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ツンはゴリラに願いを叶えてもらいマグロ漁船に乗ったようです
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モンゴルの首都、ゴリラバートル。
生物の愛情と、世の儚さの物語はここから始まる。
【ツンはゴリラに願いを叶えてもらいマグロ漁船に乗ったようです】
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僕は台から飛び降りた。
肌に受ける風と、近づいてくる地面。湧き上がる歓声と悲鳴。
着地と同時に静まり返る観衆に、僕は下を向いていた顔を上げて笑顔を見せた。
ワーーーーー!!
ゴリラ「すげぇ、ゴリラの奴、30メートルをクリアしたぜ」
ゴリラ「やべぇな、あいつが今回のゴリラ万象でいいんじゃねぇか」
ゴリラバートルに古くから伝わる慣習、人の願いを叶えるための存在──ゴリラ万象になるための儀式。
人間でいう、高いところから飛び降りる度胸試しのようなものなんだけども、ゴリラともなるとスケールが違う。30メートルというのはおよそ10階建てのマンションに等しい。
ゴリラ「ゴリラさんっ、お疲れ様です!」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「ああ、ありがとう」
-
ゴリラ「もうゴリラさんしかいませんよ!ゴリラ万象!」
ゴリラたちが僕に向かってタオルとアクエリアスをくれる。みな、英雄を見るような表情で、こちらに賞賛を与えてくれる。
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「ゴーリラっ」
ふと、飛び交う僕の名を呼ぶ声の中で、ひときわ透き通った、あるいは僕にとっての特殊な音域とでも言おうか。
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「あ……ゴリラ」
僕にとっての太陽であり、かけがえのないゴリラ。彼女がいてくれるのなら、どんな儀式も取るに足らない。
モンゴルの大地は今日も暖かい。
-
〜〜〜
シベリア
ゴリラスノーマウンテン
ゴリラ「ボス、ゴリラの奴がゴリラ万象になる最有力候補のようですぜ」
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「なんだと?」
ゴリラ「どうしやす?潰しやすか?」
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「フンッ!」
ゴリラ「ぐあああああ!!」
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虚しい叫びが雪山に木霊した。
シベリアの奥地、ゴリラスノーマウンテンでも、ゴリラ万象の儀式は行われていた。
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「ちっ……ゴリラの奴め……」
だが、モンゴルのような暖かい気候と比べ、極寒のシベリアで行うそれは、熾烈を極める。
事実、このゴリラは15メートル以上の高さ──マンション約5階分──をクリアしていなかったのだ。
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/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「あれを出せ」
ゴリラ 「へい」
手下のゴリラがバイクを用意する。ゴリラ専用バイク。超高速で移動が可能な、選ばれたゴリラのみが使用することのできる特別な二輪。
バイクに跨り、彼は何処かへと走り出した。
むろん、それはゴリラの中でも最高峰のゴリラ。すなわち、ゴリラ万象への思いを遂げるため単身、モンゴルへと渡ったことを、誰が言うでもなく、手下達はわかっていたのだ。
それが、過酷な旅になることも──
-
〜〜〜
モンゴル ゴリラバートルの飲食店の中で、最も人気店といえば、ゴリラの営むラーメン屋だった。
連日連夜、ゴリラ達が駆けつけては麺をすすり、汁を飲み干す。滴る汗をぬぐうこともせず、ひたすらに咀嚼する。
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「はい、お待ち!ゴリラスペシャルだよ!」
ゴリラが出すお椀を、ゴリラが受け取る。腰のあるストレート麺は、野菜と鳥を使ったダシで煮込まれた醤油スープの中に浮かび、食欲を刺激する。
ゴリラ「いただきます!」
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >^..^<
/ ( ー― )
「たくさん食べてね!」
-
一般的にゴリラなのだから、草や果実、あるいは虫を食べられれば生きることに支障はない。
しかし、彼女の作るラーメンの魅力に惹かれたゴリラ達は、言う。俺たちは違うと。
味、量、サービス。それらに一切の妥協をしない彼女の愛情に触れたゴリラ達はもちろん、その重たい期待の中で生きるゴリラの思いが、この店を盛り上げているのだ。
そう、最強のラーメン娘の名にかけて。
今日も彼女は麺をゆでる。
ガラララ
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「いらっしゃいま──せ……?」
-
いつもならば、威勢のいい声と同時に常連のゴリラがゴリラを連れてゴリラスペシャルを注文する流れのはずだった。
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( ( )ハ( ))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「……」
だが、目の前で膝をつき、息も絶え絶えなそのゴリラにはラーメンを注文することはおろか、生きることすら危ういといった様子に見受けられる。
網を置き、入り口へ近づいた彼女は駆け寄った。
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「だ、大丈夫ですか!?」
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/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( ( )ハ( ))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「は……腹が……へって……」
