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アキヨ「巌流島の決闘」
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「嗚呼……秋山様……無念」
「……斬り捨て御免なさい……」
秋山教信者の一人を討ち倒しました。
もう何人目でしょうか。これまで私は、幾人もの信者から挑戦を受け、討ち倒してきました。
このような荒事は本意ではありませんが……どうしても、譲れないものがあったのです。
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申し遅れましたが、私は宮本アキヨという者です。
元来は書に嗜み、剣術などとは無縁でしたが……
とある由縁から、古書より剣術や兵法を学び、今は二天一流という二刀流の剣術を打ち立てるに至りました。
ただ非力ゆえ、真剣など……ましてや二本も持つことはできず、木刀ではありますが。その木刀も、かなり軽く作ってあります。
このような私では御座いますが、幾多の書を読んできた知識だけは誰にも負けないと自負しております。
相手の戦法を知り、知識を活かして意表を突くことによって、非力な私でもこれまで何とか勝利を収めてきました。
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さて……最後に秋山教信者に勝ってから間もない頃、私のもとに果たし状が届きました。
その差出人を見て、ついにこの時が来てしまったかと思いました。
その果たし状の差出人は……かつての学友、佐々木曜子さんだったのです。
こうなることはわかっていました。
佐々木さんは敬虔な秋山教信者です。何せ、秋山さん本人ともご学友の関係だったのですから。ある意味、最も秋山さんに近いところに居た信者とも言えます。
秋山教と対立しているこの私と、佐々木さんが対峙することは必然だったのです。
そして佐々木さんは、信者の中でも卓越した剣術の使い手として有名で、巌流という独自の流派を築きあげたほどの方です。
秋山さんのそばにいながら、常に一歩引いて観察していた……その観察力、洞察力は素晴らしく、一瞬の隙も逃さない一撃必殺の技を得意としています。
「物干竿」と呼ばれるほどの長刀を操りながらも、寸分の狂いもなく獲物を確実に捉える奥義「燕返し」……これを出されたらひとたまりもありません。
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果たし状には決闘の日時と場所が記してありました。
場所は……舟島。
私に勝ち目はあるのでしょうか。今回の決闘は、今までで最も厳しいものとなりそうです。
そして、かつての学友と殺し合いなど、できればしたくありません。佐々木さんも、そう思ってくれているのでしょうか……?
しかし、道を違えてしまった以上、これは定めなのでしょう……
私が信ずる道は、秋山さんの一神にあらず。
五柱揃ってこその「けゐをんぶ」なのですから。
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「……遅いですよ、宮本さん」
「……ごめんなさい……」
舟を漕いで、やっとのことで島にたどり着きました。
波打ち際で、佐々木さんが待っていました。ちょっと怒っているようです。そうですよね。大事な決闘に遅刻したんですから……
でもごめんなさい、実はわざと遅れて行きました。
「私は、本当は宮本さんと戦うなんて嫌なんだけど……でも、どうしても譲れないんです。秋山さんが、私たちの唯一の神様なんです」
「……」
私と戦うのが嫌だと言ってくれて、嬉しかったです。でもそれを言いたくなる気持ちをぐっと抑えこみます。
「神様はただひとりです」
「……神様はひとりじゃありません」
けゐをんぶは本当に面白い人達です。
そう、人でもあるんです。
生まれたときから神様でもなければ、急に神様になったわけでもありません。
五人揃って、五柱揃って初めて、神と言える存在になるのです。
「秋山さんは唯一無二の存在です……」
「……秋山さんだけを神にはできません……けゐをんぶには、これからもみんなで神楽を続けてほしいから……」
けゐをんぶの奏でる音には、人に活力を与える力があります。私も、それをたくさん貰いました。
それを、続けてほしいと思って……私は秋山教に逆らって、独自の「けゐをんぶ」信仰を伝え始めたのです。
「……それはわかります、確かに秋山さんにはけゐをんぶで笑っていてほしいと私も思いますけど……それでも私達の……私達の神様は秋山さんなんです!」
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佐々木さんが長刀「物干竿」を抜き……鞘を海に捨てました。
なぜ、捨てたのでしょうか……?
「さあ……始めましょう、宮本さん……」
「……佐々木曜子さん、あなたの負けです」
「な……何を突然!」
「……生きて帰るつもりであれば、どうして鞘を捨てたんですか……」
「ぐ……」
佐々木さんの心を乱すことに成功しつつあるようです。ここまでは、なんとか……
それでも、あの長刀と燕返しに対抗するのはかなり難しいのです……
昨晩までずっと書物を読み漁りましたが……確実な対抗策は浮かびませんでした。
それでも……この舟の櫂を削ってこしらえた、「物干竿」よりも長い四尺六寸の木刀ならば……
なんとか相手の間合いに入らずに済むはずです。
……とても重いですが。既に腕に痺れが来ています。
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「……ご覚悟……」
じり、じり……と、佐々木さんが間合いを詰めてきます。
……やはり間近で見ると長い。あの間合いに入らないように、こちらもかなり距離を取らざるを得ません。
「逃げても無駄です、正々堂々と勝負してください……」
「……」
勝つには、なるべく相手の心を乱し……燕返しの精度を落とすしかありません。
「遅れて来た上に、逃げ腰ですか……それに、噂には聞いていましたが、本当に木刀なのですね……しかも私のよりも長いだなんて……」
「……」
「……何とか言ったらどうなんですか!!」
「……」
「……たぁぁぁっ!!」
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……!!
来た、燕返しの一段目……!!
佐々木さんがその長刀を大きく振りかぶり、私の足元すれすれの所を目掛けて振り下ろしてきます。
とっさに長いほうの木刀を前に突き出したおかげで、相手も怯み、「物干竿」は私の一尺ほど手前の土を抉りました。
しかし、ここから……!!
「捉えました……燕返し!!」
燕返しの二段目……!!
一段目で体勢を崩した私を捉え、大きく一歩踏み込み、「物干竿」を担ぎ上げるようにして、下から振り上げる一撃……!
ぎりぎり避けられる間合いをとっていたはず……いや、足りない……そんな!?
「……ひっ!?」
思わず私は飛び上がっていました。
自分でも驚くぐらいの跳躍でした。こんな私の細い脚に、こんな力があったなんて……火事場の馬鹿力とはまさにこのことでしょうか。
そして、飛び上がったおかげで、すんでのところで切っ先をかわすことができました。
……愛用の眼鏡が真っ二つに斬られてしまいましたが。
「……ええいっ!!!」
そしてそのまま空中で、四尺六寸の木刀を、その重みに任せて振り下ろしーー
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……斬り捨て御免なさい。
これで良かったのでしょうか。
心苦しいです。
そして、これからもこのような戦いが待っているのかと思うと……
道は半ばです。秋山教にはまだ、教祖を始めとする強者達が残っています。
その方々から挑戦を受けることもあるでしょう。
さらに、信仰の対象は秋山さんだけではありません。
平沢さんも、田井中さんも、琴吹さんも、秋山教ほどの信仰の深さはないにしろ、それぞれ唯一神として持ち上げられているのです。その信者の中には、やはり私のかつての学友がいます。
これからまたこのような悲しい戦いが待っているのかも知れません。
それでも、私は……
けゐをんぶにずっと、五柱揃って笑っていてほしいから……
これからも、応援しています。
私も、頑張ります。
二天一流 宮本アキヨ
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終わりです。曜子ちゃん好きの方すみません
この後姫子、いちご、しずかとも戦う予定でしたがもはや巌流島関係ないので断念
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