■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■

【汎用】小祭SS投稿スレ(感想もどうぞ)【小祭】
1僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/21(金) 02:58:55 ID:liLxMFgQ
ここは祭り専用スレッドです。特定のテーマにそった作品以外は「自作SS・絵晒しスレ」や「未発表キャラなどの想像図・SSなどを載せるスレ」などを利用してください。

感想などを投稿される際もこのスレッドにお願いします。詳しい使用方法は以下を御覧下さい。

使用方法

1:各スレで、このスレにて小祭を開催すると決めたら、小祭の名前と期間を決める。そして小祭開催時には、小祭の名前と期間を記した開催宣言を発布する。

2:参加者は、SS投稿の際には名前欄で "[祭名][作品名](n/n)" の形式で、参加している小祭の名前、作品名、連番を宣言する。

3:それに対する感想もスレ内でつけてよいが、必ず ">>nnn" とアンカーをつけ、どの作品への感想かを明確にすること。

関連スレッド
自作SS・絵晒しスレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/995/1074693014/
未発表キャラなどの想像図・SSなどを載せるスレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/995/1063896383/

2僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/21(金) 03:03:43 ID:VTxTex/k
2

3僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/21(金) 03:06:46 ID:7DfkfZUw
>>1乙華麗

4言峰:2006/04/21(金) 03:38:09 ID:CdmCLPzM
「スレの生誕を祝福しよう」

5僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/21(金) 09:04:47 ID:PuYzEzVs
>>1
乙。

6僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/21(金) 17:21:30 ID:wFukOMGg
>>1
カレー

7僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/21(金) 21:21:23 ID:jz7tyowA
   i⌒リ⌒⌒`丶
   | ノ/ )^^)))∩
  ノノ(li ゚ ヮ゚ノリ彡 おっぱい!おっぱい!
  丶ゝ <)l⊂彡
.     く/_|」
      し'ノ

8僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/21(金) 21:45:43 ID:HlWgYTqw
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
 ⊂彡

9僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/22(土) 00:23:18 ID:Np9SIopE

まずは作家スレのおっぱい祭だな。

10僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/24(月) 23:42:13 ID:en8DZHyk
それでは「おっぱい祭り」の開催を宣言します。
参加する作品は名前欄に必ず "[おっぱい祭り][作品名](n/n)" と記入してください。
作品に対する感想は ">>nnn" とアンカーをつけて下さい。
詳しい内容は以下の通りです。

題名:おっぱい祭り
主催:SS作家がいろいろ語ってみるスレ その15
   http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/995/1145359457/
開催期間:〜2006/05/31
作品条件:「おっぱい」に対する愛に溢れた作品であること

備考
その1:ギャグからエロまで、微乳から巨乳までどんとこい!
その2:使用作品及びキャラクター制限無し
その3:バナー
http://tsukitemp.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/gazo/tuki_000296.jpg
http://tsukitemp.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/gazo/tuki_000297.jpg
http://tsukitemp.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/gazo/tuki_000298.jpg
http://tsukitemp.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/gazo/tuki_000299.jpg
http://tsukitemp.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/gazo/tuki_000300.jpg
http://tsukitemp.hp.infoseek.co.jp/cgi-bin/gazo/tuki_000301.jpg
その4(最重要):
  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
 ⊂彡

11僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/25(火) 00:04:37 ID:i6fZn9YA
   i⌒リ⌒⌒`丶
   | ノ/ )^^)))∩
  ノノ(li ゚ ヮ゚ノリ彡 おっぱい!おっぱい!
  丶ゝ <)l⊂彡
.     く/_|」
      し'ノ

12「おっぱい祭り」『宴の支度』 (1/2)byMAR:2006/04/27(木) 23:48:17 ID:lki1RTrU
 素っ裸でベッドの端に腰掛けて、そそり立ったペニスを晒してる。その前にはアルクェイドが跪いて、とろんと目をうるませてる。。
 よくよく考えると、随分と間抜けな格好な気もするな。けど、こうして彼女が上目遣いで見上げてくるのを見れば、そんな気恥ずかしさもどうでも良くなってしまった。

「本当に、志貴ってこうされるの好きだよねー」

 豊満な乳房で俺のモノを挟んで、くすくすと笑ってるお姫様。だけどその頬は赤く染まっていて、触れる肌も汗に薄く濡れている。
 傅いて、男のペニスに乳房を摺り寄せて興奮しているのだ。いつもは太陽のような笑顔を浮かべてるのに、今は興奮と快感に自分の表情を蕩かしている。それを見ているだけで、どくんとモノが脈打って、一回り大きくなってしまった気がした。

「どうして欲しい? こうして扱いてあげるだけで良い?」

 悪戯めいた笑顔のまま、乳房をゆすってくる。透き通ってしまいそうなほど白い、白い肌。ねっとりと扱かれる度に、赤黒いグロテスクな肉棒が隙間から飛び出して、そのコントラストにくらくらしてしまう。
 作りたての生クリームのような柔らかさといえばいいのか。このまま彼女の中に沈みこんで、交じり合ってしまいそうだ。
 ああ、それもいいかもしれないな。この中にうずまって死ねるなら、男として本望だ。

「それとも、こうして……んぁう」
「くぁ、あ、アルクェイド、それ……」

 顔を沈めて、赤い唇が俺の先を突付いてくる。
 脳がはじけ飛ぶとしか表現できない快感に、腰が砕けそうになった。柔肉に包まれて、隙間なく俺のペニスが擦り上げられているのだから当然。しかもちゅぱちゅぱと、濡れた音が耳からも犯してくるのだ。
 何度もされてる事なのに、それだけで思わず放ってしまいそうになる。それくらい、アルクェイドの舌もおっぱいも気持ちいい。

「んぁ……ん、志貴の、温かくて美味しいよぉ……」

 蕩けそうなほど甘い声が、舌遊びの合間に混じってくる。
 高貴な姫君をかしずかせている事実に、理性がぐらぐらと揺さぶられてしまう。
 だけどこの姫様はとても欲張りだ。気が飛びそうな快感に腰が引けるたび、逃がさないと言わんばかりに、手を回してしがみ付いてくる。

「あぁん、だめだよ志貴。今日は私がしたいだけさせてくれるって言ってたのに」

 そう言って、好物を目にした子供の目で、ちろちろと先に舌を這わせて俺のモノを玩ぶ。
 まるで猫が鼠をいたぶるように。
 やめてといっても逃がしてくれないだろう。
 確かに彼女の言うとおり、胸でしてもらうのは大好きだ。でも実際はアルクェイドの方が好きなんじゃないだろうか。
 彼女の思うがままに、俺を気持ちよく出来る性技。奉仕しているようで、実際は相手を思いのままに出来るわけだから。
 でも、そんな事はどうでもいい。
 アルクェイドの舌で。
 アルクェイドの乳房で。
 アルクェイドが心を込めて俺を気持ち良くくれる。それが何にも変えがたいくらいに気持ちいい。
 こっちの心を見透かしたかのように、挟み込んだまま先端を甘噛まれた。柔らかい、蕩けそうな檻の中に走り抜ける刺激。袋が縮み上がるような感触、一際強く血が流れ込み、膨れ上がる俺の肉棒。
 こらえられない、もう限界だ。

13「おっぱい祭り」『宴の支度』 (2/2)byMAR:2006/04/27(木) 23:49:03 ID:lki1RTrU


「で、出る、アルクェイド……!」
「あは、しきぃっ、かけてぇ!」

 先を咥えたままのアルクェイドに、勢いよく白濁をぶちまけてしまう。
 飲み込みきれない精液が、口元を溢れ顎を伝ってぽたり、ぽたりと胸の上にたれていく。
 清い白を欲望に溢れた白で汚していくような、下卑た快楽。背筋がぞくぞくと震えたのは、射精の快感だけじゃないだろう。

「あふぅ、志貴の、あったかくておいしいよ……」

 だというのに。
 ちろりと舌を出して、口元を汚す精液を舐めとる。とろんと潤んだ目で、俺を見つめてくる。
 まるで甘え上手の猫の様な白いお姫様に、そんな風に言われてしまったらもう我慢なんか出来ない。
 後押しされた勢いに任せて、彼女の腕を取って強引に引っ張りあげた。

「きゃっ!」
「今度は俺の番だからなッ!」

 ベッドの上に組み敷いて、猛った頭で乱暴に吐き捨ててしまう。
 あれだけ吐き出したってのに、股間のモノは萎える気配など欠片も無い。体中の血液が流れ込んで、破裂寸前な位にそそりあがってる。
 胸をはだけ、口元を汚して快楽に目を潤ませているアルクェイド。彼女の目が瞬きもしないで俺のモノをとらえてる。そして本当に嬉しそうに、囁きかけてきた。

「うん……志貴、ちょうだい。沢山、たくさんいぢめてぇ」

 そっと俺のモノに手を這わせて、脳が蕩けそうなおねだり。
 もう止まれない。止まる気もない。あれだけでは足りない。足りるわけがないのだ。
 仰向けにひっくり返っても、アルクェイドの乳房は形が崩れない。見事なふくらみに手を這わして、ツンと勃ちあがった乳首を唇でつまみ上げる。

「ひゃ、あんっ!」

 いつもより強く咥えたのに、アルクェイドは背を反らせて快感に震えてる。その様に体の奥が一層熱くなる。
 まずはここから。散々俺をいぢめてくれたアルクェイドのおっぱいを今日は味わおう。涙を流して他の所を弄ってと言われても、今日は聞いてやらない。
 たゆんと揺れる小山に顔を埋めながら、俺は彼女の体を抱きしめた。
 





 まずは口火を切ってみました。短くて申し訳ない。
 まぁなにはともあれ

  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
 ⊂彡

14僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/27(木) 23:57:43 ID:joKFyjXw
うをっ!いつのまにか一番手がきてた!
エロ路線か、すげー。
GJ!

15僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/28(金) 00:00:26 ID:ZmPJsUeo
ageすまん

16[おっぱい祭][possible](1/2):2006/04/28(金) 00:15:30 ID:.2F//snA
「んふ……」
 婉然と笑って、秋葉は顔をあげる。唇から唾液が糸を引いて、ドロドロになるぐらいに愛してくれた男根の先端に繋がっている。名残を惜しむように、ぺろりともう一舐め。
「あぅ……」
 もうちょっとでイくって瞬間に止められた俺は、間抜けな声を出してしまう。またもう一度、唇で啄むように口付けて、尿道口に舌先を滑らせた。美味しいものでも舐めるみたい。とろりと、先走りの液は漏れていた。
「ふふふっ」
 体を寄せてきて、俺の胸に頬を押し付ける。秋葉のお腹が亀頭に当たる。すっと体が下がり、肌が敏感な穂先を撫でていく。
 感触に、息を呑んだ。
 細い指で弄ばれたり、紅い唇と舌で奉仕されたりするのに比べれば、ほんの些細な刺激。でも、秋葉の肌は快楽の泉。
 俺の反応に気付いた様子の秋葉は、お腹を擦り付けながら顔を寄せてきて、肉色の舌を見せつける。少し首を傾げて、キスしてくれる。
 ちゅっ
 悪戯に笑い、もうちょっと口を吸いたい俺を見捨てて、また俺の下腹部に顔を埋める。
 たっぷり唾を亀頭に落とし、そこに胸を押し付けてくる。体を揺すって、すりすりと撫でつける。柔らかなシルクの肌。繊細でとろけるような快美感。慣れない感覚に、喘ぐ。
 柔らかな胸の肉に、穂先が突き刺さったみたい。
「秋葉、乳首尖ってるぞ?」
 指摘してやると、一瞬動きを止める。俯いたままだけど、耳まで赤くなる。あんなに濃厚な口淫までしてくれるようになったけど、我にかえったときの恥ずかしがり方は変わっていない。
「兄さんこそ、こんなになさっているくせに」
 自分がそうさせたんじゃないか、とは言わないでおく。
「うぅっ」
 強い刺激。見れば、その堅くなった乳首がペニスの先端に当たっていた。
 顔は見えないけど、秋葉の笑いが薫る。してやったり、ってトコか。そのまま、乳首を擦り付けてくれる。
「んっ……」
 抑えた声をあげる。そりゃ、秋葉だって感じるはず。唾液でねとねとしながら、敏感な部分同士が転がし合う。
 手を伸ばして耳に悪戯を始めたら、秋葉の方は、そっと睾丸に手を添えて、緩やかに揉んでくれる。
「んっ」
「くっ」
 一緒に、吐息を吐いた。
 小刻みに体を揺すり、乳首が鈴口を責め立てる。ほんと、口に含んで舌を使って貰うとかに比べたら弱い刺激なのに、鮮烈。
「……秋葉?」
 呼びかけて、顔を上げて貰う。迎えに行って、ちゅっと唇を重ねる。頭を抱いて、さっき逃げられたぶん、存分に吸う。舌がつつき合い、誘い合いして、互いの口の中を案内される。
 離れて耳に口を寄せたら、髪が馥郁と香る。陶酔するうちに、また逃げられた。
 かぷ、とばかりに雁首を口にし、歯まで当てられる。充分加減してくれているけど、それでも少し痛い。心配はしていないけど、恐怖は湧く。
 優しく舌が踊って、歯の触れたところを辿ってくれる。唾液まみれにして、また乳首を尿道のところに。
 反対側の手も延ばして、男根で突いていない方の乳首を攻略にかかる。しなやかな肌に、指が沈む。

17[おっぱい祭][possible](2/2):2006/04/28(金) 00:18:13 ID:.2F//snA
「あふ……」
 指で乳首を擽ってやる。
「いやらしい胸だな、秋葉」
「んんっ、兄さんがイヤラシイからですっ……」
 妙な誹謗を受けつつ愛撫の手は休めず、ねだってみる。
「このまま、そうやってイかせてくれないかな」
 少し驚いた様子で、だけどすぐに笑いを咲かせる。
「私の胸でイきたいんですね、兄さん」
「うん、秋葉の綺麗な胸で、さ」
「私の胸に夢中ですものね、兄さんは」
「うん」
 耳から手を背中に滑らせて、薄い体を挟むようにする。鋭敏で、背中を撫でても秋葉は無闇に感じるみたい。汗ばんだ肌に撫で返されて、触れる手も、快感。
「ふふ、しょうがないですね、おねだりに応えて差し上げます」
 そう言って、秋葉は動きに熱を込める。小刻みに身を揺らし、尖った乳首でコリコリと鈴口を責めてくる。もぞもぞ、くすぐったいような動きで袋を揉んでくれる。
「ふーっ」
 我慢は、しない。秋葉からの快楽の恵みを思うままに享受する。
「んっ?」
 さわ、と慣れない感触に目を向けたら、秋葉が髪の毛を俺のものに絡ませていた。これまた、もどかしいばかりの刺激。それでも、少しずつ昂ぶっていく。変に髪の毛に惹かれて一束ほど握り、気付いたら口に入れていた。シャンプーだろうけど、俺にとっては秋葉の匂い。鼻腔を満たすほどに、更に官能に沈む。
「ふふふっ」
 秋葉が、俺の指を吸い始める。しゃぶり回してくる舌に、さっきのフェラチオを追想してしまう。喉まで呑み込む貪欲な仕草と快感を思い、くりくりとした乳首やら筆で掃くような髪やらの感覚と共振する。
 強烈に、指を吸われて。
 くにゅ、と袋を握られた途端、決壊するのが感じられた。強烈ではないけど、満ち足りた快感。むしろ緩やかに、秋葉の胸に白いものを吐き出していく。ゆるゆると、快楽の時が続く。精液に濡れた亀頭を、秋葉はまだ乳首でくすぐってくれている。きゅ、とまた握られて、絞られたみたいにまだ噴き出す。
 秋葉が指を吐き出し、代わりに亀頭に吸い付く。じゅっ、なんて音をたてて、痛いぐらいで、だけど射精の快感にアンコールをくれた。
「うふふ」
 胸に張り付いた白い粘液を指に取り、口に運んでいる。嬉々として精子を舐めるなんて、随分と淫ら。なのに、それも愛しく思っている。わざわざ口の中の精を見せつけられて、恥ずかしくなるけど興奮もする。ぺろぺろと指を舐めて、ワインでも味わうみたいにゆっくりと飲み込む。ちゃんと全部飲みましたよ、なんて言うみたいに口を開いて見せる。
 己の痴態を自覚したように、だけどまだ足りないとでも言いたそうに、照れ笑い。
 イチモツに絡ませていた髪に白いものが残っているのを示してあげる。頬を綻ばせて、それも、口に入れた。目を瞑って、さっきよりもっとうっとりと、喉を鳴らした。

 さて。こんなに良くしてもらったんだから、お返ししないと、ね。


***

 せっかくなのでMAR氏の背中に隠れて続いてみました。

18僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/28(金) 00:39:38 ID:ZmPJsUeo
>>16
エロいよ……




                     ハ_ハ  
                   ('(゚∀゚∩ エロいよ!
                    ヽ  〈 
                     ヽヽ_)

19僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/28(金) 00:42:15 ID:zaqm6pgE
>>12
アルクェイドは好き好きというキャラでもないけど、胸がたゆんたゆんだとエロい
シチュをいくらでも作れますな。

>>16
だがひんぬーでも十分エロい。いや、ひんぬーだからこそのエロさがある。
ひんぬー! ひんぬー!

どっちもいきなりエロイのを飛ばしてきましたか。GJ!

20僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/28(金) 01:11:59 ID:MpcKPQH6
エロい。エロいよあんたら!

おっぱい!おっぱい!

21僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/28(金) 03:39:41 ID:Jmp/gfBU
>「私の胸でイきたいんですね、兄さん」
>「うん、秋葉の綺麗な胸で、さ」
>「私の胸に夢中ですものね、兄さんは」
>「うん」

あああああああああああああ最高だあああああああああああ

22[おっぱい祭][女の子んぷれっくす](0/n):2006/04/29(土) 02:20:53 ID:f9oYfAUU
※ごちゅうい。 このSSを読む前に。

このSSは、【スレ無しキャラは】その他のキャラスレ【ここで語れ!】
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/995/1131635328/
に以前投稿した「彼女が身体を隠す理由(ワケ)」の改訂増補版三連作になります。
ネタ元は当該スレで上がっていた「藤村巨乳伝説」で、ありていに言えばS・S・Fネタですので、
予めそれを踏まえてお楽しみ頂ければ幸いです。
ぽろりと言うよりチラリ? ぷるりもあるよ? それでは皆さん御唱和を。

  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
 ⊂彡

では第一弾をお楽しみください。

23[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(大河ドラマ編)](1/7):2006/04/29(土) 02:22:26 ID:f9oYfAUU
いつもの衛宮邸の居間、今日の当番は桜なのでカチャカチャと食器の片付けられていく音と水の音を遠くに聞きながら、
ゴールデンタイムの特番【武内探検隊 アマゾンの秘境大ジャングルの奥地に幻の冥土喫茶を見た!!!】に
大河とその向かいに座っている士郎は釘付けになっている。
最近は後片付けまで含めて食事が当番制になってしまった為、士郎はこうして食後のお茶をのんびり啜っていられる。
そもそも桜が突然、「先輩の味を超える為なんです、企業秘密なんです」と言い出したのが事の発端だった。
それに凛が、「そうね、衛宮君にも一泡吹かせてあげないとね」と賛成した事もあって、
当番の者以外はキッチンに入れなくなってしまったのだ。
「先輩、片付け終わりました」
「サンキュ桜。風呂沸かしといたから先に入ってきていいぞ」
一度テレビから目を離して士郎が桜を労う。
「遠坂先輩は?」
「んー、今日は最後でいいって」
「藤村先生はどうします?」
「今イイトコだから桜ちゃん先でいいよー」
いよいよ冥土喫茶の場所を知ると言う噂の原住民の情報が出てきたので大河はそれどころではない。
「イリヤちゃんはセラさんとリーゼリットさんがさっき迎えに来たんでしたよね」
最後の最後まで確認するのが桜の桜たる所以だ。細やかな気配りは皆が認めるところだ。
「ああ」
「じゃあすみませんけど、お先に入らせていただきますね」
ちなみにセイバーやライダー含むサーヴァント達は今日は皆でボウリング、ビリヤード、
カラオケのS−1(サーヴァント−1)三本勝負のまっ最中。
その後にリベンジたる四本目の打ち上げ大宴会があるのとスポンサーがギルガメッシュなのはお約束。
つまりこの家にいるのは家主たる士郎と大河、桜、凛の四人だけである。
「ごゆっくりー」
画面の方を見たまま大河が居間を出て行く桜に手を振った。
一方、士郎は桜の姿が完全に消えてからテレビの方に視線を戻し――――
「おわぁ!?」
素っ頓狂な悲鳴を上げた。驚きは当然、すぐ目の前に向かいに座っていたはずの大河が居たのだから。
しかも微妙に目が据わっている。腰砕けになって後ろに倒れそうになった半身を士郎は両手でとっさに支える。
「ふ、ふ、ふ……」
藤ねえ、と言葉にならないのは心臓の鼓動が激しすぎるから。
向き直ったその瞬間、士郎と大河の顔の間は距離にしてたった3cm。
相手が誰であろうとどうにかならない方が無理があった。
「士郎、今桜ちゃんの胸見てたよね。また」
「な、何を言い出すんだ藤ねえ! そんな事…………」
大河の疑いの眼差しに対し、あるわけがないとは言い切れなかった。
残念ながら衛宮士郎は好奇心旺盛な年頃の男である。
女の子の揺れる胸に憧れるとは言わないまでも、知らず知らず視線が惹かれてしまうのはどうしようもない。
桜も最初の頃は小さかったのに……と思いを馳せそうになり、士郎は首を振って邪念を払う。
「ほら。心当たりあるんじゃない。最近ここ出入りしてる女の子多いでしょ。
 士郎も立派な男の子だし、欲求不満になっていつか、こう、がばーっと襲っちゃうんじゃないかってね。
 お姉ちゃん心配な訳、わかる?」
大げさなボディーランゲージを加えて大河は士郎に不安を訴える。何か間違いがあってからでは遅いのだ。
間違いじゃない場合も考えられるが、それはそれで大河には関係ない事だ。
「そんな事「じゃあ試してみよっか」
馬鹿馬鹿しいといつものように一蹴できなかったのは、単にそれが不意打ちで、
心構えが出来てなかったからだと士郎は自分を納得させた。でもできたのはそれだけ。
じっと真っ直ぐに見詰められたまま、ゆっくりと迫ってくる大河を
士郎は激しさを増していく鼓動と同じように止められない。
「ほら、駄目じゃない」
大河はくすりと笑って士郎のつんと鼻を弾く。
飛ぶようにすっと離れて定位置に戻り、何事も無かったかのようにテレビを見始める。
丁度CMが終わり、番組が再開した所だった。
「藤ねえ悪ふざけにもほどがあるぞ」なんて言えれば良かったのだが、激しい効果音に士郎は機会を逸してしまう。
ついでに大河もヒートアップ、思わず拳を握ってさっきのしっとり大人の雰囲気は欠片すら見当たらない。
士郎の目にはどう見ても、いつもの元気で色気のいの字すらない藤村大河だった。
「…………なんだよ」
狐に摘まれたような感覚を味わわされ、士郎はテレビに視線を戻しながら頭を掻きむしった。

24[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(大河ドラマ編)](2/7):2006/04/29(土) 02:24:00 ID:f9oYfAUU
間桐桜の平均的な入浴時間は一時間。
ただし弓道部の大会が近付いてくるとその疲労度に合わせて最大三十分までの延長時間がある。
衛宮士郎の経験上、そしておそらくは藤村大河の勘からしてもあと一時間は確実に上がってこない。
凛は離れの自室にこもったまま、急ぎの調べ物をしていてこっちに戻ってくるのは零時前後、
セイバー達はこの時間ならまだ三本勝負の一本目のボーリング勝負を終えて、ビリヤードに興じている事だろう。
つまり何度考え直してもあと一時間、この特番が終わるまでは大河と士郎の二人っきりなのだ。
「…………」
テレビの方に顔を向けたまま士郎は大河の横顔を盗み見る。やっぱり大河に女っ気はない。
特番ならではの過剰な演出に子供のように反応し、目を輝かせる姿は微笑ましくある一方で大人げない。
だが、それでも、士郎の頭の中には大河の言葉が引っかかる。

「ねえ士郎、私がどうしてこんな服ばかり選んでるか知ってる?」

着ている服はいつもの見慣れただぼだぼのワンピースに重ね着が二枚。
約十分前、CMの終わる直前にぽつりと大河から告げられた言葉が士郎の頭の中から離れない。
大河は画面の方に視線を向けたまま、真剣でもなく、ふざけている訳でもなく自然に言葉を士郎の耳に届けた。
それに理由なんてあったのか? 答えはすぐに士郎の口から出なかった。
答えを自分の中で出すよりも先に、何故そんな質問をしたのかが士郎には気になって仕方がない。
だから今こうして次のCMを待ちながら悶々としているのである。
番組の途中で問い返したら誤魔化される、そんな理由のない確信が士郎にはあった。
大河の意図が読めないのはいつもの事だが、今日はさらに輪をかけて理解できない。
昔の事を思い出せば判るかもしれないと気付いた矢先、テレビがCMに切り替わった。
「最後に一緒にお風呂に入った時の事、覚えてる?」
「…………」

「俺のスポンジー返せよー」「あれー取れねえーっかしいなあ」「うわ、うわ、うわ」

「し、士郎!?」
大河が何気なく言ったその一言が士郎の心の触れてはいけない部分に触れてしまった。
遠い目をして滂沱と涙を流す士郎の姿に大河が逆に慌てふためく。ずきり、と胸の奥が痛んだ。
完全に期待していた反応の予想の逆だ。確かに今思い返しても反省すべき点はあったが、
ここまで長期のトラウマになるとは露ほども大河は思っていなかった。
誰か他の人間でもいれば自分も含めて士郎以外は誤魔化せたのだが、この状況ではどうしようもない。
「ちょ、ちょ、ちょっと、あーもー…………えいっ!!」
「むぐ!?」
軽い絶望感にめまいを覚えながらも大河は思い切って士郎を抱きしめた。というか自分の胸に押し付けた。

25[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(大河ドラマ編)](3/7):2006/04/29(土) 02:25:35 ID:f9oYfAUU
テレビの見える位置をキープしているのは流石大河といった所か。
左腕で押し付けて、右手で髪の毛をすきながら大河は独白する。
「大体士郎が悪いのよ。あのあとしばらく口も聞いてくれなくって…………
 その後もう一回一緒にお風呂に入ろうとしたら、私の体見ただけで怯えて体震わせたでしょ。
 だから…………少しでも早く忘れてもらおうと思って………………
 女って事意識させないようにあれからずぅっと、体型隠してたんだから」
「ふじ……ねえ……」
士郎はあたたかく柔らかい抱擁に遠くに飛んでいた意識をゆるやかに取り戻す。
思い出してみれば、あの頃から制服以外はほとんど体のラインの隠れるような服を着ていた気がした。
士郎はその事について何も問わなかったし、大河も何も言わなかった。
急に服装が変わった事に違和感を覚えても日々の移ろいに忘れてしまって、
その最初も彼氏でも出来たのかなぐらいにしか士郎は思っていなかった。勿論すぐその想像は却下されたが。
大河がいろんなガラクタを持ってくるようになったのも、あの頃からのような気がする。
いつの日からかそんな大河が普通になっていて、士郎は今の話すら本人に言われなければ思い出せなかった。
CMはとうの昔に終わり、テレビから吐き出される衝撃的な効果音と叫び声が士郎の五月蝿く響く。
気恥ずかしさなんてものはどこかへ置き忘れ、士郎はしばらく大河に身を預けていた。
「……士郎。お姉ちゃんちょっとは安心してたのよ?
 桜ちゃんが来て、セイバーちゃんが来て、遠坂さんとライダーさんとイリヤちゃん?
 バゼットさんとカレンちゃんもかな。女の子に囲まれるようになっても、もう大丈夫なんだなって」
「学校でも、中学校ならそうでもないけど高校は違うでしょ。だから心配してたんだけど私の杞憂に終わったみたい。
 士郎はちゃんと男の子で、女の子を女の子として意識できてるみたいだし」
次のCMまで待つのは士郎にとって苦痛ではなかった。CMに入る度に大河は思いを素直に士郎に伝えた。
何がきっかけだったのかは士郎には判らない。ただ姉弟として一番長い付き合いの大河との時間が、
この家がにぎやかになるのに反比例して減っていったのは事実だった。
一番身近にいたはずの大河が、いつの間にか一番遠くになっていた。
だからたまにはこんな時間もいいだろうと、士郎は黙ってなすがままにされていた。
「……でもね。私だけ意識してもらえないのは女としてちょっとくやしいな。
 もう士郎は大丈夫、だよね?」
今までごめんな藤ねえ、と胸の中で謝ってから士郎は体を起こし大河から離れる。
「ああ」
もう大河の心配するような事はないと、真っ直ぐに目を見て応える。
藤ねえだって大人だけどやっぱり女の子だ。
したい服装だってあった筈なのにそれが全部俺のせいで出来なかったのなら、もうこれからは解放してあげないと。
大河が欲しい服を二、三着プレゼントしてあげるのもいいかもしれないと士郎は思った。
番組のエンディングテロップが流れていく。
まだCMには入っていないけれど、そろそろ桜が上がってきてもおかしくない時間だ。
姉弟のスキンシップもこのくらいにしておかないととんでもない事になる。
話もこれで終わり、そう思いと立ち上がろうとして、士郎は何故か天井を仰ぎ見ていた。
「桜ちゃんやライダーさんには悪いけど、私だって脱いだらスゴイんだから」
簡単な事だ、士郎は大河に押し倒された。戦なら取ったもん勝ち問答無用のマウントポジション。
そう、大河はまだ物足りなかった。こんな事だけで満足できる大河ではない。
長きに渡り放置されてきたこの積年の想いを今晴らさずしていつ晴らすというのか。
バレンタインデーの一ヵ月後のホワイトデーが三倍返しなら、この想いは百万倍返しでも足りはしない。
あの士郎が自分を女として見てくれると言ったのだ、今見せ付けないでいつ見せるというのか。
鉄は熱いうちに打て、人間万事塞翁がクライマックス、この機会を逃すという選択肢は大河の頭にはない。
そう、思い立ったら突っ走るのが藤村大河である。
「ふっ、藤ねえっ!?」
極限的な状況で鋭敏になった大河の野生の勘は告げる、あと十分は堅い。
「私ね、いつもはサラシ巻いてるの……」
慌てふためく士郎をがっしり押さえつけて、大河は士郎の耳元でそっと囁いた。

26僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/29(土) 02:26:12 ID:1MYUay4o
SSF

27[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(大河ドラマ編)](4/7):2006/04/29(土) 02:27:03 ID:f9oYfAUU
「――――え」
右から左へ。耳元からすっと大河の顔が引かれ、士郎の反対の頬を擦る。
キスされるのかと思った士郎の心臓が大きく跳ねた。肌が触れ合う、それだけなのにそれ以上の何かを感じる。
「士郎」
間近で聞く大河の声は触れ合った頬からも士郎の脳へと響く。鼻の頭を撫でる短い大河の髪の毛がこそばゆい。
士郎は現在自分の置かれている状況を俯瞰する事が出来ないほど頭の中が白くなっている。
何故、どうして、きっかけは何だったのか。
心臓の音がうるさくて、女を今まで見せなかった大河の女に触れて混乱している。
「見たくない?」
何を、とは聞き返せず、また答えられるわけもなく。
「それとも見たい?」
二度目の問いかけにも反応できなかった。離れていく大河の顔を目で追う事しか士郎には出来ない。
ちょっと待ってね、と呟いて大河が両の長袖から腕を抜く。
「藤ねえ……何を…………」
知ってるくせに、とその少し恥ずかしそうな笑顔が言っているように士郎には感じた。でも大河は何も言っていない。
よいしょ、とか、んっ、等という吐息のようなものはあるものの、それは言葉ではない。
ただ士郎の上に覆いかぶさるような体勢のまま、服の中で腕と手をもぞもぞさせている。
衣擦れのような音。逃げ出そうと思えば逃げ出せる。断ろうと思えばいつでもそう出来たはずなのに。
士郎の口からは声すら出ず、視線と意識は大河の顔に注がれていた。
「ん、とこれで…………ふぅ。やっとこれで楽になったわ。はいこれ」
袖から両手を再び出した大河が、士郎の両手を掴んでしっかりと何かを握らせる。
「――――な」
ぎゅっと士郎が喚く前に大河が口を左手で塞ぐ。右手はまだ士郎の両手を押さえている。
「ね? 嘘じゃないでしょ」
何が、ね、なのか。やけに上機嫌の大河の耳が真っ赤になっているのに士郎は気付く。
極当たり前の女の子……女の子としての反応なんだろう。無意識に年頃の少年の目線は顔よりも近い胸元へと動く。
一見して服が弛んでいるだけのように見えるが、大河が体を少し動かすとそれに一テンポ遅れて胸元が動いた。
先の目で追ってしまっていた桜と同じ。同じものがそこでささやかに存在を主張している。
「あ――う――」
反則だ。何が反則なのかは良く判らないけど大河がこれを持ち合わせるのは違法だというのが士郎の第一印象だった。
女のおの字もなかった姉が、そんなものを、否、まだあたたかみの残る両手の中の木綿の感触が証明している。
大河が上半身を起こす。そのなんでもない動作で今まで在っても無いも同然だったものが、存在感を誇示する。
明らかに盛り上がった大河の胸部はたゆんと反動で一度揺れ、反復する幅を狭めながら三度揺れて定位置に収まった。
士郎の上から横に降りて、ぺたりと座り込んで大河は膝の上をぽんぽんと叩く。
おいで士郎。
誘われるように士郎もゆっくりと体を起こす。士郎が見詰める大河は笑うばかりで、有無を言わせない。
拒否権はあった。でも、ただこのひと時だったとしても他に誰も居ないという状況が士郎に行使させなかった。
目の前にいるのは幼馴染というには年が離れている、自分の家族で、姉だったはずの女性。
子供っぽくて大人気なくて、でも意外としっかりしているくせに無茶苦茶で。
甘いというよりあたたかい誘いに抗えず、士郎は一度四つん這いになり――――
「直接見せるのは恥ずかしいから、今はこれで我慢してっ」
「うわっ、ぷ――――!!?」
大河の服の中にずぼっと収まった。
可愛らしい下着が見えたのも一瞬、自由は奪われ士郎の顔は柔らかいものに挟まれていた。
大河の服装はいつもの着ている緩いサイズのワンピース、それでも二人で着るには少しだけきつかった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜」
声にならない、なるはずが無かった。それは士郎だけの話ではない。
嬉しいのか苦しいのか恥ずかしいのか怒りたいのか泣きたいのか解らないくらい、大河も感極まっていた。
照れ隠しか単なる脊髄反射なのか、身じろぎする士郎を大河はぎゅっと抱く。
一言で言えば、やっちゃった♪、なのだ。ごろごろとそこらじゅう転がりまくって家屋倒壊させるくらいの歓喜。
もう一言付け加えるなら、もう離さない、だろうか。離したくないという希望ではなく、意思。
この瞬間から、藤村大河は完全に退けなくなった。もう余計な我慢はしないだろう。
ブレーキは永遠に失われたのだ。

28[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(大河ドラマ編)](5/7):2006/04/29(土) 02:28:10 ID:f9oYfAUU


「あれ、士、衛宮君は?」


「「――――!」」
だが、当然のように外からの干渉は避けられない。すっと引き戸を開けたのは来るはずのない遠坂凛。
完全な不意打ちに二人のさっと血の気が引く。士郎は大河の肌でそれを実感する。
「トイレじゃない? 桜ちゃんもうちょっとしたらお風呂からあがってくると思うけど、遠坂さん次行く?」
士郎が冷たく感じたのも一瞬、大河の肌は一気に白熱し脈拍は急上昇する。
士郎は瞼を閉じただただ息を殺す事に専念する。もしばれたらどうなるか。
自分ではなくこの姉である藤村大河が、だ。元より自分の事など勘定に入っていない。
今まで忘れていた大河以外の人間の顔が、言葉が最悪の形となって士郎の頭の中で木霊する。
「いえ、私は最後で結構です。先生お先にどうぞ」
大河の脈拍は士郎を遥かに上回っていた。だがそんな事おくびにも出さない。
立ち位置が全てだった。
士郎、大河、凛と一直線に並び、テーブルや凛の視点の高さによって士郎の存在はギリギリ隠れていた。
だが凛がもし一歩、たった一歩いや身を数cm乗り出し角度を変えるだけで全ては瓦解する。
隠し切れない違和感はすでにある、それにいつ凛が気付くか。凛の勘の鋭さを知っている士郎は気が狂いそうになる。
心音が跳ね上がる。でもまだ大河には追いつかない。
それは自分より焦っている人を見るとかえって落ち着いてしまうという現象に似ていた。
「そ。じゃあ桜ちゃん上がったら入らせてもらうわね」
肩と首を捻って大河は後ろの凛へ顔を向け、目を合わせる。
普通に振舞えたと思っていても不自然さは残ったかもしれない。
でも自分が振り返らないのは、それを越えて不自然なのを大河は知っていた。
その動きに合わせ、予想以上の弾力が士郎の顔を圧迫し鼻と口を塞ぐ。声は最初から出せていない。
密着した肌と肌は服の上から押し付けられたあの硬い胸と同じとは到底思えない。
興奮に汗ばんだ肌が匂い立つ。鼻と肌のあってないような隙間、士郎が吸える空気は小さじ一杯にも満たない。
しかしすでに失いかけている理性にはそんな量でも致死量に近かった。
もしここで――――言葉には出来ない。過程をすっ飛ばして士郎の意識は結果を出す。駄目だ。
出来ない、意識すればするほどにその束縛を解きたくなる衝動に駆られる。
左の手がもう触れている。少し力を込めるだけでより強くその肌触りを、柔らかさを、熱さを――――を。
理性と本能が乖離し始めた証左か、士郎の左手に徐々に力がこもる。
だがその事が逆に作用し意識を取り戻させる。柔らかい肌に刻まれた段差が指の腹に次々と引っかかった。
肌触りの明らかな違いは、大河が日頃どれだけ無理をしていたのかを士郎に理解させる。
サラシは厚みの無いただの布切れに過ぎない、だがそれも引き絞れば硬くなり肌を傷つけられる。
こんなに柔らかい乳房が、圧力をかければさっきの様に硬くなる。それを毎日、何ヶ月も、何年も。
女の子なんだから。なんだってそんな事。やはり士郎の声帯は震えない。
実際恥ずかしくもあったんだろう、でも素直に見せられなかったのはこういう事だ。そう思うと士郎は胸が痛くなった。
一体どれほど無理をさせていたのか。自分に対する怒りで身体が震えた。
「はい、ごゆっくりしてください。衛宮くんが戻ってきたら私の部屋に来るよう伝えて頂けますか?」
「おっけー、そのくらいお安い御用よ」
ぎゅっと。大河は士郎の背中に乗せた左手で優しく震えを押さえつける。
これだけ触れ合っていて、相手が何を思ったか判らないくらいでは姉とも言えないし家族でもない。
大河の気持ちは穏やかになっていく。でも身体の興奮が収まらない。
もしバレたら、バラしてやりたいと思ってしまう自分が確実にヘンだった。
心の位置がうまく定まらず、胸にちくちくと刺さる髪の毛の感触だけでもおかしくなりそうなほど。
「じゃお願いします」
「うん」

29[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(大河ドラマ編)](6/7):2006/04/29(土) 02:29:28 ID:f9oYfAUU
会釈して戸を閉め去っていく凛の、「ったく、必要な時に居ないんだから……」というセリフまで地獄耳で
捉えきってから、大河は大きくため息をついて服越しに士郎の頭を撫でた。
「はぁ…………寿命百年くらい縮んじゃったわ。遠坂さんが来るなんてお姉ちゃんでも予想できなかったわ」
「一体何年生きるつもりだ藤ねえ……じゃなくて、もう出る」
「あぅん、暴れないの。まだ遠坂さんが近くに居るわ――――っとぅ隙ありぃ!!」
もぞもぞと抜け出そうとする士郎を脅して動きを止め、もう一度ぎゅぅ、と抱き締める。
その姿はまさにさば折りと呼べるものだろう。士郎の背骨は泣(鳴)いている。
一緒にぐりぐり頬擦り出来ないのが若干悔しい大河だったが、もう次が迫っていた。
名残を惜しむ間を惜しんで服の裾を持ち上げてスポンと士郎を外に出す。
咳き込む士郎を他所に大河は腰のベルトに手を掛ける。
「な、ふ、ふふふふ「士郎ベルト貸して。巻き直してる時間ないの」
「巻き……? うおっ」
手の中にあるサラシの事を指しているのに士郎が気付いた瞬間に無理矢理体が一回転。
大河は奪い取ったベルトを腕と共に服の中へ引き込んで輪を作り強く締め付ける。
「これでよし」
足音は近い。控えめな胸に戻った大河は倒れたままの士郎をさっと引き起こし胡坐を組ませて定位置に据える。
「これもオーケー」
大河はうむ、と頷く。士郎の性格からして口に出す事はないだろうと大河は踏んでいる。
それは間違いないだろう。幾らなんでも士郎とて自ら争いの火種を蒔く事など良しとしない。
後は自分の席に戻れば元通りと、勢い良く踏み出した所で大河は急反転した。
「士郎」
くりくりとした大きい瞳で困惑したままの士郎の顔を覗き込む。
「なっ」
再度急接近した大河の顔に過剰な反応を士郎は示し体を引く。
「忘れ物」
「?――――ッ!!!?」
しかし追いかける大河の方が速かった。コンマ一秒、疑問を抱いた士郎は逃げ切れず大河と触れ合う。
「えへへ」
初々しいほどに短く、感触なんか欠片も残らないキス。
今までに見せた事のない幸せいっぱいの笑顔を士郎の網膜に焼き付けて、大河は自分の席へ跳ねて戻った。

