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ξ゚⊿゚)ξ 笛吹き幽界譚のようです
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『あるべきものを、あるべきところへ』
老婦は少年に幾度となく囁いた。
その度に少年は、こくりと小さく肯いた。
彼らにとって〝墓〟とは〝出入口〟であった。
それは守るべき扉であり、なればこそ墓守とその名を、役目を、継いできた。
死者の街──幽界の安寧のために。
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ξ゚⊿゚)ξ 笛吹き幽界譚のようです
【1】
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ξ;゚⊿゚)ξ「……っ」
月明かりの眩い夜だった。
人気のない墓地で、少女──津嶋ツンは、唖然と立ち尽くしていた。
〝墓石の表面が揺れている〟
波打ち、拡がり、それこそ石を投げ込んだ水面のように揺らめいている。
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よくわからないものからは、逃げろ。
津嶋がこれまでの人生から学んだ経験則である。
ξ;゚⊿゚)ξ「(きっと、ろくなもんじゃ……ない)」
逃げる。考えはまとまっていた。
何かあってからでは遅い──しかし。
じゃり、と足元が音を立てたが、それだけだった。
アレが何であるのか知りたい。
その欲求が、無意識にその場を去るという選択肢を奪い去っていた。
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目を凝らす。
既に暗闇に慣れていた津嶋は、月明かりでも十分にあたりを見渡せた。
目を凝らした。
そうしてすぐに、その場を去らなかったことを後悔した。
見えたのは、白い腕。左腕だ。
手先、薬指の切り傷が妙になまめかしい。
……それが、墓石から突き出ている。
ξ;゚⊿゚)ξ
あまりにも気味が悪い。
そう思いつつも視線は釘付けで、足はもはや縫い付けられたように動かない。
何故こんな夜遅くに家を出て来てしまったのか、津嶋は走馬灯のように思い返していた。
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ことの始まりは、そう。
……飼い猫の死。
( ФωФ) ナァ-ゴ
飼い猫(ロマ)が死んだ。
〝確信〟したのは、二日前のことだ。
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首輪を付けてはいるものの、
自由に外を出歩かせていたがために半分野良猫のような扱いだった。
いつもどこで食べてくるのか、家ではほとんど餌を食べず、
夕暮れどきにふらりと帰ってきては寛いで眠るだけの猫だった。
それが、ある日を堺にぴたりと帰ってこなくなった。
ここ最近パサついた毛並みが気にかかっていた。
それは体調が優れていないのがひと目でわかるほどで、
けれどもロマは外へ出かけていくのをやめようとはしなかった。
猫は死ぬとき身を隠す。
誰に言うでもなくぽつりとこぼした父の言葉が、津嶋の頭にこびり付いて離れなかった。
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それが、二日前。
ロマは、何事も無かったかのように軽やかに、
軽やかに過ぎるぐらいに自然に、久々に、顔を見せた。
( ФωФ) ナァ
鍵の掛かった窓を〝すり抜けて〟
部屋へ入り込み、その小さな頭を津嶋の右手に擦りつけた。
……擦り付けられた頭に温度はなく、身体は薄く透けていた。
ξ-⊿-)ξ「勝手に死なないでよ、ばか」
ロマは寂しげに、けれどもどこか満足げにひと鳴きすると、
それが別れの言葉であったかのように、ふっと消えた。
あとには、何も残らなかった。
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当然ながら。
翌日もなお、家族はロマを待っていた。
ζ(゚ー゚*ζ「帰ってこないねぇ」
そう言って窓を眺める妹──デレに曖昧に頷く。
ξ゚⊿゚)ξ「(もう、逝ってしまったから)」
つい、そう言いかけるのを何度も、何度も飲み込んだ。
……死んだ姿で現れたなど口が裂けても言えなかった。
家族は、津嶋が〝おかしなもの〟を視てしまうことを知らないのだ。
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ξ゚⊿゚)ξ「(せめて、形見があれば)」
そう思い立ったのが今夜のこと。
ロマは、墓地が好きだった。
外で見かけるときは、いつもあの縦長の、ひんやりとした墓石の下に寝転んでいた。
もしも未だその墓地のどこかに横たえているのだとしたら、
その首輪を、奴の骸(むくろ)を、連れ帰ってやりたかった。
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果たして、夜中、ツンは家を抜け出した。
昼間はどこか人を、生者を寄せ付けない雰囲気のある墓地が
全てを引き込む穴のように、月の照らす夜の底でぽっかりと浮いて見えた。
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ピュ──イ
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ξ゚⊿゚)ξ「!」
笛の音。口笛だろうか、どこか柔らかい響きが頭に残る。
津嶋はいつの間にかぼうっとしていたことに気付き、意識の手綱を握り直した。
あたりを見回す。
表面の揺らいでいた墓石は既になく、もはやどれがそうであったのか見分けは付かなかった。
違いがあるとすれば、墓地の奥。
( ^ν^)
いつの間にか、見覚えのない青年が佇んでいること、ぐらいか。
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( ^ν^)〜♪
ξ゚⊿゚)ξ「(あいつ、だ)」
口笛の音は、青年のものだった。
お世辞にも楽しげとは言えない旋律は、不思議と懐かしさを覚えさせる。
津嶋は無意識のうちに真似していた。
ξ゚⊿゚)ξ 〜♪
して、驚く。
初めて吹いたとは思えないほど、口によく馴染むのだ。
-
ξ゚⊿゚)ξ「(なんだろう、この感じ)」
ξ゚⊿゚)ξ「(まるで、遠い昔に……それこそ生まれる前に聞いたことが、あるような)」
( ^ν^)「おい」
ξ;゚⊿゚)ξ ビクッ
肩を跳ねさせる。
見れば、青年の瞳がばちりと津嶋の瞳を捉えていた。
-
( ^ν^)「どこでそれを覚えた」
ξ;゚⊿゚)ξ「ええと、……今。あなたが吹いていた、から」
青年が近くに寄る。
寄ってみると、思いの外身長が高いのに驚いた。
ξ;゚⊿゚)ξ「(頭一つ分は違う……)」
自然と、見上げる形になる。
クセのある黒髪は少し長くて、襟足は首筋に、前髪は両の目にかかってしまっていた。
-
( ^ν^)「……あー」
頭をがしがしと掻く。
津嶋はいたずらを見とがめられた幼子のような気持ちで、青年の言葉を待った。
管理者のように見える。ツンが墓地の中で明らかに浮いているのに対し、
青年は影のように馴染んでいるのだ。
彼の顔に一切の罪悪感がないことがそう思わせるのだろう。
ここにいるのが当然と、そんな風。
対する津嶋は、すっかり引きつってしまっていた。
数秒間の沈黙。
( ^ν^)「……夜遅くに出歩くもんじゃねー。これやるから、まっすぐ帰れ」
当たり障りのない言葉。
怒られなかったことに胸をなでおろしつつ、津嶋はこくこくと頷く。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「ぁ……、! ありがとう」
( ^ν^)「ん、気をつけてな」
ξ;゚⊿゚)ξ゛ コク
青年は懐中電灯を手渡すと、帰りを促すようにそっとツンの肩を叩いた。
背を向ける。歩き出す。
背中を、冷たい汗が流れていた。
……ツンは見逃さなかったのだ。
青年の左手、くすり指。
そこに確かに切り傷があったことを。
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* * * * *
ξ-⊿-)ξ゛
制服のブラウスをぱたぱたとさせて、
津嶋は暑さにとろけそうになる身体になけなしの風を送り込んでいた。
時期は夏。夏休み。
こうして高校に来ているのは夏期講習のためであった。
一つ上の学年はもう少しピリついているが、
未だ大学受験という言葉がピンと来ていない津嶋は、その弛緩した空気に身を任せていた。
窓の外、どこか遠くで鳴っているひばり放送がぐらぐらと響く──どうやら今日も
少年少女が探検に出たっきり、帰ってこないらしい──
中弛みの2年とは言いえて妙だ、と他人事のように考える。
そんな折、人もまばらな教室(夏期講習は自由参加なのだ)へ少女が飛び込んできた。
-
o川*゚ o゚)o゛「ツンちゃんだらしなぁい!」バンッ
ξ-⊿゚)ξ「……キュート?」
o川*^ー^)o「正解です!ぶいっ」
ξ-⊿-)ξ「あつー……」
o川;*゚ー゚)o「吃驚するぐらい無関心じゃん? せめてこっち向いて……?」
ξ-⊿-)ξ「まだひばり放送の方が有益な感じする」
o川;*゚ー゚)o「私の情報力は見知らぬ子ども以下なの!!?」
ξ-⊿゚)ξ゛「あれ、聞いてたの」
o川*゚ー゚)o「……まあ同じ学校にいますから。」
ξ-⊿-)ξ「はあ暑」
o川;*゚ー゚)o「まって光の速さで興味を失うのやめて???」
キュートと呼ばれた少女──河合キュートは艶やかな黒髪を翻し存在をアピールするが、
津嶋の視界にはさっぱり入ってこないようである。
やがて大きな身振りで関心を引こうとするのを諦め、今度はそっと耳元に顔を近づけた。
o川*゚ー゚)o「……大事な話、なんだけど」
-
ξ゚⊿゚)ξ「暑苦しい。聞くから、そこ座りなさい」
o川*-ー-)o「はぁい」
河合は津嶋の隣の席へ腰かけると、鞄から小さな巾着袋を取り出した。
はい、と津嶋に手渡す。
ξ゚⊿゚)ξ「これ」
o川*゚ー゚)o「開けたら、わかるから」
河合は曖昧に微笑んで、そう促す。
首をひねりつつも巾着のひもを引っ張ると、中でチリンと鈴の音がした。
ハッとする。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……これ、どこで」
中には見覚えのある首輪が入っていた。
鈴と一緒に付けられたプレートに、住所と名前が刻んである。
ロマの二文字。飼い猫のものだった。
o川*゚ー゚)o「ざっくり言えば、うちの敷地。
ええと……離れがくるうさんのやってたガラス工房なんだけど、」
o川*-ー-)o「日課の手入れしてたら、
ちょうど木陰のところで猫ちゃんが……冷たく、なってて」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
-
o川*゚ー゚)o「ほら、この間、暑中見舞い出したでしょ?
首輪の住所に見覚えがあったから、もしかしてと思って」
ξ-⊿-)ξ「ありがとう、探してたの。
……そう、ロマはキュートのところにいたのね」
o川*゚ー゚)o「よく見かける子だったんだ。
くるうさんとも顔見知りだったと思う」
ξ゚⊿゚)ξ「驚いた。そんなに前から」
くるうさん──小学生の時分に親を亡くして親戚中をたらい回しにあっていた河合の
最期の引き取り手であり、親代わりにあたる紳士然とした老爺──は、去年の夏に亡くなっている。
彼がやっていたというガラス工房も現在は彼女が趣味で使うぐらいで、
一般公開をやめてしまったという。
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o川*-、-)o「本当は体も渡してあげたかったんだけど、
……木陰とはいえ、ここ数日暑かったから」
きっと状態が良くなかったのだろう、
言いづらそうに下を向く河合に津嶋は微笑みかける。
ξ゚ー゚)ξ「こうして形見が見つかっただけで十分よ。
ありがとう、ロマを見つけてくれて」
o川*゚、゚)o「……やっぱり、ツンちゃんには敵わないなぁ」
ξ゚⊿゚)ξ「うん?」
o川*>ー<)o「あたし、これでも、どうやってこの話を切り出そうかすっごく考えたんだよ!
やっぱりショックだろうなぁとか、落ち込むだろうなぁとか……」
-
o川*´ー`)o「何て声をかけたらいいんだろうとか、
……そもそも知らせない方がいいのかなとか、本当に」
ξ゚ー゚)ξ「それでも教えてくれたじゃない。ほら、やっぱりキュートは優しいのね」
o川*゚ -゚)o「どうしてちょっとこっちが慰められてるみたいになってるの!もーーー!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「む、」
河合がもはやヤケクソだとでも言わんばかりに津嶋の頬を引っ張った。
驚いて目を白黒させつつ、痛い、痛い、と笑う。
o川*゚ -゚)o「ついでに、これも、貰っていって」
引っ張る手を離し、そのまま津嶋の首後ろへ持っていく。
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カチリと音がして河合が離れる。
津嶋の鎖骨を艶やかな黒髪が撫ぜた。
ξ゚⊿゚)ξ「ネックレス……?」
o川*^ー^)o「よかった。ちゃんと似合う」
津嶋の首で揺れていたのは手作りのネックレスだった。
シルク紐の先に透き通った、藍のガラス細工が通されている。
光に透かすと中で反射して、星が散ったようにきらめいた。
ξ゚⊿゚)ξ「きれい……」
o川*-ー-)o「でしょ?」
手作りなんだ。河合は笑う。
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o川*゚ー゚)o「やっぱりあたし、馬鹿だからさ。
言葉を選ぶより先に、手が動いちゃった」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
o川*゚ー゚)o「…………ツンちゃん?」
ξ゚⊿゚)ξ「……ごめん。私も、馬鹿だから、なんて返したらいいか」
津嶋はそう言って、河合の頭へ手を伸ばし、優しく撫でた。
胸を満たすあたたかい気持ちが少しでも伝わればいいな、と思いつつ。
o川*゚ー゚)o
o川*-ー-)o
河合は気持ちよさげに目を細めて、そのまま津嶋の手を受け入れていた。
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開いた窓から風が吹き込む。
この瞬間だけ、夏が爽やかに心地よかった。
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時計の針は12時を指していた。
教師の終わりの号令で、生徒はまばらに教室を出ていく。
津嶋も、河合も、その中の1組だった。
o川*゚ー゚)o「帰り、時間ある?」
ξ゚⊿゚)ξ「まあ」
o川*-ー-)o「寄りたいところがあるんだー」
ξ゚⊿゚)ξ「……外はイヤよ?」
河合は首を横に振る。
炎天下を避けたいのは二人で共通していたようで、くすくすと笑い合う。
o川*^ー^)o「多分、ツンちゃん好きだと思うよ」
.
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通学路から少し逸れる、帰り道。
見かけはするものの曲がったことのない細道へ入り、しばらく歩く。
涼しい風。
街路樹で、道全体に影が落ちている。
o川*゚ー゚)o「ここです」
ξ゚⊿゚)ξ「『柏木古書堂』……? 古本屋さん、かしら」
河合は頷く。
中から、古い紙の匂いがした。津嶋はなんとなく胸が踊るのを感じる。
一段高くなった店の床に足をかけると、きぃと軋む音がした。
まるで家のようだ、と津嶋は思う。
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軒に看板こそ掛けてあるものの、入ってすぐのところにレジスターが置いていなければ、
到底、店には思えなかっただろう。
入口のレジに人はいない。
o川;*゚ー゚)o「ちょっと、ツンちゃん、待ってってば」
ξ゚⊿゚)ξ「すごい……二階もあるのね、上、天井が低くなってる」
o川;*゚ー゚)o「お、おーい」
ξ゚⊿゚)ξ「……狭いというと失礼かしら。そうね、スペースを有効に使ってるんだわ」
o川;*-ー-)o「んもー……気に入るとは思ったけど、ほんと、熱中するとすぐこうなんだから」
河合のぼやきは既に、すたすたと階段を上がっていく津嶋には届いていなかった。
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ξ゚⊿゚)ξ゛「小説や漫画だけじゃないのね、こっちは……辞書かしら。
古い字、漢字ばっかり」
ξ-⊿゚)ξ「どうやって読むのかしら……?
