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「すたんどばいみー」
-
名前を呼ばれて私は返事をした。
「なに?りっちゃん」って。
りっちゃんはニシシと笑って、私の瞳にりっちゃんが映ったことを確認すると話をし始める。
私はそれを聞いていて、
たしかに聞いていてあいづちも程よく打っていて、
笑うべきところで笑っていて、
りっちゃんがボケたらツッコミを入れていて。
でも、どこか心あらずな感じでフワフワしていた。
"
"
-
りっちゃんが私のことを「みお」って呼ぶたびに
なんだか、不思議な気持ちになった。
人が名前を呼び捨てで呼ばれることって、家族同志とか不良同志の間だけだと思っていたから、こまったりした。
りっちゃんは私の家族じゃないし、ちょっと意地悪だけど不良ってわけでもなかったから。
りっちゃんはクラスの他の子のことは「ちゃん」付けで呼んでいたから、
いきなり私だけ呼び捨てになっておどろいた。
私もいつか、りっちゃんのこと「りつ」って呼ぶことになっちゃうのかな。
.....きっと、なっちゃうんだろうな。
だって、私、ずっとりっちゃんといたいもん。
だからそんな予感めいたものを感じながら、私はりっちゃんのそばにいた。
-
☆
雑誌から目を離すと、ベッドに寄りかかる後頭部が見えた。
しばらく見続けていたけど、こっちが見ていることにまったく気づかないで漫画を読み続けている。
「律」
と呼びかけて、その頭頂部に右手を置いてそのまま撫でる。
私は左利きだけど、位置的に左手よりも右手が律に近かったから、右手で撫でた。
グシグシと律を撫で回す。
律はまだ漫画に夢中だ。
返事すらしない。
いや、「う〜ん」と言う唸り声みたいなものは聞こえてくるけど、ほとんどそれは返事とは言えず、上の空となんら変わりはない。
ガシッと今度は右手を目一杯広げて頭頂部全体を掴み、時計回りに回してみた。
頭がメリーゴーランドのようにグワングワン回るのに合わせて上半身が揺れる。
そのせいで漫画が読み難くなったのか、律はようやく「なんだよー、みぉぉおー」と若干ウザそうな態度で返してきた。
それでも目は漫画に向いたままなので、私も若干ウザそうに返す。
-
「せっかくの夏休みなんだから、どっか行かないか? 2人でずっと部屋にいたら気が狂いそうだ」
「澪は私と一緒にいたくないのかよ?」
「そんなこと言ってない。ただ」
「ただ?」
「流石に律が一緒でも一週間家の中で過ごすのは飽きたんだよ」
「なんと......*」
「なんと......** ってなんだよ、その反応は」
「別に意味はない。いや、でもどっか行くったって、お金ないし」
お金ない。
金無。
金欠。
高校2年生の私たちは、金欠というとても高校生らしい悩みに悩まされていた。
律は毎月お小遣いの配給が決まっていて、しかも律のことだから、後先考えずに使ってしまって月の中旬〜下旬ともなると、ほとんど財布とのにらめっこ状態になってしまう。
「にらめっこしましょ、あっぷっぷ」だなんて言っている場合ではない。
見比べるまでもなく、すでに律の財布はアップアップだ。
特に夏休みともなるとその傾向はとても強くなってしまって、7月の終わりには既にお小遣いの9割を使い切っていた。
そんな律に付き合わされて結構行動をともにしている私の財布ももちろんアップアップだ。
と言っても、正直なところお私は小遣いは必要なときに言えば貰えるんだけど、でも、そうすると律から「裏切り者」呼ばわりされるから、できるだけ追加でお小遣いをもらうことはせず、金欠な律に付き合って金欠よりややリッチな状態を保っていた。
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「澪......そんなにどっか行きたいのか?」
「うん。私が家にいることに飽きるなんてよっぽどだと思う」
「なら!ママにお小遣い追加でもらってこいよ、んで私とマック行こう」
「......」
「黙るなよ」
「サイテー」
「罵るなよ」
はぁ......この馬鹿は本当にマックが好きだ。
何かと言えばマックマックマックマック。7月は海の日からほとんど毎日マックに行っていた。
一回マックで食中毒にでもなればいいのに。
