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恭子「Good Morning to All」咲」「Startline」
-
恭子「星座占いねぇ……」
こんなん誰にでも当てはまるように言っとるだけやろ
……へぇー相性とかあるんや?
恭子「咲ってなに座やっけ?」
咲「さそり座です」
恭子「さそり座かぁ」
獅子座との相性は……まあ悪くはないって感じやな
いや、そんなに信じとる訳ちゃうけどな
-
ん?さそり座?
え?……ちょっと待って
恭子「咲って誕生日いつ?」
咲「……10月27日ですけど」
恭子「はぁ!?もう過ぎとるやん!」
咲「そう、ですね」
恭子「なんで言ってくれへんの?」
咲「いや、だって自分から言ったら祝ってくれって催促してるみたいじゃないですか」
恭子「そうやけど、それは別にいいやろ!」
咲「はぁ」
-
恭子「誕生日くらいなんか欲しいモン催促したったらええやん!」
咲「そうなんですか?」
恭子「当然の権利や!」
咲「権利!?」
恭子「なんで言ってくれへんの!?」
咲「そんなに怒られることなんですか?」
恭子「当たり前や!」
咲「ご、ごめんなさい」
恭子「なんで言ってくれへんの……」
-
咲「いや、だから……言う機会がなかった無かったというか、言いづらかったというか」
恭子「うちが聞けばよかったん?聞かれなきゃ言うつもりなかったってこと?」
咲「なんで末原さんが怒ってるんですか」
恭子「祝えんかったからや!言ってくれんかったからや!」
咲「それはすいません!でもちょっと落ち着いてください。変なスイッチ入っちゃってませんか」
「……」
-
恭子「……やっぱお茶は美味いな」
咲「そうですね」
恭子「落ち着いてもうちの意見は変わらへんぞ」
咲「……ですよね」
恭子「咲のその控えめっていうか遠慮深い所は美徳やと思う。でも主張することが悪って訳じゃないんやで」
咲「それは分かってるんですけど、なんか気恥ずかしくって」
恭子「誕生日が恥ずかしいってどういうこと!?」
咲「いやうまく言えないんですけど、自分から言うのはなんか違うかなって……」
恭子「誕生日を祝われるのは嫌じゃないんやろ?」
-
咲「ええ。祝ってもらいましたよ。部活の仲間や友人に」
恭子「へー……そう」
咲「いや違いますよ!末原さんに祝われたくなかった訳じゃないですよ」
恭子「それは分かっとるけどなんか釈然とせーへん」
咲「祝われたら祝われたで嬉しいし、お呼ばれされたら楽しみますけど、祝われなくても呼ばれなくても別にいいかなって」
なんか言いくるめられとる気がすんなぁ
恭子「咲は記念日とかイベントとか気にせんタイプか」
咲「そうですね。あんまり……」
恭子「付き合った日とか」
咲「夏ですよね。インターハイだから8月の……えーと」
マジか……そんなもんなんか……
-
恭子「え、じゃあクリスマスとかは?正月は?バレンタインは?節分、ひな祭り」
咲「私は別に俗世間から離れた生活をしてるわけじゃないですからね」
恭子「じゃあするんやな」
咲「するんじゃないですか?」
恭子「な!」
咲「しますします。なんですかもう」
恭子「だってクリスマスとかしたいやん」
咲「末原さんは自分が受験生だってもっと自覚した方がいいんじゃないですか」
恭子「勉強はちゃんとしとるって!息抜きや息抜き!」
-
咲「ちなみに末原さんの誕生日はいつなんですか」
恭子「8月9日」
咲「過ぎてるじゃないですか!」
恭子「それは付き合う前の話やんか会話もしてなかった頃やろ」
咲「えー」
――――――
――――
――
-
もう始まってる!
-
恭子「ってな感じで」
洋榎「なんやまた宮永の話かい」
洋榎「恭子は受験生やってこと自覚した方がええで」
恭子「それはもう言われたわ」
洋榎「あ、ほんま」
恭子「うちがおかしいんか?」
由子「なんの話ー?」
洋榎「いや恭子がな……」斯々然々
-
由子「また宮永さん?恭子は受験生だってこと」
恭子「それはもうええっちゅうねん!」
由子「!?」
洋榎「あ〜その突っ込みされんの三度目らしいで。うちもした」
由子「みんな考える事は同じってことやねー」
恭子「みんな記念日とかイベント事とかしたいと思わへんの?」
-
洋榎「誕生日とかクリスマスとかはしたいけど記念日は別にやな。せんならせんでええけど」
由子「記念日も覚えててほしいかな。何もしなくてもいいけど、そういえば今日は○○の日だねって言ってくれるだけで」
恭子「ほー」
洋榎「ここにいる三人ですら意見が分かれるんや。誰がおかしいとか普通って話とちゃうやろ」
由子「そうやねー」
恭子「そうなんか?うちがこだわりすぎとっただけってこと?」
由子「でも誕生日過ぎても教えられてなかったってのは……」
洋榎「うーん」
-
恭子「え、ヤバいんかな?」
洋榎「ちょっと判断に困るな」
恭子「……」
由子「言いづらかったってのはちょっとわかるのよー」
洋榎「そうか?普通に言えばええやん」
恭子「洋榎はそうやろな」
由子「同じことでも洋榎が言うのと宮永さんが言うのは違うでしょ」
洋榎「キャラが?なんや今度はうちが貶される流れか?」
-
恭子「あんたやったら強引に話の流れを持っていけるってことやろ」
由子「そうそう。大抵のことは『洋榎やから』ですむやん?」
洋榎「うちをなんやと思っとるんや」
恭子「台風とか災害の類いやな」
由子「うちらにはどうしようもないのよー」
洋榎「ほー二人とも覚悟はできとるんやろな?今日は久しぶりに三麻でもするか?」
恭子「いや、ほら、うちら受験生やし……」
洋榎「どの口が言うとるんや!」
-
由子「まぁまぁ。不安だったらもっと広く意見を集めるってのも手かも」
恭子「いや、あんまり広める話とちゃうし、咲もいい気はせんやろ」
由子「宮永さんの名前は出さなくても一般論として聞いちゃえばいいのよー」
洋榎「咲、ねぇ」
恭子「いや、うん。宮永」
洋榎「別にええやろ。いつも呼んでる呼び方で。うちも咲って呼ぼかな?宮永はもう一人おるし」
恭子「……ええんちゃう?咲が許すなら」
洋榎「え?宮永の審査があるん?恭子は許可とったん?」
恭子「うちはなんとか許しを得たで」
押し通しただけやけど
-
洋榎「マジか。強いな宮永」
由子「恭子が尻に敷かれてるだけなんじゃ……」
洋榎「なめられとるな」
恭子「舐めるのはうちやけどな」
由子「恭子……」
洋榎「……ドン引きやで」
恭子「ええ!?いや冗談やんけ」
洋榎「突然ぶっこまれても突っ込みきれんわ」
――――――
――――
――
-
咲「って訳で……」
和「ええ!?言ってなかったんですか!?」
咲「うん。……怒らせちゃったみたい」
和「それは……そうでしょうね」
咲「なんか言いづらくて。私おかしいのかな?」
和「おかしいかどうかは私には何とも」
和「でも咲さんが末原さんのことを考えてなかったと言われてもしょうがない話ですよ」
咲「え、そうなの?」
-
和「誕生日を祝って貰いたい人もいれば祝ってあげたい人もいるんです。勿論、祝われたくない人もいるでしょう」
咲「うん」
和「でも祝わなかったと祝えなかったは違います」
和「祝わないでほしかったにしても、そもそも知らされて無かったなんて悲しいでしょう」
咲「いや、祝ってほしくなかった訳じゃないんだよ」
咲「やってくれるなら嬉しいし、やらなくても別にいいかなって」
和「それを誕生日の前に言えって話ですよ!」
-
咲「うう、ごめんなさい」
和「……すみません。私が怒る話ではなかったです。咲さんが私に謝る話でもないです」
和「まぁ、そこら辺のことも含めて末原さんとちゃんと話した方がいいですよ」
咲「うん。頑張る」
――――――
――――
――
-
咲「………って訳で、付き合った日付は覚えてませんが末原さんがくれた言葉は覚えてますよ」
咲「なんなら言いましょうか」
恭子「いや!いい。なんの辱めやねん」
咲「クリスマスに会うのも良いですが、無理して会うならいっそ日付をずらしてもいいと思うんです」
恭子「クリスマスが大事なんやなくて会う日が大事ってことか」
咲「そんな感じです」
恭子「でも誕生日はずらせんやろ。会うのは無理でもおめでとうくらいは言いたかったで」
咲「それはすみませんでした。自分のことしか考えてなかったです」
-
恭子「まぁええわ。別に誕生日やなくても思ってるし、伝えられるしな」
咲「?」
恭子「咲が生まれてきてくれて感謝しとるっちゅーこっちゃ」
咲「なんでそっぽ向くんですか?」
恭子「別に」
咲「こっち向いて下さいよ。照れてるんですか?」
恭子「やめろー!のしかかるな!」
咲「段々重くなりますよ」
恭子「子泣き爺か!」
-
咲「……私も感謝してます。掬い上げてくれたこと」
