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唯「冬の日!」
-
微キャラ崩壊注意
"
"
-
〜桜が丘女子高等学校〜
………音楽室
梓「死ぬほど寒いです」ガクガクガク
唯「こんな寒い日はお鍋に限るよね〜」
梓「ぁあ〜ッ、イイですね。
極上の牡蠣をふんだんに使った鍋が喰いたいです」
律「鍋かァ……アタシはキムチ鍋でガッツリいきたいなぁ」
澪「私はカニだ!」 I'm a crab
紬「そっかー、みんなお鍋が食べたいのね〜」
唯「私は別に……」
紬「うん! 今日はお鍋にしよう!」
澪「本当か! わあい!」
律「いやっほぉー!」
梓「待ち遠しいです!」
紬「じゃあちょっと待っててね〜」ガチャ
ムギは物置部屋へ消えた。
澪「カーニっ カーニっ♪」
律「そーいやアタシ カニ○○○○ってカニを頬張ることだと思ってたんだよな〜」
唯「かに○○○○?」
梓「女子高生とは思えない話題提起ですね律先輩」
律「よせやいよせやい♪」
梓「褒めてませんよ」
唯「ねー、カニ○○○○ってなーにー? お祭り?」
梓「ヒトを喰べちゃうことですよ」
澪「ピッ!」ドタッ
唯「うえ〜……人っておいしいの?」
梓「さあ? 喰べたことないですから」
律「肩の肉ならまだイケそうだよな〜」
唯「あ〜あ! 分かるかも〜!」
梓「でも内蔵は勘弁してほしいですね」
律「あー、アタシ秋刀魚の内蔵もキツイな〜」
唯「えーっ? おいしいのに〜」
梓「それは憂がいつも新鮮で良質な秋刀魚を買っているからでしょう。 大事にされてますねぇ」
唯「うへへ……」
ムギ「みんな〜」ガチャ
澪「出来たか!?」ムクッ
律「おお! 待ーってましたぁ!」
梓「何鍋が採用されたんでしょう!?」
唯「楽しみだなあ♪」
ムギ「……」ごとん
澪「………」
律「ムギ……これは?」
唯「何も入ってないね……」
ムギ「冷蔵庫の中、ケーキとアイスしかなかったの……」
律「むしろ他の具材があると思ったのか」
梓「失望しましたムギ先輩」
澪「……じゃあ、これから買ってくるしかないか」
梓「でも外は猛吹雪ですよ? 出たくありません。 凍えちゃいます!」
澪「行くんだ!!」
唯「そこまでして鍋したいの……?」
律「………分かったよ、澪の好きな具材でいいから頼むぜ」
紬「そうね〜 お願いするわ澪ちゃん」
澪「お、おい、ちょっと待ってよ。誰か一緒じゃなきゃ私はここを動かないぞ」
律「うーん、その気持ちは分からんでもない。 よし! 唯! 一緒に行ってやれ!」
唯「えっ! なんで私!?」
梓「だって唯先輩、今こそ乗り気ではなさそうですけど、いざ鍋が出来たら一番に喰い付く姿が目に見えてますよ」
律「そうそう、だから唯も鍋作りに貢献しておくべきだって」
唯「おかしいよ! それならりっちゃんだって――
澪「よし! 唯! 行こう!」ぎゅっ
唯「わーん!」
梓「あ、唯先輩、どうせなら牡蠣お願いしますねー」
――バタン
律「さて、二人が帰って来るまでなにしようか」
梓「ムギ先輩! バナナケーキください! クリームたっぷりですよ!」
紬「は〜い♪」
………
………
………廊下
澪「さ、寒いぃ〜……」
唯「はー」
澪「どうした唯」
唯「ほら〜、廊下でもこんなに息が白くなるよ」
澪「知るか。 早く行こう」グッ
澪は玄関の扉を開けた。
――ビュゴオオオオオオオオオオオォォォォ!!