マックが律の行動範囲内にあるのもいけないのかもしれない。
律にしてみれば、なんてリッチな立地条件なんだ。
...コホン。
いや、マックに別に恨みはないんだけどさ、本当にいや、本当に恨みとかそんなものないんだけど。
ただ、律がマックに行かなくなるのは金欠な時くらいだから。
マックに貢ぐくらいなら私にでも貢いでくれればいいのに。
私はさっきまで見ていた、ドラム特集のページを指で撫でた。
安い印刷紙のツヤツヤとした質感だけを指先に感じて悲しくなる。
見えるのに触ることが出来ないというのはとても辛くてもどかしい。
"
"
-
「マックに貢ぐくらいなら私に貢いでくれればいいのに」
「なんか言ったか?」
「いや、別に」
思わず口に出してしまっていた。
律を見るとジト目で私を見つめている。
明らかに先ほどの私の台詞を、自分に向けられた嫌味だと勘違いしている目だった。
私は目を逸らしながら、あーでもないこーでもないとまるで映画版のドラえもんのように頭の四次元ポケットをまさぐってこの場にふさわしい何か他の話題を探して見るけど、やはりドラえもんのように、手頃な道具---言葉はすぐに出てこなくて、いや、えっと、だから、その、な、などとわけのわからない供述をしていた。
そんな私の様子にため息をついて、
「しゃーない。私もちょっと飽きてたし、どっか行くかー」
と言いながら、律はその思い腰を一週間ぶりにあげた。
「まぁ、見るならタダだし」
と独り言のようにボソッと馬鹿丸出しなことを言っていたことは無かったことにして私は外着に着替えようと、クローゼットの扉を開けた。
「今の澪、アニメなら絶対パァァアアっていう効果音ついてるよ」
「効果線もついてる?」
「そうそう、光ってる感じのやつ」
-
律はニシシと笑って、私も準備するから帰るなすぐに戻るから、と言って部屋から出ていった。
律がいなくなって、シーンとしていた部屋でちょっと違和感。
雑誌を読んでお互いに無言状態のシーンでもシーンの感じ方が全然違う。
久しぶりに律と外で遊ぶんだ。
しまむらで買った服なんて着ないで、ちょっとオシャレしよう。
律がいないシーンは頭の外に押しやって私はそう独り言を呟きながら服を選び始めた。
-
☆
名前を呼ばれて私は返事をした。
「なに?りっちゃん」って。
「みおは夏休みの自由研究はなにをするの?」
「私はひまわりを育てて観察日記を書いているよ」
「わー!やっぱりみおだね、お母さんが言ったとおりだ!!ちゃんと自由研究もう何するか決めてる!!」
自由に研究しろっていきなり言われても何したらいいのかわからないんだよね、とりっちゃんは私の部屋で恐竜のたまごを食べて笑いながら言った。
「そんな......」
私はそのあとの言葉をバニラアイスとともに飲み込んだ。
りっちゃん、もう夏休み終わっちゃうよ?
「みおはどうして自由研究それにしたの?」
恐竜のたまごをちゅうちゅうしながら、りっちゃんは私に聞いてきた。
「それは......」
私はやっぱりそのあとの言葉をさっきよりも溶けているバニラアイスとともに飲み込んだ。
ひまわりがりっちゃんみたいだから。
そんなこと言えなくて、恥ずかしがって下を向いていたらりっちゃんが叫んだ。
「うわぁ!?」
りっちゃんの声にりっちゃんの方を向くとりっちゃんがバニラアイスまみれになっていて
「あわわわわ!!ど、どうしよう!?何か服物......じゃなくて拭くもの...タ、タオル!?タオル持ってくるね?!」
慌てている私をよそにりっちゃんはアイスにまみれてニシシと笑って言った。
「恐竜のたまご、最後いきおい良くアイス出てくるの忘れてたよ」
「えっ?」
次のしゅんかん、私の食べていた恐竜のたまごからもいきおい良くバニラアイスが飛び出して私にまんべんなくぶちゅっとかかった。
「......」
「......」
-
☆
その後アイスにまみれながら2人でお腹を抱えて笑ったことは、言うまでもない。
「なに笑ってんだよ、澪」
「え? 私、笑ってた?」
「うん、笑ってた。ニタァって独りで笑ってた」
わたしの真似をしてニタァと笑う律にすかさず言う。
「うわ、気持ち悪っ」
「澪の真似したんだっての!!」
ムキーとムキになって怒っている律を他所目に私は久しぶりに来た街の方を向く。
半袖や短パン、ミニスカート、キャミソール、かき氷、店先から出ているドライフォッグ。