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「わかりました!ゴリスペ一丁!」
店主の一言と、異常なまでの空腹をあらわにしているゴリラを見て、アルバイトのゴリラ達も声で答える。
食事を取ることができないということは、こと自然界においてひもじく、つらい。
わかっているからこそできるゴリラ特有の思いが、一杯のラーメンへと注がれていく。
見守る客達は、はたして自分たちの領分を弁えているためにあえて何も言わなかった。
決して、ラーメンを食べることに夢中というわけではない。食欲を満たすために必要なのは労いの言葉などではなく、熱々の出来たてなのだ。
-
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >^..^<
/ ( ー― )
「はい、お待ちどおさまっ!ゴリラスペシャルだよ!」
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「あ、ありがてぇ──」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「ゴリラ!」
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「あ、ゴリラ!」
-
ゴリラがラーメンへ手を伸ばそうとしたその時であった。
彼の後ろから、ゴリラの声が聞こえたのだ。
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「!!」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「お、お前は……シベリアの……!?」
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「ふ、ふふ……やっと見つけたぜ……」
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伸ばした手が届くことはなかった。否、届かせなかった。死に近い空腹よりも、店主の愛情がこもったラーメンよりも、己の矜持を守るため。
自身を律したゴリラは立ち上がり、後ろを向く。そこに佇むのは、店主と仲睦まじく、そして30メートルを突破した最もゴリラ万象に近いゴリラ。
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「ここに来たということは……僕に挑戦する気か」
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「ああ、そうだよ。表に出ろ。俺がゴリラ万象にふさわしいことを教えてやる」
-
一触即発。無心で貪っていた客達も、作業を止めるアルバイト達も固唾をのんで二体のゴリラに注視する。
熱気と裏腹に流れる不穏な寒気に一石を投じたのは店主だった。
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「ま、待ってよ!ね、ゴリラ!このゴリラさんおなかすいているんだよ!せめて、ラーメンを食べてからでも……」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((-)ハ(-)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「ゴリラ。オスにはな、どうしても戦わないといけないタイミングがあるんだ」
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「そんな……」
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/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「こっちだ。ついてきてくれ」
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「ああ」
のれんをくぐり、両雄は進む。ふと、後方にいたゴリラが、今にも泣きそうな店主に首だけを向けた。
-
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「ゴリラちゃん。伸びるといけねぇ。誰かに食わせてやんな」
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「い、いやっ……!私は、あなたに──」
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (-)ハ(-))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「あばよ」
-
最後まで聞くこともせず、引き戸は閉められる。
扉一枚隔てたその先には、たとえどれだけゴリラ達に愛されようとも決して踏み込むことのできないオスの領域が存在していた。
本能から背き、死と隣り合わせになっていてもなお、己のプライドと存在意義を守るオスが思うことなど、メスには理解できなかったのだ。
そして、そのオスは――
結局腹ごしらえができていないことに、しばらく経って気づいたのであった。
-
〜〜〜
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((^)ハ(^)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「どうだ僕の勝ちだぁ!これで僕がゴリラ万象だ!」
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (-)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ーーーノヽ
「……ちっ、負けちまったぜ……だが、いい気分だ。悪くない」
-
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「ゴリラ!見てくれたかい!?」
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「……」
ダッ
≡ /⌒ヽ
≡ /__ヽ
≡ /c >゚..゚<
≡ / ( ー― )
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「えっ」
-
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「……」
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「ゴリラちゃん?」