そもそも、誰が使うための、こっちは──」
津嶋と言えば、すっかり古書堂の虜となっていた。
もともとこういう、古く懐かしいものには心惹かれるたちなのだ。
好きだと思う、という河合の見立てはその通りであった。
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ξ゚⊿゚)ξ「どれもこれも、本当に状態がいい……きっと大事に扱われてるのね」
古本屋というと、狭い棚にぎちぎちと、
これでもかというほどに本を詰めているイメージがあった。
それこそ一冊抜いたら最後、元の場所にもどすのが困難なぐらいには。
それがなんだか息苦しくて、ツンはあまり好きではなかったのだが。
ξ゚⊿゚)ξ「柏木古書堂、ね。覚えておきましょ」
とにかく、この古書堂はお気に召したようである。
一冊一冊が心地よく収まって、本にかけた指が積もった埃で汚れるということもなく、
それらを通して繊細な気遣いが透けて見えたのだ。
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ξ゚⊿゚)ξ「折角だし、デレへのお土産に一冊、何か……」
( ^ν^)「デレ? 下にいたやつ……に宛てたお土産ってのはおかしいか」
ξ;゚⊿゚)ξ「ひゃ」
( ^ν^)「ひゃ(笑)」
思わず飛びのく。背中をぶつけた。痛い。
横からすらりと伸びた腕に、声に、その癖のある黒髪に、見覚えがあった。
件の青年。
津嶋の急な反応に驚きつつも、くつくつと笑う。
……その、口元を覆う左手。
ξ゚⊿゚)ξ「(あれ)」
津嶋は昨日はなかった絆創膏を目敏く見付ける。
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( ^ν^)「よぉ。昨日ぶり」
柏木古書堂へようこそ、と──これは後になってわかったのだが──古書堂唯一の店員、
柏木ニュッはそう言って、不遜に笑って見せた。
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o川;*゚ー゚)o そ「ちょ、ちょちょ、ツンちゃん今すごい音したけど!!?」
ぱたぱたと階段を駆け上がってきた河合は柏木の姿を見つけると一瞬面食らって、
けれどもすぐに店員であると理解したのか、軽く会釈をした。
o川;*゚ー゚)o「……お邪魔、してます…」
( ^ν^)「あい、いらっしゃいませ。どうぞごゆっくり」
柏木は猫を被ったようにそう返すと、尻餅をついたままの津嶋にす、と手を伸ばした。
津嶋と言えば、意図を理解出来ず呆けた顔をする。
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( ^ν^)「っと。店内では滑りやすいところもございますので、お気をつけください」
ξ;゚⊿゚)ξ「!?」
その津嶋の腕を引っ掴んで立ち上がらせると、柏木は取ってつけたようにそう言って、
状況がつかみきれない河合をほったらかしに階段を降りて行った。
o川*゚ー゚)o「今の……店員さんだよね。ツンちゃん知り合い?」
ξ;゚⊿゚)ξ「知り合いっていうか……」
口ごもる。深夜に墓地で見かけたとは言いづらかった。
自分から聞いておいてあまり興味もなかったのか、河合はふうんと流すと微笑んだ。
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o川*^ー^)o「でも、いいお店でしょ? 店員さんは、初めて見たんだけどさ。
ツンちゃん気に入ったでしょ、こ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうね。また来たいかも」
o川*-ー-)o「放課後お散歩コースがここに追加されました〜!」
ξ゚⊿゚)ξ「言うほどお散歩してないでしょ」
o川*^ー^)o「これからするの」
にんまりと笑ってそう言う河合にはいはい、と津嶋は返す。
そうして、どちらからともなく再び古書堂の探索に戻っていった。
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結局、妹の土産には猫の絵本を選んだ。
洋書で何が書いてあるのかはわからなかったが、なんとなく優しい雰囲気が気に入ったのだ。
( ^ν^)「お買い上げありがとうございます。どうぞ、ご贔屓に」
会計時、わざとらしくそういう柏木(丁寧にも、かけたエプロンに名札をしていた)に、
津嶋は一言「また来ます」とだけ答えた。
あの青年が丹念に店の管理をしているのだと思うと、少しだけ意外に思えた。
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そういえば、と。
店を出てすぐ、ふと気になっていたことを聞いた。
ξ゚⊿゚)ξ「キュートはどうやってあの古書堂を見つけたの?」
o川*゚ー゚)o「え? ……んー」
散歩してたら、偶然ね。
そう返した河合の表情は、艶やかな黒髪に隠れてよく見えなかった。
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その日の夜。
津嶋は妹を部屋に呼ぶと、首輪を渡した。……ロマのものだった。
それで彼女は全て察したのか「そっかぁ」とだけ答えると、
泣き笑いのような表情でおかえりなさいと呟いた。
わんわん泣くことも、どうして首輪だけと問い散らすこともしない。
聡い子だ。津嶋は、優しくその頭を撫でる。
ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃん……?」
ξ-⊿-)ξ「ごめんね、私が、寂しいの。……少しだけこうさせてね」
しばらくぼうっと座っていた妹は、うん、と言ってふやけるような笑みを浮かべて、
津嶋にギュッと抱きついた。
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子どもらしい高い体温。
胸に顔を埋めた妹の小さな小さな泣き声は、聞こえないふりをした。
小学二年生の妹は、なぜだか少し、感情を隠すところがある。
もっと甘えたって良いのに。
こうして気を使う子になったのは誰の影響だろう──津嶋はぼんやりと、そんなことを考える。
妹が泣き疲れて眠ってしまうまで、2人はそうやって抱き合っていた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「(これで元気が出るかは、わからないけど……)」
眠った妹をベッドに移動させると、その枕元に古書堂で買った絵本を置いた。
目元の泣きあとを拭ってやる。
少しだけ、穏やかな顔をしたような気がした。
階段を降りる。
津嶋姉妹の部屋は二階にあるのだ。
1階は父の書斎と、母の部屋。
書斎からは明かりが漏れている。父が起きているのだろうか。
そう思いつつも、書斎の向かい、リビングを覗く。
そちらも明かりがついていた。
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lw´‐ _‐ノv「ツンちゃん。まだ起きてたの」
母だ。
リビングからはミルクの甘い匂いがした。
見れば、テーブルの上でマグが薄く湯気を立てている。
母は本を読んでいたようで、豊かな髪を下で括って
文字を追うときにだけ掛ける、細縁の丸眼鏡をしていた。
ξ゚⊿゚)ξ「まだって、シューさん、それこそまだ21時よ」
lw´‐ _‐ノv「あらまあ、まだそんな時間?」
-
ξ゚⊿゚)ξ「うん、デレは寝ちゃったけどね。ディさんは?」
lw´‐ _‐ノv「書斎で書き物をしているみたい。邪魔しないであげてね」
ξ-⊿-)ξ「はあい」
そう返して、ソファに腰掛ける。テレビを点ける気にはならなかった。
シューさん──母が本のページを捲る音だけが静かに響いて、
なんとなく心地よくなってまぶたを閉じる。
その途端、疲れが押し寄せた。
津嶋が自分で思っているよりもずっと、ロマの死が堪えているのかも知れなかった。
ソファが沈み込む感覚がする。
甘い匂い。ミルクの香り。
-
lw´‐ _‐ノv「ツンちゃん、何か、あったのね」
薄く目を開けると母が隣に腰掛けていた。
はい、とマグが渡される。
あたたかい。新しく入れ直してくれたのだ。
ξ゚⊿゚)ξ「……あのね」
ξ゚⊿゚)ξ「ロマ、死んじゃった」
口に出すと、その呆気ない言葉に悲しくなった。
それ以上のことはとても言葉にできず、受け取ったミルクをゆっくりと口に含んだ。
-
砂糖の甘さがミルクと一緒にもったりと舌を包み込む。
母は、そうなの、とだけ答えた。……それがいっそ、ありがたかった。
頭を撫でられる。
つい先ほど妹にしてやったのと同じだなぁと、
津嶋はなんとなく血のつながりを感じておかしくなった。
-
シャワーを浴びて、机について、夏期講習で出された課題を済ませるころにはもう既に
日をまたいでから一時間経つかどうかの頃合いだった。
家の中はすっかり寝静まっていた。
部屋を出て、そうっと階段を降りる。リビングの明かりは消えていた。
書斎の前を通ったけれどそちらの明かりも消えていたし、
さすがに父も寝てしまったのだろう。
完全に真っ暗だった。
津嶋は、玄関のノブに手をかける。
ξ゚⊿゚)ξ「どうしても気になるの、ごめんなさい」
誰に言うでもなく、強いて言えば夜中に家を抜け出す行為の罪悪感を、
少しでもごまかすためにそう呟いて、昨日の墓地へ向かった。
-
片手には懐中電灯。
昨夜、青年──柏木から受け取ったものだった。
理由は単純。ただ、気になったのだ。
あの、表面の波打つ墓石が。
そこから突き出ていた白い腕が。
その手と同じ個所を怪我していた柏木が。
ξ-⊿゚)ξ「気になって、夜も眠れやしない」
歌うようにそう呟いて歩く夜の町は、穏やかに重たく、
ねっとりと深い闇に包まれて、生臭いほどに幻想的だった。
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津嶋は手元の懐中電灯をつける。
カチ、という音とともに黄色味を帯びた光が円錐に足元を照らした。
そうやって夜の底を歩くのは、深海を潜水艦で進むような心地がして、ワクワクした。
津嶋はすっかり高揚していたのだ。
だから、失念していた。
夜の底の住人の存在を。
ときにそれは生身の人間であり、それなら逃げられる可能性があるだけまだましで、
問題は体を透かしたうつろな存在で、走って逃げればどうにかなるようなモノではなくて。
津嶋が一人でろくに対処できるような、そんな、生易しいものではなくて。
-
そう、すっかり失念していたのだ。
自分がそういった類の〝おかしなもの〟を見やすく、
同時に、絡まれやすい体質だということを。
ξ; ⊿ )ξ「──ッ」
そのことを思い出したのは背筋を冷たい感覚が突き抜けて、
驚いて立ち止まったその肩を掴むように──後ろから手をかけられた、後だった。
-
【1】終わり
-
乙、なんか惹かれる
-
乙乙
-
突然、腕を掴まれた。黄昏時だったと思う。
見上げるとひどくきれいなお姉さんがにっこりと微笑んでいた。
一拍遅れて、ぞくりと鳥肌が立ったのを覚えている。
透けて見えたのだ。
その体の向こうの、景色が。
反射的に振り解こうとすると、信じられないほど強い力で握り返された。
本能が「このままだと危ない」とガンガン警鐘を鳴らしていて、けれどどうにもならなくて、
ぐいぐい引っ張られるままに泣きそうになっていると、もう片手を掴まれた。
暖かくて柔らかい手。
振り返る──少年だった。当時の自分と、同い年ぐらい。
少年の隣には老婦がいた気がする。
安心して、さらに泣いてしまって、気付けばお姉さんはいなかった。
少年は津嶋が泣き止むまでずっと、ずっと頭を撫でてくれていた。
.
-
ξ゚⊿゚)ξ 笛吹き幽界譚のようです
【2】
.
-
ξ;゚⊿゚)ξ「ひ、」
喉の奥から引きつった声が漏れる。
駆け出すべきなのだが、竦んでしまって足が動かない。
それに、こういう場合、相手が〝おかしなもの〟であれば大概にして手遅れなのだ。
『事故のようなものだからね。アンタ、災難だったね』
遠い記憶の底で、老婦にそう慰められたのがフラッシュバックした。
そうだ、こうして触れられて──〝関わって〟しまった時点で、
視認の領域を超えてしまった時点で既に、事故に遭った後なのだ──……
-
津嶋の思考を絶望がいっぱいに満たしたところで、
耳に入ってきたのは呆れ返ったため息だった。
あれっと思って振り向くと、見覚えのある青年。
その隣には、ちょうど、妹と同じぐらいの年頃の少女がいた。
( ^ν^)「お前さあ、人が夜中に出歩くなって帰るためにやった懐中電灯で
お出かけすんのやめてくんね?」
柏木だった。
.
-
ξ;゚⊿゚)ξ「おっ……どろいた。あなた、本当、こんな時間に何してんのよ」
( ^ν^)「こっちのセリフだ馬鹿。
丑三つ時にセーラー服で出歩くやつがいるかよ」
ぐ、と言葉に詰まる。
部屋着で出て来るのはなんとなく憚られ、かといって外着を出すのも億劫で、
結局、津嶋はかけていた制服をそのまま着てきたのである。
ふと視線を感じ、目線を下げる。
すぐに目が合った。
(#゚;;-゚) ジ-
柏木の横にぴったりとくっついた女の子だ。
-
闇が怖いのか、はたまた津嶋(目の前の知らない人)が怖いのか、
彼の服の裾をギュッと握っている。
津嶋は思考がきん、と冷える心地がした。
それが自身の正義感に基づいた憤りであると気付くのに、そう時間はかからなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「……本当に、何してんのよ」
( ^ν^)「あ? 何って……まあ、仕事だよ」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「仕事?」
胡散臭い。津嶋は顔をしかめる。
深夜に幼い子を連れ歩くような仕事など、良い想像が膨らむわけがなかった。
-
( ^ν^)「ま、深夜徘徊するような不良少女には関係のないお話ですよ」
ξ゚⊿゚)ξ「…………犯罪的な行為じゃないでしょうね」
( ^ν^)「どうしてそうなる」
ξ゚⊿゚)ξ「あなたが胡散臭いからよ」
( ^ν^)「殺すぞ」
ξ゚⊿゚)ξ「そういうとこよ。口が悪い、目つきも悪い」
( ^ν^)「目つきはしょうがないじゃん???
ただの悪口じゃん??????」
ξ゚⊿゚)ξ「それに、」
-
(#゚;;-゚) ソワ
津嶋は少女をちら、と見る。
大問題はこちらだろう。
青少年の外出は例え保護者が付いていても、23時以降は厳禁だ。
……自身の事は棚に上げて、津嶋はそんなことを思う。
柏木はそれに気づかなかったのか、遮るようにして質問を被せた。
( ^ν^)「……つーかその制服、ファイ高だろ。お前何年?」
ξ゚⊿゚)ξ「2年」
( ^ν^)「後輩じゃねえか」
ξ゚⊿゚)ξ「は」
-
ξ;゚⊿゚)ξ「──はあ!!?」
( ^ν^)「おいこら深夜」
ξ;゚ぺ)ξ「むぐ」
思いのほか大きな声が出てしまい、柏木に口を塞がれる。
大きな手が急に押し付けられたものだから津嶋は一瞬硬直して、
直後、その顔はぐにゃっと歪められた。
( ^ν^)「くくっ間抜けづら」
ξ#゚)3゚)ξ「ひゃはひははひひゃっ(放しなさいよ!)」
放送事故である。
-
柏木の手を叩き落としてもなお、
よほど可笑しかったのか「悪い、悪い」と笑っていた。
後輩という言葉から彼は先輩──3年生なのだろうと
予測はついた(というよりその事に驚いて声が出たのだ)が、
こいつには意地でも敬語は使わないと津嶋は決意する。
ξ#゚⊿゚)ξ「……」
( ^ν^)「悪かったからそう睨むなって……っくく」
言ったそばから笑いが漏れている。
柏木は笑うときの癖なのか、先程からずっと口を片手で覆っていたが、完全にこぼれていた。
……近くに少女がいなければ容赦無く蹴りを入れているところだ、と津嶋は思う。
(#゚;;-゚)゛?
