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◆k3Xpq7z236 と◆oB6Se9uG7oの小規模な部室
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◆k3Xpq7z236 と◆oB6Se9uG7oの二人のためのスレッドです。他の方の使用はご遠慮ください
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スレ立て、ありがとうございます。
どういう風な出だしにしましょうか?
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そうですね、付き合い始めてからの何気ない部活の日…みたいな感じでどうでしょう?
良ければ書き出しお願いできますか?
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わかりました。
ではそういう感じで書き出しますね。
そろそろこちら落ちなければならないので、書き出し投下後に落ちますね……。
以後は置きレスでの進行でよろしくお願いします。
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暦上、夏が過ぎたとはいえまだまだ暑い。
日はまだ長く、蝉たちは散々に喚き散らしている。
放課後だというのに、まだまだ空は青く、その陽光は眩しいものだった。
「こんな小さな部室にもエアコンがあるのはついてますね」
「PCもありますし。これでネットに繋がりさえすればなあ」
型落ちした旧型のデスクトップPCの前にいるのは、背の小さな少年だった。
男子制服を着ていなければ女子にも見間違うような風貌の、明るい栗毛が特徴的な少年だ。
どこか醒めた、斜に構えた態度をとってはいるが、それは彼の強がりである。
実際は、小心者で怖がりなのだが、あまりにも情けないと、シニカルキャラを気取っているのである。
「お盆が過ぎてもウチの幽霊共は顔も出しませんが……名目上は存在するから部として成立してるから、構わないんですがね……部長?」
彼は文芸部に多くいる幽霊達を皮肉りながら、さて我が部の部長は何をしているのかと、視線を向けた。
【それでは、このような形でどうでしょうか】
【よろしくお願いしますね】
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「そのPCは主に執筆と活動日誌作り用ですからね。ネットにつなげる必要は…」
ハヤカワSFの文庫本を片手に、パイプ椅子に座りぐでーっと机にもたれかかっている髪の長い少女。
その手元には部室の端のポットで入れた紅茶が置いてある
「お盆過ぎですからね、幽霊部員の彼らもとうとう本物の幽霊になってしまったのかもしれません。もしかしたら霊感がないから見えていないだけですでにこの部屋に…」
あまりにもやる事がない故の軽口を呟いていると、斜め前に座っていた少年に目を向けられた。
「…クーラーは苦手なんです。暑いのはもっと苦手ですが。」
だらけていた事を誤魔化すように慌ててしっかりと座り直すと、言い訳を口にした。
彼と夏から付き合い始めたが、特に進展はない。
【よろしくお願いします】
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「繋がっているに越したことはないと思うんですがね。資料探したり、合間にソシャゲしたり……」
「まぁ、後者はそのままただのブラウジングに移行する可能性が大なりなんですが」
利便性を取るか作業性を取るか。
部活動の趣旨を考えたらどちらが優先されるべきかは明らかだ。
彼は乾いた笑い声をあげてわざとらしく肩を竦める。
「本物の幽霊、ですか。クーラーよりも冷え症には厳しい冷気を呼びそうですが」
「――それならばいっそ、見せつけてしまいましょうか。ねえ、部長……?」
やることもない。
なら、出来たばかりの年上の恋人をからかう方が有意義だ――と判断したらしい。
根が小心者なくせに、シニカルキャラという少々大きな上着をしている彼は今、少しばかり気が大きい。
PCの前から離れ、伊織の前に立つ。
「……といっても、僕は恋人がどういうことをするのか、これがいまいちわからないんですが」
「書物の知識は偏っていますし、実行していいかどうかまではわかりかねますからねえ」
くつくつ、と肩を揺らして笑う。
