんもポイント高いわ
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彼岸島ネタあって草
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アローラガラガラは鞠莉の趣味に合いそうだよな
ダイヤ対デオキシスがどうなるか楽しみ
にしてもご飯の描写が凝ってて腹減ってくる
夜中に読んでたら飯テロだな
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||с|^.-^|||ヤバイですわヤバイですわ
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>>887
焦りが感じられなくて草
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エリチカのオンオフ切り替え格好いい
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旅館に来たってことはダイヤちゃん負けたのか
デオキシスにボコられるシーン楽しみ
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は? おねいちゃんが負けるわけないんだが?
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ダイヤ様が華麗に撃退して逃げ込んだ先がたまたま旅館だっただけかも知れないだろ!
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単体とは限らないし、デオキシスは野生だから不利と見て逃げることもあるだろう
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レベル80越えのデオキシスが複数いるとかヤバすぎ
とりあえずおねいちゃあの手持ちをもっと見てみたいな
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ジム用のは別として、今んとこ手持ちで判明してるのってエンペルトとマリーのガラガラだけだっけか
岩タイプのジムリーダーなだけあり、私用で使うポケモンも高度高いやつが多そう
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ダイヤさんのガチパには名前的にもあの子が入ってそうやな
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>>895
>>745
でラランテスが出てる
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…
にこ「何よ、こいつは…」
キュウコンの冷撃を受け、急襲者はその肢体を凍り付かせて畳の上へと転がっている。
敵の姿を目に、場馴れしているはずのにこが心底から不気味がるように低く呻く。
世界を転戦して様々なポケモンたちを見てきたにこでさえその反応なのだ、他の面々はすっかり面食らい、とりわけ凛と花陽は目を白黒とさせている。
オレンジと青緑で彩られた体。
その姿は草むらや森林に生息するポケモンたちとは明らかに一線を画している。
その腕は二本の触手が相互に絡まったような形状、尖った先端はこの種が敵性のものであると一目に感じ取れる鋭利。
右腕は吹き流しが風にたなびくように、あるいは深海生物やウーズを思わせる動きでウネウネとのたうつ。
キュウコンの前足がそれを踏みつけて押さえているが、その軛さえなければ今にも場に居合わせた面々に害意を向けようとしているのがわかる。
-
希「ぶ、不気味やね…?」
ことり「………」
海未「っ…」
穂乃果から頭を押し下げられなければ、あるいは海未の首が飛んでいた。
そんな事実にぞっと悪寒を抱きつつ、海未は深呼吸を一つ、努めて平静を保ちながら穂乃果へと声を掛ける。
海未「すみません、助かりました」
穂乃果「ううん、怪我がなくて良かった!それよりこれ、何?」
凛「これ、ポケモン…なの?」
希「真姫ちゃん、何か知ってる?」
真姫「……ええ、見るのは初めてだけど、これはデオキシス。エスパータイプのポケモンよ。
ホウエンの隕石騒ぎで確認されたポケモンだけど、地上で見つかったケースはこれが初めてのはず。別個体がいたのね」
凛「で、でお?」
真姫「宇宙人みたいなもの。ポケモンではあるけど」
花陽「宇宙人なのぉ!!?」
-
花陽が大声を上げて驚きを表すが、他のメンバーもそれは同様。
宇宙人、そんなポケモンがどうしてここに?
にこ「……ま、なんだろうがやることは一つよね」
そんな不測の事態に先んじて適応を見せるのはやはり年上組。
にこが鞄からハイパーボールを取り出し、「ん」と一声掛けて絵里に投げる。
絵里は少し考えて目配せ一つ、それを希に手渡した。
絵里「エスパーなら希に任せましょう。何にせよポケモンなら、一旦捕まえて後のことを考えればいい」
希「ん、了解。えいっ」
希が投じたボールがデオキシスにコツンとぶつかり、ダメージを受けて凍っているなら問題なく捕獲できるだろう。
誰もがそう思ったのだが、それは否。
穂乃果「え、あれ!?」
にこ「はぁ!?ちょ、デオキシスはどこ行ったのよ!」
ことり「消えた…?」
-
そう、ボールがぶつかった瞬間にデオキシスの体が揺らぎ、まるで影であるかのように消失してしまったのだ。
にこは眉を顰め、希は首を傾げ、絵里は室内を油断なく見回す。が、気配はどこにもない。
海未「“かげぶんしん”でしょうか?」
にこ「いや、ならキュウコンの攻撃は当たんないはずよ。ったく、なんだってのよ…」
真姫「仮説があるわ。ホウエンに現れた個体は成層圏で捕獲されたから能力を発現させなかったけれど、デオキシスは実体のある分身を作り出せるんじゃないかって」
海未「実体のある分身、ですか…」
真姫「今のを見る限り、その仮説は正しかったみたい。想定されてたよりスペックは高そうだけど…今は仮称で、分身体をデオキシスシャドーと呼びましょう」
凛「な、なんかややこしいよ…!」
穂乃果「えっと、じゃあデオキシスの本体はどこか近くにいるってこと?」
真姫「ええ、そのはずよ。凛か花陽、“伝説チェイサー”は?」
花陽「ええっと…あっ、ミカボシ山の中に強い反応が出てるよ!」
真姫「そこにデオキシスの本体がいるはずよ。そして分身の仮説が正しいなら、シャドーは一体じゃなくて…」
-
「キャアアア!!!」
民宿の中に悲鳴が響き渡る!その声はすぐそばの廊下から!
扉に近い位置にいた凛が真っ先に反応して飛び出し、その直後を海未が追う。
よく磨かれた廊下に片付け途中の膳が散らばっている。中居の女性が倒れていて、伸びるデオキシスの尖腕、飛んだ鮮血!
惨劇か…
海未は悔悟に眩みを覚えるが、しかしよく見ればデオキシスの腕は女性の肩を抉っただけ。
凛が繰り出したズルズキンが間一髪、腕を叩いて軌道を逸らしていたのだ。
海未「流石です、凛!」
凛「海未ちゃんっ、コイツやっつけちゃお!」
海未「無論。行きますよ、ゲッコウガ!」
-
凛のズルズキンはトトン、トトンと小刻みなステップ、からの突進!
デオキシスへと“いかりのまえば”を突き立てる!
応じ、デオキシスはサイコキネシスを発動させている。
波打つ力の波動、廊下の床板が剥がれ飛んでいく!
だが悪タイプの二匹はエスパータイプへの耐性持ち。怯むことなく念動波の中を駆け回っていく。
海未は中居の女性を抱え、凛と廊下の角に身を隠すことでその一波をやり過ごす。
ズルズキンの猛烈な顎撃で体力をごっそりと奪っていて、そこへゲッコウガがするりと滑り込んでいる。
海未「“あくのはどう”!」
『ゲッコ!!』
黒色のエネルギー体を収束、掌底の要領でデオキシスの胴体を撃ち抜く!
