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('A`)はプロの写真屋のようです

1名無しさん:2016/03/27(日) 03:42:11 ID:IZ.M.bbU0
 俺の名はドクオ。またの名をPhotoshopの魔術師。
 就活や婚活で悩み苦しむ顔面困窮者どもに救いを与える光の如き存在である。

('A`) 「まだガキらしさが抜けず就活で連戦連敗中・都内在住大学生のビロードくん(22)も、俺の手にかかれば……」

before
( ><)
  ↓
after
( <●><●>)

('A`) 「ご覧あれ。瞬く間に頼もしいナイトの顔に。この眼力は間違いなく人を殺せる」

('A`) 「じゃ、注文の証明写真10枚で5万円ね。最初に言ったけどうちは高いから。文句はないよね?」

( <●><●>) 「もちろん喜んで払うんです! なんだか生まれ変わった気分なんです! ありがとうございます!」

('A`) 「たぶんもうじきそのガキっぽい口調も消えてくると思うから、就活もきっとうまくいくよ」

('A`) 「個人的には失敗して社会のゴミ仲間が増えて欲しいんだけどな」

( <●><●>) 「こんなに素晴らしい写真を撮れるあなたがゴミなんてとんでもないんです!」

('A`) 「うるせー所詮は加工だ。AVのパッケージだったら詐欺レベルだ。さっさと消えないと料金倍にするぞ」

 俺は忙しいのだ。女児向けアニメの18禁コラージュを画集にまとめて即売会で売り捌いたり、あるいはセルフで抜いたり。
 余談だが、セルフスタンドでアナルにガソリンを注入したら気分はさしずめトランスフォーマーである。コンボイ。

2名無しさん:2016/03/27(日) 03:43:44 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「やっとガキが帰ったか。ああ疲れた。やっぱり仕事なんてするもんじゃねえ。早いとこチェ・ゲバラで抜こう」

 しかし、そのとき俺の背中に「ぶわっ」と鳥肌が立った。とうとう童貞をこじらせて天使の羽根が生えるのではない。
 店の表から唐突に臭い立った、新たな仕事の気配へのアレルギー反応である。

    |┃≡
    |┃≡
 ベキッ.|┃≡    
.______|川 ゚ -゚) < たのもう!
    | と   l
______.|┃ノーJ_


('A`) 「うちの店自動ドアなんだけどナチュラルに壊してくれたなこの犯罪者」

川 ゚ -゚)「初来店のお客様に対してそんなイケナイ台詞を吐いちゃうのはこの口か? それとも……下のお口か?」

('A`) 「出会い頭にアナルから前立腺を抉ってくるのは悔しいがちょっと嬉しい」

 括約筋を駆使して客の指を排出(リジェクト)すると、彼女はチョコバーと化した指を俺のしまむらシャツでさりげなく拭った。
 歳若い乙女らしい控えめな配慮である。

3名無しさん:2016/03/27(日) 03:44:40 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「はあ。仕事ですか仕事なんですね。労働は国民の義務ですもんね。だが断る。仕事は一日一件まで。それが俺ルール」

川 ゚ -゚) 「てめえのルールなんか知らねえよ。こっちは切実なんだよ。お客様は神様やぞ? おんどれ神に逆らう気か? 中二系アンチヒーローか? それとも巨人ファンか?」

('A`) 「やだこの客阪神ファンだわ……通報しないと……」

 真性のヤクルトファン(選手の靭帯を次々にぶっ壊すところがニート魂をくすぐる)である俺は、とりあえず中指を立てた。

('A`) 「ていうか客なら客で事前に予約しろや。うちは就活婚活万事オーケーの超人気写真屋だぞ。アポなしで依頼できると思ってんの?」

('A`) 「自動ドア弁償した上で予約名簿に名前と連絡先書いていくなら、1年後くらいには受けてやらんでもないがな」

 踵を返そうとした俺の肩を、すがるような手が掴んだ。

川 ゚ -゚) 「頼む。時間がないんだ」

('A`) 「なんだ? 婚期でも逃しそうなのか? 大富豪とでも見合いするのか?」

川 ゚ -゚) 「違う。証明写真や見合い写真を撮りたいんじゃない。風景写真を撮って欲しいんだ」

4名無しさん:2016/03/27(日) 03:45:42 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「風景ぃ? そんなもん、もっと高尚なゲージュツ家の先生に撮ってもらえよ。俺は専門外だ」

 俺は写真家ではなく写真屋である。実用に即した写真を提供するのがモットーだ。
 俺の写真が貼られるべきは書類の写真欄の中であって、断じて額縁ではない。

川 ゚ -゚) 「だが、かつて数多の写真コンクールで賞を攫った『練馬区の暴れ牛・ドクオ』とは貴様のことだろう?」

('A`) 「普通に実名で応募したはずなのになんか由来不明の二つ名付けられてる」

 ちなみに俺は練馬区出身ではない。生まれも育ちも板橋区だ。

5名無しさん:2016/03/27(日) 03:46:16 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「だいたい、その賞なら全部剥奪されたよ。全部画像加工してたのがバレたからな。もうどこのコンクールも俺の応募を受け入れちゃくれない」

川 ゚ -゚) 「だが、いかに加工だとしても審査員が素晴らしいと思ったから賞が与えられたんだろう?」

('A`) 「ドーピングした選手が世界新出したところで何の誇りにもなりゃせんよ」

川 ゚ -゚) 「ドーピングでも構わない。いや、美しく見せてくれるなら、その方がいいくらいだ」

('A`) 「……あ?」

川 ゚ -゚) 「『栃木の暴れ牛・ドクオ』よ。お前を見込んで頼みがある」

('A`) 「俺の出身地コロコロ変わるね」

川 ゚ -゚) 「ダムに沈む私の故郷を――どうか、写真に収めてくれないだろうか」

6名無しさん:2016/03/27(日) 03:47:15 ID:IZ.M.bbU0


          ――('A`)はプロの写真屋のようです――

7名無しさん:2016/03/27(日) 03:48:53 ID:IZ.M.bbU0
 季節はうざったいほどの夏である。
 ユースフルな若者ならば極上の汗を流して青春できようものだが、四捨五入すれば三十路になってしまう歳ではそこまで陽気になれない。
 運転席の窓から差す殺人的な陽光にうんざりとしながら、俺はキャンピング仕様に改造した愛車のハイエースを走らせていた。
 
('A`) 「田舎の旅館に一人旅の予約入れると自殺警戒されてだいたい断られるんだよな」

 仮に予約できたとしても、当日にフロントで塩を撒かれることもある。
 これも俺の纏う陰のオーラのせいであろう。

川 ゚ -゚) 「おい。この布団臭くて寝れんぞ。シーツ変えてるのか?」

('A`) 「人が峠道をかれこれ二時間近く運転してるのに、よく呑気に寝ようとできるな」

 クーと名乗った客は、座席後部のキャンピング空間で昼寝を決め込もうとしていた。
 枕元には福本信行著『アカギ』の単行本が積み上げられているが、どうやら鷲頭麻雀の途中(開始後9年目くらい)で読むのを止めたらしい。