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「残念ながら私にゲームへの造詣はありません。囲碁や将棋なら少しだけ嗜むのですけれど。資料は部屋中に積んでありますし」
口ではこう言っているが、機械音痴なだけである。現に本の虫なので、わざわざPCを使う機会もそうそうない、というのも事実ではある。
「クーラーの人工的な風を浴び続けるくらいなら幽霊に冷やされた方がマシです。雪室みたいで少し風流ですよね。ふふ、冬になったらお椀二杯持って雨雪でも集めましょうか。」
文学にそれなりに詳しいものなら理解できる冗句を挟みつつ、見せつける、という恋人の言葉を聞く
「迂闊に見せつけると呪い殺されますよ?ほら、私と貴方が付き合い始めたら部をやめた人が一人いたではないですか、あの人あたりに。」
さながら六条御息所ですね、と呟いて、見せつけるか見せつけないかは彼へ一任するように軽く目配せする。
「私もです。私の好きな本に出てくる恋人同士の真似をしようとしたら寄生虫に侵されつつ外宇宙で死ななくてはいけませんし」
「とりあえず、もう少し近くに座ってはいかがでしょう」
【そういえばこの学校はだいたいどの辺の地域にあるイメージでしょうか】
【大まかに地名がわかれば蘊蓄を挟むのに便利なので】
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>>8
「え、それは僕が冬に死病を患うっていう意味です?」
おお怖い、と大仰な仕草で身を抱く。
彼がとし子のような繊細な神経の持ち主でないことだけは確かだ。
……繊細ではなく、過敏では、あるが。
「コジマのことですか? 彼が辞めたこととの因果関係は不明ですよ」
「関係はないと思うんですがね」
思い当るところの幽霊部員兼友人を想い出し、含みのある笑みを浮かべる。
「あ、いや……」
もう少し近くに、という提案は僅かに彼を狼狽させた。
彼はすかさず取り繕う。
「――止めときますよ。部長と触れるか触れないかぐらいの距離にいたら、自分を抑えられるかどうか」
「男ってケダモノなんですよ。知ってました?」
などと軽口をたたき、自嘲するようなことを言う。
正確には、あんまり近づけば、自分の大きな上着が脱げかねないことを彼は危うんでいるのだ。
恋人とはいえ、成立してからそう日数は経過していない。
好きな異性の近くにいて、いつまでも上着を着ていられるかどうか、彼には自信がないのである。
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「まあ、貴方なら死んでもちゃんと幽霊になって私の元へ来てくれるでしょう、残念ながら私に霊感はありませんけれど。」
軽口に返しつつ、ぬるくなった紅茶を一口飲む。
「彼は幽霊の割には割と顔を出していましたからね、私達が付き合い始めた事により居辛くなってしまったのかもしれません」
そう言うと空になったティーカップをふよふよと右手で持って振る。
お代わりを入れて、と頼んでいるのだが、無視されたらちゃんと口で言うつもりだ。
「ふむ…二人きり…確かに襲われてはひとたまりもありません。貴方が女の子のような顔をしているものですからつい…」
「貴方が女装でもすれば部にも華が出来て部員が増えるのでは?」
割と頑張って誘ったことを無下にも断られてしまったので軽口を挟み誤魔化す。
ちょっとだけ残念だ
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「化けて出るぐらいなら、来世で会うことにしますよ」
「ははは……まぁ、遠因ではあるかもしれませんね。あと、そんな品のない仕草を部長がしてどうするんです」
まったく、などと呆れた様子を見せながらティーカップを受け取る。
それから、ポッドからお湯を注ぎ、なんとも面白みのないことにティーバッグを浸す。
よくあるフィクション作品のように、紅茶の淹れ方に堪能、などといったスキルがあるわけでない。
であるため、大量生産品の味を部長に提供するのである。
「あんまり挑発すると、僕だって怒りますよ?」
「傷ついたの大義名分で部長に変な風に迫ってしまいますよ。いいんですか?」
そんな風に、怒ったような素振りを見せて恫喝する。
ハムスターの威嚇のようなもんで、全くの虚勢であるのが哀しいところだ。
【こちらのほうの返事を忘れていて申し訳ないです】
【関東辺りを考えてました。東京、千葉、埼玉ぐらいですかね】
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「曽根崎心中か何かですか、それも悪くありませんね。」