澪「ヒィーッ!?」
唯「ひゃあああああ!」
途端に校内へなだれ込む吹雪、澪はあっという間に真っ白になってしまった。
澪「」カチーン
唯「わお! 澪ちゃん亜種だね!」
澪亜種「もういやだ……帰りたいよお」めそめそ
唯「澪ちゃん……」
澪亜種「唯、こうなったら二人で先に帰っちゃおう……」
唯「カバンと楽器置いてっていいの?」
澪亜種「……忘れてた」
………
………
………
律「迂闊だったな梓! くらえ!」しゃっ
梓「あーっ! しまった! 律先輩! もう一回です!」
律「梓は丸バツゲーム下っ手だなあ」
-
――ガチャ
紬「あら澪ちゃん、おかえりなさい」
澪「ただいま…… この場所は変わらないな」
律「早えな! もう買ってきたのかー!?」
梓「牡蠣をよこすです! じゅるり!」
澪「まーだ、財布忘れただけっ」
梓「失望しました澪先輩」
澪「生意気な後輩め、お前もくるんだ!」ガシッ
梓「あああああ!? やめるです! 離すです!」
澪「黙れ、少しくらい先輩の言うことを聞け!」ズルズル
梓「ま、まだケーキが……… 律先輩! 助けてください!」
律「いいじゃんか、うまい牡蠣買ってもらえよ」
梓「わあああん!! 寒いのはイヤですゥゥゥーーッ!」
紬「またね〜」
バターン
………
………
………
梓「とんでもない先輩です」
澪「自分だけラクしようとする奴が何を言う」
梓「はあ…… 唯先輩はどこですか?」
澪「玄関の近くに待たせてあるよ。 ほら、そこに……」
唯「」カチーン
玄関には唯亜種が倒れていた。
澪「唯いいいいいいいい!?」
梓「唯先輩ィィィィーーーーーッ!!」
唯亜種「ふふ……つい気になってドア開けたら……… 不覚だよ……」
澪「こ、こんな真っ白になって……」
梓「澪先輩の責任です!」
澪「なんだと!?」
梓「唯先輩も連れてくるべきだったんですよ!」
澪「言わせておけば! こいつッ!」
唯亜種「ふ、二人ともヤメテ。 私が悪いんだよ……危ないって分カッてたノニぃ……ィ」
澪「唯がよくても、こいつのフザけた態度はもう見過ごせない!」
梓「望むところです! くらえ!!」バキャ
澪「いたあい! こ、こォいつッ!」ドグシャアッ
梓「ぎにゃああああ!!」
澪「この! この!」ドゴドゴドゴドゴ
梓「ひぎいいいいいい!! こ、降参! 降参ですう!」
澪「思い知ったか」パンパン
梓「言うこと聞きます」
澪「よし、じゃあまず唯を助けないと」
唯「」
澪「顔色は?」
梓「意外と整ってて可愛らしいです」なでなで
澪「身体は?」
梓「まるっこいケツと、澪先輩とは違って大きすぎない美乳がたまらんです」スパァン
澪「外に放り出すぞ」
梓「ご、ごめんなさい……」シュン
澪「で、顔色は?」
梓「バッチリですよ、毎朝ちゃんと喰べてますから。 貧血とも無縁です!」
澪「お前じゃないよ!!!」ズドム
梓「ギュッ!?」
澪「三度目はないからな。 顔色」
梓「ミ、澪先輩が調べればいーのに……… ええと、マシュマロみたいに真っ白です」
澪「身体」
梓「氷みたいに冷たいです」
澪「……脈は?」
梓「ピクリとも」
澪「し、心臓の鼓動……」
梓「柔らかいだけです」もみもみ
澪「ど、どうすればいいんだ……唯っ……」めそめそ
梓「私、聞いたことあります。凍えちゃったら人肌であっためるのが効果的らしいです」
澪「よ、よし、すぐ始めろ!」
梓「唯せんぱ〜い!」ぎゅうっ
唯「」だらんっ
梓「雪だるまに抱き付いてる気分です」
澪「そうか………しかし参ったな…… この吹雪じゃあ外に出られないぞ……」
梓「出たら即雪だるまですからね……」
雪だるま「」ぐったり
澪「けど、律とムギがお腹を空かせて待ってるし、冷えきった唯に鍋を喰わせてやりたい…… 私がやらなきゃ誰がやるっていうんだ」
梓「あの……私は……?」
-
澪「つべこべ言わずにあっためろ」
梓「分かってますよ」ぎゅうっ
唯「」
梓「ていうか、澪先輩先に行ったらどうです?