技の分類はゲッコウガに適性の高い特殊技。
しかしながら海未が直感的に指示を下しやすいよう、近接技の要領で叩き込めるように修練を積んできた。
必倒の一打がデオキシスを吹き飛ばし、廊下の奥へと転がって影のように掻き消える。
-
アニポケのは分身してたな
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|с||^.-^||| |с||^.-^||||с||^.-^||||с||^.-^||||с||^.-^||||с||^.-^||||с||^.-^||||с||^.-^|||
-
凛「うん!やっぱり海未ちゃんは強いにゃ!」
海未「ええ、凛も!しかし、今のもシャドーですか…」
真姫「海未、凛、大丈夫?」
廊下は狭く、大勢で戦えば足を引っ張り合いかねない。
そのため様子を見ていた真姫たちから声を掛けられ、海未と凛は駆け寄ってきた従業員へと負傷した女性を託して室内へと駆け戻る。
室内ではテレビの画面が灯されていて、全員が齧りつくようにそこへ目を向けている。
中継画面にはミカボシ山の様子が映し出されていて、中腹の森林に小規模なクレーターが生じているのが海未の目に留まる。
海未「これは?」
希「ついさっき隕石が落ちたんやって。そこそこの規模だったみたいで、ロクノシティのテレビ局がもう中継ヘリを飛ばしてるんよ」
海未「ふむ、隕石が…気付きませんでしたね」
穂乃果「みんなで喋ってたからかな?」
希「この辺りは地盤が頑丈やから、町の方までは強い震動が届かんかったのかもね。それより…」
真姫「見て、デオキシスが大量に」
-
上空からのテレビ中継、その画面にはクレーター近辺を飛び回る大量のデオキシスの姿を捉えている。
中継しているアナウンサーはそれが何なのかを理解できていない。
「謎の生物が!いえ、生物なのでしょうか?謎の浮遊体が飛び交っています!」
と、そう連呼するばかり。
そんなヘリ、中継カメラの面前に現れるデオキシス!
まるで物理法則を無視した挙動で滑るようにカメラの前へと飛び寄ると、スタッフたちが慌てた声をあげると同時、腕先をサイコキネシスに発光させる。
天地が反転する中継画面!
ぐらりと酔いそうな勢いで画面が揺れ、スタッフたちの絶叫と共に地面が迫り…そこで中継は途切れた。
にこ「……今のが中継されてたのはまずいわね、パニックになりかねない」
穂乃果「早く捕まえるかやっつけるかしないと!」
花陽「真姫ちゃん、あのデオキシスが、ミカボシ山に出る伝説のポケモンなのかな…?」
-
凛と花陽、二人は憧れてきた伝説のポケモンが人に害を為す存在だったことに落胆を隠せずにいる。
真姫は友達のそんな顔を目に複雑な表情を浮かべ、俯き加減に口を開く。
真姫「ミカボシ…天津甕星はまつろわぬ神。悪神とされる神なの。
ポケモンがポケモンと定義されるより昔、隕石が落ちやすいこの山にデオキシスが出て、暴れたことがあったのかもしれない。
それを星の悪神になぞらえて、ミカボシ山って…」
希「なるほどなぁ…」
由来に頷き、しかしゆったりとはしていられない。
屋外から散発的に悲鳴が聞こえてくる。町中に続々とデオキシスが流入しつつあるのだ。
それだけではない、他のポケモンの声や罵声じみた人間の声が聞こえてくる。
窓の外を見たにこが苦々しげな表情で口を開く。
にこ「パニックに乗じてアライザーまで暴れ始めてるわね…」
希「早くなんとかせんとね。エリチ、戦力を分けよ。ウチはさっきまでの通り、海未ちゃんと凛ちゃんを連れて山に向かうよ」
絵里「ええ、私たちは町に入り込んだデオキシスやアライザーを処理するわ。穂乃果たちも山に向かってくれるかしら?」
穂乃果「うん、わかった!」
海未「千歌たちも心配です、探さなければ。私たちと穂乃果たちはそのままのチーム分けで二手に別れましょう」
ことり「穂乃果ちゃん、花陽ちゃん、行こっ!」
手早くそれぞれのやるべきことを確認し、海未たちと穂乃果たちはそれぞれ山へと向けて駆け出す。
昼の疲労は抜けていないが、今はそうも言っていられない。
騒然とする町中を走り抜けながら、二つのチームはそれぞれ別のルートで山へと向かう。
千歌たちがどちらのルートで逃げてきていても合流できるようにだ。
真っ先に穂乃果と花陽の腕を引いたことり。
その姿はまるでにこから距離を離そうとしているかのようで、海未の胸中に疑念は募り続けている。
しかし顔を左右に振り、暗澹とした思考を振り払う。
海未(いえ、今考えるべき事ではありません。穂乃果、ことり、花陽、どうか気を付けて!)
-
…
ダイヤ「はぁっ、はぁっ…!」
抉れた大地、根こそぎ抜かれて薙ぎ倒された木々。
夜の山は不気味な静寂に包まれていて、ダイヤは木陰に腰を落として荒れた呼吸を整えている。
ダイヤ(千歌さん、上手く逃げてくれましたでしょうか…あのポケモンの分身が蔓延っていますが…)
胸の動悸は激しい戦闘の負荷だけではない。
愛妹と愛弟子、二人が無事かと思案するほど、嫌な想像に胸がキリキリと痛む。
ルビィが大切なのはもちろんのこと、ダイヤさんダイヤさんと慕ってくれ、ルビィと仲良くしてくれている千歌もまたダイヤにとって大切な存在。
どうか無事に逃げ果せてと願い…
ダイヤ(そのためには、私がまだ舞わなくては)
抑える脇腹、そこからは鮮血が溢れ出している。
デオキシスが炸裂させた地面、礫弾のように弾かれた小石が腹部へと穴を穿ったのだ。
即死するほどの傷ではない。
だが呼吸に苦痛が走り、動こうと身を捻れば響く苦悶。
腰のボールは残り三つ。
ガラガラとラランテスが既に撃破されていて、展開しているエンペルトは深手を負っている。
-
旅館とかの「なかい」って「仲居」じゃなかった?
-
ダイヤさん…頑張れ!