「品のない…いえ、この部屋には私とあなたしかいませんし、あなたになら多少品のない姿を見せてもいいので、問題ありません。」
と、恋人がカップに張られたお湯にティーパックを浸すのを眺める
今度コーヒーも置こうかな、と思いながら、少年の言葉を聞く。
「先ほどから襲う、迫る、品がないのはどちらでしょう。」
茶化す格好のネタを見つけたとばかりに、軽く微笑む。
「まあ、第三者に言えば問題にはなりますが、私はあなたの恋人ですからね。それくらいは大目に見ましょう。」
【わかりました。ではその辺りのイメージでいきますね】
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>>12
「心中だなんてまた縁起でもないことを……」
「……まったく、そう言えば僕が引きが去ると思って、ずるいんですから」
案の定、勝てそうもない。
ごまかすようにティーパックを捨てて、カップを伊織のテーブルの上に。
「全くその通りですが、ケダモノに品などはありませんのでね」
「……それに、警句なんですよ。責任なんかとれない。傷ついても知らないぞ、ってね」
「僕じゃ、どのぐらいまで近づいて、触れていいのかわからないんですよ」
茶化しの言葉は想定したようで、思わず口元が緩む。
それから、怖くて自分からは近づけない、というようなことを自嘲交じりに吐き出して。
怖いというのは要するに、嫌われるのが怖い、というような意味だろう。
-
「この世の名残り夜も名残り。死にゆく身をたとうれば。あだしが原の道の霜…」
曽根崎心中の一節を目を瞑り諳んじる。
「まあ、貴方と私の間に、付き合うことすら許されない障害なんてありませんから、わざわざ心中なんてしませんけどね」
渡されたティーカップを受け取り、一口飲んで満足そうに微笑む。
「なるほど。では私から近づいて、触れることにしましょうか。さすがに恋人同士で、手も繋がないというのは」
おずおずと手を伸ばし、きゅっと少年の制服の裾のあたりを摘む。
今はこれで精一杯、ちょっと望んでいるキスなんて、夢のまた夢だ。
「…まあ、貴方にされることで、傷つくなんてありませんけど」
恥ずかしそうに目を伏せ、ぼそっと呟く。
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【名前ミスです】
-
「それ以外の障害なら、見えないながらあちこちに……」
何事かいいかけているところ、詰襟の裾をつままれる。
それだけで彼は口をぱくぱくとさせた上、気の毒なほど赤面していたが――。
大きく息を吸って、吐いて、覚悟を決めた上でその手をとる。
冷え性気味な伊織とは対照的な、暖かな手で握り、伊織の胸の位置ほどにまで引き上げて。
「手をつなぐまでなら……アリ、なんですね。ええ、僕たちは恋人なんですから、このぐらいは」
強がりだと丸わかりな態度。この握った手をどうすればいいのか考えもしていまい。
すぐに、急に離すのも変だが相手が離そうとするまで待つのもおかしな気がする――という葛藤に苦しむのだ。
「……傷つかない、なんてうそです。口で言うのは簡単です、からね……どこまでならしていいのか、教えてくれないと……」
「手を握るのを許したら、今度は抱きしめてしまいたく、なるんです。エスカレートの一方です……」
彼の何か、張り詰めた精神が糸の様に切れる音がした。
それは伊織の言葉によるものだろう。口ぶりは努めて普段どおりにしているが、声色は明らかに弱気だ。
-
「…⁉︎」
手を繋いだ。
嬉しさ半分、恥ずかしさ半分といった表情をしていたが、彼の手の暖かさがじんわりと伝わってきたのを感じ、微笑む。
「エスカレートしているのが、貴方だけだと思いますか?」
「私だって、こうして手のひらで貴方の温もりを感じていると、次は寄り添って感じたい、次は抱きしめられて感じたい…って。」
少年の心のうちの告白に影響されたのか、こちらもぽつぽつと心境を語り出す。
「貴方と部活中、ちょっと触れるだけで鼓動が早まるんです。気付いていなかったでしょう?」
頑張ってとりつくろってましたから、と続ける。
「私は、貴方のことが好きなんです。貴方がしてくれる、愛を伝える行為で傷付くなんてあり得ません。」
-
「……!」
少年は息を呑む。
今ようやく手を握ったような小さな恋人は、まさに箍が外れたような様子だった。
気が弱かろうが、理屈屋だろうが――生物としての本能には抗いがたい。
それは即ち、身を焦がすような恋であり、相手を我が物にしたいという欲である。
「それ、なら」
熱病にうなされて出たうわ言のように、絞り出すような声色で彼は言う。