30[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(大河ドラマ編)](7/7):2006/04/29(土) 02:31:00 ID:f9oYfAUU
「いいお湯でしたー」
ある時刻から数えてジャスト十分後、さっぱりした幸せそうな表情で桜が居間へ戻ってきた。
外から流れ込んだわずかな風に乗って甘い香りが士郎の鼻に届く。きっと桜のシャンプーの匂いだ。
そう思わなければやってられない。ただ何がどうやってられないのかは士郎自身良く解っていない。
桜はかすかに湿っている髪をタオルで拭きながら、キッチンへ向かいコップに冷蔵庫から取り出した水を注ぐ。
「おー湯上りの桜ちゃんも色っぽくていいわねー。私ももうちょっと若かったらなー」
「な! 何言ってるんですか藤村先生っ。? 先輩、顔が少し赤いみたいですけど」
血色のいい頬をもう少し赤くして、桜がキッチンに一番近い席に座る。
士郎の顔はテレビの方を向いていて、桜の位置からは横顔しか見えないものの、耳が真っ赤なのを見逃す事はない。
「ちょっと『興奮した』からしょうがないんじゃない?」
士郎が振り返るよりも先に大河が桜に答える。
番組切り替えの合間のニュースもとっくに終わり、目をそらしても問題ないような娯楽番組が流れている。
「興奮、ですか?」
「いやー期待以上に凄かったのよ。お約束だけどアクシデントもあったし、番組の最後ってところでこれがまた。
 『スゴかった』わよね〜、士郎?」
「…………うん、『スゴかった』」
大河の声にびくっと体を震わせて、消え入るような声で士郎が鸚鵡返しする。
「はあ。先輩がそういうんならほんとに凄い内容だったんですね」
桜は水を美味しそうに飲み干して、たとんとコップを置く。
「桜ちゃんそれぶっちゃけ失礼」
大河は思わず苦笑をもらす。
「あ、すいません、つい。でもタイトル見る限りではそれほどのものとは思えなかったんですけど」
「んー、まー確かに演出で稼いでた面はあったけど、面白ければそれで万事OKって感じ?」
「そういうものなんですか?」
「そういうもんなのよ」
はい、とリモコンを大河は桜に手渡して立ち上がる。
「最後どうなったんですか?」
大河の動きを視線で追いながら桜が問いかける。
「結局引っ張るだけ引っ張って『触り』の部分だけ。『続きはまた後で』だってさ」
意識を士郎に固定して、桜の後ろを大河は通り過ぎていく。
「興味があるんだったらお風呂から上がった後に話したげる」
先ほど桜が入ってきた引き戸に手をかけて、大河は一度振り返った。
耳を依然として赤くしたまま固まっている士郎の背中は、大河が思っていたよりずっと大きかった。
見たのは一瞬、笑みは表に出る前に消えた。すぐに振り返る動線に合わせて桜の方へ目を向ける。
「あ、いえ。二、三十分くらい湯冷まししたら今日は家に帰りますので。
 そんなに面白い番組だったなら兄さんがたぶん録画してますから大丈夫です」
「そう? それじゃ風邪ひかないようにしっかり髪乾かしてから帰るのよ」
「はい」
笑顔に笑顔で答えて、大河は士郎に声をかける。
「士郎、『先に』お風呂に入ってくるね」
「あ……ああ」
士郎の返事に満足そうに微笑んで、大河はもう一度桜に、行ってくるねと小さく手を振った。

31僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/29(土) 02:33:48 ID:1MYUay4o
こんなの、藤ねえじゃない…

32僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/29(土) 02:41:00 ID:QtG9mdaw
つまり、ここにいたのは藤村大河という教師ではなく。

おっぱいの大きな一匹の虎であった―――





おっぱい!おっぱい!
藤村巨乳説が大地に立つ。

33[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(桜、策。編)](1/3):2006/04/29(土) 17:23:44 ID:BH/LBvCQ
面白みの無いニュース番組が淡々と今日の時事を伝えている。
「…………」
桜は姉に比べて大して勘がいいわけではない。ただ自分に向けられる負の感情には敏感である。
お風呂から出てくる前と後。大河の態度には何か引っかかるものを桜は感じていた。
さっきの何気ない会話の中にも何本もの棘が含まれていた。明らかに自分の事を意識したものだ。
何かを見せびらかしているような、悦に浸ったそれは大河らしくないと桜は思う。
語調の変化はごくごくささやかなもので、弓道部とこの家で大河と触れ合っていて、
かつ今までの生活環境が無ければ桜は気付けなかっただろう。凛ならば気付けたがそれは士郎の態度だけだ。
桜は先に大河の雰囲気に違和感を感じてしまい、それ故に士郎の異常には気付けなかった。
でもこの場に居るのは二人だけ。かなり久し振りの美味しいシチュエーションである。
「………………」
思い返すまでも無い、衛宮邸に出入りする女性の数は増えている。
時々慎二や一成、アーチャーは言わずもがなギルガメッシュまでやってくるがそれでも女性の方が多い。
イコール桜にとっては潜在的なライバルが増えたと言える。
勇気を振り絞って確保し、頑張って維持してきた後輩であり家族であるポジションの優位性も今はあってないようなもの。
なまじ士郎の男女関係なく、他人に対する間口の広さ故に後から来た者が容易に高位置まで上がれるのだ。
少なくとも桜はそう考えている。
無論、色恋には疎い士郎にとってそれは具体的でないので、当然のように気づくはずもない話ではあるが。
ここに集う女性は全員少なからず、ある程度の好意を家主である衛宮士郎に対し持っていると桜は断言できる。
ポイントを稼いでおくに越した事はない、数少ないチャンスを不意にしてはならない。
必ずしも狙ったわけではないこの時間を有効に使わなければ、と桜は意気込む。
人が増えたのは必ずしも悪い事ではないのは知っている、士郎は良く笑うようになったし姉とも仲良く出来ている。
料理の作りがいもあれば自分自身、笑顔になる機会が増えたのを実感している。
だが、しかし、それでも譲りたくないものはある。何が何でも独り占めしたいものはある。
――――それは気まぐれに真っ黒になってしまうほどに。それが恋する女の子である。
「先輩」
「ん、何ださく――――」
吹き出さなかっただけ士郎は偉かった。動揺する前に言葉を失ったのはより桜を満足させた。
男を落とすのに一番手っ取り早い方法を桜は選んだ。ただそれでもまだ、先の大河に比べれば随分控えめである。
わざと胸元を大きく開いて、それに気付かない素振りで声をかけた。なにげにブラはフロントホックを外して抜いてたりする。
これも己の武器(胸)を強調する為。他の女には負けない、負けたくないという矜持が桜にもある。
魔術や他の物で劣ろうとも肉体では負けない。恥ずかしくはあるがそれは桜が持ちえる最大の武器でもある。
「先輩?」
小首をかしげて小さく笑って見せる。演技ではない、その反応が気恥ずかしくも嬉しかっただけ。
「あ、いや……その、なんだ?」
まだまだ捨てたものではない。桜は自分の魅力を最大限に引き出す方法に熟知しているわけではないが、
年頃の男の子のくらっと来るような状況は、兄の部屋の隠し戸棚のDVDやネット等その他もろもろで学習済みである。
あらゆるジャンルの書籍を読み耽るライダーからの情報にも貴重なものがあったのは言うまでもない。
いつものアタックの仕方ではやはり押しが弱かったのだと桜は改めて思う。
積極的に、積極的に。心の中で繰り返して次の言葉を紡ぐ。
「お願いがあるんですけど、いいですか?」
ちらちらと刺さる視線が気持ちいいような嫌なような、むず痒さを伴う感覚がたまらない。
今、衛宮士郎を独り占めしているという実感が桜にはあった。
「あの…………」

34:[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(桜、策。編)](2/3):2006/04/29(土) 17:25:34 ID:BH/LBvCQ
「その、か……」
「か?」
「か、た……」
「肩を?」
「肩を揉んで欲しいんですけど…………」
桜には幸せが足りない。勇気がせっかくの所で途切れてしまった。頑張ってこれが限界だった。
激しく自己嫌悪、でもそれは表に出さない。
「駄目、ですか?」
そんな顔で、上目遣いでお願いされて断れる男子がいるだろうか。士郎は慌てて首を横に振った。
「ぜ、全然。お安い御用だ。でもなんで突然――――」
半分裏返りそうな声で暗く沈みそうな桜の顔を明るく戻そうとする。
先程の事が頭にあって、桜が誘っているようにしか士郎には見えていない。でもそれは全力で否定する。
士郎の知っている桜は気立てがよくて優しくて、弓道部の部長も努めるようになってから芯がしっかりしてきた女の子だ。
どこに嫁に出しても恥ずかしくないと思えるくらいの自慢の後輩である。
……最近は怒らせると妙に黒くなる時があって、非常に怖いという一面もあるが。
「え……あはは、あの、湯あがりに揉んでもらうとすっごく効くんですよ。
 いつもはライダーにお願いするんですけど今日は遅くまで帰ってきませんし、姉さんに頼むのは気が引けて……」
「あ――――ああ、なるほど。桜は結構凝りそうだもんな」
「〜〜〜〜〜っ」
ぽろっと出た一言が桜の頬と耳を瞬間的に真っ赤に染め、身を縮こまらせた。
無意識に動いた手がせっかく見せていた白い胸元を隠している。
自分からそういう風に仕向けたものの、指摘されればやっぱり恥ずかしい。
士郎も桜の反応にはっとして慌ててフォローしようとする。
「ち、違う違う、重そうだとかそんなんじゃなくて、ほほら、大会も近いし、練習大変なんだろうなって」
頭の中が、さっきの事でいっぱいでどうも胸やら、その、ソッチの方に直結してしまう。
「あ……あ! そ、そうですよ、ね……」
でもそれはそれで悲しくなってしまう桜だった。
自分の魅力ではなびかないというのかこの朴念仁は。小さい方が好みとでも言うのか。
ちょっとだけ黒くなりそうになった自分を抑えて、気にしてないですよ、と苦笑する。
「揉んでいただけますか先輩。髪が乾くまでの間だけでいいですから」
「お、おう」
士郎は立ち上がって桜の後ろに回り込む。どうしてこうも自分は押しに弱いのか。
この家に来る女性の数が増えるに従い、士郎の自由意志と発言権は確認するまでもなく磨り減っている。
バゼットとカレンが来たあの日、それがとうとう誰の目にもわかる形で露呈したのである。
あとは野となれ山となれ。ポケットの中には先程大河に押し付けられたサラシが入っている。
やっぱり拒否権は無かった。凛にも呼ばれているが、今の自分は大河を優先してしまう確信があった。
だがそれ故に士郎は後ろめたい気持ちにもなる。
こうして桜の頼みを引き受けるのも結局は無節操に欲情しているだけではないのかと。
そんな事を考える原因となったのが大河である事は言うまでもない。
「邪魔ですよね」
首筋を揉みやすいように桜が髪を軽く纏め上げる。さらさらと舞った髪から芳醇な薫りが振り撒かれる。
士郎は軽いめまいを覚えた。薫りだけではない、日頃見る事のない桜の細いうなじに女の色香を感じてしまう。
その向こうには豊かな胸のふくらみが見えている。人は時にそれを絶景と呼ぶ。
「お願いします、先輩」
肩越しに笑いかけてくる桜の顔を士郎はまともに見れなかった。
「こ、こっちこそよろしくな」
何がよろしくなのかは解らないが、退却は許されない、
ここまで来ておいてやっぱり無理、なんて自分の都合で断るなんて士郎には出来なかった。
桜にくすっと笑われて、少しむっとなりながらも肩揉みに取り掛かる。
「んっ……ああ。先輩、肩揉むの上手ですね」
「藤ねえに散々仕込まれたからなー。おお、結構凝ってるな」
「あっ……そこは」
他意はなくともせっかくの二人きりなのに、他の女の事を口にするのは無粋と桜は唇を尖らせる。
でもこれは、予想以上に気持ちいい。ライダーに揉んでもらうこともあったが、遠慮が見え見えで存外に弱かった。
握力は侮れないものがあるのをライダー自身が良く知っていたからこそ、うまく力を出せなかったのだろう。
それに比べ士郎の思い切りの何といい事か。
凝ったツボをぐりぐりと無造作に探(犯)す指の感触は桜を恍惚とさせた。

35[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(桜、策。編)](3/3):2006/04/29(土) 17:27:45 ID:BH/LBvCQ
羨ましいな……藤村先生。ずっとそんな風に先輩としてたなんて。ちょっとだけ嫉妬する。
でもそんな気持ちもすぐに消えていくくらい士郎の指先に桜は意識を傾けさせられる。
力強くも繊細なタッチが、身も心もゆるやかに解していく。
肩を揉まれるだけでこれほどなら、もし胸を揉まれたりなんかしたらどうなってしまうのだろう。
そこから下りて臍を撫でられたり脇腹を責められたり、足を――――なんていやらしい。
自らの淫らさが背徳感を刺激し桜自身の快楽中枢を鋭敏にしていく。
「ぁ……ん……」
気が狂いそうなのは士郎の方だ。大河の一件で理性が削り取られている状態でこの桜の痴態。
単に気持が良くて声が漏れているだけのはず、なのだが士郎にはそう思えない。
「は……ぁ、ふぅ……」
肩を揉み首筋を解していくほどに、桜の反応は甘さを増して耳から士郎を攻め立てる。
血行が良くなってきたのか触れている肌は熱を帯び、しっとりとした肌触りが精神を蝕む。
全部藤ねえが悪いんだ。普段の士郎にはない責任転嫁、桜が体を震わせる度に揺れる胸元から目が離せない。
揺れる。
眼下の白い肌の面積が少し変わるだけで士郎は大きく理性を揺さぶられる。
跳ねる。
見えそうで見えない、ハーフカップのブラでもしているのか見えるはずの下着が見えてこない。
震える。
頬に触れたあの感触を、今度こそしっかりと揉んでみたいという欲望が士郎の理性という名のダムを
決壊させる勢いで溜まってきている。肩や首筋に触りまくるような代償行為ではもう追いつきそうにない。
「アツ……い」
大きく下がった襟元、胸の谷間を隠すように桜の指が無意識に引っかけられた。
桜が次に何をするかは士郎には判っていた。だからこそ否応なく目が惹きつけられる。
ぱたり。
襟が前後する。一度目は見えなかった、ならば二度目はどうか。
ぱたり。
なら三度目は。四度目は。
ぱたりぱたりときわどい位置まで引き伸ばされて、V字になった丸い襟が桜の腕の動きに合わせ角度を変える。
やば――――
刺激が強すぎて衛宮士郎の理性はこれ以上は耐えられない。だというのに桜に注意する事も出来ない。
意に反して目が離せない。それでも目を細めて、肩を揉み解す力に意識を振り分け――――
ぐ、っと大きく桜が襟を引く。
「――――!」
ぎゅ、っと士郎の指が桜の柔肌に今までになく強く押し込まれる。
「あぁん!!」
桜の指が外れぱちん、と音がしそうな勢いで襟は定位置に戻り、士郎は寸前の所で顔を逸らせていた。
「はぁ…………」
漏れた吐息はどちらのものか、それとも二人両方か。
士郎の理性はギリギリのところで維持されている。これ以上続ければ桜をどうにかしてしまう。
自分にここまで良くしてくれるいい子に手を出すのはまずいと思った。
それを桜自身がずっと前から望んでいるとしても、その事を士郎は知らないのだから仕方がない。
「髪の毛……乾いてるぞ。これだけ柔らかくなったら凝りも取れたと思うんだけど……」
流石に士郎も「まだ足りないか?」と、己の欲望丸出しには訊けなかった。
今、目を合わせていないのは桜にとって幸福中の不幸と言えるだろう。
もし陶然とした桜と目を合わせていれば、士郎は襲わずにはいられなかったのだから。
「そう……ですね。軽く、なりました」
士郎の言葉に素面に戻りつつあった桜は半ば呆けた状態で返事をする。
肩揉みだけで軽く達してしまったのは、桜自身驚きだった。
はしたないと思う羞恥心はなく、もし肩だけでイけるようになってしまったら等と余韻に浸る。
「ひやっ……ん――」
纏めていた髪を戻せば、まだ性感帯のような首筋が敏感に反応する。
肌を滑っていく様子からもう夢のような時間は終わったのだと、桜は少し寂しさを感じた。
でもすぐにこのくらいの触れ合いならまたすぐに出来るのだからと自分を慰め、気を取り直す。
何もこれだけが全てではない。それでも――――
「ありがとうございました、先輩」
振り向いて笑顔で、
「すっごく『気持ち良かった』です」
ほんの少しだけ淫靡さをトッピングして桜はお礼を言った。

36僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/29(土) 17:35:38 ID:Jxrgr73U
微妙……

37僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/29(土) 19:12:49 ID:I.v.60jU
つうか開催は五月一杯なのに皆ペース早いな。
一人で二、三作ぐらい投下できそうなペースじゃw

38僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/29(土) 20:33:49 ID:2rWsv41M
ああ、いい。湯上がりの桜。
文章を読ませてもらっただけなのに、なんか眼福。
ごちそうさまであります。
くーもみてえ。

39「おっぱい祭り」「グリグリとサンドイッチ」ユウヒツ:2006/04/29(土) 21:51:21 ID:zWfHYC/w
 髪を撫でる。銀髪の淡く儚く幻想的な感触。朝もやのクモの糸のように
解けおちるのではないか。
 手櫛で梳く。さらりと広がる柔らかな感触。ほつれた絹糸のように解けて
しまわないのか。

 静かな昼下がり。イリヤは士郎の膝枕で昼寝をしていた。

 士郎はイリヤを見下ろす。しろいこあくまは天使の寝顔をしている。
スヤスヤと寝ている。気持ちよさそうだ。
 頬が緩む。イリヤは猫が嫌い。だけど、かなり猫的だと思う。無邪気で
いたずら好きでわがままで──けど、放っておけない。
 髪を撫でる。士郎の太ももにかかるイリヤの頭の重さは苦痛に感じない。
むしろ、心地よい。

 静かな昼下がりは優しく過ぎようとしていた。


「イリヤ居る?」
 ひょいと顔を出したのはリズだった。とことこと士郎の後ろに回りこむと
イリヤを士郎の頭越しに見る。
「イリヤ、気持ちよさそう」
 朴訥な言葉だが気遣っているのがよく分かる。士郎は「そうだな」と頷いた。
「シロウも気持ちよくなる?」
 ひょいとリズは自分の胸をシロウの両肩に置いた。一房を片側の肩に。つまり、
士郎の首筋は挟まれている。

 リズの胸に──

「うわっ、なにを?」
 さすがに驚き、身じろぎしようとするが、
「だめ、動いたらイリヤ起きる」
 リズにそう言われると固まるしかない。
「男の人、こうすると喜ぶと聞いた。イリヤ気持ちいい。シロウ気持ちいい。
うん、これでいい」
 柔らかく温かく重い感触が士郎の後ろを襲う。リズがのしかかる。たゆんと
挟まれる。一体、どこで聞いたのか?
「──えっと」
 戸惑う士郎にリズはふにふにと自分の胸を押し付ける。いつか見た水着。
胸の大きさは圧倒的で最強を誇る。形も張りも見事の一言。くにくにと押し
付けられる。正直、どうにかなってしまいそうだ。
「リッ、リズ」
 無表情でパフパフされる。なんとか声を出す士郎に「何?」と聞き返しつつ
胸を押し付ける。
「もしかして、気持ちよくない?」
 表情は変わらないと思う。だけど、声は少し沈んでいる。
「いや、そんなことないぞ、うん」
 だから、思わず頷いてしまった。ついでに本音もポロリ。
「そう──」
 うれしそうな声を出すとリズは両手で自分の胸を強く挟んだ。当然、士郎の
後頭部にのしかかる感触は強くなる。これは甘美な拷問か。従順なメイドの
ご奉仕に翻弄される。

「うっ、うーん」
 不意にイリヤが目を覚ました。
「後ろに何か当たってるー」
 そう言って、イリヤは頭をグリグリ動かした。ちなみに先ほども言ったが
イリヤは士郎に膝枕されている。
「うん? こういうのも聞いた」
 士郎にのしかかっていた重みが消えた。代わりに後頭部に柔らかい胸を押し付けられる。
グリグリ。
「おっ、おう?」
 イリヤは頭をぐりぐり動かしている。「何これー、何これー?」イリヤの後頭部を押し上げる
何かをグリグリこする。
「んっ、どう? 布一枚感触」
 リズは士郎の後頭部に胸を押し付ける。言葉どおり、布一枚しか隔ててない。柔らかい感触
から一点、硬いものが感じる。だんだんと尖る。
「あははっ、どんどん硬く、大きくなる。おもしろーい」
 楽しそうにイリヤは頭を動かす。先端に押し付けてこする。
「んふっ、けっこう、わたしも気持ちよくなってきた。シロウはどう?」
 右胸から左胸にかわる。士郎の耳元にリズの熱いと息がかかる。
 後頭部にはりズの胸の感触。股間からはイリヤの髪の感触。動きたくても動けない。柔らかく
捕らえられる。
「うっ、うおっ」
 不意に士郎は立ち上がるとイリヤもリズも放り出して駆けて行った。行き先は洗面所。
耐え切れなくて放出してしまったのだ。
「ひどーい」
 イリヤはプンスカ怒っていた。
「うん、シロウひどい」
 リズも同意した。

 情けなく士郎は洗面所で後始末していた。力なくため息をついたところで、
「やはり、早漏ですね。それぐらいで果てるとは」
 カレンの侮蔑の目で告げられる。
「嘘だというのなら耐えてごらんなさい。私の髪と胸、どっちがいいですか?」
 カレンは自分の白い髪を掲げて聞いてきた。
 士郎はさらに力なくため息をついたのだった。

40僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/29(土) 21:58:27 ID:zWfHYC/w
 どうも、お粗末でした。速攻で思いついたねたを一つ。
あまりエロくなくてごめんなさいです。また、何かあれば書きたいなー。

41僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/29(土) 22:15:28 ID:QtG9mdaw
たった1レス分の文章なのにエロイ!

42僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/29(土) 22:22:35 ID:Kecg5vdU
はなぢがでそうれふ

43僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/29(土) 22:39:10 ID:1FbRkiUA
ちょっwwwwwなにこの滴るエロスwwwww

44[おっぱい祭り][地区B](1/3)八杯:2006/04/30(日) 00:41:01 ID:w5CBtRDI


「あ、――――れ?」

目覚めは唐突。
原因は粘性の水音。
短く響く音、輪郭の無い暗闇に何度も繰り返す。
それは彼女の受ける刺激に連動する。

「、―――っ」

跳ねる体。
受けた刺激を確かめるため下に目を向け、ようやく凛は体を覆うものが無いことを知った。

「あ、姉さん。ようやく目が覚めたんですね?」

刺激が、止む。
否。
今まで臍に感じていた桜の舌が腹部を這い上を目指す。
残る唾液の跡に触れる空気が冷たい。
意識せず体が震えようとし、手足に巻きついた長く細い髪の束がそれさえも許さない。
どこかで見たような状況のような気がするが、思い出せない。

美しい髪の持ち主の声。

「申し訳ありません、リン。マスターの命には逆らえませんので」
「え、ちょっ―――、っん!」

同じ速度で登り続けていた桜の舌が、胸の谷間にとどまり円を描く。
押し付けるのではなく、撫でるような愛撫。

「ライダー、喋っていいなんて言ってないわよ。あなたが言うことを聞かなかったら、責任は姉さんにとってもらいます。気をつけてね?」

うつ伏せの体に乗った桜、視線は凛に向けたまま言う。
自分が両手両足を四方に広げさせられている理由が分からず、凛は問う。

「桜、これ、どういう―――ひっ、」

発言が許可されていないのは凛も同じだったのか、舌の動きの再開が右の乳房を上りだす。
同時、先ほど桜が舐めて唾液の溜まった臍のくぼみを指先で押され、凛は引きつるような声を漏らした。

「んんっ、あ、やっ」

桜の唇が乳房の頂上の周りを巡るのは、人肌を這う蛭にどこか似ていた。
決してその頂にだけは手をつけることなく、しかし膨らみに踏み残す所が無いように念入りに這い回る。
その間にも臍を嬲る指は止まることを知らず、時に爪で掻くように、時に腹で押すように、その変化は決して慣れという安息を与えない。

「ん! や、やめ……ひゃんっ! あ、あっ、んぁっ……」

断続的に起きる痙攣にも似た動きを凛から引き出し続けること十分。
同じようで一度として同じことのない責めの繰り返しで拘束された女の体を弄び続けた桜が、動きを変えた。
乳房から鎖骨、首筋へと舐め上げ、喘ぎと共に唇の端から垂れた唾液を啜り、細まった瞳からこぼれる涙を味わい、赤く染まった耳元に口を寄せる。
湿り気を持った息を耳に吹きかけながら、微笑の混ざった声で尋ねる。

「ねえ、姉さん?」
「あ…………な、なに、んあっ!」

数瞬の虚ろな瞳の後、凛は息切れの合間に問いを返す。
しかしすぐには応えず、代わりに未だに臍を遊んでいる指先を強く押し込んだ。
絡ませた足の、指先の触れる腹の、目の前の首筋の筋肉が一瞬で硬直した。
直後、脱力。
凛の顔が横を向き、桜のそれとの距離は実に数センチ。
姉の胸の上下に等しく口から吐かれる呼気を顔に感じながら、桜はようやく言葉を口にした。

「ねえ、姉さん。先輩と寝たでしょう?」

45[おっぱい祭り][地区B](2/3)八杯:2006/04/30(日) 00:42:09 ID:w5CBtRDI


今までとは違う怯えるような反応を姉から見て取り、桜はくすりと笑った。
正直に言えば、凛がどのような言い訳をするか聞いて、見たかったというのもある。
故に桜はそれ以上何も言うことなく、ただ目の前の姉の瞳を見続けることにした。

いつも自信に満ち溢れている姉の青い瞳、左右に泳ぐ。
上気した頬には涙と汗と唾液が混在し、そこには見たことの無い遠坂凛がいた。

「えっとアレは、その、ラ、ライダーと……」
「ええ、知ってます。全部ライダーから聞きましたから」

割り込んで最後まで言わせなかった。

もっと「知らない」とか「覚えが無い」とか言ってくれれば面白かったのに。
そう思うが、早々に認めたならばそれなりのやり方も考えている。

「あら、姉さん。もしかして今、ライダーを睨みませんでしたか?」

知らないところで盟約を破られていたことを知った凛の表情を目ざとく見咎めて言う。

「そ、そんなことない、わよ」
「そうですか? だったらいいですけど……」

聞いた凛が安堵のため息を漏らし、彼女は最初からそれを待っていた桜の奇襲を見事に受けた。

「――――ひっ!」

今まで一度も触れすらされなかった乳首を強くつねり上げられた凛は、しかし体を逸らすことさえ許されずに叫びを上げる。
それを聞いた桜は妖艶な笑みを薄く浮かべ、つねり上げたばかりの乳首に唇を近づけた。
赤くなったそこを一度口に含み、唾液で濡らしてから息を吹きかける。

「どうですか、姉さん。話によると、こうやって衛宮先輩をいじめていたみたいですけど」

その言葉でようやく凛は、今の自分の状況をどこかで見たことがあると感じた理由に思い至った。
たしか数週間前のあの時は、今の自分のように衛宮士郎が動きを封じられて、自分は今の桜の視点から――――

//////////////

ぴちゃ、ぴちゃと音が鳴り続き、既に一時間以上が流れている。
音の生まれる場所は稀に左右するものの、常に黒髪の女の胸元であることは変わらない。

「あ、あ、あっ……さく、ふぁっ、さくら、……もう許し…ひあぁっ! ああっ―――っ!」

生かさず殺さずと続けられる責めは絶妙で、それは凛の体力を奪い去ることをしない。
そうでなくとも同年代の人間よりも耐えることに慣れており、更に体力量も多い凛が疲れから意識を失うなどと言うことはまずありえない。

手のひらに収まる程度の丘の頂上にある突起を、口の中に転がす。
舌でその輪郭を丹念になぞり、それに飽きたら先をつつき、それにも飽きたら激しく動かして嬲る。
その度に姉が許しを請う声を聞き、涙を流す瞳と唾液を零す口元を見ると、やめる気が無くなってくるから不思議だ。
自分が自分の恋人に抱かれる時によく似た陶酔を感じながら、右の胸から唇を離す。
糸を引く唾液を目に留めながら、桜は口を開いた。

「女性の体って、こういう時に便利ですよね。男の人みたいに入れたくならないから、ずっとこうしていられます」

もはや呼吸の回数と体の飛び跳ねる回数のどちらが多いか分からない凛はそれに答えようと口を開き、

「あ、あああっ! や、やぁあっ……しろ、士郎、わたし、んんっ!」
「…………ふうん、なんだ。姉さん、今までずっと先輩に苛められてるつもりだったんですか」
「あ、ちが、違う―――ひんっ!」

自分で終わりまでの時間を引き延ばしてしまったことに気づき、それはすぐに襲ってきた快感に上書きされた。

46[おっぱい祭り][地区B](3/3)八杯:2006/04/30(日) 00:43:23 ID:w5CBtRDI


姉が股の間から零す粘性の液体を、決して刺激しないように桜は指で掬い取る。
障子の隙間から差す月明かりが自分の指と姉の秘所とを繋ぐ橋を銀色に光らせ、その光景に心地よい酩酊感を覚えながら桜はそれを姉の左の胸に塗った。

親指と人差し指で力加減を調節しながら硬く尖った乳首をつまむ。
上がる喘ぎ声に後押しされるように徐々に指に力を込めていくと、唐突に乳首が指の間から滑り逃げる。
同じ動作を繰り返すこと三十。
その度に力の加え方、つまむ指の数を変え、そしてその度に凛の上げる嬌声に心を震わせながら桜は姉の体で遊んでいた。

「ん、んんんん……ひゃぁんっ! あ、やめ、もうやめ、て……さ、くら……ああっ!」

既に数十を数える懇願に対しての反応は常に無視であったが、けれど今回に限り違いが現れた。
その理由は桜自身も知らないし、そもそも理由の存在すら疑わしい。

「姉さん。別に私、姉さんが先輩と寝たことを怒ってるんじゃないんですよ?」

耳元での囁くような声に、全力疾走後のような荒い息を吐きながら凛が首を桜に向ける。
聖杯戦争時に凛が感じた責任の一つに、妹の嫉妬を知らぬ間に煽ってしまっていたというものがある。
今回はそれに輪をかけて酷いこと―――桜の一番の拠り所に手を出してしまったというのに、桜はそれを怒っていない?
では今まで自分は、どのような理由で嬲られ続けていたのだろうか。
朦朧とした頭でそこまで考えをめぐらせると、それを待っていたかのように言葉の続きが来た。

「私が怒ってるのは、その時に私を仲間はずれにしたことなんです」

にこりと綺麗な笑み。
だから、と枕を置いて、更に桜は口を開いた。

「私は絶対に誰も仲間はずれになんかしません。衛宮先輩にも今までの姉さんの痴態はちゃんと見ていてもらいました」

一瞬、凛は自分の妹が何を言ったか理解できなかった。
その表情を見て、桜の嬉しそうな声。

「私だって、ラインのつながった先輩になら目を貸してあげることぐらい出来るんですよ?」
「え、ちょっ、それどういう、え? じゃあしろ……ひっ、いやああっ、あっ、ああ、んあっ!」
「喋っていいなんて言ってませんよ? 大丈夫です、まだ朝までは五時間以上ありますから、もう少ししたら先輩にも来てもらいます」

言い終えると同時、今まで指で転がしていた凛の乳房に口をつけ、桜は考える。
あと三時間はこのまま胸だけを苛め続けて、それから先輩とライダーにもお仕置きしよう。
夜はまだ永い。

47僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/30(日) 00:44:55 ID:w5CBtRDI
最後が短いのは力尽きたからです。
もう続きません。

48僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/30(日) 00:59:28 ID:1WZHTync
初っ端から力作ラッシュだなwwwテラエロスwwwwww

49僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/30(日) 01:50:00 ID:w5CBtRDI
>>33 女の子んぷれっくす(桜、策。編)

GJ!
桜かわいいよ桜

50僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/30(日) 02:07:13 ID:PcxXBor2
鼻血の海に溺れそうだ
どうしてくれる

51僕はね、名無しさんなんだ:2006/04/30(日) 02:21:26 ID:w5CBtRDI
凄いな、エロおっぱいから萌えおっぱいまで色とりどりだw

52僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/01(月) 14:04:59 ID:ONB2lQgY
age

5317分割:17分割
17分割

54僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/03(水) 05:52:36 ID:YbEo8Ab2
エロばっか・・・・・・くだらねぇ

55僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/03(水) 15:55:50 ID:y08IdnS2
54神がエロくない素晴らしい作品を上げてくれるそうな

56僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/03(水) 15:59:00 ID:Z0v2uFew
わあ、そいつはドキワクに愉しみだね!

57僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/03(水) 16:25:59 ID:9q7Ts2Bg
とか言いつつ割と喜んで読んだ>>54に萌え。
これはよいツンデレですね。

58[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(凛姉転生編)](1/7):2006/05/07(日) 02:05:09 ID:TrXrAj76
脱衣所には大河の衣服が雑然と積まれていた。大河の入浴時間は女性陣の中でもダントツの短さである。
烏の行水ならぬ虎の水浴びと言ったところだろうか。
その大河がまだ湯船に浸かっているのは間違いなく士郎を待っているからだった。
この曇り硝子の向こうに大河がいる。
凛の明確な呼び出しより大河の曖昧な誘いを士郎が優先したのはそれなりの理由がある。
大河の態度は明らかにおかしかった、ここで問いたださねばその機会を永遠に失ってしまう確信があった。
一方、凛についてはもういい訳も出来ないほど遅れている、所謂手遅れ状態だ。
自分が酷い目に合うだけで済む話、それに本当に急ぎの用事ならこれだけの時間を凛が待つはずがない。
ならばいつもの雑用程度の話だろう、自分勝手な思い込みで士郎は行動を正当化する。
「藤ねえ……」
「おそーい! 何やってたのよう」
声は明るく、あまりにも大河らしかった。見えないはずの大河の顔が士郎の頭の中に浮かぶ。
「お姉ちゃんゆでだこに「やっぱり駄目だ」
両の拳を握り士郎は声を絞り出す。湯船に浸かる大河の姿、頭の上から肩にかけて、
さらにそこから下を想像しようとした所でストップがかかった。実際触れていても士郎はそれを許さなかった。
「入れない」
「…………どうして?」
士郎の胸で感情がまぜこぜになり、どれだけ時間をおいてそれが聞こえたのか判らない。
「やっぱり怖い?」
大河の声は一転して冷たく、今にも死んでしまいそうな寂しさを伴っている。
「違う!」
泣き出しそうな声に反射的に否定する。士郎は確かに怖がっているが大河の言う意味での怖さはその半分だ。
「一緒に入るだけじゃない、昔みたいに……」
縋るような響き、大河自身判っているのだろう、それが屁理屈だという事に。
でなければあのような普段の大河らしくない、大胆な行動はしないはずなのだ。
「違う、何かあったら責任がとれない」
「だから駄目だって言うの?」
「ああ……」
怖かったのは自分が自分でなくなる事。それで大切な誰かを傷つけてしまう事。士郎はそれが怖かった。
ここに来る前、桜に襲いかかろうとした自分にぞっとした。
そうなろうとしている時は解らない、なった後、我に返った時に気付くのだから。
「嘘、なんだぁ…………さっきの返事」
「………………」
「本当に嬉しかったのに」
「…………」
「本当に久し振りだからすっごく楽しみにしてたんだけどなあ」
ぱちゃんと水の跳ねる音が聞こえた。大河の言葉の一つ一つに嘘はない。それだけに士郎にはどうしようもない。
半ば自失していたといっても、返事をしたのを士郎は覚えている。
「藤ねえにとって俺はまだ子供なのかもしれないけど…………でも男なんだぞ。
 またさっきみたいな事されたらどうなるかわからない」
「……嬉しいな」
「え」
「ちゃんと私を見てくれてるから。それだけで嬉しいの」
それは間違いなく大河の本音だろう。士郎は思う、果たして今まで何回大河を女として見た事があっただろうか。
姉として、先生として、家族として見る事はあっても、女なんだと意識するのは片手ほどもなかったのではないか。
つまりそれは大河がそれだけ自分の一面を押し殺して来たという事実に他ならない。
「それに――――士郎なら、いいよ」
その真摯な一言で、士郎の血液が沸騰した。
「バ、馬鹿何言ってんだ藤ねえっ! ふふ、ふざけるにもほどが――――
「馬鹿でいいもーん。来て、しろー」
今度は一転していつもの口調、両手を広げて待っている大河を士郎は幻視した。
もう何も言えなくなる。いいように振り回されて遊ばれて、一回くらい仕返しをしておかないと割に合わない。
まさかこの虎を一瞬でも可愛いと思う日が来るなんて思いもしなかった。ああ、もう。
「本当に知らないからなっ」
今の自分はおかしいのだとやけになったまま士郎は乱雑に衣服を脱ぎ捨てる。
おかしくなってるうちにおかしい事は終わらせたいとでもいうような焦りと渇望。
あんな風に言われて、男として我慢できない方がおかしいのだ。
「えへへ、やったぁー……あ。バスタオル出すの忘れたから出しておいて、一人分だけよ」
これじゃ二人一緒に入ってるってバレバレじゃないか。
気持ちが舞い上がっていたのを自覚して、士郎は一人耳を真っ赤にして頭を掻き毟った。
ささっと自分の衣服をバスタオルにくるむようにして隠し、再び曇り硝子の前に立つ。
流石に股間は手拭いで隠してある。堂々と見せて入れるほど理性は失っていない。
「――――入るぞ。覚悟はできてるだろうな」
士郎の確認は自分に対してのものである。
「うん♪」

59[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(凛姉転生編)](2/7):2006/05/07(日) 02:06:08 ID:TrXrAj76
「う〜〜〜〜〜遅い! トイレにしても遅すぎるっ!!」
せっかくのチャンスと思っていたのは桜、大河だけではなかった。
枕を抱いてベッドの上でごろごろしていたが、意を決して遠坂凛は立ち上がる。
「私を待たせるなんて百年早いわ!」
気がつけばかなりの時間が経っている。それもこれも要らぬ妄想に浸って悶えていたからだ。
どう苛めてやろうか。責めようか。思いを告げさせようか。あんなコトやこんなトコも。
つい嬉し恥ずかしにやにやしていたらこの時間である。凛は早足で離れの自分の部屋から母屋の方へ移動する。
「士郎!…………て、あれ?」
凛は勢いよく居間の引き戸を開ける。でもそこには誰もいなかった。気を取り直して、
「士郎!……ってここも?」
士郎の部屋にも、その隣にもいない。もしかして桜の部屋か、そう思い行ってみたがやはり士郎はいない。
「まさか土蔵……なんてわけはないか」
念の為来てみたが凛は士郎の姿を見つけられない。軽く背伸びをして母屋に戻りながら残る可能性を考察する。
実は本当にトイレにこもりっきり、それこそありえない。
桜の靴はなかった、きっと押しに負けて家まで送らされたのだろう。これが順当だ。
「――――って、待って。いや、嘘、それこそ」
ありえない。否定しながらも凛は駆け出していた。間桐桜の靴は玄関になかった。でも藤村大河のものは『あった』。
士郎へ来るように伝言を頼んだのも大河、もし、その彼女が伝えていなかったら。怖い事に合点がいった。
長年士郎を見守りながら家族として過ごし、尚、あの掴み所のないイイ性格、だから無意識の内に外していた。
誰もがその可能性を否定しただろう。それこそ「そこまでにしておけよ藤村」で終わってしまう。
しかし現実はどうだ。足音を殺して凛は脱衣所に入る。脱衣カゴには大河一人分の衣服しかない。
おかしいところはないと立ち去ろうとして――――綻びを見つけた。
「これ、士郎の……」
無造作に脱衣かごに入れられた大河の服の裾から見えていたのはあろう事か士郎のベルト、凛は慌ててバスタオルを剥ぎ取る。
「――――!」
見間違えるはずがない。確かな重みをもって床に落ちたそれは、今日士郎が着ていた服だった。
「ふじ……ね……え」
「しろ――――!?」
理性的な判断などない反射的行動、凛は二人が同じ湯船に使っているという現実を目の当たりにした。
目の前の光景に網膜が焼けて沸騰した血液が脳を溶かし何にも考えられなくなる。
「何よ、これ……」
凄みのある声が狭い浴場にさえ木霊せず吸い込まれていく。
凛が声を出せたのは三秒後、その間に大河は十分に自分を取り戻し、士郎はまだ固まっていた。
「見ての通り、混浴よ」
士郎の位置からは見えない大河の勝ち誇ったような、艶めいた笑み。
凛は目の前の大河と、自分の知っている大河とのあまりのギャップに怒気を殺がれた。
ただそのおかげで頭がほんの少しだけ冷えた。
「先生が生徒とそんな事していいんですか?」
「社会的な立場はそうだけどそうなる前から士郎と私は姉弟だもん。一緒にお風呂に入ったっておかしくないでしょ?」
大河の笑顔は崩れない、そんな常識ぐらいでは揺るがない。
凛も解っている、そんな正攻法ではこの既成事実は崩せないと。
不純異性交遊だと学校で訴えた所で罰は大河だけではなく士郎にも与えられる。
「士郎と一緒に入ったのはこれが初めてじゃないのよ。だから安心して」
「〜〜〜〜〜〜ッッ」
ぷるんと、大河が水面から身を乗り出し後ろから士郎と肩を組む。士郎は赤くなってもう何も言えない。
凛の視線はそ士郎の肩に乗せられたものに釘付けになっている。腕ではない、おっぱいである。
目をこすって見直す機会さえ失っていた。何故あれほどのものがそんなところにあるのか。
藤村大河が着痩せするタイプだとしても限界がある、あれは隠しきれるものではない。けれど紛れもない現実。
なんて出鱈目……!、凛は胸中で舌打ちする。この隠し球に士郎はやられたと言うのか。
安心なんて出来るはずがない。士郎も大河も子供扱いできる年齢ではない。
もし、仮に、例えばの話として子供の頃からずっと、今までこれが続いていたとすれば自分に勝ち目は最初から――――
「遠坂さんもお風呂まだだったわよね、入る?」
「――――!!」
「――――!?」
大河の笑顔には邪気がない。先程までの驕りがない。ブラフか、と凛は思う。
本当に誘っているとしてここで退けば自分は負けを認めた事になる。挑発だとしても同じ。
お情けのつもりなら尚退く訳にはいかない。選択肢は最初から一択に絞られている。
「ええ。御一緒させていただきますわ、藤村先生」