-
|с||^.-^|||痛いですわ痛いですわ
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>>910
本当だ、恥ずかしいミスしてんな
まあ気にしないでね
-
募る焦燥、しかし深呼吸。
心配そうに振り向いたエンペルトににっこりと笑いかけ、少しでも頭を回せと肺いっぱいに酸素を取り込む。
ダイヤ(あのポケモン、使う技と威力から見るにおそらくはエスパータイプ。
ガラガラのゴースト技、“シャドーボーン”で一打を決めましたが…しかし揺るがず)
火力の高いガラガラの一打が強かに入り、間違いなくダメージを与えたはずだった。
しかし夜陰に紛れられ、再び姿を視認したその時には傷が治っていた。どうやら自己再生を使えるらしい。
ジムリーダーとして研鑽を積んだ超一流のトレーナー、そんなダイヤが圧倒されてしまっている。
ダイヤ(寄れば触腕、距離を離せば地面を覆すほどの念力。しかし幸い、再生を度外視すれば防御性能はそれほど高くないと見えますわ。隙を見て、一気呵成に……)
背後、眼光。
ダイヤ「っ!?」
『キュラロロロ…!』
ダイヤ「かはっ…!」
デオキシスの腕がダイヤの腹部を鋭く突き、細くしなやかなその体がサイコキネシスに抉られた地面をゴロゴロと転がっていく。
血痕が土を黒く染め、『ペルルッ!!』とエンペルトが狼狽の声を上げる。
狩猟者、デオキシスは手応えを確かめるかのように自身の腕を見つめる。
…が、しかしそこに血の跡はない。
全身を打ち付け、地面で擦った頭部からも血を流しながら、ダイヤは闘志を絶やさず立ち上がる。
ダイヤ「まだ…戦えますわよ…!」
-
ダイヤさん ; ;
-
ダイヤは手持ちの一匹、ほうせきポケモンのメレシーを腹部に抱えていた。
デオキシスが優先的に狙ってくるのが胴体であることを踏まえ、木陰で様子を伺いながら保険にとボールから出していたのだ。
硬質な体のメレシーはデオキシスが繰り出した腕を弾き、ダイヤのダメージを衝撃に突き飛ばされるだけに留めてみせた。
それでも負傷はますます重く、満身創痍に近い状態。
メレシーは主人の危機に、つぶらな瞳をさらに丸くして案ずるように声を上げる。
『メレッ、メレ!』
ダイヤ「ふふ、大丈夫ですわ…何者かは知りませんけれど、所詮は野生。いつまでも手玉に取られてばかりでは、いられませんわよね…」
気丈に微笑むダイヤ。
そんな姿をデオキシスは無機質に観察していて、何のために人を襲っているのか、その理由はまるで読み取れない。
捕食のためだろうか?あるいは単なる戯れか。
いずれにせよその瞳は未だダイヤを捉え続けていて、今にも再び飛びかかろうと前屈姿勢へ…
ダイヤは離れた位置、デオキシスの後方のエンペルトへと指示を下す!
ダイヤ「エンペルト!“ハイドロポンプ”ですわ!
メレシーは同時に“ステルスロック”を!」
-
指示に応じ、鋼のペンギンは敵対者めがけてありったけの勢いで水圧を叩きつける!
ダイヤが見込んだ通り、デオキシスは防御が脆い。故に回避を試みるが、メレシーが浮かべた大量の浮遊岩がその挙動を阻んでいる。迫るハイドロポンプ!
だがデオキシスはさらなる力の解放を!
全身にサイコエネルギーを漲らせ、それを自らを中心に球形に放出したのだ!!
それはデオキシスの必殺技、“サイコブースト”。
猛烈な勢いの閃光と衝撃波にエンペルトは飲まれ、意識を断たれて吹き飛ばされていく。
ダイヤのボールから伸びた赤光がそれを回収し、残る未開封のボールはあと一つ。
デオキシスは最大火力を発揮した反動か、若干動きが鈍ったような気配がある。
だが、あくまで無機質なその瞳がダイヤを狩るべく焦点を定めた。
対し、ダイヤは血だらけの姿。
その瞳には狩られる者の恐れが…一切宿っていない。
そう、ボールはあと一つ。
突きを受けて転がる最中、ダイヤは既に一体の展開を済ませている!
開閉スイッチを押し、上空へと投げ上げたボール。
そこから猛然、重鋼の巨獣がデオキシスめがけて落下している!!
ダイヤ「ボスゴドラ、“ヘビーボンバー”。…ですわっ!!」
エンペルトとメレシーによる前後からの攻撃はあくまで意識を逸らすための仕込み!
本命の一撃がデオキシスへと直撃!!!
-
『ゴアアアアアッッッ!!!!』
『ルオォオオオォ!!!!』
吠え猛るボスゴドラ、念動力で受け止めようとエネルギーを全開にするデオキシス。
360キロもの体重に落下速度を掛け合わせたその一撃はまさに会心。
物理法則の枠から外れたような挙動を見せる侵略者へ、この上なくシンプルな“質量攻撃”という地球のルールを全力で叩きつけるが如し!
ダイヤ「まだ…倒れるわけにはいきません…!」
失血におぼろげな意識、ダイヤはそれをジムリーダーとしての覚悟で体の軸へと留めて固定。
もう一つの軸は名家黒澤、その長子としての矜持。
プラス、こんな恐ろしい怪物を怖がりなルビィの元へ行かせるものかという姉の愛情!
ダイヤ「そのままっ、押し潰しなさい!!ボスゴドラ!!」
『グゥゥ…オオオオオッ!!!!!』
傷口がさらに開くのにも構わず、上げた決死の叫びはボスゴドラへと最後の一押しを伝達した。
サイコエネルギーによる圧へ、硬度バッチリの頑強な頭部を思い切り振りかぶって叩きつける!
『…!!』
一瞬のほころび、それは一挙の決壊を生む。
形成していた力場が砕け、ボスゴドラの巨体がデオキシスへと叩きつけられた!!!
ダイヤ「……っ、やりましたわ…!」
それは完全なる打倒の一撃!
いくらレベルが上だろうと野生は野生、ジムリーダーとしての実力を完膚なきまでに見せつけ、ダイヤは勝利に拳を握り締める!