どれだけ前が見えているだろうか。どれだけ物事が考えられているだろうか。
強い酒でも煽ったような酩酊感が少年を支配していた――目の前の魅力的な恋人の存在は、彼にはまさしく火酒のようなのだろう。
「……これが、僕の返事です」
握った手を軽く引き、立つように促す。
彼の奇妙な気迫に押されて立ち上がったのなら、そのまま引き寄せられ、抱擁されてしまうだろう。
彼の両の腕は伊織の背にしっかりと回され、離したくない、とでも言うようだ。
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「は、はい。」
握り合った手を軽く引かれ、座っていた椅子から立ち上がる。
椅子がかたり、と鳴り、2人で向き合うように立つ形となる。
「…え」
立ち上がっても手を引かれるのは止まらず、そのまま抱き寄せられる。
少女の小さな体は、小さな少年の腕でもしっかりと抱けるほど細い。
最初は状況が飲み込めていないような顔をしていたが、数秒後、頬を中心として顔がほんのりと朱に染まり、少し微笑む。
抱きしめられた状態で手持ち無沙汰に手がふわふわと動いていたが、やがて意を決して少年の背中へ手を回し、抱き合うようにする。
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――どれほどそうしていただろうか。
実際にはほんの一瞬だったが、両者の体感では永遠にも等しい一瞬だったのではないだろうか。
しかし、状況は停滞を許さない。坂道を車輪が下るように、状況は変わっていく。
それというもの、上気し、虚ろな目の少年が、さらに踏み込もうとするからだ。
「……僕だって、部長が好きなんです」
「言語化できない程、部長が好きなんです。わからなかった、でしょう」
少年の瞳は潤み、その息は荒い。唇は蜜を塗ったように濡れている。
ただでさえ女顔の彼が、そんな表情を浮かべると、ますます女性的に見えた。
丁度、少女を酩酊させたら、こんな感じかもしれない。
「……ここまできたら、僕じゃ止められません」
「嫌だったら、僕を力ずくでどうにかしないと、いけません……わかります、ね」
残った最後の理性でそんな警句を発しながら、背中に回していた手を這わせていく。
左手は肩に、右手は後頭部に滑らせていく――。
そして、彼の唇が近づいてくる。どんなに女性的に見えても、彼は自称したようにケダモノであり、勿論雄である。
彼はほとんど本能的に、衝動的に、伊織の唇を求めているのだ。
-
抱き締められ、彼の体温で体の芯まで温まったような錯覚を覚えていると、自分に密着していた彼が再び動き出した。
後頭部を優しく押さえられる。
恋愛経験のない彼女にも、おそらくこれから口付けをされる、ということくらいはわかった。
「…!」
今まで自分からは恥ずかしくて、はしたない気がして切り出せなかった口付け。
嫌なら暴れてくれ、と伝える彼に対して、無言で目を瞑ることにより返事をする。
普段の自分であれば、この状況に驚き、突き放したり、咄嗟に避けたりしてしまっただろう。
しかし目の前の自分とあまり背の変わらない少年が、側から見ていて面白いくらいに緊張し、決死の決心でこの行為に及んでいることがわかったため、比較的落ち着いていることができた。
目を閉じたまま、待つ。
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――そっと、唇が触れた。
柔らかなソレの感触は脳を痺れさせるような甘い感覚ですらある。
そして、一たび経験してしまえば、麻薬のように病みつきになってしまう。
「……好きです。大好き、なんです」
「他の事が、考えられないぐらい……」
その触れるだけの口づけをしたかと思えば、そんな風に耳元で囁き。
より強く、深く味わうために――再度、口づける。
強く抱きしめ、お互いの距離を限りなくゼロに近づけ――。
伊織という存在のその全てを取り込もうとでもしているかのようだった。
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軽く、触れ合うように唇が触れ合い、すぐに離れて行く。
目を瞑っていたためこちらからそちらは見えないが、そちらからは伊織の化粧っ気の無い、それでいてインドア派故綺麗な白い肌がほんのりと紅くなっているのが見えるだろう。
嬉しさと恥ずかしさで声は上げれないが、少年の告白に答えるようにこちらからも軽く頭を動かし、キスを受け入れ、自分からも少し行くような動きをする。
遊びのような軽い口付けではあるが、互いのファーストキスとしては合格点だろうか。