8名無しさん:2016/03/27(日) 03:49:41 ID:IZ.M.bbU0
川 ゚ -゚) 「だってこんなド田舎までの道中とか退屈で死にそうだし……」

('A`) 「故郷への愛着どうした」

川 ゚ -゚)+ 「愛着とダルさは両立する。可愛いは作れる」

('A`) 「決め台詞っぽくいえば何でも許されると思うなよ」

川 ゚ -゚) 「うるさい黙って走れ。報酬を忘れたのか?」

('A`) 「忘れちゃいねえよ。お前こそ絶対守れよ。警察に駆けこんでチャラにするとかなしだからな?」

〜回想〜

川 ゚ -゚) 「もし仕事を引き受けてくれるなら、この超絶美人の私が好きなだけどんな写真でも撮らせてやろう!」

川 ゚ -゚) 「無論……あんなところやこんなところも撮り放題……!」
 
川 ゚ -゚) 「さあ! どうする!?」

('A`) 「ハイご成約」


〜回想終わり〜

9名無しさん:2016/03/27(日) 03:50:21 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「絶対だぞ。冗談抜きに『クパァ……クチュクチュ』とかさせるからな」

川 ゚ -゚) 「うわ……引くわ……」

('A`) 「どうとでも言いたまえよ明智クン」

 俺という超人気写真屋相手に「どんな写真でも」と白紙の小切手を切ったなら、そのくらいは当然である。

('A`) 「しかし、そこまでして故郷の写真なんか残したいか?」

川 ゚ -゚) 「ああ。世田谷育ちの都会人には分からんかもしれんが、田舎者にとって故郷は特別なんだよ」

川 ゚ -゚) 「村から一歩も出ずに人生を終えるなんて珍しくない。誇張抜きに、あれは一つの世界なんだ。その世界が終ろうとしているんだぞ」

('A`) 「全然共感できましぇーん。自治体からの補償金握りしめて上京すれば?」

川 ゚ -゚) 「貴様にはノスタルジーというものがないのか……! これだから埼玉土人は……!」

('A`) 「もうどこでもいいよ俺の出身」

 林に囲まれた峠道はいつの間にか舗装も消え、時折立っている電柱は腐ったような木製で、途中でくぐったトンネルは戦前からあるようなレンガ製だった。
 昼でも薄暗い道には外灯もなく、道幅もギリギリ一台分で、踏み外せば林へ転落真っ逆さまのの急斜面である。死んでも夜には通りたくないと思う。

10名無しさん:2016/03/27(日) 03:50:57 ID:IZ.M.bbU0
('A`) 「こんな先に人が住めるとは思えないんですけど」

川 ゚ -゚) 「ふざけるな。まだそこそこ人がいるんだぞ? 限界集落の癖して子供も若者も少なくない。いまどき珍しい優良村落だ」

川 ゚ -゚) 「『あっぷる』社の『あいふぉーん』だって3人も所有者がいるんだ!」

('A`) 「電波届くの?」

川 ゚ -゚) 「でん……ぱ……?」

('A`) 「待て。電波の概念がない世界で、iPhoneを何の用途で使ってるんだ?」

川 ゚ -゚) 「え……あれ……光るじゃん……? 動くじゃん……? よく飛ぶじゃん……?」

('A`) 「文明人にはちょっと理解できないiPhoneの用途が展開されている模様。これにはジョブスも草葉の陰で苦笑い」

11名無しさん:2016/03/27(日) 03:51:33 ID:IZ.M.bbU0
 と、そんな会話をしていたところで、上り坂だった峠道が分水嶺に達し、下りの傾斜へと変わった。

川 ゚ -゚) 「おっと。このまましばらく下っていけば村に着くぞ。ちょうど山間にあるんだ。そのせいで、ダムにはこの上ない立地なんだがな」

('A`) 「水力発電はエコなんだぜ」

川 ゚ -゚) 「別に反対というわけじゃないさ。子育て世代では金を貰い、大手を振って街に移住できると喜んでいたのも多いしな。ちょっと寂しいだけだ」

('A`) 「その割にはずいぶんとご執心なことで」

 俺が詰ると、クーは不貞寝っぽくごろりと横になった。ただし、枕にファブリーズを10回ほど噴き付けてから。
 少しでも寝苦しくしてやろうと、心中覚悟でエアコンを切って車内をサウナ状態にしていると――

 ふいに林道が割れるようにして、視界が開けた。

('A`) 「おお……」

 思わず漏れたのは嘆息の声だった。鬱蒼とした暗緑色の林道から、日光に映える芝の黄緑に眼が一瞬だけ眩む。
 こんな僻地でどれだけの手間をかけたのか、田園は青々とした稲を伸ばし、畑には向日葵が咲いている。

12名無しさん:2016/03/27(日) 03:52:43 ID:IZ.M.bbU0
川 ゚ -゚) 「どうだ。田舎にしてはちょっとしたものだろう?」

('A`) 「いかにも感動系エロゲに出てきそうな田舎だ……!」

('A`) 「ワンピースの美少女はどこや!」

('A`) 「こちとらちょうどハイエース乗車中やで!」

川 ゚ -゚) 「おっとハイエース乗りの悪評を広げる真似はやめてもらおうか」

 クーは窓を開けて村の風を車内に吹き入れた。不思議なことに、真夏だというのに空気がやたら清涼だ。
 そして、立ち並ぶ木造の家々へ叫んだ。

川 ゚ー゚) 「みんな! 写真屋が来たぞ! この村の最期の姿をしっかり収めて貰おうじゃないか!」

13名無しさん:2016/03/27(日) 03:53:15 ID:IZ.M.bbU0
 まず聞こえたのは「わぁ!」という甲高い子供の声だ。

ξ*゚⊿゚)ξ 「わ! 本当に来たんだ!」

(* ^ω^) 「おっおっ! これで記念アルバムが作れるお!」 
 
ノハ*゚⊿゚)ノシ 「おいカメラこっちカメラ!」

く(,,゚Д゚)/ 「くだらん……何が思い出だ……」ポーズキメ

 どこからともなくぞろぞろと子供たちがタケノコのように湧いて出てくる。

川 ゚ー゚) 「おいお前ら! まだ撮影は始まらんぞ! まずは『上越の前科二犯・ドクオ』先生に茶でも出してやらんとな!」

('A`) 「おかしいな。いつの間に逮捕歴付いたんだろ俺」

14名無しさん:2016/03/27(日) 03:53:59 ID:IZ.M.bbU0
 そう言いながら、俺はバックミラーを注視していた。
 背後に見えるのは、林道から村に通じるべきただ一本の道。
 その青々とした芝生の上には――