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「……シベリアに、二号店を開こうと思います」
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「なっ……」
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >゚..゚<
/ ( ー― )
「私と一緒に……ラーメンを作りませんか……?」
-
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (・)ハ(・))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「ゴリラちゃん……」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「えっ、えっ」
/⌒ヽ
/__ヽ
/c >^..^<
/ ( ーー )
「伸びたラーメンだって……おいしいんですよ」
/⌒⌒ヽ
/ ⌒~⌒ヽ
/ _/ -〜〜-|
/ (ノ/へーへヽ
/ /( (-)ハ(-))
/⌒\( ヽ(cYっ)ノ
ヽ ( ) )
|\\ ̄ ̄ ̄ノヽ
「……フッ」
-
ご~ヽ ご~ヽ
らり⌒\ らり⌒\
/ ノ ゙\ / ノ ゙\
|ノY⌒_) |ノY⌒_) ヒ^) >_) ヒ^) >_)
のっしのっしのっし
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「えっ、ちょ、えっ取られ」
-
( ・∀・)「あのー」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「あ、人間だ。こんにちは」
( ・∀・)「ゴリラ万象さんですよね?」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「あ、はい。たった今」
( ・∀・)「願い事していいですか?」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「ええ、まぁ」
( ・∀・)「じゃあ、世界中のパンツをかぶりたいんですけど」
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/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「はいはい。ごーりごーりごーり!」
ピュワワーーー
(**・∀・)「おおっ!力がみなぎってくる!!ハハハハハハハ!!待っていろよパンツ!まずは日本からだっ!!」
ダッ≡(**・∀・)
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「……」
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世界中のパンツを被り尽くす――彼の壮大な挑戦は始まったばかりなのだ。
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「僕も日本に行こうこんなところもう嫌だ」
めでたしめでたし
前編 おわり
-
〜〜〜
たまにはゴリラもいいもんだ。
したらば動物園の一角に悠然とその姿を、誇らしげに、まるで自身が王者だとでもいうような面持ちで寝ころぶゴリラを前に、ドクオはこぼした。
ξ゚⊿゚)ξ
('A`)⊃(|~~~|)
| |
し`J
お気に入りの等身大ハイパーツン人形を右わきに抱える彼は、決して見せ物ではない。
('A`)「そう、思わないか、ツン」
今年で28歳となる彼は人形職人。幼いころから人型の細工を趣味としていたドクオは、それを生業としていた。
-
今までに食べたパンの量を覚えているかと聞かれれば横に振る首も、今までに作った人形の数はと問われれば縦になる。むろん、その量たるや。
もちろん、失敗作も数え切れないほどに多かった。最初に作った人形は小さな手乗り型。
掌に乗せて行動を共にすれば、いつもどこかに落ちていく始末。4度目のデートにて手を滑らせてバラバラになったときは死因を落下死と判断する他ない。
失敗と淋しさから比較的すぐに出来上がった32体目は上々。しかし一緒に食事を取ってみれば、流し込んだ味噌汁が体内で腐り、異臭を放つ。廃棄処分。死因は味噌汁での溺死だった。
最高の職人になるための苦労と挫折。
結局自分とはなんだったのだろうか、そんな疑問をもって彼は長い眠りについた。
-
546体目はうまくいった。
質感、手触り、見た目。どれをとっても満点である。
('A`)「クーにゃん、一緒にお風呂に入ろう」
('A`)「クーにゃん、挿れるよ、挿れていい?ねぇ、聞いている?」
さながらそれは求愛行動にも見えるが、もしかしたらこれは入浴してるだけなのかもしれない。
-
虚しさを覚える現実と、一方通行の言葉は、ドクオの心をひどく荒ませた。そしてなによりも――
彼の陰茎はいまだ勃起したままなのであった。
そうして出来た10986体目。これこそが今現在、彼と最も近い場所にいる人形そのものである。
これからは、ずっと一緒だよ。
幾年、幾月、ひたすらに人形を作り上げた彼は、すでに物づくりという範疇を大幅に逸脱していた。
例えるなら、一個体の生命に近しい『物』は、持ち歩くたびに通報と職質が繰り返される現実が物語っている。
それでもなお、共にいる時間に妥協しないのは、彼の心の中に眠る狂気にも似た愛情。
決して枯渇することのないそれが──それこそが。
――ただそれだけが、強く、強く残っている……
-
そんな、一種の好事家が作り上げた最高傑作。それが、等身大ハイパーツン人形。
長さにして156センチ、重さ45キロを抱える男の腕は細い。
しかし、筋力や疲労を超えた、いわば最愛の伴侶といっても過言ではない存在と同じ景色を見ていることこそが彼のポテンシャルを存分に引き出している。
それは愛であり、呪いでもあった。
ここで一つ、疑問が浮かぶ。546体目のエクセレントクーにゃん人形は、防水も兼ね備え、仕上がり自体はハイパーツン人形と遜色のない出来であった。
ならばなぜ、エクセレントクーにゃん人形とハイパーツン人形にここまでの差が出たのか。
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むろん、10000体と500体では技術と経験によるディテールに違いはある。
しかし、どうあがいても決定的に共通する問題に至っては、彼はおろか世界中のどんな人間にも解決することできない不可能な難題が存在しているのだ。
命の有無。
それを解決することができなければ、結局のところいつまでたっても、どこまでいっても人形は人形でしかない。