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たどたどしいが情熱的な口づけを何度も交わしていく内に、まともな思考などは
彼にはほとんど出来なくなりつつあった。
ただ、目の前の愛しい存在を抱いていたい、という想いのみがある。
「……あ、の」
「どこかで嫌がってくれない、と……止まりません、よ……?」
それでも、伊織を傷つけたくはないという最後の一線だけはあり。
そんな警句を飛ばすが――そう言いながら、彼の手は伊織の背を滑る。
これ以上に事態が転がるとしたら、一つしかないだろう。
「……っ」
彼はぎゅう、と目を瞑る。
潤んだ目からは涙が零れ出る――自分の身体でないように、身体が動くことに驚いているのかもしれない。
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幾度かのキスが終わっても、まだ少年は抱きしめたまま、動こうとしない。
少年の細い指が少女のブラウスの上から背中を這う。
いくら知識に疎い少女であっても、これから彼が何をしようとしているかくらいはわかったし、彼が望むなら当然してあげたいと思った。
だがここは学校だ。見つかったら…停学では済まないかもしれない。
「…あ、あの…!」
少年には可哀想なことをするが、諦めてもらおうと思い声をかけるが、やはり考えを改める。
今日しなくては、いつチャンスが来るかわからない。
「…今日、私の家…空いているので…えっと、続きは…そこで。」
恥ずかしそうに、こう述べた。
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伊織の言葉は、殆ど前後不覚な状態にある少年に対し冷や水を浴びせるに等しい効果をもたらした。
急激に理性を取り戻した彼は、頓狂な声をあげて手を離す。
「ご、ごめんなさい、部長……僕は一体何を……」
「……って、えっ……それは……」
目を指先で拭い、ともあれ深呼吸。
何だか、ひどい酸欠に陥っていたような気さえして――。
「……」
そうして、今しがたのやり取りを思い返す。
ごくり、と生唾を思わず飲みこむ――なんだか、すごいことになってしまっていないか、と。
「……は、い」
若干の躊躇を伴いながら、小さく頷いた。
続きを、というからには伊織は覚悟を決めたということで。
ここで今更反故にしては意味がない。そう考えたらしい。
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いくら今まで経験がなかったからといって、興味がないわけではない。
「…では…帰る用意をしましょう。」
覚悟は決めた。
部屋の中、机や椅子を整え、電気を消し、PCの電源を落とす。
出入り口の扉を閉め、鍵をかける。
「私の家に…来たことは有りましたっけ?」
確かなかったはずだ、そう思いつつ尋ねる。
すでに廊下には夕日が差し込み、人の気配はあまりないが、吹奏楽部の吹くトランペット吹きの休日や、野球部の掛け声などはまだ聞こえる。
鍵を鞄にしまい、昇降口へ歩き出す
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「え、ええ……」
そんな生返事をしながら、いつもやっている動作をぎこちなく行う。
一体が何がどうなっているんだ。そんな言葉がぐるぐる頭を回っていて。
「いえ、ないですけど……え、ええと……」
照れからなのか、前を歩く伊織に対して、彼は手を伸ばした。
伊織の手を掴んで、照れたような笑みを浮かべる。
「……手を繋いで、並んで歩きましょう。部長」
「もう、もう落ち着きましたから。大丈夫です。平気です……一緒にいるだけで、僕は幸せ、ですから。もし、途中で嫌になったら、言ってください」
どうにか頭の再起動は間に合い、覚悟も決めた。
なら、脱げた上着を拾いなおして……羽織るぐらいには、回復できる。
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手を掴まれた。
平静を装っていたが、実際は鼓動は早く、激しいし、頬も熱い。
手を握られると、その鼓動や熱が伝わってしまうかも…と考えたが、手をつないできた彼の鼓動と温もりが伝わって来た。
「私だって、一緒にいるだけで幸せですよ。」
校門で靴を履き、家へと向かう。
歩いて20分ほどのところにあるため、今の緊張した2人でもそこまで時間はかからずに到着するだろう。
家はそれなりに大きく、道に面した部分が古書店、後ろ半分が家となっている。