恭子「なにが?金魚の話?」
咲「……末原さん夏祭りで沢山すくってましたね」
恭子「お祭りのにしてはポイが厚かったからな。あれ5号やったんちゃうかな」
咲「ポイの厚さを気にするって……さすがですね」
恭子「それはいいけど、そろそろ降りろや。背中が重い」
咲「いいじゃないですか。あったかいでしょ?」
恭子「あったかいのはいいけど10対0でうちに負担かかっとるやんけ」
咲「これ割とバランスとるの難しいんですよ」
恭子「知らんがな」
-
咲「おっと危ない」
恭子「首が締まるって!はよ降りろ!」
咲「分かりました。もう末原さんにはくっ付きません」
恭子「ちょっ、拗ねるなや」
咲「拗ねてないです」
私はホントに末原さんにおんぶに抱っこだな
ちゃんとしなきゃって、伝えなきゃって思うんだけど、うまく口が回らない
自分の事なのにね。自分の事だから、か
-
あのときちゃんと変わろうと思っていたのに。私はまだ進めずにいる
末原さんはいつまで待ってくれるだろう
優しい末原さんに甘えてはいけない。私の足で歩きださなければ
恭子「咲?」
咲「……え?すみません。聞いてなかったです。なんですか?」
恭子「いや、なんも言ってないけど。またなんかいらん事考えとるんちゃうか?」
咲「そんなことは……」
恭子「ふーん。ま、ええけど……」
恭子「……来年はちゃんと祝うからな」
了
-
短いですが。
某所で投下してた奴の続き物っぽいですが読んでなくても大丈夫なはずです
やろな.ぁ
やん.け
ってNGなんですね……
-
おつ
-
乙
このシリーズのぎこちないコミュニケーション好きだよ
-
もうちょっとだけ
由子「さっきちょっと分かるって言ったのはね」
恭子「うん?」
由子「私も言えなかったことがあるのよー」
恭子「何を?」
由子「子供の頃にね。転んで足を擦りむいたとき、洋榎が絆創膏くれたのよー」
恭子「洋榎が絆創膏持ってたん!?」
由子「ふふ、親が心配して持たせてたらしいわ。洋榎は使ってなかったみたいだけど」
恭子「やっぱりか」
-
由子「そのとき私はお礼も言えなかった」
由子「洋榎の名前も知らなかった頃で、翌日探してお礼を言おうと思ったの」
由子「探して、見つけて。でも言えなかった」
由子「何故か、言えなかったのよ……」
恭子「……」
由子「日が経つにつれ、どんどん言いづらくなって……分かる?」
恭子「すまん。分からん」
由子「そうよね」
-
恭子「そんなん洋榎は気にしてないんちゃうか?」
由子「多分、覚えてないと思うわ」
由子「ただ言えなかったって事実だけが、私に積もっていって」
由子「こんなことがある度こんな思いをしそうで、自分が嫌になる……」
恭子「由子……」
由子「やだ、ごめんね。こんな話されても困るわよね」
恭子「いや、今からでも遅くないんちゃうか」
由子「え」
-
恭子「十数年越しにお礼を言って、その積もったもんを振り落とそう」
由子「そんないまさら」
恭子「感謝の気持ちを伝えるのに今更もなんもないって」
恭子「洋榎もお礼言われて嫌な気持ちにはならんやろ」
それに由子の為にも言ったほうがいい
恭子「いってき、な」
由子「……うん」
おしまい
-
スレタイのStartlineは寿美菜子さんの曲をお借りしました
多分に影響されてます
My strideは名曲揃いですね(ダイマ)
-
今さらだけど次からはスレタイにSSって着けた方がいいかも
-
>>33
配慮に欠けていました。申し訳ないです
以後気を付けます
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こ↓こ↑だと投下中にスレが落とされるかもしれないからそのためにもつけといた方が安心って意味です
申し訳ない
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ふと見つけたスレでいいSSが読めて良かったです(小並感)
ゆーこちゃんがあんまりのよのよ言わないのが再現度高くていいですね
-
>>35
なるほど。それはAILEくんのお眼鏡にかなわなかったってことで諦めますが
でもつけていた方がいいですよね
ありがとうございます
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>>37
AILE君が全部中身まで見てるとは限らないだろうからそういう意味でもって事じゃないですかね
-
何故こんなところ(暴言)に投下しようと思ったのか
-
夏祭りの描写って前にありましたっけ?
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冷静なつもりだけど恋人のこととなるとやや重原さんいいゾ〜これ
のどっち含めて周りみんな真っ当なのも素敵だと思います
-
>>40
ないですね
-
咲「末原さん」恭子「恭子!!」
-
恭子「で?咲はいつになったらうちのこと名前で呼んでくれるん?」
咲「え?その話まだ生きてたんですか?」
恭子「当たり前やろ。何度でも蘇るさ」
咲「ラピュタ……?」
恭子「人類の夢だからだ!」
咲「……」
-
恭子「……」
咲「……」
恭子「……なに?うちが悪いん?」
咲「別に何も言ってないじゃないですか」
恭子「いや、なんか言ってくれよ……」
-
恭子「まぁええわ。じゃあ呼んで。あ、うちの名前知っとる?」
咲「別にいいじゃないで……え?知ってますよ!何言ってるんですか!」
恭子「咲の事やから忘れとるんとちゃうかなって」
咲「そんなわけないでしょ!」
恭子「じゃあええな。はい、どーぞ」
咲「私の中で末原さんは末原さんなんですよ。だから」
恭子「そんなんええから。はよはよ」
咲「……恭子、さん。はい、呼びました。もういいでしょ」
恭子「えぇ〜」
-
恭子「あと敬語、っていうか丁寧語じゃなくてもええで」
咲「いや、さすがにそれは……親しき仲にも礼儀ありって言うじゃないですか」
恭子「衣食足りて礼節を知るとも言うやろ」
咲「?」
恭子「お互い服着てない時に礼儀だなんだ言ったって滑稽なだけや」
咲「微妙に意味が違うんじゃ……というか脱がしたのは誰ですか、もう」
-
恭子「うん?咲が自分で脱いだんやろ?」
咲「だって末原さんが」
恭子「うちが?」
咲「……焦らすから」
恭子「つまりうちがじっくりやっとったから我慢できなくなったんか」
咲「な……!」
恭子「咲はえっちな子やな〜」
咲「ちがっ」
恭子「何が違うん?」
咲「なにもかも違います!」
-
恭子「めっちゃやらしい顔しとったやん」
咲「そんなことないです」
恭子「ほんまに〜?照れんでええって。カワイイなぁ咲は」
咲「……るさい」
恭子「え?」
咲「うるさい!」
恭子「ちょっ、咲?」
-
咲「すえ……恭子さんの気持ちはよーく分かりました」
恭子「ちょー待っ」
咲「受けて立ちますよ」
恭子「だからっ……んっ……」
――――――
――――
――
-
咲「恭子さんはカワイイですね」
恭子「うちの純潔が……」
咲「そんなのもうすでになかったでしょ」
恭子「あるわ!めちゃくちゃあるっちゅーねん!」
恭子「5、6個あるわ!」
咲「じゃあ一個なくなっても大丈夫ですね」
-
恭子「いやいや、割合の話しとちゃうねん。この一個はみんなの一個と同じやからね?」
咲「みんなって誰ですか」
恭子「……みんなはみんなやろ。道歩いとる姉ちゃんとかオバちゃんとか」
恭子「あとタマにもあるな!」
咲「タマって……猫じゃないですか」
恭子「猫にかてあるやろ〜」
咲「確かにないとは言えませんけど」
-
恭子「やろ!?それがなくなってん」
咲「へー」
恭子「由々しき事態やで」
咲「ほー」
恭子「あれ?咲もうこの話飽きとる?」
咲「まぁ正直……」
恭子「あ、ほんま……なんかごめんな」
咲「……末原さんに飽きたわけじゃないですから。だからその顔芸やめて下さいよ」
恭子「顔芸って……」
-
恭子「てかなんで呼び方戻っとんねん」
咲「そりゃ服を着たからでしょう。衣食足りて礼節を知るって言うでしょ」
恭子「微妙に意味ちゃうやろ……」
恭子「咲に名前呼ばすには服を脱がすかお腹空かせるしかないんか」
咲「私が末原さんの事を恭子さんって呼ぶのはお腹空いたって言ってるのと同義ってことですね」
咲「それちょっとおもしろいですね」
恭子「えぇ……全然面白くないわ。普段から呼んでくれ」
-
咲「普段から呼んでたらありがたみが無くなっちゃうでしょ」
恭子「名前で呼ばれることはありがたき幸せってやつか。どんだけ高飛車やねん」
恭子「ん?ちょっと待てよ?じゃあ咲がしたくなったら恭子って呼ぶんか?」
咲「……野暮なこと聞かないで下さいよ」
それは肯定ってことやな!