60[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(凛姉転生編)](3/7):2006/05/07(日) 02:07:09 ID:TrXrAj76
一度ガラス戸を閉じる。180度ターンしてそこから三歩、凛は自分の胸を押さえた。
口に溜まった唾液を飲み下して大きく肺に澱んだ空気を吐き出す。
攻撃的な笑顔も、覚悟を決めた時の名の通りの凛とした相貌もそこにはなく、
不安に押し潰されそうな少女の顔があった。きゅうと胸が痛む。言ってしまった。完全に言い切ってしまった。
恥ずかしい。強く瞼を閉じれば呆然とした士郎の顔が浮かぶ。
実際そういう状況はとっく覚悟していたはずなのに、恥ずかしくて死にそうになる。
その場に崩れそうになる自分の膝を凛は意地でも崩させない。
戦う前から負けなんて認められない。きっと目を見開き、一気に衣服を脱ぐ。
「――――」
凛は脱衣所に立て掛けられた姿見に自分が映っているのに気付き、正面から向き合う。
やすりがけされ形の整えられた爪先、手入れを欠かさない脚部、その付根の大事な部分も綺麗に処理してある。
適度な運動と間食を控えて細さを維持している腰のくびれ、更に昇ればささやかながらしっかりと自己主張する乳房。
そこで視線が止まる。大河のものと重ねて見てしまい、目を逸らし無意識に両手で隠す。
鏡に映る自分の顔はものすごく情けなかった。でも凛は気付かない、その均整の取れた肢体の美しさに。
日頃見慣れていて、不満のある部分ばかり気にしているから士郎の、第三者の視点にはなれない。
あんなものを見せられれば余計にそうなってしまう。
ある意味敵ではないと思っていただけに、大河の思わぬ伏兵振りに凛は弱気になってしまう。
もっと大きかったら士郎はもっと自分を見てくれたのだろうか。自分が妹のように素直だったなら。
桜の胸が凛の脳裏に浮かぶ。同じ血を分けた姉妹であるのにどうしてこうも育ちが違うのだろう。
間桐の家には豊乳の秘跡でもあったというのか。そうでなければ納得が出来ない。
まさか、桜と大河でダブルおっぱいとかやっていたんだろうか。
いや待て、ライダーとも意外と仲がいい。バゼットもあれはあれで……そうそうリズを忘れてはいけなかった。
キャスターは敵だけどこの場合論外ね。むむむ、と変な方向に思考が逸れている自分に気付く。
「……らしくないわね」
馬鹿馬鹿しい、と凛は髪の毛を掻き揚げた。他人の顔色見て自分を合わせるなんてらしくない。私は私、だ。
おっきいだけが全てではない、肌の艶も容姿も自他共に認める最高の出来で未完成。
曲がり角に差し掛かった大河とは違い、凛は自分に未来があると断言する。
「…………なんていうかその、育ててもらうっていうのもありだと思うし」
もごもごと呟いてると、なんか良く解らないけど気合が入った。
よしっ、と小さくガッツポーズを決め凛は浴場へ続く戸に手を掛ける。
が、慎みは必要と思い直してタオルをひったくり、からからと曇り硝子の境界を越えた。
湿った熱い湯気と共に士郎と大河、二人の視線が凛の肌に触れる。
「見て士郎、遠坂さんの綺麗な腰のライン」
大河に囁かれるままに自分を凝視する士郎に、一気に身体が熱くなる。
「……そんなに見ないで」
「あ、う――――」
凛は士郎を睨み付けたものの、その瞳には覇気がなく弱々しい。
だが状況の異常さと普段の凛とのギャップにより、士郎はあの黄金フックを喰らったように脳を揺さぶられる。
「あんなに照れちゃって、遠坂さんかわいー」
「――――ッ!!」
そんな士郎を大河がそのままにしておくはずがない。後ろから士郎を抱すくめて凛を牽制する。
瞬間、見えざる電光が大河と凛の間で激しく火花を散らす。恥ずかしがってうじうじなんてしてられない。
少し熱めのかけ湯でざっと汗と汚れを流しつつ、火照った身体を更なる熱で上塗りする。
「衛宮くん、詰めてくれる」
負けないんだから、と凛は大河に視線をぶつけ無理矢理湯船に浸かる。
「とっ遠坂!?」
立ち上がろうとする士郎の腕を大河が自分の方に引き寄せ――――逆を凛が引っ張った。
バランスを崩しそうになりながらもバチャバチャと水音を跳ねさせて士郎は再び湯の中へ沈む。
溢れ出て荒く尖った水面も士郎、大河、凛という緩衝材にぶつかってすぐに丸くなる。
「ん……ヘンなとこ触らないで」
自分が水中へと引き込んだ士郎の手が敏感な太腿の内側に触れ、凛は水面に漣を立てた。
お湯は人肌と同じかそれよりも温い、それだけに触れ合っている士郎の肌の熱さが際立ち意識せざるを得ない。
そうでなくとも裸同士というこの状況、一枚の布切れは防御結界にしてもあまりに薄過ぎた。

61[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(凛姉転生編)](4/7):2006/05/07(日) 02:08:09 ID:TrXrAj76
「わ、悪い遠坂」
「あれ、遠坂さん嬉しくないの?」
慌てて目を逸らし身を離す士郎の上ずった声を受けて大河が凛へ問いかけた。
更に曲げていた足を伸ばし士郎を自分の元へ引き込もうとする。そんな事、凛が許すわけがない。
「駄目――――!」
両手で士郎の肩を取り大河の手を払う。子供が玩具を取られまいとするようならしくない反応。
凛は学校での猫かぶりが剥がれかけている事に気付かない。士郎を自分の元へ引き寄せて、凛は大河を威嚇する。
「とお……さ、か。あ……あたってる、ん、だけ、ど……」
「!!」
向かい合うような形、狭い湯船、凛の体を隠すタオルはすでに取れてしまっている。
触れ合う肌と肌は熱く、意識すればより熱く燃え上がる。
離れようにも離れられず、凛は右腕で胸を押し隠しげしげしと足を小刻みに動かして士郎を蹴とばす。
「きゃっ、もう信じられないこのばか! すけべ! へんたい!!」
「ぐ、痛ッ、痛いって、しょうがないだろ狭いんだから。後から入ってきたのは遠坂じゃないかっ」
「我慢しなさいよそのくらい! また触った!」
「無茶言うな! 出ればいいのか!? だったら出てってやる」
「それは駄目!」
「どうしてグフ――――、ぶくぶくぶく……っぷはぁ! 殺す気か遠坂!!」
「士郎がべたべたするのが悪いのよ!」
「わざとじゃないって言ってるだろ、不可抗力だ!」
「不可抗力だからって言えば許されると思ってるの? もっと小さくなればいいじゃない」
「無理無理無理! 遠坂の方が小さいんだから詰めればいいだろ!」
「誰の胸が小さいって!? え? どの口がそんな事言ってるのか・し・ら・?」
「ぁぐ、い、いてててててやめろ!! 解ってて言ってるだろ、もういい加減にしてくれ遠坂!
 こんな事するなんてお前らしくない。俺にだって限界はあるんだぞ!!」
怒りすら含んだ感情の吐露、良くも悪くも熱くなっていた心が急激に冷えた。
「――――それ、私が邪魔って事?」
真剣な表情で凛は士郎を見詰める。視界に目の仇にしている大河がいようと意識すらされない。
士郎の返答によっては自分が何をするか判らない。
凛自身そういう場面は意図的に避けていたし、こうなる前までは暗黙の了解があった。
今までも多分、絶対にそういう場面はあったのだろう、ただ鉢合わせなかっただけ。でももう均衡は崩された。
凛の中ではどれだけの時間が経ったのか、士郎が顔を真っ赤にして答えを出した。

「…………………………いや。嬉しすぎて死にそうだ。こんな状況でおかしくならないなんて無理だ」

だから、我慢が出来ない。限界が来てしまうとぶっきらぼうに士郎は言った。
「〜〜〜〜〜〜〜」
今度は凛が言葉を失う番だった。なんて事を言うんだろうこの男は。なんて嬉しい事を。
言葉を反芻し噛み砕いて理解するまでに十秒もかかった。きゅうと胸が甘く痛む。
心臓は早鐘のように早打ち、頭のてっぺんから足の指の先まで全身がかあっと茹で上がる。
頬が熱い、凛は士郎をまともに見れなくなって俯く。同様に士郎の顔が水滴が滴り落ちる天井へと向く。
いい雰囲気ね、と大河はどこか遠くの世界を見詰めているようにそう思った。
「遠坂さん」
そんなの、我慢できるはずがない。ここにもう一人いるのに、そんな二人だけの世界なんて許せるはずがない。
凛を誘ったのは大河だ、この落ち度を招いたのは大河自身。ならば自分で事態を収拾するしかない。
目の前に広がる二人の世界へ大河は恐ろしく静かな一言で割り込んだ。
「なな、んですか?」
「もうこれ要らないわよね」
「ぁん」
すでに剥がれて用をなしていないタオルを大河はおもむろに引き抜いた。
太腿に挟まれていたタオルは引き抜かれる時に興奮で尖りつつあった胸を擦り、凛に甘い声を上げさせる。
大河はその様子を気にすることなくゆっくりと立ち上がる。
「洗いっこしよ」

62[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(凛姉転生編)](5/7):2006/05/07(日) 02:09:10 ID:TrXrAj76
「え」
「ほら女の子同士なら気兼ねしなくていいでしょ」
それは女だけしか入っていない場合ではないのか、そんな疑問を凛が抱く前に、
大河は自分に近い方の凛の二の腕を掴み、凛を浴槽から引き上げる。
「ちょ、ちょっと藤村先生!?」
大河は動揺する凛をそのまま椅子に座らせ、シャワーに手を伸ばす。
「見えてるわよ」
「!」
ばっと両胸を隠す凛の頭に大河はシャワーをザーッと浴びせる。
「きゃ」
興奮で血行が良くなった身体にも心地良い熱さ、しかし勢いが強くて凛は目を開けていられない。
この強引さは大河ならでは、傍で士郎がそうされるのをいつも見ていたから凛には良く解る。
どうして抵抗できないんだろう、自分なら出来るのに、なんて思っていたがそれは観測者としての感想に過ぎなかった。
「まずは頭からね。シャンプーこれよね」
「え、ちょっと……ん――――!」
やめて、そう言葉にする前にシャンプー特有のぬるりとした感触が凛の頭皮を伝う。
洗われる事がまずいのではない、洗剤が問題なのだ。このシャンプーは市販品ではなく凛が調合した魔術師用の薬。
女の魔術師にとって魔力を蓄えておく髪の毛は最後の切り札である。よって手入れは欠かせない。
魔力を蓄えやすく、揮発しにくくする為にこの薬を使うのだが、たった一つだけ欠点があった。
「ぁ……ふ…………クッ――――」
大河が髪を揉み、頭皮を擦る度に凛の身体は震え、妙に熱を帯びた吐息が漏れる。気持ち良過ぎるのだ。
配合の分量を誤ったのか、通常はマッサージ程度のリラックス効果しか得られないはずなのに媚薬に近い効能を有している。
捨ててしまえばよかったのだが、原材料の値が張る為に潤沢とは言えない財政事情を鑑みてもそういう訳にはいかなかった。
その上誰かが勝手に使い込んで残りはたったの数回分、物が物だけに咎めるわけにもいかず、
小骨が喉に刺さったような気分を味わっている所にこの手痛いうっかりである。
「ふぅ……ぅ……あ…………」
理髪師を思わせる大河の力強い指圧を兼ねた洗髪はそれだけで気持ちいいというのに、相乗効果で耐えられなくなる。
胸を覆い隠した両手が快感による震えとは別の動き方を始めているのを凛は意識し、歯止めをかける。まずい。
奥歯を噛み締め瞼を強く閉じる。これを使ったとしても一人で入っているのなら問題はなかった。
仮に耐え切れず自慰に耽ってしまったとしても誰にも見られる事はないのだから。しかしながら現状は違う。
「んん――――!」
やばい。やばいやばいやばい。凛の脳内でレッドシグナルが点灯する。身体が言う事を聞かなくなっていく。
「そんなに気持ちいい?」
「っ……違「嘘吐き」
反射だけの返事を切り捨てて、大河が背中に指先を滑らせる。
「ひゃう!」
面白いように弓なりに背を反らせた凛を大河がその後ろで受け止める。
「髪の毛洗われるだけで感じちゃうなんて……遠坂さんのえっち」
耳元での小さな囁きにも凛の頭はくらくらとさせられる。
意識は沸騰しかけ、両足は無意識に、ゆっくりと擦り合わされている。胸を隠していた両手は床に落ちた。
「ほら、士郎があんなに見てる」
「!?……ッッ〜〜〜〜〜」
その一言にはっと意識を取り戻すが、シャンプーが目に入り凛は体を前に丸める。目に沁み入る刺激に涙が零れ出す。
「まだ洗い途中なんだから目を開けちゃ駄目よ」
くすっと大河が笑う。それが嫉妬めいたものなのかそうでないのかさえ凛には判断が出来ない。
「私もさっきからなんだかヘンな感じなのよねー。このまま身体も洗っちゃおっか」
「え、い――――」
拒絶する間も与えず、大河が凛の背中に覆いかぶさった。柔らかい感触が凛の肩甲骨に張り付く。知っている。
桜がごく稀にじゃれて抱きついてくる時の、嬉しいながらも嫉妬を覚えたあの感触。生身である分余計に意識してしまう。
ボディーソープなのかシャンプーなのか良く解らないぬめりが、大河の肌を通じて凛の肌へと移される。
「ん……遠坂さんの肌すべすべしてて気持ちいい」
「ふあぁ……ん、ふじ、む――――せんん……!!」
肩から腕へ、そして舞い戻って胸の頂へ。大河の手の動きに凛は翻弄される。
泡立って肌を滑る感触のせいで強い刺激が手に入らない。大河は体を擦り付けながらも入念に肌を撫で回す。
抵抗する力が根こそぎ奪われている。そうしたいという事さえ凛は考えられない。
胸の形を変えられるほどに揉み洗いされ、脇腹をくすぐられ、臍の穴を捏ねられて内腿を這い回される感覚に凛は酔いしれる。

63[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(凛姉転生編)](6/7):2006/05/07(日) 02:10:14 ID:TrXrAj76
「! だッ、駄目ぇ……んっ」
それでも凛の最後の理性は恥毛に触れた大河の手を止めた。自我同様にそこがもう充分に蕩けているのは解っている。
故に、仮にそうでないとしてもそんな所を他人に触れられるのは憚られた。そこに触れられたら、完全に戻れなくなる。
凛は頭でそう理解しているが、最早胸の先端が熱く尖るのも、胎の奥が満たせ満たせとうねるのも止められない。
「そうね。大事な所は自分でね」
「…………ぁ……」
このため息はもしかして失望なのか、朦朧とした理性で凛は思う。そんな事を望んでいた? 否、ありえない。
必死に否定する。しかし胎の奥から込み上げてくる渇望はすでに抑えがたく、かけっぱなしのブレーキは磨耗していくばかり。
出来るのは時間稼ぎだけ、だがそんなささやかな抵抗も大河が打ち砕く。
「は――――、んぁ!」
凛は右手を掴まれ、その指を熱病に犯されているその入り口へ押し込まれた。
ぐちゅり。そんな音なんてしていないのに激しくそれを意識する。大河がしたのはそこまで、もう右手は解放されている。
しかし凛は入り口に引っかかっているだけの指をそこから動かせない。少しでも動かせば意識が一気に奪われる。
「後は自分で出来るでしょ」
他は全部洗ってあげると言わんばかりに大河の手が全身を舐め尽す。
凛の悶え狂う内面を知ってか知らずか、タッチはより強く本格的に洗うという事に特化し始める。
先程までの優しさが嘘のように泡を立て、淫らにしか聞こえない水音を奏でていく。
「……ぁ、アアッ!……だ、せんせ――――くぅ、は……ぅ」
止まらない。そんな言葉で大河は止まらない。足の裏を嬲るように擦り、膝の裏を啄ばむ一方でうなじを攻め立てる。
全身で、顎を使い、肘を使い、足を絡ませて椅子とお尻の間にまで割り込んで洗い続ける。
「ここは念入りに……ね?」
「は――――ぁ、ひ、ン、ァ、も、イ、ぁ……ぁあ!!」
跳ねる、水音と共に凛の嬌声が浴室に木霊して跳ね返る。大河の両手の動きに合わせ振り回される凛の髪が泡を飛ばす。
大河の両手は控えめで成長段階の膨らみを包み込み、引き伸ばし、絞り、潰し、震わせて尚止まらない。
一言で言うならやめられない。最初は確かに嫉妬もあったが、もうそれはどこか遠くへ飛んでしまっている。
士郎と一緒に入った時でさえ緊張のあまり会話が続かなかったし、凛が来るまでは何も出来なかった。
それがどうだ、大河はさっきからほろ酔いのような酩酊加減で普段出来ない事をやってのけている。
この勢いなら最後まで士郎ときっと出来る、でもその前に――――この子の声をもっと聞きたい。啼かせたい。
感謝の気持ちも込めて、背中を自分の胸に押し付けてくる凛にそれを擦り付ける事で大河は応える。
「ふ、く――あっ……ァアン……イ……ぃ」
遠坂凛は学校のアイドルだ、大河はその事実を否定しない。だってこんなに肌は決め細やかだし、体型が整っている。
ちょっと力を入れるだけで折れそうな細いくびれは憧れさえする。顔も成績も文句のつけようがない。
その上こんなにいい声で啼くのだから、士郎が惹き付けられるのも解る気がした。
大河は吸い寄せられるように凛の耳を軽く齧った。シャンプーの苦味が口の中に広がったが不快ではなかった。
逆にもっと欲しくなるような、飢餓感を煽る味、大河はこちらを凝視する士郎を見詰めたまま凛の耳をひと舐めした。
「!!?――――ひぃ、ふ、ぁぁぁああああ!!!」」
凛の、耳にそれそうになった意識を大河は硬くなった両胸の頂を強く摘んで引き戻す。
自分の胸もそうなっているのを感じながら押し付け、過剰なまでの愛撫を続ける。
大河のを見た時の反応といい、桜のもそうだ。人並みには十分あるのに凛はコンプレックスを感じている。
その幼さが大河には愛くるしく感じる。両胸の先端を中指と親指で摘み、人差指の腹を震わせて凛を更に酔わせていく。
「――、ィ、ふ……はぁ、は――くっ! ア! やっ――ぁ……」
甘く鋭く抗う事を許さない刺激は脊髄を伝い脳を痺れさせ、体を戦慄かせる。
拒絶の言葉はもう口から出ない。出そうにも出せない。先程から凛の右手の動きは止まっていない。
何より体の向きを変えた事にさえ気付いていないほど没頭している。
瞼を閉じ快楽に没入する弱々しい凛の表情はそれだけで大河の背筋を震わせ、嗜虐心を強く刺激した。
女だってこんなの、こんな顔見せられて我慢できない方がおかしい。
呼吸の間隔が短くなっている、時折大きく震える身体、凛の限界が近いのを見越して大河は一言、大きく呟いた。

「そんなに一生懸命に洗わなくってもいいのに……ねえ、士郎?」

64[おっぱい祭][女の子んぷれっくす(凛姉転生編)](7/7):2006/05/07(日) 02:11:31 ID:TrXrAj76
秘部を隠していたはずの凛の両脚は高まる快楽に伴って徐々に力を失い、だらしなく開いていた。
「はぁ……は――――ひぃ、い、ヤ、見ない――――ッッ!!!!」
何を言われたのか理解するまでに五秒、陶然と快楽に押し流されていた凛の瞼が開き、目の前の士郎を映す。
ぼんやりと見えたそれが実像を結んだ瞬間、電光石火の速さで状況を理解するが、昂った身体は抑えきれず高みへ昇り詰める。
快楽の津波に意識が白み、激しく痙攣するその身体に大河がシャワーが無遠慮に浴びせる。
そのなんでもない刺激でもう一度、凛は天上へと引き上げられた。
「………………ぁ、ふぁ……! ぁ……はぁ……」
限界以上の緊張から解放された身体が弛緩していくのに歯止めがかけられず、凛の足の付根から温水が滴る。
だがそれも大河の浴びせかける熱い湯と流されていく気泡に紛れ、幸いにも気付かれる事はなかった。
大河に全身を委ねて茫然自失のまま、凛は開放感に酔いしれた。
「綺麗になったわ」
頭の先から足の先まで、汚れという汚れ、泡という泡を流しきった所で大河がシャワーを止めた。
「ほらしっかりしなさい、次は士郎の番なん――――あちゃー、待たせすぎちゃったわね」
「士郎……?」
「――――」
二人の呼びかけに対する返事はない。
当然の帰結、衛宮士郎の意識は目の前で繰り広げられる桃色の世界に耐え切れなかった。
大河は軽く頭を掻きながら、凛はまだ早い呼吸を整えながら。鼻血を流して気絶している士郎をしばらくの間眺め続けた。


―― ―― ―― ―― ―― ―― after bath...―― ―― ―― ―― ―― ――


「あ、ごくろーさま。士郎の様子は?」
「うんうん寝苦しそうに唸ってましたから、そろそろ気がつくかもしれません」
「あーんなに楽しんでおいてうなされるなんて失礼な話よね。
 あの後サンドイッチとかマシュマロとかいちごシロップとかいろいろ考えてたのに」
「………………はい、そうですね」
「どしたの? 急に大人しくなっちゃって。って逆か。本当はあっちが素なのよね、遠坂さんは。
 お姉ちゃんすっかり騙されちゃってたなあ」
「――――こほん。学校ではこれで通しますので、藤村先生も卒業までは宜しくお願いしますね」
「こわ! 遠坂さんの笑顔がイリヤちゃんのデビルスマイルにダブって見えるわ!!
 わかった、わかってるからその顔はやめて!!」
「では了解して頂けたという事で。私も先生のソレの事は二人の秘密にしておきますから」
「むう、優等生の遠坂さんらしいギブアンドテイク。でも士郎も知ってるから実際には三人の秘密よね」
「士郎は口が裂けても自分から話さないと思いますから敢えて枠外です」
「ふふふ、そうよねー。そんな事したら一番の被害者は士郎自身なんだからするはずないわね」
「ええ」
「あ。そろそろ皆帰ってくる時間ね。なーんか中途半端で煮え切らなかったわねー。
 …………まだ揉み足りないというか」
「!! そこでどうして私の胸を見るんですか!」
「んー士郎の事は一番なんだけど、先生としては生徒の成長をあたたかい目で見守りたいというかむしろ育てたいというか。
 ソの気はないのにその気になってしまうこのよくわからないジレンマ? みたいな」
「な――――!!?」

プルルルル プルルルル

「あ、電話」

プルルルル プルルルル プルル――――ガチャ

「――――はい、もしもし衛宮でーす」
「もしもしセイバーですが……この声はタイガですか?」
「あったりー! この時間に電話かけてくるなんて何かあったの?」
「あー、ええ……まあ、ちょっと…………シロウと代わって欲しいのですが、シロウは?」
「自分の部屋。でもかなり疲れてたみたいだから起きてるかどうか怪しいわね。伝言なら伝えておくけど」
「そうですか……では「セイバー! 貴女私のお酒が――「何をこそこそし「■■■■■■■――――
「あ――――うん、なんとなく判ったから、士郎には伝えとくわ」
「すみませんタイガ、この恩はいずれ必ず返します。
 なんとかライダーだけは連れて帰「ふふふふふセイバーやっと私の魅力に「ち、違いま――――ブツッ

ガチャ

「……セイバーちゃん達まだまだ帰れそうにないみたい。遠坂さんはどうする?
 士郎は………………やっと起きたみたいだけど」
「! 私は――――





判りきった結末を語る事はない。
遠坂凛は藤村大河に誘われるまま、性の宴に喘ぐだろう。

6564:2006/05/07(日) 02:18:15 ID:TrXrAj76
以上で三連作は完結です。
思ったより長くなってしまいましたが、何とかまとまりました。
おっぱい分が薄いとお思いの方は申し訳ないですが各自のおっぱい愛で補ってください。

  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい! おっぱい!
 ⊂彡

66僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/07(日) 05:02:49 ID:85.R07mU
これはアレか。なんだ。
藤村巨乳説が白日の下に晒されようとしているわけだな。

  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい! おっぱい!
 ⊂彡

67僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/07(日) 08:09:57 ID:WXkzAUn.
あー、その、なんだ。
ぶっちゃけ勃った。

  _, ,_ ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
 ⊂彡

68僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/07(日) 15:55:27 ID:yJEVYpHs
いやあ、なんつうか……あなたがネ申か?

69僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/07(日) 21:05:03 ID:EMhC8m4Q
我らが藤村はおっぱいと共にある。

  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい! おっぱい!
 ⊂彡

70僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/08(月) 15:13:36 ID:rN/DOXiM
今読み終わったとこ。つーか某スレの169。
正直、俺、おっぱいと同じくらい藤ねえが好きなんだ、と言う事が解った。
万感の思いを込めて。

  _  ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい! おっぱい!
 ⊂彡 

71僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/09(火) 01:43:15 ID:tHZP/oVo
そ藤

72僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/13(土) 00:20:25 ID:dncLIbWI
おっぱい祭のバナー張ってくれてあるの、初めて見た。

73僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/13(土) 00:45:43 ID:Kw2ZYNq2
おっぱいの画像がある方?
もしそっちだったらネ申だと思う。

74[おっぱい祭][貧乳って胸キュン?](1/2):2006/05/13(土) 00:52:27 ID:twuW7KOI
 それにしても――

 こう、下から持ち上げてみる。十分に柔らかな手触りと共に、張り詰めた
表面が少し緩み、盛り上がる。
 そっと、左右から寄せてみる。可愛らしいふくらみは、やはりふっくらと
盛り上がり、先端の蕾も寄り目になる。
 上からつるんと、撫でてみる。すべすべした肌触りは、長年の節制の賜物。
磨き上げられた、乙女の玉肌だもの。
 それぞれを、両手でくりくりと揉みしだいてみる。うん、十分に柔らかで、
張りのある手触り。ちょっと固くなり始めている、蕾の引っかかりも心地よ
い。殿方なら誰だって、きっと、ううん、絶対に夢中になっていただけるは
ず。
 なのに、ああ、それなのに――
「ボリュームが……」
 口に出した途端、鏡を覗き込んでいた白い顔は、落胆のしかめ面になる。
そう、足りないものは、ボリュームなのだ。
「形も、色も、手触りも悪くないと思うけど」
 続けて口に出して、今度は自己嫌悪に顔が曇ってしまう。確かに形はいい。
小振りというにも薄すぎではあるけれど、首筋のラインから盛り上がり始め
て、しなやかな鳩尾へと消えてゆくラインは悪く無い。色は乳のような白さ。
病的になる一歩手前の、健康的な白さを保っている。そして手触りは、バター
の滑らかさ。薄くてきめ細かい皮膚の下で、柔らかで柔軟な脂肪層が形を変
え、指先を押し返してくるのが分かる。
 悪くは無い。でも、でも、絶対的なパンチ力が、はっきり言って大きさが
乏しいのだ。心細いのだ。劣るのだ。心許ないのだ。
 はあ、と、ため息をつく。今まで、勉学もスポーツも一族での地位も、自
分の才能と努力で勝ち取ってきた。自分が望んだことは全て叶えてきた。愛
する人を呼び戻すのに、誰からも文句が出ないように封じたのも、自分自身
の力でだった。神様になったつもりは無いけれど、そういう力には恵まれて
いると思っている。なのに、ここだけは、これだけは、いくら努力を重ねよ
うとも、いくら思い詰めようとも、いっかな改善される兆しすらないのだ。
絶望的な気分にもなろうというもの。
 でも、あまり拘ってないみたいだし――ふと、彼女は想い人の顔を思い浮
かべた。続けて思い浮かべたのは、昨日の逢瀬のこと。
 こう、ブラを自分で外すように命令されたので、大人しく外したら。まる
で赤ん坊みたい。目を輝かせて、先っぽにしゃぶりつくんですもの。わざと
音を立てて吸って、その上に舌の平で、ピチャピチャなんてはしたない音を
立てて舐るから。
 身体が――ううん、あそこが、こう、じゅんと熱くなって、滴り始めてし
まった。そんなはしたない娘だと思われたくないから、精一杯抗ってみせた
ら――
『おまえのおっぱいは凄く敏感だし、いいにおいがするから、俺は大好物な
んだ。大好きなものにしゃぶり付くのは男の性だろう?』なんて。胸の谷間
(無いけど)に顔を埋めて、頬擦りまでされるので、もうどうしていいのか分
からなくて。
 その後のことはおぼえて無いくらい。数え切れないくらいイカされて、溢
れるくらいアレを中にもらって。朝、ベッドから抜け出す時、腰が立たなく
て、風呂場では琥珀に掻き出してもらったくらい。
 昨夜のことを思い返すと、幸せに顔が崩れてしまいそう。頬が緩んでしま
い、思わず可愛い声を上げて恥らってしまう。鏡の中には、両頬に手を当て
て、にやけている姿。どんなにお嬢様でも、どんなに優等生でも、どんなに
厳粛な家長でも、恋する男の愛を一身に受けているという事実の前には、な
んの意味も無いこと。ただ、その男の眼差しと、愛撫だけが、幸せにしてく
れるのだから。私は幸せ。うん、幸せ。

75[おっぱい祭][貧乳って胸キュン?](1/2):2006/05/13(土) 00:53:34 ID:twuW7KOI
「でも、やっぱり男の人は、胸の大きい女の方がいいのかなあ」
 それだけ愛情を一身に受けているというのに、彼女の思いはそこへと戻っ
てしまう。愛しているから、愛されているから、精一杯喜ばせてあげたい。
幸せにされている分、ううん、それ以上に幸せにしてあげたい。その思いが、
また顔を曇らせてしまう。本当に、ここばかりはどうにもならないのねと、
ため息を吐く。
 こうして、表情をコロコロと変え続ける彼女は、一人の年頃の少女であり、
いつもの厳しさのかけらも感じられず、可愛らしかった。それもこれも、こ
の部屋には誰も居ないと思い込んでいたからなのだが――
「そうですねー。一般論ですけど、やはりバインバインなおっぱいには、殿
方は弱いものらしいですよ。でも、秋葉様のような可愛らしい胸にも、心と
きめかせる殿方は多いそうですよー」
 思いがけず答えが返ってきて、彼女はぎくりと身を固くした。
「こ、琥珀」
「はい?」
 名を呼ばれた侍女は、いかにも不思議そうに首を傾げた。斜め後ろ、寝室
の出入り口近くに、闇に紛れるようにして立っている。
「……私の服を取りに行ったんじゃなかったの?」
「よく考えたら、秋葉様のお部屋まで持って来てましたので」
「いつから居たのよ!」
「そうですねー。秋葉様がご自分の胸を抱えて絶望的な顔になられてから、
急ににやけ始められた辺りですかねえ」
 涼しい顔して答える琥珀。が、その平然とした様子に、秋葉はピンと来た。
「こーはーくー! わざと潜んでいたでしょう!」
「あらあら、どうしてそうも疑り深いのでしょうね、秋葉様は」
 小袖で口元を隠しながら、琥珀は小走りに逃げ出した。
「こはっ――待ちなさい!」
 背後から主の怒号が追いかけてくるが、琥珀は知らぬ顔で廊下に逃げ出し
た。
 ドアを閉じて、クスリ。そして一言。
「まあまあ、本当に秋葉様は可愛らしい方ですこと。志貴さんがお好きなの
は胸のある秋葉様じゃなくて、秋葉様の胸なのに。そこがわかってらっしゃ
らないのですねー」

------------------------------

箸休めの小品でございました。

76[おっぱい祭][貧乳って胸キュン?](1/2):2006/05/13(土) 00:56:03 ID:twuW7KOI
連番間違えますたosz
すぐ上のは2/2です。
お詫びにもう一本書くっす。

77僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/13(土) 00:57:41 ID:twuW7KOI
(いうまでも無い理由で切腹中)。
わしもバナーを貼ってみました。このスレへのリンクも貼ってみたすた。

78僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/13(土) 20:43:08 ID:Y21g3a0s
それどこの勇者?

79僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/13(土) 23:02:20 ID:dncLIbWI
エリュシオンの花 ってSSの最後の部分に張ってあった<おっぱいバナー
ただしリンクは無かったから、 >77 さんではないと思う。

80僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/14(日) 00:16:33 ID:U1oVa35I
貧乳萌えもいいもんだなあ。

81僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/14(日) 03:42:30 ID:uIvTwNQM
うむ、ヒンヌーは胸キュンですな。

82 [おっぱい祭][貧乳って胸キュン? Part.2](1/2):2006/05/29(月) 00:41:48 ID:s.4ACY9U
 それにしても――

 そのホテルの一室には、奇妙な臭いが漂っている。奇妙に生物的で、鼻を
突き、それでいて蠱惑的な匂い。汗とも排泄物とも違う。男女の営みがもた
らす、淫臭という奴なんだろう。
 ベッドに腰を下ろして、ボーっとしていた。すぐ隣には人のぬくもり。
ベッドは二人分の重みに沈み込んでいる。そして二人とも素っ裸。逢引とは
いえ、このシチュエーションでは、やることが一つしかないと白状している
に等しい。我ながら、浅ましいものだ。凛々しい、ハンサム、などと後輩や
クラスメートから称えられることはあるけれど、それでもわたしは女。女の
器官が愛しい男の分身を求めて、身動ぎしている。
 そんな風にちょっと考え事して、黙り込んでいたら。何のつもりか、背中
から手を回して、胸を触り始めた。
 それにしても、と我ながら思い返すくらいにささやかな胸に、男の手が回
される。そのまま包み込まれる。悪戯するつもりかな。それとも、わたしを
また抱きたくなったの? あんなに、もう三回も中に出したばかりだという
のに。
 しばらく、つるつるした肌触りを楽しんでいるようだった。撫で回される
感触から、自分の肌がどれほどすべすべしているか分かる。さっき、ボディ
ソープで磨き上げたからというばかりじゃ無い。前に、青磁のような、など
と言われた。そこまでは硬くも冷たくも無いつもりだが。もしかして、わた
しの性格を皮肉っているのか?
 なんとなくだが、あえて反応しないでおいた。そのまま先っぽを攻められ
るのかと思っていた。そうして、十分に硬くしてから、今度は口で責めてく
るのが、こいつの常套手段だからだ。
 が、意外にも手を鳩尾までずらすと、今度は下からなで上げられ始めた。
我ながら、女として識別されるにも最低限、ギリギリのふくらみではある。
それでも、男の手が鳩尾から首筋までなで上げる度、ふくらみが絞られ、
指が沈み込んでゆく。感じていると思われるのが癪だったので、黙っていた。
でも、もやもやとしたものが湧き上がってきて、思わずごくりと喉を鳴らす。
感じ始めているのに気づかれたかな。
 目を下に落とすと、ちょうどふくらみを下から掴んで、そのまま乳首へと
絞り始めたところ。さすがに男のそれとは違うふくらみが、ゆるゆると絞ら
れ、形を変えてゆく。指が脂肪層の中に沈みこみ、そのまま楽しむように乳
房を絞ると、首筋へと抜けてくる。あえて乳首は責めないようだ。つるんと
撫でて、そのまま通り過ぎてゆく。でも、子供っぽいそれに、男の指が引っ
かかる度、次第に固くなって、指にも余計に引っかかるようになる。それが
恥ずかしくて、いつものように明け透けになれないで、ひそかに恥らってい
た。
 やはり、反応したのはまずかったか。今度は、周りから先端に向けて、絞
り上げるようにもまれ始めた。いつもなら乳暈に引っ込んでいる乳首が起き
上がっている。いつの間にか汗ばんできて、愛撫する手の動きも、滑らかに
なる。にゅるり、と指が乳房に沈んで、そして絞り上げてゆくや、最後に
きゅっと乳首をひねる。その度に、体が熱くなっていって、余計に汗が滴っ
てしまう。
 乳首を何度目かひねられたとき、うかつにも声を漏らしてしまった。一瞬、
わたしを弄ぶ手の動きが止まる。ほくそ笑むその顔が目に浮かぶようだ。癪
に障る。
 せめてもの反撃。手を伸ばして、男のものを手に納めた。片手では余るほ
ど。棹を包み込むと、なにやら苦笑めいた声を漏らした。そのまま、棹を撫
で始める。どうせわたしが負けるのはわかりきっている。どうしたって、こ
の男の手には敵わない。まったく、どれほどの女を相手に経験を積んできた
のか。こっちがどれほど頑張っても、どれほど男の性機能に対する考察を深
めても、イクのは先だなんて。
 棹が手の中で脈動している。いやらしい。それだけで、うっかりするとぬ
かるんできてしまう。いや、もうシーツに滴り始めてるから――
 胸をまさぐる二本の腕は、もう遠慮無い。胸のささやかなふくらみを、無
理やりに寄せてあげるように絞り上げる。それなりに厚いはずの脂肪越しの
刺激に、思わずため息が漏れる。コリッと乳腺を刺激されるたび、わたしが
まぎれも無い女であり、この男の子供をいつでも孕めることを思い出させる。
そうだ、もうすぐ、この手の中で脈動し、そそり立っているものが、わたし
の女の部分を攻め立てるだろう。そして、おぞましくも愛しい液体を、わた
しの母胎へとぶちまけるのだ。

83 [おっぱい祭][貧乳って胸キュン? Part.2](2/2):2006/05/29(月) 00:44:17 ID:s.4ACY9U
 指先で小さな乳首を摘まれる。親指と人差し指で、左右の乳首をコリコリ
と刺激する。悔しいけど、わたしの身体はそれに正直に反応して、乳首が完
全に張り詰めてしまった。その手の動きは、愛しげで、その癖からかうよう
で、大胆で、それでいて繊細で。親指でキュッとつねられると、胸だけでな
く、わたしの女の部分も反応し、疼いてしまった。思わず、甘く吐息を漏ら
す。そしてまた、下から絞り上げられる。乳首を責められているときの、直
接的な快感とは違う、もどかしいような感覚。それが手の動きと共に乳首へ
と絞り上げられて、最後につままれた瞬間に燃え上がる。
 もう、いいようにやられるばかりだ。手の中の肉茎はカチカチだけど、ど
うせイカせるのは無理だろう。だって、さっきあれだけ、わたしの中に放っ
たのだから。まだ膣奥に燃えている熱いモノに頭が行ってしまうと、肉襞の
奥からじわりと蜜が溢れ、また垂れ落ちてしまう。きっと、この男の子種も、
一杯混じっている蜜が。
 あまりにいいようにしてやられているので、思わず目を上げて、むーっと、
睨んでやった。
「こら、人の胸で遊ぶな。伸びちゃうじゃないか」
「少し伸びたくらいが、俺が吸ってやりやすいだろう?」
 からかうように言い返される。余計に視線を強め、睨んでやった。
「馬鹿。あたしの胸は、助平な遠野のお兄さんのためあるんじゃないんだ。
それに、こんなもの、揉んでもつまらないだろう?」
「蒼香の胸を吸いたがる奴なんて、俺だけだろう? それとも、月姫さんは
俺に飽きて、他の男にもおっぱいを吸わせてるの?」
「ばかっ、そんなことするわけが、あたしが志貴以外の男とセックスするわ
けがないだろう」
 思わず、そう言い返してしまう。だが、自分が何を言ったのか気付いて、
思わず顔を真っ赤にしてしまった。この男は、それが嬉しいのだろう、ニヤ
ニヤしながら、わたしの胸を何度も揉みしだいた。
「ば、ばか、やめろ――んっ」
 もちろん、止めて欲しいわけじゃないのに、わたしはそう口走っていた。
でも、志貴は全部心得ている。わたしをそのまま押し倒すと、今度は口で攻
め始めたのだ。
 ちゅっ、とばかりに、わざと音を立てながら、志貴のキスが胸に浴びせら
れた。唇は、首筋から這い始めて、そして約束の場所に、乳首へと至った。
ちゅーっ、と長めにキスが与えられる。乳首の先端から何かを吸いだされる
ようだ。母乳が出るものなら、きっと志貴はそれを味わえただろう。ゾクゾ
クと、戦慄が背筋を這い上がってきて、わたしはとうとう啼いた。甘い声を
上げてしまう。
 固くなった乳首は、絶好の攻撃目標だ。志貴は、わたしの乳暈を舌先でな
ぞると、乳首を舌の平で擦りながら、何度も舐り上げられた。強い刺激に、
思わず背をそらせ、喘いだ。
 わたしの唇に、志貴の唇が触れる。啄ばむように吸われて、それからする
りと舌が差し込まれてくる。いやらしく、ねっとりとわたしの舌と絡み合う。
キスは大好き。愛し合っていると実感できるから。でも胸を吸われる方が気
持ちいい。
 志貴の手が、優しくわたしの足を広げてゆく。花弁が開くとき、ねちゃり
と卑猥な音がした。志貴の動きを助けようと、腰を少しだけ持ち上げる。志
貴が腰を突き出してきたとき、もうその肉茎が、わたしの花弁を押し開いて
いた。蜜壷をかき混ぜるような粘着質の音。わたしの奥深くに、熱く焼けた
剛直がはめ込まれてゆく。おもわず、愛しい男の名を口走る。
「蒼香――」
 志貴はもう一度口付けをくれると、大きくストロークし始めた。最初はゆっ
くりと、やがて肉を打つ音が聞こえるほどに激しく。わたしの一番奥で、母
胎が志貴のオトコに突き上げられる。その背中にしがみつきながら、その律
動はわたしをとろけさせ、高みへと追いやってゆくのだ。

84僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/29(月) 00:45:04 ID:s.4ACY9U
というわけで、終わる前にアサガミーズを制覇する予定だ。

85僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/29(月) 00:57:47 ID:K/df0jV2
>>82
忘れた頃にやってキタ――――――――!!!!