あぁ、もう夏休みは終わるのにまだ去り切らない熱気のせいでまだ夏は終わらないみたいだ。
「やっぱ、栄えてるとこに来るとムワッとして暑いな」
律はそんなコンクリートジャングルに迷い込んだ夏の暑さに既にバテているみたいだ。
左手で顎下の汗を拭う動作をする。
クーラーのついて快適だったマックや私の部屋で身体がなまりきっているっぽい。
額には既に粒の汗を浮かばせている。
「なら、LOFT行こう!LOFT!!」
「あぁ、いいよ。LOFT行くか」
すんなりと私の提案を受け入れてくれた律だけど、私は律が思っていること、知っている。
-
律のマック好きと私のLOFT好きは同値だから。
律の横顔をチラッと見る。
「またLOFTかよ」って心の呟きが聞こえてきそうだ。
でも、それでも一緒に私が行きたいところに行ってくれる律だからこそ、私は律のマックにも付き合うんだ。
別に同じものが好きじゃなくていい。
同じ趣味や趣向じゃなくていい。
お互いがお互いに好きなものや思っていることが違うからこそ、私はベースを選んだんだし、律はドラムを選んだんだ。
私の甘ったるい歌詞をむず痒く思う律だって、律だし、私にちょっかいをかけてくる律だって、律だ。
甘ったるいポエムでも笑顔で聞いていてくれた。
人前に出るのが怖かった私にちょっかいをかけては話しかけてくれた。
そんな律だから私は律といるんだ。
「夏のLOFTって言えばやっぱこれだよな」
ドライフォッグを身体に浴び、私の方をわざわざ向き、律は涼しそうに笑った。
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☆
8月19日 晴れ
ひまわりは大きくなってきています。
もう私の身長よりも高くてびっくりします。
あと少しでつぼみが開きそうです。
ママは「おっきく育ったね、あと少しできっと花が開くよ」と言っていました。
ひまわり、早く咲かないかな。
8月20日 晴れ
ママが言っていたように、昨日よりもひまわりが開き始めました!!
間に合うかな!!
ママは「明日には咲くよ」と言ってくれました。
元気できれいなお花が咲くといいな!!
はやくはやく!!
8月21日 雨
ひまわり、風で折れちゃった。
-
☆
「へぇ、こんなの売ってるんだな」
律はそう言って、カイワレダイコン栽培キットを手に取った。
「ほんとだ。しばらく来てないうちに新しい商品増えてる」
私はカイワレダイコンの隣にあったイチゴのキットを手に取った。
その時、視界の淵にあったものに動揺したけれど、その動揺を声と態度に出さないようにして、そしてそれらが律の視界に入らないように身体で隠して、イチゴのキットを元の場所に置いた。
「私はこういうの買ってもめんどー見きれなくて枯らしちゃいそうだからなぁ」
と言って律も元の場所にカイワレダイコンを置いた。
よかった。どうやら気づかれていないみたいだ。
「律はまず自分自身のさいふの面倒を見れるようになろうな」
いつものように軽口を聞いてさらに律からそれを逸らす。
「う、うるへー!! 」
そう怒鳴りつつ、律は真面目なボイスですぐさま
「澪さん、お金を貸してください」
と、右手を私の方に差し出しながらきれいなお辞儀を私にしてきた。
律のこういうところ、好きだ。
私はたまに言うことがキツいから、他の人、たとえば唯とかムギとか梓とか、だと「あぁ、さっきあんな風に言っちゃったけど、傷つけたり嫌な思いさせたりしてないかな」とヤキモキするんだけど、律は冗談で返してくれるから、そういうことを思うことがあまりない。
でも、それは私が律に甘えている証拠でもあると思うけど、というか、キツイこと言ってるって自覚があるなら直せよ、って感じだけど。
ほら、そこは私と律だから。
「イヤだよばーか。ほら、上の階もみたいから行こう」
そう言って私は律の差し出された右手を取って、上手く上に続くエスカレーターに乗った。
-
途中、律がトイレに行っている間があった。
その隙間はまるで神様が私にそうしろ、と言っているような気がして、
私は「トイレの前で待ってるからな」と言い、トイレにかけてく律を見送りその姿が見えなくなった後、LOFTの中では似つかわしくないほどの速さで走った。
何人ものサブカルが私を異様な目で見ていた。