【家まで飛ばしますか】
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「……っ」
極度に緊張した状態で連れだって歩くさまは、勿論下校の間に数名の人物に目撃された。
が、この二人が恋人にあることは別段秘匿されている情報でもないし――。
――同年代の男女に比べて、少し照れ屋なところがあることも周知の事実だろう。
もっとも、今の二人にはそんなことを気にしている余裕などないだろう。
緊張をごまかすためなのか、他愛のない話をしている内に辿りつくことになるわけで。
「え……っと……」
「……おじゃま、します……」
まだ敷地に足を踏み入れてもないのに、そんなことを言うのだった。
道中での雑談は緊張の緩和になんら貢献しなかったものと思われる。
【そうしましょう】
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別段表立って聞かれたことはないが、2人が付き合っているのはある程度の人は知っているし、そうでなくとも少しずれたカップルのいる文芸部はうわさ話のネタ程度にはなっている。
また、恋愛になんて興味のないような様子であった文芸部長の心を射止めた小さな騎士君の話も、である。
「…あまり片付いていませんが。」
一階の端にある部屋へと少年を案内する。
6畳ほどの和室、その一方はほとんど本棚で埋められている、扉のある面も扉の開閉の邪魔にならない程度に本棚が置いてある。
奥の面には机と窓が、残った一面には押入れと思われる襖が付けられていた。
台詞とは違い、ものは多いが片付けられている。
-
「そんな事はないんじゃないです、かね……?」
むしろ、これで片付いていないなら何を以て片付いていると形容すればよいのか。
普段の彼ならそれぐらいの言葉を吐いただろうが、何せ今はそんな思考の余裕はない。
初めて訪れた恋人の部屋に、失礼とは思いつつもぐるりを見渡してしまう。
「……」
冷や汗が流れる。一呼吸置いたことでお互いに、若干冷静さを取り戻している。
これがまた曲者で、こう改まってから、では……と行為に及ぶのも難しいものである。
それが、まだ若い少年少女であるならなおさらだった。
「ぶちょ……いえ、伊織……」
「……何回でも、言います。あなたが好きです」
「伊織を、僕のモノに。僕を、伊織のモノに、してくれます、か……?」
言葉は多少震えてはいた、が。
愛の言葉を囁く以外に何をすればいいのかも思いつかず――そんなことを彼は言った。
それも、伊織の右手を取って、抱き寄せて、である。
彼には似つかわしくない、大胆な行動だといえる。
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こう言っては何だが、あまり女っ気はない部屋である。
本は純文学から学術的な本まで多岐に及んであるが、女子高生らしいものだと、机に置いてある教科書と壁にかけてある替えの制服程度である。
布団派なのか、ベッドはない。
「…‼︎」
「ええ、あなたの好きに…してください。」
再び抱きしめられた。
行為的にも、好意的にも同じであっても、一応公衆の場であった部室と、自らの私的な場である自室とでは重さが違う。
最早何をするのにも、制約はないのだから。
「あ、あの…先に…シャワーだけでも…」
今日はまだ残暑の残る日であった、汗などを気にするのは少女としては当然であろう。
-
>>33
このまま押し倒そうにも、やはりというべきかベッドの類はない。しかし――
今から布団を敷いてもらうのも、何だか冗長だ。
細かいことは後に考えるべきではないか――茹だった思考ではそんな風に彼は考えてしまう。
それに、言質までとっているとなると、それを肯定できてしまうので始末におえない。
「もう、待てません。わかってくれます、か」
「……それに、汗にこそフェロモンが、って聞いたことあります」
流してしまうなどとんでもない――とまでは流石に言わなかったが。
それでも、気にするどころか、興奮する要素になっているようだ。
勿論、伊織自身が気になるのだから彼の認識など何の意味もないだろうが――。
「好きに、しちゃいますよ……お詫びは、何でもしますから……」
抱きしめ、背に回した手を滑らせる。
背中をなぞり、伊織の臀部にへと伝い、そこを優しく撫で上げる。
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「…このまま…ですか?」
シャワーへ行きたいという頼みを断られてしまった。