-
…が、しかし。
ダイヤは面前の光景に、くらりと目眩に襲われる。
漏れるぼやきは果南の無茶に付き合わされた時のように、鞠莉のジョークに振り回された時のように。
ダイヤ「……ああ、もう…ふざけてますわね」
そこには新たに三体。
より攻撃的なフォルム、防御的なフォルム、速度に特化したフォルムのデオキシスが現れている。
ミカボシ山の地形が形作られてから今に至るまでの気の長くなるような歳月の中、この一帯へと落ちた隕石の数は数え切れないほどに多い。
その無数の隕石のうち幾つかには休眠状態の宇宙ウイルスがこびりついていた。
そこに降った新たな隕石、活動状態のデオキシスの登場が、休眠状態にあった数体のデオキシスを目覚めさせてしまったのだ。
成層圏で食い止めたホウエンとは状況が異なる。
隕石のサイズこそ違えど、故に潜り抜けた脅威がダイヤの前で新たな敵意を蠢かせている。
攻撃性に特化、アタックフォルムのデオキシスが怪腕を伸ばし、ダイヤの両腕を標本のように刺し貫いた。
ダイヤ「……っ…う…」
あまりにも酷な現実だ。
頼みのボスゴドラは防御的な個体、ディフェンスフォルムのデオキシスに受け止められている。
腕を刺され、もう一つのボールには手を伸ばせない。
磔刑とばかりダイヤの体が持ち上げられ、滴る鮮血が服の袖を真っ赤に染めていく。
メレシーは敬愛する主人を助けようと触腕に全力の体当たりを敢行しているが、意に介されていない。
ダイヤの命運は尽きた。
-
マジかよ…分身だけじゃなく本体も複数いるとか絶望的すぎる
-
ダイヤ「ぐ…う…ぁっ…」
骨が、筋が軋んでいる。
デオキシスの腕はダイヤを解体しようと試みるように、徐々に左右へと力を込め始めている。
やろうと思えば一瞬でやれるはず。じわじわと力を強めているのはいたぶろうとしているのか、それともありがちなキャトルミューティレーションのように、地球人の感情を観察しているのか。
絶望的な状況に…ダイヤはそれでも気丈に悲鳴を上げずにいる。
狩猟者たちを睨みつけ、天を仰ぎ、千歌とルビィの無事を祈り…
ダイヤ「ああ、でも。ルビィが成人する姿が見られないのは…まだ、まだルビィと一緒に…果南さんや鞠莉さんと、私は…!」
ルビィの笑顔を思い出して、親友の姿がよぎり、鋼のように固めていたはずのダイヤの心は波立ってしまう。
立場に見合うよう気高く振舞っているが、本質はルビィとそれほど変わらない泣き虫で寂しがり。
こんな場所で、こんな意思があるかも定かでない相手に殺されるだなんて、そんなのは悲しすぎる。
殿軍の役目は果たした。
ジムリーダーとしての力を見せ、一体を退けた。
その上で震える体。
素直な、心からの言葉が涙と共に口から溢れる。それは決して恥ずべきことではない。
ダイヤ「死にたくない…!」
輝き。
強い光が夜の森を薄紅に染め、デオキシスはダイヤを取り落とす。
ボスゴドラの重撃に脆くなった岩盤が砕け、激痛に意識を失ったダイヤは地の底へと落下していく。
その後をボスゴドラとメレシーが追って飛び降り、デオキシスたちは顔を見合わせる。
……追わず。
とある要因に攻撃性を高められたデオキシスたちは、山へと立ち入った複数のトレーナーを感知している。
逃げ去った二人組もいる。まず優先すべきはそちらだ。
デオキシスたちは飛び去り…
キャンプ地の残骸だけを残し、森に静寂が戻った。
-
今日はここで切るよ
明日も更新する予定
-
乙
ダイヤさんはかろうじて無事なのだろうか
デオキシスが人襲ってる理由も非常に気になる
-
乙です。
残りは各フォルム3体と分身かな?
ダイヤさん、メンツは保ったぞ
-
やっぱすげぇよおねいちゃぁは…
-
アニポケデオキシスは割りと自由にフォルムチェンジしていたけど、ポケスペデオキシスは全形態を使うためには前準備が必要だったりした
そしてゲームのデオキシスはアドバンス世代ではカセットによりフォルムが変わり、DS世代以降はプレイヤーの手によりフォルムチェンジする
デオキシスの今後に注目ですな
-
ダイヤ様はノーマルフォルムと戦ったのかな?
-
乙です
にことことりも気になるし先が気になる…
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ウミミゲッコウガの練度が上がってそうで楽しみ
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>>929
cVσ_VσV
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ゲームのデオキシス戦のBGM好き
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活躍とリョナ両方あって大満足
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あれ?ダイヤの手持ちは
ラランテス
アローラガラガラ
エンペルト
ボスゴドラ
メレシー
不明一体ってこと?
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相変わらずダメージ描写が重くて好き
>>1の性癖はリョナ&筋肉女子か
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>>933
合ってるはず
デオキシスは捕まえても使えるか微妙やな
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でもレベル80くらいでフォルムチェンジの幅も効きそうなんだし
手に入れない理由はないわな
絵里とツバサあたりのポケモンとも互角に戦えるだろうし
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戦闘中に種族値が変わることの有用性はギルガルドが証明してるからなぁ
デオキシスが戦闘中に自由にフォルムチェンジ出来るようになったらバランスブレイカーも極まるな
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デオキシスのデニッシュ
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ポケモンパンなつかしいなぁ
結構好き
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この作品はペラップが無双するレベルだから、デオキシスなら分身してポケモンとトレーナーに同時攻撃くらいは出来そう
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ところで、作者の更新スピード、量なら今日とあと一回くらいでスレ完走しそうだけど、作者はどう考えているんだ?
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明日更新するときに次スレ立てるよ
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…
デオキシスシャドーの強さにはばらつきがある。
レベルにしておおよそ30〜60の範囲、強い個体ほど数が少ないようだ。
海未、凛、希の三人はすっかり暗くなった登山道を低く飛びながら進んでいく。
それぞれ海未はファイアロー、凛はオンバーン、希はシンボラーと手持ちの飛行ポケモンに背を掴まれながらの移動。
今大切なのは何よりスピード、既に自分の足での登山を楽しんでいられる状況ではなくなっている。
夜陰の空気、深緑と土の香りが頬を撫でる。その中にも不穏の気配は濃く混じり、海未は鋭く目を細めている。
いつデオキシスが飛び出してくるかわからないのだ、一切の油断は許されない。
海未「それにしても、実体のある分身をここまで大量に展開するとは…ポケモンの能力の域を超えているように思えるのですが」
希「真姫ちゃんが言ってたけど、この土地はデオキシスに合ってるのかもしれんね」
凛「え、ポケモンに土地の合う合わないとかあるの?」
希「うんうん、土地のエネルギーで強化されるポケモンはいるよ。例えば…ジバコイルとか」
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希は人差し指を立てて例を挙げる。
正式にトレーナーを目指しているわけではない凛は実力はあれど、トレーナー用の座学をこなしていない。
そのためピンとこない様子で、海未は希の言葉を継いで凛に説明を続ける。
海未「ジバコイルは今でこそメジャーなポケモンですが、進化できることが最初に発見されたのはテンガン山。それまではレアコイルが最終進化だと思われていたのです」
凛「へえー、ハチノらへんはコイル系出ないし、全然知らなかったにゃ」
希「つまり、デオキシスにとってはここがそういうパワーに満ちた場所かもしれんってことやね」
海未「だとすれば、この土地でだけ進化できるポケモンというのも他にいるのかもしれませんね」
そんな会話を交わしつつ、希は「こんなことなら主力組で来た方が良かったかなぁ」とボヤいている。
いざ危急、山に向かう前に手持ちを入れ替えようかとも考えたのだが、預かりシステムのあるポケモンセンターは町民たちの緊急避難場所としてごった返している。
パソコンでメンバー入れ替えしようにも、パニックで回線が混雑しているため時間がかかってしまう。故にやむなくそのままの趣味パーティでの山入りとなっている。
希「こんなことになるなんて、ウチの予知もたかが知れてるなぁ…っと。来るよ、二人とも!」
海未「…!」
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森林の枝葉の隙間を縫うように、橙と緑の触腕が奇々怪々と編み込まれていく。
DNAを想起させる二重らせん、数体のそれが素早く重なり密度を高め、網を形成して海未たちをまさに一網打尽とするべく覆い被さってくる!