  _  ∩
( ゚∀゚)彡 小さいおっぱい! 感度は良好!
 ⊂彡

86僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/31(水) 00:28:58 ID:RKp24RPE
GJ!
しかし祭りももう終わるのか。
次が楽しみだ。

87 [おっぱい祭][豊乳だって胸キュン?](1/2):2006/05/31(水) 02:22:41 ID:u8rD6m4o
 それにしても――

 ドキドキしながら、成り行きに身を任せている。ちょっとありえないくらい美味しい、
しかし危険な状況だ。
「うふふー、お兄さぁん」
 ちょっと鼻に掛かった可愛い声。他の女の子ならあざと過ぎて辟易するかもしれない。
でもこの子には似合いすぎだ。
「お兄さん、やっぱり男の子なんだー。こういうの、大好きなんだねー」
 目を閉じると、我が息子がなにやら暖かで柔らかい肉にみっしりと包まれ、ゆるゆると
締め上げられているのを感じる。それは女の部分の感触と違って、すべすべしている。もっ
ちりした肉が、竿から亀頭のくびれにかけて絡み付いてくる。その癖それは、繋がってい
る時のような、ねっとりまとわりつく感じは無い。
「こういうのって男の人の夢なんだってねー」
 目を開けて、見下ろす。どうやら会議室らしい一室だ。その妙に豪華な会議卓に腰を下
ろしている。そして目の前には、栗色のロングヘアの、ちょっと大柄な娘。秋葉のクラス
メートで、羽居ちゃんというらしい。秋葉より太めで、秋葉のようになにもかもが締まっ
ている娘とは正反対の、なにもかもがふわふわと柔らかそうな女の子だった。まるで、甘
い綿菓子のような、そのおっぱいだって。
 セーラー服の前をはだけて、ブラまで外している。ぷるんと張りつめた双丘は、薄く汗
を引いて輝いている。丸い、唆すような白い肌の先端には、その大きさに似合わないくら
い小さな、子供っぽい乳首が、濃いピンクに息づいている。その間には、俺の赤黒い息子。
こんな可憐できれいなおっぱいを前に、申し訳ないような気分にさえなる。
 羽居ちゃんは、俺の息子をおっぱいに挟み込んだまま、おっぱい全体で包みこむように
して、擦ってくれる。ゆさゆさと、大きなおっぱいを駆使して、俺のものを周りから責め
てくる。
「お兄さん、気持ちいい?」
 それは唆すような女の言葉じゃなくて、好奇心一杯の女の子の言葉。こんなに胸囲は成
長しているのに、乳首も心も可憐な女の子のまま。そのアンバランスさが、かえって劣情
を催させる。
「ああ、気持ちいいよ」
 思わず正直に答えてから、そういえばどうしてこんなことになったんだっけ、という疑
問を思い起こした。確か、秋葉の授業参観に来て、一人でうろついていたら日差しにやら
れて貧血を起こして、そこにこの子が通りかかって――
 それにしても、なんだってこんなことになってるんだ。こんなところを誰かに見られた
ら、妹の級友を空き部屋に連れ込んで、パイずりさせているようにしか見えないじゃない
か。い、いや、その通りだけど。
「だってえ、お兄さん、なんだかあそこを膨らませてるんだから。確かめてみたいじゃな
いの」
「それは男の生理現象だよ。だいたい、だからって、おっぱいで扱かなくても」
「晶ちゃんが持ってた本に、こうすると男の人が喜んでくれるって、書いてあったんだも
ん」
 晶ちゃん、上級生の情操教育に悪い本は貸さないでくれ。
「あの、羽居ちゃん、もう大丈夫だからさ。この辺で――うはっ」
 ともかくも、事態の収拾を図ろうとした俺は、思わず悶絶した。そのおっぱいだけじゃ
満足してくれないというのか、羽居ちゃんはいきなり、かぷり、とばかりに息子をくわえ
たのだ。
「んーっ」
 フェラチオに慣れた女(それは誰かというと秋葉だけど)のように、ちろちろと男の弱
点を責めてきたりはしない。まるでリコーダーのようにくわえ込んだまま、上目遣いに俺
の反応をうかがっている。どうなるのかな、と純粋な好奇心で。
 その、体型とギャップがありすぎる、幼い子供のような行動に、俺はむしろ優しい気持
ちになっていた。
「あのさ、そのまま、その、くびれの部分を舌でなぞってごらん」
「ほおお?」
 言われた通り、羽居ちゃんは俺の息子のくびれに、ちろちろと舌を這わせた。
「はうっ!」
 想像以上だった。もうすっかり馴染んでいる、秋葉の舌遣いと違い、それはぎこちなく
て、戸惑っているようだ。それが逆に、俺の劣情を激しく刺激した。
「んっ、んっ、いいよ、羽居ちゃん、続けて」
 あれ、さっきは止めさせるつもりじゃなかったっけ。ちょっと気が動転しかかったが、
羽居ちゃんの舌遣いがあまりに可愛らしくて、そのくせいやらしくて、俺はついつい促す
ようになっていた。第一、こんな綺麗なおっぱいにみっしり包まれてしまうなんて、秋葉
相手では望めないことだ。秋葉、ゴメン。俺は、最愛の妹に心の中で詫びると、現実に意
識を戻した。

88 [おっぱい祭][豊乳だって胸キュン?](2/2):2006/05/31(水) 02:23:57 ID:u8rD6m4o
 羽居ちゃんは、なにかをつかんだようだ。舌先で雁首を舐めまわしながら、おっぱいで
棹を強くこすってくれる。そのコンビネーションは、俺にとって未体験ゾーンだった。
「あー、お兄さん、感じてくれてるんだー。おちんちんがカチカチになって、膨らんでる」
「うん、もう、根元まで来てるよ」
 羽居ちゃんはその意味がわかったのだろうか。今度は息子を先端から喉の奥まで飲み込
んでくれたのだ。
 思わず声を漏らした。口腔の感触は、膣のそれを思わせて。まるで羽居ちゃんと、本当
にセックスしているようだ。マグマの滾りを感じる。
 羽居ちゃんは、そのまま吐き出すと、唾液に濡れた我が息子を、その豊かなおっぱいに
再び挟み込んだ。ちゅるっ、と粘液質の音と共に、息子が肉の間をストロークする。
「あはっ、お兄さんのおちんちん、可愛い」
 羽居ちゃんは、おっぱいで息子を強くこすりながら、その先端を何度も吸ってくれた。
その度にマグマの滾りは激しく、もはや抑えがたくなってきた。もう、限界だ。
「羽居ちゃん、もう、その、出ちゃうけど、いいね?」
 いまさら明後日の方向に放ちたくは無い。このまま、羽居ちゃんの顔に、その豊かなおっ
ぱいにぶっ掛けたかった。まだ処女に違いないこの子を、俺のザーメンで汚してしまいた
かった。とことんやってしまえ、と、俺の中のダメな部分が叫んでいる。
 ゴメン、秋葉。そしてゴメン、羽居ちゃん。俺は後ろめたいものに密かに詫びると、猛
然と腰を使い始めた。我が息子で、羽居ちゃんのおっぱいを、そして可愛らしい唇を犯し
始めたのだ。
「むぐっ、んっ、お兄さん、凄い――」
 羽居ちゃんは、おっぱいと唇で、俺のものを精一杯受け止めてくれた。袋の中で睾丸が
ドロドロに溶けてしまって、カチカチの肉茎の根元はドロドロの精液で一杯になっている。
爆発しそうだ。
「羽居ちゃん、行くよ!」
 思わず声を上げて、ぎりぎりまで耐えた次の瞬間、真っ白な頭で、先端から先走りが垂
れ落ちるのを感じた。快感のあまり、俺は唸っていた。数瞬後、俺は羽居ちゃんの顔めが
けて放つだろう。だが、その時――
「――おい羽居、なにやってるんだよ!」
「えっ、兄さん?」
 今ここでは、絶対に聞きたくなかった声。絶対に居て欲しくなかった妹。それを意識し
た途端、しかし俺に対しては特殊な作用をしたのだった。まるで後ろから蹴飛ばされたよ
うだ。その後ろめたさと驚きは、むしろ俺の快感を何倍にも高めたのだ。
 頭が爆発する。俺は叫んでいた。激しいほとばしりが、羽居ちゃんのかわいい顔に、栗
色の髪にぶちまけられる。
「あはっ、お兄さんすごいんだー」
 おびただしいザーメンに汚されながら、羽居ちゃんは感極まったような声をあげた。俺
も、今まで体験したことが無かったくらいの激しさで、なおも息子から放ちつづけていた。
計量カップで計れそうなくらい、大量の白濁液が、羽居ちゃんの顔を、そして豊かなおっ
ぱいにぶちまけられてゆく。勢い余って、その頭を越えて背後の床にまで飛び散る勢いだっ
た。頭の中が真っ白になって、なにかが次々と飛んでゆくような感覚――
 ぎりぎりと奥歯をかみ締めながら、俺は最後の滴りを、羽居ちゃんめがけて搾り出した。
息子の先端から垂れたそれは、羽居ちゃんのピンク色の乳首に垂れ、そのお腹に、そして
はだけたセーラー服やブラへと滴り落ちてゆく。
 息をついて、目を落とすと、満足そうな羽居ちゃんと目線があった。俺のザーメンでベ
トベトに汚れたその姿は、この浅上ではありえない光景だった。だが、その無邪気な笑み
に、思わず笑みが零れた。
 が、まるで凍りついたようだった背後の二人が、我に返ったように近づいてくる足音が
聞こえた。秋葉は無言だ。だが、その怒りはもう伝わってきている。
 俺は、あらぬ方に目をやりながら、これから始まるだろう修羅場を思い描き、途方に暮
れた気分で空を眺めていた。

------------------------------

結論は、大きいのも小さいのも、みんな

  _, ,_ ∩
( ゚∀゚)彡 おっぱい!おっぱい!
 ⊂彡

ってことだ。

89僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/31(水) 03:17:15 ID:8TNWuCkQ
>>88
う、後ろが怖くて振り向けません!!

GJ!!

90僕はね、名無しさんなんだ:2006/05/31(水) 23:59:53 ID:u8rD6m4o
というわけで、おっぱい祭
コレデオシマイ。

91僕はね、名無しさんなんだ:2006/06/01(木) 00:17:44 ID:T2HLIjgc
みんな乙〜。

92僕はね、名無しさんなんだ:2006/06/01(木) 06:10:58 ID:UKiF5fcs
乙カレー

93僕はね、名無しさんなんだ:2006/06/02(金) 21:39:47 ID:SPPbl1Oo
みなさんお疲れ様でしたー

94僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/19(水) 01:06:08 ID:TPakAd9U
祭りも近いのでage

95僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/19(水) 01:08:31 ID:RwbkFR9U
題名:型月・夏の食祭り
主催:SS作家がいろいろ語ってみるスレ
開催期間:7月20日〜8月20日
作品条件
1、夏を感じさせる事。
2、食事風景又は食べ物がメインのSSである事。
備考
1、食事に関して、厳密には定義しない。ド直球から変化球までカモン。でも誰も取れない魔球は勘弁。
2、ジャンルも特に指定無し。とにかく条件を守っていれば良し。各々、自らの発想に全てを賭けろ。
3、型月と銘打ってはいるが、別にらっきょだろうとDDDだろうと無問題。むしろ推奨。
4、叩かれても泣かない。これ基本。

96僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/19(水) 01:20:40 ID:TPakAd9U


97僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/19(水) 02:01:37 ID:RwbkFR9U
いよいよか楽しみだなあ

98僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/19(水) 07:51:59 ID:vVG5qZ3o
乙〜。よーし、今度も書くぞ、今からな。
翡翠味音痴ネタ、一般的であろうそうめんネタは、個人的には禁じ手にしよう。

99僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/20(木) 19:59:38 ID:aYdohjYY
開催日age

100僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/20(木) 20:03:08 ID:wUZXVdc.
この早漏

101まず付き出し:2006/07/23(日) 19:30:26 ID:5QapLYOk
「――兄さん、これでいいですか」
「あ、ああ、本当はもう少し小さい片手鍋がいいんだけど、それでもいいよ」
「まずお湯を沸かすんですね」
「そうだよ」
「じゃあ、だいたいこれくらい入れて――」
「ああ、駄目だよ。きっちり計って入れないと」
「多めに沸かして、麺に較べて多かったら捨てればいいじゃないですか?」
「駄目だよ。麺を茹でるとゆで汁が濁るんだけど、実はそこにも旨味が溶け出し
てるんだ。きっちり計るのが正解なんだよ」
「そうなんですか。じゃあ、500CC、カップ2杯半入れて、と」
「強火で一気に沸かせばいいよ」
「それはガスの無駄になります。適正火力というものがあるんです」
「相変わらず締まり屋だな、おまえは」
「兄さんこそ、けちんぼなくせに、こういう時は豪快なんですね」
「はは、ごめん。男の料理というのは、こういうもんなんだ」
「――お二人とも、夜中になにをなさって……」
「あっ! い、いや、ちょっと、あのさ」
「あ、あら、み、見回りご苦労様。ちょっと、兄さんが小腹が空いたというから
――」
「馬鹿言え、おまえがラーメン食べたいなんて言い出したんじゃないか」
「そ、それは、そう、ですけど」
「はあ、今夜は涼しいですけれど、真夏にラーメンですか」
「な、なによ、いいじゃない。兄さんがお夜食に食べてたのを見て、ちょっと美
味しそうだと思って……」
「はは、だったらあの時に言えばよかったのに。おまえは素直じゃないな」
「だ、だって(真っ赤)」
「(そこが可愛いんだけど)」
「(なんだかムカつきます)」
「ほら、お湯が沸いたよ」
「麺を入れるんですね」
「そう。……どうした、入れるだけだろ」
「だ、だって、袋が」
「はは、お嬢様には難しいか。ほら、こうすると開くんだよ」
「それくらい知ってます! ただ、その、力加減が」
「じゃあ、今度開ける練習しような」
「(袋ラーメンを開ける練習でございますか……)」
「麺が煮えるまでに薬味の用意だ。まず葱」
「これ、スープに入ってるようですけど」
「それは乾燥葱がちょろっと入っているだけ。そのみみっちい感じも捨てがたい
んだが、やっぱり新鮮な葱に勝るものは無い」
「葱は――あります。これでいいですね?」
「さすがにいい葱仕入れてるな。後は――」
「今日、姉さんが大きな叉焼を仕入れてましたが」
「いいね、これか。薄くスライスして――」
「こうですか」
「あれ、上手だね。葱もちゃんと刻めてるし」
「浅上は良妻賢母養成学校ですから。調理実習は結構多いんです」
「そうなんだ。いいお嫁さんになってくれよ」
「(真っ赤)」
「(わたしも浅上に通いたかった……)」
「そろそろ煮えてきたよ」
「これくらいの茹で加減でいいんですか?」
「ちょっと固めくらいがいい。どうせ延びるから」
「じゃあ火を止めて」
「スープを入れたら、固まらないようにかき混ぜろよ」
「これで、出来上がり、と」
「(これならわたしにも出来そうです)」
「じゃあ、3等分して、と」
「えっ、わたしの分もですか?」
「そうだよ、仲間外れは嫌だろう?」
「は、はい、ありがとうございます」
「(むーっ)」
「おいで、外で食べようよ」
「は、はい(ああっ、見回りなんてさせるんじゃなかったわ)」
「――今夜は涼しいな」
「さすがに夜は涼しいですね」
「お屋敷は森に囲まれていますから、夏場も涼しいのです」
「ま、それでも夏は夏だけどな」
「じゃあ、いただきます」
「わたしもいただきます」
「ああ、口に合うかな?」
「ふむ、これはこれで、おつなものですね」
「そうでございますね。いかに夜とはいえ、噴出す汗がたまりませんが」
「湯気で自分が茹でられている様な気になるわね」
「真夏のクソ暑い夜に食べるラーメンも、いいもんなんだぜ。汗かいた後の風は
、気持ちがいいもんだ」
「(さっきまで、二人で汗だくでしたけどね)」
「ご馳走様でした。さすがに一口分しか無かったですけどね」
「お夜食とはいえ、確かに物足りませんでしたね。割り込んでしまって、申し訳
ございませんでした」
「謝ることは無いよ。そうだ、今度は作ってみない?」
「えっ、わたしがですか?」
「さっき見てたから、分かるだろう」
「はい、では、今度はわたしが作らせていただきます」
「(むーっ)」
「――ほら、機嫌直せよ。これからはいくらでも作る機会があるんだし、おまえ
が俺の飯を作ってくれてもいいんだしさ」
「えっ、は、はい。私でよければ、いくらでも(真っ赤)」
「(今夜は、いろんな意味で暑苦しい夜でございますね――)」

102[型月・夏の食祭り][遠野家のお夜食](1/1):2006/07/24(月) 01:43:52 ID:xXwEMjIY
このスレのルールを忘れてましたorz

103僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/24(月) 01:59:57 ID:YJFCVaIE
>>101
……もう少し文章の書き方勉強し直してから出直せ

104僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/24(月) 02:25:54 ID:xXwEMjIY
夏にあえて暑苦しいパターンで来たか。熱帯夜にラーメン屋で過ごす不快さを
思い出してしまったじゃないか。だがヒッスィーが可愛いので許す。
GJ!>101

>>103
あんれ、よくある書き方だと思うけど?

105僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/24(月) 02:28:48 ID:/o5hbli6
会話だけで地の文一切無しというのはショートショートではしばしば使われる手法だね。
キャラの書分けがちゃんとできる技量があれば、という条件付だが。

その点ではちと微妙だったかな。

106僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/24(月) 02:32:54 ID:Tn9LTH8w
翡翠がちょっとらしくないかな

107[型月・夏の食祭り][セミシグレ](1/3):2006/07/29(土) 02:33:16 ID:RSC6Jxn6
 うだる様な蒸し暑さ、耳を劈くような蝉の声、身を焦がすような陽射し……そして、それらによって止め処なく溢れ出してくる滝のような汗。
『夏=暑い』という公式をこれでもかというくらいに伝えてくれるほどの、単純にも生粋な夏のとある日のこと。一人の少年と一人の少女は肩を並べあい大文字になって横たわっていた。

「暑い、暑い暑い……、あついあついアツイ――っ!」
 銀髪白肌のまるで『綺麗なお人形さん』を思わせるほどのその一人の少女が、その外見の気品さとは裏腹に、髪や服の乱れなどまるで気にすることもなく寝転んだ畳の上を縦横無尽に転がり回りながらそんな奇声を上げる。
「あ〜、イリヤ。そんなに動き回ったり、大声出してたりすると余計に暑くなるだけだぞ? こういうときは日陰になった、ひんやりとした畳の上でだな……」
「やだやだやだっ! 暑いのヤダ、暑いの嫌い、暑いの死んじゃう! シロウなんとかしてぇ!」
「…………」
 そのわがままにはため息をつきたくもなるが、イリヤがそう言いたくなる気持ちも確かによく分かるのだ。
 気温は真夏日よりさらに一回り高く、例年にも類を見ないほどの猛暑だということも朝のニュースでやっていたのはまだ記憶に新しい。それに加え、イリヤは真夏日どころか夏日すらあり得ないような日本とはまるで気候条件の異なる寒冷地方の生まれであり、恐らくこのような暑さを体験するのは初めてのことなのだろうから。長年この家に住んでいる俺ですら暑くて仕方がないほどのなのだから、イリヤにとってこの暑さは煉獄の炎に等しいのかもしれない。
 実際、クーラーなどと言ういつの時代だかの三種の神器の一つでもあればだいぶ変わるものなのだろうけれど、切嗣が冷房嫌いだったせいか、この家には……と言うか、この居間を含めた和室には一切その手の器具が設置されていなかったりする。
 だったら、冷房器具が設置されている今は誰も使っていない客間用の洋室にでも行けばいいのだろうが、何故かイリヤはそこには行きたがらないという矛盾。
 まぁ、何と言うか……本当にわがままなお姫様である。
 だというのに……。
「あぁ、分かった分かった。今、良いモノを用意してやるから」
 などと言ってしまう甘さ。
 藤ねぇにも「シロウはイリヤちゃんを甘やかしすぎ」などとよく言われるが、実際にそうなのだろうな、とこういう時になると実感してしまう。
 それは俺たちが『兄妹だから』と言われれば、多分それも大きな理由の一つなのだろうとは思う。だが、もっと単純に言えば……。
「シロウ、ありがと」
 この、外でさんさんと輝く太陽よりも明るい笑顔が好きだから……なのかもしれない。
「……」
 そんな、とても他言できないような台詞に自分自身失笑しながら、俺は横たえていた身体を起こす。その移動に伴い暑く蒸れた空気が俺の肌を滑らかに撫でていくのはあまりにも不快で、再び倒れこんでしまいたい気分でいっぱいにさせてくる。だが、隣で期待に満ちた視線を送り続けるイリヤがいてはそうもいかず、俺はその動きを止めることもなく、そのまま台所へと足を向けた。

108[型月・夏の食祭り][セミシグレ](2/3):2006/07/29(土) 02:34:31 ID:RSC6Jxn6
 それから十数分後、俺はとある物体を腕に抱えながら、再び居間に戻ってきた。
「シロウ、遅いよ〜」
「悪かった、悪かった」
 台所の暑さに参っていた俺はそんなイリヤの愚痴に反論する気にもならず、適当に流しつつ手に持っていたそれを食卓の上に置いた。
「…………」
 その物体の表面を流れる『汗』をきらりと輝かせながら、堂々とそこに降臨したのは……。
「ペンギン……だよね、コレ?」
「あぁ、そうだな」
 少し古びつつも、愛らしい瞳のペンギンだった。
「……ねぇ、コレのどこが良いモノなの?」
「うん? 見て分からないか? コレ、カキ氷を作る道具だぞ?」
「カキ……氷?」
 イリヤはそのペンギンを訝しげな表情で見つめながらも、どこか興味深げにその身体を撫でたり、頭の取っ手を回したり、腹の中を覗いたりしていた。
「そっか。イリヤはカキ氷って食べたことないのか」
「うん……、わっ!? 頭が開いた。面白〜い」
 そんな無邪気な表情。
 だが、知らないのも無理はないかもしれない。先にも言ったように、イリヤの故郷はこんな暑さとは無縁の地方だし、それに……。
「ねぇねぇ。それで、カキ氷って何なの?」
「あ、あぁ。それはだな……」
 いや、今は色々と考えるのはナシにしよう。それに何より、これ以上待っていては、冷凍庫から取り出してきた氷がこのペンギンの中に入る前に溶けきってしまうし。
「じゃあ、イリヤはちょっと離れて見ててくれるか?」
「うん。りょーかい」
 先程までの愚痴やら何やらは何処へやら……、好奇心という名の感情で満たされたイリヤは暑さもすっかりと忘れて、食卓の上に重ねて置いた腕に顎を乗せながらペンギンに魅入っていた。
 その姿を横目に、俺はイリヤが開けてくれたペンギンの頭の部分に氷をいくつか流し込んでから、再び閉じる。そして、ペンギンの腹の空洞部分に受け皿を差し入れた。
「この部分を見ててくれ。それで皿にいっぱいになったら教えて欲しいんだ」
「う、うん。いいけど……」
 そうして首を傾げるイリヤの表情からするに、いまだこの道具が何をする物だかよく分かっていないようだ。そんなところに軽い微笑ましさを感じながら、取っ手を掴んで、勢い良く回し始めた。
「わっ!?」
 バリバリ、ガリガリ、ゴキゴキ――その愛らしい外見とは裏腹にその物体が発するのは、そんな何ともグロテスクな効果音。しかも、取っ手を回すごとに俺が抑える手から逃れようとジタバタと暴れまくる始末。カキ氷機なんて物を使うのはいつだか振りで、力の入れ方のコツをまだよく掴めていないせいでもあるが。
 だが、それでもいくらかするとスムーズに回せるようになり、あの妙な音がうそだったかのように、聞いてるだけでも冷涼感を覚えるような心地いい音が響き渡っていった。
 シャリシャリ、シャコシャコ――。
 その周期的な音に同調しながら、腹の中の受け皿に削られた氷の欠片が積もっていく。
 ただ、それだけ。
 はっきり言えば、いくら初めて見るものだとしても、そんなのをずっと見ていても何も面白くもないだろうとは思う。
 それなのにイリヤは、ただジッと……その氷の降り積もる様をただジッと見守っていた。
「……えっ? イリ……ヤ、お前?」
 その瞳から、一筋に雫をこぼしながら……。
「あ、あれ? なんでだろ? あれ……、あれれ?」
「イリヤ……」
 汗よりも大きな殊玉のような涙がポロポロとこぼれ落ちていく。拭っても拭っても、堪えても堪えても、その瞳からは止め処なくこぼれ続ける。でも、どうして涙が止まらないのか、どうして涙が流れ出すのか、その理由の断片も分からない……そんなイリヤの様子が、呆然としつつも苦しそうな表情から見て取れた。
「なんで……、なんでだろ? こんなの、ただの氷の欠片なのに。氷の欠片が落ちてきてるだけなのに。なのに、なんで……涙なんて出るんだろう?」
「…………」
 イリヤが分からないことが俺に分かるはずもない。でも、分かるはずもないけれど、少しだけ分かるような気もした。イリヤがソレに何を見ているのか、何を思い出しているのか……ほんの少しだけ。
「イリヤ……」
 もう一度その名を呼んで、手をペンギンの頭からイリヤの頭へと移し、ゆっくりと頭を撫でてやる。そしていまだこぼれ落ちるソレもそっと指で拭ってやると、ソレはまるで『雪』が解けたように冷たかった。
「お兄……ちゃん」
 そして俺は、イリヤの頭をそっと自分の胸の中に埋めさせた。

109[型月・夏の食祭り][セミシグレ](3/3):2006/07/29(土) 02:35:50 ID:RSC6Jxn6
「……どうだ、イリヤ? 初めてのカキ氷は?」
「う〜ん」
 皿いっぱいになったカキ氷に、苺用に買い置きしていた練乳をイリヤの命令通りこれでもかというくらいにかけた上にミルクを垂らす。そして缶詰から小豆をいくらか盛り付ければ、簡易的ではあるが、練乳小豆の完成だ。本当は抹茶も加えて、宇治金時にでもしようかと思ったのだが、イリヤが「抹茶は苦い」と言うのでやめることにした。俺にとっては流石に甘すぎるので遠慮したが。
「冷たい」
「それだけか? 甘すぎる〜とか」
 それに首を傾げてから、もう一度スプーンを氷の山へシャクリと差し入れる。そして、大きな口を開けて頬張ると、さらにもう一度首を傾げて言った。
「…………しょっぱい」
「……プッ」
 そんな突拍子もない言葉についつい噴き出してしまう。練乳小豆のカキ氷を食べて「しょっぱい」なんて感想を言う人に出会ったのは初めてだったから。
 だが、それでもイリヤは手を止めることなく、掬っては口へ、掬っては口へ、を繰り返す。「しょっぱい」のならば、我慢する必要も無理に食べる必要もないというのに。
「おい、イリヤ。別に残したって……」
「ううん、大丈夫」
「え?」

 高くなっていく陽射し。
 深くなっていく暑さ。
 澄み渡っていく空の青。
 火照った肌に心地良い通り風。

 手を翳しても抑えきれないほどの光景に目を細めつつも、風に髪をなびかせた隣の少女の姿を……その微笑んでいる姿をはっきりと見る。
「だって……」
 そしてイリヤもその夏の空を見上げて、こう言うのだ。
「だって、暑いんだもん」
「…………そっか」
 降りしきる『蝉時雨』の中、縁側の風鈴が「チリン」と一際涼やかな音を奏でて……揺れた。



 それは、イリヤにとって初めての夏の始まり。
 その思い出は、きっと一夏の『蝉時雨』のように――――。



 † † †



 ○月○日 晴レ ☆☆
 今日の出来事。
 今日ははじめて『カキゴオリ』を食べた。
 しょっぱかったし、頭キンキンになったし、ホント最低だった。

 でも、すごく…………おいしかった。

110僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/29(土) 17:38:47 ID:V6K7MpVA
>>107
読んだよ。少し短めなのもあって、すんなりスムーズに読めた。
最初のイリヤの暑さでの乱れ方がちょっと気になったかな。彼女は普段はお嬢様な子だってイメージだから。
あと、蝉って単語がもう一回くらいあっても良かったかも。
それをタイトルにするのなら、あと少し強調してほしいか……まあここは好みが別れるかも。やりすぎるとまずいし。
全体的にはとても好みだったな。終盤の夏をイメージさせる言葉の出し方とか、夏の日常の雰囲気出てて良かった。

111僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/29(土) 17:48:03 ID:RoHdmm9Y
すごく……GJです…………

112僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/29(土) 18:21:15 ID:RSC6Jxn6
>>107
確かに少々気になるところはあるが、なかなか良かったとは思う。
で、コレって多分「イリヤ」と「蝉」をかけてるんだよね?(>>110からふと思った)

113僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/30(日) 13:50:29 ID:mOcshQCI
GJなのが多いが思ったよりも人が居ない。
上げたくなる衝動に駆られる。

114 [型月・夏の食祭り][ニゲミズ](1/5):2006/07/30(日) 22:19:38 ID:cLEDVV0o
 うだる様な蒸し暑さ、耳を劈くような蝉の声、身を焦がすような陽射し……そして、それらによって止め処なく溢れ出してくる滝のような汗。
『夏=暑い』という公式をこれでもかというくらいに伝えてくれるほどの、単純にも生粋な夏のとある日のこと。少年は一人、畳の上に大文字になって横たわっていた。

「暑い、暑い暑い……あつい」
 俺はふとそんな言葉を漏らす。あまりの暑さのためについ口走ってしまった独り言か……いや、それなら四度も繰り返すのは不自然な気がする。ならば何かを意図して言ったのか。だが何にせよ、暑いのならば強い陽射しの入り込むような場所で寝転んでいないで、冷房の効いた部屋に行って寝ればいいだろうに……。
「はぁ、何やってんだろうな……俺は」
 肉体的なだるさだけでなく、この暑さでどうやら思考までおかしくなってしまったようだ。一人でブツブツと何かを口にして、端から見れば、明らかに頭のおかしな人に見えるだろう。
「何か冷たいものでもあったかな?」
 俺はその完全にだらけきって力の入らない身体を鞭打って起こすと、台所へと足を運んだ。
 そして冷蔵庫を開けた途端に肌にまとわりついてくる冷気のなんと心地良いことか。家事を任される者として、冷蔵庫を開けっ放しにしておくことが食材にどれだけの打撃を与えるか分かっていても、ついついそのままにしたくなるほどの冷気の誘惑。
「……ムッ?」
 だが、冷やされたおかげですっきりとした俺は再び冷蔵庫の中に注目してみると、そこに冷たいものどころか食材になりそうなものがほとんどないことに気付く。
「参ったな。そう言えば、昨日は忙しくて買い物に行けなかったんだった」
 その事実に少しは引き締まった気がした身体が途端にだらけ、頭を抱えてしまう。この、外へ出ただけで眩暈を起こしそうな陽射しの中、たとえ商店街まで歩いていくのがどれだけ面倒なことか……それを考えると。
 だが、ウチにとっては食料問題というのは非常に重大なもの。桜はともかく、藤ねぇが帰ってきたときに「メシがない」なんてことが知れたら、恐らくとんでもないことになりかねない。
「仕方ない。行くしかない……よな」
 名残惜しくもパタンと冷蔵庫の戸を閉めると、俺はその場を後にした。



「流石にこの時間帯だとまだ人も少ないな」
 買い物の基本は夕方から……とでも言おうか、いつも自分が足を運んでいる時間帯の商店街とは違い、だいぶ閑散とした印象を受けた。それに、いつもはあれほど活発な店の人たちも今は多くが店の奥に引っ込んでしまっている状態。もしくは店先にホースで水を撒いているか。
 どちらにしても、この暑さに参っているのは決して自分だけではなく、皆が皆そうだったらしい。
「…………ぇ?」
 と思ったのも束の間。
 俺は目の前を通り過ぎて行ったモノに目を疑った。まるでこの熱とアスファルトが生み出した蜃気楼なのではないか、と錯覚してしまうほどに。
 そしてそのモノの姿を求めて振り返ったとき、否応なくその姿は俺の網膜に焼きついた。
 こんな暑い中なのに、長袖に地面にかかるかどうかくらいのロングスカート。終いには顔を除いた頭部をすっぽり覆うフードを身に付けているのだから。それに、その服は太陽の光を眩しいくらいに反射する白……完全な白一色。この状態で十人がそれぞれそのモノとすれ違えば、間違いなく十人とも振り返ってしまうだろうと確信できるほどに、そのモノは明らかな異彩を放っていた。
 しかし、俺が網膜に焼きつけるほどに印象深かったのは、そんな外見などではなく、その人物そのものについてだった。
 何故なら、その人物とは俺も知っている――――

「……セラ、か?」

「エミヤシロウ…………、さま?」
 『彼女』付きのメイドの『セラ』だったのだから。

115 [型月・夏の食祭り][ニゲミズ](2/5):2006/07/30(日) 22:20:59 ID:cLEDVV0o
「久しぶり……かな、やっぱり」
「ええ、そうですね。実に三百跳んで、九日ぶりです」
「…………」
 相変わらずと言うか何と言うか、セラはそんな「三百跳んで、九日ぶり」でもまるで変わった感じがしなかった。その変わらないメイド服も、その変わらない仕草や口調も。そして、この商店街に買い物に来る……ということも。
 だが、一つだけ変わったこともある。
「『一人』で持つのは辛いだろう? なんなら、俺が持とうか?」
「結構で……、あ、いえ。せっかくなので持ってもらいましょうか?」
「了解だ」
 少しだけ……、多分俺にしか分からないくらいに少しだけだが、俺に対する刺々しさが和らいだような気もしていた。
「……とは言え、軽すぎるな、コレは。まさかコレで全部なのか?」
 そうして手渡されたビニール袋だが、それはあまりに軽すぎた。米袋を両手にぶら下げて帰らなければならないときなどと比べたら、欠伸が出るくらいに楽なものだった。
「そう言えば、エミヤ……様は、これから買い物ですか?」
「ああ。でも、まだこんな時間だし、気にすることはないぞ?」
「いえ、聞いてみただけです。気になどしていません」
「……あ、そう」
 そこで二人の間で会話が途切れ、沈黙のまま互いを見つめあう形になってしまう。以前からセラと俺との間で間がもった……なんてことは殊更珍しいことなので仕方ないにせよ、今は少し状況が違う。
 今こんなことを考えている一秒……いや、コンマ一秒の間にも、上空に佇む太陽という奴はその輝きで俺たちの肌をジリジリと焼いてくる。俺は半袖にハーフパンツ、靴もつっかけという非常なラフな格好だが、肌は剥き出しで、毛穴の奥から蒸気でも出てしまいそうなほどに暑い。それに対してセラは、光を反射すると言われる白い服で全身を覆っているとは言え、服は厚手で密着しているほどのものだから、恐らく服の下はサウナ状態だろう。ある意味、中東の女性の格好に似ている……と言えなくはないが、暑くないはずもない。それでも表情を冷静にと努めているのだから、まさにメイドの鑑と言っても過言ではなかった。
 だが、やはりこの暑さは異常だ。話をするにしても、このままセラを送っていくにしても、とりあえずはどこかに一度避難しておかないと途中でぶっ倒れてもおかしくはなさそうだ。
「な、なぁ、セラ? とりあえずは……」
「エミヤ様」
「は、はいっ?」
 問いかけようとした瞬間、俺の言葉を覆い被せるようにセラは俺の名を口にした。
「この後、少しお時間をよろしいですか?」
「さっきと言ってることが違うな。さっきは気にしてないって……」
「……どうなんですか?」
「あ、いや……大丈夫です」
 セラのその赤い眼差しに圧され、俺はついそう返してしまう。だが、気圧されたとは言え、その眼光に恐怖や畏怖を覚えたからではない。その瞳があまりにも……そう、あまりにも寂しげだったから。
「で、どうするんだ?」
「そうですね。ここではなんですから、あそこ……あの小さな公園はどうでしょうか? あそこには大きな木陰もあるでしょうし、休むベンチもありますし。ジドウハンバイキというものもあったはずですから、エミヤ様が休むにしても都合がいいのでは」
「ああ。そうしてくれるとありがたいな」
「それでは……」
 そして俺たちは歩き出す。この夏の陽射しが十二分に降り注ぐこの商店街から。
 「何処へ?」と問われれば、ただ近所の公園まで。だが、俺たち二人が歩く目の前のアスファルトに見える『逃げ水』は、追っても追っても辿り着くことはなかった。

116 [型月・夏の食祭り][ニゲミズ](3/5):2006/07/30(日) 22:22:16 ID:cLEDVV0o
「ようやく到着……か。セラは何か飲むか?」
「いえ、結構です。エミヤ様はご自由にどうぞ」
「…………」
 そう言われて、俺はどっかりとベンチの上に腰を下ろした。
 正直な話、本当は喉が渇いて渇いて仕方がないのだが、今は少し状況が……空気が違う。それくらいは自分でも分かっていた。「三百跳んで、九日ぶり」に出会ったのだから、積もる話もある……と考えるのが当然だが、それとも少し異なる雰囲気も。
 何よりそれは、あのときふと俺に見せたセラの瞳が物語っていた。
「単刀直入に聞く。セラ……、アンタの話は『イリヤ』のことか?」
「……」
 それに対し、セラは言葉では返さない。が、コクリと確かに首を縦に振って応えた。

 イリヤ――それは去年まで俺や藤ねぇの所に何度も遊びに来ていた一人の少女の名前。何を隠そう、セラがメイドとして仕えていたのも『彼女』に、なのである。
 だが……。

「セラは……俺を恨んでいるのか?」
「恨む? 何故です?」
「何故って……」
「確かに私は貴方のことが好きではありません。ですが、貴方がお嬢様を『殺した』……とでも言うのですか? それならば、私は貴方を恨みましょう、憎みもしましょう」
「…………」
 言葉が出ない。
 俺がイリヤのことを……殺した? そんなことをするはずがない。する理由もない。
 でも、そう言っても過言ではない……のかもしれない。
「俺があんなに……」
「でも、そうではないでしょう。お嬢様はエミヤ様のことを好いていらっしゃった。エミヤ様もお嬢様のことを好いていらっしゃった。それくらいはお嬢様に仕える侍女として容易に分かります……、分かりたくはなかったのですけどね」
 そしてセラは、さっきと同じように俺の言葉を自分の苦笑交じりの言葉で覆い被せた。
「だけどっ! ……だけど、俺がイリヤに負担をかけてしまったことは事実だ。もしイリヤのことをもっと考えていてやれば、イリヤはもっと――」
 手に握る汗が……熱い。そして、握り締めた肌、その奥から伝わってくる血管の鼓動が……熱い。
「もっと――、なんです? エミヤ様がお嬢様に負担をかけていなければ、『もっと生きられた』と? そして『もっと生きられた』方がお嬢様にとって、『もっと幸せだった』と? 貴方はそう言うのですか!」
 激昂に対して激昂で返してくる。
「そうじゃない! そうじゃないけど、それが『イリヤ』じゃないアンタにどうして分かる?」
 加速していく。身体の熱さと共に語気も。
 だが、そんな俺とは対照的に、セラは変わらず涼やかな表情、態度のままだった。
「……分かります」
「え?」
 その一言で俺も一気に冷静さを取り戻す。
 そしてセラは……どこに入れる場所があったのか、自分の服の中から一冊のノートを取り出した。ノートとは言っても、普通の大学ノートではなく、小学生が使うような学習帳のようなノートを。
「それは……?」
「お嬢様の……日記帳です」
「日記……帳? そんなのをいつ……」
「毎晩ですよ。毎日エミヤ様の所に行って帰ってきてから、必ずその日にあったことをこの日記帳に記していました」
 そう言えばいつだったか……、子供向けのテレビ向け番組を見て「自分も日記をつける」などと言っていたことを微かに思い出す。
「見せてもらっても?」
「ええ。そのために肌身離さず持っていたんですが、結局こんなにも時間が経ってしまいましたが」
 差し出されたそのノートを受け取る。やはり服の中は汗ばんでいたのか、そのノートはだいぶふやけてしまっていた。それに、実際に手にとってみると分かる。もう何度も見開きしたのか、手垢でだいぶ汚れていた。その手垢はイリヤのものか、あるいはセラのものか……。
 そして俺は、その汚れたノートのページをゆっくりと捲った。