人工知能のようなまがい物ではなく、人間のように自分で考え、言葉を紡ぐことは決してできないのだ。
なぜか目の前がぼやけて見えた。
突きつけられた理に、なすすべもない一介の職人が思うところは多々ある。
だが、涙や眩暈で視界がかすむようならば、こんな酔狂なことをしてはいない。
-
('A`)「いるんだろ、ゴリラ万象」
ふと、目の前でゴリラが光った。
閃光は動物園を包み、気づいた人々は戸惑う。逃げるもの、立ちすくむもの、大声をあげようとするもの。例えるなら大地震が起こった瞬間。走り出すのは衝撃と動揺。
にもかかわらず、ドクオの周りにいた客やスタッフ、果ては動物たちですら動かない。ピクリとも。
否、たった一つだけ動くものがあった。
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
ゴリラだ。
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なんだこれwwwww
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('A`)「あれは本当だったのか」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
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/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「……なんで僕が『ゴリラ万象』だって知っているんだい?」
主語すらないドクオの言葉に、まるで全てを察しているような優しい目をしたゴリラは問う。
('A`)「ギネスに載ってたんだ。世界中のパンツをかぶった男のインタビューで、願いを叶えるゴリラがいるって」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「へぇ……ギネスブックを読むのか。君はなんの仕事をしているんだい?」
('A`)「人形職人」
-
ドクオは口を開く。普通、職人というものは口が達者でないものほど信頼できるというある種の思い込みがあった。
だが、この狂人は喋る。とにかく、喋った。嬉々として、ハラハラと、自分の人生を振り返るように時の止まった空間で、ゴリラに。
以上、下世話な話でした。
そういって、照れ隠しをした彼の目を、またしても優しい目で見つめるオスは言う。
-
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
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/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「面白い人だな。それに、その人形……うん、確かにすごいや。オートマタかい」
('A`)「いいや、彼女は動かない」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
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/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「からくりでもないのか……ダッチワイフかい?」
(#゚A゚)「ふざけるなッ!彼女を冒涜すると殺すぞッ」
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/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
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/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「す、すまない……その……」
('A`)「ハイパーツン人形」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「うん、ハイパーツン人形は」
('A`)「さんをつけろ」
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/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
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/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「ん、んー。ハイパーツン人形さんは」
('A`)「ハイパーツンさん人形だ殺すぞ」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
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/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「ツンはなんなんだい?」
ドクオは渾身の力を振り絞って、右わきに抱えた、人を簡単に殺せそうな鈍器を躊躇いなく振り下ろした。
重さ45キロの奏でる打撃音は、ゴリラの皮膚により軽微なものだった。
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/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「あ、危ない。僕がゴリラじゃなかったら死んでたよ」
('A`)「言っただろう、殺すと」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「わかった、わかったよ。君の怒りを買ってしまった僕が悪い。だから願い事をかなえてあげよう」
('A`)「ならば、ツンに命を」
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/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「なるほど。動かない人形に生命を吹き込むのか……ロマンチックだね」
('A`)「ああ。頼む」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「わかったよ。ごーりごーりごーり!」
ピュワーーーーーン
-
(*'A`)「つ、ツン……!!」
ξ。⊿。)ξ
::| J
U U
プラーン...