実際、体育の後にも普通に狭い部室に2人きりなので、汗の匂いなどを隠すのも今更…という感はあった。
しかし、やはり、恥ずかしい。
「…わかりました。…優しくしてくださいね。」
ふっ、と抱きしめられたまま軽く体重を預ける。
小柄で胸もない少女である、その重さは大したことはないし、少年でもやすやすと支える事ができるだろう。
ご自由に、という意思表示である。
「…⁉︎」
今まで、同性にすら触られたことのない箇所を触られた。
そもそも友達と呼べる人間の少ない自分ではあるが、それを差し置いても、お尻を撫でられる経験なんてない。
しかし、これからすることを考えると今のこれだけで恥ずかしがる場合ではない。
少し息を吐き、心を鎮める。
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――ひどく、甘えてしまっている。
自分の箍が、理性が脆いばかりに、困らせている。
そんな罪悪感が彼の胸中に飛来したが、それでも、受け容れて、体重を預けてくる目前の恋人が愛おしかった。
これは、何か別の形で返せばいいはずだ。そう、彼に確信させてくれる温もりだった。
「僕だって、男、で……」
「……チビで、体毛も薄ければ髪だって茶色のくせ毛で」
「女顔で、生白くて、ちっとも男に見えないもしれないけど……」
「……恋人を前に、ずっと我慢していられるほどじゃ、ないんです。優しく、は意識しますけど。覚悟もしてください」
そんな事を吐露しながら、強く抱きしめる。
女性的に見られるのは、彼にはとても不本意なことだ。
性的に迫ることで、男とわからせる――そんな意図が、あるのかもしれない。
「好きだって、何度言っても不安で、言ってもらっても不安、で」
「こんなことでしか、実感できないかもしれないと考える自分が、不潔で」
溢れる感情は波のようだ。
伊織の身体をまさぐりながら言うのは、少々滑稽だが――。
普段、いつもの大きな上着で隠している心情をこうして吐露する姿は、なかなか新鮮だろう。
「……こんなこと言っているのも、女々しいです、かね」
ぱちり。
伊織のスカートのホックを外し、上着のボタンを外す。
女々しいというよりも、どっちかにしろという突っ込みが妥当だろうか。
頭が茹だっている彼に対し、恋人としては差し水をする必要があるかもしれない。
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「…私だって」
少年の心のうちの吐露に対し、自分も思いの丈を伝える。
「愛想が無いとか、付き合いが悪いとか、何を考えているのかわからないとか、お高く止まっているとか、言われた事があります。」
「…貴方は。私に話しかけて、理解してくれます。」
今思えば、私に近づきたいという下心だったようですが、と軽口も挟む。
「…私も貴方も、決して異性に対して積極的では有りませんから、多分、この関係は長続きするでしょう。」
結婚、なんて人生でまともに考えても居なかったが、彼となら、してもいいなんて言葉は若い娘の戯言だろうか。
「…その時に、何か行き違いがあっては面白くありませんから…したい事を、好きなだけしてください。」
ホックを外すのも、ボタンを外すのも抵抗しない。
茹だっているのは少年だけでは無く、少女も生まれて初めての展開に動転し、当てられているのだ。
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「……っ」
息をのんだ。踏み込めば踏み込むだけ、応えてくれる。
そのことに何か引け目のようなものを感じつつ、彼はさらに踏み込む。
というより、もう引き返せなくなったのだ。
「いやらしい、とか、不潔だ、とか、想い、ません、か」
「今拒絶されたら、自己嫌悪で死にそうな行為をしている自信が、あるぐらい、なんですが」
重力に従ってスカートが落ちれば、当然下着も露わになる。
抱きしめている都合、それをよく見ることはできないが――。
スカートが落ちて、下着が露出しているという事態を知っただけでも破壊力は大きく。
臀部を撫でる手がスカート越しのものから、下着越しになったのだから、言わずもがなだ。
「……」
さらに、下着の中に手を侵入させ、直接触りにかかる。
止まらない、止められることもなければ、当然こうなるわけで――。
このままだと、二人の初めてが部屋での立位になりそうだ、ということもまだ気づいている様子ではなかった。
性に人並みに興味はあるけれども、人並み以下の知識だったのが原因であろうか。
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