なんかそれイイな!
まぁ今後そんなことがあるか分からんけど……
了
-
乙
いつの間にかえらい進展してる!
-
この咲さんが末原さんのことを恭子さんと呼ぶなんて凄い進歩ですよね
末原さんはよく頑張ったと思います
-
本編での末咲はもう終わりなのだろうか
-
おつです
いっそ恭ちゃんでいいんじゃね
-
それは咲さんに京ちゃんと被るからって否定されちゃったんだよなぁ
というかこの話はそこから始まったんじゃなかったっけ?
-
どうでもいいけど末原先輩のイニシャルのSKてって咲さんの名前から母音を抜いた形になりますね
-
SK姉貴オッスオッス!
-
いいぞ〜これ
-
肌寒くなり一枚羽織るものが欲しくなるような日
私は彼の地に来ていた。勿論咲に会うために
-
恭子「ここから少し行ったとこにちょっと有名なランチ出す店あるらしいんやけど」
咲「わざわざこっちのお店調べたんですか?」
恭子「まぁな。で、ちょっと行ってみたいな〜って」
咲「いいですよ。どこにあるんですか?」
恭子「え?いいの?」
咲「はい」
-
恭子「時間帯によっては並ばなあかんかもしれんで?」
咲「いいんじゃないですか」
恭子「ええ!?」
咲「……さっきからなんですか」
あからさまに不機嫌になったのを隠さずに答える咲にたじろぎながら
恭子「いや、並ぶのとか苦手やなかったっけ?」
と返すと
咲「あまり好きじゃないですけど」
……咲が『好きじゃない』って言う時は『嫌い』ってことやと解釈してんやけどなぁ
-
咲「末原さんがその間面白い小噺してくれるなら」
恭子「小噺!?ちょっとハードル高ない?」
咲「……まぁ普段一人じゃ並ばないですけど、誰かと一緒なら大丈夫ですよ」
恭子「そら一人じゃちょっとハードル高いな」
咲「私はそこまで付き合い悪いわけじゃないですよ」
――――
―――
――
-
恭子「お、ここやな。ってやっぱり並んどるな……」
恭子「どうする?」
肩越しに見ると
咲「いいですよ?別に」
と首をかしげながら答える。可愛い
まぁそれはいいとして咲の気が変わらん内に早く並ぼう
恭子「じゃあここで小噺をひとつ」
咲「それはいらないです」
恭子「……そう」
-
天井が高く開放感のある店内に何やらオシャレなジャズ?のBGM
当たり前やけど大事な清潔感もある。ええな
でもメニュー名長すぎやろ。過剰装飾やないか?
咲「うわぁ、どれも美味しそうですね」
確かに写真は美味そう、かな
それより咲の目が輝いとる……こういうところ大丈夫なんやな
こっち来たときは何だかんだ咲が作ってくれとったから知らんかった
恭子「なんでもええで。ここはうちが出すから」
咲「いや、それは……」
恭子「ええから」
-
咲「でも、末原さんよくこっちに来てくれますし、交通費とか」
恭子「うちはブルジョアやからな」
咲「ブルジョアって……そんな単語久しぶりに聞きましたよ」
恭子「じゃあセレブ?ロハス?」
咲「ロハスは違うでしょ」
恭子「なんでもええから。ちょっとはうちの顔を立てろや」
咲「?」
恭子「そんなん心配せんでええってことや」
咲「……」
-
尚もご不満な顔をしている咲に棚上げを提案する
恭子「……まぁ取りあえず頼もう。話はそれからでええやん」
咲「そうですね」
恭子「……決まった?」
咲「う〜ん……」
-
恭子「なんやったら二つ頼んでシェアするか?」
咲「いやそれは私の主義に反しますから」
そんなもんに主義なんてあんのか
恭子「ん?前うちに来たときやってなかった?」
咲「いや、たこ焼きとかお好み焼きとかは取り分けるの前提じゃないですか」
恭子「ああ、それもそうやな」
――――
―――
――
-
咲「美味しい!……美味しいです」
恭子「そっか。良かった」
なんやこれ、めっちゃ可愛いやん
咲「これなんだろ?何使ってるのかな?」
なんて呟いて目を細めている
そういえば大阪でもお昼ではしゃいどったな。洋榎と
……なんで洋榎とやねん。うちとはしゃげや!
-
恭子「咲はこういうとこ好きなんやな」
咲「美味しいものが嫌いな人はいないと思いますけど」
恭子「そらそうやけど」
なんだか騒がしいとか小じゃれてますねとか気取ってるとか言い出しそうやったから
咲「なんですか?」
恭子「いや、なんでもない」
――――
―――
――
-
咲「ふぅ。ごちうさまでした」
恭子「幸せそうな顔やな」
口元が緩んでいる……っていうかゆるっゆるやな
咲「え」
あ、戻ってしまった。いけない。言葉には気を付けないと
恭子「ごちそうさま。美味かったな」
咲「そうですね。自分で作るとこうはいきませんからね」
恭子「何が違うんやろな」
咲「素材から調理器具、腕、全て違うでしょうけどね」
恭子「それを言っちゃお終いやろ」
-
食事を終えて一息つくと少し甘いものが欲しくなる
恭子「なんか甘いモン食べたくない?」
咲「甘いもの、ですか」
恭子「ここで食べてもいいけど、せっかくやし咲のおススメの店とかないん?」
咲「う〜ん。この近くなら……」
心当たりがあるみたいやな
恭子「そこ行こう!」
-
さっと伝票を持って席を立つ、と
咲「ちょっと」
その手を制された
まだ咲は納得していないらしい
恭子「……じゃあここはうちが出すから、そっちは咲が出してくれ」
恭子「それでいいやろ?」
咲「……分かりました」
恭子「よし!」
-
店を出てから
咲「あれ?こっちだっけ?」
恭子「こっち?」
咲「多分こっちだと思います」
恭子「じゃ行こう」
というやり取りを三度ほど繰り返した後
恭子「……咲、店の名前分かっとるんか?」
咲「ええ、確か――」
――――
―――
――
-
恭子「最初からこうすればよかったんや」
咲「スマホって便利なんですね」
恭子「まぁな。でもそれもちゃんと地図を見れなきゃ意味ないけどな」
咲「……すみません」
恭子「いやうちがアホやっただけやから」
そう。咲に道案内を頼む方が悪い
-
咲「そんな……」
恭子「別に怒ってないって」
咲「でも呆れてるでしょ」
恭子「そんなことないから、な。食後の良い運動になったやろ」
ここでヘコまれても困る
恭子「それよりここやろ?咲のおススメの店。入ろう!」
咲「あ、はい」
-
少し重そうな扉に手を掛ける……思いのほか軽く
甘い香りとすらりとした女性が落ち着いた声色で迎え入れてくれた
恭子「何かいい雰囲気の店やな」
カフェ……いや洋菓子店と言った方が適当だろうか
そんな空気に何故か声を落として話しかけてしまう
咲「はい。以前連れてきてもらって、気に入っちゃたんです」
こちらも何故かモスキート
この雰囲気を壊したくないからやろな
-
咲「お菓子も美味しいんですよ」
恭子「そら楽しみやな。因みに誰に連れてきてもらったん?」
咲「え……っと、友達です」
言い淀んだらあかんやろ。邪推したくなる
恭子「ふーん。あ、飲み物も結構種類あるんやな」
咲「そうですね。こっちにもこだわってるみたいですよ」
あからさまにホッとした顔しちゃってまあ
うちはそんなに心狭くないっての
恭子「へー。相性とかあるんやろか」
咲「好みの問題だとは思いますけど……」
-
出てきた物は確かに美味かった
甘さ控えめもいいけど、しっかり甘くてしっとりしているのもええな
と顔をあげると……うっとり?恍惚?陶然?