('A`)「首が折れてる」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「さっき僕を殴った衝撃だね」
('∀`)「血が出てるな、これが生きてるってことかハハハ」
-
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「……」
('A`)「さて……」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「願い事は1回まで!願い事増やすとかは無理以上!」
('A`)「お、おい待て……!」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「それでは、もう二度と逢わないことを祈っているよ」
ピュワーーーン
-
時が動き出したことを感じたのは、雑踏と雰囲気、そして目の前の動物が、動物然としている当たり前の状況からだった。
唇を噛みしめる。自分の望んでいた結果と違う。
首から血を流すハイパーツン人形を見た一般客からの通報に駆けつけた警察官。6人。
そして腕に手錠がかけられた。
呆然と、囲まれながら歩を進めるドクオは遠い目をして、呟く。
( A )「明日また会おう」
-
〜〜〜
翌日
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「なんでまた君がいるんだ……」
('A`)「ほらな、言った通りだろ?」
警察での取り調べはすぐに終わった。
人形職人のドクオからすれば、体の中に血を入れて危険な人形遊びをしていたと言い切ることもふざけた論理ではない。
呆れ果てた公務員は、彼を開放する。野に放たれるのは狂人。檻に囲まれたかつての野生と対峙する。
-
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((-)ハ(-)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「とはいえ、確かにこのままじゃかわいそうだ……特別に願い事をやり直してあげよう」
('A`)「ほ、本当か!?」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「君が望むのなら」
ピュワーーーン
ξ-⊿゚)ξ「……ん……ふわぁ……」
('∀`)「ツン!!ツン!!俺だ!!君を作ったパパだよ!」
-
くそッ…朝から何てスレをッ!支援!
-
ξ゚⊿゚)ξ「あ?」
ドガッ
('A`)「あうっ!」
ξ゚⊿゚)ξ「汚い手で触るな、変態が」
('A`)「ど、どうして……!」
ξ゚⊿゚)ξ「だって嫌いだったから」
(;'A`)「な、なんでだっ!俺の腕なら君をずっと、死ぬまで養ってあげられる!かわいい服も、おもちゃも!なんでも作ってあげられる!」
ξ゚⊿゚)ξ「でもお前んち妖怪カーニバルじゃん」
('A`)「わかったゴリラもつける!ゴリラにもかわいい服を作ってあげられる!」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「困ったな」
-
ξ゚⊿゚)ξ「おあいにく様。私はこの美貌を生かして最高の人生を歩んで見せるわ」
(゚A゚)「嘘だそんなこと!」
ξ゚⊿゚)ξ≡⊃⊃⊃⊃「ハイパーツンアタック!」
('A:..「ぎゃー」
頭とケツが割れるように痛い。
そう思いながら、ドクオは死んでいった。
ξ゚⊿゚)ξ「生ゴミの回収日って何曜日だったかなぁ……」
ξ゚⊿゚)ξ「ま、いいわ。公務員がやってくれるでしょうし」
ツンは歩く。
自分の人生のために。
-
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「……」
そしてゴリラは絶望する。
動物園で起こった殺人事件は、またしても、自身の棲家が変わることを示していた。
-
〜〜〜
風が強く吹いている。
( ^ω^)「……行くか」
夜。
ここ、したらば海岸の波打ち際に佇む二人の男女。男の名は内藤ホライゾン。女の名はツン。
彼らは付き合っている。それも、今日で最後。
ξ゚⊿゚)ξ「……夏休み……もう終わっちゃうね」
( ^ω^)「ああ」
ξ゚⊿゚)ξ「私たちも、終わっちゃうんだね」
( ^ω^)「……ああ」
-
寄せてはひいて、心の内をかき乱すように普遍的な波の動きを眺めながら、内藤はうなずく。