希「ソルロック、ルナトーン、“ストーンエッジ”と“サイコキネシス”や」
凛「うわっ!変なの出た?!」
凛が驚いた通り、希が繰り出した二体もデオキシスとはまた別のベクトルで奇妙な外見。
それぞれ太陽と月を模したような形状の浮遊岩に簡易な顔パーツを付けた、そう表現する他ないポケモンが希の左右に浮かんでいる。
そして指示に従い岩刃と念動力を発揮し、それぞれが一体ずつのデオキシスシャドーを退けている。
希「ふふ、面白いやろ?この子らも宇宙から来たんだって。土地に影響されて進化しないかな〜とか思って連れて来たんやけど、それはないっぽいかなぁ」
海未「それほど種族値は高くなかったはずですが…流石です、希」
希「ちゃんと育ててあげればどのポケモンもなんだかんだ頑張ってくれるもんやからね。レベル上げて殴ればわりとどうにかなるんよ。ガブリアス相手とかの特例は別として」
海未「な、なるほど。わかりやすいですね…」
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その脇、凛のオンバーンが“ばくおんぱ”の威力に木々を薙ぎ倒し、隠れる木陰をなくしたデオキシスへと躍り掛かる影。
「にゃああああっ!!」と凛、掛け声は炎猫の咆哮とシンクロ。
どこか悪役レスラーを思わせる凶眼、凛のガオガエンがその全身に力を漲らせている。
凛「“DDラリアット”!ドーンといっちゃえ!」
『ガオオッ!!!』
高い身体能力からの回転撃、強靭さとしなやかさを兼ねた腕打がデオキシスシャドーの喉首を狩り叩く!
勢いのままに分身体は地面に即倒、凛へと得意げにガッツポーズを見せるガオガエン。
海未「素晴らしい一撃です!」
希「その子強いなぁ、デオキシスと正面から殴り合って当たり負けしてないね」
凛「ナイスにゃ!ガオガエン!」
ピョンと跳躍、凛より背の高いガオガエンと右手でハイタッチ!
猫アレルギーにくしゃみを一つ、鼻をすすりながら左手でもう一タッチ!
戦いの音に引き寄せられたのだろうか、海未は視界の端に二人のアライザーを捉えている。
残るシャドーは片手で数えるほど、二人に任せて問題ないだろう。ならば討つべきはこちら!
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海未「ファイアロー、“ブレイブバード”」
冷静に下す指示、即座に飛び出すファイアロー。
勇猛果敢、一切を省みない猛進はさながら海未が放つ果断の矢。
加速に熱さえを纏い、アライザーの一人が連れているダーテングへと会心の一撃を浴びせて撃破!
「なんだ!てめ…」
海未「後続は出させません」
ファイアローを追い、海未は鋭くアライザーの片割れの背後へと回り込んでいる。
右の肘を掴み、逆巻きに捻り上げて加力。ボグリと鈍い音が掴んだ手越しに伝わる。
「ギャッッ!!?」
海未「関節を外しました。そのまま転がっていることをお勧めします。動くだけ痛みが募りますので」
すかさず左腕にも同じ動作を。
両腕を封じてボールを扱えなくしてみせ、同時に腰からエルレイドを展開している。
もう一人のアライザーの傍らにはギガイアス。
その体の周りには砂塵が舞っていて、海未はギガイアスの特性が“がんじょう”ではないことを看破する。ならば狙うは一撃必倒!
海未「エルレイド、“インファイト”ですっ!!」
『エルッ!!!』
-
呼気を沈めて潜り込み、最近接の懐で解放する力。
放つ痛打は格闘の奥義、インファイト!
エルレイドはその体質を十全に活かす。
肘の刃をすらりと伸ばし、岩のように頑丈な硬皮へと居合めいて双刃撃!!
『ゴゴゴ……!』
海未「上出来です、エルレイド」
エルレイドの緑刃は数倍もの重量を誇るギガイアスを見事に打ち倒してみせた。
悪のトレーナーとの戦いの肝はここ、次のポケモンを出される前に、海未が先んじて行動を封じること。
が、このアライザーは自身が手練れ!
「オラァ!!大人しくしやがれこのアマ!!」
海未「っ、…この」
凛「海未ちゃんっ!」
希と共にデオキシスシャドーを片付けた凛は振り向き、海未の状況に思わず声を上げる。
園田流、体技にまで長ける海未だが、その強さは動きのキレとテクニカルな技術に支えられている。
トレーナー同士のリアルファイトで鬼神じみた強さを見せることも多い海未だが、あくまでその体は10代の少女。大人の男には力で劣る。
そんな海未が今、正面からアライザーに抱きすくめられてしまっている。
それも相手はパッと見、ガオガエンよりも大柄にして屈強。
海未の隙をついた猛然の突撃は、男がおそらくレスリングの経験者だと物語っている。
凛「このっ!オンバーン、あいつを」
「おおっと動くな!この女の背骨をヘシ折るぞ!」
海未「ッ…!」
-
ミシリ、軋む骨格。
男は立った姿勢のまま上から海未へと体重を掛けようとしていて、鯖折りの要領でひしゃげさせてしまおうと意思しているのがわかる。
凛や希が援護しようにも、海未が盾になる位置へと器用に位置をずらしてくる。場馴れしている。
凛(攻撃できないよ…!)