なんやろ、どう形容していいかわからんけど、とにかく見たことない表情をした咲が目に入る
ヤバいな、これ
ここが店じゃなかったら……いや、店だからこそヤバいのか?
-
咲「やっぱり美味しい……」
そう呟いた咲の唇に付いたバターを舐めとりたくなる衝動を抑えながら
恭子「ほんま美味いな」
なんて微笑みかける
……ってこっち見ろや!
……今はこの甘味を味わう時間か
うちもこの光景を味わっとこう。目の保養や
-
後で体重計に乗るのが怖いな。と言うような趣旨の話をすると
「食べるときにそんなこと気にしちゃいけませんよ」
「美味しいものっていうのはカロリーが高いものです」
なんてどこぞのデブキャラかと突っ込みたくなるような言葉が返ってきた
恭子「……それもそうか」
恭子「紅茶もストレートでいいな。なんやったっけ?」
咲「ダージリンですね」
-
恭子「咲のは?」
咲「アッサムです。これはストレートですけど、よくミルクティーに使われてるらしいですよ」
恭子「へー……やっぱ違うんやなぁ」
咲「世界三大紅茶ってのがあって、ダージリン・ウバ・キーマンらしいです」
恭子「ほー……なんか聞いたことある気もするな」
咲「ダージリンは春・夏・秋の三回摘まれて味や香りが違うらしいですよ」
恭子「ふーん。二期作みたいな感じ?」
咲「……」
恭子「あ、これも美味そうやなぁ」
咲「……」
恭子「え?なに?」
-
咲「世界三大紅茶といえばウバ・ダージリン、もう一つは?」
恭子「キーマンやろ?」
咲「……ちゃんと聞いてたんですね」
恭子「咲の言うことは何一つ聞き逃さんし」
咲「怖い事言わないで下さい」
恭子「え?怖い?なんで?」
咲「……」
-
恭子「……もういい時間やな」
名残惜しいけど、色々堪能したし満足やな
と伝票を持って行こうとすると
咲「……末原さん約束しましたよね」
覚えてたか。ここは逆らわんほうがいいな
恭子「分かってるって。ここは咲にお願いするから」
咲「はい」
-
咲が会計を済ましている間にお土産買っておこう
そして今度からお菓子のお土産持っていこう
そんなことを思いながら家路についた
了
-
乙
年上っぽく振る舞いたい末原先輩と溢れ出る咲さんの可愛さいいぞ〜これ〜
-
お、更新されてた
-
この咲さんは京ちゃんのお祝いしますって報告して末原先輩を悶絶させてそう
-
恭子「その『京ちゃん』ってどんなやつなんや」
咲「どんなって……あ、写真はありますよ」
恭子「えらいはしゃいどるな」
咲「この前の京ちゃんの誕生日会ですから」
恭子「はっ!?ええ?」
咲「いや、違いますよ。部活のみんなが企画して催したんですよ」
恭子「いやでも……え〜?」
咲「プレゼントも何あげたらいいか迷ったんですけど、喜んでもらえたんで良かったです」
恭子「……そう。良かったな」
-
恭子「ってか高身長イケメンやんか!」
咲「イケメンかどうかは知らないですけど、高身長ではありますね」
恭子「背が高いと顔も良く見えるやろ」
咲「そうですかね?」
恭子「で?どんな奴なんや」
咲「えらく食いつきますね」
-
恭子「だって……」
咲「だって?」
仲良さそうやん……
恭子「うちから『きょうちゃん』の称号を奪ったやつやからな」
咲「最初からそんな称号持ってなかったでしょ」
-
咲「……まぁ、いい人ではあると思いますよ」
恭子「曖昧やな」
咲「調子のいい人、都合のいい人、人がいい人、色々ですかね」
恭子「ひどい言われようやな。同情するわ」
咲がそこまで言える奴ってことでもあるんやろうけど
咲「感謝はしてますよ。京ちゃんが麻雀部に誘ってくれなかったら入部してなかったでしょうし」
恭子「えっ!そうなん!?」
-
咲「高校で部活は入らないつもりでしたから」
恭子「マジか。じゃあうちも感謝せなあかんな」
咲「何故?」
『京ちゃん』が麻雀部に誘わんかったら咲に会えんかったってことやろ?
恭子「写真拝んどこ」
咲「えぇ……」
了
-
ちょろ原先輩すこ
-
本編で動きがあったのに特に動きがないとな
-
恭子「うわっ!なんやこれ足長!キモッ!」
咲「何を騒いでるんですか。ただの虫でしょ」
恭子「虫!?宇宙生命体やん!どっから飛来したんやコイツ!」
咲「飛来するのなら怖いですね」
恭子「うわっこっちくんな!あっちいけ!」
咲「……」ポイッ
恭子「逞しいな……」
-
咲「危険はないですし、もし触っちゃっても手を洗えばいいだけでしょ」
恭子「無理!impossible!」
咲「そういえばこの虫、英語で足長おじさんともいうらしいですよ」
恭子「このキモイのが!?どこが!?」
咲「そりゃ足が長いからでしょう」
-
◆◇◆◇
恭子「うわっ!さきー!さきー!」
咲「またですか。虫が出たくらいで一々私を呼ばないで下さいよ」
恭子「Gや!Gが出た!なんとかしてくれ!」
咲「私もGは無理ですよ!殺虫スプレーかハエ叩き何とかしてください!」
恭子「あかんって!無理やって!」
-
咲「この前は私がやったんですから!ね!」
恭子「いややー!」
咲「末原さん……お願いします」
恭子「――っ!しゃーない……!」
―――――――
――――
――
-
恭子「厳しい戦いやったな……」
咲「流石です末原先輩!カッコイイ!」
恭子「調子いいやっちゃな」
咲「いやー末原さんは頼りになりますね」
恭子「まったく……あっ!虫のいいやっちゃな!」
咲「虫だけに、ですか。思いついたことをそのまま口に出さないで下さい」
恭子「え?駄目やった?」
咲「駄目ですね」
-
恭子「それは咲の虫の居所が悪いだけちゃう?」
咲「……そういうの、虫が好かないですね」
恭子「虫も殺さない顔して過激やなぁ」
咲「あーもう。ダメダメ!止めましょう」
恭子「もうちょっと行けたんちゃう?」
咲「最初から無理がありましたよ。私が乗っちゃったのがいけなかったんですね」
-
◆◇◆◇
恭子「咲はあの宇宙生命体はよくてGはあかんのか」
咲「Gは誰だって無理でしょう」
恭子「蜘蛛は平気やったよな?」
咲「イエグモなら……」
恭子「Gも蜘蛛も同じやろ」
咲「全然違いますよ!Gは害虫じゃないですか」
恭子「蜘蛛だって不快害虫やろ!」
-
咲「じゃあ蜘蛛は私から帰るように言ってておきますからGの処理はお願いします」
恭子「ええ?それはそれで違うんじゃ?」
咲「じゃあ蜘蛛もお願いしますね」
恭子「」
咲「苦虫を噛みつぶしたような顔ですね」
恭子「……それが言いたかったん?」
了
-
ちなみに虫の名前はザトウムシ
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-
乙
言葉遊び好きねぇ
-
咲「どうしたんですか、マスクなんかしちゃって。風邪でもひいたんですか?」
恭子「いや、ちょっと口内炎ができてな。それでマスクしてんねん」
咲「なに女子みたいなこと言ってるんですか」
恭子「女子やけど!?」
-
咲「でもマスクをするのは良いみたいですよ。寝るときとかにもつけてた方がいいとか」
恭子「へぇ〜なんで?」
咲「乾燥して雑菌が増えるのを防ぐとか聞きましたよ」
恭子「ほー。やっぱ口の中って雑菌多いんやな」
咲「……末原さん本当に口内炎ですか?」
恭子「なんで?」
-
咲「普通に喋ってるから」
恭子「え?あっいや、喋るのは出来るんやけどな?やっぱ違和感なるな〜」
咲「そのマスク取ってみて下さいよ」
恭子「見せるもんちゃうから……」
咲「まぁ無理にとは言いませんけど」
恭子「……」
――――――
――――
――
-
咲「末原さん、お茶飲みます?」
恭子「あ、うん」
咲「……末原さんって色々と迂闊ですよね」
恭子「へ?」
咲「マスク……」
恭子「あっ!」
咲「もう遅いですよ。でもただのできもの?じゃないですか。なにをそんなに」
恭子「ぱっと出てこなくてな。そうやな、口内炎じゃなかったわ」
-
咲「……甘いものでも食べ過ぎたんですか?」
恭子「いや、これはちゃうねん。最近ちょっと不摂生でな」
これは……?