野蛮な姿など見せるべきではない。
ましてや今はセーラー服だ。
こんなところで女子高生像を歪めてしまっては、彼女の後の人生に響くかもしれない。
津嶋は冗談でなく本気でそう思って、上げかけた足をそっと下げた。
-
津嶋の視線が睨む、というよりすっかり温度が抜けて蔑むものに変わってくるころになって、
ようやく柏木は笑いが治まったようで、クセのある黒髪をがしがしとかいた。
( ^ν^)「まーったく、仕方ない。ついでにお前も送ってやるよ」
ξ゚⊿゚)ξ「お前も?」
言って、合点がいく。
隣の少女のことを言っているのだ──と津嶋が自己解決した矢先、
柏木は言葉を濁らせた。
( ^ν^)「あ? あー……いや、何でもない。お前を、家にな」
ξ゚⊿゚)ξ「私を?」
( ^ν^)「さっきからオウム返しばっかりか?」
ヾξ゚Θ゚)ξジ「オハヨ、不審者! オハヨ!!」バサバサッ
( ^ν^)「渾身のモノマネで俺をディスるのを止めろ」
ξ゚⊿゚)ξ「フン」
( ^ν^)「お前温度差がえげつねえのな……」
-
ξ゚⊿゚)ξ「だから、私はいいのよ」
( ^ν^)「は?」
ξ゚⊿゚)ξ「……さっきから思ってたけどあなた、
微妙に( ^ν^)「話が噛み合ってねえよな、お前」ちょっと被せないで」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「っていうか、はあ? あなたが噛み合ってないのよ」
( ^ν^)「あ?」
ξ-"⊿-)ξ「「キレそう」」(^ν"^ )
_,
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ν^)「おい目に見えてイラつき始めたじゃねーか落ち着けよ」
-
付き合いきれない、と思う。
柏木は津嶋が今まで関わってきた人間の、どれにも当てはまらないようなタイプだった。
……どれにも、と言えるほど人と関わってこなかったのもまた事実ではあるのだが。
ξ-⊿-)ξ -3
嘆息。
向こうが馬鹿なら、こちらが大人にならなくては。
一度怒りを落ち着けて津嶋は少女を指差した。
ξ-⊿゚)ξσ「だから、私はいいのよ。でも、その子は?」
( ^ν^)「………………………………………………は?」
(#゚;;-゚) ?
空気が、凍った。
.
-
ξ゚⊿゚)ξ「……この子は、」
津嶋はしゃがみこみ、少女の手を取って──息を呑んだ。
透けている。
意識しなければ分からない程度に、薄らと。
当然のようにその手に温度は無かった。
熱も、冷えもなく、空気を手に取るような感覚で。
つまり、それは、要するに。
(#゚;;-゚)゛?
少女は〝おかしなもの〟だと、いうことで。
-
……思えば、柏木に手をかけられた時点で異様なまでの寒気がしていた。
アレはこの少女がいたが故のものだったのだ。
( ^ν^)「お前」
ξ゚⊿゚)ξ「……」
しゃがみ込む津嶋に柏木が上から視線を落とす。
一瞬間、共犯者めいた沈黙があった。
ξ-⊿-)ξ「……視えるわよ」
津嶋は、観念したように呟きを落とした。
-
( ^ν^)「なら、まあ、いいか」
そう言って、津嶋に手を差し出す。
デジャヴを感じた。
昼間の古書堂──あの時は呆然としているうちに引っ張り起こされた。
ξ゚⊿゚)ξ「……ありがと」
今度は掴んで、立ち上がる。
柏木はにやりと口元を緩めた。
-
さて、と一言。
( ^ν^)「さっき、仕事だと言ったろ。
ちょっと付き合え。したら家まで送ってやるから」
ξ゚⊿゚)ξ「別に送ってもらわなくても平気よ」
( ^ν^)「これで俺と別れた直後に暴漢にでも遭ってみろ、俺の心に傷を残す気か?」
ξ-⊿-)ξ「どんな理屈よ」
( ^ν^)「……ま、お前の場合は〝それ以外〟の方がよっぽど怖いんじゃん?」
ξ;-⊿-)ξ「……」
否定は出来なかった。
既に、その恐怖は味わってしまっていたから。
柏木に声を掛けられたときに、思い出してしまっていたから。
-
( ^ν^)「行くぞ」
(#゚;;-゚)゛コク
柏木が声をかけると少女は小さく頷いた。
津嶋はまるで、生きているみたいだと思う──その片隅で、
どちらも夜の民(死んでいるみたい)だとも、感じていた。
微かな足音すらよく響く闇の中で、少女の鳴らすはずの音だけが
世界からすっぽりと抜け落ちていた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……昨日の、墓地」
津嶋はぽつりとこぼす。
やはりここが〝仕事〟と関係しているのだろう。
昨日感じた、慣れた雰囲気はやはり気のせいではなかったのだ。
( ^ν^)「さあ、お前の墓はどこだ?」
(#゚;;-゚)σ スッ
そちらの一角なのだろうか、少女は大きな柳の下を指し示す。
( ^ν^)「そこまで案内してくれ。……行けるか?」
(#゚;;-゚)゛コク
頷いて、少女は歩き出す。
静まり返った墓地だが相変わらず足音は聞こえない。
-
津嶋はその後に続く柏木の、さらに後に続いた。
墓石が3つ連なったところの目の前で、少女は足を止めた。
小さな口が開く。
(#゚;;-゚)「まんなかの、だよ」
風鈴のような声だった。
涼やかで、愛らしい、少女らしい声。
……これから大人びていくはずであった、あまりにも可愛らしい声。
ξ-⊿-)ξ「(いけない)」
津嶋はすぐに共感しすぎてしまうその思考に無理やり蓋をして、
柏木のアクションを待った。
-
2秒。5秒。17秒……何もない。
少女も柏木も、動かない。
( ^"ν^)「……」
柏木は腕を組んだまま、何かを待つようにじっとしていた。
ξ゚⊿゚)ξ「(あれ……?)」
津嶋はその顔を盗み見る。──顰めていた。
怒っているというよりは、苛ついている……そんな表情。
-
( ^"ν^)「…………お前も、なのか?」
(;#゚;;-゚)「あぅ……えっと、」
そんなものだから、少女はすっかり怯えていた。
当然だ。突然不機嫌になる目つきの悪い青年など、害悪でしかない。
いてもたってもいられなくなり、津嶋は柏木の手を握る。
は、と間の抜けた声が聞こえた気がしたが、気にせず中央の墓石の前に引っ張った。
ξ゚⊿゚)ξ「これよ」
( ^ν^)「これってお前」
ξ゚ー゚)ξ「ね、そうでしょ」
(#゚;;-゚)゛「うん」
( ^ν^)「………………………………あ?」
-
振り返って確認する。
頷く少女を見ると、柏木は数秒言葉を失ったのちに、そうか、とこぼした。
津嶋に返したというよりは納得がいったとか、気が付いたとか、
そういう、自分に言い聞かせる類の響きがあった。
( ^ν^)「お前のこれからは、あちらにある。せいぜい穏やかに過ごせよ」
(#゚;;-゚)゛コク
柏木は少女の手を握って、口笛を吹いた。
例のメロディだ。懐かしくて、寂しいような、それでいてどこかあたたかい……。
(#゚;;-゚) ツィ
柏木が少女の背中を推し、少女は墓石に手を伸ばす──表面が揺れた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「(……同じだ)」
水面のように揺らめく。
昨夜見たそれと同じ光景だった。
少女の体は墓石の水面を潜るようにして、やがて、完全にその〝向こう〟へと消えた。
( ^ν^)「……ま、今日はこんなもんか」
ξ゚⊿゚)ξ「今日は?」
( ^ν^)「おう。あとはどこぞの不良少女をお家にお届けするだけだ」
ξ゚⊿゚)ξ「不良少女じゃないわよ」
( ^ν^)「ほーお。でなきゃ、お間抜け霊感少女だな」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「……間抜けって何よ」
( ^ν^)「間抜けだろ。……幽霊(あんなもん)が見えんなら、あいつらが、
夜が、お前みたいなのにとってどれだけ危険かわかってるはずだろ」
-
( ^ν^)「それとも、んなことも分かんねえほどにお子ちゃまなのか?」
津嶋はぐ、と言葉に詰まる。
柏木の言葉はもっともだったし、なにより叱るような響きがあったから。
ξ-⊿-)ξ「ごめんなさい」
( ^ν^)「ん。素直でよろしい」
ぽす、と頭を叩かれる。
その手がなかなかどかされないものだから、津嶋は、不思議に思い柏木の顔を見上げた。
( ^ν^)「……ま、ものは相談なんだが」
柏木の目は、探るような光を湛えていた。
-
* * * * *
ξ-⊿-)ξ ファ
欠伸。
伸びをすると、身体の各所がぱきぱきと鳴る。
号令は既に終えていて、夏期講習後の教室、人はまばらだった。
o川*゚ー゚)o「ツンちゃん眠そう」
ξ-⊿-)ξ「眠い」
o川*゚、゚)o「夜更かししたの〜?」
ξ-⊿-)ξ「……ぐぅ」
o川;*゚ー゚)o「ちょいちょいちょちょい、寝ないでってば!」
んよいしょー!と津嶋を引っ張り起こすと、
河合はほとんど背負うようにして教室を連れ出す。
-
このまま放置していれば津島は教室で寝入っていただろう、懸命な判断だった。
o川*゚ー゚)o「しっかりしてるツンちゃんには珍しいねー」
ξ-⊿゚)ξ「んー……」
o川*゚、゚)o「……ちょっとちょっと、ほんと、どうしたの?」
ξ-⊿-)ξ「別に、どうもしないわよ。強いていえば、お散歩しすぎただけ……あっ」
o川*゚ -゚)o「………………お散歩?」
ξ゚⊿゚)ξ゛そ「やば」
o川*゚ー゚)o「ふぇ?」
暑さと眠気とでぐらぐらしていた意識が不意に覚醒する。
-
約束があった。
今日の講習終わり──即ち、15時すぎだったはず。
ξ゚⊿゚)ξ「ごめん、キュート。今何時?」
o川*゚ー゚)o「15時半」
ξ゚⊿゚)ξ「……あっちゃー」
o川*゚ ,゚)o「ちょいちょいちょい、話が全然読めないぞう?」
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと、約束、忘れてた。……急ぐから先いくわ」
o川;*゚д゚)o「えー! そんなナチュラルに置いてかれるのーーー!」
o川;*゚ー゚)o「てかてか待って、あのツンちゃんに、ぼっち極めてます!みたいなツンちゃんに、
私以外の誰かとの約束が!あるの!!? ねえ!!!」
ツンちゃーーーーん!という河合の叫びも虚しく、津嶋は走り去る。
細すぎる見た目に反して、その脚力は目を見張るものがあった。
-
o川*゚ -゚)o「え? は? 嘘でしょ」
o川*゚ -゚)o「………………………………まさか、本当に?」
普段の様子か嘘のように、すっかり表情の消えた河合の声を、聞いていた者はいなかった。
-
* * * * *
( ^"ν^)「遅ぇ」
河合を置き去りにして、およそ十数分後。
ξ;-⊿-)ξ「……ごめんなさい」
津嶋は柏木古書道にいた。
──約束は、柏木とのものだったのだ。
きっかけは昨夜、別れ際に遡る。
-
( ^ν^)『なんつーか、お前、いいとこ住んでるんだな』
ξ゚⊿゚)ξ『たまたまよ』
( ^ν^)『へえ?』
柏木は表札の津嶋、の文字を指でなぞる。
名うての地主じゃねーか、とこぼしつつ。
ξ-⊿-)ξ『……津嶋ツンよ。私はね』
( ^ν^)『地主はあくまで父だってか? そりゃ随分と、殊勝なこって』
-
ξ゚⊿゚)ξ『送ってもらったこと感謝してる。ありがとう』
( ^ν^)『その割に敬語は使わないんだな?』
ξ-⊿゚)ξ『あら、必要だった?』
( ^ν^)『そういう舐めた態度取るところ、ほんっと可愛くねぇ』
ξ-⊿-)ξ『それはどうも』
それじゃ、と玄関に手をかけようとして、もう片手を掴まれた。
驚いて振り返る。柏木は、さっきの話、と言いかけて、黙った。
ξ゚⊿゚)ξ『ものは相談、のことでしょ?』
( ^ν^)『……』
ξ-⊿-)ξ『いいわよ、せいぜい上手に使ってちょうだい。……私には、過ぎた能力だから』
( ^ν^)『……あぁ』
じゃあまた、明日。
そう言い残すと柏木はぽい、と手を離した。
-
ξ゚⊿゚)ξ「二階に部屋があるのね」
( ^ν^)「もとは客間だったんだが、今はな。俺の私室」
上がれよ、と柏木が言うので言われるままに二階に上がると、
辞書や古書の本棚の奥に、隠れるようにして年季の入った扉があった。
きぃ、と独特な音がして開く。
見た目に反して埃臭さはなかった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「(やっぱり、手入れされてる。几帳面なのかしら)」
通された私室は簡素なものだった。
壁際に本棚、窓辺のベッド、その横の机に薄型のノートパソコン。
あとは備え付けのものと思われるクローゼットと、そのくらい。
( ^ν^)「ほらよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「っ」
クッションが投げ渡される。
……これに座れということだろうか。
柏木はベッドに腰を下ろしたので、津嶋もそれに合わせて床に座り込む。
クッションは抱えることにした。
-
( ^ν^)「……まあ、いいや。好きにしろよ」
ξ゚⊿゚)ξ「そうするわ」
( ^ν^)「で、本題入っていいか?」
津嶋はこくりと頷く。
はーーーーー、と軽く、長く、柏木は息をついて言った。
( ^ν^)「担当直入に言う。やっぱり昨日のことは全部忘れてくれ」
.