117 [型月・夏の食祭り][ニゲミズ](4/5):2006/07/30(日) 22:23:04 ID:cLEDVV0o
 ○月○日 晴レ ☆☆
 今日の出来事。
 今日ははじめて『カキゴオリ』を食べた。
 しょっぱかったし、頭キンキンになったし、ホント最低だった。

 でも、すごく…………おいしかった。


 それが1ページ目だった。
 たった数行程度の、しかもド下手な日本語の文字。それでも、その日にどんなことがあったか、その出来事が目の前に鮮明に蘇る。
 ため息でるくらいに暑さ、強い陽射し、騒がしい蝉の声……何もかもが今日という日にそっくりなその日のこと。そう言えば、日付も今日と同じだ。
「懐かしいな……」
 ついこぼれてしまったそんな言葉と共に、俺はもう1ページ、また1ページ……とその日記を読み進めていく。


 ○月○日 晴レ ☆☆☆☆☆☆
 今日の出来事。
 今日はシロウと――――

 ○月○日 曇リ ☆☆☆
 今日の出来事。
 今日ははじめて――――

 ○月○日 晴レ ☆☆☆☆
 今日の出来事。
 今日ははじめて――――

 ○月○日 晴レ ☆☆☆☆☆
 今日の出来事。
 今日はシロウと――――


「……え? これ……は……」
 そこで俺はようやく気付いたのだ。先程セラが言った言葉の意味が。
 ページを捲っても捲っても……必ず現れる言葉。もはや規則と言ってもいいソレ。


 ○月○日 晴レ ☆☆☆☆
 今日の出来事。
 今日はシロウと――――

 ○月○日 晴レ ☆☆☆
 今日の出来事。
 今日ははじめて――――

 ○月○日 雨  ☆
 今日の出来事。
 今日はシロウと――――


「イリ……ヤ……、お前は……」
 そう。その言葉とは「シロウと」と「はじめて」。
 ソレが意味するところが分からないほど、俺も鈍感ではない。そして何より、その日記の末尾にも必ずと言っていいほど、「楽しかった」「面白かった」「おいしかった」……などの言葉も書かれていた。
「イリヤ……、イリヤ、イリヤ……」
 その少女の名前を繰り返すごとに思い出す――あの夏の日々を。
 イリヤが「シロウと」過ごした日々、イリヤが「はじめて」体験した出来事。その全てがイリヤのみならず、俺にとっても「楽しい」……本当に素晴らしいモノだったのだから。
 その思い出が俺の心を抱きしめてくる。強く、きつく……。
「うっ……く、ぅ……」
「エミヤ様。分かってもらえ…………、エミヤ様?」
「……え? あれ? なん……で?」
 頬を伝う冷たい感触。ノートの紙面を歪ませるその物体。
「なんで? なんで、こんな……」
 拭っても拭っても、堪えても堪えても、瞳から止め処なくこぼれ続けるソレは……。

「『涙』なんて……出るんだろう?」

 どうして涙なんかが出てくるのか、どうして涙が止まらないのか……俺にはその理由の断片も掴むことができなかった。
 なのに、セラはこんなことを言ってくるのだ。
「それも分かりませんか?」
 俺自身にも分からないことなのに、セラには分かるとでも言うのだろうか?
「私は分かりますよ。だって、私もそうでしたから。エミヤ様と一緒でしたから」
「俺と……一緒?」

「ええ……、『お嬢様のことが好きだった』ということが、です」

「……ぁ」
 そうだ。セラの言う通りだ。
 だが、「好き」とは言っても、単純に恋愛とか家族愛とか……そういった枠組みでは括れない、何か特別な「好き」という感情。でも、とても単純な「好き」という感情。
 そういう意味で、俺はイリヤのことが「好き」だったんだ。
 だから涙を流す。
 イリヤが去年の今日、涙を流したのもきっと「誰か」を「好き」だったからなのかもしれない。
「ハハッ……、そうか。そうだったんだな。だから『人』は……『涙』を流すんだな」
 そして俺は、涙を拭うのをやめた。

118 [型月・夏の食祭り][ニゲミズ](5/5):2006/07/30(日) 22:29:01 ID:cLEDVV0o
「みっともないところを見せちまったな」
「いえ、そんなことはありません」
 それから幾ばくもすることなく、涙はこの陽射しによって完全に乾かされていた。ただ、目はまだだいぶ赤いままだったが。
「これはちょっと口封じをする必要があるな」
「ほぉ? エミヤ様が私をですか? どうやってするつもりです?」
「そうだな……」
 と振り向いた先に、都合よく屋台が移動中だった。本当はそれを事前に見つけていたからこそ、こんなことを言い出したのだが。
「お、珍しいな。『カキ氷』の屋台なんて。どうだ? 今日のことはアレで手を打つ気はないか?」
 確かセラは甘いものが好物だったはずだ。安易な取引とは言え、もしかしたらセラなら……。
「……ゴニョゴニョ」
「ん? なんだ? 周りの音がうるさくて、よく聞こえないんだが?」
 するとセラは、今の今までほとんど表情も変えずに涼しい顔でいたのに、途端に顔を真っ赤に染めて怒号を上げた。
「だっ、だからですね、練乳たっぷりの氷アズキならば考えてもいい……と言ったのです!」
「練乳小豆……ね? そっか」
「お、おかしいですか!?」
「いや、そんなことない。だって……、な」
 俺はセラからふと視線を外し、公園の外を見やった。
 今俺たちが座っているこの木陰とは違い、アスファルトの上はまるでいつも見ているフライパンの上のようにも見えなくはない。
 そんな所に、俺はまた……『逃げ水』を見た。

 逃げ水――それは、蜃気楼。それは、幻。
 俺が一歩それに迫れば、それは一歩引く。二歩迫れば、二歩引く。
 追っても追っても、決して辿り着くことのできない見果てぬユメ。
 俺がそこに見る幻とは何だろう。
 揺らいで見えるその姿は何だろう……。

「いや……」
 そこに伸ばしそうになった手を引っ込め、背を向けた。
 そして俺は歩き出す。前へ。
 手に掴んだ確かなモノ……幻なんかではない、その思い出をしっかりと手にして。

「すいません。練乳小豆を二つ……」



 † † †



 ○月○日 晴レ ☆☆☆☆☆
 今日の出来事。
 今日ははじめて、「しょっぱい」カキ氷を食べた。

 でも、すごく……おいしかった。



 ――そして俺は、ノートを閉じた。




・あとがき
前編「セミシグレ」、後編「ニゲミズ」の二章構成です。
ありがちなネタかもしれませんが、「夏」を強くイメージして書いてみました。

119僕はね、名無しさんなんだ:2006/07/31(月) 14:21:01 ID:mnBfgHOE
>>107>>114
二章間のリンクのさせ方がかなり良かった。
また、ペンギン型カキ氷機やジャプニカ暗殺帳などのホロウネタを上手い具合に物語に組み込んでたし、
「食」のイメージは若干薄かったとはいえ、カキ氷は良いアクセントになってたし。
あと、「蝉時雨」「逃げ水」っていう夏のキーワードもかなりポイントだった気がする。
個人的に少々予想外な「夏の食祭り」だったけど、GJでした。

120僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/04(金) 20:30:27 ID:ry31quC.
もうちょっと盛り上がってほしい……という思いを込めて、期待age

121【型月・夏の食祭り】 『少年時代』:2006/08/06(日) 00:48:22 ID:wyVfS.AI
ここで分割投稿すると、どこで切るかで悩んでしまったのでサイト作って掲載しました。

http://www.geocities.jp/hal3elmtrees/

蒔寺と士郎の初夏のひとときです。
蒔寺視点で話をすすめてみました。
22KB。

BBSとか設けてないので読みっぱなしでおk。

122僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/06(日) 00:50:20 ID:55TgC21E
>>121
今ひとつ

123僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/06(日) 03:14:58 ID:PuTCOdaw
パンチにかけるきらいもあったが、まとまりは良いのでなかなか読みやすかった。
まあ、パンチがない故にあっさりとした読み味になってるんで、これはこれで味なのかもしれない。

じゃあ次はカプでだな(ry

124僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/06(日) 03:40:40 ID:3rwY.uKM
カプ厨うぜえ

125僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/06(日) 10:04:35 ID:wyVfS.AI
投稿後2分も経たずに「今ひとつ」ってレスする人が居るようだとなんかイヤで投下できない。
>>118が自演でけなしてる奇特な人ならいいんだけど。

126僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/06(日) 10:05:22 ID:wyVfS.AI
>>118じゃなくて>>121

127僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/06(日) 10:08:15 ID:3oOvN5SA
そんな小さいことでうじうじしてるなら
そもそもSS作家なんてやめた方がいいと思うが。
性格的に向いてないと思うぞ。

128僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/06(日) 12:05:26 ID:wyVfS.AI
>>121
読ませて頂きました。
また、ことごとくやっかいな題材選びましたね。蒔一人称ってアンタ。
文章でいえば良、だと思うんですが、人選ぶのは否めない。
田舎暮らしをした経験のある人じゃないとさっぱり共感できないかも。
ちなみに自分はど田舎育ちなんで、かなり楽しめました。

あと、桑の実は最近たぶん売ってるところもありますよ。
ポリフェノールで一時注目されたから。

129僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/07(月) 11:17:46 ID:5mGO5VNE
>>121
読み終わったときに気持ちよさが残るこういう作品は好き

130[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](1/12):2006/08/19(土) 00:18:23 ID:KsuKenow
 八月初頭。
 夏も盛りとは言え、朝方の早い時間帯であれば、日差しもまだまだ強くは無い。
 この屋敷は敷地内に森を持っているため、余計に涼しげな印象があるのかもしれない。
 しかも今日はやや曇り空か。朝焼けの色も鈍い。
 部屋の窓を開けてみる。
 やや湿気ているが、涼しい風が入ってきた。
 その風を顔に受けながら、遠野秋葉の朝は始まる。

「失礼します、秋葉さま。起きてらっしゃいますか?」
「大丈夫よ、琥珀。入りなさい」
 ノックと共に、耳慣れた使用人の声。
 秋葉が許可を出すと、心得たとばかりに、割烹着の女性が入ってきた。

「失礼します……おはようございます、秋葉さま」
「ええ、おはよう。今日は少し、雲が出ているわね」
「はい。お車はいつも通り回してもらいますけど、念のために傘も用意させていただきますね」
「そう、お願い」
 遠野家当主の朝は早い。
 目覚めの時であろうとも、彼女の優雅さは翳りを見せない。豊かな黒髪にも大きな癖は無く、窓から入る風にかすかに揺れている。長く伸ばした髪が柔らかに流れる様は、それだけで一つの美を体現する。

「今日の予定は?」
「十時ごろに久我峰さまのお屋敷で次の取引のための打ち合わせですので、それまでは少し余裕があります。その後、本社のほうに移動して昼食後に会議、それが終わりますと、範鋼株式会社の代表の方と対談――この辺りで、それまで同行されていた久我峰さまとは別行動になります」
 長年使ってきた椅子に腰を落ち着けて、琥珀が用意する一杯の紅茶を口につけ、予定を確認する。
 夏休みに入ると、秋葉の体はある程度自由が利いてくる。その分、予定が詰め込まれることもある――学生である分の若干の遅れを、この辺りで取り戻さないといけないので、これは秋葉も納得済みではある。
 ……その分、愛しい人や家族同然の使用人と離れる時間も増えるが、それは割り切るしかないだろう。今さら、そんな弱音は吐いていられない。

「最近、あの男を頼りにしすぎているわね。面白くない傾向だわ」
「久我峰さまの昨今の躍進ぶりは目を見張るものがありますし……ちょっとした評判ですよ。他の分家の間でも、外の世界でも」
「それにしても、という話よ。あの男は信用には応えるけど、信頼できる類の人間ではないわ。足元をすくわれないうちに、こちらも独自に地盤を固めないと……」
「……秋葉さまは、充分に頑張られていらっしゃいます」
「結果が伴わなければ価値は無いわ――逆に、最後に結果さえ伴うなら、全ては有益だったということよ」
「それは……しかし、無意味というわけではありません」
「私は遠野家の当主なの」
 その一言で充分だと言うように、秋葉は反論を押さえつけた。
 紅茶を飲み干し、今しがた聞いた予定が書き込まれた手帳を受け取る。本来は付き従う者に持たせるべきなのだろうが、秋葉はまだ秘書を持っておらず、また琥珀は秋葉付きではあるが屋敷から外にまでは滅多について来ないので、手帳は自分で確認することにしている。
 そして立ち上がり、琥珀に向き直る。一つ一つの所作がきびきびとしていて、そのくせ流麗だ。
 気品がある。

131[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](2/12):2006/08/19(土) 00:20:07 ID:KsuKenow

「……大丈夫よ、琥珀。ちゃんと自分のことはわかってるつもり――無茶なことはしないわ」
「それでも、念を押します。ご自愛ください。秋葉さまはただでさえ、遠野の血を強く引いていらっしゃるのですから」
「わかってる。琥珀、あなたには感謝しているわ……その厚意を裏切るような真似はしないつもり。本当よ――」
 ――最近の遠野秋葉は、本当に綺麗になった。
 今の立場も板につき、以前にも増して風格が備わったように見える。
 元より、そうなる器はあった。つややかな髪、意思の強そうな瞳、白磁の肌、細身の体――見てくれが良いというのもある。
 だが、そこに意思と覚悟、そして柔らかさが加わった。
 らしくなった。
 当主らしく。遠野らしく。女性らしく――おしなべてそれは、遠野秋葉らしくなったということでもある。
 それは目に見えてわかる変化。成長。
 本来は、喜ばしいことであると言える。

 だが。
 彼女は本来、危うさを宿した人間でもある。
 それは混血としての宿命であり。同時に、一人の兄を、男を想う女性としてのカタチでもある。
 だから。秋葉をよく知る周囲の人間、たとえば琥珀などからすれば、不安を拭えないのではないだろうか。
 そのらしさは。変化は――いったい、誰の影響によるものか?
 それは、秋葉らしさであり、同時にあの人らしさではないのだろうか?
 そして、その影響を与えた当の本人は。



「今朝の準備を始めます。着替えを用意なさい、琥珀」
「……はい、わかりました」
「今日は暗いわね、あなたらしくもない」
 さて。この目ざとさは、変化によるものだろうか。
 しかしあの男の影響と言うのは少々はばかられる。あれの鈍感ぶりには、以前から誰もが手を焼いていたからだ。
 それでも、琥珀はその性質から、表情を読まれにくい人間であり――それは秋葉であろうと変わらないはずなのだが。

「……ちょっと、夢見が悪かったかも知れません。でも、よくわかりますね、秋葉さま」
「当たり前よ、何年一緒にいると思ってるの」
「あは、それもそうですねー……はい、わたしも頑張って元気出しますので、秋葉さまも、今日も一日元気で行きましょう!」
 今までの声音から一転、元気なように振舞う琥珀。それを見て苦笑を返す秋葉。
 琥珀のほうは、見ようによっては空元気にも取れるが――秋葉のほうは、端から伺う限り、とてもそうは見えない。
 だからこそ、琥珀の不安は拭えない。
 三ヶ月前の彼女を知っている、琥珀には。



 何故、朝の彼女たちの会話に、彼の名前が出てこないのか。

132[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](3/12):2006/08/19(土) 00:21:50 ID:KsuKenow



 /



 身だしなみの後、雑多な遠野の執務を手早く済ませ、朝食の後、また紅茶をたしなむ。
 それら全て、陰から助けとなる琥珀あってのことであることも付け加えておく。

「おはようございます、秋葉さま」
 このタイミングで、秋葉と翡翠が今日初めて顔を合わせる、これもいつものこと。
 使用人と主、三人が各々の役割を果たす、その行動が安定して変わらないため、突発的な事態でも無い限り、この「いつものこと」は変化しない。
 穏やかな朝。
 この時間になれば、やや日差しが強くなっているが――じかに日の下に出ない限りは、まだまだ涼しい時間帯。

「おはよう、翡翠。あなたは昨晩、夢を見たかしら?」
「? ……いえ、記憶にありませんが……姉さんが何か言いましたか?」
「ちょっとね。夢見が悪かったなんていうものだから、双子で同じ夢を見るなんてことが実際にあるのかな、なんて思ったのだけど」
 やっぱり風聞なんて当てにならないわね、と秋葉は冗談混じりに微笑する。その後ろで、琥珀も困ったように苦笑している。
 それを見て、翡翠も少し、表情を穏やかにする。
 そして、緩やかな沈黙。
 しばし、それが続き――やがて。
 まるで予定調和であるかのように、秋葉は問うた。

「翡翠」
「はい」
「今日の兄さんの様子はどう?」
「ご自分で、穏やかにお目覚めになられました」
「食事は?」
「わたしが見ている前で、食べてくださいました。今日は少し、お加減がよろしいようです」
「そう」
「……今日も、お食事に手をお貸ししようとしたところ、やんわりと拒まれてしまいました。あの方は愚鈍です」
 声音は優しいが、その強い言葉に、秋葉は少し驚いて傍らを見る。
 やや離れたところに佇んでいる翡翠。顔が、やや赤い。
 それは、彼の食事を手伝おうとしたという告白を恥じらっているようでもあり。
 もしくは、慣れない冗句を口にしたことを恥じらっているように見えた。
 笑いが漏れる。秋葉と琥珀、どちらが先だっただろうか。
 冗句が面白かったというより、そんなことを言い出す翡翠が可笑しかったという意味合いの笑みだ。
 それを見て、顔は紅潮したままだが、翡翠にも微かに笑みが見える。
 今の三人は、他の人間が外から見れば、とても絵になったに違いない。
 彼女たちは本当に、今の安定した状態を、大切に思っているのだろう。

 それは、三人が根底に同じ類の不安を抱いているためだ。
 それが貴重であると意識せざるを得ないから、彼女らはそれをとても上手に演出する。
 これまで、一人によって変化してきた三人が。
 今は、その一人のために、安定を築こうとしている。

133[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](4/12):2006/08/19(土) 00:23:10 ID:KsuKenow



 /



 秋葉が紅茶を飲み終えて席を立ち、時間が動く。
 朝方に必要な分はあらかた片付けたとは言え、当主としての仕事を全て終えたというわけではない。探せば仕事などいくらでも見つかる――上に立つということは、言うほど簡単ではない。
 それに、繰り返すようだが彼女はまだ学生――夏休みの時間は、当主として無駄にできない。
 書斎に入り、時折は琥珀の手を借りつつ、何枚もの書類をしたためる。
 この光景から、判断できることは三つ。
 一つ、秋葉がこの書斎という空間に馴染んできているということ。
 この点に関して、秋葉は以前、少し複雑であると琥珀に漏らしたことがある。
 遠野槙久である。
 身内では書痴としても知られていた彼は、本来の書斎とは別に、自室にも大量の書物を所有していた。
 理由の半分は、遠野としての破滅を恐れるが故の手段の模索だったのだが、彼自身の性癖であったことも否めない。
 今、秋葉が執務を手がけている場所は、本来の書斎のほうだ。
 そしてここは、槙久が同じ仕事の際に頻繁に使用していた場所でもある。
 つまり、秋葉の父が、表向きの顔を保つため――自らの血を押し殺し、体面を必死で取り繕うために、頻繁に使用していた場所。
 そして彼は自室を、裏の顔を沈静化するため――ありとあらゆる手段を尽くすために使っていた。
 その彼と同じ場所で仕事をしており、それが日を追うごとに馴染んできている――それが、まるで父に確実に近づいているように、秋葉には思えてくる。

「考えすぎですよ。槙久さまが遠野のお仕事をなさるために整えられた空間なんですから……同じ仕事を手がける秋葉さまがこの場所でそれに馴染むのは、ただそれだけのことです」
 琥珀はそう慰めてくれた――その言葉を受け入れたのは弱さだろうか、強さだろうか。そのときの秋葉には判別がつかなかった。今もまだ……
 二つ、その琥珀が、こうした表の仕事の手助けをよくしてくれるようになったということ。
 以前から、彼女には色々な仕事を任せきりにしていた。厨房仕事、庭園の管理、薬剤師としての手配、秋葉の身の回りの世話――そして秋葉の血の制御。
 充分すぎるほどだと言うのに、彼女はさらに、自分から執務の手伝いを申し出た。
 ありがたすぎるほどだというのに、琥珀は笑みを顔に貼り付ける――普段の彼女は秋葉以上に隙が無い。

「秋葉さまの助けとなるのは、今のわたしの望みでもありますから」
 それを聞いたとき、秋葉は確かに表情を動かした。ありがたくて、申し訳なくて。
 解決済みだったはずの感情でも、ふとしたことで、こうして噴き出ることがある。
 だから、秋葉が当主として努められるのは、琥珀のお陰でもあり――同時に琥珀のせいでもあると言える。
 三つ、したためている書類の量。秋葉が直筆する書類が、以前に比べると増えたということ。
 この時代にアナクロなようでもあるが、古い家の風習として免れ得ないことでもある。少なくとも、そう簡単に改善できる問題ではない。
 そしてそのアナクロな風習を任される機会が、確実に増えている。
 久我峰斗波の手回しだろう。以前まで、その仕事は彼の手によるものだった。
 遠野秋葉がどれほど有能になったかを見極めた上で、任せられる仕事を選び、こちらに回してきている。
 無論、秋葉の立場からすれば願ったり叶ったりではある。今までが久我峰に頼りすぎていたのだ。その依存を減らすという意味で、彼女は目的を少しずつ叶えてはいる。
 ――それでも、彼女は癪なのだ。
 今まで、久我峰に頼っていたのだということを認めさせられるのが――今もまだ、かの怪人に届かない部分があるということ。
 久我峰の力は、周囲が思う以上に大きい。当主などをやっていると、それが否応無しに見えてくる。
 無論、財力ならいざ知らず、権力においては遠野より大きいなどということは無い。本家の力は凄まじい。
 だが、その本家を要所で支えてきたのは、彼の手回しによるものだった。
 自分が当主として成長すればするほどそれが見えてくるようで。
 もっと乱暴に言うと、面白くない。
 そんなことを頭の片隅で考えながら、順調に仕事を進めているときだった。

「秋葉さま、お仕事中申し訳ありませんが――」
 琥珀の声で、仕事の手を止めた。
 椅子を動かさないまま、顔と視線を彼女のほうへと向ける。
 琥珀が、やや困ったように眉をひそめつつ、それでも笑みのままでこう言った。

「えっと……今日もまた、お見えになっていらっしゃいます」
「…………目的語を言いなさい。誰のことですか」
「有間都古さまです」
 聞かずともおわかりでしょう?
 琥珀の声音が、暗にそう言っていた。

134[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](5/12):2006/08/19(土) 00:24:11 ID:KsuKenow



 /



 そろそろ、朝の日差しも強くなってきた頃合だろうか。
 雲でやや和らいでいるとは言え、程度問題でしかない――気に障る暑さであることには変わりない。

「お……お願いしますっ! お兄ちゃんに会わせてください!」
 そんな暑ささえ吹き飛ばさんとばかりに、張りのある元気な声が玄関に響く。
 勝ち気そうな表情のまま、それでも真剣に頭を下げる少女。
 都古は今、いつものように、兄に会うためにここにいる。

「――申し訳ありません、都古さま。志貴さまは現在、少々体調を崩していらっしゃいます――あまり人に会って良い状態とは言いかねます、お引き取りください」
「そ、そんなこと言って! もう一ヶ月以上、会わせてもらってません!」
「……志貴さまのお体は、他の方々に比べて繊細です。些細な場合でも念のためという意味でのわたくしどもの配慮であると、お察しください」
「で、でも、心配ですっ!」
「わたしたちは自らの主人のため、徹底した誠心誠意を尽くしております――都古さまのご心配には及びません」
 精一杯に気を張る都古に対し、静かに受け答えする翡翠。
 一見して都古が無理にでも押し通ろうとしているように見えるが、対する翡翠もまた、よく聞いていると一歩も引いていないことがわかる。
 会いたい、と強く願う都古、決して譲れないと徹底する翡翠。
 両者の要求は真っ向から対立しており、どちらかが折れるしかない状況。

「そ、それでも! 会えもしないなんて、どんな重い病気なのかって思うもん!」
「……志貴さまとて、年頃の男性です。弱ったお姿を衆目にさらすことを厭われるお気持ちも――」
「嘘だよ、だから閉じこもるなんて、お兄ちゃんに限って変だよそんなの!」
「――都古さま、今の志貴さまは遠野家のご長男なのです……お察しいただけないでしょうか」
「……家の面目が大事なんだ。だからってお屋敷にお兄ちゃんを閉じ込めるなんて――」
「憶測で滅多なことはおっしゃられないようお願いします。この件については、志貴さまも同意の上でのこと――無理強いなどしておりません」
 ――今日は、いつもとは少し勝手が違うか。
 いつもなら、口論しているうちに都古の言葉は尻すぼみになり、次第に要領を得なくなる。
 元々、彼女は口のうまい性質ではない――その上、翡翠の理論武装は並みではない。口ではどうしても敵わない。
 さりとて睨み合いでさえ、翡翠は後れを取らない。相手から目を逸らさずにじっと佇む――その姿勢は物静かながらも、確かに強い。
 だが――今日の都古は、何やら気迫が違う。

「わからないよそんなの、そっちが勝手に言ってるだけじゃない!」
「……都古さま、あまり困った態度ばかりとらないでください。わたしたちも、都古さまを無碍にしたいわけではないのです」
「そ、そんなこと言って、体良く追い返そうだなんて言っても、そうは行かないんだから! そう何度も同じ手は食わないよ!」
「ここで騒がれますと、志貴さまの部屋に聞こえるかも知れません。志貴さまは心優しいお方、それでお心を痛められると、お体にまで響くかも知れません」
「……! だ、騙されないよ、こんな大きいお屋敷で、そんなに声が響いたりするわけないもん」
 それでも声がやや潜められるあたりは可愛いものである。
 だが――都古は気付いただろうか。その言葉と共に、翡翠の表情がわずかに動いたことを。
 方便とは言え、志貴のことで偽りを口にすること。それは翡翠にとって、無条件で罪の意識を植えつける。
 だがそれでも、罪悪感を覚えようとも、翡翠は自分の務めを果たす。

135[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](6/12):2006/08/19(土) 00:25:39 ID:KsuKenow

「都古さま、有間家のご長女さまとしてのあなたにお願いします――今は何も聞かず、お引き取り願えないでしょうか」
「……そうやって言ったんだ。他の分家の人たちにも――お母さんにも」
「……わたしたちも必死なのです。ほんの少しの落ち度も、遠野の使用人には許されません――申し訳ありませんが、お引き取りください」
「そんなこと言っても――お兄ちゃんは元々、少し体が弱かったから……もしものことがあったらって」
 もう、二度と会えないのではないだろうか。
 言葉にできない不安。都古のそれは、翡翠にも痛いほどよくわかる。
 何も知らない人間が聞いたら、何を大げさなと思うかも知れないが。
 ことがあの遠野志貴のことであれば、冗談ではないというものだ。
 ――だが。
 仮に、その不安が理解できたとしても。

「そこまでにしなさい、都古さん――貴女の言い分は理解できますが、こちらは頑として譲れません、時間の無駄というものです」

 自分だけはそれを認めない、と。
 強い意思を伴った言葉が、横合いから割り込んできた。
 そちらに向き直る都古、翡翠。その視線の先に。

「それでも押し通るというのであれば、こちらにも考えがあります――躾けの悪い子供は、口で言ってもわからないようですしね」
 睥睨する、鋭い視線。気高く、そして威風に満ちた立ち姿。
 遠野秋葉という美しい女当主が、現れると同時――場を呑んだ。
 玄関は、この瞬間に口論の場ではなく、舞台と化し。
 常に主役たる秋葉は、都古と翡翠を、脇役へと追いやった。

「……遠野の、親玉」
「随分な言い草ね。本当、有間の家は子供に甘かったようね……思えば兄さんもそう。あの人は自由すぎる」
「お……お兄ちゃんは」
 声音が震えている。
 言いたいことがあるのに、口に出すことさえ憚られる。
 遠野秋葉の威厳、というのも勿論あるが――都古とて、年若いと言っても有間の人間。もしかしたら、そうそう無教育というわけではなかったのかも知れない――ならば、今の物言いは都古の素の本音か。考えようによっては性質が悪い。
 いや。
 それも当然か。
 あの夏以降、有間の家に忠告を与えたのは、他ならぬ遠野秋葉だ。
 それは忠告という名の命令であり――それを、都古本人が欠片も知らないということはありえない。

136[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](7/12):2006/08/19(土) 00:27:44 ID:KsuKenow

「兄さんは今、静養中です。そこの翡翠が答えたはずですけど?」
「うっ」
「どうなの、翡翠。あなたは自分の仕事を果たさなかったのかしら?」
「……申し訳ありません、秋葉さま。少々、わたしの言葉が足りなかったようです」
「そう。悪い癖よ、翡翠。どんなに無礼でもお客様なのですから、きちんとした応対だけは常に忘れないで」
「はい、重ねて申し訳ありませんでした、秋葉さま」
 都古を視線の外に追いやって、翡翠に忠言を施す秋葉。その声音は、都古に対していたときよりも幾分か柔らかい。
 対する、翡翠の声音はやや固い。来客、都古の前だからか。できた使用人であると言える。
 置いてきぼりを食らうかと思った都古が、いたたまれなくなる前に口を開こうとする――考えてみれば好機と言えよう、遠野の主が出てきたということは、この人にさえ話を通せば、要望は確実に叶えてもらえる。
 だが、その言葉を発するよりも一呼吸だけ早く、秋葉の言葉が紡がれた。

「では、言葉の足りなかった使用人の無礼を詫びる意味で、私、遠野秋葉から直接、現状を説明させていただきます。よろしいですね?」
「え、――う、あ?」
 機先を制されて、都古が言いよどむ。
 次の瞬間、顔をやや赤らめる――遊ばれている。悔しかった。
 加えて、こちらに許可を求める言葉でありながら、その意味は強制だ――逆らえない。
 そして、その強制を前提に続けられた言葉は――全てが、問答無用の言霊だった。

「兄さんは今、限られた人間にしか会うことができない状況です。事情を詳細に知るこの家の人間と、あとは医療関係の、それも信頼を置ける数人のみ」
 お前は本家の人間ではないだろうと言った。

「それ以外の方々には、例外なくお引き取り願っております――例外なく、です。おわかりですか?」
 これでわからなければお前は馬鹿だ、と言った。

「よろしいですか、都古さん。私は何も、あなただけに辛く当たっているというわけではないのです――しかし、遠野家としては、あなただけを特別扱いするわけにはいきません」
 あの時の忠告を思い出せ、と――遠野本家をなめるなと言った。

「ご心配される気持ちは嬉しいわ。お気持ちだけは有り難く受け取りますので、今日のところは帰りなさい」
 お前の心配などいらない、と。
 これは遠野家の問題だ、余計な横槍は大きなお世話だと。
 有間都古という少女の善意を、遠野秋葉は真っ向から拒絶した。

「ぅ……」
 圧倒された。
 都古は、秋葉とはほとんど初対面だった。
 ただ、父や母から断片的な情報を聞かされていただけだった。
 若くして、遠野という巨大組織を支える女当主。
 聞かされただけでは、わからなかった。
 そんな言葉だけではわからないものを、今、少女は目の当たりにした。

「だいたい……」
 秋葉がさらに、言葉をつないだ。
 禁句を。

「兄さんが最初に倒れたのは、三ヶ月も前のことです」
「秋葉さま……っ」
 悲鳴のような制止は、翡翠のものだ。
 だが、それを口にしてさえ、秋葉の表情は動かなかった。
 都古は。

「……え?」
 呆然。
 言われている意味が、よくわからなかった。

「あなたがここに訪ねるようになってから――何ヶ月が経ったのでしたっけ?」
 一ヶ月近く。
 毎日のように、翡翠に追い返されてきた。
 そして、それより遥かに以前から、志貴は伏せっているという。

「では聞きましょう。あなたは今まで、何をしていたの?」
 志貴が倒れてから、三ヶ月。
 ここに訪ねるようになってから、一ヶ月。
 最初の二ヶ月は、何も知らずに、のうのうと暮らしていた。
 最近の一ヶ月は――心配していた。それだけだった。
 何も、できなかった。

「答えがあるなら、聞かせてください」
 答えられるものなら答えてみなさい、と都古には聞こえただろう。

「兄さんにとって一番大切な時にいなかったあなたが、今さら、何をしようというの?」
 それは、とどめの一撃であり――ありもしない罪の糾弾だった。
 幼い少女にはあまりに酷な、鋭い痛罵。
 それを、他でもない遠野秋葉が発したのだ――弱い人間ならば、一生立ち直れない傷になっていたことだろう。
 ――だが。

「……それでも」
 少女は。

「それでも、お兄ちゃんに会いたいんです……」
 何とか、それだけの声を搾り出した。

137[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](8/12):2006/08/19(土) 00:29:30 ID:KsuKenow



 /



 都古が屋敷を後にしてから。

「追うことは許しません、翡翠。あれは放っておきなさい」
 翡翠が独断で動こうとする前に、秋葉がそれを制した。
 物言いたげな翡翠の目。秋葉も、それを表情を動かさずに受け止める。

「けれど秋葉さま。わたしも、今のはどうかと思いました」
 次に、横から割り込む声――琥珀だ。いつからか玄関に入ってきていたか。
 三人が揃うと、立ちっ放しもどうかと秋葉が促して、全員でロビーに入る。
 いつもの場所に腰を下ろす秋葉。立ったままの二人の使用人に、許しを出す。失礼します――声を同じくして、二人もまた、二人のためにあるいつもの席に落ち着いた。

「さて、聞きましょうか。私の態度が間違っていた――二人はそう言うの?」
「いえ、そこまでは言いませんが……」
「少し、配慮が足りないかと思われますね」
 言いよどむ翡翠の代わりのつもりか、琥珀がきっぱりと答えた。

「けれど、ああでも言わないと、あの子はずっとこの屋敷に通い続けるわ」
「しばらくは通わせてあげればよろしかったじゃないですか。今どき珍しいですよ、あんなに一途で健気な……」
「遠野家の沽券に関わります」
「秋葉さまは、ご自分のことを少し過小評価していらっしゃいます……今さらそんなことで秋葉さまを軽んじる人なんて、誰もいません」
「それでも、曲げられないことはあるわ……一つ許せば、二つ以上を相手は欲しくなる。こちらも――許してしまいたくなるかもしれない」
「許して、あげたいんですか?」
「喩えです、そういうことも時にはあるという、それだけの話よ」
 ずけずけと物を言う琥珀、頑として譲らない秋葉。
 表面上は睨みあっているが、そこには家族としての気安さが混じっている。
 そして……家族であるがゆえの、理解の色。
 二人とも、相手が何を言いたいか、わかっている。

「都古さまは、傷つかれました」
 穏やかにそう口にしたのは、翡翠のほうだった。

「そうね。わかってるわ」
「……原因は、秋葉さまです」
「主人を責めたいの、翡翠?」
「違います。ただ――問いたいのです。秋葉さまの真意を、言葉にしていただきたい」
 使用人には過ぎた願いだ。
 だが、それを指摘することは、秋葉にはできない。
 家族として、拒めない。
 しかしそれでも――素直に心情を吐露するのは憚られる。

「……他の人たちと同じよ。余計なことを、外に触れ回られては困るわ――せっかく、兄さんから人を遠ざけているのに」
「都古さまは、傷つかれました」
「――言いたいことがあるのならはっきり言いなさい、翡翠、いったい何の――」
「でもわたしには、秋葉さまも傷つかれているように見えます」
「――……」
 言葉が、続かなかった。
 秋葉だけではない。琥珀も、翡翠も。
 しばらく、嫌な沈黙が続く。
 静かに時計の針が動く音、それからもう一つ。
 壁を隔てて遠く、思い出したように聞こえてくる蝉の声がいやに耳に残る――

「――そうですね、やはりその点でしょう」
 ようやく言葉を継いだのは琥珀だった。
 言いにくいことを、何とか吐き出す役目――嫌な役どころは、代われるところでは惜しみなく代わる。使用人だから、もしくは姉だから。

「秋葉さまは、お優しい方です」
「……買いかぶりよ」
「それなのに、都古さまを傷つけてしまわれた――そのことに、心を痛めながらも」
「…………」
「都古さまを遠野家から遠ざけたのは、秋葉さまでしたよね?」

 少し、前のことだ。

 有間都古の親に、そう頼んだことがあった。
 当主のお達しだ。頼みとは言っても、それは警告に近い。
 遠野本家に、分家の都古が頻繁に出入りしていたのでは、示しがつかない。
 それが、表向きの理由で――

「そしてそのときも、秋葉さまは、都古さまを気遣われておいででした」
 懐かしむように、琥珀は語った。

「そう、本家が一つの分家に肩入れしていては示しがつかない……」
「そのせいで他の分家の方々の風当たりが有間に向かないようにとの、秋葉さまの気遣いでした」
 琥珀に続き、翡翠も言葉を重ねた。
 姉にばかり、負担をかけられないという妹の気遣いかも知れぬし――単に効率を考えただけかも知れぬ。

138[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](9/12):2006/08/19(土) 00:30:45 ID:KsuKenow

「そして今も」
「秋葉さまは、都古さまを気遣われた」
「不安だったんですね? 都古さまが、あの志貴さんを見て、どう思われるか」
「そしてそのことを、志貴さまがどう思われるかを――」
「……言いたいことは、それだけかしら?」
 厳然とした声だ。
 家族が相手でも――そこは秋葉。生半なことでは揺るがない。
 ……だが。
 双子の言葉は、そこでは止まらなかった。

「……そうした悪い変化を厭われるお気持ちは理解できます」
「ですが……やはりそればかりでは立ち行きません」
「……どうしろと言うのあなたたちは。ただの願望には興味ありません、現実的な意見をおっしゃい!」
 そう言われては、使用人の立場ではなかなか次の意見は言いづらい。
 だが、秋葉は自分で気付いているだろうか。自分の声音に、初めて苛立ちが含まれたことに。
 ここにきて初めて、秋葉が揺らいだ。

「――不安なのですね、秋葉さまは」
 そう言ったのは琥珀のほうだった。
 建設的な意見とは言い難いが――秋葉は、それを遮ることができなかった。

「不安なのです、志貴さんのご容態もそうですし――それに対する秋葉さまご自身のお気持ちも」
「…………」
「ですが……それでも、秋葉さまはきっと志貴さんを好きなままですし、志貴さんも変わりはしません、それだけは絶対に――」
 そう、遠野秋葉は遠野志貴を愛している。
 そして、遠野志貴もまた、遠野秋葉を愛していると言ってくれた。
 今でもまだ覚えている。志貴が屋敷に帰ってきた日のこと、それ以前から始まっていた事件、同じ学校に通った短くも楽しかった時間。
 初めての日。あの畳の感触、外に散る紅葉の色彩、愛し愛された、祝すべき日。
 そして事件の決着、志貴の消失、それからの長い日々――彼が帰ってきた日。
 それらはまだ、遠野秋葉の中では、記憶に新しい。

「それならば、ご理解ください秋葉さま」
 次に口を挟んだのは翡翠のほうだった。

「今の状態が続くことを、志貴さまは望まれるでしょうか?」
 遠野志貴付きの使用人である彼女は。
 おそらく、今朝交わされた会話の中で、もっとも説得力のある言葉を放った。
 その言葉を――渋い表情で噛み締める秋葉。表情を動かさずにそれを見守る、双子の使用人。
 だが、次の言葉が交わされるよりもわずかに早く。


 ぎしり


「……!」
 物音がした。
 ……ただそれだけだ。
 手入れを欠かしていないとは言え、古い家だ。家鳴りが聞こえることも、時にはあるだろう。
 だが、ただそれだけのことで。
 秋葉が、わずかに口元を強張らせていた。
 琥珀が、椅子から腰を浮かせていた。
 翡翠が、目を見張って扉に――玄関へと続く入り口に視線を向けていた。
 そして。
 翡翠が視線をやるその向こうから、現れた。

139[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](10/12):2006/08/19(土) 00:32:08 ID:KsuKenow

「……おはよう、みんな。ごめんな、また寝坊しちまった」
 遠野志貴。
 なんでもないように、普通に立っていた。
 朝と言っても、やや遅い――時計は九時半を指している。
 その彼の、朝の挨拶。
 一瞬だけだが。間があった。