私は唯先輩を起こすのに尽力しますから」
澪「一緒じゃなきゃ嫌だ!」
梓「子供ですか?」
澪「そうだよ! 高校三年間は子供でいられる最後の時なんだ!」
梓「はいはいっ……分かりましたよー。 待ちます待ちますっ」
澪「子供扱いするな!」
梓「難しいですね」
唯「………ゥー」
澪梓「あっ!」
唯「は、ひひ、ひ、さ、さ、寒いよおお……」ガチガチガチ
梓「唯先輩! 目が覚めましたか!」
澪「よかった…… 一時はどうなることかと……」
唯「ぁあ あ あずにゃんあっためて……」
梓「任せてください!」ぎゅううっ
唯「うぐああ……」
澪「よし! 唯が目覚めたところでどうやって外に出るか考えるぞ!」
梓「ふつうに厚着でもすればいいんじゃあないでしょうか。 特に脚、スカート短すぎなんですよこの学校」
澪「まったくもってその通りだな。 よし! 多少無理してでも体操服を着よう。 待っててくれ!」ダッ
梓「はあ…… お腹空いた……」
………
………十分後
………
澪「持ってきたよっ」
梓「お疲れ様です。 私の分はどうしました?」
澪「律に借りてきた、これでガマンしてくれ」ばさっ
梓「了解です」
澪「ほら、唯のも」
唯「…………えっ?」
梓「唯先輩はあとで着せてあげますね」ごそごそ
唯「ちょっと待って……私も行くの?」
澪「三人でいる方が楽しいぞ?」
唯「無理だよぉ…… 動けない……」
梓「失望しました唯先輩」
唯「ヒドイ……」
………
………
………
………音楽室
律「おっせー、さっきまで入り口にいたんじゃあまだまだかかりそうだな」
紬「ピザ屋さん、あまりの猛吹雪で来られないって……」
律「えーーっ…… 腹減ったなぁ……」
紬「澪ちゃん達が戻ってくるまで、プロレスごっこでもする?」
律「アタシ負け確じゃね? それ」
紬「私、お友達とプロレスごっこするの、夢だったの〜」
律「夢かあ…… ムギは今までにいくつそういう夢を語ったっけな」
紬「さあ……?」
律「前にみんなでスーパー行ったとき、
"牛脂もらうの、夢だったの〜♪"って言い出したのは流石にどうかと思ったよ」
紬「夢だったんだもん!!」どがああん
律「でも、そういうちょっとしたことで喜んだり、幸せになれるのってなんだか羨ましいよ」
紬「りっちゃん……」ポッ
律「思えば行く先々で最低一個はムギの夢が叶ってたような」
紬「ええ……毎日が楽しかったわあ……」
律「おいおい……もう終わりみたいに言うなよ……」
………
………
………極寒の桜が丘
澪「観える! 聴こえる!」ざふっ ざふっ
梓「目の前すら見えませんし、吹雪の音しか聞こえませんよぉぉ〜」ガクガク
澪「まったく……これだから若輩は……」
梓「……そ、それより、唯先輩担ぐの代わってくれません? 流石に重いです……」 唯「」
澪「もう少しな、あそこの電柱まで」
梓「……………どこですか? 適当言ってません?」
澪「少しは先輩を信用しろ!」ごちん
梓「いたい!」
-
………
………
………
………
………
ビュウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥ!!
その身に突き刺さるような吹雪が猛威を振るう中、
華の女子高生三人(一人瀕死)は進み続ける。
梓「ハァ ハァ ハァ み、澪先輩っ……私、もうダメ……」どさっ
澪「なっ!? あ、梓!!」
梓「唯先輩を連れて………先に行ってくださいッ……」
澪「そんなことができるか! こいつッ!」ごちん
梓「」
澪「……なあ、梓、牡蠣鍋が喰べたいんだろ? こんな所で諦めてどうする」
澪「全員が無事に帰らなきゃ意味がないんだ。 私はみんなで鍋を楽しみたいんだよ」
澪「7:3、7:3の割合で牡蠣を入れてもいいから……頑張れ……梓!」
梓「」
澪「梓! ……梓あぁっ!」
澪「くそー!」グイッ
梓を背負った澪は、彼女のツインテールを胸の前でクロスさせるように結び、これから先 決して離れないよう固定した。
そして、腰まで積もった雪の中から唯を掘り出して抱きかかえる。
澪「私は諦めないぞ!」
………
………桜が丘女子高等学校
………音楽室
律「遅い」
紬「心配になってきちゃった…… 吹雪もさらに強くなってきたし……」
律「………アタシもだ」
紬「こんなとき、どうすればいいんだろう……」
律「バッキャロおおおおおおお!」ブーン
紬「きゃあ!」バシィ
――ドム!
律「ほォんッ!? チョ……冗談だって……」
紬「あ…… び、びっくりしたから……ごめんねりっちゃん……」
律「へへ……親友たちが凍えてるかもしれないんだ。だったらアタシ達のとるべき行動は一つだろ……?」
紬「そ、そうね! すぐに捜索部隊を派遣させるわ!」ピッ ピッ
律「当ってるけど違えよおおおおおおん!!」ブーン
紬「ええいっ!」サッ
――ボギャアッ!