-
ξ゚⊿゚)ξ「……………は?」
( ^ν^)「つーか、俺のことも忘れろ。出来ればこの古書堂にも顔を出すな。
つーわけで、帰 ξ#゚⊿゚)ξ「る、わけないでしょうが!」」
ξ#゚⊿゚)ξ「何よそれ、ちゃんと説明しなさいよ──あなたが言ったのよ」
ξ-⊿-)ξ「『俺には死者の声が〝聞こえない〟。だが、お前には聞こえると見た。
……少しでいい、〝聞き込み〟の手伝いをしてくれ』」
ξ#゚⊿゚)ξ「─ってね!」
津嶋は抱えていたクッションを投げ返す。
柏木は避けることも叩き落とすこともせず、そのまま顔面に受け止めて、ため息をついた。
-
( ^ν^)「言ったな」
ξ#-⊿-)ξ「ならどうして」
( ^ν^)「……正直に言えば浮かれていたんだよ、
俺以外に死者が見える人間は、ばあちゃん以来だったから」
( ^ν^)「でも一晩考えて気が変わった。
お前は俺に巻き込まれる、義理がないだろ」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「義理ってそんな、うわ」
再び投げ返されたクッションを受け止める。
くしゃりとやけに固い音がした。
見れば、紙の束が一緒になっている。
ξ゚⊿゚)ξ「これは」
( ^ν^)「巻き込めない理由」
-
津嶋は釈然としない表情のまま紙の束に視線を落とす。
左側に顔写真がずらりとならんでいた。
写真の横には名前と、年齢。
性別、それから、
ξ゚⊿゚)ξ「失踪時期……?」
柏木は苦い顔をして頷く。
( ^ν^)「ああ。それは、〝行方不明者一覧〟だ。
多少手を加えてあるがな」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなもの、どうして」
( ^ν^)「まあ、聞け。……つっても、どこから話したもんかな」
ξ-⊿-)ξ「決まってるでしょ、最初からよ」
( ^ν^)「……だな」
-
もう何度目かわからないが、柏木は大きく息をつくと、話し始めた。
( ^ν^)「──俺はこの町唯一の、墓守だ」
.
-
ξ゚⊿゚)ξ「……墓守」
津嶋はその言葉を反芻する。
一般的にそれは、墓を守る者、継ぐ者、あるいは管理する者の呼称だったはず。
だが、そうだとするなら柏木の言う「唯一の」という言葉とはかみ合わない。
( ^ν^)「お前、墓ってのは何のためにあると思う?」
ξ゚⊿゚)ξ「……生者が、死者を悼むため、かしら」
( ^ν^)「はは。霊感少女らしい回答で大変よろしい」
_,
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ν^)「睨むなって。……もちろんそれも理由の一つだろうさ、間違いじゃない。
だが、俺ら……といってももう俺だけなんだが〝墓守〟にとっては〝違う〟んだよ」
( ^ν^)「墓は出入り口であり、扉なんだ──幽界へのな」
-
ξ゚⊿゚)ξ「幽界?」
( ^ν^)「まあ、平たく言えばあの世」
( ^ν^)「『あるべきものを、あるべきところへ』
……俺らの間で、ある種呪文のように口伝されてきた言葉だが、」
( ^ν^)「死者を幽界に導き、死後の安寧を守る。
それが、墓守……俺の仕事だよ」
窓を背にそう言う柏木の姿は西日の逆光でよく見えず、
それがどこか、手の届かない者を連想させた。
そう、たとえば、死神のような。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……」
( ^ν^)「墓守は死者を幽界へ導く。
……その仕事の様子は昨日お前、ばっちりみただろ」
ξ゚⊿゚)ξ「あの、女の子」
( ^ν^)「そう。その子どもだ」
( ^ν^)「……もちろん、子どもに限った話じゃない。
男も女も、爺(ジジイ)も婆(ババア)も等しく導く」
( ^ν^)「だが」
柏木は顔をしかめる。
それは昨日見た表情に似ていた。
怒っているというよりは、苛ついている──ある種の憤りが滲んだ表情。
-
( ^"ν^)「最近は、やけに子供が多い。それも〝墓のない子供〟だ」
ξ゚⊿゚)ξ「墓のない……?」
( ^"ν^)「昨日のガキは墓があったが、ここ半年でもう四人
〝墓のない子供〟を送っている」
ξ゚⊿゚)ξ「……なるほど」
( ^ν^)「あ?」
ξ-⊿-)ξ「あなた昨日、あの女の子に『お前も、なのか?』って言ったのよ」
( ^ν^)「……ああ、それか」
ξ゚⊿゚)ξ「あれは、『お前も墓のない子供なのか』って意味だったのね」
( ^ν^)「だな。ほとんど、無意識で言ってたが……まあいいや、話を戻すぞ」
-
( ^ν^)「それ、見てみろ」
柏木がそれ、と指示したのは先に津嶋に投げ渡していた紙の束だった。
ξ゚⊿゚)ξ「行方不明者一覧……」
( ^ν^)「手が加えてあるといったろ。わかるか?」
ξ゚⊿゚)ξ「……いくつか、顔写真に丸がついてる」
赤ペンで丸だ。すぐに目についた。
……丸の付けられた写真が全部、年端のいかない子供だったというのも、
目についた理由である。
( ^ν^)「正解。そいつらは、ここ半年で〝俺が送った死者たち〟だ」
ξ゚⊿゚)ξ「えっ? でもこれって、行方不明者じゃ」
ξ;゚⊿゚)ξ「──!」
( ^ν^)「気づいたな?」
-
( ^ν^)「〝行方不明者〟〝墓のない子供〟〝俺が送った死者〟
……即ちそれらは、全部つながる」
ξ;゚⊿゚)ξ「行方不明の時点では、社会的には死者じゃない……だから、お墓が、ない」
( ^ν^)「墓がないということは、〝死んでいない〟と思われているっつーことだ。
──だから、それが役に立つ」
ξ;-⊿-)ξ「〝行方不明者一覧〟が?」
不謹慎な話だ、と思う。
死者を探すのに、生きているのを願って探されている人のリストを使う、だなんて。
ξ゚⊿゚)ξ「(でも)」
( ^ν^)
──しょうがないのだ。
柏木の場合はどうしても、先に〝死者〟を見つけてしまうのだから。
-
( ^ν^)「だが、コイツらはそうじゃない。……少なくとも、書類上は」
意味、わかるか?
津嶋は何も返事を返せない。
-
( ^ν^)「死体が上がってないんだよ」
ξ;゚⊿゚)ξ「……だから、話題にならない?」
柏木は肯く。
津嶋といえば自分が首を突っ込もうとしている事の重大さを、体の震えが訴えていた。
知ってか知らずか、柏木はこともなげに話を続ける。
( ^ν^)「犯人は、完璧に死体を処理している」
ξ;゚⊿゚)ξ「どうやって」
( ^ν^)「そんなの、食っちまうしかねえだろ」
_,
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
-
( ^ν^)「冗談だ。バーカ」
ξ;-⊿-)ξ「……ねえ。あなたは、犯人探しをしているの?」
( ^ν^)「……」
ξ;-⊿-)ξ「警察に任せれば、」
思わずこぼれた弱音だった。
気付いて、すぐに口をつぐむ。
幽霊は怖い。──だが、殺人者は、もっと怖い。
返ってきたのは、は、という乾いた笑いだった。
( ^ν^)「警察は、事件になっていない事件は追わねえだろ」
ξ;゚⊿゚)ξ「でも」
-
( ^ν^)「でも、も何もない。……この一覧に、俺が送ったガキどもの顔があるうちは、
少なくとも〝連続殺人〟だとかそもそも〝事件〟だとか、
そういう物騒な単語は世に出てこないだろうさ」
だから、と柏木は続ける。
( ^ν^)「俺しか知らないなら、俺が解決すべきだろう。
……別に正義の味方を気取りたいわけでもないが、ただ」
( ^ν^)「……これ以上、ガキを送りたくないんだよ」
-
( ^ν^)「──さあ、今の話で懲りただろ」
ぱん、とわざとらしく手を鳴らした。
皮肉気な笑みは、どこか自嘲めいた雰囲気があった。
( ^ν^)「お前には昼間の生活があって、俺には夜の生活がある。
もう、帰れ。無関係な学生ごときが手を出せる問題じゃねえだろ、わかれよ」
ξ ⊿ )ξ「……無関係じゃない」
( ^ν^)「あ?」
それは、ほとんど、無意識に出た言葉だった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「だって私、知ってしまったもの。
〝私も〟知ってしまったのよ」
ξ-⊿-)ξ「そしたらもう、駄目よ。
──気になって夜も眠れやしない!」
柏木は驚いたような顔をして、まじか、と小さくつぶやいた。
その言葉には明らかに、「やっちまった」とか「信じらんねえ」とか、
そういう類の響きがあったけれど、津嶋は気にせず続ける。
ξ゚⊿゚)ξ「あなたが、自分しか知らないという理由で犯人捜しをするのなら、
私にも知ってしまったという理由で、その手伝いをすることが出来るはずよ」
( ^ν^)「……掛け値なしに命がけだぞ」
ξ゚ー゚)ξ「望むところよ」
-
柏木はベッドの上に体を滑らせる。
枕を掴むと抱えて、そのままそっぽを向いた。
見た目に似合わず、子どもっぽい拗ね方をするな、と津嶋はぼんやり思う。
柏木はそのまま、向こうを向いたまま口を開いた。
( ^ν )「じゃあ宿題。死体が上がらないための処理方法を考えてくること……
それくらいもわからない愚図な手伝いは、いらないからな」
それと。
ごろりと寝返りを打つ。
視線の先は、津嶋の手元。
( ^ν^)「俺が送った……丸を入れた死者の、特徴を覚えろ」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
( ^ν^)「……次の満月の夜、そいつらに逢いにいく」
.
-
【2】終わり
-
やっべーちょっと日付超えます
-
幽界を訪れる上で、たった一つだけ、ルールがある。
それは単純にして明解。
唯一にして、絶対。
それは、
──命綱を決して、離さないこと。
.
-
どんなに強固な綱だとしても、その身から離れてしまえば意味は無い。
.
-
ξ゚⊿゚)ξ 笛吹き幽界譚のようです
【3】
.
*
-
月明りの眩い夜だった。
……たしか、初めて柏木を見かけた日も、このくらい月が輝いていた。
ξ゚⊿゚)ξ「(今思えば、あの日も満月だったんだ)」
津嶋は表面のゆらめく墓石をぼんやりと眺めつつ、思う。
( ^ν^)「最終確認」
隣に立つ柏木が右手を伸ばす。
津嶋は打ち合わせ通り、その手をしっかりと掴んだ。
-
( ^ν^)「お前の命綱は、俺の左手だ。絶対に離すな」
ξ゚⊿゚)ξ「……離したら、死ぬ」
( ^ν^)「は、正解」
( ^ν^)「俺は墓守だ。だから、もともと幽界とこちらとを行き来する能力がある。
だが、お前にはない。そのことを絶対に忘れんなよ」
ξ-⊿-)ξ「……そうね」
( ^ν^)「なんだ、含みのある言い方だな」
ξ゚⊿゚)ξ「いいえ。別にちょっと、思い出しただけよ
──どこかの誰かさんが、ぬるっと墓石から出て来るところ」
柏木がびっくりしたように津嶋の顔を見る。
-
( ^ν^)「……あの日か。んだよ、見るとこ見てんじゃねーか」
ξ゚⊿゚)ξ「左手の切り傷がやけに印象的で、ヤなもの見ちゃったなーと思ったわよ」
( ^ν^)「前の日に古紙整理してたらカッターでやっちゃったんだよ、クッソ生活傷。
俺、左が利き手だから」
ξ゚⊿゚)ξ「ふうん」
( ^ν^)「……ま、いい。とりあえず行くぞ」
柏木が左手を伸ばす。
……もう、絆創膏もしていなかった。
そこからはもはや、何度も見た光景。
墓石の表面が水面のように揺れる。
( ^ν^)「無事戻ってこれたら、お前も立派な〝ヤなもの〟だからな」
誰のものかもわからない(墓=扉であれば何でも良いらしい)揺らめく墓石へ〝潜り〟ながら、
薄れゆく意識の中でいたずらっ子のように笑う柏木の顔が、見えていた。
-
.
.
.