「志貴さま……!」
 最初に動いたのは翡翠。席を立ち、志貴へとまっすぐに近づいた。
 その動きに面食らったか、志貴が一歩だけ後ずさる。

「――おはようございます、志貴さま。起床の際にお傍にいられずに、申し訳ありません」
「え、ああいや――翡翠とは朝一番に、もう挨拶してるじゃないか。ちゃんと起こしてもらったしさ」
「ですが一言言わせていただけると……お部屋から出られるのであれば、先にそう言っていただかないと困ります」
「あ、その、ごめん」
「志貴さまのお体は、ようやく安定したところなのですから……一般論ですが、今が肝心な時期です。動く際は、わたしが随伴させていただきますから――」
「随伴って翡翠、大げさだよ――」
「そんなことはありません」
「そーですよ志貴さん、気をつけるに越したことはないんですから!」
 琥珀が話に割り込んできた。志貴から見れば、唐突に思えたかも知れない。
 だが、同じように見守っていた秋葉からすれば、「思い出したように動き出した」とでも表現するのがしっくり来るだろう。

「あ、琥珀さんおはよう、朝ごはん美味しかったよ――」
「はいおはようございます、ありがとうございます、けどそれよりも! 志貴さん、また忘れ物してらっしゃいます!」
「へ? 俺、また何か忘れてる?」
「杖です!」
「あ……ごめんごめん、でもさ」
「志貴さんは大丈夫だって言うんですよね、何度も聞きました――でも周りが心配するんですから、形だけでも持っておいてください!」
 志貴を案じる琥珀の言葉。それに賛同するように、すぐ傍で志貴をじっと見つめる翡翠。
 志貴からすれば、二人に詰め寄られているように感じるのか。何やら困り顔で後ずさろうとしている――すぐ後ろはドアだ、下がれるはずもない
 普通に考えれば、微笑ましい光景なのだろう。

「――そこまでにしておきなさい、二人とも。兄さんが困ってるじゃないの」
「……はい、秋葉さま」
「わかりました――ちゃんと気をつけないとダメですからね、志貴さん!」
 いつの間にか席を立っていた秋葉が、二人を制した。
 まったく秋葉さまは志貴さんに甘いんですから、などと冷やかす琥珀。その横で、本当に随伴するつもりか、志貴の傍らへと移動する翡翠。
 胸を撫で下ろす志貴。だがそこに、三人目が釘を刺した。

「兄さんが突飛な行動をとる困った人なのは前々からのことなんですから、私たちのほうでフォローしないと。いいわね、二人とも?」
「おっしゃるとおりです、秋葉さま。これからは、より一層の注意を肝に銘じます」
「そうですねー、こっちから先回りするくらいでちょうどいい、と。ふふ、三人で力をあわせて、志貴さん包囲網の完成ですよー!」
「……君らね」
「そう言われたくないのでしたら、先にご自分の行動を省みられてはいかがですか。今さらこんなことは言いたくないですけど――兄さんには、遠野家の長男としての自覚が足りませんっ」
「うぅ、ごめんなさい……」
 お決まりの小言を言われ、小さく縮こまる志貴――相変わらずだ。
 三人が四人になっても……その会話は、とても自然なもので。
 先ほどの一瞬の沈黙が、何かの間違いだったのではないかと錯覚しそうになる。

140[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](11/12):2006/08/19(土) 00:33:41 ID:KsuKenow

「それに、兄さん……あの」
「ん。なんだい、秋葉?」
「なにか忘れてませんか?」
「さあ。何をだろうな?」
「ですから、その……もうっ、わかってて言ってるでしょう?」
「わかってるよ……おはよう、可愛い秋葉」
「……………………、そ、そこまで言ってほしいなんて誰も言っていません!」
「あはは、どういうふうに言えなんて言われなかったからさ」
「もうっ……」
 そっぽを向く秋葉。それをにこにこと見守る志貴。
 横で指笛を吹いて囃し立てようとした琥珀を、翡翠ががっちりと羽交い絞めにして押さえ込んだ。
 顔を赤くしたままで秋葉は志貴に向き直る。その様子は年頃の少女のようで――遠野家当主としての彼女と同じものだとは思えない。
 だがそれでも、彼女は遠野家当主であり、同時に志貴の恋人だ。

「と、とにかく……兄さんのことを、みんなが心配してるんですから」
「そうだな……本当、世話をかけちゃってる、申し訳ないくらいだ」
「あ……そんな意味で言ったんじゃないんです、こんなの、遠野の仕事に比べれば苦労のうちに数えませんから」
「そんな……こんなこと言えた立場じゃないけどさ、無理だけはやめてくれよ、秋葉」
「今は私の話じゃないでしょう。兄さんこそ――世話をかけていると言ってくださるのなら、これ以上の心配はかけさせないでください」
「……わかったよ、気をつける」
「それでいいんです……それさえ気をつけてくださるのなら、兄さんは何も心配しなくていいんです」
 一歩、二歩。秋葉が志貴へと歩み寄った。
 今度は、志貴は後ろに下がろうとはしなかった。ただ、秋葉のしたいように任せた。
 志貴の懐にまで入る秋葉。顔と顔とが、目と鼻の先になった。
 秋葉が、手を伸ばす。

「私たちが、何とかしてみせます……まだまだ、兄さんには貸しがあるんですから。すぐに、元気になってもらうんですから」
 根拠などないが、言い切った。
 半ば自分に言い聞かせるように、しかしそれでも、絶対の意思を込めて。
 秋葉の指が、志貴の顔に触れる。
 愛おしげに頬を撫で、指を上へと動かす。まるで、そこに志貴がいることを確かめるように。
 指が、いつまでも慣れない感触を覚えたところで止まる。
 志貴が、そこで止まった秋葉の指を、そっと握り締めた。
 秋葉の表情は、固まったままだった。ただ、双眸だけが、涙に潤んでいた。



 志貴の顔。
 両の目には古びた包帯が巻かれていた。



 /



 あれから、五年の月日が経とうとしていた。
 あれ、とは、志貴が遠野の家に戻ってからの一連の出来事を指す。

 あの最後の日、志貴は秋葉に命を返し。
 そして彼自身は、シエルと名乗っていた女性によって一命を取りとめた。
 自称先輩であるその女性の元から彼が帰ってきたのが、次の年の初め。
 そして、志貴が秋葉を浅上に迎えに来たのが、同じ年の春。
 そうして。
 二人はやっと、自分たちが望んでいた生活を手に入れた。

 ――そこから数えるなら、四年が経ったことになるのか。

 賑やかしくも、幸せな日々が続いた。
 時には、辛いこともあったかも知れない。
 けれど、彼は、彼女は、一人きりではなかったし――二人ぼっちでもなかった。

 そうしてみんな、成長した。

 遠野志貴は、ぱっと見る限りは、あまり変わらなかったかも知れない。
 少しだけ大人になって、それでも、彼は彼のままだった。
 遠野秋葉は、綺麗になった。外見だけではなく、在り方が、だ。
 いまだ学生を続けながら――学生としても当主としても、以前より一層、目ざましい活躍を見せている。
 様々な出来事を乗り越え、一番望んでいたものを手に入れた彼女は、水を得た魚のようだった。
 琥珀と翡翠――二人は今も、たった二人で遠野の屋敷に勤めている。
 五年前、当時は色々とあったものだが……それを乗り越えた彼女たちは、本当に誰よりも頼りになる、志貴たちの家族だった。
 そして、有間都古。
 高校生になった。
 ただ、なかなか、遠野志貴とは会えなかった。

 ――ただ一言、成長と言うだけでも、これだけの変化があった。
 それ以外にもきっと、色々なことがあった。
 だから。五年と一言に言っても、そんなに短くはなかったのかもしれない。

141[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 前編](12/12):2006/08/19(土) 00:35:01 ID:KsuKenow

 遠野志貴が倒れた。
 今年の五月だった。
 彼が遠野の家に戻ってから、四年半が過ぎていた。

「四年半も持った――というほうが不可思議というものじゃわい」
 そう評したのは、志貴の主治医を務める、一人の老人だった。
 飄々とした老人の目が、それでも悲しげに見えたのは、誰の感傷によるものだったろうか。

「本当なら、四年半前のあの事件で死んでいたはずですし――それ以前にも二度、死んでいるはずだったと聞きます。
 まあ……だからと言って、割り切れるものでもないのでしょうけれど」
 短い間だけ先輩だった女が、そんなことを口にした。
 まるで他人事のような言い方だったし、実際、既に他人事でしかないのだろうけれど――表情を隠すように、顔を伏せていた。

 遠野秋葉は尽力した。
 考えうる限りの最善を尽くした。
 その二人、闇医者と代行者の手を借りたし。
 その二人以外にも、使えるものは何でも使おうとした。
 周囲は皆、必死で動いたのだろうけれど。
 その中でも飛びぬけて、哀しいくらいに死に物狂いだったのは、やはり秋葉だった。

 ――その過程については、とりあえず省く。
 現状を説明しよう。それで事足りるはずだ。
 遠野志貴――その両目。
 ぐるぐると、包帯を巻きつけている。
 シエルが調達した代物だという――実際、これが無ければ、彼はここまで持ち直さなかっただろう。
 当然、眼鏡はかけていない。使おうとしても意味を為さない。
 つまりそういうことだ――彼の特殊な両目、直死。
 見えすぎるようになってしまった。
 そして、彼自身の人格だが。
 これが、本当にまったく変わりがない。
 普段どおり、以前と同じように、穏やかな性格のまま。
 今の状況のせいか、やや腰が低くなっているが――それは、彼の性格が変わったとは言わないだろう。
 なのに、だ。
 彼自身が、変わってしまった。
 周囲に与える影響――その究極、彼の性質。
 死の気配。
 今までも、そういう傾向はあった――彼の周りにいる敏感な人間は、自分でも気付かないままに、死を意識してしまう。
 それでも、以前は微々たるものであったはずだ。
 今のように、あからさまでは無かったはずなのだ。
 濃厚……一目見るだけで、それとわかる。
 死とは、やや曖昧だが、これ以上なく明確な脅威の対象だ。それを、意識させられる。
 誰もが例外ではない。
 長い時を共に過ごした家族でさえ――同じ時を生きると望んだ連れ合いでさえ。
 彼を見ると、まずそれを思い起こしてしまうのだ。

 それなのに、遠野志貴の人となりは、以前と寸分違わないのだ。
 それがいびつで、不均衡で――彼をよく知る者には、これ以上無く哀しかった。

 今の遠野家は、今まで以上に遠野志貴を中心に動いている。
 彼をそこに留めるために、安定した世界を築き上げている。

142[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 幕間](1/2):2006/08/19(土) 00:36:35 ID:KsuKenow



 /幕間



「ただいまー……」
 気落ちした声で帰宅を告げた。居間にいる母に聞こえたかどうかも微妙なところだ。
 有間都古はその居間には向かおうとせず、まっすぐに自室に引っ込んだ。
 ベッドに寝そべる。都古の体重を受けた寝台が、軽い音を立てて軋む。
 溜め息をついた。
 いつもの元気が、鳴りを潜めている。
 遠野の親玉。
 話に聞いていたとおり、否、それ以上の怪物だった。
 それに――志貴のこと。

「倒れてから、三ヶ月――」
 口にしてから、その意味にぞっとした。
 重症でないわけがないじゃないか。
 今はどうかはわからないが、倒れたときは、やはり酷かったのだろう。
 それなのに。
 その志貴に、自分は何もできていない。
 ――情けない。悔しい。
 胸が、痛い。
 ……これではダメだ、と思う。
 こんなところでうじうじと不貞寝している自分は、ダメだと思うのに。

「……らしく、ないよ……」
 なのに、力が入らない。
 いつもの元気が――都古が都古たる拠りどころが損なわれている。
 あの一幕。
 秋葉の言葉。
 胸の痛いところに刺さったまま、同じ痛みを繰り返す。
 あの時。だけど都古は。
 それでも一言だけ答えたのだ。

「……それでも、お兄ちゃんに――」
 会ってどうなるのか。
 自分に何ができるのか、それはやはりわからない。
 だけど、会わなければ始まらない。
 今の都古にとっては、それだけが、かすかな展望の光だった。
 ……口にすると、少しだけ、手足に血が巡り始めたような気がする。
 指を握ってみる。ぎゅ、と力が入る。
 まだ、胸の痛みは取れないけれど――有間都古はそれでも、折れていない。

「ちょっとー、都古ー」
 階下、居間から呼ぶ声。都古の母、啓子だ。
 はーい、と返事をする。体を起こし、部屋を出て母のところに向かう。
 都古自身、気付いてはいないが……こうして呼ばれれば応えるだけの気力はあるわけだ。最低にはほど遠い。

「なに、お母さん?」
「あなた、今日も遠野のお屋敷に行ったんでしょう? どうだった?」
「…………」
「……そう、やっぱり会えなかったの」
「お母さんは……また、あの屋敷に行っちゃダメって言うの?」
 不安げに、母の顔を見上げる。
 遠野秋葉はかつて、都古が志貴に頻繁に会うことを憂えた。そのことは、秋葉本人からではなく、啓子から伝え聞きで聞かされている。

「……前に一度話したでしょう? 都古がそうしたいって言うのなら、わたしは構わないわ」
「でも……」
「お屋敷で何か言われてきた? けれど……あなたは、それで納得できるの?」
「できない」
「即答じゃないの。なら、悩むだけ無駄よ」
 優しい声音で諭される。
 都古にとっても、それは嬉しいが……

「でも」
 と思う。
 胸に刺さった棘は消えない。思いは変わらずとも、性根が弱気になっている。

「あのね、都古。昔、秋葉さんはあなたに――わたしたちにこう言ったの。『さしたる理由も無しに、みだりに遠野家の長男を連れ出そうとしないでほしい』って」
「うん……」
「あなたは今回、お見舞いに行こうとしてるんであって、連れ出そうとはしていないでしょう?」
 そうだ。昔は――昔から今も、というべきか――都古が活発であったのと、遠野の屋敷にいい連想を持っていなかったために、志貴を外に連れ出すことが多かった。
 今回は状況が違う。都古は、ただ、志貴に会おうとしているだけだ。
 体を悪くしていると聞く志貴を、むやみに連れ出そうとするほど、都古は我が儘ではない。

「それに、『お見舞い』って、立派な理由よ。『さしたる理由も無し』なんてことはないと思うわ」
「うん……そう、そうだよね」
 啓子の言葉を噛み締めるように頷く。
 言われてみると、先ほどの屋敷での一幕、遠野秋葉はそれを理由にはしなかった。「理由も無しに会いに来るな」ではなく、「今、志貴は誰とも会えない」と言ったのだ。
 だから……見舞いという理由だけは、肯定されているのか。
 ただ、その理由よりもさらに優先順位の大きい、志貴の容態への配慮があるわけだ。

143[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 幕間](2/2):2006/08/19(土) 00:38:28 ID:KsuKenow

「……そうだよ。あたしはお兄ちゃんに会いたいんだし……お兄ちゃんが本当に酷い状態なら、あっちだって最初からそう言うと思うもん」
「そうね……それにね、都古……わたしも志貴のこと、心配なの。だから個人的には、やっぱりあなたを応援するわ」
「うん、ありがと、お母さん」
 少し、元気が戻った。
 ぎゅ、とまた拳に力を込めて、都古は頷く。
 さて――そうすると、今度はどうしようか。次の見舞いでは、何をどうすればいいだろう。
 正面からただ頼むだけでは今までと変わりない、それなら――頼み方を変える? それとも、もっと安直に――志貴の部屋に忍び込むか? 彼の部屋が、遠野の屋敷のどこにあるかは知らないけれど――

「ちょっとちょっと都古、勝手に納得して出て行こうとしないで」
「ふえ? 何、お母さん。まだ何かあるの?」
「あるわよ。元々、これをどうするか聞きたかったんだから」
 そう言って、啓子は台所のほうへと向かう。
 ついて来いということらしい。都古もそちらに向かい、台所を覗く。
 そこには、何やら大きな発泡スチロールの箱。
 ……見覚えがある。
 この箱自体は、初めて見るもののはずだが――都古には、同じものを何度も見た覚えがあった。
 とくん、と胸が鳴る――期待。そして、微かに予感。
 その中に何が入っているか、はっきりと思い出せないまま、少女は箱の中を覗き込んだ。

「ほら、いつもこの時期になると、田舎から大叔父さんが送ってくれるでしょう? 毎年、楽しみにしてるじゃない――」
 今年は七月が寒かったから、ちょっと遅くなったけど――と、啓子の説明は続く。
 聞いてはいなかった。
 これだ、と思った。
 天啓のように、頭がそれでいっぱいになった。これしかない、と。
 理屈ではない。問答など無用――喜びに震える手で、それを手に取った。
 ずしりと重い。その重さもまた、嬉しかった。

「――YESっ!」
 それを両手に掲げ、勝ち鬨の声を上げた。
 あらあら、いつまで経っても子供みたいに――などと、母が横で呟いていた。
 さあ、これを持っていって、明日が勝負だ――絶対、勝ってやる。
 今度こそ、お兄ちゃんと一緒に、これを食べるんだ――

 都古の両手には、大きな大きなスイカが掴まれていた。

144[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事]:2006/08/19(土) 00:42:34 ID:KsuKenow
すいません、ひとまずここまで。書いていると長くなったので、分割して投稿させていただきました。
また、分割してもなお長いという現状です。場もわきまえず、本当に申し訳ありません。
かなり好みの別れそうな題材を扱いました。今回のようなお題には相応しくないかも知れませんが、それでもご一読いただけると幸いです。

続きは期限内に投稿します。それまで、少しだけお待ちください。

145僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/19(土) 01:17:53 ID:bENfkF9M
いや、あんたすげえぜ。

146[型月・夏の食祭り][祭りに戯れる黒蝶と白蝶](1/3):2006/08/19(土) 22:09:54 ID:gER5pqo2
 夜店の呼び込みや人々のざわめき、食欲をそそる雑多な匂い、祭囃子が響きわたる。
 そんな雑踏を士郎は歩いていた。
 周囲からの胡乱気な視線や、ささやきはとりあえず無視して、内心で深いため息を吐く。
「……シロウ、どうしたのです?」
「どうした、シロウ?」
「あ、ああいや、何でもない」
 左右からの声に応えるのと同時に、腕を絡めるようにして組まれた右手にきゅっと力がこもり、抱きかかえられている左腕が更に強く引っ張られる。
 そんな様子に苦笑しながら、士郎はまず右側に視線を向けた。
 白地に黒抜きの蝶が乱舞する浴衣を身につけたセイバーが、不思議そうな表情でこちらを見つめていた。
 浴衣のおかげで僅かにのぞく項に思わずどぎまぎしてしまい、それでもこうして一緒にいられるのが嬉しくて。
 それが口元の笑みに繋がって、恥ずかしそうにセイバーが顔をうつむけた。
「……シロウ、ワタシは無視か?」
 更に左腕を引かれて、士郎はあわてて左側に顔を向けた。
 黒地に白抜きの蝶が踊る浴衣を纏う黒セイバーが、頬をふくらませてこちらをじっと睨んでくる。
「あー、ゴメンセイバー」
 いつもと違うショートポニテ姿はとても新鮮で、何となくそのしっぽを弄ってみたくなる。
「なにやら不埒なことを考えているようだが……、シロウ。何か言うべき言葉があるであろう?」
 そう言ってじっと見つめてくる黒セイバーの姿に、出かけるときに思ったことを言っていないことに気づいた。
「あ、ああ、綺麗だよセイバー、よく似合ってる」
 その言葉を口にすると同時に、顔を赤らめた黒セイバーが視線を逸らす。
「ふむ。言うのが遅い」
 それが黒セイバーなりの照れ隠しだと気づいて、そのことに苦笑するのと同時に、握られている右手にきゅっと力が込められた。
 あわてて視線を右に向け直す。
「……シロウ、そちらだけというのはずるいです」
 僅かに涙目で見上げてくるセイバーがとても可愛く思えて、士郎は笑顔を浮かべる。
「ああ、ゴメン。セイバーも綺麗だよ」
 黒セイバーにかけるのとはほんの少し違うアクセントで、セイバーに呼びかける士郎。
 セイバーが、ぱっと頬に朱を散らせる。
「あ、ありがとうございます」
 嬉しそうに、それでも恥ずかしそうに呟くセイバーがとても嬉しい。
 そう思った瞬間、左腕を引っ張られた。
「……シロウ、ワタシはアレが食べたい」
 そう言って黒セイバーが指さしたのはフランクフルトの屋台。
「あ、その、私はアレを」
 少し遅れたセイバーが、チョコバナナの屋台に指先を向けて、そんな二人の様子に苦笑した。
「それじゃ、買ってくるから少し離してくれないか?」
 苦笑を浮かべたまま二人に声をかけて、離れたぬくもりが何となく寂しくて、士郎は屋台の方に向かった。


「あ、衛宮の若さんじゃないっすか。いつも姐さんがお世話になってます」
 そう言って店番の青年が頭を下げてくる。
 それが、藤村組の若い衆の一人だと言うことを思い出して、こちらもあわてて頭を下げた。
「ああ、いや、こっちこそ。とりあえず、フランクフルト一つお願いできるかな」
 雷画の知己であり、大河のお守り(?)である士郎は、藤村組でもかなり目をかけられているのだ。
「それで、あの姐さん達が、若さんのコレですかい?」
 ケチャップとマスタードをかけたフランクフルトを渡してくる若い衆が、空いている左手で拳を作って、小指だけを立てて見せた。
「あ、うん」
 双子に見える二人を同時に愛しているなどという、ある意味危険な状況をそれでも士郎は頷きながら肯定する。
 同時に、若い衆が苦笑を浮かべた。
「……あー、姐さんも大変っすねぇ。えと、三百円っす」
「はい、ありがと。でも藤ねぇになんかあるの?」
 小首をかしげながら問いかける士郎に、若い衆が浮かべた苦笑をそのままに手を左右に振ってみせる。
「あー、いや、何でもないっす。それより早くしたほうが良いんじゃないっすか?」
 そう言われて、振り返った士郎の額に小さく冷や汗が浮かぶ。
 セイバーと黒セイバーにちょっかいをかけようとして、問答無用で殴り飛ばされた男の姿が目に入ったから。
 だからあわてて、チョコバナナの屋台に向かった。

147[型月・夏の食祭り][祭りに戯れる黒蝶と白蝶](2/3):2006/08/19(土) 22:11:22 ID:gER5pqo2
「……ふっ。ワタシの全てはシロウだけのモノ。貴様らごとき下賤が触れようなどと天地を犯す大逆と知れ」
「……さすがにやりすぎでしょう。でも、コレに懲りたら二度と近寄らないでください」
 ぶん殴られて地面に倒れた男を、その友人とおぼしき男達があわてて引きずって逃げ出していく。
 周囲のおびえを含んだ視線に気づいた様子を見せない二人に、できるものなら頭を抱え込みたいくらいで。
 士郎は、あわてて二人の元のかけよった。
「あー、遅れてゴメン」
「遅いぞシロウ」「いえ、お疲れ様ですシロウ」
 同時にこちらに視線を向けて、片や誇り高そうな微笑み、片や嬉しそうな満面の笑みで迎えてくれる二人に苦笑する。
 買ってきた物を渡すのと同時に、左右に分かれた二人に腕を取られた。
「では、行こうかシロウ」
「シロウ、行きましょう」
 二人同時に歩き出して、それに従う士郎。
 周囲にあったおびえの気配は霧散し、微妙に殺意の混じった嫉視が突き刺さってきた。
 無論、いい加減慣れた感のあるそれらは完璧に無視する。
 セイバーが小さく口を開けて、あむっとチョコバナナをくわえるのを横目でみて、その可愛らしい仕草が面白くて笑みを作った。
 一方の黒セイバーはと言えば、大きく口を開けて、がぶっとフランクフルトに噛みつく。
 それは、猫科の猛獣の食事風景を思い起こさせて、思わず苦笑してしまう。
「……ふむ。やはり美味いな。こういうものの方が、ワタシの口にあう」
「こういうモノを食べたのは初めてですが、なかなか美味しいですね」
 二人の素直な感想が嬉しくて、次の瞬間口元が引きつってしまった。
「シロウ、汝にも与えて取らそう」
「シ、シロウ……、その、よければ」
 そう言いながら、二人が食べかけのものをつきだしてきたのだ。
 ……確かに、普段の朝食や夕食でもそんなことをされてはいるが、此処は祭りの雑踏の中。
 そんな場所でやっていいことではない。
「あ、いや、それは」
 周囲から、妬ましげな空気が立ち上がったことを敏感に感じ取りながら、冷や汗を浮かべて逃げ道を探す士郎。
 無論、左右の腕をしっかり取られている上に、しかも周囲からは危険な視線を向けられている現状で逃げ道などあるはずがない。
 それに、なんと言っても士郎にとって二人は愛すべき少女達なのだ。
 彼女たちの想いから逃れるなど、できるはずがなかった。
「あー……うん、ありがとう二人とも」
 そんな言葉を放つのが精一杯で、黒セイバーが差し出してきたフランクフルトに齧り付く。
 ほとんど咀嚼せずに飲み込み、一息つく間もなくセイバーが差し出しているチョコバナナに口を付けた。
 ……口の中で混じり合う味に辟易しながら、それでも飲み込んで二人に笑顔を向ける。
「ふむ……。まぁ、良いとしよう」
「……シロウ、その……、いえ何でもないです」
 僅かに頬を赤らめる黒セイバーと顔を真っ赤にしてうつむくセイバーに僅かに小首をかしげる。
「じゃ、じゃぁ、とにかく行こう」
 その二人の表情に何となくもやもやしたモノを感じて、シロウはあわてて歩き出した。


 それから、射的に挑戦して全弾外れた黒セイバーが怒ったり、くじ引きをやったセイバーが特等を射止めたり、……雑踏で一成と会って色々説教されたりした。
 そんなこんなで楽しい祭りもそろそろお開きにする時間で、最後にベビーカステラを買い求めて、雑踏の中を歩いていた。
「こういうのも、たまには良いな。また来たいぞ、シロウ」
 先ほどと違い腕を絡めただけの黒セイバーが、自由になった手でベビーカステラを口に運びながら、声音に喜色を浮かべる。
 それが嬉しくて、士郎は笑みを浮かべていた。
「そう、ですね。同意するのは少し癪ですが、たまには良いですね」
 同じように腕を絡めただけで手をつないではいないセイバーが、大きなライオンのぬいぐるみや水ヨーヨーをぶら下げながら、嬉しそうな笑顔を浮かべる。
 二人に時々差し出されるベビーカステラを交互に食べながら――そのたびに周囲から強烈な嫉妬の視線を受けるのだが――士郎は、不意に二人が離れたことに気づいて小首をかしげる。
「ん? どうした二人とも」
「……シロウ、ワタシにも食べさせよ」
「シロウ、その私も……」
 そう言ったかと思うと、二人がベビーカステラの袋を押しつけてきて、シロウの頬に冷や汗が浮かんだ。

148[型月・夏の食祭り][祭りに戯れる黒蝶と白蝶](3/3):2006/08/19(土) 22:15:51 ID:gER5pqo2
「……あー、と」
 二人から食べさせられるのは日常茶飯事で、未だに恥ずかしさはあるもののそれでも多少は慣れては来た。
 だが、士郎から二人へ食べさせると言うのはさすがにしたことはなくて。
 それでも二人が浮かべる熱望と期待の視線に抗うことなどできるはずもなく。
 士郎は顔を真っ赤にして、それでもベビーカステラの袋に手を伸ばした。
 最初はセイバーに向かって指を突き出す。
 恥ずかしげなセイバーが開いた口にそっと含ませて、その瞬間に柔らかな唇に指先が触れて恥ずかしさを覚えた。
「……シロウ、美味しいです」
 顔を赤くしながらも嬉しそうな笑顔を浮かべて見つめてくるセイバーに、同じく笑顔を返した士郎は、すぐにもう一個取り出した。
 そのまま、照れもなく口を開けて待つ黒セイバーに与え……た瞬間、そのまま指に吸い付かれた。
「っ!?」
 周囲からの妬心の眼差しが、殺意に凝り固まったそれに代わる。
 黒セイバーが口に含んだ指をなめ回してきて、士郎の背筋にゾクゾクと震えが走る。
 その舌の動きが毎夜受けているものと同じだったから。
 媚びを含んだ黒セイバーの瞳に心臓が妙な鼓動を拍して、それでも辛うじて指を引き抜いた。
「な……何をするんですか、貴方は!!」
 同時、セイバーが吼えた。
 その大喝に周囲に立っていた人間が後じさる。
「何をする? 単にシロウを愛でているだけにすぎん」
「だ、だだっ、だからといってこのような、人混みの中でそのような不埒なまねをするのはどうかと言っているんです!」
 いつの間にか、士郎から離れたセイバーと黒セイバーがにらみ合う。
「ふふん、自分ができなかったことをされたのがそんなに不愉快か? ならば、自らも同じ事をすれば良かっただけであろう?」
 傲岸不遜、その言葉通りの黒セイバーの態度に、セイバーがこめかみを震わせる。
「ふ……ふふふ……、そうですか。そんなに自らの非を認めるのが嫌だというなら、死を持って認めさせましょう!」
「ふん、貴様ごときがワタシを殺せると? 思い上がりも甚だしいな」
 二人の身体から強烈な殺気が膨れ上がった。
 その異常な強さは、本来そのような気配を捕らえる能力など無いはずの常人さえ怯えさせるほどで、周囲にいた人間があっという間に後ろに下がった。
「……良いでしょう、今日という今日は許しません」
「それは、ワタシのセリフだ」
 はっきり言えば、今すぐ背中を向けて逃げ出したい気分だった。
 それでも、二人の諍いを止めるのも士郎の――最近では特に重要な――仕事。
「二人とも、いい加減にしろっ!!」
 だから、二人の間に割って入りながら、士郎は大喝した。
 びくっと肩を震わせて、二人がこちらをじっと見つめてくる。
「二人とも、俺との約束を忘れたのか?」
 恥ずかしげにうつむくセイバーと、悔しげに眉を顰める黒セイバー。
 それでも反論してくる様子は無くて、内心ほっとしながら士郎は語をつなぐ。
「ケンカをしちゃいけないとは言わないけど、人を巻き込まないようにって言ってるだろ」
「……ワタシは悪くない。悪いのはあちらだ」
「っ! 元はと言えば、貴方が淫らなまねをっ!」
 ……そのまままた口論を始める二人に、深いため息を吐く。
 こうなった二人を止める手段はただ一つで、それはこんな衆人環視の場所ではやりたくないことだったから。
 それでも、言葉では止まりそうにない二人を止めるには、それしか手段がないとなれば、士郎はそれ以上悩まない。
「二人とも」
 静かに声をかけると同時に、二人が動きを止めた。
 そのまま、まずはセイバーに歩み寄って、間髪入れず唇を奪う。
 最初は大きく目を見開いていたセイバーが、それでも目を閉じてぎゅっと士郎に抱きついてくる。
 しばらく重ねるだけのキスを続けて、静かに離れる。
 とろんとした目つきで見つめてくるセイバーに、一度背中を向けて、そのまま今度は黒セイバーと口づけを交わした。
 当然、こちらは奪い合うような激しいキスになったのだが、それもしばらくすると収まって、やっと落ち着いた表情でこちらを見つめてくる。
「……じゃ、帰ろうか」
 周囲からの冷たい視線に気づいて、あわてて歩き出す士郎。
「あ、待ってください、シロウ」
「シロウ、しばし待て」
 言うが早いか、二人がぎゅっと左右の腕にしがみついてきて。
「すまぬ、シロウ」
「すみません、シロウ」
 左右から同時に、頬にキスされる。
 周囲からの呆れかえった様なざわめきや視線は辛うじて黙殺した。

149[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](1/12):2006/08/20(日) 00:39:15 ID:2558/kwY
 現在、遠野の屋敷は、鮮やかな色彩に満ちている。
 有間都古が以前から持ってきた、見舞いの花によるものだ。会うことができないまでもと、全て使用人に預けてきた結果である。
 都古だけではない。事情を僅かながらも聞き知った分家の人間も、彼を見舞いに来て、その品だけを置いていった。その中にはやはり、花もあった。
 だが一番多く花を持ち寄ったのは、やはり一ヶ月近くも通い続けている都古だろう。
 普段、屋敷の中に花は少ない。内装に気を遣ってのことだろう。
 今は、広い屋敷のあちこちに花が飾られている。内装との折り合いには気を払いつつ、色彩が過度にならないように。

 志貴の部屋には、一輪の花も飾られていない。
 志貴に気遣ってのことだ。
 花は死にやすいから。



 /



 都古が秋葉と会っていたという今朝方の出来事など露とも知らず、志貴は昼食後の体を居間の椅子に落ち着ける。
 その横には、志貴と自分の分の緑茶を淹れた琥珀がちょこんと腰かけていた。

「……って、あれ。琥珀さん、翡翠は?」
「あら……やっぱり志貴さん、翡翠ちゃんのほうがいいんですね?」
「いやそういうわけじゃなく、純粋に疑問なんだけど。あれだけお供するって聞かなかったのに、どこ行ったのかなって」
「そんなこと行って、やっぱり気になるんでしょ? わたしの自慢の妹ですからねー、志貴さんの浮気者ー」
「いや、だからね?」
「翡翠ちゃんなら、お仕事に出てますねー。ほら、最近ちょっと溜めてましたから」
「あ……そうか」
 翡翠の仕事は、志貴の世話だけではない。
 この広い屋敷の管理、掃除、それに離れの和室も定期的に手を入れている。この家の敷地は尋常ではないので、自然、時間もかかる。
 その他にも郵便物等の整理や来客への応対など、様々な雑事を受け持っている。それを思うと、改めて翡翠の凄さを思い知らされる。

「……俺、やっぱり負担になっちゃってるな」
「そう思われるのなら……秋葉さまもおっしゃっていましたけど」
「早く体を治すこと、か……」
 治るなんて保証は無いのに。
 そう思ってしまったのは、琥珀のほうだった。
 志貴の弱気が感染したか――志貴の気配に当てられたか。
 だが。やはり、そこは琥珀。それを表情に出したりはしない。

「……琥珀さんは、大丈夫なの?」
「え? な、何がです?」
「いや、仕事がさ。翡翠と交代で、こうして俺のこと見てくれてるんだろ?」
「ああ……わたしはほら、秋葉さま付きの使用人じゃないですか。ですから、秋葉さまが出かけられてからは、少しは余裕があるんですよ」
「本当?」
「ええ、もうお昼ご飯も作っちゃいましたしねー。今はちょうど、楽な時間帯です」
 少し、嘘。
 琥珀にも、庭園の掃除や管理などの仕事が残っている。ただ、後回しにはできるというだけの話だ。
 また、琥珀は最近、秋葉の仕事を手伝うようにもなっている――微々たる助力でしかないが、それでも何とかついていけるようになったのは、普段からの勉強によるものでもある。今までは、空いた時間はそちらに回していた。

「琥珀さん」
「はい、何ですか志貴さん」
「……いや、その、さ」
「……何ですか、もう。そんな気になる言い方で、やっぱりやめた、とかは無しですよ?」
「うん、ありがとう……って。それだけ」
 こんな自分に、色々尽くしてくれて。
 言葉にしなかった部分と、言葉にできなかった部分が、琥珀にも伝わったのだろうか。
 彼女は咄嗟に、何も掴んでいないはずの両手を机の下に隠した。

150[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](2/12):2006/08/20(日) 00:41:29 ID:2558/kwY

「……はい、どういたしまして。志貴さんはいつも、それくらい素直でいて欲しいものですねー」
「え、俺、いつもそんなにひねくれてる?」
「いえいえ、そうじゃないんですけど……ちょっと、たまにはそういうお言葉が欲しいなっていう、まあわたしの我が儘ですね」
「はあ、そんなもんですか……と、俺もそろそろ部屋に戻るよ。琥珀さんもありがとう、もう仕事に戻ってもいいからさ」
 椅子を引き、立ち上がる志貴。
 目が塞がれているとは思えないほど、自然な挙動。

「そうですね、安静にしてくださるのは嬉しいです。けど志貴さん、また何か忘れてません?」
「え、何を――って、あ」
 座ったままの琥珀が目で促す先。
 志貴が座っていた席の近くに、杖が立てかけてある。

「せっかく翡翠ちゃんが持ってきてくれたのに……」
「わ、わかってるって、ちょっと忘れてただけ――」
「志貴さん……?」
「……ごめんなさい」
 謝りつつ、杖を取る志貴。
 だが、その杖を頼りに周囲を確かめる様子は無い。手に取るだけだ。
 今の志貴は、確かに視界を塞がれている。だが、周囲の様子は気配で解るという。

「それじゃ、琥珀さん、また後で」
「ええ、夕食も腕によりをかけますので、期待していてくださいね」
 座ったままの、笑顔の琥珀に見送られて、志貴は自室へと戻る。
 志貴は気付いただろうか。
 琥珀が座ったままだという、そのこと――本当なら、志貴が席を立った時に、使用人である琥珀も立たなければいけない。志貴の世話をするため、部屋に戻るまでは随伴しなければいけないはずだ。
 また、琥珀が立ち上がれなかったその理由を――咄嗟に隠した両手、膝の上で組まれた指に、志貴は果たして気付いていただろうか。
 ふう、と溜め息をつく琥珀。指を持ち上げて、目の前で広げてみる。
 何かを恐れるように、小刻みに震えていた。



 /



 夜が更ける。
 森に囲まれた巨大な屋敷は、微かな灯火を窓から漏らしながら、暗い威容を誇っている。
 玄関を軋ませる音――主が帰ってきた。

「お帰りなさいませ、秋葉さま」
「ただいま、翡翠――琥珀は?」
「姉さんなら、志貴さまの部屋のはずです。新しいお薬を使うとか」
「……容態は安定しているんじゃなかったの?」
「はい。ですから、それに合わせて刺激の少ない薬に変えるそうです」
「そう……」
 どこまで効果を上げているのか、具体的なところはわからない。
 それでも、琥珀は志貴のために尽くしてくれている。薬も、そして、以前からの食事管理も。
 その点に関しては、あの時南宗玄のお墨付きでもある。

「食事にします。琥珀を呼んできて頂戴――兄さんが薬を飲んだ後でいいから」
「かしこまりました……ですが秋葉さま、お食事はまだだったのですか?」
 既に夜の九時を回っている。てっきり、外で食べてきたのだろうと翡翠は思っていた。

「ええ、時間が勿体無かったのと――少し食欲が無かったかしらね」
「……秋葉さま」
「ご自愛ください、でしょう? 最近はそればかりね、貴方達姉妹は」
「わかっていらっしゃるのでしたら、どうか――秋葉さまは今、ただでさえ負担を負っていらっしゃるのですから」
「平気よ、これくらい――最近は、血に狂った混血もいないことだし。平和なものだわ」
 言いつつ、秋葉は胸に手を当てた。
 そこに、確かな温もりがある。
 残滓ではない。懐かしいとさえ思える、かつてと同じ温もりだ。
 そこにあるのは縁。命の繋がり。
 今、秋葉と志貴は繋がっている。今の彼が安定しているのは、それによるところが大きい。

151[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](3/12):2006/08/20(日) 00:43:10 ID:2558/kwY

「秋葉さま、あの……」
「今朝の続き、かしら?」
「はい……都古さまのこと、考えてはもらえないでしょうか?」
「……今、ようやくあの人は安定し始めたところなのよ。それなのに、そこに変化を呼び込むというの?」
「ですが、病状は――目は」
「っ……私の努力が足りないということかしらね」
「そうではありません、しかし」
「あの子を兄さんに会わせて、それでどうなるというの……何ができるわけでもないじゃない」
 有間の人間は、血が薄い。混血の度合いのことだ。
 異能らしい異能を持たない――こういう状況では、どうにもしようがない。

「ですが、やはり……このまま安定させてしまうのも、どうかと思います」
「今日はいやに舌が回るわね、翡翠」
「お考えください、秋葉さま……志貴さまの目も、安定しているのではないかと思うのです。あの状態のままで」
 見えすぎる状態。
 あの曰くありげな包帯によって、ようやく部屋の外を出歩ける状態。
 志貴の体力は、秋葉たちの努力の甲斐あってか、確かに以前よりは戻ったが。
 それは、この状況に志貴が順応してしまった、ということでもあるのか。

「それでも……有間都古に何ができるというわけではないでしょう」
「今の志貴さまには、体は勿論のこと、心も安らかでいる必要があるという話です」
「……誰の話?」
「一週間ほど前でしょうか、姉さんが電話で聞いたそうです」
「だから相手は――」
 考えるまでもないか。あのおせっかい女だ。
 目が悪くもないくせに眼鏡を愛用するあのカレー狂い。志貴の容態が安定すると、さっさと本国に帰ってしまった。
 勿論、助けられている以上、秋葉に文句を言えた筋合いではないのだが。
 それに、こうして外国からも電話をかけてくるということは、それだけ志貴を心配してくれているということでもある。
 日本になかなかいられないのは、それだけ“本業”が忙しいのか――
 だが、それが理解できてもなお、癪だ。秋葉はあの女が嫌いだった。

「都古さまは八年間、有間の家で志貴さまの妹として過ごされたお方――それに、当時は志貴さまによく懐いておいでだったと聞きます」
「それは、聞いているけれど」
「確かに、今の志貴さまを外にお連れすることはできませんが……都古さまを招く分には」
「――それで、本当に大丈夫なの? あの子が、あの兄さんを見て――」
「わたしも、どうかと思っていました……しかし、今朝、秋葉さまの言葉を受ける都古さまを見て、少しだけ考えを改めました」
 容赦の無い、秋葉の言葉。
 きっと、小さな少女の胸を鋭くえぐったことだろう。
 それでも、彼女は秋葉の顔を見て、きっぱりと言ってのけた。
 それは確かに、幼い願望を言葉にしただけだったかも知れないが――それでもそれは、強かった。