律「キャアアアァァァァーーッ!!」
…数時間後
……
………スーパー
……
…駐車場付近
吹雪はすっかり止んでいた。 夕日が澄み切った空と雪を染めている。
澪「つ、着いた、着いたよお……唯……梓……ほら、分かるか……?」
梓「お疲れ様です澪先輩!! あ、これ、ほどいてくれません?」
澪「正直に話せ、いつからだ」
梓「道中澪先輩が
『ここまでか……糞、唯、梓、すまない……私は………諦めちゃダメだよミオ! ファイトだよ! ………そうだな、ミオ頑張る!』
って言ってた最中です」
澪「離れろ! こいつッ!」ブンブン
梓「きゃあ!」どてっ
澪「まったく…… 立て! 早く唯を手当てするんだっ」
梓「えへへ…… はいっ!」
………
………店内
………
澪「あ、ああ、あのっ、友達が一人凍えちゃってるんです。 このままじゃ凍傷になっちゃう…… お湯か何か、お借りできないでしョッか!」
店員「そりゃ大変だ! 待っててください! 今用意しますので!」ダダッ
澪「……」
澪「ひ、人の温かさにふれた……」グスッ
梓「泣いてる暇があったら、唯先輩のマッサージ続けたらどうです?」もみもみもみもみもみもみ
澪「……悪魔だなお前」
店員「すみません! 休憩室の準備が整いましたのでどうぞこちらへ!」
澪「あ、はい! ありがとうございます!」
"
"
-
………
………暖房の効いた休憩室。
ちゃぶ台の上には店員からの餞別であるカイロ三十枚と温かいお茶、そしてお饅頭が置かれていた。
そばにはタオルと洗面器に入ったお湯もある。
店員「ではごゆっくり」ぱたぱた
店員は去っていった。
澪「ふう…… これならなんとかなりそうだな……よッと」
澪は唯を畳の上に寝かせる。
梓「それじゃ……唯先輩っ……服脱がしますね……」グイッ グイグイ ブチブチブチッ
澪「………おい」
梓「なんですか!!」
澪「こォいつッ!」ドギャッ
梓「がッ!?」ブシュッ
澪「唯の世話は私がやる! お前は饅頭でも喰ってろ!」
梓「分かりました!」もぐもぐ
澪「……あーあ、ボタンが……律に付けてもらうしかないな……」
………
………
………
………桜が丘女子高等学校
………エントランス前
律「はっくしょおおおおおい!」
紬「はあっ!」コキーン
律「エ"ン"ッ!!!」ビグンッ
紬「ご、ごめんなさい…… くしゃみがかかりそうだったから……」
律「そ、そッか、いいさいいさ。 それより、和はまだかな……おお寒っ」
紬「和ちゃんが学校に残っててよかったわね〜」
律「ああ、ホント頼りになるやつだよ」
――ドドドドドドドドォ
律「おっ、ウワサをすれば……」
校庭に至る道から、スノーモービルに乗った和が颯爽と現れた。
和「ふんっ」ザザザザザァァーーーッ
雪煙を立てながら、律達の前に止まる。
和「待たせたわね。 上の説得に手間取っちゃった」ドルルルルン ドルルン
紬「使用許可が出たのね!」
律「さっすが和ァ!」
和「この桜が丘女子高等スノーモービルは特注品、驚異の五人乗りよ。 いざというときのため生徒会長である私が操作方法を学んでいたの」
和はスノーモービルのハンドルを誇らしげに撫でる。
律「すげー! かっけえなあ!」
紬「和ちゃんの運転するスノーモービル、なんかワクワクしちゃう♪」
二人は期待と物珍しさに目を輝かせながらスノーモービルに乗り込む。
律「おーし! 目指すは最寄りのスーパーだ! 頼むぜ和ァ!」
和「掴まってて、飛ばすわよ」ドルルルルルルン
――ドオオオオオオォォーーッ
………
スーパー………
………休憩室
梓「あっ! 澪先輩! 唯先輩がっ!」
唯「ぅ…… う〜ん……あれ? ここどこぉ……」
澪「唯ぃ……よ、よかったよぉ」うるうる
唯「みおちゃん……そっか、わたし、気を失ってて……」
梓「普段お菓子ばかり喰べてるからですよ!
私みたいに日頃から栄養をタップリ摂っていればあんな吹雪程度でへこたれることありません!」
唯「えへへ…… 面目ないよ〜」
澪「………………まあ、元気そうでよかった。
じゃあ、私は具材買ってくるから、ゆっくり休んでなよ」
梓「はいです!」
澪「お前じゃない!!」ボゴン
梓「おォん!?」
-
………
………店内
………海産物コーナー
澪「糞…… 寒いなあ……」ブルブル
梓「わああ…… 見てください澪先輩! サザエ! おいしそうですよ!