最初に見えたのは空だった。
高い、高い空。広大な大地と、長く続く白い石畳。
遠くに霞んで見える、これもやはり白い石作りの建物。
吹く風は穏やかで、さわさわと草木を鳴らす。
前髪を整えようとして、津嶋は繋いだ手を思い出した。
ξ゚⊿゚)ξ「ここは」
意識がはっきりしてくる。
片手のぬくもりが、何よりも確かだった。
-
( ^ν^)「抜けたな。……それにしたって、随分と広いところに出たもんだ」
ξ゚⊿゚)ξ「幽界って、たくさんの地域があるの?」
( ^ν^)「いや……全然そんな、しっかりしたものじゃない。
記憶の中の風景、に、近いな」
ξ゚⊿゚)ξ「曖昧なのね」
( ^ν^)「ああ。恐らくここは、お前のイメージに引っ張られたんだろ」
ξ゚⊿゚)ξ「私の……」
歩き出す。
草がたおやかに揺れる地面に、まっすぐに敷かれた石の道。
あまりにも静かで、おだやかで、絵画の中を進むかのように現実味がなかった。
( ^ν^)「俺たちは、両手を繋ぐことで魂を仮接続させている」
柏木は口を開く。
津嶋は最終確認の続きだ、と思った。
耳を傾ける。
-
( ^ν^)「だから、この手を離すと、魂の繋がりが切れる。
即ち俺とお前とが当然のごとく、別の存在に扱われるわけだ」
( ^ν^)「お前に幽界と、現世とを行き来する力はないだろ? そうなったらオシマイだ。
津嶋ツンという人間は幽界に取り残される」
ξ゚⊿゚)ξ「それは、具体的に、どういうことなの?」
( ^ν^)「……まあ、そだな。この景色を見てお前、どう思う?」
ξ゚⊿゚)ξ「………………嘘くさい」
( ^ν^)「くくっ、まあ、わかる。
生者にとって、幽界はあまりに〝おぼろげ〟なんだよな」
ξ゚⊿゚)ξ「おぼろげ?」
( ^ν^)「そう。曖昧すぎて、そもそも世界と認識できねーの。
なんつったらいいかな、地面が地面とわからない、空を空と思えない……」
ξ-⊿゚)ξ「……あなたと繋いだ手を離すと、私はこの場に留まれない?」
( ^ν^)「ん。その考え方で大体、大丈夫。
離した瞬間に彼方へ落ちる、とまで考えていい」
-
( ^ν^)「ま、もし離れちまったとしてもさっさと繋ぎ直せばいいとか、
そういう事は考えないこったな」
改めて状況を見つめると、ぶるりと体の芯が震えた。
ξ;-⊿-)ξ「(なんというか、
〝インストラクターと手を繋いでいるだけのバンジージャンプ〟みたいな話……)」
津嶋は心の中でため息をつく。
その様子を知ってか知らずか、ダメ押しのように柏木は言った。
( ^ν^)「幽界はあの世だ。あの世から抜け出せない人間を何と呼ぶ?」
ξ;-⊿-)ξ「……死者」
( ^ν^)「正解」
-
幽界は静かだった。
かと言って無音というわけではない。
時折吹く風は穏やかに草木を鳴らしていたし、遠くの方からは聞き覚えのある歌の音が、
風に乗って聞こえていた。
ξ゚⊿゚)ξ「……この歌は」
( ^ν^)「ん。これだな、」
柏木は聞こえてくる幽かな音色に合わせて、口笛を吹く。
それはいつか聴いた口笛と同じメロディだった。
( ^ν^)「初めてお前を見たときは心底驚いた。
この歌、幽界のものなのにさ、お前吹いてんだもん」
ξ゚⊿゚)ξ「あなたが吹いてたから真似しただけよ」
( ^ν^)「……お前も大概肝が座ってるよな。
墓からぬるっと出てきたヤツと、同じ口笛吹こうと思うか? フツー」
ξ;-⊿-)ξ「それはちょっと……耳馴染みが良くて」
-
そしてそれはあまりにも突然だった。
ぱたぱたと足音がした。すぐ後ろだ。
津嶋が振り返るよりも先に「こっち」という声。
くい、と服を引っ張られそちらへ行こうとしてしまう──
( ^ν^)「おい」
と、柏木に引き戻される。
( ^ν^)「気をしっかり持て」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
ゆっくりと、振り返る。
……足音と声の主は、どこにもいない。
背中を冷たい汗が流れた。
-
( ^ν^)「幽界は生者に敏感だ。いつだって俺らを呑み込もうとする」
繋いだ手に力が篭る。柏木の方が、力を入れていた。
痛くはない。ただ、暖かい。
津嶋は早鐘を打っていた心臓が徐々に落ち着くのを感じる。
( ^ν^)「……いいか、俺たちは両手を繋いでいるだけじゃない。これは、魂の繋がりだ」
柏木はゆっくり、言い聞かせるようにそう言う。
( ^ν^)「俺を信じろ。それだけ、繋がりは強固になる」
手の熱が、その声が、未だ判然としない世界の中で、ただひたすらに確かだった。
つと、津嶋は違和感を覚えた。
急に、突然に──強烈な既視感。
ξ;゚⊿゚)ξ「これは」
( ^ν^)「は、景色が俺の方に寄ってきたな」
-
ぼんやりしていた地面が、風景がはっきりする。
今の今までの、幻想的な雰囲気は既になかった。
コンクリートの道路。標識。信号。
そしてやっぱり、少しの違和感。
見覚えがある。
これは──鏡写しの、自分の町だ。
( ^ν^)「行くぞ」
( ^ν^)「こちらでは、思いが方法になる。会いたいと強く思えばいい。
……宿題はきちんと、済ませてきただろ?」
ξ゚⊿゚)ξ「……じゃあ」
津嶋は頭に思い浮かべる。
リストの一番上、まるがつけられていた子。
おさげで、利発そうな黒い瞳で、
*(‘‘)*「私を呼んだ?」
ξ;゚⊿゚)ξ「っ」
目の前に現れたのは確かに津嶋が想像した、行方不明者──もとい、
柏木が幽界へ送った〝墓のない子ども〟の一人、筒田ヘリカルだった。
-
( ^ν^)「……久しぶり」
*(‘‘)*「あ、案内のお兄さん! 久々だねっ」
ヘリカルはぱっと弾けるように笑う。
それはこの鏡写しの町中にあって、到底死者には見えないほどに眩しい笑顔で、
津嶋は複雑な心境になる。
( ^ν^)「いちいち同情してたら身がもたないぞ」
ξ;゚⊿゚)ξ「えっ」
( ^ν^)「……魂を仮接続させている、と言ったろ。
たとえるなら今の俺たちは二心同体だな」
それはつまり心の中で悪口を言えば、そのまま伝わてしまうということだろうか。
津嶋はぎくりとする。試しに言ってみた。
ξ゚⊿゚)ξ「(バーカ根暗の髪の毛ワカメ)」
( ^ν^)「そこまではっきりとはわからないが、
お前が死ぬほどくだらないことを考えてんのは伝わってんぞ」
*(‘‘)*「仲良しー?」
ξ゚⊿゚)ξ ^ν^)「「どこが」」
顔を見合わせる。
ヘリカルだけが楽しそうに、くすくすと笑っていた。
-
あー、と咳払い代わりの声を挟んで柏木は尋ねる。
意味があったかはわからないが、少しでもヘリカルを怖がらせないための配慮らしかった。
( ^ν^)「聞きたいことがある。……お前が死んだときの話だ」
ξ;゚⊿゚)ξ「いや直球過ぎるでしょ」
( ^ν^)「直球もなんもあるか。
そもそも、俺は死んでからのコイツしか知らないしな」
*(‘‘)*「そーだねー」
( ^ν^)「で、何があったんだ?」
*(‘‘)*「えっと、えーっとね」
ξ;-⊿-)ξ「あなたね……それじゃ、ダメよ」
-
あ? という柏木の声を無視して、津嶋はヘリカルの前にしゃがみ込む。
手をつないでいる柏木もそれに倣った。
ξ゚⊿゚)ξ「お姉さんとお話、しましょうか」
*(‘‘)*「お話?」
ξ゚⊿゚)ξ「そうねえ、まずはその日の天気を教えてちょうだい」
*(‘‘)*「お天気、お天気はね、晴れてたよ。
空が真っ青で、雲がぶわーっと大きくて、雨がやっと降らなくなったかなーってぐらい」
ξ゚⊿゚)ξ「梅雨明けだったのね」
*(‘‘)*「かなぁ。紫陽花はもう、しおしおだった」
*(‘‘)*「それでね、その日はね、公園で友だちと遊ぶ約束をしてたの。
でも、私だけ先に着いちゃった」
ξ゚⊿゚)ξ「先について、何をしていたの?」
*(‘‘)*「ブランコしてたよ。ゆらゆら、ゆらゆら……そしたら音が聞こえたの」
( ^ν^)「音?」
*(‘‘)*「とっても綺麗な音楽だった。気になって、出どころを探したの」
ξ゚⊿゚)ξ「そしたら?」
*(‘‘)*「うん、そしたら、ベンチでお姉さんが笛を吹いてたの!
えっとね、音楽の授業で使ったことあるやつだった……んと、オカリナ?」
津嶋と柏木は顔を見合わせる。
〝お姉さん〟──犯人は、女?
.
-
具体的な犯人像が見えてきたことで、津嶋の背を緊張が走る。
それは柏木も同じだったようで、二人の間で共犯者めいた視線が交錯した。
ξ゚⊿゚)ξ「……そのあとは?」
*(‘‘)*「すてきな音楽だねって話しかけたの。
そしたらお姉さんが、何してるの? って聞くから、友だちを待ってるのって」
( ^ν^)「……それで」
*(‘‘)*「んーと、それだけかな?
お姉さんとお話して、なんだか眠くなって……気付いたらね、体がなかったー」
ξ゚⊿゚)ξ「(体が?)」
それは、ヘリカルなりの死んでいた、という表現なのだろうか。
津嶋はどこか引っかかるものを感じながらも、口を挟まない柏木に合わせて、続きを待つ。
-
*(‘‘)*「わたし、とっても不安だった。
ふわふわして、ぼやぼやして、でもお兄さんがここに案内してくれて、
『わたし』を思い出せたの」
*(‘‘)*「ありがとう──今回はお話しできて、楽しかったよ!」
ヘリカルが再び弾けるように笑う。
瞬きをすると、目の前にはもう誰もいなかった。
( ^ν^)「行っちまったな」
ξ;゚⊿゚)ξ「え、うそ。もうちょっと話聞かなくてよかったの?
その、笛を吹く女の特徴とか」
柏木は首を振る。
( ^ν^)「幽界の死者は穏やかで、奔放だ。
ここまで付き合ってくれただけでも、レアな方」
ξ゚⊿゚)ξ「……というか、あなた、死者の声はきこえないんじゃなかった?」
( ^ν^)「あ? ああ。聞こえないよ、〝俺は〟ね」
ξ゚⊿゚)ξ「でも今、普通に」
( ^ν^)「魂の仮接続。これのおかげ」
-
柏木は繋いだ手を持ち上げる。
頭一つ分の身長差があるために、柏木が上まで手を上げると、
自然と津嶋は背伸びすることになる。
ぱしぱしと腕を叩くとわざとだったのか、柏木はすぐに腕を降ろす。
左手を口に当て、くつくつと笑った。
( ^ν^)「ま、お前が幽界を行き来できるようになるのと同じように、
俺も死者と話せるようになる」
ξ゚⊿゚)ξ「……私の能力も、共有しているから」
( ^ν^)「正解」
そう言って、柏木は口を覆っていた左手で津嶋の頭をぽんと撫でた。
……ことあるごとに頭を触っている気がするな、と津嶋は思う。
癖なのだろうか。
( ^ν^)「さあ、次だ。満月の夜はそう長くない、手早く済ませるぞ」
ξ-⊿-)ξ「……ええ」
──ただ、そんなに、いやな気はしなかった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「いないわね」
( ^ν^)「……いないな」
鏡写しの町を歩いて、どれほど経っただろうか。
ヘリカルに出会ってからというもの、その後は誰にも会っていなかった。
ξ゚⊿゚)ξ「短髪の活発そうな男の子、髪の長い、物静かそうな女の子、
それから後ろでポニーテールにした、可愛らしい女の子」
ξ-⊿-)ξ「……うん。やっぱり、印の付いてた残りの三人も、はっきりイメージできてると思うんだけど」
( ^ν^)「ああ。イメージ自体はそう難しいことじゃない。お前の過失じゃねーよ。
つーか、その少年には前回、俺も逢ってる」
ξ゚⊿゚)ξ「そうなの?」
( ^ν^)「……まあ、声が聞こえないもんだから地面に字を書いて
意志相通しようとしたぐらい、なんだけど」
ξ゚⊿゚)ξ「できたの? 意思疎通」
( ^ν^)「公園の地面に大量のうんこの絵が生産されるに終わった」
ξ゚ー゚)ξ「ぷっ」
( ^ν^)「あの年頃のガキは本当に可愛くねぇ」
ξ-ー-)ξ「ヘリカルちゃん、可愛かったじゃない。
私の妹と同い年よ。可愛いわよ」
( ^ν^)「そーーーいう話じゃねぇんだよな」
-
ξ゚⊿゚)ξ「ま、なんにせよ……残りの三人にも話を聞きたいところだけど」
( ^ν^)「……だな」
( ^ν^)「意思疎通云々はさておき、俺が単独で来た時は姿は見せたんだ。
今回姿を見せないのは」
ξ;゚⊿゚)ξ「いやだ、私がいるから……?」
( ^ν^)「結果的にはそうなんだろうが、そこじゃない。
あんくらいのガキどもが示し合わせて行動するのは、難しい」
( ^ν^)「……そうだな、それこそ誰かが指示でも出さないと無理だろ」
ξ゚⊿゚)ξ「会いに行くなって、言い含めてるってこと? そんなの、誰が」
( ^ν^)「犯人か、でなきゃ共犯者」
ξ-"⊿-)ξ「なにそれ。犯人は死者だっていうの?」
( ^ν^)「違う。死者に、犯人を庇いたい奴がいるのかもしれないってことだ」
ξ-⊿゚)ξ「死者に、犯人を……?」
──ナァーゴ
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
-
( ^ν^)「どうした」
ξ゚⊿゚)ξ「いや、いま、猫の鳴き声が」
──ナァ
──ナァーゴ
( ^ν^)「……するな」
ξ゚⊿゚)ξ「呼んでるみたい……こっち!」
(;^ν^)「あ、おい!」
津嶋は柏木の手を強く握り、そのまま走り出した。
その鳴き声は聞き覚えがあった。
その姿ははっきりと、想像できていた。
(;^ν^)「ほんっとお前妙な行動力、はっ、ちょ、待てよ」
ξ゚⊿゚)ξ「次は……こっちの通りを、右」
(;^ν^)「クッソ全然聞いてねぇ!」
猫の鳴き声を追って町を進む。
駆け抜ける鏡写しの風景は見覚えがあるのに身に馴染まず、
油断すると迷ってしまいそうな感覚を受けた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「次は左、この通りは……まっすぐ行ったわね。
……あれ、ここって」
(; ν )「やっ……と、止ま、っはー……もう無理、俺、お前が無理」
( ФωФ) ナァ
ξ*゚⊿゚)ξ「ロマ!」
津嶋はしゃがみ込む。
つないだ手に引きずられて、柏木も半ば地面に叩きつけられるようにしゃがみこんだ。
ロマが津嶋の右手側からその懐に潜り込むと、そのまま器用に抱き上げた。
( ^ν^)「へぇ。綺麗な猫だな」
ξ-ー-)ξ「うちで飼ってたの。……この間、死んじゃったんだけどね」
( ^ν^)「動物は賢いから好きだぜ。俺が導かなくとも、自ら幽界へ向かう」
ξ゚⊿゚)ξ「動物もお墓を越えて行くの?」
( ^ν^)「いいや。こいつらは感覚が鋭いからな、
わざわざ墓なんてわかりやすい扉を使わなくとも、草葉の陰、瓦礫の隙間
……様々なところに入口を見つけて、還っていく」
ξ゚⊿゚)ξ「なるほどね」
-
「──おや」
ξ;゚⊿゚)ξそ 「!」
( ^ν^)「……なんだ、この家の住人か?」
奥から出てきた人物は、津嶋の、知り合いだった。
……当然だ。心の中で、小さく呟く。
なにせ、ここは、この家は。
川 ゚ 々゚)「連れてきてしまったのか。……悪い子だな、君は」
( ФωФ) ナァーゴ
川 - 々゚)「それ以上に聡い子でも、あるんだけど」
( ^ν^)「お前は……」
ξ;゚⊿゚)ξ「くるう、さん」
川 ゚ 々゚)「君はキュートのお友達だね。
まあ、もう、来てしまったものは仕方がない」
川 ゚ 々゚)「歓迎しよう、中へ入り給え」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
( ^ν^)「知り合いか?」
ξ;-⊿-)ξ「そうね、親友の、おじいちゃん……と呼ぶには、ちょっと、複雑な家庭なんだけど」
( ^ν^)「親友の、ね。……ま、お前の猫が導いたんだ。
何かしら関係はある、覚悟しとけよ」
津嶋はこくりと頷く。
鏡写しの道順で道中は全く気が付かなかったけれど、
津嶋と柏木とは、河合キュートの家に着いていたのだった。
-
離れのガラス工房の脇を抜けて、本宅へ入る。
本当の(というと語弊があるのだろうか)河合の家ならば、
普段はガラス工房の明かりは落とされているのだが、
幽界では現役だと主張するように高い煙突から煙がたなびいていた。
川 ゚ 々゚)「まあ、掛けてくれ。くつろいでくれていい」
促されるまま、横長のソファに腰かける。
ロマは久々の逢瀬に満足したのか、津嶋から降りると開いていた窓から再び外へ出て行った。
相変わらず自由にやっているようで顔がほころぶ。
( ^ν^)「単刀直入に言う。ガキ共を俺らに合わせないようにしているのは、じいさんか?」
そんな和やかな気分に氷を突き刺すかのごとく、柏木はくるうさんを睨みつけた。
ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと」
( ^ν^)「……俺たちには、時間がない」
ξ゚⊿゚)ξ「そんなこと言って、満月の夜はまた来月もあるじゃない」
( ^ν^)「その間にまた一人殺されるかもしれないのに?」
ξ;-⊿-)ξ「それは」
( ^ν^)「それに……こうしてお前を連れて来るのは今回の一回きりだ。
最初で最後のチャンスなんだよ」
ξ゚⊿゚)ξ「え、は……? そんなの聞いてない」
-
川 ゚ 々゚)「まあまあ。お嬢さんも、察してあげなさい」
( ^ν^)「……」
川 - 々゚)「命がけなんだろう。そちらのお嬢さんが、幽界(こちら)を訪れるのは」
ξ゚ -゚)ξ「!」
川 - 々-)「ボーイフレンドの言うことは聞いてあげなさい。
少なくとも、君の身を案じてくれているんだからさ」
ξ゚⊿゚)ξ「……は?」
( ν )「〜〜〜〜〜〜〜ッ」
ξ゚⊿゚)ξ「くるうさん違います。
私こんなの彼氏にした覚えないです違います、断じて、違います」
( ^ν^)「はーさすがに無理」
ξ゚⊿゚)ξ「あんたも笑いすぎじゃない?