希(このアライザー、相当…あるいは殺しまでやってるかもしれんね)
海未(さて…)
この状況、股間を膝で突き上げるのが鉄則。しかし男はそれも熟知しているようで、足で巧みに海未の足の動きに制限を掛けてくる。
男の胸板を押し付けられ、むせそうな口臭、それに饐えたような男性臭が海未の鼻腔に突き刺さる。
父以外の男性に密接され、その体重を押し付けられるという初めての体験。それはただひたすらの不快でしかない!
海未(臭い…ですね、随分と)
-
海未は苦痛と不快感に顔を歪めていて、凛は思わずうろたえてしまう。
あくまでごく善良な一般人、そんな凛はトレーナー同士の修羅場、どうすればいいのかまるでわからずにいる。
凛「ど、どうしよう希ちゃんっ!」
希「いや、大丈夫や凛ちゃん。海未ちゃんなら…」
一見すれば絶体絶命。しかしこの状況下、あくまで希は落ち着いている。
そんな希たちにチラリと警戒の目を向けつつ、男はその息に下卑た興奮を交え、海未の耳へと睦言のように囁く。
「へへ、男みたいな胸しやがって…」
海未「……はい?」
刹那、海未はその全身からほんの一瞬の脱力を。
海未の抵抗をバランスの拠り所にしていた男はわずかに揺らぎ、そのたわみを見逃さず、海未は片手を男の太腿へとずらす。
海未(この姿勢から私にできる最大の反撃、それは…!)
「ぎっ!?痛えっ!!!」
-
つねる!!
海未は右手の指で男の腿肉を挟み、全力で抓りあげた。
ただつねるとだけ言えば大した事がないように感じられる…が、園田流には指弾の技がある。
小石やパチンコ玉を直線軌道で正確に射ち出せるほどに鍛え上げられた筋力、そんな指で全力で抓りあげれば皮下の組織を損壊させ、真っ赤に内出血が残るほど!
怯み、弛む腕に海未は首を引き…全力で頭突き!!
「がぅッ…!!」
迸る鼻血、顔に飛ぶ返り血。
まるで構わず拘束から抜け出た海未は男の膝へ、斜め上から容赦なく靴底を叩き付ける。
グシャリ、完膚なきまでに膝が砕ける!!
アライザーが絶叫を上げる、その直前にエルレイドの刃がその首筋を峰打ちに。意識を奪って黙らせ…勝利の一言を。
海未「男みたいな胸?失敬な。にこや凛とは違うのです!」
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解放からのわずか数秒に暴力の嵐を吹かせ、海未は男の体臭から解放された清々しさにほっと一息。
海未「お待たせしました。さあ、進みましょう!」
まさに修羅。
海未の園田流は命の奪い合いの中、抜き身の妖刀めいて研ぎ澄まされている。
その煌めきに凛はあうあうと口をパクつかせ、流れの中にさらりと胸の薄さを揶揄されれたことも忘れ、呻くように声を漏らす。
凛「やべえにゃ…やべえにゃ…」
希「海未ちゃんにミニスカ履かせて満員電車の窓際に置いとくだけで痴漢狩りが捗りそうやね…」
凄惨な場面を目にした凛だが、生来切り替えは早い性格。
すぐにケロリと海未に胸の件を抗議していて、そんな会話を横で聞きつつ、希はハチノ警察へと連絡を入れている。
アライザーを行動不能にしたポイントを連絡しているのだ。
希(いくら悪人でも、デオキシスシャドーがうろついてる中で完全放置ってわけにもいかんからなぁ…)
凛「なーんで今の流れで凛をディスるにゃー!!」
海未「す、すみません、つい…」
希(それにしても海未ちゃん、思ったよりも暴力に躊躇がない。今の場合、それは正しいんやけど…)
凛「いいもんね!海未ちゃんと穂乃果ちゃんかことりちゃんを足して半分にするより、凛とかよちんを足して半分にした方が大きいし!」
海未「な、なんなのです、その基準は。他力本願です!」
希(見えるんよ、海未ちゃん。海未ちゃんには大きな決断をしなきゃいけない時が来る。それも、すぐに。乗り越えられるか…)
なんとも虚しい言い合いを続けたまま、不安を抱えたまま、三人はさらに山奥へと進んで行く。
-
また切りのいいとこまで書いてから投下するからちょっと時間空くよ
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おつ
海未ちゃん怒らせたらヤベーな
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アライザーにおくすり注射することりちゃんがぶっちぎってヤバイと思ってたけど、ここまで躊躇なく関節外したり膝砕いたりする海未ちゃんも大概ですね……
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…
別ルート、穂乃果チーム。
海未たちと同じく徒歩での登山を避け、ことりはチルタリスに、穂乃果はリザードンに、飛行ポケモンが手持ちにいない花陽もまた穂乃果のリザードンの背に乗っての山中行。
穂乃果「うう、眠い…」
花陽「ば、晩ごはんを食べ過ぎて、お腹が苦しい…」
ことり「二人とも、しっかりしないと危ないよ〜」
そんなふわふわとした会話を交わし、ふと気付けば。
穂乃果「囲まれてるぅっ!!?」
花陽「ご、ろく、なな…十体ぐらいいるよぉ!?」
ことり「ふぇぇん…海未ちゃぁん…!」
なんとも情けない声を上げつつ、それでいて穂乃果とことりはそれぞれにポケモンを複数展開させつつ花陽を庇える位置へと動いている。
もちろん打ち合わせは不要、目配せも一瞬だけ。この辺りは流石の幼馴染にして大親友!
だが意外。そんな二人へと笑いかけ、花陽はそれより一歩前へ。
慎重な性格の花陽、これは蛮勇ではない。必ず勝てるという自信の一歩!
花陽「ナットレイさん、ドレディアさん。お願いね」
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殺到するデオキシス!
螺旋の槍がドレディアへと迫り、球状に圧縮されたサイコキネシスがナットレイを消し飛ばすべく放たれる。
そんな状況、花陽はごくシンプルな指示を出す。
花陽「ドレディアさん、避けてっ!」
穂乃果「えっ、そんな無茶な…って!」
ことり「よ、避けたぁ??」
ふらりひらり、ドレディアは花陽からの無茶振りに応え、無尽に突き出される槍腕を掻い潜ってみせる。
もう一体、草に鋼タイプを併せ持つナットレイは持ち前の頑丈さでサイコキネシスを耐えてみせ、花陽の指示を待っている。
花陽「ナットレイさん、“パワーウィップ”を急所に当ててください!」
穂乃果「またまたぁ、そんな無茶を…って!
ことり「当てたぁっ!!」
-
痛撃!!!