咲「そうですか。気を付けてくださいね」
恭子「うん」
咲「じゃあこっちのお腹は?随分抱き心地が良くなりましたね」
恭子「そんなに変わってないやろ。ないよな?」
咲「まぁ寒いとなかなか家から出ないしですしね」
恭子「そうそう!運動もしないのに食べ過ぎたりな」
-
咲「それでこんなになっちゃったんですか」
恭子「そんなにひどくないやろ」
咲「あ、もともとでしたね」
恭子「突っかかるなぁ」
咲「いやぁ末原さんをこんなにした犯人は何だろうと思いまして」
恭子「家でゴロゴロしてただけや」
咲「暴飲暴食でもしたのかと思いましたよ」
恭子「そんなに食べてへんって。全然減らんけど一応食べな悪いしなぁ」
食べな悪い……?
-
咲「貰っちゃったから?」
恭子「うん。あっいや」
咲「何貰ったんですか?」
恭子「……お菓子?」
なぜ疑問形?
咲「この時期だと、バレンタインって奴ですか」
恭子「……」
無言は肯定と取られる。いつか末原さんが言った言葉だ
-
咲「貰って食べちゃったんですね?嬉しいから、申し訳ないから、勿体ないから」
気持ちが、くれた人に、食べ物が
恭子「いや……そういうアレじゃないんや。義理、そう、まさに義理で貰ってな」
恭子「義理で頂くものを貰わんのは不義理やろ?食べなあかんやろ?な?」
咲「……ふふっ」
恭子「ん?」
咲「いや、すいません。ちょっと面白くなっちゃって」
恭子「なんで!?」
咲「だって、動揺しすぎです」
恭子「ええ?」
-
咲「私は別に末原さんが友チョコ貰おうが義理チョコ貰おうが本命チョコ貰おうが自己チョコ買おうが気にしないですよ」
私だって貰ったしね
咲「私が引っかかってるのは何故そんなどうでもいい嘘を吐いたのかってことです」
やましいことがあるときって
吐かなくてもいい嘘を吐いちゃうんですよね
恭子「嘘っていうか……」
咲「嘘じゃないですね。より正確に言えば、なぜ隠そうとしたのかってことです」
素直に肌荒れだと言えば終わっていた話なのに
何故すぐばれる嘘を吐くのか
嘘は暴きたくなる。隠されているものは見つけたくなるものだ
-
恭子「隠そうとしたわけではないんやけどな?その、ほら、な」
末原さんはなにやらテンパってるし
もう仕方ない
咲「……ごめんなさい。ちょっと嫉妬しちゃったんです。末原さんがモテるから」
恭子「いやモテへんわ!」
咲「何個くらい貰ったんですか?」
恭子「えーっと……」
咲「数え切れないほど貰ってるじゃないですか」
-
恭子「いやいや、後輩がな?うちの部は人数だけは多いから。形式的にって感じで」
咲「へぇ、後輩さんたちも大変ですね」
恭子「気を遣わんでもいいって言ったんやけどなぁ」
気を遣ったわけじゃないと思うけど
慕われてるんだろう
恭子「だから別にそんなんじゃないからな」
咲「じゃあなんで隠そうとしたんですか」
恭子「……」
-
咲「責めてるわけじゃないですよ。純粋な疑問です」
感じなくてもいい後ろめたさを感じているということは
断り切れなくて貰っちゃったんだろう。少なくとも形式的ではないものを
咲「……隠し事も別にいいんですけどね。誰にだって言いたくないことはあるでしょうから」
あえて言わなくてもいい事ってのは確かにあるし、なんとなく言いづらい事があるのも分かる
今回の案件はまさにそれだろう
咲「でも嘘を吐くなら最後までばれない嘘を吐いてくださいね」
恭子「嘘はついていいの?」
咲「その嘘も含めて私は末原さんを信じてますから、ね」
恭子「……う、うん」
いや、別に釘を刺したわけじゃないんだけどなぁ
日本語って難しいね
それにこんなことがある度にいちいち報告されてたら本当に嫉妬しそうだから
-
咲「嘘は吐かずに隠し通せれば一番いいですけどね」
恭子「難しすぎるやろ」
咲「最初の疑問を持たせなければいいんですよ」
恭子「それが難しいんやって」
咲「じゃあ何もしなければいいんですよ」
恭子「……せやな」
咲「頭を働かせるからいけないんです」
恭子「うちらが考えすぎてるだけのような気はするな」
咲「何も考えずにいきましょう」
恭子「ん」
――――――
――――
――
-
咲「末原さん」
恭子「んー?」
咲「……何でもないです」
恭子「ん」
何も考えず何もしない時間。一見無駄な時間だけど
末原さんと過ごすのならこれも幸せな時間だと言えるのかな
了
-
末原さん絶対後輩からモテモテなんだよなぁ・・・
-
乙
末原先輩は数もらいそうだけど咲さんは愛が重いの貰ってそうなんだよなあ
-
ホワイトデーはどうなるやら
-
――眠れない
仕方ない。ちょっとだけ歩こう
夜に出歩くなんてちょっと危険だけど
音が出ないようにそっとドアを開ける
――いってきます
ケータイもお財布も時計も、何も持たずに家を出る。ちょっとした冒険だ
-
世の中が便利になればなるほど何かに縛られていくようで窮屈になる
繋がるとはそういうことなんだろうけど、たまに煩わしく思う時もある
ラジオ、テレビ、ケータイ、パソコン……
世界は急速に広がっていくようでいて、実は目に見える範囲、感じられる範囲にしかないんだ
普段は感じないし考えないような些細なこと
朝になれば忘れているような下らないことだけど、こんな時くらいはいいだろう
-
――夜の底を歩く
見上げると月が明るく、周囲の雲が見える
朧月という奴だろうか
その大きな月に手を伸ばしてみる
……届くわけがないのは分かっているんだけどね
優しく照らすその光はいつも見守ってくれているようで
似ている、と思う。暖かいあの人に
もう少し寒いかと思っていたけれど
風は止み、空気もそこまで冷たくない
もう春はすぐそこまで来ているのかもしれない
-
寝静まった町に足音だけが響く
この世界に私だけしかいなくなったかのような錯覚を覚える
『ニャー』
……そんなことはありえないんだけど
「にゃー」
飼い猫だろうか。毛並みは良いし恰幅も良い
よく見ると首輪もしている。抜け出してきちゃったのかな?
「よしよし。ごめんね、今なにも持ってないんだ」
-
しばらくふわふわの毛を堪能していると
ひとしきり撫でられ満足したのか何かを察知したのか
身を翻して去っていく
「猫は自由で良いなぁ」
そんな私の言葉が聞こえたのか、足を止めこちらを振り返った
……猫もそんなに楽じゃないよってところかな
「ごめんね。キミも頑張ってるんだよね」
『なー』
「うん。またね」
今度こそ猫は夜の闇に紛れて消えて行った
-
気付くと雲は晴れ、月がその姿を現していた
雲の動きが速い。上空は風が強いみたいだ
私はもう少しこの月夜を楽しもう
-
一定間隔に置かれた街灯、街路樹、たまに現れる公衆電話ボックス
ちょっと雰囲気あっていいよね
あれ?あの街灯、電気が切れかかってる
そこまでの雰囲気は要らないんだけどなぁ
ポツンと佇んでいる自販機が唸りをあげている
こんなところに置いてあっても誰が買うんだろうか
-
いつもまにか月が傾き西の山へ落ちようとしている
――それでも月には届かない
猿猴捉月、か
「ふぁ……」
眠くなってきちゃった。もう帰ろう
-
◆◇◆◇
春。というには肌寒いがそれでも暖かくなってきた3月中旬
いつものように私は遊びに来ていた。今日の名目はホワイトデーだ
珍しいことに咲がデートに連れて行ってくれるらしい。勿論ホワイトデーだからだ
咲「今日は私に任せてくださいね!」
恭子「お、おう」
張り切っとるな
-
咲「まずは映画!」
恭子「映画?」
咲「デートと言えば映画でしょ!?」
そうか?
まぁ定番っちゃ定番……か?
-
……で、恋愛映画!?
いや、スプラッタ選ばれても困るけどな
うちはいいけど咲は……どうなんやろ?