 ――人里に当然あるべき、車の轍がどこにもなかった。

15名無しさん:2016/03/27(日) 03:57:08 ID:IZ.M.bbU0
               ,, -―-、
             /     ヽ
       / ̄ ̄/  /i⌒ヽ、|    一話目ここまで
      /  (゜)/   / /
     /     ト、.,../ ,ー-、
    =彳      \\‘゚。、` ヽ。、o
    /          \\゚。、。、o
   /         /⌒ ヽ ヽU  o
   /         │   `ヽU ∴l
  │         │     U :l
                    |:!
                    U

16名無しさん:2016/03/27(日) 10:09:16 ID:GieBNJYM0
ゲロすんなwwwww

17名無しさん:2016/03/27(日) 12:45:08 ID:32zSFS7w0
 |⊿゚)ξ
 |ω^) ジー
 |⊿゚)
 |Д゚)

川 ゚ -゚) 「まあまずは茶でも飲め」

('A`) 「あぁ……どうも……」

川 ゚ -゚) 「どうした? 元気がないな。毒なんかちょっとしか入ってないぞ?」

('A`) 「いやそうじゃなくて……っていうかちょっとでも毒は毒だろうが糞め……」

川 ゚ -゚) 「なんだ、そのまるでウンコ漏らしたまま会議に出ちゃったサラリーマンみたいな態度は」

('A`) 「ガキどもの視線が落ち着かないんだよ。コミュ障の視線恐怖舐めてんの?」

 俺が挙動不審気味にそう言うと、クーは合図でも出すように指を弾いた。

18名無しさん:2016/03/27(日) 12:45:53 ID:32zSFS7w0
 |彡
 |彡 サッ
 |彡
 |彡

('A`) (訓練された犬じゃねえんだから……)

川 ゚ -゚) 「まあ悪く思うな。都会の人間を見るのは初めてだからな。パンダになったと思ってくれ」

川 ゚ -゚) 「もっとも、こんなに禍々しいパンダなら絶滅しても構わんが……」

('A`) 「あ、だから茶菓子が笹団子なの」

 釘でも仕込まれていないか警戒しつつ団子を二つに割る。
 案の定、粒ぞろいの石ころが詰まっていたので、とりあえず客間から庭先に放り投げた。

19名無しさん:2016/03/27(日) 12:46:24 ID:32zSFS7w0
川 ゚ -゚) 「ああ! せっかくのクーちゃんブレンド石ころ饅頭がっ!」

('A`) 「嘆くな。きっと大地に還って食物の連鎖を巡るさ」

川 ゚ -゚) 「食べ物を粗末にした言い訳がそれか? お前絶対地獄に堕ちるな。アフリカの子供たちに申し訳ないと思わないの?」


\( ´∀`)/ We are the children of Africa!\(・∀・ )/

( ´∀`) We are friends...

( ・∀・) World is no border...


('A`) 「石ころを詰めた当事者が説教始めたと思ったらなんか変な二人組がAC(公共広告機構)みたいなフリーズ呟き始めた。怖い」

20名無しさん:2016/03/27(日) 12:47:08 ID:32zSFS7w0
>>19

× フリーズ
○ フレーズ

21名無しさん:2016/03/27(日) 12:47:41 ID:32zSFS7w0
川 ゚ -゚) 「紹介が遅れたな。彼らは村の青年団の若頭二人だ。普段は派閥争いで抗争が絶えないが、今日は客人を迎え入れるにあたり融和ムードだ」

('A`) 「青年団ってそんな暴力団みたいな体質なんだ」

( ・∀・) Hey Mr.Dokuo I can fly...

( ´∀`) We Can fly...

\( ´∀`)/ We are the Bird!\(・∀・ )/

('A`) 「こいつら本当に普段いがみ合ってるの?」

川 ゚ -゚) 「まあ、日常的に刃物で刺し合う程度には……」

('A`) 「純粋に恐怖しか感じないからどこかに消えてもらって。だいたいなんでずっと英語なんだよ。意思疎通ができてない感じが余計怖いんだよ」

川 ゚ -゚) 「青年団の公用語が今年から英語になってな……」

('A`) 「おそらく世界で最も無駄なグローバル化が行われてた」

22名無しさん:2016/03/27(日) 12:48:27 ID:32zSFS7w0
川 ゚ -゚) 「すまんが、客人が怯えているようだから二人とも帰ってくれ」

( ・∀・) ok I'll go home...fuck you

( ´∀`) kill you

川 ゚ -゚) 「おとなしく帰るそうだ」

('A`) 「本当にそう解釈していいんだな? 歪めた翻訳してないよな?」

 粘り付くような視線を最期の一秒までずっとこちらに向けたまま、廊下の向こうに二人の若頭は消えていった。
 今日の夜はハイエースの中で籠城しようと思った。

23名無しさん:2016/03/27(日) 12:49:12 ID:GieBNJYM0
世界で最も無駄なグローバル化wwwww

24名無しさん:2016/03/27(日) 12:49:47 ID:32zSFS7w0
川 ゚ -゚) 「すまんな。やはりみんな浮足立っているんだ。いかんせん、数年ぶりの来客だからな」

('A`) 「外部から物資とか来ないのか? 郵便は?」

川 ゚ -゚) 「まあ……そこはあまり気にするな……」

 どうにも歯切れが悪かった。
 クーはわざとらしく手を叩き合わせると、その場から立ち上がった。

川 ゚ -゚) 「そうだ! 今日の夜は宴会にしようじゃないか! 撮影は明日からでもいいだろう! まずはこの村のよさを知ってもらわんとな!」

('A`) 「いいよ。俺、飲み会とか苦手だから」

川 ゚ -゚) 「大丈夫だ。若頭たちは参加させないから。一晩中穴掘りとかさせておくから」

('A`) 「逆に後が怖い」

25名無しさん:2016/03/27(日) 12:50:31 ID:32zSFS7w0
 ここの客間でやるから夕方には絶対戻って来いよ、とクーは一方的に宣告し、食材の調達に出て行った。
 どうやら、それまでは自由に出歩いていいらしい。

('A`) 「それにしても……この広い家にあんな若い女が一人暮らしか……。ますます不自然だな」

 所詮は田舎の年代物と括ってしまえばそれまでだが、広さだけでいえば豪邸と呼んで差支えない。
 江戸時代の庄屋みたいな構えの、石垣に囲まれた立派な建物だ。


ξ*゚⊿゚)ξ 「ねえ!」

(;'A`) 「うわっ!」

 何かと思ったらさっきの子供たちだった。クーがいなくなったと見るや、障子の陰からぞろぞろと出てきた。

26名無しさん:2016/03/27(日) 12:51:32 ID:32zSFS7w0
ξ*゚⊿゚)ξ「カメラマンの人でしょ? うわー! うわー! 初めて見た! 想像以上に人間そっくり!」