恥ずかしい。
当たり前だけど恥ずかしかった。
そんな恥ずかしさを身にまといながら、それでも私は走って買いたいものがあった。
LOFTをそんな速さでかけていく私の姿はおそらく魚を加えたノラ猫を追いかけるサザエさんほど陽気にもちろん見えなかったはずだ。
ガチで走った。ガチで。
本当に欲しいものを手に入れる時、人に余裕なんて生まれるわけがない。
先ほどの栽培キットの中のある一種類、律から見えないようにしていたその一種類の容器を素早くレジにもって行った。
「贈り物ですか?」
と聞く店員、若干ヒいてる、に
「自宅用で」
とはぁはぁ息を切らせながら言い、会計を素早く終わらせてまたものすごい速さで走って元の場所に戻った。
戻って息を整えていると「はあー、スッキリスッキリ」と情緒も趣もない、本当にスッキリした顔をし、そして「はぁー、スッキリスッキリ」と言いながら律が両手を振り回して出てきた。
ハンカチを渡しながら、私は律にニッコリと微笑んだ。
そんな私の笑顔を見て
「お、いい顔で笑ってんな。私が澪の分もトイレに行ったおかげだな」
と律はよくわからないことを言って湿ったハンカチを返してきた。
-
☆
名前を呼ばれて私は返事をしなかった。
だから、りっちゃんは聞いてきた。
「どうしてみお泣いてるの?」
りっちゃんはいつも私のことをからかってくるくせに、私が泣いているといつも誰よりも心配してくれた。
不安そうなりっちゃんの目と目があった。
かなしくて、なみだが出てくる。
りっちゃんにどうして私がないているのか、言わないとりっちゃんはずっと心配しちゃうから、
りっちゃんに理由をちゃんと言いたいのに、どうしても声が出なくて、なみだが溢れて伝えられない。
そうしていたら、りっちゃんが気づいちゃった。
「......ひまわり......折れちゃったの?」
私の横には折れたひまわり。
「り"っ、りっち"ゃん」
「なに?みお」
「りっ、ちゃんの、ね、」
「うん」
「たっ、だっ、んっぢょうびに"、ね」
「うん」
「......ひまわ"りを"っ、...あげ、ようとっ、」
「......」
「で、も、......おれ、ち"ったの"」
「そっか」
りっちゃんはそう言って、それから私が泣き止むまでずっとそばにいてくれた。
たまに頭もなでてくれたし、ありがとうねみお、って言ってくれた。
その気持ちだけでうれしいよ、って言ってくれた。
でも、ごめんね、りっちゃん。
誕生日にひまわり、あげたかったのに。
ごめんね、りっちゃん。
-
☆
8月19日 晴れ
うまいこと育ってくれてる。
最近の栽培キットってやつはうまいことできてるな、と感心してしまう。
律はどう思ってくれてるかな。
8月20日 雨
雨だ。
でも、今度は大丈夫だ。
昔は外で育ててたけど、この栽培キット、家の中で育てられるから。
今度こそ、ちゃんと育てられたんだ。
早く、明日にならないかな。
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☆
「なんでひまわり?」
「私にとってりっちゃんはひまわりみたいな人だから」
「ひまわり? 私が? 」
「うん」
「私、イエローレンジャーってこと?」
「うん? りっちゃんはね、その、えっと、その、ね、」
「?」
「私の、あこがれ、だから」
-
☆
名前を呼ばれて私は返事をした。
「なに、澪」
マックで向かい合わせの2人席。
夏休みも終わりだから、この時間帯でもあまり人がいなかった。
「誕生日おめでとう」
そう言って澪に手渡されたのはひまわり。
不意に昔のことが思い出された。
折れたひまわり。
澪の、ウサギのような赤い目。
そして、その後に恥ずかしがって真っ赤になったほっぺた。
それはとてもきれいに咲いたひまわりだった。
いつの間にこんなの買って育てていたのやら。
これ、前に見た栽培キットのやつじゃん。
「ちなみになんでひまわり?」
「私にとって律はひまわりみたいな人だから」
「私、イエローレンジャーってこと?」
「その返しはいいから。てか、よく覚えてるな。ほら、えっと、その、な 」
「?」
「......は、花言葉」
-
☆
「みお、みお」
「なに?りっちゃん」
「ひまわりの花言葉、調べたらもうひとつでてきたよ」
「えっ、りっちゃん花言葉調べちゃったの?」