あっ! こっちにはホタテも!」キラキラ
澪「黙れ、第一はカニだ。 とびきりのタラバガニを探すんだ」
梓「はい……」しゅん
澪「えーっと……違う、ここじゃないな………こんな切り身達に用はない……」キョロキョロ
梓「!」たったったっ
澪「思えば……カニとカキだけじゃあ なんだかな。 少しくらい野菜や豆腐、ダシも買わないと……」
梓「澪先輩っ!」
澪「どうした?」
梓「買い物カゴ取ってきました!」らんらん
梓はニコニコと満面の笑顔でカゴを差し出した。
澪「そうだった、カゴは要るな。 ありがとう!」
受け取ったカゴには調理用生牡蠣三パックとバナナが入っていた。
澪「…………オイ、なんだこれは」
梓「えっ? 澪先輩が買ってくれるんじゃないんですか!?」
澪「そんなことは言ってない!!」
梓「……」ムスッ
梓はさっきの笑顔とは一転、むくれてしまった。
澪「ちょ……」
澪「…………はあっ……しょうがないな。 分かった、買ってやるよ」
梓「本当ですか!」パァァ
澪「戻すのはなんかアレだし…… 今回だけだぞ」
梓「バンザーイ! 澪先輩大好きです!」
澪「現金な奴だ」
………
………
………雪道
和「どう? この風を突っ切る爽快感! 最高じゃない?」ドドドドドドド
律「速えぇーっ! オープンだからなおさら速くかんじるぜ!」
紬「最高よ和ちゃんっ!」
和「ふふっ。 あ、ちょっと近道するわね」グインッ
和はハンドルを切って方向転換、車に雪が積もって出来たジャンプ台に向かって猛進する。
律「うおおおおい!! 大丈夫なのかあああ!?」
和「こういう賭け、ワクワクしない?」ドドドドド
紬「きゃあああああ!!」
――バウンッ!!
和の運転するスノーモービルはジャンプ台を通じ、道路脇に出来た雪壁に乗り上げる。
和「ふんっ!」ズギャギャギャギャ
律「ひえええええええ!!!」ガクンッ
紬「ーーーッ!」
スノーモービルはそのまま雪壁の上を走る。
和「うまくいったわね。 さあ、ここからよ」ドルルルルン ドルルン
和は再びハンドルを切り、民家の屋根に飛び移った。
律「ぎゃあああああああ!?」 紬「和ちゃああああん!!」
和「喋ると舌を噛むわよ!!」グンッ
ドズンッ!!
そして、スノーモービルは無事隣の道路に飛び降りた。
和「これで後はまっすぐ行くだけよ。 かなり時間の短縮になったんじゃない?」
律「ハ、ハードな奴だ……」げんなり
紬「最高……*」ウットリ
和「暗くなってきたわね。 急ぐわよ」ドルルルルルル
ドドドドドドドドドォォォーー!
-
………
………
………スーパー
澪「うう……高い……
増税か、世知辛い世の中になったなあ……」ガックシ
澪「虎の子の一万円…… 考えて使わないと」
梓「澪先輩澪先輩! 外にたい焼きの屋台が! ぜひ!」ぐいぐい
澪「キョアー! あっちへ行ってろ! 唯と遊んでこい!」
梓「は、はいいいっ!」ぴゅーっ
澪「まったく……」
………
………
………スーパー前ベンチ
唯「ほえ、いいニオイ!!」
唯「でも私、お金持ってないや……」しゅん
梓「唯先輩っ」ざくっ ざくっ
唯「あ! あずにゃーん」
梓「たい焼き買ってきました。 よかったらどうぞ」
唯「えーっ! いいの!?」
梓「はい、疲れたでしょうから」
唯「うわあい! ありがとうあずにゃんっ!」
梓「あとは澪先輩を待つだけです。ここでゆっくりしましょう」
唯「うんっ♪」
梓「ちなみに、唯先輩のはカスタードクリームです」
唯「じゃあ半分ずっこだね」ブチブチ
梓「しょうがないですねぇ。 本来アンコ以外は邪道なんですけど、今回は特別ですよ」
唯「えへへへへへ♪」
―――ドルルルルルルッ ドドドドドドドドォォーッ!