( ^ω^) 「全然亀じゃないお!」

('A`) 「俺、一応は人間だからね?」

ノパ⊿゚) 「人間の亜種か!」

('A`) 「亜種でもないから」

く(,,゚Д゚)/ 「いちいち騒ぐな……くだらん……」ポーズキメー

('A`) 「まだ撮らないよ。機材車の中に置いてるし」

(,,゚Д゚)クワッ 「うるせえ別に撮って欲しくなんかねえよぉおおおおお!!!」

('A`) 「うわあ面倒臭えガキ」

('A`) 「まあちょうどよかった。今から撮影場所を探しにいくから、いいとこ教えてくれよ」

('A`) 「子供ならではのスポットとかあるだろ」

27名無しさん:2016/03/27(日) 12:52:05 ID:32zSFS7w0
( ^ω^)ノシ 「あるおあるお! いくらでも案内するお!」

ノパ⊿゚) 「まっかせろ!」

 庭先で飛び跳ね始めたガキどもに少し微笑んでから、玄関に移動して靴を履く。中に画鋲が仕掛けられていたので、近くに飾ってあったバービー人形の乳首にそっとインプットしてやる。
 ドリル乳首バービー。略してドリバビの爆誕である。この世界は美しい。

('A`) 「俺ってば紳士だってばよ」

 奇行をしつつも注意は欠かさない。
 画鋲トラップとか若頭どもの恐怖とか、そういう話ではない。
 ガキどもがはしゃぎながら纏わりついてくるが、俺の視線はもっと遠くを見ている。

('A`) (妙に人の気配がないな……)

 過疎村と言ってしまえばそれまでだ。しかし、極端なのだ。賑やかな箇所は異様に賑やかで、そうでない箇所はまるで廃村のように静かだ。
 もっと直截的に表現するなら、常に俺の半径数メートルだけが賑やかなのだ。

28名無しさん:2016/03/27(日) 12:52:42 ID:32zSFS7w0
 ――まるで『撮影に必要なキャスト』が『必要なだけ配置』されているように。



('A`) 「はっ。考えてもしょうがねえか」 

 俺は写真屋である。言われたとおりに写真を撮ればいいのだ。

ξ*゚⊿゚)ξ 「こっちこっち!」

 手を振るガキどもに俺はついていく。
 少し歩くと、まるでテープを再生したかのような唐突さで、小川のせせらぎが聞こえ始めた。
 先頭に立っていた巻き髪の少女がくるりと振り向く。
 
ξ*゚⊿゚)ξ 「うんとね! ここの川ってすごく綺麗でしょ? 水がキラキラしてて、可愛い魚もいっぱい泳いでて、きっといい写真になると思うの!」

('A`) 「ああ……僕も心の底からそう思うよ……ねえお嬢ちゃん、スク水着て泳いでみない? やっぱりね、泳いでる子供がいるといないじゃ質が違ってくると思うんだ……。はいこれあげる」

 俺は手提げカバンの中からスク水を2着取り出して少女二人にプレゼントフォー・ユーした。
 そこはかとなく臭うのは使用済だからである。チョコに浮かぶ白斑みたいなものだ。品質に影響はない。

29名無しさん:2016/03/27(日) 12:53:41 ID:32zSFS7w0
ノハ;゚⊿゚) 「な、なんで機材は車の中って言ったのに、こんなものを持ってるんだ……?」

('A`) 「都会人はみんな持ってるから。常識だよ?」

ノパ⊿゚) 「そうなのか! 都会ってキチガイじみてるな!」

 ぽいっ、と澄んだ清流にスク水が2着流されていく。世の無常を感じる。あはれなり。

(,,゚Д゚) 「おい兄ちゃん。俺にも何かくれてもいいと思うんだが? だが?」

('A`) 「ああうん。この中から好きなの取っていいよ」

(,,゚Д゚) 「マジかよ!」

 喜々として俺のカバンを覗き込んだ少年だったが、中から立ち込めるイカの芳香に「エンッ!!!」と仰け反った。
 しかし田舎者の「タダなら死んでも貰う」根性は凄まじく、何と異臭に耐えながら俺の財布を掴み上げやがった。

30名無しさん:2016/03/27(日) 12:54:15 ID:32zSFS7w0
(,,゚Д゚) 「ゴルアァアア! 大物ゲットォォオ!!」

 意気揚々と勝鬨を上げた少年を俺はすかさず川に蹴り落とし、財布を回収する。
 免許証とクレカはさすがに渡せない。

(,,゚Д゚) 「げふっ、げふっ。何しやがんだてめえ!」

('A`) 「他人が財布に手を触れたらたとえどんな状況だろうと川に蹴り落とすのが都会の伝統だから……」

(,,゚Д゚) 「都会なら仕方ないな……」

 都会という存在にすべての汚名を被せて、この場をうやむやにする。
 とりあえずこのガキには和田アキ子のサイン入りブロマイドを詫び代わりに握らせておいた。

31名無しさん:2016/03/27(日) 12:54:58 ID:32zSFS7w0
( ^ω^) 「だけど試し撮りとかしないのかお? 車ならすぐ近くに停めてるんだから、カメラだけでも持ってこれるお?」

('A`) 「プロは技術を安売りしないのさ。趣味でパシャパシャ撮ってる大学生と一緒にすんな。報酬が発生するときだけ撮るんだ」

 本当ならこんなド田舎の風景なんて撮りたくないのだ。証明写真の方がずっと性に合っている。
 不満を垂れそうにデブガキが頬を膨らませたので、俺は一太刀斬りこむ。

('A`) 「ところでお前ら。今は夏休みだろうけど、この村に学校ってあるのか? それらしい建物は見当たらんが」

(;^ω^)
ξ;゚⊿゚)ξ
ノハ;゚⊿゚)
(;,゚Д゚)

 ほら、予想通り過ぎて笑える反応だ。

32名無しさん:2016/03/27(日) 12:55:55 ID:32zSFS7w0
(;^ω^) 「が、学校はないけどっ、役場に先生がいてっ、そこが臨時の学校というかっ」

('A`) 「ああ、いいよ。無理に説明しなくていい」

 俺は手を振ってデブガキの言い訳を制する。

('A`) 「わざわざ言われるまでもなく、だいたい分かる」

(;^ω^) 「へ?」

 無論、少しだけレアなケースではあるが、俺にとっては特別に異常な事態というわけではない。


('A`) 「言ったろう。俺はプロなんだ」

33名無しさん:2016/03/27(日) 12:56:57 ID:32zSFS7w0

     / ̄ ̄ ヽ,
    /        ',
    .l  {0} /¨`ヽ}0},    二話目はここまでなのです
   .l     ヽ._.ノ  ',
   リ    `ー'′/ ̄/ ̄/
  (     二二つ / と)
   |       /  /  /
    |        ̄ ̄| ̄

34名無しさん:2016/03/27(日) 15:12:38 ID:wJepTMSE0


35名無しさん:2016/03/27(日) 16:04:38 ID:2gEnMEV60

面白い

36名無しさん:2016/03/27(日) 18:42:19 ID:XTDTfRPQ0
めっちゃ面白い

37名無しさん:2016/03/28(月) 01:17:20 ID:.hUb49bQ0
ほのかにみえる怪奇が心地いい

38名無しさん:2016/03/31(木) 17:55:37 ID:tAuwQjNc0
面白い

39名無しさん:2016/04/02(土) 18:23:15 ID:fSlpxWFg0
すまん
>>1だけど投下期間明日までと勘違いしてたわ
間に合うように頑張るがたぶん日付跨ぐわ