ねえちょっと、何が無理なのよ言ってみなさいよ」
( ^ν^)「まずこんなガキと付き合っているように見られたのが無理だし、
つーーーーーかこんな好奇心バカと付き合うとか俺の心臓も無理っふ、くくっ」
ξ#゚⊿゚)ξ「ガキって一つしか変わらな……好奇心バカ? はい?」
柏木はツボに入ってしまったのか左手を口に当てて爆笑している。
対する津嶋は怒りを通り越してすっかり呆れていた。
-
(・∀ ・)「なになに」
(*゚ー゚)「楽しそう…」
ノハ*゚⊿゚)「じっちゃん、アタシたちもう出てっていいかーーーーーーーー!!!!!!」
ξ゚⊿゚)ξ「!」
( ^ν^)「……へぇ」
そんながやがやとした部屋の雰囲気につられたのか、少年少女がなだれ込んできた。
津嶋は目を丸くする。
どの顔にも〝見覚えがあった〟のだ。
-
(・∀ ・)
短髪の活発そうな男の子。
(*゚ー゚)
髪の長い、物静かそうな女の子。
ノパ⊿゚)
後ろでポニーテールにした、可愛らしい女の子。
──三人が三人とも、柏木が印をつけていた、〝墓のない子供たち〟だったのだ。
-
川 ゚ 々゚)「おやおや、いいよと言うまで出てきちゃダメだって言っただろうに」
( ^ν^)「ほう。そりゃお前、どういうわけか聞かせてもらえんだろうな」
川 - 々゚)「おや、失言だったな」
ノパ⊿゚)「私らを呼んでたのってねーちゃんたちだろ?」
ξ゚ー゚)ξ「そうよ。ちょっと、お話がしたかったの」
(*゚ー゚)「おはな、し?」
(*・∀ ・)「いいぜ!あっそぼうー!」
ノパ⊿゚)「なんでねーちゃんたち手繋いでんだ?」
( ^ν^)「あってめえこら、揺らすな」
川 ゚ 々゚)「いいねぇ、子供は自由でねぇ」
既に家の中は収集が付かなくなっていた。
当たり前だ、と津嶋は思う。
子供たちの手綱を唯一握れそうなくるうさんが、まるで落ち着けようとする気がないのだ。
( ^ν^)「やっぱり可愛くねえだろ、ガキなんて」
(・∀ ・)「えー? かわいいだろー?」
( ^ν^)「自分で言うな」
(*・∀ ・)「おっ今日は兄ちゃん話せるんだな!
またお絵かき遊びしてもよかったんだけどなーんー」
左側で柏木が絡まれ倒している横を、長髪の少女がおずおずと近づいてくる。
津嶋はくい、と軽く柏木の手を引いてからしゃがみ込んで、少女に視線を合わせた。
-
(*゚ー゚)「……おねぇちゃん、それ」
お人形さんのように整った、愛らしい顔。
リストの、上から二番目に丸のついていた子ども──猫田しぃ。
ξ゚⊿゚)ξ「なあに?」
しぃは津嶋の首元に手を伸ばす。
冷たい感覚を予想して身構えたけれど、
温度どころか触れた感覚すらどこか希薄なもので、拍子抜けした。
……やはり、死者なのだ。
こんなにもあどけなく、幼けないのに、妹と同じ体温を持ちえない。
(*゚ー゚)「これ、しぃに、にてる」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
しぃが手にしていたのは、ネックレス──河合がロマの首輪とともに、
津嶋にくれたものだった。
川 ゚ 々゚)「……おや」
傍観していたくるうさんが、す、と視線を向けた。
-
川 ゚ 々゚)「それはキュートが作ったものかい」
ξ゚⊿゚)ξ「そうです。……ロマが死んじゃって、落ち込んでるときに作ってくれました」
川 ゚ 々゚)「ロマというと、ああ、さっきの猫ちゃんか。
あれはよく、うちに遊びに来ていた」
まあ、今もなんだけど。
くるうさんは穏やかに笑う。
川 - 々゚)「なんにせよ、よくできている。
うちのキュートは随分と腕をあげたようだ──お前たち」
(・∀ ・)「あい」
(*゚ー゚)「……」
ノパ⊿゚)「あいさー!」
くるうさんが口を開くと同時、
部屋の隅へ行って静かにしていた子供たちが元気よく手をあげる。
-
川 ゚ 々゚)「お二人を送ってやりなさい。
幽界まで送ってもらったお前たちなら、
現世(うつしよ)まで二人を送ることもできるだろうさ」
ノパ⊿゚)「わかったぞ!!!!」
( ^ν^)「は、何を勝手に」
川 ゚ 々゚)「……まあ、いい時間だと思うよ。私はね」
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、くるうさんの言うことも一理あるわ。……空が陰ってきてる」
( ^ν^)「……ッチ」
月の光だけが、幽界に届く。
それは生者にとっての道しるべだった。
だからこそ、幽界を訪れられるのは、満月の出ている夜の間、だけなのだ。
満月より明るい、陽が出てしまえば、生者は帰るための道しるべを失ってしまう。
(・∀ ・)「いこーぜ」
(*゚ー゚)「……ん」
子供たちに促されるまま外に出る。
玄関を出るとき津嶋は一瞬振り返ったけれど、クルウさんは既に瞼を下ろしていて、
その表情は読めなかった。
-
先導する少年──楠マタンキに着いていくと、あっという間に町を抜けた。
ξ゚⊿゚)ξ「驚いた。もう、最初の野原」
(・∀ ・)「ん。やっぱり、来た道帰るのが楽だろ?」
( ^ν^)「お前、さては最初にちょっかい出したやつだな」
(*・∀ ・)「あっは! ばーれちゃった。
だって兄ちゃん、また来てくれると思わなくってさ」
ξ゚⊿゚)ξ「最初って、」
あ、と合点がいく。
服を引っ張ってきた声だ。またんきが、どうやらその主だったらしい。
ノパ⊿゚)「……兄ちゃんさ、じっちゃんのことあんまり悪く言わないでくれな」
ポニーテールの少女──淳ヒートが柏木の服の、裾を引く。
( ^ν^)「へぇ。それはどうして」
(*゚ー゚)「いつもね、あやまってるの」
ξ゚⊿゚)ξ「謝ってる……?」
(・∀ ・)「そーだぜー。俺らにいつも、謝ってる。でもすっげ―いい人なんだ」
(*゚ー゚)「あそんで、くれる」
ノパ⊿゚)「色んなお話もしてくれるしな!」
-
( ^ν^)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「あなたたちにとっては、いい人なのね」
子供たち三人は顔を見合わせると、それぞれに大好き、と笑った。
(・∀ ・)「じゃ、俺らはここまでだ」
ノパ⊿゚)「こういうとき、アタシなんていうか知ってるぞ!達者でな!!!!こうだろ!!!!!」
(*゚ー゚)「ばいばい」
( ^ν^)「……ああ。せいぜい楽しく暮らせよ」
ξ゚⊿゚)ξ「ヘリカルちゃんにもよろしくね」
(・∀ ・)「おう!」
子供らの声を背に道を進む。
景色はいつの間にか白く発光していた。
足元の感覚が曖昧になる。
上下左右があやしくなり、不安に思うと強く手を握り返された。
ξ-⊿-)ξ「(大丈夫。ここだけでも、確かなら)」
つと、〝抜けた〟感覚があった。
-
.
.
.
( ^ν^)「ん、無事帰ってきたな」
ξ゚⊿゚)ξ「……真っ暗」
( ^ν^)「すぐに慣れる」
津嶋はしばらくぼうっとする頭をそのままにする。
初めに音が帰ってきた。
葉のこすれる音。
ざわざわと聞こえてくる虫の声。
かすかな生活音が、景色の隅までじんわりと満たす。
この間、あれだけ静かだと思った夜の底は、幽界とくらべてあまりに騒がしかった。
だからこそ暖かく、現実味があって、居心地がよかった。
ξ゚⊿゚)ξ「お墓」
( ^ν^)「ん」
暗闇に目が慣れてくると景色に体が馴染んでいく感覚がした。
そこでようやく、自分が座り込んでいることに気づく。
柏木の手を握ったままだということも。
どきりとして目線をあげると、中腰で──こころなしか心配そうに──
こちらを見る柏木と目が合った。
( ^ν^)「……ああ、大丈夫そうだな。おつかれよ」
例のごとく、ぽん、と頭を撫でられる。
ゆるやかに繋いだ手をほどかれると、もうそうしても平気なのだという安堵よりも、
単純に落ち着かない感覚がした。
-
立ち上がろうとすると、例のごとく柏木が手を伸ばす。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
なんとなくそれを掴むと、離したくなくて、まだぼんやりしたままなのだ、
と自分に言い訳して掴んだままでいた。
歩き出すとき、ちら、と柏木は津嶋を見たけれど、それだけだった。
……本当は少しだけ驚いていたように思う。
-
帰路についていた。
思いの外体力を使ったようで、強い脱力感が体を襲う。
何も言わずとも柏木は津嶋を家まで送ってくれるようで、
見覚えのある道が少しずつ、胸に安堵を積もらせていく。
( ^ν^)「そういえば」
柏木が口を開く。
( ^ν^)「死体の上がらない処理方法、わかったか」
……それは、星空の下で話すにはあんまりにも風情がなかった。
ξ-⊿-)ξ「……灰になるまで、燃やす」
正解、とは返してくれなかった。
柏木は遠くを見ていた。
津嶋は自分が、幽界から帰ってからずっと現実逃避していることに、気が付いていた。
-
家が見えるなり、背筋を冷やした。
柏木がぎこちない表情で問いかける。
( ^ν^)「お前の家族は夜更かしなのか? それとも、とんでもなく早起きなのか?」
津嶋はふるふると首を横に振った。
唖然とした顔で〝電気のついた〟自宅を見上げる。
ξ゚⊿゚)ξ「いま、何時」
( ^ν^)「……四時前」
呆然としつつ玄関を開けると、母が駆け出してきた。
見たことないぐらいに憔悴していて、信じられないほどに焦っていた。
津嶋を見て一瞬見せた安堵の表情は、なぜか、すぐに絶望の表情に変わる。
lw;´‐ _‐ノv「え、あ、ツンちゃん……!?」
夜中に家を抜け出したのがバレてしまったのだろうか。
……よもや、こんな遅くまで探させてしまったというのだろうか。
-
──いや、違う。思い出せ。
今日は、友人の家に泊まりに行く、と伝えたのだ。
夜中に抜け出すことが確定しているのなら、初めから家にいなければいいのだと、思って。
当然柏木にはそう伝えていなかったわけだし、
津嶋自身もすっかりそのことを忘れていたがために、
こんな妙な時間に帰ってくるという間抜けをさらしているのだが。
なら、この、母の表情は、不自然じゃないか……?
ξ;゚⊿゚)ξ「ごめんなさい、私、ちょっと」
いやな予感がする。絶対に的中してほしくない、最悪の、予感。
けれども取り乱した母の言葉は、
津嶋の思考を真っ黒に染めてしまうには、あまりに十分だった。
十分すぎたのだ。
lw;´ _ ノv「──ねえ、デレちゃんは一緒じゃないの?」
.
-
【3】終わり
……【4】で完結ですが、投票期間後に投下します
-
【業務連絡】
主催より業務連絡です。
只今をもって、こちらの作品の投下を締め切ります。
このレス以降に続きを書いた場合
◆投票開始前の場合:遅刻作品扱い(全票が半分)
◆投票期間中の場合:失格(全票が0点)
となるのでご注意ください。
(投票期間後に続きを投下するのは、問題ありません)
詳細は、こちら
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【http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/21864/1500044449/295】
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乙乙
続きが気になる
-
乙
すごい面白いから頑張れ
-
うっわ!きになる!
-
穴本か?
-
めちゃくちゃ面白い…
-
>>154
俺もそうかなと思って投下報告見てきたけど追加酉だったから違うと思う
あな本は参加表明してないからゲリラになるはず
-
面白かった!
続き早く読みたい
-
子供達の話と灰になるまで燃やすで嫌な未来が見えてしまった…
続き気になるけど見たくない不思議
-
あーーーーなるほど
続き楽しみ
-
うわーー、何も起きないで
-
なんかもうすでにいやな予感してる
続きが楽しみだ
-
おい!完結編まだですかコノヤロウ
-
待ってるぞー
-
完結してるのかと一気に読んだらいいところで止まってた!
-
…待ってる……
-
待ってる
-
お姉ちゃんが、本をくれた。
すてきなねこの本だった。
書いてある文字は、(たぶん)英語で
どういう意味かはわからなかったけど、優しいお話だったと思う。
あたたかい絵は、なんだか、ぽかぽかする気持ちになったから。
……ロマが死んじゃって悲しくて悲しくて、
それでも、頑張ろうって思えたのはこの絵本のおかげだと思う。
ううん、ちょっとちがうな。
絵本を通してお姉ちゃんがくれた、優しさの、おかげだと思う。
-
だからわたし、お礼がしたかったんだ。
ζ(゚、゚*ζ「むー」
町をあるいて、探してみたけど、なかなかピンとくるものはなくて。
絵本をもらってから、何日たったかな。
大事だったから、大好きだったから、毎日かばんに入れて持ち歩いてた。
学校が終わってから本を抱えて、
お姉ちゃんへのお礼を探すのが、すっかり日課になったころ。
私は、デレは、見つけたんだ。
-
ζ(゚ー゚*ζ「お姉さん、その笛、どこで、買ったの?」
──夕暮れの公園で、とってもすてきな笛を吹く人を!
.
-
支援
-
ξ゚⊿゚)ξ 笛吹き幽界譚のようです
【4】
.
