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和「君のためならできること」

1 : いえーい!名無しだよん! :2014/09/19(金) 00:26:57 2mJCOY.s0

「お疲れ様、唯」

「えへへ……、今その台詞はちょっと変だよ、和ちゃん」

「そうかしら?
けれどお互いに疲れてるのは間違いないでしょ?」

「それはそうなんだけどねー」

唯が頬を膨らませて非難する様な視線を私に向ける。
おかしな事を言ったつもりはないけれど、唯が非難の視線を向けるのなら本当に変な台詞だったのかもしれない。
何となく釈然としない想いを抱えながらも、「ごめんなさい、唯」と謝ると、直後、腕の中に心地良い重さを感じた。
非難の視線は何処へやら、笑顔になった唯が私の腕の中に飛び込んできたからだ。
どうやら単にからかわれていただけみたいね。

「もう……、唯ったらこんな時でも相変わらずよね」

「ごめんね、和ちゃん。
でも私、嬉しかったんだよね、和ちゃんとやっとこういう関係になれて。
それでちょっとテンションがおかしくなっちゃってるのかも」

「嬉しいのは私も同じよ、唯。
ありがとう、私の想いに応えてくれて」

「どういたしましてだよ、和ちゃん。
私もすっごく嬉しいし、和ちゃんが大好きって気持ちがまた溢れ出ちゃいそう。
ねえねえ和ちゃん、この大好きを込めてまた和ちゃんにチューしちゃっていい?」

「さっきまで十七回もしてたじゃない」

「数えてたのっ?」

「数えてるわよ、当たり前じゃない。
今まで唯としたキスの事、全部憶えていたいんだもの」

「そっか……、そうなんだ……」

「これも変な台詞かしら?」

「ううん、嬉しいよ和ちゃん、めっちゃ嬉しい……!」

言い様、唯が私の唇に自分の唇を重ねた。
今日十八回目のキス。
さっきまでのキスとは違って、想いを伝える為だけのある意味唯らしくない軽いキス。
私は不思議とそれがさっきまでのキスより幸福に感じられた。
まるで全身に嬉しさが染み渡っていくみたい。


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2 : いえーい!名無しだよん! :2014/09/19(金) 00:27:47 2mJCOY.s0

「ねえ和ちゃん」

触れるだけのキスを終えた唯が、私の胸の中で上目遣いになった。

「どうしたの、唯?」

「やっぱりさっきのお疲れ様って台詞は変だったと思うなー」

「そ、そうなのかしら……?」

「そうだよー、だって初めてのエッチが終わったばっかりなんだよ?
普通そういう時は『よかったよ』とか、『幸せだよ』とか言うものだよー。
いきなり『お疲れ様』って言うのはやっぱり変だよー」

そのちょっと残念そうな表情に嘘は見られなかった。
さっきの唯の台詞は単に私をからかっていたわけじゃなかったみたい。
どうも唯が理想としている初体験の事後の台詞とは違ったらしい。
上手く出来たとまでは自負していないけれど、唯にそう言われると少し落ち込むわね。
数分前、私と唯は初体験を終えた。
長い幼馴染み期間を終えて、恋人として二人で再スタートして一ヶ月。
たった一ヶ月の交際期間だったけれど、唯の部屋で会話していると不意に愛しさを止められなくなった。
唯の唇、唯の頬、唯の腰、唯の乳房、唯の全身に私の全身で想いを伝えたくなった。
行為自体はそれなりに順当に終えられたと思う。
唯は嬌声を上げてくれたし、私も身体中に唯を感じられる悦びに溺れていた。
特に唯の指遣いは私の想像を遥かに超えて繊細なものだった。
ギターで鍛えたのだろう指遣いで何度絶頂に至らされたか分からない。
二人とも初めてにしては、上等な初体験だったと言ってもいいはずだ。
だけど唯は言ったのよね。
初体験の後に『お疲れ様』って言葉は変だって。
数分前の事だけれど、どうして私が唯にその言葉を掛けたのかはっきりとは思い出せない。
『お疲れ様』と無性に言いたくなった事だけは憶えている。
私との初体験を終えて、幸せそうに肩で息をする裸の唯を目にした途端、言わなくちゃと思ったのよね。
『お疲れ様、唯』って。
どうしてなのかしら?
私はどうして唯にそう言おうって思ったのかしら?
私が真剣な顔で首を捻っていたからだろう。
普段の柔らかい微笑みに戻った唯が不意に私の頬に唇を重ねた。


3 : いえーい!名無しだよん! :2014/09/19(金) 00:29:33 2mJCOY.s0

「それでいいんだよ、和ちゃん。
そんな和ちゃんでいいんだよ」

「……どういう事?」

「初めての後の『お疲れ様』って言葉はちょっと変だと思うよ?
こう言うのも何だけど、ちょっとロマンチックじゃないよね?
でもね、私、和ちゃんに『お疲れ様』って言われて思ったんだ。
『ああ、これが和ちゃんなんだよね』って。
変だなー、って思ってたけど、嬉しかったんだよね。
初めてのエッチの後、何より先に私の頑張りを褒めてくれる和ちゃん。
それが私の大好きな和ちゃんだったんだ」