40名無しさん:2016/04/02(土) 18:25:29 ID:xVl32QnA0
間違ってない
明日までだよ

41名無しさん:2016/04/02(土) 18:29:15 ID:fSlpxWFg0
本当だ。一日延期になってたのか
ありがとう間に合いそうだ

42名無しさん:2016/04/03(日) 16:22:37 ID:h7hhsNrw0
 田舎の飲み会なんてヤリチンサークルのドラッグパーティーと何も変わらない。
 猿じみたジジイどもが卑猥なコンパニオンをはべらせながら高笑いし、いくら呑むことを拒否してもケツからぬるめの燗を漏斗で流し込まれる。
 参加したことはないがそうに決まっている。
 ついさっきまで、そう思っていた。

          _,,..,,,,_
         / ,' 3  `ヽーっ    ドン!
         l   ⊃ ⌒_つ
          `'ー---‐'''''"

川 ゚ -゚) 「待たせたな……。これが我が村の名物・族長(オサ)盛りだ」

('A`) 「ごめんなさい神様」

 俺は十字を切って己の不明を恥じた。俺は賢者ぶっていただけで、何も分かっちゃいなかった。
 だいたい『盛り』とか言っている割に刺身はおろかワサビすら盛られていない。やたら毛深い老人の汚らしい裸身がごろりと横たわっているだけだ。
 まさか人肉を食す闇の祭典が待ち受けていようとは。

43名無しさん:2016/04/03(日) 16:23:25 ID:h7hhsNrw0
川 ゚ -゚) 「なんだよお前、その不満そうな態度は。メインディッシュを目の前にして『いただきます』以外の台詞吐くとか料理人舐めてんの?」

('A`) 「この村長、まだ息があると思うんだけど。ていうか毛深すぎない? 本当に人間?」

川 ゚ -゚) 「村の人間の毛髪を素肌に一本一本縫い付けたからな。あたかも戦地に赴く兵士の無事を願う千人針のように……」

('A`) 「呪いの生贄かな?」

 族長(村長)は微かに胸を上下させながら「殺せ、殺してくれ」と呟いている。
 武士の情け。俺は濡れ雑巾をそっと村長の顔に被せてやった。

J( 'ー`)し 「ドクオさんはコーラでしたね……。はい、プロテイン(迸るさわやか母乳味)」

('A`) 「どうもありがとうございます」

 給仕のおばさんからコップを受け取るなり、俺は庭先へと力強く投擲した。
 夏の夜に母乳臭い液体が淡く広がる。たぶん明日には虫が湧くだろう。

44名無しさん:2016/04/03(日) 16:24:56 ID:h7hhsNrw0
  _
( ゚∀゚) 「えー。ただいまマイクのテスト中。ジュポッ! ジュポッ!」

 料理が揃ったところで、村役場の兄さんがこけし型マイクを手に取り、顔をひょっとこにして激しくしゃぶった。
  _
( ゚∀゚) 「チュポンッ。それではこれより、村の終焉記念写真を撮ってくれるドクオ先生の歓迎会を開催したいと思います」

川 ゚ -゚) 「こけしはこの村の特産品なんだ……」ヒソヒソ

('A`) 「特産品を自ら穢していくスタイル」

 それに、わざわざヒソヒソ話で補足されるほど欲しい情報ではない
  _
( ゚∀゚) 「まずはじめに村長挨拶ですが、本日は体調不良により割愛させていただきます。職責を果たせないとはゴミにも等しいですね。政権交代が強く望まれます」

('A`) 「この村における村長の立ち位置って奴隷的な何かなのかな」
  _
( ゚∀゚) 「それでは次に我々からささやかなプレゼントをドクオ先生に」

 ぱちんと役場の兄さんが指を弾くと、クーがその場を立って「あーだりい」と呟きながら台所方面に行き、薄汚れレジ袋を提げて持ってきた。

45名無しさん:2016/04/03(日) 16:25:55 ID:h7hhsNrw0
川 ゚ -゚) 「ほら。キン肉マン消しゴム50年分」

('A`) 「わあ、こんなに要らないものを渡されたの初めて」

 かつてないときめきが俺を襲う。

('A`)「しかもなんで1つ残らず全部ウォーズマンなんだよ」

川 ゚ -゚) 「あ? じゃあジェロニモならよかったのか?」

 言葉の無為を悟った俺は、レジ袋からウォーズマンを鷲掴みにして、未だ横たわる村長の口の中にぎっしりと詰めた。
  _
( ゚∀゚) 「さて。ダム工事の着工も間近に迫り、数年後にゃこの村も水底に沈みまくりまクリスティなわけです」
  _
( ゚∀゚) 「まー最期くらいは華々しくって気持ちも分からんでもないですよ」
  _
( ゚∀゚) 「さてドクオ氏。昼間に視察をなさったようで、この村に関する感想をばよろしくお願いします」

('A`) 「えぇ……そんな挨拶聞いてないよ……」

 しかし抗弁叶わず、唾液でテッカテカになったこけしを手渡されたので、とりあえず床に叩き落として地声での挨拶を決意。

46名無しさん:2016/04/03(日) 16:26:59 ID:h7hhsNrw0
('A`) 「この村の感想を一言で表すと、シベリア超特急でした。以上」

川 ゚ -゚) 「不毛っていうことか? ホモってことか?」

('A`) 「両方だよ言わせんな恥ずかしい」

 どっと宴席が湧いて勝手に乾杯が始まった。意味が分からない。
 騒げればなんでもいいのだろう。
 喚く声の中には方言のほか怪しげな英語も混ざっている。青年団がいるらしい。

47名無しさん:2016/04/03(日) 16:28:36 ID:h7hhsNrw0
(`;ω;´) 「おいドクオ君!」

('A`) 「うわっ、なんか一升瓶もったハゲが絡んできた」

(`;ω;´) 「ハゲじゃない! 私はこの村の住職だ! うちの寺はなあ……建立38年の立派な寺なんだぞ……! それが沈むなんて……!」

('A`) 「ちょっと古い民家レベル。これは文化財保護の対象にもならない」

(`;ω;´) 「ちくしょう。やっぱり本尊にバイブを崇めていたのが弾圧の対象になったのか……」

('A`) 「やっぱ国の判断って的確だわ。淫嗣邪教は早めに潰すべき」

川 ゚ -゚) 「おいカs……ドクオ。少しいいか」

(`;ω;´) 「まだだ! クーちゃん! まだ私の話はこれからなんだ!」

48名無しさん:2016/04/03(日) 16:29:09 ID:h7hhsNrw0
川 ゚ -゚) 「うるせえ坊主だな。いいかドクオ。このオッサンは酔うと面倒だが、さっさと黙らせるコツがあるんだ」

('A`) 「その心はいかに?」

 クーはビール瓶を手に握ると、それはそれは見事なスイングで住職の後頭部に叩き付けた。

(`゚ω゚´)