-
ξ゚⊿゚)ξ「デレが、帰ってない……?」
振り向く。
柏木がこれ以上ないぐらいに苦い顔をしていた。
lw;´‐ _‐ノv「お父さんはまだ、探しに出てる。
ツンちゃん携帯持ち歩かないでしょう、だから連絡が取れなくて」
ξ-⊿-)ξ「ごめん、シューさん。──私、心当たりがある」
lw;´‐ _‐ノv「えっ?」
津嶋の足元から、自分でも驚くぐらいに力強い踏切音がした。
後ろからほとんど悲鳴のように響いた母の驚きと、期待と、
それでも消しきれない困惑がないまぜになった声はもはや、津嶋の耳に届いていなかった。
-
代わりに聞こえたのは、荒い息遣い。
(;^ν^)「てっめえ本当に突然走り出すんじゃねぇ」
ξ゚⊿゚)ξ「……別に着いてこなくたっていいのよ」
( ^ν^)「はっ馬鹿言え」
鏡写しの町にいたためか、方向感覚が落ち着かない。
それでも、道を間違えることは、なかった。
( ^ν^)「お前、目的地わかってんのか?」
ξ゚⊿゚)ξ「当然でしょ。
……こんな小さな町で個人が動かせる焼却施設なんて、限られてる」
いつもの通りを左に曲がる。
次は右に。
その次の通りは──ただまっすぐに、駆け抜ける
-
スタート地点こそ違っていたけれど、幽界の底で猫の鳴き声を追って駆けた道のりと、
今現在後ろに流れていく景色はちょうど、鏡写しのようで。
( ^ν^)「……はは、正解」
いつの間にか柏木は、津嶋の後ろではなく、隣を駆けていた。
答え合わせをするまでもなく、互いの思考はきっと、重なっていた。
つい先ほど、導かれて、訪れていた。
ξ゚⊿゚)ξ「……」
駆け続けてどのくらい経ったろうか。
津嶋は見覚えのある高く、長い、煙突を眺めつつそんなことを思う。
夜の底は時間の感覚を曖昧にする。
家を出て一瞬のような気もするし、ひどく長い間駆けていたような気もする。
-
着きたくなかった。
けれど、着いてしまった。
門を前にして二人は無言に目線だけを交わしていた。
互いに、息はとうの昔に上がっていた。
二人の足を動かしていたのは、もはや、気力だけだった。
ξ゚⊿゚)ξ「明かり、ついてる」
家ではない。
……離れの、ガラス工房の方だった。
( ν )「こんな時間まで起きて、はっ、なんて……熱心なこった、な、っはー……」
門を開け、工房へ入る。
幸か不幸か入口の鍵は開いていた。
警戒していないのか、あるいは。
津嶋は頭を揺らし、嫌な予感を振り払う。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「これ全部、作品……?」
( ^ν^)「ガラス工房はつぶれたっつー話じゃなかったか」
ξ゚⊿゚)ξ「……私の、親友が、後を継いでる。
趣味でしか動かしてないっていう話だったけど」
( ^ν^)「親友、ね」
入ってすぐに見えたのは、作業台も兼ねているのだろう、大きな木製のテーブルだった。
テーブルの中心にはうっすらと色づいたガラス製の花瓶。
花は、活けられていない。
あたかも花瓶そのものが作品で、そのままで完成なのだと、言わんばかりだった。
ξ゚⊿゚)ξ「これ」
壁には手作りのガラス細工であろう、いくつかのペンダントが掛けられていた。
よく見れば、ブローチやイヤリング、ピアスもある。
-
( ^ν^)「は、随分と可愛らしい趣味だな」
ξ゚⊿゚)ξ「あの子は……キュートは、綺麗なものが好きなの。
だから、こういうのをいつも、作ってた」
入ってすぐの大部屋は明かりこそついていたけれど、誰の気配もない。
柏木は奥に続く扉に、手をかける。
( ^"ν^)「……っ」
むわりと熱っぽさがなだれ込む。湿度が高い。
こちらは明らかに、工房だった。
天井が高いために、先ほどの部屋ほどの広さはないものの、すくむような空間を感じた。
剝き出しの計器類がせわしなく何かの数字を示している。
奥には、巨大な冷蔵庫のような窯があった。
-
( ^ν^)「でけえ煙突」
ξ゚⊿゚)ξ「外から見えた煙突も、多分これね。
上が吹き抜けを通り抜けてる……根元のは溶鉱炉かしら」
声は独特に反響した。
……工房のどこにいても、聞こえてしまうような、そういう風に。
( ^ν^)「おい、あれ」
工房の一角、カーテンで仕切られた空間があった。
ξ;゚⊿゚)ξ「っ」
反射的に駆ける。はぎ取るように開いた。
お願いだから、誰も、いませんように。
刹那に願ったけれど、どうしようもなく叶わない。
o川*゚ー゚)o「……やだな、乱暴すぎるよ。ツンちゃん?」
中には作業台に腰かけた河合が、どこか自嘲気味に嗤っていた。
-
ξ゚⊿゚)ξ「キュート。お願い、お願いだから、違うと言って」
o川*゚ー゚)o「……」
ξ゚⊿゚)ξ「あなたの腰かけてる作業台、
その上に寝かせられてる布の下って、〝人間〟じゃないわよね?」
津嶋の声が震える。
河合は妖艶に、どこか悍ましさすら覚える微笑みを浮かべた。
o川* ー )o「ツンちゃん、自分の目で、見てみれば?
……人間なんて言って、予想はついているんでしょ」
河合は作業台から軽やかに降りると、そのままの勢いで布をめくった。
果たして、その、中身は。
-
ζ(-ー-*ζ
ξ;゚⊿゚)ξ「……ッッ」
それは見まがうことない、妹の姿だった。
河合が勢いに任せて布をはいだけれど、ピクリとも動かない。
それは最悪の想像といとも容易く結びつく。
目頭が熱くなる。
喉の奥が引き攣るように鳴った。
じわりと視界が滲み、全身が考えるのを拒むようにガタガタと震える。
-
( ^ν^)「気を確かに持て」
耳元で低い声が響いた。
白く眩みかけた津嶋の世界の中で、唯一、柏木の声だけが確かだった。
( ^ν^)「……まだわからない。少なくとも、外傷はない」
ξ; ⊿ )ξ「っ」
柏木はくしゃりと津嶋の髪を崩すように触ると、後ろに押しやった。
自分の背に隠すようにして前に出る。
( ^ν^)「単刀直入に聞く。ここ半年続くガキばかりを狙った連続殺人鬼は、お前か?」
o川*゚ー゚)o「……」
河合はにこにことするばかりで答えない。
津嶋はその表情を見て、あれっと思う。
あの笑顔は、おかしい。
いつもの笑顔じゃない。
あれは、ひどく、機嫌が悪い時の──
-
o川*゚ー゚)o「300グラム」
ξ゚⊿゚)ξ「え?」
河合は柏木を無視して、まっすぐに津嶋を見つめてそう言う。
o川*゚ー゚)o「宝石を作るのに、必要な量。
逆に言えば、それだけあれば十分ってことなんだけど」
そう言うと、河合は腰に巻いたウエストポーチから何かを取り出した。
口にあてがう。
やわらかい音が、工房に響く。
独特に反響する。
( ^ν^)「随分と豪勢なオカリナだな」
間の抜けたポー、というあまりにも場違いな音色に、
柏木は顔を思い切り歪ませてそう言った。
-
o川*゚ー゚)o「ツンちゃん、ねえ、かわいいでしょ?」
相変わらず柏木の言葉を無視し、まっすぐに津嶋を見つめてそういう。
ξ゚⊿゚)ξ「散りばめた飾り石が、宝石?」
o川*^ー^)o「そう! そうなの、私が作ったの。
綺麗でしょ、オカリナ自体もきちんと型取って焼いたんだ」
河合が再びオカリナに息を吹き込む。
なめらかな音が柔らかく響いた。
表面には花をモチーフにしたのだろう、様々の飾り石で鮮やかな細工が為されている。
-
( ^ν^)「……300グラムで十分、ね。職業柄、聞いたことのある話だな」
ξ゚⊿゚)ξ「職業柄?」
柏木は墓守りだ。
それに、関連して?
( ^ν^)「新しい〝遺骨ビジネス〟だよ、どっかの外国で始まった」
o川*゚ -゚)o「……」
河合はオカリナを手に、真顔だ。
どこを見ているのかわからない。
( ^ν^)「火葬した後に残る遺灰。それをさらに高熱、高圧で固めてジェム化する」
ξ;゚⊿゚)ξ「それって」
( ^ν^)「まんま、〝宝石にする〟っつーことだ」
.
-
そうだろ? と柏木は口角だけを上げて、河合に投げかける。
河合は例のごとく答えない。
柏木は意に介さず、言葉をつづけた。
( ^ν^)「300グラムはその、最低量。
……人間に限らず、ペットでもできるっつー宣伝文句で謳われたな」
ξ゚⊿゚)ξ「ペットでも、」
心臓が、跳ねた。
思い当たった。思い当たってしまった。
首元が熱い──ああ、ネックレスだ。
河合にもらった、河合が〝作った〟ネックレスが。
津嶋は無意識に、
その先に通された〝藍色のガラス細工〟を、強く強く握りしめていた。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「──ロマ」
o川*^ー^)o「あは。やーっと気づいてくれたんだぁ」
河合は笑う。
心底嬉しそうに、その言葉をずっと、ずっと待ち続けていたように。
o川*゚ー゚)o「ツンが毎日着けてくれて、私、とっても嬉しかったんだ。
ああ、死んでも一緒にいるって、やっぱり、どうしようもなく」
o川*‐ー-)o「素敵なことなんだなあって、会うたびに噛みしめちゃった」
o川*^ー^)o「ね、とっても綺麗でしょ? 〝ロマ〟」
河合の目はまっすぐに津嶋の首元を見つめていた。
母がわが子にそうするように、愛を注ぐように、微笑みかけていた。
津嶋の、首元の、ネックレスに。
.
-
( ^ν^)「趣味悪い」
柏木が呟く。
河合は気にも留めずにうっとりとした表情で語り始めた。
o川*゚ー゚)o「一年前。クルウさんが死んじゃって、私、呆然とした。
……でもね、戻ってきたの」
o川*゚ー゚)o「とっても、とても、素敵な姿になって」
河合はくるりと体の向きを変える。
視線は、作業台の後ろ──壁に掛けられた、立体な額縁を見つめていた。
四角の額縁。
中には白く、なめらかな布。
その中央にゆったりと座している、透き通る翠の石。
見たことのない宝石。
見覚えのない、どこか、不可思議な色合い。
-
o川*゚ー゚)o「クルウさんは病気だったけど、私にたくさんのものを遺してくれた。
でも、クルウさんはいないの。どうしたって戻らなくて」
そしたらね、ある日、郵便が届いたの。
河合の雰囲気が変わる。
津嶋は確信した。
河合が変わったのは、変わってしまったのはきっと、この郵便。
o川*゚ー゚)o「クルウさんだった。直筆のお手紙……そのころにはもう
葬儀もすっかり済ませていたから、遺書になるのかな。一緒に、送られてきた」
o川*-ー-)o「{魂だけは寄り添おう。願わくば、永久に美しくあらんことを}」
o川*゚ー゚)o「救いだと思った。またひとりぼっちになった私に、クルウさんは
道を示してくれた。もう迷わないで済んだ。間違いじゃなかった」
-
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
津嶋は気づく。河合の焦点が合っていない。
妙な熱っぽさに、浮かされているように見えた。
彼女の告白は堰を切ったように雪崩れて、止まらない。
o川*゚ー゚)o「はじめは猫ちゃんで練習したの。工房裏の空き地は集会場になっていたから」
o川*-ー-)o「皆クルウさんに好くなついていたし、
人慣れしていたから捕まえて来るのは簡単だった」
o川*^ー^)o「きちんと優しく声をかけて、すぐに楽にしてあげるの。
我ながら鮮やかだったと思う」
そういう器用さは、きっとクルウさん譲りね?
色んなことを教えてもらったから。
河合は、心の底から嬉しそうにそう言う。
o川*゚ー゚)o「よく切れるナイフもクルウさんがくれたもの。
このオカリナは、クルウさんが私に〝道を示した〟最初の作品になった」
-
ξ;゚⊿゚)ξ「その、飾り石、全部」
o川*^ー^)o「猫ちゃんだよ。ね、可愛いでしょ?」
津嶋は喉の奥がツンと酸っぱくなるのを感じた。
咽かけるのをそれと悟られないよう必死に堪える。
( ^ν^)「頭おかしいんじゃねえのか?」
その代わりに、柏木が吐き捨てた。
河合の愛らしい笑みが、ゆらりと不穏に揺れる。
それを見逃さず、額縁の宝石を睨みつけた。
-
柏木は畳みかけるようにして言葉をつなげる。
( ^ν^)「はっ、これがあの爺さんか。
随分と小奇麗な姿になったもんだな」
o川*゚ -゚)o「……クルウさんを知ってるの?」
ここにきて、初めて、河合が柏木に言葉を返した。
( ^ν^)「ついさっき逢ってきたところだ」
にやりと口角だけを引き上げて柏木が返すと、
河合の目つきが変わった。
o川*゚ -゚)o「クルウさんのことで、適当言わないでくれる? ねぇ、店員さん」
( ^ν^)「やーっとこっちを見たな、イカれたお嬢さん」
o川*゚ -゚)o「イカれてる? 何を言ってるの、
私は、私の作品は、こんなにも素晴らしいのに!」
-
o川*゚ー゚)o「工房に入る前にあなたも〝作品〟を見たでしょ?
感動したでしょう、震えたでしょう!」
o川*^ー^)o「ねえ、美しさに一瞬でも目を奪われなかった?」
( ^"ν^)「……作品?」
柏木の声のトーンが変わる。
河合は満足げに頷く。
津嶋はひどく、嫌な予感を、感じ取る。
予感──それはもはや確信だった。
.
-
o川*゚ー゚)o「そうだよぉ。猫ちゃんは、もう、十分だったから私、
次に移らなくちゃならなかったの」
o川*-ー-)o「素敵なモノは素敵なモノに惹かれる、道理でしょ? だからこれを吹いたの。
興味を示すのはみいんな、美しく、愛らしく、穢れのない、っ素敵な子供たち!」
ξ; ⊿ )ξ「キュート、やめて、それ以上は」
o川*゚ー゚)o「幼い子は温かいのね。笛を吹いて、興味を示した子にお茶をふるまうの。
ぐっすり眠たくなるようなのを……そしたら背負って、おうちに招待した」
河合が眠った子供を背負ったところで仲の良い姉妹、
あるいは姉弟にしか見えなかったことだろう。
お茶を飲まない子にはそのままさよならを告げればいいのだ。
少女と幼子がたわむれただけ。
不自然なことなど何もない。
──ただ、笛に誘われたこどもが、いなくなるだけ。
.