咲「結構面白いらしいですよ」
恭子「へぇ楽しみやな。そんなハードル上げて大丈夫か?」
咲「つまらなかったらつまらなかったで逆に面白いでしょ」
恭子「一番困るのはネタにもならん奴やな」
-
映画はコメディタッチの三角関係ものだった
原作があるんやろか?
隣を盗み見る
おお、笑いもせんと見とるな。真剣に見てるのかギャグが合わんのか
まぁ咲はつまらんかったら寝るやろうし大丈夫そうやな
-
……こういうのってさりげなく手を繋いだりすんのか?
いや、でもなぁ。振り払われたりしたらヘコむしなぁ
ちょっと寄りかかってみるとか……
肩でガン!ってやられたらヘコむどころやないな
なんか集中して見てるみたいやしな
邪魔せんどこ!
別にへたれたわけとちゃうで!うん
-
……あれ?なんか口元ゆるくない?
真剣に見てるっていうよりボーとしてるように見えてきたぞ
ちゃんと見てる?別のこと考えてないか?
――――――
――――
――
-
恭子「なかなか面白かったな。ハッピーエンドやったし」
咲「そうですね。丁寧に作られてたと思います」
恭子「ちゃんと見てたんやな」
咲「それはこっちの台詞ですよ」
恭子「え?」
咲「そわそわして、こっち見たりあっちを見たり、気が散っちゃいましたよ」
うわ!ばれてた!なんかハズいな
-
恭子「いやほら、周りが気になってな。一度気になると中々、な」
咲「そうですか。退屈だったかなって……」
恭子「いやいや、そんなことないで。有意義な時間やった」
眼福やったな
咲「でもどうして主人公は彼女を――」
恭子「咲はヒロインよりライバルに――」
――――――
――――
――
-
咲「……あっ!」
恭子「え?なに?」
咲「もうこんな時間!お腹空きませんか?お昼ご飯食べましょう」
恭子「ん」
咲「じゃあ行きましょう!」
恭子「どこで食べるか決まってるん?」
咲「もちろんです。ちょっと話し過ぎちゃいましたね」
そうか?
そう言いながら咲はごそごそと何かを見ている
-
恭子「なに?その紙」
咲「あっ!ダメっ」
……タイムテーブル?
咲「返してください」
恭子「まあまあ」
咲「返して!」
ひったくるように取られる
……破れたらどないすんねん
ってか、もしかしてあのカンペ通りにやろうとしてんのか?
咲「末原さん?置いてっちゃいますよー」
恭子「あ、待ってくれよー」
-
連れてこられたのは知らなければ素通りしてしまいそうな外観の店だった
隠れ家的な店って奴か
その割には人が多い。繁盛しているのは結構だけれど
恭子「隠れ家を売りにして宣伝する事で隠れ家ではなくなるよなぁ」
咲「パラドックスですか?」
恭子「店側からするとジレンマやな」
-
咲「やっぱり美味しいですね!」
恭子「ん?ああ、そうやな」
あのカンペ、ショッピングとか観覧車とか書いてあった気がするな
一昔前の少女漫画か!?
なにを参考にしたんやろか……気になる
恭子「ほら、くちについてんで」
咲「ん、すみません」
なんていうか、ちょっとズレてるっていうか……
それにタイムテーブルはやり過ぎやろ
細かく書けば書くほどその通りいくはずがない
突っ込んだ方がいいかな?
……おもろいからいいか
――――――
――――
――
-
恭子「ごはん食べるとちょっと暑くなるな」
咲「今日は陽も差してますからね」
恭子「この時期は曇りやと肌寒くなるし服が難しいよなぁ」
咲「そうですねぇ……」
恭子「一枚羽織ればいいんやろうけど、暑くなると荷物になるしな」
咲「ですよね……」
まーた例の紙切れ見て……
これだけ頻繁に見られるとちょっとイジワルしてみたくなる
-
恭子「お、ゲーセンあるやん。ちょっと遊んでいこうや」
咲「え」
さぁどうする?
咲「でも……」
恭子「いいやん、ちょっとだけ。プリクラ取ろう!」
咲「ちょっと」
-
恭子「あ、ボーリングもある!」
咲「……もう、仕方ないですね」
お、いいんやな
咲「どうしたんですか?」
ちょっと強引やったかな?
恭子「いや、なんでもない。行こっ!」
――――――
――――
――
-
お店から出る頃には日が傾き始めていた
恭子「結構遊んだな」
咲「騒がしかったです」
恭子「そういうとこやしな。でも楽しかったやろ?」
咲「まぁ……」
恭子「この後どうする?」
カンペだと観覧車か?
-
咲「ちょっと落ち着いたとこ行きましょうか」
あれ?観覧車ってことは一昔前の少女漫画なら中で……
邪魔が入るのもお約束やけど、いまは誰もおらんし!
恭子「観覧車は?」
ちょっと怒ったような顔。まだ根に持ってたのか
カンペを勝手に見たのは悪かったけど
咲「……時間ないし、いいですよ」
恭子「ええ!?まだ行けるんちゃう?」
まさかかここに来てうちの悪戯心が裏目に……
-
恭子「……怒ってる?」
咲「怒ってないですよ」
恭子「ほんま?」
咲「ほんまです。それより私ちょっと末原さんと行きたいとこあるんです」
恭子「咲が?」
咲「はい」
恭子「うちと?」
咲「……はい」
-
恭子「じゃあそこ行こう」
咲「場所も聞かずに即決ですか」
恭子「変なとこじゃないんやろ?」
咲「そうですけど」
恭子「じゃあ心配いらんな」
それに誰が言い出したかも分からんデートの定番スポットよりも
咲がうちと……う・ち・と・行きたい場所やろ
-
咲「あ、それとこれ、一応……バレンタインのお返しです」
恭子「……このデートがお返しかと思ってた」
咲「デートはデートでしょ」
恭子「あ、そう?」
わざわざ咲が改まってデートなんて言い出したからそうなんかと
恭子「ちょっとだけ見ていい?」
咲「どうぞ」
恭子「……バレッタか」
咲「はい」
-
恭子「鼈甲とは中々渋いな」
咲「そうですか?色合いがいいなと思ったんですけど……」
恭子「いや、いいと思うで。気に入った」
クラシカルで
華美になりすぎず、かといってそこまで暗くもなりすぎない
そして可愛らしい花弁のワンポイント。咲らしい、と思う
というか咲がへアアクセくれるとは思わんかったな
ちょっとびっくりや
恭子「ありがとう」
今つけた方がいいんかな?
でもこんな往来でつけるのもな……
-
咲「どうしたんですか?行きましょ」
恭子「あ、うん。どこ行くん?もうすぐ日が落ちるで」
咲「そのほうが都合がいいです」
恭子「?」
咲「星を見に行きたいなと思って」
恭子「星か。なんかいいな」
咲「ちょっと歩きますけどいいですよね」
恭子「どのくらい?」
咲「20分くらいですかね」
-
そう言って咲が連れてきた場所は……
恭子「……山やん」
咲「丘、っていうか高台ですよ」
恭子「そんな名称の違いはどうでもいいんや
-
咲「冬のほうが空気が澄んでたり見える星が多かったりするらしいんですけど、寒いんで」
恭子「寒さが和らいだこの時期にってことか」
咲「まあそうですね」
恭子「妥協の産物やな」
咲「歩み寄りの結果です」
うちのせいってことか。確かに寒い時期は外出たくないって言ってたけど
-
登り始めて数十分
段々と先の背中が小さくなっていく
恭子「……ちょ、咲、待って」
先行していた咲が振り返る
咲「末原さん運動不足じゃないですか?」
恭子「いや、こんなん慣れてないし、キツイって」
舗装されてるとはいえほとんど獣道だ
-
咲「……そうですよね。ごめんなさい」
また小言を言われるかと思ったが意外にも素直な反応が返ってきた
私が追いつくのを待ってくれている
恭子「すまんな」
咲「いえ。ちょっと休憩しますか?」
渡してくれたペットボトルのお茶を口に含む
恭子「いや、大丈夫。行こう」
-
咲は私のペースに合わせてくれているようだ
――沈黙
喋るのは意外と体力を使う
気を遣ってくれているんだろう
聞こえてくるのは風が木々を揺らす音と二人の息遣い
それが心地いいと思い始めていた
――――――
――――
――
-
40分ほど歩いて山、いや丘の頂上、開けた場所に出る
恭子「登ってた時も思ってたけど全然人おらんな」
咲「何もないですからね。観光スポットでもないし地元の人も来ないでしょう」
言われてみればそうか
何もない丘に昼ならまだしも夕方に登る人はあまりいないだろう
-
咲「遮るものがないからいい眺めでしょう」
なんだろう
嬉しそうな、でもちょっとだけ恥ずかしそうな顔をして笑っている
恭子「ほんまやなぁ。星も近くに見える気がする」
群青の残る西の空はまだ今日を惜しんでいるかのように見える
そんな空に徐々に闇が降り、無数の光が瞬き始めて
今日から明日への準備を始めているようだった
-
咲「ここ、偶に来るんです。静かで、誰もいないから」
恭子「え?一人で?」
ちょっと危険じゃない?