交際3年目の今日。別れを切り出したのは内藤からである。
思えば順風満帆であった。始まりは街角。きれいな服を着た、まるで人形のようなツンに一目ぼれをした内藤は積極的に彼女と共に過ごした。
生を受けて間もないツン──元は人形──は、人間と人間のかかわり方を知らない。
一方的に与えられる愛情しか受けたことのない空っぽの心に、人を愛するということを教えてもらったのは、まぎれもなく彼の存在が関わっている。
きっと、このまま愛し合えるのだろう。
結婚をして、子供はできるだろうか。
仮に彼が先に逝ってしまっても、私は笑っていられるのだろうか。
-
そんな、些細で幸せな心配をしていた矢先、内藤の口から出たのはプロポーズではなかった。
借金返済まで残り 2億9720万円。
そういった意味の言葉を、数週間前に打ち明けたのは、度重なる債権業者からの督促に見も心も病んでしまったことが原因だった。
-
( ^ω^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「ホライゾン……」
聞こえてくる汽笛に、身を震わせながら彼はその時を待つ。
あとはもう笑うだけだ。
強がりを言って、ただじっと、遠い目をしていた。
-
〜〜〜
きっかけは、小学生三年生の時であった。
なんのとりえもなく、肉親にさえ邪険に扱われていた内藤の唯一の友といえる存在。
それが、おおよその人間にとっては害でしかないであろう虫──俗にいう、ブーン系であった。
ブーン系とは一般的に、ハエや蚊、ハチなどを指す。
なにもしなくとも、自らの肌に触れ、血を吸い取る姿を眺めていれば一日が経ち、時にはハニカム状の巣へお邪魔し、鬼ごっこをしたすることもあった。ハエは殺して遊んだ。
-
小さいころはまだ良かった。大きくなったら施設を建て、そこに虫たちを保管していた。それが仇となった。
ある日、数百匹のハチと戯れていた時。刺されること23回目の瞬間。
よく言われている危険な二回目を大幅に超えた回数は、内藤の体に抗体反応を生み出し、ついにアナフィラシキーショックを引き起こしてしまった彼は生死の境をさまよった。
ひえー、もうブーン系なんてこりごりだぁ〜!
奇跡的に一命をとりとめた内藤はそういうと、それ以降、ブーン系が嫌いになっていた。
-
だが、時すでに遅し。
彼はブーン系を捕まえるために巨額の資産を投じていた。
親を脅し、子を誘拐し、金融機関はもちろんヤミ金融にも頼み込む。
そうしてできた借金に、大きな声をあげて後悔したのもいつのころだったか。
今の彼にはブーン系への情熱はおろか、愛情すら存在していない。
-
( ^ω^)「ツン……ごめんだお……」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
ξ゚⊿゚)ξ⊃スッ
( ^ω^)「ツン……?」
ξ゚⊿゚)ξ⊃「私ね、今まで生きてきたって感じじゃなかったの。誰かの操り人形だった」
( ^ω^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ⊃「だから、何が好きとか、愛しているとか……そういうのなかったの」
( ^ω^)「ツン……」
ξ゚ー゚)ξ⊃「あなたが、どれだけバカで、どうしようもない男でも……私はあなたを愛しているわ」
( ^ω^)⊃「ツンっ!」
ξ゚⊿゚)ξ⊃「ホライゾンっ!」
-
打ち明け話の夜。
差し出された陶磁器のような、それでいて暖かい体温。
彼は頷くとその手を確かめる様に握り返した。
-
〜〜〜
述懐は、恍惚の思い出を見せ、それは長く続かない。
船が来た。
降りてきたのは一人の男──
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
否、オスだった。
-
( ^ω^)「ゴリラだ」
ξ゚⊿゚)ξ「あ、あの時の!」
( ^ω^)「知っているのか、ツン?」
ξ゚⊿゚)ξ「やったわ、内藤!このゴリラは願い事をかなえてくれるのよっ!あなたの借金もこれで──」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「ひとつ、勘違いしているようだから訂正しておくが……あれはちんちんがかゆかったんだけだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「なッ……!?」
-
君は何か勘違いしてないか?