-
( ^ν^)「お茶ね、ははは。お薬入りとは考えたじゃねーか」
柏木が冷たく笑う。
いっそ普段のままに細いその目には、確かに、静かな怒りが揺れていた。
ξ; ⊿ )ξ「……ああ」
キュートあなた、そういうことだったのね。
津嶋の口から言葉が落ちる。
まるで自分の声ではないかのように、どこか遠くに、聞こえていた。
-
o川*゚ー゚)o「うん?」
河合はあくまでも、ひたすらに、愛らしい。
ξ゚⊿゚)ξ「『散歩してたら、偶然ね』──言ってたわよね。
……どうやってあの古書堂を見つけたのか、聞いたとき」
( ^ν^)「へえ?」
河合は答えない。
( ^ν^)「散歩、散歩ね。あんな人気のない道を好んで歩くなんてことはお前、
〝材料探し〟でもしてたんだろ?」
ξ゚⊿゚)ξ「……いくらなんでも、毎回公園からさらうわけにはいかない。
人目につかないなら、それに越したことはないものね」
河合はきょとんとした瞳。
o川*゚、゚)o「ツンちゃん、どうしてそんなに悲しそうなの?」
ξ゚⊿゚)ξ「どうして?」
そんなの。
津嶋が口火を切るより先に河合が、言う。
o川*^ー^)o「だって、今も、ロマと一緒とわかったのに」
-
( ^ν^)「……戻ってこれねえな、あいつ」
柏木がつぶやく。
ξ ⊿ )ξ「こんなもの……っ!」
o川*゚ー゚)o「──え?」
ぱりん。
思っていたよりもずっと、ずっと軽い音が工房中に反響する。
津嶋の行動には柏木も驚いたようで珍しく目を丸くしていた。
床に散らばる藍色の欠片。
引きちぎれた、ネックレスの残骸。
-
o川;*゚ー゚)o「な、なんでっ? だって、それ、ロマ、そんな」
ξ ⊿ )ξ「それも!」
津嶋はうろたえる河合に駆け寄ると、手元のオカリナを引ったくる。
o川;*゚ -゚)o「やだ、やめて。やめてえええッッ!!!!」
ξ ⊿ )ξ「あああああああああ!!!!!!!」
がしゃん。
ネックレスよりずっと、重たい音。
津嶋によって床にたたきつけられたオカリナは見るも無残に割れて、
数秒前まで美しい飾り石であった破片、残骸もろとも、足元を中心に砕け散る。
ξ; ⊿ )ξ「っ」
ひゅうと息を吸い込み、駆け出した。
-
(;^ν^)「おい!」
柏木は砕け散ったオカリナの元で呆然と立ちすくむ河合と
駆け去った津嶋とを交互に見やり、舌打ちする。
そして、気が付いた。
視界の奥、津嶋の妹が寝かされている作業台の端で
散乱するファイルに埋もれた、その存在に。
いちかばちか駆け寄ったが河合の反応はない。
むしろ、彼女がゆらゆらと動き出した方向は、柏木とは逆。
( ^ν^)「(……部屋を出ていくなら、都合はいい)」
柏木はじっとデレの安否を確認するフリをして、河合が工房を出るまで息を潜めていた。
-
一方、津嶋は展示の広間に戻っていた。
ξ ⊿)ξ「……」
肩で息をする。
手始めに、テーブルの上の花瓶を叩き落とした。
派手な音。
工房と違い、変に反響しない。
ただ、空気に亀裂が入ったかのように、割れた。
ξ ⊿ )ξ「……あれも、」
津嶋は止まらない。
壁に掛けられたブローチを一つ一つ掴んでは、床にたたきつける。
-
ξ ⊿ )ξ「あれ、も」
棚の上に並べられたブレスレットを掲げては、壁にたたきつける。
装飾の宝石が目の前で粉々に砕けた。
ξ ⊿ )ξ「これ、も」
ツリーのような展示台に掛けられたネックレスを掴んで、息が詰まった。
(*゚ー゚)『これ、しぃに、にてる』
おそらくあの子は、〝ネックレス〟にされたのだ。
-
あの花瓶も、ブローチも、ブレスレットも、
あるいはヘリカルかもしれないし、マタンキかもしれないし、ヒートかもしれない。
先ほど飲み込んだ酸っぱいものが再びせりあがる。
今度は我慢できずに、吐きこぼした。
ξ;⊿;)ξ「う゛え゛ぇ゛っ」
目頭が熱い。
涙が止まらなかった。
悲しいのか。やるせないのか。憤りか。絶望か。
謝り続けるというクルウさんは、自分の「死」が
河合の引き金となってしまったことを、悔いていたのだろうか。
何を思って「宝石」となることを選んだのだろうか。
.
-
わからない。わからない。わからない。
すっかり吐ききってしまい、咽こむ。
げほげほと嫌な音の鳴る喉の奥。
視界が、ふっと薄暗くなる。
ξ;⊿;)ξ「は、あ」
あげた顔の先に見えたのは、胡乱な瞳でこちらを見下ろす河合の姿。
o川* ー )o「どうして?」
津嶋は、見逃さなかった。
o川* ー )o「どうして、ツンちゃん、こんな、ひどい」
河合の手元。
ぎらりと鈍く光る、凶刃を。
-
ξ;゚⊿゚)ξ「……っ」
ナイフというよりは、小型の包丁のような形状をしている。
何かの本で見たことがあった。
小型動物の解体で使う、解体包丁。
o川* ー )o「……これ、クルウさんがね、くれたんだ。
いっぱい使ったよ、大事に使った……」
ξ;゚⊿゚)ξ「……」
ごくりと唾を呑む。
鈍く光る刃はどうしようもなく不安を掻き立てる。
o川* ー )o「猫ちゃんは、最初に皮を剝いじゃうの。邪魔だから、ね、毛皮」
o川* ー )o「人は髪を剃って、歯を抜いて……ペンチを使うんだ。
これがなかなか大変で、あは」
-
o川* ー )o「デレちゃんはね、公園で会った。ツンちゃんに妹がいるのは知ってたけど、
目元がそっくりで、お土産に買った本、大事そうに抱えてて、すぐにわかった」
ξ;゚⊿゚)ξ「なら、なんで」
ずきりと胸が痛む。
どうして私の妹だとわかって、その刃を向けたのか。
……それではまるで、そうでなければ気にしなかったとでも、言いたげで。
津嶋は自分自身にも嫌気が刺しながら、けれど河合から目を、逸らさない。
o川* - )o「だって、ツンちゃん、変わっちゃったから」
ξ゚⊿゚)ξ「……変わった?」
o川* - )o「私、一人のツンちゃんが好きだった。
誰にも関わらないツンちゃんが良かった」
-
o川* ー )o「ひとりぼっちでズレたまんま、
綺麗に完成していてさ、その姿が昔の私と重なった」
ξ゚⊿゚)ξ「昔、の」
o川* ー )o「パパもママも私一人のこして死んじゃって、交通事故、だったんだけどさあ。
私こんなに可愛いのに、ずっと可愛い可愛いって言われて育ってきたのに」
o川* ー )o「急に邪魔者扱いになって、親戚中をたらいまわしになった。
……あのとき、わたしは、たしかに、世界のすべてに憎まれていた」
──だから、ぜんぶを憎んだんだ。
.
-
o川*^ー^)o「でもね」
ふっと笑顔になる。
やわらかく、なつかしく、あたたかい笑み。
o川*゚ー゚)o「くるうさんに引き取られたとき、言われたの。
『そのままでいい。そのまんまで、お前は十分に、可愛いよ』って」
ξ゚⊿゚)ξ「……世界のすべてを憎んだまんま、それが十分に可愛いって?」
そんなの、狂っている。
けれども河合はうなずく。
嬉しそうに、どこか恥ずかしそうに、はにかむ。
-
o川*゚ー゚)o「私はおかしいまんま、可愛がられた。
おかしいまんま、ツンちゃんに出会った」
o川*-ー-)o「ツンちゃんもちょっと、おかしいでしょ?」
津嶋は息を呑んだ。
自身が〝おかしなもの〟を見ていることは、
家族にも、当然河合にだって、言っていないのに。
はっきりとそのことを言い当てられた気がした。
-
o川*゚ー゚)o「だから私もね、ツンちゃんのクルウさんになりたかった。
おかしいまんま、おかしいツンちゃんでいてほしかった」
o川* Д )o「でもッッ!!!!!」
ξ;゚⊿゚)ξ「!」
だん、と鈍い音がした。
河合が手元の刃物を、壁に突き刺した音だった。
-
o川*゚ -゚)o「あたしの知らないところで変わっちゃった。あの、変な、店員のせいで!」
ξ;゚⊿゚)ξ「それは」
o川*゚ー゚)o「私、もどってほしかったんだぁ。元の、オカシナ、ツンちゃんにさ。
そんなときだったよ、デレちゃんに会ったのは」
o川*-ー-)o「私と同じようにしたら、同じようになるんじゃないかなぁって、考えたの」
ξ;゚⊿゚)ξ「同じ、ように」
o川* ー )o「大事なものを失えばいいんだよ。私が両親を、なくしたようにさ」
でも駄目だった。
それもあの男に邪魔された。
河合はもう話しかけているのか、呟いているのか、判然としない口調で、
す、と壁から抜き戻したその刃をまっすぐに津嶋に向けていた。
-
脱力した足。
津嶋は自分の腰がすっかり抜けてしまっていることに、気が付いていた。
最悪だ。
でも、きっと、しょうがない。
ξ ⊿ )ξ「…ごめん」
o川* ‐ )o「ッ」
振り下ろされる。
それは、ひどく、ゆっくりとした動きに見えて──
-
「なに謝ってんだ、バーカ」
思い切り襟首を後ろに引かれて、床に転がった。
ぽかんとして見ると、津嶋がいた位置に深々と刃を突き立てる河合が、
〝津嶋を後ろに放り投げた〟柏木越しに、蹲っている姿が見えた。
( ^ν^)「お前の大事なクルウさんは、お前をそのまま認めてくれたんだろ」
( ^ν^)「でも、お前は変わりゆく友人を、認められなかったんだ」
河合の表情は、見えない。
ただ、遠くからサイレンの音が聞こえた。
それは徐々に近付いてくる。
-
( ^ν^)「……クルウさんを喪って、お前は本当に壊れちまった」
( ^ν^)「でもそれを認めてくれるクルウさんは、もういない。
その代わりには到底……なれないがしかし、俺の仕事は」
( ^ν^)「死者の安寧を守ること」
o川* ‐ )o「ッ!」
柏木は歩み寄る。
そうして、ぽすんと頭に手を載せた。
( ^ν^)「クルウさんはもう、これ以上、傷付くお前を見たくないだろう。
だからお前を、止めにきた」
( ^ν^)「……終わりにしよう、河合キュート」
柏木の声は少しずつ、
けれど着実に大きくなるサイレンの中でも、はっきりと響いた。
-
ことん。
o川* ー)o
──それは、一瞬だった。
.
-
河合はゆらりと立ち上がる。
その手には床に転がしていた解体包丁。
ξ;゚⊿゚)ξ「キュ、」
(;^ν^)「お前ッ!」
津嶋がその名前を呼び終えるより先に、
柏木の静止がその腕に届くよりも、先に。
河合は自らの喉を搔っ捌いた。
咄嗟に振り返って津嶋の目をを覆った柏木の手の、隙間から、血飛沫が頬にかかる。
それはどうしようもなく生暖かく、ぬるりと濡れて。
津嶋はそのまま、気を失った。
-
.
.
.
-
高い、高い空。
広大な大地と、長く続く白い石畳。
穏やかに吹く風は、草木を優しく鳴らしている。
川 ゚ 々゚)
遠くに、見たことのある姿があった。
はたと気付くと、隣にも手の、感触。
o川*゚ー゚)o
それはどこか、すっきりとした表情で。
憑き物の落ちた、穏やかさで。
-
ξ゚ -゚)ξ「行ってしまうのね」
津嶋は全部わかってしまった。
察してしまった。
河合は返事を返さない。
遠くで、クルウさんが困ったように頬をかくのが見えた。
o川*゚ー゚)o「……ツンちゃん」
優しく、繋いだ手を、解かれる。
ばいばい、とその瞳が言っていた。
ξ゚⊿゚)ξ「……うん」
-
ξ ⊿)ξ「……………………う、ん」
遠ざかっていく背中に。
薄れていく意識に。
ただ、寂しさだけが、色濃くなって。
──ああ。
あるいはもっと、ずっと、前から。
河合はこちらにいなかったのかもしれない。
それはきっと、クルウさんが亡くなったその瞬間から。
彼女の魂は、とうに幽界へ誘われていたのかもしれない。
-
.
.
.
目が覚めると病院だった。
軽く首を回すと枕の横に見覚えのある絵本を見付ける。
猫の本。
デレにあげた、お土産の本だ。
それを認識して急速に覚醒していく意識と、それに反してまだぼんやりとして
ピントの合わない視界の中に、今や見慣れた背中を見つける。
ξ゚⊿゚)ξ「かし、わぎ」
津嶋の声に驚いたように振り返り、一瞬見開かれた柏木の目にくすりと笑う。
それに気が付いたのか、やれやれといった風に笑い返すと、
すぐに普段通りのどこか人を小馬鹿にしたような表情に戻った。
( ^ν^)「元気そうだな」
ξ゚ー゚)ξ「おかげさまで」
-
柏木が言うことには、津嶋がオカリナを叩き割った後、
柏木は工房奥に据え置きの固定電話を見付け、警察を呼んだらしい。
その流れの内に朗報──デレの無事も聞いた。
睡眠薬を飲まされて眠り込んでいただけらしく、
夜のうちに家まで送り届けられたそうだ。
ξ゚⊿゚)ξ「じゃあ、この絵本は」
( ^ν^)「ああ。ついさっきまでお前んとこの母親と見舞いに来てた」
ξ゚ー゚)ξ「……そう」
柏木の開けた窓から、さわやかな風が吹き込む。
どちらも避けている話題があった。
無意識に、ぎゅうとシーツを掴む。
先に口を開いたのは津嶋だった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「私ね、夢を見たの」
( ^ν^)「……」
ぎし、とベッドに腰掛ける柏木の背に、無言ながらも優しさを感じた。
津嶋は上半身を起こし、枕を抱える。
ξ゚⊿゚)ξ「キュートと、クルウさんの夢よ」
( ^ν^)「……」
ξ-⊿-)ξ「ねえ、あの子は、逝ってしまったのね」
柏木から、返事はない。
それが何よりの答えだった。
-
ξ゚⊿゚)ξ「……私には何が出来るかな」
ぽつりと呟く。
自然と下を向いていた頭に、ぽすんと温もりが触れた。
そのまま温かな手は後頭部に降りて、ぐいと引き寄せられる。
……規則的な鼓動がとても近くで聞こえた。
上から、声が降る。
( ^ν^)「日が経って、花が咲いて……枯れて、風が吹いて、
そうやって全てが心地よくなる頃に、そうしたら」
( ^ν^)「──墓参りにでも、行こう」
柏木の腕の中でこくりと小さく頷く。
目頭が熱い。胸が、痛い。
つと、口笛が聞こえた。
それはいつかの満月の夜に聴いた音色。
それはきっと、生まれる前から知っていた、幽界の旋律。
その懐かしくも儚い口笛の音は、
津嶋のすすり泣く声を隠すように響き続けた。
ξ゚⊿゚)ξ 笛吹き幽界譚のようです 終わり
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長い間更新出来ず申し訳ありませんでした
笛吹き幽界譚、もとい笛吹き誘拐譚これにて終幕です
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乙!もうちょっとこの世界を見ていたかったような気もする…。
でも、帰ってきてくれて嬉しいぞ!
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乙!
最初から見直さないと
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>>223
おい!完結編待っとったぞおい!!待ちくたびれかけたぞワレェ!!
でも、完結してくれてありがとう
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は?更新?は?
おつ!!!
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もうちょいで蜜柑行きだったぞ!乙!
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きてた!おつ!
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乙!
誘拐譚の文字を見るまで今までずっと幽界譚じゃなくて幽霊譚だと思ってましたすいません
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乙!もしかしてあな本?
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>>231
酉がRoa
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来てたのか
世界観好きだから終わるの寂しいけど完結は嬉しい乙
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ニュー速と柏木……実話かな?
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