川 ゚ -゚) 「ほうら。静かになったろう」

('A`) 「すごいや、世の中のほとんどの人が静かになる裏技だね。伊藤家の食卓で見たことあるよ」

川 ゚ -゚) 「お前も静かにさせられたくなければ少し付き合え」

('A`) 「はい」

 俺はクーに従って居間から縁側に移った。蚊取り線香が焚かれていて、懐かしい匂いが漂っている。

49名無しさん:2016/04/03(日) 16:29:42 ID:h7hhsNrw0
川 ゚ -゚) 「昼間はガキどもが世話になったようだな……」

('A`) 「ああ。本当にいろいろとな」

('A`) 「で、あいつらは飲み会に欠席なのか? こういうところは大人も子供もないものと思ったが」

('A`) 「ていうか、今この瞬間、あのガキどもは存在してるのか?」

 たとえば、俺の背後では飲み会の喧騒が絶えない。
 しかし、今の俺に認識できているのは田舎者どもの声だけだ。
 声がするだけで、俺の背後にブラックホールのごとき暗闇が広がっている可能性もある。

川 ゚ -゚) 「……お前、どれだけ察しているんだ?」

('A`) 「あのな。お前、仕事が粗いんだよ。担ぐならもっと上手くやれ。一から十までボロだらけだ」

50名無しさん:2016/04/03(日) 16:30:20 ID:h7hhsNrw0
('A`) 「狐とか狸みたいなバケモノ連中ならもっと上手く騙す」

('A`) 「印象でいえば幽霊の方が近いが、お前ら幽霊にしては個人意識がえらく希薄なんだよ」

('A`) 「こんだけ集団でいながら、願いが『村の撮影』だなんてチンケな集団霊はいない」

('A`) 「そうなりゃ結論は一つだろう」

川 ゚ -゚) 「……お前、その歳で幽霊とかバケモノとか語って恥ずかしくないのか? 中二病か?」

('A`) 「しゃあないだろ。実際その手のよく分からん奴らに出くわしてきたんだから」

('A`) 「最初に来たときから分かってたんだよ。お前、出会い頭に俺のアナルから前立腺弄ってきただろ?」

川 ゚ -゚) 「然り」

 武士めいた口調でクーが応じる。

51名無しさん:2016/04/03(日) 16:31:17 ID:h7hhsNrw0
('A`) 「俺だって変態じゃないんだからズボンくらい履いてるよ。ノーパンではあったけどな。だけどズボンに穴すら開けずアナルに挿入なんて……お前の指、明らかにズボンをすり抜けていただろう?」

('A`) 「人間じゃねえよ。人間でできるとしたら加藤鷹くらいだよ。そしてお前はどこからどう見ても加藤鷹じゃない」

 クーは加藤鷹のモノマネをしながら神妙に頷いた。
 どのようなモノマネかは筆舌に尽くしがたいので読者諸兄のご想像にお任せするが、神妙さと両立しうるギリギリのラインであったことは特筆しておきたい。

川 ゚ -゚) 「そうか……君を上手く担ごうと思っていたんだが、初めから分かっていたんだな」

 クーがため息をつくと、途端に背後の喧騒が消えた。

('A`) 「こちとらプロだからな。分かってても仕事に手抜きはしない。そうだな――明日、日が昇ったら撮影しよう」

('A`) 「メイクアップは忘れるなよ」

52名無しさん:2016/04/03(日) 16:32:10 ID:h7hhsNrw0



     川 ゚ー゚) 「ああ、任せたぞ」

53名無しさん:2016/04/03(日) 16:33:45 ID:h7hhsNrw0
 そうして俺は縁側から居間に戻った。無人になった宴会場には眼を見開いて痙攣する族長だけが残されている。
 ハイエースに帰ろうとしたら巧妙に靴が隠されていた。

('A`) 「もうやだ帰りたい」

 かくして俺は翌日の撮影に臨む。

54名無しさん:2016/04/03(日) 16:34:45 ID:h7hhsNrw0
シャープ(液晶) ソニー(家電)で合併交渉中
ソニー「よう」
シャープ「誰だお前」
ソニー「なんだと」
交渉決裂。ソニーはサムスンと合弁。
ソニー「サムスンだけじゃ液晶足りねえよ」
シャープ「金出せばうちが足りない分を作ってやるよ」
ソニー「じゃあ部分提携な」
提携スタート
ソニー「納入まだかよ期限過ぎてるぞ」
シャープ「うっせーなアクオス作ってんだよ」
ソニー「くそったれ」
サムスン「おら液晶パネルだ期限通り作ってやったぞ」
ソニー「おお偉いなサムスン、もうお前の所で全部頼むわ」
ソニー、シャープから離れる。

シャープ「アクオス売れなくなったぞどうしよう堺工場」
東芝「うちに作ってくれよ」
シャープ「よっしゃ」
東芝「納入まだかよ期限過ぎてるぞ」
俺「うっせーな4話目作ってんだよ」

55名無しさん:2016/04/03(日) 16:57:37 ID:2f6tC/620
アナルから前立腺のくだり伏線だったのかよ……

56名無しさん:2016/04/03(日) 20:31:22 ID:h7hhsNrw0
 雲一つない日本晴れである。
 起きる前からどうせそんな天気だろうとは思っていたが、ここまで予想通りだと笑えてくる。
 あくびをしながらハイエースから降りると、朝飯にしろという意味か、族長が転がっていた。

('A`) 「安らかに眠れ」

 俺は族長をお姫様抱っこすると(肘までのゴム手袋装着)、川に流して水葬にした。

川 ゚ -゚) 「お、ここにいたのかドクオ。どうした朝飯は食わなかったのか?」

('A`) 「車ん中でアンパンと水飲んだよ。あんなものが食えるか」

川 ゚ -゚) 「ですよね」

 俺はクーと連れ立って村を闊歩する。
 小川に田畑、民家に役場。ちっぽけな商店はまだシャッターが閉まっていて、村内放送のスピーカーからはちょうどラジオ体操が流れ始める。