そういったゴリラのまなざしは、かつての優しく思いやりのあるそれとは違っていた。
人間に対する絶望。なにがラーメンだ、なにがパンツだ、なにがハイパーだ。
くだらない願いを叶える背景にあったのはいつも自分が割を食う結末。
ほとほと嫌気のさしていたゴリラは、その巨体を生かし、マグロ漁船の船長となっていた。
-
( ^ω^)「すまないお、船長。でも……ツンだけは、ツンだけは見逃してやってくれお」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「ハイパーツンさん人形か」
( `ω´)「ふざけるなッ!ツンを人形だと!?」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((-)ハ(-)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「す、すまない……だが」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「忘れるな……君達に選択の余地は残されていない」
-
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「乗るのか、乗らないのか?どっちだ?」
ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ……内藤はいつ、帰ってこられるの?」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| (( )ハ( )ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「マグロ釣るまで帰れませんッ!」
-
言い切るゴリラの表情は強張っている。
それは、これから先の地獄を物語っているようで、内藤は震えた。自分だけがこの茨を往くのか、もう二度と彼女には会えないのか。
そっと、彼に触れる、ツン。
最後の抱擁に、男は思い出す。
( ^ω^)(そういや俺人間の屑だったの忘れてた)
( ^ω^)⊃ξ゚⊿゚)ξ
ξ゚⊿゚)ξ≡⊂(^ω^ )
ブォンッ!
ξ;゚⊿゚)ξ「きゃあっ!」
(^ω^ )「よし、ツン!俺の借金返済のために釣ってくれマグロ!」
ξ;゚д゚)ξ「はぁぁぁ!?内藤ぉおおおおお!!」
( ^ω^)「大丈夫。借金が返済できればさ、きっと迎えにくる」
≡( ^ω^)「愛してるよ、ツン!」
-
――ツン!!ツン!!俺だ!!君を作ったパパだよ!――
その時、懐かしい声が聞こえた 気がした。
気がしただけ、だった。
そう言って彼は、夜の街に消えた。
内藤は逃げ、残されたのはメスとオス。そして莫大な借金。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「……」
ξ゚⊿゚)ξ「おなかいたいので降りていいですか」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「どこでも便所だよ」
ξ゚⊿゚)ξ「生理痛で」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「どこでも便所だよ」
-
ξ゚⊿゚)ξ「親知らずが」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((-)ハ(-)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「あー……」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「とりあえず抜いどけ」
ξ゚。゚)ξ「データを削除しています……」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「今更人形のふりをしても無駄だぞ、ツン」
-
ξ゚⊿゚)ξ「ふ、フンッ!きっと助けにくる。私は最高の人生を歩むんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうだ、そうに決まってる」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「残念ながら、あの男はもう君のことを忘れているよ。ゴリラの勘だがね」
ξ;゚⊿゚)ξ「……脅しのつもり?」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「いや、口説いてるんだ」
-
ξ; ⊿ )ξ「お前なんかちっとも怖くねーよ、ばーか」
ξ⊃⊿;)ξ「ばーか」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「お次は何だ?」
ξ;⊿;)ξシクッ、エッグッ、ウゥ
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((-)ハ(-)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「きっと何も変わらないだろう」
/ ̄ ̄\
/ ―― ヽ
/ _/ ー^ー ハ
/ (/ ノ⌒=⌒ヘ)
/⌒ヽ| ((・)ハ(・)ヽ
\ (⊂Yつ) |
ヽ(_人_)ノ
| ヽノノヽ
ノ ヽ_ノ |
「残念だけど、世の中そういうものなんだ」
-
ξ;⊿;)ξ
ξ ⊿;)ξ
ξ ⊿ )ξ
彼女は静かに目を閉じた。
ザザァ...
ザザァ...
そして誰もいなくなった。
-
――これは、生物の愛情と――
下人の行方は誰も知らない。
――世の儚さの物語――
そしてこれこそが、今の日本が忘れてしまった大切な物なのかもしれない
恋とも愛とも言えないが、確かに”何か”を失ったのだ。
-
ツンはゴリラに願いを叶えてもらってマグロ漁船に乗ったようです
おわり
-
>ブーン系とは一般的に、ハエや蚊、ハチなどを指す。
クッソワロタww乙
-
シベリアゴリラとモンゴルゴリラのAAがちゃんと描き分けられてるのがムカつくwwww
-
笑わせてもらった乙
自分が出した没お題使ってもらえると嬉しいな
-
自分のお題が使われてすごく嬉しいんだが、中身がすごくて複雑ww
面白かった!!乙!
-
つっこみきれんwwwゴリラのゲシュタルト崩壊wwwww
乙!
-
こいつはすげえwwwwwwww
最後無理やりすぎて笑ったけど60文使い切りは実際すげえ
乙!
-
な、なんじゃあこりゃあ…
乙
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