「都古さまは、弱いだけの方ではありません……そもそも、四年ほど前、頻繁に遠野家長男の志貴さまを連れ回したほどの方。きっと、思いは強くていらっしゃいます」
「言い切るわね、翡翠」
「わからない話ではありませんから――わたしも、秋葉さまも、そして姉さんも」
「…………」
「志貴さまに会えなくて、それでも会いたいという気持ちは――痛いほどよくわかります」
 有間の家に預けられた、幼少の志貴と。
 遠野の家に閉じ込められた、現在の志貴。
 状況がどこか似ていたから、翡翠はここまで入れ込んだのか。

「――もっと建設的な解決案が一つ、残されているでしょう。そちらはどうなったの?」
「志貴さまが拒まれています」
 秋葉が当主の顔で放ったその意見は、具体的に言葉にしないうちに阻まれた。

152[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](4/12):2006/08/20(日) 00:45:35 ID:2558/kwY

「……もう、それだけの体力は戻っているのに?」
「やはり志貴さまは、秋葉さまを愛していらっしゃいます」
「それは……でも」
「駄目です、秋葉さま。志貴さまは、我が儘を言い始めると絶対に折れない人です」
「仮契約でも?」
「はい……そんな状態だからこそ、秋葉さまにこれ以上申し訳ないことをしたくはないのだそうです」
「変なところで頭が固いんだから、あの人は」
 困ったような口調で言いつつ、秋葉の耳が赤く染まっているのを翡翠は見逃さない。
 内心では嬉しいのだ。だが、やはり複雑なのだろう。
 翡翠と、あるいは琥珀とでもいい。感応者である彼女らのどちらかと体液交換による契約を結べば、志貴の体は格段によくなるはずなのだ。
 なのに、それを志貴自身が拒んだ。

「……食事にします。琥珀にはそう伝えてちょうだい」
「秋葉さま」
「わかってるわ、考えてはおくけど……もう少しだけ、考えさせて」
「……今日も、志貴さまの部屋に?」
 翡翠の問いに頷く秋葉。それだけは譲れない。
 一日の最後、志貴の顔を見に行くのが、最近の秋葉の日課になっている。
 迎える志貴のほうは、起きている時もあれば、眠っている時もある。
 眠っている時は、本当に顔を見るだけで。起きている時も、他愛の無い雑談に興じるだけだ。
 どちらにせよ、秋葉の気が済むまでの間、そのささやかな逢瀬は行われる。

 そうして秋葉は出て行った。二階東館へと上っていく。手荷物を自室に置いて、それから食堂に行くつもりだろう。
 翡翠は姉に、秋葉の伝言を伝えないといけない。
 秋葉とは逆側、西館の二階へと向かおうとしたとき、ちょうど、降りてくる足音が響いた。
 志貴のわけはない、薬を処方されてすぐだし、それに足音がやや軽い。
 案の定、当の琥珀が階段から降りてきた。

「姉さん――」
 声をかけたところで気付いた。琥珀の様子がおかしい。
 目が虚ろだ。焦点が合っていない。
 顔色も、心持ち悪いかも知れない。
 階段を下りる足元はしっかりしているが……歩みが遅い。一歩一歩、踏みしめるようだ。
 それに、声をかけたというのに、その翡翠に気付いた様子が無い。

「姉さん、どうしたのですか?」
「あ――あれ、翡翠ちゃん……?」
 階段を降りきったところで、翡翠が琥珀の正面に回りこむ。さすがに琥珀も気付いた。
 顔が翡翠のほうに向き、徐々に、焦点が定まってくる。
 それでも、顔色は悪い――やはり様子が変だ。翡翠は琥珀の肩を支えた。琥珀は抱きつくように、翡翠に体重を預ける。

「しっかりしてください、姉さん」
「ご……ごめんね、翡翠ちゃん。ちょっと、疲れちゃった」
「……当てられましたね?」
「今日はちょっと、志貴さんと一緒にいる時間が長かったかな……」
 死を連想しすぎた。
 慣れたつもりではいても……やはり、相当に堪えるものだ。

153[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](5/12):2006/08/20(日) 00:47:54 ID:2558/kwY

「あぁー……翡翠ちゃんの腕の中、気持ちいいなぁ」
「姉さん、冗談ばかり言ってないで……秋葉さまが帰ってきました。夕食の準備をしてほしいのだそうです」
「待って、あとちょっとだけ休憩」
「……困った姉さんです」
「ねえ、翡翠ちゃん」
「はい」
「昼間、お掃除に行ってたでしょ? その間、志貴さんのお世話、わたしが少し変わってたじゃない?」
「そうですね。志貴さまに何かありましたか?」
「ううん、何かあったのはわたしのほう」
 思い出したのか。
 翡翠の体にまで、伝わってきた――震えだ。琥珀の体が、寒さに耐えかねたように震えている。

「志貴さんね。ありがとう、なんて言うのよ」
「……あのようなお体なのに……志貴さまはもう少し、別のところで我が儘になるべきです」
「わたしね。ごめんなさい、って言われた気がしたの」
「……いかにも言いそうですね」
 困った志貴さまです、と少しだけ冗談混じりに翡翠が呟く。
 琥珀は訥々と、そのときのことを口にする。

「それで……怖かったよ、翡翠ちゃん。いろんなことが、怖かった」
「…………」
「志貴さんが、ずっとあのままなんじゃないかって――そのまま死んじゃうんじゃないかって――わたしも一緒に、死んじゃうんじゃないかって――」
 志貴の死と自分の死が、想像が混ぜこぜになっている――志貴の言葉をきっかけに、普段の我慢の反動が来たらしい。

「だって、わたし、志貴さんに、まだ充分にお返しできてないのに。このまま何も出来ないんじゃないかって……」
「姉さん……まさか」
「抱いてくださいって、さっき言ってきたところ……きっぱりと振られちゃったけど」
 あはは、と笑う。笑い声は虚ろではなく、涙に濡れていた。

「姉さん……」
「翡翠ちゃんの言うとおりね、志貴さん鈍感……それなのに、またありがとうって言うのよ? もう……何て返せばいいかわからなくなって」
「では姉さんは、何故、無理やりにでもなさらなかったのですか? 抱いてもらうことが無理でも、仮契約なら、唇を合わせればそれでいいはずです」
 琥珀の震えが止まった。
 涙で潤んだ顔を上げ、翡翠の目を見る。妹の青い目は、穏やかな色を湛えている。
 琥珀の表情は、笑顔ではない無表情で固まっていた。考えてもみなかった、というところだろうか。

「姉さんは、志貴さまも秋葉さまも、大好きになってしまわれたのですね」
「ぁ……」
「わかります、わたしもそうです。以前からもずっとそうでしたが……今はもっと好きですし、この先ももっともっと好きになっていくと思います」
「そう、よね……罪作りなご主人様ですねー」
「ええ、酷いご主人様たちです――本当に感謝しています」
 あはは、と力無く笑う琥珀。穏やかな表情でそれを見守る翡翠。
 同じ背丈の二人の同じ顔は、同じ涙に濡れていた。

「翡翠ちゃん、強くなったね……」
「姉さんは、自分に素直になりましたね――感情が、今ではよく伝わります」
「弱くなったわ――本当、翡翠ちゃんも秋葉さまも凄いね。今の志貴さん、あんなにも危なっかしいのに」
「わたしは嬉しいです……その感情を姉さんに思い出させてくださったのは、やはり志貴さまと秋葉さまです」
「そうね、だから今、わたしたちは泣いているのね――」
 全く、酷いご主人様――
 そう二人で口にして、また少しだけ、涙をこぼした。

 秋葉の夕食の準備が、少しだけ遅れた。

154[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](6/12):2006/08/20(日) 00:50:30 ID:2558/kwY



 /



 そして、もうそろそろすれば深夜にさしかかる。
 夕食を摂り、湯浴みを終えた後、またこの場所で秋葉は一日の終わりを迎える。
 遠野志貴の私室。
 既に、志貴本人は眠っている。
 明かりはつけていない。志貴を起こすのはまずい。
 このときだけ、志貴の包帯は取り外される。
 こうして寝顔を見ると――やはり、違いが顕著に見てとれる。
 五年前と今との違い。
 あの時は、ただ綺麗だと思った、志貴の寝姿。
 今は――綺麗すぎた。
 まるで死んでいるよう――。
 以前はまだ、志貴が生きているのだと確かめて安堵することができた。今は、確かめてもなお安心できない。
 倒れてからは、ずっとこうだ。
 それにやはり、気配の違い。昔はこうまで、死を想起させはしなかった。
 こうして穏やか過ぎる寝顔を眺めている今も、遠野秋葉の背筋にはぞくぞくと間断無く小さな震えが走る。

 秋葉の心中は複雑だ。
 確かに、これは怖い。逃げ出せるのなら、それは楽な道ではあるのだろう。
 そして同時にこうも思う。
 殺されるのなら、この人の手にかかりたい。
 それは、五年前に抱いた願いでもあった。
 今は立場が違う――自らの異能に苦しんでいるのは、遠野志貴のほうだ。
 そして、翡翠のこと。
 自分以外の女性を抱くことを拒んだという志貴――その想いは正直、秋葉にとって、苦しいくらいに嬉しかった。
 だが、それを拒むということは、やはり回復までは遠回りを選ぶということで。
 この男のことだ。それでもいい、と納得済みでの選択だろう。
 遠野秋葉に操を立てるため、自らの命を削ってもいいと考えているのだ。
 それは、志貴の回復が遅れるということで――やはり哀しい。
 だが嬉しい。悦ばしい。
 兄をそこまで自分のものに出来ているのだという背徳的な満足感と優越感が、背筋を駆け上がる。
 出来ることなら、このままずっと、この人を閉じ込めてはおけないだろうか。
 この家で、ずっと……我が儘な兄と一緒に、最期の時まで。
 それはあまりにも甘美な誘惑。想像しただけで、目眩を覚える。
 勿論、そんなことは許されないと秋葉はわかっているし――それを本当に望んではいない自分が胸の中にいることも知っている。
 だがやはりそれは、あまりに甘く、そして現実的に思える連想だった。
 遠野志貴の状況は、それほどに抜き差しならないのだから。

 一方で、こうも考える。
 この人と有間都古を会わせて、本当に良いものだろうか。
 個人的に、秋葉には思うところもある。
 秋葉が会えなかった八年間、遠野志貴の妹だった少女。そこに、嫉妬心が無いと言えば嘘になる。
 だが、だからこそ共感もある。会えないというのは、辛い。
 だが、会わせてどうなるのか――そして、会わせても大丈夫なのか――
 きっと大丈夫だ、と希望を口にしたのは翡翠だった。
 確かに、と思う。あの時の都古の言葉、そして目……今までに秋葉が踏み潰して来た有象無象どもとは違う、強いものだった。それは、面と向かっていた秋葉が一番よく知っている。
 だがそれでも。この志貴を目の前にすると、躊躇われる。
 何よりも怖いのは。
 都古が傷ついたと志貴に悟られた時、志貴がどう思うかだ。
 そうだ、心も癒さなければならないというが、それで志貴が傷ついたら。いや、傷つかなくとも、それでまた達観してしまったら――これでいい、と志貴が納得してしまったらどうするのか。
 そのときこそ、志貴は自分がそうで在ることを納得し、目を治そうとするのを諦めはしないだろうか。
 それは、絶望にひどく近しい諦観だ――今の志貴には似つかわしくて、秋葉はそれを思うとまた胸が苦しくなる。

 昏い夜。雲に覆われて、月明かりは届かない。
 最愛の人の寝姿を前に、秋葉は一人、懊悩する。
 はっきりした答えは、まだ出そうにない。

155[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](7/12):2006/08/20(日) 00:55:09 ID:2558/kwY



 /



 翌朝のこと。

「おはよう、みんな」
「え!?」
「し、志貴さん――?」
「…………」
 志貴が居間に入ると同時、秋葉と琥珀、同時に驚きの声を上げた。
 ただ一人、志貴の背後に付き従っている翡翠だけは平静だが――それは、志貴と一緒に現れたから、というだけの話。

「ちょ、ちょっと琥珀、今何時よ?」
「え、その……六時、ですね……ええ、間違いありません!」
「そんな……兄さん、大丈夫なんですか!? こんな早くに起きてこないといけない、切羽詰まった事情でもあったのですか!?」
「秋葉、おまえね……ちょっと早起きしただけだろ?」
 大げさに驚いてみせる秋葉に、杖を片手におどける志貴。
 だが、そう反応されるのも仕方の無いことだろう。今までが今までだったのだ。

「翡翠ちゃん……本当に志貴さん、大丈夫なの?」
「顔色は昨日にもまして良好、足取りもしっかりしておいでです、目は依然としてそのままですが……今日は、気分が良いのだそうです」
 本来なら、喜ばしい変化だ。
 だが、こうもいきなり、健康だった頃でさえ稀だった「早起き」などされては、逆に心配にもなるというもの。

「本当に、本当に大丈夫なんですか兄さん? どこか無理をなさっていたりは――」
「大げさだな、秋葉。心配無いって、そんな理由も無しに無茶をやったりしないから」
「そ、そうですね……すいません、取り乱しました」
「まあ、秋葉はいつもがガチガチだから、それくらいでちょうどいいさ。それより」
「はい、なんですか、兄さん?」
「朝食、まだだろ? 久しぶりに、一緒に食べようか」
「あ……は、はい。そうですね、ご一緒しましょう」
 嬉しそうな秋葉。それを見て、やはり嬉しそうな志貴。
 志貴の目にはやはり包帯が巻かれたままだが――それでも、二人は以前のままの恋人同士に見えた。
 秋葉はらしくもなく、安直にこう考える。
 今日は、何かいいことが起きるかも知れない。

156[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](8/12):2006/08/20(日) 00:56:03 ID:2558/kwY



 /



 朝食を二人で済ませて、茶を嗜む。秋葉は紅茶、志貴は梅昆布茶。そして翡翠と琥珀も同席する――きっと、志貴もそう望んでいるから。
 今日は、窓から入る陽光が昨日よりも強い。暑くなりそうだ。

「――へぇ。じゃあ今日は秋葉、いつもよりも時間が空いてるんだ?」
「ええ、元々、今日は土曜日ですから――企業体を一つの軸としている遠野家としては、やはり少しは時間を取れますね」
「そうか――いや、やっぱりここのところ忙しそうだったからさ、特に去年くらいからだったかな」
「ご心配には及びません、その程度で体調を崩すようでは、遠野家当主は務まりませんから」
 穏やかな茶会――ゆったりとした時間。いつになってもどんな状況でも、この空間は心地良い。
 ただし、今の発言は半分は偽り。
 普段より余裕があるというのは本当だがそれに加えて、志貴の調子がいいと聞いた秋葉が、外出する類の仕事をキャンセルしてしまったせいだ――重要度の低い用事ばかりだったから良かったものの。
 公私混同甚だしいが、当の秋葉は平気な顔。本人の中で、優先順位がはっきりしているからだろう。

「――琥珀、そろそろ支度をします。いいわね?」
「はい、秋葉さま」
「って、あれ。仕事が無いって、今言ったばかりじゃなかったか?」
「無いとまでは言っていません、ただ、外に出る用事が無いだけです」
「志貴さん、秋葉さまのお気持ちも察してあげてくださいな。面倒な仕事は早めに済ませて、午後からの志貴さんとの甘いひと時を過ごされたいという――」
「無駄口はやめなさい、行くわよ」
 琥珀の冷やかしを封じて居間を出る秋葉。態度からして、照れ隠しであることが知れた。慌てて琥珀も後に続く。
 きっとそのまま、秋葉の部屋か、もしくは書斎に入るのだろう。
 それを見届けてから、翡翠が動いた。手早くお茶の食器一式をまとめ、手伝おうかという志貴を制し、そのまま厨房へと入る。
 手早く食器を片付けて戻ってくると、手持ち無沙汰そうにしている志貴が待っている。

「お待たせしました、志貴さま。今日はどうされますか?」
「翡翠は? 他に仕事はないの?」
「それは勿論ありますが……志貴さまが昼から秋葉さまと過ごされるのであれば、その間にでも、と」
「そっか」
「やはり、ひとまずはお部屋に戻られますか? それとも、もう少しここに?」
「ん……いやさ、それなんだけど……今日はほら、調子がいいんだよな。翡翠もそれはわかってくれただろ?」
 奥歯に物が挟まったような口振りの志貴。
 翡翠が、困ったような顔になった――何か勘付いたか。

「あまり困ったことばかり言わないでください志貴さま」
「……まだ何も言ってないんだけど」
「わかります。志貴さまは、それで相手が困るということをわかっておられるのに、それでも我が儘を言うのです。そうして、言葉にしてしまうともう、こちらが何を言っても聞かないのです」
 言葉は丁寧だが、まるで駄々っ子を宥める母親のような勢いである。志貴としては、苦笑するしかない。
 ――包帯のせいで目元はわからないが、それでもこの状況で口元さえ見えれば、志貴は苦笑していると翡翠にはわかる。きっと、秋葉にも琥珀にもわかるはずだ。

「ですから志貴さま、まずはその思いつきでの発言を封じさせていただきます――それでも言葉にしたいと言うのであれば、どうぞ」
「……前にもまして厳しくなったよな、翡翠」
「全て志貴さまのお陰です」
「言うようになったなぁ」
「何故……そこで嬉しそうにするのですか」
「いや、やっぱり、そういう風に言ってもらえるっていうのは嬉しいと思うよ。ありがとうな、翡翠」
 なるほど、と翡翠は感慨めいたものを覚えた。琥珀が震えた理由が実感としてわかる。
 こういう何でもないことを感謝されてしまうと、逆に困ってしまう。感情が揺らぐのも無理は無いだろう。
 だいたい、翡翠がこういう風になったのは、他ならぬこの男のせいだ。それを、この男はこんな風に礼を言う。
 やはり極悪人だ、と一人ごちた。

「ん、何か言った、翡翠?」
「いえ、何も。それで、どうしますか志貴さま」
「あの……今、したいことを封じられたところなんですけど」
「勿論その上でお聞きしているのです」
「そっか……うん、そうだな……うーん」
 考え込む志貴。それを見て、また翡翠はやはり、と思う。
 先ほどの思いつきに執着があるから、悩むのだ――封じられてなお、その思いつきが素晴らしいものだという考えを捨て切れていない。
 滅多に我が儘を言わないのに、言い出すと聞かない。わかってはいるものの、本当にたちが悪い。

157[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](9/12):2006/08/20(日) 00:57:42 ID:2558/kwY

「やっぱりさ、翡翠、その……」
「……はい、何でしょうか志貴さま」
 小さく、溜め息を吐きながら応える翡翠。
 言葉にされれば、もうやることは一つ――黙って、この困り者の主についていくだけだ。
 気分はもう、諦めの境地だった。



 /



 志貴が我が儘を言い出した頃、秋葉と琥珀は自室でも書斎でもない場所にいた。
 それどころか邸内ですらない。森の木陰にひっそりと建っている和風建築――離れの屋敷だ。
 木陰が強い陽射しを遮り、ここはまるで秋に入ったかのように涼しい。
 そんな離れに夏を告げるのは、かすかな木漏れ日と、うるさいくらいの蝉の鳴き声。
 その離れの中、かつてのように、琥珀がはだけていた着物を調えている。
 その脇で、秋葉は膝をついたまま、ただぼうっとしている。

「秋葉さま、お布団をしまいますので……」
「……ええ、お願い、琥珀」
 敷かれていた布団から身をずらした。応える声も、やや力が無い。
 目的がどうあれ、秋葉にとって、やはりそれは甘美なひと時なのだ。
 長年連れ添った感応能力者、琥珀の血。
 勿論のこと、通常の場合は、彼女から直接血を吸う必要は無い。秋葉の嗜好を満たすためであれば、外から取り寄せた医療用の血で充分である。
 それもこれも、志貴の助けとなるため――

「……大丈夫ですか、秋葉さま」
「ええ、その……少し、酔ったようね。やっぱり――血を飲むこと、そのものには慣れたつもりだったのだけれど」
 あなたの血は濃いのよね、とうろんな顔でつぶやく秋葉。
 ――かつてと同じ状況に、琥珀の胸がざわつく。
 あの五年前の時も、琥珀は自分の血を秋葉に与えていた。遠野家を陥れるという、自身の目的のために。
 今はその考えも改まり、秋葉たちと共に生きていきたいと思うようになったが――だからこそ、こうして昔を思い起こす光景を見ると、否応無しに辛くなる。

「秋葉さま……お着替えを用意しています、どうか」
 琥珀の手を借りて、汚れた服を着替える。
 こういう時、不謹慎ながらも、志貴が盲目で助かったと思ってしまう――いかに感覚が頭抜けていても、服の違いまでは気配ではわかるまい。
 ならば、知らぬ顔をしていれば、不審に思われることも無い――事実、今までにそういった風に勘繰られはしなかった。
 ……あるいは、気付いていて、志貴も何も言わないのかも知れない。

「秋葉さま……わたしから、こんなことを言えた義理では無いのですけど」
「なら黙りなさい――そろそろ耳に蛸が出来そうだわ。血を貰った後は、いつもそれじゃない」
「それでも、言わずにはいられません……ご無理だけはなさらないでください」
 必ずそれを言う――と言うより、それしか言えないのだ。
 秋葉が本気で決めたことだから、琥珀にはそれを止められない。
 志貴の助けとなること、そのために異能を使うこと、琥珀の手を借りること――全て覚悟は済んでいる。
 だから琥珀は、ささやかな助力しか出来ない――本人はそう思っている。
 志貴と秋葉の食事に注意を払い、薬の世話をし、秋葉に血を与え、それでも秋葉が過ぎた負担を負わないよう、頻繁に注意を促す。また、秋葉の他の用事においても、何とか力になろうとしている。
 それだけで、秋葉からすれば充分に思えるというのに、琥珀本人にはそうは思えないのだ。

158[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](10/12):2006/08/20(日) 00:59:23 ID:2558/kwY

「あら?」
「……ちょっと琥珀? まさかあなた、また」
「あ、あはー、申し訳ありません、便利なもので」
 琥珀が唐突に、胸元を押さえていた。
 言い訳をしつつ、懐から取り出したのは、携帯電話だ。
 この古風な屋敷では美観を損ねるから極力使わないように、と秋葉は再三注意しているのだが、たまにこういうことがある――確かに、秋葉もそれを持たないわけではないが、屋敷内では電源を切っているというのに。

「はい、もしもし……え、翡翠ちゃん? うん、うん大丈夫よ……えぇ?」
 素っ頓狂な声を上げる琥珀。どうやら、翡翠が屋敷の電話からかけてきたようだ――滅多に屋敷を出ない翡翠は、確か携帯電話を持っていないはずだ。
 琥珀が応対している間に、秋葉は深く息を吸う。
 森の中、陰に囲まれた離れの空気は、夏とは思えない涼しさだ。畳の匂いが気持ちがいい。
 先ほどよりは気分が落ち着いたか、と思ったところに、琥珀が声をかけた。

「あはー、すいません秋葉さま、ちょっとお先に本館のほうに失礼していいでしょうか?」
「……大丈夫よ、自室に戻るくらいは何とでもなります、一緒に戻りましょう――それで、どういうこと?」
 どうして翡翠からの電話で、急に戻る用が出来るのか、という問いだ。
 訊ねてから気付く。琥珀の笑顔が、困ったように眉が潜められている――間違いない、志貴絡みだ。

「それが、志貴さんが……外を歩きたいと」
「まさか。翡翠がそれを許したって言うの!?」
「ああいえそうでなく、外と言っても敷地内――庭園や中庭のほうだそうです。それで、翡翠ちゃんもご一緒するそうですから、屋敷のほうの留守番にわたしがいないと……」
「そう、わかりました……戻りましょう、琥珀。わたしも行きます」
「そうですね、考えてみれば、志貴さんが外を歩いている時にばったり、というのもまずそうですし」
 身支度をすっかり整えた秋葉が立ち上がり、琥珀を伴って離れを出る。
 暑い中、屋敷に戻るのが、少しだけ煩わしかったのは――あの時と同じように、志貴に黙ってこんなことをしている後ろめたさからだろうか。



 /



「なんかこうやって外を出歩いてると、夏なんだなって実感するな」
「……志貴さま、暑いのでしたら、やはり無理をされるのは」
「あ、それは大丈夫。昔から貧血は持ってるからさ、日射病にならない工夫は知ってるんだ」
「志貴さまの貧血はいつも唐突です。念を押すに越したことはありませんから」
 穏やかな声で話しながら、森の中を歩く。
 ゆっくりとした歩調、しっかりとした足取り。
 この時間を安らかな気持ちで楽しみながら、二人は蝉時雨の只中を歩く。

「翡翠はどうだ、暑くないか? もしきつそうなら、無理をしないように――」
「志貴さま、わたしはこれでも、長年ここに勤め続けた使用人です。志貴さまの後ろにつき従う程度、どうということはありません」
「……そっか。ならいいんだけどさ」
 歩きながら翡翠は思う――志貴は、この森であったことを、既に割り切っているのだろう。
 五年前――この森で、四季と殺しあったこと。そして、秋葉に命を返したこと。
 さらに八つ数えて十三年前、その四季に、やはり殺されて――秋葉に命を助けてもらったこと。
 今の志貴は、全て憶えているはずで。
 それでも、志貴はこの森を懐かしそうに眺めながら歩くのだ。

「どうしますか、志貴さま。このまま離れに向かいますか?」
「そうだな……とりあえず、寄るだけ寄ろう。だけど中には入らず、見るだけにしておくよ」
「その後で、屋敷に戻りますか?」
「屋根の下に戻るかどうかは、離れを見た後で決めるよ……行こうか、翡翠」
 使いもしない杖を片手に、志貴は危なげなく歩く。翡翠もその後に従順についていく。
 あの十三年前の子供の頃とは、志貴と翡翠、ついて行くほうと先を行くほうが逆だけれど――それでも二人で歩いていると、昔のことが思い出される。
 それも含めて、やはりこの森は、二人にとって懐かしかった。

159[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](11/12):2006/08/20(日) 01:02:36 ID:2558/kwY



 /



 さて、翡翠が志貴について行っている以上、来客への応対は琥珀の仕事になる。

「え、えーと……」
「お、お願いしますっ! お兄ちゃんに、会わせてください!」
「都古さま、その手に持っているのは何ですか?」
「スイカだよ!」
「はあ、スイカですか」
 阿呆みたいに繰り返す琥珀。
 とは言え、彼女からしてみれば、呆れもする。
 琥珀は昨日、秋葉が都古を追い返したところを見ている――あの時の都古は、泣き出さんばかりの悲壮さを伴っていたはずだ。
 確かに。端から見ていても、弱いばかりの少女では無いというのはわかったし、そのことは翡翠からも昨日の夜に確認した。
 だが、まさかその翌日に、何も懲りていないどころか昨日にも増して元気に満ち満ちた表情で。
 しかも持ってきたのはスイカ。
 さすがに。琥珀と言えど、予想は出来なかっただろう。

「都古さま、一つ確認させてもらってもよろしいですか?」
「な、なに?」
「えっと……どうして、スイカなんです?」
「毎年お兄ちゃんと食べてたから。また食べたいって思ったから」
「あ、あのー……志貴さんのご容態がまだ安定していませんので、食べ物は出来ればご遠慮してほしいって、聞いていませんでした?」
 だからこそ、見舞いの品に花が多くなった――そう、琥珀は翡翠から聞いているのだが。
 実は、琥珀は都古に応対するのは初めてだった。その初めてがこのように特殊な状況では、戸惑いもする。

「聞いてます!」
 だから、そこで元気に返されても困る。

「聞いてるのに、スイカですか?」
「そうです」
「ど、どうしてですか?」
「お兄ちゃんと一緒に食べたいから」
 駄目だ会話になってない。
 翡翠はどうやって、こんな難物を相手取っていたのだろうか……いやそうじゃない、以前はここまで意固地では無かったはずだ。
 それほど、スイカに思い入れでもあるのか。
 それに琥珀には、もう一つ気になることがある。

「あの、都古さま」
「な、なに?」
「どうしてそんなに、離れてるんですか?」
 そう、応対に出た琥珀に対し、何故か都古は距離を取っていた。
 琥珀が近づくと都古が下がる。そうして、付かず離れずの一定の距離を保っている。

「こ、琥珀が出てくるなんて思わなかったから」
「わ、わたしが出るとそんなに距離を取るんですか?」
「だ、だって、お兄ちゃんから聞いたんだもん! その……うぅ」
 じりじりと警戒しながら、スイカを胸に抱いてそんなことを言う。
 さすがにその発言には、琥珀の眉根が寄った。これは、後で志貴に問い詰めねばなるまい。

「えと、話を戻しますね……お見舞いに来てくださったのは嬉しいですけど、やっぱりそちらのスイカはちょっと……」
「でも、お兄ちゃんはもう、そんなに重症じゃないと思うよ。たくさんは食べられなくても、ちょっとはスイカくらい食べられるんじゃないの?」
「……どうしてそう思うんです?」
 何も知らないくせに、と言いたいところを抑えて、琥珀が訊ねる。
 琥珀の苛立ちには気付かないまま、都古は聞いたままを答えた。

「お兄ちゃんに聞いたの」
「……志貴さんに? いつ、会ったんですか?」
「昔、四年くらい前?」
「ああ」
 秋葉に警告をもらう前のことか……しかし何を聞いたと言うのだろう。

「琥珀は困った人だけど、とっても頼りになる人だって。お兄ちゃんの体も、琥珀のお陰で持ってるって」
「…………」
「だから、お兄ちゃんがダウンしたのが三ヶ月前なら、きっともう少しは良くなってると思う。そうでないほどひどい病気だったら、やっぱり入院すると思うもん!」
 なるほど、と琥珀も思う。稚拙だが、案外に筋道が通っている。
 まるで考え無し、というわけでもないのか。

160[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 中篇](12/12):2006/08/20(日) 01:04:45 ID:2558/kwY

「だから……その」
「確認します……都古さまは、志貴さんのお見舞いに、スイカを持ってきて、それをご一緒したいと」
「うん」
「都古さまは、志貴さんのお体は既に、食事を普通に取る程度には治っていると思っている」
「……うん」
「わたしたち遠野本家は、そうそう簡単には他の人を志貴さんに会わせるわけには行かない――それも、わかってます?」
「……はい、わかってます」
「じゃあ、どういうつもりです?」
「どういうも、こういうもないです」
 妙な答えに、琥珀は訝しく思う。
 次に応えた都古の言葉は理屈に適わぬものだった。

「つべこべ言っちゃ、嫌です。あたしはお兄ちゃんに会えるまでここに通い続けます」
「……ごり押しですか? 遠野本家に?」
「そうは言いません……お願いを、しています。あたしは不器用で無力だけど、この気持ちだけは変えられないから」
「せめて、本家の情けにすがろうということですか?」
「そう思ってもらってもいいです……でもきっと、それが叶うまでは、何度でもお願いします」
「志貴さんのお体のほうが、先に治っちゃうかも知れませんよ? そうしたら、お願いしたこと、全部無価値ですよ?」
「それはそれで、お兄ちゃんに会えるようになるはずだから――大丈夫、です!」
 そこで、間が空いた。
 静かに都古を見つめる琥珀、琥珀を睨みつける都古。
 都古の思いは、確かに稚拙なのかも知れないが。
 なるほど、これを強いと評した翡翠の気持ちが、ようやくわかったかも知れない。

「都古さま、聞いてください……遠野本家は――秋葉さまはやはり、ご自分からは、それを認められません」
「っ……待ちます。何度でもお願いします」
「ですから、都古さま?」
「!?」
 何か予感でも覚えたか。都古が琥珀から、さらに二歩ほど距離を開いた。
 そんなに警戒しなくても、と思う一方で、勘も鋭いのかな、と感心もする。
 それを告げる前に、都古には悟られないよう、深く呼吸する。
 だって、それを実行すれば、確実に変化が訪れる。そして、それが良いものか悪いものかはわからないのだ。
 琥珀は考える。
 自分にとって大切なこと、大切な人のこと。
 自分が信じられること、信じている人のこと。
 それらを優先するなら、やはりやることは一つしかなくて。
 たとえそれに、絶対の自信をおけなくても――そこは、どうしてもいつか踏み出すしかないのだ。

「都古さま、ここは一つ、わたしにお願いしてみてはくださいませんか?」
「こ、琥珀に?」
「そうです。わたしはきっと、都古さまに協力してあげられます」
「……ほんと?」
「ええ。そうしていただければ――きっと、全ては良いように動きます」
 そんな保証は無い。だが琥珀は嘘をつく。
 二枚舌の魔女は虚言を弄し、いたいけな少女をたぶらかす。
 信じると決めたから。大切にすると決めたから。
 志貴を。翡翠を。秋葉を。そして、有間都古を。

「……っ、お、お願い、しますっ!」
 やがて、琥珀の問いを受けて。
 都古はおっかなびっくりで、それでも元気に頷いた。

161[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事]:2006/08/20(日) 01:08:18 ID:2558/kwY
今回はここまで。あと一回だけ続きます。長々と申し訳ない。
あと一応、前編読んでない人はこちら>>130-143

162[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](1/13):2006/08/20(日) 22:58:12 ID:2558/kwY
 そうして。
 秋葉のあずかり知らぬところで、事態は動いた。

「あれ。あの子は――?」
 最初に気付いたのは、志貴だった。
 散歩中、森を抜けて中庭にさしかかったところで、屋敷の窓のほうを向いたのだ。
 中庭はテラスになっており、窓から自由に出入り可能だ。
 だが、翡翠と志貴がそこに来た時、中庭には他に誰もいなかった。だから、翡翠は最初、志貴が何に気を取られたのかわからなかった。

 スイカを抱えた少女が転がるように飛び出してきたのは、次の瞬間だった。

「え……?」
 突然の事態に、翡翠は理解が追いつかない。
 だが、見るとテラスの窓の向こうには、琥珀が取り付いていた。
 窓を開けたのが琥珀で、出てきたのは都古。
 つまり、琥珀が通したということ。

「そんな!? 姉さん、どうして――」
 考えるまでもない。招き入れたのだ、都古を志貴に会わせるために。
 思えば、志貴と会わせることに一番に賛同したのは翡翠だった。
 その形だけ見れば、翡翠の願いを琥珀が叶えた形になる――が、しかし。
 本当にこれでいいのか、とも思う。
 そんな思いとは裏腹に、既に事態は始まっている。

「っとぉ、とっと」
 たたらを踏んで、何とか踏ん張る都古。外に出る際、勢い余って転びかけたらしい。
 ついで、後ろにいるはずの琥珀に振り返ろうとした――きっと、志貴の居場所を聞こうとしたのだろう。
 そして気付いた。
 今の志貴に、気付かないほうがおかしい。
 距離にして、都古の歩幅で、だいたい二十歩分。
 そこに。

「あっ、お――」
 お兄ちゃん、と呼びかけたところで、言葉が噤まれる。
 都古が目を向けた先。
 目に巻かれた包帯が、異様に痛々しいが――そこではなく、もっと深刻な問題がある。
 都古が兄と呼ぼうとしたそれは。
 死の象徴とでも言うべきものだった。

「ぁ、――……」
 死を想起する。
 声が、出ない。
 体が動かない。
 指先から全身に震えが伝わり、その後で寒気を覚えていると気付く。
 息が詰まって、脳に酸素が行き渡らなくなる――思考が回らない。
 目の前が暗くなる。目の前のそれを受け入れきれず、拒絶してしまいそうになる。
 この健全に、大事に育てられたであろう少女には、何と過酷なことか。

「都古、ちゃん……?」
「っ!」
 志貴が名前を呼んだ。
 それだけで、都古は思い出した。
 あれはお兄ちゃんだ。

「――お兄、ちゃん」
 何とかその一言だけ、肺から搾り出した。
 それが、彼女に僅かばかりの力を与える。
 一歩、踏み出した。
 勢い余って、足の裏が痛い。
 その痛みを覚えた後で、大きく息を吸い込んだ。

「お兄ちゃん」
 もう一度、呼んだ。
 もう一歩、進んだ。
 頭の中に少しだけ残っていた冷静な部分が、残酷な現実を突きつけた。残りの距離、都古の歩幅で十八歩分。

「そんな――」
 十八歩。あまりの遠さに目眩がした。
 その弱気が隙になる。
 死んだ。連想によって、また一瞬だけ心が死んだ。

「う、いやぁあ……!」
 ぶんぶんと頭を振って、妄想を追い払う。
 都古は認めない。
 自分が死んだだなんて認めない。
 ましてや、その原因が志貴だなんて信じない。

「都古ちゃん、止すんだ――」
 志貴の気遣いの声が聞こえた。それだけで嬉しくて、都古はまた頭を上げた。
 なのに、志貴を視界に入れた瞬間に、また明確にそれを突きつけられる。
 嫌だ。
 今度は志貴を視界に入れたまま、都古はやぶ睨みの形相になる。
 睨むのは志貴自身ではない、その向こうの死だ。

163[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](2/13):2006/08/20(日) 22:59:30 ID:2558/kwY

「都古、ちゃん……」
 志貴が哀しげな声を上げる。
 気付いたのだ。自分がどれほどの脅威となっているのかを。
 名前を呼ぶだけなら、まだいいらしい。しかし。
 もしも、具体的な言葉をかけたら。
 ましてや自分から歩み寄るなど、もっての他だ。
 志貴が何かをするだけで、おそらく都古は本当にどうにかなってしまう。

「――やぁあああぁあ!!」
 掛け声と同時、都古はがむしゃらに駆け出した。
 時間をかけるほどに辛いということにようやく気付いた。
 走る。三歩目、四歩目、五歩六歩七歩。
 もっと速く。体を必死で動かす。きっと今の都古は、今までの人生の中で一番頑張っている。
 なのに。
 ――どうして!
 体が思うように動かない。
 手足に絡み付く何かを、振り払えない。
 一歩一歩が、普通に歩くよりも遅く感じる。
 まるで泥沼だ。体中が、死の沼に囚われたよう。
 だけど体中のソレまで相手にしていては、きっと何もかも間に合わない。
 だから都古は、志貴の向こうのそれだけを睨みつけ、ひたすらまっすぐに進む。

「まだ――」
 何歩分の距離を詰めただろう。
 遠近感がおかしい。景色がぐにゃぐにゃとねじれる。目がいかれたらしい。
 なんだ、じゃあお兄ちゃんとお揃いだ――都古の思考は既に常軌を逸脱している。
 もはや惰性と意地だけで体を動かす。
 鈍く重い都古の脚は、それでもまた一歩だけ前に進む。

「お兄ちゃん――お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
 いつもの元気など、疾うに失せている。今はそれでも、うわごとのように繰り返す。
 肺の空気を全て使い尽くしてでも、それを呼び続ける。
 自分さえ曖昧なこの場所で、他に縋れるものが無いから。

「お兄ちゃん……」
 最後の一声を吐き出した。
 肺が完全に、からっぽになった感覚。
 頭はぼうっとして思考は定まらず、手足の感覚も当てにならない。
 それなのに。

「都古ちゃん」
「――――!」
 呼びかけられる声で、気付いた。
 すぐ近くに、お兄ちゃんがいる。
 あと二歩? 一歩? もしかしたら半歩――すぐそこに。
 顔を上げないと。
 目を開けないと。
 あとほんの少しの距離を――踏み出さないと。

「か、は……!」
 呼吸など絶え果てた状態で。
 それでも。
 強く、一歩を踏んだ。
 恐らく、周囲に響いただろう――その足音が、一番力強かった。
 都古は、まだ満足しない。
 さあ、顔をあげないと。
 会いたかった人はすぐそこだから。いつものように――そうだ、以前はどうしていた?
 そうそう、両手を広げて、それで力一杯に飛びついて――


「あ」


 使い方を忘れた声帯から、声が出た気がした。
 都古の両手。
 塞がっている。
 大きなスイカを、まだ両手で抱えていた。
 なんだ、と都古は思った。
 最初に志貴と会った瞬間から、あれだけ頼りにしていたスイカのことを、すっかり失念していたのだ。
 そうか、自分はこんな局面で、それでもこれを大事に抱えて離さなかったのか。
 それを思い出した瞬間。

 首が千切れた、
 胸を穿たれた、
 手足が蝕まれた、
 腹を捌かれた、
 子宮をくり抜かれた、
 眼を抉られた、
 頭蓋から引きずり出された脳を踏み潰された。

 有間都古は、ありとあらゆる死を幻視した。

164[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](3/13):2006/08/20(日) 23:01:10 ID:2558/kwY



 /



 有間都古は、夢を見た。
 それは、自分以外の人が言葉を交わすだけの、音声だけの夢。
 意識はふわふわ、記憶は曖昧。
 頼れるものは、聴覚だけ。そういうルール、らしかった。

「都古さま……!」
「琥珀さん、お願いします、すぐに手当てを!」
「心得ています――翡翠ちゃん、運んで」
「琥珀さん、なら俺が」
「志貴さんは、宗玄先生に連絡を――電話は使えますね?」

 どたばたと、慌てている。
 声には覚えがあった。誰かと誰かとお兄ちゃんの声。
 そんなに泣きそうな声を出さないで、と言ってあげたかった。
 自分の夢なのに、自分だけが声を出せない。誰かとお兄ちゃんの声ばかり。

「姉さん、わたしは――」
「氷をお願い、熱が出てる……ショックによるものだけならいいんだけど」
「琥珀! この騒ぎはいったいどういう――」
「秋葉さま、後で聞きますので今は――」

 お兄ちゃんの声が聞こえなくなり、代わりに誰かが入ってきた。
 何て言ったっけ。よく憶えてるのに、うまく思い出せない。
 確か、すごく怖くて、だけどすごく真剣な人。