そんな危惧が顔に出ていたのか
咲は繕うように答える
咲「夜じゃないですよ?日中です」
恭子「日中でもあかんやろ」
咲「?」
-
恭子「世の中には悪い奴がいるからな」
咲「そりゃいい人もわるい人もいるでしょうけど……」
分かってないなこりゃ
恭子「じゃあ迷ったりとか……」
咲「一本道で迷わないでしょう」
恭子「転んだりとか」
咲「……私は転ぶのには慣れてますからそんなにひどい事にはなりませんよ」
恭子「自慢できることじゃないな」
-
……夜にも来たことはあるんやろな
じゃないとここに夜空を見に来るって発想にならんやろうし
あんまりうるさく言ってもしゃーないか
恭子「まぁ気を付けるにこしたことはないからな」
咲「はーい」
-
ふたりで見上げる冬の終わりの空は暖かい星の光で彩られていた
恭子「凄いなぁ」
咲「星が落ちてくるみたいでしょ」
そうか。自分の秘密の宝箱を自慢する子供みたいな顔、だ
宝箱の中身は夜空の星たちってわけやな
恭子「落ちてきたら困るけどな」
咲「……」
恭子「いや、うん。綺麗やな」
-
咲「春の夜空はほかの季節より星は少ないけど、その分星が明るくて暖かい感じがするんですよ」
恭子「あ、それうちも思ってた!」
咲「そうですか?良かった」
恭子「咲の秘密の場所やったんやな」
咲「もう秘密じゃなくなりましたね」
恭子「非公開から一般公開されたんか」
咲「限定公開ですよ」
恭子「ふーん」
――――――
――――
――
-
恭子「お、ここから夜景も見えるやん」
咲「夜景というより住宅街ですけど」
恭子「でもあの明り一つ一つに人が暮らしてると思うと不思議やな」
咲「家族だったり夫婦だったり、一人暮らしだったり。それぞれの暮らしの明りだと思うと何かあったかい感じがしますね」
恭子「そうやな。うちらもあの明りの一つになりたいな」
咲「え……」
恭子「あっいや、別に深い意味は」
咲「……」
あれ?うち墓穴掘った?
咲「……そうですね」
この答えは良かった、のかどうなのか
-
恭子「き、今日は月もあって明るいな」
咲「ホントだ……月って末原さんみたいですよね」
恭子「どこが?」
咲「満ち欠けで色んな表情を見せてくれる所とか」
咲「真っ暗闇でも光を届けてくれる所とか」
咲「私は末原さんを見上げてるんです」
……買いかぶり過ぎや
恭子「うちが月なら咲は地球やな!」
咲「え?」
恭子「月は地球を中心に廻ってるんやから」
-
咲は私を見上げてるといったけれどそれは私の方だ
咲がどれだけの高みへいけるのか
楽しみでもあり、少し寂しくもある
私はそれを見てるだけの存在かもしれない
恭子「でもそれを特等席で見れるのはうちの特権やろ?」
咲「なんのことですか?」
恭子「なんでもない!」
咲「ええ?気になります」
恭子「ええやんか。それよりもういい時間や。帰ろう」
――――――
――――
――
-
ちなみに私は腕時計を贈った
一個は持ってたほうがいいやろうしな
咲はなんか高いんじゃないかって気にしとったみたいやけど
別にそこまで高価な物じゃないし気にすることないのになぁ
咲は与えられることに負い目を感じている節がある
感謝よりも申し訳なさの方が先に来るのだろう
そういう性分なんか、それとも……
-
もうちょっと自分に自信を持ってもいいと思う
与えられることの幸せもあるし
与えることで幸せを感じることもある
これは感覚的な事で言葉で言っても分からないかもしれない
でも咲だって感じたことはあるはずだ
……まぁいいか
あんまり深く考えても仕方ない
別に咲の考えを否定しようとも変えようともしてるわけじゃない
自然と変わっていくもんや
そのきっかけになれれば嬉しい。それだけだ
了
-
乙
咲さん口には出さないけど末原さん本当に好きなんすね
-
渋に続き来てますね
-
恭子「なぁ咲、花見せんか?」
咲「花見、ですか」
恭子「ええやろ?」
咲「暖かくなってすっかりアウトドア派になりましたね」
恭子「いや〜やっぱり人は体動かさなあかんで」
咲「花見で体は動かさないでしょう」
恭子「でもめっちゃ綺麗やで」
咲「なにが『でも』なんですか」
-
咲「私もうお花見しましたし」
恭子「動かざること山の如しの咲が!?誰に誘われたん?」
咲「自分からですよ」
恭子「え?」
咲「あれは麗らかな春の午後のことでした――」
――――――
――――
――
-
あの日、外出していた私は時間を持て余していました
手元にあったのは文庫本だけ
これで時間を潰そうと考えた私は静かな場所を探して歩いていました
やがて少し大きな公園に辿り着きました
そこは人も少なく、遠くで小さな子供が思い思いに駆け回って遊んでいるくらいでした
ここにしよう
そう思った私は入り口にあるポールをすり抜け
ベンチを探しながらゆっくりと公園を廻り始めました
-
子供たちのはしゃぐ声や鳥のさえずりに耳を傾け
優しい春の日差しを浴び暖かい風が私の顔を撫でるのを感じます
知らず知らず、私も優しい気持ちになっていました
そうしているうちにちょうどいい高さ、大きさのベンチが姿を現しました
都合のいいことに木陰にもなっていました
私はそのベンチを目指し、少しだけ足を速めます
-
するとそこにどこからともなくボールが転がってきたのです
あたりを見回すと先ほどの可愛らしい子供が手をあげて
ボールとってー! と笑顔で叫んでいました
私はそのボールを投げ返しながら
最近は遊具やボールで遊ぶのを禁止している公園も少なくないのに
おおらかな所なんだなぁ、とやっぱりいい気分になりました
ありがとー! とこれまた笑顔で返してくれました
ボールは全然届かなかったのに、と少々申し訳なく思いながら
私は本来の目的であるベンチに座り読書を開始しました
-
風が木々を揺らす音をBGMに頁をめくります
やはりこの本を選んで正解でした
内容は重くもなく難解でもない
内容がないといっても差し支えない
この場面ではうってつけのものでした
-
どれほど経ったでしょう
正確な時間は分かりませんがいつの間にか子供たちの声は聞こえなくなっていました
その時、ふわりと何かが開いていた本に舞い降りてきました
その薄い桃色の小さな花びらを見た時
私は初めてこの木陰を作ってくれている木が桜だということに気が付いたのです
顔を上げるとそこに視界はいっぱいの桜
それはとても綺麗で幻想的で……
風に揺れるたび、優しく笑いかけてくれているようでした
――――――
――――
――
-
恭子「うん。正しく花見やな……でも自分からじゃないな」
恭子「ってか何で回想入ったの!?」
恭子「しかも描写が無駄に細かい!あと長い!ボールのくだりいる?」
恭子「そのとき読んでた本の影響か?」
恭子「それに花見は何回してもいいやろ!」
咲「そんなに捲し立てないで下さいよ」
-
咲「一気に言われても分からないです」
恭子「ごめん」
咲「ちょっと語ってみたかっただけなんですから」
恭子「だから最後まで語らせてやったろ?」
咲「ありがとうございます」
恭子「どういたしまして」
-
咲「じゃあ私も」
咲「自分からじゃなくても目に留まるってのがいいでしょ」
咲「回想は分かりやすいかなと思って……」
咲「それから話が細かい、長いのは興が乗っちゃって」
咲「本の影響もないとは言えませんね」
恭子「……律儀に返してくれてありがとう」
咲「どういたしまして」
-
咲「あ、それからもう一つ。お花見は何回しても良い、同感です」
恭子「!」
咲「どこ行くんですか?」
恭子「川沿いの……桜並木あるやろ?」
咲「あそこは人多いんじゃ」
恭子「歩くだけでも、な。そういう空気を吸うのもいいやろ」
咲「そうですね。ではお花見の見学に行きましょうか」
了
-
乙です
二人の気遣いあってる感じ嫌いじゃないし好きだよ
-
ベッドで横になって雑誌を読んでいるとため息が聞こえてきた
咲「はぁ……」
恭子「……」
咲「ふぅ……」
見ると咲が頬杖をつきながら遠い目をしている
恭子「……どうしたん?」
咲「ほぉ……」
恭子「そんな溜息ついて」
あと『ほぉ』は違うやろ
-
咲「もうすっかり葉桜ですね……」
恭子「そうやな」
咲「桜の散る儚さとか時間の過ぎ去る無常さとか感じません?」
恭子「いや?」
咲「末原さんには情緒というものが無いんですか」
恭子「いやあるけど」
-
咲「じゃあなんですか? 心がないんですか? 鉄仮面ですか」
恭子「あるわ!」
咲「あ、ほんとだ。ありましたね。鉄仮面には程遠かったですね」
恭子「なんやねん……咲の方が情緒不安定やん。さっきまで物思いにふけっとったのに」
咲「なんか手持無沙汰で」
恭子「なんや構ってほしかったんか?」
なんて
-
咲「……」
なにその笑顔? どういう意味!?