唯「…………へ?」
駐車場の脇、高く積まれた雪山の向こう側から大きなスノーモービルが飛び出してきた。
和「FOO! 最高よ!」
空を駆けるスノーモービル、唯は運転席に幼馴染を見た。
唯「の、和ちゃん!?」
梓「律先輩にムギ先輩もいます!!」
律「おーう! 唯! あづスっッ!」ガグンッ
和「ッ……喋ると危ないって言ったでしょ」ドルルン ドルルルルン
紬「二人とも会いたかったわ〜♪」ザッ
唯「ムギちゃんっ! スゴいねこれ! どうしたの!?」
紬「和ちゃんが学校から借りてきてくれたのよ」
律「おう! 迎えに来てやったぜ!」
梓「助かります! あの道を戻るって考えたら気が滅入りそうだったんです!」
和「あ、あの吹雪の中、徒歩でよくここまで来れたわねぇ……二人とも無事でよかったわ。 それで、澪は?」
唯「澪ちゃんならまだ鍋の具を買ってるよ〜」
和「鍋?」
紬「そうよ、みんなでお鍋するの。 最初はティータイムのつもりだったけど、晩ご飯になっちゃったね。和ちゃんも一緒にどう?」
和「遠慮するわ。 家の晩ご飯あるし」
唯「そっか…… そうだよね、憂に連絡しなくちゃ。きっと心配してるよ。
………あ、でも携帯部室だ……」
和「私の携帯使いなさい」
唯「わあ! ありがとう和ちゃんっ。 頼りになるぅ」
和「どういたしまして。 …………あら、揃ったみたいね」
澪「―――あれっ? 和じゃないか!!」
律「おっ、ホントだ、やっと来たか澪のやつ」
梓「スゴい荷物ですね。 楽しみです!」
………
………
………
唯「うん、だから今日晩ご飯はいらないよ、帰りも結構遅くなるかも。 それじゃあね」ピッ
唯「はいっ。 和ちゃんありがと〜」
和「…………思ったんだけど、学校で鍋するの……?」
澪「うん。 ずいぶん遅くなっちゃったけど」
和「ムギのお菓子はどうしたの?」
澪「ん? 喰べたよ? いつも通りに」
和「食欲の権化ね」
澪「そ、そんなあ!」ガーン
梓「和先輩の言う通りです!」
澪「お前が言うなァー!」
-
和「澪がこの調子なら、誰一人として反対者はいなかったようね…… とんでもない部活だわ」
律「それがアタシ達軽音部だ!!!」どん!
和「廃部に追い込んじゃうわよ?」
律「勘弁してくれ」
唯「ねー、暗いし寒いしもう行こ〜」
紬「お腹も空いたね〜」
澪「ゆ、唯は全身にカイロ貼ってるから大丈夫だろうけど……」
律「アタシらは凍えちゃうよ。 行こ行こっ!」
紬「出発しましょう和ちゃんっ!」
和「そうね。 じゃあ席順というか……どこに座るかだけど……」
和はスノーモービルを眺めた。
――この桜が丘女子高等スノーモービルは、三つのユニットで成り立っている。
一つはハイパワーエンジンを搭載したボディー。
洗練されたデザインの運転席に後部座席が二人分連結されている。
残るはボディーを中心にその両端へ結合されたブースター兼座席。 各ユニットに一人ずつ座ることが出来る。
和「この一人用の席はかなり振動が激しいのよね……」
和「とりあえず唯、あんたは私の後ろの席に座りなさい。 じゃないと走行中心配でマトモに運転出来ないわ」
唯「う、うんっ」
和「みんな、それで異論はない?」
澪「あ! 私も真ん中の席! せっかくの食材がこぼれちゃったら大変だし……」ぎゅっ
和「うん、なら決まりね。 真ん中は唯と澪、残りは横の席に座ってちょうだい」
澪「……不安だなぁ」
唯「ほっ! 結構いい座り心地だね! 澪ちゃんおいで〜♪」
澪「あ、ああ! よっこいしょ……」どすん
律「おーし! アタシはここだ!」さっ
紬「私はこっち。 激しいの楽しみ〜♪」ひょい
梓「じゃあ私は………あれっ?」
梓「あれっ?」
和「あっ」
澪「?」 唯「んー?」 紬「あ……」 律「おお……」
和「どうしましょ…… 梓ちゃんが座れないじゃない」
律「梓、歩いて来れるか」
梓「バ、バカ言わないでください! 空腹もあいまって死んじゃいます!」
律「………馴染んだ後輩の顔立ち、特徴的なツインテール」
紬「スーパーの入り口に置いてかなくちゃいけないのかな……」
梓「冗談はよしてください!!!」
唯「あ、あずにゃん……」
梓「先輩方!! どうにかしてください!」
和「そうねぇ…… 後ろに縛り付けて無理矢理にでも乗せてくくらいしか……」
梓「そんなのイヤですぅーッ!」
律「別にいいだろー? しっかりしがみついてれば大丈夫だってェ♪」
梓「失望しました律先輩!!」
律「そうか。 失望されるような先輩にはついてきたくないよな…… 和、出してくれ」ばんばん
梓「すみませんウソです! ごめんなさーい!」
-
律「つーん」ツーン
梓「う〜……ううぅ…… あ、あんまりです……」
梓「HEEEEYYYY!!」ドバー
澪「なあ、いくらなんでも……」
唯「りっちゃん、あずにゃんがかわいそうだよぉ……」
和「まさか本気で置いてくつもりじゃないわよね?」
律「当ったり前だろー、そこまで過酷な後輩いびりはしないってえ」
梓「グスッ……よかったぁ……」
澪「で、結局どうするんだ?」
紬「やっぱり縛り付けるしか……」
梓「そ、それはイヤです!」
和「…………梓ちゃん、私の膝の上でよければ、乗れるけど」
梓「あ、ホントですか!? ぜひ!! ぜひ乗らせてください!!」ギュッ
和「そう、なら覚悟してね」
…
……
………帰校!