硬質なトゲの付いた触手はフレイルのような攻撃性を有している。
それを全力で叩き付けるのがパワーウィップ、草タイプの物理技としては非常に高火力な一撃だ。
それを花陽の指示に応え、デオキシスシャドーの胸部にあるコアへと勢いよく叩きつけた!!!
もちろんデオキシスシャドーはその体を維持できずに霧消する。
見事にまず一体、花陽はさらにフラフラと回避を見せたドレディアへと指示を。
花陽「“はなびらのまい”ですっ!!」
『ディア〜!!』
舞い散る花弁は草タイプのポケモンのエネルギーの発露。
夜空をふわり、染めて急襲!
シャドーをもう一体見事に飲み込んでみせ、花弁の奔流で蹂躙、撃破!
それぞれに戦っている穂乃果とことりも思わず花陽の戦闘に目を奪われ、驚きに歓声を上げている。
穂乃果「す、すごい!花陽ちゃん強いよ!」
ことり「むむっ…?」
ことりの瞳がキラリと光る。
デオキシスシャドーの二体を退け戦線の最中、花陽がドレディアとナットレイを優しく撫でているのをことりは見逃さない。
-
もちろんことりも、穂乃果や海未もポケモンを撫でて可愛がっている。
しかし、花陽の撫で方は一味違う。
旅立ちの頃はポケモンコンテストを目指していたことりはその違いを明確に見抜いている。
ことり「わかりましたっ、花陽ちゃんはポケリフレの達人!」
穂乃果「ぽけり?」
花陽「あ、えへへ…うん。得意なんだ」
ポケリフレ。
要は手入れをしてあげることなのだが、たかがマッサージや諸々と侮るなかれ。
その達人はポケモンとの間に強い絆を結び、その潜在能力を引き出すことまでを可能にする。
花陽は戦闘の間隙にナットレイの甲殻の隙間に詰まった木屑を目ざとく取り除き、ドレディアの頭の花に付いた汚れを手早く払って手入れを済ませている。
ポケモンたちに触れて愛情を注ぐだけでなく、個々が嫌がることを熟知してそれをケアしてあげている。
そんな説明を穂乃果へと簡易に済ませ、ことりは花陽へと尊敬のまなざしを向けている。
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ことり「花陽ちゃん、すごいっ♪」
花陽「そ、そんな、私なんて全然…」
穂乃果「あっれぇ…穂乃果もちゃんと撫でてあげたりご飯食べさせたりしてるんだよ?ねえガチゴラス」
穂乃果は首を傾げ、分身体を“かみくだく”で仕留めたガチゴラスへと尋ねかける。
ガチゴラスはそれに首を傾げて返し、そんな様子に花陽はくすっと小さく笑みを漏らす。
花陽「ううん、穂乃果ちゃんのポケモンたちもとっても懐いてると思うよ。ただ、撫で方とかにも色々コツがあって、道具もいろいろあって」
穂乃果「教えて教えて!なんかみんな私が撫でてもイマイチ喜ばないんだよねー、仲はいいのに」
『グルララ…』
穂乃果「え、何ガチゴラス。撫で方が雑って?仕方ないじゃん!みんなが何言ってるのか穂乃果にはわかんないんだし!」
『ゴルル!』
穂乃果「しょーがないじゃん!じゃあ人間語覚えなよ人間語!」
『ガアアッ!』
穂乃果「うがあっ!」
花陽「ええ、会話できてる…そっちの方がすごいと思うなぁ…」
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と、咆哮!!!
穂乃果と花陽がビクッと驚きそちらを向けば、ことりのボーマンダが“げきりん”の蹂躙で残りのデオキシスシャドーを一挙に片付けている。
怒竜の尾撃が残り少なくなった一体を木ごと叩き潰し、生じた旋風にとさかを揺らしながらことりは柔和な笑みを絶やさない。
残るは一体、追い詰められてもデオキシスの佇まいは変化を見せない。
それはいくら倒されても本体に影響のない分身体だからか、あるいはデオキシスという生命自体が感情を宿さない存在なのか。
穂乃果、ことり、花陽。
デオキシスは三人のうち、ボーマンダを駆ることりを最たる脅威と見做したらしい。
刺突力を可能な限り高めた形状に両腕を変じさせ、そのままことりへと突撃を!!
ことり「うーん…」
そんなことりの傍らにはボーマンダともう一匹、チルタリスが。
どちらで応じるかと少し悩み、すぐにことりの表情はいたずらっぽい笑みへと変わる。
ことり「チルタリス、“コットンガード”でお願いっ」
『ちるるぅ!』
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もふぁり。
チルタリスが大きく広げた羽毛の翼はデオキシスの突進を搦め捕り、その勢いを殺して横へと受け流す。
流された突進、その矛先は…穂乃果へと向けられる!
ことり「穂乃果ちゃんっ、パス♪」
穂乃果「でええっ!?ガチゴラス!“かみくだく”!」
驚きに叫ぶ穂乃果。
しかし息はぴったり、急なアドリブにも見事に応じてみせている。
ガチゴラスはその大顎で凶手の突貫を受けて捕捉、咀嚼!!
オハラタワーでもらった時よりも遥かに強く逞しく育っている。
それもひとえに穂乃果の愛とセンス、それと餌代を捻出する苦労が故!
ともあれ、最後の一体のトドメを穂乃果へと譲り、あるいは押し付け…
ことりはなんとも要領のいい笑顔を浮かべて締める。
ことり「はいっ、おしまい♡」
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「ことりちゃんひどいよー」と不満げ、抗議の声を上げる穂乃果。
ことりはそれを笑顔で返し、その笑顔に穂乃果も自然と笑顔になる。
そんな幼馴染同士、二人の間に阿吽の連携があるからこその受け流しだったと花陽は驚嘆。
花陽と凛の間にも阿吽の連携ができるだけの絆はもちろんある。
だがこの二人のトレーナーの間には、それぞれが窮地を潜り抜けてきたという一層の凄みが見え隠れしている。
(すごいなぁ…)と。
さらにことりのボーマンダをまじまじと見つめ、もう一度驚嘆。
花陽「穂乃果ちゃんは知ってたけど、ことりちゃんも強いなあ…」
ことり「えっへん。ボーマンダさんは育てるのにとっても時間がかかったけど、その分とっても強いの♪」
穂乃果「いいなードラゴンタイプ。かっこいい…」
ことり「うふふ〜。でもリザードンもすごくかっこいいと思うな。穂乃果ちゃんとよく似合ってる!」
穂乃果「ほんと!?ことりちゃんに言われると嬉しいなー!」
ことり「花陽ちゃん、後でことりにもリフレのコツを教えてね♪」
-
ことりちゃん、優しい人だなぁ。
綿毛のように微笑むその表情に、花陽は心底からの好感を覚えている。
もちろん穂乃果にも同じくらいの好感を抱いているが、高坂穂乃果は道を切り拓いていく人間だ。
優しさだけでなく、強い精神、決断力、垣間見せる奔放さ、様々な要素を持ち合わせている。
対して南ことりは優しさ、繊細さ、気配りと共感力。
そういった要素に寄った人格を感じられて、ポケリフレに向いてるのはことりちゃんの方かなぁ。なんて事を花陽は心中で考えている。
そんな束の間の思惟は、森の奥から響いた絶叫によって強引に断ち切られる。
花陽「ひ、悲鳴…!?」
穂乃果「千歌ちゃんたちの声がした!」
ことり「でも待って、他の人の悲鳴も聞こえたよ。男の人…?」
右手、左手。
それぞれ別に、二方向から悲鳴が聞こえてきた。
どっちかの方に千歌とルビィの声、もう片方は聞き覚えのない男の声。
森は広く、音が反響してどっちがどっちなのかがよくわからない。
どうするべきか…穂乃果が即断!