その笑顔を張り付けたまま近寄ってくる……怖っ!
咲「まぁ、有り体に言えばそうですね」
あ、正解やったん?
半身のままのうちの隣に腰を落とす
重心がずれたベットに少しポジション変更しながら、それならと咲に投げかける
-
恭子「なんかするか? なにがいい?」
咲「んー何でもいいですよ」
恭子「丸投げかい」
咲「今しかできないことをしましょう」
恭子「またそんな抽象的な」
咲「明日有りと思う心の仇桜、ですよ」
-
恭子「じゃあしりとりしようや」
咲「しりとりって……小学生ですか。今しかできないはどこに行ったんですか」
恭子「しりとりなんて大の大人はせんし、暇な時にしかできんやろ?」
咲「つまり動きたくない、何もしたくないと」
恭子「そういうことやな」
咲「……」
膨れながら見下ろされる
こういう構図もええなと思いながらさらにつついてみる
恭子「うちはな、こうやって咲と一緒にダラッとしてるのも今しかできん事やと思うんや」
-
咲「……それもそうですね」
あれ? 通った?
咲「今しかできない、ですよね」
やっぱりいつもと違う……?
恭子「咲、どうしたん?」
咲「え? 何がですか?」
気のせいか?
-
咲「でもしりとりはないですよ」
恭子「じゃあなに? ジェンガ? オセロとか?」
咲「オセロはもういいです」
恭子「あ、咲はオセロ弱いんやったか、すまんすまん」
咲「弱くないですよ! 末原さんがおかしいだけです!」
恭子「そんなことないやろ」
どちらかというと咲の方がおかしいと思うけどなぁ
咲「もう……」
さっきまでの違和感は今はもうなりをひそめている
なんやったんやろ?
-
恭子「……」
咲「……」
なにこの沈黙……
恭子「なんか喉乾いたな、なんか飲む?」
咲「あ、はい」
恭子「冷たいのでいい?」
咲「はい」
――――――
――――
――
-
ミルクティー、いやあんまりべたつくのもなぁ
紅茶でええか。ティーバッグあったやろ
ティーポットをお湯で温めてから
ティーポットにティーバッグとお湯を入れて一分待つ
……だいたい咲が素直に構ってほしいなんて言うか?
『明日有りと思う心の仇桜』
――今しかできない?
おっと、グラスと氷を用意しとかんとな
-
……うちが言い方を間違っただけか
春はいろんなことが変わっていく季節
咲は感受性が強いというか、色んな意味で繊細過ぎる
紅茶をグラスに注いで完成
――――――
――――
――
-
部屋に戻ると咲はさっきまでと同じ体勢で
さっきまでうちが読んでいた雑誌を興味なさそうにめくっていた
咲「お帰りなさい」
恭子「ん」
咲「ありがとうございます」
テーブルにコースターを置き
すでに汗をかき始めていたグラスを上に乗せて
咲の後ろから腰に手を回す
-
恭子「さーき」
咲「うわ。なんですか。危ないですよ」
恭子「どうしたん?」
咲「だから何がですか」
恭子「なんかあったんかな? って思ってな」
咲「私は何もないですよ? 何かあったのは末原さんじゃないですか?」
恭子「……なるほどな」
つまり咲に何かあった訳じゃなくうちが原因ってことか
-
咲「?」
恭子「……一緒にダラッとするなんていつでもできるか」
咲「え?」
恭子「うちはどこにもいかんからな」
咲「……はい?」
恭子「いや、ほら……いつもってのは物理的には厳しいけど、精神的な意味でな」
咲「?」
あれ? うちの勘違いか?
-
咲「どうしたんですか急に」
恭子「咲が不安になってたみたいやから……」
恥ずかしくなってごにょごにょと言い訳する
咲「不安……私、不安になってたんですかね?」
恭子「うちに聞くな。本人が分からんことをうちが知るかいな」
咲「…………」
氷の小さくなったグラスをマドラーで混ぜ
なにやら思案しているようだった
-
なんか言ってくれ
こういう空気は苦手だ。うちがこんな空気にしたんやけど
咲「そう、かもしれませんね」
恭子「なんで?」
咲「……分からないです。漠然とした不安ってやつですかね」
恭子「そこを何とか言葉にしてみて」
咲「うーん……」
恭子「……」
-
咲「末原さんが」
恭子「うちが?」
咲「いつのまにか私の知らない世界にいっちゃうようで」
咲「それは悪い事じゃないし」
咲「私が何か言うことでもないし」
咲「でもなんかもやもやするっていうか」
咲「訳もない焦燥感? 不安? 心配? なんだろ……」
訳ははっきりしているように思えた
それは誰もが思うことで
-
恭子「ふーん」
咲「……やっぱりよくわかんないです」
恭子「周りが動いて、自分だけが取り残されていくんじゃないかと思ってしまう」
恭子「自分はこのままでいいのか? 何かしなきゃ。でも何をすればいいのか分からない」
恭子「ってやつやろ? みーんな思ったことあるんちゃう?」
大抵はそんなこと思うのは一瞬ですぐ忘れてしまうんやけどな
咲「そうなのかな……」
恭子「ま、"うちが"って言うなら」
恭子「少なくともうちはここにおる。会おうと思えばいつでも会える」
恭子「咲が無理して動く必要はないで」
-
恭子「どこに行こうともうちの帰る場所は決まってるからな」
咲「もう引っ越しはしないってことですか?」
恭子「……いや、そういうことじゃなくて」
咲「?」
恭子「うん。まぁいいか」
ていうかその心配は本来うちがするものかもしれんな
咲がどこまでいけるか見てみたい気もするし、あまり遠くに行かれても寂しい
疲れた時に休める場所になればと思うけれど……
あかん。うちが引きずられてどうすんねん
-
咲「でも一つの場所にずっといると飽きてきません?」
恭子「は!? そんなわけないやろ!」
咲「マンネリ化するっていうか、目新しいものが欲しくなるっていうか」
恭子「何言ってんねん! 慣れ親しんだモンの方が落ち着くし安心するやろ!」
咲「愛着は湧きますよね」
恭子「せやろ?」
-
咲「でもずっと同じ刺激だと慣れちゃうっていうか」
恭子「しげっ!? いやいや、深く付き合っていくことで色んな発見があるし刺激だって、ほら……頑張」
咲「でも新しいお店が出来たら一度は行ってみるでしょ?」
恭子「え、お店? あーうん……何の話やったっけ?」
咲「だから、部屋とか、喫茶店とか……過ごす場所の話ですけど」
恭子「ああー……そうか。そうかもしれんな、うん」
咲「勝手に興奮して納得して落ち着いて。忙しい人ですね」
恭子「ははは……」
-
咲「何の話だと思ってたんですか?」
恭子「部屋の話やろ?」
咲「がんばるってなんですか?」
恭子「部屋が頑張るんちゃう?」
咲「部屋が!?」
恭子「あ、あれや、喫茶店も企業努力してるってことや!」
咲「なるほど」
-
恭子「なんやねんその顔は」
咲「何でもないですよ」
恭子「……」
咲「ふふ。私も飽きられないように頑張りますね」
恭子「……それこそいらん心配やな」
了
-
乙
寂しがりや咲さんと末原さんいいですね
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