唯の頬が軽く染まる。
さっきまでそれ以上に恥ずかしい行為をしていたはずなのに、唯にとってはその言葉の方が照れるらしい。
私の腕に触れている唯の顔の温度が少し上がっている気もする。
その体温で不意に思い出した。
一ヶ月前、唯の方から告白して来てくれた時の事を。
目を瞑れば昨日の事の様に鮮明に思い出せる。
顔中を真っ赤に染めた唯が『和ちゃんの恋人になりたい!』って大声で告白してくれた。
不安なのか瞳に涙を滲ませて、自分を落ち着かせるためなのかギターを腕の中に抱えて。
思いも寄らなかった告白……と言ったら嘘になる。
私もずっと心の何処かで感じていた。
唯は私の事が好きなんじゃないかって。
私も唯と恋人になりたいんじゃないかって。
それを私の方からは言い出せなかった。
口にしたが最後、唯との幼馴染みの関係が終わってしまうんじゃないかと思えて怖かった。
それは唯も同じ気持ちだったに違いない。
それでも唯は私に告白してれたのよね。
私とただの幼馴染みで関係を終えるのを嫌がって、心の底から勇気を出して。
私はそれが幸せで、それで……。
そうだったんだ。
やっと分かったわ、私が口にした『お疲れ様』の意味。
途端、私はまた自分の中の愛しさを止められなくなった。
腕の中の唯の顎を掴んで、今日十九度目の唯とのキスを始める。
十八度目のキスとは異なり、舌まで激しく絡めるディープキス。

「んぁっ……、和ちゃ……ん……」

「唯……、大好きよ、唯……!」

舌を絡めながら、指先で唯の全身に想いを伝えながら、思い出す。
これまで唯と過ごした今までの事を。
唯。
幼稚園の頃から私の傍から離れなかった唯。
いいえ、離れなかったのは唯じゃなくて、私の方だったのかもしれない。
それを恋と自覚出来ていたのかどうかは分からないけれど、私は唯と離れたくなかった。
唯と離れる事にはっきり不安を覚えたのは高校二年生の時。
唯とクラスが別々になって、このまま疎遠になってしまったらどうしようと不安で仕方なかった。
高校生は特に多感で幼馴染みとの別れが多い時期だって事は、本で読んでよく知っていたもの。
だからあの時、やっと自覚出来た気がするわ。
自分が唯に恋してるんだって。
ひょっとしたら……。
唯は私のその気持ちに私より早く気付いていたのかもしれない。
不思議な感覚の持ち主だし、誰かの心の機微にだけは鋭い子だもの。
それで私の傍から離れないでいてくれたのかもしれない。
一歩を踏み出せない私の代わりに、唯の方から想いを伝えてくれたのかもしれない。
勿論、それは単なる私の考え過ぎかもしれないけれど、不思議と間違ってない気もした。
唯は私の為ならそれくらいしてくれる子だから。
私の大切な恋人なんだから。
だからこそ私の口から『お疲れ様』って言葉が出たんじゃないかしら。
引っ張っているつもりの私を引っ張ってくれていた唯。
私の傍から離れないでいてくれた唯。
誰よりも私の事を考えてくれていた唯。
私はずっとそんな唯に支えられていた。
ありがとう唯、それからお疲れ様。
もう支えられてばかりの私はやめて、今度こそ私が唯を支えるわ。
そういう想いを胸に抱いて。


4 : いえーい!名無しだよん! :2014/09/19(金) 00:31:29 2mJCOY.s0

「ありがとう唯」

長いディープキスを終えた後、私は胸の中に唯の頭を抱えながら囁いた。

「どうしたの急に?」

「いいじゃない、急に言いたくなったんだもの」

「えへへ、今日の和ちゃん、やっぱりちょっとだけ変だよー。
でもこっちこそありがとね、和ちゃん。
和ちゃんとの初めてのエッチ、すっごく嬉しかった。
それにね……、すっごくすっごく気持ち良かったよ?」

「それはよかったわ、でも……」

「でも?」

「変ついでに一つお願いがあるのよ、唯。
ねえ、次は全部私にさせてくれない?
さっきのは唯の方が上手だったからちょっと悔しいのよ」

「もー、和ちゃんのエッチ!」

「エッチでもいいわよ」

軽口を叩く唯を押し倒して、舌先をその首筋に這わせる。
そうしてから左手の指先で乳房を弄び、右手を敏感な場所に進めた。

「んっ……、和ちゃん……っ」

潤んだ瞳を私に向けた唯が官能のこもった喘ぎ声を漏らした。

「これから……、いっぱいいっぱい気持ち良くしてね……?
二人で気持ち良くて幸せになろうね……?」

「ええ、勿論よ。
まずはそうね……、こういうのはどうかしら?」

「ああんっ、和ちゃんっ……!
私……、そこは弱いよおっ……!」

これからは、唯に支えられてばかりの私じゃない。
今まで支えられていた分を、これからの人生を懸けて唯に返してあげたい。
とりあえずは初体験で唯にリードされちゃった分を返してあげなくちゃね。
そうして唯と二人で、少しずつ新しい恋人関係を築いていきたい。
それが唯と二人なら出来る事なのよね。
唯の嬌声、唯の感触を幸せに思いながら、私はまた指と舌の動きを激しくさせた。


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