穂乃果「迷ってたら千歌ちゃんたちが危ない!私が右の方に行くよ、ことりちゃんと花陽ちゃんは左の方向をお願い!」
花陽「は、はいっ!」
-
言い残し、言葉の語尾が消え切らないうちに穂乃果とリザードンは飛び去っている。
決断力と行動力、真似できないなあ…と花陽は深い感心を抱く。
さて、こちらも動かなくては。
花陽「それじゃあことりちゃん、私たちも……あれっ?」
忽然。
つい今し方までいたはずのことりの姿がない。
え、あれ?なんで?
穂乃果ちゃんがいた今まではことりちゃんも確かにいたはずで、どうして?
花陽はうろたえ、 「おーい、ことりちゃーん…!」と無音の森へと呼びかけている。
…数分、そうしていただろうか。
なんらかの理由ではぐれてしまったのだろう。きっとすぐに合流できる。
そう自分を納得させ、花陽は悲鳴が聞こえた方向へと駆け出した。
去った花陽、その背後…
ずるりと、溶解した地面からことりが這い出してくる。その体に巻き付いているのは毒竜ドラミドロ。
それはいつもの手段、ドラミドロの強毒で腐食させた地中へと潜行して身を隠していたのだ。
ことり「ごめんね、花陽ちゃん。花陽ちゃんなら、一人でも大丈夫なくらい強そうだったから…」
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見極めていた。
ことりが花陽を凝視したのはポケリフレの腕前だけを見ていたわけではない。
総合的なトレーナーとしての腕前を見ていたのだ。
ポケモンたちの戦闘力は抜群、本人も荒事の経験がないにも関わらず二体を自在に操っていた。
自信はそれほど無さそうだったが、センスに溢れるトレーナーだ。
デオキシスたちとの戦闘は問題ないとして、問題は対人。
心優しい花陽が、悪意に満ちたアライザーと対峙してしまったとしたら?
(・8・)「大丈夫。それは全部、ことりが狩ってみせるから」
全身に纏う灰布、鳥を模した奇妙な仮面。
生来の優しさが失われたわけではない。花陽を一人で危険に放り込むつもりはない。
花陽の後を追う進路で進み、アライザーの気配があれば先んじて狩る。
花陽がいては悪を狩れない。故に別行動。
あとはデオキシスの本体を見つけたら、誰よりも早く捕まえればいい。それには単独行動が最も適している。
(・8・)「……力が必要なの」
夜陰、“鳥面”がその行動を開始する。
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今日はここまでで
明日は新スレ立てて誘導してから始めるよ
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おつ
-
乙
かよちんのチート指示すごい
ことうみはそれぞれ歪んじゃってる感じかな
穂乃果の強さが眩しいな
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乙です。これまでのまとめ2
更新が始まった安価と作者のID、主な出来事
まとめ1 >>663
>>686 ID:/XnBIdSE アライザー発生
>>692 ID:.NN54vV2 喫茶店、りんぱな登場
>>731 ID:.NN54vV2 ID:jM42jXSI BiBiが民宿で回想 ダイヤの特訓
>>766 ID:jM42jXSI ID:4bGW/d3I ミカボシ山探索、(・8・)暗躍
>>824 ID:5LY9TNlQ 聖良の独白 ID:4bGW/d3I みんなで温泉
>>856 ID:c.4dpk12 民宿、亀裂の前兆 ID:bdYgyaSM ダイヤたちのキャンプが襲撃される
>>898 ID:MxoemOrY デオキシスの謎 ID:Tnm9HtcE ダイヤ対デオキシス
>>942 ID:Tnm9HtcE ミカボシ山の動乱
明日の更新と新スレも応援してます。
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乙です
ポケリフレ強いよな…サンムーンの難易度でもリフレでごり押せたりするし
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穂乃果とガチゴラスの会話がなんか可愛い
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ことりちゃんボーマンダ使いこなしてるな
あとはジャラランガをゲットすれば完璧だな!
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ことうみは対立するかな?
でも海未ちゃんも負けず劣らず歪んじゃってる感じするからなあ
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ジャラランガさんはからやぶれないから…
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かよちんのパーティー面白いな
個人的には凛ちゃんのパーティーが1番好きだけど
みんなはどう?
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>>976
凛ちゃんはガオガエン、ライチュウ、ポワルン、オンバーンか
何気に正統派主人公っぽさあるな
個人的には海未ちゃんパが白兵戦特化って感じで好き
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穂乃果ちゃん、隣の恐竜さんもドラゴンタイプなんやで…
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このssみてゴロンダ使いたくなったわ
どうやって使うんだこいつ
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???「ウツロイド、フェローチェ、テッカグヤの出番があったならブーンの出番もあるのか
マッシ?白兵戦特化というなら海未ちゃんの手持ちになるんだマッシなぁ……」
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どのパーティが好き…というよりも、ほんのり穂乃果色に染められてくポケモン達が好き
パーティー会場でのリザードとか、昨日更新分のガチゴラスとか
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>>977
凛ちゃんはズルズキンも使ってたぞ
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>>980
やっぱり「マシうみ」なんだよブンなぁ……
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海未ちゃんにはグソクムシャの方が圧倒的に似合うんだよムシャなぁ…
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ゴロンダはこないだゴーストタイプにみねうち当てる要員として特性厳選してたら夢特性来る前に色違い来て複雑な気持ちになったわ…
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“うみツル”なんだよカミなぁ…
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次スレね、続きはこっちで
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/anime/10627/1484835356/l30
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>>987
立て&誘導乙です
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>>987
乙です
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>>987
乙です
期待してる
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