「みお、顔赤っ!? てか、赤くなるのはやっ!?」
「うわぁあああああん!! りっちゃんのばかぁあああああ!!」
「えー、そんなはずかしいがることないのにー」
「......はずかしいよ」
「私もみおのことだけ見てるからね!!」
「い、言わなくていいってばぁ!?」
ニシシってりっちゃんは笑う。
その笑顔を見て私は、いつかりっちゃんにちゃんとひまわりをあげよう、と心から思った。
「そういえばさ、みお」
「なに? りっちゃん」
「こないだのひまわりなんだけど、あれから家に持って帰って、ちょっと長い枝で支えをしてみたんだよね」
「えっ」
「そしたらさ」
りっちゃんは指を指す。
りっちゃんの家の窓から見える庭には1本のひまわり。
そのひまわりは、折れたことなんてちっとも気にしないでいいくらいまっすぐに空に向かって伸びていた。
「咲いてる......ひまわり、咲いてる!!」
「よかった、みおに喜んでもらえて」
りっちゃんはそう言って、照れくさそうに笑った。
-
☆
「あぁ、花言葉な。ひまわりってなんか色々あるよな、花言葉」
そう言って律はストローに口をつけてゴクゴクと喉を鳴らしてストライドを飲んだ。
「『偽りの富』とか、私の金遣いの荒さを表していると言っても間違いではないよな」
「自覚あるなら、ご利用は計画的に」
「計画的無計画なんだよ、私は」
「それ、タチ悪いパターンじゃん」
「全くだな!」
「威張るなよ」
「食べないならナゲットもーらいっ」
「胃張るなよ」
そう返し返されて、私もストローに口をつける。
アイスコーヒーの苦みが心地よかった。
「律に聞いてみたいことがあったんだけどさ」
「なんだね? お姉さんになんでも聞いてごらん?」
「お姉さん......確かに今日から当分律のが年上だけど、お姉さんというか、年上の年下って感じだな、律は」
「なんだよ、年上の年下って。で、なんだよ」
「あぁ、うん、そうだった。えと、どうして律は私のこと呼び捨てで呼ぶようになったんだ」
「ふぇ!?」
そう言って、律の顔がいきなり赤くなった。
「え、なにその反応」
「いまさらなにその質問」
「なんで顔赤くなってるの?」
「う、うっさい!?こっち見るな!!」
-
そう言って、律は顔の前で手をブンブンしてなにやらセルフプライバシー保護をした。
いや、遅い遅い見えてる見えてる。
「なぁ、なんで?」
「ど、どうでもよくない?」
「ねぇ、なんで?」
「なんでだろーなー」
「話そらすなよ、りっちゃん」
「ぐっ......」
あ、さらに赤くなった。
律は左手で口元を覆うと、しばらくだんまりを決めていたけど、
窓の外に目をやり観念したかのように白状した。
「なんていうか、私も私で必死だったというか」
「必死?」
「私が話しかけ出したらクラスの他の子も澪に話しかけるようになったから...。それまで澪ったらボッチだったのに」
「人をデイダラボッチみたいに言うな」
「それで、その......まぁ、焦ったんだよ、うん、......そんな感じ!!」
「おいおい、勝手に話終わらせるな、全くわからないんだけど」
自分の説明ベタが悪いのに、私が説明を理解していないことに若干イラついた律が少し声を張って言う。
「だから、私にとっても澪はひまわりみたいに思えてたってこと!!」
「......」
「だ、黙るな!!なんか言って!!恥ずかしいだろ!!」
「私、イエローレンジャーってこと?」
「ここでそうくるか!!」
「ふふ、冗談。そっかー、私、ひまわりか」
そっかー。なるほどなるほどなぁ。
「律ってヤキモチ妬きだったんだな」
「あーもー、ほらー、そうやって、ほらー、そういう顔するから言いたくなかったんだっての」
今だ赤みの取れない顔を両手で覆い隠し「あー、恥ずかしい。マジではずいわー」とつぶやいている律に私はニシシと笑って、こう返す。
「律だけ見てるからね、大丈夫だよ、りっちゃん」
律の、髪の隙間から見える耳までもが真っ赤に染まったのを私とひまわりだけが見ていた。
おわり。
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最近数少ない律澪ですが、久々に読めて良かったです。
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