……
…
梓「ひやあああああああ!! 和先輩ィィィィーッ! もっとスピード落としてくださァーい!」
和「何言ってるの! やっと調子が出てきたところよ!」ギャギャギャギャギャ
唯「〜〜〜〜っ……」ガクガク
澪「」ブクブク
律「おい! 澪 ………こ、こいつ、気絶しても食材を離さないとは……!」
紬「あふあふあふあふあふふ」ガグガグガグガク
律「そしてムギ……一層ウットリしてやごァンッ!?」ガクンッ
唯「喋ると舌噛んぢッ――」ガチッ
唯「〜〜〜〜〜っ!!」
和「フルスロットルでコーナー突入!」グイィィッ
律「ひぃえぇーーーっ!!」
梓「か、髪が巻き込まれッ……ぎゃあああああああ!!」
唯「あうぅ〜〜〜っ」がくがく
紬「まあ! 唯ちゃんのヨダレがッ! どんと来〜―― ザザザザザザッ
律「大変だあ和ァ!! ムギの席が雪に突っ込んでる!」
和「い、いけない! 私としたことがついカーブを描き過ぎちゃった……!」グッ
紬「パァ! これよ! この雪を掻き分け突き進む快感! これこそ私が求めていたもの!」ザザザザザ
律「あ、大丈夫そうだわ」
和「そうね」
………
………
……桜が丘女子高等学校
……正門前
――ザザザザザザっ
梓「ぁぁぁぁぁぁあい」
和「ふうっ……みんなお疲れ様、到着よ」
唯「怖かったぁ……」
律「け、軽音部史上最大の綱渡りだった気がする……」
紬亜種「」
澪「」
………
………
和「それじゃあ、私は行くから。 鍋が終わったらすぐに帰りなさいよ」
唯「ありがとう和ちゃーん」
澪「ホントに助かったよ和!」
梓「ありがとうございました……」
紬「またいつでもティータイムに来てね♪」
律「精一杯のもてなしをするからな!」
和「ありがとね、じゃ」ドルルルルルルンッ
――バオオオーーーン
和は闇に消えた。
律「………アレ、返さなくてよかったのか?」
澪「知るか」
梓「そんなことより鍋です!」
紬「行こ行こ〜♪」
唯「はあ……疲れたな……」
-
………
………
………音楽室
澪「さあ! 具材を並べるぞ!」どさどさ
タラバガニ一杯
牡蠣三パック 鱈の切身 車海老二パック
豚肉牛肉鳥肉各二パックずつ
白菜 えのき 白ネギ 椎茸 バナナ 人参 もやし
豆腐 しらたき
昆布だし 各種調味料
律「えらい買ったなぁ……」
唯「なんでバナナなんてあるの?」
梓「あ、それは私のです」
紬「それじゃあ作ろっか。 私はお鍋の用意してくるね」
律「お、そんなら野菜切るのは任してくれ!」
唯「りっちゃん得意だもんね〜」
梓「じゃあ澪先輩はカニを捌いてください」
澪「えっ……捌く?」
梓「はい、一旦甲羅を剥いて、エラとかを取り除くんです。 あ、ミソは残すんですよ」
澪「わ、私には無理だ! そんなこと!」
梓「はあ……? 澪先輩のリクエストした具材なんですから、澪先輩がやるべきでしょう」
澪「怖いよおお……ゆ、唯ぃっ」
唯「任せてっ! 私がやる!!」どん
澪「ありがとう……それじゃ私は出汁作るよ!」
………
………
澪「や、やったぞ! 完成したぞ! やっほーい!」
紬「あとは煮えるのを待つだけね〜」
律「はーら減ったなァ……」グー
唯ぃ「もう9時過ぎだね〜……」
梓「なんだか眠くなっちゃいましたよ」ごしごし
澪「お、いいぞ梓、寝ても。 その代わりお前の分はなくなるけどな」
梓「その手には乗りません! 牡蠣を目の前にして眠るなんてあり得ませんよ!」
………
………
………実食
澪「時は満ちたな。 ムギ、頼む」
ムギ「えいっ」ぱかっ
ムギが蓋を開けると、陸空海産物が所狭しと詰まったこの世に二つとないスペシャル鍋が全貌を現した。
とりあえず鍋に合いそうなものはなんでもという考えの元に購入され、鍋に放り込まれた様々な食材は、