57名無しさん:2016/04/03(日) 20:31:52 ID:h7hhsNrw0
川 ゚ -゚) 「すまなかったな。騙すような真似をして」

('A`) 「こっちは見透かした上で請けたんだ。謝られる覚えはない」

 俺は立ち止まって辺りを見渡した。
 ひまわりの花が揺れ、昨日のクソガキどもが体操の音楽につられて表に飛び出してくる。

 ――いい田舎だ、と思う。

('A`) 「ステレオタイプ過ぎるけどな。こういうのが原風景っていうんだろ。都会育ちでも綺麗な農村見ると悶えるだろ。心の底に刻まれてんだよ」

('A`) 「安心しろ。素材がこれだけいいなら俺の腕はともかく、いい写真になる」

 俺がそう言って笑いかけると、隣にいたはずのクーの姿はなかった。

58名無しさん:2016/04/03(日) 20:32:19 ID:h7hhsNrw0
('A`) 「クー……?」

川 ゚ -゚) 「あ?」

 10歩くらい離れた場所のベンチで、クーは久保帯人著『BLEACH』を読んでいた。

川 ゚ -゚) 「やっぱ作者の人柄が滲み出てる作品って神だわ」

('A`) 「お前の中の判断基準それだけかよ」

 俺は馬鹿らしくなって、機材を取りにハイエースに戻ろうとする。

川 ゚ -゚) 「おい」

('A`) 「なんだよ」

川 ゚ -゚) 「お前、ビオレママで抜ける?」

('A`) 「当然だ」

川 ゚ -゚) 「……ふっ。やはりお前に撮影を頼んで正解だった……」

('A`) 「もうちょっと会話の内容に因果関係を持たせない?」

59名無しさん:2016/04/03(日) 20:33:00 ID:h7hhsNrw0
 クーと別れ、車に積んだ荷物からデジタル一眼レフを取り出す。
 三脚も望遠レンズもレリースも要らない。そもそも凝らすような撮影技術をもともと持っていない。

('A`) 「俺は写真家じゃねえんだよ」

 俺にもしカリスマと呼ばれる才能があるとするなら、それは撮影技術でも、ましてや加工技術でもない。
 村の中心部に歩いていっても、もう誰も残っていなかった。ベンチにもクーの影はおろか、ブリーチのブの字も残っていない。

 俺はカメラを高々と掲げし、ファインダーも液晶も覗かずに無人の村の中で叫ぶ。

('A`) 「お望みの撮影時間だ! いいか!? 俺はシャッターを適当に切るだけだ!」

('A`) 「もし俺に写真を撮って欲しいならなぁ!」

('A`) 「てめえらの方から、勝手に飛び込んで来い!」

 カメラ設定を秒間三十連写にする。
 撮影時間は無制限。記憶媒体の容量がパンクするまで延々と高速撮影が続く。

60名無しさん:2016/04/03(日) 20:33:35 ID:h7hhsNrw0
 シャッターボタンを押した。

 馬鹿みたいに絶え間なくシャッター音が連発する。

('A`) 「ほれほれほれ! 写れ写れ写れ!」

 俺はカメラを四方八方にぶん回す。ピンボケ上等。手ブレ上等。
 そんなノイズでボケてしまうような貧弱な被写体が俺に依頼をしてくるはずがない。

 わははははは、と笑う声がする。
 きゃあきゃあとはしゃぐ子供の声がする。
 yes...good...と不穏な声がする。


 ――俺に才能があるとするなら。

 ――それは、本来写るべきではない被写体に好かれることだ。

('A`) 「もう一丁!」

 弾丸を入れ替えるかのようにカメラのSDカードを交換して連写を続ける。
 撮影成果を確認もしない。
 どうせ不可視の被写体どもは己が最高に見えるように趣向を凝らして、勝手にレンズに飛び込んでくるのだ。
 ならこちらが優先すべきは丁寧さよりも枚数だ。

61名無しさん:2016/04/03(日) 20:34:33 ID:h7hhsNrw0
 キチガイにしか見えないカメラぶん回しの撮影作業は数時間に及んだ。

 そうして、疲れ切った俺は、SDカードを車内のプリンタに突っ込んで、自動印刷を開始した。
 プリンタの口から大量に写真が吐き出されていくが、俺は一枚も見ずに運転席でふんぞり返る。

('A`) 「ああ終わった。早いとこシモン・ボリバルで抜こう」

 ひどくくたびれた気がして、俺は目を閉じた。
 ふと、黒一色の視界の中、ひどく近くから村人たちの声が聞こえてきた。
 まるで車内から響いているようだった。

川 ゚ -゚) 「ありがとう。ドクオ。これで私たちはありし日の思い出を留めることができるよ」

( ^ω^) 「さすがは噂に聞こえたカリスマ写真屋だお」

( ・∀・) you are real...professional...

/ ,' 3   「殺せ、殺してくれ」

('A`) 「うるせーお世辞はやめろ。だいたい、てめえらの仲間はどこから俺の噂を嗅ぎ付けてんだよ」

62名無しさん:2016/04/03(日) 20:35:00 ID:h7hhsNrw0
川 ゚ -゚) 「なに。我々のような者を撮影できるのは君だけだからな。有名にもなるさ」

('A`) 「二度と来るなよ」

川 ゚ -゚) 「ああ、安心して逝くさ」

('A`) 「あばよ」

川 ゚ -゚) 「そうだ。別れに歌を贈ろう。せめてもの感謝の気持ちを込めて……」

 そしてクーたちは童謡『ふるさと』を歌うかと見せかけて、エアロスミスの『miss a thing』(アルマゲドンのテーマ)を歌い始めた。
 しかも青年団の連中が異様に上手い。なんだこれ。まるで本物じゃねえか。

 ――いや、これは。

『……それでは。14歳の娘さんから働くお父さんへのエールにリクエストされたエアロスミスの『miss a thing』でした。今日もお仕事頑張ってくださいとのことです』

('A`) 「お父さん、隕石爆破にでも行くのか?」

 眼を開けると、ラジオを付けた覚えのないカーステレオから、本物のエアロスミスが流れていた。
 それどころか時刻もまだ夜が明けたばかり。ちょうど世にいう社畜の出勤時間だ。

('A`) 「ったく。またこんなオチかよ」

 俺は悪態をついた。車の後部を見ると、プリンタは写真を吐き出しきっているし、布団は敷かれたままだし、アカギは積まれたままだ。
 しかし、車外の光景は、昨日とえらく違った。

 廃村である。

63名無しさん:2016/04/03(日) 20:35:51 ID:h7hhsNrw0
 人っ子一人いやしない。民家も役場も半ば腐り落ちていて、雑草だらけでロクに歩けたものではない。
 車を降り、方向感覚だけを頼りにクーの家を探してみるが、石垣の跡くらいしか見つからなかった。

|  ^o^ | 「おや、不審者がいますね」

| ^o^ |   「ころしますか」

/^o^\    「ボディーにしとけって」

 そのとき、工事業者の作業着を着た3人組が雑草を踏み分けて俺のそばにやってきた

('A`) 「うわっ。社畜だ。眼が眩むっ」

|  ^o^ | 「こんなところで、なにをやっているんですか。テロリストですか」

| ^o^ |   「ころしますか」

/^o^\    「指詰めにしとけって」

 そこはかとなくヤバい空気を感じたが、俺は一瞬で冷静になる。

('A`) 「ああ俺はですね、廃墟専門のカメラマンなんですよ。ちょうどいい村があるというんで撮影に来てました」

64名無しさん:2016/04/03(日) 20:36:19 ID:h7hhsNrw0
|  ^o^ | 「あやしいですね」

 とりあえず俺の車に案内して、プリンタから吐き出された写真を何枚か引っ掴む。
 そこに写っているのは、俺が訪れていたはずの『美しい村の姿』だ。

('A`) 「ほら。廃村の写真だろ?」

|  ^o^ | 「なるほど。これは見紛うことなきハイソン」

 何も不思議がることではない。
 あるべきはずでない者たちを写真に撮れるのが俺ならば、その写真をまともに見ることができるのも俺だけなのだ。
 たぶん、こいつらには何の変哲もない廃村の姿に写っている。