「……待ちなさい。その子は、熱を出しているのね?」
「秋葉さま!? いけません、そんなことに強い力を使うなんて――」
「そんなこととは随分ね、この子の一大事なんでしょう? なら安いものよ――略奪にこんな使い道があるなんて、考えてもみなかったけれど」

 誰かが、赤い何かを伸ばしたような気がした。
 いつもなら絶対に見えないはずの糸。
 そこを伝って、だんだんと気持ちがよくなっていく。

「これなら――秋葉さま、そろそろ大丈夫です……あとは、お薬ですね。お注射で何とか――」
「そう――時南先生はどうするの。帰ってもらう?」
「一応、診察してもらいます。針を打ってもらえば、もう心配はいらないですから」
「そうね――さて、琥珀?」
「は、はい?」
「きっちり説明してもらいますからね――?」

 気持ちいいことをしてくれた誰かが、誰かを叱り始めた。
 だんまりも嫌いだが、こういうのもあんまり好きじゃない。本人たちは声を落としているつもりみたいだけど――
 やっぱり嫌だな、と思ったら。
 音が一気に流れた。きゅるきゅると、音楽を早送りするときの音。
 あれ、と思ったら、全然違う声が聞こえてきた。

「都古ちゃん……」
「志貴さま、都古さまはもう大丈夫です。今は眠っておられるだけですから――」

 お兄ちゃんと誰かだ。いつのまに、近くに来たのだろうか。
 お兄ちゃんがいるのに、お兄ちゃんと話せない。少しだけ、気が急いた。

「俺のせい、かな」
「いいえ、志貴さま。わたしたちのせいです」
「どうして。翡翠は悪くない」
「願ったのはわたしで、叶えたのは姉さんです――志貴さま、すべてわたしたちのせいなんです」

 今度は少しだけ、腹が立った。
 お兄ちゃんも誰かも、自分のせいだなんて言い張っている。
 セキニンを感じるのはいいけど、それを自分だけのせいにするのは変だと思う。

「でも……俺はやっぱり、こうだった。普通の人とは、もう会っちゃ駄目なのかも知れない」
「志貴さまはお疲れになっておられます、都古さまはわたしが看ていますので、ひとまずお休みください」
「考えてみれば、翡翠も琥珀さんも、秋葉も、よく我慢してくれてたんだな……わかってたつもりだけど……だめだよな、俺」
「そんな風に言わないでください、わたしたちは自分で決めて、志貴さまの傍にいるのですから……!」

 そのとおりだ。誰かはいいことを言う。
 自分で決めて、お兄ちゃんに会いに来たんだから、そんな風に言うのは良くないと思う。

「志貴さま……お願いします、今は少し、落ち着いてください……」
「――そうだな。悪い、翡翠……」
「そうね。そんな弱気な人に看病は任せられないわね」
「あ、秋葉……?」

 あれ、と思う。さっき出て行ったはずの誰かがまた入ってきた。
 お兄ちゃんと、お兄ちゃんの傍にいるほうの誰かに会いに来たのかな。

165[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](4/13):2006/08/20(日) 23:04:00 ID:2558/kwY

「秋葉さま、これは――」
「いいわ、翡翠。話は聞きました……まったく、あなたたちは主人を差し置いて」
「違う、秋葉、翡翠たちじゃなくて、悪いのは――」
「黙ってください、兄さん。そんな根拠も無い弱音は聞きたくありません」
「根拠が無い、って」
「兄さんはただ、自分が悪いと思い込みたいだけです。人のせいにするより、そっちのほうが楽だから……これを弱気と言わずにどう言うんですか」
「う、それは……」
「いつもの兄さんなら、勝手なことをした琥珀をちゃんと叱って、反省させようとしたはずです。
 ――だから今は、ただ言われるとおりに休息を取って、さっさと自分を取り戻してください」

 ……すごい。やっぱりこの誰かはすごい。
 昨日会ったときもすごかったけど、改めて見てもすごいと思う。
 でも……ちょっと面白い。
 ダイサンシャとして見ると、この人は、こんなに気持ちいい人だったんだ。

「……申し訳ありません、秋葉さま」
「謝るのはまだ早いわ、翡翠。まだ何も終わってなんかいないんだから」
「あ、秋葉……? 何か、まだあるのか?」
「何を怯えているんですか兄さん、今、用があるのはあなたではありません」
「――お前、まさか」
「この子と話をします――目を覚ますまでは私が看ていますから、少し席を外していただけませんか?」



 /



 夢から覚めて。
 都古は、見知らぬ部屋のベッドに寝かされている。
 先ほどまで夢で見ていたのと同じ場所だったから、すぐにそれがわかった。
 おそらく来客用の部屋か何かだろうか、家具調度類は揃っているが、どこか生活臭が無い。

「――あら。思ったより早く目が覚めたわね」
 そして思っていたよりも近いところから聞こえた声にぎょっとして、上半身を跳ね上げた。
 横たわっていた寝台のすぐ横、遠野秋葉が悠然と微笑んでいる。

「ごきげんよう、都古さん。気分はいかが?」
「え、――お、おはようございます」
 とりあえず挨拶を返して、額に貼り付けてあった濡れタオルをひっぺがす。
 それを見て、都古は徐々に思い出す。今、看病されていたということ――そして、自分が倒れたのだということ。

「まだもう少し休んでいなさい、初めての人にあれは厳しいでしょうから」
「い――いいえ、大丈夫……です」
 ベッドに腰かけたまま、軽く頭を振り、膝の上の拳をぎゅっと握る。
 少し、だるさが残っているかも知れない、それと、空腹感も。

「……そう? まあ、顔色も戻っていますし――琥珀の言うとおり、ショックによる発熱だったのでしょうね」
 ふう、と安堵したように息をつく秋葉。
 それを見て、都古は妙な気分に捉われた。
 違和感――すぐに正体が知れた。

「あ、あの、遠野の――えっと、遠野、さん?」
「……名前で呼んでくださって結構です。秋葉と」
「秋葉さん……怒ってないんですか?」
「どうしてです?」
「だって、勝手にお兄ちゃんと会ったのに、あたし」
「ええ、琥珀から全部聞きました」
 一瞬だけ、秋葉の目が細められる。ぎくりと身を強張らせる都古。
 だがそれは、特に都古に対して憤ったというわけではなかったらしい。紡がれた言葉は柔らかかった。

「あなたはただ、遠野家の玄関で兄さんに会いたいと頼み込んでいただけです。確かに褒められたことではありませんが、それだけでは咎めるほどのことでもありません」
「で、でも」
「勝手にあなたと兄さんを引き合わせたのは琥珀の仕業。あなたはただ、遠野家の人間に許されたから、兄さんに会えたというだけの話――ほら、あなたが責任に感じることはどこにも無いでしょう?」
「……そうだ、お兄ちゃん……!」
 都古はようやっと思い出す。あの時の志貴の異様な気配。

「お兄ちゃんは、大丈夫なんですか!?」
「――――」
「あんな――普通じゃないです! よくわかんないけど、変だったもん! 気持ち悪いっていうか、怖いっていうか――」
「…………」
「それに……目が! そうだよ、どうして包帯なんて! お兄ちゃん昔は眼鏡かけてたけど、目の病気だったんですか!?」
 慌てたままで志貴を案じる都古。出てくる言葉は支離滅裂。
 秋葉は、そんな都古の様子をじっと見ている。

「そうだよ――ひょっとして、お兄ちゃんは倒れてからずっと、あの気持ち悪いのと戦ってるの!?」
「……どうしてそう思うの?」
「だって! お兄ちゃんを見たらあれがいっぱいになって――お兄ちゃんの周りにずっとあれがあるのなら、そんなのって」
 言って、身震いする。具体的に思い出したか。
 だが、震えながらも都古が今一番に案じているのは、自分の身ではなく志貴のこと。
 それを確かめて、秋葉は淡々と口を開いた。

166[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](5/13):2006/08/20(日) 23:05:12 ID:2558/kwY

「あなたが体験したのは、死です」
「死……?」
「そう。人は必ず死ぬ、人だけでなく生き物は皆死ぬし、無生物でさえ壊れたり朽ち果てたりします――死とは、それです」
 秋葉の説明は、都古には少しわかりにくかったが、ただ、死というその言葉だけはよくわかった。
 あの説明しづらい恐ろしいモノには、とてもしっくり来る言葉だと都古は思う。

「そしてあなたが言う通り、兄さんは今、その死と戦っています」
「――――!」
「それは、誰にも理解できない、兄さんだけの戦いで――わたしたちはただ、微力ながら手助けすることしかできません」
「そ、そんな……」
「都古さん、あなたは、遠野家を恨みますか?」
「? どうして?」
 飛躍した話についていけず、都古が疑問を口にする。
 だが秋葉が次に口にした内容には、さすがに息を飲んだ。

「兄さんの死が強くなったのは、私たちのせいだからです」
「え……」
「詳しくは伏せますが、五年前と十三年前に、兄さんは生死の境をさまよったことがあるんです。他にも色々ありますが……その二つが大きいでしょうね。そして遠野家は、まさにその二つの当事者でした」
「…………」
「なのに、わたしたちに今できることは、兄さんの負担を少しずつ減らす程度でしかない――
 遠野家当主などと偉そうに名乗っておきながら、あなたのことも偉そうに追い返したくせに。結局、私は今もまだ、兄さんを助けてあげられていないんです」
 無力な自分が辛いのか。秋葉の表情が歪む。
 都古は話の内容以上に、それに驚いた。この人も、このような弱い顔をするのか。
 そして同時に、理解した。
 この人にこんな顔をさせるほどに、事態は深刻だということを。
 そしてそれほどに、この人が志貴を慕っているのだということを。

「あの……上手く言えないんですけどっ」
「構わないわ、言ってごらんなさい」
「さっき、夢を見たんです。声が聞こえる夢」
 言ってから、しまったと思った。これでは何だか危ない人みたいだ。
 だが、目の前の女性は気にすることもなく、じっと聞く姿勢になっている。
 ならばと開き直って、都古は全部話してしまうことにした。
 倒れている間のことが、夢として聞こえたということ。
 そしてそこで、志貴と翡翠が苦しんでいたということ。
 その原因が、都古が倒れたことにあるらしいということ。

「お兄ちゃんも翡翠も、自分のせいにばかりしようとしていました。それが、何だか嫌だった」
「…………」
「だって、お兄ちゃんに会いたいって思ったのはあたしなのに、それがお兄ちゃんや翡翠や琥珀のせいになるなんて――それも、あたしの知らない間にそんな風に決め付けるなんて、変だと思ったから」
「……なるほど、一理あるわね。それで?」
「あの……今の秋葉さんも、同じだと思うんです」
 言ってから、またしまったかなと思った。相手は遠野の親玉――さっきから失礼の連続かも知れないが、さすがに今のはまずくないだろうか。
 秋葉の顔色を伺うが、彼女は黙したまま、目でこちらの続きを促した。

「えーと……たぶんだけど、お兄ちゃんのことだから……そういう生死の境とかの事件、って言うんでしょうか」
「間違ってないわ。事件、とだけ考えておきなさい」
「その事件に首を突っ込んだのは、お兄ちゃんが自分で決めたことだと思う」
「…………」
「だから、それなのに、お兄ちゃんのことを秋葉さんがセキニンに感じるのは……あの時のお兄ちゃんたちとおんなじだと思います」
 言えた、と深く息をつく都古。
 秋葉は――無表情のままだ。その顔からは、何も読み取れない。
 いや、ただ一つ都古にもわかることがあった――この人は、ちゃんとこちらの話を聞いてくれた、ということだ。思いは伝わっている。

167[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](6/13):2006/08/20(日) 23:06:35 ID:2558/kwY

「……最後に、いくつかお聞きします」
「は、はい」
「まだ、兄さんに会いたいと思いますか?」
「――――」
 一瞬だけ言葉に詰まったのは、躊躇ったからではない。
 秋葉の声音が、今までで一番真剣だったから、その美しさに息を呑んだのだ。
 だが、呑まれてばかりもいられない。今問われたことは、都古にとっても大事なことだ。だから、胸を張って答えた。

「会いたいです!」
「そう。けれど……会えると思う?」
「――――やっぱり、お兄ちゃんと会うのは、駄目なの?」
「いいえ、そういう意味ではありません……そうですね、言い方を変えます。
 あの兄さんにもう一度会って、あなたはちゃんと正気を保てると思う?」
「…………」
 考える。あの志貴と会って。
 何しろ失神までしてしまったのだから、並大抵のことではないことはわかる。
 だが、とも思う。あの時、あそこまで追い詰められたのは、琥珀から何も聞かされてなかったからだ。
 言わば不意打ち。最初から心構えがあれば、まだ話は違う――と思う。

「……頑張ります」
「答えになってないわね。私は出来るかどうかと――」
「頑張り、ます!」
 理屈にならない、ただただ強い言葉。
 出来るかどうかはわからなくても、絶対にやってやると。
 そんな都古の様子に。一瞬だけだが、秋葉が目を見張った。

「――わかりました。私からは以上です――あなたはもう少し、ここで休んでいなさい」
「え? あ、あの……」
「すぐに呼びますから、少し時間を頂戴――よろしいですね?」
「は、はい」
 思わず頷いてしまった、という調子の都古。それを確認して、秋葉は立ち上がる。
 そのまま背を向け、もう用は無いとばかりに、部屋の扉に手をかけ――そのまま出て行ってしまった。
 残された都古は、少しだけ後悔する。

「お腹が空いてるんだけど……」
 もう少し、我慢しないといけないんだろうか。
 とりあえずベッドから出て、周囲を確かめる――靴はベッドの脇に置いてあった。
 そうして、驚いた。
 壁に掛かった時計は既に、昼の三時を指していた。

168[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](7/13):2006/08/20(日) 23:07:30 ID:2558/kwY



 /



「秋葉……! 都古ちゃんは、どうだった!?」
 秋葉が居間に戻ってくるなり、ソファに座らされていた志貴は立ち上がり、開口一番そう訊いた。

「大丈夫です、精神的な後遺症も見られません――何の問題もないでしょうね」
 それを聞いて、わずかに居間の空気が弛緩した。
 志貴のみならず、翡翠、それに手当てしたはずの琥珀も、都古を案じていたのだ。
 ちなみにだが、診察のために呼ばれた時南宗玄はもういない。診た時点で心配無しと踏んだのか、久しぶりに会う都古に挨拶もせずにさっさと帰ってしまった。

「あ……ありがとう、秋葉」
「――兄さん、何故私に礼を言うんです? 礼を言うべきは琥珀ではないのですか?」
「あ。いや、その」
「そう……琥珀、後で覚えてなさい」
「あ、あはー」
 おしゃべりめ、と秋葉は一睨み。
 志貴には、都古を手当てするために異能を使ったことは伏せておくつもりだったのだが。

「ところで兄さん」
「ん。なんだ、秋葉」
「頭は冷えましたか?」
「……たぶん」
 志貴の答えと共に、翡翠と琥珀が秋葉へと頷いた。見ている分にはもう問題無さそうだ、ということだろうか。

「そうですか――では兄さん、大事な話をします」
「――ああ」
 来たか、と志貴は身構える。
 覚悟していたことだ。どんな叱責を受けることか。
 せっかく、こうして環境を整えてもらっていたというのに、志貴は都古に会ってしまった。
 先ほどのように、自分のせいとばかり思い込んでいるわけでもないが、それでも志貴は責任を感じている。

「都古さんは、また兄さんに会いたいそうです」
「――――それは」
「そして私は、許可を出そうと思ってます」
「!?」
 志貴がみじろぎして、秋葉を凝視する――顔の包帯が無ければ、目を見開いていたことだろう。
 志貴が注意を秋葉に集中させることで、秋葉に向く彼の気配が大きくなる。
 だが――秋葉はそれを受け、微動だにしない。

「目を覚ました都古さんはしっかりした様子でした。そして、あれだけの事があっても、それでも兄さんに会いたいと言っているのです――兄さんは、その気持ちを踏みにじるの?」
「違う、問題は別のところにあるだろ! 今度も無事で済むなんて、そんなことは言えないんだぞ!」
「そんなこと、あの子は承知の上です」
 出来るか、と問われて、都古は質問その物には答えられなかった。
 だがそれでも、彼女は会うと、強く決めている。それが脅威だとわかっていても、だ。

「兄さん、後はあなたです」
「俺?」
「都古さんが会いたいと言いました。翡翠が会わせたいと願い、琥珀が会わせるために画策し、そして私が許可を出しました」
「……そんな」
「後はあなただけです。兄さんが、都古さんと会うと決められるかどうか」
 噛んで含めるように、志貴に言葉をかける。
 秋葉は本気だ。都古のために、全力でそれを応援している。
 そしておそらく、それが志貴のためにもなると信じていて。
 同時に、それが志貴のためになってほしいと願っている。

169[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](8/13):2006/08/20(日) 23:08:30 ID:2558/kwY

「確かに都古さんはまだ若いですけれど――五年前、あの時の私たちも、同じくらいの歳でしたよね?」
「けど、現に都古ちゃんは俺を見て」
「琥珀、説明なさい」
 秋葉に促され、琥珀が説明する。都古があの時、志貴の状態を何も聞かされていなかったこと。故に、あの時の出来事は不意打ちで――それでも彼女はあそこまで頑張ったということ。
 何故琥珀がそんなことをしたのか。それは、都古に志貴のありのままを知って欲しかったからだそうだ。
 確かに説明の難しい話ではある。実際に見ていない相手に何をどう言っても、納得してもらえたかどうか。
 だがそれでも、これは賭けだったと言える。ただ、そのときの琥珀は、負ける気はしていなかったと言う
 そうして、先ほどの秋葉の説明では、都古は正常に持ち直し、そしてもう一度志貴に会いたがっている。
 つまり、次に会うときは心の準備が出来ている。ならば。

「だいたい私たちだって、最初に兄さんを見たときは、さすがに驚きましたからね」
「そうですねー、翡翠ちゃんもわたしも、何がどうなってるのかさえ理解できずに震えちゃってましたっけ」
「……返す言葉もございません」
 そのときのことを思い出し、自嘲と苦笑交じりの笑みを見せる秋葉と琥珀。翡翠は恥じらって顔を背けている。
 しかし、三人の空気に重さは薄い。こうして大変だったときのことを思い出して、それでも彼女たちは笑うことが出来る。

「でも、それでも」
「しつこいですね……なら、当主権限を使わせていただきます」
「そんな、冗談言ってる場合じゃないだろ」
「残念ながら本気ですとも――兄さん、命令です」
 そして秋葉は、おかしなことを言った。

「都古さんの前では、その“死の気配”を抑えなさい」
「な、なんだって!?」
「抑えなさい、命令です。都古さんのためです」
「っ!」
 言葉に詰まる志貴。最後の一言が効いた。
 自分のためではなく、他の親しい誰かのため――
 今までもそうだったではないか。志貴はいつも、誰かを思って動いていた。
 ならば今回もという、志貴をよく知る秋葉の言葉。

「さあ、兄さん決めてください、時間など与えません、今すぐにです」
「……本気、みたいだな」
「もちろん、そう言ったじゃありませんか――では聞かせてください。都古さんともう一度会うか、それともこのまま追い返すのか」
 志貴を信じきった目で、秋葉は訊いた。
 その視線を受けて、そうして一度、諦めたように溜め息をついて――ようやく、志貴は答えた。

170[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](9/13):2006/08/20(日) 23:09:28 ID:2558/kwY


 /



「お待たせしました、都古さま」
「は、はい!」
 言われたとおりにじっと客室で待っていた都古を迎えに来たのは、秋葉ではなくて翡翠だった。
 時刻のほうは、長針が半分周り、午後三時半。

「あれ、秋葉……さんは?」
「都古さまをお待ちになっております」
「あたしを?」
「そうです……ですから、申し訳ありませんが、わたしの後についてきてもらえないでしょうか?」
「ど、どこに連れて行くの?」
「い、一応、黙っておくように言われております」
「いちおう?」
「姉さんが、その……こういう時は、その場所につくまでは隠しておくものだ、などとよくわからないことを」
「…………」
 そんなことを聞かされても、都古としては困るしかない。
 だがとりあえず、秋葉が待っていることには間違いないらしい。
 ならば、しょうがないというところだろうか――秋葉がまた会いたがっているということなら、また会っておくほうがいいんだろう。彼女は当主でもあるし。
 それに都古は、すでに昨日よりも、秋葉に対しては苦手が薄れているし、警戒心も解けている。
 あの夢のおかげか、それともさっき話したことで、ある程度わかりあえたような気がしているせいだろうか。

「うん、わかった。黙って翡翠についていけばいいんだね?」
「はい、ありがとうございます。それでは……」
「あ、翡翠、その前にちょっと」
「何でしょう」
「お、お腹空いちゃって……軽くでいいから、食べるもの無いかな?」
「――申し訳ありませんが、秋葉さまに会うまで我慢してください」
 素っ気無く却下して、翡翠は背中を向けた。都古は少しがっかりする。
 ともあれ、ぼうっとしていると翡翠はどんどん先に行ってしまいそうな気がしたので、気を取り直してついて行くことにした。
 ――都古は気付いていない。背を向けた翡翠の口元が、微かに緩んでいることに。

「って、あれ。外?」
「…………」
 テラスから中庭に出た。翡翠はやはり、黙って先へと進む。
 先ほど失神した場所――そこさえ通り過ぎ、都古は後について行く。
 その場所に思うところが無かったわけでは無いが――大した問題でも無い、と都古は思う。それより今は、翡翠について行って秋葉に会うことだ。

「…………」
「……改めて、広いよね、このお屋敷」
「…………」
「森にまで入って……本当に、こんなところに秋葉さんがいるんですか?」
 ついて行きながら、都古は昔読んだ本を思い出した。
 少女が穴の中に飛び込んだウサギを追いかけて、色々不思議な体験をするおとぎ話。
 考えて、さすがに恥ずかしくなった。自分はアリスなんて柄じゃないか――

「お入りください、都古さま」
「へ? こ、ここって……え?」
 考え事をしているうちに、目的地についたのか――と、都古は顔を上げて、本当に自分がアリスになったんじゃないかとさえ思った。
 本館は豪奢な洋館だったのに、その敷地内に和風の離れがあるだなんて、普通は思わない。
 翡翠は、玄関を開けたところで留まっていた。どうやら、ここからは後ろについて来るつもりらしい。

「おじゃま、しまーす……」
「都古さま、一つ言い忘れておりました」
 靴を脱いで離れに上がったとき、明らかに狙っていたであろうタイミングで、翡翠が言った。

「中には、志貴さまもいらっしゃいます」
「え!?」
「それだけです……どうぞ、お進みください」
 それだけ、で済む問題ではない。
 驚いたが、それよりも――
 この先に、志貴がいる。
 そう知ったとたんに、都古の体がかっと熱くなった。
 走り出したい衝動をぐっとこらえ、慎重に歩を進める。

「ど、どっちに行けば?」
「もう少し進んだところ、一番奥で右手のふすまを開けてください」
 言われた通りに進む。やはり翡翠も後からついてくる。
 右手奥のふすま――すぐに辿り着いた。
 躊躇いも何も無く、思い切ってがらりと開けた。

 柔らかく、風が吹いた。
 涼しげな、鈴を鳴らしたような音が鳴った。
 障子や窓が開け放たれている。
 そこに秋葉が、そして志貴が、二人で縁側に腰掛けて待っていた。
 そこは、洋館の部屋に比べればやや狭い和室で。あまり物が置いてないけど、それでもどこか落ち着く部屋だった。
 縁側、軒先には風鈴が幾つか釣ってある。風流な音――鈴と聞き違えたのはこの音だったか。
 この離れはどうやら、周りの森が陽光をうまい具合に遮っているらしい。入ってくる風は清涼で、真夏とはとても思えない。
 そして、秋葉が振り返った。

171[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](10/13):2006/08/20(日) 23:10:21 ID:2558/kwY

「ようこそ、都古さん。どうぞ、おいでなさいな」
 優美な笑みを浮かべる秋葉。呼ばれるままに、都古は足を踏み出す。
 一歩。
 二歩。
 三歩。
 ゆっくり、今度はしっかりと、志貴に近づいていく。
 志貴はまだ振り返らない。気付いていないわけは無いだろう、隣にいる秋葉が呼んだのだから。
 志貴が振り返らないから、都古も止まらない。まっすぐ、歩く。
 そして。

「……お兄ちゃん」
 今度は、一歩手前で止まってから呼んだ。
 都古の心臓が高鳴る――どういう感情によるものか、自分ではわからない。
 ――大丈夫だ、と都古は胸のうちで繰り返す。
 大丈夫、大丈夫、大丈夫――今度は、もっと頑張る。
 志貴は。呼ばれて、ゆっくりと、振り返った。

「――都古ちゃん」
 しっかりと彼女のほうに向いて、呼んだ。
 やはり包帯はそのままだが、顔色は悪くない。
 そして――やはり、大きな気配を背負っている。本来、人一人には余る気配。
 だが。
 都古は今度こそ、志貴の顔をちゃんと見据えて、頷いた。

「――お兄ちゃん……!」
 座っている志貴めがけて、飛びついた。
 体が大きくなった分、力加減をしたタックル。志貴は、しっかりとそれを抱きとめた。
 抱きついて、都古は初めて気付く。
 志貴は変わったけれど、変わっていない。
 抱きつけば受け止めてくれるし、鼻腔をくすぐる匂いも同じ。腕も細いようでいながら、頼もしく感じる。
 全部懐かしくて、都古は志貴の胸に頬をすり寄せた。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「ああ、ありがとうな、都古ちゃん。お見舞い、来てくれて」
「寂しかった、長かった、心配したよ……!」
「うん、ありがとう……ごめんな、なかなか会えなくってさ」
「いいよ……会えたから、いい」
 志貴は気付いただろうか。都古が、滲んだ涙を志貴の服でぬぐったことを。
 都古は気付いただろうか。包帯の向こう、志貴の目が穏やかに微笑んでいることを。
 しっかりと抱き合って、喜びを堪能する二人――そこに。

「ごほん……二人とも、そろそろよろしいかしら?」
 わざとらしい咳払いに、慌てて飛びのく都古。当然だが、ここにはもう一人いたのだった。
 昔なら、人に冷やかされても別に気にも留めなかっただろうが、さすがにもう都古も年頃ということか。
 見ると、秋葉が冷ややかな目でこちらを見ていた。少し、いやかなり怖い。

「そうですよー、お二人で感動の再会もよろしいですけど、こちらにも予定がありますから」
「皆様、お待たせしました」
 そして後ろから双子の声。
 そちらに振り返ると、翡翠と琥珀が大きな盆を抱えてやってきていた。
 盆の上には、氷が浮いて美味しそうな麦茶のコップが五人分、そして。

「あ、それ……!」
「はい都古さま、すいません、勝手に切っちゃいました……大丈夫ですよ、ちゃんと冷やしてありますから」
 いくつもの、綺麗に切られた赤いスイカ。
 赤い実、黒い種、緑と黒の縞模様の皮。新鮮なお陰か、香りも甘い。
 それを見て。
 うなり声のような、音が鳴った。

「あら」
「……そうでしたね、都古さまは眠っていらっしゃいましたから、お昼を食べてないんですよね」
「姉さん、早く準備しましょう――失礼します、秋葉さま、志貴さま」
「〜〜〜〜!」
 顔を赤くする都古。お腹を両手で押さえていた。
 都古は恥ずかしかっただろうが、それで、五人の空気がさらに和やかになった。
 淡々とグラスや取り皿を配る翡翠、微笑してスイカを置く琥珀。

172[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](11/13):2006/08/20(日) 23:11:24 ID:2558/kwY

「ちょっと琥珀……やっぱり、座卓ぐらいは使ったほうが良かったんじゃないの?」
「駄目ですよ、秋葉さま。やっぱりスイカと言えば座敷の縁側、これはお約束です!」
「長年あなたとは一緒にいるけど、そういうところ、まだまだわからないわね……」
「当然です、庶民の知識で秋葉さまに遅れを取るわけには行きませんから!」
「……秋葉さま、姉さんの言動をいちいち理解していては身がもちません」
「ま、まあまあ三人とも、ほら、さっさといただきますを――」
「何です志貴さんまで、わかってませんねー。こういうときは、いただきますじゃないでしょう!」
「え……あ、ああ、そういうことか」
 みんなに皿と麦茶が行き渡り、みんなはスイカではなく麦茶を手に取る。そして。

「え、俺? こういう時って秋葉じゃないの?」
「いつもならそうですけど、今回は違いますよ。このスイカは、都古さまが志貴さんのために持ってきたものですから」
「参ったな……何て言えばいいんだか」
「思ったことでいいんですよ……ああ、立たなくてもいいですから、座ったままでどうぞ」
「お、お兄ちゃん、ファイトっ!」
「ファイト、です、志貴さま」
 元気な声援と少し恥ずかしそうな声援を受けて、志貴がグラスを掲げた。
 秋葉のほうを向く。志貴は、目が合った気がした。
 秋葉が頷いたのを受けて、志貴が口を開く。

「それじゃ、都古ちゃんがお見舞いに来てくれたこと、それと、何年越しかで久しぶりに会えたこと……」
 そこで一旦区切る。都古が、嬉しそうに頷いていた。
 四人がこちらに視線を向けていることを肌で感じつつ、志貴は言った。

「それから、都古ちゃんがこうして美味しそうなスイカを持ってきてくれたことに感謝して……乾杯!」
 かちんかちん、とグラスを触れ合わせる音。
 こうして、遠野家の面々にさらに一人を加えて、ささやかなパーティが始まった。

173[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](12/13):2006/08/20(日) 23:12:16 ID:2558/kwY



 /



 一番にかぶりついたのは、都古だった。

「んー……!」
 頬張った瞬間に、新雪を踏み抜く足音にも似た、涼しげな音が脳に沁みる。そして、その音で想像した通りの、冷たくて涼しい食感が歯と舌に触れる。
 次の瞬間に襲ってくるのは、口いっぱいに広がる果汁の洪水。それが果肉の感触と合わさって、瑞々しく、何より甘い。
 口の中のやわらかさを堪能するように何度か噛んで、自然に飲み込む。
 そうした一瞬一瞬はとても短い時間のはずなのに、一口でこんなに幸せになれるのはどうしてだろう。

「志貴さま、どうぞ」
「ああ、ありがとう、翡翠」
「礼なら姉さんにもお願いします――志貴さまが食べやすいようにと、小さいサイズで切ってくださいました」
「そっか……ありがとう、琥珀さん」
「ええ、どういたしまして。今日は散歩もしていましたから、少しはこうやって食べても夕食には問題無いはずです――食べ過ぎそうになっていたら、わたしから言いますので」
 琥珀の声を受けて、志貴も翡翠の差し出した皿からスイカを手で取った――やはりその所作に、危なげは無い。
 そして食べようとしたところで、志貴は珍しくも目ざとく気付く。

「秋葉?」
「……なんでしょう兄さん。私に構わず、早くお食べになればいいじゃないですか」
「お前……食べてない?」
「だから構わないでくださいと言っているでしょう」
 秋葉が、スイカを皿に取っていない。
 調子でも悪いのか――いや、そうではない。

「お前、また食べ方がわからないんだな?」
「っ……! どうしてフォークも何も無いんですか!」
「開き直るなって。ああやって都古ちゃんみたいに食べればいいんだろ?」
「ふぇ?」
 もごもごとスイカを咀嚼し、ぺ、と種を皿に出す都古。
 そんな少女を、秋葉は恐ろしいものを見るような目で見ていた。

「あ、あんな食べ方を私が――? それに、どうやって種を……!?」
「どうやっても何も」
「あのね、秋葉さん。口の中で種だけよけて噛んで、実だけ飲み込むんだよ。スイカの実は柔らかいから簡単だよ」
「か、簡単、ですか……」
 スイカを語らせるとこの中では一番であろう都古のアドバイスに従い、スイカを取り、口にしようとして――そこで固まる。

「ど、どうやって食べれば……」
「カレーパンと同じ要領だ、秋葉。あの時のことは憶えてるんだろ?」
「か、カレーパン? すると、まだ剥かないといけないんですか? もう切ってあるように見えるんですけど」
「ちょっと落ち着け、かぶりつくのが一緒ってだけだ……言っとくけど、都古ちゃんのとこのスイカは、購買のパンなんか比べ物にならないくらい美味しいからな」
「そ、そうですか……はい、わかりました」
 やっと、その小さい唇を開いて、スイカの先端を申し訳程度にかじった。
 もごもごと咀嚼して、ごくんと大げさに飲み込む。

「あの、兄さん、全部飲み込んでしまったんですけど」
「あのな、そんなことで不安そうな顔をするなって。そんな先っちょに種なんかあるわけないし、あってもそれくらい、見たときにわかるだろ」
「そ、そうですね……よし」
 また気合いを入れ直し、おっかなびっくり、口をスイカに近づけ、また少しだけかじる。
 その様子を、都古は目を丸くして見ていた。それはそうだろう、いくらお嬢様であったとて、まさかスイカをこうやってかじったことさえ無かったとは思うまい。

「うわー、甘くて美味しい……都古さまの家って、毎年これが届くんですか? いいなぁ……」
「……はい、非常に素晴らしいと思います」
「え、えへへ。夏になると大叔父さんが送ってくれるんだ、凄いでしょ?」
 こちらは普通に食べながら、絶賛する翡翠と琥珀。意外にもというか幸運にもというか、翡翠の舌にもお気に召したらしい。
 二人に褒められ、照れくさそうに自慢する都古。顔を赤らめながらも、食べるのは止めない。

「秋葉さま、どうです、美味しいと思い――」
「……………………」
「あー、琥珀さん、この通りだからさ」
「必死になって、周り見えてませんね……ごめんなさいね都古さま、秋葉さまのお言葉は一番最後ということで」
「うん、しょうがないよねこれは……」
「じゃあ志貴さん……って、志貴さんもどうしてまだ食べてらっしゃらないんですか?」
 言われたとおり、志貴もまだ口につけていなかった。こちらも、別段体調のせいというわけではなく。

174[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事 後編](13/13):2006/08/20(日) 23:13:12 ID:2558/kwY

「あ、いや……秋葉が頑張ってたもんだから、つい」
「…………」
「…………」
「……志貴さん、ラブラブなのは非常によろしいんですけど……もうちょっと時と場所を、ねえ?」
「な、いや決してそんなつもりじゃなくって、ただ秋葉が必死になっててそれが久しぶりっていうか懐かしいっていうか」
「志貴さま、言い訳するほど泥沼です。大人しく降参したほうが」
「……はい」
 それで観念したか。
 志貴が秋葉から自分のスイカへと注意を戻し、皿に置き直していたそれをもう一度手に取った。
 そのまま口に運んだ。
 都古が、食べる手を止めてそれを見ていた。
 咀嚼して、飲み下す。

「……うん、美味しい」
 ほっとしたような穏やかな顔で、そう言って。

「ありがとうな、都古ちゃん。スイカ、持ってきてくれて」
 志貴は、都古に向けて微笑んだ。


 そのとき。
 都古だけでなく、他の三人も――あれだけ熱心に食べていた秋葉でさえ、手を止めて、志貴を見ていた。

 秋葉は、深い安堵を覚えた。
 今までやってきたことと、今、都古を迎え入れたこと、それらがちゃんと、志貴のためであったという安堵。
 そして、志貴がようやく、心から笑ってくれたという安堵だった。
 翡翠は、胸の奥にじんと感慨を響かせた。
 秋葉と同じく、翡翠も琥珀も知っていた。最近の志貴は周りに気遣うあまりに、また自分の先が見えない境遇のために、なかなか自然には笑えなかった。
 今、志貴は何の不安も無く笑えている。それが、何より翡翠の胸に響いた。
 琥珀は、自分が久しぶりに、心からの笑みを作っていることに気が付いた。
 作り笑いが得意だった。昔から、それは変わらない。それが役に立つことも多かったけど、それでも本当には笑えない日々は辛かった。
 そうしてまた気付いた。自分だけでなく、ここにいる全員が心から喜んでいるということに。それこそが、喜ばしかった。
 そして都古。
 微笑みかけられて、顔を赤くする。嬉しくて、恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しくて。
 だから、元気に笑って、力いっぱいに頷いた。

「――ねえ、秋葉さん! 明日からもまた、お兄ちゃんのお見舞い、来てもいいですか!?」
「ええ、構いません……ですが、毎回スイカを持ってくるのはさすがに勘弁してもらいたいところね。見舞いなどと言わず、もっと気軽に遊びに来てもらって構いません」
「やったー!」
「秋葉さま……よろしいんですか? その、昔の警告のことは」
「構わないわ、あの時は私に力が無かったから、かばいきれなかったんだもの――これからこのことで分家の人間がとやかく言ってくるようなら、私がどうにかしてみせます」
「あ、秋葉? なんだか、物騒な会話があったような気がするんだが」
「兄さんは何も心配いらないという話よ。余計なことを気にしている暇があるのなら、早いところ体を治してください」
「う、ぜ、善処します」
「……頑張りましょう、志貴さま。何があっても、わたしは志貴さまのお力になりますから」
「きゃー! 翡翠ちゃん、志貴さんについにプロポーズ!?」
「ね、姉さん!」
「あら……面白いじゃない翡翠、私と勝負しようと言うの? いいわ、受けて立ってみせるわよ」
「秋葉、ほどほどにしとけよ……」
「むー! ダメだよ、お兄ちゃんはそう簡単には渡さないんだからー!」
「あ、あははは……これもまた、いつもどおり、かなぁ」

 涼風の吹く中で、笑い声に包まれる。
 穏やかな平和な時間。今このときだけは、不安を忘れて。
 ――具体的に、何かが良くなったわけではない。
 志貴の目も気配もそのままで、それを打開する手段が見つかったというわけではないのだけれど。
 それでも、今は笑う。
 そうしてひとしきり笑った後で、彼女たちはまたいびつな日常へと戻る。
 だけどその時、彼女たちは、そして彼は。ただ恐れているだけでは無いはずだ。
 彼女たちは、彼のために頑張って、彼は彼女たちのために頑張る。今までのように留まるだけでなく、前に進むために。
 それを彼が望んでいるし。
 それを彼女たちも望んでいるのだから。

 都古がまた、笑いながら、手の中のスイカを頬張った。
 口の中いっぱいに、甘い幸せが広がった。





 了

175[型月・夏の食祭り][或る夏の屋敷と、女達の事]:2006/08/20(日) 23:21:58 ID:2558/kwY
前編>>130-143
中編>>149-160
後編>>162-174

というわけで、投稿できました。
もしもこんな妙な作品を、それでも全部読んでもらえたなら、それだけで嬉しいです。本当にありがとうございます。
そして書き込みに律儀に答えてくれた作家スレ及び質問スレの皆さん、本当にありがとうございました。

176僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/21(月) 08:47:20 ID:vRetm9TU
黒剣SSは久々に見たぜ。
そういや黒剣のアンソロ本早く届かねぇかなあ………

177僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/22(火) 01:13:24 ID:JiKsFNrc
>>175
秋葉スキーというのもあるが、ジーンときたよ。秋葉様エンド後はしんみりした話が
多いけど、その分だけ良作が多いような希ガス。

ただ、こういう場所に投棄するにはどうよという長さではあると思うな。

178僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/23(水) 01:50:02 ID:b87uTwQ2
>>175
すごい力作がktkr!
秋葉もそうだけど翡翠や琥珀、都古の心情描写がすごくいいな。お疲れ様でした。

179僕はね、名無しさんなんだ:2006/08/30(水) 00:34:58 ID:02.Uj/RI
遅くなったが、じっくり読んでみたかったもので。

>>175
キャラの立ち回り、心情のゆるやかな移り変わり、美しく儚げな背景描写。
いいな、素晴らしい。読中はしんみりとして、切なくて、そして読後感は密やかな爽快感があって。
>>177じゃないが、こういう場所に「投棄」するには惜しいよ。

180僕はね、名無しさんなんだ:2007/05/05(土) 23:46:18 ID:u69aTUuE
ランダエータ

18117分割:17分割
17分割

18217分割:17分割
17分割

183僕はね、名無しさんなんだ:2007/05/12(土) 15:31:08 ID:5.FwYw06
秋葉ED後物GJすぎる。
心情描写がいい感じだし、読後感が凄い良いわ。

184 ◆mMK3rnTcPc:2007/10/08(月) 13:13:00 ID:B19igAN6
テスト

18517分割:17分割
17分割

18617分割:17分割
17分割

187僕はね、名無しさんなんだ:2008/05/09(金) 01:43:58 ID:doWCP6U2
久々にこのスレ使ってみたいが、お題が浮かばんな

188僕はね、名無しさんなんだ:2008/05/09(金) 22:02:28 ID:Z6tqOyGo
SS祭りするような話題が無いからね。
現時点では新作次第。何か起爆剤があればいいんだが。

189僕はね、名無しさんなんだ:2008/05/09(金) 22:33:43 ID:Qm/fk2b.
誰も書き込まない祭でいいじゃないか

19017分割:17分割
17分割

191僕はね、名無しさんなんだ:2012/05/06(日) 23:24:02 ID:pU0uHGcc0
ココに書き込まれた雑談も最後が4年前とか栄枯盛衰を感じるな
Links停止したのも相当な影響力だったんだと今更ながらに痛感するな

192僕はね、名無しさんなんだ:2012/05/06(日) 23:59:05 ID:6W80bTJM0
糞SSばっかになったから停止の何年も前にSSは読まなくなったな
良作の劣化コピー以下のばかりになって

■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■