澪特製の出汁"澪汁"によって素材の味を何倍にも引き立てられ、最高峰の具材へと昇華した。
はち切れそうなほど大粒の牡蠣は一つ一つがキラキラと宝石のように輝き、
真っ赤に茹で上がったタラバガニは溢れんばかりの旨味を今もスープ中に放出している。
唯「うっわぁー! おいしそぉーっ!」
唯がヨダレを垂らす。
澪「……ゴクリ」
梓「早速いただきましょう!」
律「こりゃー喰いきれねーな!」
紬「そうかしら? あっという間になくなっちゃいそう♪」
澪「よし! 喰うぞ! みんな手を合わせろ!!」
一同「いただきまーす!」
………
梓「唯先輩! 牡蠣どうぞ! 濃厚でおいしいですよ!」グググ
唯「ちょ、あずにゃんっ、自分で食べれるからっ……」
律「梓の唯に対する牡蠣推しはなんなんだ」
………
梓「澪先輩、ネギ喰べてください」ぼちゃ
澪「あっ! 好き嫌いはよくないぞ! こいつッ!」
………
梓「ムギ先輩、バナナ剥いてください」
ムギ「はい梓ちゃん、あーん」
………
………
澪「……」
――パキ…… するっ……
澪「うわああああ! どうしてもカニの身が取れない!!」
梓「おとなしくハサミで切り開いたらどうです?」バキバキ
澪「それはなんか負けたみたいでやだ!」
唯「んー、とりあえず貸してみて澪ちゃん」
澪「ああ……」
唯「こーゆうときってぇ、吸うと取れるんだよね〜」
唯「〜〜ッ」ズポッ
唯「むー! ほれた!(取れた)」
澪「おお! やったな唯! さあ! それをくれ!!」
唯「ふァああい」ぷらぷら
澪「はむっ」がぶちゅ
律「今のうちにアタシは他の具をいただくぜ!」どどど
紬「まあ! りっちゃんズルイわ!」ドゴォ
律「いってえええええええ!!!」
………
………
………三十分後
完食!
梓ちゃん「見事にすっからかんですね」
唯「なんだか体が熱くなってきたよ〜」
澪「ちょっと汗かいちゃったな」
紬「みんな〜、食後のデザートはいかが〜?」
律「おっほお! 喰う喰う!」
梓「エクレアあります?」
ムギ「あるわよ〜」
-
………
………
………数時間後
唯「ふわぁ……眠いかも……」
澪「外は寒いし、帰るの面倒だなあ……」
律「なー、もう今日はここに泊まらね〜?」
梓「私もそれ考えてました」
紬「じゃあ歯ブラシと寝袋キット用意するわね」
澪「あ、私はストーブ持ってくるよ」
律「澪〜、なんか適当に漫画な〜」
澪「はいはいっ……」
唯「りっちゃん、明日はお休みだから夜更かししようね〜」
りっちゃん「おう! 望むところだ唯!」
梓「今夜は遊び呆けましょう!!」
唯「よーし テンション上げてくよ〜↑」
………
………
………
澪「……じゃ、電気消すぞ」
唯「んー……」 律「ぁぁ……」 梓「ふぁーい……」
紬「みんなクタクタね」
――パチン
澪「さ……寝よっか」
紬「ええ」
澪「………っと」ごろん
紬「……」
澪「今日は楽しかったなぁ」
紬「そうねぇ……」
澪「明日はどうしようか?」
紬「山にスキーでもしに行かない?」
澪「スキーか! いいな!!」
律「澪うるへ〜……」
澪「あ、ごめん」
紬「うちの貸切ゲレンデがあるから、そこに行きましょう♪」
澪「楽しみだなあ……眠れないよ」
………
………
………
………翌朝
紬「今日はみんなでスキーに行きましょう♪」
唯「やったー! スキーだ!」
梓「冬ならではですね!」
律「おーし早速出発だ!」
澪「今日も楽しい一日になりそうだなあ」
………
………
………
………平沢家
憂「お姉ちゃん……なんで帰ってこないの……? うぅっ……」
――おしまい
-
仲のいい 賑やかな軽音部が書きたかったのです。
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