/^o^\ 「工事の邪魔だから消えろカス」

('A`) 「へいへい。他の車が来る前に帰りますよ」

 これ以上の疑いをかけられる前に、俺はそそくさと車のエンジンをかける。
 村の出口に向かって走らせ、その間際、

('A`) 「ほらよ! 約束のブツだ!」

 撮った写真を村の中にバラまいた。作業員たちが「ゴミ撒くな」と喚いて追ってくるが、突風が吹いて写真はすべて宙に舞っていく。
 それはそうだろう。依頼して撮ったものをゴミ扱いで攫われるわけにはいくまい。

65名無しさん:2016/04/03(日) 20:37:00 ID:h7hhsNrw0
('A`) 「『好きなだけ写真撮らせてくれる』って報酬も確かに頂戴したぞ! データは貰ってくからな! あばよ! 安心して沈め!」

 エンジンを吹かして細い林道に突っ込む。
 村の出口に立てかけられた工事業者の看板には、こう書かれていた。

『旧・久宇(くう)村 工事中につき関係者以外立入厳禁』

66名無しさん:2016/04/03(日) 20:37:26 ID:h7hhsNrw0
('A`) 「オマンコブギウギ」

 そんなわけで俺は写真を加工する。くっそくだらない無様な写真たちを、俺の目に見えているように。手間暇をかけて少しずつ。
 完成図が最初から見えているのだから、弄る手腕にもキレが出ようものである。

( <●><●>) 「ドクオさん!」

('A`) 「うわっ。社畜予備軍が来た。思わず俺の寿命が縮む」

( <●><●>) 「ありがとうございます! おかげさまで就職が決まりました!」

('A`) 「うるせえ俺に喧嘩売ってんのか。お前にレイプされたって内定先に通報してやろうか」

( <●><●>) 「あなたがそんなことをする人ではないと分かっています!」

 パソコンの画像フォルダにはビロードの写真も残っている。
 これも、他人の眼にはもともとのガキ臭い( ><)←こんな小便面にしか見えないだろう。
 しかし、俺の目には『被写体が見せたかった理想の自分』が写るのだ。
 それをそのまま加工で表に出してやれば、自信も付いて当たり前だ。

('A`) 「お礼っていうならさ、しゃぶれよ」

 ボロンと一物を開帳するも、本当にしゃぶろうとしてきたので俺は膝蹴りでビロードの顎を突き上げた。
 変な理想まで開眼させてしまったのかもしれない。

( <●><●>) 「おや……ドクオさん。ここに飾ってある写真はなんですか? ずいぶん綺麗な田舎の風景ですね」

('A`) 「ん? ああ、それか」



('A`) 「オンボロで誰もいなくなったくせに、綺麗に撮られたいっていう自己顕示欲だけは強い女々しい村の写真だよ」

67名無しさん:2016/04/03(日) 20:37:55 ID:h7hhsNrw0

    |┃≡
    |┃≡
 ベキッ.|┃≡    
.______|川 ゚ -゚) < 聞き捨てならんな!
    | と   l
______.|┃ノーJ_


('A`) 「そしてまた俺の店の自動ドアが壊れる。修理費は約6万円。俺の小遣いが一瞬にして消え去る夏である」

川 ゚ -゚) 「お? 誰が若作りの化粧婆だ? マリリン・モンローだ?」

('A`) 「感動の別れをしたはずだろうが。なんで大人しくダムの底に沈んでねえんだよ」

川 ゚ -゚) 「ダム事業が仕分けられたんだよ……無期延期だよ……どうすんだよこの無駄に潰されたやるせなさ……」

('A`) 「あ、うん……」

( <●><●>) 「おや。これは私は失礼した方がよろしいようですね。分かります」

('A`) 「なんかすげえ腹の立つ気の使い方されてる」

68名無しさん:2016/04/03(日) 20:38:46 ID:h7hhsNrw0
 ビロードが壊れた自動ドアを蹴破って(中破→大破)、揚揚と店を去っていく。とりあえず器物損壊で通報しておこうと決める。
 クーはレジ前に飾られた村の風景写真を手に取り、

川 ゚ -゚) 「おおドクオ。なんだか美しい写真があるな。これをコンテストに出そうそうしよう」

川 ゚ -゚) 「大賞間違いなしや!」

('A`) 「てめえさては自分の美しさアピールしたいだけだろ。出さねえからな。また不正扱いされるだけだ」

川 ゚ -゚) 「は? つべこべいわず出せや。架空の戸籍購入してでも応募しろや」

('A`) 「やだこいつモンスター客だわ」

 しかし、写真を褒めちぎるクーがあまりにも上機嫌で、俺も嬉しくなってしまったから――

 おーいお茶俳句大賞にその写真を応募することで、一応の決着を見た。

69名無しさん:2016/04/03(日) 20:39:34 ID:h7hhsNrw0
   /\/\/\∧
  < おわり! >
   V\/\/\/
\    |    /
 \   ___  /
    /   ヽ
\ m {0}/"ヽ{0}m /
  |っ| ヽ_ノ と|
 / ム  `ー′ ム \
(__     ___)
__ |    |___
  /     /
  /     /
 | /\_ノ ̄ ̄ヽ
/| |   ̄ ̄/ ノ
 / ノ    | / \
`/ /     ノ /
/ |     (_ \
\_)      \_)

70名無しさん:2016/04/03(日) 20:39:41 ID:VRZkXU420
俳句wwww

71名無しさん:2016/04/03(日) 20:40:51 ID:W.1g7nVg0


72名無しさん:2016/04/03(日) 20:49:10 ID:d1WOcgtI0
おつおつ

73名無しさん:2016/04/03(日) 20:56:14 ID:4dNPPal.0
すげえ濃かった
ちょっとジーンと来たらこれだよ


74名無しさん:2016/04/03(日) 21:18:50 ID:8rZZShVY0
感動を返せ!
むしろクーを還せ!

75名無しさん:2016/04/03(日) 21:50:16 ID:LsacHXVg0
乙!
さくっとした短編で心地良い
ギャグ多めでサクサク進んでいくところがよかったー

76名無しさん:2016/04/04(月) 01:04:12 ID:gkwMV5260
なんだこの流れるような言語センス
天才すぎる

77名無しさん:2016/04/04(月) 01:10:00 ID:I0YHWWH.0
乙乙、すごく面白かった

78 ◆mQ0JrMCe2Y:2016/04/04(月) 01:10:22 ID:hT40iIjI0
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79名無しさん:2016/04/06(水) 17:25:49 ID:fIOq1Af20
言葉選びがめっちゃ巧い
こんな返しができるようになりてー

80名無しさん:2016/04/06(水) 17:36:27 ID:PdfBDAUA0
こいつはセンスがやばい
何度笑わされたことか、本当乙


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